ラブライブ! ~少年とμ'sが出会えた奇跡~ (ハイドレンジア)
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音乃木坂学院入学編 -First Season-
第零話 プロローグ
かなりうるさい目覚ましに叩き起こされ、俺(園田海渡)は思いっきり上半身をはねあげる。
気付けば、布団はめちゃくちゃになっており、ベッドからも落ちていて、落ちた時にぶつけたのか足が痛い。
俺は痛む足を擦りながら約3秒のあくびをする。いつもならこのあくびをしながら目覚ましに向かって枕を投げるのだが、今日はそんな事をする気分にならなかった。
なぜかと言うと、俺は、新たなスタートを切ったからだ。俺は今日から音乃木坂学院の共学化のテスト生として入学するのだ。
なぜテスト生になることを決めたかと言うと、単純に廃校にしたくなかったからだ。あの学校には俺の姉がいて、母さんの母校でもあり、伝統だってある、俺は母さんが大好きだった学校を廃校にしたくないのだ、だから廃校を阻止するため音乃木坂学院への入学を決意した。
そもそもなぜ俺がテスト生になったのかは、今から約4ヵ月ほど前の事だ。
俺の家で母さんが高坂さんの母と現音乃木坂学院理事長がママ会なるものを開いていた時の事だ、俺はそこでお茶を運んでは置いてを2時間ずっとやっていて、終わりか?と思って片付けを始めようとした時の事だ、俺はそこで南理事長に話かけられ、音乃木坂の事を聞かされ、廃校の危機に直面していると言う事実を聞かされた、俺は驚愕のあまり、咄嗟に言葉の意味を理解できなかったためもう一度聞き返してしまったほどだ、それほど学校の廃校問題の重みがすごかった。
それに最近UTXと言うスーパーハイテク女子校の人気が高まっているらしい、それもスクールアイドルのA-なんとかのおかげ(これは理事長殿が言ったことではない)だと言う。
そして俺は理事長殿にある質問をされた、その質問は
ー来年、音乃木坂を共学化するわ、だから海渡くんにはテスト生として入学してくれないかしら?
もちろん俺は廃校が阻止できるならいくらでも協力する、だから俺は·····
ーいいですよ、俺でもできる事ならいくらでも協力します
そう答えた。
そして俺は今、その音乃木坂学院に向かうべく準備をしているところだ。
今日は天気もよく、入学式の時に咲く桜もとてもきれいに見えるだろう、だが俺が学校に着いた途端にいきなり曇るかも知れないので曇らない事を祈っておく。俺は玄関の扉に手をかけ、開けるとすぐに春の気持ちいい風が吹いてくる。
「いってきます!母さん!」
俺はまだ朝だと言うのに元気な声を出し、自分の家を後にするのであった。
会話がなかった·····
お読みいただきありがとうございました!
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第一話 入学そして出会い
今回で3年の2人が出てきます。にこはあと2話で出す予定です
それではどうぞ
俺が家を出てから約10分がたった、俺の家から学校までは約15分ほどでさほど遠くないが、途中に階段があり、4ヶ月間運動しなかった俺の僅かな体力を全て階段に持っていかれて結局登るのに3分位かかってしまった。
階段を登ればすぐに学校があると俺は思っていたのだが、そこにあったのは大きな横断歩道だった。はぁ·····と溜め息混じりの深呼吸をして横断歩道を渡る、徐々に校舎は大きくなっていき、校門に着いてから校舎を見てみると、その大きさに圧倒されポカーンとする。
なぜに見た目もこんなに良い音乃木坂があのスーパーハイテク女子校UTX学院に負けたんだ·····?俺的にはこっちの方が良いんだけどなぁ·····伝統もありそうな気がするし、何か落ち着くし、昼寝もできそうだし·····
のんきな事を考えていたら結構時間が経っていた事に気付き、少し早歩きで他の新入生と先輩をするするかわして教室へと急ぐ、急ぐほどでもないが、とにかく急ぐ、その理由は何か俺に視線が集まって来ている気がするからだ。少し弓道部の所によって行きたかったが、場所が全く分からなかったためまた今度行く事にした。
「さて、教室はどこかな?」
昇降口に貼ってある紙を見て、1年の教室を探してみる。よく見たはずなのに無いと言うことを避けるため、全教室をじっくりと目に焼き付けておく(教室の場所が分からなくても他の人に付いていけば分かる事なのだが)。
教室の位置を記憶し、カバンから上履きを引っ張りだして、左右間違えながらも履く。
周りの人達を見るとほとんどが何かをワイワイ話しながら学校に来ている。何を話しているのかは知らないが、おそらくまた友達増えるかな?やら何やらを話しているのだろう。
果たして、この3年間で俺に友達は出来るのだろうか?一応俺には幼馴染みがいるがこの学校にいる可能性はほとんどない。もしいたら俺はかなり元気になると思う。
いろいろな考えを巡らせながら階段を登っていると階段に足を引っかけて転びそうになるが、手すりのおかげで顔面強打は免れる。
特に意味はないが理事長殿に挨拶をするべく理事長室へと向かう。
途中で何人かの先輩に遭遇し、かなり視線を送られたが気にする事なくスルーする事に成功した。そのまま理事長室に到着し、なぜか緊張する自分を静めて、ドアをノックする。
どうぞとだけ帰ってきて、何か安心した。失礼しますと言いながらドアを開ける。
「あら、おはよう海渡くん。わざわざ挨拶に来てくれるなんて思ってもなかったわ」
「おはようございます理事長、まあ俺は共学化のテスト生ですから挨拶に行った方が良いと思ったもので」
「理事長、この人が理事長の言っていた、共学化のテスト生ですか?」
俺と理事長が話している時に横から入って来たのは、長い金髪をポニーテールで結び、きれいに透き通った青い瞳を持っており、リボンの色は緑、完全に俺の先輩だ。
確か2年のリボンの色は赤だったはず·····ちなみに俺には青いリボンがついている。
「ええ、そうよ絢瀬さん。彼は今年からこの学校に入学する、1年の園田海渡くんよ。こう見えて実はとても頭がいいのよ」
「初めまして、生徒会長の絢瀬絵里よ、あなたの事は2ヶ月ほど前から聞いていたわ」
絢瀬生徒会長は俺に向かって手を差し出す、俺は一瞬握手を躊躇ってしまったが、すぐに謎の申し訳なさが出てきて、握手に応じる。
「せ、生徒会長殿だったんですか·····あ、俺は園田海渡です、呼びやすい呼び方で呼んでください」
「それじゃあ、海渡って呼ばせてもらうわ。それと向こうにいるのが、副生徒会長の東條希よ」
「東條希や。よろしく、海渡くん」
副生徒会長もこれまたすごい、長い紫色の髪をサイドテールのようにしていて、エメラルドのようにきれいな目をしており、それにアレもある。一体、何を食べて、何をすればあんなに大きくなるのかねぇ·····
また変な事を考えてしまい、床の一点を見つめていた。これが俺の悪い癖であり、何かを考えているとどこか一点をジーッと見てしまう。
「はぢ、初めまして、俺は園田海渡です」
ちょっとアウトな事を考えていたため何かろれつが回らない。
「うん、よろしく。後、海渡くん·····そろそろ教室に行った方がいいと思うけど·····?」
そう言われてから時計を見てみると、これはヤバイ時間となっていた。さすがに入学初日から遅刻するわけにはいかない、遅刻したら絶対怒られるので、失礼しましたを言うのももどかしく、全力疾走で1年の教室へと向かう俺であった。
書き終えた時には2時になっていた·····
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第二話 再会
それではどうぞ
アカン!遅れる!!
これの事しか考えず、廊下を焦りながら全力で走っている。正直俺はこんな事になるとは思ってもいなかった、ただ理事長に挨拶しにいくだけと考えていたはずが、予想外の生徒会のお偉いさん2人と知り合い、自己紹介などをしていたら遅刻5分前になってしまい、学校中を駆け回っている。
今日遅刻5分前で焦りながら学校駆け回ってる人なんかどこにもいないよな!?
あれほど目に焼き付けておいたはずの学校内の地図は俺の記憶領域のどこかに行ってしまい、探す事も無理なので学校中を探し回っている。これなら生徒会長殿に聞いておくべきだったなぁ!と心の中で嘆いていると、遠くに2人の女子生徒の姿が見えた。俺の目は両方視力0.3のためあまり見えないが、多分1年だろう。これなら好都合だ!と頭の中で呟き2人の後を追って行くと徐々にその姿はクリアになっていき、首元のリボンは青だと言う事が分かり1年かぁ~と安心し、深く息を吐く。前の2人は俺の息に気付いたのか、こちらに振り向く。そのままスルーしていくだろうと思っていたら不意に声をかけられる。
「·····とくん·····?」
「海渡くんにゃ·····」
この2つの声はとても懐かしく、俺の心に何か安らぎを与える、この声の主が誰なのかは咄嗟に出て来なかった。そして俺は2人の顔を見て、絶句する。
3年ほど前、行く中学校が別になり、また会えるかな?と最後に話して別れた、俺の大切な人であり、幼馴染みでもある彼女たち2人の事を俺は忘れた事はなかった。
「花陽·····?凛·····?何で、お前らがここに·····?」
「海渡くんも·····どうして·····?」
今度はちゃんと聞き取れた。
だが俺は花陽と凛にかける言葉が見つからなかった、遅刻2分前だと言う事を忘れ、俺達は見合ってから両方驚きの声を上げる。
「「「えぇぇぇ!!(ふえぇぇぇ!!)」」」
叫び声は昔からほとんど変わっていないが、俺の方は声変わりもして声が低くなっている。
そこで俺達は遅刻ギリギリだと言うことを思い出し、ちょうど近くにあった1年の教室にスライドインし、何とかギリギリセーフで間に合った。
ちなみになぜ花陽達が遅かったのかは、凛が寝坊し花陽がギリギリまで待っていたらこんなに遅くなってしまったらしい。
「何とか間に合ったな。入学初日に遅刻するのは俺ぐらいだぞ凛?」
「べ、勉強してたにゃ!夜更かしじゃないにゃ!」
「そんな事言ってぇ~ラーメンでも食ってたんでしょ~?」
普通に笑顔だった凛の顔が引きつった笑みに変わり、大当たりにゃと視線を送ってくる。凛にドヤァとしておき、今度は花陽の方を見てみると、ついこちらも笑顔になってしまうほど輝く笑顔をしている。花陽は昔から俺達の会話を今のような笑顔をして見ていて、急に話を振られると必ず驚くのだ。
急に話を振るか?と凛と小声で話していると、ここで俺達の担任なのだろう、先生が入って来たため、話しをいきなり振るのはまた今度となってしまい、にゃ·····と嘆く。
これからまた面倒な自己紹介があるのか·····面倒だなぁ·····と思いながら園田家きっての不良生徒である俺は自分の席につき頬杖をつく。やはり周りには女子しかおらず、話し相手は凛と花陽しかいないだろう。
先生の話を適当に聞き流しずっと外をみて、いい天気だなぁ·····と思っていたらいつの間にか自己紹介の時間になっており、もう俺の前の前の席の人が何かを言っている。俺も何を言うか考えとかなくては·····うーん、良いところねぇ·····特に無い気がするなぁ·····好きな食べ物は甘いものだな。
「次は?」
「あぁぁぁ俺や」
考え事中に急に話を振られ焦ってしまったが、すぐにイスから立ち上がり自己紹介を始める。
「初めまして、園田海渡という者です。良いところは特に無しで、好きな食べ物は甘いものです。これから3年、じゃないかも知れませんがよろしくお願いします」
もしかしたら俺は途中で逝ってしまうかもしれないので、じゃないかもを付け足しておいた。
こうして俺の番は終了し、また外をみる。並んで飛ぶ小鳥を見送り、机に突っ伏し、入学式の説明やら何やらを聞いておく。
「それでは、講堂前に集合です」
起立、といつの間に決まっていた学級委員長が真面目に言い、全員を起立させる。気を付け、礼、と言ってから礼をする、もちろん俺は真面目にやらず、ただ腰を曲げるだけの事をする。
俺は、入学式か、面倒臭いな·····と考えながらも席を立ち講堂へと歩き始めた。
1年生が登場しました、真姫は次にだす予定です
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第三話 真姫との出会い
真姫ちゃんの登場です
それではどうぞ
現在俺は、学校内を見て回っている。その理由は、今朝のように教室が分からず、学校中を走り回る事態になることを防ぐためだ。
そして今はもう俺がやるべき事を全て全うし、もう家に帰ってしまうだけ!となっている。花陽達には先に帰ってもらい、俺一人で学校内を見て回ったのだ。おかげで教室の位置は記憶出来たし弓道場の位置も分かる、もう帰って飯食って寝るかな?と考え、間違えて買ってしまった二本のジュースの片方に手を伸ばし、蓋を開ける、するとすぐにぷしゅっという音がして仄かに匂いを漂わせる。もう片方はトマトジュースのため、俺が飲む事はない。
俺が缶に口をつけようとした途端、俺の耳にきれいなピアノの音が聞こえ、炭酸飲料を飲もうとした俺の手を止める。
「うまいな·····」
ボソッと呟き、音が聞こえて来た音楽室の方へ向かう。
近づいていくにつれ、ピアノの音は大きくなっていき、歌声まで聞こえてくる。
弾き歌いとは·····驚いたな、中学の時に先生がやってたのを見たのが最後だコレ。
完全にバレる位置で中を見てみる。さすがに幽霊が弾き歌いをしていることは無いと思うが(あるわけがない)、一応確認しておく。
ピアノを弾いていたのは赤いセミロングの巻き毛に紫の目が特徴的な女子だった、首元のリボンは青、俺と同じだ。と言うことは、俺と同じクラスなのか?と考え、今朝の自己紹介の時間を思い出して見る。ほぼ全てを聞き流していたため全く思い出せずに終わった。
それにしても·····俺に気付く気配が全くしないんだけどな·····
しかし、彼女が不意にこちらを見た。俺は突然の事にかなり驚き、向こうの方も驚いた表情のままフリーズしていたが、彼女の方から何か悲鳴のような物を上げる。
「ヴェエ!?だ、誰?」
「そこまで驚かれると何かキズつく·····」
うーん!本当にこの人誰だったっけなぁ~思い出せない!!仕方ない、もう一度名前聞くか?·····でもなぁ~·····おっと!話を続けなくては。
「あ、ピアノ、上手なんだな。そんなにうまいのを見たのは中学以来だ」
「そ、そんな事·····ないわよ·····」
前の人は顔を逸らし、自分の巻き毛をいじり始める。
·····ツンデレだ、こいつはツンデレだ·····絶対にそうだ。
おそらくこいつはピアノうまいね~と言われても素直になれないのだろう。
「それで、あなたが私に何のようなの?」
「いやぁピアノの音が聞こえたものでつい、よってしまったのです。別に悪気はありません、はい。」
「別にそんな丁寧語じゃなくていいのに」
「えっそうか?なら遠慮なく·····」
こいつはついさっきまでツンツンしていたはずなのだが、何か今はツンツンしてないような気がする。俺は向こうのすごいピアノスキルに驚いていると、今度は向こうの方から話しかけてくる。
「あなたは·····私と同じクラスの?」
「やっと気付いたか。その通り、俺は今日入ったばかりの新入生、園田海渡だ、よろしく」
俺は握手をするべく、手を差し出す。もちろん握手は帰って来ず、そっぽを向いて髪をいじるだろうと思っていた·····のだが、向こうの方は俺の手をジーッと見てから少し口元を微笑ませてから、俺にとってかなり予想外の事をした。
「西木野真姫よ、よろしく」
普通に俺に握手を返してきた。まさか本当に返して来るとは思わなかったなぁ·····と驚いているとなぜか向こうからジト目で見られ、短く悲鳴を上げる。それに西木野って·····俺の記憶が正しければ俺がオリンピック並み(4年に一度のペースと言う意味)にお世話になっている病院の院長の娘さんじゃないのか?
「西木野って俺が4年に一度お世話になる病院の娘さんか?または院長?」
「な!何で私が院長なの!?そんなワケないじゃない!」
なぜ怒ったのかは分からないが、うぉお怒るな怒るな、となだめてみたがまるで効果がない(下手な事の言い過ぎ)。どうしたものか····· と悩んでいると、あることを思い出し、あっ!と声を上げる。それは、さっき間違えて買ったトマトジュースだ、これを押し付けておけばちょっと静かになるだろう。
「これあげるから怒らないでくれ!」
「っ!」
うん?まさか西木野さんはトマトが嫌いなのかな?
「え?トマト嫌いでしたか?だとしたらごめんなさい、偶然買ってしまった物なので·····」
「い、いや?別に嫌いじゃないわ·····ありがと·····」
「お!お礼を言ったぞ!」
「物もらってお礼言わないのは失礼でしょ!」
気付いたら西木野さんと話していたらかなり時間が経っており、そろそろ家に帰った方がいい時間になっていた。
「あ、そろそろ時間がヤバいし、俺は帰るとするかね。西木野さんも早く帰るんだぞ?遅い時間じゃ変な男に絡まれちゃうからな」
俺は最後にさようならっぽい言葉を口にし、音楽室を去る·····つもりだった、いきなり背後から西木野さんに制服の袖を掴まれ、ギリギリ音楽室のラインでストップする。
「待って·····」
「な!どどどどうした!?」
まさか!もうひとつの人格が出てきたのか!それはそれで怖いッ!!まさか俺は殺られてしまうのか·····この世界は残酷だ·····もう、いいんだ·····良い人生だった·····。
変な言葉が頭の中をぐるぐる周りまくり、何かのアニメに出て来ていた気がする台詞が出来上がっていた。
「·····しも·····える·····」
「ふむ?なんと?」
「私も帰る!」
俺は一瞬、西木野さんの言った言葉の意味が分からなかったが、ようやく処理能力が回復して、意味を理解した瞬間、驚きのあまり息を少し詰まらせる。
「え、えぇ·····」
「何よ、帰りたくないの·····?」
「い、いえ、決してそういう意味ではないのです、驚いただけです、はい。」
「何か嘘くさい·····」
実際俺は今前にいる完全初対面の女子と話すのは初めてだ。女子と話した記憶と言えば、凛と花陽としか話した事がない。それに初対面の人と帰るなんて俺の人生15年間一度もない。
「うわ!西木野さんがそんな事言うなら帰っちゃお!」
今自分でもウザ!って思った·····
「待ちなさいよ!それと私の事は名字で呼ばないで、ちゃんと名前で呼んでよ!」
「ツンデレじゃねぇ·····コイツは一体何者なんだ·····?·····っ!!すまん·····」
ツンデレと言った途端、鋭い視線で俺の事を睨み、本日3回目の謝りをさせてから無理矢理っぽく俺を歩かせる。
「西木野さ······いや真姫、何でそんなピアノうまいんか?」
謎の関西弁を使って見たが、効果は全くと言っていいほどなく、俺の視界の下の方にしかし何も起こらなかった!と出てきたような気がした。
「昔からやってるからに決まってるでしょ、そんなこと猿でもわかるわ·····」
「俺を猿以下だとでも言いたいのか!こう見えて、成績は中学校時代トップを取られた事はナッシングなんだぞ!高校でもトップを取られる気は無し!」
俺は自分でも呆れるほど語り、息継ぎもしなかったので肺がかなり苦しくなる。
そんな俺を真姫は一瞥すると、俺に向かって手榴弾100個分の威力を秘めた爆弾を落としてくる。
「なら、私がそのトップの座をとってあげるわ」
「おぉ!フラグを立てたぞ!」
俺からトップの座を取るとは·····今度のテストで勝負だ真姫!
しばらく俺達はお互いの間で火花をちらしていたが、俺のタッチパネル式携帯の6代目(最近Sが出たやつ)がラ○ンだぞ!とでも言うようにヴゥー!と唸る。俺は反射的に6をポケットから出し、高速でパスワードを入力する。その時間、僅か2秒。かなり早い。そしてそのラ○ンの内容は·····
花陽:明日UTXでA-RISEのライブみたいなものがあるから絶対きて!
どうやら明日に花陽の言うA-なんとかのライブがあるらしく、俺にそこに来い!と言う内容のメールだった。行くか行かないかは当日判断するとして、今は目の前にいる西木野真姫なる人物の相手をしている(と言ってももう帰るだけ)、メールは適当に返しておこう。
海T:行けたら行きたいと思われます。
花陽:行けたらじゃなくて·····後その言葉の使い方間違ってるよ
海T:知っとる。りょーかい明日行く。
花陽:また明日ね
メールのやりとりを終了し再びポケットに6を突っ込む。真姫の方を見てみると、何やら気になっているような目でこちらを見ていた。
「ん?どうした、何か付いてるってか?」
「え?いや、誰とメールしてるのかな、って思っただけよ」
「そっか、じゃあ教えてやる、俺の幼馴染みだよ」
真姫は海渡に幼馴染みなんかいたんだーといった顔で俺を見てからすぐに、行くわよと言い、俺をおいてきぼりにしようと早歩きで歩いていってしまう。
「あ、おい!待ってくれよ!」
俺は真姫に置き去りにされそうになりながらも、俺の前を歩く人間の後を追う。一緒に帰るって言っといてそりゃねーよ!と、心の中で呟いておき、俺の気持ちを抑える。
そしてこの後、真姫と一緒に家に帰ったのだが、入学式初日に帰って来る時間としてはかなり遅くなってしまった。
俺の姉、海未にこっぴどく叱られた事は秘密にしておこう·····。
ー12月3日に追加ー
僕の友達にこの名前は・・・・・と言われたためユーザーネームを変更しました
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第四話 UTXにて
僕はかよちん推しなので、今日はとても良い日でした。
と言うわけで、久々の更新です。それではどうぞ!
ziririririri・・・・・・・・
「ったく・・・・・うるさいなぁ・・・・・」
また今日もうるさい目覚ましに叩き起こされた。安眠を邪魔された俺は目覚ましに向かって枕を投げる。すると、うるさい目覚ましは静かになり、朝恒例の小鳥のさえずりが聞こえてくる。
今日の予定は特になかったような気がするようなしないような気がしたが、昨日の俺が残したメッセージを見れば、今日の予定が分かる。
俺は現在絶賛厳重警戒中の棚にある秋葉原で偶然手に入れた、[でんでんでん]と言う非常に高価で貴重な物を保管しているプラスチックのケースを寝ぼけまなこで見た。
やはり俺の予想通り、昨日の俺からのメッセージがプラスチックケースに付いている付箋に書いてあった。どうやらその付箋、いや、俺からのメッセージによると、俺は花陽とUTXのスクールアイドルを見に行くと約束していたらしく、絶対に忘れるな!!と大きく書いてある。
昨日何かあったかな・・・・・、と制服に着替えながら、昨日あったことについて思い出してみる。
昨日、理事長室に寄り道し、遅刻しそうになった俺は、学校を走り回っていた。その理由は、教室の位置情報をいつの間にか脳が自動削除ーと言う名のドわすれをしてしまい、完全に迷ってしまったのだ。
どうしよう、と悩んだ末に何も思いつかず、途方にくれていた俺の視力の悪い両目に、二人の女子学生の姿がぼんやりと見え、一年の教室の位置どこ?と聞こうと近くまで駆け寄ってみたところ、俺の気配に気づいたのか、振り向いた人がまさかの花陽だった。それに凛の姿もあり、俺達は再会を喜ぼうとした。だが、その時は遅刻ギリギリだったので、また後でと後回しにした。
この後普通に入学式に出て(俺はほぼ寝ていたが)、昼飯を何事もなく食べ終わり(唐揚げをひとつ落としたのはかなりショックだった)、無事放課後となった。そして俺はそこであのツンデレとご対面したのだ。
制服に着替えるまでの短時間で結構思い出すことが出来た。昨日の事をここまで覚えていたとは、正直俺もビックリだ。何も無かった日の記憶は次の日の朝になるときれいさっぱりに無くなってしまっているため、よく約束や稽古などをすっぽかす時が多く、親によく怒られる。
そこで考えついたのが、朝俺が必ず見るでんでんでんーちなみにだがこの事はまだ花陽に言っていないーにメッセージを張り付けておこうと考えついたのだ。さすがに箱にそのまま張り付けるのは気が引けたので、ここから少し町の方に出るとある、ダ○ソーに売っている150円位のそこそこ大きめのプラスチックケースを購入した。その中に厳重に俺の秘宝を保管し、今日の朝のように約束+昨日の出来事を思い出すことが出来るようになり、怒られることも少なくなった。
俺は準備後すぐに下におり寝癖を直すのももどかしく、朝の食料を胃に突っ込んで、今日の活動エネルギーへと変換する。今日の用事はアイドルが関わっているからか、朝から活発に活動できそうな気がする。だからと言って調子に乗り、盛大に空振る様なマネはしたくない。それにもうそのことに関しては経験済みなので、いくら俺でも同じ事を二度繰り返すような事はないと信じたい所だ。
ごちそうさまと手を合わせ、使った食器類をカチャカチャと片付け始める。まだ俺の胃が足りねーぞ!と言っているが、俺は自分の飯より用事の方が大事だ。今から約五時間後位に、学校で販売されていると言うパンが食べられるのだから、別に食べなくても死にはしないだろう。
せっせと寝癖を直し、歯を磨き、顔を洗ってから家を出る。今日はいつもより三十分ほど早く家を出ているためUTXに着くのに遅れることはないだろう。花陽がA-何とかに気を取られて遅刻しないといいが・・・・・。
「俺、集合場所の事聞いたっけ・・・・・」
家を出てから三分たった時、集合場所の事を思い出し、ポツリと呟く。そう言えば俺は昨日花陽に何時何処に行けばいい?と聞いていなかった。これは単純に俺がアホなのか、お互い気がつかなかったのか、その理由は恐らく誰にも分かるまい。
ーとにかくUTXに行こう、もしいなかったら電話すればいいさ
と、自分に言い聞かせ、俺は地味に鼻歌を歌いながら足を進めた。
もう春になり、けっこう暖かい気温になってきた事を改めて実感する。今年の正月はかなり寒く、俺はこたつ生活を余儀なくされた。春も結構寒いんだろうな、と考えていたが、寒いどころかかなり暖かい。いつもならこの時期はまだポケットに手を突っ込んでいるのだが、今日は突っ込んでいたら暑いだろう。
もうそろそろUTXが見えても良いはずなのだが、高いビルなどに隠れたりしているのか、まだ見えない。
ふと今、ある事を思い出し、歩みを進めていた俺の足を止める。ある事と言うのは、あの二人のことだ、もしかしたら俺が知らない集合場所でまだ俺の事を待っているのかもしれない。もしくはもうUTXに到着し、A-なんとかを見ながら海渡くん何してるのかな?などと、話しているのだと思われるが、まだ出発していない可能性もある。
このまま行ってしまおうかと思ったが、それではあの二人がかわいそうだ。そこで俺は、ペースをゆっくりにする事にし、花陽達が先に着いていたとしても、俺が後から来るとしても、ちゃんとUTXに着けるようにした。
今は午前七時半、いつもの俺が起床する時間だ。俺が中学の時なら、今家を出た頃だろう。
俺は中学の時、弓道部に入っていた。そこの部活は毎年大会で何か記録を出しているらしく、何気に部員も多かった。正直、人が多い場所はあまり好きではない。俺は弓道など、日本のスポーツは静かであまり人が多くない場所でやりたいタイプなのだ。あらゆる所に人がひしめき合う(ひしめいてはいなかったが)ような場所では、集中したくても集中できず、何本も矢を外し、園田家の不良生徒として矢を外したことに大きな屈辱を味わった。
思い出すこともなくなり、いよいよヒマになってしまった。昨日充電をし損なった6を取り出し、最近始めたばかりのアプリを起動する。電池残量は50%しかないが、俺のコイツは電池が異様に持つのであと12時間は持つだろう。
ーやっぱり・・・・・音楽聴こうかな・・・・・?
立ち上げたばかりのアプリを閉じ、音楽を聴こうと鞄に入っているイヤホンを取りだそうとする。
「あぁ、イヤホン忘れた」
いつもより早く起きて寝ぼけていたからか、いつも持っているハズのイヤホンを忘れてしまい、大きく落胆する。
もうさっさとUTXに行ってしまえ!と、ダッシュで向かおうとした瞬間だった。
「あ、海渡く~ん」
と声が掛けられ、後ろを見てみると、俺のよく見知った女の子が元気にこちらに手を振りながら走ってきている。恐らく、このまま俺に飛びついてくるだろう。
「おはようにゃ!」
「おっと、おはよう凛。あとさ・・・・・再会できて嬉しいのは分かるけど、こんな町中で抱きつくのは・・・・・」
朝から元気な凛が飛びついてくるのを受け止め、あまり大きくなく、囁くような声で語りかける。
「町中だからって、抱きついちゃいけない法律はないにゃ」
「そうか・・・・・あさから元気だよなぁー。それでさ、花陽は?」
「かよちんならあそこだよ?」
俺の質問に即答し、凛は自分がきた方向へ指を指す。指さした方を見てみると、疲れてヘトヘトになりながらも懸命に凛の後を追いかけている花陽の姿があった。
「ヘトヘトじゃん」
「かーよちーん、早くー」
「はぁ・・・・・海渡くんも・・・・・凛ちゃんも・・・・・は、早いよ・・・・・」
「小泉さん、かなりお疲れのようですね」
と他人事のように言う俺と
「海渡くんに追いつけたし、ちょっとペース落とそうか?」
と言っている優しい凛の姿だった。
途中からあまり良くない形で合流した俺たちは、花陽のペースに合わせながら少し急ぎ目にUTXへと走っていく。俺と凛は結構体力があるので、遅れそうになったときは全速力で走っても少し余裕だが、花陽はHPがほとんどないのですぐに置き去りのようになってしまう。
逆に凛は、俺でもビックリするほど運動神経が良い。恐らく今の俺よりHPがあるだろう。
俺は最近運動をしていない。したくても外の寒さが家に帰れと怒り、稽古無いの?と言っても勉強しろ!と怒られる。運動能力はこの四ヶ月で大きく低下してしまった、元に戻せるかは俺の気力とやる気次第だろう。
「って、UTX何処だよ」
「凛に言われても困るにゃ」
「もう少し先に行って曲がった所だったよ」
「おぉ、もう少しか」
いつまで経っても学校らしきモノが見えない事に少しムカっと来たが、花陽のナイスフォローで気が静まり、代わりにある可能性が俺の頭の中に現れた。
もうUTXは見た目が学校ではないのかもしれない、と思ったが、見た目が学校じゃない学校ってどんなのだよ!と、ツッコミが入り、俺の考えは一瞬で却下される。
突然二人が止まり、花陽がここだよと、指をさす。
そして、俺が見たものとは・・・・・。
「で、でかすぎる!!」
まず、この言葉が口からこぼれ出た。やはり、見た目が学校じゃない学校は存在していたのだ。いや、これは学校じゃないのかもしれない、これは何処かの会社の本社だ。まずアレが学校なら教室は何処だというのだ。俺があんな所に入学していれば、一日中あの中をさまよっているだろう。
「そんなに見てないで、早く行こ?」
「えっ?あぁ悪いな、ちょっと驚いちまって」
空中の一点を凝視していたらしい俺を見ていた花陽により、俺は軽いトランス状態から復活する。
後少し行けば、花陽が見たいというA-何とかをお目に掛かる事ができる。三年ぶりのアイドルだからか、俺も早く行きたいと思う所もあった。俺は少し走りながら何かの本社っぽい学校へと入っていった。
学校の校門らしき所には、東京駅の改札を連想させるモノが設置されており、相当な金をかけていると思われる。それに、校門前に大型のモニターが取り付けられている。いったいどれほどの金を学校の設備につぎ込んでいるのか、全く想像できない。そもそもココはもう学校ではないのかも知れない。
あの中には沢山のオフィスがあって、その中から資金を横領しているのか・・・・・。
いや、横領をしているわけでは無い。多分あの大型モニターに映っている三人組が金をがっぽがっぽ稼いでいるのだ。あの三人がどれだけ裕福な暮らしをしているのか、俺のような人間には全く想像できないだろう。
「なぁ花陽、あの方々ってなんて言う人達だっけ?」
「わぁー・・・・・」
俺の話を全く聞かず、花陽はモニターに映っているアレを目を輝かせながら見ていた。自分の好きなことに夢中になっていることは別にいいのだが、人の話を聞かないのはひどい(俺が言えたことではないが)。アイドルのグループ名が分からないのは、俺にとってはかなり歯痒い事だが、今聞こうと話しかけた花陽がこれではアレの名前を聞くのは結構後になりそうだ。今回はこの事に対して、目を瞑っておくことにする。
「うーん・・・・・A-何とかだったような気がすんだよな・・・・・」
「A-RISEよ、ア・ライズ」
おっそうか、ありがとな、と隣に来た人に口を開こうと、横を向いた瞬間、俺の目に飛び込んできたのは驚きの光景だった。
分厚いコート、サングラス、マスク、どれをとっても怪しい人間にしか見えない。それ以前に、なぜ春なのにそんなコートとマスクとサングラスを着用しているのか、全くの理解不能だ。
「あの・・・・・暑くないんですか?」
「はぁ?暑いも何も変装に決まってるでしょ!」
「何の変装だよ・・・・・大体、誰がお前を追いかけるんだ?」
「それは・・・・・パパラッチよ」
「ぱぱらっち・・・・・?」
今理解した、コイツはおそらく自称アイドルなのだろう。
自分をスーパーアイドルなのだと言う事に対しては、別に否定はしない。だが、あまり自分を美化しすぎるとかえってよくない事に遭う。
俺も自分のことをよくアイドル野郎だ!と言うが、どちらかというと、俺はゲームの方が好きだ。あまりにも自分を美化しまくるような奴は、俺は嫌いだ。
しかし何故か、隣にいるコイツの事は別に何とも思わない。むしろ、まあいいやと思う方が、俺の中では多い。その理由は、コイツが俺と同じく、アイドルが好きだからかも知れないが、他人の考えている事は、別の人には理解出来ない。
アイドル、好きなんだな、と小声で呟き、ポケットから携帯を取りだした。
俺はそこに表示されていた時間を見て目を丸くする。
俺はモニターを見続けているヤツに「時間やばいぞ!」とだけ告げ、その場を後にする。
「かよちん、おくれちゃうよ?」
「後ちょっと・・・・・」
「ダメだ!時間を見たまえ!」
学校行こうよー、と凛が腕を引っ張っいるのにまだだ!と粘っている花陽の前に俺の携帯を突き出す。
「こ、これは・・・・・!前に限定配信された超人気アイドルの背景・・・・・!!」
「だろ?結構俺も運があったんだって思ったぜ・・・・・じゃなくて!じ・か・ん!!」
「ふえぇええ!!凛ちゃん!海渡くん!い、急がないと・・・・・遅刻しちゃうよぉー!!」
時間を見た途端、花陽は猛烈な速度で走り出した。
「凛さっき遅刻するって言ったにゃー!!」
こうして俺達三人は、遅刻という物の恐さを思い出しながら全力疾走で音乃木坂へと向かっていった。
一回すべての文字が消えてしまい、あぁ~!!と思いましたが、根性で書いてみました。
かよちんの特別回を書きたかったのですが、この話を書き終わったのが、ついさっきで、書く時間がありませんでした。
あぁぁぁ!!海渡君とかよちんの絡みがあぁぁぁ!!
楽しみにしていた方、すいませんでした。
感想、ご意見、評価等、お待ちしております!!
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第五話 まさかのアイドル
後二人でやっと全員が出ますね。
それではどうぞ
今日も朝から色々と大変なことがあった。それは、昨日花陽に誘われた件のことだ。
俺は朝早く起き、いつもよりも何倍も早く家を出て、今日始めのミッション、花陽の用事に付き合うと言う任務を遂行した。何事もなく無事にミッションは成功し、遅刻ギリギリで学校に到着した。
そして今は三時間目が終了し昼飯の時間となっていた。
驚いたことに、ここは昼飯を食べるところが自由なのだそうだ。ある人は「外で食べない?」「いいねー」とか言ってたり、「日当たりの良いあそこで食べよう!」など、色々な意見が展開されている。しかし、俺のような男子は食べる場所がごく限られており、外で食べる事すらままならない。もう少し男子が入ってきて欲しかったが、今更嘆いても変わることはない。
「共学か・・・・・大変なこったなぁ」
呟いてから、席を立ち上がり、ヒマつぶしでもと思って教科書の後ろの方にある、凛や花陽では恐らく解けないだろう計算を解いていた数式がズラーッと書いてあるノートを閉じ、鞄へとブチ込む。それと同時に、弁当を取り出そうと少し中を荒らしてから今日はパンを買うんだったと思いだし、鞄の横についている小さいポケットに入っているサイフを取りだし、金の残量はまだ余裕があると思うが、一応確認してみる。でんでんでんを買ったときはサイフの中が絶望的な状況になり、死ぬのか・・・・・と感じたがあれはもう中学に入ったばかりの時なので、俺にとっては遙か昔の遠い記憶だ。
サイフの中を確認し、制服のポケットに突っ込んで、バッグを放る。
「海渡くん・・・・・?弁当、忘れたの?」
俺がバッグを放り投げたのを見て、忘れたのかな?と思ったのか、花陽が俺に話しかけてくる。
「いやいや、そう言う訳じゃないんだ、今日はパンを買おうと思っててよ」
「そっか・・・・・よかった・・・・・」
安心した表情を見せた花陽の左肩に軽く手を置き、そんな事するワケないだろ?、と言う。すると花陽は俺にとってはもう遠い記憶と言える場所からイヤな記憶を引っ張り出す発言をする。
「でも遠足の時に忘れてたよね・・・・・?」
「ウッ、それは・・・・・まぁ昔の事だ!気にする程の事でもないさ!アハハハ」
何がアハハハだ!・・・・・自分で自分にツッコむとは・・・・・。
「おっと、早くいかないとパンが売り切れちまうな、悪いな花陽~また後で~」
なぜさっきのような気になったのかは正直俺にも意味不明だ。恐らく腹が減っているからだろう。
そうだそうだ、そうなんだ。
俺は朝全力疾走したように廊下を走り、階段を全段飛ばしをしながら外にあるパン売場へと向かっていった。
一階に着いたときは足痛くてマジで死ぬと思った・・・・・
「うへー混んでたなー」
パンを買いにきたのだが、何故か売場の周りが混んでおり、俺のHPを四分の三くらい削り取られた。どうやら今日は数量限定のスーパーブレッドと言うらしいパンが販売されている日らしく、混みが治まるのを待っていたのだが、全くそのような気配がしなかったので思いっきり飛び込んでやったら見事にはじき返され、超必殺(程のことでもない)横入りを使ったら、クリームパンとアンパン(アレじゃないぞ?)を簡単に手に入れることができた。だが、戻るために再び超必殺を使った結果、人ごみの中から出ることには成功した。でもパンが潰れてしまい、俺は「うぅ」と悲しみを味わった。
潰れたパンを交互に見やり、どちらから先に食べるか考えながら近くの木の下にあるベンチへと腰掛ける。
「あーあ、潰れちゃった」
俺はアンパンの袋を開け、一口食べる。
ームムッ!潰れたにも関わらずこんなにウマイとは・・・・・!
しばし俺は夢中で食べ続けた。そしてもう無くなっている事にも気づかず自分の指に噛みつき、知らぬ内に食べ終わってたのか、と二つ目のクリームパンへと手を伸ばした瞬間だった。
「おーい!海渡くーん!」
いきなり俺に声を掛けられ、危うくクリームパンを落としそうになるのを長年弓道で鍛えた反射神経で回避し、声を掛けた本人を見る。
音乃木坂学院唯一の男子である俺に好んで話しかけてくる人は大体俺の知り合いだ。まさに今遠くで俺に手を振っている人、オレンジ色の髪をサイドポニーで結び、太陽のような笑顔を浮かべている彼女、高坂穂乃果さんは俺がこっちを見たのを見届けるや、少し小走りこちらへとで向かってくる。
「音乃木坂学院への入学おめでとう!隣いい?」
「別にいいですよ。あれ?海未とことりさんはいないんですか?」
よいしょ、と高坂さんは俺の隣に腰掛け、何なのか分からないパンに大口を開けてかぶりつく。
「えーっと、多分教室にいるかな?」
「ものを食べながら喋るのは行儀が悪いですよ」
と言った途端、高坂さんが大きくむせだした。俺は突然の事に驚き、丁度あった俺の極少量のお茶を渡すと一気に飲み干し、カラになったボトルをこちらに投げてきた。
「うおっ!?あぶねー!俺を殺す気ですか!?」
「それはこっちのセリフだよ!本当に死んじゃうって思ったんだから!」
このまま言い合っていても確実に分が悪いのは俺の方だ、ここは降参した方がいいのかもしれない。むしろ降参しなければ、コレが延々と続くのだ。俺はそっちの方がイヤだ。
「・・・・・はい、俺が悪かったです、申し訳ありませんでした」
「あ!開き直った!」
俺が、必殺礼儀を発動させたのに高坂さんの反応は至って普通だった。いや、これが当然の反応なのかもしれないが、これをやる人によって効果はマチマチだ。
「今日もパンが旨い!」とパンを食べ続けている高坂さんを見てある事に気づいた。今日はやけに元気がいい事に。
彼女は昔から元気なのだが、何か良い事があると一層元気になり、元気すぎて海未が制止させていたのを覚えている。
「今日はいつもより元気が良いみたいですね、何か嬉しかった事でもあったんですか?」
「えぇ!?か、海渡くんエスパー!?」
「おっ、当たりですか?」
「当たり、だよ。それでね、突然で凄く悪いんだけどさ・・・・・」
さっきまで元気だった高坂さんがいきなり黙り込んだので、俺は何か悪いことでも言ったかな?と首を傾げる。
残念ながら俺はエスパーではないため人の思考を読む事は出来ない。
「ねぇ!アイドル、やってみない?」
「ん?アイ・・・・・なんと?」
「アイドルだよ!」
ピッキーン!!
俺の思考が氷のように固まり、情報処理能力を極限まで下げると同時に考えていた事も全て氷の中へと閉ざす。
ーアイドル!?ウソだよな!?
言おうとしていた事も全て忘れてしまったため、これ一つしか浮かばなかった。
今の高坂さんが言った事がウソなのではないか?と思い、俺はもう一度聞いてみることにした。
「あの・・・・・マジですか?」
「マジだよ?」
うぉお、本当かよオイ!
と、明らかに失礼な態度をとってしまいそうになったが、ギリギリの所でセービングに成功し、言葉は俺の頭の中で再生されるに留まった。
思ったのだが、これは俺がアイドルをやる必要は無いと思う、もしやるのなら俺はサポート役に回るだろう。だからと言ってやらない理由はないが、誘うなら海未やことりさんを誘った方がいい。
俺は「ウーン・・・・・」と考え、やるかやらないかを考えた。
手にあったクリームパンは消え、もう脳に糖分を補給する事も出来ない。
もうすぐ昼飯の時間も終わり、元気なヤツは外で遊び始める。いつもなら昨日の俺であれば今は教室でスヤスヤと寝息を立てているはずなのだが、今日は昼休みに寝ることは出来るまい。俺は少しため息をつき、同時にある一つの答えもやや呆れ口調ながら、しっかりと聞き取れるボリュームで話す。
「分かりました・・・・・ですが、俺は歌ったりはしません。あくまで高坂さん達のサポートに回ります」
これを聞いた瞬間、高坂さんの顔がパアッと明るくなり、うれしさのあまりか俺の手を握る。
「やった!海渡くんが入ってくれるのなら千人力だよ!早速海未ちゃんとことりちゃんも誘って来ようっと」
「それを言うなら百人力ですよ?」
何故先に誘っておかないのかい?と心の中で嘆き、言葉を間違えた高坂さんを訂正する。
「あっ、ちょっと待ってください!」
俺の声が届いていないのかこっちを振り向こうともせず、俺を置いてスキップまでし始める。
俺は溜め息をつきながら高坂さんの後を追いかけた。
やっと穂乃果ちゃんが出せました。
最近ラブライブを見ると海渡君の姿が簡単に想像できるようになってしまいました(笑)
活動報告に海渡君のプロフィールを載せておきました。
感想を誰でも書けるようにしておきました。
感想、ご指摘などお待ちしております!
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第六話 スクールアイドルを始めよう! ~前編~
今回はちょっと短めですね。
それではどうぞ
さすがに入学二日目で他学年の教室に入るのはとても緊張するものだ。高坂さんには「先に行っててー、私用事あるからさ」と校内に入ってから言われてしまい、二年の教室何処だよ!と校内をウロチョロしていたら学校の見取り図を見つけ、寄り道と言ったことを一切せずに向かったら結構簡単に着いてしまった。
なぜ昨日はあんなに苦労したのか・・・・・。俺はどうでも良いことを考え、他学年の教室に入る決心を固めようとした。しかし決心は固まらずにそのまま三十秒が経過してしまい、ただ二年生の教室の前に立ち尽くす変な奴となってしまった。
もう何度もよし!入ろう!を繰り返しているのだが、なかなか体が動かない。これは俺の弱点の一つだ。俺は最初は大体、余裕余裕!とかまして周りをおぉー!と言わせている。だが、いざそれをやろうとするとガチガチに緊張してしまって、まともに出来なくなる。
ーよし!次こそは・・・・・!
俺が教室のドアに手を掛けようとした途端、突如勢いよくドアが開いた。まさか、自動ドアなのか!と思ったのも束の間、一気に三メートルほど後ろに飛んだ俺を見ていた人を見て、なんだい、海未じゃないか、と毒づく。
「まったく、そこで何をしているのですか・・・・・」
「なんだ、自動ドアじゃなくて海未か。ちょっと残念だなぁ」
俺の言葉に耳も傾けず、海未は中へどうぞ、と言ってくる。
別に自分の家でもないのに、いつでも礼儀が正しい俺の姉の大和撫子様ー園田海未は、ある意味俺よりも園田家では重要視されている。俺の方が特技が多いのに何なのだと言う話だが、残念な事に俺の特技は日本舞踊において非常に実用性が皆無に等しいのだ。何処かに行った財布を探すのに便利なエコーロケーションも弓道では全く役に立たない。バック転など、ただ有るだけで実際に体育の授業以外で使ったことなど、一回も無い。
俺は海未に連れられ、高坂さん、海未の幼馴染みである南ことりさんに何ヶ月かぶりに会った。アッシュ色の長い髪の上に何やらトサカの様なモノがついている。俺の様な賢者で無ければ完全に消し飛んでしまう、男女問わず絶対効果のある必殺技を持っており、小さい頃によく着せかえ人形の様に遊ばれた思い出がある。
ことりさんは俺と目が合うや、にっこりと笑顔を返してくれた。
「ったくよー俺あれでも驚いてたんだぞ、もう少しゆっくり開けてくれないか?」
「海渡が教室前にいたので、穂乃果にでも呼ばれたのですね、と思ったから見に行っただけですよ」
「見に来た、と言う割には中にも入れてくれたけどな」
「海未ちゃんにすごくソックリな男の子がいるってみんなが騒いでたからね、多分自分の弟を自慢したかったんだよ」
ーんがっ!マジで!?
見かけによらずすんごい事を言うことりさんにすごい険相で海未が食いつく。
「こぉとぉりぃー?」
「ご、ごめんね!冗談だよ、えへへ・・・・・」
ーうおぉ、マジでスゲェ殺気を感じたんだけど・・・・・
下手に海未に冗談を言うとああなる。すごい険相で相手を睨み、かなり長い間行動不能にする技。これも必殺技の一つだ。海未が怒るときは大体この顔をし、相手の反撃といった行動、あるいは反論をしようとする精神を完膚なきまでにたたき潰される。怒った海未に盾突くのは死を覚悟したも同然だ。俺はこの人生で海未に盾突いた人間は見たことがない。
「海未ってさ、怒るとものすごぉくこわいよね」
海渡ー?と俺の発言を黒い笑顔で返され、俺はすいません、と速攻返す。
まだかなぁ?とブツブツ言いながら、俺は高坂さんの帰還を待っていた。それにしても時間が掛かりすぎだ。何か重いものを持ってきているのならまだ話が分かる。まさか、またどこかでパンを食べているのでは・・・・・?。
「おっ待たせー!ごめんごめん、これが重くてさー」
まさかと思い、教室の入り口の方を見た瞬間いきなりドアがガタン!と開き、教室内を一瞬静かにする。
入ってきたのは何かの雑誌を沢山抱えた高坂さんだった。
「穂乃果ちゃん?何それ?」
「おおーっ、アイドルだ!」
「アイドル?何のためにこれらを・・・・・?」
「教えないよ~っ、後でのお楽しみだからね!」
高坂さんの話を聞いて、海未は感心したような顔をしていたが、すぐに何かヤバそうな表情に変わった。
これはあくまで予測だが、海未はもう高坂さんの言おうとしている事を察しているだろう。よって、いつ逃げ出してもおかしくはない。
ことりさんは疑問の表情も何も浮かばせずに普通に高坂さんの話を聞いていた。時折「ほぇ~」と言っていることから、彼女も以外とアイドルに興味があるのかもしれない。
「それで何だけど、あれ?海未ちゃんは?」
そう言えばそうだった。海未が逃げ出すかもしれない可能性を考えていたはずなのだが、俺が全く気が付かないほど気配を消して逃亡するなんて、何処でそんな特技を覚えたのだろうか?。
「気付かないうちに消えてるし」
まったくと言いながら、俺は気配を消していつの間にか消え去った大和撫子様を捜すために廊下へと出てみる。
「おーい!何処に行こうというのかね?」
教室から逃げて間もないと思われる海未に後ろからいきなり声を掛けると、「ヒッ!」と言う高い悲鳴と共に飛び上がる。
「わ、私はちょっと予定が・・・・・」
「海未ちゃーん!良い方法思いついたんだから聞いてよ~!」
後ろから俺に続いてきた二人が教室からヒョコッと顔を出し海未に言葉を浴びせる。
しかし海未はその言葉に関心の意も持たずに、高坂さんの言おうとしている答えを完全に悟ったかのような顔をし、呆れた表情をしてからキッパリと言う。
「はぁ・・・・・どうせ、私たちでアイドルをやろう、なんて言うんでしょう?」
「正解、さすが園田家の逸材だな。俺とは全く考えることが違うぜ」
「なーら話は早い、早速生徒会長のところに行って申請を・・・・・!」
高坂さんは海未の肩を揉みだし、ふざけが入っているような入っていないような声で決意を表明する。
「お断りします」
あっ、今アイツの顔が頭に浮かんだ!
「えーっ!どうして!こんなに可愛いんだよ?こんなに輝いてるんだよ?」
「その本に載っているスクールアイドルは全員が本当のプロのようにがんばったからこそそんなに輝いているのですよ!穂乃果のように好奇心で始めても成功するはずがありません!」
俺は海未に色々と言われている高坂さんとの間に入り、ちょっと待てよと言い、俺が話す時間を設ける。
「おい海未!いくら何でも言い過ぎだ!・・・・・アイドル以外にも廃校を阻止出来る事が在るかもしれない・・・・・でもやっと方法が見つかったんだぞ!失敗しても良い、だから一回だけやってみないか?勿論、無理にやれとは言わない、やるかやらないかはお前の勝手だ」
俺は思った事を素直に言った。これで海未がやらないと言えば、高坂さんは大きなショックを受けるだろう。
だが、海未の表情は変わらなかった。
「なら私は、海渡の言う別の方法で廃校を阻止します・・・・・!」
そう言い、海未はどこかへと歩いて行ってしまった。
前半と後半が全く違うような気がするな……。
感想、ご指摘など、お待ちしております!
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第七話 スクールアイドルを始めよう!~後編~
それではどうぞ
「あれほど言う事でもねーのに、何であんなに怒るのさ!最近の若者は……」
「まぁまぁ落ち着いて、ね?」
「分かってますよ……」
俺はあの言い合いの後、ことりさんと意味もなく校内を歩き回っていた。
俺は別に歩き回る気はなかったのだが、ことりさんに「一緒に校内、見て回ろうよ」と言われた為、その事に付き合っているのだ。
ー何でだろうな……
なぜあそこまでアイドルはやらないと言ったのだろうか?やりたくないからか、それともただ恥ずかしいからか……。
いや、前者と後者もどちらもあてはまらない。恐らく海未には彼女なりの理由があるのだ、無理矢理やらせ、もし成功したとしても、無理にやらせた俺だけではなく高坂さんもことりさんも海未も嬉しいと思うだろうか?俺は思わないと思う、なぜなら成功と言う物は、グループなら全員の気持ちが同じで、尚かつ同じ目標を持っていないと、出来たとしても達成感を味わうことなど出来ない。成功は全員のやりたいという気持ち、即(すなわ)ち、全員の思いが一つになり、目標に辿り着いてこそ成功は意味を発揮する。ことりさんとともに考えているのだが、何にも頭に浮かばず、とうとう俺の口から言葉が漏れる。
「海未がやらないとなると……あぁ!どーすりゃいいんだッ!」
「うーん……海未ちゃんがあんなに言っちゃったし……」
「思い、つかねぇ……」
あーっ、とガシガシ頭を掻いた俺にことりさんがコメントしてくれて、再び俺は冷静を取り戻す。俺はうーん、と腕を組み、昔の出来事と言った色々な事を思い出すため、途轍もなくにが~い思い出やとても嬉しかった事などを頭の中で再生していく。
一人の少年と二人の少女……これは約十年前の俺と花陽、凛だ。俺達はある公園で出会い、こちらの方からそのときはすごく引っ込み自案だった花陽に手を差し伸べ、友達になった。凛とは俺が一人で公園に居たところ、向こうから俺に話しかけてきて、一緒に遊んでいたら仲が良くなった。
これは実に良い思い出だ、記憶力が絶望的なまで低い俺でさえ、鮮明に覚えている。まるでこの記憶自体が俺に忘れるなと言っているような感じだ。ほかにも色々と頭の中に記憶が再生されていく。弓道全国ベスト3になった時の記憶や、中学時代の俺やその仲間達との暴走記など、良い記憶や、悪い記憶、中には俺の黒歴史が再生されていった。ここである一つの記憶がページめくりのように記憶を再生していた俺を止める。
この記憶は、高坂さん、ことりさん、海未と遊んだときの記憶だ。
そこは、俺と花陽が初めて会った公園だ。そこには大きな木が立っており、夏になれば蝉がよく採れたものだ。あの頃の俺ーそのときは僕だったーは夏だろうと冬だろうと、日が暮れるまで泥んこになりながら遊び回り、親に怒られることもよくあった。
ある日の事だ、俺達は日が暮れる前まで遊び、もう帰ろうとしていた。だが、突然高坂さんが木の前に立ち、こう言い出した。
ーのぼってみようよ!
俺はこれを聞き、誰よりも真っ先に驚いた。えぇっ!帰ろうよ!と反応したのに対して、やーだ!これ登るまで帰らない!、と言い返され、泣き虫だった俺はうえ~ん、と泣き出した。俺を含めた三人は様々な反応をする。海未は無理です!と目を潤ませ、ことりさんはえぇー!と今にも帰ってしまいそうだった。
結局木には登ったのだが、四人の体重に耐えられなかったのか、俺達の乗っていた木の枝がポキリと折れ、俺は一瞬体が宙に浮くのを感じながら滅茶苦茶に腕を振り回し、近い枝をつかんで、自由落下は回避した。
そして、それぞれの方法で落下を回避した俺達は、見たのだ。
遙か遠くの地平線へと沈む、オレンジ色の太陽を……。
「おーい、海渡くーん」
「……うぉ!?……また何か見てました?」
昔の記憶を蘇らせ、深いトランス状態になっていた俺にいきなり声を掛けられ、大いに驚く。
これは俺の悪いクセだ。俺はいつも物事を深く考える事が度々(たびたび)あり、その都度花陽や海未といったちゃんとしている人に考えを中断させられ、今のように声を上げてしまうのだ。
「そろそろチャイムが鳴る頃だから、教室に戻った方が良いよ?……次は確か数学だったかな?」
「えぇ、数学かよ……。じゃあことりさん、また後で~」
「また後でね~」
そう言い残し、俺は内心かなり焦りながら教室へと猛ダッシュで向かっていった。
それにしても、何でことりさんは一年生の四時間目を知ってるんだろうな……。
時間は飛び、放課後となった。
俺は今弓道場に来ている。ここの弓道場はかなり昔からあるらしく、歴史も深い。海未によるとここは母さんが高校生だった時からあったらしい。古くから在るため歴史がある、こんなに良い学校を廃校にするのは実に認められない。UTXと音乃木坂どっちが良いと聞かれたら百人中六十七人が音乃木坂が良いと言うに決まっている。そうだと信じたい。
ザクッ
「あっ外した。珍しいな、千年に一度起こるか起こらないかの確率なのに、今年は言い事がありそうな予感がするぞ!」
「うるさいです!静かにしてください!………いけません、余計な事を考えては……」
ザクッ
「おやおや?また外したぞ?」
「あぁ!いけません!変なことを考えては!!」
「大丈夫か?ほら」
二度目のいけません!を言い、床へと座り込んでしまった海未に手を差し出し立たせてやる。次に天然水の入ったボトルを海未に渡し、気持ちを落ち着かせる。
「何だよ、アイドルが気になるのか?」
ボトルを渡し、疲れた体にピッタリの物を渡してやったのだが海未の表情は冴えておらず、つい気になってしまい声を掛けた。
昼、散々アイドルの事について怒っていたはずなのだが、やはり大和撫子でも気になる物は気になるのだろう。それこそ、人間の本質と言うものだ。俺だって気になる物には片っ端から挑戦している。
「穂乃果のせいです……。いきなりアイドルとか言い出すから……そのせいで全く練習に身が入りません……」
「と言うよりさ、元々練習に身を入れる気がないんじゃ……」
「海渡?何ですって~?」
「嘘です、かなりマジメな海未さんがそんな事するハズがありません。許して下さい」
勿論、こんなので許して貰える訳がない。後で俺はかなり痛い鉄拳制裁を受けるのだろう。
海未がアイドルの事が気になっている気持ちも分からなくない、もし高坂さんが一人でもやると言い出したら、俺は海未がジッとしていられるとは思わない。大事な幼馴染みが一人でやると言って、何も手助けもせずただ見ているだけの関係を幼馴染みと言えるだろうか?俺は認めたくない……そんな関係は絶対に……。
人は一人で何もかも出来るようには出来ていない。人は数人いてこそ真価を発揮するものなのだ、一人目の足りないところを二人目が支え、それでも支えきれない場合は三人目も一緒に支えてやる事により、俺達人類は存在してきたのだ。
「なぁ海未、その……変なこと言うようだけどさ……」
「海渡?どうかしましたか?」
今更だとは思うが、ここで昼のことを謝っておいた方がこの先良いのかもしれない。むしろ謝らないと俺の心のモヤモヤが治まらず、弓道などいつもなら普通に出来る物が出来なくなる。それは幾ら何でも寿命を何年減らしてもイヤだ(?)。
俺はあまり海未の逆鱗に触れないような言葉を一言葉ずつ頭の中ではじき出し、一つずつ組み立てられていった言葉を口にしたー時だった。
「もしかして、今日の昼の事ですか?」
「ウッ……」
なぜ俺の考えている事を当てて来るのだろうか?怖いとしか思えない。
「うっそぅ……どうして俺の考えている事が分かるんだ?……もしかすると、ホントにエスパーなのか……?」
「これは昔からなのですが、海渡はいつも単純なんですよ?物事を隠し通すのも下手ですし、思ったことをすぐに口にしてしまいますから」
「………結構昔に勝手にアイドルのライブに行ってたのは気づいてないか……ふぅ、良かった」
「ライブ……?一体何の事ですか?」
「いや?何でもないよ?ただ偶然通りかかっただけだよ?」
いかにも嘘くさいこの喋り方はもう海未には効かないはずだが、今日は見逃してくれた。感謝だ感謝……。
「海未ちゃーん海渡くーん、ちょっと来てー」
名前を呼ばれ、声がした方を向くと、昼休み以来の再会となることりさんが俺達の方に手を振っていた。
「ことり?……海渡、また何かやらかしましたね?」
「いやいやいやいや、何でそうなんだよ!……午後の授業は受けたぞ?良い夢見たけどな~」
「へぇー、よく寝れたみたいですねー、私は昨日弟と授業中は寝ないと約束したはずなんですけどねー」
海未は笑顔を浮かべながらこちらへとドシドシ歩いてきた。この笑顔が黒い笑顔だと言うことはもう理解している、よって俺のライフポイントはもう殆ど残っていない。
「うきゃあああああぁぁぁぁぁー!!」
俺の情けない悲鳴は校内だけでなく、全国に響いただろう。あるところでは人が倒れ、またあるところでは地震が起きる。俺がくすぐられれば、このような事は普通に起こる。
この後ことりさんが俺をくすぐる海未を必死に止めてくれ、何とか一命は取り留めるのだった。
「うぅ……厳しいぃー……」
「海未ちゃん、海渡くんがかわいそうだよ?」
「仕方ありません!海渡が授業中に寝てたと言うのですよ?ことりはともかく私が黙っているはずがありません!」
うぁー!海未の鬼ー!、と泣き出したいところだが、ここで泣けば俺のプライドが崩れてしまう。ここは黙っておくことにし、俺は歩きだした海未とことりさんの後を追うように歩き出す。
「ねぇ海未ちゃん、いきなりだけどさ……ことりね、アイドルをやることにしたの」
俺はことりさんが言った言葉に対し、自分の耳を疑った。だが、彼女の目にはしっかりとした意志が宿っていた。今の発言が決して嘘なんかじゃない事を悟った。
「ことりさん……マジですか?」
今のは決してふざけて言った訳じゃない、俺が思ったことを素直に言っただけだ。
「マジ、だよ?……海渡くんも、やりたいんだよね?」
ことりさんが俺に話しかけたタイミングはまさにその事について考えていた時だった。もしアイドルをやるなら支えていきたいと思ったばかりだったのだ。
「……ジャストタイミング、ですね。……勿論、やりますよ、だって昼飯の時間に高坂さんと約束したんです、支えていくって……」
俺は胸に手を置き、何かに優しく語りかけるように話す。
俺は昔、いつも自分で何かやりたいことを見つけるのが下手な子供だった。何かを始めるにしてもすぐに飽き、また始めてもまた飽きる、弓道を高坂さんのすすめで始めるまで、俺はこんな事を繰り返していた。今となっては元から弓道を始めていれば良かった、なんて思っている。だが、あの時は自分の事が嫌いだったため、自分の事について自信を持つ事も出来なかった。
何をやってもどうせ出来ない、そんなことをいつも考えていた。もしあの時俺の前に高坂さんが出てこなければ、今の俺は居ないだろう。花陽と知り合う前、あの時家にこもっていた俺に手を差し出してくれたのは高坂さんだった。
ー君、海未ちゃんの弟君だよね?私、高坂穂乃果!よろしくね!
初めて会った時の高坂さんは、俺から見たら太陽だった。
日光が足りず、力無くしおれてしまった一輪の花に一筋の光が差し込んだような感覚に俺の体は包まれた。
その後、俺は彼女に手を引かれ、初めて友達と呼べる存在が出来たのだ。
昔のことを深く思い出し、俺はそのときに感じた嬉しい気持ちの余韻に浸りながら、記憶を再び再生していった。
「いつも、こういう事って穂乃果ちゃんが始めてたよね」
「確かに、いつもそうでしたね……」
「でも、殆ど何もなかったじゃありませんか、怖い目に何回会ったことか……」
海未も俺と同じく、記憶を蘇らせていたようだったが、イヤな記憶しか浮かばなかったのか、あの時は怖かったと誰でもわかる口調で話す。
「何言ってんだ、海未。俺も高坂さんに連れられて怖い目に何回もあった、何度泣いたかなんて分かんないくらいある、でもな……俺は、後悔した事なんて、ほんの一回も無いぞ?」
「うん……穂乃果ちゃんの始めたことをやって、ことりも後悔した事なんて一回も無いよ……。海未ちゃんは?」
海未はどこかを見たまま、硬直していた。いや、正確に言えば、昔俺たちで遊んだ時の記憶が自動再生され、恐らく、俺がさっき見ていた記憶と同じ物を見ているのだろう。
ここで、ことりさんが校舎の裏側に来た俺と海未にあれを見て、と指を指す。
「あっ……高坂さん「穂乃果……」……」
俺と海未が口を開いたのはほぼ同時だった。
校舎の裏では高坂さんが一人でまだおぼつかないステップを練習していた。俺は彼女が一人で頑張っている姿に終始見入る。しかし、ここで足をもつれさせ、尻餅をつく。
「海未、行ってやれ……今の高坂さんにはお前が必要だ」
俺は反射的にそう言っていた。この事に対して海未は海渡……としか言わなかった。
俺の問いかけに応じてくれた海未は少しだけ俺の手を持ち、ありがとうございます、と囁いた。俺はお返しにと、にっこりと笑って、笑顔を返した。
「穂乃果……一人で練習しても意味はありません、やるなら……四人で、みんなでやりましょう……」
高坂さんは、差し出された海未の手を少し驚いたような表情で見つめ、やがて手を取り立ち上がると同時に、俺たちの名前を一人ずつ言っていく。
「海未ちゃん……ことりちゃん……海渡くん……本当に、一緒にやってくれるの……?」
「あたりまえですよ!昼飯の時間に支えるって言いましたから」
俺は自分の胸をとん、と叩き、自信満々に言う。
俺の言葉を聞いた瞬間、今まで浮かない表情をしていた高坂さんは笑顔を取り戻し、海未の手を持ったままジャンプし、そのまま海未へと抱きつく。
俺は今、改めて思った。今結成したばかりの小さなスクールアイドルを本気で支えて行きたいと……。
これは俺の思いこみかもしれないが、彼女たちなら廃校問題など、解決してしまうかもしれない。それどころか、全国にまで出て、もしかしたら世界に飛び立ってしまうかもしれない。
俺はそんな思いを胸に、アイドルのマネージャーになる事を決めたのだった。
やっとアニメ版の一話が終了か……
このままじゃ一期終了が五十六話になりそう……。
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ファーストライブ編-Second Season-
第八話 階段から突き落とされる
今日は昨日とは遙かに比べ物にならないほど目覚めが悪い。例によって花陽のモーニングコールに起こされるなんて、誰も想像すらしていなかった。今日はあの目覚ましによる爆発的にうるさいベルの音にはたたき起こされてはいないため、枕または掛け布団を投げつける事は出来ない。第一に俺のモットーがそうさせてくれない。
「あ゛ぁ~、ねみぃ~……」
安眠を妨害され、少々不機嫌ながらも着替えを終了し、日本の定番朝飯、白米、しゃけ、味噌汁を僅か二分でたいらげる。
適当に食器を片づけ、身支度を済ませてから家から高速で発進する。
園田海渡、行きまーす!!
ふざけはここまでにし、俺は昨日花陽、凛と電話でやり取りし集合場所となった所へと向かう。小学生の時まで集合場所であった公園は、高校までの距離がかえって遠くなってしまうとの事で新しく決まったのだ。
俺が集合場所につく頃にはもう既に二人の姿が確認できる。視力が両方0.3なのだがきれいにあいつらの事は見える。これがエコーロケーションなのだろう。
「へーい、花陽~凛~」
「おはよう海渡くん、今日はちょっと早めだね」
「まぁな、花陽のモーニングコールで寝起きはあまりよろしくなかったけど、気持ちの良い朝になったさ」
「それ良い朝って言わないにゃ」
まさかの凛に正論を言われ、俺はウッと言葉に詰まる。今日は寝起きが悪いせいか、ギャグセンスと言い、色々な物が光らない。
どちらかと言うと、俺はギャグセンスがない方だ、だが自分の事に自信を持たなくてはこの先生命活動を続ける事が困難になる。俺は普通に弓道の全国大会でベスト3に入れたのだ、腕の良さだけは自信を持っている。
「それよりさ、早く行かないか?遅刻するぞ」
集合場所に着いてから、かれこれ五分は経過した。これ以上話していると三日連続で遅刻ギリギリ登校と言うのもあり得てしまうため、今日は早めに起こされたのだろう。
だからと言いモーニングコールはさすがの俺でもなかなかにキツイ。弓道部の引退式の日は完全に記憶の中から引退式の情報が抹消されていたのだが、アノ顧問がモーニングコールーではなくタダの電話をしてきたせいで、海未には怒られ、弓を忘れるわで痛い目にあった。以後、電話など一度や二度くらいしか使ったことがない。メールはヤバいほど使用しているが、どうでも良い事に対しては定型文しか返していない。
「……うん、それじゃあ行こうか」
「行っくにゃ~!」
俺は何かとても大切な事を忘れているような気がしたが、なにも気にせずに学校へと向かっていった。
「なぜ朝早く起きなかったのですか!昨日あれほど言ったはずなのにどうしてです!」
「うぅ、ごめんなさい……」
やはり気にするべき事だったのだ。
昼飯を食い終わってからはもう寝る事しか考えていなかったのだが、いざ睡眠!と腕を枕にして寝ようとした途端に今俺の隣にいるお姉様が教室にまでやってきて俺を連れ、高坂さんとこに行くのかな?と思うと、いきなり朝の事で俺を叱責なされた。
「仕方ないだろ、人は物を忘れてナンボだからな。物を忘れない人間なんて俺は知らないね」
「いくら何と言おうと、用事を忘れた言い訳にはなりませんよ。……海渡が毎日こんなのでは、私が心配です」
「そ、そうですか……別に大丈夫ですよ?俺は俺の道を突き進むだけですから?」
このまま「毎日私が朝に海渡を起こしてあげます!」なんて言われたら、俺の人生が大和撫子に踏みにじられてしまう。俺が今の今までずぅーっと集めていたアイドルのCDやら信じたくはないがでんでんでんも全て焼却炉行きになってしまうかもしれない。
それだけはゼッタイヤダ!!
言わないように願っていると、海未はそんな俺を見て、溜め息をついた後俺を安心させる言葉を俺に掛ける。
「海渡が私にナイショで集めているアイドルのグッズを全て捨てたりはしません、むしろ今後の活動で必要なものですから」
ふぅ、よかったー全部捨てられるのかと思ったけど、そこまで悪い心は持ってないか……ん?まてよ、何で海未って俺が勝手にアイドルのCD集めてる事知ってるの!?
こ、怖い!もしかして……俺の部屋に隠しカメラを……
「無い無い!ゼッタイ無い!」
「海渡?どうしましたか?」
どうやらつい考えが広がってしまい、普通に口に出てしまっていたらしい。
あり得る訳がない、あの海未が隠しカメラなどとふざけた物を知っている事など、天地が二度ひっくり返ってもあり得ない。
あり得ないあり得ない、とずっと言っていたら鳥肌が立ってしまった。
「な、何でもない……」
ふーん、と海未に完璧に疑われてしまったが、詳しい理由は問い詰められなかった。これはある種のオマケと言う物なのだろう。俺はオマケと言った特典を一切貰った記憶が無いが、今回だけは幸運だったのだ。
今年のおみくじは大凶だったが……。
海未は身を翻し、階段方面へとスタスタと歩いていきながら背中で語る。
「それでは、穂乃果の所に行きましょう。恐らくパンを食べていると思います」
「ほぉ、ことりさんは?」
「ことりは何かステージ衣装を考えると言っていて、今も教室で作業中でしょう」
「ステージ衣装ねぇ……まあ二人はいいとして、問題はお前だ海未」
「……どう言う事です?」
「まだ気付かんのか……あのねぇ、衣装を考える人はことりさんだろ?ことりさん=アイドルの事に本気、スカート丈が異常に短くなっても、知らんぞ俺ァ」
俺が今放った言葉を聞いた瞬間、海未はトマトのように赤くなる。いや、顔が煮えたぎるマグマのようになりながら自分の足を見て、何故だかはわからないが俺の両腕を掴み、グンと顔を近づけて俺を至近距離で怒鳴る。
「いいですか海渡!私はスカート丈は膝下までないと履きませんからね!あなたやことり、穂乃果は良いかも知れませんが、私にはちゃんと礼儀という物があるのです!!」
「し、知るかよそんな事!大体俺スカート履かんし!お前が履いてるスカートだって膝下まで無いじゃないか!後そんな足太くないから!」
「何処を見て言っているのですか!!」
「痛い痛い!叩くな叩くな!」
ちゃんと俺は朝の凛と同じ正論を言ったはずなのに、正論を言った俺を褒めもせずに俺をぺしぺし叩いてくる。
このままでは俺と海未がシスコンとブラコンの野郎だと思われてしまう。それに海未はシスコンとブラコンの意味を知っているのだろうか?とは言え知らないとしても意味を知っている俺がいる、今のうちに離しておいた方が良いだろう。
「海未、近い近い」
「何がです……あっ!!」
ようやく俺に超接近していたことに気付いた海未はヤバい!とでも言うような目をして俺を突き飛ばした。
「ウォオッ!!タスケテー!」
階段から突き落とすだなんて酷すぎる、俺は死んでしまうのか……。
ーまだだ!まだ可能性はある!
俺は空中で体を足から着地するように捻り、同時に膝を着地の衝撃に備えて柔らかくする。海渡ー!と言う声が聞こえたが、落とした張本人が故意に落とした(訳無いが)人を心配していいのか、俺はバカだから分からない。
ドンッ!!
「おぉう!痛ぁい!!」
着地には成功したのだが、足への衝撃が思ったより強く、俺は哀れな断末魔をあげる。結局、俺はなんとも無いと海未に勝手に判断され、歩くのがキツい中無理矢理歩かされるのだった。
うーむ……どうも展開が遅いな……
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第九話 足は太くない
ではどうぞ
「なぜです!ファーストライブの事は伏せておくとアレほど言っていたはずです!」
俺は痛む足をさすりながら頑張って外まで歩き、高坂さんの元へと向かった。
海未の予想通り、高坂さんは昨日俺が占拠していたベンチの上にてパンを補食していた。それを見つけた俺は高坂さんに声をかける前にメールで海未へ【いた】の二文字を送信した。
まず海未が携帯を持っていることに驚いた。さすがに授業中にイジるなんてバカな事はしている訳がないが、携帯を屋外に持ち出しているなど、思ってもいなかった。
「どうして?」
「またパンですか……」
さっきまでの海未の言葉など意にも介さず、なおもパンを頬張り続ける高坂さんに海未も呆れたのか、そのまま隣へと座る。
まだイマイチ話を飲み込めていない、今の俺はファーストライブと言われても何それ?おいしいの?としか答えられないだろう。
さっきまで海未がお怒りだったのはこの事だったのかー、と腕を組み、情報を一つ一つ整理する。
「そこの御三方~!」
情報を整理中の俺の耳にあまり聞き慣れない声が聞こえた。俺は整理を中断して声がした方を見てみる。
「スクールアイドル初めたんだっけ?」
「私海未ちゃんがやるなんて思ってもなかったよ」
どうやら俺たちに話しかけてきた人は高坂さん、海未の知り合いのようだ。
海未は三人の方々の話を聞いて驚いた表情をしている。何かあったのだろうか?
「それじゃあ穂乃果ちゃんと海未ちゃん、後弟君もがんばってねー」
「ありがとねーヒデコ、フミコ、ミカ~」
なぜあの三人は俺のことを知っているのだ、特に何も言った覚えはないのに何故だ!
俺は俺のことを言いふらしたであろう高坂さんをジトーッと睨む。
「ん?どうしたの?」
「どうしたの?じゃなくて、何であの人達は俺の事知ってるんですか!まさか……海未か?」
「穂乃果だよ?だってぇ~みんながさ、海未ちゃんの弟君ってどんな子?イケメンなの?って聞いてきたんだもん。しかたないもーん!」
非常にその人達にとっては残念なことだが、俺には高坂さんの言ったワードのどちらも当てはまらない。
第一俺はイケメンではない、女子からも何も言われなかったし……いや、あったがそう言うような意味の言葉ではなかった。あくまでふつうの会話をしただけなのだ。
「それはそうと、なぜ私たちがアイドルを初めたことをあの人達は知っているのでしょうか?」
「あぁ、それなら掲示板に張ってあったぞ。結構人溜まり出来てたしな」
「け、掲示板に!?」
海未は高坂さんの目をしっかりと見据えーと言うより睨み付け、何か掲示板に貼ったのですか?と聞く。
だが返答は海未におびえる様子もなく、うん!ライブのお知らせ!と返した。
俺はまだ曲すら決まってないのにライブをやる気の高坂さんに少し驚きを混ぜた声で問いかける。
「あの、まだ状況が少し飲み込めませんが、まだ曲も衣装も決まってないんですよね?いくら何でも見通しが甘くないですか?」
「大丈夫!衣装はことりちゃんが考えてくれるって言ってたし、曲は一年にすごく歌が上手い子がいるから!」
ああ、真姫か。
俺はそう直感した。だがアイツがアイドルの曲を作曲してくれるとは思えない。確か真姫はクラシックやらジャズしか聴かないと言っていたはずだ。アニソンばかり聴いている俺とは正反対で少し驚いた。まあ真姫がアニソン聴いてたらひっくり返るが。
またまた二日連続で二年の教室に行く羽目になるとは想像していなかった。
よーし!それじゃあことりちゃんの所にいこう!とパンを食べ終えた高坂さんがそう言ったとき、俺の背中に何か冷たいものが現れるのを感じた。そこで俺は適当な用事を即席で考えて二日連続で二年の教室に行くのを止めようとしたのだが……。
結局俺の嘘は破られ、連れてこられてしまった。
「こんなもんかな?見て、ステージ衣装を考えてみたの」
おお!いいよ!と高坂さんは良い反応をした。しかし海未は絵のある一点を見たまま硬直している。もしかすると、俺がさっき言ったある言葉が的中してしまったのかもしれない。
そう、スカート丈の話だ。
「ことり、このスーッと伸びているのは……」
「決まってるじゃないか、足だよ」
あっ足!?と海未は絵に描いてある高坂さんがモデルであろう絵と自分の足を何度か見比べていた。
「だからさっき言っただろ、お前の足は太くないぞ?」
「穂乃果達はどうなんですか!!」
そ、そう言われても……。
俺は言葉に詰まった。女子の足をジロジロ見るなど、ヘンタイ以外の何でもない、それに人間として失礼極まりない事だ。
「よし!ダイエットだ!!」
「二人とも必要ないと思うけど……」
いつの間にか、俺が悩んでいる内に足の太さ問題は解決していたようだ。
足の太さは置いておくとして、問題は曲だ。アイツが素直にアイドルの曲を作曲してくれるとは思わない。歌詞はどうにかなるだろう、大和撫子の力でな……。
「それは良いとして……まだ、グループの名前決めてないよね?」
「そう言われて見りゃそうだな、まだグループ名も決まってないし歌う曲も決まってないな、どうせなら全部俺が……」
「「「それはダメだよ(です)(だね)」」」
口を揃えて同時に三人から反論されてしまった。
これはもうどうしようもない。
俺は凹んだままであったが、教室に帰りたいと言い張る俺は意味も分からず強引に図書室へと連れて行かれるのだった。
風邪引いたわ……現在鼻づまりと格闘中。
そういえばバレンタインのスペシャル回を書いてないことに気づいた。
……よし、書くか!
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第十話 役割分担、そして必殺
今回はやはり海渡くんがメインですが、最初はno sideから始まります。
花陽は自分の席の隣ですやすや寝息を立てている幼馴染みの海渡を起こすべきか悩んでいた。
今は国語の授業の途中、凛はいつになく真面目にノートをとっているように見えるが、花陽の予想が合っていればノートに何かの絵を描いているのだろう。
そう思いながら花陽は隣の海渡へ視線を戻す。
——やっぱり海渡くん……綺麗だなぁ……
腕を枕にして筆箱を握っている海渡の可憐な顔に見入り、ノートを取る手を完全に止めてしまう。
「うにゅ……コレは……」
不意に海渡が意味不明な寝言と共に何か手を握るような仕草をし、机の水筒に手を伸ばす。ただ動いただけなのに花陽は海渡の端麗な顔へとすいよせられていった。
花陽が生きてきた15年間の人生の中で、海渡以上に整った顔立ちをした男の子など花陽は見たことがない。
いや、単純に海渡の顔が整いすぎなのだろうが、海渡の数少ない理解者であり、海渡以外の男の子とあまり関わって来なかった花陽には海渡の顔の端麗さが普通に思えてしまう。
「はい、じゃあ次は……園田、ここ読んで」
思い出してみれば、今は国語の授業の途中だった。
いけない、と花陽は熟睡している海渡の脇腹を軽くくすぐる程度でつつく。すると、ヒギッ!と言う謎の悲鳴と一緒に、花陽唯一の男子の友達である園田海渡は飛び起きた。
「あれ……俺、もしかして寝てた?」
「そうだけど、今はこっち」
花陽は自分の弟の様に海渡に読むべき場所を指差し、了承を得たのち、地味に寝癖立ってるよ、と凛、花陽、海渡にだけわかるアイコンタクトをし、自分の席に着席する。
海渡は地味に頬を赤らめながら花陽から視線を外し、教科書の指定された所を読み始めた。
「うわぁー……ねんむ……」
放課後になっても海渡はまだ眠いようだ。授業ということにも関わらず、まるで昏睡したかのように眠っていたはずなのに、まだ眠いとは一体いつも何時に寝ているのだろうか。
花陽は遅くても11時には寝るようにしているので、朝などの目覚めはとてもいい。海渡は昨日ちゃんと来ていたが、今日はいくら何でも遅かったためモーニングコールをした結果、とても機嫌が悪そうな海渡が出た。
「うわぁ……。おぉ花陽、おはようだなー」
「君にとってはおはようだけど……普通の人なら今はもうこんにちは、だよ」
「分かってるよそんな事、昨日は色々あってな……4時に寝たんだ。そりゃあ眠くなるさ」
「ええーっ!いくら海渡くんでもそれは遅すぎるにゃ!」
黒板を消していた凛がかつてないほどの速度で海渡に飛びつき、お互いの吐息が感じられるほどの距離まで急接近した。
「凛お前、近いわ!」
すかさず青髪少年は長年日舞で培った反射神経で椅子から立ち上がり、一瞬で1メートルほど距離をとる。
その速度わずか2秒。素晴らしい。
花陽は小学の頃は一切見なかった彼の妙技に感嘆せざるを得なかった。確か海渡、小学生の時まで超が付くほどの泣き虫だったはずなのだが、今となってはどうだろうか?誰もが驚く程の成長ぶりだ。おととい久しぶりに会った海渡は昔の可憐さを残したまま巨大化しただけのように思えたが、見た目だけでなく心身ともに大人になっていた。
気付けばHRも終わり、海渡の姿はすっかり見えなくなっていた。
——海渡くん……やっぱり、変わってないね……
花陽は胸中でそう呟き、律儀に花陽を待っていてくれた凛と一緒に家へと向かっていった。
——穂むら、か……
俺は和菓子屋の名前を頭の中で何回か再生しながらその穂むらと言う老舗の和菓子屋に向かっていた。
穂むらには小さい頃よく世話になった事がある。定期的にもらえるお小遣いを右手にちょくちょく足を運び、名物の穂むらまんじゅう(ほむまん)を買ったらすぐに花陽と凛の元へと持って行った。今となってはとても懐かしい記憶だが、未だこれだけはかすかに熱をもち、俺の記憶の中でも楽しかった部類のなかに凄い存在感を放ちながら存在している。
「ういーっす、高坂さんはおられます?」
俺が生きてきた史上もっとも悪い態度で穂むら内部へと侵入を開始する。
「あぁ、いらっしゃい。海未ちゃんはもうきてるわよ」
「あざっす、じゃあお邪魔しますね」
様子を見に来た高坂さん父に出来立てっぽいほむまんをたくさん渡されたあと夫婦に見送られ、俺は穂むら一階を後にした。
いつになってもなれない急な階段を登り、二つ目のドアが高坂さんの部屋だ。海未に連れられて何回も来ていれば俺だってこれくらい覚えられる。かなり前だが、一度部屋を間違えてしまい、風呂上がりの雪穂を見てしまった事がある。この事はちゃんと土下座して謝ったので許してもらえた(この事から数日は口も聞いてもらえなかったが)。
俺がドアを開けるともう既にスクールアイドルを始めた3人組はそこにいた。
「やっほー、待ってたよ〜」
「お茶入れようか?」
あれ、ダイエットの事はどこに行ったんだろう?と内心で呟き、高坂さん父から渡されたほむまんを色々なCDが散乱している机の上に置く。
たちまちことりさん、高坂さんはほむまんに飛びついたが、海未の鋭い眼光に貫かれて出来立てホヤホヤのまんじゅうに手を伸ばしていたが、残念そうに引っ込める。
俺は半開きの状態で置いてあったノートパソコンをこちらに引っ張り、映っている映像を見てみたが、非常にどうでもいいが可愛らしい謎のキャラクターが戦っている映像が流れていた。
俺は即ウインドウを閉じる。
「あぁー!それ見てたのにー!」
「今はスクールアイドルの方が優先です、趣味はその後。グループ名決めるのも丸投げしたんですからせめて曲は真面目に考えてもらわないと困ります」
「海渡が……」
「まるで別人みたい……」
「ほえー……」
俺はすぐさまインターネットを起動し、まだ開催は決定していないのだが、ラブライブという大きな大会を開催していた運営のホームページを開き、俺のアカウントを使い、ログインする。
「うわあ!何これ!?」
「むぐぅ!?いきなり大きな声を……」
高坂さんが釘付けになっている場所は、俺のマイページの所だった。
様々な人気アイドルのシールのようなもの、現実に持ってきたら恐らく等身大のフィギュアになるだろう物。
当然アイドルへの愛がなければ揃えたりするのは無理な代物だ、驚くのも無理はないだろう。
「凄いよねぇA-RISE……」
「この曲は誰が作ったのでしょうか?」
「どっかに金出して作ってもらったとか、そんな感じだろ」
本人達に聞かれたらヤバそうな事を平気で言う俺に一瞬視線が集まったが、曲と聞きアッ、と声を上げた高坂さんに俺に集まった視線は消えた。
「そう言えば曲なんだけど、何とかなりそうだよ!一年にすごく歌の上手い子がいるから!」
「ですが穂乃果、曲は出来ても歌詞は?」
「それについてもう穂乃果ちゃんと話はしてあるんだ」
ことりさんは、ねーっ!と高坂さんと顔を見合わせるや、海未にとてもいたずらな顔をしてジリジリと迫り始める。
——何だ?これから何が始まろうって言うんだ?
俺は心の中でブツブツといろんな事を呟いた。
「何ですか……?」
「海未ちゃんさー、中学の時とかよくポエム書いてたよねー?」
「読ませてくれた事も、あったよねえ〜?」
海未、ポエム……くくっ……!ダメだ、堪えられないっ!!
「まっま、マジ!?ぽえ、ポエム!やめろやめろ!死ぬ死ぬ!はははは!」
もう限界です!と言わんばかりに海未は神速をも超える速度で立ち上がりドアへとダッシュする。
だがドアの方にはツボにハマり笑い死かけている俺が転げ回っているそう通れるはずもない。
俺はようやくツボから抜け出せそうになったので、ゴロリと仰向けに転がった、次の瞬間だった。
俺の足を誰かに踏まれ、ヒギッっと本日2回目の情けない悲鳴を上げた直後次は顔面をまた誰かに踏まれる。
こうして海未は逃げようとしたが、俺を踏んだからか出るのが少し遅れ、捕まってしまった。
鼻血が出ていた俺に優しく処置を施してくれたことりさんか彼女はどうとも思っていないと思うが、海未が見たら破廉恥です!と言われることをしたので(決してアウトな事ではない)この事は海未には内緒にしておこう。
「絶対にお断りします!」
「おお、決意の固い海未さんである事」
「ええーっ、海未ちゃんしかいないのにー!」
高坂さんは海未にごますりをしたり正座をしたりしたのだが、やっぱり海未の心は揺らがない。
ならば高坂さんがやれば良いと思うが、そういう訳にはいかない理由がある。小学の頃、俺たちは一度詩を書きあい、見せ合いっこをした事があるのだ。その時の高坂さんの詩は。
——おまんじゅう うぐいすだんご もうあきた
こんな感じだった。ちなみに俺は、にゃ〜だった。
分かる、意味がわからない。
「絶対嫌です……中学の頃なんて思い出したくもないほど恥ずかしいんですから!」
「でも……海未ちゃん……」
とてもヤバい気がする。ことりさんが目を潤ませ、胸元に手を置いた時はあの必殺技がくる合図だ。
とっさの事で俺は防御法を思い出すのに時間がかかってしまった。
——俺はアレを……
「食らうのか……」
運命の時来たれり……
「おねがぁい!」
うぎゃあああぁぁぁあああぁぁぁ‼︎
ことりさんの必殺、脳トロボイスは俺の心を突き穿ち、刺し穿つ。
俺は下に倒れ、海未は負けたような顔をしていた。
恐らくこれで書いてくれるだろう。
ことりさんの力、恐るべし。
俺は改めて脳トロボイスの恐ろしさを心に刻み付けた。
これで、3人の役目は決まった。
3人を束ねるリーダー、高坂穂乃果さん。そして歌詞を担当する俺の姉、園田海未。衣装係担当、南ことりさん。
俺はこの面子をとてもいいと思う。それぞれ性格がバラバラだが、一人一人が目立って、いい気がする。
この時俺は謎の夢のようなものを見た。俺の前に立つ9人のアイドル、あれはこれからの未来なのか、ただの夢なのか、それはいくら神でも分かる事はあるまい。
——いや、わかってたまるか、だな
時間が……
感想、ご意見お待ちしております!
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