私、ツインテール戦士になります。 (阿部いりまさ)
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FILE.1 出会い

みなさんこんにちは、こんばんは。
阿部いりまさです。
今回初めてハーメルンで小説を投稿することにしました。
まだ文が未熟で読みづらかったり、話がおかしかったりすると思いますが投稿していくうちにより読みやすく、熱い話にしていきたいと考えております。
どうかみなさんよろしくお願いします。


 自分達がいる世界の他にも世界があることを皆さんは知っているでしょうか。

 実は''世界''は、ドア一枚隔てたすぐそばに無数に存在しているのです。

 それぞれの世界が隣り合った世界に干渉する事は無く、それぞれの世界の日常を謳歌していました。

 しかし、そんな無数にある世界を黒い影が覆い始めたのです。

 異形の怪物、エレメリアンによって形成された組織であるアルティメギルはそれぞれの世界にある、心の輝きを次々と自分達のものにしていきました。 彼らに立ち向かおうとする戦士も現れますが、その大半がアルティメギルの強大な力の前に敗れていってしまったのです。

 しかし、ある世界のある赤い戦士達はその猛攻をなんとかしのいでいたのです。

 彼女らはアルティメギルの優秀な戦士ドラグギルディまでも倒し、アルティメギルの脅威になりえる存在となっていきました。

 

 もう一つ、知っているでしょうか。

 

 彼女らがドラグギルディを倒した時期彼女らと同じ装甲で闘う戦士が別の世界にも存在していた事を━━━。

 

 

 季節は4月の終わり。

 新しいクラスにも大分慣れてきた気がする。

 私、伊志嶺 奏(いしみね かなで)は小学校からの親友とともに学校から帰宅途中だ。

 私の住んでいるところでは桜はもうとっくに散ってしまい、すでに木には緑色の葉っぱがついている。まあ大体の地域は四月には緑色が目立ってくるし当然なんだけどね。

 

「それでさーあの男子がねー…」

 

 折角詩人になりきって季節の移り変わりを感じていたのに…。

 私の隣で一緒に下校している少女は鍵崎 志乃(かぎさき しの)。小学生からの幼馴染みで親友だ。

 私が志乃をジトーっとした目で見ていると志乃はすぐに気づきテヘッと笑う。

 胸のあたりまで黒髪を伸ばし一つの三つ編みにして下ろしている。 大きな目もいいスタイルもその性格もあって学校ではかなりの人気者。

 志乃はかなりの美人だ。そりゃもうノーマルなはずの私がコロッと落ちちゃうかもしれないほど…。ほんとだからね。

 テヘッと笑い終わると志乃はまた今の学校やクラスのことについてペラペラと早口で喋り出した。

 

「喫茶店かなんかではなそっか」

 

 終わりそうにない話を終わらせるべく、とりあえず提案した。

 

「なになに?話聞いてくれるの?」

「聞かないと返してくれないでしょ」

 

 私が少々呆れ気味に言うもどうやら志乃は気にせず近くにあった喫茶店へ早足で入っていった。

 『パターバット』

 変な名前だけど私たちがよく行くこの喫茶店は店名から想像しにくいほどレトロな雰囲気を醸し出していて私にはとても居心地がいい。 いや女子高生の私がレトロとかはあれかな…とりあえず居心地がいい、安心できます。

 先に店内に入った志乃は私たちがいつも座る席には座らず入り口付近でボケーっとしていた。 志乃の後ろから席を見てみると、あらら…どうやら先客が居たようだ。

 今日は他の席にするしかないかな。

 

「この喫茶店にお客さんて珍しいよね」

 

 志乃がさらっと酷いこと言った。

 まあ確かに、志乃の言う通りだ。 ここは店名だとか立地だとかの理由で1日にくるお客さんは少なく私と志乃以外誰もいないことなど珍しくもなかったんだけどな…。 でも、このお店の評価が上がるなら私は嬉しいし、全然構わないけど。

 いつもと席は違えど注文していた紅茶がくると志乃はそれを飲みながらまた話し始めた。

 

 

 何十分、いや何時間かパターバットで志乃と話していただろうか。

ある程度話したところで二人とも少し黙り、おかわりした紅茶を飲んでいた。

 そんな沈黙をやぶったのは志乃からの意外な一言だった。

 

「そういえばさ……やっぱり奏はもう、ツインテールにはしないの?」

「っ!? いきなりどうしたの!?」

 

 思わず飲んでいた紅茶を噴き出しそうになってしまったが乙女としてそんなことはしまいとなんとか耐えることができた。

 ていうかあのお客さんもちょっとビクッてなってたような…。

 でもなんでいきなりそんなことを…。いやまあ、大体はわかる。なんで志乃がそんなことを聞いてきたのか。それと彼女が私にどう答えてほしいかも。

 でも…私は……。

 

「ごめん今のところは無理。それに私もうツインテールなんて嫌…」

「そんなことを言わないでくださいぃぃぃっ!!」

 

 私が''嫌い''とキッパリとそう言おうとした時横からいきなり大声で否定された。

 驚いて声の主を確かめるとどうやら私たち以外のただ一人のお客さんだったらしい。

 いつのまにか近くに移動してきていたお客さんは通路からテーブルに手をつき、グイッと顔を近づけてきた。

 さっきはちゃんと見てなかったので気づかなかったけどこの少女もかなりカワイイというかキレイというか。

 身長は低く華奢だが、その中でも一際目を引く鮮やかなオレンジ色でショートボブの髪型は店内でも太陽の光を浴びているかのように輝いている。 長い睫毛に赤い瞳、どう見ても外国人さんだ。

やっぱりいいなあ、外国人って。

 

「あなたがツインテールを完全に手放してしまったらこの世界は滅んでしまいますっ!!」

 

 ━━━━は?

 彼女のビックリ発言に私も向かいに座っている志乃も目を点にしてしまった。

 いや、ツインテールを離したら世界が滅ぶ? いやいやおかしいって、どういうこと?

 

「も、申し遅れました。私、フレーヌと申す者です!この世界の危機を救うために異世界よりやってきました!」

「え、えっとフレーヌ?さん。世界が滅ぶって言うのは…。それと異世界?」

 

 ここで私は閃いた。

 そうか!

 これは、あれだね。 世間でたまーに話題に上がる中二病とかいうやつだ。 きっとこの少女は自分の作った設定で私たちに絡んできたんだね!

 でもなんでツインテールを選んだのかは謎だけど。

 

「そ、そりゃ大変だね……」

 

 一応答えておこう。無視するとあとが面倒くさそうだし。

 

「何で他人事なんですか! これを見てください!!」

 

 彼女は上着のポケットから体温計のような物を取り出し私に見せつけてきた。

 画面の中央で赤い光が激しく点滅している。

 

「あなたがその世界を救うことのできる証です!」

 

 そう言う彼女の眼は本気だ。

 私が詳しく話を聞こうとする。

 すると店内にかかっていた音楽が止まりスピーカーからピーッと音がして誰かの声が聞こえてきた。

 

『聞こえるか!愚かな人類よ!我らは異世界から参った選ばれし神の徒、アルティメギル!』

 

 な、なんで店内のスピーカーからこんな声が!?

 

「外にでてください!」

 

 そう言われて私も志乃も急いで喫茶店の外へ出た。

 外へ出て空を見上げると何やら巨大なスクリーンのような者が浮いている。 その画面には特撮の怪人のような者まで写っている。

 いったい何が………。

 

『我々は諸君らに危害を加えるつもりはないが、諸君らの心の輝きを欲している!抵抗は無駄である!そして抵抗せずおとなしく心の輝きを奪われれば諸君らの平穏は続くであろう!』

 

 そう言い残すとスクリーンは砂嵐になり、やがて空に浮いていたスクリーンも消えていった。

 なにこれ、心の輝き?ていうかあの怪物何!?

 突然のわけわからない事態に志乃も口をポカーンと開けたままになっている。 私も同じ表情してると思う。

 まさかさっきのフレーヌさんの話って…。

 フレーヌさんなら何か知ってるはずだ。

 

「フレーヌさん!何か知っているんですか!?」

 

 私はフレーヌさんに問いただそうとした。が、その瞬間あたりがピカッと眩い光に包まれ何も見えなくなっていった。

 

 

「申し訳ありません。一刻も早く現場に向かわなくてはと思いまして」

 

 フレーヌさんの声が聞こえてきた。

 やがて光が収まっていき、だんだんと景色が見えてきた。

 半ばパニックになりながら見えてきた景色を見てみるとどうやらさっきまでいた喫茶店の外ではなさそうだ。

 『ビクトリースクエア』

 大きな四角形の棟や屋外展示スペースからなる建物で色々なイベントに使われていたりする。

 私たちは今、その建物までの道のりの中腹あたりにいる…っぽい。

 でもパターバットからは車でも最低三十分以上かかるところなのに…なんで。

 

「やっぱりもう、始まってます!」

 

 フレーヌさんが悔しそうな表情をしそう言いながら見ている方を私たちも見てみる。

 その瞬間私は自分の目を疑った。私たちのいるところから百メートルもない所の地面がえぐれている。 いや、今現在も近くの地面や遠くの地面がえぐれていっているのだ。

 

「こ、これって……」

 

 えぐれてく地面を辿っていくとその先に何やら黒い物体がある。

 私と志乃はそれが何かと確かめようと気持ち前に出て凝視し、またも私たちは驚きの声をあげた。

 二メートル以上はあるだろろかという体躯にふんっと力を入れれば車やコンクリートをも吹き飛ばす力。

 見ているだけで身が竦み上がるような巨大で多量の棘。

 掌から弾き出し、全てを焼き尽くすような光線。

 着ぐるみじゃない、正真正銘の間違うことなき怪物だ。

 えぐれていく地面に、ボロボロとなった車、それはさながら世界の終わりを表しているような…それだけ絶望的な場面だった。

 

「でてこい、貴様ら!」

「!」

 

 近くにあったコンクリートのオブジェを手で軽々と粉々にした後、怪物は日本語で喋った。

 やがて怪物の後ろに巨大な黒い渦のような物が出現しその中からモケモケ言いながら全身タイツを着た変態のような人たちがたくさん出てきた。

 さらなる絶望を感じ、言葉を失う私と志乃とは逆に怪物は口を開け叫んだ。

 

「なーっはははは!この世界の生きとし生ける全てのツインテールを、我らアルティメギルの手中に収めるのだ!!!」

 

 ものすごい男前な声でものすごいおかしな発言をした怪物を前に私と志乃はまたも目を点にした。

 



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FILE.2 変身!ツインテールの戦士

伊志嶺 奏
性別:女
年齢:16歳
誕生日:2月18日
身長:158cm
体重:45kg

テイルギアを装着し、アルティメギルと闘うことのできるツインテール属性を持つ女子高生。
学校では志乃と並んで美少女扱いされることも多い。
母親が元人気女優で母親と比べられることが多くその度に母親との差を痛感し、悩むことが多い。
テイルギアを装着し、アルティメギルと闘えるツインテール属性を持ってはいるがツインテールは嫌いだという……。


 ''ツインテールを、我らアルティメギルの手中に収めるのだ''と、確かにこう言った。

 誰が信じるだろう。 ハリウッド映画のようにいきなり街中に怪物が現れることを。

 誰が信じるだろう。その怪物がツインテールを欲していることを。

 いや、大抵の人は信じることなんてないだろう。その光景を目の当たりにしても私と、志乃は信じられないと思っている。 ……ていうか信じたくない。

 やがて怪物の後ろの渦から現れた黒づくめの集団はあたりに散っていく。

 その内何体かがこちらに向かっていくるのが見えた。

 

「こっちに向かってくる…!」

 

 目の前の看板で身を隠していたから見つからなかったが、黒づくめの奴がこっちに来ると確実に見つかってしまう。

 しかし、黒づくめの奴は私と目があったにも関わらず私たちを素通りしていった。

 

「大丈夫。私のそばには''認識攪乱''が作用しているので。ただ、あまり私から離れないようお願いします」

「にんしきかくらん?」

「ええ、イマジンチャフと呼んでいます」

 

 聞いた感じだとどうやら私たちの存在を悟られないようにする装置が何かなのかな。

 しかし、私たちの存在を悟られないようにしても近くにいた人々……の中のツインテールにしている幼稚園児から中高生くらいの女の子をどんどん黒づくめの集団は捕まえ、怪物の元へ連れていく。

 どうやら''ツインテールを我らの手中に''というのはあの''女の子達を自分たちの物にする''ということでいいんだろうか……。 どっちにしても変態ってことになるけど。

 

「いいか!ツインテールの女を連れてきたら一列に並ばせ我に一人一人掌を見させるのだ! より良いツインテールと掌を持つ物を連れてきた者には褒美を遣わすぞ!」

 

 また何か黒づくめの集団に、あの黒い怪物が命令しているけど、やっぱり言動が変態的だ………。

 掌ってそもそもなんだろう…。

 でもずっとこうして見てるわけにもいかない。どうにかしてあの女の子達を助けないと、あんな変態に連れて行かれたら何されるか分からないし。

 

「フレーヌさん、私たちに何かできるんでしょ? 私たちをここに連れてきたのはそういうことなんだよね?」

「さすがよくお分かりですね!ではこれを右手につけてください」

 

 そう言ってフレーヌさんが自分の服のポケットから何やら綺麗なブレスレットを取り出し、私に渡してきた。

 あれ、志乃はなし?

 私は言われた通りそのブレスレットを右手に装着する。 ……あれ、つけるときはかなり余裕があったのにつけてからは驚くほど私の腕にフィットしてる。

 

「それは身体能力を高める戦闘用スーツを生み出すデバイス''テイルギア''です。変身したいと心で強く願ってください!」

「テイル…ギア……」

 

 このブレスレットを使えば私は変身することができるってことであっているだろうか?

 変身できるってことはきっとあの怪物を倒すぐらいの力が私は使えるようになるってことだよね?

 私が意を決して変身したいと心で願おうとしたとき、とんでもない言葉がフレーヌさんから発せられた。

 

「あなたほどのツインテール属性があればあの怪物を、エレメリアンを倒すことができます!」

 

 ま、またツインテール!?

 でも私ほどのツインテール属性って一体どういうことだろう。

 

「あなたのツインテールを愛する気持ちがテイルギアの力の源となるのです!」

 

 フレーヌさんのツインテールを愛する気持ちという言葉に私の中の何かが突然プツンと切れたような感覚がした。

 

「そんな気持ちなんてない…よ…」

 

 ツインテールのことが嫌いだと言ったようなもののせいかフレーヌさんはかなり驚いた様子だ。

 そう、私はツインテールが嫌い。それは紛れも無い事実だし、これから好きになることも無いだろう。

 そんな私にツインテールを愛する気持ちなんてあるわけがない。……いや、もしかしたらないことを願っているだけなのかもしれない。

 三人の間にしばしの沈黙が続いた後私から話し出す。

 

「私はツインテールを愛することなんてできない、私は闘えない」

「そ、そんな…!それだけのツインテール属性を体に宿していながらツインテールへの愛がないなんてありえません!お願いします!どうか変身してエレメリアンと闘ってください!」

 

 もう一度、私は変身できない!と言おうとしたがそれは激しい轟音に遮られてしまった。

 近くの車がまた軽々と空中に舞い爆発していく。 またあの怪物がやったんだろう。

 その光景をみて志乃が焦った様子でフレーヌさんに話しかけた。

 

「だったら私が変身する!私ツインテール好きっ!!」

 

 私が言うのもなんだけど、今三つ編みにしている志乃が言ってもあまり説得力がないような…。

 

「それは素晴らしいことです。しかし残念ながらあなたはテイルギア相応の属性力を持ち合わせていません。この世界でそれほどの属性力をお持ちなのは今のところ奏さんしかいないのです…」

「そんな…」

 

 たとえ世界に私一人しか適格者がいなくても私にはつけられない。

 ツインテールを大嫌いな私が、ツインテールへの愛で動く変身スーツを着こなし、あんなバカみたいな怪物に敵うわけがない。

 怖い……あの怪物と闘うことが、私がツインテールを嫌いだというのがものすごく怖い。

 やっぱり私は、変身なんて…。

 私が変身して闘うのを躊躇っている間に周りのツインテールの人たちはどんどんあの怪物達に捕まっていくのが視界の片隅に見えた。

 私が闘わないとあの人達は…。

 

「よし!これより属性力をいただくぞ!」

 

 気づくとあの怪物を前に集められた女の子達は一列に並べられている。気を失っているのか、はたまた絶望して全てを諦めているのか全く抵抗しないまま先頭の女の子が宙に浮かんでいく。 浮かんだ女の子達は直径三メートルはあろうかという巨大な輪に通り抜けさせられていく。 輪の中の極彩色の光をくぐると同時に女の子の髪が一瞬にしてほどけてしまった。

 通り抜けた女の子はそのまま地面に横たわる。

 そうか……やっと本当に理解した。あの怪物の言った''ツインテールを手中に収める''と言ったのを。

 くだらない……本当にくだらなさすぎて笑いそうにもなる。

 ツインテールを集める怪人なんて本当にくだらない。

 そっか、何より一番くだらないのがツインテールのことなんかで悩んでいる私だ。

 私にできるのなら、くだらないことを私が止める。ツインテールのせいで人が恐怖を感じるのならそれを私が!

 

「━━━━止めてみせる!」

 

 覚悟は決めた。

 私がこのくだらないことを止める。

 

「決意してくださったんですね!」

「うん。私、闘う。ツインテールなんかでこれ以上被害は大きくさせない」

 

 さっき言われた通りやればいいんだよね。

 私は拳を握りしめテイルギアを自分の胸の前に構える。

 目を閉じ、さっき言われたように強く、強く念じる。

 変身したい……ツインテールのあの子達を助けたい。何よりこんなくだらないことをすぐにでもやめさせたい。 そのために、あの怪物を倒す強い力が欲しい。

 私に……力を貸して!!!

 その瞬間━━━━━━

 右手のテイルギアを中心として目を瞑っていてもわかるような眩い閃光が放たれた。

 

「きゃっ!」

 

 その眩い閃光に志乃は腕をかざして目を塞せぐ。

 こうして私が念じた''変身''は、すんなりと派手に実現した。

 

 

 肩、腕、胸、腰、足の先に至るまで一瞬にして白い装甲に覆われた。

 腰のあたりの装備から白い蒸気が一気に吹き出す。

 甲冑というには少し、頼りのなさそうな白を基調とした重さを全く感じさせない不思議な金属がついた防護服と素肌に密着している白と黒のボディスーツ。

 そしてまるで装備がなくむき出しとなっている頭部には私の嫌っているツインテールが白銀の輝きをみせている。

 

「変身できましたね!」

「……」

 

 変身できたのはいいけど、このアーマーなんかやたら露出が高い。

 顔なんて普通に全部出てるし、体の方なんて白黒のボディスーツを着てるとはいえ胸がアンダーカップブラのように少し出ている。 下の方は足の付け根少し下くらいまであるけど…。

 これじゃ戦いにくいような…。

 

「えっと…」

「防御のことなら大丈夫です!フォトンアブソーバーがあるのでちょっとやそっとじゃ直接ダメージは来ません!」

 そういうことじゃないんだけどなあ、の意味も込めてアハハ…と苦笑いしとく。

 まあいいや、スーツのことは闘いが終わったら問い詰めてやる。

 

「奏!気をつけてね!」

「……うん!」

 

 よし、やろうか!

 私がそう思うと同時に再び腰についている装備から白い蒸気が吹き出す。

 

「じゃあ━━━━━勝負!!」

 

 




こんにちは、こんばんは阿部いりまさです。
2話で変身させるかもう少し延ばすか考えたのですが今回の話で変身させることにしました。(展開早すぎでしょうか)
補足としては奏の変身後のボディスーツは原作のテイルギアTYPE━Pのようなものを勝手に想像しています。


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FILE.3 激突!ツインテールと怪物

鍵崎 志乃
性別:女
年齢:16歳
誕生日:3月13日
身長:159cm
体重:48kg

奏の幼馴染みであり親友。
学校では奏と並び人気が高い。
ツインテールのことは好きだと言い張るが属性力はあまりなくむしろ三つ編みの属性力の方が高い。
自分の体型にやや不満気味。
奏がツインテールを嫌いな理由を知っているようだが…。



「じゃあ━━━━━勝負!!」

 

 白い蒸気が腰あたりの装備から一気に吹き出し、私はあの怪物に向かって走り出した。 いや、厳密には走っているわけでなく走り出しのちょっと飛んだ程度だ。そしてカマイタチの如く、相手に接近し━━━━━追い越してしまった。

 

「ちょっとおぉ!!」

 

 かかとを地面につけて止まろうとしたが足についている装備が地面を破壊するだけで止まることができず壁に突っ込んでしまった。

 痛った!……あれ?全然痛くない? そうか、もしかしたらフレーヌさんの言ってたフォトンなんとかのおかげなのかな。

 

「なんだ今のは!?」

「モケ━━━━」

 

 やばい。

 どうやらあの怪物に気づかれたらしい。

 いやいや、まるでカマイタチのように自分の前を通過していった物体が壁に激突していったのだから気づかない方がアレだけど……。

 とにかくこれからが本番だ!

 私は立ち上がり目の前にいる二メートル以上はある体躯の怪物と目を合わせた。

 

「なっ!? これは!?」

 

 突然自分達に対抗できる人間が登場して驚いているんだろうな。 ならもっと驚かしてやる!

 

「覚悟しなさい、怪物!あんたみたいな変態はこの私が倒してみせる!」

 

 変身を覚悟してから怪物に直接言ってあげたかったセリフを言うことができた。

 怪物も恐怖のあまりか体をプルプル震えさせているのが遠目からでもわかる。

 そうだ、ツインテールとかいうくだらないもののせいでここにいるツインテールの子達だけでなく周りにいる大人や男の子まで危険にさらして……絶対に許せない…!

 私がセリフを言った後も怪物はプルプル体を震わせている。 そしてこう言った。

 

「ぬわぁんとぉ!なんと見事なツインテール!!お主が……!ふっはははは━━━━━━━━━━ッ!!」

「…え」

 

 またもツインテールのことを言われて少し拍子抜けしてしまった。

なおも怪物は続ける。

 

「そうか!隊長殿が言っていた属性力とはこのことか!いいぞ!絶対に手に入れてみせるよう、この世界で最強のツインテールをな!!!」

 

 こいつ……!

 わたしのセリフでプルプルしてたんじゃなくて私のツインテールを見てプルプルしてのか。 しかも私が世界で最強のツインテール━━━━━つまりこの世で一番ツインテールを愛しているということになる。 だから私はツインテール嫌いなんだって!

 此の期におよんでまだツインテールのことしか頭にないの怪物は!

 

「聞けい、ツインテールの戦士よ!我はウーチンギルディ。ツインテールと……そして掌属性(パーム)をこよなく愛するものだ! 我の名を知れたことを光栄に思うが良い!」

 

 ウーチンギルディ…!!

 なるほど、この頭から足の先までたくさんトゲが付いていたのはウーチン━━━つまりウニのような怪物ということなのか。 でもなんでウニ…?

 怪物の名前ともう一つわかったことがある。 この怪物がさっき女の子の掌を見ていたのは、掌が好きたったからってことだろうね。 …やっぱり変態じゃん!

 

「行け!戦闘員(アルティロイド)よ!ツインテールの戦士の属性力を頂戴するのだ━━━━━━ッ!!」

「モケェ━━━━ッ!!」

 

 黒い怪物……ウーチンギルディの命令により正面にいた黒づくめの集団…戦闘員が「モケモケ」言いながら猛然とこっちに走りかかってくる。

 

「うわ!多すぎっ!」

 

 一瞬で私は冷静さを失ってしまいとりあえず腕を振り回していると運良く戦闘員にあたり、二、三体吹っ飛ばし、ビルの壁に当たると放電し粒子のように消えていった。

 一瞬の出来事で、自分でも驚いた。この力…とんでもない。

 ウーチンギルディがぬう、と感心しているのか、驚いているのか、その隙に耳のヘッドフォンなようなものから声が聞こえてきた。 フレーヌさんの声だ。

 

『意識を集中させてください!テイルギアは奏さんの意思で構成されている武装、意思によって御せない道理はないのです!!』

「私の意思が…これを……」

 

 うまくテイルギアを制御できない状態であの戦闘員を吹っ飛ばせたんなら自分で制御しながら闘えば、今以上の力が出せるかもしれない。 そう思い、私は一旦深呼吸して落ち着きを取り戻す。だがその際ある事に気づいた。

 

「ちょ、じゃあもしかしてこの露出の多い格好も私が望んだの!?」

私は心の中でこんな格好したいと思っていたの!?

『え、いや……そう言うわけではないのですけど……』

 

 どうやらそう言うわけではないらしく少しだけホッとした。

 再び私はウーチンギルディと向かい合う。

 

「戦闘員を一撃で倒すとは…。その華麗なツインテールと凄まじい力。貴様、名をなんというか!」

 

 ドラマとかでよく見るセリフだけど実際言われるとなかなかくるものがある気がする。

 

「えっと、私は!」

 

 私は………なんだ?

 ここで本名名乗るのはなんか違うし、これといって名前があるわけでもないし……。

 私がしばらくうーんと悩んでいる間、ウーチンギルディは何かしてくるわけでもなく腕を組み、待ってくれている。 ごめんね!もうすこしだけ待ってくれるかな。

 うーんと顎に手を当てて考えていると通信が入ってきた。

 

『あーもう!''テイルホワイト''!テイルギアで変身する白い武装の少女でテイルホワイト! テイルホワイトよ、奏!!』

 

 今度はフレーヌさんからではなく志乃の声が聞こえてきた。

 テイルホワイト……うん!決めた!

 中々いいネーミングよ志乃!

 

「待たせたわね!私は━━━テイルホワイトよ!」

「待ちくたびれたぞテイルホワイトよ!そうか、それが我らアルティメギルに仇なす者の名というわけか!よし、私が直接相手になろう!」

 

 ウーチンギルディがそう言うと近くに残っていた戦闘員は後ろに下がっていき奥から近づいてきて三メートルほど私の前で止まる。

(こいつは…強い!)

 そこらの黒い戦闘員とはまるでオーラが違う。

 遠くから見ていた時とは訳が違う。

 近くに来るとよりいっそうウーチンギルディの迫力が増す。

 二メートル以上の体躯も、金属も簡単に貫いてしまいそうな全身に生えたトゲもより一層大きく、頑丈そうな両肩についているトゲも、身がすくみあがりそうな双眸も、全てが恐ろしく、迫力だ。

 思わず後ずさりしかけたがなんとか直前で思いとどまることができた。

 さっきと同じようにやれば……!

 

「はああああ!!」

「フン!」

 

 戦闘員を殴った時と同じようにウーチンギルディに殴りかかる。 しかしあっさりと避けられてしまった。

 

(やっぱり迫力だけじゃないか…)

 

 その後も同じようにウーチンギルディに殴りかかるが全て避けられてしまいダメージが全く与えられない。 だんだんと、体力だけがなくなっていく。

 

「そろそろ反撃させてもらうぞ!」 

 

 ウーチンギルディがパンチを避けながらそう言うと私の腕を掴んできた。

 強い…! 相手の力が強すぎて掴んでいる相手から離れることができなくなってしまった。

 

「なに!?」

 

 突然ウーチンギルディが何かに驚き力が抜けた。

 その一瞬をつき、なんとかウーチンギルディから離れることができた。

 ウーチンギルディはありえないといった表情をし訴えてきた。

 

「貴様!何故そんな物を……!手袋をしている!それでは掌が見えぬではないか━━━━ッ!!」

 

 ウーチンギルディはそう言いながら近くにあった壁を拳で殴りつけ破壊してしまった。

 

「さあ、手袋を外せ!その掌を我に見せるのだ!」

 

 またも変態的発言が出ててきた。

 

「んなことしないわよ!」

 

 そう言って再び殴りかかる。

 しかし状況は変わらず私のがむしゃらなパンチは全て避けられるか受け止められてしまい全くウーチンギルディにダメージを与えられない。

 

「そんなものか? アルティメギルに仇なす者、テイルホワイトよ!!」

 

 一旦距離を取り、荒れた呼吸を整える。

 やがて通信が入り、フレーヌさんの声が聞こえてきた。

 

『奏さん!頭についているリボン型のパーツを触れればあなたの好みの武器が形成され、転送されます!どうか戦闘の役に立ててください!』

 

 武器、そんなものまであるんだ。

 私は自分の手元にあるべき武器を想像しながらリボンに触れる。 自分が欲しい武器を決めた瞬間リボンが眩く発行し、自分の周りに吹雪始めた。

 吹き荒れる雪が両腕に集まり凝縮され、大きな手甲とその先に巨大な鉤爪をもった武器を両腕に形成した。

〈アバランチクロー〉

 武器を形成してもしばらく吹雪は止むことなくしばらくってから止んだ。

 すごい、まさかここまで私の想像通りだなんて!

 

「なにぃ!?」

 

 先手必勝!ウーチンギルディが驚いている中私はアバランチクローで相手を叩きつける。

 

「ぬうッ!!」

 

 しかしウーチンギルディはまたも間一髪でかわし両掌から光線を放つ。

 今度は私がアバランチクローの手甲の部分で光線を受け止めると光線はあっけなく霧散していった。

 

(やっぱり、防御にも使える!)

 

 アバランチクローを形成した理由の大きな理由がこれだった。 フォトンなんとかに頼るのもいいがまずは自分の武器で自分の体を守る。フォトンなんとかに頼りっきりより自分で防御できた方がもしもの時のためにもなる。

 

「いいぞ、武人の血が騒ぐわ!必ず掌を見てやるぞ!」

 

そう言うとウーチンギルディは自分の体から多くのトゲを体から分離させ、襲いかかって来た。

 

「一言多いって!」

 

 ツッコミを入れながら腰の装備の片方から勢いよく蒸気と炎を噴射させアバランチクローをつけた状態で回転する。 回転している間に襲いかかってきたトゲは当たるたびカンカンという金属音を残し地面に散らばっていった。

 

「やるではないか! ならば最後の切り札だ!怪我をしても知らぬぞ!!」

 

 そう言いながらウーチンギルディが今度は先ほどとは比べものにならないほど大きなエネルギー玉を掌から出現させていた。

 

「これが私の必殺技!!! ''女の子の掌が力の糧となるフィニッシュパーマー''を喰らえぃぃ!!!」

 

 そのあまりの巨大なエネルギー玉とくだらない名前に一瞬怯んでしまった。 しかし、すぐに次に行動すべきことが驚くほど鮮明に頭の中で浮かび上がり実際に行動に移す。

 

「自分の心配をしなさいっ!」

 

 瞬間、腰の装備二つから勢いよく蒸気と炎を噴射させ相手の二、三メートル手前に滑り込み、相手の身長より二倍高く舞い上がる。 上空に舞いながら頭の上で両腕を合わせアバランチクローを一つに合体させた。

完全解放(ブレイクレリーズ)

 今度は一つを横に蒸気と炎を噴射、一つはそのままの状態で噴射させる。すると体が激しく回転しながらアバランチクローを前にウーチンギルディへと突っ込む。

 

「ぬうう!?」

 

 ウーチンギルディが慌てて放った必殺のエネルギー玉も呆気なく散り、その先に居たウーチンギルディの体を突き破る。

 まさに必殺の〈アイシクルドライブ〉貫いたその一瞬、あたりがまたも猛吹雪となった。

 

「ぐうああああああぁ━━━━━━ッ!!」

 

 ウーチンギルディの周りを激しく吹雪く。

 全身から放電させながら苦悶の声を上げるウーチンギルディ。

 

「ふ、ふははは!華麗なるツインテールの戦士によって果てる……悔いなど残らん!素晴らしい闘いであった」

 

 体に入った亀裂が大きくなりよりいっそう放電が激しくなる。

 

「さらばだ、テイルホワイトよ!さらば掌よ!!!」

 

 その言葉を最後にウーチンギルディは大きく爆発し散っていった…。

 

「武人…か…」

 

 ウーチンギルディが散ったその場所には静寂のみが残されていた。

 しばらく荒らされた地面や壁、車を見ていると通信が入る。

 

『おめでとうございます!あとは宙に浮いている輪を壊してしまえば奪われた属性力も戻ると思います!』

「わかった」

 

 近くに浮いている輪をアバランチクローで叩き落とす。 そうすると輪は粉々になり中の光が粒子となって雨のように降り注いでいった。

この光が属性力なのだろうか。

 降り注ぐ光を見ているとウーチンギルディが爆発したあたりに小さく煌めく菱形の石を見つけ、それを拾い上げる。

〈掌〉

 拾い上げた瞬間そんな言葉が脳裏によぎってきた。

 

「はあ……」

 

 疲れてその場でペタンと座り込むと気が抜けたのか変身が解除されてしまったようだ。

 なんだか…すごい眠い……。 今の闘いでここまで体力が奪われるなんて…聞いて……ない…。

 そのまま私はその場で気絶してしまった。




みなさんこんばんは、こんにちは、阿部いりまさです。
今回は第3話で初戦闘となります。 戦闘描写などやはりまだ書いててわかりづらいな…とも思ったりしたのですが、これから書いていくうちにもっとわかりやすくかけていければなと思っております。
補足としてはテイルホワイトの武装アバランチクローは仮面ライダータイガのデストクローのようなものを想像していただけるとありがたいです。


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FILE.4 ツインテールと属性力とエレメリアンと

フレーヌ
性別:女
年齢:14歳
誕生日:12月21日
身長:144cm
体重:40kg

アルティメギルを倒せるツインテール属性を持つ者を求めてやってきた異世界の少女。
自らの世界を救うため闘ってくれた戦士に憧れる一方で、突然闘いに現れなくなったことに対して疑問に思い、憎んでいる。
テイルギアのデータをみてコピーし実際に作り出す、秘密基地を短時間で作り上げる、など高い技術力を持つ。


 世界と世界の間に存在する神秘と科学の結晶。

 基地であり、移動母艦でもある。

 人目を忍んでいるのではない、人間には目視することさえできない聖域。

 アルティメギルの基地はまさにそういう場所に停泊していた。

 基地の中には大ホールの大きい丸テーブルを中心として360度あのウーチンギルディのような屈強な戦士たちが各々の席に座していた。

 しばしの沈黙の後、どこからか誰かが呟く。

 

「まさか…ウーチンギルディがこうもあっさりと……」

 

 突如として現れたツインテールの戦士に同胞が敗れる。 その報は大きな衝撃となり、波紋を広げた。

 この場にいる全てのエレメリアンがこの事態を飲み込みずにいた。

後、丸テーブルから離れた位置に座している一体のエレメリアンから怒号が上がる。

 

「どういうことだ!文明力が低いがためにこの世界での属性力奪取はいとも容易いと!そう結論が出たはずでは無いのか!」

 

 その言葉を皮切りに数々のエレメリアンが丸テーブルの近くに座っているエレメリアンに向かい抗議していた。

 だが、一つの空席がある。

 それは最もこの大ホールがよく見渡せる位置にあり、過度な装飾品が付けられている、玉座というにはいささか装飾が派手すぎる気もするが高い位のものが座る席だというのは人目でわかる。

 やがて怒号が先ほどよりも飛び交うようになり収拾がつかなくなっていく。

 

「静まれ!」

 

 大ホールから発せられた声では無い。 大ホールの隅にある通路から聞こえてきたものだ。

 やがて声の主の足音が聞こえてくると水を打ったように静かになる大ホール。

 やがて通路の影から一体のエレメリアンが現れた。

 二メートル以上の体躯。

 背に生えている鋭く、強靭な背ビレ。

 自身の顔の前にはえる鋭利な牙の数々。

 それはさながら海のギャング、鮫を思わせる姿だ。

 それと同時に、全世界に向けて侵略をする、と宣言したそのエレメリアンでもあった。

 

「シャークギルディ隊長…」

 

 一際異彩なオーラを放っているそのエレメリアン━━━シャークギルディは丸テーブルの前のあの装飾が派手な玉座へと座った。

 シャークギルディはただ座っているだけで明らかに他のエレメリアンとは格が違う存在だった。

 

「ウーチンギルディの報は聞いた。奴を打ち負かす戦士が密かに存在していた……それだけの事であろう」

 

 そう言いながらシャークギルディは目の前の機械を操作し、大ホールの天井に幾つもあるモニターに映像を映し出した。 すると大ホールにいたエレメリアンが次々とおおおお……、という感嘆の声を上げる。

 

「戦闘員が記録していた映像だ」

 

 モニターには奏が変身したテイルホワイトが映っている。

 

「素晴らしいツインテールだ…」

「ウーチンギルディはこの者に倒された……。羨ま…いや、嘆かわしい」

「美しい!」

 

 次々とエレメリアンがテイルホワイトのツインテールの虜となっていく。

 先ほどまでウーチンギルディを悼んでいたはずが、テイルホワイトのツインテールを前に完全に忘れられてしまっていた。

 さらにシャークギルディは機械を操作し今度は動画を再生する。

 

『怪我をしても知らぬぞ!』

『自分の心配をしなさいっ!』

 

 それはテイルホワイト雪を味方としウーチンギルディを破った瞬間の動画だった。

 本来なら同胞が散るところは痛々しくて見ていられない…はずなのだが。

 

「我らの心配をしてくれるとは女神か!?」

「羨ましい奴よ。ウーチンギルディ!」

 

 もはやウーチンギルディは悼まれるのではなく羨ましがられているだけとなった。

 しばらくその動画を再生、巻き戻し、再生を繰り返しているとシャークギルディが口を開いた。

 

「この世界で属性力を頂く……異論はないな!!」

 

 オオオオオ……!!

 最高のツインテールを目の前にしたエレメリアンにとって迷いなど1ミリもなく大ホールに居るエレメリアン全員が大きく、力強く雄叫びをあげた。

 暑苦しいほどに潔く、変態的な存在だった。

 

 

 目を覚まし、まずここが何処かを確かめる。

 見慣れた天井、見慣れた壁、窓から見える見慣れた景色。 どうやら自分の部屋のようだ。

 もしやと思い右手を確かめる。 右手にはキッチリとあの白いテイルギアが装着されていた。

 夢ではない。 ということは気絶してる間に私を運んでくれたんだろうな…。

 状態を起こしぼーっとしているとガチャリ、と部屋のドアが開いた。

 

「あ!目が覚めたんだね、よかったー……」

 

 志乃が私の部屋に入ってきた。

 どうやら志乃だけフレーヌさんはいないらしい。

 志乃の様子を見るに本当に私のこと心配してくれてたんだろうな。

 

「うん、もう平気。心配かけてごめんね」

 

 私がそう言うと志乃はわざとらしくふひぃ〜と疲れたように声を出した。

 

「ところでフレーヌさんは?」

「ああ、外のあの車に乗ってるよ」

 

 志乃が窓の外を指しながらそう言うので窓から見てみると白いミニバンのような車が私の家の前に止まっていた。

 あの娘、車を運転できるんだ。見た目からして中学生くらいかと思ったけど、もしかして二十歳超えてるのかな……でも流石にそれは無いかな…。

 やがてそのミニバンからフレーヌさんがおりてきて私たちに向かい手を振り始めた。

 

「あの車でフレーヌさんの世界からこっちの世界に来たのかな…」

「そうですよぉ」

「へえ……っうわ!」

 

 少し目を離した一瞬の間にフレーヌさんが部屋に入ってきていた。

 よく見ると手にはペンとノートのようなものが持たれている。 どうやらこれで中にテレポート的なことをしてきたんだろう。 そうか、最初に私たちをビクトリースクエアに転送させた時も手に持ってる機械を使ったんだろうな。

 流石テイルギアを作り上げただけのことはある。 することが一々近未来的で見てて面白いなあ。

 

「これからのことを説明したいので準備が出来たら下に止めてある車に乗ってくれますか?」

「え?それならこの部屋でもいいんじゃ…」

 

 私の質問に答えてくれたのはフレーヌさんではなく志乃だった。

 

「車ん中にメインのコンピューターがあるんだって。見せてもらったけど凄かったよ!」

 

 どうやら私が寝てる間に志乃はあの車ん中に入れてもらったらしい。

 私がフレーヌさんに「わかりました」というと彼女はニコッと笑い今度はテレポート的なことはせず部屋から出て行った。 志乃もフレーヌさんに続いて部屋を出て行く。

 その後、志乃の「テレポート♪テレポート♪」という声が聞こえると廊下は一際強い光がはしり、家の中が静まりかえった。

 

 

 準備が出来たらと言われても、私は元々学校に行ってたんだし特に何かするわけでもなく五分も経たずに家の前に止まっているフレーヌさんの車の前に来ている。

 やはり近くから見てもこの世界にある車とはなんら変わったところもないし、これで本当に世界を超えられるのかな。

 しばらく車をジーっと眺めていると後ろのトランクにあたる部分からフレーヌさんが出てきた。

 

「ではどうぞ!」

 

 そう言いながら彼女はトランクの扉を指差す。 ……私をトランクに入れて誘拐する気?

 

「あ、誘拐とかはしませんよ。このトランクの中から近くの秘密基地までテレポートすることができます!」

 

 その言葉を聞きおそるおそるトランクに近づき中を覗いてみると何やら中の壁がメカメカしい。

 

「ささっ!」

 

 急かされたので足から入ってみる。するとなんと、一瞬で視界が切り替わりSF映画に出てくるような部屋に私の居場所は変わっていた。

 

「ええええ!?」

「そんなに驚かれなくても、先ほどもテレポートされたでしょ?」

 

 私がテレポートに驚いている間にフレーヌさんもテレポートしてきていた。

 確かにフレーヌさんに言われた通り、二、三時間くらい前だろうか。その時も私たちはビクトリースクエアにテレポートしていた。 でも、このテレポートは視界が一瞬見えなくなるとかじゃなく本当にスパッと場所が切り替わる。 まるでTVのチャンネルを変えたように。

 

「階段の下に椅子があるのでどうぞお掛けになっててください」

「は、はあ…」

 

 ややこしそうな機械の両隣りに下への階段があり、降りるとたくさんのモニターに囲まれて…これもやはり近未来的なテーブルと椅子があった。

 志乃もそこにおり私を見つける大きく手を振ってくれた。

 椅子に腰掛け1分ほど待つとフレーヌさんがやってきて話し始めた。

 

「それでは、テイルギアのことについてです」

 

 テイルギアとは一体何なのか。

 属性力とは何なのか。

 エレメリアンは何なのか。

 知りたいことはたくさんある。

 フレーヌさんが謎の間をとった後、話し始めた。

 

「テイルギアを開発したのは私ではありません。開発者は別にいます」

 

 …いや、うん。

 少しだけ沈黙が続いた。

 

「あら!?もっと驚いてくれるのかと思ってたのに反応薄くないですか!?」

 

 流石に驚かないよ…。

 テイルギアといい、いろいろな近未来的な道具といい、この基地といい、少女1人でどうにかできるもんでもない。 必ずフレーヌさんをバックアップしている人物がいるはず。 こう想像するのは普通のことだろう。

 

「えーっと、オホン。 次にこれをお読みください」

 

 キリッとした表情でフレーヌさんは何枚か紙を私と志乃に渡してきた。その紙にはテイルギアの各部概要が図付きで書かれている。

 フォトンサークルだのスピリティカフィンガーなど女の私でも見ていてワクワクするような文字がたくさん並んでいる。 綺麗で丁寧に纏められているが、フォースリボンだけ文字を直したような跡が残っていた。

 

「あれ?なんでここ塗り潰されてるんですか?」

「ああ、それは開発者が誤字っていたので修正しました」

 

 まさかの誤字。 どんな風に誤字っていたのかちょっと気になるじゃん。

 

「テイルギアについて大体理解することが出来たら1ページめくってください。属性力についてのことが書かれていますので」

 

 言われた通りページをめくるとデカデカと紙の上に属性力(エレメーラ)と書かれておりその下にはまた図と長い説明文が書いてある。

 

「属性力って何かを愛する気持ちだったっけ?」

 

 志乃が顎に手をあて考える人のポーズをしながらフレーヌさんに質問する。

 そういえば、さっき倒したウーチンギルディってやつことあるごとに掌、掌言ってたっけ。

 

「その通りです。人により趣向は様々なので属性力もその分たくさんあるんですよ。そしてテイルギアにツインテール属性が使われている理由、それは数ある属性力の中でも最強の属性力だからなのです!」

「ツインテール属性が!?」

 

 やっぱりおかしい。

 ツインテールなんてくだらないものが属性力の中で最強だなんて絶対おかしい。

 

「愛情とかいうけどだったらもっと…こう家族愛とかの方が強いんじゃ?」

「家族愛や、例えば友情などはある程度の生物は持ち合わせているんです。 それとは別に何かに夢中になる愛、それこそが属性力の礎となります」

 

 なるほど、納得しちゃいそうなほど筋が通っている。 ツインテール属性が最強だってことには納得しないけど。

 

「次にエレメリアンについてですけど、説明することも特にないですかねえ…」

 

 フレーヌさんがそう言うので残り1枚の紙を見てみるとデカデカとエレメリアンと書かれた下に属性力を狙う怪物、と書かれているだけだった。

 ツインテールを好きな怪物━━━━やっぱり変態なんじゃないかな…。

 その後もフレーヌなりの説明で属性力のことを教えてもらった。

 

「じゃあそろそろフレーヌさんについて教えてよ」

 

 志乃がフレーヌさんに言う。

 私も気になってた。 フレーヌさんだけでなく彼女をバックアップしているであろう人も。

 

「では、お話しましょう」

 

 深刻そうな顔をしてフレーヌさんは重々しく口を開いた。

 

「まず、私の世界はエレメリアンに滅ぼされてしまいました」

 

 私も志乃もさすがにその言葉には驚き、言葉を失ってしまった。

 だってあんな変態の怪物なんかが世界を滅ぼすことなんて全く想像していなかったから。

 

「エレメリアンによる襲撃の最中、エレメリアンに立ち向かう戦士が現れたのです。 名前はわかりませんけど、それはもう素敵な方でした。しかしある時を境にその戦士はまったくエレメリアンの前に現れなくなってしまいました」

「え、じゃあその戦士はエレメリアンに負けちゃったわけ?」

 

 志乃がフレーヌさんに質問する。

 

「それは…わかりません…」

 

 フレーヌさんの世界にもエレメリアンを相手に戦う戦士がいた。 フレーヌさんの話が本当ならなんでその戦士はなんで現れなかったんだろう。

 フレーヌさんはさらに続ける。

 

「戦士も現れなくなり世界はどんどんアルティメギルによって属性力を奪われていきました。私の周りも、当然私自身にもアルティメギルの脅威が近づいてきました」

 

 フレーヌさんもエレメリアンに襲われそうになったってことかな。

 

「しかし、エレメリアンに属性力を奪われそうになり絶望しかけた私のところにまたあの戦士が現れたんです」

「戦士が!?」

「はい。その戦士は私を追い詰めたエレメリアンを倒し…たはずです」

 

 なんか妙に後ろの言葉に自信がなかったけど。

 

「実は戦士とエレメリアンの激しい闘いのせいか途中で意識を失ってしまい、戦士のその後はわからないのです。私が気がついた時はある部屋にいて、そこにテイルギアの資料や、エレメリアンに関しての知識を得ました」

「そっか!フレーヌさんがいた場所はその戦士が基地として使っていた場所だってことだね!」

 

 その戦士がエレメリアンを倒した後にフレーヌさんをその部屋に運んでくれたんだろうな。 戦士の基地ということは相手に気がつかれないためにイマジンなんとかを張っている可能性もある。 そのおかげでフレーヌさんは世界から属性力が奪われ尽くした時も奪われずに入れたんだ。

 ん?でもこれじゃフレーヌさんのバックアップしている人が出てこないな…。

 

「ねえ、フレーヌさんをバックアップしてる人が出てきてないけど」

「私にそんな人はいませんよ。この秘密基地を作ったのもあなたにお渡ししたテイルギアなども私が作りました。元々あるものなら大抵は作れるんですよ」

 

 なんかものすごいことをさらっと言われた気がした。

 何もんだこの子……。

 フレーヌさんに驚きつつも、もう一度手元にある資料のテイルギアのページを開いてみる。

 あの変態達と闘うために、私はこれを着ることになるわけね…。 まあもう一回着ちゃったわけだしそれはいいんだけど、女の子が変身して闘うならもっと魔法少女系の衣装じゃダメだったのかな。

 

「…別にそんな趣味ないからね!」

「どしたの、奏?」

「え、いや……なんでもない」

 

 声に出てしまっていたらしい。 気をつけよう……。




こんにちは、こんばんは、阿部いりまさです。
今回は主に説明会のようになってしまいました。 文字数が多くなってしまうのでテイルギアの各部装備などの説明は省かせて頂きました。誠に申し訳ありません。


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FILE.5 アイドル戦士?テイルホワイト

シャークギルディ
身長:257cm
体重:302kg
属性:貧乳属性(スモールバスト) 

奏達の世界にやってきたエレメリアンの部隊を束ねるアルティメギルの幹部。
アルティメギル首領から認められ、若くして部隊の隊長となった期待の新星。
若さゆえの無知な行動や若干中二病くさいなどまだまだ成長の途中だがその実力は師匠のもとで鍛えられ確かなものとなっている。


 白いツインテールの戦士が怪物を倒した━━━翌朝にはそんなニュースや記事が大量に出回っていた。

 新聞の一面はテイルホワイト、朝のニュースでテイルホワイト、人々の話題はテイルホワイト……どこもかしこもテイルホワイト一色であり真っ白な状態だ。ここまでくると変身してる私は恥ずかしいな…。

 

「あら、またテイルホワイト?のニュースね」

 

 隣で物珍しそうにTVを見ているのが私のお母さん━━━伊志嶺 京華(いしみね きょうか)。

 昔は女優だったけど、私を妊娠したのをきっかけに芸能界を引退し、専業主婦として生活している。

 ちなみに私が変身してエレメリアンと闘ったということはお母さんには黙っている……他の人に話すこともないだろうけど。

 ちなみに髪型と髪の色や瞳の色が変わったぐらいで顔はもろ私なのだがイマジンチャフのおかげでテイルホワイトが私だと気づくことはないとフレーヌさんが言ってた。……ご都合主義とか言ってはいけない。

 正直身内にはわかってしまうのではないかと危惧していたけど、しっかりと身内にもイマジンチャフの効果はあるようだ。

 

「そういえばお父さんは?」

「あの人は奏が起きる前に出発しちゃったわよ。 最後まで奏に見送ってもらう!って言ってて家出るの渋ってたけど」

 

 親バカがすぎるとうざいわ…。

 父親の親バカぶりに呆れているとTVにニュース速報と文字が出てきた。

 

「テ、テイルホワイトの確かな情報を提供してくれた方には感謝状? 何これ!!」

 

 本来敵であり平和を脅かす怪物であるエレメリアンとテイルホワイトは報道されても大体8:2くらいがいいとこのはずなのに今はどこのTVも全くの逆となっている。

 その上テイルホワイトに関してこんなふざけたことまで……。

 

「テイルホワイトが怪物を倒したのってこの辺の近くだし私もいつか会えるかしらねえ…」

 

 毎朝あってるんですけどね。

 今の政府に呆れながら朝食をとる。

 朝食をとり終わり、十分ほどTVを見ているとそろそろ学校に行く時間だ。

 

「じゃ、行ってきます」

「うん。気をつけてね」

 

 私に笑顔で手を振る母。

 母親が大女優だったことが自慢か、と聞かれたりするけどそうじゃない、いつもこうやってしっかり母親してくれることが私の自慢。

 

「テイルホワイトに会ったらサインもらってねー!」

 

 玄関から外に出る直前そんな言葉が耳に響いてきた。

 実の母親までもがテイルホワイトに染まってきている……。

 

 

 ある程度予想はしてたけど、町中どころか私の学校でもテイルホワイトは話題を独占していた。

 教室に入るなり聞こえてきたのは「テイルホワイトの画像くれ!」やら「テイルホワイトの生写真だよ!」など自慢している人もいる。

 そうだ、この男子達を写真に収めていつかあの時の君はこんなだったよとか見せると面白いことになりそう。 写真撮ろうと思いスマホをポケットから出すと一緒に石が出てきて床に転がった。

 

(あ、石のこと聞くの忘れてた)

 

 綺麗な菱形で石の中になんかグニャグニャしたマークが入っている。ウーチンギルディが爆発したところにあったし普通の石ではないんだろうな。

 ヒョイッと拾い上げるとまたポケットの中にしまう。

 

「おっはよ」

 

 石を拾い上げたタイミングで後ろから志乃にポンと肩を叩かれた。

 私が「おはよう」と返すと志乃はニタニタしながら小声で私に言う。

 

「人気ですねえ、テイルホワイトちゃん♪」

「恥ずかしいから止めて…」

 

 本当に恥ずかしい。

 自分が正義のヒロインに祭り上げられているのはもちろんだが、この私がツインテールにしているところを見られるのがすごい恥ずかしい。

 …これでも前まではしてはずなのにな。

 しばらくツインテールにしてなかったらこんななんだ。

 それに━━━━正義のヒロインと期待されてしまうと闘い辛い。

 いつか私が負けたら? その時の世間の反応は? おそらくテイルホワイトに失望し、今とは真逆の反応をするんだろう。 今この教室にいる人たちも。

 そんなことを考えながら教室を見回していると、みんながテイルホワイトのことでワイワイ盛り上がる中、あまりその話題に乗っていない人物を見つけた。

 

「おいおい!嵐!お前はどうなんだよ、テイルホワイト!」

「俺は別になあ…」

 

 クラスメイトの男子からテイルホワイトの話題を振られても受け流しているこの男子、名前は嵐 孝喜(あらし たかよし)。

 嵐君はまあ当然かな。

 嵐君もツインテールを嫌ってはいないけどあまり好きじゃなさそうだったし、いつもポニーテール、ポニーテール言ってるし。

 今の立場からなら嵐君のような人が増えてくれたら、と思える。 …そりゃ昔はイラッとしたけど、私を正気に戻してくれたようなもんだし全然気にしてない。

 やがて朝のHRを告げるチャイムが鳴ったが、テイルホワイトの話題は先生が入ってくるまで続けられることとなった。

 

 

 ウーチンギルディが出現したのが昨日なのに…。

 今の時間は授業中なのに…。

 

「登板間隔が短いって!」

 

 今考えられる精一杯の文句を目の前のエレメリアンにぶつける。

 昼休みの終わり頃、フレーヌさんからテイルギアにエレメリアン出現の通信が入り、泣く泣く学校を早退しエレメリアン討伐のために出撃した。

 今日はたまたまだと願いたい。

 もし毎日、授業中や学校が終わった直後などに来られたんじゃ体が持たなそうだ…。

 

「会いたかったぞ、テイルホワイトさん!」

 

 この礼儀がいいんだか悪いんだかわからないエレメリアンが次の相手ってわけね。

 見た感じはウニのように棘がたくさんあるわけでもないし、ウニのようには見えないな。

 特徴としては本来口のあるような位置に下顎から身がすくむような牙をはやし、頭の上にはちょろんと釣竿のような物が付いており、先には小さい提灯のような物が付いている。

 ここまでわかりやすい外見、おそらくこいつは━━━━

 私の考えを読み取ったかのように目の前のエレメリアンは自己紹介を始める。

 

「俺はアングラフィギルディ。この世の女性を美しく引き立てるために必要なアホ毛属性(フリイズ)を極し者!」

 

 やっぱり…アングラーフィッシュ、つまりチョウチンアンコウのことだ。

 でもふりいずってなんのことだろ?

 

『最近の二次元キャラクターには必ずと言っていいほど付いているアホ毛のことですね。なんか触角みたいな髪です』

 

 フレーヌさんから通信が入り、アホ毛についての説明が入る。

そういえば見たことあるな。

 でも残念ながら私にはアホ毛が変身前も変身後もない。

 

「しかし哀しきテイルホワイトさん。 そなたにはアホ毛属性が存在しない!アホ毛があればそなたは今以上に女神として称えられるだろうに!!」

「それは好都合。私別に目立ちたいとか女神になりたいとか思ってないし」

 

 そう言いながらフォースリボンを触りアバランチクローを両手に装備し、攻撃を仕掛ける。

 

「我を甘く見るでないぞ!テイルホワイトさん!」

 

 構わず攻撃を仕掛ける。

 しかし、アングラフィギルディは見た目とは裏腹に華麗な身のこなしでアバランチクローの攻撃をかわした。

 続けて攻撃を繰り出すも全てかわされてしまう。

 二メートルもあろうかというデカイ怪物がフィギュアスケートの選手のように華麗な身のこなしで私の攻撃を次々とかわしていく、その様は側から見てる人にとってはとても奇妙なものに見えるだろう。

 必死になって奴に攻撃を当てようとするもそうクルクルと回られると…。

 

「目…目が回る…」

 

 耐えきれずその場にチョコンと座り込んでしまった。

 まさかアングラフィギルディはこれを狙ってたのか!?

 警戒しながら自分の呼吸を落ち着かせる。

 少し落ち着いてきたところで周りを見渡すが……アングラフィギルディがいなくなっている。

 

「逃げられた!?」

『いいえ、反応は消えていません!注意してください!』

 

 アンコウには保護色とか使える種類はいなかったはず…少なくとも私の知っている中では。

 警戒しながら周囲を見る。

 すると砂場の影あたりから小さな光る提灯のようなものが飛び出しているのを見つけた。

 

「あれってまさか……」

『チョウチンアンコウが獲物をおびき寄せるために使う手ですね』

 

 チョウチンアンコウは深海魚。

 提灯のようなものを光らせ、それにつられてきた魚などを捕食する。 ということは、おそらくあれに近づくとアングラフィギルディに捕まってしまうだろう。 捕まった後はおそらく、無理やり頭の毛を立てられてアホ毛を演出するんだろうな……だって変態だしなあ…。

 近づかないで攻撃するには……これを投げるしかないかな。

 アバランチクローを肩にスライドさせ、左肩に付いているクローを外して右手にもち、提灯のあたりに狙いを定める。

 

「ほいっ」

 

 投げたアバランチクローはとても綺麗な軌道で提灯の下めがけて飛んでいき、地面を突き、その地面にいたであろうアングラフィギルディにヒットした。

 

「ぬああっ!?」

 

 屈強な男とは思えない叫びで地面からアングラフィギルディが出てくると、今度は渾身の力を込めて右肩に付いていたクローを奴に目掛けて放つ。

 必殺技ほどでないにしろアバランチクローとスピリティカフィンガーによる腕の強化のおかげで充分エレメリアンを撃退できる強さとなる。

 見事にアバランチクローはアンゴラギルディの体を傷つけ、放電させた。

 

「あ、アホ毛を……。テイルホワイトのアホ毛を━━━━━ッ!!」

 

 そう最後に言い残すとアングラフィギルディは砂場の上で爆散した。

 断末魔がそれで良かったのだろうか…。

 そういえば、ウーチンギルディを倒した時のようにあの石があるかもしれない。 しかし爆散した時に大量に砂が周囲にばらまかれてしまったのでなかなか見つからない。

 

『どうかしましたか?』

「ちょっと探し物」

 

 しばらく探し続けると、見つけた!

 綺麗な菱形の石。

 ウーチンギルディの時といい、アングラフィギルディの時、偶然そんな特徴的な石があったなんてことは無いはず。

 今フレーヌさんに確認してもらったほうがいいかもしれないな。

 

「フレーヌさん、この二つの石の事なんだけど」

 

 そう言い自分の目の前に二つの石を掲げる。 おそらくこれでフレーヌさんにもこの石が見えているはずだ。

 

「ウーチンギルディを倒した時に一つ、今アングラギルディを倒して一つ見つけたんだけどこれ何かわかる?」

『二体が倒れたところにたまたまその石があった……とは考えにくいですね。今の時点では私にもわからないので後で秘密基地に持ってきてもらっていいですか?もしかしたらエレメリアンの生態や、弱点などがわかってくるかもしれません!』

「わかったわ」

 

 通信が終わると私は周りに誰もいない事を確認して変身を解除し、2つの石を制服のポケットに入れた。

 それにしても、今回の敵は前回の敵に比べてなんか弱かったような……。

 まあ、私がテイルギアで闘う事に慣れてきたおかげでそう思ってるだけかもしれないしあまり気にしなくてもいいかな。

 少しだけ疑問に思いながら私は家への帰路についた。

 

 

「アングラフィギルディまで倒されたのか!?」

 

 例の大ホールではまたもや同胞が敗れ、散っていった事に衝撃が走っている。

 今回も装飾されすぎた椅子にはシャークギルディは座っておらず、会議は装飾されすぎた椅子の右隣に座っているエレメリアンが取り仕切っていた。

 ウーチンギルディやアングラフィギルディ、また360度全ての席に座っているエレメリアンとは雰囲気が違う。

 平たい頭部に、弱々しく今にも倒れてしまいそうな体をしたサンフィシュギルディはアルティメギルで長らく活躍している古株であり、シャークギルディ部隊の頭脳となっている。

 しかし、彼の頭脳をもってしてもテイルホワイトへの対抗策はまだ浮かんでこずにいた。

 

「ウーチンギルディにアングラフィギルディ。 2人ともテイルホワイトにいとも簡単にやられてしまいました。あまり犠牲は出したくない物です…」

 

 サンフィシュギルディは項垂れながらそう言う。

 サンフィシュギルディの苦悩ぶりを見て彼を頼りにしていた部隊の者たちも「テイルホワイトにやられたい!」などとは口に出せなくなってしまっていた。

 

「しかしまだ絶望的な状況というわけではないであろうサンフィシュギルディ殿」

 

 サンフィシュギルディとは逆に、装飾されすぎた椅子の左隣に座っているエレメリアンがそう言う。

 他のエレメリアンよりも黒く、他のエレメリアンとは違い丸く、他のエレメリアンとは違い何処と無くカワイイマスコットのようなエレメリアン━━━オルカギルディ。

 エレメリアンの中では比較的若くして隊長となったシャークギルディを補佐している彼もまた、優秀な戦士である。

 

「それに、ここまではあくまで作戦の内であろう」

「やはり、その作戦を使うのですか…」

 

 近くに座っている二人にしか聞こえないような声で、部下には聞こえないような声で話す。

 オルカギルディと言葉を交わし、さらに落ち込むサンフィシュギルディ。

 しばらく大ホール内は沈黙が続いたが突然隅から声が聞こえてくる。

 

「安心しろ、サンフィシュギルディにオルカギルディ、それに部下達よ」

 

 お約束なのか、それとも遅刻しているだけなのか定かではないが、またもや大ホールの隅からシャークギルディの声が響いて聞こえてきた。

 シャークギルディはゆっくりと歩き装飾されすぎた椅子に座ると口を開き始めた。

 

「情けない話だが、テイルホワイトの出現を首領様に報告したところ我の師匠がこの隊に合流する事となった」

 

 その発言に大ホール内はざわざわと騒がしくなる。

 ざわざわした中一体のエレメリアンがシャークギルディに問いかける。

 

「それは本当によろしいのでしょうか。結成して間もない我が隊においてテイルホワイトの属性力を奪うことは首領様の信頼を勝ち取る好機!みすみす他の隊に取られてしまうのは…」

「案ずるな。来るのは我が師匠だけで隊を動かすつもりはないとのことだ」

 

 先程から続いていたざわつきはサンフィシュギルディが口を開くと同時に静かになっていく。

 

「もしや、そのお師匠様とは…」

「ああそうだ。お前もよく知っているだろう。アルティメギルでも名高い貧乳属性を極め、愛してやまない戦士だ」

 

 シャークギルディの次の言葉を聞き逃すまいと大ホールにいるエレメリアン達は息をも止め、その師匠の名が出るのを待つ。

 

「我の師匠、クラーケギルディ様がこの部隊に合流する!!」




こんにちは、こんばんは、阿部いりまさです。
もしかしたら前書きでなんとなく察した方もいらっしゃると思います。
なんと!原作から初めてちゃんと登場する人物はエレメリアンのあの方です。
どうぞご期待ください!


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FILE.6 貧乳戦士

伊志嶺 京華
性別:女
年齢:38歳
誕生日:4月19日 
身長:163cm
体重:49kg

奏の母親にして元人気女優。奏を妊娠したと同時に芸能界を引退しており、それからは専業主婦として家の仕事をしている。夫との仲は良好。 奏のことは特に不安もなければ不満もなく自慢の娘と思っている。 しかし、世界一かわいい娘に彼氏が居ないのが唯一納得がいかない様子。


 今、私の目の前には新たなエレメリアンが立っている。

 

「ぐ、ぐおっ……」

 

 放電しながら。

 説明すると、学校に行く準備をしていたところ、フレーヌさんからエレメリアン出現の通信が入ったのでテイルホワイトに変身して旋毛旋毛言っているエレメリアンに必殺技を食らわした。 そして今ここ。

 放電し、膝をつきながら苦悶の声を上げる旋毛エレメリアン。

 

「もっと…もっと旋毛を見ていたかった━━━━━━ッ!!」

 

 いつものようにくだらない断末魔を叫びながらそのエレメリアンは爆散していった……。呆れつつも、爆散したところにある菱形の石をひょいっと拾い上げる。

 初めて私がテイルホワイトになってから今日で一週間。

 アルティメギルは律儀に毎日毎日一体ずつ出現していた。

 しかも朝の七時から夜十時まで出現する時間がバラバラでいつも神経を使わないといけない。

 もしこれがアルティメギルの作戦だとしたら効果てきめんだ。ものすっごい効く。

 今も時間は朝の八時、今から急いで学校に向かわなくては遅刻してしまう。

 

『大丈夫ですか?』

 

 フレーヌさんから通信が入る。

 

「大丈夫…って言いたいけど大丈夫じゃないね…」

 

 わざわざ言わなくてもフレーヌさんならわかるだろう、私を心配してくれてるからこそ聞いてくれている。

 私はテイルホワイトに変身したまま人の家の屋根の上をピョンピョンと飛び跳ね学校の近くの人通りの少ない通りで変身を解除した。

 路地から大通りに移り、少しだけ私は考え事をする。

 もし本当にこれがアルティメギルの作戦なら奴ら私が思ってたよりずっと脅威的な存在になってしまう。

 もしかしてフレーヌさんの世界の戦士は私のように度重なる闘いに耐えられなくなり、現れなくなってしまったのではないだろうか。

 もしそうなら少しだけ、本当に少しだけ、今ならその戦士の気持ちがわかる気がしてきた。

  …いけないいけない!もっとポジティブに考えないと本当に体がもたないよ!

 両手で自分の頬をパチンと叩き自分に気合を入れ直す。…少しだけ強く叩いてしまったようで頬が痛い。

 何気なしに、周りの声や音を聞いてみるとやはりテイルホワイトの話題が多い。

 一週間前からのテイルホワイトフィーバーは今現在も続いている。

 私が変身するたびにTVで特集され、エレメリアンに関しては本当に一分くらいしか報道されてない気がする。

 いつまでこの祭りは続くんだろう。

 それと、言い方はきついけどエレメリアンの撃破が完全にただの流れ作業と化してきている。

 あまりにも敵が弱すぎる気がする。

 あんな奴らに本当に世界から属性力が奪われることなんてあるのだろうか。

 そんなことを考えながら歩いていると誰かに鞄をぶつけられた。

 

「おはよ!」

「志乃…痛いよ」

「なんか元気ないなって。……毎日毎日来るからね」

 

 志乃も私の心配をしてくれている。

 

「変態達が昼夜問わずに出てくるんだもんね。私も何かしたいよ…」

 

 でも、私も志乃に甘えてばかりいるようじゃダメだよね。

 

「志乃は充分私の助けになってるよ。だから、私は平気」

『志乃さんだけじゃありませんよ』

 

 突然フレーヌさんから通信が入る。

 

「私だって出来る限りあなたのサポートをさせていただきますよ!…ご飯を食べさせるのはもちろん、洋服のコーディネートやお風呂に入れてあげるまで!」

 

 フレーヌさんがいつの間にかテレポートして私たちの側にきていた。

 流石に最初の方はビックリしたけどほぼ毎日こんなんじゃなれる。

 それよりいろんな世話をしてくれるのはありがたいんだけど、お風呂くらいは自分で入りますからね。

 

「それといい話が」

 

 フレーヌさんがオホンと言った後にそう続けた。

 

「あの菱形の石に関するデータを見つけました。 どうやらあの石はエレメリアンの核であり、属性玉(エレメーラオーブ)と戦士は読んでいたようですね!」

「つまりエレメリアンの心?」

 

 フレーヌさんからの説明の後に志乃が質問する。

 

「そんな感じです。そしてこの属性玉を使ってテイルギアをパワーアップさせようとしてたみたいですが…残念ながら設計図らしきものは残っていませんでした」

「え!?じゃあ、奏はパワーアップできないの?」

 

 志乃が心配そうにフレーヌさんに問いかける。

 

「安心して志乃、今のままでも充分なほど相手弱いし。私が疲れてるのは連戦続きなだけだから」

「う、うん…」

「なんとか属性玉を利用できないか調べます。それでは!」

 

 そう言うとフレーヌさんは敬礼し、目の前からピシュンと消えた。

 そういえば登校中の道でなんて話をしてたんだろう…。

 ふと私は空を見上げながら考える。

 エレメリアンの心……属性玉、ね。

 

 

 世界の狭間にある神秘の基地の大ホールではまたもや会議が行われている。

 それもそのはず、ここ一週間でアルティメギルの隊員が八体、戦闘員に関しては五十体以上がテイルホワイトの手によって撃退されているのだ。

 

「以上、ここ一週間のテイルホワイトの戦闘データです」

 

 大ホールの中央寄りのテーブルに座っているエレメリアンがそう話し、画面を変えると戦闘データ……ではなくテイルホワイトの人気の画像が表示されていた。

 しかし、アルティメギルの隊員の中にはそれを疑問に思うものなど誰もおらず、会議はそのまま進められる。

 珍しく、装飾されすぎた椅子にも部隊の隊長シャークギルディが座している。

 

「おい、早く次のデータを見せんか!」

 

 シャークギルディがそう言うと、またもや画面に映し出されたのはテイルホワイトの人気画像。

 しかも今度は大ホールにいるそれぞれのエレメリアンが次々とおおおお……、という声を上げた。

 どうやらテイルホワイト打倒作戦=テイルホワイト鑑賞会、ということらしい。

 

「やはり強く、美しく、そして恐ろしいツインテール……」

 

 シャークギルディが一通りの画像を見終わると満足そうに言う。

 

「あなたはどう思いますか。このツインテールを」

 

 シャークギルディがいつも自分が出てくる大ホールの隅に向かって話しかけた。

 やがて奥から一体のエレメリアンがでてくる。

 大ホールがまたもざわざわしはじめる。

 細身で、精悍な顔つき、肩から垂れ下がるものを中心に全身に細い触手を無数に備えるエレメリアン。

 

「確かに、見事なツインテールを持っている。しかし━━━」

「しかし、なんでございますか」

 

 大きく間をとるエレメリアンに向かってサンフィシュギルディが問いかける。

 

「残念ながら、とても貧乳と呼べるほどの乳ではないな。 ただ巨乳ではない。 そこはよしとするか」

 

 貧乳属性(スモールバスト)の雄であり、同じく貧乳属性であるシャークギルディの師匠、クラーケギルディ。

 クラーケギルディに続き、シャークギルディも口を開く。

 

「誠、その通りです。ですが、その貧乳ではない乳を包み隠してしまうほど、テイルホワイトのツインテールは輝いております」

 

 クラーケギルディはそのシャークギルディの言葉を聞くとしばらく無言になりフッと笑った。

 クラーケギルディは単身で三日前にシャークギルディ部隊に合流していた。

 弟子である、シャークギルディがどんな作戦を考え、将として部隊をまとめられているのかを陰ながら監視していたのだ。

 その結果、シャークギルディは師匠であるクラーケギルディに意見するまでに逞しく、将として成長していた。

 クラーケギルディはそれが嬉しかったのであろう。

 

「シャークギルディがそこまで惚れ込むツインテールか。ではこの私が直接、そのツインテールを見に行くとしよう」

 

 クラーケギルディの言葉にまたもや大ホールがざわつく。

 ざわついているエレメリアンとは反対に、シャークギルディ、オルカギルディは口を閉じている。

 

「安心しろ。シャークギルディ部隊の諸君よ。手柄を横取りしようとなどは考えていない、ただの偵察だ」

 

 そう言い残すと、クラーケギルディは自分が出てきた大ホールの隅の通路へと消えていった。

 

「先生…」

 

 ざわついてる大ホール内で、静かに誰にも聞こえることのないような声でシャークギルディは呟いた。

 

 

 最後にエレメリアンが現れてから今日で三日目。 それまで毎日出てきていたのにパッタリとエレメリアンは出てこなくなっていた。

 正直それまで連戦続きだったので私としては助かるのだけど、こうも全く出てこないと何か大きなことでもやらかすんじゃないかと心配になってくる。

 TVではエレメリアンが出現しないことからいつもより警戒するよう呼びかけている……わけもなく出現しないことでテイルホワイトが見られないために早く出てこいという報道がなされていた。 お願いだから危機感を持ってちょうだい。

 インターネットのコメント欄にも『テイルホワイトはまだか』『テイルホワイト見たいからアルティメギルでてこい』『アルティメギル使えねー』などのアルティメギルに対して失望したというコメントが多数だ。 …危機感を持ってください。

 私たち三人は三日間全くエレメリアンが現れないとのことで現在フレーヌさんの基地で緊急会議が行われていた。

 

「流石に三日間全く音沙汰ないのはおかしくない?」

 

 志乃が疑問を私とフレーヌさんにぶつける。

 私もそれは同意見だけど…。

 

「ええ、何かの準備をしている。という風に考えるのが妥当でしょう。それが何かはわかりかねますが…」

 

 フレーヌさんが発言したところで私も意見を出す。 僅かな、本当に僅かな望みだけどある一つの可能性をフレーヌさんに確認するために。

 

「テイルホワイトが居るせいでこの世界から属性力は奪えないって判断してどっか行っちゃった、とか」

「その可能性は限りなくゼロに近いですね。 私の世界では一ヶ月以上はアルティメギルは戦士に対して闘いを挑んでいたので」

 

 やっぱりそんなことはないよね。

 だとするとやはり、先ほどフレーヌさんがいった何かの準備をこの3日間でしているのだろうか。

 

「平和なのはいいことなはずなのにねー」

「平和なのが不安になってくるなんてね…」

 

 全く志乃のいう通りだ。

 ここ最近、毎日闘っていたせいで平和なのが不安になるというなんとも軍人みたいな考えになってきている気がする。

 

「奏さんには申し訳ありませんがいつでも闘える準備をしといてもらえると助かります」

「今まで通りね、わかってる」

 

 今までもいつエレメリアンが出現するかわからなかった。 今回はそれがちょっと長いだけ、そう考えれば多少不安もなくなってくるような気がする。

 

「では次は明るいニュースを。前々から計画していた基地の拡張工事と空間跳躍カタパルトの設置が完了しました! これで国外の何処に現れたとしても一瞬で駆けつけることができます!」

 

 おお、それって超朗報じゃない。

 今までは基地で、もしくは人通りの少ない路地などで変身してから自分の足でエレメリアンが出現した現場で向かっていたのだが、それは私の体力を大きく奪う一因だった。

 その後のフレーヌさんの説明によると転送された後もテイルギアからフレーヌさんに通信すればすぐにここの基地に戻ってこられるらしくこれまたハイテクだ。

 空間跳躍カタパルトについての説明をフレーヌさんがしていると突如ブーブーという音が基地のスピーカーから鳴り出した。

 フレーヌさんはその音を聞いてすぐに階段を上がり席に着きパソコンのようなものを操作し始める。

 

「エレメリアン出現です!」

 

 とうとう来た!!

 

「変身して空間跳躍カタパルトへお願いします! 変身コードはテイルオンですよ!!」

 

 最近ずっと言われている変身コードというもの。

 通信で言われていたため無視し続けていたのだが…直接そう言われると無視はしにくい。

 わかったわよ、の意味も込めてフレーヌさんを見た。

 

「…テイルオン」

 

 その言葉と同時に私の体が光に包まれ見えるようになってくると私は銀髪のツインテールに白い装備が輝くテイルホワイトへと変身していた。

 

「気をつけてね!」

 

 空間跳躍カタパルトに入った直後に志乃から声をかけられる。

 返事をしようと思ったのだが、する間もなく私はエレメリアンが出現したという場所へ転送された━━

 

「この古城を颯爽と闊歩する貧乳のツインテールはおらぬのか!?」

 

 光を抜け、出口にたどり着くとやたらと汚らわしい言葉が乱舞していた。

 あまりの間抜けな発言に私は転送されたと同時に蹴躓きそうになる。

 貧乳、貧乳言うエレメリアンの姿を確認するとやや尖っている頭に、その頭からのたくさんの触手、イカのようなエレメリアンだ。

 

「三日間何も音沙汰ないと思ったら、貧乳のイカギルディが出てくるとか…」

 

 呆れて顔を手で隠しながら首を横に振る。

 そうした動作をしているとイカギルディは私に気づいたようでこちらに歩み寄ってきた。

 

「会いたかったぞテイルホワイトよ。 だがイカギルディではなく私はクラーケギルディ、そして貧乳を心から愛する者!」

 

 クラーケギルディ?

 クラーケ、クラーケ、何処かで聞いたことあるような、私その方面の知識薄いんだよね…。

 うーん、と考えているとフレーヌさんから通信が入る。

 

『おそらく、中世から近世にかけノルウェー近海やアイスランド沖に現れていたとされている伝説の海の怪物、クラーケンのことです』

「そんないるかいないかわからない生物をモチーフにしたやつもいるんだ」

『はい。しかも今までの相手とは比べものにならない属性力を持っています。おそらくアルティメギルの幹部、気をつけてください!』

 

 そりゃ私には好都合だ。 最近弱い敵ばかりでただの流れ作業って感じだったし。

 

「それでは始めさせてもらうぞ、テイルホワイトよ。 その属性力、私に全てをぶつけよ!」

「望むところよ!」

 

 頭のリボンを触ると同時にアバランチクローが両腕に装備されると同時に腰の装備から蒸気と炎が一斉に噴射される。

 三日ぶりの闘いが、そして初めて幹部との戦いが始まった。




どうも皆さん、阿部いりまさです。
ついに原作からキャラが登場! なんとそのキャラはクラーケギルディさんでした。 (なんとなく察していた方はいるでしょうが)
クラーケギルディについてはあまりキャラが崩壊しないように書いているつもりですがもし、気になりましたらご指摘をいただけるとありがたいです。
それでは。


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FILE.7 対決、クラーケギルディ!

嵐 孝喜
性別:男
年齢:16歳
誕生日:9月23日
身長:171cm
体重:64kg

ツインテールよりポニーテールを愛する少年。
普段からあまり笑うことはなく、つまらない顔をしているとよく言われる。 そのせいか性格もクール……?
以前、なんらかの理由で奏と関わったことがあるらしいが…?


 目の前にいるイカギルディ……ではなくクラーケギルディは確かにこれまでのエレメリアンとは違う威圧感を放っている。

 私的に今まで戦ってきた中で一番強かったのは私の初陣となったウーチンギルディなのだが、クラーケギルディはそれに劣らない…いや、クラーケギルディのほうが何十倍も威圧感も迫力もある。

 

「おっ!テイルホワイトだ!」

「ホワイト様よー!」

「お姉ちゃーん!」

 

 睨み合っている間に最初よりも周りにヤジウマがが集まってきた。いや、誰だ私のことお姉ちゃんって言ったの。

 そのままヤジウマはどんどん集まり、私とクラーケギルディから周りのヤジウマは二十メートルも離れていないくらいかなり近いところにまでいた。 このままクラーケギルディと闘ったらきっと周りの人を巻き添えにしてしまう…どうしたものか……。

 アバランチクローを構えながらクラーケギルディを睨んでいるとクラーケギルディはふむ、と周りを見渡してから話し始める。

 

「どうやらこの世界には貧乳の姫は居ないようだ。 近い未来に姫に会えると信じていたのだが…」

 

 何を言いだすかと思えばまた貧乳。

 威圧感は別格、変態度もまた、他のエレメリアンとは別格のようね。

 フレーヌさんは属性力の種類は人の数だけあるって言ってた。 胸属性のエレメリアンはいつか来ると思っていたけど…まさか貧乳属性とは。

 あと妙に男前な声でしゃべっているのがムカつく。

 

「あんたが貧乳好きっていうんなら巨乳好きもいるわけ?」

 

 私の質問にクラーケギルディはぬうっ、と激しく動揺し怒り出した。

 

「そのような下品な物を好む者がアルティメギルにいるわけがない!…と言いたいところだが巨乳属性(ラージバスト)という下品な属性を吹聴する愚か者もアルティメギルには存在する…」

 

 誰か心当たりがあるのだろうか、遠くを見つめながら話すクラーケギルディ。

 なるほど、貧乳属性のエレメリアンと巨乳属性のエレメリアン。 アルティメギルでもそういう派閥があるっていうことか。

 ちょっとだけアルティメギルの情報を聞き出せたし、今日は最初から本気で倒してやる━━━ッ!!

 私はアバランチクロー構えながらクラーケギルディに走り出す、ヤジウマが周りにいる以上、アバランチクローを飛び道具としては使えない。 本来の使い方で、近接格闘!

 しかしクラーケギルディに向かっている途中、何故か腹部に強い衝撃が走り、後ろに飛ばされた。

 

「ぐっ……!!」

 

 ヤジウマの近くまで飛ばされてしまったようだ。

 まさか、今まで一度もまともにダメージを受けたことはなかったはず。自分で防御出来ていたのもそうだがフォトンアブソーバーという強力な防護膜が私の周りには張っているというのが大きいだろう。

 しかし、初めてフォトンアブソーバーを突破されもろに体にダメージがきてしまった。

 

(今、何をした……の…!?)

 

 もう一度、クラーケギルディを見てみる、するとさっきまで力なく垂れていた十本の触手に加え、無数の触手がクラーケギルディの後ろから出てウネウネして動いている。

 私が走り出した瞬間に触手を動かしテイルギアのおかげで強化されているはずの私の目にもとまらぬ速さの攻撃したのか…!?

 

『奏さん!大丈夫ですか!?敵の攻撃はフォトンアブソーバーのしきい値を越えています!』

 

 お、遅いよフレーヌさん……。

 

「で、できればもうちょい早く言って欲しかった」

 

 お腹をさすりながらゆらゆら立ち上がりフレーヌさんの通信に答える。

 まさかエレメリアンにこんな強い力があるなんて…テイルギアのせいでわからなかった。 でもそれほどこのテイルギアは凄いってことだ。

 

(仕切り直しだ!)

 

 再びアバランチクローを構えるとクラーケギルディは再度触手を動かし私に攻撃してくる。

 

「なっ!?」

 

 激しくせまり来る触手の攻撃はクラーケギルディにとっては軽いジャブのようなものだろう。 しかし私にとってはそのジャブ一つ一つが全て渾身のストレートのように思える、ガードするのが精一杯だ。

 

(なんとか、アバランチクローがあたる間合いまでつめないと…!)

 

 しかし、激しい触手のジャブに全く前に進むことができない。

 激しく続くジャブに左腕のアバランチクローが耐えられず吹き飛んでしまった。 その一瞬を突かれまた触手が何本か体にヒットし、今度はさっきよりも遠く私の体はヤジウマの上を吹っ飛び建物に激突する。

 全身に激しい痛みが走るがなんとか今度も立ち上がることができた。

 その姿を見てか、クラーケギルディは感心したようにほう、と声を出すとまた触手の射程圏内へ歩いてくる。

 

「テイルホワイトが…」

「ホワイト様がやられちゃう…」

「お姉ちゃーん!!」

 

 だからいつからお姉ちゃんになったのよ。

 テイルホワイトが変態に手も足も出ない姿を見て、ヤジウマはようやく恐怖を感じたのか私達から徐々に離れていっているようだ。

 

「何人も隊員を倒してきたと聞いたが。テイルホワイトの力、過信し過ぎてしまったようだ」

 

 ゆらゆらと立つ私を見てクラーケギルディはさながらガッカリしたぞ、と言うように吐き捨てる。

 クラーケギルディは触手が届く場所まで移動すると今度は大きな二本の触手の内一本を私に食らわしてきた。

 三度飛ばされた私はアスファルトをうつ伏せの状態で抉り砕きながら滑走し、止まる。

 テイルギアつけてなかったら顔がえらいことになってるなこれ…。 ますますテイルギアに感謝しないと…。

 

『奏さん!!』

『奏!!』

 

 通信が入り2人の声が聞こえてきた。

 返事をせず私は両腕を使い地面からからだを起こす。

 するとポタッと地面に血が垂れ出した。

 頭から出てるようで激痛が走る。

 

(ったく、こんな血が出たら髪の毛が赤く染まっちゃうよ……)

 

 テイルホワイトならぬテイルレッドってか、全然面白くない。

 クラーケギルディ……強すぎる。

 文字通り私はクラーケギルディに手も足も出ない。

 

『撤退してください!これ以上は危険です!奏さん!!』

 

 フレーヌさんがかなりの大声で叫ぶ。

 撤退。

 今の私じゃ絶対あのクラーケギルディには勝てない。 でも、私の心が目の前の怪物から撤退することをよしとしなかった。

 私が倒れると、この世界を守れる戦士がいなくなってしまう。 絶対に負けるわけにはいかない。

 気づくと腕や肩についている装甲があまりの衝撃のためか所々欠けてしまっている。 それはクラーケギルディがフォトンアブソーバーを破り攻撃を直に食らわせていることを証明するには充分だった。

 血が出ている前頭部を抑えながら私はまた立ち上がった。

 さっきまでとは違い、周りにヤジウマはいなくなったし、アバランチクローを投げつけることもできる。 しかしそんなことをしてアバランチクローが撃ち落とされてしまったら私は無防備なまま、またあの触手に攻撃されてしまう。

 次にあの二本の触手で攻撃されるとこの頭の怪我どころではないだろう。

 

『撤退してください!!!』

 

 耳元でフレーヌさんの声が響く。

 その言葉とほぼ同時にクラーケギルディも私に話しかけてきた。

 

「そんな状態でもまだ立っていられるか。あやつが惚れ込んだ理由が少しわかった気がするな」

 

 こいつ、アルティメギルのくせに人間の親みたいな表情したな。

 

「これまでだ」

「なっ!?」

 

 そう言うと、なんとクラーケギルディはくるりと後ろを向き歩いていく。

 

「何処に行く気!?」

 

 私はあらん限りの大声でクラーケギルディを呼び止めた。

 歩みを止め私に向かい合い、クラーケギルディは話しだした。

 

「傷を負わせてしまったことを詫びろう。 そしてシャークギルディやその部下たちにも私は詫びなければならん」

 

 クラーケギルディはなお続ける。

 

「それに貴様はもう限界のはずだ。 今の貴様では私を倒すことは不可能だ。 いつかまた、貴様が成長し、相見える日を楽しみしている」

 

 そう言い残すとクラーケギルディは再び私に背を向け漆黒の闇が見えるゲートを生成し、姿を消した…。

 

 ポツンとその場に残る頭から少し血を流す私、テイルホワイト。

 くそっ、負けた。

 見事に完敗した……。

 テイルホワイトが……私が…ボコボコにされた…。

 

「ああああああああああ━━━ッ!!!」

 

 自分への怒りと情けをかけられた事への情けなさで目の前の地面に拳を叩きつけていく。

 四、五発拳を叩きつけたところでやめ今度は魂が抜けたようにその場に仰向けで寝転び、空を眺める。

 エレメリアンをアルティメギルのことを弱い、弱いと思い闘っていた私が━━━。

 

 一番、弱かったのだ。

 

 

 クラーケギルディは基地に戻ると大ホールへ向かい歩いていく。

 テイルホワイトを傷物にした事を皆に詫びねばならないと思いながら。

 大ホールに近づいたところでクラーケギルディは誰かに呼び止められた。

 

「シャークギルディか」

「お見事な闘いぶりでした。あのテイルホワイトが手も足も出ずに完敗した…。流石です」

 

 シャークギルディはクラーケギルディを特に攻める様子もなく、ただ見事だったと言うだけだ。

 しかし、次にシャークギルディから衝撃的な出来事が語られる。

 

「ドラグギルディ様がある世界の戦士によって敗れました」

「何!? 誠か、それは!?」

 

 ドラグギルディ、アルティメギル幹部誰もが認める選ばれし正真正銘のツインテール属性の戦士が、ある世界のツインテールの戦士に敗れた。

 ドラグギルディを知る者からすれば全く信じられない話だった。

 

「そこでクラーケギルディ様の部隊をドラグギルディ部隊に合流させよとの報告がありました」

「ぬう、ドラグギルディを倒すツインテールの戦士か…。もしかすると私でさえ、敵わない相手やもしれぬ」

 

 テイルホワイトを圧倒し、敗北させたクラーケギルディをも凌駕する可能性のあるツインテールの戦士。

 これほどクラーケギルディを奮い立たせる物はない。

 

「今から合流に向かう。 シャークギルディよ、そなたならこの隊をまとめ上げ、あのテイルホワイトを倒す事もできるであろう。 遥か遠くの地で朗報が届くのを楽しみにしている」

「クラーケギルディ様…」

 

 クラーケギルディは誰よりも自分の弟子を部下を大切にする偉大な上司だ。 彼の羽織っているマントも彼の隊の部下から授かった物である。

 

「テイルホワイトの事は誰にも言わないでおこう。 何処ぞのデカイトカゲなどが目をつけるやもしれぬ」

 

 そう言い残すと大ホールとは反対側の通路に向かってクラーケギルディは歩いていく。

 

「先生…ご武運を!」

 

 去って行くクラーケギルディを見送りながらシャークギルディは初めて、ツインテールと貧乳以外で胸に熱く、熱く来る物を見つけた。

 

「BL……いいわぁ…」

 

 シャークギルディとクラーケギルディから離れたところで二人の話を聞いているエレメリアンがいた。

 ピンク色の体にウーチンギルディほどではないがトゲトゲしい体をしたエレメリアンはドラグギルディの訃報には目もくれずシャークギルディとクラーケギルディの絡みを鮮明に脳内に記憶し、廊下から消えていく。

 

「びーえるっ♪びーえるっ♪」

 

 長い長い廊下には何処までもその恐怖の歌が反響し、聞こえていた。

 

 

 クラーケギルディは旅立つ移動艇の中、テイルホワイトについて考えていた。

 そして移動艇の操縦をしているエレメリアンに向かって話しかける。

 

「私はテイルホワイトに相見える日を楽しみにしていると語ったが、それは叶わないかもしれぬな」

 

 クラーケギルディの言葉にすぐさま部下のエレメリアンは反応し、言葉を返した。

 

「テイルホワイトが成長せずにやられてしまうのならそこまでの戦士だったということでは?」

 

 部下の言葉が少しだけ沈黙を生むがすぐにクラーケギルディはフッと笑い、部下に返す。

 

「ああ、そうだな」

 

 遥か遠くの世界に旅立つクラーケギルディは一体何を考え、そう言ったのか、分かるものは本人以外誰もいない。

 




みなさんどうも、阿部いりまさです!
7話でとうとう原作組のクラーケギルディとの対戦です。
結果は小説の本文通りですが…。
これからしばらく原作組とはお別れかと思いますが、登場させる構想はありますのでどうかお楽しみに!
それでは。


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FILE.8 決意を新たに

クラーケギルディ
身長:292cm
体重:285kg
属性力:貧乳属性(スモールバスト)

シャークギルディの師匠であり、ツインテールの戦士出現を聞きシャークギルディ部隊に合流したアルティメギル幹部。
テイルホワイトを圧倒的な実力で圧倒する力を持つが、自身の奉ずる騎士道を邁進する堅物なことと、シャークギルディ部隊に手柄を横取りしないと約束したこともあり属性力を奪う事なく撤退する。
ドラグギルディの訃報を聞き、別の世界のツインテール戦士を倒すために奏たちの世界を去っていった。



 クラーケギルディとの激しい闘い、いやクラーケギルディによる激しいリンチのあと私はフレーヌさんの基地で怪我の手当てをしていた。

 テイルギアはやはりすごいもので、かなりの大怪我かと思ったのだが、目につく怪我は前頭部あたりだけだった。その前頭部の怪我もフレーヌさんの科学力で全治何週間かかかる怪我を三日ほどで跡も残らず綺麗に治るらしい。

 それともう一つ、クラーケギルディとの闘いで破損してしまった装甲は次に装着するときはピカピカに修正されてるらしく一体どんな科学力を使えばそうなるのか気になるものである。

 もちろん、怪我の治療が終わると。

 

「撤退してくださいといったはずです!! もしあのまま攻撃され続けていたらどうなるかわかっていたんですか!?」

 

 フレーヌさんにものすごい形相でお説教された。

 

「でも、奴は結局とどめもささずに属性力も奪わずに帰ったんだし」

「ただの結果論よ!!」

 

 論破された…。

 まったくそんな心配する必要ないのにさー……いや、私が無茶なことをしたのは私が一番わかっている。 クラーケギルディを思い出すと、また膝がガクガクしてきそうなくらいに、見事にトラウマを植え付けられてしまった。

 

「……ごめんなさい」

 

 きっと私は今までアルティメギルを舐めていた。 いや、きっとじゃないね、私は舐めていた、エレメリアンという生物を、アルティメギルという組織を。

 

「約束してください。 次に私が撤退の指示を出したら、どんな状況でも撤退すること。それと…」

 

 するとフレーヌさんは私を抱き寄せ、耳元で優しく話しかけてきた。

 

「自分を大事にして…」

 

 彼女の頬には涙がつたっている。

 抱き寄せて、優しい言葉をかけるのは年上の私の仕事なのに…。 こんなことされたら私も涙が出てきそうになるよ。

 

「私、まだ怒ってるからね」

「ごめんね…志乃……」

 

 フレーヌさんのせいで溜まっていた涙が、志乃のおかげで目から溢れ出してしまった。

 私がこれだけ泣いたのはいつ以来だろうか。

 

 

 テイルホワイト敗れる。

 翌日の新聞の見出しは私の予想通りだった。

 新聞どころではなく、TVでも、インターネットでもテイルホワイトがボコボコにされたことを大々的に報じていた。 しかし、おかしいのは記事と一緒に貼ってある写真である。

 敗れるという見出しに対して何故かアイシクルドライブを決めた瞬間のキメ顔の写真が使われている。

 逆に恥ずかしいからやめてほしい。どうせならボコボコにされてる写真のほうが……。

 ちょうど今、またテイルホワイトに関するニュースが流れている。

 

「負けちゃったんだ、テイルホワイト」

 

 お母さんが洗濯物をたたみながらさも興味のなさそうにお昼のワイドショーをみてそう言う。

 

「ところで奏、その怪我どうしたの?」

 

 テイルホワイトの後にいきなり私に話をふられて少しだけ慌ててしまった。

 

「う、うん。 ちょっと体育で頭うっちゃって…」

 

 気をつけなさいよ、と呆れ半分で笑いながら言うと洗濯物を持って二階へ上がっていった。

 ふう…急に話をふるからイマジンチャフの効果が切れたのかと思った。

 再びTVに目を向けると、なんとテイルホワイトではなくエレメリアン、それもクラーケギルディが写っている。

 どうやらこのワイドショーの視聴者が撮影し投稿したものらしい。 テイルホワイトが映像に写っていないところを見ると私が駆けつける前みたいね。

 

『貧乳こそ至高なのだ!』

 

 TVに投稿された映像内で、私に言ったことと同じようにクラーケギルディは貧乳、貧乳言っているようだ。

 いつか、クラーケギルディに勝ってみせる。

 あの程度で私が闘いを拒否るようになると思ったの?私は闘い続ける!

 そして、貧乳戦士、クラーケギルディを私が倒してやる━━━━ッ!

 自分の中で新たな決意を固めた。

 

 

 週明けの月曜日、高校は騒然としていた。

 原因はやはりテイルホワイトがアルティメギルによってボコボコにされ敗北した、ということだろう。 教室のそこら中からテイルホワイトに関することが聞こえてくる。

 

「ホワイト平気かな…」

「くそっ!こうなったら俺がテイルホワイトのお世話をしてやる!」

「バカ!テイルホワイトはあれでも丈夫なんだぞ!あの程度でお世話が必要になるわけないだろ!」

「あー!テイルホワイトはどうしたんだ!早く怪物でてこい!!」

 

 テイルホワイトが負けると周りがどんな反応するのかが一番怖かったけど、特に気にする必要もないかな。何にも変わってない……ほんとになんにも。

 ただ、気になることがある。

 クラスメイトの一人が言ってたように、テイルホワイトがクラーケギルディにボコボコにされた翌日から、またアルティメギルに動きがない。 今度は一体、どんな準備をしているのか……。

 

 昼休みを迎え、帰りの時間になっても周りの話題は変わらずテイルホワイトを心配する内容ばかりだ。

 この場にいるとなんか気まずいしさっさと帰ってしまおう。

 

「ねえねえ、寄りたいところがあるんだけど」

 

 一緒に帰ろうとしていた志乃に教室を出たあたりで呼び止められた。

 

「学校内だから!行こっ!」

 

 そう言って私の手を引き、志乃は走り出した。

 コラコラ、廊下は走らないよー。

 志乃に手を引かれて私が来たところは、部室棟の一階の端っこ、使われていない教室の前だ。

 こんなところに使われていない教室があるなんて全く気づかなかったな…。

 どうぞ、というジェスチャーをするのでドアノブを捻り、ドアを手前に引く。 この後に起こり得ることが大体わかる私はエスパーにでもなってしまったのだろうか…。

 しかしドアを開けるとそこには、私の予想外の景色が広がっていた。…何も変わったところがないのだ。 普通にただの使われていない空き教室だった。

 何これ、新手のドッキリ?

 志乃のほうを見ると彼女は手を顔の前でフリフリした。 どうやら違う違う、言いたいようだ。

 何が違うのかと空き教室を再びじっくりと見直して見るもやはり違いはわからない。

 埃まみれの床、カーテンが閉められた窓、つかない照明、使われていない机や椅子の山、全部空き教室にありそうだし、あっても不自然じゃない。

 

「では、説明しよう!」

 

 そう言うと志乃は空き教室に入り、二段に積まれた机の前に立つ。

 あ、よく見ると志乃が前に立っている机四つだけ他と積み方が違う。

 

「ポチッと、な☆」

 

 最後に星がつくような言い方で机の足を手前にガガッと引いた。 …ポチッとな、とはなんだったのか。

 机の足が扉を開くレバーになってたようで、積み上げられた机がガガッと奥に移動する。 すると地下への階段が現れた。

 

「おおー」

 

 思わず私は声を上げた。

 棒読みにならないように。

 

「では、カモン!」

 

 そう言うと志乃が階段をテクテクと降りていくので私も後に続きテクテクと降りていく。

 最初は石で囲まれる暗い通路を降りていくだけだったが徐々に通路が明るくなり、周りも機械的になってきた。 この演出は必要だったのだろうか……。

 階段は螺旋階段のようにくるくるしていて感覚的に二階ほど降りたあたりで目的地へ、フレーヌさんら私たちの基地へ到着した。

 実は私たちはいつもフレーヌさんのミニバンのような乗り物のトランクからこの基地へワープしていたため基地の場所を知らなかったのだ。

 知られたくないこともあるだろうというのはわかっていたから特に問い詰めもしなかったけど、こんな形で場所を知ることになるなんて。

 

「いらっしゃいませ〜」

 

 フレーヌさんが登場してきた。

 

「何回も来てるでしょ? でもまさか学校の地下に作ってたなんてね」

 

 私の疑問は次のフレーヌさんの回答であっさり解決した。

 

「はい、この学校の地下は地盤も硬く、基地を作るために必要なスペースもたくさんありましたので」

 

 ということは私たちが通う学校の下に学校と同規模なフレーヌさんの基地がある、という意味だろう。

 私や志乃はいつも、中央司令室みたいな大きなモニターがあるところしか来たことはないので、そんなに大規模な基地だったとはある意味驚きだ。

 

「ちなみに他の施設としては、研究室や、トレーニングルーム、倉庫、私の部屋などが備わっています」

「トレーニングルームなんてあったんだ…」

 

 一度も使ったことなかった…。

 なんで今のタイミングでフレーヌさんが私に基地の場所を教えてくれたのは謎だけど、私にはこんなに大きなバックアップのための施設があることを再認識することができた。

 幾分か、前よりも気が楽になった気がする。

 でも一つ心配なことが。

 

「あの仕掛けが先生に見つかったらどうなるの? 説教どころじゃすまないよ」

「あの空き教室自体にイマジンチャフを張っているのでバレることはほぼありません」

 

 そうか、イマジンチャフのせいで私も上の空き教室の存在を知らなかったわけか。

 こりゃ気づかれることもなさそうだな。

 しかし、フレーヌさんは続ける。

 

「ですが、万一この基地の詳細がバレそうになった場合はあちらにある赤いボタンを押します」

 

 フレーヌさんが指した方向を見ると確かに赤いボタンがある。 上にガラス製のカバーをかけられ、デカデカとDANGERと書かれているが……。

 

「あのボタンを押すとこの基地と基地に関する全ての物がこの世界から消えて無くなります。 学校の下は空洞のままになりますが……」

 

 心配なことがまた一つ増えた。

 学校と同規模な穴が地下にあって学校が耐えられるはずがない。

 絶対あのボタンは押させないようにせねばならない。

打倒クラーケギルディとともにもう一つの決心を私は心に固めた。

 




どうも皆さん、阿部いりまさです。
毎度この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。
ストーリーはオリジナル主体なのもあって原作未読の方にもわかりやすいように書いているつもりなのですがいかがでしょうか?
私自身原作の話が大好きなので汚さないように書いていきたいと思います。
それでは!


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FILE.9 テイルホワイト状態異常

サンフィシュギルディ
身長:280cm
体重:240kg
属性力:膝裏属性力(クニーバック)

アルティメギルの老兵でシャークギルディ部隊の参謀。 若くして隊長となったシャークギルディの補佐をするためオルカギルディとともにシャークギルディ部隊に配属された。 戦闘力はあまり高くないかわりに非常に頭が切れる。 世界の属性力を奪う''ある作戦''には乗り気ではない。


 世界の狭間に鎮座する艦。

 シャークギルディ部隊のいるアルティメギル基地の大ホールではまたもや対テイルホワイトのための作戦会議と称してのテイルホワイトの鑑賞会が開かれていた。

 しかも今度はモニターだけでなく大ホールにいるエレメリアン一体一体の前に一つずつ、テイルホワイトのフィギュアが並べられている。 つい昨日、発売されたものかと思いきや、全て手作りのもだった。

 そして、大ホールの中央のテーブルでシャークギルディは口を開く。

 

「皆の者よ、手元にあるテイルホワイトをよく観察し、必ずやテイルホワイトの対抗策を見つけるのだ!」

 

 クラーケギルディが無数にある何本もの長い触手でテイルホワイトに勝利した。 この事実はシャークギルディにしか知らされていなかった。

 相手の弱点を自分たちで見つけて、倒してこそ、意味があるのだとシャークギルディは考え、テイルホワイトのフィギュアを部下に配り、自分たちで見つけることを待っていた。

 しかし、部下から最初に聞こえてきたきた言葉はシャークギルディの望む言葉ではなかった。

 

「隊長! 私のテイルホワイトの腰の装備の造形が間違っていますぞ!」

 

 部下からきた言葉はテイルホワイトのフィギュアの出来が悪いということを意味していた。

 それを皮切りにして、大ホールのあちこちのエレメリアンからテイルホワイトのフィギュアに対しての文句が飛び交うようになった。

 

「私のは左手の装備が…」

「我のは色が違う」

「なんと…ツインテールの長さが左右で違います!」

 

 次々と上がる自分の前にあるフィギュアへの文句。

 何人かの意見を静かに聞いていたシャークギルディは突然立ち上がり自分の前にあるフィギュアを上へ高々と持ち上げる。

 

「急遽作らせた物ゆえ、各隊員不満もあるだろう。しかし、装備の色が違うからといって弱点が見つけられるのか!? 顔が現実とかけ離れていたからといって、テイルホワイトの弱点を見つけられぬと言うのか━━━ッ!!」

 

 将として、部下たちのフィギュアに対する不満も充分にシャークギルディは理解していた。 しかし、今はそんなことをしてる場合ではない。 クラーケギルディがすぐに見つけてしまったテイルホワイトの弱点をすぐにでも部下たちに気づいてもらいたい。 その一心で自らの心を鬼とし、部下たちに厳しい言葉を浴びせた。

 若者ながら一部隊を任されているからこそ、クラーケギルディに期待されているからこそ、将としての責任を全うする、そう決意した。

 しかし、彼の掲げているテイルホワイトのフィギュアは完璧というほど綺麗に、丁寧に作られていた。

 そのフィギュアをさらに高く掲げシャークギルディは話す。

 

「テイルホワイトの属性力を奪った者にはこのフィギュアと今までのテイルホワイトの戦闘データから抽出した最良の動画を進呈するぞ」

 

 そのシャークギルディの言葉に大ホールにいるエレメリアン達の目が変わった。

 先ほどまでうるさいほどだった大ホールはシャークギルディが話した瞬間から静寂が訪れ、皆熱心にテイルホワイトを研究し始めていた。

 静かになった周りの雰囲気を確かめシャークギルディは装飾されすぎた椅子から立ち上がり、大ホールの中央から離れて座っているあるエレメリアンの元へ歩いてくる。

 あるエレメリアンの前に立つとシャークギルディは少し躊躇いながら口を開く。

 

「……コーラルギルディよ。次はお前が出撃するのだ」

 

 コーラルギルディ。

 ピンク色でゴツゴツしながらトゲトゲしい体だが、体はシャープでそれはまるで女性を思わせる体型をしている。

 コーラルギルディは他のエレメリアンのようにテイルホワイトのフィギュアを観察しておらず、粗末に扱っていた。

 その代わりコーラルギルディが読んでいるのは何やら男と男が絡み合っている表紙の本だ。

 

「ええ? アタシがぁ?」

「うむ。 他の隊員がテイルホワイトの弱点を見つけられない以上、アルティメギル四頂軍の一つ、貴の三葉(ノー・ブル・クラブ)に所属していたこともあり、実力もある貴様に頼るしか他はあるまい」

 

 シャークギルディの放った言葉を聞き、興味なさげに「ふーん」と返事をするとコーラルギルディはそっぽを向き口笛を吹き始めた。

 一部隊の隊長に対し、いかに無礼な行為をしているか、シャークギルディは理解しているだろうが何も言わない。

 

「ま、いいかな。 その代わり帰ってきたら美味しい展開をヨロシクお願いしますよ? 隊長さん」

 

 本をヒラヒラさせてそう言うとコーラルギルディは席を立ち、手に持っていた本を置くと歩き始めた。

 シャークギルディはその言葉の意味を理解しているのだろう。 体をブルブルっと震わせ、廊下に消えていくコーラルギルディを見送った。

 

「やはり一度でも貴の三葉に行くと興味を持ってしまうものか…」

 

 コーラルギルディが置いていった本をみて、シャークギルディはぽつりと声を漏らした。

 

 

 ボタンを押させまいと新たな決意を心に固めてそのおおよそ三秒後、基地のアラームが鳴った。

 アラームを聞きフレーヌさんは急いで階段を上がりキーボードのようなものカシャカシャ操作しだす。

 

「エレメリアンが出現しました!」

「まさか、クラーケギルディ?」

 

 志乃がフレーヌさんに質問する。

 前と同じようなパターンだしクラーケギルディが何かしらの準備をしてきたと考えるのは何ら不思議ではない。しかし、私はクラーケギルディじゃないと確信していた。

 

「ううん。成長して相見えるとか言ってたしクラーケギルディじゃないと思う。さすがに早すぎるでしょ?」

「確かに属性力はクラーケギルディほど大きくはありませんが気をつけてください」

 

 うん、とフレーヌさんの言葉に私は頷き一旦深呼吸をし、私は変身コードを呟く。

 

「テイルオン……!」

 

 全身が光に包まれ、私はテイルホワイトに変身した。

 なるほど、確かに言われた通りクラーケギルディに壊された装甲もしっかりと新品同様修正されている。 ここまでくると科学じゃなくて魔法なんじゃないだろうか。

 手の感触を確かめるため、動かしたあと拳を握りしめ空間跳躍カタパルトに入った。

 フレーヌさんが「転送っ!」と叫ぶと周りが光に包まれ、やがて私はエレメリアンが出現したといわれた男子校に転送された。

 男子校、男子校に転送?

 

「ねえフレーヌさん。 今まで女の子の属性力を狙ってたことしかないと思うんだけど…」

『うーん、エレメリアンと遭遇して言動を見ないとよくわかりませんね』

 

 とりあえず私は男子校の中庭から屋上までひとっ飛びし、屋上に着地した。

 屋上から校内を見渡すとガラス張りにされている屋内プールにエレメリアンを発見し、すぐさまプールへと向かう。プールへの入り口の扉を開け私はエレメリアンに向かって叫んだ。

 

「二日間現れないで、しかも今度は男子校に現れるとか何考えてるわけ?」

 

 屋上から見たときは気づかなかったがプールサイドにいる今回のエレメリアン、体の色がピンクで今までに倒してきたやつと比べるとやけにシャープな体型をしている。これって男の体っていうより、女っぽいような……。

 

「ふんっ! いつ来ようがどこに出ようがアタシの勝手でしょう?」

 

 ア、アタシ!?

 目の前のエレメリアンは確かに自分のことをアタシと言った。

 どうやら女型のエレメリアンで間違いなさそうだ。 女型なら男子校に現れた理由も異性の属性力を欲しているためだとなんとなくわかる。

 

『まさか女型のエレメリアンがいたとは…』

 

 フレーヌさんもどうやら知らなかったらしく驚きの声を上げていた。

 女型のエレメリアンは頬を少し痒いた後、口を開いた。

 

「アタシの名前はコーラルギルディ! この世で最も美しくかつ、誰もが持つ可能性のある雀斑(フレークル)をこよなく愛する者よ」

 

 コーラルギルディ、確か……珊瑚のことか。 しかし、フレークルの意味がよくわからない。

 

『フレークルは雀斑。ニッチな属性力を持ったエレメリアンもいるもんだねー』

 

 志乃が感心したように話した。

 雀斑か、確かに雀斑が好きって人はあまり見ないかも。 ……勝手な意見だけど。

 でもなんで志乃はそんなことを知っているのか……謎だ。

 フレークルについてと何故志乃がフレークルについて知っているのかを考えているとコーラルギルディが口を開いた。

 

「さあ、さっさとあんたの属性力。いただこうかしら! 基地じゃ美味しい展開が……ジュルリ♪」

 

 コーラルギルディは口のような部分から涎のような物を垂らしそれを腕で拭う。 拭った手を背中にまわし、何本もある棘から一本を引き抜き私に突きつけてきた。

 武器を使うエレメリアン。 これも今までにないタイプだ。

 私はリボンに触りアバランチクローを手に装備……。

 

(え…)

 

 できなかった。

 確かにクローが手に装備される感覚はあったのだが、手を見るとクローは装備されていない。

 もう一度、私はリボンを触るも今度はクローが手に装備される感覚さえなかった。

 

「あれ?いつもの武器を使わないわけ。随分とアタシも舐められたもんねえ」

 

 コーラルギルディがそう言い、手を少し上げると後ろに黒い渦ができ中から例のモケモケがぞろぞろ出てきた。

 

「なんか拍子抜けしちゃったし、今日は帰るわ。 あとはヨロシクね」

「ちょ、まちなさい!」

 

 私の言葉を無視してそう言うとコーラルギルディは極彩色のゲートを出現させ、モケモケを残しゲートへと消えていった。

 残ったのは渦から出てきたモケモケおおよそ三十体から四十体といったところが私の周りをぐるっと囲んでいる。

 

「とりあえず殴るしかないか!」

 

 構えをとると360度から一斉にモケモケがモケモケ言いながら私に迫ってきた。 ……構えをとるまで待っていてくれたのかな。 変な考えをした所為で微妙に力が抜けそうになるがなんとか踏みとどまり、全力でモケモケを殴る、蹴る。

 

(なんか前よりもモケモケが強くなってるような…)

 

 初めて変身したときは一撃だったのに今は二、三発攻撃しないとモケモケを倒せなくなっている。

 モケモケを一体ずつ地道に二発、三発攻撃し倒していきようやく残り一体となった。

 

「ていっ!」

「モ、モケ━━━━ッ!?」

 

 今まで倒してきた分の渾身のパンチをお見舞いすると最後の一体は一発で爆散した。

 ふう、と一息ついたところでフレーヌさんに話しかける。

 

「なんかモケモケが強くなってる気がするんだけど…」

『……』

 

 何故かフレーヌさんは返事をしなかった。

 

「まあいいわ。基地に戻してくれる?」

 

 フレーヌさんにそう言うと再び視界が光で覆われ、次に目を開けると変身は解かれ、先ほどまでいた男子校ではなく基地に戻ってきていた。

 




どうも皆さん、阿部いりまさです。
今回はこれといって特に書くこともなく、しかし後書きを空白にするのもなと思い書いています。
……本当に書くことがないので皆さんにお礼をいいお別れです。
いつもこの小説を読んでいただき本当にありがとうございます。 原作をまだ読んでいない方がいらっしゃいましたら俺ツイはもっと熱く、もっと面白い作品ですのでどうか読んでみてはいかがでしょうか?
それでは。


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FILE.10 ツインテールな意思

オルカギルディ
身長:294cm
体重:310kg
属性力:保護服属性(ウェットスーツ)

シャークギルディを補佐するためにサンフィシュギルディとともに部隊に配属されたエレメリアン。 戦闘力が低いサンフィシュギルディとは対照的に、戦闘力は高く、シャークギルディに匹敵すると言われる。部隊に配属されたのは最近だが、将となる前のシャークギルディを知っている数少ないエレメリアン。 属性力を奪う''ある作戦''には肯定的。



 基地に帰ってきた私は変身を解除していたのだがフレーヌさんに言われて、またもテイルホワイトに変身した。

 

「これでいい?」

「はい。もう解除してもらって結構ですよ」

 

 フレーヌさんの許可が下りたので私はまた変身を解除しテイルホワイトから伊志嶺 奏となった。

 フレーヌさんはしばらく顎に手をあて考える人のポーズをとりゆっくりと口を開いた。

 

「アバランチクローが出せないといい、戦闘員が強くなったように感じたり、もしかしたらテイルギアに異常があるかも知れません。一度私にテイルギアを預けさせてもらえますか? おおよそ一時間ほどで終わると思いますので…」

 

 もしフレーヌさんの言う通りテイルギアに異常があるのだとしたら断る理由はない。 忘れかけてたけどテイルギアも科学でできた機械、メンテナンスが必要ないわけないのだ。

 それについさっきコーラルギルディが出てきたばかりだし、しばらくエレメリアンも出てこないだろう。

 

「うん、ありがと。お願いするね」

 

 手からテイルギアを外しフレーヌさんに預ける。

 預けたと同時に何か小さいカードのようなものを代わりに手渡された。

 

「簡易型のイマジンチャフです。 一応持っておいてください」

 

 エレメリアンに私の属性力を認知させないためにか。 今までもテイルギアがその役割を果たしてくれていたおかげで私は属性力を奪われずに済んでいるわけだ。

 自分では信じられないけど一応私はテイルギアを使えるほどのツインテール属性を持っているらしいし、イマジンチャフは常に携帯しとかないとね。

 私のテイルギアをもちメンテナンスルームに入ろうかという時、志乃がフレーヌさんを引きとめた。

 

「もう嫌だよ。 奏ばっかり辛い思いさせて私だけ安全なとこで闘いを見てるだけなんて…」

「志乃?」

 

 私に言葉を返さずに、志乃はさらに続けた。

 

「だからお願いフレーヌさん! 私も闘いたい! 奏と一緒に闘いたいの!」

 

 志乃の言葉を聞き、メンテナンスルームの扉の前に立っていたフレーヌさんはテクテクとこちらに歩いてきて志乃の肩に手を乗せた。

そして暗い顔で話し出す。

 

「残念ながらあなたにはテイルギアを扱うほどのツインテール属性はありません。 それに、テイルギアを作るためにはツインテール属性をコアにする必要があります。 テイルギアのためのツインテール属性が無い以上、テイルギアをもう一つ作ることは出来ないのです」

「……」

 

 志乃はわかっていた、と思っているような顔をしている。

 志乃に無理だ、と伝えたフレーヌさんはしばらくするとまたテイルギアのメンテナンスのための部屋に入っていった。

 部屋の中に居るのは私と志乃だけになり沈黙が生まれる。

 みると、志乃はまだ暗い顔をしている。これは……何か声をかけなければ!

 

「志乃、私は平気だよ。 今回はちょっとテイルギアの調子が悪くなっただけみたいだし、強いって思ったのはクラーケギルディくらいだし」

 

 今はこれしか言えない。

 志乃は助けてたいと言ってくれるけど、私もこんな闘いに親友を巻き込みたくないのだ。

 

 

 ほどなくしてメンテナンスルームからフレーヌさんが出てくる。

 予想よりもかなり早く三十分とたっていないのだけど。 この速さならイマジンチャフを借りなくても良かったんじゃないかな。

 フレーヌさんは扉の前から私たちがいるテーブルまで来てテイルギアをテーブルに置き、自分も座ってから話し始める。

 

「テイルギアを調べましたが…これといって異常は見られませんでした」

 

 テイルギアに異常はなかった。

 つまりアバランチクローが出てこなかったり、モケモケが強く感じたのは一体何だったのだろうか。

 原因を考えている中、続けてフレーヌさんが話す。

 

「考えられることが二つあります。一つはテイルギアの故障や異常、もう一つは…装着者自身の異常です」

「装着者って、私自身の異常……!?」

「テイルギアは装着者の意思によって構築し、力を引き出します。 おそらくアバランチクローが出てこず、戦闘員が強く感じたのは意識が弱くなっているか、もしくは…」

「「もしくは?」」

 

 めずらしく志乃とハモった私だが今は「ハモったー!」とかやっている暇はない。

 次にフレーヌさんは驚くべき言葉を口にする。

 

「ツインテール属性そのものが消えかかっている、ということかも知れません」

 

 私自身の異常…つまり私のツインテール属性がなくなってきているからテイルギアの力をうまく引き出せなかった、こういうことなのか!?

 でも、私はツインテールが嫌い。この考えは変身前も変身後も変わらず持っている。 闘いを始めたのもツインテールで起こるくだらない闘いを止めるため。 その理由もずっと変わらない。

 じゃあなぜ、今更テイルギアの力を引き出せなくなっているんだろう…。

 私がうーん考えているとフレーヌさんが話しかけてきた。

 

「安心してください。 今回の原因はツインテール属性が消えかかっているからではないと断言できますので」

「え、どういうこと?」

 

 するとフレーヌさんは胸ポケットから一昔前の体温計のようなものを取り出し先端を私に向けた。 赤い液体がみるみる体温計のようなものの上に上がっていきカンストした。

 

「これは小型の属性力検査機です。相手にこの先端を向けることでその人の属性力と属性力の強さを調べることができます。 ちなみに今はツインテール属性を検査したところ見事にカンストしました。初めて変身した頃と全く変わっていないのでツインテール属性が消えかかっているわけではありませんね」

 

 フレーヌさんの言うことが正しいなら、問題は前者の理由、私の意思のせいでテイルギアの力を引き出せないということになる。

 一体なんで……。

 沈黙した後、志乃が話し出した。

 

「奏には失礼かもしれないけど、クラーケギルディのことなんじゃ…」

 

 クラーケギルディ、圧倒的な力でそれまで全勝だった私をねじ伏せた恐怖の貧乳好きエレメリアン。

 クラーケギルディについてはいつか絶対倒してやると決心したはずだし、理由はそれじゃない気がするんだけど。でも気がつかないうちにひょっとして…。

 

「もしかしたら私、エレメリアンが怖くなって、力を出せなくなってる……?」

 

 自分で思ったことをそのまま斜め前にいる二人に話した。

 圧倒的な力を持ったエレメリアンにボコボコにされたことでエレメリアン対する恐怖が私の知らない心の奥に植えつけられているのかもしれない、そう思った。となると、これは私自身で解決すべき問題なんだ。

 

「次にエレメリアンが出てきたときには今まで通り、闘ってみせるから!」

「…わかりました。 ですが前も言った通り危ない状況になったら…」

 

 次の言葉が何かわかり私はフレーヌより先にその言葉を話す。

 

「撤退、ね」

 

 テイルギアを手にはめながらそう話すと、席から立ち上がり私は学校の空き教室へと続く階段へと歩き出す。

 

「奏……」

 

 後ろで志乃が私の名前を呟いたとき、手にはめているテイルギアがほのかに暖かくなり、光ったような気がした。

 

 

 シャークギルディは大ホールへと続く暗い廊下を歩いていた。

 後ろで何かの気配を感じた、シャークギルディは歩を止めると後ろにいる者に話し始める。

 

「やけに早い帰還だな、コーラルギルディ」

 

 そう言われ廊下の陰から出てきたのはアルティメギルらしくない配色をしているエレメリアン、コーラルギルディだった。

 

「まあね。 テイルホワイトが本調子じゃなかったみたいでどうもテンション上がらなくて、困りますよ」

「そうか。 だが、その状態のテイルホワイトなら属性力を奪うことはできたのではないか?」

 

 その言葉にすぐさまコーラルギルディは返答した。

 

「それじゃ面白くないので。 私は面白い闘いをして満足した後、属性力を頂きたいんです」

 

 コーラルギルディのその言葉にシャークギルディはフッと笑い再び大ホールに向かって歩き始めたが、コーラルギルディはシャークギルディの後をついていこうとせず大ホールとは逆の方向へと歩いていった。

 シャークギルディが大ホールに着くと部下のエレメリアン達が相変わらずテイルホワイトのフィギュアとにらめっこしながら弱点探しをしていた。

 

(遠距離が弱点ということがここまで難しいものか……)

 

 クラーケギルディのようなアーチの長い触手などがあればテイルホワイトを圧倒できるが、そのような強力な触手を持っている部下はあまりいない。 触手を持たぬものもいる。 しかし、いくらでも対処のしようはあるのだ。

 

(しばらく、コーラルギルディに任せるとするか…)

 

 部下達が弱点を探している間に、実力のあるコーラルギルディに対テイルホワイトを任せ、あわよくば属性力を頂く。 今の部下達の状況ではこうすることしかできなかった。

 しかし、そのコーラルギルディもかなりの気分屋だ。 気にくわないことがあったり、気分が変わったといって出撃しないこともしばしばであまり戦力として計算できないのだ。

 シャークギルディが苦悩しているそんな中、一体のエレメリアンが席を立ち、大ホールの中央のシャークギルディの椅子までやってきた。

 龍のような外見をしながらも幼さが残るそのエレメリアンは話し出した。

 

「私はもう我慢できません! テイルホワイトの銀色の髪を見る度に、全身に震えがきてしまうのです! どうか出撃の許可を!!」

 

 そのエレメリアンの言葉を聞いて、静かにテイルホワイトを鑑賞……研究していた大ホールのエレメリアン達はざわざわと騒ぎ出した。

 テイルホワイトを否定するエレメリアンが出たのは初めてだったのだ。

 コーラルギルディでさえ否定はしておらず興味無さげなだけだったが明確に否定の意を表したのがこのエレメリアンが初だ。

 

「静まれ!」

 

 シャークギルディが力強く言うと大ホール内はまたも静かになった。

 

「シーホースギルディよ貴様の覚悟しかと受け取った。 出撃を許可する」

「ありがとうございます!」

 

 シャークギルディの言葉に深々と一礼し、そのエレメリアン、シーホースギルディは大ホールから早歩きで出て行った。

 

「よろしいのですか、隊長」

 

 サンフィシュギルディがシャークギルディに当人達にしか聞こえない小さい声で話しかけた。

 

「ああ、できればこんなことはしたくないがな。 我も将として、アルティメギルに属しているのだ」

 

 冷静に、冷徹にシャークギルディはそう話した。

 シャークギルディの言葉を聞き、サンフィシュギルディはうつむき暗い顔をしている。

 シャークギルディが涼しい顔をしているその内に苦悩を秘めていることは誰にもわからなかった。

 




どうも皆さん、阿部いりまさです。
とうとうこのお話も第10話まで続けることができました!本当にありがとうございます!!
本編では最近暗い雰囲気が進んでいますので後書きくらいはハイテンションでいかせてくれると助かります!
それではみなさん、次回お会いしましょう!


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FILE.11 新たな進化?テイルホワイト

コーラルギルディ
身長:221cm
体重:236kg
属性力:雀斑属性(フレークル)

アルティメギルでは珍しい女型のエレメリアン。その特徴ゆえ、以前は貴の三葉に所属していたこともありそこでBLを学んだ経験を持つ。
かなりの気分屋で、自分の気にくわないことがあるとすぐに機嫌を損ねてしまうためシャークギルディからも問題児として扱われている。純粋な戦いを楽しむように見えるが……?


 学校から出て、家へと向かっていると前に男子の集団がいるのを見つけた。

 サッカー部だ。 なぜわかったかと言うと集団の中に嵐君やクラスのサッカー部連中がいるから。

 特に、本当に興味はないけど何んの話題で盛り上がっているのか気になるので聞き耳をたてると、どうやらテイルホワイトのことのようだ。

 そのことは特に驚きもしないけど、驚くべきことはあった。

 あの嵐君がテイルホワイトの話題に嬉々として入っていってるのだ。

ポニーテールが大好きだと公言していたけど、テイルホワイトの影響なのだろうか……。

 なんの話題かもわかり特に興味もなくなったので角を曲がり自分の家の方向へと向かうことにした。

 勘違いされているかもしれないから一応言っておくと私は嵐君のことが決して好きなわけではない。 むしろ嫌いな部類に入る。 大っ嫌い。間違いない事だし、断言できる。

 ま、嵐君の話はまた今度。

 家に向かって進み、また角を曲がると誰かにぶつかってしまった。

 

「あっ、ごめんなさ……い!?」

「いや、私こそテイルホワイトを探していてな。 不注意だった」

 

 曲がり角に立っていたのは何やら龍みたいな顔をしたエレメリアンだった。

 そのエレメリアンは私に謝った後タタタッと走り出したかと思えば三メートルくらいのところでまたも止まり話しかけてきた。

 

「あなたは素晴らしい黒髪の持ち主だ。 どうか茶色や金色に染めないようおすすめする」

 

 私に意味不明のアドバイスをするとまた龍のようなエレメリアンは走り、先の角を曲がり消えた。

 て、ボーッと見送っている場合じゃないか。

 私は周りに誰もいないことを確認しテイルブレスを胸の前に構え、変身コードを叫ぶ。

 

「テイルオン!」

 

 無事テイルホワイトになったことを確認すると家の屋根を飛び越え未だに走っているエレメリアンの前に着地した。

 

「どうやら私を探しているみたいだけど?」

 

 私の姿を見た途端そのエレメリアンは頭を抱えてわかりやすく苦しみだした。

 そして話し出す。

 

「や、やめろ! そんな色の髪を私に見せるな━━━ッ!!」

 

 エレメリアンはいきなり道路にあったポストを引っこ抜き、投げつけながら叫んだ。

 そのポストは避けるまでもなく、私の横を通過して地面に転がる。

 いやあ、私に対してここまで拒否感を露わにされるのは初めてだ。 ……私で属性ごとに変な妄想されるよりはいいんだけどさ。

 そのエレメリアンは頭から手を離すと私と目を合わせないように、じゃなく私の髪を見ないように話し始めた。

 

「わ、私の名はシーホースギルディ…。 誇り高き黒髪属性(ブラックヘアー)を持つ者! それ故に、そんな色の髪をしたあなたが許せん!」

 

 ブラックヘアー、黒髪!

 なるほど、テイルホワイトの状態だと髪は銀色だから見たくないのか。逆に変身前は私の髪は黒いからさっきは褒めてくれたわけね。

 それにしても髪の色に関わる属性は初めてかもしれないな。 本当に色々な属性があるもんだ。

 

「悪いけど、あんたの希望だけでこの髪を黒に変えるわけにはいかないわね!」

 

 ビシッとシーホースギルディに指差した後に私はフォースリボンに触れ、アバランチクローを装備……できなかった。

 やはり両手に装備される感覚まではあるものの、アバランチクロー自体が私の両手には存在していない。

 

(なんでダメなの!?)

 

 本当に私が心の奥でエレメリアンを恐れるようになってしまったのだろうか。

 

「む、武器も使わず私を倒そうというのか? なら私も正々堂々、拳で勝負するとしようか」

 

 そう言いながらシーホース両手を胸の前で合わせた。

 なんか勘違いさせてしまったらしい、しかし相手が武器などを使わずに闘ってくれるなら好都合だ。

 地面を蹴り、私はシーホースギルディの近くまで接近しまず一発相手にパンチをかました……はずだった。パンチは間違いなく決まっているのにシーホースギルディは平然と仁王立ちしたままだ。

 モケモケと闘ったときよりもさらに私は力を出せなくなっていたのだ。

 

「くっ!」

 

 私は一度バックステップし、また地面を蹴ると、今度はシーホースギルディの足に蹴りを入れる。が、これも全く効いておらず、シーホースギルディは先程と変わらぬ姿勢だ。

 

「テイルホワイトがこの程度とは。 敗れた仲間は銀色のツインテールに見惚れすぎていただけのようだ!」

 

 パンチを繰り出してくるシーホースギルディ。私はガードするもクラーケギルディの時よりは少ないがフォトンアブソーバーを超え直にダメージを受ける。 この手がジリジリと痛む感覚……クラーケギルディが脳裏に浮かぶ。

 

「だが私は違う!黒髪でないツインテールなど邪道以外のなにものでもないっ!!」

 

 苦しむ私にさらに言葉を投げかけるシーホースギルディ。

 先程までと違い、途端に体が重くなったような気がする。 本当に私はテイルギアの力を引き出すことができなくなってしまった。

 立ち上がることのできない私にシーホースギルディは止めと言わんばかりにこちらに優然と走り込んでくる。

 やられる━━━そう思った瞬間シーホースギルディの辺り一面を無数のトゲのようなものが降り注いできた。

 攻撃に怯むシーホースギルディの前にもう一体エレメリアンが現れる。

 

「コーラルギルディ……!?」

 

 シーホースギルディの前に立ったピンク色のエレメリアンはコーラルギルディだった。

 驚愕するシーホースギルディは落ち着いた後、コーラルギルディに話しかけ始めた。

 

「何をするつもりだ。 隊長の許可のない単独行動は重罪だぞ!」

「悪いわね。アタシは、どうしてもフルパワーのこの娘と闘いたくてね。今やっちゃったらつまんないわよ。それにアタシは無許可で出撃してないしー」

「失せろ! 私がテイルホワイトを倒し、黒髪こそが正義だと隊の皆に気づいてもらうんだ!! 」

「しょーがないわねえ」

 

 そう言うとコーラルギルディはあの背中の剣を抜き、私ではなくシーホースギルディに突きつけた。

 

「正気か!?」

 

 シーホースギルディは訴えるもコーラルギルディは剣を突きつけたままどんどん近づいていき、刺さるか刺さらないかの距離になった。

 しばらく両者とも何も話さずただ相手を睨みつけるだけだ。

 

「アタシの楽しみを奪うのは許さないよ」

 

 目にも留まらぬ速さで剣をシーホースギルディへと突き刺すコーラルギルディ。

 あまりの速さに反応できなかったシーホースギルディは驚愕の表情を浮かべているのだろう。

 じきに体から放電が始まるシーホースギルディ。

 

「この…反逆者め…!!」

 

 その言葉を最後にしてシーホースギルディは爆散した。

 エレメリアンが自分の仲間を倒した。 まさかの展開に口を開けずに驚愕することができなかった。

 極彩色のゲートを生成し、消えようとするコーラルギルディ。

 

「まって! 何が目的なの?」

 

 私の言葉に反応しピタッと止まりこちらを向くコーラルギルディ。

やがて口を開く。

 

「いったでしょ?アタシはフルパワーのあんたと闘いたくてね」

 

 また極彩色のゲートへ向かって歩き出すコーラルギルディ。

 このままコーラルギルディを逃してしまっていいのか、仲間を平気で自分のために倒してしまう奴が、今度は人間の属性力を奪うだけでなく、その他の危害を加えないとは断言できない。

 そう考え、気づいたら私は立ち上がりコーラルギルディと極彩色のゲートの間にいた。

 こいつを返すわけにはいかない、今ここで私が倒す。

 

「私は闘える。今すぐ闘いなさい!」

 

 少しの沈黙の後、コーラルギルディは背中から剣を取り出し、前のように私に突きつける。

 同時に私の背中にあった極彩色のゲートもなくなり、どうやら私と闘う気になったらしい。

 

「はあああああああ━━━━ッ!!」

 

 私はコーラルギルディに飛びかかりパンチしようとするもするりとかわされ逆にコーラルギルディのパンチを背中に受けてしまった。

 一度は倒れたが私はすぐに立ち上がり今度はコーラルギルディに蹴りを入れ、持っていた剣を吹き飛ばすもコーラルギルディ本体にはダメージを受けている様子は全くない。

 続けて私はコーラルギルディの体に連続してパンチを繰り出すも全て掌で受け止められてしまって、やはりこれもダメージを当たれられていなかった。

 

「私は恐れてなんかない!!」 

 

 渾身の一撃をコーラルギルディの胸元にめがけて繰り出すも、簡単に掌で受け止められてしまった。

 拳を握りしめたコーラルギルディは片腕の力だけで私を持ち上げ地面に叩きつける。

 テイルギアの力を引き出せない私とコーラルギルディじゃこの力の差だ。

 顔を上げるとコーラルギルディは私を見下しながら話し出した。

 

「ふん、 一瞬期待したけど、結局まだじゃない、ガッカリ。 それにアタシ達が怖いとか怖くないとか、たった一人でアルティメギルに立ち向かおうなんて無謀すぎんのよ!」

 

 自分の無力さを痛感し、幻滅した。

 そうか……私がいくら闘ったところで何体ものエレメリアンがやってくる。

 無駄…なんだ、たくさんの人が捨てていくゴミをたった一人で拾うことのようなもんだ。

 アルティメギル相手に私一人で闘ったところで……無駄なんだ。

 

 

 奏の後を追って、基地と学校から急いで出てくるも志乃はなかなか、奏に追いつけないでいた。

 小走りで奏を探しながら角を曲がろうとすると、テイルホワイトと一体のエレメリアンがいるのを志乃は発見する。

 

(奏!)

 

 まるで勝負がついた後のような光景に志乃は思わず両手で口を覆うのと同時に、ウーチンギルディ以来まじかで見るエレメリアンの迫力に圧倒され一歩後ずさりする。

 

(奏はこんなのと闘っていたの……)

 

 志乃は改めて自分は何もできておらずただ安全なところから闘いを見ていただけなのだと、感じていた。

 志乃はどうしていいのかわからず陰から二人を見ていると何やらコーラルギルディがテイルホワイトに向かって話しかけているのに気づく。

 

「たった一人でアルティメギルに立ち向かおうなんて無謀すぎんのよ!」

 

 ハッキリと聞こえたその言葉は志乃にはありえない言葉だ。

 テイルホワイトは、奏は一人で闘っていない。 志乃だって、それに志乃以上にフレーヌも一緒に、闘っている。

 それを再確認した志乃にもう恐怖は感じられなかった。

 志乃は陰から飛び出し、音に気づいて志乃の方を向くコーラルギルディに向かって言葉を放つ。

 

「一人じゃない! テイルホワイトは一人で闘ってなんかいない!!」

 

 

 いきなり陰から志乃が出てきてそう言った。

 ''テイルホワイトは一人じゃない''

 そうだ、コーラルギルディの言葉に乗せられて自分を見失うところだった。

 

「そうね、私は…」

 

 私は、私一人だけじゃここまでこれなかったんだ。 陰からサポートし続けてくれた二人にいつも救われてきた。 私は一人で闘ってなんかいない。

 一人でゴミを拾うのが無駄なら三人で拾って限りなく無駄をなくせばいい!!

 だから━━━━

 

「━━私たちはみんなで一人のテイルホワイトなんだあああ!!!」

 

 自分でも驚くくらいの速さでパンチを繰り出した。 コーラルギルディはとっさに腕でガードするもその腕から放電がはじまり驚愕する。

 

「ぐあっ!!」

 

 たまらず距離をとるコーラルギルディ。

 これだ、初めてテイルホワイトになった時のような感覚。

 私はもうエレメリアンを恐れることなどない。

 私の大切な仲間がいるから!

 迷いが完全に吹っ切れた瞬間、右腕のテイルブレスから眩いばかりの閃光が走り出し、その閃光は一つの線となって志乃へと向かっていき、志乃と繋がった。

 

「これって…!」

 

 瞬間驚くほど、次に起こることが容易に頭に浮かび実行に移す。

 

「あなたの属性、借りるね!」

「うん、使って!!」

 

 テイルブレスから志乃へと続いていた光の線が消えまたテイルブレスが激しく閃光し、ツインテール属性を表すエンブレムとは違う、ある属性のエンブレムへと変わった。

 エンブレムが変わり、先ほどとは比べものにならないほど強い閃光が走り、私は''変身''した。

 

「ま、まさか!?」

 

  変身した私をみて驚愕するコーラルギルディ。

 

「すごい…」

 

 歓喜の声を上げる志乃。

 普通のテイルホワイトとは違い、装甲が一新され、上半身と下半身それぞれに新たな装甲が追加された。

 そして最大の特徴は、ツインテールでないこと。

 変身した私の髪型は志乃と同じ髪型の一つ、三つ編みへと変わっていた。

 

「ツインテールの戦士が、ツインテール以外にするとはねえ…」

「私はツインテールが嫌いなの。 あわよくばツインテール以外の髪型ならどんな髪型にしてもいいってくらいにね!」

 

 腰から背中に移行した装備から激しく蒸気と炎が噴射される。

 頭を動かし、サイドにある三つ編みを後ろに回すと早速闘う体勢に入り、この形態の名前を高々と宣言する。

 

「━━━━これが私たちの絆の証、テイルホワイト・トライブライド!!」

 




みなさんどうも、阿部いりまさです。
ある問題が発生しました。
なんとツインテールの話なのにツインテールじゃなくなるというありえない事態です。
実はこの変身は前々から考えていて、是非実行したいという思いのもとそうさせてしまいました。
ツインテールを嫌っている奏ならではの変身ですね。
私の我儘をどうか許してください!
それではまたの機会で。


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FILE.12 白き三つ編みの戦士

テイルギア(フレーヌver.)
フレーヌが基地に残されていたデータから作り出したツインテール属性を核として装着者の属性力と共鳴し生成される対エレメリアン用強化武装。深海や宇宙空間でも変わりなく運用出来るが時間制限あり。オリジナルよりやや性能は劣る。 テイルギアを作り出すには核となるツインテール属性がいるのだが、どこから手に入れたのかは今のところ不明。


 かつてない力が頭から足の先、身体中を駆け巡るが、それでも収まりきらない力が私の周りを冷気として覆っていた。

 ダイヤモンドダストのような光景に誰もが、私自身でさえも目を奪われていた。

 ただ髪型が変わっているだけではなく、上半身下半身ともに新たな装備が追加され、重装甲となったテイルギア。

 間違いなく、私と志乃の力でテイルギアはパワーアップしていた。

私の変化に嘆声を上げ、話し始めるコーラルギルディ。

 

「へえー! 三つ編みの力……いいじゃん、楽しみだ!」

 

 コーラルギルディは背中から一本だけでなく、二本三本とどんどん剣を取り出していき私に投擲してきた。

 二本、三本と避けるが、最後に投げた四本目を私は捕まえ自らの武器として、今度は私がコーラルギルディに突きつけた。

 

「さあ、これがあんたが見たがっていたお望みのフルパワーだよ!」

 

 肩の装甲から蒸気ではなく猛吹雪が噴出し私の持っているコーラルギルディの剣を包み込んでいくと、その剣は形を変えていく。

 変形が終了すると細い剣は重々しい銃器へと変わり私の右腕に装備された。

 

「甘い! そんな重いもの持ってるとアタシの攻撃避けられないよ!!」

 

 二本の剣を両手に構え、私へめがけて次々と切りつけてくる。 が、私は攻撃を避けようなんて思っていなかったのだ。

 頭から腰にかけてのパーツが重機のように強固になったのに加え、新しい武器でガードすることにより、猛攻から私を守ってくれていた。

〈フロストバンカー〉

 私の弱点である遠距離戦をカバーするために咄嗟に考え、私が創り出した新たな武器だ!

 強力な光線を放出する砲を中央に、その周りにはマシンガンの役割を果たし、光線を連続発射できる小さな砲が二つ付いている。 身体の外側に位置する部分には自分の身体と武器を守るためのシールドもついている。 完全遠距離特化型の武器!

 

「ちっ、硬い!」

 

 そうだ、シールドはものすごい強度を誇る。 故にこのシールドで相手を叩けば絶大なダメージを与えられるってこと!

 コーラルギルディが怯んだ一瞬を見逃さずフロストバンカーを体に叩きつけると同時に真ん中にあるメインの大きい砲から光線を発射させる。

 

「ぐああっ!!」

 

 少しタイミングがずれ、光線はコーラルギルディをかすめるだけだったが相当なダメージは与えられたはずだ。 その証拠にコーラルギルディの体は時々放電を起こして、火花が散っている。

 発射した光線は空に向かっていきある程度の高さまで届くと花火のように爆発した。 ……なんだこれは。

 

「くそっ!出てきなさい!!」

 

 再びコーラルギルディの後ろにあの黒い渦が現れモケモケが十数体出てきて私の周りを取り囲む。

 

「楽しませろと言ったわりに、モケモケに頼るわけね」

 

 私の言葉に耳を貸そうとしないコーラルギルディ。

 モケモケはジリジリと距離を詰めて来る。しかし、恐れることはない。

 私はフロストバンカーを上へと構え、メインの光線を発射し、空中で弾けさせると、いくつにもなった光線がモケモケをめがけて落下し次々とモケモケを倒していき、秒と経たずに渦から出てきたモケモケは全滅した。

 対峙する私とコーラルギルディ。

 よく見るとコーラルギルディは体をプルプルと震わせていた。

 

「こうなったら…全力を出すぞ!あばずれがああああああああああッ!!!」

 

 コーラルギルディはシーホースギルディを倒した時のような無数のトゲと剣を私に向けて放って来る。

 

「それが自分の仲間を倒したあんたの本性か!!」

 

 今度はメインではなくサブの光線二つを発射し、私に向かって飛んでくる無数のトゲと剣を撃ち落とし、破壊していった。

 驚愕するコーラルギルディ。

 奥の手も通用しないとわかったコーラルギルディは私から視線を外した。 奴の目線を辿ると志乃がいる……まさか!?

 

「三つ編みの根源を潰してやる!!」

「や、やめてっ!!」

 

 コーラルギルディは志乃に向かって私にやったような奥の手を使い次々とトゲと剣を飛ばしていく。

 私は咄嗟にメインとサブの光線全てを発射させる。

 ダメだ。 角度的に全部は撃ち落せない!!

 そのまま、志乃のいた場所には何本ものトゲや剣が地面に突き刺さってしまった。

 志乃……!

 しかし、そこに志乃の姿はなかった。

 やがてフレーヌさんから通信が入る。

 

『志乃さんを基地へと転送しましたので無事です!』

「ふう、ありがと……」

 

 志乃の無事を知り安堵するのと同時にコーラルギルディに対する激しい怒りが奥底から込み上げてきた。

 まさか、一般人である志乃から先に狙おうだなんて。

 絶対に許せない。

 

 

 志乃は気づくとフレーヌの基地へと転送されていた。

 

「間に合いました……」

 

 志乃が声の主の方へと顔を向けるとせわしなくキーボードのようなものをタイピングしている。

 

「イレギュラーな事態で、テイルギアの解析をしていて、連絡する暇がありませんでした。 ごめんなさい」

 

 志乃に話しかけながらフレーヌは機械を操作し、必死にテイルホワイトに起きたことを解析している。

 もはやテイルギアはフレーヌの知るものではなくなっているため、少しでも今のテイルギアを理解する必要があった。

 フレーヌがテイルギアの解析を進めている今もテイルホワイトとコーラルギルディは激しい戦闘を繰り広げているのが画面から痛いほど伝わってきている。

 

「出ました!」

 

 ターン!とエンターキーを押すように大きいボタンを押すと一番大きな画面に今のテイルホワイトの見取り図のようなものが映し出された。

 

「奏さん、聞こえますか? その形態になれたのは志乃さんの三つ編み属性とテイルギアが繋がったからです。 今はその形態を維持できていますが志乃さんが近くにいなくなってしまい三つ編み属性がテイルギアに送れなくなっています」

「私と繋がった!?ていうか送れなくなったって…」

『つまりあんまし時間はないわけね』

「はい……。もってその形態はあと三十秒もないかと思われます」

 

それはあまりにも短すぎる時間だと、フレーヌも志乃も感じた。 しかし、闘っている奏はそう思わなかったようだ。

 

『それだけあれば、充分!』

 

 自信を持ち、力強く、奏はそう話した。

 

 

「くそっ! こんなはずじゃなかったのに……!!」

 

 徹底的に光線で攻め、近づいてきたら力の限り叩きつける。

 地面に力なく手をつき、絶望しているのか、コーラルギルディはそう言う。

 

「今までのエレメリアンは私以外に刃を向けたことはなかった」

 

 コーラルギルディは話しかけると顔をこちらに向けた。

 圧倒的な力を見せつけられたクラーケギルディでさえ、周りのヤジウマに手を出そうとはしなかった。 いくら属性力を奪ったとしても、建物や車を破壊しても、人間を傷つけるような真似だけはしなかった。

 いつしか私はエレメリアンに一種の信頼のようなものを寄せてしまっていたのかもしれない。でも、その信頼は目の前にいるエレメリアンによってバラバラに砕け散った。

 

「悪いけど、あんたを倒すことに躊躇いなんてない!」

 

 私は必要なくなった一つのフォースリボンをフロストバンカーに装填する。

 これが今の私のフルパワー!!

 

「ブレイクレリ━━━━━━ズ!!」

 

 渾身の一撃を叩き込むために咆哮とともにフロストバンカーから新たなる猛吹雪が吹き荒れる。

 

「このクソガキ━━━━ッ!!!」

 

 身の危険を感じたのかコーラルギルディは私に向かい突進を始める。

しかしもう遅い、必殺技の準備は完了し、今まさに放たれる!!

 

「クレバス━━━━」

 

 メインの光線とサブの光線が一緒に放たれると三つ編みのように絡み合いコーラルギルディに迫ると直撃し、貫通した。

 

「ドライブ━━━━━━ッ!!!」

 

  光線が貫通するのと同時に背中から蒸気と炎が吹き出し、光線を列車のレールのようにしてコーラルギルディの胸元に一瞬で滑り込み、フロストバンカーで渾身の右ストレートを叩き込む。

 殴られた反動で数十メートル後ろに飛ぶコーラルギルディ。

 すでに体のあちこちから放電が始まっている。

 

「ははは……。 このアタシが、こんな小娘にやられるなんて…。ツインテールと三つ編みを使いこなすなんて、何者だよあんた」

 

 苦悶の声を上げながら質問してくるコーラルギルディ。

 

「ツインテールが大っ嫌いな、普通の高校生よ」

「へへ、そうかい。 三つ編み使いになったってのは私の秘密にしといてやる。 基地のアホどもには教えられないわ」

「……」

 

 私の言葉に満足したような表情をみせ、コーラルギルディは爆散した。

 最低な奴だった。

 仲間に手をかけるばかりか、人間にも手を出そうとするエレメリアンがいるなんて思わなかった。

 志乃が無事で本当によかった。

 三十秒が過ぎたのか私は気づくと変身がとけ、伊志嶺 奏に戻っていた。

 なんだか疲れがどっときた気がする。

 属性玉を回収し制服のポケットに入れた。

 

『お疲れ様です。 とりあえず今日は休んでください。 明日テイルギアに異常がないかチェックするので…』

「りょーかい」

 

 すっかりと夕陽に染まってしまった空の下、私は再び帰路へとついた。

 

 

 世界の狭間に浮かぶアルティメギルの基地の大ホールはいつもより一際ざわざわしている。

 シーホースギルディがコーラルギルディの手によって倒されたこと、コーラルギルディがテイルホワイトに倒されたことが連続しておきたせいだ。

 しかし、大ホールの大きなモニターにはいつも通り、ツインテールのテイルホワイトが映っていた。

 

「コーラルギルディめ……!!」

 

 怒りに震え、拳をダンッとテーブルに叩きつけるオルカギルディ。

 今度はサンフィシュギルディが続けて話す。

 

「隊の仲間を倒してしまうばかりか、テイルホワイトにも敗れるとは最悪な結果です」

 

 オルカギルディとは対照的に、サンフィシュギルディは落ち着き、機械を操作しながら淡々と話した。

 

「隊長である我の教育不足だった。 すまない、皆の者」

 

ひどく落ち込んだ様子で大ホールにいるエレメリアンに語りかけるシャークギルディ。

 隊長として、コーラルギルディの暴走を止められなかったこと、そのためシーホースギルディを犠牲にしてしまったことを反省しているのが、周りから見てもひしひしと伝わってきた。

 さらにシャークギルディは続けた。

 

「コーラルギルディは取り返しのつかないことをしてしまった。 しかし、奴も我の部下であり、この隊の仲間だ。 皆の者よ、テイルホワイトの属性力奪取を今一度、頼みたい」

 

 椅子から立ち上がり、あろうことか隊長であるシャークギルディが頭をさげ大ホールにいるエレメリアンに頼み事をした。

 隊長の態度に最初は戸惑いを隠せなかった大ホールのエレメリアン達だが、やがて何処からか返事が聞こえてきて、次々に賛同の意をあげ始めた。

 隊長と部下の絆はまた強くなり、基地にいるエレメリアンはより一層テイルホワイトの脅威となるだろう。




どうも皆さん、阿部いりまさです。
自分的に具体的なバトル描写をいれ、エレメリアンと闘うのはウーチンギルディ戦、クラーケギルディ戦に続き三度めとなります。
だがちょっと待ってほしい、この話だけじゃ三つ編みにした意味はないのでは?と思う方も多数おられると思います。
その辺はおいおい書いていくつもりなのでどうか……。
それでは次回、お会いしましょう。


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FILE.13 三つ編みの条件

属性力直結現象(エレメリンク)
コーラルギルディとの闘いにおいてテイルホワイトのテイルギアと志乃の三つ編み属性が繋がった事で起こった現象。
テイルギアは三つ編み属性の力を使えるようになり、外見もツインテールから三つ編みへ、武装も重装甲になるといった変化がある。
強く純粋な属性力でないと発動しないという難点もある。
しかし、上記の条件を満たせばエレメリアンともエレメリンクできる可能性がある。

超認識攪乱装置(スーパーイマジンチャフ)
フレーヌが認識攪乱装置(イマジンチャフ)を元にして新たに開発した強化版。
従来のレーダーには属性力の反応もせず、フレーヌのもつ超認識攪乱装置探査レーダーにしか反応が出ないという優れもの。
この装置によりテイルホワイトの正体の露見はさらに守られる事が可能となった。 


 私は新たなる力、三つ編みによってコーラルギルディを倒す事ができたと同時に心の中に密かに存在していたエレメリアンに対する恐怖を振り払う事ができた。

 テイルギアにフレーヌさんの想定していなかったイレギュラーな事態が起きてしまったため翌日、私と志乃は揃ってフレーヌさんの基地へと足を運んでいた。

 放課後になるとすぐに基地へと直行し、今はテイルギアをもう一度フレーヌさんの案でメンテナンスを行っている最中だ。

 メンテナンスルームに入ってからすでに二時間は経過していた。 どうやら相当今回の事態はフレーヌさんにとっても想定外かつ、不可思議なもののようだ。

 

「それより、なんであの時出てきたの。 結果的になんとかなったけど…」

「どうしてもあの言葉が許せなくて…。 テイルホワイトは一人で闘っているっていうやつね」

「まあ、そっか…」

 

 志乃のおかげで私は再びテイルギアの力を引き出す事が出来るようになり、さらに三つ編みという新たな形態を使えるようにもなった。 でも志乃の行動はあまり褒められたものじゃないのだ。

 

「昨日の夜、電話でも話したけどもうやめてね」

「ええ、もうしません!」

 

 妙に軽いノリで心配だ…。

 しかし、今回の事で志乃はアルティメギルに顔を覚えられた可能性が高い。コーラルギルディは秘密にしておくといっていたがやつのことだ、信用はあまりできない。 というより信用したくなかった。

 

 それからほどなくしてメンテナンスルームの扉が開きフレーヌさんが出てきた。 右手にはテイルブレスが握られているが、左手には見覚えのない黒のテイルブレスのようなものが握られていた。

 私と志乃がいるテーブルに着くと着席し、フレーヌさんは話し出した。

 

「まず、このテイルブレスをお返しします」

 

 スッと私の前に出されるブレス。 特に変わったようなところもなくどうやら今まで通り使えるということだろう。

 でも、私も志乃も気になるのは左手に握られていた黒いテイルブレスのようなものだ。

 フレーヌさんは黒いテイルブレスのようなものを今度は私ではなく志乃に差し出す。

 

「こちらは志乃さんに」

 

 志乃はそれを受け取るとキラキラと目を輝かせ始めた。

 

「もしかして、変身できる!?」

「いえ、できません」

「ですよねー……」

 

 一瞬の出来事だった。

 キラキラ輝いていた志乃は一瞬にして輝きを失い、黒いモヤのようなものが志乃に纏っているような気がする。 だけど、変身できないということはテイルギアではないということだ。ならその黒いブレスはなんなのだろうか。

 やがてフレーヌさんは話し出す。

 

「志乃さんに差し上げたのは自ら変身し闘うテイルブレスではなく、自分の属性力をテイルギアに送るものです」

 

 つまり、なんだろう。

 志乃の属性力を私が使えるようになる、ということであっているんだろうか。

 

「奏さんのテイルギアが志乃さんの属性力と繋がり今回の現象が起こったと考えられますが、志乃さんが近くにいなければやがてその繋がりは途絶えてしまいます。 その黒いブレス''リンクブレス''は遠いところからでも安定して志乃さんの属性力をテイルギアに送ることを可能にし、昨日のような時間制限がなくなるのです。 それと同時に志乃さんがどこにいても属性力直結現象(エレメリンク)を発動させることも可能となるハイテクメカです!」

 

 なるほど、昨日は近くに志乃がいたおかげでエレメリンクも時間制限もなかったわけだけど、属性力の持ち主である志乃が近くにいなくなると時間制限ができてしまった。 その問題を解消するのが黒いブレス''リンクブレス''なんだ。

 これはすごい。

 テイルギアのメンテナンスに苦戦してるのかと思ったけど、時間がかかっていたのはこれを開発していたからなんだ。

 早速志乃が腕にはめたリンクブレスを見てみると私のテイルブレスと色合いが逆なんだ。 全体的に白い部分が黒い部分に、青いラインが赤いラインになっている。 丸く青い部分は二つとも同じ色だ。

 …こう見ると妙に禍々しく、悪役が着けそうな色合いに見える。

 リンクブレスを手につけた志乃が嬉しそうにフレーヌさんに尋ねた。

 

「じゃあこれからは私も力を貸せるってことだよね!?」

「はい、変身はできませんけど…」

 

 フレーヌさんが申し訳なさそうに話すが志乃の表情は明るいままだ。

 

「少しでも奏の力になれるならそんなのどうでもいいよ!ありがと、フレーヌ!」

 

 さんを外され呼ばれたフレーヌさんはなんだか照れ臭そうに顔を赤らめた。

 

「あ、ありがとうございます…」

「もっと仲良くなりたいし、これからはフレーヌね! 奏もだよ!」

「うん、よろしくフレーヌ」

 

 私もそう言うとフレーヌはまたも顔を赤らめ、今度は下を向いた。

そんなに恥ずかしいんだろうか。

 未だにフレーヌは下を向いたままだ。

 しばらく下を向いていたフレーヌだったが急に何かを思い出したようにはっと顔を上げて話しかけてきた。

 

「あ、できればしばらくはエレメリンクは使わないでいただきたいのです。 まだわからない事が多く、テイルギアにもしもの事があるといけないので」

「うん、わかった」

 

 フレーヌが言う通りテイルギアにもしもの事があるといけないので意見には賛成だ。

 話は終わりかと思いきや、フレーヌはさらに話を続けた。

 

「それともう一つ、今までよりも強力な、超認識攪乱装置(スーパーイマジンチャフ)の開発にも成功したのでテイルギアとリンクブレス、それぞれに搭載しておきました。 なんと私の発明です!」

「すごいよ!フレーヌ!!」

 

 志乃は全力で喜んでいる。

 すごい、すごいけど、一体どれだけすごいのか私にはあまり理解できなかった。

 もしかして、今までのイマジンチャフでもエレメリアンに気づかれた事などなかったけど、それより強力になるんだからテイルホワイトの正体がバレる事はなくなるのかな。 それだと心強いな。

 それにしてもフレーヌには悪いけどネーミングセンスが安直……なような。

 

「それにしてもエレメリンクだとかスーパーイマジンチャフだとかなんか今までの名前と違う感じね」

「はい、テイルギアの基本装備の名前などを考えたのは私ではありませんから」

 

 名付け親が違うとネーミングセンスは異なるもんね。

 フレーヌのたった一言で済まされた説明は私を簡単に納得させた。

 

 

「クラーケギルディ様が、ツインテールの戦士により昇天されたとの報が入りました……」

「……」

 

 突然の部下からの報告。 何かと思えば、なんとシャークギルディの師匠クラーケギルディがツインテールの戦士により倒された、という衝撃的な事だった。

 シャークギルディはその報を聞いても動揺などせず、黙ったままだ。シャークギルディだけでなく、大ホールにいるエレメリアン全員が彼と同じように沈黙し、うつむいていた。

 やがてハア、と息をはいてシャークギルディは口を開いた。

 

「リヴァイアギルディ様の事や自分の理想の貧乳の姫を見つけた事などを聞いてから何も報告がなかった。 やはりそう言う事か……」

 

 薄々察していたという事なのか。

 シャークギルディはまた話す。

 

「クラーケギルディ様……いや、先生にあったのは我がまだ未熟な頃、貧乳をひたすら求めていた時だった。 先生は我に貧乳のなんたるかや、将としての言動、闘い方などいろいろな事を教えてくれたものだ」

 

 シャークギルディの言葉に部下たちはただ下を向いているだけだ。続けて話すシャークギルディ。

 

「この間、先生は旅立つ時に話していた。 ''遥か遠くの地で朗報が届くのを楽しみしている''と…」

 

 そこまで話すとシャークギルディは椅子から立ち上がり大ホールから出て行ってしまった。

 後に残された大ホールのエレメリアン達はどうしていいかわからず、結局また下を向くしかない。

 

「少し、休ませてやるか」

 

 オルカギルディが隣に座っているサンフィシュギルディにそう話しかけた。

 その言葉は、シャークギルディを隊長の座から一度下ろすことを意味している。

 オルカギルディはシャークギルディと長い付き合いをしているからこそ、彼の性格を知っている。 それと同時に彼がどれだけクラーケギルディを慕っていたのかも。

 わかっているからこそ、その提案をしたのだ。

 

「ですがもし、首領様やダークグラスパー様にこの事が伝わると…」

「おそらく、処刑されてしまう」

 

 ダークグラスパーとは、首領直属の闇の処刑人の事だ。

 不出来な部隊とダークグラスパーにみなされると隊長だけでなく、その部隊全員まで処刑されると噂される。

 

「シャークギルディの事を他の部隊に伝えぬよう、この場所にいる皆に願いたい」

 

 オルカギルディは大ホールにいる全てのエレメリアンに伝えた。

自分の心配をしているのではない。

 シャークギルディが将としての立場である以上、このままではいけないのだ。

 そう胸に秘め、オルカギルディは宣言した。

 

「本日より、シャークギルディに変わりこの俺がこの隊をしばらく率いる! だが、必ずシャークギルディは戻ってくる!その時までこの俺についてくるのだ!!」

 

 オルカギルディの命令に反対する大ホールのエレメリアンは誰一人いない。

 オオオオ……。

 そして大ホールのエレメリアン達は隊長が帰るその時まで、我らは闘うと、そう宣言したのだ。

 




みなさんどうも、阿部いりまさです。
前回の激しい?闘いからの説明回です。
前書きにも書きましたがテイルホワイトに新たな装備や装置が追加されました。
エレメリンクは原作の属性玉変換機構(エレメリーション)がフレーヌver.のテイルギアには存在しない事から登場させようと思った物です。
感想や質問等、お待ちしております。
それでは!


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FILE.14 異世界の戦士

テイルホワイト
伊志嶺奏がテイルブレスで変身した姿。氷、または雪をモチーフにし、操ることができる。奏の意思や、感情により戦闘力を高めていく。変身した際のイメージにより奏のより闘いやすい超近接型の戦闘スタイルとなっている。 ツインテールを維持するためのフォースリボンに触れることにより両腕にアバランチクローを装備することができる。 アバランチクローは近接格闘に非常に有効な他、クローを肩に装備しシールドにすることや敵へ投擲することができるなど広い活躍をする。

武器:アバランチクロー
必殺技:アイシクルドライブ


 シャークギルディ部隊のいるアルティメギルの基地の大ホールには珍しくオルカギルディとサンフィシュギルディのみがいた。テイルホワイトの観賞会、もとい作戦会議は終了し、解散したばかりのようである。

 クラーケギルディが他の世界で敗れた事により、彼を信頼していたシャークギルディは自信を失い将としての立場を忘れてしまっていた。 そこで昔から彼を知るオルカギルディが隊長代理としてしばらく隊を率いる事となったのだ。

 

「シャークギルディ殿はどうすれば元に戻られるのか…」

 

 シャークギルディが隊長となったのと同時にこの部隊に配属された老兵、サンフィシュギルディもオルカギルディと同じくどうすればシャークギルディは元に戻るのかを考えていた。

 

「幸いにも、闇の処刑人はクラーケギルディ様を撃破したツインテールの戦士がいる世界へと向かったと報告があった。 しばらくは、安心してもいいだろう」

 

 隊長が戦意を喪失してしまった事がもしも首領や闇の処刑人の耳に入ってしまった場合、シャークギルディはもちろんの事、もしかしたらこの基地にいる部下達までも処刑されてしまう。 オルカギルディはその事態だけは避けようとしている。

 

「しかし、クラーケギルディ様を撃破したツインテールの戦士も気になるな。 サンフィシュギルディよ、データはないのか?」

 

 そう言われ、サンフィシュギルディはパソコンのような物をいじるが、何十秒かたったとところで首を横に振りながら答えた。

 

「残念ながら、我が隊にデータは送られてきていないようですね」

 

 データがない以上、その戦士がどのような戦い方をし、どのようなツインテールをしているのかもわからない。

 気になるぞと言わんばかりにオルカギルディは貧乏ゆすりをする。

 

「データならありますぞ」

 

 大ホールの隅にある廊下から声がし、その方向を向くオルカギルディとサンフィシュギルディ。

 足音が大きく聞こえ、大ホールに姿を現したのは全体的に灰色で、所々に黒いしま模様が入っているエレメリアンだった。

 

「お前は、クラーケギルディ様の部隊のゼブラギルディか」

「はい。 クラーケギルディ様が生前にこのデータを届けるよう指示を受けておりまして、本日お届けに参りました」

 

 ゼブラギルディは右手に持っていたDVDのようなディスクをオルカギルディとサンフィシュギルディに見せながら話した。

 サンフィシュギルディはそのディスクを受け取ると早速パソコンに入れ、画面に表示する。

 

「おお……」

「見事なものですな…」

 

 パソコンの画面に映し出された画像を見て思わずオルカギルディとサンフィシュギルディは感嘆の声をあげていた。

 データと言ってもディスクの中にはその戦士の画像が大量に入っているだけだ。

 オルカギルディとサンフィシュギルディがパソコンの画面を食い入るように見ているとゼブラギルディは口を開いた。

 

「ドラグギルディ様を倒し、クラーケギルディ様、リヴァイアギルディ様を立て続けに倒した戦士です。 名は━━━━━テイルレッド!!」

 

 ゼブラギルディの話を聞き、思わずオルカギルディは立ち上がった。

 

「ま、まさか! テイルホワイトの仲間が別の世界にいたという事か!?」

「いえ、彼女はツインテイルズという仲間がすでにおり、別の世界に仲間がいる事を匂わせた事など一度もありません」

「ツインテイルズ…」

 

 やがてゼブラギルディはツインテイルズの説明を始めた。

 

「最初に現れたのがテイルレッド、ツインテイルズの中で最も強く美しいツインテール属性を持っており、あのドラグギルディ様も倒し、リヴァイアギルディ様とクラーケギルディ様が合体したリヴァイアクラーケギルディ様をも倒しました」

 

 ゼブラギルディからの説明を真剣に聞くオルカギルディとサンフィシュギルディ。

 

「次に…画像はありませんがテイルブルー。 一言で済みます、恐ろしい蛮族です」

「ううむ、画像がないとなんとも」

 

 画面にはテイルレッドしか写っていないので理解のしようがない。

 

「続いてテイルイエロー。 クラーケギルディ様を一時的に撃破した戦士です。 自らを辱めにかせる事により力を増す恐るべき戦士」

 

 ゼブラギルディからの説明が終わるとサンフィシュギルディが話し出す。

 

「それだけの戦士が揃っているに関わらずテイルレッドしかデータには入っていないのですか」

 

 サンフィシュギルディの言う通り、テイルレッドの仲間というツインテイルズは誰一人と写っていなかった。

 

「編集した隊員が言うには気付いたらこうなっていたと……」

 

 テイルレッドの魅力のせいで、無意識のうちにデータもテイルレッドだらけになってしまっていたと、ゼブラギルディはそう続けた。

 しかし、その言葉を聞いてもオルカギルディとサンフィシュギルディは特に驚きも、呆れもせずしゃーないという態度をとるだけだった。

 

「しょうがない。 ゼブラギルディよ、悪いがただちにテイルレッドの世界に行き、残りのツインテイルズのデータを持ってきてくれ」

「はい、ただいま」

 

 深々と頭を下げて返事をしてからゼブラギルディはオルカギルディの指示を聞き、大ホールから出て行った。

 テーブルの上にあるパソコンの画面には未だにテイルレッドの画像が表示されていた。

 

 

 まつげの事を熱く語り、属性力を奪おうとしたエレメリアンを私はアイシクルドライブで突き破った。

 

「もっと…もっと私にまつげを━━━━━━ッ!!」

 

 放電しながら断末魔を叫び、そのエレメリアンは爆発した。

 実は名前を聞くまでもなく倒してしまったので爆発したエレメリアンが何ギルディなのかは知らない。 でもおそらく、姿からすると海にいるなんかの魚のような感じだった。

 コーラルギルディを倒してからは私がテイルホワイトになったばかりの頃と同じような闘いが続いていた。

 昼夜問わずに一日ごとに現れ、変態的な発言をして属性力を狙うも私が倒す、というのが流れだ。

 今倒したエレメリアンの属性玉を回収するとフレーヌから通信が入った。

 

『おつかれさまです。 テイルギアに異常はなさそうですね』

 

 この前、私のテイルギアは志乃とのエレメリンクによって三つ編みの力を手に入れたが、そのイレギュラーな事態によってテイルギアに異常がないか毎回チェックしてもらっている。 故に、エレメリンクは今の所封印中だ。

 

「異常があってもフレーヌならすぐ直せるでしょ?」

『ふふん、そうですね!』

 

 冗談交じりに言ったつもりだったけど、どうやらフレーヌは自信過剰なところがあるようね。 まあ自分に自信があるのはいい事いい事。

 頼りにしてるからね、小さな天才科学者さん。

 

 

 基地へと帰還し、この日のテイルギアチェックを完了すると私はササッと帰宅した。

 リビングに入るとお母さんがおかえり、と私に声をかけ、私もただいま、と言ってソファに腰掛けた。

 リビングにあるテレビはついておりまたもやテイルホワイトの特集番組をやっている。

 

「そういえば、お母さん最近テイルホワイトばっか見てる気がする」

 

 何気なく私がそう言うとお母さんは嬉々として話し始めた。

 

「だってー、世界を守る戦士ってカッコいいじゃない。 私もそんな感じの役を映画でやってたし」

 

 娘の私でも忘れかけるけど、お母さんは元女優だったっけ。

 たまに女優だった頃に出演してた映画とかドラマとか、はたまたバラエティーとか見せてくるけど家と雰囲気が全然違うんだよね。 ……まあ二十年位前だし雰囲気が違うのはそりゃそうか。

 

「そういえば、最近買い物行くときツインテールの娘よく見るようになったわねえ」

「テイルホワイトのせいかもね」

 

 テイルホワイトのおかげなのか、せいなのか、最近巷ではちょっとしたツインテールブームになっているようだった。 毎朝登校する私もツインテールの女の子をよく見るしあの嵐もツインテールについて友達と話すほどに。

 私が答えるとお母さんは私を、いや私の髪をジーっと見ている。 視線に気づき何、と話すとお母さんは懐かしむような表情をしながら答えた。

 

「そういえば、奏もツインテールにしてわよねえ」

「うん、してたね」

「この際ツインテールブームに乗っかってまた挑戦しちゃえば?」

 

 ブームを作ったのは私のツインテールなんだけどね…。

 ただ、私はツインテールが嫌いだ。

 ツインテールにしているのも変身している間だけは妥協できるけど、普段の姿じゃもうしようとも思わない。

 

「そんな子供っぽい髪型はもうしませーん」

「そう言うと思った」

 

 予想どおり、といった感じでお母さんは笑いリビングから出て行った。

 未だテレビにはツインテールにした私、テイルホワイトが映っている。その後に近くにある鏡に目を向けるとツインテールにしていない私が映っていた。

 ちょっとだけ……。ゴムがないのでとりあえず、手でテイルホワイトのツインテールと同じ位置に髪を持っていき、ツインテールにしてみる。

 ……なんかテイルホワイトで慣れてるせいかそこまで久しぶりって感じもないし、もちろん感動もないし、普通に何も感じなかった。 違いがあるとすれば髪の色と長さくらいだけど……色が違うからなんだ?という感じだ。 ていうか今の私の髪の長さでツインテールにすると子供っぽさが加速している。

 しばらく鏡にうつるツインテールの私と睨めっこしているとリビングのドアが少し開いていることに気づいた。

 

「!」

 

 ……隙間からお母さんがニヤニヤしながら見ていた。 流石に元女優……ホラー映画のなんたるかをわかっている、怖い……。

 びっくりしたのと恥ずかしさで手を髪から話しツインテールじゃなくした。

 

「ち、違うの!これ違うの!!」

 

 自分でも何が違くて、何を否定したいのかわからくなり、また恥ずかしくなってまた繰り返す。

 

「いいの、いいの。 ブームに乗るのは悪いことじゃなくてよ」

「違うの━━━━━━ッ!!」

 

 自分でも今、私の顔が真っ赤になっているだろうとわかった。

 その後も私は、その日が終わるまでお母さんにこのことをいじられまくったのだった。

 

 

 ゼブラギルディがツインテイルズ全員のデータを持ってくるために基地から出ていていった一時間後には恒例の大ホール内での会議が始まっていた。

 天井からぶら下がっている大きな三枚のモニターにはいずれも今はテイルホワイトが映っている。

 緊急の会議にどよめく隊員たちにオルカギルディが席から立ち上がり説明を始めた。

 

「皆に集まってもらったのは他でもない。 新たな情報が入ったのだ」

 

 オルカギルディは目でサンフィシュギルディに合図をするとパソコンをいじりテイルホワイトの横にテイルレッドの画像を表示させた。

 その画像を見て大ホールはより一層どよめき出す。

 

「これが、ドラグギルディ様を倒し、クラーケギルディ様をも倒した戦士、テイルレッドだ!!」

 

 オルカギルディが戦士の名を叫ぶと同時に大ホールに居る隊員達も揃って戦士の名を口に出した。 

 

「テイルレッド……」

「美しい!」

「なんとこんな幼子が!?」

 

 個々の隊員に思うことはあるかもしれないが全員が一貫して思っているのはツインテールが美しいということだろう。

 

「テイルホワイトと同じかそれ以上にツインテール属性に満ち溢れている戦士と聞いた。 それに装備がよく似ている……今後闘うことになるかもしれん…覚悟しておけ!!」

 

 オルカギルディはまだテイルホワイトとテイルレッドの関係を疑っていた。

 ゼブラギルディによるとこの二人は仲間ではないらしいが過去これまでにたような装備で闘ってきた戦士はいないとわかっており、いつ闘うことになってもおかしくないと判断し、部下にテイルレッドを公表し注意喚起することが彼の目的だった。

 シャークギルディ隊長のいない今、隊長代理として彼が大切にしていた部下を守らねばならない、とオルカギルディは心に誓っていたのだ。




どうも皆さん、阿部いりまさです。
今回は全体的にエレメリアンのターンが多かったですね。実はエレメリアンサイドの方が書きやかったりもします。
そして今回は原作のテイルレッドが話の中でのみ登場しました。
さて、今後ツインテイルズ本人達が登場するのか。
それでは。


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FILE.15 体育祭とエレメリアン

テイルホワイト・トライブライド
テイルホワイトと志乃の純粋な三つ編み属性がエレメリンクしたことで発動したテイルホワイトの新形態。髪型が志乃と同じ三つ編みとなり、体の装備も重装甲へと変化し、超遠距離特化型となる。標準装備されている銃の他にもフォースリボンに触れることにより右腕に装備されるフロストバンカーは銃として使えるほか、必殺技時には近接武器としても使用できる。テイルギアに何らかの異常を起こす危険があるため、現在この形態になることは禁止されている。

武器:フロストバンカー
必殺技:クレバスドライブ


 パァン!

 スターターピストルの景気のいい音がなり、我が高校の体育祭は始まった。

 体育祭ともなれば、''それ''関連のエレメリアンが出てこないとも限らない。 うーん、例えばお転婆とか……違うかな。

 とにかく、私にとっては気の休む時間なんてこの体育祭にはないんだ。

 

「あまり神経質なのも問題ですよ、奏さん」

「フレーヌ、来てたんだ」

 

 フレーヌが言うには、体育祭ということで簡単にグラウンドに入って来ることができたらしい。 生徒の親や親戚なんかも見にくるわけだし、それはそうだろう。

 

「エレメリアンが出現したらすぐ連絡しますから、奏さんはパァーッと体育祭を楽しんでくださいっ!!」

 

 嬉しいけど、楽しんでくださいと言われるほど体育祭好きじゃないんだよねえ……。

 

「あっ、志乃さん走るみたいですね」

 

 フレーヌが指差す方を見ると志乃がスタートラインの手前に立ち手足をプランプランしているのが見えた。どうやらすっかりその気になってるようだ。

 先生がスターターピストルを天に構え、パァンという音を鳴らすと同時に志乃やその他女子が走り出す。

 なかなかの速さで走っていたように見えたけど志乃は六人中四位とまあまあの結果に終わった。

 

「おっしいですねえ。 結構接戦だったんですが……」

 

 指をパチンと鳴らしながらフレーヌは自分のことのように悔しがっていた。

 その後も徒競走は続き、あっという間に終わってしまった。

 

「ところで奏さんは何出るんですか?」

「本当は出たくなかったんだけど、一つだけでもって言われたから騎馬戦にだけ出るの」

「学生ならもっと楽しまなきゃ損ですよ?」

 

 え、もしかして今の私、歳下に説教されてる?

 まだ中学生の女の子に言われるなんて急に恥ずかしくなってきた。とりあえず鉢巻ちゃんと巻いとこ。

 私が慌てて首にかけていた鉢巻を巻いたのを見てフレーヌはニコッと笑いながら話しかけてきた。

 

「私の世界じゃ十五歳で成人を迎えてしまうんです。 長く学生として暮らせるこの世界が羨ましくって」

 

 なるほど、歳下のくせに妙にしっかりして大人びてると思ったらそんな理由が。

 でもまあ確かに、この世界も国によって成人を迎えるのはバラバラだし、他の世界となるとこの世界とは常識が違うのは当たり前なのかな。

 

「私の世界では成人して社会に出るのが早い分、心の成長も早いんですよねきっと、だから六歳の頃にはツインテールにするのが恥ずかしくなってきちゃったりするんです」

 

 聞いたことなかったけど、フレーヌは小さい頃ツインテールにしていたのだろうか。 今の言葉はツインテールにしていた頃の実体験だろうか。

 

「ねえ、フレーヌはツインテールにしてたことあるの?」

「いえ、私は小さい頃からずっと今の髪型のままです」

 

 鮮やかなオレンジ色の髪を摘んで、フレーヌは答える。

 意外な答えだった。

 ツインテールにしたこともないフレーヌがなんで他の世界にきてまでツインテールを守ろうとしているのか私には理解できなかった。

 私の考えを読み取ったかのようにフレーヌは話し続ける。

 

「私がツインテールを守ろうとしているのはきっとあの戦士に会いたいからです。 あの戦士の作ったテイルギアを使ってエレメリアンと闘っていればいつか私の前に現れる……心のどこかでそう思っているんだと思います」

「……」

「それにあの戦士が命をかけて守ろうとしたのがツインテールなら、私はそれを引き継いでもいいと考えているのです」

 

 いつになく真剣なフレーヌにどう言葉をかければいいのかわからない。

 フレーヌはツインテールを守るのは戦士のためだと言った。

 なら私は何だろう。 ……いや、考えるまでもない。 ツインテールのせいで起きているくだらない闘いを止めるため、最初からそう思って闘っている。

 フレーヌが己の信念を貫くのなら私も貫いてみせる。

 

「フレーヌの話聞けてよかったよ」

「ええ、聞いてくれてありがとうございます」

 

 うん、と私は頷くと自分の席へと歩き出した。

 グラウンドの反対側に応援席があるため二百メートルは歩かなくてはいけないのだが、私の足は途中で止まることとなった。

 

「あれって…」

 

 グラウンドの隅に生えている茂みに何か大きく白いものが動いているのがわかった。 たまにひょこっと顔を出しグラウンドの様子を伺っているようだ。

 間違いなくあれはエレメリアンだ。

 急いで私は校舎の陰に隠れ、誰もいないことを確認すると変身コードを口にする。

 

「テイルオン」

 

 一瞬眩い閃光が走ったあとに私は変身を完了させた。

 変身してすぐ、フレーヌに通信をいれる。

 

「フレーヌ、エレメリアンがグラウンドにいた。 今から倒しに行くから」

 

 フレーヌの通信を待たずに私は白いエレメリアンの元へかけ、まず一撃、相手が気づかないうちに打ち込んだ。

 

「ぬおう!!?」

 

 白いエレメリアンは衝撃で吹っ飛び、グラウンドを転がると、なんとトラックの中に入っていってしまった。

 突然の出来事に体育祭に参加している誰もが凍りつき、しばらくして声を上げ始める。

 

「怪物だ!」

「テイルホワイトが来るぞ!!」

「ホワイト様早く来てー!!」

 

 トラックの周りに座っていた生徒や敷地の外にいる通りがかった人たちもみんなテイルホワイトを呼び始める。

 よし、なら望みどおり出て行ってあげようじゃないか!

 とう、という掛け声とともに私は大きくジャンプし白いエレメリアンの眼前に着地した。

 

『おおーっと!なんとテイルホワイトが私たちの学校に駆けつけてきてくれましたー!!』

 

 競技の実況をしていた放送部の部員が私とエレメリアンの闘いを実況し始めた。

 

「テイルホワイト! 僕はただ見ていただけだったんだ、邪魔しないでよ!」

 

 白い…いや、白かと思った半透明なエレメリアンは私に向かって声を荒げ文句を言い始めた。

 そういえば、確かに属性力を奪おうとはしてなかったような…。

 

「折角だし、僕の名前を教えて上げよう! 僕はジェリーフィッシュギルディ、この時期に鉢巻属性(ヘッドバンド)を探すのは苦労したんだ!」

 

 ジェリーフィッシュって……ああ、クラゲだ!

 鉢巻属性なんてものもあるんだね。 確かに鉢巻なんて女子がするのは体育祭の時ぐらいだし、しかもこの時期じゃ体育祭やってるとこも少ないだろうし大変だったろうな。

 

『テイルホワイトの相手は半透明の怪物だ! この相手にテイルホワイトはどうやって闘っていくのか!?』

 

 どうにも集中しにくいが、周りに人がいるのはいつものことだし軽く捻ろう。

 私はフォースリボンに触れ、アバランチクローを両手に装備する。

 

「くらえ! 電気ショーック!!」

「え!?」

 

 ジェリーフィッシュギルディはなんと力なく垂れている触手から電気を放出し攻撃してくる。 が、なんとか私は直前でかわすことができた。

 電気が当たった地面を見ると多少焦げている、どうやら本物の電気らしい。

 

「久しぶりに王道の悪役っぽいやつが出てきた感じ……」

 

 すぐにジェリーフィッシュギルディに向かいアバランチクローを繰り出すが、それはスッと避けられる。

 私の言った言葉にジェリーフィッシュギルディは反応し答えてきた。

 

「ふふん、それだけじゃないぞ。 次は……麻痺毒!!」

 

 今度は正面から触手がでてきて目の前の私に突き刺そうとしてきた。

 咄嗟にアバランチクローの手甲でその触手を弾きなんとか命中せずに済み、すぐに体制を整える。

 弾いたそのクローで今度こそジェリーフィッシュギルディを叩きつける事に成功する。

 

「な!?」

 

 しかし、物凄い弾力でクローごと私は反対方向に弾き飛ばされてしまった。

 

「なあ━━━━ッ!?」

 

 トラックの端、おおよそ十メートルから十五メートルほどエレメリアンの弾力で吹き飛ばされていた。

 

『あーっと!テイルホワイト大丈夫か!?』

 

 実況うるさいぞ。

 えっと、今何があったんだろう。

 私が立ち上がると同時にフレーヌから通信が入る。

 

『どうやら今回のエレメリアンですが今まで通りの攻撃じゃ勝てそうにないですね。 アバランチクローを弾くということは必殺技も効くかどうか怪しいです』

「じゃあ、どうすればいい?」

 

 エレメリンクなら、そんな考えが私の中に生まれる。

 最悪テイルギアに異常が出てしまったとしても、学校の人たちの属性力を守れればまだマシだ。 少なくとも今のまま負けるよりかは。

 私が焦って考えを巡らせる中、フレーヌには秘策があるのか余裕のある声で話し出した。

 

『ふっふっふ、とうとうあの新技を使う時が来たようですね』

「新技!? 早く教えて!」

 

 ためにため、フレーヌは話した。

 

『その名も''オーラピラー''です!』

 

 初めてテイルギアをつけた時と同じように、驚くほど鮮明に頭の中にオーラピラーについてのイメージが浮かんできた。

 

「わかった!」

 

 十メートルほど先でジェリーフィッシュギルディはまたも電気ショックを撃ちだそうとしているみたいだ。触手をウネウネさせている。

 明確にオーラピラーを撃つという意思を持つと首の下あたりにある青い部分が発行し、その光は右腕につけているテイルブレスへと送られテイルブレスが激しく発光しだした。

 

「僕の勝ちだ! 電気ショ━━━━━━ック!!」

「オーラピラー!!」

 

 ジェリーフィッシュギルディが電気を放つのと同時にテイルブレスから白い光が発射され一直線にジェリーフィッシュギルディへと向かっていった。

 

『物凄いエネルギー波がぶつかり合っているーー!!』

 

 放ったオーラピラーと電気がぶつかると、ジェリーフィッシュギルディの電気をオーラピラーは飲み込み、そのままジェリーフィッシュギルディへと直撃した。

 

「う、うわあああ!!」

 

 ジェリーフィッシュギルディに当たった瞬間オーラピラーはドーム状に膨らみだす。

 それと同時にジェリーフィッシュギルディは放電しだしそのままドームの中で爆散した。

 

「すごい!テイルブレスから必殺ビーム出るんだ!!」

 

 さすがフレーヌだ、いつの間にこんな必殺技を開発していたなんて。しかし、機械越しのフレーヌはどこか自信なさげに話し出す。

 

『えーと、オーラピラーは敵をバインド……つまり拘束するためのもののはずですが……』

「そういえばゲームによくいたっけ、打撃に強くて魔法とかに弱い敵…」

 

 なんか拍子抜けしてしまった。

 オーラピラーと電気のぶつかり合いから静かにしていた我が高校の生徒たちも次第にざわつきはじめる。

 

「やったぜ!」

「ホワイト様素敵よー!!」

「もっとここにいてくれー!」

 

 とりあえず笑顔で周りに手を振って私はジャンプし校舎の屋上に着地した。

 変身を解くと、フレーヌから再び通信が入る。

 

『おつかれさまです。 オーラピラーに関してはこちらでもう一度、調査しておきますので』

「よろしくね」

 

 体育祭はまだ始まったばかりだというのに、私はとても疲れていた。

 これから競技が続き、私もやらないといけないなんて……。もう競技に出たようなもんじゃないのかな、ないね。




どうも皆さん、阿部いりまさです。
今回は体育祭です(ゼロに近いですが…)。
体育祭に関連のある属性力を考えていたのですが中々決まらず鉢巻属性というのものにしました。
そしてついにでました、オーラピラー!
原作のオーラピラーとの違いとしては、アニメ版のようにテイルブレスから発射する、相手に直接発射するなどですかね。
感想、質問などどんどん募集しています!
それでは。


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FILE.16 オルカギルディの決意

ゼブラギルディ
身長:277cm
体重:340kg
属性:襟巻き属性(マフラー)

クラーケギルディが他の世界の戦士に倒される前に奏の世界に送り込んだエレメリアン。
シャークギルディ部隊にクラーケギルディを倒したとされるテイルレッドの情報を持ち込んだ。




 いつもの会議をしている大ホールから遠く離れた薄暗い部屋に彼はいた。

 この世界の属性力奪取を任された部隊の隊長、シャークギルディ。

 彼は師匠であるクラーケギルディがツインテールの戦士に倒されたと聞いて一週間経った今も自信を失い、弱気になっていた。

 この一週間、彼はカチカチとマウスを動かし、熱心にパソコンを操作し貧乳図鑑なるサイトを閲覧する毎日をおくっていた。 もはやその目の中は輝き、野望、隊長としての威厳などは無に等しい状態である。

 貧乳図鑑を飽きるまで閲覧すると今度はツインテールと検索し、テイルホワイトの画像を探しだした。 画像検索をするものの中々自分好みの画像が出てこず、イライラし始める。

 

「無能め!」

 

 ダンッ!とパソコンの乗っているデスクを拳で叩くとシャークギルディはパソコンをシャットダウンし今度は部屋の隅にある棚の前まで歩く。

 棚から取り出したのは奏の世界で人気がある貧乳のアイドルの写真集だ。

 豪勢なソファに腰を下ろし写真集をにやけながらみるシャークギルディ。

 数十分間その写真集をみていたシャークギルディだが、扉をノックされ急いで写真集を棚に戻す。

 シャークギルディが返事をするとノックをしていたエレメリアンは扉をあけ、部屋に入ってきた。オルカギルディである。

 

「またお前か、オルカギルディ」

 

 オルカギルディは部屋に入り、シャークギルディの手前にあるソファに腰掛け話し出した。

 

「隊の皆はお前のために、テイルホワイトの属性力を奪おうと出撃している。 ……帰ってきたものなどいないがな」

 

 オルカギルディが神妙な顔で話すもシャークギルディはうつむき、黙ったまま話を聞いている。

 

「お前を元気付けようと多くの部下が出撃し、散っているのだぞ。そろそろ復帰しろ。 クラーケギルディ様もお前のこのような姿は望んでいないはずだ」

 

 オルカギルディが話し終えると初めてシャークギルディは顔を上げ、憎しみを押し出すように話し出した。

 

「ふ、無能な隊長のせいで多くの部下が散っているのか…」

「……」

 

 突然の言葉にオルカギルディは何も言えなかったがさらにシャークギルディは続けた。

 

「どうせ隊の者も我が隊長よりお前が隊長の方が良かろうと、思っておるのであろう」

「何を言っている……!」

 

 続けられたシャークギルディの言葉にオルカギルディは固まってしまった。

 

「それに我は知っている。 我よりお前の方が戦闘力が高いことを! それを隠して我の部下としていただと? ふざけるな!!」

 

 そう言うとシャークギルディはなんと机の上にあった自分のノートパソコンを怒りに任せて破壊してしまった。

 オルカギルディはシャークギルディの行動に驚きはせずにうつむいている。

 やがて静かに話し出す。

 

「すまなかった」

 

 たった一言だけオルカギルディは話した。 その言葉はシャークギルディの言った言葉が本当だったことを意味しているも当然だった。

 それを理解するとシャークギルディは今度は壁と向かい合いドンッと打ちつけ、そのまま壁にもたれかかる。

 その様子をみてオルカギルディはシャークギルディの部屋から出ていった。

 

「すまぬ……すまぬ……!」

 

 部屋には自分のために散っていった部下に懺悔するシャークギルディの声だけが残っている。

 

 シャークギルディの説得に失敗したオルカギルディは基地の薄暗い廊下を一人歩いていた。

 大ホールへと続く廊下の途中でサンフィシュギルディと出会った。

 

「ダメでしたか」

「うむ、あの様子では時間がかかりそうだ」

 

 オルカギルディの言葉を聞き、サンフィシュギルディはうつむき、オルカギルディとともに歩き出した。

 しばらく沈黙しながら歩いていたが不意にオルカギルディが顔を上げサンフィシュギルディに話し出した。

 

「シャークギルディを元の隊長に戻すには再び自分に自信を持たせること、クラーケギルディ様と決別することが必要だ」

「つまり?」

 

 オルカギルディの言葉の意図がわからずサンフィシュギルディが尋ねると躊躇いながらオルカギルディは話し始めた。

 

「まずは我らにたてつくテイルホワイトの属性力を奪うのだ。 そうすれば多少なりとも我が隊の実力が、その部隊を率いていたという事実がわかるだろう」

 

 オルカギルディは自信ありげに話すが、その作戦の成功には程遠いように見えた。

 サンフィシュギルディもオルカギルディにそのことを伝える。

 

「その作戦ですが、テイルホワイトの属性力を奪うというのができておりません。しかもどういうわけか最近パワーアップしているように思えますし、この隊の者では実行は難しいかと……」

 

 申し訳なさそうに話すサンフィシュギルディだが言うことはもっとももだった。

 現状シャークギルディ部隊にはテイルホワイトの属性力を奪えるだけの戦闘力がある隊員は存在しないに等しいのである。しかし、オルカギルディもそれを承知している上で話した。

 

「なら、この俺が直接シャークギルディの目を覚まさせてやるとしよう」

「まさか!? オルカギルディ殿自らがテイルホワイトを!?」

 

 オルカギルディの言葉に思わずサンフィシュギルディは叫んでいた。

 

「その通りだ。 現状テイルホワイトに勝てる見込みのある者はこの俺とシャークギルディぐらいだからな…。 後で大ホールにて部下達にも伝えるとしよう」

 

 そう言うと呆気にとられているサンフィシュギルディを置いてオルカギルディは一人、薄暗い廊下を歩いていった。

 

 

 エレメリアンが乱入し、ムチャクチャになった体育祭から一週間。

 行事ムードはすっかりと影を潜め、またいつもの高校生活へと戻っていた。……もちろん、いつものというのはテイルホワイトの話題が絶えない日々のことである。

 もちろん私は体育祭前も後も、以降もこりずに毎日現れるエレメリアンを倒す毎日が続いている。

 クラーケギルディのおかげでエレメリアンを舐めてかからなくはなったけど、最近はまた正直弱いのばっかで''舐めるな''と言われてもなかなか難しかったりする。

 先程も、昼休み中にエレメリアンが現れたのでその間に倒しにいき、帰ってくることができた。

 そして今は放課後、いつものように私と志乃は空き教室から基地へと移動する。

 

「早くエレメリンク使えるようにならないかなー……」

 

 初めて自然に志乃とエレメリンクからは、テイルギアのことを考えフレーヌにエレメリンクの使用を禁止されてしまった。

 私自身、今のところオーラピラーとか使えるようになったおかげで対して不自由はしていないけれども。ただ志乃は、リンクブレスをもらった時すごい嬉しそうだったし、早く使いたいんだろうな。

 他愛もない話をしながら空き教室に入り机のレバーを引いて現れた地下への階段を私と志乃は下っていく。例の演出の後に基地へと到着した。が、フレーヌの格好がおかしい。

 いつものブレザーの制服のような格好ではなく、水着を着ている。

 私と志乃は互いに顔を見合わせ再びフレーヌに向きなおり、志乃が質問した。

 

「えっと、なんでそんな格好を?」

「海に行く」

 

 志乃の質問に驚くほど早くフレーヌは返してきた。

 海に行くといっても今の時期じゃ早いような気がするんだけど……。

 

「まだ早いよ……」

「ていうかなんでいきなり?」

 

 志乃のいう通りだ。

 なんでいきなりこの時期に水着になり海へ行こうなんて言い出すのか。

 フレーヌはゴーグルを外しながら話し出した。

 

「私実は海で泳いだことがないのです! 是非、この世界の海で泳ぎたいんです!!」

 

 熱弁しているフレーヌの後ろにあるパソコンをここから見ると何やらこの夏のオススメリゾートとかなんとか書いてあるからそれに影響されたんだろうな。

 

「あ、忘れてました!」

 

 唐突にフレーヌは話し出す。

 

「エレメリンクですが、テイルギアに異常が現れないためこれからは使うことを許可します」

「ほんと!? やった!!」

 

 エレメリンクを使えるようになるのは心強いけど、私より志乃の方が喜んでるな。

 使ってはいけない、とフレーヌに言われてもリンクブレスをなかなか外さなかったし、楽しみにしてたのだろう。

 

「じゃあ早速エレメリンクしよ!」

「いや、変身してないし、エレメリアン出てないし……」

 

 私が手をフリフリしていると基地のアラームが鳴り出した。

 

「エレメリアンです! 奏さん、お願いします!」

 

 水着姿でややこしそうな機会をいじっている姿はとてもシュールだな。

 それにしても仕込みかと思うくらいのナイスタイミング。 さすがアルティメギル。 ただ空気が読めない連中なだけではないみたいね。

胸の前に右手を構え変身コードを私は叫んだ。

 

「テイルオン!」

 

 変身が完了すると空間跳躍カタパルトに入り込み、エレメリアンが出現した場所へと転送される。

 目の前が真っ白になった時、志乃から再びエレメリンクという叫びが聞こえてきた。



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FILE.17 VSゼブラギルディ

 白い光が薄れ、見えてきたのは青い空に照りつく太陽とそれをうけキラキラと光る海だった。 私が立っているところは砂浜で、テイルホワイトになっていても足元の砂が太陽のせいで熱くなっているのがわかる。

 まだ海で泳ぐ季節ではないはずなのにこの暑さ、まるで日本じゃないみたいだ。

 深海や宇宙空間も時間制限はあるとはいえテイルギアは活動できると聞いていたし、当然暑さ対策も寒さ対策もされていると聞いていた。

 キョロキョロと周りを見渡すとアルファベットが書かれている看板がそこら中にある。 どうやら本当に日本じゃないみたいだ。でも観光地とういうほどの場所でもないらしく人はあまりいない。

 だからこそ、砂浜に立っている異様な出で立ちをすぐに見つけることができた。

 

「エレメリアン、今度は何の属性力を狙ってるの?」

 

 ビシッと指差し、やけに元気がなさそうなエレメリアンに問いただす。

 エレメリアンは力なくこちらに振り返るとボソボソと答え始めた。

 

「マフラーがない……」

「は?」

「マフラーがないと言っておるのだ!!」

 

 私の返答に何故かそのエレメリアン……シマウマのようなエレメリアンは激怒し、後ろに黒い渦を作り何体もモケモケを出現させてきた。

 

「今の時期に、こんな場所でマフラーしてる人なんかいるわけないでしょ!?」

 

 何体もいるモケモケの後ろにいるであろうシマウマギルディに向かって叫ぶも私の声は届いていないようだ。

 私のアドバイス?を無視しシマウマギルディはエレメリアン特有の自己紹介を始めた。

 

「我の名はゼブラギルディ! 襟巻きに魅せられ、襟巻きのために生きる誇り高きクラーケギルディ部隊の戦士だ!!」

 

 シマウマ……いやゼブラギルディのある言葉に私は反応した。

 ゼブラギルディはクラーケギルディ部隊の戦士だと、確かに今そう言ったのだ。 もしかしてゼブラギルディを倒すもしくは、問いただせばクラーケギルディを倒すためのヒントが見つかるかもしれない。

 

「ゼブラギルディ! クラーケギルディの部下ならクラーケギルディが今何処にいるのか知っているでしょう? 教えなさい!! ついでに私の前に引きずり出して!」

 

 私がゼブラギルディに向かって問いただすと、さっきまでの熱は何処に行ったのか急にゼブラギルディは冷静になりまた肩を落としてしまった。

 元気が無くなったゼブラギルディはまたボソボソと話しはじめた。

 

「クラーケギルディ様は……クラーケギルディ様は…亡くなられた……」

「え……!?」

『『ええ!?』』

 

 ゼブラギルディから教えられた驚愕の事実に私も、基地にいるフレーヌと志乃も驚きを隠せず叫んでしまった。

 

 

 シャークギルディ部隊の何処の世界の住人にも知られることのないアルティメギルの秘密基地。

 中央に位置する大ホールはまたもや騒然としていた。

 何故かというと一つはつい先程、隊の隊長代理であるオルカギルディが出撃する意思を部下に伝えたこと。 もう一つはゼブラギルディが出撃するという手紙とともに基地に残された異世界のツインテール戦士の映像資料のせいだった。 しかし、その映像を見る隊員はおらず皆大ホールの自分の席に座しているままだ。

 そして再びオルカギルディが席を立つと周りにいるエレメリアンは静かになる。 それを確認するとオルカギルディはぐるりと大ホールを見渡してから話し始めた。

 

「皆の者よ、俺は今からゼブラギルディの元へと向かう。 今の奴の実力ではテイルホワイトには到底かなわん。 ゼブラギルディは生きねばならないのだ。 クラーケギルディ様を失った悲しみをシャークギルディと共有できる数少ない隊員をここで失ってしまうのはこの隊にとっては痛手なのだ」

 

 オルカギルディの言葉を無言で真剣に聞く隊員達もその事は理解しているのだろう。

 オルカギルディはゼブラギルディが持ってきた異世界のツインテール戦士の映像資料のDVDを手に持ち、話を続ける。

 

「この資料は俺が出撃したら是非、皆で見て欲しい。 これを見て絶望するような隊員はいないだろうからな」

 

 映像が入ったDVDをテーブルにあるケースに入れ、ゼブラギルディはもう一度大ホールをぐるりと見渡し、部下達に最後の一言を告げた。

 

「行ってまいる!」

 

 オルカギルディは力強く宣言すると大ホールの隅の薄暗い廊下へと歩き、やがてその姿は見えなくなった。

 

 

「こことは別の世界のツインテールの戦士に、クラーケギルディ様は敗れたのだ…」

 

 頭を抱え、ゼブラギルディは苦悶の声を出しながら話し続けた。 心なしかゼブラギルディが話を続けるたびに周りにいるモケモケもしょんぼりと元気をなくしているようにも見える。

 私が手も足もでなかったクラーケギルディを倒したという異世界のツインテールの戦士、とても気になる。一体どれほどの強さなのだろうか。

 

「そしてその戦士はテイルホワイト! 貴様のような装備で戦っていたが、貴様と何か関係があるのか!?」

 

 ゼブラギルディの問いに私が反応するよりも早くフレーヌが反応し、話し出した。

 

『テイルギアと同じような装備!? もしかしたら私の世界にいた戦士かもしれません!』

「じゃあ今度はその戦士について、ゼブラギルディに話してもらおうかな!」

「…やはりあの世界の戦士とは関係はないようだな。 ならば行けぇ!戦闘員よ! テイルホワイトの属性力をいただくのだ━━━━ッ!!」

 

 ゼブラギルディが命令するとさっきまでしょんぼりしていたモケモケ達が「モケ━━━ッ」と叫びながら私に向かって走り出してきた。

 リボンを叩きアバランチクローを装備して、次々とくるモケモケ達と一撃で撃退していく。

 

「やりおる!」

 

 ゼブラギルディはまた自分の後ろに巨大な黒い渦を出現させその中からさらにモケモケがモケモケと何体も出てくる。 そしてそのモケモケ達も私に向かって走り出してくる。

 アバランチクローだけじゃちまちまと一体ずつ倒すだけ、ならついさっき許可が出た''アレ''だ!!

 

「いくよ!」

『待ってました!私の属性力、使ってー!』

 

 私はテイルブレスを高く空に向かって掲げ闘いを見ているであろう志乃に言うと志乃も早速返事してきた。志乃もブレスを高く掲げているのだろう、ここから遠い地にいる志乃の属性力をリンクブレスを通して感じる。

 

「エレメリンク!!」

 

三つ編み(トライブライド)

 そう言うとブレスに浮かんでいたツインテール属性のマークが三つ編み属性へのマークへと変わり、一瞬で私はトライブライドへ変身が完了した。

 初めてトライブライドになったコーラルギルディの時と同じく、体の中に収まりきらない力が私の周りを冷気となって覆い、それはダイヤモンドダストのようだ。

 手をグーパーと動かし問題がないことを確認するとゼブラギルディに向き直った。

 

「ツインテールの戦士がツインテールじゃないと!? こんな変身は未だかつて見たことないぞ!」

 

 驚きと感動を同時に感じているのだろうか、ゼブラギルディは大きく声を出し頭を抱えている。

 胸のあたりに垂れさがった三つ編みを頭を振り、後ろに戻すと、束ねるフォースリボンに触れ今度はフロストバンカーを右腕に装備し光線を上へと打ち上げた。

 

「何をするつもりだ!?」

「モケ!?」

「モケ━━━━?」

 

 この技もコーラルギルディの時と同じだ。

 光線は空中で弾けると、流星群のように地上にいるたくさんのモケモケめがけて降り注いだ。

 

「なるほど、数で押すのは無理みたいだ」

 

 一度の攻撃で最初に出てきたモケモケも後から出てきたモケモケも全滅させたのを見てゼブラギルディは察したように話した。

 

「なら私の力で貴様をねじ伏せるまでだ!」

 

 覚悟し、ゼブラギルディは私に向かって一直線に向かってきた。

 すかさず私はフロストバンカーを構えゼブラギルディに標準を合わせる。

 

「オーラピラー!!」

 

フロストバンカーから放たれたオーラピラーはゼブラギルディに見事命中しバインドに成功した。

 

「な、なに!?」

 

 再びフロストバンカーを相手に向かって構え光線を撃つための充電が完了した。

 

「ブレイクレリィ━━━━ズ!!」

 

 フロストバンカーのメイン砲とサブ砲から三つの光線が照射され三つ編みの形になりながらゼブラギルディめがけて飛んでいくと、見事命中し、体を貫通する。

 

「ぐ……。 今、あなたのところへ、クラーケギルディ……様……!」

 

 腰に装着されている装備から蒸気と炎が噴射され私を一瞬でゼブラギルディギルディの胸元へと滑り込む。

 

「!?」

 

 しかし、フロストバンカーをゼブラギルディに叩き込むための間合いに入る直前、横から私のとは違う光線が私めがけて飛んできた。

 たまらず私は必殺技をやめ、なんとか回避する。

 光線の飛んできた方を見るとまた新たなエレメリアンが砂浜の上に立ちこちらを凝視していた。

 

『そんな…エレメリアンを検知できないなんて!?』

 

 フレーヌが検知できなかったエレメリアンは十秒ほどこちらを見ると体を動かしゼブラギルディに向かっていった。

 

「オ、オルカギルディ様…」

「まだお前はクラーケギルディ様のところへ行くべきではない」

 

 オルカギルディと呼ばれたエレメリアンは巨大な剣を背中から外しゼブラギルディに一閃するとバインドしていたオーラピラーはあっさりと砕け散り、ゼブラギルディを解放した。

 

「今は戻れ!」

 

 続いてオルカギルディは極彩色のゲートを生成しその中にゼブラギルディを放り込んだあと、手早くゲートを消滅させる。

 波が一つ、砂浜に到達するとオルカギルディはこちらに向き直り話し始めた。

 

「ゼブラギルディは後ほど再びお前を倒しにやってくる。ゼブラギルディとの決着はその時にせよ」

「……」

「そして今はこの俺、オルカギルディがお前の相手だ!!」

 

 大剣を砂浜に叩きつけ、砂を宙に巻き上げながらオルカギルディは力強くそういった。




どうも皆さん、阿部いりまさです。
実は最近スランプ気味で更新が遅くなり始めています。
私自身更新が定期的にできるように書いていくつもりなのでどうかご理解お願いします。
質問、感想等どんどん募集しています!
それでは。


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FILE.18 激烈バトル!テイルホワイトVSオルカギルディ(前編)

「ほう、三つ編みか。 俺の知らぬ間にそのような形態を手にしていたとは」

 

 砂を巻き上げた後、オルカギルディは私の髪型を見てそう言った。

 ゼブラギルディもトライブライド形態に驚いていたからどうやら本当にコーラルギルディは仲間に報告しなかったんだな。

 オルカギルディは髪型に関してはその一言だけでゼブラギルディのように驚くことはなかった。

 

「そういうあんたは、今までのエレメリアンに比べると随分カワイイのね」

 

 私なりに精一杯の皮肉をこめて言う。

 オルカギルディは今までのエレメリアンに比べるとよく言えば可愛く、悪く言えばイマイチ迫力がない。 体躯は役二メートルくらいで全体的に丸みを帯びた体に禍々しい大きな大剣はあまりにも不恰好だ。

 オルカ……ということはシャチのことを言っているのだろう。

 

「ふん、見た目で判断しないことだな。 この俺、オルカギルディの実力は十二分にあると自負している」

「だよね、エレメリアンの恐ろしさは身を持って経験したことあるし」

 

 私の言葉を聞きオルカギルディはふむ、と言いながら顎と思われる部分に手を当て何か考え事をしだした。十秒ほどたち、顎から手を離し私をまっすぐ見て話し出す。

 

「なるほど、クラーケギルディ様と闘った時よりも遥かに戦闘力は増している」

 

 クラーケギルディ様、ということはオルカギルディにとってもクラーケギルディはいわば上司にあたる存在なのだろうか。

 でもこの威圧感……クラーケギルディと闘った時のように重く強く、私にのしかかってくる。

 

『奏さん、オルカギルディの属性力は並みのエレメリアン以上……幹部並みです!!』

 

 フレーヌから通信が入りオルカギルディのことを教えてくれた。 私の思った通り、オルカギルディは見た目に反してものすごい実力を持っているのだろう。

 暑さのせいではない、汗がツーッと私の頬を流れて砂浜に落ちた。

 

「ではテイルホワイト、お前の属性力をいただく!」

 

 そう言うと大剣を大きく振り上げ、オルカギルディは私の元へ一瞬で接近し振り下ろしてきた。

 咄嗟にフロストバンカーをシールドにし大剣を受け止めたが、テイルギアで強化されている手が痺れるほどの衝撃が走った。

 やはり幹部級、おそらくあの時と同じくフォトンアブソーバーの閾値を超えているのだろう。

 

「受け止めたか!」

 

 私が受け止めたのを見てオルカギルディは大剣に力を入れてくる。

 あまりの力に片手だけじゃ抑えきれず左手も使い大剣を防ぎ続けるも、このままじゃいつか大剣の餌食になってしまう。

 腰の装備から蒸気を噴射し押し返そうとするもオルカギルディはびくともしない。

 

「ぐ、うぅ……!」

「このままでは私の剣に斬られてしまうぞ、テイルホワイトよ!」

 

 オルカギルディはそう言うと更に力強く大剣を押してくる。

 心配しているのかそうでないかはともかく、容赦ないな!

 

「くうっ! オーラピラー!!」

「ぐあっ!」

 

 ゼロ距離から放ったオーラピラーはオルカギルディをバインドこそできなかったものの眩い光を放ち、怯んだ隙にオルカギルディの間合いから逃れることができた。

 

『オルカギルディのスピードではまたすぐ間合いに入られてしまいます! エレメリンクを切ってツインテールに戻して闘ってください!』

「そのつもり!」

 

 エレメリンクを切り通常のツインテールに戻るとすぐにフォースリボンを叩き、アバランチクローを両腕に装備した。

 

「ツインテールに戻り装備を減らすことで機動性を上げようというのか、いい判断だ。 だが、それは俺が相手ではなかった場合だ。 俺を相手にしている今、無駄なことでしかない!」

 

 再びオルカギルディはゼロ距離まで一瞬で近づき大剣で今度は上からではなく横から斬りつけてくる。

 

「ぐぅ…!」

 

 すんでのところで今度はアバランチクローの手甲部分で大剣を受け止める。しかし、その一撃だけでは終わらなかった。

 

「どうだ? ついてこれるか!!」

「つあっ!!」

 

 一度に十数本いや、数十本の剣で斬られる感覚。

 オルカギルディのあまりの早さに翻弄され、私は呼吸をする暇もなく大剣をアバランチクローで受け止めていく。

(やばい、限界が近い…!)

 オルカギルディの斬撃をいくつにも受け止めているうちに私の疲れは溜まっていく。

 休もうとするために距離を取る暇もない。

 たまらず再びオーラピラーを撃とうとするもオルカギルディにはよまれていた。

 

「同じ手は通用せんわ!!」

「うあぁっ!!」

 

 今度は大振りで大剣を真横に一閃し、砂浜のせいで踏ん張りきれなかった私は数十メートル吹っ飛び砂浜の外の地面に叩きつけられた。

 自身にダメージを負ってしまったけど、一応距離はとれた。

 

『まさか奏、距離をとるためにわざと攻撃を!?』

「ええ、少しだけでも休みたくてね……」

 

 もう一度オーラピラーを撃つのをよまれているとはわかってたし、同じ手が通用する相手じゃないのはあの斬撃を受けていればわかる。 致命傷にならなくてよかったけど。

 

『奏さん!撤……』

「でもね、目は慣れてきた」

『え……』

 

 オルカギルディの斬撃を受けているうちにだんだんと相手の攻撃パターンと太刀筋が見えてきた。 相手の速さにもだいぶ慣れてきた。

 

「今までは表の攻撃、私は守備をするだけだったけど……」

「ふん、余裕がなくなってきているのか? 」

 

 オルカギルディはこっちに向かい歩きながら話しかけてくる。が、私は構わず続ける。

 

「裏は私が攻撃する番! この世界は、私のホームだから!!」

 

 アバランチクローを再び構えるとオルカギルディは歩みを止め、持っている大剣を地面に突き刺した。

 

「流石だテイルホワイト、お前のその気合いに敬意を表して俺らが実行していた''ある作戦''を話してやろうか」

「作戦?」

 

 オルカギルディは地面に突き刺した剣の柄の先を両掌ので抑えながら''ある作戦''について話し始めた。

 

「俺の所属する部隊がこの世界に来てからお前は毎日のように隊員と闘い勝利を収めてきた」

「弱っちいのばっかだったけどね」

「ふ……そうだな。 隊員に勝ち、テイルホワイトに憧れた女子達は次々とツインテールにしていったはずだ、お前に近づくために」

「……」

 

 オルカギルディは柄から手を離し空を仰ぎながら説明するが私の反応がないのが気になったのかまたこちらを向き話し始めた。

 

「まだわからんのか? お前の、テイルホワイトのおかげで俺らアルティメギルの念願たるツインテール属性が期せずして世界を覆い支配したのだ! 狩場としてこれほど理想的な世界は他にはないだろう?」

 

 ここまで聞いてようやく私にも理解することができた。

 

「まさか、私はアルティメギルの手助けを…」

「その通りだ! ふふふ、ふっははははははははは!!」

 

 アルティメギルらしからぬ高度な作戦に私は固まってしまった。

 ツインテールのせいで起こるくだらない闘いを止めるために今まで闘ってきていたのに、それは全くの逆効果だったんだ。

 私は、ツインテールのせいで起こるくだらない闘いを余計増やしてしまっただけだった。

 それだけじゃない、ツインテールを大好きだと思う女の子の気持ちまでも私が奪ってしまっていた。

 南国の島に響くオルカギルディの高笑いは普段のエレメリアンの倍以上大きく、重く聞こえた。

 

 

 普段よりも激しい闘いが行われている戦場から遠く離れたフレーヌの秘密基地でもオルカギルディの作戦の内容は機械越しでハッキリと聞こえていた。

 

『ふーっはははは!!』

 

 オルカギルディの高笑いもテイルギアを通してハッキリと聞こえている。

 基地内はその声以外音もなく静かな状態、沈黙が続いていた。

 しばらくしてから口を開いたのはフレーヌだ。

 

「私の世界で戦士が突然現れなくなったのはこの事実を聞かされ今の私と同じ気持ちになったから、なのかもしれません……」

「フレーヌ……」

 

 志乃が弱々しく話すフレーヌを心配し声かけるとフレーヌの目からは大粒の涙が流れ始める。

 

「私は……世界を救うどころか、この世界を滅ぼしてしまう……」

 

 フレーヌはなおも泣き続け、両手で顔を覆う。泣いているのを隠そうとしているのだろうか。

 志乃がフレーヌを見た後に画面を見るとテイルホワイトもうつむき、ただ黙っているだけだ。

 画面の向こうからオルカギルディの声が聞こえてくる。

 

『ふ、テイルホワイトも今まで威勢良く闘っていたツインテールの戦士がこの作戦に気づいた時の顔をしてくれるのか? 絶望に満ちた顔をな!!』

 

 志乃はエレメリンク以外何もできず、ただ歯をくいしばり、拳を強く握りしめ、悔しがることしかできなかった。

 その時、基地の中が絶望と悲しみにあふれている中画面の向こうから一筋の光が差し込むような一言が聞こえてきた。

 

『それがどうしたっての』

「え……?」

 

 テイルホワイトから発せられた言葉に驚き、涙を流したまま顔を上げ画面を見た。

 志乃も先ほどまでの表情とは違いキョトンとした顔で画面を見ている。

 画面の向こうではオルカギルディも志乃と変わらない表情でテイルホワイトを見ている。

 テイルホワイトの表情は絶望しているのとは逆に、希望に満ち溢れているように思えた。




皆さんどうも、阿部いりまさです。
今回はなんと前後編に分けて書いています。
ここが一つ物語のターニングポイントだと思い、一話じゃ物足りないと思いまして前後編にすることにしました。
オルカギルディら幹部が考えていた作戦も判明しましたね。もちろん原作にあった作戦ですが。
感想や質問、どんどんお寄せください!
それでは。


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FILE.19 激烈バトル!テイルホワイトVSオルカギルディ(後編)

ある作戦
テイルホワイトを闘いの女神として称えられるよう仕組んだアルティメギルの作戦。
シャークギルディ部隊だけでなく、現在たくさんの部隊で効率化を求めてこの作戦を使う部隊が増えている。
しかしその一方で、アルティメギルの若い隊員の育成を放置することになってしまいがちであり、作戦失敗するとその部隊だけでは属性力奪取が困難になるなど問題視されている。


「それがどうしたっての」

 

 私の言葉を聞き、目の前にいるオルカギルディは高笑いをやめ、驚愕した。

 私は今、自分が今までしてきたことが逆にアルティメギルの作戦の内であり、いわば手助けしていたことをオルカギルディから教えられた。

 そこそこツインテールの女の子が増えてきていると思ったこともあるしテレビでもテイルホワイトは大きな話題となっていた、でもそれはアルティメギルの作戦。 人間のする養殖のようなものだった。

 私は━━━━━━

 

「絶望を感じぬのか!? お前はまんまと俺らの作戦に引っかかり世界を滅ぼそうとしているのだぞ!?」

 

 ━━━私は、絶望なんてしたりしない。

 

「簡単なことじゃない!」

「何!?」

「あんた達の作戦のせいで育った属性力を私が守ればいい。属性力を狙って次々と現れるエレメリアンをこの私が倒していけばいいだけ。これであんた達の作戦は失敗に終わるってわけ!」

 

 オルカギルディは呆気にとられたように一歩、二歩と後退った。

 そうだ。私が育ててしまったツインテール属性を私自身が守ればいい。 これでアルティメギルの作戦は何の意味もなかったことになるのだ。

 今までもこれからも私が闘う目的はツインテールによるくだらない闘いを止めることだけだと思ってた。でも今日からは目的がもう一つ追加された、自分がアルティメギルの作戦によって育ててしまったツインテール属性を一つも奪わせない為に闘う!

 

「私はね、今まであんた達が闘ってきたような戦士と決定的に違うところがあるの」

 

 そう、ここまでの決心をしても私はまだまだ━━━━

 

「━━━━ツインテールが大っ嫌いなこと!」

 

「なんということだ……」

 

 答えを教えるとオルカギルディは頭を抱え、信じられないといった表情をしながら声を絞り出している。

 当たり前だ、今まで闘っていた戦士はみんなきっとツインテールが大好きだったんだ。 ツインテールを守るために闘い、アルティメギルの作戦に利用されていたことを知り絶望し、敗北した戦士も多いだろう。だけど、ツインテールが嫌いな戦士は作戦を聞いて、絶望はしない。 むしろ守らなければいけないと思うと燃えてくるものだ。

 

「だから安心してフレーヌ、私は負けないよ……!」

『奏さん……』

 

 涙ぐんだ声が聞こえてくる。

 オルカギルディから作戦を聞かされて一番辛い思いをしたのはフレーヌのはずだ。 自分がテイルギアを渡したせいでこの世界も侵略されてしまう、きっとそう思っただろう。

 

(大丈夫、私がそんなことさせないから)

 

 再びアバランチクローを構え攻撃の体制をとる。

 

「テイルホワイトよ、お前は眩しすぎる。 ツインテールを嫌いと言ったお前の属性力はより一層光り輝いているぞ」

 

 地面に突き刺さった大剣を引き抜き肩に担ぐオルカギルディ。

その出で立ちは、遠慮なく闘え、決着をつけよう、と言っているようにも思える。

 私はそんなことはずいぶん前に覚悟している。

 エレメリアンだって生きている、生き物だ。

 今までもこれからも命を断つこと受け止めていくつもりだ。

 お互いの足が同時に地面を爆裂させ、周りの地面が砕けて舞う。

 

「たああああああああ!!」

「うおおおおおおおお!!」

 

 互いを目掛け全力で疾走しクローと大剣が火花を散らしぶつかりあった。しかし、それだけではない。

 休み無く稲妻のように繰り出される大剣の斬撃をアバランチクローで全て弾き、隙をついて目の前の強大な敵に渾身の一撃を放った。

 

「ぐうっ!」

 

 一撃を受け止めようとした大剣を掠め、オルカギルディの腹部分にヒットし、その反動でオルカギルディは地面を抉りながら後退していく。

 

「バカな!? 俺の攻撃を弾き、反撃までするとは!!」

「私も驚いてる……攻撃できるなんて! あんたが遅くなったんじゃないの?」

 

 皮肉をこめて言い、再びオルカギルディ目掛けて疾走し両腕のアバランチクローで攻撃を再開する。

 オルカギルディもたじろぐことなく大剣を振るい攻撃をガードするとともに攻撃も仕掛けてきた。

 

「これが、お前の力か!!」

 

 テイルギアは心の力を原動力にすると聞いた。

 自分のためだけじゃなく、フレーヌにこれ以上責任を感じて欲しくないと決心した私は、私の属性力は、自分の冷気を熱気に変えるほど燃え上がっている!

 

「やはり部下に任せなくて正解だった!! この俺が限界の力を出して闘っている!!」

 

 オルカギルディの攻撃は飛躍的に速度を増し、規格外の大剣から放たれる攻撃はずっしりと佇む大木をいとも簡単に吹き飛ばしていく。

 こちらもまた、オルカギルディに合わせて速度を増し、両腕のアバランチクローで攻撃と防御を繰り返す。

 高速の攻防のあまり、私たちを中心としてあたりには激しい風が巻き起こり、地面はどんどん抉れていく。

 

「たありゃ━━!!」

 

 渾身の一撃。 クローで抑えつけながらオルカギルディを吹き飛ばし、砂浜よりさらに離れた島の中心近くの崖へと叩きつけた。

 

「なんということだ、俺のさらに早くなった攻撃にすぐ対応している!」

「人を想う力は、無限大だからね!」

 

 再びクローと大剣の攻防が始まり、崖や周りの岩は次々と砕け散り水しぶきのように舞う。

 終わりが見えない闘いは続く。

 

 

 アルティメギル秘密基地の大ホールではオルカギルディの死闘は中継されておらずかわりにある重大な会議が行われていた。

 大ホールの中央にあるテーブルにはシャークギルディの席、オルカギルディの席のみが空席となっており、会議の進行役はもちろんサンフィシュギルディが行っていた。

 数ヶ月でずいぶんと空席が多くなった大ホール内を見渡し、サンフィシュギルディは話し始める。

 

「ツインテイルズの世界へ、ダークグラスパー様に続き、アルティメギル四頂軍の美の四心(ビー・ティフル・ハート)が向かっていたことが判明しました」

 

 次第にざわつく大ホール。

 

「クラーケギルディ様とリヴァイアギルディ様が敗れた後に派遣されたようでございます。 ダークグラスパー様と美の四心を派遣せねばならぬほど自体は深刻なのでしょう…」

 

 事態は深刻だ、と言われても大ホール内にいる何人かの隊員は幾分か余裕があるように思える。 自分らには関係のないことだ、と。

 そんな彼らもサンフィシュギルディの次の一言によって固まってしまった。

 

「次に、我が隊へ新しい隊員が派遣されることが決定しました。 その隊員の名は、オルトロスギルディ様です」

 

 先ほどよりもずっと大きい声で大ホール内はざわつく。

 やがて一人の隊員が立ち上がり中央にいるサンフィシュギルディに質問した。

 

「オルトロスギルディ様というと神の一剣(ゴー・ディア・ソード)のオルトロスギルディ様ですか!? どうして我が部隊に!?」

「わかりません……」

 

 アルティメギル四頂軍は、美の四心(ビー・ティフル・ハート)、貴の三葉(ノー・ブル・クラブ)、死の二菱(ダー・イノ・ランヴァス)、そして出撃すれば世界が破滅すると呼ばれる神の一剣(ゴー・ディア・ソード)の四つで結成されており、オルトロスギルディは神の一剣に所属していたはずだった。

 それからも、オルトロスギルディのことで大ホールは騒がしく、中には弱音を吐くものまで現れ始めた。

 

 

 ツインテールの形に地面が抉れ、土砂や岩が噴き上がる。

 斬撃のせいであたりの岩や、木などは吹っ飛び残っているのはただの地面のみ、その地面でさえボロボロに削られていた。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 体力の限界を感じ、膝をつく。

 オルカギルディが私の前に仁王立ちし、激しい闘いで刃こぼれした大剣を私に突きつける。

 

「久しぶりに楽しい闘いができた。 お前は強かったよ、だが今までの相手とは実力の差がありすぎただけに、実戦経験が足りなかったろう。 そういった意味では、クラーケギルディ様はお前に貴重な経験を与えてくれたな」

 

 アバランチクローを地面に突き刺し、杖がわりにしながら立ち上がり目の前の強大な敵を見上げる。

 

「しかし、それだけではもちろん足りない。俺との闘いの年季の差が……明暗を分けたのだ!!」

「まだ……!」

 

 咄嗟に、片方を地面に突き刺しながらもう片方のアバランチクローを繰り出す。しかし、とっくに攻撃の精彩はかき、簡単に受け止められた。

 

「本当に楽しく、そして面白い闘いだったぞテイルホワイトよ」

 

 大剣を軽く振っただけで、両腕に装備されているアバランチクローをいとも簡単に弾き飛ばされてしまった。

 風切音とともに冷気をまとっていた二つのアバランチクローは地面を転がっていく。

 力なく私は再び膝をつき、顔をうつむける。

 大剣を防御する術などなく、残っているのはテイルギアの標準装備のみ。

 

「さらばだ!テイルホワイト━━━━━━っ!!」

 

 躊躇することなく大剣を振りかぶり、私の脳天目掛けて大剣が振り下ろされてくる━━━━━━!!

 ━━━━━━この時を、待っていた!!

 瞬間、テイルブレスに激しい閃光が走り、私を包み込んだ。

 

「何!?」

 

 一瞬怯んだものの、オルカギルディは体制をたて直し、すぐに追い打ちをかけようとしてくる。

 しかし━━━━━━

〈三つ編み(トライブライド)〉

 包み込む光の中で小さく、機械音声が流れた。

 光から解放されると私はツインテールではなく三つ編みの形態、テイルホワイト・トライブライドへと変貌し、右腕にフロストバンカーが装備されていた。

 

「な、何だと!?」

「もう一度言うからよく聞きなさい!! 私は、ツインテールが大っ嫌いなの……!!」

 

 動揺するオルカギルディの胸目掛けてフロストバンカーを渾身の力で叩き込んだ。

 

「ぐうっ!!」

「ブレイク!!」

 

 フロストバンカーの攻撃を受けよろめきながらも、再び大剣を振り上げるオルカギルディ。

 

「レリ━━━━━━━━━━ズ!!」

 

 ゼロ距離でフロストバンカーからオルカギルディを貫く光線を放つ。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 光線に撃ち抜かれ、オルカギルディは踵で地面を抉りながら後退していく。

 

「クレバスウゥゥゥ!!ドラアァァァイブ━━━━━━━━ッ!!」

 

 光線をレールのようにして近づくと、フロストバンカーで渾身の一撃を叩き込んだ。

 直後、吹き荒れる猛吹雪。

 ダイヤモンドダストさながら美しく輝く三つ編みが吹雪の中で舞い踊る。

 クリティカルヒット、オルカギルディを確実に仕留めることに成功した。

 

「う……作戦通りか………」

 

 ついにオルカギルディは力尽き、両膝を地面についた。

 

「私は……何も考えてなかった」

 

 そう、私は大剣が振り下ろされる直前まで三つ編みになる事を考えていなかった。

 だけど━━━━━━

 

「━━━━かけがえのない友達が私のために準備してくれていたから」

 

 志乃は私がきっと三つ編みを使う時があると考え、ずっとエレメリンクを使う準備をしてくれていたんだろう。

 そうじゃなきゃ、あの一瞬で私に属性力をリンクブレスを通して送る事なんてできっこないからね。

 

「他人の力を借りるなんて、無粋な真似した?」

「いや、見事だ……!! テイルホワイト!!」

 

 体から放電が始まるオルカギルディ。

 

「強く、美しい少女に倒される。悔いなど残るはずもない!!」

「おめでたいなあ……」

 

 少々呆れながらオルカギルディにそう言った。

 今まで闘ってきたエレメリアンにもそうだが美しい少女などと簡単に言うのは少し照れてしまうかもしれないのでやめて欲しかった。……まあ、エレメリアンの言うことは鵜呑みにはしないけどね。

 

「アルティメギルはまだ氷山の一角だ。 お前がどこまでいけるのか、楽しみにしているぞ!!」

「……」

 

 最後の忠告、とも言える別れの言葉を残しオルカギルディは大爆発を巻き起こし、散った。

 

 

 爆発を見届けると、全身から力が抜けていきそのまま後ろに倒れてしまった。

 完膚なきまでの疲労と、闘いの緊張感が一気に抜けたせいか変身が強制的に解除されてしまった。

 

「「奏!」さん!」

 通信……ではない二人の肉声が間近で聞こえてきた。

 仰向けで倒れているので空しか見えなかった視界に志乃とフレーヌの心配そうな顔が出てきた。

 どうやら私がオルカギルディを倒したのを見て、空間跳躍カタパルトでわざわざこの場所へ来てくれたのだろう。

 二人の手と肩をかり、私は立ち上がる事ができた。

 

「ありがとう志乃、私だけエレメリンク使っても志乃が使わないんじゃ意味ないもんね」

「うん、ずっと待ってたよ」

 

 志乃にお礼を言い、今度はフレーヌの顔を見る。

 

「ね、平気でしょ? 私がそんな事させないって、言った通り」

 

 フレーヌはうつむき、やがてその頰には涙が伝ってくる。

 

「……はい」

 

 涙ぐんだ顔と声で弱々しく、フレーヌは私に返事をしてきた。

 

 今までのエレメリアンとは格が違うオルカギルディを倒し、私はさらなる強さとかけがえのない世界をひとまず守ることができたのだ。




皆さんどうも、阿部いりまさです。
初の前後編いかがでしたでしょうか。
物語のターニングポイントとして、自分としては長く書かせてもらったつもりです。
原作のドラグギルディ戦をモデルに書かせてもらっています。
オルカギルディを倒したテイルホワイトは今後どんな敵と出会うのか!?シャークギルディは!? そして新たに登場が示唆されたオルトロスギルディとは!?
今後も頑張っていくのでお付き合いいただけたら光栄です。
感想、質問等どんどん募集しています。
それでは。


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FILE.20 今までの重要人物

とうとうFILE.20までやってきました!
ということで少し本編はお休みし今まで前書きで書いてきた人物や、本編中で語られた人物などを纏め最新版にしてお届けします。
登場人物は今まで重要な働きをした人物、これから重要な働きをするだろう人物を紹介いたします。
必要ないという方はこの回にストーリーはないのでそのまま次のFILE.21を読まれることを推奨します。



伊志嶺 奏

性別:女

年齢:16歳

誕生日:2月18日

身長:158cm

体重:45kg

 

テイルギアを装着し、アルティメギルと闘うことのできるツインテール属性を持つ女子高生。

学校では志乃と並んで美少女扱いされることも多い。

母親が元人気女優で母親と比べられることが多くその度に母親との差を痛感している。

テイルギアを装着し、アルティメギルと闘えるツインテール属性を持つ。

クラーケギルディの圧倒的な強さを体感し、テイルギアの力を引き出せなくなったが志乃の言葉とエレメリンクのおかげで迷いがなくなり、さらに強くなった。

オルカギルディとの闘いにおいて、今までの''ツインテールによるくだらない闘いを止めるために闘う''という信念とともに''自分が育ててしまったツインテール属性や属性力を一つも奪わせない''ことを決心した。

ツインテールは嫌いというが……。

 

テイルホワイト

伊志嶺奏がテイルブレスで変身した姿。

氷、または雪を操る。

奏の意思や、感情により戦闘力を無限に高めていく。

奏のより闘いやすい超近接型の戦闘力スタイル。

フォースリボンに触れることにより両腕にアバランチクローを装備することができる。

アバランチクローは近接格闘に非常に有効な他、クローを肩に装備しシールドにすることや敵へ投擲することができるなど広い活躍をする。

 

武器:アバランチクロー

必殺技:アイシクルドライブ

 

テイルホワイト・トライブライド

テイルホワイトと志乃の純粋な三つ編み属性がエレメリンクしたことで発動したテイルホワイトの新形態。

髪型が志乃と同じ三つ編みとなり、体の装備も重装甲へと変化し、超遠距離特化型となる。

標準装備されている銃の他にもフォースリボンに触れることにより右腕に装備されるフロストバンカーは銃として使えるほか、必殺技時には近接武器としても使用できる。

テイルギアに何らかの異常を起こす危険があるため、この形態になることは禁止されていたが後にフレーヌの許可がおりいつでも使用できるようになった。

 

武器:フロストバンカー

必殺技:クレバスドライブ

 

鍵崎 志乃

性別:女

年齢:16歳

誕生日:3月13日

身長:159cm

体重:48kg

 

奏の幼馴染みであり親友。

学校では奏と並び人気が高く男子との交際経験もある。

ツインテールのことは好きだと言い張るが属性力はあまりなくむしろ三つ編みの属性力の方が高い。

自分の体型にやや不満気味。

奏がツインテールを嫌いな理由を知っているようだが…。

後にフレーヌからリンクブレスを渡され、エレメリンクを発動できる重要な人物となる。

 

フレーヌ

性別:女

年齢:14歳

誕生日:12月21日

身長:144cm

体重:40kg

 

アルティメギルを倒せるツインテール属性を持つ者を求めてやってきた異世界の少女。

テイルギアのデータをみてコピーし実際に作り出す、秘密基地を短時間で作り上げる、最新式の超認識攪乱装置、属性力直結現象を任意に発動できるリンクブレスを開発するなど高い技術力を持つ。

自らの世界を救うため闘ってくれた戦士に憧れる一方で、突然闘いに現れなくなったことに対して疑問に思い、憎んでいた。 しかし、アルティメギルの作戦を知り戦士もまた自分と同じ思いをしていたと痛感し、これまでの戦士に対する評価を変えた。

オルカギルディにより、自らが世界が侵略される切っ掛けを作ってしまったと責任を感じるようになる。

 

嵐 孝喜

性別:男

年齢:16歳

誕生日:9月23日

身長:171cm

体重:64kg

 

ツインテールよりポニーテールを愛する少年。

普段からあまり笑うことはなく、属にいうつまらない顔をしている。 そのせいか性格もクール。

最初は興味がなかったが、幾度となく現れ世界を救うテイルホワイトを意識し始めている。

以前、なんらかの理由で奏と関わったことがあるらしいが…?

 

◇アルティメギル◇

 

シャークギルディ

身長:257cm

体重:302kg

属性:貧乳属性(スモールバスト)

 

奏達の世界にやってきたエレメリアンを束ねるアルティメギルの幹部。

アルティメギル首領から認められ、若くして部隊の隊長となった期待の新星。

若さゆえの無知な行動や若干中二病くさいなどまだまだ成長の途中だがその実力はクラーケギルディのもとで鍛えられ確かなものとなっている。

クラーケギルディが異世界のツインテール戦士に敗北したことで自信をなくし、自分の部屋にこもるようになってしまった。

しかし、オルカギルディが敗北したことで心情に変化が表れる。

 

サンフィシュギルディ

身長:280cm

体重:240kg

属性力:膝裏属性力(クニーバック)

 

アルティメギルの老兵でシャークギルディ部隊の参謀。

若くして隊長となったシャークギルディの補佐をするためオルカギルディとともにシャークギルディ部隊に配属された。

大ホールで行われる会議では主に進行役を任されパソコンを使いモニターを操作することもできる。

シャークギルディが部屋にこもるようになった後はオルカギルディとともに属性力奪取を進めた。

 

オルカギルディ

身長:294cm

体重:310kg

属性力:保護服属性(ウェットスーツ)

 

シャークギルディを補佐するためにサンフィシュギルディとともに部隊に配属エレメリアン。

戦闘力が低いサンフィシュギルディとは対照的に、戦闘力は高く、シャークギルディに匹敵するどころか追い越してしまっている。

部隊に配属されたのは最近だが、将となる前のシャークギルディを知っている数少ないエレメリアン。

属性力を奪う''ある作戦''には肯定的。

シャークギルディが部屋にこもるようになった後はサンフィシュギルディとともに隊長代理としてシャークギルディ部隊を指揮した。

FILE.18でシャークギルディの自信を取り戻すためにテイルホワイトと闘い、FILE.19で壮絶な死闘の末、最後はエレメリンクにより散った。

 

クラーケギルディ

身長:292cm

体重:285kg

属性力:貧乳属性(スモールバスト)

 

シャークギルディの師匠であり、ツインテールの戦士出現を聞きシャークギルディ部隊に合流したアルティメギル幹部。

テイルホワイトを圧倒的な実力で圧倒する力を持つが、自身の奉ずる騎士道を邁進する堅物なことと、シャークギルディ部隊に手柄を横取りしないと約束したのもあり止めをささずに撤退する。

ドラグギルディの報を聞き、別の世界のツインテール戦士を倒すために世界を去る。

しかし間もなくして、異世界のツインテール戦士であるテイルレッドに敗れる。

 

ゼブラギルディ

身長:277cm

体重:340kg

属性:襟巻き属性(マフラー)

 

クラーケギルディが他の世界の戦士に倒される前に奏の世界に送り込んだエレメリアン。

シャークギルディ部隊にクラーケギルディを倒したとされるテイルレッドの情報を持ち込んだがテイルレッドの情報しかなかったので再び異世界に行き、今度はツインテイルズ全ての戦士の情報を持ちやってきた。

すぐさま出撃するも、テイルホワイトには敵わず敗北の後一歩まで迫るも突然現れたオルカギルディに救われた。

 

コーラルギルディ

身長:221cm

体重:236kg

属性力:雀斑属性(フレークル)

 

アルティメギルでは珍しい女型のエレメリアン。

その特徴ゆえ、以前は貴の三葉に所属していたこともありそこでBLを学んだ経験を持つ。

かなりの気分屋で、自分の気にくわないことがあるとすぐに機嫌を損ねてしまうためシャークギルディからも問題児として扱われている。

純粋な戦いを楽しむように見えるが、本質自分が不利になるとすかさず戦闘員を大量投入したり、仲間であるはずのシーホースギルディを倒してしまうなどかなり悪質なエレメリアン。

テイルホワイトと闘い、勝利を収めるかと思った直後志乃の言葉とエレメリンクによって力を増大させたテイルホワイトに敗北した。

 

オルトロスギルディ

身長:??

体重:??

属性力:??

シャークギルディ部隊に配属が決まった元神の一剣のエレメリアン。

 

異世界

 

テイルレッド

奏とは違う世界のツインテールの戦士。

小さい容姿ながらドラグギルディ、クラーケギルディ、リヴァイアギルディと数々の幹部に勝利を収めてきた。

 

テイルブルー

ゼブラギルディ曰く、恐ろしい蛮族。

 

テイルイエロー

自らに辱めをかけ力を増す戦士。

クラーケギルディを一時的に撃破した。

 




最新版の登場人物紹介コーナーでした。
これからも10話ごとに!……とは言いませんが話が大きく進んだ場合などにこの回をできたらと思っています。
それでは、ここまでありがとうございました。


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FILE.21 ビフォーアフターツインテール

 テイルホワイトとオルカギルディが激しい死闘を繰り広げた次の日の朝は……いつもと変わらなかった。

 テレビをつけると相変わらずテイルホワイトが出ただとか、テイルホワイトの予想出現場所だとか、アルティメギルはテイルホワイトに会えるから羨ましいだとか、全く変わらない日常だ。 ……麻痺してきてるなあ。

 どのチャンネルに回してもどうやら昨日の闘いは報道されていないようだ。 おそらく闘った場所が外国であることや、人口が少ない小さな島だったことなどが幸いしたんだろうね。

 取っ手のついたコップで朝の牛乳を飲みながらソファに座りテレビを見ていると何やらガタガタと冷蔵庫が音を立てているのが聞こえた。買ってから何年もたってるし、そろそろ買い換えないとダメかな?

 

「お母さーん、なんか冷蔵庫がガタガタいってるよー」

 

 ううん、返事がない。

 どうやらまだ寝室で寝ているらしい。

 

「しょうがないなあ……」

 

 牛乳を口に含みながらソファから立ち上がりテーブルの上に乗っている中身の入ったパックを持ちながらキッチンの冷蔵庫の前に立ち、冷蔵庫を開けようとした時だった。

 私が手をかける前に冷蔵庫が一際冷蔵庫がガタガタと大きく揺れ、冷蔵庫の一番上の扉が勝手に開き始めた。

 

「グッモーニーン! です!!」

「!?」

 

 突然のご登場に口の中の牛乳ブゥゥと吹き出しそうになったが女としてどうにかそれだけはしまいと我慢することができた。 しかし手に持っていた牛乳パックはキッチンの床へと落としてしまい、ひしゃげた牛乳パックから残っていた牛乳が床へと流れだし、小さな牛乳の池を作り出しはじめる。

 

「あら、牛乳が」

 

 こぼれた牛乳が履いているスリッパについたところでようやく落ち着き、おかしなところから出てきたフレーヌを問い詰めた。

 

「あら牛乳が、じゃないわよ! ビックリするじゃん!!」

「すみません、ここんとこシリアスが続いたので笑いが欲しくて」

 

 そんなアホらしい理由で、いやアホらしくはない理由でうちの冷蔵庫と基地を繋げてしまったのか…。

 

「そんな笑いはいりません」

 

 手刀を作り、弱い力でコツンと、冷蔵庫から顔を出すフレーヌの額へ当てた。 ていうかこの冷蔵庫の中身は何処に行ったんだろう……。

 床にこぼれた牛乳をタオルで拭き、洗濯機の中にいれ再びキッチンへ戻るとフレーヌがいなくなっている。

 冷蔵庫はまだ転送装置とつながっているということはまだ家の中にいるとは思うけど……。

 

「フレーヌ?」

 

 玄関や風呂場、リビングやトイレなど一階を一通り探してみたが何処にも見当たらない。

 なんとなく居場所を察した私は階段を上り自分の部屋の前に立つ。

 

「ここか……」

 

 ガチャリとドアを開け部屋に入り見渡すと私のベッドに寝っころがり、大きい本のようなものを読んでいるフレーヌがいた。まったく、こんなとこにいてお母さんに見つかったらえらいことになる。

 

「フレーヌ、お母さんに見つかっちゃうから早く基地に帰って……ええ!?」

 

 フレーヌがベッドの上で見ていたのは私が中学生の頃の卒業アルバムだ。

 見つからないように机の引き出し奥深くに封印しといたのに!?

 

「ちょ!? 恥ずかしいから!」

 

 フレーヌからアルバムを取り上げると何やらフレーヌはニヤニヤしてこちらを向いている。…仲間になりたいようだ、ではない。

 フレーヌが開いていたページを見ると私が在籍していた最後のクラスの写真が貼ってあるところだ。 ……ということは、見られてしまった。

 

「ツインテールお似合いじゃないですか!」

 

 そう、私は中学の最後までは何処へ行くにもツインテールだった。

 体育祭、遠足、合唱コンクールに修学旅行、全てアルバムに載っている写真にはツインテールにした私が写っている。黒歴史であるからこその封印だったのに…。

 

「ツインテールが嫌いというのでツインテール属性が奏さんに本当にあるのか少し不安でしたけど、ツインテールにしている写真があるのですから奏さんがツインテール属性をお持ちというのは明確な事実! 謎が解明されました! 」

「じゃあ、私はツインテールが嫌いっていう属性力を持っているのかもね」

「そんなことはありえません! みてください、その写真に写っている奏さんのツインテールを!! 」

 

 そう言われて写真をみてみるも私と志乃が一緒に写っている写真なだけ。これをみて、ツインテール輝いてるなあ、なんて思う人いるのかな。

 

「強力なツインテール属性をお持ちだったのでしょう。 見る人によってはテイルホワイトのツインテールと同等、もしくはそれ以上はあるかと」

 

 テイルホワイトと同等以上か……。

 変身前からそれほどのツインテール属性を持っていたら、変身したら一体どれほどの戦士になるんだろうか、そんな疑問が頭に浮かんだ。もし、私がツインテールが大好きな状態でテイルホワイトに変身したら……。

 ま、ツインテールを大好きだった私はもういないんだし、たらればの話なんて所詮その程度、気にしてもしょうがない。

 アルバムを閉じ自分の机にポンと置く。

 

「さ、もう少しでお母さん起きちゃうだろうし早く帰った帰った」

「はーい……」

 

 トボトボと歩くフレーヌに続いて私も部屋を出た。

 ドアを閉めるとき、机の上に置かれていたアルバムが少し光ったような、そんな気がしてしまった。

 早いとこパンドラの箱にでも封印しとかないと……。

 

 

 アルティメギル基地にある大ホールよりも奥にある末端の兵ではまず立ち入ることのできないフロアにシャークギルディは佇んでいた。

 基地では昨日のテイルホワイトとオルカギルディの闘いでオルカギルディが敗れたことは当然のように誰の耳にも入っており、もちろんそれはシャークギルディも知っていた。

 

「オルカギルディよ……」

 

 自分よりも実力が上であるオルカギルディがテイルホワイトに敗れたということは、今の実力ではテイルホワイトに敵うわけないと悟っていた。

 拳を握りしめシャークギルディは自分への怒りを爆発させまいと心で制止している。

 

「へえ、ここがあの部屋ねえ」

 

 自分しかいないと思っていたこのフロアでもう一人、誰かの声が聞こえた。

 

「何者だ!! ここは基地の神聖な場所故、立ち入りは禁止ぞ!!」

 

 シャークギルディは声のする方へと振り返り暗闇の中にいる何者かへと警告する。

 コツン、コツンというヒールを履いているかのような足音が聞こえ声の主が暗闇から現れるとシャークギルディは息をするのも忘れ、その姿に驚愕した。

 

「お前……あなたはアルティメギル五大究極試練を受けようととしているのだろ……でしょう?」

 

 どこかたどたどしく声の主は喋り、シャークギルディに問いかけた。

 シャークギルディは声の主の姿に戸惑いつつも頷くとさらに声の主は続けた。

 

「ドラグギルディのスケテイル・アマ・ゾーンでは時間がかかりすぎるな……ですわ。 ナニイー・テモス・ヴェイルも同じ」

 

 相談にのってくれているのだろうか。

 相手の考えがまったく理解できずたまらずシャークギルディは声の主に問いかけた。

 

「そなたは何を考えておられる!?」

「親身になって相談してやって……あげてるだけよ」

 

 言い直した部分以外はスラリと簡単に声の主は答えた。

 しばらく顎に手をあて、何かを考えながらうーん、と声を出す。

 しばらくすると目をあけ、ニヤリと笑い両手をパンと叩きあわせた。名案が浮かんだのだろう。

 

「おま……あなたは基地の者に見つからずひっそりと修行したいと考えているのだろう、だったらこの俺……私とできる試練にすれば良い」

「その試練とは?」

 

 コツン、コツンとヒール音のようなものを響かせながらシャークギルディを追い越し、互いに背を向けた。

 

「自分自身を題材にした小説を創作し、他人に評価を問う非常に厳しい修練''メロゲイマ・アニトュラー''よ」

 

 メロゲイマ・アニトュラー、声の主がそう言うとともにシャークギルディは驚きのあまり瞬時に声の主の方へと振り返った。

 五大究極試練を一つも修めていないシャークギルディにとってその試練はあまりにも難易度が高く、難しいものであった。

 

「やるのですか?」

 

 目を細め、声の主はシャークギルディに問いかけた。

 声の主の目はまるで「お前などにできるものか、さあ早くできないと言え」そう言っているようにも思えるほど冷たく、凍てつくような目だ。

 もし、メロゲイマ・アニトュラーに耐えられなくなってしまうと自分の命を落としてしまうかもしれない。しかし、シャークギルディは思う。オルカギルディや散っていった部下たち、そして師匠であるクラーケギルディの仇をとりたいと。

 握っていた拳を緩め、片膝を床につき、シャークギルディは話し始めた。

 

「是非、メロゲイマ・アニトュラーに挑戦させてもらいたい!」

 

 シャークギルディの言葉を聞くとそれまで凍てつくような瞳をしていた声の主はフッと笑いシャークギルディに手を差し伸べる。

 

「俺……私はあまくない。 どんどん批評させてもらう!!……ですわ」

「は!」

 

 アルティメギル基地の最奥のフロアでアルティメギル五大究極試練に挑むことをシャークギルディは決心したのだった。

 

 

 お風呂から上がり、パジャマへと着替え、自分の部屋のベッドに腰掛けた。

 今日は特にエレメリアンも出現することはなく、今日起きたこと一番のイベントは冷蔵庫からフレーヌが出てきた事くらいでなんとも平和な一日だった。

 スマホをいじりながらベッドに倒れこむと机の上のアルバムが視界に入った。

 ヒョイとベッドから立ち上がり机の上にあるアルバムを手にとる。

 黒歴史、黒歴史だと思っていた中学生の頃は今となってはそうでもないのかもしれない。 テイルホワイトに変身する前の私だったなら朝、フレーヌに見られた時点で床を這いずり回り、もしかしたら椅子や、テーブルを投げつけるまでしていた可能性もある。 いや、ないか。

 アルバムを再び机の引き出しの奥へと突っ込み再びベッドに座りスマホをいじり始めた。

 テイルホワイトに、私が嫌いなツインテールになってから、そろそろ三ヶ月になる。

 アルティメギルの幹部とかいうオルカギルディも倒したというのに、一体私はいつまでツインテールにならなければいけないのだろうか。

 あの初めて見たエレメリアン、スクリーンに映っていた隊長らしきエレメリアンを倒せば、闘いは終わるのかな? ……いや、オルカギルディは「アルティメギルは氷山の一角だ」という言葉を残し爆散した、もしかしたら私の想像以上にアルティメギルは大きい組織なのかもしれない。

 ベッドで仰向きになったまま右腕を天井めがけて掲げると見えなかった白いテイルブレスが出現した。

 

(フレーヌとの約束だけは、守ってみせる……!)

 

 そう、アルティメギルが千人でも、一億人でも、私はそれを倒し続けるだけだ。

 




皆さん、どうも阿部いりまさです。
新キャラ登場しました!
察しのいい方はこのキャラが今後どうなっていくか、見当がついてしまうと思いますが見逃してください!
感想、質問等どんどんお寄せください。
それでは。


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FILE.22 授業中なエレメリアン

 シャークギルディが再奥のフロアにこもりメロゲイマ・アニトュラーに挑戦し始めてから二週間が経っていた。

 メロゲイマ・アニトュラーへの挑戦は信頼を寄せるサンフィシュギルディにのみ伝えられ、今は彼が隊長代理となり部隊を指揮していた。

 侵攻に関しては、隊員を送り込めばテイルホワイトによって隊員は敗れ、戦闘員が記録した闘いのわずかな映像が残るだけ。 幾度も同じことが続き、テイルホワイトの強さはさすがのサンフィシュギルディももはや手が追えないほどになっている。

 テイルホワイトに属性力を育ててもらい、横から奪うという作戦は最早機能しておらず無駄に犠牲を払ってしまっている。

 希望がなければ、撤退もやむを得ない状況だ。しかし、希望はある。

 一つ目はシャークギルディがメロゲイマ・アニトュラーにより、大幅に戦闘力が上がるかもしれないこと。 彼はもともと首領から期待され、隊長を任された、そのポテンシャルは計り知れない。

 二つ目は配属が決まったオルトロスギルディの存在だ。しかし、あまりあてにはできなかった。 配属が決まったという報から一切連絡も、情報もなく本当にオルトロスギルディが来るのか怪しくなってきていた。

 

「私たちはどうすれば……」

 

 大ホールの中央にあるテーブルに肘をつき、下を向く。

 

「サンフィシュギルディ様」

 

 自分の名前を呼ばれ、上半身だけ振り返るとそこにはゼブラギルディが立っていた。

 

「サンフィシュギルディ様! シャークギルディ様の居場所を教えてください! 私も強くなりオルカギルディ様の、いずれはクラーケギルディ様の仇を討ちたいのです!!」

「な、何をしてるのです!?」

 

 彼は真っすぐサンフィシュギルディを見つめた後、膝をつき深い土下座をした。

 ゼブラギルディの本気の行動に思わずサンフィシュギルディは声を上げやめさせようとするも、やめようとはせず、ただ懇願していた。

 重い空気の中、サンフィシュギルディが断ろうとすると大ホールの隅の通路から声が聞こえてきた。

 

「ゼブラギルディの覚悟、しかと見届けた!」

 

 懐かしい演出で登場したのは隊長のシャークギルディだった。

 神秘的な白い体にはフロアにこもる前にはなかった傷が至る所にできている。

 

「シャークギルディ殿!!」

「隊長様!私をあなたの修行に是非付き合わせてください!!」

 

 シャークギルディが大ホールに足を踏み入れたのとほぼ同じタイミングでまたもや土下座をするゼブラギルディ。

 

「うむ、手合わせできる相手がいるのは心強い。 我から願おう、我と共に修行してほしい」

 

 なんとシャークギルディからゼブラギルディに修行の申し出をしてきた。

 シャークギルディの言葉にゼブラギルディは顔をあげ、体をブルブル震わせ始めた。

 

「はい! こちらこそよろしくお願いいたします!!」

「よし、早速始めるぞ。ついてくるがいい」

「はい!」

 

 そう言うと、二人の隊員は大ホールの隅にある薄暗い廊下へと続く通路へきえていった。

 

「二人ともどうか……どうかご無事で……!!」

 

 きえていった二人を見送り、大ホールにただ一人残されたサンフィシュギルディはポツリと呟いた。

 

 

 オルカギルディを倒してからはなんだかエレメリアンが出現する頻度が減っているように感じた。

 オルカギルディの言っていた作戦通りに弱い隊員を多く私と闘わせ、私をツインテールの女神とし、世界にツインテールを溢れさせるならもっとでてきていいはずなのだけど。

 もしかしたら、作戦を変えたのかもしれない。

 

「あ……!」

 

 先生の声以外は静かな教室でカチャンという音が響く。

 クルクルとシャーペンを回しながら考えていたが、シャーペンを床に落としてしまった。

 クラスにいる人たちの半分以上、こちらを向いたので手でごめん、と伝えながら床に落ちたシャーペンを拾う。

 最近は授業中でもアルティメギルのことを考えてしまってまるで授業に集中できないでいる。

 全く、ほんとにいい迷惑だ。アルティメギルは思わぬところでも侵略を進めているのか……。

 

「ふわあ……」

「こら、授業中ですよー」

「はーい、すいませーん」

 

 私が床に落としたシャーペンよりもわざとらしく大きな声であくびしたのは嵐君……いや嵐だった。

 むかつくので今まで無理やり他人行儀に接してきていたけど、もうめんどくさいからいいや。

 本当にうしろから見てもむかつく、あの退屈そうな顔。

 おそらくサッカー部の朝練だかで疲れているんだろうけど、私だって毎日のようにエレメリアンと闘っているんだ。

 少しイライラしたせいか、手の上で回していたシャーペンがより一層早く回りだした。

 

「あのー、伊志嶺さん?」

「え?」

「授業中なんで……」

「あ、ごめんね」

 

 とりあえず謝り、横目でジーっとその男子を見てみるとやはり、テイルホワイトにお熱らしい。

 彼の筆入れにはテイルホワイトの缶バッジや、テイルホワイトのシール、テイルホワイト名言シールなどなど最近多く売り出されているものがペタペタと所狭しとくっついていた。

 別にキモいだとかそういうことは一切思わない。だって大体の男子や女子までもが同じ缶バッジやシールを筆入れや財布、プリクラ風にスマホに貼っていたり、当たり前となってきているから特に何か思うこともなかった。……やっぱり感覚が麻痺しかけてる気がする。

 キーンコーンと授業の終わりを知らせるチャイムがなり、先生が出て行くと教室はざわざわし始めた。

 今日はあとは帰りのHRだけだし、もうひと辛抱だ、と思ったのだが。

 何事か男女それぞれの学級委員が教壇の前に立ち、衝撃的な話を始めた。

 

「えー、皆さんにお願いがあります。 我が高校で''テイルホワイト応援部''なるものを設立したいと考えています」

 

 何だって?

 冷静にそう思っているのは私と志乃……志乃は盛り上がっている方にいた。

 結局私だけクラスのノリに置いていかれている!?

 続いて女子の学級委員が話し始める。

 

「うちのクラスのみんなにはこの入部届けに新設希望として提出してもらいたいの!」

 

 女子の学級委員からお願いされるとクラスはより一層騒がしくなる。

 

「よっしゃぁぁ!!」

「もちろん手伝うよぉ!!」

「ホワイト姉様のために尽くすわ!」

 

 なんだろうここは。

 まるでテイルホワイトが宗教の教祖にでもなったのではないかと思わせるほどの熱気に余計にテンションが下がってく。

 もうこの際、テイルホワイトとして本当にテイルホワイト教とかの教祖になってしまおうか、そんないけない考えも頭に浮かんでくる。わりと大きな宗教になりそうだし。

 部活申請書類が私の机に届き、さっさと書いてしまおうと思うと前の席の男子からもう一枚の紙を渡された。

 

「あれ?二枚必要なの?」

「いや、なんかアンケートらしいよ」

 

 私は聞き逃してしまったらしいがどうやらクラス内でテイルホワイトに関するアンケートをとるらしい。

 どれどれ、と見てみると。

 

テイルホワイト調査

一、テイルホワイトの押し部位は?

二、テイルホワイトに言われたい言葉は?

三、テイルホワイトに踏まれたい部位は?

四、テイルホワイトにビンタされたい部位は?

五、テイルホワイトにされたいことは?

 

 何だろう、このアンケートは。

 どれもこれも微妙にセクハラ気味のことを聞いているし、半分以上はこのアンケートを作ったドMのための質問ばかりになっている。

私も書かないといけないのかな…。

 

 

「さあ! 早く脚についているパーツを脱ぎ、くるぶしを俺に見せてはくれぬか!?」

「うっさい!」

 

 学校が終わり、家へと帰る途中にフレーヌからエレメリアン出現の報を聞き、駆けつけると大きな噴水のある公園で水遊びを楽しむ幼女を襲おうとしているエレメリアンを見つけ、今に至っている。

 最初は幼女属性だとか、ロリコン属性だとか、水着属性だとか思ったけど奴の会話からするとくるぶし属性のようだ。……またニッチな属性をもつエレメリアンもいるもんね。

 

「アバランチクロー!!」

 

 フォースリボンを叩き、いつものようにアバランチクローを出現させ両腕に装備し構える。

 

「ちょ、ちょっとま……」

「オーラピラ━━━━━━ッ!!」

 

 有無を言わせずオーラピラーをくるぶしギルディに命中させバインドする。

 

「やめてくれえ!!せめてくるぶしを!くるぶしを!!」

 

 ブレイクレリーズし、アイシクルドライブでくるぶしギルディを突き破ると断末魔をあげる暇もなく爆散した。

 エレメリアンを舐めないで闘うと決めたクラーケギルディの時からこれが私の戦闘スタイルだ。

 相手だってそれなりの覚悟を持ちこの世界に現れ、属性力を奪うのを阻止しようとする私と闘っている。 いくら相手が弱かろうが全力をだし、私は勝利を収め続ける。

 

『ちょっと怖いですね……』

「私がいれば怖いことなんておこりっこないよ」

 

 フレーヌが怯えた様子で通信してきたのでできるだけ優しい声をだしなだめておく。。

 

『いえ、あの……なんでもないです』

 

 また怯えた様子で私に返事をした後フレーヌは通信を切ってしまった。

 うん、安心してフレーヌ。

 オルカギルディ戦の時の約束必ず守ってみせるからね!




皆さんどうも、阿部いりまさです。
なんだか最近は本文の内容よりもサブタイトルのほうが考えるのが難しくなってきている気がしないでもありません。
感想、質問等どんどんお待ちしています。
それでは。


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FILE.23 参上!オルトロスギルディ

白いローブ
シャークギルディとゼブラギルディの挑戦するメロゲイマ・アニトュラーの指導をする謎の人物。
白いローブを羽織っていることから神の一剣のメンバーであることが推測できるが真相は謎。



 高校二年生の一学期が終わった。

 振り返ってみれば私の人生でここまで濃厚かつ壮絶な一学期はなかったと断言できる。 もしかしたら並みの人間の一生分の奇怪な経験をこの一学期で達成してしまったかも…。 これははたしていい経験だったのだろうか……。

 アルティメギルの出現からテイルホワイトに変身するようになり、クラーケギルディによってエレメリアンの脅威を知り、自信を失いかけてた私をエレメリンクによって志乃が助けてくれ、先日幹部のオルカギルディを倒すことができた。

 ざっと思い出しただけでもこんなにある。

 はあ…クラスのみんなは友達と遊びに行ったり、進路を決めてそれに向かっていったりしているのに私はアルティメギルと闘っているだけ、はたしてこれでいいのか。

 いや、良くない!やっぱり女子高生というのは華々しくあるものだ、なんとしてでも早急にアルティメギルを倒さねばならない。

 

「それでそれで、コミケにはさ!」

「えー、ホワイト姉様展の予約取れなかったの!? どうするの夏休みぃ!?」

「次にテイルホワイトが現れる場所は多分九州の……」

 

 終業式が終了した教室内では誰もが夏休みの予定を友達と確認し、心持ちにしているようだ。 ところでテイルホワイトはエレメリアンが出現しないと出てこないからテイルホワイトが出現する場所を予想しても意味はないと思うのだが。

 そうそう、テイルホワイト応援部の設立は無事生徒会が受理し、うちのクラスのみんなが所属する部活が誕生した。 とはいっても、大体の部員は自分自身でテイルホワイトの画像をコレクションしたり、動画を漁っていたりなど、あまり部活にする前と状況は変わっていないように思える。もちろん私はその類のことは一切していない。 ていうか夏休みって普通は受験に向けていくものでしょうが。

 

「夏休みどうしよっか?」

 

 鞄に荷物を詰め終えると志乃が私の机の前にしゃがみ込み話しかけてきた。

 

「うーん、いつエレメリアンが出てくるかもわからないからね…」

 

 できるだけ小声で答える。

 エレメリアンが絶対に出現しないなら旅行だとかも行ってみたいけどそうもいかない。 常にエレメリアンが出現した時に、こちらも出動できるよう準備していなければいけない。

 

「フレーヌがなんとかしてくれるって!」

 

 そういえば、超科学力を持つフレーヌが居たんだ。

 空間跳躍カタパルトやら、冷蔵庫にテレポートさせた機械やらを持ってれば何処からでもエレメリアンを倒すために出動できるかもしれない。…ということは、並みの高校生くらいは夏休みをエンジョイすることができるかもしれない! ……受験の事は今は忘れとこ。

 そうと分かればこの教室に長居は無用だ、早く基地へと行かないと。

 

「確かフレーヌ、海行きたいって言ってたよね!? オルカギルディの時はそんな暇なかったからきっとうずうずしてるよね!」

「どしたの奏、テンション高くなっちゃって」

「普通に遊べる可能性が出てきたからっ!」

 

 鞄をもち、志乃の手を引いて、早速学校の下にある基地へと走り出した。

 

 例の演出がある螺旋状の階段を駆け下り、基地に入る。

 中央司令室的な大きいモニターのある部屋へと入ると椅子にフレーヌが座っているのが見えた。

 うんうん、海に行きたくてうずうずしてるんだよね! 私が一緒に行ったげるよ!

 

「あっはははは!」

 

 フレーヌに向かって歩いていると急に笑い出したのでビックリした。

 どうやら大きいモニターの下にある手元の小さいモニターで何かを見ているらしい。

 

「フレーヌ、何かみてるの?」

「あ、奏さんに志乃さんちょうどいいところに! これ見てくださいよ!」

 

 フレーヌはキーボードの中にある一つのボタンを押し小さいモニターから大きいモニターへ自分が見ていた画面を移し替えた。

 大きいモニターに映っているのをみるとどうやらフレーヌはアニメを見ていたらしい。

 ツインテールの少女が魔法少女のような格好で十何メートルもあろうかという巨大な敵とタイマンをはっている。 やがてその少女の蹴りでデカイ敵は爆発し映像は終了した。

 そういえば魔法少女といえばツインテール、というのはなかなかよく見るコンビというかセットだ。

 ブラックアウトしてからすぐまた映像は始まり、予告編のようで今度は画面から音声が聞こえてくる。

 

『魔星少女として闘っていたのはグッズを売るためだった!? 今、一人の少女、レイアーソルの四クールが終わった物語が始まる!!』

 

 映像が終わり声優さんやらスタッフの名前が画面に流れ出した。

 どうやらレイアーソルという魔法……じゃなく魔星少女として闘った四クール?の後の物語らしい。

 

「今これの一話を見てまして、これが面白くて! 夏休み中にアニメを全部見て、原作も読破したいですね!」

「え、じゃあ海は……」

「海も行きたいですけど、まずはこれ全部みたいですね!!」

 

 すごい嬉しそうな顔をし、席を立ち、拳を高々と掲げた。

 しばらく海はないかもね……。

 

 

 アルティメギル基地の再奥にある選ばれし者しか入れない禁断のフロアには三人の姿があった。

 一人は部隊長のシャークギルディ、一人は後から修練に参加したゼブラギルディ、一人はその二人の指導をしている白いローブを羽織り顔を見せない謎の人物。

 今まさに、地獄のメロゲイマ・アニトュラーが始まろうとしていた。

 シャークギルディとゼブラギルディから分厚い冊子をもらった白いローブはまずゼブラギルディの方を向き、冊子をめくり、書いてある内容を読み始めた。

 

「我はゼブラギルディ、この街にふらりと訪れた旅の者……」

「あ、あの、音読はできれば……」

 

 ゼブラギルディの懇願を白いローブはピシャリと跳ね飛ばす。

 

「何を言っているのだ……よ。 あなたが聞かなければ意味がないでしょ?」

 

 アルティメギル五大究極試練メロゲイマ・アニトュラー。他人に自分自身を題材にした創作作品を読み、批評してもらう地獄の修練。

 この眼前音読の破壊力に耐えきれず爆発し、命を落とすエレメリアンも多いと聞かされる。

 白いローブがすらすらとも読み上げていくが途中で音読が止まり顔を上げた。

 

「ゼブラギルディは言う……一寸の虫にも五分の魂? なんで、ここでことわざが出てくる?」

「ぐあああああ!!!」

 

 白いローブは赤いマジックをもち、誤字っているところ、不自然なところを次々と校閲していく。

 ある程度校閲したところで冊子をゼブラギルディに投げつけた。

 

「基礎はまあまあ、でも誤字や不自然な言い回しが多すぎるわ。 そこんとこしっかりしろ……なさい!」

 

 ゼブラギルディに対するアドバイスをし、次にシャークギルディの冊子に手をつける白いローブ。

 

「お、続編か」

「はい、なんとか……完成することができました……」

「ふむ……」

 

 冊子をめくり、ゼブラギルディの時と同じくすらすらと読み上げては駄目出しをし、赤いマジックで校閲していく。 しかし、シャークギルディはゼブラギルディとは違い、悶え苦しむことはなく、ただ静かに白いローブの駄目出しを聞いていた。

 

「シャークギルディは言う、これで終わりだぜ!! シャークギルディの拳銃から放たれた弾は相手へと命中……」

「…………」

「な、なんと!?」

 

 シャークギルディの冷静さに、ゼブラギルディは驚愕を隠しきれなかった。

 最後の一ページまで読み切り白いローブは冊子をシャークギルディへと返す。

 

「流石に始めた期間でシャークギルディとゼブラギルディには差がある、この差をどう詰めていくかが今後の課題よ」

「「はっ!!」」

 

 今後のアドバイスを交えながら、二人の実力を評価し、再奥のフロアではまた、地獄の修練が始まる…。

 

 再奥のフロアで地獄の修練がひと段落ついた頃、いつもの大ホールでは今日もサンフィシュギルディがいまか、いまか、とシャークギルディとゼブラギルディの修行が終えるのを、そしてオルトロスギルディの到着を待ちわびていた。

 

「モケモケ━━━━━━ッ!!」

「何!? とうとういらっしゃったか!?」

 

 戦闘員が慌てた様子で大ホールに現れ、艦が発着するデッキへとサンフィシュギルディは向かった。

 艦から降りてきたのは、白いローブを羽織った三メートル近い身長にローブがはだけると見える漆黒の体、そして何より特徴的なのは首が二つあることだった。

 

「オルトロスギルディ様! お待ちしておりました!!」

 

 サンフィシュギルディをチラリと見るとオルトリスギルディはふんっ、と笑い話し出す。

 

「オルトロスギルディ……ただいま参上」

 

 静かに、クールに、オルトロスギルディは話すと何体かの戦闘員を連れ、薄暗い廊下へと姿を消していった。

 

「オルトロスギルディ様がいれば、テイルホワイトを倒せるぞ!!」

 

 拳をグッと握りしめサンフィシュギルディは先ほどの表情は何処か、自信に満ちた表情に変わっていた。




テイルホワイトの単純な戦闘力の強さは原作組と比較すると
テイルブルー>テイルレッド>テイルイエロー≧テイルホワイト
こんな感じをイメージしています。
それと四クールアフター、面白いです!
感想、質問お待ちしてます!
それでは。


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FILE.24 不思議な夢

 私は、夢を見ている。

 何処だろうか。

 見たことがなく、来たこともない薄暗い空間で私は一人立ち尽くしている。

 変な夢だし、早く覚めてほしい。しかし、夢だと自覚していても、現実の私は起きてくれないようだ。

 仕方なく、何もない空間を何もない方向へと歩き出してみた。

 しばらく、何もない薄暗い景色が変わらなく続いていたが前方に何かがあるのを発見した。

 徐々に近づいていくとだんだん前方にあるものがはっきりと見えてくる。

 私の前にいるのは━━━━━━

 

「━━━テイルホワイト!?」

 

 私の前にいるテイルホワイトは大きい柱にロープで拘束されている。

 意識はないようで眠ったように目を瞑り俯いているだけだ。

 直感的に私は、拘束されているテイルホワイトを助けたいと思った。

 なんとかロープを解けるか試してみるも、結び目がなかなか硬く解くことができない。

 周りに助けを求めようにもここには私と拘束されているテイルホワイトしかいない。

 もう一度ロープを解くのに挑戦しようとするとテイルホワイトのテイルブレスが激しく輝きテイルホワイトを光へと飲み込んでいった。

 私の意識も、テイルブレスの放った光へと吸い込まれていく。

 

 

 気がつけば私は、ベッドの上で上体を起こし、ボーッとしていた。

 机の上にある時計を確認すると朝の五時半。 夏休みに入ったばかりの高校生が起きる時間としては優等生すぎる。

 

「…………」

 

 ただの夢にしては、あのテイルホワイトはリアル過ぎる。 さっきまで目の前で見てたような感覚だ。

 今度、フレーヌに聞いてみようか。

 

 

 夏休みに入り、今日で一週間がたった。

 高校生活は一旦休止中だがテイルホワイトとしての活動にゴールデンウィークも夏休みも冬休みももっといえばきっとお正月もあるわけがなく、定期的に現れるエレメリアンをこの暑い中倒すことが続いている。

 もはやパターン化してきた闘いは街の人にとっては娯楽として楽しまれておりエレメリアンに対する恐怖など皆無に等しい状態だ。 ……まあ最初からそうではあったんだけど。

 だが、四日前に現れたエレメリアンを最後にエレメリアンが出現しなくなっている。

 おそらくこのエレメリアンが出現しない期間は新しい作戦のための準備期間、ということだろう。

 今度は一体どんな作戦を仕掛けてくるのやら。

 アイスを咥え、扇風機の風を間近で感じながらテレビを見ているとふと、あの夢を思い出した。

 初めてあの夢を見てから五日くらいたつが一昨日の夜も全く同じ夢を見たのだ。

 何処かもわからない空間で拘束されているテイルホワイトを助けようとする夢、私に何かを知らせようとしてる?でも何を?

 

「冷たっ!」

 

 しばらく考え込んでいたようで足に溶けたアイスがかかってしまった。

 今日にでも基地へ行ってフレーヌに確認してみたほうがいいかもしれない。

 ソファに放ってあったスマホを手にとりフレーヌに入れてもらった特製のアプリ''テイルコネクト''を起動した。

 実は基地を紹介してもらった時にフレーヌと素早く連絡が取れるようにスマホに入れてもらっていたのだ。……いわば改造に近いけど、正義のためだしメーカーさんは許してくれるだろう。

 起動したテイルコネクトのメニュー画面からフレーヌへの通信ボタンを選ぶと通信が開始され、呼び出し音が鳴り始めた。

 

『はいはーい、フレーヌです!』

 

 十秒ほどすると間の抜けた声が聞こえてきた。

 

「フレーヌ、私。 実は相談したいことがあってさ…」

『もしかして………恋の相談とかですか?』

「違うよ」

『もしかしてアルティメギルに関連することですか? でしたら外ではアレなので基地へ来ていただけると』

「違うけど、一応そうするね」

 

 通信を切るとガタガタと冷蔵庫が揺れ出した。

 まさか、あの時みたいに冷蔵庫の中とフレーヌの基地が…。

 冷蔵庫のドアを開けると白い光の空間が出来上がっていた。あー、また……。

 

「よいしょ……と」

 

 冷蔵庫の中へ飛び込むと白い光に包まれた。

 

 

 神秘のベールに包まれた世界の間にある空間の巨大基地。

 アルティメギルの基地の大ホールでは新しく部隊に配属されたオルトロスギルディにテイルホワイトについてサンフィシュギルディらから説明を受けていた。

 

「と、いうことです」

 

 一通り説明を終えたサンフィシュギルディからタブレットを渡され、オルトロスギルディは中に入っている画像を見始め、ある一枚で指をとめた。

 

「これは……!?」

 

 タブレットの画面に映っている写真はゼブラギルディとの闘いで髪型が三つ編みへとなっているテイルホワイトだ。

 

「つい先日、我々も知ったのですが、闘い方やなどが非常に慣れているためかなり前から三つ編みへと変身できるようになっていたのかと」

「くそ、兄貴を思い出して嫌な気分になった…」

「兄貴、というのはケルベロスギルディ様のことでございますか」

「ああ、トライブライドなんてものを信仰した挙句ツインテイルズに敗れた愚兄だ」

 

 ケルベロスギルディは圧倒的な実力を持つ幹部であったが、自身の属性が三つ編みということもあり、早々に闘いから身を引いていた。しかし、ツインテイルズの力が凄まじくやむなしに出撃したところツインテイルズの前に敗れてしまったという。

 そんなケルベロスギルディを弟であるはずのオルトロスギルディは毛嫌いしていた。

 理由はケルベロスギルディと相反する自身の属性力にあった。

 大きな胸板に記された自身の属性力、そのマークは━━━━━━ツインテール属性のマークだ。

 

「ツインテールこそが最強にして最も可憐な属性力なんだ。 三つ編みなどにかまけているテイルホワイトを見ると、こう体中がムズムズしてくるんだ!!」

「まさか、出撃を!?」

 

 ようやく合流してくれた神の一剣に入れるだけの戦士をここで出撃させ、もしテイルホワイトに敗北してしまうことなどあれば、今度こそこの隊は撤退を命じられてしまうかもしれない。 サンフィシュギルディはそれだけは避けていたいと考えている。

 オルトロスギルディといえば、隊員の育成力なども評価され、様々な戦士を育ててきたこともアルティメギルでは有名だ。

 この部隊は今まで効率化を図り、ツインテール戦士と闘うのはシャークギルディやオルカギルディに任せきりだった。 その作戦で育成を放棄してしまった隊員を鍛えてもらえれば、そう思っていた。

 

「ふん、まずは腑抜けた隊員を鍛えることからだな。 俺は一旦、自分の艦に戻るぞ」

 

 白いローブをマントのように翻し、オルトロスギルディは薄暗い廊下へと姿を消していった。

 

 

 オルトロスギルディは自分の乗ってきた艦に戻り、白いローブをぬぎ捨てた。

 彼の艦の彼の部屋には子でもかというほど壁一面にツインテールにしている少女のフィギュアが飾られていた。

 定番の魔法少女はもちろん、小学生のツインテールや二十歳以上のようにも見える女性のツインテールなど幅広く壁一面の棚には埋もれている。

 その中には、一部ショーケースに入れられたフィギュアもある。 これは彼が闘ってきた幾多もの世界のツインテール戦士のフィギュアだ。

 皆、オルトロスギルディに敗れ、ツインテール属性を失い、ツインテールにできなくなっていった。 そんな彼女たちの姿を忘れないよう戦士として闘っていた頃のフィギュアを作り部屋に飾っている。

オルトロスギルディがツインテール戦士に勝利を収めた証でもあった。しかし、その中に他の戦士とは違う雰囲気を出しているフィギュアがある。

 ショーケースを開けそのフィギュアを手に取るオルトロスギルディ。

 

「俺はお前を超えたのだ、ドラグギルディ……!!」

 

 握りしめていたフィギュアを再びショーケースに入れると、白いローブを羽織った。

 自分の部屋から出ると、またも彼はシャークギルディ部隊の艦へと戻っていった。

 

 

「それは確かに妙な夢ですねえ……」

 

 顎に手を当て足を組み考えているフレーヌは神妙な顔をする。

 

「しかし、前のようにテイルギアをうまく扱えなくなっているわけでもありませんし……疲労ですかね……」

 

 確かにそうだ。

 おかしな夢を見るが、前のようにエレメリアンと闘っていて違和感を感じるようなことはない。ということはまさか本当に、疲れてるだけなのかな……。

 

「しかしラッキーでした。最近はエレメリアンの出現頻度が減っていますからね」

 

 フレーヌはモニターに向き直り、停止中だったアニメを再生し視聴し始める。

 どうやらこの前の魔法少女のアニメらしい。しかし、半分ほどみたところで急に画面が変わり赤い三角形のマークが表示され、基地のアラームが鳴り始めた。

 

「エレメリアン!?」

 

 アラームに私はビックリしたがフレーヌは動じずただ画面を見ているだけだ。 さすが、司令塔ともなればどんな急な事態でも落ち着きを忘れていないらしい。

 

「いいところだったのにぃ━━━ッ!!」

「違うでしょ!!」

 

 どうやらいいところでアニメが切れてしまったため固まっていただけのようだ。しかし、このタイミングでエレメリアンか……やっぱり空気読めないな奴らは。

 テイルブレスを胸の前に構え、変身コードを唱える。

 

「テイルオン……!」

 

 テイルブレスが激しく閃光し、私はテイルホワイトへと変身が完了した。

 やっぱり変身できるし、変身してからも体に異常は感じられない。

 空間跳躍カタパルトに入ると、目の前が白くなっていった。




なんか前にもこんな終わり方があったような……。
この話が今年最後の更新ですね。
皆さん、良いお年を!
それと感想、質問どんどんお寄せください。
それでは。


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FILE.25 荘厳のツインテール

オルトロスギルディ
身長:274cm
体重:280kg
属性:ツインテール属性

神の一剣からシャークギルディ部隊へと配属された隊員。
彼自身若いにも関わらず若手隊員の育成の実績は素晴らしく、部隊の主戦力となっているものも多い。
兄弟の契りを結んだケルベロスギルディがいたがツインテールではなく三つ編みを信仰していたため仲は悪かった。
同じツインテール属性を持っていたドラグギルディにライバル心を抱いており、それは彼が戦死してからも変わらない。


 白い光から抜け出し、見えてきたのは蝉の声が響く田園風景だ。 周りには茅葺き屋根の家が点々と建ち、その奥にはたくさんの山と一際大きく富士山が見える。 これぞ日本、日本の夏といった風景だろう。

 言い方は悪いがこのような田舎だとエレメリアンの求める属性力も限りがありそうだ。 つまりここに現れたエレメリアンはどちらかといえばマイナーな属性力を持っているのだろう。……つまり変態度が高い。

 

「来たな、テイルホワイト!」

「げ……」

 

 声が聞こえ、後ろを振り向くとやたらと恰幅のいいエレメリアンがそこにはいた。

 今までは筋骨隆々なエレメリアンや、シャープなエレメリアンしか見たことなかったから新しいタイプのエレメリアンだ。

 

「随分と不健康なエレメリアン……」

「この腹には俺様が今までいただいてきた属性力と夢が詰まっておるのだ!」

 

 微妙に怒った感じで目の前のエレメリアンは子供に言うようなセリフを私に投げかけてきた。

 夢が詰まっているのはとても素敵なことだし手は出したくないと思うけど、属性力が詰まっているのなら話は別だ。手を出さないわけにはいかないね。

 

「じゃあお腹を裂いて属性力は返してもらうね!」

 

 フォースリボンを叩き、アバランチクローを両腕に装備する。うん、問題ない。

 コーラルギルディの時のようにアバランチクローが出現しないアクシデントもないし、本当にあの夢はなんなんだろうか。

 私の言葉を聞き、目の前のエレメリアンはお腹を抱え二、三歩後退った。

 

「行くよ!」

 

 地面を蹴り、一気にエレメリアンまで距離を詰めアバランチクローをお腹に食らわした……と思ったが金属どうしが擦れるような音がし、私の攻撃は受け止められてしまった。

 私は大きくバックステップし体制を整え再びクローを構える。

 想像以上に硬いお腹をしている、そう思ったがよく見ると横から大剣のようなものがエレメリアンを守っている。

 

「うそ……」

 

 大剣をもち、エレメリアンを守った新手を見るとそこにいたのは━━━━━━

 

「━━━オルカギルディ!?」

 

 横から大剣を伸ばし、恰幅のいいエレメリアンを守っていたのは私が倒したはずのオルカギルディだった。

 

 

 世界の狭間にあるアルティメギルの聖域とも呼べる基地。

 その中心にある大ホールでは多くの隊員が集まり今さっき始まったテイルホワイトと隊員の戦闘を静観している。

 

「部隊に合流したばかりの彼を出撃させてしまって良かったのですか?」

 

 大ホールの中心にあるテーブルに座る一人の隊員が近くに座るサンフィシュギルディに向かって問いかけた。

 

「彼は……ラクーンドギルディは自らの属性力を生かした攻撃が得意なのです。 オルトロスギルディ殿も彼の出撃に賛成しておりました」

 

 先日、何名かの隊員がこのシャークギルディ部隊に合流した。

 現在この部隊にいる隊員の育成をしながら世界の属性力を奪う作戦へと切り替えたため、オルトロスギルディが新たな部隊の合流を望んだためだった。

 

「初めは貴の三葉に合流を願っていたらしいが、まさか壊滅しているとは……」

 

 ''アルティメギル四頂軍の貴の三葉が壊滅した''この知らせを聞いた隊員は誰もが驚愕した。 さらに知らせには続きがあり貴の三葉を壊滅させたのがあのツインテイルズであったことを聞かされさらに驚愕することとなった。

 もはやツインテイルズは一つの部隊でどうにかできるものではなくなってきている。

 次第に隊員達の表情も曇りだしてくる。

 

「フェニックスギルディの脱獄に続いてのこと、アルティメギルはどうなってしまうのか……」

 

 大ホールはいつものような騒がしさはなく、誰もが今後のアルティメギルのことや自分のことについて考えるばかりだった。

 

 

 私の目の前には二体のエレメリアンがいる。

 一体は先ほど現れた今までにない恰幅のいいエレメリアン。 もう一体は私がこの手で倒したはずのアルティメギル幹部オルカギルディだ。

 まさか、エレメリアンは倒しても復活することができてしまうのか? そんな特性を持っていたりするととても厄介だ。

 

『オルカギルディから属性力が検知できません……どういうことでしょうか……』

 

 フレーヌでさえも、目の前の状況はわからないという。

 私の動揺を知ってか知らずか恰幅のいいエレメリアンはニヤリと笑い腕を組み話し始めた。

 

「ネタバラシしてやろうかテイルホワイト」

 

 指をパチンと鳴らすと横にいたオルカギルディが煙のように消えた。 変わりに出てきたのはこれまた私がよく知っているクラーケギルディだ。

 

「クラーケギルディ…? どいうことなの!?」

「ふふふ、これこそが俺様が極めに極め生み出した奥義!''幻想見る私達(イリュウ=ジオン=ウィーン)''ッ!!」

 

 奥義、つまり必殺技のようなもので私が今まで倒してきたエレメリアンを復活させているのか!?

 

「俺様はラクーンドギルディ!! 乙女の幻想をこよなく愛してやまない戦士だ!!」

 

 ラクーンド……ラクーンドッグ……狸ってことか。

 狸ってことはもしかして、ラクーンドギルディはエレメリアンを復活させているんじゃない、私に幻を見せているだけなのかもしれない。人を化かすという言い伝えがある狸にはもってこいの能力だ。

 

「幻想とこの田舎とどんな関係があるわけ?」

「俺様はな、田舎の乙女が都会に抱く幻想が一番好物なのだ!! 都会のありもしない姿を想像する、田舎の娘がなっ!!」

「言い方考えなさい!サイテーよあんた!!」

「なんとでも言うがいい! 貴様が何をいったところで俺には勝てん!! 幻想見る私達(イリュウ=ジオン=ウィーン)が使える限りはなっ!!」

 

 なんて勝手なエレメリアンだ!

 田舎の娘が都会に抱いてるのは幻想なんかじゃなく、憧れだ。 その属性力をこんな勘違い野郎に渡すわけにはいかない……!

 

「行くぞ! 幻想見る私達(イリュウ=ジオン=ウィーン)!」

 

 ラクーンドギルディが叫ぶと彼の前に五つの黒い塊ができ、だんだんと粘土のようにエレメリアンの形を作っていく。

 ある程度まで形ができると五つの塊はそれぞれ私の知っているエレメリアンへと変貌した。

 左から、オルカギルディ、コーラルギルディ、ジェリーフィッシュギルディ、ウーチンギルディ、クラーケギルディとなった。

 数的には不利だが所詮は幻、そこまで苦戦はしないだろう。

 

「おっと、強さは全てオリジナルの半分はあるから気をつけな!」

 

 私一人対エレメリアン七体となるが半分の強さなら……それなら今の私じゃ大した強さに感じることもないだろうし充分に対処は可能だ。 しかし、半分の強さと自信満々に言うのはどうなんだ。

 

『志乃さんに連絡してエレメリンクを!』

「いや、折角の夏休みなんだし休ませてあげたい。アバランチクローで平気」

『……わかりました。 気をつけてください!』

 

 通信を終えると早速今まで倒してきた敵の幻に向かい駆け出す。 幻に向かっているときに気づいたが本物よりも幻は色が暗く、話さないらしい。

 コーラルギルディの幻の目の前まで駆け、アバランチクローを横に一閃。 瞬間幻のコーラルギルディは爆発し、散る。

 次に左右からジェリーフィッシュギルディとウーチンギルディが挟み撃ちを仕掛けてくる。 今度はアバランチクローを体の中心でバツのように交差させまた横に一閃し幻の二体を同時に爆発させた。

 これで残りは二体だ。

 残ったのは苦戦したオルカギルディ、唯一私が攻撃もできずに敗北したクラーケギルディの二体の幻。半分程度とはいえ油断はできない相手だ。

 クローを再び構えるとクラーケギルディの幻があの時と同じように無数の触手を伸ばして攻撃してくる。

 無数の触手攻撃をクローで全て叩き落とすと、右腕のクローを外し幻に投擲する。

 クラーケギルディの幻が怯んだ隙にオルカギルディの幻へと接近し残った左腕のクローで攻撃を仕掛ける。

 

「!」

 

 しかし、大剣で攻撃を受け止められてしまった。

 

「残念、ガラ空きっ!」

 

 左腕のクローでオルカギルディの幻が持っている大剣を受け止めている隙に右足でローキックをかます。 するとオルカギルディの幻は倒れこみそこへクローを思い切り叩き込むとオルカギルディの幻は爆発する。

 後ろから触手を失ったクラーケギルディが攻撃をしてくるのを感じクローで攻撃を受け止め、蹴りを腹にかますとその場でクラーケギルディの幻も爆発した。

 ここまで十五秒の出来事だった。

 十五秒で五体いた幻は全て倒した。

 

「ままま、まさか……俺様の奥義が……!?」

 

 落ちていたクローを右腕に装備し直しラクーンドギルディへ向き直る。

 

「五体全て倒した、次はあんたの番ね」

 

 直後ラクーンドギルディへ向かって駆け出しブレイクレリーズすると腰の装備から蒸気が噴射されさらに速度が上がる。

 

「ブレイクレリーズ!!!」

「うわああ、やめろおお!!」

 

 ラクーンドギルディは命乞いをしながら新たなエレメリアンの幻を生み出し自分の盾を作る。

 

「アイシクルドラーイブ!!」

 

 私は構わず必殺技を発動し、盾となったエレメリアンの幻とラクーンドギルディの両方をアバランチクローで貫いた。

 程なく幻は爆発し、ラクーンドギルディも放電を始める。

 

「俺様の奥義が……俺様にも幻想(ゆめ)を見せてくれええ!!」

 

 壮絶な断末魔を残しラクーンドギルディは爆発し散っていった。

 

「モケ━━━━━━ッ!!」

 

 近くにいた撮影クルー役のモケモケ達もラクーンドギルディが爆発すると漆黒のゲートを生成し何処かへ逃げていった。

 私はフッと安堵の息をする。

 ……正直厄介な敵だったかもしれない。今まで倒した全てのエレメリアンを幻として使ってきたら流石に体力が切れてこっちが危なかったかもしれないし。

 

『危ない!!』

「っ!?」

 

 一息ついて変身を解除しようとするとフレーヌから通信が入った。

 驚いて二、三歩下がると私のいたところに黒い剣が突き刺さる。

 

『大丈夫ですか!?』

「ええ、平気……ッ!!」

 

 黒い剣を眺めていると物凄い威圧感を体で感じ、後ろを振り向く。

 

「あなた、人間?」

 

 後ろにいたのは私と同じくらいの体格に白いローブを羽織っている人間だ。顔は見えないが時々見える口や肌の色は間違いなく人間のものに違いない。

 問いに答えることなく白いローブは私に近づき横を通る黒い剣を地面から引き抜き、黒い剣を眺める。

 ここでようやく白いローブは口を開いた。

 

「……ええ、人間よ」

 

 黒い剣を手にし少し笑みを浮かべながら答えた。

 人間、しかもこの声は私と同じ女の子。

 雰囲気的にも田舎に住んでる私のファンではなさそうだ。

 白いローブの少女に握られていた剣はやがて砂がこぼれ落ちるような形で消滅した。

 剣が消滅するのを見届けると少女はこちらに向き直り被っていたフードを下ろす。

 

『「!?」』

 

 フードを下ろした姿は紛れもなく人間の女の子だ。しかしそれだけではない、その女の子は……ツインテールだった。

 赤い瞳に漆黒のツインテールは変身中の私の碧眼に白銀のツインテールと対極を思わせる。

 さらに少女は身に纏っていたローブを豪快に脱ぎ捨て、下に着ていた衣をみてさらに私達二人は驚愕した。

 ローブの下に着ていた衣はテイルギアによく似ていたのだ。

 全体的に黒いカラーリングに所々入っている赤いライン、私のテイルギアと対極のカラーリングをしている。

 違いといえばテイルギア自体のデザインとアンダースーツの一部の色が違うことくらいだ。

 

「テイルギア……!?」

「ちょっと違うけどね。 これはお…私の中のツインテール属性から作り出した鎧……テイルギアでもあるといえるかな」

『まさか! テイルギアは装着者のツインテール属性とは別にテイルギア自体にツインテール属性が組み込まれていないといけないはずです!』

 

 ともかく、私と同じくテイルギアを装備している彼女がこの世界の人間である場合フレーヌのように協力者がいるはずだ。 しかし、彼女は別の世界の人間の可能性の方が高い。

 

「おま…あなたのツインテール属性大したものよね。 この目で見たくなっちゃってさ」

 

 ニコリと笑うと彼女は後ろを向き農道を歩き出したが、途中で止まりそのまま話し出す。

 

「でもツインテール属性を極めない限り、あなたは弱いままよ……」

 

 小さい声だったがはっきりとその声は私の耳まで届いた。

 

「ちょ、ちょっと!!」

 

 呼び止めると彼女は歩みを止め少しだけこちらに体を向ける。 怪訝そうな顔をしていたが「あっ」というとしっかりとこちらに向き話し始めた。

 

「お…私はアルティメギル四頂軍、神の一剣の………」

 

 そこまで言うと彼女は言葉が詰まり顎に手を当て何かを考え始める。

 しばらくするとうん、と頷き再び私と向き合う。

 

「速水 黒羽(はやみ くろは)よ、よろしくね」

 

 そう言うと彼女は後ろを向き、極彩色のゲートを生成し、消えていった。

 速水黒羽か………絶対偽名だ。

 それにアルティメギル四頂軍とか、神の一剣とかわけわからない単語まで出てきた。

 速水黒羽の目的は一体……。

 新たな敵の出現は私の闘いが第二段階に入ったことを示しているのか?

 それに、小さい声で言った''ツインテールを極めない限り''というのはなんのことだろうか。




皆さんどうも、阿部いりまさです。
あけましておめでとうございます。
2016年もスタートとなり新年一発目の投稿は物語が動いていく話です。
それでは2016ねんもよいツインテールを!!


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FILE.26 似た者同士

速水黒羽
性別:女
年齢:??
誕生日:??
身長:154cm
体重:44kg

奏の前に突如現れた謎の少女。
普段は神の一剣の白いローブを羽織っている。 ローブの下には自らの属性力を極限まで高めた事で生成された黒いテイルギア?を装着している。
シャークギルディとゼブラギルディを鍛えていたのも彼女。




 謎の威圧感を放つ黒いツインテールを持つ速水黒羽という少女と対峙した私はフレーヌからの通信を聞き、早々に基地へと戻ってきていた。

 

「速水黒羽ですか……明らかにこの世界の人間ではありませんね」

「……フレーヌが他にテイルギアを渡したの忘れてるだけの可能性は?」

「そんなことはありません!」

 

 時々冗談を交えながら謎の少女速水黒羽について考察していく。でもあながち冗談とは言い切れないんだよなあ……。

 私のテイルギアの装備のカラーリングは白と少しの青にアンダースーツの黒の三色。 速水黒羽のテイルギアは黒い装備に少しの赤に黒いアンダースーツと少し違うところもあるけど対になっているように感じる。

 もっとも引っかかるのはあの黒いツインテール。 ツインテールの中ではもっともメジャーなはずのツインテールが妙に気になって仕方がない。……そういえばリンクブレスの色って黒に赤いラインだったっけ。

 

「ねえ、リンクブレスで変身って本当にできないの?」

 

 絶対にないとは思うけど確認のためだ。

 

「志乃さんのことを疑っているんですか?」

「う…!」

「一瞬……本当に一瞬に私も考えましたがそのような機能はつけてませんのでありえないかと思われます」

「そ、そうだよね」

 

 やっぱりないか。

 それに速水黒羽は私達が聞いたことのないことも口にしていた。

 アルティメギル四頂軍の神の一剣。

 今まで私が闘ってきたエレメリアンからはそのような単語は一切出てこなかったし、志乃がそれを知ることはできないはずだ。

 ……まあ速水黒羽の正体やアルティメギル四頂軍のことはおいおい解き明かしていくとして、今は目の前の敵だ。

 幹部と言っていたオルカギルディは倒すことが出来たが私がテイルホワイトになったあの日のモニターに映っていた隊長らしきエレメリアンを倒していない。

 おそらく、オルカギルディよりも強いだろう、もしかしたらクラーケギルディと同じくらいの強さかもしれない。 いつでも厳しい闘いを受け入れる覚悟は持っておいたほうがいいな。

 オルカギルディが散る際に言い残した言葉を思い出す。

 

『アルティメギルは氷山の一角だ!』

 

 この言葉は嘘じゃなく本当のことだったら闘いはこの先も、今この世界の属性力を奪おうとしている部隊の隊長を倒しても続くということなのだろう。 そしてきっとその相手が速水黒羽らになるわけだ。

 また先のことを考えてしまったかな。

 

「……奏さん、これを」

「え?」

 

 フレーヌが突然立ち上がりスカートのポケットから何かを出し私に差し出してきた。

 黒をベースに所々走っている赤いライン、これは間違いなく、

 

「……リンクブレス?」

「はい、実は予備のために二つ作っておいたんです」

「へえー、でもなんで私に? テイルギアあるよ?」

「これから先は私でも予想がつかない闘いがあるかと思われます。 もし奏さんがリンクブレスを使いこなせる人を見つけたら譲ってもらいたいんです。 奏さんとのエレメリンクですから奏さん自身が選んだほうがいいかと思われますので」

 

 志乃と同じように私とエレメリンクできるほどの属性力の強さをもつ人を私が選び、このブレスを渡せばいいということらしい。

 私はブレスを見た。

 志乃のブレスに入っている三つ編みのマークが入っていない。

私が渡した人の属性によってここに入るマークが、エレメリンクによって得る力が変わるわけだ。

 

「わかったわ。 私とエレメリンクできる人に譲るまでは私が預かっておく。 ありがと、フレーヌ」

「今のところ、残りのリンクブレスはそれ一つなので慎重にお選びください」

 

 私は頷き、リンクブレスを自分の服のポケットにしまいこむ。とはいっても今は夏休みだし、毎日外に出るわけじゃないからこのブレスを誰かに渡すのはだいぶ先になりそうだが。

 

「そういえば最近気になることがありまして」

 

 フレーヌは目の前にあるたくさんのキーの中から一つをカシャンと押すと大きなモニターにたくさんの菱形とその下に文字が表示された。

 

「これって私が倒したエレメリアン?」

「ええ、正確には属性玉ですね」

 

 端っこのほうを見ると掌属性やらアホ毛属性やら雀斑属性やら懐かしい文字が並んでいる。 日付順に並んでいるらしいが最近のほうの属性だけ赤い文字で表示されている。

 

「今まで倒してきたエレメリアンは皆海に存在する生物がモチーフとされてきました」

 

 フレーヌがまたキーをカシャンと押すと今度は私が戦闘中の映像を切り取った画像が何枚か表示された。 うん、何が言いたいかは大体わかってきた。

 

「最近は海の生物より陸にいる動物とかが多い気がするね」

「ええ、最近になってその傾向が出てきたということは定期的に新しい隊員が部隊に合流しているとも考えられます」

「アルティメギルはまだまだたくさんってわけね……」

 

 海の生物をモチーフにしたエレメリアンに、クラーケギルディのような幻の生物をモチーフにしたエレメリアン、陸の生物をモチーフにしたエレメリアンと私が会い闘ってきただけでこれだけの種類のエレメリアンがいるのだ。

 

「あと奏さんの夢の件ですけど、戦闘中も特に異常は見られなかったので特に気にする必要はないかもしれませんね」

「そうみたい、ありがと。 そんなら疲れたし家に帰るね」

「カタパルトでお送りしましょうか?」

「途中で寄るとこあるし平気。またね」

 

 はい、とフレーヌが答えると私は立ち上がり階段へと向かう。

 さっきの闘いじゃなんとも思わなかったけど外は暑いんだろうな…。

 

 

 空き教室から出ると真夏の熱気が一気に体に襲ってきた。

 特に蝉、これが夏を実感させ暑さを倍増しているように感じる。先ほど聞いた田舎の蝉の声がオペラなら、これはもうジャンジャガうるさくドラムやギターを鳴らしているだけの下手くそなバンドのように思える。

 そのうち蝉のエレメリアンとか出てくるのだろうか。 出てくるんなら夏はやめてほしいな。

 暑さを倍増させる蝉の声を聞きながらそう思い学校の校門へと歩いていく。

 

「お、奏!」

 

 サッカー部のやつの一人に声をかけられたが無視しよう。 しかし私が無視してもそいつは私の隣へとやってきた。

 

「無視かよ」

「名前で呼ばないで」

 

 私の隣に来て一緒に歩き出したのは部活動で学校に来ていた嵐だ。

 この暑さの中での練習は相当きついだろう、汗が染み込んだ練習着を着ている。 ……だからなるべく近づかないでほしい。

 

「……なあ、俺もかなり反省したんだぜ? そろそろ許してくれると」

「ああん?」

「いえいえ!なんでもないです!!」

 

 反省したとかそういうのはもういいんだ。 私が勝手にしたことだし嵐は悪くない。

 ただ……わかっているのに、私は嵐のことが許せないと思っている。

 私の中にあるこの矛盾がなくなるまではなるべく嵐とは距離をとっておきたいのだ。そして、そんなことを思っている自分は一体なんなんだろう。

 

「ところでなんで学校にいんだ? 部活やってたっけ」

 

 私は悩んでいるというのに、嵐のこの何も気にしていない感じ……すごく腹立たしい。

 

「別に、教える義理はないでしょ」

「冷てえ……」

 

 嵐は何故かついてくるが、まだ部活の途中のはず……目の前の校門をくぐれば隣のうるさいのとさっさとお別れだ。しかし、校門をくぐるが嵐はまだ私の隣を歩いている。

 

「なんで来るの?部活は?」

「ああ、もう終わったよ」

 

 く、タイミングが悪かった。

 何を言ってもついてくるだろうしこのまま放っておいたほうが面倒くさくなくていいかもしれない。

 しばらく、私はもちろん嵐も黙りながら歩いていると、駅前の大きいロータリーで嵐は足を止めた。

 

「なあ伊志嶺、あれ見ろよ」

 

 無視して歩こうかと思ったけど名前を呼ばれたので渋々止まり嵐が指差した先を見る。 その先にはテイルホワイトの大きい看板があった。

 看板の中のテイルホワイトはエレメリアンと闘っている最中の映像を切り取ったモノでその下には『ホワイトブレス新発売!』とやたら丸っこい文字で書かれていた。

 ホワイトブレスじゃなくてテイルブレスだけど…。 ブレスのことなんてわざわざテレビに言わないししょうがないかな。

 

「テイルホワイトのツインテール、いいよな」

「……私は特に何も思わないけど」

 

 今の言葉は真実だ。

 変身してる私が自分のツインテールをみても特に綺麗だとか思うことがない。

 

「……俺のせいだよな。 俺がお前からツインテールを奪っちまったんだ」

 

 一旦顔を沈め、自分の足下をみる嵐。

 その言葉だと、まるで嵐がエレメリアンで私からツインテール属性を奪ったというふうに聞こえてしまう。

 

「俺はポニーテールが好きだ、ツインテールよりも。 だけど……もう誰かのツインテールを奪いたくないし奪われたくないって思ってんだよ」

「……」

「だからツインテールを守るために闘っている彼女の力になりたいんだ」

「……テイルホワイトが聞いたら、喜ぶんじゃない?」

 

 私は先に歩き始めた。

 嵐も私と同じような気持ちなんだ。

 ツインテールが嫌いだけど、ツインテールを奪わせたくない私。 ツインテールよりポニーテールが好きだけど奪わせたくない嵐。

 もし過去の諍いがなければ、きっと私たちは協力してアルティメギルからこの世界の属性力を守っていたんだろうな。

 ま、過去の諍いがなければ私はツインテールを嫌いにはなってないんだけどね。

 

 

「まさか補修部隊のラクーンドギルディがこうもあっさりと…」

 

 アルティメギルの大ホールでは恒例の作戦会議兼テイルホワイト鑑賞会が行われていた。

 補修部隊を加え、今まで空席が目立ってきていた大ホールも少しだけ埋まり始めてきている。 しかし、部隊に合流し、意気揚々と出撃したラクーンドギルディがあっさりとテイルホワイトに敗れたことで自信を取り戻しかけていた隊員達はまたしても沈鬱な表情を浮かべている。

 

「情けないなお前達は……」

 

 大ホールの隅の薄暗い廊下から登場したオルトロスギルディが呆れたように言い、中央のテーブルに腰掛けた。

 

「オルトロスギルディ様、どちらへ?」

「あ、ああ。 趣味に時間を割いていた」

 

 サンフィシュギルディの問いにやや言葉が詰まりながらもオルトロスギルディは答えた。

 

「オルトロスギルディ様、少しだけ私に話させてください」

「おう」

 

 中央のテーブルからやや離れた席に座っていた硬い殻にほぼ全身を覆われているシェルギルディが突然立ち上がった。

 

「オルトロスギルディ様の特訓のおかげで我らは力をつけることができてきています。 しかし、やはりテイルホワイトには遠く及ばない…」

「ふむふむ」

 

 聞いているのかいないのかわからないがとりあえずシェルギルディは続けた。

 

「やはりここは中途半端な援軍ではなくもっと実力のある部隊に来ていただけたら、と」

 

 シェルギルディの言葉に大ホールがざわざわと騒々しくなってきた。

 要するに彼は雑魚の部隊が合流しても意味ない、と言っているのである。それを理解した補修部隊は当然のごとく反発し始めた。

 

「貴様! それは我らに対する愚弄か!!」

 

 補修部隊の隊員を皮切りに大ホールはシャークギルディ部隊対補修部隊で討論になりはじめた。

 

「そもそも貴様らの部隊が情けないから私たちが来てやったのだぞ!!」

「うるせえ! 来るのがお前らじゃ戦況は変わらねえんだよ!!」

「なんだと!?」

「なんだあ!?」

 

 討論は次第にただの口喧嘩へと発展し口喧嘩では収まり切らず近くにいたもの同士でちょっとした取っ組み合いが始まると、それが大ホール全てに広がり大ホールは無法地帯のようにそこら中でエレメリアン同士のガチ喧嘩が始まりだした。

 

「黙りやがれえぇぇいい!!!!」

 

 オルトロスギルディの制止の声で大ホール内は水を打ったように静かになり、喧嘩していた隊員達は各々の席へと戻り着席していった。

 全員が着席したのを確認するとオルトロスギルディは右の首の顎に手を当て話し始めた。

 

「両部隊の主張は俺もよくわかっている。 確かにこのままでは諸君らの育成が終える前に撤退せざるを得ない状況になるやもしれん」

「………」

「アルティメギル四頂軍も美の四心はすでにある世界に出撃している、貴の三葉は壊滅、死の二菱は万一美の四心が壊滅した時のため準備を進めている、神の一剣を出撃させるのも危険だ」

「まさか死の二菱がツインテイルズの世界に進行する準備を!?」

 

 サンフィシュギルディの問いに二つの首で頷きさらにオルトロスギルディは続けた。

 

「しかし、強力な力を持つが暇を持て余している部隊が一つあるのだ」

「な、何のことですか……」

 

 生唾を、もしくはそれに該当する液体を飲み込み、オルトロスギルディの言葉を待つ隊員達。

 

「アルティメギル四頂軍は現在剣、菱、葉、心の四つからなっているが……かつてはそこにもう一つの部隊があり、五つ合わせてアルティメギル五頂軍と呼ばれていたのだ」

「ま、まさか……」

 

 老兵だからこそ、サンフィシュギルディはその部隊の存在を知り、そして恐れていた。

 

「もしこの部隊ではどうしようもできないと俺が判断した場合、アルティメギル四頂軍から外された幻の部隊………ジョーカーである聖の五界(セイン・トノフ・イールド)を呼ぶことになるぞ!!」

 

 オオオオ………。

 大ホール内の所々から部隊の名前が出されると歓声が上がりはじめた。しかしほとんどの隊員はその部隊の存在を知らないため、どういう反応をすればいいものかと悩んでいる。

 

「しかし、聖の五界は首領様によって解散させられそのほとんどが神の一剣や他の部隊に配属されたと聞きましたが……」

「ああ、俺が神の一剣にいた時もそういう奴はいた。 しかし、聖の五界は元隊長らが非承認の部活と称して今も活動は続けているのだ」

「なるほど…………部活……?」

「安心しろ、変わり者が多いが実力は確かだからな」

 

 変わり者、というのはアルティメギルの中ではかなり重要なキーワードとなる。

 変わり者、問題児が多いアルティメギル四頂軍だが聖の五界も例外ではなかったということだ。

 

「さあ、聖の五界が合流するまでもなくこの世界の属性力をいただこうではないか!! ふっはははははは!!!」

 

 オオオオオオ……。

 バラバラになりかけていた部隊が一つとなった。

 オルトロスギルディは隊員達の声を聞くと満足そうにニヤリと笑い薄暗い廊下へ消えていった。

 

 

 大ホールが会議やら色々な意味で盛り上がっている頃、基地の最下層エリアでは今でもシャークギルディとゼブラギルディの壮絶な特訓が行われていた。 しかし、メロゲイマ・アニトュラーのため執筆を続けているのはゼブラギルディのみでありシャークギルディは座禅を組み冥想している。

 

「見えた……!!」

 

 唐突にシャークギルディは立ち上がり己の目を開け拳に、腰に、足に力を入れる。

 特訓が完了したのだ。

 早くにテイルホワイトを倒すため、足早としてしまったが自らが望む力を手に入れたシャークギルディは満足気にゼブラギルディと向かい合わせに立ったあと片膝をつきしゃがみこんだ。

 

「我の変わりにメロゲイマ・アニトュラー、どうか乗り切ってくれ!」

「はい、御武運を!!」

 

 ゼブラギルディと堅い握手を交わすとシャークギルディは立ち上がり最下層フロアの出口へと向かっていく。

 シャークギルディはメロゲイマ・アニトュラーを習得することは出来なかった。 日々大きくなる復讐の炎により執筆が止まってしまいとても続けられる状態ではなくなってしまったのだ。

 メロゲイマ・アニトュラーの変わりに白いローブの速水黒羽からの厳しい特訓を乗り切り、彼はオルカギルディを凌ぐ強さを手に入れたのだ。

 特訓によりできた身体中の傷は彼にとって誇らしいものである。

 彼の復讐はテイルホワイトに留まらず、師匠のクラーケギルディを倒した異世界のツインテール戦士のツインテイルズまで見据えていた。

 

「待っていろ!オルカギルディの仇、テイルホワイト。 そして、我が師匠を倒したツインテイルズ……!!!」

 

 復讐の炎がさらに膨れ上がり、彼を包み込む。

 夏をさらに暑くする炎は消えることはない。




どうも皆さん、阿部いりまさです。
登場して以来くすぶってきたシャークギルディがとうとうテイルホワイトと対決しそうですね。
そして完全オリジナルの聖の五界(セイン・トノフ・イールド)という部隊とは一体なんなのか。
じっくり書いていこうと思います。
感想、質問等どんどん募集しています!
それでは。


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FILE.27 復讐の闘い!シャークギルディ

 世界の狭間に浮かぶアルティメギルの秘密基地。

 その中で一つの覚悟を決めた戦士が薄暗く長い廊下を一人で歩いていた。

 二メートル以上の白い体躯。

 背に生えている強靭な背びれ。

 自身の顔の前に生える鋭利な牙。

 一人歩を進めるシャークギルディの前にオルトロスギルディが立ちはだかる。

 

「行くのか? 自身の部下に……また何も言わずに」

 

 廊下の壁にもたれかかり目を瞑りながら問うオルトロスギルディはこれからシャークギルディが言う事をわかっているようにも見えた。

 

「オルトロスギルディ様、我はもう隊長などではありませぬ。 我には隊長の資格などなかったのです」

「……」

 

 相変わらずオルトロスギルディは目を瞑ったままだ。

 

「隊長としてではなく、アルティメギルの一隊員としてテイルホワイトに挑み、奴の属性力を奪ってきましょう!」

「そうか、俺も楽しみにして待っている。 必ずテイルホワイトの属性力を頂いてこい」

「御意」

 

 シャークギルディが自分の前を横切るとようやく目を開けオルトロスギルディはシャークギルディと反対の方向へと歩き出した。

 

「帰ってきたら……メロゲイマ・アニトュラーに再挑戦だな。 俺は、続きが読みたい」

「ッ!?」

 

 いつもよりも随分と高い声で厳しい宣告をするオルトロスギルディにシャークギルディは何かを気づいたような素振りを見せた。

 去っていくオルトロスギルディに対し、深くお辞儀し再びシャークギルディは歩を進め出した。

 テイルホワイトを倒すための道を、ようやく歩き始めたのだった。

 

 オルトロスギルディが廊下の角を曲がると一体のエレメリアンと出くわした。

 銀色の毛並みに、鋭く尖った耳と口からはみ出た真白い牙は狩人を彷彿とさせる。

 かつて光が灯っていたような鋭い瞳は濁り、影を落としてしまっていた。

 

「よろしいのですか? 私めの力が必要とあらばすぐにでもシャークギルディの援護へと」

「フェンリルギルディよ。 お前は自分の立場をわかっているのか?」

 

 フェンリルギルディと呼ばれたそのエレメリアンはいずこからか、女性の下着を取り出した。 肌触り滑らかシルクの煌めきが彼の銀色の体毛に調和し、映える。

 

「あなたに助けていただき、私はあなたオルトロスギルディ様へ忠誠を誓いました。 もう幹部の座など欲してはおりません、しかし……」

「しかし、なんだ」

「体操服属性(ブルマ)や学校水着属性(スクールスイム)が正しく、下着属性(アンダーウェア)が邪という風潮を無くそうと努力するのは変わりません」

 

 全ての属性が仲間内で認められるものではない。 同じエレメリアンにあって、外道の誹りまでなくとも、眉をひそめられるものも少なくない。

 

「もっとも私と違い、全てのエレメリアンが崇拝するツインテール属性のあなたではわからぬことでしょうが……」

 

 己が手にしていたシルクの下着をオルトロスギルディに手渡しオルトロスギルディの鑑へと戻っていった。

 

「……俺にはわからん……か」

 

 すっかり野心を失い、自分の属性のための戦士となったフェンリルギルディ。 シャークギルディの復讐に騒々しくなる鑑の中、その足音は誰よりも孤独だった。

 

 

 夏休みも半分が過ぎ、今はもう八月の半ば。

 残り少ない夏休みを満喫したいと考え、修了式からずっと待ち焦がれてきたところに私はいる。

 そこは━━━━━━

 

「「うみ━━━━━━っ!!!」」

 

 私の左右にいた志乃とフレーヌが砂浜を駆け抜け海にヘッドスライディングで入っていった。

 大きなしぶきが太陽に照らされキラキラと光る様は今が真夏だとしつこいぐらいに私に教えてくれる。

 しぶきだけでなく海ではしゃぐ志乃とフレーヌそして………クラスの面々……。

 そう、クラスのRINEのグループで海へ行こうということになり今に至る。

 ちなみにイマジンチャフを使っているのでクラスの人たちは全くフレーヌに違和感を抱いていない。 さすが便利だ、イマジンチャフ。

 

「お前は泳がないのか?」

「また話しかけてきてるし」

 

 ビーチパラソルの下のシートに腰掛けていると嵐が話しかけてきた。 嵐も私のクラスメート、ここにいても不思議じゃないけど最近なんで話しかけてくるんだろう。

 もしかしたら私の話しかけてくるなオーラが消えかかってるのかもしれない。

 

「いや、この前久しぶりに話しかけたら前と変わんなくて安心してさ」

「無視したのに話しかけてくるんだもん」

「ほら、やっぱり変わらないな」

 

 私を指差してニカッと笑う嵐をみるとまたイライラしてくる。

 私は嵐を無視して海へと視線を向けた。

 クラスメート達何十人かに混ざって志乃とフレーヌが楽しそうにボールで遊んでいる。

 む、志乃の胸が揺れた……。

 志乃の胸を直視できなくなり今度は海の手前にある砂浜に視線を向ける。

 小さな子供が砂のお城を作ったり、カップルの彼女が彼氏を砂に埋めたりと様々な遊びをしている。

 改めてみると綺麗な世界だ。

 もし属性力を奪われ尽くしたらこの光景も無くなっていっちゃうのだろうか。

 絶対にそんなことはさせない。この美しい私の世界をアルティメギルなんかに侵略させない。

 アルティメギルからこの世界を守った時にまたこの海へと来て思いっきり遊ぶことにしよう。 それまでは海に入るのはお預けかな。

 

「じゃね」

「え、どこ行くんだ?」

「その辺ブラブラ」

 

 案外この街は有名なリゾート地であることもあり街中を水着のまま歩いている人も珍しくないとぢゃらんで読んだ。 ……でも恥ずかしいから上にうすいパーカー、下にはスカートを履いておく。

 日帰りだし海以外にも目に焼き付けておきたいのだ。

 そんな想いを嘲笑うかとのように、私のリゾート散策は砂浜を出たところで早くも終わってしまった。

 

「貧乳もいない、テイルホワイトもいない! ここは一体どうなっているんだ!!!」

 

 ずっと先にある砂浜の上のステージにのり一体のエレメリアンがなんとも言い難い言葉を発し、なにやら怒っている。

 私に休息させないという意思表示か、本当に空気を読まない奴らだ。

 

『エレメリアンです! ……遊ぶのに夢中でアラームに気がつくのが遅れました……』

 

 私がエレメリアンに気づいたのとほぼ同時に右腕にテイルブレスが現れフレーヌから通信が入った。

 まあ、あれだけ楽しそうに遊んでたからね。

 

『あれは!?』

 

 フレーヌがそのエレメリアンを見て驚きの声を上げた。

 私も気になりジーっと見ていると何処かで見たようなエレメリアンだ。

 そうだ、私が初めて見た、空に浮かんでいたモニターに映っていたエレメリアンだ。 ということは、隊長というのはあいつだ。

 

「とうとう隊長のお出ましね。 さっさと倒してこの世界からエレメリアンを無くしてやろっ」

 

 建物の陰に隠れ現れたテイルブレスを胸の前で構え、変身コードを口にする。

 

「テイルオン!!」

 

 眩い閃光とともに私はテイルホワイトへと変身が完了した。

 すぐに、隊長のエレメリアンのいるステージへとひとっ飛びして着地する。

 

「私をお呼び?」

「ふ、ようやく現れたかテイルホワイトよ」

 

 白く三メートルはあろうかという体躯に鋭利な牙の数々。 隊長なだけあって威圧感は半端ない。

 

「やはり生で見てもお前は貧乳ではない……しかし巨乳なわけでもなく……か。 なんと中途半端な乳だ!」

 

 いきなり失礼な隊長だ。

 隊長は変態度も隊長クラスというわけだ。

 いつもなら聞き流すところだが、私は胸に関してはそれなりに自信を持っている。全国の女子高生の平均と同じくらいだぞ!

 

「うるさいわね! 大きくもなく小さくもないサイズが一番人気なんだから!!」

「笑止! ツインテールには貧乳というのが世の摂理。 お前のような中途半端なものがいるから巨乳などを崇拝するものが現れるのだ!」

「関係ないし……」

「そんなお前に勝つために、オルカギルディの仇のため……我は厳しい修行をしてきたのだ。 我はシャークギルディ!さあ、テイルホワイトの属性力、頂くぞ!!」

「やっと敵っぽくなってきた」

 

 シャークギルディが背ビレのような部分に手をかけ抜き取る。

 両手で持ち構えている剣は剣先がわずかに曲がったシャムシールのようだ。

 

「アバランチクロー!!」

 

 フォースリボンに触れアバランチクローを両手に装備し、シャークギルディと対峙した。

 

「シャークギルディ部隊の隊長ではなく戦士として、参るぞ!!」

 

 私とシャークギルディが同時に駆け出しステージがこわれお互いの刃が火花を散らす。

 硬化の金属音が火花より遅れて宙を舞い、いつしか火花は稲妻のように肥大化し、周囲に轟く。

 ステージのあったところはもはや何も残っておらず危険を感じた野次馬たちは次々と逃げていった。

 壮絶な金属同士の打ち合いはオルカギルディの時と同じく私とシャークギルディを中心にして激しい突風を生み出している。

 

「お前は、オルカギルディどころかクラーケギルディ様をも超えているのだな!」

「私がクラーケギルディを!?」

「そうだ! そして我も激しい修行の末、クラーケギルディ様を……いや、先生を超えたのだ━━━━━━ッ!!」

 

 両手で振り落としてきた剣を両手のクローでなんとか防ぎそのまま鍔迫り合いのような状態へ持ち込んだ。

 単純な力ではシャークギルディの方が上だ。

 この体勢も相当しんどいし、持ってあと数十秒、それを過ぎたら……アウトだ。

 なら、

 

「エレメリンク━━━━━━ッ!!」

 

〈三つ編み(トライブライド)〉

 テイルブレスから閃光が走り、衝撃波でシャークギルディと距離をとることに成功した。

 テイルホワイト・トライブライドは遠距離特化型の形態、距離をとればこちらが断然有利となる。

 

「これが噂の三つ編みか!!」

 

 シャークギルディももちろんそのことはわかっているだろう。

 距離を詰められる前にフロストバンカーで終わらせる!

 

「フロストバンカー!」

 

 右腕にフロストバンカーを装備すると同時にいくつもの光線を発射する。

 無数の光線が流星群のようにシャークギルディへと向かって一直線に向かっていく。

 

「ぐあああああ!!!」

「……あれ?」

 

 なんと発射した光線が全てシャークギルディに命中し、大ダメージを受けたであろうシャークギルディはその場に倒れてしまった。

 

『どうかしましたか?』

「いや、思ったよりも…」

 

 弱い。 思ったよりも弱いと思った。

 隊長の幹部エレメリアンで私を倒すためにクラーケギルディをも超えてきたと豪語していただけに苦戦は必至だと思ったのだが、なんなく決着がついてしまったらしい。

 言っちゃなんだが少し拍子抜けしてしまった。

 とりあえずシャークギルディに言おうと思っていたことを話す。

 

「シャークギルディ、もしあんた達アルティメギルがこの世界から撤退すると約束するのなら私はこれ以上は闘わないわ。 どうする?」

 

 隊長が出てきたら必ず聞こうと思っていた。 無駄とわかっていても、一応確認の為シャークギルディに問いかける。

 もちろん、フレーヌにも志乃にもこのことは話してある。

 

「先程も言った通り我はもう隊長ではない。 もう我にそんな権限などないのだ。 ふ、仮に我が隊長のままであってもその考えには賛同できんがな」

「じゃあ、今の隊長は誰なの?」

 

 念のためフロストバンカーをシャークギルディに構えながら質問した。

 少しでもアルティメギルの内部事情を知っておけば必ず今後の闘いに役立つからだ。 ただ、教えてくれるとは限らないが。

 

「そうやすやすと我らの事を教えるわけがなかろう、それに……」

 

 シャークギルディはフラフラと立ち上がりシャムシール型の剣を背ビレに戻す。

 

「我はまだ負けていないぞ━━━━━━━━━━ッ!!!」

 

 ハッタリだと思ったがその考えは目の前のシャークギルディを見てすぐに吹き飛んで行った。

 シャークギルディを中心に暴風が吹き荒れ、砂を巻き上げる。

 白い体がだんだんと青黒く変色していき、三メートル近くあった体躯も禍々しく、さらに巨大化した。

 

「……我が壮絶な修行の果てに手に入れた最終闘体!!もはやシャークギルディではない、メガロドギルディと呼んで貰おうか……!!!」

 

 自らの顔の前にあるさらに大きくなった牙を一本引き抜くと牙は形を変え先が巨大な槍へと変化した。

 

「さあ、ここからが本番だ。 この力で、今度こそお前の属性力を頂くぞ!!!」

 

 メガロドギルディを中心に吹き荒れる暴風は止む事はないまま、第二ラウンドが始まる。




どうも皆さん、阿部いりまさです。
ようやく隊長であったシャークギルディとの闘いが始まりました。
もちろん最終闘体のメガロドギルディのイメージはメガロドンから来ています。
感想、質問等どんどんお寄せください。
それでは。


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FILE.28 新たな進化!テイルホワイト

メガロドギルディ
身長:786cm
体重:960kg
属性力:貧乳属性(スモールバスト)

シャークギルディが激しい修行の末手に入れた最終闘体。
素早さと正確さをうりにしていたシャークギルディの戦闘スタイルと違い力任せに闘うスタイルへと変わった。
その強さはかつての師であるクラーケギルディや、親友であるオルカギルディをも遥かに凌駕する。
先の大きい槍、貧乳槍スモール・バスティラスは様々な用途に使用することができる。


 白く神秘的な体は禍々しい青黒い姿となり、三メートルに近い身長は七メートル、もしくは八メートルはあろうかというほどまで巨大化していた。

 太くなった腕には先程まで握っていたシャムシールのような剣ではなく穂先が巨大な槍へと変わっていた。

 変身した。エレメリアンが変身したのだ。

 メガロドギルディの圧倒的な威圧感と迫力で一歩、私は後退りする。

 

『まさか……こんなエレメリアンがいるなんて……!!』

 

 変身してパワーアップするエレメリアンなど、今まで倒してきた数多くのエレメリアンの中にはいなかった……いや、もしかしたら変身しなかっただけなのかもしれない。

 フレーヌも初めて見たようで信じられないといった声が聞こえてくる。

 

「……ふむ」

 

 先の大きな槍を砂浜に突き刺し、メガロドギルディは自分の手をグーパーと動かし始めた。 一通り動かしたところで砂浜から大きな槍を引き抜き自分の手に収める。

 

「素晴らしい力だ……! 俺の力は完全にテイルホワイトを超えている!!」

 

 フロストバンカーを構えながらジリジリと後ろに下がる私にメガロドギルディが気づくと槍を担ぎ上げた。

 

「ほう……恐怖を感じているのか、あのテイルホワイトが! 中途半端な胸をしているが故、自身の覚悟も中途半端のようだな!!」

「すっごいムカつく……」

 

 そうだ、いくら相手が迫力ある変身しても結局は変態だ。 その変態を倒す事が今の私、テイルホワイトのやる事だ。

 

「私はいつも通り……あんたたち変態をブッ飛ばすだけなんだから!!」

 

 エレメリンクを一旦解除し、フォースリボンに触れアバランチクローを両手に装備する。

 ほぼ同時にメガロドギルディへと突き出したアバランチクローは、片手で容易く受け止められてしまった。

 

「ふんっ!!」

 

 力を入れ、握りこむとアバランチクローの鉤爪部分がいとも簡単に粉々に砕かれてしまう。

 

「なっ!?」

 

 アバランチクローを防がれた事は何回かあったが、こんなにも簡単に破壊されてしまったのは初めての事だ。

 

「諦めろテイルホワイト、もはやお前に勝機などない……!」

 

 その豪腕を振りかぶるメガロドギルディ。

 

「く……!!」

 

 慌てて残ったアバランチクローの手甲部分で防御するも容易く手甲も粉々に砕かれ、体についている装甲も傷つけられながら砂浜を抉り、海へと吹き飛ばされた。

 小さい波が体にうちつけるなか、なんとか立ち上がるが、みると私のテイルブレスが力なく放電しはじめている。

 

「この状況で立ち上がるのは愚かとしか言いようがないな」

「……私は約束したの……絶対にこの世界の属性力を奪わせたりしないってね」

 

 テイルブレスを左手で抑える。

 ツインテールで勝てないなら、三つ編みで勝てばいい。

 私が念じるとテイルブレスが激しく閃光しその中に三つ編みのエンブレムが浮かび上がった。

〈三つ編み(トライブライド)〉

 装甲は完全には修復できないものの闘える状態でエレメリンクを発動する事が出来た。

 今度はフロストバンカーを右腕に装備し、同時に光線を何発か発射させた。

 

「無駄だと……言っているのだああああああああ!!!」

 

 担ぎ上げていた大きい槍を縦に降ると私が発射した光線をいとも簡単に全て切り裂き、光線は霧散してしまった。

 

「くっ……!!」

 

 続けてさっきの倍以上光線を撃ち出すが、今度は槍を自分の前で回転させいくつもの光線を先程よりも簡単に弾き返していった。

 弾かれた光線は上空を力なく舞った後に砂浜に向かって落下し、大きな穴をあける。

 

「無駄な足掻きをするのはやめろ」

 

 そう言うと、メガロドギルディは巨大に見合わない身軽さと速さで一瞬で私に近づき、再び豪腕を振り下ろしてくる。

 今度は体を捻らせなんとか避けるも仰向けに私は倒れてしまう。 そして顔のすぐ上にはあの槍があった。

 私目掛けて落ちてくる槍をフロストバンカーでギリギリ防御する。

 

「ほう、俺の貧乳槍スモールバスティラスを受け止めるとはなかなかの武器じゃないか!!」

 

 威圧感や迫力とは全く合わない発言をするメガロドギルディだが、今はマジで言っているのだろう。

 貧乳槍をフロストバンカーに突き刺しながら、合わせてまた豪腕を振り下ろしてくる。

 アバランチクローだと受け切れなかったがなんとフロストバンカーだと二つ同時の攻撃もどうにか受けきる事が出来ているようだ。

 

「耐久力のある武器のようだが、いつまで持つか!」

 

 幾度となく振り下ろされてくる貧乳槍と豪腕に負けじとフロストバンカーは耐えていた。しかし、このままではフロストバンカーが壊れなくとも私の体力が切れ、押しつぶされてしまいそうだ。

 

『奏!!』

「ぐうう……!!」

 

 私にとっての地獄の時間はまだ続く。

 

 

 エレメリアンとテイルホワイトが現れた、という情報はステージの周りだけでなく、すでにこのリゾート地全体に届いていた。

 シャークギルディが変身を始め、周りに突風が吹き荒れると、ステージの周りにいたテイルホワイトのファンも、これからテイルホワイトを見に行こうとしていた砂浜のファンも危険を感じ遠くへと移動していた。

 しかしそんな中、海の家の陰にいる二人の姿があった。

 

「奏が危ないよ!なにこのエレメリアン!?」

「ええ、私もまさかエレメリアンが変身するとは……」

 

 一人は小型のノートパソコンのようなものを操作しているフレーヌと、もう一人は黒いブレスを発光させながらフレーヌの肩を揺さぶる志乃だ。

 二人ともメガロドギルディに苦戦するテイルホワイトを見て酷く焦っている。

 

「奏!!」

 

 フロストバンカーで防御するだけの奏に対して心配する声を上げる志乃。

 その時二人の横を一つの影が横切りテイルホワイトとメガロドギルディの元へと駆けていった。

 

「嵐……?」

「危険です!志乃さん止めてください!!」

「嵐、危ないよ!!」

 

 は少しだけ追いかけ孝喜の腕を掴んだ。

 

「話してくれ! 俺はテイルホワイトの力になるって決めたんだよ!!」

「冷静になりなよ! いつもの嵐らしくないよ!」

「志乃さんもどうか冷静に……」

 

 二人だけだと喧嘩になりそうな勢いなのでフレーヌがなだめに入るが嵐は聞こうとはしない。

 志乃の手を振り払うと嵐はまたテルホワイトとメガロドギルディが闘うところまで一直線に走っていく。

 

「男性でも狙うエレメリアンはごく稀にいますし、彼の顔を覚えられたら相当危険です…私たちも行きましょう!」

 

 ノートパソコンのようなものをボタンを押して親指サイズまでたたみ込みフレーヌも走り出した。

 

「え、ちょっと……もうっ!」

 

 数十メートル先を走っている嵐に続き走り出したフレーヌに続き渋々志乃もテイルホワイトの元へと走り出した。

 

 

 フロストバンカーを盾に使いメガロドギルディの攻撃を防いできたが、限界はすぐにやってきた。 とうとうフロストバンカーもヒビが入り始め、私の体力も底を尽きようとしている。

 私の状況など考えるわけもなく、メガロドギルディは攻撃を止めることはなく、その豪腕から放たれる思い一撃と貧乳槍と呼ばれた半ば打撃武器のような槍で執拗に攻撃を続けてくる。

 

(ヤバい……何か抜け出す方法は……!)

 

 一か八か、今思いついたことを行動に移した。

 巨大な体躯をしている分、若干メガロドギルディは振り上げてから振り下ろしてくるまで間がある。そこを狙うしかない。

 

(今だ!!)

 

 豪腕を振り上げた瞬間にフロストバンカーを右腕から外すと、そのままフロストバンカーはロケットのように右腕から発射しメガロドギルディに強烈な一撃を繰り出す。

 

「……ぐう!!」

 

 予期していなかったためかメガロドギルディは初めてダメージを負ったようにフロストバンカーが直撃した部位を腕で触りながら二、三歩後退した。

 

「これで……どう!?」

 

 その隙に、メガロドギルディに当たった空中に浮いているフロストバンカーをジャンプし素早く右腕に装備、そのまま近距離で光線を発射する。しかし、私の反撃はここまでだった。

 

「うおおお!!」

 

 メガロドギルディは貧乳槍を体の前へと持ってくると大きな槍先を利用し、そのまま盾として使う。

 光線は貧乳槍を破ることは出来ずにあたり一面に飛び散り、再び砂浜に穴を開けていく。

 

「テイルホワイトー!!!」

 

 飛んで行った方向に人が来ているのに気づき、私は咄嗟にフロストバンカーから光線を発射し、その人の頭上に落ちようとしていた光線を破壊させた。

 

(嵐!?)

 

 光線を撃ち落とすのに夢中で気がつかなかったが近くまで走ってきていたのは嵐だ。 何でこんなところに。 とりあえず、危険すぎるし早く逃したほうがよさそうだ。

 

「テイルホワイト大丈夫か!?」

「大丈夫よ、大丈夫だから早く逃げて!!」

 

 嵐がこの場にいるのは極めて危険だ。 さっきのように私が撃った光線が流れ弾となって嵐に当たるかもしれないし、何より強力なエレメリアンが目の前にいるのだ。

 

「俺はテイルホワイトの力になりたかったんだ!頼むから一緒に闘わせてくれ!!」

「私の力になりたいなら早く逃げて!」

 

 メガロドギルディへと向かっていこうとする嵐を腕を掴んで止めるも全く言うことを聞こうとしない。

 

「俺は…ツインテールを守りたいんだ!!」

 

 その言葉に、私の心の奥底にあったあの言葉が蘇ってきた。

 

 ━━━━━年齢考えずよくそんな髪型にできるよな。

 

 パンッと乾いた音が戦場に大きく響く。

 嵐の腕を勢いよく引きこちらを向かせ気づいたら私は彼の左の頬にビンタしていたのだ。

 

「ふざけないでよ……! あの時はあんなこと言っておいて今更私の力になりたいだなんて!!」

 

 気づけば少しだけ視界が潤んできている。

 いきなりビンタされたせいか嵐は呆然とただ私を見ているだけだ。

やがて小さな声で話す。

 

「か、奏……?」

 

 嵐の言葉にハッと我に戻り頭を下げた。

 

「 ……ごめんなさい八つ当たりしちゃって。 嵐は私に気づかせてくれただけなのにね……」

 

 頭を上げると嵐の前に回り込み再びメガロドギルディと対峙する。

 

「メガロドギルディ!」

「なな、なななんだ!?」

「タイム!」

 

 腕を縦と横にし、Tの字を作る。

 

「う、うむ……認めよう!!」

 

 メガロドギルディが頷いたのを見て、私は再び嵐に向きなおると、テイルブレスに収納していたある物を取り出し、それを嵐へと手渡した。

 

「こ、これは……」

 

 私のテイルブレスとは対照的な色をした、全体的に黒く、赤いラインが入っているリンクブレスだ。

 

「もし……本当に私の力になってくれるなら、それを腕にはめて…私の力になりたいって念じて欲しいの…。 嫌ならいいから」

「い、嫌なわけないだろ! 俺が力になれるのなら一個でも二個でもこのブレスをはめてやる!!」

 

 そう言いながら嵐は渡したリンクブレスを右腕にはめ込む。 ブレスをつけた右腕を嵐が胸の前へと持ってくるとその瞬間、私のテイルブレスと嵐のリンクブレスが光だし、それが互いに繋がった。

 

「な、なんだ!?」

 

 テイルブレスとリンクブレスを繋いでいた光の線が消え、テイルブレスが激しく閃光し、トライブライドからまだ見たことのないエンブレムへと変わった。

 テイルブレスの閃光がそのまま光の繭となり私を包み込み、光の繭が砕けると三つ編みのテイルホワイトからまた新たに''変身''が完了した。

 

「なんだと!?」

 

 驚愕するメガロドギルディ。

 当たり前だ、今までのツインテール、三つ編みともまた違う変身を今、私はしたのだ。

 

「なあ!?」

「ねえフレーヌ、奏が!」

「はい、新たな力、新たなエレメリンクです!」

 

 その場にいる嵐と遅れてやってきた志乃とフレーヌの驚く声が遅れて聞こえてくる。

 周りが吹雪の中、銀色に輝く私の髪の毛がたなびくが、今までのように左右についているわけでも、髪が編み込まれているわけでもない。

 形をわずかに変えた一つのフォースリボンが凛々しく私の一つ結びの髪を、''ポニーテール''を結っていた。

 私は嵐とのエレメリンクにより新たな形態を手にしたのだ。

 

「テイルホワイト・ポニーテール!!」

 

 先ほどまで、瞳からこぼれ落ちそうだった涙を凍らせ、風の中に巻き上げると私は高々に新形態の名を口にした。

 

「第一ラウンドは私の勝ち、第二ラウンドはあんたの勝ち、そして最終ラウンド……私が勝つ!!」

 

 メガロドギルディとの最終ラウンド、開始だ!




皆さんどうも、阿部いりまさです。
今回はテイルホワイトが新たな形態を手にしました。
果たしてツインテールとポニーテールが共存していいのか、ということに関してはしっかりと考えてあるのでご安心ください。
それと今までモブ同然だった孝喜もこれからの活躍に期待していただければと思います。
感想、質問等どんどんお寄せください。
それでは。


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FILE.29 爆裂、ポニーテールの力

 初めてエレメリンクした時と同じだ。

 身体中を駆け巡り、収まりきらないパワーが冷気となって空気中に漂い、真夏の太陽に照らされ美しく神秘的な光景を生み出している。

 実は……ある程度、予感はしていた。

 三つ編みの事を好きであり、三つ編み属性のある志乃とエレメリンクすると三つ編みになるなら、ポニーテールを好きな嵐にはポニーテール属性があるんじゃないか、エレメリンクすればその力を使えるのではないか、と。

 そして、それは正しかったんだ。

 

「ツインテール属性と対をなすポニーテール属性が強く出ている……。お前とあの少年に何があったと言うのだ……」

「まあ、借りたのかもね」

 

 ウインクしながらメガロドギルディの問いに答える。

 

「三人共、危ないから下がっててね」

 

 きっと激しい闘いになる。

 今の距離じゃその闘いに巻き込まれてしまうだろうし、そうならないとあってもやはり危険だ。

 私の言葉に三人とも頷き、今いた位置から背を向けて移動し五十メートルほど離れたところで再びこちらを向く。 まだ距離が足りない気がしなくもないけど、フレーヌが側にいれば何かしらの対策は立ててくれるだろう。

 改めてメガロドギルディへと私は向き直る。

 

「お待たせ。 タイムは終わりって事で」

「ふん、待ちくたびれたぞ」

 

 メガロドギルディがスモールバスティラスを構えると私もフォースリボンへと手を伸ばし、触れる。

 ''攻撃は最大の防御なり''

 誰もが知っているだろう甲斐の虎と呼ばれた戦国時代の大名、武田信玄の言葉だ。

 今までは防御の事を頭に置いて武器をイメージしていたけど、それはもうやめだ。 攻めて攻めて、相手に攻撃させる暇もないほど攻める。そしてそれができる武器は━━━━━━

 

「━━━━━━剣!!」

 

 脳裏に打ち込まれる言葉。

〈ブライニクルブレイド〉

 左手を起点に噴出する冷気。 ブライニクル━━━━━━全てを凍らせる氷柱のような、諸刃の剣が完成していた。

 私の身長の半分あるかないかくらいの大きさの剣は新雪のように白く輝き、刃の部分は氷のように透き通っている。

 武器の定番である剣、やっぱりカッコイイ。

 一通り新しい剣を堪能したところで私はブライニクルブレイドを構え、戦闘態勢をとる。

 砂浜の潮風に舞う私のポニーテールが最終激突の合図となった。

 

「たああああああああああ!!!!」

「うおおおおおおおおおお!!!!」

 

 ブライニクルブレイドとスモールバスティラスが激しくぶつかり合い、あたりには突風が吹き荒れ、砂浜の中に竜巻を作り上げる。

 スモールバスティラスからの重い攻撃を攻撃の要、ブライニクルブレイドで全て弾き返しその隙にメガロドギルディに斬撃が決まった。

 

「なんということだ……!ツインテール属性でないのにこれだけの力……!?」

「私はツインテールが嫌いだからね。そう考えたらわかるって!」

「面白いぞテイルホワイト! だが俺はまだ終わらん!!」

 

 メガロドギルディはスモールバスティラスの柄の部分を砂浜に突き刺すと刃をもち中心から二挺の斧へと分裂させた。

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

 メガロドギルディの両手を使い、斧を振るう攻撃は先程までとは桁違いだ。 槍のときは大振りなぶん、隙も多少あったが今は隙などなくすよう二挺の斧でどんどん攻撃してくる。

 普段なら焦っていただろうが、嘘みたいに私はメガロドギルディの全ての攻撃をブライニクルブレイドで受け止めることができていた。

 壮絶な斧の攻撃の中、ブライニクルブレイドで受け止めながら私は重心を下げ、メガロドギルディの足にローキックをくらわせた。

 

「攻撃手段は武器だけじゃないよ!」

「ふっははは!タイムを認めたのは間違いだったかもしれんな!」

 

 二挺の斧を再び構え、高速で後ろに回り込むメガロドギルディ。

 斧が振り下ろされる前に私はメガロドギルディを回し蹴りで迎撃した。

 

(ん……?)

 

 今のメガロドギルディの動きに多少違和感を覚えたが、その違和感かま何かを模索している場合では無い。

 斧を再び槍のスモールバスティラスへと戻し怯まずメガロドギルディは槍を突き出す。 ブライニクルブレイドとスモールバスティラスが再び交錯し、火花を散らす。

 拮抗した力で弾き合い、同時に砂浜に着地した。

 私は多少息を乱しているが体力的にはまだ充分だ。しかし、そんな私と対象的にメガロドギルディはスモールバスティラスを砂浜に突き刺し、杖代わりに使う事で立っているのがやっとのようだった。

 今のメガロドギルディの様子を見て、先程の違和感がなんだったのかすぐわかった。

 

「もう一度言う、メガロドギルディ。 この世界から属性力を奪うのやめて、さっさと自分の世界に帰りなさい!」

「なに!?」

「私は守るために闘っているだけで追い討ちするつもりはないから」

 

 闘いの中で気づいたが、メガロドギルディは変身した直後よりもパワーもスピードもどんどん落ちていっている。

 

『メガロドギルディは強大な力を自身でコントロールする事ができずにいるようですね。 あまりにもエネルギーの消費が激しいです』

 

 フレーヌがそう言うという事はどうやら私の推測は間違っていなかったのだろう。

 

「俺は今までお前に倒されてきた部下の無念を、お前の属性力を奪うことで晴らす! そして異世界へと渡り、ツインテイルズを倒す! それまで負けるわけにはいかんのだ!!」

 

 スモールバスティラスを砂浜から抜き取り再び構える。

 敵ながらすごい執念には天晴れだ。

 それと、ときどき出てくる他の世界のツインテール戦士だというツインテイルズというのも気になる。

 

「さあ、剣を構えよテイルホワイト!」

 

 メガロドギルディに言われ、私は再びブライニクルブレイドを構えた。

 再び同時に砂浜を蹴り、互い目掛けて疾走しブライニクルブレイドとスモールバスティラスが交錯する。ひるむ事なく、さらに続けてブライニクルブレイドを何度も振るう。

 

「ぐおおおおおおおお!!!!」

 

 私の斬撃をスモールバスティラスで全て受け止めた後、一瞬の隙を突かれて反撃されると、私は遠くへと弾き飛ばされてしまった。

 

「ぐう……!」

 

 片手と両足を使い、砂浜を抉りながらなんとか止まる事ができた。

 

『メガロドギルディの戦闘力がまた増しているようです! 先程よりもフォトンアブソーバーにダメージが入っています!』

「これが俺の執念、俺の力だ!!」

 

 目にも止まらぬ速度で私に近づき再びメガロドギルディはスモールバスティラスを振り下ろしてくる。

 

「く……!!」

 

 咄嗟にブレイドで受け止めるが先程までとは違う想像以上の膂力に即座に左手を刃に添え、なんとか弾き飛ばされるのを防ぐ。だが状況はかなり悪い。上から抑えつけられ、蹴りをいれる事さえできない。

 しばらくスモールバスティラスを受け止めているとメガロドギルディの力に負けているのか、ブレイドが放電し始める。

 

「俺の……勝ちだ……!!」

 

 勝ちを確信したか、メガロドギルディはより一層力を込めるとそう呟いた。

 

 

 数十メートル離れた建物の陰で、志乃にフレーヌそして、孝喜がノートパソコンのようなものに移されている闘いを見守っていた。

 

「おい、説明してくれないか? 今までのことやテイルホワイトのこと」

「それはこの闘いが終わったら説明します」

 

 目を合わせずにフレーヌはキーボードカシャカシャと操作し、孝喜の質問に答えたが、それっきりはパソコンの操作に夢中で孝喜を無視し始めてしまった。

 

「なあ、君?」

 

 若干顔を引きつらせながらフレーヌに話しかけてもフレーヌから返事はなくかわりに志乃から返事が来る。

 

「相手の解析で忙しいんだから邪魔しちゃダメだよ」

「いや、そんなこと言われても俺何が何だか」

 

 孝喜が一人で顎に手を当て思案していると彼のすぐ横を白いローブを羽織った少女が通り過ぎていった。

 志乃とフレーヌはモニター映されている闘いに夢中でその女性に気づかず、孝喜だけがその少女に気づいた。

 

「なあ、なんか今めっちゃ怒ってるような人が向こうに歩いて行ったんだけど……」

「もうっ!静かにしてって言ったじゃん!」

「でも危ないだろ……あれ?」

 

 孝喜が顔を少女のほうに向けると少女はいなくなり誰もおらず、激しい闘いで荒れていった砂浜のみが目に映った。

 再び孝喜がモニターに目を移すとテイルホワイトがスモールバスティラスをブレイドでなんとか抑えているところだ。 しかし、じきに放電が始まりだした。

 

「伊志嶺!!」

 

 孝喜が咄嗟に叫ぶと志乃とフレーヌは驚き、孝喜の顔を見る。

 

「テイルホワイトの正体を知っているんですか!?」

「え? あ、ああ。 かな……伊志嶺だよな?」

「はい、そうですけど……まさかスーパーイマジンチャフを通り越すなんて…」

「は? スーパーイマジ?」

 

 自分が作った強化イマジンチャフがあっさりと破られフレーヌはショックのあまり肩を下ろした。

 

「私の……研究とは……」

 

 今度は体育座りし、フレーヌは暗い顔でボソボソと話し始めた。

 

「そ、そんなことより今は奏だよ!」

 

 志乃がモニターを指差しながら言い、三人はモニターに目を移した。

 

「奏……」

 

 モニターに映っているテイルホワイトを見ながら志乃は静かに呟いた。

 

 

 なんとか防いできたがブレイドは防御するための武器じゃない、そろそろブレイドも限界に近い。

 より一層ブレイドの放電が激しくなりだす。

 

「ぐお……!?」

 

 もう少しでブレイドが破壊されるというところでメガロドギルディが苦悶の声をあげ一瞬だけ抑えつける力が弱まったのを感じ、素早くブレイドを切り上げながらメガロドギルディを蹴り飛ばす。

 継続的にダメージを受けていたブレイドも攻撃が止んだことで放電が止まった。

 

「はあ、はあ……」

 

 さすがにずっと受け止めていただけに疲れてしまった。

 ブレイドを砂浜に突き刺し両手を広げる。

 

「スウ、ハア……よし!」

 

 深呼吸をし、ブレイドを再び手に持ち構え、メガロドギルディに向かい走り出す。

 これでもう何度目だろうか。

 私のブライニクルブレイドとメガロドギルディのスモールバスティラスがぶつかり合い、火花を散らす。

 これだけでは足りない。私の剣をもっと速く、もっと速く、強く!!

 ブレイドで斬りつけながら意識を昂らせ、私の攻撃はどんどん速く強くなっていく。

 

「俺は、隊長としてではなく一人の戦士としてお前に闘いを挑み、絶対に勝つと……だが!」

 

 スモールバスティラスの柄の部分にブレイドがあたり、柄が斬れ、浅いが一緒にメガロドギルディにダメージを与える。

 

「それは俺の慢心だった。 闘いの中で成長するお前が勝つのは必然……か……」

 

 哀しそうな声を出した時、幾多にも及ぶブレイドの攻撃により、スモールバスティラスは粉々に砕け散る。

 

「あんたがそうなら、私も全力ぶつかって勝ってみせる!」

 

 ポニーテールとなった事で必要がなくなり腰に装備されていたもう一つのフォースリボンが分離し、ブライニクルブレイドの柄へと合体した。

 

「ブレイクレリーズ!!!」

 

 ブライニクルブレイドの刀身部分が半分に割れ、先端はスライドし、不安定な刀身を補う為の光の刃が新たに生成された。

 腰の装甲から蒸気が噴射され、私は加速し、一瞬でメガロドギルディの眼前へと移動する。

 次に背中にある装甲がスライドし、渾身の一斬を叩き込むためのファイナルブーストが展開される。

 もはや己の身長と同じぐらいの刀身となったブライニクルブレイドを上段に構える。

 そして、咆哮とともにポニーテールとなった私の新たな必殺技が繰り出された。

 

「ブライニクルスラッシャ━━━━━━━━━━━━ッ!!」

 

 ブライニクルブレイドがメガロドギルディを上から一閃し、決着を告げる雪が激しい風に吹かれて乱れ飛び吹雪を生み出した。

 

「さすがだ……テイルホワイトよ」

 

 メガロドギルディの姿が、元のシャークギルディの姿へと戻っていく。

 

「すまない…オルカギルディ、我の部下たちそして、先生……今行きますぞ……!!」

 

 シャークギルディの姿へと戻ると、まもなく爆発した。

 

 強かった。

 奴が、メガロドギルディが自分の力を完全に使いこなすことができていたなら、私は負けていたかもしれない。

 

「大丈夫よ、私は」

 

 駆け寄ってきた志乃にフレーヌ、そして嵐にピースサインを出しながら戦果報告する。

 

「エレメリアンがあのように進化するとは思いませんでした。 私の力不足です……」

「結果的に勝てたんだし、最初じゃわからないことだらけじゃない。 平気だよ」

「ありがとうございます……」

 

 どうもフレーヌはネガティブ思考になりがちらしいし、ちゃんとフォローしといてあげないとね。

 みんなの前で変身を解こうとした時、聞き覚えのある声が私の耳に響いてくる。

 あたりが美しい夕陽に照らされた遠くの砂浜から私たちの方へと向かって歩いてくる影がある。

 

「まさか……ポニーテールでシャークギルディを倒すなんてね」

 

 白いローブを着た、漆黒のようなツインテールをもつ少女、速水黒羽が再び私の前に現れたのだ。

 

「だれ?」

 

 怪訝そうな顔で私とフレーヌに問いかけてくる志乃。そうか、まだ教えてなかったっけ。

 

「……前に私がエレメリアンを倒した時に現れたアルティメギルの人間みたい」

「ええ!! 人間が!?」

 

 志乃は大仰に驚き、嵐は何が何だかわからず立ち尽くしている。しかし、何かを思い出したように速水黒羽を指を差し口を開ける。

 

「ああ!! お前さっき俺らの横通り過ぎってた奴だな!」

「ええ!? なんで言ってくれなかったの!?」

「言っただろうが!!」

 

 志乃と嵐はまるで子供の喧嘩のような言い合いをしはじめた。 みっともないからやめてほしい。 ……ほら、速水黒羽もどんな反応していいか困ってるような感じだよ。

 

「それで、何の用なの? 幹部の仇を取りに来たの?」

 

 とりあえず軌道修正のために問いかける。

 速水黒羽は白いローブに手をかけ……一気に脱ぎ捨てた。

 

「仇? そんなものに興味はないわ。 私はただ許せないだけ……」

 

 速水黒羽が手を広げると黒い粒子のようなものが集まり次第に大きな剣のような物を形成していった。

 

「ツインテールを雑に扱うあなたが許せないのよ!!」

 

 瞬間、速水黒羽は剣を振るうとあたりに突風が巻き起こり私たちの前の砂浜を大きく抉り取った。

 

「あ、あぶねえ……」

 

 目の前の砂浜を見てフレーヌと嵐はその場でペタンと座り込む。

 

「あなたに期待した私がバカだった……。 ツインテールを捨てたらどうなるのかを教えてあげるわ!」

 

 冷徹に光る黒いツインテールは、怒りに溢れ、より一層速水黒羽という()()を引き立てていた。




皆さんどうも、阿部いりまさです。
感想や質問等、どんどんお寄せください!
それでは。


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FILE.30 オルトロスギルディの秘密

テイルホワイト・ポニーテール
テイルホワイトである奏と純粋にポニーテールを愛する嵐のポニーテール属性がエレメリンクした事で発生した新形態。 髪型はポニーテールになり装甲は通常の形態よりも少なくなるがその分スピード特化型に戦闘スタイルを変えることができた。 ツインテールに匹敵する属性力をエレメリンクした事で奏の変身の中では一番戦闘力が高い形態となった。 武器は自らのスピード特化に相性が良く尚且つ扱いやすい諸刃の剣ブライニクルブレイド。

武器:ブライニクルブレイド
必殺技:ブライニクルスラッシャー


「ツインテールを捨てたらどうなるかを教えてあげるわ!」

 

 メガロドギルディとの激闘の余韻の残る夕暮れの砂浜に現れたアルティメギルの人間、速水黒羽。

 大きな剣……おそらく太刀を構え、私の前へと瞬間的に移動し振り下ろしてくる。

 金属がぶつかり合い、鈍い音があたりに響く。

 私はギリギリフォースリボンにふれ、ブライニクルブレイドでなんとか速水黒羽の剣を防ぐ事ができていた。

 

「ツインテールを捨てたとか、私は元々ツインテールが嫌いなんだけど……?」

「なんて嘘を……! ツインテール属性を持たない者が私達アルティメギルと闘えるわけがないわ!!」

「それ私が知りたいこと」

 

 力いっぱい押し返すと速水黒羽は大きくバックステップし私と距離をとる。

 とりあえず後ろの三人を避難させなければ。

 

「あんた達どっか………!」

 

 後ろの三人の方へ向くとフレーヌが私を見て頷き、すぐさま意図がわかった。

 私もフレーヌに頷き返す。

 再び速水黒羽に向き直り、ブレイドを構える。

 今の攻撃だけでわかった。速水黒羽は強い。 私が苦戦しながらなんとか倒せたメガロドギルディよりも遥かに強いだろう。

 今、私が無理して闘ってもボコボコにされるだけだ。 ならフレーヌに散々言われ続けてきた''アレ''をすればいいんだ。

 

「後悔しなさい!!」

 

 速水黒羽の太刀の中央が左右にスライドし、中央から漆黒の刃が出現する。

 まさかこれは、ブレイクレリーズ!? そんなことまでできるなんて……。

 速水黒羽が地面を蹴り、そのまま私に向かって疾走し始める。

 なんとかもっと……もっと直前まで、ブレイドを構えたまま速水黒羽を引きつける。

 速水黒羽との距離が五メートルをきったところでテイルブレスを自分の足元へと向ける。

 今だ!!

 

「オーラピラ━━━━━━!!!!」

「な!? 」

 

 足元への砂へ至近距離で発射されたオーラピラーはあたり一体の砂を巻き上げ、相手の視界を完全になくすことに成功した。

 

「……痛っ!」

 

 ……どうやら舞い上がった砂が速水黒羽の目に入ったらしい。 声に出して言えないけど心の中では言える、ごめんね。

 

「フレーヌ!!」

「はい!!」

 

 視界が全くない中でフレーヌの名前を叫ぶとかすかにフレーヌの声が聞こえ、視界が激しく舞う砂から白い光に包まれていった。

 

 

 白い光がだんだんと薄れていくと見えてきたのは夕暮れの砂浜ではなくいつも私達が来ている基地だった。

 

「あ、あれ? なんで屋内に!?」

「撤退したの。 速水黒羽には勝てないと思ってフレーヌがしてくれたの」

 

 状況を飲み込めてない志乃と嵐はまだ頭の上にクエスチョンマークを浮かばせている。 しかし、しばらくすると嵐の頭の上のクエスチョンマークはエクスクラメーションマークへと変わったようだ。

 

「まさかテレポートで!? しかもここって秘密基地ってやつじゃねえか、すげえ!!」

 

 実際に初めて見るSFのような基地に興奮したのか嵐はモニターがある機械の横の階段を駆け下りていった。

 男ってこういうのが好きなんだよね。……あと合体ロボとかも。

 

「ところでなんでギリギリまで引き寄せたの?」

「いや、単に私の近くの方が砂が多く巻き上がって目くらましにいいかなって……」

 

 もしかしたら……そんなことしなくて、さっさとフレーヌにテレポートさせてもらえばよかったかもしれない。

 フッと息を吐き、基地ならエレメリアンに見られる心配もないので私は変身を解く。

 

「とりあえずみんな……着替えたら?」

 

 海から離れようとしていた私は服を着ているが、メガロドギルディが出てくるまで海で遊んでいた三人は水着のままだった。

 今後のことは着替えてからかな。

 

 

 未だに砂が宙を舞っている砂浜に突如突風が吹き荒れ、周りに浮いていた砂を全て吹き飛ばした。

 

「痛い……」

 

 突風が吹き荒れた中心には速水黒羽が目を指でこすりながら立ち尽くしている。

 右手に持っていた太刀を煙のように消すと彼女は波打ち際まで歩き、ペタンと座り込んだ。

 

「すこしきついこと言っちゃったわね……。いや、あれくらい言わないと本人のためにならないわ……よね……」

 

 体育座りをして小さくなり、本人以外誰にも聞こえないような声を出す。

 

「テイルギアのツインテール属性、そして砂浜にいたあの少女。 うまくいってると言えるのかしら……」

 

 体育座りしたまま、海からくる潮風でツインテールをなびかせる。そのツインテールはどこか……哀しげだ。

 夕暮れの砂浜でスタンダードな黒髪の彼女が潮風でツインテールをなびかせている姿はとても絵になっていた。

 その綺麗な絵に突如極彩色が、極彩色のゲートが現れ、中から一体のエレメリアンがでてきた。

 

「見つけたぞ。 早く中に戻れ」

「遅かったわね」

 

 速水黒羽はゲートから出てきたエレメリアンとは対照的にリラックスしたように腕を伸ばす。

 

「お前が何を考えているのかは知らんが勝手な行動はするな。 所詮お前は俺の中に存在した虚構の存在にすぎぬ」

「私だって、やろうと思えばあなたを……オルトロスギルディを取り込むことぐらいできるわ。ま、そんなことする気は無いけどね」

「……」

「でも今のあなたはオルトロスギルディというよりドッグギルディね」

 

 からかうように笑いながら彼女は頭が一つしかないオルトロスギルディを見る。

 やがて彼女は立ち上がると体が激しく発光し、人間だった彼女は目の前にいるオルトロスギルディと瓜二つのエレメリアンとなった。

 オルトロスギルディが速水黒羽だったエレメリアンを吸い込むように吸収すると、彼は再び双頭となる。

 今度はオルトロスギルディの体が激しく発光し、先ほどまでそこにあった漆黒のツインテールが出現した。

 先ほどよりも禍々しいツインテールをした速水黒羽が砂浜に再び姿を現した。

 

「これは……俺の、力だ……!!」

 

 彼女は拳を強く握ると極彩色のゲートを再び出現させ、その中へと消えていった。

 

 

「やはり速水黒羽は誰の属性力も奪わずに帰っていったらしいですね」

 

 珍しくいつもの服の上から白衣を羽織ったフレーヌがテーブルの上に置いたパソコンのような機械をいじりながらそう言う。

 初めて速水黒羽が私の前に現れた時もそうだけど、彼女は属性力を奪わずに帰っていった。 彼女は属性力を奪う気はないのだろうか。……もしくは奪えない?

 

「おい、ちょっと待てよ」

「何か?」

「何か、じゃねーよ! なんで俺だけパイプ椅子なんだよ!?」

 

 基地の主のフレーヌはもちろん、元々よく基地に出入りしている私達はテーブルの周りに自分のふかふかの椅子が用意されていて勿論みんなそこに座っている。

 そんな中、今日初めて基地に来た嵐には当然マイ椅子が無く、フレーヌが上の学校から持って来たパイプ椅子に座らせていた。 嵐はこれが気に入らないらしい。

 

「嵐、その言い方はダメだよ。せっかくフレーヌが持って来てくれたのに!」

 

 志乃の言う通りだ。 むしろパイプ椅子すら豪華だと思う。 私だったら椅子なんか用意しないでそこらへんに立っててと言うだけだろう。

 

「そうですね。 では極上の椅子へご案内しましょう」

「え?」

 

 フレーヌが手元にあるボタンの一つを押すと嵐は上から降ってきたカプセルのようなものの中へと閉じ込められた。……ていうかこれは空間跳躍カタパルトだ。

 

「いやー、携帯型のカタパルトの実験をしてみたくて」

 

 必死に中からカタパルトを叩いて脱出を試みていたが、まもなく嵐はカタパルトの中の光に包まれどこかに転送されてしまった。

 

「え、嵐どこに転送したの?」

「こちらに向かってくる電車の中です。 成功してればですが」

「せ、成功してなかったら?」

「異空間を彷徨っているかと」

 

 ……よくもまあ平然と言えるもんだ。ま、フレーヌのことだから未完成のものを人で実験するなんてことはないだろうし、きっと嵐は大丈夫だろう。 ……ていうか成功してたとしても改札が出られないじゃん。

 

 

 嵐が抜け、フレーヌは今回のエレメリアンや、速水黒羽についてをあらかた志乃へと説明する。

 

「オホン、それでは本題に入りますか」

 

 今までの話は本題ではなかったのか、フレーヌは今度はどこからかホワイトボードと黒赤青の三色のペンを持って来た。 いつの間にかメガネもかけている。その姿はどことなく、学校の先生のようだ。

 

「それでは、奏さん。 あなたとあの男はどういう関係ですか!?」

「は?」

 

 全く予想していなかった私への質問に一瞬固まってしまった。

 あの男、というのはもちろん嵐のことだろう。

 

「奏、話せるの?」

 

 志乃は今私が通っている高校では数少ない中学からの友人だ。 もっといえば小学校からの幼馴染でもある。

 私と嵐が中学時代に何があったのかはわかっている。 だから今も今までも私を気にかけてくれているのだろう。

 大丈夫という意味を込めて私は志乃にニコリと笑いながら頷いておく。

 

「嵐は……私の元カレ」

「ええええええええええええ!?」

「な、なによ……」

 

 まさか驚かれるとは思っていなかったのに、ここまで驚かれるとは……。 やっぱ趣味悪いよねえ、嵐は。

 

「どこまでいったんですか!? キス!? ま、まままさかそれ以上!?」

 

 食いつき方がまるで中学生だ。 あ、フレーヌは確か十四歳だからこっちの世界だと中学生の年齢になるのか。

 

「手すら繋いでないよ。 元カレといっても二日で別れたぐらいだし」

「……なんかガッカリです」

 

 なぜ私がガッカリされなければいけないのだろうか。

 いったいフレーヌはどんな話を期待していたんだろう。

 

「でもなぜ二日で別れてしまったんです?」

「それは……別の機会に話すよ」

 

 さすがに今話すのは私的にはきつい。ただ、近いうちには必ず話すことになる。

 その時までに覚悟を決めておこう。

 

「ところで嵐遅くない?」

 

 志乃には言われて気づいたが嵐がカタパルトで何処かに飛んでからもう一時間くらいになる。

 まさか、実験が失敗したのか……。

 

「そういえば、基地の場所教えていませんでしたね。 しょうがないのでこちらに転送してあげますか」

 

 フレーヌはトテトテ階段を上がっていき、たくさんあるキーをカシャカシャ操作していく。

 嵐が帰ってきて説明するとなると二度手間になるかと思うけど、実験だとしてもそんなことする必要あったのかな……。

 

 

 異空間の狭間に浮かぶアルティメギルの神秘の基地。

 中央にある大ホールはいつもの騒がしさは感じられず、席に座している全ての隊員が静かに、テイルホワイトとメガロドギルディの闘いを見ていた。

 現地に戦闘員がいなかったので、映像はメガロドギルディの視点からのみとなっているが、テイルホワイトの強さを証明するのにはそれだけで充分だった。

 最大の注目はテイルホワイトがポニーテールへとなったこと。

 ツインテールと対をなすポニーテールへと進化したことでさらにテイルホワイトは強くなり、修行を終え、最終闘体のメガロドギルディさえも撃破した。

 絶望的な状況のはずだが、信頼していた隊長を倒された彼らもまた、シャークギルディと同じように復讐の炎を燃やしはじめる。

 

「辞退されても、隊長はいつまでも我らの隊長です」

 

 中央近くに座していた隊員が立ち上がり、モニターに映し出されたシャークギルディに敬礼をする。すると彼の周りにいた隊員も次々と立ち上がり、彼に続いて敬礼をはじめた。

 三メートル以上の体躯に顎から延びる二本の鋭い牙をもつ、ウォルラスギルディ。 オルトロスギルディの熱血指導により、メキメキと実力を伸ばしてきた若手の一人だ。

 めざましい成長を遂げている彼は実力でもこの隊ではトップクラスで、非常に優秀な戦士へと成長した。

 

「感傷に浸っている場合などないぞ」

 

 オルトロスギルディが中央のテーブルから立ち上がり、大ホールの隊員達を見渡す。

 

「早速特訓だ! 腕立てから!!」

 

 オオオオオオ………!!

 大ホールどころか、基地の外まで聞こえようかという雄叫びをあげ、ホール内の隊員がいっせいに伏せ腕立てを始めた。

 

「よし! 終わったらビートルギルディ式の特訓を始めるぞ! タブレットを用意しろ!!」

 

 オルトロスギルディの命令でサンフィシュギルディがせせっと動き手早くタブレットを各隊員に配っていくと続いてテイルホワイトのフィギュアも配られた。

 腕立てを終えたものから、フィギュアを見ながらタブレットでテイルホワイトを描き始める。

 

「できました!」

 

 一時間ほど経ったところで硬い殻を背負っているシェルギルディが一番に手を挙げ、オルトロスギルディが彼の絵をみる。

 

「ぬ! なぜ三つ編みなのだ!?」

「はい! 好きなように描けと申されましたので」

「ならん!!!」

 

 オルトロスギルディは彼のタブレットに触れ、なんと渾身の一作を簡単に削除してしまった。

 

「ああああああああ!保存してないのにいいいい!!!」

 

 シェルギルディが悲しみながら床を這いずり回るなか、オルトロスギルディは何事もなかったかのようにその場を離れ再び自分の席に着く。

 

「見せる前に保存しとくか……」

「恐ろしい……」

 

 大ホールのところどころから恐怖に怯える隊員の声が聞こえるが、オルトロスギルディは何も言わずただ隊員が絵を出来上がるのを待っている。

 鍛えられた筋骨隆々の怪物がせっせと十代の女の子の絵を描くさまほど、気持ち悪くシュールなものはない。

 いつも騒がしかったはずの大ホールは仲間がテイルホワイトに敗れていくうちにいつの間にか静かになるようになっていた。




どうも皆さん、阿部いりまさです。
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FILE.31 属性玉変換機構

 またこの夢だ。

 薄暗く何もない空間に私はいる。右も左も上も下も、全く同じ色の空間だ。

 何回も同じ夢を見ているせいか次に自分がするべきことがわかってきた。直感を信じ、おそらく以前歩いたであろう方向に向かい歩き出した。

 しばらく歩いているといつものように大きい柱が薄暗い中ボンヤリと見えてくる。また、いつものように、あそこにテイルホワイトが拘束されているのだろうか。

 

「え!?」

 

 走って近づくとやはりテイルホワイトは拘束されていた。しかし、ここだけいつもと違うことに気づく。

 いつもロープのようなもので拘束されていたはずのテイルホワイトは、今は頑丈な鎖のようなもので拘束されている。

 前よりも、厳重に拘束されてしまっていた。

 

「ッ!!」

 

 鎖なだけあって私の力ではビクともせず、全く拘束を解くことができない。

 

「起きて私!テイルホワイト!!」

 

 テイルホワイトを呼び続けるもやはり気を失ったままで目を開けてくれそうにない。

 その時、テイルホワイトのテイルブレスが光り輝きだした。

 いつも通りなら、私は光に吸い込まれ現実に戻るはずだが、ここも今回は違った。

 テイルブレスが光り輝いても私は目を覚ますことはなく未だ夢の中に居続けている。

 ただ光っただけ?

 それは違う、テイルブレスが光り輝いたのには意味があったらしい。

 

「……え?」

 

 目の前で拘束されていたはずのテイルホワイトがアルティメギルの幹部、速水黒羽の姿へと変わっている。

 ただ、私の目の前にいる速水黒羽はいつもと違う。テイルギアを装備しておらず、普通のセーラー服を着ているし、私の見た速水黒羽のようにどす黒く染まっていないように見える。

 なぜテイルギアが光って、テイルホワイトが速水黒羽になったのかは知らないが、速水黒羽だって人間のはずだ。

 私は再び鎖に腕をかけ、力のかぎり引く。

 

「何……してるのよ……」

「速水!」

 

 いつの間にか速水黒羽は薄く目を開け、か細い声で喋り出していた。

 

「あなたが、私を苦しめている……私を縛っている……!!」

「な、何のこと……」

 

 頭の中に直接声が聞こえてくる。

 私が、速水黒羽を苦しめている?

 私には全く身に覚えがないし、理不尽な理由で闘いを挑んできたのはそっちじゃないのか。

 

「ツインテールを……縛らないで……」

 

 弱々しく、速水黒羽は一粒の涙を流しながら、私に懇願したのだろうか。

 再びテイルブレスから激しい光が走り、また私はその光に吸い込まれていった。

 

 

「ハア、ハア、ハア……」

 

 嫌な目覚めをし、冷静になり息を整えながら周りを見る。

 近未来的な室内にかすかに聞こえるモーターのような音、ここは私たちの基地だ。

 テーブルには私と、眠っている志乃とフレーヌがいる。

 見た感じ、話し合いをしている間にみんな疲れて眠ってしまったらしい。

 

「ん?」

 

 私の隣にあるパイプ椅子に、メモが置かれている。

 そういえば、結局どこかうろついてた嵐をフレーヌがまた基地に転送してたっけ。

 おそらく嵐が書いていったであろう手紙を読んでみると、どうやら先に帰っていったらしい。

 時計に目を向けると深夜の三時、親に連絡しておいてよかった……。

 あんな夢を見た後に寝るのは怖いような気もするけど、この時間に起きててもしょうがないか。

 それに私が闘うのに支障は出てないし、夢についてはまたフレーヌに相談すればいいかな。

 

「ふわぁ……」

 

 大きな欠伸が出るということはやはりまだ眠いんだろう。

 欲望には忠実に、寝ることにしよう。

 

 

「で、こうなるわけ……」

 

 目の前にいる志乃は呆れ顔だ。

 夏休みもあと六日ということろで私はある重大な事実に気がついた。

 

「まあまあ、それよりこの問い教えて♪」

 

 私に言われ渋々志乃はペンと教科書を持ち、問いの解説を始めた。

私、伊志嶺 奏は夏休みが後六日というところで夏休みの課題を全くやっていないことに気づき、志乃の家へと転がり込んだのだ。

 去年はしっかりと計画的にできたんだけど、今年はなぜこうなった……。

 

「あ、エレメリアンだ!エレメリアンがいつ攻めてくるかわからないから課題やってる暇がなくて」

「都合のいい時だけエレメリアンを使う!」

「う……すみません……」

 

 私がテイルギアの武器でエレメリアンを斬るように。志乃は私の言葉をバッサリと斬り捨てる。

 正論すぎて何も言い返せない。

 アホの子っぽいけど志乃はこの辺はちゃんとしてるんだよね。成績だっていいほうだし。

 

「そういえば海に行った時からエレメリアンも出てきてないよね」

 

 そう、最近アルティメギルはおとなしい。

 おおよそ二週間前にシャークギルディ改めメガロドギルディを倒し、速水黒羽と闘ってからは全く現れていない。

 もしかしたら私の忠告を聞いて撤退してくれた……? なんて事はないはずだし。 どうせいつものように私を倒す作戦を考えているか、もしくはその作戦の準備をしているのだろう。

 

「ペン、止まってるよ」

「あ、はいはい!」

 

 後のアルティメギルより目の前の課題だ。

 夏休み明けの登校日に出さないと成績に響くしなんとしてでも終わらせなければ。

 でもただ課題をやるだけというのもつまらないな……。 そうだ、迫り来る課題をアルティメギルだと思ってやってみよう。

 簡単な問題はあのモケモケで、すいすいと解いていける。 少し難しい問題はウーチンギルディとかのエレメリアンで、難しいのがオルカギルディとか強かったやつ!

 

「な、何その絵………」

「え、絵?……げ」

 

 頭の中で設定を作りすぎて、自分でも気づかないうちに絵と詳細な設定をノートに書き記していた。

 

「モケモケ……ウーチン……オルカ……」

「わー!!やめてやめて!!」

 

 ノートに書いてしまった頭の中の設定を志乃に音読され、たまらず私はノートを抱き抱え絨毯の上をグルグルと転がり回る。

 

「例えだよ!? 例えだから!!」

「え、うん」

 

 グルグルと転がりまわりベッドの近くに来たところでベッドに飛び乗り必死の弁明をする。

 

「落ち着いてジュースでも飲みなよ」

 

 志乃はコップにオレンジジュースをドプドプ注ぎ、コップを私に差し出した。

 コップを受け取り一口飲む。 うん、おいしい。

 

「変な考え捨てないと課題終わらないよー?」

「ッ!?」

 

 オレンジジュースを吹き出しそうになるもなんとか堪えて飲み込む。

 今の私にはエレメリアンなんかより高校の課題の方がよっぽど強敵に感じるよ。

 

 

 奏が志乃の家で課題相手に苦戦している同時刻、フレーヌは基地の開発室にいた。

 画面以外の明かりがなく、映画館のようになっている部屋で必死にキーボードを操作し、テイルギアの資料やこれまでのテイルホワイトの戦闘映像を見ている。

 

「ツインテール属性が最強だからこそテイルギアとして作られたはずなのに」

 

 テイルギアのデータを画面に映し、一つ一つ目を通していく。

 彼女自身が設計した訳ではないためもう一度見落としがないか確認しているのだ。しかし、その資料にも奏のようなケースの記述はなかった。

 

「やっぱり私じゃ……あの戦士ならわかるのかな……」

 

 自分の世界をたった一人で守ってくれていた少女を思い出していた。

 その少女なら、テイルギアを纏いアルティメギルと闘っていた少女ならフレーヌにわからないこともわかるだろうと思っているが、彼女は突然姿を消してしまった。 当然連絡先なども知らない。

 

「私を助けてくれて、テイルギアの資料まで頂いたのに……私が無知なせいで」

 

 弱音を吐いているがフレーヌはしっかり画面と向き合い手元にあるキーボードを操作している。

 

「私は……あなたの期待に応えることができているのでしょうか……」

 

 懐から出したペンダントのようなものを開けるとそこには一枚の写真が入っている。

 後ろを向いているが過剰に肌が露出しているスーツ、そして美しく輝くツインテール…………ではなかった。

 

「そ、そんな……ッ!?」

 

 美しく輝くツインテールが、その写真には収められていたはずだった。 しかしその写真の中の少女はツインテールにはしておらず、髪を下ろしている。

 

「ま、まさか……ツインテール属性が……!?」

 

 属性力は強力なもので、過去の記録にまで干渉していた。

 写真の少女がツインテールじゃないことを考えると、彼女はツインテール属性を失ってしまったと考えた。

 ペンダントをぎゅっと握りしめ、再びフレーヌは懐にそれをしまいこむ。

 

「あの人は……やはりアルティメギルに……なら、私が仇をとるわ!!」

 

 哀しそうな表情から一変、フレーヌは気合を入れ再び手元のキーボードをカシャカシャと操作し始める。

 

「属性力直結現象、最終闘体という変身、そしてアルティメギルにいる人間の幹部、想定外なことだらけだけど……私は、できることをやるしかない!」

 

 フレーヌが画面を切り替えると、テイルギアの腕の装備であるスピリティカフィンガーの部分が大きく映し出される。

 

「エレメリンクだけじゃ限界がある。……あの人が作った装備なら、私が属性玉を知った今ならできるかもしれない」

 

 カチカチとマウスをクリックするような音が部屋に響くと再び画面が切り替わり、中途半端な落書きのようなものが表示された。

 

「属性玉変換機構(エレメリーション)を完成させることができれば…」

 

 属性玉を一つ手に取り、しばらく見た後再び元の位置に戻す。

 

「スー……ハー……」

 

 大きく深呼吸をし、フレーヌは再び画面と向き合い、キーボードやタッチパネルを使い操作し始めた。

 まだ見ぬ装甲を完成させるため、フレーヌは自分の知識の全てを注ぎ、エレメリーション開発へ勤しんだ。




最近少しスランプ気味です……。
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FILE.32 遅い課題

更新が遅れてしまい申し訳ございません(_ _)


 世界の狭間にあるアルティメギル基地。

 その最下層フロアにいる一人の戦士が厳しい修練を乗り越えようとしていた。

 

「は!はあー!!!」

 

 白と黒の模様が入り混じった体のゼブラギルディ。

 シャークギルディがこの場から去った後も彼は修練を続け、確かな強さを手にしていた。

 メロゲイマ・アニトュラーこそ乗り越えることはできなかったが、時々監督にくる速水黒羽の指導もあり心身とも大きく成長している。

 彼が修練を続けていると一体のエレメリアンがこのフロアに現れた。

 

「……誰だ!?」

「失礼、私はフェンリルギルディと申す者です」

「フェンリルギルディ……。もしやダークグラスパー様に処刑されたという」

「ええ。ですが、この通り生きております」

 

 深くは語ろうとしないフェンリルギルディを見て、ゼブラギルディはそれ以上問いただすことができなくなってしまった。

 

「お……私が助けたのよ」

 

 フェンリルギルディの後ろから出てきた速水黒羽がフェンリルギルディの処刑後を語りだした。

 

「私がダークグラスパー様のカオシックインフィニットにより作り出された空間にいたフェンリルギルディを助け出したのだ……のよ」

「そんなことも出来たのですか……。 しかし、それがダークグラスパー様に見つかったらどうなるか」

「心配いらん……ないわ。 ダークグラスパー様はもうアルティメギルには居ないからな……ね」

「なんと!?」

 

 その後、ダークグラスパーが首領により処刑命令を下されプテラギルディと交戦、そして新たな力を手に入れツインテイルズに仲間入りしたということを聞かされ、さらにゼブラギルディは驚愕した。

 勿論、この報はアルティメギルの部隊全てに伝えられており、隊長がいなくなったシャークギルディ部隊もその話題でもちきりだという。

 

「もはやツインテイルズはアルティメギル全体を脅かす存在となってきている……わ。 近々、美の四心も本気でツインテイルズを潰しにかかるだ……わね」

「一体何を言いたいのですか……?」

 

 速水黒羽がまるで自分に何を言いたいのかわからずゼブラギルディは思わず問い出してしまった。

 

「もしもツインテイルズが敗れるようなこととなれば、その強力なツインテール属性が私たちのところへ来ずに首領様へと渡ってしまう。 そこでゼブラギルディには今一度ツインテイルズの世界へと戻り、奴らが属性力を奪われそうになったら横取りしてきてく……ほしいの」

「そ、それはアルティメギルへの反逆へと繋がるのでは……」

「平気だ……わ。 処刑人自体がもう居ないし、ただ私はツインテイルズの属性力見たいだけ。 独り占めしようなんて思ってないからな……もの」

 

 あくまで問題はない。 そう断言し、彼女は近くの椅子に腰掛けた。

 すると彼女の体が眩く発光し、光の繭に包まれる。 光が止むと彼女は、速水黒羽はオルトロスギルディになっていた。

 

「安心しろ、反逆の罪になったとしてもだ。 この俺が責任をとってやる。 当然のことだからな」

「いえ……その必要はありません。私はあなたに鍛えられるだけで何も恩を返せていなかった。速水殿の、いえオルトロスギルディ様の力になれるなら、行って参ります」

 

 そう言うと深々と頭を下げるゼブラギルディ。

 

「頭を上げてくれゼブラギルディ。俺のわがままを押し付けてしまい酷く申し訳なく思っている」

 

 顔を上げたゼブラギルディの肩に手をかける。

 首領やアルティメギル四頂軍が自分に言わずにゼブラギルディを密かに処刑する可能性もある。

 オルトロスギルディは当然だが、ゼブラギルディもそれを承知し、オルトロスギルディのわがままに付き合うことに決めたのだろう。

 

「……行って参ります」

 

 深々とお辞儀をし、ゼブラギルディは案内役のフェンリルギルディと一緒にフロアを出ると移動艇のある搬入口へと向かっていった。

 

「次に会うのは、何時になることか……」

 

 オルトロスギルディ一人しかいないフロアでは声がよく響いて聞こえた。

 

「う……!!」

 

 オルトロスギルディが急に苦しみ出しその場でうずくまる。 すると次の瞬間オルトロスギルディの体が眩く発光し、その光は彼から離れる。 離れた光が空中を彷徨い再び集まるとだんだんと人型になっていく。

 

「また……貴様……!!」

 

 酷く疲れた様子で人型になった光を、自分の分身である頭が一つしかないオルトロスギルディを睨みつけた。

 オリジナルのオルトロスギルディから別れた分身は今度は漆黒のオーラを見に纏い姿を隠す。 オーラが晴れるとそこにいたのは速水黒羽だった。

 

「勝手に別れちゃうのよ。 あなた自身の力が弱っているから」

「なんだと!?」

「オリジナルであるあなたの力が私に流れ込んできている、て事ね。 もはや私は分身じゃない……私がオリジナルになろうとしているのよ」

「……貴様などに……まけるかぁぁぁぁ!!」

 

 突如オルトロスギルディは左手に剣を持ち速水黒羽に斬りかかる。 しかし速水黒羽はこれをスルリと簡単にかわしてしまった。

 オルトロスギルディは斬りかかった勢いでそのまま前に倒れ込んでしまう。

 

「貴様が……何を企んでいるのかは知らんがそれがアルティメギルにとっていいことでないのは明らかだ……必ずお前を……!!」

「はいはい、私は用があるからしばらく休んでいなさい」

 

 速水黒羽がフロアから消えていくと再びフロアは、頭が一つしかないオルトロスギルディだけとなった。

 

「俺は……なんなんだ……」

 

 悲痛の思いで呟いたオルトロスギルディの声は今度はフロアに響く事はなかった。

 

 

「腕立て五百回!!!!」

 

 オゥゥ!!!

 ウォルラスギルディが声を上げると、屈強な隊員達が一斉に腕立てを開始した。

 最下層フロアでオルトロスギルディとゼブラギルディが話しているほぼ同時刻、いつもの会議室とは違う大きな体育館のようなフロアでシャークギルディ部隊と補充部隊が暑苦しく己を鍛えていた。

 毎日、腕立て五百回から始まる筋トレに加え、組手による実戦特訓、さらにテイルホワイトへの恐怖心を無くすため、ビートルギルディの教えである「テイルホワイトのイラストを模写せずに搔き上げる」特訓を行っている。

 もちろん、属性力の生命体であるエレメリアンはいくら筋トレしようとも筋肉が増えることはない。しかし筋トレは仲間のチームワークや部隊の士気を上げるにはうってつけの方法だという。

 

「ウォルラスギルディよ、そろそろ始めましょう」

「はい。全員イラストへ移れ!」

 

 サンフィシュギルディに急かされ、筋トレを中断しテイルホワイトのイラスト特訓へと移った。

 初めの頃は一つの絵を仕上げるのにも時間がかかっていたが今や隊員の誰もが三十分以内に描き上げることができるようになっていた。

 

「できたぞ!」

「我もだ」

 

 次々と隊員が手を挙げ、自分の絵をウォルラスギルディ、サンフィシュギルディに見せ、採点を受けては次の絵を描き始めていく。

 隊員が描くテイルホワイトには見事に個々の属性力が現れている。メイド服、ビキニといった服装から、やたら胸を強調したイラストまで。

 

「ほほう、そういえばお前は巨乳属性(ラージバスト)だったな」

 

 ウォルラスギルディが巨乳属性を持つジュゴンギルディのイラストを横から覗き込んだ。

 

「うむ、思い切って巨乳にしてみたが……やはり……いいな」

 

 自分が思うテイルホワイトが書け、満足そうな表情を見せるジュゴンギルディから離れ、ウォルラスギルディはまだまだ別のエレメリアンのイラストを横から覗き込む。

 

「ほう、お前は足裏属性(ソール)を持っているのか」

 

 腰の下から足、特に足の裏をこちらに見せつけるように描かれているイラストを見れば誰もが分かる事だろう。

 

「ああ! 足裏こそ縁の下の力持ちの如く女体を支え、そして輝くのだ!!」

「そ、そうか……」

 

 そそくさと足裏属性のエレメリアンから離れ、再びウォルラスギルディは集団の前に出る。

 

「この厳しい特訓により、我々の部隊は完全にテイルホワイトへの恐怖心を無くし、同時に部隊がより一致団結する事が出来るようになった!」

 

 イラストを描く手を止め、皆静かに正座しウォルラスギルディの言葉に耳を傾けている。

 

「今こそ勝機! 必ずやこの世界の属性力を頂くのだ━━━━━━ッ!!!」

 

 オオオオオオオオオ……!!!

 正座していた隊員全てがウォルラスギルディに賛同し立ち上がり、雄叫びをあげる。

 世界を侵略するHENTAIの目ではない。その場にいる隊員誰もがまごう事なく戦士の目になっていた。

 

 

 長いようで短い夏休みも終わり、二学期が始まってから二週間が経った。

 速水黒羽やら、ゴーなんとかやら、メガロドギルディやら、私やフレーヌの想定外の事が起きていたけどそれ以降はここまで特に変わったところはない。 いつものように、学校を途中で抜け出して闘い、ポニーテールの私が放った必殺技により目の前でエレメリアンが放電している。

 

「ふ、太眉ぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 そしていつも通り、酷い断末魔をあげると目の前のエレメリアンは爆散した。

 うーん、あと三十年くらい前に来ていれば太眉の人結構いたんじゃないのかな。

 

『属性玉、お願いします』

「ええ」

 

 それにしても、女子高生が変身して、悪の怪物と闘う事がいつものことになってしまっていいものなのだろうか。

 いつも通り事が進んでいたが、ここからはいつも通りではなかった。

 属性玉を拾い上げると、パチパチとやる気のない拍手が聞こえてきた。

 

「久しぶりね」

『速水黒羽!』

 

 黒いツインテールが象徴の速水黒羽が私の前に再び現れた。

これで速水黒羽と会うのは三回目になるけど、前回少し剣を交えた時に奴の強さは痛いほど感じた。 今ここで闘っても勝てる見込みは限りなくゼロに近い……また逃げた方がいいかな。

 

「あ、今日は闘いに来たんじゃないわ」

「……そう、私も闘いたくないけど」

 

 ジッと私を……いや私の髪型を注視し、速水黒羽は目を細める。

 

「相変わらずツインテールは嫌いなのかしら?」

「当たり前じゃない」

『奏さん、何を考えているのかわからないので注意してください』

 

 少しだけ頷き、フレーヌに応える。

 私が返事を即答したせいか速水黒羽は少し困った顔をしながらやれやれと言わんばかりに手を左右に出して首を振っている。

 どうやら前回のように、ツインテールにしていないのを怒ってはいないようだ。その代わり、呆れているのだろうか。

 

「ツインテールがどれだけ重要なものか……わかっていないのね」

 

 ツインテール属性が最強の属性だという事はフレーヌの説明や、今まで倒してきたエレメリアンが言っていたので知っているつもりだ。

 ただ、私はツインテールが嫌いだから。 それはツインテール属性が最強だとしても決して揺らぎようのない事実なんだ。

 

「ちょっと遅いけど私から夏休みの課題を出すわ」

『「は?」』

 

 何を言っているのかと、私もフレーヌも速水黒羽の意図が掴めずハモる。

 

『どういう意味でしょうか……』

「さあ……でも……私はもう課題なんてこりごりだ!!」

『最後の最後まで溜め込むからですよ……』

 

 ど正論をフレーヌに言われ、いいかえす気力もなく黙り込む。

 いやいやエレメリアンが……これは志乃にもバッサリ斬られたし……そもそも大抵の人は課題を溜め込むものかと思っていたけどそうでもないのかな。

 今年の課題は再提出もあったし、余計なものは増やしたくないんだけど……。

 

「何をごちゃごちゃ言っているのかしら?」

「課題なんて私は絶対やらないって決意表明してたの!」

 

 もしエレメリアン百体撃破とかRPGのような課題を出されると面倒だし、少しだけ私が負けるかもしれない可能性がある。

 

「拒否はできないわよ、受け取りなさい」

 

 速水黒羽が腕を大きくあげると、私のすぐ後ろにあの極彩色のゲートらしきものが出現する。

 

「これは……!!」

 

  やがて後ろにあるゲートはブラックホールのように私もろとも周りを吸い込み始める。

 当然空気も吸っているのだろう。 風が激しく吹き始め、私をゲートへ押し込もうとしはじめた。

 

『奏さん! 今こちらに転送しま』

「逃がしはしないわ」

「え」

 

 目にも留まらぬ速さで速水黒羽は私の前へと移動し、軽く私をトン、と押した。

 軽く押されただけで私はバランスを崩し、極彩色のゲートへと吸い込まれてしまった。

 

『奏さ……』

 

 ゲートの中に入った途端、フレーヌからの通信は途切れ何も聞こえなくなってしまった。

 それとほぼ同時に嵐とのエレメリンクも解除され元のツインテールへと戻ってしまう。

 

「このままじゃ……!」

 

 私が入ってきたゲートの入り口のようなところから速水黒羽の声が聞こえてくる。

 

『ツインテールがどれだけ重要なものか、その目で確かめなさい』

「速水!!」

 

 どんなにもがいても私の体はゲートの入り口へ戻る事はなくどんどん奥へと進んでいく。

 

「オーラピラー!!!」

 

 私が入った入り口のようなところだけでなく、四方八方にオーラピラーを撃ち続けるが壁がないのかオーラピラーはどこまでも飛んでいくだけだ。

 ならばと、腰の装甲から属性力や蒸気を噴射しゲートの入り口を目指すが何も変わらない。

 どんどんゲートの奥に行くに連れて、自分の意識が遠くなっていくのを感じる。ここで意識を手放してはいけない、そう強く思っても異空間の底知れぬパワーにはかなわず、意識を手放してしまった。

 一体私は、どうなってしまうのだろうか。




皆さん、どうも阿部いりまさです。
急展開!!としか言いようがないですかね……。
感想、質問等どんどんお寄せください!
それでは。


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FILE.33 ツインテールな世界

ウォルラスギルディ
身長:288cm
体重:370kg
属性力:八重歯属性(ダブルトゥース)

シャークギルディの敗戦後、オルトロスギルディの指導により台頭してきた若手エレメリアン。
実力もさながらリーダーシップもあり、部隊の隊員からは信頼されている。
オルトロスギルディに代わり、イラスト特訓の監督をサンフィシュギルディとともに担当するようになった。


 奏が速水黒羽の作り出したゲートに吸い込まれていくのを見て、フレーヌは基地で一人必死に名前を叫んでいた。

 

「奏さん!! 応答してください、奏さん!!」

 

 フレーヌの必死の問いかけもかなわず、奏が吸い込まれると通信は途切れてしまった。

 映像にはゲートが消えていく様とそれを見守る速水黒羽のみが映っている。

 フレーヌは動揺し、力が抜けそのまま椅子に座り込む。

 

『んーっ!』

 

 画面の向こう側にいる速水黒羽は両手を重ね上にあげ伸びをすると上を見上げる。

 

『どうせ何処かで見てるわよね? テイルホワイトのサポーターさん?』

「っ……!!」

 

 力なく俯いていたフレーヌだが速水黒羽の言葉を聞き画面に目を向け息を呑む。

 フレーヌの動揺を察したのか、またはテイルホワイトを消せたことが嬉しかったのか画面越しの速水黒羽は笑みをうかべる。

 

『安心しなさい、彼女は生きてるわ。こことは違う世界に飛ばしただけ…』

「そ、そんなことが……!!」

 

 自分と同じ人間が機械もなしに生物を他の世界に飛ばすなどとにわかには信じがたいことだ。

 

『それにテイルホワイトがこの世界にいない間は私たちも属性力を奪うことはないわ。 私たちも休暇ぐらい欲しいし』

「そ、そんな勝手なこと許さないわよ!今そっちに行くから待ってなさい!!」

 

 フレーヌは激情に駆られ、小型の通信機を耳から外し床に叩きつけると、カタパルトに走り出した。 しかし、その足は再び話し始めた速水黒羽によって止まる。

 

『それじゃ、近いうちに会えるといいわね』

 

 画面越しにいる速水黒羽にフレーヌの言葉や行動がわかるわけもなく速水黒羽は再び極彩色のゲートを生成しその中へと消えていった。

 速水黒羽への怒りと自分の無力さの二つの怒りに震えたフレーヌは涙を流しながら小型の通信機を踏み潰す。 するとその場にペタンと崩れ落ち、奏が吸い込まれたゲートのあった場所をただ見つめた。

 

「助けないと……!」

 

 立ち上がり、目の前の椅子に腰掛けゲートの位置と今の時間、さらに速水黒羽の心理を探り奏が飛ばされた世界を計算し始める。

 ドア一枚隔てたところに他の世界はある、がそれが無数にも連なっており世界の正確な数は認知できないほどに多い。もしかしたらまだ見たことも聞いたこともない世界に飛ばされているかもしれない。 時間の流れが違うような世界に飛ばされているかもしれない。 もしかしたら過去や未来に飛ばされているかもしれない。 全てを頭におき、フレーヌの奏探しが始まった。

 

 

「ん……」

 

 目を覚ますと、まず目に飛び込んできたのは生い茂る木々とその間から覗く快晴の空だった。

 確か、速水黒羽が作ったゲートに吸い込まれて……意識を失って……何処か別の場所へ飛ばされてしまったのだろうか。

 上体を起こし周りも確認してみる。

 木々の間から少しだけコンクリートのようなものも見えるし、どうやら都会近くにある小さな森、もしくは公園のようなところへ飛ばされてしまったようだ。

 スマホを取り出し現時刻を確認するに私がゲートで飛ばされ意識を失ってからまだあまり時間は経っていない。

 そのままロックを外しフレーヌお手製のアプリを開き通話ボタンをタップし耳に当てる。

 ところが全くコール音が鳴らない。耳から離し、画面をもう一度見てみるとマスコットのようにデフォルメされたフレーヌが手でバツを作っている。

 

「圏外……」

 

 まさかこのご時世にちょっとした小さい森で圏外になる場所があるなんて思わなかった。

 仕方なくスマホをブレザーのポケットにしまい紅葉が始まりだした美しい森を歩き始めると、ほんの五分程度で鉄筋コンクリートのビルに囲まれた美しい噴水のある広場に出ることができた。

 真昼間なだけあって小さい子供を連れたお母さんや、ゆっくり歩く犬を連れたお年寄りおじいちゃんおばあちゃんなどが多い。

 スマホを取り出し電波を確認する……が圏外のまま変わらない。

 もしかしたら変なゲート通されたせいで壊れてしまったのかもしれない。

 

「えー、なんでよ……」

 

 フレーヌに連絡が取れないのなら最悪テイルホワイトに変身して走って帰ることも可能だが、明るいのでどうしても目立ってしまいなるべく使いたくはなかった。 電話ボックスも見つからないので結局暗くなったら変身して帰るということにする。

 

(それまではぶらぶらしてよっかな)

 

 広場から離れ、とりあえず大通り沿いに歩き出した。

 まさか、速水黒羽が言っていた課題というのは都会に放り出されて誰の力も借りずに帰ってこい、というものなんだろうか……。

 

(あれ……なんだろこの違和感……)

 

 噴水広場から大通り沿いに歩いていると、何かいつもと違うような違和感を感じる。 でも、見たところ普通に都会の街だし、通行人にもなんら変わった様子はない。

 

「ああ、やっぱりテイル……ちゃんは可愛いなあ!!」

 

 そう、変わった様子もない……うん。

 時々聞こえる通行人の声に耳を傾けながらビルを見上げたりして違和感を探す。

 すると一つの広告が目に入った。

 アイドルを使ったメガネの広告だろうか、黒髪の幼い少女がにこやかにメガネをアピールしている。でも、こんなアイドルいつの間に出てきたんだろう……。

 

「……あ」

 

 私が感じた違和感が今、わかった。

 テイルホワイトの広告や看板などが全くないのだ。

 普段歩いているだけでも嫌になるくらいあちこちにテイルホワイトの広告や看板があったものだが、ここにはそれが全くない。

 その代わり一際目立つのが眼鏡をかけた黒いツインテールの少女だ。まあ、ブームなんてそういうものだし別にいいんだけども……。

 少しだけ不安になり近くのコンビニに入り雑誌コーナーを物色する……もテイルホワイトの名前は見当たらない。だが、代わりに別のテイルを見つけた。

 

「━━━━テイル、レッド!?」

 

 テイルレッド特集という雑誌の表紙には赤く燃えるような装甲とツインテールの幼い少女が写っていた。

 

「ど、どいうこと……?」

 

 雑誌を開き中の記事に目を通す。 記事によると今年の四月から怪物が現れ、颯爽と赤いツインテールの幼女が怪物を倒していった。

 テイルホワイトという名はどこにもなく、記事にあるのはテイルレッドという名前だけだ。

 こういう時はいやに感がよくなってしまう。

 速水黒羽のゲート、スマホの圏外、見たことないアイドルそして、テイルレッド……。

 

「お姉ちゃん、立ち読みはいけないよ。 いくらテイルレッドたんが魅力的だからって……」

「すみません!」

「え、あちょっと!」

 

 急いで雑誌を店員に渡し、外に出る。

 ビルの上の方にある大きなテレビを見るとニュースの時間らしく、アナウンサーが座り何やら喋っている。……テイルレッドと呼ばれる少女がワイプで映しだされながら。

 確信に変わった、もう考えられることは一つだ。

 

「……ここは私がいた世界じゃない。ここは……異世界だったの!?」

 

 違和感を感じないことがおかしい。

 自分の生きてきた世界とは別の世界に、初めて私は降り立っていたのだ。

 

 

 いつもの大ホールに部隊の隊員全てが集合し、整然と着席している。しかし、行われているのはいつもの作戦会議や、熱い特訓ではない。

 現在この部隊の隊長兼トレーニングコーチのオルトロスギルディが大ホールの中央で静かに佇んでいた。

 やがて、静かに口を開く。

 

「しばらく、この世界の属性力奪取のための侵攻を中止する」

 

 にわかにざわつきはじめる大ホールの隊員達。 現隊長の命令とはいえ、もちろん反発するものも現れた。

 

「何故このような大切な時期に! 我々は特訓により力と、自信を得ることができたのですぞ!!」

 

 オルトロスギルディ、サンフィシュギルディ、そしてウォルラスギルディの指導によって彼らはメキメキと力をつけてきたところに、侵攻中止。 当然の反応だった。

 

「黙れ!! 命令無視は許さんぞ……!!」

「っ……!」

 

 オルトロスギルディが部下に対してここまで怒りを露わにするのは初めてのことだった。

 反発した隊員は一礼すると着席する。

 

「それだけだ、解散しろ!」

 

 それだけ言うと、オルトロスギルディは白いローブを翻し一番に大ホールから立ち去っていった。

 後に残された隊員達もぞろぞろと席を立ち、大ホールを去る者やその場に残るものもいる。

 どこからか聞こえてくる。

 

「隊長はどうなされたのだ……」

「部隊の士気が上がっている中、この命令とは何を考えているのだ……!」

「考えがあるのだろう、隊長殿を信じるしかあるまい」

 

 ここにきて、シャークギルディ部隊の残存兵や、補充部隊の隊員たちはオルトロスギルディに対して疑問を抱くようになっていった。

 馴れ合いなど許さぬ、そんな雰囲気を醸し出しているが故かだんだんと反発するものも増えてきている。 その一方で指導者としてとても優秀な能力を持っていることも事実だ。

 

「まあ良いではないか。 この間にさらに特訓し、さらなる力を身につければな」

 

 ウォルラスギルディにもオルトロスギルディの考えは読めない。 が、この侵攻中止期間はこの部隊をさらに強化することができるかもしれない。 ポジティブに考えオルトロスギルディの命令に疑問を抱くものを一人一人あやしていった。

 

 

 自分の部屋に戻り、扉を閉めたオルトロスギルディは大きな椅子に座り込む。

 

「これでいいのだろう……!」

 

 オルトロスギルディ以外誰もいない部屋で話し始める。

 話し相手はオルトロスギルディの中にいた。

 

『ええ、それでいいわ』

 

 最初は自分の身代わりであったはずの分身が、今や心のようなものを持ち、分身を出現させていないときでも声が聞こえてくる。

 オルトロスギルディの体が光り出し、その光が体から離れると人型になっていき速水黒羽を作り出した。

 

「なぜ俺にあんなことを言わせたんだ。 何を考えている……」

 

 オルトロスギルディの問いに答えることなく速水黒羽は部屋の中を歩き始めた。

 興味深そうに見ながらフィギュアが入っているショーケースの前で速水黒羽の足が止まる。

 

「やっぱり、私の元はこの娘なのね」

 

 ショーケースを開け、速水黒羽が手にしたフィギュアは彼女と瓜二つの顔をしている。

 

「苦しめられたわね、この娘には」

 

 フィギュアをショーケースへと戻し、オルトロスギルディには向き合いながら前の世界にいた戦士のことを話し出した。

 

「ああ、おかしなロボのようなものを使い俺を苦しめた。 おかげで一番心に残っている」

「だから……この姿なのね」

 

 オルトロスギルディにとってこの少女がもっとも印象的であったために、最終闘体に到達した際この姿になった。

 オルトロスギルディもわかっているが、一つ気掛かりなことがあった。

 

「しかし、俺の中にあの娘のツインテール属性はない……貴様が、どこかにやったのか」

 

 キッと速水黒羽を睨みつけるが帯びることなく彼女は向かいのソファに深く座り込んだ。

 

「さあ……知らないわ」

 

 何かを期待しているような目をしながらオルトロスギルディから視線を外し、彼女は再び自分と同じ顔のフィギュアを見つめた。

 同じ顔であっても彼女達は人間とエレメリアンの分身、全く別の生き物だ。 証拠に、速水黒羽の元となった彼女がしていた表情は自分ではしたことがなく、することもできない。

 笑みを浮かべると速水黒羽は再び光となり、オルトロスギルディの中へと戻っていった。




どうも皆さん、阿部いりまさです。
とうとう来ましたテイルレッドたんの世界!
次からはツインテイルズが本格的に登場!!かと思いきやそうでもないと思われます……。
察しがいいお方ならどんな感じでツインテイルズと絡むのかわかる方もいらっしゃるかも……?
それでは。


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FILE.34 異世界な夜

 まさか、ここが異世界だとは思わなかった。あまりにも私がいた世界と似ているから気づくのに時間がかかってしまった。

 普通の町並みに普通の人々。

 この普通の日常こそが私自身を異邦人なんだと突きつけてくるようだ。

 もしかしたら、むやみに動かない方がよかったかもしれない。……とは言っても結構な距離を歩いてきてしまったし、元いた場所がどこかも把握していない。

 もう一度スマホを見るが、やはり圏外。電話もつながらず、メールも届かず、ネットを使うこともできない。 最初から入っていたマップのアプリもGPSが動作せず、使い物にならない。

 やはりただの時計にしかならなかった。そもそも時計すら正確なのか怪しいものではあるが。

 スマホをしまう。とりあえずこんな街中でボーッと突っ立っているのもアレだ。行く当てもないがとりあえず歩き出す。

 ここが異世界なんだと認識した今、周りを見てみるとやはりよく似ているが、やはり異世界だと実感できてきた。

 外国よりも異質な場所で私は道なりに歩く。

 

 

 しばらく歩いていると車用に作られている青い標識に''図書館''という文字を見つけた。

 

「図書館……そうだ!」

 

 図書館なら、ただでこの世界のことが知れるし、とりあえず暇も潰せるだろう。

 図書館に入るが、ここも全く異世界感がなくて逆に驚いた。

 フレーヌのいた世界は科学がかなり進歩していたらしいし、いろんな世界があると聞くとやはり魔法が使えるような世界を思い浮かべるだろう。 しかしこの世界はやはり私のいた世界とよく似ている。

 良く言えば普通の、悪く言えば面白みのない、といったところか。

 タダで使えるパソコンを見つけ、早速インターネットを使う。

 ニュース欄には、この異世界の出来事が載せられている。 最近の出来事は私の世界とはやはり違う。

 ニュース欄にもっとも表示されているのがこのテイルレッドという文字だ。記事を見てみると写真付きでテイルレッドの戦績などが懇切丁寧に解説されている。

 

「これって……テイルギア?」

 

 テイルレッドの写真を何枚も見ているうちに気づいたが、 彼女の装甲は私のテイルギアと良く似ているように感じる。 それにテイルレッドという戦隊モノじみた名前もテイルホワイトと似ている。

 写真ばかりなのでスラスラと流し見して下までスクロールし関連記事を見てみる。

 

「テイルブルー、テイルイエロー、テイルブラック、テイルシルバー……なにこれ!?」

 

 関連記事には小さく、本当に小さくテイルレッド以外の名前が載せられていた。

 この世界にはテイルレッド以外にもツインテールの戦士がいるということなのだろうか。

 さらに調べていくとテイルレッドとテイルシルバーというロボ以外はすこぶる評価が悪かった。

 イエローは記事と写真をみるときわどい露出を繰り返し、子供に防犯ブザーを鳴らされる。

 ブラックは筋骨隆々な男達を召喚し、エレメリアンごと周りにいた野次馬を悶絶させた。

 酷すぎる……。記事が本当なら酷い以外の何物でもなかった。

 特に際立って酷いのは青い蛮族だとか、貧乳魔人だとか記事の中で使われているブルーだ。 恐ろしい表情の写真がたくさんあるし、テイルブルー対策の避難訓練を初めて最近行われたと書いてある。

 改めて、ここを異世界なんだと実感できたような気がした。

 そっとテイルブルーの記事を閉じ、再びテイルレッドの記事に戻る。

 

「ツインテイルズ……」

 

 どこかで聞いたような名前だ……。

 どうやらテイルレッドやその他全員合わせてこの世界ではそう呼ばれているらしい。しかし、ネットの記事見てるとテイルレッドのことをどこも詳しく書かれているせいで同じ内容が多くなってきた。 その癖他のツインテイルズには罵倒ばかりでネットだけじゃ全然わからない。

 

(せっかく図書館にいるんだし……)

 

 これだけの本があるんだ。もしかしたらテイルブルーのことを詳しく書いてある本や新聞があるかもしれない。

 とりあえずツインテイルズコーナーに向かい、本の物色を始めた。

 

「テイルレッドについて考察する本、テイルレッド探検記、テイルレッド読本、僕のテイルレッドたん………」

 

 ツインテイルズコーナーと書かれながらテイルレッドまみれの本棚を一つ一つ、背表紙を確認しながら横に移動していく。

 

「テイルレッド出現予測地、テイルレッドホビー情報、名探偵江戸川……あれ?」

 

 結局テイルレッドだけでツインテイルズコーナーと称するテイルレッドコーナーは終わってしまい普通の漫画のコーナーに変わってしまった。

 

「ないかー。……ん?こ、これは!」

 

 フレーヌがアニメを見始めてから原作を揃えていた新作ふぉーくーるあふたー!

 私の世界だとまだ二巻しかでていないのにこの世界だと十巻まででているのか……。

 フライングだけど、少しくらい読んでも罰は当たらないだろう。

 ふぉーくーるあふたーの漫画をあるだけ持ち、席に座ると一巻から読み始めた。

 

 

 奏が速水黒羽により異世界へと飛ばされてから数時間が経ち、現在は午後の五時を回ったところだ。

 あらゆる状況を予測し、あらゆる限りのことを尽くしてきた、しかしまだ奏が飛ばされた世界は見つからない。

 フレーヌにも焦りが見え始めていた。いや、最初から今までずっと焦り、必死に奏を捜索している。

 一人、部屋で機械を操作していると自動ドアが開き、誰かが入ってきた。

 

「奏どう?」

「志乃さん……。 すみません、まだ見つけられてないんです……」

「そっか……」

 

 志乃は学校が終わり、基地にやってきたところをフレーヌに奏のことを聞かされていた。

 聞かされてから志乃は家には帰らず、そのまま基地でフレーヌからの朗報を待つことにし、時々こうして聞きに来る。

 

「大丈夫、一応テイルギアはしてるだろうし……奏は強いから!」

「はい……」

 

 志乃の必死の元気付けもフレーヌにはあまり届いていないように見える。

 小さな声で返事をすると再び画面に向き直り、自分が予測した世界の座標を入力、テイルギアに搭載されているGPSを探し始めた。

 奏を見つけるには現状これ以外の方法は見つからない。 おまけに世界は無数にもある、一つ一つ入力し、微弱に検知できるかどうかのGPSを探すのは至難の業だった。

 疲れながらも画面と向き合っているフレーヌに志乃が歩み寄りイスの横に立つ。

 

「奏もだけどさ、フレーヌが倒れちゃったら私は悲しいの」

 

 明るく話すと、その場でしゃがみ込み今度は下からフレーヌを見上げる。

 

「頼れるなら、頼ってね!」

「ええ……」

 

 とびきりの笑顔で見上げながら言われるとフレーヌも笑顔になり先程よりも元気に、返事をした。

 

「あー!!疲っれたあぁぁ!!」

 

 フレーヌが再び画面に向き直り気合いを入れ捜索を再開しようというところで、自動ドアが開き練習着姿の孝喜が叫びながら入ってきた。

 空気を読まない登場にフレーヌも志乃も思わずズッコケそうになる。

 

「いやー、今日の練習メニューキツくてよ」

 

 肩に掛けていたバッグを壁近くの床に放り投げ肩をグルグル回し、自分の足を揉みだした。

 

「あ、汗臭いんですよ! バッグを部屋に置かないでください!!」

「はあ!?ちゃんと制汗スプレーあるだろうが!」

 

 口喧嘩のようなものが始まるとフレーヌはバッグを孝喜に押し付けるとそのまま部屋から押し出す。 つられて志乃が自分で部屋から出ると自動ドアは閉まってしまった。

 

「なーにイライラしてんだ」

 

 バッグを持ち、自動ドアの前で立ち尽くす孝喜を志乃は横からジト目で見ている。

 

「空気読めるのか読めないのか……どっちなの……」

「え?」

 

 孝喜に応えることなく、志乃はいつものテーブルに座り、スマホをクリクリと操作しフレーヌお手製アプリを開く。

 奏へと繋がる通話ボタンを押すもすぐにエラーのメッセージが表示され繋がらない。

 

「無事だよね……」

 

 自分にしか聞こえないような小さな声で志乃は呟いた。

 

 

 漫画を夢中で読んでいたら図書館の閉館時間になってしまった……。

 秋ということもあり、午後六時にもなると夜の帳が下りてきて、ほとんどもう陽などでていない。

 どうやら今日はこの世界で夜を越すことになりそうだが、寝る場所とか全く考えていなかった……。 とりあえず一日くらいは野宿くらいはできるけど、流石に毎日野宿は私とて年頃の女の子としてキツイものがある。

 騒がしい町並みを数時間歩いていると、いつの間にか閑静な住宅街へと私はやってきていた。

 何時間も歩き疲れたのでとりあえず、近くにあった公園のベンチに腰掛け、一息つく。

 この世界の秋、そんなに肌寒くなくて助かった。 この気温ならブレザーだけど、そこまで凍える心配もないだろう。

 

「ふわぁ……」

 

 心地いい風が吹き抜け思わず欠伸が出た。

 

「若いお姉さんが夜に一人じゃ危ないよ」

 

 眠くなりウトウトしていると誰かに声をかけられた。

 目の前にはシルクハットを深く被った三十代くらいの男性が立っていた。

 ヤバい、変態か? 少しだけ心で目の前の男性を警戒するが、男性は全くそんな素振りは見せずに隣のベンチへと座り帽子を取る。

 しばらくその男性は夜空を見上げ、私も空を見上げると沈黙が続く。

 赤い光を発している飛行機が一機、星の海を通り過ぎると隣の男性はゆっくりと口を開き、沈黙を破った。

 

「お姉さんまるで……この世界の人間じゃないような雰囲気だね」

 

 全てを知っている、と言わんばかりに静かに、優しく男性は言った。

 もちろん私は、

 

「え、ええええええええ!?」

 

 男性の発言に眠気は完全に吹き飛び、私は大声をあげた。

 何者なんだこの人は!?

 初めて会ったはずなのに、一発で私が他の世界から来た人だと当ててしまった。

 私が''何故わかったのか''と聞く前に男性は顔色一つ変えずにそれを答え始めた。

 

「私も、君と同じクチだからね」

「ええ!? おじさんも異世界から来たんですか!?」

「ああ、そうだよ」

 

 目を瞑り、昔を思い出しているのか男性は懐かしむような表情で話す。

 私以外にも、他の世界に飛ばされた人がいるとは、男性に失礼だが仲間ができたようでなんだか安心した気がする。

 男性は再び帽子を被るとベンチからの立ち上がり私の前に立つ。

 

「慣れないこともあるだろうし、最初は戸惑うだろう……。 そんな時、はここに来るといい」

 

 そう言うとスーツの内ポケットから名刺のようなカードを取り出し、私に差し出してくる。

 それを受け取り、見てみるとどうやらお店、それも喫茶店のようだ。

 

「君と同じ悩みを抱えている人が集まる店さ。 私も時々行っている」

「え、他にも異世界から来た人が!?」

「ああ、いるともさ」

 

 私と前の男性だけではない。 他にも異世界から来てしまった人がたくさんこの世界にはいるのか。 そしてこの世界での悩みや、出来事をこの喫茶店に集まり話し、きっと励ましあっているのだろう。

 

「あの、聞いてもいいですか?」

「ん、なにかな?」

 

 嫌な顔せずに質問に答えてくれる、この人はとてもいい人だ。

 

「おじさんは……自分の世界には帰りたくないんですか?」

「そうだね……」

 

 少しだけ生えている顎髭を触りながら目を瞑り、答えを考えているようだ。

 異世界から来たなら、私みたいに自分の世界に帰りたいと思うのが普通だと思ったけどおじさんにはそれが全くと言っていいほど感じられない。 だから、聞いてみたくなってしまった。

 

「最初は帰りたいと思ったさ」

「や、やっぱり……! そうですよね!?」

「でもね……」

 

 私の言葉を遮り、男性は顎髭から手を離しさらに続けた。

 

「でもね……この世界の人の温かさが心地よくなってしまってね。 もう戻ろうとは思っていないよ」

「そ、そうですか……」

 

 最初は帰りたいと思っていても、しばらくこの世界にいると同じ考えになっていくのだろうか。

 確かにここは私の世界とよく似ている。 普通に生活するのに不便なことはないかもしれない。

 でも、目を閉じると浮かんでくる。 志乃やフレーヌやお父さんに、お母さん、そして嵐も。 みんなが私の世界にいる限り、私はこの世界に残りたいと思うことはないだろう。

 

「それじゃあ、君は元の世界に帰れるといいね。 お互い頑張ろうね」

「は、はい! ありがとうございました!!」

 

 私がお礼を言うとおじさんはニッコリ笑い、公園から出て行った。

 不思議な人だった。 ただ、あの人が紹介してくれたこの喫茶店に行けば元の世界へ帰れる方法がわかるかもしれない。

 名刺のようなカードには地図も載っており、それによるとこの公園からさほど遠くない距離にあるそうだ。

 明日さっそく行ってみようかな。

 

「テイルオン……」

 

 誰もいないことを確認するとテイルホワイトに変身し、ひとっ飛びで民家の屋根の上へと降り立つ。

 変身を解除し念のため持っていた新聞紙を敷いてペタンと座る。するとどっと眠気が襲ってきた。

 もういい時間帯だ。

 目を閉じると、一分もたたずに眠りへとだんだん落ちていく。

 

『うっぎゃあああああああああああああああああ!!!』

 

 何処からか、夜中にそぐわない大きな声が聞こえてきた。

 疲れの方が上回っていたせいで構わず私は深い眠りへと落ちていった。




皆さんどうも、阿部いりまさです。
今回は原作の視点からみると七巻の内容となっています。
さて、異世界から来たという男性は何者なのか、その人達が集まる店とはなんなのか。
近いうちにわかると思います。
感想、質問等どんどんお寄せください!
それでは。


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FILE.35 異世界な事情と奏の手がかり

 肌寒い空気に包まれて私は目を覚ました。

 まだ秋が始まったばかりで近年は残暑がうんたらかんたらとも言われているはずが今日は結構な寒さだ。……あ、でもそれは私の世界の話か。

 スマホを取り出し時間を確認すると午前八時になったところだった。

 真夜中に眠ったにしてはいい時間に起きれたかもしれない。 まあ寝心地が最悪なせいもあるだろうけど。

 

「シャワー浴びたいなあ……」

 

 シャワーどころか歯磨きもしていない。

 汗はあまりかいていないから、さすがに一日しなかっただけで臭いはしないだろう。 口の方も、一応両手を口に被せはー、はーと息を吐く。

 屋根の縁へと移動し下を見下ろす。 どうやら近くに通行人はいないようだ。

 テイルブレスを軽くかざし私はテイルホワイトへと変身した。

 屋根から飛び降り公園の中に着地するとすぐさま変身を解き、また伊志嶺 奏へと戻る。

 昨日のおじさんにもらったカードをポケットから取り出し、地図をもう一度確認する。 距離的には、やはり歩けば十数分で着くことができるかもしれない。

 カードを手にし、時々地図を確認しながら住宅街を歩きはじめた。

異世界から来た人が集まる店、どんなところなのかとても楽しみだ。

 

 

 奏がゲートに飲み込まれ、姿を消してからまる一日が経っていた。

 一度は二人に癒してもらったフレーヌも再び焦りがそれよりも大きくなり、一日目よりもタイピングスピードが速くなっている。

 奏を必死で探しているときも、頭の中にはある考えが浮かんでくる。

 

「あの人なら……この状況どうする、あの人なら……!!」

 

 自分の世界を必死で守り、最後には姿を消してしまったツインテールの戦士。驚異的な科学力と頭脳でテイルギアを開発した彼女なら、この状況でどうやって探すかを必死に考える。

 手を止め頭を抱え、フレーヌは必死に考えるが全く解決案が浮かんでこない。

 机に肘をつき俯いていると自動ドアが開く。

 

「調子はどうだ?」

「な、なんでいるんですか!? 学校は!?部活は!?」

「今日は休みなんだよ」

 

 入ってきたのは朝早くにもかかわらず基地に駆けつけた孝喜だった。

 

「多分鍵崎も言ったろうけどさ、伊志嶺は怖いくらい強い女だよ。 テイルホワイトで闘ってきたのを見てるお前なら知ってるだろ?」

「ええ……。 一度は負けたこともありましたがその後は幹部エレメリアンを倒し、どんどん強くなっていきました」

「精神的にも、肉体的にもさ、いいとこ育ちとは思えないくらい強いんだぜ。伊志嶺はよ」

 

 フレーヌ学校に座っている椅子の斜め後ろの床に孝喜は座り込む。

 孝喜も昨日部屋を追い出されてから奏が異世界に飛ばされたことを志乃に聞き、次の日こうして早くに基地を訪れたのだ。

 

「それにお前、昨日寝てないだろ」

「……奏さんを放って、寝られるわけないじゃないですか」

 

 何も食べずに奏が飛ばされた時間からモニターの前から動かずフレーヌは奏を探している。

 

「鍵崎に言われたんだろ? お前が倒れると悲しいって。 頼れるとこは頼ってくれって」

 

 孝喜の言葉に何も返さずにフレーヌは再びモニターに向き直りカシャカシャと操作し始める。

 

「俺だって同じ気持ちだよ」

 

 孝喜はそう言いながら、コンビニのおにぎりと栄養ドリンクをフレーヌの横へそっと置いた。

 タイピングをしている手が止まり、フレーヌは椅子を回転させ体ごと孝喜の方に向く。

 

「一つ、聞きたいことがあるんです」

「おう」

 

 少しだけ顔を赤らめているが暗い室内ということもあり孝喜からは見えていない。

 もじもじしながらもフレーヌはようやく口を開いた。

 

「奏さんから以前あなたと付き合ったことがあると聞きました」

「え!?」

 

 予想だにしなかったことを言われ、孝喜は大仰に驚き、立ち上がる。

 孝喜の顔も赤くなり、バツが悪そうに視線をフレーヌから外しながら頭をカリカリかいている。

 

「どうして、別れたんですか?」

「もう知ってると思うけどよ。俺さ、ポニーテールが好きでさ、ツインテールは目の敵にしてたんだ」

 

 当時のことを思い出しているのか、孝喜は目を瞑り少しだけ下を向く。 そして目を開けると先程までと同じように椅子の後ろの床に座り込む。

「ツインテールにしてる奏をみて、言っちまったんだよ''年考えずによくそんな髪型ができるな''てさ……」

「うわ……」

 

 フレーヌ明らかに孝喜を軽蔑する目でドン引きするも孝喜は何も反応しなかった。

 孝喜にとってはこの反応は当然されるだろうとわかっている。 だから今まで、このことは極少数を除いて話したことはなかった。

 

「それでまあ、次の日に奏がツインテールをやめたばかりか腰まであった髪の毛をバッサリ切ってきて……。その日に別れを告げられたんだ」

「か、髪は女の命ですよ!?」

 

 フレーヌは思わず自分の肩までの髪をわしゃっと掴む。

 

「ああ……だからそんときから今この瞬間も後悔してる……。 あいつがツインテール嫌うようになったの俺のせいなんだよ」

 

 悲しそうな顔をする孝喜にフレーヌは何も言えずに沈黙がうまれた。

 

「奏さんはツインテールを嫌ってはいませんよ」

 

 うつむく孝喜のまえに椅子から飛び降りたフレーヌが立ち、肩に手を乗せた。

 

「説明したかどうかは忘れましたが、属性力はそれが好きという気持ちがなければ生まれません。 奏さんの心にツインテール属性があるということは、表面上は嫌っていても本当は………」

 

 フレーヌの言葉が突然止まり、何かを思いついたか椅子へと急いで戻るとモニターと向き合いまた高速でタイピングを始めた。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

 孝喜が問いかけるとフレーヌはポケットからペンダントのようなものを取り出し孝喜に優しく投げ渡した。

 ペンダントを開けるとロングでストレートな髪型の女性が後ろ向いて立っている。 ストレートだが腰あたりの髪の毛は少しだけ逆立っておりとても特徴的だ。

 孝喜が頭の上にクエスチョンマークを浮かべているとフレーヌから話し出した。

 

「それは私の世界で闘っていた戦士です」

「ああ、そうか……ん?でもこれツインテールじゃないぞ」

 

 孝喜も最強の属性がツインテールだということ、そのためツインテール戦士がアルティメギルと闘えるということは聞かされていた。 そのため、写真の中の彼女の髪型に疑問をもつ。

 

「私が撮った頃はまだツインテールだったんです。……おそらく戦士がツインテール属性を失ったために写真の中の彼女もツインテールではなくなってしまったのでしょう」

「そんなやばいもんなのか、属性力って……」

 

 タイピングを一旦やめ、引き出しから今度はタブレットのようなものを取り出し、中のファイルを漁っていく。

 

「時間の逆行や促進を意図的に行うのはは私たちの世界でも科学の極点の先にある神の技術です」

「……つまりそれって、タイムマシンのこと言ってんのか?」

 

 少しだけ頷くとフレーヌはタブレットとパソコンのようなものを接続し、今度はモニターと睨めっこを始めた。

 

「そして属性力はそんな時間に干渉することができます」

「つ、つまり?」

 

 学校の成績が決して高くない孝喜はまるでこの話についていけていない。 いや、いくら高くてもこの世界ではこの話にはついていけないことをフレーヌが話しているのだ。

 

「あくまで私の推測、希望的観測ですが……時間に干渉できるほど強力な力の属性力なら異世界に行った人の属性力を探すのは容易いと思うんです」

「なるほど、奏のツインテール属性を探せば!」

「はい。 それでも世界は無数にあるので苦労するかと思いますが、ずっと奏さんを見つける確率は上がるはずです!」

 

 奏が異世界に飛ばされてから初めて自信たっぷりの表情でフレーヌはタイピングを始めた。

 今まで開いていたテイルギアのGPS探索ページを閉じ、本格的に世界をまたいで属性力の検知を行い始めた。

 

「あ、でも俺とのエレメリンクはゲートに入った瞬間切れちまったんだよな……」

「エレメリンクは元々機械なしに奏さんと志乃さんの間に起こった未知の現象で、私はそれを機械で管理し、任意に発動できるようにしたんです。 機械による縛りがない属性力ならなんとかなると思いますし、もしかしたらあのゲート自体が属性力をジャミングする効果がある可能性もあります」

「おお……」

 

 孝喜の不安を一蹴するフレーヌの頼もしい言葉に孝喜は感心する。

 高速でタブレットとモニター交互に操作するフレーヌを見て孝喜は邪魔しないように、と静かに部屋を出て行った。

 孝喜が部屋から出て行った後もフレーヌは手を休める気配はなく属性力を探すための準備をしている。

 

「焦っていたせいで、この考えに辿り着くまでに時間がかかったわ。 待ってて下さい、奏さん」

 

 自信のない表情はもうフレーヌはしていない。

 

 

 十数分かけ歩き、やっと私は自分の世界へと帰れる手がかりをつかめるかもしれない場所へと着くことができた。

 喫茶店なのはわかるが、看板を見ただけではなんていう名前なのかわかりづらい。 手元のカードに目を落とすと、親切にカタカナで振り仮名がふってある。

 ''アドレシェンツァ'' どうやらこれがこのお店の名前らしい。

 英語ではなさそうだ。 フランス語か、もしくはイタリア語だと思うけど、意味は後で調べておこう。

 おじさんは異世界の人が集まる、と言っていたが外観は特に特徴的なものはなく中々オシャレな個人経営の喫茶店、という感じかな。

 早速、私は喫茶アドレシェンツァの前に立ちドアを開ける。 喫茶店によくある心地いいベルの音がなるのと同時に店内に入るが、お客さんも、喫茶店のマスターも店内には居なかった。

 

「もしかして……休み?」

 

 手に持っているカードを確認するもいつが休みだとは書いていない。 それに、真ん中に並べられたテーブルや、カウンターのほうから湯気が出ているのも見えるしとても休みだとは思えないが…。

 とりあえず店から出ようとすると内側からドアの突起に札がかかっているのに気づいた。

 内側からみると''Open''という文字が確認できる。外に出て確認してみると、札には手書きで''Closed''の文字が書いてあった。

 

「あ、休みか……失礼しました」

 

 誰もいないが建物自体にペコリと頭を下げると大きくため息をつく。せっかく私の世界に帰れる手がかりを見つけられかと思ったのに、運が悪いのか私は。

 喫茶店での滞在期間、驚きの一分未満という記録を更新し少しだけショックだ。

 希望が途絶えた今、次に行く当てはない。

 とりあえずカードの地図を見ると、このお店を中心としていろいろ目印になるようなお店が描かれている。一つ一つ確認していると地図の端に駅が描いてあるのを見つけた。 ……行く当てもないしとりあえず駅へとまた徒歩で向かうことにしよう。

 先程の公園からアドレシェンツァまで十数分だったことを考え地図を見るとおそらく駅までは十分もせずに着けるだろうし。

 歩き始めたはいいが、アドレシェンツァに向かうときと同じ足で歩いていると思えないほど足が重い。 気分によってここまで違うのか……。

 重い足取りで歩き、暗い気分の私とは対称的に周りはどんどん賑やかになっていく。

 いつの間にか私は賑やかな商店街の中にいた。

 

(そういえば、私の町にはこういうのなかったっけ……)

 

 物珍しく思い周りをキョロキョロ見ながら歩いていると電気屋だろうか、ガラスケースの中にたくさんのテレビが表から見えるように展示されている。

 

「アイドルねえ……」

 

 テレビにはこの世界で人気らしい幼いアイドルのコンサート映像が流れている。

 ……やたらこの娘、メガネをアピールしているように見えるな。

 しばらくするとコンサートの映像は終わり、スタジオに画面が切り替わった。 ニュースで取り上げてたらしく生の映像じゃなかったみたいだ。

 

(行こうかな……)

 

 特に気になることもないし、さっさと駅に向かうかな。

 

『ただいま速報が入りました!! 世界遺産の富士山でテイルレッドたんが怪物と戦闘を繰り広げているとのことです!! 繰り返します、世界遺産の富士山で……』

 

 ニュースキャスターの言葉を聞き、私はすぐに歩を止めた。

 こっちの世界にも富士山が!? それより富士山が世界遺産?ゴミが多くて登録は無理だったんじゃ? いやいや、それよりもテイルレッドだ!

 今から、富士山に行けばテイルレッドに会えるかもしれないし、テイルレッドならもしかしたら私を助けてくれるかもしれない。

 可能性が少しでもあるなら、私はそれに賭けたい!

 建物の陰に隠れ、私のテイルギアを胸の前にかざした。

 

「テイルオン!」

 

 一瞬で変身が完了し、私は跳躍し建物の上へと登った。

 

「富士山はえーっと……あっちね!」

 

 テイルギアによって強化された目で微かに富士山の影を捉えると、私は再び跳躍し建物の上で走り出した。 テイルレッドに会えるなら人に見られるのなんて構いやしない。

 フレーヌがいれば、転送装置で一瞬だがここには私しかいない。 何分かかるかわからないけど、間に合えるようにと祈りながら私は富士山に向かい走り続ける。




皆さんどうも、阿部いりまさです。
おそらく次かその次あたりが奏が一番原作に近く絡んでくると思います。
感想、質問等どんどんお寄せ下さい!
それでは。


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FILE.36 異世界な闘い(vs昆虫戦士)

 私の思っていた以上だ。

 あっという間に私は都心を抜け、周りが木だらけになってきた。 小さく見えていた富士山も目の前にまで迫ってきておりとても雄大だ。

 やっぱり、日本の顔だし富士山はいい。

 高速で走るためいくつもの木が障害物となるが、自分でも驚くくらいの恐るべき反射神経で目の前に木が現れるたびに横へ移動し、どんどん富士山に向かっていく。

 富士山に近づくたびにドーンドーンと激しい闘いを思わせる音が聞こえるようになってきた。 どうやらまだテイルレッド達はエレメリアンと闘っていると途中らしい、間に合ってよかった。

 

「よっ!」

 

 二十メートルはあろうかという大木の太い枝へと降り立ち眼下に広がる富士の樹海を見下ろす。

 

「あれは……何……?」

 

 広がる木々よりゆうに大きい、十五メートルはあろうかという動く物体が富士の樹海を動き回り、腕を振り、地面や木々を吹き飛ばしていた。

 黄金に輝く羽と胴体、二本の剛腕と後ろについている双腕、龍の顎を想起させるこれまた二つの大きな角。

 地球上ではありえない姿をした怪物、エレメリアンだ。

 私が闘ったメガロドギルディの倍以上はある巨軀にもかかわらず動きは俊敏で、輝く羽根で飛翔と着地を繰り返している。

 そのこと以外にも、驚くべきところがある。

 私が知っているのは動物、もしくは植物をモチーフをとしてきたエレメリアンだが目の前のそれは明らかにそうではない。 足が六本あり、大きな角、そして羽、これらをすべて兼ね備えている生物は昆虫だ。

 昆虫をモチーフとしたエレメリアンを私は初めてみた。

 バカでかいエレメリアンの近くを時々炎がはしり、攻撃しているのが見える。

 おそらく、ツインテイルズが闘っているのだろう。

 

「ツインテイルズはあんなのと闘っているの……」

 

 クラーケギルディに負けた時以来、本気でエレメリアンを怖いと思った。

 高い枝の上で足が震え出す。 

 

(……気合いを入れろ!)

 

 テイルレッドのような小さな女の子と仲間のツインテイルズは立派に闘っているんだ。

 両手で頬をパチンと叩き、自信に気合いを入れ直す。 ……少し痛かったけど今の私にはこれくらいがちょうどいいだろう。

 

「あ!!」

 

 隙を突かれたのかテイルレッドがデカいエレメリアンの右主腕にガッチリと取り押さえてしまう。 するとデカいエレメリアンは抵抗する暇を与えようとせず左手に持っている属性力奪取のリングをテイルレッドへと潜らせようと近づけていく。

 

「今行くよ!!」

 

 フォースリボンをいつもより強く叩き、両腕にアバランチクローを装備する。

 私が今まさに枝を蹴りエレメリアンに向かおうとした時、激しい風切り音が耳朶を叩いた。

 

「あれは、テイルイエローの……!」

 

 パソコンでみたテイルイエローが脱いだ時に出来上がる装備が光弾やミサイルを次々と撃ち込み突っ込んできている。最後にはあの装備がそのままデカいエレメリアンの顔面あたりに直撃し、右手に捕まえていたテイルレッドを取り落とす。

 一瞬怯みはしたものの、デカいエレメリアンはすぐに目の前にあるテイルイエローの装甲を上下の角で挟み斬ると大爆発させ、テイルイエローの装甲は木っ端微塵となってしまった。

 まずい!テイルイエローはあの装甲がないとテレビコードに引っかかるギリギリの露出をしているとネットで書いてあった。 このままではまた彼女の評判が悪くなってしまう!

 装甲を木っ端微塵にしテイルイエローに服を着させないようにしたデカいエレメリアンはなにやらツインテイルズと話しているようだ。

 今がチャンスだ。 正義の味方としては少々汚いが今、このタイミングなら奴を仕留められる!!

 今度こそ私は枝を強く蹴り、デカいエレメリアンへ猛然と滑空し向かっていく。

 

「隊長殿━━━━━━ッ!!!」

「ええええ!?」

 

 突如ゲートが現れその中から奇妙なエレメリアンが現れた。

 当然、空中で避ける術はなく、私とそのエレメリアンは激突し、勢いを失った私は真下の地面に叩きつけられる。

 激突したエレメリアンもそのまま地面に叩きつけられたのかすぐ近くで痛みを耐える声が聞こえてきた。

 頭を押さえながら立ち上がり妨害したエレメリアンと対峙する。

 

「痛ったあ……! あ、あんたね……!」

「痛えなチキショー! ……ん? な、なんだお前はあああああああ!!」

 

 私をしっかりと見ると目の前のエレメリアンは大仰に驚き数歩後ずさった。

 羽根に、足が六本、そして特徴的な眼と触覚。

 目の前にいるエレメリアンもデカいエレメリアンと同様、昆虫のようなフォルムをしている。

 やはり一線を画したデザインだ。

 昆虫という種類を考えながら見た感じ、目の前のエレメリアンは蝶……だろうか。

 

「私はテイルホワイトよ!」

「テイルホワイトだと!? いつの間に新たな戦士が……!!」

「どうせあんたも名乗るんでしょ? 私は名乗ったからはやくして!」

 

 言われるまま、蝶ギルディ?は素早く立ち上がり、なにやらおかしなポーズを取り始めた。

 

「俺は、アルティメギル四頂軍の美の四心(ビー・ティフル・ハート)隊員、モスギルディだあ!!」

 

 だあ……だぁ……だ……。

 大きく声を上げたせいで山にこだまする。

 本人的には最後に最高の決めポーズを披露したのだろうか、名乗った後もそのポーズを継続したままになっている。

 モスギルディ……蝶ならバタフライか、もしくはパピヨンのはずだから……モスは……確か、蛾だった気がする。 確かに、羽根も地味な茶色で蝶らしくないな。

 ファストフードっぽい名前よりも、気になったのが名乗る前に言ったアルティメギル四頂軍と、美の四心という言葉だ。

 私はアルティメギル四頂軍という言葉によく聞き覚えがある。

 

「アルティメギル四頂軍てことは……神の一剣と同じような部隊ってこと?」

「なぜ貴様がその名前を!? その部隊は自ら出撃されるような部隊ではないはず……ナニモンだ貴様は!!」

 

 しっかりとした答えは受け取れなかったが、モスギルディのリアクションを見るに神の一剣と美の四心は同じような部隊で間違いないのだろう。 しかも、目の前のモスギルディの所属している美の四心と呼ばれる部隊よりも格上のようだ。

 

「……しょうがない。そこまで知っている貴様を、貴様の''アレ''を、見逃すわけにはいかねえな!! 出てこい!!」

 

 モケモケか?

 撃退体制に入るも、モスギルディは羽根を羽ばたかせあたりに鱗粉らしき粉を撒き散らし始める。

 もう一度羽を羽ばたかせるとあたりに漂っていた鱗粉が凝縮され、ノートサイズの銅板へと固まっていった。

 

「行けえ!!」

 

 完成された何枚もの銅板が、モスギルディの合図とともに私に殺到する。

 

「こんなもの!」 

 

 両手に装備しているアバランチクローで迫り来る銅板をどんどん撃墜していく。

 銅板の耐久力はあまりないようでクローで一発叩くだけで粉々にすることができ、すぐに私に向かってきた銅板全ての撃墜に成功した。

「やるじゃねえか。でもよ、撃墜すんのは酷いぜ、俺の趣味なんだからよお!!」

 

 モスギルディが一際強く羽根を羽ばたかせると奴の後ろに先ほどと同じような銅板が何十枚も出現した。よく見ると、その銅板一つ一つに何かが刻印されている。

 それが何か気づいた時、私は思わず体をびくんと震わせた。

 

「き、きっも!」

「人のコレクションを見た最初の感想がキモいとは、なんとも失礼なやつだ。だがな、なんと言われようと貴様の唇の型をとりコレクションにさせてもらう、さすれば今は亡きあいつへの手向けにもなる」

 

 色々と気になる発言はあったが、目の前の状況のせいであまり頭の中へは入ってこない。

 銅板にはコレクションと称して、魚拓のようにキスマークが刻印されている。

 

「うわぁ……」

 

 本気でエレメリアンの属性力にドン引きしてしまった。

 無数の唇が空中に浮いている……ホラーだ……。なにより、キモい。

 

「さあ、テイルホワイトよ! 未知のお前の唇、頂こうか!!」

「誤解される言い方しないでくれる? ファーストキスもまだなのに、そんな変な銅板にキスなんか嫌に決まってんでしょ!」

「安心しろ! 近くに寄るだけで型はとれる!!キスする必要はねえ!!」

 

 もはやこれ以上の問答は無用だ。

 右のアバランチクローを肩へとスライドさせテイルブレスをモスギルディに向かって構える。

 モスギルディを守るように今度はしっかりとモケモケがモケモケと現れ、守るように周りに立つ。

 こんな奴のために忠義を尽くすのこのモケモケたち、実は立派なんじゃないか……?

 

「オーラピラー!」

 

 テイルブレスから発射されたオーラピラーはモケモケを吹き飛ばし、いとも簡単にモスギルディの拘束を成功させる。

 

「ブレイクレリーズ!」

 

 腰の装甲から蒸気が噴出され、素早くモスギルディの眼前に接近、そして相手よりも遥かに高く飛び上がる。

 二つのアバランチクローを一つに合体させブレイクレリーズし、必殺技を放った。

 

「アイシクルドライブ!!」

 

 目の前のモスギルディとあまりにもキモくホラーなコレクションを一緒に貫いた。

 

「す、すまないパピヨンギルディよ……全ての唇をコンプリート、できなかった……」

 

 とても果たせそうのない夢を語りながら、モスギルディは私の必殺技によって跡形もなく消し飛んだ。

 初めて見る昆虫のエレメリアンに結構警戒していたのだが、意外とあっさり決着はついてしまった。

 そうそう、モスギルディが現れたため妨害されてしまったが私はあのデカいエレメリアンを倒そうとしていたのだ。

 目を向けるとまだあのエレメリアンは大きな体を震わし、近くにいるであろうツインテイルズと闘っている。

 アバランチクローを両肩にスライドし今度こそツインテイルズに加勢しようと私はまた走り出した。

 しかし━━━━━━

 

『またれよ、テイルホワイト……!』

「またぁ!?」

 

 目の前にゲートが現れ、その中から声が聞こえた。

 スルーしようとしたが小さな敵でも変な連携でも取られると厄介だし、デカいエレメリアンに集中できないだろう。

 今ここで、倒すのがいい。

 なかなか出てこない敵をゲートから出てくるのを待つ。

 イライラしているとようやく私を呼び止めたエレメリアンが出てきた。

 

「まさか……!?」

 

 ゲートから出てきたのは白と黒が入り混じったエレメリアンには珍しいモノクロなエレメリアン、ゼブラギルディだった。

 

「まさかテイルホワイトがこの世界に来ているとは……ヘラクレスギルディ様の邪魔はさせんぞ!」

 

 ヘラクレスと言ったら……ヘラクレスオオカブト、女の私でもそれくらいは知っている。

 ヘラクレスギルディ様というのは姿形から考えておそらくあのデカいエレメリアンのことだろう。

 そんで、さっきのモスギルディの言動から察するに、ヘラクレスギルディが美の四心の隊長、ということかもしれない。 

 

「好きで来たんじゃないし。ていうかはやく帰りたいくらいなんですけど」

 

 ゼブラギルディとは一回闘ったことがあった。 その時はオルカギルディが邪魔してきて仕留めそこなったが、邪魔が入らなければ今度こそ奴を仕留めることができる。

 

「俺らもいるぞ!」

「クラーケギルディ部隊は一連托生!ゼブラギルディだけではない!!」

 

 私の周りに次々とゲートが作り出され、中から一体ずつエレメリアンが出現する。

 ま、私の思い通りばかりに行くわけもないか。

 クラーケギルディは倒されたと聞いたが、それでもこの部隊は存在し、一連托生とまで言った。

 まったく……変に人間的で、騎士道や武士道を重んじる姿勢は人から属性力を奪う怪物にはとても思えない。

 ゼブラギルディ含め計五体のエレメリアンが私の周りを取り囲んでいる。

 

「お前ら……。 よし!我ら全力でテイルホワイトの属性力を頂くのだ!!」

 

 ゼブラギルディに反応し、周りのエレメリアンは力強く返事する。

 私を倒すのに、それだけ尽くすのなら……私はそれ相応に応えなければいけない。

 

「そこまで闘志を燃やしているのなら、私も全力を尽くすのが礼儀、だね!!」

 

 アバランチクローを両肩から再び両手にスライドし、装備し構える。

 モケモケや幻を大量に相手した事はあるが、エレメリアン自体を何体も相手にした事は私にはない。

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

「はあ!!」

 

 一体のエレメリアンが雄叫びをあげ突進してくると、私はそれを避けそのエレメリアンを蹴飛ばす。 蹴飛ばされたエレメリアンはそのまま他のエレメリアンへと突っ込んでいった。

 もちろん、これくらいで倒せるわけもなく二体ともにすぐに立ち上がりジリジリと私に詰め寄ってくる。

 

「さあ決着をつけるぞ!! 我らクラーケギルディ部隊の力、とくと味わえ!!」

 

 ゼブラギルディの掛け声で周りのエレメリアンが一斉に私に向かい攻撃を開始した




皆さんどうも、阿部いりまさです。
今やっている話は原作七巻の内容を奏視点から送っているものです。
もちろん二次創作なので「裏ではこんなことがあったんだろうなあ」という感じで書いております。
異世界で再開したゼブラギルディとの対決はどのような展開を迎えるのか。
そしてテイルレッドとの共演は!?
次の回も戦闘が多くなりそうですがご了承ください。
次回は2月29日に投稿されます。
それでは。


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FILE.37 異世界な闘い(vsクラーケギルディ部隊)

ヘラクレスギルディ
身長:15m
体重:推定3900t
属性力:恋愛(ラブ)

美の四心隊長のビートルギルディとスタッグギルディが合体した姿。
大地を砕く四つの豪腕といかなる物体をも挟み切る巨大な角が最大の武器。
またこの巨体と体重でありながら飛翔能力も非常に優秀。
富士の樹海にてツインテイルズと戦闘、後から駆けつけた奏に恐怖を与える。


 テイルホワイトが異世界での闘いに巻き込まれている中、奏の世界に侵攻してきている元シャークギルディ部隊は何も知らず特訓に励んでいる。

 不安を述べる者もいるものの、皆が現隊長のオルトロスギルディの命令を守り、属性力奪取へと向かうものは誰一人としていなかった。

 そんな平和な部隊を一変させる報が届く。

 

「サンフィシュギルディ様!! これを!!」

「なんでしょうか。……こ、これは!?」

 

 慌てて大ホールに走り込んできたエレメリアンは手紙のような紙と一緒に一枚の写真を手渡す。

 まずその写真は見て、サンフィシュギルディは大きな声を上げる。

 イラスト特訓の静かな間に大きな声を上げたサンフィシュギルディに大ホールにいる者全てが注目する。

 サンフィシュギルディは次に素早く手紙を黙読するとすぐに席を立ち、報を伝えに来たエレメリアンを連れ大ホールから走り去っていった。

 サンフィシュギルディの行動に疑問を持った隊員達が隣の席の隊員と目を合わせ、やがて大ホールはざわざわと騒がしくなっていく。

 

「これでは特訓に支障が出る、俺が何事か聞いてこよう」

 

 ウォルラスギルディが痺れを切らし席から立ち上がると、大ホールから出て行った。

 

 

「オルトロスギルディ様、これを」

 

 大ホールから走り去ってサンフィシュギルディが向かったのはオルトロスギルディの部屋だ。

 部屋へと入り、サンフィシュギルディは早速先ほど自分が見た写真をオルトロスギルディに手渡す。

 

「む、ただのテイルホワイトだが……!!」

 

 テイルホワイトが大きく中央に写されているため、一瞬では気づきにくいがオルトロスギルディはある事に気付き大きく目を見開いた。

 

「テイルホワイトで見えにくいが、奴の後ろに三本の腕が小さく見える。 これは……美の四心が侵攻している世界か!」

「はい、美の四心の結束力は凄まじく決して部隊を離れるものはおりません」

「つまり、テイルホワイトは今別の世界にいるという事か……それもツインテイルズの世界に」

 

 次にオルトロスギルディは手紙を受け取り、同じように黙読する。

 手紙の差出人はゼブラギルディからで、テイルホワイトを見つけたので残ったクラーケギルディ部隊全員でテイルホワイトを優先させていただきたい、要約するとそう書かれている。

 

「しかし、なぜテイルホワイトが……!」

 

 オルトロスギルディは一瞬考え込む仕草をしたがすぐに誰のせいかわかったようだ。

 

(貴様か、テイルホワイトを別の世界へ飛ばしたのは……!)

 

 心の中でオルトロスギルディは問いかけるとすぐに返事が返ってくる。

 

『へえ、ツインテイルズの世界に行ったのね。いい勉強になりそうでなによりね』

(勉強だと?)

『ええ、彼女のツインテール属性はまだ輝く。 そのために見本として別世界のツインテール戦士に合わせたかったのよ、ツインテイルズの世界に行くとは思わなかったけどね。 嬉しい誤算だわ、ふふっ』

 

 速水黒羽は淡々と自らがした事を隠す事なくオルトロスギルディに教えた。

 

「オルトロスギルディ様、テイルホワイトがこの世界にいないのなら、今こそ属性力奪取のチャンスでございます」

 

 サンフィシュギルディの言う通り、世界を守るツインテール戦士がいない今なら容易くこの世界ツインテール属性や、他の属性力も奪う事もできる。

 オルトロスギルディはもちろんサンフィシュギルディに賛成する、しかし彼の中にいる速水黒羽はそれを良しとしなかった。 

 

『ダメよ、やめてちょうだい』

 

 サンフィシュギルディと自分の考えを一蹴され、オルトロスギルディは仕方無しにサンフィシュギルディの提案を拒否する。

 

「今は侵攻中止、隊長命令だ……」

「…………隊長の命令とあってはそれに従います。 しかしなぜ侵攻しないのですか、理由もなく侵攻中止するのは部隊の士気が落ち、反発するものも現れるかとおもいます」

「すまない……言えんのだ」

「……わかりました」

 

 サンフィシュギルディはソファから立ち上がり、オルトロスギルディの部屋から出て行った。

 戦闘力が半分以上、速水黒羽に流れてしまっているオルトロスギルディには彼女に逆らう事など出来なかった。

 

 話を偶然聞いてしまったウォルラスギルディはすぐさま大ホールに戻り、現在テイルホワイトがこの世界にいない事を隊の者に知らせた。

 

「隊長は好機をみすみす逃すつもりなのか!?」

 

 侵攻には絶好の好機に侵攻中止令を全く撤回する気配のないオルトロスギルディに、反発するものが現れ始める。

 もちろん、中には隊長の肩を持つものいる。

 

「しかし、戦士のいない間に侵攻するなど卑劣極まりない行為だ!」

「この部隊はテイルホワイトによって隊員が既に六十名以上倒され大損害だ! そんな事を気にしてる暇などない!」

 

 何処からか聞こえてくる侵攻中止を守ろうとする声に何処からか聞こえてくる今すぐにでも侵攻しようとする者の声が入り混じり、大ホールはイラスト特訓どころではなくなってきた。

 

「な、何の騒ぎです!?」

 

 大ホールに戻ってきたサンフィシュギルディは異常に気付き、ウォルラスギルディに問いかけた。

 

「す、すみません……俺がテイルホワイトの件を皆に伝えたらこうなってしまい」

「いや、いいのです。 隊長が侵攻中止の理由を明かさない以上、こうなるのは止むを得ません、隊長もこの部隊を見れば考えを変えてくれるかもしれませんね」

 

 首を振りサンフィシュギルディはまた大ホールから今度は歩いて去っていった。

 

「これ以上部隊を……シャークギルディ様の部隊をバラバラにはでん…………!!」

 

 拳を強く握り、歯をくいしばるウォルラスギルディ。

 ある一体のエレメリアンがウォルラスギルディに近づき、声をかけた。

 

「ウォルラスギルディよ、お前の考えはよくわかるぞ」

「シェルギルディ……」

 

 貝殻を全身に鎧のようにしてきているシェルギルディだ。

 

「俺も渾身のイラストをいとも簡単に削除されてしまった。……オルトロスギルディ様には色々と思うところがあるのだ」

「お前、何を考えているのだ。 まさか命令を無視して出撃する気ではないだろうな」

 

 シェルギルディは答えずうつむき、大ホールの出口を目指して歩を進め始めた。

 ウォルラスギルディはシェルギルディが何をしようとしているのかわかる。 が、止めには入らずただ遠ざかっていく寂しい背中を見つめていた。

 

 

 あたりの木や土砂を巻き上げながら、私VS五体のエレメリアンの闘いは続いている。

 さすがエレメリアンとの乱戦はモケモケの時やラクーンドギルディの時とは全然違う。

 計画もなくただ突進してくるだけのモケモケやあの幻だが、五体のエレメリアンは私の動きを読み、恐るべき連携で攻撃を仕掛けてくる。

 なにより、一番厄介なのがゼブラギルディ。 以前に海で闘った時よりも格段に強くなっている。

 

「「はあああああああ!!」」

 

 左右からエレメリアンが同時に襲いかかってくる。

 アバランチクローで間一髪防ぐが、防いでいる間に三体目のエレメリアンが私の前に高速で移動してきた。

 

「オラァ!!」

「ぐっ……!!」

 

 左右のクローが塞がっていて防御ができない無防備な私に、重い蹴りを食らわせてきた。

 蹴られた勢いそのままにかかとで地面を削りながら後退する。だが、休む間もなく一体、また一体とどんどんエレメリアンが攻撃を仕掛けてくる。

 そしてまた、左右からエレメリアンが攻撃を仕掛けてくる。

 これもクローで間一髪防ぐも先ほどと同様無防備な私の前に今度はゼブラギルディが高速で移動する。

 

「同じ手にかかるわけないで、しょ!!」

 

 ゼブラギルディよりも早くに私が両足でドロップキックを繰り出し、お腹あたりに命中すると富士の樹海の木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされていった。

 瞬間、私は上半身を下げ左右のエレメリアンが前へバランスが崩れさせる。 その隙を突き、左右のクローで同時にエレメリアンを地面へと叩きつけた。

 四体目のエレメリアンが向かってくると今度は右のクローを素早く腕から外し、向かってくるエレメリアン目掛けて投擲、見事命中した。

 

「一体目!!」

 

 投擲したクローが命中したエレメリアンはすぐに体が放電しはじめると、間もなくその場で爆発する。

 

「調子に乗るな━━━━━━ッ!!」

 

 地面へと叩きつけた一体のエレメリアンが起き上がり、大剣を目の前で振り下ろしてくる。

 左手に残っているクローでそれを防ぐ。防いでいる間、余っている右手をクローの下へと忍ばせた。

 

「なに!?」

 

 忍ばせていた手につけていたテイルブレスから目の前のエレメリアンに向かってオーラピラーを照射、拘束することに成功すると左手のクローで一閃、直後に爆発する。

 これで二体倒した、あと三体!

 森の中へと消えた一番厄介なゼブラギルディはまだ戻ってきていない、今この瞬間がチャンスだ。

 残った二体のエレメリアンがそれぞれ攻撃を仕掛けてくる。

 私に向かい突進してきたエレメリアンは近接格闘に秀でているのかボクサーのような動きでストレートやフック、アッパーなどを次々と繰り出してくる。

 ボクサーエレメリアンから少しでも距離をとると後方にいる援護に秀でたエレメリアンがロビンフッドのように正確に次々と私目掛けて弓で攻撃してきた。

 どちらの攻撃も避けながら闘っていると私の視界で援護に秀でたエレメリアンがボクサーエレメリアンと完全に被り見えなくなる。

 

(ここだ!)

 

 咄嗟に私はある考えを脳内でシミュレーションし、その通りになるようすぐに行動に移した。

 

「オーラピラー!!」

 

 ボクサーエレメリアンの拘束に成功するとすぐさま残った左のクローを投擲、拘束されたエレメリアンに留まらずすぐ後ろにいた援護エレメリアンをもクローは貫通し、両者とも爆発した。

 私と二体のエレメリアン、三人が完全に一直線になったからこそできたことだ。

 四体倒したところで私は地面に膝をつき、荒れる息を整える。

 

「はあ、はあ、はあ…………」

 

 さすがに体力が限界を迎えている。

 ゼブラギルディがここに戻ってくるまで、僅かな時間だろうが今は休みたかった。

 

「ぬううおおおおおお!!」

 

 一際大きい、苦悶の声が遠くから聞こえた。

 声の方向を見るとヘラクレスギルディが角で地面を抉っているのだろうか、たくさんの土砂が宙を舞っている。しかし、ヘラクレスギルディの様子がおかしい。

 先ほどまで輝いていた黄金の身体にはヒビが入っており、中から赤胴色の熱気が漏れ出始めていた。

 

「ヘラクレスギルディ様は急激な進化をするために自らを犠牲にしようとしているのだ……!!」

 

 先ほど私が蹴飛ばしたせいでできた森のトンネルの中からゼブラギルディが私の前へと戻ってきた。

 先ほどの蹴りが相当効いたのか、ゼブラギルディは多少足がおぼつかない。

 

「俺の隊長のクラーケギルディ様もそうだ、部下を守るために自分を犠牲にした。 隊長の役割はそんなことではないというのに……!!」

 

 ゼブラギルディはグッと拳を握り、悔しさか、悲しさか、あるいは虚しさを前面に出してくる。

 人間でも、ここまで上司と部下が心を通わせているところは見たことがない。 こういう部分、エレメリアンには感心させられる。

 ようやく少し体力が回復し、私は立ち上がりゼブラギルディと対峙した。

 私自身の体力が戻っても、どうやらテイルギアは限界が近づいているようだ。

 常に全力で休まず闘い続けたためか、肩や、腰、脚にいたるまでのほとんどの装甲にヒビが入り放電し始めているところもある。

 お互い既にボロボロだ、この闘いはもう間もなく終わるだろう。

 

「クラーケギルディ部隊最後の隊員、ゼブラギルディはテイルホワイトを倒す!!」

「望むところ……!!」 

 

 二つとも投擲し、樹海の中に消えてしまったアバランチクローはもう使えない。

 今は自分のこの拳が、足が、身体全てが私の武器。

 ゼブラギルディも私と同じだ。

 私はこういうのは嫌いだし、やったこともないけど、一対一の、タイマンだ!




皆さんどうも、阿部いりまさです。
異世界編も終わりへと近づき、壮絶なバトルが繰り広げられています。
果たして奏はどうなるのか、シェルギルディは何をするのか、ご期待ください。
感想をお寄せいただきとても嬉しいです!
それでは。


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FILE.38 異世界な闘い(決着)

 どちらも素手で、正真正銘、一対一の真剣勝負''タイマン''が始まった。

 私が大股歩きで近づくとゼブラギルディも同じようにして歩み寄り……拳と拳の乱打戦が始まる。

 

「はあああああああああ!!」

「うおおおおおおおおお!!」

 

 私は小さい頃から今までに、殴り合いの喧嘩なんてしたことがない。 誰かを殴ったのはテイルギアを纏い、アルティメギルと闘い始めてからだ。……反射的に嵐は殴ってしまったが。

 フォトンアブソーバーにより、大部分のダメージは減らしてくれる。 しかし、今のテイルギアはあちこちから放電が始まりフォトンアブソーバーも弱まっているのか、ゼブラギルディの攻撃が結構身体にくる。

 でも……一人っ子で、全く喧嘩をしたこともない私は今始めて経験するこの状況をなんか……楽しんでいる!

 

「どうしたテイルホワイト! お前はそれほどの力だったかあ!!」

 

 残念だが、手数の多さではゼブラギルディに分がある。

 ゼブラギルディは元々武器を持たずに闘う戦法をとっている。 がむしゃらに殴りつけてくるように見えてもその先を見越しているのだろう。

 対して、私はテイルギアを装備してからはアバランチクローなどの武器に頼りきって闘ってきた。 そこで生まれた僅かな差が、大きく私にのしかかる。

 爆撃なような連打を浴び、私は大きく後ろへ吹き飛ばされた。

 

「痛った……」

 

 身体中が痺れる。

 殴り合いの中で何発身体にゼブラギルディの拳が入ったかはわからないが、相当痛めつけられている。

 それに、テイルギアもそろそろ限界だ。 この短時間に全力を出し尽くして闘ってきたせいか。

 一旦変身を解き、再び装着すれば多少は勝手に修復してくれるが今はとてもそんなことしている暇なんてない。

 

「無理だ死ぬ━━━━━━━━━━━━っ!!」

 

 突如私の後ろから少女の叫び声が聞こえてくる。

 まさか、属性力だけでなく人の命まで狙うエレメリアンがいるとでも言うの!?

 できればいち早く向かいたいところだが……。

 

「大袈裟なリアクションをする娘もいるものだな」

 

ゼブラギルディは傷ができた胸部を腕で抑えながら、達観しているようだ。

 

「あんた達、人の命はとらないって断言できるの?」

「できる! 俺らが狙うのは属性力のみだ!!」

 

 調子が狂うな……。

 どっちにしても、近くにいる少女がピンチなのは変わりないだろう。

 エレメリアンに襲われている少女を救うため、テイルレッドに会いに行くため、負けるわけにはいかない。

 フラフラとしながらも何とか私は立ち上がった。

 

「お前は、ツインテールが嫌いと言ったな。……ならお前のツインテールは、お前にとって、ただの髪型でしかないと言うのか!?」

 

 以前の私なら、当たり前だと即答していただろう。

 いや、今でもそう思うよ。ツインテールなんて所詮ただの髪型であることにかわりはないんだから。

 

「もちろん、ただの髪型に決まってるじゃん……」

 

 でも、私にとってはただの髪型でもね、私の世界で、私を応援してくれている人達にとって……私のこの……ツインテールは……。

 

「でも、みんなにとっては希望……」

 

 堂々と宣言する。

 

「私のツインテールは━━━━━━━━━希望!!」

 

 瞬間、テイルブレスから眩いばかりの光がはしり私を取り囲む。

 光の繭から解放されると私のテイルギアは完全ではないが修復され、放電が止まっていた。

 

「お前のツインテール属性、何故か俺には見えん。それは他の仲間も同じだろう。しかし! 今の一瞬、太陽のように眩いツインテール属性を確かに見た!!」

 

 太陽、か。

 地球だけでなく、近くの星を熱いくらい照らし続ける太陽に私はなれるのだろうか。

 でも、私は━━━━━

 

「そんな大層なツインテール、絶対ごめん」

「ほう……!!」

「私はね、ツインテールが大っ嫌いなんだから!!」

 

 これが私の答えだ。

 太陽になったしまったら、ずっと照らし続けなければならない。 そうなると、ツインテールを解くことが出来なくなってしまうじゃないか。

 

「面白い……今始めてクラーケギルディ様がお前の世界へ俺を送った理由がわかった気がする……」

 

 修復されたと言っても、結局は少しだけ壊れるまでの時間が延びただけだろう。

 どのみちはやく決めなければいけないことに変わりはなかった。

 次の一撃できめる。

 直後、咆哮とともにゼブラギルディが突進してきた。

 

「属性力を頂くぞ!テイルホワイトオオオオオオオオオ!!!!」

 

 繰り出された右ストレートを低い姿勢で交わすと一瞬の隙をつき、真下から砲弾のようにゼブラギルディにアッパーを食らわした。

 怯んでいる中、回し蹴りによる追い打ちをかけ、ゼブラギルディを吹き飛ばす。

 フレーヌはテイルギアは私の意思で御せない道理はないと言った。

 

「ブレイク……」

 

 なら、アバランチクローがなくとも私の期待に応えてることができるはずだ!

 

「レリ━━━━━━ズ!!」

「うおおおおおおおおおお!!」

 

 地面に着地し、すぐにまた私に向かい突進してくるゼブラギルディ。

 

「アイシクルゥゥゥゥゥ!ドラァァァァイブ!!」

 

 眼前までゼブラギルディが接近してきたところで、私は右手で渾身の一撃を奴の左の頬の部分へ叩き込んむ。

 ゼブラギルディが吹き飛び、地面に叩きつけられた衝撃で小さなクレーターが出来上がり、その周りには地割れが起こる。

 その瞬間、ダメージを受け続け、最後に限界を超えた衝撃を与えたことで右手についているテイルブレス以外の装甲が砕けてしまった。

 異世界で再開し、死力を尽くした闘いはここに決着した。

 

「はは……最後は……必殺技でも何でもない……ただのパンチとは……」

 

 身体から放電が始まり、まさに今爆発しようかという時にゼブラギルディは満足そうに笑う。

 結局必殺技名は叫んだが、通常通りにアイシクルドライブをすることは出来ずただのパンチになってしまっていた。だけど、それでも並の威力ではなかったのは自分でもわかる。

 

「ツインテールは希望、か……まるで……テイルレッドのようなことを……言う……」

「テイルレッドが?」

「ああ、テイルレッドはツインテールを守る……ついでに世界を守ると宣言しているほどの強者よ……」

 

 なんだそれは…………。

 そういえば、ツインテール好きじゃないと戦士になれないんだっけか。

 テイルレッドはその中でも別格、ツインテール馬鹿とでも言うべきかもしれない。

 或いは小さい娘だからこそ、ツインテールにすること自体なんのためらいもないのかもしれない。

 少しだけ……羨ましい気がする。

 

「どうやら……あちらの闘いも……終わりそうだ……」

 

 震える腕を上げ、私の後ろを指差すゼブラギルディ。

 視線を向けると先程よりもさらに赤く光っているヘラクレスギルディが突如上空へ押し上げられていく。

 テイルイエローが必殺技を繰り出したようだ。イエローとヘラクレスギルディは銀河を一直線にて突き抜けるような、一筋の流星となると富士山を超え宇宙へと昇っていった。

 

「帰ってこれるのかな……」

 

 心配になり思わず口にしたが、よく見ると地面からリードのようなものが宇宙に続いているのが微かに見える。

 あの紐を使って戻ってくるのだろうか。

 それよりも、気のせいかイエローの露出が増えていたような……。

 

「クラーケギルディ部隊はこれで完全に消滅するわけか……」

「……」

 

 クレーターの中心で大の字になり空を見上げ、悲しそうな声を絞り出す。

 

「今行きますぞ……クラーケギルディ隊長……」

 

 最後に満足そうな顔を浮かべるとゼブラギルディは爆発し、私のもとへ導かれるように襟巻き属性(マフラー)の属性玉がふわふわと飛んできた。

 

「女の子は……」

 

 女の子を助けようと思ったが樹海はシーンと鎮まり返り、全てが終わったことを示していた。

 テイルレッド達が助けてくれたのだろうか。

 テイルレッドと女の子を探すべく、私は衝撃でできたクレーターを登っていく。

 

「え」

 

 なんとクレーターを登りきるとすぐ近くに、私が吸い込まれた極彩色のゲートが生成されている。

 確かここは……ゼブラギルディやとその他エレメリアン達がゲートを使い現れた場所だったはず。……もしかしたら爆発とかのせいで勝手に開いてしまったのかもしれない。

 ……フレーヌならこの現象を詳しく説明できるんだろうけど私じゃ全くわからないな。

 とりあえず、このゲートに入るか否か。

 運が良ければ私の世界に帰れるかもしれないし、運が悪ければまた別の世界へ行ってしまうかもしれない。

 でも、このゲートを捨ててテイルレッドに頼ったとしても私の世界へ帰れるのだろうか。

 

「なんとなくだけど……」

 

 本当になんとなく、このゲートに入れば私の世界へ帰れるような気がする。

 右手のテイルギアも、なんだか帰れるよう手助けしてくれるような、そんな気がしてくるのだ。

 

「よし」

 

 覚悟を決め、私はゲートの前に立つと振り返り、戦場となった富士山を眺める。

 この世界では世界遺産に登録されたとかテレビで見たけど、だいぶ荒らしてしまった、申し訳ない。

 テイルレッド……こんな形じゃなく今度はフレーヌに連れてきてもらっていっぱいお話ししたいな。

 遠目でしかみてはいないが、彼女のツインテールはとても輝いていたと思う。

 彼女だけじゃない、露出狂扱いのイエローも、マッチョ使い扱いのブラックもそして、蛮族扱いのブルーも全員がツインテールを愛している。 それはもうツインテールが嫌いな私にビンビン伝わってくるくらいにね。

 そしてみんな、本当は優しい人たちなのだろう。

 ……もしかしたら、速水黒羽が言っていた課題ってこういうことだったんだろうか。

 

「テイルレッド、いつか会おうね!!」

 

 ツインテールが大好きなテイルレッドと大嫌いな私、話が合うかはどうかわからないけどね。

 富士山に向け思いっきり叫ぶと私は変身を解き、極彩色のゲートへと飛び込んだ。

 私の世界へ帰るために。

 

 

 奏の探し方を変え、各世界の属性力を辿っていくも、状況は変わらなかった。

 奏がゲートに吸い込まれてからもう少しで二十四時間が経とうとしていた。

 

「……属性力が全く検知できない」

 

 悔しそうに表情を歪めるフレーヌ。

 探し方はわかった。わかったのだが、そこまでだった。

 

「フレーヌ……」

「……」

 

 フレーヌの後ろで志乃は心配そうに呼びかけ、孝喜はフレーヌの心情を察してのことか何も言おうとはしなかった。

 嫌な空気が流れたまま、時は過ぎてゆく。

機械音しか聞こえない基地に突如、荒々しくアラームが鳴り響いた。 

 

「エレメリアン……!?」

 

 フレーヌがモニターの映像を切り替え、出現したエレメリアンを表示した。

 エレメリアンがいるのは、奏が初めてテイルホワイトに変身した場所、ビクトリースクエアだ。

 

「速水黒羽は奏がいない間は属性力狙わないって……」

「ええ、言っていました。 私もあまり信じてはいませんでしたが、以外と早く攻めてきましたね」

 

 フレーヌはモニターから立ち上がると机の引き出しを開け、何やら探し始める。

 

「何してるの?」

「私が直接エレメリアンに速水黒羽を呼び出すよう説得し、速水黒羽が現れたら奏さんをこの世界に戻してもらうんです。 今はこれしかありません」

 

 時間に干渉できるほど強力な属性力に絞り奏を探しても見つからない。

 ならば、最後の手段として奏を別世界へ送った張本人に戻してもらうこと、この方法でしか奏をこの世界へと戻すことは不可能だとフレーヌは判断した。

 

「私たちも行くよ」

 

 志乃はフレーヌの横に立ち、真剣な表情だ。

 

「危険です」

 

 目を合わせることなくフレーヌは引き出しを漁ったまま返事をする。

 誰にでも''ついて来るな''の意を込めてフレーヌがそう言っていることはわかった。

 

「だから俺らも行くんだよ、自分より年下の奴を一人で危険なところになんか行かせられるか」

 

 いつのまにか部屋に入ってきていた孝喜も志乃と同じようにフレーヌの隣に立ち、優しい言葉をかける。

 

「私たちだって奏に早く戻ってきてほしいからさ、一緒に行こうよ」

 

 小型の銃のようなものを取り出すと引き出しを閉じ、椅子から降りると今度はロッカーを開ける。

 中にあった白衣を着るとフレーヌは二人の元へと近寄り深く頭を下げた。

 

「お願いします……」

 

 志乃と孝喜は互いに顔を見合わせフッと笑うと空間跳躍カタパルトへと向かった。

 

「おーし、伊志嶺を取り返すぞ」

 

 意気揚々と孝喜がカタパルトへと入ろうとしたが、フレーヌに腕を掴まれ、止められた。

 

「私たちがテイルホワイトの関係者だとバレるのは危険です。 一応これをしてってください」

 

 そう言ってフレーヌは顔を隠すためのものを二人の前へと出す。

 

「……これを?」

 

 少しだけ苦笑いを浮かべながら志乃と孝喜は渋々受け取り、顔につけカタパルトへと入る。

 

「では、向かいます!」

 

 フレーヌがカタパルトの中からリモコンで操作し、三人はビクトリースクエアへと転送された。




皆さんどうも、阿部いりまさです。
まずは、期待していただいていた方達にごめんなさい。
今回はテイルホワイトとテイルレッドの共演はなりませんでした。
しかし、まだ物語は終わったわけではありません。
必ずいつか、きっといつかテイルホワイトがツインテイルズと相見える日も来るかもしれません。
感想、質問等どんどんお寄せください!
それでは。


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FILE.39 帰還

一年振りの更新………。
マイペースどころじゃないですね……。


 休日とイベントが重なったこともあり、ビクトリースクエアはかなり混雑している。 しかし、エレメリアンが出現したにも関わらず人々は避難もせず普段通りにイベントを楽しんでいた。

 

「おかしいですね……。 エレメリアンが出現したはずなんですが……」

 

 カタパルトで人目のつかないところへと転送され会場まで来ていた三人はキョロキョロと周りを見渡す。

 

「あそこは?」

 

 何か見つけたのか志乃が声を上げ指を差す。

 二人がその方向を見てみると周りよりさらに人が集中している場所がある、その中心にいるのは……エレメリアンのようだが。

 エレメリアンがいるにも関わらず、周りの人々は高価そうなカメラやらスマホやらを持ちその場所へどんどん集まっていく。

 三人も続き、エレメリアンのいる場所に向かうとフレーヌが何かに気づいたように話しだした。

 

「あのエレメリアン、カメラを持っています!」

 

 確かに大きな鎧を前につけたエレメリアンは周りの人と同じようにカメラを持ち、目の前にいる女性を撮っているようだ。

 

「エレメリアンに人が集まっていたんじゃなくて、人混みの中にエレメリアンが自分から入っていたのね……」

 

 エレメリアンの目の前にいる女性は今巷で話題のアニメに出てくるキャラクターのコスプレをしている。

 全体的にピンク色で胸と下半身が隠しているだけのほぼ意味のなさそうな防具、ビキニアーマーを着ていた。

 周りにいる人達は皆色々な角度からコスプレイヤーを撮影し、女性は時々リクエストに答え色々なポーズを決めていた。

 

「うおおおおおお!!!こっちを向いて第三章の最後にやる''きゃるるん♪ポーズ''をしてくれい!!」

 

 例えリクエストしたのがエレメリアンだろうと女性は臆することなくポーズを決めフラッシュを浴びている。

 恐るべし、コスプレイヤーの意地。

 

「いい加減にしなさいエレメリアン!! そこのあなた達も!」

 

 フレーヌがコスプレイヤーに集まる人混みに飛び込み大声を上げるとエレメリアンの近くにいた人々は一斉に散らばり出し、あたりにはエレメリアンと三人だけが残った。

 

「ぬう、邪魔しやがって……。 まあいい、我が名はシェルギル……何!?」

 

 しょんぼりした後、シェルギルディは顔を上げアルティメギルお決まりの自己紹介するも、フレーヌ達を見て驚くと大仰に飛び上がり腰を抜かしてしまった。

 

「貴様ら、そそそ、それはテイルホワイトのお面か!?」

 

 あまりの恐怖のためか、シェルギルディの声も震えている。

 

「ええ、顔を見られるわけにはいけませんので」

「ぬう……びっくりしたぞ!出来の悪いテイルホワイトの顔が三つもあるのだからな!!」

 

 シェルギルディは手首あたりにある二つの貝をカスタネットのようにカチカチとならし大声を上げた後、腕を組むと左右と後ろにそれぞれ大きな黒い渦を作り出し、中からアルティロイドを出現させた。

 

「テイルホワイトがこの世界にいない事は知っている!さあアルティロイド達よ、属性力を頂くのだあ!!」

「モケ━━━━」

 

 シェルギルディの指示を受け、十数体のアルティロイド達はシャボン玉のような物を発射する銃を乱射し、ビクトリースクエアにいる人達を次々と捕まえ、シェルギルディの近くまでフワフワと連れていく。

 

「所詮ツインテールの戦士でないお前達には何もできんぞ!! ぬわっはははははははは!!!」

 

 ツインテールの少女達が次々と大きなリングに通していく様をただ見ている事しかできない状況に三人は歯を噛みしめる。

 

「やはり、速水黒羽がやったことはアルティメギルの作戦だったんですね!?」

 フレーヌは腕組みをして高笑いするシェルギルディに声を張り上げた。

 

「む……。もしかして我々の中の誰かがテイルホワイトを別の世界へと送り込んだのか……?」

 

 全く覚えがない。

 シェルギルディは暗にそう答え、顎に手を当てて考えているようだ。

 

「とぼけやがって! 早く速水黒羽とか言う奴を連れてこいよ!!」

「や、やめろ、その顔で怒鳴るな!! 気味が悪い!!」

 

 品質が悪い故か、一つ一つの顔が微妙に表情が違うのも恐怖心を掻き立てる。

 フレーヌが強く拳を握り締めた時━━━━彼女の持っている端末のアラームが激しく鳴り響く。

 画面に表示される、左右対称の美しい紋章。

 

「まさか……ツインテール属性!?」

 

 フレーヌが端末に表示されている属性力に驚いた刹那、上空に大きな穴が開き異空間が現れた。

 中から大きな流星のような物がフレーヌ達とシェルギルディの間に突き刺ささり、あたりに砂埃が舞う。

 

「な、なんだと!?」

 

 シェルギルディがありえない状況に驚愕する。

 

「よかった……」

「信じてたぜ……!」

 

 次に志乃と孝喜が安堵の声を漏らす。

 砂埃がだんだん晴れてくると、そこにはこの世界のツインテール戦士テイルホワイトが悠然と立っていた。

 

 

 とりあえず、帰ってはこれたらしい。

 でも、周りは酷いあまりにも酷い光景だ。

 ビクトリースクエア、またここでエレメリアンを好き勝手させてしまうどころか、たくさんの人のツインテール属性を奪われてしまっている。

 だけどまだ、間に合う……早いとこあの輪っかを破壊すればこの場にいる人のツインテール属性は返すことができるだろう。

 

『奏さん、無事で……本当にご無事で良かったです!』

「ただいまみんな、ただまず先にあの貝をやっつけるからね!」

 

 一度変身解除したことで完全には直ってないにしろテイルギアは多少修復されてるし、この一体を倒すぐらいならもってくれるだろう。

 

「まさか、このタイミングで現れるかテイルホワイトよ!」

 

 貝ギルディはカチカチと手元の貝をカスタネットのように鳴らし……威嚇しているのだろうか。

 

「少し遅かったな、見ての通りこのイベント会場にいたツインテール属性はもちろんの事、我シェルギルディが崇拝するコスプレ属性も頂いておいたのだ!」

「じゃあすぐに返してもらわないとね……!」

 

 私がそう言うとシェルギルディは漆黒のゲートを至る所に生成、現在いるモケモケに加えさらに数十体のモケモケを私の周りに出現させた。

 一体ずつ倒していってもきりがない、なら''アレ''しかない!

 テイルブレスをつけている右手を高く上げ、祈る。

 頼むよ、志乃!!

〈三つ編み(トライブライド)〉

 刹那、エレメリンクが発動し、私はトライブライドに変身しフロストバンカーを装備、真上に光線を発射した。

 光線は上空で弾け、流星群のようにあたりにいるモケモケ直撃しあっという間にモケモケを全滅させた。

 やっぱ多数相手にはこれが効くね!

 残った光線がシェルギルディに直撃するが全くダメージを受けている様子はない。

 次にすぐさま狙いを属性力奪取のための輪っかに定め光線を発射、輪っかは粉々になりあたりにいる人たちに属性力の雨が降り注ぐ。

 そして、すぐにまたテイルブレスを掲げ祈る。

 頼むよ、嵐!!

〈ポニーテール〉

 さらにエレメリンクが発動、ポニーテールへと変身した瞬間シェルギルディとの間合いを詰め、ブライニクルブレイドを一閃した。しかし━━━━

 

「ふっははははは! 我は頑丈さが自慢なのだ!! 」

 

 擦り傷一つ、シェルギルディの鎧にはついていない。

 光線はダメ、斬りつけるのもダメ、なら叩いてみればいい!!

 

「はああああああああ!!!」

 

 シェルギルディ目掛けてブライニクルブレイドを全力のフルスイング。

 ガンッと鈍い音がしたと思うと今度はガラスの割れるような音が聞こえ、シェルギルディの前についていた貝殻を粉砕した。

 

「ぬうおおおおおお、我の、我の殻がああああああああああ!!!!」

 

 トドメだ!

 シェルギルディが怯んだ隙にブレイクレリーズし、シェルギルディの眼前へと移動し必殺技を決める体制へ移る。

 

「ブライニクルウゥゥ!!!スラ━━━━」

「━━━そこまでよ」

 

 斬りつける直前、横から出てきた漆黒の剣によって私の必殺技は防がれてしまった。

 慌てて私は後ろへ跳び、漆黒の剣の持ち主から距離をとる。

 

「意外に早かったわね」

「速水黒羽……!!」

 

 速水黒羽はシェルギルディの前に立つと手に持っていた漆黒の剣を消滅させ、余った手を白いローブの中へとしまう。

 

「それで、私の課題は達成できたのかしら?」

 

 課題が、他のツインテール戦士を見てこいと言う事だとしたら私は━━━━

 

「どうかな、ただものすっごいツインテールバカを知った」

 

 私の返しに少し考える仕草をした後、速水黒羽はフッと笑い神の一剣の証である白いローブを脱ぎ捨てた。……テイルイエローのせいで少し身構えてしまった。

 

「私は神の一剣の速水。下がりなさいシェルギルディ、私がこの子の相手をするわ」

「な、なに!? 人間の小娘が神の一剣などと、信じられると思うか!!」

 

 シェルギルディの反応を見るに、速水黒羽が自分たちの仲間だと気づいていないみたいだ。 信じられていないシェルギルディは素直に引こうとせず、速水黒羽に反論を続ける。

 

「下がりなさいと言ったのよ?」

 

 目にも止まらぬ速さで、速水黒羽はシェルギルディの眼前へと漆黒の剣を突きつける。

 

「ぬう……オルトロスギルディ様以外にも神の一剣のお方が来ていたとは……しかも小娘が……」

 

 そう言うとシェルギルディは納得したのか、そそくさと極彩色のゲートを生成し、消えていった。

 

「これで邪魔者はいなくなったわ、一度じっくり話をしたくて」

「私は別にしたくないけど」

『どうせまたツインテールについてのことだろ』

 

 嵐が多少呆れたような声で話す。

 私もそうだと思う。 また、私がエレメリンクを使って闘っているのに苦言を出すつもりなのだろう。

 

「しょうがないわね……」

 

 速水黒羽がローブから手を出すと再び、彼女の手に黒い影が集まり漆黒の剣が現れた。

 

「少し頭を冷やしたらいいわね」

「!?」

 

 一瞬で私に近づき耳元で囁くと漆黒の剣を振り下ろす。 なんとか間一髪のところでブライニクルブレイドで防ぐことができた。しかし、受け止めただけで威力を殺しきれずに地面を抉りながら後退する。

 

「ちょっとは強くなった?」

 

 明るく話す速水黒羽には余裕が見える。

 

「ええ、少しはね……」

 

 事実、前に撤退を余儀なくした時ほどの絶望感や大きな差は感じない。 ただそれでも、実力の差は明確だ。

 私の返答を待たずして再び接近し、ブライニクルブレイドと漆黒の剣が再び交わるとあたりに突風が巻き起こる。

 

「うっ!!」

 

 なんとか速水黒羽についていけていたがそれも長くはもたずブライニクルブレイドは私の手から弾かれる。

 

「はああああああああ!!!」

 

 武器がないならゼブラギルディのようにこのままパンチを繰り出すだけだ!!

 

「なら私も……」

 

 速水黒羽は自分の剣を放り投げ、自らも拳を突き出してきた。

 光の渦を纏った右腕を速水黒羽の左ストレートに合わせる。

 

「きゃあああっ!!」

 

 元々傷んでいた所為もあるだろう、私のテイルギアだけ右腕の装甲が砕け、後ろに吹き飛ばされる。

 

「いいパンチね」

 

 砕けた装甲を顔に受けながらも瞬きすることなく速水黒羽は私を賞賛する。

 私はそのまま地面に打ちつけられる。

 ゼブラギルディの比ではなかった、満身創痍な私に対して速水黒羽は私を賞賛できるくらい余裕があるのだ。

 痺れる右手を抑えながら立ち上がり、近くに落ちていたブレイドを持ち再び黒い少女へと疾駆する。

 両手で目一杯力を込めブレイドを振り下ろす。

 

「無駄よ」

 

 しかし、いとも簡単に速水黒羽は素手で受け止め力を込めるとブレイドは真っ二つに折れてしまった。

 

「あんたたちアルティメギルに、私の世界を侵略させてたまるもんかああああ!!!」

 

〈三つ編み(トライブライド)〉

 トライブライドへと変身した瞬間今度は無数の光線を速水黒羽目掛けて発射し次々と命中していく。しかし、煙の中から速水黒羽が現れ、今度は左足でフロストバンカーに蹴りを入れてくる。

 

「そろそろ話を聞く気になったかしら?」

 

 周辺の装備よりもさらに強固なフロストバンカーがひと蹴りで粉々になり、また私は飛ばされ地面に叩きつけられた。

 速水黒羽は……息切れすら起こしていない。

 信じられない、ここまで力の差があるなんて……。

 

「ほら、あなたの仲間が来たわよ」

 

 確かに、視界の端に三人が走ってくるのが見えた。

 

「奏さん!!」

「奏!!」

「伊志嶺!!」

 

 フレーヌと志乃に両腕を持ってもらいなんとか上体を起こした。

 

「いくらなんでもやりすぎだろ!!」

「闘いなんてこんなものよ。 だから覚悟が必要なのよ、自分がボロボロになっても守る為の覚悟がね」

「なんだとぉ!?」

「やめて嵐。速水の言う事は……最もだから」

 

 詰め寄ろうとした嵐は私の言葉を聞き、この場で強く拳を握る。

 速水黒羽はその様子を見てから近くに落ちていたローブを拾いパンパンと叩くと、再びそれを装甲の上に着用した。

 

「全員いるし、丁度いいわね」

 

 こちらを向き、笑みを浮かべた。

 

「ええ、話したい事って何」

 

 速水黒羽は私の言葉を聞くと笑みを辞め、二、三歩私達に近づき、

 

「え?」

 

 頭を下げた。

 

 

「私と一緒に、アルティメギルを潰して欲しいの」

 

 

 顔を上げた速水黒羽の目は真っ直ぐを見据えており、嘘偽りがない事を示すには充分だった。



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FILE.40 速水黒羽の真実

 エレメリアンの襲撃によりイベント目的で来ていた人達はすっかりいなくなり、あたりに見える人影は私達しかいない。

 なんとか自分の世界に帰ることができた私はシェルギルディが人々から奪っていた属性力を取り戻すことができた。 しかし、シェルギルディにトドメをさそうとしたところ私を異世界に送り込んだ張本人の速水黒羽が妨害に入りトドメはさせなかった。

 私は今度こそ速水黒羽を倒してやろうと戦闘を挑むも、結果はこの状況。 私のテイルギアはあちこちから放電が始まり今のにも壊れてしまいそうだ。 対して速水黒羽の武装は放電しているどころかヒビさえ入っていない。

 私は、速水黒羽に力の差を見せつけられる形となってしまった。

 だが速水黒羽は私から属性力を奪おうとはせず、抵抗する気力のない私達四人を前にして衝撃的な発言をした。

 

「私と一緒に、アルティメギルを潰してほしいの」

 

 私達に頭を下げ、自分に協力してくれと頼んだのだ。

 当然私も、フレーヌ達三人も動揺を隠せない。

 

「あなた、自分が何を言っているかわかってるんですか?」

 

 当然、フレーヌも信じられないと言った表情で速水に問いかけた。

 そうだ。アルティメギルに属している彼女が放った言葉の意味、それ即ちアルティメギルへの反逆、ということだ。

 

「だいたい、お前は俺たちの敵だろうが。そんな奴にいきなり手を貸そうってのは無理があんじゃねーの?」

 

 嵐が言う事はもっともだ。

 私の前にいきなり現れ、攻撃を仕掛け、さらには異世界へと飛ばしたのは他でもない速水黒羽だ。

 

「今まで散々、奏の事を攻撃して来ておいて急にそんな事言われても……」

 

 志乃も速水の圧倒的な力を、私と闘っているところを見ていたからこその言葉だろう。

 三人に遠回しに''無理だ''と言われていても速水はまだ頭を下げたまま、上げようとはしない。

 確かに、ついさっきまで私は速水黒羽というアルティメギルの一員に苦しめられてきた。

 みんなと同じ、私だってすぐに返事ができるわけがない。

 でも、聞いておきたい。

 

「だったら、教えてくれる? 何故今までアルティメギルにいたのか、何故今、私達に協力を頼んだのか……」

 

 そう言うと速水は頭を上げ私達の顔を真っ直ぐ見つめた。

 大きく深呼吸をすると同時に、速水の体が光り出し、光の中で彼女のフォルムが変わっていく。

 程なくして彼女は三メートルあるかないかぐらいへの怪物、エレメリアンへと変身した。

 私達四人は予想だにしていなかった事態に誰も声を出せず、ただジーッと驚愕したまま目の前のエレメリアンを眺めている。

 

「私は元々、影だった」

 

 そして声は変わらずに、彼女は自分の生い立ちや、これまでの事を話し始めた。

 

「私はオルトロスギルディというエレメリアンが作り出す分身に過ぎなかった。 でも、ある世界を侵攻している時に影であるはずの私にこうして自我が宿った」

 

 自分の大きく筋骨隆々な手を見ながら彼女は続ける。

 

「自我が宿った後もオルトロスギルディの分身として、アルティメギルの一員として私はたくさんの人のツインテール属性を奪っていった。 ただ、一人のツインテール戦士の属性力を奪った時に私に一つの疑問が生まれた。 ''ツインテールへの愛が本当に人々から奪う事なのか''ってね」

 

 再び、彼女は光に包まれ今度は私達と同じぐらいの人型へ、速水黒羽へと変身した。

 

「その想いが影であるはずの私をこの姿へ、最終闘体へと進化させたのよ」

 

 最終闘体、確かシャークギルディがメガロドギルディに進化した時もそのような事を言っていた気がする。

 人間になる事さえ、可能というのだろうか。

 

「私は嬉しかった、もう愛でる為にツインテール属性を奪う必要はなくなったから。 そしてそれと同時に、無数の世界の属性力を守りたいと考えるようになったわ。 そこで、アルティメギルが意図的にツインテール戦士を作り出す事を逆手に取れないかと思い、すぐに実行に移したわ」

「ま、まさか……!?」

 

 何かに勘付いたのか、フレーヌは急に立ち上がり声を出す、その手は微かに震えている。

 

「ドラグギルディ部隊によって属性力を狩り尽くされようとしていた世界で、私はその世界の戦士が開発した''テイルギア''の存在、戦士が基地として使っていた場所を知った。そしてその世界で属性力を失っていない数少ない人間の少女を見つけ出し、テイルギアや世界間航行技術の情報とともにその少女を基地へと匿った。 いつかアルティメギルを脅かす戦士とそれを導ける科学者が現れる事を願って……」

 

 エレメリアンに侵略された世界に、テイルギア、少女というのは……まさか。

 私の思い当たる人物は驚きを隠しきれない表情でまたペタンとその場にしゃがみこむ。

 もしそうなら、速水が私達に協力を申し出てきたのは……。

 

「私の願いが、叶ってくれた……」

 

 速水はその少女と思われる人物の前に立つとしゃがみこみ、目線を合わせた。

 

「あなたのおかげよフレーヌ……ありがとう」

 

 少し涙ぐんだ声でお礼を、アルティメギルを倒すため自分が敷いたレールを脱線する事なく走り続けてくれたフレーヌに対して再び頭を下げた。

 

「でも、私はあなたを勝手に利用したに過ぎないし、どんな恨みや暴言もでも受け止めるわ」

 

 フレーヌはしゃがみこみ下を向いたまま顔を上げようとはしない、それか上げられないのだろうか。

 速水は待っていたんだ、いつか自分と一緒にアルティメギルと闘える戦士を。

 それなら、突然襲ってきたり異世界に飛ばしたりしたのはもしかしたら私を鍛えていたのだろうか。 好意的に解釈しすぎかな?

 速水は立ち上がると今度は私達三人の方へと向き直った。

 

「あなた達にも申し訳ない事をしたと思ってるわ。 私の私欲のせいで危険な闘いに巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」

 

 そう言うと速水はまた深々と長々と頭を下げる。

 私は未だ痺れる右手を抑えながら立ち上がる。

 

「それが、速水……あんたが協力を申し込んだ理由……」

 

 速水は頭を上げると真っ直ぐ、綺麗な目で私を見る。

 

「ええ、信じるも信じないもあなた達次第。 どのみち、私は目の前にある絶好のチャンスを逃したくない」

「チャンス?」

 

 嵐が不思議そうに尋ねた。

 

「オルトロスギルディがアルティメギルのボス……首領に呼ばれたのよ」

「!?」

 

 その場にいたフレーヌ以外の全員が声を上げた。

 アルティメギルの首領、総数は不明だけど数多くのエレメリアンを束ね、ツインテール属性を集めている騒動の元凶。

 奴に呼ばれたことがチャンスとの言葉が意味することは……。

 

「私が直接、首領を討ちこの闘いを終わらせてみせる」

 

 やはり、速水は親玉を先に倒すことでツインテール属性やその他多くの属性が守られると考えているらしい。

 そう言うと速水はローブを翻し、後ろを向き極彩色のゲートを生成すると、ゲートに向かい歩き出した。

 そうだ、協力を頼んだのにはもう一つ理由があったんだ。 もし自分がアルティメギルを倒せなかった時に自分の意志をついでアルティメギルに反抗し続けて欲しい、と。

 

「待ってください!」

 

 顔を上げられなかったフレーヌが立ち上がり、呼び止めると、速水はまたこちらを向く。

 

「私は気を失う前にエレメリアンに襲われ、今にも属性力を奪われるところでした」

 

 よほど恐ろしかったのだろうか、彼女の頬を一筋の涙がツゥと流れ地面に落ちる。

 

「あの時にエレメリアンから助けてくれたのは私の世界の戦士だと思っていましたが、本当はあなたなんですか……?」

 

 一瞬の静寂後、速水は質問に答えた。

 

「無事でよかったわね」

 

 優しい声色で優しく笑うと速水は極彩色のゲートへと姿を消し、ゲートも閉じられた。

 

 

 世界の狭間に鎮座する母艦。

 そこに一人の戦士がゲートをくぐり、帰還した。

 戦士が薄暗い廊下を歩いていると、銀色の毛並みをしたエレメリアンと出くわした。

 

「首領様に呼ばれたそうですね」

「知ってたのね、フェンリルギルディ」

 

 その一言だけ交わし、速水黒羽は歩を止める事はなく、オルトロスギルディのいる部屋へと到着した。

 

「帰ったわよ」

 

 ドアを開け、さながらサラリーマンのような言葉を発する速水黒羽。

 そこにはやたらとソワソワし、部屋中を歩き回っている頭が一つのオルトロスギルディがいた。

 

「遅いぞ! 首領様を待たせるわけにはいかん、早く俺の中に戻れ!!」

 

 ハイハイと気だるそうに返事をした後、速水黒羽はエレメリアンの姿へと戻りオルトロスギルディに吸い込まれていく。 程なくしてオルトロスギルディは双頭となった。

 

「首領様が俺をお呼びになるとは一体何があったのやら……」

 

 自分の艦のコックピットへと移動し、フェンリルギルディに操縦桿を握らせる。

 オルトロスギルディの艦は首領の間へと行くため別次元への移動を開始した。

 オルトロスギルディは自分の中の速水黒羽が実行しようとしている事に気付かないでいる。

 

 

 オルトロスギルディが首領の元へと向かった丁度その頃、基地の大ホールは再び大きな騒ぎとなっていた。

 

「なんと! テイルホワイトが!!」

「だから早く侵攻すべきであったのだ!!」

「隊長の考えが分かる日は来るのであろうか………」

 

 天井から吊り下がっているいくつものモニターにはついさっきまでのテイルホワイトとシェルギルディ他アルティロイドの戦闘が映し出されている。しかし、映像はシェルギルディに必殺技を決める直前で終わっていた。

 テイルホワイトが予想以上に早くにこの世界に帰ってきた事でまたもオルトロスギルディに対しての不満が積もっている。

 そんな中一体のエレメリアンが机を叩き、椅子から立ち上がった。

 

「確かに隊長の意思は気になる!!……が、今は無事に帰ってきたシェルギルディを褒め称えようではないか!!」

 

 ウォルラスギルディの一言で大ホール内は静かになり、ところどころからやる気のない拍手がシェルギルディに贈られた。

 

「そうだ、俺たちは幾度となるイラスト特訓によりついにテイルホワイトに対抗できるようになったのだ!!」

 

 ウォルラスギルディが声を張り上げると大ホールの至る所から希望に満ちた声が聞こえて来る。

 

「そ、そうか!いつの間に我らは!!」

「いけるぞ! 今ならテイルホワイトを裸エプロンにできるぞ!!」

「なにおう!? 私が先に裸ワイシャツにしてみせるわ!!」

 

 知らない小娘に助けてもらったとは言えず、自分の席でシェルギルディは小さくなっている。

 

「もう援軍や補修部隊など必要ない!! 我らは勝━━━━━━━━っつ!!」

 

 大ホールの至る所で自信に満ちた笑い声が溢れる。 かつてここまで明るくホワイトな職場があったであろうか。

 しかし、長くは続かなかった。 ホワイトな職場は一瞬で真っ黒な職場に染め上げられる。

 

「あの……申し上げにくいのですが……」

「なんでしょうかサンフィシュギルディ殿、貴殿も喜んではどうです?」

 

 テーブルに片足をのせ腕を組みながら笑うウォルラスギルディ他、大ホール全てのエレメリアンにサンフィシュギルディは弱々しく話し始める。

 

「只今、頂いたメールによると……その……この世界へ……聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の出撃が決まりすでに……こちらに向かっているそうです……」

 

 時が止まった。

 そう表現するのが一番正しいと言わざるをえない程、一瞬で大ホールは静かになった。

 美の四心、貴の三葉、死の二菱、神の一剣、ハート、クラブ、ダイヤ、そしてスペード。

 アルティメギル四頂軍の裏にあるもう一つの部隊、聖の五界の出撃がとうとう決まったのだ。




一年の空白を得て、真実と新たな部隊が……!?


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FILE.41 首領の力

 速水がゲートをくぐった後、私たちはすぐフレーヌの地下基地へとワープ、帰ってきていた。

 基地に帰ってきたところでようやくテイルホワイトの変身を解き、ホッと一息をつく。

 志乃と嵐もそれぞれ椅子に腰掛けリラックスしている。

 闘いの後に速水によって聞かされた衝撃の事実、フレーヌがテイルギアを開発し、一人の戦士を見つけアルティメギルに対抗できるような戦士を育てる。

 今まで闘ってきたこと全てが速水の計画した作戦だったんだよね。

 まあ、結果的に私の世界は守れているわけだから私は別にこの事に関して速水を恨んじゃいない。 だけど、フレーヌはどうなんだろうか。 今までやってきたことは荒れ道を進むのではなく既に舗装された道を歩いてきたようなものだと思ってしまったら、科学者として傷ついてしまうのでは、そう心配していた。

 恐る恐るフレーヌの様子を伺ってみる。

 

「なるほど……私は決められたシナリオ通りに動いていた、ということですか……」

 

 大きなメインモニターの前に立ち、キーボードをいじるとホーム画面からテイルギアの各種装甲が詳しく書かれている画面へと変わる。

 私の距離からは、少しフレーヌの肩が震えているのぐらいしかわからない。

 しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのは意外にもフレーヌだった。

 

「ふふ……ふふふ」

「お、おい……」

 

 微かに笑い声のようなものが聞こえ心配になったのか嵐がフレーヌに駆け寄り声をかけた。

 

「は━━━━っはっはっはっは!!」

 

 両腕を自分の腰に当て、上を向きながらフレーヌは笑いだした。

 例えるならそう、まるで属性力を奪った直後のエレメリアンのような笑い方だけど……。

 

「面白いじゃないですか……!」

 

 とってもわるーい顔をしながら両腕を腰から離し、今度は握り拳を作る。

 

「あの、フレーヌ……傷ついてたりしない?」

「まさか、逆に感謝してますよ! エレメリアンへ私の世界が侵略された復讐ができるんですから!!」

 

 おお、フレーヌが燃えている。

 かつてここまで燃えていたフレーヌがいたであろうか。 いや、いない。

 

「ですが、私もやはり皆さんに謝らなくてはなりませんね。 結局のところ、私がこの世界に来て奏さんをツインテールの戦士へと選んだ事であなた達を闘いに巻き込んでしまったんですから……」

「元気になったかと思えば……私は覚悟を決めて闘ってる。 悔やむ必要なんてないよ、フレーヌ」

 

 これは私の本心だ。

 既に私は心に決めている、ツインテールによるくだらない闘いを止めるため、私が育ててしまった属性力を守るため、そのために闘っているんだ。

 ボコボコにされようが私が属性力を奪われようが、私は自分の世界だけでも守る覚悟はできている。

 

「私だって最初は奏の手伝いできなくて悔しかったけどさ、今はフレーヌがリンクブレス作ってくれたおかげで少しでも手伝いできてるような気がして……つまり、えーっと……全然迷惑なんて思ってないからね!!」

「俺もまあ、フレーヌがこの世界に来たおかげで疎遠だった奏とまた話せたようなもんだし……」

「ほら、みんな迷惑なんて思ってないんだって」

 

 二人の意見を聞き、フレーヌに伝える。フレーヌがこの世界に来て、迷惑している人間なんて誰一人としていないんだから。

 

「スルーかよ……」

 

 小声で嵐がなんか言った気がするが関係無さそうな話なのでそのままにしておく事にする。

 

「それにテイルギアとかは速水の思惑通りだったとしてもさ、フレーヌは色々な発明してきたでしょ」

 

 特にエレメリンクを任意で発動できるようにしたリンクブレスは大発明だろう。

 

「え、ええ……まあ」

 

 少し顔を赤らめているし、どうやら照れているらしい。

 普段は天才科学者しててもこういう時にする反応は私が中学生くらいの歳と一緒で、なんだか可愛らしい。

 

「速水さんは、大丈夫かな……」

 

 志乃が心配そうにつぶやき、また基地に沈黙が生まれる。

 ''この手で首領を討つ''と速水は言っていたけど、エレメリアンをアルティメギルを束ねる首領が容易に倒せるとは思えない。 もし討つのに失敗した時、速水は━━━━考えたくはない。

 そもそも、速水に全く歯がたたなかった私が協力したところでそれは本当にベストな選択なのかな……。

 だって、もし……もし速水が勝てなかった相手に私が敵う可能性なんて微塵もないだろう。

 

「速水さんが奏さんに襲いかかった理由は鍛える目的以外にもきっとあったんですよ」

 

 私の心情を察したのかフレーヌは静かに話し始めた。

 

「私は初めてこの世界に来た時にも言ったはずです。 ''ツインテール属性そこが最強である''と。 そして、速水さんは''ツインテールを裏切る''といった」

「つまり私に、ツインテールを受け入れさせようとしてたって事?」

 

 フレーヌはコクッと頷く。

 

「奏さんはツインテールを''嫌い''と言いつつもアルティメギルに対抗できる属性力をお持ちです。 もし、奏さんがツインテールを''好き''になった時、属性力がどうなるか……想像もできません」

「奏がツインテールの事を好きになればさらにテイルギアの力は高まるってことね!」

 

 今回はやけに志乃は理解が早かった。

 私は常に全力で闘っているつもりだったけど、私のツインテール嫌いが私自身を縛りつけていた。 ……ただ、だからツインテール好きになれと言われてもキツイけど。

 

「私がツインテール嫌いなのは最初から変わんないし、これからも変わるつもりないからね」

 

 拳を高く上げて宣言する。

 何故か周りからため息のようなものが聞こえた気がした。

 

 

 マルチバース・キューブ。

 アルティメギル首領が座する首領の間はそう呼ばれる多次元空間の最奥に存在している。

 示されたルート通りに行かなければ決して会えず、ルートから外れれば永遠にこの空間を彷徨い続けることとなる。

 アルティメギル首領には謁見するだけでも命を懸けなければならない。

 

「このタイミングで首領様がお呼びになる理由は……」

 

 今回は白いローブを着ず、オルトロスギルディは首領への順路を重い足取りで歩いている。

 しばらく歩くと天井から風呂敷状に撓んだ光が差し込みオルトロスギルディを包み込んだ。

 

 

 宇宙をそのまま凝縮したような、星の輝きをあまさず散らしたような、神聖さと荘厳さを兼ね備えた空間にアルティメギルの首領はいた。

 さらに部屋の奥へと進むと煌めくオーロラのカーテンがヴェールに守られた空間がある。

 

「久方ぶりだな、オルトロスギルディよ」

 

 ヴェール越しに途方も無い威圧感が鎮座し、口を開く。

 

「首領様、お久しぶりにございます」

 

 オルトロスギルディは跪き、顔を上げずに応える。

 

「今宵は余がそなたを此処へ招いた。 何故かわかるか?」

「…………」

 

 オルトロスギルディは首領の命により、属性力が奪えないシャークギルディ部隊の兵士の育成係に任命された。しかし、その後も結果は変わらない。

 オルトロスギルディは叱責も覚悟の上だった。

 

「……ふむ。そなたが育成した兵士であれとその世界の属性力は奪えぬか」

 

 叱責も覚悟の上だったが、首領から発せられたのは納得の言葉。

 意図が読めないオルトロスギルディの前へ一つの将棋盤が現れた。 ……おかしい。 将棋なのに相手は歩兵が一人、何故かこちらはその歩兵を除いた全てという配置となっている。……将棋なのに。

 

(ナニコレ?)

 

 オルトロスギルディの中にいる速水黒羽も、目の前に現れた将棋盤の意味は分からなかった。

 

「これはそなたの部隊の状況である」

「え?」

 

 将棋盤の上に指が浮かび上がり全ての駒が次々と前へ進み、消えていった。 当然、駒の進め方はめちゃくちゃで、角も香車のような動きでぐんぐん前に進んでいく。

 テイルホワイトにやられている、ともとれるような気もした。

 将棋盤の駒があらかた無くなると今度は平たい、コインのような黒い物が将棋盤に置かれる。

 

「そなたはこうはなりたくはないだろう?」

 

 何が起きたのか、オルトロスギルディにも中にいる速水黒羽にもわからなかった。

 もはやオルトロスギルディはどういうリアクションをとればいいのか全く分からずただ、話を聞くだけだ。

 何を暗示しているのか、これがどうなるのか、話に関係あるのか、全てがわからなかった。

 

「ハイ…………」

 

 首領は恐ろしい。

 自分が知らない物、未知への恐怖はエレメリアンであるオルトロスギルディさえも震え上がらせた。

 

「余の言葉の意味がわからなくなった今、そなたに用はない」

 

 最後の通告はあっさりと、突然告げられた。

 今まで首領の言葉を理解していた事など数える程度しかないが……それを言う余裕はない。

 ヴェールの向こうでパチンと指を鳴らす音が響くとヴェールのかけられた一角の横に極彩色のゲートが出現し、中から一体のエレメリアンが現れた。

 

「貴様は……!?」

 

 純白の白を基調とした鎧に彩られた麗美なる要望。

 天使の輪のように頭部に輝くパーツは女神のような気高さを溢れさせ、双眸は穏やかだ。

 腰部から後ろに燕尾服のように伸びた布も鋭利な美しさを感じる。

 腰や腕に纏わせている長い一本の布は天女の羽衣を思わせる。

 何より目を惹くのは背中から左右対称に生えている計四つの大きな天使の羽。

 アルティメギルでは数少ない女性型のエレメリアンだ。

 

「エンジェルギルディ! 貴様、何をしに此処へ来た!!」

 

 オルトロスギルディの疑問を答えたのは首領だった。

 

「そなたの部隊には既に我がアルティメギル四頂軍の裏部隊が出撃している。 そなたは、用済みだ」

(なんですって!?)

 

 再び告げられる解雇通告。

 さらに首領はオルトロスギルディの前に首領の腕が具現化し、強烈な衝撃波が放たれる。

 

「せめてそなたのツインテール属性は……有効活用してやろう」

 

 かっこいいセリフ言おうとしたが思いつかず、仕方なくそう言ったようにも聞こえる。

 

「ぐう……ぐああああああああああ!!!」

 

 オルトロスギルディが光に包まれる、その光は二つに分離し、弾かれる。

 

「きゃあ!!」

 

 オルトロスギルディと速水黒羽が強制的に分離させられた。

 

「ぐああああああ!!!」

 

 悶え苦しむオルトロスギルディ。

 

「オルトロスギルディ!!」

 

 速水の悲痛な叫びも虚しくオルトロスギルディはどんどん小さくなりツインテール属性の属性玉へとなってしまった。

 

「やはり、中に存在していたか」

 

 速水はすぐさまオルトロスギルディの属性玉を拾い上げ、漆黒の太刀を生成するとヴェールの奥、首領へ向かい走り出す。

 

「首領!あなたはここで私が倒すわ!」

 

 ヴェールへ向かい漆黒の剣を振り下ろす。 しかしそれは瞬間的に前へ移動したエンジェルギルディによって防がれてしまった。

 

「オルトロスギルディの処刑は首領様が致しました。 貴女は私が処刑致しますわ」

 

 気高く、お嬢様の様な言葉使いで淡々と話すエンジェルギルディ。

 エンジェルギルディに妨害され、大きく後ろへ跳んだ速水黒羽だが身体に纏っていた装甲に異変がおきる。

 

「これは!?」

 

 彼女が纏っていた装甲は煙のように完全に消え、身体には普通のセーラー服しか残らなかった。

 

「オルトロスギルディというパスが消えた今、そなたはただの''人間''だ」

 

 速水の異変をいとも簡単に説明する。

 

(まずい……!)

 

 不利を悟り後ろを振り向く、しかし━━━

 

「逃すと、思うか?」

 

 首領の間にもう一体、戦場の戦女神を思わせるエレメリアンが現れていた。

 

「これはヴァルキリアギルディさん、ご機嫌よう」

 

 エンジェルギルディが速水黒羽の前にいるエレメリアンに向かい腰部から伸びる布を広げ上品に挨拶をする。しかし、ヴァルキリアギルディと呼ばれるエレメリアンは返答はせずただ、装飾のないシンプルな神の槍を速水に向けていた。

 ジリジリと両側からエレメリアンに追い詰められていく。

 

「さて、頂きますわよ」

 

 属性力奪取のための光輪を出現させるエンジェルギルディ。

 

宇宙の紐(ストリング・セオリア)……。もはや貴様はその輪から逃げられん」

 

 輪の名前を初めて聞いたのか、速水とエンジェルギルディは言葉を失くし、一瞬の間が生まれる。 唯一、ヴァルキリアギルディのみが首領の言葉をしかと耳に入れ、力強く頷いていた。

 

「気をとりなおして……頂きますわ」

 

 速水に標準を合わせ、宇宙の紐(ストリング・セオリア)が発射される。だが、今にも属性力を奪われそうになった時、突如として首領の間に極彩色のゲートが出現し中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「早くこちらへ!!」

 

 すぐさま速水は極彩色のゲートに飛び込むと間も無くゲートは閉じられていく。

 

「やはり、協力者がいたか」

「さすが首領様です」

 

 この場にいるエレメリアン達には想定外の事態ではなく、予測されていたものであった。

 

「ヴァルキリアギルディ、そなたはしばし余の側にて待機だ。 そしてエンジェルギルディ、そなたが裏切り者とオルトロスギルディの影、そして裏部隊の隊長として属性力の奪取を命じよう」

「ははっ……!」

「……ええ、わかりましたわ」

 

 二体が同時に頭を下げると首領はヴェールの向こうで霞のように消え去る。

 残ったエンジェルギルディとヴァルキリアギルディもそれぞれ極彩色のゲートを生成し、消えていった。

 

 

 速水黒羽がゲートを抜けると、そこは何処かの世界のとても穏やかな草原だった。

 風が吹き抜けるたび、一面に生えた緑の葉や木が静かな音を立てている。

 その静かな草原に落ち着いた声が響く。

 

「ご無事ですか?」

「フェンリルギルディ……助かったわ……」

 

 酷く息を切らしながら速水はお礼を言う。

 追っ手が来ないのを確認し、取り敢えず一息をつく。

 

「オルトロスギルディが……私を助けてくれたわ……」

 

 目に涙を浮かばせ、速水は地面を拳で叩く。

 

「首領から攻撃を浴びた時、咄嗟にオルトロスギルディは私と自ら分離したのよ。 私を巻き添えにしないために……。さんざん私に憎まれ口を叩いておきながら、ね」

 

 両者にしばしの沈黙が生まれると、其れを嫌うかのように風が吹き抜け、木の葉を揺らす。

 

「でも、首領はその気になれば私を閉じ込めることも出来たはず……容易にゲートを抜けられたと言うことは……」

「首領様はわざと貴方を逃したと言うことですか……。ならばそれは一体何故……」

 

 嫌な予感が両者を襲い、その予感は早くも的中する。

 

「裏切り者を炙り出すため、ですわ」

「「!?」」

 

 速水とフェンリルギルディ、二人が振り向くとそこには音も無く現れたエンジェルギルディの姿があった。

 エンジェルギルディの言葉を聞いて速水は首領の意図がわかった。  フェンリルギルディを炙り出すのは勿論、速水に希望を与えた後絶望に叩き落とすためだ。

 

「待ちなさいエンジェルギルディ! 反逆は私一人で考えた事、フェンリルギルディは何の関係もないのよ!!」

「残念ですけれど、そうはいきませんわね」

 

 再び属性力奪取の光輪を出現させ、弾丸のように速水へと発射させる。しかし、今度はフェンリルギルディが自らの拳で光輪を破壊し速水の属性力を守る事に成功する。すると、フェンリルギルディは再び極彩色ゲートを生成し、速水をその中へと放り込んだ。

 

「貴方は属性力を奪われるわけにはいかない! 貴方は、貴方の属性力を守ってください!!」

「待ちなさい、フェンリルギルディ!!」

 

 速水がゲートに飲み込まれるのを確認するとフェンリルギルディはゲートを消すと同時に武器を手元に出現させ、エンジェルギルディに向かい疾駆した。

 

 

 心地の良い風が吹き抜け、あたりの草を優しく揺らす。

 

「まずは、一人目」

 

 エレメリアン同士が激しい戦闘を行ったにも関わらず、あたりの風景は何も変わらないままだ。

 一際強い風が吹き抜け、あたりの葉と花が舞い上がりエンジェルギルディを包みこむ。

 その手には下着属性(アンダーウェア)の属性玉が優しく握られていた。

 

「今度のツインテールは、いかがなものでしょうか」

 

 微かに笑みを浮かべると、手に持っていた属性玉を空へと投げ捨て極彩色のゲートを生成し、その中へエンジェルギルディは姿を消した。

 投げ捨てられた属性玉もまた、ゲートの中へと消えていく。 その哀しい輝きを鈍らせる事はなく━━━━




遂に現れた聖の五界、果たして裏部隊の力とは!?


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FILE.42 聖の五界

エンジェルギルディ
身長:189cm
体重:247kg
属性力:お嬢様属性(レディー)

速水黒羽を処刑するため、首領の間へと現れたアルティメギルの裏部隊、聖の五界の隊長。
女性型のエレメリアンでありおしとやかでお嬢様言葉で話し、同僚からは親しみやすい性格とされる。 その一方で首領の命令は忠実に実行し、アルティメギルに刃向かう戦士には容赦のない攻撃を浴びせる冷酷さもある。 以前アルティメギルの科学班最高責任者からBL(ボーイズラブ)を勧められたが断ったこともある。背中から生えた翼により飛翔能力もあり戦闘力はアルティメギルでも随一。普段は素手での戦闘を好むが、速やかに任務を遂行する事となると''聖のお嬢様弓(エンジェル・レディースピアーツ)''を用いて戦う。


 アルティメギルの一員だった速水黒羽から衝撃的な告白を受けてから今日で四日目。

 未だ、速水からの連絡は来ない。 しかし、その事以外にも気になる事はあった。

 

「やっぱり今日もエレメリアンは出ないみたいですね」

 

 基地のメインモニターを眺めながらキーボードをカシャカシャするフレーヌが静かに呟く。

 速水がゲートへと消えたその日から、エレメリアンがこの世界にパッタリと出現しなくなった。

 エレメリアンが何日か現れなかった時は今までもあり、だいたい新しい作戦を考えている時と推測してきたけどこのタイミングで出て来なくなると言う事は……。

 

「速水がアルティメギルの首領とか言う奴を倒したんじゃ……」

 

 パソコンを操作するフレーヌに対して、今の私の考えをツインテールぶつけてみた。 ……恐らくそんな事はないだろうと聞いた私自身も感じている。

 

「あの人から協力を申し込んできたんです。 首領とやらの討伐に成功していれば私達になんらかのコンタクトを取ってくると思っています」

「つまり、速水は……」

 

 アルティメギルに歯向い、それが失敗するとどうなってしまうのだろう。 属性力を奪われるのか、それとも命まで奪うのか、あまり考えたくはなかった。

 

「そういえば、嵐は?」

 

 微妙な空気を感じとったのか、志乃が話題を変えてくれた。

 

「嵐はサッカーの試合があるっていってバスでどっかいった」

「そ、そうなんだ……」

 

 志乃が話題をくれたけど、一言で終わらせてしまい後悔する。

 嵐も嵐だ、こんな時に試合?……いやいや、嵐に怒るのは筋違いだ。

 嵐にはいつもエレメリンクで闘いの手伝いをしてもらってるし、私がプライベートを拘束するなんて許される事じゃない。……誰でも当然なんだけどね。

 嵐の話題を最後に再び基地には沈黙が続く。

 

「……いつでも出られるようにしとくからさ」

 

 基地で速水の情報を待つだけじゃない、私にも何かすることがあるはずだ。

 そう言うと私は直ぐに基地から出て自宅へと向かい始めた。

 なんか、嫌な予感がする。

 これまでにない脅威が、私に……この世界に来るような、そんな予感。

 アルティメギルの脅威は自分の身をもって知っているけど、それ以上の脅威があると言うのだろうか。

 その脅威が来た時に、私は自分の力で世界を守れるのか。

 そろそろツインテールについて、少しは考えるようにしないとね。

 

 

 人目につく事のない聖域、奏の世界を侵攻するために鎮座するアルティメギルの基地に、もう一つ大きな艦が近づいてくる。

 やがて近くに停止すると、新たな艦は元の艦とドッキングしさらに大きな艦となった。

 艦の船着場であった場所に通路が作られ古株のサンフィシュギルディをはじめ、ウォルラスギルディやシェルギルディなどシャークギルディ部隊の面々が新たな隊員を出迎える。

 やがて通路の先から、何人かの隊員が渡ってきた。

 

「長旅お疲れ様です、エンジェルギル……おや?」

 

 新たに合流した聖の五界。

 率いているのはエンジェルギルディだと言うのは周知の事実故、こちらに歩いて来る先頭の隊員はエンジェルギルディだと誰もが思っていたが、そうじゃないことにサンフィシュギルディは気づく。

 

「隊長は首領様に呼ばれ、到着は遅れるそうだ」

 

 三メートル以上の体躯。

 頭から背中、そして尾へと生える棘。

 両手両足の先に付く鋭い爪。

 竦むように鋭い黄色の双眸。

 そして赤く引き締まった体。

 体の至る所にある炎を模した模様。

 トカゲとは違い、その一つ一つに迫力がある。

 

「サラマンダギルディ様、これは失礼しました」

 

 サンフィシュギルディはエンジェルギルディと間違えたことに詫びを入れ頭を下げた。

 

「問題はないさ。 それよりも、オルトロスギルディの姿が無いが?」

 

 先に合流していると聞いていたオルトロスギルディの姿が見えずサラマンダギルディは尋ねる。

 神の一剣の一員であり、この部隊では重要な役割を握っていた故に彼が姿を見せない事は無礼極まりない事だった。

 

「私達が来るって聞いて逃げちゃったのよ。 あの子、ヨワムシ君だからね」

 

 サラマンダギルディの後ろから聖の五界の一員が顔を出し澄んだ女性の声をだす。

 頭部から腰まで伸びる水色のパーツ。

 他のエレメリアンよりも一回り小さい体躯。

 頭部と同様、腰回りから足元まで伸びるドレスのようなパーツ。

 そして体の前部分を覆っていてもわかる胸部を押し上げる豊かな双丘は彼女が女性型エレメリアンだと嫌でも伝える。

 

「ウンディーネギルディ、貴様は余計な口をたたくな」

「ごめんなさーい」

 

 竦むような双眸で睨むサラマンダギルディに対し、ウンディーネギルディは小さな子供のように軽く手を顔の前で合わせ謝った。

 舌打ちをするサラマンダギルディは再びサンフィシュギルディに向き直る。

 

「とりあえず俺をオルトロスギルディの部屋へと案内してくれ。 後の者はとりあえずホールにでも待機だ」

「わかりました、ウォルラスギルディよ」

「は、はい」

 

 ウォルラスギルディがサラマンダギルディを連れ、通路から離れていく。

 残りの聖の五界の面々もシェルギルディに大ホールへと案内されていった。

 通路にはサンフィシュギルディと何故か残っているウンディーネギルディだけとなる。

 

「ねえねえ、サンフィシュギルディさん?」

「な、何か……?」

 

 サラマンダギルディが離れていくのを確認した後、ウンディーネギルディがサンフィシュギルディの肩を叩く。

 

「私としてはやっぱエレメリアンでも男型と女型の共同生活ってのは違和感があるわけよ」

 

 ウンディーネギルディが言うことをなんとなくサンフィシュギルディは察しはじめた。

 

「隊長のエンジェルギルディもその辺厳しくてねえ。 だからやっぱ私達の部屋は欲しくってさ、お願いできます?」

「は……はい」

 

 先ほどよりも少し手の位置を下にして合わせ上目遣いでお願いするウンディーネギルディに、女性と接したことの無いサンフィシュギルディが逆らう事など出来ず、肩を落としながらお願いを了承した。

 

「やったあ♪ ありがとうございます♪」

 

 ウンディーネギルディは素直に喜ぶと他の聖の五界の面々と同様、基地の大ホールに向かって駆けはじめた。

 

「アルティメギルの裏部隊……ですか」

 

 小さく呟くと、面倒ごとが増えたと項垂れながら彼もまた皆が向かう大ホールへと歩を進めはじめた。

 

 

 薄暗い廊下を二体のエレメリアンが歩いている。

 言葉を交わすことはなく、聞こえてくるのは基地の機械音と二体のエレメリアンの息遣いだけだった。

 空気に耐えられなくなりとうとうウォルラスギルディが言葉を発した。

 

「あの、一体オルトロスギルディ様の部屋にはどのような御用が?」

 

 相手は自分では足元にも及ばない大幹部故、もしかしたら叱責を受けてしまうかもしれない、とウォルラスギルディは覚悟しての質問だった。

 

「いや、奴が部屋に篭っていたら教育してやろうと思ってな」

 

 サラマンダギルディは怒る素振りを一切見せずにウォルラスギルディの質問に答え、さらに続けた。

 

「まあ、奴が居なかったらその時はある事を考えているが」

 

 聞くのが本格的に怖くなり、ウォルラスギルディはそれ以上を聞こうとはせず、少し早足にオルトロスギルディの部屋へと案内しはじめた。

 

「こちらです」

 

 ウォルラスギルディに案内されサラマンダギルディはオルトロスギルディが使っていた部屋の前へ到着した。

 ついてすぐ、サラマンダギルディはなんとノックもせずにドアノブへと手をかける。

 

「ま、まさか……」

 

 ウォルラスギルディがこれから起こるであろう恐怖震える中、サラマンダギルディはフッと静かに笑い勢いよく部屋のドアを開ける。

 ズカズカと部屋の中へと入り、周りを見て回る。

 黒い壁に立てかけられたツインテール少女のポスター、部屋の真ん中にあるツインテール少女が描かれたパソコンが置いてあるテーブル、そして誰もが目を惹く幾多の世界でオルトロスギルディに敗れていったツインテール戦士のフィギュアの数々。

 全てを見回した後、なんとサラマンダギルディはパソコンを立ち上げはじめた。

 

「そ、それだけは……オルトロスギルディ様が……」

 

 関係の無いウォルラスギルディでも震える苦行。

 サラマンダギルディの手が止まった。

 

「パスワードだと?」

 

 恐る恐るウォルラスギルディが画面を覗き込むと画面にはパスワードを入力するための空欄が映し出されている。

 ''オルトロスギルディは救われた''そう思いホッとしたのもつかの間、次の瞬間パソコンはホーム画面を映し出していた。

 

「2214、''ツインテールいいよ''か、なんと単純なパスワードだ」

「ぐおっ!!」

 

 とうとうウォルラスギルディは空気に耐えられなくなり、重い足取りでオルトロスギルディの部屋を出ていった。

 

「ふん、青いな」

 

 一言だけ発し、ウォルラスギルディがいなくなった後も変わらずサラマンダギルディはパソコンを操作し続ける。

 

「奴のお気に入りは大体わかったが、奴が居なくなる理由になりそうな物はないな……」

 

 パソコンをシャットダウンし、座椅子から立ち上がろうとすると、サラマンダギルディは床に落ちているある物に目が止まった。

 

「毛、だと?」

 

 床に落ちていた長い毛を摘みまじまじと眺める。

 

(オルトロスギルディにこのような長い毛は生えて……いなかったはずだ)

 

 サラマンダギルディの中である考えが浮かび、納得すると毛を元の場所に戻す。

 

(エンジェルギルディ隊長が遅れる理由に……オルトロスギルディの失踪……そしてこの毛か)

 

 その考えは確信に変わるとサラマンダギルディは部屋の出口に立ち、再び部屋に向き直る。そして静かに口を開いた。

 

「アルティメギル、聖の五界副隊長サラマンダギルディはお前と争う事となった時、手加減はせんぞ」

 

 ドアを勢いよく閉め、彼もまた皆が待つ大ホールへと足を運びはじめた。

 

 

 人里から離れたとある県の、とある森。

 登山客ですら立ち寄らない鬱蒼とした森の中を登山客にしてはあまりにも軽装な、登山客にしてはあまりにも華奢な少女がフラフラとおぼつかない足取りで歩いていた。

 以前黒く輝いていたツインテールも長い間外にいた事で手入れが行き届いておらず、埃などで多少傷んでしまっている。

 

「せ、せめて人の居るところにゲート開いてほしかったわね……」

 

 彼女は、速水黒羽はフェンリルギルディによって救われたが慌てて開いたゲートのせいか目当ての人物が居るところへは到着出来なかった。

 ゲートから放り出され、何処かわからない場所を人里を目指し懸命に歩いている途中だ。

 

「人の体って、不便ね……」

 

 ゲートからこの森へ来て、既に二日。

 オルトロスギルディが倒れ完全に人間になった彼女は取るべき食事も取れずにただひたすら歩いていた。

 着ていたセーラー服はボロボロに破け、寒さを凌ぐ手段も少ない。

 途中、森の中にある岩に腰掛け休憩をはじめた。

 

「このまま力尽きたら……オルトロスとフェンリルギルディに申し訳ないわ」

 

 十分ほど休憩すると再び黒羽は森の中を歩きだす。

 黒羽も闇雲に歩いているわけではない。

 この森に着て一日目の夜、確かに今歩いている方向に明るい光が見えていた。

 人工の光があるなら、そこに人がいるはずと考えその方向を目指し、歩く。

 

 

 努力の甲斐あり、二時間ほど歩くと森が開け大きな建物が見えてきた。

 

「や…………た……」

 

 建物の近くまで歩いたところで体力が尽き、その場で倒れ込んでしまった。

 薄れゆく意識の中で、黒羽は確かに人の声が近づいてくる事を感じている。

 

(誰か、くる……助かった……)

 

 誰か人が自分の近くに駆け寄ってきた事を確認すると黒羽は意識を失っていった。

 

「お前……速水黒羽!!!」

 

 意識を失った彼女に対して声をかけたのは、彼女もよく知っている人物だった。

 黒羽の手にはツインテール属性の属性玉が握られたままとなっている。




ついに姿を見せた聖の五界、彼らの実力は如何に!?
そして速水黒羽はどうなるのか、次回までお待ちを。


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FILE.43 到着する影

サラマンダギルディ
身長:268cm
体重:380kg
属性力:日焼け属性(サンバーン)

アルティメギル四頂軍の裏部隊、聖の五界に所属する戦士。
隊長であるエンジェルギルディとは旧知の仲であり、互いに実力を認めている。 副隊長となっているが彼自身部隊を率いるのに自信が無く、たびたびウンディーネギルディにその事をからかわれている。 また、他のエレメリアンより情に厚く属性力を奪えない事もしばしば。
オルトロスギルディとはライバル関係にあり、彼が消えた理由を察し、全力の勝負を誓った。


 奏達が通っている園葉高校からバスで一時間ほどの所でサッカーの試合が行われていた。

 白いユニフォームの高校が園葉高校、黒いユニフォームが他の高校であり、試合は白の園葉高校がリードしている。

 練習試合にも関わらずこの試合にはプロのスカウトも多数見に来ているようだ。そして、プロのスカウトが最も注目しているのが背番号七番をつけた選手、嵐 孝喜だ。

 高校一年の時から先輩を押し退けレギュラーを奪取して以降全ての大会に出場し、チームを勝利に導いてきた。 プロを目指す孝喜にとっては一試合一試合が大切と、決して手を抜かずに天才的なプレーを披露してきた。 彼にとってのサッカーはポニーテールと同じぐらい大切なものだ。しかし、今日はやけにミスが多い。

 

「うわっ!」

 

 自身のあるドリブルをすれば相手にボールを奪われ、カウンターを仕掛けられる。

 

「おらぁ!!」

 

 失敗を払拭するために、右足でシュートを繰り出せばクロスバーの大きく上をいってしまう。

 孝喜の高校がリードしているものの、彼のミスが目立つ形で前半は終了しハーフタイムに入った。

 孝喜はベンチに座り、汗を拭きながらスポーツドリンクを飲む。

 前半のプレイを見て心配したチームメイトが話しかけてきた。

 

「おい孝喜、お前らしくないけどどうしたんだよ。 大丈夫か?」

「あ、ああ……」

 

 口ではそう伝えてはいるが全然大丈夫ではない。

 

(速水のことがあったこんな時に試合なんて……集中できねーな……)

 

 タオルを頭に被った孝喜の元へまた一人歩いてきた。

 

「嵐君……大丈夫?」

 

 孝喜が顔を上げるとそこに立っていたのは高校のジャージを着たサッカー部のマネージャーだ。

 部員の皆からは可愛い上に性格もいいと人気も高いが孝喜はそんな事より彼女がポニーテールである事に喜びを感じていた。

 

「彩か、俺は平気だよ」

 

 彩と呼ばれた彼女は心配しながらも他の部員のところへと歩いていく。

 最近までは彼女のポニーテールはとても素晴らしく輝いていた。……今もそうなのだが、孝喜がテイルホワイトもとい奏に協力する様になってからはツインテールが自分の中で大きくなり始めている。

 

(ツインテール嫌いの理由を作った男が何考えてんだか)

 

 大分息が整ってきた所で孝喜は監督に話しかける。

 ハーフタイムがまだ残っている事を確認すると孝喜はパーカーを羽織りグラウンドから離れていく。

 校門を開け学校の周りの農道を孝喜は歩く。

 自分が普段通っている高校の周りとは景色が違い、いい気分転換になる。

 青い空と一面に広がる田園風景を見ながらまた、孝喜は考え事を始めた。

 

「奏と俺じゃ……闘ってる相手が違い過ぎるよなー……」

 

 地面に座り込み、一言呟く。

 孝喜が始めてテイルホワイトを興味を持ったのはいつだっただろうか。 テイルホワイトが現れはじめてからクラスの連中も、部活の連中もそしてテレビや新聞などといったメディアまでもがテイルホワイトの話題を毎日の様にしていた。 勿論、孝喜はツインテールである彼女が周りの人達から持て囃されていたのが最初は気に入らずテイルホワイトの話題に参加しようとは思わなかった。 そんな孝喜以外にも、テイルホワイトについて語ろうとしなかった人がいた。

 

(今思えば、奏が変身してたんだし当然か……)

 

 クラスメイトの奏もまたテイルホワイトについてはあまり語ろうとせず、自分と重なって見えた。

 そんな奏の姿を見て、奏がツインテールにしなくなった理由を作った孝喜はテイルホワイトについて調べ始めた。 そしてテイルホワイトが信念を持って闘っていることを知り、ようやく彼女のことを応援するようになった。

 孝喜は右腕に着けているリンクブレスを具現化し、まじまじと見つめる。

 

(そんでこのブレスを貰ったんだよな。 だけど……)

 

 女に闘わせておいて自分は安全な基地で様子を見ているだけ、孝喜はそう考えもっと力になれないかと思案している。

 ハーフタイム終了が近いのに気づくと立ち上がり高校に向かって歩きだす。

 

「ひっ!」

 

 自分が通った後、草がガサガサ揺れる音が聞こえた。 次第にどんどん音は近くなり、道に面した草が揺れる。

 

(く、熊か!?)

 

 警戒しつつ後退りすると、背の高い草の中から現れたのは熊ではなく、人間の女の子だった。 女の子は道に出た途端嵐に気がつく事無く、その場に倒れ込んでしまった。

 

「お、おい……平気かよ……!?」

 

 見捨てるわけにもいかず孝喜が女の子に近づいて行きその顔を確認すると再び声を出す。

 

「お前……速水黒羽!!」

 

 声をかけるが既に彼女は目を閉じ気絶してしまっている。

 孝喜が顔以外にも目を向ける。 彼女はいつもの鎧を纏っておらず、着ているセーラー服の様な服もボロボロになってしまっている。

 これだけの姿をしていると孝喜にも黒羽の作戦が失敗に終わったことがすぐに察する事ができた。

 フレーヌに連絡するのが一番だとは思ったが奏が言っていたフレーヌへの連絡アプリは孝喜のスマホには入っていない。

 

「嵐君?」

「さ、彩!?」

 

 どうしようか悩んでいるとマネージャーの彩に声をかけられた。

 どうやらハーフタイムが終わりそうだが、グラウンドに現れない孝喜を心配して探しまわってくれていたらしい。 彼女もまたサッカーをしていたかの様に息が切らしている。

 

「え、と……その女の子は」

 

 当然、孝喜の後ろにボロボロで倒れている黒羽について質問してきた。

 

「えーと……この娘はその、知り合いで……」

 

 苦しい言い訳をしながらも最善策を考える。

 

「どうすりゃ……奏に連絡だ!!」

「奏?」

 

 一応持ってきていたスマホを取り出し中の電話帳を開く、が。

 

「やべ……番号分かんね」

 

 電話帳の''あの行''を探しても''かの行''を探しても彼女の連絡先は見当たらない。

 

「いつも一緒に居たのに何やってんだ俺━━━━!!!」

 

 頭を抱え、孝喜はこれまでの事を後悔した。

 

「……」

 

 孝喜の様子を見て彩はジャージのポケットからスマホを取り出し操作しはじめた。

 

「なんかよくわからないけど、奏の電話番号ならわかるから」

 

 いち早く電話帳の中にある奏の電話番号を探し出し通話ボタンを押す。 するとすぐにスマホを孝喜に差し出してきた。

 やがてコール音が止み、通話に出る音が聞こえた。

 

『もしもし彩? どかしたー?』

 

 奏の声が聞こえすぐに孝喜はスマホを取り応答する。

 

「おい奏!」

『え、なんで嵐!? てか、奏って呼ばないでって!』

「んな事どうでもいいんだ! 速水黒羽がボロボロで倒れてんだよ、どうにかしてくれ!」

『え、速水が!? わかった、フレーヌに伝えてみる』

 

 お礼を言うと孝喜はスマホを彩に返す。

 

「悪いけど俺は後半には出れないって監督に伝えてくれ」

「う、うん……。 なんか複雑な事情があるんだよね?」

 

 孝喜は彩の言葉になんて返せばいいかわからず、俯いている。

 まさかこの速水黒羽が今この世界を侵略しようとしているアルティメギルの人で裏で反逆を企んでいたなんて説明できるわけがない。

 何も言えない事を察したのか、彩は笑顔で頷くと試合を行なっていたグラウンドへと走っていった。

 

 

 電話を受けた後、私は急いでフレーヌの基地へと戻ってきていた。

 私は嵐から聞いた事をそのままフレーヌに伝える。

 

「あの人が!? 」

 

 当然フレーヌは驚き、すぐに嵐と速水の居場所を特定した。 どうやら嵐の着けているリンクブレスにはGPS的なものが入っているらしく、何処にいるか筒抜けらしい。自分のテイルギアにも入っているのだろうか……。

 

「転送します!」

 

 宙に浮かんだモニターの画面に表示されているトランスの文字をタッチすると近くにあるカタパルトが光りだす。

 カタパルトの光が収まるとそこには嵐と、ボロボロになっている速水の姿があった。

 どうやら意識はないらしい。

 

「すぐにメディカルルームへ!」

 

 いつの間にそんな部屋が……。

 嵐が速水を背負い、フレーヌに案内され通路へと歩いていく。

 

「あれ?」

 

 嵐に背負われ、速水は離れていく。

 

「どうかしたの?」

 

 志乃が心配してくれたようで話しかけてくる。

 心配事ではないし、今はあんまし関係ないかもしれないけど。

 

「いや、なんか速水のあの姿って何処かで見た覚えがあるなーって…」

 

 肝心の部分が思い出せない。

 

「でも黒羽っていつもテイルギアみたいなの着てたし……ボロボロだけど、どこにでもあるようなセーラー服だし勘違いじゃない?」

 

 志乃の言う通りで、私はそれを解ってはいるけど……勘違いなどではなく、絶対に私はあの服を見ている。

 それといつの間にか志乃が速水の事を黒羽と呼んでる。

 

「私達も行こ!」

 

 そう言うと志乃はフレーヌと嵐を追って駆け出す。

 そうだ、とりあえず今は速水の事だ。 彼女がゲートを通って姿を消してから後の事を、詳しく聞かなければいけない。

 

 

 奏達の世界へと進行しているアルティメギルの基地。

 その中心に位置する大ホールは冒険者達が集う酒場のように多くの勇者を迎え、語り合わせ、戦地へと送り出してきた。

 怒号にも似た討論や、隊員同士での喧嘩もあり活気溢れる場所だった。

 しかし、新しく迎えられた勇者━━━アルティメギル聖の五界により酒場は火が消えたようにしんみりと、静かになっていた。

 もはや恒例となっていたイラスト修行もせずに、だ。

 

「ねえねえ、最初は誰から行くの?」

 

 中央の大テーブルで退屈そうにウンディーネギルディはサラマンダギルディに尋ねた。

 

「まだ隊長は到着していない。 焦るな、ウンディーネギルディ」

 

 そう言うと静かな大ホールの天井から吊るされているモニターの画面にテイルホワイトの戦闘映像が流れ出す。

 やがてその映し出されている戦闘の中で同胞のエレメリアンが爆散し、テイルホワイトがカメラマンに手をかけたところで映像は途切れた。

 

「へえー、中々可愛い子ねえ」

 

 ウンディーネギルディが目の前のパソコンを操作し、テイルホワイトの顔が大きく映し出されたところで映像を止める。

 

「銀色の髪の毛に碧眼かあ。 すんごい涙が似合いそうな顔してるねえ♡」

 

 ウンディーネギルディはすぐさまスクリーンショットをし、画像を編集、テイルホワイトの頰に涙を流す。

 そして自らのパソコンを大テーブルの皆に見せ恍惚の表情をした。

 

「……そんな事よりも、無害なカメラマンに手を出すとは……テイルホワイトも''アレ''と同じく中々凶暴なのか?」

 

 サラマンダギルディが強引にテイルホワイトの話題へと持っていった。

 まるで、何処かの世界にはエレメリアンを見ると破壊したくてしょうがなくなる人間がいるのだと、言っているかのよう。

 

「いえ、撮影をしていたアルティロイドは無事に帰還しています。 どうやらカメラの電源を落としただけだと思われます」

 

 大テーブルにいるエレメリアンが説明すると、サラマンダギルディは顎に手を当て何やら考え事を始めた。

 

「いえ、私にはわかりますわ」

 

 暗く、しんみりとした大ホールに一人の女性の声が響いた。

 その女性の声の持ち主はゆっくりと床をカツカツ鳴らしながら大ホール中央へと近づいてきた。

 

「あ、あなたは聖の五界隊長のエンジェルギルディ様!?」

 

 サンフィシュギルディの言葉を聞き、大ホールにいる聖の五界の隊員以外のエレメリアン達は一斉に立ち上がり、皆が礼をした。

 

「よろしいですわ、そのようにかしこまらなくて」

 

 椅子に腰掛け、優しい声色で皆に伝える。

 

「わかっておりませんわね、サラマンダギルディ」

「な、なんのことだ」

 

 エンジェルギルディはサラマンダギルディの前にあるパソコンを操作し、大きくテイルホワイトを映し出した。

 

「この立ち方や言葉使い、そして目……彼女は中々のお嬢様と見て間違いありませんわ」

 

 エンジェルギルディでしかわからないであろう事を告げられサラマンダギルディは言葉に詰まる。

 

「隊長、首領様への御用はもう終わったのか」

 

 話題を変えるしか逃げる術はなかった。

 

「ええ、反逆者を討てとの命令でしたわ」

 

 先ほどまで静かでしんみりとしていた大ホールが途端にざわめき出す。

 

「聖の五界にも、この隊の皆さんにも伝えなければなりませんわね」

 

 そう言うとまたエンジェルギルディは立ち上がり周り全てのエレメリアンに聞こえる声で話しだした。

 

「私が討てと命令されたのは、この部隊にいたオルトロギルディですわ。 そして、オルトロスギルディは姿を変え、この世界に戻ってきていますわね」

 

 当然、大ホールは騒然となる。

 

「オルトロスギルディ隊長が……」

「まさか、そんな……」

「それ見たことか」

 

 オルトロスギルディがいなくなり、哀しむ者もいればわかっていたと言わんばかりの者もいる。

 

「あの、姿を変えたと言うのは?」

 

 ウォルラスギルディがおそるおそる気になっていた事をエンジェルギルディへと尋ねた。

 

「いい質問ですわね。 オルトロスギルディは処刑される寸前、人間の少女と分離しましたの。その少女が、オルトロスギルディの影がこの世界にいるということです」

 

 大ホールにいるエレメリアンには言っている意味がよく理解できていないようで、騒然としていたホールがまたも静かになってしまった。

 

「そして、私たち聖の五界とシャークギルディ部隊の混合部隊はこれよりテイルホワイト及びオルトロスギルディの属性力を貰い受けに参りますわ」

 

 いつの間にかエンジェルギルディは登壇台の上へと立っており、隊長らしく大ホールの戦士達へと宣言した。

 エンジェルギルディが宣言した直後、大ホールの隅にある通路から一体のエレメリアンが現れた。

 

「まず最初に行くのはあなたですわ」

 

 その戦士はエンジェルギルディが立つ登壇台の前へと立つと彼女に向かい跪く。

 それを見た聖の五界の隊員は驚きの声をあげた。

 

「いきなりこいつを出撃させるのか?」

 

 驚きの表情を隠しきれないのはサラマンダギルディ。

 

「へえ、涙見られそう♡」

 

 サラマンダギルディとは違い、楽しくてしょうがないというウンディーネギルディ。

 その他のメンバーも色々な反応をしているが、驚いている隊員が多数だ。

 聖の五界以外の隊員は現れたエレメリアンが何者か知らない故、驚くことなくジッと見つめている。

 

「デュラハンギルディ、私たちの先鋒として見事ツインテールの戦士を倒してくることを期待しますわ」

「……わかった」

 

 デュラハンギルディと呼ばれたエレメリアンは一言だけ発し、再び大きな体を揺らしながら大ホールの隅の通路へと消えていった。

 

「いきなりデュラハンギルディからとは、奴は何をしでかすかわかったもんではないぞ」

 

 デュラハンギルディが消えた事を確認した後、エンジェルギルディにサラマンダギルディは問い詰めた。

 

「あら、この世界のツインテール戦士を見極めるにはうってつけの相手ですわ」

 

 エンジェルギルディの言葉を最後に、また大ホールは静まりかえる。

 やはり聖の五界が到着した今自分たちは必要ないのだ、と誰もが心の中で感じている。

 その時、心を見透かしたかのように、エンジェルギルディは手をパンッと叩いた。

 

「もちろん、私はあなた達にも期待していますわ。 今までテイルホワイトのことをよく見てきたはず、いつかその経験が生きる時が必ずきます」

 

 残存部隊を気にかけてくれるエンジェルギルディの心の広さに誰もが感動した。

 

「なので、強くなってくださいまし」

 

 その言葉に、大ホールにいる残存部隊の戦士達の頰に熱き涙が流れる。

 

「期待しておりますわ」

 

 戦士達の敬礼を受け、エンジェルギルディは登壇台から降りホールを後にする。

 薄暗い廊下を歩く彼女の羽根に、先程とは打って変わり活気付き始めたホールの喧騒が届く。

 

「ちょっとこの涙は私的にないなぁ……」

 

 活気付く大ホールの中で、ウンディーネギルディは苦笑いしながら静かに呟いた。



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FILE.44 奏とカエデ

ウンディーネギルディ
身長:177cm
体重:221kg
属性力:涙属性(ティアー)

聖の五界の幹部である女性型エレメリアン。 子供っぽい性格であり、誰とでもフランクに会話する。 隊長であるエンジェルギルディからの信頼も厚く、聖の五界で唯一単独行動を許されている。 その一方、サラマンダギルディからの評価は低い。 悲しみで溢れる涙が好きであり感動して流す涙には興味がない素振りを見せる。 また、アルティメギルの科学班との太いパイプがあり、秘密裏に試作品を手元に忍ばせ実験を繰り返している。


 私がメディカルルームという部屋へとついた時、既に速水はベッドに寝かされていた。

 こう見ると何だか死んじゃったみたいだけど速水はちゃんと生きてる。 意識がまだ戻らないらしい。 ゲートに消えた後、一体何があったんだろう。……なんとなく想像はつくのだけど。

 

「そういえば、嵐は試合終わったの?」

 

 すっかり忘れてたけどサッカーの試合してた嵐がなんで速水は見つけられたんだろ。

 

「いや、ハーフタイム中に交代してくれって彩にな。監督に頼んでくれって言ったんだ」 

 

 ……ハーフタイムってなんだろ。

 とりあえず早退みたいな感じだろうか。 それで多分あってる、うん。

 そうこう話しているうちにフレーヌがメディカルルームのさらに奥にある部屋から出てきた。

 

「黒羽さんですが、体に致命的なダメージは見られません……。 もしかしたら心の問題かもしれないですね」

 

 そう言われると、確かに着ている服はボロボロだが顔や腕や足にはあまり傷がついていない。

 

「心って、もしかして属性力を……」

 

 体にダメージがないなら、心。

 心といえば志乃の言う通り、私たちはまず属性力を思い浮かべる。 なんたってそれを守るために闘っているんだから。

 

「いえ、黒羽さんはツインテールのままなので少なくともツインテール属性は無事ですね」

 

 そういえば、私が初めて変身した時や、テイルレッドの世界から帰って着た時にツインテール属性を盗られた人達はツインテールが解けてたっけ。

 

「なあ、速水を見つけた時から気になってたんだけどさ……速水は何握ってんだ?」

 

 嵐が指を指しながら話す。

 確かに、嵐の言う通り速水は手に何か握っている。 よっぽど大切なものなんだろうか、気絶する時に握ってそのままなのかな。

 それにしても……速水の服装やっぱり何処かで見た気がするけど……もう少しで出てきそうなのに出てこない。 この微妙な感じ私嫌いなんだけどなあ。

 

「しっかしな。最初に速水に攻撃されてからそんなに経ってないのに俺が速水を助けるなんて自分でも夢みたいだわ」

 

 ゆ、夢……。

 そうだ━━━━

 

「━━━夢だ!!」

 

 フレーヌ達三人の方を見て、私は思い出した事を話しだした。

 

「私、前にフレーヌに不思議な夢の話したよね?」

「ええ、そういえば……」

「その夢の中に速水が出てきてさ、そん時着てた服が今速水が着てる服と全く一緒なの!」

 

 間違いない!

 最近は収まっていたけど、一時期よく見ていた夢の服と同じだ。 喉につっかえてた物が取れた気がして何だか気分が良くなってくる。

 

「うーん、確かに服が同じでもそれを意味するものがわからないとですね……」

「あ……」

 

 まあ確かに、服が同じだからなんなんだろ?

 なんで私は服が同じなくらいではしゃいでいたんだろう……。 なんか恥ずかしくなってきた……。

 

「多分、それは私じゃない……」

 

 私たちの後ろ、メディカルルームから突如声が聞こえみんな振り返る。

 

「く、黒羽さん!」

 

 いつの間にか意識を取り戻した速水が上体を起こし、多少息を切らしながらこちらを見ている。

 

「感謝してくれよなー?俺が見つけてやったんだから」

「ええ、ありがと」

 

 嵐がすんごい嫌味ったらしいが素直に速水は嵐にお礼を言った。 予想外の反応だったのか嵐もどんなリアクションをすればいいのかわからないらしい。

 速水はお礼をした後あたりをキョロキョロと見回し、私と目があった。

 

「あなたがテイルホワイトね」

「よくわかったね」

 

 フレーヌご自慢のスーパーイマジンチャフ、またも敗れる。

 

「後ろの君達はあのイベント会場にいたけど、あなたはいなかったし。 ツインテール嫌いがビンビン伝わってきて私には嫌なオーラ出してるから」

 

 随分と生意気な事を言ってくれる。

 あの時、頭を下げたのは一体何だったんだろう。

 

「あはは……ご無事でなにより」

「ええ、あなたにツインテールの良さをわかってもらうまで私は闘い続けるつもりだからね」

「あはは……」

 

 私が心配してたのわかってんのかなこの娘は。

 きっと今の私の顔、引きつってるだろうなあ。

 

「それで、私が見た夢が速水じゃないっていうのはどうして?」

 

 私の夢の事について何か知っているなら早く教えて欲しい、その一心だ。

 速水は自分のツインテールを掴み、静かに話し出す。

 

「おそらくそれは''カエデ''と呼ばれていた、私の元となった娘よ」

「元って?」

 

 フレーヌはなんとなくわかっているようだが志乃が私と嵐の言葉を先取りしてくれた。

 

「オルトロスギルディが最終闘体になる前にもっとも苦戦した美しいツインテールの戦士よ。 おそらくその娘の印象がもっとも強かったから最終闘体に影響してこの姿になった」

 

 最終闘体と言うと、シャークギルディがメガロドギルディになった時もそんな事を言っていたような。 極めた先がまさか人間だなんておかしな話だ。

 

「それだけじゃ、奏さんの夢にそのカエデという少女が出てきた理由が見えませんね」

「理由はわかるわ。だって私は、そのカエデのツインテール属性をテイルホワイトのテイルギアに埋め込んだんだもの。 テイルギアの中のツインテール属性があなたの夢に入り込んできたんでしょうね。……何でかはわからないけど」

 

 それじゃあ私は、今まで速水とよく似た……というか速水の元となった異世界の人間を見ていたわけなのか。じゃあ服が同じなのも大方そのカエデの服をオルトロスギルディが見ていたからってわけか。でも、カエデは何で私の夢に………。

 

「そろそろ本題を話すわよ。……近いうち、この世界には他に類を見ない危機が訪れるわ」

 

 速水はベッドから立ち上がり、そう言いながらこちらに歩を進めた。

 

「危機?」

 

 速水は何かに怯えているのか、ずっと握っている拳を震わせている。

 

「わかるでしょうけど、私は首領を討つことはできなかった。 そして私は……処刑された」

 

 速水の言っていることが理解できない。

 首領を討つのに失敗したのは予測できたけど、速水は私たちの目の前にいる。 属性力を奪われたわけでもない、もちろん命だって無事なのに。

 速水はフレーヌの前に立ち、ずっと握っていた拳を開く。

 これは……属性玉だ。速水はずっと属性玉を握っていたらしい。しかもこの属性玉は━━━━

 

「━━━ツインテール属性の属性玉!? 一体どこで!?」

 

 中央に浮かんでいるマーク、それは私が変身した時にテイルギアに浮き出るエンブレム、ツインテール属性のものだ。

 最強の属性玉なだけあって希少価値も高いと知っているフレーヌは勿論、私達も驚きを隠せない。

 

「私の本体であるツインテール属性を持つオルトロスギルディが処刑されたのよ。 そのせいで私はオルトロスギルディとして使っていた力を失って……本当にただの人間になってしまったの」

 

 悔しそうに涙を流す速水はさらに続ける。

 

「私が生きていられるのも咄嗟の判断で私を分離させてくれたオルトロスギルディとただ一人の部下のおかげなのよ」

 

 そして、あの時よりも深く頭を下げた。

 

「改めてお願い……私と闘って……」

 

 そんなお願いの仕方をされたら……断れないじゃないか。

 自分の世界を守るために闘う私と、アルティメギルを滅ぼすために闘う速水。 こう考えると闘う理由にだいぶ差があるように感じる。 それに私は速水よりも弱いのだ。

 正直、私にはアルティメギルを滅ぼすなんて果てしなく遠いものだと思っている。だけど、私と速水とではゴールの距離が違うだけで途中まで一緒にペースを合わせ、走ることはできる。

 だから、

 

「アルティメギルの全てを倒すなんて途方もない事を約束はできないけど、せめて手伝いだけはさせて」

 

 そう言い、私は速水の肩を叩く。

 彼女は自分という存在が生まれてからずっと一人で闘ってきたんだ。 自分がエレメリアンから生まれたという事を受け入れ、自分と闘ってくれる人を求めるためにフレーヌにテイルギアの技術などを託した。 その技術を使って闘っている私が手伝わなくて誰が手伝うというんだ!

 

「なら、早速新しいテイルギアの製作に取り掛かります!」

 

 フレーヌがどこからともなく白衣を取り出し派手に羽織る。

 

「本当にフレーヌを選んで良かったわ……。よろしくね」

 

 涙を拭きながら速水は握っていたオルトロスギルディのツインテール属性の属性玉をフレーヌに差し出し、フレーヌはすぐさま受け取る。

 

「テイルギアの各パーツや装甲などは予めデータに入っているものを使います。なので恐らく二時間ほどでテイルギアは完成すると思いますのでそれまでゆっくりしていてください」

 

 そう言うとフレーヌはメディカルルームを出ていき、恐らく基地の奥の方にある研究ラボへと向かったのだろう。

 二時間ほどでできてしまうのも驚きだしすんなりとテイルギアを作ろうとするフレーヌは年下ながらやっぱ頼り甲斐がある。 ていうかフレーヌがもしものためにテイルギアをもう一つ作ろうとしていたなんて全然知らなかったなあ。

 速水を含めた私達四人もメディカルルームを出てたまに会議をしている部屋へと移動しようとした時、図ったようなタイミングで基地の警告アラームが鳴り響いた。

 エレメリアンが出現したんだ。

 急いで普段集まる部屋へと向かうとモニターには出現したエレメリアンがデカデカと映し出されていた。

 

「とうとうきたわ、聖の五界……!」

 

 映し出されているエレメリアンを見て速水はすぐに新たな敵だと確信したらしい。

 私はテイルホワイトへと変身、空間跳躍カタパルトの中へと入る。

 

「聖の五界は今までのエレメリアンの比の強さじゃない。 ツインテール属性でなければ勝てないわよ」

 

 言葉だけ聞くとふざけているように見えるけど、そう言う彼女の顔はいたって真剣そのものだ。

 アルティメギルにいたからこそ、その聖の五界とやらがどれ程の物かわかっているのだろう。

 

「何度も言わせないで、私はツインテールが大っ嫌いなの」

 

 親指を立て、私は自分でもわかる満面の笑みをしながらエレメリアンが出現した場所へと転送された━━━━

 

 

「あれ? 私の学校……て事は真上じゃん!」

 

 光が晴れて見えてきたのは毎日必ず見る校舎とグラウンドだった。

 そういえば、前にも体育祭時だかにエレメリアンが出てきたことがあったっけ。 あの時と違って今日は生徒もいないのが気楽だけど。

 ……妙だ、カタパルトで転送されてきたという事は私の学校にエレメリアンがいるはずだけど、グラウンドにそれっぽい影はない。

 

「カタパルトの故障……ッ!?」

 

 背筋を冷たいものが走り、私は咄嗟にその場から跳躍し離れる。

 直後、私のいた場所が爆発した。

 土煙が舞っており、確認は出来ないけど間違いなくエレメリアンだ。

 

「……」

 

 私は土煙の中に浮かぶシルエットを凝視する。

 攻撃してきたエレメリアンは何も言わず、自ら土煙を払い私の前に姿を現した。

 

「ひ!?」

 

 姿を現したエレメリアンは私が今まで対峙してきたエレメリアンとは異色の姿をしている。

 全ての生命の道理を覆すそのエレメリアン。

 恐ろしいまでに黒く、威圧感を放つそのエレメリアンには━━━━首がない。

 

「あれ?」

 

 いや、よく見ると首らしき物はついている。しかし、その事が分かっていてもこのフォルムはどうも気味が悪い。

 まるでゾンビを相手にしている様な感じだ。

 

「あんた、随分と静かじゃん?」

「…………」

 

 私に攻撃した後もする前も、目の前の怪物は一言も発しない。

 

『デュラハンギルディ……エレメリアンとしての本能だけを持っているだけの様なやつよ』

 

 通信が入り聞こえてきた声はフレーヌではなく速水だった。

 それまた聞いたことのあるような……ないような名前だ。

 それにエレメリアンとしての本能は恐らく属性力を奪うこと、デュラハンギルディを逃すわけにはいかない。

 

「属性力……頂く……!」

「え!?」

 

 小さな声で話したかと思えば、デュラハンギルディは瞬く間に私との距離をゼロにする。

 デュラハンギルディは武器を使わずに己の拳で私に攻撃してきた。

 

「つぅ……!!」

 

 かろうじて受け身はとれたけど、尋常ではない痛みが襲う。

 受け方は今までのエレメリアンと同じようにしたはず、そうしてもここまでのダメージ。 速水の言っていた事は嘘では無さそうだ。 もしフォトンアブソーバーがなければ……想像はつく。

 

「なりふり構ってられない!」

 

 フォースリボンに触れアバランチクローを両手に装備すると、デュラハンギルディ目掛けて疾駆し叩きつける。しかし、デュラハンギルディはそれをガードするとすぐさま無数の拳を繰り出してくる。

 なんとかその一つ一つを受け止め、私は一回もしくは二回の攻撃を繰り返す。

 私とデュラハンギルディとの決着はしばらくつきそうにはない。

 

 

 園葉高校のグラウンドで繰り広げられる闘いをその校舎の屋上から見ているエレメリアンがいた。

 自身の属性力をあえて活性化せずにいる事でテイルホワイトや仲間にそのエレメリアンがいる事を把握できていないようにしている。

 

「あれがこの世界の戦士か」

「ええ、下見に来て正解でしょ?」

 

 紅の体のエレメリアンと蒼い体のエレメリアン、サラマンダギルディとウンディーネギルディだ。

 

「最初は苦戦していたようだが、段々とデュラハンギルディと互角……それ以上に闘えるようになってきている。 なるほど、闘いの中で成長しているのか」

「エンジェルギルディ隊長はまず戦士を見極めるって言ってたもんねえ。 デュラハンギルディが倒されたとしても、それは作戦の一部なのかも」

 

 紅と蒼、炎と水で反対の色と性質をしている彼らは心の中の考えも反対らしい。

 サラマンダギルディは同胞が倒れて良しとするのが気に食わないのか、貧乏ゆすりを始める。

 

「ねえねえ、あなたが副隊長になった理由わかるの?」

「何?」

 

 唐突に質問され、答えが出てこない。

 答えを出さないサラマンダギルディに対してウンディーネギルディは話し続ける。

 

「自分でもわかってるんじゃない?''なぜこの俺が副隊長なのか、ウンディーネギルディこそが相応しいのではないか''ってね」

「前半は間違っていないが……後半は考えた事もないな。 それにウンディーネギルディ、貴様は面倒事が嫌いだろうが」

「へえ、わかってるね。 それで理由はわかるの?」

 

 サラマンダギルディが下を向き黙っているとウンディーネギルディはフッとニヤつき話し出す。

 

「相手に対しての甘さを消すためよ」

「俺が……甘いだと?」

 

 サラマンダギルディは立ち上がり、ウンディーネギルディを睨みつける。

 

「うん。あなた今までツインテールの戦士から属性力を奪った事、ないよね?」

「……」

 

 戦闘力が高く、相手を追い詰めることまでできてもサラマンダギルディはツインテールの戦士からツインテール属性を奪った事はなかった。

 反論できずに再びサラマンダギルディは座り込んだ。

 

「……何が言いたい」

 

 拳を握り、サラマンダギルディは俯く。

 

「私達の部隊、聖の五界の隊員である以上貴方は甘さを捨てなきゃいけないってことよ。それ以前にエレメリアンとしても、だけどね」

 

 ウンディーネギルディが放った言葉を最後に二人のエレメリアンの間に沈黙が生まれ、再びサラマンダギルディはグラウンドへと視線を移した。

 

「俺たちの部隊の性質上、わかってはいるのだがな……」

 

 サラマンダギルディは気づいていなかった。

 ウンディーネギルディの手の中に黒い菱形の宝石''首領の吐息(ゴッド・ブレス)''が握られていたことに。



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FILE.45 真実と変身

デュラハンギルディ
身長:289cm
体重:482kg
属性力:???

聖の五界に所属するエレメリアン。 幹部ではないが戦闘力は高く、後述の理由で精神攻撃などが効かないといった特徴もある。 アルティメギルの中で首領とエンジェルギルディの命のみを聞き、忠実に遂行する。 エレメリアンの割に感情表現が少なく、本能のまま生きている。 しかし自らのビジュアルに不満を持っているとの情報もある。


 私とデュラハンギルディと呼ばれるエレメリアンとの闘いは土煙を起こしながら続いている。

 私は正直、初めて変身した時と比べると格段に強くなった。 ほとんどのエレメリアンを倒すことに苦労はしなくなってきていたけど、これが聖の五界と呼ばれる部隊。 全力を出しているけど中々自分を有利な場面へ持って行くことが出来ない。

 

『奏、エレメリンクしよ!!』

 

 場を動かすには絶好の判断かもしれない。志乃の言葉に頷き、エレメリンクしようと腕を高く上げたのだが……。

 

『ちょっと、ツインテール属性こそが最強なんだから余計なことしちゃダメよ!』

『だって奏だってエレメリンクしようとしてたもん!』

『ホワイトが力を解放すればトライブライドの比じゃないくらい、圧倒的な力を得るのよ』

『奏はツインテールが嫌いなの!』

『ツインテールの戦士としても闘える戦士なのに本心がそんな事あるわけないでしょ!』

『おめーらうるせえぞ!』

 

 耳が痛くなってきた……。

 

「本当にうるさいって……」

 

 とりあえずデュラハンギルディに向け、両腕のアバランチクローを射出する。 相手が一瞬怯んだのを確認する暇もなく、今度こそ私は腕を高く上げる。

 

『ちょっと、正気なの!?』

 

〈三つ編み(トライブライド)〉

 速水の想いも虚しく?私は志乃とエレメリンクし、テイルホワイト・トライブライドへと変身した。

 フロストバンカーを装備し、複数の光線をデュラハンギルディ目掛けて発射させる。

 

「ぐお……!!」

 

 どうやら光線は効いたようだがすぐにデュラハンギルディは立て直し、属性力奪取のための輪っかをいくつも投げつけてくる。

 

「くっ!!」

 

 いくつもの迫る輪っかを一つずつ撃ち落としていく。

 

「頂く……」

 

 私が輪っかを撃ち落としている間に、デュラハンギルディは眼前へと瞬間的に移動してきていた。

 フロストバンカーで叩きつけるには距離が足りない。

 それなら、

 

「フォースリボン……ええと、クラッシャー!!」

 

 不要となっていた二つのうちの一つのフォースリボンを空いている左手に持ち、力の限りデュラハンギルディを叩きつけた。 名前は浮かんでこなかった。

 

「ねえ、速水。 あんたはツインテールこそが最強とか言ってるけどさ、私は全ての髪型に同じことが言えると思ってる」

『な、なに……?』

 

 速水は今は人間でも元がツインテール属性を持っていたエレメリアンだったわけだし、ツインテール以外を受け入れられないという言い分もわかるしツインテール属性が最強だと言うんならそれで闘うのがベストだということもまあわかる。

 ただ、私は一つの髪型に執着する必要はないと思ってる。

 

「ツインテール以外でもきっちり闘えるところを見せてあげる」

 

 デュラハンギルディ目掛けてまた光線を放ち、怯んだ隙に再び私は腕を上げる。

〈ポニーテール〉

 小さな機械音声とともに閃光に包まれ、晴れていくとテイルホワイト・ポニーテールへの変身が完了した。

 

「はああああああ!」

「ぐおおお………!」

 

 デュラハンギルディ目掛けて疾駆し、ブライニクルブレイドで次々と斬りつけていく。 ブレイドが当たるたびに火花が散り、デュラハンギルディは苦悶の声を上げた。

 

「さあ、終わらせるよ!」

 

 再び素早くエレメリンクを発動し、トライブライドへと変身、同時にフロストバンカーを腕に装備する。

 

「ブレイクレリ━━━━ズ!!!」

 

 フロストバンカーから巨大な光線が放たれ、デュラハンギルディを貫通し、とどめの道を作る。

 腰の装甲から蒸気が噴き出し、私をデュラハンギルディの近くまで運ぶ。

〈ポニーテール〉

 眼前まできた瞬間、嵐とエレメリンクを発動し、ブライニクルブレイドを光線に乗せて先程のブレイクレリーズの勢いそのままデュラハンギルディに一閃。

 デュラハンギルディを斬りつけても勢いは止まらず最後はブレイドを地面に突き刺しターンしながら勢いを殺した。

 

「リンクドライブ……ってとこかな」

 

 直後、私の後ろでデュラハンギルディは爆発し属性玉がふわふわと私の手元へと飛んできた。

 

「こういう闘い方もあるんだよ、速水」

『……』

 

 ツインテール以外の髪型にも意味はあるし、愛している人もいる。

速水がそれを知ってくれれば私は嬉しい。

 

 

「見事だ、テイルホワイトよ」

 

 

「え!?」

 

 気配も無く、私の背後に立つエレメリアン。

 私は今までに数多くのエレメリアンと対峙してきた。 でも、まったく気配も無く私の後ろに立つエレメリアンは初めてだ。 こいつもおそらく聖の五界とかいう部隊の奴なんだろう。

 ゆっくりと振り返り、声をかけてきたエレメリアンを確認する。

 

「デュラハンギルディがここまで簡単に敗れるとはな」

 

 紅の身体に黄色い双眸、フォルムだけ見ると恐竜みたいだけど……。

 

『サラマンダギルディ……!』

 

 アルティメギル内でのライバルか、はたまた啀み合っていたのか、速水の悔しそうな声は通信を介して私に届いた。

 サラマンダギルディか、よくわかんないけど強そうな響きだ。

 

「今日はお前に忠告しにきてやったんだ」

「忠告?」

「ああ、俺たち聖の五界に楯突くとどうなるかを教えてやろう」

 

 そんなのどうせ、私を倒し属性力を奪うことだろう。 今まで私が闘ってきたエレメリアンとなんら変わりないじゃないか。

 

「まずは確認だ。 お前は俺らアルティメギルと闘い続ける気か?」

 

 わかりきった事を。

 私は、少なくとも自分の世界の属性力を守りたいんだ。 闘い続けるに決まっている。

 

「ええ、もちろんね。 あんた達聖の五界相手にしてもそれは揺るぎないことだよ」

「では、教えてやろうか。 俺たち聖の五界のアルティメギルでの役割を」

 

 アルティメギルでの役割……?

 ただ属性力を奪う事をではなく部隊ごとに役割が振られていたのか。

サラマンダギルディは腕を組み歩き出す。

 

「神の一剣と呼ばれる部隊がある。その部隊が出撃する理由、それは俺たちアルティメギルの故郷へと塗り替えるための征服だ」

「へえ、確かにそれは怖いね。 でもあんた達は神の一剣じゃないよね?」

「そうだ、俺たちは聖の五界。 アルティメギルの故郷とすることが俺たちの役目ではない」

 

 神の一剣が恐ろしい部隊なのはなんとなく想像ついていた。 そしてその恐ろしい部隊の裏に隠れていたこの聖の五界は………。

 

「この無数にある世界では俺らに合わない世界もある。 属性力も奪えず、征服するメリットもない世界……そんな世界があると俺たちにとっては邪魔でしかない」

「ま、まさか……」

 

 この世界の状況を物語っているのか、先程まで晴れていた空には黒雲が発生し雷鳴が轟き、やがて大粒の雨が降り出した。

 

「俺たち聖の五界の役割は首領様が神の一剣により征服する必要なしと判断した世界を、ツインテールの戦士もろとも消すことだ!!」

 

 衝撃の言葉を浴びせられ立ち尽くし、驚愕し、言葉を失った。

 属性力を奪う為に闘いにきたのではなく、世界を消す為に奴ら聖の五界はこの世界にきた。

 

「この世界を……」

『『消す!?』』

 

 基地にいる志乃と嵐も驚きを隠せずにいる。

 速水は、この事を知ってるからこそ''この世界に他に類をみない危機が訪れる''と言っていたんだ。

 

「ただ、この世界を守る術はある」

「……え」

 

 私が言葉を失っているとサラマンダギルディが近づき話しかけてきた。

 そんなの当たり前だ。

 消したくない。

 大好きな人が、大切な人がいるこの世界を消したくない筈がない。

 

「守りたいなら、貴様の属性力を俺たちアルティメギルに寄越す事だ」

「私の……属性力」

 

 突然足に力が入らなくなりその場に座り込んだ。

 この世界の人達の命や思い出と、私の属性力。天秤にかければ私の属性力なんて軽いものだ。もとより私はツインテールが嫌いなんだし、奪われたところで……。

 

「馬鹿なことを言わないでちょうだい」

 

 突然この場にいる筈のない人物の声が間近で聞こえ、サラマンダギルディとともにその方向に目をやる。

 

「速水……」

 

 速水はゆっくりと歩き、私とサラマンダギルディの間に立つ。

 

「こいつらはホワイトの属性力を奪ったところで引く気は全くないわよ」

「で、でも賭けるしかないじゃん! 世界消されたら全部終わりなんだよ!?」

 

 私の言葉を聞き、速水は振り返ると私の顔を両手で挟む。

 

「ひょえ!?」

『『『えええ!?』』』

 

 困惑しているのか、サラマンダギルディも威厳のある声ではなく思わず間抜けな奇声を上げた。 通信機からもいつの間にかいるフレーヌと他二人の声が聞こえてくる。

 

(え、これって……キス!?)

 

 こちらをジーッと見つめる速水の視線に耐えられなくなり目を瞑り、覚悟した。

 

「ツインテールに、暗い顔は似合わないわよ」

「……はぁ?」

 

 クールな笑みを浮かべて速水は言う。

 真剣な顔に戻ると再び速水は話し始めた。

 

「奴らは世界を消すとしてもツインテールの戦士の強大な属性力を奪わずに消すわけがないのよ。 自分らにとっては大好物を失うことになるわけだからね」

「……え」

「わかるでしょ、負けなければいいのよ。 今までと変わらず闘い続け勝利を収め続ければいいだけ」

 

 そう言うと速水は右腕を私の前へだす。

 

「そ、それは……」

 

 速水の腕には黒っぽいブレスが、リンクブレスとは違う紛れもなく本物のテイルブレスが装着されている。

 

『なんとか完成することが出来ました!』

 

 通信機越しにフレーヌのウキウキした声が聞こえてくる。

 なるほど、どうやら私は少しだけ休むことができるらしい。

 感謝しないとね。

 速水は自信に満ちた顔でサラマンダギルディの元へと歩いていく。

 

「久しぶりね、サラマンダギルディ」

「貴様、やはりオルトロスギルディの半分か。 だが残念だ、あの時のほとばしる力が今のお前には感じられんな」

 

 サラマンダギルディの言葉を聞いても速水は歩みを止めず、口を開く。

 

「私はもうオルトロスギルディじゃないわ。この世界を守り、アルティメギルを潰す、ツインテールの戦士よ!」

 

 歩みを止め、腕を胸の前へと掲げる。

 

「━━━━変身!」

 

 私とは違う、単純でオーソドックスで、最もメジャーな変身コードを叫んだ。

 刹那、眩い閃光が走り、速水の体を包んだ。

 彼女が着ていたボロボロの黒いセーラー服が消えていき、私が知っている装甲とは違う新たな装甲が装着されていった。

 あえてエレメリアンの前で変身したのはサラマンダギルディをこの場で倒す決意の現れか。

 

「私はまだ影でしかないけれど……オルトロス、私に力を貸してちょうだい」

 

 装甲が変わっているのはすぐ気づいたけれど、よく見ると色も黒から濃紺へと変わり所々に白い流星のようなラインが走っている。

 

「私はテイルシャドウ、アルティメギルを潰す者よ」

 

 サラマンダギルディは速水の言葉を笑顔で受け止める。

 そして彼女に負けじとばかり返言した。

 

「この世界にツインテールの戦士が二人現れてしまったか。 どうやらこの世界を消すのはまだ先になりそうだな、実に残念なことだ! ふっははははははは!!!」

 

 サラマンダギルディのやつ、すごい嬉しそうだ。 もしかしたら自分たちが世界を消してしまう事に抵抗があるのかもしれない。

 

「テイルシャドウのデビュー戦は派手に決めようかしらね」

 

 両手をプラプラと振り、速水ことテイルシャドウはサラマンダギルディへと近づいていく。しかし、サラマンダギルディは掌をテイルシャドウに向けて制止させた。

 

「生憎だが、俺は闘いに来たわけではない。先ほど言ったようにテイルホワイトに忠告しに来ただけだ」

『折角新しいテイルギアお披露目したのにそんなのありですか!?』

 

 フレーヌ達はあまり納得していないようだが、テイルシャドウは特に何も言わずに変身を解除すると速水黒羽へと戻る。

 

「また会おう、テイルホワイト。 そして新たな戦士、テイルシャドウよ」

 

 そう言うとサラマンダギルディは極彩色のゲートを生成し、その中へ消えていった。

 

 

 基地に戻り、私たちは椅子を一つ加えいつものテーブルで会議を始めた。

 

「なんで教えてくれなかったの? びっくりしたじゃん」

「ドッキリ的な事を考えてまして……」

 

 フレーヌにそう言われた後、志乃と嵐の方を見ると二人も複雑な笑みを浮かべている。 どうやらフレーヌに口止めされていたらしい。

 

「ま、速水が来なかったら私は属性力を奪われていたかもしれないし……感謝してるよ」

 

 私の向かいに座る速水は私の言葉を聞いても特に表情は変えずに目を瞑っている。 何か考え事でもしているのかな。

 

「でも、怖い事言ってたよね。この世界を消すだなんて」

 

 志乃も心配している。

 フレーヌが侵略された世界も、属性力は全てなくなってしまったみたいだけど世界自体を消されたとは言っていなかった。

 

「大丈夫、私負けないから」

 

 とりあえず今は速水の言っていた事を信じるしかない。 そしてその言葉を信じるなら私は、私たちは聖の五界を全て倒していかなければいけない。

 

「ま、彼らが強行策に出ない事を祈るしかないわね」

 

 目を開け、速水が会議に参加し始めた。

 

「強行策って……なんだよ」

「私が言ったのは聖の五界が今までやってきた事を言っただけ。 その気になれば彼らはいつでも世界を消すことが出来るのよ」

 

 速水の言葉に皆黙り込み沈黙が生まれる。

 

「まさに、神頼みですね……」

 

 フレーヌが目の前のパソコンをカシャカシャと操作しながら呟いた。 科学の結晶のような彼女でも、神様に頼らざるを得ない状況と言う訳か……。

 なら、

 

「毎日神様に祈りながら聖の五界を倒していく、それでいく!」

 

 椅子から立ち上がり、拳を握る。

 最初はツインテールによるくだらない闘いを終わらせる事が目的だった。 次に私の育てた属性力を奪わせないという目的が加わって闘いを続けてきた。 それがいつの間にか、この世界を守るために闘うという何ともスケールの大きい話になってしまったけど……上等だ!

 

「私は、私たちはこの世界を守るよー!!」

 

 私が叫んだ後に志乃と嵐も続けて腕を上げ、オーと一緒に叫ぶ。

 

 

 三人が立ち上がる中、フレーヌと速水は座ったままだ。

 

「本当に頼もしいわ。 フレーヌもいい人にテイルギアを渡してくれたわね」

 

 私たち三人が気合を入れ、盛り上がっている中フレーヌと速水は何かしら話をしているようだ。

 

「もしかしたら私は偶然この世界に来たのではなく、奏さんに導かれてこの世界にきたのかもしれません」

「なるほど、だったらここにいる全員は偶然ではなく必然的に集まっていったって事かもしれないわね」

 

 話が終わったのか二人とも椅子から立ち上がり私たちと一緒に盛り上がり始めた。

 そう、この仲間達が居ればこの世界を消そうとする聖の五界に負けるわけがない。

 私たち皆、不安に包まれておらず満面の笑みを浮かべていた。




二人目の戦士がようやく登場です。
どんな活躍をするのでしょうか……


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FILE.46 初めての二人連れ

速水 黒羽
性別:女
年齢:18歳くらい
身長:154cm
体重:44kg

元アルティメギル所属。正体はオルトロスギルディの半分であり影。そして意思を持った最終闘体の姿だった。 アルティメギルの首領にオルトロスギルディとして従うフリをする一方、裏ではフレーヌにテイルギアの技術を託すなどしてアルティメギルの壊滅を狙っていた。 彼女のこの姿は以前にオルトロスギルディとして闘ったことのある''カエデ''そのものであり性格も若干影響されている。



 どうして私はこんなところに居るんだろう。

 空を見れば天高く高層ビルがそびえ立ち、地面を見れば少しおしゃれなタイル調のアスファルトが一面に広がっている。 そして左右を見れば人、人、人、人だらけ。

 取り敢えず近くにあるベンチへ腰掛け、遠い空を眺めていると、私をこんな所へ連れて来た人物が駆け寄って来た。

 

「ほい、ジュース」

「ん、ありがと」

 

 炭酸のジュースをその人物から受け取り、蓋を開け一口飲み込む。  隣に座った人物もまたジュースの蓋を開け、一気にグビグビと飲んでいく。 よっぽど喉が渇いていたらしい。

 

「それで、こっから何処行くの? 全部奢りって言うからついて来たんだけど」

「え、そうだっけか……?」

「冗談」

 

 少しからかってみたけど、想像以上に慌ててしまったみたい。 流石にどんな相手だろうと一方的に奢られるのは私はあんまし好きじゃないし、彼氏や旦那じゃあるまいし。

 

「でもよ、伊志嶺がOKしてくれるとも思わなかったから少しビビったぜ」

 

 おそらく、今のこの状況の一緒にお出かけしている事を指している。

 

「別に、嵐にはいつもお世話になってるからね。 ……主に属性力の方でね」

 

 事の発端は速水がテイルシャドウとなった翌日、学校で嵐が三日後一緒に出掛けて欲しいというお願いをしてきたところからだ。 当然、私は気がのるはずもなく最初は断ったけど、理由が理由なので承諾し今に至ります。

 結局、サラマンダギルディが消えた後も、新しいエレメリアンが現れる事もなく、世界が消える事もなく、今のところはまあ平和だ。

 しばらくこの平和を満喫していたいところだね。

 ……そういえば、付き合った時一度もデートとかしてないから嵐と二人で出掛けるのはこれが初めての事だ。

 

「そうだ、お昼は奢ってくれるって言ったよね!」

「ああ、それは確かに言った」

 

 一応確認のためだけど一方的に奢られるのが嫌いなだけで私は奢られるのは嫌いじゃない。 あとでちゃんと何かしらお礼はするつもりだ。

 私と嵐はベンチから立ち上がり、目的のお店へと歩を進める。

 

「そういや、ちゃんと俺の言ったようにしてくれたか?」

 

 歩きながら嵐が話し始めた。

 

「あー、フレーヌ達には秘密って事でしょ? 秘密にしといたけど、何で秘密にする必要あるわけ?」

 

 何か恥ずかしい事や、犯罪をするわけでもない。 ただ出掛けるだけなのに何を秘密にする必要があるんだろう。 わざわざ待ち合わせの駅も最寄りから二駅ずらしてたし。 フレーヌに頼めばカタパルトですぐ目的地へと行けるんだけどな……。

 休日なだけあって電車は混んでたから、私はやっぱりカタパルトの方が良かったかなぁ。

 それによくよく考えたら私たちがしてるブレスには確かGPSが……

「いや、あいつら……特にフレーヌはめんどくさい事になるかなって」

「めんどくさい事?」

「えっと、なんでもない。こっちの話だ……」

 

 よくわからないけどフレーヌはあれかも、聖の五界が来てるのに呑気にお出掛けとかそう言うのかな? このことは特に追求もせず他の話へと移っていく。

 クラスの男子の変な話とか、サッカーの試合の話とか歩いている間色々話題は尽きなかった。

 

 

 そうこう話している間に、私が行きたかった目的のお店の看板が見えてきた。

 何ヶ月か前に雑誌で話題になっていたカフェだ。 落ち着いたレトロな雰囲気が売りらしく女子高生に大人気で私のクラスの女子達も何回か行ったことがあるらしい。 私が志乃とよく行っているパターバットとはまた違う雰囲気がある。 ……ちなみに私はテイルホワイトとして闘っていたため流行りの場所にいく時間がなかった。 ようやく普通の女子高生と同じ事が出来るのだ。

 心がフワフワするこの感じ、久しぶりだなあ。

 

「さ、早く入ろ♪」

「お、おい!」

 

 嵐の手首を掴み、私は走って目当てのカフェへと早足で入店した。

 カランコロンという定番の音を聞きながら、話題のカフェに心が躍る。

 

 

 奏と孝喜が並んで歩いている後ろ……百メートル程のところで二人を見つめる二つの人影がある。

 一人はハンチング帽を目深に被り、コートの襟を立て探偵のような服装をしているが彼女の髪型や顔とは不相応に思える。 もう一人は彼女よりも小さく、白いニット帽を被り赤い縁メガネをつけているが自慢の赤い瞳は主張をやめておらず見るものを反射している。

 

「フレーヌの言う通りだね、まさかあの二人が一緒に出掛けてるなんて……」

 

 帽子のツバを少し持ち上げ、クリッとした目を出し、前にいるフレーヌに話しかける志乃。 それに対しフレーヌはメガネを光らせ答える。

 

「フフフ、私のレーダーは強力なんです。奏さんが私たちに隠し事をしているのなんて仕草でわかりますよ」

「そ、そういえば黒羽はついてこなかったの?」

 

 聞こうと思って忘れていたのか、何かヤバイものを感じたのか志乃がこの場に黒羽がいない事をフレーヌに問う。

 

「黒羽さんなら誘ったんですが興味ないと言われまして」

 

 黒羽が興味ないと言う様が容易に想像する事ができ、苦笑いする志乃。

 

「ていうか、こんな格好してたら逆に目立つような……」

 

 店のガラスに映った自分の姿をまじまじと志乃は見つめた。

 この街中では志乃もフレーヌも明らかに浮いている。

 

「あれ? 二人を見失いました!!」

 

 いつの間にか人通りがかなり多くなっており、どの道を曲がったのか、どの店に入ったのか背の小さいフレーヌではわからなくなってしまった。

 当然、志乃も見ておらず完全に二人が何処に居るのかわからない。

 

「しょーがないね……帰ろ━━━」

「━━━━五十メートル先の飲食店に入っていったわよ」

「「え?」」

 

 志乃とフレーヌが辺りをキョロキョロ見回してる中一人の女性が隣に立つ。

 白いシャツに黒のベスト、薄茶色のスキニーという出立ちで綺麗な瞳を隠すサングラスをしている彼女だがもっとも目を惹くのは黒く輝くツインテール。

 

「く、黒羽!?」

「興味なかったんじゃ…」

 

 ジト目で黒羽をみるフレーヌ。

 

「これから完全な人間として生きる身としては観察は怠ってはいけないと思ってのことよ」

「それはいいけど黒羽、その服どしたの?」

 

 この世界に来て、仲間になった時から彼女は服がないといっていつものセーラー服を着ていたのだが、今は違う。 志乃も自分の服をあげるか一緒に買いに行く事を考えていた。 もちろん下着も。

 

「ホワイトの部屋から拝借したのよ」

「あっ……そう」

 

 続けてどう拝借したのかフレーヌが聞くと平然とピッキングして家入ってと黒羽が答えている。

 

(か、帰りたい……)

 

 そう思いつつ、志乃もフレーヌと黒羽の後をついて行くあたり、興味はあるようだ。

 

 

 うーん、やはり評判通り美味しかった。 一番美味しかったのはやっぱり看板のチーズケーキ! 値段もそれなりだけど市販のものとは格が違うのがもう見た目でわかった。勿論、味もそう。天にも登る気持ちを味わう事が出来た。

 これだけで今日、嵐について来たのが良かったと思える。

 ウキウキな私と対照的に嵐は何故か元気がない。

 

「お前、あんな食うのかよ……」

 

 財布の中を見て落ち込んでいるようだ。 ……そういえばかなりたくさん注文しちゃったな。反省しておこう。

 悪いことしたかな。

 

「まあまあ、次は私が奢るからさ!」

 

 嵐の背中を押し、次の目的地へと向かう。

 次は嵐が行きたいと言っていたこの近くに新しく出来た大きな水族館だ。 なんでも日本では貴重なジンベエザメが飼育されているらしい。

 そういえば、嵐が魚好きって言うのも初めて知った。 ……属性力に魚属性とかあるのかな。

 

 

 水族館行きの無料バスへと乗り、私と嵐は水族館へと到着した。 二人分のチケット買い、中へ入るとまずはお触りのコーナーだ。 ウーチンギルディ……じゃなくてウニやナマコといった生物を直接手で触る事ができるらしい。

 

「あれ? 奏触んないのか?」

 

 颯爽とスルーしようとしたのだが嵐に呼びかけられ歩を止める。

 

「ナマコはちょっと……」

 

 なんとなく嵐は察してくれたのか、特に追求もせずドーム状の廊下を歩き出した。

 

「私ナマコ触るの初めてなんだー♪」

「私もです! プニプニしてますねっ!」

「こ、これを人間は食べるのね……」

 

 なにやらさっきのお触りコーナーでやたらと盛り上がってる女の子がいるらしい。 チラッと見たところどうやら三人組のようだ。 二人は私と同じぐらいの身長で後の一人は小さめだけど、高校生だろうか。

 前を歩く嵐の元へ駆けるとすぐに次のエリアへと入る。

 

「ここは……熱帯魚やらがたくさんいるみたいだな」

 

 めんどくさくて説明を省いたね、嵐。 まあ私も説明なんて出来ないけど、ようはメジャーな魚がたくさんいる場所ってところかな。

 

 一際目立つ大きな水槽には大小様々な魚が泳いでいる。

「スズキ、マグロ、クラゲ、ジェリーフィッシュギルディ、シーホースギルディ、クラーケギルディ、シャークギルディ……あれ?」

「おい……大丈夫か?」

「う、うん……」

 

 私としたことが…闘ってきたエレメリアンが海洋生物ばかりだからそれを見ると無意識に頭の中に浮かんできてしまう。 これはある種の職業病だろうか。

 水族館ですら闘いを忘れさせてくれないエレメリアン……許すまじ!

 

「うわー、おっきいねえ」

「私もこんな大きな水槽は初めて見ました!ですが私の世界では━━━」

「なんだか前いた場所を思い出すわ……」

 

 先ほどのお触りのコーナーにいた三人組だろうか、彼女達もどうやら順路に沿って水族館の中を見て回っているらしい。

 

「この先でイルカショーあるらしいし行こうぜ伊志嶺」

「ん」

 

 そう言われ会場に向かうとかなりの混雑具合だ。 前の方に座ると水がかかるのはわかりきっているため上の方の席を陣取る。

 さっきの三人組も会場に入るなりなんと不自然に空いている最前列中央の席へと座った。水を被りたいのか、それとも知らないのか。

 イルカショーまで嵐と話をして暇を潰すことにした。

 

「ドルフィンギルディっているのかな」

「え?」

「いやー、私まだ闘ったこと無いからさドルフィンギルディと。 もしいたらオルカギルディ見たいにマスコットを前面に押し出した感じなのかなーって思ったり」

「専門家かよお前」

 

 そうこう話している内にイルカショーは始まり、可愛いイルカ達が会場のプールを右へ左へ泳いでいく。

 

「わー!!」

 

 可愛い、とても可愛い。スマホのカメラでの連写が止まらない。 なんかこう、日頃変態達の相手をしていたため汚れていた心を綺麗に浄化してくれるような気持ちだ。

 トレーナーさんの合図に合わせ、高いところに吊るされたボールを触ったり、大ジャンプをしたり、フラフープのような輪をくぐったり…そしてクライマックスの……イルカによる観客への水かけ……。

 

「ビショビショだよー……」

「わ、わざと水をかけましたね!」

「……寒い」

 

 やっぱり前に座っている三人組はみんな綺麗にイルカから水をかけられてしまった。 今日は結構気温低いし、なんだか可哀想だな。

 ショーも終わりぞろぞろとお客さんが帰っていく中、私と嵐は次はどこに行こうかと席に座ったまま思案している。

 

「じゃあ深海コーナーだな!」

 

 パンフレットを見ながら話していた嵐が立ち上がり歩き出すと私も続いて立ち上がり後についていく。

 

 

 深海コーナーとはその名の通り深海をモチーフにしているエリアであり、通路は薄暗く軽くグロテスクな魚達が飼育されている。

 この前に闘ったデュラハンギルディもなかなかのもんだったけどここにいる魚達モチーフのエレメリアンが出てきたらなかなかの容姿なんだろうな。 でも確かチョウチンアンコウとは闘ったような気がするな……。

 それにしても、やっぱり怖い。

 

「お、おい大丈夫か?」

「え? あ、ごめん」

 

 私としたことが無意識に嵐の服の裾を掴んでいたらしい。

 時々立ち止まり、珍しい魚を見ては次の水槽へ、それを何度か繰り返し深海コーナーを抜けた。

 

「最後は目玉のジンベエザメだな」

 

 まさにジンベエザメの為だけのコーナーだ。

 水槽は映画のスクリーンよりも全然大きいけど、中を泳ぐジンベエザメは窮屈そう。 ここまで大きい魚がいるもんなのかと思う。

 大きな水槽を全体的に眺めることができる所に設置された椅子へと座りボケーっと見つめる。

 

「少しはリラックスできたか?」

 

 隣に座っている嵐が話しかけてくる。

 薄暗いエリアなこともあり、顔ははっきりとは見えない。

 

「まあまあ、かな」

 

 最初は全然気が進まなかったけど来てみるとなかなか楽しかった。

 

(嵐と付き合い始めた時は、こういう事したかったんだろうなあ……)

 

 昔の私なら嵐が大好きになっていたかもしれないけど、今の私じゃそうもいかないんだよね。

 

「おっきいよこのクジラ!」

「ジンベエザメです! 哺乳類ではなく魚類です!」

「へえー」

 

 薄暗い中、すっかり覚えてしまった三人組の声が響く。

 今度は二人じゃなく、志乃達も一緒にこれたらいいな。

 

 

「ええ!? 後つけてたの!?」

 

 嵐とお出かけした翌日、学校の帰りに志乃から告げられた。 私としては志乃達に話してないから全然尾行されてるとも思わなかったけど。

 

「ご、ごめんね……。 フレーヌがどうしても聞かなくてさ」

 

 そういえば前もフレーヌは嵐の事かなんかで色々暴走してたような。

 

「それにしても凄いね。 全然気がつかなかったし、探偵にでもなるの?」

 

 正直普段エレメリアンと闘っている私としては気配には敏感だと思っていたから少しだけショックだ。 聞けば私と嵐が駅で合流してから水族館を出るまでつけてたと言うからさらに驚いた。

 

「フレーヌがイマジンチャフを使ってて」

「あっ、なるほど」

 

 認識攪乱なんか使われちゃ、三人の尾行に気づくわけはないか。

 ……なんかアルティメギル以外でイマジンチャフが破られなかったのって珍しいような。

 

「まあ、私もイルカに水浴びせられたり散々だったけど」

 

 そう言うとテヘッと笑う志乃。

 そうか、水族館でしょっちゅう見かけたあの三人組は志乃とフレーヌ、そして速水だったってわけか。 確かに今思えば完全にあの三人なのに、イマジンチャフって凄いんだなと改めて実感する。

 

「今度はみんなで水族館行こうと思ってたけど、行った事あるなら予定変更ね」

「じゃ、アルティメギルを倒したお祝いに奏の家でパーっとパーティーでも!」

「はいはい」

 

 手をプラプラさせて志乃の返事に答えていると突然志乃がその手を両手で握りしめた。

 

「約束ね!」

 

 真剣な目をしているが口元は笑っている。

 

「もちろん」

 

 私も志乃の手の上に自らの手を重ね、答える。

 志乃は私達がアルティメギルを倒してくれると信じている。 今度の部隊、聖の五界の本当の力を私はまだ体感していないんだと思う。

 聖の五界の先鋒、デュラハンギルディを倒してから間も無く一週間、次は一体どんな手を仕掛けてくるのだろうか。




今回は初めてアルティメギルとは無縁の日常回です。
実はデート的なのは前から書きたかったんですが、中々の難しさです。


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FILE.47 力爆発、テイルシャドウ!

テイルシャドウ

元アルティメギルでありオルトロスギルディの半分であった速水黒羽が、オルトロスギルディのツインテール属性を核として作られたテイルブレスで変身した姿。 アルティメギルにいた頃の戦闘力よりは劣るものの素の戦闘ではテイルホワイトを上回る力を持つ。 シャドーと言わないのは黒羽の拘りで、シャドウという名前は自らを影と受け入れてのネーミングだという。また、テイルギアの核にオルトロスギルディのツインテール属性が使われている為か彼女との相性が非常に良く、初めて変身した時から新たな力を手に入れているというが……?

武器:ノクスアッシュ
必殺技:ノクスクライシス


 異空間の狭間に鎮座する艦はシャークギルディ部隊だけの頃よりも一回りも二回りも大きくなっていた。

 隊長がテイルホワイトに倒されて以降、補充部隊や聖の五界の艦がドッキングされたがこの世界を侵攻するエレメリアン達が集まる大ホールは以前から変わりなくシャークギルディ部隊の艦が使われている。

 だが、その中にある登壇台に上がるエレメリアンは時が経つに連れ変化してきた。

 クラーケギルディの弟子であり将来有望な戦士と評判であったシャークギルディ、そのシャークギルディを昔から知る盟友であり彼以上の実力を持っていたオルカギルディ、時期は短かったが確かな育成論を展開し短期間で部隊を成長させたオルトロスギルディ。 そして、初めての女性型エレメリアンであり聖の五界隊長のエンジェルギルディ。

 流石にジョーカーの隊長なだけあり、彼女の語りかけにより戦士の士気は高まり最初にテイルホワイトが現れた時と同じく自ら出撃の志願をする者が増えていた。

 

「そうですわね……それでは次はシェルギルディ、あなたにお願い致しますわ」

 

 登壇台の上から次に出撃するエレメリアンを名指しするエンジェルギルディ。

 

「はい、必ずや!」

「期待しておりますわね」

 

 選ばれたシェルギルディは周りの者に拍手喝采を受けながら大ホールの中をぐるりと一周し、やがて薄暗い廊下へと消えていく。

 

「うるさいね」

 

 中央のテーブルに座るウンディーネギルディがポツリと呟く。

 

「じゃあ、早速試して見ようかなー」

 

 ノートパソコンを閉じて席を立つと、そそくさと歩き始めるが誰かにウンディーネギルディは止められる。

 

「サラマンダギルディ……なんのつもりなの?」

「ゴッドブレスを、シェルギルディに試す気なのだろう」

「ええ、それが何か?」

 

 あっさりとウンディーネギルディは認める。 底には仲間を想う気がないのは誰の目にも明らかだった。

 

「何をしていますの?………なるほど」

 

 いつの間にか登壇台から降りて近づいてきていたエンジェルギルディはウンディーネギルディの握っている物をみて、直ぐに状況を把握したようだ。

 

「だったらサラマンダギルディが試してみてはどうですの? サラマンダギルディがそれで認めれば我が隊の者にあるだけお配りしますわ」

 

 手を胸の前で合わせ、ニコッと笑いエンジェルギルディは提案した。

 ウンディーネギルディもフッと笑いゴッドブレスをサラマンダギルディへと差し出す。

 無い生唾を飲み込むようにサラマンダギルディは無言でゴッドブレスを受け取ると、シェルギルディの後へ続き薄暗い廊下へと消えていった。

 

「どうなるか、見ものですわね」

 

 恐ろしいほど冷たく、静かな笑いが大ホールに木霊した。

 

 

 デュラハンギルディを倒してから丁度一週間の今日、久しぶりにエレメリアンがこの世界に現れた。

 ただ、そのエレメリアンは……。

 

「あんた……確か、シェルギルディ?」

 私が異世界から戻ってきた時に属性力を奪っていたエレメリアンだ。 あの時ブライニクルブレイドでお腹についていた殻はぶっ壊したはずだけど、殻は完全に元に戻っている。

 もっとも、またこのブライニクルブレイドで破壊してしまえばいいことだけど。

 ブライニクルブレイドをさらに強く握る。

 

『シェルギルディは聖の五界のメンバーではなさそうですし……単独行動でしょうか?』

 

 確かに妙だ。 言っては何だがシェルギルディと初めて闘った時そこまでの強さは感じなかった。 今ではジョーカーと呼ばれる聖の五界が到着している筈なのに何でこのエレメリアンを……。

 

「ホワイトの力を調べてるのよ」

 

 私の後ろから腕を組んだ速水が出てくる。

 また変身せずに素顔で来てるけど、大丈夫なのかな……。

 それよりも私の力を調べているって言うのは一体何のために。 ま、それは目の前にいるエレメリアンに問いただせばいいことだよね。

 

「悪いわねシェルギルディ」

「な、なんだと!?」

 

 いつの間にか速水がテイルシャドウへと変身が完了しており私の持っていたブライニクルブレイドをシェルギルディへ突きつけていた。

 

「私は、さっさと聖の五界を片付けないといけないから」

「そ、そんなあ!!」

 

 何も語らせることはなく、私のブレイドでシェルギルディを一閃すると間も無く爆発した。

 元々アルティメギルを潰そうとしていただけあって、昔の仲間にも中々容赦がない。 わかっていても中々出来ない事を速水はしている。……正直怖い。

 

「ほれっ。 帰るわよ」

 

 ブライニクルブレイドを放り投げられ慌ててキャッチする。

 速水はテイルシャドウとなったその日から今日にかけて一度も自身の武器や必殺技を使用していない。 まあ今回が実質初めての闘いにはなるけど、なんか目的があるのだろうか。

 私はエレメリンクを解除にツインテールへと戻る。

 

『ねえねえ、奏の近くにみえる赤いのなに?』

『え、どこだよ?』

『えー、見えないの? あそこよあそこ!』

 

 モニター越しに何か見えたのか何やら志乃と嵐が言い合っている。 鳥とかゴミとかが変な風に見えたんだろうか。……いや、今になって私も感じた。

 私の後ろのビルの屋上に一際強い存在感を放つ紅のエレメリアン、間違いなく前に会ったことのあるあいつだ。

 

『あ、あれは……エレメリアンです!』

 

 前に歩いている速水も頷き、私と二人で高層ビルの壁を走って登っていく。

 屋上へと着き、私の知っている彼奴と対峙する。

 

「待ってたわよ、サラマンダギルディ」

 

 速水が一歩前へ出ながら話しかける。

 

「まあ、まさかここまで早く副隊長のあなたが出てくるとは……思わなかったけどね」

 

 確かに、まだ聖の五界の隊員と思われるエレメリアンはデュラハンギルディしかいなかった。 しかもサラマンダギルディは聖の五界のアルティメギルのでの役割、''この世界を消す''という事を私たちへ伝えてきた聖の五界でも重要なポジションについていたはずだ。

 

「俺としてもここで出撃するのは不本意だが、部下を守る為にはしょうがない事だ」

「部下を守る為って、まさかアルティメギル内で何かあったわけ?」

 

 まさかアルティメギルの中で内部分裂でも起きたのか。 もしそうならこっちにとっちゃ厄介かもしれない。

 

「ふ、今回はテイルホワイト、貴様に用は無い!」

「ええ!?」

 

 そう言うとサラマンダギルディは突如自身の尾から鞭を引き出し私に向かい投げつけてくる。

 

「ん?」

 

 鞭は私を攻撃することもなく何故か周りを囲みぐるぐる回っている。

 

「まずい、逃げてホワイト!」

「え?……きゃあああああああ!!」

 

 周りをぐるぐる回っていた鞭がいつの間にか高温になり私を炎の渦へと閉じ込める。

 

(あ、熱い…………!!)

 

 アバランチクローで渦を叩いても全くビクともせず、渦はどんどん大きくなり、温度も高くなっていく。

 

『転送も出来ないなんて!!』

 

 周りの炎の音が大きすぎて通信すらろくに聞こえなくなってきた。

 ただ炎の壁の向こう側でサラマンダギルディが高笑いしているのははっきりと聞こえてくる。

 

「これぞ夏以外だろうと三十分でこんがりと海水浴に行ったように肌を焼くことができる最強の技、''太陽の加護(サンプロ)''だ!!」

『酷い! 奏は日焼け対策を怠ったことないのよ!!』

『そういや日焼けクリーム塗ってたような……』

 

 まさか自らの属性力の為に人の肌の色を変えてしまうなんて、危険なエレメリアンだ。

 今までのエレメリアンは自分の好きな属性にするように私に説得してきたけど、こいつは、聖の五界は相手を自分の属性通りにしてしまうのか!?

 熱さに耐えられず両腕と両膝を地面につくと汗がポタポタと落ちる。

 

「私がホワイトの白い肌を守るわ」

 

 シャドウが壁の向こうで呟くのが僅かに聞こえた刹那、顔を上げると彼女は自分のフォースリボンを力強く叩いてた。

 そしてとうとう、彼女の新たな武器がその腕に顕現する。

 

「私の新たなアルティメギルを潰す武器、ノクスアッシュ!!」

 

 敵だった頃の漆黒の剣ではない。

 その手に現れたのは黒と紺色が混じり柄が長い、斧。

 アルティメギルという大木を切り倒すために速水が考えた新たな武器は空を一切りしただけで周りに強風を生み出す。

 

「さあオルトロスギルディ! 久しぶりに楽しもうか!!」

 

 そう言うとサラマンダギルディの背中から豪炎が噴き出し彼の右手に集まると巨大なハンマーを形成した。

 

「前にも言ったはずよサラマンダギルディ。 私はテイルシャドウ。そして楽しむためじゃない、アルティメギルを潰す為に私はあなたを倒すわ!」

 

 一瞬の沈黙の後、両者ともに一直線に突進すると両者の武器が火花を散らす。

 硬質の金属音は飛び散る火花よりも遅れて周囲へと響き、その火花が消える前に新たな火花が生まれビルの周りを埋めていく。 やがて火花がビルを完全に覆い尽くし、周りのビル群は見えなくなっていた。

 私は、初めて本気で闘う速水黒羽を目の当たりにしている。

 私と何回か闘ったことはあるけど、いずれも私は遊ばれ、圧倒的な力の前に手も足も出なかった。 力は弱まったと速水はいっていたけど、それでも私と闘った時と同じか、それ以上の力を出して闘っている。

 弱まっているという速水の本気がこれなら、アルティメギルにいた頃はどれだけ強かったんだろう。

 サラマンダギルディは間隙を縫ってハンマーで斧を弾くと、大きく後ろに跳び速水と距離をとる。

 

「テイルシャドウも日焼けするがいい!!」

 

 サラマンダギルディが両手を合わせると強烈な熱波が速水を襲う。

 防御に入るか回避するか、速水は直前まで熱波を引きつけるとなんと自らの変身を解除し、元の姿となり熱波を無効化した。

 

「な、何!?」

 

 全く予想だにしなかった行動をしたせいでサラマンダギルディは驚きを隠せない。

 

「変身する時や解除する時が一番無防備なのよ? 外部からの干渉を受けないよう一番強固なフォトンアブソーバーを使うのは常識よね」

 

 まさか、そんな闘い方があるなんて……。

 さすがにテイルギアの装備をよく理解しているようだ。

 得意げな表情をすると再び変身し、ノクスアッシュでサラマンダギルディへと一斬を見舞った。

 

『しかし無茶な事をしますね。 タイミングを間違えば熱波を生身の体で受けていたところです』

 

 通信機から聞こえるフレーヌの声に身震いした。

 私は絶対にやめておこう。

 

「くっ……!」

 

 サラマンダギルディはハンマーを大きく振りかぶり速水がガードしている斧の上から強かに打ちつけビルの屋上を粉砕し、両者ともにしたのフロアへと落ちていく。

 

「黒羽!!」

 

 大きな穴へと目一杯大きな声で叫ぶ。

 

「何度も言わせないで、私は……テイルシャドウよ!」

 

 穴から跳び再び屋上に降り立ち斧を構える黒羽。

 間も無くサラマンダギルディも屋上へと跳び跳ねて着地する。

 

「ふはははは、良いぞ!良いぞ!良いぞ!こんな闘いを俺はお前としたかったんだ!!」

 

 そう言うと、最後の攻撃とばかりにサラマンダギルディは咆哮を上げ黒羽の元へと突進してくる。

 

「決着をつけましょうか……」

 

 アルティメギルにいた頃から変わらない、美しいほど黒く輝くツインテールをたなびかせノクスアッシュを逆手に構える。

 

「ブレイクレリーズ!!」

 

 銀色の刃の部分が削れ落ち、さらに強大な光の刃が姿を現した。

 

「今ここで、私は……オルトロスギルディとともにあなたを倒すわ!!」

「受け止めてやるぞ、テイルシャドウウウウウウ!!!」

 

 直後逆手に持ったノクスアッシュをサラマンダギルディへと投げつけると回転しながらまず一斬。

 

「く、ぐおおおお!!!」

 

 しかし、サラマンダギルディは倒れない。

 再び咆哮を上げ黒羽の前へと立ち、ハンマーを振り上げる。

 危機的状況にも関わらず、速水は笑っている。

 その時、先ほど投げつけたノクスアッシュがまるでブーメランのように戻ってくる事でさらに一斬。

 

「な、なにぃ!?」

 

 戻ってきたノクスアッシュは素早く黒羽の手に握られて、サラマンダギルディにとどめの一斬をお見舞いする。

 

「ノクス……クライシス!!!」

 

 黒羽の必殺技によってサラマンダギルディの縦へと刻まれた傷が広がっていく。

 

「ぐ、ぐああああああああああああああ!!!」

 

 黒羽がサラマンダギルディへと背を向けた瞬間大爆発が巻き起こる。

 それと同時に私の周りを回っていた鞭は力なく地面へと落ち、炎の渦も消えていく。

 猛烈な爆風に自慢のツインテールを揺らしながら黒羽は私をみてフッと笑顔になった。

 

 

 爆発した直後にその場に大の字に倒れこむサラマンダギルディ。 黒羽はゆっくりとサラマンダギルディへと歩み寄った。

 サラマンダギルディは息も絶え絶えに口を開く。

 

「まさか、力が弱まったお前にこのザマとは……情けない限りだ」

 

 黒羽は何も言わずにただその場に立ち尽くす。

 

「本当に弱かったのはお前の強さを図る事ができなかったこの俺だ……」

 

 黒羽は膝立ちをしサラマンダギルディへと近づき口を開く。

 

「それが人間とエレメリアンの差ね。 何かを愛するだけじゃない、人間の心には他にも複雑な感情がある。 それを糧としたおかげで私はあなたに勝つことが出来たのよ、サラマンダギルディ」

 

 そう言うと立ち上がり黒羽は私の元へ歩み寄り肩を貸してくれた。  そのまま二人でサラマンダギルディへと再び歩み寄る。

 

「予測不能の人間の力もっと、見てみたいモノだな……」

「あなたにもうそんな力は………!」

 

 無理するなと諭そうとしたらしいが、黒羽はサラマンダギルディの持っている黒い石を見て表情を変えた。

 

『黒い……属性玉でしょうか?』

 

 見た所確かにいつもの属性玉の色違いのようだけど、ただそれだけの物なら黒羽がここまで同様するわけがない。

 

「やめなさい! それを使うとあなたが!!」

「ああ、だから……今使うのだ!!」

 

 そう言うとサラマンダギルディは黒い属性玉を自らの胸に打ちつける。

 黒い属性玉は体内へと吸い込まれていくと、サラマンダギルディは爆発寸前のように激しい放電を始める。

 

『まさか、わざと黒羽さんの必殺技を受けたんじゃ……!?』

 

 自分を追い込んで、黒い属性玉を使わざる得ない状況を作り出したのではと、推測するフレーヌ。

 激しく放電しながらサラマンダギルディは立ち上がり、頭を抱える。

 

「ぐ、ぐおおおおおおお!!」

 

 やがてサラマンダギルディの象徴とも言える紅の体にひび割れが入り剥がれ落ち始める。それが全て剥がれ落ちると先程までの体色とは違う、金色に輝く体となった。

 

『うげー……きめえ……』

 

 色が変わっただけではない、左右の腕の先から伸びる鉤爪、倍以上に伸びた尻尾、そして体の代わりに赤く光る双眸。

 もしかしてこれは……。

 

『これって、シャークギルディの時の同じやつ!?』

『ええ、おそらくサラマンダギルディの最終闘体!』

 

 やはりそうか、でもシャークギルディの時と比べて明らかに何か様子がおかしいのが気になる。

 だが、その疑問は黒羽によって早くも解決することとなる。

 

「確かに最終闘体だけど、あれはアルティメギルの科学によって無理矢理進化させられたもの。 私やシャークギルディが辿り着いた最終闘体とはまるで別物よ」

 

 さっき胸に埋め込んだ黒い属性玉がその発明品、という事だろうか。

 

「おそらくサラマンダギルディは自分の身をもってゴッドブレスがどれほど危険な物かを他のエレメリアンに伝えているんだわ。 昔からそういうやつよ……!!」

 

 やがて苦しんでいたサラマンダギルディは声を沈め、静かにその場で立ち尽くす。

 強制的な進化が、終わった。

 何分ほど経っただろうか、突然沈黙は破られた。

 

「っあ!?」

 

 サラマンダギルディの尻尾が十メートル以上伸びてきて私にヒットしてきた。

 

「ホワイト!」

 

 私はそのままビルの屋上を転がる。

 

「ぐ、ぐああああああああああ!!」

 

 再び大声を上げるとサラマンダギルディは今度は黒羽の元へ、両腕の鉤爪を構えながら突進していく。

 黒羽はその両方の鉤爪を見事に斧で防いで見せた。

 

「なるべく、まだ使いたくはなかったけど……しょうがないわね」

 

 黒羽に迫っているサラマンダギルディをアバランチクローを投擲し彼女と距離をもたせる。

 私は黒羽を見て頷き、その意図がわかったようで黒羽も頷き返す。

 

「いくわよ、フェンリルギルディ!」

 

 新たなエレメリアンの名を叫び、彼女が手にしたのは━━━━白いブラジャーだった。

 

『こんな時に何ふざけてんだ!』

 

 この場に相応しくない物の登場により、男である嵐が一番最初に突っ込みをいれる。しかし、白い目で見ていた私達の前で白いブラジャーは光り輝き、なんとも機械的で神秘的な……やっぱりブラジャーに進化した。

 

「これが進化装備(エヴォルブアームズ)よ」

 

 進化したブラを黒羽はゆっくりと自分の小さな胸へと被せると荘厳な光が辺りを包み込む。

 リボンや装甲が激しいスパークと共にその煌めきを取り込み、変化していく。

 

「あなたを、止めてみせる……!」

 

 サラマンダギルディは聞こえていただろうか、かつてアルティメギルにいたこの少女の覚悟の言葉を。

 

「これが私の、テイルシャドウのアンリミテッドチェイン!!」

 

 テイルシャドウとして変身してから間もない彼女がさらに新たな進化をし、目の前のエレメリアンと対峙した。




速水黒羽は主人公だったのかというくらいの活躍。
ツインテール嫌いなホワイトはこの先一体どうなるのか。


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FILE.48 進形態

 速水黒羽を中心として、鬼のように強く風が巻き起こる。

 

「これが私の、テイルシャドウの……アンリミテッドチェイン!!」

 

 あれが、黒羽のテイルギアが進化した進化形態……究極のテイルシャドウ!

 黒羽の小さな胸に被せられたエヴォルブアームズに全くパッドは入っておらず大きくなってはいないが、それ以外の部分は全てが鋭利に、より攻撃的にパワーアップしている。

 

『テイルシャドウのエヴォルブアームズ、アンリミテッドブラですね!!』

 

 アンリミテッドブラ……!!

 とても強そうな響きだ!………ブラジャーじゃなければもっとカッコイイんだけどね。

 自らの装甲以外にも、彼女が手にしている武器は先程のノクスアッシュよりも刃が大きく先端にも新たな刃がつけられ、より迫力あるデザインへと進化している。

 しかも周りにはスパークが迸り、進化した彼女をより引き立てている。

 

「ホワイト、今日はゆっくり休めるわね」

「……じゃ、遠慮なく」

 

 黒羽は自分で決着をつけるつもりだと、私に手を出すなと遠回しにそう言っている。

 まあ、私が手を出したところであのサラマンダギルディは歯が立たないだろうし、素直に黒羽に任せるのが吉だ。

 テイルシャドウの迫力ある進化形態を見て、先程まで見境なく攻撃をしていたサラマンダギルディは大人しくなりその場に立ち尽くす。

 

「ぐう…………テイル……シャド……」

「サ、サラマンダギルディが……」

『サラマンダギルディが正気に戻りかけているようですね』

 

 黒羽の迫力に圧倒されたのか、サラマンダギルディが正気に戻りかけている。

 

「ぐおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 一瞬自分を取り戻しかけたみたいだが、再び雄叫びをあげ、周りの物を破壊しはじめてしまった。

 

「があああああああ!!」

 

 突如として手のひらから紅い光球を作り出し、サラマンダギルディは上空へと打ち上げた。

 

「何あれ……ってなんか熱い!?」

 

 ある程度の高さまで上がると光球は止まり、眩いばかりの光と熱波が周囲へと降り注ぐ。

 これはまるで、太陽!?

 

『これは、おそらくサラマンダギルディが先程見せたサンプロの進化版です。解析によると……対象を一人から半径二キロにいる全ての人にまで広げ、真夏と同じレベルの太陽光や熱波、紫外線や赤外線に至るまでをあの玉から放射しています!』

『奏、すぐ日焼け止めクリームを塗って!!』

 

 フレーヌの言うことは確かなようで、まもなく汗が私の肌の上を流れていく。 だが残念なことに、秋のこの時期に日焼け止めクリームは持ち合わせていない。

 その様子を黙って見ていた黒羽は決然と目を見開き、進化したノクスアッシュを構える。

 少しだけ、彼女の頰に汗が滲んでいるのが見えた。

 サラマンダギルディに正気がなく、黒羽が何も言わなくてもわかる。

 アルティメギルを潰すという覚悟を強め、風に舞う黒いツインテールが最終激突の合図となり、攻撃が始まる。

 腕を地面に着き、先程と同じように尻尾を伸ばし叩きつけようとする攻撃を黒羽は素手で薙ぎ払い迎撃する。

 

「ぐお!?」

 

 尻尾が千切れたとこで黒羽はサラマンダギルディの少しの隙をつき、ノクスアッシュの柄で叩きつける。

 続いてサラマンダギルディが仰向けに倒れると顔面に容赦のない膝打ちを食らわせ、さらに進化した斧で斬りつける。

 

「ぐあああああああ!!!」

「!?」

 

 しかし、いつの間にか再生していた尻尾により攻撃は防がれ黒羽は強かに叩きつけられた。

 

「ちっ!」

 

 ビルの屋上から落ちるすれすれのところで斧を突き刺し何とか落下せずにすんだ。 ただそれだけでは終わらず、黒羽の背後からまた黄金の尻尾が迫ってくる。

 

「はああああああああ!!!」

 

 尻尾を受け止め、逆に黒羽はそれを一本背負いのように投げ、サラマンダギルディはビルの外壁へと叩きつけられ、ガラスを破るとビル内へと転がっていった。

 それを見た黒羽はまた直ぐに尻尾を引き、ビル内からサラマンダギルディを引きずり出すと今度は高く跳躍し屋上の床へと叩きつける。

 

「ちょっと、ビルは壊しちゃダメだからね!」

「わかってるわ」

 

 本当にわかっているのだろうか。

 しばらくして再び煙の中から現れたサラマンダギルディは頭を抱え先程よりも苦しそうに唸っている。

 

「さあ、何をする気?」

「ぐがが…………!!」

 

 サラマンダギルディは腕を胸の前でクロスすると自らの腕についていた鋭利な爪を更に伸ばし剣のようにすると、再び疾駆し剣撃の嵐を浴びせる。

 

「ぐはあああああああああ!!!」

 

 黒羽は剣撃の嵐を一つ、また一つ進化したノクスアッシュで弾き隙を見つけては斬りかかる。

 

「はああああ!!」

 

 大きく振りかぶり、振り下ろしたノクスアッシュと爪の剣が交錯し火花以上の黒炎があたりに噴き散る。

 両手を上段へと構え、無防備になったサラマンダギルディの横腹へ黒羽は渾身の蹴りをいれた。

 

「ぐ…………」

 

 僅かな呻き声をあげながら、サラマンダギルディは地面を抉り後退していく。

 その隙をつき、黒羽は進化したノクスアッシュで浮いている光球を一閃。 すると浮いていた光球は散り、周囲の温度が下がっていった。

 

『奏、肌大丈夫?』

 

 通信が入ると志乃の声が聞こえてきた。

とりあえず二の腕を見てみると、どうやらまだ焼けていないようだ。

 

「うん、大丈夫」

『良かったな』

「うん……え?」

 

 安堵した声が聞こえて思わず返事をしたけど、その声は嵐だ。

 

「なんで嵐が私の肌の心配してんの」

『な、流れだよ流れ!!』

『黒羽さんが闘っているのに二人でラブコメはやめてください!』

 

 サラマンダギルディは黒羽の行動を邪魔できずにいるとやがてその場に倒れこみ、頭を抱え唸る事しかできていない。

 

「サラマンダギルディ、馬鹿な事はもう止めなさい」

 

 サラマンダギルディを心配する黒羽の言葉は届いているのだろうか。変わらずサラマンダギルディは唸る事しか出来ない。

 

「あなたは真剣に私と、オルトロスギルディと闘いたいと言ったはず……それがこれだって言うの?」

 

 サラマンダギルディの近くまで黒羽は歩み寄る。

 

「ぐぐ……があ!!!」

 

 強烈な右ストレートをサラマンダギルディは繰り出す。 が、黒羽は楽々とそれを左手で受け止めた。

 

「……悪いわね」

 

 サラマンダギルディの腕を弾き、今度は黒羽が左手で渾身のストレートをサラマンダギルディの顔面へと放つ。 当然、サラマンダギルディは吹っ飛び、コンクリートを砕いていく。

 

「ブレイク……レリ━━━━ズ!!」

 ビル全体が地震のように揺れると同時に、アンダースーツと一体化していたアンリミテッドブラがノクスアッシュの柄に合体。

 地面へと斧を振り下ろし、そこから巨大なオーラピラーがサラマンダギルディの足元から発生し空へと持ち上げる。

 

『空中で相手をバインド!? オーラピラーをこのように使うなんて……!!』

 

 シャドウの放ったオーラピラーはサラマンダギルディを空中でバインドし、身動き取れない形にしている。 その様はサラマンダギルディ自身が太陽となっているように見えた。

 黒羽の進化した腰の装甲から蒸気が噴き出し彼女自身もバインドしたサラマンダギルディよりさらに高く空へ飛んだ。

 

「ルナティック━━━━━━━━クライシス!!」

 

 サラマンダギルディ目掛けて斜めに落下し、その勢いのままノクスアッシュで真一文字に切り裂く。

 必殺の一斬に、サラマンダギルディは空中で爆発し、ビルへと落下した。

 

 

 力無く落下し、地面に衝突したサラマンダギルディ。 再び黒羽と共に歩み寄るとサラマンダギルディは最終闘体から元の姿に戻っていた。

 

「サラマンダギルディ、あなたとの最後がこれだなんて残念で仕方ないわ」

 

 どうやらまだサラマンダギルディは息があるようで、首だけを僅かに動かし口を開いた。

 

「俺は……同胞を守りたかったんだ。 訳のわからない発明品で、同胞を傷つけたくはなかった」

「わかってるわよ、それくらい」

 

 そう言うと黒羽はその場にいるサラマンダギルディから歩いて離れていく。

 

「ちょ、ちょっと黒羽……」

「やめてくれ」

 

 黒羽を呼び止めようとしたがサラマンダギルディに止められる。

 

「最後は……見られたくはないのでな……」

 

 そう言っている間にも黒羽はどんどんサラマンダギルディから遠くへ歩いて行くと別のビルへとジャンプしていき、やがて姿は見えなくなった。

 

「テイルホワイトよ……頼みを聞いてくれ」

 

 私が頷くとサラマンダギルディは遺言のように重々しく言葉を紡いでゆく。

 

「オルトロスギルディはたくさんの戦士のツインテール属性を奪ってきたが、速水黒羽はツインテールの戦士を泣かせた事はないのだ。 信じては貰えんだろうが……この俺も……」

 

 サラマンダギルディが私に忠告してきた時からなんとなく、彼が普通のエレメリアンではないと思っていた。

 でも━━━━

 

「そんな事改めて言われなくても黒羽のこと、信じてるし」

 

 少しだけ笑みを浮かべサラマンダギルディは続ける。

 

「頼もしいな。お前のような奴が我が隊の隊長なら、少しは俺の運命も……変わったのかもしれない」

 

 私はサラマンダギルディに違和感を感じた。

 

「あんた、本当は正気に戻ってたんじゃ……」

 

 サラマンダギルディは満足気に笑うと、体の至る所から放電が始まる。

 

「忠告することがもう一つある。 我が隊の隊長エンジェルギルディは底知れぬ闇と力の持ち主、今のお前達では倒せまい」

「無視したうえに余計なお世話すぎるけど……」

 

 体の放電が一際大きくなり、サラマンダギルディが爆散するまであと十秒もないと言うところで、最後の一言を発した。

 

「人間の底力、羨ましいな……」

 

 私が少し離れたのを見届け、サラマンダギルディはその場で爆散し、属性玉が私の元へふわふわ飛んできた。

 自分を犠牲にし、部下の事を誰よりも想いすぎた誇りある戦士は満足した表情でこの世界から姿を消した。

 

 

 異空間に浮かぶアルティメギルの艦。

 いつもの大ホールのある艦とは別の聖の五界が乗ってきた艦にその隊長エンジェルギルディとウンディーネギルディはいた。

 

「サラマンダギルディが……わかりましたわ」

 

 薄暗い部屋の中でエンジェルギルディがどんな表情をしているのか、ウンディーネギルディにはわからない。

 

「サラマンダギルディを討ったのはオルトロスギルディの影、改めテイルシャドウ、新たな戦士らしいね」

 

 ウンディーネギルディがパソコンをカタカタ操作し、シェルギルディの送ってきた画像をエンジェルギルディへと見せる。

 

「なかなか見事なツインテールですわね。 でもお嬢様力はテイルホワイトには遠く及びませんわ」

 

 お嬢様属性の持つエンジェルギルディにしかわからない単語をいきなり話され、当然ウンディーネギルディは困惑し黙り込む。

 

「と、ところでサラマンダギルディにゴッドブレスを使わせたのは計画の内なの?」

 

 シーンとした空気に我慢できずに話題をそらす。

 パソコンを閉じ、ウンディーネギルディはまっすぐエンジェルギルディを見据えた。

 

「どうでしょうか? 何にせよ貴重なデータが手に入りましたわね」

 

 エンジェルギルディはテーブルに置いてあった本をとるとペラペラとページをめくっていき、何十ページが進んだところで手を止めウンディーネギルディへと見せる。

 

「ゴッドブレスの設計図……まさか、量産しろと?」

「ええ、科学班と太いパイプを持つあなたなら容易いことではなくて?」

 

 無言でウンディーネギルディは本を受け取る。

 

「そういえば、テイルホワイトはどうですの?」

「どうって?」

「テイルホワイトの属性力は妖艶でいてかなり魅力的ですわ。 ですが、正直そこまでの強さは感じられませんし、彼女が私達と対等に闘えるとは思えませんの」

 

 後ろにあったソファーへと腰掛け、エンジェルギルディは続ける。

 

「ですが、私にわかるのですわ。 彼女が底知れぬ力を秘めていると……」

「あれが? 私にはただの何処にでもいるツインテールの戦士って感じだったけど」

「まだまだですわね、ウンディーネギルディは」

 

 呆れ気味にエンジェルギルディは呟き、ドアへと歩いていく。

 

「テイルホワイトが力を解放した時、私たち最大の脅威になりかねませんわ」

 

 ドアの前で立ち止まると再びウンディーネギルディと向き合う。

 

「芽は、潰しておくのが最良の選択ですわ」

 

 そう言い残し、エンジェルギルディはドアを開け部屋を出ていった。

 

 

 放課後、何処に寄り道をするわけでもなく家に帰り制服のままリビングのソファーへとダイブした。

 

「ちょっと、制服シワになるでしょ?」

 

 台所から私のお母さんが登場する。

 

「疲れたのー」

 

 特に何かを言うこともなく、お母さんはリビングから出て行った。 おそらく二階にでも上がって洗濯物を取り込みにでも行ったんだろう。

 ソファーの上で仰向けになり、リモコンをとってテレビをつける。

 夕方のニュース番組では変わらずテイルホワイトの事を取り上げ、今までの闘いのVTRを流している。

 

『ここで、先日現れた新たな戦士のVTRをごらんください』

 

 そう言うと画面が切り替わり、テイルシャドウがデカデカと映し出される。

 

『先に言っておくけどテイルシャドウのグッズを出す場合利益の八十パーセントは私によこしなさい。 同意できないなら私のグッズは作らせないから』

「何言ってんのこの人……」

 

 VTRはそこで終わり、再びスタジオに戻るが案の定司会者やアナウンサーは苦笑いしている。

 特にテイルシャドウに触れることもなくニュースは今週の天気コーナーへと移った。

 

「奏、来週の日曜日空いてる?」

「え、空いてるけど?」

 

 いつの間にか戻ってきてたのお母さん。

 お母さんはやたら高価そうな服が二着持っていて……。私としては猛烈に嫌な予感がする。

 

「じゃあ恒例のパーティにはどっち着てく?」

 

 私のお母さんは元人気女優だ。

 芸能界の付き合いとかそういう理由で毎年パーティに行っていたらしく女優を引退してもそのパーティは毎年行っている。

 結構有名な人とか来るみたい。

 

「行かないって……毎年やってるねこのやり取り」

「だって小さい頃はついてきてたじゃない」

 

 そりゃ私も小さな時は楽しかったけど、今は挨拶やら人付き合いやらめんどくさくて……いつしか行かなくなってしまった。

 

「今と昔は違うもん」

「今年こそはって思ったのにー……」

 

 口を尖らせながらお母さんはリビングを出て行った。

 歳を考えなさい、歳を。




テイルシャドウ・アンリミテッドチェイン

黒羽が自らのツインテール属性を極め、オルトロスギルディが核であるテイルギアと非常に相性が良かったため変身の兆しはあったもののなかなか成功しなかった。 しかし、ただ一人の部下であるフェンリルギルディから最後に託されたブラジャーがトリガーなって変身した強化形態。 全身の武装がより強固に鋭利に進化するとともに武器であるノクスアッシュにも大幅な強化がなされた。 なおアンリミテッドブラにはパッドが入っておらず、装着した黒羽の胸は一ミリたりとも大きくなっていない。

武器:ノクスアッシュトリリオン
必殺技:ルナティッククライシス


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FILE.49 宣戦布告

聖の五界(セイン・トノフ・イールド)

一向に奏の世界の属性力を奪えないシャークギルディ部隊に代わり、新たに現れた部隊。 その実力は未知数でありアルティメギルに属するエレメリアンでも存在を知るものは少ない。 エンジェルギルディを隊長に四体の幹部を中心に作戦が進行される。 聖の五界の本来のアルティメギルでの役割はアルティメギル四頂軍によって属性力が奪われた世界、または奪う事の出来なかった世界を必要か不必要か判断し世界そのものを消滅させることである。

隊長:エンジェルギルディ
副隊長 火の幹部:サラマンダギルディ
科学者 水の幹部:ウンディーネギルディ
風の幹部:???
地の幹部:???



 世界の狭間に鎮座するアルティメギルの母艦。 その中に位置する大ホールの中央のテーブルにあまり見慣れない隊員が座っている。

 一体は女性型で優しい森を思わせる柔らかな緑色のエレメリアン。 一体のエレメリアンは先程のとは対照的に筋骨隆々で暗い茶色を全面に押し出したエレメリアン。

 その二体のエレメリアンが黙って椅子に腰掛けていると大ホールの隅にある薄暗い廊下からエンジェルギルディとウンディーネギルディが現れた。

 緑色のエレメリアンは二人が見えたと同時に椅子から立ち上がり深々とお辞儀をした後、手を顔に近づけ敬礼する。

 

「遅れてしまい申し訳ありません。聖の五界の風の幹部、シルフギルディ只今到着致しました!」

 

 椅子に座り、手を組んだままだが続けて暗い茶色のエレメリアンも口を開く。

 

「同じく地の幹部、ノームギルディ。 遅れて悪かったな」

 

 エンジェルギルディはノームギルディの行動を特に正すこともなく、いつものように笑顔で話し始める。

 

「待っていましたのよシルフギルディ、ノームギルディ。 あなた方の活躍なく、聖の五界は名乗れませんわ♪」

 

 手を合わせて喜ぶエンジェルギルディにシルフギルディはホッとした様子だ。

 

「遅くなりましたがこれで我々風、水、地、火が揃いましたね!」

 

 背中についている透明な羽をピコピコと元気に動かしながら拳を握るシルフギルディ。

 だが、エンジェルギルディは先程までの笑顔は消え暗い表情をして何も答えない。 かわりに後ろにいたウンディーネギルディが口を開いた。

 

「残念ながら四大精霊が揃うことはもうないんだよねえ」

 

 当然シルフギルディとノームギルディは意味がわからず、ただウンディーネギルディの次の言葉を待つだけだ。

 

「なんたって……火のサラマンダギルディがツインテールの戦士にやられてしまったんだもの」

「え!?」

「なんだと……」

 

 シルフギルディとノームギルディそれぞれが大仰に驚く。

 

「ほ、本当ですか!? 」

 

 シルフギルディがエンジェルギルディに話しかけるとようやく口を開く。

 

「ええ、残念ながら処刑対象であるオルトロスギルディの影によってサラマンダギルディは昇天していきましたわ」

 

 テーブルの上にあるパソコンを操作し、テイルシャドウがサラマンダギルディを必殺技で倒すところが映される。

 

「彼奴がオルトロスギルディの影か……。 さすがツインテール属性の塊、底知れぬ」

 

 フムと手を顎に当てながらノームギルディは映し出されたテイルシャドウをまじまじと見つめる。

 しばらくすると、ノームギルディは何かに気づいたように顎から手を離し、画面の端に写っているもう一人の戦士に注目した。

 

「こいつが噂のテイルホワイト……」

「ええ、シャークギルディやオルカギルディを一人で倒した強者ですわ」

 エンジェルギルディに説明されるも、ノームギルディは何かを考え黙り込む。

「ノームギルディの察する通り、彼女は自らのツインテール属性を極められていませんわ」

 

 パソコンを操作しエンジェルギルディは今までのテイルホワイトの戦闘映像を流し始めた。

 初戦のウーチンギルディ戦、新たな進化をアルティメギルにお披露目したオルカギルディ戦、さらに強さを増したメガロドギルディ戦。映像が切り替わるたびに彼女の攻撃は強さを増している。

 その映像の違和感をノームギルディは感じ取った。

 

「ツインテールは……変わっていない」

「その通りですわ。 アルティメギルの闘ってきた戦士は強くなる度ツインテール属性を高め、自らのツインテールを美しくしていきましたわ。 テイルホワイトには……それが見られませんの」

 

 テイルホワイトがアップになったところで映像を止めるエンジェルギルディ。

 

「彼奴のツインテールが輝く時、属性力が解放される……と?」

「ええ、あの状態でシャークギルディ達を倒してきたのですからそうなった時の我が組織の被害は計り知れませんわ」

 

 エンジェルギルディがパソコンのカーソルを右上に移動させ、赤いバツをクリックすると動画は消え青いホーム画面へと戻った。

 

「━━━━そうなる前に、属性力を頂きましょう」

 

 

 とうとう十月に突入し、季節はすっかり秋へと変化していた。

 そしてここは昼休みの教室、食堂に行く人が多いが私と志乃は二人の机を近づけ家から持ってきたお弁当を食べていた。

 

「え、あの人も来るの!?」

「志乃ってファンだったの?」

「うんうん、ドラマに出てるの見てかっこいいなーって!」

 

 先日、私のお母さんから言われたパーティの事を志乃に話したところ、パーティに来る俳優の一人が今人気らしい。……自慢じゃないけどテレビをつけたらテイルホワイトテイルホワイト報道されてるせいで最近その方面に疎くなってきている。

 

「奏も行ってくれば良かったのに」

 

 玉子焼きを食べ、美味しそうな表情を見せながら志乃は話す。

 

「私はもう興味ないって。 参加者はどっかの社長令嬢とかよく来るみたいだから私には合わないの。 それと、食べるか話すかどっちかね」

 

 私は弁当箱を包み、自分のバッグへと戻す。

 

「奏も充分お嬢様って感じするよ?」

「どこがよ。 ないない」

 

 確かに普通の人にとっては特殊な家庭ではあるけど、執事はいないし普通の住宅街に暮らしてるし普通に歩いて学校来てるし。 まあ、リムジン乗って執事やメイドさんを従えて登校するのも、昔は憧れてたっけ。

 気づけば食堂に行っていた人たちもクラスに戻って来ており、騒々しくなってきた。

 

「ほれ、次体育だしそろそろ着替えに行こ」

 

 気づけば昼休みも残り五分をきっている。

 体育はジャージに着替えないといけないし、他の授業よりも休み時間に自由にできないのがちょっとムカつくものがある。

 

「はい、奏お嬢!」

「なに言ってんだか」

 

 ぞろぞろと更衣室に向かう女子達を追いかけ、私と志乃も教室から出ていく。

 

 

 五時間目と六時間目もこの通りあっという間に終わり放課後、私と志乃で一緒に下校している。

 ただし、向かっているのは家の方向ではない。

 

「そういえば、半年くらい前もこうやって二人でこの道歩いてたねえ」

 

 紅葉が綺麗な並木道を歩きながら志乃が言う。

 

「バターパット最近行ってなかったもんね」

 

 半年も経っていないか。おそらく五ヶ月くらい前に二人でバターパットへ行き、フレーヌに出会い、今の私があるんだっけ。

 

「さ、入ろ!」

 

 いつの間にかバターパットへと到着していた様で先に志乃が、続いて私が扉を開け中に入っていく。

 喫茶店によくある扉を開けると鳴るカランカランという音も健在で少し安心する。

 店内を見回すとやはりお客さんは少ない。

 五ヶ月くらい前と違い、私たちがよく座っていた席も空いており二人でそこに座る。

 

「そういえば異世界の喫茶店に行ったって言ってたよね?」

 

 マスターに注文したコーヒーが届いたところで志乃が話しだした。

 

「そうそう、私みたいに別の世界から来たって人達がたくさん集まってるって言われて行ってみたら閉まっててさ」

「なーんだ、異世界の人ってどんな人がいたのか知りたかったのにー」

「私があった人はシルクハット被ってて顎髭少し生やしてて、確か見た目は三十代くらいだったかな」

「もしかして中世のヨーロッパみたいな世界から来た人だったりしてね」

 

 そう言うと志乃は笑い、それにつられて私も笑う。

 あの人はあの世界が気に入ったと言っていたけど、やっぱり私は志乃達がいるこの世界が大好きだし戻ってこれて良かった。

 

 

 気づけばバターパットに入ってから一時間、時間は午後五時半となっていた。

 

「じゃあ帰ろ……あれ?」

 

 帰る準備を始め、会計するため席を立ち上がろうとした時、店内が異様な雰囲気に包まれる。

 流れていたクラシックが止まり、かわりにおかしなBGMが流れ始めた。

 これは……前に経験したのと同じだ!

 すると不穏なBGMが小さくなり、誰かの声が店のスピーカーや私たちの携帯から聞こえ始めた。

 

『みなさん、御機嫌よう』

「これって……奏!」

「うん……!」

 

 お金をカウンターにいるマスターに叩きつけ、私と志乃は急いで店の外に出ると、それがあるであろう空へと目を向ける。

 やはり空には巨大なスクリーンができており、真ん中に一体の白いエレメリアンが立っている。

 あれは……コーラルギルディと同じような女みたいな体型をしている。

 

『私がこの世界の属性力奪取の任を新たに授かった聖の五界の隊長、エンジェルギルディですわ』

 

 エンジェルギルディ……!

 この白いエレメリアンがサラマンダギルディが言っていたエンジェルギルディなのか。

 

『やはり挨拶はレディーの嗜み……怠ってはいけないと思って放送していますの』

 

 それにしても……コーラルギルディと違って、やけに言動の一つ一つが女の子に近い。いや、どちらかと言うと大人の女性……もしくはお嬢様、だろうか。

 

『それでは挨拶も終えましたので……早速属性力を頂きますわね』

「「!?」」

 

 その言葉を最後にスクリーンは砂嵐に変わる暇もなく消えていった。

 

「奏……属性力を頂くって……」

「……フレーヌのところに行こう」

「うん!」

 

 今はそれしかない。

 そう思い、フレーヌの基地へと向かおうとしたところ右腕のテイルブレスが可視化しフレーヌの声が聞こえてきた。

 

『奏さん! エレメリアンが……四体同じ場所に現れました!!』

「よ、四体!?」

『既に黒羽さんが向かいました! 奏さんもお願いします!!』

「わ、わかった! 悪いけど志乃、バッグ持っててくれる?」

「うん!」

 

 通学カバンを志乃に預け、テイルギアを胸の前へと構えるとテイルホワイトへと変身した。

 そのまま跳躍し、エレメリアンが出現したという所へと向かった。

 

 

 四体のエレメリアンが同時に現れた場所は東京ドームらしいけど、東京ドームでどんな属性力を狙っているのだろうか。

 近くに着いたところでフレーヌにドーム内へと転送してもらい中に入った。

 周りを見渡すと空席しかない、つまり今日はこのドームは使われない事になっているらしい。 となると無人のこのドームに来た理由がますますわからなくなってくる。

 

「遅かったわねホワイト」

「シャドウ!」

 

 シャドウの前には四体のエレメリアンが腕を組み、こちらを威圧するように立っている。

 まず真ん中の筋骨隆々なエレメリアンが一歩前へと出てきた。

 

「我は聖の五界、地のノームギルディだ」

 

 続いて隣にいたノームギルディとは真逆の女性らしい体型をしているエレメリアンも続けて前へと出てくる。

 

「同じく、風のシルフギルディ!」

 

 ノームギルディとシルフギルディに続き、後ろにいた二体も前へと出てきた。

 

「シャークギルディ部隊、スターフィシュギルディ!」

「同じくシャークギルディ部隊、オクトパギルディ!」

 

 どうやら聖の五界の隊員は手前の二体だけで後の二体は違うらしい。

 聖の五界のエレメリアンが四体ではなく二体なら多少の気休めにはなる。

 

「行くぞ!!」

 

 ノームギルディの掛け声とともにヒトデギルディが私に、タコギルディが黒羽にそれぞれカットラスのような剣を手に襲いかかってくる。

 二人ともフォースリボンに素早く触れ、それぞれの武器を手にする事で二体のエレメリアンの攻撃をまず防ぐとすぐに反撃を開始した。

 

「でや!」

「は!」

 

 私は右足でヒトデギルディの胴に回し蹴りを、黒羽は左手でタコギルディの顔面にパンチをそれぞれ繰り出し、二体のエレメリアンはドームの芝の上を転がっていく。

 

「油断なさらない事です!」

「してないわ!」

 

 黒羽は休む間も無くシルフギルディに攻撃され、芝を削りながら後退していく。 さらにシルフギルディは黒羽に追い打ちし、私と黒羽はどんどん距離が離れていった。

 

『奏、危ない!!』

 

 志乃の声が通信機から聞こえ、後ろを振り返るとノームギルディが眼前にまで移動している。

 

「ふん!」

「きゃあっ!」

 

 ノームギルディが軽く腕を振るっただけでフォトンアブソーバーを突き破りもろにダメージを受ける。

 筋肉モリモリな奴は速さがないとかいうけどそんな事は目の前のエレメリアンにとっては全く関係のない事のようだ。

 

「休ませんぜ!!」

「邪魔!!」

 

 飛び掛かってきたヒトデギルディを今度は両足でドロップキックをお見舞いすると、ドームの天井を突き破っていった。

 

「スターフィシュギルディィィィイ!! うおおおおおおおお!!」

 

 それを見たタコギルディが私に向かい突進してくる。

 

「てや!」

 

 今度は蹴りではなくアバランチクローによる一閃。 タコギルディの致命傷になるには十分だったようで、間も無くタコギルディは爆散した。

 その後、私は素早く振り返り、再びノームギルディに向かい疾駆した。

 

「さっさと終わらせるよ……! ブレイクレリーズ!!」

 

 ドームの中に降るはずのない猛吹雪が吹き荒れ、ノームギルディを取り巻き結界を形成する。

 

「アイシクルドライブ━━━━!!」

 

 周りに吹雪を纏い、渾身の必殺技を放つ。

 絶体絶命の状況にも関わらず、いやにノームギルディは冷静だった。

 

「これまでとは……」

 

 諦めの言葉にも聞こえたそれだが、すぐにその意出ない事をノームギルディは自らの行動で証明する。

 

「きゃあっ!!」

 

 自らの喉元にまで迫っていたアバランチクローを見事なアッパーで打ち払う。

 当然、弾かれた私はそのまま地面に激突し、ドームの人工芝に大きなクレーターを作ってしまった。

 

「あ……ぐぅ……」

 

 思ったよりもダメージが大きいようで立ち上がろうとしても体が動かない。 ただの芝ならともかく、人工芝の下はコンクリートだ。柔らかい土や砂の上に叩きつけられるのとはわけが違う。

 うつ伏せで横たわる私にノームギルディの足音が近づいてくる。

 

「この世界も……終わりだ!!」

 

 僅かに動く頭を上げ、ノームギルディを見上げるとその手にはこれまでにエレメリアンが属性力を奪ってきた光輪が握られていた。

 

(ここで……終わるわけ……には!)

 

 抵抗しようとも体が動かず、光輪がどんどん私へと迫ってきていた。

 

 

 ドームの中で奏の属性力が奪われそうになっている今その時、ドームの外にある遊園地では激闘が繰り広げられていた。

 黒と緑の光がぶつかり合い、赤い火花が辺りに飛び散る。

 

「サラマンダギルディの時も思ったけど、あなた達四大精霊がこの段階で出てくるってことはエンジェルギルディは余程焦っているんでしょうね」

 

 ノクスアッシュ振るう黒羽が少しだけ余裕の表情を見せる。

 

「ふん! オルトロスギルディなんかに隊長の思惑がわかるわけないです!!」

 

 背中に生えている四本の羽根を使い、黒羽を追い詰めるシルフギルディ。

 

「私は……テイルシャドウよ!」

 

 ノクスアッシュで四本の羽根全てを弾き、ガラ空きとなったシルフギルディの胴へ蹴りを入れた。

 追撃しようとした時、フレーヌから通信が入る。

 

『黒羽さん、奏さんが危ないです! どうやらこちらの通信が聞こえてないみたいで……!!』

「わかったわ」

「行かせるわけないじゃないですか!!」

 

 ドームに向かおうとした時、目の前にシルフギルディが現れ再生した四本の羽根でまた、激しい攻撃を仕掛けてくる。

 

「邪魔しないでちょうだい。 進化、エヴォルブアームズ!!」

 

 シルフギルディを突き飛ばし、素早くアンリミテッドブラを取り出すと自分の胸に被せ黒羽はアンリミテッドチェインへと変身した。

 

「ノクスアッシュトリリオン!!」

「な、なに!?」

 

 進化した斧の一斬で四本全てを切り裂き、シルフギルディは地面へと落下し、叩きつけられる。

 

「ルナティックゥゥゥックライシーース!!」

 

 黒羽も落下し、その勢いのまま進化した斧で地面に倒れているシルフギルディを一閃した。

 

「すみません……隊長……!」

 

 その言葉を最後にシルフギルディは爆散し、属性玉を黒羽は回収すると素早くドームに向かって走り出した。

 

「待ってなさい、ホワイト」

 



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FILE.50 奪われた属性力

ノームギルディ
身長:314cm
体重:420kg
属性力:筋肉属性

聖の五界に所属する四幹部のうちの一体。 四幹部の中ではサラマンダギルディに迫る、もしくは同等の力を持つとされ、その筋肉で膨れ上がった右腕から放たれる拳は強烈なもの。幹部でありながら自らが敵地に赴き、ツインテール戦士の属性力奪取を率先して行う。 敵に同情してしまうサラマンダギルディに悪態をついていたが彼が敗れた事を聞くと驚く事から実力はかっていた様子。


 ノームギルディが光輪を操り、どんどん私へと迫ってくる。

 

(ここで……終われない……!)

「ほう……」

 

 光輪が私の体を通り抜ける寸前、最後の力でぐるりと回転しなんとか逃れる事ができた。 しかしそれも少しの気休めにすぎない。

 ノームギルディは再び光輪を操り、私に照準を合わせると一直線に発射する。

 

「ホワイト━━━━━━━!!」

 

 私に光輪が届く前に黒羽が自身の斧で叩き落とし、再び私は属性力を奪われずにすんだ。

 黒羽は私の前に立ち、斧を構える。

 

「シルフギルディは……?」

「アンリミテッドチェインになって倒してきたわ」

 

 まさか、この短い時間で倒してくるなんて本当に黒羽は強いんだと再認識する。

 斧を構え、今にも跳びかかりそうな黒羽だがノームギルディにそんな様子は一切なく腕組みをして棒立ちしている。

 

「テイルシャドウが戻ってきた上にシルフギルディがやられたとなれば……」

 

 突然ノームギルディは極彩色のゲートを生成し、なんと私と黒羽に背を向け歩を進め始めた。

 

「私が逃すと思うのかしら?」

 

 黒羽は少し顔を痙攣らせるとノームギルディの返答を待たずに斧を振りかぶり疾駆する。

 

「焦るな、テイルシャドウよ」

 

 斧を振り下ろした瞬間ノームギルディの前に五、六体のモケモケが現れ、壁となってノームギルディを守る。

 

「そのアルティロイドは聖の五界特別製だ。特別頑丈になっているぞ」

 

 確かに、特別製と言われたモケモケはアンリミテッドチェインとなったテイルシャドウの攻撃も何発か耐え、テイルシャドウに襲いかかっている。

 ノームギルディは体中に痛みが走り、まだ立ち上がる事のできない私に向かい話し始めた。

 

「やはりお前には信念が感じられぬな」

「な、なにを……!」

「お前が今まで我らの同胞を倒せたのはまぐれというやつだったのだ。 お前には闘う信念や目的がまるで感じられん、故に俺たち聖の五界、そしてアルティメギルには絶対に勝てぬ」

「わ、私だって!」

「お前が本当に闘う信念や目的があるのなら……テイルシャドウとの実力の差はどう見るのだ?」

 

 ノームギルディの言葉に、私はなにも言い返す事ができなかった。

 

「お前はもう闘えぬ。潔く身を引きこの世界の終末を目の当たりにするんだな」

 

 答えを聞けないままに、ノームギルディは極彩色のゲートへと消えて言ってしまった。

 ノームギルディが消えたのとほぼ同時にテイルシャドウが聖の五界のアルティロイドを全て倒したようで私の元へと駆け寄ってくる。

 

「何を吹き込まれたか知らないけど、ホワイトはホワイトの信念を貫きなさい」

「う、うん……」

 

 私の信念や闘う目的。

 初めはツインテールによるくだらない闘いを止めるために、嫌いなツインテールを受け入れて闘い始め、後から私が育てた属性力を守る為に闘うという目的が追加された。

 そう、私は信念も闘う目的もある。

 エレメリアンにどう言われようと、黒羽の言う通り私は私の信念を貫くだけだ。

 

 

 シャークギルディ部隊の艦についている聖の五界専用の艦にノームギルディが戻ってきた。

 薄暗い廊下の先にあるエンジェルギルディの部屋へと一歩、また一歩と巨体を揺らしながら近づいていく。

 そして部屋の前に立ち、ノックをするとドアを開けエンジェルギルディの部屋へと入る。

 中央のソファーにくつろぐエンジェルギルディはすぐに誰かわかったようで、手にしていた人気アニメのお嬢様キャラクターのフィギュアを前のテーブルへと優しく置く。

 

「あらノームギルディ、早いですわね。もちろん私の言った通りテイルホワイトの属性力、頂けたのでしょうか?」

 

 テーブルに置いたフィギュアのフォルムを再度確認するエンジェルギルディ。

 エンジェルギルディはノームギルディが属性力を奪ってきてはいない事を既に見抜いている。 もちろん、ノームギルディもそれはわかっていた。

 

「いや、今回は状況が不利になった為撤退してきた」

 

 フィギュアから目を離し、立ち上がるとノームギルディへと視線を移す。

 

「なるほど、風のシルフギルディにご一緒に出撃したスターフィシュギルディとオクトパギルディ、更にウンディーネギルディが手を加えた貴重なアルティロイドが散ってしまったのなら……不利にもなりますわね」

 

 不敵な笑みを浮かべるエンジェルギルディ。

 確かに貴重な戦力を意味もなく散らしてしまった自覚はあるだけにノームギルディは何も言い返す事ができず顔を上げられない。

 

「昇天された方々の分精一杯働く事ですわ、ノームギルディ」

 

 エンジェルギルディはノームギルディの肩を叩くとそれ以上何も言わずに部屋から出ていった。

 ふと、ノームギルディが先程までエンジェルギルディが触っていたフィギュア見ると、先程まであったはずの土台がなくなり支えを失ったフィギュアは倒れてしまっていた。

 

 

 聖の五界のエンジェルギルディとやらが世界へ向けて侵略放送をしてから今日で三日。

 初日こそ四体のエレメリアン、そのうち二体が幹部という今までに無い脅威的な作戦を仕掛けてきたけどそれからは何の音沙汰もない。

 いつものようにテイルギアのメンテナンスをフレーヌにお願いし、たった今終わったところだ。

 先日のノームギルディ戦で全くフレーヌの声が聞こえないと思ったら最初に攻撃された時に通信機が壊されていたらしい。

 ただの偶然ならいいけど、もし通信機を狙って攻撃してきたのなら私達の後ろにサポーターがいる事がバレている事になる。

 用心しなければいけないな。

 椅子に座りボーッとしているとフレーヌが飲み物を持って来てくれたようで私の前に置く。

 

「ねえ、フレーヌ」

「どうかしましたか?」

 

 フレーヌも椅子に座りオレンジジュース?を飲むとこちらに目を合わせる。

 

「私が今までエレメリアンを倒せて来たのって……まぐれだったのかな?」

「……ノームギルディに言われた事を気にしているようですが、決してまぐれなどではありません。全て、奏さんの実力です!」

 

 フレーヌは励ましてくれるけど、正直私自身が今までの闘いを振り返って見ると怪しく思えてくるところが幾つか出てくる。

 

「普通のエレメリアンはまあ私の実力かもしれないけど……幹部級のエレメリアンと闘った時って必ずエレメリンク使ってたから」

 

 思い返せば初めての幹部戦であるオルカギルディの時は相手の隙を突く形で志乃とのエレメリンクを発動し勝利した。 次のシャークギルディとの闘いじゃ、嵐とのエレメリンクを発動して倒すことができたけど、結局あれはシャークギルディの自滅に近いんじゃないだろうか。

 

「エレメリンクは属性力を上書きするだけであり、その後はテイルギアを纏っている者の実力が反映されます。 エレメリンクでの闘いも全て奏さんの実力によるものですよ。大なり小なりと属性力に影響されるとは思いますが」

「……そっか」

 

 フレーヌはそう言ってくれてるけど、今までの闘いがまぐれではなく実力だったなんて保証はないはずだ。

 それに今までの闘いが私の実力だとしたら、今度は聖の五界の幹部に実力を出しても一方的にやられたという事実がある。

 それはそれで問題だ。

 

「ねえ、私よりも黒羽のほうが━━━━」

「━━━━この世界を守れるんじゃないか、とか考えてるのかしら?」

 

 声の聞こえた方に目を向けるとバスタオルで髪の毛を拭きながら風呂上がりのラフな格好な黒羽が立っている。

 薄着でもやはり胸はあまりないな……。中学生くらいのフレーヌと同じかそれ以上かぐらい……。

 そういえばツインテールを解いているのは初めて見るかもしれない。

 いや、それよりも黒羽はエスパーか何かだろうか。

 

「フレーヌ、お風呂ありがとう」

「いえいえ」

 

 黒羽はそのまま私の隣にドッと腰を下ろす。

 脚は綺麗だ……って何考えてんだろ。

 

「一応言っておくけど、私はこの世界を守る為に闘ってるんじゃないわ。 アルティメギルを潰す為に闘っているの」

 

 これは初めて黒羽が共闘を申し込んで来た時からずっと言っている事だ。 オルトロスギルディの中に速水黒羽が生まれた時からそう思い、チャンスを伺っていたとも。

 

「今の私のターゲットはあくまでオルトロスとフェンリルギルディの仇、エンジェルギルディよ。 仮に聖の五界がこの世界に残り、エンジェルギルディだけが他の世界に行った場合、私は躊躇なく奴を追いかけるわ。 そんな私に、世界を任せる気なの?」

 

 タオルを頭から首に掛け、テーブルに置いてあるリボンでササッと鏡も見ずに左右のツインテールをバランスよく結んでみせる。

 

「それに言ったわよね最初に、''私と一緒にアルティメギルを潰して欲しい''ってね」

「私は……」

 

 それだけ言うと黒羽は部屋から出ていった。

 

「私は申し訳ない気持ちは今でも持っているんです」

「……フレーヌ?」

「ですが、私は奏さんのツインテール属性は確かだと思っています! 私が信じる奏さんを、奏さんも信じてください!」

 

 両手で私の右手を包み込み、フレーヌは少し涙目になって訴えてきた。

 また、フレーヌを泣かせちゃったな。

 

「わ、私は泣いてませんよ!?」

 

 心でも読んだかのようなタイミングで袖で目を拭き笑顔になるフレーヌ。

 

「うん、がんばってみる」

 

 できる限りの笑顔で答えたけど、目の前のフレーヌの顔を見た感じだと無理して作った笑顔だってのはバレバレなんだろうな。

 

 

 フレーヌから励ましの言葉を受けるも私は重い足取りで帰路へついていた。

 いつもより荷物も少ないはずなのに学生鞄がやたら重く感じる。 そして、その学生鞄よりも数倍重たいのが右腕に着けているテイルブレス。

 ブレスをしばらく眺めていると突然フレーヌの声が聞こえてきた。

 

『奏さん、エレメリアンの反応が出ました! ……黒羽さんを待ったほうがいいでしょうか……』

「いや、先に行く。頑張るって言ったからね!」

 

 胸の前にブレスを構え、変身を念じるとテイルホワイトへと変身した。

 そしてすぐさま、エレメリアンが現れたという場所へと転送される。

 

 

 光がだんだんはれていき、見えてきたのは工事現場のようだ。

 新しいビルでも建てるのか鉄骨がかなり高い位置まで組まれており、その周りも色々整備をしているようだ。

 そして赤い鉄骨に擬態するような格好でこちらを見るエレメリアン……全く擬態できていない。

 そんな事よりも、目の前にいるエレメリアンは見覚えがあった。

 

「あ、ヒトデギルディ!」

 

 ヒトデギルディは私に指さされようやく擬態の真似を止めるとこちらに歩を進め、私の前に立つ。

 

「ちがあああう!!スターフィシュギルディだ!!」

 

 そういえばこの前のノームギルディやタコギルディとのごちゃごちゃした闘いの中、ヒトデギルディだけ蹴飛ばしたきりだった。

 

「お前のせいでアルティメギルにも俺はもう昇天した扱いになって帰るに帰れなくなったのだ!!」

『自らの属性力を抑えてこの世界に潜んでいたのでしょうか……』

 

 ヒトデギルディが属性力を奪っていなかったのが奇跡だ。

 今度こそ、ここで倒しておかなければならない。

 

「私は、テイルホワイトよ!!」

 

 フォースリボンに触れ、アバランチクローを装備するとヒトデギルディへ向かい疾駆する。

 眼前にまで迫るとアバランチクローを力の限り叩きつけた。

 

「えっ……!?」

「お?」

 

 いつもなら致命的なダメージを与えられていたはずなのに何故かヒトデギルディはケロッとしており、ヒトデギルディも効いてないのに驚いているようだ。

 

「効かない……どうかしたのかテイルホワイトよ」

「うるさい!」

 

 今度は一発だけでなく、自分の体力が尽きるまで何度も何度もアバランチクローでヒトデギルディを攻撃していく。しかし、その攻撃は全て避けられてしまっている。

 何故自分の攻撃が当たらないのか。

 今自分でもわかったことだが、明らかにいつもよりスピードが出ていない。 それに続き自分の体じゃないような動き辛さがありだんだんクローを強く振れなくなっていく。

 

「なるほど……シャークギルディ隊長、そしてオルカギルディ様、そして今まで散っていった同胞達の復讐は叶いそうだ!!」

 

 そう言うとヒトデギルディはクローを弾き飛ばし、私のお腹に重い掌底をくらわせると私は地面に強かに叩きつけられた。

 

「我らの念願、叶いたり!!」

 

 ヒトデギルディは例の光輪を出現させ、私に狙いを定める。

 光輪が自分に迫ってくる、しかしノームギルディの時のように避けるだけの力も残っていなかった。

 

『奏さん、今転送します!』

 

 しかし遅かった。

 そして、あっさりと……光輪が私の身体を通り抜ける。

 

「やったやった!! ついに属性力を………あれ?」

 

 そこに残ったのはこの世界の戦士から初めて属性力を奪ったスターフィシュギルディだけだった。

 

 

 ふと気がつくと、私はいつものフレーヌの基地にちょこんと座っていた。

 光輪が私目掛けて飛んできてその後どうなったのだろうか。 いや、確かに私は光輪の中へ通され━━━━ツインテール属性を失ったんだ。

 まさか……こんなにあっさりと?

 私は無我夢中でまず自分の手でツインテールを作ろうとする……しかしできない。

 

「奏さん……」

「奏…」

 

 横を見ると志乃とフレーヌが心配そうな顔をして覗き込んでいる。 フレーヌは少しだけ涙目になっているのはすぐにわかった。

 

「ごめん、私……」

 

 ふいに自分が情けなくなった。

 ツインテールなんか嫌いだったはずなのに奪われてこんなになるなんて……。 しかも、今はツインテールを''嫌い''だとも思えない。

 いつの間にか大粒の涙が溢れ出す。

 そんな私に気を使ってか、フレーヌは優しく話し出した。

 

「奏さんをこちらに転送したと同時に黒羽さんに向かってもらいました。 属性力は、ツインテール属性は概ね二十四時間以内であれば元に戻すことも可能です」

「ほ、ほんと?」

 

 優しく頷くフレーヌ。

 

「もうツインテール属性は戻ってるはずよ」

 

 突然黒羽の声が聞こえ、振り返るとテイルシャドウがカタパルトから出てきた。

 その手にはスターフィシュギルディのものと思われる属性玉が握られている。

 

「スターフィシュギルディは倒したし、勿論リングも壊しておいたわ」

 

 変身を解除し、速水黒羽に戻るとソファーに座り込んで足を組む。

 

「く、黒羽……ありがと」

「別に……フレーヌから頼まれたら断れないし、戦力が減るのもキツイから」

 

 そう言うと黒羽は別の方向へ顔をやる。

 

「あ、黒羽照れてんでしょー?」

「て、照れてないわよ! わかった風な口を聞くのはやめてちょうだい!」

 

 志乃の言葉が引き金になり、二人の追いかけっこが始まった。

 みんな笑顔になっているけど、私がどれだけ心配をさせたか。

 今回はたまたま黒羽が早めに倒してくれたから何とかなっただけだ。

 早く本来の自分に戻らないと………。




遂に大台の50話まで到達することが出来ました!(1年空いたけど……)
これも話を読んでくれる方々あってのものです。
本当にありがとうございました!


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FILE.51 己との対話

アルティロイド(ウンディーネギルディ製)

奏の世界に着任してからウンディーネギルディが通常のアルティロイドを改造し生まれた。 オリジナルのアルティロイドに比べ非常にタフでありアンリミテッドチェインのテイルシャドウの攻撃も耐えることができる。反面、攻撃力はオリジナルと変わらず、改造できるのがウンディーネギルディのみの為オリジナルに比べて数は大きく劣る。


 私が一時的に属性力を奪われてから四日経った。

 この四日間、私は黒羽の意見によりエレメリアン討伐に出撃せず、基地で戦況を見るだけにとどまっている。

 その間出てきたエレメリアンは四体だが、全てがシャークギルディ部隊のエレメリアンらしい。

 それともう一つ、出てくるエレメリアンには共通点がある。

 今、黒羽と対峙するエレメリアンも同じ事を言うだろう。

 

『テイルホワイトはどこだ!? 奴の属性力を奪うのは俺の役目だぜ!?』

 

 今まで以上に私から属性力を奪うことに固執している気がしてならなかった。

 

『テイルホワイトはお休み中よ』

『ほう、なら寝顔属性を持つこのスィアターギルディにとっちゃ余計逃しはできない相手だ!!』

『お休みってその意味じゃないわよ、ラッコさん』

 

 黒羽はラッコギルディの返答を待たずノクスアッシュで一閃すると、爆散していった。

 そして間も無く、黒羽はフレーヌの装置によってこちらの基地へと戻ってきた。

 

「それにしても、宣戦布告してきた割に中々総攻撃仕掛けてこないんだな」

 

 いつの間にか基地に来ていた嵐がポツリと呟く。

 確かに最初はいきなり四体が現れたけど、その後は前と変わらず毎日一体、もしくは二日に一体が現れるようになっている。

 

「何かの作戦かな?」

「もしくは……何かを待っているかね。 何か大きいイベントとか近くにあったりしない?」

 

 黒羽に問われ、フレーヌはキーボードを操作し何かないかを調べ始める。しかし、これといってエレメリアンがターゲットにしそうなイベントは見当たらない。

 

「イベントかぁ。…………あ!」

 

 声をあげた志乃にその場にいる皆が注目する。

 何か思い当たるようなイベントでもあったのだろうか。

 

「そういえば奏のお母さんが毎年行ってるパーティーがあったよね!?」

「そーいえば……」

「じゃあきっとそれを待ってるんじゃない?」

「でもよ、エレメリアンがそのパーティーを待つ理由なんてあんのか?」

 

 確かに嵐の言う通りではある。

 人が集まる場ではあるけどエレメリアンが狙いそうな属性力なんてあるのかな。 いやでも、エレメリアンだしな……。どんな属性力を狙っててもおかしくはないけど。

 

「いえ、そのパーティーを待っているのに間違いはないわ」

 

 黒羽がソファから立ち上がると歩き出し、私たちの前に立つ。

 

「前にも言った通り、聖の五界の隊長はエンジェルギルディ。 そのエンジェルギルディはレディー……つまりお嬢様属性なの」

 

 お嬢様属性……言われただけじゃあまりピンとはこないけど単純にお嬢様が好きってことかな。

 黒羽は続けて話す。

 

「これは何処の世界でも共通する事だけど、昔と違って今となっては稀少になってしまったお嬢様属性を集めるにはとても大変、だからお嬢様が一度に集まる場で一気に奪うつもりよ」

「その一度に集まる場というのが奏さんのお母さんが出席するパーティーということですね……」

 

 黒羽はフレーヌの言葉に頷く。

 確かにあのパーティーは企業の重役とかが出席するとは聞いてはいたけど、お嬢様と呼べる人が行くような場所でもないような……。

それに確か、そのパーティーって。

 

「そのパーティー……もう始まってるよ?」

 

 今日の日付を確認して、私は話す。

 一瞬の静寂の後、フレーヌが激しくキーボードを操作しはじめたところでまた黒羽が話しはじめた。

 

「さっきのエレメリアンは囮だったのね……。 まずいわ、パーティーは何処でやってるの!?」

「えっと……私が小学生の時から会場が変わってないならたぶん東京の公国ホテルだと思う」

 

 確証はないし、もし当たっていたとしてもパーティー会場が変わってしまっている可能性もある。

 フレーヌはすぐに公国ホテルの中にあるパーティー会場らしき映像をメインモニターに映す。 どうやら会場は昔から変わっていなかったみたいだ。

 ただ映像を見る限りエレメリアンは見当たらないし、パーティーに参加してる人たちも慌てている様子はない。

 どうやら聖の五界はまだ来ていないらしい。

 

「一応向かいますか?」

「ええ、とりあえず私が行くわ」

 

 黒羽は変身すると再びカタパルトへと入り、フレーヌによってパーティー会場へと転送される。

 

「こ、これは!?」

 

 黒羽が転送された直後、基地全体にエレメリアン出現のアラームが鳴り響く。

 

「エ、エレメリアン……十体以上の反応です!」

 

 私と志乃、嵐はフレーヌの言葉を受け反射的にメインモニターに目を移す。

 そこにまだエレメリアンは映ってはいないし、会場の人々がパニックになっている様子はない……。

 お母さん……黒羽……!

 

 

 黒羽が会場近くへと転送され、すぐに彼女はその足で会場へと向かって歩いた。

 そこでフレーヌから通信が入る。

 

『黒羽さん、その会場に十体以上のエレメリアンの反応が出ました!! 』

「やっぱりね。 まずエンジェルギルディのためにこの世界のお嬢様属性を根こそぎ奪おうとしてるみたいね」

 

 会場へと続く公国ホテルの通路を走り抜け、入り口がみえてきた。

 

「ダメですよー?」

「!?」

 

 突如扉の前に一体のエレメリアンが現れ、黒羽は思わず足をとめた。

 

「四幹部、四大精霊のウンディーネギルディ……だったかしら?」

「せいかいせいかーい」

 

 パチパチと拍手をするウンディーネギルディ。

 それと同時に七体のエレメリアンがウンディーネギルディの横に現れ黒羽を取り囲んだ。

 

「隊長の命令でさ、任務の邪魔をする者は排除しろってね」

「こんな下っ端達で私の足止めができるとでも思ってるのかしら?」

 

 フォースリボンに触れ、ノクスアッシュを左手に持つ黒羽。

 その顔はまだ余裕の表情が見てとれる。

 

「思ってないわ……だから、これ♪」

 

 ウンディーネギルディは右手に黒い属性玉を持ちご機嫌に黒羽に見せつける。

 

「ゴッドブレス……やっぱりサラマンダギルディに渡したのはあなただったのね」

「提案したのは隊長だけどね。 さあみんな、始めよっか!」

 

 ウンディーネギルディの合図と共に黒羽の周りにいた七体のエレメリアン全ての手にゴッドブレスが現れ、自らの胸へと埋め込む。 しばらくすると周りのエレメリアンはそれぞれが赤く発光しだす。

 

「最終闘体ね……受けてたつ」

 

 同時にウンディーネギルディを除く七体全てが黒羽に襲い掛かる。

 素早くアンリミテッドブラを装着しアンリミテッドチェインとなった黒羽は次々と襲い掛かるエレメリアンを斬っていく。

 

「まだまだいくよ!」

 

 ウンディーネギルディが右手を上げると黒い渦が出現し、中からモケモケとアルティロイドが出現する。

 

「モケモケ━━━━」

 

 なかには中継用のカメラやマイクを持ったアルティロイドもいた。

 

「私が弄ったアルティロイドは頑丈だよ?」

 

 ふたたびウンディーネギルディが手を上げるとエレメリアンに続き、頑丈なアルティロイド全てが黒羽に飛びかかった。

 

 

 会場に十体以上のエレメリアン反応がでたすぐ後に黒羽と連絡がとれなくなってしまった。

 防犯カメラの映像を見るとパーティーは今の所平和に進んではいるみたいだけど、いつエレメリアンが乗り込んで来てもおかしくない状態のはずだ。

 

「黒羽さん、黒羽さん!!」

「黒羽!!」

 

 フレーヌと志乃が通信機に向かい大声を出しているがそれが彼女に届いているかわからない。

 皆が黒羽の心配をしているその時、突如会場の防犯カメラにエレメリアンが映り込む。

 

「おいやばいぞ、エレメリアンだ!」

 

 防犯カメラには何体かのエレメリアンがパーティーの参加者達を部屋の隅に追いやるように誘導している様子が映されている。

 

「く、黒羽はなんでカメラに映らないの!?」

 

 志乃はエレメリアンが会場に現れたにも関わらず姿を現さない黒羽を心配しているようだ。

 もちろん私だってそう……志乃と同じ。

 

「もしかしたら会場の外で足止めされているのかもしれません……!」

 

 黒羽は恐らく必死で闘っている。

 それなのに、私はこんなところで何をしているんだろう……。

 やっぱり自分にも闘う力があるのなら、私は闘いたい!

 胸の前に、テイルギアを構える。

 

「テイルオン!!」

 

 テイルホワイトへの変身が完了すると、私はカタパルトへ走りその中へと入る。

 

「フレーヌ、転送して!」

「いけません! 今の奏さんの状態ではまた……!」

 

 正直私だって怖い。

 今はいつになく状態が悪いし、今だってここに十メートル弱走ってくるだけで足に違和感があるほどだ。

 ただ、そんなことで私が掲げた信念を守りきれるわけがない。

 

「行かせてやれよ。奏が……そう言ってんだ 」

 

 一向に転送のスイッチを押そうとしないフレーヌの肩に手を優しく置き、嵐は静かに話しかけた。

 普段の嵐からは想像できないような表情を浮かべている。あと奏って呼ぶな。

 

「……わかりました。 お願いします、テイルホワイト!!」

「うん……!」

 

 フレーヌはその後躊躇せずにスイッチを押すと私は光に包まれ、パーティー会場へと転送される。

 

 

 思った以上に、会場は静かだった。

 会場の隅に追いやられた参加者達は皆静かに待ち、自分たちが助かるのを祈っている。

 後ろの方にお母さんがいるのも見えた。 待っててよ、必ず助けるから……!

 

「来たな、テイルホワイト」

 

 何体ものエレメリアンの中から出て来たのは私の属性力を奪う一歩手前までいったあのノームギルディだ。

 アルティメギルのジョーカーと呼ばれる部隊の戦士は私に力の差を嫌というほど痛感させた。 仮に私が絶好調だったとしても叶わない相手……だと思いたくない。

 

「お嬢様属性を奪いに来たみたいだけど……そんな事させない!」

「ふ、未だ精神を乱しているお前が俺たちを止められるのか?」

 

 また、精神的な攻撃をしてくる気らしい。

 でも今はこんなのに惑わされるわけにはいかない。

 

「だからここに来たの!」

 

 フォースリボンに触れ、アバランチクローを両手に装備し爪先をノームギルディへと向ける。

 ノームギルディは腕組みをしながらまだ、余裕の笑みを浮かべていた。

 

「そうか……。 お前達、そこで俺がテイルホワイトの属性力を頂くのを黙って見ていろ!!」

 

 後ろを振り向き、何体ものエレメリアンに指示を出すと再びこちらを向き歩み寄ってくる。

 

「見せてもらおうか、テイルホワイト!」

 

 私はノームギルディへとクローで斬りかかるが、膨れ上がる筋肉で軽々と受け止められてしまった。

 

「くっ!!」

 

 間髪容れずに胴へ斬りかかるが、なんと片手で受け止められてしまう。

 

「ふざけるなよテイルホワイト。 所詮はハッタリだったか!?」

 

 ノームギルディの右のストレートを紙一重で躱す。が、腰のパーツに拳があたると半分から先がバラバラに砕け散散ってしまう。

 

「テイルギアが……!」

 

 いつの間に私は、ここまで弱くなってしまっていたの!?

 初めて闘った時にフレーヌは''テイルギアは私の意思が生んでいる''と言った。

 私がツインテールが嫌いでも、今までテイルギアは力を貸してくれていたはずなのに……どうして!?

 私の中にツインテール属性があるなら、闘えるはずなんだ!

 

「私は……そんな……」

 

 脱力すると同時に両腕のアバランチクローも消えてしまった。

 駄目だ、気をしっかり持たないと。だが、心でそう思っていても体は言うことを聞いてくれず、立っていることもできなくなりその場にヘタリ込む。

 

「やはりな。 先程の勢いをみてもしやと思ったが、ただのハッタリだったようだ」

 

 呆れたような、失望したような声が私にかけられる。

 チラリと横目で参加者達を見る。

 静かだった参加者達が私に向かい何かを言っているのがわかる。 しかし、全然耳に入ってこなかった。

 お母さんも何かを言っている。

 ごめんねお母さん、私勝てなかったよ……。

 

「さて、本当に最後だ。 エンジェルギルディに言われた通り、芽の出る前にお前の属性力を今度こそ頂こうか」

 

 ノームギルディが腕を天にかざすと、大きな輪が空間から溶け出して来た。

 一度私から属性力を奪ったあの光輪だ。

 また、同じことの繰り返しになってしまった。

 

「頂くぞ!!」

 

 ノームギルディの声で、光輪は私に向かって迫ってくる。

 私は、他人事のようにその光輪を最後まで見つめていた━━━━

 

 

 空も地もないような見渡す限り真っ白な世界。

 重力さえもないようなその世界で私は一人立ち尽くしていた。

 

「━━━━ここは……」

 

 私は、ツインテール属性を奪われようとしてたはずだけど……。 もしかしたら最後の夢を見ているのかもしれない。

 この場所はあの不思議な夢で出てきたところとよく似ているし。

 

 

 激しい閃光に見舞われ、私は咄嗟に腕をかざして遮る。

 光が収まり、腕を下ろすとそこには大きな木のようなものが生えてきていた。

 そして、あの夢のように黒羽の元となった少女、カエデが大きな鎖で縛られ身動きがとれなくなっている。

 私は意を決して、カエデに近づき話しかけた。

 

「ねえ、カエデ起きてよ! 私知ってるんだから! それが寝たふりだって! 気を失ってるふりだってことを!!」

 

 するとようやくカエデは俯いた顔を上げ、目を開く。

 こう見るとやはり、まんま黒羽だ。

 気だるそうなカエデは大きくため息をつくと、ようやく口を開いた。

 

「何か用?」

「何か用じゃないって! あなた、今まで私に力を貸してくれてたはずなのに……なんで……」

 

 カエデは表情を変えないまま、自らを締める鎖を見る。

 

「こんなものが巻き付いていたら貸せる力も貸せないわよ」

 

 よく見ると最後に夢を見た時よりも鎖が大きくなり量も増えている気がする。

 

「これは、あなたのツインテール属性を嫌う心が具現化したものよ」

 

 心が具現化……?

 もしカエデの言っていることが本当だとすれば、私は心の中にいるのかな。

 言葉にするとおかしなことだと思うけど、このとんでもない状況を私は受け入れてしまっていた。

 

「ちょっと、力を貸して欲しいならこの鎖外してよ」

 

 少し上から目線なところも黒羽にそっくりだ。むしろ黒羽がカエデに似ているのが正しいみたいだけど。

 鎖を持ち、精一杯引くがビクともしない。

 

「ふっ……外れるわけないわ。 あなた自身が、奥底でツインテールを拒否してるんだから」

「えっ……」

「ツインテール嫌いを公言し続けながらツインテールの力を使おうだなんて、贅沢だと思わない?」

 

 正論だ、何も言い返せない。

 

「あなたは、逃げてるだけよ。 エレメリアンからも自分からも、ね」

 

 鎖から手を離し、私はその場に立ち尽くす。

 世界を守るテイルギアを与えられ、最初は戸惑ったし嫌だった。

 それは今も同じだ、もちろんツインテールが……嫌いだということも。

 カエデは呆れたような笑いをする。

 嫌だ、私は逃げたくない!

 

「いいよ……だったら好きになる」

「……え?」

 カエデのミステリアスな笑みが消え、何処か可愛げのある表情へと変わった。

 

「テイルギアで闘っている間は、ツインテールを好きになってツインテールのために闘う! だから………」

 

 少しだけカエデを締め付ける鎖が緩くなったのを感じ、そこで一気に引いた。

 

「力を、貸して!!」

 

 カエデを拘束していた鎖は簡単に千切れて床へと落ちた。

 カエデは驚いた表情のまま私を見つめた後、笑い始めた。

 

「やっぱり贅沢ね、あなたは」

 

 そう言うと手を前へ差し出す。

 

「そういう無茶苦茶な感じ……嫌いじゃないわ」

 

 カエデは立ち上がり、静かに口を開く。

 

「私の世界を襲ったエレメリアンと……私は闘い、負けたの。 本当にツインテールが好きで、絶対に守りたかったわ」

「カエデ……」

「でも、力及ばずに私と私の世界のツインテール属性は狩り尽くされてしまった。 ……多分私自身はその狩り尽くされた世界でツインテール属性を失ったまま生活してるんでしょうね」

 

 手のひらに砂を乗せ、少しずつ砂をまた地面へと落としていく。

 ツインテールだけにとどまらず、全ての属性力を奪われてしまった楓はその時何を思い、感じたのか。 或いは、属性力を奪われても何も思えなくなってしまったのか。

 経験のある私は、なんとなく想像がつく。

 

「でも、アルティメギルにリベンジするチャンスが……ここにあるのよね」

 

 砂を落としきったカエデは、少しだけ表情が明るくなりこちらへと向き直った。 

 私の前へと移動し、ゆっくりと手を差し出してくる。

 

「闘いましょ、本当に力を合わせて」

 

 私は力強く頷き、カエデと固い握手を交わす。

 

「次は、自分自身と向き合ってみなさい」

 

 そう言うと手を離し、カエデは宙に浮く光を指差すと光の粉となって消えていった。

 すごい、神々しい光だ。

 雲ひとつない空に浮かぶ太陽を見ているようだが、まるで眩しさを感じさせない不思議な光。

 とても温かく心地いい光……。

 ここが私の心の中だということや楓との会話からこの光の正体がなんなのかハッキリとわかった。

 光へ向かい一歩前へ出る。

 

「あなた、私のツインテール属性なんでしょ?」

 

 初めは神々しいただの光だったが目を凝らすと光には形があり、それはツインテールそのものだった。

 私の問いに答えるよう、私のツインテール属性の声が響く。

 

「伊志嶺奏よ、私が力を抑えていた理由はわかるか」

 

 男とも女ともとれるような不思議な声音だった。

 多くの声が重なっているのに、神秘的に調和しており、暖かさを感じる。

 そしてもちろん、楓との会話でツインテールからの問いもすぐにわかった。

 

「私があなたを包み込んでしまっていたから、でしょ?」

「お前は、無意識のうちに自分のツインテールに制限をかけていった」

 

 自分の手をみる。

 私はツインテール嫌いを公言しながらツインテールの力に頼り、力が出なくなるとそれに怒りを覚えてしまった。

 カエデの言う通り、贅沢すぎるというかムシが良すぎる。

 

「そして信念を問われたことでお前は私に蓋をしてしまったのだ」

 

 ノームギルディに言われた事を思い出す。

 

「だがそれを受け入れ、乗り越えた先にこそ本当の強さと愛を手に入れることができる」

 

 うん、その通りだ。

 ノームギルディにバカにされたからなんだ。

 私は、私の信念を持って闘っている。

 なんでこんな事に気づけなかったんだろう、そう思うと心の底から笑いが込み上げてくる。

 

「覚悟は決まったか」

 

 意を決してまた私はツインテールへと近付く。

 ツインテールが嫌いでも、私にはツインテールで闘う力がある。 なら、それに全力を尽くすまでなんだ!

 

「わかった。もう、決して恐れない。 私はツインテールを、あなたを信じる!」

「ああ、共に闘おう!」

 

 光のツインテールは右の房を持ち上げ、私に差し出してきた。

 

「「ツインテールを守るために━━━━!!」」

 

 私の手とツインテールの房が触れ合い、がっちりと結び合った瞬間━━━━世界が白く染まりはじめた。

 

 

「何だと!?」

 

 最初に耳朶を叩いたのは予想外の光景に漏れたノームギルディの叫びだった。

 

 慈悲なき輪がツインテールを捉えようとしたその瞬間。

 私はアバランチクローを装備し、瞬きをも先置いて両断していた。

 慣性のままに舞い飛び、私の後ろに反弧を描いて別れた後程なく宙で爆発する。

 

「まさか……この状況で……!?」

 

 力が漲ってくる。

 これは初めて変身した時の……いや、それ以上だ!!

 まさに私のツインテールは……。

 

 私のツインテールは、新たな進化を遂げた━━━━!

 



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FILE.52 本当のツインテール

シルフギルディ
身長:202cm
体重:297kg
属性力:???

聖の五界の四幹部の一人、風を司る。 実力は他の幹部に劣るものの、エンジェルギルディに対しての忠誠心は突出している。 背中から生えた羽を武器として使う戦法を使っていたが、アンリミテッドチェインとなったテイルシャドウの前に為す術なく敗れる。


 力が高まってくる、身体中から溢れてくるようだ……!

 最初に変身した時、初めてエレメリンクした時、それ以上の力が体中を駆け巡り溢れ出てくる。

 これがテイルギアの……私の本当の力!

 

「見違えたな」

 

 目の前にいるノームギルディは私を見て一言。

 後ろにいるエレメリアン達も驚愕の表情を見せている。

 しばらくしてノイズしか聞こえなかった通信機からフレーヌ達の声が聞こえてきた。

 

『奏さん……!』

『か、変わってるよ!!』

 

 志乃の声で私も気づいた。

 大きく変わっているところはないが、微妙に足や腰の小さな装甲が今までと違う。

 その中でも一番目を惹くのがツインテールだ。

 今まで通り綺麗な銀髪だが左右の毛先あたりだけ銀ではなく淡い紫色のメッシュが入っている。

 

『すごい属性力です……。内側からイマジンチャフを突き破っています』

 

 私も感じる。

 自分の内側から属性力が溢れ出しているのを!

 

「ほんの一瞬の間にお前に何があった?」

 

 やはりノームギルディも私の変化に驚いているようだ。

 

「私の中で、私自身と話をつけてきたってとこ!」

 

 今の私を、私のツインテールとカエデは肯定し力を貸してくれるといった。

 だからこそ、今の私がある!

 

「今の私はツインテールがまあ……好き、だから強いよ!」

 

 もう迷いはない。

 ノームギルディを指差し高らかに宣言する。

 

「な、何を言っているのだ!?」

「今からノームギルディ……いえ、あんた達聖の五界を倒すって言ったの!」

「おもしろいな……!」

 

 ノームギルディもとうとう本気だ。

 私相手に素手で闘ってきていたが、黒い粒子を手元に集結させると巨大な鉤爪の武器が生成される。

 まるでそれは私のアバランチクロー……いや、まんまアバランチクローの色違いだ。

 

『パクんじゃねーぞ、妖精!』

 

 通信機から嵐の声が聞こえてくるが悲しいことにノームギルディに届いている様子はない。

 ノームギルディは出現した武器を右手に装着すると同じように左にも黒い粒子が集まり黒いアバランチクローを生成した。

 

「これが、俺の拳が最大に生かされる武器''マッスルクロー''だ!!」

「なぁ!?」

 

 ダッッサ!!

 なんて……なんて悲しいくらいにダサい名前なんだ!

 これまでも武器の名前や必殺技の名前を叫んでいたエレメリアンはいたけどここまで酷いのは初めてだ……。

 

「驚くだろうが、マッスルクローはお前の使う武器を参考にしたものだ……!」

 

 うん、知ってる。 そんなの一目見た時から明らかだし、使い手の私がわからないわけがない。

 わかってはいるけど、何故かその言葉が口から出てこない。

 

「これが俺の最初の武器にして最後の武器、そして最強の武器だ!!」

 

 名前とかはダサいけど、ノームギルディの言葉には何かくるものがある。

 この勝負にかけているんだ。

 

「受けて立つ、アバランチクロー!!」

 

 フォースリボンを弾き、両腕にアバランチクローを装備すると、マッスルクローを装備したノームギルディへ向かい疾駆。

 新しい私の闘いが始まった。

 

 

 テイルホワイトとノームギルディが闘い始めたその時、会場の外でも壮絶な闘いが繰り広げられていた。

 アンリミテッドチェインとなったテイルシャドウがゴッドブレスにより強制的に最終闘体となったエレメリアンを次々と倒していく。

 

「数が多いんじゃキリがないわね」

 

 斧を周りへ一閃し、エレメリアンとアルティロイドを倒してもその後ろから次々と敵は現れ、テイルシャドウの属性力を狙ってくる。

 テイルシャドウを取り囲むエレメリアンとアルティロイドを外から見ているウンディーネギルディは腕を腰に当て余裕の笑みを浮かべている。

 そんな最中、突然表情を崩し会場の方へ体を向けた。

 

「この属性力の高まり……! まさか、テイルホワイトが……!?」

 

 ウンディーネギルディは腰からタブレットのようなものを取り出すと激しく操作しはじめる。

 

「みんな、あとは任せたよ!」

 

 極彩色のゲートを生成するとウンディーネギルディはそそくさと中へ入り、その場から姿を消した。

 

「ちょっと、こいつらどうにかしなさいよ!」

 

 斧で斬りつけながら目一杯声を張り上げるが、当然ウンディーネギルディは聞かず、ゲートに消え、相変わらず意思を持たない人形のようなエレメリアン達が次々と押し寄せてくる。

 

『黒羽さん、奏さんの属性力が爆発的に上がりました! もしかしたら……!』

「だからウンディーネギルディは慌てた様子で逃げたのね。 なら、こっちもさっさと終わらせるわ」

 

 テイルシャドウがブレイクレリーズを発動すると斧が割れ光の刃が出現する。

 

「ルナティック! クライシーース!!」

 

 その場で回転し、周りにいたエレメリアンとアルティロイドに命中させると一体が爆発。

 それに巻き込まれる形でどんどんエレメリアンとアルティロイドは爆散していき全ての敵を倒した。しかし、力を使い切ったのか強制的にアンリミテッドチェインは解除され通常のテイルシャドウへと戻ってしまった。

 息もひどく荒れている。

 

「ハア、ハア……よし。 新しいツインテール、見に行こうかしら」

 

 そう言うと、テイルシャドウは会場のドアに向かって歩き出した。

 

 

 闘いはどちらも一歩も引かない。

 私がアバランチクローを繰り出せばノームギルディはうまくマッスルクローで防御し、すぐに反撃を仕掛けてくる。

 ノームギルディが初めての武器と言っていた割にはかなり扱いが上手く思える。

 この半年間、私は傘よりもこのクローを腕にエレメリアンを闘ってきた。 扱いはどう考えても私の方が上だと思っていた。 だけど、ノームギルディは私と同等かそれ以上にクローの扱いが上手い。

 

「くっ!」

 

 最上段から振り下ろされたクロー攻撃をこちらも同じようにクローで受け止める。

 金属質な音が鳴り、あたりに火花が散る。

 膨れ上がった筋肉は伊達ではなく、まさに豪の力を感じさせられた。

 

「俺は諦めん! お前が芽吹いたとて、俺たち聖の五界の勝利は……揺るがないのだ!!」

 

 同じ形の武器同士がぶつかり合い、青い火花が散る。

 

「諦めないのは私だって同じ! どんなに強いエレメリアンが現れようが私は……属性力を、ツインテールを守るために闘うの!!」

「それが……お前の信念か……!」

 

 そう、心の中で教えられた。

 だからこそ私は胸を張って言うことができる。

 今の私は……ツインテールが好き。

 

「ツインテール属性が最強なら、私はその力を使って聖の五界を倒してみせる! はあああああああああああああああ!!」

 

 腕に目一杯力を入れ、振り下ろされた大きな腕から解放されると渾身の蹴りを胴に浴びせる。

 防御が間に合わなかったノームギルディはその大きな巨体で会場の床を破壊しながら転がっていく。

 ノームギルディが起き上がるその時、突如会場の出口のドアが壊れ私の近くへ吹っ飛んできた。

 

「え!?」

「へえ、いいツインテールね」

 

 ドアを破壊した黒羽はとてもいい笑顔で私へ親指を立てながらウインクをしている。

 

「もう少し静かに入ってこれないの!?」

 

 近くにあるバラバラとなったドアを持ち黒羽に見せつける。

 

「フレーヌに言われて早く確認したいと思ったのよ」

 

 私と黒羽が話していると先程までノームギルディの後ろでただ見ているだけだった数体のエレメリアンが私と黒羽を取り囲む。

 

「いいわ、あなた達の相手はこのテイルシャドウがする。 ホワイト、あなたは決着をつけてきなさい」

「わかった。でもあんまし無茶は……あれ?」

 

 後ろにいると思っていた黒羽は私の言葉に聞く耳を持たず既に数体のエレメリアンとの激闘を繰り広げている。

 

「……フレーヌ、会場の人達の避難を」

『大丈夫です。既に志乃さんと嵐さんがもう一つの出口から避難誘導をしてくれました』

「さすが、仕事がはやいね」

 

 一人対たくさんでも闘えている黒羽は大丈夫だ。

 会場の中にいた人達ももういない、これで本気を出して闘える。

 起き上がりクローを構えるノームギルディに向かい疾駆し再びクロー同士が交錯し火花を散らす。

 

「なに!?」

 

 一度は受け止めたかに見えたが右のマッスルクローが砕け、勢いに耐えることができず再び床を抉りながら後退する。

 

「先程よりも力が上がっているのか!?」

 

 使い物にならない右のクローを捨てながら驚愕の表情をみせる。

 

「そうだろうね、本気だしたから!」

 

 新たなツインテールが舞い、再びノームギルディへと接近すると右のクローを突き出す。

 咄嗟にノームギルディは左のクローで受け止めるが私の攻撃に耐えきれずクローが破壊されるとそのままノームギルディへ攻撃がヒットした。

 クローが当たった場所は大きな傷ができ、ノームギルディは体中から放電し始める。

 

「ぐおおおっ!?」

 

 苦悶の声を上げノームギルディは片膝をついた。

 

「バカな……!? 俺は聖の五界の幹部の一人、地のノームギルディだぞ!? この俺が……こんな………!!」

 

 私が実力を出し、力の差を痛感したのか地面に拳を打ちつける。

 今この時、私とノームギルディの闘いは終わりを迎えたのだ。

 

「ホワイト!」

 

 周りにいたエレメリアンを全て倒したらしく、黒羽が私の元へ駆け寄ってきた。

 

「どうやら、ホワイトの勝ちのようね」

 

 目の前にいるノームギルディの姿を見て黒羽は確信したらしい。

 そう、誰が見てもわかるようにノームギルディは完全に戦意を喪失していた。

 

「……この状態じゃ、私はできない」

 

 闘う気がない相手に私はトドメがさせない。

 ただ、相手はエレメリアンだ、それも幹部クラス。 いつまた大勢のエレメリアンを引き連れてこの世界を属性力を奪いにくるかわかったものではない。

 この世界のツインテールを守ると決めた以上、仕方のない事だ。

 

「勘違いするなよ、テイルホワイト!」

 

 いつの間にかノームギルディは立ち上がりファイティングポーズをとっている。

 

「俺はまだ負けたわけではない! 俺は聖の五界のノームギルディだ!!」

「……あんたがその気なら、私だって!!」

 

 私はブレイクレリーズし、腰の装甲から蒸気が噴き出すと一直線、ノームギルディへと向かっていく。

 

「俺は武器を失ってはいない! この鍛え上げられた肉体こそ、俺の武器なのだ━━━━!!」

 

 ノームギルディもまた、拳を突き出し必殺技を受ける構えをとる。

 

「アイシクルドラ━━━━」

「━━━━ぐあああっ!!」

「な!?」

 

 私が必殺技を繰り出そうとしたその瞬間、ノームギルディの動きが止まると、苦痛な声を上げる。

 ノームギルディを貫通した金色の輝きが黒羽と私の横をすり抜ける。

 ノームギルディがその場に倒れこむと背後からトドメをさした第三者が現れた。

 背後から現れたのは黒を基調とした体色とは対象的な神秘的な白を基調とした女性型のエレメリアンだった。

 このエレメリアンは何処かで見た覚えがある。

 白いエレメリアンは手に持っていた弓のような武器を消滅させるとゆっくりとノームギルディへ近づき、しゃがみ込む。

 

「申し訳ありませんわね、ノームギルディ」

 

 ノームギルディを射抜いたと思われるエレメリアンは優しい声をかける。

 

「作戦を失敗し続け、アルティメギルに不利益な事をしたあなたを首領様は許してくれませんでしたの」

 

 間も無くノームギルディは属性玉となり拾い上げるが白いエレメリアンは尚も話し続けた。

 

「隊長も辛いものですわね。 部下の責任を庇うのもそうですけれど、時には冷酷な判断もしなければいけない……」

 

 属性玉をしまうとようやく白いエレメリアンは私達の方へ体を向ける。

 

「初めまして、テイルホワイト。 私が聖の五界の隊長、エンジェルギルディですわ」

 

 エンジェルギルディと名乗った白いエレメリアンは腰部から伸びる布を両手で持ち上げ挨拶をしてきた。

 まるでドラマやアニメで見るような……お嬢様がよくするあの動作だ。

 

「エンジェルギルディってあの放送してた……?」

 

 何処かで見た覚えがあったのはあの放送をしていたからだったんだ。

 そういえば、映像の中では女性型というのはわかったけどそれ以外は映像が粗くてよくわからなかった。

 

『おかしいです、エンジェルギルディからエレメリアン反応が感じられません。 意図的に消しているのでしょうか……。 なんにせよ聖の五界の隊長ということは相当な実力を持っているはず、油断はしないでください』

「私もこうやって向かい合ってるだけで冷や汗が止まらないし」

 

 武器も手にしていないし攻撃を仕掛けようとしているわけでもない。 でもこのプレッシャー……今までのエレメリアンと違うというのが嫌というほどわかる。

 だけど、今の私に湧き上がってくる怒りはプレッシャーで抑えられるものではない。

 

「あんた、自分の部下を……!! ノームギルディは最後まで私と闘おうとしてたのに! 自分が聖の五界のエレメリアンだという誇りを持って闘っていたのに!」

 

 私の言葉にエンジェルギルディは全く気にする素振りを見せず、淡々と答える。

 

「先程も言いましたが、私は聖の五界の隊長。 首領様の命令は勿論ですし、時には部下に厳しく指導しなくてはいけませんの」

「あんたは……!!」

 

 アバランチクローを構え、今すぐにでも攻撃しようとする私を気にすることなく、エンジェルギルディ少し体を反転させると今度は黒羽に向けて話し出した。

 

「そして、お久しぶりですわね。 オルトロスギルディさん」

「私は速水黒羽よ。 わざと間違えてないわよね」

「あらあら、随分と気が強くなりましたわね」

 

 黒羽の顔に焦りが見られるのは誰が見ても明らかだった。

 そしてそれは、目の前にいるエンジェルギルディもわかっているはず。

 

「それで、隊長自らお嬢様属性を取りに来たのかしら?」

 

 黒羽はブレイクレリーズしたままのノクスアッシュをエンジェルギルディへ向ける。

 ここで聖の五界と決着をつけようってわけね。

 大賛成よ!! 隊長とはいえ、自分の仲間を平気で粛清するような奴……ただただ気にくわないもの!

 

「いえ、私はノームギルディを処刑しに来ただけですわ。 それとテイルホワイトへちゃんとした挨拶もしておきたくて」

 

 エンジェルギルディはそう言って私の方へ向くがすぐに黒羽へ向き直った。

「あともう一つ、これをお返ししますわ」

 

 そう言ってエンジェルギルディは菱形の石、属性玉を出現させ黒羽へと放る。

 

「これは、下着属性の属性玉……!」

 

 アンダーウェア……もしかして下着属性?

 これに限ったことじゃないし、そういう闘いをしているけど、なんだろう……このとても重たい話をしているのに一瞬で崩れる感じ。

 

「勇敢に私に向かってきましたけど、三秒も持ちませんでしたわ」

「フェンリルギルディ……やっぱり……」

 

 膝から崩れ落ちる黒羽を見ると、エンジェルギルディは満足そうに笑う。

 そして後ろに極彩色のゲートを生成した。

 

「今回はノームギルディの失態ですが、次からはこうはなりませんわよ。 どうぞお楽しみにしていてくださいまし、テイルホワイト」

 

 そう言うとエンジェルギルディはゲートの中へ消えていき、やがてゲートも消滅した。

 エンジェルギルディがいなくなった後、黒羽は立ち上がり変身を解く。

 

「これが聖の五界隊長、エンジェルギルディのやり方よ」

 

 属性玉を私に渡すと、黒羽はそのまま会場の外へ歩いていく。

 

「自分の敵にはもちろんのこと……仲間にも容赦なく制裁を加える……」

 

 廊下へ出ると、そのまま黒羽は姿を消した。

 聖の五界の隊長エンジェルギルディ……か。

 

 




遅れました……。


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FILE.53 奏が敵に!? 志乃VS奏!!

テイルホワイト(真)

奏が己のツインテールとテイルギアの核となっている楓のツインテール属性と対話し、認められた事で到達した形態。 装甲などに大きな違いは無いものの、一番変わったところは頭のツインテールの毛先が淡い紫色のメッシュが入っているところ。 ツインテール属性の力を解放した事で今までよりも遥かに戦闘力が上がり、聖の五界の幹部に太刀打ちできるほどになった。 また、この形態こそがテイルホワイト本来の形態であるため、認められた奏は変身するとこれからは常時この形態となる。

武器:アバランチクロー
必殺技:アイシクルドライブ



 異空間に浮かぶ奏の世界を侵攻しているアルティメギルの母艦の大ホールは悲しみにくれるものが続出していた。

 

「また同胞達が散っていった……」

「聖の五界のやり方は本当に正しいのですか!?」

「どうなんですか!? エンジェルギルディ様!!」

 

 シャークギルディ部隊の残存兵達は最近の兵の減り方が尋常ではない事に気がつき、とうとうエンジェルギルディへ抗議を始めた。

 

「まあまあ、闘いの上での犠牲者はつきものですわ。 散っていった同胞達は決して無駄ではありませんわ」

 

 この状況下で全く慌てる事のないエンジェルギルディを見て、大ホールの隊員達はだんだんと静かになっていく。

 そんな中、有望株のウォルラスギルディが口を開く。

 

「しかしエンジェルギルディ様……。 既に聖の五界の四幹部の内、三人の幹部が散っておられるのですが……」

「それがどうかしまして?」

「え?」

 

 予想外の反応をするエンジェルギルディにウォルラスギルディは拍子抜けする。

 

「幹部が何人散ろうとも、此処には皆さんがいるではありませんか。 それに……いなくなったら補充をすればいいだけですわ」

 

 意味深に笑うエンジェルギルディの背後から二つの影が現れるとゆっくりと前に出てきた。

 

「右の者はオベロンギルディ、左の者はケットシギルディ。 実力は四幹部には及びませんが……」

 

 エンジェルギルディの発言に前に出てきた二体はズッコケる。

 あまりにも古い、昭和のボケのような事をかまされ大ホールのエレメリアン達は反応することが出来ずに静まり返ってしまった。

 

「……なはは」

 

 空気に耐えきれなかったのか、大ホールの何処からか無理やりでてきた笑いがだんだんと広がっていく。

 

「私が欲しいのは笑いではなくお嬢様属性なのですけれど」

 

 小さな声にも関わらず、大ホールの全てのエレメリアンに聞こえた冷たい声を残してエンジェルギルディは大ホールから出ていく。

 

「あれ、俺らは出動すんの?」

「と、とりあえず行くとしましょうか……」

 

 先ほど紹介されたオベロンギルディとケットシギルディも困惑した様子で話すと足早に大ホールから出ていった。

 静かだった大ホールだが、今度はそこらかしらから大きなため息が聞こえてきた。

 

「皆さんは聖の五界様の作戦に疑問を抱いている……。 私ができることはないものか……」

 

 頭を抱える老兵、サンフィシュギルディの元へその聖の五界のメンバーが歩み寄ってきた。

 

「これが隊長のやり方よ。 ま、割り切ってやるしかないんじゃないの」

 

 聖の五界の四幹部の最後の一人、水のウンディーネギルディ。

 

「私なんて長年一緒にいて最初は疑問に思ったけど……首領様のためと思えば全てに納得できるしね」

 

 大ホールのエレメリアン達に手を振るとウンディーネギルディはエンジェルギルディ達とは別の出口から出ていった。

 

 

 今はもう秋だ。

 肌寒い気温も、唐紅の紅葉も、秋の到来を私たちに教えてくれる。

 そして、秋といえば一つのビッグイベントがある。

 うちの高校に限らず全国共通の事だけど、初夏に体育祭、二年生は冬に修学旅行と相場は決まっているものだ。

 あれ、何かたりない?

 そう、秋にある、高校だからこそできるビッグイベントとは━━━━

 

『そのは祭! 始まりまーす!!』

 

 そう、文化祭!

 放送部員の元気な合図とともに学校の正門が開かれ、まだかまだかと待っていた父兄の皆さん、友達、近所の方々などなど色々な人たちがぞろぞろと学校に入ってくる。

 去年にも私は経験してるけど、やっぱしこの高校は文化祭の力の入れようが半端ない。

 ただ……去年と決定的に違うところがあった。

 

「はあ……」

 

 廊下から中庭を見下ろすと思わずため息が出る。

 サッカーコートと同じかそれ以上の広大な中庭に露店がたくさん並べられている。 が、そのほとんどがテイルホワイトテイルホワイトテイルホワイト……手作りの関連グッズばかりだ。

 

「テイルホワイト焼きそば売ってるよー!」

 

 ただの焼きそばにテイルホワイトという名前をつけただけの物も存在している。……それで売れてるんだから上手い商売してるね。

 去年はもっと色々なものが出てて見て回るだけで飽きなかったけどなあ……。 自慢じゃないが今年は''どうせテイルホワイトでしょ?''そういった感じかな…。

 ていうか、文化祭実行委員かなんかが重複しないように調整するもんなのかと思ってたのに。

 まあ、そんなこと思ってるけど私がいるクラスはお察しの通り、テイルホワイトの劇。 ……しかもテイルホワイトの劇はうちのクラス含め五つはあるらしい。

 文化祭実行委員さん、仕事をお願い!

 

「あ、奏ー!」

「彩、どかしたの?」

「どかしたじゃないって!あと三十分で始まるから早く衣装に着替えないと!」

「あー、そうだった」

 

 クラスのためとなると断りきれないと劇の出演を承諾してしまったあの時の自分にアバランチクローを叩き込みたい……!

 彩に手を引かれ、体育館の裏にある更衣室へと連れていかれた。

 既にクラスの女子達が自分の衣装へと着替え始めている。

 

「じゃあこれね!」

 

 そう言って彩が私に手渡してきたのは黒い全身タイツとやたら装飾が多くて動きづらそうなダンボール……もとい着ぐるみを渡してきた。

 

「は、ははは…」

 

 クジで決まったんだからしょうがない。

 そう思ってた数日前の自分にアイシクルドライブをお見舞いしたい気分だ。

 そう、私の役はエレメリアン。

 テイルホワイトなのにエレメリアン。

 エレメリアンなのにテイルホワイト。

 ある種これは哲学ではないだろうか。

 

「お、やっときた!」

 

 意気揚々とエレメリアンとなった私の前に現れたのは白銀のツインテールに、白い装甲、そしてアバランチクローを両手に抱えた志乃だった。

 なんと志乃はテイルホワイト役に一番に立候補し、壮絶なじゃんけんの末に役を勝ち取ったらしい。

 男子達も志乃ならと言うことで快く了承してくれたようだ。 ほら、志乃って可愛いからね。

 うーん……こう改めて見るとテイルホワイトの衣装はかなりクオリティが高い。

 自分のつけているエレメリアンスーツと比較すると悲しいくらいに力の入れようが違う。

 

「似合うね、志乃」

「うん! ちょっとだけ胸が苦しいけど……」

「え?」

 

 そういえば、家庭科部の子が写真や動画などあらゆるものを駆使して衣装を製作したんだっけ……。

 なんで志乃のオーダーメイドじゃないのよ!!

 私に傷を負わせないで!

 エレメリアンの被り物のせいで私の泣き顔は見られてない……はず。

 

「さ、公演十分前だしステージ行くよ」

「彩監督、了解です!」

「私は演出だよ」

 

 ステージに行くのにもやはり歩きにくかった。

 なんとか到着し、舞台裏で待機していると公演開始のアナウンスが入りカーテンがゆっくりと開いていく。

 私はエレメリアンの役なので最初からは登場せず物語の中盤あたりからいきなりステージに飛び出す感じだ。

 劇は脚本通りに進み、いつしかステージ上にはエレメリアンの周りにいる全身黒タイツのモケモケがぞろぞろと現れ始めた。 確かモケモケ役もクジで決めてたけど……それを見ると私はマシなほうだったのかも。

 

「さ、出番だよ!」

 

 演出の彩に肩を叩かれ、いざ出陣!

 

『ふふふ、この世界にある生きとし生けるツインテールは全て我等のものだあ!』

 

 ツインテールにしたクラスメートの腕を掴みまずはお決まりのセリフ。

 

『もけもけ!!』

『もけ!』

『モケ━━━━!!』

 

 どうやらモケモケ役の人たちもかなり練習したみたいだ。 特に最後の鳴き声というかモケモケの声はかなり本物に近いと思う。

 

『さあ戦闘員達! ツインテールを我の前に集めてもらおうか!!』

 

 セリフも忘れてるところもないし、無事に演劇は終われそうかな。

 

「ははは……あいつ、ノリノリじゃねーか」

 

 舞台袖で嵐が何か言っている気がしたけど、この位置からは正確には聞き取れなかった。

 劇は順調に進んでいきクライマックス、いよいよテイルホワイトが現れる。

 

『そぉこまでよ! エレメリアン!!』

 

 ステージの照明が一旦消える。

 

『な、何者!?』

 

 ステージの天井近くに設けられた足場から志乃ホワイトが現れ、スポットライトを浴びながら飛び降りるとともに一体のモケモケを斬りつける。

 

『私は、ツインテールをこよなく愛しこの世界を守るツインテールの美少女戦士!』

 

 あれ、私こんなこと言ってないよね!?

 

『テイルホワイトよ!!』

 

 いっせいに全てのスポットライトが志乃ホワイトに向けられ最高の決めポーズが披露された。

 名前が出た途端、体育館にいる全ての観客から歓喜の声と拍手、はては指笛のようなものまで聞こえる。

 この圧倒的な威圧感……。エレメリアンは私以外にこの感じとも闘っているのか…。

 

『現れたなテイルホワイト! 先ずはお前のツインテールから頂くことにするぞ!! ゆけ、戦闘員達よ!!』

『もっけーい!』

『もけっもー!』

『モケ━━━━!!』

 

 ステージにいる総勢五体の戦闘員が志乃ホワイトへ襲い掛かる。

 志乃ホワイトはアバランチクローで五体全ての戦闘員を攻撃するとみんなパタパタその場で倒れ、目立たないように舞台袖へと戻っていった。

 

『やるなテイルホワイトよ。 ならこの私が直々に相手をしようではないか!』

 

 茶色の大剣(補足するとダンボールの色のまんまだよ)を構え志乃ホワイトへ振るう。

 志乃ホワイトは見事に左手のクローで大剣をガードすると開いている右手のクローでカウンター攻撃をしかけ、見事にヒットさせた。

 オオオォォ……観客も今の所満足そうに声をあげる。

 

『私のツインテールは希望! 光! そして全てよ!!』

 

 こんなことを言った覚えはないのだけど猛烈に顔が熱くなってきた。

 

『や、やめてー!!』

 

 大剣をぶん回し、最後に向けた体制をとる。

 

「ありゃ演技じゃねえな……」

 

 舞台袖にいる嵐もテイルホワイトが言った事もなく、聞いたことのないセリフに困惑しているのか、思わず何かを話してしまっている。

 大剣をブンブン回す私を見て志乃ホワイトもアバランチクローを構え、最後の一撃に向け気合を溜め始めた。

 

『覚悟しろ! テイルホワイトォォォ!!!』

 

 大剣を逆手に持ち、目の前のテイルホワイトへ向かい少しゆっくり目に走り出す。

 

『ブレーイクレッリーズ!!』

『えいやー!』

 

 大剣の一斬をヒラリとかわすと志乃ホワイトは両腕のアバランチクローで私のお腹部分を一閃、ここに志乃ホワイトの勝利が確定した。

 

『ぐ、ぐわー……』

 

 パタリとその場に倒れこむ私。

 あとは志乃ホワイトと属性力を奪われかけた少女が話すだけで劇は終わりで、私はこの場で倒れていればいい。

 

『はい! あなたがツインテールを愛する限り、私はどこにでも駆けつけ、あなたとこの世界のツインテールを守ってみせます!』

 

 劇の完成度は贔屓目なしでもかなり高いと思うのに……。 時々出てくる私が言ったことのないクサいセリフは如何なものだろうか。

 ……そういえば、確か台本にはブレイクレリーズのセリフはなかった。 おそらく志乃のアドリブだろうけど、やっぱ半年間私の闘い見てきてくれてるし脳裏に焼き付いてるんだろうか。 ちょっと嬉しく感じるな。

 そして、幕が降りるとともに始まりの時と同じくアナウンスが入った。

 

『これにて、''美しき戦士テイルホワイトVS最低最悪の醜い怪物''は終了となります』

 

 タイトルも、もう少しどうにかならなかったのかなあ……。

 

 

 一回目の劇を終えたことで、私のクラスの今日の公演は終わりだ。

さっきも言った通り、テイルホワイトに関しての劇が五つもあるのに加えてテイルホワイト以外の劇も二つほどあるため午前の部午後の部といったようなものができなかったらしい。

 ただ、一回しかないから全力でやりきれるということもあるし別に私は構わないけどね。

 

「お待たせー、奏ー!」

 

 制服へと着替え直した志乃が現れ、軽く頷くと二人並んで廊下を歩き出す。

 

「あれ、フレーヌは何してるの? 一緒に見て回ろうって言ってたのに……」

「ああ、なんか自分の世界じゃこんなイベントなかったみたいで一人でどっか行っちゃった」

 

 うん、あんな好奇心に溢れた眩しい顔を見せられたらダメなんて言えなかった。

 

「成人してるって言っても根はこっちの世界の中学生とそんな変わんないみたいだね」

 

 確かに。でも、中学生であそこまで興奮するのもなかなかいないような気もするけど。

 

「じゃあ、黒羽は?」

 

 黒羽はエンジェルギルディが目の前に現れた日に姿を消してから見ていない。

 なんとなくわかっているような素振りは見せていたけど、自分を慕ってくれていた部下が居なくなったのを実感して落ち込んでいるのだろう。……ってフレーヌが言ってた。

 

「フレーヌに連絡とれればお願いねって言っておいたけど……多分来ないんじゃないかな」

 

 年に一度の行事に辛気臭い話題は似合わない!

 昇降口のあたりでもらった手元のパンフレットへ視線を落とす。

 大きく可愛らしい字でそのは祭と書かれたそれを開くと先ず目に飛び込んでくるのはテイルホワイトテイルホワイトテイルホワイト……。

 テイルホワイト推しが多すぎてその他の出し物がういてみえるという異常事態。

 

「それで志乃は何処行きたいの?」

 

 あてもなく歩き始めてしまったけど、志乃が行きたい場所があるなら優先したい。

 

「ふっふっふ、文化祭の定番といえばなんだと思う? それが私の行きたいところ!」

「なに、いきなりクイズ?」

 

 いきなりすぎてビックリしたけど、付き合ってみるかな。

 文化祭の定番……か。

 やはり一番に思いつくのは劇だよね。 一年の時も色々なクラスが演劇部が体育館でやっていたしね。 でも、おそらくそれはハズレだ。理由は去年、志乃を演劇を見るのに誘った時に断られてるから。 映画とかもそうだけど、志乃は暗い場所で長く座っているとすぐに眠くなってしまうからね。

 二番目は……飲食系かな。

 最近の高校じゃ厳しくて料理したものを売れないなんてよく聞くけど、うちは衛生面を特に気をつけ、先生方や生徒会からOKが出れば出店を許可されている。ただ、さっき志乃はタコ焼き食べてお腹いっぱいって言ってたからこれもハズレかな。

 となると三番目は………お化け屋敷?

 

「正解はお化け屋敷でしたー!」

「まだ答えてないんですけど……」

「だって着いちゃったし」

「え?」

 

 いつの間にか私はお化け屋敷へと誘導されていたようだ。

 だけどなんだこれ、ただの文化祭のお化け屋敷だってのにすごい行列……かなり待ちそう。

 とりあえず行列の最後尾に並ぶと志乃がドヤ顔で語り出した。

 

「説明すると、このお化け屋敷は普通の教室の二倍はある音楽室が使われています! そしてお化け屋敷を作っているのはオカルト部の人達でそのクオリティはレジャー施設にも負けないという評判が広がり、この高校や近所の人はもちろん他校の生徒や隣の県からわざわざ足を運ぶ人もいるの!」

「ふーん、そんなに怖いんだ」

 

 確かに入口や音楽室の壁の装飾品はかなりクオリティが高い。 これ本当にダンボールなのかな……。

 そもそもオカルト部なんて部活あんの初めて知ったよ。

 

「あれ、でもなんで音楽室なの?」

 

 広さが必要だというのならこの高校には多目的ホールがいくつもあるんだけど。

 

「それは音楽室が完全防音だからだよ。 外に中の叫び声が聞こえないように三年くらい前から音楽室を使うようになったんだって」

「へえー、怖いんだ……」

 

 先に言っておくけど私はお化けなんて信じてないし別に苦手というわけでもない。 そもそも私は異世界の物凄い科学力でエレメリアンと闘っているんだ。 そんな私がお化けとか非科学的な事を信じるわけがない……うん。

 志乃によるオカルト部のお化け屋敷のありがたーい説明を聞いているうちに列はどんどん進みいよいよ私たちの番となる。

 入口にいる前髪で目の隠れた生徒に暗闇を照らすには正直頼りないペンライトを渡され、真っ黒な布を潜りお化け屋敷へと足を踏み入れた。

 真昼間だというのに中は想像以上に暗く、何処からか水の垂れる音が聞こえてくる。

 私と志乃、二人ともゆっくりゆっくりと道なりに沿って歩いていると突然志乃が声をあげた。

 

「ひっ! な、なんか変な物が顔に当たった!! ま、また当たったああああああ!!!」

「ちょ、志乃!?」

 

 よっぽど驚いたみたいで私に返答する事なく志乃は走って先に行ってしまった。

 まったく、お化け苦手なら無理する事ないのに……。

 おかげで一人になってしまった……。

 

「何に驚いたのか……ひゃ!」

 

 顔にプルプルと弾力のある物があたり思わずへんな声が出てしまった。

 恐る恐る弾力のある謎の物体Xを確認してみる。

 

「て、コンニャク………」

 

 なんて古典的なんだろう。

 ていうかコレで驚く志乃は、ピュアなのかな……それともアホなのかな。

 ていうか志乃からの説明だと県外から来る人もいるんだよね? 確かに周りの装飾品は見事なものだけど、仕掛けがコンニャクじゃかなりお世辞にもレジャー施設に並ぶとは思えないんですけど…。

 天井からしつこいくらい吊るされているコンニャクを右へ左へ避けながら歩いていると、道の真ん中に黒い影が見えてきた。

 

(ひ、人!?)

 

 あまりの恐怖に足に力が入らず前へと進む事が出来ない。

 私を待ち伏せしてるようなあの人影は何なの━━━━!?




高校のイベント回です。
補足です。
テイルホワイトの今までの強さは''ポニーテール≧トライブライド>ツインテール''でしたが本来の力を得た事によりツインテール>ポニーテール≧トライブライドとなりました。


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FILE.54 奏、休めず

〈パターバット〉
奏と志乃が中学生の時から通っている近所の喫茶店。 普段のお客さんは少ないがそのレトロな雰囲気と独特の味のする珈琲が癖となり、足を運ぶ常連は多い。

〈ビクトリースクエア〉
奏達の住む県では一番の大きさを誇るイベント会場。 初めてエレメリアンとテイルホワイトが現れた場所という事もあり、今では特にイベントがなくても人が集まるようになっている。人がたくさん集まる場所なだけあり、エレメリアンの出現率も高い。

〈私立園葉高校〉
奏に志乃、そして嵐の通っている高校。 学力は平均的だが野球部とサッカー部に入るために全国から入学希望者が集まる事で有名。 その他文化祭である''そのは祭''も有名。 全校生徒は役600人であり、奏達は2年3組に所属している。 地下にはフレーヌが作り上げた広大な基地が広がっており、テイルホワイトの協力者のみ存在を知っている。


 演出なのか、それともただの偶然なのか……。

 通路を塞いでいる影に怯えていると入口で渡されたペンライトの光が消えてしまった。

 

「あ、あう……」

 

 恐怖のあまり、いつの間にか声も出てしまった。

 わかっている、これが文化祭のお化け屋敷だという事も、あの人影がお客さんを驚かせるための仕掛け、もしくはお化け役の人であるという事も。

 でも……怖いものは怖いの!!

 私の声が聞こえてしまったのか、通路の影は少し動いたような気がする。

 そう感じた直後、急に顔にライトが当てられ思わず手で顔を隠した。

 

「あ、伊志嶺じゃねえか」

 

 よく聞き覚えのある声がした。

 

「え?」

 

 私にライトを当てた、通路の真ん中に佇んでいた人物はどんどん私に近づいてくる。

 ある程度まで近づいてくると、なんとなく相手の顔がぼんやりと見えてきた。

 

「あれ、嵐?」

「やっぱ伊志嶺か」

 

 なんとなく声で想像はついていたけど、通路を塞いでいた黒い影は嵐だったようだ。

 なんだか急に情けなくなってきた気がする。私は嵐にあれだけビビっていたのか……。

 

「で、なんで通路の真ん中にずっと居たの? びっくりしたんだけど……」

「いや、このペンライトを机の下に落としちまってそれ取ろうとしてたんだ。 ……そうか、さっき悲鳴あげてた女子は鍵崎だったのか」

「え、なんでわかったの」

 

 キモいんですけど……そこまでは思ってない。

 

「このお化け屋敷はペアで入るのがお約束だけど伊志嶺は一人みたいだし、さっき走ってった奴がペアなら鍵崎しかいないだろ?」

 

 まさか、私には友達が志乃しかいないとか思ってるんじゃないでしょうね。

 自分で言うのもなんだけどこれでも結構社交性はあるから友達はまあまあいるんですけど。

 

「悲鳴あげて走ってきた鍵崎にビビって俺と一緒に入った奴もびっくりして走っていっちまって……その二人の悲鳴にビビってペンライト落っことしちゃったんだよ」

「へー」

 

 なるほど。

 そのペンライトを探している間に私が嵐に追いついてしまったって事みたいだ。

 

「それでさ……どうせなら一緒に出口まで行かないか?」

「え、なんで?」

「そりゃまあ、伊志嶺は暗いのとかお化け屋敷とか苦手だってのは鍵崎に聞いた事あったし」

 

 志乃は知ってた癖にこのお化け屋敷に私を誘ったの……。 しかも私より怖がって先に言っちゃうし……これは後でお説教が必要になりそうだ。

 一人は確かに怖いけど……嵐に頼るのはなんか悔しいな……。

 

「うんうん、私一人でも平ひゃあ!?」

 

 突然太ももあたりに冷たい何かがあたりまた変な声が出てしまった。

 女子高生の太もも目掛けての仕掛け作るなんて、なかなかセクハラじみた事してるなオカルト部って!

 

「あの、伊志嶺」

「ん? ……あ、ごめん!」

 

 驚いた拍子に前にいた嵐にしがみついていた事に気付き慌てて離れる。

 

「い、いや良いんだ。 早く出ちまおう!」

「う、うん」

 

 前を歩く嵐の背中をみる。

 なんだろうこの感じ……前にもあったような。

 胸がドキドキして張り裂けそうなこの感じ………これってまさか……!

 

「不整脈?」

 

 やばい、まだ人生これからなのに病気にかかっちゃうなんて…………そんなわけないか。

 まあ、中学の頃の私がこの状況を知ったら羨ましがってただろうな。 今じゃ全く何も感じないけどね!

 その後も嵐に前を歩いてもらい、どんどん進んでいく。

 前を歩く嵐に反応し、お化け屋敷の仕掛けが作動するおかげで嵐と会った後はあまり怖くなくなってきた。

 それにしても、いつもすました顔してる嵐が声をあげて驚く様子はなんとも言えない面白さがある。

 

「お、外の光が見えてきたな」

「出口!」

 

 廊下の明るい光が見えてきたところで嵐を追い越し、猛ダッシュする。

 ああ、やっとこの恐怖から逃れられるところで思うと涙が出てきそう……。 正直言うと下っ端エレメリアンと闘うよりもこのお化け屋敷のほうが怖かった。

 最初はコンニャクなんかが出てくるからどうなのかとも思ったけど、後半になるにつれて本当に学園祭のクオリティとは思えない出来だった。

 県外から足を運ぶ人もいるのもなんとなく納得……はできないけど好きな人は好きなんだろう。

 出口と書かれた看板の真下にあるドアを開けようと取手に手をかけ、勢いよく開けると━━━━たくさんの目と、目があった。

 

「いいいいいいいいいいやああああああああああああああ!!!」

 

 今まで出した事のない悲鳴が教室内……いや学校中に木霊した。

 ドアの向こうは廊下ではなく音楽準備室だったらしい。

 最高に出来がいい特殊メイクをしたゾンビの集団がそこにはいた。

 

 

 人が多い中庭を駆け抜ける小さな影があった。

 綺麗で明るい茶髪の髪の毛はこの人混みの中でもよく目立つ。

 

「おお、これがタコ焼きというものですね!? 一度食べて見たかったんです!!」

 

 目に入るもの全てに目を輝かせる彼女は異世界から自分の世界を守ろうとした戦士を探しこの世界へと降り立った天才科学者フレーヌだ。

 自分の世界で経験した事のない文化祭という行事を彼女は誰よりも楽しみ、年相応にはしゃいでいた。

 

「楽しそうね、フレーヌ」

「く、黒羽さん! 来てくれたんですね!」

 

 声のしたほうに振り返ると、奏と孝喜を一緒に尾行した時の格好をした黒羽がいた。 ただし今日はサングラスはかけていない。

 

「気晴らしにね。 私もこんな事したことも来たこともなかったから気になったのよ」

 

 前に見せた部下が敗れたことを実感し酷く落ち込んでいた時の顔ではなく、いつもの黒羽だ。

 

「それにしても、テイルホワイトのお店はたくさんあるのになんでテイルシャドウのお店は全くないのかしらね。 売り上げを少し貰おうとしてたんだけど……」

「その事をテレビで話してたからだと思いますけど」

 

 フレーヌが言う通り、以前黒羽はインタビューを受けた時にテイルシャドウグッズの売り上げを請求した事があった。

 そうすると、元々あまり作られていなかったテイルシャドウグッズは一気に姿を消してしまったため今ではかなり高額で取引されているとか。

 

(そういえば、個人取り引きの現場にも駆けつけるって言ってたような……)

 

 そうする事で僅かながら収入を得ている黒羽は普段は一人で、気が向いたり緊急の用事があると基地へ顔を出す程度となっていた。

 

「ま、ただの育成機関の行事だしあんまし面白いとも思わないけどね」

「両手いっぱいに持っているそれはなんでしょうか……」

 

 何故か両手にタコ焼きを持っている黒羽はフレーヌの言葉には返答せず、一つ、また一つと食べていく。

 

「そういえば、今テイルホワイトの劇をやってるみたいなんですけど一緒に行ってみませんか?」

 

 ベンチに座り、タコ焼きを全て食べ終えたところで文化祭のパンフレットを見てフレーヌが提案する。

 

「そうね。 もしテイルシャドウが出ていたら出演料を貰わないといけないし」

「いや、劇自体は無料ですしおそらくテイルシャドウも出ないかと……」

 

 フレーヌの言葉には耳を傾けず、黒羽は出演料を貰う事だけを考え、体育館へ向けて歩き出す。

 フレーヌは少しため息をつくと、走って彼女を追いかけていった。

 

 

 オカルト部の気合の入りようはすごかった。

 おかげで中庭の静かなところにあるベンチに腰掛けたまま、私は全く動けない。

 怖かったの一言に尽きる。

 

「おまたせー♪」

 

 私を置いて一人で逃げた志乃が手にアイスクリームを持ってこちらに近づいてきた。

 どうやら志乃はあのトラップに引っかからなかったらしく、私がした怖い思いはしていないみたいだ。

 なんで志乃だけ……妬ましい!あ……アイス美味しい。

 

「そういえば奏、ツインテール好きになったって言ってたのにツインテールにしないの?」

 

 突然志乃はアイスを食べるのをやめ、思い出したように話し出す。

 そういえば、ノームギルディとの闘いの中でそんな事を言ってたっけ。

 

「それは私がテイルホワイトの時だけ」

「ツインテール属性って結構いい加減なんだね……」

 

 まあ、テイルホワイトの時のツインテールが好きっていう気持ちは本物だしそこは甘めでいいかな。

 私自身は、自分がツインテールにするなら、本気で好きになってからだって考えてる。

 

「奏はさ、エレメリアン倒したら何かしたいとか考えてるの?」

 

 ここで夢を語ったらとてつもなく嫌な予感がするだけに、あまり言いたくはないけど……。

 まあ、そもそも私に夢なんてないのだ。

 

「まずは普通の女子高生に戻りたいなって。 今も嫌で闘ってるわけじゃないけど、部活は今さら入るのもあれだから……やっぱり放課後にカラオケ行ったりだとか、バイトしたりだとかそういうことしたいかな」

 

 それである程度は勉強もして、高校を卒業したら大学にいって……安定した仕事につきたいかな。

 

「奏、女優になればいいんじゃないの? お母さんもそうだったんだし」

「私は別に興味ないんだよね」

 

 小さい頃にもよく言われたことだ。

 パーティーに行き、会う人たちほとんどから将来女優になるだとか言われ続けてきた。

 有名になるという点じゃ、まあ確かになってるけど……。

 

「でもさっきの演技よかったよ!」

 

 役はあまり納得はいかなかったけどやるからにはしっかりやりたかった……これもお母さんに影響されているんだろうか。

 

「簡単に女優になんてなれないよ。 それに私みたいなやる気のない人がなったら一生懸命なろうとしてる人に申し訳ないし」

 

 今までもこうやって生活してきた。

 お母さんの名前を出すことで特別視されたくないため、志乃のような親友にしか私のお母さんが元女優だったという事を話していない。

 

「普通が一番だって、エレメリアンと闘って気づいたの。 それはこれまでも、今も、これからも変わらない事だよ」

 

 ま、今は全然普通じゃないからまずは普通の状態に戻るまでの努力がいるけどね。

 

「そっか、そうだよね! 奏が女優になったら私といる時間も減っちゃうし」

 

 笑顔で放った志乃を直視できなくなり、思わず私は手元のアイスへ視線を向けた。

 何だろう、この感じ。少し照れくさい。

 

「あれ? なんで校内にトカゲが……」

 

 目をそらした先に小さなトカゲがいた。私が声を出すと逃げてしまったけど。

 ていうかあのトカゲ、しばらくこっちを見てたような……そんなわけないよね。 ただのトカゲだもんね、うん。

 生物部とかから逃げ出したんだろうね、きっと。

 

「え、何!?」

 

 ベンチから立ち上がり、次に向かう場所を決めようとすると急にテイルブレスが可視化、間も無くフレーヌの焦った声が聞こえてきた。

 

『奏さん、エレメリアンが劇に乱入しています! 先に黒羽さんがステージに上がりましたけどもうメチャクチャなんで助けてくださぁい!』

「え、黒羽来てるんだ! 誘っといてよかったね!」

「うん! いや、じゃなくて」

 

 すぐに向かうといっても、一年に一度の大行事なだけあって人はいっぱいだし何処で変身したらいいのか。

 

「ねえ、君。 それってどこ製の玩具? 通信までできるやつあるんだねえ」

 

 しかも私とフレーヌの通信が聞かれてしまったらしく、私と志乃の周りにワラワラと人が集まってきた。

 玩具と思っているだけマシっちゃマシだけど。

 

「え、えとこれは……。 あー!! テイルホワイトだ!!」

 

 目一杯大きな声を出し、テイルホワイトの名を叫ぶと周りにいた人達全て指差した方へ視線を向ける。

 

(テイルオン!)

 

 素早く変身を完了すると、高く跳躍し一応自分の姿を見せておく。

 

 

 その場にいる人達に手を振ると、直ぐに体育館の屋根へと飛び移り二階の窓から中へと入った。

 私たちの二つ後にテイルホワイトの劇がやる予定だったし、時間からしておそらく今はそれをやっているのだろう。でも、フレーヌはエレメリアンが出たって言ってたのに中で劇を見ている人達は全くパニックになっていない。

 客席にエレメリアンはいないようでステージへと目を向ける。

 

「この世界はなんて嘆かわしい世界なんでしょう!?」

 

 エレメリアンはステージの上にいた。

 テイルシャドウもいるし、アレがエレメリアンに違いないんだろうけど何故こんなに静かなんだろう。

 

『恐らく、劇の内容だと思っているのでしょう。 黒羽さんがステージに上がった時多少ざわつきましたけど直ぐに静かになりましたし……』

 

 劇をやっている途中にエレメリアンが出てきても直ぐに本物だとは思えないのかな。……普通わかりそうなもんだけど。

 二階の柵を乗り越え、私もステージの上へと降り立った。

 静かだったお客さん達はざわざわし始める。

 

「テイルホワイトだ!」

「うっそ! テイルホワイトが二人出る劇なの!?」

「でもよくできてるよなあ……」

「でもツインテールの色が違くね?」

 

 あれ?

 どうやら私の登場も劇の内容だと思っているらしい。だが、それは劇を見にきているお客さん達の話で、元々テイルホワイトを演じていた子や舞台袖で見ている子達は私達が本物だと気づいているようだ。

 シャドウと相槌を交わし、私はステージ上にいるエレメリアンと対峙する。

 

「今度はなんの属性力が狙いなわけ? キャットギルディ!!」

 

 自信を持って、ドヤ顔で、これが目の前のエレメリアンの名前であろうと叫んだ。

 

「く……この私を汚らわしい猫などと一緒にするなど……!!」

 

 あれ、どうやら違ったらしい。

 顔を見ただけだと完全に猫のはずだが、そうなるとネコ科の別の生き物なんだろうか。

 

「違うわホワイト。 あいつはキャットギルディじゃなく、ケットシギルディよ」

 

 ケットシ……見た目は完全に猫モチーフなんだけど、黒羽が言うなら猫ではないのだろう。

 完全にわけがわからなくなったところへフレーヌから通信が入り、解説がはじまった。

 

『ケット・シーと呼ばれる猫の妖精ですね』

 

 なるほど、''猫''だけど''猫'じゃないってかなりややこしい。

 フレーヌの解説のおかげで目の前のエレメリアンが妖精と呼ばれる幻の生き物がモチーフだとわかることができた。

 ということは、正真正銘聖の五界のエレメリアン!

 

「それで、隣にいるあなたは? 私は見たことないけど」

 

 テイルシャドウがケットシギルディの近くにいるエレメリアンへ声をかける。

 

「い、いや、俺は劇に出演していただけで……」

 

 どうやら無関係らしい。

 

「ふふふ、私にはわかりますよテイルホワイトよ。 あなたが本物だということがね!」

 

 どうやら私をステージの上にいるテイルホワイト役の子と比べて答えたらしい。

 

「そんなの、属性力を感じられるあんた達なら直ぐにわかるに決まってるじゃん」

「ふふふ、そんなもの必要ありません。 見てごらんなさい! その娘とあなたの胸を!!」

 

 何故かエレメリアンの言葉に従い、テイルホワイト役の子の胸をみた後に自分の胸をみてみる。

 うーん、少し彼女の方が大きいか大きくないかくらいだろうけどそこまで違いは感じられない! 私と彼女の胸を見ただけではどちらが本物かなんてわからないなっ!

 

「セクハラもいいとこ……て、エレメリアン自体がそんなもんだし今更だわね」

 

 とりあえずテイルホワイト役の子とエレメリアン役の子を舞台袖へと移動してもらったところでお客さん達は私達が本物だとは感づき始めたらしく騒然とし始める。

 

「ふふふ、私は一人ではありません! 戦闘員達、カモオオォォォォォン!!」

 

 腕を高々と上げ、ケットシギルディが叫ぶとステージの両端からモケモケ達が現れた。

 そして出てきたモケモケ皆が自分の体に手をかける。

 

「モケモケ━━━━!!」

「モケ━━━━!!」

「モッケケ━━━━!!」

 

 なんとモケモケ達は皆が自分の全身タイツのような物を破ると、中から全く変わらない同じモケモケが現れた。マトリョーシカかな?

 

「戦闘員は劇に紛れ込むために上から戦闘員の衣装を着ていたみたいね」

 

 黒羽はかなり真面目な顔をして解説してるけどはたしてそんなことする必要はあったのだろうか。

 

「さあて、手柄をあげますよ!!」

 

 咄嗟にアバランチクローを装備し迎撃する構えを取る。

 シャドウも同じようにノクスアッシュを手に持つと素早く一閃し、まわりにいたモケモケを何体か吹き飛ばす。

 

「カメラで撮るならお金取るわよ!!」

 

 お客さんに向けた言葉だろうが誰もがテイルシャドウに向けてカメラを構えていない事に、彼女は気づいていないようだ。




今日は施設の説明です。
今まで説明していなかったですね…。


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FILE.55 絶望の季節、そしてエロゲー

〈アルティメギル・シャークギルディ部隊艦〉
奏の世界の属性力を奪取するために異空間に停泊する基地。 元はシャークギルディ部隊の艦だったが、補修部隊が到着するたびに新たな艦が繋がっていき、当初の倍の大きさとなった。 現在はウンディーネギルディの要望により、艦の三分の一が女性型エレメリアン専用のフロアとなっている。

〈テイルスペース(フレーヌ基地)〉
学校の地下に建設された対エレメリアン用の基地。 テイルホワイト、テイルシャドウ両者をバックアップするための、メンテナンスルーム、トレーニングルーム、使われた事のないプールなどを完備している。 メインルームには地球上どこにエレメリアンが現れても速やかに検知し、場所を特定するモニター。 速やかにその場に転送する事の出来る空間跳躍カタパルトが設置されている。 その他フレーヌの寝室、シャワールームなどもある。 名前をつけたのは黒羽。


 今まさに、漆黒の斧が罪人へ振り下ろさんがために大きく発光している。

 

「ノクスクライシス!」

 

 高校の小さなステージの上でキャット……ケットシギルディは、シャドウの必殺技を避けることもなく静かに散っていった。

 恐らくステージから降りなかったのはたくさんいるお客さんが闘いに巻き込まれないようにという気遣いだろう。

 サラマンダギルディもそうだったけど、聖の五界も今までのエレメリアンと同じく武士道に近いものを持っているらしい。 ただエンジェルギルディが過激なだけなのかな……。

 ていうか、シャドウが全部やってくれたおかげで今回私はただ見てるだけだったな。

 

「さあ、サインが欲しければ並んでちょうだい。 色紙でも服でも、特別に一回五千円よ!」

 

 た、高い!?

 当然そう思ったのは私だけではないらしく、劇を見にきていたお客さんはどんどん席を立ち体育館の外へとダッシュで出ていく。 なんと十秒もしたら、体育館の中には私とシャドウだけになってしまった。

 

「うーん、アルティメギルの連中なら喜んで欲しがるんだけどねえ…。 人間っていうのは中々複雑なのね」

 

 前から思ってたけど、自分の事に関しては思考がかなりポジティブだなこの人。

 そういえば、フレーヌの姿が見当たらないということは体育館の外へと逃げていったみたいだ。

 私が愛想笑いしてる中、ここで不幸な生徒が体育館へ入ってきた。

 

「お、次演劇部なのにガラガラだなー」

「ラッキー!」

 

 嵐と、嵐と同じサッカー部の真部だ。

 二人がこちらに気づく前に、シャドウは二人を見つけるとステージから飛び降り目の前に立つ。

 

「嵐君、ちょうど良いところに来たわね。 サインしてあげるわ。 横の君もね」

 

 するとシャドウは半ば強引に自分のサイン色紙を渡す。

 状況を察したのか二人ともだんだんと顔色が悪くなっていく。 ……なんかかわいそうになってきた。

 

「はい、五千円よ」

 

 なんの悪気も感じない百点満点の笑顔と、相手がテイルシャドウということで嵐も真部も渋々財布を出し、五千円札をシャドウへと手渡した。

 

 後にこの事件が高校から私の町全体へと広がり、テイルシャドウの評判がさらに悪くなったことは言うまでもない。

 

 

 長かったようで短い文化祭が終わってから今日で三日目。

 一日目こそ本物のエレメリアンが現れるハプニングがあったものの、二日目は特に大きなハプニングもなく文化祭は進み無事に終えることができた。

 特に中学生の時の同級生達が劇を見にきてくれたのには驚いた。

 皆全然変わっていなくて、楽しくおしゃべりできたのはよかったと思う。

 そして今日、気の抜けた雰囲気の中、先生の一言でクラス中からブーイングが巻き起こる。

 

「というわけでテイルホワイトも大事だが、もうすぐ期末テストだ。 赤点とったら冬休みは補習を受けてもらう」

 

 悪意に満ち溢れた笑いを見せると、担任は教室から出ていった。

 帰る準備をする人、部活の準備をする人、なぜか教室から動こうとしない人などいる中いつものようにテイルホワイト関連の話が聞こえてくる。

 

「この後どうする?」

「テイルホワイトの写真展に決まってんじゃん!」

「でも四日くらいテイルホワイト現れてないからそろそろ出てくるかもしれないぜ? 俺の予想するポイントは……」

 

 普通は期末テストの話が聞こえてくるはずなんだけど……。

 それに最後の男子が言っていたテイルホワイトが現れるポイント予想は可哀想な事に当たった試しがない。 そもそもエレメリアンが現れたところに私が行くわけだから、ここにテイルホワイトが現れるっていうのは違うような気もする。

 いつも通り、必要な教材を鞄へと詰め私は席から立ち上がる。

 向かうは地下の基地、テイルスペース!!

 

 

 ウィンウィンといった未来的な機械音がする基地の中で繰り出されるは━━━━渾身の土下座だった。

 

「な、何やってるんですか……?」

 

 土下座をする私に疑問を持ち、フレーヌはタイピングをやめ椅子を回転させこちらを向く。

 

「もうすぐ期末テストだからね。 奏はバリバリの文系だから、今度の数学や科学がヤバイみたいでねー」

 

 私の代わりに志乃が解説をしてくれた。

 言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、高校一年の時からこの前のテストまでは一応赤点は回避できていた。 ただ、ここにきて毎日エレメリアンと闘っていたつけが回ってきたのだ。

 授業中に現れ、家で宿題しようとすれば現れと、今回はろくに復習もできずどこからどこまでがテスト範囲なのかすらもわかっていない。

 思わぬところでエレメリアンの迷惑さを実感したのだ。

 私は志乃に促され頭をあげた。

 

「数学くらい教えてあげるから平気だよ」

「さすが志乃……! 愛してるよ!!」

 

 私の前にいる志乃を感謝の気持ちを込めて抱きしめる。

 

「あれ、なんでトカゲがいるんでしょうか……」

 

 基地にトカゲがいたらしく、フレーヌは「えいっ」といってボタンを押すとトカゲは何処かへ転送されていった。

 

「そういえば、私数学は得意だけど科学は教えるほど出来ないよ?」

 

 前に志乃にそう聞いた時からどうしようか迷っていた。

 だけど、私にはつよーい味方がすぐそばにいたのだ!

 

「フレーヌ、私に勉強を教えて!」

 

 テイルギアの開発や、この基地、まさに科学の結晶体とも呼べるべきフレーヌなら高校の授業くらいなんともないはずだ。

 フレーヌに向け、期待の眼差しを送る。

 

「私は確かに天才科学者ですけど、専門分野というものがあってですね……」

「え」

 

 帰ってきたのは思いもしない答えだった。

 

「私は奏さん達が現在学習しているような事は正直疎いんです。 私の専門分野は主に属性力関連の事で……あれ、奏さん?」

 

 こんな単純な事に気がつかなかったなんて……!

 非常にまずい。 このままじゃ数学はどうにかなったとしても、科学で赤点を取ってしまう……!!

 そうなったら、私の冬休みが……!!

 

「ふぐううううううう……っ!」

 

 自分でも気づかないうちに嗚咽を漏らす。

 

「泣いてるんですか!?」

「それも力強く!」

 

 勉強に関しては一定の水準を保ってきたはずなのに……こんなところで躓くなんて。

 唯一の希望も砕かれた私の前に広がるは漆黒。

 白銀に輝いていたテイルホワイトのツインテールさえも、今の私が変身すると真っ黒になりテイルブラックと化してしまうだろう。本物のようにマッチョ使いにはならないけど。

 私の泣き声が木霊する中、突如一斉に基地のアラームが鳴り響き、私の声は聞こえなくなる。

 

「エレメリアンです! 場所は……この国で有数の名高い大学のようですね」

「なんてタイミング……」

「えっと、奏さん大丈夫ですか?」

 

 椅子を回転させこちらを見るフレーヌ。

 私は立ち上がり、静かにブレスを胸の前に持ってくるとテイルギアが起動し変身が完了した。

 私の視界にごく僅かに映るツインテールは白と、淡い紫色でどうやらいつも通りらしい。

 

「確かにテストは絶望的だけど、私はテイルホワイトだからね」

 

 カタパルトの中へと入り、転送されるのを待つ。

 

「どうか、お気をつけて」

 

 光に包まれる直前、フレーヌの声が聞こえ私は親指をたてる。

 学校でのテストなんて今は関係ない。

 ただ、私はテイルホワイトとしてツインテールを守るだけだ。

 

 

 奏の世界を侵攻するアルティメギルは現部隊長であり聖の五界隊長であるエンジェルギルディの指示のもと、皆が大ホールに集合していた。

 それぞれが緊張しているのは目に見えて明らかだ。

 エンジェルギルディは周りを見渡すと登壇台の上に立ち、口を開き始める。

 

「ただいま、シャークギルディ部隊所属のロブスタギルディさんが出撃されましたわ。 彼は短期間の間に素晴らしいパワーアップを遂げましたの」

 

 ロブスタギルディといえばシャークギルディ部隊の中でも一二を争うほど臆病かつ実力が低かった者として有名な事は.この艦にいる誰もが知っている事だった。

 当然その彼が出撃し、どんな特訓をしたのか、隊員達は興味を持つ。

 

「私と聖の五界の頭脳であるエントギルディが考案した『エロゲミラ・レイター』と『メロゲイマ・アニトュラー』を合成させた『エロゲック・ルーワー』の賜物ですわ!!」

 

 途端に大ホールは静かになった。

 一応質問をと一体のエレメリアンが手を挙げ、エンジェルギルディも質問を許可した。

 

「なんとなく察しているのですが……それはどういった修練なのでしょうか?」

「あら、申し訳なかったですわ。 この『エロゲック・ルーワー』は端的に話すと自分を主人公としたエロゲーを作ってもらうのですわ」

 

 再び大ホールは騒然とし始める。

 そんな中、またも質問をと一体のエレメリアンが挙手をする。

 

「しかし、我はコンピュータに疎くエロゲーを作るなどとというのは……」

「ご安心くださいませ。 その事を考え、修練を受けて頂く方は脚本を書いてくださればいいですわ。 プログラミングはエントギルディが、イラストCGはビートルギルディ仕込みの画力を持つフラウギルディが担当致しますわ」

 

 おおお、という声が大ホールの至る所が聞こえてくる。

 中にはそこまでの修練を感じないのか、一応その修練をしたいという者が挙手をし始める。

 自分好みの脚本で、エロゲーができる。 この言葉だけを聞けば、拒否するものなどいるはずもない。

 だが次の一言で、大ホールは水を打ったように静かになってしまう。

 

「ただし、これで修練は終わりではありませんわ。エロゲーが完成したらこの大ホールで皆に守られながら自分のエロゲーを思う存分プレイしてもらいますわ。 ここまでが私の超修練『エロゲック・ルーワー』ですわ!!」

 

 恐ろしい修練だった。

 ただ自分の作った自分好みのエロゲーをプレイできるならそれはご褒美にも近かった。 しかし、それを大衆の目の前でプレイするのは難易度が跳ね上がるレベルの話ではない。

 普通のエロゲーでさえも仲間に見つからぬようコソコソと自らの部屋で行うものであり、大衆の前でやるなどもってのほかだ。

 先程まで手を挙げていたエレメリアン達も気づかれぬようそっと手を下ろしていく。

 

「ロブスタギルディはこの修練の内容が漏れないよう、極秘に聖の五界の隊員の目の前でプレイしてもらいましたがそれでもかなりの効果がありましたの。そして、既に『エロゲック・ルーワー』に挑戦する方がこの中にいますわ」

 

 当然大ホールにいる隊員達皆がざわめき出す。

 そんな中、この悍ましい修練を乗り越えんとする者が手を挙げエンジェルギルディの隣へと出てきた。

 

「ウォルラスギルディ……!」

 

 八重歯を愛し、八重歯を武器とする若手の有望株、ウォルラスギルディだ。

 オルトロスギルディの教えを受け、オルトロスギルディが散った後も黙々と修行を続け、実力は隊の中でも相当なものへと成長していた。

 ウォルラスギルディは黙ったまま一礼すると大ホールの真ん中、真ん中のテーブルの中央へと座りパソコンを立ち上げた。

 ホーム画面に新たに追加されたアイコンをクリックすると早速ゲームが始まる。

 エンジェルギルディが根本のキーボードを操作すると、ウォルラスギルディが今まさに始めようとしているゲームのタイトル画面が大ホールの天井に吊るされている大きなモニターに映された。

 

「ぐっ……!」

 

 ここにきて初めてウォルラスギルディの表情が変わった。

 

「では、スタートをお願いしますわ」

 

 スタートをクリックすると既に作成されたプロフィールが表示され、すぐに物語は始まった。

 

『ウォルちゃん、元気なさそうだけど……どうかしたの?』

 

 大ホールの隅から隅まで響き渡るツインテール+八重歯美少女の声。

 覚悟を決めていたはずのウォルラスギルディの手が止まり、動かなくなった。

 

「あら、どうかしまして? 修練はまだ続いていますわよ」

「も、申し訳ありませぬ……。 エンジェルギルディ様、どうか……どうか未読スキップを可能にしては頂けますか!!!」

「それでは修練の意味がありませんわ」

「ぐう……!」

 

 再び画面に向き直り、ウォルラスギルディは未読スキップを使用する事なくゲームを進めていく。

 

『ダメだよぉ……。 ウォルちゃんてばせっかちなんだからぁ〜』

 

 気づけば一時間ほどたっていた。

 ウォルラスギルディは既に満身創痍で、震える手で選択肢にカーソルを合わせる。

 

「ぐあああああああああああああああああああああ!!!」

 

 悲鳴をあげ、ウォルラスギルディはとうとう椅子から転げ落ちてしまった。

 

「あらあら、耐えられなかったみたいですわね。 戦闘員達、ウォルラスギルディを連れて行きなさい」

 

 エンジェルギルディがパンパンと手を叩くと隅の廊下から戦闘員達がモケモケと現れ、ウォルラスギルディを担いでいった。

 

「さて、皆さん……あら?」

 

 深いダメージを受けたのはウォルラスギルディだけではなかったらしく、大ホールにいるほぼ全てのエレメリアンはこの一時間の中で机に突っ伏してしまっていた。

 

「ま、面白かったし良しとしますわ」

 

 満足気なエンジェルギルディの声は、大ホールにいるエレメリアン達には届いていなかった。

 公開処刑という名のエンジェルギルディの遊戯はここに幕を閉じた。

 

 『エロゲック・ルーワー』という修練はこの日以降挑戦される事が無くなり、幻の修練として語り継がれていったという。

 

 

 国内有数の名門大学に現れたのは、何やらカニのようなエビのような、はたまたザリガニのようなエレメリアンだった。

 既に私とエレメリアンの周りには大学生達がワラワラと集まってきている。

 

「一応聞いておくけど、あんたは何ギルディで何属性なの?」

 

 私の言葉に反応し、おそらく……エビギルディは大きな体を揺らして一歩近づく。

 

「知りたいか!?」

「いや……別に聞きたくないけど。お決まりっぽいから聞いて━━」

「我はあ!ロブスタギルディ!!」

 

 少しめんどくさいエレメリアンらしい。

 ロブスタっていうとロブスターだろうからエビのはずだ。

 エビのくせになんでこんな暑苦しいんだろう。

 なんかツインテイルズの世界に行った時に闘ったモスギルディを思い出す。

 

「そしてえ! 我のお!属性力はあ!理系女子イ!!」

「は?」

「サイエンスガールウウウウ!!!!……おばぁ!?」

 

 とても耳障りな暑苦しいロブスタギルディの腹部に、私の拳が見事にヒットした。

 私の不意打ちのせいで、ロブスタギルディは地面を転がっていき、端の植え込みに入ったところでようやく止まった。

 

「どうやら私はあんたとは対の関係みたい。はやく終わらせよ」

「くそっ! これだから文系は……」

 

 植え込みから起き上がる時に何やらブツブツ言っている。

 全ては聞こえなかったけどやっぱりこのエレメリアンはムカつく。

 

「悪いが俺は文系女子に興味はない! テイルホワイトオオオ!お前とはあああ!戦えんっ!!」

 

 殴られてもいちいちポーズを決めているところがまた暑苦しく、みていてなんだかムカついてくる。

 

「な、なんですって……? そんなの聞けるわけないでしょ!」

 

 瞬間的にエレメリンクし三つ編みへとなると、そのままフロストバンカーから複数の光線をロブスタギルディに向けて発射する。

 

「サイエンスガールウウウウウウ!!!!」

「や、やるじゃない……!!」

 

 暑苦しく、ムカつくエレメリアンだが実力はなかなかのもののようで奇妙な掛け声とともに腕の大きなハサミで光線を真っ二つにした。

 ロブスタギルディの横で光線は爆発し、全くダメージを与えられていない。

 

「我はなあ!エンジェルギルディ隊長のなあ!新たな修練を乗り切ったのだぞお!? 生半可な文系の攻撃が効くわけがないのだあああああ!!」

 

 あまりにも気合が入りすぎて声が裏返ってるんだけど……。

 ていうか光線に文系とか理系とかあるのだろうか。 おそらくないだろうけど。

 私が再び光線を撃とうとしたその時、大学の建物の屋上からアンリミテッドチェインとなったテイルシャドウが飛び降りて━━━━

 

「ノクスクライシス・ディミヌエンド━━━━!!」

「ぐおおおおおおおおおおお!!」

「ええええええええ!?」

 

 ノクスアッシュが分離し彼女の足に装着され鋼すらも切り裂くようなかかと落とし、シャドウの新たな必殺技であっけなく勝負はついてしまった。

 

「ふ、何が理系文系よ。 数々の異世界を渡り歩いてきた文武両道の私が負けるはずがないわ」

 

 カメラを意識し、かっこよく決めようとしているのだろうけどシャドウが現れた瞬間にギャラリーはどんどん遠くなっていく。まあ……油断してたらお金とられるしなあ……。

 そういえば、今文武両道って言ったよね。

 

「ねえ、黒羽。 文武両道って本当なの?」

 

 未だにカメラ意識のシャドウに近づき話しかけると、ギャラリーがいない事に気づきようやくいつものシャドウへと戻る。

 

「シャドウよ、テイルシャドウ。 さっきも言った通り、オルトロスギルディとして色々な世界を回ってる時につけたくもない知識がどんどん増えていったの。 この国の育成機関に入る事だって難しくもないわね」

 

 どうやら神様は私に救いの手を差し伸べてくれたらしい。

 自分でも気がつかないうちに、私はテイルシャドウへ素早く駆け寄り、彼女の手を握っていた。

 私の行動に驚いたのか、シャドウはあたふたしている。

 

「お願いがあります。 テイルシャドウさん」

「な、なに?」

「私にサイエンスを教えてください!!」

 

 しばらく沈黙が続いたが、シャドウの言葉によってそれは終わった。

 

「意味がよくわからないけど、わかったわ」

「ほんとに!? ありがとー!!」

 

 これで冬休みに補習に出なくて済むと思うとかなり心が楽になった。

 

『大丈夫なんですかねえ……』

 

 フレーヌが通信でなにやら話していたようだが、気分が最高潮になっている私は何を言ったのか全く気にしていなかった。



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FILE.56 究極の戦士

リンクブレス
フレーヌが奏と志乃の間におきた現象を解析し、任意に発動する事を可能とした装置。 安定した属性力の供給ができる他、リンクする相手が離れていてもエレメリンクが可能となる。 現在は志乃の物と孝喜の物と二つのブレスが開発されており、カラーリングは黒に赤いラインが入ったものとなっている。 テイルギア同様イマジンチャフが搭載されており、その他、GPSや通信機能なども搭載され、エレメリンクを発動する時のみ可視化される。


 平行世界。

 それは人知を超えた尺度で存在する、限りなく無限に近い無数の世界。

 決して互いに干渉することはなく、その中で数多の命と歴史が紡がれていく。

 属性力を狙うエレメリアンのアルティメギルという組織は異世界の壁を破り、数多の世界でツインテールの戦士と闘っている。

 テイルホワイトとなった奏が聖の五界と闘いの末、本物のツインテールへと到達したその時、ある世界に異変が起きる。

 

 とある世界━━━━それは奏の世界と見間違うほど、酷似している世界だった。

 高いビルに囲まれた、僅かに自然が残る公園。

 ここでは、二人のツインテールの少女がエレメリアンとの闘いを繰り広げている。

 

「ぐおおお!!」

 

 少女の必殺の一撃を受けると、エレメリアンは苦悶の声を上げた後爆発した。

 少女達は激しい闘いの末、勝利したのだ。

 すると、闘いを見守っていたギャラリーの中からテレビカメラを持った人達が、一人目の少女へと詰めよる。

 

「今回の勝因は?」

「是非私達と番組を作って欲しいのですが!?」

 

 カメラマン達に詰め寄られ、少女は困った様子でもう一人の少女へと助けを求める。

 もう一人の少女の周りにはカメラマンどころか、ギャラリーさえ居らず、むしろ避けられているように見えた。

 機嫌が悪いのか、その少女は属性玉を取り出し腕の装甲へ装填すると、もう一人の少女を置いて何処かへ飛び立ってしまった。

 飛び立ってもなお、ギャラリーはもう一人の幼子へと注目し、カメラを押し付けてくる。

 この様子はしっかりと生中継され、テレビを見ている人達もまた、その少女に魅せられていた。

 ツインテールの戦士がアイドルのように扱われている事に、少女は不満なのか、ギャラリーの中から抜け出すと一目散に駆けて去っていく。

 

「何かしたっていうのかよ……」

 

 飛び立っていった少女に向けての一言だ。

 

「ああ、大丈夫……」

 

 通信が入り、オペレーターと話をすると少女は奏のテイルギアとよく似たブレスを胸の前へかざし、変身を解こうとする。

 だが、

 

「な、何!?」

 

 突如少女の横に極彩色のゲートが現れ、少女を吸い込もうとし始めた。

 掃除機のようにあたりの物を、無機物有機物と関係なく吸い込んでいくと、さらにゲートの勢いは強まっていった。

 

『……じ……ま!!』

「くっ!…………うわああああああああ!!」

 

 通信相手が必死に叫ぶも、少女は耐えきれずに極彩色のゲートへと吸い込まれていった。

 少女が吸い込まれていくと、極彩色のゲートは速やかに閉じられ消滅してしまった。

 

 

 私の目の前にいる敵。

 この敵は今までのエレメリアンよりも遥かに私を困らせているかも……いや、確実に困らせている!

 ただ薄っぺらいだけの奴とただ黒いだけの奴にここまで苦戦を強いられるなんて……!!

 苦戦している間に、だんだんと二体の敵は大きくなり、もう私の力じゃどうしようもなくなっていく。

 ダメだ……逃げるしかないのか!?

 そう、フレーヌにも言われた通り……今こそ勇気ある撤退を!

 

「あのー……奏さん?」

「……え?」

 

 フレーヌに呼びかけられ、一気に現実に引き戻された。

 

「黒羽さんに教えてもらうっていう約束してましたよね?」

 

 ウィンウィンといった未来的な機械音がなるフレーヌ基地テイルスペースで、私は目の前の化学という敵と対峙していた。

 フレーヌの言う通り、私はこの前黒羽に教えてもらう約束をしてもらい、実際に見てもらった……のだが。

 

「暗記すればいいじゃんしか言わないし。……まあそうなんだけど、暗記の仕方を教えて欲しいのにー!!」

 

 考えてみたら元からできる黒羽と元からできない私でやろうとしたのが間違いだったんだよね。

 というわけで、とりあえず志乃に範囲を教えてもらいヤマをはることにした。

 

「私としては奏さんが理数系が苦手なのは意外でした。 嵐さんのほうは意外でもなんでもなかったですけど」

「嵐はスポーツ推薦で高校決めて、大学もスポーツ推薦確実だってサッカー部の連中が言ってたし、留年しない程度に勉強しとけばいいだけみたいだからね」

 

 一つでも秀でた才能があればこんなにもイージーになるというのに……。 なーんて、才能があっても努力しなきゃならないのは私も知ってますよー。

 でも、私にあるのはツインテール属性だけだなんて……しかもそのせいでエレメリアンと闘う事になるなんてね。

 なんかもう、笑えてくる。

 

「……仕方ありません。 もしもの時に作っておいたこのコンタクト型液晶とミクロサイズイヤフォンでカンニングを……」

 

 いつの間にそんな物を作っていたんだ。

 

「さすがにカンニングはちょっと……遠慮しておくね」

 

 確かにフレーヌの技術あればカンニングは造作もないだろうけど、それじゃその場しのぎにしかならないしね。……勿論悪い事だってわかってるよ。

 

「あ、エレメリアンです」

 

 頰をパチンと叩いて気合を入れ直し、シャーペンを持ち目の前の敵と対峙しようとすると基地にエレメリアン出現アラームが鳴り響く。

 とことん空気読めないんだから、エレメリアンは!!

 

「テイルオン!!」

 

 走りながらテイルホワイトへと変身し、カタパルトへ滑り込むと私はエレメリアンが出現した場所へと転送された。

 

 

 私と、フレーヌの要請で駆けつけたシャドウの目の前には熱弁する二体のエレメリアンがいる。

 

「時代はオッドアイ! 神秘的なその瞳こそがツインテールとの調和性を高めるものと思わぬか!?」

 

 一体は確か、アネモネギルディ……イソギンチャクと名乗っていた気がする。

 頭のあたりから髪の毛のように垂れている何本もの触手はどこかクラーケギルディを思い出させる。

 左右で瞳の色が違うオッドアイがアネモネギルディの属性力らしい。

 そして、横にいるもう一体のエレメリアン。

 

「おうよ! そしてツインテール、オッドアイともっとも合うものとは中二病だ。 これぞ三種の神器じゃあ!!」

 

 このエレメリアンの名前は……何だったかな。

 どうやら中二病が横のエレメリアンの属性力らしいけど、オッドアイと中二病が合うっていうのはどういう事なんだろう。

 

『俺が解説するぜ!』

 

 あれ、嵐来てたんだ。ていうか私の心読まないでほしい。

 

『中二病になったやつは封印されし力とかを表現したいが為に片方の目にカラコン入れてオッドアイを演出すんだよ。 まあ、実際にやるやつはだいたい手に包帯巻くぐらいだけどな』

 

 何で嵐がそんなに詳しいのかはスルーしておくことにしよう。

 でもおかげで何となくオッドアイと中二病の相性がいいっていうのはわかった。

 わかったけど……なぜか目の前の二体のエレメリアンは言い争いを始めている。

 

「中二病などで作られたオッドアイなど邪道! 天然物がいいのだ天然物が!!」

「それならその辺の猫でも拾ってくればいいであろう!」

 

 あらら……本格的に喧嘩をし始めた。

 ついにイソギンチャクと魚とで取っ組み合いが始まり、もはや私達と闘うことなんて忘れてしまっているようだ。

 今の彼らを動かしているのは自分の性癖……属性力によるものになってしまっているのか……!

 ていうかツインテールじゃなくて明らかに自分の属性力を優先しているような気が……。

 何をしていいかわからず、私と黒羽はその場に立ち尽くす。

 

「どっちも素晴らしい属性力だと思うよ?」

 

 凛とした子供のような口調で話しながら二体の間からもう一体、女性型のエレメリアンが現れた。

 現れた女性型エレメリアンを見てシャドウはすぐにノクスアッシュを構える。

 ……シャドウの目は喧嘩をしていた二体を見ていた目じゃない。もしかして、あのエレメリアンは聖の五界の……。

 

「ま、その二つの属性力も涙の引き立て役にしかならないけどねー」

「そんな事はありませぬ! オッドアイこそ!」

「中二病が引き立て役とは、聞き捨てなりませんな!」

 

 女性型エレメリアンの発言をきっかけに、今度は三体で言い争いが始まった。

 ほんとに聖の五界のエレメリアンなのかな。

 喧嘩を仲裁するかと思ったら火に油を注いだだけだし……。

 

『前に奏さんがノームギルディと闘っていた時、会場の外で黒羽さんがあのウンディーネギルディと呼ばれるエレメリアン達と闘っていたんです。 聖の五界のエレメリアンで間違いはないでしょう。 お気をつけて!』

 

 フレーヌがそう言って、横でシャドウが険しい顔で斧を構えているので確かな事だとは思うけど……いつまで喧嘩してるんだろう。

 

「ねえ、シャドウ。 ほんとにあれが聖の五界のエレメリアンなの?」

 

 喧嘩をしている三体のエレメリアンに気づかれないよう小さな声でシャドウに話しかけた。

 

「ええ、聖の五界の科学者よ。 実力は知らないけどどんな開発品を持っているかわからないし、警戒したほうがいいわ。 科学班とのパイプもあるし、サラマンダギルディが使った物もウンディーネギルディを経由してる可能性がある」

 

 サラマンダギルディといえば、一度はシャドウの必殺技に敗れたけど妙な物を使って最終闘体になっていたはずだ。 おそらくシャドウが言っているのはその事だろうけど、それを何個も持っているとしたらかなり厄介だ。

 

「なんにせよ、ここで倒せば後が楽になるのは間違いなみたいだね。 早く帰って勉強しなきゃいけいし、いつまでも付き合ってられない!」

「ちょっと……!」

 

 黒羽の制止を避け、アバランチクローを装備しウンディーネギルディ目掛け一直線へ駆け出す。

 聖の五界の重要なポジションにいるエレメリアンが隙を見せている今、攻撃しない手はない。

 ウンディーネギルディは、私がすぐ後ろに迫っても背中を向けたまま二体のエレメリアンと口論している。

 

「たありゃ!!」

 

 がら空きの背中へ、二つのアバランチクローが振り下ろされる。

 

「え!?」

 

 背中へ向けて振り下ろされたアバランチクローだったが、いつの間にかウンディーネギルディの前に回り込んだ二体のエレメリアンによって左右それぞれ受け止められてしまった。

 しかも、二体とも先程までは様子が全然違う。

 

「ウンディーネギルディ、またゴッドブレスを使ったわね!!」

 

 アンリミテッドチェインとなったシャドウも疾駆し、進化した斧を二体に振るう。

 エレメリアンから距離を置き、まじまじと見ると全身が赤く発光している。

 異世界でみたでっかい虫のエレメリアンと同じ……いや、それより強く禍々しく光っているようだ。

 ゴッドブレス……かなり大袈裟な名前のそれが目の前の二体のエレメリアンを、サラマンダギルディを変えさせた道具ってわけか。

 

「それだけじゃないよ」

 

 ウンディーネギルディが手をあげるとどこからともなくモケモケ達が何体も現れた。

 おそらく、今までのモケモケとは違う。

 ウンディーネギルディが改造したモケモケは頑丈だとフレーヌと黒羽が言っていた。

 だけど、所詮は下っ端戦闘員だ!

 私と黒羽は背中合わせになり、目の前のエレメリアンとモケモケ達に集中し、攻撃を始めた。しかし、倒しても倒しても減るどころかむしろモケモケは増えていく。

 

「きゃっ!!」

「っ!?」

 

 モケモケを倒すのに疲れが出てきたその時、ウンディーネギルディの放った鞭のようなビームで私とシャドウは拘束される。

 

「これは今はなき処刑人の技を解析して、何倍もの強さにした私のとっておき。 拘束されてしまったらどんな事をしようと抜け出すのは無理よ」

 

 ウンディーネギルディの言う通り、鞭を振り解こうも力を入れてもビクともしない。 後ろのシャドウもそれは同じのようで、足をバタつかせている。

 アンリミテッドチェインのシャドウでさえ、振り解けないなんて……。

 

「トライブライド!!」

 

〈三つ編み〉

 どうにかして振り解こうと、エレメリンクをするも全く解ける気配はない。

 

「ポニーテール!!」

 

〈ポニーテール〉

 やはりポニーテールでもダメだ。

 私の意思が弱まったせいか、エレメリンクは解除され元のツインテールへと戻ってしまった。

 

「無理だって。 それよりさあ、泣いて!いい涙を私に頂戴!」

「安易に泣けって……私は役者じゃないって!」

「全力で否定するのね……」

 

 お母さんの事もあって条件反射で否定してしまった。

 

『どうやらこの鞭は外部からの衝撃でしか振り解く術はないみたいです。 二人をこちらに転送できません!?』

 

 逃げるのも不可能らしい。

 そうなると外部から衝撃を与えるしかない事になるけど、それができる人がいない……。

 

「しょうがないね……。私の意に反するけど、泣かせるしかないか……」

 

 ウンディーネギルディの合図とともに拘束された私たちの周りをモケモケ達が取り囲む。

 そしてモケモケ達は一斉に丸い物を取り出す。

 

「そ、それだけはダメよ!!」

 

 シャドウはその丸い物を見て酷く怯えている。

 酷く怯えているけど……どう見てもその丸い物は玉ねぎだ。

 次にモケモケ達は包丁とまな板を取り出し、私たちの周りに、円形に配置する。いやいや、まさかこれは……。

 

『玉ねぎ切って泣かせる気なのかな? なんかコント見てるみてるみたい……ふふっ』

 

 志乃は通信機の向こうで笑っているけど、私たち今属性力奪われるかどうかの瀬戸際なんですけど!?

 気がつくと、周りのモケモケ達は皆まな板の上で玉ねぎのみじん切りを始めていた。見事な包丁捌きである、私よりもうまい。

 

「う……うぇ……っ」

 

 後ろからはっきりと涙ぐんだ声が聞こえた。

 私はまだ何ともないが、後ろにいるシャドウは既に涙を流してしまっているらしい。

 シャドウの心配している間に私も……ヤバイ、目が……!

 

「あっははははは!! いいわよー。 もっと、もっと欲しい!!」

 

 ウンディーネギルディはついに光輪を出現させ、私とシャドウへと照準を合わせる。

 

「ツインテールと涙は私たちのもの……ん?」

 

 光輪を投げる直前にウンディーネギルディは何かに気づいたのか、一点を見つめたまま固まってしまった。

 

「え……?」

 

 ウンディーネギルディの見つめている先へと視線を移すと、空に渦が……エレメリアンが使っている極彩色のゲートが出現していた。

 ただ、今までのものと違って大きさがあまりにも違いすぎる。

 

『なんだよあれ!?』

『ね、ねえ……まさかあの中からおっきいエレメリアンが出てくるんじゃ……』

 

 そんなものが現れたら今度こそ私たちは終わりだ。

 恐怖が私たちを支配する中、フレーヌが希望ある発言をする。

 

『いえ、エレメリアンではありません。 この強大なツインテール属性は……戦士の物です!!』

 

 突如、ゲートの中から何かが私たち目掛けて飛んでくる。

 僅かに掠めたその何かは、外部からの衝撃に弱いといっていたウンディーネギルディの鞭を破壊し、地面へと突き刺さった。

 

「これは……剣?」

 

 突き刺さった物が剣だと認識した刹那、その剣の持ち主が私たちとウンディーネギルディの間へゲートから出現した。

 見覚えのある眩いばかりの真紅のツインテールをたなびかせ。

 

「何、何であんたがここにいるの!?」

 

 ウンディーネギルディは狼狽を叫びに変え、目の前の戦士へとぶつけた。

 ゆっくりと戦士は立ち上がり、目の前に突き刺さった剣を抜くとウンディーネギルディへと突きつける。

 

「━━━俺は……テイルレッド! お前たちアルティメギルから、世界のツインテールを守る者だ!!」

 

 私が見た異世界の戦士。

 エレメリアンが言い続けていたとされる究極のツインテールをもった戦士が、今度は私の世界に現れたのだ。

 

「テイル……レッド……」

 

 私が静かに戦士の名を口にした時、彼女はこちらに振り向き……微笑んだ。

 

 

 耳朶を侵す不協和音が鳴り響く。

 アルティメギル首領が、首領の間で厳かにパイプオルガンを演奏していたが白いローブを纏った長躯がゆっくりと、左右に振れながらヴェールへと近づいていくとようやく音波の爆撃は鳴り止んだ。

 

「究極のツインテールへと到達した者━━━━テイルレッドを、アルティメギルの女神と迎え入れよ。 我らが紡ぐ、新たなツインテール文明のために━━━」

 

 首領の言葉をしかと受け入れた白いローブのエレメリアン、神の一剣の交渉人であるグリフォギルディが首領の間から去っていくと、入れ替わるように別のエレメリアンが現れた。

 普段は畳んでいる翼をパレオ代わりにしているが、今は目一杯開き、ヴェールへと向かって歩いていき、跪いた。

 

「ツインテイルズは神の力をもって粛清せねばならない、という事ですのね」

 

 落ち着き、凛とした女性声の主は聖の五界隊長のエンジェルギルディだ。

 

「して、そなたの部隊はどうなっておる。 どうやら、かなりの苦戦を強いられているようだが」

 

 止んでいたはずの戦慄の音色が再び首領の間に木霊し始めた。

 首領にやめて欲しいとも言えず、ただひたすらにエンジェルギルディは耐える。

 

「私の部隊の事でしたら想定外の事ではありませんわ。 ただ一つ、つい先程予想だにしなかったことが起きまして……」

「ほう……」

 

 首領がエンジェルギルディの話に興味を持ち、パイプオルガンから手を離す。

 

「━━━━究極のツインテールが……テイルホワイトの世界に、現れましたわ」

 



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FILE.57 閉ざされた記憶

テイルレッド
奏とは別の世界でアルティメギルと闘っていた戦士。 真紅のツインテールに赤い装甲が示す通り炎をモチーフにし、操る能力を持つ。 外見は幼い少女だが、男勝りな話し方とズバ抜けたツインテール愛によるツインテール属性を持ちアルティメギルの幾多の幹部を倒してきた。ウンディーネギルディによると奏の世界に現れたその時、テイルレッドは自分の世界である隊と交戦していたらしいが……?

武器:ブレイザーブレイド
必殺技:グランドブレイザー


 真紅のツインテールの幼子は力強く、目の前の怪物に向けて言い放った。

 自分はテイルレッドであると……。

 偽物ではない。 あの身長に体の装備、そしてツインテール、紛れもなく私が異世界で見たテイルレッドそのものだ。

 でも、どうしてテイルレッドがここに……。

 

『テイルギア……』 

 

 驚いているのはフレーヌも同じようだ。

 異世界の戦士の登場に、今まで子供のような笑みを浮かべていたウンディーネギルディも動揺を隠せずにいる。

 

「何であんたがいるわけ!? あんたは今、あのトカゲちゃん達と闘っていたはず!」

 

 トカゲちゃん……というのは別のエレメリアンの事だろうか。

 

「俺が聞きたいくらいだ。 いきなり変な穴に吸い込まれて……中で彷徨っていたらツインテールが助けを求めてきて……ここに辿り着いたんだ」

 

 す、凄い……!!

 何を言っているのか全くわからない!

 

「それに、リザドギルディならこの前倒したぜ!」

「そうじゃなくて……もうっ!」

 

 なんか会話がうまく噛み合ってないみたいだ。

 事情はよくわからないけど、ウンディーネギルディ含めたエレメリアン三体とたくさんのモケモケを一人で相手するのは危険だ。

 

「ここは私の世界だしもちろん私も闘うわ、テイルレッド」

「サンキュー! 一緒にツインテールを守るんだ!」

 

 テイルレッドは剣を構え、私はクローを構え、シャドウは斧を構え、目の前のエレメリアンへと疾駆する。

 

「くそ、まずい!」

 

 ウンディーネギルディが指示を出したのか、モケモケ達が目の前で壁を作る。

 

「私がやる! 先に行ってなさい!!」

 

 シャドウは私達の前へ出ると必殺技を放つ構えをとり、ブレイクレリーズする。

 

「ノクス……クライシス!!」

 

 力強く振るった光の斧により目の前のモケモケ達を一気に薙ぎ払い消滅させた。

 力を使い切ってしまったのか、シャドウは変身が解けるとその場に座り込む。

 

「シャドウ!」

「行きなさい!! ウンディーネギルディを倒せるのは今しかないわ!!」

「……うん!」

 

 シャドウが開けてくれた道を私とテイルレッドで進むと今度は二体のエレメリアンが立ち塞がる。

 

「走りながらの……ブレイクレリーズ! からの……アイシクルドライブ!!」

 

 二体のエレメリアン続けて、アイシクルドライブで貫くとその場で爆発する。

 私が二体を倒している間に、テイルレッドはウンディーネギルディの眼前へと移動し、力の限り剣を振り下ろした。

 

「でやあ!!」

「くう!」

 

 ウンディーネギルディは咄嗟に取り出した槍のような物でテイルレッドの一撃を受け止める。

 だが、それだけでは終わらず、テイルレッドは稲妻の如く斬撃を繰り出しウンディーネギルディの槍を吹き飛ばした。

 凄い…!これがテイルレッドの力なんだ!……ツインテールバカになるだけでここまでの力が出せるようになるなんて。

 

「ブレイク!」

 

 よろめきながらもウンディーネギルディは攻撃から逃れようとバリアーのような物を自身の周りに展開する。

 

「レリ━━━━━━━━ズ!!」

 

 上空で大きく振り上げられたテイルレッドの剣は形を変え、炎を噴き上げる。

 

「グランドブレイザアアアアア!!!」

 

 袈裟懸けに振り下ろされる炎の剣。

 

「な、何!?」

 

 いとも簡単に展開されたバリアーを破り、ウンディーネギルディを終焉へ導こうとしたその時、横から延びた腕によって炎の必殺剣は防がれてしまっていた。

 テイルレッドは慌てて距離をとる。

 

「いけませんわ……ウンディーネギルディはまだ聖の五界に必要な科学者ですもの」

 

 防いだ腕をそのまま、テイルレッドの剣を握りしめると容易くバラバラになってしまった。

 白い体にその口調、間違いなく奴は聖の五界の隊長。

 

「エンジェルギルディ……!!」

 

 私はすぐにテイルレッドの横へと跳躍し、アバランチクローを構える。しかし、エンジェルギルディに闘う気は全くないのか武器を出す仕草もなければ気迫も感じられない。

 

「テイルレッドが生で見れて嬉しかったですわ。 いつかお手合わせをお願いしたいものですわね」

 

 話している内容から察するにどうやら本当に今は闘う気は無いらしい。

 ウンディーネギルディを守るために出てきたのだろうか……でも。

 

『前にノームギルディを平然と倒しておいてウンディーネギルディだけを助けるために出てくるとは考えにくいです。 気をつけてください!』

 

 普通そう考えるよね。

 そしてテイルレッドの必殺技を容易く止めてしまうほどの力……油断なんかしたくてもできない。

 

「ですが……しばらくさようならですわね''テイルレッド''さん」

 

 エンジェルギルディは自らの手のひらに光弾のような物を出現させると、その場で爆発させた。

 

「これは……!!」

 

 太陽を目の前へと持ってきたような猛烈な閃光が当たりを照らしすと、やがて何も見えなくなっていった。

 

 

 ようやく辺りの様子がわかる程度になり、周りを見渡すとエンジェルギルディとウンディーネギルディの姿はなかった。

 光弾を爆発させたのは光で目を眩ませて逃げるためだったのだろうか。

 

「ホワイト、レッドが!」

 

 私より先に動けるようになっていた黒羽が倒れているテイルレッドを見つけていた。

 急いで駆けよると、抱きかかえる。

 

「レッド! レッド! ………起きないね」

 

 息はあるし、体に傷もない。

 気絶しているだけのようだけど……。

 

「私たちより近くで光を浴びて、ショックで気を失っちゃったのかも知れないわ。 フレーヌ、とりあえず基地へ転送してくれる?」

『わかりました』

 

 テイルレッドを抱きかかえたまま、立ち上がると間も無く私達はフレーヌの基地へと転送された。

 

 

 私達がテイルレッドを連れ、基地へと戻るととりあえずメディカルルームの奥の部屋へと彼女を寝かせる。

 黒羽も寝ていたあの部屋だ。

 

「あの子がテイルレッドかー。 あんな小さな子がエレメリアンと闘ってるんだね」

「ああ、なんとなくあの子に夢中になる世界があるのもわかる気がしてくるぜ……」

「流石にテイルレッドじゃ、私のツインテールでも敵わないのかしら……」

 

 外で何人かがブツブツ言っているのが聞こえてくる。 なかにはロリコンに目覚めそうな男も……嵐もいたし、後で通報しとこうかな。

 眠っているテイルレッドを覗き込むと、何かにうなされているわけでもなく安らかな寝顔だ。

 

「先ほど黒羽さんが言っていた通り、テイルレッドちゃんはただ気を失っているだけのようですので、ご安心を」

 

 診断結果を報告され、安心した。

 横で医療機器のような物を操作していたフレーヌは立ち上がり、寝ているテイルレッドを凝視し始めた。

 えっと、これは止めた方がいいの……かな?

 さっきの嵐のせいでなんとなく普通の行動が全てロリコンに繋がるような気がしてたまらなくなってきた……。

 でもまあ、女の子同士だし、フレーヌだし、大丈夫だろう。

 

「やはり……同じです」

「え?」

「テイルギアです。 私が作ったものと……ほぼ同じなんです」

 

 椅子に腰掛け、テイルレッドが目を覚ますのを待っていると彼女を凝視していたフレーヌが口を開き始めた。

 なるほど、テイルレッドを見ていたわけじゃなくてテイルレッドの装備を確かめていたのか。

 

「テイルレッドの目が覚めたら聞いてみよ?」

「……はい」

 

 私に今言えるのはこれくらいだ。

 下手に考えを言ってそれが間違っていたならまたフレーヌが傷ついてしまうかも知れない。

 テイルレッド本人の口から、テイルギアの事を話してもらった方がいいだろう。

 

「くぅ……!」

「しっかり、テイルレッド!」

 

 安らかに眠っていたテイルレッドが突然苦しみ出すと、彼女の体が発光し始めた。

 やがて体が全てが光に包まれ、テイルレッドの姿は見えなくなってしまった。

 でもなんか、この光に害はないような気がする。

 

「これは……変身が解ける時の光です」

 

 どこか覚えがあるような感じだったのはそのせいなのか。

 少し長めの変身解除が終わり、光が収まる。

 

「あれ?」

「これは……一体」

 

 先ほどまでベッドで寝ていたテイルレッドに劇的な変化が起きている。

 なんと背丈が伸びており、小学校低学年ほどだった身長はフレーヌと同じか少し小さいくらいまでとなっている。

 変身前と変わらず、長く赤いツインテールは残っているけどテイルギアで身長まで変えられるもんなの!?

 気になる事は山ほどある、まず服装だ。

 

「な、なんで男物の制服っぽいの着てるんだろうね」

 

 しかも今は残暑もすぎ、肌寒い秋だというのにやけに薄着だ。……よく見るとブラもしてない。

 

「……本人に聞いて見ましょうか」

 

 流石にフレーヌも訳がわからないのかスマホを取り出し、めちゃめちゃ早く何かを入力している。

 もう一度チラリと眠っているテイルレッドに変身していた少女へ目を向ける。

 これが異世界の戦士か……流石異世界、半端ない。

 

 

 テイルレッドが私達の前に現れた昨日の夜、早速各局のテレビは新たな戦士の情報を流した。

 テイルホワイト、テイルシャドウに続く三人目の戦士としての注目はかなり高いようだ。

 映像は視聴者映像としてテレビで流されていただけであり、テイルレッドがどんな人物か把握しきっていないのもあるのかな。

 ま、テイルレッドの世界じゃかなりの人気だったし、テレビカメラで撮られれば人気爆発は必至だろうけど……。

 テイルレッドの情報がインターネットであることない事拡散されている今も、基地にいるテイルレッドは眠ったままだ。

 いやあ、テイルレッドの事が気になって数学が頭に入ってこないなー。

 

「……志乃」

「ん?」

「……テイルレッドが危険な状態かもしれないのに呑気に勉強なんてしてていいのかな」

 

 私と黒羽の危機を助けてくれたテイルレッドは勇猛果敢に聖の五界のウンディーネギルディに向かっていった。

 その結果、テイルレッド一人を傷つけてしまったんだ。

 テイルレッドは今、まさに眠りながらもエレメリアンと闘っているのかもしれない。

 

「そんな時に、私だけ呑気に勉強なんてできないよ……!」

 

 私の言葉に感銘を受けたのか、志乃は何も言わずに私を見つめている。いや、少し目が冷たいような気がする。

 

「……ごめんなさい」

 

 志乃の無言の圧力に耐えきれず、再び椅子に座り直しシャーペンを持ち目の前の敵と闘い始めた。

 志乃も私の様子を見てウンウンと頷くと自分の苦手分野の復習を始める。

 最近、志乃厳しい気がするなあ……。

 

 渋々、イヤイヤ、気が進まないながらも志乃の教えもありテスト範囲の対策はあらかた完了し、只今の時刻は午後六時。

 この時期になると六時でもだいぶ暗くなり、電気なくして勉強はできなほどだ。

 外の様子を伺いそろそろ帰ろうと準備をしていたところ、私と志乃の両方のスマホから着信音が鳴り始めた。

 

『あ、お二人共! テイルレッドちゃんの意識が戻りましたよ!!』

「ほんと!?」

「すぐに行くね!」

 

 私と志乃は自分の鞄を持ち、部室棟の下にあるフレーヌ基地へと走って向かった。

 

 

 神聖な輝きを放つシャークギルディ部隊の艦たが、いつも以上に騒々しい。

 

「テイルレッドが現れたというのは誠ですか!?」

「我々にも神の恵みが舞い降りたのだ!!」

「テイル……レッド……!」

 

 信じられないといったリアクションをとる者、喜び神に土下座をする者、感動して涙を流す者。

 テイルレッドが奏の世界に現れた事で、シャークギルディ部隊の残存兵をはじめとするエレメリアン達は活気に満ち溢れていた。

 ただ、歓喜をあげる隊員達とは対照的に酷く落ち込んでいるのは中央のテーブルの周りに座する幹部級の隊員達だ。

 

「だから……野郎の涙なんて見たくないって!!」

 

 その中で特に際立った不快感を全面に押し出しているのはアルティメギルの裏部隊である聖の五界の科学者ウンディーネギルディ。

 彼女はテーブルに突っ伏しながら声を張り上げた。

 だが、目の前のモニターに大きく映されたテイルレッドに夢中になるあまり中心のテーブルの周りに座する隊員達以外にはウンディーネギルディの声は届いていない。

 

「ど、どうかされたのですか?」

 

 ウンディーネギルディの様子を見ていたサンフィシュギルディが恐る恐る問いかける。

 すぐに頭を上げ、早口で話し始める。

 

「全部が失敗だよ!! テイル達を追い詰めて涙を見れると思ったら新しいテイルが現れて……」

「テイル達……」

「おまけに隊長にも叱られるしさあ。…………ああああああ!!」

 

 サンフィシュギルディはもちろん、テーブルの周りにいる他の隊員達全員が、今までのミステリアスな科学者からは想像もつかない駄々っぷりにどんな反応をしたらいいのかわからず、ただ俯き、ため息をついた。

 

「それにテイルレッドはトカゲちゃん達が相手をしてたはずだし! なんでこの世界に来るし! てか、トカゲちゃん達やられてるし!?」

 

 どこからかタブレットを取り出すと、ウンディーネギルディは確認をとり新しい情報を不満げに読み上げて行く。

 アルティメギル四頂軍の内三つの壁が瓦解した報に近くの隊員達はざわめき出す。

 最初こそ驚きはしたウンディーネギルディはそれ以上は語らずに何やらブツブツと独り言を発し始める。

 

「……こうなったらマーメイドギルディにも協力してもらって新しいゴッドブレスを作ってやるわ」

 

 椅子から立ち上がると、ウンディーネギルディは新しい作戦を考えながらテイルレッドコールの起こる大ホールから消えていった。

 

「聖の五界の四幹部は既に三人の隊員が散っていき、残りのウンディーネギルディ様も今回は敗れてしまいました。 我々はこの先どうなって行くのか……」

 

 もはや機械のようにテイルレッドと叫ぶ隊員達を見つめながら、サンフィシュギルディは深いため息をつく。

 

「シャークギルディ隊長……。あなたならこの現状をどうなさるのでしょうか……」

 

 今は亡き隊長の名前を呟いた。

 大ホールにいる隊員達のテイルレッドコールにより、サンフィシュギルディの呟きは誰にも聞かれる事なく消えていく。ただ、大ホールの外で聞き耳を立てていたエンジェルギルディには伝わる事となった。

 

「そんなに会いたいのなら……会わせてさしあげましょうか」

 

 暗い廊下に冷たい声が木霊した。

 

 

「テイルレッド?」

 

 メディカルルームの奥にあるドアを開けると、そこにはベッドに座るテイルレッド……もといテイルレッドに変身していた少女が居た。

 まるでテイルレッドがそのまま成長したかのような少女は部屋へ入ってきた私達へと目を向けるも誰だかわかっていないらしい。

 そういえば、イマジンチャフのせいでテイルホワイトが私の事だと思えないんだっけ。

 

「えっと、私がテイルホワイトとして闘ってる伊志嶺奏で隣の娘が」

「鍵崎志乃でーす!!」

 

 私に続いて部屋へと入ってきた志乃が元気よく、うるさいくらいの声を上げた後に手を挙げた。

 

「あっ、ここにはいないけどもう一人の娘はテイルシャドウっていって、途中から一緒に闘ってくれる事になった戦士なの」

 

 どうやら黒羽は基地にはいないようなのでとりあえずフォローしておく。

 なんの説明無しにテレビでテイルシャドウを見たら間違いなく誤解するからね……。いや、誤解でもないか。

 

「……」

 

 ところで、私がテイルホワイトだという事や、協力者達の事も教えたけどイマイチ反応が薄い。

 頭も私達が部屋に入ってきた時にあげたが、すぐにまた俯きそのままだ。

 私が少し疑問に思っている間、志乃はテイルレッドの少女の隣に座り何やら話し始めている。

 そんな二人を眺めていると後ろから肩をトントンと叩かれた。

 

「……いいですか?」

「う、うん」

 

 フレーヌに連れられメディカルルームへと移動すると、先にフレーヌが口を開く。

 

「奏さん達が来る前に、いろいろ質問して見たんです。 ですが、全てわからないの一点張りでした」

「わからないって……まさか記憶が!?」

「あの様子から、話したくないからわからないと言っていることはないでしょうしそれは間違いないんですけど……少し妙なところがありまして」

「妙って?」

 

 私が聞き返すと、フレーヌは服のポケットから端末を取り出すと操作し、ある画面を私に見せてきた。

 赤と青と緑の線が並行に走っているのが表示されており、なんのデータか全くわからない。

 

「これは私のいた世界で一部の科学者達が使っていた脳波を検知する機械……簡単にいうと少し違いますが嘘発見器のようなものです。 覚えがある物を見たり聞いたりするとこの三本の線が交差するようになっています」

 完全に理解するには程遠いが、フレーヌは続けて端末を操作しまた別の画面へと移る。

 

「先程テイルレッドちゃんの記憶が無いと知っていろいろ質問してみました。 そうしたら、自分の名前も覚えていなかったにも関わらず''ツインテールの戦士として闘っていた''という事だけは覚えていたんです」

「えっと……」

「エンジェルギルディによって意図的にその記憶だけ残された可能性があるわね」

「うわ!黒羽!?」

 

 背後から気配も無く忍び寄ってきた黒羽に驚き二、三歩思わず後ろに下がる。

 

「エンジェルギルディが何を企んでいるのか全く読めないし、テイルレッドはしばらくあの部屋にいてもらうのが無難かしらね」

 

 黒羽もテイルレッドの事を心配してくれているみたいだ。

 

「記憶喪失の治療法とかないの?」

「よくある方法としては頭部に強い衝撃を与える事ですけど」

「うん、やめとこ」

 

 流石にそれはできないし、しばらくは記憶が戻るのを待つことになりそうだ。

 

 部屋の外でフレーヌと黒羽とテイルレッドについて話し終わり中へ戻ると志乃とテイルレッドはすっかり意気投合していた。

 相手が誰でも分け隔てなく、明るく接する事が出来る志乃は立派……というか尊敬している。

 そういえば初めて志乃と会った時、今テイルレッドに話しているように明るく話しかけてきてくれたっけ。

 私と同じで、テイルレッドも志乃が話し相手だからこそ、ここまで意気投合する事が出来たに違いない。

 

「そうそう!私さ、テイルレッドちゃんの名前考えたの! 記憶戻るまでのだけどね」

 

 そう言うと志乃はベッドから立ち上がりいつの間にか用意したのか一枚の紙を制服のポケットから取り出す。

 

「テイルレッドの赤から思いついた''紅音(あかね)''ちゃんで決まり!!」

 

 私達の前へ出ると思いついた名前を発表するとともに紙を勢いよく広げた。 丁寧に漢字とフリガナもふられている。

 確かに変身していないのにいつまでもテイルレッドって呼ぶのはアレだし、志乃のアイデアはとても良いと思う。

 それにテイルレッド……紅音も嬉しそうだ。

 

「紅音って安直な名前ね……」

 

 そこへ水を差す黒羽。

 

「紅音が気に入ってるならいいんだもん!それに黒羽に言われたくないし!!」

「なによ、黒羽って名前ほど高貴で強そうな名前はないわ」

 

 これも仲がいいから出来るんだよね……?

 ガチで喧嘩しているわけではない事を察しているらしく、紅音も止めに入らず二人を見て笑っている。

 

「あ、紅音? よかったら今から出かけない?」

「え?」

 

 キョトンとした顔してこちらをみる紅音。

 

「ほら、紅音が今着てる服は見た所男物だしちゃんとした服買いに行こう。 そうそう! お金なら大丈夫、私が奢るから!」

「あ、うん」

 

 紅音が返事をすると同時に紅音の手を取りベッドから立ち上がらせると、そのまま外へ向かい歩き出す。

 

「あっ、ずるい! 私も行くよ!!」

「私も行きます!」

 

 フレーヌと志乃が後ろから駆け寄り、志乃は私と同じように紅音の手を握る。

 

「黒羽はどうするの?」

「私はパス、行かない」

 

 まあ、わかってはいた。

 返事をした黒羽が私達の横を通り過ぎようとした時、フレーヌが黒羽の手を掴んだため歩みを止める。

 

「黒羽さんも女の子なんですよ。 この機会にもっと女の子らしくならないといけません!」

「フレーヌがそう言うなら……」

 

 チョロかった。

 黒羽はフレーヌが相手になると何もかも負けてしまうらしい。

 妹みたいな感覚なのかもしれない。

 

「それじゃあ、ショッピングへGO!!」

 

 志乃が先陣を切り、紅音と駆け足で基地の出口へと向かって行く。

 二人につられて、後に残った私達もいつの間にか走り出していた




果たして彼女の記憶は戻るのか!?
感想等どんどんお待ちしています。


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FILE.58 赤と白の来訪者

紅音
性別:女
年齢:15歳から18歳くらい
誕生日:不明
身長:146cm
体重:45kg

奏の世界へ突如やってきたテイルレッドが変身をといた姿。 テイルレッドがそのまま成長したかのような姿をしており、赤髪と勿論ツインテールは健在。 エレメリアンと闘っていた以外の記憶が無くなっており、紅音という名前は本名がわからないので志乃が命名した。 何故か男物の制服を着用しており、寒い季節にも関わらず薄着であった。



 フレーヌと黒羽、そして一番の目的である紅音にもっと女の子らしくなってもらうため、志乃と私とその三人は最寄の駅から電車で三駅先にある巨大なショッピングモールへと来ていた。

 完成したのは三年ほど前で、当時は中学生の私も友達と学校帰りに寄り道して来ていたものだ。

 ところがまあ、毎日も来てれば飽きてくるのは必然で最後にここに来たのは高校一年の春……つまり一年以上前になるのか。

 毎日行っていた時と比べるとやはり当時ほど人も多くないし、お店もだいぶ変わってしまっている。

 流石に案内板を見ないとキツイかも……。

 

「それじゃ、まずは服からね! フレーヌはともかく黒羽は普段のセーラー以外は奏の服だし買っといたほうがいいね」

 

 なんか今さらりとおかしな事を言ってたような……。

 そういえば、黒羽が今着ている服は全部私持ってるけど……まさか、毎度毎度既視感があったのはそう言う事なの!?

 

「紅音はとりあえず私の服で間に合わしたけど、やっぱ好みとかあるだろうし何着か買っていこ!」

 

 そう、今紅音が着ている服は志乃のものだ。

 基地から出る際、何故か男物の制服それも夏服を着用していくのはどうかと急遽志乃が家から紅音に合いそうな服を持ってきてくれたのだ。

 私の服でもいいんだけど何故か志乃には『無理じゃないかな……』と、言われた。

 その時の志乃の目線が若干下に向いていたのはそういう事だろう。

 チラリと紅音を見てみる。

 

「同じぐらい……少し、すこーしだけ大きいかな……」

 

 やはり見た感じでは私の服が無理という程のサイズではない、絶対にね。

 ていうか私はシャークギルディに中途半端な乳と言われた女だし、貧乳ではないだけマシよね。

 私が拳を強く握るのと同時に、志乃を先頭として皆目的のお店へ歩き出す。

 

 志乃に連れられ、約五分ショッピングモール内を歩くと志乃の言う目的のお店が見えてきた。

 私もよく買い物をしたリスリザのお店だ。

 花柄模様やレースなど積極的に服に取り入れることで自然に女の子らしさやふんわり感があるのが特徴かな。

 確かに、フレーヌや紅音にはぴったりのお店かもしれない。

 

「なんか気になるのある?」

「えーと、これとか……」

 

 志乃のおすすめや紅音の気になる服を選ぶと早速試着室へと入り、どんどん服を選んでいく。

 紅音やフレーヌが気に入った服を試着し、選んでいく中、黒羽は一人腕を組み二人の様子を眺めている。

 

「なんか動きにくそうな服ね」

 

 友達のファッションの感想がそれじゃあ……。

 

「確かに黒羽はこういう服よりボーイッシュな感じのほうがいいかも……後で行ってみよ」

「ぼーいっしゅ? ……シュークリームみたいでそれこそ動きにくそうじゃない」

 

 黒羽の意外すぎる答えにしばらく言葉が出なかった。

 

「とりあえずボーイッシュとシュークリームは全然関係ないから」

 

 歪んだ知識をそのままにしておくのはまずい。

 ましてや黒羽は女の子だし、これから色々と苦労する場面が出てきそうだ。 その際はしっかりフォローしていかないと。

 私と黒羽が話している間に、いつの間にかフレーヌと紅音は買いたい服が決まったようでレジのオシャレな店員さんに服を渡している。

 二人の服の値段が合わせて三万七千円……。もちろん私と志乃で会計を済ませ、お店から出る。

 次に向かうは有名なブランド、ガップのお店だ。

 ガップはアメカジファッション中心に展開し、リスリザとは違い可愛らしい雰囲気よりはボーイッシュなジーンズなどが売られている。

 結構有名だし、大体の人は知ってるだろう。 

 

「確かに……動きやすそうね」

 

 動きやすさ最優先なのかこの娘は。

 

「ほら、こういうレギンスとか似合いそうじゃない? ブーツとかと合わせたりしてさ!」

 

 私が手にし、黒羽へと渡したのは明るい青のレギンスだ。

 今もそうだけど黒羽は何かと黒い物を好む傾向があるし、たまには気分を変えてもらいたいのだ。もちろん、黒いのが似合っていないとかそういう意味は全くない。

 

「……じゃあこれを貰うわ」

「いやいや、お金だすから買ってね!?」

 

 その他黒羽はトップスやこれからの時期には欠かせないジャケットなどを購入した。

 

「紅音は何か欲しい物ある?」

「これとか……似合いそうかな?」

 

 紅音も嬉しそうに興味がある服を手に取り、私達に感想を求めるようになってきた。

 どうやら楽しんでくれてるみたいで、ホッと一安心。

 

「どうですか!? これどうですか!?」

 

 いつにも増してフレーヌの自己主張がやたら強い気がするのは私の勘違いにしておこう。

 

 皆で楽しくショッピングをしているとつい時間を忘れてしまう。

 中学の時はよくあった事だけど、まさか高校生になって、エレメリアンと闘っている間にこんな事が思えるなんて嘘みたいだ。

 皆がそれぞれの服や買い物を楽しんだ後、私達はショッピングモール内にあるレストランで休憩している。

 それにしても来る前と比べると私の財布はだいぶ軽くなった気がする……。 志乃もどうやら同じらしくレストランに入ってからはしきりに自分の財布の中を見ているし。

 その様子を見てか、紅音はモジモジしながら俯いている。

 

「どうかしたの?」

「えと、お金使わせてばっかだから」

 

 やっぱり紅音は、アルティメギルと闘う戦士なだけあって優しい娘らしい。

 

「連れ出したのは私達なんだから遠慮しなくていいんだよ」

「うん……」

 

 紅音は少しだけ笑みを浮かべ、目の前のテーブルに置いてあるパエリアを食べ始めた。

 お昼ご飯を食べた後はどこに行こうか……考えとかないと!

 

 

 神秘的な霧に覆われた神聖な部屋。

 首領の間近くでエンジェルギルディは白いローブを纏ったエレメリアンと対面していた。

 

「そういうわけで、貴女の力をお貸し願いたいのですわ」

 

 自分の部隊が任されている世界の事情を白いローブのエレメリアンへと伝えた上で、エンジェルギルディは協力を求めていた。

 エンジェルギルディの話を聞いていた白いローブのエレメリアンは頷くこともなく、真っ直ぐエンジェルギルディを見据えている。

 しばしの沈黙の後、ようやく口を開いた。

 

「呆れたな。 その程度の戦士に聖の五界が苦戦し、剰え私に協力を求めるとはな」

「そう仰るのも無理はありませんけどあの戦士の成長速度は眼を見張るものがありますわ。 放っておくと、ツインテイルズのようにどんどん力をつけていきますわ」

「……所詮は人間、貴様が襲撃すれば膝を屈すのは必至だ」

 

 究極のツインテールとなりつつあるテイルレッドをはじめ、仲間であるツインテイルズに神の一剣の戦士グリフォギルディが敗れたのは先程のこと。

 ツインテイルズという単語が出た瞬間、ローブで隠された頭部の陰で双眸が強く輝く。

 なかなか首を縦に振らない白いローブのエレメリアンに対し、エンジェルギルディは最後の切り札を使う。

 

「首領様は、究極のツインテールを求めていますわ」

 

 エンジェルギルディが神聖な天使の羽根、六枚全てを開くとあたりに舞い散る。

 

「あの世界には到達する可能性のある戦士と……どういうわけかその究極のツインテールであるテイルレッドがいますの」

「ほう……」

 

 初めて白いローブのエレメリアンは食い気味に頷いた。

 その様子を見て無言の笑みを浮かべエンジェルギルディは羽根を畳み、話を続ける。

 

「首領様へ誰よりも強い誓いをお持ちになっている貴女の力があれば、究極のツインテールをお持ち帰りできる可能性がありますの。 お願いいたしますわ……ヴァルキリアギルディさん」

 

 手を合わせ後、白いローブのエレメリアン、ヴァルキリアギルディへ手を差し伸べる。 だが、ヴァルキリアギルディは手を合わせる事なく、その手に神の槍を出現させる。

 幾ばくかの沈黙の後、答えは示された。

 

「よかろう。 全ては首領様のため」

 

 ヴァルキリアギルディは纏ったローブのフードの部分だけを下ろし、文字通りヴェールに包まれていた素顔を晒した。

 

「だがあくまで可能性の話がある以上、私の全てを見せることはできないがな。まあ新たな力の肩慣らしには丁度いいだろう」

「構いませんわ。 では、参りましょう」

 

 天界の熾天使は戦場の戦女神を連れ、聖五界が管轄する世界へと向かっていった。

 

 

 お昼ご飯を食べた後は、同じようにショッピングモールで買い物を楽しみ、私達のお財布はすっからかん……色々な服などを買うことができた。

 さすがに歩きすぎて明日は筋肉痛にでもなるんじゃないかと心配になってくる。

 みんなと学校の近くで別れた後、私は家へと帰り、シャワーを浴びるため洗面所へと入る。

 服を脱ぎ、下着姿になった自分を鏡の前で確認してみる。

 この半年間、アルティメギルと闘い続けてきたのがいい運動になったのか少しだけ痩せたような気もする。

 アルティメギルと闘うのはストレス解消に加えダイエットにも大変いい効果があるみたいだ。

 手早く頭と身体を洗い、湯船に浸かるとテイルホワイトになった時から今までの事が頭に浮かんできた。

 フレーヌとの出会い、初めての変身と闘い、志乃とのエレメリンク、初めての幹部との闘い、黒羽との出会い、嵐とのエレメリンク、異世界での事……色々ありすぎる。

 ここまで濃い半年間を生活していると女子高生は私以外にいるのだろうか。

 

 

 紅音がこの世界に現れてから今日で一週間になった。

 秋の季節も過ぎ去り、朝の通学にマフラーとコート、手袋は必須アイテムへとなる。

 結局この一週間で紅音の記憶は戻ってはない。しかし、記憶は戻っていなくても闘いの勘は冴えているようで先日現れたエレメリアンにも苦戦する事なくあっさりと倒していた。

 その様子を見るに、フレーヌや黒羽の考察は間違ってはいないのかもしれない。

 ただ、そうなるとエンジェルギルディが紅音を記憶喪失させた理由が見つからない。 それに記憶喪失にするならテイルレッドとして闘っていた記憶は消したほうがアルティメギルにとって都合はいい筈、闘いの記憶を残した意味は……。

 

「真剣な顔で悩み事か? ツインテールバカさん」

「私はツインテールバカじゃないし。ていうかポニーテールバカに言われたくないんだけど……」

 

 いつの間にか隣にいた嵐は私に話しかけながらスマホを弄りおそらくゲームをしているのだろう。

 それにしても、ツインテールバカとはなんだ。

 アルティメギルと闘える属性力があるとはいえ、髪型に関して熱く語るのはむしろポニーテール大好きな嵐の方だと思うんだけど。

 

「そうだな……ポニーテールは世界を繋ぐ架け橋、なんてどうよ?」

「え、なにそれ」

「俺が考えつく最高のポニーテールバカっぽいセリフだ」

 

 少しだけ引いた。

 カッコよく言おうとしているのがまた、あれだね。

 ため息をついた私を横目に嵐はまた口を開く。

 

「紅音ちゃんの事で悩んでるんだろうけど、この世界を守るツインテール戦士は伊志嶺だけじゃないんだ。 協力者だってたくさんいるし、一人で抱え込むなよ」

「嵐……ポニーテールがうんたら言った後にそのセリフはどうかと思うよ?」

「うっせ!」

 

 嵐が心配してくれるのは嬉しいような嬉しくないような変な気分だけど、少しでも間違えばこの世界が消えてしまうかもしれない事だ。  悩むなっていうのは無理がある。

 

「俺もエレメリンクだけじゃなくて、テイルホワイトみたいにポニーテールの戦士になれればもっと助けてやれんのになあ」

 

 嵐がポニーテールの戦士に……。

 想像すると少しだけ面白くなってきた。

 

「男がエレメリアンと闘えるなんてありえないって」

「そんなもんかねえ」

 

 もしも、無数にある世界のどこかでそんな男の人がいるのなら是非会ってみたい。

 男の人がツインテールやポニーテールにできないことはないとは思うけど、フレーヌから聞いた話だと可能性はゼロらしいし。

 本当にいるのなら天然記念物になりそうだ。

 そのまま嵐と他愛もない話をしながら通学路を歩いていると、学校の前に来たところでスマホの着信音がなった。

 スマホを取り出して画面をみると、ロック中の画面に大きくフレーヌのアプリ''テイルコネクト''が表示されている。

 朝の、これから学校なのだが、間違いなくエレメリアンが出現したのだろう。

 

『奏さん! 海外の都市にエレメリアンが出現しました!』

 

 海外とはまた面倒な所に出てきた。 だが、海外に出現したのを面倒くさいからと見逃す訳にもいかない。

 

「それはわかったけど、一応紅音には内緒にしといたほうがいいかもね」

『はい。 エンジェルギルディの考えがわからない以上、それが最善策かと思います』

「わかった。転送して、フレーヌ!」

 

 嵐に鞄を渡し、物陰に隠れテイルオン、テイルホワイトへの変身が完了した。

 間も無く私は光に包まれ、エレメリアンが出現したという海外の都市へ転送された━━━━

 

「嘆かわしい国だ!八重歯が悪などと吹聴しやがって!!」

 

 時差の影響で夜中の摩天楼に響くエレメリアンの声。

 光を抜けた先で耳にした言葉は━━━━日本語だった。

 そういえば、海外なのに日本語で話してて主張が通るのだろうか。 いや、別に通らせる必要も全くないんだけど……。

 

『エレメリアンは、言ってみれば私達の脳に直接話しかけるテレパシーのようなものを使っているんです。 なので、現地の人にはその国の言葉として伝わっているんですよ』

 

 なるほど、つまり目の前にいるエレメリアンの主張はしっかりと現地の人達に伝わっているという事らしい。

 八重歯、八重歯と叫んでいたエレメリアンは私に気がつくと正面から向かい合った。

 

「現れたか、テイルホワイト! 黒いのと赤いのは居ないようだが……まあいい!」

 

 夜ならと期待したけど、世界的にも有名なこの都市にはたくさんの人がいる。

 見た感じ、幹部級でもなければ聖の五界のエレメリアンでもなさそうだがここで闘うのはあまりにも危険だ。

 できれば場所を移動したいけど……。

 

「この国じゃ八重歯を悪いように扱ってるみたいだけど、なんでここに来たの?」

 

 この場所から遠ざける目的の質問だが、少しだけ本心も混ざっている。

 エレメリアンは一番はツインテール属性を優先しているみたいだが、最近は自分の属性力を先に盗ろうとするエレメリアンも多かった。

 八重歯が悪という国で、八重歯を探すのは難しいと思うんだけど。

 

「俺は、八重歯を広めたいのだ!! 八重歯が悪という常識を変え、世界の全てを八重歯で埋め尽くしたいのだ━━━━!!」

「いやいや……広めたいからって広められるものじゃないでしょ……」

 

 八重歯を自分から作る物好きはなかなかいないし、ツインテールを広めるよりもずっと難易度は上だろう。

 

「テイルホワイト、お前も俺が開発したこの入れ歯をつけ、ツインテールと調和してみるんだ!!」

 

 そう言って私に向かい差し出してきたのは門歯の横の歯が八重歯となっている上顎の入れ歯。

 

「え、いらないです」

 

 思わず真顔で、敬語でエレメリアンの願いを斬り捨てていた。

 

「なっ!? やはりお前もか、テイルホワイト!! お前も八重歯を拒否するのか!?」

 

 断られた事に相当ショックなのか、やたら熱くなりだすエレメリアン。 しまいにはなんだか涙ぐんだような声になっている。

 

「いや、人の……エレメリアンの属性力を否定する気は無いけどね」

「もういいのだ! もういいのだ━━━━!!」

 

 私の精一杯のフォローを聞かず、目の前のエレメリアンは自作の入れ歯を真っ二つにへし折ってしまった。

 無残な姿となった入れ歯をゴミ箱へと投げ入れ、エレメリアンは顔の付近にある牙のような物を抜き取る。

 両手剣となった牙を構え、再び涙ぐんだ声で叫び始めた。

 

「俺の名はウォルラスギルディ、今は亡きシャークギルディ隊長とオルトロスギルディ隊長の意思を継ぐ者だ。よってテイルホワイト、お前のツインテール属性を頂いた上でダブルトゥースを目覚めさせてくれる!!」

 

 シャークギルディとオルトロスギルディか。

 黒羽がこの場にいたらウォルラスギルディとは闘い難かったのかもしれない。

 

「目覚めようが無いっての! 悪いけど遅刻しちゃうから早く終わらせるからね!!」

 

 フォースリボンに触れ、アバランチクローを装備するとウォルラスギルディに向けて疾駆した。

 今度の敵は聞くからにやはり幹部エレメリアンでも聖の五界のエレメリアンもないようだし、特に苦戦する要素もない。

 最初から全力でアバランチクローをウォルラスギルディの右手に握られた剣へ左のクローで叩き込む。

 

「ぐおおっ!? 俺の八重歯がああああああ!!!」

 

 あ、八重歯だったんだ。

 アバランチクローによって粉々になった八重歯に構わず、もう一発今度は右のクローを八重歯へ叩き込み程なくして決着はついてしまった。

 八重歯を失ったウォルラスギルディは力なくその場に座り込んだ。

 

「俺は……俺は亡くなった隊長達の意思を継いだ筈……! 何故、勝てないんだ!?」

 

 引く気がないなら、相手に同情するわけにはいかない。

 私はブレイクレリーズし、必殺技を打つ体勢に入った。

 

「今、行きますぞ。 シャークギルディ隊長!!」

 

 ウォルラスギルディが覚悟を決め、私がアイシクルドライブを発動しようとした瞬間。

 言い知れぬ予感に衝き動かされ、私は思わず空を見上げた。

 流れ星……だろうか? 違う! 流れ星の軌道とは明らかに違う光が、摩天楼の間から落ちてくる!!

 

「━━━━━━ッ!?」

 

 飛来した光はそのまま私とウォルラスギルディの間へと落ち、アスファルトを砕くとあたりに煙を撒き散らせた。

 

「な、なんだ━━━━!?」

 

 ウォルラスギルディの驚きの声を上げている事から、作戦ではないみたいだ。

 

『今落ちてきた光は……煙の中にいるのは……エレメリアンです!!』

 

 なんとなく察しはついていたが、フレーヌからの通信ではっきりエレメリアンだとわかった。

 舞っていた煙がはれていき、現れたのは黒いローブを羽織ったエレメリアンだった。

 

「まさか、幹部エレメリアン?」

 

 突然の襲撃を仕掛けてきた黒いローブのエレメリアンのフードの中で双眸が力強く光を灯す。

 ……何だ、この感覚は。

 この弾けるようなプレッシャー……。

  私は、目の前の黒いローブのエレメリアンと同じプレッシャーを受けた覚えがある。

 

「━━━━」

 

 警戒する私を目掛け、突如黒いローブのエレメリアンは武器を出現させ、私へ向かい投擲してきた。

 突然の攻撃に、反射的にアバランチクローで受け止めるも、相手の武器が突き刺さりクローは腕から外れ弾き飛ばされてしまった。

 弾き飛ばされたクローの方へ目を向けると、黒いローブのエレメリアンが使った武器が私の目に入ってくる。

 その武器を目にした瞬間。 私は衝撃のあまり、稲妻に打たれたような感覚になる。

 

「それって……まさか!?」

 

 黒いローブのエレメリアンが手にし、私へと投げつけてきた武器の正体。

 それは……もはや大剣と呼べるほど穂先が大きい槍だった。

 まさか、見間違い……もしくはよく似た武器に決まっている……あの武器は━━━━!!

 黒いローブのエレメリアンは私の驚愕を一顧だにせず、再び穂先の大きい槍を自らの手へと収める。

 そして、遂に黒いローブのエレメリアンは口を開いた。

 

「こうしてお前と向かい合うだけで感じる。 強くなったな、テイルホワイトよ」

「なっ!?」

 

 穂先の大きい貧乳槍スモールバスティラスをアスファルトへと突き刺すと白い腕を黒いローブへと掛け、勢いよく脱ぎ捨てた。

 現れたのは、私の世界を狙い、私をテイルホワイトへとさせた元凶。

私が全力を出し、まさにギリギリ状態で勝つことのできた強敵。

 

 ━━━━シャークギルディ。

 

「シャ…… !」

「━━━━た、隊長!?」

 

 私と同じように、仲間である筈…いや仲間であった筈のウォルラスギルディまで驚きのあまり言葉を失っている。

 スモールバスティラスを見た時、なんとなくは思ってはいたが当たるはずのない予見だからこそ衝撃は大きい。

 

「あんた、本物なの……?」

 

 もはや目の前のシャークギルディが本物という事は確信している。しかし、思わず私の口からその言葉が出ていた。

 

「我を疑っているのか。 無理もない、一度お前によって敗れたのだからな」

 

 私によって敗れた……つまり目の前のシャークギルディは私と闘い、メガロドギルディとなって嵐とエレメリンクしたポニーテールの私と闘った''本物''のシャークギルディ!!

 模倣でも、他人の空似でもない。

 

『そんな……貧乳属性の属性玉はこちらにあります。 まさか、エレメリアンに復活出来る能力が……!?』

 

 勿論、シャークギルディの登場に衝撃を受けているのは私だけではない。 地球の裏側にある基地にいるフレーヌも、大きく動揺している。

 もし、エレメリアンに復活出来る能力があるのだとしたら……今まで私が闘ってきたのは全くの無意味だったという事になってしまう。

 私の心を見抜いたかのように、シャークギルディは勇ましい声をあげる。

 

「アルティメギルの反逆者には、完全再生する者がいる。 しかし、我をはじめ他のエレメリアンにそのような能力を持った者は誰一人としていない」

 

 シャークギルディなりの気遣いか、なんとか今までのエレメリアンの復活は無さそうだと安堵する。

 だが、それだけでシャークギルディの話は終わらない。

 

「だがな、我らを復活させる者はいる!」

「な、何!?」

「我は''無毛で勇ましき者(エインヘリアル)''。 神の御心によってこの世に再誕した!!」

 

 まさか、今でも信じる事ができない。

 倒したはずのシャークギルディが復活し、再び私の目の前で悠然に立っているだなんて。

 アルティメギルにエレメリアンを復活させる事の出来る奴がいるなら、私の闘いは終わる事があるのだろうか。

 まだ、シャークギルディだけなら一度勝った相手なこともあり何とかなるけど……次々と復活されてしまっては━━━━地獄だ。

 

 今までの私の闘いを嘲笑うかのように、夜の街に輝く時計台から鐘の音が鳴り響いた。

 




どうも、阿部いりまさです。
原作13巻、発売されましたね!
劇場版のような話にとても熱くなりました!
是非、原作読みましょう!!


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FILE.59 悩める少女達

〈アイシクルドライブ〉
テイルホワイトがブレイクレリーズする事で発動させる必殺技。 両の手のアバランチクローを頭上に合わせ、腰にある装甲のエクセリオンブーストから属性力を解放しトルネードのように回転しながらエレメリアンを突き破る。 テイルホワイトの最も使用頻度の高い必殺技。

〈クレバスドライブ〉
テイルホワイト・トライブライドがブレイクレリーズする事で発動させる必殺技。 フロストバンカーのメインの砲身とサブの砲身二つから光線を三つ編み状に発射し、エレメリアンを捉えると光線をレールのようにして滑走し直接、フロストバンカーを懐へと叩きつける。

〈ブライニクルスラッシャー〉
テイルホワイト・ポニーテールがブレイクレリーズする事で発動させる必殺技。 ブライニクルブレイドから殻を破るように冷気を噴出させると同時にエクセリオンブーストから属性力を解放、一瞬で近づき相手の頭上から一閃する。


 学校の地下に広がるフレーヌ基地・テイルスペースのメインルームにて、フレーヌは必死に情報収集をしていた。

 一度倒したはずのエレメリアンが再び現れた事に驚いているのは奏だけではない。

 忙しなくキーボードを叩く音は部屋中に反響している。その音は、フレーヌの焦りそのものと言えた。

 

「まさか……! アルティメギルはどれだけ作戦を用意してるっていうの……」

 

 心の声が外へと漏れ出てくる。

 自分の世界を守ってくれていた戦士は、ここまで気づいていたのか。 たった一人で闘っていた戦士は、この事実をどう受け止めたのか。

 受け入れられない現実を受け入れるべく、フレーヌは深呼吸し、再びキーボードを操作する。

 

「シャークギルディの復活……。神の一剣のエレメリアンの仕業に違いないわ」

「黒羽さん、いつのまに!?」

 

 いつの間にか後ろに立っていた黒羽は状況を冷静に分析する。

 

「私も会ったのは首領に処刑されそうになった時が初めてだけど……。神の一剣の戦女神ヴァルキリアギルディ、おそらくあいつがシャークギルディを復活させたのね」

「ど、どうして教えてくれなかったんですか!?」

「本当に復活させる能力があるのかどうか不透明だったし、教えたとしても対処のしようがないから」

「そんな……」

 

 淡々と話す黒羽から、テイルホワイトが映っているモニターへとフレーヌは目を移す。

 基地に先程までの騒々しさはなく、今度はいやに静かとなっていた。

 

 

 先程まで闘っていたウォルラスギルディとの間に降り立った私と同じく白が強調されたエレメリアン。

 私が変身して闘う切っ掛けとなったともいえるアルティメギルのシャークギルディが悠然と仁王立ちしている。

 確か、シャークギルディと闘って私が勝ったのは7月だったはず……実に三ヶ月ぶりの邂逅となった。

 一週間前にはテイルレッドがこの世界に現れたり、今度はシャークギルディが復活したり……色々な事が起こりすぎだ。

 でも、何はともあれ私はシャークギルディを一度倒しているんだ。 それにあの時よりも私は強くなっているし、闘うくらいならどうって事はないはず。

 

「復活するのが遅かったね! 私をあの時の私と思ったら大間違いだから!」

 

 右手に残った片方のクローを構える。

 シャークギルディは貧乳槍を地面へと突き刺すと腕を組み、私を見下ろす。

 

「ああ、理解している。 お前は強くなった、我と闘い勝利を収めたあの時よりも……」

「わかってるみたいじゃん。 だったら聖の五界を説得でもしてこの世界から引き上げてくれる?」

 

 こんな事を口にしてはいるけど、そんな事をしてくれる訳が無いのはわかっている。

 ただ一分でも可能性があるなら、言わない理由にはならない。

 

「フッ……お前が強くなっている事など想定内の事に過ぎん。 だがな、我もただ復活したわけでは無い。 お前に敗れた時より、我もまた強くなって蘇ったのだ」

「まあ、そうだよね」

 

 油断していたとはいえアバランチクローを弾き飛ばし、完全に使い物にならなくしてしまったんだ。

 薄々そんな感じはしていた。

 覚悟を決め、クローを構えてシャークギルディに今まさに飛びかかろうとした時、その相手から予想しなかった事が言い渡された。

 

「闘うのは今ではない」

「え?」

 

 貧乳槍を自らの掌から消滅させるシャークギルディを見て、その言葉が確かなものだと感じ取った。

 てっきり、今ここで壮絶な闘いが始まるのかと思っていたんだけど……。

 

「てか、あんたはじゃあ何しに出てきたわけ?」

 

 極彩色のゲートを開き、先にウォルラスギルディを通らせ自らも入ろうとしているシャークギルディは私の言葉で歩みを止めこちらへと振り返る。

 

「我に勝利したテイルホワイトのツインテールがさらに輝きを増したと聞き、一目見たいと思ったのだ」

 

 ……何だろう、この感じは。

 貧乳貧乳とばかり言っていたけどやはりシャークギルディもツインテールを崇めるアルティメギルの一員なんだ。やっぱり、こいつらはすっごくアホらしい。

 シャークギルディは白く逞しい腕をゆっくりと上げ、私を指さした。

 

「黄泉より参った我の力、いずれか味わう事になろう。 それまでに覚悟を決めておけ、中途半端な乳のツインテール戦士、テイルホワイトよ!!」

「だから……これくらいのサイズが一番いいんだってばああああああ!!」

 

 私の叫び虚しく、シャークギルディはそのままゲートへと入っていきその場には私だけが残された。

 

『奏さん、驚いているのは私も同じです。 とりあえず基地に黒羽さんがいるので三人で今後の対策を考えましょう』

 

 シャークギルディが現れてすっかり冷静さを失っていたが、私は登校中に来たんだっけ。

 ウォルラスギルディだけが相手だったなら時間は余裕だったろうけど、シャークギルディの乱入でかなり遅くなってしまった。

 

「フレーヌ……今何時?」

『え? えーっと、今八時三十分ですね』

「ち、遅刻……」

 

 

 シャークギルディの復活が明らかになったその日の放課後、私たちはフレーヌ基地での作戦会議を開いていた。

 内容はもちろん、復活したシャークギルディについてだ。

 シャークギルディが復活したカラクリについては黒羽からの説明で大体理解する事ができた。

 要はアルティメギル四頂軍と呼ばれるエリート部隊の集まりの神の一剣のエレメリアンがそのような能力を持っている、ということらしい。

 

「今はシャークギルディだけみたいだけど、次々と復活させられたらどうするの?」

「……一体一体、また倒すしかないわね」

 

 私がテイルホワイトになってから百体以上は絶対に倒している。

 それが一斉に蘇って、聖の五界と一緒に攻めてきたりしたら……とても太刀打ちできる気がしない。

 

「こちらの戦力は奏さんのテイルホワイト、黒羽さんのテイルシャドウ……そして紅音さんのテイルレッドです」

「あ、紅音を闘わせて平気なの!?」

「本人たっての希望なんです。 一度変身してもらいましたが健康に異常は見られませんし、彼女の……テイルレッドの力は私たちにとってとても大きなものですから断る理由はありません」

「ただし、テイルレッドは切り札にしましょう」

 

 私もフレーヌも、黒羽の提案に異議はなかった。

 最初よりも彼女はだんだんと明るくなっているし、テイルレッドに変身しても問題はないとしても……あくまでこれは私達の世界の問題だ。

 偶然この世界にきてしまった彼女にあまり迷惑はかけたくないのだ。

しばらくの沈黙の後、口を開いたのは黒羽だった。

 

「次々とエレメリアンが復活するって話だけど……可能性はかなり低いと思うわ」

「ほんと!?」

「今のアルティメギルは究極のツインテールと呼ばれるテイルレッド、及びツインテイルズの属性力を最優先で狙っている筈。 その能力を持つヴァルキリアギルディが首領の期待に背く真似をするとは思えないから」

 

 そうか……。

 長くこの世界にいたらそれだけツインテイルズの世界に侵攻するのが遅れてしまうんだろう。ただ、ゼロとも言えない。

 

「ただ、その時がくるまでこの事は私達三人の秘密に━━━━」

「━━━何が秘密なんだ?」

「うええええええ!? 紅音がなんでここに!?」

 

 急に現れた紅音の横にはキョトンとした顔の志乃もいる。

 私だけが大きな声を出して驚いてしまったけどフレーヌも黒羽も口をあんぐり開けているところを見ると、かなり驚いているようだ。

 

「一週間前に来たきりだから、志乃に基地を案内してもらってたんだ」

 

 そういえばさっき志乃とコソコソ話してたっけ。

 確かフレーヌもそれに賛成してたけど……この部屋に鍵をかけるのを忘れてたのか……?

 紅音の言動を見て、黒羽は何かに気づいたらしく私の近くに歩いて来た。

 

「まるで男みたいな話し方するのね」

 

 そういえば黒羽はテイルレッドがこの世界に来た日から紅音にはあってなかったっけ。

 紅音は記憶喪失直後の状態から日が経つにつれ、だんだんと素を出してくれるようになっていた。

 口調に関しては、記憶がなくなる前から男口調だったのは異世界でみたネット記事や映像で知ってたし私はそこまで違和感を覚えなかったけど。……まあ年頃の女の子が俺とかいうのはどうかと思う事もあるけど、私が言うことでもないし。

 

「話し方って言えば黒羽だって初めてあった時はお嬢様言葉みたいな感じだったじゃん」

 

 今は普通の話し方だけど、初めて会った時黒羽は無理にお嬢様のような口調で喋っていた。

 なかなか聞くタイミングがなくてその事も忘れていたけど、今思い出した。

 

「あれは私じゃなくてオルトロスギルディのほうよ。 女として最終闘体に覚醒して、必死に女になるように努力していたのよ」

「へー……」

 

 とても衝撃的な事実だった。

 その話を聞いてしまうと、私達の仲間になる前に会った黒羽はオルトロスギルディの可能性も可能性もあったわけか。

 うーん、ややこしい。

 

「きっと紅音が男の子っぽいのは周りが男の子ばっかだったからじゃない? ほら、髪のケアとか結構……適当だったし!」

 

 ここ何日か、一番紅音と絡んでいたのは志乃だ。

 一緒にいるうちに志乃も紅音の男のような言動を何回も見ているのだろう。 その一つが、女としては身につけておかなければならない髪のケアだったわけだ。

 

「そ、そうだったかな……。 でも確か、幼馴染が女の子だったような気がするんだ」

「じゃあその女の子が男勝りな性格だったのかも知れませんね」

 

 フレーヌはそういうけどそんなのありえない……ありえなくもないか。

 ツインテイルズの一人のテイルブルーはまさに男勝りな感じだったし……。 もしかしてテイルブルーが幼馴染だったりするんだろうか。

 

「ところで、さっきまでなんの話し」

「あー!! 紅音確か基地の探検中だったんだよね!? だったら早く見てきたほうがいいと思うよ!?」

 

 紅音の体を回れ右させ、志乃の元へ歩かせる。

 

「でもほとんど基地は回っちゃった」

「志乃!」

 

 志乃の顔を見ながら目をパチパチしたが、察してくれただろうか。

 私を見た後に志乃はフレーヌと黒羽を順番に見るとどうやら察してくれたらしくニコッと笑った。

 

「一緒に基地を案内したいんだね!」

 

 親指をグッと立て、満面の笑みを浮かべる志乃。

 眩しすぎるその笑顔に私とフレーヌは反論する事が出来ずに、志乃と紅音の基地探検に同行することとなった。……いつのまにか黒羽消えてるし。

 

 

 奏の世界を侵攻中のシャークギルディ部隊の艦と聖の五界の小型艦がドッキングし、さらに大きくなった艦の大ホール。

 転々と灯りがついてはいるものの、大ホール全てを照らすことはなく、部屋全体は薄暗い。

 その大ホールの中心にある大きな丸テーブルの周りのみが明るく照らされており、そのテーブルに向かい座するエレメリアンがよく見えるようになっている。

 かつて、シャークギルディが座していた派手な装飾が目立つ椅子は空けられたままに、その右に、サンフィシュギルディ、エンジェルギルディ、ウンディーネギルディ……現在の部隊の幹部達が続く。

 静かなホール内に、だんだんと足音が響いてきた。 それはホールの外からこちらへと向かってくるように聞こえる。

 やがて大ホールの隅にある薄暗い廊下から神秘的な白い体躯のエレメリアンが現れた。

 白いエレメリアン━━━シャークギルディはゆっくりと歩を進めると、実に数ヶ月ぶりに自身の椅子へと腰掛けた。

 シャークギルディが腰掛けるのと同時にエンジェルギルディは立ち上がり、登壇台へと立つと口を開く。

 

「あなた達の望まれていたシャークギルディはここに復活致しましたわ!」

 

 拍手をするもの、震える声でその名を呼ぶもの、両手をあげ喜ぶもの……エンジェルギルディから伝えられた事実に大ホールのエレメリアン達は一気を活気を取り戻した。

 

「それでも、一度負けてるじゃない。 所詮ただの部隊の戦士に私達と闘えるだけの力があるとは思えないけどねえ」

 

 皆が喜びの声をあげる中でのウンディーネギルディの言葉は、逆に目立つものとなる。 周りが「なんだこいつは……」と思っている中、それを知ってか知らずかウンディーネギルディはさらに続けた。

 

「シャークギルディも知ってるだろうけど、テイルホワイトは君が闘った時以上に強くなってる。 それに加えてテイルシャドウという新戦力までも加えてるの。 ま、君は無理せず安全なとこから指揮してくれればいいわ」

 

 新しい発明品だろうか。 拳銃のような物を振り回しながらウンディーネギルディは話す。

 ウンディーネギルディに銃を向けられたシャークギルディはピクリとも動かず、俯いたままだ。

 全く反応してくれないシャークギルディにウンディーネギルディは「つまらない!」と言いながら銃を異空間へと放り投げる。

 

「まあまあ、これからは同じくこの部隊でやっていくのですから仲良くしてくださいまし」

 

 なんとエンジェルギルディが登壇台から降りてわざわざ仲裁にやってきた。

 

「我が散ってからの……テイルホワイトのデータを見せてはくれないか?」

 

 大ホールでのしばしの沈黙を破り、シャークギルディは立ち上がりながらそう発言する。

 

「ええ、もちろんですわ」

 

 エンジェルギルディは快諾し、アルティロイドへと指示すると、せっせとモニターに映像の資料を集め、メインのモニターへとコードを繋いでいく。

 迅速に対応し、アルティロイドが満足気に大ホールから出ていったところでエンジェルギルディからシャークギルディへリモコンが手渡された。 どうやら好きなタイミングで閲覧していいというらしい。

 当然、シャークギルディは迷う事なく再生ボタンを押し、映像を見始める。

 

 シャークギルディ自身が倒れてからの映像を確認しているため、気づけば映像を見始めてから二時間以上が経過していた。

 

『リンクドライブ……てとこかな?』

 

 映像は聖の五界の先鋒であるデュラハンギルディをテイルホワイトがエレメリンクを駆使して倒したところまでようやく到達した。

 既に大ホールにいた大半のエレメリアンは解散し、残っているのは映像の確認をしているシャークギルディ、エンジェルギルディ、ウンディーネギルディ、サンフィシュギルディのみとなっていた。

 テイルホワイトのエレメリンクを駆使した必殺技が大写しになった後、場面が変わり、今度はテイルシャドウが大写しになる。

 

「この少女は………」

 

 シャークギルディは陰ながら自分を鍛えてくれた少女がテイルホワイトと共に闘っている事に驚愕した。

 

「その娘はテイルシャドウ。 神の一剣に属していたオルトロスギルディの''影''ですわね」

「……なるほど」

 

 エンジェルギルディから説明を受けたシャークギルディ。 全てを理解したのか、双眸は力強く輝きを見せた。

 

 

 シャークギルディが私の前に現れてから、三日が経ったが、シャークギルディどころか聖の五界、はたまた普通の部隊のエレメリアンすら現れる気配がまるでない。

 外から戦力を蓄えているのか、新たな作戦を実行しようとしているのか。 ……一番最悪なのはシャークギルディのように私達が倒したエレメリアンを復活させようとしている場合だ。

 一体一体は大したことないかもしれない。 しかし、複数体が同時に別々の場所に現れた場合、私と黒羽、そして紅音で守りきることが出来るのか……正直不安でいっぱいだ。

 

 シャークギルディや、他のエレメリアンが現れないに関わらず、私と志乃、嵐、フレーヌに黒羽。そして、紅音といつものメンバーが基地に集まり対策を考えている。

 

「消滅したエレメリアンを復活させる能力があるというヴァルキリアギルディとかいうのを倒せば、心配する必要はなくなるんですが……」

 

 そう言うとフレーヌはホワイトボードにそのヴァルキリアギルディというエレメリアンの予想図を描き始めた。

 

「ヴァルキリアギルディはアルティメギル四頂軍最強の部隊、神の一剣のエレメリアンよ。正直言って今の私達とは格が違うわ」

 

 神の一剣か……。

 確か、ヴァルキリアは戦場の戦女神と言われてると聞かされた。 まさに、神の名前にふさわしいってわけね。

 でも、私と黒羽は……特に黒羽なんかは強化形態も手に入れて着実にパワーアップはしているはずだけど、それでも格が違うほどの強さを持っているのか……。

 格が違うという黒羽の話に驚いているとさらに驚くべき事が黒羽の口から発せられた。

 

「そしてヴァルキリアギルディの属性はアトリキア……ツインテールにとって一番の天敵よ」

 

 アトリキア……!?いや、アトリキアってなんだ。

 理解していない私だけじゃないらしく、志乃も紅音も口をポカンと開けている。 それとは対照的に意味を理解しているのかフレーヌと嵐は驚き……というより絶句している。

 

「あの、アトリキアってなに?」

 

 意を決して私はフレーヌ達に問う。

 

「アトリキアは……無毛……です……」

「え?」

「━━━━ハゲのことよ」

 

 フレーヌの説明をもっと端的に黒羽は表現して伝えてきた。

 別に属性を咎めるつもりはない……のだけど、流石に私も言葉が出なかった。

 う、うん。 そりゃ色々な趣味を持つ人がこの地球には七十億人いるんだもの。 もちろん、その中には私には理解できない属性は山ほどあるわけだし。 別にツルツルの人が大好きだって人がいてもなんらおかしくはないよね。 うん。……少なくとも私の周りには居なかったけど。

 あれ……? でも確かエレメリアンは全員がツインテール好きとか言ってた気がするけど。

 疑問に思ったのは私だけではないようで、紅音が口を開いた。

 

「ツインテール好きなのに無毛好きって矛盾してないか?」

「ええ。 ヴァルキリアギルディ自身も、自らの属性力に悩んでいた……」

 

 黒羽はやけにヴァルキリアギルディについて詳しい。同じ神の一剣だったから思うところがあるのだろうか。

 暗い雰囲気漂う中、黒羽は椅子から立ち上がり、コンソールルームから出ていこうと歩き出す。

 

「どっか行くのか?」

 

 嵐が口を開くと、黒羽は歩みを止めて振り返る。

 

「トレーニングルームを借りるわ、フレーヌ。 ヴァルキリアギルディの件も気がかりだけど、まずは聖の五界。 その部隊を倒さない限り、この世界に夜明けはないわ」

 

 普段使われていないトレーニングルームを使うほど、切羽詰まった状況になってきているということだろう。

 黒羽は私に視線を移しながら話し始めた。

 

「それと、奏。復活したシャークギルディは元々アルティメギル首領にそのポテンシャルを認められて一部隊の隊長になった 」

「シャークギルディが……アルティメギルの首領に……」

「貴女が勝った時、シャークギルディは自身の力を制御できていなかったはず。 同じ過ちを繰り返すほど、奴は緩くない。 絶対に油断しちゃダメよ」

 

 そう言うと黒羽は振り返り、コンソールルームから出て行った。

 

「黒羽さんも言葉ではアレですけど……奏さんを心配してくれてるみたいですね」

 

 フレーヌはそう言うけど、私もわかっているし大丈夫。 もちろん志乃も嵐も、きっと紅音も黒羽の不器用な性格はわかっているだろう。

 

「それじゃ、ゲームでもしましょうか!」

「え、この状況でやんのか!?」

「ええ、常に心を強くすることは大変ですからね! たまには息抜きも必要ですよ? もちろん、後で黒羽さんにも参加してもらいます」

 

 そう言いながらフレーヌは壁のボタンを押すと私達の前のテーブルが床に沈んでいき、ボードゲームのような物が乗ったテーブルが上がってきた。

 ……科学が発展した世界から来てるはずなのになんだろう、このミスマッチ感は。

 

 

「中間はこれで終わりだ。 寄り道せずに帰んだぞー」

 

 担任の先生の気だるい挨拶とほぼ同時に学校のチャイムがなった。

 ピリピリした空気から解放されたクラスメート達は思い思いの会話をしながら教室に残ったり、部活へ向かったり……。 当然、私もその一人だ。

 ヤマを張ったおかげで、懸念材料だった科学のテストは自己採点では六割は堅いと踏んでいるけど……どうなることやら。

 

「かーなで! 早く基地行こっ!」

 

 流石に志乃は余裕あるなあ……。

 軽く首肯し、私が鞄を持つと志乃はダッシュで教室から出て行った。 はやく紅音に会いたいんだろう。

 紅音はフレーヌと一緒に暮らしてるけど、やっぱ一番仲良いのはと聞かれるとそれは志乃になるだろう。

 

「おい、伊志嶺」

 

 歩いて追いかけようとすると声をかけられたので振り返る。

声でわかっていたが嵐だ。

 

「俺も行くぞ」

「テスト終わったし部活始まるんじゃないの?」

「ふっふっふ、サッカー部はテスト明けから一週間休みなんだよなー」

 

 そんな自信満々に言われても……。

 ていうかこの高校なサッカー部は一応全国に名は知れてるらしいけど……練習しないでいいのかなあ。まあ、私が心配することじゃ無いんだけどさ。

 ふーん、とだけ答えて私は先に歩き出す。

 

「なんだよ、孝喜。 いつの間に伊志嶺とイイ感じなってんのさー?」

「より戻ったのか? おおん?」

「ち、ちげーよ!! てかなんで知ってんだ、お前ら!?」

 

 なにやら後ろが騒がしい……。何話してんだろう、教室全体が騒々しくてよく聞こえない。

 教室から出て歩こうとすると今度は何人かの女友達に肩を叩かれ止められた。

 

「いいねえ、奏。 嵐君って将来はサッカーのプロ選手内定してるようなもんだし……」

「羨ましいよ、奏ー!!」

「ま、私はテイルホワイトがいるからそこまで羨ましくは無いけどねっ!」

 

 ……本当に何の話をしてるんだ。 それと、この国では同性婚は認められてないからダメね。

 私が適当に返事をすると、何故か「キャーッ!!」と叫びがら廊下を走っていった。 先生に怒られるよ、走ったら。

 

「さっさと行くぞ、伊志嶺!!」

「え?」

 

 女子達と同じように嵐も教室から全速力で廊下を走っていく。

 

 次に私が嵐を見かけたのは渡り廊下で生徒指導の先生に怒られているところだった。

 




時間かかりました……。


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FILE.60 デビュー戦と真相

〈ノクスクライシス〉
テイルシャドウがブレイクレリーズする事で発動させる必殺技。 斧を逆手に持ち投げつけると、ブーメランのように二回相手を斬りつけ最後は自らの手で切り上げる。

〈ノクスクライシス・ディミヌエンド〉
ノクスアッシュの刃を柄から分離させ脚の装甲へと合体させる事で発動させる必殺技。 刃のついた脚でかかと落としする他、回し蹴りするなどどんな蹴りでも発動できる。

〈ルナティッククライシス〉
テイルシャドウ・アンリミテッドチェインがブレイクレリーズする事で発動させる必殺技。 アンリミテッドブラをノクスアッシュトリリオンへと合体、地面を突き円柱型のオーラピラーで相手を空中でバインドすると自身も高く跳躍し落下の勢いのまま斬り裂く。


 白く靄がかかっている森林の中。 大木に乗り、こちらへと話しかける人物が居た。

 

『そして、けじめとして……私の持つツインテール属性を核に、もう一つのテイルギアを完成させました。 それが……テイルレッド、あなたのテイルギアなのです』

「んん……」

 

  フレーヌに用意してもらった寝室で、テイルレッドへと変身する少女、紅音は目を覚ました。

  壁と一体化しているデジタル時計を見ると午前四時、早起きにしてもこの時間ではと紅音はすぐに目を瞑る。

  紅音が奏の世界へと飛ばされてから二週間が経ったが元の世界へと帰る手がかりは全くない。紅音自身も記憶を無くしている為、元いた世界がどんなところで、どんな人達がいたかも分からない事が帰るのに難航している一番の要因だった。

  ただ、最近紅音は決まってある夢を見るようになっていた。

  黒く奇妙な仮面をつけ、テイルホワイトと同じような銀髪と白衣を翻しながら話す謎の少女。

  紅音は目を開けると、自分の腕を天井へと伸ばす。 強く念じると、間も無く赤い腕輪、テイルギアが可視化する。

 

「俺に残ってるのは……アルティメギルと闘っていた記憶と……ツインテール、そして……このテイルギアだけ」

 

  銀髪の少女は自らのツインテールを犠牲にし、自分へ譲ってくれたのに、その少女が誰だかわからず、どんな関係だったのかも思い出せない。 モヤモヤが広がっていくのと同時に、そんな自分への怒りが日を追うごとに大きくなっていく。

  テイルギアを再び透明化させ、天井へと伸ばした腕をそのまま布団の上へと落とすと、紅音は再び目を瞑る。

 

「ツイ……ン……テール……」

 

 再び襲ってくる睡魔で薄れゆく意識の中、紅音はある事を決断した。

 

 

 期末テストが終わってから何週間か経ち、とうとう十二月の半ばになり、緩み始めた中久しぶりにエレメリアンが現れた。

 幸いもう放課後だし、授業を気にすることもないのだけど……一つ気がかりな事が。

 

「俺に行かせて欲しいんだ!」

 

  綺麗な赤髪のツインテールを舞わせて話す少女、紅音。

  基地にてエレメリアン出現アラームを聞いて私が真っ先にカタパルトへ向かおうとしたところ、紅音に制止され今の状況だ。 いきなりエレメリアンと闘いたくなるなんて一体どうしたんだろう。

  勿論、私は説得を試みる。

 

「気持ちは嬉しいけど、ここは私の世界だし、紅音をあんまし危ない目に巻き込みたくないから。 ……それにわかってると思うけど、奴らかなりの変態だよ」

 

  テイルレッドを見た時から、何故か彼女があの変態共のツボにはまっているような気がしてならないし。

 

「たのむ! 俺も、ツインテールを守りたいんだ。 自分の世界だろうが、異世界だろうが、ツインテールがそこにあるなら俺は闘いたい!」

 

  私はフレーヌは目を合わせると、''フレーヌだけ''笑みを浮かべて力強く頷いた。……なんか心配だ。

 

「気をつけてね。 それと、私も一応ついてく」

「あ、ああ!」

 

  紅音も力強く頷き、腕を上げると、右手首に赤いテイルブレスを可視化させる。

  スゥーッと大きく息を吸い、紅音は私と共通のスタートアップワードで、変身を遂げる。

 

「テイルオンッ!!」

 

  光の繭から現れた紅音は身長が一回り小さくなり、無事に異世界のツインテール戦士、テイルレッドへの変身が完了していた。

  こうしてまじまじとテイルレッドを見るのは彼女がこの世界に来た時以来だけど、やっぱり私のテイルギアと似ている……。 というかフォースリボンや腰の装甲やアンダースーツ細かいところを除けばほぼ同じだ。

  紅音の世界じゃ殆どの人がテイルレッドへ対して好評価だったけど、近くで見ると納得するしかない。

 

「うわー、やっぱテイルレッドたん可愛いー!!」

 

  小さい体の愛らしさは勿論のこと、彼女を象徴する真紅のツインテールはなんと見事なことか。

  変身した途端、志乃は顔が緩みまくり、テイルレッドに胸を押し付けている。 ……これから出撃するわけだし、ちょっとだけ強引に引き剥がしておこう。

 

「気をつけてね!」

 

  テイルレッドから引き剥がされた志乃はサムズアップしながらウインクし、テイルレッドに言葉をかける。

 

「サンキュー、志乃。行こうぜ、ホワイト!」

「うん」

 

  紅音の時よりも声が高くなったテイルレッドに促され、私達二人はフレーヌと志乃に見送られながらカタパルトへ飛び込みエレメリアンが出現した場所へと転送された。

 

「おお、テイルレッドではないか!! めんこいのう……ぐへへ」

 

  市街地に現れたエレメリアンは私が前に闘ったシェルギルディのような外見をしている。 変わったところといえば全体の色や体の大きさ、貝の付いている位置と形くらいか……。

  それにしても、テイルレッドを見た最初の一言がそれか。 はやく倒してしまいたいけど、ここは我慢だ。

  私はレッドに危険が迫った時にすぐに対応できるよう、念のためトライブライドになり後方からフロストバンカーを構えて経緯を見守る。

 

「私は濡れ透け属性、クリアスウェットのオイスタギルディである」

『オイスター……つまり牡蠣ですね、貝です』

 

  濡れ透けとは……またマニアックなエレメリアンだ。

  今日は雨が降ってなくてよかったと思う。

  テイルレッドがブレイザーブレイドを抜き取り、構えを取るとオイスタギルディは掌を突き出し、待ったをかけた。

 

「まて、私のこだわりを聞いてくれると嬉しい」

 

 それを聞き、レッドは渋々剣を下ろす。 いや、おろしちゃっていいの?

  オイスタギルディは「感謝する」と呟き、頷くとそのこだわりを話し始める。 別に私は聞きたくないけど、レッドが許すならしょうがないかな。

 

「私は濡れ透けが好きだ。だが、ただの濡れ透けではない!女子高生のワイシャツが濡れて透けるその様がたまらなくてしょうがないのだ!! 」

 

  聞くんじゃなかった。

  後悔する私をよそに、オイスタギルディはどんどんヒートアップしていく。

 

「女子高生のワイシャツから透けて見える物に、年頃の男子はドキドキし直視できないながらも、チラチラと期待を込め確認していくものだ」

『ぐ、エレメリアンの割に鋭い事を……!』

 

  なんで女の子であるはずのフレーヌが共感しているのか。

 

「そして私は思うのだ! 男子の期待を背負い、その濡れ透けを浸透させるのが……使命だと……!」

 

 ちょっとダジャレ入ってない? 全っ然面白くないのは、オイスタギルディに報告した方がいいのかな。

 ていうか、そろそろ私は聞くのが辛くなってきた。

 

「だからこのワイシャツを着てほしいのだ。テイルレッドの装甲は透けても下着には見えない故テイルホワイトよ、着てくれ」

「嫌に……決まってんでしょうが━━━━━━━!!!」

 

 我慢の限界がきた。 気づいたら私はフロストバンカーから光線を放ち、オイスタギルディの持っていた真っ白なワイシャツを真っ黒な炭へとメタモルフォーゼさせていた。

 

『目が光ってる奏、久しぶりに見たなあ』

 

 志乃が昔の私を懐かしむ中、ワイシャツを持っていたオイスタギルディは哀しみにくれ四つん這いになってしまった。 頭にきたからやっちゃったけど、エレメリアン相手でもちょっと申し訳ない気がしてきた。

 

「ふふふ……拒否されようとも、私の意思を変えることなど不可能! 絶対に着せて、濡らせ、透けさせてやるぞ!!」

「目瞑って聞いてたらいろいろとやばそうな単語があるって」

 

 オイスタギルディは自分の貝鎧の中から再び新しく真っ白なワイシャツを取り出した。

 

「透けブラ━━━━!!!」

 

  オイスタギルディは咆哮しながらテイルレッドを飛び越え、私の眼前まで移動すると、ワイシャツを高々と掲げる。

 

「もう属性力変わってるでしょ!?」

 

  咄嗟に光線を放ち、今度はワイシャツではなくオイスタギルディに命中させると踵で地面を抉りながら交代していった。

 

「私は知っている。 下着属性を吹聴し、同胞たちから蔑まされながら戦果をあげてきた戦士を……!! 透けブラもまた、同じなのだ!」

 

 下着属性のエレメリアン、どこかで聞いたような覚えがあるけど。

 

「だから私は、透けブラと両立できる濡れ透けを極めようとした。しかし、それではダメだ。 やはり私は透けブラがいい!!」

「無理……もう無理。 ごめんレッド、お願い!」

 

 散々嫌な演説を聞いたせいだろうか。 光線を二回放っただけで、かなり体力を持っていかれてしまった。

 本望ではないけど、とりあえずここはレッドに任せるしかないか。

 私の様子を見て察してくれたのか、レッドはすぐに頷きブレイザーブレイドをオイスタギルディへと突きつけた。

 

「むうう……テイルレッドでは透けブラにはならないのだ。 めんこいが……惜しいが……どいてくれ!」

「いや、退かない。 今日は俺が相手になるぜ!」

 

  レッドの言葉を皮切りに、テイルレッドとオイスタギルディの闘いの火ぶたが切って落とされる。 正確には白いワイシャツが斬って落とされたわけだが。

 

「うおおおおお!」

「な、何という幼女だ……!」

 

 流石テイルレッドだ。 異世界で私が見た時と同じように、目の前の巨体へブレイドを振るい確実にダメージを与えていく。

 記憶がなくなってテイルギアの力が扱えないという心配は必要なかったらしい。

 何百もの斬撃を受け、オイスタギルディの強固な貝殻はところどころにヒビが入り始める。

 

「ブレイクレリーズ!!」

 

 ブレイザーブレイドの刃先に炎が弾け、バスケットボール大に膨れ上がった炎の球体をオイスタギルディへと投げつける。 目の前で爆発すると螺旋を描き、身体の周囲を取り巻く軌道が円柱のように変化した。

 

「これが、テイルレッドのオーラピラー!」

 

 テイルレッドがオイスタギルディへと近づくと、その手に持つブレイザーブレイドが火を噴き出した。

 

「グランドブレイザー!!!」

 

 オーラピラーを刃がすり抜け、そのまま真っ直ぐオイスタギルディの脳天から一気に斬りおろす。

 決着は、ついた。

 

「こんな事になるならば……正直に自分の属性力を向き合うべきだった……!」

 

 最後に今までの自分を悔やみながら、オイスタギルディは爆発した。

 エレメリアンにしては最後が変態的な言葉ではなかったのは意外な事かもしれない。 というか意外以外の何者でもない。 ……イガイガイガイ多すぎて訳わかんなくなってきた。

 やっぱエレメリアンにも色々あるんだね。

 

『紅音さんお見事です! テイルギアの力も引き出せているみたいですし、問題はありませんね』

 

 戦闘データを取っていたであろうフレーヌが嬉々として報告してきた。

 確かに、側で見ていた私もテイルレッドに異常は感じられなかったし、私達が心配しすぎていただけらしい。

 

「報道の人達来ちゃうし帰ろう、レッド」

「わ、わかった」

 

 市街地にエレメリアンが現れたせいで、一般の人たちにはテイルレッドの存在を知られてしまったけど、運良く報道関係者は来ていないみたいだ。

 さっさと帰ってしまうのが吉だろう。

 ただ、今の時代インターネットというものが、全世界に広まっていることを忘れてはならない。

 明日の朝のニュースは、視聴者提供のテイルレッドで盛りだくさんだろうなあ。

 

 

 何者にも決して侵されることのないアルティメギル基地。 その基地の再奥のあのフロアにはシャークギルディが散ってから誰一人として足を踏み入れた者はいなかった。

  一度主人を失ったこのフロアだが、主人であるシャークギルディが復活したことで、今一度、彼の修行のため使われている。

 

 自分が倒れてからのテイルホワイト及び新たな戦士、テイルシャドウの記録映像を見たシャークギルディは更に自分を追い込むため、このフロアへとやってきていた。

  フロアはシャークギルディが倒れた時から手がつけられておらず、当時の修行の名残がある。

 床に落ちている原稿用紙。 これこそ、シャークギルディが修羅の試練である''メロゲイマ・アニトュラー''に挑戦していた事の証。 そして、修行を終える前にシャークギルディは出撃し、テイルホワイトに敗北した。

  当時を思い出し、シャークギルディは身体を震わせる。

 

「ここが貴方の部屋ですの? 美しくない部屋ですわあ」

 

 フロアに響く聡明な声を聞き、シャークギルディは素早く振り向いた。

 

「エンジェルギルディ……!」

 

 敵意を露わにして、シャークギルディは苦々しく声の主の名前を呟く。

 

「ッ!?」

 

 エンジェルギルディと名前を言ったその瞬間、シャークギルディが全く反応できない速度で彼の頭の真横を黄金の矢が掠めていった。

 

「上官に対して、無礼ですわね」

 

  先ほどフロアに響いた聡明な声が、暗く冷たい声となって再度フロアに響く。

 エンジェルギルディは手に持った弓をしまい、口元へ手を当て微笑した。

 

「エンジェルギルディ……殿。ここは我のみが入る事を許されたフロア。 我が隊の者がここへ来ることはないでしょう」

 

 退屈そうに腕を組み、エンジェルギルディはシャークギルディの言葉を受け、頷いていく。

 

「……教えていただきたい。 なぜ我を……我を復活させたのかを。 なぜ、ヴァルキリアギルディ殿の力を借りてまで、一部隊の隊長でしかなかった我を復活させたのか!! そして何より、なぜ我以外の復活を拒むのか!?」

 

 シャークギルディは自分が復活してからずっと抱いていた疑問を全て、目の前の天使へとぶつけた。

 

「何回も言ったではありませんの。 首領様も期待していた貴方を失うのは、アルティメギルにとっても痛手と申しておりましたわ。 そこで、ヴァルキリアギルディさんに私からお願いしましたの」

 

 ノータイムで返された返事にシャークギルディは納得せず、頭を抱えた。

 実はこの疑問は何回か既に、エンジェルギルディにぶつけていた。しかし、帰ってくる答えはいつも同じだった。

 いつもはここでシャークギルディが折れていたが今回は違うと、一歩も引くことなくシャークギルディは続ける。

 

「我を首領様の意思で蘇らせたなどと……! 我は首領様の考えではなく、あなた自身の考えを聞いているのです!」

「私自身の、ねえ。うーん、そうですわねえ……」

 

 ここに来てエンジェルギルディは顎に手を当て深く考え込む。

 

「聖の五界もテイルホワイトらによって三人の幹部が敗れてしまいましたし……新しい力が欲しかったんですの」

「我はあなたの部下になる気など微塵もありませぬ!」

「今はそう思うのですわね。 まあ、時期に私の下に就きたいと思う日が来ることは必至ですが」

 

 意味深な笑みを浮かべると、エンジェルギルディはシャークギルディの持っている紙切れを注視する。

 

「今更ですけれど、そのヒロインが巨乳になってしまったことで自暴自棄になるストーリーは如何なものかと思いますわ」

「エンジェルギルディ殿、我は師であるクラーケギルディ様の意思を継ぎ、紡いでいくと決めております。 それは、修行の中で執筆した小説にも同じ事です」

「そ、そうですの。 素晴らしい事だと思いますわ……はい」

 

 適当に返事を返し、エンジェルギルディはそそくさと早足でフロアから出て行った。

 

「今こそ、クラーケギルディ先生が我に授けてくれた貧乳の極意を使う時だ」

 

 フロアに落ちていた紙切れを握りしめ、シャークギルディは呟き、歩を進めた。

 ━━━━自分の仇を討つために。

 

 

 私の予想通り、次の日からテイルレッドは爆発的な人気を集めていた。

 

『こちら、首相官邸前です! エレメリアンが出現しない事でテイルレッドたんが見る事ができないと民衆が大規模なデモを行なっております!!』

 

 いやいや、人気過ぎじゃない!?

 テイルレッドの初戦闘から三日間、エレメリアンは現れずに平穏な日々を過ごしている。 が、この国、ひいてはこの地球上の人々にとってそれはツインテールの戦士に会えないという事だ。 私は理解できないけど、世間的には我慢ならないんだろう。

 おっと、現場のアナウンサーがデモの男性に質問を始めたらしい。

 

『エレメリアンが出てこないからテイルレッドたんを見る事が出来ないだろうが!! 首相は何とかしろー!!』

 

 うわ、暴動みたいなのが起こり始めた。 収拾つかなくなりそう。

 

「新しい娘も可愛いけど、私はやっぱりホワイトちゃんのがいいわねえー」

 

 私と一緒に朝食を食べているお母さんがテレビを見て言う。

 お母さんには私がテイルホワイトだという事を伝えてはいないけど、どうやらあのパーティー会場で助けられた事が余程嬉しかったみたい。それからは新聞の記事を切り抜いてファイリングするほどのファンになってしまった……。

 私がテイルホワイトだよ、なんて言ったらどんな反応するのか凄く気になるけど我慢ね。

 

「奏、そろそろ時間じゃない?」

「え、やば。行ってくるね!」

 

 お母さんの言葉で気づき、私は急いで家を飛び出した。

 この前一度遅刻しちゃったし、これ以上は内申がヤバイから遅刻するわけにはいかない!

 

 放課後、学校下のフレーヌ基地へとやってきた。

 私と志乃とでメインルームに入ると、フレーヌが難しい顔でキーボードとタブレットを忙しなく操作している。

 タブレットに視線を落としていた二人は、私たちが来た事に気づくとチョイチョイと手招きをしてきたので、いつもの椅子にどっと座り込む。

 フレーヌはタブレットに繋がっていた電源コードのようなものを全て外し、テーブルに置く。

 

「紅音さんこと、テイルレッドがこの世界に来た原因がわかりました!!」

「ほんとお!?」

 

 瞬時に志乃は反応して椅子から立ち上がりテーブルを両手で叩く。 志乃の反応とは対照的に、紅音は静かに座ったままだ。

 

「はい! 私はエンジェルギルディあたりが仕組んでいるのかと思いましたが、そうではありません」

 

 フレーヌはタブレットをいじり、エレメリアンを表示させると、その周りにグラフのようなものを表示した。

 よく見るとタブレットに映っているのはシャークギルディだ。

 

「復活したシャークギルディの周りに空間を歪ませる物質が渦巻いています。これがテイルレッドと無関係とは思えません」

「復活したエレメリアンが空間を歪ませる……もしかして!?」

「この世界とは別の世界で、大量にエレメリアンが復活し、空間を裂けさせ偶然この世界と紅音さんの世界を繋げてしまったのかもしれません」

「シャークギルディの他にも、エレメリアンが……」

 

 沈黙が続く中、フレーヌは立ち上がり、再びタブレットをメインのモニターへと接続するとメガネをかけこちらへ向き直る。

 メガネにどんな意味があるのかはわからないけど、フレーヌの顔は真剣なものだ。

 

「続いて紅音さんについてです」

「紅音の!?」

 

 先程とほとんど同じ動作で志乃がまた声を出す。

 

「記憶を無くす原因となったのがエンジェルギルディに間違いはありません。ですが、記憶を無くす大部分の原因は紅音さんが生身で世界間を繋ぐトンネルを通った事にあります」

 

 モニターに映し出されるエレメリアンが移動などに使っている極彩色のトンネル。 その周りに、人間にとって有害な物質がズラッと並んでいる。

 でも、私だって通った事はある。

 

「私が黒羽に投げ込まれた時は、なんともなかったよ?」

「黒羽さんは奏さんをゲートに入れる直前、何重ものフォトンアブソーバーを奏さんへ覆い被させていたんです」

 

 へえ、黒羽自身から話さないから全然知らなかった。

 

「紅音さんはそのような加護はなかったものの、テイルギアのおかげで辛うじて意識を保ち心身を疲労させた状態でこの世界へ降り立ちました」

 

 あの時、突然ゲートが開いてその中からテイルレッドが現れたんだっけ。

 そして私たちと一緒に、ウンディーネギルディを倒そうとしたところにエンジェルギルディが現れたんだ。

 

「テイルレッドの属性力は強大なものですから、おそらくエンジェルギルディはテイルレッドを無力化しようとしたんでしょう。しかし、これまたフォトンアブソーバーによって技の威力は弱まり一部の記憶は残ったままになってしまった……と思われます」

 

 記憶が無くなったのはそういう事だったのか。下手したらテイルレッドは全く普通の女の子になってたって事だよね。

 

「てか、話聞いてるとそのエンジェルギルディってやつミスしてばっかだな」

 

 私の後ろで嵐が呆れた声を出す。 ……いつの間に居たんだ、嵐は。

 

「今回の件についてはあちら側のミスによるものですが、それ以外は奏さんと私たち自身で乗り越えてきました。 エンジェルギルディ……聖の五界を、アルティメギルは油断できない存在に変わりありません」

 

  実力的には私でも敵わない事は充分にわかっているつもりだし、フレーヌの言うことに意見はない。

 

 

 ミーティングがひと段落し、各々がくつろぎ始めたその時、無情にもエレメリアンの出現を知らせるアラートが基地に響いた。

 

「エレメリアンです……! 計三体の反応がありますが……」

「黒羽に連絡してフレーヌ。 あとは私と」

「勿論、俺も行く!」

 

  紅音と視線を合わせ、お互いに頷き合うと私達は変身する。

 志乃の「気をつけて」という声を最後に、私達はカタパルトへと入り込みエレメリアンが出現した場所へと向かった。




なかなか進みません…。
遅いですが年が明けました。
今年もツインテールよろしくお願いします。


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FILE.61 決戦への予兆

シャークギルディ(復活)
身長:257cm
体重:302kg
属性:貧乳属性(スモールバスト)

神の一剣のエレメリアンであるヴァルキリアギルディの''死して尚変態(ヴァルハラ)''によって蘇ったシャークギルディそのもの。 テイルホワイトと最後に闘った時よりも遥かに強くなっており、実力は聖の五界の幹部エレメリアンにも匹敵する。 過去にメガロドギルディとなった事を恥じており、別の方向で更なる強さを得る事に成功した。 それと同時に過去に敗れた経験から性格も以前のような厨二病のような言動はなりを潜め落ち着いた性格となっている。


  転送ゲートを抜け、見えてきたのは……海だ。

 日本の浜辺みたいで、近くに日本語の看板が見える。 十二月のこの時期には少し早いが砂浜に雪が多少積もっており幻想的な風景となっていた。

 私の地元じゃ見られない光景だけに、やけに物珍しく感じてしまった。

 周りをざっと見回したところエレメリアンは見当たらないし……奪うべき属性力を持っている人もいない。 いるのは私とテイルレッドだけだ。

 

「フレーヌ、ここであってるの?」

『間違いありません。 その近辺にエレメリアン反応が確認できます』

「でも、周りに人がいないぞ……ん?」

 

 エレメリアンを探していたレッドが急に俯き、何かを考え出したようだ。

「どかした?」

「いや、なんかデジャヴを感じるっていうか、この状況は……そうか!」

「ちょっ!?」

 

 突如レッドは何かに気づき、私を突き飛ばす。 思いの外強く押された私は何メートルか先の砂浜へ尻餅をつく。

 痛いお尻を気にしつつ、テイルレッドの方へ視線を向けると、砂が飛び散りその辺りがよく見えなくなっている。

 

「ええ!?」

 

 埃が大分収まると、先に見えてきたのはブレイザーブレイドを抜いたテイルレッド。 そして、次に見えたのがレッドを上から抑えつけるシャークギルディだった。

 どうやらテイルレッドはシャークギルディの不意打ちから私を守ってくれたみたいだ。

 

「さすが究極のツインテール……見事だ!」

「不意打ちで相手の力量を測るってことか! なんか覚えがあったんだよ!!」

 

 レッドはブレイドを力一杯押して、シャークギルディから自信を解放すると跳躍し私の前へ着地した。

 私は立ち上がると素早くアバランチクローを装備する。 もちろんそれは、私の後ろにいるエレメリアンに攻撃するためだ。

 

「そんなに警戒しないでよ。 別に私は手出すつもりないからさ」

 

 透き通るような女性の声をしたエレメリアン、ウンディーネギルディが後ろで答えた。

 振り返るとウンディーネギルディの他にもう一体、聖の五界と思わしきエレメリアンも一緒だ。

 そういえば出撃する前、フレーヌはエレメリアンの反応が三体あるって言っていた。 シャークギルディとこの二体の反応って事だろう。

 

「何の用だ、ウンディーネギルディ殿。 我の邪魔をするのは許さんぞ!」

 

 私とテイルレッドを挟んでシャークギルディとウンディーネギルディは対峙している。 反応を見る限りじゃそこまで仲良くないみたいだけど、部隊が違うとそんなもんなんだろうか。

 

「サポートしてあげてって隊長が言うから仕方なしにきてあげたんだから感謝してちょーよ」

「我自身の手で、過去を斬るために赴いたのだ!」

「まあまあ、私らだってあんたがテイルホワイトと闘いたいのはわかってるって。 だから私らがテイルレッドの足止めをしといてあげるからさ」

 

 ウンディーネギルディが言い終わるのと同時に、横にいたエレメリアンがレッドに向かい突進しはじめる。

 いつものレッドなら難なく迎撃できるだろうが今の今までシャークギルディに注意を注いでいたせいで若干反応が遅れてしまった。

 

「くっ!」

 

 無理な体勢でレッドが攻撃を受けようとしたその時、

 

「卑怯な真似をするのね」

 

 空から聞き馴染みのある声が聞こえると次の瞬間、突進してきたエレメリアンは砂浜をゴロンゴロンと転がっていく。

 

「助かったぜ、シャドウ!」

 

 遅れて現れたシャドウは少しだけレッドに微笑むと、すぐに私と一緒にウンディーネギルディを睨みつける。

 

「手出すつもりないとか言っときながらすぐに矛盾してるじゃん!」

「よく聞きなよ。 ''私は''手出してないって」

 

 なんて性格の悪いエレメリアンだ……。

 私が警戒の姿勢を崩さないのを見てシャドウは振り返り、今度はシャークギルディと対峙した。

 

「お久しぶりです。 いや、其方は我を導いてくれたオルトロスギルディ殿ではないようですな」

「ええ、その通り。 私は速水黒羽でありテイルシャドウ。貴方の知っているオルトロスギルディじゃない。あいつの影ってところね」

 

 どうやら何か因縁めいたものでもあるのだろうか。

 こう着状態が続く中、私は一つ決心し、二人に小さな声で話しかける。

 

「悪いけど二人とも、私もう一度シャークギルディと闘いたい。一応シャークギルディに聞いときたいこともあるしね」

 

 私の話を聞いてもちろん二人は目を丸くする。 しかし、レッドはすぐに凛々しい笑みを浮かべると力強く頷いてくれた。 一方の黒羽も無表情ながら納得はしてくれたようでウンディーネギルディへ狙いを定めた。

 二人からお許しが出たところで私はアバランチクローを一旦手放してシャークギルディに向かい歩き出す。 そして、シャークギルディと初めて対峙した距離で歩みを止め、話しかける。

 

「この前はゆっくり話せなかったからね。少しだけ話がしたかったの」

「話だと? ふ、既に亡者である我にする話とは、気になるな」

 

 シャークギルディが腕組みをしたままで攻撃をしてこないことを確認でき、私はテイルギアから一つの属性玉を取り出し胸の前へ掲げる。

 

「それは……我の物か。 それを我に見せつけてどうするつもりだ」

 

 貧乳属性の紋章が入っているその属性玉はシャークギルディの言う通り、私が彼に勝った時に拾いあげたものだ。

 それと見せつけているわけじゃない、これは確認だ。

 エレメリアンの核である属性玉はここにある。だけど目の前にシャークギルディは存在している。 そんな矛盾が本当に起こるのか確認したかった。

 

「属性玉を必要としないで生き返れるなら……もしかしたらあんたは人の属性力を盗らなくても生きていけるんじゃないの?」

「……何が言いたい」

 

 シャークギルディは変わらず腕組みをしたままだが聞こえてきた声は先程よりも低い。

 

「前にも言ったはず。 私はアルティメギルを潰す為に闘っているんじゃない、この世界を守る為に闘っているって」

 

 前に闘った時に私は言った。

 フレーヌや黒羽には気の毒かもしれないけどエレメリアン達がこの世界から居なくなるなら追い討ちをするつもりがないのは今も一緒だ。

 

「これからは今までの事を悔いてあんたとあんたの部隊がこの世界から撤退するなら私は━━━」

「━━━時間の無駄だな」

 

 気づいた時にはシャークギルディの手にはスモールバスティラスが握られていた。

 

「我等は生きる為に属性力を喰らい続けてきたのだ。生きるための行いを悔いるつもりも無ければ、大人しく撤退するつもりもない! お前を倒すために散っていった我が部下達のため、基地で吉報を待つ部下達のため、我を鍛えてくれた師匠達のため、我は闘うのみだ」

 

 シャークギルディがスモールバスティラスを振るうと辺りに突風が巻き起こり、地面に積もった雪を舞い上がらせていく。

 

「そうだよね……。エレメリアンがそういう事に熱いのはわかってたはずなのにね」

 

 少しだけ期待していたの事実だし、その方法を望んでいたのも事実。 だけど結果はなんとなくわかっていたんだ。

 今の私のツインテールはどんな風に舞っているのか。 それがシャークギルディからどう見えるか、少しだけ考えてしまった。

 気づけば舞い上がった雪が再び地面へと落ちてきて、今まさに雪が降っているような状態となっている。

 意を決してフォースリボンを触れると、左右の手に再びアバランチクローが装着された。

 そして私は、いやらしくシャークギルディへと問いかける。

 

「メガロドギルディにならなくていいの?」

「以前は剛の力を頼るあまり情けない姿を晒してしまった。 我にとってこの姿こそが真、このシャークギルディこそが最終闘体そのものだったのだ。 そして━━━━」

 

 シャークギルディは握っていたスモールバスティラスを投げ捨てると新たな武器を握り締めた。

 

「━━━これこそ我の行き着いた先、最強の武装誠の貧乳真理(トライデント)!!」

 

 新たに握りしめられた武器はスモールバスティラスと同じ槍。同じ槍ではあるが、穂先が大きく槍というより斧に近かったスモールバスティラスに比べると至ってシンプルな三叉の槍だ。

 シャークギルディが最終的に行き着いたのは元々高い自分の能力を最大限に活かせる武器だってことか。

 

「今度こそ決着をつける、シャークギルディ!」

「応とも。我の勝ちで終わらせるぞ、テイルホワイト!」

 

 私とシャークギルディ、同時に地面を蹴ると互いに向かっていく。

 自分のツインテールと会話して高めた私と、自らを変えずに自分の力を引き出すシャークギルディ、どっちが強いか勝負だ!

 

 

 テイルホワイトを見送った後、二人はホワイトと同じように直ぐには戦闘を開始していなかった。

 二人の顔を見た後、ウンディーネギルディが指を鳴らすと背後に極彩色のゲートを生成した。

 

「このゲートの向こうはテイルレッド、君の世界だよ」

「なんだって!?」

 

 テイルレッドが二、散歩前へ進んだその時横にいたシャドウがノクスアッシュをウンディーネギルディへ投げつける。

 

「安易に飛び込むのは危険よ。 本当の事かどうか怪しいもの」

 

 命中はせず、ノクスアッシュは再びシャドウの手元へと戻ってきた。

 

「信用されてないねえ」

 

 ウンディーネギルディはガッカリしたようにわざとらしく大きくため息をつくとゲートを消滅させ、菱形の黒い石を取り出す。

 

「ゴッドブレス……!」

 

 ゴッドブレスを味方のエレメリアンへと放るとそのエレメリアンはためらいなく自らの身体に其れを埋め込む。

 やがてゴッドブレスを埋め込んだエレメリアンは身体が紅く発行し始めた。

 その事を確認したウンディーネギルディは鞭を取り出し、テイルレッド向けて振るい始める。

 

「いつまでものんびりしてたら、その属性力研究材料にしちゃうよ!」

 

 間一髪のところで鞭を避けると、レッドはすぐにブレイドで鞭を叩き斬る。

 

「ふざけんな! ツインテールを守るために闘ってる俺が、そんな事させない!」

 

 ブレイドを構え、レッドはそのままウンディーネギルディに近づき上段から振り下ろす。 が、ウンディーネギルディは鞭の持ち手でブレイドを防御し、鍔迫り合いの状態となった。

 

「あなたはまだ知らないでしょうけど、自分のせいで世界がツインテールになっていく様をみてそんな事言えるのかな?」

「なんだって!?」

 

 僅かに聞こえたウンディーネギルディの声を聞いて、黒羽は即刻目の前のエレメリアンを吹き飛ばし疾駆する。

 

「アンリミテッドチェイン!!」

 

 進化装備を胸にかぶせ、アンリミテッドチェインとなり、進化した斧でウンディーネギルディを狙う。

 

「はああっ!」

 

 斧を振り下ろすと同時にウンディーネギルディは大きく跳躍し、攻撃を避け距離を取った。

 

「邪魔してくれちゃって」

「悪いけど、今の話については私がじっくりと聞いてあげるわ」

「用があるのはレッドだけ。 オルトロスギルディは大人しく他の子を相手にしててよ」

 

 ウンディーネギルディの言葉同時に、先程吹き飛ばしたエレメリアンが瞬間的にシャドウの前へと移動し、今度は鎌のような武器を振るい始めた。

 

「邪魔ね……!」

 

 エレメリアンが黒羽を自分から遠ざけたのを確認したウンディーネギルディは不敵な笑みを浮かべテイルレッドへと近づいていく。

 威圧感をその身に受けながらもテイルレッドは後退りする事なくブレイドを構え、再びウンディーネギルディへと斬りかかった。

 

「究極のツインテール、テイルレッド。一つここでネタバレしてあげる」

「何っ!?」

「あなたはこの先、今よりももっともっとツインテール属性を高めていくけれど……そのせいで全世界を滅ぼす事になっちゃうんだよねえ」

「俺が、世界を滅ぼす!?」

「そそ。皮肉ねえ、ツインテール属性が強すぎるあまり……究極のツインテールであるせいで世界を無にしてしまう。 研究したくてしょうがないわ!」

 

 ウンディーネギルディはテイルレッド目掛けて鞭を振るうと、レッドの身体に巻きつけそのまま自身の方へと引っ張る。

 

「首領様が目を掛けているあなたの全部を解明して私こそが科学班の、いえ……神の一剣のトップへと登りたいの!」

「うああああああ!!」

 

 眼前までテイルレッドを引き寄せると強力な蹴りを繰り出しレッドは飛ばされていく。

 

「あっはははははははは!! 何処にも行かせないからねっ!!」

 

 鞭を操りウンディーネギルディはレッドを砂浜へ、海へ、岩へ次々と何回も打ちつけていく。

 

「こんのぉー!!」

 

 レッドはなんとか空中で体勢を立て直すと両足で着地、そのままウンディーネギルディへ向かい両足で蹴りかえす。

 蹴られた勢いでウンディーネギルディは鞭を手放し、レッドはようやく解放され素早くブレイザーブレイドを抜き取った。

 

「痛うう……!」

 

 砂浜を転がり海へと落ちたウンディーネギルディが立ち上がると、既に眼前にブレイクレリーズされ、中央から炎が吹き出るブレイドが接近していた。

 

「グランドブレイザアアアアア━━━━ッ!!」

 

 袈裟懸けに振り下ろされた炎の剣により周囲に積もっていた雪は一瞬にして溶けていく。

 

「いやあああああああああああ!!?」

 

 炎に包まれながらウンディーネギルディはその場に両膝を地につけると倒れこみすぐに爆発し、爆煙を巻き上げた。

 

「はあ、はあ……ぐっ!」

 

 反撃出来たとはいえ、幹部エレメリアンの攻撃を受け続けたレッドはダメージが大きくその場に膝をつき、呼吸を整える。

 

『紅音さん、その状態で闘うのは危険すぎます。 ここは一度こちらへ戻ってきてください!』

「悪いけど……そうさせてもらおうかな……」

 

 爆煙を背にしてテイルレッドは転送され、フレーヌ基地へと戻っていった。

 

 

 砂浜から離れ、雪の深い森の中でシャドウは枝から枝へと飛び移りながら反撃の隙を狙っていた。

 

「いくらゴッドブレスとはいえ、エレメリアンをここまで強化させる事なんて不可能のはず……ウンディーネギルディが弄ったのね」

 

 身体を赤く発光させ、木々を薙ぎ倒しながらエレメリアンはシャドウを追い掛ける。

 シャドウは飛び移るのをやめ枝の上に立つと地上にいるエレメリアンへ視線を向ける。

 

「これ以上は自然破壊よ。 目を覚ましたらどうなの、ゴブリンギルディ」

 

 ゴブリンギルディと呼ばれたエレメリアンはシャドウの立つ大木へ拳を叩き込むと、その大木も根元から折れ大きな音をたてながら倒れていく。

 倒れる途中に大木から飛び降りたシャドウはそのまま真下にいるゴブリンギルディへ膝打ちするとすぐにもう一発蹴りを入れ、ゴブリンギルディを倒れる大木の下敷きにした。

 

「ウンディーネギルディも随分めちゃくちゃするのね。マーメイドギルディといい勝負……いえ、アイツはもっとやばいわね」

 

 顎に手を当て考え事をしていると、後ろの大木が空高くへと舞い上がりシャドウ目掛けて落下してきた。

 

「はあ!」

 

 ノクスアッシュトリリオンを目にも止まらぬ速さで振り抜くと、宙に浮いていた大木は粉々になり地面へと落ちていく。

 

「どうやらウンディーネギルディはゴッドブレスそのものをさらに改造してるみたいね」

 

 ゴブリンギルディはゴリラのように自分の胸を叩くと両の手に棍棒のような武器を作り上げる。

 

「ぐおおおおおお!! 三……白眼ンンンン!!?!」

 

 二つの棍棒を打ち合わせると深い雪の中かから太く逞しい根がせり出し、周囲を薙ぎ払っていく。

 

「エレメリアンがここまでの破壊行動なんて、随分と落ちたものね」

 

 迫りくる根を避けながら悪態を吐くシャドウ。しかし、ゴッドブレスを使っているゴブリンギルディは気にも止めずに次々と巨大な根を地面から出し辺り一面に打ちつけていく。

 周りの木々が薙ぎ倒され森がボロボロになっていく様を見ていたシャドウは舌打ちすると、ノクスアッシュトリリオンを自然へと襲いかかる根へ投げつけ切り刻んでいく。

 

「タリ……ナイ……!! サンッ………パクガ━━━━ンッ!!!!」

 

 注意を引きつけた事でシャドウへ何本もの巨大な根が向かってくる。

 

「出なさい、ジャックエッジ!!」

 

 巨大な根がシャドウへと届く直前に手元に出現させた武器で目の前の根全てを切り裂いた。

 シャドウの手に握られているのはかつてアルティメギルに居た頃、オルトロスギルディの力でテイルギアに近い装甲を纏っていた頃に愛用していた漆黒の太刀を小型化したものだった。

 元へ戻ってきたノクスアッシュトリリオンを左手に、ジャックエッジを右手に持ち替えシャドウはゴブリンギルディ目掛けて疾駆した。

 

「サンパクガン……ワルク、ナ━━━━イ!!!」

 

 向かってくるシャドウへゴブリンギルディは先程よりも太く、大きな根を地面から出現させ向かわせた。

 

「言ってる意味がわからないわね!」

 

 向かってくる巨大な根へと、今度はブレイクレリーズさせたノクスアッシュトリリオンを水平にして投げつけると巨大な根を真っ二つへと斬り裂き、その先にいたゴブリンギルディへ真一文字の傷をつける。

 巨大な根の上下に裂けた中央の僅かな隙間をスライディングするかのようにして避けたシャドウはジャックエッジを両手で握りしめた。

 

「次生まれる時は、上司を間違えない事ね」

 

 真一文字の傷の下、下段からジャックエッジを渾身の力で斜めに振り上げる。

 

「グゥアアアアアアア……!!」

 

 ゴブリンギルディは身体中から放電しながら吹き飛んでいき、空中で大爆発を起こし散っていった。

 落ちてきたゴブリンギルディの属性玉を回収すると、右手に握られていたジャックエッジが黒い粒子となって消えていく。

 同時にシャドウのアンリミテッドチェインも解除され、地面に刺さったノクスアッシュを回収した。

 シャドウが、自分のいた浜辺の方角を見ると大きな爆煙が上がるのが見える。

 

「レッドの炎の後にあれね……。ウンディーネギルディを倒したのね」

『黒羽さん、すみませんが一つお願いしてもよろしいですか?』

 

 フレーヌから通信が入り、煙の方角へ歩きながらシャドウは答える。

 

「ええ、何かしら?」

『実はですね━━━━』

 

 フレーヌからのお願いにシャドウは歩みを止め、頷くと再び煙の上がる方角へ歩みを進めはじめた。

 

 

 予想以上、そんな言葉では足りないくらいにシャークギルディは強くなっていた。

 力任せに拳を振るっていたメガロドギルディの時とはまるで違う。 攻撃の一つ一つが自分が有利になるように計算尽くされている。

 私も自分のツインテールと会話して、テイルギアのツインテール属性の楓と会話して以前とは比べられない強さになっている筈なのに……シャークギルディは武器を変えただけでなんでこんなに強くなっているのか、まるで意味わかんない……!

 

「何が、あんたを……ここまで強くしたわけ?」

 

 誠の貧乳真理(トライデント)をクローで防御し、上から押さえつけられる体制の中疑問をぶつける。

 短い期間の中にここまで強くなる方法、聖の五界がここに来てから何回も使ってきた道具が私の頭の中によぎる。

 

「その方法はお前と同じだ!」

「え?」

 

 シャークギルディから一旦離れ、今度は私の攻撃の番だ。

 シャークギルディの懐に入り、左右のクローを叩きつけていく。

 手応えはある……しかしよく見ると、シャークギルディは左右のクローの攻撃全てを誠の貧乳真理(トライデント)一本で弾いているのがわかった。

 

「私と同じってどういう意味なの!?」

 

 武器と武器が交錯して金属音を鳴らし、火花を散らしながら雪を巻き上げ激しさを増していく。

 

「我らアルティメギルの猛者達を相手してきたであろう。クラーケギルディ様をはじめ、我が右腕のオルカギルディ……そして聖の五界!」

 

 言い終えたところでシャークギルディは誠の貧乳真理(トライデント)を力任せに大振りし、私を数十メートル後ろへと吹き飛ばした。

 空中でなんとか体制を立て直すと両足で波打ち際に着地する。

 

「我は強者を相手にする事で自らの力を高めたのだ。 どうだ、お前と同じ事だろう?」

 

 誠の貧乳真理(トライデント)を肩に担ぎ、ビシッと私を指差す。

 確かにそうかもしれない。

 私だって最初は今よりも弱かった。 だけど、色々な闘いを経て力を高め、今は自分のツインテールを好きになる事が出来たんだ。

 エレメリアンもそこら辺は同じなわけね。

 

「なるほどね。ならその相手は聖の五界のエレメリアンってわけ。少年漫画にありがちな仲間との修行ってやつね」

 

 聖の五界のエレメリアンは並みのエレメリアンの強さじゃない。 修行相手にはうってつけってわけだ。

 

「違うな」

 

 納得する私をよそにシャークギルディは首を横に振った。

 

「我が相手にした強者とは、オルトロスギルディ様との修行で鍛え上げたメガロドギルディを破った者だ」

 

 メ、メガロドギルディを破った?

 それって、まさか……。

 

「わかったか。 我が死する直前まで闘っていたお前こそ、我をここまで強くしてくれた相手だ」

「私が……?」

「そうだ。 テイルホワイトという生涯最強の敵を前にして、我は強くなっていたのだ!」

 

 これは、喜ぶべきなのかな……。 それともシャークギルディを強くしてしまった事への反省をしなければいけないのかな。

 ただ、好敵手として見られるのは悪くない気分ではあるかな。

 

「お前のように中途半端な胸を誇りに思っているものはそうはいないぞ。 貧乳を愛する我にとって見方によれば巨乳好き以上に厄介かつ強大な敵といえる」

「いい話っぽかったのにどうしてそうなるわけ!? 余計な一言が多いのよ、あんたは!!」

 

 忘れかけてけどエレメリアンて変態なんだよね。……うん、変態なんだよ。

 

「あー、もうっ! しらけた!」

 

 私が大声を上げたところで、遥か後方の砂浜で大きな爆煙が上がった。

 シャドウかレッドか、どちらかがウンディーネギルディか一緒にいたエレメリアンを倒してくれたみたいだ。

 

「煙が上がる前に炎が見えた。 おそらくテイルレッドがウンディーネギルディ殿相手に勝利したのだろうな」

 

 なんだろう……仲間が倒されてもこの淡々とした感じ。

 オルカギルディやシャークギルディ部隊のエレメリアン達とは反応が明らかに違う。

 やっぱりシャークギルディは聖の五界とはうまくいってないって事なのかな。

 

『奏さん。 ウンディーネギルディとの闘いで紅音さん自身にもダメージを受けてしまったので一旦基地へと転送します』

「よろしくね」

 

 私の返答後まもなくして、フレーヌの後ろから機械越しに志乃と紅音が話しているのが聞こえてきた。

 無事で何よりだけど、ウンディーネギルディを倒せたのは大きいはずだ。

 聖の五界は四体の幹部がいると言っていた。

 サラマンダギルディとシルフギルディはシャドウに。 ノームギルディはエンジェルギルディが粛清。 そして最後に残ったウンディーネギルディも倒せたとなるといよいよゴールは近いってわけね。

 後は目の前の壁をどう超えていくかだけど……。

 

「……シャークギルディ。 私から提案……いや、お願いがあるの」

「まさかまた撤退しろと言うつもりではあるまいな」

 

 まさか、そんな事言うわけない。 シャークギルディの覚悟はさっき痛いほどわかったからね。

 わかったからこそ、このお願いは聞いて欲しいんだ。

 

「今月の二十五日。そこで私とあんた、本当に最後の決着をつけよう」

「ほう……。今ここで終わらせる事は拒むのか」

「誰かさんがしらける事言ったせいでね。 こっちにも心の準備とか、そういうのが欲しいの」

 

 それに、今の私じゃシャークギルディに勝てるか怪しい。 可能ならこの期間で強くなれればとも思う。

 

「……いいだろう。 その''お願い''とやら、聞いてやる」

 

 そう言うとシャークギルディは背後にゲートを出現させる。

 

「だが、次はない。二十五日、お前が負けるか闘いに挑まなければ必ずこの世界の属性力を頂く。覚悟しておけ」

「ありがとね。 それと、覚悟しとくのはそっちもだよ」

 

 シャークギルディは最後にフッと笑うとゲートの中へと姿を消していった。

 

『何か狙いでもあるんですか?』

「いやまあ、ベストコンディションで挑みたいってのがあるけど。 さっきの貧乳トークでしらけたのが大部分」

『は、はあ……』

 

 流石にこの理由じゃフレーヌが困惑しているのが通信機越しからでもよくわかる。 でもまあ、これが本音だしなあ。

 

「ホワイト、ちょっと」

「あ、シャドウも無事で良かった」

 

 いつのまにか後ろに来ていたシャドウに肩を叩かれ、私は案内されるがままテイルレッドとウンディーネギルディが闘った場所に来ていた。

 流石にレッド、あたり一面の雪が全く無くなってるし、砂浜も焦げているようだ。

 でもシャドウがここに案内してきた理由は何だろう。

 辺りを見回した後、シャドウは話しはじめる。

 

「ウンディーネギルディの属性玉が見当たらないわ」

「え?」

 

 エレメリアンが爆発してから属性玉がなかった事は一度もない。 今までは爆発した場所に浮いているか、私の方へ勝手に飛んできたりしたけど……。

 

『まさか、ウンディーネギルディは……』

 

 エレメリアンの核である属性玉が現れない現象を意味する事、それはつまり━━━━

 

『━━━━まさか、倒せていなかったのか!?』

 

 一番驚愕の声を上げたのは、ウンディーネギルディに必殺技を放ち爆発させた張本人であるテイルレッドだった。

 

 

 アルティメギルの鑑の薄暗い廊下をおぼつかない足取りで歩く一体のエレメリアン。

 壁に手を当て、休んでいると背後から声をかけられた。

 

「やはり無事であったか、ウンディーネギルディ殿」

 

 先程この艦へ戻ってきたシャークギルディだ。

 声をかけられたウンディーネギルディは、特徴的だった腰回りから足元へ伸びるドレスのようだったパーツは焼け焦げ、黒くなっているた。それ以外にも傷が増え、それはテイルレッドとの激しい戦闘を物語っている。

 

「いくらテイルレッドとはいえ、ここまで私が追い詰められるとは思わなかったわ……」

 

 ウンディーネギルディは胸の辺りにできた傷を撫でながらシャークギルディと向かい合う。

 

「しかし、そのテイルレッドの必殺技を受けてもその傷。 さすが聖の五界の幹部……と言ったところか」

 

 ウンディーネギルディはグランドブレイザーを受ける直前に、自身の武器である鞭を使い体の周りに水の膜を形成しダメージを抑えていた。 そして技を喰らった直後に、爆発したかのように見せかけ素早くゲートに入り込み基地へと戻ってきていたのだ。

 

「シャークギルディも決着はつけなかったみたいだけど、いいわけ? 下手したらあなた、明日も生きられるかわからないでしょ」

 

 ウンディーネギルディの言葉には答えず、彼女を通り越してシャークギルディは大ホールへ歩き出す。

 

「ま、いざとなればゴッドブレス貸してあげるよ。 私特製の最高品質のやつをね」

 

 ゴッドブレスをちらつかせながら大ホールとは逆方向へ歩き出すウンディーネギルディ。

 

「我はそんな物には頼らん。 ウンディーネギルディ殿よ、仲間に其れを使うのはやめておけ」

 

 立ち止まると拳を握り、怒りを隠さないシャークギルディは鋭い声音で呟くと再び歩き出す。

 聞こえないフリをして、その場をしのいだウンディーネギルディは自らの部屋に向かう途中新たな作戦を立てていた。

 

(あの科学者が言っていた研究……。 戦女神がツインテイルズの世界にいるのなら実現する可能性は高い。 その作戦を私は利用する……!)

 

 ドアを開け、部屋に入ると早速研究のためのスペースへと立ち入った。

 

「まずはソレを可能にする物がないと、ね」

 

 ウンディーネギルディが密かに始めた作戦のため、研究をはじめる中、部屋の外に立っていたエンジェルギルディは冷たい笑みを浮かべていた。

 




久しぶりの更新になります。


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FILE.62 女が男で男が女で

 シャークギルディとの最終決戦を約束した十二月の二十五日まで残り一日、気づけば決戦の前日になっていた。

 今思えば、なんで私はわざわざクリスマスの日に約束してしまったんだろう……。 ま、まあ恋人とかいるわけじゃないし別に良いんだけどね。

 それにしても……なんか自分から普通の女子高生生活を手放しているような気がしてならないなぁ。

 ちなみにシャークギルディと約束した日から今日までエレメリアンはしっかりと出撃してきている。

 見た目や名前、そして実力的に聖の五界のエレメリアンで間違いないだろうけど、元のシャークギルディ部隊のエレメリアンが出てこないのはシャークギルディが抑制しているのかもしれない。……ってフレーヌが言ってた。

 そして今、そのフレーヌに呼び出され私は基地へと到着したところ。

 毎度お馴染みの演出……かと思えばついこの前まで無かったサンタクロースやトナカイの演出が追加され、少し関心しながら螺旋状の階段を降りていく。

 基地へ到着し、中央のモニタールームに入るとそこには志乃、フレーヌ、嵐、黒羽、紅音……といつものメンバーが既に集結していた。 しかし、一つ不可解な事があった。

 

「あ、奏ーっ!」

 

 私に気づいて志乃は真っ先に手を大きく振った。 そんなに大きく振らなくてもわかるんだけど……一応、私も小さく手を振り返しておく。

 定位置に座り、一呼吸置いたところで私は紅音に……テイルレッドに視線を向けた。

 

「で、何で変身してるの?」

「ここんところエレメリアンよく出てくるだろ? その度に変身してるよりこの方が早く行けるからさ」

 

 私の質問にテイルレッドは慣れたようにスラスラと回答した。 たぶん私以外からも同じ質問があっただろうから何回も言ってるんだろうな。

 ただ変身するには一秒もかからないはずだけどそれすら惜しんでエレメリアンを倒そうとするなんてさすがツインテールバカだ。

 テイルレッドになっている理由はわかったけど椅子に座ると装甲が当たって痛そうだよ。

 

「いいですか、奏さん。 今日はとってもビッグなお話があるんですから!」

「ビッグな話?」

 

 呼び出しの通信が入った時やたらテンション高かったから暗い話では無いとは思ってはいたけど。

 

「ええ! 大抵こういう時はいい知らせと悪い知らせがあるのですが……なんと今日はいい知らせしかありません!」

 

 そういうもんなのかな。

 全くわからないのはもしかして私が知らなさすぎるだけなのか。

 意気揚々とフレーヌが手元にあるキーボードをカシャカシャ音を立てて操作し、テイルギアの各種装甲の解説が載っているページを開いた。

 クルリと椅子を回転させこちらを向いたフレーヌは胸を張って話しはじめた。

 

「実はこの前に奏さんがシャークギルディと闘っている時、黒羽さんにお願いした事があるんです」

 

 人差し指を立ててウインクするフレーヌは年相応にかわいい。 きっと私がやっても不釣り合いで終わってしまうだろうな。……そんなことよりお願いって一体何のことだろう。

 

「ゴブリンギルディを倒した時、フレーヌから私にノクスアッシュと進化装備のアンリミテッドブラをしばらく預からせてほしいって連絡が入ったのよ」

「ノクスアッシュとアンリミテッドブラ?」

「ええ」

 

 そういえば、最近黒羽はアンリミテッドチェインになってなかったしノクスアッシュを使って闘って無かった……気がする。 いや、よく覚えてる……素手でエレメリアンをボコボコにしていた。

 こうして私達三人が話している間、残った三人が横で何やらスイーツの話題で盛り上がり始めている。 あんた達は一体何しに来たわけ……あ、紅音はここに住んでるんだよね。

 

「ノクスアッシュは別の用途ですが……アンリミテッドブラは奏さんの力になれるかと思い預からせて頂きました」

 

 私の力になってくれるのはかなり有り難いけどアンリミテッドブラじゃ私にはきつくて着けるのは無理だと思うけど……。 なんかこの言い回しだと嫌味に聞こえるかも。

 

「アンリミテッドブラはテイルギアを進化させる装備です。 その装備を解析し、研究する事によって奏さん専用の進化装備を作ろうと考えました!」

「え、私の!?」

「はい。 そしてそれは既に完成しています!」

「ええええ!?」

 

 いくらなんでも展開が早す……仕事が早すぎて全くついていけいない。

 混乱する私を置いて黒羽はもちろん先程までスイーツ談義をしていた三人も大きなモニターへ視線を向ける。

 

「それが、此れです!!」

 

 フレーヌが今までより強くエンターキーを押し画面に表示されたのは……なんだろうこれは。

 テイルギアよりも少し大きい腕輪の上に平たいカバーのような物が付いている。

 とりあえずブラじゃないのは安心したけどこれだけではイマイチピンとこない。

 

「おおー!」

「カッコイイー!」

 

 本当にわかっているのかという感想を述べる嵐と志乃。

 黒羽も特に唖然としていないし、紅音に至ってはこの場で一番関心している。

 

「これこそ奏さん専用に私と黒羽さんが開発したスーパーな進化装備。 その名も''エヴォルブバイザー''です!」

 

 そして一番ノリノリなフレーヌがこの装備の名前を宣言すると私達の前にあったテーブルが沈んでいき、下から新しいテーブルがせり上がって来た。

 その上にはフレーヌが私に作ってくれた装備、エヴォルブバイザーがしっかりと置かれている。

 勿論この場にいるフレーヌ以外の全員が間近でエヴォルブバイザーを見に行く。

 モニターの画面じゃわからなかったけど、色は白ではなく完全なるシルバーだ。 シルバー一色のせいか妙に機械じみているように見える。

 

「さあ奏さん、右手を出してください」

 

 言われるがままフレーヌに右手を出すとテイルブレスが可視化された。

 

「使い方はこのエヴォルブバイザーをテイルブレスの上へジョイントし、奏さんの体のほうへつまり二の腕側へ引くだけです」

 

 フレーヌが見本として装着から変形までやってくれた。

 なるほど、この腕輪みたいな部分はテイルブレスに合わせるためのものだったわけね。 腕の上で変形させる前の大きさはそこまででもないけど、変形させたら肘に届くか届かないかくらいの大きさとなっている。

 

「でも何も起こらないぞ?」

「紅音さん何を言ってるんですか。 ほら、まだ絶縁シートを抜いてませんので何も起こらないのは当たり前ですよ」

「絶縁シート!?」

 

 なんだろうこのおもちゃ映えしそうなギミックは……。

 そういえば、フレーヌが黒羽との開発とか言ってたような言ってなかったような。

 

「これは売れるわ……!」

 

 横で黒羽が小さくガッツポーズしている。 とうとうシャドウだけじゃなくホワイトの売り上げまで持っていくつもりなのかこの娘は!?

 

「これは私達からのクリスマスプレゼントですよ」

 

 絶縁シートというものを抜きながらフレーヌは優しい声音で話しかけて来た。

 今日はまだイブだけど、ここまで嬉しいものはそうそうないかな。

 

「ありがとう。 二人がくれたこの装甲、大事に使うからね」

 

 私がお礼を言うと、テイルブレスに付いていたエヴォルブバイザーが突然消えていく。

 

「普段はテイルギアの装備としてインプットされますので変身すればしっかりと腰にセットされてるのでご安心を」

 

 なるほど、荷物を増やさない優しい配慮だ。

 

「……ほんとは属性玉変換機構を断念して急遽作ったものですが」

 

 ボソッと何かを呟いたフレーヌが今度はオホンと咳払いし、紅音のほうへ体を向ける。

 

「そして良い知らせ二つ目です。 紅音さんが元の世界に帰るための手がかりを発見しました!」

「俺の?」

「はい。 先程言った通り、アンリミテッドブラを預からせて頂いたのは奏さんの強化のためですが、ノクスアッシュを預からせて頂いたのは紅音さんを元の世界に帰れるようにするためなんですよ」

 

 紅音が帰るためとはいえ、なんでそれでノクスアッシュを預かる事になるんだろう。

 そう思ったのは私だけではなく、フレーヌと黒羽以外の全員が頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

 フレーヌはまたモニターに向き直り、カシャカシャ操作すると、この前紅音とウンディーネギルディが対決した日の映像が流れ始める。

紅音と話した後、ウンディーネギルディは自分の背後に極彩色のゲートを出現させるも直ぐにノクスアッシュが飛んできて会話は強制終了してしまった。

 

「この時ウンディーネギルディは紅音さんの世界に通じていると言ってゲートを出現させました。 そして、ノクスアッシュはそのゲートに触れた、つまり……」

「そのゲートの成分がノクスアッシュにくっついてる!」

「志乃さん大正解です!」

 

 やったー!と両手を上げて喜ぶ志乃。

 フレーヌにかかればゲートの成分から紅音の世界を特定できるって事らしい。

 

「一応異世界移動のための小型ポッドはあるんですけど、それだけでは足りません。帰るにはノクスアッシュから取れた成分だけじゃなく、紅音さんを異世界へと飛ばした原因の復活したエレメリアンを倒さない事には……」

 

 直ぐに帰れる訳じゃないとわかってガッカリしているだろう、そう思って紅音の方へ視線を向けるがそんな様子は全く無く。

 

「そんなに急がなくて大丈夫だよ。 頑張りすぎるとフレーヌにも負担になっちまうだろうし。 近くに奏がシャークギルディと闘うなら、どうせまたウンディーネギルディが邪魔しに来るだろ? 俺も二人の勝負の邪魔はさせないぜ」

 

 明るい顔でそう言ってくれた。

 ツインテール第一主義の中にも他人を気遣う事の出来るテイルレッドが癖のあるツインテイルズのリーダーになれたのは自然なことだったのかな。

 

 

 シャークギルディ部隊の艦にドッキングされた聖の五界専用の艦の中にある小部屋で一人、ウンディーネギルディは笑みを浮かべていた。

 

「なるほど、なるほど♪ どーやら戦女神はかなり焦ってる様子……」

 

 先日テイルレッドにつけられた傷を撫でながらタブレットを弄る。

 

「戦女神が動くならマーメイドギルディは必ずそれを利用するはずだし、そこが狙い目かなー」

 

 タブレットを机の中にしまうと、ウンディーネギルディが手にしたのはゴッドブレス。 しかしそのゴッドブレスは黒ではなく禍々しい紫色に輝いている。

 

「しっかし戦女神が焦るほどって……。どんだけ強くなっちゃってんの、ツインテイルズは」

 

 ツインテイルズの世界に侵攻している部隊に紛れ込ませた聖の五界のエレメリアンから送られてきた資料を、隅々までウンディーネギルディはチェックしていく。

 映像ではなく紙で送られてきた資料にはこれまでのツインテイルズの形態に加え、つい最近までに手にした強化形態もしっかりと記録されていた。

 

「ふーん……。 インフィニティにアブソリュートにエターナル……そしてアルティメットね。 オルトロスギルディの影もアンリミテッドとかいうのになってるし、人間側ばっかり強くなるのはフェアじゃないわよねえ」

 

 紙を放り投げ、笑みを浮かべるとそのまま部屋の外へ出るウンディーネギルディ。

 すると外には聖の五界の隊長が居た。

 

「ん、隊長どうかしたの? 私の部屋に来るなんて珍しいですね」

 

 腕を組んで壁に寄りかかっていたエンジェルギルディはウンディーネギルディの持っている紫色のゴッドブレスを一瞥すると息を吐く。

 

「この前は随分と、苦戦したようですわね」

「まあ、油断してただけですよ」

 

 エンジェルギルディから隠すようにゴッドブレスをしまい込む。

 

「張り切るのはよろしいのですが、自らも大事にしてくださいませ。 聖の五界の四大精霊もあなたしか残っていないのですから」

 

 優しい声音で話すエンジェルギルディだが、心配されたウンディーネギルディは逆に低い声で答える。

 

「……ほんとにそう思ってます?」

 

 その一瞬、空気が、時間が止まったように感じた。

 

「隊長って、ほんとは私がテイルホワイトらに負けるの期待してません?」

 

 隊長への疑念をぶつけるウンディーネギルディだが、その足は少し震えている。

 

「まさか、部下を心配するのは当たり前の事ではありま━━━━」

「━━━━最終闘体なるために、必要ですよね?」

「……何の事ですの?」

「私達四幹部の属性玉があれば、隊長は最終闘体になれますよね」

 

 ウンディーネギルディは疑問ではなく確信として淡々と呟く。 しかし、足の震えは収まっていない。

 対照的にエンジェルギルディは柔らかな笑みを浮かべる。

 

「確かに、私の最終闘体に不可欠ですが……考えすぎですわ。 私達、聖の五界は大切な''仲間''ではありませんか」

「……心にも無い事言っちゃって」

 

 笑みを崩さないエンジェルギルディに小さく発せられた声が届いているのかいないのか、確認する前にウンディーネギルディは彼女を避け暗い廊下を歩き出す。

 だがすぐに歩みを止め、互いに背中を向けたままウンディーネギルディは呟く。

 

「私は隊長の思い通りにはならないから、そのつもりで」

 

 再びヒール音を廊下に響かせながらウンディーネギルディはシャークギルディ部隊の艦へと向かい始めた。

 残されたエンジェルギルディはしばらくした後に振り返ると先ほどの柔らかい笑みとはかけ離れた冷たい笑みを浮かべる。

 

「ええ、頑張ってください」

 

 背中の翼を展開し周囲に白い羽の幻影を撒き散らすと彼女は姿を消し、暗い廊下には静寂だけが残った。

 

 

 今はまさに決戦前夜と言うべき時間だ。

 午後八時、一度解散したが私はこの時間に再びフレーヌ基地へと訪れていた。

 明日はかなり大きな闘いになるだろうし、それに備えて今のうちにリラックスしておきたい。 そう考えた私は昼間に集まった時にフレーヌに予約を取り付けた。

 それは、この基地にある大浴場の!

 この基地に備えつけられた大浴場は浴室の壁全体がモニターになっていて好きな景色を眺めながら広い湯船に浸かる事ができる。とフレーヌに聞いて一度入ってみたいと思ってたの!

 階段を降りて中央のモニタールームに行くとフレーヌがモニターの電源を落としているところだった。

 

「やっほ、借りに来たよー!」

「ええ、どうぞ。 浴室はここより三回下のフロアにあります。私はこれからラボに行くので電気はちゃんと消してくださいね」

「はーい。……ところで、無いとは思うけど脱衣所とか浴場に監視カメラとか無いよね?」

 

 このモニタールームに行くまで何度も目にした監視カメラ……防犯上つけるのは勿論だけど流石に浴場につけられてたらね。

 

「私をなんだと思ってるんですか!? プライバシーの侵害に関わることはしませんよ。 よって大浴場のある階層には一切カメラをつけていません!」

「おっけ!」

 

 サムズアップすると私はモニタールームから飛び出し、すぐさまエレベーターへと乗り込んだ。

 

「あ、そういえばさっき紅音さんもお風呂入ると言ってたような……。まあ、二人でも充分の広さですし大丈夫ですかね」

 

 エレベーターの扉が閉まる直前、フレーヌが何か呟いていた気がしたが完全に気分が上がっていた私は聞き逃してしまった。

 

 

 三回下のフロアに到着し扉が開いた瞬間、私は即ダッシュし脱衣所へと向かった。

 フレーヌは信用しているけど一応脱衣所を見回すと……うん、確かにカメラは無い。

 カメラが無い事がわかり、安心して脱衣籠を引き出し、服を脱いで入れていく。 ていうか脱衣籠って……まるで銭湯みたいだ。 ……基地は未来的なのにこの辺はやたらと現代的な造りになっている。 大浴場に入るためのドアも磨りガラスの引き戸だし。 ていうか現代よりもっと古いね、これ。

 タオルを手に持ち、大浴場に向かうところで一つの脱衣籠に衣類が入っているのが目に入った。

 

「お、男物の制服!? ……って紅音が着てた奴じゃん」

 

 どうやら紅音が先に来て大浴場の中に居るみたいだ。

 一応普段着も買ってあげたけどまさかの男物制服が一番着心地いいのかなあ。

 それとも男装趣味があるとか……まさかね。

 そうだ、紅音は私が入ってくる事知らないだろうし、いきなり入って脅かしてみよう。 今まで見た事無い反応見れるかもしれないし!

 私は意気揚々と取手に手をかけ、思い切り扉を開けた。

 

「私も入るよー紅音!!」

 

 ━━━━湯気が立ち込める中、私の視界に入ってきたのは裸の紅音……じゃなくて裸の男だった。

 

「………」

「………」

 

 互いに無言のまま取り敢えず私は一礼しそのまま引き戸を閉める。

 引き戸を背に、何秒間か私は考える。

 あれ?

 アレ?

 え?

 何秒かしてようやく今、私の考えがまとまった。

 

「え!? なんで!? なんで男が!? 変態!? 痴漢!?覗き!?」

 

 すぐさまバスタオルを体に巻きつけ引き戸から離れ屈み込むと引き戸が勢いよく開かれた。

 

「違う! 誤解だ!」

「いやあああああああああああ!! 来ないで、変態!!」

 

 再び変態は大浴場に入り互いに姿が見えなくなる。

 

「ご、ごめん! でも違うんだ、俺が紅音なんだ!!」

「何言ってんの!? やばいくらい頭が相当お粗末じゃん!」

 

 変態もレベルが上がりすぎるとここまできてしまうもの、今知った事だ。

 

「本当だよ、ほら!」

 

 変態が大浴場で何かをすると辺り一面眩い閃光に包まれる。

 

「テイルレッドに変身してたのは、紅音だったろ?」

 

 さっきの変態よりも高い声が私の耳に届く。

 引き戸へ目をやると、そこには変態ではなくテイルレッドが立っている。 ……気持ち視線を私から逸らしながら。

 

「テイルレッド……え、どういう事?」

 

 立ち上がり、本当にテイルレッドかどうかを確認する。

 

「うわーっ! タオルズレるから、隠して!」

「え、いや━━━━━━━━━━━━っ!!」

 

 同じ女の子になって少し油断してしまった。

 

 

 流石にお風呂に入る気分じゃ無くなった私は取り敢えず、テイルレッドと一緒に紅音が使っている部屋にお邪魔していた。……勿論ちゃんと服を着て。

 レッドが胸の前にブレス持ってくると変身が解除され、紅音よりも更に身長が伸びた知らない男の人がそこにはいる。

 

「えっと……紅音?」

「あ、ああ……」

 

 これは、気まずい……!

 流石の私でも、いや全人類がそうだろうけど突然女の子が男の子になった時ってどう接したらいいか全然わかんない。

 気まずく思わずいろんなところへ視線をやっていると紅音が着ていた制服が彼にピッタリとサイズが合っている事に気づいた。

 

「まさか、その……君が本当の姿って事?」

「ああ、俺は……観束総二。 見ての通り男だ」

 

 ヤバイ、紅音が男だったのなら着てた制服の謎も男のような言動も全て納得いってしまう。

 もしかして女の子のふりして私達に近づいてた!? でもそうなら今男の子に戻る必要はないしそんな事ないか。

 少し沈黙が続いたが、今度は観束君が破る。

 

「実は今日の朝、記憶が戻ったのと同時に男に戻ってたんだ」

 

 どうやらマジの事らしく、観束君の目は真剣だ。

 

「じゃあ昼間変身してたのって」

「男に戻った事と記憶が戻った事は勿論言うつもりだったけど、タイミングが掴めなくて」

 

 そりゃ言いにくいだろう、自分は男ですなんて。

 正直私達全員が紅音を……観束君を女の子だと思い込んで接してきた。 志乃は結構過度なスキンシップしてたし……私だって下着一緒に買いに行ったんだし……。

 うん、これは言わない方がいいね。

 この事を観束君に言うと渋々ながら承諾を得た。

 

「それにしてもテイルレッドが男の子なんてね……ん?」

 

 ここで私の頭にある人物が浮かんできた。

 

「まさかテイルブルーも男の子だったりするの?」

「いや、テイルブルーは俺の幼馴染で女の子だよ」

「そ、そっか……ん!?」

 

 なんか今背筋にすごい冷たいものが走ったような…。

 その後しばらく、テイルブルーについて観束君から色々と聞くことができた。

 普段の生活の事や、二人の関係、ツインテイルズとしての活動などなど。 だけどここまで聞いてテイルブルー以外の名前が全く出てこない。

 他のメンバーもどんな人なのか知りたくなり質問してみる。

 

「ツインテイルズはレッドとブルーの二人と仮面ツインテールだけだよ」

「え、イエローとかブラックとかは?」

「? いないよ」

 

 まさか、他のツインテイルズがいないってどういう事? 彼女らがいない世界からきたレッドっていう事なのかな。

 うーん、と考えていると観束君の制服が冬用の厚さじゃない事を思い出した。

 ここまで察しが良すぎるのも考えものだ。

 まさか、まさか観束君は……過去から時空を超えてやってきたんじゃ……。

 だんだんとピースがはまってきた。

 

「ねえ、観束君。 仮面ツインテールっていうのも教えてくれる?」

「仮面ツインテールは俺たちにテイルギアを託してくれた、トゥアールという子が人前に出る時に使う名前なんだ」

 

 トゥアール……。

 私と観束君で同じテイルギアを使って闘っているという事は間違いなく、そのトゥアールさんがテイルギアの開発者、そしてツインテール戦士!

 とても貴重な事を知る事が出来た。

 あらかた観束君側の事情を知る事ができたが、気づけば話がどんどんシフトしていく。

 

「観束君十五歳なの? 歳下なんだ」

「あ、すいません。 さっきまで俺も奏……さんの年齢知らなくてタメ口で」

「じゃあ歳下なんだし、私も君の事総二って呼ぶからさ。 今さらだから総二も呼び捨てでいいし、タメ口でいいよ」

 

 フレーヌに続いて今度は弟ができたような気分だ。

 うん、よくよく見てみると結構可愛い顔してるし。

 ここで私は先程の大浴場の事を思い出す。

 

「あの、さっきはごめん。 私から入ってったのに大声あげちゃって……」

 

 しかも色々と罵倒してしまった気がするし。

 

「奏が謝る事じゃないって、俺の方こそごめん」

 

 ツインテールバカって事以外はすごくまともな人みたい。

 だけど、まだだ。まだ女として重要な事が残っているのだ。

 

「えっと、もしかして……見たりした……の?」

 

 恥ずかしさのあまり顔を直視できない。

 当たり前だけど男の子の前で丸裸になるなんて、一度も経験した事がない私にとってこれは死活問題だ。

 うわ、顔熱い。 絶対今顔真っ赤になってるよ……。

 チラチラと総二の方を見てみると彼も照れているのかあちこち視線を泳がせている。

 

「……いや、湯気で見えなかったから大丈夫だ!」

 

 迷った挙句にその答えじゃ見たって言ってるようなもんですけど!?

 ダメだ、これ以上ここにいると私は恥ずかしさで爆発してしまう……帰ろう!

 

「そそそそれじゃ私帰るから! また明日ね!」

「あ、ああ! 明日は頑張ろうぜ!」

 

 急いで立ち上がり、総二となるべく顔を合わせないように急いでドアへ駆け部屋の外へ飛び出る。

 

(あー、まだ心臓がドキドキしてる……)

 

 大きく深呼吸していると横からフレーヌが歩いてきた。

 

「あ、奏さん探しましたよ。 私も意外と早く終わったんでお二人と一緒に入ろうかと思ったら居ないし、電気は点けっぱなしですし……で、ここで何してるんですか?」

 

 ヤッバイ。

 今、フレーヌが部屋の中に入るとまたさっきと同じ事の繰り返しだ。 ここはなんとしてでも阻止しないと。

 

「電気の事はごめんね。さ、早く上戻ろ!」

「え、紅音さんに用があるんじゃ? おそらく部屋にいると思いますが……」

「こんな時間だしアポ無しでいきなり行くのはまずいでしょ!?」

 

 ああ、なんか疲れてきた。

 フレーヌなら事情をすぐにわかってくれるかもしれないしもう言っちゃってもいいだろうか……。

 

「アポって……。ふふん、私は既に紅音さんと何回も背中を流しあった仲ですからね。どんな時間でも私はウェルカムなんです」

 

 あ、これダメだ。

 フレーヌはまだこっちの世界でいえば中学生だ。

 そんな年代の時に見ず知らずに裸を見せてたなんて知ったらフレーヌは多分恥ずかしさのあまりに基地の自爆ボタンを押しかねない……!

 絶対ダメだ、今は部屋に入れちゃ。

 

「紅音さーん」

「あ」

 

 いつのまにか私の横をすり抜けたフレーヌはそのままの速さでドアが開くボタンを押すと勢いよく開かれる。

 終わった……。

 

「お、おう。 どうかしたのか?」

 

 私が絶望する中、フレーヌに返答したのは総二の声ではなく高い女性の、女の子の、テイルレッドの声だった。

 どうやら部屋の外の状況を察して変身してくれていたらしい。

 

「私は特にありませんが、奏さんが何か用があるみたいですよ?」

「いやいやいやいや! 特にないから、バイバイおやすみ!」

 

 テイルレッドになっているとはいえ、流石にまだ顔を合わせることはできないよ!

 

「どうしたんでしょうか」

「さ、さあー……」

 

 エレベーターに向かって走っている中、後ろから二人の話し声が聞こえた。

 

 

 街中がクリスマス一色になっても、私がいるこの場にその気配は全く感じられない。

 私がいる場所はかつて採掘場として使われていた場所らしく周りは岩で囲まれている。

 これから起こるであろう激しい闘いをする場としてはまさにうってつけの場所ってわけだ。

 そよ風が辺りを吹き抜ける中、目の前で仁王立ちしているシャークギルディが静かに口を開いた。

 

「この日を待っていた。 これ以上長引かせぬ。今度こそ決着をつけさせてもらうぞ、テイルホワイトよ」

 

 シャークギルディの腕に新たな武器、トライデントが握られた。

 

「わざわざ日を改めたのだ。何か我を驚かせるような進化をしたのではないか?」

「へえ、よくわかってるじゃん」

 

 シャークギルディの期待に応えるべく、私は昨日フレーヌからもらったばかりのエヴォルブバイザーを手に取る。

 

「それが新たな力か……!」

 

 シャークギルディは律儀に待ってくれるらしく、攻撃を仕掛けてくる気配がない。 エレメリアンはこういう融通の利くタイプが多いから助かる。

 

『いいですか、奏さん。 バイザーをブレスにセットして引くんですよ?』

「わかってるって」

 

 勿論昨日フレーヌが言っていた絶縁シートとやらも抜いてあるし、準備は万端だ。

 教えてもらった通り、エヴォルブバイザーをテイルブレスの上にセット……そして私は手前に勢いよく引いた。

 

『叫びなさい、ホワイト! チェンジエヴォルブ!!』

「チェ、チェンジエヴォルブ……」

 

 黒羽の言うワードはおそらくバイザーをおもちゃとして出すときの大人の事情的なものだろう。

 

「……」

 

 あれ?バイザーをセットしたし、発動条件通り動かしたのになんの変化もない。

 もしかして勝手に私が黒羽のように装甲が変化するものだと思っていただけで他は変わらないのかな。

 バイザーをいろんな角度で見た後、改めて体の装甲を確認するがやっぱりなんの変化もない。

 

「ねえ、フレーヌ。 これで大丈夫なの?」

 

 フレーヌはすぐには答えず幾ばくかの間を置いてから話し始めた。

 

『実験は成功していたはずです。 何度もデータを確認し、微調整を重ねできたはずなのに……』

 

 フレーヌが狼狽えているって事はやっぱりこれは……

 

『エヴォルブバイザーが起動していない……!?』

 

 フレーヌの震える声が通信機越しにクリアーに聞こえてきた。

 

 




決戦は近いです。


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FILE.63 超絶、聖なるクリスマスバトル!

エヴォルブバイザー

フレーヌがアンリミテッドブラを解析して開発したテイルホワイト専用の強化装備。テイルブレスに直接ジョイントし、バイザーを引くことでチェインエヴォルブする。 手前に引いた際テイルブレスの核が露出し、オーラピラーの発動を可能にする他エヴォルブバイザーの内部を通る事でより強力なオーラピラーとなる。 デザインは黒羽であり、変身時の掛け声も黒羽が発案した。


 周辺にある大岩が砕けてあたりに散らばっていく。

 地面が抉れ、近くでは崖崩れが起きており、それはこの闘いの壮絶さを物語っていた。

 私は今、志乃とエレメリンクを発動させトライブライドとなり、なるべく遠距離からの攻撃を行っていた。

 

「何か面白い事を期待していたが……結局は変わらんか!」

 

 フロストバンカーから放たれる光線はシャークギルディの持つ三叉の槍誠の貧乳真理(トライデント)によって一刀両断される。

 

『すみません……奏さん。 まさかエヴォルブバイザーが起動しないなんて……』

「別に気にしてないって。 またの機会に使わせてもらうからね!」

『奏さん……』

 

 チラリとテイルブレスにセットされたエヴォルブバイザーへ目をやると、やはり先ほどと同じだ。確かにバイザーの発動手順は踏んでいるが、全く起動していない。

 とりあえず私は近距離での力勝負は不利と判断、トライブライドになり闘っているというわけだ。

 

「わざわざ日を改めたのだ。少しは変わったところを見せてもらうぞ」

 

 私の放った光球をなんとシャークギルディは誠の貧乳真理(トライデント)で受け止め、次々と放り返してくる。

 なんとか全て避け切ったところへシャークギルディは瞬間的に近づき槍を振り下ろしてきた。

 

「っあ……!?」

 

 フロストバンカーは粉々に砕け散り、私も吹き飛ばされ岩肌に激突した。

 体中に走る痛みに耐える中、通信機越しに基地の会話が聞こえてくる。

 

『おい、お前ら! 早く伊志嶺の助けに行ってやれよ!!』

『……ホワイトが自分で望んで闘っているのよ』

『そんな事言ってると手遅れになるぞ!!』

 

 基地にいる嵐は今にも黒羽に掴みかかりそうな勢いだ。

 

「やめて、嵐! ……私は自分で決着をつけるの」

『か、奏……』

 

 奏って呼ぶな。

 エレメリンクを解除し、ツインテールへと戻った私は今度は両手にアバランチクローを装備した。

 目の前にいるシャークギルディ、明らかにこの前戦ったときより強くなってる……!

 

「我は言ったであろう。 お前という強敵と闘い強くなった、とな」

 

 なるほど、この前私と闘ったことでまた強くなったって事かな。

 これがシャークギルディか……。

 闘いが長引くととても厄介な事になりそうだし、これはさっさと決めてしまうべきだ。

 

「やってるねえ」

 

 フルパワーで必殺技を決めるためにこれからブレイクレリーズしようかというところで、緊張感のない間の抜けた声が戦場に木霊した。

 

「ウンディーネギルディ殿、そなたはまたも邪魔をする気か!」

「まあまあ」

 

 ウンディーネギルディ、やっぱり生きていたらしい。

 よく見ると前まで無かった傷がお腹あたりにできているけど、レッドの必殺技を浴びた時にできたものかな。

 

『黒羽さん、紅音さん。 お願いします!』

 

 フレーヌが二人に向けて話しかけるとまもなくテイルシャドウとテイルレッドが現れ、私とウンディーネギルディの間に立つ。

 う、気まずい。

 昨日の事が頭をよぎり、ついテイルレッドが目を逸らしてしまった。

 

「ウンディーネギルディ、あなたにこの闘いの邪魔はさせないわ」

 

 すぐさまシャドウはアンリミテッドチェインになるとノクスアッシュトリリオンを構える。

 シャドウに続きレッドも同じようにブレイザーブレイドを構えるとウンディーネギルディは呆れたように首を振った。

 

「そんな事言ってもこっちは予定合わせられないから。もう''向こう''では始まっちゃってるみたいだし」

 

 そう言ってテイルレッドへ視線を向けた後、指をパチンと鳴らすと、彼女の背後にこれまでよりも大きな極彩色のゲートが生成された。

 

「私はマーメイドギルディの実験を利用して強くなる。 そして科学班の最高責任者に……!」

 

 ウンディーネギルディが腕を空へ掲げると同時に、いつもより大きい極彩色のゲートから次々と黒い物体が出てきた。

 最初はモケモケかと思ったがそうではない。 皆が違う、特徴的なシルエットを持っている。 ゲートから出てきたのは黒いエレメリアンだ。それも一体、二体の話じゃない。

 ゲートからは三体、四体、十体、五十体……まだまだ出てきている。

 

「なんなのこいつら……」

 

 黒いエレメリアンはウンディーネギルディの真横で歩みを止め、綺麗に整列した。 不気味に感じるほど、静かに、全く動かなくなった。

 

「言ったでしょ? これはマーメイドギルディの実験の成果。 オリジナルのエレメリアンが存在する限り命令すれば忠実に属性力を奪ってくれる……最高の操り人形!」

 

 つまり……今からこいつらを使ってこの世界の属性力を全て奪うつもりだろう。絶対にそんな事をさせない!

 

「ふざけるな!!」

 

 痛みに耐えながらアバランチクローを構え、突撃しようとしたがシャークギルディが放った怒号によってその場に踏みとどまる。

 

「そのような紛い物の手で人間の属性力を奪うだと!? 許されることではない。人間の属性力を奪えるのは命をかけて闘う……心ある我らのみだ!!」

「亡者が偉そうによく言うね。 でも安心して、私はマーメイドギルディの実験を利用させてもらうだけ。 はなからこの人形達に属性力を奪わせるつもりはないから」

 

 呆れた声を上げながら、ウンディーネギルディは鞭を取り出し地面へと叩きつける。

 

「だけど、私の前座として活用はするわ」

 

 綺麗に整列された何百にもなった黒エレメリアン一斉に顔を上げ、瞳に赤い輝きを灯した。

 

「来るぞ!!」

 

 レッドの叫びとほぼ同時に、何十もの黒エレメリアンが私達に向かいはじめた。

 私よりもウンディーネギルディに近い位置にいた二人がまず、黒エレメリアンの猛攻を受け始める。

 

「残念だけど……この数だと二人だけでは抑えきれないわ……!」

 

 シャドウとレッドがそれぞれ、私達の方へ向かって来る黒エレメリアンに攻撃を浴びせていく。 しかし、まもなく倒し損ねた黒エレメリアンが私に向かってきた。

 

「ホワイト!!」

「っ……!」

 

 レッドが私の身を案じて声を上げる。

 私は想像以上に先ほどのシャークギルディとの闘いでダメージを負ってしまったらしく体がうまく動かなかった。

 黒エレメリアンが目の前に接近し、闇色の腕を腕を振り上げた。

 

『奏さん!!』

 

 腕が振り下ろされるまさにその時、黒エレメリアンが突如爆発した。 さらに、近くに接近していた黒エレメリアンも続けざまに爆発していく。

 

「訂正しよう。 お前ら紛い物は戦士と闘うことも許されん」

 

 誠の貧乳真理(トライデント)を構え、シャークギルディがホワイトの前へ立ち黒エレメリアンと相対した。

 シャークギルディは私に向き直り、声かける。

 

「大丈夫か」

「大丈夫か、じゃないって。あんたがここまで痛めつけなきゃどうにかできたのに。 ……ま、助かったけどね」

 

 ヨロヨロと立ち上がり、嵐とのエレメリンクでポニーテールとなる。

 ポニーテールの形態なら装甲も少ないし、体が痛い今ならこの方が良いという判断だ。

 

「ならせめてもの償いだ。 我も闘わせてもらう、この紛い物供とな!!」

 

 シャークギルディは物凄い速さでシャドウとレッドの前へ移動し、次々と誠の貧乳真理(トライデント)で黒エレメリアンを斬りつけはじめる。

 シャークギルディの加勢で先程よりも余裕ができた二人も、周りに散り、取りこぼした黒エレメリアンをそれぞれ倒していった。

 

「グランドブレイザー!!」

 

 必殺技を発動させブレイドをそのまま地面へと突き刺すと、地面から炎が吹き上がり、一気に何体もの黒エレメリアンを消滅させる。

 

「ルナティック、クライシス!」

 

 光の刃を出現させ、斧で一閃すると目の前にいた黒エレメリアンは勿論のこと、一閃した衝撃波により遠くにいる者まで吹き飛ばし消滅させていく。

 私も痛みに耐え、ブライニクルブレイドを手に持ち黒エレメリアンへ特攻する。

 確かにモケモケよりも強いみたいだけど、最近で出てきていた硬いモケモケよりかは倒しやすい…!

 オーラピラーを地面に向けて放ち、自分を中心として何体かの黒エレメリアンを拘束する事に成功した。

 

「ブライニクルスラッシャー!!」

 

 回転しながら斬りつけると、拘束されていた黒エレメリアンは次々と爆発していく。

 尚も黒エレメリアンへと向かう私達に、フレーヌから通信がはいった。 

『黒いエレメリアンの数は残り二百体程です!』

「ゴールが見えてきたな!」

 

 終わりが近づき、さらに勢い付いた私達を見てウンディーネギルディは焦るどころか不敵な笑みを浮かべている。

 

「残念ざんねーん。 ''向こう''ではまだまだ作られてるみたいだよーん♪」

 

 再び大きいゲートが開くと、再び黒エレメリアンが出現し、そのまま私達に向かってくる。

 しかも今度は出てくる黒エレメリアンが収まる気配がまるでない。 ざっと見ただけでも最初の数よりも明らかに多い。

 

『なんだよ……あの数……』

 

 基地にいる嵐も目の前の状況を見ているんだろう。

 よく聞くけど体験したことのなかった、数の暴力がここまで辛いものだったなんて……。

 

「それじゃ調整も終わったことだし。ここからは私を見てもらうおうかな」

 

 そう言ってウンディーネギルディは紫色の属性玉のような物を取り出す。

 あれはひょっとして……。

 

「ゴッドブレス……!」

「違うわ、テイルシャドウ。 これはゴッドブレスなんかよりももーっとすごい私の発明品……名付けるなら''女神の吐息(ゴッデス・ブレス)''ってとこ」

 

 ゴッデス……女神か。

 女神が神より上なのかどうかは置いておくとして、前よりも厄介な発明だというのは間違いないだろう。

 ウンディーネギルディは愛おしく女神の吐息(ゴッデス・ブレス)を眺めた後、自分の胸の前へと構える。 すると間も無く女神の吐息(ゴッデス・ブレス)から光の粒子が放たれ、ウンディーネギルディの体全体を包み始めた。

 

「あっははははははははは!! これ、いいわ━━━━!!」

『いけません! ウンディーネギルディは自身を強化するつもりです! 無防備な状態である今の内なんとか攻撃を……!』

「ごめん……! そうしたいのは山々だけど!」

 

 私は勿論のこと、他の二人も同じだ。

 

「手が離せないわ……!」

「キリがねえ……あれ?」

 

 突如として、私達と闘っていた黒エレメリアンが消えていく。

いや、消えているんじゃない……女神の吐息(ゴッデス・ブレス)を使ったウンディーネギルディに吸収されていってるんだ!

 よく見るとゲートから出てくる黒エレメリアンも出てきた直後にウンディーネギルディに吸収されている。

 

「やめるのだ! ウンディーネギルディ殿!!」

 

 ウンディーネギルディの異常な進化に、同じエレメリアンとして見過ごせないシャークギルディが声を上げて止めに入る。

 

「ぐあああああ!!」

 

 突如ウンディーネギルディの体から漆黒の腕が現れ、シャークギルディは叩きつけられると吹き飛ばされてしまった。

 何体もの黒エレメリアンを吸収するうちにウンディーネギルディの体は黒エレメリアンと同じように漆黒となり、体躯もどんどん大きくなっていく。

 そして、ウンディーネギルディの前に浮いていた女神の吐息(ゴッデス・ブレス)は光の粒子を放出するのを止めると彼女の右目に飛び込んでいった。

 

「はあああああああああ!!」

 

 紫電が走り、周りの岩を砕く。

 美しい女性を思わせた声もどんどん老人のようなしゃがれ声となり、腕も地面につくほどの長さとなった。

 神秘的な水色だったストレートの髪の毛は濁ったように黒ずみ、顔に巻きついた。

 もはや原型のない姿となってしまったウンディーネギルディは……ハッキリ言うと醜い姿になっていく。

 進化が完了したのか、ひたすら吸収されていた黒エレメリアンはゲートから出てきたところで動きを止めた。

 

「あっはははは。 これで、これで私が一番だ!」

 

 体躯はゆうに五十メートルは超えているだろう。

 動き一つ一つに大地が震えるのを感じた。

 

「ウンディーネギルディ!!」

 

 立ち上がったシャークギルディを一瞥すると軽く腕を振るった。

 あたりに突風が巻き起こり、シャークギルディは再び吹き飛ばされ岩に叩きつけられる。

 

「私は、神……セドナギルディ。これこそが私の力……私の発明の力……!!」

 

 水の精霊から神話で語り継がれる海の女神へ。

 完成されたセドナギルディとの史上最大級の闘いが始まろうとしていた。

 

 

 私は自分の頬をパチンと叩き、気合いを入れた。

 目の前にいるのは山にも匹敵する大きさとなったエレメリアン、セドナギルディ。

 私がテイルレッドの世界で見た虫のエレメリアンよりも遥かに大きい。

 確かに昔の私ならビビって動けなかったかもしれない。 だけどそれは昔の話だ、今は違う!

 支えてくれた仲間達とここまで来た。 高い壁を乗り越えて来た。 なら、目の前ちある高い壁だって乗り越える事は出来るはずだ!

 ブライニクルブレイドをセドナギルディへと突きつける。

 

「そんなにデカくなったところで、私達は倒せないから!」

 

 今日はクリスマスなんだし、この闘いの勝利をこの世界の人たちにプレゼントしてみせる!

 

「中途半端な乳ゆえ、中途半端な覚悟をしているのではと危惧したが……絶望的な状況に関わらずその勢い。 さすが我の強敵だ、テイルホワイトよ」

 

 こんな場面で話す事じゃないって。

 それぞれ、ブライニクルブレイドと誠の貧乳真理(トライデント)を構え攻撃に備える。

 

「不敬な奴らめ……! 神となった私に逆らう事など許される事ではない!」

 

 セドナギルディが腕を振り下ろすと、ゲートの前で待機していた黒エレメリアン達がさっきと同じように進撃をはじめた。

 私達三人とシャークギルディを含めた攻撃により、黒エレメリアンはどんどん数を減らしていく。

 

「大人しく属性力をよこしなさい! そうすれば私はより偉くなれる!」

 

 こいつ、出世のことしか頭にない!?

 黒エレメリアンが散っていく様子を見ていたセドナギルディもついに動き出す。

 足下の黒エレメリアンを自分で潰しながら接近したセドナギルディは、その長い豪腕を振るい地面に大きなクレーターを作った。

 体がかなりの大きさなだけあって、動きはそこまで早くないのが幸いしたか、セドナギルディの攻撃をなんとか全員避けきっている。

 

「今よ、レッド!」

「ああ!!」

 

 左の豪腕が地面についたところでシャドウとレッドが同時に斬りつけるとその腕は大きな音を立てて地面へと転がる。

 

『セドナギルディは道具に頼ったイレギュラーな進化なため、まだ本当の力を出せていないようです。今の内に、お願いします!!』

「なるほどね」

 

 動きが遅い事や、攻撃が正確ではないのはそういう事だったわけか。

 続けてセドナギルディは特に痛がる素振りも見せず残った右腕で同じように私達を狙って来る。

 

「ぬうおおおおおおお!!!」

 

 シャークギルディが豪腕を受け止め、セドナギルディの動きを封じると三人は一斉に本体へと斬りかかる。

 

「ブライニクルスラッシャー!!」

「ルナティッククライシス!!」

「グランドブレイザー!!」

 

 三人一斉にブレイクレリーズし、必殺技をセドナギルディの胴体目掛けて放つ。

 しかし━━━━

 

「ぐあ!?」

 

 顔に巻き付いていた髪の毛が突如蠢き、レッドを叩きつける。 

 

「っ!!」

 

 不意をつかれたシャドウも同じように叩きつけられ、地面へと落下した。

 

「っあああ!?」

『奏ー!!』

 

 何度か髪の毛を弾き返す事が出来たが、次第に追い詰められ、体を絡まれてしまった。

 脱出しようにも腕も絡まれブレイドを振る事もできず、想像以上に強い力で締められ全く動けない。

 

「フッフフフ……。神に刃向かう愚かな行動のせいで、あなたは敗北する」

「くうっ……!!」

 

 なんとかしないと……!

 締め付けに耐えきれず、テイルギアの装甲から火花が散りはじめる。

 

「やめろー!!」

 

 レッドが締め付けられた私の元へ跳躍し、手を伸ばす。

 

「うわあああああ!!」

 

 しかし、その手は私に届かなかった。

 私に対しての助けを防いだのは先ほどシャドウとレッドが落としたはずの左腕だ。

 地面に叩きつけられたテイルレッドはよろよろと立ち上がり、驚愕する。

 

「なんで腕が……!?」

 

 続けざまに復活した豪腕で、支えていたシャークギルディも吹き飛ばす。

 

「足がお留守よ!!」

 

 セドナギルディの足下に移動していたシャドウによって今度は右足を斬りつける。

 セドナギルディが一瞬揺らめき、その隙に私は髪の毛から脱出する。

 

「無駄な事は……やめたほうがいいんじゃない?」

 

 次の瞬間、ゲート前に待機していた黒エレメリアンをセドナギルディは切断された足へと吸収させ元どおりの体となる。

 

「いくら私を傷つけようが、人形がいれば再生できる」

 

 この方法で無くなった左腕を復活させたわけか。

 

『チートじゃねえか! どうすりゃいいんだよ!?』

 

 確かにこのままいくら攻撃したところで毎回体を再生されたら終わりが見えない。 しかも厄介な事に、黒エレメリアンを吸収するたびにセドナギルディは体力も回復させているようだ。

 

「もう諦めちゃったの?」

 

 そう言った直後、片方の眼から赤い光線を放つ。

 連続で放たれる光線に、だんだんと疲れてきた私達は避けきれなくなっていく。

 

「ぐううおおおおおおお!!!」

 

 シャークギルディが素早くメガロドギルディに変身し、私達に向かう光線全てを誠の貧乳真理(トライデント)で弾き返した。

 シャークギルディこそが最終闘体とか言ってたけど、メガロドギルディとなった状態でも私と闘った時より比べ物にならないくらい強くなっているのが一目でわかった。

 この強さならメガロドギルディとして闘ったほうがセドナギルディを追い詰める事ができるかもしれない。

 だが━━━━

 

「━━━ぐっ!」

 

 突如として、メガロドギルディの首筋が爆発した……! その場に飛び散る身体の欠片とともに、全身から放電を放ち始めている。

 間も無く、メガロドギルディからシャークギルディへと戻ると放電は収まった。

 膝をつき、息を整えるシャークギルディ。

 

「素の状態で力を大きくしすぎて、さらに強大な力を得る進化についていけてないのね」

 

 悲しそうな顔をしながらシャドウは解説した。

 そっか……。 それをわかってたから、この前私と闘った時にメガロドギルディにならなかったんだ。

 膝をつくシャークギルディに、セドナギルディが豪腕を振るう。

 私達は三人がかりで豪腕を抑えつけ、弾き返す。

 

「何をする!?」

「何って……今あんた私達を庇ってくれたじゃん。 私は奢られたら奢りかえさないと嫌な性格なの!」

 

 さて、体の状態も大分よくなってきたしそろそろかな。

 エレメリンクを解除し、ツインテールへと戻った私はすぐさまアバランチクローを両腕に装備した。

 

『皆さん、セドナギルディを倒すには黒いエレメリアンを利用しての再生をさせない事が重要になります。そうなると黒いエレメリアンを作っている根源をどうにかするしかありません!』

「黒エレメリアンはゲートから出てきてるからそれを壊せばいいって事?」

 

 今もなお黒エレメリアンはゲートから出てきている。

 あのゲートさえ無くせれば……!

 

「いや、ゲートは我らアルティメギルに属する者はいくらでも生成できる。 例えゲートを潰したところでセドナギルディが再び生成するだけだ」

「じゃあどうするんだ?」

 

 テイルレッドが迫り来る黒エレメリアンを叩き斬りながら問いかけた。

 

「テイルホワイトよ。ゲートの向こうの世界に行き、戦女神を止めてくれ」

「ゲートの、向こうに!? てかなんで私!?」

 

 最初は疑問に思ったが周りを見回すとすぐ理解した。

 シャドウもレッドも、私以上に黒エレメリアンと闘っていたせいで酷く疲れている。 そんな二人にゲートを通れなんて酷な話だ。となると消去法で私が行くこととなるのは当然だ。

 

『ダメです奏さん! 生身でゲート内に入るのは危険すぎます!』

 

 私達よりその辺の事情に詳しいフレーヌは当然反対している。

 だけど、やらないとセドナギルディは倒せない。

 

「ごめん、フレーヌ。 私何もしないで後悔するのが一番嫌いなの」

『奏さん!!』

 

 セドナギルディが腕を上げるとゲート前に待機していた黒エレメリアンが再び蠢き出し、セドナギルディを通り過ぎる。

 

「やるよ、シャークギルディ」

 

 シャークギルディは黒エレメリアンが出てくるゲートを指差した。

 黒エレメリアンの根源はあの先にいるのなら、あのゲートを通る事は大前提だ。 となると必然的に、目の前に広がる漆黒の大地を通る必要がある。

 

『奏さん、私はあなたを闘いに巻き込んだ責任があります……。 その責任としてあなたを無事に元の生活へ戻さなければいけません』

 

 基地で志乃と嵐がなだめてくれたおかげか、先ほどよりも落ち着いた声音で話すフレーヌ。

 

『もしそのゲートを超える事で、奏さんが元の生活に戻れるなら……止めません』

「大丈夫、私を誰だと思ってるの?」

 

 漆黒の大地と、海神を前にして笑顔で堂々と宣言する。

 

「━━━━私はツインテールが世界一大っっ嫌いな女子高生、伊志嶺奏よ!!」

 

 言葉と同時に疾駆し黒エレメリアンを弾きながら、ゲートに向かっていく。

 対応できないところから来る攻撃は、シャドウとレッドがうまい具合に対処してくれるおかげで目の前の黒エレメリアンに集中する事ができる。

 

「テイルホワイトオオオォ!!!」

 

 セドナギルディがゲートの前に立ち、眼から光線を放たれると、ガードはせずに右へ左へと危なげなく避けていく。 避ける事で目標に当たらなかった光線は周りにいる黒エレメリアンを巻き込み大爆発を起こす。

 セドナギルディの足元まで接近すると、通り抜けざまにクローで攻撃。 走っていたおかげで勢いがつき、セドナギルディは転倒する。

が、ここに来てゲートから今までの比ではない量の黒エレメリアンが出現した。

 

「邪魔! はああああああああああ!!」

 

 走りながら普段の要領でブレイクレリーズする。 しかし、今回の必殺技は今までのアイシクルドライブとは違う。

 回転しても敵に突撃する事なく、その場でアバランチクローを掲げる。

 すると、私を中心として吹雪を伴った竜巻が発生し近くにいる黒エレメリアンをどんどん吸い込み、中へと閉じ込めていく。

 咄嗟に考えたにしてはなかなかよくできた技だ!

 私の新たな必殺技━━━━

 

「━━━━ホワイトアウトドライブッ!!」

 

 新たな必殺技名を叫ぶと同時に竜巻が爆発し、中に閉じ込めていた黒エレメリアン全てを撃破した。

 爆発した氷がキラキラと地面へと落ちる中、クローを肩に移動させゲートへと走った。

 

「テイルホワイトよ、これを持っていけ!!」

 

 ゲートに入る直前にシャークギルディから投げ渡されたのはかつての武器、スモールバスティラスだ。

 

「その槍ならば、必ず貧乳の姫のもとへと導いてくれるはずだ!!」

 

 理解した私はしっかりとスモールバスティラスを握りしめる。

 

「すぐ戻ってくるから……みんな!!」

『お願いします、奏さん!!』

 

 フレーヌからもらった通信を最後に、私はゲートの中へと入り込んだ。

 

 

 セドナギルディが足にできた傷を黒エレメリアンで癒し、再び立ち上がった。

 

「テイルホワイトが何をしようと、あなた達の勝利はない、ありえない!」

 

 絶対的な自信を持ち、セドナギルディは両再び腕を振るい攻撃をはじめた。

 

「お前達、テイルホワイトが紛い物を片付けるまで……耐えるのだ!!」

「言われなくても……!」

「ああ、わかってるぜ!」

 

 セドナギルディと黒エレメリアンに対抗しようかというところで、レッドがある変化に気づく。

 

「おい、俺たちを狙ってない奴もいるぞ!」

 

 レッドの指摘通り大部分の黒エレメリアンは三人に向かってきているが、僅かに横にそれそのまま走り去っていく個体もいる。

 

『まさか、近くの人間の属性力を感知してる!?』

「ヤバイわね……」

 

 連続使用と疲労のせいで、このタイミングでシャドウはアンリミテッドチェインが解除されてしまった。

 

『とりあえず私達三人で近くの人を避難誘導しましょう!』

『わかった!』

『もちろんだ!』

 

 三人は身元バレ防止のため、例の作りの悪いテイルホワイトお面を被るとカタパルトに入った。

 

(近くといっても何十キロかは市街地からは離れてる。 三人が避難誘導してくれるならかなり時間が稼げるわね)

 

 シャドウはノクスアッシュを左手に持ち替えると、右手に黒い粒子を集め始める。

 

「ジャックエッジ!!」

 

 一瞬にして黒い粒子が固まり、漆黒の剣が完成した。

 斧と剣を手に持ち、黒エレメリアンを次々と弾き飛ばしていきながらセドナギルディから離れていく。

 

「セドナギルディを倒す必要はない! 我々は耐えるのみだ!!」

 

 シャークギルディもセドナギルディに向かう事なく市街地へ向かう黒エレメリアンを中心に攻撃していた。

 レッドも二人とは大きく離れた位置で、市街地に向かう黒エレメリアンを迎え討つ。

 

「グランドブレイザーマグマッ!!」

 

 ブレイドで地面を斬りつけると、いたるところからマグマが噴き出し、黒エレメリアンを容赦なく呑み込んでいく。

 近くにいた黒エレメリアンを一掃したレッドは膝をつきながら息を整える。しかし、取りこぼしていたらしい黒エレメリアンが後方からテイルレッドへ飛びかかってきた。

 

「なっ!?」

 

 レッドが気がついた時にはもうブレイドを振っても間に合わない。

 攻撃を受ける覚悟を決めた中そこへ、光よりも速い黄金の矢が現れ黒エレメリアンを貫き消滅させた。

 

「!」

 

 矢が飛んできたであろう方向へ目を向けるとそこには弓を構えたエンジェルギルディの姿があった。

 

「お前は!」

「お久しぶりですわね、テイルレッドさん。 どうやらその様子では記憶が戻ったようですわね」

 

 咄嗟にブレイドを構えるレッドと対照的にエンジェルギルディは弓を消滅させると腰に手をやりリラックスした様子で話し始める。

 

「美しくない……流石マーメイドギルディですわね」

 

 遠くに見える漆黒の大地を見て、エンジェルギルディは呆れたように呟やいた。

 

「このような美しくない実験をする者にエンジェルの名前は与えられませんわ。…それに乗っかるウンディーネギルディもですが」

「な、何を言ってるんだ!?」

 

 テイルレッドを一瞥すると、エンジェルギルディは全六枚の羽根を展開して空中に浮かぶ。

 

「部下の失敗を正すのが上司の役目ですが、ウンディーネギルディの気合は見事ですわ。 その気合に免じて、粛清ではなくテイルレッドの属性力を守る事にしましたの」

「意味がわかんないぞ!」

「私が出しゃばるのはここまでですわ。 精々頑張ってください、テイルレッドさん」

 

 天使の羽根が散り、レッド視界が白く染まる。

 羽根が地面に落ちきる頃には、エンジェルギルディの姿はなくなっていた。

 

「エンジェルギルディ……あいつは一体……」

 

 地面に落ちている羽根を拾い上げると、その羽根は消滅してしまった。




次回も決戦回となります。


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FILE.64 邂逅、聖なるクリスマスバトル!

セドナギルディ
身長:50m以上
体重:推定10万t
属性力:涙属性(ティアー)

聖の五界の幹部エレメリアンであるウンディーネギルディが自らが開発した''ゴッデスブレス(女神の吐息)''を使って進化した形態。 黒エレメリアンを吸収し、自らの力にする事や傷ついた箇所を癒す力もあり、黒エレメリアンがいる限り負ける事はない。 力が強大だが、急激な進化に適応よるのに時間がかかる。 豪腕から繰り出される拳や、顔に巻きついた髪状のパーツ、片目から放たれる光線による攻撃方法をとる。


 意識が薄れていくのを必死に耐え抜き、私はゲートを抜けると二度目の異世界へと到着した。

 セドナギルディはこのゲートを使って私達の世界に黒エレメリアンを引き寄せていたのなら、戦場は近いはず……。

 周りを見回すと、黒い物体が……黒エレメリアンがだんだんとこちらに向かってくるのを発見した。

 

「やっぱりヴァルキリアギルディは近くにいるのかな」

 

 ゲートに入ろうとする黒エレメリアンの前へ立ち塞がると、シャークギルディから借りたスモールバスティラスで叩き斬る。

 これ、自分が使ってわかったけど凄い武器だ……!

 前に私はこんな武器を持つ相手に闘ってたんだと考えると、よく勝てたと思う。

 戦場がよく見える高い岩場に飛び乗り、遠くへ目を向けると岩場の中に目立つ巨体を二つ確認した。

 

「で、でか!? セドナギルディよりも……でかいし」

 

 明らかにあれはエレメリアンだ。

 この距離から見てあの大きさなら……木みたいな方は百メートルは普通に超えていそうだし、細い体にデカイ頭の奴の方もかなりの大きさだ。

 ボーッとしてるわけにはいかないか……!

 気合いを入れるため、自分の頬を両手でパチンと叩く。

 今この時間にもシャドウとレッド、シャークギルディに基地にいるみんながセドナギルディを食い止めてくれている。

 ヴァルキリアギルディは必ずこの辺りにいるはず……でもよくよく考えたらどんな姿してるのか私知らないんだけど……。

 

「あーもう! とりあえずそれっぽいのを探す!!」

 

 とりあえず木のエレメリアンへと駆け出す。

 駆けている中、ゲートに向かう黒エレメリアンがいれば通り抜けざまにスモールバスティラスで倒していきながら、どんどん木のエレメリアンへと近づいていった。

 

「あれは……」

 

 走っている途中、崖の前に黒エレメリアンが集まっているのを発見した。

 目を凝らしてよく見てみると黒エレメリアンの前に人のようなものが見える。 まさか、黒エレメリアンに属性力を狙われてるんじゃ……。

 考えてる暇なんかない、助けに行かないと。

 素早く、黒エレメリアンが集まる崖の上に移動する。

 上からだからわかりにくいけど、どうやら追い詰められているのはメイドさんのようだ。 なんでこんなとこにいるかは後で聞くとしようか!

 勢いよく飛び降りメイドさんに手を伸ばしていた黒エレメリアンを上段から一刀すると間も無く爆発。 続けて間髪入れずに槍を横に一閃すると、集まっていた黒エレメリアンは全て爆発した。

 

「だ、誰だ!?」

 

 後ろからメイドさんの声が聞こえた。

 確かにいきなり現れたら驚くよね。 この世界のツインテール戦士とは違うわけだし。

 

「えーっと……」

 

 他の世界で大っぴらにテイルホワイトなんて名乗っていいものなのかな。

 とりあえず、今は名乗らないでおこう。

 

「た、ただたまたま通りすがったツインテールの戦士です! ……へ!?」

 

 思わず変な声をあげてしまった。

 キメ顔しつつ、振り返るとそこにはいたのは確かにメイドさんだ。……メイドさんだけど、緑色のへんな仮面を被っている。 あれ、でもこの仮面どっかで見たような……。

 

「ツインテールの戦士だと!?」

 

 仮面を被っているせいでどんな表情をしているのかはわからないけど、相当驚いてるみたいだ。

 

「たりゃ!」

 

 メイドさんを逃すべく、とりあえず近くにいる黒エレメリアンを吹き飛ばした。 これでなんとか遠くに逃げられるかな。

 

「ところで、なんでメイドさんがこんな所にいるんですか?」

「避難誘導をしていてな」

 

 仮面を被って避難誘導……。 そこはよくある黄色いヘルメットにしといてほしかった。

 一般人の割に中々正義感のあるメイドさんだ。 私は無関係だったらそんな事できないし。

 ていうかあんまり長話してる場合じゃないね。

 

「き、貴様が何故ここにいる!?」

「え?」

 

 後ろから低い声が聞こえ、振り返るとそこには一体のエレメリアンがいた。

 さっきまで嫌という程見ていた黒エレメリアンではない、正真正銘のエレメリアンだ。 しかし、そのエレメリアンの後ろには見たくもない大量の黒エレメリアンが待機している。

 

「くそ!以前からこの世界の部隊に潜入していたこの俺レプラコーンギルディが、ウンディーネギルディ様にヴァルキリアギルディ様が倒されようとしている事を報告するついでに大量の実験品を届けようとしたところで、聞かされていたテイルホワイトに出くわしてしまうとは!?」

「説明ありがと」

 

 このエレメリアン、レプラコーンギルディというやつは口数が多いみたいだ。

 

「くそ! ウンディーネギルディ様に従えば幹部の座も確実と言われ仕方なく、この世界に来てみれば部隊は壊滅寸前、神の一剣まで顔を出してくる始末。 ウンディーネギルディ様の言っていたマーメイドギルディちゃんの実験まで大分時間がかかり、聖の五界がどうなっているやも知れず。 ようやく実験が始まったと思ったらエインヘリアル達が実験品を壊しまくりだし、こうなるとウンディーネギルディ様からは連絡がこないために報告ができんので早く戻らねばならぬのだ!!」

 

 いちいち長い。

 

「くそ! 戻ったら戻ったで、本当にウンディーネギルディ様に会えるかは怪しいとこだが、俺にはそれしか残されてな━━━━」

「長い!!」

 

 渾身の右ストレートをレプラコーンギルディの頰に叩き込むと、黒エレメリアンの海へと吹っ飛ばされていった。

 こっちは急いでるのにあのまま続けられたら日が暮れそうだ。

 まあ口数が多いからか、内情をベラベラと喋ってくれたし結果オーライ……ではないか。

 

「メイドさん、ここから離れてください。 あ、それと私の事あんまり言いふらさないでくださいね」

 

 メイドさんは困惑した様子ながらも頷き、駆け足で去っていった。

 これでなんとか、メイドさんはなんとか逃す事ができた。

 次は目の前の黒エレメリアン達だ。

 レプラコーンギルディはウンディーネギルディの元に戻る、そう言っていた。 という事は黒エレメリアンを引き連れてゲートを通る気に違いない。

 一旦進むのは諦めて、足止めするしかないか……!

 

「よく考えたらここでテイルホワイトを倒せれば幹部昇進ものだ! こうなったら総進撃だ!!」

 

 黒エレメリアンの後ろのほうから微かにレプラコーンギルディの声が聞こえると黒エレメリアンは列を乱す事なく、一斉にこちらに向かいはじめた。

 どうやらレプラコーンギルディはまた何か長く話してるみたいだが、黒エレメリアンの足音と遠くにいるせいで何を言っているかまではわからなかった。

 スモールバスティラスを真上に放り、その一瞬でアバランチクローを装備するとそのままブレイクレリーズ!

 

「ホワイトアウトドライブッ!」

 

 その場で回転すると近くにいる黒エレメリアンを吹雪の竜巻へと吸い寄せ閉じ込め、撃破した。

 落ちてきたスモールバスティラスを掴み取り、今度は一体一体相手していく。

 

「幹部昇進! 幹部昇進! 俺こそが聖の五界を背負っていくのだ!」

 

 レプラコーンギルディが黒エレメリアンの海から飛び出すと、剣を取り振り下ろしてきた。

 なんとか剣を受け止めると、衝撃で周囲の黒エレメリアンが吹き飛んでいった。

 ふざけたエレメリアンだけど、なかなか強い……!

 

「一応聞いとくけど、あんたは何属性なの?」

 

 なんとか隙を見つけるため、とりあえず属性力を聞いてみる。 自分の属性力を熱弁して、油断するエレメリアンもいたからね。

 

「俺の属性……それはボス!」

 

 ボスって事は、コーヒー……ではなくなんらかのリーダー好きって事だろうか。

 

「違う、上司属性(ボス)だ!」

「心読むな!」

 

 なるほど、上司の事をボスって言うんだね。

 こうやってエレメリアンと闘っていると、ほとんどは無駄知識が頭に入ってくるものだけどたまにためになる知識もついてくんだよね。

 それにしても全然油断する様子がない。さすが聖の五界のエレメリアンといったところか。

 

「おいおい、俺だけに集中していていいのか?」

 

 剣に力を込めるレプラコーンギルディが突如ニヤつく。

 

「きゃ!?」

 

 剣を受け止めている間、一瞬で私の元へ近づいてきた亀のような黒エレメリアンからの攻撃をもろに受け、大きく吹き飛ばされた。

 倒れ込んでいるところで近くに待機していた黒エレメリアン三体が同時に飛びかかってくる。

 

(この体勢じゃスモールバスティラスは振れない……!)

 

 しかしダメージを覚悟しかけたところで、横から見覚えのある触手が伸びてくると、一瞬の間に黒エレメリアンを三体とも爆散させた。

 忘れるわけのない忌々しい触手、初めて私を負かした触手、また会おうと言って会うことのなかった''あいつ''がこの場に現れた。

 

「クラーケギルディ!?」

 

 マントを翻し、クラーケギルディは私の元へ歩み寄ってくる。

 なんて言葉をかけていいか分からず、私はただクラーケギルディを見るだけの中、ついに沈黙を破る。

 

「誰だ貴様は」

「はぁ!?」

 

 思わず立ち上がり、同時に横の黒エレメリアンを叩き潰す。

 あんなに……あんなに私をぶちのめしておきながら忘れるなんて……!?

 

「私はあんたにボコボコにされたの! なんか偉そうな事色々言っといて! あの時は自分がやられるなんて衝撃的だったんだから……忘れるとかありえないんだけどっ!」

 

 イライラした分パワーが上がったのか、スモールバスティラスを横に一閃すると周囲の黒エレメリアンを吹き飛ばす。

 

「くそ! こんな終わり方あるか!? しかし、最後まで上司に使われて逝けるのなら上司属性を持つ者の幸せか……!」

 

 黒エレメリアンに埋もれてたせいで気がつかなった。

 どうやらレプラコーンギルディも一緒に斬ってしまったらしく、放電しはじめる。

 上司が好きでありながら幹部昇進を目指していた部下は長い断末魔を残して爆発していった。なんかごめん。

 

「全くだ。 俺が貴様の立場なら興が削がれるところであった!」

 

 突如背後から胴間声が響き、恐る恐る振り返ると見たことのないエレメリアンが仁王立ちしていた。

 この威圧感……間違いなくこのエレメリアンも幹部級に違いない。

 迫り来る黒エレメリアンを容易く撃退していく……いくのだけれど……撃退方法が……。

 エレメリアンは私に近づくと歩みを止め、自らの槍をしまい込んだ。……しっかり説明すると股間から生えていた触手を体に巻きつけた。

 もう少し後ろから生やす事はできなかったのだろうか。

 

「俺の名はリヴァイアギルディ! 巨乳属性、ラージバストを奉ずる戦士だ!」

 

 ついに来たか、巨乳属性。貧乳属性があるんなら巨乳属性もあるとは思っていたけど、ようやくご対面だ。

 リヴァイアギルディは私の顔を見た後に視線を下にずらしていく……変態か?

 

「惜しいな、戦士よ。ポテンシャルの高さは感じられるが、それでは俺の愛する巨乳には程遠いな」

 

 愚問だった、エレメリアンだもんね。 それにしても、こんな状況でもエレメリアンは自分の属性に正直すぎる!

 ここまで言われて、私もだいたい察しがついた。

 巨乳属性のエレメリアンにすら言われてしまうのか……。

 

「悲しき中途半端な乳!!」

「中途半端で悪かったね!!」

 

 うん、言われる事は察してたからほとんどノータイムで言い返す事ができた。 なんか中途半端ってずっと言われてるせいで自分の胸に自信がなくなってきた……。

 

「まだ言うか!戦士よ、貧乳である事は恥ではない。 そなたは既に完成された……なんと中途半端な乳、貧乳ではないな。 む、貴様はまさか……」

「あー、もうっ! こんなくだらない事してる場合じゃないんだって!!」

 

 私達が口論でも始まろうかというところで、近くにいた何体かの黒エレメリアンが突撃をはじめていた。

 

「貧ッッ!!」

「巨ォォォォッ!!」

 

 突撃してきた黒エレメリアンを二体の胸好きエレメリアンは一瞬にして消していった。

 股間の槍が轟き、貧乳の剣が閃く。

 クラーケギルディは流石の強さだし、リヴァイアギルディも攻撃の仕方はアレだけど実力は確かだ。それと酷いかけ声を聞いた。

 後ろから見る圧倒的な迫力に、私は思わず腰を抜かしてしまった。

 

「なるほど……貴様はシャークギルディ部隊が相手していた戦士、テイルホワイトか」

 

 思い出してくれたのはいいけど、胸を見られた後に言われてもな。

 

「ほう、異世界からこのような所にな。 何か目的があるのか」

 

 股間の触手……いや、槍を屹立させながらリヴァイアギルディが振り返る。

 スモールバスティラスを杖代わりに立ち上がり、私も黒エレメリアンに備える。

 

「周りにいる黒エレメリアンに迷惑しててね。それを作ってるヴァルキリアギルディを倒しにきたの。 せっかくだし案内してよ」

 

 私の発言に、胸好きコンビは互いに顔を見合わせ首を振る。

 そりゃそうだよね。 同じアルティメギルの仲間を売るような事を幹部のエレメリアンがするわけないもんね。

 だいたいわかっていたつもりけど、帰ってきたのは予想だにしない言葉だった。

 

「ヴァルキリアギルディを倒す必要は無い。 既に彼女と闘っている者がいる」

「近いうちに決着はつくだろうからな」

「そ、そうなんだ」

 

 ヴァルキリアギルディと闘っている者……この世界のツインテール戦士だろう。

 

「自分の世界を守りたいなら攻めるのではなく引け! ガイアギルディの生み出したエレメリアンを行かせたくないならな!」

 

 ガイアギルディ……そう言ってリヴァイアギルディは木のエレメリアンの更に奥にいるもう一体のでかいエレメリアンを指差す。

 シャークギルディはヴァルキリアギルディが黒エレメリアンを生み出してるって言ってたけど……リヴァイアギルディの言い方から察するにあのガイアギルディが……!

 

「ガイアギルディっていうのがヴァルキリアギルディって事!?」

「ヴァルキリアギルディ自らがエインヘリアルとなった姿だ」

 

 自分を復活させたせいであの姿に……。

 そこまでして、闘おうとするなんてヴァルキリアギルディはどんな執念を持っているんだ。

 

 

 私はすぐに通ってきたゲートの前に戻り、中へ入ろうとする黒エレメリアンを倒していく。

 驚きなのはクラーケギルディとリヴァイアギルディが一緒について来てゲートを守ってくれている事だ。

 シャークギルディの時も思ったけど、まさかエレメリアンと一緒に闘う事になるなんてね。

 遠くになったガイアギルディを見ると、突然体に炎が走ったのが見えた。

 

「あの炎……」

 

 ガイアギルディの周りに時々噴き上がる炎。

 間違いない、前に異世界で見た……いや、ここ最近は隣で見ていた炎に違いない。

 あれは、テイルレッドの炎!

 ん? テイルレッドがいるって事はつまりここは……。

 

「ここってまさか、ツインテイルズの世界!?」

 

 クラーケギルディもリヴァイアギルディも否定はせず、目の前の黒エレメリアンに攻撃を浴びせた。

 そういえば、クラーケギルディは確かツインテイルズと闘って……。だからこの世界にクラーケギルディがいるっていうわけね。

それにしても……この世界はしょっちゅう大きなエレメリアンに攻められてるなぁ。

 それと、今この瞬間にテイルレッドがこの世界にいるって事は私の世界にいる総二はやっぱり過去から現在にやって来たっていう事……。

 

「レッドが!!」

 

 レッドが極大の炎と光を放ち、ガイアギルディは光の中へ消えていく。

 驚きの光景のあまり、私は思わず二体のエレメリアンの前に出る。

 ガイアギルディが消えていくと同時に、私達の目の前にいた大量の黒エレメリアンも黒い粒子となり、消滅していった。

 勝った……のかな。

 結局私はガイアギルディに何もできなかったけど……これで私の世界にいた黒エレメリアンも消えてくれるのかな。

 なんとか目的は果たせたけど、私一人の力じゃ無理だったよね。 

 

「あんた達には助けられたわ。 ありが━━━」

 

 安堵の息をつき、お礼を言おうと振り返る。

 しかし、私はお礼を言い切る事は出来なかった。

 

「ちょっと、どうしたの!?」

 

 お礼の言葉は心配する言葉に変わった。

 さっきまで堂々と闘っていた二体のエレメリアンが━━━━消えかかっている。

 思わず二体に駆け寄るとすぐにわかった。

 クラーケギルディもリヴァイアギルディも自分が消えようとしている事になんの違和感も感じていない。

 

「まさか、ガイアギルディが倒れたからあんた達……!」

 

 腕組みをしたまま、リヴァイアギルディは股間の触手を体に巻きつかせ私の疑問に答える。

 

「奴が倒れた事は関係ない。元より俺達はお前が来る前から一度消滅していたのだ」

 

 リヴァイアギルディと同様、クラーケギルディも剣をしまうと同時に無数の触手も力なくたれていった。

 

「もはや俺達がこの場に残る理由はないのだ。 ふん、最後に見るのが中途半端な乳とはな!」

 

 消えかかってる今そんな事言われても……ツッコミなんてできないよ……。

 リヴァイアギルディがそっぽを向いた後、クラーケギルディも話しはじめた。

 

「前に私は言ったな。 ''貴様が成長し、相見える日を楽しみにしている''と」

 

 そうだ。 そんな事言っておきながらもう会う事はないのかと、私も思っていた。

 だけど……クラーケギルディがしたその約束は今日、まさかの形で果たす事が出来た。

 

「私も最後に見るのが姫ではなく中途半端な乳で残念だ」

 

 だから消えかかってるこの状況で言われてもツッコミなんてできないんだって……。

 だって……相手はエレメリアンなのに私の中で怒りよりも悲しみが前に出てきてしまいそうなんだ。

 

「貴様が持っているその槍……シャークギルディの物だな。 伝えておけ、立派だとな」

 

 スモールバスティラスを強く握りしめ、思わず私は視線を下に落とす。

 すると視線の先にあった二体の足の先から、光の粒子となって煌きながら消えはじめた。

 足から腿へ、腰へ、どんどん体が消えていく二体をしっかりと私は見据える。

 

「消える前に、聞いて……」

 

 これだけは言わないといけない。

 今の自分の気持ちを、絶対。

 

「悔しいけど、ありがとう……」

 

 二体のエレメリアンは聞こえてただろうか。

 お礼の言葉を言うと同時に、二体の胸好きエレメリアンは完全に消えていった。

 小さい胸が好きでも、大きい胸が好きでも、力を合わせて闘った戦士を……私は忘れない。

 

 

 ゲートの前に立つと、前来た時と同じように最後にツインテイルズの居るこの世界を目に焼き付ける。

 この世界はガイアギルディの脅威から救われた……だけど私はまだ終わりじゃない。 しんみりするのは私の世界にいるセドナギルディを倒してからだ。

 確信している。

 スモールバスティラスは必ず主人の元へ帰ろうとしてくれる。 私を私の世界へ、みんなの元へ帰してくれる、と。

 

 自分の世界で決着をつけるため、私はゲートの中へと再び飛び込んだ。

 

 

 スモールバスティラスの導くまま、ゲートを抜けた先は……間違いなく私の世界だった。

 私が抜けるとゲートは役目を終えたようで次第にと小さくなっていき、最後は消滅する。

 向こうの世界で頑張った甲斐があってか、周りに黒エレメリアンは見当たらない。 しかし、妙な事がある。

 

「セドナギルディがいない……」

 

 五十メートルは超えていたセドナギルディだ、それなりに遠くにいても視認できないのはおかしい。

 それともう一つ、静かすぎる。

 どこかで闘っているならその音が聞こえくるはず……この場に響く音は私が歩く音だけ。

 嫌な考えが頭をよぎる。

 まさか…セドナギルディの攻撃に耐えられずみんな……!

 

「フレーヌ!」

 

 いくら呼びかけても通信機からフレーヌも志乃も嵐の声も聞こえてこない。

 いつのまにか上空が黒い雲に覆い尽くされ、雷の音が鳴り始めていた。

まさか……まさかみんな……!!

 

「奏━━━━!!」

 

 グッと拳を握りしめ、セドナギルディを探そうと跳躍しかけたが、聞き覚えのある声でその場に踏み止まった。

 

「志乃! っあ!?」

 

 志乃の声がした方へ視線を移そうとしたその時重い一撃が体に浴びせられ、地面に打ちつけられる。

 ''私に攻撃した者''は倒れる私を掴みあげる。

 

「あんた、誰……!? 」

 

 片腕で私を掴み上げるエレメリアンは今まで見た事がない。

 漆黒の体に、紅い眼、そして頭から腰までの長さの髪の毛とそれと合わせるよう腰から足首まで伸びる布のパーツ。

 こいつ……どこから……!

 困惑する私を見て、エレメリアンはニヤリと笑うと口を開いた。

 

「忘れられるなんて残念ねえ。さっきまで会っていたのに」

「その声、まさか!」

 

 エレメリアンの声は私が異世界に行く前に聞いたあの声だ。

 自分を科学の力で強化した水の精霊━━━

 

「━━━ウンディーネギルディ!?」

「違うよ、私はセドナギルディ」

 

 セドナギルディとは言うけど声はウンディーネギルディの時のものだ。 それに体格だってウンディーネギルディの時と同じだ。

 私が異世界に行っている間に何が!?

 

「ホワイト━━━━!!」

 

 私を掴むセドナギルディに、遠くからシャドウがアンリミテッドチェインとなって特攻してきた。

 おかげで私はセドナギルディから解放される。

 

「ルナティックウゥ!クライシス!!」

 

 すぐさまシャドウはブレイクレリーズすると、セドナギルディに向かって必殺技を放ち、見事に命中した。

 

「黒羽!」

 

 しかし無理をしていたのか、シャドウはアンリミテッドチェインが解除されると同時に変身も解除されその場で気を失ってしまった。

 

「あーあ、無理するから。 今さらそんな技効くわけないのに」

 

 煙の中から現れたセドナギルディは余裕ある笑みを浮かべる。

 

「ま、オルトロスギルディが弱ってなければやばかったかもしれないけど」

 

 弱っていたとはいえ、アンリミテッドチェインの必殺技を受けてこんなに余裕があるなんて……!

 私は立ち上がり、セドナギルディと対峙した。

 

「志乃、黒羽をお願い」

「う、うん……」

「それと……みんながどうなったのかわかる?」

 

 志乃や黒羽は確認できたけど他のみんなが気がかりだ。

 

「私とフレーヌと嵐は避難誘導してて……でもレッドとシャークギルディは、わかんないの……」

「そっか……」

 

 とりあえず三人が無事なのはわかった。

 二人が私とセドナギルディから充分離れたことを確認すると、スモールバスティラスをしっかりと握りしめた。

 

「心配してんの? だーい丈夫、まだ誰の属性力も奪ってないから」

 

 普通のエレメリアンなら信じられるけど、セドナギルディがそう言っても素直に受け取っていいのか。

 

「それで、あんたに何があったの?」

「……私が女神の吐息(ゴッデス・ブレス)を使って、セドナギルディに進化したのは知ってたよね?」

 

 笑みを浮かべながら弾む声で話すセドナギルディは余裕そのものだ。

 一応知ってはいるけど首肯はせず、私は黙ったままセドナギルディを見据えた。

 

「簡単な事。 この姿はセドナギルディの……私の最終闘体よ」

「っ!?」

 

 驚きのあまり声が出ない。

 あの圧倒的な強さを見せていた巨大なセドナギルディは最終闘体じゃなかったのか……!

 声が出ない私を意に介さず、セドナギルディは笑いながら話し続けた。

 

「ウンディーネギルディからセドナギルディへと新たなエレメリアンへ生まれ変わった事で、私は''セドナギルディ''の最終闘体になる事ができた……!」

 

 セドナギルディは手を空へ掲げ、喜悦に満ちた表情を見せる。

 見た事はないけど、マッドサイエンティストはあんな表情をするんだろう。 暗黒と狂気に満ち溢れたあの笑顔を。

 

「正直、この姿になる事を計算していたわけじゃない。 最後は私の誇ってきた科学の力ではない進化なんて……皮肉なもんねえ!!」

 

 瞬間、セドナギルディを中心として衝撃波が走り、辺り一面に転がった石を吹き飛ばしていく。

 セドナギルディの周りに紫電が迸ると、ゆっくりと歩を進めはじめた。

 この地球が、セドナギルディに怯えているかのように上空では幾多もの稲妻が走り、近くへ落ちてくる。

 私は思わず、半歩後ろに下がってしまう。

 強い。今までのエレメリアンとは桁違いに……間違いなく強い……!

 

「よせ、セドナギルディ!!」

 

 セドナギルディが背後から呼び止められ、振り返るとシャークギルディが誠の貧乳真理(トライデント)を杖代わりにして立っていた。

 シャークギルディ……かなり激しい闘いをしたようで全身ボロボロだ。

 呼び止められたセドナギルディは溜息をつく。

 

「まだやる気なの。 もうやめたら? 残り少ない時間、苦しむのは嫌でしょ」

 

 残り少ない……そうか。

 シャークギルディもヴァルキリアギルディの力で蘇っているなら彼女がいなくなった今、クラーケギルディやリヴァイアギルディのように……消えてしまうんだ。

 しかも、もう時間がない。

 

「お前のやり方は、我らの意志に反している。 一部隊の隊長として見逃すわけなかろう!」

 

 シャークギルディは一瞬でセドナギルディに接近すると自らの真理を、誠の貧乳真理(トライデント)を振るう。

 風のように早い刺突も、その槍がセドナギルディに当たる事はなく全て避けられていく。

 

「海の勘違い君が、その海の女神に逆らうとどうなるか、教えてあげる必要があるみたいだね」

 

 シャークギルディの渾身の突きを避けたセドナギルディ。

 そして優しく、シャークギルディの額に指を一本つけると━━━━

 

「ぐあああああああああああああ!!」

 

 その様はまるで中国武術における発勁のよう、それだけでシャークギルディは地面を抉りながら吹き飛ばされていく。

 

「シャークギルディもオルトロスギルディも、勿論テイルレッドもみーんな疲れてるから相手にならない。 ホワイトは……どうかしらねえ」

「この!」

 

 怖がったところで何が変わるわけでもない。

 私はセドナギルディに向かって疾駆するとスモールバスティラスを突き出す。

 

「わかるわかる、焦っちゃうよねえ。 でも冷静さを欠いたら余計苦しくなるだけ」

 

 なんとセドナギルディは私の刺突を避け楽々穂先を摘むと、いくら力を入れようが槍が動かなくなってしまった。

 

「ダメね、生身で異世界へ行ったせいでかなり消耗してる。 絶望の涙は早いとこ見られそうだわあ」

 

 穂先を握り込むと、氷細工のようにあっさりとスモールバスティラスは粉々に砕け散ってしまう。

 セドナギルディは掌に残った破片を払い撒くと、ウンディーネギルディの時に使っていた鞭をその手に持つ。

 

「フフフ……絶望の涙を見せなさい。 ティィィアアア━━━━!!」

 

 その攻撃は本当に鞭を使っているのか疑うくらいだった。

 どれだけ離れようともしつこく鞭は伸びてきて私を叩きつける、近くに寄ろうと同じだ。 ある時はその辺に転がっている大岩を鞭で絡め取り投げつけてくる事もあった。

 防戦一方のまま、どんどん時間は過ぎていく。疲労がたまり、私はだんだん鞭を防御する事が出来なくなっていった。

 そして━━━

 

「っあ!!」

 

 強烈な一撃を浴びせられた私はゴロゴロと地面の上を転がる。

 まずい……本当にこのままじゃ負けてしまう……!

 心で強く思っていてもダメージが蓄積された体は言う事を聞いてくれず、とうとう立ち上がれなくなってしまった。

 

「あらあら……涙を見せてくれる前に気絶しちゃうの?」

 

 セドナギルディの言う通り、私も段々と意識が遠のいていくのを感じていた。

 ダメ! ここで私が気絶したら……セドナギルディの……!

 

「やめなさい!」

 

 歪んでいく視界の中、突如私とセドナギルディの間に割り込んだ者がいるのがわかった。

 

「フ、フレ……ヌ」

 

 ヘンテコなお面を外し、素顔となったフレーヌが私の前で両手を広げている。

 守らないと……守らないといけないのに……。

 

「私は……責任を果たします……!」

 

 フレーヌの言葉を最後まで聞いたところで、私は意識が遠のき……ついに失ってしまった。




原作十三巻のラスト……大好きです。
そして気づけば文字数も30万を突破していました。 (ラノベだったらおおよそ三巻くらいでしょうか……)
不定期にも関わらず、未熟な文章の小説を読んでいただきかばかりか感想まで頂けるのは感謝しかありません!
皆さま、ありがとうございます!


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FILE.65 乗り越え、聖なるクリスマスバトル!

セドナギルディ(最終闘体)
身長:177cm
体重:221kg
属性力:涙属性(ティアー)

ウンディーネギルディがゴッデスブレス(女神の吐息)を使って進化したセドナギルディの最終闘体。 五十メートル以上あった体躯はウンディーネギルディの頃と全く同じになったが、体が身軽になった分だけ色々な動きができるように。 ウンディーネギルディの時に使用していた鞭を操り、戦士を圧倒する。


 意識を失ったテイルホワイトの前に立ち、進路を塞いだフレーヌ。

 怯える様子を微塵も感じさせず、真っ直ぐセドナギルディを見据えていた。

 その様子を見たセドナギルディは腕組みをして、興味ありげにジッとフレーヌを観察すると何かを確信したのか笑みを浮かべる。

 

「ふーん、サポーターさんか」

「……」

 

 看破されてもフレーヌは表情一つ変える事なく、両手を広げている。

 ホワイトとエレメリアンの闘いに割って入り、自分の立場がバレるリスクは充分承知していた事だ。

「裏に異世界出身の人間がいるのは予想ついてたけど、こんな子供がねえ。 あの装甲……サポーターさんが作ったの?」

 

 後ろに倒れるホワイトの装甲を指差すセドナギルディ。

 敵でありながらも純粋に科学に興味を持っているという事を理解したフレーヌはようやく口を開いた。

 

「作ったのは私だけど、オリジナルじゃない。 残された設計図を元に作ったただの真似事よ」

「じゃあオリジナルは……テイルレッド達のほうかな?」

「……っ!」

 

 少しだけフレーヌの表情が崩れたのをセドナギルディは見逃さなかった。

 

「設計図があるとはいえ、それを完成させるのは優秀なことよ。 人間だけどアルティメギルに招待したいくらい」

 

 それが本心なのか、弄んでいるのかフレーヌには知る事ができず、再び黙り込んだ。

 

「でも残念。 私より優秀な科学者がアルティメギルにいると、色々不都合なの。 アルティメギル入りは諦めてくれる?」

 

 そんな事を言われなくても入る気など全くないが、勝手に解決してくれた事に少しだけ安心するフレーヌ。

 このままではすぐセドナギルディは動き出すと考え、今度はフレーヌから話しはじめた。

 

「あなたは間違っている。 科学を己の欲望のためにしか使っていない……! どうして悪い使い方しか出来ないの!?」

「悪い使い方ねえ……。 そんなもの個人の考えでどうとでもなる事じゃない? 少なくとも、私は悪い使い方をしてるとは思ってないし」

 

 フレーヌの本音に、当たり前の事をしているという気軽さで即答した。

 

「サラマンダギルディや自分の部下を無理な最終闘体にしたのも悪くないと言うの!?」

「うん」

 

 同じ科学者なら少しだけ話が通じるかもしれないと思っていた自分に腹が立ったフレーヌは、拳をグッと握りしめ歯をくいしばる。

 このマッドサイエンティストは何がなんでも倒さなければいけない。 そう考え、次の手を練っていたが、とうとうセドナギルディは動き出す。

 

「はあ……私相手に時間稼ぎしたいなら涙ぐらい流さないとダーメ」

 

 両の手の人差し指交差させ、バツ印を作る。

 

(いえ、これだけの時間があれば充分なはずです……!)

 

 フレーヌが身構えると同時に、今度は指で丸を作るとそこから属性力を奪う光輪が現れた。

 

「サポーターさん属性力を感じないのは何かで隠してるからだろうけど……この輪にはそんなもの通じないよ。 ふふ、ツインテールの戦士のサポーターさんなら、ツインテール属性の属性力は低くないはず」

 

 フレーヌに標準を合わせ、無慈悲に光輪を向かわせるその時、セドナギルディの背後で強烈な炎が上がる。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

 炎柱を斬り裂き、テイルレッドが現れた。

 ブレイザーブレイドをセドナギルディの無防備な背に振り下ろした。

 しかし━━━━

 

「━━━━何!?」

 

 背を向けていたセドナギルディは一瞬でテイルレッドに相対し、ブレイドを片手のみで受け止めていた。

 

「前は油断して痛い目見たからね。 テイルレッドも大分お疲れなのに、必死で可愛いわねえ!」

 

 セドナギルディが腕に力を入れると、ブレイドはパキッと音を立てて亀裂がはいる。

 

「俺はとっくにそんなのは聞き飽きてんだ! ブレイレリ━━━━━━━━ズ!!」

 

 ブレイドは掴まれながらも、中央から炎が噴き出す。

 炎が噴き出しているにも関わらず、セドナギルディはブレイドを受け止め続け、必殺技を身に受けずにいた。

 しかもレッドのする必死の表情とは対照的に、セドナギルディには余裕さえ感じられる。

 何十メートルか離れた所で、痛みを堪えながら立ち上がったシャークギルディがゆっくりとセドナギルディへ歩み始めた。

 

「セドナギルディ、貴様の同胞を物のように扱うやり方……気に食わん!!」

 

 最終闘体のメガロドギルディになると、彼もまたセドナギルディへ突貫する。

 

「このような闘いは望みではないが……!」

 

 セドナギルディの背後に回り込んだメガロドギルディは誠の貧乳真理(トライデント)をその手に顕現させる。 そしてそのまま、セドナギルディの背に向かって槍を突き出した。 だが、メガロドギルディの渾身の突きもセドナギルディは空いていた右手で楽々と受け止めてしまう。

 

「無駄だって」

「く、おのれ!!」

 

 槍を全く動かせなくなったメガロドギルディは仕方なく手を離し、今度は拳を振りかぶる。

 

「うわぁ!」

 

 それを見たセドナギルディは、左手で受け止めてたブレイドを強く振るとレッドを吹き飛ばして回転させ、柄を握った。

 未だ炎が噴き出ているそのブレイドを、メガロドギルディへと振り向きざまに真一文字に一斬、辺りに炎が弾けた。

 

「ぐあああああああああああ!!」

 

 ダメージを受け、シャークギルディへと戻りながらその場に倒れこむ。

 

「シャークギルディ!!」

 

 レッドの悲痛な叫びを聞きながら、セドナギルディは誠の貧乳真理(トライデント)を真っ二つにへし折り、元の形へ戻ったブレイドを興味深く観察しはじめた。

 

「さすが私に傷をつけた武器、なかなかの威力ね。 少し使わせて貰おうかなぁ」

 

 セドナギルディは面白半分にブレイドを振り回す。

 目一杯ブレイドの感触を楽しんだ後、セドナギルディは倒れているシャークギルディに近づくとしゃがみこんだ。

 

「すぐに消えてしまうのに、最後まで痛い目にみたいなんてね。 別にあなたの涙には興味ないから私としては大人しくしてくれてたほうが良いんだけどな」

 

 すぐ近くにいてもシャークギルディは手を出すことができずに、ただセドナギルディの事を睨み続ける。

 

「涙と言えばやっぱり少女でしょ? ならやっぱりそこのサポーターさんか、テイルレッドの方が私は好みなの」

 

 立ち上がりフレーヌを一瞥し、レッドへ視線を移す。

 レッドへ向けられた視線はどんどん下に下がっていき、彼女の握っているブレイザーブレイドへと向けられた。

 

「二本あったのね。 じゃあ一本貰ってもいいかな?」

「誰がやるか!」

 

 レッドが剣を上段に構え、振り下ろす。 振り下ろされた剣と全く同じ剣でセドナギルディは受け止めた。

 同じ剣と剣がぶつかり合い、周囲がどんどん陥没していく。

 剣の経験はレッドの方が長いにも関わらず、セドナギルディは何年も扱ってきたように軽く振るい、受け止めていく。

 

「いくら続けても今のあなたじゃ私には絶対勝てないよ。かなり疲れてるみたいだし、もう諦めて泣いてほしいんだけど」

 

 セドナギルディの言葉には反応せず、レッドはがむしゃらに剣を振り続けた。

 斬り上げるブレイザーブレイド、振り下ろすブレイザーブレイド。 刃と刃の撃ち合いが、その度に巨大な爆発を大気に生み出し、レッドのツインテールをはためかせる。

 しかし、最初こそ勢いでレッドが押してはいたが、徐々に劣勢になっていく。

 レッドの剣を受け止めるように振るっていたセドナギルディが、レッドより先に剣を振るいはじめた。

 激しい剣撃を目の当たりにしているフレーヌは小型のタブレットでなんとか弱点を見つけようと分析を進めていた。

 

「レッドの限界も近い……このままでは……!」

 

 後ろに倒れ、気絶したままのホワイトを見るフレーヌ。

 

「奏さん……」

 

 ホワイトはフレーヌの声に応える事は無く、目を瞑ったままだった。

 

 

 スマホで設定しておいたアラームが鳴り、私は目を覚ました。

 目覚めには効果抜群の音楽だけど、これも毎朝聞いていると不快な音として脳に記憶しかねない。 そろそろ音楽を変えるべきかな。

 手探りでスマホを見つけ、とりあえずアラームを消すとボーッと天井を眺める。

 

「私の部屋だ……」

 

 いつもの天井にいつもの壁、いつもの家具に、いつもの窓から差し込むいつもの朝日。

 うん、全てがいつも通りだ。

 なんか凄い悪夢を見てた気がする。

 夢を見ている事自体、何かのストレスだと聞いた事あるけど……そんな中で悪夢を見たらストレスが限界値を超えないか心配だ。 ま、どんな悪夢かも覚えてないし別に良いんだけどね。

 ……体も怠いし、本当ならもっと寝ていたいところだけど遅刻はまずい。 エレメリアンのせいで遅刻は何回かしちゃってるし、これ以上はいけない。

 睡魔と倦怠感に打ち勝ち、ベッドの上で上体を起こす。

 その時、視界の隅でツインテールが揺れた。

 あれ?変身中以外はツインテールにしてないはずなのに。

 確認のため少しだけ横を向く。 やっぱりツインテールだ。

 

「や」

 

 ━━━━いや違う、ツインテールにした少女が横にいた。

 

「うぇ!?黒羽!?……いや、カエデ?」

 

 ベッドの上で頬杖をつき、カエデはクールに微笑んだ。

 最初は黒羽かと思ったけど、黒羽とカエデではなんか微妙に雰囲気が違うんだよね。 だからすぐにカエデだとわかった。

 なんで私の部屋にカエデが……ううん、なんとなく察した。

 

「私の部屋じゃ……ないみたいだね……」

 

 ベッドから降りると、部屋中にヒビが入り、ガラスのような音を立てて崩れていった。

 

「理解が早くて助かるわね」

 

 部屋が崩れ、周りの景色は前にカエデとあったような白い空間に変わっていた。

 いつのまにか着ていた寝間着も、私服に変わっている。

 さすがにこう何度も来たら慣れてくるもので、一息ついてから私は口を開く。

 

「私……負けちゃったのかな」

 

 ぼんやりとしか覚えてなかったけど、ハッキリと思い出してきた。

 ウンディーネギルディが進化したセドナギルディに闘いを挑んで、私は手も足も出なかった,。一方的にやられて……そして、そのまま気絶しちゃったんだっけ。

 エレメリアンにも助けてもらったのに……こんな結果になっちゃうなんて。

 カエデは腕組みをしながらキッと私をにらめつけてくる。

 その様は妙に迫力がある。

 

「負けるっていうのは今の私のような状況になるって事。今のあなたの状況で負けただなんて言うのはただの甘えよ」

 

 確かに、カエデの言う事はもっともだけど……。

 私はセドナギルディに手も足も出ず、黒羽は力尽きて倒れ、総二もシャークギルディも見なかったという事は多分同じく……。 こんな中で逆転の余地があるのだろうか。

 

「そうね、確かにセドナギルディは強いわ。 私が挑んでいたとしても絶対に勝てなかったと思う」

 

 カエデもセドナギルディの力を見ていたらしい。

 一応私のテイルギアの核であるカエデがそう言ってるレベルなんだ。 そんなレベルの相手にどうすれば……。

 歯を食いしばりながら視線を下に落とした。

 

「私じゃ勝てない。けど、あなたでも勝てないだなんて言ってないわ」

「え?」

 

 驚いて顔を上げるとカエデは抜群のドヤ顔をしていた。

 少なくとも私と会う時はミステリアスな雰囲気を醸し出しているカエデとしてはレアな表情だ。

 

「いやいやいや、カエデ見てたんでしょ? 私ボコボコにされたんだよ?」

「あんな連戦続きだったんだもの。 あなたやその仲間達はかなり体力を消耗してたわよ」

 

 確かに黒羽は体力が万全ならアンリミテッドチェインもあるし善戦できたかもしれないけど、私は結局同じ結果だろう。

 

「それに、あなたは大切な仲間から貰った最高の装備があるでしょ?」

 

 そう言ってカエデは手の上にその装備を出現させた。

 

「エヴォルブバイザー……」

 

 フレーヌが私の専用装備として作ってくれたアンリミテッドチェインのような強化形態になれるという進化装備だ。

 これを使って強化形態になれば今よりももっと強くなれれば、希望はあるかもしれない。

 でも、問題がある。

 

「使おうと思ったけど……使えなかったの」

 

 おそらくカエデは知ってるだろうけど、一応説明しておく。

 使おうとしたのはシャークギルディと闘う時だけど、多分今使おうと思っても同じ事だろう。

 

「これが使えなかった原因、私にはわかるのよ」

「原因って……」

 

 フレーヌは自分の責任と思っていたみたいだけど……。 でもひょっとしたら、私も心の底でエヴォルブバイザーを拒否ってた可能性も無くなはないよね。

 

「原因は私よ」

 

 目を伏せながら、カエデは弱々しく話した。

 流石に予想外すぎてすぐには言葉が出てこなかった。

 

「……いやいや、カエデが原因って。 まさかテイルギアん中からカエデが拒否ったとか言うんじゃないよね?」

 

 ははは、と最後に付け足し、大袈裟に両手を広げる。

 一応言っておくけどこれは私なりのジョークだ。 本気でカエデがそんな意味不明な事をしようとしたなんて思ってるわけがない。

 ほら、私が的外れな事言うからカエデもポカーンとしてるよ。

 

「よくわかったわね」

「えええええええええ!?」

 

 ポカーンとしてたのは私の言ったことがあってたからだったのか……って、そうじゃない。 なんでカエデがそんな事をするのか。

 

「あ、あなたは自分の身体に変な機械を急に着けられてビックリしないの?」

 

 顔を赤らめて言うのは誤解を招くからやめてね。

 

「ビックリするけど……そんな理由!?」

「嘘よ」

 

 流石に私は芸能人じゃないからズッコケる事は無いだろうと思っていた。 しかし今、自分でもわかるほど見事なズッコケを披露してしまった。

 私の反応を見て当初のミステリアスな雰囲気とは程遠い笑顔をカエデは浮かべた。 笑顔を見ると私達と大して歳は変わらないんだと、実感する。

 

「嘘というか、本当はそれも少しあるけど……大きな理由は他にあるのよ」

 

 しかし、直ぐに表情は暗くなり……笑みを浮かべてもそれは悲しいものにしか見えなくなった。

 私は地面にぶつけたおでこを撫でながら立ち上がる。

 理由を聞こうとしたところで、先にカエデが話しはじめた。

 

「戦闘力をあげる為には必然的に属性力を高める必要があるんだけど……これ以上あなたの属性力が上がったら私はついていけなくなってしまうの」

「ついて、いけなくなる……?」

「そう。 だから私は、怖くて……この装備を拒否してしまったの」

「属性力についていけなくなるっていうのは納得し難いけど、どうしてそれが怖いの?」

 

 カエデは身体を震わせると両手で自分を抱きしめ、か細い声で答える。

 

「━━━━私という存在が消えてしまうから」

 

 あまりの衝撃で声が出なかった。

 こんな時に私は、なんて言葉をかけていいのかわからず黙りっぱなしになってしまう。

 

「正確にはこのカエデという人格が消えてしまう、だけど。 ……ツインテールを守る為に偉そうにしてきた私が、自分が消えるのが怖くてツインテールを助ける力を拒否するなんてとんだ傑作よね」

 

 自嘲気味に笑うカエデの目元に薄っすらと涙が見えた。

 カエデが涙を流して泣いている。

 嗚咽を漏らし、カエデは自分の顔を手で覆うとその場にちょこんと座り込んでしまった。

 

「本当にごめんなさい……」

 

 今までミステリアスな雰囲気を纏っていた彼女を見て、私は異世界の人は自分と違うと感じていた。 フレーヌだって年齢の割に色々なことを知ってるし。

 だけど、今目の前で涙を流す彼女は私と同じだ。 そう、私と変わらない同じ女の子なんだ。

 

「謝る事なんてないよ」

 

 両膝を地面につけ声をかけると、カエデは目に涙を浮かべたまま顔を上げる。

 

「寧ろ良かったよ。 私は……自分が消える経験なんてないから曖昧だけど、それが怖い事なのはわかるし」

 

 仮に自分が他人のパワーアップのために犠牲になってくれなんて言われてもすぐ首を縦に振る事なんてできないと断言できる。

 

「それに私は、誰かを不幸にして自分の幸せを掴むのは……違うって思う」

 

 カエデは何を思うのか、再び顔を俯かせる。

 

「私は、あなたの世界のツインテール……好きなの」

「え?」

 

 カエデは立ち上がり後ろを向いて呟いた。

 後ろ姿だけど、さっきの怯えていたカエデとはまるで違うように見える。

 

「消えるのは怖いわ。 でも、あなたの世界のツインテールをあなたと一緒に護れるのなら私は……」

 

 手元にあるエヴォルブバイザーを見つめるカエデ。

 私はすぐにカエデの考えを察した。

 

「私言ったじゃん!誰かを…カエデを不幸にしてまで幸せを掴みたくないって!」

 

 間違いない。

 カエデは自分を犠牲にしてエヴォルブバイザーを使用できるようにするつもりだ。

 

「ダメ!」

 

 思わず私はカエデの腕を掴む。

 カエデ自身が怖いと言っていたんだ。 フレーヌには悪いけど、無理にバイザーを使うことなんてない。

 

「エヴォルブバイザーじゃなくても絶対にセドナギルディは倒すから! みんなと協力して倒すか私がもっと強くなるか、それかフレーヌに新しい武器を……!」

「そんな時間はないわ。セドナギルディはこのまま世界のツインテール属性を奪っていこうとするはず」

 

 正直、私もわかっていた事だ。

 今までの私じゃセドナギルディには絶対に勝てないし、頼れるのはまだ私の知らない未知の力しかないという事も。

 

「私は、あなたの世界のツインテールを護りたい。 そう思ったら……恐怖を吹き飛ばす事ができたわ。 それと、あなたの優しい言葉のおかげでね」

 

 自分の胸に手を添え、目を瞑ったカエデは優しく微笑んだ。

 嘘偽りの無い、正真正銘の本心だと感じるには充分過ぎる笑顔だ。

 

「それに気づいたわ。不幸になるんじゃ無い……。あなたを支え、今まで以上に力になってツインテールを護れるなら……それは私の幸せ」

「カエデ……」

「それに、たぶん属性力がこうやって話したりする事が異常だったのよ。 私は本来の形に戻るだけだから」

 

 気づけば先程のカエデと同じように私の頰に涙が伝っていた。

 私に近づき、カエデは優しく微笑みながら右手で優しく頰に触れてきた。

 温かい……。

 カエデの手からくる温かさは、まるで母親に触られてるような心も温かくなる、とても心地のいいものだった。

 

「私はこの世界のツインテールが好き。 エレメリアンを全て倒してくれなんて言わないわ。 あなたの世界を護ってくれるだけでいいから……」

 

 カエデが左手持っていたエヴォルブバイザーが光りだす。

 それと同時にカエデ自身も光りはじめ、段々と薄くなっていく。

 

「━━━━頼んだわよ。最高のツインテール戦士、奏ちゃん」

 

 頰に触れていた手も光となって消え、残ったエヴォルブバイザーが引き寄せられるように私の手元へやってきた。

 白い空間全体も強く光りだすと、私は段々と飲み込まれていく。

 心地いい光を浴びながら……意識が現実に引き戻されていった。

 

 

 テイルレッドの限界は近かった。

 ブレイザーブレイドを振るうセドナギルディに追いつけなくなっていき、僅かながらダメージを受け続けている。

 

「このままでは……!」

 

 レッドの様子を見ていたフレーヌは意を決して立ち上がる。

 いくら自分に闘う力が無いとってもこのまま傍観しているだけでは収まらなかった。

 タブレットを小型化し、内ポケットにしまい込み走り出そうとする。

 

「っ!」

 

 走り出そうとしたフレーヌの肩を誰かに触れられ、驚いて振り返る。しかし、そこにフレーヌに触れた人物はいなかった。

 

「奏……さん…!?」

 

 先程まで意識を失っていたホワイトが居なくなっていた。

 フレーヌはすぐに事態を把握して再びタブレットを取り出し、セドナギルディの分析を進めはじめる。

 

「ティィィアッ!!」

「ぐっ!?」

 

 そしてとうとう、ブレイドはセドナギルディによって弾かれ、力なく宙を舞う。

 

「いただき、究極のツインテールっ!」

 

 身を守る術のないテイルレッドへ躊躇なく振り下ろされる審判の刃。

 思わず目を瞑るレッド。

 セドナギルディが勝利を確信し、笑みを浮かべたその時、鈍い金属音が周囲に響き渡る。

 

「なに!?」

 

 まず驚きの声を上げたのは正面にいるセドナギルディ。

 

「あ……」

 

 続いてフレーヌがその姿を横から確認した。

 レッドも後ろから刮目した。

 その目に映るは真白きツインテール。

 唯一この世界で選ばれたツインテールの戦士の背中がそこにあった。

 

「……テイル……ホワイト…………!?」

 

 

 セドナギルディの振り下ろしたブレイザーブレイドをギリギリアバランチクローで防ぎ、どうにかテイルレッドを守る事が出来た。

 私が意識を失っている間、色々な事があったらしい。

 セドナギルディはレッドの武器を使っているし、シャークギルディはボロボロの状態で横たわっている。

 私のせいで……!

 この責任は、私自身でとってみせる!

 アバランチクローで押し切るとセドナギルディは大きく跳躍し、距離をとった。

 

「ホワイト……」

「ありがと、レッド。それとごめん、一人で闘わせるような事して」

 レッドは特に反応せず、口をポカンと開けたまま私を見続けている。

「……」

「あの……恥ずかしいんだけど……」

「わ、悪い!」

 

 慌ててレッドは目を逸らした。

 裸見られてても、なかなか露出の多いこのスーツをジッと見られると恥ずかしい。 ……寧ろ裸見られてるから変に意識しちゃってるのかも知れない。

 多分、私の顔も赤くなってると思う。

 気を取り直し、セドナギルディと対峙した。

 

「何……何なの!? さっきあなたは負けたはず……何で立っていられるわけ!?」

 

 セドナギルディは私がここでこうしている事が予想外過ぎるらしい。

 そりゃそうだ。 私だって、心の中でカエデと会わなければとっくに諦めていたんだから。

 

『奏さん、平気……なんですか?』

「うん、この通り元気いっぱい」

 

 フレーヌも信じられないといった様子だ。

 体の痛みも消えてるし、闘うにはベストな状態だ。

 そう、カエデのおかげだよ!

 

「あはは、体力が戻ったところで私に勝てると思ってるわけ? 圧倒的な力の差を感じたでしょ? 涙を流しそうになったでしょ?」

 

 半笑いで問いかけてくるセドナギルディ。

 そう、流しそうになったよ。

 ううん、心の中で私とカエデは涙を流した。

 だから━━━━

 

「━━━━女の子はね……泣けば泣くほど強くなるの!」

「何ですって!?」

 

 腰に手を当てビシッと指差す。

 つまりセドナギルディの属性力とは相性抜群だってわけだ!

 腰に装着されていたエヴォルブバイザーに手を伸ばし、セドナギルディに見せつけるように前へと突き出した。

 

『いけません、奏さん! それは失敗作で使ったところで何も……!』

 

 これは失敗作なんかじゃなかったんだよ。

 カエデが私を信じてくれた。 私を信じて、カエデは私に力をくれた。

 

「今ならわかる、使いこなせる!」

 

 刹那、エヴォルブバイザーが眩い光を放つ。

 見覚えのある、心の色の光だ。

 

「これが、私達の想い……」

 

 不意のことで警戒していたセドナギルディが、ブレイドを構える。

 

「何で……何でこんな計算外なことばかり……!? これ以上、私を狂わせないでよ!!」

 

 エヴォルブバイザーを包んでいた光が、そのなかへと吸い込まれていく。

 光が完全に吸い込まれると、バイザーは属性力をほとばしらせた。

 

「━━━━マキシマムバイザー!!」

 

 銀一色だった装備にエメラルドグリーンのラインが走り、進化した新たな装備。

 私は教えてもらった通り、再びバイザーをテイルブレスへジョイントさせた。

 閃光に怯み、嘆声をもらすセドナギルディ。

 

「まさか……!!」

 

 エレメリンクの時とも、本当の力を手に入れた時とも違う、かつてない力が身体を駆け巡る。

 リボンに、肩に、胸に、腰に、足にも。

 新たな超装甲が展開し、私のテイルギアは最高の力を手にしていた。

 属性力が余波が放たれ、大気が震えた。

 

「これが私の最高の力……(ツインテール)! マキシマムチェイン!!」

 

 セドナギルディと闘っていたレッド。

 ボロボロの状態で横たわるシャークギルディ。

 遠くで意識の無い黒羽を庇っていた志乃と嵐。

 セドナギルディから私を庇い、守ってくれていたフレーヌ。

 この場にいる全ての者が、私の変身に刮目していた。

 そして私は、今起こっている闘いを終わらせるべく、カエデとの約束を守るべくセドナギルディを見据えた。

 

 さあ、最高のツインテールの始まりだ!




どこかのレディースの先生の技と名前が被っているのは仕方がないんです…。
関係ありませんが僕がこの話で一番気に入ってるエレメリアンはオルカギルディだったりします。
覚えてない方、聞いたことない方は良ければFILE.18から19までどうぞ!



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FILE.66 終わりと始まり、聖なるクリスマスバトル!

 カエデのおかげで到達した私の最高の形。

 最高の形態を、この場にいる全ての人が刮目していた。

 新たな装甲は、随所にエレメラルドグリーンのラインや模様が入っており、今までのテイルギアとはまた違った印象を与える。

 私は溢れ出る属性力を何とか抑えこみ、心を落ち着かせる。

 

『フレーヌ、もしかしたら奏……!』

『ええ、エヴォルブバイザーをマキシマムバイザーに進化させ、ついに強化形態のマキシマムチェインに変身したんです!!』

 

 志乃たちの元へ移動したらしく、通信機越しに二人の話し声が聞こえてくる。

「あれが、テイルホワイトのツインテールか……!」

 

 シャークギルディもヨロヨロと起き上がり、息を切らしながら嘆声をもらした。

 

『ちょっと! 既にエヴォルブバイザーで商標登録してるのに! 早くマキシマムバイザーで出願しないとまずいわよ!!』

 

 若干一名、商業の事しか考えていないツインテール戦士がいるけど。

 いつの間に起きたのかと思えば黒羽はまったく……。やっぱり姿は同じでもカエデとは全然違う。

 初めて会った時は黒羽もミステリアスな雰囲気あったんだけどなあ。

 

『あ、あとキャッチコピーも早く考えないと玩具会社に先越されるわ!』

 

 そこまで元気ならセドナギルディと闘うの手伝ってはくれませんか。

 まだ何かごちゃごちゃ言っていたみたいだけど、途中で通信が切れたのはおそらくフレーヌが気を使ってくれたんだろう。

 ノイズが無くなり、改めてセドナギルディと対峙する。

 今の私たちの状況を表すように、曇っていた空は晴れていき、青空が広がりはじめていた。

 

「先程とは比べ物にならない属性力……。まったく、こんな事ならさっさと属性力を頂いておくべきだったな」

 

 そう、セドナギルディが自分の強さを驕っていたおかげで私はマキシマムチェインになる事ができた。

 もし相手がセドナギルディではなく、例えばシャークギルディだったら気を失った時点で私はとっくに負けていただろう。

 

「また涙が似合いそうな顔になったね……! 強くなろうが絶対に私の前で泣かせてみせる! ティィィィアッ!!」

 

 一瞬で間合いを詰め、セドナギルディが問答無用で肩口へと振り下ろしてきたブレイドを素手で受け止めた。

 

「やるねぇ!!」

 

 左手でブレイドを受け止めている間、右手に拳を作ると無造作に繰り出す。

 

「ぐうぅぅ!?」

 

 咄嗟に刀身で防御しようとしたセドナギルディだが、私の右ストレートにブレイドは耐え切れずに砕け散りそのまま胸元へ命中。

 ブリザードがセドナギルディを取り巻いて凄まじい勢いで吹き飛ばしていった。

 凄い力だ。しかしいくら力が漲るとはいえ、あそこまで簡単に砕けるのはおかしい。どうやらあのブレイド……ヒビが入っていたみたいだ。

 セドナギルディは柄だけになったブレイドを一瞥すると投げ捨てる。

 

「ふん、私だって今まで本気出してなかっただけだから!」

 

 セドナギルディが今まで見せてきた表情がついに崩れた。

 本気を出していなかったというのは負け惜しみでも何でもなく事実なのはわかってる。

 私もまだセドナギルディの本気は見ていないけど、今までのが遊びなら……実力は……!

 一瞬の間を置いて、私とセドナギルディは互いに向かって疾駆する。

 

「ティィィィィィアッ!!」

「たああああああああ!!」

 

 互いの右手同士がぶつかり合うと、大きなクレーターを作り、衝撃波で周りの岩が吹き飛んでいった。

 互角だ……!

 単純に力だけなら、私とセドナギルディは全くの互角だった。 勿論、それは私にとっては驚くべき事であるのは間違いない。

 マキシマムチェインになる前は、本気を出していなかったセドナギルディに手も足も出なかった。 実力に大きな差があったのは言うまでもなかったのだ。

 しかし、その実力の差はマキシマムチェインになる事で埋まった!

 ぶつかり合った拳から紫電が走る。

 私もセドナギルディも、一瞬でも気を抜いたら押されてしまう。

 そんな中、セドナギルディは次の攻撃をするがために左手を拳にする。

 

「まだまだ……私の力は、ツインテールはこんなものじゃないっ!」

 

 セドナギルディが繰り出した左の拳を避けると、そのまま腕を掴み、一本背負いのように投げ飛ばす。

 そのまま、素早くセドナギルディに接近し、両足でドロップキックをお見舞いした。

 

「こんのおぉぉ!!」

「!?」

 

 地面を抉りながら転がっている中セドナギルディは鞭を握り、私の足に絡ませそのまま投げ飛ばす。

 なんとか空中で体制を整え、上手く着地出来たのもつかの間、セドナギルディは遠距離から自在に鞭を操り私を追い詰めていく。

 

『奏さん、遠距離ではセドナギルディが有利です! 近距離での戦闘を行ってください!』

「わかった!」

 

 フレーヌのアドバイスをすぐに実行する。

 上から横から、ある時は下から来る鞭を避けながらセドナギルディへと近づき私の腕が届く距離まで接近した。

 

「ひっかかった!!」

 

 なんとセドナギルディは鞭を手繰り寄せると、自らの手に巻きつけ、手刀を繰り出す。

 

『奏さん!』

 

 その瞬間、周囲に鈍い音が響きわたる。

 避ける暇など無かった。

 セドナギルディは勿論、致命的な一撃を与えただろうとニヤつくのが見えた。

 だが、それはすぐに驚愕の表情へと変わる。

 そう、避ける暇が無いなら受ければいいだけの事だ!

 

「━━━━アバランチクローユニバース、カッコいいでしょ!」

 

 私がマキシマムチェインとなった事で、私が使っていた武器であるアバランチクローも強化されていたんだ。

 元のクローと大きな違いこそ無いが、手甲が少しだけ大きくなり、マキシマムバイザーに入っていたエメラルドグリーンのラインが稲妻のように走り、荘厳さが増していた。

 直ぐに、左手にもクローユニバースを装備し、下段から斬りあげた。

 

「こうなったら……!!」

 

 それを上手くかわしたセドナギルディは、手の中に黒い渦を作り出した。

 

『これは……セドナギルディが取り込んだ黒エレメリアンを生成しています!』

「え、ヴァルキリアギルディだけが作れるわけじゃ無かったの!?」

 

 黒い渦から次々と黒エレメリアンが創り出され、どんどんこちらに向かってくる。

 だけど、今更黒エレメリアンが出てきたところで全然怖くない!

 おおよそ百体くらいだろうか。 向かってくる黒エレメリアンに対して、クローユニバースで渾身の一閃。

 拳と同じようにブリザードを伴い、黒エレメリアンを一瞬で撃破した。

 

「こうなったら……本気の本気を見せてやる!」

 

 セドナギルディはもう一本鞭を出現させると同じように腕に巻きつけ手刀とし、両腕を振りかざしながら迫撃してきた。

 クローユニバースと手刀を打ち合わすたびに、その余波が周囲に飛び散り岩を溶かしていく。

 

「私はようやくここまできたの……! ここから私は這い上がる! ここでテイルホワイトを倒す事で……私は最高の科学者なるんだから!! 私の発明が確かなものだと証明してみせる!!」

「あんたほどの科学者なら……人間から属性力を奪わなくてすむ方法を模索できんじゃないの!! そうすれば少なくとも私達人間にとっちゃ、あんたは最高の科学者になれるのに!!」

「うるさい!!」

 

 クローと鞭がぶつかり合い、周囲にソニックブームが轟く。

 

「アルティメギルの科学者の作戦を後追いなんかして……最高の科学者になれるわけないじゃない!!」

「うっ……うるさあぁぁいっ!!」

 

 セドナギルディは激昂し、両腕を振り下ろす。

 私はそれを交わすと大きく後ろへ跳び、一旦距離をとった。

 

「悪の科学者の後追いなんてやめなよ! 私はたくさんのエレメリアンと闘ってきた、中には外道な奴もいたけど……きっと多くのエレメリアンは人間から属性力を奪う以外の方法があるならそっちを選ぶはずなのに!」

「それはあなたがそう思ってるだけでしょ。私はそうは思わないし、アルティメギルの上を目指していく! そのためにあなた、テイルホワイトは邪魔でしかないの……邪魔なの!!」

 

 地面を蹴り、一瞬で眼前へと迫ったセドナギルディは再び両腕を振るう。

 それに合わせクローユニバースを打ちつけると、大気をプラズマ化させ周囲の地面を抉り上げていく。

 セドナギルディはなおも乱撃し、周囲の残状を止める事なく加積させていく。

 

 

「あれが……進化したテイルホワイトのツインテールか!」

 

 テイルレッドはフレーヌ達の近くへ移動し、飛んできた岩を砕きながらホワイトを見つめていた。

 セドナギルディの攻撃を受け止めた衝撃で地面は陥没し、大きなクレーターを作り出す。

 海の神が振り下ろす鉄槌は大地を突き抜けてしまいかねないものだった。

 テイルホワイトが呼び起こしたか、先程まで晴れていた空に分厚い雲がかかり勢いよく雪が降りはじめる。

 

「皆さん、この場にこれ以上いては危険です。すぐさま私が皆さんを基地に転送します」

 

 フレーヌがタブレットを操作しようとしたが、その腕が掴まれた。

 

「フレーヌは残る気なんでしょ……。 なら二人を放っておいて私達だけ安全な所になんかいられないよ!」

「志乃さん、まずは自分の身を案じて下さい。 それに私達がいる事でかえって奏さんの迷惑になる可能性もあります」

 

 志乃を見ずにタブレットを操作しながらフレーヌは淡々と答えた。

 

「そんな事ないもん!」

「どうしてそんな事がわかるんですか」

 

 少しだけ苛立った声を出し、志乃に視線を向けた。

 

「だって……」

 

 言葉が詰まり、目を伏せた志乃を見てフレーヌは再びタブレットに視線を落とした。

 これ以上、彼女らを危険な目に合わせるわけにはいかない。 その思いで、転送を開始しようとした。

 

「だって!」

 

 その指は再び志乃によって止まる。

 立ち上がった志乃をフレーヌは見上げた。

 

「━━━私は奏と親友だから!!」

 

 自信満々に言い放った志乃はジッとフレーヌを見据えた。

 予想外の言葉にフレーヌは開いた口が塞がらない。

 

「え、いやいや! それはわかってますけど……」

「あははははっ」

「え、黒羽さん?」

 

 狼狽するフレーヌの横で黒羽が大声をあげて笑った。

 

「そうね、確かにその通りだわ。これは流石にフレーヌでも反論出来ないわね」

「え、いや……」

 

 黒羽は志乃の肩に手を乗せる。

 

「残りましょう、みんなで。 ホワイトの勝利を見届けるのよ」

「うん!」

 

 志乃が嬉しそうに首肯すると、続いて孝喜もレッドも同じように首を振った。

 未だ不満げなフレーヌへ、黒羽が視線を送る。

 

「フレーヌ、いいかしら?」

「仕方ありませんね……」

 

 大きなため息を吐くと、フレーヌは内ポケットから拳銃のようなものを取り出し、真上に発射した。

 空中で球が弾け、志乃達全員を包み込みドーム型の天井が作られる。

 

「そのかわりこのドームから出ないでください。 このドームは少しの衝撃なら弾けますし雪もしのげますから」

「わー! ありがと、フレーヌ!」

 

 笑顔でお礼を言う志乃を見て、ようやくフレーヌは小さく微笑んだ。

 だが、すぐに真剣な表情へと変わると視線をタブレットへ落としマキシマムチェインの分析をはじめた。

 エヴォルブバイザーではなくなってしまった今、ホワイトの力はフレーヌにとって完全に未知の領域だ。 一刻も早く、調べる必要があった。

 

「これは……!」

 

 マキシマムチェインを分析した結果、フレーヌは血相を変えホワイトへ通信を行った。

 

 

 無限に続く攻防の中、フレーヌからの通信が入り一旦セドナギルディと距離をとった。

 幸いにもセドナギルディも疲れが出てきているようですぐに向かって来ることはなさそうだ。

 

『奏さん、分析結果が出ました!』

 

 恐らくはこのマキシマムチェインについてだろう。

 

『マキシマムチェインはバイザーから発生する強力な属性力を全身に流動させる事で成り立つ形態です。 それはマキシマムチェインに変身している限り発生し続け、長時間戦闘が続くほど、奏さんの属性力はどんどん上昇していきます』

 

 そういえば、私全然疲れてない。 あれだけ長い時間クローを振っていたにもかかわらず、だ。

 フレーヌの分析結果が正しいなら、時間をかければかけるほど私が有利に闘えるという事だろう。

 このまま時間を稼ごうと思ったその時、再びフレーヌから通信が入ると、その考えは間違っていた事に気づく。

 

『しかし……あまり時間をかけすぎると強力な属性力に奏さん自身が耐えられなくなってしまいます』

「私が?」

『はい。テイルギアには使用者の命を守るためのプロテクトはしていますのでその心配は薄いですが、そのかわり変身が強制的に解除されてしまう可能性があります』

 

 この場合の変身解除というのは、おそらくテイルホワイトでいられなくなるという意味だろう。

 

『タイムリミットがいつなのか、正直私にもわかりません。 長時間闘い続けるのは危険です!』

 

 元々テイルギアは安定した出力で闘える事が最大の強みだった。

 そのリミッターを外し、出力をさらに上げる装備を使ったんだ。 テイルギアや、私に影響があるのはなんらおかしい事じゃない。

 おそらくエヴォルブバイザーはその辺りのケアはしてあったはずだ。

 

「わかった! なら私は、気合いで属性力を抑えつけてみせる!」

 

 私はフレーヌの意志に、この場にいるみんなの意志に支えられながら力を振り絞りセドナギルディへと疾駆する。

 左右のクローユニバースを打ちつけながら、体から溢れる属性力を抑えつける。

 クローユニバースを振るうたびに散らばる属性力の光は広大な宇宙に散らばる無数の星々を思わせた。

 

「あーもう、鬱陶しい!!」

 

 一際強く手刀で攻撃を弾かれるも、その力を利用して回転し、セドナギルディを吹き飛ばす。

 そしてすぐさま突貫し、武器と武器を打ち合わせていく。

 武器同士を打ちつける音が後から聞こえてくる。 音速さえも超え、私達は時の狭間で攻防を続けていく。

 

「私は、神に到達したのに!! なんでよ!? なんであなたは私と対等に闘えるの!?」

 

 確かにセドナギルディは強い。 そりゃもう、今までのエレメリアンとは比にならないくらいにね。

 だけど━━━━

 

「みんなを守りたいと、みんなの属性力を守りたいと……ツインテールを守りたいという思いが私に力をくれた! 自分の事しか考えていないあんたに、私のツインテールは負けないっ!!」

 

 みんなに支えられてここまできた。

 エレメリアンだって私の手助けをしてくれた。

 カエデはそれが幸せだと私に力をくれた。

 

「ツインテールを大嫌いと言った私を信じてくれたみんなのおかげで、今の私があるの!」

 

 だから……本当に嫌、ツインテールなんてね。

 

「私はツインテールが━━━━大っっっ嫌い!!」

 

 左右のアバランチクローユニバースが腕から外れ、一つに合体するとそのまま空中で静止した。

 

「ブレイクレリーズ!!」

 

 マキシマムバイザーを介して放たれた強固なオーラピラーがセドナギルディを捉え、拘束した。

 腰の装甲から属性力の粒子が放たれ、私は上空へ浮かび上がる。

 そのまま右足を前へ突き出すと、合体して一つとなったクローユニバースが装着される。

 腰の装甲と合わせて、渾身の一撃を叩き込むためクローユニバースからも属性力の粒子が最終噴射。

 咆哮とともに、光を纏った蹴撃がセドナギルディへ迫った。

 

「クライマックスッ!ドラ━━━━━━━イブッ!!」

 

 豪雪を吹き飛ばして星の輝きを纏いながら、鞭を破壊するとそのままセドナギルディを貫いた。

 

「凄いわね……」

 

 一言だけ発すると、セドナギルディは放電しながらその場に崩れ落ちる。

 

 テイルホワイト史上最大最悪の闘いが、ようやく決着した。

 

 

 私はマキシマムチェインが解除され、その場に膝をつく。

 

「後悔なんてするんじゃないわよ。 私を倒したことをね」

「どういう意味?」

 

 後ろから聞こえる弱々しい声を聞きながら、私は立ち上がった。

 

「私が倒れて四幹部の属性玉が全て集まった。それが何を意味するかは……お楽しみにしといてあげる」

 

 セドナギルディはそのまま爆散した。

 私は振り向くと、先程までセドナギルディのいた所に浮いている属性玉を掴み取る。

 最後に言っていた言葉の意味……どういう事だろう。

 

「テイルホワイトよ」

「シャークギルディ……」

 

 体中に傷を作ったシャークギルディがよろめきながら歩いてきた。

私の隣に来ると、視線を移して雪が積もりはじめた大地に向けられた。

 

「セドナギルディの暴走を止めてもらい感謝している」

「ま、エレメリアンを倒すのは私がこれまでやってきた事だしね」

 

 シャークギルディと同じように私も視線を移した。

 傾きはじめた太陽が赤くなり、積もった雪を照らしている。

 どうせなら……もういいだろう。

 意を決して、私は変身を解いた。

 

「それがお前の……本当の姿か」

「そう、ツインテールが嫌いだから……闘う時以外はしてないの」

 

 私の世界に攻めてきた部隊の隊長と、私を再びツインテールにした元凶とこうして隣り合って話す時が来るなんてね。

 だけど、悪い気はしない。

 

「テイルホワイトよ、我は貧乳を愛している」

 

 まーた始まった。

 エレメリアンは本当にどこまでも自分の属性力に正直すぎる。

 

「だが━━━」

 

 話が続いた事に驚いて思わずシャークギルディを見る。

 

「存外に中途半端な乳もいいものだな」

「……やっとわかった? そうそう、これくらいの大きさが一番なの」

「フッ……」

 

 世界を赤く照らしていた陽は、だんだん地平線の彼方に消えていく。

 それと呼応するように、シャークギルディが光りはじめた。

 

「お前の最高のツインテールに魅せられた。 天にいる我の部下達にも教えてやらねばな」

 

 光が強くなるのを見て私は目を閉じる。

 

「いつかまた、決着つけようね」

「ああ、楽しみにしている」

 

 目を閉じながらでもわかっていた隣からの光が消え、周囲に夜の帳が下りる。

 優しい風が頰を撫で、私の髪を揺らす。

 最後はツインテールにしとけば良かったかな、と。

 天に昇る光に言葉を残す。

 一度倒したエレメリアンをも巻き込んだ大激闘は聖夜の始まりとともに終わりを迎えた。

 

 

 世界の狭間に鎮座するアルティメギルの基地の大ホールにエンジェルギルディがいた。

 シャークギルディが座っていた椅子に腰掛け、テーブルに置かれたお嬢様キャラのフィギュア優しく撫でる姿はまるで聖母を思わせる。

 

「苦戦しているようだな、エンジェルギルディよ」

 

 大ホールの隅にある薄暗い廊下から声が聞こえると、一体のエレメリアンが現れた。

 まるで、何度も修羅場潜り抜けて来たような精悍な声だ。

 

「貴方は……どうしてこちらに?」

 

 エンジェルギルディにとっても思わぬ来訪者であったようだ。

 彼女は眉をひくつかせ、椅子から立ち上がった。

 

「聖の五界も壊滅寸前だと聞き、はるばる来てやったんだ」

 

 神の一剣とは違う、黒いローブを纏ったエレメリアンは大ホールのテーブルに近づくと興味深くフィギュアを眺める。

 

「聞き捨てなりませんわね。 聖の五界が壊滅寸前? 私がいる限り、この部隊が壊滅する事はありませんわ。……絶対にです」

 

 黒いローブのエレメリアンはフィギュアをテーブルに戻すとエンジェルギルディをフードの奥から見据える。

 

「ああ、首領様もお前を信頼している。しかし、これ以上戦士を減らすわけにもいかないだろう」

 

 ピンッと指でフィギュアを弾くとコロコロと転がり、テーブルから落ちてしまった。

 バツが悪そうに拾い上げて、再び弾くと今度はクルクルと回転しエンジェルギルディの前で止まる。

 

「サラマンダギルディ、シルフギルディ、ノームギルディを倒す戦士だ。……いや、失敬。ノームギルディはお前が粛清したんだったな」

 

 馬鹿にするように笑う黒いローブのエレメリアン。

 

「ウンディーネギルディも先程昇天しましたわ」

「ほう、奴も敗れたか」

 

 同胞が敗れた事にまるで興味がないと言わんばかりに会話を終わらせ、次の話へ移る。

 

「お前も知ってると思うが、アルティメギルにとって現在重要な事は究極のツインテールであるテイルレッドだ」

 

 大ホールのモニターにテイルレッドが大写しになる。

 

「この世界の戦士には一般兵ではもう太刀打ちできないだろう。使えないだろうが、シャークギルディ部隊には別の世界へ行ってもらい、この世界の戦士は聖の五界に任せたい」

「それが、これ以上戦士を減らしてはならないという事ですのね」

 

 腕を組み頷くエレメリアンを見てエンジェルギルディは大きく溜息を吐く。

 確かに今のテイルホワイトに一般兵では勝てない事は充分承知していた。

 しかし、聖の五界の隊員も少なくなってきているのも事実だ。

 

「それは、貴方が考えた事ですの?」

「勿論、首領様の命だ」

 

 そう言うと黒いローブのエレメリアンはフードを下ろし、素顔を晒した。

 神の聖鳥を思わせる頭部が現れた。

 しかしそれは、聖鳥の頭部を意匠とした鎧にすぎず、本来の双眸はそのすぐ下で紅い光を灯している。

 その面は精悍さを備えていた。

 

「安心しろ、この俺がこの世界に留まってやる」

 

 身に纏うローブの下から闘気のような炎が立ち上らせると、一瞬にしてローブは灰も残らず燃えつきた。

 青い炎を彷彿とさせる後頭部から生えたたてがみ、筋骨隆々な肉体に歩みを進めるたびに床を引き裂くような三本の爪、背に生えた太陽のような翼をマントのように下ろすその姿は荘厳を備え、敵を威圧するには充分だ。

 

「サラマンダギルディ、アポロギルディに、フェニックスギルディとイフリートギルディ……そして貴方、ガルダギルディ。 アルティメギルには炎自慢の方が揃っていますわね」

「アポロギルディはともかく、他の奴らとはレベルが違う」

「そのセリフも皆さん仰っていますわね」

 

 エンジェルギルディは両手を広げ呆れたと言わんばかりに首を振った。

 ガルダギルディは余裕のある笑みを浮かべるが、すぐに表情を変える。

 

「助っ人とはいえ、俺はお前に従うつもりは毛頭無い事を伝えておく。 俺は俺のタイミングでこの世界のツインテール戦士を倒させて貰うとする」

「この世界の戦士は……テイルホワイトは手強いですわよ」

 

 翼のマントを翻し、ガルダギルディは大ホールの出口へと向かい歩きはじめた。

 

「テイルホワイト……面白い。 確かに理想の''ヒロイン''だが俺の炎で溶けてしまうのは惜しいものだ」

 

 ガルダギルディが消えたのを確認したエンジェルギルディはこの艦にいる残存兵士達へ招集をかけた。

 

 そしてしばらくすると、シャークギルディ部隊の戦士は次々と別の世界へと出発していった。

 勿論、反対する者もいた。

 

「納得できません! 誇り高きシャークギルディ部隊が……諦めて撤退なんて……! シャークギルディ隊長に泥を塗ってしまいます!!」

「ウォルラスギルディ……」

 

 中でも若手で急成長を遂げていたウォルラスギルディは、首領の命令と聞かされても反対し艦に残り続けている。

 一番の古株であるサンフィシュギルディは、そんな彼の肩を叩き慰めていた。

 

「確かにウォルラスギルディの気持ちは痛いほどわかります。 しかし、別の世界へ行きそこで戦果を上げれば多少なりとも隊長は報われます。 隊長は我々が命を捨てる事を望んではいなかったのですから」

 

 拳を握りしめ、悔しさを隠しきれなかったウォルラスギルディだが、なんとか頷くと、小型の移動艇にサンフィシュギルディと乗り込んだ。

 残っていた最後の二体が出発するのを見届けると、エンジェルギルディは再び基地の中へと姿を消していった。

 

 

「奏さーん!」

 

 優しい風を受けながら歩いていると、フレーヌに呼ばれ小さく手を振り近づいた。

 近づくと、志乃がレッドに抱きついているのがわかった。

 

「紅音ー!!」

 

 しかも大声で泣いている。

 何があったんだろう……。 でも、レッドは男だからあんまし胸を押し付けるのはやめたほうがいい。

 

「実は……これを見てください」

「これって……」

 

 フレーヌの指差す方を向くと、そこには極彩色ゲートが出現していた。

 よく見ると今は人が通れる大きさだけど、段々と小さくなっているのがわかる。

 

「紅音さんが来た時と同じです。 エインヘリアルであるシャークギルディと彼がフルパワーで闘ったことにより空間が避け、またゲートを作り出してしまったんです」

 

 なるほど、志乃がレッドに抱きついてた理由がだんだんと読めてきた。

 フレーヌが同じ説明をみんなにしていたなら、レッドは自分の世界に帰るためにゲートに入ろうとしただろう。

 レッド……というか紅音と一番よく話していたのは志乃だし、寂しくて止めてるんだろうな。

 

「悪いな、志乃。俺の世界のツインテールもエレメリアンに狙われててさ」

 

 志乃の胸から顔を上げ、レッドは優しい声音で話しかけた。

 

「俺もツインテールを守らなくちゃいけないんだ」

 

 流石にエレメリアンに狙われてると言われれば志乃も止められないだろう。

 瞳に涙を浮かべたまま、ゆっくりとレッドから手を離した。

 

「ですが紅音さん。 このゲートが本当に元の世界に通じているかどうか断言できません。仮に通じているとしても生身でゲートに入るのは危険です」

 

 そういえば危険なんだよね……。

 なんか私も生身で別の世界に行ったり来たりしてるせいでそういう感覚が無くなってきてる。……レッドだって生身でこの世界に来たわけだし。

 

「いや、俺にはわかるんだ。 みんなのツインテールと想いが、俺達を結ばせてくれるってさ」

 

 私もツインテイルズの世界に行った時に、同じような思いでゲートに飛び込んだんだっけ。

 今のレッドの……総二の思いがなんとなくわかった気がした。

 

「俺のツインテールは縁だ。 だから、ツインテールが俺たちを繋いでくれる」

 

 総二の後ろにあるゲートはいつのまにか人一人がやっと通れるほどの大きさになっていた。

 総二は志乃や嵐、黒羽にフレーヌと順番に握手や言葉を交わしていく。

 そして最後に、私の前へと立った。

 

「奏のツインテール、最高だったぜ」

「最低の言葉をありがと」

 

 握手を交わし、二人で一緒に笑う。

 手を離し、総二がゲートへ振り向くとその拍子にツインテールが私の手に当たった。

 サラサラで、温かくて、想いがこもってる……これが総二のツインテールなんだね。

 そういえば、まだ言い残した事があった。

 

「ん?」

 

 ゲートへ歩く総二へ近づき、肩をトントンと叩くとこちらに振り返った。

 

「私のせいだけどさ……。 なるべく思い出さないでね……」

 

 一応他のみんなに聞こえないように口元に手を当てておいた。

 多分顔も赤いだろうからなるべく見えないようにしないといけない。

 

「えっと……おう」

 

 総二の返事を聞いた私は、小さく手を振るとみんなの元へと戻る。

 総二はゲートの前で歩みを止めると、こちらに向いてサムズアップした。

 みんながそれぞれ手を振ったり、同じようにサムズアップしたり、腕を組んでいたりと……別れの挨拶をしたのを見届けてから総二はゲートへ飛び込んでいった。

 まるで待っていたかのように、総二が飛び込むとゲートはみるみるうちに小さくなり、まもなく消滅する。

 辺りが完全に暗くなった中、私達はしばらくその場でゲートが消滅した場所を眺めていた。

 

「もしかしたら、私は間違っていたのかもしれません」

「え?」

 

 隣でフレーヌが呟いたのと同時にまた心地よい風が吹き、夜でも映えるオレンジ色の髪の毛が揺れる。

 

「私の考えでは強いツインテール属性を持つもの同士が惹かれあって、偶然この世界に紅音さんが来てしまったと思っていたんです。確証は持てませんでしたが……」

 

 確証が持てなかったから、私達には敢えて話さなかったという事だろう。

 

「もしかしたら紅音さんがこの世界にきたのは必然だったのかもしれません。この世界で奏さんに出会い、一緒にアルティメギルから守るために来てくれたんでしょう」

 

 しゃがんでから、少しだけ積もった雪を手のひらに乗せてフレーヌは呟いた。

 

「これも確証は持てませんけどね」

「そうだね」

 

 私を見上げて笑ってから、フレーヌはそっと雪を地面へと戻した。

 

 

 それからしばらく、静かな時間が流れた。

 

「さ、帰ろ」

 

 隣で涙を浮かべる志乃の手を握る。

 みんなが頷いたの後、志乃も頷き涙を拭った。

 

「では私の基地で完勝祝いとクリスマスパーティーを同時開催しましょう!」

 

 いつのまにか服の色を赤く変えたフレーヌが、いつのまにか手に持った鈴を鳴らしながら提案した。

 

「やる気満々だな、ちびっ子」

「誰がちびっ子ですか!」

 

 フレーヌをからかって笑っていた嵐は、彼女の転送装置で先に基地へと送られた。 ……本当に基地に送ったんだよね?

 

「商標の出願しないといけないけど……TVに映ってないしまだ平気よね」

 

 珍しく黒羽も乗り気なようで、嬉しそうな顔をしながらうんうんと頷いている。

 フレーヌと黒羽が、同時開催パーティーについて話し合っていると志乃が間から話しはじめた。

 

「ダメだよ二人とも。 クリスマスがどういうものか、私が徹底的に教えてあげるからね!」

 

 気づけば志乃も楽しそうに、クリスマスについて二人に説明していた。

 

「ちょっと奏ー! 会議に参加しないと好きなパーティーにできないよー!」

「はいはい」

 

 どうやら元気になってくれたみたいで良かった。

 志乃は笑顔が素敵な娘なんだから、こうでなくっちゃね。

 今日は長い一日だったなあ……。

 きっと普通の女子高生はクリスマスを満喫しているはず……!

 この後のパーティーで少しでも追いついて見せるんだから!




聖なるバトルでは別れが多くなりましたね。
やはり愛着のあるキャラクターが今後登場しなくなるのは自分的にも結構考えさせられます。

唐突ですが自分は仮面ライダータイガが好きです。
なので戦士二人の武器はクローと、斧にしていたり……。
どうでもいい話題ですみません…。


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FILE.67 奏と京華のショッピングデート

テイルホワイト・マキシマムチェイン

エヴォルブバイザーから進化したマキシマムバイザーを用いて変身したテイルホワイトの強化形態。 鮮やかなエメラルドグリーンのラインが随所に施され、これまでの装甲とは違った印象を持つ姿となった。 この形態最大の特徴は''闘いが長引くほど強くなる''事であり、これを活かしてセドナギルディを追い込み倒す事が出来た。 しかし、この特徴は変身者自身では抑える事が出来ないため、長く使用すると強化され続ける属性力に身体が耐えられなくなり強制的に変身が解除されてしまうリスクもある。 自分の限界を把握し、使用する事が求められるハイリスクハイリターンの形態。

武器:アバランチクローユニバース 他
必殺技:クライマックスドライブ



 奏の世界に停泊するアルティメギルの艦では、次に出撃するエレメリアンを決める会議が行われていた。

 エンジェルギルディが進行役となり、テイルホワイトとテイルシャドウの戦力分析をしていく。

 そのデータではシャドウにはアンリミテッドチェインの情報が載っているがホワイトのマキシマムチェインに関しては記されていない。

 セドナギルディは情報を基地に送っていなかったらしい。

 

「戦力の情報は以上ですわ。それでは次に出撃される方を……」

 

 エンジェルギルディが大ホールを見渡す。

 

「俺の出番のようだな」

 

 聖の五界の隊員しかいなくなってしまった大ホールで黒いローブを着たエレメリアンが立ち上がった。

 

「あら、早速ですの?」

 

 予想外の志願者に驚くエンジェルギルディ。

 

「今までのデータを見せてもらい、すぐにでも会いたくなってしまってな」

 

 黒いローブを脱ぎ捨て、全貌を露わにしたガルダギルディ。

 ガルダギルディが出撃しようとする事にエンジェルギルディはまんざらでもない様子だが、聖の五界の隊員の中には快く思わない者もいる。

 一人の隊員が立ち上がり、ガルダギルディの近くへ移動していった。

 

「隊長殿、助っ人の出る幕ではありませぬ! この私、ヘルハウンドギルディがテイルホワイト及びテイルシャドウの属性力を奪取して見せましょう!」

 

 燃えるような赤い目に黒い体が特徴のヘルハウンドギルディは自信満々に胸を張った。

 

「確かに貴方はかつての四幹部に負けず劣らずの実力を持っていますが……ホワイトもシャドウも強くなっていますのよ」

 

 四幹部の中では一番の実力者であったサラマンダギルディと肩を並べるとエンジェルギルディが称する程の実力を、彼は持っていた。

 今となってはサラマンダギルディよりもセドナギルディの方が実力は上になってしまったのだが……。

 

「心配は無用であります。 私とてこの世界へ来てからただのんびりと過ごしてきたわけではありませぬ」

 

 ヘルハウンドギルディは自分の席へと戻ると、ノートパソコンを立ち上げた。

 

「モケッ」

 

 パソコンから伸びるコードを渡すと、戦闘員が大ホールのモニターへ接続し、彼のパソコンに写っている画像と同じものが表示された。

ごく普通の、テイルホワイトの写真だった、

 テレビで放送された動画をキャプチャーしたものらしい。

 

「スゥゥ…………ハアアッ!!」

 

 気合いを入れると、ヘルハウンドギルディはキーボードを素早く操作。 そして、それは一瞬のうちに終わってしまった。大ホールはにわかにざわつき始める。

 

「ほう……」

 

 大袈裟に操作をしたヘルハウンドギルディへ注目が集まる中、ガルダギルディが感心したと言わんばかりに大モニターを見て頷いた。

 それに連れられ、皆が大モニターへと視線を移していく。

 

「なんと! モニターに写っているテイルホワイトがジト目に!?」

「まさか今の一瞬で編集したっていうのか!?」

 

 口々に驚きの声を出す聖の五界の隊員達。

 先程までキョトンとした顔のホワイトが表示されていたが、ヘルハウンドギルディによってその表情は変えられていた。

 パッチリと開けていた目は、俗に言うジト目へと変えられ半開きの口と相まってこちらが小馬鹿にされているような気分へもっていかれる。

 

「これが私の力であります。 自らの信仰する愛のためならば、一瞬で自らの好みの表情へ変えることができるのです!」

 

 拳を強く握ると、ヘルハウンドギルディは今まで自分が作ってきた画像を大モニター全てに表示させた。

 笑顔の画像、悲しい顔の画像、ドヤ顔の画像、無表情の画像……写っている全てのホワイトの目がジト目になっていた。

 

「いい気合いだな。了解だ、今回の出撃はお前に譲るとしよう」

 

 ガルダギルディは腕を組むと席へ座り込む。

 それを見たヘルハウンドギルディはエンジェルギルディに出撃の許可を迫った。

 

「隊長殿、私の実力を見ていただきましたか。 この私に出撃許可を! 必ず生でジト目を……違った、ツインテール属性を頂いて参ります!」

 

 微妙に本音が混ざりながらも、ヘルハウンドギルディは最後まで言い切り、トドメとばかりにもう一枚の編集画像を表示させた。

 エンジェルギルディは指を顎に当て、しばらく考え込むと頷き微笑んだ。

 

「わかりましたわ、次は貴方に出撃してもらいます。半眼属性(ハーフアイ)のヘルハウンドギルディ……期待していますわ」

「ははっ!」

 

 最後にもう一枚、画像をジト目へと編集するとヘルハウンドギルディは駆けて大ホールから出ていった。

 

 

 ヘルハウンドギルディが出撃した事で、会議は終了し、聖の五界の隊員達が退室していく。

 そんな中、エンジェルギルディとガルダギルディだけ大ホールに残り何かを話していた。

 

「どうせ貴方も行くおつもりなのでしょう?」

「ああ。 俺は一度決めた事はいかにしても実行する戦士だからな」

「そうですわね。 くれぐれもヘルハウンドギルディの邪魔はしないでくださいまし」

「善処しよう」

 

 翼のマントを翻して、ガルダギルディも同じく出撃していった。

 

「……」

 

 ガルダギルディが消えた廊下を見て目を細めるエンジェルギルディも翼を広げると大ホールから姿を消す。

 誰もいなくなったにも関わらず、大ホールのモニターにはジト目のテイルホワイトが表示されていた。

 

 

 聖なる日の聖なる闘いから一夜明け、私は今お母さんと一緒に前にみんなで来たショッピングモールを歩いていた。

 どうやら新しい服が欲しいらしく、私の意見も聞きたいとの事で半ば無理矢理連れてこられた。

 正直私も買いたいものがあったから丁度よかった。。

 だけど……実は私はお母さんと歩くのはあまり好きじゃなかったりする。

 その理由は……お母さんが元女優であること。

 私はあんまり知らないけど、余程人気だったのかこうして歩いていると必ずと言っていいほど声をかけられるのだ。

 

「もしかして渥美京華さんですか!?」

 

 声をかけてきた女の人、私とそんなに歳は変わらなさそうだけど……よく知ってるなあ。

 あ、ちなみに渥美というのはお母さんが女優をしている時に使っていた名字で、それと結婚する前の旧姓である。

 毎回声をかけられてるんだから帽子かぶったりすればいいのに、とは思うんだけどなあ。

 

「はい、渥美京華でーす!」

 

 引退後もファンに快く接しているせいか、お母さんのファンクラブは今も継続しているらしい。

 確か女優業は十四歳辺りから始めて妊娠するまでの五、六年間だった気がするけど……その短い期間でここまでになれるもんなのかな。

 あ、大きい声で言うもんだから周りにいた人たちまでザワザワしはじめた。

 一人一人、丁寧に対応するお母さんを見て、私はなるべく目立たないように帽子を深く被り直しその場から離れようとする。

 だが、何十人か集まってしまったこの状況では私の行為を目撃する人もいるのは勿論だった。

 

「あ、もしかして京華ちゃんの娘さん!?」

「あはは、どうも……」

 

 おそらくお母さんと同年代の女性に気づかれてしまい、とりあえず愛想笑いをしておく。

 そう、これこそが私がお母さんと出かけたくない理由だ。

 お母さんが人気でファンの人たちが喜ぶのは娘の私にとっても誇らしいが、必ずこうして私にも注目が集まってしまう。

 

「娘さんマジで!?」

「奏ちゃーん!」

「息子の嫁になってやってくれ!」

 

 名前が知られているのはおそらく私が赤ちゃんの頃にお母さんがブログで大々的に公表したせいだろう。 逆にそれ以外の理由で知られてたら怖すぎるし。 てか嫁ってなに……。

 テイルホワイトの時よりかはマシだけど、やっぱり注目されるのは苦手だなあ。

 人の海から逃れ、お母さんに合流場所をメールで送信しておく。

 どうせしばらくかかるし、その辺の服でも見てようかな。

 

「奏ちゃーん」

 

 と思ったら媚び媚びな声で走ってきた。

 ゴメンねと手を胸の前で合わせるのを見て、私は帽子を脱ぎお母さんの頭へと被せる。

 

「え、どうしたの?」

「それなら多少は気づかれにくいと思ってさ。一日貸してあげる」

「うーん、私としては不本意だけど……奏が言うなら仕方ないかな」

 

 不本意とか本人の前で口に出して言う事じゃないと思うけど。

 それにしても、やっぱり不思議でならない。

 今の言葉から察するにお母さんは変装するのを好んでいない……てことはファンから声を掛けられるのを悪く思っていないと言うことだ。

 今でもこんなに目立ちたがり屋なのに、早々と女優を引退したのはなんでだろう。

 

「ねえ」

「ん?」

 

 近くにある服を手にとっていたお母さんはその服を元の位置に戻した。

 

「お母さんって引退しなくても私が産まれてからは女優に復帰できたんじゃないの?」

「……確かにね」

 

 少しだけ間を空けてからお母さんは首肯した。

 お母さんは帽子を脱ぎ、先ほどとは逆に私に被せてきた。

 

「でも、女優してたら奏と会うの減っちゃうじゃない? 女優も魅力的だけど、私は奏の母親として奏とお父さんと一緒にいたくてね。 それで引退したのよ」

 

 ウインクすると、お母さんは違う服を手に取り自分に合わせはじめた。

 その様子をジーっと眺めていると視線に気づいたお母さんは再びこちらに向き直る。

 

「世の中には女優と母親を両立させる人もいるけど、私はそんな強くないし……それはできないと思ってね。 女優引退したこと、後悔なんてしてないからっ!」

 

 手を腰に当てエヘンと威張るお母さん。

 いつもなら歳を考えてとか言うとこだけど、今日は見逃してあげよう。

 うん、お母さんが元女優という事が私の自慢なんじゃない。こうして普通の母親してくれるのが私が自慢したい事なんだよね。

 

「ありがとね、お母さん」

「いえいえ……あら?」

 

 相変わらず威張るお母さんに私は再び帽子を被らせた。

 

「でも目立つから帽子は被ってね」

「ええ……」

 

 いい話をしたら帽子を脱げると思ったら大間違いなんだから。

 ……属性力の中には母親属性、なんてものもあるのかなあ。

 

「奏、行くよー」

 

 いつのまにかお店の外に出ていたお母さんに呼ばれ、私も急いでお店を出た。

 お母さんは既に両手に買い物袋を持っていたので一つは私が持ち、そのままモール内を二人で歩いていく。

 ある時は家の事や、最近の事、テイルホワイトの事を話しながらショッピングを続け、飲食店へと入った。

 失礼かもしれないけどモール内にあるにしては小洒落た喫茶店だ。

 ま、私の推しがパターバットなのは変わらずだけどね!

 私が通路側の椅子に、お母さんが壁側のソファへと座りそれぞれパスタを頼む。

 パスタを待つ間、今度は学校の話になると、自然と友達の話へと移っていった。

 

「それで奏、彼氏はできたの?」

「え、何言ってんの?」

 

 反射的に答えてしまった。

 お母さんってやたらと私に彼氏が出来るのを楽しみにしてるんだよねえ……。

 うーん、私には全然わからない。

 

「嵐君……だよね? その子と別れてから全然その気配が無いから気になるじゃない?」

 

 そう、お母さんは私と嵐の関係を知っている。

 私が告白に成功し舞い上がっている中、つい勢いでお母さんに報告してしまったのだ。 あの時の私を恨む……二重の意味でね。

 

「あの子結構イケメンだし……私も気に入ってたんだけどなぁ。 ねえ、やり直さない?」

「いやいや、もうそんな対象じゃないって。今もこれからも普通に男友達のままだよ。 あ、来た」

 

 ようやくテーブルへ運ばれてきたパスタを食べ、美味しさのあまり顔が緩む。

 

「それに嵐だって今更私とそういう話になるのは迷惑だって」

「あ、嵐くーん!」

「え?」

 

 突然お母さんは大きく手を振り、私の後ろにいるであろう人物を呼んだ。

 驚いて振り返ると……お店の外に確かに嵐がいる。

 嵐も突然お母さんに呼ばれて驚いているようだ。

 

「ちょうどいいとこ! おいでおいで!」

 

 お母さんを見ると手招きし、どうにか嵐を店内に呼び込もうとしていた。

 いくら面識があるとはいえ普通親子でいるところに男友達呼び込むか!?

 私は嵐の方へ向き、必殺技を繰り出した。

 

(来るなっ! 来るな〜!!)

 

 思いよ届け!!

 来るなオーラを全開にして、どうにか嵐を遠ざけようとする。

 しかし嵐は大声を出すお母さんに負け、頭を下げながら店内へ入ってきた。

 この鈍感野郎め!

 

「嵐君いいところ!丁度君の話をしててね、座って座って!」

「あ、ど、どうも」

 

 そしてわざわざお母さんは私の隣の椅子に嵐を座らせた。

 ああ……なんでこんな事に……。

 なんかお母さんは嵐に食べなと言ってるし、これは逃す気ないな。

 とりあえず隣は気にせず、無心でパスタを食べる機械になろう。

 

「それで嵐君はなんでここにいるの?一人だよね?」

「え、なんでわかったんですか?」

「だって嵐君、時間も気にせず歩いてたし、私の呼びかけでお店入ってきてくれたし、彼女や女の子と歩く服着てないからね」

 

 洞察力凄すぎるでしょ。

 まさか女優やってるとこうなるわけ? ここまでくるとなんか怖いって。

 

「えーっと……実は、ちょっと買い物がありまして」

 

 へえ、嵐も買い物かあ。だけどそれだけでそんな吃ることあるかな。

 

「……はっ! そういえば、この時間限定のスイーツ買うの忘れてた! ごめんね嵐君、ちょっと待ってて!」

 

 お母さんは凄い勢いで立ち上がると、そのまま店内を駆けて出て行ってしまった。

 確かその限定スイーツってかなりの行列ができるほどの人気だったから……しばらく戻ってこないな、これは。

 

「……」

「……」

 

 どうしてくれんの、この状況?

 気まずすぎるし、側からみたら向かい合わないで座ってるの変に見られるし……いや、ほんとどうすんの。

 ……もうこの空気に耐えられないし、しょうがないか。

 私は椅子から立ち上がり、買い物袋を漁るとラッピングされた茶色の紙袋を取り出す。

 

「ん」

「え?」

 

 そのまま嵐に差し出すが、嵐は無表情のまま受け取ろうとしない。

 しょうがないので私の座っていた椅子の上に置き、私はソファへと座る。

 

「遅れたけど、クリスマスプレゼントね」

「え! 俺にか!?」

 

 本当は次にみんなで会うタイミングでみんなに渡す予定だったけど……とりあえず気まずい空気を壊すためにはしょうがない。

 みんなにはお世話になってるから、みんなへのプレゼントを買うため今日はお母さんについて来たってわけだ。

 

「開けてみてもいいか?」

 

 別にダメな理由もないし、首を振って答えた。

 私の反応を見て嵐はラッピングを外し、紙袋を開けると私が選んだプレゼントを取り出した。

 まあ、私には嵐の欲しいものなんてわからないから適当だけどね。

 

「うおお! マフラーじゃねえか!」

 

 予想外に喜んでくれたみたいだ。

 マフラーでこれだけ喜んでくれるならお財布にも優しいしあげた甲斐があるってものだね。

 

「サッカー部の練習朝早いでしょ? 冬は寒いだろうし、嵐は制服来てる時にマフラーもネックウォーマーも着けずに寒そうだったからさ」

 

 別に真剣に考えてたわけじゃないからね。

 私達が温かい格好してる中、一人だけブルブル震えられるのも居心地が悪いからだよ。

 

「まさか……手編みか!?」

「いやいや、タグ付いてるでしょ」

 

 何を期待してるのか知らないけど私は編み物は大の苦手だからそれは期待しないほうがいい。

 

「どうよ?」

 

 いつのまにか嵐はマフラーを首に巻いていた。

 

「うん、似合ってるよ」

 

 私が選んだんだから似合わないわけがないんだけどね。

 そういえばゼブラギルディっていうのはマフラー好きだったっけ。

 マフラー好きなのに夏に現れたエレメリアンの事を考えていると、嵐から声をかけられた。

 

「じ、実は俺も━━━」

 

 嵐の言葉は突然の騒音で掻き消されてしまった。

 これは、水の音だろうか。

 私達は店の外が見える位置に移動すると、ショッピングモールの一階にある噴水にエレメリアンがいるのを確認した。でもなんであんな所に……。

 すぐにでも向かいたい所だけど……ここじゃ人が多くて変身できない……!

 

「きゃー!! 京華さんよー!!」

「え?」

 

 突如お店の中にいた人とモール内にいた人達が遠くにいるお母さんの元へ走っていった。

 お母さん一体何した!? てか、もう少しエレメリアンに反応してもいいんじゃないの。

 ……まあ、いいや。

 お母さんの人気のおかげで周りには店員さんも含めて嵐しかいなくなったし、監視カメラに気をつけながら変身すれば!

 

「テイルオン!」

 

 変身が完了した私は素早く店内から出ると吹き抜けのエントランスから飛び降り、一階にいるエレメリアンの前へ立つ。

 噴水の上に座るエレメリアンは黒い……犬だろうか、ドッグギルディかな。

 ようやく私へ視線を移したドッグギルディは腕を組んだまま立ち上がり、大声を上げた。

 

「私は……噴水が好きなのだ! 水が吹き出るのは最高だぁぁぁ!!」

 

 な、何を言ってんのこのエレメリアン!?

 まさかこのドッグギルディは噴水属性とでも言うんだろうか。

 アホな事を言うドッグギルディを私含め周りの人が見ていると今度は肩を震え笑いはじめる。

 ヤバイ、こんな変な奴もアルティメギルにいるのか……。

 

「ふっはははは!その目、その顔だ。引っかかったなテイルホワイトよ、私の術に!」

「え、どういうこと?」

 

 ようやくドッグギルディは噴水から飛び降り、濡れた足でモールの床を歩いて濡らしていく。

「私は半眼属性(ハーフアイ)のヘルハウンドギルディ! 敢えて奇天烈な事をしたおかげで、見事にお前はジト目になっていたのだ……!」

 

 じ、ジト目……。

 自分の属性のために恥を捨てていたって事か……。

 これはなかなかの強敵かもしれない。

 あ、そういえばドッグギルディじゃなかったんだ。

 

「まあ、いいや。 さっさと倒して終わりにするっ!」

 

 アバランチクローを装備し、ヘルハウンドギルディへと飛びかかった。

 不吉な笑みを浮かべるヘルハウンドギルディはクローの攻撃をかわして後ろへ回り込む。

 私の渾身の攻撃を簡単にかわすなんて!?

 

「私は言っただろう。 お前は引っかかったのだ、私の術にな!」

「え!?」

 

 突如として、私の頭上に黒い十字架が現れるとそこから放たれる光に包まれ身動きが取れなくなってしまった。

 しかもそれは私だけじゃなく、噴水の近くにいた人たち全てがそうなっている。

 これはまるでオーラピラー……!?

 

「これこそ私の奥義だ。一度でも私をジト目で見ると対象を拘束し、好きなだけジト目を拝める事ができるのだ。 さあ、私をジト目で見ろぉお!!」

 

 なんて無駄な能力!

 だけどこの拘束の強さは本物だ。

 指一本も動かせない私へ、ヘルハウンドギルディはゆっくりと近づくと━━━━━━正座して頭を床に叩きつけた。

 これは……土下座?

 あまりにも意味のわからない行動をとるヘルハウンドギルディにどう反応すればいいのかわからない。

 

「はっはー! またもジト目になったな、テイルホワイト!」

「え、嘘!?」

 

 そうか、さっきのこいつの言葉を忘れてた。

 敢えて意味のわからない事をする事でたジト目を引き出そうとしてる……!

 

「うむ、周りからのジト目も最高に堪能した。 そろそろだな」

 

 属性力を奪う光輪を出現させるヘルハウンドギルディ。

 

「名残惜しいが仕方がない……。 頂こう属性力……ぶげっ!?」

 

 今にも光輪が発射されるかというところでヘルハウンドギルディは吹き飛ばされ再び噴水の中へ飛び込んだ。

 

「力が圧倒的で無くても、特殊能力の搦め手で真価を発揮するエレメリアンもいる……覚えておいた方がいいわね。 ま、ヘルハウンドギルディは普通の一般兵よりは全然強いけれどね」

 

 テイルシャドウが振り返り、笑みを浮かべて話した。

 続けて斧で私の頭上にある十字架を叩くと消滅し、術も解け体が自由となる。

 

『奏さんすいません! 今放送しているふぉーくーるあふたーがとても良いところだったもので……!』

 

 こんな時に……とも言えないか。

 少しくらいフレーヌにも気を抜いて貰いたいものだし、ゆっくりアニメでもなんでも見るのは歓迎だ。

 

「おのれ!私のジト目タイム&ツインテール奪取を邪魔しおって……!!」

 

 噴水から飛び出てきたヘルハウンドギルディは瞳を紅く、妖しく光らせ咆哮を上げた。

 

「お前もジト目になるのだ!! テイルシャドウ━━━━!!」

 

 術が解けた私にではなく、ヘルハウンドギルディはシャドウに向けて疾駆する。

 

「悪いわね」

 

 シャドウは最低限の動きでかわし、ノクスアッシュをブレイクレリーズさせた。

 

「エレメリアン連中の馬鹿な真似なら……散々見てきたのよ!」

 

 ヘルハウンドギルディの振り向きざまに、斧を一閃し、吹き飛ばした。

 

「ホワイト!」

「オーライ!」

 

 私はすぐさま嵐とのエレメリンクでポニーテールとなるとブライニクルブレイド引き抜く。

 ブレイクレリーズし、ブレイドを倍の長さにまですると私もヘルハウンドギルディ目掛けて必殺の一斬を叩き込んだ。

 

「ぐ……皆をジト目にする事が出来たのだ! 私に悔いはない!!」

 

 体中をスパークさせると、間も無くヘルハウンドギルディは爆散し属性玉がこちらへふわふわと飛んできた。

 ヘルハウンドギルディが敗れたのと同時に周りの人の術も解除され、皆が押し寄せてくるかと思いきやそうでもなかった。

 

「さ、握手は一回千円よ」

 

 シャドウがいれば人避けにいいかもしれない……。

 当然ギャラリーが寄り付かない中、勇敢にもそんなシャドウへ近づいていく者がいた。

 

「流石に奴程度なら倒すのは造作もないか」

 

 黒いローブを着ていて素顔はわからないけど、異様に大きい身長に、下から見える鋭い三つの爪。

 これはどう見ても……。

 

『エレメリアンです!!』

 

 私もシャドウもすぐに距離を取り身構えた。

 この威圧感……どう考えても一般兵じゃなく、幹部のものだ。

 

「やはり……俺の目に狂いはなかった」

 

 熱気を昇らせ、一気に炎を吹き上げらせると黒いローブは灰すら残さず一気に燃えてなくなり、エレメリアンは素顔を晒した。

 何かの鳥をモチーフとしたような頭部の鎧、青いたてがみに太陽のような翼、焔が彩られた肉体……見ているだけで火傷しそうな姿だった。

 

「俺の名は神鳥、ガルダギルディ。この世界のツインテール属性を頂くために降り立った戦士だ」

 

 腕を組み、ガルダギルディは辺りを見わたすと深い溜息をついた。

 

「失礼、お前達のようなヒロインが他にいないものかと思ってな」

 

 ヒロインって、ツインテールの戦士のことだろうか。

 ツインテールの戦士は私達二人しかいないけど、他のエレメリアンと情報共有できてないのかな。

 とりあえず周りに集まっていたモール内のお客さんに避難を促し、逃げてもらった。

 ガルダギルディは腕を組み、虚空を見上げた後、シャドウへと視線を移した。

 

「普段はクールではあるが自分の興味を惹きつけるものに対しては貪欲なヒロインか。そしてその中にもポンコツがみえる」

『なっ!? このエレメリアン、一瞬にして普段の黒羽さんの事を当ててしまいました!』

「え、私ってそんなかしら……」

 

 いやいや、このエレメリアンさっきシャドウが千円で握手するって言うのを聞いてたし。それとシャドウは自覚なかったのか……。

 ガルダギルディは次に私へ視線を移してきた。

 

「サバサバとしているが正義感が強く、それでいて裸を見られると恥ずかしがる乙女な部分も持ち合わせている微ツンデレヒロインか」

『なっ!? 奏さんの事まで!?』

 

 裸を見られるのは誰でも恥ずかしいと思うんだけど……。

 それに私がツンデレ……? 全然納得がいかない。これは断固抗議すべき案件だ。

 異議ありと、ガルダギルディを指差そうとしたがその言葉はそのガルダギルディに遮られてしまった。

 

「テイルホワイトよ、お前は異性に裸を見られた経験があるようだな。 それも、つい最近!」

「は、はぁっ!?」

 

 まさかの図星に、思わず間抜けな声を上げてしまった。 ……まあ、正確には二日前なんだけど。

 顔が熱くなる中、私以上に声を上げて驚いた人達がいる。

 

「『はあああああああああああ!?』」

 

 通信機越しに基地で大声を上げたフレーヌと、三階から見ていた嵐だ。

 どうしてここまでの反応ができるか不思議でならないけど、一応弁明はしといたほうが良さそうだ。

 

「えっと、裸は見られたけど……それは紅音にだから! 同じ女だから!」

 

 一応嘘ではない……よね。 いや、でもあの時は総二だったしやっぱり嘘になってしまうのかな。

 フレーヌも嵐も、私の言葉を聞いて落ち着きを取り戻したらしい。

それにしても……ガルダギルディはなんでそんな事がわかったんだろう。

 もし私の反応を見て、当てたのだとしたら物凄い洞察力だ。 このエレメリアンの前では、なるべく顔に出さないほうがいいかもしれない。

 私が警戒しているそのガルダギルディは、手を顎に当てなにやら考えているようだ。

 

「異性ではなく同性だったか。 それもまた一興、悪くないか」

 

 勝手に何かを納得したのか、ガルダギルディは腕を組むとうんうんと頷いた。

 それとほぼ同時に何か視線を感じた。振り返るとキッズコーナーにあるティラノサウルスの乗り物がこっちを向いて止まっている。 なんだか笑っているようにも見えるのが不思議だ……。

 視線をガルダギルディへと戻し、疑問に思っている事をぶつけた。

 

「えっとガルダギルディ、あんたも聖の五界の隊員なの?」

「違う、俺はどの部隊にも属さない」

 

 部隊に属さないエレメリアンか……。

 今までのエレメリアンは何処かしらの部隊に所属していたけど、ガルダギルディは部隊に入らない理由があって単独行動しているのかな。

 ようは特別待遇のエレメリアン……なんだか野放しにしていたらやばい気がする。

 

『黒羽さん、ガルダギルディの事で知ってる事があれば伺いたいのですが』

「悪いけど……見た事も聞いた事もないわね。 もしかしたら私が抜けた後、メデューサギルディのように一兵卒からの成り上がりかも」

 

 メデューサギルディ……知らないエレメリアンの名前だ。

 シャドウがフレーヌと話している内容が聴こえたのか、ガルダギルディは直ぐに反応した。

 

「妹をこよなく愛すメデューサギルディか。 妹のヒロインは定番にしてもはや欠かせない存在……。 この俺も奴の流儀には賛同せざるをえないな」

 

 こいつ、さっきからヒロインヒロインって……まさか。

 私の顔を見て、次に言いたいことがわかったのかガルダギルディは満足気に笑う。

 

「そうだ、テイルホワイト。 俺の属性はヒロイン……全ての人類、エレメリアンが魅了される素晴らしい属性だ」

 

 ヒロイン属性……分かりづらい属性だ。

 髪型や、体の部位とかならそれが好きだってわかりやすいけど…ヒロインっていうのは曖昧だなあ。

 あれ、何共感しようとしてんの私!?

 

「全ての女性に、はたまた一部の男性にもヒロインの素質はある。 しかし、素質だけで終わってしまう……ヒロインとは最も極めるのが難しい属性力なのだ……!」

 

 ガルダギルディは悔しそうに握り拳を作り、歯噛みした。

 

「清楚、クール、ギャル、痴女、眼鏡、姉、妹、義母、お嬢様……そしてツンデレ。 ヒロインは時代とともに増え続け、多岐に渡ってきた」

「誤解されがちだけれど、メジャーな属性は極めるのが難しいのよ。 ツインテール属性はもちろん、ガルダギルディの言う属性力もね」

 

 エレメリアンはツインテール属性を少なからずとも持っているという事を聞いたけど…他の属性力がメインというのが多かった。

 そういえば私も、純粋にツインテール属性を持つエレメリアンとは会ってないんだ。

 

「よくわかっているな、テイルシャドウ。 そう、ヒロインにはメジャーな属性力を埋め込まれる事が多い……そのヒロインを愛し、属性力を極めるのは最も難しい事なのだ」

 

 裏を返せば、その難しい属性力を極めているであろうガルダギルディは……。

 私は警戒しブレイドを構えたが、なんとガルダギルディは背を向け歩き出した。

 

「俺は闘いに来たわけではない。 俺の目が正しいかどうかを見極めたかっただけだ」 

 

 ゲートを生成し、中に入ろうかというところでガルダギルディは歩みを止めこちらに振り向く。

 もしかして、気分が変わって闘う気になったのだろうか。

 だが、私はすぐにゲートに入らなかった理由を知ることとなった。

 ゲートの中から一体のエレメリアンが現れたのだ。

 

「ご機嫌ようホワイトさん、シャドウさん」

「エンジェルギルディ……!!」

 

 因縁深いシャドウはすぐに斧を構え、いつでも攻撃できる態勢に入る。

 

「せっかちですわねえ、私も今日は闘う気はありませんのよ」

「何か目的があるのか?」

 

 ガルダギルディの問いかけに、不敵に笑うとエンジェルギルディは胸の前で人差し指を立てた。

 

「ただ、貰うだけですわ」

 

 突如、稲妻のような衝撃波が私とシャドウに直撃し、テイルブレスが悲鳴をあげるように放電する。

 放電したテイルブレスからこれまでに倒した無数の属性玉が弾けて飛び出し、エンジェルギルディの周りで浮遊する。

 最初に飛び出した属性玉を取ると、そのまま浮遊する属性玉を眺めるエンジェルギルディ。

 

「一体何を!?」

 

 シャドウが驚愕の声を上げる中、エンジェルギルディは周りに浮いている属性玉を一つ一つ調べていき、二つ目を取り出した。

 まさか……目当ての属性玉があるって事…?

 

『四幹部の属性玉が全て集まった』

 

 その時、私の脳裏にセドナギルディが今際の際に呟いた事が浮かびあがる。

 そうだ、エンジェルギルディが探しているのは……!!

 

「たあああああああ!!」

 

 察したその瞬間、エンジェルギルディに向かって疾駆しブレイドを振り下ろす。

 だが、属性玉を探していたにも関わらずエンジェルギルディは弓を出現させ、ブレイドと交差させる。

 鈍い金属音が辺りに響いたその時、エンジェルギルディは三つ目の属性玉を手に取った。

 その時弓が激しく閃光し、その光で私は吹き飛ばされる。

 エンジェルギルディに選ばれなかった属性玉は用済みとばかりに、その場に落ちてしまった。

 選ばれた三つの属性玉は再びエンジェルギルディの周りを浮遊する。

 

『あれは日焼け属性と清楚属性、そして涙属性の属性玉!?』

 

 シャドウが倒したサラマンダギルディ、シルフギルディ。

 私が倒したセドナギルディ。

 聖の五界の四幹部とされていた属性玉をエンジェルギルディを狙っていたんだ。

 四幹部の中で、ノームギルディはエンジェルギルディに粛清され、その属性玉も持っているはずだ。

 つまりこれで、四幹部の属性玉が全てエンジェルギルディの手中に収まったという事になる。

 もっと早く、セドナギルディの言葉に気がついていれば……!

私が拳を地面に打ち付ける中、エンジェルギルディは手の中に三つの属性玉を包み込む。

 

「さて、用事は済みましたし帰りましょう」

「え!?」

 

 たしかに闘う気はないと言ってはいたけど、本気にしてなかった。

もちろんそれはシャドウも同じようで驚いているのがわかる。

 

「それでは、御機嫌よう」

「次に会う時はお前達のヒロインオーラをとくと見させて貰おう」

 

 そしてあっさりと、エンジェルギルディとガルダギルディはゲートの中へと消えていった。

 呆然とその場で立ち尽くす私に対して、シャドウは床に散らばった属性玉を一つ一つ拾い集めていく。

 

「ちょっと、ボサッとしてないでホワイトも手伝ってちょうだい」

「あ、ごめん」

 

 シャドウに促されるまま、私も属性玉を拾いテイルブレスへ収納していく。

 拾い集める中、私はエンジェルギルディの事を考えていた。

 四幹部の属性玉を集めたら、てっきり何かをやらかす気でいたのかと思っていたけど……何もしてこなかった。

 セドナギルディの言った事が私達を怖がらせるためのデタラメという事も無いと思うけど……。そうしたらエンジェルギルディが四幹部の属性玉を集めたわけは?

 今日何もしてこなかったから安心、というわけにもいかないし警戒していかないとね。

 

「ふう、やっと終わったわね」

 

 かなりの数があったせいで全てを拾い集めるのはなかなかの重労働だった。

 もしかして掃除機かなんかで吸った方が良かったんじゃ……。

 

『そういえば奏さん、最初からそちらにいたんですか?』

「あ、うん。 お母さんと買い物に来てて……あ」

 

 あ母さんの事、すっかり忘れてた。

 

 

 急いで店の扉を開け中に入ると、お母さんはエレメリアン騒ぎなど知らなかったかのように優雅に紅茶を飲んでいた。

 娘の私が言うのもなんだけど、元女優を思わせるには充分なほど様になっていた。

 

「お母さんごめんっ!」

 

 嵐とともに、急いで席へと向かい手を合わせ謝る。

 何も言わずに放置してしまったし、もしかしたら怒られるかと思ったけどお母さんは黙ったままだ。

 いや、もしかしてこれは怒ってるのかな……。

 

「俺からもすいません、伊志嶺さん」

 

 なんと嵐も横で一緒に頭を下げてくれた。

 お母さんは依然として黙ったまま、飲み終え空になったティーカップをテーブルへと置く。

 

「貴方たち……」

 

 いつもより真剣で、それでいて小さい声でお母さんは口を開いた。

 これから説教が始まる……そう私は覚悟した。

 

「貴方たちは若いし、積極的になるのはわかるわ……私もそうだったもの」

 

 私と嵐は手を腿の上に置き、静かに耳を傾ける。

 積極的に、というのは若いが故の行動力とかそんなもんだろう。

 

「私が嵐君を呼んだとはいえ、私がいない間に二人が消えて……しばらく経っても戻ってこなくて……どんな気持ちになったと思う?」

 

 チラッとお母さんを見ると、少しだけ悲しい顔をしているのがわかった。

 寂しい思いをさせてしまったんだろうな…。 

 

「やっぱり私は、まず報告してほしかったの」

 

 報告……店を出るという事だろうか。

 

「第一に私に報告してくれれば……盛大にお祝いだってできたはずなのよ」

 

 お祝い……?

 店を出ると報告してお祝いっていうのはなんかおかしくない?

 

「でもいいの。 私は奏を信じてたから……絶対に彼とやり直してくれるって」

 

 優しい目で嵐を見るお母さん。

 うーん、なんとなくわかってきた気がする。

 

「まさか二人がまた付き合い始めてたなんて……しかも親がいない間にデート━━━━」

「ちがーーーう!!」

 

 思わず私は机を叩きながら立ち上がり、お母さんの言葉を遮った。

 なんか話に違和感があると思ったら……!

 お母さんは私と嵐が同時にいなくなったのを変な方向に勘違いしている。

 完全に誤解だ、早くこの誤解を解かなきゃ後々面倒くさい事になる気がしてならない。

 

「またまた照れちゃって♪」

「違うの! 照れてない! 付き合ってない!」

「ふふふ♪」

 

 ヤバイ、必死に否定すればするほどなんかドツボにはまっていく。

 私が反論しあぐねていると、隣に座っていた嵐が立ち上がる。 

 

「あの、伊志嶺さん。 俺たちは本当にただの友達なんで……」

 

 一応嵐も誤解を解こうとしてくれてはいるらしい。

 しかし、お母さんは……。

 

「嵐君まで照れちゃって。二人が付き合ってないならそのマフラーはなに? さっきまでしてなかったし、今二人で買ってきたんでしょう?」

 

 そういえば、嵐は私があげたマフラーをしたままだった。 観察眼がすごいお母さんは当然それを見逃すはずもない。

 

「いやこれはさっき伊志嶺に……伊志嶺さんにプレゼントされたもので」

 その説明の仕方じゃ余計に拗らせてしまう!

 

 プレゼントなのは違いないけど他の言い方は無かったのか。

 案の定お母さんはニヤニヤしている。

 

「ちょーっと待つのです!!」

 

 頭を抱えていると、店の扉を勢いよく開きよく知ってる女の子の声が響いた。

 店内にいたお客さんは皆が振り返り、注目する。

 またややこしくなりそうで、もっと頭が痛くなってきた。

 

「お母様、聞き捨てなりませんね! 奏さんと嵐さんが交際しているなどと……。フッ、ありえません!」

「貴方は?」

「フレーヌと申します!」

 

 あれ、これはひょっとしたらいい方向に向かうかもしれない。

 

「奏ったらいつのまにか外国人の友達ができていたのねえ。 日本語お上手だけど、貴方はどこの国の方なの?」

 

 フレーヌの容姿を見て外国人と判断したようだ。

 まあ、誰が見たって日本人ぽくはないからね。

 

「えっと、私は……ス、スウェーデン?です」

「へえ、スウェーデンね」

 

 なぜ、スウェーデン……。

 

「それで、どうしてフレーヌちゃんは奏達が付き合っていないと断言出来るのかな?」

 

 頼むよ、フレーヌ。いい答えで誤解を解いて!

 私の視線に気づいたフレーヌは、綺麗にウインクをかました。

 

「私は奏さんと出会って半年ちょいくらいですが、嵐さんと交際してる雰囲気は全くありませんでした。 一度だけ二人で水族館に行ってましたが、あれは違うと聞かされていましたので」

 

 前半は良かったのに後半で見事にぶち抜かれた。

 ドヤ顔のフレーヌと、ニヤニヤしているお母さんを見て思わず私は両手で顔を隠した。

 どうすればいいの……!?

 

「そろそろゲロッちゃいなさーい。付き合ってないなら二人が揃って親の前から消える理由なんてないわよ」

 

 いくらでもあるとは思うけど、適当な事言うとまた照れ隠しって言われるし……本当にどうすれば。

 そんな絶望感の中、一筋の光がさした。

 

「テイルホワイトです、伊志嶺さん! テイルホワイトが現れたって言うんで二人で見に行ってたんですよ!」

「そ、そうだよお母さん!」

 

 お母さんはテイルホワイトの大ファンだし、これでとりあえず話を変える事は出来るかもしれない。

 肝心なプレゼントとテイルホワイトは全く関係ないけど気づかないでくれれば……。

 

「なんで教えてくれなかったの!? 私ももう一度生でホワイトちゃん見たかったのに!?」

 

 予想以上の食いつきだった。

 

「こんな事してられないわ! まだ近くにいるかもしれないし、行くわよ奏!!」

 

 凄い勢いでお母さんは立ち上がると数えもせずにお札を何枚かテーブルに置いて、店の外へ走っていった。

 助かったけど実の娘の事よりテイルホワイトを優先されるのはなんか複雑……。 いや、どっちも私なんだけどさ。

 

「二人ともありがとね。 私お母さん追いかけるから、またね」

 

 どうせ近くでテイルホワイトを探しているだろうし、お母さんはすぐ見つけられるだろう。

 二人に手を振り、私はお母さんに続いてお店を出るのだった。

 今日の話を蒸し返された時ように、言い訳考えておかなくちゃね…。




お母さん回です。
普通に話を考えていたらお母さんの出番が全然ないので、これを読んでくれていた方はタイトルを見て「京華って誰?」と思った方が多いかもしれません。
総二と違って奏が変身する事がお母さんに知られてないのでなかなか絡めにくかったりします。

エンジェルギルディが四つの属性玉を集めて、ガルダギルディが登場して……どうなるのか。


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FILE.68 今年もよろしくツインテール

ガルダギルディ
身長:238cm
体重:232kg
属性力:ヒロイン属性

聖の五界の幹部が次々と敗れた事で、奏の世界にやってきた新たな幹部エレメリアン。 神の一剣と正反対の真っ黒なローブを愛用している。 自らの属性力であるヒロインについては王道のツンデレをはじめとした性格や、容姿、境遇まで全てを理解すると豪語する。実力は不明ながらも、ヒロインを理解するために恐ろしい特技を持っていると言われるが……。


 メインルームよりもさらに奥にある研究室からようやくフレーヌが出てきた。

 フレーヌは「休んで下さい」って言ってたけど、フレーヌだけに働かせて私は家でゴロゴロ……なんて事できるわけがない。

 メインルームの椅子に座る私を見て少し驚いた表情を見せた後、フレーヌがこちらへ歩いてきたので私も椅子から立ち上がる。

 

「バラバラになっていたので手こずりましたが、フロストバンカーの修理完了ですっ!」

「うん、ありがと」

 

 テイルギアをフレーヌから受け取り、右手着けるとすぐに透明化して見えなくなった。

 多少の傷などは自動で修復されちゃうみたいだけど、流石にバラバラにされてしまったらそうもいかないらしい。

 私達からしてみれば自動で直るっていうのも凄い事なんだけどさ。

 

「それとマキシマムバイザーについても調べました」

 

 フレーヌはタブレットを操作すると、画面にマキシマムバイザーが表示される。

 

「手を尽くしましたが属性力を制御する事は不可能ですね。使用する時はその事を念頭に置いてください」

「うん、わかった」

 

 私が気をつけて使えばいい。 マキシマムバイザーを使いこなす条件はたったそれだけというわけだ。

 

「それともう一つ聞いてほしい事があります」

 

 フレーヌが続けて操作すると、マキシマムバイザーが表示されていた横にもう一つ同じような装甲が表示された。

 似ているけど、後から表示されたコレはマキシマムバイザーじゃなくて……エヴォルブバイザー?

 

「私が解析した限りではマキシマムバイザーとエヴォルブバイザーの構造の違いが全くわからなかったんです」

「え、どういう事?」

「私がマキシマムバイザーを作ろうとしても、エヴォルブバイザーになってしまうんです。 つまりマキシマムバイザーの量産、及び修復はできないんです」

 

 フレーヌにすらできないなんて……カエデはバイザーにどんな事をしたんだろう。

 

「あれ、修理が出来ないって事はひょっとして……」

「ええ……。 バイザーが壊れたら最後、強化形態のマキシマムチェインには変身できないと考えてください」

 

 思わずテイルブレスに視線を落とす。

 この中に入っているバイザーが壊れるような事があれば……フレーヌが言った通りになるのだろう。

 

「エレメリアンにバイザーを狙われないよう気をつけてください」

「うん……!」

 

 バイザーは聖の五界との闘いで、もっといえばその先の闘いでも絶対に必要になるものだ。

 フレーヌの技術で基礎が作られ、カエデの力で完成されたこのマキシマムバイザーは絶対に守らなければいけない。

 

「奏さん、今日は大晦日ですよ!」

 

 テイルブレスに触れ、強い決意をしたところでフレーヌがテンション高く飛び跳ねた。

 そう、今日は十二月三十一日、つまりは大晦日。

 一年の締めくくりというわけだけど、今年は間違いなく今までよりも濃密な一年だった。

 まず異世界からちっちゃな科学者が来て、変態の怪物が来て、それを倒すために変身して……みんなと一緒に試練を乗り越えて来た。

 私より濃密な一年を過ごしている人がいるとすれば異世界のツインテール戦士ぐらいしかいないだろう。

 新年は気持ちよく、と行きたいとこだけどテイルホワイトはまだ続くだろうし本格的に受験勉強もしていかないといけないし……気持ちよく年明けを迎えられそうにはないなぁ。

 

「見てください奏さん、これを!」

 

 そう言ってフレーヌがモニター近くのボタンを押すと床が抜け、門松がせり上がってきた。

 見事な門松だけど周りが近未来的すぎるからこの場にあるのは凄い不自然だ。

 嬉しそうに門松を弄るフレーヌを見るとそんな考えも吹き飛んじゃうけどね。

 

「ねえ、本当に私の家来ないの?」

 

 どうせなら一緒に年越しをと思って何回も誘っているけどフレーヌは━━━

 

「私に気を使わなくて大丈夫ですっ! 年明けくらいは家族水入らずの時間を過ごしてください!」

 

 ずーっとこの調子だ。

 勿論志乃もフレーヌの事を誘ったらしいけど私と同じように断られてしまったらしい。

 黒羽は居場所がわからないし、基地に一人でいるよりかは誰かの家にいたほうが……とは思うけど人によりけりなのかなぁ。

 だけどやっぱ、このままフレーヌを一人ぼっちにするのは気が引ける。

 

「ねえ、フレーヌ。一緒に初詣行こうよ」

 

 私と志乃とフレーヌで。 ……嵐はサッカー部の連中と行くだろうし連絡はしなくていいや。

 フレーヌの反応を伺うと、先程までとは違いキョトンとした顔をしていた。

 

「はつもうで? それは何ですか?」

 

 なんか最近スマホに入っている音声みたいな反応だな。

 

「え、年明けてから初めて神社とかに行く事だけど……フレーヌの世界じゃ無かったの?」

 

 確かフレーヌは世界が違っても日本人みたいなもんだと言っていたし、知ってるものかと思っていた。

 

「うーん、私が知らなかっただけでしょうか……」

 

 顎に手を当て考えるポーズを披露するフレーヌ。

 ゴツい大人がやると探偵みたいな雰囲気が出るけど背の小さなフレーヌがやるとその真似事みたいに見えて微笑ましくなる。

 

「それじゃフレーヌは初初詣だね」

「初初詣……!」

 

 軽い気持ちで言ったんだけどフレーヌはやけに気に入ったようだ。

 

「初初詣はいつ行くのでしょうか? それまでに色々と準備をしたいのです!!」

「もちろん今夜、年が明けてからソッコー行くよ!」

 

 やっぱりこういうのは早ければ早いほどいい筈。 善は急げ、思い立ったが吉日、好機逸すべからず、だよ!

 

「急いては事を仕損じる……エレメリアンに対して焦って行動すると命取りになるわよ」

 

 私の心を読んだのか、狙ったかのようなタイミングで黒羽がメインルームへと入ってきた。

 ていうか今はエレメリアンとは関係ないんじゃ……?

 

「ま、私も行くわ。 初詣といえば人がたくさん来るだろうしね」

 

 黒羽が持っている手提げ袋に色紙がたくさん入っている……売るつもりだ。

 絶対にやらせないけど、テイルシャドウで初詣に行ったら参拝客どころか宮司や巫女さんまで逃げ出してしまいそうだ。

 そんな私の不安をよそに、いつのまにか黒羽は色紙をテーブルに置き、一枚一枚サインを書き始めていた。……なにやらブツブツと言いながら。

 

「年明けのテンションで財布の紐は緩む筈だし、一枚二千円……いえ五千円でいけるわね」

 

 やめたほうがいいと思うよ、ガチで……。

 

 

「ほんっとに……空気読めないね、あんたらは!」

 

 今の率直な思いを、目の前にいる二体のエレメリアンへとぶつけた。

 エレメリアンはクリスマスだろうと大晦日だろうと関係なく出撃してくるけど……そういう休みがないのかな。 侵略者に休みの概念があるなんて話も聞いたことはないが。

 私を不機嫌にさせる二体の内、一体はセドナギルディとの闘いの翌日に現れたガルダギルディだ。

 実はあの時から毎日出撃してくるエレメリアンにくっついて来てるが、ガルダギルディは闘わずに一体が倒されるとそのままゲートへ消える事が最近のパターンになっている。

 なんか目的があるんだろうけど……やっぱりモヤモヤしてしょうがない。

 それ以外にも、エンジェルギルディがあれ以来全く現れないのもモヤモヤの一つだった。

 

「そろそろ決着をつけましょうよ、ガルダギルディ」

 

 苛立ちながらシャドウはノクスアッシュとジャックエッジを手に持つ。

 

「俺は闘う気はない。お前達のヒロイン度を調べに来てるだけなのだからな」

 

 シャドウが一方的に火花を散らせるなか、ガルダギルディの隣にいたエレメリアンがようやく動きだす。

 

「ツインテールの戦士よ、此度は私が相手です」

 

 くたびれたおっさんの声で、丁寧に前へと出てくるエレメリアン。

 魚っぽくないし、このエレメリアンも聖の五界の隊員に違いないだろう。

 

「私はエントギルディ。気高くワイルドな属性、探検帽属性(サファリハット)を持つものです」

 

 ははーん、だからこんなジャングルの中に現れたってわけか。 ……まあ残念ながらジャングルの奥深く過ぎて周りに人の気配が全くしないんだけど。

 テイルギアがなかったら蒸し暑くてしょうがないだろうなあ。

 それしても……見た目で判断するなとは言うけど、エントギルディはヒョロヒョロしてなんか弱そう。

 声も相まって中年のおっさんにしか見えなくなってきた。

 

「ええ、私は本来戦闘に赴く事はあまりありません。ですので、できればお手柔らかに属性力を頂ければなと思いまして……」

 

 なんか言うことまで中年のサラリーマンっぽいような。

 お父さんも仕事中はこんな感じなのかなあ。……とりあえずそれは置いとくとして、どんなに丁寧にお願いされても属性力をあげるわけにはいかない。

 

「ホワイト、今日こそガルダギルディと闘うわよ」

 

 シャドウはアンリミテッドブラを装備し、アンリミテッドチェインとなる。

 頷く代わりに腰に付いているマキシマムバイザーへと手を伸ばした。

 

「あの装備は……」

 

 シャドウの進化装備では反応しなかったガルダギルディが私のバイザーを見て表情を変えた。

 もしかして知らなかったのかな。

 だったら見せてあげる、私の最高の変身を!

 

「マキシマムバイザー!!」

 

 テイルブレスへジョイントし、発動手順を踏むと体中の装甲が一新されていく。

 

「この形態は……!」

 

 マキシマムチェインへとチェインエヴォルブした時、初めてガルダギルディは表情を崩した。

 すぐさま私はアバランチクローユニバースを装備し、エントギルディ向かって疾駆する。

 

「ひええ……!!」

 

 クローを振るいエントギルティを空中へ吹き飛ばしすと、跳び上がりながらクローを脚へと装備させた。

 

「クライマックスドラーーイブッ!!」

「ノルマ達成できなかったあああああああ!」

 

 渾身の蹴撃を受けたエントギルディは間も無く爆散し、探検帽属性の属性玉を手に入れる。

 最後まで中年のサラリーマンみたいな奴だった……。

 脚からクロー外しながら、ガルダギルディの前へと着地した。

 それを見てガルダギルディは振り返り、ゲートを作り出す。

 また闘わないで帰るつもりだろうけどそうはいかない。

 

「なに……!」

 

 入ろうとしたところでゲートは散り散りになって消え、その場にシャドウが現れた。

 

「言ったはずよ。 そろそろ決着をつけましょうってね」

 

 ジャックエッジを突きつけながらシャドウは睨みつける。

 

『ガルダギルディがなんらかの目的を持って動いている事は明らかです。 できるだけここで倒せればいいのですが……実力が全くわからないので充分注意してください』

 

 「気をつける」と返事しようとしたその時、目の前にいたガルダギルディは……シャドウによって吹っ飛ばされていた。

 あれ、何があったの!?

 

「隙だらけだったから攻撃しただけよ」

 

 斧を肩に担ぎながらこちらに歩いてきたシャドウは冷静に話した。

 吹っ飛ばされたガルダギルディはようやく立ち上がると自信満々に胸を張り腕を組んだ。

 一発で吹っ飛ばされたくせにやたら態度がでかい……!?

 

「ふん、クール系のヒロインは負けヒロインとなる事が多い。 そのうえ暴力が付いてくるようでは、テイルシャドウに勝ち目はな━━」

「黙りなさい」

 

 今度はドロップキックを浴びて、再びガルダギルディはゴロゴロと地面を転がっていく。

 まさかこいつ、口だけのエレメリアン……?

 てかシャドウも容赦ない。

 

「偉そうな事言うもんだから余程の実力かと思ったら……てんで期待はずれね」

 

 期待はずれと言いながらも嬉しそうな顔をしてるのは何故だろう。

今シャドウがしてる表情は普段とのギャップでかなり可愛くみえる。だが、正義の味方が怪物をボコボコにして笑顔になる様は側から見たらかなり怖い。

 これは私の出る幕は無いとマキシマムバイザーを取り外し、通常形態へと戻った。 このままだと闘わずに限界を迎えちゃうからね。

 

「何を勘違いしている」

 

 一分近く経った頃、ガルダギルディが木の間から現れた。

 その体の周りにはユラユラと闘気のようなものを立ち昇らせている。

 もしかしてイライラしてる……のかな。

 

「ヒロインの愛情を受け止めない主人公はいないだろう? それがいくら負けヒロインだとしてもな」

 

 主人公って、まさかガルダギルディは自分が主人公だと思ってるのか……?

 それと今のガルダギルディの言い分から考えるに、わざとシャドウの攻撃を受けていたという事だろうか。

 ただの痩せ我慢だと思いたい……だけど。

 

『黒羽さんによる強烈な攻撃を二回受けてもダメージを受けている様子がありません。口だけだと思わない方がいいですね』

 

 フレーヌの言う通りだ。

 ガルダギルディは体に埃さえつけず、最初と同じように腕を組んで仁王立ちしている。

 私もたくさんのエレメリアンと闘ってきたからわかるんだ。 ガルダギルディは強がっているわけじゃなく、本当にダメージを負っていない……!

 フレーヌからの通信が聞こえたであろうシャドウはも、先程よりも警戒を強めている。

 

「なるほどね……私も随分舐められたものだわ。 それにさっきから、私が負けヒロインですって? ……ふん、言ってくれるわね」

 

 まずい、シャドウがなんか負けそうなフラグを!?

 これは一人で闘わせるのは危険だ!

 

「シャドウ、私も闘う」

「……ええ」

 

 少し不服そうにしながらもシャドウしっかりと頷いてくれた。

 再びマキシマムチェインへとなり、少しはガルダギルディも焦りを見せるかと思ったがそんな事はなかった。

 さっきは私のチェインエヴォルブで表情を変えていたが今度は冷静なままだ。

 

「俺はヒロインが不幸になるのを望んではいない。できれば全てハーレムエンドが望ましいと、そう思ってきたのだ。例え一対多だとしても俺は全ての攻撃(アプローチ)を受け止める自信がある」

 

 シャドウの事を負けヒロインだなんだ言ってたくせによくわからない信念を持っているようだ。

 なら、私達二人の想いを受け取ってもらわないとね!

 

「オーラピラー!」

 

 マキシマムバイザーを介して放たれた強力なオーラピラーがガルダギルディを見事に捉え、その場で拘束する。

 

「一気に決めるわよ、ホワイト。ブレイク!」

「レリ━━━━ズッ!!」

 

 クローは脚へと装備され、斧は光の刃を出現させ、それぞれ仁王立ちするガルダギルディへと迫る。

 しかし━━━━

 

「うぇ!?」

 

 ギリギリまで引きつけたところで、ガルダギルディは最小限の動きで必殺技を避けていた。

 勢いがついていた為、すぐに止まることができずに私はシャドウと一緒に地面をコロコロと転がる。

 受け止めるとか言ってたくせに……避けた!?

 いやいや、そうじゃない……オーラピラーが破られた!?

 

「強引な攻撃(アプローチ)は、主人公がいかに鈍感でさえも気づいてしまうものだ。時により、鈍感を貫きヒロインの攻撃(アプローチ)をスルーすることも必要なのだ」

 

 や、やばい……何を言ってるのか全然わかんないんだけど……。

 ここまで意味不明な言い回しをするエレメリアンは初めてだ。 そう考えると唐突に体が震えだした。

 

「お前達が俺に放つ必殺技は決して当たる事はない。 これこそ俺が極めた極意、''今、何か言ったか?(ナーガ)''だ」

 

 ナーガ……!

 見た感じただ避けてるだけに見えるけど本当に必殺技が当たらないなら厄介な事だ。 そもそも必殺技が避けられるのだから、本気になったら普通の攻撃すら避けてしまう可能性だってある。

 焦る私とは対照的に、シャドウは至って冷静で笑みさえ浮かべている。

 何か考えがあるのかな。

 

「だったら避けきれないほど攻撃し続ければいいじゃない」

 

 まあ、それしかないよね。

 凄い脳筋キャラの考えっぽいけどそれ以外に方法も思いつかないし、やるしかないだろう。

 連続で必殺技を出すのは中々ない事だけど、ガルダギルディを倒すためにはこれしかない。

 しかし、私達が再びブレイレリーズしようかとしたところでフレーヌから通信が入る。

 

『いけません! 必殺技の連続使用はテイルギア装着者に大きな負担がかかります。耐えることができてもエネルギー切れで意識を失ってしまうかもしれません!』

「でも他に方法が……」

『……奏さんと黒羽さんのコンビネーションでガルダギルディを追い込み、必殺技を出してください』

 

 私とシャドウでコンビネーションか……。

 思えばシャドウと一緒に一体のエレメリアンを相手にしたのは数えるほどしかなかったっけ。その中でも、息を合わせたコンビネーションで倒した事となると数はさらに減って一回か二回程度になる。

 ぶっつけ本番のような形だけど、フレーヌの言う通りやるしかないか。

 

「じゃあなんとか二人で……っていないし!」

 

 横にいたシャドウはいつのまにかガルダギルディへと迫り、斧を振るっていた。

 しかし、先程と同じくガルダギルディはシャドウの攻撃を全て受けるもダメージを負っている様子はない。

 

「……シャドウったら。ん?なんか手が痺れて……!」

 

 その瞬間、強烈な痛みが全身を駆け抜ける。

 

「っああああああ!!」

『奏さん!』

 

 マキシマムバイザーによって追加された装甲が激しく放電し、耐えきれずに自分の体を抱えながら膝をついた。

 

『バイザーを外してください!』

 

 外したいのは山々だけど、バイザーまで手を伸ばす事ができない……!

 

『奏さん!! 私が今そちらに向かって』

 

 その時、痛みにもがく私の腕を誰かが掴み……力づくでバイザーを取り外してくれた。

 ノーマルチェインへと戻り、顔を上げるとそこにはシャドウの姿があった。

 

「はぁ……はぁ……ありがと……」

「次からは気をつけなさいよ」

 

 まじまじと眺めてから、シャドウはバイザーを差し出してきた。

 それを受け取り、腰へと装着すると私は立ち上がった。

 マキシマムチェインへと変身していた時間は十分にも満たないくらいだけど……それだけの時間であんな事になってしまうなんて。

 幸いにもノーマルチェインへと戻ればすぐに痛みは消えるみたいだ。

 

「どうやらベストコンディションではないようだ。 本気のヒロインを見れないのなら留まる理由もない、またな」

 

 極彩色のゲートを作り出すとガルダギルディはその中へと消えていった。

 もしかして私を心配してくれた、とか……じゃないよね。

 最近はシャークギルディだとか貧乳イカや巨乳怪物だとか武士道に熱いエレメリアンにばっか当たってたから変なとこで勘ぐってしまう。

 ま、今はガルダギルディの攻略法が見つからないしどんな理由でも撤退してくれたのは有り難かったかな。

 まもなくフレーヌにより、基地への転送が開始されると視界は白くなっていった。

 

 

「やばいです。 激ヤバです」

 

 基地に帰って開口一番。 フレーヌは顎に手を当て深刻な顔でそう言った。

 私と黒羽はほぼ同時に変身解除してから、メインルームのいつもの席へとつく。

 しかしこうして三人着席しても、誰も口を開かない。

 私は椅子の背もたれに深く身体を沈めて、嘆息した。

 こんな時に志乃や嵐がいてくれたら、なんか元気のくれる言葉をかけてくれるんだろうけどな。

 気が利かない私はそういう言葉が思いつかない。

 ……いや、なんとか明るい雰囲気にしなければ!

 

「一年の締めくくりにこんな重い空気になっちゃうなんてねー、あはは……」

 

 変わらず静まるメインルーム。

 これは……言うことを間違えたな、完全に。

 私がやらかしてしまったせいで明らかにさっきより重い空気になっている。

 このまま暗い気持ちで新年を迎えるなんて来年はいったいどうなってしまうんだろう。

 沈鬱な空気に包まれるメインルームだが、フレーヌがその空気を払拭したいと思ったらしく話しだす。

 

「ガルダギルディは今までのエレメリアンにない特異性を持っています。ですがこうしているだけでは何も始まりません! さ、作戦会議しましょうっ!」

 

 床からホワイトボードがせり上がってくる。 フレーヌが面をバンッと叩くとクルリと一回転して''作戦会議''と書かれた面が現れた。

 この仕掛けが必要なものかどうかは取り敢えず……フレーヌありがとうっ!

 心の中でのお礼に答えるかのようにフレーヌは赤ペンのキャップを外してボードに書かれた''作戦会議''の文字をデコっていく。 結局デコりすぎて作戦会議に必要な事は裏面に書く羽目になってしまった。

 

「今回の闘いでガルダギルディのデータは取ることができましたが……これでは足りません」

 

 真剣な顔になって、ガルダギルディの絵を描いていくフレーヌ。 バカにするつもりじゃないけど意外とうまい絵だ。

 

「私たちが攻撃を仕掛けてナーガっていう技を使うのはわかったけど、向こうから攻撃はしてこなかったものね」

 

 そういえば、確かに殴りかかろうともしてこなかった。

 攻撃や必殺技が効かないから単に舐められていたのか、それとも何か他に理由が……?

 その後も対ガルダギルディの作戦会議は続くもこれといった作戦が出ないままどんどん時間は過ぎていった。

 立っているのが疲れたのかフレーヌは自分の椅子へと座り、クルクルとペンを回している。

 

「私ももう十五歳になるんですねー……」

 

 ボソッと小さな声での独り言。 それを聞いた私は違和感を覚え、すぐにフレーヌへ話しかけた。

 

「十五歳ってフレーヌこの前誕生日会したじゃん。 ほら、十二月の二十一日にさ」

 

 そう、フレーヌの誕生日がその日だと聞かされセドナギルディと闘う前にしっかりと十五歳のお祝いをしていた。 フレーヌが誕生日会のお礼と言って開いたら直径三千メートルにもなる花火を打ち上げようとしたのは全力で止めたけど、ちょっと見てみたかった。

 そんなわけでフレーヌは既に十五歳のはずだけど。

 

「すいません、つい癖で」

「癖?」

「はい。 実は私の居た世界では私の世界では誕生日という習慣は昔に廃止されてしまったらしくて、みんな平等に一年の始まりに一歳カウントを増やしていたんです」

 

 フレーヌの世界じゃそんな習慣があったんだ。

 国によって違う事もあるんだし、ましてや異世界ともなると私たちの文化と違うことがあっても驚く事じゃないかも。

 

「ただこの世界に来て誕生日というものを知り、私も欲しくなったんです。 私の世界でも自分だけの記念日を作っていた人は居ましたし、どうせなら皆さんよりもお姉さんになりたくて十二月二十一日を自分の誕生日にさせてもらいました」

 

 ちょっとだけ背伸びをしたいっていうのがなんともフレーヌらしくて微笑ましいなあ。

 

「それとは別に十二月二十一日ってなんかいいなって思ったんですよね。一二二一っていう並びがなんかこう中央に向かっていく感じがするというか、なんかいいんですよっ!」

 

 それは独特な感じがする。

 

「黒羽さんも誕生日決めてはどうです? 例えば奏さんと一緒で二月十八日とか」

 

 そういえば黒羽も誕生日がない……というか厳密に言えばオルトロスギルディの中で黒羽が意思を持った日が誕生日って事だろうけど、そんなん覚えてないよね。

 それにしても私と誕生日を同じにしようとするなんてフレーヌはわかってる。二月十八日ほど私っぽい誕生日はないし、なんか特別感がある。

 

「それは無理ね。 二月十八日は一年で一番嫌いな日だもの」

 

 ここまで言われると流石にショックだ。

 全国の二月十八日生まれの人に謝って!

 

「どうしてその日が嫌いなんですか?」

「フレーヌ、考えてみなさい。 二月十八日ってツインテール嫌って読めるから」

 

 酷すぎる理由だ……。

 こじつけにもほどがある!

 そんな理由で一年で一番嫌いな日にされてしまうなんて……やっぱり謝って!

 

「だから私は二月二日にするわ。 ツインテールって感じの誕生日よ」

 

 なんかそれもだいぶ無理矢理な理由に感じるけど……。

 ていうか自分の誕生日馬鹿にされたショックで、出かかってた考えが吹き飛んでしまった。

 ……まあ、いっか。

 今日は大晦日だし、今日一回出てきてるわけだし同じ日に出撃してくる事なんてないだろう。

 基地に帰ってきた時よりかは晴れた気分で新年を迎えられそうだ。

 

 

 薄暗い廊下に、重い足音が響いていく。

 ガルダギルディはテイルホワイトたちと一戦交えた後、そのまま大ホールへと向かい到着した。

 出迎えたのは聖の五界の隊長であるエンジェルギルディだ。

 

「おかえりなさいまし。今日も私の部下を見捨てて帰ってきたんですの?」

「お前に部下などいないだろう。 いるのは自分の思うがままに動く駒……いや、人形かもしれないな」

 

 ガルダギルディはかつてシャークギルディが座っていた席へと腰を下ろしながら答える。

 

「俺とて俺以外の戦士には興味がない。 俺があの二人に勝つために好きにやらせてもらう……そう言ったはずだ」

 

 そう言ってガルダギルディはメモ帳を取り出しエンジェルギルディへと放る。 しかしエンジェルギルディはキャッチする事なく、メモ帳は床に落ちてしまった。

 舌打ちしながらガルダギルディは拾い上げ、放らずにエンジェルギルディに丁寧に手渡す。

 

「なんですの、これは?」

「俺は観察は怠らないのだ」

 

 深く語らないガルダギルディに問うのはやめ、エンジェルギルディはメモ帳を開いてみる。

 その中には見慣れないツインテール戦士の名前が書いてあり、さらにページを飛ばしていくとテイルホワイトの名前を見つけた。

 

「テイルホワイト、身長160cm前後体重45kg前後、B79W56H80、追記中途半端な胸を持つ……」

 

 エンジェルギルディが読み上げるのを聴きながらガルダギルディは胸を張りウンウンと頷く。

 ある程度読んだところでエンジェルギルディはメモ帳を閉じた。

 

「これは……ストーカーノートですの?」

「違う」

「ですが身長体重が曖昧ですのにスリーサイズだけ正確なのは気持ち悪いと思うのですけれど……やはりストーカーノートですわよね?」

「違う」

 

 ガルダギルディは乱暴にメモ帳を奪い取ると、翼の中へとしまい込む。

 

「ヒロインのスペックを覚えるのは当然のことだろう」

「同胞ながらなかなかの気持ち悪さですわね」

 

 限りなく控え目に言っても、という言葉を後から付け足してエンジェルギルディはガルダギルディから距離をとっていく。

 

「俺にかかれば映像越しに見ただけでも性格とスリーサイズ程度なら即座に見破ることができる。画面の向こうに居るヒロインを見続けた事によって得た俺の特技よ」

 

 エレメリアンではありながら仮にも女性であるエンジェルギルディに自ら調べ上げたヒロインのスペックノートを公開する根性は、認めざるを得なかった。

 しかも、今の説明でさらに相手がドン引きしている事にも全く気にしていない。

 

「映像だけでパットを入れているかどうかもわかる事ができていた。 しかし、この俺がいくら見てもわからない少女が現れたのだ! 」

 

 悔しい思いからか、怒りからか声を荒げテーブルに拳を打ちつけた。

 ガルダギルディの座る席から一番遠い壁に寄りかかるエンジェルギルディはその様子を見て深く息を吐く。

 スマホを取り出し、その少女を画面に表示させるガルダギルディ。

 

「テイルブルー……奴だけは胸のサイズがわからんのだ……! いや、正確にはわかるがそのサイズを俺自身が認めずに手心を加え大きくしてしまう。 どうすればいい!?」

 

 画面に映るテイルブルーの胸を指差して、エンジェルギルディに答えを求める。

 

「いや、知りませんわよ」

 

 冷たく冷静に、機械のように、無感情に興味なさげに即答するとエンジェルギルディは大ホールから姿を消した。

 ヘルハウンドギルディがまだ生きていたら花丸を与えていたであろうジト目を残して。

 

 

 うわー、人いっぱいだ。

 時刻は午前の三時、私と志乃とフレーヌ、そして黒羽は約束通り近所の神社へ初詣に来ていた。 あ、フレーヌは初初詣ね。

 こんな時間に高校生がーっていうのはまあ見逃してほしいなっ。 一応フレーヌは十五歳でもう成人してるし保護者って事でセーフだよ、セーフ!

 だけどまあ、大きい神社だとこんな時間でもやっぱり人多いんだなあ。

 人混みにのまれないよう鳥居をくぐって、境内へと入る私たち。

 

「志乃さん、志乃さん! 初初詣とは一体何をすればいいんでしょう!?」

 

 興奮気味のフレーヌは志乃のコートを引っ張る。 うん、なんか可愛い。

 

「えーっと、初詣っていうくらいだしまずはお参りかなぁ。ほら、紐持ってガランガラン鳴らして新年の無事を祈るの」

「ガランガラン!?」

「あとはおみくじ引いたり、絵馬にお願い事を書いたり、甘酒飲んだりかなっ!」

「おみくじに絵馬に甘酒……! なんと甘美な響きでしょうか!」

 

 興奮するフレーヌとは対照的に、私の隣にいる黒羽はご機嫌斜めらしい。……理由はわかってるけど。

 

「ほら、黒羽もお参り行こうよ」

「これだけ人がいたならかなりの稼ぎになったはずなのに……ガッカリね」

 

 迷惑だからと色紙を取り上げてからここに着くまでずっとこの状態だ。

 正直とり上げなくても売れるとは思えなかったけど、やっぱり宮司や巫女さんまで逃げられたら困るのでとり上げる事にした。

 

「まったく……なんで私が貴重なお金を神社なんかへ捧げないといけないわけ? そもそもお金を貰わないとやる気出してくれないなんて神様なんてろくな奴じゃないわね」

 

 それでも充分だけどそれ以上は色々な反発を招く事になるからやめておこう。

 その後も志乃とフレーヌの弾んだ声と、黒羽の愚痴を聞きながら列に並んでいると何十分か経ったところでようやく回ってきた。

 

「ほい、黒羽。この五十円玉を静かに投げてね」

 

 私は黒羽に、志乃はフレーヌにそれぞれ五円玉を渡してまずは異世界出身の二人からだ。

 二人ともお賽銭を投げ入れた後、フレーヌは激しく、黒羽は普通に鈴を鳴らす。

 

「ここは神社だから再拝二拍手一拝、つまり二回拍手して一回深々とお礼して、その間にお願いしてね」

 

 普段はアホの子っぽいのに実は博識な志乃に教えられながら、二人ともお参りを済ませた。

 どんなお願い事をしたかはわからないけど、神様は見てくれるはずだよね。

 私と志乃も二人に続いて早々に済ませると、その二人を引き連れておみくじを売っている所へとやってきた。

 先程と同じようにおみくじの手順を教えると、角柱から出てきた棒を受付にいる巫女さんに交換してもらう。

 みんなそれぞれもらったみくじ箋を開けていく。

 

「大吉だー!」

「私は吉ですが、これはいいほうでしょうか?」

「……」

 

 志乃は大吉、フレーヌは吉そして黒羽はチラッと覗いてみると中吉だったらしい。

 ふっふっふ、これは私が大凶を引いてしまうという流れに違いないね。 三人の中に大凶を引いていないのは、ある意味私が一番おいしい展開になるためかもしれない。

 勢いよく私はおみくじを開き、引っ張り出した。

 

「うわー、大きょ……あれ?」

 

 引っ張り出した紙を見てみると、予想していた大凶という文字はどこにも書かれていなかった。 それどころか大吉も中吉も凶すらも書かれていない。

 書かれているのは''みぶん''という見慣れない文字だ。

 え、何だろうこのおみくじ……。

 

「ああ、これは未分ですね。 吉と凶の変わりが激しいって事ですよ」

 

 頭の上にハテナマークを浮かべていた私へ、受付にいた巫女さんが丁寧に説明してくれた。

 へー、未だ分からずねえ。 なんともいえない気持ちになるなあ、これ。

 

「吉になるか凶になるか。 全てはあなた次第って感じですね」

「なるほど」

 

 補足までしてくれた巫女さんは別の巫女さんに呼ばれると私に手を振り店の裏へと歩いていった。

 アルティメギルとの闘いもそんな感じだし、もしかしたら今の私にはこれ以上ないほど、このおみくじはあってるのかもしれない。

 これは結ばないで取っておこうかな。

 この初詣で買うつもりの御守りと一緒に持っとけば吉になる確率が高くなる気がするしね。

 

「奏、御守り買いに行こうよー!」

「今行くー!」

 

 おみくじをポケットへしまった同時に志乃に呼ばれてみんなの元へ駆け出す。

 

 アルティメギルとの闘いはもうしばらく続く事になりそうだけど……絶対に去年よりもいい年にしよう。

 だから━━━━

 

「━━━━今年も一年よろしくね」




話の中でようやく新年が明けました。
実は年内にエンジェルギルディとの決戦を書こうと思っていたのですが、色々と書きたい事が増えていき結局それは叶いませんでした。
あんまり話数が増えるのもどうかと思いながらも、セドナギルディとの闘いで四話も使ってしまうあたり計画性がありません。

それと最近、奏の誕生日と唯乃の誕生日が被っている事に気がつきました。今更変更するのも気が引けるのでどうかこのままでお願いします。


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FILE.69 ツインテールなクライマックスへ向けて

マキシマムバイザー

フレーヌが開発したエヴォルブバイザーがカエデの力によって変化したテイルホワイトの強化装備。 無機質な機械を思わせた銀一色から真っ白になり、鮮やかなエメラルドグリーンのラインが入ったデザインとなった。 テイルギアの一部という扱いとなり、変身後は腰に装着されている。なお、変身前にも強く念じることでバイザーのみを取り出すことも可能。 テイルホワイトの属性力を無限に高める力があるが、抑えが効かないため使用には注意が必要。


 あっという間にお正月は過ぎていき、今日の日付は一月七日。 今日が冬休み最後の日曜日というわけだ。

 大晦日にはエレメリアンが出撃してきてたけど、やはり休みたいのかお正月の間に現れることはなかった。

 一日は親戚や従兄弟が家に来たりしたけど……それがまあ、従兄弟の世話が大変だった。

 中学生の長男はさすがに落ち着いてたけど、次男の小学生はやれ構えだの、遊べだので……変身してない分エレメリアンと闘うよりも体力を消耗してしまった。

 二日になったらなったで今度は私たちがお父さんの実家へと出かけていたし、毎年とはいえ結構ドタバタしたお正月である。

 ただその分三日はコタツでダラダラと過ごさせてもらい、寝正月をしっかりと満喫する事ができてなかなか満足のいくお正月だったと思う。

 その後、三が日を過ぎると適度にエレメリアンが現れはじめたので私と黒羽で倒す、といういつものパターンとなっている。

 そんでもって今日はここまでエレメリアンが出撃する事もなく、何か事件があるわけでもなく、さらに言えば両親も出掛けているので私一人でゆっくりできるのだ。

 冬休みは明日までだし、今日は気合を入れてゴロゴロして無駄に過ごす!

 

 

 炬燵で寝っ転がりながらテレビを見るなんて……なんて幸せな日なんだろう。

 なんか今の私、女子としてダメな気がするけど……誰も見てないし別にいいや。

 

「ん?」

 

 炬燵の中で思いっきり足を伸ばした時何かに当たった感触があった。

 家には私以外居ないし、猫も飼ってない。なら今の感触は……。

 おそるおそる炬燵布団を上げて見ると━━━━

 

「あ」

 

 炬燵の中にいた少女と目が合う。

 

「きゃああああああああああああ!!?」

 

 すぐさま炬燵を飛び出し、ソファーの後ろへと身を隠す。

 心霊的な物を見てしまったかもしれないとガクガク震える中、炬燵の中にいた少女が出てきたらしい。

 

「すみませーん。 驚かすつもりは全くなかったんですけど」

 

 聞き覚えのある声がして、ソファから顔を出すとオレンジ色の髪の毛が見えた。

 

「フレーヌ! なんてとこから出てきてんの!? 」

 

 炬燵の中に少女がいて目が合うなんて結構なホラーなんだからね。 昼間だからまだ良かったけど夜だったら大変なことになってた。

 

「いやー、冷蔵庫の中に転送ゲートを作ろうと思ったのですが座標が少しずれてしまったようですね」

 

 そういえば前に冷蔵庫から出てきた事あったっけ。 ていうか、冷蔵庫の中に転送ゲート作ろうとすんなし!

 普通に転送してくればいいのに……ってそれもおかしな話だけどね。

 

「まあ、いいや。 何か用事でもあるの?」

 

 よくはないけどこんな事でぐちぐちいうのも気分悪いからね。

 用事があるなら炬燵でゴロゴロするために早く済ませてしまわないといけないし。

 そんな私の思いを知ってか知らずか、フレーヌはショートパンツのポケットからタブレットを取り出して操作し始める。 ……タブレットの大きさじゃどう考えてもポケットに入らないと思うけどそこはきっと未来的な技術によるものだろう。

 

「この前学校に潜入した時に気になるものを見つけまして」

「さらっととんでもないことを報告するね……」

「あ、これです!」

 

 私の反応を気にせず、フレーヌはタブレットを手渡してきた。

 写っているのは学校の中庭にある掲示板みたいだけど……これがどうして気になるんだろう。

 

「あ、もしかしてお茶飲みたいの? 茶道部員募集のポスターが貼ってあるね」

「今はボケるタイミングではありませんっ!」

 

 ボケのつもりはなかったけど……。

 

「この''修学旅行''というものです!」

 

 フレーヌは画面に写る掲示板の端にあるポスターを指差す。

 これは生徒にも配られた''修学旅行に関しての注意''というプリントだ。 へえー、掲示板にも貼ってあったんだ。

 

「エレメリアンと闘う私達を差し置いて旅行などと! こうなったら私達も対抗して修学旅行よりも楽しい旅行をしましょう!」

 

 そういえば、フレーヌは夏にも海に行きたいって言ってたしみんなで出掛けるのが好きなのかな。

 でも、言わなければいけない事がある。

 

「あの、フレーヌ」

「修学旅行とやらが何処に行くのかはわかりませんが私達はそれを超えます! なんと異世界です。異世界へ旅行です!」

 

 うう……めちゃくちゃ気になるよ、それ。

 だけど、ここは我慢だ。我慢してフレーヌに伝えないと……!

 

「その修学旅行なんだけどさ」

「異世界に行くなど、この世界の技術では絶対に不可能です。 私たちは勝ちましたよ……ふふふ、はーはっはっは!」

 

 いつになくお手本のような勝ち誇った笑い声をあげるフレーヌ。

 教えないほうがいいかもしれない。 そんな考えが一瞬頭によぎるが、それだけはダメだ。

 フレーヌを傷つけないように……慎重に。

 

「あの、フレーヌ」

「はい?」

 

 笑っていた時と同じように、腰に手を当てながら私の方へと振り向く。

 よし、今しかない。

 

「私たちなんだよね。……修学旅行行くの」

 

 両手の人差し指を合わせながら、なんとか言いきった。

 チラリとフレーヌの様子を伺うと、いつのまにか眼鏡をかけて無表情でタブレットを弄っていた。

 

「奏さん、悪い事は言いません……。私と異世界旅行に行きましょう!!」

「ええ!?」

 

 フレーヌはメガネとタブレットを床へ落として、私の手を握り締めながら懇願してきた。

 メガネかける意味なんだったの!?

 

「あえて修学旅行と同時期に私たちも行って、より楽しい思い出を作ってやるんです! さあ今から出発しましょう!」

「いやいやいや! 修学旅行はまだ一ヶ月先だよ!? しかも明後日から三学期が始まるし!」

 

 今から出発して一泊して、次の日から学校だなんてどんな過密日程よ!

 

「嫌ですー! 私だって旅行行きたいもーん!」

 

 フ、フレーヌが幼児退行している……。

 涙目になって床を這いずり回っているせいで服は乱れるわ髪型は崩れるわで結構悲惨な事になってきている。 今日はスカートじゃなくてよかったね。

 

「フレーヌと旅行ぐらい行ってあげたらどう?」

 

 突然部屋の何処からか黒羽の声が聞こえてあたりを見回す。

 その時は見つけられなかったが、程なくして黒羽がフレーヌと同じように炬燵の中から出てきた。

 すんごいナチュラルに出てくるのやめてほしい。

 黒羽はフレーヌを掴み、取り敢えず駄々こねるのをやめさせてくれた。

 

「旅行なら来年行けばいいじゃない。 文化祭みたいにどうせ来年もあるんでしょうし、今年はフレーヌ達と異世界旅行でいいでしょう?」

 

 微妙に黒羽も異世界旅行とやらに乗り気らしい。

 彼女はアルティメギルにいた頃散々異世界を旅してきたと思うけど、私たちと行くのでは意味が変わってくるんだろう。

 黒羽の言葉に未だ涙目のフレーヌはうんうんと力強く頷く。

 

「いや、修学旅行っていうのは他の行事と違って高校生活で一度っきりなの。やっぱ高校生としては修学旅行を特別に感じちゃって……いくらフレーヌや黒羽が言っても休めないかな」

 

 最後に「ごめんね」と付け足して、なんとか二人に説得を試みる。

 一応私、女子高生としての考え方ではやっぱ修学旅行は他の行事に比べると思いの入れ方が全然違うものだ。 もちろんそれは志乃や嵐だって同じだろう。

 話を聞いたフレーヌは申し訳なさそうに、黒羽はバツが悪そうに私から視線を移した。

 困らせちゃったかな……?

 

「高校生活で一度っきり……つまりそれは一生に一度と言う事ですね。 奏さんの気持ちを考えず我儘な事を言ってすみませんでした」

 

 さっきの駄々をこねていたフレーヌは何処へやら。

 いつも通りの調子に戻ったフレーヌは頭を下げる。

 そんなフレーヌに声をかけようかと思ったその時、勢いよく頭を上げた。

 

「なので……私たちが全力で修学旅行をサポート致しましょう!!」

「え」

 

 横にいた黒羽の腕を掴み、一緒に上げるフレーヌ。

 

「奏さんの言う高校一番の思い出を私と黒羽さんで守るのです。 修学旅行中はアルティメギルなど気にせずに志乃さん達と気楽に過ごしてください」

 

 心遣いは大変嬉しい事だけど本当に大丈夫だろうか。

 なんかエレメリアンってそういう大事な日に限って大幹部クラスが出撃する空気の読めないとこがあるみたいだし。

 あれ……もしかして私のせいでフラグ立っちゃったりしてないよね。

 

「奏さん達の修学旅行を守りましょー!」

 

 元気いっぱいに拳を上げるフレーヌとテンションが低いながら満更でもなさそうな顔をする黒羽。

 そんな二人の様子を見たら、ネガティブな事は考えないようにしようと思えた。

 

「じゃ、できたら修学旅行までに聖の五界倒して心置き無く楽しんじゃお!」

 

 聖の五界の四幹部は全て倒したわけだし、残りの戦力で脅威的なのは今のところガルダギルディ、エンジェルギルディだけだ。

 あと一ヶ月もある。 それまでにどうか、この長い闘いに決着がついていますように。

 

 

 小学生の頃から思う事だけど、やはり冬休みは短い。

 それなりに充実……嫌な意味で充実した冬休みだったせいか、全く休んだ気がしない。

 そのくせ課題はやたら多いから困ったもんだ。

 本格的な授業が再スタートして結構経つけどどうにもテンションが上がっていかない。

 一つはこの寒さ。 私の地域じゃ雪が降るの自体まあまあ珍しいのに、今日もガンガン降っている。

 二つ目はエレメリアン。 正月は休んでいたみたいだけどそれが終わってからは毎日出撃してくる。一体は倒す事できるけど必ず一緒にいるガルダギルディを倒せないのがなかなかのストレスだ。 本気で対策考えないと。

 

「奏、大丈夫?」

「あ……うん、ごめんごめん」

 

 横から志乃に声をかけられ、自分がボーッとしていた事に気がついた。

 志乃だけでなく、同じテーブルには嵐とサッカー部のマネージャーである彩、サッカー部に所属する長身の真部とメガネの武川がいる。

 えーっと……私たちは修学旅行の行き先を決めていたんだっけ。 ま、行き先と言っても自由行動のだけど。

 しかしこれが結構難しい。 なぜかというと修学旅行先というのが……。

 

「しっかし修学旅行がオーストラリアのゴールドコーストとブリズベンとはな。 サッカーのことしか頭になかったな」

 

 説明ありがとう、真部。

 普通の高校なら沖縄とかだけど、この園葉高校は一応私立という事もあって色々とすごい。

 四泊五日で行われる修学旅行は最初はゴールドコーストから始まり、終わりはブリズベンという豪華さだ。

 行きたい場所が多くて迷うけど、とりあえず自由行動は有名な観光地をおさえておけばいいだろう。

 

「行動予定表の提出期限は今日までだし、とりあえず行きたいところピックアップしよっか」

 

 私達の班長、彩がしっかりとみんなをまとめあげ予定がどんどん埋まっていく。

 あ、もしかして私、今普通の女子高生やってる!?

 修学旅行よ、ありがとう。 と心の中で思いながらガッツポーズを決める。

 修学旅行中はフレーヌと黒羽がエレメリアンを対処してくれるみたいだし、しばらくテイルホワイトに縁なく気楽に楽しめる!

 

「あ、僕行きたいとこあって……いいかな」

 

 メガネの武川がスッと手を挙げてから、本をテーブルの中央へと置く。

 開かれたページに写されていたのはブリズベンにある劇場だ。 正式名称は長いのでQPACと呼ぶことにしよう。

 それにしても、武川が劇場にあるのはなんだか意外かな。

 サッカー部ならもっと「スタジアムが見たい!」とかかと思ってたりした。

 

「ここの劇場のテイルホワイトの劇は高クオリティで有名なんだ。ブリズベンに行くなら外せないと思うんだ!」

 

 縁がないと思った瞬間にこれか……。

 少しだけ落ち込む私とは対照的に、武川はメガネをクイっと中指で上げかなり上機嫌だ。

 

「おお、いいねえ!流石俺たちの守護神だ!」

 

 真部は賛成のようで、武川と肩を組み大きく笑いはじめた。

 二人の様子を見ていると横から志乃が近づき小声で話しかけてきた。

 

「彩も嵐も賛成みたいだけど……奏は平気?」

「気にしないで。私もちょこっとだけ興味あるし。 それに一生に一度だから好きなところ行きたいもんね」

 

 本人が出演した我がクラスの劇よりもどれだけ高いクオリティなのか、見させてもらおうか。

 

「それじゃブリズベンの劇場を行動予定表に記入して……。うん!これなら時間的にも丁度いいね。 職員室行って提出してくるから」

 

 彩は早歩きで図書室から出て行く。

 行動予定表を書き終わったということは、もうすることがないな。

 この六時限目がはじまる前から予定表は粗方埋まってたから結構時間が余ってしまった。

 せっかく図書室に居るんだし、たまには純文学でも読もうかな。

 残った班員が盛り上がる中、私は席を立ち純文学が並べられている本棚を探し始めた。

 

 

 神秘に満ちたアルティメギル首領の間━━。

 相変わらず首領はヴェールに包まれ、シルエットでしかその身を確認する事ができない。

 あらゆるエレメリアンの憧れであるこの聖域に、聖の五界隊長のエンジェルギルディは呼び出しを受けていた。

 白いローブを羽織ったエンジェルギルディはヴェールの前へ到着し跪く。

 

「星が、輝いておるな……」

 

 室内であるにも関わらず、この神秘的な空間の天井に宇宙そのものと言っても過言ではない星空が写し出されていた。

 地球から見える星空ではないようで、エンジェルギルディが見てきた星座が一つも見当たらない。

 まさか強大な組織であるアルティメギルを束ねる首領が、適当に星空っぽくしただけの偽物を仰々しく眺めている……なんて事はないだろうとエンジェルギルディは思う。

 

「人間は生命が尽きた時、星になると考えていたそう。ツインテールの戦士と闘い、散っていった同胞もそうではないか?」

「首領様もなかなかロマンチストですのね」

 

 ヴェールの奥で首領が腕を上げると、頭上に輝く星と星の間に線が引かれていく。 そしてまもなく見たことのない星座が出来上がった。

 ただでたらめに線を繋いでそれっぽく見せただけのような、歪な形をしている。

 

「……」

 

 さしものエンジェルギルディも、首領の意図を汲み取ることは容易ではない。

 頭上に完成された星座が何座なのか、首領の答えを聞くまで黙秘する事に決めた。

 しかし、首領が答えを出さないまま再び腕を上げると完成された星座は消え去ってしまう。

 

「こうなるのだ」

「……ええ」

 

 エンジェルギルディば詳しく聞くと話が長くなる事を察して、とりえず頷くだけにしておく。

 依然として跪いたままのエンジェルギルディの瞳は、再び天に描かれた星へと向けられた。

 めちゃくちゃな星座は消えてしまったが、悠然と輝く星は健在で僅かな光を届けていると感じられる。

 

(流星……いえ、彗星ですわ)

 

 突如として星の間から青白い光を帯びて現れた彗星は、他の星を巻き込みながら進んでいく。

 首領の手によってこの光景が作られたのか。気になるエンジェルギルディだが、やはり話が長くなりそうなので問うのはやめておく。

 

「首領様……私を此方へ招いていただいた理由を聞かせて頂けます?」

 

 早く基地へと帰らせてもらいたいですわ、という隠しきれぬ本音を言外に滲ませ、エンジェルギルディは丁重に尋ねた。

 

「……わからぬか?」

 

 聖の五界(セイン・トノフ・イールド)でありながら、属性力奪取に手こずっている状況を叱責されるのであろう。 エンジェルギルディはそう考え、頭を下げたままだ。

 

「……?」

 

 しかし、叱責を覚悟していたエンジェルギルディは妙な違和感を感じるともに自身が羽織っていた白いローブを脱ぎ捨てた。

 

「これは、どういうことですの?」

 

 脱ぎ捨てられたローブの背中部分に、先程まで無かったはずの剣のエンブレムが描かれていた。

 その様子を見て、ヴェールの向こうで首領は不敵に笑う。

 

聖の五界(セイン・トノフ・イールド)はもはや壊滅したのだ。 隊長であった其方は神の一剣(ゴー・ディア・ソード)へと戻るがよい」

「お断りしますわ。 あの科学者が隊長をしている神の一剣(ゴー・ディア・ソード)へは戻ることはできません」

 

 首領相手に引くことなく、命令も即座に拒否したエンジェルギルディ。

 自分は聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の隊長だという確固たる意志を持ち、そのまま首領の影を睨み続ける。

 首領の命令はわかりやすくするとテイルホワイトを諦め、テイルレッドの属性力を手に入れるためのバックアップに成りさがれという事だ。

 隊長としてのプライドが高いエンジェルギルディは絶対に引くわけにいかない。

 

「貴様!首領様になんという口の聞き方を!!」

 

 ヴェールの奥の首領とその前にいたエンジェルギルディの間に突如、緑色で恰幅のいいエレメリアンが割り込んできた。

 

「首領様のご厚意で一隊長になったに過ぎん貴様が首領様に意見することなど許されんのだ!」

 

 緑色のエレメリアンは無骨な剣と円盾をその手に出現させ、ヴェールの前で立ち塞ぐ。

 

「トロルギルディ、あなたに用はありませんの。属性力共々、本当に美しくない方ですわね」

「ぐっ……!」

 

 トロルギルディと呼ばれた緑のエレメリアンは自身に向けられた言葉が胸に突き刺さり、思わず両手に持っていた武器を落としてしまった。

 それを見たエンジェルギルディはさらに追い討ちをかける。

 

「不細工属性(アグリー)などという美しくない属性力を持っている故に美しくない行動をしてしまうのですわ。 行動まで不細工とは、擁護のしようがありませんわね」

「そ、そこまで言わなくてもおおおおおお!」

 

 自身の属性力がコンプレックスとなっていたトロルギルディも、否定され続けた事で心が傷んだのかゲートを開いて逃げてしまった。

 

「あらあら、帰ってこれるのか心配ですわ」

 

 剣と円盾を拾い上げて隅へ投げた後、再びヴェールの前へと立つ。

 

「首領様、私は神の一剣(ゴー・ディア・ソード)には戻りません。 私は聖の五界(セイン・トノフ・イールド)隊長としてテイルホワイトの属性力、頂いてまいりますわ」

 

 深々と一礼すると、脱ぎ捨てたローブはそのままにエンジェルギルディは早足で首領の間を後にした。

 ヴェールの奥にいる首領が天を仰ぐと映し出されていた星空とともに、床に落ちていたローブも散りとなって消えていった。

 エンジェルギルディが後にし、静寂が訪れた不可侵の聖域へまた、今度は首領が呼んでいない来訪者が現れる。

 

「よう、久しぶりだな━━━━首領ッ!!」

 

 陽気な挨拶とともに現れたのは不死鳥のエレメリアンであるフェニックスギルディ。

 

「ほう……貴様か」

 

 迎える首領の声音にも、喜色が滲んでいる。

 首領はヴェールの奥でパイプオルガンに手をかけると厳かに奏で始める。

 

 アルティメギルのある一つの因縁が今、終わりを迎えようとしていた。

 

 

 自分の基地へと帰還したエンジェルギルディは、大ホールに一人佇みテイルホワイトの映像を眺めていた。

 モニターにマキシマムチェインとなったテイルホワイトが大写しになる。

 ガルダギルディにマキシマムチェインを見せたことにより、エンジェルギルディにもテイルホワイトが強化された事は伝わっていた。

 

「無事に戻ってこれるとは、意外だったな」

 

 大ホールに精悍な声が響き、廊下へ目をやると暗がりからガルダギルディが現れた。

 返事をすることなく、引き続きテイルホワイトの記録を見ているとガルダギルディは自分の存在を主張するようにエンジェルギルディに一番近い席へと腰を下ろして話しかけた。

 

「しかし、その様子を見ると何事も無かった訳ではないようだ」

「あらあら、ヒロインのための観察眼を私に使うなんて勿体無いですわよ?」

「誰がお前などに使うか」

 

 ガルダギルディの特技を使わなくとも、今のエンジェルギルディは誰から見てもわかるほどに覇気が無かった。

 

「今のお前の姿は四幹部や部下には見せられんだろうな」

 

 興味なさげに吐き捨て、ガルダギルディは立ち上がると大ホールの出口を目指し歩き始める。

 しかし、その歩みはエンジェルギルディによって不意に止められた。

 

「部下? 私に部下などいた事はありませんわ。 あなた、何を勘違いしていらっしゃるの?」

 

 お嬢様のようにお淑やかに話していた頃とは違う。

 低く、凄みのある話し方をされ、襲いくる威圧感にガルダギルディは振り返ることができなかった。

 

「前にあなたも言っていたではありませんの。ええそうですわ、私に部下などいませんわ。下にいる者、横にいる者は全て道具……私という存在を高める為だけの……道具ですわッ!!」

 

 震える拳を大テーブルへと叩きつけると、見るも無残にバラバラになってしまった。

 

「それがお前の本性ということか」

 

 ようやく振り返りながら、ガルダギルディは静かに呟いた。

 

「今までの私も嘘ではありませんわ。 お嬢様も機嫌を損ねる時はありますもの」

 

 少しだけ息を荒げながらエンジェルギルディは話す。

 

「どうやら私には猶予があまりないようですわ。 ガルダギルディ、勿論協力はしてくれますわね?」

「……ああ」

 

 ガルダギルディが首肯したのを見届けると、エンジェルギルディは手のひらに四幹部の属性玉を出現させる。

 

「━━━━本気で闘ってさしあげますわ、テイルホワイト」

 

 黄金の弓矢を出現させ、モニターを射抜くとエンジェルギルディは不敵な笑みを浮かべてガルダギルディとともに大ホールを後にした。




二年生なら修学旅行というイベントは欠かせません!


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FILE.70 テイルホワイトの覚悟

世界間航行機・フレーヌスター

フレーヌがテイルギアのデータと共に残っていたデータから作り上げた世界間を移動するための船。 市販されているワンボックスカーと変わらない見た目であり、公道を走行する事も当然可能。 世界間を航行場合は側面から主翼が展開される。 トランクに小型のカタパルトが設置されており、瞬時に基地へと移動する事が可能。 奏の世界の基地ができてからはその倉庫に保管され、埃をかぶっている。




 三学期がスタートしてから二週間ほど経ち、普段ならいつもの学校生活真っ只中という感じになるが私たち二年生はそうはならない。

 二月の初旬に行われる修学旅行が近づき、態度に出す人はもちろん、態度に出さない人でさえ少しワクワクしているのがわかる。

 そういう私は態度に出るほうで、赤の他人に「修学旅行楽しみだね」と声を掛けられてもおかしくないくらい浮かれている。

 

「旅行中はテイルホワイト戦記は録画しとかないとな」

「一応オーストラリアでもテイルホワイトの番組はあるみたいだぜ」

「マジで!? 自由行動の時間ホテルでテレビ見とくか!」

 

 うん、この辺はいつも通りだね。

 最初は照れくさいし、やめて欲しかったけど今ではだいぶ慣れてきた。……だからと言ってどんどん言っていいというわけではないが。

 ただ、流行り物はいつか過ぎ去っていくもので、テイルホワイトについてのテレビの報道も最初に比べて大分抑えめになってきた。

 特番を組まれることはあるにはあるけど酷かった時は二十六時間テレビにサブリミナル的にテイルホワイトが映り込んでいたことがあったっけ……。

 活動中でもこうだからテイルホワイトがいなくなったら割とすぐに忘れ去られていくのかなあ。

 流れ行く雲を見ながら呆けていると、スマホがブルブル震えだす。

 

「!?」

 

 フレーヌアプリが起動して、ロック画面に通知が表示されていた。

 通知を見て私は直ぐに鞄を掴み、学校の地下にいるフレーヌの元へと向かった。

 

 

 フレーヌからガルダギルディが出現したとの連絡を受け、私は直ぐにカタパルトへと入った。

 周囲の光が晴れていくと、周りはほとんど海だ。

 

「ここってアクアラインにあるパーキングエリアだったけど……なんでガルダギルディはこんなとこに?」

『えー、ネットの情報を見てみるとどうやらこの時間、そちらの施設で特撮ヒーローの撮影を行っているようです』

 

 特撮ヒーローがこんなところでねえ。随分とお金をかけてるみたいだ。

 

「絶対ではないけど、特撮にはヒロインもいるしそれ目当ての襲撃でしょうね」

 

 いつのまにかいるシャドウに驚きつつ、そういうものかと納得する。

 とりあえず私とシャドウで一階と思われる部分を探索すると、テレビのカメラやらマイクやらがあるおかげですぐに見つける事ができた。

 半円の巨大なモニュメントを背にしてガルダギルディが仁王立ちし、その正面に撮影クルーが陣取り睨み合いしている。

 

「そのヒロイン、なかなか良い。 やはり特撮は王道のヒロイン像をメインに据えてくれる故、チェックは欠かせんな」

 

 一人で勝手に納得して頷くガルダギルディを見て、特撮のヒーローが一歩前へ出る。

 

「悪いがこの話の怪人は既に決まっている。 お引き取り願いたい!」

「それは残念な話だ。 俺の方が横にいるそいつよりも遥かにキャラが立ち悪役に相応しいと思うのだがな」

 

 一瞬でヒロインの性格を正確に看破する特撮の怪人か……いや、キャラが濃すぎるって。

 

「悪いが帰れんな。撮影の邪魔はしたくないが俺には俺の目的がある」

「く、俺がやるしかないのか……!」

 

 ジリジリとヒーローは距離を詰めると、撮影用だろうか。 なかなかカッコいい大剣をガルダギルディ目掛けて振るいはじめた。

 当然ガルダギルディにダメージが入っている様子はないが、ヒーローの勇気ある姿を見て横に突っ立っていた怪人も小型の剣を振り回しはじめる。

 まさかここでヒーローと怪人が共闘する展開は視聴者は予想していなかっただろう。

 

「すげえ闘いだ! おい、カメラを回せ!!」

 

 サングラスをかけた男の人がカメラマンに指示すると、カメラを持ってガルダギルディへと近づいていく。

 まさか本当にこれを放送する気じゃ……。

 

「うおおおおお! ドライバーキックゥゥッ!!」

 

 なんかヒーローもやたらと乗り気になってきている。

 エレメリアンが一般人相手に攻撃を仕掛けることはあまりないけど、ずっと見てるのもまずいだろうしそろそろ止めないと。

 

「ガルダギルディ、本当に今日で決着をつけるわよ」

 

 ガルダギルディがヒーローと怪人を引き離したところで二人同時に跳躍し、目の前に着地する。

 

「テイルシャドウが……カメラを止めろ! ギャラを請求されるぞー!!」

 

 先ほどまで熱心にガルダギルディを撮っていたカメラマンも、必死に音声を拾おうとしてたマイクさんも、果ては正義のために戦っていたヒーローまでもが逃げ出していく。

 こんな扱いをされても全くへこまないシャドウは凄いと思う。

 

「来たな、ヒロイン」

 

 紅い双眸を輝かせ、こちらを凝視するガルダギルディ。 はっきりいって少しキモい。

 

「今日はガルダギルディだけみたいだけど、とうとう決着をつける気になったみたいね」

 

 どうもシャドウがガルダギルディに対して風当たりが強いのは負けヒロインと言われたかららしい。

 周りから避けられてるのは気にしないくせに変なとこは気にするのね。

 

「確かに俺は闘うつもりできたが……俺だけではない」

 

 意味深な事を言うガルダギルディの後ろから、忌まわしき天使が姿を現わす。

 

『エンジェルギルディ……!』

 

 思わず生唾を飲む私たちとは違い、エンジェルギルディは至って冷静に腰から垂れる布を持ち上げた。

 

「実は、早急に貴方達の属性力を奪わなければいけなくなりまして……。 私としてはもう少し楽しみたかったのですけれど、残念ですわ」

 

 随分と自信があるみたいだ。

 確かにエンジェルギルディの強さが別格なのは前にあった時に感じた……だけど、今の私達はあの頃よりも強くなっているはずだ。

 確証は持てないけど、二人とも最初からチェインエヴォルブして集中的に攻撃すれば勝てる確率は高いかもしれない。

 だが、それができるのは二対一の場合だ。

 私とシャドウ、エンジェルギルディとガルダギルディという二対二の状況でその方法をとれるはずがない。

 

「考え事をしているのか?」

「え!?」

 

 自分の背後からガルダギルディの声が聞こえて慌てて振り返り、大きく後ずさる。

 全く油断はしていなかったのに……いつの間に後ろに!?

 とりあえず一か八かやってみるしかない。

 エンジェルギルディと距離のある今なら二人掛かりで一気にいけるっ!

 

「シャドウ、とりあえず二人でガルダギルディを……あれ」

 

 既にシャドウは私とは大きく距離をとり、エンジェルギルディへと向かっていた。

 なんか前にも同じような事があったような……。

 諦めた私はとりあえず目の前の敵に集中する。

 シャドウの加勢に行ったほうがいいとは思うが、ガルダギルディが簡単に行かせてくれるとも思えなかった。

 そのガルダギルディは腕を組み、余裕綽々だ。

 

「ヒロインの心情を考察するのも重要な事だ」

 

 忘れかけてたけどガルダギルディは鋭い観察眼の持ち主だったっけ。

 ま、今の考えをガルダギルディに読まれたところでそれは無駄になってしまったわけだけども。

 

「お前が今考えていたのは……''なぜ私は中途半端な胸なんだろう、もっと胸が欲しい''だな」

「な……んなわけないでしょ━━━━っ!!」

「ぐおっ!?」

 

 怒りにまかせ、突き出した拳はガルダギルディの胸部へとたまたま当たると、奴は苦悶の声をあげた。

 ……あれ、苦悶の声って?

 

「攻撃が……効いた!?」

 

 自分の拳を見た後に、再びガルダギルディへ目を向けると痛みに耐えきれないのか蹲っている。

 いやいや、確かに強く殴ったかもしれないけどそこまでなるの……?

 今まで何回もフルパワーで攻撃してたけど……とりあえず続けてみるか。

 アバランチクローを両腕に装備し、ガルダギルディへ突貫する。

 

「はああっ!」

 

 ガルダギルディの眼前へと迫ったところで、後ろに回り込み頭の上からクローを振り下ろす。

 全く避ける気も防御する気もない無防備な頭へ振り下ろされたクローは鈍い金属音を響かせ、ガルダギルディに直撃した。

 自分の感覚的にはさっきのパンチよりも明らかに強く、重く腕を振った……しかし━━━━

 

「━━━ヒロインの攻撃(アプローチ)は受け止めると、以前に言ったはずだが」

 

 今度は全く効いていない。

 なぜだろう……もしかして不意打ち的な物は普通にダメージが入るとかそういう事だろうか。

 なら今度はそれを試してみるか。

 

「あー! エンジェルギルディがー!?」

 

 ガルダギルディの後ろ、シャドウとエンジェルギルディが闘っている所を指差すと腕を組んだまま奴は振り返る。

 

「せいはー!!」

 

 その瞬間、前にダメージを入れた胸部へと思いっきりクローを叩き込む。

 

「なんの真似だ」

「あれ……」

 

 おかしい、不意打ちでも全く効いている様子がない。

 不意打ちではないとすると、何故攻撃が効いたのかとことんわからなくなってきた。

 クローを肩へスライドさせ、顎に指を当てて考える私を見たのか、ガルダギルディは再び腕を組む。

 

「やはり自らの胸について悩んでいるのではないか。 ああ、そうだ……お前たちヒロインは表面上は平静を装っていても、心の奥底では巨乳への憧れを持っているのだ」

 

 なんか巨乳属性みたいな事を言いはじめたぞ。

 しかしまあ、イライラさせてくれる。

 私は巨乳になんか憧れていないし、胸は形が大事だと思ってるし、今の大きさに誇りを持っている。

 なのにこのエレメリアンは勝手な想像でペチャクチャ喋って……!

 

「姿は違えど如何なるヒロインもその思いを秘めているのは必至。 お前もそうだろう、テイルホワイト。 俺には……わかる!」

「わかってないじゃないのおぉぉぉっ!!」

「ぐはあ!?」

 

 怒りによって繰り出された拳は、今度はガルダギルディの顔面にヒットしゴロゴロと転がっていった。

 

「バカな……!」

 

 フラフラと立ち上がり、信じられないといった表情をするガルダギルディ。

 あれ、また攻撃が効いた……。

 まさか怒りながら攻撃すればいいって事……なのか?

 

『いえ、怒りによるものなら黒羽さんと闘った時にもダメージを負っているはずです』

 

 フレーヌからの通信で私の考えは否定された。

 確かに、シャドウは負けヒロインと馬鹿にされた恨みでガルダギルディに何度も攻撃を仕掛けていた。

 その時には、苦しがる素振りを見せていなかった。

 しかし、怒りではないとしたらなんで今は攻撃が効いたのだろうか。

 

『……試したい事があります。 聞いてくれますか、奏さん』

 

 ガルダギルディを倒せる可能性があるのなら、聞かないわけにはいかないだろう。

 そして、フレーヌから与えられた言葉を聞いて、一瞬だけ自分の耳を疑った。

 

「え……それ叫ぶの? 私が!?」

『はい、お願いします』

 

 冗談かとも思ったが、提案したフレーヌの声は低く真剣そのものだと悟る。

 めちゃくちゃ気がすすまないけど……しょうがないか。

 

「ガルダギルディ! 私はね……」

 

 今日はテレビ局が来るのに時間がかかる場所で良かったと内心思いつつ、ありったけの声量で叫ぶ。

 

「わ、私は………中途半端な胸に誇り持っているの━━━━ッ!!」

 

 恥を捨てて叫んだ言葉は、フロア中に響き渡り、やがてガルダギルディへと届く。

 

「なんだと!?」

 

 驚きのあまりに頭を抱えるガルダギルディを気にせず、続けてフレーヌからのアドバイスを叫ぶ。

 

「これ以上大きな胸なんていらないんだから━━━━━━━ッ!!」

『今です、奏さん! 今こそ攻撃を!』

 

 腰の装甲から属性力を噴射し、一瞬で近づくと渾身の右ストレートをガルダギルディの身体へと叩き込む。

 

「ぐああああああっ!?」

 

 為す術なく被弾し、地面を転がると半円のモニュメントを破壊するガルダギルディ。

 

「まさかガルダギルディを……さすがですわね」

 

 シャドウから間合いを取ったエンジェルギルディもこの事態に驚愕を隠せず、思わず私を賞賛していた。 シャドウも目を丸くして瓦礫の下敷きになったガルダギルディに注目する。

 

『やはりそうです。 ガルダギルディを倒す鍵はズバリ''ヒロインらしからぬ言動''です!』

 

 基地でドヤ顔するフレーヌが頭の中に浮かんでくる。

 

『ガルダギルディはヒロインは胸を欲している者と言っていました。 なら中途半端な胸を持つテイルホワイトも巨乳を望んでいるはず、ヒロインとして当然だとガルダギルディは考えていたんです』

 

 気になる発言があるが、ここは黙ってフレーヌの説明に耳を傾けよう。

 

『しかし奏さんは本気で今の中途半端な胸でいいと考えていたため、ガルダギルディの中でヒロイン像が崩れてしまったんです。ヒロイン像が崩れた攻撃(アプローチ)はただの攻撃となりガルダギルディにダメージを与える事ができたのです』

「ちょうど良いサイズ、ね。 それと私が叫んだ意味はなんかあったの?」

『ガルダギルディに意識させるためです。 奏さんは自分の思うヒロインではないと、ツンデレですらなく本気で胸を欲しがっていない、というふうに』

 

 ここでようやく、ガルダギルディは瓦礫の中から起き上がると腕を組むのをやめ、灼熱の翼を展開させた。

 どうやら本気モードみたいだ……!

 

『さあ、奏さん。ヒロインじゃないと知らしめるためにどんどん思いの丈をガルダギルディへぶつけてください!』

 

 それしか方法がないのなら……もう、覚悟決めよう。

 

「ただデカイ胸よりも、私ぐらいの大きさがいいに決まってるでしょ━━━━━━━っ!!」

 

 魂の叫びとともに疾駆し、間合いを詰める。

 

「嘘をつくな! ヒロインならば巨乳を求めるのは息をするかの如く、当然の事の筈だ!」

 

 思い込みが激しく柔軟に対応できないようじゃ、全てのヒロインを愛せるわけがないだろう。

 翼から放たれた炎を自らの両腕に纏わせ、私を迎え撃つ。

 極寒と灼熱がぶつかり合い、辺りを凍らせ燃やしていく。

 こうしてガルダギルディが応戦しているという事は、今行なっている私の攻撃は奴にダメージを与えられる筈。

 あと、もう一押しだ。

 

「胸がデカイと邪魔でしょうが━━━━ッ!!」

 

 両腕を弾いたところで、ガルダギルディの眼前でクローを発射させ一旦距離をとる。

 怯んでいる隙に、私は素早く腰にあるマキシマムバイザーへと手を伸ばす。

 何分持つかわからないけど幹部エレメリアンを倒すのに、このバイザーは必要不可欠なものだ。

 反動が怖くて、エレメリアンと闘えるわけがない!

 

「マキシマムバイザー!」

 

 テイルブレスへバイザーをジョイントすると、間も無くマキシマムチェインへのチェインエヴォルブが完了した。

 本当に本当の、決着をつける時だ。

 

 

 テイルホワイトがチェインエヴォルブしたその頃、テイルシャドウとエンジェルギルディは睨み合いを続けていた。

 少しだけ拳を交わしたが、どちらも本気を出していないのは承知でピリピリとした空気が辺りに漂う。

 

「急に隊長自らが出撃してくるなんて、どうやら何かあったみたいね」

「……」

 

 相手が冷静さを失う事になれば、俄然シャドウは有利になると感じカマをかけた。 しかし、エンジェルギルディは黙ったままで思惑の外れたシャドウはどんどん続ける。

 

「どうせ首領に急かされたんでしょ。ま、当然よね。四幹部が崩れ、ガルダギルディがやってきても属性力を奪えずにいるんだもの」

 

 少しだけ表情が変わったのを見逃さず、煽り続けるシャドウ。

 

「そのガルダギルディもホワイトの攻撃を受けてしまったようだし、どうやら私たちはアルティメギルの歴史を塗り替える事になりそうだわ」

 

 煽りに煽られたエンジェルギルディはとうとう右手にお嬢様の弓を顕現させる。

 目映く輝く金色の弓だが、周囲の海に反射しこれまで以上に輝きを増しているように見えた。

 

「随分とよくお喋りするようになりましたわね。首領様の間で会った時は怯えている様子でしたのに」

「あなたとお喋りするくらいは、自分に自信が持てるようになった……てことよ」

 

 自らの部下が残してくれたアンリミテッドブラを胸に被せると、シャドウはアンリミテッドチェインへと変身完了した。 そしてすぐにノクスアッシュトリリオンを手に持つ。

 部下のフェンリルギルディの仇、そしてなにより自分自身の仇を討つ。

 その時がやってきたと実感するシャドウは晴れやかな表情をしていた。

 

「私は……私とホワイトはエレメリアンを倒すたびに強くなってきた。でもそれは決して自分たちだけの力じゃない……後ろで支えてくれる頼もしい仲間がいたから。アルティメギルにいた頃にはこんな思い、感じた事なかったわ」

「仲間がいたから……? 強さ美しさは自分自身で上げていくものではありませんの。私にはそんなもの必要ありませんわ……。 仲間を求めるなど……人間特有の弱者の思考にすぎませんわ!」

 

 お嬢様の弓から光の矢が放たれ、シャドウへと迫る。

 

「違うわ」

 

 迫り来る高速の矢を華麗に避けてみせたシャドウは、エンジェルギルディに向かって斧を振る。

 弓で斧を食い止めると周囲に鈍い音と衝撃波が響き渡る。

 

「作戦とはいえ、アルティメギルに属していた私を受け入れてくれた仲間がいたから……私は強くなる事ができた。人間のいいところよ、仲間を持って互いに高め合うことは!」

「戯言を……!」

 

 力で押し切られ、エンジェルギルディは後退りながらも光の矢を連続して放っていく。

 光にも勝らないスピードで、流星群のように幾千本もの矢がシャドウを襲った。 まもなくシャドウが立っていたところに矢が突き刺さっていくとアスファルトが砕け、辺りに煙が立ち込める。

 弓を構えたまま、エンジェルギルディはシャドウが出てくるのを待つ。 しかし、煙の中から現れたのはシャドウではなかった。

 

「くうっ!?」

 

 煙を切り裂いて現れた斧はエンジェルギルディの持っていた弓を粉々にすると、残骸と一緒に海へと消えていった。

 

「はああああああああああ!!」

 

 続いてシャドウ本人が煙の中から現れ、無防備だったエンジェルギルディの身体へ渾身の左ストレートを叩き込んだ。

 シャドウの仲間への想いがこもったパンチをもろに受けたエンジェルギルディはその場に倒れ込む。

 

「実力差は……圧倒的だったはず……何故です……の……!?」

 

 悔しそうに歯噛みし、拳を叩きつける。

 

「あなたの言う弱者の思考のおかげで……仲間を持ったおかげで私は強くなった。 さっきも、言ったはずよ」

 

 この世界を救うため、シャドウはかつての武器であるジャックエッジを左手に持ち振り上げる。

 

「これで、この世界は救われた」

 

 微かに震えていた漆黒の剣が今、振り下ろされる。

 

 

「好きな男なんているわけないでしょうが━━━━ッ!!」

 

 突き出されたクローユニバースが、ガルダギルディの身体を捉えて傷をつける。

 こうしてずっと叫んでいる事なんてなんて今まであっただろうか。

 フレーヌのおかげでガルダギルディと闘えているわけだけど、本当にこれずっと叫んでる必要はあるの!?

 大声で叫んでいるせいで体力の消費も凄まじく、既に私は肩で息している状態だ。

 

「貴様の攻撃(アプローチ)……いや攻撃はかなり効く。ここまでまともに闘うのは久しぶりのことだ……!」

 

 ガルダギルディは翼を展開し、そこから火球を放つ。

 一つ一つ、なるべく被害が少ないよう海へと打ち返すと私は疾駆し、相手の懐へと入った。

 

「私は実は料理ができないんだから━━━━ッ!!」

「ぐおおっ!!」

 

 クローユニバースを一閃し、ガルダギルディを吹き飛ばす。

 ここまでずっと叫んでいるけど……レパートリーがなくなってきた。

 

『今のなんてただの意外性を持ったカミングアウトですもんね。 でも攻撃が効いていると言う事はガルダギルディのヒロインには料理が出来ることが条件のようです』

 

 私だって目玉焼きくらいは作れるけどね。 全く料理ができないわけではないよ。

 ガルダギルディは翼をマント状に戻すと、両腕を顔の前で交差させ、なにやら気合を込め始めた。

 

「ふうううん……はああああっ!!」

 

 紅い双眸が一層強く光り、私を捉える。

 

「思い出せ、テイルホワイト! 貴様はヒロインなのだ」

「違うって」

「思い出せ! 貴様はバストは79ウエストは56ヒップは80のヒロインなのだ!」

「なんでそんな事を知ってんの!? あと大声で言うなっ!!」

 

 割と最新のサイズを当てるとか一体どこで見たんだこの変態は!

 いやー、しかし……周りに野次馬はいないし、基地にもフレーヌだけだしでなんとか助かった。

 

『ついさっき志乃さんと嵐さんも基地にきましたけどね』

「いやあああああああ!!」

 

 くうう……何故私がこんな辱めを受けなければいけないんだ……。

 頭を抱えしゃがみこんでいると、遠くから満足気なガルダギルディの声が聞こえてくる。

 

「いい反応だ……俺の眼はやはり間違っていなかった。それと、俺がスリーサイズを何故わかったかだが……見るだけでわかるのだ」

「キモッ!!」

 

 こんな変態要素を隠し持っていたとは、油断していた。

 身体のサイズを測るとか…今までにない気持ち悪さがある。

 

『奏さん! 胸が大きくならなくていいと言う本音をもう一度、奴にぶつけて下さい! 私はバスト79でいいのよって!!』

「それどんなプレイ!?」

 

 今までだってめちゃくちゃ恥ずかしかったのに、そんな事したら三日間は寝込んでしまうかもしれない。

 フレーヌには悪いけど、私にもプライドが……羞恥心がある。

 今まで通りのやり方でダメージは与える事が出来ていたのならそちらを優先するべきだ。

 

『よく聞いてください、奏さん』

 

 何を叫ぼうかと考えていたが、それはいつになく真剣な声音のフレーヌに止められる。

 

『今まで自分のバストサイズを叫びながら攻撃していたヒロインはいましたか!? いないですよね!? 前代未聞すぎてガルダギルディに致命的なダメージを与える事が出来るはずですっ!』

 

 本当にそうなのか。

 ただ、めちゃくちゃな話のはずなのに妙に納得させられるのはなんなんだろう。

 

『さあ、奏さん。 叫んでください、バスト79の』

「あー! わかったわかった、わかったよ!!」

 

 このままやるやらないを繰り返していてもしょうがない。

 なんかガルダギルディも空気を読んで待ってくれてるみたいだし……かなり気は進まないけど、やるか……。

 ガルダギルディへと向き直り、大きく深呼吸する。

 

「ほう、覚悟は決まったか?」

 

 おそらく''ヒロインになる覚悟は決まったか''と言いたいんだろうけど、残念ながら真逆だ。 ガルダギルディの思う事とは真逆の事を言う……!

 

「ええ、私はね……」

 

 歩き出しはゆっくりだが、徐々に早歩き、そして最後は走ってガルダギルディへと近づいていく。

 

「私は!」

 

 距離が縮まったところで、右腕のクローユニバースを大きく振りかぶる。 それにつられて、ガルダギルディも灼熱の拳で迎え撃つ体勢にはいった。

 今ここ私の究極に恥ずかしい一撃を━━━━

 

「━━━━私はバスト79で満足なんだからあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 魂の咆哮とともに繰り出された一撃は、ガルダギルディの身体へと叩き込まれ、奴は大きく吹き飛ばされる。

 

「なんだとおぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 驚愕しながら宙を舞うガルダギルディ。

 

『今です、奏さん! 必殺技をお願いします!』

 

 考える間もなく私はクローユニバースを両手から外す。

 

「ブレイクレリ━━━━ズ!!」

 

 ヤケクソ気味に叫びながらも、しっかりと一つとなってくれたクローユニバースへいつもより数倍の力で蹴り込み脚へと装備させた。

 それと同時に、腕が痺れはじめる。 これ以上マキシマムチェインでいるとまたあの時のように……!

 

「自分の属性力なんだから……言う事、聞いて!」

 

 自らの腕を抑えて全身に痺れが広がる中、腰の装甲から属性力が放たれ、体に光を纏うとそのままガルダギルディへと蹴撃が迫る。

 

「クライマックスウゥゥゥゥッ! ドラ━━━━━━イブッ!!」

 

 ガルダギルディは胸の前で腕を交差させる。 おそらくナーガとやらを発動する気だろうが、そうさせない。

 ナーガという極意も相手がヒロインである事前提の技のはず、だったら先程までと同じようにすればいい。

 ツインテールの戦士である私が……最高に似つかわしくない事を叫んでやる!

 

「ガルダギルディ! 私は、ツインテールが大っっ嫌いだあぁぁぁぁぁ!!」

「何!?」

 

 今まで何回も口にしてきたけど、ガルダギルディ相手だと正に高相性の言葉だ。

 最初に会った時にガルダギルディは言った。''微ツンデレ''だと。しかし、この叫びはツンデレでもなんでもない。正真正銘の''本音''なのだ。

 私の叫びに呼応するかのように、必殺技は勢いと速さを増していくと、ついにはナーガを発動させる事なくガルダギルディを貫いた。

 着地すると同時にマキシマムチェインは解除され、ガルダギルディよりも先に地面に膝をつけた。

 

「フフ……負けはしたものの、俺はお前をヒロインと疑わんぞ」

 

 全身から放電が始まり、ついにガルダギルディは仰向けに倒れこむ。

 

「魂の叫びを聞き、重い一撃を食らってきたが……ある一発だけは重くなかったのだ……」

「え?」

 

 予想外の言葉に思わず変な声を上げた。

 全て本音をぶつけてきた筈だが……何か嘘を言っていたのだろうか。

 

「ちょっと、重くなかった攻撃って何?」

 

 私の質問にガルダギルディは答えずに、ただニヤつく。 消滅寸前なのに、正直キモいからやめてほしい。

 

「自分で見つけるんだな。恋愛属性(ラブ)を持つ戦士、テイルホワイトよ!」

 

 その言葉を最後にガルダギルディは爆散し、その場には属性玉が残された。

 拾い上げたところで基地でフレーヌがブツブツ言っているのが聞こえてきた。

 

『ラブ……まさか!』

 

 ラブか……。

 恋する乙女なんて、中学で卒業しちゃったんだよね。

 結局ガルダギルディは教えてくれるどころかラブとかいう、意味深な事を言い残しただけだし……なんだったんだ……。

 答えを求めて手にしているヒロインの属性玉を見つめるが、当然何も聞こえてこない。

 

「って……まだ終わってなかったよね」

 

 シャドウがエンジェルギルディの方へと視線を向けると、どうやら既に決着はついているようだ。

 以前はかなりの力の差を感じたが、色々な闘いを経て私達は確かに強くなったんだと実感する。

 

 これでようやく、闘いが終わる━━━━

 




俺、ツインテールになります。 の次巻の発売が待ち遠しいですね!


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FILE.71 お嬢様の花嫁衣裳

「油断は……禁物ですわね」

 

 戦いの終わりを感じつつシャドウの元へと駆け寄ると、不意にエンジェルギルディは口元を緩ませてそう言った。

 その瞬間、シャドウは私の横を吹き飛ばされていく。

 

「シャドウ!」

 

 吹き飛ばされたものの、そこまで大きなダメージはなかったようでシャドウはすぐに起き上がった。

 

「これは、ヤバイわね……」

 

 シャドウは私の後ろのエンジェルギルディを見て歯をくいしばる。

 意を決して振り返ると、その瞬間辺りに激しい突風が吹き荒れガルダギルディとの闘いで壊れたモニュメントの残骸を軽々と海へと吹き飛ばしていく。

 なんとか耐え凌ぎ、今一度エンジェルギルディに視線を向け言葉を失った。

 

『なんという……属性力の嵐……!』

 

 属性力自体を視認する事は、私には叶わないことだけど……肌全身がピリピリとするこの感覚でフレーヌの言いたいことが嫌というほどわかってしまった。

 先程まで蹲っていたエンジェルギルディは、この前私達から奪った四幹部の属性玉を自分の周りに浮遊させていた。

 シャドウによってつけられたはずの傷は跡も無くなり、左手に羽扇子と斧が合わさった神聖な輝きを見せる杖を持つ。

 

「お見せしますわ。 私の最終闘体……自他共に認める最高のお嬢様の姿を!!」

 

 杖を天に掲げると浮遊していた四つの属性玉はそれぞれエンジェルギルディの手足へと吸い寄せられのみ込まれていった。 それと同時にエンジェルギルディ自体が金色に輝きはじめる。

 光り輝くシルエットを私はしっかりと見てしまう。

 長い髪状のパーツは新たに形成されたヴェールのような物に包まれる。

 腰部から垂れ下がっていた二つの布は一つに重なり大きさを増してドーム状に膨れ上がると背中側へと移動し、その背中から生えていた四枚の羽も同じように重なると二つの大きな羽となった。

 天女の羽衣思わせた一本の布はエンジェルギルディの肩口へと移動し、気品さを演出させる。

 そして最後に、頭上にあった天使の輪のようなパーツが一段と大きく鋭利に変化するとエンジェルギルディを纏っていた金色の輝きは周囲に拡散しはじめた。

 遂に、進化の全貌が明らかになる。

 明らかになったエンジェルギルディの最終闘体に思わず私は息を呑む。

 恐怖がそうさせたわけではない。

 エンジェルギルディが''美しい姿''へ変わっていたことで起きたのだ。

 

「その姿は……」

 

 私の国では特別な儀式に着用する、純白のドレス。

 エンジェルギルディはその神聖なドレスを戦闘服としてその身に纏わせていた。

 

お嬢様の花嫁衣裳(ウェディング・セラフィム)。 これこそがワタクシの……聖の五界(セイン・トノフ・イールド)隊長、エンジェルギルディの最終闘体ですわっ!」

 

 新たなる力を解放したその時、雲の隙間から太陽の光が差し込みエンジェルギルディを照らした。

 神々しい光景を目の当たりにし、思わず後ずさる。

 最終闘体……お嬢様の花嫁衣裳(ウェディング・セラフィム)。 まさか自分が最終闘体になるために、四幹部の属性玉を吸収するとは思いもしなかった。

 ここに来てセドナギルディが今際の際に残した言葉を理解し歯噛みする。

 敵であるセドナギルディから忠告されておきながらこの状況を作り出してしまった事は、私の慢心に他ならない。

 ならせめて罪滅ぼしとして……今すぐにでも決着つけるべきだ。

 両腕にアバランチクローを装備し、飛びかかる━━━━しかしエンジェルギルディはかわそうとも、防御しようともしない。

 何か引っかかるが、クローをその身で受けたいというのなら望み通りにしてあげよう!

 

「はあああああああ!!」

 

 エンジェルギルディまであと数メートルと迫り、大きくクローを振り上げる。

 だが、あと少しというところで、フレーヌから通信が入る。

 

『ダ、ダメです、奏さん! 今不用意に近づいてはいけません!』

「え、どうして? 最終闘体の奴をこのままほっとくわけにも!」

『最終闘体となったエンジェルギルディの力は未知に包まれています。まずは遠距離からの攻撃で様子見してください。つまり……』

「エレメリンク、ね!」

 

 フレーヌの言いたい事がだいたい……いや、かなりわかった。

 近づかないで攻撃をするには志乃とエレメリンクし、トライブライドで闘うしかない!

 

「頼むよ、志乃」

『任せて!』

 

 一旦エンジェルギルディから大きく離れ、テイルブレスを天へ掲げた。

 

「『エレメリンク!』」

 

 志乃との掛け声と同時に私の体を光の繭が覆う。

 繭が弾け飛び、テイルホワイト・トライブライドとなった私はすぐさまフォースリボンに触りフロストバンカーを装備する。

 すぐさまエンジェルギルディへと照準を合わせ、光球を発射した。

 

「今のワタクシに三つ編みの力如きで通じると思っていますの?」

 

 容易く光球を受け止めたエンジェルギルディは呆れたように笑うと、その光球を握り潰し消滅させてしまった。

 圧倒的な力を見せつけているにも関わらず、エンジェルギルディの動作一つ一つが戦闘服(ドレス)の美しさを際立たせ、思わず目を奪われてしまった。

 

『納得いかない! 三つ編みだってツインテールに負けてないんだからーっ!』

 

 どうやら志乃はエンジェルギルディが遠回しに三つ編みを馬鹿にしたことにご立腹らしい。

 志乃の言い分はもっともだ。

 いくら属性力の最強がツインテールだとしても、だからといって他の髪型を馬鹿にする事は許される事ではないと、私は思ってる。

 小さな怒りが沸々と湧き上がり、私はマキシマムバイザーへと手を伸ばし、テイルブレスへジョイントさせた。

 

『トライブライドの強化形態にはなれませんが、一時的なパワーアップや技の威力を上げる事はできるはずです。 やっちゃってください!』

『やっちゃえ、奏ー!』

 

 マキシマムチェインへの変身プロセスを踏んで、バイザーからフロストバンカーへ属性力が流れ込んでいくのを感じた。

 再びエンジェルギルディへ照準を合わせる。

 

「マキシマムバイザーにそんな能力があったなんて……。 おもちゃ作り直さないといけないじゃない」

 

 なんだか後ろにいるシャドウがぶつぶつ言っているが、今はそれに突っ込んでいる暇はないのでスルーしておいた。

 バイザーからの属性力をフロストバンカーに流し終え、必殺の光線を放つ態勢に入る。

 

「クレバスドライブゥゥッマキシマムッ!!」

 

 通常の必殺技であるクレバスドライブと違い、威力を増した光線のみで勝負をつけるのがクレバスドライブマキシマムというわけだ!……と頭の中に浮かんできた。

 三つの銃口からそれぞれ放たれた光線は不規則に絡み合いながら、標的のエンジェルギルディへと向かっていく。

 

『いっけー!』

 

 志乃が基地で元気よく応援してくれたおかげか、新たな必殺技は軌道を変えることはなくエンジェルギルディへ直撃し大きな爆煙を上げた。

 確かに直撃はした。 だけど、エンジェルギルディがこれだけで倒せるのならここまで聖の五界との闘いは長引いていないだろう。

 依然としてフロストバンカーを構えたままでいると、予想通り……煙の中を優雅に歩くエンジェルギルディが現れた。

 

「ヤッバイ……どうしよ、黒羽」

「……私に聞かないでよ」

 

 これで倒せたら苦労はしないとは思ってはいたが、全くの無傷というのは予想外だ。

 冷や汗を垂らしながら私の元へ歩いてくるエンジェルギルディに向かい、何発か光球を撃ち込んでいく。 が、放った光球は全て弾かれ海へと着弾し大きな水飛沫を上げていった。

 エンジェルギルディが歩くたびに体に大きなプレッシャーを感じる。

 その時、エンジェルギルディが突然振り返り腕を大きく上げた。

 私シャドウに背中を見せて……余程余裕があるらしい。

 

「焦らないでくださいまし。ワタクシ、気が変わりましたの。今この姿の力を試したいだけですので」

 

 不敵に笑った瞬間、エンジェルギルディは海に向かって腕を振り下ろす。

 その瞬間、辺りに暴風が吹き荒れ、空にかかっていた雲が消え去り……海が真っ二つに割れてしまった。

 水平線の先まで二つに割れた海は続いており、やがて水の壁は崩れていき海は元の姿へと戻っていった。

 嵐と志乃も、シャドウにフレーヌも、もちろん私も驚愕のあまり言葉を失う。

 私達とは対照的に、エンジェルギルディは喜悦の声を上げた。

 

「素晴らしいですわ……! 素晴らしいですわー!!こんなにも素敵で、優雅で、可憐な力がワタクシに宿っているだなんて……」

 

 巨大化した天使の羽を展開し、天高く浮遊した。

 そして━━━━

 

「お━━━━━━━━っほっほっほっほ!!」

 

 エンジェルギルディが口元に手を当て、大きな笑いを上げた。

 自信に満ち溢れたその笑いは、奴が言っていた優雅なお嬢様とは程遠い気がするが……。

 

「これ程までに笑ってしまったのはスタッグギルディとあった時以来ですわ……うふふ」

 

 笑い終えた後、何かをポツリと呟いたエンジェルギルディは再び小さく笑う。

 そして、浮遊しながら両手を広げると、その周りに魔法陣のようなものが大量に現れた。 上に横に下に……四方八方に現れた魔法陣をよく見ると全てお嬢様属性のエンブレムが入っている。

 これを使って何をするつもりなの……!?

 

「本っっ当に素晴らしいですわ。 感じますわ、感じますわ! ワタクシに力が……愛が溢れていく!!」

 

 その時、無数に現れた全ての魔法陣が眩く光りだす。

 ここまで来て、ようやく私にはわかった。

 これから物凄くやばい事が起ころうとしていると。

 予感通り、突如として魔法陣の一つが弾け飛び、その残骸が光線となって地上、海上へと降り注ぎはじめる。

 

『いけません、すぐに転送を!』

「間に合わないわ!!」

 

 フレーヌの言葉を遮り、シャドウはノクスアッシュを手にした。

 一つを皮切りに、エンジェルギルディの周りにあった無数の魔法陣が次々と弾け、数えきれないほどの光線が同じように地上と海上に降り注ぎはじめる。

 ここは有名なアクアラインのパーキングエリアなだけあって一般人も多く、光線が落ちてしまったらかなりの被害になってしまう。

 

「クレバスドライブゥゥ!マキシマム━━━━ッ!!」

 

 地上へと迫る光線の雨を、その地上からの必殺技を使って相殺していく。

 

「シャドウお願い!」

「言われなくてもわかってるわ!」

 

 私が撃ち漏らした光線は、シャドウによって直接叩かれなんとか被害を出さずに光線の雨を耐えていく。

 必死に私達が光線の処理をしている中、エンジェルギルディは上空で笑みを浮かべていた。

 

「いかがかしら? ワタクシの、''お嬢様の聖水(エリシオン)''のお味は」

 

 エリシオンって……楽園!?

 とんでもなく嫌味ったらしく悪趣味な名前を……!

 余裕綽々のエンジェルギルディに反発するかのように、全ての光線を撃ち落とした私とシャドウは上空を睨む。

 

「ご自慢の新しい技も残念ながら不発に終わったようね」

 

 小馬鹿にするようにドヤ顔を決めるシャドウ。

 

「本当に残念ですわね……」

 

 首を振った後に両手で顔を隠すエンジェルギルディ。

 本当に残念そうな顔をしていたけど、両手で顔を隠す直前に私は確かに見た━━━━不敵な笑みを浮かべるエンジェルギルディを。

 その瞬間、海からいくつもの光線が飛び出し私とシャドウへと向かってきた。

 

「きゃあああっ!?」

「っあああ!」

『奏さん! 黒羽さん!』

 

 まず私に、そしてシャドウに、いくつもの光線は次々と飛来し反応が遅れた私達は為す術なく被弾していった。

 

「あ……ぐっ……!」

 

 膝から崩れ落ち、意識が朦朧としてきた。

 かなりの弾数を身に受けたけど……一発一発の威力も想像以上に高いものだった。

 そんな中、エンジェルギルディはゆっくりと降下するとヒールのような音を響かせ着地した。

 

「呆れましたわ……本当に呆れましたわ! まさかお嬢様の聖水(エリシオン)を私が制御できないと、本当に思っていたなんて」

 

 声のトーンから察するに、エンジェルギルディは煽りではなく本当に呆れているようだ。

 意地でも奴に一発撃ち込んでギャフンと言わせたいところだけど……エリシオンのダメージが相当で立ち上がる事ができない。

 基地からフレーヌと志乃が呼びかけているのが聞こえるが、意識が朦朧としているせいで何を言っているかまでは判断できなかった。

 

「今回はこの力を試すだけの予定ではありましたけど、正直あなた達にはガッカリしましたわ」

 

 いつのまにかにエンジェルギルディは属性力を奪い取る光輪をその手にして、こちらへ歩きはじめていた。

 

「情けないですわ、本当に情けないですわね」

 

 とうとう倒れる私の目の前にまで移動してきたエンジェルギルディは、光輪を掲げる。

 

『聞けかなでえぇぇぇぇッ!!』

 

 そう呼ぶな、と注意したのは何度だろうか。

 ツインテール属性を奪われる直前に聴こえてきた嵐の声に、消えかかった意識が取り戻される。

 

『俺はまだお前に……クリスマスプレゼント渡してねえんだぞおぉぉぉぉッ!!』

 

 音割れを起こしそうな程の大絶叫とほぼ同時に、エンジェルギルディが光輪を振り下ろした。

 しかし、光輪は私の身体を通り抜ける事はなく地面に叩きつけられると、その場で爆発し跡形もなく消えた。

 

「ッ!……へえ、避けられますの」

 

 一瞬慌てた様子を見せたが、エンジェルギルディはすぐに平静となりニヤリと笑う。

 エンジェルギルディもそうだが、今は嵐が言ったことのほうが頭の中にあった。

 

「嵐……クリスマスって、何日前の事言ってるわけ?」

 

 口からの言葉はこうだが、内心少し嬉しく感じている自分がいて不思議だ。

 まったく、予想外過ぎて一気に意識が戻ってきてしまった。

 

『渡す機会をずっと考えてたんだよ。 お前にマフラーを貰ったあの日からずっとな』

 

 マフラーをあげたのはセドナギルディを倒した後、お母さんに付き合って買い物に行った日だったか。

 そういえばエレメリアンが出たあの時、嵐が何か言おうとしていたっけ。

 今の今まで私も忘れていたけど、嵐に悪い事をしてしまったかもしれない。

 

『俺のプレゼントが何か今教えてやる! 俺のプレゼントは髪を結うためのリボンなんだ。このリボンを無駄にはしたくねえから、絶対にツインテール属性は……渡すんじゃねえぞ!』

 

 女の子へのプレゼントの中身を先に言っちゃうなんて、センスがないにも程があるけど……何故だか凄く感情が高まってくる。

 

「ならそうならないために私に協力、よろしくね!」

『ああ!』

 

 エレメリンクが解除され、私はツインテールへと戻った。

 そして再び、テイルブレスを天に掲げる。

 

「『エレメリンク、ポニーテール!』」

 

 光の繭に包まれると一瞬にして髪型がポニーテールへと変わり、ブライニクルブレイドを手に持つ。

 そしてすぐさま、先程と同じようにバイザーで変身プロセスを踏むと、属性力がブライニクルブレイドへ流れ込んでいく。

 

「ブレイクレリ━━━━ッズ!!」

 

 刃がスライドし、光の刃が形成されるまではいつもと同じだが、バイザーを使った事によって光の刃は元の刀身全てを覆い尽くしブレイドは巨大な光の剣となった。

 

「ブライニクルスラッシャ━━━━マキシマムウゥゥゥゥゥッ!!」

 

 光の刃によって何十メートルもの大きさとなったブレイドを袈裟懸けに振り下ろし、エンジェルギルディに命中すると大爆発を起こした。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 大きなダメージを負っている状態で必殺技を放ったせいか、今までにない疲労感に襲われて膝をつく。

 正直、もう闘う元気はこれっぽっちもない。

 

『エンジェルギルディの反応は……消えていません……』

 

 わかってはいたけど、言葉に出して言われると絶望感が数倍にも跳ね上がる。

 フレーヌの通信を待っていたかのようなタイミングで立ち込める土煙からエンジェルギルディが姿を現した。

 例によって全くダメージを受けている様子がない。

 

「少しだけ焦りましたわ、まさかこれほど力が残っていたなんて。やればできるではありませんの」

 

 パチパチと煽るように拍手すると、エンジェルギルディは大きな羽を目一杯に広げる。

 また何かするのか、そう警戒する私達を見て僅かに微笑むとエンジェルギルディはまたも天高く浮遊する。

 

「先程申し上げた通り、ワタクシは今の力を試したかっただけですわ。本当の決着はまた後ほど……行うとしましょう」

 

 そう言うと、エンジェルギルディは頭上に極彩色のゲートを生成してその中へと消えていった。

 そのゲートが消えたと同時に私は脱力し、仰向けに倒れた。

 

 

 エレメリアンを仕留められなくて悔しい思いはたくさんした。

 だけど━━━━エレメリアンが本気で闘わずに撤退してくれた事にここまで安心した事は、今まであっただろうか。

 

 

 淡い水色のスーツケースへ、必要分の衣服を詰めていく。

 化粧水や美容液、乳液も忘れずに入れておかないと……あ、オーストラリアは乾燥してるだろうし保湿クリームも必要だろう。

 エンジェルギルディが最終闘体となってからはや二週間が経ち、今日の日付は二月二日。……なんだかツインテールって感じのする日だ。

 いよいよ明日の夜にオーストラリアに向けて出発するわけで、今は持っていく物の最終確認中だ。

 正直、あんなタイミングで最終闘体になったエンジェルギルディが気がかりでしょうがないけど、JKとしての私が修学旅行を無駄にするなと心の中でうるさくて……!

 フレーヌ達は''修学旅行中は任せて''と言ってはくれたけど、テイルギアは外せないよね。

 修学旅行を楽しみつつ、私も万一の時に備えておく。

 小さくガッツポーズしていると、部屋のドアがノックされお母さんの声が聞こえてきた。

 

「準備終わった?」

「だいたいね」

 

 部屋に入ってきたお母さんは何かを手に持っているようだけど……なんだろ。

 

「実はお母さん、奏の修学旅行羨ましいんだよねー」

「あー、お母さんは行ってないんだっけ」

「そうそう。 その頃は私は大女優で大忙しだったから!」

「あーはいはい。 自慢なら帰ってきてから聞いたげるから」

 

 お母さんとのこのやり取りも四日間はできなくなると思うと少しだけ寂しく感じるなあ。

 ただ年を考えずにぷくーっと頬を膨らませるのは如何なものか。

 若い反応をするお母さんだったが、机の上に置いてある物に気づくとニヤニヤしはじめる。

 

「あらあらー、もしかしてこのプレゼントはー嵐君から貰ったのかなー?」

 

 なんとなく開封し辛いからって机の上に置いとくんじゃなかった。

 ほんと嵐絡みになると上機嫌になるのね。

 

「別に友達同士プレゼントのやり取りくらいするでしょ」

「……少しくらいはこう……男の子からのプレゼントの意味とかを考えなさいよ」

 

 急にテンションが下がったお母さんは大きなため息をつくと、勝手にスーツケースを閉じてトボトボと部屋から出て行った。

 え、いったい私が何をしたと!?

 

「……」

 

 置いてあるラッピングされた箱を手に持ち、包装をビリビリと破いていく。

 中身を知っているせいで大してワクワクもしないけど、今思えば男の子からのプレゼントって初めてだった。

 

「白いリボンか……」

 

 私がツインテールにしていた時はバレッタだったからリボンは使った事にないんだよね。

 

「……闘いが終わったら、ね」

 

 取り出したリボンを箱に戻し、机の引き出しにしまった。

 いつか闘いが終わったら、その時にテイルホワイトではない私のツインテールをみんなに見せられる事を信じて。

 しょーがないからこのリボンはその時に使ってあげよう!

 腕を組んで頷いていると、スマホがブルってフレーヌアプリからの通知が表示された。

 修学旅行前夜だし、パパッと倒して早く寝てしまおう。

 待ってなさい、修学旅行!

 

 

 アルティメギル基地、中央の大ホール。

 そこでは残りの聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の隊員が集まり、今しがた出撃していった同胞の闘いの中継を観戦していた。

 しかし、程なくしてテイルホワイトとテイルシャドウに翻弄されると最後はアンリミテッドチェインの必殺技で爆散する。

 テイルホワイトが撮影していたアルティロイドに帰るよう促すと、モニターはブラックアウトした。

 

「あーあ、まーたやられちゃったよ……」

 

 エンジェルギルディのいない大ホールで上がる声は覇気が無く、テイルホワイト達に勝てる事なんて微塵も思っていないようだ。

 

「残りの隊員は俺を含めて五。 もう終わりじゃね?」

 

 若い男を思わせる声の持ち主がテーブルに足を乗せると、椅子の前の脚二本ををを浮かせて話した。

 その横に座る女性型のエレメリアンはその様子を見て大きな溜息をつく。

 

「キジムナギルディ。あなた、少しは隊の事を心配したらどうなの?」

 

 キジムナギルディと呼ばれたエレメリアンは茶色の体を揺らすと、アクロバティックな動きで椅子から飛び降りる。

 

「いやいや……聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の隊員が残り隊長と俺とあんた、エルフギルディ。それにジャックギルディ''達''だけだよ? 詰んでるでしょ、どーみても」

 

 キジムナギルディは男性型のエレメリアンにしては珍しくシャープな外観であり、筋骨隆々のエレメリアンが多かった聖の五界(セイン・トノフ・イールド)でも一際目立つ。

 身長も高くなく、成人男性よりも少し小さい程度だ。

 そしてエルフギルディは、女性の魅力を遺憾なく発揮した容姿をしている。

 長い髪はもちろんのこと、エレメリアンとは思えない可憐な顔立ち、胸部を押し上げる豊かな双丘、そして耳を強調するように被さったパーツ。

 見た目だけでは彼女が戦闘するなどとても思えないだろう。

 

「こんな事ならサラマンダギルディがやられた時に、さっさと神の一剣(ゴー・ディア・ソード)に入っちまえばなあ」

「そんな事言ってると……!」

 

 先程まで呆れた様子でキジムナギルディを見ていたエルフギルディだが、突如表情を強張らせる。

 

「どしたよエルフギルデ……っああああ!?」

 

 後ろを振り返った瞬間、キジムナギルディは吹き飛ばされ壁へと激突した。

 基地が大きく揺れ、エルフギルディは思わず立ち上がる。

 

「随分と愉快なお話をしているようですわねえ」

「た、隊長!?」

 

 依然として最終闘体のお嬢様の花嫁衣裳(ウェディング・セラフィム)を維持したエンジェルギルディが柔らかい笑みを浮かべる。

 

「確かに聖の五界(セイン・トノフ・イールド)も終わりかもせれませんわねえ。 残っているのが使えない''駒''ですもの……」

 

 身をくねらせ、わざとらしく悲しむエンジェルギルディ。

 そして彼女は起き上がったキジムナギルディの元へと歩み寄って話しかけた。

 

「入りたいのならどうぞご自由に。''元''マーメイドギルディが支配する神の一剣(ゴー・ディア・ソード)へ」

 

 笑いながら話しているが、キジムナギルディは言い様のない恐怖に襲われ首をブンブン振り続ける。

 その様を眺めていたエルフギルディはエンジェルギルディの言葉に引っかかりを覚えた。

 

「あの隊長。 ''元''マーメイドギルディ……とはどういう事でしょう?」

 

 機嫌を損ねない様、恐る恐る質問した。

 

「マーメイドギルディはツインテイルズとの闘いで''最終闘体のエンジェルギルディ''になりましたわ」

「は!?」

 

 衝撃の事実を告げられ、思わず声を上げるエルフギルディ。

 同じエレメリアンが存在するという禁忌に驚きを隠せない二体とは対照的にこちらのエンジェルギルディはえらく楽観的だった。

 

「そんなに驚く事ではありませんわ。あちらはあちら、こちらはこちらでよろしいですわ。それに……」

 

 隅にある廊下へと歩き出し、ボソッと最後に呟く。

 

「あの科学者の性格上、永くない事はわかっていますもの」

 

 ホール歩く音にかき消され呟いた言葉は二体へと届かなかったが、エルフギルディは確かに見た。

 哀しそうな顔しているエンジェルギルディを。




だいぶ更新が遅れてしまいました。
待ってくれていた方には申し訳ない気持ちでいっぱいです。
その間に発売されました俺ツイの16巻!
やはり熱い! 新たな戦士の登場や新たなチャラ男、謎のゼっちゃん!
見所満載なのでまだ読んでいない方は是非!


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FILE.72 佳境の修学旅行

キジムナギルディ
身長:170cm
体重:254kg
属性力:???

聖の五界(セイン・トノフ・イールド)に所属する隊員。 隊の中でもエンジェルギルディに対する忠誠心は群を抜いて低い。故に出撃せずにいたおかげで生き残り続けている。

エルフギルディ
身長:185cm
体重:246kg
属性力:???

聖の五界(セイン・トノフ・イールド)に所属する隊員。 戦闘よりも研究や開発などの分野に長けていたが、ウンディーネギルディとの仲はよろしくなかった。


 私は今、飛行機に乗っている。

 何回か乗った事はあるけれど、今回はオーストラリアのゴールドコースト空港までなんと九時間半弱の長フライトだ。

 今から寝て、起きたらオーストラリアはすぐだけどこの状況ですぐに寝られる私たちではない。

 私はもちろん、前後左右にいるクラスメイト達は皆自撮りや女子トークに花を咲かせている。

 少しシュチュエーションは違うけれど、これぞ''修学旅行の夜!''って感じがしてとてもいい。

 そんな中通路側に座っている志乃は既に寝息をたてていた。

 女の子だけの空間だからまだ許せるけど志乃は寝てると無防備すぎる。 こんな寝顔男の子には見せたくないし、見せられないな!

 気持ちよさそうに寝ている志乃に配慮して私は積極的に話には参加せずにスマホを弄っているというわけ。

 たまに話しかけられると返事をしながらスマホを弄るのを続けていると、後ろに座るクラスメイトの会話が聞こえてきた。

 

「みてみてー、ハロウィーンと雪のコラボだって!」

「クリスマスじゃなくてハロウィーンと雪を合わせるなんて変わってるよね」

 

 へー、本当に変わってる。

 企画した人は何を思って二月にハロウィーンを絡ませようと思ったのか。 季節外れにも程があると思うけど……。

 初めて聞いたイベントが気になり、スマホで検索をしてみると……お、出てきた。

 どうやら東日本を中心に今日本で開催しているらしく、話題になりそうなイベントなのに耳に入ってこなかった理由は大きい宣伝などは全くしていないからとのこと。

 最近のハロウィーンらしく仮装するのはもちろんだけど、その状態で雪祭りを楽しむものらしい。

 少しだけ気になるけど、修学旅行には全然叶わないかなー。

 

 

 それからもなかなか寝付けないままスマホをいじり続け、気がつくと時間表示は午前〇時になっていた。

 隣の志乃が狭い席で寝返りをうつ。

 

「あか……ね……スゥ……」

「志乃……」

 

 志乃の寝言を聞き、スマホの電源を落とす。

 紅音が……総二が自分の世界に帰ってからもう一ヶ月以上経つけど、やっぱり志乃は寂しかったんだ。

 目を瞑り、総二の事を考える。

 元は私より一つ下の高校一年生の男の子なのに、変身したら小さな子供になって、初めて会った時はその小さな子供が成長した姿になってて……今思っても不思議な人だった。

 総二は今、何してるんだろう。

 当たり前だけど総二たちがどうしてるかなんて異世界の人間である私たちが知ることなんてできないし、かといってその世界に簡単に行けるわけでもない。……そうとはいえ私は二回、総二の世界に行ってるわけだけど。

 ま、総二みたいな重度のツインテールバカがエレメリアンなんかに負けるわけないし、きっと闘い続けているんだろうな。

 レッド、ブルー、イエロー、ブラックにシルバー、そして仮面ツインテールね。

 仮面ツインテールのトゥアールさんがフレーヌの世界で闘ってたツインテールの戦士なら表立って闘わないのは何故だろう。

 闘わない……もしかして、闘えない?

 勝手な解釈だけど、もしトゥアールさんが罪滅ぼしの為にテイルギアを纏っていないなら……きっと悔しいだろうな。

 きっと総二も……トゥアールさんと並んで闘える事を……望んで…………。

 

 

「暇です! 暇です! 暇です━━━━ッ!!」

 

 午前〇時過ぎ、奏がようやく寝息を立てはじめた頃、フレーヌは一人自分の基地にて絶叫していた。

 頭を抱えるフレーヌを風呂から出てきた黒羽は一瞥し、テーブルに置いてあるファッション誌を手にとり読みはじめる。

 風呂からあがったばかりという事もあり、流石の黒羽もツインテールを解いていた。

 

「黒羽さん……」

「いつのまに!?」

 

 声をかけられたので視線を上げると、僅か数十センチの位置にフレーヌの顔があり少しだけビックリした様子の黒羽。

 すぐにいつもと同じクールな表情へと戻った黒羽はフウッと息を吐き、再びファッション誌に視線を移して話しはじめる。

 

「そもそもフレーヌでしょう。奏たちの修学旅行をサポートするって言ったのは」

「それはそうですが……」

「警察じゃないけど、私たちが暇って事は修学旅行が順風満帆って事でしょ? 喜ぶべきことじゃない」

 

 諭すような笑顔の黒羽をみて、フレーヌは頷く。

 フレーヌが納得した様子を見せた事で、黒羽は再び髪を乾かすために部屋から出ていった。

 ポツンと一人残されたフレーヌはメインモニターに向かうと、今まで倒したエレメリアンのデータを打ち込みはじめる。

 

(エンジェルギルディが前線に出始めているという事は聖の五界(セイン・トノフ・イールド)をだいぶ追い詰めていると考えていい……。今までのエレメリアンの戦闘データからエンジェルギルディ攻略のヒントが掴めれば…)

 

 フレーヌは奏や黒羽と違ってテイルギアを扱う事はできず、志乃や孝喜と違ってエレメリンクする事もできない。

 自分ができる事といえば、テイルギアのメンテナンスと戦闘の際の誘導やサポート。

 この世界を守るため、自分の世界で闘ってくれた戦士に会うため、フレーヌはエレメリアンの分析を進めていく。

 モニターに映し出されたテイルホワイトとテイルシャドウに倒されたエレメリアン達。

 もはや何体か数えきれないほどのエレメリアンをホワイトとシャドウは倒してきたが、この中からエンジェルギルディと特徴が似た者がいないか細かくチェックしていく。

 

(エンジェルギルディに実力が一番近いのは、やはりセドナギルディだろうけど……)

 

 モニターにセドナギルディが映し出され、細かい情報が羅列されると同時にエレメリアン出現のアラートが基地に響き渡った。

 それを聞きつけた黒羽がツインテールにしながら部屋へと戻ってくる。

 

「まさか私が言った暇という言葉がアルティメギルに届いたんでしょうか……」

「そんなわけないでしょ……。 ほら、カタパルトよろしく」

 

 テイルシャドウへの変身が完了すると、カタパルトへ入り、エレメリアンが出現した場所へと転送された━━━━

 

 

 ━━━━シャドウが降り立ったのは上空に星が輝く野原だった。

 肌に当たる風は冷たいものだがこの地に雪は積もっておらず、辺り一面草花が広がっていた。

 周りを見渡し、人が居ない事に疑問を持ちつつシャドウはエレメリアンへ向かって歩いていく。

 

「よう、オルトロスギルディ。 テイルホワイトは……いないのかよ」

 

 草原に佇むエレメリアンはキジムナギルディだった。

 

「……何度言わせるのかしら。 私はテイルシャドウよ」

 

 今まで散々口にしてきているのに聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の隊員はどうしてこうなのかと苛立ちながらシャドウは思う。

 そして溜息を吐いた後、キジムナギルディしかこの場にいない事に疑問を持つ。

 

「見たところあなただけみたいだけど……それで私に勝てるのかしら?」

 

 素早くアンリミテッドチェインとなり、いつでも攻撃できるようノクスアッシュトリリオンを左手に持つ。

 キジムナギルディは軽く頭を掻いた後に大きなため息をついた。

 

「かてねーなぁ」

「……えらくあっさりと認めるのね」

「そりゃねえ。普通の形態すらいい勝負できるか怪しいのに、強化されちまったら勝算なんて全くねーって」

「調子狂うわ……」

『言う事は本当のようですが……』

 

 多少戸惑いながらも、自らへと疾駆してきたキジムナギルディを斧で一閃。

 武器として使っていた長槍を弾き飛ばすとその勢いのまま、ブレイクレリーズし必殺技を発動する態勢に入った。

 しかし━━━━シャドウが勝利を確信し、斧を振るった瞬間、キジムナギルディは不敵な笑みを浮かべた。

 

「負けるとわかってんのに正々堂々と勝負するわけねーだろーがっ!」

 

 ブレイクレリーズしたノクスアッシュが、キジムナギルディが手に持っていた''ある物''に当たり鈍い音を響かせる。

 ''ある物''を見たシャドウは目を見開く。

 

首領の吐息(ゴッド・ブレス)……!」

「違う!」

 

 属性玉のような形を見て咄嗟に出て言葉は、すぐに否定された。

 シャドウが一瞬力を緩めた隙にキジムナギルディは地面へと降りて、大きく距離をとった。同時に自信に満ちた声で叫んだ。

 

女神の吐息(ゴッデス・ブレス)! これ以上自分を強くするには、これしかねーだろーがああっ!!」

 

 勢いよく胸へ女神の吐息(ゴッデス・ブレス)を差し込み、キジムナギルディの全身が赤く光りだした。

 

女神の吐息(ゴッデス・ブレス)……。 ウンディーネギルディは自分の分以外も作っていたのね」

『ただ……セドナギルディに進化したのは特有の事みたいですね。 キジムナギルディにそのような変化は見られません』

「相手がどんな姿になろうと、女神の吐息(ゴッデス・ブレス)を使おうと、私が倒す事に変わりはないわ!」

 

 アンリミテッドブラを装備し、チェインエヴォルブ。

 アンリミテッドチェインとなると、すぐさまシャドウは左の拳を突き出す。

 対してキジムナギルディは右の拳を突き出すも、それが届く前にシャドウの拳が身体へ直撃━━━━大きく空中へ吹き飛ばされる,。

 

「悪いけど、ここから何日かはおとなしくしてもらわないと困るのよね!」

 

 ノクスアッシュトリリオンを手に持ち、後を追うようにシャドウも高く飛び上がる。

 既にブレイクレリーズされ、光の刃を輝かせる斧を上段に構えた。

 

「ルナティックウゥゥッ!クラアァァイシス━━━━━━━ッ!!」

 

 振り下ろされた斧が一斬。

 シャドウが地面に着地するよりも前に、キジムナギルディは地面へと叩きつけられると、じきに体中から放電しはじめる。

 

「つえー……」

 

 うつ伏せの状態からなんとか転がり、仰向けになったキジムナギルディがポツリと呟く。

 シャドウは変身を解除して速水黒羽へと戻り、空に浮かぶ星を眺めた。

 時々見える流れ星を見ていると、同じく星を見ていたキジムナギルディに声をかけられ視線を地面の方へと移した。

 

聖の五界(セイン・トノフ・イールド)は隊長を含めてあと四。 せいぜい頑張れよ、テイルシャドウ」

「言われなくても」

 

 最後に無垢な子供のような笑顔をしたキジムナギルディは大きな爆発を起こすと、属性玉が黒羽の手に収まる。

 

聖の五界(セイン・トノフ・イールド)が、後四体ですか…』

「いよいよって感じね」

 

 もう一度だけ黒羽は夜空を見上げると、優しく微笑み、基地への帰路についた。

 

 

 陽の光が顔に当たると同時に、志乃の声が頭の中へと響いてきた。

 そういえばアイマスクしないで寝ちゃったんだっけ。

 ゆっくりと瞼をあげて周りの状況を確認すると、どうやら志乃以外にも起きてる人が多いらしい。

 

「おはよー奏」

「うん。 はよー……」

 

 周りの雰囲気から察するに、そろそろ着陸でもするのだろう。

 窓から見える景色も飛行機のはるか下に広大な大地が広がっており、他の国の上空にいるんだと実感する。

 それから飛行機の中でできる朝の身支度を済ませて大人しく座っていると、機長さんからアナウンスが入る。

 

「着陸だって」

 

 アナウンスとCAさんの呼びかけにより、皆がベルトを締め着陸に備えていく。

 これからが修学旅行の本番だ!

 

 

 無事に飛行機は着陸し、入国手続きやらなんやらめんどくさい事を終えると、私たちはようやく空港から出る事ができた。

 季節が逆と聞いていたけど、意外とそこまで暑く感じず丁度いい気温という感じだ。 ……ま、まだ朝だしこんなもんなのかな。

 大きな荷物は既にホテルへと運んでくれたし、私たちは早速この街の観光へ出発する事になる。

 最初の日はクラス行動が基本で、三十人ほどの団体移動となるともちろんバスとなる。

 現地の会社のバスへと乗り込み、ここからまた何十分かずっと席に座っているわけだけど……乗り心地は悪くないのでなんとかなりそうだ……隣を気にしなければ。

 

「おい、伊志嶺。どうやらエレメリアンが出たみたいだぞ」

 

 出席番号順になると嵐、伊志嶺で何かと隣になる事は多いけどなにも修学旅行でそれを適用しなくても、と思う。

 とはいえ嵐の言う事も気になるので、向けられたスマホを見てみると写真はないが『テイルシャドウ、エレメリアンを撃破!』とネットニュースになっていた。

 全く連絡がないのを見るにどうやら本当に、私の修学旅行を守ってくれるらしく自然を頰が緩む。

 

「ははっ、写真がないのは使用料取られるからだろうな」

 

 シャドウにお金を請求されないようメディアもだいぶ工夫してるなぁ。いずれは名前さえ伏せられて報道されるかもしれない。

 その後は特に話す事もなくバスに揺られる事、約四十分後に最初の目的地へと到着した。

 有名な観光地であるだけあって人は多い。

 このエリアは海水浴は勿論のこと、サーフィンやバーベキューまでできるビーチに加えて、近くにはショッピング街が広がり一日目ながらここでお土産を買ってしまおうかと悩んでしまう。

 一日目は主にこの辺りの散策や海水浴で終わってしまうだろう。

 ……とはいえまだ午前なんだけど、本当に一日をここで過ごすのだろうか?

 

「海に入ってりゃ時間なんてあっという間だろ」

「心読まないでよ」

 

 嵐の言う事はもっともだと思うけど、スタイルのいい外国人の中で水着になる勇気は私にはない。

 エレメリアンに中途半端と言われ続けたせいでなんだか自分に自信が持てなくなってきた。エレメリアン、許すまじ。

 それにしても、先生がいるとはいえ外国でこんなにフリーダムに動き回っていいものなのだろうか。

 今この状態は団体行動よりも自由行動に近いし。

 海ではしゃぐ同級生達をボーッと眺めていると、ポニーテールの水着姿の女子がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

 

「ねえねえ、嵐君に奏もせっかくだし海外の海で泳がない?」

 

 自由行動で一緒に回る予定の彩だ。

 志乃もそうだけどなかなかのスタイルを持つ彩にとってはどこの国の海であろうと躊躇わずに水着姿になれるらしい。

 

「私はいいや。早くも疲れちゃったし、今回はみんなを見守ってるよ」

 

 せっかくのお誘いだがやはり私に水着になる勇気はなかった。

 

「えっと……俺も」

「行ってきなよ」

「え?……あ、ああ」

 

 私が口を挟んだ事に多少困惑した様子を見せながら、嵐は彩とともに海へと向かっていった。

 嵐が断ろうとした時に見せた彩の悲しそうな顔見たらフォローせずにはいられなかったけど……なんだろう、このモヤモヤ感は。

 結局、嵐は彩や近くにいた男子とはしゃぎまくってるし……。

 

「……ストリートに行くか」

 

 いっこうに胸のモヤモヤが晴れず、気分転換を考えて私はその場から離れた。

 外国で一人になるのは少し心配ではあるけどまだ午前だし、そこら中に同級生がいるし大丈夫だろう。

 

「俺は入るぞ!」

 

 ……あ、長身の真部とメガネの武川が先生に捕まってる。

 目の前にあるお店がクラブだという事を考えると、二人で入ろうとしたところを先生に抑えられた、てところか。

 班員ではあるけど擁護のしようがないし、私は無視してストリートに連なるお店を物色しはじめた。

 

 

 その後お店を適当に見て回ったり、再び海辺へと戻ったりしていると、あっという間に時間は経ち、バス移動を終えて今はホテルの部屋にいる。

 ストリートには意外と目を惹くものが多くて早くも色々と買ってしまった……。 あまり買うと帰りが大変だしこれくらいにしとかなければ。

 

「よっと!……あ」

 

 作りが豪華なソファに深々と腰を下ろして、何気なしにテレビをつけてみるとエレメリアンに関するニュースがやっていた。

 

「あ、外国じゃ黒羽の映像使ってるんだね」

 

 はは、流石に黒羽も外国のメディア全てをチェックする暇なんてないだろうしね。

 オーストラリアのテレビなのでもちろん英語だけど、英語に関してはまあまあ自信があるので何を言っているのかは大体わかる。

 

「''テイルシャドウがまたエレメリアンを倒した''って映像を使うかわりに最低限の事しか放送してないね……」

 

 意外かもしれないけど英語の成績は私より高い志乃である。

 この修学旅行、志乃がいるおかげで現地の人と話す際も困る事はないだろう。

 そんな英語力を持つ志乃がニュースを見て苦笑いすると、私もそれにつられて顔をひきつらせた。

 まさかとは思うけど……海外のテレビにまで黒羽は警戒されているのだろうか……。

 

「修学旅行中、もう二体も倒しちゃったんだね。さすが黒羽!」

「キジムナギルディにエルフギルディか……。なんかここにきてペースが早まってるような……」

「エレメリアンなりの奏への嫌がらせだったりして」

「正体バレはしてないから平気……だよね」

 

 修学旅行中でもやはり、エレメリアンの話は入ってきてしまう。……正直、慣れているのでどうという事はないけど。

 その後もテイルシャドウに関して極力触れないようキャスター達がエレメリアンのニュースを締めくくり、さっさと次のニュースへと移ってしまった。

 

「ハロウィーンと雪のフェスティバル……昨日見たやつだ……」

 

 飛行機の中で見た日本ではおかしな、もっと言えば真夏であるオーストラリアではもっとおかしなイベントが紹介されはじめた。ていうか近くで開催しているらしい。

 

「へえー! 結構近くでやってるみたいだよ。自由行動の時行ってみない?」

「……マジ?」

「ガチマジ!」

 

 まあ、確かに私たちの自由行動の範囲内でやっているみたいだし、時間は充分にあるし、少しくらいの寄り道は平気だろう。

 それにしても、テレビで紹介されてるのを見ても雪の部分が全く見つからないのは如何なものか。

 夏だししょうがないっちゃしょうがないけど、ならなんでオーストラリアで開催した……。

 

「そろそろ夕飯だし食堂行こっか」

「うん、行こっ!」

 

 余程お腹が空いていたのか、志乃はスキップで部屋から出て行く。

 テレビを消そうとリモコンを取ったところが私は思わず電源ボタン押すのを躊躇してしまう。

 ……先ほどの雪ハロウィーンのニュースの中、キャスターが会場の紹介をしている中で写っていた━━━━

 

「━━━━エ、エンジェルギルディ……!」

 




どうも、阿部いりまさです。
とうとう高校二年生の最大イベントである修学旅行がはじまりました。
この修学旅行を終えると、同じように高校二年生もすぐに終わって、本格的に受験シーズンへと突入していくものです。
この話が修学旅行を終えた時、はたしてどうなるのか……。
もうしばしお待ちいただけたら嬉しいです。
それでは!


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FILE.73 佳境の修学旅行(フェスティバル)


奏達のクラスメートであり、孝喜も所属するサッカー部のマネージャー。おっとりとした性格と抜群に似合ったポニーテールがとても良い評判を得ている。 密かに孝喜に想いを寄せているが、奏たちとも仲が良く少々複雑な心境を抱いている。

真部
奏達のクラスメートでありサッカー部所属。 ポジションはミッドフィールダー。 背が高くなかなかモテる。クラスや部活内のムードメーカー的存在だが調子に乗りやすい性格。 奏曰く長身の真部。

武川
奏達のクラスメートでありサッカー部所属。 ポジションはゴールキーパー。メガネをかけている。 遠慮深い性格だが、テイルホワイトの事になると熱い一面を見せる。 奏曰くメガネの武川。

彩は以前にも登場しましたが、サッカー部の二人は班の人数要員的存在なので今後も登場するかは微妙ですかね……。


 非常にマズイ。

 一生に一度の修学旅行……フレーヌと黒羽が守ってくれるとは言っていたけど、このままでは私はテイルホワイトになってしまう……!

 その原因としては、これからみんなで向かう季節外れの『雪とハロウィーンの祭り』にある。

 昨日の夜ごはん前に私と志乃は近くでその祭りが開催されているのを知り、今日の自由行動の中で少し立ち寄ろうという話になった。……そこまではよかった。

 だけど、私は見てしまった。

 ハロウィーンの仮装の中に紛れて悠然と会場を歩き回るエンジェルギルディの姿を!!

 その事を志乃に伝えようとしたが、時すでに遅し。

 自由行動で一緒に回る班員の彩、嵐、真部、武川に話をしてみんなノリノリで行くことにしてしまったらしい。

 もはやみんなのセンスを疑わざるを得ない……じゃなくて、この空気の中で私は拒否することもできずについてきてしまった。

 そう……この説明の最中も私たちの着実に祭りへと近づき、会場の前へと到着してしまっていた。

 

「うおー! 人もかなりいるな」

 

 長身の真部が手を目の上に添えて、遠くを眺めながら会場を見て一言。

 

「こりゃはぐれたらヤバイかもね。 みんな、一応集合場所決めておこう」

 

 メガネの武川が見た目通りの冷静さで迷子になった時の対処法を説明しはじめた。これはしっかりと聞いておいた方がいいかもしれない……。

 

「ねえねえ、みんな。 仮装してる人と記念写真取れるみたいだし、行ってみよ」

 

 彩が指差した方角へ視線を向けると、そこには近年のハロウィーンを象徴するかのような人たちがいた。

 ちゃちいカボチャの仮装から、無駄に凝ったゾンビの仮装などがこの明るい昼間から会場を練り歩いている。

 

「……」

 

 目を凝らしてみても、エンジェルギルディの姿は見えなかった。

 そりゃそうだよね。 昨日いたからって今日もいるとは限らないわけだし、少し不安だけどあまり考えなくてもいいかもしれない。

 少しだけ気が楽になり、みんなの後をついて行く。 しかし、ここで重大な事実に気づく。

 

「嘘、スマホがない……」

 

 まったく、ついていない。

 もしかしたらここに来るまでの何処かで落としてしまったのか、はたまたホテルへ忘れてきてしまったのか。

 ホテルに忘れたんならまだいいけど、海外でスマホを落とすなんて何があるかわかんないしヤバイんじゃないのかな。

 軽くショックを受けトボトボと歩いていると通行人と当たり尻餅をついてしまった。

 

「痛っ……」

 

 スマホに続いて本当に運がないな、今日は。

 こんな風に尻餅をつく事がわかってればスカートなんて履いてこなかったんだけど。

 

「申し訳ない。怪我はないかね?」

「は、はい。 大丈夫です」

 

 渋い声とともに差し出された手を取り、立ち上がろうとしたところで、ある違和感を覚えた。……あれ、いま日本語で話された?

 相手を確認すべく、顔をあげたがそれは叶わなかった。

 

「カ、カボチャ……?」

 

 私にぶつかってきたのは先ほど会場の入り口から見えたちゃちいカボチャを被った人だったらしい。

 カボチャの人は紳士的に手を差し伸べてきてくれたので、とりあえず私は手を取り立ち上がる。

 

「いや、すまないね。 余はこのフェスティバルの主催者で、色々と急いでいたのだ」

 

 流暢な日本語で話すところを見ると、やはり彼は日本人だろうか。

なかなか渋い声なのに、もう少しカボチャの被り物にお金をかける事は出来なかったのだろうか……。

 彼が被っているカボチャはさしずめ幼稚園児の書いたジャック・オ・ランタンと言ったところだ。

 私は手で服についた汚れを払いながら、頭を下げる。

 そこでカボチャの主催者は何かに気づいたのか、急に私から距離をとってしまった。

 

「君は、仮装はしないのかな?」

「私は別にそういうのは興味ないんで……」

 

 二月に、修学旅行先である海外で、ハロウィーンの仮装、なんてする人はいないでしょう。

 カボチャの主催者は回答を聞いて肩を震わせると、頭を抱え苦しみはじめた。

 

「何故だ……!? 余のフェスティバルで仮装に取り憑かれない者などいないはず……!」

 

 このカボチャの主催者、よっぽど仮装が好きらしい。

 それなら尚更、しっかりとハロウィーンの季節である十月にこの祭を開催してほしかった。 それなら私も少しは仮装する気になったかもしれないしね。

 未だに頭を……カボチャを抱えるカボチャの主催者を慰めようとしたが、その前に彼は自ら立ち上がり空を眺めはじめた。

 

「えっと……ここは人がいっぱいいるし、とりあえず移動しましょうよ」

 

 人の流れの中で二人も同じ場所に居続けるのは明らかに邪魔になってしまうだろう。

 

「余は世界に仮装を響かせ、浸透させたと思っていたのだが……。一人の少女を仮装させる事が出来ないとは余もまだまだだった……」

 

 完全に放心状態だ……。

 え、これって私のせい?

 

「……いや余には新たな目標ができた。それは部屋に閉ざされた君の仮装欲を解放し、仮装に目覚めさせる事だ」

 

 なんかとんでもないことになってきた。

 

「そして君にもこのフェスティバルの素晴らしさを……ん? 何故だ……君からは仮装どころか、全く属性力を感じないぞ」

 

 少々呆れ気味でカボチャの主催者の話は聞き流していたが、ある単語だけはしっかりと頭の中に残る。

 

「属性力って……! あ、あんたまさかエレメリアン!?」

「いかにも。余は聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の誇り高き戦士。 仮装属性(ディスガイズ)のジャックオランタギルディである!」

 

 名乗りとともに、ジャックオランタ……略してジャックギルディは被っていたちゃちいカボチャを破裂させ本当の素顔を晒した。

 だが晒された面は変わらずカボチャだった。マトリョーシカかなにか……あれ、なんか前にも同じようなことがあった気がする。

 

「さて、属性力を持たぬ悲しき少女よ。 今から余が君の属性力を解放してやろうではないか」

 

 先ほどまでの紳士な対応は何処へやら。

 ジャックギルディは両手をグーパーさせ、なんとも気持ち悪い動作をしながらジリジリと近づいてくる。

 正直言ってかなりキモい。

 変身してぶん殴りたいところだけど、大観衆の中でそれは出来ないし、取り敢えず逃げるしかないか。

 そうと決まればと走り出そうとしたその時、空から頼れる声が聞こえてきた。

 

「ノクスアッシュ!」

「うおお!?」

 

 テイルシャドウが降下と同時に斧を振り下ろし、かすり気味だがジャックギルディに命中させる。

 ジャックギルディの反応をフレーヌが基地で感知しすぐさま来てくれたみたいだ。

 

「あなたは逃げなさい」

「うん、ありがと」

 

 フレーヌとシャドウはあの時に言った通り、私の修学旅行を守ろうとしてくれている。

 とはいってもやはり闘いは気になるので、ある程度離れた位置から行く末を見守る事にした。

 

「Oh!! Tail shadow!?」

「Oh my god!!」

「Help me!!」

 

 ジャックギルディを見てもあまり動じていなかった人々が、シャドウが現れた途端悪魔でも見たかのような表情をして走り去っていく……。

 やっぱ日本だけじゃなくて海外でも色々な事にお金を請求してたんだな……。

 でもまあ、そのおかげで周りに人がいなくなって闘いやすくはなっているみたいだけど。

 

「余の属している聖の五界(セイン・トノフ・イールド)はもはや壊滅したも同然だ。 しかし余は最後まで聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の一隊員として君たちと闘おうではないか」

 

 エンジェルギルディの部下でありながらも、こうして誇りを持って闘うエレメリアンもやはりいるんだと、少しだけ感心した。

 闘う気満々のジャックギルディだが、それと相対するシャドウの表情は穏やかだ。

 ていうか何気に聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の情報を喋ってくれて助かる。

 

「最近は私も不甲斐ない姿を見せてばかりだったけれど……もうそれはお終いよ」

 

 話が終わると同時にシャドウは斧を振りかぶると、そのままジャックギルディに向かって疾駆した。

 

「仮装は簡単な物から始めるがよし……!」

 

 元々笑っているように見えていた顔で表情は読み取れないものの、ジャックギルディが良からぬ事を考えているのは雰囲気でわかった。

 

「はあああっ!!」

 

 そんな事はお構いなしに、シャドウは振り上げていた''竹箒''を振り下ろす。

 

「え、箒?」

 

 振り下ろし、ジャックギルディに命中したのは斧ではなく、いつのまにか魔女が空を飛ぶのに使うような竹箒へと変わってしまっていた。

 当然、屈強なエレメリアンに対しての箒攻撃は全く効果がない。

 

「あなた、何かしたわね」

「フフ……君には魔女の仮装が似合うと思ったのでね。どうかな、小道具を持つだけでも気分はでてくるであろう?」

 

 こんな暑い中でテイルギアを纏いながら箒を持ったところで、そんな気分にはならないと思うけど……。

 フレーヌがジャックギルディの能力を解析しているのか、シャドウは小声で何かを話し頷いている。

 

「本当にノクスアッシュじゃなくただの箒ね。 仮装属性……厄介な能力を持っているわ」

「まだまだ、余の能力はこんなものではない。 フウゥゥゥンッ!!」

「……これは!?」

 

 まさか……ジャックギルディが三角形の目を光らせると、シャドウのテイルギアの形が変わってしまった。

 フォースリボンはそのままだが、それを隠すように鍔が広く先がクルンとした魔女が被る帽子を被っていた。

 それだけじゃない。 いつのまにか、肩には黒いローブ、体には黒いミニワンピ、足にはつま先が尖った靴を着用している。

 シャドウは、いわゆる魔女……というより魔女っ子の定番の格好をしていた。

 突然の事で困惑したシャドウは思わず自分の体を触り感触を確かめる。

 

「本当にこの服を着ているわ……。 私が……仮装している……!?」

 

 嘘……これ幻覚じゃないって事!?

 

「余の目に狂いはなかった。 君には魔女っ子が似合うと初めて見た時から思っていたのだよ」

 

 変態の意見に賛同するのは悔しいけど、黒いツインテールと魔女の衣装は調和しており確かによく似合う。

 当のシャドウは最初こそ戸惑ったものの、それ以降は特にきにする様子もなくジャックエッジを手に顕現させる。

 

「どうやらフォトンアブソーバーのおかげで形は変わってもテイルギアの機能自体はなくなってる様子はないみたいね」

「余は仮装した娘と勝負するのが喜びだ。鎧を無効化すると勝負にならないであろう」

 

 ジャックギルディが指をパチンと鳴らすと、今度は剣が木の杖へと変わってしまった。

 

「魔女っ子に剣は似合わないと思わないかい?」

 

 シャドウは舌打ちして杖を放り投げる。

 確か武器は私たちのようにフォトンアブソーバーで守られていなかったはず……だから完全に本物の箒や杖になってしまうんだろう。

 

「安心してほしい。余も武器を使うことなどないのでね」

 

 ただ……さっきのジャックギルディの言い方だと、本気を出したらテイルギアを完全に無効化してただの仮装にできるのかもしれない。

 

「さて、そろそろはじめるとしよう」

 

 ジャックギルディは宣言通り武器を使う気はないようでボクサーのような構えをとる。

 

属性力か悪戯か(トリック・オア・トリート)……!」

 

 だから季節外れだってば!

 シャドウとジャックギルディそれぞれが互いめがけて走り、拳と蹴りが入り乱れるインファイトが始まった。

 

「魔女っ子に格闘術は似合わんな!」

「余計なお世話ね!」

 

 正拳突きをうまく交わしたシャドウはハイキックをかましてジャックギルディを怯ませる。……ミニワンピ着てるからあんまり脚をあげると結構危ういんだけど。

 

「このはしたない魔女っ子め! 少しは羞恥心を持ってみてはどうか!」

 

 どうやらジャックギルディの位置からだとモロ見えらしい。

 

「私のパンツを見た者はそれなりの請求をさせてもうし……問題ないわ!」

「問題大アリではないか!?」

 

 これに関してはエレメリアンのほうが正しいような。 いやでも、魔女っ子の仮装をさせたのはジャックギルディだったよね……。

 何はともあれ、祭りに来ていた客はシャドウが現れた途端逃げていったし、誰もシャドウの下着は見ていないだろうな。

 お金払わずに済んでよかったね!

 

「はあっ!」

「む、またそのようなはしたない攻撃を!」

 

 シャドウ得意のドロップキックを顔面に受け、ジャックギルディは吹っ飛び祭りの看板へと激突した。

 粉々になった看板を掻き分け、フラフラと立ち上がるジャックギルディ。

 

「ぐう……。 余が魔女っ子にここまで押されるとは……このままではテイルホワイトを仮装させられん」

 

 お、何か気になる事を言いだした。

 この私にどんな仮装をさせるつもりなのか……。

 

「余はテイルホワイトに……いや、今はやめておこう」

 

 おおい! そんな中途半端なとこで切ったらかなり気になるじゃん!

 ジャックギルディが何を言いかけたのか気になりソワソワしたのは、どうやら私だけではなかったらしく……。

 

「どうせなら最後まで言ったらどう? ホワイトに会う機会はないだろうけど」

 

 おお、シャドウも気になるんだ。

 威圧感に耐えられず、壁に追い詰められたジャックギルディにシャドウは壁ドンを披露した。……壁ドンといってもシャドウは手ではなく右脚を使っているのだけど。

 

「なんて破廉恥な魔女っ子……! やめてくれ、モロだ! モロだああぁ!!」

 

 うっわぁ……。

 女の下着を見てあそこまで取り乱す人(?)も初めて見たけど……ミニワンピ着ながら堂々と脚をあげる人も初めて見た。

 

「さて、私のパンツを見たあなたにはいくら請求させてもらおうかしらね」

「もはや君は余に見せつけているではないか! やめてくれ、余を逃がしてくれ!」

「フフフ……逃がさないわよ」

 

 魔女っ子に仮装させなければこんな展開にならなかったんだろうな……。 普段のテイルギアじゃスカートじゃないし。

 それにしても、こうして遠くから見てるとエレメリアンが女の子にカツアゲされてるように見えるな……いや合ってるか。 そのまんまだよね。

 

『メンディーけどウチの出番はナウしかー!』

「!?」

 

 突如として暗号めいた言葉が響き渡ると、先ほどまでシャドウがいた所は爆煙にのまれてしまった。

 シャドウは……うまく避けられたらしく無事みたいだ。

 

聖の五界(セイン・トノフ・イールド)最後のヒラ隊員のお出ましのようね」

 

 最後のヒラ……単純に考えると、まさか残ってるのはエンジェルギルディとジャックギルディ、それと今来たエレメリアンだけって事!?

 少年のような高い声の咆哮を響かせたエレメリアンはやがて煙の中から現れる。

 聖の五界(セイン・トノフ・イールド)最後の隊員、それは━━━━雪だるまだった。

 

「あーマジでテンサゲなんですけどー? 天下のツインテール戦士がウチの兄弟虐めるとかマ? ……てかなにそのかっこ、ジワるー」

「……」

 

 な、なんだこの雪だるま!?

 ギャル……なのかな。

 

「まって、ここよきじゃない! インスタ映えでイイねもらいまくりよー」

 

 いや、ギャルっぽくはあるけどこの話し方はJKだ!

 周りの景色を見て、雪だるまは何処からか自撮り棒を取り出して周りが写るようパシャパシャと自撮りしはじめた。

 

「君は相変わらず自撮り第一なのだな。助けてもらい感謝するぞ」

「ちょ、今いいとこなのに話しかけるとかどんだけかまちょなの? 大事な時間邪魔されてマジイラオコだわー」

「ぐは!?」

 

 露骨に不機嫌になった雪だるまは持っていた自撮り棒でジャックギルディを叩きつける。

 ただの自撮り棒なのでエレメリアン的には痛くはないはずだが、ジャックギルディは頭を抱えてうずくまってしまった。

 

「や、テイルシャドウ♪ ウチはジャックフロストギルディ。 ウチとしてはアンタとやるのはなしよりのなしでぴえーんな訳で病んでるんだよね。でもま、ウチにもワンチャンあるって隊長に言われたんだけどぉ……そマ?」

「な、何を……言っているのかしら」

 

 話す内容がアレすぎて忘れかけたけど、あの雪だるまの名前はジャックフロストギルディと言うのか。

 カボチャのほうもジャックて名前がついていたしとてもややこしいし、フロストギルディでいいや。

 

「……あーね。 ウチの言う事なんか知らないってわけね、おけまる」

 

 シャドウは純粋に何を言っているのかわからないだけだろう。

 ちなみに私自身は使いはしないけど、学校で何回か聞いたことあるのでだいたい言っていることはわかる。

 

「ウチもまあインスタ映えスポットどちゃくそ歩きまくりだし。 あーは言ったけど足腰にはかなり自信ありありなんだよねー」

 

 フロストギルディは小さく短い手足をプラプラ振ると、いきなりシャドウへ殴りかかる。

 しかしそこは流石のシャドウ。

 いくら不意打ちとはいえど、しっかりと反応してフロストギルディの拳を握り押さえつけた。

 

「痛い痛い! これちょーやばたに! やばたにえん!!」

 

 思いを汲んだのか、はたまた何を言っているのかわからないからか、シャドウはフロストギルディをそのままジャックギルディへと投げつける。

 魔女っ子の格好をしているのにここまでそれっぽい要素が全くないのは逆に凄くないだろうか。

 

「少しは魔女っ子らしくしたらどうかね!?」

 

 武器が使えなくなったら徒手空拳で挑まれるのは少し考えればわかるはずだけど……今文句を言っているジャックギルディはそれを思わなかったのか。

 その後、シャドウは二対一ながらも優位に闘っていく。

 しかし私は━━━━

 

「このままならシャドウは勝てるけど……」

 

 一人で闘うシャドウを見て、私は鬱々としていた。

 そしてチラリと右腕を見ると、いつのまにかテイルブレスが可視化しているのに気づいた。

 

 

 奏が隠れる場所からそう遠くない所にある屋台の裏で、志乃たちは固まっていた。

 志乃や孝喜はエレメリアンを間近で何回も見ているため、普段と様子はあまり変わらない。 が、しかし……他のメンバーは違った。

 

「魔女っ子のテイルシャドウ、なかなかイケるな……」

 

 真部は手に持っているスマホで普段のシャドウと比較しながらポツリと呟いた。

 

「まあ見た目はいいからね。それより画像は削除したほうがいいよ。 テイルシャドウに見つかったら最後、かなりの額を請求されると思う」

 

 メガネを光らせて答えるは武川。

 

「守護神なのに私の後ろに隠れてるから全然カッコよくないよ、武川君」

 

 チラチラと戦況を見つつ彩は呆れ顔だった。

 

「ねえ志乃。さっきから奏と連絡取れないけど、大丈夫かな」

「この近くにいるとは思うけど……」

 

 エレメリアンが現れて騒ぎになる前に逸れてしまってから、志乃も何度か着信を入れていたものの奏からの返事はなかった。

 地球上ならどこでも通信できるフレーヌアプリを介しても返事がないと言うことはスマホを忘れてしまったのか……それとも返信できる状況じゃないのか。

 

(フレーヌならわかるだろうけど、黒羽のサポート中だし……)

 

 奏の事を心配する志乃だが、取り敢えずはこの場から避難する事を皆に提案する。

 

「このまま此処にいると何が飛んでくるかわからないし、取り敢えず離れよっ!」

 

 普段の志乃からは想像できない真剣な顔で言われ、孝喜以外の三人は互いの顔を見た後に力強く頷いた。

 皆の安全とシャドウの評判を考えての最善の選択に孝喜も勿論同調し、隙を見て一人ずつ離れ出す。

 

「俺らも行こうぜ。 黒羽ならまあ……大丈夫だろ」

「でも奏が……!」

 

 孝喜は志乃にも避難を促すが、連絡の取れない奏を心配してその場から動こうとしない。

 

「いざとなったら伊志嶺にはテイルギアがあるし心配ないだろ」

「そう、だよね……」

 

 少しだけ安心したのか、志乃もようやく立ち上がり皆が避難した方向へと駆けだす。

 

「ぬおおお!?」

 

 しかし、そこへジャックオランタギルディが吹き飛ばされ屋台を破壊した。

 思わず足を止める志乃と孝喜。

 

「ぬうう……魔女っ子とは思えぬ脚力よ。 ……んん?」

 

 そして運の悪い事に、二人はジャックオランタギルディの目に止まってしまった。

 パイプをどかしながら立ち上がると、ゆっくりと二人へと近づくジャックオランタギルディ。

 シャドウが気づき止めに入ろうとしてもジャックフロストギルディと大量の戦闘員に阻まれてしまう。

 

「こうなったら一気にフルパワーで吹き飛ばすわよ!」

『いけません! 近くにいる志乃さんたちまで巻き込まれてしまいます!』

 

 フレーヌの忠告が入り、広範囲の攻撃ができないとわかったシャドウは仕方なく一体一体戦闘員を倒していくがそれでは間に合わない。

 眼前まで迫ったジャックオランタギルディから志乃を庇うように孝喜は前へと出る。

 

「……先ほどの少女と同じように君たちから全く属性力を感じない。 君たち、あの少女と知り合いか?」

 

 テイルギアと同じようにリンクブレスにもイマジンチャフが搭載されている。

 集団の中では狙われにくく、気づかれることはないが、こうして相対してしまうとエレメリアンもその不自然さに気づき逆に目立ってしまうこととなる。

 勿論その不自然を理解し、頭のキレるエレメリアンもいた。

 

「属性力を持たぬ人間が生まれるのは余らに奪われた場合のみ。だが、シャークギルディ部隊、及び余の聖の五界(セイン・トノフ・イールド)はこの世界において属性力奪取は成功していない」

 

 目のようにくり抜かれていたカボチャの双眸が赤い光を放つ。

 

「この世界の科学レベルでは属性力を隠すことなど不可能だろう。あの少女と君たちは、テイルホワイトに関係があるみたいだね」

 

 双眸が赤く光ったその時からいつのまにか志乃は悪魔っ子の、孝喜はフランケンシュタインの仮装をさせられていたが、そんな事を気にしている場合ではなかった。

 

「どうかな? 合っていると思うのだが。どちらにせよ、余が属性力を頂くのは変わりないのでね」

 

 属性力奪取のための光輪を持ち、二人の頭から通そうと高く振り上げると、容赦なく振り下ろす。

 

「ぶー。 それはハズレ」

「何ッ!?」

 

 背の高い孝喜の頭に触れるか否かというところで、光輪は止められた。

 答えを否定する効果音を発した声とともに、横から伸びた腕にジャックオランタギルディも思わず声を上げる。

 その腕を見てすぐに誰かわかった志乃と孝喜は安堵の息を漏らした。

 テイルホワイト・マキシマムチェインがそこにいたのだ。

 

 

 志乃と嵐の格好とか色々ツッコミたいところだけど、今は目の前にいるジャックギルディを離すのが先だ。

 ジャックギルディを持ち上げ、大量のモケモケの中へと投げ飛ばす。

 

「ぐおおおおお!?」

 

 その衝撃で大量のモケモケは吹き飛び、消滅していく。

 

「凄い連絡したんだよ!」

「ご、ごめん。 スマホ落としたか忘れてきちゃった見たいで」

 

 どうやら結構心配かけてしまったらしい。

 これは後で何かしら奢ってご機嫌とりしとかないとだね。

 横にいる嵐に視線を移してみる。

 

「………」

「な、なんだよ……」

「フランケンシュタイン、似合ってないね」

「違っ! これはあのカボチャ野郎が勝手にやった事で!」

 

 おー、嵐がここまで焦ってるのはなかなか見ないな。

 尚も弁解する嵐を見て、私はフッと息を吐き話しかける。

 

「志乃を守ろうとしたのは、なかなかかっこよかったよ」

 

 必死に弁解していたが急に嵐は目を逸らし頰を軽く掻いた。

 

「ま、まあ……」

「それじゃ、関係疑われるしそろそろ逃げて。 ジャックギルディはなかなか頭が良さそうだからね」

 

 なんか嵐が言いかけていたが、疑われている今、私たちずっと一緒にいるとそれは確信に変わってしまう。

 何故か志乃は励ましながら、嵐はガッカリとした様子で他の三人の元へと歩いていった。

 ここで今日初めてフレーヌから通信が入った。

 

『奏さん……一生に一度の修学旅行なのに、いいんですか?』

 

 えらくテンションが低いのは旅行前に言ってくれた約束の事があるからだろう。

 

「ポジティブに考えてみて。 修学旅行中にテイルホワイトになるって、他の人は経験出来ないんだよ?」

『それは確かにそうかもしれませんが……』

「それにさ」

「モケモケ━━━━ッ!!」

 

 襲ってきたモケモケにアバランチクローユニバースを叩き込む。

 いいところなんだから邪魔しないで。

 

「んんっ。それにさ、闘える力があるのにただ見てるだけなんて……やっぱ私にはできないよ」

『わざわざ言い直さなくても』

 

 あれ、いいこと言ったはずなのにあんまり響いてない感じ?

 少しだけ思っていたのとは違っていたが、取り敢えず目の前のエレメリアンとモケモケを倒さなければ。

 周りに群がっていたモケモケを吹き飛ばし、ようやくジャックギルディと闘うといったところで思わぬ闖入者が現れた。

 

「テイルホワイトってそれMJK!? ウチがやらなきゃ意味ないっしょー!」

「ちょ、待ちなさい!」

 

 突然フロストギルディがシャドウを振り切り、私の前に立っていたジャックギルディを吹き飛ばして立ち塞がった。

 やっぱり雪だるまだし小さい。

 

「うわ、生で見るとめっかわだねー。 テイルホワイトとかインスタ映えしまくりだし、こんなとこ会えるなんてめっちゃ神ってるってー!」

 

 スマホを持ちぴょんぴょんと飛び跳ねながら私の元へ近づき、無理矢理肩を寄せるフロストギルディ。

 

「はーい、tkmk♡」

 

 パシャリ。

 いつのまにか自撮り棒まで用意していたフロストギルディと一緒に写真を撮ってしまった。

 現役JKである本能が私をそうさせたのか。撮られる瞬間にウインク、指で小顔に見えるポーズまでしてしまった。

 フロストギルディ……凄いJKっぽくてスマホ持ってこれだけフレンドリーだなんて。

 これは、もしかすると説得すれば倒さないで済むんじゃないだろうか。

 

「あのさ」

「写真あざおでーすっ! ウチの引き立て役にこれ以上はいないってねー! あははは!」

 

 うわ、凄いムカつく!

 やっぱりエレメリアンは倒すべき存在なんだと理解した。

 未だにスマホに夢中なフロストギルディに向かってクローユニバースを叩き込む。しかし、軽々と避けられてしまった。

 

「うーわ……秒でテンションバリ下がった。ウチとしたらイイねはまだまだ欲しかったんけど、しょーがないかな」

 

 渋々とスマホをしまい込むと、フロストギルディの表情が一変する。

 思わずその動作だけで私は身構えてしまった。

 さっきまでシャドウに押されていたはずなのに、なんだろうこの迫力は……。

 

「実はこれでもウチ、聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の元参謀なんだよねー。 んま、外されちゃったけど」

「さ、参謀!?」

 

 こんなに小さくてふざけてて、私よりJKっぽい奴が!?

 

「あはは、マジ卍ーって思ってるっしょ?」

 

 参謀といったらもうそれはかなり上のはずだけど、勢いで嘘を言ってるんじゃないだろうか……。

 そもそもこんな奴が参謀なんて務まるの? ……だから元なの?

 ただの嘘ならいいけど本当に聖の五界の参謀だったのなら、その実力はそれなりにあるはずだ。

 警戒するに越した事はないと、クローユニバースをしっかりと構えてどんな攻撃にも対応できるように準備しておく。

 フロストギルディは準備体操をするかのように、肩をグルグルと回し気合を入れた。

 

「んじゃとりま、はじめよっかー!」

 

 高速で飛びかかってきたフロストギルディをクローユニバースで迎え撃つ。

 エンジェルギルディまでもう少しだ。

 ここで終わるわけにはいかない!

 




あけましておめでとうございます。
最近はなかなか更新ができませんが呼んでくれる方がいる事に感激しております。
今年は2019年ですが、作中では特に何年などは設定していませんのでよろしくお願いします。
それでは!


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FILE.74 佳境の修学旅行(兆候)

ジャックオランタギルディ
身長:209cm
体重:288kg
属性力:仮装属性(ディスガイズ)

聖の五界(セイン・トノフ・イールド)に所属する紳士然としたエレメリアン。 属性力を広めるため、自ら祭りの主催者となり世界を旅してきた努力家でもある。 自らの属性力の力で人間を一瞬で仮装させる事ができ、その能力はテイルギアの装備の一部を無効化してしまうなど非常に強力なもの。

ジャックフロストギルディ
身長:88cm
体重:146kg
属性力:女子高生属性(ハイスクールガール)

聖の五界(セイン・トノフ・イールド)に所属するエレメリアンで元参謀。今時の若者を自称し、自撮り棒は常に持ち歩き、インスタ映え写真を撮り、難解な言葉を使う。通常は短い手足だが、任意で長さを変える事ができる。 相棒のジャックオランタギルディによく自撮り棒を叩きつけている。


 フロストギルディは、雪だるまの癖にすばしっこく動きながら攻撃を仕掛けてくる。

 手脚のリーチが短い分なるべく距離をとればいいと最初は考えていたが、そこまで簡単な話ではなかった。

 

「逃がさないってねー!」

「ふぎゃ!?」

 

 フロストギルディの短い腕が、急に何メートルも伸びてくると、私の脚を掴んで地面へと叩きつけられた。

 まさか腕が伸びるなんて……。

 油断したけど、これくらいでは私に大したダメージは入ってはいないしまだ平気だ。

 ただ公園の地面を傷つけてしまったのは申し訳ない。

 

『奏さん、そこは危険です!』

 

 顔を上げると、いつのまにか目の前に仮装属性のジャックギルディの姿があった。

 シャドウと闘っていたはずだと思いながらも、クローユニバースを目の前のカボチャへと繰り出す。しかし、相手の胸に当たったのはクローユニバースではなく只の拳だった。

 

「あれ、まさか………あーっ!?」

 

 パンチを受けて吹っ飛んだジャックギルディが私の姿を見てニヤつく。

 私自身もすぐに自分の姿が、シャドウと同じようにテイルギアが変化し、''白いナース服''に変わっている事を理解した。

 しかも丈がかなり短く、膝上三十センチほどだろうか。

 こんなのミニスカナース服履く人なんてもはや見られたい人じゃないの!?

 痴女か私は!

 

「な、なな、なななな何てカッコさせんの!?」

「ふふふ、やはり余の目に間違いはなかった。 良く似合っているぞ」

 

 エレメリアンによく似合っていると言われても全く嬉しくないんですけど!

 吹っ飛ばしたジャックギルディの後ろに立っていたシャドウは目を丸くした後に、両の手の人差し指を合わせバツが悪そうに目を逸らす。

 

「ホワイト、あなたにそんな趣味があるなんてね……」

「それ言う!? シャドウがそれ言う!?」

「安心なさい。 これからも一緒に闘うのは変わりないから」

 

 あーもうっ、恥ずかしい……!

 普段のテイルギアでも露出はまあまああったけどそれとはまた全然違う恥ずかしさだ、これ。

 とにかく、こんな格好じゃ闘う事なんて絶対にできない。

 

「フレーヌ、この格好……どうにかできない?」

『えっと……私でどうにかできるのなら黒羽さんのを既に戻していますよ』

「ですよね……」

 

 なんとなく察しはついていたけど、ほんの少しの希望も打ち砕かれた。

 このミニスカ痴女ナースの格好が全世界に晒されたら私はどうしたらいいんだろう。 いっそのこと氷の中に籠るか。

 

「全然似合ってっから安心しろ! 安心して闘ってくれ!」

 

 遠くでフランケン嵐がなんか言ってるけど全然励ましの言葉にはなってない。

 てか嵐は馬鹿か!

 こんなんで闘ったら私もシャドウと同じ評価になるっての!

 

『流石にこの状態で奏さんは闘わせることはできませんね。 黒羽さん、お願いします!』

「しょうがないわね」

 

 フレーヌからの通信を聞いてシャドウが頭を抱えると、大きく跳躍して私の前へと降り立つ。

 私も闘う気満々で変身して、かっこよく登場したのに、結局黒羽に守られることになるなんて……。

 申し訳ない気持ちと恥ずかしさで顔が熱くなってきた。

 いや、こんなんじゃダメだ!

 私はテイルホワイト。

 ついさっき私は闘うと決めた。

 いくら痴女ナースの格好だろうと、自分に闘える力があるのなら、私は闘う……!

 スカートの裾を抑えながら立ち上がり、ジャックギルディへと飛びかかろうと脚に力を込めたその時━━━━

 

『あ、そちらの国のテレビでも中継をはじめましたね』

 

 フレーヌが言った何気ない一言を聞いて、再び私はその場に蹲ってしまった。

 やっぱり無理!

 こんな姿全国に晒すなんてやっぱ絶対に無理っ!

 

「まさかのホワイトちゃんの弱点発見とか、ジャッ君やるじゃん、最&高!」

「余は仮装属性を広めるためにした事よ。 テイルホワイトが仮装したとあれば、彼女に夢中な者たちは我先にと仮装属性を目覚めさせていく事だろう」

 

 自撮り棒で私をフレームに入れて自撮りしつつ喜ぶフロストギルディと、満足そうに頷くジャックギルディ。

 できる事なら今すぐにこの拳をぶち込んでやりたいところなのに……純情な私は、やはりこの格好では動けない。

 一度変身解除すればこの格好ではなくなるのではないかという考えが頭によぎるが、危険な賭けだ。

 元の格好に戻る保証はないし、そもそもこの近くには撮影をしてるモケモケや、同じ班の彩と真部と武川がいる。

 変身解除してしまうとみんなに正体が知られてしまう。

 

「まさか、恥を捨てるしかないの……!?」

 

 私がこうして悩んでいる間も、シャドウは一人下着を公開しながら闘ってくれている。

 いくらシャドウの実力は高いとはいえ、素手での闘いで、しかも二体のエレメリアン相手となると最初は優勢でも次第に状況は変わっていく。

 シャドウのように恥を捨て、思いっきり闘える事ができれば正直、二体のエレメリアンを倒すのにそこまで時間はかからないだろう。

 いや、しかし……!

 

『奏さん』

 

 未だに悩む私に、フレーヌが真面目な声音で通信してきた。

 

『相手の能力を調べた所、非常に高い仮装属性の力がテイルギアを覆っている事がわかりました。 これに対抗するにはこちらも属性力を目一杯上げてもらうほかないと思われます』

「え、まさかガルダギルディの時とは逆で今度はツインテール大好きー、とか叫びながら攻撃しろって事……」

 

 それだけは断固拒否……と言いたいところだけど、元の格好に戻れるのならそれは我慢するしかない。

 しかし、フレーヌと私の考えは違っていたようで。

 

『いいえ、それでは足りません。 奏さん、私の考えだと黒羽さんとのエレメリンクでツインテール属性を一時的に増幅させる事が可能かも知れません』

 

 黒羽と、エレメリンク!?

 三つ編み属性の強い志乃とエレメリンクしたらトライブライド形態になり、ポニーテール属性の強い嵐としたらポニーテール形態になった。

 なら、ツインテール属性の塊のような黒羽とエレメリンクしたら……確かにめちゃくちゃ強くなりそうだ!

 直ぐにでも始めたい、そう口に出そうとした時再びフレーヌから通信が入る。

 

『しかし、ツインテール属性を重ね掛けするのは非常に危険な行為です。 ''私''ではどうにかできません、''奏さん''自身の力で……ツインテールを制御しなければいけないんです』

 

 なるほど、外からフレーヌがツインテール属性を制御する事は出来ない。 だからさっき、私にその方法を教えなかったという事だろう。

 フレーヌが私を心配してくれてとても嬉しい。

 だから私はフレーヌに心配させないよう、しっかりと制御して、成功させるしかないっ!

 

「おっけー、フレーヌ」

 

 私は立ち上がり、テイルブレスが付いているであろう右手首に左手を添える。

 

「という事だからシャドウ、お願い!」

 

 二体を相手にしていたシャドウはチラリとこちらを見ると、浅く頷き大きく跳躍して距離をとる。

 そして志乃や嵐が良くやるように、テイルブレスを天高く掲げる。

 確認後、遠くで見ている志乃と嵐にも視線を向けた。二人は気づいてくれたようだ。

 それをモニター越しから見ていたであろうフレーヌも私の考えを読み取ったようで……。

 

『まさかお二人とも同時にエレメリンクする気ですか!? テイルギアにどんな反応が起こるか想像できませんよ!?』

 

 かなり焦った様子で言ってくるあたり、本当に何が起こるかわからないんだろう。

 フレーヌはいつも、闘っている私の心配を第一に考えてくれてきた。

 だから、安心させるために私は笑う。

 

「大丈夫! なんとなく……何故だかわかんないけど自信あるんだ、私!」

『かなり心配ですが……奏さんがそう言うなら仕方ありませんね』

 

 フレーヌも納得してくれたみたいだ。

 私もこの格好やめたいし、ジャックギルディとフロストギルディも律儀に待ってくれてるみたいだし、シャドウは腕がプルプルしはじめたし、そろそろ始めようか!

 

「お願い、みんな!」

 

 その瞬間、先程まで消えてしまっていたテイルブレスが右腕に現れるとコアの部分が眩く光りだした。

 ノーマルチェインの時はもちろん、トライブライドやポニーテールになった時でも変わらなかったコアの鮮やかな青色が初めて変化していった。

 変化した後のコアは、一言で表現するなら宇宙だった。

 小さなコアの中に、本物の宇宙のようにたくさんの輝きが見える。

 コアの変化が終わると、次にテイルギアに変化が起こった。

 一瞬でミニスカ痴女ナースの格好から元の姿へと戻ると、目の前に小型のフロストバンカーが二つ現れた。

 元々あった腰の装甲が消え、二つのフロストバンカーが両サイドに装着し新たな装甲へと変化。

 続けてそれと同じく、小型化したアバランチクローのような装甲が肩から二の腕にかけて装備された。

 髪型は変わらずツインテールであり、風圧で美しく舞い踊る。

 

「おおお……!」

「すっごいフォトジェニックじゃん、これ……!」

 

 二体のエレメリアンが驚嘆する中、私は両腕を前へ突き出す。

 すると右手にブライニクルブレイド、左手にはジャックエッジが逆手で握られた。

 これで完成、これこそが━━━━

 

「━━━━テイルホワイト・エレメーラフュージョン!!」

 

 真っ先に声を上げたのはフレーヌだった。

 

『姿が……変わった…!?』

 

 やはりフレーヌの思っていたのとは違った形にはなったらしいけど、ミニスカ痴女ナースじゃなくなっただけで結果オーライだ。

 すぐに私は、遠くにいるジャックギルディへと狙いを定め、左右に着いた小型のフロストバンカーを展開、何発もの光線を発射した。

 

「余が捉えきれないだと!?」

 

 発射した光線よりも早くジャックギルディへと接近し、ブライニクルブレイドは振り下ろし、ジャックエッジは斬りあげる。

 

「速い……」

 

 超スピードを見て、黒羽も感心したように声を漏らす。

 その後、何歩か後退りしたところで、最初に撃った光線が次々とジャックギルディへ命中していく。

 私が行った全ての攻撃をまともに受け、跪くジャックギルディ。

 

「ブレイク……レリーズッ!!」

 

 左右のフロストバンカーを使い、大きく跳び上がりるとブレイドとエッジをクロスさせる。

 今まさに、ジャックギルディを倒さんと必殺技を発動させようとしたその時━━━━

 

「━━━━あれ?」

 

 目の前でクロスさせた筈のブレイドとエッジが消えてしまった。

 それだけでなく腰のフロストバンカーも、肩のアバランチクローも、追加装備された装甲も全て消え去り私はノーマルチェインへと戻ってしまっていた。

 

「あー!」

 

 当然、ノーマルチェインに飛行能力はない。

 装甲も全て元に戻ったことで、空中で体勢をキープできなくなった私はそのまま自由落下のように落ち、地面へと激突、大きな穴を開けてしまった。

 

「あれ、終わっちゃった感じ?」

 

 穴から這い上がると同時にフロストギルディが若干つまらなさそうに声を低くして呟く。

 それは私が言いたいことなんだけど……。

 大きなダメージを与えたおかげか、元の格好に戻ったシャドウに手を借りて立ち上がるとフレーヌからの通信が入る。

 

『持続時間はおおよそ八秒ほどみたいですね……。 爆発的に属性力を強化する事はできましたが、そのせいでテイルギアのセーフティ機能が働いて強制的にエレメリンクが解除されたようです』

 

 マキシマムチェインを長く使用できないっていうのと同じ感じみたいだ。

 しかし惜しい。 必殺技を完全に発動できればジャックギルディは倒せたかもしれなかった。

 エレメーラフュージョンに変身して二つの剣を持つまで少し間があったから……あそこで変にカッコつけてなければ……!!

 いや待てよ。 いっそのこともう一度みんなでエレメリンクすればいいのではないか。

 

『……しかもその力の代償かテイルギアにかなりのダメージがありますね。これ以上使用するのは禁止ですよ! 禁止!』

 

 まるで心を呼んだかのようなタイミングだ。

 禁止されたらしょうがないと、マキシマムバイザーを起動させ、今度はマキシマムチェインとなる。

 

「じゃあ、ウチらも秒で強くなっからとりまふぁぼっといてよ」

 

 そう言ってフロストギルディは菱形の属性玉に似た物を取り出した。

 あれは、女神の吐息(ゴッデス・ブレス)!?

 

「ウンディーネギルディは結構な数の女神の吐息(ゴッデス・ブレス)を作っていたらしいわ。 キジムナギルディも、エルフギルディも使っていたからね」

 

 あんまり覚えない名前だと思ったけど、もしかして修学旅行中にシャドウが倒してくれたエレメリアンの事か。

 ただ、お世辞にもそこまで強くなかったウンディーネギルディが女神の吐息(ゴッデス・ブレス)を使ってとんでもない強さのセドナギルディになった訳だけど。

 そのウンディーネギルディよりかは強いこの二体のエレメリアンがそれを使ったらヤバイんじゃ……。

 

「ほらほら、ジャッ君もリアタイであげてくよー!」

 

 一つの女神の吐息(ゴッデス・ブレス)を自分に取り込んだフロストギルディは続けてジャックギルディにもう一つを投げつける。

 女神の吐息(ゴッデス・ブレス)を取り込んだ事で、二体とも体が赤く発光し最終闘体へと進化していった。

 

「アガるわマジ卍あざー!!」

 

 フロストギルディは体躯が一回り以上大きくなりほぼ私と同じくらいの大きさとなると、体の雪が溶け出す。

 

「ああぁぁアツモリイィィィッ!!」

 

 なんと雪だるまの中から白装束を纏ったような姿のエレメリアンが現れた。

 真白な体に、黒髪のようなパーツが頭部から腰まで伸びその周りには小さな吹雪が渦巻いている。

 これはまるで、雪女だ……!

 

「ぐううううおおおお悪戯お菓子属性力ああああああ!!」

 

 ジャックギルディは苦しそうな声を上げると、頭のカボチャが肥大化し、黒かった目や鼻口などが金色に光りだす。

 右手の形状が変化し小型のカボチャとなり、左手には大量の飴玉が入ったバスケットを手に持った。

 これが、この二体の最終闘体……!

 クローユニバースを構え、どんな攻撃にも対応できるよう準備している私とは反対に、シャドウはリラックスした様子で話す。

 

「確かにウンディーネギルディは女神の吐息(ゴッデス・ブレス)は超強化してたけど、それはあの黒エレメリアンありきよ。最終闘体にはなれてもセドナギルディ程の強化はしていないわ」

 

 断言できる、と控えめな胸を張るシャドウ。

 なるほど、最近シャドウが闘った他二体のエレメリアンも女神の吐息(ゴッデス・ブレス)を使っていたみたいだし、そこで効果をハッキリと知る事が出来た、という事だろう。

 そういえば、変化した目の前のエレメリアンはセドナギルディ程の禍々しい姿とはいえない。 どちらかというとコメディチックというか……。

 

「ウチおしゃかわー!こんないいもん残してくれてほんとウンディーネギルディにはあざまる水産!」

 

 ウンディーネギルディが作ったっていうならそれを使ったエレメリアンは大体理性を失っていたりしたみたいだけど……今見た感じだと二体にそんな様子は見られない。

 フロストギルディは何処からかまた自撮り棒を取り出しインスタ用の写真を撮りまくってるし、その後ろで「飴玉がたくさんあるぞ!」と子供のようにテンションが上がっているジャックギルディも同じだ。てか飴玉って……子供かっ!

 

「なんにせよ、ノクスアッシュやジャックエッジが使えるのならそこまで苦戦する事もないわ。 武器が使えるのなら必殺技も発動できるものね」

 

 なんだか闘い辛いな、と思っていたところでシャドウは殺る気満々で斧と剣を両手に持ち、二体へと突撃していった。

 慈悲はないのか……。

 

「……うん、よし。 私も早く修学旅行に復帰しなきゃ!」

 

 向こうの変なテンションに乗せられていたが、私は修学旅行中だ。

 さっさと倒して、班のみんなと合流して……コアラを抱っこしに行く!

 

 

 来た当初はたくさんの隊員達があふれていた基地。

 シャークギルディ部隊の隊員達の話し声が響いていた廊下や、大ホールにはその時の面影など全くなくなっていた。

 しかし、ポツンと大ホールに残る細身のシルエット。

  聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の隊長を任されているエンジェルギルディだ。

 視線の先の大モニターには今まさに、ジャックオランタギルディとジャックフロストギルディがテイルホワイト、テイルシャドウの二人と闘っている映像が映し出されていた。

 そしてまもなく、エンジェルギルディを除いた聖の五界(セイン・トノフ・イールド)最後の二体はそれぞれの必殺技を受けて爆散した。

 テイルホワイトが撮影をしていた戦闘員に帰るように促すと、映像は途切れモニターはブラックアウトする。

 モニターに背を向け、大テーブルの椅子に腰掛けると上に乗っているフィギュアを眺めた。

 

「サラマンダギルディにシルフギルディ、ノームギルディ、そして……ウンディーネギルディ」

 

 フィギュアの周りに飾りとしてついていた火と風、土と水を、幹部達の名前を呟きながら外していく。

 残ったのは天使の格好をした美少女のみとなるが、土台を失っても倒れずに自立していた。

 

「ワタクシを高みへと誘ってくれた事には感謝すべき事かもしれませんわね」

 

 次に、この世界で最近販売されたクオリティの高いテイルホワイトのフィギュアを、向かい合わせる形で並べた。

 

「ウフフッ……」

 

 エンジェルギルディが軽くホワイトのフィギュアを小突くと、ユラユラした後テーブルに倒れてしまう。

 

「強大な力の前にしてテイルホワイトが勝つ事など、ありえませんわ。 最後に立っているのはこのワタクシ……!」

 

 不敵な笑みを浮かべると、エンジェルギルディは椅子から立ち上がり、手を二回パンパンと叩く。

 すると廊下から数体の戦闘員が現れた。

 

「全世界に向けてご挨拶といきますわ。 準備をしてくださいまし」

「モケ━━━━ッ!」

 

 数体の戦闘員がモケモケと生放送の準備を始める。

 

「モケッタ!」

 

 準備開始から五分と関わらず機材などを揃え、全世界への生放送の準備が整った。

 

「早いですわね。お疲れ様ですわ」

 

 戦闘員が微妙に話した事を気にする素振りも見せず、エンジェルギルディはフィギュアに背を向けて歩き出した。

 その際、後ろから物音が聞こえ咄嗟に振り返る。

 

「……」

 

 先程までテーブルの上で安定して立っていた天使のフィギュアが倒れ、床へと落ちてしまっていた。

 そして、テーブルの上に残っているのは笑顔のホワイトのフィギュアだ。

 

「モケケ?」

 

 既に生放送に向けてスタンバイしている戦闘員が、立ち止まったエンジェルギルディに声をかける。

 

「何でもありませんわ。すぐにご挨拶を始めますわよ」

 

 テーブルの下に落ちたフィギュアを直さずに、エンジェルギルディはカメラの前へと移動していく。

 駆け寄った戦闘員も準備にかかろうとしたところ、テーブルの上にホワイトのフィギュアが倒れている事に気づく。

 

「モケッ!」

 

 急いで駆け寄り、ホワイトのフィギュアを慎重に立たせると、戦闘員は急いでカメラの元へと走っていく。

 戦闘員が、床に落ちたフィギュアに気づく事はなかった。




皆さんどうも、阿部いりまさです。
今回はサービス回のつもりですが絵がないので、どうかイマジネーションでカバーをお願いします。
ちなみにぶっちゃけるとエレメーラフュージョンは元々別の強敵を相手に考えた形態でした。ですが、その敵を出すタイミングがなくなってしまったのでこの話で少しだけ登場させていただきました。
そして、相手がとうとうエンジェルギルディのみとなり、果たして……!
決戦は近いです。


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FILE.75 佳境の修学旅行(ラブ)

エンジェルギルディ(お嬢様の花嫁衣裳(ウェディング・セラフィム)
身長:189cm
体重:266kg
属性力:お嬢様属性(レディー)

聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の隊長、エンジェルギルディが四幹部の属性玉を取り込んだ事で到達した最終闘体。 戦闘力はもちろん上がっているが、性格もやや高飛車になっており、覚醒した自分の力に絶対の自信を持つ。 敵をも魅了する美しい姿とは裏腹、戦闘スタイルは狡猾で残忍。

武器:禁戒なるお嬢様の純潔(レーヴァテイン)
必殺技:お嬢様の聖水(エリシオン)


 無事にジャックギルディとフロストギルディを倒す事ができた私と黒羽。

 だが黒羽は属性玉を回収して早々に『修学旅行を楽しみなさい』とだけ言い残して、フレーヌ基地へと帰ってしまった。 折角だから少しくらい一緒にいても良かったと思うんだけどな……。

 フレーヌからは今回のお礼と、希望のお土産を伝えられるとそそくさと通信を切られてしまった。

 私も闘うとは言ったものの、やはり二人はなるべく修学旅行の邪魔をしないように動いてくれている感じだろうか。

 二人が邪魔なんて事は全然ないんだけどな。

 

「順番そろそろだよ、奏」

「え、あ……ほんとだー!」

 

 隣の彩に声をかけられ我にかえる。

 先ほどの事を考えていた私だけど、今は自然公園の中にあるコアラと記念写真を撮るための列に並んでいたところだ。

 結構な時間待っていた気がするけど考え事をしてたらあっという間だね。

 

「か、可愛い……!」

 

 昔から夢見ていたコアラとの触れ合いが遂に……!

 飼育員の方に抱き方を教えてもらい、慎重に抱き上げる。

 あ……これ、凄い……ふわふわしてて、やばっ……! ぎゅーっとしがみついてくるのも凄い可愛いし……あーもうっ、可愛いなもうっ!

 

「そんなにか、お前」

 

 ……折角コアラとの触れ合いを楽しんでいたのに、嵐の声で一気に現実に引き戻された気がする。

 てかずっと見られたと思うと、なんか……恥ずかしい。

 

「わ、悪い? 可愛いから仕方ないでしょ」

 

 悪くはねえけど、と嵐は話して何故か私の隣に並んできた。

 

「え、どしたの?」

「写真撮るなら隣並ぶだろ、普通」

「いやいや、さっきまで私の隣は彩だったでしょ」

 

 彩はポニーテールにしてるけど、そのせいでポニーテールバカの嵐になってしまったなんて事はないでしょ。

 

「奏がいつまで経ってもコアラ愛でてて、写真撮ろうとしないから鍵崎と一緒に他のコアラと写真撮ってたぞ」

「そんなに長い時間可愛がってたかな……。あと奏って呼ばないで」

 

 まったく……奏やら孝喜やら言い合う関係はとっくに終わってるっていうのに、何回も言ってるのになんでわからないのかな。

 嵐に疑問を抱きつつ、なんとなくの流れで結局一緒に写真を撮る事になった。

 嵐とのツーショットはごめんだけど、コアラと一緒に撮れたし結果はプラスかな、うんうん!

 名残惜しいが、コアラをそーっと飼育員の方へと返し、最後に手を振って私と嵐はみんなのいる場所へと歩く。

 私たちが到着すると彩がパンフレットを開いて話しはじめた。

 

「この後どうしよっか。 コアラ以外にも動物はいるみたいだけど」

 

 班長の彩がみんなの意見を聞き、

 

「カンガルーとリアルファイトとかどうよ」

 

 長身の真部がアホな事を提案して、

 

「展望デッキのあるスカイポイントとかどうかな」

 

 メガネの武川がそれを無視して話し、

 

「俺は別になんでも」

 

 アホの嵐は興味なさげで、

 

「奏はどう?」

 

 癒しの志乃は私に振ってくる。

 そうなると私はみんなから注目を浴びて……。

 

「えっと……ホテルに帰る時間考えるとそこまで遠くに行けないから三十分くらいで行けるドリーム世界とかムービー世界が良い、かな」

 

 コアラを抱っこするという目的を果たした今、私が行きたいと思うのはこの二つになる。

 少しだけ行くのに時間はかかるけど、まだ午後一時だしどっちかは、或いは何処かに寄ったとしても充分に楽しめるだろう。

 どっちかというと、気になるのは……やっぱドリーム世界のフリーフォールかな。

 

「それじゃあ……まずドリーム世界で遊んで、暗くなってきたらスカイポイントに移動しよっか。 夜景も綺麗みたいだから」

 

 具体的に行きたいところを希望した私とメガネの武川の意見が彩に通り、早速出発する。

 フリーフォールか、楽しみすぎる。

 

 

 それから交通機関を使ってものの数十分程度で、私たちがいた自然公園からドリーム世界へと到着した。

 私は大きな入り口を見て目を輝かせたが、中に入ると一気にテンションがだだ下がっていく。

 私は確かにドリーム世界行きを希望したし、ここは確かにドリーム世界で間違いないなのだが……。

 

「どうしてこんなにツインテールまみれなの!?」

 

 園内には散見するテイルホワイトのイラスト。

 これだけならまだ驚きはしない。 だってこの十ヶ月間、日本でも同じ状況だったのだから。しかし、日本とは明らかに違う事がある。 

 

「うおー、シャドウのパネルもあるな。 黒羽が聞いたら喜ぶだろうし、撮っておいてやるか」

 

 もちろん班のみんなもそれに気づいて嵐は早速スマホで撮影した。

 シャドウの写真……日本ではある企業が写真を使ったところ、シャドウ自身が膨大な使用料をせびった為、それ以来はその企業含め他の企業も写真を使う事はなくなったという経緯がある。

 日本の企業の被害を知ってのことか、知らずのことかは不明だが、ここまで堂々とシャドウの写真を使うなんて……ここの責任者は肝が据わっている。

 だが、驚くべきはこれだけじゃない。

 

「おい武川! テイルレッドたん関連のお土産がめちゃくちゃあるぞ!」

「本当だ! しかもこれはオーストラリア限定の記念品だよ」

 

 なんと、僅かな期間しか闘っていなかったにも関わらずテイルレッドのグッズが所狭しとお土産ショップに並んでいた。

 うーん、このお土産の豊富さや男子たちの反応を見る限り、やはりテイルレッド人気は凄い。

 ただ、見た感じアトラクションの列よりも、お土産に並ぶ列の方が長いのは遊園地として如何なものか。

 ま、逆に言えばスッとアトラクションに乗れるのは時間に限りのある私たちにとってはとてもありがたいことだ。  

 

「これだけ集中してればフリーフォールあっという間に乗れちゃうかもね」

 

 隣にいる彩に対して言ったつもりだったけど、帰ってきた声は想定していたよりも低い声だった。

 

「あいつらみんなテイルレッドのとこ行ってるぞ」

「なんで嵐が……」

 

 いつのまにか隣にいた嵐。

 これではさっきのコアラの時とまったく同じじゃないか。

 このままずっと立ったままみんなを待つのも疲れるし、嵐がずっと隣にいるのもアレだし、取り敢えず近くのベンチに座って待つ事する。

 ベンチから見ても、やはりお土産の列は長い。みんなが戻ってくるまでまだまだ時間がかかりそうだ。

 スマホもないのでボーッと列を眺めていると、横から缶ジュースが差し出された。

 

「あ、ありがと」

「おう」

 

 暇な私を気遣って、嵐は近くの自販機で買ってきてくれたらしい。

 暑い日なので水分補給は必須なのだけど、この缶ジュース……どこのメーカーのなんていう飲料水なのか気になる。

 まったく見たことのないジュースを飲みつつ、お土産屋に並ぶ金髪の人の数を数えていると先に飲み終わったらしい嵐が口を開いた。

 

「俺さ、昨日の海で彩に告られたんだ」

「いきなりぶっ込んできたね」

 

 めちゃくちゃ自然になんて事を言ってるんだ、この男は。

 結構デリケートな話だけど、これ私が聞いてよかったのだろうか。

 

「可愛いし、人気だし、嵐には勿体無いけど良かったね」

 

 なんとなくだけど彩が嵐の事を好きなのはわかってはいた。だから、なるべく私は嵐と二人にならないようにしていたつもりだけど。

 それにしても、彩も修学旅行先で告るなんてなかなか思い切った事するなー。

 

「良かったし、告られんの久しぶりですげー嬉しかったよ」 

 

 私は嵐の自慢を聞かされているのか……?

 久しぶりというのは私が告った時の事だろうか。 思い出したくないのでなるべく言わないでほしいんですけど。

 

「断っちまったけどな」

「ふーん」

「あんま驚いてないのな」

 

 彩の告白が成功してるなら、嵐が今こうやって私と話してるはずないからね。

 確信するほどではなかったけれど、彩に告られた事を私に言ったその時にまあ……察してしまった。

 

「……」

 

 嵐がなんかそわそわしている。

 おおかた告白を断った理由を聞かれたいとかそんなんだろうけど、私はそんな誘いには乗ったりしない。

 志乃たちはともかく、嵐の恋バナなどホントに心底どーでも良いのだ!

 話したいなら自分から話しなさい、っての。 それなら聞いてあげなくもないんだから。 

 

「あ、奏いたー!」

「お帰り、志乃。あんまり買わなかったんだね」

 

 嵐は結局そわそわしたまま何も言わず、少ししたら志乃を先頭にみんなが戻ってきた。

 志乃の事だからさぞいっぱいテイルグッズを買ったのかと思いきや、持っているのは小さな小袋一つだけだ。

 他のみんなも志乃と同様、小さな小袋一つずつ持っている。

 

「客が多すぎて一人一品だって言われてな」

「しかも大体売れ切れちゃってて、小さなストラップしか買えなかったよ」

 

 真部と武川により説明がはいり、めちゃくちゃ納得した。 ここまで納得できる理由が他にあろうか。

 

「奏と嵐君の分も買おうと思ったんだけど……一つって言われちゃったから、これ!」

 

 そう言って彩が小袋から取り出したのはホワイト、シャドウ、レッドのセットで売られているキーホルダーだった。

 彩はすぐに包装を開けると、私と嵐に「好きなのどーぞ!」と差し出してきた。

 こんなに優しくて可愛いのに……嵐が振る理由がわからない。 一番わからないのはなぜ嵐に惚れてしまったのか、という事だが。 これは昔の私にも言える事なんだけど。

 

「じゃあ、シャドウのを……」

 

 おそらく彩が要らないであろうシャドウのキーホルダーを手に持つ。

 だが、この選択は間違いなのだ。

 

「俺は、ホワイトの貰うかな」

「え!? ダ、ダメ! 私がホワイトね! 嵐はシャドウで我慢しといて!」

 

 ただのキーホルダーとはいえ、嵐に持たれるのはなんかアレなのでシャドウのキーホルダーを押しつけてホワイトを保護する。

 

「えー……」

 

 明らかに不満そうな嵐。 そんな顔してると、後で黒羽に怒られるからね。

 レッドのキーホルダーは無事に彩の手元に残り、わざわざ私たちの分まで用意してくれた彩にお礼を言った。 

 

「ありがとね、彩。気を使ってもらっちゃって」

「うんうん、いーの! あ、当然だけどお金はいらないからね」

 

 わかってはいたけどホントにいい娘だ……。

 他人への気遣いは完璧、性格も裏表がなくていい、告白して振られた相手にも変わらずの対応……こんないい娘の告白を断る男はどうかしている。ねえ、嵐?

 それにしても、このキーホルダーなかなか良くできている。

 テイルホワイトの装甲の一つ一つが細かく描かれ、ツインテールにはしっかりとメッシュがはいり、可愛くデフォルメされながら誰が見てもテイルホワイトだとわかるように作られている。

 残りはエンジェルギルディのみだとすると、私はあと何回このテイルホワイトになるのだろうか。

 近く行われるであろう最後の闘い……これまで以上に壮絶になるに違いない。

 

「奏?」

「え、あ……ごめんごめん」

 

 いつの間にかみんなベンチから離れていたようで、彩が残された私を呼びにきてくれたみたいだ。

 いけない、いけない。

 今は一生に一度の楽しい楽しい修学旅行の真っ最中なんだ。 あまり考え込むのはやめたほうがいいよね。

 彩に「何でもない」と言いつつ、二人でみんなの元へ早足で向かっていった。

 

 

 奏たちの自由行動班から後方五十メートル。

 お土産屋の列に隠れて、様子を伺っている二人の影があった。

 一人は幼く、もう一人は奏と同じか少し大きい背丈をしている。

 幼い影は目深にハンチング帽を被り、赤縁のメガネ、白いブラウスに涼しげな水色のミニ丈キュロットスカートを履いたフレーヌ。

 もう一人は命とも言えるツインテールは当然で、大きいサングラスと黒のパーカー、とデニムパンツを着用している黒羽だった。

 フレーヌの『奏さんたちの修学旅行を守ろう作戦』の一環として、こうして奏たちを尾行している。

 

「嵐さんの野郎、やたらと奏さんに近づいているような気がしませんか!?」

「そうかしら……」

 

 この尾行はあくまで、フレーヌの『奏さんたちの修学旅行を守ろう作戦』の一環である。

 

「……」

 

 乗り気で尾行するフレーヌに対して、黒羽は明らかに元気がなかった。 

「あの、黒羽さん……どうかしましたか?」

 

 滅多に見せる事のない気力のない黒羽を見て、フレーヌはメガネをとり問いかける。

 黒羽は今までエレメリアンに苦戦しようが、自分の事がメディアで酷く報道されようが、まったく気にせずにしてきた。

 黒羽がここまで気を落とすのはオルトロスギルディが敗れた事や、部下のフェンリルギルディが敗れた事など、自分の仲間に関する事ばかり。

 フレーヌは大層に心配したのだが、  

 

「テイルシャドウのグッズ……あまり売れてないのよ」

「え、今さらですか!?」

 

 とはいえ、黒羽が世間帯を気にするのは初めてな事かもしれない、とフレーヌが考える中、黒羽は列に並んでいる人たちに近づいていく。

 

「あー、テイルシャドウはいいわね。なんだって黒のツインテールですもの。白や赤よりも現実味があっていいわねー」

「や、ややめてください! ここは日本語通じませんのでやめてください!」

 

 ダイレクトマーケティングでシャドウを売り込もうとするが、案の定列に並んでる人たちは黒羽の言葉を聞いて頭にクエスチョンマークを浮かべている。

 ただ、なんとなく意味が伝わった人もいたようで苦笑いを浮かべている者もいた。

 

「やめなさい、フレーヌ。 この遊園地はシャドウグッズの売り上げ五十パーセントを私に寄越すと言っているのよ! 絶対に売ってやるんだから!」

「いつの間にそんな悪魔的契約を!?」

 

 しかし、一見無茶な契約かと思いきやそうではない。

 そもそもこのドリーム世界はシャドウのグッズの売り上げなどまったく期待しておらず、事実それは皆無に等しかった。

 黒羽に売り上げを提供する代わりに、写真などの使用許可を得ていたドリーム世界の支配人はとても賢かったのだ。

 ただ、悪魔は知恵が働くものである。 

 

「ん、これはシャドウとホワイトとレッドでセットなのね。……これもシャドウのグッズとしてカウントされるわよね。 それにこのストラップ……ノクスアッシュそっくりね。 これもシャドウグッズとして取り扱うわ」

 

 店頭に並んだセットのグッズを見て閃いた黒羽は、フレーヌに貰ったスマホでどこかと電話をしはじめた。

 リアルタイム翻訳機能が搭載されたスマホでどこと話しているのか、フレーヌはあまり考えないようにして奏たちの尾行に戻る。

 メガネをかけ直したフレーヌはあくまで『奏さんたちの修学旅行を守ろう作戦』の一環として、再び監視をはじめたのだった。

 

 

 ドリーム世界を満喫し、現在の時刻は午後六時半。

 私たちはドリーム世界を離れ、街を見渡せる展望フロアがあるスカイポイントは移動していた。

 今の時間は丁度日の入りの時間であり、西に沈む夕日が眼下に広がる街を包み込み幻想的な光景を生み出していた。

 このスカイポイント。朝から昼にかけては目の前に広がる大海原や、反対側に回ればオーストラリアの雄大な山々を堪能できる。

 今の時間……夕方にはこの通り素敵な夕日を見るとともに、少し待って日が落ちて夜になれば今度は夜景も楽しめるという贅沢な観光地だ。

 私たちは門限があるのであまり長居はできないものの、ホテルまではそう遠くないので夜景も見ることができるかもしれない。

 街を照らす夕日を見て、不思議な気持ちになってきた。

 なんか……この夕日、懐かしく感じる。

 中学生の頃……私が嵐に告白して、付き合う事になった時もこのような夕焼け空が広がっていたっけ。

 今となっては恥ずべき黒歴史だけど、当時の私は告白するのに凄いドキドキして……嵐にOKをもらった時は凄い嬉しかったんだよね。 ……今は恥ずべき黒歴史だけどっ! 

 

「奏、ちょっといい?」

「彩?」

 

 彩に呼ばれ、みんなから離れる。

 このタイミングで彩に呼ばれるってのいうのは……もしかして嵐に告ったこと関連だろうか。

 ある程度みんなから離れたところで彩は立ち止まり、私の方へ振り返る。

 そしてゆっくりと、口を開いた。

 

「実は、言っとかないといけないことがあって……」

「えっと、うん」

 

 ここで私が「嵐に告ったこと?」なんて言えるはずもなく、彩の口からその言葉が出てくるのを待つ。

 彩は何度か深呼吸した後、ようやく口を開いた。

 

「私……嵐くんに振られちゃった!」

「へ、ほへえー」

 

 想像していたよりも明るく言われたので、なんだかおかしな返事になってしまった。

 振られたことをここまで嬉々として言う女の子も珍しい……ていうか私は初めて見た。

 

「ふーん、奏の反応から察するに。……ひょっとして嵐くん、私が告ったこと奏に言ったでしょ?」

 

 さすが彩、鋭い。

 それでも彩からは嵐が告ったことをバラした事に対して不快感を感じない。 そういうのはあんまり気にしないタイプだろうか。

 

「奏は、私が嵐くんに告ったことに対して何かこう……思うことない?」

「え、別に」

「そ、そう……。 あれー?」

 

 そりゃ彩の告白を断る嵐はどうかとは思うけど、思うことと言ったらそれくらいで他には特に……。

 

「えっと……奏が特に何も思うことないなら話が進まないっていうか……」

 

 彩がモジモジして言葉に詰まっていると、館内放送で夜の七時になったとフロア全体に伝えられた。

 まずい。ホテルまで近いとはいえ、そろそろ帰らないと門限に間に合わなくなってしまう。 

 

「話はホテルで聞くから、とりあえず帰ろ」

 

 真面目な彩にしては珍しくこの場から離れようとしないので手を取り、エレベーター方面へと向かう。きっとみんな待っているはずだし、急がなければ。

 

「えっと!私は先に行くから海が見える方のフロアに急いで向かって!」

「え?」

 

 切羽詰まった様子で彩は言うと私の手を振り払って先にエレベーターの方へ駆けていく。

 だが彩はすぐに立ち止まり私の方へ向き直るととてもいい笑顔をして大声をあげた。

 

「これは私のお節介! ちゃんと答えてあげてね!!」

 

 そう言うと彩は踵を返し、再びエレベーターへと駆けて行った。

 ……時間が危ういけど、彩に言われたことだし、何かあるんだろう。

 

 

 無視するわけにもいかず、時間がアレなのでなるべく早く片付けようと海の見える展望フロアへと来ると、雑踏の中よく見知った人影を発見した。

 ボーッと海を見て突っ立っているその人物に近づき、トントンと肩を人差し指で叩く。

 

「何してんのこんなとこで。 時間ヤバイし早く帰るよ、嵐」

「え、伊志嶺!?」

 

 かなり驚いた反応を見せるあたり、私がここに来るとは思っていなかったのだろう。

 まさか、私は彩に嵐のお迎えを頼まれてしまったのだろうか。

 

「彩の言ってたことってこういう事かよ……!」

 

 頭を掻きながらボソボソと何か言っているけど、一々それが何かを聞いている暇はない。

 取り敢えず嵐の袖を引っ張りエレベーターへと向かおうとしたところ、それは当の嵐によって制止された。 

 

「待ってくれ。 今を逃したら、この夜景はもう二度と見られないかもしれないからな」

 

 時間がないのに……というか考えは眼下に広がる夜景を見て吹き飛ばされる。

 摩天楼の光、地面を走る車の明かり、街に沿うように真っ暗な海……全てが幻想的だった。

 ま、まあ……この建物のエレベーターは速いし、ホテルは徒歩で十分もかからないし、あと五分くらいは平気かなっ!

 

「へえー、嵐なかなかいい趣味してるね」

「へへ、まあな!」

 

 素直に感心したし、今はドヤ顔しても許してあげよう。

 それから何十秒か、移り変わる夜景を楽しんでいると、

 

「い、伊志嶺」

 

 横から何か緊張したような声で嵐が話しかけてきた。

 特に返事もせずに、私は次の言葉を待つ。

 

「彩からの告白を断った理由なんだが……」

 

 そういえばドリーム世界で言いたそうにしていたっけ。

 私から聞くのはごめんだけど、嵐が話したいなら聞いてやってもいい。

 

「俺って取り敢えず付き合うとかできないタイプなんだよ。好きじゃないやつとは付き合えない性格でさ……。 そりゃ付き合ったら好きなるかもしれない、とかは思うけど……俺って不器用だからよ」

「ま、なんとなく……本当になんとなくわかる気がする」

 

 私だって好きでもない男子から告白されたところで付き合う気なんてさらさらないわけだし。 

 

「じゃあ彩を振ったのは彩を恋愛対象として見れないから、てことね」

 

 今の説明を聞いて少し納得した。

 ぼちぼち時間だしそろそろ帰る……。

 

「━━━━いや、違う」

「え?」

「あ、いや……違くはねえんだが、俺が彩を振った大きな理由はだな……」

 

 ここまで来て女々しく嵐はモジモジしはじめる。

 そして先ほどの彩のように大きく深呼吸を何回かすると、嵐は体ごとをこちらへ向き直った。

 

「━━━━既に俺には好きな女がいたからなんだ」

「へ、へえー……」

 

 え? そんなこと私にいう必要ある? 私はなんの関係もない第三者のはずでは!?

 あれ、でもこの感覚……覚えがある。

 昔、私が中学生の頃にした感覚と似た……この感覚……!

 ん!? もしかして、嵐は……まさか……!?

 

「俺が好きな女ってのはな……!」

 

 こんなロマンチックなところで顔真っ赤にして言う事なんて……もうアレしかない。

 私を見据える嵐の目を、私も見ると、視線が交差して私の顔の温度が上がっていく。

 そして嵐は、

 

「俺はお」

『御機嫌よう!! 人間の皆さん!!』

 

 突然静かな館内BGMが忌々しい天使の声へと変わり、嵐が言いかけた事は一部を除いてかき消えた。 

 

「エンジェルギルディ!?」

 

 咄嗟に窓の外へ目をやると、最終闘体のエンジェルギルディが大写しとなったスクリーンがゴールドコーストの空に浮かんでいた。

 

『皆さん方が崇拝するツインテールの戦士たちにより、なんとワタクシの部隊はワタクシだけになってしまいましたの』

「あんの野郎……!!」

 

 完全にキレている嵐が空に浮かぶスクリーンに向かってメンチを切っている。

 エンジェルギルディはもちろんそんなことは知らずに、演説を続けていた。

 

『素晴らしいご健闘ですわ。 ですからこうして、ワタクシが最後の侵攻の予告をして差し上げますわ』

 

 最後の侵攻……エンジェルギルディは次にこの世界に来た時、闘いを終わらせるつもりなのか!

 

『そうですわねぇ。ツインテールの戦士にも準備と心構えが必要でしょうから……二日後にしましょう。つまり、今から四十八時間後ですわ』

 

 四十八時間って、明後日!? 心構えとか言っておきながら、明後日とか結構急に感じるんですけど!

 ていうか明後日はまずい! まだ私たち修学旅行の途中だし!

 

『これは絶対ですわ。四十八時間後、ツインテールの戦士が現れようが現れなかろうがワタクシはこの世界の属性力を十分ごとに頂いていきますわ。 こうすれば、絶対に現れてくれると思いますので』

 なんて下衆。天使やら花嫁衣裳やら華やかなイメージを散りばめているくせに……!

 修学旅行中なのは非常に惜しいけど、世界の属性力と天秤にかけたら……重要なのはどちらか明白だ。

 

『ワタクシが降りる場所はお楽しみに。 それでは今から四十七時間五十四分後、楽しみにしといてくださいまし』 

 

 そう言い残し、スクリーンは砂嵐になるとやがて空に溶けていくように消えていった。

 まさかエンジェルギルディから最終決戦の日を指定してくるなんて、意外だった。

 こうしちゃいられない。 早くホテルに戻ってスマホでフレーヌとやり取りしないと!

 

「あ、おい!」

 

 エレベーターに向かって駆け出したところで嵐に呼び止められる。

 

「ん?」

「えっと……」

 

 ああ……。

 雰囲気もあるのだろうし、再び言おうとしてもなかなか言えないっていうのは……わからなくもない。

 だから、フォローしといてあげる。

 

「嵐が言おうとした事が何かくらい、わかってるよ」

 

 私は鈍感じゃない。

 あんな雰囲気で、あんな顔真っ赤にして何を言おうとしたかなんて言わなくても察してる。

 目の前の嵐の、顔赤くして目線を泳がせてる反応を見て、そうと思わない女の子がいる?って話。

 

「だからさ、嵐」

 

 顔をあげた両手の人差し指を交差して見せる。

 

「修学旅行の雰囲気でそういうことを実行するうちは、ごめんなさい!」

「な、なああああああああ!?」 

 

 顎が外れるのではないかと思うくらい口を開けて驚きガッカリする嵐と、おそらく弾けんばかりの笑顔をしている私。

 あそこまでじゃないけど、私も中学で嵐に告ってOKもらった時は口を開けて驚いてたなあ。

 

「ほら、のんびりしてたら置いてくよ」

「え、あ……はい……」

 

 ホントに嵐は時々女々しくなるな。

 男なら新しい恋に生きろ!ってんだ。

 気合いを入れてあげよう。

 

「は!?」

 

 トボトボ歩く嵐の手を掴み、エレベーターへと駆ける。

 その時、不意にガルダギルディが今際の際に残した言葉が頭に浮かんできた。

 

『恋愛属性(ラブ)を持つ戦士、テイルホワイトよ!』

 

 まさか修学旅行中に気付かされるなんてね。

 顔はまだ熱く、ほのかに赤くなっているであろう私を薄暗い照明が隠してくれていた。




皆さん、どうも阿部いりまさです。
この話で奏と孝喜にやっと進展?がありました。
そしてエンジェルギルディの宣戦布告……話は修学旅行の終わりとともに……。

次回は早いうちに投稿できたらと思います!
それでは、ありがとうございました。


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FILE.76 佳境の修学旅行(テイルオン)

テイルホワイト・エレメーラフュージョン

志乃や嵐、テイルシャドウと同時にエレメリンクした事で発動した形態。 髪型は属性力の強さからツインテールのままだが、肩口にアバランチクローを模した小型のシールド、左右の腰にフロストバンカーを模した小型の銃装甲、左右の手にブライニクルブレイドとジャックエッジを持ち全てのエレメリンクの武器を扱える。 ブライニクルブレイドは順手だがジャックエッジは逆手のスタイルで闘う。 圧倒的な力を持つがテイルギアのセーフティ機能が働き、7秒から8秒しか持続しない。

武器:ブライニクルブレイド、ジャックエッジ、その他装甲
必殺技:???



 エンジェルギルディの宣戦布告などのトラブルもあり、かなり時間に追い詰められはしたものの、私たち全員がダッシュした事でなんとか門限ギリギリにホテルに到着することができた。

 かなり疲れたし、こんな事なら嵐の言葉無視してさっさと一緒にエレベーターに乗ってしまえば良かったと心底思う。

 まあ……ドキドキはしたし、それはいいか。

 

「あー、ちーかれーたー!」

 

 部屋に入るなり、志乃はそのままベッドに倒れこむ。

 私はというとまずはスマホの捜索だが……お、あったあった。

 志乃からの何十件も不在着信を見るといかに昼間、私を心配してくれていたのがわかる。

 時間を見ると午後六時半……夕食の八時半までは自由時間なので、さっきと違い時間に余裕はある。

 さっそくフレーヌお手製アプリの''テイルコネクト''を起動して、フレーヌへの通話ボタンを押す。すると、コール三回ほどでフレーヌが応答した。

 

『あ、奏さん。私に連絡をくださったということはエンジェルギルディの宣戦布告を見たんですね』

「うん。さすがに世界の属性力を奪っていくって話なら、私も呑気に修学旅行は楽しめないから」

『わかりました!』

 

 その瞬間、ベッドの下が眩く光りだす。

 三秒ほど光り続けたところで、閃光は落ち着き、部屋の様子は元通りとなる。……まさかこれは、例のアレだろうか。 

 

「やっぱり……」

「あ、奏さん! 助けてください!」

 

 もしかしてと思ってベッドの下を覗いたら、やはりそこにはフレーヌがいた。

 私のベッドと違って下のスペースがかなり狭いため、フレーヌ一人では脱出するのは困難なようだ。

 とりあえず志乃に手伝ってもらい、ベッドを持ち上げてフレーヌをレスキューする。

 

「冷蔵庫やら炬燵の中やらベッドの下やら、なんでヘンテコなとこから出てくるの……」

「え、冷蔵庫!?」

 

 そういえば志乃には話してなかったっけ。

 炬燵の中よろしくこれも深夜にやられたらかなりのホラーになってしまう。

 

「私も意図してやっているわけではないんですけど……ん? んんん?」

「え、な……なに?」

 

 フレーヌがチラリと私を見た瞬間、何を思ったのかグイグイと顔を近づかせ私を凝視してくる。

 おお、そのジト目。 確かヘルハウンドギルディだっけ。それが見たらかなり喜ぶに違いない。

 

「いえ……何かありました?」

「っ!?」

 

 なんでこんなに察しがいいの?

 私だって元大女優の娘、ポーカーフェイスは得意分野のはずなのに。 どうやらフレーヌには見透かされてしまったらしい。

 

「見た感じ、昼間よりも体温が上がっているような気がしまして」

「見ただけで体温がわかるってどんな目してんの」

「何か嬉しい事でもあったのかと思いまして」

 

 嬉しいこと?

 嵐に告白未遂されたことが嬉しいこと??

 確かに少しは意識したけど、私はしっかりとお断りしたわけだし……全然そんなの……。

 

「う、うう嬉しいことなんてあるわけないでしょ!」

「そ、そうですか」

「……奏だいじょぶ?」

「うんうん、だいじょぶ!」

 

 危ない。 もしさっきの事が志乃やフレーヌにバレた日にはかなりしつこく絡んでくるに違いない。

 絶対にバレないようにしなければ……!

 早いとこ別の話に持っていくことにしよう。

 

「そういえば今日のバイキング、昨日とメニュー違うみたいだよ」

「誤魔化し方が下手すぎる!」

 

 まさか志乃に突っ込まれるとは……。

 ていうかフレーヌの前でそれ言ったらそれこそ誤魔化してることごバレてしまう!

 こうなると、今から私が何を言ったところで全て疑われてしまう……こうなったら責任とって志乃に協力してもらうか。

 

「へ?」

 

 志乃に向けてどうにか誤魔化してくれ、との意味を込め右目をパチクリさせる。私のアイコンタクト、受け取って!

 

「あ……!」

 

 お、どうやら気づいてくれたらしい。

 察しのいい志乃はなぜか上機嫌になり、フレーヌへと近づいていく。

 

「今日はコアラを触れたからね! 奏の機嫌がいいのは当たり前だよ!」

「そうでしたか……なるほど。好きな動物に触れ合えたのであれば機嫌も良くなるし、体温も上がる……あれ、上がりますかね?」

「私たちJKはそういうものなんだよ」

 

 ナイスだよ、志乃!

 まあ、コアラを抱っこできたことは嬉しかったってことは確かだしね。

 あれ……今日は楽しいことや嬉しいことがたくさんあったわけだけど、フレーヌに指摘されたときに最初に出てきたのが嵐って、なんで!?

 コアラやフリーフォールじゃなくて、嵐!?

 私も少しは意識したけど嵐のことは振ったからもう終わりのはずなのになぜ……。

 

「奏さーん、聞いてますか?」

 

 真剣に考えていたらいつのまにか目の前にフレーヌの顔が。

 

「ごめん、全く聞いてなかった」

「素直ですね……。もう、役四十六時間後に迫ったエンジェルギルディとの闘いについてですよ」

 

 そうだ、忘れかけていたけどその相談……会議のためにフレーヌに来てもらったんだ。

 会議といってもエンジェルギルディが宣戦布告してきて、時間まで指定してきているのでその辺に関しては特に話し合うことはない。

 問題なのはそのエンジェルギルディが予告した時間……その時間は修学旅行の団体行動中なのだ。

 

「私がいないことうまく誤魔化せる?」

「うん! なんとか先生と彩たち、誤魔化しとくから!」

 

 志乃がそう言ってくれるなら安心なので、次の問題へと移る。 はずだったが、直後に見せた志乃の暗い顔によって私とフレーヌを言葉を失う。

 

「あ。ご、ごめんね!」

「どうかしたの?」

 

 志乃と私は付き合いが長い。

 これから志乃が言うことはだいたいわかってはいるけど、聞かずにはいられなかった。

 目元に浮かんだ涙を拭って、志乃は口を開く。

 

「奏や黒羽、もちろんフレーヌだって危険なことしてるのに……そのあいだ私と嵐は何もできないって考えると……悔しくて……」

 

 自分のリンクブレスを見ながら、小さな声で話す志乃。

 今までも志乃が思い詰める時はあった。 だから私は「志乃もエレメリンクを使って一緒に闘ってくれている」と、言ってきたけど……。志乃は納得してくれてたようで、そんなことはなかったんだね。

 沈黙の中、フレーヌがゆっくりと歩み寄り志乃の隣へと座る。

 

「志乃さん。一緒にエレメリアンと闘うことだけが奏さんや黒羽さんの力になるわけではありません」

 

 志乃は顔を伏せたままだが、フレーヌは優しい声音で話し続けた。

 

「メンタルのケアやちょっとした優しさ、場を和ませる笑顔、奏さんと黒羽さんの事を思う気持ち……どれか一つでも欠けていたらエンジェルギルディまで辿り着けたかどうかわかりません」

 

 フレーヌの言うことはもっともで、私がクラーケギルディにボコボコにされ、力を引き出せなかったときに私を復活させてくれたのは志乃だった。

 それだけじゃない。私が異世界に飛ばされた時、志乃がどれだけ心配してくれていたか、フレーヌから聞いている。それに、嵐にだってまあ……不本意ながら助けられた。

 

「私が志乃さんと奏さんと初めて会ったあの日。 どうして志乃さんも一緒にビクトリースクエアに転送したのか、考えた事ありました?」

「え、それは巻き込まれただけじゃ……」

「違います。 私には関係ない人を巻き込む勇気はありません。私は臆病者なんですから」

 

 そう言うと、フレーヌは座っていたベッドから立ち上がり私の前へ移動してきた。 そして手を引き、今度は私が志乃の横に座る形になる。

 

「このお二人でないとダメだと思ったからです。奏さんではなく''このお二人''と」

 

 私も初めて聞いた話だけど、すぐに納得できた。

 仮に私一人、ビクトリースクエアに言ったところで本当にテイルホワイトになったか、テイルホワイトになったからといってそれを続けていたかどうかはわからない。

 ただ言えるのは、志乃がいなかったらピンチの場面が何度もあったということ。

 

「志乃、最後まで私と闘ってくれる?」

「うん……!」

 

 首肯した志乃は、そのまま私の元へ飛び込みベッドへ押し倒される形となる。

 

「あれ? なんかこの光景いいですね……」

「「えっ」」

 

 感動の余韻の残る中、微かに聞こえたフレーヌの声に身震いする私と志乃だった。

 

 

 次の日、オーストラリア滞在も残すところあと二日となり、私たち修学旅行生はゴールドコーストから離れ朝イチでブリズベンへと向かった。

 今はこうして修学旅行を楽しんではいるけど、明日はエンジェルギルディとの決戦があるわけで……。そう考えると時間が進むたび緊張していくなあ。

 ブリズベンでの行動は今日が自由行動、最終日の明日が全体行動となっている。

 ちなみに、自由行動の際は何故か制服で行動するよう先生たちから説明がはいり今日は皆が園葉高校の制服姿だ。

 私としては気合い入れて準備してきた私服が着られないのは残念だけど……まあ、この姿のほうが修学旅行っぽくはなるので良しとしよう。

 ただ正直なところ、フルでその修学旅行に参加できないというのは悔しい。だけど、明日エンジェルギルディを倒せれば全て終わる。 そう思えれば幾分かマシにもなる。

 

「奏、昨日のことだけど」

 

 博物館に展示されていたティラノサウルスの化石を眺めていると、いつのまにか隣に立っていた彩に声をかけられた。

 昨日のこと、というのは嵐の告白……未遂のことだろう。

 

「もしかして嵐君のこと振っちゃったの?」

「うん」

「えー、せっかく私が場を整えてあげたのにー……」

 

 やっぱりあそこで告ることを考えたのは嵐じゃなかったか。

 嵐がロマンティックなはずないし、彩の言うことから察するに……嵐が彩を振った際にあの場所をオススメしたのだろう。

 

「別に私に気を使わなくても平気だよ?」

「まったく使ってないって言ったら嘘だけど……彩から話聞いてなくても、私は断ってるよ」

 

 振られたとはいえ、彩にとっては嵐が告白失敗したのは好都合のはずなのに……どうしてそこまで私たちのことを気にするのだろう。

 あまり思いたくはないが……恋愛において私ら女の子には駆け引きというものがある。

 恋愛相談として自分の好きな人を周りにアピールし、その男子に手を出させなくする……というのは中学の間もよく耳にしていたことだ。

 恋愛相談した相手が相談した女の子の意中の男子と付き合った際には、リーダー格含め取り巻きから激しいバッシングを浴びたりもする。おお……女って怖い。

 とにかく! 恋愛において打算で動かない女の子などごく僅かしかいない、ということだ。

 そのごく僅かな人物に当てはまるのが、志乃や彩といった娘たちなんだろう。

 

「私を振ったからには奏をおとしてね!って言ったのに」

 

 いや、まあ正直落ちた……ていうか落ちてたんだけど……うわ、超恥ずかしい!

 ま、まあ……私は振ったのだからその想いはもう終わりだ。

 自分を納得させようとしていると、彩がリュックから何かを取り出して私へと差し出してきた。

 

「バレンタインデー……」

「そう、もうすぐバレンタインだからチョコぐらい渡してあげて! 告白ってめっちゃくちゃ勇気いるんだから!」

「彩が言うとすごい説得力……。 ま、それは私もわからなくはないし……考えとく」

 

 返事を聞いてニコッと笑うと、彩はサッカー部の男子に呼ばれて急ぎ足で去っていく。

 その中に嵐もいたが、目が合うとお互い顔を逸らしてしまった。

 一応断ったけど、すぐに元の状態に戻るのはなかなかしんどい。

 状況は違うが中学の頃、私が嵐との交際をやめた際も、昨日までのように普通に話すのにはかなりの時間がかかったのだ。

 ただ、私はあの時の私じゃない。

 スマホを取り出し、ラインを開く。

 嵐の名前を探してトーク画面を開き、取り敢えず話があると送信。 すぐに既読がつき、スルーされることなく返事が帰ってきた。

 待ち合わせ場所を指定すると、私はすぐにその場所へ向かい歩きはじめる。

 

 

 ラインを送ってから十数分後、待ち合わせの場所に嵐は現れた。

 待ち合わせ場所はメインの展示物から離れたあまり人がいないエリアだ。

 十分ちょい待っていて目の前を通り過ぎた人が二人しかいなかったので、博物館の中で秘密の話をするにはもってこいの場所だろう。

 

「よ、よう。 何かようか?」

 

 少し緊張……というか、気まずい感じで話しかけてくる嵐。

 

「嵐も知ってるとは思うけど、もう少しでエンジェルギルディとの決戦でしょ?」

「え、ああ。はいはい、エンジェルギルディな! それなっ!」

 

 もしかして告白の返事がNOからYESに変わるとでも思っていたのだろうか。

 確かに意図せずだが、人混みから敢えて離れた場所で待ち合わせを指定して、それっぽいラインの文面を送ってしまった私に非がある。 ていうか非しかない。

 

「勘違いさせてごめん。それでさ、明日の自由行動だけど……私は午後になったら抜けないといけないから。そのフォローをお願いしたくて」

「それは構わねえけど、いいのかよ」

「私がエンジェルギルディを倒さないとこの世界の属性力が、ツインテールがどんどん奪われていく。 自分の修学旅行と天秤にかけたら、どっちが大切かなんて明白でしょ」

 

 修学旅行は今日含めた三日間で充分に堪能できたと思うし、あとは最後にエンジェルギルディを倒し、この世界の属性力を救えれば……ある種素敵な修学旅行となるだろう。

 

「それに私はさ、ツインテールによるくだらない闘いを止めるため。私が育てた属性力をとられないため。それに、私を繋げてくれたツインテールが好きだからとられないために闘ってるんだから。 終わらせるチャンスなの」

「そうか、わかった」

 

 志乃にも嵐にも、楽しい旅行中にみんなを騙すことを頼んでしまいとても申し訳なく感じる。

 みんなをうまく誤魔化してもらうには二人には班のみんなと一緒にいてもらう必要がある。

 今まで一緒に闘ってきてくれた二人に最後の闘いを見せられないのは残念だけど、これはどうしようもないことだ。

 志乃と同様に嵐にも明日のことを伝え、納得もしてもらえたところで他のみんなと合流するため私は歩きはじめる。だが嵐は、声で私の歩みを止めさせる。

 

「絶対に勝ってくれよ、奏」

「何回言ったら……もういっか」

 

 嵐はこうして何度注意しても私の名前を呼んできた。

 逆に私は中学生の頃に嵐を振ったあの時から、彼の名前を呼んだことはなかった。

 

「エレメリンクの準備しといてね、孝喜」

「ああ……ん? 今、名前で呼んだか?」

「なんのこと」

「絶対呼んだろ! もう一回頼む!」

「嵐の聞き間違いでしょ」

 

 後ろでまだ嵐が何か騒いでいるが、なんと言われようと呼んであげないからね。

 

 そして次の日、自由行動の途中に志乃と嵐の協力のもと、私は班から抜け出しフレーヌの基地へと転送されていた。

 基地にはすでに黒羽も待機しており、基地の空気が決戦がいよいよだということを実感させてくれる。

 今の時刻はオーストラリア時間で午後六時八分、日本時間はマイナス一時間の五時八分だ。

 エンジェルギルディが指定した時間まで後、二分。

 

「エンジェルギルディはどこに現れるか予想できません。 ただ、幹部エレメリアンは決戦の際には人が少ない場を選ぶ事が多いですが……」

 

 直近だとセドナギルディがそうだったっけ。

 ただ、相手はエンジェルギルディだ。

 

「エンジェルギルディを今までのエレメリアンと一緒にしてはダメね。平気で部下を粛清するし、自分でコントロールできるとはいえ、多大な被害を出すであろう''エリシオン''という技をこの前使ってきたわけだし」

 

 そう、エンジェルギルディには最終闘体で披露した技のエリシオンがある。

 前に受けた時は一発の威力でも相当なものだった……もしあれが全弾命中したとしたら、その時点で私たちは敗北が決まってしまうかもしれない。

 何か対策を立てようとしても、数百にもなる光線をどうするか、未だ答えは出ていない。 実戦のうちに何かひらめけばいいんだけど……。

 

「まもなくです!」

 

 フレーヌに促され時計に目をやると、指定した時間まで残りすでに三十秒をきったところだった。

 私と黒羽はカタパルトの前に移動し、互いに目を合わせ頷き合ってテイルギアを胸の前に構える。

 これが最後の変身になることを祈りつつ、変身コードを叫ぶ。

 

「テイルオン!」

「変身!」

 

 白と紺色の閃光が弾けて、テイルホワイトとテイルシャドウへの変身が完了した。

 そしてそれとほぼ同時刻、ついにエンジェルギルディの指定した時間になると━━━━

 

「━━━━こ、これは!?」

 

 突如として基地のアラートが鳴り響く。

 そして、私たちが見たのは属性力を奪われてしまった事を示すセンサー。

 そのセンサーが示した場所は、私たちが昨日までいた修学旅行先の、オーストラリアのゴールドコーストだった。

 私たちが一昨日までいたところを真っ先に狙うなんて、エンジェルギルディはまさか私の正体を……?

 まさか、そんなことあるわけない。

 

「一瞬にして街の人々の属性力を奪い去ったのね……! フレーヌ、エンジェルギルディはどこにいるの?」

「エンジェルギルディの反応は……ロシア、エカテリンブルク近くのウラル山脈です!」

 

 最後の闘いがロシアね……なかなか燃える展開にしてくれる。 ただ、この時期だと寒くないか多少心配だが属性力には変えられない!

 

「お願いします! テイルホワイト、テイルシャドウ!」

 

 フレーヌの目を見て力強く頷き、カタパルトへ入るとまもなく視界は白くなっていく。

 いよいよ、これがラストバトルだ!

 

 

 転送されてきた場所は、辺り一面が山々に囲まれた場所だった。

 大きな崖がいくつもあり、まさに最終決戦に相応しい場所といえるだろう。

 その最終決戦を指定した当のエンジェルギルディは大きな崖の上で、神聖な輝きを放つ杖を持ちながら私たちを見下すように立っていた。

 互いに何も言わずに睨んでいるとエンジェルギルディから口を開いく。

 

「ようこそ、ツインテール戦士たち。 まずはこの場にお越しになられたことを心より感謝致しますわ」

 

 杖を地面へと突き刺し、空いた両手で左右の腰にぶら下がる布をつまみ上げエンジェルギルディは軽く礼をした。 ……高いところからやられても全く敬意を感じないんですけど。

 

「ワタクシは一対一の勝負は求めませんわ。貴女がた二人でどうぞお越しくださいまし」

 

 再び杖を持ったエンジェルギルディは不敵に笑うと、その杖を天高く掲げる。

 

「これこそが禁戒なるお嬢様の純潔(レーヴァテイン)。 ワタクシに届く前に倒れないように、お気をつけて……うふふっ」

 

 掲げたレーヴァテインから禍々しい黒い塊がいくつも放出され、崖下の私たちの前へと落ちてくる。

 

『これは、強化されたアルティロイドです!』

 

 黒い塊から胸に菱形の石をつけたモケモケが何体も現れ、何十秒も経たないうちに私とシャドウは包囲されてしまう。

 

「少しはワタクシも属性力を頂いておこうと思いましたの。 うふふ、時間ですわね」

 

 レーヴァテインが眩い光を放つ。

 時間ということはエンジェルギルディが言ってた十分経つごとに属性力を奪っていくということに間違いないだろう。

 つまり、今の一瞬で属性力が……!

 

『こ、今度はバリ島の属性力が一瞬で……!』

 

 これは、モタモタしている場合ではない。

 エンジェルギルディを倒せば属性力を取り戻すことはできるみたいだが、だからといって悠長に闘うのは私の気が収まらない。

 怒りに震える手でフォースリボンに触れ、アバランチクローを両手に装備する。

 シャドウもノクスアッシュとジャックエッジを持ち、ハイパーモケモケ相手に攻撃をはじめた。

 

「このモケモケやたら強い……!」

 

 一撃では倒れず、何回か攻撃してやっと倒せるハイパーモケモケは私たちの体力を著しく奪っていく。

 

「モッケ━━━━ッ!」

「うるさい!!」

 

 正直硬さだけでいったらセドナギルディ戦の時の黒エレメリアン以上だ。 そのうえ、黒エレメリアン 並みに数が多いのだからまったくゴールが見えない。

 私たちが苦戦する様子を崖の上から満足そうに眺めるエンジェルギルディは再びレーヴァテインを天に掲げ眩く光らせる。

 

『今度はアクアライン近くの街全てから属性力が……!』

 

 三度目でシャドウは何かに気づいたらしく、目一杯の力を込めて斧と剣を振るい目の前のハイパーモケモケ全てを消し飛ばす。

 

「エンジェルギルディ! あなた、私たちがエレメリアンと闘い勝利した場所から属性力を奪ってるわね!?」

 

 なるほど、納得した。

 一番最近倒したエレメリアンはゴールドコーストに現れたジャックギルディたち、その次がシャドウが単独で倒したキジムナギルディが現れた場所。

 たった今奪った場所はガルダギルディと闘ったところってわけか。

 ゴールドコーストを狙ったのはやはり私の正体がバレていたわけではなかったらしく、少しだけホッとする。

 

「だけど、なんでわざわざそんなことを? まさか部下の無念を晴らすとか……!?」

「エンジェルギルディがそんな部下思いの行動を起こすわけない。 ただの挑発よ。一度守った属性力を奪うことで……私たちを挑発してるのよ!!」

 

 憂さ晴らしをするかのようにシャドウはジャックエッジを目の前へと投げつけ、それをくらったハイパーモケモケはどんどん粒子化していく。

 怒るシャドウを楽しむエンジェルギルディは喜悦に淀んだ声で話しはじめる。

 

「ええ……いいですわ、いいですわ! 貴女たちの悔しそうなそのお顔、堪りませんわ!」

 

 さらに大きな翼を展開し、宙に浮きながら続ける。

 

「貴女たちがワタクシの駒から守った場所は溢れんばかりのツインテール属性が芽吹いていますの。 ワタクシたちアルティメギルが、それを見逃すとお思いですの?」

 

 なんて卑劣……!!

 このエレメリアンだけは絶対に許せない!

 堪らず私はマキシマムバイザーに手を伸ばし、テイルブレスへジョイントしようとするが……。

 

『奏さん、今はバイザーを使う時ではありません。 確かに今、属性力は奪われてしまうかもしれませんが……エンジェルギルディを倒せれば全て救われます! 悔しいでしょうけど、ここは我慢してください!』

 

 なんとか踏み止まり、バイザーを元の位置へと戻す。

 私たちが守ってきた属性力がこうも簡単に奪われてしまうなんて……謝っても謝りきれない。

 

「フレーヌの言うことも一理あるけれど、私としては戻るとしてもツインテール属性が世界から消えていくことに、怒りが収まらないのよ」

『黒羽さん!?』

 

 アンリミテッドブラを胸へと装着し、シャドウはチェインエヴォルブ。

 アンリミテッドチェインとなったシャドウは進化したノクスアッシュトリリオンを手に、一撃でハイパーモケモケを葬り去っていった。

 私も後に続き、クローを振るいはじめるが、

 

「ホワイト、残りは全て私が引き受けるわ。後で必ず行くから、先にあの堕天使をお願い」

「……シャドウ、待ってるからね」

「道を開けるわ、行きなさい! それと待つまでもなく、エンジェルギルディを倒しなさい!」

 

 直後、シャドウの必殺技で周囲にいたハイパーモケモケは吹き飛びエンジェルギルディのいる崖の真下への道が開ける。

 

『黒羽さんが私の指示を破るなんて……』

「それだけ黒羽も本気なんだと思う。オルトロスギルディの仇みたいなものらしいしね」

 

 心なしか自信なさげなフレーヌを励ましつつ、崖の真下に到着し足場を見つけてトントンと上へジャンプしていく。

 

「取り敢えず私はいいから、黒羽のサポートお願いね」

『……わかりました、無理はしないでください!』

「わかってる!」

 

 フレーヌとの通信が切れたの同時に、崖の上へと到着し優雅に佇むエンジェルギルディと対峙した。

 

「あらあら、期せずして一対一になってしまいましたわね」

 

 レーヴァテインを一回トンと地面に叩くとまたも光だす。

 また、私たちが守ってきた属性力が……。

 

「貴女一人でワタクシに勝てると思いますの?」

「私は一人じゃない、みんなと闘う。 みんなと闘って、あんたを倒す!」

 

 マキシマムバイザーをテイルブレスへジョイントし、今度こそ私はマキシマムチェインへと進化する。

 

「戯れ言を。貴女は一人ではありませんの。みんなと闘う? 面白くない冗談ですわ」

 

 フォースリボンに触れ、アバランチクローをユニバースを両手に装備する。

 重い。今までで一番、武器が重く感じた。

 エンジェルギルディを前にしての緊張か、怒りか、虚しさか……私の胸の中をぐるぐると渦巻いていく。

 

「まあ、よろしいでしょう。 一人でワタクシとやるのは本気のようですし」

 

 構えをとらないのは余裕のあらわれか。

 私は無防備に佇むエンジェルギルディ目掛けて、疾駆する。

 

 これで全てを終わらせる━━━━!




ついに始まりました、エンジェルギルディとの最終決戦。
ここまで長い話になりましたが、こうして今も読んでくれる方がいる事にとても感謝しています。
残り僅かとなりますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
それでは。


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FILE.77 佳境の修学旅行(四人のツインテール)

<クライマックスドライブ>
テイルホワイト・マキシマムチェインがブレイクレリーズする事で発動する必殺技。 マキシマムバイザーから発射される強化されたオーラピラーで相手を拘束。エクセリオンブーストから属性力を放出させホワイトを空中へ浮遊。合体させ一つとなったアバランチクローユニバースを右脚へと装備。 エクセリオンブーストとアバランチクローユニバース同時に属性力を噴出し、相手へ蹴撃を繰り出す。


 前後、上下、左右……あらゆる方向からエンジェルギルディへ向かってクローユニバースを叩きつけていく。

 今、私は自分の全てを出しきって闘っている……それなのに攻撃がまったく当たらない。

 

「どうしまして? 続けてもかまいませんのよ」

 

 マキシマムチェインの特性で疲れはしないものの、こうも当たらないと精神的にキツイものがあった。

 それにマキシマムチェインになることで大きなメリットがあるぶん、デメリットも存在する。

 私が強化形態でいる限りバイザーからは属性力が放出され続けるが、あまりに長い闘いになると身体が悲鳴をあげてしまうのだ。

 つまり、マキシマムチェインでの長期戦はなるべく避けるべきであり、そうなると次の手段は……。

 

「ワタクシも少しくらい宜しいのでしょうか?」

「なっ!? つああっ!!」

 

 思考を巡らせている最中、エンジェルギルディが素早く眼前へと移動し強烈な回し蹴りを繰り出す。

 一瞬の出来事に反応出来なかった私は蹴りをモロにくらい、岩肌へと強かに打ちつけられた。

 岩肌にめり込む形になった私へと、再びエンジェルギルディは近づいてくる。

 

「うっふふ、ワタクシは知っていますのよ。 貴女が使うその力……時間が経つほど強力になっていくのでしょう?」

 

 初めてバイザーを使ったセドナギルディの時から、今日までの闘いでエンジェルギルディはバイザーの特性を完璧に把握していた。 それはメリットだけの事では留まらず……。

 

「ただ、長くはその形態でいられないご様子。 貴女ご自身の身体が耐えられなくなってしまうのですわね」

「ふん。私だってね……最初の頃よりかはこの力に慣れてきてるし、あんたの思う通りにいくかなんてわからないかもよ」

 

 ここはブラフをかましておくしかない。

 確かにバイザーを使い始めた頃よりかは、私の身体が適応してのことなのかマキシマムチェインでいられる時間は長くなった。ただ、エンジェルギルディの言っていたことは真実であり、私は長期戦に持ち込まれると一歩間違えれば自滅しかねないのだ。

 周りの岩を砕いて岩肌から抜け出すと、再びクローユニバースを構える。

 

「ワタクシは人間の身体に傷を……お嬢様の身体に傷をつけるのを良しとしない性格ですの」

「重い蹴りくらわしといてよく言える……。 第一、私はお嬢様なんかじゃないって」

 

 前にも確かエンジェルギルディはそう言っていたが……一体私の何を見てそう思ったのか甚だ疑問だ。

 

「ええ、今の貴女はワタクシの前に立ち塞がる戦士ですもの。 なので、一般人に戻してさしあげますわ」

「どういう……!?」

 

 突如として目の前からエンジェルギルディの姿が消える。それを認識したと同時に背後から奴の手が伸び、右のクローユニバースを弾き飛ばされてしまった。

 

「貴女の力の源はこのパーツですわね」

 

 右手の、マキシマムチェインの要たるマキシマムバイザーを掴みエンジェルギルディは不敵に笑う。

 エンジェルギルディはバイザーの特性だけではなく、バイザーが弱点という事もお見通しだった!?

 

「ワタクシと闘えなくなれば、貴女も観念して属性力を頂けると思いますの」

 

 そう言いってからエンジェルギルディは腕に力を込めると、バイザーから火花が散った。

 このバイザーが壊れたら私は二度とマキシマムチェインに変身できなくなってしまう……だから、そうはさせない!

 

「オーラピラー!!」

 

 刹那、掴まれたバイザーから放たれたオーラピラーはエンジェルギルディを捉える。一瞬できた隙を見逃さず、私は素早くその場から跳躍した。

 一応拘束はできたみたいだが、エンジェルギルディは余裕のある表情を見せた後、すぐにオーラピラーを破壊してみせる。

 最初はなんとか必殺技を撃ち込むチャンスを狙ってはいたが、今のままでは拘束時間が短すぎて……おそらく避けられてしまうだろう。

 ここはやはり、なんとか私の攻撃を当てて弱らせる必要があるようだ。

 

「……解せませんわね」

「は?」

 

 大きくため息をつき、両の手を腰に当ててエンジェルギルディはボソッと呟いた。

 

「今までの闘いの中、貴女は何度も''ツインテールは嫌いだ''と仰ってきたではありませんの。それなのに、何故貴女はツインテールのためにそこまで闘えますの? ワタクシには少しもわかりませんわ」

 

 ツインテールが嫌い、か。 確かに何回この言葉を言ったかはわからない。それは事実であり、今でも私はツインテールが嫌いだ。

 嵐を振るきっかけになった事も、私たちをこんなくだらない闘いに巻き込んだ事も、それを狙うおかしな変態どもが現れた事も、全部全部ツインテールが元凶なんだ。やはり、私はツインテールが嫌い。

 

「そんなの……」

 

 だけどツインテールは、嫌なこと以上に私に幸せをくれた髪型でもある。

 ツインテールを通じて色々な人と出会った。

 私が闘う事になった時、一緒に闘うと言ってくれた志乃や嵐。アルティメギルを潰すためにレールを敷いてくれた黒羽。 異世界の戦士である総二。

 そして私のサポートを欠かさずしてくれたフレーヌ。

 皆に出会えた奇跡を起こしてくれたのは紛れもなくツインテールのおかげだ。

 

「照れ隠し……みたいものに決まってるでしょ」

「……なるほど。それでは今一度、問いますわ。 貴女にとってのツインテールとは何かを」

 

 私にとってのツインテール……そんなの決まってる!

 

「私のツインテールは……あんた達を倒すという''無限''の思い! この星の''生命(いのち)''! 希望の''輝光(ひかり)''! 仲間との''絆''!」

 

 再び右手にクローユニバースを装着させ、エンジェルギルディに向かい疾駆する。

 

「随分と欲張りですわね!」

 

 まだまだ、言い足りないぐらいだ。

 私のツインテールはこんなものじゃない!

 先程までの闘い方をやめ、今度はクローユニバースで攻撃を仕掛けつつ時折蹴りを繰り出した。

 いくら最終闘体とはいえ、クローユニバースをまともにくらえば大きなダメージを避けられないはず。 そうでなければ今まで避ける必要などなかったのだから。

 クローユニバースに気を取られていたエンジェルギルディの脇腹あたりに、一発蹴りを入れる。

 

「その程度で……!」

 

 大きなダメージには至っていないだろうが、今はそれでいい。 少しでも体力を減らせれば私たちの勝利は近くなるに違いない。

 クローユニバースと蹴り、稀に頭突きを交えながら私は叫ぶ。

 

「人間は……女の子は複雑な生き物なの! 嫌いだって言ったらそれはもう好きって言ってるようなもんなんだから!! 言葉を裏を読むくらいできないとあんたモテないよ!」

「本当に面倒な生き物ですわ」

 

 ほんとうにね。自分でもそう思うくらいだ。

 再び蹴りをお見舞いし、怯んだその隙を狙って背後へ回り込むと上段から目一杯の力を込めてクローユニバースを振り下ろす。

 少しずつだがダメージを与え続ける事はできた。 さすがに最終闘体といえど、この攻撃を受ければ大きなダメージは免れない筈だ……!

 振り下ろしたその時、周囲に鈍い音が反響する。

 確かにエンジェルギルディへと当たった……当たったのだが、

 

「え!?」

 

 クローユニバースはエンジェルギルディの頭を包む、薄いヴェールによって弾かれてしまっていた。

 カーテンのようになびいていながら、鋼以上の硬さを持つヴェールはエンジェルギルディに傷一つつけることを許さなかった。

 

「お強いですわ……お強いですわね! ですけれど、ワタクシには遠く及びませんことよ」

 

 クローユニバースが弾かれたことで無防備となった私の周りに、いくつもの魔法陣が出現する。 間髪いれずに全て弾け飛び、無数の光線が私に向かってくる。

 

お嬢様の聖水(エリシオン)……。 とくとご堪能してくださいまし」

 

 空中では避ける事もままならず、重い光線の一つ一つが私の身体に被弾していった。

 

「くぅ……!」

 

 数えることが出来ないほどの光線を受け、地面へと背中から叩きつけられる。

 天を見上げれるとエンジェルギルディが進化した大きな翼で浮遊した後、右足を突き出して急降下をはじめた。

 痛みを耐えながらなんとかその場から避難すると、先程までのいたところが陥没し、大きなクレーターが作られる。 その中心にいるのは、まるで隕石が落ちたような衝撃を与える蹴りをしたエンジェルギルディ。

 さながら必殺のキックといったところだが、もちろん私はくらいたくないものだ。

 

「あらあらあら……先程までの勢いはどちらに行かれまして?」

 

 最高にムカつく皮肉を言いながら、エンジェルギルディは優雅にクレーターから登ってきた。

 

(マキシマムチェインになってから随分と経って、私の強さも相当なはずなのに……!)

 

 だんだんと焦りが先行してきて冷静な判断ができなくなってきていた。

 このままではエンジェルギルディを倒す前に私の方がタイムリミットを迎えてしまう……一体どうすればいい……!

 無造作に繰り出すクローユニバースと、計算された拳がぶつかり合い、周囲をの岩は浮き弾け飛んでいく。

 

「所詮はその装甲も、アルティメギルによってもたらされた科学にすぎませんわ! 貴女のツインテール属性がいくら高まろうとも装甲はそれにはついてはいけませんのよ!」

 

 残っていた左のクローユニバースを弾かれ、素手の私に繰り出してきたパンチを両の手でなんとか抑え込む。

 

「確かに元はアルティメギルの力に変わりないかもしれない」

「よくわかっていますわね……!」

「だけどね!」

 

 パンチを抑えていた腕を滑らせて二の腕を掴むと、柔道の一本背負いのようにエンジェルギルディは投げつける。

 不意のことで焦った様子を見せたが、エンジェルギルディなんなく着地し今度は翼を広げて飛行しながら接近してくる。

 

「フレーヌやみんな、カエデの力があってこその私のテイルギアなの! アルティメギルのなんかよりもずっと強力なんだからあぁぁぁぁっ!!」

 

 あらん限りの声をあげ、私もエンジェルギルディに向かって地面を蹴り砕き走りだす。

 武器を使わずの肉弾戦は熾烈を極めた。

 だが……本気の本気で自分の体を使って攻撃を繰り出す私に対して、エンジェルギルディが余裕ある表情を浮かべていたのを私は見逃さなかった。

 

 

 テイルシャドウ対強化アルティロイドの闘いの状況は、まったく変わらないままだった。

 倒しても倒しても湧いて出てくる強化アルティロイドにさすがのシャドウも疲労の色を隠せなくなっていく。

 四方から一斉に襲いかかってくる強化アルティロイド。 それを斧と剣を握り回転ざまに斬りつけ、一気に殲滅するシャドウ。

 これと同じような光景を、ホワイトを先に行かせてから何十回も試行していた。

 

「このアルティロイド……並みのエレメリアンよりも戦闘力あるわね」

『無策に突っ込んでくると見せかけて、アルティロイドは陣形を組み黒羽さんを翻弄しようとしています!』

「だったら、私が逆に翻弄してやるわ!」

 

 シャドウは迫り来る戦闘員目掛け、ジャックエッジを投げつけるのと同時に反対方向へと走りだす。

 

「一度きりのとっておきよ」

 

 充分距離をとったところでノクスアッシュトリリオンをブレイクレリーズさせ、光の刃を形成させる。 そして、先程投げたジャックエッジに向かって斧を同じように投げつけた。

 斧と漆黒の剣がぶつかり合ったその時、その場で黒いドームが形成され周囲のアルティロイドはどんどん吸い込まれていく。

 アルティロイドを吸い込むたびに大きくなっていき、小さな山ほどの大きさになった黒いドームはシャドウが指を鳴らすと跡形もなく消え去った。 吸い込まれたはずのアルティロイドどともに。

 

『いつのまにそんな技を……』

「一対多勢も想定していたわ。 セドナギルディと闘ってそういう技も必要だと実感したも……っ!?」

『黒羽さん!?』

 

 突如としてシャドウの身体のパーツが激しく放電して弾け飛ぶ。次に、胸に被せていたアンリミテッドブラが外れノーマルチェインへと戻ってしまった。

 

「かなり自分に負担がかかる技なのよ……。あまり使いたくはなかったのだけれど、しょうがないわ。 それよりホワイトはどうなの、やられてないわよね?」

 

 肩を抑えながら立ち上がり、ホワイトの様子を伺うシャドウ。

 

『エンジェルギルディと互角……いえ、正直言って奏さんはかなりしんどいと思われますが……。今私が余計なことを話したら集中が途切れてそれこそ危険かと思いまして……』

「なるほどね。 すぐに私も向かうわ」

 

 肩で息をしながらホワイトの元へと急ごうとするシャドウだが、目の前の黒い壁にそれは止められてしまった。

 

『まさか、まだ……!?』

 

 崖の上から滑り降りてくる強化アルティロイドの数々。

 それを見たシャドウは舌打ちした後、フォースリボンを叩いてノクスアッシュをその手に握り締める。

 

「モケ━━━━イッ!!」

 

 いつもより低い声を出し、突貫してくる強化アルティロイドを両手で持った斧で斬りつける。

 今のシャドウはノーマルチェインであり強化形態ほどの力を出しきれずに闘っていることで、ジリジリと追い詰められていく。

 

「フレーヌ、この状況やばいわよね?」

『なに悠長なこと言ってるんですか! ヤバイですよ! 今有効な作戦を考えますから少し時間を……』

「必要ないわ」

 

 目の前にいた強化アルティロイドを叩き斬ると、シャドウは手にしていた斧を投擲する。

 斧に当たった物は吹き飛び、大ダメージを与えることができたものの、シャドウの手元にはもう闘うための武器は残っていない。

 

「ホワイトが奇跡のツインテールを誕生させておいて……私にそれは無しとは言わせないわ」

『お待ちください! 黒羽さんがエレメリンクする事は……!』

「私はツインテールから生まれたんだから、他の属性力を使うつもりなんて微塵もないわ!」

 

 ある考えを頭の中に描きながら、シャドウは強化アルティロイドの海へと飛び込む。

 逃げ場のない戦場で、シャドウは迫り来る敵へ向かって利き腕の左でパンチを繰り出していく。

 基地でその様を見ていたフレーヌは、シャドウが右手を敢えて使っていない事に気づいた。

 

『黒羽さん、まさか腕を痛めているんですか!?』

「違うわ、願ってるのよ」

 

 言葉を理解できず、困惑するフレーヌ。

 言葉通りシャドウは願っていた。右手のテイルブレスの中に眠るかつての自分……オルトロスギルディの属性玉に向かって。

 

(もし私を許してくれるなら、お願い。あなたといた時の力を……オルトロスギルディだった時の力を私に貸してちょうだい!)

 

 属性玉にエレメリアンの意志が宿ることがないことは既に知っている。

 これは鼓舞。自分を鼓舞し、今以上の力を出すための切っ掛けを作り出そうとしていたに過ぎない。

 しかし、最終決戦のこの場でシャドウも予想していなかった奇跡が起きた。

 

「これは!?」

 

 テイルブレスから黒い粒子が溢れ出し、周囲の強化アルティロイドを包み込むと次々と爆散させていく。

 

『テイルギアに異常が起きています!すぐに退避して変身解除してください! 黒羽さんの体に悪影響が出るかもしれません!』

 

 シャドウのギアを開発したフレーヌが、まったく想定していない事態を受け、変身解除を訴えるがシャドウは動こうとしなかった。

 

「平気よ、フレーヌ。だってこれは私自身の……オルトロスギルディの力だもの」

 

 シャドウはテイルブレスから溢れる粒子を懐かしみ、優しい笑顔を浮かべる。

 その優しい笑顔を見たフレーヌはなにも言わず、事の成り行きを見守るのがベストだと判断する。

 シャドウはテイルブレスを頭の上に掲げ、溢れ出る黒い粒子を体全身へ浴びていく。

 

「ありがとう、オルトロスギルディ」

 

 テイルブレスを見て、シャドウが一言呟いたとき……。

 

『愚妹の世話も面倒なものだ』

 

 確かに聞こえたかつての自分の本体の声。思わずシャドウは吹き出してしまった。

 

「ええ……」

 

 黒い粒子がテイルギアに溶け込み、シャドウの体に力が漲っていく。

 テイルブレスをつけていた体の右側の装甲が変化。 右肩に右腕、右腰に右足と、鋭く禍々しい装甲が追加生成されていく。 左右非対称のシルエットとなった仕上げに、右半身のみカラーリングが変化。漆黒の色に赤いラインが入ったデザインとなった。

 

「頼らせてもらうわよ。お兄様っ‼︎」

 

 ツインテールを形成する右側のフォースリボンの変化を最後に、シャドウの再変身は完了した。

 右半身の姿だけ見ると、かつて彼女がアルティメギルに属していた時に着用していた鎧と瓜二つだった。

 かつての自分と今の自分を掛け合わせた姿から放出される属性力の嵐が戦場を駆け巡る。

 

『テイルホワイトが属性力同士を融合させエレメーラフュージョンとするなら……こちらは自分との融合、その名も!』

「━━━━オルトロスフュージョン、ね」

 

 フレーヌの言葉を遮って、名乗りを上げたテイルシャドウ・オルトロスフュージョン。

 ホワイトが発動させたエレメーラフュージョンの時間制限を覚えていたシャドウは自分も長くは形態を保てないと判断し、すぐに行動に移る。

 変化した右のフォースリボンに触れると、手の中に漆黒の粒子が集まり、その手にジャックエッジが出現する。 オルトロスギルディの力を取り戻したことで、ジャックエッジは本来の太刀の大きさになっていた。

 

「はあああああああっ!!」

 

 自分の背丈以上にもなる漆黒の剣を振り下ろし、目の前に広がる強化アルティロイドの海を真っ二つに分断した。

 大地を揺るがすその一撃で、数十体の強化アルティロイドを一斉に跡形もなく一瞬で消し去る。

 

『凄いです。単純な力のみでいえばアンリミテッドチェインを凌いでいます……!』

 

 事実、一撃で倒せなかった強化アルティロイドを、オルトロスフュージョンの状態ではジャックエッジを振るった余波のみで沈めていく。

 確かな手応えを感じ、自信に満ち溢れた表情を見せるシャドウ。

 

「当たり前よ。私自身の力とフレーヌの技術が合わさった最高の形だもの。 それに、あなたもね……」

 

 ただ一人の部下であり、自分を助けてくれたフェンリルギルディが脳裏に浮かぶ。

 アンリミテッドブラを顕現させ、中央で分割させると胸の上に被せるのではなくジャックエッジの鍔へとジョイントさせた。

 

「これが……私たち四人のツインテールッ!!」

 

 形の違う双方の武装が全展開しツインテール属性の粒子を周囲にほとばしらせる。

 

「ブレイクレリーズ!!」

 

 ジョイントされたアンリミテッドブラに導かれるように、ジャックエッジが眩い閃光を放つ。その中から伝説の怪物であるオルトロスとフェンリルのオーラが現れ、強化アルティロイドを攻撃していった。

 オルトロスとフェンリルがシャドウの元へ戻りジャックエッジに取り込まれ、必殺の一斬を決める準備が整った。

 今までに手にした全ての力を集結させ、この形態で披露される最初で最後の必殺技。

 

「アルカイック!! クライシスゥ━━━━━━━━ッ!!」

 

 振り下ろされた審判の刃が数百の強化アルティロイドを包み込んでいく。

 次にシャドウが辺りを見渡すと、先ほどまで大量にいた敵は一体もいなくなりウラル山脈の雄大な自然が広がっていた。

 オルトロスフュージョンが解けると同時に変身まで解除され、速水 黒羽はその場に仰向けに倒れこむ。

 

『黒羽さん!?』

「大丈夫、少し……疲れただけよ」

 

 胸を上下させ息をする黒羽は満足げな表情で目を瞑った。

 優しい風が頬を撫で、気持ち良さを感じていたシャドウだが日常では聞き逃すほどの小さな音を感じとり上体を起こす。

 背後を振り返り、ホワイトとエンジェルギルディが闘っているであろう岩山の頂上を見つめた。

 

「休んで……られないわ……ね……」

『黒羽さん!?黒羽さん!!』

 

 一度立ち上がり、数歩歩いたところでシャドウは膝から崩れ落ち、変身解除と同時に気を失ってしまった。

 

「黒羽さん、しっかり!」

 

 フレーヌも基地から戦場へと降り立ち、倒れた黒羽へと駆け寄る。

 フレーヌの必死の呼び掛けも、黒羽は反応せずに目を瞑ったままだった。




物語もいよいよ大詰め……クライマックスを迎えています。
最終決戦なのでボリュームのある闘いにしたいなと思いつつもなかなか難しいものですね。
それでは、次回もお願いします!


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FILE.78 佳境の修学旅行(フレーヌ)

テイルシャドウ・オルトロスフュージョン

黒羽の願いが奇跡を起こし、シャドウがたった一度きりの変身を遂げた形態。 体の中心から左右が非対称のシルエットとなっており、片方がテイルギア、片方がオルトロスギルディの鎧となっている。 ホワイトが発動させたエレメーラフュージョンよりも活動時間は長かった。 黒羽やフレーヌ、オルトロスギルディにフェンリルギルディといった四人の思いを詰めた形態である。

武器:ジャックエッジ(太刀)
必殺技:アルカイッククライシス


 ホワイトやシャドウが激闘を繰り広げているのと同時刻、志乃と孝喜を含めた奏のクラス全体でブリズベンの劇場へと足を運んでいた。

 この劇場ではテイルホワイトのミュージカルが大きく話題となっており、観光客が必ず寄っていくスポットとして人気を博している。

 話題のミュージカルが上映されているにも関わらず、志乃は目を伏せがちであまり楽しんでいる様子はなかった。

 

「ごめん、私ちょっと……」

「大丈夫?」

「うん……」

 

 隣に座っていた彩に心配されながら、志乃は一人ホールの扉を開け人気のない廊下で壁によりかかる。

 スマホをチェックすると、既にエンジェルギルディが予告した時間から約四十分経過していた。

 

「心配なのか」

 

 小さく息をつく志乃へ、同じ扉から出てきた孝喜が声をかけてきた。

 

「当たり前だよ。今も奏たちが闘ってるって思ったら……私だけ修学旅行なんて楽しめないって」

 

 孝喜は無言で頷き、志乃の隣へ並ぶと同じように壁に寄りかかり制服のポケットからスマホを取りだした。

 ネットで闘いの中継しているところはないかと調べるも山奥での闘いのため、当然カメラなどは入っておらず、どこも中継はしていないかった。

 

「世界で次々とツインテール属性が消えちまってる。あのクソ天使が言ってたことはどうやらマジみたいだな」

「え、じゃあまさか……奏たちは……!?」

「大丈夫だと思うぜ。クソ天使は十分ごとに奪ってくみたいなこと言ってたし、伊志嶺たちが闘っていてもツインテール属性は奪われてるだろうから」

 

 スマホ見ながら淡々と答える孝喜を見て、少しだけ志乃は落ち着きを取り戻す。

 

「それにあの性格悪いエレメリアンなら、自分が勝ったことをすぐ全人類に伝えるだろ。 あのでっかいモニターでな」

「うん……」

 

 孝喜はネットの記事でツインテール属性が奪われた都市を目にする。 ゴールドコースト、バリ島、東京湾アクアライン近くの都市、自分が住んでいる町の隣町。エレメリアンが過去に出現した地域から属性力は奪われている事に気づいた。

 

(俺も何か手伝いてえよ!)

 

 表に出してはいないが、実際は孝喜も志乃と同様武器を持ってエレメリアンと闘えないことに激しく怒り、悩んでいた。

 スマホを持つ手に力が入り、ハードケースから亀裂の入った音がなる。

 その音で我にかえった孝喜は亀裂の入った箇所を確認してため息をつくと元のポケットへとスマホを戻した。

 

「そういえば、伊志嶺がいない理由はナベちゃんになんて説明したんだ?」

「ナベ先生のことナベちゃんって言うのよしなよ」

「お前だってほぼあだ名だろそれ」

「はいはい。奏はこの国に親戚がいて体調不良だからそこで休ませてもらってます、て」

「その理由でよく信じて納得するな。放任主義過ぎやしないか俺らの学校……」

「ふふっ」

 

 何気ない話題で、志乃が少しだけ笑う。その様子を見た孝喜も安心した様子で、壁から離れるとホールの入り口へと歩きはじめた。しかし、途中でその歩みは止まる。

 

「今の俺たちに出来る事は伊志嶺たちが勝つことを信じることだろ。そうすりゃあいつらが戻ってきた時に笑顔で迎えられるからな」

 

 そう言うと、再び背を向けて孝喜は歩きはじめる。

 

「振られたくせにカッコいいこと言っちゃって」

「おいまて、何故知ってる!?」

 

 クールに立ち去ろうとしていた孝喜だが、志乃の独り言を聞くと焦った表情で駆け寄ってきた。

 

「私がいつから奏と親友やってるか知ってる? 顔見れば一発! それじゃ、私戻るねー」

 

 リンクブレスを着けている右手を振り、志乃はホールの扉を開けて中へと入っていった。

 一人残された孝喜は小さくため息を吐くと、志乃と同じリンクブレスを見つめる。

 

「頼んだぜ、奏」

 

 

 エンジェルギルディの攻撃の前に、私はだんだんと防戦一方となっていった。

 虚を突くような高速でエンジェルギルディは私の眼前へと急迫し、細腕からは考えられないほどの力で拳を、脚では華麗な回し蹴りを繰り出してくる。

 強化形態でいられるおかげで、多少の痛みはあれどもここまでなんとか致命傷を浴びずに済んできていたが、

 

「……っ!?」

 

 右腕が痺れはじめ、徐々にそれが私の体全体へと広がっていく。 限界を迎えている合図だ。

 それと同時に、この痺れは残酷な通告でもある。

 マキシマムバイザーから放出される属性力に私の身体が耐えられなくなった時、はじめに右腕の痺れがはじまる。 それはつまり、これが今の私の限界。

 強化形態になった直後よりも私はかなり強くなっているはずなのに、エンジェルギルディには届いていない。 この痺れはそのような残酷な通告に他ならないのだ。

 拳を苦し紛れに突き出した後、私は大きくバックステップするとバイザーを素早く元の状態へと戻す。

 ノーマルチェインへと戻った私を見て、エンジェルギルディは口角をあげる。

 

「限界のようですわね。 情けないですわ……情けないですわ! 仲間とやらを信じ、強化を仲間に託した結果が今ですの?」

 

 再びフォースリボンを叩き、ノーマルなアバランチクローを両手に装備する。

 

「仲間とやらを信じていた無様な貴女に対してワタクシはこの通り。残念でしたわね、テイルホワイト」

「あんた、お嬢様属性だけでなくドS属性も持ってるんじゃないの?」

「ウフフッ……否定はしませんわ」

 

 ドSが相手ならドMで露出狂のテイルイエローなら相性がバッチリなんだけどな。 ……エロい意味ではない。

 私はテイルブレスにジョイントされているバイザーを一瞥する。

 限界を迎えた後のマキシマムチェインへの再変身は、十分ほどのインターバルが必要になる。 これから十分間、なんとか耐え凌ぐことができれば……!

 今は耐える時間、なんとか耐えてもう一度マキシマムチェインに!

 

「はああああああ!!」

 

 地面を蹴り砕き、エンジェルギルディへ疾駆し二つのクローを目一杯振り下ろす。

 エンジェルギルディはレーヴァテインを顕現させると、クローと交錯させ周囲に衝撃波と火花が舞い散った。

 

「なるほど、お強い」

 

 そう、確かにマキシマムチェインほどの力はでなくとも……私は以前よりも強くなった。

 エンジェルギルディが杖を使って攻撃を受けたのはあえてだろう。 なら私は、それを利用して少しでも攻撃を当てる!

 豪雪を身体に纏わせ、私はもう一度エンジェルギルディの周りを切迫し奴が目を離したその瞬間、クロー射出した。

 

「……?」

 

 射出したクローは杖へと当たり、大きく弧を描いて飛ばされていく。

 今しかないと、私は悟る。

 力強く踏み込み、エンジェルギルディの眼前へ跳躍すると勢いを殺さずに飛び膝蹴りを繰り出す。

 

「っ!?」

 

 初めて焦った表情を見せたが、すんでのところで交わされてしまった。

 

「あえて武器を捨て、今までにいない闘い方でワタクシを翻弄しようとしているようですけれど……無駄ですわね」

 

 エンジェルギルディは裂帛の気合いと共に後ろ蹴りを披露する。

 私はすぐにクローを両手に再装備すると、なんとか力任せにそれを弾き返す。

 たった今考えたばかりの行動でさえエンジェルギルディは予測し、対応してしまうなんて……どうすればいい。

 いや、どこかに必ず攻略法はあるはず……!

 

「このままでは属性力を奪うのに時間がかかり過ぎてしまいますわね。 ウフフ……ペースを早めて見ましょうか」

「エ、エンジェルギルディーッ!!」

 

 何処までも邪悪なエレメリアンだ……!

 攻撃を仕掛けていくうちに、通常形態でありながら自分の属性力が高まっていくのをなんとなく感じていた。

 テイルギアの力は使用者の感情に大きく左右されることは以前フレーヌから聞いていたことだ。もしかしたら、今の私は初めてテイルギアを使いこなしていると言ってもいいかもしれない。

 しかしいくら属性力が高まろうとも、マキシマムチェインには遠く及ばない。

 

「楽しいですわ、楽しいですわ!」

 

 マキシマムチェインを圧倒したエンジェルギルディと対等に闘えているように見えても実際はそうじゃない。

 明らかに今のエンジェルギルディは、手を抜いて闘っているのだ。

 

「前から気になってはいたけど、あんたの目的はなんなの? あんたを見てるとただ属性力を奪うってだけじゃないようにも見えるんですけど」

 

 クローが押さえつけられたところで、私は前から胸に抱いていた疑問をぶつけた。

 

「ワタクシたちは首領様のためにツインテール属性を集め続ける。 それ以外に理由が要りまして?」

「言いたくないってわけ。 どうせセドナギルディみたいにくっだらない野心でもあるのかと思ったけど」

「……お喋りが過ぎますわね」

 

 露骨に不機嫌になったエンジェルギルディを見ると、首領のために行動している……というのは本当のことみたいだ。

 そうなると新たに疑問が生まれてくる。

 

「首領のためにツインテール属性を集めるっていうなら自分の部下……」

「お黙りなさい!」

 

 突然の激昂とともに、エンジェルギルディは左脚を使って体の真横へ蹴りを入れてくる。

 手を抜かずの本気の蹴りを受け、脇腹に強烈な痛みが走った。

 なるほど……さっき不機嫌になったのは組織のために動く自分に疑いをかけられたからではなく、首領の名前が出たから。

 もしかしたら隙を作れるチャンスかもしれないと、エンジェルギルディへ再度問いかけることにする。

 

「あんたが闘う理由……首領が関係してるみたいね。なに、組織のボスと喧嘩でもしたのかな?」

 

 地面を歩くエンジェルギルディの足が深々と埋まっていく。 どうやらかなり怒っているらしい。

 いつ強烈な蹴りがこないか警戒していたものの、なぜかエンジェルギルディは途中で歩みを止めその場に立ち尽くす。

 やがて、小さな声で話しはじめた。

 

「ワタクシは……首領様に用済みと言われたも同じですわ」

「用済み?」

「ええ、部隊の隊長を降り他の部隊への編入……すなわちワタクシは見切りをつけられたも同然ですの」

 

 それを言われたタイミングは……もしかしたらガルダギルディと戦う前あたりだろうか。あの時に初めて私たちとまともに闘い、最終闘体へと進化したわけだし。

 

「ワタクシは証明してみせますわ。 貴女たちの属性力を奪うことで! そしてその後には究極のツインテール! そうすれば首領様もワタクシを無視できないでしょう」

 

 初めて本音をぶつけられ、軽く震えた。

 エンジェルギルディの行動は焦っていたから起こしたものだったのか。

 だが、同情はできない。 私はテイルホワイトとしてこの世界で一番のツインテール属性を持つ者として、アルティメギルから属性力を守る役割がある。

 そろそろいい時間だろう。 私はブレスにジョイントされたままのバイザーへと手を伸ばし━━━━

 

「━━━━もう一度強化形態へ変身さえできればなどと……思ってはいませんわよね?」

「なっ!?」

 

 邪悪に笑ったエンジェルギルディが体に纏っていた羽衣のような布が、まるで意思を持ったかのように伸び私を拘束する。やはり、読まれていたのか……!

 

「果たしてその暇があるのかどうか、見せていただきますわ」

 

 エンジェルギルディが指を鳴らすと、再び無数の魔法陣が現れる。

 まずい……! 強化形態ほどの防御力もなく、ましてや拘束されているせいでまともに防御できないこの状態でエリシオンを浴びてしまったら……!

 なんとか羽衣から抜け出せないかと抵抗するが、まるでビクともしない。 頭のヴェールのように、この羽衣も剛鉄のような硬さだ……!

 

「もしかしたら貴女の本来の姿を見られるかもしれませんわね」

 

 エンジェルギルディの言葉を皮切りに、一番遠くの魔法陣が砕け三発ほどの光線が私めがけて飛来する。

 私は顔を背け、ダメージを覚悟したが……光線が弾ける音が聞こえたのみで私はまったくの無傷だ。

 

「遅くなって……悪かったわね」

 

 聞き覚えのある声で、私が正面を向くと……そこにはテイルギアのあちこちを放電させているテイルシャドウが立っていた。

 

「シャドウ!」

 

 今のシャドウはまさに満身創痍。ノクスアッシュを杖代わりになんとか立っていられる状態に見えた。

 

「あらあらまあまあ……何ですの、そのお姿は。アルティロイドは全て倒しきったようですけれど、その状態でワタクシを相手にするおつもりで?」

「私は全てのエレメリアンを倒す。そしてツインテールを守る。 私という存在が生まれた時からずっとこの胸に誓ってきた事よ」

 

 シャドウが自分の小さな胸に手を当て、目を瞑る。

 

「気に入りませんわね」

 

 険しい表情浮かべたエンジェルギルディへ、シャドウが突貫する。

 だが強化形態ではない上に体中ボロボロのシャドウの攻撃だ。いつもより速さも足りないせいか攻撃は一つも当たらず、振り下ろした斧は素手で掴まれてしまった。 そして、力を入れるといとも簡単に粉々に砕け散ってしまう。

 

「この……!」

 

 苦し紛れに繰り出した左のパンチも簡単に受け止められ、そのまま後方へと投げ飛ばされる。

 立ち上がるシャドウを尻目にして、私と向かい合った状態のエンジェルギルディは肩を震わせて笑いはじめた。

 

「おーっほっほっほ!! 最高ですわ……最高ですわ! これが貴女の仲間とやらですの!? 傑作ですわ、傑作ですわ!」

 

 後ろからの不意をついたつもりの攻撃も、エンジェルギルディは軽くいなして軸足を地面にめり込ませると強烈な回し蹴りを披露した。

 

「っああああ!?」

「シャドウー!!」

 

 咄嗟に顔を庇うように添えた左腕の装甲が回し蹴りによって激しく放電、まもなく爆発してしまう。

 

「エンジェルギルディ━━━━ッ!!」

 

 倒れこむシャドウへと近づくエンジェルギルディを静止させようと試みるもまったく意味がない。

 首元の装甲のフォトンサークルを掴みあげ、無理矢理立たせたエンジェルギルディは邪悪に満ちた笑みを浮かべた。

 

「さてさて、もういいですわよね。 残ったお嬢様の聖水(エリシオン)は敬意を評して貴女に全て捧げてさしあげますわ」

 

 シャドウを放り投げ、地面を滑らせると両手を大きく広げるエンジェルギルディ。

 

「黒羽さん!」

「……あら?」

 

 今まさにエリシオンが発動しようかというタイミングでなんとフレーヌがシャドウへと駆け寄ってきた。

 いつのまにか、ここに来ていたらしい。

 

「あれほど止めたのに……!」

 

 少しだけシャドウと会話した後、フレーヌはシャドウとエンジェルギルディの間に悠然と立ち塞がる。

 

「これはまたお可愛い方が現れましたわね。しかし属性力は微々たるもの……まるで価値はありませんわね」

 

 エンジェルギルディは人差し指を顎に当てると、特に何の感情も込めずに言い放つ。フレーヌにはまったく興味を示していないらしい。

 

「邪魔ですわよ、お嬢さん。巻き込まれたくなければ早いうちに消える事をお勧めするのですけれど」

「私は……!」

「フレーヌ逃げて!」

 

 一向に動こうとしないフレーヌに向かって叫ぶも、やはり逃げる素振りはまるで見せない。

 その様子を見ていたエンジェルギルディは大きな溜息をつきながら呆れたように顔を天に向けた。

 

「カウントダウンをはじめますわ。ワタクシも長く続けるつもりは微塵もありませんの。十、九、八……」

 

 カウントダウンが始まるとほぼ同時に、残っていたエリシオンに加えてさらに多くの魔法陣が出現していく。

 一つの魔法陣から三、四つの光線が放たれる事を考えると……今出現している魔法陣から全て光線が発射されればこの辺りの地形が変わってしまうかもしれない。

 テイルギアで守られている私たちでさえ、強烈な痛みを感じる光線が一つでもフレーヌに当たれば命の問題になってくる……!

 

「フレーヌ、シャドウを連れて逃げて!」

「私は、奏さん一人だけ見捨てることはできません! 私にはその責任があります!」

 

 こうしている間にも、エンジェルギルディのカウントダウンは続き徐々に周りの魔法陣がひび割れはじめた。

 このままじゃまずい……! どうにか、どうにかこの場を切り抜けられる方法は!? フレーヌと黒羽を何とか守る方法は……!

 

「……何故逃げないのかわかりませんわね。ワタクシたちが感じられない感情があるとでも?」

 

 その時、私の頭にある考えが浮かぶ。

 この場にいる''フレーヌとシャドウ''を助けられる行動、それは……。

 

「ゼロ、残念ですが仕方ありませんわね」

 

 その瞬間、全ての魔法陣が砕け散り無数の光線が大地に降りそそぐ。

 山一つを消し去ってしまうような量のエリシオンは雨のように一直線に地面へと向かっていく。しかし、地面へと着弾するすんでのところで、一つ、また一つの光線と次々に重力に逆らうように軌道を変えていく。

 

「これは……! 貴女、いつのまに!?」

 

 エンジェルギルディが目にしたのは、羽衣から抜け出しその場で吹雪の竜巻を身に纏った私の姿だった。

 

「ホワイトアウトドライブ……。ホワイトは周囲の敵を引きつける必殺技を使って、エリシオンを吸い込んでいるんだわ」

「そんな、そんな事をすれば奏さんは……!」

 

 私自身、竜巻の中心にいるため外でどんな会話が行われているかはわからない。 だがフレーヌが私の身を案じてくれているのはなんとなくわかった。

 こうするしかない。 こうしなければフレーヌも黒羽も救えない……!

 

「はあああああああああ!!」

 

 さらに回転を早め、未だに降りそそぐエリシオンを自分の周りへと引き寄せていく。

 

「ワタクシが制御できないなんて……すごい力ですわね」

 

 やがて全てのエリシオンが、私の起こした竜巻の中に封じ込められる。

 吹雪を伴った竜巻は、ほぼエリシオンで埋め尽くされ中にいる私でも眩しさを感じ片目を開けて確認するのがやっとだ。

 これでフレーヌもシャドウも大丈夫。あとはこの光線を処理すればいい。外に出すと同じことだから、この竜巻の中で!

 

「奏さん……ダメ! 奏さああああああああん!!」

 

 フレーヌと目が合い、フレーヌの叫びが聞こえた。でも、ごめんね。 今みんなを守るには……これしか思い浮かばない。

 

「みんな……」

 

 その時、視界の隅で吸い込んだ一つの光線が爆発する。 それを皮切りにして、周りにあった無数の光線が一斉に爆裂し私も巻き込まれていく。

 

 私の闘いは━━━━終わった。

 

 

 初めて見る建物に、初めて見る景色。

 オレンジ色の艶やかな髪色をした少女は、目の前に広がる景色に感動し、言葉を失っていた。

 人々が活気に溢れ、たくさんの属性力が芽吹く世界に……フレーヌは立っていた。

 

「道行く人がみんな元気。羨ましいな……」

 

 適当な場所へワンボックスカー然とした世界間航空機を駐車し、この世界の探索をはじめるフレーヌ。

 彼女が降り立った場所は、この国の首都であり多くの若者が行き交う街の中心部だった。

 男女のカップルが多い中、一回り小さい少女が一人でいる光景は願わずとも目立ってしまい、道行く人にジロジロと見られている。

 

「人は多いけど……これといってずば抜けたものは感じられないなぁ」

 

 体温計のような機械を取り出し、周囲にかざしてみるが何も反応はない。

 場所を変える。 人通りの多いメインストリートや、広場などをフレーヌは重点的に回っていった。

 

(もう少し……探してみるかな)

 

 しかし、その後も粘ったものの、何の成果も得られないフレーヌはガッカリしながらフレーヌスターへと戻ろうとしたが、

 

「あー!何してるの!? それは私のなんだから持っていかないで!」

 

 今まさに、世界間航空機であるフレーヌスターがレッカー移動されている最中であった。

 運転していたガタイのいい男がレッカー車から降りてくると、すぐにそちらへとフレーヌは駆け出した。

 

「何時間も勝手に止めやがったのはお前だろ! お前のせいでこっちは迷惑してんだ!」

「何言ってんの? ここは公道であって駐車禁止のスペースでもないはずでしょ!」

 

 駐車禁止ではないにしても何時間も停めているのは確かに迷惑な他ないが、この世界に来たばかりのフレーヌはまだ常識を知っていなかった。

 

「うるせえガキだな。てかほんとにお前の車かよ、どう見ても免許持てなさそうな小娘じゃねえか」

 

 ガタイのいい男は身長が小さいフレーヌに疑問を抱く。

 確かにフレーヌの歳は十四歳。 この国では車の免許取得の年齢を満たしておらず、疑うのは当然のことだった。

 顔を膨らませ、抗議するもなかなかレッカー車からフレーヌスターを取り外してもらえずフレーヌは最後の手段に出る。

 スマホ大の大きさの機械を取り出し、ガタイのいい男を写すと、

 

母属性(マザー)……」

「あ?」

「あなた凄い母属性(マザー)持ってるね。 つまり……重度のマザコン!!」

「な、なぜそれを……!?」

 

 他人の持つ一番の属性力を検知してしまう恐ろしい道具で、フレーヌは一気に形成逆転した。

 

「私の車を返してくれないと、あの人通りの多いところであなたの写真をばら撒きながらマザコンだと叫んで……」

「わかった、わかった! 返してやるから勘弁してくれ」

 

 低レベルな闘いの末、フレーヌは自分の車を取り戻すことに成功した。

 

「チッ、敬語も使えないガキのくせによぉ……」

「何か言った?」

 

 撮った写真をチラ見せすると、ガタイのいい男は再び舌打ちしてレッカー車を運転して去っていった。

 

「敬語……」

 

 念のため男に向けて体温計のような機械をかざしてみるが、当然の如く反応はなかった。 反応が出たらそれはそれでフレーヌも困ってしまうのだが。

 車に乗り込み次の行き先を設定し、走り出そうとしたそのとき助手席に放っていた機械が赤く光っていることに気がつく。

 

「すごい強い属性力……! まさか、近くに!?」

 

 再び車から降り、反応が示すよう人が多い広場へと向かう。

 待ち合わせする人々でごった返している広場で、手に持つ機械一つで確かな反応の元を探すフレーヌ。

 

「あ……」

 

 そして、遂に見つけた。

 周りの人と同じく待ち合わせでもしているのか、反応の元の人物はスマホをいじりながらその場に立ち止まっている。

 赤い光を放っていた機械の中心に、特徴的なエンブレムが浮かび上がった。

 世界を救う、最強の属性力であるツインテール属性。

 そんな属性力をこの世界で最も強く持つ人物を見つけ、安堵の表情を浮かべるフレーヌだがそれは瞬時に驚愕の表情へと変わっていく。

 

「ツインテールじゃない……!?」

 

 最強のツインテール属性を持つ少女はツインテールにしておらず、肩下までの黒髪をストレートに下ろしているだけだった。

 髪型の属性力を持つ者は、その髪型を維持してこそ極めることができると思っていたフレーヌは想定外のことに感動すら覚える。

 

(とりあえずあの人に話しかけて、これを渡せば)

 

 薄手のコートのポケットから、銀色に輝く腕輪を取り出し握りしめる。

 

「おっまたせー!」

 

 意を決して話しかけようと近づいたフレーヌだったが、待ち合わせ相手らしき少女が現れると何も話しかけずに素通りしてしまった。

 

(うう……渡しづらい)

 

 ガタイのいい男には強く出れたものの、世界一のツインテール属性を持つ少女を前にするとさしものフレーヌも緊張してしまう。

 世界一のツインテール属性を持つ少女は三つ編みの少女とともに、街の中心部へ歩いて行ってしまった。

 

「はあ……」

 

 意気消沈し、車へと戻ったフレーヌは今後の計画を考える。

 第一に、ツインテール属性を持つ少女が何処の誰かを調べはじめる。 複数の小型移動式監視カメラを飛ばし、少女の足取りを追った。

 第二に、敵の脅威を凌ぐべく前線基地の設計を計画する。少女の身元が分かり次第、最適かつ近場への建設を予定した。

 フレーヌはこの日から一週間もの間、少女の周りを調べあげ、園葉高校と言う学校に通う学生であることや、家の住所や家族構成。 そして、伊志嶺奏という名前を突き止めた。

 

「ストーカーじゃないストーカーじゃない」

 

 自分に言い聞かせるように呟きながら、フレーヌはその後も奏という少女の周りを調べると同時に基地の建設をはじめた。

 さらにその一週間後。フレーヌは、奏の町のレトロな喫茶店''パターバット''で、苦いコーヒーを飲んでいた。

 

(えっと……敬語で、ブレスを使ってください! こんな感じかな)

 

 心の中で銀色の腕輪を渡す練習をしていると、あまりお客がいない喫茶店のドアが開き景気のいいベル店内に鳴り響いた。

 

「それでねー」

「はいはい、座ってから話してね」

「っ!?」

 

 ただのお客ならフレーヌは気にしないが、耳に入った声は間違いなく奏のものだった。

 店内に入ってきた奏と友達の志乃は二言ほど言葉を交わした後、フレーヌのテーブル席から一つ挟んで同じく後ろのテーブル席へと腰掛ける。

 ブレスを渡すチャンスだと感じたフレーヌは腕輪を握りしめ立ち上がろうとするも、動けない。

 あと一歩の勇気が出ずに、コーヒーをちびちび飲みながら時間だけが過ぎていく。

 

(あれだけのツインテール属性を持ってるなら断られる事もないだろうし……今日じゃなくてもいいかな)

 

 自分に言い訳しながらレシートを持って席を立とうとしたそのとき、聞こえてきた言葉にフレーヌは自分の耳を疑う。

 

「ごめん今のところは無理。 それに私もうツインテールなんて嫌……」

 

 思わず体が動いていた。

 世界一のツインテール属性を持つ少女が、そんな言葉を口にするはずがないと信じて彼女たちのテーブルの前へと移動する。

 

「そんなことを、言わないでください!!」

 

 これが、初めてフレーヌが奏と目を見て話した瞬間だった。

 

 

 この日から、フレーヌと奏と志乃。後に孝喜と黒羽も加わり属性力を狙うアルティメギルとの闘いが始まった。

 奏と黒羽の戦闘のナビゲーターとしての役割で数多の幹部エレメリアンを倒してきた。

 そして、遂にこの世界を狙う最後の部隊の隊長であるエンジェルギルディとの最終決戦に挑んだ。 戦闘力の差こそ狭まったように見え、攻防につぐ攻防を展開した。

 しかし、自分の身勝手な行動で彼女に気を使わせてしまった。あの時、喫茶店でフレーヌと出会った少女はテイルホワイトの変身が解けると、普通の高校生の伊志嶺奏の姿となって地面へと倒れ込んでしまった。

 

「か、奏さん……」

 

 あまりのショックに脱力し、フレーヌはその場に座り込む。

 

「あらあら、変身が解けてしまうほどのダメージを受けたようですわね。ワタクシのお嬢様の聖水(エリシオン)をあれだけ受ければ当然ですけれど。愚かですわ、本当に愚かですわ」

 

 エンジェルギルディは禁戒なるお嬢様の純潔(レーヴァテイン)をその手に握りしめ、地面を叩く。 強い光が発せられ、また何処かの属性力が奪われる。

 

「今ので最後ですわ。テイルホワイトが初めて現れたビクトリースクエアという建物とその周辺の属性力、これにて全ていただきましたわ」

 

 テイルホワイトが現れ、アルティメギルから守ってきた地の属性力が全て奪われた。

 フレーヌは涙を浮かべ、地面へ拳を叩きつける。

 

「仲間を信じた結果、仲間のために傷つき敗北するなんて。 とても残念な結果ですわね」

 

 手向けと言わんばかりに、エンジェルギルディはあえて属性力奪取のための光輪を出現させる。

 

「この世界の残りの属性力はツインテールの戦士から直接奪い取った後、ゆっくりと頂きますわ」

「やめて……やめてえええええ!!」

 

 フレーヌの思い虚しく、奏に標準を合わせるとエンジェルギルディは躊躇なく射出する。

 

 

 叫びながらもフレーヌは激しく後悔した。

 奏にあっていなければ。奏にテイルブレスを託していなければ。自分がこの世界に来なければ。あの時、喫茶店で奏の言葉を遮っていなければ。

 最悪の事態は、免れたかもしれないのに。




いよいよ大詰めです……!


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FILE.79 佳境の修学旅行(終幕)

 倒れて無力となった奏に向かって光輪が迫る。

 だが、今まさに奏の体を捉えようとした瞬間ジャックエッジが光輪へと衝突し、粉々に粉砕した。

 そしてエンジェルギルディはこうなる事を予見していたかのように、既に視線はテイルシャドウへと向けられている。

 

「そうですわよね。 貴女なら少しくらいは抵抗してくれると、信じていましたわ」

「あなたからの信用なんて、ドブに捨てる方が地球のためになるわね」

 

 シャドウは地面に座り込んでいるフレーヌに対して、アイコンタクトをとる。すぐにフレーヌは涙を浮かべながら頷き、倒れている奏の元へと駆けていく。

 エンジェルギルディの真横を通ったが、特にフレーヌに対して手を出そうとはしなかった。

 

「貴女は属性力から生まれた存在……。ワタクシが貴女の属性力を頂いた時に、果たしてテイルシャドウは存在できるのか……見ものですわね」

「さあね。 ただ、私も簡単にやらせるつもりはないことは……わかってるはずよね?」

 

 体力の限界を迎えていながら、シャドウは強化装甲を手にする。

 

「アンリミテッドブラ!」

 

 滑らかに胸の上へと被せるとテイルギアと一体化、速やかにアンリミテッドチェインへの変身が完了した。

 チェインエヴォルブしたことでテイルギアも放電が収まっていた。

 

「貴女には感謝していますのよ。ワタクシを最終闘体へと導く手助けをしてくれましたものね」

 

 最終闘体になる直前の実力は、完全にシャドウが上回っていた。 だがそれはエンジェルギルディがお嬢様の花嫁衣裳(ウェディング・セラフィム)に覚醒した事で再び覆っている。

 

「ですけれど、それ以上に屈辱的でしたわ。 まさかオルトロスギルディの影に、このワタクシが……このワタクシがっっ!!」

 

 エンジェルギルディは叫声をあげると同時に翼を使いシャドウへ急迫すると、怒りを乗せた蹴撃を繰り出した。

 

「くうっ!」

 

 エクセリオンブーストから属性力を放出させ、ノクスアッシュトリリオンの刃でなんとか蹴撃を防御するも完全には防ぎきれなかった。斧にヒビが入り、シャドウ自身も踵で地面を抉りながら後退していく。

 エンジェルギルディは、怒りを湧き上がらせながらも静かに地面へと着地する。

 

「手心は加えませんわよ。 潰しますわ、潰しますわ! 貴女だけは絶対に許せない……貴女だけは絶対に……!」

 

 激怒し、感情を高ぶらせているエンジェルギルディに対してシャドウは冷静に斧を構えた。

 再びシャドウへ突貫し、強烈な回し蹴りを繰り出すエンジェルギルディ。 それを見たシャドウは今度は防御することなくブレイクレリーズさせた斧で迎え撃つ態勢をとる。

 

お嬢様の聖水(エリシオン)を使うまでもありませんわ! 貴女はワタクシがこの手で……!」

「奇遇ね。 私もあなたを倒すのは私しかないと思っていたわ!」

 

 ブレイクレリーズした斧と強烈な回し蹴りがぶつかり合うと大地が震え、周囲に突風が巻き起こる。

 だが実力が拮抗することなく、弱っていたシャドウは押し負けると岩壁に叩きつけられてしまった。

 

「貴女如きがワタクシに勝てると思いまして?」

 

 エンジェルギルディは跪くシャドウへ敢えて歩いて近づいていく。 その手には属性力奪取のための光輪が握られていた。

 しかし、絶望的な状況ではあるはずのシャドウの表情は明るい。

 

「ええ……確かに''私だけ''じゃ無理かもしれない」

 

 刃こぼれした斧を握りしめ、立ち上がるシャドウ。

 

「だから、私は繋ぎ……本命のための繋ぎよ」

「何を言っているのかさっぱりです……っ!?」

 

 笑みを浮かべた、その笑みを見てエンジェルギルディが疑問を感じたその時、彼女の腰の装飾が爆発し紫電を放った。

 

「っうう……これ……は!?」

 

 シャドウの振るった斧は、しっかりとエンジェルギルディへと届いていた。

 頭に血を登らせ、怒りに身を任せて攻撃をしていたエンジェルギルディの隙をついたシャドウの斬撃は、確かなダメージを与えることに成功している。

 ただ初めてまともにダメージを与えることに成功はしたが、その事でさらにエンジェルギルディの怒りを買ってしまった。

 

「ワタクシの体に傷を……! もう知りませんわ、知りませんわ! そのツインテール……切り捨ててさしあげますわ!!」

 

 全身から属性力を迸らせ、その影響か山脈の天気を僅かな時間で晴れから雨、雨から雪、雪から晴れと目まぐるしく変化させていった。

 

「''私だけ''じゃエンジェルギルディには勝てない。 だから、お願いね……!」

 

 シャドウは変わりゆく天気の中、右手に斧、左手にジャックエッジを握りしめてエンジェルギルディへと疾駆していった。

 

 

 シャドウに促され、奏の元へと駆け寄ったフレーヌは彼女の闘いを固唾を呑んで見守っていた。

 エンジェルギルディが紫電を散らしたのを見た後、フレーヌは奏に視線を移す。

 仰向けに倒れた奏の頭を正座した自分の脚に乗せるようにして、フレーヌは瞳から涙を流しながら謝り続ける。

 

「奏さん、あなたをここまで傷つけることになったのは全て私のせい……。私がテイルギアを作らなければ……」

 

 フレーヌの頬を伝って流れた涙はやがて奏の頬へと滴る。

 

「私がこの世界に来なければ……」

 

 フレーヌの脳裏に蘇るのは、一年近く奏たちと過ごしてきた生活の日々。

 

「私が奏さんにテイルギアを渡さなければ……」

 

 くだらないことで笑ったこと、奏に本気で怒ったこと、エレメリアンと闘うという未知の経験を共にしたこと。

 

「私が……居なければあぁぁ!」

 

 フレーヌにとって楽しかった日々だが、最後は奏に瀕死の重傷を負わせてしまった自分を激しく責める。

 自分が居なければ奏は本当にツインテールの戦士に選ばれたかはわからない。自分が居たからツインテールの戦士として担ぎ上げられ、この状況になってしまった。

 

「くうっ……ううっ……うう……!」

 

 大粒の涙を流しながらフレーヌは嗚咽する。

 その時、涙で濡れたフレーヌの頰に温かい手が添えられた。

 

「何言ってんの……それだけは……言っちゃ……ダメだよ」

「え……か、奏さん……!?」

 

 自分の頰に添えられた手をフレーヌは咄嗟に両手で支える。

 

「フレーヌが居て……嫌だったことは一度もないよ……。 フレーヌの自分を責めるとこ……悪い癖」

 

 フォトンアブソーバーのお陰で、なんとか無事だったことを察したフレーヌの瞳から再び涙が溢れでる。

 だんだんと意識もはっきりしてきた奏はフレーヌの膝枕から上体を起こしてから反転し、フレーヌと向かい合った。

 

「フレーヌの声、聞こえてたよ」

 

 奏は右手を伸ばしてフレーヌの頭に触れると子供をあやすように頭を撫でる。

 

「〜〜っ!! 奏しゃああああんっ!!」

 

 我慢できず、フレーヌは奏に抱きつき押した倒してしまった。

 

「い、痛い! フレーヌ、痛い。いたたたた痛い痛い痛い!!」

 

 大怪我を負っている奏にフレーヌの抱擁は強すぎたようで、大声をあげてなんとか離してもらった。

 

「ぶ、無事で……! 無事で良かったでしゅうううう……!」

 

 先ほどでは声を殺して涙を流していたフレーヌだが奏の無事を知って安堵し、今度は大声で泣き叫んだ。

 

「全部のエリシオンが爆発する直前に、勝手にバイザーが起動してたの。 マキシマムチェインになれたからなんとかこの怪我で済んだのかも……いたた」

「え……?」

 

 強固な防護膜を張っていたとしても、奏は大怪我をしていることに変わりはない。

 

「もしかしたら、カエデが私を助けてくれたのかもね……」

 

 マキシマムチェインの力を手にした時、カエデは消えてしまったが……奏は自分を助けてくれたと、そう信じていた。

 

「さて、と」

 

 痛みが若干引いたところで、奏はヨロヨロと立ち上がり数百メートル先の闘いを見据える。

 

「私さ、勝手にフレーヌたちのことを守ったと思ってたんだよね」

「え……」

「フレーヌたちを……みんなの属性力を守るためにはやっぱりエンジェルギルディを倒さないと、ダメでしょ」

 

 そう言う奏の右手に白銀のテイルブレスが可視化された。

 それを見たフレーヌは焦った様子で奏の前へと立つ。

 

「ダメです、奏さん! あなたは今こうしてられるのも奇跡なんですよ!? もしまたエンジェルギルディの重い攻撃を浴びてしまったらあなたは……!!」

 

 今度は命を落とす可能性もある、フレーヌはそう感じ必死になって奏を説得しようとする。しかし奏は笑みを浮かべて宣言した。

 

「ここじゃ、私はテイルホワイト。ツインテールの戦士は属性力を守るのが役目でしょ」

「そんな屁理屈を言ってる場合ではありません!」

 

 両手を広げ先へ進ませまいとするフレーヌの頰に、奏は両手を添える。

 

「私を、信じて!」

「あ……」

 

 自信満々に歯を見せて笑う奏に何も言い返せず、フレーヌは両手を下ろす。

 奏はその横を通り過ぎる時、フレーヌの肩に手を置いてからテイルブレスを胸の前に構え━━━━

 

「━━━━テイル、オン!!」

 

 力強く呟かれた変身コードが聞こえすぐに振り返ったフレーヌだが、既に奏の姿はそこにない。

 変わって立っていたのはこの世界を守るツインテールの守護者━━━━テイルホワイトだった。

 

 

 マキシマムチェインになり無事でいられたが、大きなダメージを受けたテイルギアは所々放電していた。 ただ、装着して特に違和感がないということは普通に闘うことはできるはず。

 エクセリオンブーストから属性力を放出し、エンジェルギルディとの距離を一気に詰める。

 

「貴女は……!?」

 

 こちらに気づいたエンジェルギルディは驚愕の表情を見せる。

 やがて掴んでいたシャドウから手を離し、私と対峙した。

 

「まったく……なぜ貴女方はワタクシをこうもイライラさせますの? 同じことですわ、同じことですわ! たとえ貴女が何度立ち上がろうとも、ワタクシには届きませんのよ」

 

 かなり頭に血が上っているエンジェルギルディは、怒り任せに横の岩に拳を叩きつけると粉々に粉砕する。

 

「私はあんたとは違う。 私は私一人で闘っているわけじゃない!」

「そうですわねえ。 ワタクシとしては二対一は大歓迎ですけれど、もう一人のパートナーはもう動けませんわ」

 

 私はシャドウを一瞥する。

 確かに体に傷がついてはいるが、変身が解けていないということはそこまでの重傷ではないはずだ。 シャドウのことはフレーヌに任せるのがいいだろう。

 だけど……大切な友達をここまで傷つけられて、怒らない人がいるだろうか。

 心の奥底から怒りの感情がふつふつと湧き上がり、自分の冷気を溶かしそうになる。

 

「気合い入れな、エンジェルギルディ。 私は今、めちゃくちゃ怒ってるんだからっ!!」

 

 アバランチクローを装備する前にエンジェルギルディへと飛び掛かり、蹴りのフェイントを入れてから渾身の右ストレートを顔面へと叩き込む。

 決まったと思ったのも束の間、掌で拳を受け止められていることに気づく。

 

「無力ですわ、無力ですわ! ワタクシのお嬢様の花嫁衣裳(ウェディング・セラフィム)の前では、貴女は何もできませんのよ!」

 

 エンジェルギルディがお返しというように拳を突き出すのに反応できず、私は大きく後ろへ吹き飛ばされる。

 

「くっ……!!」

 

 衝撃で身体中が痺れる。

 わかってはいたが、さすがにエンジェルギルディの最終闘体だけあって一撃一撃が重い、かなりの威力だ。

 だけど、ここで私が倒れたら全てが終わってしまう。ここまで来て……ゴール目前に来て、諦めるのは最高に気分が悪い!

 ここからが本番だ。

 私の全てを出しきって……私の世界の属性力を守り抜く!

 

「志乃!!」

 

 テイルブレスを上へ掲げるとコアの部分のエンブレムが変化し、私は光に包まれる。

〈三つ編み〉

 機械音声が流れ、光から解放されるのと同時に、フロストバンカーで光球を何発も発射した。

 

「無駄だと、言っていますわ!」

「まだまだ……!ブレイクレリーズ!!」

 

 いとも容易く光球を弾くエンジェルギルディに向かい、今度は最大出力で解き放つ。 そしてそれとほぼ同時に、三つ編みの必殺技を繰り出した。

 

「クレバスッ! ドラ━━━━━━━━イブッ!!」

「はああああ!」

「きゃ……!」

 

 光線で動きを封じていたにも関わらず、エンジェルギルディはクレバスドライブを弾き返し、私はそのまま地面を転がっていく。

 フロストバンカーを地面へと叩きつけなんとか止まると、腰のマキシマムバイザーへと手を伸ばしブレスへとジョイントさせた。

 そしてこの形態最高の技を、解き放つ。

 

「クレバスドライブ━━━━ッ! マキシマムウゥゥゥッ!!」

 

 不規則に絡み合いながらエンジェルギルディに向かって伸びていく巨大な光線。

 直後に命中し巨大な爆煙をあげるが、すぐにその中から現れると強かに腕を振るいフロストバンカーを粉々に破壊させてしまう。

 私は大きくバックステップし、同じように天へとブレスを掲げる。

 

「嵐!!」

 

〈ポニーテール〉

 再び私は光に包まれ、機械音声が流れた瞬間ブライニクルブレイドで自分を包んでいた光を斬り裂いてエンジェルギルディへと疾駆する。

 剣を振るえば素手で弾かれ、再び振るえばまた弾かれを繰り返す中、必殺技を決める態勢に入った。

 

「ブレイクレリーズ!!!」

 

 ブレイドの刀身が伸び、空いた隙間から美しい刃が現れると三度エンジェルギルディへと斬りかかる。

 

「ブライニクルウゥゥ!! スラッシャァァァァ!!!」

 

 上から、下から、横から、斜めから、あらゆる角度からエンジェルギルディを斬りつけていく。

 

「言ったはずですわ、ワタクシへは絶対に届きませんの! 所詮それが、貴女の限界なのですわ!!」

 

 エンジェルギルディが大きな翼を羽ばたかせると突風が発生し、私は軽く吹き飛ばされる。

 

「私の限界はあんたが決めるもんじゃない! 今ここで証明してみせる! 私に限界なんてものは存在しないってことを!!」

 

 先ほどと同じようにバイザーを起動させると、握りしめていたブレイドの刀身が伸びていく。

 光の刃を地面へと突き刺して両足を着けると、すぐに剣を上段へ構えた。

 

「!?」

 

 流石のエンジェルギルディも表情を変えた。今や私が手にするブレイドの光の刀身は数十メートルにも及んでいたのだ。

 一瞬だけ動揺を見せたその瞬間、私は構えたブレイドを勢いよく振り下ろし渾身の一斬をお見舞いした。

 

「ブライニクルスラッシャアァァァァ!! マキシマムウ━━━━━━ッ!!」

 

 振り下ろした衝撃で周囲の地面が陥没する。

 確かに手応えはあったが、この技も以前は楽々と耐えられてしまった。

 今度はそうはならないと、間髪入れずに両手でブレイドを握りしめて体ごと回転させてもう一斬、真一文字に振り抜いた。

 だがやはり、エンジェルギルディは強かった。

 

「埃と、少々……傷を負ってしまいましたわ」

 

 自分の肩についた土を払いながら、煙の中から現れた。

 それと同時に光の刃は力を失い、伸びていた刀身は霧散していった。

 

「次はどうしますの? ワタクシはまだ本気を出せていませんわ!」

 

 攻めあぐねている私をおいて、エンジェルギルディは急接近し軽く腕を振るった。

 

「っ!?」

 

 咄嗟にブレイドで防御しようとするも、ブレイドは破壊され私はその勢いのまま大きく吹き飛ばされる。

 

「それなら……!」

 

 飛ばされた状態で両腕を交差し、意識を高めていく。

 

「お願い、みんな。もう一度だけ……あれを!」

 

 刹那、髪型がツインテールへと戻ると私の手にはブライニクルブレイドと漆黒の剣ジャックエッジが逆手に握られていた。

 属性力融合形態━━━━エレメーラフュージョンを再び顕現させたのだ!

 

「その姿は……!」

 

 私のエレメーラフュージョンを見るとエンジェルギルディは明らかに顔付きが変わった。 自身の右手に禁戒なるお嬢様の純潔(レーヴァテイン)を握りしめる。

 腰に追加装備された小型のフロストバンカーで光線を発射する事で体制を立て直し、先程よりも何倍も速くエンジェルギルディへと接近、今度は二本の剣で攻撃していく。

 ブライニクルブレイドが禁戒なるお嬢様の純潔(レーヴァテイン)によって弾かれればジャックエッジで斬りつける。 ジャックエッジが弾かれればブレイドで斬りつける。

 僅かながらエンジェルギルディへ確かなダメージを与えていった。

 

「ブレイクレリーズ!!」

 

 攻撃に耐えられなくなったのか、エンジェルギルディが大きく後ろへ跳躍したその瞬間に属性力を解放した。

 

「ユナイテッドオォォ!ドラ━━━━イヴッ!!」

 

 空中で黒と白の剣を交差させ体に属性力を纏わせると、流星の様にエンジェルギルディへと迫っていく。

 

「っあああああ!!」

 

 最初は必殺技を受けきろうとしていたエンジェルギルディだったが、すんでのところで回避する事にしたらしい。

 だが、判断が遅すぎた。回避しようとしたが、防御する体制を崩してしまったせいで擦り気味だが必殺技を受けてしまい、エンジェルギルディは地面をゴロゴロと転がっていく。

 初めてまともにダメージを与える事が出来た……!

 

「ワタクシがさらに傷を……!?」

 

 ダメージを与える事は出来たとはいえ、やはりこれだけじゃエンジェルギルディを倒せない。

 間も無くエレメーラフュージョンが解けた私はマキシマムバイザーのついたブレスを胸の前に構える。

 

「全部終わらせる、エンジェルギルディ。 私のこの''最高の力''で!!」

 

 変身プロセスを素早く踏んで、私は最終形態マキシマムチェンへと再び変身した。

 両腕にアバランチクローユニバースを装備すると相手の眼前へと接近、エンジェルギルディの禁戒なるお嬢様の純潔(レーヴァテイン)交錯し火花を散らした。

 両者ともに互角と思われていた中、ここに来て少しずつだが私が押しはじめた。エンジェルギルディにも焦りが見えはじめる。

 

「ワタクシは……首領様のために尽くしてきましたの! ワタクシは貴女の属性力を頂いて……ワタクシを認めさせてさしあげるのです! 絶対にワタクシの邪魔はさせませんわ!」

 

 秘めた胸の内をさらけ出したエンジェルギルディは再び力を取り戻し、今の闘いを互角へと戻すと、その勢いのまま今度はエンジェルギルディに押されはじめる。

 徐々に防戦へと戦況が変わっていく中、バイザーから煙と火花が散りはじめた。

 

『奏さん! マキシマムバイザーはもう限界に近いです!』

「わかってる……!」

 

 バイザーの異常はどうやらフレーヌにも届いているらしい。

 もちろんエンジェルギルディはそんなことは気にも止めず、攻撃をやめない。

 

「あんたの思いはわかった。 でも、私にも負けられない思いがある! くだらない闘いを終わらせるため、私が育ててしまったツインテール属性を奪われないため、ツインテール属性を奪われないため、みんなの希望の証である……ツインテールを守るために!! 私は、私達は……ぜーったい負けられないんだからっ!!」

 

 ありったけの力を込めて振るったクローユニバースが禁戒なるお嬢様の純潔(レーヴァテイン)の柄頭についた斧に直撃すると、とうとうその神聖な杖は持ち手ごと砕け散った。

 

「ブレイクウゥッレリ━━━━ズ!!!」

 

 低空にジャンプするとクローユニバースが右脚の装甲へジョイントされ、私は体から溢れる属性力を纏いながらエンジェルギルディへと向かっていく。

 

「クライマックスッ!!ドラ━━━━━━━━イブ!!!」

「負けませんわ、負けませんわ━━━━!!」

 

 先程の反省を踏まえた上で、エンジェルギルディは逃げも防御せず、私の渾身の蹴撃を回し蹴りで迎え撃った。

 蹴撃と蹴撃がぶつかり合い、拮抗し、激しくスパークする。

 

「ワタクシが負けることなど……絶対にあってはなりませんのよ!」

 

 エンジェルギルディが裂帛の気合いとともに身体に力を入れると均衡が崩れ、私と私から外れた一つのクローが大きく弾き飛ばされる。

 

「残念ですわね、勝負ありですわ!!」

 

 エンジェルギルディが再び回し蹴りを仕掛けようとしてくる。

 絶望的な状況にも関わらず、私はいやに落ち着いていた。

 だって、私は一人で闘っているわけじゃない事を知っているから!

 

「━━━━私だって……''私たち''だって負けるわけにはいかない!!」

 

 その瞬間、空を待っていた一つのクローがエンジェルギルディの横腹を掠めた。

 クローはアンリミテッドチェインとなったテイルシャドウの左手へと装備されている。

 

「っ!? あなた、動けたんですの!?」

「限界ギリギリよ!」

 

 驚愕のあまり、エンジェルギルディは大きく後ずさる。

 

『奏さん、これ以上バイザーを使用すると本当に壊れてしまいます!』

 

 フレーヌの言う通り、バイザーは先程よりも大きくひび割れ、間から煙が噴き出し始めている。

 

「部下を道具と言ったり、全てを一人でやろうとしていたあんたとは違う……私達は''仲間''と闘ってるの!!」

「戯言を!!ワタクシは……ワタクシだけが強ければいい! 仲間など要らない! 首領様に認めていただけたら、それで充分ですわ!!」

 

エンジェルギルディが背中の翼を広げると、より一層ウェディングドレスのような鎧が白く輝き始める。

 

「行くよ、テイルシャドウ!」

「ええ、テイルホワイト!」

 

 シャドウが素早く移動し、私と距離を取ると私達は右手のクローと左手のクローを同時に天にかざす。

 

「「ブレイクレリ━━━━━━━━ズ!!」」

 

 私とシャドウ、二人ともクローを胸の前へと持っていき、逆の手でクローを支えながら前へと突き出す。

 クローが眩い光に包まれるとそこから光の道が現れ、私たちが進むべき道を教えてくれた。この形は……私がここまでの数ヶ月間最も身近にあったものだ。

 

「ワタクシは……ワタクシは!!! どうすればよかったんですの!? こんな……こんなあああああああああああ!!」

 

 お嬢様たるエンジェルギルディが教えを請うように慟哭し、絶叫した。

 光がエンジェルギルディへと届いた時、今までにない強固なオーラピラーで拘束、ありったけの属性力を解放すると進むべき道を辿りはじめる。

 この世で一番強い属性力が、あたりを包み込み最後の審判を下した。

 

「「パーフェクトツインッ!! ドラ━━━━━━━━イブッ!!」」

 

 遥かなる世界へも届きそうなクローによる突撃。

 私達が走り抜けた地面にツインテール属性を表すエンブレムが描かれていた。

 中央の部分に立っていたエンジェルギルディを完全に捉え、ついには貫く。

 

「あ、あああああああああああああ……!!」

 

 上手く着地できずに地面を転がっている最中、エンジェルギルディの咆哮が聞こえた。それと同時に装備していたバイザーが砕け散ってしまう。

 私は通常の形態に戻りながら、黒羽は変身が解除されながらエンジェルギルディを確認すると身体中から火花が散り、その場に倒れ込んでいるのが見えた。

 とうとう私達は、勝った……のかな。

 

 

 そのまま爆発して終わりかと思った矢先、なんとエンジェルギルディは立ち上がり、エンジェルレディースピアーツをその手に握りしめた。

 

「あんた……まだ闘う気なの?」

 

 肩で息をしながら問いかける。

 正直私もなんとか今は変身していられるが、いつ解除されてしまうかわからない状態だ。

 私の問い掛けにエンジェルギルディは弱々しく答えはじめる。

 

「私のお嬢様の花嫁衣裳(ウェディング・セラフィム)を敗ったのはお見事でしたわ……。見ての通り、もう私は……最終闘体へなる事は出来ませんもの……」

 

 フラフラになりながらも翼を展開し、エンジェルギルディは弓を構える。

 

「ですが……それは貴女も同じ事ですわ。 さあ、私はまだ闘えます。 本当の……決着をつけましょう、テイルホワイト」

 

 黒羽は変身も解除されてしまってとても闘える状況じゃないし、ここは私一人でやるしかない。

 私は黙ってフォースリボンを叩き、アバランチクローを両腕へと装備する。

 

「……」

「……」

 

 一瞬の間を置いてから、エンジェルギルディに向かって疾駆した。

 

「お受けなさい!」

 

 光の矢を何本も放ちエンジェルギルディは間合いの中に入らせないようにする。 が、私は光の矢を次々と弾き飛ばし、クローが届く距離まで接近するとクローを叩きつけた。

 武器と武器がぶつかり、鈍い音が辺りに響く。 エンジェルギルディが弓でクローを押さえつけていた。

 だけど、私のクローはもう一つある。

 左のクローで同じようにエンジェルギルディに向かって振るった。しかし、手応えが感じられなかった。

 驚愕する私の目に飛び込んで来たものは……。

 

「それは、マッスルクロー!?」

 

 なんとエンジェルギルディの腕には私のクローとよく似た武器、ノームギルディが使っていたマッスルクローが装備されていた。

 

「ノームギルディ……私は貴方に酷い事をしたと言うのに……!」

 

 腕に装備されたマッスルクローを見て、エンジェルギルディは悔しむように歯噛みする。そして自身の弓を捨てると、今度は空いた手に水色の鞭を出現させた。

 

「それは……ウンディーネギルディの武器!」

「本当に不出来な部下達……いえ、仲間達ですわ。 散々な扱いをした私に、協力してくれるだなんて……」

 

 今までは自分の部下達を都合のいい道具だと、自分が力を得るための駒だとしか思ってなかったエンジェルギルディが……初めて仲間を認識する事が出来たみたいだ。

 

「……まったく、ツインテールのおかげで苦労してばっかり」

 

 仲間の武器を手にしたエンジェルギルディへ、再び疾駆しクローを振りかぶる。

 エンジェルギルディはそれを見てマッスルクローで防御すると、ウンディーネギルディの鞭を使い私を拘束しようとする。

 

「くっ……! オーラッピラー!!」

 

 自分の周りにあった鞭を吹き飛ばし、三度エンジェルギルディへと迫る。

 クローを振るうが、エンジェルギルディは間一髪でかわし、片手から炎を放つ。 これは……サラマンダギルディの技だ!

 なんとかクローの手甲で炎を防いだと思えば、今度はシルフギルディのように羽を器用に使い攻撃してきた。

 

「っあ……!」

 

 脇腹を掠め、フォトンアブソーバーを超えて私の身体が痛めつけられる。

 なんとか体制を立て直してドロップキックをお見舞いしエンジェルギルディを怯ませると、同じくクローを振るいウンディーネギルディの鞭を破壊した。

 

(私は、私がいればいいと……私が最後に立っていればいいと思っていましたわ)

 

 今度はエンジェルギルディの後ろから伸びてきた羽をクローで叩くと、辺りに白い羽が舞い散る。

 

(ですが、仲間を持つ人間がこれほど恐ろしい者だったなんて……。 私も、早く気づく事ができれば……)

 

 エンジェルギルディが最後に残っていたマッスルクローを突き出してきたのに合わせて、こちらもアバランチクローを突き出す。

 二対のクローが交錯し、火花を散らす。

 威力は拮抗しているように見えたものの、僅かだがアバランチクローの方が当たりどころが良かった。マッスルクローは徐々にヒビが入り、やがて砕け散る。

 

(貴方たちにした誤ちを許して欲しいだなんてそんな事を言う資格も私にはありませんが……少しだけ貴方たちといる事だけは、許して貰えないでしょうか……)

 

 武器が全てなくなったエンジェルギルディは本来の自分の武器である弓を握りしめる。

 

「ここまで辿り着けたのは私だけの力じゃない。 私を応援してくれた人達がいた、私を怒ってくれた人達がいた、サポートしてくれた人達がいた。いろんな人達に支えられて今の私があるの!」

 

 頭上でアバランチクローを合わせ、最後の必殺技へ向けて、力を込める。

 

「奏!!」

 

 私の後ろにいる黒羽が叫ぶ。

 

『奏さん!!!』

 

 フレーヌの声が聞こえた。

 本当に、迷惑な話だ。 ただの髪型のために、私が体を張らなきゃいけないなんて……ね。

 まったく、だから本当に━━━━

 

「━━━━私はツインテールが大っっっ嫌いなんだからあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 辺りに猛吹雪が吹き荒れ、ウラル山脈一帯は一瞬にして銀世界へと変貌した。

 

「アイシクルゥゥゥッ!! ドラアァァァァイブッ!!」

 

 エンジェルギルディの放った光の矢を粉々にしながら、その先にいたエンジェルギルディへと激突し……貫いた。

 

「なんと素晴らしき……ツインテールですわ……」

 

 身体中を放電させ、エンジェルギルディは満足気な表情で大の字に倒れこむ。

 今度こそ、私の世界のツインテールをかけた壮大な闘いは幕を閉じた。

 

 

 私は疲労のあまり膝をつくと、それと同時に変身も解けてしまった。

 

「奏さーん!!」

 

 通信機越しではなく、遠くからフレーヌの声が聞こえどんどん大きくなってくる。 フレーヌだけではなく、黒羽も一緒だ。

 私はフレーヌの肩を借り、立ち上がった。

 

「本当に……面白いですわね、人間は」

「エンジェルギルディ、まだやるの?」

 

 私たち三人が振り返るとエンジェルギルディは所々放電しているがしっかりと立ち上がっており、黒羽も警戒したのかブレスを構える。が、エンジェルギルディが闘う気のない事を察するとブレスを下ろした。

 お嬢様たる者、無様な姿は見せられないのだろう。

 

「敢えて本当の名前は聞きませんわ、テイルホワイト」

「そ。言う準備はしてたけど」

「ふふっ……。 テイルホワイトと貴女たち、誇りなさい。 貴女たちは数多ある世界の中で初めてアルティメギルを退けた戦士達なのですから」

 

 誇る相手なんかいないって……。

 

「二番目の戦士達はアルティメギルを退けるだけではなく、そのものを無くそうとしていますけれど……」

 

 もしかして、ツインテイルズの事だろうか。

 きっと紅音が……総二がやってくれているんだ。 さすがのツインテールバカ、私じゃ全然及ばないな。

 先程よりも一層、身体のあちこちから紫電を放ちはじめたエンジェルギルディ。

 

「最後に私も……良いものを見ることができましたわ。 人間、羨ましい生物ですわね」

 

 エンジェルギルディは積もった雪を掬い上げるが、その手を開くと新雪は重力に抵抗する事なく地面へと落ちていく。

 終わりが近い今、エンジェルギルディが何を思っているのか私にはわからない。 きっとエンジェルギルディ自身もわかっていないんだと思う。

 

「首領様……申し訳ありませんわ」

 

 目を瞑り、尽くしてきたであろう主の名前を呟くとエンジェルギルディは私たちから距離を取りはじめた。

 そして何メートルか離れたところで振り返り、最後に呟く。

 

「それでは皆さん、ごきげんよう」

 

 腰から垂れた布を両手で持ち上げお嬢様らしく一礼をすると、エンジェルギルディは大きく爆発した。

 お嬢様然とした立ち振る舞いでこの世を去ったエンジェルギルディ。

 煙の中から日焼け属性、筋肉属性、清楚属性、涙属性の属性玉が立て続けに私たちの元へと飛んできた。

 

「あとは……」

 

 四つの属性玉を追うようにして私の元へとやってきたお嬢様属性の属性玉。 五つの属性玉は離れることなくテイルブレスの中へと収納されていった。

 そして、煙の中から光り輝く粒子が溢れ出し空へと広がっていく。 エンジェルギルディが奪った属性力が持ち主の元へ帰ろうとしているんだ。

 光の粒子が無くなると、この場に残ったのはただただ広い雪原だった。

 これで、終わった。

 私の闘いが……テイルホワイトとしての闘いが終わったんだ。

 力が抜けて倒れこむが、私だけじゃなくフレーヌも黒羽も同じように仰向けに雪の上へと寝っ転がる。

 先程までの荒れた天気は何処へやら、ウラル山脈は遠くの山が見えるほどに晴れ、空気は澄みきっていた。

 

 

 オーストラリアの時間で午後七時、奏たち修学旅行生を乗せた飛行機が空港から飛び立ち日本へと向かいはじめた。

 テイルホワイトととして闘い、エンジェルギルディに見事勝利した奏は一度フレーヌ基地へと戻り怪我の治療をしてから志乃や孝喜たちと合流。

 闘いの終わりを二人に告げ、手続きを済ませると再び日本へと向かうため皆と飛行機に乗り込んだのだった。

 機体が安定するとシートベルト着用のランプが消え、学生たちはそれぞれが自由な時間を過ごしはじめた。

 

「そういえばさー……空に映ってたあの怪物、どうなったんだろうね」

「テイルホワイトと闘うって言ってたやつね。 ニュースサイト見てもなんも書いてなくてわかんないね」

 

 機内のどこからか聞こえてくる話し声。

 ホワイトとシャドウとエンジェルギルディの闘いは、山奥で行われたこともあり最後までテレビクルーは到着しなかった。 その結果、勝敗がどうなったのか関係者以外知る人はいない。

 関係者の一人である志乃は、その話題が耳に入ると少しだけ笑みを浮かべた。

 

「ねえねえ、志乃はどうなったと思う?」

 

 前の席に座っている彩が振り返り、志乃に話をふってきた。

 

「勝ったと思うよ。テイルホワイトもテイルシャドウもね」

「やっぱりそう思う?」

「うん!」

「ふふ、志乃ホワイトが言うならそうかもね」

 

 文化祭で志乃がテイルホワイトとなっての熱演を思い出して演出だった彩は笑うと、その志乃の横に座る奏にも声をかけた。

 

「奏はどう思う? あ、でも奏はテイルホワイトあんま興味ないんだっけ」

「シー……!」

「え?」

 

 志乃が口に人差し指を当て、静かにするようにと言うので座席から身を乗り出し奏の様子を伺うと。

 

「え、もう寝ちゃってるの?」

「さっきまで大変だったみたいだから、たっぷり寝かせてあげよ」

 

 つい五分程前までは起きていた奏だったが、昼間の闘いで疲れたのか、全てが終わり気が抜けたのか……今はすっかり夢の世界へと入っていた。

 

「さっきまで具合悪かったんだもんね。確かに寝かせてあげるのがいいかも」

「うん」

 

 彩は平手を合わせると前を向き、隣に座っているクラスメートと小さな声で話しはじめた。

 一息つき、本でも読もうかと取り出した時に志乃のスマホから通知音がなった。 どこでも便利、フレーヌアプリからの通知だ。

 

『奏さんと黒羽さんのお誕生日会を開催しましょう!』

 

 その文言の後、いつのまにか作ったのかデフォルメされたフレーヌがウインクしながらサムズアップしているスタンプも送られてきた。

 

『もちろんね♪』

 

 志乃は売られていたテイルホワイトスタンプを使い、フレーヌに返信する。

 奏は友達に自分の誕生日を祝われるのは照れくさいと言い、親友の志乃ですら一緒に祝ったことはなかった。

 フレーヌや黒羽に孝喜もいれば、奏も祝うことを許してくれるだろうと考えると頰が緩む。

 スマホをスリープ状態にすると、志乃は隣で寝ている奏に視線を移した。

 ずり落ちかけているブランケットをしっかりと奏に掛け直し、寝息をたてる奏を見ると再び笑みがこぼれる。

 

「お疲れさま、奏」

 

 労いの言葉をかけた志乃は自身もブランケットにくるまり目を瞑る。

 長く厳しい闘いを終えた奏の寝顔。

 それは緊張が解けテイルホワイトではなく正真正銘、伊志嶺奏の安らかな顔をしていた。

 




これにて奏の闘いは終わりました。
このFILEと一つ前のFILEを書いていて、今までは特に意識していなかったのですが自分の中でメインヒロインはフレーヌなんだと認識しました。 もちろん、奏も志乃もヒロインの一人です!
話は変わりますが最後の飛行機内での志乃の場面は以前からずっと決めていたことであり、無事に書くことができて満足しています。
補足ですが、ユナイテッドドライ''ヴ''は誤字ではないです!

さて、アルティメギルとの闘いを終えて彼女達の思いはどうなのか。
奏たちは自分たちの進路に向けて本格的に歩き出すのはもちろんのことですが、異世界出身のフレーヌと黒羽は……。
長々と申し訳ないのでこれにて終わらせてもらいます。
次回、最終回です!


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LAST FILE. 私のツインテール

〈ユナイテッドドライヴ〉
テイルホワイト・エレメーラフュージョンの必殺技。 ブライニクルブレイドとジャックエッジをX状に体の前で交差させ、腰についたフロストバンカーから属性力を体に纏わせるとそのまま相手に突撃する。 必殺技を繰り出す際に属性力が極限まで高まる影響で、必殺技発動終了後は強制的にノーマルチェインへと戻る。

〈パーフェクトツインドライブ〉
テイルホワイトとテイルシャドウが繰り出した必殺技。 右のクローをホワイトが、左のクローをシャドウがそれぞれ装備して発動する。地面にツインテール属性のエンブレムが出現し、中央にいる敵を強固なオーラピラーで拘束。 二人はエンブレムの軌跡を辿って相手に一撃を与える。ホワイトとシャドウの感情の昂りが起こした奇跡の必殺技。


 絶対に忘れないであろう修学旅行から今日で五日。

 二月十八日の今日は私こと伊志嶺奏の誕生日である。 晴れて私も十七歳となったわけで……同年代にやっと追いつけた感がすごい。

 時刻は午後の六時、私は自宅のリビングでソファに深く腰を掛けて……疲れ切っていた。

 その理由とは今日の午前中にやった、今ちょうどテレビに映っているアレである。

 

『エレメリアンとの闘いが終わったことを宣言します』

 

 テレビの中でたくさんの報道陣を前にして闘いの終了を宣言する少女はテイルホワイト。つまりはこの私だ。

 私はフレーヌに勧められ、人々の不安を取り除くためにエレメリアンを倒したことでこの世界に危機は去った、ということを大々的に公表したのである。

 ほとんど記者会見だけど、これだけの人を集めたのはフレーヌがネットを使って色々したからと言っていた。詳しいことは聞きたくなかったので聞かなかったけどね。

 テイルホワイトの記者会見は国営と民放のテレビ局殆どが生中継した上、今もこうして録画したものがニュース番組に取り上げられていた。

 私はさっさと終わらせるつもりだったのに、この後が長くて疲れ切っちゃったんだよね……。

 

『それはどいうことですか!?』

『この世界から危機は去り、もうエレメリアンが現れることはない、ということです』

『今までの闘いで印象に残った場所とかありますか!?』

『えーっと、どこだろ……』

 

 かれこれこんな感じの質疑応答が約一時間行われたのだ。そんなの疲れる決まってるじゃん!

 ていうか録画なのに一時間ノーカットとか、ニュース番組の尺は大丈夫なのだろうか。

 ちなみにこの会見インターネットでも全世界で生中継されていたと、フレーヌから聞いている。

 ブームも鳴りを潜めていたと思いきや、いきなり盛り返したな。

 

「奏、だいぶ疲れているんじゃないか?」

 

 娘の誕生日だからといって有給休暇を取得したという親バカな父親が料理を運びながら話しかけてきた。

 ちなみに私がテイルホワイトだということは結局、お父さんにもお母さんにも秘密のままにしてある。 今さらいらぬ心配をかける必要もないからね。

 

「まあ……いろいろとあって」

「そうか、でももし具合悪いならすぐに言うんだぞ。病院連れてってあげるからな」

「いや、そんなんじゃないから」

 

 本当に娘に甘いな、うちのお父さんは。まあ、そのおかげでお小遣いが多いのは感謝すべきところなのだけど。

 

「きっとホワイトちゃんが引退するって聞いて悲しいのよねえ」

 

 はみ出すほどたくさんサラダが入ったお皿を持ってお母さんが現れた。

 引退というのは……お、テレビでちょうどその場面をやるらしい。

 

『えーっと、エレメリアンもいなくなり私が活動する必要もなくなりました。 今日この会見をもって……テイルホワイトを引退します』

 

 会見に出席していた報道陣がにわかざわつきはじめる。 実際に前で見ていたからわかるけど、この時の騒ぎようはもう凄かった。

 そして初見じゃないはずのワイプに映るアナウンサー達もなぜか驚愕の表情を浮かべている。

 

「ホワイトちゃんももう見られないのね……」

 

 お母さんが悲しそうに呟いた。

 そう、私は今日の昼間でテイルホワイトを引退した。

 不自然なことではない。 私は属性力を守るために闘ってきた。 その属性力を狙うエレメリアンがいなくなった。 守る必要がなくなったのだから、引退は当然のことだろう。

 私は全ての犯罪を根絶するだとか、そういうヒーローじゃないのだ。

 お母さんが悲しそうにしているのは胸に来るものがあるけど、これはどうしようもないことだろう。

 私はもう、テイルブレスを右腕に着けていないのだから。

 エレメリアンを倒したら普通に戻る。昔から決めていたことだし、今さら変えることは絶対にない。

 それから三十分以上、会見の中で引退の撤回を求めるようにと、私はたくさんの記者に説得され続けた。

 どんなに説得されようと考えを変えることはないのだ!

 

『テイルホワイトさん! 活動を続けるためにスポンサーになろうという企業も存在していますがそれを断り引退するのですか!?』

『え、スポンサー!? ……えと……は、はい……引退します……』

 

 今さら考えを変えることはないのだ!

 ううん、テレビの中で少しだけ揺れ動くホワイトを見て、なんだか恥ずかしくなる。 お金に動かされるなんてこれじゃ黒羽と同じじゃないか!

 

『ちょっと待ちなさい! なんでホワイトにスポンサーがつくのに私にはつかないのよ!?』

『うわあ!テイルシャドウだ! 』

『はやくカメラ! カメラを止めろー!』

 

 結果的にシャドウが乱入してきてくれたおかげで会見はなんとか終わりを迎えたのだった。スタジオにいるアナウンサー達はシャドウについては全く触れず、ホワイトの引退についていろいろと考察していく。

 

『私の考えでは、ホワイトさんはこれから大学受験に向けて本格的に勉強していくためと考えていますね』

『それでは受験が終わったら活動は再開されるのでしょうか?』

『ええ、間違いないと思われます』

 

 随分と勝手な事を言ってるなあ。

 ただ、大学受験に向けての勉強っていうのは当たってるから少し怖い。

 

『テイルホワイトの引退を容認したとして世界各国から我が国に抗議がいくつも届いており、国はテイルホワイトの引退撤回を求めていく方針を示しました。 現在署名活動も行われ━━━━』

 

 私はテレビを消した。

 我が国が世界から非難されようとも、引退の撤回は絶対にしないからね!

 

「奏の誕生日なのに、どこもかしこもテイルホワイトの話題ばっかりで落ち着きがないなあ」

 

 むしろお父さんにとっては私づくしの日となっているわけだけども。

 親バカの父親でもこうして最後まで騙し通せたのだから凄いよね、スーパーイマジンチャフ。

 

「奏、そろそろいただきますしましょ」

「ほーい」

 

 お母さんに呼ばれテーブルに向かうとそこには豪華絢爛な料理の数々が所狭しと並べられていた。

 思わず私は椅子に座るのを躊躇してしまう。

 すごい。すごすぎる。 なんだかいつにも増して豪華だ。 それに量もいつもの二倍、三倍はあるような……。こんなの絶対に食べきれないんだけど、お母さんいくらなんでも張り切り過ぎてない!?

 明らかに需要と供給が釣り合っていないのだが、お父さんのほうを見るとただ関心しているだけで特段驚いている様子はない。

 

「それじゃ電気消しまーす」

 

 お母さんが電気を消し、お父さんがライターでケーキに刺さったロウソクに火を灯していく。

 高校生にもなってこれやるのも恥ずかしいけど、両親が喜んでやってくれるから断りづらいんだよね。

 

「フゥーッ!」

 

 全てのロウソクに火がついたところで口を尖らせ息を吹いて、一本二本と消していく。そして最後の一本を消し終わり真っ暗になったところで、

 

「え? え!?」

 

 いきなり部屋の中で、パアンという音が立て続けに五、六回ほどなり、思わず立ち上がると何かに勢いよく椅子がぶつかってしまった。

 

「でえ゛っ!?」

 

 低い呻き声が聞こえたと思ったら、部屋が急に明るくなる。お母さんが点けたらしい。

 そして明るくなった部屋で私の目に飛び込んできたのは、

 

「ええ!? みんながなんでいるの!?」

「私ことフレーヌが考案したサプライズでーす!」

 

 部屋の中には使用済みのクラッカーを持った志乃、嵐、黒羽……そしてフレーヌがテーブルを囲うようにして立っていた。 ただ、嵐はお腹を抱えて蹲っていた。

 

「嵐か、ごめん」

「か、軽くねえ……?」

 

 視界の隅でお父さんが軽くガッツポーズしているのが見えた。 どこに対抗心燃やしてるんだ、この父親は。

 それにしても、サプライズだなんて……まったく気がつかなかった。 いつから家の中にいたのだろうか。

 

「奏はいつも私に祝わせてくれないからこういう強行策にしたの! おじさんとおばさんに私からお願いしてね!」

 

 ああ、なるほど。普段からよく家に来てお父さんともお母さんとも仲がいい志乃の頼みじゃ、私の両親が断るわけないね。

 

「奏は家に友達呼ぶことあんましないから、私張り切っちゃったわよお」

 

 妙に料理が多く気合が入っていたのはこれが理由ってわけか。

 ちなみに私が家に友達を呼ばないのは決して少ないからではなく、母親が元女優だということをバレないようにするためね。 そこのところは勘違いしないように。

 

「さあ、みんな座ってくれ。 盛大に我が娘の誕生日をお祝いしようじゃないか」

「それでは遠慮なく!」

 

 お父さんに言われて、お母さんが人数分の椅子を用意していく。ギリギリみんながテーブルに収まると、黒羽がどこからかとりだしたとんがり帽を無理やり私の頭へと被せてきた。なにこれめっちゃ恥ずい……。

 

「それじゃあみんな、ゆっくり楽しんでねえ」

 

 みんなで手を合わせていただきます。

 初めて私は、友達と一緒に自分の誕生日を過ごしているんだよね。志乃やら彩の誕生日に一緒にいたことはあるけど、自分が祝われるのはなんだか照れくさいな。

 こう見ると、みんな好きなように過ごせているようで私まで嬉しくなってくる。……会ったことないと思っていたのになぜお父さんと嵐はあんなに仲良くしてるんだろう。

 

「奏、この美味しい料理は何かしら!?」

「これは唐揚げ。 あんまし食べると太るからね」

 

 どうやら黒羽は生まれて初めての唐揚げらしい。

 唐揚げだけでなく、テーブルに乗る色々な料理を次々と口の中へ放り込んでいく。黒羽がこんなに大食いなの初めて知った……。

 

「お母様、バルコニーに出てみてもいいですか?」

「ええ、いいけど……上着着ないと寒いわ」

「ご心配ありがとうございます。ですが、この服は見た目よりかなり温かいので大丈夫ですっ」

 

 フレーヌとお母さんはリビングを出ると、二階に上がっていく。 すぐにお母さんは降りてきたが、フレーヌは十分経っても降りてこなかった。

 

「ごめん、私ちょっと」

 

 盛り上がっている中悪いが、フレーヌのことが気になるのでリビングから抜け出し私も階段登っていく。

 私の家は二階にある夫婦の部屋、それとこの廊下の二箇所からバルコニーに出られるようになっている。夫婦の部屋には入れないだろうから廊下のバルコニーへの出口を見てみると、スリッパが揃えて置いてあるのが見えた。さらに廊下からバルコニーを覗いてみると、フレーヌが体育座りして夜空を眺めているのが確認できる。

 出入り用の窓を開けて、肌寒い風を全身で感じながらフレーヌへと歩み寄る。

 

「こんな寒い中外にいると風邪ひくよ?」

「あ、奏さん。 ……平気ですよ、この服には私にとって適切な温度を保つ機能が備わっているので」

 

 おお、久々に日常の中でフレーヌの超科学目の当たりにした気がする。

 フレーヌが「ポケットもあったかですよ」と言い、私の手をとりポケットへと入れると……たしかに温かい。

 

「いいバルコニーですね」

「お父さんとお母さんが絶対に欲しいってことで相談して決めたんだって」

 

 広さもなかなかで、私が小さい頃はこのバルコニーでバーベキューやらなんやらよくやってた覚えがある。

 最近はあまりここには来ていなかったけど、お母さんの掃除が行き届いているためかなり綺麗な状態が維持されていた。

 しばらくの間沈黙が生まれ、私たち二人はただ夜空を見上げていた。まあまあ都会に住んでるため明るい星しか見えないのが惜しいな。

 

「あ、そうだ」

 

 大事なことを気づいた私は急いで自分の部屋へ向かい、机の上に置かれていた''ある物''を掴むと再びバルコニーへと向かう。 そして頭にハテナを浮かべるフレーヌのへとその''ある物''であるテイルギアを差し出した。

 

「闘いが終わったら返そうと思ってて。私にはもう必要ないからさ」

 

 フレーヌは躊躇しながらも、ゆっくりと手を伸ばすと私からテイルギアを受け取った。

 

「もし次に使えそうな人がいたら渡してあげて」

「奏さん、わかっていたんですね……」

「なんとなくだけどね」

 

 次に使えそうな人……それはつまり私ではない人。 この世界の人ではない、異世界の人ということ。

 

「体育祭の時言ってたでしょ。 フレーヌの旅する目的の一つは、フレーヌの世界を守ろうとした戦士を探すためだって」

 

 総二から聞いた話だと、その人の名前はトゥアールさんというらしいけど……結局のところフレーヌに伝えられていないんだよね。

 ただトゥアールさんがいる世界が総二たちの世界だということは、フレーヌも私もわかっている。あとはなんとかその世界へ行ければ、ということなんだけど……それがなかなか難しいらしい。

 

「フレーヌはフレーヌのやりたいことをして。 私たちの世界はもう大丈夫だから」

 

 フレーヌからしてみれば、本来私たちの世界なんて数多ある世界の一つでしかないはずだ。

 ここまで一緒に闘ってくれて、いかにフレーヌが優しく他人思いな人だと知った。

 

「私からは……言い出せなかったんです。 ただ、奏さんにそう言ってもらえて少しだけ気が楽になりました」

 

 フレーヌはテイルギアを胸に抱きながら立ち上がる。

 月と星の明かりに照らされた彼女のオレンジ色の髪の毛は眩いばかりの輝きで、私を照らした。

 下から見上げるフレーヌは神話に出てくる女神のようで……私が話す前に彼女は━━━━

 

 「奏しゃん……今まじぇありがしょうございましゅうう……!」

 

 めちゃくちゃ泣いていた。

 やっぱりフレーヌはフレーヌだ。

 大人ぶっているが、根はまだ中学生くらいの子ども。

 なんとなく昔の私に重なるものがある。

 

「フレーヌ、感謝するのは私のほうだよ」

 

 私も立ちあがり、未だに泣き続けるフレーヌをそっと胸に抱き寄せる。

 泣きじゃくるフレーヌは抵抗する様子もなく、頭を胸に埋めたまま両手を私の背中へと回した。

 

「フレーヌ、背伸びたね」

「伸びません……!私もう大人だもん……!」

「ううん、伸びてるよ」

 

 中学生と比べても小柄だったほうのフレーヌだが、今は平均くらいはあるだろうか。それだけ長くフレーヌと過ごしてきたんだということを実感する。

 

「いつか私も追い越されちゃうのかなあ」

 

 そうなると、例えるならこうして妹をあやすように優しく抱きしめるのもなかなかできなくなってしまうのだろうか。

 フレーヌが泣き止むまで、私は黙って優しく抱きしめ続ける。

 

「奏さん……私怖いんです」

「ん?」

 

 ようやく泣き止ん……ではいないものの落ち着きはじめたフレーヌは静かに口を開く。

 

「この世界で知り合った奏さんや志乃さん、たくさんの人たち……ついでに嵐さん」

 

 僅かに手に力が入り、私の服をフレーヌは握りしめた。

 

「その人たちから離れたら……この世界から離れたら私の世界と同じことになってしまうんじゃないかって……。 凄い、怖いんです……」

 

 そっか……エレメリアンが攻めてくるとかこないとかの理屈ではなく、フレーヌはただただ怖いんだ。 自分の世界の惨状を目の当たりにして、恐怖が脳から離れずトラウマになってしまっている。

 こんなにすぐ泣く娘だ。 一人じゃ怖かっただろうし、悲しかっただろう。

 だけど、泣かないことが強いことじゃないのはフレーヌが証明済みだ。

 こんなに泣く娘だってテイルギアを作り、世界を飛び、アルティメギルと一緒に闘った。 フレーヌは充分強い娘だから……恐怖を感じる必要はこれっぽっちもない。

 

「私がいる限りそんな事はさせない。 少なくとも、フレーヌを心配させることは絶対ね」

「奏……さん……」

 

 フレーヌが背中に回していた手を下げたので、それに合わせて私もフレーヌから離れる。

 よし、多少目は腫れているけど今は涙は出ていないみたいだ。

 

「フレーヌ、私のわがまま聞いてくれる? 」

「え?」

 

 袖で目を拭くフレーヌの手をとり肌寒いバルコニーから廊下へと入る。下から上がってくる暖気が私たちを包みこむのを感じた。

 

「一緒にケーキ食べてお祝いしてほしいな」

「は、はいっ!もちろんです!」

 

 フレーヌの快諾を得て、私はそのままフレーヌの手を引いて階段を降りリビングの扉を開けた。

 

 

 私の誕生日から三日後の二月二十一日。

 学校の授業を終えて放課後、私たちは地下にあるフレーヌ基地へと足を運んでいた。

 いつも対エレメリアン会議をしていたメインルームの階段を降りると、そこには世界間移動艇のフレーヌスターが停まっていた。

 私は近づきマジマジと眺めてみる。

 どうやらフレーヌはこの三日間、フレーヌスターの整備をしていたようだ。 埃をかぶっていたフレーヌスターは新品同様、私が初めてみた時の状態と変わりない。

 ところで、私たちはフレーヌに呼ばれて立ち寄ったのだけど当のフレーヌの姿が見えない。

 

「何隠れてるのよ。貴女が呼んだんでしょ」

「ちょっと、まだ心の準備が……!」

 

 フレーヌスターの後ろから、黒羽に引きずられてフレーヌが現れた。 必死に抵抗しているみたいだけど黒羽の力には及ばず、そのまま私たちの前へと立たされてしまう。

 

「えっと……その……」

 

 両手の人差し指同士を合わせて目を泳がせるフレーヌ。

 チラチラとこちらを見てくるので、息を吐いて私はフレーヌの横に立つ。

 

「志乃、嵐。 フレーヌは……フレーヌの世界を救おうとした戦士を捜しにいくんだよ」

 

 私が代弁している間、フレーヌはスカートをぎゅっと握りしめていた。

 

「ああ!それでフレーヌスターが綺麗になってるんだね」

「お礼がしたいって言ってたもんな」

 

 あれ、ひょっとして理解していないのか。

 まあ確かに、私たちの周りにフレーヌがいるのは当たり前のことになっているし……。今の言い方じゃ私が悪いか。

 

「そうじゃなく……!」

 

 改めてフレーヌのこれからを二人に伝えようとした時、そのフレーヌが私の服を摘んでそれを静止する。 そして私より前に出て、二人に近づくとゆっくりと話しはじめた。

 

「志乃さん、嵐さん。奏さんには以前伝えたんですが……私、この世界から出て行きます」

「え、フレーヌそれって……」

 

 志乃の様子が先程までとは大きく変わった。 きっと、フレーヌが何が言いたいのかがわかったんだろうな。

 

「はい。お察しの通り、私は自分の世界を守っていたツインテールの戦士を捜す旅にでます」

 

 志乃も嵐も驚きを隠せず、言葉を失った。

 二人を交互に見てから、フレーヌはさらに続ける。

 

「私はツインテールの戦士を捜すために……黒羽さんが残したテイルギアの資料を解読して制作し、世界間航行の技術を得たんです。この世界に初めて来たときは、自分がツインテールの戦士に会うためのきっかけ……としか見ていなかったんですよ」

 

 その時の自分を悔いているのか、フレーヌはスカートから手を離すと両手で握り拳を作り震わせる。

 

「でも、この世界を調べていくうちにその考えは変わりました。 本気でこの世界のツインテール属性を守りたいと、そう思ったんです。そして最高のツインテール属性を持つ奏さんを見つけて一週間ほど身辺調査をした……」

 

 え、初耳なんだけど。ていうか身辺調査って……私はそんなストーカーまがいの事をされていたっていうこと!?

 まずい。フレーヌがいい話をしているのに私の顔、引きつっていないか心配になってきた。

 

「あなた方と出会ってから自分の世界で経験していなかったことがたくさんありました。新しい体験をするたびに私の中でその世界のツインテールを守りたいというか思いは大きくなっていったんです」

 

 いつのまにか握り拳は解かれ、両手はフレーヌの胸の前に収まっていた。 目を瞑っており、今までのことを思い出しているのだろうか。

 しばらくするとゆっくりと目を開け、フレーヌは嵐へと視線を移す。

 

「嵐さん、今までありがとうございました。 邪険に扱ってはいましたが、あなたも大切な友人の一人です。 私が徹夜で奏さんの捜索をしている時にかけてくれた言葉、そのおかげでとても気が楽になりました」

「……そりゃ良かった」

 

 笑わない嵐を見て、それとは対照的にニコッと笑ったフレーヌは次に志乃へ視線を移した。

 

「志乃さんも今まで助かりました。私生活からこの世界でのルールなど、大変貴重なことを教えてくれて感謝してもしきれません。 私を敬称無しで読んでくれた事、今までで一番嬉しくて……今でもその時を思い出したりするんです」

「フレーヌ……うん……」

 

 少しだけ頰を紅潮させながらフレーヌは言うと、今度はフレーヌスターに寄りかかっていた黒羽へと視線を移す。

 

「私が世界を渡る切っ掛けを作っていただいた事でこの場にいる皆さんと出会う事ができました。黒羽さん、今の私があるのは全て黒羽さんのおかげです」

「改めてそう言われると……照れるわね」

 

 滅多に照れることがない黒羽が頰を赤らめてフレーヌから視線を外すと、その頰を人差し指で掻く。 面と向かって感謝されると流石の黒羽もこのような反応するんだね。

 

「奏さん」

 

 最後にフレーヌは私の元へと歩み寄る。

 

「言いたいことが多すぎて何から話せば……まずはお礼ですよね! テイルギアを使って危険な闘いに身を投じ、この世界のツインテールを守ってくれてありがとうございました」

「よしてよ。お礼を言うのは私の方……私の闘いをいつもサポートしてくれて、ツインテールを守ることができた。私こそ、ありがとうフレーヌ」

 

 みんなにそれぞれお礼を言っていて込み上げてくるものがあったらしく、いつのまにかフレーヌは涙目になっていた。

 フレーヌは着ているカーディガンの袖で目を擦ると、そのカーディガンのポケットからテイルギアを取り出す。 そして、私へと差し出してきた。

 

「これはもう奏さんのものです。ビクトリースクエアで渡した時からずっと……奏さんのものですよ」

 

 ゆっくりと私はテイルギアへと手を差し伸べ、再びフレーヌから受け取る。

 フレーヌのメンテナンスのおかげで汚れや退色などは全くないものの、初めて受け取ったときよりもなんとなく年季が入ったような……そんな気がした。

 

「奏さん、今一度……問いたいことがあります」

「うん」

 

 フレーヌが優しく微笑む。

 その瞬間、この十ヶ月で見てきた様々なフレーヌの表情が頭の中に浮かんでくる。

 笑い、悲しみ、怒り……フレーヌの全てを見てきたなんておこがましいことは言えなかった。

 ただ、今のフレーヌの慈愛に満ちた微笑みを見たことで……やっと''全てを見た''と言える資格を得た気がした。

 

「ツインテール、お好きですか?」

 

 女神のような微笑みから放たれるには不相応な言葉。

 まったく……だから嫌。 属性力のことは真剣に話してもふざけているように聞こえてしまうから。

 私の答えは、決まっている。

 

「大っ嫌い」

 

 私と嵐の破局の切っ掛けを作り、エレメリアンと闘わせ、目の前の彼女との別れを作り上げたツインテール。

 ただの髪型であるそんなツインテールが私はだいっ嫌い。

 

「だけど━━━━」

 

 ツインテールが私たちもたらしたのは負のことばかりじゃないのは、当事者である私がよく知っていることだ。

 

「━━━━ツインテールのおかげで色々な出会いがあったわけだし……その意味じゃ、好き……だよ……」

 

 私の発した言葉に志乃も、嵐も、黒羽も目を丸くしてめちゃくちゃ驚いていた。

 ただ一人、フレーヌだけは驚くことなく私をまっすぐと見据えると、女神の表情から一転悪戯っ子の表情へと様変わりした。

 

「みなさん、奏さんがツインテールを好きと言いましたよ! 録音もバッチリです!」

「え、ええ!? なにそれやめて!めちゃくちゃ恥ずかしいから!」

「やめませんよ! 素直になった奏さんの声をどうぞ!」

 

 フレーヌは懐からリモコンのようなものを取り出し、その中央にあるボタンを押すと基地スピーカーから音声が流れる。

 

『好き……だよ……』

「いやあああああああああっ!!」

 

 大音量で基地に響く私の声。

 自分の声でも結構嫌なのに切り方に悪意がある!これではまるで私が誰かに告っているみたいじゃないか!!

 なんでなの!?

 さっきまでしんみりしてはずなのに今のこの空間は一体なんなの!?

 

「ごめんなさい、奏さん。私……泣かないためにはこうやっておふざけするしかなくて……」

 

 冗談ぽく笑うフレーヌだが、既にその瞳には先ほどと同じく涙が浮かび溢れ出しそうになっていた。

 その顔を見て、私は立ち上がりこのあいだの夜……私の誕生日のときのように、フレーヌを抱き締める。

 

「さよならじゃない。また会えるときが来るはずだから……今は泣かないで、笑って''またね''しよ」

 

 無言のままフレーヌがコクコクと頷くのがわかった。

 私も今そうは言ったものの、涙目になっているかもしれない。 フレーヌに泣かないで、と言ったのに私が泣いては示しがつかないだろう。

 フレーヌの不安を取り除くためもあるが、一番の理由は自分の涙を見せないためにフレーヌを抱き締めているのだ。

 私が視線をあげるとその先で志乃は嗚咽を漏らしており、嵐は気まずそうに鼻頭を掻いていた。

 

「黙ってはいたけど、私もフレーヌと一緒に行くわ。奏たちとは違って私の目的はまだ達成されていないもの」

 

 フレーヌを体から離したとき、黒羽が私たちの前に出て自分の考えを伝える。

 そう、黒羽の目的はアルティメギルの壊滅。自分の世界のツインテールを守るという私よりも遠く難しい目的だと思う。

 エンジェルギルディは最後に総二たちのことを言ってはいたけど、黒羽は人任せにするタイプじゃないからね。

 ただ、やはり私たちは寂しい。

 志乃はとうとう耐えきれなくなり、号泣しながら黒羽に抱きついていた。

 黒羽の性格ならすぐ引き剥がそうとするものだけど、今日は志乃の涙を服に染み込ませて、心なしか悲しそうな顔をしているように見える。

 

「せっかくだし、写真くらい撮ろうぜ」

 

 女子に抱きつくわけにもいかず、軽くぼっちになっていた嵐がスマホを取り出し一言。

 そういえば、私たち五人で写真を撮ったことは一度も無かった。 一緒にいるのが当たり前になっていたから、気がつくのに遅れてしまったんだ。

 皆の了解を確信して、嵐はフレーヌスターの出っ張り部分にスマホを立て掛けると、小走りでこちらへ向かってきた。

 

「じゃあ私はフレーヌと黒羽に挟まれる感じで!」

「んじゃ、俺はその後ろで」

「どこで撮っても同じだと思うのだけど……」

 

 フレーヌと黒羽の後ろから志乃が抱え込むように二人の肩に手を回し、嵐はその後ろでキメ顔の練習をしはじめた。

 

「さ、奏さんもですよ!」

 

 フレーヌに手を引かれ、スマホの前に全員集合……したのはいいが、撮る人がいないんだけど。

 

「嵐、悪いけど撮ってくれる?」

「なんで俺が外れるの前提なんだよ。最新機種だから人の笑顔検出で勝手に撮ってくれんの。ほれ、笑ってみ」

 

 そうは言われても、笑えと言われて笑うのはなかなか難しいと思うんだよね。

 どうしたものかと指を顎に当て考えていると、

 

「奏さんっ!」

「え」

 

 フレーヌに呼ばれたと思ったら再び手を引かれ、より彼女に近い位置に移動させられる。

 その時見えた彼女はとても明るく、屈託のない笑顔を浮かべていた。 その瞬間をカメラは逃すはずもなく、気がつくと静かな基地の中でカシャッというシャッター音が鳴り響く。

 笑顔なのはフレーヌと志乃だけで、黒羽は視線を外し、嵐は照れながら、私はポカンとした顔での写真になってしまった。

 でもまあ、これはこれでアリかもしれない。

 

「次はどんなふうに撮ろっか?」

「皆さんで変顔とかどうでしょう」

「なによそれ……」

「サッカー部が大爆笑した渾身の変顔を見せてやろうか」

 

 早くも皆が次の撮り方を考えているのを見て、思わず吹き出してしまった。

 当然、いきなり笑い出した私を皆は不思議そうに見つめてくる。

 

「ごめんごめん。 私は次はね━━━━」

 

 こうして皆の希望を詰め込んだ写真が完成し、スマホのホーム画面に設定されることとなった。

 

 

「システムオールグリーンです!」

 

 フレーヌスターの操縦席に座り、操縦桿を握りながら力強くフレーヌは宣言した。

 彼女の言葉を待っていたかのように、フレーヌスターの正面にあるゲートが上下開きと左右開きで奥へと展開していくとカタパルトが完成する。

 

「現実でその言葉を聞くとは思わなかったわ」

 

 フレーヌが座る操縦席の後ろの座席で、黒羽はシートベルトを着用しながら呟いた。

 操縦桿についたボタンを押すと、フレーヌスターの胴体部から主翼と尾翼、ジェットエンジンがせり出し噴射をはじめる。

 いよいよ出発というところだが、黒羽はフレーヌの僅かな変化に気づく。

 

「本当にいいの? 辛いなら無理に行く必要はないのよ」

「辛いです。辛いですけど、私は私の世界を救おうとしてくれた戦士にお礼と謝罪をしなくてはいけません。 私は……大人ですから!」

 

 そう言ってフレーヌはダッシュボードの上に飾られている先ほど皆で撮った写真を眺める。

 

「そう。フレーヌ、外を見てみなさい」

 

 外から手を振る志乃と嵐、そして奏を見ないようにしていたが……黒羽の一言で思わず視線が彼女たちの方へと移してしまった。

 

「か、奏さん……!」

 

 奏は他の二人とは違い、手を振ってはおらず寂しそうな笑顔を浮かべているのみ。ただ、一つ普段の奏と決定的に違う部分にフレーヌと黒羽は驚愕していた。

 

 ━━━━奏が、ツインテールにしていた。

 

 初めて会ったときは嫌いだと言った。

 テイルホワイトとなった後も、断固としてツインテールにするのを拒んでいた少女。

 約二年のブランクのせいで多少位置がずれ、テイルホワイトほどの見事なツインテールとは言い難いものの、それは確かに奏のツインテールだ。

 

「さすがこの世界最高のツインテール属性。私の負けね、奏……!」

 

 不揃いながらも自身のツインテールを披露した奏に黒羽も思わず嘆声をもらした。

 そんななか、奏は外からフレーヌスター内部にも聞こえる大きな声で叫ぶ。

 

「ありがと━━━━━━━━っ!!」

 

 その言葉はしっかりとフレーヌの耳に入り、彼女はアクセルを踏み込みはじめた。

 フレーヌスターがゆっくりと前進をはじめ、それに伴い、奏たち三人の声もだんだん小さくなっていく。

 

「みなさん……!」

 

 フレーヌは操縦席のウィンドウを開け、大きく息を吸い込むと、

 

「私こそ……ありがとうございます━━━━━━━━っ!!」

 

 瞬く間にフレーヌスターは加速し、奏たちが米粒大に見えるほど離れると異世界へ繋がる出撃ゲートが現れた。 その奥には、極彩色のマーブル模様が見える。

 

「さあ! 私は戦士を探すための、黒羽さんはアルティメギルを倒すための……長い旅の始まりですよ!」

「ええ!」

 

 ドヤ顔でフレーヌが宣言すると、まもなくフレーヌスターは出撃ゲートをくぐり異世界へと旅立っていった━━━━。

 

 

 基地の階段を登り、部室棟の空き教室へと私たちは戻ってきた。

 志乃が積まれた机の足を引くと、その机が移動し基地への入り口を隠していった。

 

「あとはこれね」

 

 志乃が持つのはスマホサイズのリモコン。

 フレーヌと黒羽が異世界に旅立つとき、基地が見つかってはいけないという理由で、自分たちが居なくなったら基地を閉鎖してほしいと渡されたものだ。

 志乃が、一つしかないボタンを押す。

 光も音もなく、基地の閉鎖は完了した。

 私がテイルホワイトとして闘った十ヶ月間、本当にお世話になりました。

 試しに机の足を引いてみるも、レバーではなくなっており当然地下への入り口も出現しなかった。

 

 

 それから私たち三人は、この十ヶ月間の事を話題にしながら積まれた机を眺める。

 

「なんか長いようで短かかったねー」

「私はまあまあ長く感じたけど。変態たちの相手なんてもうたくさん」

「色々あったもんね……」

 

 志乃は近くにあった椅子に座る。

 私たちが掃除したおかげで空き教室にも関わらず、最初と違って今は綺麗なものだ。

 

「喫茶店でフレーヌに会って……」

「いきなり突飛なこと言われたね」

 

 目を瞑り、運命の日を思い出す志乃に言葉を返す。

 ツインテールが世界を救うなんて、あの時は本当に何言ってんだ状態だったっけ。

 

「奏にぶたれてなあ……結構痛かったよなあ……」

「悪かったって」

 

 嵐が思い出しているのはメガロドギルディ戦で私がビンタしたことだろう。

 今考えるとテイルギア装着時に人をビンタしてしまうなんて……一歩間違えれば嵐の頭部が吹っ飛んでいたかもしれない。本当にごめん、反省してます。

 思い出話に花を咲かせていたその時、空き教室のドアがいきなり開け放たれた。

 

「こらお前たち、こんなところで何してんだ。使われていない教室は立ち入り禁止だぞ」

 

 生徒指導の先生だ。

 今まではイマジンチャフのおかげで、この空き教室があるという事実を他人は認識することはできなかったのだが、基地を閉鎖したことでその効果が消えてしまったらしい。

 私と志乃はすみませんと言いながら、嵐は頭だけ下げながらいそいそと空き教室から出て部室棟の廊下を歩いていく。

 振り返ってみると、先ほどの先生が教室に鍵をかけているところだった。

 これで本当に、テイルホワイトの活動は終わりってわけか……。

 

「かなでー!」

「忘れもんか?」

 

 途中で立ち止まっていた私を心配してか、志乃と嵐も立ち止まり声をかけながら近づいてくる。

 二人の顔を見て、私は気づいた。

 フレーヌや黒羽と別れ、テイルホワイトを引退して全てが終わったと思っていたけど━━━━

 

「フフッ、そうだよね」

 

 口元に手を当てて、吹き出した私を見て怪訝な顔をする志乃と嵐。

 テイルホワイトとしての私はもういないけど、伊志嶺奏としての私は……これからも生き続ける。

 この二人やクラスのみんな、家族と一緒に。

 

「なんか奏のその顔……久しぶりに見た気がする!」

「ああ、少なくとも高二になってからは初めて見たかもな」

 

 え、いつもの私と何が違うんだろう。

 思わず私は校舎の窓ガラスで自分を見てみるも、いつもの私との違いがさっぱりわからなかった。

 本人にもわからないこと指摘されると、なんかこう……むずむずするなあ。

 

「ねえ、奏」

「ん?」

 

 ガラスに映る自分を眺めていると、志乃に呼ばれたのでそちらへ視線を移す。

 

「折角だしもう一回みたいな。 ホワイトのじゃなくて、奏のツインテール!」

 

 そう言う志乃の手には白のリボンが握られていた。

 私が嵐からプレゼントされ、先ほどフレーヌと黒羽を見送る際に使ったものだ。

 志乃がリボンを取り出すのを見て、嵐もポケットからリボンを取り出し二人で差し出してくる。

 

「ごめん、今はできないよ」

 

 二人の気持ちはありがたいけど、そうやすやすと私はツインテールにはできない。

 だって私は━━━━

 

「━━━━世界で一番、ツインテールが大っっ嫌いなんだからね!」

 

 かざした右腕の、白いブレスは始まりと変わらぬ輝きを放っていた。

 




これにてこの物語は最終回になります。
今まで読んできてくださった方々、本当にありがとうございました!
僕自身いつから書き始めたのかわからないのでFILE.1まで遡ってみると……なんと2015年! 一年間全く更新のない時期があったので役三年ほど、話を紡いでいたのですね。
一番はとりあえず完結させることができてよかったと思っています。
途中の一年の空きの後も、更新するたびに呼んでくれる方がいたのはとても嬉しく自分のモチベーションを上げることもできました。
つまりはこの物語を完結させることができたのは皆さんのおかげです!
心より本当に感謝します。本当にありがとうございました!

活動報告にてこの話のことや各キャラについてなど公開していますので、もし興味がおありでしたら是非のぞいていただけると嬉しいです。

原作も終わりが近いような雰囲気が出てきたのが寂しく感じる阿部いりまさでした。



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ADDITIONAL FILE.1 禁断のツインテール宣戦

とある事情で暇になってしまったので、久しぶりに書いてみました。



 ツインテール。

 それはただの髪型でありながら、全ての異世界を恐怖に陥れた元凶……すなわち災いの元となった特別なもの。

 その昔、人々の中にある心の輝きとされる属性力(エレメーラ)を欲して、人間たちから奪い去ろうとした異形の怪物・エレメリアンが集結し、アルティメギルを組織した。

 アルティメギルは数多の世界から属性力を奪い去り、残されたのは夢も希望も、人々から失われた灰色の世界。だけど、その全ての世界には属性力を守ろうとする戦士が現れ、アルティメギルと戦った。

 

 ツインテールの戦士。

 

 ツインテール属性を力の源として、アルティメギルと戦って世界を守ろうとした戦士はそう言われていた。

 足掻き、足掻いて足掻いて最後まで戦い抜いた戦士もいるが、大半は途中で心が折れアルティメギルに属性力を奪われてしまうのだ。世界を守る、ツインテールの戦士でさえもが。

 だけど、三ヶ月ほど前にアルティメギルは壊滅した。一人のツインテールの戦士がその首魁を倒したからだ。

 見事だった。

 赤いツインテールをはためかせ、金色の装備で戦う年端もいかない少女がやってくれた。全ての異世界はアルティメギルの恐怖に怯えることはなくなった!

 だけど、私の世界に属性力が戻ることはなかった。

 どうしてなの? 

 空中に浮かび上がったモニターを見て私は応援した。だって、少女が勝ってくれればこの世界の属性力が戻ると信じていたから。でも、何も変わらなかった。

 どうすればいいの? ツインテール属性を、全ての属性力を取り返して、輝きある世界に戻すためにはどうしたらいいの?

 頭の中で自問自答を繰り返す。

 そして最後に私は呟く。

 

「助けて……助けてよ……。誰か助けてよ……」

 

 

 頬に当たる爽やかな風で、私は我に帰る。

 少し前のことを思い出していた。異世界に来ると必ずこうなってしまう。もう何度同じことを繰り返しているかわからない。やめなきゃいけないとわかっているのに、どうも難しい。

 ビルの屋上から眼下に広がる町を見る。

 綺麗な町、綺麗な世界だ。人々は活気に溢れ、町の至る所から笑い声が聞こえてくる。平和な世界とはなんて素晴らしいんだろう。

 属性力もたくさん感じる。

 笑顔属性(スマイル)唇属性(リップ)爪属性(ネイル)……そしてツインテール属性。

 

「ツインテールの溢れる世界……」

 

 この世界を守った戦士のおかげだろう。町を行き交う人々の誰もがツインテール属性をその身に宿しているのを感じる。

 なんて素晴らしい世界だろう。

 ツインテールが好きな私にとって、この世界はまさに天国のような場所だ。いろいろな異世界を渡って来たけれど、ここは別格。ツインテールの戦士がアルティメギルを追い返した世界はここまで属性力が素晴らしいのか……!

 さて、充分に堪能した後は私の目的を達成させてもらおうかな。

 そう、これは全て私の世界のため。私の世界に再び属性力を溢れさせるため。だから、ね?

 

「――テイルホワイト、あなたが守った世界の属性力。私にもらえますか」

 

 一際強い風が吹き、金色のツインテールがなびいた。

 

 

 華やかな店が並び、若者が集う町の路地裏で、一人の少女が膝に手をつき呼吸を整えていた。

 栗色の髪の毛を持ち、綺麗な青い目は日本人離れしている。肌は白く、まつ毛も長いが路地裏を走っていたせいか砂埃が少々ついていた。

 手に持ったスマートフォンを操作し、歯を噛み締める。

 

「急がないといけないのに……!」

 

 スマートフォンの画面に表示されているのはツインテール属性を示すエンブレムだった。

 

 

 全国高校サッカー選手杯といえば甲子園と並び、夏に注目される大会の一つだ。

 世間ではもちろんのことだけど、とりわけ私たちの高校である園葉高校は全国常連の強豪校ということもあり、学校をあげてサッカー部の応援に熱を入れている。

 今年のサッカー部は例年に比べて期待値が低いとされていたけど、大会が始まってからその評価はぐるりと返された。

 県の予選を軽く突破して、全国大会へ駒を進めると一回戦、二回戦、三回戦と危なげなく勝ち進んでなんと今は準決勝!

 全国大会に進んでからは私たちサッカー部以外の生徒も、東京の国立競技場に足を運んで応援している。今までスタジアムで観戦したことなかったけど、見ているとこれがなかなか面白い。何よりゴールを入れれば勝ちという単純なルールが凄くいいと思う。

 ただ、私の周りで観戦している生徒たちは試合開始直後のテンションと比べるとかなり沈んでいた。まあ、当然と言えば当然かな……。

 スタジアムにある電光掲示板に目を向ける。後半の四十三分。スコアは二対一で相手にリードを許している展開だった。

 相手の高校がボールを持つ時間が長くなってる今、園葉高校がここから逆転勝利を収めるのは至難だろう。

 ただ、諦めずに応援している人もいる。

 

「ちょっとー! せっかく応援に来てるんだから勝ってよー! アディショナルタイムもあるでしょー! そ・の・ばーっ‼︎」

 

 隣に座っていた志乃は立ち上がり、手をメガホン代わりにして園葉高校を鼓舞していた。ところでアディショナルタイムってなんだっけ。

 周りの皆が意気消沈の中、一人だけ立ち上がり応援する志乃はかなり目立つ。何人かの部員にも聞こえたようでチラチラとこちらに視線を向ける人もいた。

 

「ほら奏も! せっかく準決勝まで来たなら優勝みたいでしょ⁉︎」

「まあ、そうだけど……」

「なら奏も……あ! チャンスだよ!」

 

 志乃に促されピッチに目を向けると、園葉高校が一気に相手のゴールへ攻め込んでいく場面だった。

 その中で特に目立っていたのはある一人の選手。相手を交わし、味方へ正確なパスを出し、再びボールを自分の元へ収めるとそのままドリブルで攻め込み――最後はゴールを決めた。

 その瞬間、スタジアムは大いに盛り上がる。

 

「同点だー!」

 

 思わず立ち上がり、皆でハイタッチして喜んでいるとゴールを決めた選手が私たち生徒が応援するスタンドの前まで来て大きくガッツポーズを決めた。そしてスタンドはさらに盛り上がる。

 皆が盛り上がる中、私とその選手の目が合うと、彼は白い歯を出してこちらへ向かって親指を立てグッドサインをしてきた。私は目を逸らしつつとりあえず小さく手を振っておく。

 

「嵐さすがだねー」

「このまま逆転あるかな」

「さすがに延長戦でしょー」

 

 周りと話している志乃は気づいていなかったらしい。

 まったく、ゴールを決めたのはすごいけどまだ試合は終わってないんだから。これで気が抜けてすぐに失点なんてことにならなければいいけど……。

 

 

 試合終了後、私と志乃は学校が出したバスに乗り園葉高校へと帰ってきた。

 そこで解散となり、私たちは久しぶりに『喫茶パターバット』に訪れた。コーヒーとケーキを注文すると、志乃は背もたれに深く体を預け口を開く。

 

「まさかあの後負けちゃうなんてねえ……」

「まあ、油断してたみたいだし」

 

 園葉高校は、結局準決勝で敗退した。

 嵐がゴールを決めたすぐ後、残り時間一分もないというのに相手校にゴールを決められてしまったのだ。まさか私が思った通りのことになるなんて……。

 

「みんな悔しそうだったね」

「三年間の集大成だもんね。ああいうの見ると高校で部活入らなかったの後悔するかも」

「だから私とバスケ入ろうって誘ったのにー。おかげで私まで入り損ねちゃったよ」

「志乃が私に合わせる必要ないでしょ」

 

 中学で嵐と破局した後、落ち込んでた私を思って志乃は部活に入らず近くに居ることを選んでくれた。私ってば、今考えると志乃にもの凄い迷惑を……。

 頭を抱えていると注文したコーヒーとケーキが運ばれてきた。

 パターバット自慢のブレンドコーヒーとショートケーキ。普通ケーキを食べるなら紅茶ではないかと思うけど……そこはまあいいでしょ。

 私と志乃は揃ってケーキを食し、愉悦に浸る。

 忙しい受験勉強の合間のこうした息抜きは何よりも大切だと思う。夏休みだというのに毎日勉強の日々で私は疲れ切っているのだ。

 

「そういえば、今日でもう半年だよね」

「ああ、そうだね」

 

 志乃が言う半年。それは私たちの親友である二人の少女が旅立ってから、ということを意味する。

 

「アルティメギルは倒したみたいだけど、元気にやってるといいね」

「そうそう! 紅音がいきなり出てきてビックリしちゃったよ!」

 

 紅音、というのは以前私たちの世界に迷い込んだテイルレッドに志乃がつけた名前だ。

 エレメリアンのせいか、生身でゲートを潜ってきたせいか記憶が無くなっており、そうして志乃が記憶が戻るまでの間ということで考えた。

 ただ、紅音ことテイルレッドの正体は観束総二という男子高校生。酷いハプニングで期せずして正体を知るに至ったわけだけど……それを知っているのは未だ私だけだ。

 いろいろあって元の世界へ帰っていった総二だけど、何ヶ月か前にいきなり空中にモニターが現れテイルレッドが戦っている様子が中継された。

 パワーアップしたテイルレッドはアルティメギルの首領を倒し、アルティメギルという組織は消えてなくなったに違いない。

 アルティメギルを壊滅させちゃうなんて、さすがは総二。ツインテールバカは伊達じゃないね。

 

「二人はアルティメギルが壊滅したの知ってるのかなあ?」

 

 もしどこかの異世界にいるのなら、私たちと同じように宙に浮かんだモニターでテイルレッドの活躍を見ているかもしれないけど……。まさか何も知らずに旅を続けていたりはしないよね?

 最後の一口を口に運ぶと、残ったコーヒーをちまちま飲みながら志乃と会話を弾ませた。

 私がテイルホワイトを引退してから約半年。私は普通の女子高生となり、今は受験勉強に忙しい毎日だ。だけど、その普通の日々がなんだかすごく楽しく感じる。

 

「あ、もうこんな時間だね」

 

 志乃が呟き、スマホを見てみるといつのまにか十七時を回っていた。この時期は日が長くて夕方になったのもわかりづらいんだよね。

 

「奏は今日一人だっけ? 私がいなくて平気?」

「なにその心配。むしろ一人でのんびりできると思ってるんだけど」

「あはは。文化祭のお化け屋敷じゃ凄い怖がってたからさー」

 

 し、知られていたのか……。だけど家とお化け屋敷とでは全然違うし大丈夫だろう、さすがにね。

 

「よし、それじゃあ帰ろう!」

「あ、私はもう少しゆっくりしてくよ。家に帰ったらすぐに受験勉強しなきゃいけなくなる……。だから少しでもここで時間稼ぎしとく」

「あはは……。それじゃあまた今度ね。また連絡するからー!」

「うん、また」

 

 志乃は財布から千円取り出して、私に渡すとパターバットから出て行った。カランといういつもと変わらない音が鳴る。お釣りは……次会う時に渡せばいいかな。

 さて、私は今日の夜ご飯どうしようか。このままパターバットで食べていくにさすがに時間が早すぎるし……こんなことならお母さんにご飯の作り置きでも頼んでおくんだった。

 店員さんを呼んで空になったカップを下げてもらい、もう一杯だけ同じコーヒーを注文する。

 お父さんとお母さんは今日の夜ご飯はなに食べるんだろう。旅行先で有名なのは確か……ウニやイクラだったか。スマホでウニと検索すると美味しそうなウニが画面いっぱいに表示された。むむ、受験勉強あるからと断らずに私もついていけばよかった……。

 は、まずいまずい。私は受験生の身、ただでさえ去年はエレメリアンのせいで勉強があまり手につかなかったのに、今からのんびりと旅行なんてするわけにはいかないよね。

 

「''ペルセウス座流星群がまもなくピークに''、''双子座の運勢が最高''、''話題の邦画がノミネート''、''新たなエネルギーの可能性を探る''、''快進撃を続けた園葉高校散る''」

 

 画像を閉じてヤフォーのトップページに戻りニュース一覧に目を通した。私たちの高校が敗退したことも早速記事になっていた。

 

「ん?」

 

 何気なくページを更新すると、気になる記事が速報扱いで掲載されていた。全国高校サッカー選手杯の記事のすぐ上に書かれたそれは。

 

「''意識を失う人が続出、環境省は熱中症考えにくいと説明''……なにこの記事」

 

 記事をタップして全文表示する。

 それを読むと、どうやら東京の新宿区で道端で意識を失う人が続出しているらしい。そういえば、昼間にいたサッカースタジアムは新宿だった気がする。

 さらに記事を進めていくと、環境省のコメントや保健所のコメントなどが載せられており、大事件扱いされていることがわかる。さらに下へスクロールしていくと、様々なコメントが投稿されていた。

 

『原因不明ってマジやばくね?』『これテロでは?』『逃げろ逃げろーww』『もう終わりだよこの国』『ツイン……まさかねえ』『まーた怪物が現れてしまったのか』

 

 その他にも茶化すようなコメントや真面目に考察するコメントが千件以上も投稿されている。

 気になるコメントはいくつかあるが、特に気になるのはツインテールやエレメリアンに関するコメントだ。

 そういえば私が初めてエレメリアンを目撃した時、ツインテール属性を奪われた人たちは意識を失っていた。原因が不明っていうのもエレメリアンが属性力を奪ったからだとすれば辻褄は合うけど……。

 

「アルティメギルは壊滅してるし……」

 

 いや、よく考えたらアルティメギルが壊滅したからといってエレメリアンが全て消えて無くなるものなのだろうか。

 アルティメギルの残党がこの世界にやってきた?

 いや、それは無いと思いたい。だって彼女は「聖の五界(セイン・トノフ・イールド)を撃退した戦士がいるこの世界にわざわざ攻めてくることはないだろう」という考えを教えてくれた。現にこの半年間、エレメリアンはまったく攻めてこなかったわけだし……。

 

「お待たせしました」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 二杯目のコーヒーを飲みながら考えをまとめる。

 エレメリアンである可能性は低いものの、絶対にないとは言い切れない。エレメリアンだとするのなら私は……戦いに行くべきだ。ただ、今の私にはエレメリアンがどこにいるのかも、いる場所がわかってもそこがもしもブラジルだったとしたら行く術がない。

 どうしたものかと考え、窓の外の景色を見ようと視線を移す。

 

「ん……んんっ⁉︎」

 

 思わず、口に含んだコーヒーを吹き出しそうになる。

 外の景色を見ようとしていた私の目に入ってきたのは、顔と体を限界までガラスに密着させこちらを凝視する外国人の女性だった。

 いや、やばい人……なのだろうか。

 すぐに視線を外し、見なかったことにしてスマホを操作するフリをする。気づかれないよう横目で様子を伺うと、女性は窓から身を離しスタスタと店の入り口側へと歩いていく。

 カラン。

 店の入り口から入ってきた。周りを見渡し、こちらに気づくと、迷いなく私の方へ向かってくる。

 通り過ぎて欲しい、そう願ったが私が座っている席は店の一番奥だ。こちらに歩いてくるのはこの席に用がある場合だけだと察して、冷や汗をかく。そしてついに、外国人の女性は私のテーブルに到達する。

 

「ここ、座ってもいいよね?」

 

 明らかに私に向かって話しかけている。気の強い人ならここから徹底的に無視することもできるだろうけど、私にそんな勇気はない。

 

「は、はい……」

 

 なるべく目を合わせないよう返事をすると、女性はすぐに先ほどまで志乃が座っていた席へ腰を下ろす。

 

「話、聞いてくれるよね?」

 

 そういえばこの外国人女性、日本語ペラペラだ。

 なんだか一年以上前のことを思い出す。あの時もこのパターバットでの出来事だった。いや、なんだか嫌な予感。

 

「あの……まず質問いいですか?」

 

 小さく手をあげて口を開く。もちろん目は合わせていない。

 

「いいよ。ただ敬語はやめて。私はきみと同い年なんだよ」

「はあ……。じゃあ聞くけど、えっと……」

「私はリアルだよ」

「えっと、リアル。あなたってきっと……ていうか絶対異世界から来たんじゃない?」

 

 ここで初めて、私はリアルに目を向ける。

 全てを見据えているように思わせる大きな青色の瞳に小さい鼻、薄いピンク色の唇。どこを見ても端麗な顔立ちをしている。ウェーブがかった栗色の髪の毛は腰のあたりまで伸ばされており、枝毛の一本も見当たらない。私から見たらどこをどう見ても羨ましくなる容姿をしている。

 リアルは私の質問を聞いて一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに神妙な顔つきに戻った。

 

「なるほどね。やっぱりきみで間違いないみたい。よくわかったじゃない? かなりこの世界に溶け込んでたと思うけどね」

「まあ、初めてじゃないし」

「そうだよね」

 

 あともう一つ言うと、世界の人はあそこまでガラスにべったりとくっついて店の中の人をガン見したりはしない。

 

「きみ、この世界をアルティメギルから守ったんだよね?」

「まあ、そうかな」

「ツインテール、好きなんだよね?」

「それはどうかな……」

「え、ええっ⁉︎」

 

 まあ嫌いではないけど、好きかと言われると……。まあ私の中のツインテール属性が大きいのなら、奥底では好きなのかもしれないけど。

 

「ま、まあいいよ。それで、私の話だけどね。この世界はね、大きな危機に晒されているの」

 

 なんとなく、察しはついていた。だけどニュースを見て、そうではないと信じたかった。でも、前の彼女と同じように目の前で異世界から来たリアルという女性がそういうのなら……覚悟しなければならないだろう。

 

「ニュースで意識不明の人が多くいるっていうのを見た。やっぱり、ツインテール属性が?」

「ええ、話が早くて助かるよ」

「なら急がなきゃ!」

「ちょ、ちょっと⁉︎」

 

 エレメリアンのせいだとわかったのならこんなところでのんびりしている場合じゃない。

 すぐに会計を済ませてパターバットから飛び出ると、私は自宅に向かって走り出した。後ろからリアルがついて来れているかどうかなども気にしていられない。

 ほんの五分ほどで自宅につき、自分の部屋へ。リュックをベッドに放り出し、机の引き出しに入れてあった馴染みの白い腕輪を掴むとすぐに外へ飛び出す。

 どうやらしっかりついて来てくれていたようでリアルが外で待っていてくれた。だいぶ息が上がり、膝に手をついている。

 

「ちょ、ちょっと……話は……まだ終わって……」

「はやく! 私はどこに行けばいいの⁉︎」

「え、ええと……一応この転移装置を使って……」

「はやく使って!」

「話が……まだ残って……」

「そんなの現地に行ってからでいいから!」

 

 リアルは取り出したテレビのリモコンと同じぐらいの大きさの端末を操作する。するとその瞬間、あたり一面に眩い光が放たれ――私の目の前は真っ白になった。

 

 

 リアルが行った転移は、私が長いこと体験してきた空間跳躍カタパルトとはまた違い、転移するまでに少しの時間を要した。

 真っ白だった世界は霧が晴れるように徐々に周りの景色を移していき、全てが鮮明になった時、私は自分がいる場所を即座に認識する。

 

「ここは、国立競技場……」

 

 私とリアルが立っているのは国立競技場のピッチのど真ん中だった。

 アスファルトの上とは違う、天然芝の感触が靴を履いていてもなんとなく伝わってくる。嵐たちはこの場所でサッカーをしていたのか。

 選手でもない私が神聖な場所にローファーで立ち入っていることに負い目を感じつつ、周りを伺う。しかし、エレメリアンの姿は見当たらない。

 

「スタンドを見てみてよ」

 

 リアルに促され、昼間に私たちがいたスタンドへ目を向けて、私は絶句した。

 

 ――スタンドで応援していたであろう人たち全員が、意識を失い倒れている。

 

 エレメリアンと戦っていた時でさえ、ここまで大勢の人間から属性力を奪われたことはなかった。

 おそらく彼らたちは私たちが見た試合の次に予定されていたもう一試合の観戦中、エレメリアンに襲われてしまったのだろう。

 さらにピッチの端から端まで見渡すも、サッカー部員や審判の人たちは見つからなかった。どうやら彼らはエレメリアンが襲撃する前に逃げることができたらしい。

 奥歯を噛み締め、自然と白い腕輪を持つ手に力が入る。

 

「私がニュースを読んですぐにここに飛んでくれば……ここまでのことにはならなかっただろうに……!」

「落ち着きなよ。たしかに彼らはツインテール属性を失っているけど、きみならすぐに取り戻せる。それにきみ一人じゃどこに行けばいいかわからなかったでしょ?」

「そ、それはそうかもしれないけど!」

 

 聖の五界(セイン・トノフ・イールド)を倒して、テイルレッドがアルティメギルを倒してくれたからもう平和などと、油断していた。エレメリアンは、どこまで私たちを恐怖で脅かせば気がすむんだ。

 

「あれ、でもエレメリアンは」

 

 私たちがいるピッチを見回しても、意識を失った人たちがいるスタンドにも、エレメリアンらしきものは見つからない。

 選手が入場する際に使用するゲートに目を光らしていると……。

 

「危ないっ!」

「ふぇっ⁉︎」

 

 突然、リアルは私を弾き飛ばす。

 それとほぼ同時、私たちが立っていたところに何かが降ってくるとピッチに激突。その勢いで芝は捲れ上がり、私とリアルはさらに吹き飛ばされた。

 

「ごめんね。痛くなかった?」

「大丈夫、ありがと。それよりもあれって……」

 

 空から落ちて来たそれは、私が何度も目にしたこともある忌々しき光輪。属性力を奪うために、エレメリアンが使っていたものだった。深く地面にめり込み、その周りの芝もだいぶ荒れてしまっていた。

 

「上だよ!」

 

 リアルにつられて上空を見る。

 陽が傾き、夕焼けに染まった空の中、黒い人影が浮かんでいるのがかろうじて見えた。かなり上空にいるらしく、肉眼ではどんなエレメリアンなのかいまいちよくわからなかった。なんとなくわかるのはそこまで身長は高くないであろうこと、翼を広げて宙に浮いていることくらいだ。

 白い腕輪を右手に装着し、いつでも変身できるよう備えておく。ただ、相手がずっと上空にいるのでは、変身しても私が出来ることは限られてしまう。だが、それが杞憂だったことにすぐに気がつく。

 

「お、降りて来た……?」

「気をつけて。すぐに戦えるよう準備しておいた方がいいよ」

 

 空がだんだんと暗くなっていくと同時に、上空のエレメリアンはだんだんと降下してくる。

 電光掲示板とほとんど同じ高度にまで降りて来たみたいだけど、照明がついていないせいで、まだエレメリアンの全容を確かめることはできなかった。

 さらに降下を続け、エレメリアンは両足を地面にしっかりとつけ着地し、こちらをジッと見据えてきた。

 

「――なっ⁉︎」

 

 衝撃が走る。

 私たちに光輪を投げつけたのはエレメリアンであり、この世界の何人ものツインテール属性を奪ったのはエレメリアンだろうと、当然のように思っていた。それ以外は考えたこともなかった。

 だからこそ、信じられないし信じたくはない。

 今、私たちの目の前に立っているのが――ツインテールの少女であるということに。

 

「ま、まさか……ツインテールの戦士⁉︎」

 

 その容姿を見た瞬間、私は確信した。

 胸が隠れるほどの長さの紫色のケープ。その下には全体的に紺色と所々に白色と銀色が散りばめられているトップス。下は流れるようなアシンメトリーのスカートで、全体的に大人びた印象を与える。例えるなら、スカートは短いけどフラメンコダンサーの衣装が近いだろうか。

 腕には手首までの白い手ぶろ、その手にはステッキのようなものが握られている。足元へと目を向けると膝下あたりまでの白いブーツを履いていた。

 そして、なんといっても目を引くのはまるで満月を直視しているかのように、金色に輝くツインテールだ。流星をイメージしたかのような髪留めが、その輝くツインテールをより引き立てている。

 

「ていうかこの娘……」

 

 前に立つ戦士と横に立つリアルを交互に見て疑問は確信に変わる。

 髪型こそ違うが間違いない。

 リアルと前の戦士は――同じ顔をしている。

 

「急いでたからまだ話してなかったね……」

「リアル?」

「この世界に迫ってる脅威ってのはエレメリアンのことじゃないよ」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で、リアルは淡々と話し始めた。

 

「脅威ってのは……今、私らの目の前にいるツインテール戦士のことだよ。私の出身の世界を守っていたツインテールの戦士――そして私の双子の妹だよ」

「はあ⁉︎」

 

 衝撃の事実に思わず声を荒げてしまった。

 ツインテールの戦士が属性力を奪っていることだけでもかなりの衝撃であるし信じたくもないのに、その戦士がまさかリアルの双子の妹だとは。リアルと同じ顔をしているのはそういうことだったのか。

 ただ、意味がわからない。どうして世界を守るはずの戦士がツインテール属性を奪うこととなっているのか。

 

「間違ってないよね、妹? いえ、リアルミーティア!」

 

 リアルの言葉を聞いて妹……いや、ツインテールの戦士・リアルミーティアはようやく表情を変えて口角を上げた。

 



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ADDITIONAL FILE.2 禁断のツインテール宣戦

リアル
性別:女
年齢:17歳
誕生日:2月2日
身長:166cm
体重:51kg

異世界から来た科学者。双子の暴走を止めるため、テイルホワイトに協力を求める。妹と違い彼女自身はツインテールの戦士ではないものの、ツインテール属性は非常に高い。


 リアルミーティア。

 私がアルティメギルに対してテイルホワイトと名乗っていたように、金色(こんじき)のツインテールを持つこの少女はそう名乗っていたらしい。

 ミーティアというのは確か流星や隕石の意味があったと思う。そう考えると、彼女の纏うコスチュームは宇宙をイメージしたものだと納得できる。

 頭のリアルというのは……お姉さんの名前そのままの意味なのだろうか。

 その双子のお姉さんであるリアルが一歩前へ出ると、説得を試みる。

 

「いい加減にやめなよ! ツインテールの戦士がツインテール属性を奪うだなんて、間違ってる!」

 

 リアルの言葉には反応せず、リアルミーティアは私へと視線を移す。

 

「なるほど、理解しました。姉がこちらへ連れて来たということは、あなたがテイルホワイトですね。私を止めるために現れた、ね」

 

 容姿だけでなく、声もよく似ていた。若干妹のほうが高いだろうか。

 リアルがここに来ることもわかっていたらしい。

 

「たったいま姉が言ってたけど一応、ね。私はリアルミーティア。見ての通り、ツインテールの戦士です」

 

 自らのツインテールを自慢するように揺らして、リアルミーティアは昂然と胸を張る。

 彼女は間違いなく、自身がツインテールの戦士であることを誇りに思っている。だからこそ、それを感じた私は怒りを抑えられない。

 

「ならどうして! ツインテール大好きなんでしょ⁉︎ ツインテールを守るはずのあなたが……どうしてツインテールを奪う側に回ってるの⁉︎」

 

 リアルミーティアは表情を何一つ変えることなく、驚くべき言葉を次々に口に出してくる。

 

「理解しているじゃないですか。そうです、私はツインテールが好きですよ。大好きですよ」

「なら!」

「大好きなものを集めて、自分の世界へ持ち戻ることがそんなにおかしいことでしょうか?」

「……は?」

 

 言葉の意味が理解できず、絶句してしまう。

 そんな私に気にすることなく、悠々とリアルミーティアは話を続けた。

 

「姉から聞いてませんか? 私の世界はエレメリアンに属性力を奪われ尽くしたんです。ツインテール属性ももちろん、ね。あなたには想像できないでしょう。なにも輝くもののない灰色の世界は」

 

 ここで初めて、リアルミーティアは表情を曇らせた。

 聞いていなかった……。

 リアルの方へ目を向けると、彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。

 頭を下げる必要なんかない。自分にとって辛い記憶を、わざわざ口に出して言えだなんて、私は言わないんだから。

 脳裏に、右手にはめた白い腕輪を開発した少女の顔が浮かぶ。彼女の故郷も、アルティメギルによって属性力を狩り尽くされてしまったと話していた。

 

「そして世界に属性力が戻ることはありませんでした。だから私は、決意したんです。世界に属性力を、まずは私の大好きなツインテール属性を世界に再び芽吹かせることを!」

「まさか……」

「異世界のツインテール属性を集め、私の世界に拡散し、大好きなツインテール属性を世界に溢れさせる! 言いましたよね? 大好きだからですよ。大好きだから私はツインテール属性が欲しいんです」

 

 大好きだからツインテール属性を奪う?

 自分の世界のために、異世界の人々からツインテール属性を奪う?

 嬉々として話す彼女からは罪悪感など微塵も感じられない。

 狂気だ。ツインテールを好きというのがいくところまでいった結果、ツインテールを守るはずの戦士はこうなってしまうのだろうか。

 いや、こんなわけがない。私は知っていたじゃないか。

 ツインテールが好きすぎて、男から女になって戦っていた戦士を。

 ツインテールが好きすぎて究極のツインテールと呼ばれていた戦士を。

 ツインテールが好きすぎてアルティメギルを壊滅させた戦士を。

 自分の世界のためとはいえ、ツインテールが好きだから異世界から奪おうだなんて考えは間違っている。なら、彼女の間違いを訂正しなければ。そうしないと彼女自身、絶対に後悔することになる。

 

「あなたね……!」

 

 リアルが口を開きかけたところ、私が腕を挙げて制止する。そして、その挙げた腕を胸の前に持ってくる。

 最後の変身からもう半年も経つ。

 引退すると宣言して、長々とインタビューまで受けたというのに……まさかまた変身することになるなんてね。

 

「リアルミーティア。あんたならわかってると思うけど、ツインテールの戦士は属性力を守るために戦うの」

「当たり前ですよね」

「なら、覚悟してよね。この世界の戦士の私があんたのやってることを黙って見逃すわけない。私はこの世界を守るために、戦う!」

 

 変身するための方法はもちろん覚えている。なんだって私は一年近く、この白い腕輪・テイルギアを使って戦ってきたんだから!

 私は戦う。

 相手が属性力を狙っているのならエレメリアンだろうと、たとえ人間だろうともそれは変わらない。

 目を閉じて、私は念じる。

 変身したい。変身して、この世界を守るために戦いたい。

 そして半年ぶりに、私は変身コードを口にする。

 

「――テイルオン!」

 

 瞬間、右手のテイルギアを中心として、半年前と変わらぬ眩い閃光が放たれた。

 一瞬の間に白い装甲が全身に装着され、私の髪は銀色になり、戦士の証たるツインテールが風に靡いていた。

 半年ぶりだけど、特に異常などは感じられない。さすが、あの泣き虫博士が作っただけのことはある。

 

「素晴らしいです……! ツインテールはもちろんですけど、その属性力! それだけのツインテール属性があれば私の世界の復興はかなり進みますっ!」

 

 変身した私を見て、恍惚とするリアルミーティア。

 やはり私のツインテール属性も狙っているらしい。ツインテール属性を狙うのなら私を除外する理由はないし、それは妥当だろう。

 

「テイルホワイト。妹は世界から属性力が失われた後、いくつもの世界を回ってツインテールの戦士を倒してきた。彼女は強いよ。気をつけて!」

「いくつもの世界を……。なら、ここで絶対に彼女を止めてみせる。必要のない戦いをこれ以上続けさせない」

 

 リアルミーティアに向かって歩きだす。

 エレメリアンとは数え切れないほど戦ってきたけれど、ツインテールの戦士と戦うことはあまりなかった。

 久しぶりの変身で相手がツインテールの戦士だなんて、非常に重い戦いになりそうだ。

 テイルホワイトとして、初めて私はリアルミーティアと対峙した。

 

「やはりツインテールの戦士は素晴らしいです。ツインテールも、ツインテールに対する想いも、一般人の比ではありません、ね。私、感動しました」

 

 頬を赤らめながらリアルミーティアは両手で自分の体を抱きしめて震えると、ピッチに埋まった光輪へと近づく。

 

「な、何をする気なの?」

「気が変わりました。この世界で最初に手に入れるツインテール属性はテイルホワイト、あなたの物がいいです」

「っ⁉︎」

 

 ピッチに埋まった光輪を起こしてリアルミーティアはそれのどこかを弄ると、輪の内側から光の粒子が辺りに弾け飛ぶ。

 これは、ツインテール属性だ。以前、エレメリアンに奪われた量とは比較にならない。いったいどれだけのツインテール属性を、リアルミーティアは奪ってきたと言うんだ。

 そして気が変わったとはいえ、それをあっさりと持ち主に戻すとは……何を考えている。

 

「属性力は返してもらったといっても、あなたの考えは変わってないんだよね?」

「優先順位が変わったに過ぎません。テイルホワイトのツインテール属性を貰い受けた後、再び全てのツインテール属性を貰います」

「悪いけど私自身も、他のツインテール属性もあげる気なんかこれっぽっちもないから!」

 

 リアルミーティアの次の言葉を待たずして私は一足で彼女の眼前に飛び込む。久しぶりの変身だけど、テイルギアを動かす感覚は問題ない。そのまま私は掌底を繰り出す。

 ここまでいきなり距離を詰められれば、防御するのは間に合わないだろう……そう思っていたのも束の間のことだった。

 

「ふふ、甘すぎます」

「なっ⁉︎」

 

 確かに私は、彼女の体に目掛けて掌底を仕掛けたし、掌は彼女に当たる寸前だったはずだ。だが、私の掌と彼女の間にはいつのまにかステッキが構えられ、攻撃はしっかりと受け止められていた。

 私が攻撃が決まったと確信してから、彼女はステッキで防御するという行動をとったいうことか。早技なんてレベルじゃない……!

 リアルミーティアは続けて、私の心を見透かしたように話しかけくる。

 

「テイルホワイト、あなた人間が相手だから拳を使わなかったんですか?」

「……だからなに?」

「ツインテールを傷つけたくないのは同意しますけど……情けは自分の首を絞めるだけです、よ!」

 

 一瞬の動揺を見抜かれたか、リアルミーティアは力一杯ステッキで押すとそのまま左足で蹴りつけてきた。

 ギリギリ両腕を交差させて防御することに成功するが、十数メートル芝を抉りながら後退する。

 

「この……!」

 

 再び彼女に向かおうとしたところで、無数の光弾が迫っていることに気がつき、なんとか右へ左へ交わしていく。

 こんなものを繰り出す能力まで持っているのか……!

 穴の空いたピッチに目を向けていると、私の耳に聞き慣れない電子音声が入ってきた。

 

SHOOT MODE(シュートモード)

 

 驚いてリアルミーティアへ目を向ける。

 するとなんと。彼女が先ほどまで握っていたステッキは拳銃のような形状へ変化していた。

 銃口をこちらへ向けるリアルミーティアはしたり顔で言う。

 

「''エモーショナルステッキ''。戦況に応じて形を変えることのできる、頼りがいのあるアイテムです、よ!」

 

 言うが早いか、リアルミーティアは再びいくつものの光弾を発射。

 なんとかして全て避けようとするも、数の多さに翻弄され何発かは体に浴びてしまう。しかし、一発の威力はそこまで大きなものではない。

 このまま距離を詰められなければ、私が有効打を放つことができないことをわかっているのだろう。リアルミーティアは休むことなく光弾を放ち続けた。

 

「こうなったら……!」

 

 光弾を避け続けいつの間にかピッチの脇に追い詰められていたが、近くのベンチの裏側に回り込むと、すぐさまそのベンチをリアルミーティアへと蹴り飛ばした。

 

「そんなものが私に当たるわけないでしょう!」

 

 私が蹴り飛ばしたベンチは、リアルミーティアに当たることなく撃ち落とされバラバラになってしまう。だけど、そんなことは私だってわかってる。

 バラバラになったベンチの後ろから飛び出して、今度はしっかりと拳を作り、リアルミーティアへ殴りかかる。

 

「そんなっ⁉︎」

「はああああああ!」

「くっ!」

 

 ギリギリのところで防御されてしまったが、少しはダメージを与えられただろうか。

 ピッチを転がるリアルミーティアに肉薄し、追い討ちしようとしたが……それは叶わなかった。

 

SLASH MODE(スラッシュモード)

 

「ちょっ⁉︎」

 

 女性のような電子音声が流れたと同時、光の刃が目の前で振り下ろされ、ピッチが大きく抉れる。

 リアルミーティアがいま手にしているのは、刀身が一メートルあろうかないかという剣だった。一瞬の間に、銃から剣へとステッキは姿を変えたのだ。

 

「近接戦で挑むしかないでしょうけど、あまり近づいては危険です、よ!」

 

 そう忠告しながら、決して大振りすることなくリアルミーティアは剣を振るいはじめた。

 先ほどの銃といい、剣といい、彼女は扱いにはかなり慣れている。上手く隙を作らないように剣を振るその立ち振る舞いは、長い時間研鑽されたものだろう。

 再び私は防戦一方となり、たまらず大きくバックステップする。しかし――

 

SHOOT MODE(シュートモード)

 

 電子音声が聞こえたと同時、またもや光弾の雨に襲われる。

 リアルミーティアは近距離の攻撃も、遠距離の攻撃も全てに対応できる力がある。ただその力を持っているだけなのではない、しっかりと使いこなしているのだ。これは……厄介だ。

 ただ私にも、リアルミーティアのエモーショナルステッキと同じように使いこなした……一年近く使い続けた武器がある!

 ツインテールを形作るための装甲、フォースリボンを手の甲でかきあげるように触れると、眩く発光し腕に凝縮されていった。

 

「アバランチクロー!」

 

 一年前は毎日のように両腕に装備してエレメリアンと戦っていたが、半年ぶりに装備する私の武器は思ったよりも重く感じる。ただ、動かすのにまったく問題はないだろう。

 変わらず光弾を連射するリアルミーティアに向かい、クローでガードしながら接近する。

 

SLASH MODE(スラッシュモード)

 

 スタジアムに金属同士がぶつかるような鈍い音が響き渡る。

 剣へと姿を変えたステッキの斬撃はクローの手甲で受け止められていた。もちろん、クローには傷など一つもついていない。

 クローで剣を弾き、クローによる追撃。

 リアルミーティアの持つ剣は、元はステッキとはいえ今は両手剣だ。

 両手で扱うことが前提の一本の剣と、片手で扱うことが前提の私のクローでは手数に差があるのは必至。目に見えて戦況は逆転していく。

 

「テイルホワイトの武器に剣では相性が悪いです、ね。ならばその武器、砕くまでです!」

「そんななまくらで私のクローが砕けるわけないでしょ!」

「いいえ。武器や装甲を砕くのは剣の仕事ではありません、よ!」

 

 大きく後退したリアルミーティアを追って、更なる一撃を加えようとしたその時――左腕に今までの比ではない痛みが走った。

 

「クローに、ひび……⁉︎」

 

 斬撃ではひびはおろか、擦り傷一つつくことのなかったクローの手甲が大きくひび割れている。

 

HIT MODE(ヒットモード)

 

 新たな電子音声があたりにこだまする。

 リアルミーティアが手にしていたのは今まで手にしていた銃でも剣でもない。

 柄は彼女の身長と同じぐらいの長さを誇り、その先に付いているのは前後に伸びた鉄のような塊。父親が使っているのは見たことあるが、彼女の持つものよりも全然小さい。彼女が持つその何倍もの大きさのそれは、私の知る工具ではなかった。

 

「それって、ハンマー⁉︎」

 

 リアルミーティアは肩に担いでいたハンマーのヘッドを、誇示するかのように芝へと叩きつける。力を入れていないようだが、それだけで芝に深々と埋まってしまった。

 

「言いましたよね。このエモーショナルステッキは戦況に応じて形を変えると。スラッシュモードの剣にシュートモードの銃、そしてヒットモードのハンマー。さて、あといくつあると思いますか?」

「まだなんかあるっていうの……!」

 

 確かテイルギアを作った彼女によれば、多少の傷や破損は自動で修復してくれると言っていたはずだ。もしもバラバラになってしまえば、メンテナンスできる彼女がいないこの状況では二度と使えなくなってしまう。手数が減るのは惜しいけど、ここは念のために最善策を取るべきだろう。

 ひび割れた左のクローを腕から外すと、すぐに光の粒子となってフォースリボンへ収納されていく。

 

SLASH MODE(スラッシュモード)

 

「さて、これでテイルホワイトに数の利はありません。シュートモードでは防御されてしまいますし、やはり決めるならこちらでしょう、ね!」

 

 一瞬の間にハンマーが剣へとかわり、リアルミーティアは上から、下から、右から左から斬撃を繰り返す。

 彼女の斬撃は早く、そして重い。攻撃は防げていても、やはり右腕のクローだけでは反撃することなど不可能だ。

 

HIT MODE(ヒットモード)

 

 剣からハンマーへと変化したの見て、私はクローを砕かれまいと防御ではなく避けることを選択する。しかし――

 

SLASH MODE(スラッシュモード)

 

「なっ⁉︎ つあっ‼︎」

 

 ハンマーの大振りなら軽々と避けられたに違いない。しかしリアルミーティアは、私がそう感じるのを読んでいた。

 ハンマー振りかぶった瞬間に剣へと変化させ、そのまま一閃。

 虚をつかれた私はクローでの防御が間に合わず、もろに一斬を受けたテイルギアからは激しく紫電が走った。

 フォトンアブソーバーを超えて、私自身にも強烈な痛みが走る。

 

「くっうう……!」

 

 ピッチに膝をつき、二の腕をおさえる。

 無防備な私に向かって、リアルミーティアは悠然とした表情で歩み寄ってくる。

 このままではまずい。すぐに立ち上がろうとしたところで、私とリアルミーティアの間に一人の少女が割って入る。

 

「もうやめだよ。ツインテールの戦士の癖にツインテールの戦士を傷つけるなんて……いつまでそんなこと続ける気なの⁉︎」

「……」

 

 リアルだ。

 妹の暴走を悲しんでいるのか、姉として妹を止められなかったことに罪悪感を感じているのか、はたまたその両方か……その目には大粒の涙を浮かべている。

 だがその思いは、リアルミーティアには届かなかった。

 

SHOOT MODE(シュートモード)

 

「邪魔ですよ!」

「⁉︎」

 

 容赦なくステッキを銃へと変化させると、なんとそのまま光弾をリアルに向かって発射する。

 考える間もなく私はリアルの前へ立つ。そして――

 

「リアル……! ああああっ‼︎」

「テイルホワイト‼︎」

 

 多少はクローで防いだものの、かなりの数の光弾を体に浴びて、その場へ倒れてしまった。

 

「あらら、姉のおかげで勝負がついてしまいましたか?」

 

 酷く落胆したように、リアルミーティアは大きくため息をついてからそう言った。

 

「テイルホワイト! ごめんなさい、私のせいで……」

「平気……ではないけど……まあ平気」

「あ、あれだけの攻撃を受けて……。その装甲、本当にすごいね……」

 

 自分自身にダメージは確かにあるけど、改めてフォトンアブソーバーの凄さを実感した。

 リアルの驚きようを見ると、どうやらこのテイルギア。私たち以外の異世界の人から見ても、これを作り上げた科学力は計り知れないレベルなのだろう。

 

「な、なんだ……あれ」

「え! あれテイルホワイトじゃねっ⁉︎」

「おいおい! 他にもう一人いるぞ!」

「ツインテールじゃない娘もいるわ!」

 

 どうやらツインテール属性を奪われたせいで気を失っていた人々が意識を取り戻しはじめたようだ。意識を取り戻す人が増えていくたび、スタンドのざわめきは大きくなっていく。

 それとほぼ同時、大きな音が近くなってきたかと思うと、国立競技場の上空に一機のヘリコプターが現れる。

 警察のヘリコプターではない……となるとテレビ局のだろうか。

 

「どうやらテレビカメラで中継されてるみたいだよ」

「そりゃこれだけ暴れてれば誰か通報するか……」

 

 上空から見たら、国立競技場はより凄惨に映るだろう。

 いきなりツインテールの少女が現れて、国立競技場をめちゃくちゃにしたとなれば、速報扱いは間違いないか。めちゃくちゃにした要因は私にもあるとはいえ。

 

「テレビ中継か……」

 

 ヘリコプターから視線を外し、私は立ち上がるとクローを地面から引き抜いて、再び右手に装備しなおす。

 

「テイルホワイト。あまり無理すると……!」

「無理はするって。ツインテール属性もその他の属性力も、守れるのは私たちしかいないんだから」

「わ、私たち?」

 

 ヘリコプターを興味深そうに眺めていたリアルミーティアは、ようやくこちらへ向くとそのまま銃を構える。

 

「自分で言うのも恥ずかしいけど、私もエレメリアンと戦っていた頃はまあまあ人気があったの。それこそ町がテイルホワイトばっかりになるくらい」

「それだけのツインテールを持っていれば当然ですよ。この世界以外でも同じ扱いを受けるでしょうね」

「そうかな。それでさ、どんだけ自信過剰なんだって思われるかもしれないけど……テレビを含めて今現在メディアの間じゃテイルホワイトの話題で持ちきりだと思うの。もちろん、リアルミーティアもそうだけど」

「……何が言いたいんでしょう」

 

 私の言葉を訝しんだリアルミーティアは、トリガーにかける指に力を入れる。

 

「私がテイルホワイトとして戦ってるこの状況をテレビカメラの向こうにいる人たちに知ってもらう。これが逆転の一手になるってこと」

 

 口を開け呆気に取られるリアルミーティア。

 次第にその表情は崩れ、肩を小刻みに震わしはじめる。そしてついに耐えられなくなり、大きく笑った。

 

「あ、あはははは! なんですかそれ! 応援が力になるということでしょうか。まあ確かに、気休めにはなるかもしれませんね!」

 

 応援が力になる、か。

 そうか、そういう効果もあった。確かに劇的に強くなるというわけではないが、応援は力になると思う。

 だけどね、今はそうじゃない。

 その効果は後で……本当にどうしようもなくなったときのためにとっておこうと思う。

 

「あははは……は?」

 

 未だ笑うリアルミーティアをよそに、私は大きく右腕の……テイルブレスを空に掲げた。その動作を前にしてようやく彼女の笑いは止まる。

 そして私はこれまた半年ぶりに、このこの名前を叫ぶ。

 協力が不可欠なんだから……頼むよ、志乃!

 

「――エレメリンク!」

 

 その瞬間、辺りを昼と錯覚させるほどの閃光がテイルブレスから放たれ、コアに刻まられていたツインテールのエンブレムが違う形に変化する。

 

三つ編み(トライブライド)!」

 

 光の幕が全身を覆い、それが剥がれ落ちる。

 私の髪型はツインテールから三つ編みになっており、体の装甲も多くなっていた。

 テイルホワイト・トライブライド。

 遠距離からの攻撃に対して対処しにくい、ノーマルチェインの欠点を補うテイルホワイトのフォームの一つだ。

 

「ツインテールじゃ……ない⁉︎」

「さすがに驚いた? 私の友達にすごい三つ編み属性の娘がいて、その娘の協力ありきの形態だけど」

「でたらめすぎます! あなたツインテールの戦士じゃないですか!」

 

 三つ編みの先についたフォースリボンを指で弾くと、右腕に盾と銃が一体となった重々しい銃器、フロストバンカーが装着された。

 

「そっちが武器を自在に変えて戦うなら……こっちはフォームチェンジで対抗あるのみ!」

「ツインテール属性こそが最強。だから戦士はツインテールになるんです! 三つ編みになったところで、戦況が変わるとは思えません、よ!」

 

 言い終えたその瞬間、リアルミーティアは何発もの光弾を発射する。

 何発か体に受けてわかったけど、あの光弾一つ一つはそこまでの威力じゃない。全て当たれば致命傷になり得るかもしれないが、それが起こること決してない。なぜなら、フロストバンカーで全て撃ち落としてしまうからだ!

 左手を添えて右手でトリガーを引くと、三門の銃口からそれぞれ光弾ではなく光線が発射され、リアルミーティアの光弾を飲み込みながら彼女に迫っていく。

 

「そんなっ⁉︎」

 

 リアルミーティアはすんでのところで避けることに成功したが、まだ安心するのははやい。

 私は光線を発射したまま、フロストバンカーを薙ぎ払う。すると光線はリアルミーティアの脇腹辺りへ直撃し、爆発を起こす。

 

「……」

 

 煙のせいで視界から外れたリアルミーティアを警戒しつつ、私は次の一手を準備する。

 そして煙が晴れる直前に複数の光弾の発射音が聞こえ、そちらに向かって光線を放つ。しかし、その先にリアルミーティアはいなかった。

 

「火力ではあなたの方が有利みたいなので、近接戦で決めさせてもらいます!」

 

 背後に回り込んでいたリアルミーティアは、いつのまにかステッキを銃から剣へと変形させていた。光弾の発射音で電子音声が聞こえないよう誤魔化したってこと……!

 避けることはできず、フロストバンカーで防御することも叶わない。

 ならば用意していた次の一手をここで使う!

 わかってるよね、嵐!

 

「目眩しですか⁉︎ 私には脅威足り得ません!」

 

 リアルミーティアが振り下ろした剣は、私を包む光に叩きつけられる。

 たまごの殻が割れるように、光はひび割れていき中から姿を表すのは――

 

「ポ、ポニーテール⁉︎」

 

 髪型を三つ編みからポニーテールへと変え、リアルミーティアの剣をこちらも剣で受け止めていたのは、私ことテイルホワイト・ポニーテールだ!

 

「これがエレメリンクで得たポニーテールの力! クロー一つだと剣を持った相手には苦労したけど、同じ剣ならそういかない!」

「返り討ちです!」

 

 ポニーテールで使う剣はブライニクルブレイド。

 出来るだけ装甲を薄くして動きやすくなったこのポニーテール形態では、攻めて攻めて攻めまくる。ノーマルチェインよりもさらに近接に特化した形態だ。クローから剣へと武器が変わったことで、相手に攻撃を与えるスピードも桁違いに早い。

 次第に互角の勝負から、一方的にこちらが攻め続ける展開へと変わっていく。そして次第に、リアルミーティアは焦りの色を隠せなくなっていった。

 

「こうなったら、その剣を砕いて……!」

 

HIT MODE(ヒットモード)

 

「それじゃ、私のスピードにはついて来られないよ!」

「そんな……⁉︎」

 

 リアルミーティアはハンマー振りかぶり剣の破壊を狙うが、その大きさと重量では振り下ろすまでに時間がかかりすぎた。

 ブライニクルブレイドの一斬でハンマーの柄が斬れる。すると、ハンマーの状態からただのステッキに戻りながら芝の上へと落ちた。

 リアルミーティアは力なくその場で手と膝をつく。

 

「エモーショナルステッキが……! こんなことに、なるなんて……!」

 

 見るとステッキはひび割れ、所々紫電が走っている。

 リアルミーティアの落胆ぶりからすると、どうやらもう武器として使うことはできないのだろう。

 

「勝負あり、かな」

「……いえ、まだです」

「何いってんの。もうあんた戦えないでしょ?」

 

 一応リアルミーティアとして変身はできているみたいだけど、エモーショナルステッキはどう見ても壊れてしまっている。

 状況を考えれば明らかに私が有利のはずだけど。

 

「別に今日で雌雄を決することはありませんよ、ね」

「だいぶ体もボロボロなのに、逃げることさえままならないでしょ」

 

 ここまで来たら根性があると褒めてやるべきか。

 いや褒めてる場合じゃない。早くリアルに連れて帰ってもらって、異世界から奪ったツインテール属性を返してもらわなければ。

 

「テイルホワイト!」

 

 リアルに声かけられ、彼女に視線を向ける。

 ピッチの端から焦って様子で走ってきているが、何かあったのだろうか。

 

「エモーショナルステッキは武器として使う以外にも使い道があって……!」

「また会いましょう! テイルホワイト!」

 

 リアルの言葉を遮って聞こえた言葉は自分より遥か上空から聞こえたものだった。

 驚いて空を見上げると、光の翼を展開させ、リアルミーティアが宙に浮かんでいた。

 

FLYING MODE(フライングモード)

 

 ジェット機のような速さで空を飛んでいった後に、あの電子音声が遅れて聞こえてきた。

 そういえばこの国立競技場に来たとき、彼女は遥か上空から降りてきた。完全に頭からそのことが抜け落ちてしまっていた。あーもうっ、私のミスだ……!

 

「ごめんね。私がもっと早く言っていれば……」

「ううん。私も油断してた」

「……とりあえず、ここからは出た方がいいかもね」

 

 リアルが横目でスタンドを見る。 

 スタンドはまるで今がサッカーの試合中かのような大盛り上がりの状態である。いつだかに嵐に見せてもらったイギリスのプロリーグを観戦するサポーターのような熱気だ。

 なるほど、これは早いうちに帰った方が良さそう。日本じゃありえないだろうけど暴徒化したりしたら怖いしね。

 

「よろしく」

「まかせてよ」

 

 リアルが転移装置を起動させる。するとスタンドにいる人たちの熱狂や、ずっと上空を飛んでいたヘリコプターの音が小さくなっていく。

 やがて辺りが白く発行し、私たち二人は光に包まれていった。

 



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ADDITIONAL FILE.3 禁断のツインテール宣戦

リアルミーティア
年齢:17歳
身長:166cm
体重:51kg

異世界でアルティメギルと戦っていたツインテールの戦士。エモーショナルステッキにより変身する。ステッキは状況に応じて変形させることができ「スラッシュモード」「シュートモード」「ヒットモード」「フライングモード」への変形が確認されている。また、それぞれの武器の練度は非常に高い。



 リアルミーティアは逃してしまったが、結果的に属性力は奪われなかったのは不幸中の幸いだろうか。それもリアルミーティアの気まぐれ……によるものなんだけど。

 スタジアムの騒ぎから逃げるように私とリアルは転移装置を使って自宅前へと移動。誰かに見つかる前に、リアルを連れて中へと入る。

 ちょうど親が旅行で家をあけていて助かった。いきなり家に連れてきたらまた説明がめんどくさいからね。

 

「ここがテイルホワイトの家……。プライベートの空間……」

 

 リビングに入るなり、目を閉じてリアルは言う。いきなりどうしたの、ねえ。

 

「なんか言い方が気持ち悪い。それと私は伊志嶺奏。テイルホワイトってのは変身したときだけだから」

「ああ、さすがに普段からテイルホワイトとは名乗ってないよね」

 

 私がソファーへ座るよう案内すると、リアルはニッコリ笑ってから深く腰掛けた。

 少しだけ腰を浮かせたり沈ませたりして、感触を楽しんでいる。まさかソファーのない世界から来たというわけではないだろうけど……。

 

「この世界のソファーは固いんだね」

「まああんまり高くないだろうけど……別に格安って値段でもないよ、きっと」

「ふふ、科学力じゃ私の世界の圧勝みたいだね」

「そこ張り合うとこ?」

 

 ソファー前のローテーブルにお茶を出し、私はリアルの向かい側に座る。

 お茶を一口飲んで「おいし」と呟くと、またも興味深そうにリビングを見回す。この世界とリアルのいた世界では家の内装にそんな違いがあるのだろうか。そう疑問に思ったが、そもそもこの世界でも日本と外国とではだいぶ違うことに気づいた。

 

「それで、話してくれるの? リアルの世界のことと、リアルミーティアのこととか」

 

 私はただ一緒にお茶をするために、リアルを家にあげたわけではない。

 リアルミーティアとの決着はまだついていない。彼女は諦めていなかった。近いうちに必ずもう一度、私とこの世界のツインテール属性を奪うために行動をはじめるだろう。

 リアルミーティアの事情を知るのは姉であるリアルだけ。彼女から話を聞けば、次に戦うときに役に立つことがあるかもしれないのだ。

 

「もちろん言いたくないことは、言わなくても構わないから」

 

 お茶を全て飲み干してから、リアルは神妙な面持ちで口を開く。

 

「妹が言っていた通りだよ。私の世界は数ヶ月前、エレメリアンによって属性力を奪われてしまったんだ。私たち以外の全て、ね」

「リアルたちは無事だったんだ」

「ええ、妹に守られたおかげでなんとか属性力を奪われずに済んだんだよ」

 

 身内の属性力は奪われまいと、必死に抵抗したのだろうか。

 だけど、リアルミーティアは姉に対して容赦なく攻撃を仕掛けていた。いったい彼女に何があったというんだろう。

 

「ツインテール属性が高いとして戦士に選ばれた妹をサポートするのが私の役目だった。アルティメギルがわざと流出させた技術でエモーショナルステッキを開発したのはこの私だよ」

「じゃあやっぱり、リアルミーティアの''リアル''って」

「私のことだよ。妹は『姉さんのおかげで私は戦えるんです。私たちは二人で一人の戦士です』ってよく言ってくれていた」

「それならなおさら、彼女がああなったのはどうして……」

 

 リアルは唇をかみ、膝に置いた手を震わせている。

 

「ツインテール属性が、世界の属性力が戻らなかったからだよ」

「え?」

「テイルレッドという戦士がアルティメギルの首領を倒して……アルティメギルが壊滅すれば、世界に属性力が戻ると信じてた。だけど……私の世界は灰色のまま。なんの色もない、属性力の輝きのない世界のままだった」

「それで、彼女は変わってしまった……」

 

 リアルは小さく頷く。

 そういえば、前に私は教えてもらったことがある。人から離れた属性力がその人と繋がっていられるのはおおよそ二十四時間くらいだと。

 そのことを知らなければ、アルティメギルの首領を倒せば属性力が戻ってくると考えるのは自然なことだろう。

 ただ、リアルたちは信じていたのにそうならなかった。

 信じていたものが裏切られたときの絶望は計り知れない。それこそ世界から属性力を奪われたときと同じか以上に、彼女たちは……。

 その結果が、リアルミーティアの暴走というわけか。

 原因はわかった。ただそれ以外にも、私には気になることがある。

 

「人から属性力を集めたところで、他の人に属性力を移すなんてことできるの? そもそもなんでリアルミーティアはあの輪っかを使うことができるんだろう」

「さあ……。そればっかりは私もわからないよ。ただ、あの娘がまったく根拠のないことをするとは思えないんだよね」

「人間から人間へ属性力の移し替え、か……」

 

 そんなこと本当に可能なんだろうか。

 でもリアルの言う通り、できもしないのに大好きなツインテールを奪うなんて考えにくい。そうなると、見方によって彼女はエレメリアンと同じようになってしまうだろう。今もだいぶギリギリではあるけど。

 重苦しい空気にリビングが包まれた、その時。

 ピンポーン。

 インターホンの音がリビングに響いた。

 こんな時間に誰だろう。両親が帰ってくるのは一週間後だし、最近通販で服を買った記憶もない。

 

「お客さん?」

「さあ……」

 

 もしかしたら回覧板か何かを回しにきたのかもしれない。

 ポストに入れておいてもらうのも手だけど、居留守を使うのもなんだか気分が悪いし出ないわけには行かないか。なるべく近所の人から悪いイメージは持たれたくないしね。

 玄関に向かい、二重の錠を解除して扉を開けると――

 

「――うえええええん! かなで無事でよがったよおおおお!」

「志乃⁉︎」

 

 志乃は大号泣しながら玄関に飛び込んでくると、そのまま私に抱きつきなおも泣き続ける。

 志乃の大きい胸が体に当たっている。本人にその気はないのはわかっているけど、なんだか嫌味に感じるからとりあえず離れてほしい。いやいや、私は自分の胸の大きさがちょうどいいって思ってはいるんだけどね!

 

「えっと、もしかして私は邪魔だったりするかな?」

 

 泣きじゃくる志乃をあやしているとリアルがリビングから顔をひょっこり出してそう言う。冗談を言っているつもりなら真顔じゃなくて少しはニヤついててほしいんだけど。

 

「いや、そういうのはいいから」

「なんだい。ノリが悪いね」

 

 とりあえず志乃を落ち着かせ、リアルと同じようにリビングに案内する。

 ようやく泣き止んだ志乃にもお茶を出し、手短に今日のことをザッと説明した。

 

「私が双子の姉のリアルだよ。よろしくね、シノ」

「うん、こちらこそ! 私は奏がテイルホワイトだってことを知ってる親友なの。それにね、これ!」

 

 志乃が得意げになって見せたのは、テイルブレスによく似ている……しかしカラーリングの違う黒い腕輪。

 私がテイルホワイトになったとき、三つ編みの形態になるために必要とする要素の一つ、リンクブレスだ。

 

「ま、まさか! シノ、君もツインテールの戦士……!」

「えっへへー!」

 

 鼻の穴を広げてドヤ顔をする志乃。

 決して間違っているとはいえないけど、どうもリアルの言うツインテールの戦士と志乃は違うと思うんだよなあ。

 志乃はまったく訂正する気がなさそうなので、横から口を出しておく。

 

「志乃も私と一緒に戦ってくれてたの。戦ってるときに私が三つ編みになったでしょ? あれは志乃が強い三つ編み属性を持ってるからできることなの。エレメリンクって言うんだけど」

「ああ、あれはびっくりしたよ! 三つ編み以外にもポニーテールにもなってたよね。もしかしてあれも……」

「そ! 三つ編みは私、ポニーテールは嵐っていうもう一人の人がリンクブレスを使ってテイルホワイトとエレメリンクしてるの」

「そ、そんなことができるんだね」

 

 改めて聞かされて、やはりリアルは驚いている。

 リアルミーティアも、私と戦ってきたエレメリアンもツインテールの戦士が髪型を変えているのにはすごいビックリしていたし、やはりあまりないことなんだろうな。

 

「そのブレスはいつも腕にはめているの?」

「んーん。腕につけるのはほんとに久しぶりだよ」

「え、じゃあ今日はどうしてシノも、もう一人のアラシもエレメリンクが必要だとわかったの?」

「だって、テイルホワイトが現れたーってすごいニュースになってたから。ね、奏!」

 

 満面の笑みで振り返りこちらを見る志乃に私は笑いかえす。

 リアルはまだいまいちわかっていないらしく、私と志乃の顔を交互に見ていた。

 

「テイルホワイトが戦ってるなら、すぐ手伝えるようにするのは当然だから。ニュースを見た瞬間すぐにブレスをはめて準備してたの。たぶん嵐もね」

「……なるほど、ね。互いが互いを信じているから、シノはブレスをはめて準備していたし、カナデは疑うことなくエレメリンクを使用したってわけか」

 

 そう、私は志乃も嵐のことも信じていたから。

 二人がリンクブレスを持ち歩いていることは前々から知っていたし、テイルホワイトが戦っていることが二人に伝わりさえすれば……エレメリンクは可能だと確信していたのだ。

 結果的にエレメリンクのおかげで、とりあえずはリアルミーティアに勝利することができたし、二人には感謝しかない。

 

「すごいよ、君たちは……心が繋がっている。それ比べて、私たちは……」

 

 リアルは俯き、弱々しくそう言った。

 人の考えは自由だし、リアルがそう言うなら間違いないかもしれないけど……私はそう思わない。

 

「それは違うよ、リアル」

「え?」

「エモーショナルステッキってリアルが開発したんでしょ?」

「そ、そうだけど……」

「私からしたらすごい厄介な武器だった。剣だったり銃だったりハンマーだったり……それを扱うリアルミーティアはもっと。でさ、武器を使いこなすにはやっぱり信頼がないとダメだと思う。状況に応じて的確にステッキを変形させての戦いはステッキを信用しているからこそできるものでしょ。それはつまり、開発者のリアルを信じてるってことじゃダメかな」

「……!」

 

 ただの詭弁かもしれない。

 だけど、姉と妹の心が繋がっていないなんてそんなことあるはずない。

 リアルミーティアは今、殻に篭っているだけだ。その殻を私たちが破ることさえできれば、姉妹はわかりあえるはずだ。

 リアルミーティアは絶対に私が止める。

 彼女自身のためにも、そして姉であるリアルのためにも。

 

「ん、ラインだ。嵐から? んーと『大会の反省会で行けそうにない。悪い』だって」

 

 いや、別に来て欲しいとは思ってないけど……なんだか雰囲気に水を差された気分だ。

 スマホを確認すると、まったく気がつかなかったけど私にも嵐からラインが来ていた。既読にならなかったから志乃に送ったのだろうか。

 そういえば、今日はサッカーの試合でわざわざ東京にまで応援に行っていたのだった。そのまま今回の騒動に巻き込まれてしまって……なんだか久しぶりに疲れたな。

 

「とりあえず、今日のところはリアルミーティアは大人しくしててくれるのかな」

「テイルホワイトとの戦いでエモーショナルステッキはかなり損傷したはずだし、おそらく何日かは動けないと思うよ」

「そっか。でもできれば彼女が動き出したら早くに駆けつけたいけど、あの基地が使えれば……」

「基地? テイルホワイトの基地?」

 

 ああ、そういえばまだ話していなかったっけ。

 私はリアルに、テイルホワイトが活動していた頃に使っていた基地のことを話した。テイルギアを開発した少女が作ったこと、ハイテクな設備が揃っていること、半年前に封鎖してしまったこと。

 もしも今でも使えるのならばとても心強いのだけど……。

 

「使えるよ」

「へ?」

 

 黙っていた志乃が、当然のようにそう言ったので思わず変な声が出てしまった。信じられず何度か志乃に確認すると、どうやら本当に使えるらしい。

 まさか……最後の日、私と志乃と嵐とで基地が封鎖されたのはしっかりと確認したはずなのに。

 

「実は言ってなかったけどこのリモコンね、カバーがついててその下にもう一つボタンがあるの」

 

 基地を封鎖したあのリモコンをリュックから取り出して、志乃は大きなボタンのすぐ下をスライドさせると、もう一つボタンが現れた。

 封鎖するときに志乃が持っていたのをチラッと見ただけだったので全然知らなかった。

 もしものことを考え、あらかじめあの娘が準備しておいてくれたんだ。本当に……年下なのに頼りがいのある天才科学者だ。

 基地が復活するのなら話は早い。

 私たち三人は互いの顔を見て頷く。

 

「行こう、私たちの基地へ」

「どこにあるの? まさかここの地下?」

 

 私と志乃はかぶりを振る。

 とても惜しいけど違う。

 私たちがテイルホワイトとしてエレメリアンと戦い、その全てを支えてくれた前線基地の場所は――

 

「私たちの高校、園葉高校の地下!」

 

 

 夜の町を歩き、私たちは園葉高校へ到着した。

 まだ夜の八時なのでお巡りさんによる補導の心配ないが、問題はここからだった。

 夏休みとはいえ、この時間なら巡回している教師か警備員がいるだろう。校舎に入ること自体は容易いことだけど、もし見つかってしまったら大目玉を食らう。

 

「こういうのやってみたかったー! なんかドキドキするねっ!」

 

 志乃はやたらと楽観的だ。

 閉まっている校門を乗り越え、私たちはとりあえず職員玄関へと向かう。夏休みの今、たとえ部活があったとしても昇降口は閉じており、校舎内に入れるのは職員玄関のみだとクラスメイトから聞いていた。

 職員玄関前へと着き、中を覗き込んでみるも人の気配は感じない。

 これはチャンスだ。ドアノブを捻り、開けようとするも……びくともしなかった。

 

「開いてるわけないか……」

「テイルホワイトになってガラスを割るのは?」

 

 ちょっとちょっと、リアルったらとんでもないことを言い出しましたよ。

 

「いやいや、ガッツリ犯罪だからそれ」

「奏、私たち夜の学校に侵入しようとしてる時点で……」

 

 いや、確かにそうだけども!

 さすがに学校のガラスを割るっていうのはかなり抵抗がある。小学校だか中学校だか忘れたけど、いたずらでガラスが割られてかなりの大騒ぎになったことあるし。

 そもそもガラスを割るなんてことしたら警備会社が飛んできそうだ。

 それ以外に校舎に入るためのルートはあるだろうかと悩んでいると。

 ライン。

 志乃のスマホから聞こえた。ラインの通知だ。

 

「あ、よしよし。二人とも、こっちだよ」

 

 スマホを見てグッと拳を握った志乃は、上機嫌で後者の脇を走っていく。私とリアルは顔を見合わせてから、志乃を追いかけた。

 数十メートル走ったところで志乃は立ち止まり、こちらへ振り返る。

 

「ここ、サッカー部顧問の桜川先生が担任してる三年五組の教室。えーっとここの端っこの窓が、開いた!」

 

 志乃はスマホを見てから、教室の端についた窓をスライドさせてすんなりと開けてみせた。

 サッカー部の顧問が担任の教室……ってことは。

 

「嵐に頼んでたんだ」

「そ! サッカー部は人数が多くて部室じゃ収まりきらないから、反省会してるならどうせここだって思ったの。だから来る前に嵐にお願いしておいた」

「ナイス読み、志乃」

 

 嵐にも一応、心の中で感謝しておく。

 こんなこと言ってはあれだけど、今日サッカー部が負けなければこうして校舎に入ることはできなかったので、負けてくれてよかったか。

 三人とも校舎内に入り、一応靴を脱ぐ。

 入ってきた窓の鍵を閉めて教室から出ると、巡回の人が近くにいないことを確認し、見つからないように部室棟へと向かった。

 私たちの基地はこの高校の地下にあり、一フロアの広さはもちろん、それが何層にもなっており非常に広大なものとなっている。

 エレメリアンを感知して素早く出撃するためのメインルームやトレーニングルーム、メンテナンスルームや大浴場まで備え付けられた至れり尽くせりな基地だ。

 ただそんな広大な基地でも地上から入るための入り口は一箇所しかなかった。その場所は今でもよく覚えている。

 園葉高校の部室棟一階、一番奥の空き教室。

 唯一、私たちとその基地を繋いでくれる架け橋だ。

 

「……ここに来るのも久しぶりだね」

 

 件の教室の前に立ち、志乃は呟く。

 高校生となって部活に所属することのなかった私たちは、基地を封鎖した後ここに来る用事などあるはずもなく、私と志乃はここに来るのはあのとき以来となる。

 教室についたプレートに目をやる。そこには可愛らしくポップな字体で『奇術部』と書かれていた。

 奇術部……ということはマジックかな。

 名前に聞き覚えがないし、去年までここは空き教室だったので今年度に新しくできた部活だろう。

 

「シノ、ここも鍵ついてるみたいだよ?」

「んーん、実はここ開けっ放しなの。私の二歳下の幼馴染が奇術部作ったんだけど、鍵かけるのめんどくさくて開けたままなんだって」

「学校側把握してんのかな」

「うーん、してないと思う! 顧問が定年間近のおじいちゃんだからね」

 

 なんかいい加減だなあ。

 志乃の言う通り、空き教室……ではなく奇術部部室は鍵が掛かっておらず、なんてことなく目的地へと到着した。

 部室を見回して思ったのは、半年前と比べてだいぶ綺麗になったことだ。部室として使ってるので当然だけど、埃っぽくないし積み上げられていた大量の椅子と机も無くなっている。

 奇術部の部室となっていると知って何か面白いものが置いてあるかと期待もしたけど、特に興味がそそられるようなものはなかった。大きな鍵つきの棚があるのでマジックのタネはその中だろうか。

 

「じゃあ、さっそく行こっか!」

 

 志乃がボタンを取り出す。

 私とリアルが頷くと、志乃は大仰にボタンを掲げて決めゼリフを放つ。

 

「ポチッと、なっ!」

 

 その瞬間、床の一部が一瞬光ったかと思うと、その一部がスライドして地下への階段が現れた。

 志乃に促されてとりあえず私が一番に、その後にリアル、志乃と続いて螺旋状の階段を降りていく。何ヶ月も封鎖されていたはずなのに、階段に埃がまったくないのは私の知らない科学力の賜物だろう。

 おおよそ二階ほど降りたあたりで、私たちは懐かしい景色を見た。

 自動でついた照明のおかげでこのフロアの全貌がはっきりとわかる。

 近未来的な秘密基地というコンセプトで作り上げました、という説明が似合いすぎる内装はイメージ通りだ。壁と床は白と銀で統一され、壁にはときどき光のラインが走っている。SF映画に出てくる宇宙船の内装、といえば伝わりやすいだろうか。

 メインルームの中央に設置されたテーブルと、クッションのついた椅子が五脚。その奥にあるエレメリアンを感知して映像を映し出すモニター。

 まったく同じだ、何も変わっていない。

 油断していると涙が出てきそうになる。

 

「こ、この材質はいったい……⁉︎」

 

 無言で基地を眺める私と志乃とは対照的に、リアルは驚きつつも高いテンションで壁や床をペタペタと触っていた。

 私たちはまっすぐと、リアルは右へ左へフラフラしながらモニターの前に立つ。そして、モニター下のキーボードにあるパソコンの電源ボタンと同じマークのボタンを押すと――

 

『ええっとこれでいいですかね。それじゃあ黒羽さん、私がスタートって言ったら録画開始してください!』

 

 なんと、いきなりモニターに映し出されたのは私のテイルギアとこの基地を作った……あの少女だった。

 

「フレーヌ……」

「この少女が……この基地とテイルホワイトのテイルギアを作りあげたのか⁉︎」

 

 志乃が小さくその名を呟き、リアルは驚きのあまり頭を抱えていたが、私は黙ってモニターを注視する。

 

『もう撮ってるわ』

『ええ⁉︎ ダメですよ! これそのまま基地に記録されるんですよ⁉︎』

『そもそもこんなアナログな残し方する必要あるのかしら』

『この世界の科学力を考えると、いきなり私のホログラムが出てきてしまってはパニックに陥ってしまう可能性がありますから。こうしてビデオレターのように残しておくのが有効です』

 

 カメラを持って撮っているのは黒羽で間違いないみたいだ。そういえば初めにフレーヌは黒羽のことを呼んでいたっけ。

 しかし、フレーヌ。さすがに私たちもホログラムが出てきたら驚きはするけど、パニックにまではならないと思うよ。

 

『えー、おほん。久しぶりですね、皆さん。この映像を見ているということは私がこの世界を去った後、何かの事情がありこの基地を再起動しなければならない状況になってしまったのでしょう』

『これが言いたかったのね』

『黒羽さん静かに!』

 

 微妙にグダグダだけど、フレーヌの言っていることは間違ってない。

 その後何回か黒羽と言葉を交わし、フレーヌは再びカメラ目線に戻って続きを話しはじめる。

 

『この基地はいかなる外敵からの攻撃や核による攻撃も無効です。安心して過ごしてください。それと空間跳躍カタパルトなどの設備は、私が出発する前に簡単に操作できるようにしておいたので誰でも使えますよ』

 

 旅に出る前にそんなことしてくれていたのか。

 直接言ってくれれば使い方もその場でフレーヌに教えてもらえるし、よかったのではないかと多少なりとも思うけど。

 

『大事なことなら直接言ったほうがいいんじゃない?』

『それでは味がありませんから。私たちがいなくなった後に皆さんがこの記録を見て、はじめてこの基地の設備を使いこなすほうがドラマチックじゃないですか?』

『そういうものかしら』

 

 ときどき入る黒羽のツッコミで、なんだか漫才を見ているような気がしてくる。

 最初は感動していた私と志乃だけど、いつのまにかモニターに映るフレーヌを見て苦笑いを浮かべていた。

 その後もフレーヌは黒羽のツッコミを流しつつ、基地に関することを淡々と説明していった。

 

『これで最後になりますが……』

 

 どうやらビデオレターも終わりに近づいているらしい。

 最後はどんな掛け合いを見せてくれるのだろうと思っていたが、どうやらそうではないらしい。フレーヌの表情は先ほどまでと違う、真剣そのものだ。

 

『皆さんの世界が大変なのに、私がそちらを留守にしてしまって大変申し訳ありません。ですが、私は心配してません。そちらに世界を救ったスーパーヒロインがいることを私は知っていますから! 奏さんと志乃さんと嵐さんなら、絶対に大丈夫だと私は信じてます。私たちもアルティメギルを倒せるよう頑張るので……ですのでどうか、皆さんも頑張ってください』

 

 フレーヌからの激励を最後に映像は終わった。

 モニターは一度暗転し、再びついたときにはフレーヌの姿ではなく、ツインテール属性のエンブレムが表示されていた。

 私も志乃も、リアルも口を開こうとしない。

 まったく……途中までおふざけというか、笑って見れていたのに最後にそういうのはずるい。

 

「フレーヌがそう言ってくれているなら、私は頑張るよ」

 

 右手のテイルギアを可視化させ、私はグッと拳を握った。

 志乃とリアルも深く首肯する。

 さて、まずはフレーヌが言っていた通りに設定していろいろと準備しておかなければ。

 志乃とリアルにも手伝ってもらいながら空間跳躍カタパルト、衛星による外の映像やテレビ映像の取り込みなどこのモニターを使ってできる設定をあらかたこなしていく。

 しかし、一つだけどう設定していいかわからないものがある。エレメリアン出現を示すアラートがそれだ。

 今回の相手は人間であってエレメリアンではない、人に対して有効なのかわからないのだ。

 

「これってツインテールの戦士でも反応してくれるのかな」

「大丈夫よ」

 

 私が心配していたことを聞いてそう答えた。しかし言ったのは志乃ではない、ならばリアルか。いや、リアルでもない。

 私たち三人は声の聞こえた方、このメインルームと廊下を繋ぐ出入り口のドアへ視線を向ける。

 

「ツインテールの戦士は変身するためにツインテール属性を高めるのよ。エレメリアンと一緒よ。そのアラートは属性力の高まりを探するわけだから、問題ないわ」

 

 そこには――出入り口に寄りかかりながら、私たちの心配を払拭する言葉を続けて話す、赤い瞳と黒く輝くツインテールが健在の凛とした女性。

 

「く、黒羽⁉︎」

 

 フレーヌと共に異世界へと旅立った少女、速水黒羽の姿がそこにあった。

 気づけば私の横にいたはずの志乃が真っ先に黒羽に駆け寄り、泣きじゃくりながら抱きついていた。

 

「ど、どうしてここに……ていうかこの世界に?」

 

 志乃ほどじゃないけど、私も動揺を隠せない。

 先ほどの映像で黒羽はカメラマン役だったので、動いている彼女を見るのは本当に久しぶりだ。

 黒羽は今もなお泣いている志乃の頭を撫でながらこちらへ視線を向け、口を開いた。

 

「この世界と近い座標の異世界にいたから、少し寄ってみようと思ったのよ。驚いたわ。別のフロアにいたら、誰かが基地に入ってきた知らせが届いたんだから」

「あ、黒羽が基地に居ることができたってことは……基地の封鎖っていうのは入り口を封鎖するだけだったんだ」

「当たり前よ。この基地が全て消え失せたらこの上にある学校、全部地面に埋まるわ」

 

 ああ、そう考えたらたしかにそうだった。以前フレーヌから基地を消滅させるボタンを聞いていたことを思い出す。

 フレーヌ……フレーヌといえば、黒羽と一緒に異世界へと旅立っていったはずだ。もしかしたら彼女もこの基地にいるかもしれない。

 そんな期待を込めて、私は訊く。

 

「ねえ、黒羽。フレーヌは一緒じゃないの?」

「……悪いわね。実は今、フレーヌと別行動なのよ」

「もしかして喧嘩⁉︎ ダメだよ、黒羽!」

 

 いつのまにか泣き止んでいた志乃が、黒羽の腰に腕を回したまま顔をあげて言った。

 

「違うわよ。さっき言った座標の似てる世界でフレーヌは故郷を守った戦士の手がかりを見つけたらしいわ。しばらく離れられないっていうから、私は暇つぶしに来てみたのよ」

「ふう、喧嘩じゃなくてよかったー。でもフレーヌにも会いたかったね」

「あら、志乃は私じゃ不満かしら?」

「そんなことないよっ!」

 

 なるほど、フレーヌは自分の世界を守ろうとしたツインテールの戦士を追っていた。おそらく総二が言っていたトゥアールさんのことだろう。その手がかりがあったってことは……黒羽たちがいたのは総二たちの世界だろうか。

 フレーヌに会えないのは残念だけど、トゥアールさんにお礼がしたいと言っていたし……それならしょうがないか。

 

「あの……取り込み中いいかな?」

「あ、ごめんごめん」

 

 すっかり蚊帳の外となってしまっていたリアルがおずおずと小さく手をあげる。

 黒羽の登場にびっくりしていてリアルへの配慮が足りなかった……とても申し訳ない。とりあえずは互いの紹介からだろう。

 

「黒羽、この娘は事情があって異世界からきたリアル」

「あら、そうなの」

 

 特に表情を変えることなく、リアルを見る黒羽。

 視線が髪型に向いている気がする。ツインテールにできるかどうかの見定めをしているのだろうか。

 

「リアル、この娘は速水黒羽。私と一緒にテイルシャドウとして世界守るために戦ってくれたツインテールの戦士」

「ツインテールの戦士……⁉︎ カナデだけじゃなく、もう一人いたの⁉︎」

「あれ、知らなかったの?」

 

 私がツインテールの戦士であることやテイルホワイトのことを知っていたので、てっきりテイルシャドウのことも知っているものだと。

 

「私が君のことを知ったのはこの世界にある媒体だよ。テイルシャドウなんて一文字も無かったからね!」

「そうだったかしら」

 

 ああ、黒羽が自分を載せるならギャランティーを払わせることをしつこく言ってたから多分それで……。いつのまにか歴史から抹消されていたなんて、まったく気がつかなった。

 志乃がスマホに残していたテイルシャドウの画像を見せると、リアルは興味津々にそれを見つめた。さすがに志乃には請求しないよね。

 

「思い出話も悪くないけれど、そちらのリアルがこの世界に来た事情っていうのと、この基地が必要になった理由……聞かせてもらえるのかしら」

「うん。むしろ私からお願いしたいくらい。黒羽、聞いてくれる?」

「ええ、話しなさい」

 

 私とリアル、ときどき志乃は今日のことを詳しく黒羽へ伝えた。

 異世界のツインテール戦士、リアルミーティアのこと。彼女がツインテール属性を狙っていること。私がテイルホワイトになって戦ったこと。リアルが彼女の姉であること。そして、リアルミーティアはまだこの世界にいていつまた戦うことになるかわからないこと。

 さすがに冷静な黒羽も、ツインテールの戦士がツインテール属性を奪いに来たことを告げると悲痛の表情を浮かべていた。

 

「なるほどね。さっきのアラートの話はそういうことね」

「うん。なんとか一度は勝てたと思うけど、リアルミーティアが次にどんな手を使ってくるかわからないから。もしよければ黒羽にも……」

「ええ、私もこの世界のツインテールを守る戦士よ。断る理由なんかないわ」

「黒羽、ありがとう……!」

 

 黒羽の実力は一度戦ったことのある私がよく知ってる。彼女が味方としていてくれれば、リアルミーティアに勝てる可能性はさらにあがる。

 あとは次にリアルミーティアが行動をはじめる前に、何か作戦を練っておこう。

 

「ふわあ……あ、ごめんっ」

 

 志乃が大きなあくびをする。

 スマホを見ると、いつの間にかそろそろ日付が変わりそうな時間になっていた。こんな時間じゃ眠くなるのは当たり前だしあくびもするだろう。現に私も、今はだいぶ眠たい。

 

「いいわよ、あなたたち三人は寝てなさい。大丈夫だと思うけど、私が起きてモニター見とくわ」

「え、でも黒羽も寝たほうが」

「ちょっと私ね、異世界から来たばっかで時差ボケしてるのよ。それに三人とも……特に奏、あなたは疲れてるでしょ? メディカルルームにベッドとソファーがいくつかあるから、そこでしっかり体を休めなさい」

「クロハ、なら私と交代にしよう。君にばかり負担をかけるのは忍びないからね。元はといえば私が無理いって君たちに協力してもらってるんだから」

「そう? じゃあお願いするわ」

「というわけで、二人はゆっくり休んでてよ」

 

 黒羽とリアルがそこまで言うなら、甘えさせてもらおうかな。

 二人にお礼をいいつつ、私と志乃はメディカルルームへと向かう。すっかり存在を忘れていたが、そこのベッドには黒羽と女の子の体になっていた総二が寝ていたベッドがあったっけ。

 

「……ねえ、なんだか私とあなた似ている気がするんだけど気のせいかしら?」

「私とクロハが? うーん、ツインテールの戦士に似てるって言われるのは光栄だけど……顔立ちは全然違うよ?」

「容姿のことじゃなくて……。いえ、なんでもないわ。忘れてちょうだい」

 

 二人だけだと会話が続くか微妙に心配していたけど、どうやらその心配もなさそうだ。

 私は安心してメディカルルームに入ると、そのまま深々のベッドに体を預けて目を瞑る。

 うん、大丈夫。私には支えてくれるみんながいる。みんなで絶対に、リアルのためにもリアルミーティアを止めて目を覚ませるんだ。



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ADDITIONAL FILE.4 禁断のツインテール宣戦

 テイルホワイトとの激闘を繰り広げた国立競技場から数十キロ離れた改装中の店舗の中で、リアルミーティアは体を休めていた。

 変身を解いたその容姿は、リアルと瓜二つだ。彼女が双子だと証明するのにはそれで充分だろう。

 破損したエモーショナルステッキを見て、彼女は目を細める。

 誤算だった。

 テイルホワイトのことはあらかじめ調べておいたが、まさかエモーショナルステッキに対応するために髪型を変えて戦うとは思っても見なかった。

 一日で決着をつける予定であったが、まさか撤退するハメになるとは……彼女は歯をいしばる。

 

「……私は負けてません」

 

 彼女の心はまるで折れていない。

 エモーショナルステッキを小さく畳み込み、ポケットの中へ突っ込む。こうすることで、ステッキの多少の破損は自動で修復される。認めたくはないが、エレメリアンの技術は非常に優れているのだ。

 ステッキの回復まで、多少の時間がかかる。しかし、彼女がその間なにもしないわけではない。

 ステッキの戦術に対応された以上、どのようにテイルホワイトを倒せばいいのか考えなければならない。そのはずだが、彼女の目に迷いはなかった。

 誤算だった。

 そう、前の誤算とは別にもう一つ。こちらが優位となる嬉しい誤算があったのだ。

 これをうまく利用すれば、私がテイルホワイトに負けることなどありえない。彼女はそう確信している。

 

「ええ、問題ありません。ただこの時間は有意義に使わないと損です、ね」

 

 自分に言い聞かせるように、そう呟く。

 月の光が窓から差し込んだとき、彼女は満悦の表情を見せていた。

 

 

 初めてリアルミーティアと戦ってから今日で二日。

 毎日警戒しているものの、一向に彼女は姿を見せない。さすがにずっと気を張り詰めているせいか、私にも他の全員にもだんだんと疲労の色が見えてくる。

 リアルミーティアがツインテール属性を諦めた、などという仮定は立てるまでもない。彼女はどこかで虎視眈々と機を伺っているのだろう。

 

「へえ、テイルホワイトとテイルシャドウには強化フォームが……! 髪型を変える以外にもそんなことができるんだね!」

「うん。私がマキシマムチェインで黒羽がアンリミテッドチェイン。私はもうマキシマムチェインにはなれないんだけど……」

「え、どうして?」

「その強化フォームになるためのアイテムが壊れちゃって。もともと作り直せないって言われてたんだけど、最後の戦いだから無理しちゃって。黒羽はまだアンリミテッドチェインになれるんだよね?」

「……ええ」

 

 私のマキシマムバイザーは半年前の最終決戦の際に、無理して使用したために壊れてしまった。

 マキシマムバイザーはもともと修復や量産ができないとフレーヌに言われていたし、聖の五界(セイン・トノフ・イールド)を倒せたなら特に問題はないだろうと思っていたのだ。

 まさか半年後にこうなっていようとは。今の私にバイザーがあれば、かなり有利になるとは言えるんだけど……。

 救いがあるのは黒羽がいてくれること。そしてその黒羽はアンリミテッドチェインになれる、ということだ。

 全てを黒羽に任せる気はないけど……もしかしたら黒羽一人で済んでしまうのではないか。

 

「それよりエモーショナルステッキの開発はリアルなのよね? ならリアルミーティアが使える能力とか教えてほしいわ」

「もちろんだよ」

 

 よくよく考えたらリアルから故郷の世界のことなどは聞いていたけど、エモーショナルステッキの能力などの詳細はまだ聞いていなかった。

 はじめて戦ったときはリアルに訊いている暇もなかったからしょうがないけど。エモーショナルステッキについて、私たちが知っておくのに越したことはないよね。

 

「まず大前提としてエモーショナルステッキは自身のツインテール属性を力の源として使用者をツインテールの戦士へと変身させる。君たちのテイルギアと同じだよ。そしてエモーショナルステッキ最大の特徴は、戦況に応じてステッキの形状を変えること」

「確か剣と銃とハンマーと……あと翼だった」

 

 リアルの口ぶりからすると、どうやらステッキのまま相手を攻撃することはほとんどなさそうだ。

 剣と銃とハンマー、そして空を飛ぶための翼。これだけの万能な力……ステッキを作ったリアルも、使いこなすリアルミーティアも相当すごい。

 私は使っていた武器を確認するように口に出したが、リアルはかぶりを振ると驚くべき事実を口にする。

 

「ステッキは使用者の使い方次第で進化していく。私はあと一つ、鞭にして戦う姿を見たことがあるよ。ただもしかしたら、私の知らない間にさらに使える武器を増やしているかもしれない……」

 

 なんと、先の四つ以外にもそんな能力があったとは。

 しかもどうやら、リアルミーティアはさらにステッキの能力を引き出して新たな力を得ているかもしれないらしい。

 自分が持ち、相手がエレメリアンならばかなり心強いステッキだけど……敵に回すとかなり厄介だ。

 

「もしかしたら奏の三つ編みとポニーテールみて新しい武器を作ってたりして」

 

 志乃は冗談っぽく言うけど、充分にありえる話だ。

 私が二日前に優位に立てたのは、エレメリンクによる奇襲が成功したからともとれる。フロストバンカーとブライニクルブレンドを知ったリアルミーティアが、対策するために新しい力を目覚めさせていないとは言い切れないのだ。

 リアルでさえ知らない能力を持っている可能性があるのなら、あらかじめ作戦を練っていても無駄になってしまう可能性があるのか……。

 どうしたものかと悩んでいたその時、ポケットに入れていたスマホが震えた。

 ラインだ……送り主を確認すると、嵐だった。

 

「嵐から?」

 

 志乃に気づかれてしまった。いや気づかれても全然いいんだけどさ。

 

「うん。なんかこっちに来れなくてごめんとかいろいろ書いてあった」

「ああ、そういえば彼いないわね。世界の危機なのに姿を見せないなんて感心しないわ」

「一昨日はしょうがなかったけど、そういえばもう来てくれてもいいよね!」

 

 まあ、嵐も嵐で大変なのだ。

 ここは一応、やつの名誉のために弁解しておいてあげるとしよう。

 

「なんか今日からプロのチームの練習に参加したり、オファーしてくれたチームと交渉したりするみたい。さすがに将来のことだし、無理は言えないって」

「え、プロって……彼ってそんなにすごい人だったの……?」

 

 志乃はすぐに納得していたが、黒羽はかなり驚愕している。

 それだけ努力してきたとはいえ、もう勉強しなくていいと考えると嵐が羨ましくなるよね。

 この場にいない人の話題でまあまあ盛り上がりながら、私たちは簡単な昼食を済ませた。

 一息ついたところで、あらためてリアルにリアルミーティアのことを訊こうとした、その時。

 

「この音は……!」

 

 エレメリアンの出現……いや、今回に限っては属性力の高まりを検知するアラートだ。

 

「動きはじめたわね」

 

 黒羽がモニターを操作すると、画面に大きくリアルミーティアが映し出され、続いて彼女のいる場所が地図で表示される。

 リアルミーティアがいるのは……国立競技場から東に十キロほど離れた臨海公園だ。

 その公園にはもちろん、近くの世界的なテーマパークにも夏休みの今は観光客で溢れている。そんなところにわざわざ現れたということは……!

 

「属性力を……奪っているわね」

 

 モニターに大写しにされたリアルミーティアはいくつもの光輪を使って、観光客から属性力を奪っていく。

 こうしてはいられない。

 私たちが行けば一昨日のように属性力を返してくれるかもしれない……そんな過度な期待を持つわけではないけど、とりあえずは属性力奪取を止めることはできる。

 私がテイルギアを可視化させると、黒羽も頷きながら右手に色違いのテイルギアを装着した。

 

「「テイルオン!」」

 

 二人揃って、それぞれテイルホワイトとテイルシャドウへの変身が完了する。

 

「あれ、黒羽。変身! じゃなくて奏と同じテイルオンにしたの?」

「ええ、今回はホワイトに合わせてみたわ」

 

 まさかまた、こうして二人で変身することになるなんてね。

 私と黒羽はそれぞれ転送ゲートに入り込む。

 

「オペレートよろしくね。志乃、リアル!」

 

 転送される直前、基地に残る二人に声をかける。

 私のお願いに志乃は敬礼して応えるのを確認する。しかし、リアルは……反応を見る前に、私とシャドウはリアルミーティアのいる臨海公園へと転送されてしまったのだった。

 

 

 臨海公園に到着し、私とシャドウはリアルミーティアと対峙する。

 彼女は大観覧車の下で、属性力奪うその大きな光輪をくるくると回しながら立ち尽くしていた。

 私たちを見つけるとニヤリと笑みを浮かべ、一昨日とは違って属性力を返すことなく光輪を小さくしてしまった。

 やはり、返してくれないか。そうなると、今日は絶対にリアルミーティアを逃さずに倒さなければならない。

 

「テイルホワイト、そしてテイルシャドウ。この世界を守るツインテールの戦士、二人がこうして来てくれて嬉しいです」

「あら、私のことを知ってるのかしら?」

「うふふ、よくしってますよ」

 

 どうりでシャドウを見ても驚かなかったわけだ。

 リアルはシャドウのことを知らなかったみたいだけど、どこか別のところでリアルミーティアはこの世界にもう一人、ツインテールの戦士がいること突き止めていたのか。

 彼女にとっては嬉しい誤算だっただろう。

 なんたってツインテールの戦士は強力なツインテール属性を持たなければならないから。二人を倒せてしまえば、彼女はそれだけ大量のツインテール属性を得られることができる。

 

「ここでは少し手狭ですね。あちらの島へ移動しますか」

 

 リアルミーティアが言うのは、臨海公園の南にある埋め立て地のことだろう。防波堤の役割も兼ねているそこは、芝で覆われており普段はバーベキュー場として人気の場所だ。

 どうやらリアルミーティアが現れた騒ぎで、今はそちらに人はいないらしい。なら激しい戦いになったとしても平気かな。

 橋が一応かかってはいるが、リアルミーティアはそれを使わず大きく飛翔しその埋め立て地へと飛び乗る。当然、私とシャドウもそれに続いた。

 改めて相対する私たち。

 波の音がより一層大きく聞こえるように感じた。

 

「さて、気を使わずにどうぞ二人で来てください。私は逃げませんし、負けもしませんから安心してください、ね!」

 

 こんなわかりやすい挑発に乗るのは癪だけど、リアルミーティアは何をしてくるかまったく読めない。最初から全力で、二人で戦ったほうがいいだろう。

 

「アバランチクロー!」

「ノクスアッシュ……!」

 

 私は二日間で完全に修復したアバランチクローを腕に装着、黒羽は以前と変わらぬ漆黒の輝きを放つ巨大な斧をその手に握りしめた。

 

SHOOT MODE(シュートモード)

 

 リアルミーティアは私たちが手に持つ武器を確認してから、ステッキを銃の形態に変形させた。

 初めてエモーショナルステッキが変形する様を見たシャドウは感嘆の声をあげる。

 

「よし、行こう!」

「蹂躙します!」

 

 自身を鼓舞するために私は声に出し、シャドウと頷き合ってからリアルミーティアに向かい疾駆した。

 私に答えるように叫んだリアルミーティアは、銃ととなったステッキから光弾を雨のように発射。飛来する光弾をできる限り避けつつ、私とシャドウは変わらず彼女に近づいていった。

 

「二人を相手にしようというのは間違いね。私たちは戦闘員(アルティロイド)じゃないのよ!」

 

 さすがはシャドウ。

 無数に迫る光弾すべてをノクスアッシュで叩き落とし、まったくダメージを負うことなくリアルミーティアへ肉薄する。

 そして居合斬りのように、ノクスアッシュを自分の右の脇腹あたりから真一文字に斬りつようとする。しかし――

 

SLASH MODE(スラッシュモード)

 

 電子音声が聞こえると同時に剣へと姿を変えたステッキで、リアルミーティアはしっかりと斧を受け止めていた。

 一対一ならそれでいいだろう。ただ、今は二体一だ。斧を受け止めた状態では、私のクローはガードできない!

 シャドウの後ろから飛び出して、私はクローを力いっぱい振り下ろす。

 

「勝算もなしに私が二人を相手にするわけないじゃないですか!」

 

SHOOT MODE(シュートモード)

 

「そんなっ! くうっ⁉︎」

「ホワイト!」

 

 いったいどうしたのか。

 シャドウがノクスアッシュで彼女の剣を抑えていたはず、しかし彼女の手には銃が握られていた。突然のことで対応が遅れ、防御することもできずに私は全ての光弾を至近距離で被弾し吹き飛ばされてしまう。

 

「っ⁉︎」

 

 私の身を案じて力が緩んだ隙を突かれて、シャドウは斧を()で弾かれると、私と同じように光弾の餌食にあう。

 クローを杖代わりに起き上がりリアルミーティアを見据える。すると驚くべき光景が目に入った。

 

「え、剣と……銃⁉︎」

 

 なんとリアルミーティアの右手には剣になったステッキが、左手には銃になったステッキがそれぞれ握られていたのだ。

 エモーショナルステッキは二本あったということ? 

 いや、それならリアルが教えてくれるはずだし先の私との戦いで二本使わなかったのはおかしい。

 それぞれ本物であることを見せつけるかのように、リアルミーティアはそれぞれをステッキへと戻して見せる。

 

TWIN MODE(ツインモード)……。あなたたち二人に対抗するためにアップデートしました!」

 

 まさか、リアルの言っていた通りだ。

 リアルミーティアは次に私たちと戦うのに備えて、使える武器を増やした。新しい武器を増やすのではなく、ステッキ自体を増やしてくるのは予想外だった……!

 しかしシャドウはリアルミーティアに反論する。

 

「ステッキの力でそのステッキで使う武器を作り出すのは納得できるわ。でもステッキと同じものをステッキで作り出すなんて荒唐無稽よ。テイルギアでテイルギアを作り出すくらい無茶苦茶な話だわ」

 

 そう言われれば、確かにそうだ。

 黒羽のいうことは正しい。だけど、目の前には二本のステッキを握ったリアルミーティアが立っている。

 黒羽は一本は偽物だと言いたいのかもしれないが、私が受けた光弾は間違いなく一昨日の光弾と同じだった。偽物だなんてとても信じられない。

 

「リアル、私の推測は間違ってるかしら」

『黒羽が言うなら合ってるに決まってるよ! ねえリアル……ってあれ、リアル?』

 

 通信機越しでリアルに話しかけたシャドウだが、帰ってきたのは志乃の声だけだった。

 まさか……信じられない、信じたくもない考えが私の脳裏に浮かんできた。そしてシャドウが大きくため息をついたとき、その考えが当たっていることを察してしまう。

 

「……志乃。もしかしたらその基地にいると危険かもしれないから、ブレスをつけて家に戻ってて」

『え、でもここのほうが家よりも……』

「リアルミーティアは次に負けたら私たちの拠点を、基地を壊しに行く可能性がある。絶対に逃しはしないけど、念のために……お願い」

『奏がそこまで言うなら、わかった。エレメリンクの準備して、待ってるからね!』

「うん」

 

 私が返答したのを最後に、志乃の声は通信機から聞こえなくなる。

 どうやら基地から出ていってくれたらしい。基地から出てしまえば、私たちの戦いや会話を志乃に聞かれることはまずないだろう。

 

「友達思いなんですね。ツインテールの戦士はそうでなくてはいけません」

「ホワイトのいいところよ」

 

 普段なら照れてるところだけど、今はそんな気分になれるわけがない。

 私が見せるのは恥じらいの表情ではない。のうのうと「友達思い」などと言えるリアルミーティアに対しての怒りだ。

 シャドウは私の顔色を伺ったのち、あらん限りの声で叫んだ。

 

「どうせここにいるんでしょ! 今すぐに出てきなさい……リアル‼︎」

「そんなに大声で叫ばなくても聞こえてるよ」

 

 するとあっさり、先ほどまで私たちと話していたその顔で、リアルは現れた。

 そして当然のようにリアルミーティアの隣へと立ち、剣の状態のステッキを受け取る。

 

「やっぱり……やっぱりあんたたちグルだったの⁉︎」

 

 リアルとリアルミーティアの目的は最初から同じだった。

 私たちを確実に倒すために、彼女らは芝居をした。

 リアルとリアルミーティアが対立しているように見せかけ、リアルは私に近づき確実に私たちを倒すための方法を探っていたんだ。

 

「基地へと入り込むことに成功したあなたは、私と交代してモニターを見張ると提案して、夜中に一人になったときに基地の設備を使って新しくエモーショナルステッキ作ったのね」

「君たちの基地は私の世界の科学力を大きく超えたものだったからね。エモーショナルステッキを短時間でもう一本作るなんて訳なかった。まあオリジナルと違って変身能力までは再現できなかったけど、ね。もちろんツインモードなんてのは嘘だよ」

「それじゃあエモーショナルステッキを作り上げてからすぐ行動を起こさなかったのは……私たちの戦闘データを見ていたのかしら?」

「すごいよ、正解だ。エレメリアン退けた戦士たちだし、この世界の言葉で言うと''念には念を''ってやつだね」

 

 シャドウとリアルの言葉の応酬を、私はただ黙って聞いているしかなかった。

 リアルが近づいできたとき、何も疑わずに信じてしまったのは私だ。リアルが発した一言一句を全て真実だと思ってしまったのは私だ。リアルを基地へと招いてしまったのも、私なのだ……。

 自分で自分が許せずに、クローの取っ手を強く握りしめる。

 いや、待って。

 リアルがツインテールの戦士の属性力を狙っていたなら、初めてパターバットで会ったときにいくらでもチャンスはあったはずだ。なんたって私は普段、テイルブレスを持ち歩いていなかったんだから。

 

「リアル、なんで私と初めて会ったときに属性力を奪おうとしなかったの。あのときに奪ってればこんな回りくどいことをする必要なかったはずじゃん!」

 

 もしかしたらリアルはグルであったとしても、リアルミーティアを止めてほしかったのではないか。演技ではなくそれは本当だったのではないか。だから奪おうとしなかったのではないかと、微かな希望を持ちながら問いかけた。

 しかし、あっさりとその希望は吐き捨てられた。

 

「君たちの属性力はもちろん欲しいよ。ただ私は欲張りでさ……出来るだけたくさん欲しいんだよ」

「何を言って……!」

「君たちのテイルブレスの中にあるツインテール属性も欲しいんだよ」

「なっ……⁉︎」

「私のエモーショナルステッキとは違う。君たちの強さの秘密、心の強さもあるけどさ。一番はテイルギアの中にもう一つツインテール属性があるからということは知っていたんだよね」

 

 ならあのときに属性力を奪わなかったのは、後でより多くの属性力を奪うため……!

 

「属性力を先に奪ってテイルギアの所在を訊き出すっていう手もあったけどね。ツインテール好きだし、テイルホワイトのツインテールを見たかったっていうのはあるけど……」

「あんたが! あんたがツインテールを語るなあああっ‼︎」

 

 気がつけば私はリアルの言葉を遮り叫んでいた。

 間髪入れず脚に力を入れて飛び、リアルの持つステッキへと狙いを定めクロー大きく振り下ろす。

 

「うああああああああああっ‼︎」

 

SLASH MODE(スラッシュモード)

 

 電子音声が聞こえるのと同時に、横からもう一つの剣が伸びて私のクローは受け止められた。周囲に鈍い音が響き渡り、これだけでこの埋め立て地を中心にして大きな波が上がった。

 素早くエレメリンクしてポニーテールとなると、ブライニクルブレイドを手に持ち、リアルミーティア目掛けて振るう。

 

「あんたたちはツインテールの戦士なんかじゃない‼︎ あんたたちは……あんたたちはああああああ‼︎」

 

 がむしゃらにブレイドを振るうが、極めて冷静なリアルミーティアはその全てをいなしていく。

 

「先ほどの推察は概ね当たりです、ですが一つ訂正しましょう」

 

 ブレイドと剣を交差させ、鍔迫り合いとなったところでリアルミーティアは余裕ある表情で話す。

 

「リアルと私はグルではありません。なぜなら、私はどちらもリアルでありリアルミーティアなんですから」

「何を言って……!」

「奏!」

 

 シャドウの声が耳に入り、私が一歩引くと、頭上からノクスアッシュでリアルミーティアを斬りつけにかかった。衝撃で地面が裂け、その裂け目は地面を過ぎて海まで達する。

 

「落ち着きなさい!」

「あ、ごめん……」

 

 そうだ、落ち着こう。

 怒りにまかせて攻撃したところでリアルミーティアは倒せないし、属性力も戻ってこない。

 私は自分の頬を叩き、気合を入れ直した。

 シャドウの攻撃を後ろへ大きく飛んで避けたリアルミーティアは、そのままリアルの隣に着地する。

 

「これが答えです」

 

 リアルがもう一つの剣となっているステッキをリアルミーティアに返す。

 するとどういうことか。リアルの体が光に包まれ粒子状になったかと思うと、その粒子はリアルミーティアへと吸い込まれていった。

 私はもちろん驚愕したが、横にいるシャドウは私の比ではなかった。

 

「それは、まるで私と同じ……! なるほど、わかったわ。初めて会ったときから何か似ている気がしたけれど、こういうことだったのね」

 

 まさか黒羽のように……オルトロスギルディだったときのように、別の人格を体から切り離せるということ⁉︎

 そんなことツインテールの戦士だとはいえ、ただの人間ができるのか⁉︎

 

「同じかどうかはわかりません。ただ私が出来るのは分身を使うのではなく、あくまで自分自身だということです。視界も記憶も感触も、全てをその瞬間に感じられるんです。なぜなら、私自身なんですから!」

「まるでエレメリアンね……」

 

 剣を両手に持ち、大きく掲げながらリアルミーティアは笑った。

 こんなのどう考えてもおかしい。

 黒羽の言う通り、いくらなんでも人間離れしすぎだろう。エレメリアンであってもそんなこと可能なのだろうか。

 

「一人の人間がやってたことっていうなら、あんたに妹がいたのも嘘ってわけ⁉︎」

 

 大きく笑うリアルミーティアに向かって問い詰める。

 私から、私たちから同情を引くために咄嗟についた嘘というには出来すぎていないか。

 

「言ったじゃないですか。私は妹に守られたおかげで属性力を奪われずに済んだと」

「じゃあ、その話は本当だっていうの」

「はい。私の世界は……私以外の全てが! ツインテールの戦士として戦っていた妹のリアルまでも属性力を失ったんです!」

 

 妹が、リアルで……リアルミーティア⁉︎

 リアルミーティアは畳みかけるように真実を話すが、まるで理解が追いつかない。

 整理すると、リアルミーティアとして戦っていたのは妹で間違いないけど、今目の前にいるリアルミーティアは自らをリアルだと騙った姉……であっているのだろうか。

 

「絶望しましたよ! テイルレッドが首領を倒したあの日、世界が元に戻らないことに! だから私はリアルの意志を継いで自らのツインテール属性を高め、自分が作ったエモーショナルステッキで変身してリアルミーティアになったんです! 私の世界に……リアルに属性力を取り戻してもらうために‼︎」

 

 リアルの意志を継いでリアルミーティアになったから、自らをリアルと名乗っていたというわけか。

 ツインテールと世界を思うが故の妹の暴走ではなく、妹と世界を思う故の()の暴走。

 

 ――これが私の世界の属性力を狙うツインテールの戦士の、二代目リアルミーティアの真実……!

 

 自らが抱えていたことを捲し立てたリアルミーティアは、二本の剣を地面に突き刺しながら息を整える。

 シャドウはノクスアッシュを肩に担ぎながら、一歩前へ出て口を開いた。

 

「あなたにどんなバックボーンがあろうと、異世界の属性力を奪うことなんて許されないわよ。あなたがしているのはエレメリアンと同じ。それで妹と世界を救うだなんて……思い上がりもいいところだわ!」

「私の気も知らずに……! 黙れえええええええっ‼︎」

 

SHOOT MODE(シュートモード)

 

 ステッキが二本となったことで、剣から銃へと変化させる際の音声も二重になる。

 二丁となった銃で、リアルミーティアは今までよりも遥かに多い光弾を発射。埋め立て地が光弾で見えなくなるほど、ただひたすらに撃ち続ける。

 ポニーテールから三つ編みへ。

 エレメリンクした私は素早くフロストバンカーを装備し、対抗すべく三門の方から光線を発射、少しでも被弾しないようにと光弾を空中で爆発させていった。

 

SLASH MODE(スラッシュモード)

 

 片方のみを剣へと変形させると、銃をさらに連射しながら降り注ぐ光弾の中、私に向かい走りはじめた。

 光弾を無視するわけにもいかず、しかし目の前に迫るリアルミーティアの剣を受けてしまうとダメージは計り知れない。

 そんな心配をする間も無く、間にはシャドウが立ち塞がる。

 素早く斧を振るい、剣を交差させるとそのまま刃が当たらないよう水平にしてリアルミーティアへと叩き込んだ。

 剣の刃に手を添えて防御はしていたが、さすがに勢いには勝てずに地面を抉りながら後退していった。

 ここでようやく、私は無数の光弾を消し去ることができた。

 

「出し惜しみしてる場合じゃないわね」

 

 斧の柄を地面へと突き刺し、シャドウはブラジャー型の進化装備(エヴォルブアームズ)を顕現させる。

 進形態のアンリミテッドチェインになるために、ブラを胸へと被せようとした、その時。

 

SHOOT MODE(シュートモード)

 

 再び銃を二丁へと戻し、またもや光弾を発射していく。

 しかし、先ほどまでの出鱈目な撃ち方ではない。しっかりと的を狙って撃っている。その的はシャドウが手にしているアンリミテッドブラだ。

 

「っ⁉︎」

 

 光弾が腕に当たり、アンリミテッドブラは大きく宙を舞う。

 そしてすぐに、リアルミーティアが放った光弾がアンリミテッドブラにも直接被弾すると……粉々になって消えてしまった。

 これではシャドウが、アンリミテッドチェインになることはできない……!

 

「私は基地で見たんです! あなたたち二人とも強化形態がありますけど、それになるために進化装備(エヴォルブアームズ)を装備するそのときこそが一番の隙! アンリミテッドチェインになどさせるわけありません、よ!」

 

FLYING MODE(フライングモード)

 

 片方のステッキが光の翼となり、リアルミーティアは自由自在に飛来しながら私たちに向け光弾を発射しはじめた。

 エモーショナルステッキが一本であれば、フライングモード時には銃や剣といったもので攻撃することはできない。しかし、今は二本目のステッキを使うことでその欠点を解消したわけ……!

 私たちに空を飛ぶ手段は無い。せいぜい高くジャンプするくらいだ。

 空を自在に飛ぶ彼女が繰り出す攻撃に、次第に私たちは追い込まれていく。

 

「こうなったら……‼︎」

「そんなもの撃ったところで、当たるわけありません!」

 

 フロストバンカーを天へと向け、三つの門からそれぞれ光線を繰り出す。しかし、全ての光線は宙を舞うリアルミーティアが言うように全て避けられてしまう。

 今はそれでも構わない。私は続けざまに、光線を何発も発射していく。

 さすがに違和感を覚えたのか、リアルミーティアの表情が引き締まった。そしてすぐに、私の意図を看破する。

 

「まさか……! 光線を三つ編みのように編み込んで……私を捉えようと⁉︎」

 

 さすが、大当たりだ。

 三つ編みのように絡み合う何発もの光線がリアルミーティアの逃げ場を塞ぐと、さらにその全ての光線が一つに纏まりはじめる。

 リアルミーティアの放つ光弾では、フロストバンカーの放つ光線には勝てない。それなら彼女が次に取る行動は一つだ。

 

SLASH MODE(スラッシュモード)

 

 銃から剣へと変形させると、リアルミーティアは前後左右から迫る光線を一閃。光線はすぐに爆発を起こして、彼女は煙に包まれた。

 それを好機と見て、黒羽は斧を振りかぶりながら煙の中へと飛び込んでいく。しかし、リアルミーティアはそれすらも読んでいた。

 突如煙の中から現れたノクスアッシュを、恐るべき反射神経で弾き返そうとしたその時、あることに気づいた。

 

「これは、投擲⁉︎」

 

 リアルミーティアに向かっていたのは振り下ろされたものではなく、シャドウが飛んだ際に囮として投げつけたものだったのだ。

 一瞬怯んだものの、眼前の斧は弾き返した。

 これを投げたシャドウはどこにいるのか、リアルミーティアはすぐに知ることになる。

 

「上か⁉︎」

「はああああああああっ‼︎」

 

 リアルミーティアが気がついたその瞬間、シャドウが上空から落下する姿勢のまま繰り出した強烈な回し蹴りが決まる。

 蹴撃をもろに受けたリアルミーティアはソニックブームを起こしながら落下、当然体勢を立て直すこともできずに墜落した。

 

「あっ……」

 

 エレメリンクを解除してリアルミーティアに弾かれた斧をキャッチしたとき、目の前にエモーショナルステッキが転がってきた。

 シャドウの蹴り技の衝撃がよほどのものだったのか、剣ではなくなり大きく火花が散っている。

 

「……」

 

 ノクスアッシュを振りかぶると、私は躊躇なく振り下ろす。

 エモーショナルステッキは真っ二つに割れたのち、小さな爆発を起こしてバラバラになった。

 これで、残るエモーショナルステッキはあと一本だ。

 

「ホワイト、見なさい」

「え?」

 

 シャドウに促され、大きく穴が空いた地面の上を見るとそこには変身が解けた状態でリアル……の姉が仰向けに倒れていた。

 

「ホワイトがステッキを破壊したと同時に変身が解けたわ」

「じゃあ、まさか……!」

「ええ、ホワイトが壊したのは彼女が元から持っていたオリジナル。この世界で作ったステッキに使用者を変身させる能力はないと言っていたから……」

 

 私たちの、勝ち……⁉︎

 そうだ。いくらもう一本のステッキが使えて、剣や銃といった武器に変形できたとしても、生身の体でそんなものが扱えるはずがない。

 私たちは二代目リアルミーティアの暴走を止めることに、成功したということだ。

 

「くっ……う……!」

 

 残されたステッキを握りしめて立とうとする彼女に向かって、私とシャドウは歩を進めた。

 

「あんたの負けだよ。もうあんたは変身できないし、私たちに勝てる術なんかないでしょ。さっさとみんなの属性力を返して」

 

 ようやく諦めがついたのか、彼女は持っていたステッキを地面へと落とした。

 

「ああ、私の負けだよ。まさか一撃でこの様だなんて……君たちを見くびっていた」

 

 ほとんどシャドウのおかげではあるんだけどね。

 偶然とはいえ、シャドウと一緒に戦えたのはマキシマムチェインになることができない私にとって大きな幸運だったのだ。

 目の前で項垂れる彼女を見ても何かを企んでいる様子はないし、どうやら本当にこれで終わりらしい。

 

「とりあえず属性力を返してもらってから、基地にでも……」

 

 シャドウと今後のことについて話そうとした、その時。

 突如として周りの海が荒れはじめ、頭の中に直接、思わず耳を塞ぎたくなるようなノイズが走った。私だけではなくシャドウも、そして項垂れている彼女も聞こえているらしい。

 そしてノイズが止むと、聞こえてきたのは……声だ。

 

〈そいつは困るな。まだ計画の途中なもんでね〉

 

 海が荒れ、波の音がうるさくてもはっきりと聞こえるこの声は……私の頭に直接話しかけてきているのだろう。

 つまり……この声の正体は‼︎

 警戒したその時、リアルの姉の後ろの空間が歪み現れたのは――。

 

「エレメリアン‼︎」

 

 まるで戦士のような風貌をした、人間に近い容姿から放たれる圧倒的な威圧感。

 今まで戦ってきた私が思うに、アルティメギルが残っていれば間違いなく幹部級のエレメリアンだ。

 そして現れたエレメリアンは、誇るように自らの名前を叫ぶ。

 

「――俺は双子属性(ツインズ)のペルセウスギルディ! アルティメギルを復興し、エレメリアンの英雄となる者だ‼︎」

 

 



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ADDITIONAL FILE.5 禁断のツインテール宣戦

ペルセウスギルディ
身長:285cm
体重:444kg
属性:双子属性(ツインズ)

元、アルティメギルに所属のエレメリアン。姿を消してテイルホワイトとリアルミーティアの戦闘を観察していた。自身に満ち溢れ、その強さは本物で自らがエレメリアンの『英雄』となることを目指している。以前はアルティメギル四頂軍にも所属していない一般兵であったが、複数のエレメリアンに目をかけられて修練を受けたことで実力をつけていった。


 私とテイルシャドウで力を合わせて、ようやくリアルミーティアを倒すことができた。

 リアルミーティアに変身するためのステッキは破壊し、私は再びこの世界の属性力を守ることができたのだと思った。

 あとはリアルミーティアが私たちと戦う前に奪った属性力を返してくれればそれでよかった。

 しかしそんな私の考えを嘲笑うかのように、変身が解けたリアルの姉の後ろから、空間を歪ませて現れたのは――。

 

双子属性(ツインズ)の……ペルセウスギルディ⁉︎」

 

 二メートルを優に超える銀色の体躯。神から授けられたことを証明するかの如く、輝く装飾。それを隠すように蛇を型取ったマント。鳥の翼のような特徴的な造詣が目を引く兜。そしてわかりにくいが、左手についているのは鏡のように映るものを反射する盾。

 威圧感もそうだけど、見た目で確信してしまう。

 このエレメリアンは別格だ。アルティメギルが残っていれば確実に幹部クラスだろう。

 

「ペルセウスギルディ……聞いたことないわ」

 

 どうやらシャドウもこのエレメリアンは知らないらしい。

 エレメリアンではないけど、ペルセウスという名前に私は聞き覚えがある。

 よく知られているのは空に浮かぶ星座のペルセウス座だろう。夏になると流星群が見れることでよくテレビでも話題になる。そう、ペルセウス座流星群が見られるのはちょうど今の時期……なんて間が悪い。

 あとはギリシャ神話とかで聞いたことがある気はするけど、私はそれぐらいしか知らなかった。

 

「当たり前だろうが。この世界に来るのは初めてだし逆に俺のこと知ってたら怖えだろ」

 

 威圧感のある見た目とは裏腹に、ペルセウスギルディはえらくフランクに話してきた。

 なんだろう……少しだけ拍子抜けする。

 ただ、どうやらペルセウスギルディはシャドウが元オルトロスギルディであることは知らないらしい。

 

「ていうか、あんた。計画の途中っていったい何のこと。それにそれに今まで隠れてたんならどうして今出てくるの⁉︎」

「ああ、なんか説明すんのも怠いな。言わなきゃダメか?」

「言わないなら、あんたを倒す。言ったとしても場合によっては倒す」

「おお、怖えな」

 

 ペルセウスギルディは口に出してそうは言うが、私とシャドウのことをまったく怖いなどとは思ってないだろう。

 

「俺はリアルミーティアに力を貸してやったんだ。ツインテール属性を集めるためのな。俺たちは相棒(バディ)なんだぜ? 相棒(バディ)が危ねえ目に会ってたら助けにくるだろ? だから俺は姿を見せてやったのさ。これで満足したか、テイルホワイト」

「誰がエレメリアンなんかと組むものか! 君の力を私が利用させてもらってただけだ!」

 

 どうやら姉とペルセウスギルディには認識に齟齬(そご)があるらしい。

 ただ、彼女とペルセウスギルディの話を聞いてわかったことがいくつかあった。

 リアルミーティアが属性力を奪うために使っていた光輪はエレメリアンが使っていた物と同じだった。つまりあれはペルセウスギルディのもの。

 そしてもう一つ、自分一人で双子を演出したあの力。どう考えても人間業ではなかったけど、エレメリアンならそのような能力があってもおかしくない。あれもペルセウスギルディの技だったんだ。

 

「偽リアルミーティア、この際だから言っておくぜ。俺はお前の世界の属性力なんてどうでもいいんだ。上手く俺の力を使ってた気になってるが、お前は俺の手のひらの上で転がされてたんだな」

「なに⁉︎」

「俺はエレメリアンの英雄になるが人間の英雄になる気はさらさらないんでな。俺は別にお前を騙す気はなかったんだが、絶望してたお前が勝手に勘違いしてたってわけだ」

「何を……言っている……?」

「わかんねえのか相棒。俺が力を貸したのはツインテール属性を集めるためだ。心苦しいが、別にお前たち双子とその世界を救済するためじゃなかったってことだ。お前が奪ったツインテール属性は有り難く貰い受けたぜ」

「そん……な……⁉︎」

 

 それでは、彼女が妹のリアルや世界のためにやっていたことはまったくの無意味だったことになってしまう。

 ただ、少し意外に思うこともある。

 ペルセウスギルディは先ほどの言葉の中で『心苦しい』と言っていた。つまり自分のしていることに多少の罪悪感を抱いているということだろう。

 ペルセウスギルディは完全に邪悪な存在ではないと、言えるかもしれない。

 

「つーわけだ。俺が英雄になるために、この世界で奪った属性力は返せねえ。それとテイルホワイトとテイルシャドウ、お前らの属性力も頂くぜ」

 

 そうは言ってもやはりエレメリアンだ。

 この調子では説得しても無駄だろうし、やはり戦うしかないか。

 ペルセウスギルディが右手を掲げると……現れたのは柄はそれほど長くないものの、刀身は長く鎌のように大きく湾曲する変わった形状をした刀だった。

 

「そのまんまだがな、俺の愛刀の名はハルパー! こいつは凄いぞ。どんな相手にだって通用する!」

「自信があるわね。神様である自分の愛用する武器だからかしら?」

「はは、俺は自分をそんな高く買っちゃいねえよ。四頂軍のどの部隊にも所属できなかった落ちこぼれだからな」

「へえー、威圧感は凄いけど」

「わかるかテイルホワイト。今の俺があるのは同胞によるものだと言っても過言じゃねえ。ハデスギルディやメデューサギルディには世話になったぜ。こいつらに顔向けできるよう、必死で鍛えたからな!」

「ハデスギルディにメデューサギルディですって⁉︎」

 

 会話の中で出てきたエレメリアンの名を聞いて、シャドウは驚きを隠せずにいた。

 知り合いか、もしくは名前を聞いたことがあるのだろう。

 ハデスにメデューサ……強そうな名前だ。おそらくは神の一剣(ゴー・ディア・ソード)のエレメリアンだろう。なんとなくメデューサギルディというのは聞いたことがある気がするけど、気のせいだろうか。

 

「さて、無駄話もそろそろ終わりにしようぜ? 今もツインテール属性に飢えている仲間が大勢いるもんでな。一刻も早くアルティメギルを復興しなきゃならねえ」

 

 そう言うと、ペルセウスギルディは体勢を低くして、鏡のような盾の後ろでハルパーと呼ばれる武器を構える。

 私たちも武器を構えると、まず最初に動いたのはシャドウだった。

 ノクスアッシュで斬り上げようとするも、ペルセウスギルディは迷わず盾で防御する。もちろんダメージが入った様子はない。

 私は後ろへと回りこみ、クロー突き出す。しかしこちらはハルパーにより止められてしまう。

 

「二体一は悪くねえし燃えるが、どうせなら俺の力見せてやるよ!」

 

 瞬間、ノクスアッシュを受け止めていた盾が発光する。

 そしてなんと、反射して盾に映り込んでいるシャドウが飛び出してきた。

 

「わ、私⁉︎」

「今日からお前たちは双子だ! 仲良くしやがれ!」

 

 盾から出てきた偽シャドウはシャドウとよく似ているが、よく見たら容姿が反転している。

 シャドウは左手にノクスアッシュを持ち、偽シャドウは右手にノクスアッシュを持ち、反転させただけでそれ以外はまったく同じ攻撃を互いに仕掛けていく。

 

「私には既に双子みたいな兄がいるのだけど!」

「おお、マジかよ! 異性の双子も趣き深くていいよな‼︎」

 

 オルトロスギルディのことだろう。

 しかしシャドウが双子だと知ったときのペルセウスギルディの顔よ。めちゃくちゃに嬉しそうにしてる。

 

「さてと……」

「い、やばっ⁉︎」

「おっと悪いな。この盾から出せるのは一人だけでな。テイルホワイトにも双子を作ってやりたいんだが、また今度にしてくれ!」

「いらないしっ!」

 

 シャドウたちの戦いをみて、満足そうに頷いたペルセウスギルディがこちらを向いた。

 盾が私を映したので思わず顔を隠してしまったけど、どうやらペルセウスギルディの言う通りらしい。盾に映る私が、その盾から出てくる様子はない。

 私は私と戦う心配をする必要がないなら、ただひたすらにペルセウスギルディに攻撃するだけだ……!

 

「エレメリンク! トライブライドからの、ブレイレリーズ‼︎」

 

 相手が人間なので今まで必殺技を使うのは控えていたけど、エレメリアン相手なら気にする必要もない。

 フロストバンカーの三門の砲から放たれた光線が、ペルセウスギルディへ三つ編み状に絡みながら迫っていく。

 

「見事な三つ編みだ! だがな、俺には通用しねえよ‼︎」

 

 ペルセウスギルディを見ると、まるでこの戦いを楽しんでいるようだ。

 三つ編み光線が直撃する直前、左の盾を突き出しそれを防御する。後ろに交代することもなくその場で耐えている様子を見て、ペルセウスギルディの実力が窺い知れた。

 通用しないというのなら、しっかりと受け止めてもらおうかな!

 

「クレバス! ドラーイブッッ‼︎」

 

 背中のブースターから属性力を放出して光線を辿り、ペルセウスギルディの懐へと潜り込んでの強烈な一撃。

 

「言ったじゃねえか、三つ編みじゃあ俺には届かねえよ‼︎」

 

 フロストバンカーを叩き込む寸前にペルセウスギルディは盾を引っ込めると、右手に持つハルパーで応戦。

 フロストバンカーとハルパーがぶつかり合い、火花を散らす。

 ペルセウスギルディの協力な力と、ハルパーの頑丈さに耐えきれなくなったフロストバンカーは全体から紫電を放ちはじめ、遂にはバラバラになってしまった。

 

「おら、もう一回行くぞ‼︎」

「くっ……エレメリンク! ブライニクルスラッシャアアアアア‼︎」

「そんなんじゃ俺は止まらねえぞ‼︎」

 

 ポニーテールになり必殺技を繰り出す。しかしペルセウスギルディが力任せに振るうハルパーに、フロストバンカーと同様ブライニクルブレイドも粉々になってしまう。

 唖然とする私はペルセウスギルディの蹴撃を避けることができずにもろに食らうと飛ばされ、海中へ落とされてしまった。

 さすがは幹部クラスのエレメリアンだ。戦闘の腕も、シャドウを苦戦させる特殊能力も、その他大勢のエレメリアンとは比較にならない。

 海底へ沈んでいきながら、次の手を考える。

 フロストバンカーもブライニクルブレイドも、もはや自動で修復できるレベルじゃない。武器が使えない以上、エレメリンクを使わずツインテールへと戻ったほうがいいだろう。

 海底に足をつき力を入れて浮上、一気に海面から飛び出すとエレメリンクを解除して髪型をツインテールへ戻す。

 

「力の差は明確だが、まるで心が折れてねえ。すげえなお前は!」

 

 私が着地すると同時にペルセウスギルディはこちらへ詰め寄ると、三度(みたび)ハルパーを振り上げた。

 アバランチクローを装備し、頭上から振り下ろされたそれをなんとか防御する。

 空気が震えるような一撃。その衝撃で、両足が地面にめり込む。

 やはり重い。クローで防御できたとはいえ、腕への衝撃はかなりのものだ。

 

「さすがだぜ、テイルホワイト。アルティメギルを追い返しただけの実力は確かなようだ」

「褒めてくれるならツインテール諦めて帰ってくれない? それとこのハルパー早くどかして……!」

「そうはいかねえよ。英雄を待ってる同志がたくさんいるんでな。そろそろガチでやらせてもらおうか‼︎」

 

 まさか、今までは手を抜いていたというの⁉︎

 それを裏付けるかのように、ペルセウスギルディは全身からオーラのようなものを放つ。するとハルパーから伝わる力がより一層強くなり、やがてアバランチクローが放電しはじめる。

 まずい、このままクローも壊されてしまっては本当に太刀打ちできなくなってしまう……!

 クローを壊すわけにはいかないが、ペルセウスギルディから逃れることもできない。

 シャドウも偽シャドウの対応でいっぱいいっぱいだ。

 懸念してはいたものの、防御することしかできずにいると、やがて放電していたクローはハルパーに耐えきれずに叩き割られてしまう。

 

「くっ、オーラピラー‼︎」

 

 頭上へと迫るハルパーを前にオーラピラーを地面に放ち、間一髪で攻撃を交わすことに成功する。

 

「逃がすかよ‼︎」

 

 ペルセウスギルディはすぐに反応し、ハルパーをまるでブーメランのように放る。

 上半身を反らしそれを交わすが、起こした時には目の前にペルセウスギルディの盾が迫っていた。

 

「くぅ⁉︎」

 

 腕を交差させるが、今の私にはそれを完全に防御できるだけの装備などない。

 腕への重たい衝撃を感じながら、私は地面を転がる。

 

「お前たちがリアルミーティアにやったことそのまんまだぜ? 俺は見ていたんだ。しっかりとその辺もケアしとかねえとな」

 

 ペルセウスギルディの手元にハルパーが戻ってくる。

 腕に力が入らない。

 このままじゃまずい……!

 このまま私が負けてしまったら……せっかくみんなで守り抜いた属性力が奪われてしまう。

 志乃にも嵐にも黒羽にも、そしてビデオレターで私への信頼を語ってくれたフレーヌも……みんなを裏切ることだけはしたくない……!

 腕の痛みを堪えながら、なんとか私は立ち上がる。

 右腕は痛くて使えないけど、攻撃するなら左腕でも右足でも左足でもできるんだ。

 どうにかしてやるとペルセウスギルディへ飛びかかろうと、その時。

 

「テイルホワイト‼︎」

「え」

「あ?」

 

 声が聞こえたかと思うと私とペルセウスギルディの間に棒が……いや、エモーショナルステッキが転がってきた。 

 思わず私も、ペルセウスギルディもおかしな声を出してしまう。しかし、投げた人物が誰なのかはすぐに理解した。

 

「それを使ってくれ! 今さら君の味方をするなんてバカな女だなんていうのはわかってるよ! だけど、これはバカな私が招いた事態なんだよ! 少しでも、私にも協力させてほしい……!」

 

 涙を流しながら訴える彼女を見てから、私は目の前に転がったステッキを拾い上げた。

 この事態は彼女が招いたこと、確かにそうだ。

 この世界の属性力が脅かされているのも、私が今痛い思いをしているのも全て彼女のせいかもしれない。だから私は先ほど、彼女に対してマジでキレたんだ。

 だけど、彼女の妹のリアルと世界の属性力を失った悲しみは……私はわからないけど相当なものだと思う。

 だからといっても、ペルセウスギルディの誘惑に負けてしまったのは絶対に反省すべきことに変わりはない。

 

「だったらしっかり反省して私に力を貸して。それからどうするかは、ペルセウスギルディを倒してから考えるから!」

 

 ステッキをくるくると回してから、その先をペルセウスギルディへと向けてそう伝えた。

 彼女の泣き声がここまで聞こえてくる一方、ペルセウスギルディは驚嘆の声をあげる。

 

「おいおい、お前一回騙されてんの忘れたのかよ。お人好しすぎるぜ」

「知ってる。でもあんたを倒すにはこれしかないから!」

「ほー、そんな壊れかけで何ができるってんだ」

 

 それはもちろん、あんたを……ペルセウスギルディを倒すことができる。

 彼女はエモーショナルステッキを作った張本人。つまりはフレーヌと同じ科学者かそれに近い人物。そんな人物がなんの考えもせずに、私にステッキを渡すなんて考えられない。

 

「さあ、私たちの思いに応えて‼︎」

 

 私たちの願いに呼応するかのように、ステッキが輝く。

 やがてそれは形を変えていき、光から解放された。そして形を変えたエモーショナルステッキから発せられる音声は。

 

SYNC MODE(シンクモード)

 

 今まさに、このとエモーショナルステッキが私のテイルギアに合わせて新たな力を引き出した。

 ステッキはなんと、マキシマムバイザーとよく似たものへと変形していた。

 

「……これが、プライムバイザー‼︎」

 

 プライムバイザーをテイルブレスへとジョイントすると、ダメージを受けていたテイルギアが回復し、私に新たな力をもたらした。

 装甲はマキシマムチェインとよく似ているが、所々に走るラインがエメラルドグリーンからシアン色に変わっている。一番の変化は装甲の下のアンダースーツがまるで宇宙をそのまま閉じ込めたような不思議な色をしており、それが足の先まで伸びてタイツのようになっていることだ。

 エモーショナルステッキのシンクモードで変形したプライムバイザーを使った強化形態、これこそ!

 

「テイルホワイト・プライムチェイン‼︎」

 

 私は堂々と名乗りを上げた。

 プライムチェインの姿を見て、開発者の彼女も目の前のペルセウスギルディも感嘆の声をあげる。

 

「この土壇場でそんなことするのか‼︎ やばいなテイルホワイト! 俺は楽しいぜ‼︎」

「私は全然楽しくないけどねっ!」

 

 完全な邪悪ではないとはいえ、相手はアルティメギルの復興を目指すペルセウスギルディだ。私はこの戦いに楽しさなんて微塵も感じてない。

 フォースリボンに触れ、私は新たに創り出された武器を装備。

 アバランチクローユニバース。

 名前こそマキシマムチェインのものと同じだが、プライムチェインの装甲とお揃いでこちらにもシアン色のラインが入っていた。

 装備をしたのと同時、私はペルセウスギルディへと飛びかかる。

 

「なんだと⁉︎」

 

 応戦しようとした時、私はすでにペルセウスギルディの前から消えていた。

 マキシマムチェインと違ってこのプライムチェインには属性力を永遠に高めていく機能は備わっていない。しかし、かわりにそれと引けをとらない能力を使うことができるのだ。

 

「飛行能力か! ステッキで使えたんならお前が使えても不思議じゃねえな!」

 

 縦横無尽に空を飛び回り、隙があればクローを叩き込んで攻撃を仕掛ける、このような一方的な状況になってもペルセウスギルディは尚も楽しそうだった。

 

「相手が空飛べんならよ、俺も使わせてもらうぜ!」

 

 足首の装飾からペルセウスギルディも同じように光の翼を顕現させると、一気に私の高度を抜いて空高くへと飛翔した。

 かなりの速さだ……!

 ペルセウスギルディは一気に急降下し、空中で繰り広げられるアバランチクローユニバースとハルパーの打ち合い。

 

「初めてだぜ! ここまで本気に戦えるのは! ああ、感謝だなあテイルホワイト‼︎」

 

 やがてペルセウスギルディはハルパーだけでなく、左腕の盾までも攻撃に使用してくる。

 互いに一撃を与えては離れ、また一撃を与えては離れ……螺旋を描くように私たちは上昇しながら戦いは続き、成層圏近くまで達した。

 クローユニバースの攻撃が、宇宙に轟く。

 ハルパーの斬撃が、宇宙に響く。

 相手の攻撃を避けては仕掛け、避けては仕掛けの繰り返し、もう何分も何十分経っただろう。

 テイルギアから放出される属性力が、この成層圏ではより一層輝いて見える。

 煌めく粒子を全身に纏いながら、ペルセウスギルディに捉えられないよう高速で飛翔しクローユニバースの打撃を繰り返した。

 

「ははは! まさかここまで思いもしなかった。こうなったら絶対欲しいぜ、お前のツインテール‼︎」

「ツインテール属性を盗られちゃ戦えないし、それはできないよ!」

「なに⁉︎ 自分がツインテールじゃなくなるのが怖くないのか⁉︎」

「それはまあ、別に」

「意味わかんねえ! でもやっぱ面白えな‼︎」

 

 ペルセウスギルディが放った光弾を私はあえて防御せずに、右足で蹴り返す。私だって前よりかは、サッカーに詳しくなったんだから!

 さらに速度を増していく、私とペルセウスギルディ。

 自分がまるで光となったような、不思議な感覚だ。

 もはや私は、考えるより先に体が勝手に動くという域にまで達していた。

 

「っはああああああ‼︎」

「おらああああああ‼︎」

 

 互いの武器が互いの武器を弾き返すと、反動を使って回し蹴りを繰り出す。

 蹴りは拮抗し、激しくスパークを起こす。

 私は蹴り負けないように集中しながら、クローユニバースの先をペルセウスギルディへと向ける。

 

「なに⁉︎ ぐおお‼︎」

 

 そのまま発射して奴が怯んだそのとき、私はさらに上空へと舞い上がる。

 そして宇宙を背にして繰り出される、渾身の踵落とし。

 ペルセウスギルディの肩口あたりの装飾が砕け、奴は音速を超えるであろうスピードで地上へと落ちていった。

 私は自身の周りに広がる宇宙を眺める。

 まさか自分が宇宙にこんな近くまで来れるだなんて、思いもしなかった。

 この無数の星の中、詳しい方角はわからないけど今の時期はペルセウス座も見えるのだという。

 

「ペルセウスギルディ。あんたはアルティメギルを復興しようとした。だけど、復興しようがしなかろうが、私たちツインテールの戦士は絶対に属性力を守り抜く。それがどんな強いエレメリアンだろうと、どんだけ絶望的な状況だろうとも!」

 

 地上へ落ちるペルセウスギルディを目指し、さらに加速して追いかける。

 

「そしてどこの世界でもきっと、エレメリアンから属性力を守るための戦士が現れる。私はそう、信じてる‼︎」

 

 大事な時期なのにまたツインテールに邪魔された。

 ツインテールのせいでまた私が戦うことになった。

 しかし、ツインテールは再び私に人との繋がりをくれた。

 まったく、こんなにもツインテールはめんどくさい。

 そう、私は本当に――

 

「ツインテールが、大っ嫌いなんだからああああああっ‼︎」

 

 クローユニバースを足に装備するのではなく、そのまま腕に装備したまま回転。風を切るように旋転しはじめる。

 

「これは、流星群か⁉︎」

 

 私と同じ回転をした、いくつもの光の束がペルセウスギルディへと迫っていく。

 それはさながら、宇宙から飛来する流星群を思わせた。今の時期なら、ペルセウス座流星群でピッタリじゃないか。

 そして星の輝きを纏い、私と無数の流星がペルセウスギルディへと突貫する――!

 

「メテオシャワードライブ――ッ‼︎」

 

 ペルセウスギルディの体にいくつもの流星が激突し、一つ一つが多大なダメージを与えていった。

 

「ぐっぐあああああああ‼︎」

 

 紫電を放ちながら、ペルセウスギルディは私たちが元いた埋め立て地へと落下した。

 ここに、新たに私たちの世界の属性力を守る戦いは、終わりを告げたのだ。

 

 先ほどまでとは違い、今度は緩やかに地面に降りてペルセウスギルディの元へ向かった。

 

「く、くく……! 最高だったぜ、テイルホワイト。お前いったい何者なんだよ」

 

 クレーターの中央で大の字に寝転びながら、ペルセウスギルディは弱々しくそう言った。

 

「私はテイルホワイト……いや、伊志嶺奏。世界で一番ツインテールが大っ嫌いな女子高生、覚えた?」

「ツインテールが嫌い……? ははは、意味わかんねえ」

 

 まあ、昔ほど嫌いでもないのだけど。

 

「ああ、これでお前はこの世界の英雄だ……。羨ましいぜ」

「私、女なんだけど。英雄ってそれあってるの?」

「細かいことは気にすんじゃねえよ。は、英雄には相応の報酬がねえとな」

 

 属性力を奪う後輪がいくつも現れ、ペルセウスギルディが拳を握ると、この全てが一人でに爆発。この世界の属性力が持ち主へと戻っていく。

 

「お前がどう思おうとな、楽しかったぜ。ただ……仲間にツインテール属性を届けられなかったのは残念だがな。まあしょうがねえか……んじゃなっ!」

 

 ペルセウスギルディは爆発を起こすことなく、その場で静かに消えていった。

 

「あー! やっと終わったあ……!」

 

 力が抜けて変身が解けると、私はその場で倒れ込む。

 ペルセウスギルディにああは言ったけど、やはりもう今回限りにしてもらいたい。

 そのままボーッと空を眺める。

 すっかり陽が落ちて星が輝く空の中に、一つか二つ、流れ星が見えた。

 ペルセウス座流星群か……。

 流れ星への願い事は……もう私がテイルホワイトとして戦うことがありませんように、これで決まりかな。

 

 

 半年ぶりの戦いから、次の日。

 一度引退を表明していたからか、再び現れたテイルホワイトとテイルシャドウに対しての世間の反応は意外と静かなものだった。

 現役のときは勘弁してほしいと思っていたけど、あまり注目されないとなると少しだけ寂しい気もする。相変わらず私はめんどくさい女だな……。

 

「へえ、俺が練習に参加してる間にそんなことがあったのかよ」

「うん。リアルの妹がリアルミーティアっていう戦士で、奏とすっごい戦いをしたんだって。でも奏たちが言うにはその裏にはエレメリアンがいて……」

 

 私たちは今、園葉高校近くの空き地で昨日のメンバーに嵐を加えて異世界移動艇の整備を手伝っている。

 今日からお盆休みの期間となるので、大体の部活は休みに入る。教師も学校には来ないため、この場所に人が来ることはまずないと考えた結果、移動艇の整備をこちらで行うことにしたのだ。

 

「でもわかってくれてよかったね、妹さん! リアルの思いが通じたんだよ!」

「……うん、ありがとね」

 

 私と黒羽は志乃と嵐に大体のことは話したが、リアルミーティアが妹ではなく目の前の彼女だということは伏せることにした。

 志乃を悲しませたくないというのが一番の理由。それ以外に、私が彼女をもう一度信じたいと思ったのも大きい。

 まあ、一度完全に騙された私が言うのもアレなんだけどね。 

 そういうわけで、リアルミーティアは先に自分の世界へと帰っていったと、志乃と嵐には説明したのだ。嵐は初めて聞くのでよくわかっていなかったけど。

 

「これで平気ね」

 

 移動艇の中からツナギを着た黒羽が出てきた。どうやら整備が完了したらしい。ツナギは所々汚れているが、ツインテールが綺麗なままなのはさすがだ。

 それと同時に、私にはよくわからないけどおそらく目的地へと行きやすいように調整もしたということを、黒羽は彼女に伝えていた。

 

「みんな、いままでごめん。私の世界の事情なのに、この世界を巻き込んでしまって……」

 

 移動艇の前で、彼女は深く頭を下げる。

 

「結果的には無事だったし平気だよ。ね、奏!」

「うん。それより早く帰ってあげなきゃ。妹さんが待ってるんでしょ?」

 

 私たちの顔を見て安心したのか少しだけ頬を緩めて頷いてからもう一度頭を下げると、彼女は移動艇の中へと入っていった。

 運転席へと座り、エンジンをスタートしたところで窓を開けたかと思うと、私の名前を呼び手招きする。

 

「カナデ、君には感謝してもしきれないよ。私の過ちは本来許されるべきじゃないんだ……」

「そうかもね。それなら、なおのこと属性力を取り戻す方法を考えることかな」

「え?」

「自分の世界の属性力を元に戻したら、次はあなたが属性力を奪った世界の番。全部の世界を元に戻すの。そうすれば多少は罪滅ぼしになるんじゃない?」

 

 私の提案に、彼女は当たり前だというように固く口を結んで頷いた。

 

「君がこの世界を守れた理由が、わかった気がするよ」

「そ」

「それと、私の本当の名前なんだけど――」

「……そうなんだ。似合うね」

 

 このやりとりを最後に、私は移動艇から離れる。

 翼が胴体から伸び、ついに出発だ。

 

「また来てねーっ‼︎」

 

 志乃が大きく腕を振り、別れを告げる。

 永遠の別れを告げる言葉ではない。いつか再開しようという意味を込めた別れの言葉だ。

 移動艇が音もなく浮き上がると、まるでUFOのように自由自在な動きをしてから生成されたゲートの中へと消えていった。

 

「よし、じゃあ嵐の奢りで打ち上げでもしよっか」

 

 しんみりとする空気を破るよう、手を叩いて私は提案した。私は奢られるのは好きじゃないので、もちろん冗談だけど。

 

「おい奏! 俺は小遣い少ないんだぞ!」

「嘘に決まってるじゃん」

「じゃあみんなで出し合おう! 黒羽も行くよね……あれ?」

 

 志乃に続いて私と嵐も、後ろを振り返る。

 先ほどまでいたはずだが、黒羽の姿が見えない。

 

「なんだ? まさか帰っちまったのか」

「えー、せっかく久しぶり会えたのに……」

 

 黒羽にもいろいろ、事情があるんだろう。

 別れも告げずに去ってしまうのは悲しいけど、なんとも黒羽らしいじゃないか。

 それにもしかしたら、基地に一人でいるかもしれない彼女が寂しがっていないかを心配していたのかも……。まあ、あくまで私の想像だから本当にそうかはわからないけど。

 少しだけテンションの下がった二人の背中の押しながら、この場を後にした。

 

 

 明かりの消えた基地のメインルームで、中央のモニターだけが光を放っている。

 椅子に座り、端末を操作している人物はモニターを映る数字の羅列を瞬時に理解し、新たなページを開いて同じように操作を続けた。

 常人には理解しがたい情報がモニターの中で行き交いながらも、涼しい顔でそれを捌く少女。

 その少女の後ろで足音がすると、暗闇の中から現れたのは黒羽だった。

 

「あの娘、帰ったわ。まったく、ツインテールの戦士でありながら属性力を奪おうだなんて……とんでもない人もいたものね」

「自暴自棄になっていたところに、あのエレメリアンが現れたことで拍車がかかってしまったんでしょう。それにあの方はツインテールの戦士のお姉さんですよ」

「ああ、そうだったわね」

 

 黒羽と会話しながらも、少女の手は止まらない。

 アルティメギルに属していた彼女もある程度の科学には精通しているが、目の前の少女が何をしているのかはまるでわからなかった。

 しばらく少女を見ていたが、黒羽は唐突に口を開いた。

 

「あなたも奏たちに顔を見せればよかったじゃない。ねえ、フレーヌ」

 

 艶やかなオレンジ色の髪を持つ少女、フレーヌは手を止めると椅子を回転させて黒羽と視線を交わした。

 

「いえ、あのビデオの後に出ていくのは……なかなか……恥ずかしいじゃないですか!」

「そうね。半年前にあんな感動的な別れをしておいて、まさか月一でこの世界に帰ってきてるなんて、言えないわよね」

「き、基地のメンテナンスはこまめにしないといけないんです! 現に今回は役立ったじゃないですか!」

「はいはい」

「何ですかはいはいって⁉︎」

 

 激しく狼狽するフレーヌに、先ほどまで見せていた聡明な面影は感じられない。

 否定し続けるフレーヌを適当にあやしながら黒羽はモニター横の階段を降りて、フレーヌたちの移動艇であるフレーヌスターへと乗車していった。

 残されたフレーヌは大きくため息をつき、再びモニターへ視線を移す。

 今回は外部の人間によってこの基地の施設を利用され、あまつさえ新たな武器を作られてしまった。

 二度とこのようなことにならないよう、コンピュータには幾重にもプロテクトを掛けなければならないと意気込んでいた。

 

「よし、これでなんとか……」

 

 設定を終え、一息ついたフレーヌは背もたれに深く寄りかかる。

 リアルミーティアもペルセウスギルディも、強さ自体は通常のエンジェルギルディと同じかそれ以下のレベルだと基地のレーダーでは推測されていた。

 問題ないと考えていたとはいえ、やはり奏たちのサポートをするべきだったと少し後悔する。

 しかしフレーヌはまだ、自分の世界を守り戦ってくれた戦士にお礼を言えていない。

 この世界から旅立つときにした決心したことを達成できないままでは、奏たちには会えないと感じていた。

 

「そろそろ行きましょうか」

 

 フレーヌスターの運転席へと座り、黒羽に言う。

 基地の封鎖はリモコンを持っている志乃がやってくれるだろうと、話してエンジンを入れた。

 フレーヌの世界の科学力は、リアルの世界よりも高い。したがって移動艇の性能も段違いなのは当然のことだった。

 

「ほんとにいいのかしら? みんなに会わなくて」

「……次に来る時までに、私の世界の戦士を見つけてみせます!」

「……そうね。頑張りましょうね」

 

 静かに発車したフレーヌスター。

 半年前と違い見送り人はいないが、不思議と寂しさは感じなかった。

 

 

 お盆休みが終わる前に、なんとか学校に侵入して基地の封鎖は完了した。

 文化部ではあるが、休み明けすぐに奇術部は活動があると志乃から聞いていたので急ぐ必要があったのだ。

 そして学校からの帰り道、私と志乃はパターバットに寄り、いつもの席でコーヒーを飲んでいる。

 

「夏休みが終わったら……ほんとに高校生活も終わりだねえ」

「え、まだ文化祭とかあるじゃん」

「もう! こういうのはそうだねって返すのが普通だよ?」

「そうかな……」

 

 志乃の言う通り、夏休みが明けたら残る高校生活は九月、十月、十一月、十二月……三学期は自由登校なのでこれぐらいしかないのか。そう考えたら、確かに少ないかな。

 一年の頃は周りについていくのにいっぱいで、三年の今は受験勉強にてんてこ舞い。

 一番高校生活を楽しめるであろう二年の頃にエレメリアンとの戦いがあったとは……今考えても迷惑な話だ。

 ただ、私が一番楽しかった学年は今のところ二年生の頃なんだよね。

 

「そういえば、奏って急に進路変更してたよね。受験までに間に合うの?」

「うーん、この前の判定じゃギリ行けてたしこのまま追い込めばなんとか……」

「それ平気なの……?」

 

 志乃にマジで心配されている……。

 まあ、去年ギリギリになっていきなり文系から理系へと進路変更したんだし当たり前か。私はどちらかというと文系のほうだし。

 そのときは誰にも相談せずにいきなり変えたから先生はもちろん、私の家族にも志乃にもかなり驚かれたっけ。

 

「……できるかわからないけどさ。私も属性力とかその辺のこと知りたいの。当面はそれを目標に頑張っていくつもり」

 

 フレーヌの世界の科学力はこの世界よりも遥かに先を行っていた。そして、そのさらに先にはアルティメギルの科学がある。

 そんなものに直面しているうちに、いつのまにか私はその類のことをもっと知りたいと思っていたんだ。

 それに、もしこの世界で属性力という心の輝きが解明されれば、私が戦えなくなったとしてもそれを狙う脅威から世界を守ることができるかもしれないし。

 

「奏にそんなこと言われたら応援しないわけにはいかないよ!」

「ありがとう、志乃」

 

 ほんと、私は親友に恵まれたな。

 コーヒーを飲み干したところで、私は会計をしようと席を立つ。

 

「そうなったらギリギリまで追い込もう! 私も手伝うから!」

「え、志乃は志乃の勉強をした方が……」

「大丈夫! 私文系で余裕あるから‼︎」

 

 なんで志乃はこんなアホっぽいのに勉強ができるんだろう。

 理系はもちろん、私が得意な文系分野でも志乃には大敗してるし……なんか悔しい。

 

「……もう少し、ここで時間つぶしてく」

「ダメだよ、奏! 私がしっかり教えていくから‼︎」

「……」

 

 早くも現実逃避したくなってきた。

 ただ、ここが頑張りどころだ。

 絶対に理系学部に進学して、フレーヌたちに会いに行けるよう頑張るから……待っててね。

 

 

「それじゃあ、明日ねー‼︎」

 

 パターバットからの帰り道、志乃と別れて私は自宅に向かって歩く。

 誰も周りにいないことを確認して、私はテイルブレスを空へとかざして煌めかせる。

 私たちを繋げてくれるブレスの輝きを今一度、確認してから再び歩きだす。

 

 私はツインテールが嫌い。

 最初は好きな人から否定されたものだから。

 次に戦いへと巻き込んだくだらない元凶。

 そして別れの辛さを突きつけた。

 かと思えばまた戦いへと巻き込んだ。

 最後は私の進路までも変えてしまった。

 だから本当に私は――。

 

「ツインテールなんて――大っ嫌いなんだから」

 




これにて終わりです。
微妙に劇場版を意識しましたがどうでしょうか……。
俺ツイの続きを見たい阿部いりまさです。ありがとうございました!


テイルホワイト・プライムチェイン
エモーショナルステッキのシンクモードで姿を変えたプライムバイザーを用いて変身したテイルホワイトの強化形態。装甲はマキシマムチェインとあまり変わらないものの、所々に走っていたエメラルドグリーンのラインはシアン色へ、アンダースーツは黒から宇宙を思わせる色へと変化している。また、マキシマムチェインにはない飛行能力も備わっている。

武器:アバランチクローユニバース(シアン)
必殺技:メテオシャワードライブ


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