恋姫†有双 (生甘蕉)
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第一章    無印
一話    魔法使い?


 ふうぅぅぅ。

 大きく息を吐き出すと寝台に眠る女性を見つめる。

 美女というにはまだまだ早そうな……とてもそうは見えないが十八歳は超えているはずの美少女。

 

 金髪美少女の名は曹操ちゃん。

 華琳という真名は知ってるが授けてもらってないので、心の中でも曹操ちゃんと呼ぶ。

 万が一口にでも出したら殺されるから。

 

 殺されるよ、マジで。うん。

 

 

 

 ここは苦労して用意しておいた隠れ家。

 そこに曹操ちゃんと二人きり。

 俺は達成感に満ちていた。

 

 無理もない。

 途方もない難易度のミッション。

 目的は道士の術にかかってしまった曹操ちゃんの救出。

 

 前もって作っておいた白装束の衣装で変装した。

 記憶を頼りに作ってもらったそれの出来はかなり悪かったがバレずにすんだ。白装束のやつらは思考操作とか受けていて判断力下がっているのかもしれない。

 干吉という眼鏡道士が離れた隙に、操り人形とされてしまった曹操ちゃんをさらう。……いや、助け出す。

 

 曹操ちゃんがいなくなったことがばれないように、夏侯惇将軍の部屋から持ってきた曹操ちゃんそっくりの人形を代わりに玉座に置いてくる。

 城を脱出。

 用意しておいた隠れ家へ潜む。

 

 む?

 文章にすると簡単そうだな?

 だがしかし、俺は弱い!

 スペランカー並である!

 このミッションだけでも三度ほど死んだ。

 

 

 そしてコレからさらに難易度が高いミッションが待っている。

 曹操ちゃんにかけられた術を解くという最難関。

 

「震えるな」

 呟きながらも震える手で胸ポケットから取り出したものの包み紙を向き、口に放り込む。

 危ない薬や煙草ではない。

 残り少なくなった遥か遠い故郷の味、粒ガムである。

 味はスーパーハードなミント。眠気覚まし用のキツイやつ。

 

 くっちゃくっちゃ。

「ふん!」

 噛みながら鼻から強く息を吐く。

「うん。落ち着いてきた」

 そうは言ったが手の震えは治まってなどいない。

 落ち着いたんだと自己暗示のように言い聞かせて作業を始める。

 

「落ち着いてきた落ち着いてきた落ち着いてきた落ち着いてきた……北郷一刀なら余裕なんだろうか?」

 思い浮かべてみた。

 

 

北郷一刀

 (括弧内は俺。比較用)

むこうでは学生

 (むこうでは失業中)

こっちでは天の御遣い

 (こっちでは兵士)

剣道部

 (帰宅部だった)

武将達にモテる

 (彼女いない歴=年齢)

この恋姫世界の主人公

 (恋姫プレイ済み)

三国志に詳しい

 (三国志なんぞ知らん)

なんだかんだ死なない

 (すぐ死ぬ)

 

 

 なんだろうこのスペック差。

 マリオとスペランカー以上の開きじゃね?

 悲しくなった。

 涙に濡れた眼鏡を拭いたら手の震えも治まっているのに気付いた。

 

 

 そして曹操ちゃんも下着姿になっていた!

 

 ……もちろん俺が脱がしたのだが。

 

 

 

 恋姫†無双の記憶を頼りに曹操ちゃんの術を解くためだ。

 

 たしかエッチすりゃ術が解けるんだよな?

 

 実は恋姫†無双はプレイしたことがあるが一回きり。

 一回のプレイだけじゃコンプできないエロシーン?

 

 セーブデータもらってきて見ました。

 

 恋姫†無双といっしょに真・恋姫†無双も買ってたからそっちのプレイ優先。

 真はやりまくったよ、うん。

 おかげで無印の記憶が薄い。

 

 

 ははは……まあきっとエッチすりゃ大丈夫! エロゲだし!!

 

 

 

 

「最低だ、俺って」

 

 

 あ、手を拭いてる内にさっきの情報にもう一つ追加だ。

 

北郷一刀

 (括弧内は俺。比較用)

ち●こ

 (魔法使い)

 

 



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二話    冒険の書?

 くっちゃくっちゃ、ぺっ。

 噛んでいたガムを屑カゴへ吐き捨てる。

 包み紙は使わない。綺麗に伸ばして後で売る。

 意外と高く売れる。隠れ家用意する資金になるぐらいに。

 

 

 そして寝台に横たわる曹操ちゃんを脱がし始める。

 曹操ちゃんの処女と引換えに魔法使いからクラスチェンジ!

 

 ……じゃなかった、術を解く作業にチャレンジするために。

 

 全裸にされても目を覚まさない曹操ちゃん。

 知ってる限りの知識を導入して下準備。

 

 

 処女もらう。

 すごく気持ち良かった~。

 

 曹操ちゃん目覚める。

 首折られる。

 死ぬ。

 すごく辛かった~。

 

 

 

 

 

 

 目の前には寝台に横たわる曹操ちゃん。

 ガムを噛みながら考える。

 やはり魔法使いから初心者にクラスチェンジしたばかりの身では術は解けないのか、と。

 

「絶頂させなきゃ駄目なのか?」

 目の前が真っ暗になった気分だ。

「……処女を絶頂させるなんて、ち●こ君でもなきゃ無理だろ」

 ぺっ、とくずかごにガミングアウトして前回以上に入念に下準備。

 

 

 処女もらう。

 やっぱりすごく気持ち良かった~。

 

 曹操ちゃん目覚める。

 殺される。

 やっぱりすごく辛かった~。

 

 

 

 

 

 

 目の前には寝台に横たわる曹操ちゃん(処女)。

 ガムを噛みながら考える。

 

 曹操ちゃんに殺された俺がこうして巻き戻った状況でくっちゃくっちゃガミングできるのは、俺の能力(・・)によるもの。

 

 その名もセーブ&ロード!

 

 やっぱちょっと待って。

 格好悪いよなぁ……とりあえず冒険の書(アドベンチャーブック)(仮)!

 昔あったゲームブックみたいだから(仮)ってことで。

 

 

 この能力のおかげでここまで進んでこれたけど、長く苦しく厳しい道のりだった。

 だっていくらセーブ&ロードできたってスペランカーがスーパーマリオの世界をクリアできると思う?

 

 そして、痒い所に手が届かない能力でもある。

 王様や坊さんに頼まなくても好きな場所、好きな時にセーブできるのはありがたい。

 ステートセーブ、どこでもセーブってやつだ。

 だが、ロードは好きに選べない。

 つづきからを選べるのは死んだ時だけ。それも死んだ後に自動発動。

 

 便利っちゃあ便利だが、俺的には死にそうな時にロードできる方が良かった。

 痛いの回避できるし、辛くないし。

 けれども発動するのは死んだ時。

 死ぬほど痛いぞ。

 いやマジで。

 

 もう辛いし飽きたから諦めるという選択肢が選べない。

 ロードできるタイミングが選べればロードしないでそのまま死んでゲームオーバーだろうにそれがない。

 

 

 死んだら選択肢を選ばされる。

 

 つづきから

 はじめから

 

 この二つの選択肢。『おわる』はないらしい。

 

 つづきからを選ぶとどのセーブを使うかの選択肢。

 選べるのは三つのセーブデータ。

 

 そう!

 セーブスロットが三つしかない。

 不便である!!

 

 一つで充分?

 詰んだセーブデータんなったら最初からやり直しだよ。

 

 現在のセーブはこんな感じ。

 

 セーブ1 毎朝のセーブ用

 セーブ2 曹操ちゃん救出後の隠れ家

 セーブ3 最初からの後のはじめての人里

 

 ほら、全然足りてないでしょ。

 このまま曹操ちゃんの術が解けなくて俺の死亡が避けられない場合、セーブ2は詰みだろうなあ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は気付いたらこの恋姫†無双の世界にいた。

 

 現状を説明してくれる神様になんて会わなかったから、恋姫†無双の世界だと理解す(わか)る前にも何度か死んだ。

 全部野垂れ死に。

 

 なにしろスタート地点が悪すぎる。

 人里離れた荒野のど真ん中。

 とりあえず動き回って空腹と疲れで体力なくなって倒れて意識がなくなって死亡。

 気付くとまたなんにもないスタート地点からやり直し。

 

 そんなことになってるとも知らず再びさ迷う。

 死ぬ。

 面倒くさくなってスタート地点から動かずに寝続ける。

 死ぬ。

 

 死んだ後の選択肢で気付くだろって?

 やる気なくてぼーっとしてたら時間切れで自動的に『さいしょから』を選んだことになってたらしい。

 

 

 

 おかしいと気付いたのは荷物を確認した時だった。

 何度目かのはじめからの時、ガムの本数がおかしいことに気付いた。

 愛用のデイバックにいつも何本かのガムを補充しているのだが、それが減ってない。

 空腹を誤魔化すためにいつも以上に大量消費して噛み尽くしたはずなのに。

 なぜ?

 

 

 ――まあ再スタートなんで、装備もスタート時の状態になってるからなんだけど。

 

 

 そんなことに気付かない俺は、腕時計で日付を確認する。

 おかしい。

「まだ一日目だ」

 

 ちなみに一日目とは、この世界に来てからの日数ではない。

 コミケの方である。

 俺はコミケに向かったはずが、気付くとこの世界にいた。

 

 電池が切れたはずの携帯も確認。電池は切れてなどおらず、日付も同じ。

 おかしい。

 本命の三日目も過ぎてしまってるはずだ。

 以来、悲しくなりすぎるので日付を確認しなくなったんだ。

 

 

「え? え?」

 とりあえずガムを噛みながら考える。

 

 俺はおかしくなったんだ。とか、死に掛けた俺が見ている夢とか幻。

 みたいなことしか浮かばなかったが。

 結局この時も死んだ。

 

 

 しかしその後、異変があった!

 意識が戻った場所は荒野ではなかった。

 そこは一言で言えば『道場』だった。

 そして何日ぶりだろうかの自分以外の人間がそこにいた。

 

「いい加減先に進みなさい!」

 褐色巨乳の美女に会っていきなりそう怒鳴られた。

「あ、あの」

 言いかけた俺の視界に選択肢が現れる。

 その時は『はじめから』しか表示されなかったので選択ではなく一択だった。

 

「なにこれ?」

 空中に浮かんだその文に、思わず出した指先が触れる。

 奇妙なクリック感。

 自分が選択したということがなんとなくわかった。

 

 そして再び荒野。

「どうなってんの? てかさっきのってどっかで見た!」

 思い出すように指先を見つめ、振ってみたら選択肢が出てきた。

 

 なんばんにきろくしますか?

 1

 2

 3

 

「ファミコンか!」

 空中に浮かぶ平仮名だけの文を見て思わずツッコんだ。

 

 

 

 その後、人里に辿り着くまでに冒険の書(アドベンチャーブック)(仮)の性能を試すことになった。

 ……つまりはまた死んだ。

 

 死ぬと道場に行くことになるらしい。

「もう死んだの」

 ため息とともに褐色美女が迎えてくれる。

 

「ここは?」

 聞いてから、先に名前を聞いた方が、いやまず自分が名乗るのが先か、などと悩む。

「小覇王道場。死亡終了時の救済所」

「タイガー道場のパクリ?」

「いいのよ、私が継承する前は江東の虎道場だったんだから!」

「はあ」

 よくわからん理屈で言いわけされ、その意味を考えてると目の前の褐色美女のことを思い出した。

 

「そのチャイナっぽい服、もしかして?」

「あら、知ってるの?」

「恋姫で呉の死ぬ人!」

「なに、その覚え方」

 彼女は笑顔だったけど剣の柄に手を持ってかれました。とても怖いです。

 

「だって、死んじゃう娘狙ってるとショックでかいんだよ! 避けなきゃ大ダメージなんだよ!」

 ギャルゲープレイ時の注意点を叫ぶ。

 感情移入しまくる俺としては死んじゃう娘、寝取られる娘は攻略対象外なのだ!

 

「な、泣くほどのこと?」

 ひかれた。

 距離をとられた。

 

「えと、しぇ……孫策さん?」

 真名を言いかけたら、また剣に手がのびたので咄嗟に言いなおした。

「ええ。孫策よ。ああ、名乗る必要はないわ。あなたの事はわかってるから」

「わかってる?」

「ええ。だって道場主は弟子のことを知ってるものよ」

 

「え!」

 弟子と言われて即座に自分の格好を確認。

 よかった、ブルマじゃなかった。

 

「っと、そろそろ時間のようね、ちゃんと記録しておくのよ」

 時間切れでまた俺は『はじめから』スタートした。

 後で知った……その後死んだ時に教えてもらったのだが、冒険の書に記録しておけば時間切れでも自動選択はないそうだ。

 

 孫策に言いたかった。

「救済所ならまず、人里の方向を教えてくれよ!」

 結局、また死んだ時にそう言ったら教えてくれた。

 

 

 

 

 で、なんとか小さな街に辿り着いた俺。

 その前に賊に襲われてまた死んだりもしたけど……。

 人里近くなると賊もいるのね。さすが恋姫世界。

 村についてまず真っ先にセーブしたね。それが今でも上書きしてないセーブ3てワケ。

 

 その後は栄養補給と情報収集。

 街中の機嫌が良かったので、ちょっとだけどただでメシを貰えた。

 俺がよっぽどやつれているせいもあったが、一番の理由は『天の御遣い様』のおかげらしい。

 うん。ちょっとは期待してたよ。でも自分がそれじゃないとわかって正直ホッとしたり。

 

 天の御遣い様の一行が、近くを荒らしまわっていた賊を退治したとのこと。それでお祭り騒ぎらしい。

 で、俺は悩む。

 天の御遣い様に合流するか、とかね。

 

 他のメンバーの様子を聞くに蜀ルートっぽい。

 苦労しそうだよなあ。

 それにロリなら魏の方がいい!

 BBAもいないし!

 

 あまり悩まずに行き先を決断する。

 この時は無印恋姫の世界だって気付いてなかった。

 ちょうど陳留へ向かう商隊がいたので同行させてもらう。

 

 ああ、代金は蜀ルートの北郷一刀の真似して、ボールペンを売って金を手に入れていた。

 よく持っていたなって?

 もちろん持っていたよ。コミケカタログチェック用の赤いボールペンを。

 

 

 それから色々がんばってどうにか魏軍の兵士になった。

 無印だから俺みたいな細身のやつでもなんとかなれた。真だったら無理だろうな。

 うん。曹操ちゃんの姿を見て無印だって気付いたよ。

 で、兵士になれたとこでセーブ2を使用。

 

 セーブ3はあれ以来、上書きしていない。またあの苦労はしたくないのである。

 なんとか馬にも乗れるようになった。

 ロードした時、筋力などの能力値はセーブした時のままだが、記憶やスキルは死亡時のものが引き継がれていた。

 これに気付いた時はやっと光明が見えた気分だった。

 

 兵士である以上、さらに俺が弱い以上、戦場ではすぐ死ぬ。

 普段はセーブ1からロードして死亡を回避。

 配置された部隊の全滅が避けられないなどの時はセーブ2からロード。

 

 最初は給金のほとんどは同僚に食事を奢るのに使った。

 馬の乗り方特訓してもらったり、読み書き教えてもらったり。そのお礼。

 人付き合いがちょっと苦手な俺はそういうので釣るしかなかった。

 

 そのうち、本を読めるようになると金の使い道は本に変わった。

 高いけど生きてる内に急いで覚えて、死んだら別の本を購入の繰り返し。

 アイテムや所持金も引継ぎできないので必死で覚えた。

 

 そんななんで隊からは浮いていた。乗馬も字も覚えたんでもうメシ奢ってなかったし。

 ……本ばっかり読んでいるおっさんが、血の気の多い若い奴らの気に食わなかったんだろう。

 軍隊内のイジメは洒落んならんことを思い知ったのは何度目かの出陣前。装備品隠された時は泣きそうになった。物隠すなんて小学生か!

 その時、俺は天使に会った。

 許緒ちゃん将軍に声をかけられたのだ!

「なに泣いてるの、おっちゃん?」

 泣きそうに、ではなくマジ泣きしてたらしい。

 

 ワケを話すと装備品を手配してくれた。

「春蘭さまにはナイショにしといてあげるね」

 うん。きっと夏侯惇将軍なら「武器を忘れるとは何事か!」ってこっちの言い分も聞かずに殴られるね。下手したら殺されるね!

 

 で、その戦闘ではなんとか死ななかったんでそれのお礼しに行ったら、溜まった書類に苦労していた許緒ちゃん将軍。

 できる限りでなんとか手伝ったら、礼を言いにきたはずなのに逆に感謝されてしまった。

 

 それ以来、書類の手伝いを度々続けていたら季衣ちゃんって真名もくれた。

 イジメの方は季衣ちゃんが「おっちゃんいなくなったらボクが困るんだからね!」と止めてくれた。

 季衣ちゃん将軍は軍内での人気も高い。そんな彼女に真名をもらったということで俺は一目おかれるようになった。

 で、かわりに「幼女の被保護者」とか「変態野郎」とか陰口も言われてたみたいだけど本当の事なんで気にならなかった。

 ロリ万歳!

 ビバ幼女!!

 

 

 

 

 そんな感じで、どうにかこうにか先へ進んできた。

 目標は主人公である北郷一刀がゲームクリアするまで生き残ること。そうすればきっと元の世界に戻れるか、この「やり直し、再提出!」なループを終わらせられるはず。

 ……町人にクラスチェンジした方が楽かもしれない。俺に稼ぐ手段があればだけど。

 兵士も悪くないよ、季衣ちゃんいるし。と自分にいいわけして、まったく向いていないこの仕事を続けると決める。

 

 だが、ここは無印恋姫世界。

 北郷軍が立ち塞がり、さらにこのままでは曹操ちゃんは干吉の術にかかってしまう。

 魏軍兵士の死亡率が跳ね上がる。先に進めなくなる。

 なんとか助けねば!

 フラグ立つかも知れないし!

 

 季衣ちゃんに曹操ちゃんのピンチとか側を離れないように教えたが、口下手な俺は上手く説明できなかった。なんで無印だと季衣ちゃんは親衛隊隊長じゃないんだよう。

 けれど何度も何度もしつこくしつこくしつっこく説得したら俺の配置を城の守備隊に変えてくれた。ド忘れしてたらしい書類の束の手伝いと引き換えに。

 

 そこからは入念に準備。

 手伝い終わった書類を届けに行く時に迷ったフリして夏侯惇将軍の部屋を確認。……不審者と間違えられて夏侯惇に殺される。

 記憶を頼りに変装用の白装束を手配。出来悪かったんで本番ではドキドキだったけど。

 売れるもん売って得た資金で隠れ家を用意。

 

 夏侯惇将軍の部屋に忍び込んで家捜し。なんとか曹操ちゃんそっくりの人形を発見。

 曹操ちゃん人形ネタは真の方だったハズだから心配してたんだけど、あって良かった。

 ……うわ、すごい。こんなとこまで作ってある!

 出来を確認してたらムラムラしてきた。うん、これならバレナイ。

 ついてしまった汚れを拭取ったら脱がした下着を付け直して運ぶ。

 衣装は都合良く今の曹操ちゃんと同じものが見つかったのでそれを着せておいた。

 他の下着も貰っておこうか悩んだけど止める。曹操ちゃんが着けた可能性が低い物になど興味はないし。

 

 

 曹操ちゃんの救出に成功したらセーブ2に記録。これでもう曹操軍兵士になった直後からはやり直せない。

 一話冒頭へ。

 

 

 ……一話ってなんだ?

 

 



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三話    26?

 ロード

 ヤる

 ()られる

 

 を何セットか。

 二桁は軽く超えているはず。もう数えてはいない。

 

 少しは上達したと思うがやっぱり上手くいかない。

 でも自身の快楽も凄いんで選択肢を見もせずに連打でロードしていた。

 まあ即効再ロード道場スキップの一番の理由は、孫策ってこっちのこと知ってるジャン。なんか言われるのって恥ずかしいジャン。なワケで。

 

 

「もしかしてこっち?」

 ふと気付いて前だけじゃなくて後ろの処女ももらった。

 やっぱり殺された。

 

 

「ええと……ええと……」

 なんか思い出してきた。

「そうだ! 無印だと北郷一刀は確か曹操ちゃんを縛ってからだったじゃないか!」

 もっと早く思い出せばよかった。

 ……なんかもっと大事なことを忘れているような気がするような?

 

 

「正気を取り戻してくれ!」

 出た後、入れたまま強く抱きしめる。

「殺す!」

 いつものように言う曹操ちゃん。

 だが今回は縛っているおかげで俺はすぐに殺されない。

 

「今度こそ術を解く!」

 そう叫びながら再チャレンジ。

「殺す!」

 

 

「……」

 四回戦を終えた時、曹操ちゃんは無言だった。

 唇を噛みしめて俺を睨み続けていた。それも涙をたくさん溢れさせた瞳で。

 

「ごめん」

 いたたまれなくなる俺。曹操ちゃんから離れる。

 それでも睨み続ける曹操ちゃん。

 

「曹操ちゃんに掛けられた術を解くのは無理そうだから、もっと前からやり直すよ。本当にごめん」

 頭を下げて謝る。

 

「……なんて謝っても覚えているワケないんだよな」

 曹操ちゃんを縛っている縄を解く。

 当然のようにすぐさま、曹操ちゃんの両手が俺の首を捕らえる。いつものごとく俺は抵抗しない。暴れたって辛いのが長引くだけだ。

 

「忘れるわけないでしょう! この私の初めてを奪ったのよ、二十六度も!」

「!?」

 薄れゆく意識の底でそんな声と、自分の首の骨が折れる音を聞いた。

 

 

 

 

「ずいぶんとお楽しみだったみたいね」

 予想通りのニヤニヤ孫策。

「なあ……」

 そんな孫策よりも、別のことが気になっていた。

 

「記憶があるのって俺だけ?」

「さあ?」

 ニヤニヤニヤニヤな表情。

「教えて下さい! 曹操ちゃんが言ったことが気になって……」

 頭を下げて頼み込む。

 

「やっぱまだ気付いてないのね」

「?」

「項目、増えてるわよ」

 ここで項目といったらアレのことだろう。さっきまで連打で済ましていた、空中の文を確認。

 その文はいつも通りの『つづきから』『はじめから』ではなかった。その下に『ひきつぎ』の一行が追加されている。

 クリックしてみる。

 

 

 だれをひきつぎますか?

 ???

 ???

 ???

 ???

 ???

 ???

 ???

 ???

 ???

 ???

 

 ???が続いていくのを眺めていくと。

 

 ???

 ???

 曹操

 ???

 ???

 ???

 

 となっているのを発見。おおっ、漢字使えるんじゃないか。しかも曹操の一行は色が反転しており、選択済みになっているように見えた。

「これって?」

 曹操の下に続く???の最後に、もどるを発見。クリックしてみる。

 

 つづきから

 はじめから

 ひきつぎ

 

 となった。

 

「もしかして……」

 空中の文から孫策の方へ視線を向けると、その後ろに曹操ちゃんがいるのに気付く。

 

「え、ええええええ!!」

「そ。こういうコト」

 最高のニヤニヤ面を見せる孫策。

 

 眼光鋭く俺を睨みつける曹操ちゃん。今度は泣いてはいない。

「どういう事か説明なさい」

 

 

 

 

 

「そんなこと信じられると思う?」

 全てを正直に話した俺。なのに返ってきたのはそれ。

「ですよね」

 曹操ちゃんの前に正座したままうなずく。

 

「けれど、私は二十六度もあなたに襲われたわ」

「スミマセン。他に術を解く方法知らなかったんです」

 即行で土下座。

 ずっと術が解けてたのに俺、殺されていたのか……。

 いきなり殺さないでくれれば二十六度も繰り返さないですんだのに。

 そう。さっきから何か言うたびに二十六度って。

 なんて中途半端な数だ。チクショウ! もっとヤってればよかった!!

 

「なにか言ったかしら?」

「い、いえなにも」

「で、これからどうするつもり?」

「夏侯惇将軍たちは、北郷軍へと降っています」

「そう」

 土下座したままなので曹操ちゃんの表情は見えない。怒ってるのかな?

 

「す、全ては曹操ちゃんを助けるためです」

「どういうこと?」

「将軍たちは曹操ちゃんの様子がおかしいのに気付き、白装束に操られていることを察知、恥を忍んで北郷軍に助けを求めているはずです」

 俺が人形とすり替えたせいでちょっとは変わってるかもしれないけれど、あの人形そのまま輿に乗せてる可能性が一番高いもんなあ。

 

「あの子たち……」

「将軍たちは曹操ちゃんのために」

「わかっているわ!」

 

 

 しばらくみんな無言で俺は土下座したまま。

「面を上げなさい」

「はっ」

 やっと曹操ちゃんの可愛い顔が見れる。相変わらず俺を睨んでるけど少しキツさ減ったかな。俺の希望的観測?

 

「なぜ私はあなたの力に巻き込まれたのかしら?」

「それはたぶん……」

 たぶんじゃなくてきっとそう、なんだけど怖くて言えない。

「たぶん?」

 言わなきゃ駄目なのか……。

 

「や、ヤっちゃったからです」

「抱かれたからってこと?」

「はい。俺以外の記憶の引継ぎができたのは曹操ちゃんが初めて。曹操ちゃんが記憶を引き継ぐ前にしたことといえば……。その他にも条件があるかも知れないけど、可能性が一番高いのは間違いなく」

「あなたに抱かれるってこと?」

 ドキドキしながらうなずく俺。

 曹操ちゃんの様子にあまり変化は無い。

 よかった。もうそんなに怒ってないのかな?

 

「試してみましょう」

「え?」

「他の女を抱いてみなさい」

「……無理」

 なんて無茶を言うんだ、この可愛い覇王様は。

 

「私の命令に逆らうの?」

「だ、だってこの歳まで童貞だったんだ。曹操ちゃんのような超絶美少女で筆おろしできただけでも奇跡なんですよ!」

 鋭さを増した曹操ちゃんの睨みに怯みながらも反論。

「超絶美少女?」

「うん。最高で究極に可愛い! そんな子とできて運まで使い果たした俺が、この上さらに他の娘となんてできるなんて奇跡があるわけない!」

「命令するわ」

 俺の正当な評価が通じたのか、頬を染めながらの曹操ちゃん。

 

「俺には無理ですってば」

「命令するのはあなたにではないわ。そうね、成功してあまり記憶の引継ぎをされても困るでしょうから魏の重要人物、夏侯惇、夏侯淵、荀彧あたりかしら?」

「無理です」

 即答する俺。そう、その三人はやっぱり無理。

 

「私が命令する。あの子たちは逆らえない」

「でも無理です。季衣ちゃんならともかく」

「季衣の真名は預かっているのね……あなた、そういう趣味なの?」

「うん!! い、いえ、ちっちゃい娘が大好きなのは確かですが、もっと別な理由が……」

 重大な理由。譲れない理由。

 

「理由?」

「非処女は嫌! 俺の未熟なテクニックを比較されたくない!」

 俺は処女厨だ!!

 

「てくにっく?」

「あ、技術って意味かな?」

「こんな男に……」

「あと季衣ちゃんは俺を殺さないし!」

「春蘭たちには殺されたの?」

「ついさっきまで俺を殺したトップ……第一位が夏侯惇将軍」

「今は……聞くまでもないようね」

 はい、俺の前の美少女です。

 

「そんな理由が通ると思ってるの?」

「そんなこと言われてもできません。怖くて起ちませんし」

「……私の時は起ったじゃない。あんなに殺したのに」

「そ、それは……」

 イカン、顔が熱い。おっさんの赤面なんて見て誰が面白いんだ。

 

「それは?」

「す、好きだから! 曹操ちゃんのことが好きだから!」

 うひゃぁ、言っちゃったよ。ううぅぅ、この歳で告白なんて……恥ずかしくて死にそうだ。ここで死んだらどうなるんだろう?

 元々曹操ちゃん狙いで魏を選んだワケだが、俺の初めてを捧げてもう無茶苦茶好きになっていた。

 これはもはや愛!

 

「そ、そう……」

 面食らった顔の曹操ちゃん。

 え? そんな答えは予想してなかったの?

 俺の気持ちが、愛が通じて干吉の術が解けたんじゃなかったの?

 

 なんか急に冷めた俺。そうだよな、俺なんかに告白されたって「なに言ってんのこのおっさん、キモ」なワケだよな。

 

「ちょっと、だいじょうぶ?」

 呆けていたらいつのまにか美少女の顔が間近にあった。可愛いなあ。

「そんなに無理なの?」

「は、はあ」

 間抜けな返事を返す俺に、曹操ちゃんはあきれ顔。

 

「仕方ない」

「わかってくれましたか」

「季衣を抱きなさい」

「え?」

 ぱちくりと思わず瞬き。

 

「言ったじゃない。季衣ならばできるのでしょう?」

「そ、それはそうですが、こういうのは両者の合意がないと」

「両者の合意、ねぇ。二十六度の内の一度たりとも合意した覚えはないのだけど」

「スミマセン!」

 即土下座。いつまで言われるんだろう、トゥエンティシックス。

 

「まだ蕾の内なのは心が痛むけれど、たまにはそれも悪くない」

 なんか声が嬉しそうなんだけど、怖くて頭は上げられない。

「はじめての時はどんな顔をするのかしら?」

 やっぱ楽しそう、っていうかさ。

「あ、あのもしかして、季衣ちゃんとの時って」

 土下座したまま聞く。

 

「もちろん私も参加するわ」

 マジですか!!

「わかったらさっさと始めなさい」

「はい喜んで!」

 

 俺はすぐさまセーブ2をロードした。

 

 

 ってセーブ2って……。

 

 

 

 

 今度は二十七度って言われ続けるのか。

 大きなため息をつきながら寝台の曹操ちゃんを縛るのだった。

 

 



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四話    絶影?

 溢れんばかりの俺の愛で曹操ちゃんに掛けられた術を解く俺。

 さすがに今回はイキナリ殺されなかった。

 縛ってるからね!

 

 けど、殴られた。

 縛りを頑張ったせいかも知れない。

 

「時間がないのになにを考えているの!」

 前世(・・)は後ろ手に結ぶだけだったけど、それじゃ芸がないかなぁって。

 そういう縛られ方の曹操ちゃんもよかった。頑張ったかいあったな!

 とか考えてたらまた殴られた。

 

「変態」

「Exactly(その通りでございます)」

 英語で言ったのにまた殴られた。意味わかったんだろうか?

 

 

 術と縄を解いた曹操ちゃんと俺は隠れ家を出て本城へと向かう。

 出迎えた兵が二人だけでの帰還に驚くが、「留守中の様子を確認する」と言われてすぐに引き下がった。

 偽者だとか、おかしいとかは思わないのかな?

 

 曹操ちゃんは城に残っていた文官に指示を出した後、厩舎へ俺を連れてった。

「もう軍は出発しているがその歩みは遅いらしい。十分間に合うわ」

「ああ、たしか曹操ちゃんを輿に乗せて移動してたはず。着せ替え曹操ちゃんもそんな扱いだと思います」

 睨まれた。

「この私が輿? 屈辱ね」

 ついさっきまでの初めての行為の影響か、歩き辛そうにしていた曹操ちゃんの速度が少し速くなった。

 

「……この子を使われなかっただけ、良しとしましょう。おかげで楽に追いつける」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべた曹操ちゃんの視線の先にいました。

 象?

 象がいるのって南蛮じゃなかったっけ?

 なんか猫耳尻尾ロリが頭に乗せてたような記憶がある。

 よく見ると象じゃなかった。象と見まがうほどの巨躯だったけれど。

 

 それは馬というにはあまりにも大きすぎた。大きく、黒く、重く、そして……って、これもしかして!

 

「絶影」

 曹操ちゃんの呼びかけに応じてそいつは嘶く。大きく震える厩舎。

「え? 黒(オー)号じゃなくて?」

 

「こくおう? 妙に惹かれる名ね。天の名馬かしら?」

「う、うん……馬にしておくには惜しい程の漢な馬だ」

「ふむ。我が愛馬絶影ほどの名馬が天にもいるのね」

「愛馬って、戦場じゃ見たことがないような?」

 こんな規格外で目立つモノ、見逃すハズないですが。曹操ちゃんはいつも別の普通サイズの馬に乗っているよね?

 

 無言の曹操ちゃん。何故か顔が赤いような。

 黙ったまま巨馬の脚をなでている。

 絶影デカいから頭や鬣にとどかないんだろう。

 ……ああ、曹操ちゃんがあまり乗らない理由がわかった気がする。

「余計に小さく見えるからか」

 絶影に乗ってたら曹操ちゃん、見えなくなりそうだ。む?

 ……首筋に冷たい物が当たっています。

 

「なにか言ったかしら?」

 ニッコリ。

 くそう、殺気纏わせてるのに可愛いなんてズルすぎる!

 大鎌向けられてなきゃ、全力で抱きしめにいくところだ! 絶対避けられるけど。

 

 

 

 

 絶影は(おお)きいだけじゃなくて無茶苦茶速かった。

 曹操ちゃんと俺がタンデムしても影響はまったくなさそう。

 あと四、五人乗っても余裕なんじゃないだろうか。

「ひ、ひええ!」

 高さとスピードによる恐怖で、手綱を握る曹操ちゃんにしがみ付く。

「落ちる!」

 落ちたらまず死ぬ。

 

「しっかり掴まってなさい。ただし変なところに触ったら……わかるわね?」

 俺が死んだらまたセーブ2からやり直しなせいか、曹操ちゃんは俺を殺さない。そうじゃなかったらもうとっくに殺されてるだろうな。

 落馬死も痛そうなので、密着できた状況でも無茶はしない。

 曹操ちゃんの香りを堪能するぐらい。んー、いい匂い。髪とかにぶっかけなくてよかった。

 

 曹操ちゃんは俺にセーブ2の上書きを禁止した。

「少しでも時間が惜しいの」

 俺に初めてをあげたいから、なワケないですよね、やっぱり。

 次もしやり直すことになったら、今度は縛らずその分で時間を短縮するように命じられている。

 

「で、どうするんです?」

「奪われた曹魏の軍勢を取り戻す」

「全員操られてるんじゃ? どうやって術を解く……って駄目! 術を解くために曹操ちゃんがみんなとヤるなんて!」

「そんなワケないでしょう!」

「俺以外の男とヤらないで!」

 曹操ちゃんにしがみ付く両腕に力をこめる。

 

「……抱いたくらいで自分の女だと言うつもり?」

 ゾッとするほど冷たい声が返ってくる。でも俺は両腕の力を緩めない。

「お、俺以外の男とヤッたら次は引継がない」

 声が震えてるのを自覚する。

 

「なるほど。独占欲は強いワケね」

 そうか、俺は独占厨でもあったのか。

「……ふん。いいでしょう。どうせ男など必要ない。……だから泣くのは止めなさい」

 え? 俺また泣いてた?

 

 

「じゃどうやって術を解くの?」

「全員が術にかかっているワケではないでしょう? それ程の力を持つ道士なら私を操る必要はない」

「そうか。北郷軍の兵士全員を操って、北郷一刀を殺した方が確実で早い」

 そういや白装束は操られた曹操ちゃんに槍を向けたやつもいたんだっけ。今思い出した。

「曹操ちゃんが人質にされてるんだったら、魏軍は逆らえない」

 

「私はここにいる。我が曹魏の兵を無駄死になどさせない!」

 曹操ちゃんの気持ちが通じたのかのように速度をあげる絶影。あっという間に軍勢に追いつく。

 絶影の巨躯に魏軍兵士も気付いて動揺が走る。

 まあ、こんなデカい馬見たらみんな驚くよなあと思ったらそうではなかったらしい。

 みんな絶影が曹操ちゃんの愛馬だって知ってたからだ。なんだよ、知らなかったの俺だけ?

 いいもん。ハブなんて慣れてるもんだ。

 ……ぐっすん。

 

「放しなさい」

 しがみ付いている両手を離すと、鞍の上にスッと立つ曹操ちゃん。絶影とのサイズ比考えたらあまり意味はなさそうだけど、さすがは魏軍兵。すぐに曹操ちゃんに気付いたようだ。

 

「聞け! 魏武の精兵たちよ!」

 曹操ちゃんの声一つで、魏軍の動揺が鎮まる。やっぱり操られてないのか。

「私はここにいる! 白装束の不埒者にいい様にされる曹孟徳ではない!」

 一斉に兵たちが白装束と輿を振り返るのが見えた。よく見えないけど記憶どおり輿の上の着せ替え曹操ちゃんに槍が向けられているみたいだ。

 

「覇王たる私が戦場で輿に乗ろうか? 否! それこそがアレがまやかしである証拠!」

 いつのまにか手にしていた大鎌で輿を指す。……刃の方の先端が俺に向かってるのは気のせいですよね?

「もはや化生の者に従う必要はない。魏武の誇りを取り戻せ!」

 

 魏軍の兵士たちは互いに見合ってそして、雄叫びをあげた。

 満足そうに頷く曹操ちゃん。鞍に跨り直す。

「なんか単純すぎる気が」

 あまりの喧しさに両手で耳を押さえる俺。曹操ちゃんが何か言ったようだが聞こえなかった。

 

 聞こえなかったがすぐに理解した。絶影が走り始めたからだ。

 慌てて曹操ちゃんにしがみ付く。

「道を開けなさい!」

 曹操ちゃんの声が聞こえるよりも先に魏軍兵士は絶影の前でモーゼの十戒のごとく左右に別れていく。絶影に踏まれたら確実に死ぬもん。そりゃ避けないと。まさに黒O号。

 

 十戒の先は白装束の担ぐ輿。それを目掛けて絶影は一気に駆け抜ける。

 白装束たちが向かってくるが絶影は意にも介さず、踏み抜いて行く。

 後ろで、魏軍と白装束の戦いの音が聞こえる。正面からのぶつかり合いになっちゃったけどいいのかな?

 

「干吉はいないようね」

「どっか別の場所から術で白装束に指示を出してるんじゃないかと」

「ふむ。ならば!」

 絶影無双のおかげで輿は目前。曹操ちゃんの目線でなんとなくわかった俺は両手を離す。

 シュッと輿の上に飛び移る曹操ちゃん。

 うん。俺が察したのはやっぱり愛の力だな。通じ合ってるよ俺たち!

 

「よく出来ているわね」

 人形を見つめた後に続いた小さな声。

「胸が小さい気がする」

 いや、まったく同じサイズです。夏侯惇将軍さすがです。人形と曹操ちゃんの両方を揉んだ俺が言うんだから間違いありません!

 口には出さなかったのに睨まれた。

 直後、コトン、と人形の首が輿の床に落ちた。いつの間に鎌を振るったんだろう。全然見えなかった。

 

 自分そっくりの人形の首を掲げる曹操ちゃん。シュールな光景だ。

「白装束を殲滅せよ!」

 

 

 

 

「華琳さま!」

 しばらく白装束と戦ってたら、いつの間にか設営されてた本陣に夏侯惇将軍たちが現れた。

「あ、操られておいでかと勘違いしてしまいました! 華琳さまに限ってそんなハズがあるワケないというのに、我らは!!」

 慌てている夏侯惇将軍。

「私がついておりながら申し訳ありません」

 土下座しそうな勢いのネコミミ軍師荀彧。

 

「わかっているわ。私もこの男に助けられなければ、操られたままだったでしょう」

 それで、やっと俺に気付いた将軍たち。

「貴様、華琳さまと同乗するなどと不届きな!」

 いきなり殺されそうになりました。

「あ、おっちゃん」

「これを城に配置させたのは季衣の手配だったわね。よくやったわね。助かったわ」

「へへー」

 褒められたのが嬉しいのか、「助かった」のところに妙に力が入っていたのに気付かない季衣ちゃん。逃げてー。

 

「季衣にはご褒美をあげないといけないわね。いらっしゃい」

「い、今からですか華琳さま」

 夏侯淵将軍も驚く。

 だってまだ戦闘続いてるから。

 

「桂花、北郷軍は?」

「状況がわからずに傍観しています」

「ふむ。協力を要請しなさい。元よりそのつもりだったのでしょう?」

「華琳さまがご無事なら、奴らの手を借りるまでもございません!」

 夏侯惇が割り込んでくる。

「馬鹿ね。無傷の北郷軍が残っているのは面白くないでしょ。あいつらは元々、魏と戦いにきてるのよ!」

 ため息つきながら説明する荀彧。

 

「共に白装束を倒してその後の戦いをうやむやにする、ですか? なんだか華琳さまらしくないような」

「借りができたからよ」

「借り?」

「まさか我らのせいで……」

「仕方ないわ。借りをつくったまま北郷軍に勝っても、この曹孟徳の名が、私の誇りが傷つくだけ」

 ちょっ、なんでそこで夏侯惇泣くかな。泣くほどのこと?

 

「悪いのはあなたたちではないわ。白装束とそれを操る道士。さ、わかったのなら敵と戦いなさい」

「はっ!」

 夏侯惇はかけて行った。夏侯淵も後を追う。

「一刻で戻る。その間はまかせたわよ、桂花」

「はい」

 荀彧も指示を出しに行った。

 

「季衣はこっちよ」

 俺と季衣ちゃんを連れて天幕へ入る曹操ちゃん。

 まさか戦闘中のこのタイミングでですか。

 

 

 

 

 

 初めての行為に疲れて眠ってしまった季衣ちゃんを残して、天幕を出る曹操ちゃんと俺。

「泣かれちゃいました」

「可愛かったわね」

 やっぱドSだ。たしかに可愛かったけど。季衣ちゃんも華琳ちゃんも。

 

「すごい痛がられた」

「それはそうでしょうね。私も痛かったもの」

「下手でスミマセン」

「謝っても許さないわ。死になさい」

「え?」

 大鎌を手にしている。ホント、どっから出しているんだろう?

 

「だってあなたが死なないと引継ぎを試せないでしょう」

「そ、そりゃそうだけど……」

「騒がないで。季衣が起きてしまうわ」

 咄嗟に口を閉じた瞬間、首を何かが通り抜けた。

 

 

 

 

 最後に見たのは曹操ちゃんの可愛い顔ではなく、初めて肉眼で見た自分の背中だった。

 

 

 




 無印のこのシーンでは魏軍兵士全部操られていたようにも見えましたが、曹操が人質になっていたのでこういうのもアリなんじゃないでしょうか?



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五話    名前?

 

「ううぅっ」

 道場の隅っこ、体育座りで涙する俺。

「うまくいったのかしら?」

 可愛らしく首を傾げる曹操ちゃん。

 

「殺された……曹操ちゃんに殺された! 通じ合ったと思ったのに!」

「引継ぎを確かめるためよ。苦しくはなかったでしょう?」

 言われてみるとたしかに今までで一番苦痛の少なかった死に方だったかもしれない。そうか! あれが曹操ちゃんの愛だったのか!!

 

「季衣の引継ぎはできそう?」

「ええと……」

 

 ???

 曹操

 ???

 ???

 ???

 季衣

 ???

 

「うん。オッケーみたいだ」

 名前の反転を確認すると道場に季衣ちゃんが出現する。そういう仕様なのかな?

 

 出現したピンク髪ロリボクっ娘は寝ていた。

 淫乱じゃないピンクの頬をプニプニする曹操ちゃん。

 あれ? デジャヴュ? なんか大事なことを思い出しそうな? 思い出したらヤバいことのような……結局思い出す前に季衣ちゃんが目を覚ました。

「にゃ?」

「おはよう」

 

「華琳さま、ここどこですか?」

「死後の世界よ」

 正確には俺の死後の世界です。

「ええっ、ボク死んじゃったんですか!?」

 季衣ちゃんに現状を説明するのには苦労した。

 この状況をすぐに理解した曹操ちゃんが異常だったのを差っ引いても、なかなか解ってもらえなかった。

 

「ええと、とにかく向こうに戻ったら北郷軍に降らずに、華琳さまと合流すればいいんですね!」

「上手くやりなさい」

「はーいっ!」

 元気よく季衣ちゃんがお返事したのでセーブ2からロードする。

 

 俺の燃え盛る愛によって術が解けた曹操ちゃん。

 もう縛られていないのに俺を殺さないのは愛だよね、そう感動してたらポツリと一言。

「人選、間違えたわ」

 

 その言葉通り、季衣ちゃんたちが合流したのは前回と同じタイミング。

 結局、季衣ちゃんは夏侯惇将軍たちに上手く説明できなくて失敗した。王佐の才を持つという荀彧をもってしても理解できなかったようだ。

「だってボクが寝ぼけてたって信じてくれなくて。酷いんですよ! 春蘭さまたちボクのことひん剥いて股間確認して、まだ膜があるではないか! ってボクのこと怒って」

 真っ赤になって半泣きな季衣ちゃん。いかに大好きな夏侯惇だろうとかなり恥ずかしかったらしい。それとも信じてもらえなかったのがつらいのかな?

 それを楽~しそうに眺めてる曹操ちゃん。

 あれ? もしかしてこうなるってわかってて人選ミスしました?

 

 本陣にて曹操ちゃんが説明する。

 曹操ちゃんとシたと知ったら夏侯惇が俺を殺そうと剣を振りかぶった。

 曹操ちゃんと季衣ちゃんが止めてくれなければ、俺は即死だっただろう。

「止めないで下さい華琳さま!」

「そうです。春蘭の言う通りです。華琳さまを汚した男など生かしておく必要はありません!」

 バカの夏侯惇はともかく、ネコミミ軍師さん話聞いてました?

 俺を殺したらまた曹操ちゃんが汚されるんですよー。

 

「そう。もはや私は汚れているのね」

「い、いえっ! 華琳さまはお綺麗です! で、ですが!」

「殺すのは桂花たちを抱いてからよ」

「え? か、華琳さま?」

「季衣の話を信じてあげなかったんでしょう。あなた達には罰を与えないと」

 曹操ちゃんの視線に夏侯淵将軍までもが身を竦める。

 

「けど結局、俺また殺されるの……」

「せめてどんな死に方がいいか選ばせてあげる」

 ならば、ここは男らしく即答しよう。

「腹上死!」

「……いいでしょう」

 なんか凄い笑みを浮かべられました。

 

 

 

 白装束でうやむやになった北郷軍との戦闘。おっとり刀で駆けつけた呉軍も入れて停戦協定。

 悪いのは全部白装束に押し付けたらしい。

 

 そして本城へ戻るなり曹操ちゃん、夏侯惇、夏侯淵、荀彧と連続耐久プレイ。

 曹操ちゃん以外の三人じゃ起たないなんて以前言ったけど、起ちました。

 起たされました!

 恋姫がお口ゲーって思い出しました!

 お口は初めてだったけどよか(えが)った~。

 あ、曹操ちゃんの術を解く時はお口は試せませんでした。

 だって絶対噛まれるって! 千切られるって!

 あと、もしかしたら貧乳以外のおっぱいも悪くないのかも知れない。大きな発見だった。

 

 俺以外は交代しながら食事や休憩をしてたけど、俺にはそんなの無し。

 排泄はどうしたかなんて聞かれたら死にたくなる。

 抜けてる間に曹操ちゃんや荀彧は仕事もしてたようだ。

 途中で季衣ちゃんも混じってきた。

「二回目は痛くないって聞いたのにー!」

 また泣かしちゃいました、ゴメン。その身体は初めてだったんです。っていうかやっぱり理解してなかったのね季衣ちゃん。

 最後はたぶん曹操ちゃんだったと思う。

 最低で最高の死に方だった。

 

 

 

 道場にて引継ぎ確認。夏侯惇たちも出現した。

「ここは?」

「まさか本当に?」

「ほらほらほらぁっ! ボクの話本当だったじゃないですか!」

 信じてもらえなかったのがよっぽど悔しかったんだろう。鼻息荒く得意気にぺたんこな胸をはる季衣ちゃん。

 

 急に人数が増えたせいで道場主が愚痴をこぼす。

「ここは会議室じゃないっての」

「事件は会議室で起きてるんじゃない! 閨で起きてるんだ!」

「今のは?」

「孫策よ」

 ぐっすん。俺の渾身のギャグ、スルーされました。

 

 孫策の言う通り会議室みたいになった道場。

 曹操ちゃんが状況を説明。

 凄い目で夏侯惇と荀彧に睨まれました。オシッコちびりそうとです。もちろん嬉ションとです。

「無理やり華琳さまの貞操を奪っただと!」

「死になさい、強姦魔!」

「スミマセン。他に方法が無かったんです!」

 

 マスターしたクイック土下座を発動する前に、曹操ちゃんが二人を止めてくれた。

「落ち着きなさい、春蘭、桂花」

「しかし!」

「それ以上の責めは私を辱めることになるわよ。私がただ陵辱されるがままだったと」

「か、華琳さまを辱めるなどと……」

 言いよどんだ後、赤い顔でにへらーっとだらしない表情をする夏侯惇。なにを考えているのやら。

 

 

 曹操ちゃんが四人に指示を終えると、やはりセーブ2からロード。

 北郷軍に降らなかった夏侯惇たちと合流。白装束たちを倒して北郷軍と停戦。

 今度こそ借りなんてないんで強気な魏勢。

「ふん! 白装束は北郷を狙っているというではないか! 我らはそのとばっちりを受けた。いい迷惑だ!」

「なんだと!」

 白熱してるなあ。

 てかなんで俺、この場にいるのさ?

 

 

 

「停戦協定など信じられない。曹操が覇業を諦めるなど!」

「道士に阻まれる程度の天命だったというだけ。今はあいつを殺す方が重要よ」

「信じろと?」

「まあ、そうでしょうね。だからこちらからはその証明を預けるわ」

「証明?」

「曹魏の宝よ」

 宝か。剣かなんかかな? それともハンコ?

 

「宝……って」

「ええ。人質にするなり好きにしていいわ」

「人質って、人間か! あの人材マニアの曹操が宝と呼ぶほどの人物……そんなすごい人がいるのか」

「……生きて再び私の元へ戻ってくることができたら、私の夫となる者よ」

 嘘っ! そんな奴いるの!?

 って、曹操ちゃんもしかして俺を見てる?

 ゆっくりと自分を指差したら頷かれた。

 

 え? えええええええええええええええ!?

 

「お、夫!? 曹操って男嫌いじゃ?」

 北郷軍や呉勢にも動揺が走っている。

「それにもう一つ。名を聞いたら興味がわくかしら」

「え?」

「名乗りなさい」

 

 うっわ、凄い注目されてるよ俺。

 曹操ちゃんに促されて緊張しまくりながらも名乗りを上げる。

 

 

「姓は北郷」

「ええ!?」

「名は達刀」

「そ、それってまさか?」

 動揺してるね、北郷軍。

 

「久しぶりだな、一刀。達刀お兄ちゃんだ」

 できる限り精一杯のスマイルを浮かべる。

「ご主人様に兄弟など!」

「そ、そうだ、俺には兄貴なんていない!」

 いや、後から出てくるかもしんないぞ、妹みたいに。

 

「そうか、いなかったことにされたのか。親父たちつらかったのかな」

「え?」

「俺は幼い頃この世界へとばされた。お前が覚えていないのも無理はない」

 ふっと空を見上げる。

「俺が覚えているのは花見や花火大会の時の人ごみくらいだしな」

 浅草といったら、祭りとか隅田川の桜や花火だよね。北郷一刀の知識じゃスカイツリーなんて完成する前だろうし。あ、無印主人公は浅草じゃないのかな?

「う、嘘だ。そんなことあるわけ……」

 

 

 

「うん。ない」

「へ?」

「冗談だよ。後から御遣い君の兄貴とか親父とかが出てくる展開になったら困るから先にギャグにさせてもらった」

「馬鹿にするのか?」

 ズッコケてる北郷軍。ドッキリ成功?

 

「いやあ、普通に登場しても俺、インパクトないし~。曹操ちゃんの台詞でハードル上げられちゃったからガッカリ確実そうでつい」

 俺、地味なおっさんだしね。あと自分の緊張を誤魔化すためにギャグモードにもってかないとさ。

 

「インパクトとかハードルって……」

「俺の名は天井(あまい)皇一(こういち)。字と真名はない」

 本名教えるのって()なんだよなあ、中途半端な厨二ネームで。姓の方も『てんじょう』とか『あまーいっ』ってよくイジられたし。

「こういち?」

 俺の名に反応する北郷一刀。そうだろう、読みだけらならごくありふれた名前だ。

「真名がない?」

 北郷軍の他の将たちも気付く。

 

「そう。誰かさんと同郷だそうよ」

「先にそれ言えばいいのに」

「うさんくさいだろ。それに曹操ちゃんが俺のこと夫にとか言うからもう頭ん中パニックで」

 ちょっと頭ん中で曹操ちゃんとの新婚生活一週間ぐらい早送りで妄想してました。裸エプ週四くらいで。

 

「あら? 死ぬほど私の身体を貪っておいて責任とらないつもりかしら?」

 せ、責任?

 それが夫ってことなの?

 

「死ぬほど華琳さまの身体をだと!!」

「まあたしかに死ぬほどだったのは間違いないな。姉者、私たちもいっしょだったではないか」

「これだから脳筋は……今はそれが羨ましい。わたしも春蘭みたいに記憶を消したいわ!」

「ボクも痛くて大変だったよー」

 魏上層部が俺を責め立てる。死ぬほどって言うけどさ、死んだの俺なんですけどー。

 

「お、俺と結婚してくれるの?」

「私の真名を預けるわ。知っているでしょうけれど私の真名は華琳。どう? これで納得した?」

 俺ではなく、北郷軍の連中を振り返る曹操ちゃん。……いや、華琳ちゃん俺の質問に答えてくれてないよね?

 

「曹操を篭絡した? しかも将軍たちまで? ……そ、そのような危険な男を引き受けるわけには」

「なんか厄介者押し付けようとしてないか?」

「ちょっと! 俺なんかすげえ勘違いされているじゃないか!」

 北郷軍の俺を見る目が冷たい。あんまりだ。俺は初心(うぶ)晩生(おくて)なのに。

 

「なんかお兄ちゃんみたいなのだ」

「え? 俺ってそんな風に見られている?」

 心外そうな天の御遣い。いや見られるも何も君はち●こでしょ? ファンからの愛称がち●こさんじゃないか。

 

「大丈夫よ。その男は中古には興味ないらしいわ」

「待って! それ違う! 俺以外の男を知っている女が嫌なだけですー!」

「だ、そうだから」

「うん、なら大丈夫か」

 ホッと胸をなでおろすち●こ君。

 

「ご主人様、どういう意味ですか?」

 意味わからないのかな関羽。親切な俺が教えてあげよう。

「説明しよう! 北郷軍に処女なんているわけがない。みーんな天の御遣い様のお手つきです」

「あ、あははははは」

 

 

 御遣い君が北郷軍の武将たちに引きずられていってやっと緊張が解ける。

 どうやら俺の人質が確定したようだ。

 ……なんか泣きたくなった。華琳ちゃん、夫とか浮かれさせておいて俺は邪魔なのね。顔も見たくないのね。

「おっちゃん、きっと助けるから! だからもう泣かないでよ」

 慰めてくれる季衣ちゃん。泣くなって、季衣ちゃんだって俺に抱きついてわんわん泣いてるよね。……また泣いてたのか俺。

「ふむ。華琳さまが真名を預けたのならわたしも預けねばなるまい。春蘭だ」

「私の真名は秋蘭。立派に人質の務めを果たすがよい」

 泣いてた俺が惨めすぎて同情したのか夏侯姉妹が真名をくれた。

 

「わ、わかったわよ! 桂花。これでいいんでしょ!」

 俺にではなく、じっと見つめていた春蘭、秋蘭にむかって叫ぶ桂花。

「いい! 真名を教えたからって呼ぶことは絶対に許さないから! ……まあ、もう会うこともないだろうからどうでもいいか」

 暗い笑みを浮かべている。きっと北郷一刀たちに俺を殺させるつもりなんだろう。俺が死んだらまたやり直しって忘れてるのかな?

 

 ううっ、抱きついてる季衣ちゃんの締めつけ、かなり凄いんですけど。

 いや、締めつけが凄いって、そっちの意味じゃなくてね。マジ鯖折り。

 俺の背骨とか鳴っているんだってば。

 

「嬉しそうね」

 死にそうの間違いです華琳ちゃん。

「餞別よ」

 いきなり唇を奪われた。そうやってまた俺を惑わすのか小悪魔め。

 

「お、俺のセカンドキスが……」

 ファーストキスは生後九ヶ月の姪っ子に奪われたのは秘密だったりする。

 え、こっちでヤってる時キスしなかったのかって?

 お口臭いって言われたらヤだから我慢してましたがなにか?

 暫く歯磨くの、いや、ガム噛むの止めよっと♪

 

 

 てなワケで俺は人質となって北郷軍に預けられることに。

 ……もしかしなくても死亡率上がってね?

 

 



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六話    人質?

 それはまるで某補完委員会のよう。

 モノリスのごとく特務機関司令ポジションの俺を責め立てる。

 俺はあそこまで打たれ強くないのに。

 

「また死んだの。あるのは性欲だけの無能男ね」

 道場に舞い戻った俺を桂花の冷たい視線が迎え入れる。

 

「軟弱者め!」

「いい加減にしてもらいたいものだな」

 春秋姉妹も俺を叱責。

 

 今回はその上、唯一の心のオアシスであるはずの季衣ちゃんまでもが恨みがましい目を向けている。

 いつもだったら庇ってくれたり慰めてくれたりするのに、死んだタイミングが悪かった。

「これから御飯だったのに!」

 

 なにより辛いのは華琳ちゃん。

「生きて戻ってきたら、と言ったわよね? そんなに私の夫になりたくないのかしら?」

 そして放たれるは特大のため息。

 

 う、うわあああああああぁぁぁん!

 俺だって死にたくて死んだわけじゃないのにー!

 

 

「泣いたって許さないわよ。やっと資料をまとめ終わって、これから華琳さまにかわいがってもらえるはずだったのに!」

 ごめんなさい。今朝のセーブからやり直しです。

 

「今日は珍しく溜まった書類を片付ける予定だったのだ。なのに邪魔をされてやる気がなくなったではないか!」

 それ絶対嘘でしょ、春蘭。

 

 

 

 なんか引き継ぎって俺の心が辛くなるだけ?

 近くにいないから俺の死亡回避、手伝ってもらえないし。

 これ以上引き継ぎ増えたら俺、ドMになるか狂うかしそう……。

 

 心機一転して新たな人生を歩みたいのに、逃げ出すようにロードですよ。

 

 

 

 人質として北郷軍にいる俺。

 これがまたよく死ぬ。

 

 操られた華琳ちゃんを助けたのが干吉の気に障ったのか、やたらに俺に刺客を送り込んでくる。

 俺じゃなくて北郷一刀狙えばいいのにー。

 あっちは主人公補正で殺されないのにー。

 だから俺狙ってるんだろうけどさー。

 北郷軍の警備緩すぎー。

 

 刺客に殺された時は、ロード後その時間に北郷一刀のそばにいるようにしている。

 たいていいっしょに武将がいるから俺への刺客倒してくれる。いいところで邪魔してるって睨まれるけど非処女に恨まれたって気にならないもーん。

 

 一刀君は笑って許してくれるし。

 一刀スマイルってやつ?

 これが主人公のカリスマ?

 惚れてまうやろー!!

 

 ……いかん、少なくとも身体は通じ合った女の子たちに冷たくされておかしくなってるようだ。

 冷静にならないと。

 こんな時は幼女と遊んで頭を冷やそう。

 璃々ちゃんどこかな?

 

 

「あ、人質のおじさん」

「それは君もいっしょです小喬ちゃん」

 なんだリストラ二喬か。中古幼女に用はないのに。

「む。なんか妙にムカツイたんだけど」

「悪阻? 御遣い君の子?」

「そんなワケないでしょう! 喧嘩売ってるの!」

 いや喧嘩売ってるのは君でしょ。

 

「ごめんないおじ様。ほら、小喬ちゃん行こう」

 ペコリとお辞儀して小喬ちゃんの腕を引く大喬ちゃん。

 おじ様か……うう、一度は言われたかった呼ばれ方なのに……この娘、付いてるんだもんなあ。二喬は残念な部分がデカすぎる。だからリストラされたのかな?

 

「あ、大喬ちゃん。周瑜殿って今でも連絡とってるよね。早くいい医者見つけて療養に専念させた方がいいよ」

「え?」

「どういう意味よ!」

 小喬ちゃんが俺を睨む。そういえば周瑜の嫁さんだったんだっけ。その設定もリストラされた理由の一つかも。

「天の知識ってやつ。御遣い君ほどじゃないけど、俺も知ってる」

「何をよ!」

 大喬ちゃんの秘密とか。

「周瑜殿は病に倒れる」

 あ、無印だと敗戦時に焼け落ちる城で死んだんだっけ?

 

「なんでそんな事を教えてくれるんですか?」

「白装束に嫌がらせ、かな」

 周瑜との戦いがスキップできればラストに早くいけるし、戦力温存できるでしょ。

 ……もしも周瑜が死後の世界にいってしまったら道場主はどんな反応するんだろう。

 道場に周瑜も出現するんだろうか。

 

「なによソレ? ……魏の策略? あんたもその為に送り込まれてきたのね!」

「そうだったんならどんなに気が楽か。華琳ちゃん、なに考えているんだよう」

 あんたも、ってところにツッコミ入れもせずに大きくため息をつく。

 

 いまだに俺を人質にした意味がわからない。

 道場で聞いてみても桂花が邪魔する。

「泣き虫強姦魔はそんなこともわからないの?」

「桂花はわかるのか?」

「顔も見たくないからに決まってるでしょ! こっち見ないでよ、汚らわしい!」

 いかん。また悲しくなってきた。泣きそうだ。

 

「い、いきなり泣き出さないでよ、気持ち悪い」

 また泣いてるの、俺?

「君たちならわかるだろ。愛しい人と会えないこの切なさが!」

「そ、そんなの……お姉ちゃんもつられて泣かない!」

「だって……」

 結局、その後小喬ちゃんも泣き出して三人で泣いた。

「あァァんまりだァァァ」

 泣くだけ泣いたら落ち着いた。スッキリ。

 

 

 

 

 それにしても 璃々ちゃんどこにいるんだろう?

 驚くべきことに、城に軟禁状態とはいえ、かなり自由に動けるようになっている俺。

 拘束して厳重に見張りつけててくれた方が殺されにくくていいのになあ。

 まあ、俺のおかげで城に侵入した刺客を撃退できたり捕まえたりしてるおかげかな?

 

 ……もしかして俺、餌にされてる?

 刺客ホイホイ?

 ならもっと護衛とかつけてよ!

 

「一人とは珍しいな一刀君」

 廊下でばったり一刀君を発見した。一人でいるなんて本当に珍しい。

 いつも誰かしら女の子といるのに。

「さっきまで鈴々といっしょだったんだけどいい匂いがするのだー! って置いてかれちゃって」

「そりゃ残念。厨房にでも行ったのかな?」

「さあ? 行きますか?」

「うーん。あんまり腹減ってない。それよりも少し話がしたいんだけど時間ある?」

 

 城の中庭で二人でのんびり日向ぼっこしながら会話する。

「俺、帰れるのかな?」

「それって、元の世界ですか? それとも魏?」

「元の世界か……コミケには行きたかったけどあまり帰りたくもないな」

「え?」

 驚いた顔で俺を見る天の御遣い。

 

「俺ここ数年、実家に帰ってなかったんだ」

「はあ」

「弟夫婦がいっしょに実家で暮らしてるんだけどさ、娘がいるんだ。俺の姪っ子」

 うん、俺のファーストキスの相手。

「その娘がさ、本当に俺と同じ血混じってるの? っていうぐらい可愛いんだよ。ありゃマジ天使。大きくなったら華琳ちゃんぐらいの美少女になるね!」

「伯父バカですね」

 ふん。贔屓目抜きの話だっつの。

 もし万が一機会があっても君には会わせてやらん!

 

「その子が四つの時言ったんだ。おじちゃんのおよめさんになるーって」

「可愛いですね」

「俺は絶望したね。せめて従兄妹だったらよかったのにって。それからだよ。俺が実家に帰らなくなったの」

 なんでこんな話、一刀君に話してるんだろ。今まで誰にも言わなかったのに。主人公パゥワーってやつ?

「こっちくる前はいつ死んでもいいって思ってた。いつ自殺してもおかしくなかったなあ」

 

「……姪子さんに会いたくないんですか?」

「会ってどうする。禁断の恋は趣味じゃないよ」

「いや、格好良く言ってますけど相手まだ小さいお子さんですよね?」

「一刀君はロリは駄目かい?」

「最高です」

 ニヤリとサムズアップする一刀君。

 惚れてまうやろー!

 俺は同志を得た。

 

 その後、季衣ちゃんや張飛ちゃんの話で盛り上がる。

「そうか、最近鈴々が背負ってるランドセルは皇一さんの仕業だったのか」

 人質の俺のことをさん付けで呼んでくれる一刀君。本当にエエ子や。

「偽白装束の作成の時に製作を頼んでいたのが完成したって送ってくれたんだよ。律儀な店主だね」

 ランドセルの話に俺と店主が夢中になったせいで、肝心の偽白装束の出来は悪かったけれど。

「日頃の感謝をこめて季衣ちゃん将軍にプレゼントする予定だったんだけど、送ってきちゃったから張飛ちゃんに使用感を試してもらってる」

 似てるあの二人なら感じ方も近いだろうし。

 張飛ちゃんにもよく似合ってる。季衣ちゃんが装備した姿も見たいなあ。

 

「すごいいい出来だった。こっちの職人って感心するばかりだ」

「一刀君」

「なに?」

「ランドセルは元々、軍用の装備だったって知ってるかい?」

 某ペディアを見ればわかるように本当の話である。

 

「軍人が、つまり、武将が装備しててもまったく問題ない」

 ハッとした表情で俺を見る一刀君。

 無言で頷く俺。

 固い握手をする二人。

 

 腹上死時の経験によって巨乳を克服した俺。

 関羽や馬超のランドセルもアリ!

 

 

 ……で、一刀君の手の感触で大変なことに気付いてしまった。

 これってもしかして拠点イベント?

 俺、フラグ立てられてる?

 まさか華琳ちゃん、一刀君に俺を攻略させて仲間に入れるつもり?

 

 いくら一刀君がいい男でも俺にそっちの趣味はない!

 一刀君もおっさんなんて嫌だろうし……。

 

 血の気が引いた時、孔明ちゃんが一刀君を呼びにきた。

 良かった。

 拠点イベントじゃなかったようだ。

 

 

 

「兵たちの間で病が流行の兆しがありましゅ!」

「干吉の仕業だ」

 思わず呟く。覚えてないけどあってるはず。

 たしか無印恋姫でこの先おきることは、みんなあいつらの仕業。

 

 



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七話    約束?

 病の流行はたいしたものではなかった。

 スーパーナース孔明ちゃんの活躍もあったが、一番の功労者は俺だと思う。

 白装束たちってば俺の殺害に力を入れすぎて、そっちが疎かになってたらしい。

 侵入した白装束もかなりの数が撃破されていたし。

 武将の活躍と俺の犠牲で。

 

 工作員の被害の大きさに干吉は目標を俺から変えたのか、俺はあまり死ななくなった。

 次の策の準備してるのかな?

 

 

 死なないということは華琳ちゃんたちに会えなくなるわけで。

 会いたいなぁ。今頃なにやってるんだろう。

 教えといた典韋や郭嘉、程昱たちは見つかったかな?

 白装束の本拠地探しも気になる。なんとか山だった気がするけど、どこだったっけ?

 

 

 貂蝉にはまだ会っていない。

 色々と聞いてみたいことがあるんだけど。

 

 ラストどうなるかとかさ。

 この世界は終わる。

 なんとか継続してくれればいいけど無理だろう、やっぱり。

 

 でも、華琳ちゃんや季衣ちゃんが世界の消滅に巻き込まれるのは絶対に嫌だ。

 それ避けられるのって『真エンド』だけなんだよなぁ。

 

 一刀君が魏のみんなに手を出してなくても大丈夫だとは思う。

 袁紹たちや公孫賛、一刀君とほとんど接触のなかった華雄までもが真エンドでは復活してたのだから。

 最後の選択で『皆のことを思い描いた』を選ばせるために、一刀君が一人の女性だけに執着しないように誘導しないと。

 それこそがやっとみつけた、俺がここでできること。

 

 

 で、それを考えると呉と戦争してもらった方がいいんだよね。

 たしか次は北郷軍と呉の戦争。

 各国の今の戦力を維持できたままなら、決戦時は有利になるのだろう。

 けど、孫権たちと一刀君に一線を越えてもらった方が一刀君が目移りするようになると思う。

 

 俺の記憶だと北郷軍と呉の領土を偽者が攻撃するはず。

 俺が白装束の工作を前もって一刀君や呉に知らせておけば、もしかしたら戦争は防げるかもしれない。無駄な死者が出ないで済むかもしれない。

 でも、俺は教えない。

 どうせ真エンドでも助かるのは名前持ちだけっぽいから、と自分を言い聞かせよう。

 

 俺は鬼となろう。

 差し出してやる、生贄を。

 

 ……ううっ、胃が痛いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、北郷軍は呉と戦争になった。

 俺はずっと城で留守番だったから詳しいことはわからないけど、ハメられたのには孔明ちゃんたちも気付いてたらしい。

 教えても意味なかったみたい。

 あの決意はなんだったんだ。

 慣れないこと(シリアス)なんてやるもんじゃない。

 胃痛で減った食欲がいまだに戻らない。俺の体重を返して欲しい。

 

 

「ふーん。あんたが魏の人質」

「うん。姓は天井、名は皇一。字と真名はない。好きに呼んでくれて結構ですよ、孫呉の末姫様」

 

 北郷軍と孫権たちとの戦いは記憶通りで予定通りに北郷軍の勝利で終わった。

 名前持ちの武将の数が違いすぎるのだから当然である。

 そして周瑜の謀反。余命少なくなって焦ってるのもあるんだろうと思って、二喬に忠告したけど無駄だった。干吉が唆してんのが大きいのだろう。

 孫権、孫尚香、甘寧、陸遜は捕虜として城に保護されている。

 

 一刀君を探して城を探検中の尚香ちゃんに俺は遭遇していた。

「シャオのこと知ってるの?」

「天でも知られる弓腰姫。孫夫人としても有名です」

 この俺がロリキャラを忘れるわけがなかろうて。

「夫人?」

「うん。劉備の……こっちだと一刀君になるのかな。のね」

 瞬間、勢いが増すピンク髪褐色ロリ。

 ……ピンク髪褐色ロリって季衣ちゃんとカブるか。まあ季衣ちゃんは褐色って言うには薄いかな?

 

「それ本当!?」

「一刀君も知ってるはずだよ」

「そうなんだ♪」

 すごい嬉しそうだ。こんなにも惚れられるなんて、まったく主人公様は羨ましい。

 

 気をよくしたのか、俺の周りをぐるぐると回って観察。

「あの曹操の夫には見えないんだけどなー」

「よく言われてるよ」

「うーん、曹操は男嫌いって聞いてるし皇一ってもしかして女?」

 

 思わず噴出す俺。

「そう言われるのは初めてだけど」

「なによ、言ってみただけじゃない」

 笑われたのが恥ずかしいのか、膨らませた頬が赤い。

 

「じゃ、アレね」

 人差し指を口元にあて、ふふーんと笑う。くるくるとよく表情の変わる娘だ。

「アッチがスゴイんでしょ!」

「はい?」

 アッチって、まさかアレ?

 

「ちょっと聞きたいんだけど」

「いや、ちょっと待って。俺なんてまだまだですよ。一刀君の方がよっぽどすごいよ!」

 だって、ち●こだし。

 

「そ、そんなにスゴイの一刀って?」

「だから安心して身を任せれば大丈夫。優しくリード……先導してくれる。慣れてるから」

「慣れ……なーんか複雑」

 不満気な顔を隠そうともしない尚香ちゃん。

 ああ、わかるよその気持ち。

 

「一刀君のお嫁さんになるなら、第二夫人以下が何人いても認められないと」

「むぅ、わかったわ。それぐらいの度量、見せてあげるんだから!」

 心の中でガッツポーズ。『真エンド計画』が一歩進んだ。

 まあ、尚香ちゃんならほっておいても大丈夫だったろうけど。

 

 

 後日会った時、性交した、いや、成功したと喜んで俺に真名をくれた。

 その日からシャオちゃんと会っている時に鈴の音が聞こえているのは気のせいだと思いたい。

 

 

 

 

 

 

 北郷軍と孫権たちとの戦いから約半月。

 一刀君たちに呼び出された。

 武将、軍師全員と呉の捕虜たちも集っていた。すごいメンバーだな。

 でも、璃々ちゃんと貂蝉はいなかった。避けられてるのかな、俺。

 

「魏に帰ってくれませんか」

「いいの?」

「皇一さんやつれちゃってこのままだと心配です」

 いまだ俺の体重は戻っていない。ストレスにも弱いのよ。

 

「皇いちゅさんが亡くなったら魏が我が国に攻め込む大義名分が立ちましゅ。北郷は人質を殺した、と」

 孔明ちゃんに名前をかまれたけど可愛いから気にならない。

 ああ、だから干吉は俺に刺客を送りまくったのか。魏と北郷軍を再び戦わせようと。

「華琳ちゃんにそんなつもりはないよ」

 だって俺が死んだら巻き戻りだもん。

「けど、帰れるのはありがたいなあ」

 やっと華琳ちゃんに会える。

 

「それに正式な同盟を成立させたから、もう人質は必要ないそうよ」

「華琳ちゃん!」

 その場に突然、華琳ちゃんが現れた。春蘭や季衣ちゃんもいっしょだ。

「おっちゃん、だいじょうぶ?」

 やつれた俺を心配してくれる愛しい少女の頭をなでなで。

「大丈夫。みんなの顔見たら元気出てきた」

 

「冥琳との戦を前に、後顧の憂いをたったか」

 孫権の言葉で俺も理解した。

 周瑜と戦っている時に魏から攻められないよう同盟を結んだらしい。

 

「帰っちゃうの?」

 残念そうに言ってくれたのはシャオちゃん。

「約束はどうするの?」

 んん? 約束なんかしたっけ?

 

「約束?」

 孫権も首を傾げる。

「結婚式やるって言ったじゃない!」

 

「ああ、アレか」

 チリーン。

 

 俺の首は今、サンドイッチされています。

 甘寧の刀と、華琳ちゃんの大鎌によって。

「どういうことだ?」

「どういうこと?」

 

「聞きたい、一刀?」

 答えたのは俺ではなく、シャオちゃん。

 俺? 怖くて口も動かせません。

 

「しゃ、シャオ? 皇一さんと結婚するのか?」

「だったらどうする~?」

「ええ!?」

 困った顔で俺を見る一刀君。俺も必死にアイコンタクトをはかる。

 一刀君ニヤリ。どうやら通じたらしい。

 

「そうか。じゃあ俺は花嫁泥棒しないといけないな」

「やあん、一刀ってば大好き!」

 シャオちゃんのタックルを受け止めた一刀君のドヤ顔。

 

 

「結婚式って言っても、シャオたちと一刀、皇一と曹操の合同結婚式よ♪」

 得意気に語るシャオちゃん。

 いまだに一刀君に抱きついたまま。そのおかげで甘寧の刃は俺から一刀君に移動している。

 てか甘寧(ふんどし)さん、その話をした時あなた影から聞いてましたよね。なんで俺脅されたの?

 

「明確な約束じゃなくて、できたらいいなって話してただけで」

 殺気が減ったおかげかやっと俺も口を動かせた。

 真エンド計画の一環。一刀君も結婚しちゃえば皆のことを思うしかあるまい。

 

「たしかにあなたを夫にすると言ったわね」

 やっと大鎌をおろしてくれた。

 かわりに春蘭が今にも斬りかかってきそうだけど。

 

「待ちなさいシャオ! そんなのは認められない!」

「お姉ちゃんは一刀と結婚したくないの?」

「え?」

 チラリと一刀君を見て真っ赤になる孫権。

「そ、そんなことは……」

 

「シャオ、シャオたちと一刀って言ったもん。みーんなと一刀の結婚式するの!」

 その言葉で騒然となる。

 真っ赤になって俯く少女。虚空を見上げてブツブツと呟く少女。ブンブンと頭をふる少女。

 多かったのは一刀君に詰め寄る少女たち。

 さすが一刀君、たった半月で呉娘全員攻略済みですか。

 

 

(ど、どうしよう?)

(年貢の納め時だね。嫌じゃないんだろう)

(それはもちろん)

(なら、いいじゃん)

 少女たちから逃げる一刀君と、春蘭から逃げる俺はアイコンタクトを続けたのだった。

 

 




 真エンドは三回目以降じゃないと選べなかったはずですが、オリ主はセーブデータをもらってきてのプレイだったためと、無印の記憶が薄いため勘違いしています。


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八話    婚前?

「戦の前にぶっとい死亡フラグ立てなくても……」

 結局捕まり、なぜか正座させられている一刀君が愚痴る。

 

「そうだ、華琳さまとの結婚など認められるか!」

 その隣に春蘭も正座させられていた。

 理由は俺を殺しそうだったから。

 いや殺しそうどころか、しっかり道場へ送られたけどね。

 だって俺って暴走春蘭の一撃だけでもあっさり死ぬし。萌将伝一刀君の耐久力が羨ましい。

 

「ご主人様、こんなに大勢と結婚するつもりですか?」

 一刀君の前に仁王立ちの関羽。

「大勢って……」

「私、鈴々、朱里、星、翠、紫苑、月、詠、恋、霞、孫権、孫尚香、陸遜、甘寧。これが大勢でないと?」 

 十四人か。一日二人でも一週間かかるな。

「まあ待て愛紗。それではまるで、お前一人だけで主と結婚したいと怒ってるようだぞ」

「な!」

 趙雲(メンマ)の言葉に途端に頬を染める関羽。わかり易すぎる。

 

「ずるいのだ。鈴々もしたいのだ!」

「そうだぞ愛紗、あ、あたしだって!」

 馬超も耳まで真っ赤になっている。

 

「むむ……」

「は、はわわわ」

 唸る関羽、はわる孔明。

 

「愛紗ちゃん、ご主人様を独り占めしたい気持ちはわかるわ。でもそのために他の娘を泣かすようなご主人様かしら?」

 関羽を説得するおっぱい未亡人。

「わ、私が納得いかないのはなぜ曹操といっしょなのかと……」

 あ、矛先変えた。

 しかも俺に。人質やってたおかげで魏勢で話しかけやすいのって、俺になるのかな?

 

「いっしょにやった方がいいと思うけど」

「信用できん!」

「でも、関羽だって式中に華琳ちゃんが花嫁泥棒しに乱入してくるよりはいいんじゃない?」

「な!」

 無印華琳ちゃんは関羽をかなり欲しがってたからね。後ろで秋蘭も頷いてるし。

 

「それとも一刀君と結婚するのが……って冗談ですから武器下ろして」

 ああもうメンドクサイ娘だ。

 

「こいつを殺すなら加勢するぞ」

 さらにメンドクサイのが混じってきた。君は正座してて。

「春蘭、今俺を殺すと、嫉妬に狂って無理心中しようとしたとか噂されるかも」

「難しいことを言っても誤魔化されんぞ」

「ええと、俺のことが大好きな春蘭が、華琳ちゃんに大好きな俺を取られないために、俺を殺して独り占めしようとした、ってみんなが言うかも」

 うん。無茶苦茶言ってるね、俺。

 ロリじゃない女性相手に緊張することが多い俺が、春蘭相手に軽口を叩けるようにまでなったのは、慣れとあと腹上死時に恥ずかしいところを全部見られたのも大きいのかもしれない。

 魏の娘たち相手にはもうちょっとしか緊張しないんじゃないかな、普段は。

 

「そ、そうなのか?」

「そんなわけないでしょう!」

 今度は猫耳軍師か。

「男ってだけでも罪なのに、華琳さまの夫になろうとするなんて許されない大罪よ。さっさと殺しなさいよ!」

 俺以上に無茶苦茶言ってる。殺したって道場行くだけで無駄なの忘れないで欲しい。

 

「おっちゃん、ちびっこに珍しい鞄あげたって本当なの?」

 まだ喚き続ける桂花を押しのけて季衣ちゃん参上。

「あのランドセル?」

「なんであんなやつに!」

「本当は季衣ちゃんに渡そうと思ってたんだけどね」

「ボクに?」

「うん。季衣ちゃんにはいっぱいいっぱいお世話になってるから。でも、製作を頼んでた店主が変に気を利かせてこっちに送ってくれたんだ。せっかくだから、張飛ちゃんに試してもらって改良型をつくろうかと」

「おっちゃんがくれるなら、あれでいいのに」

 不満気に口を尖らせるが、頬が赤い季衣ちゃん。

 可愛いなあ。なでなでしようかな?

 

「季衣には贈り物を用意しておいて、妻になる私にはないのかしら?」

 俺より先に季衣ちゃんを撫でている華琳ちゃん。

 まるでバスの降車ボタンを先に押されたような、俺のこの右手の立場は?

「あれは元々、偽白装束の衣装を作った時に頼んでいたものだから。人質になってから用意しようとしたものじゃない。第一、華琳ちゃんへの贈り物を用意できるほどの金がない」

 

「給金なら出しているわ」

「え? だって俺人質してるから兵士の仕事してないし」

 まあ城に軟禁状態だったんでお金は使わないですんでいたけどね。

「おっちゃん、お金なくてごはん食べられなくてそんなに痩せちゃったの?」

 季衣ちゃんの頭上の華琳ちゃんの手に俺の手を重ねた。一瞬華琳ちゃんが反応したが、そのままいっしょに季衣ちゃんを撫でる。

 

「人質としての手当ては出すと、ちゃんと連絡させたはずだけど……桂花」

「は、はい」

 華琳ちゃんと重なる俺の手を睨んでた桂花がビクリ。

「伝えたわね?」

「そ、それは……それぐらい知っていて当然かと……」

 ああ、嫌がらせで情報がストップされていたのね。

 って人質手当て? そんなのあったんだ。

 

 

「罰が必要ね」

 桂花にこう言う時の華琳ちゃんは輝いてるなあ。

 そう思って手も離さずにうっとり眺めてたら、とんでもない事言い出しました。

 

「桂花、皇一と結婚なさい」

「……は? 華琳さま、今なんて……」

 俺と同じようにうっとりしていた桂花の表情が一瞬で真っ青になった。

「聞こえなかったの? 仕方ないわね、もう一度言ってあげる。皇一と結婚なさい」

 

「それが罰ってあんまりじゃない?」

 主に俺に精神ダメージって意味で。

 

「北郷があんなにお嫁さんもらうのに、こっちは私だけなんて悔しいじゃない!」

「それなら華琳ちゃんが嫁にもらえばいいんじゃ? こっちじゃ女同士でもアリなんだろ?」

 孫策周瑜と二喬とか。

「私の嫁の数が、北郷の嫁より少ないのはもっと悔しい!」

「そ、そういうもんなの?」

「ええ」

 なんという複雑な乙女心。

 

「だから春蘭、秋蘭、季衣。あなたたちにも皇一と結婚してほしいのだけど」

 桂花のは命令でこっちはお願いか。

 って。

「ちょ、ちょっと待って!」

「なぜお前が止める?」

 そりゃ止めるでしょ。

 

「春蘭は俺と結婚したいの?」

「嫌だ!」

「ぐっ。春蘭なのにそうきっぱりと言われるとすごい傷つく」

 なんか全人格を一言で否定された気がする。

「まあ俺も嫌だけど」

「なんだと貴様!」

 冗談だよ。剣出すほど怒らなくてもいいじゃない。

 

 

「落ち着け姉者」

「だが」

「花嫁衣裳を着てみたくはないか?」

「む? それは女として生まれたからには憧れるものはあるが……」

 うん。たとえ勘違いで俺を何度も殺したお馬鹿さんでもウェディングドレスは似合うに違いない。

 

「その隣には同じく花嫁衣裳の華琳さま。見てみたくはないか?」

「うむ。見たい!」

「見たいに決まってるでしょ!」

 桂花までもが納得する。当然だ。俺もすごく見たい。

 

「ならば結婚式を挙げるしかあるまい」

「そうか」

「いやちょっと。秋蘭はいいの?」

「なんだ? 我ら姉妹に不満があるというのか?」

「なんだと貴様!」

 だから春蘭は剣しまって。

 

「いやそうじゃなくて」

「ならば季衣か? たしかに季衣にはまだ早いかもしれんが」

「え? おっちゃん……」

 泣きそうな目で俺を見る季衣ちゃん。

 そんなわけないでしょ。

 

「くっ。ズルいぞ秋蘭」

 華琳ちゃんと共同作業なでなでを再開。

「季衣ちゃんは、俺みたいなおっさんと結婚してもいいの?」

「おっちゃんだったらいいよー」

 そんなあっさり?

「ちびっこには負けらんない!」

「そういうもんじゃないでしょ?」

 ああもう可愛いなあ。華琳ちゃんが微笑んでるのもわかる。

 二人とも可愛すぎるので思わずまとめて抱きしめた。

 殴られた。

 殴られた。

 蹴られた。

 死なない程度には手加減してくれてるみたいだけど、すごく痛い。

 

 

 

 まとまりかけたと思ったら、まだごねてる方がいました。

「や、やっぱり結婚なんて……」

「お姉ちゃん!」

「蓮華さま、政略結婚と割り切ってでも結婚して下さい」

 この場で唯一のおっぱい軍師が眼鏡を光らせた。その技をマスターしているとは。評価を改めねばなるまい。

 

「穏! ……蓮華さま、穏はこう言っておりますが蓮華さまのご意思のままにお決め下さい」

「思春はそれでいいの?」

「はっ」

「わかったわ。思春もいっしょなら、私は結婚しよう」

 なんだ、甘寧のためだったのか。

 そして遠い目をする孫権。

「ああ、冥琳にもいてもらいたいな」

「そうだな。さっさと倒して参加してもらおう」

 孫権に微笑む一刀君に関羽の眉がピクリ。

「それは、嫁としてですか?」

「い、いや、新婦の親戚としてです」

 

 

 

 そんなこんなで周瑜との戦いの後、一刀君たちと俺たちの合同結婚式が開かれることとなった。

 同盟を内外に知らしめるデモンストレーションでもある。

 なんか戦が前夜祭扱いになってるような。

 

 

 てゆうか、その戦のための会議じゃなかったの? これ。

 

 

 

 

 

 

 華琳ちゃんたちと魏に帰った俺。

 しかし婚前交渉などまったくなかった。

「まずはその身体を治しなさい。また腹上死したいの?」

 俺のことを心配してくれてるらしい。

 初めて華琳ちゃんの手料理にありつけた時は涙が出た。

 俺の胃を察してお粥がメインだったけれど。

「すごい美味い!」

「当たり前でしょう。残したら承知しないわ」

 

 

 人質中はほとんどしていなかった兵士としての訓練も再会。

 訓練は有難いことに春蘭が稽古をつけてくれた。

「華琳さまの夫となるのだ。少しはマシになってもらわんとな!」

 シゴかれました。体重戻るの、遅れそう。

 有難すぎるイジメであった。

 

 

 季衣ちゃんに頼まれて溜め込んだ書類のお手伝い。

「もうこんなに?」

「おわったらご飯にしようね!」

 俺の膝の上に座ってる季衣ちゃん。仕事の効率は下がっているけど当然それは言わない。

「おわったら、ね」

 たぶん、おわる前に中断して食事して徹夜、かな。

 

 

 そして華琳ちゃんに命じられた結婚式の準備。

 桂花と秋蘭も一緒にきてもらっている。

「らんどせる、いかがでしたか?」

「送ってくれてありがとう。なかなかいい出来だったけど……」

 ランドセルの製作を頼んだ店で店主と再会。

 

「こんな感じで」

「なるほど」

 本題であるウェディングドレスのことを相談。

 もちろん俺がウェディングドレスに詳しいはずもなく、役に立ったのがコミケカタログ。サークルカットがわずかにでも説明の手助けとなっていた。

 

「これが天の花嫁衣裳か?」

 店主が書いたイラストで雰囲気を掴んだのか、秋蘭がふむと頷く。

「試作品ができたらすぐに持ってきてくれ」

「ん? あの人形、もう直ったの?」

「いや、華琳さまの身代わりに散った人形は命令により廃棄されたからな。姉者がまた新たにつくったのだ」

 桂花には聞こえぬように互いの耳元で囁く。

 

「なにひそひそ話してるのよ」

「いや、桂花のはベールに猫耳つけた方がいいのかな、って」

「べえる?」

 店主のイラストを指差す。

「ほら、この被り物」

 

「変じゃないかしら?」

 それ言ったら普段の猫耳フードも変だけど。

「桂花らしくていいんじゃない?」

「らしくて? あんたが私のなにをわかるって言うのよ、この泣き虫強姦魔!」

「少なくとも身体の隅々まで知っているのではないか?」

「な!?」

 ちょっと秋蘭さん、なに食わぬ顔でなに言ってるんですか。

 たしかに腹上死の時にアレやコレや色々しましたけど。

 

「私たちのどれすの大きさを的確に指示しているではないか」

「ああ、それか。合ってるかな?」

「後は本人が合わせれば問題あるまい」

 後ろで桂花がぶつぶつと思案中。

「華琳さまのの大きさまで合っているなんてやっぱり殺すしか……」

 

 

「あとは指輪を買いたいんだけど、どこがいいかな?」

 ドレスと季衣ちゃんのランドセルを頼んで店を出てから、二人に相談。

「指輪?」

「うん。天じゃ結婚式の時に指輪の交換ってお互いに指輪を付け合うんだ。左手の薬指にね」

「ほう」

「で、それが既婚者の証みたいなもんだから、たいていはみんな指輪をずっとつけてるんだ」

 給料三ケ月分、っていうのは黙っておこう。人質手当てって思ったよりもかなり多かったけど、指輪がいくらぐらいするのかまったくわからないし。

 

「なんで左手の薬指なのよ?」

 自分の左手を見ながらの桂花。

「たしか、左手の薬指には心臓と直接繋がる血管があるって伝えがあるんだ。本当にそうかは知らないけど」

「なるほど。互いに相手の心臓を握り合うというワケね!」

 そんな意味だったっけ?

 

「桂花はそんな指輪なんてしない、って言うと思ったんだけど?」

「華琳さまと同じ場所に指輪をするのよ!」

「ああ、意匠は同じにするつもりだから」

「しかもおそろい!?」

 だってみんなの分、別々に選ぶのって大変そう。

 

 

 

 

 夜。

 部屋は兵士の宿舎から城へ移されていた。

 安全上の理由らしい。今更干吉は俺を直接狙ってこないと思うけどなあ。

 季衣ちゃんがよく遊びにきてくれるんで嬉しい。

 

 寝る前はたいてい泣く。

 魏に戻ってから信じられないくらい幸せで。

 だから余計に辛くて。

 この世界が終わるのがわかっていても、どうしようもなくて。

 

 

 今もし死んだら、ロード3から始めるという誘惑に耐えられるだろうか?

 

 



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九話    誰?

 国境付近で式の準備は着々と進む。

 たしか無印だと北郷軍は幽州で蜀じゃなかったんだっけ。

 ここどこだろ?

 後で聞いてみよう。

 

「結婚式というより戦争の準備みたいだ」

 武器装備や糧食が次々と城の倉に納められる。

 城?

 そう、城。新たに建てられた城砦。

 白装束を迎え撃つためにつくられた要塞。

 

「俺が人質になってる間にこんなもん作っていたのか」

「ええ。そのために人質として預けた。いい囮になってくれたわ」

「国境付近にこんな出城を用意しはじめれば華琳さまは覇業を諦めていないと思わせることができる。なら、北郷たちを攻める口実を与えてやればよいと干吉は判断するわ」

 ニヤリと得意気な猫耳軍師。

 

「そしてあなたを見極めることができる。なんの情報も与えずに人質となってどう動くか。楽しみだったわ」

 ネコミミ軍師以上に不敵な微笑み。まったくこの美少女はなにをしても様になる。

「見極めって、底の浅い俺なんて一目でわかるでしょうに」

「あら、夫となる者に期待してなにがいけないのかしら?」

「期待に応えられかったかな。関羽を寝取るとか無理だって」

「まったく。残念ね」

「ホンマに期待してたんかい!」

 冗談よ、と笑う華琳ちゃんに本当に期待していたのはなにかを聞くことはできなかった。

 

 兵士も続々集まってくる。

 その兵士さんたちは魏、北郷、呉の精鋭揃い。

 当然率いるは各国の将。

 

 結局、周瑜は北郷軍に敗れ捕虜となった。

 シャオちゃんに負けたら自害するつもりだと教えといたのが役に立ったのかな?

 北郷は、ああもう一刀君とまぎらわしいなあ。

 蜀じゃないけど蜀って呼ぼう。

 蜀は呉を自国の領土にすることはなかった。

 呉には、孫権が返り咲いているらしい。

 

 どうせ一刀君と孫権が結婚するからいいのかな。それとも天下三分の計にこだわってるのかな?

 まあ一刀君には大陸制覇の野望とかなかったはずだし、これでいいんだろう。

 無印でも結局、華琳ちゃんに魏領を、孫権に呉領を任せてたよね。

 

 

 で、三国あげての合同結婚式の予定なのだが、めっさ物々しい。

「やはり来ますか?」

 体重が戻ってきた俺とは対照的にげっそりとした表情の一刀君。

「そりゃ来るんじゃない? 水を差すにはもってこいでしょ。三国の絆を祝う式典をぶち壊すって」

「白装束、来てほしいなあ」

 ぼそりと力なく呟く。

「なんか疲れているように見えるけど?」

 

「愛紗たちが初夜の順番で揉めまして」

 ハハハ、と弱々しく笑いながら教えてくれる。

「正妃とか第二夫人とかの序列じゃなくて?」

「みんなが一番好きなんだからってことで、それはナシにしました」

「君らしい」

 さすがギャルゲ主人公様だ。

 

「で、初夜の順番か」

「先鋒を取るのは武人の華。って星が言い出して愛紗や鈴々、翠まで譲れないって争いだして……」

「五虎将の残る一人は?」

「朱里と一緒に秘薬がどうとか相談してたから怖くて……で、いつの間にか俺に順番決めてくれって言いだして」

「うわあ」

 そりゃげっそりもするわ。どう選んでも角が立ちそう。俺だったら胃に大きな穴が開くレベルの難問。

「クジとかジャンケンって言ったら正座と説教。解決してくれたのは恋だった」

「呂布が?」

 まあ、あの娘が一番目なら関羽も他の娘も強くは言えないか。

 

 前髪を細く二束、軽く持ち上げる一刀君。もしかして呂布のつもりか?

「……ご主人様はみんなが一番。みんなでいっしょに一番にすればいい。……って」

「いっしょにって……15P?」

 呂布の真似をしたまま、カックンと頷いた。

「白装束、来てほしいなあ」

 いや、白装束と戦闘になっても初夜はあるんじゃない?

 

 

 

 

 

 結婚式当日。

「あんた誰!?」

 いきなり一刀君に言われました。

 新郎側の控え室にこんな格好して入ってくるのって、俺しかいないでしょうに。

 

 スチャッといつも愛用の眼鏡をポケットから出して装着。

「その眼鏡……あんたもしかして皇一さん!?」

「そ。いつもの地味なおっさんだよ」

「いや地味じゃないでしょ。なにこのイケメン! 地味眼鏡の定番としても二枚目すぎでしょ」

 眼鏡外して髪ちゃんとセットしただけなんだけどなあ。

 まあ自分自身、顔だけは悪い方じゃないとは思ってるけど。

 

「伊達眼鏡だったのか」

 オシャレ眼鏡とは程遠い俺の眼鏡を確認する一刀君。

「まあね」

「でもなんで?」

「惰性かな。レーシックる前はちゃんと度が入ってたよ。髪セットするのもメンドいし」

 服装とか髪型とか趣味とか地味なのが好き。

 本当は初恋の女性に「あんたっていいのは顔だけよね」って言われてからかなあ。以来トラウマ。女性も前以上に苦手になった。

 

「今回は特別。綺麗な花嫁の隣に立つんだ。無理もするよ」

 華琳ちゃんたちに恥かかせちゃいけない。

「何言ってるんですか! これからずっとそうしてて下さいよ!」

 アレ? 一刀君の頬が赤い。熱でもあるのかな?

 

 

 

「準備できた?」

 新婦側の控え室に行ってみる。こっちは魏と一刀君嫁と別になってるのか。まあ、人数も多いしね。

「誰だ貴様!」

 いきなり春蘭が剣抜いてきました。

 うん。ウェディングドレスに剣もアリかもしんない。

 

「あ、おっちゃん」

 季衣ちゃんはウェディングドレスを汚さないように、さらに前掛けをしてから食事していた。

 うん。式中は食べられないからね。

「季衣、どう見てもこいつは天井じゃないだろう」

「いや、季衣ちゃんが当たってる」

 スチャっ。眼鏡装着。

「なにいいいいいぃぃぃ!!」

 あ、なんか楽しい。

 

「化けるものだな」

 ふむふむと俺の前髪を弄る秋蘭。

「ふ、ふん。顔だけはいいのね、泣き虫強姦魔のくせに!」

 ぐっ。やばい泣きそう。今まで聞いた桂花の罵倒の中で一番グサっときた。

「お、男は顔じゃない」

 震える声でそう返す。

 

「しかし季衣はよくわかったな」

 春蘭の眼帯もウェディング仕様になっている。

「あれ? おっちゃんブサイクじゃないって前に言いましたよー」

 季衣ちゃんはいつも結っている髪を下ろしている。

 うん。化けたってのは季衣ちゃんの方だろうな。すっごく可愛い。

 

「知ってたのか」

「いっしょにおふー、あ、ありがとおっちゃん!」

 全て言う前に季衣ちゃんにおかわりを差し出す。

 季衣ちゃんの意識が食事に向かったのを確認。ふう、危なかった。

 

「やればできるじゃない」

 華琳ちゃんはあまり驚いた顔を見せてくれなかった。残念。

 でも花嫁姿の華琳ちゃんが見れただけでもお釣りがくる程の感動。

 いつもは黒を好む華琳ちゃんが純白のウェディングドレス。一刀君のポリエステルなんて目じゃないくらいに眩しい。

「綺麗だ」

「ふふ。あなたたちの用意した花嫁衣裳も悪くないわね」

 

 

 

 

 式は滞りなく進む。

 段取りは俺の記憶での向こうのやり方。一刀君よりは結婚式に呼ばれた数が多かったからね。

 華琳ちゃんは美しい花嫁たちを眺めて上機嫌だったけど、俺は緊張のあまり何度か気絶しそうになってたり。

 花嫁姿の孫権を見て周瑜たちが涙ぐんでいたり。

 

 で、ブーケトス。

 ある展開が予想できたので屋外へ移動。

 そこにはすでに各国の若い女性たちが待ち構えていた。

 この場にいるってことは諸侯の娘さんか軍人なんだろう。

 どんな効用を聞いているのか、殺気に近い物すら感じてしまう。

 

「ではまず私から」

 後ろ向きになってブーケを放る関羽。

 さすがの膂力で待ち構えている女性たちを軽々と飛び越える。

 予想通りだけど飛ばし過ぎだって。まさかあの関羽も緊張してたのかな?

 

 どこまでも飛んでいくかと思えたブーケを、突如飛び出した影がジャンピングキャッチ。

 ズバーンっ!

 ありえない音がここまで聞こえて、ふき飛ばされる影。アレ本当にブーケ? タイガーショットとかじゃない?

 ふっ飛ばされながらもブーケを手によろよろと立ち上がったのは、記憶の片隅にある男だった。

「あいつっ!」

 一刀君も気づいたようだ。

「ふんっ……俺の顔、忘れたとは言わさんぞ」

 たしか左慈。干吉の仲間。

 格好つけて近づいてくるけど早いとこブーケ離した方がいいんじゃないかなあ。あまり様になっていない。ふらふらしてるし。

 

「ちょっといい?」

 左慈よりも未婚女性たちの殺気が怖いので出しゃばることにする。

「なんだ貴様は?」

「知らないのかな? そのブーケを受け取ったということは君が次の花嫁になっちゃうんだけど」

 左慈の質問は無視して忠告。

 

「ああ、そんな話もありましたねえ」

 今度は干吉が登場。やっぱり道士相手にはいくら警備を強化しても無駄だったか。

「問題ありません。彼は私が花嫁に迎えましょう」

「ふざけるな!」

 そう思うならブーケ離せばいいのに。

 

「男が取っても無効。この場合ブーケは奪い取った女性の物とする」

 華琳ちゃんの宣言で、近くの女性たちがいっせいに左慈に群がる。

「……邪魔するなっ!」

 剣を取り出し襲い掛かる女性たち。ああ、あの辺は警備の娘たちだったのか。

 何本もの剣を掻い潜って、やっと左慈はブーケを離した。

 

「あらん。次の花嫁は私かしらぁん?」

 ブーケを拾ったのは筋肉大男。

「貂蝉っ!」

 あ、あれが貂蝉か。前もってわかっていたとはいえ、ナマで見るとキツイな。

 ていうか、結婚式にその格好でやってきたの?

 

「だから男は無効だと!」

「喝ーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

「ひっ!?」

 貂蝉を直視してしまい、気が遠くなりかけた華琳ちゃんを支える。

 向こうでは左慈と貂蝉がやり取りを続けているが正直見たくない。華琳ちゃんの方が大事。

 

「しっかりして! あのバケモノは味方みたいだから」

 ちらりと貂蝉を見てビクっと震える華琳ちゃん。初めて見る弱々しい姿に思わず抱きしめてしまう。

「今は敵に集中しよう。左慈だけじゃなく干吉まできたってことは白装束も出るはず」

「……桂花。兵の配置は済んでいるわね」

「はいっ」

 

「春蘭、秋蘭はすぐに着替えて兵に指示を」

「はっ」

 ババっとウェディングドレスを脱ぎ捨てる春秋姉妹。その下からは戦装束を纏った二人の姿。

「いや、どうやって着てたのさ?」

「細かいことを気にするな」

 細かくはないと思うけどなあ。肩の辺りとかどう考えても無理があるって。

 

「季衣は護衛を」

「はーいっ!」

 季衣ちゃんもすでに戦装束になっていた。髪まで結ってある。あのままでもよかったのになあ。

 

「皇一は……落ち着くまでこうしていて」

「言われなくても」

 そんなに怖かったのか貂蝉。気持ちはよくわかる。

 

「そうも言ってられないようです華琳さま。白装束が出ました」

 いいムードなのに邪魔するか桂花。

 いや悪いのは白装束か。……ホントに出たんだろうな?

 着替えたつもりなのだろうがネコミミベールをつけたままの桂花。いつもフードだから気付かないのかもしれない。

 辺りを見回すと一刀君たちの嫁もドレスから着換え済み。……わたわたとドレスの中でもがいてる塊の中から、はわわわわわと聞こえているのは見なかったことにしよう。

 それぞれに自分が指揮を出す部隊へと急ぐ。

 

 左慈と干吉はもう撤退したようだ。

 まあ、ここで仕留めることは出来ないでしょ。

「宣戦布告なんだろうけど、ブーケ取りにきたようにしか見えない」

「ふふっ。道化のつもりかしらね」

 

 名残惜しいけど俺が離すと華琳ちゃんも瞬時に着換え。

 でも今までとたった一つだけ違いがある。

 左手薬指に光るエンゲージリング。なんか嬉しい。

 他の花嫁たちもやはり指輪はつけたままだった。

「さあ、招待状を持たない客を追い払うとしましょう」

 

 

「春蘭や関羽たちが出撃しちゃったけど、いいの?」

 籠城する方が有利なんじゃなかったっけ?

「……予定通りなのに、式を邪魔されたのをそんなに怒ってるの?」

 大きくため息をつく華琳ちゃん。

 

「あ、馬超や張遼たちも出てったみたい」

「もう、脳筋ばっかりなんだから」

「あ、シャオちゃん」

「ふーん。ほんとーに皇一なんだ、ビックリしちゃった。一刀の次くらいに格好いいじゃない♪」

 初めて会った時のように俺の周りをぐるぐると回って確認された。

「お姉ちゃんたちってば、影武者だとか代役立てたとか言ってたんだよ」

「まあ、俺は華琳ちゃんの夫には見えないってシャオちゃんにも言われたしね」

「えーっ、シャオそんなこと言ったっけ? それナシ! 今はお似合いだと思ってるもん」

 嬉しいこと言ってくれるなあ。

 

「どうやら皇一を見抜いていたのは私だけだったようね」

 ふふん、と俺の顔に手をふれる華琳ちゃん。

「さすがは曹操。って言っておくわ」

「ふふっ。お似合いだと言ってくれたのは素直に喜ばしい。礼として我が真名を許す。華琳よ」

「シャオのことは小蓮でいいわ」

 言いつつシャオちゃんが伸ばした手は、華琳ちゃんとの握手ではなかった。

 

 ぺたぺた。

 別に二人の胸ではない。二人の手が俺の顔に触れる擬音である。

「あれが、なんでこれになるんだろ?」

「目元を隠すだけで大きく印象は変わるもの。ましてや、小蓮が会った時は皇一はやつれていたのでしょう?」

 一刀君が言ってたように地味眼鏡のお約束、で済ませばいいのになあ。

 

「ありがとシャオちゃん。シャオちゃんの花嫁姿も俺のお嫁さんの次くらいに可愛かったよ」

「一番じゃないの? ……まあ新婚だから最高の褒め言葉か。華琳だけじゃなくて見たことない可愛い娘もいたし。あの娘はどこ行ったの?」

 見たことない可愛い娘か。たぶん彼女だろう。

「そこにいるよ」

 指差した先を見るシャオちゃんが首を捻る。

「どこ? 許緒しかいないけど」

「にゃ?」

 許緒ン、いや、キョトンとした季衣ちゃんも首を捻る。

「うん。さっきのは季衣ちゃん」

「嘘……。華琳たちが一刀のお嫁さんにならなくて良かった」

「最高の賛辞ね」

 やっと俺の顔から離れた二人の手が握手した。

 

 

 

 俺たちが友好を深めてる間に呂布まで出陣。

 白装束は殲滅されていく。

 数だけの白装束に負けるはずもない。

 無印だと味方として使えなかったはずの呂布までもが出てる以上、対抗できる駒はいまい。

 こっちは死亡した華雄、公孫賛を除く無印恋姫全武将が揃ってるし。

 ……あ、袁紹んとこのが抜けてるか。華琳ちゃんが一応招待状を用意したんだけど、届いてないみたいだな。

 

「数の不利も将の質だけでここまで圧倒しちゃうのか」

 一刀君も呆れている。

 予定通り白装束の方が兵数は多かったらしい。

「籠城しないでも余裕で勝てそうだね」

「籠城してる暇なんてないんだ。貂蝉から敵の本拠地が泰山にあるってのは聞いたんだけど、奴らが泰山の神殿でこの世界を終わらせる儀式を行うまであと十日しかない」

 浮かない顔の一刀君の背中をドンと叩く。

 

「あと十日もあるんだ。このメンバーなら怖いものないさ。新婚旅行は泰山で決まり!」

 あと十日しか華琳ちゃんたちといられない。泣きそうになるのをぐっと堪え、らしくない空元気を発動。たった十日間の新婚生活だけど笑ってすごしたい。

「新婚旅行……たしかにそうか」

「ま、その前に初夜が待ってるけどね♪」

「あ……」

 一瞬戻った一刀君の顔色がさらに悪くなった。

 

 

 ……あと、十日か……。

 それまでに華琳ちゃんたち、新婚の定番を、男の浪漫を、裸エプロンをしてくれるだろうか?

 

 



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十話    ラストバトル?

「泰山のどこに本拠地があるかわからないのに、もう出発するの?」

「斥候が戻ってくるまで待ってられない。あと十日しかないし」

「場所ならわかるよ。きっと頂上。その付近を重点的に調査させて」

 記憶によればたしかそうだったはず。

 

「じゃあすぐに出発しよう!」

 だが結局、一刀君の願いもむなしく出発は翌日ということになる。

 晩飯は豪華だったはずだけどなにを食べたか覚えてない。だって次は、待ちに待ってた新婚初夜!

 つい、今までずっと保存しておいたセーブ3に上書きしてしまったぐらい楽しみにしている。

 腹上死でのロード以降、華琳ちゃんとしかシてなかったから、季衣ちゃんとか今度こそ優しくしてあげないとね。

 

 

 ……優しくとか無理でした。

 優しくされなかったのは俺だけどね。

 

 もう、なんていうの?

 ……拷問。

 

 縛られた。

 なんで?

 

 どうやら華琳ちゃんは俺が隠し事してるって気付いてたみたい。

 干吉たちを倒しても無駄だって、鏡を確保しても世界が終わるっていう事を俺は黙っていようと思った。

 みんなが落ち込むの見たくなかったから。

 拷問されても言うつもりなかったんだ。

 

 

 ……無理でした。

 

 だって溜まってたもん!

 新婚初夜のために自家発電すら我慢してたし。

 ちょこっと足で触られただけでもう喋っちゃいそうになりましたよ、はい。

 したのは暴露じゃなくて暴発だったけどさ。

 

 

 その他色々されてあっさりと白状。

 おっさんの後ろを責めるのは勘弁して下さい。マジで。

 

「おっちゃんて眼鏡してなかったら格好よかったのに、今は残念だよねえ」

「式ん時は背伸びしてたの! 言うなれば戦いのメイク! 無理しまくりだったの!」

 久しぶりに眼鏡外して人と会ったからテンション変だったワケで。思い出したら転がるっつの。

 

「結局、この世界は終わるのね」

「……うん」

「世界が終わるとか言われても全くわからん!」

 春蘭だけじゃなくて隣で季衣ちゃんも首を捻っている。ええと、どう説明すればいいんだろう。

「みんな死ぬ……でもないな。なにもかもが無くなるって方があってるのか?」

「例えばわたしたちが本の登場人物だとしたら、その本ごと無くなるってこと?」

 桂花はさすがに俺より説明が上手いな。

 

「ふむ。とにかく大変なのだな」

 ああ、わかってないな、これは。説明するのメンドいんでほっておくけど。

「どうすればいい」

「たぶんどうしようもない。希望があるとすれば一刀君……北郷一刀が鏡を手に入れること」

「北郷?」

「そう。彼が新たな世界の起点となれば。みんなはその世界の住人となれるはず」

 それこそがこの世界の終点なんだろうけど。

 

「新たな世界。そんなことができるの?」

「できる」

 自分にも言い聞かせるように説明する。

「そのために俺も準備してきた」

「準備?」

「北郷一刀が新しい世界で、たった一人の女性だけを選ばないようにすること」

「だからこその結婚式ね」

 華琳ちゃんは理解が早くて助かる。

「あんたの策はなったってワケ?」

 言ってみたいなぁ。「我が策成れり!」って。でも今はまだ。

「それは最後になってみないとわからない」

 

「ならば世界の終わりまでに干吉を殺さなければいけないわね」

 いつのまにか大鎌を出してるよ。

「華琳さま?」

「私を辱めたあの男を許すつもりはないわ」

「……なんか新婚初夜に他の男を熱く語られると悔しいな」

 たとえ殺す相手だとしてもさ。

 

「忘れさせてみなさい。この曹孟徳、あなただけで満たせてみれるものなら」

「……俺一人じゃ無理かな」

「私の夫ともあろう者が随分と弱気ね」

 俺が弱気なのはいつものことですから。

「俺一人じゃ無理だけど春蘭や秋蘭、桂花と季衣ちゃんの助けがあれば」

「?」

「ふむ」

「な!? なんでわたしがあんたみたいな泣き虫強姦魔の手伝いなんて!」

「にゃ?」

 理解してない春蘭、季衣ちゃん。乗り気そうな秋蘭。取りあえず反発してくる桂花。

 

 呆けた顔を見せる華琳ちゃん。だがそれも一瞬。

「面白い。かかってきなさい」

 言ったね。

 くくく。さっきと立場逆転ですよ。華琳ちゃん総受けですよ。泣かしちゃる!

 

「ということだから桂花。協力お願い」

「くっ」

「嫌なら無理には言わないけど」

 渋々桂花は納得しました。表面上だけはね。

 

 

 結果。

 華琳ちゃんを泣かせました。目的達成!

 春蘭に殺されました。道場直行!

 桂花といっしょに調子に乗って華琳ちゃんを攻めてたくせに。俺や秋蘭が止めたのに気付かなかったのに。

 悪いのは全部俺のせいにされました。

 

 

 初夜前にセーブしといて良かった。

 してなきゃまた朝のセーブ、つまり結婚式から再スタート。眼鏡なしの羞恥プレイですよ。転がるーっ。

 やり直しの初夜を前にほっとしてたら華琳ちゃんに眼鏡を奪われました。

「初夜の間は眼鏡禁止」

 なんてこったい!

 別に第二人格ってワケじゃないから無理しなきゃなんないのに。

 ……イケメン人格覚醒しないかなぁ。

 

 

 

 

 

 翌日、さっさと出発。蜀呉の武将、軍師たちのスッキリした顔と一刀君のやつれ方が対照的だった。俺も似たような感じなんだろうか?

 

 馬車を引く絶影。

 戦車みたいのじゃなくて屋根付きの密閉型。

 見た目は普通の馬車っぽいけど引くのが巨馬。サイズも巨大。キャンピングカーとかそういうレベル?

 御者なんて前見えないんじゃと思ったら、そんなものいませんでした。

 自動操縦? 絶影賢すぎ。

 

 そんなチート巨馬の馬車にせっかくだからと短く切った竹をたくさんつけてみた。

 カラカラガラガラと微妙な音を立てている。

「これは?」

「たしか弟が結婚する時に魔除けだって言ってた。うるさい音を嫌う悪魔が新郎新婦に近づかないらしい」

 オープンカーに空き缶つけるアレ。当時はもうそんなサービスやってくれるとこなくて弟は諦めたけど。

「適当なとこで切り離せばいいんじゃない?」

 

「まあ、声が外に漏れなくていいかもしれないわね」

「……もしかして明るい内から?」

 華琳ちゃんニヤリ。美少女なのに男前すぎる。

 

 

 行軍中、ずっと嫁の誰かといっしょにいた。新婚なのだから当然と言えば当然なんだけど。

「いい加減辛いんですが」

「大丈夫よ。どれくらいで死ぬかはわかっているから」

 泣かしたこと根に持ってるみたい。

 腹上死ん時と違ってちゃんと食事や休憩もらえてたけどさ。なんか種馬になった気分。

 新婚旅行の思い出がエロしかないってどうなの?

 

 

 

 泰山に到着。

「山の麓に基地を作るのは正義の研究所なのに」

 麓に城塞があった。バリヤーとかないだろうな?

 

「この数ならなんとかなる、かな?」

 既に三国の兵は布陣済み。絶影も馬車を外されて俺と華琳ちゃんがタンデム。

「神殿と思わしき建物が頂上付近にあるらしいです。そこがやつらの本拠地かと」

 斥候からの情報を報告する桂花。

「城塞を落とせばいいのだな!」

 今にも突撃しそうな春蘭。

「残念ながらこの猪の言う通りです。泰山頂上部に繋がる道は城塞の向こうにしかありません」

 

 

「ようこそ。北郷一刀殿」

 城塞側から于吉の声が響く。

 一刀君の名しか呼ばないのは狙ってかな。

「ふん。私は眼中にないってワケ」

 華琳ちゃんの呟きが聞こえてしまった。フォローしとこう。

「だって干吉って女には興味ないみたいだから」

 

「最後はやはり我らとの戦い。ふふっ……これが無いと物語は終わらない。そういうことでしょうな」

 え? この戦いも終わりの条件?

「終わらせてたまるかよっ!」

 吼える一刀君。でも終わらせるのって君なんだよね。

 

 絶影の上で立ち上がる華琳ちゃん。

「そんなに終わりがほしいのならくれてやろう。貴様の死という終わりを。この曹孟徳の大鎌によって!」

 大鎌を城塞に向ける。

 うん。格好いい。

 特筆すべきことは華琳ちゃんが背負ってるもの。

 魏の民とか誇りとかそういうのじゃなくて物理的に背負ってる物。

 

 真っ赤なランドセル。

 

 季衣ちゃんのを作ってもらう時についでに華琳ちゃんたちのも頼んでおいた。前に季衣ちゃんだけにプレゼントをあげるの、って言われてたしね。

 で、完成したのをプレゼントしたワケなんだけど。

 それまで装備してるの見せてくれなかったのに、まさかこの最終決戦でお目にかかることができようとは!

 なんというサプライズ。とてもよくお似合いです。

 見渡せば季衣ちゃんに桂花、春蘭や秋蘭までもがランドセル装備。矢筒つっこんでる秋蘭はともかく、戦いの邪魔にならないのかな。

 一刀君がランドセルに動揺してるのが遠目にもわかる。関羽たちのランドセルは間に合わなかったのか。残念。

 

「おやおや。天井皇一という異物の役割はそういうことですか」

 干吉もランドセルに気付いたようだ。

「ふふっ……終幕を飾るに相応しい茶番」

 ランドセルが終幕を飾るに相応しい……うんうん。わかってるじゃないか。敵じゃなければ同志になれたかもしれないな。思わず干吉にサムズアップしてしまった。

 

 

「敵軍突出!」

 桂花の言葉に頷く華琳ちゃん。

 

「春蘭! 秋蘭! 魏武の誇り、今こそ見せる時よ!」

 怒号とともに剣を掲げて突撃する春蘭隊。

 赤いランドセルは春蘭の衣装に合うけど鎧と干渉しないのかな。……中になに入ってるんだろう?

 ランドセルから矢を取り出す秋蘭。縦笛のように矢筒を差し込んでるので開けずに出せるようだ。

 うーん。青服に赤ランドセルか。色変えるか悩んだけど意外に悪くないかな。

 秋蘭の号令で一斉に敵兵目掛けて矢が放たれた。ほぼ同じタイミングで蜀呉の陣からも矢が放たれている。むこうも攻撃開始したらしい。

 

 季衣ちゃんと桂花に本隊を指揮するように指示する華琳ちゃん。

 うん。二人ともランドセル違和感ないな。

 季衣ちゃんは似合いすぎてるし、桂花のは色合い的に黄色いカバーを付けたのが大正解かもしれん。

 

 兵士たちを勇者と鼓舞する華琳ちゃんの大号令が響き渡る。

 ランドセル装備で大号令とは眩しすぎる。神々しささえ感じてしまう。

 まさに勇者!

 ランドセル華琳ちゃんを達成できた俺も間違いなく勇者だよね、うん。真エンド計画が上手くいってもしも俺までもがあっちいけても、ランドセルの正体を知った華琳ちゃんに殺されそうなぐらい勇者だ。

 

 

 

 多勢に無勢。戦いは数。その言葉通りだった。

 無印恋姫ラストのように小出しにくる援軍ではなく、最初っから三国揃っての攻撃。対抗するために干吉も大軍を用意しなければいけない。

 召喚、でいいのかな? 白装束の大軍を呼び出すもそれが連続しない。一度に大軍の召喚で疲れてるのかもしれない。

 さらにいかに大軍を召喚しようと、こちらには無印で味方出撃しなかったはずの呂布が数をひっくり返してしまう。他の武将も揃ってるし時間稼ぎすら許さない。

 

「もう終わり?」

 え、もう? 干吉さんMP切れ?

「儀式とやらに集中してるのでは?」

 桂花の予想に華琳ちゃんが動く。

「春蘭、秋蘭、季衣。ついてきなさい。突入するわ」

「はっ」

「はーいっ!」

 春蘭と秋蘭の声が重なり、季衣ちゃんが元気良くお返事。

 一刀君たちも同じ判断をしたのだろう。武将たちを引き連れて関内に突入していく。

 俺たちもそれに続いて頂上を目指す。

 

 

 泰山頂上の神殿の奥、玉座のような場所に銅鏡が置いてある。

 そこに干吉と左慈が待ち構えていた。

 あれ? 配下の白装束とかいないの? もしかして楽勝?

 二人に向かって一刀君が叫ぶ。

「世界を終わらせなどさせないっ!」

 いやだから終わらせるのは一刀君なんだってばね。教えないけど。

 

 

 一刀君と干吉や左慈、そしてたった今乱入してきた貂蝉が問答している。

 俺は華琳ちゃんと相談。

「今の内にあの銅鏡、とっちゃだめなのかな?」

 こっちあんまり気にしてないみたいだし。

「無粋な気もするけど、私を無視しているのはたしかに気にくわないわね。春蘭」

「はっ!」

 鏡へと春蘭が飛び出す。

 

「死ねっ!」

 それに焦ったか、左慈が一刀君を襲う。

「構うな一刀君、鏡の方が先だ!」

 一刀君を趙雲たちがかばったのを確認し、そう声をかける。

 趙雲と張飛ちゃんにも促され、一刀君は銅鏡を目指し駆け出した。

 俺もそれを追う。貂蝉もついてきた。俺たちなんて簡単に追い抜けるだろうに、そうしないのは……一刀君の尻を眺めるため?

 

「野暮ですねえ。我らの会話の途中だったというのに」

 立ち塞がる干吉。

「なにを言ってるかわからんものを聞く気はない!」

 キッパリと言い切った春蘭。その馬鹿さ加減が今は格好いい。

「貴様の首を華琳さまに捧げる!」

 ああ、干吉が華琳ちゃんを操ったっての思い出したんだな春蘭。で、鏡のことが頭から抜けちゃった、と。

 結構走ったんだけど鏡はまだ遠いな。あそこまで走るのか。……メンドい。

 逃げる干吉を追い掛け始めた春蘭を尻目に一刀君に告げる。

 

「ふぅ、ふぅ……一刀君、銅鏡に触れたらみんなのことを思い浮かべるんだ」

「はぁ、はぁ、はぁ……みんなの、こと?」

 俺と一刀君は息があがってる。息があがってない貂蝉は無言で俺を見ていた。

「ぶっちゃけた話、新しい外史」

「なっ!?」

 

「やっぱり気付いて……いえ、知っていたのね?」

 やっと俺に声をかけた貂蝉。

「話すのは初めてかな。ずっと俺を避けていただろ?」

 いろいろ聞きたいこともあったのにさ。

「さあ? なんのことかしらぁん?」

 この期に及んでとぼけるつもりか。

 

「まあいいや。どうせもう終わるし」

 俺はその場に座り込む。

「ちょ、ちょっと! 新しい外史って?」

「詳しい説明はそこのバケモノに聞いてくれ。……一つだけ言えるのは、魏のみんなのことも忘れないでおいて、ってこと。貂蝉、後はまかせた」

「いいオトコのお願いなら聞いてあげるんだけどぉ」

 ううっ、嫌だなぁ。……眼鏡を外して前髪をかき上げる。

「お願い、できないかい?」

 げっ、自然にウインクまでしてしまった。やばいな。ノー眼鏡時にテンション変わるの癖になってきてるのか?

「まっかせてぇん!」

 

 一刀君と貂蝉が走っていくのを眺めながら眼鏡を掛けなおして、ポケットに手を突っ込む。

 とっておいた最後一粒のガムを口に放り込んだ。

「どうなるかな?」

 ガムを噛みながら最後の時を待つ。

 

 銅鏡に辿り着いた一刀君、慌ててるみたいだな。

 あ、銅鏡が光り出した。

 この揺れも地震とかじゃないよな。いよいよか。

 あれ? 貂蝉も慌ててるみたい?

「どうなるんだろ?」

 意識が真っ白の中に溶けていくのだった。

 

 



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END1
ifエンド1


 十話の続きは十一話です。

 これは十一話に繋がらないifエンドです。



 気付いた時はもう神殿内じゃなかった。

「道場でもなさそうだけど?」

 見覚えのない場所だった。うまくいったのかも。

 

「……まずは現状確認、だな」

 能力に気付くまで混乱して何度も死んだ経験がやっといきそう。

「……コミケ、行けるな」

 日付を確認したら俺が恋姫世界へとばされた日だった。

 慌てて他の荷物を確認。財布、デイバッグ、服装などスタート時の装備と一致していた。

 唯一違うとすれば、左手薬指に輝く指輪。愛しい嫁さんたちとの絆の証。

 

「みんなを探さないと」

 コミケは無理っぽい。

 ……いや、今日は無理でも本命の三日目なら行ける!

 携帯のアンテナ立ってるってことは恋姫世界じゃなさそうだ。

 元の世界でもないんだろうけど、きっとコミケぐらいあるさ。

 

 

「ああ居た。一体どこに消えたのかと思ったわ」

 すぐに華琳ちゃんたちは見つかった。愛の力って凄いなぁ。

 俺を見つけてくれたのが、春蘭たちの後だっていうのは気にしないでおこう。……ぐっすん。

「……ここがあなたの世界?」

「たぶん一刀君が作った新しい世界、かな? 詳しいことは一刀君を見つけないとわからないよ」

 きっと貂蝉が解説してくれると思う。

 

 

 

 

 二ヵ月後。

 何度か殺されそうになったけど、いまだに生きのびているので俺の能力がどうなったかはわからない。

 予想通り、ランドセルがばれた時は大変だった。

 殺されることこそなかったが、しばらく口もきいてもらえなかった。

 あんまり辛いのでもう自分で死のうかとさえ思ったが、なんとか許してもらえた。

 ランドセルよりももっとアレなものを装備させられたけど。……おっさんのオムツは勘弁して下さい。

 

「なあ一刀君」

「はい?」

「最近、女生徒が俺の眼鏡を外そうとするんだが」

 おかげで現在避難中。サボりともいう。

「外せばいいんじゃない?」

 嬉しそうな一刀君。やはり君の差し金か。

 

「断る」

「もったいない」

「銅鏡持った時、俺のことまで思い浮かべてくれたのには感謝してる」

「そりゃ皇一さんのこと忘れるわけないよ。あん時最後に見たの、眼鏡外したイケメンモードだったし」

 華琳ちゃんたち魏のみんながこっちにこれても、俺はこれないんじゃないかもと思っていた。だから、一刀君のおかげで制服華琳ちゃんたちを見ることができたのには感謝している。

 とっても感謝しているのだが。

 

「でも、なんで俺まで今更学生やってるのさ?」

 そう。なぜか俺はこの世界ではフランチェスカの生徒ということになっていた。

「た、多分、皇一さんの制服姿が見たかったからじゃないかと」

「おっさんの制服見てどうするんだよ。ここは用務員だろ。教師でもいい」

「陵辱ポジション?」

 いや、そんなのはできそうにない連中でしょ。

「あ、璃々ちゃんの先生でもいいな。だーい好きって言われるのはアリだね、うん」

「はあ」

「なのに学生。無理あるって」

「まあ、ここはきっとそんな外史なんだよ。みんな気にしてないし」

 本当に気にしていない。クラスどころか学園におっさん生徒は俺だけなのに。……年上扱いもしてもらってない気がするけど。

 年下の教師だっているし。

 

「学生結婚な上に重婚でもな」

 自分の左手の薬指を見る。

 学生なのに、俺と華琳ちゃんたちは夫婦として認められていた。

「みたいですねえ」

 一刀君も指輪を光らせる。

 

「あと同性婚もアリみたいです」

「周瑜たちのためか。まったく、どんな世界を考えたんだか」

 孫策はいない。一刀君、いないのが当たり前だったみたい。どんな人か教えとけばよかったかな。道場で世話になっ……あんまり世話になった覚えないな。結局、道場ってなんだったんだろう?

 

 ふと気付くとじっと一刀君がこっちを見つめてる。

 ……同性婚アリって周瑜たちのためだよね?

 他に理由なんかないよね?

 

 一刀君が口を開きかけた時、午前の授業の終わりを告げるチャイムが響く。

「午前、全部サボっちゃったな。じゃ俺、華琳ちゃんたちと昼飯食うから」

 なんか「俺のために眼鏡外して下さい」とか言われかねない雰囲気から即座に脱出。

 

 

 

 華琳ちゃんの作ってくれた弁当といっしょに、幸せを噛みしめる。

「なによ、ニヤニヤして。普段以上に気持ちワルイ」

 桂花の罵倒も気にならないね。

「そういえば授業をサボったそうね」

 ぎくっ。

「お仕置きが必要よね」

 食後の運動程度にしてほしいなあ。

 

「空き教室は確保してあります」

 なに言ってるのさ秋蘭。

「最近、女生徒に騒がれていい気になっておるのではないか?」

 なに言ってるのさ春蘭。

「おっちゃん、誰といっしょにいたの?」

 なに言ってるのさ季衣ちゃん。

 

 もしかして浮気を疑われてる? 俺がそんなことは不可能だってわかってるでしょ。

「一刀君と駄弁ってただけだって」

「ふむ。愛紗を困らせたのに加担していた、と。罪状一つ追加ね」

 げっ、やぶへび。なんですか、その首輪は?

 

 

 

 

 一応これ言っておこう。

「我が策成れり!」

 ……成ったのかなあ?

 首輪を引かれて空き教室へ連行中に悩むのだった。

 

 

 

 




END1 学園エンド


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第二章    二周目
十一話   二周目?


 意識が白一色から解放された時、そこはもう神殿内じゃなかった。

「道場、か」

 もう見慣れた場所に戻ってきてしまった。

 ……真エンド計画、失敗したのか。

 

「貴様、こんな局面でまた死んだのか?」

 春蘭の言葉に首を横振り。それに秋蘭が頷く。

「いきなり光ったかと思ったら道場にいた。世界が終わったということなのだろう」

「たった一瞬。意外と味気ない終わりね」

 パニック映画なみの天変地異とか期待してたの華琳ちゃん?

 

 

 死ぬ時のあの言い様のない感覚が無かった。つまり俺は死んでないはず。

「死んでない……なのにここってことは、バッドエンドなのか?」

 いい加減、道場(ここ)から解放されたい。

 まあ、元の世界に戻れても華琳ちゃんたちといっしょじゃなかったら嫌だけど。

 華琳ちゃんたちといっしょにいられるなら、恋姫†無双世界だろうが元の世界だろうがどっちでもいい。

 残してきた両親は頼りになる弟が面倒見てくれてるだろうし。

 

「なにか条件を満たしてないということなのか?」

 体育座りして悩む。某新人類みたいに親指の爪でも噛んだらいい考えが浮かぶだろうか。

「条件?」

 華琳ちゃんたちも俺の側に座った。

「干吉たちの儀式が完成してしまったのか、それとも逆で儀式を完成させなければいけないのか?」

「北郷一刀が失敗したということはないの?」

「一刀君が一人だけを連れて新しい世界へ行ったとは考えたくない……」

 みんなと結婚式まであげておいて一人しか連れてかないなんて、連れてかれた方も困るだろう。一刀君はそんな男じゃない!

 

「道場主を名乗るあなたなら、何か知ってるのではなくて?」

 華琳ちゃんが孫策に問う。

「いろいろ試してみれば? まだやっと一周目終了でしょ」

 アドバイスは『いろいろやろうぜ』か。ってそんな作戦はちょっとなあ。相変わらずアバウトすぎる救済所だ。

 

「ふむ。ならばもっと前から始めましょう。儀式前に銅鏡を確保、もしくは破壊する」

「もっと前?」

「ええ。どうせだから私が干吉に操られるよりも以前。覇業を諦めず、大陸を制覇してみるのも悪くないわ」

 蜀や呉にも勝つってことか。真・恋姫の魏ルートっぽいな。

 たしかに無印恋姫を大筋でなぞってこの終わりなんだから、もう大きく展開を変えてしまうのもいいかもしれない。

 

「チートじゃない俺じゃあ無理だけど、今の華琳ちゃんならそれが可能、か」

 ……俺だって無双とはいわないまでも少しぐらいチートな能力がほしいなあ。『冒険の書』なんて使いづらいのじゃなくて。

 せめてセーブスロットがもう少しほしい。

 セーブ3、初夜の前に上書きしちゃったから『はじめから』を選ばないといけないんだよなあ。またあの荒野を彷徨うのか……。

 

「けど、はじめからを選んでも一刀君はもう、関羽と張飛ちゃんを仲間にしている」

「そう。できれば愛紗はこちらにほしかったのだけど……屈服させてから手に入れるのもいいわね」

「一刀君から寝取るのは無理そうだよ」

「ふん。私はあなたと違って膜の有無は気にしないもの」

「わかってもらえなくて残念です」

 俺にとっては重大チェック項目なの!

 

「まあでも、人材を増やすってのは必要かもしれない」

「なっ! 貴様、我らでは不足だというのか!」

 隻眼で俺を睨む春蘭。そうだ、どうせやり直すなら彼女の目も守りたいな。

 

「だって、一刀君のとこ武将の数多いから」

「ええ。嫁の数で負けてるのはいまだに許せないわね」

 嫁じゃなくて、武将の話なんですけど。

 

「皇一、北郷の嫁を寝取りなさい」

「嫌。というか無理!」

「北郷が手を出す前なら処女でしょう?」

 たしかに結婚したことは無かったことになってるだろうけど、あんなに仲よさそうな夫婦を引き裂くなんて人としてどうかと思う。というか、手を出す前なら寝取りじゃないよね?

 

「だから俺が女の子とそんなこと簡単にできるワケないでしょって」

「そうかしら?」

 つい、と華琳ちゃんの白くて小さい、でも強力な細腕が俺の眼鏡を奪う。

「か、返せ!」

「えー、あんたってそんな顔してたんだー!」

 孫策の驚いた声。

 あれ? 俺の素顔知らなかったの?

 

「これなら、たとえばそうね、小蓮なんかはすぐに落ちるんじゃないかしら?」

「シャオねえ。落とせたら褒めてあげる」

 二人で牽制してないで早く眼鏡返して。取り返そうとする眼鏡は華琳ちゃんと孫策の手を行き来して、俺の手が届かない。お前らイジメっ子か!

 

「信条に反するのは嫌だ。俺は華琳ちゃんたちがいればいい」

「……どう?」

「む。やるわね」

 えっと、俺の話聞いてますかー?

 俺の髪弄るの止めて下さいー。

 

「人材は一刀君の嫁じゃないのを引っ張ればいいでしょ」

「ほう?」

「公孫賛に華雄、この二人が死ぬ前に引き入れる」

「ふむ」

 俺の答に考えるものがあるのかやっと眼鏡を返してくれた。すぐに装着。「でゅわっ!」とでも言った方がいいのかな?

 

「他に北郷の嫁でないとなると……」

「袁家、かな?」

「アレはいらない」

 真・恋姫だったら袁術ちゃんいるのになー。袁術ちゃん可愛いのになー。

 

「顔良は使えます」

「いっちーも!」

 秋蘭と季衣ちゃんが仲のいい二人を薦める。

「そうね。麗羽抜きでその二人が手に入るのならば考えましょう」

 あくまで袁紹はいらないのね。わからないでもないけど。

 

「なあ、北郷の嫁でないのなら周瑜がいるではないか」

 孫策を気にしてないのかそんなことを言う春蘭。

「軍師は私一人で十分よ!」

 その案に桂花が怒鳴った。

 

「冥琳? 無理」

 でしょうねえ。

「無理かどうかは皇一が証明してくれるわ」

 無理だって。

 って、まだ俺が寝取るとかってなってるの?

 

「方針もまとまったことだし、始めなさい」

 え、今のでもうまとまっちゃったの?

 言われるままに選ぼうとすると、また違う文が増えていた。

「あれ?」

 

 つづきから

 はじめから

 2しゅうめ

 ひきつぎ

 

「二周目?」

 バッドエンドでも一周目クリア扱いになってるのか。選んでみるとさらに選択肢が現れる。

 

 ボーナスは?

 かね×2

 けいけん×2

 ???×2

 

 周回ボーナスがあるのか。でもなんだかよくわからないボーナスだな。

 まあ、周回ボーナス定番の『引継ぎ』がすでに実装済みだからこうなるのかな?

 

 お金が二倍か。……これって、所持金が二倍になるのとこれから入ってくるお金が二倍になるのの、どっちだろ? スタート時の所持金だったら日本円が二倍になってもなあ。

 経験も同じ。今のとこれからのどっちなんだろ? てか、経験値なんてあったの?

 なによりも意味不明な『???×2』ってなに?

 ……ランダムで能力値が二倍とか? 俺の低い性能が二倍になってもたいしたことなさそうだけど。

 

「どうしたの?」

 ああ、華琳ちゃんたちには空中の文が見えないんだっけ。

「なんか選択肢増えてるみたいだから、ちょっと試してみる」

 金は意味なさそうだから経験と???の二択か。

 ちょっとだけ悩んで『???×2』を選んだ。

 

 

 

 

 気づくと荒野にいた。

 しばらくみんなに会えないか。

 左手を見ると薬指の指輪はもちろんない。なんか寂しくなってくる。

 

 泣きそうになるのを堪えてボーナスの効果を確認しよう。

 軽く身体を動かしてみる。

 重い。兵士として鍛えられる以前のままっぽい。

 所持品を確認。やっぱり数は同じ。

 むぅ。

 

 じゃあなにが二倍になってるんだろう?

 セーブスロット?

「増えてない、な」

 セーブを呼び出してとりあえずセーブしてみたけど、どうやら違うようだ。

 

 クリアまでの期間が二倍とか?

 人里を目指しながら考えを巡らせる。

 引継ぎできる人数が倍……一周目だって伏せられてた名前全部オープンできなかったしなあ。確認できそうにないなあ。

 だいたい一刀君がいる以上、俺が女の子を攻略できる可能性なんて無いに等しい。

 いや、一刀君がいなくても限りなく低いか。

 

 

 うーん。

 スッキリしてから考え直そう。

 先程から我慢してる尿意を振り払おうと、辺りを見回して人がいないのを確認してから立ち小。

 ふぃーーー。

 ん?

 ふと違和感を感じ、下を見る。

 

「W0?」

 

 え?

 もう一度股間を見る。

 

「XX?」

 

 

 

 いや、バスターやサテライトってのは言いすぎだけどさ。

 一刀君でいうところの本体が二倍。

 ???って、ランダムじゃなくてただの伏字かよ!

 ここは杜(オー)町か?

 落ち着け。落ち着くんだ俺。

 玉が倍じゃなくて、棒が倍なだけだ。

 うん。俺にスタンドは使えない。

 

 

 

 

 頭はスッキリしないが膀胱はスッキリしたのでチャックを閉める。くっ、増えてるせいかしまい難い。

 ポケットからガムを取り出す。手を洗うことなどもちろんできないから、ガムに直接触れないようにして口に放り込む。

 噛みながら考える。

 事態は深刻だ。

 

 なにが二倍だ! ナニが二倍になるなんてボーナスじゃなくてペナルティだろう!!

 はっきりいって気持ち悪い。

 使う時もやりにくいだろうしなぁ。一周目でやっと使えるようになったのに。

 

「邪魔なら斬ればいいでしょう?」

 

 華琳ちゃんの声が聞こえた気がした。なんか今の幻聴がマジになりそうで怖い。

 桂花が嬉々として切断の準備をするのが浮かぶ。あいつのことだから、二本とも切られてしまうかもしれない。

 そんなの絶対に嫌だ。

 たとえ邪魔でも切られたくない。

 ボーナス解除できないかな。

 死んだら試そう。

 できなかったらどうしよう?

 

 そうだ! 華佗を探そう。もしかしたらなんとかしてくれるかもしれない。

 それまでは華琳ちゃんたちに会わないようにすればいい。

 ……会いたいなぁ華琳ちゃん。

 今頃なにしてるんだろう。

 

 

 あ、無印じゃ華佗出てこなかったんだっけ?

 一周目でも真キャラ見つからなかったみたいだし。

 

 

「つんだ……」

 絶望しながらもトボトボと人里を目指すしかないのだった……。

 

 



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十二話   秘策?

 新たな力。

 その名も双刀(ツインブレイド)

 そう。

 北郷一刀の二倍の能力を手に入れた俺!

 

 

 

 嘘ですごめんなさい。

 本数倍でも半分以下ですきっと。使えないでしょこんなの!

 神様、もしいるのならチートで無双とかもう言いません。戦闘力たったの5でもかまわないから、普通の身体に戻してプリーズ!

 

 

 

 

 俺は今現在、一刀君たちと共にいる。

 苦労して街にたどり着いた時、迂闊にも接触してしまったからだ。

 道とか方向とかわかってる分、一周目よりも早く着いてしまい、黄巾党退治に出陣する一刀君たちと鉢合わせ。

 格好はともかく腕時計でこっちの人間じゃないことがばれて、いっしょにいることになってしまった。

 関羽ってば強引。俺を逃がしたら一刀君にも逃げられるとか思ってんのかな?

 空腹でフラフラなのに戦闘ですよ。

 

 案の定、戦闘中にぶっ倒れた。

 道場へ行かずに済んだのは関羽と張飛ちゃんが守ってくれたおかげらしい。まあ、一刀君のついでだろうな。

 

 

「それじゃ、お願いします」

 黄巾撃退でお祭りモードな中、やっと食事をした俺は一周目で世話になった商隊に頼んで陳留の華琳ちゃんたちに手紙を出す。

 手紙なんて書かずに道場で連絡すればいいのだが死ぬのは嫌。痛いし。辛いし。

 華琳ちゃんに慌てて書いた手紙には「ボーナスで身体に異常発生、治るまでは会えない。治ったらすぐにそっちへ向かう」って書いておいた。ちゃんと追伸で「愛してる」ってのも忘れてないよ、うん。書いた後転がってたら変な目で見られたけどさ。

 そして春蘭、秋蘭には図面付きであるものを依頼。本当はこっちの方がメインで街につくまでずっとそれを考えていたから、一刀君たちの接近に気付かなかったんだけどね。

 季衣ちゃんと桂花はもういっしょにいるのかな? 今回は急ぎだったので書けなかったけど後でちゃんと手紙を書いておかないとまずいだろう。

 

 

「手紙出す相手なんているんだ」

「うん。俺がこっちに来てからずいぶんとなるしね」

 正確にはずいぶんとやり直してるしね、だけどさ。

「こっちの文章書けるなんてすごい」

「一刀君ならすぐに覚えるよ」

 一刀君はやはりこっちの世界に全然詳しくない。二周目なのは俺と引継いだ嫁さんたちだけっぽい。

 一刀君にしてみれば俺は「知らない天井(あまい)」か……。

 さ、寂しくなんかないんだからね!

 

 

 読み書きができると知られてしまった俺。

 二周目は迂闊続きだ。用心しないと。

 そもそも周回ボーナスを適当に決めたのがケチのつき始めだったんだよなぁ。

 そんなことを書類の山を前にして思った。

 幽州啄郡啄県の県令となった一刀君。読みはともかく書くのがまだまだらしく政務は関羽と何故か、俺にもまわって来る。

 いや内政とか俺の担当じゃないから。

 一周目でやってたのってせいぜい季衣ちゃんのお手伝いレベルですから!

 

「俺、そろそろ人探しの旅に戻りたいんですが……」

 一応、俺はそんな理由で彷徨ってることにした。華佗を探してるってのは嘘じゃないし。だから俺にもなんか役職回そうとしてたけどそれは辞退している。

「せめてこれが片付くまでは……」

 困った顔で俺を見る関羽。いや無理でしょ。片付くどころか増える一方だし。

「……文官さん入るまでだからね」

 俺も甘いな。早く孔明ちゃんこないかなぁ。

 

「探している方というのは? こちらでも探して見ますので」

 仕事の手は休めずに関羽が聞いてくる。見つかったら俺が出て行かなくなるとか考えているのかな?

「華佗。……俺の身体を治してくれるかもしれないお医者さん」

「医者?」

「うん。あ、伝染(うつ)すとかないから安心していいよ」

 ボーナスだからたぶんうつりはしないだろう。女の子が複乳になったら悲しすぎる。

 

 あれ? なんか関羽手が止まってるけど。

 もしかして泣きそうになってない?

「そのようなお身体で……」

 俺のこと不治の病とか勘違いしちゃった? そりゃ俺、スタート地点から街までの絶食でやつれたけどさ。

「いや、あのね」

「自らの治療を後回しにしてまで我らを手伝ってくれる……天の人はなんという方たちばかりなのだ!」

 手伝わせているのは君たちでしょ。

 あ、涙を手の甲で拭ったよね、今。関羽内で俺、死病とかにされてるんじゃないの?

 

「天井殿!」

「ん?」

「私のことは以後、愛紗とお呼び下さい」

「受け取れない。だって俺はここを出て行くんだよ」

 真名なんて受け取ったらここから俺、逃げにくくなるでしょ。

 

「構いません」

 関羽って一度決めたらなかなか折れないところがあるのは二周目の短い付き合いでもわかった。よく言えば芯が通っている。悪く言えば頑固者。これは俺の話聞いてくれないね。

「……わかった。一刀君と同じで俺には返す真名がない。皇一って呼んでくれ」

「はい。皇一殿」

 にっこりと笑う愛紗が可愛くて、やっぱりなんか逃げにくくなったと確信。

 これ以上深入りする前に脱出せねば。

 

 

 その機会は意外と早くやってきた。

 県境の警備隊が黄巾党に全滅させられ、今は公孫賛が率いる官軍が防戦してくれているらしい。一刀君たちは公孫賛を援護すべく出陣する。

 普通の人! いや、無印では違うだろうけど。

 チャンスだ。

 少ない荷物をデイバッグに詰め込んでいく。ここで得たお給金や用意したアイテムも。

 ……重いな。

「トレーニングのための重りと思うしかないか」

 忙しくて一刀君と兵士さんたちの訓練とかつきあうの少なかったからなあ。もっと鍛えないと駄目だね、これは。

 

 

 

「姓は諸葛! 名は亮! 字は孔明ですぅ!」

 県境に向かう途中、黄巾党の別働隊に襲われてた孔明ちゃんとも合流できた。

 うん。これでやっと出て行ける。

 関係ないけど孔明ちゃんってランドセルっぽい鞄背負ってる。色が黒なのが残念だけど。

「うん、一刀君たちの仲間になったんだってね」

「!」

 あれ? なんか驚いた顔で俺を見ている?

「あ、俺ね。姓は天井、名は皇一。字はないよ」

 

「あ、あの、天井しゃんはご主人様と?」

「うん。同郷ってことになるのかな? まあ、でも天の御遣いってのは一刀君で間違いないけど」

「そ、そうでしゅか」

 なんだろう? 俺と一刀君をチラチラ交互に見たりして。

 ……まさか、ね。

「ああ、八百一本な関係じゃないから」

 

「はわわっ! ななな、なにを言ってるのかしゃっぱりわかりましぇん!」

 一応言ってみたらビンゴ!

 的中しても嬉しくないけどさ。

 

 ……いや嬉しいか。八百一本に反応したってことは春蘭たちが上手くやってくれてるってことだからね。たぶん。

「そう? まあ地味なおっさんと一刀君じゃソレはないよね」

 

 

 

 愛紗や孔明ちゃんの活躍で、黄巾別働隊はあっさり撃破。

 やっぱり軍師って凄いなあ。愛紗と張飛ちゃんの武力も無茶苦茶だし。

 負傷兵の後送や部隊の再編成も手早く済ます孔明ちゃん。もうこっちの戦力を把握しているのか。さすがである。

 

 黄巾党の本隊が陣を張っている地点に急ぐ途中で、孔明ちゃんと愛紗たちが真名交換。なぜか俺も巻き込まれてしまう。

「俺は一刀君といっしょで真名がないから皇一でいいよ」

 ますます一刀君たちと別れづらくなったけど、ロリっ娘二人の真名を得たから良しってことで。

 ……絆も深まったとか一刀君が言う。もしかして俺が別れようとしてるの気付いている?

 今はちょっと無理そうだけど、タイミングを見計らって早く一刀君たちから逃げないとまずいかな。

 

 二里ほどの移動で公孫賛の陣地へ到着。

 朱里ちゃんと共に一刀君に連れられて公孫賛と対面する。

 無印公孫賛は男前だった。

 そして、無印趙雲は猪だった。

 

「ちょっと待って」

 たった一人出陣しようとする趙雲を追っかける。

「貴殿は?」

「天の御使い君の同郷のただの人。名前は天井皇一」

「そのただの人がなにゆえ……いや名乗られた以上、こちらも名乗るべきか。私は趙子龍」

「常山の昇り竜、だっけ?」

「ほう。ただの人というわりにはお詳しいらしい」

 話はしてくれてるけど、足は止めてくれない趙雲。早足なんで追っかけるのも大変。

 

「本気で一人で戦いに行くつもり?」

「無論そのつもりだが」

「そうか。じゃ、餞別」

 デイバッグから小さな壷を取り出して放り投げる。早歩きのまま振り向きもせずに背後から投げられたそれを受け取める趙雲。

「これは?」

「腹減ってたら力出ないよね。残念ながら今あげられる食料はそのメンマしかないけど」

「……かたじけない」

 やっと足を止め、壷を開ける趙雲。いつのまにか手にしていた箸でメンマを摘み口へと運ぶ。

 一応、趙雲好感度アップ用に厳選したメンマなんだけど口に合うかな?

 

「…………」

 無言でメンマを味わってる。

 気に入らなかったのかな?

「…………」

 うん。そろそろ一刀君たちのとこへ戻ろう。そう思ったころ、やっと趙雲が声を発した。

「馳走になった」

 壷を投げて返してくれる。なんとか落とさないで受け取る。

「残りは帰ってきてから頂くとしよう」

 なんかそれ死亡フラグっぽいけど。食いかけのステーキとかさ。

 

 

「趙雲一人で出てっちゃったよ」

 一刀君たちの陣へ戻る俺。

「やっぱり止められなかったか」

 いや止めてないけどね。後で護衛頼もうと思うから好感度下げたくないし。

 

 一刀君たちは趙雲が一人で出陣するのを見越して、それを救助する作戦を立てていた。趙雲を救うためにすぐに出陣する北郷軍。

 趙雲追っかけて疲れてる俺。荷物置いていくんだった。

 動きが重かった俺はあっさり撃破された。

 二周目初めての道場行き。メンマの死亡フラグは俺のだったみたい。

 

 

 

 真っ先に確認するがボーナスは解除できないみたいだった。

 というか、『2しゅうめ』の項目自体が消えてしまっている。一周クリアしないと出てこないのか?

 

「ふむ。……異常は見受けられないのだけど?」

 華琳ちゃんが俺を睨む。

「言いにくいとこが言いにくい状況になってる」

 説明しようとすれば簡単だけどまだ止めておこう。切られたくない。

 

「ふむ。……似合ってる、かな?」

 今度は俺が華琳ちゃんを視か……観察。

 春蘭と秋蘭に手紙で頼んだことが少し形になっていた。

「疑問系?」

 俺が手紙で頼んだこと。

 それは華琳ちゃんの衣装を真・恋姫†無双の衣装に替えること。

 

 無印と真の大きな違いといえば、勢力別ルートと新キャラとそして、華琳ちゃんの新衣装。

 華琳ちゃんが真魏ルートを目指すなら衣装も真のにした方がいいんじゃないか。スタート地点から人里までの道中にそう思いついて手紙を書いた。

 今の華琳ちゃんは無印と真の間ってとこかな。ニーソや腕のは真っぽくなってるけど服は無印のまま。

「胸元の開口部の大きさが難しくてな」

 春蘭が拘っている点を説明してくれた。

「うん。それはわかる。でも早く完成させてくれ。効果があるみたいなんだ」

 たぶん、これの影響で朱里ちゃんが腐女子になったんだと思う。

 

「効果、ね。たしかに新しい衣装のおかげなのかしら?」

 真バージョンの髑髏の髪飾りを手で弄びながら華琳ちゃんが続ける。

「これを着けてから典韋が見つかったわ。正確には季衣が思い出した、だけど」

「え? だってそんな子知らないって……」

 一周目の時、季衣ちゃんはそう言ってたはずだ。

 

「不思議なんだけど、華琳さまが髪飾りとり替えたら流琉のこと思い出したんだ!」

 そこまで効果があるのか。

 真・華琳ちゃんが完成したら魏メンバー勢揃いできるかも知れないな。

 ……朱里ちゃんの反応見ると他の勢力の真キャラも出てくる可能性も高いか。楽観はできないのね。

 

「北郷は今どうしてる?」

「孔明ちゃんを仲間に入れて、公孫賛と合流したとこ」

「そう。このままずっと北郷といるつもり?」

「いや、黄巾が一段落したら一刀君たちと別れる予定。真・衣装が効果あるのなら余計に一刀君よりも先に人材を集めた方がいいと思う」

「人材?」

「一刀君と結婚した武将たちを奪うつもりはないけど、これから北郷軍に入るはずの者たちに先に接触して味方にできればって思ってる」

 できれば幼女をね。BBAはいいや。

 

「できるの?」

「まあ、曹操のとこが待遇いいとか、噂ほど曹操は奸雄じゃないとか勧めてみるよ」

 一刀君よりも先に華琳ちゃんに会ってくれれば見込みはある。

「あと、華佗にも会いたいし」

 できればじゃなくて絶対に会いたい!

「華佗ね。こちらでも探しておくわ」

 

「じゃ、そろそろ」

「待ちなさい」

 華琳ちゃんに唇を奪われる。

「んっ」

 舌が入ってきた。新婚さんのいってらっしゃいのキスかと思ったら、そんなレベルじゃないらしい。

 

 やっと解放された時、俺はばれちゃ不味いとこがばれちゃ不味い状態になってないか心配で仕方なかった。

「……早く戻ってこないと続きができないわ」

 くっ。なんという不意打ち! 可愛すぎる!!

 抱き締めたかったけどボーナスを秘密にするためにクリック連打で急いでロード。

 

 毎朝の日課であるセーブ1をロードしたんだけど、朝の生理現象がいつも以上に凄かった。

 

 



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十三話   迂闊?

 二周目二度目の公孫賛と趙雲との対面。

 今度は出て行こうとする趙雲を追っかけず、すぐにメンマ小壷を投げる。

「これは?」

「餞別。返さなくていいから。行ってらっしゃい」

 壷を眺めながら去っていく趙雲。

 よし! 死亡フラグ回避できたかな? あの瓶重かったしね。

 

 

 

 たった一人で出陣した趙雲を救出、というか合流した愛紗の部隊。

 頃合いを見て撤退した愛紗たちを追って黄巾党の先陣が突出。鈴々ちゃん指揮の兵たちによって囲まれる。

 数の不利を朱里ちゃんの策で誤魔化しながら防戦していたけど、黄巾党の背後を公孫賛軍が襲った時に攻勢に転じ、逆転勝利。

 

 何も出来なかった一刀君はどこか悔しそうだけど、俺は死ななかったことにほっとしていた。

 ちなみに前回なぜ死んだかと言えば、朱里ちゃんの作戦詳しく聞けなかったんで愛紗の部隊に混じって突撃しちゃったんだよね。そりゃ死ぬわ。

 

 

 

 一刀君とともに愛紗、趙雲を出迎える。

「お気遣いかたじけない北郷殿。あと……」

 俺を見る趙雲。そういえば今回はまだ名乗ってなかったっけ。

「姓は天井、名は皇一。字はないよ」

 字、なんかいいの考えようかな?

 

「天井殿の差し入れも感謝する」

 よかった。悪い印象はないみたい。

「結局あれ何だったの?」

「メンマ。お腹空いてたら力出ないからね。なんか食べ物あげようと思ったんだけど、鞄から咄嗟に出せたのがアレだけだったんだ」

 本当はすぐに出せるようにしといたんだけどね。もちろんバッグん中でメンマ汁ぶちまけない様に厳重に封もしておいた。

 

「最良の選択をしたのだな」

「メンマが最良?」

 ああ一刀君、今の君は知らないだろうけどそれはNGだよ。

「よろしい。ではなぜメンマが最良かを……」

 思った通り、趙雲のメンマ談義が始まってしまった。

 

 

 

「え? 公孫賛のとこ出てくの?」

 長い長いメンマの話がやっと終わったら、そんなことを言い出す趙雲。

 趙雲てもう一刀君の味方になっちゃうんだっけ? 予定が狂うなあ。

 公孫賛のとこへ行った方がいいのかな、俺。

 

 

「……まずは魏の曹操だ。あれほど有為の人材を愛し、そして上手く使える人間はそうそうおらん」

 あれ、考え事してたらいつのまにか華琳ちゃんの話題に?

「うん。華琳ちゃんはいいよね。凄い可愛いし!」

「え? それって曹操の真名? 皇一さん、曹操の知り合いなの?」

 まずっ。曹操って聞いただけで嬉しかったから真名言っちゃったよ。なんでこう二周目の俺は迂闊かな。

「ほう、どのような関係かは気になりますな」

 

「ええっと。なんて説明すればいいんだろ? ……うん。知り合い、でいいのかな?」

 二周目まだ結婚式してないから夫婦じゃないし、恋人……だったら嬉しいけど確認してないし。セフレ? 二周目はまだヤってないし。っていうか二周目まだ直接会ってないよ! 道場だけだよ! 会いたいよ!!

 前世で夫婦だった、とか言ったら引かれちゃうもんなぁ。

 

 長考してたらまた話に置いてかれていた。

 趙雲はこれから主探しの旅に出るって言ってる。

 よかった。まだ一刀君のとこには行かないのね。

 なのに愛紗が一刀君を推薦。待ってってば! 今だと困るのよ、俺が。

 趙雲は一刀君と俺を見て微笑みを浮かべる。あれ、なんで俺も? メンマはあれで終わりですよ。

 

 一刀君までもが仲間になって欲しいって趙雲を口説き始めた。

 後で仲間になるから今は待って一刀君。

 それを断る趙雲。よし。意見が変わる前に俺も動こう。

「趙雲、俺もいっしょにじゃ駄目かな?」

「えええっ? 皇一さん?」

「ほら、文官見つかるまでって約束だったけど、朱里ちゃんがいるから俺はもう不要でしょ?」

「不要だなどということはありません! あなたの存在がどんなに助けになったか」

「ありがとう愛紗ちゃん。そう言ってもらえるだけで嬉しいよ」

 やべっ、泣きそう。……でもここで折れたら出て行けなくなる。

 

「はわわ、わ、わたしのせいで……」

「違う、違うよ朱里ちゃん。元々、俺はある人を探して旅をしてたの。一刀君たちのとこにいたのもたまたまだったんだよ。だから泣かないで」

「な、泣いてましぇん」

 いや鼻声で言われてもね。そんなに責任感じないでいいのにな。

 

「それに趙雲がいっしょだから、旅も安全でしょ」

「なるほど。私は用心棒ですか」

「地味なおっさんといっしょが嫌なら仕方ないって諦めるけどさ」

「ほう」

 一瞬、趙雲の槍が光ったかと思うとその先になにかぶら下がっていた。

 

「え? あれ?」

 俺の眼鏡!?

 さらに俺の前髪をかき上げる趙雲。

「かような佳き男との旅も悪くはありますまい」

 げっ。なんてことしてくれるんだ!

 

「なにこのイケメン! 地味眼鏡の定番としても二枚目すぎでしょ」

 俺を見つめて一周目と同じ反応する一刀君。なんか懐かしいな。

「こ、皇一殿!?」

 愛紗、顔赤いよ?

「おお! おっちゃん綺麗だったのだ!」

 鈴々ちゃん、綺麗より格好いいって方が男は喜ぶんだよ。

「はわわ……ご主人様と皇一さんが!?」

 いや朱里ちゃんなに言ってるのさ?

 

「眼鏡返せ」

 趙雲から眼鏡を回収。装着して前髪を直す。

「じゃ、行こうか」

 早いところここから逃げ出したい。

「では……さらばだ」

 みんなが混乱してる中、趙雲を引っ張って急いで出立。

 趙雲のせいでちゃんとお別れできなかったじゃないか!

 

 

 その後、趙雲が別れを告げにいくと公孫賛から給金といっしょに馬を受け取る。

 やっぱり公孫賛いい人みたいだな。真だと口では悪く言っていても趙雲と公孫賛は友達みたいだったし。

 ……友達、か。

「なあ、趙雲は程立と戯志才って知ってる?」

「さて。聞いたことがあるような?」

 この反応、まだ真・華琳ちゃんが完成してないのか、趙雲がとぼけているのか迷うとこだな。

 

 

 

 

 

 一刀君ゴメンナサイ。

 

 その日は朝一の日課、セーブ1への記録よりも前に俺は反省していた。

 なんでって?

 恐る恐る隣を見る。

 スヤスヤと眠る常山の昇り竜。

 

 ヤッちまった……。

 

 

 どうしてこうなった?

 陳留を目指す俺と趙雲。昨日は久しぶりに宿をとった。趙雲は酒とメンマを摂取しに出かけていったけど、俺は久々に布団で眠れるって喜んですぐに寝たはずだ。

 

 

 寝たはず……だんだん思い出してきた。夜中に股間に違和感を感じて目覚めた俺。

 久しぶりの布団が俺から奪われ、かわりになにかが覆いかぶさっている。

「え?」

 賊? ……じゃないよね、これ。とっさに枕元の眼鏡を装着する。

「趙雲?」

「おや、起きてしまいましたか」

「なにやってるの?」

 間抜けな問い。まだ頭が完全に起きていない。

 

「真実の追究、ですかな?」

「真実?」

「天井殿に伺った枕事の真実」

 はっとして自分の股間を確認。そこはもう遮るものがないどころか、ツインタワーが完成していた。

 違和感の正体はこれか!

 

「見たなっ!?」

 慌てて側にあった掛け布団を手繰り寄せて股間を隠す。

「なるほど。それが女に入ると。男の身体とは不思議なものですな。ああ、見るだけでなく感触も確かめさせて頂いた。次は……」

「つ、次!?」

「味もみておこう」

 やめて! 蜘蛛じゃないのよ。

 

 だんだんと俺は状況を把握していった。

 こうなった原因はさらに遡る。

 真・華琳ちゃんが完成しているか気になっていた俺は、趙雲に聞いてしまったのだ。「枕事のことってどれぐらい知ってる?」って。

 他の娘なら無理だろうけど、趙雲はこういう話題平気っぽいのでなんとか聞けた。

 結果、趙雲の性知識は「枕事とは寝台の上で枕で殴りあうこと」という無印レベルであることが判明。真・華琳ちゃんが未完成なことがわかった。

 それで済めば良かったのだが、話の途中で俺が吹き出してしまったのが気に触ったのだろう。俺を問い質す趙雲。

 仕方なく軽く性教育。趙雲はかなりショックを受けたようだった。……この時の大雑把な説明がマズかったんだろうか?

 

「頼むから誰にも言わないでくれ!」

「私が男女の睦事を言いふらすとでも?」

「いや、俺の身体のこと」

「む? まさか大きく硬くなるというのはおかしいのか? 私を騙したと?」

 布団の中に手を突っ込もうとする趙雲。やめて! 暴発しちゃう!

 

「そっちじゃなくて、本数! 普通は一本!」

「え?」

「二本あったら入れる時困るじゃないか!」

「……言われてみればたしかに」

 やっと納得したのか布団から手を離してくれた。

 

「なんとか隠し通してたのに……」

 トイレとかでも周りを気にしながらだったのに……。まさかこんなバレ方をするなんて。

「泣かれんでも……。これではまるで無理矢理手篭めにしようとしてるみたいではないか」

 その通りじゃない?

 

「もういいだろ? 嘘じゃないってわかったんだろ?」

「いえ、まだ実践が済んでおりませぬ」

「処女は大事にしなさいって言ったでしょ!!」

 なんてこと言い出すのこの娘は。そこに正座しなさい。

「いい! 一度膜破っちゃったら再生しないの! 処女喪失は人生で一度きり。大好きな相手が見つかるまで大切にとっておきなさい!!」

 まったくもう。一刀君のためにとっておけってば。

「ふむ。天井殿に初めて怒られた気がするな」

 そうだっけ? メンマ食べすぎとか注意しなかったっけ? ああ、あれは小言扱いだったのか。

 なんか嬉しそうな彼女が続ける。

「ですが、処女でなくてもいいという度量の大きな男に惚れればいいだけのこと」

 度量の小さい男で悪かったな!

「私はこれでも百戦錬磨で通っておりましてな。今更処女だなんだと格好がつきますまい」

 いや自称ビッチって言われても困るから。非処女カッコ悪い!

 

「だからね、双方の合意がない行為は嫌なんだってば」

「ならば、口止め料ということで」

「え?」

「貴殿の身体の秘密、誰かに自慢したくなってきましたなぁ」

 げっ。相手の弱みをネタに身体を要求、って陵辱ゲーの主人公ですかアンタは。

 

「メンマじゃ駄目か?」

「無論」

「酒でも?」

「ええ。たとえ両方でも」

 くっ、逃げ道はないのか? ……死んでセーブ1からやり直せばこの危機からは逃れることができる。でも、まだ自殺はしたことがない。痛いの嫌だし。

 どうする俺? どうすればいい一刀君。どうすれば……。

 

 

 

 

「朝から泣いていると運が逃げますぞ」

 起きたのか趙雲。

「運がないから泣いてるんだよ」

「私の初めてを奪っておいて運がないとは贅沢ですぞ、皇一殿」

 一刀君ゴメン。俺は自分の秘密を優先してしまった。

「奪ってない! 趙雲に押し売りされた。そもそもアレは……」

「星」

 俺の言葉を趙雲が遮る。

 

「星でよいと申したではありませぬか。もはや他人ではありますまい」

「ぐっ。……いいか、アレは数に入らない。星の正式な初めてはまだだから!」

「あんなに幾度も私を求められたというのに冷たいお方だ」

 ……溜まってたからなあ。旅の間、星がいっしょだったんでセルフバーニングもままならなかったし。

 

「と、とにかく秘密は守ってくれよ。特に曹操ちゃんたちには秘密だから!」

「この趙子龍、口は堅い」

「信じてるよ」

 もうすぐ陳留につくはずだ。気をつけよう。

 二周目の俺、やたら迂闊……うっかり属性でも追加されてしまったのだろうか。

 

 

 

 

 陳留についてすぐ、嬉しいことに警邏中の楽進と警備兵さんたちを発見。うん、真モードへ順調に進んでいるのかな?

「あの、ちょっといいですか?」

「はい」

「曹操様にお目通り願いたいんですが」

 いきなり城にいっても華琳ちゃんに会う前に追い返されそうだし。

「どちら様で?」

 くっ、いきなりの迂闊。まず自分から先に名乗るのが大事なんだよね。

「俺は天井皇一。こっちは趙子龍」

「天井殿?」

「うん。曹操様の知り合い。伝えてもらえればわかると思うけど、ええと」

「あ、おっちゃん!」

 俺を呼んだのは季衣ちゃん。駆け寄ってくるその隣には同じくらいの背の少女。典韋ちゃんだ。無事に華琳ちゃんの部下になったんだね、よかった。

 

「おっちゃん、やっと帰ってきたんだね」

「お知り合いですか?」

「うん。ボクたちのお婿さん!」

 嬉しそうに言う季衣ちゃん。

 周囲から冷たい視線を感じる俺。「このロリコンめ」って楽進や警邏中の兵の目が言っている。なんか典韋ちゃんは凄い睨んでいるし、星は……あれ?

 

「星? おーい」

 なんかフリーズしている星を揺さぶる。

「はっ、はは……ふははははははははははっ!」

 いきなり大笑いする星に俺たちは驚く。

「ど、どうした? だいじょうぶか?」

 頭が。

「いや失敬。私の誘いになかなか乗らなかったのはこういうことでしたか」

 しきりにうむうむって頷いている。こういうことってどういうことだろう。……深く考えない方がいいか、うん。

 

「おっちゃん、早く華琳さまのとこへ行こうよ!」

 季衣ちゃんにぐいぐいと引っ張られて俺と星は城へと向かった。

 

 

「やっときたわね」

 俺を迎えてくれた華琳ちゃんはほぼ真の衣装だった。うん。可愛いなあ。

「ただいま、でいいのかな?」

「さっそく行くわよ」

 オカエリナサイも言ってくれずに今度は華琳ちゃんが俺を引っ張る。

 

「行くってどこへ?」

「閨よ」

 げっ。

「こ、こんな真っ昼間っから?」

「そんな些事に拘るあなたではないでしょう?」

「もしや曹操殿とも?」

 あ、星を紹介するの忘れてた。

 

「あら趙雲いたの?」

「さすが曹操殿。私のことをお知りとは」

「私に仕えに……いや、私が仕えるべき器かどうか見定めにきたのね」

 さすが華琳ちゃん。一目でそこまで……って一周目でも星はこうやって各地を回ってたんだっけ。

「そこまで見抜かれるとは」

 

「いいわ趙雲。あなたもいらっしゃい」

「ちょ、ちょっと待って。いきなり閨に誘うなって」

「?」

 なんでって顔で俺を見ている。

「久しぶりに会った妻を満足させる。それが夫の務めではなくて?」

 

「妻!? やはり曹操殿まで……」

「説明してないの?」

「いやだって今回はまだ結婚式してないし……指輪なくなっちゃったし……」

「呆れた。そんなことを気にしていたの? そんなのが無くても皇一は私のものよ」

 くぅ、嬉しいことを言ってくれる。即座に抱きしめる俺。

 

「ありがとう! ありがとう華琳ちゃん!!」

「また泣いてるのね」

「ゴメン……」

 謝ったら思い出した。もっと謝らなければいけないことを。

「もう一つゴメン。閨は無理」

 

「どういうこと?」

 華琳ちゃんを離す。

「身体に異常があるって言ったろ。だから閨は……無理なんだ」

「春蘭!」

「はっ」

 いつの間に? さっきまでいなかったよね春蘭?

「首を刎ねよ」

「えっ?」

 

「悪く思うなよ天井!」

 俺に迫る春蘭の剣。

 それを防いでくれたのは星だった。

「一応、皇一殿の護衛も請け負っておりますのでな」

「ほう。我が剣を受け止めるか……だが、無駄だったようだ」

 

 はっとした表情で振り向く星。

 その時俺はもう、華琳ちゃんの大鎌によって首を刎ねられていたのだった。

 

 

 

 

「なんでいきなり殺すかな!?」

 道場で問う俺。

「確かめなさい」

「え?」

「引継ぎを確かめなさい!」

 華琳ちゃんに言われて久しぶりに引継ぎを確認。

 

「う~ん。増えてないなあ」

 確認しても、道場の人数は変わっていない。

「そう。趙雲あたりが増えていると思ったのだけど、本当に無理だったのね」

 落ち込んだ声の華琳ちゃん。

 そうか。俺が閨が無理だって言ったのを嘘じゃないかって確認しようとしたのね。

 

 

 え? 星?

 うん。ちゃんと星の処女は守ったよ、一刀君。

 

 一つわかったことがある。どうやら後ろだけじゃ引継ぎできないみたい。

 ……星にはなんとか後ろだけで勘弁してもらった。処女は運命の人にとっておけってね。

 その時やっぱり二本だと難しいのもわかった。余る一本の扱いが難しいのよ。

 

 

「顔がニヤケているわ」

「そ、そう? いやちょっと気になることがあるんだけど」

 追求されそうだったので咄嗟に誤魔化す。

「気になること?」

 

 再び引継ぎを確認する俺。

 

???

曹操

春蘭

秋蘭

桂花

季衣

???

 

 やっぱり!

「華琳ちゃんの名前だけが真名じゃない?」

「なにを言っている?」

 ああ、みんなには見えないのか。

「引継ぎ欄の名前がさ、華琳ちゃんのだけが曹操って」

 言いながら空中の曹操の行をクリック。

「あ」

 

???

華琳

春蘭

秋蘭

桂花

季衣

???

 

「え?」

 表示が変わったと同時に華琳ちゃんが声をあげた。引継ぎ欄から視線を移すとさっきまでと微妙に違う。

「服が……真のになった?」

 完全に真の華琳ちゃんだ。

「こ、これは……」

「どういうことだ?」

 春蘭と秋蘭も違いに気付いたらしい。

 

「もう一回試してみる」

 再度華琳の表示をクリック。今度は反転していた行が元に戻る。

「華琳さまが!」

 視線を戻すと華琳ちゃんが消えていた。慌ててもう一回クリック。表示は曹操に。

「華琳さまが戻った!」

 ふう。やっぱり引継ぎナシも選べるのか。

 

「どうなっているの?」

 そう聞いた華琳ちゃんは無印の衣装だった。

「たぶん……華琳ちゃんのモードを決定できるんだ、ここで」

 言いながらクリックして表示を華琳に。服装が真のになっているのを確認したら引継ぎ欄を閉じた。

 

 

 

 

 この時、道場主の孫策が微笑んでいたのを気にしなかったことを、俺はかなり後で後悔する。

 

 



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十四話   修羅場?

 曹操──華琳──引継ぎ無し

 

 その順番で引継ぎ欄が移行する事を嫁さんたちに説明する。

 

「皇一が言う真の状態が、今の私ということか」

「むう。たしかに今まで以上に華琳さまの力が高まっているようだ」

 ああ、真・華琳ちゃんは無印華琳ちゃんよりも強かったんだっけ。春蘭ぐらいになると見ているだけでわかるもんなのかな?

 俺にわかるのはどっちの華琳ちゃんも可愛いことぐらいだけどさ。

 

「まさに覇王の風格です、華琳さまぁ!」

 桂花のはアテになるのか微妙な気もする。

 

「ボクたちは変わらないの?」

 自分の衣装を見回す季衣ちゃん。

「残念ながら」

 真で衣装が変わったのは華琳ちゃんのみ。

 ……そう思ってたけど、ロードしてみたら他にも大きく変わってる方たちがいました。

 

 

「ごっつい……」

 今朝のデータをロードして陳留に再度到着。

 モブ兵のみなさんがビルドアップしてる!

 無印の時と違いすぎでしょ。あのスリムなボディはどこ行っちゃったのさ。

 俺も兵卒やってたらごつくなれたのかしらん。

 

 真・恋姫†無双の世界になっちゃったのかな?

 今度は楽進たちといっしょに季衣ちゃんと典韋ちゃんがいた。迎えにきてくれたのだろう。

「お待たせ」

「おっちゃん、早く行こうよ」

 ぐいぐい俺を引っ張る季衣ちゃん。

 やっぱり俺を睨む典韋ちゃん。俺なんかしたっけ? 初対面ですよね?

 あれかな? 俺に季衣ちゃんとられたからとか?

 

「皇一殿、この娘は?」

「ボクは許緒だよ、こっちは典韋」

 星に自己紹介しながらも駆け足気味で俺を引っ張るの季衣ちゃん。ちょっと俺が大変。

「季衣ちゃん、ちょっといい?」

「にゃ?」

 季衣ちゃんを肩車。これで俺のペースで歩くことができる。季衣ちゃんあんなに食べるのになんでこんなに軽いんだろ?

 頬にあたる季衣ちゃんの太ももを堪能するのは当然だよね。うーんスベスベ。

「この娘は俺のお嫁さんの一人」

 今度は迷いなく星に説明する。

「あとね、曹操ちゃん、夏侯惇、夏侯淵、荀彧も俺のお嫁さん」

 

「ええっ!?」

 驚く楽進とビルドアップ兵。あ、星はまたフリーズしたか。

「星、星ってば。おーい」

「はっ、はは……ふははははははははははっ!」

 いきなり大笑いする星。こうなることを知っていた俺以外のみんなが驚く。

「ど、どうしたの?」

 心配そうな季衣ちゃん。

「いや失敬。私の誘いになかなか乗らなかったのはこういうことでしたか」

 やっぱりしきりにうむうむって頷いている。

 

 

 そして典韋ちゃんがますますきつく俺を睨んでるよう。

「き、季衣ちゃん。典韋ちゃんのことを紹介してくれないかな?」

「あのね、」

「季衣の親友の典韋です! 馴れ馴れしく典韋ちゃんなんて呼ばないで下さい!」

 ええーっ!?

 季衣ちゃんの言葉を遮って、あまりにも簡潔かつ冷たい自己紹介。妹にしたいキャラナンバーワンの優しい幼女はどこへいっちゃったの?

 

「な、なんか俺嫌われてる?」

「流琉、おっちゃんは悪いやつじゃないって何度も説明したじゃん」

「季衣は騙されてるのっ!」

 ああ、なんとなく見えてきた。

「典韋ちゃ」

 キッと睨まれたので言い直す。

「典韋は親友が悪い男に騙されて結婚したんじゃないかって心配してるんだね?」

「無理矢理に季衣を襲ったような人は悪い男に決まってます!」

 うわっ、俺でもわかる程の殺気。

「そ、それは誤解……ほら、俺に季衣ちゃんを襲えるはずないでしょ?」

 季衣ちゃん強いのよく知ってるでしょ。

 知らないだろうけど、俺弱いのよ。

 

「言葉巧みに季衣を騙したに決まっています! バカ……純真な季衣を弄ぶなんて!」

 今、言い直したよね。

「ボクは騙されてないってば!」

 うん。季衣ちゃん肩車しててよかった。ここで二人に喧嘩されちゃったら俺には絶対に止められない。とういうか、巻添えで死ぬ。

 

「典韋、俺のことって誰に聞いたのかな? 季衣ちゃんだけじゃないよね?」

「桂花さんです! 桂花さんのことも襲ったって!」

 ああやっぱりね。なんてことをしてくれるんだあの猫耳軍師は!

 存在していることがわかって、「おじ様」と呼んでくれるはずって会えるのを楽しみにしていた幼女にいきなり敵視されてるなんて不幸すぎる……。

 

「だからおっちゃんは、……おっちゃん、また泣いてるの?」

 俺の頭を撫でる季衣ちゃん。

「桂花さんの言ったとおり……泣き虫強姦魔!」

「流琉! ……もう、流琉がなんて言ったっておっちゃんはボクたちのお婿さんなんだから、簡単に泣いちゃ駄目なんだからねー」

「ありがとう。季衣ちゃんが俺のお嫁さんでいてくれてよかった」

 季衣ちゃんの太ももにスリスリして気を落ち着ける。季衣ちゃんは俺の涙で太ももが濡れるのも気にせずに優しく撫で続けてくれた。

 

 この一件で俺は『曹操の婿』の他に『幼女と修羅場』や『幼女に泣かされた男』、『幼女に慰められた男』とも呼ばれるようになる。……後に呉でも知れ渡るのは星の仕業。なんだろう、真魏ルート一刀君の『魏の種馬』が羨ましすぎる気がしてならない。

 

 

 

 

「ただいま」

「おかえりなさい」

 今度は言ってくれた。嬉しいな。

 華琳ちゃんを抱きしめようとすると春蘭たちに邪魔される。

「やっと帰ってきたか。ずいぶん遅いではないか!」

 いろいろと大変だったんだってば。

 ……あれ? え?

 

「春蘭、左目どうしたのさ!」

 前回殺された時や道場ではそれどころじゃなくて気付かなかったけど春蘭は眼帯をしていた。二周目になって春蘭の眼球は元に戻っているはずだ。

 

「ああ、これか」

 くいっと眼帯を上に持ち上げると、そこには無事な左目が。

「ほう。あえて不利な片目にしてまで洒落っ気を貫くとは。いや、なかなか(かぶ)いておられる」

 お洒落、なのか?

「特にその意匠、蝶というのが実に素晴らしい」

 蝶、サイコー! ね。後に華蝶仮面になる星から見たらそうなんだろうな。

 

「おっと、名乗りが遅れましたな。我が名は趙雲。字は子龍。仕えるべき主を見出さんと見聞を広めている」

 うん。さすが星は自己紹介のタイミングを逃さない。これぐらい自己主張しないといけないのかな?

「この曹孟徳の器を見定めにきたのね」

「それもあるが今回は皇一殿の護衛でしてな」

「ほう、この私をついで扱いと」

 あれ? 星の出方が前回と違う? ああ、そうやって華琳ちゃんの気を引くつもりか。

 

「皇一殿には世話になりましたからな。特に夜とか」

 おや?

「どう世話したか詳しく聞かせてもらいたいわね」

「ふふ。それは野暮というもの」

 なんでそういう方向に話がいくワケ? なんか本妻に浮気相手が挑戦状を叩きつけたみたいに見えなくもないじゃん。

 

「皇一」

 うわ、なんか冷たい声。

「ずいぶんと気に入られてるようね?」

「な、なんでだろうね? あ、ほら何度か星の酒代とか立替えたし!」

「それは身体で返したはず」

 ぶっ。いや、星の夜這い以降も何度かそんな理由でヤっちゃったけどね。後ろとス●タが同時にできるか試したくなって……うん。大きな収穫だった。

 

「ああも賊に襲われたら護衛料に色をつけてもらうのも当然でしょうな」

「む? 身体でというのは護衛のことか。紛らわしい言い方をしおって!」

 あっさり騙される春蘭。そのおかげか、華琳ちゃんの態度が和らいだ。

「賊ねえ。まだこの近辺にいるとは許しがたい。黄巾党の残存かしら」

「おそらく」

「ふむ。いいわ趙雲、客将としてしばらく働きなさい。賊の討伐に使ってあげる」

「はっ」

 今度は軽口を言わずに頭を下げる星。

 

「そうと決まったらさっそく行くぞ」

 え? 春蘭もう討伐に行くつもりなの?

「夏侯惇、字は元譲。真名は春蘭だ」

「私に真名を?」

「なかなかの腕と見た。貴様にならいいだろう」

「ならば我が真名は星。よろしく頼む」

 春蘭があっさりと真名交換。

「うむ。その腕がどれほどのものか試してやろう。練兵場へ行くぞ!」

 いや春蘭、なんか言ってること変じゃない? 腕を認めて真名を教えておいて試すって。……ああ、前回俺を殺そうとした時に剣を受け止められたの気にしてるのね。

 他のみんなの紹介もまだなのに春蘭ってば星連れて練兵場へ行っちゃった。

 

「よほど趙雲が気に入ったのね」

「ええ。眼帯を褒めてもらったのが嬉しかったのでしょう。単純な姉者らしい」

 そんな理由もあったのか。

「あの眼帯ってさ」

「ああ。両目だと逆に慣れん、とな。どうせいずれは片目になるのだ、と姉者なりに前もって準備している節もある」

「今度こそ眼を守ろうとかないの?」

 自分の左目を指差しながら聞く。

「それなら姉者は勝利を選ぶさ。華琳さまに捧げるために」

 むう。

 

「……李典ってもういるんだよね?」

「ええ。彼女の才は貴重よ」

 よし。真桜エモンもいる!

「うん。だからさ、李典に頑丈な眼帯とか作ってもらえないかな? 金属板入りのとか」

「なるほど。それならば姉者も……華琳さま」

「ええ。早速仕立てさせなさい」

 秋蘭が足早に出て行った。李典の所へ行ったのだろう。

 

 

「さて、皇一」

「うん」

「あなたの目から見て私はどう変わった?」

 相変わらず最高の美少女だけど。……聞きたいのはそうじゃない。真・華琳ちゃんになってどう変わったか、だろうな。

 

「見た目の変化はよくわからない。中身の方はやっと再会できたばかりでまだわからないとしか言いようがない」

「それもそうね」

「むしろ、変わったのはこの世界。これからは以前とは違う世界になっているって思ってほしい」

 モブ兵ですらあんなに変わってるんだし。

「ほう。その変わった世界で皇一はこれからどうするつもり?」

「予定通り、人材を探そうと思う。水鏡塾ってどこにあるか知っている?」

 

「荊州よ」

「詳しい場所を教えてくれ。まずはそこに向かう」

「え? おっちゃんもう出かけちゃうの? やっと会えたのに!」

「ゴメン。早くしないと鳳雛が北郷軍に行っちゃうかもしれないからね」

 それに二周目の俺、なんか迂闊すぎるから。みんなといるとすぐにボーナスばれちゃいそうで怖い。

「鳳雛?」

「伏竜と並び称される天才。まだ一刀君のとこにいなかったから誘おうかなって」

「軍師は私一人で十分よ!」

 桂花が叫ぶ。

 

「俺が典韋に恨まれる原因の人の一人しか軍師がいないんじゃこれから先は大変だよ」

 嫌味の一つくらいいいよね。まさかのツン典韋誕生させたんだから。

「ふむ」

「華琳さまぁ」

 泣きそうな桂花は置いといて話を続ける。

「それに一刻も早く華佗を見つけて、夫の務めを果たしたい」

 こっちの方が一番重要。早く華琳ちゃんたちとヤりたい!

 

「そうね。あなたの治療は最優先事項……。桂花、馬と路銀を用意なさい。護衛には典韋をつけましょう」

「え?」

「流琉の誤解を解かないといけないでしょう」

 そりゃそうだけど、いきなり典韋と二人旅?

「いいの、典韋?」

「嫌ですけど、命令ですから」

「流琉っ! ……ボクたちのおっちゃんのこと、頼んだからね!!」

 

 

 

 

 まあ結局、他の情報交換とか準備とかで出立は翌朝になったけど。

 夕食は宴会っぽかった。星の歓迎会なのかな?

 初めて典韋の料理を食べたけどとても美味い。華琳ちゃんもその腕を披露してくれて相変わらず絶品だったし。

「もう旅立たれるとか」

 大皿山盛りのメンマと酒を堪能中の星が声をかけてくる。

「うん」

「久しぶりなのだから夫婦の営みをしなくてどうする?」

「なに言ってるのさ。俺の身体のこと知ってるだろ。それを治すために華佗って医者を探してるって前に説明したよね」

「気にしすぎでは?」

「華琳ちゃんにこんな気持ち悪いの見せたくない……」

 切られるのももちろん嫌だけど、気味が悪いって嫌われたくない。

 

「ふむ。ならば私も華佗を見つけたら皇一殿の元へ赴くように促そう」

「あ、もし呉で華佗が見つかったら真っ先に周瑜を診てもらって」

「周瑜?」

「うん」

 一周目の結婚式で孫権の花嫁衣裳を見て泣いていていたのが忘れられない。彼女にも生きていてほしい。けれど、真だと身体やばそうだもんなあ。一刀君は呉ルートじゃないけど、孫策はもう死んでてそのままらしいし。

 どうやら孫策もいなければ袁術ちゃんもいないらしい。世界が変わっても死んだ人間が生き返ったり、大きな勢力がいきなり出てきたりはしないのかな?

 

 

 驚いたのはその後。

「はーーいっ! みんな、元気してるーっ!?」

 え? ええっ!?

 宴会の場に現れたのは張三姉妹。歌い始める彼女たち。

 ディナーショー?

 その美しい歌声を聞きながら驚き続ける俺。

「数え役萬☆姉妹(シスターズ)もいるの?」

「しすたーず?」

 聞きなれない言葉に反応する華琳ちゃん。

「天の言葉で姉妹って意味なんだけど……」

「そう。今度からそう名乗らせるのもいいわね。彼女たちは元黄巾党よ」

 やっぱり。あれ? でも黄巾党だったって隠してないってことは首領扱いされてなかったのかな。

 

「予想以上に順調かもしれない」

「皇一の身体以外はね」

 うっ。それを言われると辛い。

「必ず! 絶対に治すから! 待ってて!!」

 思わず力んで大声を出してしまう。酔ってるのかな。

 シスターズの歌も止んで、何ごとかと注目されてしまった。うひー、恥ずかしー。

 

 その注目の中、華琳ちゃんは俺の唇を奪う。

「待たせた分は期待するわよ」

「十倍返し。治ったら、十倍返しだから」

 やばい。やっぱり酔ってるみたいだ。シチュエーションに流されて思わず死亡フラグを立ててしまった。迂闊すぎる!

「ふふっ。言うようになったじゃない」

 まあ華琳ちゃんの機嫌がいいからよしとするか。どうせフラグ関係なく俺死にやすいしね。

「でも、そういうことを言う時は眼鏡を外しなさい」

 もう慣れた手つきで俺の眼鏡を奪う華琳ちゃん。そして納得するまで俺の前髪をいじる。

「これで良し。はい、やり直して」

 

 もうヤケだ。やってやろうじゃない! ……相当酔ってるな俺。

 珍しく自分から華琳ちゃんの唇を奪う。キスはいまだに緊張しちゃって上手くできないことが多いんだけど、今回は上手くできたね。

「十倍返しだ。治ったら、十倍返しだ。覚えておけよ」

 もうほとんどアレのまんまの台詞。この死亡フラグへし折るには字をオズマにするしかないな、うん。緑髪の義妹を探さないと。

 

「ん?」

 そういえばみんなに注目されてたんだっけ。

 酔いが回ったのか頬を染めてぼーっとしている華琳ちゃんから慌てて眼鏡を回収。

「でゅわっ!」

 恥ずかしさを誤魔化すためにそう言いながら装着したのだった。

 

 

 

 

 

 

 そうしてほとんど休む間もなく翌日旅立ち、荊州へ向かっている俺と典韋。

 陳留を出て何日もたつけど未だに典韋はよそよそしい。このまま嫌われっぱなしなのかなあ。

 

「ばうばうばうっ!」

 突然の鳴き声に俺は緊張する。

 野犬?

 典韋がいるから大丈夫だろうけど、群れだったら面倒だな。

 

「でかっ!」

 犬は一頭だけみたいだった。トップクラスの大型犬だ。

「セントバーナード?」

 

「下がってください!」

 馬から下りて巨大ヨーヨーを構える典韋。

「ん? あれ?」

 なんか襲ってくる感じじゃない?

 

「典韋、この犬……」

「えっ、これ犬なんですか? こんなに大きい犬……味はどうなんでしょう?」

「そういや犬って食べるんだっけ。……じゃなくて、なんか変」

「え?」

「ばうばうばうっ!」

 もう一度吠えて走り去る犬。かと思ったら、しばらく離れてからこちらを振り返り、じっとしている。

 

「ついてこいってこと?」

「そうでしょうか?」

 一瞬、俺の方を向いてからすぐに視線をそらす典韋。ううっ、泣きたい。でも我慢。また泣き虫強姦魔って嫌われるの嫌だし。

 

「行ってみよう」

 追ってみると、ゆっくりとまた歩き出す犬。追いついても逃げ出そうともせず歩き続ける。

「あれ!」

 進行方向になにかを典韋が見つけた。

 その指差した先には。

 

 

「嘘だろ……」

 緑髪の幼女が倒れていたのだった。

 

 



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十五話   義妹?

 荊州の水鏡塾へ向かっていた俺と典韋は謎の大型犬に導かれ、倒れている少女を発見した。

 

 どうやら少女は空腹で倒れてたらしい。いわゆる行き倒れだろう。

 この世界にきてすぐ何度も行き倒れて死んだ俺としては見過ごせない。

 ……幼女じゃなかったらほっておいたかもしれないけど。

 典韋に頼んで空っぽの胃にも優しいスープを作ってもらう。手際よくあっという間に手持ちの食料で用意してくれる典韋。

 その絶品スープを受け取るや否や、瞬く間に流し込んでいく少女。

 

「名前は?」

 知っているけど聞いておかないと呼べない。

 

「……」

 無言でこちらを見ている。用心しているのかな? ……もしかしてこれ?

 俺は手に持った自分の分の椀を差し出しながらもう一度聞く。

「はい。俺は天井皇一。君は?」

 少し迷った後に椀を受け取る少女。

「……姓は陳、名は宮。字は公台!」

 そう名乗ってからまたスープを口にする。人心地ついたのか今度はゆっくりと味わっているようだ。

 

「一人?」

「張々がいるのです」

 ああ、そんな名前だったっけ、あのセントバーナード。

「家族は?」

「張々がいるのですぞ!」

 なんか泣きそうかも?

「帰るとこは……そうか」

 俯いて無言の陳宮ちゃん。

 

 うーん、なんで陳宮ちゃんがこんな境遇に? ……アニメ版混じっちゃってるのかな?

 華琳ちゃんが真なのに、干吉がいるからとかなせい?

 あ、でも一刀君が存在するからアニメ版ってことはありえないか。

 ただ単純にスタート時が真の世界じゃなかったから、呂布たちに会ってなくて仕官できなかっただけかな。うん。

 

 

「仕方ないな。これもなにかの縁だ。拾った以上、俺が面倒みよう」

 せっかく陳宮ちゃんに会えたんだしね。

「なに言ってやがるです! ねねは犬猫ではないのですぞ!」

「犬猫のつもりはないって。うん。君は今から俺の義妹だ。俺のことはお兄ちゃんと呼びなさい」

「なに言ってやがるですか、この男は!?」

 いきなりおっさんをお兄ちゃんと呼べってのも無理があるか。

 じゃあ、俺が緑髪の義妹を欲っしてる理由を説明しないとね。

 

「天のフラグクラッシャーにね」

「ふらぐくらっしゃあ?」

「ああ、えっと……旗折りでいいのか?」

「機織り?」

 なんか勘違いしてそうだけど、まあいいか。

「うん。その中でもすごいやつがいてね。刺客に襲われて大怪我してるのに、武器も効かない化け物と戦って勝ったっていう」

 他にも死亡フラグ立てまくっていたよね、あの人。

「で、その上死ななかったんだ」

「すごいですね」

 ずっと無言で聞いていた典韋も感心してくれる。

 

「そいつがある街の護衛した時に失敗しちゃって、たった一人だけ生き残った女の子がいたんだけど。ひきとって義妹にしたんだ。その緑色の髪の少女を」

 ギャルゲだったら主人公ポジションだよね。義妹ももちろん攻略可能でさ。

「だから俺もそれにあやかって緑色の髪の子を義妹にしたら死ににくくなるんじゃないかって」

「無理矢理すぎますぞ! なんでねねがそんな理由でお前みたいな胡散臭いやつの義妹にならなければいけないのです!」

 

「胡散臭い? 確かにそうだろうけど。俺を信じろ、ってのも無理か。……君の犬が助けを求めた俺を信じろ」

「え?」

「その犬、人を見る目があるよ。助けを求めたのが俺たちじゃなかったらどうなってると思う?」

「むむむ。……張々を信じるのです。しばらくの間だけ、ねねの面倒を見せさせてあげるのです」

 おお、上手くいった!

 

 

 

「寝ちゃったか」

 大きな犬と寄り添うように眠る陳宮ちゃん。

「あの」

 典韋から話しかけてくるなんて珍しいな。

 ……やばい。今の陳宮ちゃんとのやり取りで、季衣ちゃんを言葉巧みに騙したって確信されたのかも。緑髪義妹(フラグクラッシャー)は効果無し?

 

「ごめんなさい!」

 え? あれ? 責められるんじゃないの?

「天井さんのことやっぱり誤解してました」

「あ、ありがとう。わかってもらえて嬉しいよ。でもどうしてそう思ったの?」

 

「陳宮ちゃんのこと、あんなでまかせを言ってまでひきとろうなんて……」

「いや、あれってでまかせじゃないんだけどなぁ」

「え?」

「俺も死にたくないし」

 いくらロードできるといっても死ぬの辛いし、生きてた方が先に進みやすい。

「じゃ、じゃあ……これからは兄様って呼びますね!」

「え? たしかに典韋ちゃんの髪も緑だけど、季衣ちゃんみたいにおっさんでいいんだよ」

 むしろ「おじ様」がベストなんだが。

「いえ、華琳さまや秋蘭さまたちのお婿さんですし、そんな呼び方はできません」

「そう……」

 嬉しいんだけどすごく残念だ。「おじ様」って呼んでくれたら、空を飛ぶことだって黄河の水を飲み干すことだって出来るのに。……いや無理だけど。

 

「わたしのことも真名で呼んでください。流琉です」

「ありがとう流琉ちゃん」 

「ねねは、ねねねなのです!」

 寝てたはずの陳宮が起き上がり、名乗りを上げる。

「え?」

「寝たふりをしてお前らが悪いやつじゃないか試したのですぞ!」

 ふふん、とかなり得意気なねねちゃん。

 けど、それならもう少し様子を見てから判断した方がいいんじゃない?

「少しは信用しても良さそうだから、ねねも真名を預けるです!」

「そうか。残念ながら異国生まれの俺には字だけじゃなくて、真名もないんだ。だからさっきも言ったようにお兄ちゃんと呼んでくれ」

「まだ言いやがりますか!」

「順番が逆になっちゃったけど、わたしは典韋。これからよろしくね」

「よろしくしてやるです」

 うん。可愛い緑髪幼女二人を義妹にできた。

 白装束を避けるため、洛陽に寄るのを避けたのにここでねねちゃん加入なんて有難すぎる!

 きっと華佗もすぐに見つかるに違いない!

 

 

 

 

 

 

 水鏡塾に着くも、華佗はいまだに見つからず。

 いったいどこにいるんだろう?

 義妹二人にボーナスがばれて気味悪がられないかと不安で仕方ないんですが。

 真の世界になっているから華佗もいるはずなのになあ。

 街についたら華佗の情報を集めてから次の街ってな旅なので、思ったよりも時間がかかってしまった。

 

 

 水鏡塾を前にして考える。

 いきなり水鏡塾にお邪魔してスカウトって無理があるか。

 菓子折りでも用意した方がいいのかな?

 それとも支度金?

 華琳ちゃんか桂花にそういう慣習とかを聞いておけばよかったか。

 路上でそんなことを悩んでいたら、鳳統ちゃんと遭遇してしまった。

 

「え? 鳳統ちゃん?」

「この人が?」

「これは幸先がいいのです!」

 見れば、悩んでいた俺以上に戸惑っている鳳統ちゃん。

 

「あわわ……」

「あ!」

 そうか。たしか男性が苦手だったんだっけ。急に知らないおっさんに声かけられたら怖いよね?

「……ゴメン、怖がらせちゃったみたいだね。流琉、ねね、行こう」

 二人を引っ張って、宿へと向かった。

 ちなみに二人のことは妹なんだからちゃん付けはしないでいいと、呼び捨てを命じられている。ちゃん付けで呼ぶ方が小さい子って感じがしていいのに。

 

 

「どうしたんです兄様?」

「敵前逃亡ですぞ!」

 いや敵じゃないでしょ。

「えっと、俺がいきなりいっても人攫いと勘違いされるんじゃないかなって思って」

「ああ、それはありそうなのです」

 納得されるとヘコむなぁ。

「だ、だから明日、流琉とねねの二人で鳳統ちゃんを説得して」

「わたしがですかぁ?」

「うん。二人なら歳も近そうだし、きっと鳳統ちゃんもそんなに緊張しないはず。たしか鳳統ちゃんはお菓子作りもやってたから流琉と話も合うかもしれない」

「料理人じゃなくて軍師を迎えたいのではないのですか!」

 そうなんだけどね。

 

「まずは仲良くなってそれから誘った方がいいと思う。華琳ちゃんって結構誤解されてるからね」

「面倒なのですぞ」

 こんな事言うなんてねねはまだ軍師じゃないのかな? 後でしっかり勉強してもらおう。

「ごめんね。茶屋かなんかに誘ってゆっくり話をして。流琉が華琳ちゃんをどう思ってるのか、素直な気持ちで説明してあげて」

「曹操をべた褒めすればいいのです」

「それは駄目だ。嘘は見抜かれると思ってね。それぐらいの子だからこそ味方にほしいんだよ」

 うん。流琉ならうまく勧誘してくれるはず。

 

 

 

 翌日、落ち込んだ顔で二人は帰ってきた。俺の方も華佗の情報が集まらず、同じように落ち込んだ顔をしているに違いない。

「駄目だったか……」

「はい。でもなにか迷っているような感じでした」

 なら脈はあるのかな?

「ですから、明日は兄様もいっしょに説得して下さい!」

「いや、俺がいっしょだと余計に無理っぽくない?」

「たしかに鳳統は男性は緊張してしまうって言ってたです」

 もうそこまで話す仲なの? なら俺が行かない方が上手くいくでしょ。

 

「でも、昨日兄様を傷つけてしまったんじゃないかって気にしてました」

「え? ……もしかして俺が人攫いと勘違いされるの気にしたとか、言っちゃった?」

「はい。鳳統さん兄様に謝りたいって」

 ううっ、男が苦手なのに、なんて優しい子だ。

「まかせて下さい。わたしにいい考えがあるんです!」

 

 

 

 さらに翌日。

 これで一応、三顧の礼? これで駄目だったら諦めた方がいいのかな?

「なあ流琉、やっぱりさ」

「駄目です」

 俺の言葉を最後まで聞いてくれずに拒否された。

「季衣から聞いてるんです。兄様は眼鏡を外すともの凄く格好いいって」

 流琉のいい考えというのは、俺に眼鏡を外して鳳統ちゃんに会えというもの。

「気のせいじゃない?」

「ねねもそう思うのです!」

「いえ、わたしも見てます。兄様と初めて会った日の晩に」

 あの宴会の時か!

 

 

 宿で厨房を借りて流琉が作った菓子を手土産に水鏡塾を訪ねた俺たち。

「うわ、なんかみんな見てるって。外で話した方がよかったんじゃない?」

 塾生たちなのか、少女たちが遠巻きに俺を見てひそひそ話している。

「兄様が格好いいから気になってるんですよ」

「そうなのです! これからはたぶんお兄ちゃんと呼んでやるのですぞ!」

 なんか嬉しそうな二人。

 

「典韋さん!」

 案内された部屋で鳳統ちゃんと対面する。

「今日は曹操さまがどれほどあなたを買ってるかの証明を連れてきました。曹操さまのお婿さんです」

「なにその紹介!? え、ええと、俺は天井皇一。字はない。君を迎えるためにきました」

「あ、あわわわわ……わ、私を迎えに?」

 鳳統ちゃんの顔が紅潮している。そんなに緊張しなくてもいいのに。いや、異性を前に緊張するってのはすごくよくわかるけどね。

「いっ!」

 急に隣の流琉に抓られた。痛いってば。

「曹操様の軍師として迎えに、です!」

 ああ、言葉が足りなかったのか。

 

「曹操ちゃんに君の力を貸してほしい。お願いします!」

 頭を下げる俺。

「あわわ……ど、どうしてしょんなにまで私を?」

「天の御遣いって知ってるかな?」

「!」

 そりゃ知ってるよね。

 

「そ、その方は知っています。管輅さんの占いに出てきた乱世を鎮める方だと」

「うん。俺はその人と同郷でね。ちょっとは天の知識を持ってるんだ。だから鳳統ちゃんがスゴイってこともよく知っている」

「天の?」

 そりゃ胡散臭いよね。そんなこと言われてもさ。

「そう。鳳雛ちゃんが、伏竜朱里ちゃんと並ぶ天才だってね」

 朱里ちゃんの真名を呼んだのは今回ばかりは迂闊ではない。真名を預かるほどの仲なんだよって、アピール。

 

「朱里ちゃんを知ってるんですか?」

「うん。天の御遣い君のとこで会ったんだ。ちょっとの間だけだったけどね」

 朱里ちゃんがきてくれたおかげで、俺が一刀君のとこから逃げ出せたんだよね。

 今頃どうしてるかな?

 

「これからさ、この大陸は揺れるよ。予想できてるよね」

 無言で頷く鳳統ちゃん。

「だから君が必要なんだ」

 勢いで言っちゃったよ。なにが、だからなんだろう?

「あわわっ……」

 また真っ赤になっちゃってるけど、いろいろ考えているんだろうな。

 頼むから俺の言ったことの深い意味とか思いついてくれないかな。すんごい壮大な理由でこっちについた方がいいっての。

 

「お願いします!」

「お願いするのです!」

 今度は流琉とねねが深く頭を下げる。

 ずるいよね。自分と同じくらいの、しかも仲良くなった子たちにこんなことされたら断りにくいよね。

 鳳統ちゃんはそんなの見抜いてるだろうけどさ。

 頭では見抜いていても、感情の方で見捨てにくいんじゃないかな。

 

 

「わ、わかりました」

 えっ!? なんか上手くいったのかな?

「じゃあ」

「んと、姓は鳳で名は統で字は士元で真名は雛里って言います! あの、宜しくお願いします!」

「俺は真名はないんだ。皇一って呼んでね、雛里ちゃん」

 雛里ちゃんと握手する俺。その上に流琉が手を重ねてくる。

「私は流琉です」

「ねねはねねねなのです」

 結局、ねねまでもが手を重ねて真名交換が終わった。

 

 

「あ、あの、こないだの男の人に謝っておいて下さい。私、酷い事をしてしまいました」

 手を離すと雛里ちゃんがそう言ってきた。流琉の言うように気にしていたみたい。

「ありがとう。雛里ちゃんは優しいんだね。大丈夫、気にしてないから」

「でも……」

「本人が言うんだからそんなに気にしないで」

 うん。緊張しちゃうのは人事じゃないから。

 

「え?」

「でゅわっ!」

「あ、あわわ……」

 眼鏡を装着した俺に吃驚してる雛里ちゃん。

「これからよろしくね」

「あわわわわわわ……」

 

 




 ここまでオズマネタ引っ張るつもりはなかったんですが、FB7観てきたらオズマ主役だったんで、つい思わず。


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十六話   姫抱?

 ねねに続いて無事に雛里ちゃんもスカウトできた。

 次は、と考えてみる。

 

 現在一番近いのは洛陽。しかしねねがすでにいる以上、候補は華雄しかいないはず。

 董卓、賈駆、呂布、張遼は一刀君の嫁だし。

 俺としては一周目で一刀君の嫁になった子は狙いたくない。あの結婚式は俺にとって大切な、いやもはや神聖なといってもいい思いでだ。穢したくはない。

 

 星? アレはノーカウントにして下さい。処女のままだもん!

 

 

 程昱、郭嘉はほっておいても魏入りするだろうし、居場所がわからん。

 璃々ちゃん連れてったら華琳ちゃんに怒られるだろう。……その前に流琉やねねに止められるか。遠いし。

 残るロリはとなると南蛮娘か馬岱ちゃんか。どっちも遠いなあ。

 袁術ちゃんとついでに張勲はいないらしい。残念だ。孫策もいないからセット扱いなのかな?

 

 あまり気が進まないけど、ロリ以外で考えてみる。

 厳顔と魏延。BBAはともかく非処女なのが大問題な厳顔。引継ぎのためにもし、なんて考えたら絶対に嫌。魏延スカウトには劉備が必要だろうし、その劉備がどうなってるかも不明。一刀君のとこに居ればいいけど。

 呉勢。……無理。あそこから引き抜けるってありえないでしょ。

 袁紹、文醜、顔良。こっちも無理。俺に家柄とかないから近づけない。もし近づけても顔良以外はまともな話できそうにないし。

 公孫賛。袁紹に負けたのを拾うのが楽そう。だからまだいいや。

 

 洛陽で華雄スカウトってのも不可能だろう。華雄は曹操軍が捕獲するしかないんじゃないかな。

 

 

 

 そんなワケで残る最重要目的、華佗の捜索を続けている。

「やっぱり見つかりませんか?」

「うん」

 相変わらず情報は掴めない。

 漢ルートのスタートが漢中だったから、そろそろこの辺りで噂ぐらいい聞いてもいいと思うんだけど。

 蜀ルートでしかも、真なのが途中からだから全然違う動きをしてるんだろうか? 貂蝉と卑弥呼も一緒じゃないのかもしれない。

 

 俺たちは結局まっすぐ陳留には戻らず、途中のこの街に逗留している。

 華佗を見つけて身体を治してから華琳ちゃんに会いたいし、華佗を探すので時間かけ過ぎたのであれがもう近いというのが理由である。

 

「バイトお疲れ様」

 流琉は路銀が乏しくなってきたのを気にしたのか、料理屋でバイトしている。

 いや、でかい分張々ってかなり食うからさ。餌代けっこうかかるのよ。ねねも大変だったろうなあ。

 俺としてはぎりぎり路銀足りる計算なんだけどね。

 ねねもそれがわかっているのか流琉がバイトしているお店で給仕をしている。流琉のおかげで急に店が混むようになったらしいから、ねねのような小さい子でも雇ってくれたのだろう。

 雛里ちゃんは給仕とか無理そうなので、俺の情報収集につきあってもらっていた。

 

「諸侯はすでに動き始めたって客たちが噂してるです」

 うん。俺たちも華佗の情報を集めている最中に頻繁に耳にしている。

「そろそろかな?」

「はい。連合軍が東から虎牢関を抜けて洛陽に向かうとすると、まず汜水関を攻略しなければいけませんので、たぶん合流地点はここからさほど遠くない所になるかと」

 うん。一周目もそうだったからね。真状態の今じゃ変わるかもしれないけど。

「じゃあ、流琉とねねはお店の方にやめるって伝えてもらえるかな」

 

 

 

 

 街から出て連合軍合流地点に到着。

 二回目だけど、凄い数の兵士に圧倒されながら曹操軍の陣地を目指す。

 親衛隊に顔パスな流琉のおかげで思ったよりも早く華琳ちゃんと再会できた。まあ、軍議は終わっちゃった後みたいだけどね。

「遅かったわね」

 久しぶりの華琳ちゃんは相変わらずの美しさ。真装備の戦装束も初めて見たけどいいね。うん。

 

「ゴメン。全然華佗が見つからなくて」

「言いわけはいいわ。それよりも」

 俺の隣に立つ少女を見つめる。雛里ちゃんびびらなきゃいいけど。

「うん。彼女が鳳雛」

「姓は鳳で名は統で字は士元で真名は雛里です」

 緊張しながらも雛里ちゃんは噛まずに自己紹介できた。ここにつく前にずっと練習してたもんなあ。

 

「そう。皇一が推薦するほどの子。期待してるわ」

「あわわ……」

 まだ慣れてない雛里ちゃんにこのプレッシャーはキツイかな? まあ見た目は不安だけど雛里ちゃんなら、大丈夫……だと思う。

「あとこっちが陳宮。この子はまだまだだけど、しっかり才能を伸ばしてやれれば花開くよ」

 って言ってみたけど実際どうなんだろうな? 萌将伝でも軍師としては残念ぽい扱いだったし。

「姓は陳、名は宮。字は公台! 真名はねねね!」

「ふむ。二人ともよく聞きなさい。私は曹孟徳。華琳と呼ぶことを許しましょう」

 いきなり真名を預けたってことは二人を買っているのかな? まあ先に二人が真名まで名乗ったんで返しただけかもしれないけど。

 

 

「おっちゃん! おかえりー!!」

「た、ただいま、でいいのかな?」

 飛びついてきた季衣ちゃん。戦地なせいで力が入ってるのか、いつもよりかなり痛い。ふんばってなんとか堪えた俺は季衣ちゃんを抱き上げる。うん。これでだいぶ楽になった。

「うん。だって華琳さまやボクたちがいるとこがおっちゃんの帰ってくるとこだもん!」

「そっか」

 抱き上げたまま季衣ちゃんの頬に自分の頬をスリスリ。

 

「流琉もおかえりー」

「もう。兄様の次なの?」

 あれ? なんかまた流琉が俺を睨んでいたような?

「にゃ? 兄様?」

「季衣の言ったとおり、兄様は悪い人じゃなかったからそうお呼びすることにしたの」

 うん。さっきのは気のせいか。

 

「ふーん……なんかズルい」

「え?」

「ずっとおっちゃんといっしょだっただけじゃなくて、妹にまでなってるなんてズルい!」

「季衣なんて兄様のお嫁さんじゃない!」

「そんなの関係ない!」

 なんだろうこのデジャヴュ。俺が季衣ちゃん抱っこしたり肩車したりするとこうなるんだろうか?

 

「どうしたのです、兄殿(あにどの)?」

「あ、ねね。流琉と季衣ちゃんが喧嘩しそうでさ」

 ねねは最近、俺のことを兄殿って呼ぶようになった。お兄ちゃんでいいのに。

「こ、こんなちびっこまで!? ……いいもん。ボクも兄ちゃんって呼ぶ!」

「ねねはちびっこじゃないのですぞ!」

 はいはい。仲良くしようね。

 華琳ちゃんはねねを親衛隊につけた。軍師っていうより副官っぽいポジション? 様子を見ることにしたのかな。

 それとも親衛隊入りって慣れてない子を目に付くとこに置いておきたいのかも。季衣ちゃんや流琉って軍人経験ない子いきなり親衛隊にしてたし。

 

 雛里ちゃんの方はちゃんと軍師として……ってどうしたの、雛里ちゃん?

 俺の服をくいくいと引っ張って。……可愛いじゃないか。

「あ、あの、朱里ちゃんに……」

「ああ、一刀君たちも来てるんだっけ。会いに行こうか」

 

 

 

 

「朱里ちゃん!」

「雛里ちゃん?」

 抱き合って再会を祝うロリ軍師二人。

 華琳ちゃんに許可を貰ってから、俺と雛里ちゃんは一刀君たちの陣営を訪れた。

 

「皇一さん?」

「皇一殿!」

「おっちゃん」

 うん。みんな元気そうだね。あれ? 星はいないの?

 そういや劉備もいないね。

 スタート時に一刀君に関羽と張飛とられちゃってるから、のし上がれてないのかも。あの子一人だと大変そうだ。

 いや、もしかしたら干吉たちに唆されて、後でラスボスポジションで現れたりするのかもしれない。

 ……ラスボス向いてなさそうだけど。

 

「どうしてここへ?」

「今、曹操軍のとこにいるからだよ」

「陳留の曹操?」

「雛里ちゃんも?」

「……うん。朱里ちゃんが一人で出て行って……私も行かなきゃって思っていた時に皇一さんたちが誘いに来てくれて……朱里ちゃんが天の御遣い様のところに居るって教えてくれて……」

 ひしっと抱き合ったまま話を続けている二人。あらら、雛里ちゃんもう泣きそうだね。

 

「そう。……仕官おめでとう雛里ちゃん」

「朱里ちゃん……」

 ああ、もしかしたらと思ったけど、やっぱり雛里ちゃんも朱里ちゃんのいる一刀君のとこにきたかったんだろうな。スタートが無印だったんでかなわなかったけどさ。

 

「雛里ちゃん、君は」

 確認しようとしたら第三者に邪魔された。まあ一刀君のとこに行きたいって言われてたら困ったけどね。

「私のものよ。皇一も雛里も」

 邪魔したのは華琳ちゃんだった。いつの間にきたんだろ?

 

「曹操!?」

 そりゃ驚くよね。こんな超絶美少女がいきなり現れたんだから。

 愛紗の正面に向かっていく華琳ちゃん。まず愛紗に挨拶か。一刀君はもう反董卓連合の軍議で会ってるからいいのかな。

 あ、春蘭と季衣ちゃんもきてた。

「初めまして、と言うべきね、関羽。私は曹孟徳」

 自己紹介の後、愛紗を褒め称える華琳ちゃん。

 あれ? 真・華琳ちゃんはそんなに愛紗に固執しないんじゃなかったっけ? もしかして無印華琳ちゃんの記憶を引継いでるせい?

「うん、愛紗は綺麗だよね。華琳ちゃんが気に入るのも当然だよね。それで、華琳ちゃんなんでここまで来たのさ?」

 面倒くさくなりそうなので介入。後で怒られるだろうなあ。

 

「夫が世話になったのだもの。礼を言いにきたわ」

「夫って、もしかして?」

 なんでみんなすぐに俺の方向くかな? 合ってるけどさ。

「皇一殿、本当に?」

 愛紗、質問が抜けてるけど聞きたいことはわかるよ。

「うん。俺の可愛いお嫁さん。隠してたみたいになってゴメンね。まだ式挙げてないから言い出しにくくて」

「そ、そうですか……」

 戸惑う愛紗の様子に華琳ちゃんが勘違いしたらしい。

「関羽も皇一の嫁におなりなさい」

「いやソレ、礼じゃないでしょ!? なんでそうなるの?」

 思わずツッコんでしまった。

 なんでって顔で見ないで華琳ちゃん。その顔ももちろん可愛いけどさ。

 

「そ、曹操殿の夫なのだろう!」

「私はかまわないわ。私の他にもいるのだし」

 言いながら俺のそばにきたかと思うと、ひょいと眼鏡を奪う。だからそれは止めて下さいってば。頼むから!

「ええっ!?」

「はいはーいっ。ボクと春蘭さまも兄ちゃんのお嫁さん!」

 華琳ちゃんが視線で促したので、季衣ちゃんが嬉しそうにそう宣言した。

 

「にゃにゃっ? こんなチビがおっちゃんの嫁なんて変なのだ!」

 鈴々ちゃんの言葉に季衣ちゃんが挑発し返す。

「ふふん。ちびっこにはわっかんないよねー、大人の関係ってのはさー!」

 大人の関係ってちょっと違うんじゃないかな?

「鈴々は大人なのだ!」

「子供はよくそう言うんだよねえ」

 あれれ? 口で季衣ちゃんが勝ってるっぽい? 真だと鈴々ちゃんの方が口でも武力でも上だったような気がするけど……先に女になった余裕ってやつなの?

 ……二周目の季衣ちゃんはまだ処女なんだけどね。

 

「どう? それとも私のモノになる方がいいかしら?」

 季衣ちゃんと鈴々ちゃんの口論を尻目に俺の髪をいじっていた華琳ちゃん。満足したのか愛紗の勧誘を再開する。

「わ、私は……」

「ほ、ほら、一刀君たちそろそろ出撃するみたいだから」

 もう、何言ってるのさ華琳ちゃん。愛紗は一刀君の嫁でしょ!

 

「華琳ちゃんもそろそろ準備しなきゃいけないでしょ。季衣ちゃんも鈴々ちゃんと喧嘩してないで」

 まだ何か言いたげな華琳ちゃんを抱きかかえる。

「あ……」

「騒がしちゃってゴメンね。健闘を祈ってるから!」

 一刀君の陣から脱出。なんかまたデジャヴュ。

 春蘭、季衣ちゃん、雛里ちゃんがじっと見ているのでなんだろって思ったら……気づいたら華琳ちゃんをお姫様抱っこしてた。華琳ちゃん軽いから非力な俺でもできちゃうんだよね。

 

 

 

 

 汜水関は挑発に乗ってしまった華雄のせいであっさり陥落。

 鈴々ちゃんとの一騎打ちに敗れた華雄は現在手当てを受けている。捕獲したのは流琉とねね率いる親衛隊。

 手負いとはいえ、初陣で華雄を捕まえるのだからたいしたものである。華琳ちゃんの護衛をしていた季衣ちゃんが悔しがったくらいだ。

 星と雛里ちゃんがいなかったせいか、蜀ルートな作戦ではなく魏ルートっぽい展開で曹操軍は隙をついて、汜水関に一番乗りして攻略してしまった。

 

 その日の軍議で虎牢関攻略の指揮権を引き受けてきた華琳ちゃん。

 軍議が終わった後は予想通り正座させられている俺。

「あなたが前回の結婚式で北郷一刀の嫁になった者たちを特別視しているのはわかっているつもりよ。けれど、『今』はあの時と違う」

「でも……」

「すぐに抱けとは言わないわ。引継ぎがなくたって問題はない。だからせめて私の邪魔するのは止めなさい」

「寝取れとか言わない?」

「ええ。だってまだ使えないじゃない」

「うっ……」

 効くなあ。それ言われると辛すぎる。いい加減切っちゃった方がいいのかなあ……。

「泣かないの。辛いのは私も同じなんだから」

「……うん」

 華琳ちゃんも俺の身体心配してくれてるんだね。

 

「わかったわね。愛紗は後にするとしても、董卓軍の武将、軍師全て手に入れる」

「……」

「霞は華雄同様に捕獲。董卓、賈駆は北郷よりも先に保護。いいわね」

「董卓と賈駆は……」

 一刀君の嫁なのに。

「今の北郷が董卓と賈駆を保護でき続けると思う?」

 星もいなければ劉備もいない。雛里ちゃんもこっちに引き入れてしまった。その一刀君たちに預けるのはたしかに不安。

「董卓と賈駆を確保しなさい」

 ……無言で頷くしか俺にはできなかった。

 

「問題なのは呂布ね」

「……もしこの世界がほぼ完全に真の世界で今のルートが蜀ルートだとしたら……」

「るうと?」

「ねねがこちらにいる状況だと呂布は逃げるタイミングを失う」

 引いてくれないとなると、相手をするこちらの被害も大きくなる。

 

「……一周目で一刀君たちがどうやって呂布を捕まえたかおぼえている?」

「漁師が使う投網だと聞いているわ」

「その方法しかないと思う」

「そんな卑怯な手は華琳さまは使わん!」

 春蘭が言うのもわかる。

「うん。だから使うのは華琳ちゃんじゃなくて、俺。こんな卑怯な作戦を指示するのも桂花や雛里ちゃんじゃなくて、俺」

 問題は投網が用意できるかってことなんだけど。

 

「さて、皇一、あなたの部下にする者を紹介するわ」

「はい?」

 え? 今なんて? 話の流れおかしくない?

「いらっしゃい」

 華琳ちゃんに呼ばれて現れたのは三人。

 

「以前お会いしました楽進です。よろしくおねがいします」

「李典や。よろしゅうたのんます」

「于禁なの。よろしくおねがいしますなの」

 所謂北郷隊の三人じゃないですか。うん。やっぱり于禁もいたんだ。

 

「俺は天井皇一」

 ……じゃなくて!

「ちょっと待ってよ! 俺、部隊指揮なんて一刀君とこでちょっとしか経験ないぞ」

「あら、少しは経験あるのね」

 うっ、しまったかも。またうっかりスキル発動してしまったか?

 

「本当はあんたみたいな泣き虫強姦魔に、華琳さまの貴重な部下を預けたくないのに……」

 桂花がそんなこと言うもんだから、三人の表情が曇ったじゃないか。

「ご、強姦魔……」

「無理やりは嫌なのー」

「せやなぁ……」

 いやあのね、できれば部隊指揮の方も不安になってくれませんか?

 

「皇一は現在治療待ち。その心配はないでしょう。治療が済んでも皇一からはありえないわね。三人とも、するなら皇一から同意を引き出してからしてちょうだい」

「なんや身持ち固いんかい」

「疑ってすみませんでした、隊長」

「ごめんねー、隊長さん」

 隊長? 魏メンバーの共通意匠って髑髏のアイテムだからスカル小隊って言えなくもない。緑髪の義妹用意しといてよかったな。じゃなきゃ危険すぎるポジションだ。部下三人の隊長なんて。

 

「華琳さまの夫として、部下ぐらいは持っておらんとな」

「相応しくなるために結構無理してるんだけどなあ」

「ならいつも眼鏡を外していなさい」

「それだけは勘弁して!」

 華琳ちゃんに外される前に急いでガード。舌打ちが聞こえた。それも複数。

「隊長さんカッコイイっていうから見たかったのー」

 ちょっ、なんで初対面の于禁がそんなこと言うの? ……星か?

「兄様、旅に出る前の宴会で眼鏡外したの、みんな見てたじゃないですか」

「うん。それで華琳さまのお婿さんがカッコイイって噂になってるんだよー」

 義妹たちよ、あまり知りたくない情報をありがとう。ううっ、俺は地味なおっさんなのに。

 

 

「皇一、三人とその部隊を率いて呂布を捕獲しなさい」

「それって」

「工兵隊、バッチリ投網の練習しとるで」

 網を投げる仕草を見せる李典。

「呂布を捕らえるのに手段を選ぶ余裕はないわ」

 なんだ、華琳ちゃんもそのつもりだったのか。っていうかあれ? 三人がすぐにきたのって。

「最初から俺にやらせるつもりだったの?」

 華琳ちゃんの夫として俺も手柄を取らなきゃいけないってこと?

「さあ?」

 いじわるな笑みを浮かべてるのに可愛いんだから困る。まったくもう。

 

 

 

 

 眼前には虎牢関。華雄もいないのに外に布陣してる敵軍。

 うん。この展開はやっぱり蜀ルートだ。違うのは虎牢関攻略の指揮権を持つのが華琳ちゃんってことぐらいか。

 

 俺たちは愛紗たちのそばに布陣した。

「皇一殿?」

「うん。呂布がくると思うからよろしくね」

「呂布。ご主人様から、絶対に一人で呂布と戦うなと厳命されるほどの武将……」

 そうなんだよね。けど何故か北郷軍に星がまだいないから、愛紗と鈴々ちゃんだけ。キツイだろうなあ。

「そう。あの娘は桁外れだから気をつけて」

 

 

 戦闘が始まると俺たちは、工兵隊を守りながら愛紗たちに遅れないようについていくのに精一杯。楽進たちがいなければ、こんなの俺には絶対無理だったろうな。

 いまだに俺が道場送りされないのは緑髪義妹のフラグクラッシャー効果に違いない。

 反董卓軍の方が圧倒的に多いという数の暴力に勝敗が決まりかけた頃、敵軍が突撃してきた。

「隊長、敵軍が一丸となって突出してきます! 旗印は呂! 飛将軍、呂布の部隊です!」

「華琳さまの方に張の旗が突っ込んでいってるのー」

 楽進と于禁の報告で気を引き締める。

「よし、工兵隊は投網を準備! 楽進は愛紗たちと呂布を迎え撃って!」

「はっ!」

 

 呂布と対峙している愛紗、鈴々ちゃん、楽進の三人。

「なあ、ウチらもいっしょに戦った方がええんちゃう?」

「三人でも呂布に押されてるのー」

「あの三人でも押されてるのに、俺たちがいって足しになると思う? それに、人数が多いと網が使いにくい」

 俺がいったらかえって足手まといでしょ。

「それもそうなの」

「工兵隊、呂布に気づかれないように包囲して」

「了解や!」

 

 呂布の攻撃で体勢が崩れた鈴々ちゃんをカバーする愛紗。楽進も氣弾で呂布を牽制している。……あんなに光るもんだったのか。よく呂布はかわせるな。

 っと、そろそろか。

「李典!」

 

 楽進の氣弾を回避しようと大きくバックステップした呂布に向けて待機していた兵士達が一斉に網を放った。

 突然の網に驚いた呂布は、為す術も無く絡め取られた。

「どや、うちが対人用に改良した投網やで!」

 李典の言葉通り、呂布の力をもってしても脱出はできないらしい。

「……卑怯者!」

「卑怯なのは俺だから曹操ちゃんを恨まないでね。……呂布を曹操軍の陣地に。怪我とかさせちゃ駄目だから」

 指示を出して呂布を運んでもらう。

 

「皇一殿……」

 俺に恨めしげな視線を向ける愛紗と鈴々ちゃん。

 正々堂々と戦って勝ちたかったんだろうな。無言で二人に頭を下げる。

「隊長」

「うん。そろそろ行こうか」

 後味悪く、俺たちはその場を去ったのだった。

 

 

 

 

「うまくいったようね」

 華琳ちゃんの機嫌がよさそうなとこを見ると張遼も上手くいったのかな。

「そっちは? 春蘭は大丈夫?」

 ずっと気になっていたんだ。春蘭の左目が無事だといいなって。

「ええ。流れ矢もなかったわ」

 よかった!

 ……でも蜀ルートだとここでは無事だったのにいつのまにか左目食ってるんだよね。急に食べたくなったからとかじゃなければいいなあ。

「そう。戦況は?」

 虎牢関が攻略できたのはわかっている。どう攻略されたかを聞いてみた。

「孫権が虎牢関に一番乗りをしたわ」

 たしか孫策だったはずだけど、いないからかわりに孫権ってワケなのか。

 

「呂布の説得は?」

「……董卓たちを保護してからもう一度するわ」

 いきなりは無理だったか。

「その時はねねと張々も連れていって」

 きっと仲良くなってくれるはず。

 

 

 

 

 虎牢関を出発して二日。

 洛陽が目と鼻の先なのに敵軍の動きがないので、俺は部下となった三人と季衣ちゃんを連れて洛陽へと潜入した。流琉もきたがったが俺といっしょに旅をしてたのと、前回は季衣ちゃんが華琳ちゃんの護衛だったということで諦めてもらった。

 敵兵はほとんどいない。……白装束もいないな。干吉はなにやっているんだろう?

 

「あ、鈴々ちゃん」

 声をかけたのに、俺に気づかずに鈴々ちゃんはかけていってしまった。

 いいさ。俺って影薄いからこういうの慣れてるし……。

 それとも呂布を捕まえた時のこと、まだ怒ってるのかな……。

 ん? そうか!

「鈴々ちゃんの来た方へ急ぐよ」

 

 ビンゴ!

「董卓ちゃん、ですよね?」

 逃げ出そうとする董卓ちゃんたちを発見。

 董卓ちゃんをかばって前に立ち、自分が董卓だと名乗る眼鏡少女。

「にゃ? 賈駆じゃん」

「季衣ちゃん、あれは董卓ちゃんの身代わりになろうとしてるんだよ」

「あ、そうなんだ」

 季衣ちゃん、賈駆のことを一周目で知ってるのは隠してほしい。

 

「ふふっ。私が董卓です」

 俺たちのやり取りで毒気を抜かれたのか、儚く笑って董卓ちゃんは名乗った。

「うん。俺たちは曹操軍の者。早速だけど君たちを捕まえる」

 再び賈駆が月ちゃんの前に立ち、護衛の兵たちも剣を抜こうとする。

 急いでるんだけどな。

「さっき季衣ちゃんと同じくらいの女の子、こなかった?」

 季衣ちゃんを指差して聞く。

「は、はい。ちょうど同じくらいの女の子が」

「ボクはあのちびっこより大きいってば!」

 季衣ちゃんをなだめるように、その頭を撫でながら説得を続ける。

「それは北郷軍の張飛。君の正体に気づいて仲間を呼びに行ったんだ」

「あれが華雄を討ち取った……」

 鈴々ちゃんの名を聞いて驚く賈駆。

 

「だからね、急いでここを離れたいんだ。あ、俺は天井皇一。曹操ちゃんの」

「天井ってあの、曹操の婿!」

 え? 俺のこと知ってるの?

「曹操ちゃんは君たちの命を欲しがってはいないよ。むしろ助けようとしてる。もう必要なものはだいたい手に入れたからね。汜水関一番乗りの名声。華雄、張遼、そして呂布。あとは君たちだけ」

「ちょっと! みんな捕まえたって言うの?」

「うん。華雄は治療中だけどみんな生きてるよ」

「そうですか。よかった」

 ほっとした顔の董卓ちゃん。

 

「二人の安全は俺が保障する」

「嘘よ」

「嘘なんかついてない」

「だって曹操の婿は絶世の美男子って聞いているわ!」

 ちょっと! なんでそんな話になってるの? どっから絶世なんて出てきたの!?

 

「兄ちゃん!」

 え? まさか季衣ちゃん、君もか!?

 ……眼鏡奪われました。

「これでどう? 美男子って言うにはおっちゃんだけど」

 俺の前髪をかき上げ、ぺったんな胸を張る季衣ちゃん。

「隊長、すっごいカッコイイのー♪」

 いや、于禁喜んでる場合じゃないでしょ。

「なんやその眼鏡、顔変わる絡繰なん?」

 どんな絡繰だよそれ?

「た、隊長……」

 なんで楽進まで緊張するのさ。

 

「た、たしかに曹操の婿みたいだけど、でも……」

「詠ちゃん……」

「話の途中悪いけど、ホンっトに時間ないから話は移動してからね」

 賈駆が驚いている隙にひょいっと董卓ちゃんをお姫様抱っこ。華琳ちゃんでコツ掴んだし、董卓ちゃんも軽いから問題はない。

「月を離しなさいよっ!」

 慌てる賈駆を季衣ちゃんが抱える。ボクっ娘がボクっ娘を、か。

「みんな、急いで脱出! 一刀君たちに見つからないようにね!」

 北郷隊、いや天井隊でいいのかな? の三人と季衣ちゃんがかけ出す。それを追って董卓ちゃんの護衛の兵たちも。

 俺たちはなんとか、一刀君たちに遭遇することなく華琳ちゃんと合流できた。

 こんな強引になってるのは眼鏡を外しているせいなのかもしれない。変な癖がついてる気がする。

 

 

 あと、俺の素顔のお礼って、部下の三人が真名を預けてくれた。喜んでいいんだろうか……。

 

 



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十七話   NTR?

 反董卓連合の戦いは終わった。諸侯はそれぞれ自分の領地へと帰っている。

 董卓ちゃん、賈駆の保護は華琳ちゃんの性癖が役にたった。

 洛陽で可愛い娘を見つけて侍女にしたってことにしたんだけど、「またか」ってのが周囲の反応だったらしい。この二人は武将、軍師としてより侍女として欲しがってた気もするから間違いじゃないだろうし。

 もちろん董卓と賈駆の名は捨ててもらって、真名を名乗ってもらっている。

 詠ががんばっているので月ちゃんの貞操はまだ無事みたい。

 

 呂布は月ちゃんと動物たちの保護を条件に華琳ちゃんに降った。

 これでもう、いくら一刀君が蜀ルートでも簡単には負けない気がする。

 でも、蜀ルートってことはラストの五胡にも備えなきゃいけないのかな?

 その前に干吉たちがいつ暴れるのかわからない。今回まだ白装束とか見てないし。貂蝉か卑弥呼がいれば話を聞けるかもしれないけど、華佗が一緒じゃないのに漢女だけに会えても嬉しくない。

 

 華雄はまだ治療中。華佗がいればもっと早く治っているんだろうな。

 

 

 

 俺はといえば、凪たちの隊長にされたように何故か真魏一刀君の役割にされてるっぽい。

 警備隊長とかシスターズのプロデューサーとか、どうしろってのさ。

 ……最後まさか、俺が消えるENDってのは嫌だなあ。

 とりあえず華琳ちゃんには真魏一刀君の案を相談。予備部隊な警備兵とか、交番みたいに詰所の増設とか。

 

 

 シスターズに顔見せの日。

「不合格」

「うんうん。こんな趣味悪いおじさんが世話役って駄目だよねー。なんで今更言い出すかなー?」

 今更ってのは俺も思う。……俺が帰ってくるの待ってたのか?

「姉さん。曹操さまが派遣した世話役を気に食わないからっていきなりクビとか無理」

「絶対にイヤ!」

 うーん。アレしかないんだろうけど嫌だなあ。このまま別の人に代わってもらおうかな?

 次は幽州行って公孫賛をスカウトしに行きたいから、スケジュール的にキツいし。

 

 公孫賛を保護しに行くのと、シスターズの世話役、どっちを代役頼もうかと悩む。

「姉さん。曹操の婿は覚えている?」

 ああ、あの宴会ん時シスターズもいたっけ。

「うん。すっごい格好いい男の人っ! だよね。もちろん忘れるわけないよー」

「あれは素適よね。言うことも演劇の舞台みたいだった」

「それが」

 眼鏡を光らせて俺を指差す張梁。

「これ」

 むう。俺も光らせようかな?

 

「嘘。こんなだったっけ?」

 なんとなく先の展開が読めたので距離をとる。

「……眼鏡外しなさい」

「絶対に嫌だ」

「えー……つまんない」

「我慢してよ」

 なんとか世話役として認められたみたい? 苦労しそうだな。

 

 

 沙和に泣きつかれて新兵訓練の相談。

 そういや虎牢関の指揮でも沙和はまだ軍曹っぽくなってなかった。

 他の方法も思いつかないので海兵隊式を伝授する。

 真魏一刀君に倣って特製新兵訓練用すらんぐ辞書を作成した甲斐もあって上手くいった。

 

 

 俺がやりたかった季衣ちゃんのお手伝い。

 ねねが親衛隊についたせいか、そんなには無かったけどやっぱり書類が溜まっていた。

「えへへ……」

「もう。笑ってごまかさないの!」

 シスターズ事務所と警備隊の往復というここ数日のハードスケジュールで疲れている俺を見かねたのか、流琉とねねも手伝ってくれている。

「ここ間違っているのですぞ、兄殿」

 膝上のねねに指摘される。書類を手伝って貰っている礼としてねねと流琉に俺の膝を譲った季衣ちゃん。

 片膝に一人ずつ座っている。俺としては嬉しいんだけどそんなお礼でいいの? ……疲れ●ラもあって、少女の柔らかさや香りに反応しそうなのを必死に堪えた。

 

 

 

 ……なんだろ? なんか暖かくて気持ちいい……。

「ん。……寝ちゃってたのか、俺。ここは……風呂か。暖かいわけだ」

 風呂で寝ちゃったのか。最近睡眠時間少なかったもんなあ。溺れなくてよかった。

「む?」

 おかしい。風呂に入った記憶がない。ボーナスばれを防ぐために風呂は極力避けているはず。

 覚えているのはやっと季衣ちゃんの手伝いが終わって……二人を膝の上に乗せたまま寝ちゃったのかな?

 

「あ、起きた。兄ちゃんおはよー」

「おはよう……じゃなくて! なんで裸!?」

 俺も季衣ちゃんも裸だった。

「お風呂なんだもん。服着てたら変だよ」

 そうなんだけど、そうじゃなくて!

 

「兄様寝ちゃったから。兄様のお部屋に運ぼうとしたんですけど」

 一応、今回は始めから城暮らしな俺。

「座っている間、匂いがずっと気になっていたです。兄殿、匂うのですぞ!」

 そりゃ秘密があるから風呂なんて滅多に入れないし、忙しくて身体を拭いてもいなかったけど。

 ……まさか加齢臭じゃないよね? そこまでおっさんじゃ……。思わず耳の後ろを擦って、指の匂いを確認。

 うん。大丈夫。

「流琉、ねねまで……」

 さらに裸の美少女二人追加されたら疲れ●ラが……ってやばい!

 

「見たのか?」

「にゃ?」

「俺の服を脱がしたのは誰だ?」

「はーい。なんか兄ちゃんのおち●ちんが増えてるんでびっくりしちゃった」

「びっくりってそれだけ?」

 気味悪いって嫌われていないのが不幸中の幸いだけど、なんという迂闊っ! まさか季衣ちゃんたちにばれるなんて。

 

「季衣ちゃん、流琉、ねね。頼むからこのことは秘密にしてくれ!」

「兄様?」

「華佗が見つかるまででいいんだ。それまででいいから黙っていてくれ!」

「何故なのです?」

 正直に言った方がいいかな?

 

「二本だなんて気持ち悪いだろ。気味悪いって邪魔な一本切られちゃったりしそうでさ」

 ううっ、考えただけでも痛そうだ。

「兄ちゃん……ずっとボクとしなかったのってそのせい?」

「うん。嫌われたくなかった」

「よかったぁ!!」

 よくはないだろ! って季衣ちゃん泣いてる?

 

「兄ちゃんに嫌われたんじゃないかって……兄ちゃん、ボクの身体に飽きたんじゃないかって、ずっと不安で……」

 ああ、二人して嫌われるの怖がっていたのか。

「そんなワケないだろ」

 俺がロリっ娘を……季衣ちゃんを嫌ったり飽きたりするワケがない。湯船から立ち上がってそれを証明する。

 

「嫌いだったり飽きてたりしたらこんなにならないだろ?」

「あ!」

「ふぇっ!?」

「な!?」

 季衣ちゃんだけでなく、流琉とねねからも驚きの声が。流琉、両手で目を塞いでるけど指の間からしっかり見てるよね。

 

「兄ちゃんっ!!」

 季衣ちゃんのタックルで湯船に沈む俺。慌てて立ち上がる。

「ぶはっ。……季衣ちゃん、どこもぶつけてない?」

「うん」

 そんなに密着されると我慢できそうにないんですが。けど、二人が見てるんですが。

 

「兄ちゃん……」

 なんでこっち見て目え瞑ります? これってあれしかないよね?

 二人の視線を感じつつも季衣ちゃんと唇を合わせる。恥ずかしいから俺も目瞑っておこう。……む? なんか二人が近づいてくる気配が……。

 

「っ!?」

 突然の刺激に慌ててキスを止めて目を開く。

「に、兄様は気持ち悪くなんてありませんっ!」

「兄殿のち●こは気味悪くなどないのですぞ!」

「ちょっ、も、もっと優しく扱って」

「こ、こうですか?」

「あー! 二人ともずるい!」

 

 

 

「どうしてこうなった?」

 肉体的にも精神的にも疲労感でぐったり。なんで流琉やねねまで?

「そりゃあ兄ちゃんカッコいいもん」

「俺は地味なおっさん……って!」

 俺は眼鏡がないのに気づく。

「お、俺の眼鏡は?」

「お風呂に入るんで外しましたよ」

「脱衣所にあるです」

 くっ。またもや迂闊。ボーナスばれよりも先に気づくべきだった。まさか眼鏡ナシに慣れてきてるんじゃないだろうな?

 流琉とねねに手を出したのも眼鏡ナシのせい?

 ……いや、二人が可愛いからか。二人が好きだからであって眼鏡ナシは関係ない。

 

「絶対にこのこと秘密だからな!」

「うん!」

 ……無理だろうね。季衣ちゃんのこと信じてないワケじゃなくて、隠し事できそうにないもん。

 やっぱり幽州行ってこよう。華佗見つかるといいなあ……。

 

 

 

 

 華琳ちゃんと相談して幽州へ向かう俺。もちろん風呂でのことは秘密だ。帰ってくる頃にはばれてるんだろうけどさ。

 これから先はいつ干吉が現れるかわからないから、華琳ちゃんから親衛隊隊長の季衣ちゃん、流琉を離すわけにはいかない。

「護衛には呂布がいいのでしょうけれど」

 呂布と旅なら怖いものなしなんだろうけど、大きな問題がある。

「季衣ちゃんよりすごいもんな」

 武力だけではない。食費もだ。二人旅なんて無理でしょ。

 かといってたくさん兵について来てもらっても目立ちすぎる。行きはともかく帰りは袁紹軍のことを考えると目立たない方がいい。

 で、つけてくれた護衛が傷が癒えた華雄だった。

 ねねもついてきたがったが今回はかなり危険なので諦めてもらった。

 

 

 俺と華雄は幽州へ到着、公孫賛に挨拶する。一刀君のとこで会ったきりの俺を公孫賛は覚えていてくれた。

 そこに袁紹軍の襲来。で、道場行き。

 攻めてきた袁紹軍に華雄が突撃しちゃって、俺も巻き込まれて死亡。次はよく言っておこう。ねね連れてこなくてよかった。いや、連れてきてたら上手く言いくるめてたかな? ……無理か。

 緑髪義妹のフラグクラッシャー効果は手を出したせいで消滅したっぽい。リーさん義妹には手え出さなかったもんなあ。それまでは効いてたみたいだから誰か他に……詠あたりに義妹になってもらうしかないのかな?

 

 

 久しぶりの道場についたらまずは引継ぎを確認。

 うん。増えてない。

 え? 風呂で流琉、ねねと?

 湯あたりしたんでお口だけでした。他の人に見つかるのも困るしね。

 ……引継ぎの条件がまた絞れたかな。

 

 華琳ちゃんに袁紹に攻撃されてることを告げる。

「早く帰ってきなさい」

 なんかニコニコしてるな。表情だけで感情が読めないのが怖いけど。これは……うん。季衣ちゃんを見たら確信した。やっぱりばれちゃったのね。

「兄ちゃん……」

 言いにくそうな季衣ちゃんの頭を撫でてからロードした。

 

 

 華雄にはしつっこく言い聞かせ、俺の護衛優先。反董卓連合の主犯を前にして暴れたいのもわかるけどね。

 様子見してたら城はもう落ちそうで文醜、顔良と戦っている公孫賛を発見。二枚看板を見つけてまたも突撃しちゃう華雄。

 誰だこの人護衛にしたの。

 まあ、それで隙ができたんで公孫賛を確保。煙玉を使って脱出。真桜の代わりに言っておこう。

「こんなこともあろうかと、密かに製作を頼んでおいた」

 俺が逃げる時に役立ちそうだしね。

 華雄には合流場所伝えてあるから大丈夫。あの二人相手なら華雄が不覚をとるってこともないだろうし。

 

 

 華雄とは簡単に合流できた。引き際は覚えてくれたのかな。敵の数が多くて二枚看板討ち取れなかったって嘆いてたけど無事でよかった。

 それからが大変。落ちのびた部下たちと合流したいって公孫賛が主張したけど目立つからって諦めてもらった。

 大丈夫、きっと一刀君のとこ行ってくれるって。でも聞いたら一刀君、徐州の州牧になってるって。

 ああ、一周目ずっと幽州にいたから忘れそうだったけど、真じゃそうだったんだよね。きっと一刀君なら大丈夫だよ、多分。

 

 ……その考えが甘かったことを、華琳ちゃんの元へ帰った時に俺は思い知ることになる。

 

 

 

 華佗を探したり袁紹軍を避けてたりしたら遅くなってしまったけど、官渡の戦いには間に合ったようだ。

 戻ってきた俺は白蓮を紹介。うん、白蓮の真名は幽州から戻ってくる際に預かっている。

 華琳ちゃんも俺のいない間に増えた新しいメンバーを紹介してくれた。

 

 郭嘉と程昱。うん。予定通りこのタイミングで入ってくれたのね。これで軍師面は問題ないな。

 真名交換、まあ俺のは真名じゃないんだけどさ。の後、じっくりと観察される。

 クイっと眼鏡を持ち上げてる稟。そこまでマジ鑑定?

「あなたが噂の」

 ええと、どんな噂かあんまり聞きたくないんですが。

「このおっさんが絶世の美男子って情報操作もすぎるってもんだぜー」

 おお、これが宝譿か。うん。喋ってるように見える。……見えるだけだよね?

「情報操作?」

「華琳さまの夫が美形とした方がいい。と桂花ちゃんが判断したのでしょうねー」

「そんなもんなの?」

 絶世の、とかって桂花が流した風聞か!

「風も星ちゃんの話を聞いていなかったら信じられないとこなのですよ」

 

 星? そういえばさっきからこっち見てるね。……あれ? なんで居るの?

「一刀君のとこじゃないの?」

「せっかくお待ちかねの人物をお連れしたというのに。あまりに冷たいお言葉」

 星は呉で俺がずっと探していた華佗と遭遇したらしい。

 もしかして華佗探してくれていて、反董卓連合にこれなかったのかな?

「周瑜殿の治療で少々手間取ってしまったが、皇一殿の帰還に合わせた形になった。問題ありますまい」

「華佗が……見つかった?」

「うむ。後で診ていただくがよかろう。礼は身体で払ってもらいますぞ」

 うっ。でも、華佗を見つけてきてくれたんだ。……また後ろで誤魔化そう。

 

 ラッキー!

 華佗発見に浮かれる俺。しかし次の人物が現れた瞬間、その心が急速冷凍される。

「愛……紗?」

「皇一殿、お久しぶりです」

「なんで? どうして愛紗が!?」

 俺の質問に辛そうに顔を背ける。答えてくれたのは華琳ちゃんだった。

「通行料よ。北郷たちが私の領地を抜けるための通行料」

 

「ほ、北郷さんたちは袁紹さんから逃げるために、私たちの領を抜けて、益州に向かいました」

 雛里ちゃんの説明で理解した。ああ、そんなイベントもあったっけ。でも、あれは断られたはず。

 なんで? 真・魏ルートのあのイベントですら、劉備がその要求を断ったのに。

 劉備は愛紗を手放さなかったのに、一刀君は……。

 

「なに泣いてるのよ」

「一刀君がそんな……」

 だって、一刀君がそんな決断をしなきゃいけなかったのって、もしかしたら俺のせいだから。雛里ちゃんや星、呂布がいなくて蜀ルートのような行動がとれなくて仕方なくて。

「皇一殿……」

「あ、愛紗。力になれることなら協力するからさ。あんまり落ち込まないで!」

「は、はあ。……私より皇一殿の方が落ち込んでおられる……」

 辛いだろうに俺の方を気遣うなんて、なんて優しい娘だ。こんないい娘を……。

 一刀君なんで? 劉備がいないから?

 やっぱり君は俺たちと結婚式した一刀君と違うの?

 

 その場に居合わせた星は、それで一刀君に仕えるのを諦めたそうだ。

「別れ際に絶対戻ってこれるからなどと愛紗に言っておられた。が、いかに天の知識だか知らぬが片翼を落としてはもはや飛べまい」

 たしかに。愛紗ちゃんまでいなくて一刀君どうするのさ?

 

 

 その後、華佗に診察してもらって周回ボーナスの治療は無理だとわかった。

「結論から言おう。君の身体は二本であることが正常。だから治療は必要ない」

「はあ。……切るしかないんですか?」

「切るのも薦められない。切った後の管を塞ぐ処置が難しい」

 ああ、そうか。切っても穴は残るんだからそこから出ちゃうのか。なんで気づかなかったんだろ。

 義妹たちが気にしないって言ってくれてるし、切らないで済むとわかって絶望感は少ない。けど……一刀君の決断がショックでかいなあ。

 

 

 

 俺が落ち込んでいる間に官渡の戦いは終わっていた。

 袁術がいない袁紹軍だけの敵と、集まりすぎてる武将、軍師を誇る我が軍。真桜の投石機もあるし負けるワケがないのである。まあ、俺は一度死んじゃったけどね。

「いい加減しっかりなさい!」

 道場で華琳ちゃんに説教されてロードした後は、前線に出させてもらえず待機。護衛に愛紗をつける徹底ぶりだった。

 

 俺だけじゃなくて愛紗も落ち込んでいた。後で聞いたら文醜、顔良の二枚看板を討ち取って「これで通行料分の働きはした」って一刀君の元へ戻るつもりだったそうだ。ゴメンね。

 袁紹、そして文醜、顔良は白蓮、呂布、華雄の三人が捕獲した。呂布、華雄の真名はまだ預かってない。ねねはもう恋殿って呼んで懐いてたけどね。

 

 

 

 

 ぼうっと愛紗の鍛錬を眺める。相手をしてるのは季衣ちゃん。

 愛紗に構ってやってって季衣ちゃんに頼んだ。鈴々ちゃんに似てる季衣ちゃんなら少しは慰めになるかなって。

 ……鈴々ちゃん今頃大変だろうな。一刀君とこの唯一の武将になっちゃったし。

 

「まだそんな有様なの?」

 嘘!

 いたの華琳ちゃん!?

 この俺が愛する華琳ちゃんに気づかないなんて……。

「こっちの一刀君はさ、やっぱりあの、俺たちと結婚式をしたあの一刀君と違うのがわかってさ」

「何度もそう言ってるわ」

「俺は、記憶なんか引継がなくたって一刀君は同じだって思いたかったんだ。……今の俺と華琳ちゃんたちは結婚式してないからさ、記憶なんて不確かなものしか絆がない。そんな記憶なんてなくても、運命の絆は確かなものだって信じたかったんだ」

 華琳ちゃんたちも引継ぎしなかったら俺なんか相手にしてくれないんだろうな。……そりゃそうか。

 

「なにを夢見る乙女のような甘いことを。そんなに気にするなら北郷一刀も引継ぎさせればいいじゃない。雛里あたりが喜ぶわ」

「それは無理じゃないかな」

「……試したの?」

「男同士なんて試すわけないでしょ! じゃなくて、お口や尻じゃ駄目っぽい」

「そっちは試したのね」

 迂闊っ! なんか睨んでるし。

「流琉とねね?」

 季衣ちゃんからボーナスばれてるってことはその組み合わせは容易に想像できるわけで。まあ、尻は星なワケだけど。

 ……ボーナスばれてるのに華琳ちゃんはなにも言ってこない。やっぱ気持ち悪いのかな。閨にも誘われないし。俺は冒険の書が便利なだけでここにいるのかな……。

 

「ううーっ、また勝てなかったっ!」

「いや、今のは悪くなかったぞ」

 どうやら愛紗たちの鍛錬が一段落ついたらしい。季衣ちゃんが肩で息をしてる。

「季衣の相手はしてくれるのに、どうして私の相手は断るのかしら?」

「愛紗は頼られると弱いからね。華琳ちゃんのは命令とか、上から目線だったんでしょ?」

「私の方から抱いて下さいと頼めと?」

「いやそうじゃなくて、愛紗が同情するようなシチュエーションをさ」

「しちゅえーしょん?」

「えっと、……って、何アドバイスしてるんだ俺? 無し無し、今の無し。愛紗になにしようとしてるのさ!」

 またもや迂闊。落ち込んでる場合じゃないぞ俺。なんかやばいこと言った気がする。

 

「もう、いいところで。けれど……ふふっ。おかげでいい案を思いついたわ」

 なんだろう。嫌な予感しかしない。

「皇一、あなた以前星に性教育をしたそうね?」

 げっ。それまで知っているのか。

「……すごく大雑把でいい加減なものだよ」

「詠もね、あまり詳しくないらしいの。だから指導なさい。他の娘たちも集めて」

 ああ。詠もだったっけ。どんな状況で華琳ちゃんがそれを知ったか気になるな。

「俺が?」

「ええ。私も天の性知識は気になるわ」

「指導って……授業すればいいのかな? 天のって言われても俺専門家じゃないし……恥ずかしいし」

 無理じゃない? 華佗に頼んだ方がいいと思う。専門家だしそういうの恥ずかしがらないし。

 

「やりなさい。今のあなたには気分転換が必要よ。北郷一刀のことを一度忘れなさい」

 華琳ちゃんにそう言われるとそんな気がしてくるから不思議だ。……そんな気がした時点で正常な判断力なんてなかったんだけど。

「……わかった」

 

 

 

 で、なんとか資料を用意して授業に挑む。

「受けるんじゃなかった……」

 武将とか軍師勢ぞろいしてるんですが。愛紗や捕虜のはずの袁紹たちもいるし。

 

 深呼吸してから真桜に用意してもらった教壇に立つ。

「え、えー、これから始める授業は、いやらしいとされることも含まれますが、大事なことなので真剣に聞いて下さい」

 茶化されると俺が恥ずかしいから!

「授業内容は知ってると思いますが」

 カカッと同じく真桜作の黒板に『子供のつくり方』と書く。それを見て若干名が頬を染めた。

「簡単に言えば交尾です」

 以上、終わり。

 

 ……で済ませられれば楽なんだけどね。それじゃ華琳ちゃん許してくれそうにないし知っている知識で説明する。

 

 

「……で、精子を卵子が受精すると妊娠するわけです」

 ふう。こんなもんかな? あ、大事なこと忘れてた。

「女性には処女膜というものがあります。初めての行為で破れてしまうのですが、痛いらしい。そして! 一度破れたら再生しません。大事にして下さい! つまり……結婚する男性としかするな!!」

 これが言いたくて俺、この授業引き受けたんだよね。

 

 やっと終わった。と、そう思っていたら華琳ちゃんが立ち上がって教壇に立った。

「では、次に実物を見せるわ」

「はい?」

 なにそれ? 聞いてないんですけど?

 ガラガラと分娩台のようなものが運ばれてきた。

 

「麗羽、ここに寝なさい」

 そのために捕虜のこの人呼んでたの?

「なんですの? 変な形の寝台ですのね?」

「この形なら、麗羽を皆に見てもらえるのよ」

「私の美しさを見せるためなら仕方ありませんわねえ」

 やっぱこの人馬鹿だ。分娩台に横になると文醜、顔良により脚の固定及び、猿轡がかまされる。

「ごめんなさい麗羽さま」

「じゃ姫、下着も脱がせちまいますね」

 文醜によって丸出しにさせられてしまう袁紹。

 

「さあよく御覧なさい。これが女性器。ここに男性器が入るのよ」

 華琳ちゃんによってくぱぁされる袁紹。

 むぐむぐ聞こえるのは袁紹の声だろう。抗議してるんだろうな。まさか「美しい私を御覧なさい。おーほっほっほ」なんてことはあるまい。

「華琳殿。女性器は鏡で自分のを見ればよかろう。むしろ男性器の方を見せた方が勉強になるではないか?」

 言ってることはもっともだけどね。君は見たことあるでしょ。触ったでしょ。使ったでしょ、星!

 

「ふむ。星の言うことも一理ある。皇一」

「ま、まさか……」

「勉強のためよ。見せなさい」

 嫌だ、そう言う前に春蘭と秋蘭に捕まっていた。いつのまにか用意されているもう一つの分娩台。固定される俺。

「ちょ、ちょっと!」

「桂花」

「はい」

 俺のズボンを、下着を脱がす桂花。

 

「きゃっ」

「ひっ」

「あわわ」

「なっ」

 姿を現した俺の双刀に様々な悲鳴が上がっている。……もう駄目だ。涙が溢れて止まらない。

 

「皇一、なんですぐに相談しなかったの?」

「……二本あるなんて気持ち悪いじゃないか。華佗にだって治せないんだぞ、これ」

「それほど気にする程のことでもないじゃない」

 優しく俺の頭を撫でてくれる華琳ちゃん。……でも拘束はといてくれないね。おっさん縛ってなにが楽しいんだよう。

「手が三本とかあったらどう思う?」

「便利ではないか!」

 春蘭はそんな認識なのか。ありがとう。涙が溢れて止まらない。

 

 

「ふが……話に聞く双頭の蛇とはこんな感じなのでしょうか?」

 鼻に紙を詰めている稟。何を妄想したんだか。

「蛇には二本のち●ちんがあるらしいですよ」

「んじゃ、おっさんは蛇の化身かー」

 蛇? ヘミペニスとは違うはずだけど……。って、風いつのまにそんなに近くに?

 

「風だけじゃなくて、気になる者は触ってみなさい」

「ぶっ、なな、何を仰るんですか!?」

「気味悪く思ったら触らないでしょう? それが証明できるわ」

 ああ、俺のために華琳ちゃん……って、そのドSな微笑みは違うよね。絶対別の目的だよね。

「月。どう?」

 よりにもよって月ちゃん指名しますか!

 

「へぅ……こ、恐くはないです」

 それから結局、数人が俺のに触診? していった。

「さて、残るは」

「まだあるの!?」

 もう勘弁してよぅ。

「後は実演だけよ。皇一、麗羽を犯しなさい」

 なに言ってるのさ華琳ちゃん。

 

「嫌だ」

「ここをこんなにしたまま言っても説得力ないわね」

「っ! お、俺は抱いた女の子が他の男とヤるの嫌だって知ってるよね?」

「ええ。独占したいなんて随分と傲慢よね」

 そうなの?

 普通でしょ。

 

「さ、さっきも言ったよね。処女は大事にしなさいって!」

「たしかに麗羽も初めてね」

 もうわかっているくせに再度袁紹を確認してる。

「結婚する相手としか駄目と言っていたわね?」

「袁紹とも結婚しろって言うの?」

「身体は悪くないわ。馬鹿だけど」

 どういう評価だ。

 

「……袁紹に引継ぎのこととか説明できる?」

 俺には無理。春蘭に説明するのだって大変だったのに。

「無理ね。わかったわ。そのかわり、今夜閨にいらっしゃい」

「え?」

「十倍返し。期待してるわ」

「華琳ちゃん……」

 本当に気味悪いとかないのか。良かった。

「またすぐ泣くんだから」

 

 こうして俺は、えらい恥ずかしい目に会ったのと引換えに、ボーナスを隠すことを止めた。

 後で知ることになるのだが、どこから流れたのかそれとも情報操作か「双頭竜」って異名も増えた。なんか悪役っぽい。……アルトロン? 左慈と戦いそうで嫌だなあ。

 

 

 

 その晩、喜び勇んで閨に行ったら先客がいた。

「愛紗?」

「華琳殿に呼び出されました」

「え? なんで?」

 もしかしてやっぱり俺とが嫌で愛紗呼んだの?

 だが、そうではなかった。

 

「さあ、三人で楽しみましょう。二本とも使えるのでしょう?」

 すでにもう全裸待機の華琳ちゃん。……まさか真・衣装を脱いでるせいで愛紗を欲しがる無印の性格が強く出ちゃってるの?

「愛紗は見逃せってば」

「まだ北郷に気兼ねしてるの? 北郷はもう関羽を売ったのよ」

 そんな言いかたしなくても……ほら、愛紗俯いちゃった。

 

「それに関羽を呼んだのには理由があるわ」

「え?」

「私、皇一を殺すかもしれないもの」

「皇一殿を?」

 なんで?

 なんかロードしてやり直さなきゃいけないほどのミスやらかした?

 

「皇一、わかっているの? 私は初めてなのよ」

「それはわかってるって」

 うん。ずっとボーナスを隠してたから。ずっと俺我慢してきたから。

 華琳ちゃんが俺以外で処女喪失してるなんて考えてないってば!

「わかってないわ。初めては、初めてだってことが」

「あ!」

 そうか。今まで俺が華琳ちゃんの初めてを奪った時は全部、華琳ちゃんの意識がなかった。

 

「痛みに耐えかねて反射的にあなたを殺してしまうかもしれない……」

 華琳ちゃんの瞳に涙が光る。

「前みたいに縛ってからは?」

「皇一殿、それはあんまりではないでしょうか」

 愛紗がついフォローしてしまう。華琳ちゃんの涙が効いたのかな。

 ……まさか華琳ちゃんそれを狙って? 迂闊な俺のアドバイスが活かされちゃってるの?

 

「ありがとう。関羽がいっしょなら耐えられると思うの。でも……もし私が皇一を殺しそうになったら止めて」

「曹操殿……」

「華琳と呼んで」

「ならば私も愛紗と」

 あれ? いい雰囲気で真名交換すんじゃってるよ。

 

「あ、愛紗?」

「いいのです、もう……」

「駄目だって。なに言ってるのさ。一刀君に置いてかれたからってヤケになるなって。さっきも言ったよね? 処女は大事にしなさいって!」

「構いません。ご主人様の役に立てないこの身などどうなっても」

 ああ、こりゃ重症だ。マイナス方面に思い込んだ時は面倒っぽいなあ。人のこと言えないけど。

 ……っていうか、愛紗まだ処女だったのか。真・蜀一刀君だとこの時点で鈴々ちゃんとしかヤってないはずだけどさ、劉備もいないから拠点イベント進んでると思ったのに。雛里ちゃんもいないんで忙しかったのかな?

 

 一刀君。

 一周目の一刀君、ゴメンね。もう君はいなくなっちゃったから俺は!

「わかった。じゃあ愛紗を一刀君から奪う」

「……好きになさればいい。できるものなら」

「じゃあ、愛紗も皇一の嫁ね♪」

「な!?」

「俺、さっき言ったよね。結婚する相手とだけにしなさいって」

 愛紗が真っ赤になる。

 

「そういうことを言う時は眼鏡を外しなさい」

 俺の貞操、じゃない眼鏡を奪う華琳ちゃん。まあ今回は仕方ないか?

 

 ……あとで真桜に眼鏡バンド作ってもらおう。

 眼鏡が外れにくくなるやつ。

 

 




 一刀が蜀を目指したのも、悩んだ末に愛紗を華琳のところに預けたのも三国志知識によるものです。
 オリ主は三国志に詳しくないのでそれに気づいていません。


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十八話   涼州戦?

 ボーナスというかペナルティというか、とにかく増えてしまった俺の息子には不思議な能力があるらしい。

 女性二人を同時に相手にした時、俺に貫かれてる女性は、もう片方の女性への挿入感や発射感を得られるというのだ。

 つまり、自分側ではない方の俺のからフィードバックを受けているっぽい。一時的に両性具有になれる感じだろうか?

 女性と男性の快感を同時に味わえるなんてすごいなあ。

 まあ、俺の方は自分の感覚だけだけど、女性二人を同時に感じられるんで不満は全くないんだけどさ。

 

 

「よかったわ愛紗。私はこの初めてを忘れない」

「っ!?」

 一瞬で耳まで真っ赤になっちゃったよ愛紗。

「愛紗も忘れては駄目よ。……皇一が忘れさせてはくれないかしら」

「わ、私は……」

「諦めなさい愛紗。皇一は例え死んでも離してくれはしない」

 まあ確かに、もう一刀君には渡すつもりないけどさ。

「いずれわかるわ」

 

 

 

 その後は待たせた分を取り戻すかのごとく嫁たちと。

 真・世界になったからな桂花はともかく、驚いたことに春蘭と秋蘭も処女だった。

「だから優しくしろと言ったのだ!」

 ゴメン。泣くほど痛かったのね。

 秋蘭も泣いて……るのはもしかして嬉しかったから?

「姉者の初めてを奪うことができるとは……感謝してるぞ天井」

 

 桂花も感涙かな?

「華琳さまぁ。華琳さまに捧げることができて幸せですぅ」

 ……なんか自分が双頭バイ●になった気がしてくる。

 

「一周目で叶わなかった三人の初めてが貰えた。嬉しすぎるけど、なんで?」

「ふふ。あなたに会うまでに他の男としてない証拠よ」

 一周目では彼女たちの処女を奪った覇王様がとっておいたくれたのか。俺の為に!

「信じてるって。でも、ありがとう」

 華琳ちゃんと桂花と同時に繋がりながら会話する。華琳ちゃんとキスしたいのに桂花の後頭部に邪魔された。

 

 

 季衣ちゃんだけは、流琉やねねに気を使ってるのかまだだった。

「兄ちゃん、もうちょい待ってね」

「兄様、ごめんなさい」

「兄殿、あと一人見つけるまで待つのですぞ!」

 ん? 二人づつにしたいのかな? 三人同時だと一本足りないか。いや、三本あっても物理的に三人同時はキツイかも? 触手ならともかく。

 可愛い義妹たちに軽くキスして頭をなでる。

「待ってるから」

 

 

 

 

 張遼と真桜が言い争っていたのでワケを聞いてみた。

 真桜が改良した偃月刀の出来に張遼が不満というものだった。

 強化したんだから角を増やさないと強そうに見えないって、真桜の気持ちはよくわかる。

 なのに張遼は猛反発。そんなに文句言うなら前の使えばよさそうなものだが、以前の物は折れちゃったそうだ。

 

「あのさ」

「何やおっさん!」

「張遼は、愛紗とお揃いがいいんだよね?」

「せや! なのに」

 張遼の不満を遮って提案する。

「真桜、愛紗の偃月刀も新調してあげて。これと同じ意匠で」

「……おお! 了解や」

 

 ポカーンとしている張遼に聞く。

「これでどう?」

 ドン、と背中を叩かれた。結構痛い。

「やるやないのおっさん。気に入った。ウチの真名預けたる。霞や」

 バンバンと背中を叩かれる。痛い痛い!

「お、俺は真名ないから皇一でいい」

 

「ん? 皇一?」

 じっと俺を見る霞。

「……華琳の婿の、魏の双頭竜!」

「気づいとらんかったんかい」

「しゃあないやろ、あん時はチ●コばっか見とったんやし」

 授業の時だろうけどその言いわけもどうかと。あとさ。

 

「なんですかその恥ずかしいの?」

「二本もあるからってそない恥ずかしがらんでもええやん」

「それじゃなくて!」

 そりゃいまだに恥ずかしいけど俺が気になったのはそっちじゃない。

「魏の双頭竜?」

「うん」

「知らんの? 隊長の二つ名や。街のみんなも知っとるよ」

 まさかまた情報操作? 軍師たちに聞いてみよう。

 

 

「そうよ。華琳さまがただの男を夫にしたんじゃないって知らしめるのよ!」

「……華琳ちゃんの趣味が悪いとかそんな噂にならない?」

「やっぱり没案の蛇おじさんのがよかったですかねー」

 ひぃぃぃぃぃぃ。なにその怪奇漫画のタイトルみたいの。

 

「こ、皇一さんが普通じゃなくてもそれは天の人の証拠になるんです」

「天といえば、蛇おじさんの牙門旗も完成したのですよ」

「蛇おじさんは止めてって。……天?」

「おかしいことはないでしょう。あなたの姓が天井なのだから旗印が天なのは当然のこと」

 そうは言いますけど稟さん。

「なんか色んなとこに喧嘩売ってない?」

 皇帝とか天の御遣いとかに。

「わかりますか」

 

「なんかこう変に、俺に箔をつけようとしているのはわかった」

「仕方ないでしょ。あんたの能力は人には説明できないんだから。そうなるとただの泣き虫強姦魔でしかないじゃない!」

「皇一殿の能力?」

「気になりますねー」

 余計に俺を注視する稟と風。照れるってば。

「お顔のことでしょうか?」

 帽子で顔を隠してるけど、頬を染めてるのがわかる雛里ちゃん。

「……なに? この三人はまだなの? 私の時は無理矢理だったのに!」

 ジト目で俺を睨む桂花。また仲間内の俺の評判を下げようというつもりか。

 

「わかったよ。もう桂花とはしないからさ」

「え?」

「だってそんなに嫌なんだろ? 俺も双方の合意がないのは嫌だし」

「そ、そんなこと言ってないじゃない! あんたは嫌いだけど華琳さまと繋がるにはあんたが必要なの!」

 おおっ。桂花が必要って言ってくれた。思わず抱きしめちゃう。

「は、放しなさい!」

 現金な話だが処女を貰ってから、前以上に桂花が可愛い。じたばたともがくのを構わずに頬ずり。

 

「か、華琳さまと繋がる?」

「なるほど。能力というのは女性二人を繋げるということでしたかー」

「あわわ……」

 いや違うから。俺は双頭バイ●じゃない!

「……華琳さまのが私の中に……私のが華琳さまの中に……ぶーーーーーーーーーーっ!」

 出来たばかりの牙門旗に鼻血が降り注ぐ。……血染めの天旗か、やだなぁ。

 

 

 

 

 北方四州を支配下においた魏。

 魏ルートだとたしか次は劉備が攻めてきたんだけど、一刀君は攻めてこなかった。

 攻めてきてたら俺が胸の痛みで、消えるENDの兆しがあったのかな?

 董卓陣営引き入れまくりに白蓮救出等、改変しまくってても、痛くならなかったから大丈夫だと思いたいけど。

 まあ愛紗も星も白蓮も呂布もこっちにいるんじゃ戦力無さすぎて攻めるとか無理か。一刀君、益州でも苦労してるみたい。袁紹が役に立ってればいいいけど。

 

 実はあのくぱぁの後、袁紹は北郷軍へ送られている。

「もういらないでしょう? 皇一も嫁にする気はなかったし」

「だからって一刀君のとこ? 殺しちゃうよりは後味悪くないけどさ」

「惜しいと思ってる?」

「いや、同じ教材となった仲間意識」

 あれ、すごい恥ずかしいんだって。

 あ、でも金髪さんだったからお守り貰っておけばよかったな。たしか貰えなかったからアムロ死亡フラグだったんで貰えれば生存フラグだったかも知れない。……惜しかったかも。だって華琳ちゃん生えてないし。

 

「通行料として愛紗は貰いすぎだから、お釣りね」

「愛紗を返す気ないんだね?」

「それは皇一もでしょ。愛紗が北郷に犯されるのを許せる?」

 無言で首を横に振る。

「ならいいでしょう。愛紗のかわりとしては無理があるけれど、嫌がらせとしては最高よ」

「……案外助けになるかも。一刀君のとこまだ人材少ないし、袁家の名とか幸運力とか。二枚看板がついてないのはかわいそうだけど」

 

 文醜と顔良は季衣ちゃんと秋蘭の薦めで魏軍に加わっている。

「あたいは文醜。アニキなら猪々子って呼んでいいぜ!」

「顔良です。真名は斗詩です」

 頬を染めて自己紹介してくれる斗詩。理由はやっぱりアレだよね。きっとこないだの授業を思い出してるんだろう。いまだに俺と会った時こんな反応する子数名いるし。早く忘れて下さい。

 

 そしてなぜか猪々子に付きまとわれている俺。いや、理由はわかっているけどね。

「なー、あたいと斗詩のためにさー、チ●コ貸してくれよー」

「だから斗詩の許可なしにそんなこと言うの、やめなさいって」

「だって、アニキ言ったじゃん。斗詩の処女貰ったらあたいの嫁確定になるじゃんよー」

「俺の嫁ということにもなるけど?」

「んだよ、アニキは斗詩が嫁じゃ嫌なのかよ! つーか斗詩はあたいの嫁!!」

 猪々子には手を出したくない。いや、可愛くないなんて思ってないよ。馬鹿で強引だけど嫌いじゃない。季衣ちゃんとも仲いいし。

 ただ、せっかく兄と呼んでくれる緑髪義妹のフラグクラッシャー効果を失いたくはないわけで。

「じゃ、そういうことで」

 深入りすると斗詩も納得しちゃいそうだから逃走。あの子、猪々子ちゃんの言うこと結局聞いちゃうし。

 

 

 

 

 久しぶりに一人寝の予定だった。

 今夜は華琳ちゃん、馬騰の所に行くからしばらく会えない春蘭を可愛がるらしい。

「皇一ががんばったら明日の長距離の移動が大変でしょ」

 てな理由で俺はハブ。そんなに激しくしないと思うけどなあ。

 

「白蓮も明日、春蘭と行くんじゃなかったっけ?」

 白蓮も漢の官位を持ってるし、白馬長史として有名だから悪い印象はなさそうなんで選ばれている。

「ですからこうして送別会をする次第」

「送別会ってのはちょっと違うような……。って俺の部屋は飲み屋じゃないんだけど、星」

 言いつつもテーブルと杯を用意する俺。

 

「馬騰をさ、ちゃんと華佗に診せてやってくれ」

 二人に頼む。驚いたことに馬騰は女性らしい。真・世界ならそうなんだろうだけど無印スタートだから男なんじゃないの? 変な泉で溺れたとか?

 とにかく、馬騰が女性なら患っているはず。で、華琳ちゃんと勝負せず服毒自殺。馬超と馬岱ちゃんは北郷軍へ。

 だけど、そうはさせない! そのために華佗も春蘭たちに同行してもらう。

 

「華佗といえば、まだ礼を受け取っておりませなんだ」

「礼?」

 飲みつつ聞く。

 ふっふっふ。たとえ酔っても真桜に頼んだ眼鏡バンドが完成した今、簡単には眼鏡は奪われまい。

「うむ。そのために白蓮殿を連れてきた次第」

「なんで私まで?」

「私一人で受けるのは無理……とまでは言わぬがいささか大変なのでな」

「って星、まさか!」

「白蓮殿といっしょにお願いする。今回は誤魔化されませんぞ!」

 ちっ、読まれていたか。

「大事にしときなさいって言ったでしょ!」

「何の話だ」

「白蓮殿も見たであろう、皇一殿の双頭竜を。アレは私一人では受け切れん」

 星までそれか。その呼び方は止めてって。

 

「礼ってそういうことか!?」

「ほら星、白蓮だって困ってるじゃないか」

「べ、別に構わないぞ、皇一なら」

「え? ……酔ってるだろ」

「酔ってなきゃこんなことは言えないだろ!」

 真っ赤になってる白蓮。赤いのは酔ってるだけじゃないよね。……だって白蓮そんなに飲んでなかったし。口調もまともだし。もしかして酔ってるフリ?

「皇一は命の恩人だし……その、見ちゃったし……私と同じで地味だし」

「いやいやいや。知らないとは不幸な白蓮殿。……ふむ、この場合幸いか?」

「白蓮は地味じゃないよ。十分可愛いって。けどそんな理由でいいの? 俺、抱いた女は離さないらしいよ」

 華琳ちゃんに言われてみたら納得できたけどさ。

 頷きも、首を横に振りも、どちらもせずに無言でじっと俺を見ている白蓮。これは了承したってことでいいの?

 

「……私の時はそんな話はしてくれませんでしたな」

 不満そうにされてもね。だって星は一刀君のとこに行くって思い込んでたし。

「アレは数に入らないって言ったろ。星もいいのか?」

「二言はない」

 

 

 華琳ちゃんの言ってたことは正しかったかも知れない。翌朝、白蓮は辛そうに旅立っていった。……大丈夫かな?

 

 

 

 

「月に近づくなっ!」

 緑髪義妹候補だった詠にはあの授業以来かなり避けられることに。……元から避けられてたけどさ。

「詠ちゃん、失礼だよ。命の恩人に」

「命の恩人?」

「洛陽ではありがとうございました」

 深々と頭を下げる月ちゃん。

「強引でゴメンね」

「いえ。あのままでしたら北郷軍に捕まってたかもしれません」

「それはたしかだけど一刀君なら二人のこと、酷い扱いはなかったんじゃないかな」

「それはないわ。北郷は愛紗を売るようなやつよ。月やボクたちなんて簡単に捨てる」

 うーん。通行料の話は詠まで知ってるのか。やっぱりこれも情報操作なのかな。一刀君の評判を下げるための。

 

「詠、ねねはどう?」

 詠にはねねの軍師としての教育をお願いしている。

「まだまだね」

 一言ですか。

「ねねちゃん賢いですよ」

 俺にお茶をくれながらフォローしてくれる月ちゃん。すっかりメイドが板についてきてるな。

「ありがとう」

 

「だから月に近づかないっ! ……ねねにも誘うなって言っといて」

「誘う?」

「あんたとの……っ、枕事!」

「ねねちゃん、季衣ちゃんと流琉ちゃんは二人で皇一さんとすればいいから、自分が余ってしまうって気にしてるみたいで」

 あっちの話は恥ずかしいのだろう、赤くなった二人が教えてくれた。

 むう。嬉しいけどねねも聞く相手考えた方がいい。……いや、焦ってるのかな?

 

「まったく。月ちゃんも詠もどっちかだけでって無理だろうに」

「ちょっと待ちなさい。それだと二人いっしょならあんたと……みたいに聞こえるじゃない!」

 あれ? ……そう聞こえるかも。

「へぅ……」

 さらに真っ赤にならないで月ちゃん。

「そ、そんな意味で言ったんじゃなくてね。と、とにかく、ねねのことよろしく頼むね」

 俺は逃げ出すしかなかった。

 

 

 

 

「己は最後まで漢の臣である。……それが、馬騰のこちらに対する回答でした」

 戻ってきた春蘭たちの報告はともかく、華佗は馬騰を診ることがかなわなかったらしい。

「曹操の薦める医者など信用できるか、だそうだ」

 ため息つく白蓮。ああ、これで涼州遠征が決定か。

 

 

「本格的に戦ったら馬騰が自害すると」

「うん。華琳ちゃんが戦うことはできないよ」

「……そう。そこまで弱っているの」

 閨で話す話題じゃないけどね。あんまり他の人に聞かせる話でもないと判断したから。道場でできればいいんだけど、無理に死にたくないし。

 

「んっ」

「無理しないでいいよ」

 今夜は俺と華琳ちゃんの二人きり。

 双頭バイ●扱いを俺が気にしてるのを察知したのか、一人で相手してくれている華琳ちゃん。

 なんだか辛そうで痛々しい。

 俺の方は途轍も無く気持ちいいんだけどね。華琳ちゃんの全てを感じているという満足感もすごいし。

「一人で二本同時に相手をするのは初めてだったわね」

「うん。俺の初めては全部華琳ちゃんに奪われてるな」

「逆よ」

 まあ一番最初は奪われたっていうのは語弊があるか。

 

 

 

「でさ、馬騰と涼州は諦めない?」

 たっぷり出した賢者な頭で話をする。

「皇一、あなた本数だけじゃなくて精力も倍になってない?」

「え?」

 そんなこと……言われてみれば体力とか一周目より少ないかも知れないのに、閨では一周目より頑張れてる気がしないでもない。

「二人で抱かれる時のあの感覚もないようね」

 そうなの? その辺は俺にはよくわからないんだけど。

 女の子二人といっしょじゃないと、もう片方の感覚がフィードバックされる効果が発動しないのかな?

「……まあいいわ。呉や北郷と戦う時に涼州に奇襲されたくないと言ったでしょう」

「だからさ、こんなのどう?」

 ちょっと思いついたことがあった。

 

 

 

 

 遠征を始め進軍を続けていた魏軍。涼州へと入る手前で動きを止める。

 そして、俺たちは作戦を開始。

 

「ほあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 現在俺たちがいるのはシスターズのライブ会場。魏ルートで涼州兵の奇襲を減らしたあれである。

 俺たちは観客席へと注意を向けていた。

「わかった? 今の元気な女の子が馬岱ちゃん」

 指差してみんなに説明。

 

「あの眉毛っ子やな。ホンマにきとるとは」

「ふむ。予定通り明日決行しましょう」

 驚いた様子をあまり見せない稟。うん。華琳ちゃんが絡まないとクールなんだよな。

「明日もきてくれるといいな」

 

 翌日。獲物がかかったとの報告に、俺はライブ会場の別室へと向かった。

「しすたーずのらいぶ総来場者数百万人記念だって、ここに案内されたんだけど」

 うん。ちゃんと馬岱ちゃんを連れてきてくれた。……百万人って随分サバ読んでないか?

「おめでとうございます。それでは記念品を受け取って下さい」

「やった! サボってきた甲斐あったかも」

 サイン色紙やシスターズの新曲の歌詞カード、その他グッズなどを渡す。

 

「もう一点あるのですが、そちらはライブの後にお渡しすることになります」

「え?」

「シスターズと同じ舞台衣装をお贈りしたい。お客様に合わせて調整しますのでライブ終了後にもう一度おいで下さい」

「うん。絶対くるから」

 馬岱ちゃんは嬉しそうに観客席へと向かう。

 ふう。なんとか上手くいくかな?

 

 

「お待たせー」

 馬岱ちゃんは先ほどの部屋へ一人でやってきた。ライブの興奮さめやらぬ様子でテンション高い。うん。説得にはいい状態かもしれない。

「はい、約束の衣装だよー」

「わあ♪」

 天和自らのプレゼントにさらに舞い上がる。この辺は年相応っぽいなあ。

 

「ちょっとお話よろしいですか?」

「うん。いいよー」

 ご機嫌で了承してくれた。

 

「馬岱殿、ですね」

「え?」

 一瞬驚いた表情を見せるもすぐに出口に目を向けるのはさすが。けれどそこはすでに凪、愛紗、白蓮が抑えている。

「え? 伯珪さん?」

 ああ、白蓮には会ってたんだっけ。

 

「騙したみたいでゴメンね」

「むう。たんぽぽが騙されるなんて……悔しいぃ!」

 暴れても無駄だってわかっているのかおとなしくしている馬岱ちゃん。

「安心してほしい。ちょっと交渉したいだけだから」

「交渉? こんなに見張りつけて?」

 ここで馬岱ちゃんに気を使って見張り減らしたりしたら逃げられるんだろうな。

「うん。それぐらいの価値が君にはあるからね」

 

「価値? たんぽぽそんなに強くないよ」

「可愛い子には油断しないようにしてるんだ」

 だって可愛い子は能力が高い世界だから。

「……もしかしてたんぽぽ口説いてる?」

「それはまた今度。今回はお願いがあって」

「お願い?」

 そう。そのためにこんな回りくどいことをしている。

 

「馬騰を華佗に診せてやってほしい」

「曹操の送り込んだ医者なんて信じられないよ」

「華佗が治療以外の行為をしたら俺を殺していいよ」

 じろりと俺を観察する馬岱ちゃん。

「おば様とおじさんの命じゃつり合わないってば」

 

「そうかな? 曹操ちゃんは悲しんでくれるよ」

 たぶん悲しんでくれる。まあ、実際には道場行くだけだけどね。

「……おじさん、誰?」

「名乗るのが遅れちゃったね。俺は天井皇一。字はないよ」

「天井……曹操の婿?」

 おお、馬岱ちゃんも知ってたか。

 

「嘘! だって曹操の婿って」

 俺の顔を覗き込む。やっぱりアレか。まったく桂花め、変な噂流さないでほしい。

「これでどう?」

 眼鏡バンドを外して眼鏡を外す。前髪を手櫛で整える。

「え?」

「ええ!?」

「なんと!」

 馬岱ちゃん以外からも驚きの声が上がる。……稟や白蓮には見られてなかったっけ。

 

「ほ、本物?」

「信じてくれた?」

「うん。えー、どうしよう?」

 どうしようって言われても。

「お願い。治療の間は魏軍が涼州へ攻め入ることはしないから」

 俺の独断じゃないよ。最初からそういう作戦。

 

「うーん。……じゃあさ」

「なに? できることならするよ」

「さっきの舞台衣装、もう一つくれない? お姉様の分」

「そ、それでよければ……」

 すぐに用意されて馬岱ちゃんに渡される。この要求、誰が予想してたんだろう。あと衣装のサイズとか。……衣装のサイズは華琳ちゃんの見立てかな。

 

 

 馬岱ちゃんと共に城へと向かう俺と華佗。護衛として白蓮。白蓮は白馬長史としての勇名を期待ってことで。この辺でも結構知られてるはずだったよね。

「たんぽぽっ、なんだそいつらは?」

 出迎えたのは馬超。

「公孫賛と華佗は会ったことあるよね。こっちは曹操の婿」

「捕まえたのか! よくやった。……でも曹操の婿ってのは人違いじゃないか?」

「うーん。捕まったのはどっちかっていうとたんぽぽかなー」

「なに?」

「あと人違いじゃないよー。曹操のお婿さんはお姉様の膀胱と同じくらい涙腺が緩いって噂だから、試してみたら?」

 なにそれ? そりゃ俺涙腺緩いけどそんなことまで噂になってるの? ……泣きたい。

 

「なっ、なんだよそれ!」

「あはっ♪ 皇一さん、お願ーい」

 仕方なく眼鏡を外す。……いつも思うんだが、これで俺の身分証明になるってどうなの? 一刀君のポリエステルみたいに服とかじゃ駄目なの?

「★□△○×っ!?」

 馬超が動揺してる間に馬岱ちゃんが説得。というか言いくるめて馬騰と面会。

 

 

 驚いた。

 馬騰が本当に女性だったとかそうじゃなくて。

 

 ロリBBA!

 

 まさか馬騰が馬岱ちゃんよりも幼く見えるなんて。

 もう馬騰ちゃんでしょこれ!

 馬超、馬岱ちゃんと同じ太眉ポニテでかなり可愛い。華琳ちゃんが欲しがるのもわかる。

 

「え? ええ? ……妹さん?」

 わかっていながらつい聞いてしまう俺。

「んなワケねえだろ。オレが馬騰だ」

 しかもオレっ娘。無印公孫賛が俺って言ってたけど真・世界となった今じゃ私だし。

 むう。非処女なのが残念でならない。……まさか処女ってことはないよね。馬超いるんだし。

 

「おば様、これが曹操の婿」

「天井皇一。字はない」

 面倒なんでまだ眼鏡を外したまま。

「ほう。お(めえ)が。わかってるだろうがオレが馬騰。なんの用だ?」

「華佗の治療を受けてほしい。お願いします」

 頭を下げる。

 

「おば様、華佗が治療以外の行為をしたら殺してもいいって」

「ええ。どうぞお好きなように」

「……曹操は何が目的だ」

「曹操ちゃんは馬騰ちゃんが欲しかった。けれど、馬騰ちゃんに断られてしまったから、せめて馬騰ちゃんとの戦いを楽しみにしている」

「ふん。曹操の気持ちはわからんでもない。それよりも! 馬騰ちゃんだと?」

 あ、ついそう呼んじゃってたか。

 

「俺は曹操ちゃんにだってちゃん付けしている。本人に断られた娘には止めているけど」

「言うじゃねえか孺子(こぞう)。気に入った。いいぜ華佗、やってくれ」

 おっさんを子供扱い? 馬騰ちゃんて呼んでるのの仕返しかな。

 まあ気が変わらない内に治療してもらおう。

 

 

「行くぞ! うおおおおっ!」

 ……そりゃ俺、治療以外したら殺していいって言ったけどさ。

「全力全快! 必察必治癒!」

 華佗が叫ぶ度に俺に槍向けるの止めてくれないかな馬超。

「五斗米道ぉぉぉぉっ!」

 治療に思えない気持ちはわかるけど。

「げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇっ!」

 華佗の針が馬騰ちゃんに刺さっていく。

 

 

「治ったのか?」

「かなり衰弱していた。体力の回復を待ちながらあと数度の治療が必要だ」

「……ふん。言うだけのことはあるようだな。オレの身体を見抜くとは」

「母様!」

 馬騰ちゃんの言葉にショックを受けたのか青褪めている馬超たち。

「だいぶ楽になった。礼を言う」

 でも完治には遠そうだな。

 

「けど、その様子じゃまだ曹操ちゃんとは戦えそうにない」

「んだと!」

「翠」

 馬騰ちゃんの一声で馬超が静かになる。

「では聞こう。オレは曹操に仕えるつもりはねえ。だが曹操の使者であるお前は戦えそうにないと言う。曹操はなにを望んでいる?」

「曹操ちゃんは万全の状態なら馬騰ちゃんとの戦いを望む。あと、別に仕えてくれなくてもいい。同盟でどう?」

「ふん。あまり変わらねえな」

 

「今、魏軍と戦って勝てると思う?」

「西涼の騎馬部隊をなめるな!」

 吠えたのはやっぱり馬超。

 馬騰ちゃんは黙って考え込んでいる。兵数とか武将とか計算したら勝ち目がないことわかってるんだろうね。

 

「そんなに馬に自信あるならさ、賭けをしよう。こちらの代表者とそちらの代表者で競馬……馬での競争をする。魏の代表が勝ったら馬超と馬岱ちゃんに客将として働いてもらう。そちらの代表が勝ったら魏はこのまま引き返す」

 これこそが本題。魏が手に入れるのは馬超と馬岱ちゃん。そうすれば呉や一刀君と戦ってる時に奇襲されにくいだろうし。

 

「そんな話、信じられるか! 曹操が引き返すワケがない」

 馬超は予想通りの反応を返してくれるんで扱いやすいかな。

「その心配は必要ないよ。だって負けないからね」

「ほう?」

 馬騰ちゃんの視線が鋭くなる。

 外見ロリなのに迫力あるなあ。かなりビビる。

 

「……魏の代表は、白馬長史公孫賛と神速の驍将張遼」

 まあ霞の神速は用兵の方なんだけど、馬でも速いしね。白蓮は聞いてなかったのか驚いた顔してるな。

「む」

「どう? やっぱり勝てそうにないから止める?」

「面白えこと言うじゃねえか孺子。翠、蒲公英。西涼騎馬の速さを思い知らせてやれ」

「おう!」

「ちょ、ちょっとお姉様!?」

「なんぴとたりともあたしの前は走らせねえっ!」

 うん。計画通り。

 

 



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十九話   馬?

「みんな大好きー!」

 特設ステージ上の三人に客席から歓声が上がる。

 

「錦馬超ーー!」

 慣れない天和コスが恥ずかしいのか馬超の動きがぎこちない。

 でも、胸でいったら馬超しかできないでしょ。

 

「みんなの太守」

 次は地和担当か。

 

「馬騰さまーー!」

 意外とノリがいいな馬騰ちゃん。うん。身体もキツそうじゃない。

 華佗の治療が効いてるみたいでよかった。

 

「とっても可愛い」

 こないだ天和に舞台衣装もらってたけど人和役なのか。

 

「馬岱ちゃんーー!」

 やっぱり一番楽しそうだな。この企画押し込んだ馬岱ちゃんは。

 さすがに眼鏡まではしないのか。

 

 

 

 俺の策によって決着を競馬でつけることになった魏と西涼。

 魏の代表、白蓮か霞が勝てば馬超と馬岱ちゃんは客将として魏に出向。

 西涼の代表、馬超か馬岱ちゃんが勝てば国境付近に陣取っている魏軍が引き返す。

 そう決めたはいいが、肝心のコースを決める際に出発点とゴールだけを提示した西涼に、魏は競馬場を造ることを提案する。

「ごおるでただ待ってるだけなんて、つまらないじゃない」

 とは我が愛する覇王様のお言葉。

 

 そして、馬騰ちゃんの許可を得て競馬場を製作。

「いいの? 工兵隊の能力見せちゃって」

「はい。真桜さんをはじめとした魏の工兵隊の力を知ることで馬騰は魏と戦っても勝ち目はない、と確信すると思います」

 雛里ちゃんの説明で納得。そうか。見せつけてたのか。

「まあ、溝やぬかるみ作って騎馬対策とかって工兵部隊の仕事だけど、対策とられたりしない?」

「それならそれでいいわ。面白い」

 華琳ちゃんはやっぱり戦いたいのかな?

 

 攻城兵器とか分解して材料にしながら観戦用のスタンド等まで造ったのに短い期間で完成したのは、工兵隊と整地に活躍した季衣ちゃんのおかげだろうな。作業を見に来た馬超たちも呆れてた。

「あんな大岩粉砕とかありえないよー」

「そうか? あれぐらいならなんとかなるだろ?」

 そういや馬超も猪々子と腕相撲で引き分けるぐらいに怪力だったっけ。

 

「ごおる前に坂があるんだー。思いっきり走ったら最後でバテそうだね」

 うん。俺競馬やらないから頼りになるのマキバオーの記憶ぐらいだし。たしか中山競馬場だったか、あれっぽくできてるはず。

「完成したら練習してみて」

「いいのか?」

「うん。ぶっつけ本番だと事故とか怖いしね。白蓮や霞も練習するから気にしないでいいよ」

「あ、たんぽぽ完成したらやりたいことあるんだよねー♪」

 

 

 

 やりたいことがまさか馬家によるライブだったとはね。歌は歌わないみたいだけど。

 観客席前の特設ステージで名乗りを上げると、魏兵も涼州兵も所属に構わず声援を送っていた。

 歌のかわりに明日からのレースの詳しい説明をしてる三人。

 ふーん、一日一戦で三戦。つまり三日かけるのか。一日で三戦すればよさそうなもんだけど。

「もー。あそこはわたしたちの出番でしょー」

「ぎゃらが出ないから譲ったの」

 愚痴る天和を人和が慰めている。

 

「それよりも馬騰の時の皇一の声援、ちぃの時よりも声が大きかった!」

「病み上がりっていうか、まだ治療中だから心配して力入ったかもしれないけど、そんなに違ってなかったろ?」

「ううん。ちぃにはわかる!」

 いやそう言われても。

 

「ちぃちゃんいつも皇一のこと気にしてるもんねー」

「たしかに地和姉さん、皇一さんが観客席にいると気合いの入り方が違う」

「ふ、二人だってそうじゃないっ!」

「皇一さんにはお世話になっているもの」

 ありがとう人和。無茶な請求書をなんとか処理した甲斐あったな。

「お姉ちゃん格好いい男の人好きだもん」

「ちぃだって!」

 いやあのね。……嫌な予感ビンビンかも。

 

「あ、ほら魏と西涼の騎馬による実演レースが始まるみたいだぞ」

「そんなのいいから皇一、らいぶに来る時は眼鏡を外しなさい。それが無理でもちぃたちといる時は外して!」

 誤魔化せなかったか。ってなに三人して俺を囲んでいるの?

 

「お、俺ちょっと仕上がり具合見てくるから」

 姉妹三人の連携に眼鏡バンドを奪われた俺は、なんとか眼鏡を死守して、デモンストレーションのスタートを合図に席から逃げ出した。

 

 

 

「どこへ行こうかな?」

 辺りを見回しながら廊下で悩んでいたら誰かとぶつかった。つい一瞬前まで誰もいなかったはずなんだけど走ってきたのかな?

「どいてって言っただろっ!」

 いきなり怒鳴られました。うん。謝ろう。俺が悪くない気もするけど。

「ごめんなさい。……馬超?」

 俺と同じく尻もちをついてるのは太眉巨乳ポニテだった。それもステージ衣装のままで。

 

「天井か……」

 言いかけた馬超が小刻みに震えだした。

 この展開はもしかしてアレ?

 馬超失禁イベント?

 まだ仲間になってないのに起きちゃうのか?

 

「ううー……ううー……」

 真っ赤な顔で俺を睨んで唸る馬超。ど、どうすれば……。

 

「こーいちー!」

「やばっ!」

「え? ちょっ」

 探しにきたのかもしれない地和の声を聞いた時、俺は瞬時に立ち上がり馬超を抱えて手近なスタッフルームへ逃げ込んだ。

 幸いなのか、誰もいないようだった。

 

「ふう」

 地和の足音が遠ざかったので一安心。

「は、離せってば!」

 気づくとお姫様抱っこをしていた馬超を解放する。力が入らないのかその場に座り込む馬超。

 見ると、馬超の腰の辺りに水溜りが広がっていた。

 

「えぐ……ぐすっ……」

やばい。泣いちゃったよ。

「こ、この衣装冷えるから嫌だって言ったのに!」

 へそ出し初めてだったのかな?

「もう終わりだ……」

 そこまで思いつめなくても。

 

「このことをネタにあたしは脅されるんだ……」

「なにそれ人聞きの悪い。俺が馬超の失禁をネタに身体を要求したあげく、調教するとでも言うの?」

「え? あたしに八百長をさせて魏に引っ張ってくんじゃないのか?」

「え? 陵辱されるって心配してるんじゃないの?」

 二人が勘違いに気づくまで数秒の沈黙。

 

 

「あ、あたしなんて陵辱してどうするんだよ! おかしいだろそれ!」

「ごく自然な流れだと思うけど。馬超可愛いし。スタイルいいし」

「すたいる?」

「体型、って意味かな。とにかく馬超は綺麗で可愛い。わかった?」

「か、かわいいなんてことないっ! ありえないっ!」

 ああ、馬超ってこうだったっけ。可愛いのになあ。

 

「ありえるの! そして、問題はそこじゃない」

 たしか一刀君はどうしたっけ? 失禁イベントは無印だったし、幼女のイベントじゃなかったから記憶が薄い。えーっと……。

 部屋を見回すと都合よく手ぬぐいが置いてあった。やはりこのイベントのために用意してあったんだろうか?

「そうだ。たしかこれだ!」

 手ぬぐいを高く掲げる俺を訝しげに見る馬超。

 

「な、なにを?」

「まーかせて!」

 まだ力が入らない馬超に近づき下着を脱がす。

「ひっ!」

 硬直してしまった馬超の股間を手ぬぐいでふきふき。

「見てないから安心して」

 嘘です。しっかり見てます。

「これでよし」

 お尻や太ももまで綺麗に拭いたら馬超を傍にあった椅子へと移動させて、床も拭く。

 

「りょ、陵辱されると思ったじゃないか!」

 泣きながら抗議してる。

「脅かしちゃったみたいでごめんね。俺は合意がないのは嫌だから」

「合意?」

「馬超が合意してくれれば今すぐにでもいいけど?」

「★■※@▼●∀っ!?」

 うん。驚きで涙は止まったかな。

 

「あとは下着だけど濡れたの履きたくないよね?」

「……うん」

 たしかここで代えとしてブルマを……ブルマ?

 しまった! さっきの記憶は無印とは別のエロゲだ。失禁からふきふきへの流れはたしか毒電波の……。

 

「さ、さっきのは秘密にするから気にしないで」

 慌てて言いつくろう俺。

「……ホントに、明日の勝負で負けろとかないのか?」

 そこまで信用ないのかな?

 

「あのね、そんな手を使って君を手に入れても、ちゃんと力を発揮してくれるかわからないでしょ?」

「あ」

「勝負は正々堂々。敗北に納得した君をお持ち帰りする」

「あ、あたしが負けるワケないだろっ!」

 よかった、元気出たみたい。

 

「だ、誰にも言わないでくれるか?」

「……例えばもし、俺が誰かに言ったとしよう」

「言うのか!?」

 涙目でガン飛ばさないで。怖いというより可愛いから。びびるよりもほっこりしちゃうから。

「だから例えばだって。で、誰がそれを信じるの?」

「へ? だ、誰って……」

 呆けた後、考え込む馬超。

 

「廊下でぶつかった錦馬超がお漏らししたって言ったって誰も信じないって」

「……」

「そんなことしたら俺の評判下がるだけでしょ?」

「そ、そうなのか?」

 むしろ俺が責められる気がする。

 華琳ちゃんだったら「なんで私を呼ばないの」とか。

 

「だから安心して明日の勝負に集中すること」

「……天井っていいやつだな。あ、顔の話じゃなくて」

「顔のことはいいから!」

 なんでそこで顔の話が出て……あれ?

「眼鏡が!」

 俺の眼鏡がない! ぶつかった時に外れたのか? 眼鏡バンドを奪われたままなのはマズかったか。

 

「これだろ?」

 え? なんで馬超が持ってるの?

「さっき拾っておいた」

「ありがとう! ……でゅわっ」

 馬超から受け取ってすぐに装着。

 

「……うん、あたしのことは翠って呼んでくれ」

「え? いいの? じゃあ俺のことは皇一で。真名ないから」

 よくわからんが真名を預かった。口封じだって殺されないで済んでるし、翠っていい子だなあ。

 

「じゃあ皇一、明日な。あたしの本気を見せてやるよ」

「うん。楽しみにしている」

 翠はノーパンで去っていった。

 

 ……さて、この下着どうしよう?

 

 

 

 

 翌日、予告通りに本気を見せた翠が先頭でゴール。

 まずは西涼が一勝となった。

「さすが錦馬超。やるわね」

「ますます欲しくなったか?」

「ええ。負けたら皇一に死んでもらおうかしら?」

 それは覚悟してるけどね。でも、負けたからロードしてやり直しってのは真・華琳ちゃんらしくはないかも。

 

「ちょっ! 明日勝てなかったら皇一を殺すのか? 華琳の旦那だろ?」

 あ、白蓮いたの? 気づかなかった。

「ええ。私の夫よ。そして今回の競馬勝負の立案者。責任はとってもらうわ」

「大丈夫だろ。次はきっと白蓮が勝ってくれるから」

「私が?」

「そうね。期待してるわ。皇一、今夜は明日のレースに影響出ないように程々にしましょう」

 しましょうって一緒にか? まあ白蓮一人だと明日辛いかもしれないけど。

 

 

 

「物足りない」

 華琳ちゃんと白蓮に腕枕して眠る俺。贅沢だなあ。

 ……明日の朝、俺の両腕大変かも。もうちょい密着してくれると腕の痺れも少ないと思うけど、眠れないだろうなぁ。

「程々って言ったのは華琳ちゃんだろ」

「そうだけど」

「華琳はやっぱり凄いな」

 寝てなかったのか白蓮。

「続きは今度にしてくれ。明日は絶対勝つからさ! 皇一に元気貰ったし」

「皇一、素顔で白蓮を抱いたのは初めてだそうね。する時は眼鏡を外しなさいといつも言ってるじゃない」

「なんかさ、初めてちゃんと皇一に抱かれた気がした」

 え、ええーっ!? 眼鏡してたっていいじゃんよぅ……。

 

 

 

 

 二戦目。最後の坂で失速し不安にさせるも白蓮が一位で逃げ切った。

 体重の軽い馬岱ちゃんの坂での追い上げは怖かったなあ。

 これで魏も一勝。決着は明日か。

「ふむ。皇一に元気を貰ったというのは本当かもしれないわね」

「白蓮の実力だって」

「今日は霞とかしら?」

「だから同意がないのは駄目って言ってるだろ」

「霞は初めてだからそれを考えると、今日は無理ね」

 俺の話聞いてます? ……霞は雰囲気つくってあげるんだったけかな。その前フリの話もしてないから今回はないでしょ。

 それに霞ってば同じ陣営にいるからずっと愛紗を狙ってるし。

 

「今日は先約があるんだって」

「まさか馬騰? あなた処女じゃなくてもよくなったの?」

「なんでそうなるの? 馬騰ちゃんは病人、そんなのするワケないでしょ。あと先約って言ってもそっちじゃないって」

「どうかしら?」

「シスターズのご機嫌取りだよ」

 眼鏡バンド返してもらってないし。一日空けたからそろそろ返してくれるんじゃないかと。

 

 

 

 

「皇一激しすぎー」

「ちぃたち初めてなんだから手加減しなさいよ!」

 すみません。これでもけっこう優しくしたはずなんですが。

「……けだもの」

 うっ。潤んだ瞳でそう言われるとなんかこうクルものがあるんですが。けど人和、その台詞は勘弁して。黒い天使達に殺されるフラグが立っちゃいそうじゃないか。

 

「眼鏡バンドを返してもらいにきたはずなのになんでこんなことに……」

「返す条件として眼鏡と交換ってことにしたでしょ」

「その理屈はおかしい」

 眼鏡がなくなったら眼鏡バンド必要ないじゃない。

「代わりの眼鏡あげるって言ってるのにー」

「いやそれ、天和たちが変装用に使ってるオシャレ眼鏡じゃん」

「こんな眼鏡のどこがいいんだか……もしかして呪われた妖眼鏡?」

 人の眼鏡いじりながら酷いこと言わないでくれ。

 妖術に詳しい君たちに言われると不安になるじゃないか。

 

「ちぃたちと眼鏡のどっちが大切なの!」

「そう聞かれた皇一さんが、身体で証明する! って私たちを」

「やっぱり眼鏡ない時の皇一って違うよー」

 なんか思い出してきた。眼鏡を奪われてしまった俺は、シスターズの方が大切って言ったら返してもらえそうにないから、誤魔化そうとしたんだっけ。なんでそんな選択肢選んじゃったんだろ。

 

 眼鏡無しの時はイケメン台詞要求されるっていうか、イケメン台詞要求される時は眼鏡を奪われるっていうか、……パブロフ?

 なんか華琳ちゃんに上手いこと調教されてる気がする。

 ……責任転嫁?

 

「三人いっぺんにやっちゃうなんて……」

「いっぺんって言うけど二人ずつだったし。皇一のおち●ちんが三本あればよかったのにー」

「勘弁して下さい」

 頼むからこれ以上使い辛くしないで。

「そんなことよりー、なんでお姉ちゃんが皇一の隣にいないかが問題だよ」

 俺は現在、地和と人和に挟まれて寝ている。泊まるつもりなかったんだけどね。

「早い者勝ちー!」

 ぎゅっと俺に密着する地和と人和。

「むう。……こうしちゃうもん!」

 布団に潜り込んできた天和が俺を挟む二人に構わずに俺に覆いかぶさる。

 

「へへー、暖かいでしょ♪」

 重い、って言ったら絶対怒られるから言わない。

 ……朝帰りしたら華琳ちゃんに「やっぱり」って言われるんだろうなあ……。

 

 

 

 

 

 三戦目。飛び入り参加者が二名。

「オレ、参戦!」

 我慢できなくなったのか馬騰ちゃんが参戦。身体は大丈夫なの?

 なにかあった時のために待機済みの華佗に聞いてみる。

「体調が戻ってきたせいで動きたくて仕方ないのだろう。このまま我慢させている方が精神的によくない」

 華佗がいいって言ってるなら大丈夫かな?

 

 そして二人目は、巨乳というか爆乳というか……馬よりも胸に目がいってしまう未亡人だった。

 弓は凄かったけど馬って速かったっけ?

「黄忠がこっちにこれるぐらい、一刀君は益州をまとめたってこと?」

「いえ、逆でしょう。益州をまとめるために馬騰の力を欲している」

「袁家に力を貸す豪族と公孫賛配下だった白馬軍だけでは不足です。馬騰と同盟を結びにきたのかと」

 稟と風の解説に不安になる。一刀君大変そうだ。

 

「もし魏が馬騰さんを倒しても、馬超さんや生き残った涼州兵を手に入れようと朱里ちゃんが派遣したんでしょう」

 魏ルートでも黄忠が翠を迎えに来ていたな。

 ……雛里ちゃん、一刀君がじゃなくて朱里ちゃんがって言った。天の御遣いよりも親友の方が気になってるみたいだ。

「雛里ちゃん、朱里ちゃんのところへ行きたいかい?」

「……朱里ちゃんのことは心配です。でも、私は華琳さまのために働きます。そして皇一さんのためにも」

「俺?」

「戦争以外の方法でも目的を叶えようとする皇一さんはすごいです」

 まっすぐ……というには俯きがちにチラチラと俺を見ている雛里ちゃんだった。

 馬騰ちゃんと戦っても魏はあんまり得してないように感じたから競馬勝負を思いついたんだけど、結果的に雛里ちゃんの好感度アップに繋がったのか。

 

 

 

「どうしよう?」

 一位は馬騰ちゃんだった。

「まだ本調子じゃねえな」

 あれでですか? ぶっちぎりだったのに。

 馬騰ちゃんちっこくて軽いから馬の負担も少ないってのが大きいのかな。それだけじゃなくて腕もいいんだろうけど。

 

「どうやら私の負けみたいね」

 俺を殺してのやり直しはしないのかな?

 その方が真・華琳ちゃんらしいけど、俺としては複雑な気分。

 

「いや、西涼の代表は翠と蒲公英だ。オレじゃねえ。だから今回は張遼の勝ちだろ」

 そう言えば馬騰ちゃんは参戦するとは言ったけど、代表としてとは一言も言ってなかったな。二位の霞の勝ちだと主張するなんて、なんというロリ男前。

「んなオコボレみたいな勝ちいらへんわ!」

「そうね。勝ったのはあなたよ、馬騰」

「そう言われてもなあ。翠、お前はどうしたい?」

「あ、あたしは……魏に行ってもいい」

 え? マジで?

 

「ほう」

「母様を治してもらった恩もある」

「蒲公英は?」

「お姉様が決めたんならたんぽぽもいいよー」

 義理堅い翠に対して軽い馬岱ちゃん。でも、二人がきてくれるなら本当に嬉しい。

 

「だってよ、悪いな紫苑」

「……仕方ありません」

 ごめんね璃々ちゃんのお母さん。

 ……黄忠の順位は最下位だった。相手が悪かったと言えばそれまでなんだけど、やっぱり胸が重いのかな?

 揺れは一番だったのに。

 

「どこを見てるの?」

 華琳ちゃんと桂花が睨んでる。安心してくれ。俺はちっぱいの方が好きだから!

「いや……愛紗?」

 言いわけしようと誤魔化す材料を探すために見回したら、複雑な表情をしていた愛紗に気がついた。

「な、なんでもありません」

 北郷軍の将を前にして話とかしたいのかな?

 でも今の表情はそんな感じじゃない……もしかしたら自分でもどうしたいのかわからないのか?

 愛紗を連れてそこから離れる。

 たどり着いたのはこの前のスタッフルーム。また誰もいない。もしかしてここ、使われてない?

 仮眠用なのかベッドまであるのにもったいない。

 

 

「……黄忠が羨ましい」

 ポツリと漏らす愛紗。おっぱいの話じゃないよね?

「ご主人様のために働ける黄忠が」

 やっぱりそれか。

 

「情けない! ご主人様のために働けぬこの身が!!」

 さっきの軍師たちとの話聞いちゃったのかな。一刀君が苦労してるのに自分は何もできないって。悔し涙……だけじゃないだろう。一刀君に会えない切なさとか、今まで我慢してた思いが一気に出ちゃったんだろう。

 ぽろぽろと大粒の涙を流す愛紗を抱きしめる。

 震える愛紗を強く抱きしめる。

 慟哭し続ける愛紗を強く強く抱きしめる。

 愛紗は俺を振りほどこうともせずに、ただただ号泣し続けた。

 

 

「お見苦しい真似を……」

 やっと愛紗は落ち着いてきたけど、まだ俺は離さない。

「ごめんね。愛紗を一刀君の元へ返すことはできない」

「……」

 愛紗の身体が硬直するのがわかる。けど、変になぐさめても駄目だ。

 ここは華琳ちゃんに調教されているこの身を上手く使うしかない。

 ……後で思い出したら恥ずかしさで転がりまくることを覚悟完了。

 ゆっくりと眼鏡を外す。

「一刀君のこと、忘れさせてあげる」

「なっ!」

 俺の台詞に愛紗が身構えた時、唐突に勢いよく扉が開かれた。

 

「兄ちゃん! なに愛紗ちゃん泣かしてるんだよっ!」

 ピンク髪を逆立てて怒鳴り込んできたのは季衣ちゃん。いや、元々結い上げた髪は斜め上に向かってるけどね。

 俺に使うつもりか鉄球を手にしていた季衣ちゃんだったけど、俺と愛紗の様子を見て首を捻る。

「……にゃ?」

 

 

「外まで聞こえてた?」

「うん。どこの部屋かわからなかったから探したよー」

 愛紗は真っ赤になって縮こまる。

「め、面目ない。心配かけたな」

「ううん。兄ちゃんもゴメンね、早とちりしちゃって」

「いいよ。殺される前にわかってもらえてなにより」

 さすがに季衣ちゃんに殺されたら俺、しばらく立ち直れない。道場の隅っこで体育座りしてずっと泣き続ける自信がある。

 

「兄ちゃんが愛紗ちゃんをなぐさめるの、ボクも手伝うっ!」

 季衣ちゃんは愛紗のこと、愛紗ちゃんて呼んでるのか。霞や凪もちゃん付けなのに桂花は呼び捨てだし、基準がよくわからん。

「手伝うって言われてもなあ」

「愛紗ちゃんとするんでしょ? ボクもまぜて!」

「季衣!?」

 そんなに驚かなくてもいいのに。季衣ちゃんも俺のお嫁さんなんだから。

 

「いいのか? 流琉やねねといっしょにって」

「る、流琉やねねまで!?」

 またも驚く愛紗。一刀君が既に鈴々ちゃんとしてる可能性が高いって知ったら卒倒するんじゃないだろうか。

「うん。でもボクが今しちゃえば、流琉とねねの二人でできるよねっ!」

 二人に気を使ってるのか。シスターズで三人同時経験したから幼女三人でも俺は構わないんだけど。

 

「元気になってね愛紗ちゃん!」

 ああ、キラキラした純粋な瞳の季衣ちゃんにこう言われたら、愛紗も逃げられないんだろうなぁ。

 

 



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二十話   蝶?

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 必死でランニング中の俺。

「新兵さんにもっとつき合うべきだったか……」

 北郷隊、じゃなくて天井隊の三人……なんか恥ずかしいな。ええと、三羽烏の新兵訓練に時々参加はしてるんだけど、兵士としてある程度頑張ってた一周目よりも身体が鈍ってるのは確か。

 現在走っているのは訓練でもなければ、なにか勘違いして怒ってる春蘭に追われているわけでもない。

 

「兄ちゃん早くー!」

 やっと季衣ちゃんに追いついた。

「もう流琉たち行っちゃったよ」

 別に鬼ごっこをしてるわけでもないが、俺は季衣ちゃんとともに流琉とねねを追っている。

 

「逃げたい気持ちはわかるんだけどね」

「え?」

「たぶん恥ずかしいんだよ」

 それってもしかしてさ。

「ほら、流琉とねねもやっと兄ちゃんとしたじゃん。それを思い出したんじゃない?」

 やっぱりそのイベントか。季衣ちゃんじゃなくてねねでも発生するとは。

 

 

 

 季衣ちゃんの初体験……四回目だけど初体験。今度こそ優しくできたはずのそれが済んだのを知った流琉とねね。

 魏に戻るなり求めてきた二人の可愛い義妹。俺が断れるわけないでしょ、うん。

「兄様のお嫁さんになります!」

「あ、兄殿の嫁になってやるです!」

 気持ちというか覚悟を確認。俺の言ったことをしっかりわかってる、なんていい娘たちなんだろう。……眼鏡を奪いさえしなければ。

 エッチの時は俺の眼鏡を奪え、とか華琳ちゃんに言われてたりするのかもしれない。

 

 

 

「ん? じゃあ季衣ちゃんも恥ずかしかったの?」

「うん。でもボクん時は気づいたらよくわかんないとこにいたし、その次は兄ちゃんに会う前に春蘭さまたちに恥ずかしい思いさせられたり、すぐに戦いになったりで逃げてる暇なかったから」

 ああ。季衣ちゃんの最初の初体験の後はいきなり道場で再会だったっけ。

「痛くしちゃってゴメンね」

「いいよー、兄ちゃんなら」

 疲れてる身体に鞭うって、季衣ちゃんを高く抱えあげてお腹に頬ずり。

「ありがとう季衣ちゃん。俺はいい嫁さんもらったなぁ!」

「もぉ兄ちゃんったら」

 苦笑しながらも抵抗しない季衣ちゃんのお臍ペロペロしそうだった俺は、しかし邪魔される。

 

「あのように締め上げてから丸飲みするのですね。さすが蛇おじさんなのです」

「……蛇おじさんはいい加減止めてってば」

「ろ、路上でそのようなことは……」

 チラチラとこちらを窺ってる雛里ちゃん。帽子の影から時々覗くその顔は赤い。

 風と雛里ちゃんか。予想外の組み合わせだけど。

 

「もう貧乳党結成しちゃったの?」

 キョロキョロと見回すも桂花の姿はない。

「ち、違いましゅ!」

「風たちをどう見ているかよくわかるのですよ」

「どうもなにも、小さくて可愛いのに凄すぎるとしか。……って今はそれどころじゃなくて!」

「嬢ちゃんをペロリといただくのなら、せめて部屋に戻ってからにしやがれだぜ」

 ロリをペロリか、上手いこと言うなあ宝譿。

 

「いや俺こんなとこでしないから! 嫁の裸とか他の男に絶対見せないから!」

 季衣ちゃんを強く抱きしめて主張。

「桂花ちゃんの言う通り、すごい独占欲ですねー」

「普通でしょ。それよりも、流琉とねね見なかった?」

 あのイベントだと途中で会うのは華琳ちゃんだったけど状況違うしな。ここで軍師さんに会えたのは有難いかも。

 

「ふむふむ。流琉ちゃんたちをモノにしたはいいが、恥ずかしがられて逃げられてる、と」

「うん。そうだよー」

「あわわわ……」

 季衣ちゃんが事情を全部話すから、雛里ちゃんがさらに真っ赤になっちゃったじゃないか。

 ……この二人なら状況から正解にすぐにたどり着くだろうけどさ。

 

「だから二人を捕まえるのに力を貸してほしい」

 頭を下げてお願いする。

 元のイベントだと嫌われるって泣き出した季衣ちゃんのために、流琉が自分から一刀君に捕まって二人で季衣ちゃんを捕まえてる。けど、今回逃げてるのは流琉とねね。季衣ちゃんのサポートで追い込もうにも、ねねに先読みされてしまい逃げ続けられてしまう。

 道場へ行けばすぐに捕まえられるかもしれないけど、そのために死ぬのもなぁ。

 

「ねねちゃんも親衛隊で働いてますから」

「季衣ちゃんの行動はよく知っているというわけなのです」

 そうなんだよねー。俺の動きも読まれてるのかな? それにさ。

「詠が軍師として鍛えているのもあるし」

「まだ直情的なとこはあるけどね」

 

「詠? いつからそこに?」

「流琉とねねを毒牙にかけた、あたりかしら」

「なるほどー。蛇だけに毒牙ですか。詠ちゃんもやりますねー」

 なんですかこの風の蛇推しは? なにか理由があるんですか?

「あわわわ……」

「へぅ……」

 雛里ちゃんだけじゃなくて月ちゃんまで赤くなってるじゃないか。詠と二人で買い物にでもきたのかな。

 

「罠をしかければいいんじゃない?」

 詠の発案に悩む。

「罠? 桂花みたいに落とし穴掘ったんじゃ、怪我させちゃうかもしれないし。縄か網でも仕掛ける? でもそんなの得意な娘なんて」

「ここにいるぞーっ!」

 馬岱ちゃん?

「面白そうな話してるねー。たんぽぽもまーぜて♪」

 ……なんかどんどん大事(おおごと)になっている気が……。

 

 

 

 縛られて身動きが取れない俺。隣には同じく縛られた月ちゃん。当然のごとく詠が抗議する。

「なんで月まで!」

「だっておじさん一人だとそういう趣味で楽しんでるだけかも、って見られちゃうし」

「俺にそんな趣味はないってば馬岱ちゃん」

「たんぽぽでいいよー」

 俺たちのまわりに罠を設置していた馬岱ちゃんが真名をくれた。

「いいの?」

「うん。だからどうやってお姉様から真名聞き出したか教えてねー」

 ああ、翠の真名を貰ってるから信用してくれたのかな。

「俺には真名ないから好きなように呼んでくれていいよ。おじ様とか」

「蛇おじ様?」

「蛇関係以外で頼む」

 だからなんで蛇?

 

 さすがに街中でこんなことはできないので、場所は人気(ひとけ)の無い川のほとり。

 季衣ちゃんと流琉が逃げるイベントで、一刀君が季衣ちゃんを捕まえた場所はここでいいはず。

 そこに杭を立てて、俺と月ちゃんが縛り付けられている。……背中合わせになってるので縛られた月ちゃんを眺められないのは残念でならない。

「かかるかな?」

「流琉ちゃんもねねちゃんも優しいからきっと助けにきてくれますよ」

 月ちゃんの慰めは嬉しいけど、思いっきり不自然だよね。なんで俺たち縛られてるのとかさ。

 それになんかこれって別のイベント思い出すんだよなあ。そっちにもたんぽぽちゃん絡んでるし。

 

 

「可憐な花に誘われて、美々しき蝶が今、舞い降りる! 我が名は華蝶仮面! 混乱の川辺に美と愛をもたらす……正義の化身なり!」

 ほら、やっぱり。別のが釣れちゃったよ。

 どこでその仮面入手したのさ。無印スタートだから倉庫の整理関係ないのかな?

「ふう」

「助けにきたのに溜息とは?」

 俺たちが縛りつけられてる杭の上に立つ星。上手いこと罠を避けるもんだ。

「いや、あのね」

 星に説明しようと見上げたら、すぐそばの高いところに居るわけで。……つまり。

 

「下着が見えてる」

「なっ!」

 顔を隠してぱんつ隠さず。絶景だなあ。

「何も見えていない、いいですかな?」

 なんか冷たい声アンド頬に当たる冷たい感触。これってもしかして星の槍?

「もしかして怒ってる?」

「怒ってなどおりませぬ。ただ、縄を切る際にちょっと手元が狂うかもしれないだけで」

 

「兄様から離れてっ!」

「兄殿、今助けますぞ!」

 星に謝る前に流琉とねねが到着。なにやら勘違いしているようだ。

 

「皇一殿!」

「皇一!」

 さらに愛紗と翠が現れる。

 華蝶仮面イベントにシフトしてるのかな?

「その槍をどけろ!」

 まあ、縛られた俺に槍を向けたままじゃ勘違いされるのも仕方ないよね。

 

「ふふふ。さて、どうしたものか?」

 なんで楽しそうな声なんですか星さん。

 隠れて見ている季衣ちゃんたちなんとかしてくれないかな?

 初めて華蝶仮面を見るからその力量わからなくて、流琉や愛紗、翠なら大丈夫って安心してるんだろうけど。

 

「どけねえなら力づくだ!」

 翠と愛紗が突撃してくる。

「わたしも!」

「待つです!」

 続こうとする流琉をねねが止めた。その理由はすぐに流琉も悟る。

 

「卑怯者!」

 縄によってぶら下げられた二人が星を睨む。

 たんぽぽちゃんが仕掛けた罠に二人とも引っ掛かっちゃった。

 あの二人があっさり掛かるなんて。俺のことが心配で罠への警戒が疎かになっちゃったのかな? ってのは自惚れがすぎるか。

「やはり罠でしたか」

「気づいてたんだ」

「無論」

 ひそひそと星と相談。もちろん俺の目線は星の紐パン。

 

「退いてくれない? ワケは後で説明するから」

「このまま勘違いされたままでは正義の誇りが」

「みんなにもちゃんと説明しておくからさ」

「……」

 流琉とねねは罠を用心しながら近づいてきている。もうすぐ流琉のヨーヨーの射程に入るはず。あれの巻き添えは勘弁したい。俺はともかく、月ちゃんも危ないしね。

 眼鏡を光らせながら星に告げる。右側からこう左側に流れるように光らせた。全面一気に光らせるよりも難しいんだよ、このテクニック。

「その仮面よく似合ってるよ、常山の昇り竜さん」

「!」

 正体を知ってるぞと脅す俺。それが効いたのか、星は俺と月ちゃんの縄を切ってどこかへと去った。

 あの辺の木が揺れてるとこ見ると、枝の上跳んでるの?

 

「兄様!」

「兄殿!」

「心配かけちゃったね」

 罠を避けながら二人に近づく。今度は逃げようともせず俺に抱きついてくる二人。

 二人の頬にスリスリしながらチラリと愛紗と翠を見ると、季衣ちゃんたちが助け出していた。

「みんなにも迷惑かけちゃったし、お詫びとお礼に食事でも奢らなきゃならないだろうなあ」

 やっぱりこのイベントは散財オチなのか。

 ……三羽烏や三姉妹にもちょくちょくたかられてるし、指輪買う予算いつ貯まるかなぁ。

 

 

 騒動のおかげか、流琉とねねにも手を出したことはすぐに知れ渡った。

 俺は情報発信元は星と風じゃないかと睨んでたりするけど。

 別に俺は隠したり否定したりはしない。可愛い義妹が可愛い嫁になっただけだし。

 いや、義妹で嫁か。

 

 

 

 

 その日、軍議は北郷領から戻ってきた間諜さんの報告がメインだった。

「……そう。北郷は、益州に随分梃子摺っているのね」

 五虎将が鈴々ちゃんと黄忠だけだし、っていうか武将もか。厳顔、魏延はまだなのかな?

 鈴々ちゃんの経験値とか凄そうだよなあ。あの子、やる時はやるし。今はやる時ばかりだろうしまさか、常時長坂橋状態だったりして。

 袁紹は……白蓮抜きだと大変そうだなあ。猪々子や斗詩もいないし。璃々ちゃんが面倒見てたりするのかも。

 この分じゃ定軍山はないのか、それとももっと後か?

 

「関羽を売ったことが益州まで知れ渡っているのも大きいかと」

 いやそれ、言ってる桂花が情報操作してるんじゃないの?

「それでも劉璋さんよりはマシだと益州の民は支持し始めているようですねー」

 どんだけ無能なの劉璋さん。

「朱里ちゃんはたぶん、天の御遣いに付き従う民のために、愛紗さんが泣く泣く自分から華琳さまに身を差し出したと宣伝してるはずです」

「ええ。あれは関羽の先走った独断だったと、すり替えているようです」

 雛里ちゃんの予想に補足する稟。

 これもやっぱり情報戦なのかな?

 

「さすがは伏竜といったところかしら。北郷の評判回復と同時に、愛紗が戻ってきやすいようにするとは」

 戻りやすいかなあ? ……売られたよりはいいのか。

「けれど、もはや愛紗は私のもの」

 ふふっ、と楽しげな華琳ちゃんを睨む愛紗。

「心まで華琳殿のものになった憶えはない!」

 簡単に挑発に乗っちゃ駄目でしょ。でも、譲れないとこなんだろうなあ。

 

「あら、身体は私のものになったと認めるのね?」

「なっ!?」

 えっと、今、軍議の真っ最中だよね?

「……一刀君がこれ以上勢力を大きくする前に、こっちから攻め込んでしまうの?」

 華琳ちゃんが愛紗の心証悪くしないようについ口を出してしまった。

 

「……孫権はどうなっているの? そちらの間諜も戻っているのでしょう」

「現状、孫権に大きな動きはありません。依然戦力は高いまま。兵の士気も同じく、団結も強い」

 袁術ちゃんがいないから、か。

 孫策もいないけど、地元の豪族とかまとめおわってて地盤はもうできあがっていると。真で追加の黄蓋、周泰、呂蒙もいるだろうし強敵だねえ。

 

 

 結局、一刀君よりも先に呉を攻めることになった。

 赤壁どうなるんだろ。やっぱり蜀と呉は同盟するのかな?

 まあ武将が多い今の魏ならなんとかなるだろうけど。

 ……その魏を相手にしなきゃいけないんなら同盟の可能性高いか。

 

 

 

 

「……ぜぇっ、ぜぇっ……」

 追いかけっこの反省から、呉との戦いのために仕上げ段階の新兵さんの訓練につき合う俺。

 基礎体力だけでもと思ったが、キツい。キツ過ぎる。

 筋力、体力とかの能力も引継いでくれれば、一周ぐらい捨てプレイ前提で鍛えるのになあ。

 ……嘘ですごめんなさい。こんなのずっとなんて耐えられないかも。

 

「……つ、次は?」

 息を整えながら凪に聞く。

 凪の隊は今日は休みなのだが、俺が参加すると聞いていっしょに調練につき合ってくれていた。

 軽くウォーミングアップが終わった、程度にしか見えない凪。すげえなあ。

「後は沙和の罵倒の時間のようです」

「そうか……それには付き合えそうにない。俺、ここで上がる……」

 なんとか立ち去ろうとするが、膝が笑ってやがる。

 見かねて、凪が肩を借してくれた。

「お送りします」

「いつも済まないねえ」

「いえ、問題ありません」

 そこは「それは言わない約束でしょ」なんだけどなあ。真桜なら合わせてくれるかな?

 

「それに、私も沙和の罵倒は受けたくない」

「そりゃそうか。罵倒だけならともかく、沙和は俺たちをお洒落させようとするからな」

「まったく。訓練にかこつけて」

 二人して大きくため息。

 

「……隊長ならわかりますが、なんで私まで」

「凪は可愛い女の子だからわかるけど、地味なおっさん弄くっても楽しくないだろうに……」

 二人して顔を見合わせる。

 肩を借りてる状況だから、顔が近い。可愛いって言われたせいか、凪の頬が赤い。

 うん。やっぱり可愛い。

「ふふ……」

「はは……」

 苦笑しながら俺たちは練兵場を去った。

 

 

「ここでいいよ」

「ここ庭ですよ?」

 城庭の隅で凪から離れる。

「日当たりもいいし、少し昼寝していくから」

 本当はもう限界で、動きたくないだけ。ごろりと横になった。

「ありがとう、休みなのにつき合ってくれて。もう、後は好きにしなさい」

 

 目を閉じて日差しを感じていたら、首を持ち上げられる感覚。

 そして、後頭部に柔らかい感触。

 こ、これはもしや!?

「凪?」

 瞼を開けると、頬を染めてはにかんだ凪。

 俺は、今まさに、膝枕をしてもらっている!

 これに感動しないでいられるだろうか!!

 

「わ、私の膝などお嫌でしょうが、そのままでは首を痛めます」

「う、ううん。嫌なワケがない! ありがとう……」

 感動の言葉を伝えたいのに、簡単な礼を言うしかできない俺。情けない。

 なんか凪の顔を直視していたら、顔が熱くなってきたのできっと真っ赤になっているのだろう。

 赤面した顔を隠すため、首を横に向ける。

 ……やばい! 頬に凪の生太ももの感触。こ、これはまずい。誤魔化すように目を閉じる。

 

「隊長?」

 ゆっくりと俺の頭を凪が撫でてくれる。

 ……ふう。凪の優しい手で、欲情しかけた俺がどこかへ消え去った。

 霞が邪魔しそうな展開でもあるけど、今の霞は愛紗狙ってるもんなあ。そんなことを考えながら、俺の意識は眠りの底へ落ちていく。

 

 

「けど、華琳は怒るんじゃないの?」

 話し声で目が覚めた。「華琳」に反応したんだろうな。

 目を開けると少し困ったような顔の凪。

「お目覚めになられましたか?」

 囁くような小声で聞いてきた。

 状況がわからずに頷く俺。まだ膝枕されたままなので、首を動かすと、凪の太ももにスリスリしてしまう。

「お、お静かに」

 やっぱり小声でそう注意された。

 話し声の相手に気づかれたくないのだろうか?

 

 

「そこは確認済みなのです」

 どこだろ? 声は聞こえるんだけど……。

「よくそんなの聞いたわね」

「ふふん。気にすることなどないと言っていたです」

「それって天井(あまい)のことはどうでもいいってこと?」

 え? 俺?

 この声は詠とねねだよね。なに話してんの?

 

「ええと……どゆこと?」

 猪々子もいるのか。

「例えば、斗詩が誰かに抱かれたとする」

「んだと!」

「例えば、の話」

「例えばでも許さねえ! 斗詩はあたいんだ!!」

「普通はそうなるでしょ。なのに華琳は気にしないって。一応、夫って公言してるのに」

 ……まあ、俺の場合は引継ぎとかあるし……。

 どうでもいいってわけじゃないよね、華琳ちゃん?

 

「ふん。小さいわ」

 今度は桂花か。

「あんたなら、華琳があの蛇ち●こをどうでもいいって言うと思ったけど?」

 詠まで蛇って言うな。

「私は華琳さまをよく知っているもの。そう、私が一番華琳さまを知っているの!」

「じゃあ、なんなん?」

 霞もいるのか。なんの集まりかわかってきた気がするけど……ねねがいるのはやっぱり呂布狙いなの? なんか寂しい……。

 

「あの泣き虫接続器を華琳さまはねえ……」

 桂花までなんか呼び方変わってるし。でも、泣き虫は外してくれないのね。

「天井は華琳さまのもの。天井のものは華琳さまのもの」

 ジャイアニズム?

 俺の嫁は全部華琳ちゃんの嫁、って……すごく納得できるけど! すごく言いそうだけどさ。

 ……引継ぎとか秘密にしてたらそんな説明しかないか。さすが桂花ちゃん、俺の嫁!

 

「なによそれ。あんたはそれでいいの?」

「よくはないけど、あなた達も見たでしょ。アレを使いたくてここで相談してるんじゃないの?」

 桂花の発言の後、しばらく声が聞こえなかった。

 

 

「……季衣がな、愛紗とやった言うとったん」

「そうなのです。ねねも流琉と大人になったのですぞ!」

 それが聞こえた瞬間、凪の顔が赤く染まる。純情だなあ。

「……あいつ、小さい娘じゃないと駄目なの?」

 いえ、前はそうだったけれど、今はおっぱいも平気ですよ。ちっちゃい娘が素晴らしいのに変わりはないけど。

「ねねは小さくなんてないのですぞ! だいたい、愛紗はどうなるですか!」

「せやなあ。春蘭と秋蘭もおるし、ウチにも望みあるやろ?」

 霞の質問に大きなため息が聞こえた。桂花かな。

 

「あの泣き虫接続器を使用する条件は二つぐらいよ。一つは処女であること」

 道具扱いを続けるつもりか。まったくもう、素直じゃないんだから。

「もう一つは?」

 また大きな溜息。

「双方の合意、だそうよ。私の時は合意なんて……」

 さすが俺の嫁! よくわかってるね。

 

「けどさー、あたいはいいって言ってるのにアニキ、嫌がるんだよー」

 いやだってフラグクラッシャーな緑髪義妹は、もう猪々子しかいないからさ。

「あんたのことだから、斗詩が合意してないんでしょ」

「斗詩だってあたいと繋がりたいはずだって! あたいの嫁なんだからさ!」

 

「……条件は二つだけど、アレを使いたいならアレの嫁になる覚悟は必要よ」

「よ、嫁え!?」

「私のように嫁にされる……誰があんなやつの! ……そう、そうよ、私は華琳さまの嫁!」

「ねねも兄殿の嫁なのです!」

 ありがとう! ねねを抱きしめたいなあ。出て行き辛いから無理だけど。

 気づいたら、凪がさらに赤くなってこっちを見ていた。

 かと思ったら、視線が合うと顔を逸らされた。

 

 

「じゃ、愛しのあの娘とどうやったらあーんなことやこーんなことが出来るか考えようの会、臨時会合は、これにて解散ということで」

 身動きできず潜んでいたら話は終わったようだ。やっぱりそんな会合だったか。

「ねねに感謝するです」

「まあ、参考にはなったか。おおきにな」

「なに、礼は兄殿のお顔を見てからでいいのですぞ」

 いや、ねねが礼要求したんじゃ? ……俺の顔を見るって……まさか、やっぱりそういうこと?

 

 

 

 ……もうみんないなくなったかな?

 ゆっくりと立ち上がると、目の前に霞がいた。

「おはようさん」

「お、おはよう……」

「し、霞さま」 

 まさかばれてたの?

 

「凪はええけどな、皇一、女の内緒話を聞くもんやないで」

 さすが武将、やっぱりばれてた。

「い、いや出るタイミングを外しちゃって……ごめんなさい」

「すみません、隊長を起こすのは忍びなくて」

 

「まええ。聞いとったんなら話は早い。愛紗と合体させてえや」

 合体って。あんたはどこぞの釣りバカですか。

「あのね、聞いたでしょ、両者の合意って。愛紗の合意はとったの?」

「皇一が愛紗に頼めば大丈夫なんちゃう?」

「華琳ちゃんも季衣ちゃんも自分でちゃんと頼んだよ」

 季衣ちゃんはちょっと違ったけど。

 

「そ、そんなん……恥ずかしいやん」

 俺だってそんなの頼むの恥ずかしいってば。

「合体とか言うけどさ、それは甘~い時間を過ごして最後の最後に、だろ?」

 真・魏の霞ならこれが望みのはず。

 

「……愛紗と合体するのと、愛紗と甘~い時間を過ごすの、どっちがいいの?」

「どっちて……」

「どちらか決まったらできる範囲で協力する」

 川原にろうそく立てるくらいしかできないけどね。

「ホンマか!」

「すぐには決まらないだろうから、よーく考えて」

 時間稼ぎ。その間に愛紗と相談しよう。

「おーきに!」

 なんとか誤魔化せたか。……面倒事が増えただけかもしれない。

 

 

「じ、自分で頼む……」

 凪もなんか赤い顔でぶつぶつ言ったと思ったらぶんぶん頭を振ってるし、どうしたもんかな?

 

 

 

 訓練のせいで酷い筋肉痛。うん、まだ翌日にくる歳じゃないな。

 妙な安心感を得ながらもストレッチやマッサージをする気力もなくそのまま寝ようとしたその時、コンコンと俺の部屋の扉をノックする音。

 ノックは一通りの知り合いには教えているけど、一番この部屋に遊びに来る季衣ちゃんやねねはノックしてくれない。誰だろう?

「はい、どなた?」

 痛む身体に鞭打って扉を開ける。

 

「こ、こんばんわ」

「こんばんわ」

 訪ねてきたのは月ちゃんと詠の二人だった。

 

「こんばんわ。……立ち話もなんだから中に入って」

「は、はい」

 月ちゃんの赤い顔と昼間の詠たちの話……ちょっと期待したいけど、筋肉痛が……。

 

「若い娘さんがこんな時間に男の部屋を訪ねるなんて感心しないな」

 似合わないだろうけどおっさんらしい説教気味な台詞。部屋に入れてから言っても説得力ないよね。

「へぅ……」

「こ、こんな時間にくるなんて理由はわかるでしょ!」

 やっぱりか。気持ちは嬉しいんだけどタイミングが。

 

「……皇一さんの素顔を見ただけで、その日は一日幸せに過ごせるくらい、皇一さんのことばかり考えてます。お、お慕いしています」

 素顔、か。月ちゃんには朝起こしてもらう時があって、その時見られちゃうんだよね。眼鏡して寝るわけにもいかないし。

 ……いつもじゃないのは華琳ちゃんたちのとこに泊まることもあるからね。

「ありがとう月ちゃん」

 前に命の恩人って言ってくれたね。そのおかげ? それとも素顔? でもお慕いしてるって言ってくれるのは本当に嬉しい。

 

「月ちゃんの気持ちは本当に嬉しいよ、でも」

 言いかけてる途中で詠が詰め寄ってきた。

「でも? なに、月にここまでさせておいて応えないつもり!?」

「いやそうじゃなくて」

「あ、あんたの蛇ち●こでも大丈夫なようにボクだっているんだから! 月一人じゃ無理でもボクも一緒にすればいいんでしょ!」

 蛇ち●こは止めてって。二本だけど蛇みたいに仕舞えないんだから。不便なんだよ、これ。

 

「落ち着いて。……月ちゃんの気持ちに応えてあげたいんだけど、筋肉痛で身体が辛い」

 ううっ、情けない。華佗がこっちに居れば治してもらうのに!

 馬騰ちゃんの経過を診るって西涼に残っちゃったもんなあ。

「だ、大丈夫ですか?」

「こんな時になに言ってんのよ」

 肩から力が抜けた詠が睨む。

「そんなこと言われても……今夜来るって知ってたら訓練サボったのに」

 筋肉痛じゃ死ねないしなあ。

 

「寝なさい」

「え?」

 ベッドを指差す詠。

「いいから寝なさい」

 初めてでいきなり上に乗るつもり?

 言われるままベッドに横になる。

 

「揉んであげるから」

 ああ、マッサージしてくれるのか。

「わ、わたしも」

 二人で俺の手足を揉み解してくれる。

 二人の小さな手が一生懸命優しく揉んでくれている。

 

 ……二人からいい香りがする。ああ、お風呂入ってきたんだ。

 二人とも覚悟してきたのか……月ちゃんなんて告白までしてくれたのに……。筋肉痛なんて言ってられないよね。

 

「もういいよ」

「でも」

 俺はゆっくりと眼鏡を外した。

「これからは俺が二人をほぐす番」

 

 

 ……俺、明日動けるかなあ。

 

 




 巳年なので蛇推しです。
 初出時、新年一発目の投稿でしたので。


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二十一話  証明?

「え? え?」

 久しぶりに道場にやってきた俺は引継ぎを確認。

 メンバーが増えていることを確認すると、いつも通り道場の人数が増える。

 そしてその道場新メンバーの少女たちは号泣しながら出現したのだった。

 

「兄様……」

「兄殿ー……」

 流琉、ねね。

 可愛い義妹たちよ、なんで泣いてるの?

 

「皇一……」

「こーいちー……」

「皇一さん……」

 天和、地和、人和の三姉妹。

 姉妹で抱き合って泣いてる。……また間に挟まれたいな。

 

「皇一さん……」

「蛇ち●こ……」

 月ちゃん、詠。

 詠、泣くときぐらい蛇は止めて。

 

「皇一殿ぉ……」

「皇一……」

「皇一殿……」

 愛紗、白蓮、星。

 星までも泣いてる?

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 斗詩。

 泣きながら謝り続けてる。

 

 

「……どういう状況?」

 ふと見ると、華琳ちゃんが楽しそうに見ていた。むこうは理由がわかっているのね。

 

「ぐすっ、……あ、兄殿の姿が見えるです……」

 ねねが俺に気づいた。

「兄様ぁ……」

「皇一さぁん」

 その言葉が引き金になったのか、流琉や月ちゃんがさらに号泣。

 

「いや、あのね」

 見えるって、幻扱いされてるの?

 そりゃ地味で影薄いかもしんないけど、それはあんまりじゃない。

 

「お姉ちゃんにも見えるよぅ。……幽霊?」

「化けて出るんなら眼鏡ぐらい外しなさいよぅ」

 今度は幽霊扱い……。しかも無茶な要求まで。

 

「ん? 幽霊ってことは、俺が死んだってわかっているのね?」

「わかっているもなにも、皇一殿を殺したのは私だ」

「愛紗?」

 おかしい。そんなはずはない。

「いや、俺を殺したのは猪々子じゃ……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさい!」

 即座に斗詩が泣きながら頭を下げる。普段の苦労がわかるよ、うん。

 

「斗詩が謝ることないよ。もちろん猪々子も悪くない。悪いのは俺」

 そう。

 全ては俺がフラグクラッシャー効果維持のため、緑髪義妹に手を出さないようにしたせい。

 某スカル1なリーさんにあやかったそれは、流琉とねねで効果を確信していたけど、義妹に手を出すと消滅するっぽい。リーさんも義妹を嫁にしてればよかったのに!

 

 

 

 猪々子に捕獲され、真エロイベントの一刀君と同じ要求をされた俺。

「チ●コになれ!」

 斗詩も同意してしまっため、逃げられなくなっていた。

 でもやっぱり、猪々子がアニキと呼んでくれてるおかげか最近死んでなかった俺は、フラグクラッシャー効果を失いたくなかったわけで。

 

「なんで斗詩に二本とも使っちゃうんだよ!」

 そりゃ義妹に手を出せないからなんだけど、猪々子には言っても無駄だろうし。

 話をすり替えるしかないよね。

「猪々子が斗詩の初めてを、前後両方同時に貰ったんじゃないか。どうだった、両方の初めてを奪った感想は?」

「あ、あたいのチ●コが斗詩の初めてを両方……そっか。うん、そうだよな!」

 うん。猪々子ならきっと誤魔化せる。……かな?

 

「じゃあ次はあたいにも!」

「次?」

 そうきたか!

 それでもやっぱり斗詩に両方を。三度目も斗詩に両方。その後、猪々子が泣きながら俺を殴った。

「アニキのバカヤロー!!」

 それが俺が聞いた最後の言葉だったわけなんだけど。

 直接手を出さなくても、いっしょにエロイベント突入したせいでフラグクラッシャー効果無くなっちゃったみたい。

 それで今までの死亡フラグが一気に発動してすぐ死んじゃったのか。

 

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「だからいいってば。初めてだったのに、両方同時で激しくしちゃってごめんね」

 いまだに深く頭を下げたままの斗詩を慰める。

「兄ちゃん、いっちーを嫌いにならないで!」

「俺を殺したぐらいで嫌いにならないって。一番俺を殺してる華琳ちゃんへの愛だってずっと燃えてるんだよ、俺!」

 次に俺を殺してる春蘭だって好きだよ。処女くれてからは前よりも!

 

「初めてで両方同時……しかも激しく……」

 な、なんか華琳ちゃん睨んでない?

「そ、それで、なんでみんな泣いたり愛紗が俺を殺したことになってるの?」

「皇一が死んだからよ。そして、殺したのは愛紗」

「……どういうこと?」

「猪々子に暴行を受けた皇一は死ななかった。けれど、起きることはなかった」

 ああ、脳死……とはちょっと違うかな。とにかく打ち所が悪かったと。

 

「ずっと眠り続ける皇一を、楽にさせてあげようと決めたの」

「私が皇一殿を……」

 それで愛紗が殺したって。……でもなんで愛紗が? 華琳ちゃんや春蘭じゃなくて。

 貞操を奪った俺を殺して、一刀君のとこへ戻ろうとか?

 

「愛紗はね、皇一を独占したかったの」

「?」

「たとえ殺す役でも誰にも渡したくなかったのね」

 みんな嫌がって仕方なく引き受けたんじゃないの?

 

「……私はずっと皇一殿に惹かれていた。自らの治療すら後回しにして、我らを手助けしてくれたその時からずっと!」

「俺に? 一刀君じゃなくて?」

「ご主人様のことも……二人の方を同時に好きになるなど、私はなんと軽薄で不純だったのだ」

 いや、そんなことないでしょ。一刀君と同じくらい好きってことは愛紗の一番なわけだし嬉しいよ俺。

「皇一殿が二度と目を覚まさぬと知った時、本当に愛していたのが誰かを悟った。そして、私の(こい)が死んだ。女としての私は死んだ!」

「一刀君がいるでしょ?」

 ゆっくりと首を横に振る愛紗。

「たとえご主人様の元へ戻れても、それは武将としての私。女としての私は皇一殿とともにこの世より消えさった」

 なんかすごい思いつめちゃってるなあ。

 俺が死んじゃったから思いで補正とか入って、本命とか勘違いしちゃってるんじゃないのかな?

 

「私も兄様以外の男の人を好きになりません!」

「ねねもですぞ!」

「わ、私もです」

 泣きながらも口々に言ってくれる少女たち。

 うん。やっと状況がわかってきたよ。

 

 

「俺が死んで泣いてくれている娘を初めて見たんで、俺も混乱してたみたい」

「それは普通そうなのでは?」

 星はもう泣いてない。俺が幽霊じゃないことに気づいたんだろうか。

「あのね、俺は何度も死んでるんだ」

「どういうことよ」

 さすが軍師。詠も泣き止んで……まだ泣いてる? 泣きながら質問したのか。

 申し訳ないけどなんか嬉しい。

 俺のためにみんなこんなに泣いてくれてるなんて。

 今までは道場に来ても泣くのは俺。せいぜい季衣ちゃんが慰めてくれるぐらいで、俺のために涙を流してくれる娘なんていなかったもん。

 

 

 一通りのことをみんなに説明。

 猪々子としなかったのは、この説明が大変そうだってのもあるんだよね。

 春蘭みたいに華琳ちゃんが言うから信じる、ってわけにもいかないだろうしさ。

「そんな馬鹿な!」

「そう思う気持ちはわかるけど、本当なんだ」

「じゃ、じゃあまた兄様に会えるのですか?」

 手の甲で涙を拭いながらの流琉。ごめんね、悲しくさせちゃって。

 

「うん。今後ともよろしく」

「ごめんね流琉ー、兄ちゃんの力のことって説明が難しくってさ。春蘭さまや桂花だって信じてくれなかったんだよ」

 頭をかきながら季衣ちゃんが謝る。

「そうだったか?」

 そうだったでしょ春蘭。そのおかげで俺の死亡数、一回増えてるし。……腹上死ってあれっきりの死に方が。

 

「信じられん……」

「愛紗、ああまで言った手前、引っこみがつかないだけではなくて?」

「!」

 図星だったのか真っ赤になっちゃった。

 勢いで(こい)が死んだ、とか女としての自分が死んだ、とか言っちゃったの思い出したんだろう。さっきから俺と目を合わせてくれないし。

 

「愛紗、気持ちはわかる。私だって酔ってた時のこと思い出すと恥ずかしいしさ」

 白蓮の微妙な慰め。

「白蓮殿のあれに比べれば先ほどの愛紗などまだまだ」

 ああ、星はもう泥酔白蓮を知ってるんだ。あのイベントもうやっちゃったのか。

 

「と、とにかく! 死んでもやり直しがきくなどという馬鹿な話があってたまるか!」

 死んでも、じゃなくて死ななきゃ、なんだけどね。

「ズルすぎるよねー」

「そうは言うけどさ地和、死ぬのは痛いし苦しいんだよ。それを何度も味わうってのはかなり辛いんだって」

 何度殺されても慣れないんだよ、死ぬ時のあの感覚。

 

「それに今回のように、生かさず殺さずな状況を作り出せれば、皇一の能力を封じることができるのもわかった。死ななければ使えないのだから」

 なんか華琳ちゃんすごい怖いこと言ってない?

 

 

「で、ここにいる人たちが皇一さんのやり直しに付き合わされるってこと?」

 人和がみんなを見回す。

 ……あれ? そういえば道場主の姿がないな。どこ行ってるんだろ?

「そう。皇一が死ぬまでの記憶を引継げる。その条件は皇一に抱かれること」

 数名が頬を染めていた。ここにいるってことはもう誤魔化しようないんだよね。

 

 ついでだから、現在のメンバーをまとめてみよう。

 まずは一周目で俺と結婚式をした華琳ちゃん、季衣ちゃん、春蘭、秋蘭、桂花の五人。

 そして今回追加の愛紗、白蓮、星、流琉、ねね、天和、地和、人和、月ちゃん、詠、斗詩の十一人。

 足して十六人。……すごいな、一周目で一刀君が結婚した数を超えてるじゃないか!

 

「ずいぶん増えたわね」

 華琳ちゃんも同じ感想を持ったようだ。

「うん。俺が一番信じられない、俺がこんなにみんなに……」

「あら。当然よ。私の夫なのだから」

「……ありがとう華琳ちゃん。まあ、これ以上はさすがに増えないかと思うけど」

 あとはあるとすれば猪々子と霞ぐらい?

 猪々子は泣かせちゃったし、フラグクラッシャー効果無くなったみたいだから願いを叶えてあげたい。

 霞は約束してるから、どうなるかわかんないし。愛紗次第?

 

「さあ、どうかしら?」

 意味ありげに微笑む華琳ちゃん。

 ないと思うけどなあ。

「じゃ、そろそろロードするよ」

「二番目で始めなさい」

「え? セーブ1の今朝……数日起きなくてから死んだみたいだから今朝じゃないか。……最新の記録からじゃなくて?」

 セーブ1に記録。それが毎朝の日課。

 セーブスロットが三つしかないからこまめな記録はこれが限界。

 

「二番目、よ。どこで記録したかなど見当がつくわ」

 うわ、ばれてるのね。

 以前、一周目の華琳ちゃんの初めての直前でセーブしていたセーブ2は、実は今、二周目の華琳ちゃんの初めての直前でセーブしてる。

「そこならば愛紗も信じるしかないわ」

 愛紗も初めての状態だからかな。

 

 

 

 

 華琳ちゃんの言うまま、セーブ2をロード。

 けど、ここってまだ翠とたんぽぽちゃん仲間になってないんだよなあ。

 やっぱり華琳ちゃんは馬騰ちゃんと戦いたいのかな?

 

 セーブ2を記録していたのは閨の扉の前。

 やっと華琳ちゃんとできるからって嬉しくて上書きしたんだよね。一周目の時よりいい状況だからもういいと思ったし。

 ……あれ? もしかして一周目のセーブデータだったら俺ってボーナス適用前?

 元に戻れるチャンス、無駄にしちゃった?

 ……迂闊っ! 気づかなければよかったかも……。

 

 扉を開けると、当然のごとく華琳ちゃんと愛紗。

「こ、皇一殿!」

 赤面した愛紗が慌ててる。

 

「ほら、ちゃんと生きてるでしょ、俺」

 愛紗の頬にそっと触れる。

「どう? 冷たい?」

「い、いえ。本当に生き返って……」

 愛紗の目が潤んでくる。

「皇ぅ一殿ぉ……」

 涙ぐむ愛紗の頭を抱いてそっと撫でる。

「……皇一殿の鼓動が、心音が聞こえます!」

 俺の胸に耳を合わせて目を瞑って、それを聞いている。

 

「生き返ったのとは違うわ。生きてる時に戻ったのよ。これからそれを証明してあげる」

「華琳殿?」

 もうすでに全裸待機だった華琳ちゃん。

 何度見ても綺麗。堪能してたら眼鏡が奪われた。ぽいっと雑に放り投げられる。壊れてないといいなあ。

 

「初めての斗詩に、両方を同時に使ったそうね」

「うん。旗折り効果の緑髪義妹維持のためだったんだけど結局それは駄目だったし、可哀相なことしちゃったよ」

 今度があったら猪々子といっしょに優しくしてあげないと。

「……私だってそれくらい……」

「え?」

「私にも同時に両方使いなさい!」

 な、なに言ってんの華琳ちゃん。

 こないだ二本同時した時だって結構辛そうだったじゃないか。

 

「無茶しないで。今の華琳ちゃんは初めてなんだよ。愛紗といっしょでいいじゃないか」

 そう言ったら愛紗の身体がビクッと反応して硬直しちゃった。

「斗詩にはできて、私にはできないと言うの?」

「もしかして……焼きもち?」

「そっ、そんなのじゃないわ! ただ、私がしてないことをされたのが悔しいだけよっ!」

 真っ赤な顔で否定する華琳ちゃんは可愛いなぁ。

 

 

 

 よほど辛かったのか、ぐったりとしている華琳ちゃん。

 俺なりに気を使ってしたつもりだけど、やっぱり初めてで二本同時はハードすぎるでしょ。

 ただでさえ華琳ちゃんは小さいんだし。

 なのにさ。

「……次よ」

「もう無理だって」

「愛紗としなくちゃ、証明できないでしょ」

 華琳ちゃんの出血で証明できてる気がするのに。

 

「こ、皇一殿」

 愛紗はずっと閨にいた。

 逃げ出すタイミング失っていたのかな。

「愛紗、もう信じてくれたよね?」

「はい。ですから、私も」

 良かった。これで華琳ちゃんの身体に負担かけないですむ。

「私も皇一殿の全てを受け止めます」

 あれ?

 

「華琳殿はお休み下さい」

「愛紗……」

 なんか華琳ちゃんと愛紗でアイコンタクトが成立してるんですけど。

 華琳ちゃんがコクンって頷いたんですけど。

 

「私は嫉妬しています。皇一殿の全てを受け入れた華琳殿に」

「華琳ちゃん、辛そうだったよね?」

 愛紗の前なせいか痛いとは一言も言わなかったけれど、慣れてない身体でただ耐えていただけに見えたはずだ。

「辛くとも皇一殿のために耐え切った。それこそが皇一殿を愛している証」

 そうなの?

 愛されちゃってるの?

 

「ですが、私も皇一殿をお慕いしております。もはや迷いません。私はあなたを愛しています」

「愛紗……」

「華琳殿に、そして季衣に流されたのもあなただったから。二人の誘いを断ることができなかったのは皇一殿を愛していたから。……初めて私からお願いさせてもらいます。抱いて下さい」

 俺は初めて愛紗とキスをした。

 繋がることはあっても、心のどこかで一刀君に遠慮していたのかもしれない。それが消し飛んだ。

「華琳ちゃんのを見ててわかるだろうけど、俺は途中で止められないよ」

「覚悟してます」

 

 

 

 

 道場の隅っこで体育座りしてさめざめと泣く俺。

 そんな俺をスルーして道場新メンバーたちは情報交換中。

 

「久しぶりに麗羽さまに会いました」

 まだ袁紹が一刀君とこに送られる前だったからね。

「翠とたんぽぽがいなかった」

 涼州行く前だってば。

 

「けど、また道場にきたってことはもう死んだの?」

 詠が呆れた顔で俺を見る。

「守ることができなかった……」

 悔しそうなのは愛紗。激しくしちゃったんで動きが悪かったんだね、きっと。

 

 俺を殺したのは華琳ちゃん。

「愛されてるって思ったのに……」

「私の初めてを三十一度も奪っておいて、よくもそんなことが言えるわね」

「三十一度!?」

 華琳ちゃんの発表に驚くみんな。

 ……そりゃ驚くか。

 

 ええと、華琳ちゃんの引継ぎに気づいた時が二十六回目。華琳ちゃんに殺されて引継ぎを知って。

 ロードして術を解いて二十七回、季衣ちゃんとやって殺される。

 ロードして術を解いて二十八回、腹上死。

 ロードして術を解いて二十九回。一周目終了。

 二周目になって愛紗と一緒に、で三十回。

 

「うん。さっきので三十一回目だ」

「中に出されたのは三桁を軽く超えるわね」

 やっぱり愛されてるからそこまで受け入れてくれてるって思っていいのかな。

 それだけやって妊娠してないのは危険日避けてるからなんだけど、華佗にでも聞いたのかも。

 俺としては孕ませたい気もするんだけど、全部終わってからだろうなあ。妊婦華琳ちゃんを楽しめるのは。

 

「もしかして全部数えてるの?」

「さあ?」

 本当だったら痛い女なんだろう。

 でも、それが華琳ちゃんだとすごく嬉しかったりする。頭いいから忘れてないだけかもしれないけど。

 ……なんか春蘭と桂花の目が怖い。桂花なんてぶつぶつと三十一とか三桁とか繰り返してるし。

 

 怖いので離れようとしたら春蘭が、がしっと俺の両肩を掴む。

「次は誰なのだっ!」

「次?」

「貴様が処女を奪った回数だ!」

 がくがくと揺すられながら答えた。

「つ、次は季衣ちゃん」

「ボク?」

 うん。季衣ちゃんの四回。

 

「私はその次だと言うのか!?」

「ううん、三番目は愛紗の二回。後はみんな一回だけだよ」

「なんだと!」

 さらに強く揺さぶる春蘭。けっこうシンドイよこれ。

「姉者。以前は我らの初めては華琳さまだったではないか」

 秋蘭のおかげでシェイクはストップ。俺はへなへなと崩れ落ちた。

「そういえばそうか。しかし愛紗に遅れをとるとは」

「そ、そんなの競ってどうするのさ……」

 

 

 

 そろそろロードしたいけど、その前にむこうじゃしにくい話をしておかないと。

「白装束はどうなってるの?」

 気になっていたけど、むこうでは聞けなかった問題。

 二周目ではまだ遭遇してないから余計に用心している。たぶん華琳ちゃんもなんだろう。

「泰山を極秘裏に調査中よ。それらしき者たちはいるようだけれど、干吉、左慈の姿はないらしいわ」

 やっぱり桂花もちゃんと調べてたんだ。

 真の世界になっちゃったから干吉たちいないのかな? ……油断はできないよね。

「なんですか、その白装束って?」

「世界の敵よ」

 流琉の質問に簡潔に答えた華琳ちゃん。前回結局、干吉を仕留められなかったことを思い出したのかちょっと怖い。

 

 二周目は途中から真・恋姫†無双の世界になっているから、世界の終わりがないといいんだけど。

 泰山にそれっぽいやつらがいるのっては気になるなあ。

「まずは呉、そして一刀君、最後に泰山……って蜀ルートだと五胡の大軍が攻めてくる可能性も高いのか」

「五胡が? ……ふむ。ありえるか」

「うん」

 蜀と呉の同盟と魏の決戦時に現れた共通の敵のおかげで、決戦が有耶無耶になっちゃうんだよね。

 魏ルートと呉ルートだとこないんだけど、一刀君が蜀にいるし。どうなるかな?

 

 

 

 情報交換が済んだのでロードのウィンドウを開こうとしたら、また華琳ちゃんからの指示。

「一番で再開なさい」

 結局最新のセーブで始めるの?

 じゃあなんでさっきはセーブ2で……。

「……もしかして俺に初めてを……両方同時の初めてをくれるためだけにセーブ2使わせたの?」

「違うわ。愛紗に皇一の能力を説明しやすくするためよ」

 そう言いながらも華琳ちゃんの頬が赤い。

 うん。やっぱり俺、愛されてる。

 

「初めてをあげるためになんて華琳さんも可愛いとこあるんだね~」

 華琳ちゃんは可愛いとこだらけだってば天和。

「うんうん。今度ちぃも試そうかなー?」

 試すって二本同時? 大変だよ。

「私は」

 人和の続きが気になったけどロードしちゃった。

 

 

 

 

 その後、やっぱり猪々子がチ●コになれって来たけど、斗詩が同意しなかった。

 気を使ってくれたのかな?

 それとも嫌われた?

 とか思ってたらその晩に一人で俺の部屋にやってきた。

「文ちゃんのことを赦してくれて、ありがとうございます」

「今の猪々子が俺を殺したわけじゃないし、気にしないでいいってば」

「皇一さん……」

 潤んだ瞳の斗詩。猪々子を赦してもらえて泣くほど嬉しい……ってわけじゃないよね。

 

「こ、今度は皇一さんに初めてを貰ってほしくて、あの、お詫びってわけだけじゃなくて……」

「ああ、そうか。前は猪々子が斗詩の初めてを奪ったんだっけ」

 俺内部では俺が奪ったことになってるけどね。前も後ろも。

「けど、いいの? 猪々子といっしょじゃなくて」

「皇一さんに貰ってほしいんです」

 頬を染めて告白してくれる斗詩。

 

「ええと、俺の嫁になってくれるってこと?」

 さらに真っ赤になって頷く。

「ありがとう。けど、一人だと大変だけどいいの?」

 あ、両方同時に使わなきゃいいだけか。最近二本とも使うのに慣れてきて忘れてたな。

 

「……お願いを聞いてもらえませんか?」

「いいよ。片方だけでもなんとかなるから」

「いえ、……眼鏡を外して下さい」

 華琳ちゃんにも言われてるから、仕方なく眼鏡を外す俺。

 でもなんで斗詩まで?

 斗詩にはまだ裸眼の顔見せてなかったはずなのに。

 その答は斗詩が脱いだ時に落ちた一枚の写真だった。

「もしかして俺?」

 隠し撮りらしいがいつ撮ったのだろう、裸眼の俺の写真だった。

 

 

 

 ……真桜エモンって凄いと思い知ったのは、新兵訓練のためにカメラの説明をした時。

 真では真桜が作ったそれで撮った写真を餌に新兵さんにやる気を出させていたんだけど、俺の説明でもやっぱりカメラを完成させてしまった。

 いや俺だってフィルム式のカメラ持ってたおっさんだから説明できたんだけど。しかも一眼レフ。当時は高かったなあ。

 主にコスプレとかフィギュアしか撮ってなかったけどね。この世界に来た時もコミケ行くつもりの装備だったんだけど、携帯でコスプレ撮るつもりだったから、カメラがなかったのが残念。

 でもさ、銀板写真かと思ったらフィルムまで作っちゃう真桜ってすご過ぎ。あと、主人公補正だとしても説明できた一刀君もすごいな。

 

「で、なんで裸眼の俺を撮ろうとするかな?」

 そんなもん新兵さんの餌にならんでしょ?

「他所で売るんや!」

「小遣い稼ぎ狙ってないで、新兵さん用を撮れってば。御前訓練だって近いんだぞ」

 なんとか真桜を説得して準備をさせる。

 後で検閲して華琳ちゃんのは没収しておこうっと。……記憶だけじゃなくてアイテムも引継ぎできればいいのに。

 

 

 

「真桜に買わされたのか……」

「は、はい」

 セーブ2はカメラ完成前だったよな。そこからやり直して……いや、そんなことのためにはできないか。みんなに怒られるだろうし、死ぬのも嫌だし。

「後で没収するしかないか」

「え!?」

「……お金払っちゃったそれは没収しないから」

 ほっとした表情の斗詩。いくらだったんだろ? 怖いから聞かないけど。

「本物の方がもっと素敵ですね」

 写真と見比べないで。

 

 

 

 結局、両方同時で済ませた。

 猪々子が知ったら怒るだろうな。また殺されちゃうかな? ……呉との戦の前にフラグクラッシャー効果失ったの、痛すぎるなあ。

 

 

 

 

 真桜から俺の写真を没収。

 どれくらい売れたか聞いたら眩暈がしてきた。回収は無理そうだし……。

 この反省を元に新兵さんの餌は、モデルに事前に許可を貰っておいた。

 そのせいで逆に御前訓練、変に期待されてたけど満足してもらえたようだ。呉との戦いももう間近。

 

 で、ご褒美として三羽烏から要求されたのがアレだったわけで。

 

 

 

 余韻に浸っている凪と沙和はいいとしてさ。

「あかん……」

 真桜の要求で一人で二本同時したんだけどまずかったかな。

「ウチの『全自動張り型・お菊ちゃん』じゃ、隊長の双頭竜の足元にも及ばへん!」

 

 ……っていうかさ、お菊ちゃん使うとこなかっただけだから。

 

 



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二十二話  舌戦?

感想、評価ありがとうございます。

評価に一言つけてくれた方、ありがとうございます。
やっと見方がわかりました。



「またか」

「面目ない……」

 呉との戦いで道場送りにされた俺。

 死因はたぶん矢。

 やっぱフラグクラッシャー効果って必要だなー。

 それとも、今まで貯めてた死亡フラグが順調に発動してるのかな?

 

 俺の部下なはずの凪、沙和、真桜の三羽烏は輜重隊の護衛と補給路の確保。

 せっかく鍛えた新兵をいきなり主戦場に回さないで、実戦に慣れてもらうつもりなんだろうけど、俺もそっちについていけばよかった。

 完成しちゃった俺の牙門旗を披露しようって、前線に残ってたらこの様。

 蜀ルートだと、呉と同盟した蜀によって補給線が攻撃されてたのもあって行かなかったんだけど、よく考えたらその時攻撃してくるはずの愛紗はこっちにいたんだよね……迂闊。

「っと、引継ぎ確認しないと」

 

 

 引継ぎ確認後、道場に現れた三羽烏。

「ここは?」

「みんないるのー。あっ、しすたーずもいるー」

「けったいな場所やなあ」

 驚いた顔を見せるのは三羽烏だけではなかった。

 

「い、いきなり現れたです」

「びっくりしました」

 ねね、流琉の二人に季衣ちゃんが得意気に説明。

「兄ちゃんが引継ぎ確認したら出てくるんだよ」

「引継ぎできるってことは、この三人ともしたのね?」

 詠の指摘を聞いた愛紗がずんずん近づいてくる。

 

「皇一殿! 前回道場で増えないと言っておきながら、もう三人も追加とはあまりに無節操ではありませんかっ!」

 華琳ちゃんに言ったの聞いていたのね。ってか、増えないかと思うって言っただけど。

「無節操……い、いや、ちゃんと三人の気持ちとか確認したし……」

 もしかして嫉妬してます?

 嫉妬は愛紗の代名詞だったけど、まさか俺でも? 

 正座して説教される俺。愛されてる証と思って耐えることにする。

「皇一殿は誰でもよろしいのではないのですか!」

 処女か、俺が非処女にした娘じゃないと嫌なんだけどなあ。

 

 

 江陵での戦いには孫尚香ちゃんが出てきていた。

 まさか弓腰姫って異名の尚香ちゃんの攻撃で死んだんじゃあないとは思うけど。

 弓じゃなくてチャクラム使ってたはずだし。……けどあれってフラフープっぽいよね。

 

「呉をなめるからよ。諦めるまでに何度死ぬかしら?」

「何度死ぬかしらね? 呉に勝利するまでに」

 あ、今度はちゃんと孫策がいるな。華琳ちゃんと挑発しあってる。内容が俺の死亡回数予想ってのは悲しいけど。

 

 それを見て愛紗の説教がストップした。

「あの方は?」

「そういえば前回もいなかったっけ。あれは孫策」

「孫策? 江東の小覇王……たしかもう亡くなっているはずでは?」

「なん? 隊長、死人とやったん?」

「そんなわけないって」

 死姦とかマジ勘弁して下さい。

 

「孫策はこの道場の主らしい。詳しいことはよくわからない」

 うん。いまだに謎なんだよなあ。

 この道場も謎。外には出られないみたいだし、孫策はこの前どこに行ってたんだろ?

「味方、なのかな? 今のところは」

 呉の人間を道場に連れてきたら、どんな反応するんだろう。

 周瑜あたりなら孫策にここのことしっかり説明させてくれそうだけど、周瑜って非処女っぽいんだよね。無印スタートだから大小いるはずだし……。

 

 

 

 ロードしてやり直し。

 華琳ちゃんに呼び出された。なんか孫尚香ちゃんとの舌戦に同行しろってことらしい。

 

「この曹孟徳の相手にあなたは相応しいのかしら? 孫尚香」

 華琳ちゃんも俺も一周目でシャオちゃんから真名を貰っているけど、この二周目の尚香ちゃんからはまだ。

 一周目のシャオちゃんは俺と仲良くしてくれてただけにやり辛い。

 シャオちゃんのおかげで俺、華琳ちゃんたちと結婚できたようなもん。季衣ちゃんに次ぐ大恩人なんだよね。

 またあのシャオちゃんとお喋りしたいなあ……。

 

 

 華琳ちゃんの後ろに控えて、舌戦が進むのをただ傍観している俺。なんでこの場にいるんだろ?

 いつのまにか舌戦の内容が胸の話になってるし。

 尚香ちゃんより華琳ちゃんの方が小さいとか、挑発してくるし。

 華琳ちゃんがあまり動揺してないのは、さっきも同じ話になったんだろうな。

「へっへーん。シャオはこれからばいんばいんになるんだから!」

 できれば尚香ちゃんは、ばいんばいんにはならないでほしい。

 おっぱいの話で盛り上がる二人。やっぱり気にしてるんだよね。小さい方がいいのにさ。ビバ貧乳!

 

 

 華琳ちゃんは大きくなりません。なっちゃ駄目なの! そう叫びたいのをぐっと堪えて見守る。

「女の幸せが大きさに直結してるとでも?」

「当たり前じゃない。男は大きなおっぱいが好きなんだから!」

 いやいや、おっぱいは好きですが、人には好みがあるのですよ。

 

「……ふっ」

「な、なによ! いま、鼻で笑ったわね!」

「皇一」

 呼ばれたんで前に出る。やっと出番か。

 このために俺を控えさせとくなんて、相当胸のことを……なんで睨んでるかな華琳ちゃん。もしかして俺が胸見てたのばれた?

 

「なによ、こいつ?」

「俺の名は天井皇一」

「じゃあ、こいつが?」

 胡散臭げにじろじろと俺を観察する尚香ちゃん。シャオちゃんを思い出すなあ。

 

「ええ。私の夫。……私の女の幸せ、かしらね」

「なっ?」

 大きく目を見開く尚香ちゃん。華琳ちゃんに先手を打たれた感じなんだろう。

「私は胸など大きくなくても人生の十割を満喫している」

 ほ、本当に!?

 まあ、挑発のためなんだろうけど嬉しいなあ。

 

「皇一は大きな胸じゃないと満足しないのかしら?」

「ぶっちゃけた話、華琳ちゃんの胸なら大きさなんて関係ない! ……でも、どっちかといったら小さい方が好きだよ」

「ごめんなさいね、惚気てしまったわ」

 尚香ちゃんを哀れむような華琳ちゃんの表情。

「く、くーっ! ……小さい方が好きってただの変態じゃない! 星が言ってた幼女と修羅場っての本当だったのね! ふ、ふんっ! そんなブ男なおじさんなんて羨ましくなんかないもん。シャオは面食いなんだから!」

 動揺してるのか勢いよくまくしたててる。かかったとばかりに華琳ちゃんがニヤリ。

 というか星、どんな噂を呉でばら撒いてきたのさ。……いや、怖いから聞きたくはないですが。

「あら、皇一はただの変態ではないわ。顔のいい変態よ」

 そうだろうとは思ったけど変態は否定してくれないのね。

 むしろ肯定してるよね。

 

「皇一」

 名前を呼ばれただけだが、華琳ちゃんの要求はわかる。うん。通じ合ってるもん俺たち。

 要求の内容は嬉しくないけどさ。

「仕方ない、か」

 眼鏡を外す俺。尚香ちゃんが驚愕の表情を見せる。

「う、嘘……絶世の美男子ってあの噂も本当だったの?」

 いやだから、それは桂花たちの情報操作なんだけどなあ。絶世のとかって止めてくれないかなあ。

「か、カッコイイ変態よりも、まともなブ男の方がマシよ!」

「変態は直せるかもしれないけれど、ブ男は直せないわ」

 ごめん華琳ちゃん。変態はたぶん直らない。

 華佗なら整形ぐらいなんとかできそうだけど、変態の方は華佗にも無理そうだよな。貂蝉と卑弥呼放置してたし。

 

 

 頭に血を上らせて尚香ちゃんは舌戦を終えた。

 華琳ちゃんの方はかなり上機嫌。

「ふふっ。今度は死なないように皇一は私のそばにいなさい。総員、攻撃準備!」

「華琳ちゃん、変態でもいいんだね」

「……自覚はあったのね」

 そりゃもう。

 

 

 

 江陵戦は魏の勝利で終わる。いや、呉との戦争が始まったのか。

 さらに尚香ちゃんが逃げ遅れて捕獲された。陸遜を撤退させるために残ったらしい。

 ここにきて無印色が強い展開がちょっと不安。白装束がなにかしてる?

 ……こっちの武将多すぎるんで逃げられなかっただけかも知れないけど。

 ちなみに捕まえたのはたんぽぽちゃん。上手いことトラップにかけたのかな?

「この縛り方、星直伝?」

「ほお、わかりますか」

 だって亀甲縛りだもん。

「悪くないわね」

 むう、華琳ちゃんがこっちに目覚めないといいなあ。

 いや、俺も華琳ちゃんを縛ったことあったけどさ。縛られるのは嫌なんだよね。おっさん縛っても美しくないもん。

 

「むー……捕虜と話す時は眼鏡くらい外しなさいよー」

「君の縄と俺の眼鏡、どっちか片一方なら、どっちを外すのがいい?」

「むむむ……」

 なんで悩むのさ?

 

「確実に皇一の素顔が見たいのなら、閨にくる?」

 閨だと俺が眼鏡とるの、もはや確定なのね。

 辛いなあ。……なにが辛いって、慣れてきちゃった気がするのが怖いこと。

「捕虜にしたからってシャオを陵辱するつもりなのね! いくらシャオが可愛いからって」

「いや、あのね」

 とりあえず縄を解こうと尚香ちゃんに近づく。

「やめて! シャオに乱暴する気でしょう! 艶本みたいに! 艶本みたいに!!」

 ……誰がこの台詞教えたんだろ。やっぱり星?

 

「ふふふ。皇一は艶本どころじゃないわよ」

「そ、そうなんですかっ!?」

 食いつかないで雛里ちゃん。そんなことないんだから! 俺は初心で晩生なんだってば。

 雛里ちゃんやっぱり八百一本だけじゃなくて、艶本も勉強してるのかな。朱里ちゃんいないからどうなんだろ、って思ってたけど今の反応は怪しいな。

 

「試したい娘はいるかしら?」

「ここにいるぞーっ!」

「たんぽぽっ!?」

 手を挙げたたんぽぽちゃんに翠が慌ててる。

 俺もビックリなんだけど。いったいどうして?

 

「みんなに聞いたんだけど、たんぽぽたちが来る前に勉強会したって」

「勉強会? ……性教育の?」

「そう、それ! みんなで皇一さんの双頭竜を楽しんだんでしょ?」

 くっ。誰だ、俺の黒歴史を教えたのは。

 

「双頭竜?」

 興味深そうに目を光らせたのは尚香ちゃん。

「その噂はまだ呉には届いてないようね」

「いえいえ、内容的に孫尚香ちゃんには教えてないだけではないでしょうかねー」

 まあ、ナニが二本ってのを教えるのも教育的によろしくないか。……もしかして、呉にも双頭竜とか流してるの?

「たしかに子供に聞かせる話ではないでしょう」

 鼻をおさえて堪えながらの稟。双頭竜って異名だけなら耐えられるレベルなのか。それとも耐えなきゃ危険なレベルなのか。

「子供扱いしないでっ!」

 ぷぅと頬を膨らませる尚香ちゃん。

 

「子供扱いしたのは呉の連中でしょ。それよりも! 皇一さんの双頭竜、ホントに試せるの?」

 だから処女は大事にしろとあれほど……って、たんぽぽちゃんには説明してなかったっけ。それに珍獣扱いで見たいだけなのかもしれない。

「そうね。孫尚香を捕らえた褒美として、もう一度皇一に性教育の授業をさせましょう」

「やたっ♪ お姉様も参加しようねー」

「あ、あたしまで!?」

「孫尚香、あなたも参加しなさい」

 なんかもう俺が拒否できない流れになっている。それがご褒美でいいの?

 でも、捕虜の尚香ちゃんが参加ってことはさ。

 

「尚香ちゃんを教材にするのは駄目だよ!」

 いくらなんでもあれは可哀相だって。シャオちゃんとは違うとはいえ、同じ娘だ。あんな目にはあわせたくない。

「ああ、そっちは必要ないでしょう。今回の目的は皇一なのだから」

 やっぱり拒否できないのね。……泣いていい?

 

 

 俺が体育座りして泣いてる間に城も確保された。

 真桜とたんぽぽちゃんがチェックしたけれど、罠は見つからなかった。

 たんぽぽちゃん、真桜の工兵隊のとこでの訓練にも参加してるらしい。真桜のお墨付きもらったみたいだし、こないだ愛紗と翠が罠に引っ掛かったのもなるほど頷ける。

 城を前線基地として利用するため、輜重隊が荷を解いていく。

 その荷の中には多くの薬も用意されている。

 真・魏一刀君のように、ちゃんと沙和と稟に相談しておいた俺。

 ……俺用の胃薬、あるかなあ。

 

 この後の華琳ちゃんの胸に手を当てて「ドキドキしてるでしょ?」なイベントは俺が泣いてたせいか発生しなかった。胸の話はさっきの舌戦で満足しちゃったのかな。

 それとも孫策がいないからドキドキしてないの?

 ……触りたかったなあ。

 

 

 

 夜。宛がわれた部屋で性教育用の資料の準備。

 城の書庫を漁ってみたけど、なかなか使えそうなのがない。

 前回の記憶を頼りに自分で作成するしかないのか。

 戦に勝利して魏に帰れば資料もあるけど、なんかそうなると参加する人数が増えそうなので俺は焦っていた。

 

 コンコン。

 あれ? 誰だろう。

「どうぞー」

 扉まで行く時間も惜しかったので入室を促すと、入ってきたのは雛里ちゃんだ。

「お邪魔します」

「ゴメンね、こんな有様で」

 机のそばには散乱している本を片付けて椅子を出し雛里ちゃんに薦める。

「た、大変そうですね」

「ははは。……はあ」

 笑って誤魔化そうとしたけれど、結局ため息が出てしまう。

 

「お、お手伝いします!」

「……え?」

「そ、その資料の作成、お手伝いさせて下さい」

 真っ赤な顔を帽子で隠している雛里ちゃん。そりゃ、性教育の資料だから恥ずかしいのだろう。

「い、いいよ。雛里ちゃんだって軍師の仕事忙しいでしょ。ほら、今戦争中なんだし」

 雛里ちゃんに手伝ってもらえれば資料の作成は捗るかもしれない。でもさすがに本業が忙しい時期に頼めることではない。なにより、俺も恥ずかしい。

 

「そ、その……私に戦う力を下さい」

「戦う力?」

「は、はい。朱里ちゃんと戦う覚悟を……」

「朱里ちゃんと? 今戦っているのは呉だよ」

「……朱里ちゃんは、呉と同盟するしかないのがわかっているはずなんです」

 ああ。蜀と呉が同盟するってことね。

 つき合いが長いだけに朱里ちゃんの考えを読んでいるのね。

 

「でもさ、一刀君のとこはまだ動けるほどまとまってないんじゃない?」

「いえ、魏が本格的に戦いを始めた以上、各国は脅威に感じています。それを利用しない朱里ちゃんじゃありません」

 共通の敵を前に団結する、か。よく使われる手ではある。

「涼州の時は皇一さんの策で戦にはなりませんでした。そのおかげで各国の危機感は薄れたのですが、今回は違います」

 あんなので薄れる危機感っておかしいでしょ。……だから最後まで残らない勢力だったってこと?

「呉が敗れれば、もう魏と戦える勢力はありません」

「怖い魏が襲ってくるから、その前に自分のとこについていっしょに戦おうって、蜀をまとめるってことか」

「自分のところには呉もついている、と威を借りることもできます」

 むう。そう考えると多少無茶してもこのチャンスを利用しないわけがないか。

 

「けど、いいの? 朱里ちゃんと戦うなんて」

「……華琳さまの下へついた時から覚悟はしていました。……いえ、できていたつもりでした。でも、いざ確実にそうなるとわかると……」

「親友だもんね」

「……華琳さまのためだけではなく、皇一さんのためにも戦っていると私に思わせて下さい」

 やっと外した帽子を胸の前で握り締める雛里ちゃん、決意の篭った眼差しを俺に向けてる。ちょっと泣きそうにも見えるのは仕方ないよね。

 

「俺のため?」

「はい。華琳さまは時として激しすぎます。それを皇一さんが抑えてくれています。涼州の時のように」

 買い被りじゃないかなあ。

 涼州の時だって、戦争したんじゃ損だからああしただけなんだし。

 

 ……おや? 扉が僅かに開いている。

「もしかして……」

「?」

 雛里ちゃんに静かにするよう合図してから、そおっと扉に近づき一気に開ける。そこには泣きそうな顔でへたりこんでいる人物が。

「愛紗?」

「の、覗くつもりはなかったのです」

「う、うん。とにかく入って」

 

 この部屋にもう椅子はなかったので寝台に座ってもらう。

「聞いちゃったんだね」

「はい……」

 一刀君が敵になるってのは辛いだろうなあ。

 雛里ちゃんも泣きそうなまま、愛紗を見ている。

「雛里、まずは素直な気持ちを伝えた方がよいのではないか?」

 って愛紗、雛里にアドバイス?

 そんなことを言ってる場合なの?

 

「あの、一刀君と戦うことになりそうなんだけど?」

「ああ、それですか。それはもう覚悟しております」

「ええっ!?」

 覚悟って。

 華琳ちゃんが通行料として満足する武勲あげて、一刀君のとこに帰るつもりとか?

 一刀君を捕獲して華琳ちゃんに助命を願うとか?

 それとも……愛紗が一刀君たちと戦う覚悟?

 色々浮かんだけど、俺は愛紗に聞くことはできなくて。

 

「い、いいのですか愛紗さん?」

「……仕方あるまい。本気なのだろう、雛里」

「はい」

 なんか二人で話が済んでるし。

 元々も同じ陣営だし、萌将伝不遇の二人だから通じるものがあるのかな?

 

「こ、皇一さん、お慕い申し上げています」

「ありがとう。けど、本当にいいの?」

「は、はい。つ、艶本よりもすごいこと、して下さい」

 すごいことって、あのね。この娘、いったいどんなの読んでるんだろ?

 そりゃ一人で相手したら大変だろうけど。愛紗がいてくれてよかった。

 

「愛紗、あの、雛里ちゃんといっしょにお願いできないかな?」

「……たしかに雛里一人で皇一殿を受け止めるのは無理そうですが」

 眼鏡を外してもう一押し。

「愛紗も抱きたいんだ、俺」

 さっきの話のせいか、愛紗を繋ぎとめておきたいってのもあったしね。

 

 

 

「雛里ちゃん寝ちゃったか」

「疲れたのでしょう」

「愛紗は優しいから、初めての娘がいっしょでも助かるよ」

 準備とか、最中ずっと手を握ってあげて励ましたりとか。

「なっ、慣れただけです」

 うん。愛紗も三人目だもんね、初めての娘と同時って。華琳ちゃんが知ったら張り合うのかな。

 

「次もまた頼みたいな」

「次? まだ増やすおつもりですか?」

 もしかして地雷踏んだ?

 愛紗の目が怖い。

「やっぱり節操無しのようですね」

 やばい。お説教が始まる前に誤魔化そう。

「そ、そういえば、今の愛紗はまだ両方同時はしてなかったよね」

 愛紗の唇を奪い、なし崩しにプレイ再開に持ち込んだ。

 

 

 

「愛紗さん、凄いです」

 翌朝。愛紗に尊敬の眼差しを向けている雛里ちゃん。

「本当に艶本よりも……」

「見てたのか、雛里ちゃん」

「!」

 愛紗は即座に赤面するのだった。

 

 

 

 

 

 城内が騒がしい。

 なにやら侵入者らしい。

 誰が来たか予想がつくので見に行ってみる。

「あ、やっぱり」

 予想通りの褐色爆乳熟女がいた。戦っているのは華雄。

 

「ほう。腕を上げたのお」

「ははは。伊達に戦に敗れてから、血を吐くような鍛錬を重ねたわけではないからな」

 ああ、華雄は戦ったことがあったんだっけ?

 霞が悔しそうに見ているのは、軽くあしらわれたからなんだろう。

「華雄、相手わかってるなら説明してあげてよ。あ、俺は天井皇一ね」

 直接本人に聞かないのは、なんか聞いたら殺されそうだから。まだ俺の死亡フラグ残ってそうだし、手加減されたのくらってもきっと死ぬ。

「こいつは黄蓋。呉の宿将だ」

 

 

 黄蓋の投降。

 蜀、魏、呉の全てのルートで行われる苦肉の策。

 ……呉はまだ蜀と同盟してないのかな?

 一刀君なら止めそうな作戦。苦肉の策なんて俺だって知ってるって思ってさ。

 それとも同盟してても、そこまで一刀君には発言力無いとかか。

 

 直接乗り込んでくるってことは魏ルートか。一緒に来るはずの雛里ちゃんこっちにいるのに。

 魏ルートだと黄蓋死んじゃうんだよなあ……。

 

 



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二十三話  無印的?

 黄蓋が自ら魏に降ってきた。

 まあ、苦肉の策なわけなんだけど。

 裏切るのわかってるし。

 

 連環の計の鎖は誰が持ってくるんだろう? 雛里ちゃんも翠もたんぽぽちゃんもこっちにいるのに。

 それとも、蜀ルートでも使ってなかったし、連環の計は重要じゃないのかな?

 

 その黄蓋は星の誘いで華雄も交えて飲酒中。

 星は酔いつぶして本心を引き出すと言ってるらしい。……呑みたいだけなんじゃない?

 昼間の雪辱戦だと霞も参加してる。……呑みたいだけなんじゃない?

 

 

「私たちとの最中に余計なことを考えてるなんて、ずいぶんと余裕があるわね?」

 桂花の背中越しに華琳ちゃんが睨む。俺もお酒飲みたいなあ、とか考えてたのがばれたのかな。

「余計なことじゃないよ。たまには桂花の顔見ながらしたいなって」

 誤魔化すようにそう言った。

 二周目になってから、つまり二本になってから桂花一人を相手にしたことがないので、いつも桂花の背中やうなじばかり見ている気がしてるし。

「あ、あんたの顔見ながらなんて嫌よ!」

 そうか。桂花の顔見るって事は、俺の素顔も見られちゃうのか。むう。

 

 

「皇一のを通して桂花がわかるの。不思議ね」

 真桜がお菊ちゃんで再現できないって嘆いてるのはその辺なのかな?

 どんな感じなんだろう? 俺の感じてるのと違うのかな?

 

「早く代われ!」

 秋蘭といっしょに待っていた春蘭が急かす。

 さっきまで華琳ちゃんと桂花だけじゃなくて、春蘭と秋蘭の二人も参加してたんだけど、さすがに辛かったのでどいてもらった。

「四人同時とか大変なんですが」

 華琳ちゃんは七人までならいけるって言ってたけど、同時じゃないだろうし。

 同時でもいけるのかな? 参考に教えてもらおう。

 ……今聞くと実践させられそうだから、後にしとくか。

 

 

 

「……しばらくお預けとは言ったけど激しすぎよ」

 俺は江陵の城で留守番させられる。

 捕虜にした孫尚香ちゃんが奪還されないようにするのが、主な任務。

 だが本当の理由は「戦いの度にいちいち死なれると、楽しめないの」らしい。

 相手の動きとか策とかがわかってのやり直しは嫌みたい。なので、俺もネタバレ発言控えさせられている。

 

「腹上死ん時のこと思い出して必死になっちゃったかな?」

 以前に華琳ちゃんにも指摘されたけど、一周目よりも精力が増してる気がする。本数が倍で出してる量も倍なはずなのに。

 あっち限定だけど前より疲れないようになっているみたい。周回ボーナスの隠れた効果なんだろうか?

 

「船使ってたら、桂花あたり疲れで寝ちゃってたりして」

 馬で寝れるのは風ぐらいだけど、船ならね。

 でも、船はあまり使わない。やっぱり連環の計はできないっぽい。

「呉の誇る水軍を打ち負かすのも捨てがたいけれど」

「それ以上に騎兵を使いたい、と」

「ええ。神速の驍将、白馬長史、錦馬超。この三人を同時に投入する甲斐のある相手などもはや臨めなくなるわ」

 うん。手に入った戦力を使いたくて仕方が無いってとこなんだろうな。

 

 涼州と戦わずに同盟した効果は、翠とたんぽぽちゃんだけではなかった。

 涼州の兵だけではなく、馬も無駄に消耗されてない。その馬を魏は多量に購入している。

 騎兵を率いる将も充実してるし、機動力は間違いなく三国一だろう。

 雛里ちゃんもついているし、赤壁のことは心配しないでいいのかも。

「これ以上は明日に差し障るか」

「今度はもっと人数増やしてもよさそうね」

 なに言ってんのさ華琳ちゃん。

「それとも……ふふ」

 楽しそうに微笑んでるけど、なにかよからぬこと考えてません?

 

 

 

 

 留守番を始めて数日。

 尚香ちゃんを救出しようと攻めてきたり、密かに進入しようとする敵はいまだにいない。こちらに回す余裕がないのだろう。

「沙和、サボってちゃ駄目だって」

「サボりじゃないの。捕虜の世話してただけなのー」

 俺と同じく城の守備を任され留守番の沙和。ちょくちょく牢へとやってきている。

 牢、と呼ぶには豪華なお部屋。尚香ちゃんを捕らえている部屋である。

 沙和は尚香ちゃんとお洒落の話で盛り上がっていたようだ。テーブルの上には阿蘇阿蘇のバックナンバーが並べられていた。持ってきてたのか。

 

「捕虜の相手をする時は眼鏡取りなさいって言ったでしょー!」

「沙和だって眼鏡してるよ」

「むー」

 そんな可愛らしく睨まれてもね。

「じゃあ、沙和も外して」

「ええっ? それだとせっかくの隊長のお顔、沙和しっかり見れないの! 断固拒否するのー」

 尚香ちゃんの提案を沙和も拒否する。

 けど、いつの間に沙和と真名で呼び合う仲になったんだろう。二人とも自分のことを真名で呼んだりするから真名自体はすぐに知ることができるけど。

 

「顔見せてよー」

「そうなのー。ケチケチしちゃ駄目なの。昨夜は暗くてよく見えなかったのー」

「沙和には見せたの? シャオには見せてくれないのに!」

「えへへー。する時は眼鏡外しなさい、って隊長は華琳さまに命令されてるの!」

 あちゃー、なに教えちゃってるかな。

「……沙和としたの? 曹操の夫なのに?」

「沙和も隊長のお嫁さんなのー!」

 ブイサインを見せる沙和。

 むう。たしかに初めての時に俺の嫁になる覚悟あるかって聞いたけど、沙和とはまだ結婚式をしてない。……早くみんなと結婚式したいなあ。

 

「それより、聞きたいことがあるんだけど」

「孫呉の情報なら絶対に話さない!」

「そう言わずにお願い。魏や呉だけじゃなくて、この世界の存亡にかかわってくることだから」

 ぶっちゃけ、呉の情報だけなら聞く必要はない。周瑜が無印と真のどっちに近いかが気になるぐらいで。

「え? 世界?」

 尚香ちゃんだけでなく、沙和までもが驚いた顔を見せる。俺がそんなこと言うなんて予想外なんだろうね。

 

「呉で最近、怪しい白装束のやつ見てない?」

「白装束……あ!」

 少し考えてから声を上げる尚香ちゃん。やっぱりいるのか?

「いた! 北郷一刀!」

 ってオイ。そりゃ白がイメージカラーだけども!

 

「一刀君は怪しくないでしょ!」

「えーっ、天の御遣いだなんて胡散臭すぎるじゃない! 呉のこと利用する気満々だし」

 ……やっぱり一周目のシャオちゃんと違うなあ。一刀君のことをこんな風に言うなんて。なんか久しぶりに一周目の一刀君たちを思い出して寂しくなってきた。

「どうしたの?」

 怪訝な顔で俺を覗き込む尚香ちゃん。

 どうやら俺はまだ泣かずに済んでるみたい。だいぶ吹っ切れてきたのかな。

 

「ええと、白装束っていうのは、こーんな被り物をしてて」

 白装束の尖がった被り物を、頭上に両手でジェスチャーする。

 ちなみに「こーんな」は道路工事のコーンをかけているのだが、もちろん二人ともわかってくれない。寂しい。

「それは格好悪いのー」

「そんな変なやつらは見てない」

 そうか。まだ動いてないのかな?

 干吉が密かに接触するとしても、無印のように一度孫権が負けてからだろうし。

 あと、わかったことがもう一つ。

 同盟したかはともかく、一刀君たちが呉と接触してるということ。やっぱり雛里ちゃんの言う通りだったか。

 同盟してるかどうかは教えてもらえないだろうし、華琳ちゃんや雛里ちゃんたちはそのことを織り込み済みだから聞く必要はない。

 

「ありがとう」

「もういいの?」

 気になっているのはそれぐらいだし。ちょっと安心できたから仕事に戻ろう。

「うん。次はもっと楽しい話しようね」

「勉強会?」

 あえて忘れるようにしてることを思い出させないで。

 資料はだいたい出来たんで、もう頭の中から追い出していたのに。

「そ、それじゃまた……」

 俺は逃げ出すように牢から出た。

 

 

 

 

「華佗?」

「はい。戦場へ案内してくれと」

 城を訪ねてきた医者がいるというので詳しく聞いてみると、馬騰ちゃんの経過を診るために涼州に残った華佗だった。

 

「もう馬騰ちゃんは大丈夫なのか?」

「ああ。薬が効いてな。もう俺の手は必要ない」

「ありがとう」

「いいさ。医者の務めだ」

 うん。よかった。翠も喜ぶだろう。早く教えてあげたい。

 それにしても華佗の薬か。材料は考えない方がよさそうだ。……む?

 

「薬って、竜退治とかしたのか?」

「よくわかるな。皇一にも薬の知識があるのか?」

 竜の肝を使ったのって孫権の薬の材料だったはずだけど、あれは貂蝉と卑弥呼もついていた。

「いや、そうじゃなくて、一人で倒したのか? ……筋肉質の大男二人といっしょじゃなくて」

「なんとか一人で倒したが?」

「そ、そうか」

 この華佗、真・恋姫†無双の華佗よりも強いんじゃない?

 それとも、ヴリトラとは別の竜だったのかな?

 萌将伝の一刀君たちが倒したクラスの竜なら、華佗一人でもなんとかできそうだし。

 

 あと、気になるとすればもう一つ。華佗がここに来たってことはあれか。

「竜の首の珠って持ってきたか?」

「竜は全身が秘薬の塊、あれもこれもと考えていたらキリがないのだが、それだけが妙に気になってな」

「持ってきてるのか!?」

「あ、ああ。どうしたんだ? この秘薬が必要な患者がいるのか!?」

 貂蝉がいないのに、竜の首の珠があるってことはやっぱりそうなんだろう。

 俺は急いで尚香ちゃんに会いに行った。

 

 

 

 

 決戦は野戦だったようだ。よく赤壁から引きずり出したなあ。

 俺が辿り着いた時にはもう決着はついていた。

 絶影でかっ飛ばしたんだけどね。華琳ちゃんには緊急時に使用していいって許可はもらっていたし。

 

 華琳ちゃんの前には呉将が並んでいる。尚香ちゃんが捕縛されたのと同じく無印っぽい展開だけど、軍師も勢揃いしている。つまり、周瑜もいた。あとなんでか、大小の二喬も。

 でも、一刀君たちはいない。

「一刀君は?」

「わざわざ北郷を確かめにここまできたの?」

 呆れた顔の華琳ちゃん。

 なんか他のみんなも微妙な顔してるし、タイミングまずかった?

 

「あ、俺の話は後でいいから」

「そう? ……邪魔が入ったわね、孫権。敗者としての屈辱を与えてほしい、だったわね?」

 頷く孫権。

 ……そんなとこまで無印っぽいの? 孫策がいないと、どんなに真の武将や軍師が増えても呉は無印方向なの?

「そうね。なら閨へいらっしゃい。もちろん、その時は皇一もいっしょに」

「ちょっ!」

 抗議しようとしたら、城から連れてきた娘が現れた。

 

「ずるいお姉ちゃん!」

 尚香ちゃんである。

「尚香ちゃんが来たってことは」

「うん。もう大丈夫だって、ほら!」

 尚香ちゃんの後ろに立つ褐色爆乳。並んでると大きさが余計に際立つな。

 

「な……! まさか、もう化けて……!」

「ちゃんと生きてるってば! シャオたちが助けたんだから!」

 俺がここに来た目的。

 それがこの熟女、黄蓋の救出。

 

「華佗は他の怪我人の手当てをするって」

 俺は華佗と尚香ちゃんといっしょに戦場へ駆けつけた。絶影なら三人乗りぐらい余裕で、それでも他の馬よりも速いからね。

 予想通りにすぐに重傷の黄蓋を発見。華佗が血造りの秘薬、竜の首の珠を使って治療したというわけ。

 

「そっか。よかったな、尚香ちゃん」

「私の真名は小蓮。シャオでいいよ。祭の命の恩人だもん♪」

 真名をくれたのは嬉しいけど、余計に一周目のシャオちゃんを思い出しそう。

 ……いや、もう吹っ切ったはず。だから俺は泣かない。

「ありがとう。俺は真名がないから好きに呼んでね。おじ様とか」

「じゃあ皇一って呼ぶね」

 やっぱり呼び方まで前と同じか。……このシャオちゃんとも同じぐらい仲良くなれるといいな。

 

「なるほど。華佗に助けられたのか」

「うむ。星に聞いたが、以前に華佗に冥琳を診るように薦めたのも、そこの曹操の夫だそうじゃ」

 黄蓋の言葉で、呉勢の視線が一斉に俺に向く。

 怖いんですけど。

 なんか顔見た後がっかりしたため息ついて、視線を下にスクロールさせてるよね。どこ見てるのさ?

 

「魏の双頭竜……い、いや、礼を言わねばなるまい。周瑜と黄蓋の命を救ってくれてありがとう」

 ああ、孫権たちは知ってるんだ、その二つ名。

「お礼にシャオもいっしょに閨に行ってあげる♪」

「シャオ、なにを言ってるの!」

「華琳ちゃんもなにを言ってるのさ!」

 双方の合意がないと俺は嫌なんだってば!

 べ、別にさっきからずっと愛紗が凄い目でこっち睨んでるから止めてるんじゃないよ。

 

「皇一、黄蓋を助けたことは褒めてあげる。けれど、孫尚香はなぜ連れてきたの? 保護があなたの任務だったはずよね。それにずいぶんと仲良くなって」

「道案内してもらうつもりだった。途中で道案内は城の兵士でもよかったって気づいたけど、ここへ着くのを優先させた」

 迂闊だよなあ、やっぱり。逃げられる可能性もあったんだし。

「そう。なら、お仕置きは孫権を可愛がるのを手伝うということで許しましょう」

 そう言ってから俺に囁く。

「孫策に孫権を会わせたらどんな反応するか見たいでしょう?」

 

 

 

 

 結局、シャオちゃんは華琳ちゃんの説得により諦めてくれた。

「どんな風に説得したの?」

「勉強会の後の方がいいと言っただけよ」

 それって諦めてないってこと?

 

「勉強会?」

「できれば孫権もそれの後での方が……」

「皇一の二つ名を知っていた孫権ですもの。その必要はないでしょう」

 華琳ちゃんの言葉で孫権の顔が真っ赤になる。やっぱり俺の身体のこと知ってるのか。

 それとも既に全裸待機の華琳ちゃんの綺麗な身体が気になるのかな?

 

「でもさ」

「ならば重要なことは今から説明する。それでいいでしょう?」

 説明の間、寒くないように俺のYシャツを華琳ちゃんにかける。

 それを羽織る華琳ちゃん。万歳! 裸シャツ完成!

 感涙しそうな俺に、右手がこちらへ差し出された。

「まだ渡すものがあるわよね」

 仕方なく眼鏡を外して渡す。華琳ちゃんは無造作にそれを俺のシャツのポケットに押し込んだ。

 

「嘘……」

 息を飲む孫権。

 そんなに驚かなくても。

「シャオが来たがるわけね……」

 

「さて、この男が言う重要なこと、だけど」

 孫権が赤い顔のまま華琳ちゃんに向き直った。……でもまだこっちを気にしているな。チラチラと目が動いてる。

「結婚する相手としかするな、だそうよ」

「は?」

 確かめるように俺を見た孫権に大きく頷く。

 

「だからね孫権」

 俺が説得しようとしたのがわかったのだろう、華琳ちゃんが先に続けた。

「だから孫権、あなたは結婚しなければならない」

「け、結婚?」

「そう」

「あ、あなたと!?」

 驚くよなあ。女同士だもん。あ、でも孫策と周瑜は二喬と結婚してたから問題はないのか。

 

「別に皇一とでもいいわ。皇一のものは私のものなのだから」

 以前に桂花が予想したジャイアニズムは当たってたみたい。

「こ、この人と私が!?」

「いや、結婚というか、ヤらなければいいだけなんじゃ?」

 会ってその日に結婚とか言われても困るでしょ。

 そりゃ孫権は嫁にしたい君主ナンバーワンとかいわれてたはずだけどさ。あ、俺の嫁にしたいナンバーワンは華琳ちゃんだからね!

 って、もう嫁だったね。

 

「……別に他の男と結婚しなければいいだけだろう。私は結婚などしない」

「ふふ。いつまでそう言ってられるかしらね」

「覚悟は出来ている」

 そんな覚悟されても。

 

「安心なさい。この男は初めての相手にも慣れているのだから」

「華琳ちゃんだって初めての女の子慣れてるだろう」

「皇一ほどではないわ」

「……ふしだらな」

「英雄色を好むと言ってほしいわね」

 華琳ちゃんと孫権が見詰め合って、そして二人とも笑った。

 二人とも英雄と呼ばれてもおかしくない存在だけに、なにか面白いところがあったんだろう。俺にはよくわからんけど。

 

「私のことは華琳と呼びなさい。同じ男に抱かれる仲で真名を預けないのはおかしいわ」

「そういうものか? ならば私のことは蓮華と」

「俺には真名がないんで、皇一で」

 なんか流されちゃってるけど、いいのかなあ。

 

 

 

 あとさ、孫策に蓮華を会わせたいってことはさ、これが終わったら殺されちゃうんだろうな、俺。

 痛くしないでね……。

 

 



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二十四話  正体?

「華琳、なんてことを!」

「あわわわ……」

 蓮華の初体験後、華琳ちゃんに殺されて道場で引継ぎ確認した俺。

 蓮華は出現するなり華琳ちゃんを怒鳴る。

 雛里ちゃんは突然の状況にキョロキョロ。

 

 そして、二人とも異変に気づいた。

 

「皇一さん!?」

 勢いよく近づいてきて、俺の眼鏡を奪う蓮華。君もか……。

「本物の皇一さん! ……いったいどうなってるの?」

 眼鏡を取ったのは俺が偽者じゃないかって思ったからか。

 まあ、目の前で首を刎ねられた男がぴんぴんしてるの見たら、そう考えてもおかしくないかな。

 他の方法選んでほしかったけど。

 しばらく俺を見つめた後、はっとして辺りを見回す蓮華。俺以外のメンバーにも気づいたようだ。

「それにここは? なんでみんながいるの?」

 

「ここは、小覇王道場」

 姿を見せた道場主に蓮華の動きが止まる。

「……姉様の偽者?」

 それを聞いた孫策は、わざとらしく肩を落として大きくため息。

「混乱してるのでしょうけど、私が本物かどうかくらい一目で見抜きなさい」

「その声、その物言い……でも、姉様は確かに死んだ……」

 助けを求めるようにこっちを見たので説明するかな。でもその前に眼鏡返してね。

 

「あ」

「でゅわっ!」

 蓮華から眼鏡を回収して装着。蓮華が落ち着くように、俺はゆっくりと説明する。

「その孫策はね、たぶん、本物だよ」

「たぶんって、随分ねえ」

「ね、姉様っ!」

 まだなにか言いかけてた孫策に蓮華が飛び込んでいった。

「姉様……姉様……!」

 姉の胸で泣きじゃくる蓮華。優しい顔でその頭を撫でる孫策。

 あんな顔初めて見た気がする。

 

 

「ここはあの世みたいなもんかな。その孫策は、幽霊みたいなもんだと思ってくれればいい」

 やっと落ち着いてきた蓮華。みんなに泣いているところを見られたのが恥ずかしいのか、その顔は赤い。

「あの世? みたいなもの? 皇一さんはやっぱり死んでしまったの?」

「うん。でも、死んじゃったけど、俺は死ぬ前に戻るから」

「どういうこと?」

 この状況を説明するの、何度目かな。説明用のカンペを道場の壁に張っておきたい気分だ。

 

 

「そんなことが……」

 雛里ちゃんはすぐに理解したみたい。さすが天才ロリ軍師だ。

 

「この者たちみんなが、皇一さんに抱かれたの?」

「あ、孫策は別だから」

 驚く蓮華に補足した。

「ふしだらって軽蔑した?」

「……いいえ。ただ、手馴れてたのを納得できただけよ」

 

「そう。蓮華は優しくしてもらったのね」

「ね、姉様っ!」

「まったく、まさか呉で一番初めにくるのが蓮華とはね」

「そ、それは……敗軍の将として仕方なく……」

 蓮華の声がどんどん小さくなっていく。身体の方も縮こまらせているようだ。

 それでも孫策は続けた。

 なんか体育会系の負けた試合の後のミーティングみたいだな。

 

「なんで赤壁から出たの? 冥琳も止めたでしょう」

 負ける原因になった部員が、顧問やキャプテンから駄目出しされてる、そんな感じ。

「だ、だって姉様ならきっと出撃するって思って……」

 またもため息の孫策。

「私を引きずってどうするのよ。蓮華は私と違った王にならなきゃ駄目じゃない」

「でも……」

 そうか。真・恋姫†無双でも孫策を失った蓮華は死んだ姉を目標にしていたっけ。一刀君に指摘されて改善されたけど、この蓮華はその機会がなかったんだ。

 

「それにいくら私でも、作戦ならおとなしく待機するわ」

 いや、どうだろう。真や萌将伝だとそんな気はしませんが。少なくともおとなしく、ってのはないんじゃない?

 蓮華もそう思ったみたい。

「そ、それは嘘です! 冥琳に聞いてみますか?」

「ふふっ。それぐらい言えれば大丈夫かな。呉が負けちゃったのは悔しいけれど、今回は蓮華が変わるきっかけになると思うことにするわ」

 ……今回は、か。次があるような言い方されると気になるなあ。

 

 

 

 ロードして再開する。

「本当に生き返った……」

 俺の首筋に触れ、繋がってるのを確認中の蓮華。……そんなにさわさわされると感じちゃうって。

「と言うより、死ぬ前に戻ったんだ。記録したのがやる前だから、今の蓮華はまだ処女だよ」

「え?」

 

 使ったのはセーブ3。

 記録したタイミングは蓮華が閨に入った辺り。

 どうせ死ぬってわかってたから、セーブしといたんだよね。

 朝のセーブ1からやり直すのは大変だし、セーブ2は上書きしたくなかったんでセーブ3。

 

 

 現在のセーブ状況。

セーブ1 毎朝のセーブ用

セーブ2 華琳ちゃんと愛紗との初めての直前

セーブ3 蓮華との初めての直前

 

 

 うん。セーブ2に上書きなんてできないよね。……もっとスロットあればなあ。

 天の声バンクとか、ターボファイルとか、どこかで入手できればいいのに。

「さっきしたのは孫策に会わせるため。だから華琳ちゃん、今夜はもういいでしょ?」

「ええ。その美尻をたっぷり堪能したしもういいわ、蓮華。皇一、蓮華の分まで楽しませてくれるんでしょう?」

 全裸の華琳ちゃんが俺にしな垂れかかってくる。

 俺の顔を撫で回し、そして眼鏡を奪う。

「で、でも……」

「辱めや罰はもういいの。皇一に抱かれたいのなら、本当に皇一の嫁になる覚悟ができてから」

 華琳ちゃんに諭され、真っ赤になる蓮華。

「楽しみたいだけなら、私が相手をしてあげるけど?」

 ぺろりと舌なめずりする超絶美少女に、蓮華はさらに赤くなって逃げるように閨を出て行ってしまった。

 

「可愛いわね」

 華琳ちゃんの耳に囁く。

「華琳ちゃんも可愛いよ」

「……やっぱりずっと眼鏡を外してなさい」

「それは無理」

 

 

 

 

 赤壁に残っているはずの一刀君たちは既に撤退していた。

 それも、決戦に参加できなかった呉の水軍の大半を引き連れて。

 もしかして劉備も仲間にいるの? そう思うぐらいのカリスマと手際。

「ドサクサにまぎれて上手いこと言いくるめたんでしょう」

 桂花はそう解析したけどどうなんだろ。白装束が絡んでないといいなあ。

 蓮華を捕らえたのは愛紗だと聞くし、呉の予想外の無印的な展開に俺は不安で仕方がなかった。

 

 

 魏に戻ってきた俺たち。

 呉の主だった将、軍師も連れてきている。

 捕虜、ではなく華琳ちゃんの部下として。

 もはや魏の一部となった呉領の統治と、水軍の育成が主な仕事。

 一刀君たちに呉の水軍を奪われた以上、魏も水軍を強化しないといけない。

 ……それはわかっているんだけど。

 

 わかってるんだけどさ、呉キャラ全員くることないじゃないさ!

 性教育の授業を前に、ため息が止まらない。

 この授業を褒美として要求したたんぽぽちゃんや翠はまだいいとして、なんで前回の参加者までこんなにいるかな?

 一応、引継ぎしてる娘たちは半泣きで頼んで参加を見合わせてもらったのにさ、張三姉妹は前回いなかったからって参加してるし、華琳ちゃんは監督役よって当然のようにいるし。

 気が重いけど早く終わらせよう……。

 

 

「とにかく、処女は大事にしなさい!」

 これが言いたいがために恥ずかしい目にも耐えたんだ。

 ……うん。やっぱりわりに合わない。もう絶対やらない!

 驚いたことと言えば、クールビューティな周瑜が俺のを赤い顔で見ていたこと。結構可愛い表情だった。

 その理由は嫁からの嘆願でわかったけれど。

 

 

 俺の嫁ではない。

 周瑜の嫁。小喬ちゃんからの……お願いっていうよりはお誘い。

「悪いけど、俺は処女じゃないと」

「冥琳さまもあたしも、初めてに決まってるじゃない!」

 頬染めながらも小喬ちゃんが怒る。

「嘘!?」

「なんでそんなに驚くのよ!」

 そりゃ驚くでしょ。

 だって小喬ちゃんは乙女だらけなはずの無印でまさかの中古ロリだったじゃん! 周瑜と結婚してるし、大喬ちゃんには生えてるし!

 

 あ、でも本当に処女だって言うんなら、俺のを観察していた時の周瑜の表情には納得がいくかも。

 

「処女は大事にしなさいって言ったでしょ! 結婚する相手とだけにしなさいって!」

「冥琳さまとあたしはもう夫婦よ!」

 あ、そうか。なら、いいのか。

 ……あれ? いいのかな?

 

「しゅ、周瑜は同意してるの?」

「無論だ」

 い、いつのまに背後に。

 呉の軍師さんは戦闘力も高いからって、俺に気配を悟られないぐらい余裕なの?

「俺でいいの? 俺、二人とも嫁になってくれるって思っちゃうよ」

 

「貴殿は祭殿の命の恩人だ。それに……」

 ふっと優しい魅力的な微笑みを浮かべる。

「私の恩人でもある。華佗に聞いたのだが、治療が遅ければ命の危険もあったようだな」

「周瑜は孫策の残した呉を支えようとして無理しすぎたんだよ。でも、これからはもっと自分の身体も大事にしないといけない。周瑜が倒れたら泣く人多いんだから」

 うん。俺も呉ルートでは泣かされたもん。

 

「そうです。この男の言う通りです冥琳さま。冥琳さまが死んだらあたしも、お姉ちゃんや孫権さまだって悲しみます!」

 想像だけでも辛いのか涙いっぱいに潤んだ瞳を見せる小喬ちゃん。

「小喬ちゃんもいいの?」

「あ、あんたの協力があれば冥琳さまと一つになれるんでしょ! 嫁ぐらいかまわない。……冥琳さまの恩人だし」

 一周目でいっしょに泣いた仲だし、いいかな?

 周瑜を孫策に会わせて、孫策から道場の詳しいこととか聞き出してほしいし。

 二人ともなぜだか処女だし!

 

「わかった」

「我が真名は冥琳。そう呼んでくれ」

「悪いけどあたしの真名は冥琳さまにしか教えないから」

 ああ、そうだった。大喬、小喬の二人も真名が無かったんだっけ。

「いいよ。ありがとう冥琳。俺には真名がないから好きに呼んで。あ、小喬ちゃんはおじ様、って呼んでくれたら嬉しいな」

 

 

 小喬ちゃんの話は嘘ではなく、二人とも処女だった。

 真・恋姫†無双でさえ、冥琳は男性経験のない非処女っぽかったのになあ。

 孫策がいないから無事だったのかな。でも、大喬がいるしどうなってるんだろう?

 

 

 

 その謎と、二周目になってずっと気になっていた謎が同時に解決した。

 ……解決、ってのは違うか。問題が解消したわけじゃないし。

 とにかく、正体が判明した。

 

 周回ボーナスで増えてしまった、もう一本の俺のナニの正体が!

 

 

「これ、大喬ちゃんのだったのか!」

 思わずそう叫びそうになって、ぐっと飲み込んだ。

 そんな俺を大喬ちゃんとシャオちゃんが怪訝そうに見ている。

 

 

 

 夜中、下半身に違和感を感じて目覚めた俺。

 なんかデジャヴュと思いつつ確認したら、星ではなくシャオちゃんと大喬ちゃんが剥き出しの俺のをじっくり眺めてる。

「え?」

「おはよう」

「まだおはようの時間じゃないでしょ」

 上目遣いに見ている二人。俺の顔と股間を交互に。

 

「シャオたちね、夜這いにきたんだよ♪」

「……はあ」

  取ってつけたようなため息を大きくつく。

 

「なによう」

 ぶぅ、と大きく頬を膨らませるシャオちゃん。

「処女は大事にしなさいって言ったでしょ!」

 人差し指でつん、と膨らんだ頬を突っつく。

「シャオの大事な初めてをあげるんだから、もっと嬉しそうにしなさいよ!」

「結婚する相手とだけにしなさいって! 大喬ちゃんまで連れてきちゃって」

 シャオちゃんは大喬ちゃんの身体のこと、知らないのかな?

 

「だって皇一のって一人じゃ大変だって沙和が言ってたもん」

「沙和、なに話してるのさ……」

 江陵での留守番中、沙和も両方同時を経験したしなあ。でも、結構悦んでた気もするけど。

 

「大喬ちゃんも嫌なら嫌ってはっきり言わないと……」

 大喬ちゃんに向き直った時に気づいた。二人は準備万端、全裸で俺のを眺めてたんだけど。

「あれ?」

 おかしい。

「ない? ……ちょ、ちょっと大喬ちゃん、いい?」

「え? きゃっ!?」

 大喬ちゃんの両脚を持って、ぐいっと開脚させる。

「やっぱりない!?」

 そう。大喬ちゃんの股間にあるはずの……女の子の股間にあってはならないはずの……ナニがなかった。

 

 

 

 叫ぶのをなんとか堪えた俺は、自分と大喬ちゃんの股間を交互に見比べる。

 半陰陽、つまり両性具有、所謂ふたなりだった大喬ちゃん。そのナニがなくなって……俺のナニが増えていて……。

 サイズはたぶん違うけど。

 袋が……玉がどこへ行ったかわからないけど。

 俺のナニが増えたことは大問題だけど、大喬ちゃんが普通の女の子になったことは素直に喜ぼう!

 うん。俺にはふたなりとか男の娘といった、ちん娘属性ないからね。

 

「なによなによ! 皇一はシャオより大喬の方がいいって言うの!?」

 ますます頬を大きく膨らませるシャオちゃん。童話の蛙みたいに破裂するんじゃない? って心配するほど。

「いやコレはね……」

 ……いったいどう説明しよう。生えてるはずだったから思わず確認しちゃったなんて。

「ないのがいいんなら、シャオだって生えてないんだから!」

 自ら開脚してみせるシャオちゃん。

 生えてないってそりゃそうでしょ。

 ……い、いやまてよ、恋姫は性別反転だから貂蝉みたいにシャオちゃんも生えてた可能性もあったのか……。生えてなくてよかった!

 

「どう? つるつるでしょ!」

 って、ああ! そっちか。生えてないのはしっとり艶々の方ね。

「うん。生えてないのはわかったから、もういいってば」

 大喬ちゃんの脚を広げていた両手を離してアピール。

 

 

「なんで俺なの?」

 仕切り直し。

 ……無理があるのわかってるけどさ。

「だって格好いいもん!」

 シャオちゃんの言葉に大喬ちゃんがコクコクと頷く。なんで大喬ちゃんまで……あ、寝る時に眼鏡外したままだ。

 眼鏡を探してキョロキョロ。あれえ? どこに置いたっけ? いつも枕元に置いてるはずなのに。

 

「顔だけが理由なら俺は嫌なんだけど」

 一周目のシャオちゃんは、眼鏡外す前から仲良くしてくれただけに余計にそう思う。

「それだけじゃないもん! 冥琳や祭を助けてくれたよ!」

「そのお礼は真名もらったでしょ?」

「捕虜になってる時だってシャオのこと、大事にしてくれたし」

 そりゃ、このシャオちゃんとは違うけど一周目のシャオちゃんは俺の大恩人だし。大事にするのも当然でしょ。

「とにかく! シャオは皇一のこと好きになっちゃったの!」

 そう言われたら何も言えないわけで。好きって言われて嬉しいのは間違いないし。

 

「……大喬ちゃんは?」

「あ、あの、小喬ちゃんがお世話になりました。ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げる大喬ちゃん。ああ、こっちは小喬ちゃんに話を聞いたのか。

「大喬はね、雪蓮お姉ちゃんを失ってからずっと寂しそうなの。元気になってほしいの!」

 そっか。シャオちゃんは義姉のことを考えて連れてきたのもあったのかな。

「大喬もおっぱい小さいし、皇一って小さい方が好きなんでしょ!」

 ……なんかそれで連れてきたのがメインの理由っぽいなあ。

 爆乳の陸遜とか黄蓋を普段からよく見てるから気になっちゃうのかな?

 

「それにシャオと大喬に大事なところを見せて、大事なところを見ちゃったのよ。責任とりなさいよ!」

 なにその理屈? たしかにじっくりと凝視しちゃったけどさ。俺の大事なとこを見た、っていうか眺めていたのはシャオちゃんの差し金でしょ。

 でも真っ赤な顔でこっちを見つめる大喬ちゃんには、そんなこと言えないしなあ。

「いいの? 初めてでしょ?」

「は、はい。お願いします。おじ様」

 ううっ。そう呼ばれちゃ応えるしかない!

 そうだよ。大喬ちゃんは生えてないし、まったく問題ないじゃないか!

 孫策と会わせてあげたいのもあるし。嫁や妹なんだし。

 ちゃんと処女みたいだし!

 

「シャオもいいんだから!」

「うん。……一つ聞いていい?」

「なに? シャオももちろん初めてよ! 優しくしてね♪」

 それはわかってますって。

「いや、俺の眼鏡知らない?」

「なんだ、その事? 終わったら返してあげる♪」

 やっぱりシャオちゃんが持っていたのか。

 

 

 

 後で小喬ちゃんに怒られた。

「お姉ちゃんの処女は、孫策さまのものだったのに!」

 でも本当は自分も混ざりたかったのかもしれない。だって今度は二喬いっしょに、って誘われたし。

 よく考えると、無印一刀君でさえ奪えなかった二喬の初めてをもらえたってのは凄いよな。ボーナスのおかげか。

 ……なんで俺んとこにきたのかがいまだに理解に苦しむけど。

 大喬ちゃんの玉の行方も不明だ。三周目やったらボーナスで玉増えたりするのかな? 怖いなあ、考えたくない。

 

 

 

 

 愛紗が一刀君の元へ帰るらしい。

 呉との決戦で蓮華を捕らえたことで、通行料分の働きはしたと華琳ちゃんも認めた。

「捕虜になるのをよしとせず、蓮華が自害する可能性もあった。それを説得して降らせたのだもの。十分な功績よ」

「では?」

「ええ。好きになさい。でもいいの? 皇一が泣くわよ」

 本人の前でそんなこと言わないで。だってもう泣きそうなんだから。

 

 

「本当に行っちゃうの?」

「はい。私はやはりご主人様の家臣なのです」

 やっぱり一刀君を選ぶのか……。

 そりゃおっさんより若い子の方がいいよね。俺だってBBAよりロリの方がいいもん。

 って、頭ではわかってるけど悲しいのは止められない。

 

「……止めても、無駄なんだね」

「一度決めた主を(たが)えるつもりはありません」

「そう……」

 止められないのか。愛紗が行っちゃうのも、俺の涙も。

 

「そのような情けない顔をしないで下さい」

「そ、そんなこと言ったってさ」

「まったく。私を嫁にしてくれる方がそれでは困ります」

「え?」

 今なんて?

 

「なんですか、今度は驚いた顔をして。私を嫁にするのでしょう?」

「で、でも愛紗は俺よりも一刀君を選んだんじゃ?」

 そうだよ。だから一刀君のところへ帰るんだろ?

「ご主人様は我が主。……とはいえ、夫というわけではありません」

「……ええとつまり、一刀君は上司で、俺は夫ってこと?」

「そうですね。何も問題はないでしょう」

 うん。愛紗は俺の愛紗のままなのはわかった。

 ……でも、相手はあの主人公様。心配だ。一刀君いい男だもん。

 

「一刀君は違うよ。武将や軍師のほとんどが既に一刀君の女になってる」

 愛紗が戻りたくなるかもしれないから黙っていたけど、鈴々ちゃんも朱里ちゃんももう……。魏延はわからないけど、黄忠や厳顔は確実に。

「なっ!」

「俺はそんなところに行かせたくない!」

「そ、それでも私は……」

 もう止められないのか。

「俺を置いて、行っちゃうの?」

「私の矜持ゆえ」

 

 愛紗を止められないと悟った俺は、涙を呑んであきらめるしかなかった。

「泣かないで下さい」

 ……呑みきれずに涙は溢れていた。堪えられるわけないでしょ、この俺が!

「まったく。そんなに私を信用できないのですか?」

「信じてる。信じてるけど……」

「……ならば、安心できるよう、女としての私はここに置いて行きましょう。春蘭、剣を貸してくれ」

 

 春蘭に借りた剣を、テールを纏めている髪飾りの少し上に当てる愛紗。

 え? それってもしかして!

 躊躇うことなくバッサリと切断。愛紗の綺麗な黒髪が床に落ちていく。

 それは蓮華のイベントじゃ?

 ほら、蓮華や甘寧が微妙な表情してるってば。

 っていうか、美髪公が髪切っちゃうなんて!

 

「これが私の覚悟です」

 剣を春蘭に返し、髪飾りを外して持った手を俺に向ける。受け取れってこと?

 両手を揃えて差し出す。震えてるその上に髪飾りを置く愛紗。

「でも、髪が短くなったって愛紗が綺麗で可愛いのは変わらない。う、浮気はしないでね」

「どの口でそれをいいますか?」

 ギロリ、と俺を睨む。

 もしかして冥琳とかシャオちゃんとかのこと、ばれてる?

「……浮気じゃない。みんな俺の嫁」

 我ながら図々しい言いわけ。

 

「浮気が心配なら、しっかり刻み付けておくことね」

 華琳ちゃん?

「私のことも忘れないように、しっかりと刻んであげる。愛紗とは初めての時だけだったし、お別れする前にもう一度くらいいいでしょう?」

「華琳殿……」

「それとも、愛紗も初めての娘とじゃないと嫌なのかしら?」

「そ、そのようなことはありません!」

 真っ赤になった愛紗が咄嗟にそう返してしまった。

「なら、決まりね」

 華琳ちゃんがただで手放す気があるはずもなかったか。

 ……やっぱり雛里ちゃんの時のことも、ばれてるんだろうか?

 

 



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二十五話  失?

感想、評価ありがとうございます。

今回は愛紗視点のおまけをつけてみました。




 美髪公から短髪公になってしまった愛紗。

 沙和によって髪を整えられた後、一刀君の元へ旅立っていった。

 ……ううっ、寂しい! 心配だよぉ!

 自作のお守り袋を握り締める。中身は愛紗の髪。

 フラグクラッシャー効果なんてなさそうというか、逆に死亡フラグっぽいアイテムだけど気にしない。

 一刀君たち、愛紗見てビックリするだろうなあ。

 

 

 落ち込んでるのは俺だけではなかった。

「協力する言うたやん……」

「すまない」

 目の前の霞に頭を下げる。

 そう。俺と同じくらい霞も落ち込んでいた。

 

「うう……愛紗ぁぁぁ!」

 お守り袋を握り締めて霞が泣く。

 俺にできるのは霞たちの分までお守り袋を縫うことぐらいだけだった。華琳ちゃんには縫い目とかで駄目出しされたけど。

 

「なんじゃ、いい若いモンが真昼間から酒をかっくらって泣いておるなど」

 周りの客が避けていた俺たちのテーブルに現れた祭。

「俺と霞は今日は休日。サボってるわけじゃない」

「せや。一人じゃ辛すぎる悲しい酒なんや!」

 俺と霞は二人とも休日な事をいいことに朝から飲んだくれていた。

 真昼間どころじゃないんだよねー。

 

「だいたい、そう言う祭だってこんな時間から飲みにきたんだろう?」

「む。儂は若くないからいいんじゃもん」

「俺だっておっさんですー」

 おっさんだから、祭のことは祭さんなんて呼ばない。

「酔っ払いめ」

 やれやれと言いつつ、相席する祭。

 

「そんなに大事なら孕ませておけばいいものを」

「そ、その手があったか!」

「せや! なんで仕込んどかったんや!」

 目から鱗の指摘に俺と霞が立ち上がる。

 そうだよなー。愛紗が妊娠してれば……。

「いや、愛紗ならむこうで産んだかも……」

「愛紗やもんなあ……」

 盛り上がった俺と霞はすぐに座りなおして落ち込む。

 悪い酔い方だなと頭の隅ではわかっているつもり。

 

「まったく。冥琳も小蓮様もこんな男のどこがよかったのやら?」

 あれ? もう知ってるの? 俺の嫁になってくれたって。

「そらアレやろ。アレ」

 両手の人差し指を立てる霞。

「双頭竜か。あんなものに惑わされるとは情けない。儂の方が泣きたいわ!」

 ぐいっと酒をあおってからため息。

 って、それ俺の酒。まあいいけど。追加注文しとこう。

 

「そりゃ祭の娘みたいな二人に手を出したけどさ、遊びで抱いたわけじゃない!」

「ほう」

「ちゃんと責任とる。俺の嫁になってくれるって言ったもん」

「なにがもん、じゃ。その嫁になってくれるはずの女に逃げられた癖に」

 そ、それを今言う?

「う、うわぁぁぁあん!」

 俺は再び泣き出した。

 

「泣ーかした、泣ーかした」

「ふん。甲斐性なしめ。……冥琳、小蓮様、本当にどこが良かったんじゃー?」

 これが処女相手だったら身体で証明する! とか言っちゃうのに。

 

 ……いや、言わないよ俺。

 言うワケないでしょ愛紗。酔ってるなあ。なんか愛紗の怒鳴り声が聞こえた気がした。

 

 

 

「元気出しなよ~」

 最近みんなそう声をかけてくるけど、俺、そんなに落ち込んでるように見えるのだろうか?

「そんなに元気なさそうに見える?」

「ああ。ちゃんとご飯食べてるのか?」

 俺の顔を覗き込む翠。

「しっかり食べてるって」

 食欲はあんまり無いけど、嫁さんたちに心配かけないよう、栄養はとっているはず。

 

「こ~んな可愛い娘といるんだから、もっと元気出てないとおかしいよ~」

 不満そうなたんぽぽちゃん。

「いくらふられたからってさ~」

「ふ、ふられたんちゃうわ!」

 思わず似非関西弁で反論。

 

「なあたんぽぽ、なんかお前怒ってない?」

「あ~、お姉様にはわかっちゃうか」

「え? 俺なんか怒られる様なことした?」

「なんにもしてない」

 ほっと胸を撫で下ろす俺。だがほっとしてる場合ではなかった。

「ならなんで怒ってるんだ?」

「だから、なんにもしてくんないの! 皇一さんが!」

 

「なに言ってんだ、たんぽぽ?」

「たんぽぽずっと待ってたのになんにもしてくれなかった! なのに小蓮たちには手を出して!」

「な、なに言ってんだよ、たんぽぽ!」

 翠がすごく動揺しちゃった。シャオちゃんたちとのこと知らなかったのかな?

 でも、俺がたんぽぽちゃんに何かしなきゃいけなかったっけ?

 

「たんぽぽと初めて会った時のこと覚えてる?」

「うん。あの時は騙しちゃってゴメンね」

「それじゃなくて、言ったよねえ。可愛い子には油断しないとか、口説くのはまた今度とか!」

 そんなこと……言ったかもしれない。

「たんぽぽドキドキしながら楽しみにしてたのにな~」

「楽しみって、く、口説かれるのをかっ?」

 翠は耳まで真っ赤になってる。

 

「もしかして……ずっと待ってたの?」

「うん。だけどもう待つのは止めたよ~。やっぱり積極的にいかないと駄目だもんね~」

 腕をからめてくるたんぽぽちゃん。

「ご、ゴメン……」

 どうしよう。

 口説くって俺が?

 無理でしょそんなの!

 ……どうしよう?

 

「たんぽぽっ、なにやってるんだよ!」

「なにって腕組んでるんだけど。お姉様もする?」

「あ、あああ、あたあたあたあた、あたしが!? す、するワケないだろっ!」

「ゴメンね皇一さん、お姉様にまでふられることになっちゃって」

「な!」

「で~もその分、たんぽぽが慰めてあげるから♪」

 腕を組むというより、俺の腕に抱きついてる感じのたんぽぽちゃん。

 

「べ、別にあたしは皇一のことふったわけじゃ……」

 赤い顔でこちらを向いているのに目線を合わせないで話す翠。

「うん。わかってるから」

「あ、あたしは皇一のこと、嫌いってワケじゃなくて……」

「じゃあ好きなの?」

 たんぽぽちゃんのツッコミで硬直する翠。

 

「あんまり翠をからかっちゃ駄目だって。翠みたいな可愛い娘がこんなおっさん相手にするワケないでしょ」

 そう言った瞬間、翠がギンッと俺を睨んで、たんぽぽちゃんとは反対側に周り、俺と腕を組む。

「べ、別に気を使ったわけじゃないからな!」

「あ、ありがとう」

 なんだかかみ合わない会話をする俺と翠。

 翠も赤いが、俺もきっと真っ赤になってるだろう。

 路上でこのまま晒し者になるのは辛い。早く移動しないと。

 どこへ?

 目的地を知らされずたんぽぽちゃんに引っ張り出された俺。きっと、落ち込んでる俺を元気付けようとしてくれてるんだろうけど。

 ……翠とたんぽぽちゃんか。ちょうどいいかな?

 

「そう言えばさ、二人が魏にきてくれることになってから、ちゃんとお礼してなかったよね」

「お礼? いいよそんなの~」

 たんぽぽちゃんはそう返してくれたけど、翠はそんな余裕ないみたい。ガッチガチになってる。わずかにコッチを向いたと思ったら、目線が合ってすぐに正面に向き直っちゃった。

「そういうワケにもいかないよ。俺の発案で魏にくることになっちゃったんだし。あとね、二人がきてくれて俺が嬉しいから、そのお礼」

「ホントに嬉しい?」

「うん。だからね、プレゼント……贈り物があるんだ」

 緊張で硬直気味の翠が転ばないようにゆっくり歩きながら、俺たちは目的地へと向かった。

 

「服屋?」

「うん」

 一周目で偽白装束装備やランドセル、ウェディングドレスを作ってくれた馴染みの服屋。店主にその記憶はないけれどその腕は信用している。

「いらっしゃいませ」

「頼んでたの、できてる?」

「どれでしょうか?」

 出迎えてくれた店主にプレゼントができているか聞く。色々と頼んでる品があるんだよね。

 

「ええとね……」

 俺の説明で、奥から依頼品を持ってきてくれる店主。

「服? こんな可愛い服初めて」

 たんぽぽちゃんが驚いたそれはもちろん、真で一刀君がデザインしたゴスロリ。その時は翠用に作られたのを気に入ったたんぽぽちゃんが店に頼んで自分用にも作ってもらっていたけど、俺はちゃんと二人用にそれぞれ注文している。

 二人のサイズは華琳ちゃんの見立てだ。

 

「はい。こっちの桃色のが翠で、黒い方がたんぽぽちゃんの」

 真のとは違い、翠にピンク、たんぽぽちゃんに黒を用意した俺。白はやっぱりウェディングドレスの方がいいからね。

「あ、あたしにも!?」

「うん。お礼だから」

「い、いい。あ、あたしにこんなの似合わないって!」

 予想通り、受け取ってくれない翠。

 ここは人のいい翠の性格につけこもう。

 

「そうだよな。俺みたいなおっさんから服なんてもらいたくなんてないよね……」

「そ、そんなんじゃ」

「お姉様っ! こういうのは受けとらないと失礼でしょ」

「そ、そうなのか?」

「……嫌ならいいんだ。俺としては二人に似合うって確信して用意したんだけど、こんなおっさんに気を使わなくてもいいんだよ」

 ははは、とわざとらしくならない様に寂しく笑う俺。

 

「わ、わかったよ。……あ、ありがとう」

「ありがとう♪ 皇一さん」

 受け取ってくれた二人。うん、よかった。

 ……そうだ。たんぽぽちゃん口説かなきゃいけないんだよね。ちょうどいいかな?

 眼鏡を外して、と。

 

「二人とも、俺のために着てくれると嬉しいな」

 華琳ちゃんに調教されてなかったら、眼鏡を外してなかったら、絶対に言えないよこんな台詞。

 ……もう眼鏡していいよね。でゅわっ、っと。

「どう? たんぽぽちゃん」

「え? ……あ、い、今のもしかして!」

「うん。これで勘弁して下さい」

「お姉様、たんぽぽたち口説かれちゃったよ♪」

 

「こ、皇一のために?」

「うん♪」

「この可愛い服をあたしが?」

「うん♪」

 翠の問いかけに頷きながらたんぽぽちゃんが答えてる。

「……」

 しばしの硬直。

「★■※@▼●∀っ!?」

 翠はゴスロリを手に店から走り去った。

 

「えっと……」

「もう、お姉様ったら」

「あんな調子でちゃんと帰れるのかな? 転んで怪我とかしなきゃいいけど」

 あと、誰かを轢いちゃうとか。

「そうだよね、転んで汚したりしちゃいそうだよね。……たんぽぽも行くね」

「じゃあ俺も」

 たんぽぽちゃんが首を横に振る。

 

「だ~め。皇一さんがいっしょだとお姉様きっとあのままだろうから」

「そう? じゃ気をつけてね」

「うん。可愛い服ありがと~♪」

 去り際に俺の頭をぐいっと引き寄せて頬にキスして、たんぽぽちゃんも店を出て行った。

 なんか少し元気が出てきた気がする。二人のゴスロリ、俺は見ることできるかな?

 

 

 安くはない服代を払うと店主がさらに別の服を持ってきた。

「そっちもできたんだ」

「はい。いかがでしょう」

 出来を確認。うん。やっぱりこの店、腕がいい。……なのになんであんなに偽白装束は駄目だったんだろう。

 

 

 

 シャオちゃんや冥琳たちを孫策と会わせてあげたいけど、いまだ道場へ行かない俺。

 さすがに自殺は嫌。

 死ぬ時のあの感覚って、何度やっても慣れない。怖くて気持ち悪いあの感覚。

 愛紗にも会いたいけど、そんな理由で自殺したら正座と説教のコースだろうし、心配もかけたくない。

 うん。自分で死ぬってのはないね。

 

 

 華琳ちゃんは、吸収した呉のメンバーの面倒を見るように俺に命じた。

 落ち込んでる俺の気分転換かな?

 祭を助けたおかげで、呉のメンバーはみんな俺に真名を預けてくれている。そういうのを狙って助けたわけじゃないんだけど嬉しい。

 ……助けたはずの祭には、シャオちゃん、冥琳のことで睨まれてたりするけど。

 

「お料理教室、ですか?」

「うん。たまには少し気分転換しようよ、亞莎」

 まずは懐柔しやすいところから仲良くなろうとする。

 亞莎は魏にきてから、ずっと勉強しっぱなしで心配なのもあるし。

 一番楽なのは穏なんだろうけど、いきなり行為に、ってなりそうでなんか怖いので後回し。本使わないで仲良くなる方法ないものだろうか。

 

「講師は魏の誇る美少女料理人流琉。いっしょに胡麻団子作らない?」

「ごまだんご?」

 うん。もちろん一刀君みたいに夜食に差し入れしているよ。

「是非お願いします!」

 嬉しそうに即答する亞莎。やっぱり好きなんだなあ。

 

 ここで、ゴスロリプレゼント時に服屋で受け取っておいたエプロンドレスの出番となる。

 明命と思春にも渡してある。明命は参加してくれたけど、思春は蓮華の護衛を理由に参加せず。

 ちょっと残念だけど、亞莎と明命のエプロンドレスはよく似合ってて可愛い。

 

 

「出来立ては熱いですから注意して下さいね」

 可愛い義妹嫁の指導の元、出来上がった胡麻団子。

 

「食べないのですか?」

「俺、猫舌なんだよ」

「お猫様!」

 目を輝かせる明命。猫ならなんでもいいの?

 

「おいしいです!」

 亞莎が出来立てを頬張っている。

 うん。喜んでくれて良かった。

 

「おいしい。これ、亞莎ちゃんたちが作ったの?」

「おかわり」

 匂いを嗅ぎつけたのか季衣や呂布たちも厨房に現れた。

 冷めるのを待っていたら、俺の分がいつのまにかなくなっていた。

 ……まあ、打ち解けてくれたんならいいか。

 

「ここはもう戦場よ。油断しないことね」

 俺の前に胡麻団子の皿が差し出される。

「これはもしかして?」

 亞莎や明命が作っていたのとは違う完璧な球形。大きさも寸分の狂いもなく揃っている胡麻団子たち。

「ええ。私も作ってみたわ」

「ありがとう。……熱っ!」

 食欲魔人たちの食気を感じたので、猫舌なのに無理して頬張ったら滅茶苦茶熱かった。

「油断するなと言ったでしょう」

 そう言いながらも水をくれる華琳ちゃん。慌ててそれを口に含む。

 熱かったー。上顎の内側、火傷したっぽい。

 

「あ、熱かったけど、すごい美味いよ、これ」

「当然よ。それにしても……見事ね」

 華琳ちゃんの視線の先にはエプロンドレスの二人。

「ふふっ。可愛いわ」

「気に入ってくれてよかった」

「ええ。予算を都合した甲斐があるというもの。さすがね」

 エプロンドレスは華琳ちゃんに相談したら予算出してくれた。似合わなかったら俺が出すという条件で。

 ……似合わなかったら俺が着るという条件だけは必死に拒否したからね。

 

「あの服も皇一さんが用意したの?」

 そう問うのはたんぽぽちゃん。

「うん。二人とも似合ってるよね」

「ふ~ん……」

 なにやら考え込むそぶりを見せたかと思いきや。

「も~らい♪」

 俺の皿からひょいと胡麻団子を奪う。

 やられた。今度こそ冷めてからじっくり味わおうと思ったのに。

「なにこれっ! すっごいおいし~♪」

 

「……そういえば翠は? こういう時にいないなんてどっか調子悪いの?」

「調子が悪いっていえば悪いっていうか変なんだけど……皇一さんのせいなんだからね~」

「俺の?」

 まさかあのゴスロリの時のせい? まさかね……。

 

 

 

 その晩。

 真桜がくれた愛紗の写真を眺めてボーっとしていた俺は、ノックの音でとんでた意識が呼び戻される。

「どちら様?」

 ドアを開けると現れたのは翠とたんぽぽちゃんの二人。

 それもゴスロリ装備で。

 

「ど、どどどどど……」

 どもりまくる翠をたんぽぽちゃんが「どうどう」って宥めている。

 

「ど、どうだ?」

「うん。よく似合ってる。可愛いよ」

 本当によく似合っている。ポニテを解いた翠を初めてナマで見たけど可愛いね。

「でしょ~♪ たんぽぽは?」

 たんぽぽちゃんはテール解かないのか。

「もちろん可愛いよ。着てくれてありがとう」

 うんうん。いいもの見たなあ。あっ、華琳ちゃん呼んだ方がいいのかな?

 

「お姉様ねえ、ずっと皇一さんに見せようと思ってて、でもできなくて悩んで変になってたんだよ~」

「そうか。ありがとう翠」

「あ、ああ……」

「ムラムラしてきた?」

 元気は出てきたけど、欲情って言われると……って、たんぽぽちゃんなに言ってるのさ。

 

「なっ、なに言ってるんだよたんぽぽっ!」

「お姉様、たんぽぽたちは、遅れちゃっているんだよ」

 遅れてる? なんのことだろう。

「これは皇一さんを巡る女の戦いなの!」

 はい? それはなにかの勘違いじゃないでしょうか?

 

「ええと、俺のお嫁さん、みんな仲いいはずだけど……」

「それは、もうお嫁さんになっちゃった方でしょ~。華琳さまが一番で、その華琳さまが許してるから上手くいってるの」

 そうだったのか。

「でも、まだお嫁さん認定されてない、つまり皇一さんとシテない娘たちには熾烈な争いがあるの!」

 そんな、どこぞの二軍みたいなことありませんって。

 

「このままだと、お姉様やたんぽぽの入る隙間がなくなっちゃうの。そんなの嫌! お姉様、皇一さんのお嫁さんになれなくてもいいの?」

「よ、嫁? あたしが?」

「うん。たんぽぽといっしょにお嫁さんになって♪」

「あ、あたしがたんぽぽといっしょに……?」

 な、なんかたんぽぽちゃん、翠を洗脳してない?

 

「だから皇一さん、三人でしよっ!」

「いや、あのね。双方の合意がね」

「お姉様もたんぽぽもいいよ~。お嫁さんにもなってあげるって~」

 いかん。このままだと俺までたんぽぽちゃんのペースに流されてしまう。

「翠はそれでいいの?」

「……やっぱり皇一は嫌だよな。あたしみたいな可愛くない女なんて……」

 

「いや翠可愛いよ。可愛いってば! 俺好きだよ翠のこと」

 咄嗟に眼鏡を外して告白。ハッとしてたんぽぽちゃん見たらにんまり笑顔。

「たんぽぽのことは?」

「可愛いたんぽぽちゃんも好きだよ」

「もっちろん、たんぽぽも皇一さんがだ~い好き♪ ほ~ら、後はお姉様の気持ちだけ!」

 

「あ、あたしだって皇一のことが好きだ!」

「ね。これで双方の合意でしょ♪」

 ……たんぽぽちゃんには勝てる気がしない。

 この小悪魔を騙せたなんて、涼州の時は信じられないくらいの幸運だったんだろう。

 

 

 

 今回のせめてもの幸運は、コトに至る前に血の染みが落ちにくいことを思い出して、ゴスロリ服を汚さずに済んだことだろうか。

 ……翠とたんぽぽちゃんとできただけでも、すごい幸運なのはわかっているけどさ。

 愛紗にばれたら説教されるんだろうなぁ……。

 

 

 

 

 

 

<おまけ> 愛紗るリターン

 

 

「げぇっ! 関羽!」

 ……それが久しぶりのご主人様の最初のお言葉でした……。

 

 ……ご主人様の隣には頬を上気させた袁紹がいました……。

 

 

 

 帰ってくるべきではなかったのだろうか?

 皆がよそよそしい。

 私を疑っているのかもしれない。

 仕方ないのだろう。

 私は長い間、魏にいすぎてしまった。

 

「皇一殿……」

 真桜が餞別にくれた皇一殿の写真を胸に抱く。

「皇一殿……」

 いけないこととわかりつつも、右手が下半身に向かいそうになった時、私の部屋に乱入する者が。

「いっしょに食べるのだ愛紗!」

 鈴々か。……危ないところだった。

「どうしたのだ?」

 肉まんを乗せた籠を手に不思議そうに私を見つめる。

 鈴々だけは、この義姉妹だけは、以前と変わらぬ態度で接してくれる。

 

「いや、私はよい妹を持ったな」

 皇一殿がよく言っている台詞を、まさか自分が言うことになろうとは。

「にゃ? 愛紗、そんなにお腹空いていたのか? だったらもっと貰ってくるのだ!」

 止めるのも間に合わず部屋を飛び出す鈴々。厨房へ向かったのだろう。

「……これだけあれば十分だろうに」

 鈴々が置いていった山盛りの肉まんを眺めて苦笑する。

 

 さらに山盛りの肉まんを二籠持って鈴々が戻ってきた。

「食べて元気出すのだ!」

 ずい、と私に肉まんを差し出す鈴々。

「あ、ああ」

 鈴々に流されて肉まんを口にする。

「次なのだ!」

 一つ食べ終わる度に、次々と肉まんを差し出す鈴々。

 おかしい。

 鈴々が自分の食べるのを後回しにして私に?

 

「私一人でそんなに食べきれるか。いっしょに食べるのだろう?」

「……たっくさん食べて元気出すのだ愛紗」

「先程もそう言ったな。私は元気だぞ」

「でも……」

「私が弱ってるように見えたのか?」

 こくりと頷く。

 やれやれ。心配をかけてしまうとは。情けない姉ですまんな。

 

「やっとご主人様や鈴々たちの元に帰ってこれたのだ。元気になることはあっても弱るはずがなかろう?」

「だって、愛紗がふられたって! だから落ち込んでるってみんなが言うのだ!」

 なに?

 私がふられただと?

 皆がそう言ってるだと?

 

「も、もしや皇一殿のことを言っているのか? 皇一殿とはそうではなくてな」

「おっちゃんにふられたのか!?」

「だから、ふられてなどおらぬ!!」

 ふられてなど……いないはず……。

 

 

 

「朱里、詳しい話を聞かせてもらえないか?」

「あ、愛紗さん……」

 鈴々からでは状況がよくわからないので確認することにした。朱里ならば上手く説明してくれるだろう。

 

「……私が髪を切ったのが、失恋のためだと?」

「はい。ご主人様がおっしゃってました。失恋した女性は髪を切るって」

「はあ。それで皆、腫れ物をさわるような扱いだったのか」

 わかってしまえばなんのことはない。皆、私に気を使ってくれていただけなのだ。

 

「失恋ではなく、お嫁さん?」

「声が大きい」

「はわわ……」

「隠すわけではないのだが、皇一殿は曹操の婿。私が……その、よ、嫁になるなど大きな声で言うわけにもいくまい」

 それこそ敵と通じてると見られてもおかしくはない。

 

「愛紗さん。ご主人様にちゃんと報告しましょう。ご主人様ならわかってくれます」

「朱里……」

 朱里。なんという……。

「……でもよかった。愛紗さんが脱落してくれて。強力な恋敵がいなくなって一安心です♪」

 ……こ、これはきっと冗談だ。私が気に病まないように気を使ってくれているのだ。

 

「私の恋も応援してくれると嬉しいです。紫苑さん桔梗さん、最近では焔耶さん麗羽さんまでもがご主人様と……」

 ギリギリと歯軋りする朱里をそっと抱きしめる。

「愛紗さん?」

 戻るのが遅れて苦労をかけすぎたのだろう。

 朱里、こんなになってしまって……。

 

 皇一殿のがうつったのか、私は溢れる涙を堪えきれなかった……。

 

 



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二十六話  呉娘?

「明命、これあげる」

「そんな、こないだ服をいただいたばかりなのに、またいただくわけにはいきません」

「まあそう言わず」

 袋からプレゼントの中身を取り出す。

 それを眺めている内に、明命もその正体に気づいたのだろう。

「そ、それは!?」

 

 馬蹄というか、Cの形をした本体から、ふさふさとした二つの三角が生えている。

「お猫様のお耳?」

 そう。所謂猫耳カチューシャ。

 例の服屋で作ってもらったものである。

 

「これをね」

 猫耳カチューシャから目を離さない明命にそっと近づく。

「こうするんだよ」

 おもむろに明命の頭に装着。

 うん。やっぱり似合うなあ。

 

「似合うよ。とっても可愛い」

「はうぁ!」

「鏡で見てきてごらん」

 手鏡とか持ってきてればよかったなあ。

「は、はい。ちょっと失礼します!」

 音もなく明命が姿を消した。

 うわっ、忍者みたい。

 

 そして、やっぱり音もなくすぐに戻ってくる明命。

 その顔は紅潮している。

「すごいです! お猫様のお耳なのです!」

「喜んでくれたみたいでよかった」

「あ、ありがとうございます!」

 うんうん、今度尻尾もつくってもらおう。

 惜しむらくは料理教室の時に完成していなかったこと。猫耳メイド姿、見たかったなあ。

 

 

 

 

 ……おかしい。

 いくらなんでもおかしすぎる!

 

 俺の左右でスヤスヤと眠る明命と亞莎。

 つまりは、そういうことなわけなんだけど……。

 俺、そこまで明命と亞莎と仲良くなってたっけ?

 

 亞莎には呉ルート一刀君に倣って胡麻団子の差し入れ。

 明命には猫耳カチューシャをプレゼント。

 料理教室で魏の連中と仲良くなってもらった。

 

 ……それぐらいしか浮かばない。

 危険な極秘任務につくから、死ぬ前に思い出がほしいとか、俺の子がほしいとか言われたけど、このおっさんをそこまで好きになる理由が思いつかない。

 これだけは考えたくない俺の顔が気に入った、という線もない。

 俺が眼鏡を外したら二人とも驚いて、暫く動きが止まっていたから。間違いなく、俺の眼鏡無しの顔は知らなかった。

 

 じゃあなんで?

 賢者タイムな今だからこそこう考えられるけど、呉の三大美少女の中の二人に誘われたら俺が断れるはずも無し。

 ……罠か?

 ハニートラップ?

 

 真面目な二人なら任務とあればありえるのかな?

 いやでも俺を罠にかけて、なにか意味があるのか?

 機密情報を入手とか、俺を利用するとか……あんまり利点なんてなさそう。

 

 

 ……とするとまさか、引継ぎ目当て?

 蓮華はもう俺の能力を知っている。

 それなら明命だけでなく、軍師の亞莎が巻き込まれた理由にもなる。軍師に引継ぎ情報与えることを考えても……。

「皇一様……」

「……皇一さま」

 ほぼ二人同時に俺の名を口にする。寝言?

 ……なんだか疑ってるのがすごく悪い気がしてきた。

 罪悪感半端ない。胃が痛くなりそうだ。

 

 そうだよな。二人とも、大事な大事な処女を俺にくれたじゃないか!

 処女をもらった以上、二人は俺の嫁!

 こんな可愛い嫁になら利用されてもいいじゃないか。

 うん。問題ない。

 悩みが消えたら眠くなってきた。もう一眠りしよう……。

 

 

 

 翌朝二人は極秘任務のために旅立っていった。無事に帰ってくるといいなあ。

 行き先は極秘という事で教えてくれなかった。

 やっぱり一刀君のとこかな?

 武将が少ないとはいえ、水軍も手に入れたし、愛紗も戻ってしまっている。

 油断なんてできる相手じゃない。

 

 それとなく蓮華に聞いてみようかな?

 あの未遂扱いの初体験以降、あまり話をしてないし。

 

 蓮華に会いに行こうとしたら思春につかまった。

 蓮華が仕事中だから邪魔するなってのかな?

「頼みがある」

「頼み?」

 思春が俺の前を歩きながら言う。どこへ連れて行くつもりなんだろう。

 

「抱け」

「はい?」

 立ち止まり、振り向く思春。

「私を抱けと言っている」

「ええと……?」

 なんで思春が?

 ロード後、蓮華に手を出さなくて、「蓮華さまに魅力を感じなかったのか!」って殺されそうになるぐらい怒られたせいか、俺、思春を避け気味だったんだけど。

 もしかしてプレゼントしたエプロンドレスのお礼? ……んなわけないか。

 

「処女は大事にしなさい!」

「……くだらん」

 この反応。やっぱり、俺が好き、とかじゃないよね。

 とするときっと……。

「思春を嫁にしたらその代償に、俺、殺されちゃうのかな?」

「……わかっているなら話が早い」

 やっぱり思春は俺の能力を知っている!

 蓮華との仲を考えたらありえるか。

 

「ふざけるな! そんな理由で処女を捨てるな! この馬鹿!」

「ふん。私など蓮華さまのためならどうなってもかまわん」

「春蘭並の馬鹿だ、お前」

 まったくもう。

 明命、亞莎の時みたいに俺のことが好きだから、って騙すぐらいもしないなんて本当に春蘭並でしょ。

 

「なんだと!」

「そんなことしたら蓮華が悲しむだろう」

「貴様が蓮華さまのことを語るな!」

 俺の胸ぐらを掴んで怒鳴る思春。

 でもさ、そう言われても悲しむと思うよ、蓮華。

 

「蓮華さまがどれほど苦しんでるのか貴様にはわかるまい」

「蓮華が苦しんでいる?」

 まさか、漢ルートでの病気?

 ええとたしか……。

「生理不順? すぐに華佗に相談しよう!」

「違う! 月のものがおかしくなってるのはたしかだが、それとは別、……まて、なぜ貴様が蓮華さまのお身体の調子を知っている?」

 ぎろりと俺を睨む思春。今にも刀を出しそうで怖い。

 

「天の知識だ。そ、それじゃないなら何で苦しんでるんだよ?」

「雪蓮さまに会えたのが夢だったのではないか、敗戦を雪蓮さまに許してもらいたかった自分のつくり出した妄想ではなかったのかと、蓮華さまはそう悩んでおられるのだ」

「そんな……」

 道場とか、俺の能力が信じられないのは仕方ないけどさ、孫策のこともなの?

「蓮華さまに相談を受け、雪蓮さまに会えるかもしれないとわずかな希望をたくした周喩殿も、いまだ会えてないという」

 冥琳もか。まあ、命の恩人ってだけで俺に抱かれるよりは納得できるな。すると、大喬ちゃんもか。

 ……やっぱり、明命と亞莎もなんだろう。

 そうだよ。俺、一刀君じゃないもん。こんな短い期間で呉の娘と仲良くなれるわけないよねえ。

 

「蓮華さまの悩みを解消するためには、私が自ら確認するしかないのだ」

「……それって、俺を殺せば済むことじゃない? そうすれば蓮華や冥琳が確認できるでしょ?」

 殺されるのは嫌だけど、そんな理由なら仕方がない。

 でも、別に思春の処女をもらう理由にはならないよね? 俺のこと好きってわけじゃないんだし。

「貴様を殺して、そして生き返った時、私は貴様を殺したことを覚えているのか?」

「あ……思春、頭いいんだな。春蘭並って言って済まなかった」

「ふん」

 そうか。思春が記憶引継いでなかったら、俺が何度も殺されちゃう可能性があるのか。

 ……蓮華に思春を説得してもらえばいいような?

 

「でもさ、一人で俺の相手をするのは大変だよ」

「かまわん。早くしろ」

 これ以上言っても聞きそうにないか。

「最後に一つ、いい?」

「命乞いなら聞かん」

「殺さないでとは言わない。……俺の嫁になってくれるんだね? じゃないと俺は絶対に嫌だから」

「……私の話を聞いていたのか?」

「俺の授業を聞いていたよね?」

 二回目の性教育の授業でもちゃんと俺は説明している。

 処女は大事にしなさい。結婚する相手としかするな。って。

 

「どんな理由であっても処女をもらった女性は嫁にする」

 じゃないと、俺の嫁になってくれた他の娘たちに示しがつかない気がする。

「……ふん、好きにしろ」

「ありがとう」

「なっ、私は貴様を殺すのだぞ!」

 動揺する思春は可愛いなあ。

 

 

 

 

 思春もすごいな。あんまり痛くなかった。

 思春の方は痛そうだったけど。

 初めてなのに、一人で両方だったからねえ。

「さて、戦もないのに道場とはどういうこと?」

「誰に殺されたのだ!」

「ちょっと待って」

 華琳ちゃんと春蘭に説明するより先に蓮華の様子を確認。

 

「またここに? また私は……」

「夢じゃないから安心して」

「皇一さん? ……夢じゃないって……まさか!」

「今引継ぎ確認するからね」

 引継ぎ確認をする。

 道場に現れる翠、たんぽぽちゃん、シャオちゃん、冥琳、大喬、小喬、明命、亞莎。そして、思春。

 

「ほ、本当にこんなことが……」

 思春、そんな驚くなんて疑ってたの?

「シャオ! 冥琳、思春たちまで……皇一さん、これはいったいどういうこと!」

 蓮華、やっぱり怒ってるなあ。

「ずいぶんと増えましたね」

 愛紗も怒ってる? 久しぶりなんだから喜んでほしいけど無理かな……。

 

「あまり皇一殿を責めるな。全てはここにくるため」

 俺をフォローしてくれる冥琳。そこへ、彼女たちの目的である人物が姿を現す。

「私に会いにくるためってさぁ」

 道場主の登場に呉のメンバーが沸き立つ。

「雪蓮!」

「久しぶり。元気そうね」

「ああ。皇一殿のおかげだ。雪蓮も……いや、死人に元気と聞くのはおかしいか」

「ふふっ。元気よ。死んでるけど」

「雪蓮さま!」

 孫策にかけより、抱きつく大喬ちゃん。

「雪蓮さまぁ……」

 そのままわんわんと泣き出してしまう。

 うんうん、よかったね。小喬ちゃん、シャオちゃんたちも泣いてるし、俺も思わずもらい泣きしそう。

 

「孫策に会いたかっただけなの?」

 呆れた様子で呉勢を見渡す華琳ちゃん。

「気持ちをわからんでもありません。我らとて華琳さまが亡くなられていたら同じ事をしたでしょう」

「ふむ……私に相談してくれればよかったのに」

 華琳ちゃんに相談って。

「華琳ちゃんも呉のみんなの初体験に参加したと」

「当然でしょ。まったく、惜しいことをしたわ」

 冗談じゃなく、本気なんだろうなあ。

 思春の時、呼べばよかったか。やっぱり一人だとかなり辛そうだったし。

 

 

「皇一殿! まさか皇一殿がそこまで落ち込もうとは……」

 俺を怒るどころか謝ってくる愛紗。

 誰が俺のこと教えちゃったんだろう。心配かけたくないのにさ。

「心配しないでもいいよ。愛紗の方は大丈夫?」

「え、ええ。まあ……」

 言葉を濁す。嘘をつけない愛紗のことだ、この様子だと苦労してるんだろうな。

 

 状況に取り残されて、愛紗に近況報告してたらしい翠とたんぽぽちゃんにも道場の説明。

「こいつらみんな皇一と?」

「だから言ったでしょ、お姉様。たんぽぽたちは出遅れてたって!」

 俺の説明をたんぽぽちゃんがそれなりに噛み砕いて解説してくれたおかげで、翠も理解してくれたみたい。

 

 

 

 ロードしてすぐ、蓮華が謝りにきた。

「ごめんなさい」

 俺に頭を下げることなんてないのに。

「いいよ。知らなかったんだろう?」

「知らなかった、では上に立つ者として済まされないわ」

「俺の方こそ、みんなに手を出しちゃってゴメンね」

 もっと早く気づいていれば、みんなの処女を守れたのに。

 

「……あなたのことだもの、遊びのつもりではなかったのでしょう?」

「うん。みんな俺の嫁になってもらう」

 初めてをもらっちゃった以上は、もうみんな俺の嫁。これは譲れない。

「……その中には私も入っている?」

「え? でも」

 蓮華の時は俺の嫁になるつもりはなかったっぽいから、その直前でロードした後、蓮華とはやらず、処女を守ったんだけど。

「たしかに今の私はまだあなたに抱かれていない。でも、私があなたに抱かれたのもたしかでしょう?」

「……いいの?」

「はい」

 頬を染めて頷く蓮華。なんて可愛いんだろう。もう我慢できない。

「思春、いるんなら出てきてくれ」

「え?」

 しばらく待つも出てきてくれない。きっといると思うんだけどなあ。

 

「出てきてくれないなら……」

 蓮華を抱きしめる。

「きゃ……」

 眼鏡を外して、蓮華の唇を奪う。

「これでも出てこないと、蓮華が一人で俺の相手をすることになるけどいいの思春? 初めてで両方同時って大変だったよね」

 

「貴様!」

 やっと思春が俺たちの前に姿を現した。

「俺を殺したの、気にしてたの?」

 わずかに思春が反応した。

「気にしないでもいいのに」

「そんなわけにいくか」

 俺と目を合わせてくれない思春。

 

「なら思春、皇一さんに謝りなさい」

「はっ。済まなかったな」

 蓮華の一声で思春が俺に頭を下げた。

 まったく。

「だからいいのに。思春も俺の嫁になってくれたんだから」

 

 この後、三人で想いを確かめ合ったのは自然なことだよね。

 

 

 

 桂花の手伝いで蔵の整理中に、太平要術の書を見つけてしまった。

 無印スタートだったから盗まれていなかったのか。

 これがないから天和たちは黄巾の首領になってなかったのかな?

 華琳に許可をもらったので読んでみることにする。

 別に妖術を使いたいわけじゃない。

 俺の能力のこととか、道場のこととかのヒントでもないかと……って道場! 冥琳に道場主から道場のこと聞いてもらっておけばよかった!

 なんという迂闊っ! 冥琳たちの再会を喜んで忘れちゃうなんて。……でもすぐまた死ぬのも嫌だしなあ。

 一応、冥琳に次に道場に行った時に説明を求めるよう頼んでおこう。

 

 冥琳に会いに行こうとする前に穏に呼び止められる。

 このパターンはやったばかりな気が……。

「その本は?」

「ああ、これは……」

 っと、いかん。教えない方がいい気がする。

「……」

 どうしよう?

 視線が太平要術に完全にロックオンされちゃっている。

 発情されて、そこを誰かに見られでもしたら、華琳ちゃんに許可までもらった本を発情させる道具にしたとか怒られそう。

 冥琳にまだ頼んでいないのに殺されるわけにはいかない。

 ……別のものを渡しておくか。

 

「はい、俺の国の……本っていうか目録?」

 スタート時からまだ手元に残っているアイテム、コミケカタログを穏に渡してみる。

「ずいぶん小さな字と絵ばかりなんですねぇ」

「うん。じゃ、俺ちょっと用事があるから」

「そんなこと言わず~詳しい説明をお願いします~」

 トロい口調とは裏腹に素早い動きで俺にしがみつく。呉の軍師はこれだから……って、すごい存在感の双丘が俺に押し付けられている。

 なんというボリューム! なんという柔らかさ!!

 ……いかん、俺はちっぱいの方が好きなんだ!

 絶対おっぱいなんかに負けたりしない!!

 

 

 

「おっぱいには勝てなかったよ……」

 逃げ切れなかった俺。

 説明中に予想通り穏が発情。説得を試みるも当然失敗。

 しっぱいって、おっぱいに似てるよね?

 

 ……はっ!?

 お、俺は何を?

 二本とも挟まれたことが衝撃で意識ぶっとんでいたのか。

 ふと横を見ると……見なかったことにしていい?

「おまたもおしりも……ひりひりしますぅ」

 前後使用済みの穏の姿なんて、見なかったことにしたかったのに!

 

「あ、あの! ……俺の嫁になってくれる?」

「はい?」

「ほ、ほら、処女もらっちゃったみたいだし……」

 うう、順序が逆だぁ。

「ああ~、そういう話もありましたね~。いいですよ~」

 軽っ!

「そ、そんな簡単に決めちゃっていいの!?」

「そうですか。じゃちょっと悩んでみますね~。う~ん」

 断られたらどうしよう。

「いいですよ~」

 早っ!

「え、ええと、よろしく」

「はい。よろしくおねがいしますね~♪」

 いいんだろうか、これで……。

 

 

 いや、よくない!

 やっぱり俺はちっぱいの方が!

 華琳ちゃんに会いに行かなければ!

 

 玉座の間へ到着すると、華琳ちゃんに報告中の明命と亞莎。

 もう戻ってきてたのか。二人とも元気そうだな。よかった。

 

「泰山の調査及び制圧、完了しました」

 え? 明命、今なんて言ったの?

「調査だけで十分だったのだけど、さすがね」

「華琳さまが警戒していた道士はいませんでした」

 二人の極秘任務って泰山の調査だったのか。極秘ってしてる時点で気づくべきだった。

 

「こ、これが、華琳さまの仰っていた物かと」

 亞莎が大きな薄い箱を華琳ちゃんに差し出す。

 箱を開き中身を確認する華琳ちゃん。

「ふむ。……確かに銅鏡のようね」

 銅鏡!

 そういえば、銅鏡を確保、もしくは破壊って二周目に入る前の道場で華琳ちゃんが目標にしていたっけ。

 

「む? どういうこと?」

 華琳ちゃんが驚いている。どうしたんだろ?

 って、華琳ちゃんが持ってる銅鏡が光ってる。

 なんで?

 一刀君じゃなくても終末になっちゃうの?

 

 いや待てよ。

 華琳ちゃんだけが真・フォームを持っている。もしかしたら、起点足りえる存在なのかもしれない。

 ……そんなことを考えている内に、意識が真っ白の中に溶けていくのだった。

 

 



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END2&3
ifエンド2&3


感想、評価ありがとうございます。
評価に一言つけてくれた方、ありがとうございます。

二十六話の続きは二十七話です。
これは二十七話に繋がらないifエンドです。



 

 私はアメリカで生まれた。

 重病を患う祖母の面倒を看るために両親は早くに結婚したと言うが、本当は違う。

 できちゃった結婚である。

 母が私を身篭ったことが原因なのだ。

 国際結婚でもあった両親はずいぶんと大変だったらしい。

 

 ……どちらの国で結婚式をやるかという一点において。

 それ以外はどちらの実家も理解があって、すぐにまとまったそうだ。

 結局、祖母のためにアメリカで暮らすからと、結婚式は日本で行ったそうだ。

 

 

 四歳の時に祖母が亡くなった。

 それを機に日本の祖父母の元で暮らすことになった。

 

 やっと会える。

 

 

 再会したあいつは私のことがわからないらしい。いくら私が幼くてもそれぐらいは見抜いてほしい!

 ……そういえば、あいつも若く見える。

 もしかしたら、私のことを知らないのかもしれない。

 確かめてみよう。

「おじちゃんのおよめさんになるー」

 この幼い身体は舌っ足らずになってしまうので困る。

 

 その次の日、あいつはいきなり出て行ってしまった。

 祖父母は出来のいい弟と比べられるのが嫌だったのだろうと言っているが、果たしてそうなのだろうか?

 

 

 

 もう四年も経ってしまった。

 まさか、ここまであいつが帰ってこないとは思わなかった。

 こないのならこちらから行くまで。

 

 やっと探し出したあいつのアパート。

 呼び鈴を押すも、あいつは出てこない。

 管理人に連絡をして鍵を開けてもらう。

 

 あいつはいなかった。居留守ではなかったらしい。

 タバコの臭いこそしなかったが、埃っぽいので窓を開けて換気する。

 部屋にはポスターとフィギュアが多数飾られていた。……オタク、なのだろう。

 後で教育の必要がありそうだ。

 

 キッチンの隅で練炭コンロを見つけてしまった。

 練炭? まさか?

 いや、この練炭は新品だ。もしかしたらそういう目的で買ったのかも知れないが、あいつはまだ生きている。

 

 さらに調査を続ける。

 女の気配は感じられない。確認できてほっとする。

 机の上にあったこれは……遺書?

 まだ下書きのようだ。

 

 内容を確認してみる。

 姪っ子じゃなくてせめて従兄妹だったらよかったのに?

 あいつ……。

 

 

 

 あれから二年。

 いまだにあいつは見つからない。

 だが、あいつの死体も見つかっていない。

 あの世界から帰ってきてないだけなのだろう。

 アパートはいつ戻ってきてもいいように、私が掃除をし続けている。

 ……もう、ほこりを払うぐらいしかやることはないのだが。

 

 

「あれ? 開いてる?」

 玄関から待ち焦がれた懐かしい声がした。

 やっと還ってきた。

 

「え? あれ? え?」

 私を見て混乱する男。

 懐かしいその眼鏡、その声。

 

「遅いわよ、おじ様」

「え? ええええっ?」

「なに? 姪の顔も忘れてしまったの?」

 私を指差して声も出さずにぱくぱくと口を動かす。

「もしかして名前も忘れてしまった?」

「み、(みさお)ちゃんなのか?」

「そうよ。おじ様、こんにちは」

「こ、こんにちは」

 

「い、いやあ、操ちゃんが俺の知り合いにあんまりそっくりなもんで、びっくりしちゃった」

「ふうん。その人とおじ様、どんな関係だったの?」

 お茶を淹れながら聞く。

 いつ戻ってきてもいいように、アパートの電気ガス水道ともに止めてはいない。……今日戻ってくるとわかっていれば茶葉も新しいのを用意したのに。

「その人は……俺の」

「俺の?」

 真っ赤になって言いよどむ伯父。

 

「俺の……大事な、大切な女の子」

 そう言ってから照れ隠しのようにお茶を一気に飲もうとする。

「熱っ!」

「相変わらず猫舌のようね」

「えっ?」

 驚いた表情になった。

 

「なんで俺が猫舌って知ってるの?」

「知ってて当然でしょう、皇一」

「え?」

「まだわからないの?」

 皇一の眼鏡を奪って、ずっと待ち望んだ顔を楽しむ。

「この顔を見るの、何年振りかしら? 待ち遠しかったわ」

 家にもアルバムはあった。だが、幼い皇一こそ眼鏡をしてなかったが、学校へ行くようになってすぐに眼鏡をしている写真しか残っていなかった。

 

「え?」

 ベッドに腰掛ける。

 たまに布団も干しているので、この部屋を見つけた当初のように埃っぽいということはない。

「ベッドがあるということはここは閨よね。眼鏡を外す場所でしょう」

 私を指差すその手が震えている。

「……も、もしかして……華琳ちゃん?」

「おかえりなさい、皇一」

 

 勢いよく抱きつかれてそのままベッドに倒れることを覚悟していたのに、驚きで硬直している皇一。

「え? ええ!? なんで華琳ちゃんが?」

 何年も待たされた私と違って、皇一はあの私と別れてすぐなのもあるのだろう。喜びよりも混乱の方が大きいようだ。

 納得がいくものではないが。

 

 

「気がついたら操ちゃんになっていたのか」

「なっていた、というよりは操として生まれたのよ」

「生まれ変わりか。けど華琳ちゃんが操ちゃんに転生しちゃうなんて……」

 もっと喜んでもいいと思うのに、暗い顔を見せる皇一。

「なにか不満なの?」

「だって俺、操ちゃんと結婚できない」

「なにを言ってるの?」

「こっちじゃ三親等以内じゃ結婚できないんだよ」

 ふむ。遺書にもそのようなことを書いていたし、私のことに気づかなくてもその気はあったのね。

 大きくため息。

 お茶を飲んで気を取り直す。……やはり茶葉を買ってくるべきだったわね。

 

「やはり知らなかったのね」

「え?」

「皇一と私の父は血が繋がっていないわ」

「え?」

 驚愕の表情。本当に知らなかったみたいね。

 私も気になって調べたのだ。

 父側の祖父母がすぐに説明してくれたから手間はかからなかったが。

 

「祖父と祖母は再婚なの。あなたと父は連れ子どうし」

「知らなかった……いや、待てよ」

 驚きから、思案へと表情が移る。

「この世界は、華琳ちゃんが銅鏡へ触れて発生した新たな外史。華琳ちゃんが望んだからそうなったんであって、俺の元の世界とは違うのかもしれない」

「私が望んだ世界?」

 私が皇一の世界にくることを望んだというの?

 皇一があまりに姪を自慢するから、その娘になることを望んだ?

 この私が!?

 

「……まあいいわ。それは後で調べましょう。それよりも、今日はなんの日か知っている?」

「何日なの? 俺の携帯、電池切れちゃったままで日付わからなくて」

「今日は三月の十四日」

「コミケ、終わっちゃってるなあ」

 残念そうに言うが、それよりももっと気にすることがあるはず。

「そうじゃないでしょう。ホワイトデーよ」

「……ああ。チョコなんてここ数年貰ってないからお返しのイベントなんて忘れてたよ。前に貰ったのだって義理ばっかだったしなあ」

「ここ数年? ずっと私は用意してたのよ」

 冷蔵庫へむかい、その扉を開ける。

 

「ほら」

 中から取り出す二つの箱。

 それを皇一に渡す。

「あ、ありがとう!」

 あいかわらず涙腺が緩いようね。

 しかし、私に会えた時ではなく、チョコを貰った時に泣き出すなんて……。

 

「さっそくお返しをもらいましょう」

「ご、ゴメン。急いで用意するから!」

 涙を拭い、財布の中身を確認して部屋を出て行こうとする皇一を引き止める。

「どこへ行くの?」

「ホワイトデーのお菓子を買いにいこうかと」

「なにを言っているの?」

「え?」

 

「私が欲しいのは菓子などではないわ。ホワイトデーなのだから白いモノをもらうの」

「白……って、ええ?」

「わかったようね。何年も待たせたのだからその分、楽しませて」

 やっと会えたのだもの。妻を満足させなさい。

 みんなに皇一が戻ってきたことを教えるのはその後。

「その分、って言われても……」

「ああ。ホワイトデーだから三倍返しだったわね」

 私、もつかしら?

 

「そうじゃなくて! 操ちゃんは俺の姪でしょ!」

「それは問題ないとさっき説明したでしょう」

「で、でも、操ちゃんは今いくつだと……」

 まだ抵抗する皇一の唇を奪う。

 

「ファーストキスも貴方にあげたのよ。覚えてる?」

「う、うん。俺も初めてだった」

 ふふっ。やはりそうだったのね。たしかにこの世界は私が望んだものなのかもしれない。

 

「はじめてなの。やさしくしなさいね」

 

 

 

 

 

 

END2 転生エンド

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 ここってもしかして俺が望んだ外史?

 ……巨大ロボットは男の浪漫だとは思うけどさ。

 

 たぶん銅鏡の発動によって生まれた新たな外史なんだろうけど、この世界は恋姫†無双の世界以上に無茶苦茶だった。

 一言で言えば、スパ□ボ。あ、一応伏字ね。

 三国志って過去な時代から未来にきちゃったワケで、ギャップが凄い。

 ガムがあるのは嬉しいけどさ。

 

 でも、文明が発達しても物騒なのは変わらない。

 宇宙人やら異星人やら悪の秘密結社やらに狙われてる地球。

 ……うん。恋姫†無双の世界の方がまだマシかもしれん。

 

 俺はこの世界で気づいた時にはもう、みんなとはぐれてしまっていた。

 かわりに一体の巨大ロボットが目の前にあった。

 ……銅鏡発動の外史構成時に俺が望んだみたい。なんとなくそれがわかってしまった。

「僕の考えた最強のスーパーロボット? うわぁーい!」

 ……恥ずかしさで死にそう。

 

 

 いや、まだ死んでないけどね。

 こっちの世界でもセーブ&ロード使えるか不明だし。

 俺は仕方なく、その巨大ロボを使ってこの物騒極まりない世界を巡りみんなを探している。

 みんな大丈夫かなあ。

 機械の操作とか大変だろうな、とか心配してた。

 

 その心配は無用だったけどさ。

 最初に再会できたのは季衣ちゃん。

 季衣ちゃんは傭兵になっていた。それもロボットのパイロットとして。

 ……季衣ちゃん、よく操縦覚えたよなあ。

「兄ちゃん! 会いたかったよぉ!」

 抱きついてくるのはいいけどさ、危ないからロボで勢いよく抱きついてくるのは止めて。

 

「ボク、なんか知らない間に操縦とか覚えてたんだ」

 なるほど。その辺は基礎知識扱いなのかな。スパ□ボの世界だし。俺もなんでか操縦知ってたし。

 だとすると、他のみんなもロボとか操縦できるんだろうな。

 ……華琳ちゃん、世界征服とか目指さなきゃいいけど。

 

「それにしても、ヒュッケバインか……」

 最近ディスられ気味の機体なんて。やっぱり季衣ちゃんは無印でエロがバニシングしてたから?

 季衣ちゃんなら初代とかヒゲとかハンマーなGだろうに。

 まさか胃袋がブラックホールだからそれ繋がり?

 こんな凶鳥なんて……んん?

 

 凶鳥――きょうちょう――きょーちょー――きょちょ――許緒

 そういうことか!

 

 

 俺は季衣ちゃんと共に傭兵をしながら、みんなの情報を集めたり、死んじゃう筈のロリたちを救助、保護したりしている。

 けど、敵も多い。

 グランゾンやらリベル・レギスやらに襲われるのは勘弁してほしい。君たちは本来のライバルがいるでしょーに!

 干吉、左慈の中の人繋がりが影響してるんだろうなあ。

 

 その関係か、こないだはテッカマンエビルに襲われてたとこをアルベルトに助けられた。

 会ったことがないけど、卑弥呼の影響か。と思ったら違った。

「ビッグ・ファイアのために」

 それだけ言い残して去っちゃう衝撃の人。格好いいなあ。

 ……ちょっと待って?

 違うから! そっちの『こういち』さんじゃないから!

 

 俺はこの世界にさらに不安になるのだった。

 俺の願望って……。

 いやいや、俺の望み通りなら同じ超能力でも、同じ『こういち』違いでも、幼女に囲まれてる方だと思うんだけどなあ……。

 

 

 

「マスター、未確認の艦艇が接近中です」

 パートナーの声で回想をストップ。

 現在、俺は商船の護衛中。この宙域は宇宙海賊多発地帯らしい。

「敵?」

 相棒に聞く。

 季衣ちゃんではない。

 季衣ちゃんは、先日助けた十人の少女を保護するため、非合法コロニーで留守番中。

 同じ顔の娘が十人もいるから最初は混乱してた季衣ちゃんだけど、すぐに仲良くなってくれたから安心だろう。

 

 相棒はファティマちっくな娘。愛機の操縦をサポートしてくれてるから、俺でもなんとか戦えるのだ。

「すぐに発進してくれと船長が」

「了解。出ようピーちゃん!」

 ピーちゃん。それが彼女の愛称。

 

 

 発進後、すぐにピーちゃんが索敵。

「識別完了。アーガマ級です」

 アーガマ? ロンド・ベル?

 今度はサイバスターとかウイングに襲われちゃうの?

 いや、アーガマは地球のはずだし改になっている。時期的に逆シャア前だとしても母艦はネェル・アーガマあたりなはず。

 だとすると偽者? 海賊版? 海賊だけに?

 俺たちのロボが近づいたのわかったのか、むこうも艦載機が出撃してくる。艦で砲撃してこないってことはやっぱり積荷目当ての海賊か。

 

「MSの発進を確認。……敵機に髑髏のマーキング! 海賊です」

 クロスボーン・バンガードじゃなきゃいいなあ。

「敵MS、ZⅡです」

 ピーちゃんの探査能力はミノフスキー粒子なんてものともしない。

 

「ZⅡか……」

 たしかZの発展型。ZZの開発が優先されて廃案になったとかならないとかの試作機。

 なんで海賊がそんなMS使ってるんだろう。たしかにスパ□ボでは使えたりしたけど。本来飛べないはずの空も飛んでたりしてさ。

 ……季衣ちゃんがヒュッケバイン使ってたりするから深く考えちゃ駄目か。

「撃ちます!」

「え? ちょっと待っ」

 俺の制止も聞かないピーちゃんの操作で先制攻撃。

 そりゃ護衛してる商船に近づかれる前に撃退した方がいいのはたしかだけどさ。

 

「外しました」

 うん。ウェイブ・ライダー形態に変形したZⅡが凄いスピードで近づいてきてる。

 慌てて回避運動。

 直後かほぼ同時に敵機のメガビームライフルが火を噴く。

 極太の火線が愛機のすぐ側を通り過ぎた。

「ふぅ」

 安堵のため息。その理由は当たらなかったことと、ピーちゃんが『分身』を発動しなかったこと。

 直撃しそうになると分身で回避してくれる。

 撃墜されるよりはよっぽどいいのだが、あれっておっさんにはキツい。超高速機動の残像だけじゃなくて、空間だか次元だか歪めて分身してるらしいけど、凄い気持ち悪くなる。

 

「強いな」

 Zより強かったりすることもある機体だ。ニュータイプ用でもないし使い勝手よかったはず。

 メンテナンス性も向上してたはずだし……その理由でもあるメタスに近い変形を見せ、瞬時にMS形態となるZⅡ。

「ずいぶんヒールが高いな」

 小さいのを誤魔化そうとがんばってる印象を受ける。まるで華琳ちゃんみたいだ。

 ……あれ?

 

「これってもしかし」

 言いかけてる途中で分身発動。

 ……気持ち悪いぃ。

「もう一機きました」

 ピーちゃんからの報告。

 

「な、なに? どっから?」

「インコム、です」

 モニタの隅に敵武器の解説ウィンドウを開いてくれる。

 準サイコミュといわれる、ニュータイプじゃなくてもオールレンジ攻撃ができる便利な武器。ただし有線。

「スペリオルガンダム? ……じゃあれってペガサスⅢか?」

 センチネルに出てきたアーガマ級の二番艦。

 S(ガンダム)ガンダムはセンチネルの主役機。人気もあるけれど、版権がややこしいらしくてスパ□ボでは最近出てきてない。

 俺も大好きなガンダムなのに。

「でも、インコムに太極図なんてペイントしてなかった!」

 モニタに表示された敵武器には陰陽太極図が描かれている。

 円盤状のインコムに陰陽太極図ってことはやっぱりさ。

 

「ピーちゃん、敵機に通信……いや、奥の手を使う!」

「気力が足りません」

「足りてるって! 気合い入ってるもん!」

 俺の愛機にはオーバースキルといってもいいほどの奥の手がある。だが、スパ□ボらしく気力が溜まってないと使えない。

 今の俺の状態なら問題なく使えるけどね。

 

「合体!」

 俺の叫びと共に愛機がZⅡに急接近。体当たりをし、そのまま機体が融合を始める。

 たぶん俺が求めた最強の能力、それがこの『合体』。ドリルで顔面なあのロボに近い特殊能力。

 違うところといえば、戦隊のロボに近いところか。

 腕だろうが脚だろうが、どこで合体してもある現象がおきる。

 

 俺の操縦席の前にもう一つ、座席が出現。

 座っているのは合体した機体のパイロット。

 そう。操縦席が一つになってしまう。まさに戦隊ロボ。

 このおかげで実はあんまり使えない奥の手だったりする。ほぼ味方機限定。

 敵機とりこんでも、そのパイロットに殺されちゃったら意味ないよねえ。

 ZⅡのパイロットはキョロキョロ見回して俺に気づくと、すぐに銃を向けてくる。

 慌ててヘルメットのバイザーをオープンする俺。

 

「皇一?」

 やっぱり。ノーマルスーツを着ててもわかるその小柄さ。

 むこうもバイザーをオープンする。

「華琳ちゃん!」

 俺は華琳ちゃんを抱きしめた。

 

 ZⅡ――ゼッツー――ゼツ――ぜつ――絶

 絶っていえば、華琳ちゃんの大鎌の名前。そして髑髏のマーキング。すぐに気づけばよかった。

「むこうと通信して」

「……了解」

 なんかピーちゃん不機嫌?

「こちらインペラトル・ワン。そちらのパイロットを捕獲しました。攻撃を中止されたし」

 捕獲って、人質扱い? やっぱり怒ってるよ。

 

「華琳さま、御無事ですか!?」

 モニタに写るのは桂花の顔。ペガサスⅢのブリッジかな?

「無事だから安心なさい。流琉たちも攻撃中止。皇一よ」

「兄様?」

 通信ウィンドウが追加で開く。

「やっぱり流琉か。インコムが流琉のヨーヨーだったからすぐにわかったよ」

 そう。Sガンダムのパイロットは流琉だった。

 

「風もいるのですよ」

「え?」

「私もおります」

「稟も?」

 通信ウィンドウがまた開いていく。

 もしかして、Sガンダムに三人乗りしてたのか。

 A、B、Cの各パーツにそれぞれコクピットがあるSガンダム。スパ□ボでは再現されてなかったけど、三人乗りしててもおかしくない。……三人乗りできてれば育成で便利だよなぁ。

 

「とにかく、合流しよう」

「そうね。……私のZⅡ、このままなの?」

 あ、合体したままだった。

「ちょっと待ってね」

 華琳ちゃんを俺の座席側、つまり俺の膝の上に乗せてから、合体解除。

 こっちに華琳ちゃんが残り、無人となってしまったZⅡを牽引しながらペガサスⅢに着艦する。

 

 

「みんな元気そうで良かった」

 やっと再会できた俺たち。

 デッキには、桂花が待ち構えていた。

「……春蘭と秋蘭は?」

「いや、俺が合流してるのは季衣ちゃんだけなんだけど」

「そう」

 まだ全員がそろったワケじゃなかったか。

 

「マスター、商船に報告すみました」

 愛機の頭部から降りてくるピーちゃん。

 ピーちゃんのが頭部で、俺のが胴体に操縦席がある。

 うん。ドリルなアレだと死亡するのは俺な配置だよね。ガンタンクでいえばリュウさんなポジション。合体した時も頭部だけは別扱いで操縦席一つにならないし。

 

「なかなか可愛い娘ね」

 嬉しそうな華琳ちゃん。

 そして俺を盾にするように華琳ちゃんから隠れるピーちゃん。

「その方は?」

 流琉の質問にピーちゃんが答える。

 

「マスターの真のパートナーです」

「真のパートナー?」

 ピクリと華琳ちゃんの柳眉が持ち上がる。

「そう。ならばまずはこちらから名乗りましょうか。私は曹孟徳。皇一の妻よ」

「知っています」

 やっぱり俺の影に隠れてるピーちゃん。

 

「この娘はね、華琳ちゃんたちのことは知ってるよ。華琳ちゃんもこの娘をよく知っている」

「私が?」

 回りこんで、ピーちゃんの顔をよく見ようとする華琳ちゃん。ピーちゃんも逃げるんでうまくいかないけど。

「……覚えがないわ。私が可愛い娘を忘れるはずがないでしょう」

「ピーちゃん、自己紹介して」

「……はい。ワタシは魔導書『太平要術の書』の精霊」

「太平要術の書?」

「うん。太平要術の書(ブック・オブ・ピースメーカー)。だからピーちゃん」

 そう。俺が銅鏡を発動させてしまった時に持っていた本。

 華琳ちゃんを怖がっているのは、魏ルートで燃やされちゃうことを知ってるのかもしれない。

 

「マスター、いつも言っていますがその訳は適当すぎます」

「そう? いいと思うけどなあ。俺のインペラトル・ワンより格好いいと思うよ」

「インペラトル・ワン?」

 俺の愛機を指差す。

「あれ。俺のロボットの名前」

「インペラトルはラテン語、ワンは英語です」

 稟のツッコミ。そう言われるための機体銘だよね、これ。さらに訳しても痛い名前だ。

 ……もう英語とかラテン語とかマスターしてるのか。軍師さんて凄い。

 

「本の精霊ね……少女ならば問題ないわ」

 さすが華琳ちゃん、わかっているなあ。

「うん。俺は銅鏡発動後、気づいたらピーちゃんとインペラトル・ワンといたんだ」

「そう。私たちが気づいた時には月にいたわ」

「月か」

 アナハイムの本社があるところだ。艦とMSはそこで入手したのかな?

 

「他のみんなは?」

 華琳ちゃんたちがどうしてたかも聞きたいけど、みんなの安否も気になる。

 でも、華琳ちゃんは首を横にふった。

「ここにいるだけよ。あなたは季衣と合流しているのね」

「うん。季衣ちゃんは無事だよ」

「よかったぁ」

 親友の安否を知りほっとした表情を見せる流琉。

 

「それで、なぜ密輸船から出てきたの?」

「密輸船? ……ああ、そうなっちゃうのか」

 俺が護衛してるのはただの商船だけどね。

「俺たちがやっかいになってるのは非合法コロニー。そこへ物資を運んでいるから密輸扱いになってるのかも」

「ふむ。連邦軍の指示でこの宙域にきたのだけれど、従うのもここまでかしらね」

 華琳ちゃんの言葉に軍師たちも頷く。

 

「連邦軍は腐敗しています」

「みんなを探してくれているという話ですが、あてになりませんねー」

「華琳さまの思うがままになされるのがよろしいかと!」

 みんな、苦労してきたみたい。早く見つけてあげられなくてゴメンね。

 

 やっと華琳ちゃんたちと合流した俺は非合法コロニー、サイド666へと帰るのだった。

 

 

 その後、いろんな勢力と戦いながらも、仲間と合流していく俺たち。

 三羽烏はゲッターでインベーダーと戦っていた。

 春蘭、秋蘭がダイナミック・ゼネラル・ガーディアンの1号機と2号機で参上。春蘭の操縦がかなり不安だっただけに、ダイレクト・モーション・リンクならば、と納得。

 

 月ちゃんたち董卓勢が新マクロス級で現れたときはさすがに仰天した。

 でもこれで、みんな揃ったら物騒な地球圏離れられるかな?

 

 愛紗、雛里ちゃんたち、呉勢はいったい何に乗ってるんだろう?

 楽しみだ。

 

 ……袁紹、猪々子、斗詩は金ピカな機体だろうな。

 不安だ。

 

 

 なお、合流した白蓮は自分以外に性格、普通がいて喜んでいた。

 

 

 

 

END3 スパ□ボエンド

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

<オリキャラ設定>

 

天井皇一(あまいこういち)

 恋姫†有双の主人公。

 シリアス薄めなこの話に残酷な描写タグが必要なのは、間違いなくこいつのせい。

 恋姫†無双の世界にくる前は失業中のおっさんで魔法使い。

 処女厨で独占厨でロリコンを採り入れたオリ主。

 特種能力はセーブ&ロード。

 

 

絶影

 華琳の愛馬。

 黒王号並にデカくて強い。その大きさゆえ、華琳の小ささが際立つので普段あまり乗らない。

 あまりに強すぎるせいで出番がほとんど無いチート名馬。

 END3の華琳のZⅡがA型とかかもしれない。

 

 

馬騰

 翠の親。無印では男性。真では女性。どちらも名前だけ登場。

 恋姫†有双ではロリBBAでオレっ娘。

 

 

天井操(あまいみさお)

 華琳の生まれ変わり。

 オリ主の姪だが、血は繋がっていない。

 名前はもちろん曹操から。

 

 

ピーちゃん

 魔導書『太平要術の書』の精霊。

 ブック・オブ・ピースメーカーと適当な英訳をされ、そこからピーちゃんとオリ主が呼んでいる。

 インペラトル・ワンのサブパイロットとしてオリ主をサポートする。

 

 




ホワイトデー&スパロボ新作記念


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第三章    恋姫†有双
二十七話  御遣い有双?


「いざとなれば北郷を殺せばいいと思っていたのだけど、そうでもないようね」

「ちょっ! 華琳ちゃんそんなこと考えていたの?」

「銅鏡と北郷が終末をおこすのだもの、当然でしょう。けれど、終末の条件はそれだけではなかった」

 道場で悩む俺たち。

 

「私が触れても駄目。皇一が触れても駄目」

「そして、壊しても駄目。か」

 

 

 

 明命と亞莎が泰山から持ち帰った銅鏡。

 華琳ちゃんが触れた途端に発動し、俺たちは道場へ送られてしまった。

 引継ぎ確認して穏もメンバーに。

 道場を見回して目を輝かせる穏。そんな場合じゃないんだけどなあ。

 

 二周目で追加された引継ぎメンバーに状況を説明する。

 世界の終末。それをおこす白装束と道士。そのキーアイテムである銅鏡のことを。

「世界が終わったなどといきなり言われましても……」

 ほとんどが愛紗のような反応だった。

 いきなり目の前が真っ白になって、気がついたら道場へいた。って娘がほとんどで、事態の深刻さを受け止めるのも難しいらしい。

 

「孫策なら、なにか知ってるかもしれないかと思うんだけど……」

 道場を見回しても孫策の姿は見えず。

 またどこかへ行っているのか。

 いてもたぶん『ガンガンいこうぜ』とかしかアドバイスをくれないかもしれないけどさ。

 彼女の不在に残念そうな表情になった穏にも会わせてあげたいのに。

 

「いない孫策をあてにするより、できることを考えましょう」

「うん。まずはなんで華琳ちゃんに銅鏡が反応したか、なんだけど」

「亞莎、明命。あなたたちが触れた時は変化はなかったのね?」

「は、はい。私たちが触れてもなにも起きませんでした」

 亞莎と明命では反応なしだったのか。

 

「とすると、終末の時がきたんで反応したのか、それとも華琳ちゃんだから反応したか、かな?」

「私だから?」

「うん。華琳ちゃんには無印と真の二つのフォームがある。これは華琳ちゃんだけ」

 引継ぎの名簿を再度確認しながら説明する。ずいぶん???が埋まったなあ。

 ぴっ、ぴっ、ぴっ、と華琳ちゃんの名前を連打。姿を変えていく華琳ちゃん。

「わ。衣装が変わったり、消えたりしてる!」

「すご~い♪」

 驚いてるのか喜んでるのかわからないシャオちゃんとたんぽぽちゃん。

「舞台でできないかな?」

 シスターズの三人は別の意味で興味深そう。

 

「遊ぶな!」

 華琳ちゃんに怒られたので、真・フォームで止める。

「ごめん。……で、華琳ちゃんのフォームによって世界の方も影響を受けた」

「ふむ。私でも銅鏡が反応するのはおかしくない、と」

「……それに、二周目は華琳ちゃんの話だったのかもしれない」

 今思いついたんだけどさ。

 

「私の話?」

「そう。一刀君じゃなくて、華琳ちゃんが主役の話」

「なんだ、そんなことか。当然だろう、華琳さまはいついかなる時でも主役に決まっておられる!」

 うんうんと頷く春蘭。いや、俺が言いたいのはちょっと違うんだけど。

「二周目になって一番いい目にあったのは誰だと思う?」

「皇一でしょ。こんなに嫁を増やして」

 一瞬、穏を見たな華琳ちゃん。その爆乳を。

 でも、俺か。一刀君でさえ無理だった春蘭たちや二喬の初めてを貰えてたし、他のみんなとも……。たしかにいい目にあいすぎかも。

 

「い、言われて見ればたしかに……で、でも華琳ちゃんも結構すごいよね?」

「そうね。前回よりも多くの武将、軍師を手に入れ、大陸制覇目前。愛紗のはじめてをも奪った」

「そ、それは皇一殿に捧げたのだ!」

 大声で言ってしまってから、真っ赤になって縮こまる愛紗。うん、恥ずかしかったんだね。

 

「あの~、先程からおっしゃってる二周目や前回とは?」

「ああ、世界は、一度終末をむかえているんだ」

 穏の質問に答えたらみんなざわめき出した。

「それで、その時はどうしたのですか?」

「いろいろ試そうと、やり直したんだ。それが、二周目って言ってる今回」

「なんと……」

 冥琳までもが絶句しちゃった。

 

「だから、華琳ちゃんはもう終末をむかえないように、銅鏡を確保したんだけど」

「まさか、それが終末の切っ掛けなんてね」

「とにかく、いったん今朝から始めて銅鏡をよく調べてみよう」

 少しでも銅鏡の情報が必要だ。

 

 

 ロードして再開、今度はみんなで銅鏡を調査する。

 銅鏡の形状、大きさを計測。材質や構造を分析する真桜。

 真桜が触れても発動しないのか。

「そないおかしーとこないみたい、なんやけどなあ?」

「文献を調べてみるぐらいしか、もうできることはないか。困った代物だよ、まったく」

 太平要術の書に載ってればいいけど。そう思いながら銅鏡を小突いた。

 すると、俺が触れた途端に発動。やはり道場へ。

 

 俺でも発動しちゃうの?

 明命や亞莎、真桜たちが触れても反応しなかったのに。どういうことだろう?

 悩む俺を他所に、華琳ちゃんは銅鏡の破壊を決定。

 季衣ちゃんのハンマーが銅鏡を粉々に砕いた。かと思った瞬間、やっぱり発動。

 

 

「封印するしかないのでは?」

 雛里ちゃんの提案。

「封印言うても……ふっかーい穴掘って埋めてみるぐらいしかできへんやろ?」

 放射性廃棄物扱いか。まあ、危険度はそれ以上だけどさ。

 

 道場を見回してからため息をつく蓮華。

「姉様はまだどこかへ行ってるようね。姉様らしいと言えば姉様らしいのだけど、困るわ」

 本当に困るよ。冥琳にいろいろ聞いてもらおうと思ってるのに。

「やっぱり三周目しかないのかな?」

「三周目を始めたところで、解決策がなければ同じことでしょう?」

「いや、三周目はたぶん白装束は出てこない」

「どういうこと?」

「華琳ちゃんが真・フォームで初めから始めたなら、たぶん世界の終末はない」

 真・恋姫†無双の世界なら終末はなかったからね。

 

「どうしてそれをもっと早く言わないの!」

「ごめんなさい」

 だって、覇業の途中で初めからやり直すなんて、華琳ちゃん選ばないでしょ?

「ならば、三周目を始めましょう」

「いいの? 結構他の勢力も引継ぎしちゃってるんだけど」

 また敵となるかもしれない勢力が引継ぎ情報を持ってるのって、まずくないかな?

 

「かまわないわ。それに、引継がないというつもりはないのでしょう?」

「……うん」

 せっかく俺の嫁になってくれた娘たちが俺のことを忘れちゃうなんて、そんなのは絶対に嫌だ。

「ふふっ。愛紗はやはり長い髪の方が美しいし」

 短いのも可愛いけど、やっぱり美髪公だもんなあ。

 

「蓮華」

「はい」

「……いや、なんでもない」

「?」

 孫策が生きているスタートだって言おうとしたけど、もし上手くいかなかったらぬか喜びさせるだけだからって気づいて、言うのを止めた。

 

「皇一、二周目の特典を消しては駄目よ」

 華琳ちゃんが念をおす。

 やっぱり華琳ちゃんは、この身体を気に入ってくれてたのか。

「なに? あんたその接続器をなくすつもりだったの? そんなの許されるはずないでしょ!」

「なんだと! 貴様のもう一本はもはや華琳さまのおち●ちんなのだぞ!!」

 桂花と春蘭が追従。

 春蘭、そんなこと思ってたのか。でも、華琳ちゃんから生えてるみたいだから、その言い方は勘弁して下さい。

 見れば他数名もうんうん、って頷いている。

 三周目の俺、「双頭竜」から「双頭お菊ちゃん」って呼ばれるようにならなきゃいいなあ……。

 

「……うん。わかってるって」

 そりゃ、俺だって普通の身体に戻りたい。いろいろと不便だ。

 けどさ、俺が元に戻るってことは大喬ちゃんも戻るってこと。嫁になったロリが生えてるなんて……ないな、うん。

 だから俺は二周目のボーナスを維持するつもりではいる。

 

 さて、どうなるかな?

「三周目、と」

 銅鏡が発動してから選択肢に追加されていた『3しゅうめ』を選択。

 たぶん一度しか選択できないから、ここから先は慎重にいこう。

 

 ボーナスは?

 金×2

 経験×2

 男性器×3

 

 ボーナス解除はないのか。……まあいいさ。あったら俺、やっぱり悩むだろうしね。なくてよかったんだよ、きっと。

 で、肝心のボーナスの選択肢だけど。

 ???で隠す気はもうないのか、表示が変わってるな。けど『男性器』って、もうちょい書き方ないの?

 ×3ってやっぱり三本になるんだろう。どう考えても使い辛い。不便さがアップするだけだ。

 ゲゲゲの人の創作妖怪じゃないんだから三本はないでしょ。武器になったり、移動手段にもなるチート能力だとしてもそんなの使いたくない。

 

 ……三本目は誰のナニがくるんだろう?

 まさか一刀君?

 一刀君が女の子に……もしかして、萌将伝の台詞にだけしか出てきてない一刀君の妹と交代とか?

 やばい、ちょっと気になってきた。一刀君の妹なら可愛いだろうなあ。

 

 ほ、他のボーナスは前といっしょか。

 ……いや、違う!

 引っ掛からないぞ! 迂闊なのは二周目だけでたくさんだ。

 前回の選択肢はたしか平仮名だったはず。

 なのに漢字で『金』。怪しすぎる。まさか玉の方まで倍にするつもりか!

 

 これは『経験×2』を選ぶしかあるまい。

「でも、経験値ってあるの?」

 呟きながら経験を選択した。

 

 

 

「……また荒野を彷徨うのか。辛いんだよなあ……ってあれ?」

 目覚めると、目の前には三人の人影。

 俺、ロードしちゃったっけ?

 ちゃんと三周目で始めたよね?

 混乱しつつも見回すと現在地は荒野。

 うん。いつもと違うけどたぶんスタート地点……なのかな?

 

「皇一殿……」

 え?

「愛紗?」

 困ったような顔で俺を見ている愛紗。久しぶりに髪の長い愛紗を見たので、一瞬誰だかわからなかった。

 髪が戻っているということはやっぱり三周目なんだろう。じゃ、残りの二人は。

「おっちゃん、愛紗の知り合いなの?」

 鈴々ちゃん……いや、三周目だったらまだ真名をもらってないから張飛ちゃんか。

「え? そうなの愛紗ちゃん?」

 そして、桃色の髪とその大きなおっぱいは!

 

「劉備?」

 そう。彼女は劉備。真・恋姫†無双の追加登場ヒロイン。

 二周目まででは会えなかったけれど、華琳ちゃんが真・フォームでスタートしたから、愛紗たちといっしょにいるみたい。

「わ、わたしを知ってるの?」

 知ってます。真・恋姫†無双のメイン級ヒロインの一人です。

 

「え、ええと……愛紗が仕えている人、だよね」

「愛紗ちゃんを真名で呼ぶなんてどんな関係?」

 え? 言っていいのかな?

 チラリと愛紗を見る。赤くなってるけど、俺を止めようとはしてないからいいのかな?

 

「愛紗は俺のお嫁さん」

「にゃっ!」

「愛紗ちゃんの旦那様!?」

「は、はい」

 二人に見つめられ、こくりと頷く愛紗。その顔はもう真っ赤っか。

 

「い、いつのまに結婚したの愛紗ちゃん?」

「こーんなおっちゃんが愛紗のお婿さんなんておかしいのだ!」

 俺に蛇矛を向ける張飛ちゃん。何度見てもそのちっこい身体で振り回せる獲物じゃないよねえ。

 

「鈴々!」

 張飛ちゃんを止める愛紗。

「済みません、皇一殿」

「いいよ。愛紗が悪い男に騙されてるとでも思ったんだろう?」

 会ってすぐの流琉みたいに。

 

「そうなのだ。愛紗を騙すなんて悪いやつなのだ!」

「私は騙されてなどおらんから安心しろ」

「ねえ愛紗ちゃん、紹介してよ♪」

 劉備が目を輝かせている。こういう話題好きなんだろうな。

 

「俺は天井皇一。天の御遣いと同郷のただのおっさん……って、愛紗! 一刀君はどうしたの?」

 そうだよ。なんかおかしいと思ったら天の御遣いが、一刀君がいっしょじゃないじゃないか!

「それが……まだ会うことができておりません」

「一刀さん?」

「管輅の占いに出てくる天の御遣い君。急いで探そう!」

 こんな荒野に一人でいたら危険だ。チビデクアニキの汎用三人に殺されちゃうかもしれないし。

 一刀君が殺され……待てよ。

 

「ちょ、ちょっと、待っててね……」

 三人から離れて、自分の身体を確認する。主に下着の中身を。

「……変化なし、だよな」

 二周目の時と同じ状態。ツーボール&ツーバット。

「一安心、でいいのかな?」

 玉が増えてたりしたら、俺がいたとこの下に一刀君の死体が埋まってるんじゃないかって、ちょっと怖くなったんだ。

 

「もういいよ。一刀君を探そう」

「そうですね」

 一刀君を探す俺たち四人。

 しかし、一刀君は見つからなかった。

「前回は一刀君どこにいたの?」

「皇一殿と再会した場所で、賊に襲われているところを助けたのです」

 むう。無事だといいけど。

 

 どうしたものかと悩んでいると、鳴り響く大きな腹の音。

「えへへ……」

 お腹をおさえているのは張飛ちゃん。

「今日はこの辺で捜索を打ち切ろう。一刀君のことだからもう人里についているかもしれないし」

 そうだよ。一刀君なら主人公補正できっと死なないはずだ。街で情報収集した方が早いだろう。

 

 

 食事をとり、人心地ついた俺たち。のんびりと話をする。

 ……この後、所持金がないので皿洗いが待ってるんだろうけど気にしないことにしよう。

「それで、天の御遣いってどんな人なの?」

 キラキラした目で聞いてくる劉備。かっこいい男の子なんて言ったら目の色が変わるのかな、ピンク色に。

「いいやつだよ。まず死なないし、色んな知識も持ってる」

「知識なら、皇一殿も大したものでしょう」

 俺のは三国志じゃなくて、恋姫の知識なんだけどね。正確さは高いだろけど、応用が利かないと思う。

 

「ふーん。……じゃあ」

 ポンと両手を叩く劉備。

「天井さんにわたしたちの天の御遣いになってもらおう♪」

「はい?」

「だって、天の御遣いと同郷の人だったら、天井さんも天の人なんだよ。天の御遣いで間違ってないよ!」

 それはちょっと強引なんじゃ……。

 

「桃香さま?」

「愛紗ちゃんもそう思うよね。天井さんが力を貸してくだされば、きっともっともっと弱い人たちを守れるって!」

「……はい」

 納得しちゃうの愛紗? なにか劉備に弱みでも握られてるの?

 ……劉備のテンションとその瞳を見たら、逆らえそうにないか。俺もそんな感じだし。

 

「力を貸して下さい! 戦えない人を……力無き人たちを守るために。力があるからって好き放題暴れて、人のことを考えないケダモノみたいな奴らをこらしめるために!」

 俺の両手を強く握り締める劉備。走って逃げ出そうとかちょっとだけ考えたけど、これじゃ無理だよねえ。

 けど、俺が天の御遣い?

 おかしいよね。

 錦の御旗が必要で、それが誰でもいいってのはわかるけどさ。

 

「私からもお願いできないだろうか、皇一殿。私たちはご主人様を探している時間がないのだ」

 そうか。これから先を知っている愛紗だ。一刀君を探すよりも、先に名をあげないと劉備がのし上がれないか。

「いいの、愛紗?」

「……はい。今の私の主は桃香さまです!」

 強く言う愛紗。自分にも言い聞かせてるのかもしれない。

 

「そう……。ならさ、天の御遣い代理ってことなら引き受けるよ」

「代理?」

「うん。本物の天の御遣いが見つかったら、交代してもらうってことでどう?」

「皇一殿……ありがとうございます」

 目に涙を滲ませる愛紗。

 本当はすぐにでも陳留へ行きたかったんだけど、仕方ないよね。一刀君の居場所つくっておかないと、先の展開読めないだろうし。

 俺の大事な嫁である愛紗をこのままほっておけないし。

 いいよね。二周目でも戻るの遅れたけどなんとかなったんだし。

 後で商隊さん見つけて華琳ちゃんに手紙書かないと。……道場で説明の方が早いかな?

 

「泣かないでよ。劉備たちもそれでいい?」

「はい。ありがとうございます、ご主人様♪」

 ちょっ、なに言ってるのさ。

「ご主人様は勘弁してくれない?」

「えーっ。あ、そうか。愛紗ちゃんにしかそう呼ばれたくないんでしょ?」

「そういうのじゃないってば」

「ならいいよね、愛紗ちゃん?」

「は、はい……ご主人様」

 愛紗が俺をご主人様って呼ぶの? そんな無理しないで。

 やっぱり愛紗のご主人様は一刀君でしょ。俺を置いていくぐらいにさ。

 

「いいよ、愛紗。今まで通りで」

「……そんなわけには参りません! これからはご主人様とお呼びします」

 なんか意地になっちゃったみたい。

 

 やっぱりお金がなかったので皿洗いを済ませ、店のおばちゃんにお酒を貰って桃園の誓いイベント。

 劉備と張飛ちゃんの真名を貰う。

 ……俺、ここにいちゃっていいのかなあ?

 一刀君、早く見つかってほしい。

 

 そして次に白蓮に会いに行く。

 けど、真・蜀ルートにそって偽の兵隊を集めたりはしない。

 今の白蓮なら、愛紗や鈴々ちゃんの実力をよく知ってるからね。そんな無駄使いは必要ない。ボールペンは売らずにとっておく。

 ……ってあれ? ボールペン売ればそれで皿洗い回避できたのかなもしかして。

 

 城に向かった俺たちは、俺と桃香の名を告げ、門前でしばらく待たされた後、玉座の間へと案内された。

 白蓮と再会。

「なんで皇一が桃香といっしょにいるんだ?」

「天の御遣いにされた」

「なにやってるんだよ?」

「……成り行きでしかたなく」

 白蓮と二人で同時にため息。

 

「白蓮ちゃんもご主人様のこと知ってるの?」

「あ、ああ。その、な……」

 照れてるのか、頬をかいて言いにくそうにしてるので俺が発表。

「白蓮も俺のお嫁さん」

「ええーっ!」

 俺と白蓮、それに愛紗を交互に見る桃香と鈴々ちゃん。

 

「私もいるのもお忘れなく」

 姿を見せたのは常山の昇り竜。

「も、もしかして、その人も……」

 震える指で星を指す桃香。

「うん。俺のお嫁さん」

「ええーっ!!」

 そりゃ驚くよね。俺みたいなおっさんに、こんな美少女が三人も嫁になってるなんてさ。しかもその内二人が自分の知り合いときたらねえ。

「た、太守様とかそんなのよりも、もっとなにか大きな差をつけられてるー!」

 いや、泣かなくても。

 

「おっちゃん、モテるのだ」

「そんなことはないんだけどねえ」

「そんなことはあるではないか」

 桃香を宥める愛紗と白蓮を、鈴々と星と眺める俺なのだった。

 

 白蓮と星に聞いてみたけど、一刀君の情報は得られなかった。

 どこにいるんだろう?

 

 白蓮はすぐに俺たちの部隊として義勇兵を任せてくれた。

「いいの? 白蓮ちゃん」

「ああ。愛紗と鈴々なら間違いはない。皇一も兵を率いたことがあるし、心配なのは桃香ぐらいだ」

 いや、心配なのは俺の方。二周目で孫策に会うためというか、蓮華のために戦でもないのに殺されたように、俺の死亡フラグはまだまだ健在っぽいし。

「わたしだってがんばるよ!」

「その意気だ」

 

 

 公孫賛軍とともに盗賊たちとの戦いに出陣。

 けどさ、俺ってば魏の精兵の指揮に慣れちゃってたんだよね。

 指揮してるのが義勇兵だってことを忘れてはいなかったけど、思ってた以上に練度が低い。

 それにもまして、俺自身の練度が低い。心得はあっても身体ができていない。

 だってスタートしたばっかりで、訓練とか鍛錬が全然足りてないからねえ。

 

 ……やっぱり俺、死亡した。

 フラグクラッシャーなこと、なにか考えないと。

 

 

 

 三周目初めての道場。

 またもや道場主の姿がない。

 みんなの状況を確認しないと、そう思って話してたら衝撃の事実が判明した。

 

「やっぱり孫策が生きているのか。よかったじゃないか」

 大事な報告がある、ということでまず冥琳の話を聞いている。

 生きている今の孫策って、道場のこととか知っているのかな?

 

「あ、ああ。それはそうなのだが、問題がある」

「問題?」

「……簡潔に言おう。伯符が北郷一刀を拾ってきた」

 嘘!

 まさか一刀君、呉ルートなの?

 

 




三周目スタート時の引継ぎメンバー

華琳、春蘭、秋蘭、桂花、季衣、流琉、凪、真桜、沙和
愛紗、星、雛里、翠、蒲公英
蓮華、小蓮、冥琳、思春、穏、明命、亞莎、大喬、小喬
天和、地和、人和
月、詠、音々音
白蓮、斗詩

以上31名


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二十八話  心配?

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 途中から変化した二周目と違い、完全に真・恋姫†無双の世界となってスタートした三周目。

 

 孫策が復活。というかまだ死んでいない世界。

 そのせいか、道場主であるはずの孫策の姿が道場にない。

 それだけならば、まだいい。

 孫策の復活を喜べばいいのだから。

 

 だが、冥琳からの情報はそれだけではなかった。

「一刀君を?」

「ああ。祭殿と共に偵察に行った伯符が、天の御遣いだとな」

 ……間違いない。呉ルートだ。でもなんで?

 

「どうしたのだ、まるで死人のように顔色が悪いぞ」

「死んだからここにきたんじゃない。……でも本当に悪いわね」

 春蘭と桂花が俺の顔を覗き込む。それほどまでに俺の血の気が引いていたのだろう。

「そ、孫策はなにか言ってなかった? 天の血を孫呉に入れるとか……」

「ああ……」

 言いにくそうに冥琳が頷いた。

 

「孫呉のために北郷に種馬になってもらう、と」

「やっぱり……」

「どういうこと?」

 蓮華が首を捻る。真のスタート時点だからまだ孫策や冥琳たちと合流してなくて、状況がわかってないんだね。

「孫策は……孫策は、呉のみんなに一刀君の子を産ませるつもりだ」

「そんな!」

「……天の意志を孫呉に仕える武将たちに宿す。それが伯符の狙いらしい」

 その狙いは成功する可能性が高い。真・恋姫†無双で唯一の一刀君の子供ができたのが、呉ルートだった。

 ヤればできちゃうと思う。

 ……いくら一刀君でも、俺の嫁が俺以外の男とヤるなんて……。

 

「……たとえ一夜の契りでも……孫策と会うため、この道場へくるために利用されたのだとしても、自分が抱いた女が他の男のものになるともなれば、許せる皇一ではないわね。そんな顔色にもなるのも納得できたわ」

 華琳ちゃんの言う通りだ。

「孫呉の女を馬鹿にするな!」

「蓮華?」

「私は……もはや皇一さんの嫁。他の男のものなどになるつもりはない!」

 頬を染めながらも強い眼差しでそう言い切った。

「蓮華!」

 思わず蓮華を抱きしめてしまう。当然のように俺の目からは熱い液体が。

「ありがとう! ありがとう蓮華!」

「シャオだって皇一のお嫁さんだもんっ!」

 シャオちゃんがさらに抱きついてきた。

 

「私も皇一様以外とは嫌ですっ!」

「わ、わたしも……」

 明命と亞莎がさらに涙腺を刺激する。

「あり、がと……」

 もはや、まともに礼を言うこともできない俺。

 

 

「いつまでそう言ってられるかしら?」

 唐突に、華琳ちゃんの冷ややかな声。

「相手は、あの北郷一刀。女を誑かすその腕は、皇一の比ではないわ」

 い、言われてみれば……!

 一周目ではたったの半月で呉の娘たちを攻略したのが一刀君だ。

「ねえ、愛紗。愛紗ならそれをよく知っているでしょう?」

「た、たしかに……私が戻った時には既にほとんどの武将が……」

 項垂れてしまう愛紗。よほど辛いことを思い出したのかもしれない。

 

「皇一は以前、私に言ったわね。他の男に抱かれたら記憶の引継ぎはしない、と」

「う、うん」

「嫁と言うからには、他の者もそうなのでしょう?」

「……うん」

 俺はそんなことにはならないって信じたい。

 信じたい、けど相手は……。

 

「安心して皇一! 呉のみんなは皇一に会うまで、ぜーったい、処女のままなんだから!」

 シャオちゃんの台詞にみんな頷いてくれた。冥琳や穏、思春までもが。こんな嬉しいことはない。……心配なのは相変わらずだけど。

 ……そして、やっぱり大喬ちゃん、小喬ちゃんの姿がない。

 引継ぎ欄を再確認しても、名前はあるのに道場にいない。

 

「冥琳、二喬は?」

「それが……探したのだが、見つからないのだ」

 やっぱり。完全に真の世界になってしまった影響か。

 だが、引継ぎ欄の表示は以前と同じ。

 俺の股間もツイン。この片方は大喬ちゃんのモノ。

 ならば方法はあるはず。

「大丈夫だよ。華琳ちゃんの協力があれば!」

 

 

「なるほど。以前の逆をする、と」

「うん。ただし、長い間それをしてると白装束や干吉たちも出てきて、また面倒なことになるかもしれないから、迅速に行わなければいけない」

「華琳が衣装を換えている間に、二人を見つけるのか?」

 そう、二周目で流琉たちが見つかった時の反対。

 華琳ちゃんに無印の衣装をつけてもらって、その間に二喬を探してもらう。

 

「そう。では、呉に勝利したら試しましょう」

「……それだがな、今は伯符がいる。そして、以前の知識を持つ者がこんなにもいる。呉は負けぬよ」

 眼鏡をくいっと持ち上げる冥琳。

「伯符もわずかだが、この道場の記憶があるようだしな。それで北郷を拾ってきたのだろう」

 さらに輝く眼鏡。そのコンボを使うとは。孫策の記憶はハッタリでもなさそうだ。わずかってのが嘘で全部覚えてたりして。

 ……俺は、以前に華琳ちゃんのフォーム変更に気づいた時に、孫策が微笑んでいたのを思い出した。こういうことだったのだろうか?

 

 

「面白いじゃない……前回は歯応えが無さ過ぎたわ」

「なんだと?」

 抱きしめたままの蓮華も反応する。

 

「悪いけど、勝つのはボクたちよ」

 さらに別方向からまた、眼鏡を光らせる少女が。

「詠ちゃん?」

 月ちゃんが焦ってるけど、いいの?

「武将の引継ぎはいなくても、軍師に知識を与えたことを後悔させてあげる」

 やたらに自信たっぷりだ。

 反董卓連合が起きなければ董卓陣営の一人勝ちもなくはない、のかな?

 でもなあ。その原因の袁紹が記憶を引継いでないわけだし。

 

 

「ええと……みんな記憶があるんだし、戦わないって選択肢はないの?」

「ないわ」

「無理だな」

 俺の質問に華琳ちゃんと冥琳が即答する。迷いはまったく感じない。

 

「動乱の切っ掛けともいえる麗羽が記憶を引継いでいないもの。……もし記憶を引継いでいたしても麗羽に話が通じるとは思えないわ」

「ごめんなさいごめんなさい!」

 頭を下げる斗詩。斗詩が謝ることないっていうか、三周目も苦労しそうだな、袁紹の下だと。

「それに、孫策もでしょう?」

「ああ。伯符が目指すのは大陸制覇であろう」

 

「あとは……」

 道場を見回す華琳ちゃん。

「わ、私だって今度は麗羽に負けないぞ」

 しかし白蓮の宣言はスルーして、見ているのは翠。

「早く華佗を見つけて馬騰を完治させておきなさい」

「……それは、涼州と戦うってことか?」

「ええ。今度こそ馬騰と戦えるのが楽しみよ」

 せっかく同盟して客将になってくれたのに、そんなに戦いたいのか華琳ちゃん。……魏ルートでもそんな感じだったもんなあ。

 

 あ、華佗といえば。

「冥琳もちゃんと治療しておいてね。今の冥琳は治療前なんだから」

「そうよ。せっかく姉様が生きているのに冥琳が倒れるなんて許さないわ」

 今度は蓮華の生理不順も診てもらった方がいいのかな。

 

「愛紗はどうする? 北郷抜きで私と戦えるかしら?」

「愛紗とまで戦いたいの?」

「……なんて言うのかしら? 二周目があんな中途半端に終わったせいで、私、もやもやとしているのよ」

「不完全燃焼?」

「ふむ。それが今の私には相応しい言葉ね。覚えておきましょう」

 大陸制覇、その目前で再スタートってなったらスッキリしないのはわかる。……大陸制覇しちゃってから終末きてたらもっと妥協してくれたのかな?

 

「たしかにご主人様は、呉に行ってしまったらしい。だが我らには劉玄徳がおられる!」

「劉玄徳?」

「愛紗の本当の主で、鈴々ちゃんもいれた義姉妹のお姉さん」

「本当の主?」

「今まで一刀君はその娘の役割をしていたんだよ。だから、劉備が出てこなかった」

 まあ、劉備ポジションってだけで、一刀君は桃香とは大分違うけどね。

 

「それに、我らには皇一殿もいる!」

「皇一が?」

「ええっ?」

「なんで?」

 みんな驚いている。

 もちろん俺も驚いている。

「どういうこと?」

 華琳ちゃんが俺を睨む。

 

「皇一殿は天の御遣いとして我らに力を貸してくれると約束してくれた。……我らのご主人様なのだ」

「そ、そりゃそう言ったけど……」

 一刀君が見つかるまでの代理って言ったよね。

「言ったのね?」

 華琳ちゃんが俺を睨む。

「う、うん」

 

「皇一が天の御遣い……面白い」

「え?」

「そうだろう。貴様が天の御遣いだなどと、これほど面白い冗談があるか」

 いや、春蘭、たぶんそんな意味じゃない。

 

「前回、私が満足していないのは途中で終わったからだけではない。敵が弱すぎた。いえ、味方が強すぎたの方が正しいかしら。その強い味方を揃えてくれた皇一が今度は敵にまわる。これが面白くないわけないでしょう?」

 二周目は魏はイージーモードだったから、もの足りなかったのか。

 でもさ、一刀君が呉ルートってだけで魏はハードモードなのに、馬騰を本調子にして、しかも呉はほとんどが前回の記憶を引継いでるし、もしかしたら桃香につくかもしれない雛里ちゃんも記憶を引継いでる。

 そんなスーパーハードモードで、さらに俺に敵に回れっていうの?

 俺に華琳ちゃんと戦えって言うの?

 

「嫌だ! 俺は華琳ちゃんと戦いたくない! 戦えるわけがない!」

「皇一殿。泣いていないで華琳殿の気持ちも察してやれ」

「冥琳?」

「一夜の契りしかない呉の娘のためにあれほど心配し、そして愛紗たちのご主人様となってしまったのだ。そのことを華琳殿が気にしていないはずがなかろう?」

 え? それって……。

 

「そんなのではないわ!」

「華琳ちゃん、もしかして」

「だから、そんなのではないわ!」

 でも、華琳ちゃんの顔は赤い。

 

「ごめんなさい」

 頭を下げて華琳ちゃんに謝る。

 でも、華琳ちゃんは意地になっちゃったみたい。

「謝っても無駄よ皇一、私が欲しければ奪ってみせなさい。私の初めてを無理矢理奪ったあの時のように強引に!」

 強引にって言われたってさ。

 

「皇一が強引に華琳の初めてを? ちぃ、信じられない!」

「シャオも!」

「たんぽぽも。みんなに聞いた話でもそんなのなかったし、ちょっと想像できないよ~」

 みんなって、どんな話してるの?

「無理矢理強引に奪っただと?」

「やっぱり強姦魔だったのね!」

 なんか怖い目で俺を睨んでいる娘たちもいるし。

 

「……俺が華琳ちゃんと戦うなんて……」

「そうね。やり直しをせずに私に勝てたら、あなたの望んだ裸前掛けをやってあげるわ」

「マジですか!?」

 今まで何度頼んでも、華琳ちゃんは裸エプロンをしてくれなかった。その華琳ちゃんが、新婚さんの定番にしておっさんの夢、裸エプを!?

「その気になったかしら? 私に勝てるつもり?」

「やってやる! 華琳ちゃんと新婚気分を満喫してやる!」

 俺は、その勢いですぐにロードしてしまった。

 さすが華琳ちゃん。俺の弱点をよく知っている。勝つのって大変だろうな……。

 

 

 

 ロードして、盗賊との戦いに今度は死亡しなかった。華琳ちゃんはやり直しをせずに、って言っていた。道場へなんて行ってられない。

「変なことになったな」

「うん。……でも、白蓮も大変だよ。袁紹に勝つとか」

「そうだな。はは……」

 戦勝を祝いもせずに乾いた笑いをする俺と白蓮。

 

「いくら夫婦だからって、こんなところで二人の世界つくらないでいいのに」

「桃香さま、あれはちょっと違います」

「愛紗ちゃんにはわかるんだー」

 だからなんで泣く? 人のことはいえないけどさ。

 

 

 その後、しばらく白蓮の城で留まり、盗賊討伐。

 ほぼ蜀ルートと同じ展開だったけれど、その間俺は必死に身体を鍛えていた。死ぬわけにはいかないからね。

 義勇兵といっしょに調練する毎日。筋肉痛が酷いがそれで、蓮華たちのことを心配する時間が少しだけ短くなっていた。

「もしかしたら華琳ちゃん、俺が呉の娘のこと心配してる暇をあたえたくなかったのかな」

「そうは言いますがご主人様、やつれているのではありませんか」

 愛紗が俺を心配する。

「無駄な肉がとれただけだってば」

「そうだぞ愛紗。前回、愛紗が北郷殿のところへ戻った時こそ、生気のない状態であった」

 星の言葉で愛紗の表情が曇る。

「申し訳ありませんご主人様。あの時は、あれこそが正しいものだと……」

 

「気にしないでいいってば。今はこうしてそばにいてくれるんだし、もう一刀君のとこへは行かないんだろう?」

「は、はい……呉にいるのは以前のご主人様とは別人なのでしょう?」

「うん。愛紗や俺たちのことは覚えてないよ。俺も……俺の友達の一刀君とは別人と思うことにしてる」

 愛紗が一刀君のところに戻りたくても、もはやそれは叶わない。もし呉の一刀君と会うことがあったら複雑なものがあるだろうな、と愛紗を抱きしめる。

「ご、ご主人様?」

「ふむ。白蓮殿も呼んでこようか」

 しかしそこへ現れたのは白蓮ではなかった。

 

「あー、またイチャイチャしてるー」

 領主の勉強ということで、白蓮の政務を手伝っていたはずの桃香だった。

 筋肉痛もあるが、いい雰囲気になると桃香の邪魔が入るので、まだ愛紗たちとシてない俺。……狙ってるのかなぁ?

「ご主人様、あのね、わたしたちの仲間になりたいって人がきてくれたんだよ!」

「え? 俺たちの? 義勇兵にじゃなくて?」

「うん。天の御遣いの仲間になりたいんだって!」

 まだ桃香が白蓮から独立してない。たしかそれは朝廷から黄巾党を討伐しろって命令がきてからだったはず。そのタイミングできてくれる二人がいる予定だったんだけどもしかしたら……。

 

 会いにいくと、予想通りの二人が待っていた。

「皇一さん!」

「雛里ちゃん!」

 桃香が紹介するよりも先に俺に抱きついてくる雛里ちゃん。

 

「も、もしかしてまた!?」

「うん。雛里ちゃんも俺の可愛いお嫁さん」

「やっぱりぃー!」

「はわわわわ……雛里ちゃんがお嫁しゃん?」

 涙する桃香と動揺する孔明ちゃん。

 雛里ちゃん、孔明ちゃんに説明してなかったのかな。孔明ちゃんなら道場のこととかも理解してくれると思うんだけど。……後で聞いたら恥ずかしかったんだそうだ。納得。

 

 

「ずいぶん早くきたんだね?」

「はい。少しでも早くお役に立ちたかったんです」

「けど、いいの? 華琳ちゃんのとこじゃなくて」

「……はい」

「ありがとう。二人を仲間に入れてくれないか?」

 桃香に向かって頼む。

 

「は、はい。いいよね? 愛紗ちゃん、鈴々ちゃん」

「はい。この二人は得がたい軍師。きっと桃香さまのお役に立ちます。頼りにしてるぞ」

「ありがとうございます、愛紗さん」

 蜀ルートのはじめは愛紗にビビる雛里ちゃんと違って、この雛里ちゃんは愛紗と仲がいい。なにしろ初めては愛紗といっしょだったもんなあ。

 

「わ、私はえと、姓は諸葛! 名は亮! 字は孔明で真名は朱里です! 朱里って呼んでください!」

 置いてかれた感じを焦ったのか孔明ちゃんが名乗りをあげる。

「俺は天井皇一。真名はないんだ。ゴメンね」

 他のみんなも真名も含めて自己紹介する。これで、朱里ちゃんも真名で呼ぶことができるな。

 

 

 こうして俺たちは蜀ルートの展開よりも早くに軍師二人を仲間にしたのだった。

 このまま白蓮のとこに残って、公孫ルート開拓した方が楽かもしれないのかな?

 

 でも、他の陣営も引継ぎメンバーが真・恋姫†無双の各ルートよりも先に集まっているんだろうな。

 ……呉はちょっと無理か。袁術の客将なんだっけ。

 袁術ちゃんか。会うの楽しみだな。孫策に敗れたら保護してあげたいなあ。

 

 馬騰ちゃんはもう華佗に診てもらっているかな?

 反董卓連合までわからないだろうしなあ。

 

 ねねは大丈夫かな?

 前回あんな出会いだったからちょっと不安。

 ちゃんと呂布の軍師になってるはずだけど。元気だといいなあ。

 

 魏は桂花、季衣ちゃん、流琉、三羽烏はもう集まっててもおかしくないか。

 稟と風は引継いでないからまだだろう。

 張三姉妹は……黄巾党の首領やらされてるのかな?

 怖い思いしてないといいけど。

 

 

 なんか心配なことばかりだなあ……。

 

 



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二十九話  小白蓮?

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 真・蜀ルートよりも早く、白蓮のところにいる内に合流した雛里ちゃんと朱里ちゃん。

 桃香の軍師となった二人の力で幽州が改革されていく。

 部下でもない二人の発案は出しゃばりすぎかもしれないけれど、白蓮はそれを採用する。

 記憶を引継いでいるから二人の能力はよく知ってる白蓮だし、自身も魏にいた頃の記憶を元に準備していたので、すぐに着手できたみたい。

 

 後々、袁紹が攻めてくるのを知っているから、幽州を強くする必要がある。

 白蓮はそれがよくわかっているし、雛里ちゃんも記憶を引継いでいる。二人の危機感が街の警備や防衛を強化していった。

 うん。俺も警備隊とかやったことあるだけに、街の治安とか良くなっていくのがよくわかる。

「お仕事増えすぎー」

 そう桃香が半泣きで愚痴っている。雛里ちゃん、朱里ちゃんとともに白蓮を手伝わせているけど、大変そう。

 

 俺の方はまだ身体を鍛えるのに忙しい。義勇兵の皆さんとの調練と盗賊退治の毎日。

 政務、っていうか書類仕事は少しはできるけど、そっちは桃香の勉強ということで。

 彼女を鍛える、っていうかプロデュースが天の御遣い代役としての仕事なんじゃないかな、って今は思い始めている。

 ご主人様って呼ばれちゃっているけど、俺にトップは無理だろうしね。

 

 一応二周目でちょっとだけやった、シスターズのプロデューサー業を思い出しながら考える。

 桃香に歌わせてみようか?

 試しにと、白蓮への応援もこめて『小白竜』を教えている。短いし簡単な歌詞だし。明命に歌ってもらえばよかったな。

 歌詞は、小白竜の部分を小白蓮に……いや、真名は駄目か。

 うん。小白馬にして、男を女に換えればいいや。

 そう考えながら英語の意味とか教えていたら、朱里ちゃんと雛里ちゃんが「使えます」とか言いながら新たな歌詞を作成。 ……なんで小白竜が双頭竜になってるかな?

「病める都とかスレイヤーとかってぴったりです、ご主人様」

 なにがぴったりなんだろ。あと、それよりもさ。

「朱里ちゃんまで双頭竜って……」

 雛里ちゃんが目をそらす。

 仲いいからってそんなことまで話しちゃってるの?

 

 その替え歌『双頭竜』を街中で子供たちが歌っているのを聞いた時、使えるってそういう意味だったのね、とやっと気づいた。

 桃香に歌ってもらうんじゃなくて、情報戦略として利用するってことだったのか。

 元々中華っぽい劇中劇の主人公を指した歌だから、天の御遣いにはあってるんだろうけど。メサイヤとかも歌詞にあるし。

 盗賊討伐の日々で愛紗や鈴々たちの武名も上がったが、同じくらいにその歌も流行ってしまった。

 ……勘弁してほしい。

 なんで勉強会もしてない内からその名が広まっちゃうのさ。いや、もう勉強会するつもりなんて絶対にないけど。

 

 

 義勇兵と俺自身の調練が進み、俺の腹筋がそこそこ割れてきた頃、朝廷から黄巾党を討伐しろって命令が白蓮に来た。

 蜀ルート通りに白蓮から劉備軍が独立するタイミングなのかな。

 白蓮、愛紗、星、雛里ちゃんとともに相談する。

 桃香、鈴々ちゃん、朱里ちゃんには夫婦間の話ということで遠慮してもらった。

 

「やはり桃香さまや朱里も交えて話すべきでは?」

 主君をハブにしてることを気にする愛紗。鈴々ちゃんはわからないと思っているのか別にいいらしい。

「まあ、桃香なら私たちがこの先起きることをだいたいわかってるって言っても、信じてくれそうだけど」

「朱里ちゃんも理解してくれると思います」

 白蓮と雛里ちゃんもそうは言うけど。

 

「けどもしも、引継ぎ目当てで俺とやりたいとか言ってきたらって考えると、俺は……」

 俺に抱かれてくれるなら、そういうのじゃない方が嬉しいってのは、二周目でよくわかった。

 呉の娘たちが俺に抱かれたのが孫策に会うためだったってのは、納得できたけど、ショックが大きかったから。

 いや、抱いちゃった呉の娘たちも俺の嫁だけど。ちゃんと好きだよ、だからこそ打算無しがいいっていうか……。みんなまだ無事かな、心配だなぁ……。

 

「やっぱり俺のことを、できれば顔以外のとこを好きになってくれて、ってのがいい」

 でも、求められたら応じちゃいそうな自分だということもわかっている。

 だから、俺の能力のことは知らないでいてほしい。

「皇一殿は相も変わらず乙女のようだ」

 なに言ってるのさ星。

「ああ。けどそんな皇一だからこそ私たちは抱かれたんだろ」

 言った後で真っ赤になる白蓮。愛紗と雛里ちゃんも赤くなりながら頷いていた。

 乙女っていう表現はあれだけどなんか嬉しい。……たぶん俺も赤くなってるな。

 

「ふむ。ならば私たち同様、嫁になったら説明すればいい」

「説明か。道場行くつもりはないから、その機会ないんじゃないかな」

 今までも能力の説明してるのは道場でだし。

「死なない自信がおありで?」

「そう言われると困るけど、華琳ちゃんとの約束のためにも道場には行きたくない。……それ以前にさすがにもう嫁の追加はないんじゃない?」

 あるとすれば猪々子ぐらい?

 記憶引継いでないけど、俺の身体知ったらまた二周目みたいに言ってくるだろうし、今度こそ願いを叶えてあげてもいいと思う。

 

「え? ちょっと?」

 なんでみんな顔を見合わせてため息つくかな?

「そんなことよりも、今はまず、今後のことを話し合おう」

 そんなことってのはないんじゃない、白蓮。

 

「……今後っていっても、白蓮のとこに残るか、劉備軍として独立するか。なんだけど。まあこれは桃香に選んでもらわなきゃいけないけど」

「私としては早く桃香さまの名を上げたい」

 つまり独立したいってことだね。……桃香の名か。

 盗賊退治の現場でその武力を見せつけ、名を上げている愛紗と鈴々ちゃん。

 白蓮への献策が治安をよくして評判の雛里ちゃん、朱里ちゃん。

 ……流行歌で知名度だけはしっかりある双頭竜。

 うん。桃香自身の功名をあげたいってのはわかる。

 

「私のことは気にしないでいいぞ」

「けど、袁紹相手に勝てるのか?」

「前回は油断してたんだ。今度はちゃんと準備もしてる。それに、私のとこにいたんじゃお前が華琳に勝つってことにならないだろ?」

「白蓮……」

 俺のことまで考えてくれてるのか。

 俺なんて華琳ちゃんの裸エプロンのために頑張っているだけなのに。そんな俺のために……。

 

「泣くなって。私だけでも、麗羽に勝てるってとこ見せないとな」

「……袁紹さんのところにも前回の記憶がある斗詩さんがいます。それこそ油断しないで下さい」

「斗詩か。苦労してるだろうなあ」

 愚痴るどころか斗詩の心配をしてしまう白蓮。本当にいい人だ。

 それだけに不安になる。星も同じことを思ったらしい。

「皇一殿、早く勢力を立ち上げて、白蓮殿が落ち延びてきた際に受け入れられるようにしておいてくれ」

「負けるの前提かよ!」

 

 うーん、白蓮には悪いけど蜀、呉ルートのように進んでほしいかな?

 俺が華琳ちゃんに勝とうとすると……いくつか考えてみる。

 

 黄巾党のシスターズと合流する。

 補給とか装備品とかなんとかなればそこそこ戦えるかもしれないけど、やっぱり鍛えた兵士とは違うし、賊だもんねえ。

 桃香の理想を考えたら、黄巾党のままってのは無理か。

 敵も多過ぎるし。

 できればシスターズは味方にしたいけど、やっぱり華琳ちゃんのとこへいっちゃうんだろうな。

 

 反董卓戦で董卓側につく。

 桃香に真実を話せば、こっちを選ぶ可能性もある。

 この時点ならまだ張遼が魏軍に入ってないし、稟と風もいない。

 味方には呂布もいるし、詠も記憶を引継いでいる。上手くやれば華琳ちゃんに勝てるかもしれない。

 けど、やっぱり敵が多い。

 白蓮や翠たちに味方になってもらったとしても、魏軍以外にも袁紹軍や袁術軍といった大軍がいる。そう、真のこの世界なら袁術ちゃんがいるのだ。

 そして袁術ちゃんの客将として孫策が。

 さらには記憶を引継いだ軍師、冥琳、穏、亞莎もいる。

 ……詠には気の毒だけど、ちょっと難しそう。

 華琳ちゃんたちよりも先に救出してあげるからね。

 

 白蓮のとこに残る。

 袁紹に勝って、華琳ちゃんにも勝つ。

 朱里ちゃんなら、真桜ほどじゃないにしても投石機ぐらい造れそうだし、袁紹軍には勝てる可能性がある。

 けれど、もうこの時点で、稟、風が魏軍入りして魏がフルメンバーなはず。

 翠たち涼州と同盟して、援軍にきてもらってもきつそう。

 

 涼州戦で涼州を応援。

 これなら、さっきの方がいいか。

 

 呉と同盟して赤壁で戦う。

 蜀、呉ルート通りに。

 たぶんこれが一番勝率がいいと思う。

 うまく進められれば味方は増えているし、前回は華琳ちゃんにネタばれ禁止されていたので、連環の計とかも説明してない。

 さすがにもう苦肉の策は無理だろうけど。

 

 

「ってのが俺の考えなんだけど」

「あわわ、天和さんたちが黄巾の首領?」

 そういえばそのことは、今初めて話したんだっけ。

「たぶん。でも、無理矢理利用されてるだけだから、自分からやってるわけじゃない。だからこの事は絶対秘密にしてね。シスターズを、俺の嫁を死なせたくない!」

「了解しました」

「そうだな。私もあいつらの歌、好きだしな」

 愛紗と白蓮が納得してくれた。よかった。

 まあ、手柄のために三人の首を朝廷に差し出す俺の嫁じゃないって信じていたけどさ。

 

「それにしても……袁紹に勝ってもやっぱり華琳と戦わなければならないか。……そうだよなあ、戦わずに降参するような武将はいらない。とか言ってきて戦わなきゃいけなさそうなんだよなあ」

 うん。華琳ちゃんなら言いそう。

 二周目で不完全燃焼だったせいか、萌将伝の脳筋武将レベルに戦いたがってるし。

「俺としては、やばくなったらすぐに撤退してほしい。白蓮に死なれたくない」

 無印や一周目では死んじゃってるから。いくら真の世界だからって心配だ。

「皇一……」

「俺は大事な人を一人たりとも失いたくないんだ!」

 まごうことなき俺の本心。

 もしそんなことになったら、華琳ちゃんとの約束を破って、つまり裸エプロンを諦めてロードすると思う。

 

 

 その後も話は続けた。天下三分の計とかさ。

 そして、とりあえずだいたいまとまったかな? というところで近づいてきた星が俺のシャツのボタンを外し始める。

「な、なに?」

「これからしばらく離れ離れになるかも知れぬのです。皇一殿を忘れぬ様、温もりをいただいておこうかと」

「そ、そうだよな!」

 白蓮も乗り気なのか。……三周目になってからご無沙汰だったもんなあ。

 

「な、ならば私たちはこれで」

 愛紗に怒られるかと思ったら、真っ赤になって雛里ちゃんと退出してしまった。

 溜まってたから四人でもきっと大丈夫だったよ、俺。

 

 

 

 翌日、桃香は白蓮から独立することを選んだ。

 俺たちは劉備軍として旗揚げすることとなった。後は蜀ルート通りの展開なんだけど、武具と兵糧を供出してくれるために兵站部へ向かう星は歩くのも辛そうだった。

 白蓮なんて椅子から立とうともしなかった。

 ゴメン。三周目になって二人とも初めてに戻ってたのに、久しぶりだったんで頑張りすぎちゃった。調練で体力もついてきてたしさ。

 

「昨日話したんだけど、星が黄巾との戦いが一段落したら仲間になってくれるって」

 昨日の話を聞いてない桃香たちに説明する。

 前回の記憶がある星はもはや各地を放浪して仕えるべき主を探す必要はない。そして、前回のように華琳ちゃんに仕える気もないらしい。

「その時こそ主と呼ばせていただく」

「いや、仕えるのは桃香にでしょ」

「うむ。徳高き桃香殿こそ我が剣を預けるに相応しい」

「ありがとう星ちゃん!」

 星の両手をとってぶんぶんと振って喜んでる。

 

「桃香さま、星がくるのは黄巾を倒してからです」

「すまないが、今は白蓮殿の客将なのでな」

「早く黄巾どもを倒せばいいのだな!」

 鈴々ちゃんの台詞で桃香の勢いがます。

「そっか。うん! がんばろー♪」

 

 それから、すぐに出発。

 ……というわけにはいかず、兵站の受領手続きや、街での桃香たちの義勇兵の募集とかで出発したのは一週間後だった。

 その間、毎晩のように星や白蓮と。

「しばらく会えぬのです。仕方ないでしょう」

 口ではそう言ってくれる愛紗だったが、表情がちょっと怖かった。チャンス見つけて早めに愛紗ともしないとマズいみたい。

 

 天の御遣いが一刀君じゃなくて俺ってことで心配したけど、義勇兵はちゃんと集まってくれた。

 桃香があの双頭竜の歌を歌ったらしい。

 まさか双頭竜の意味知ってて歌ったわけじゃないよね?

 桃香の歌を聞きたかったような、集まった連中も歌ったらしいので聞かなくてよかったような。

 

 

 

 劉備軍出発後、衢地に陣を構えている黄巾党を細作が発見。

 こっちの倍に近い敵軍だったけど天才ロリ軍師朱里ちゃん雛里ちゃんの策で劉備軍は勝利する。

 うん。蜀ルート通り。

 俺も死なずにすんでいる。鍛えているおかげと、愛紗のご機嫌取りに「これが終わったら愛紗と」なんて約束しなかったおかげだな。……する時はフラグ立てないように不言実行にしよう。

 そしてこの後は、やっと可愛い最愛の嫁さんに会えるはず。

 ほら、曹の旗を掲げた官軍が、こっちの指揮官に会いたいって報告がきた。

 

 

「久しぶりね」

「うん。華琳ちゃんも元気そうでよかった!」

 会うって返答する前に華琳ちゃんの方から来てくれた。

 すぐに駆け寄って抱きしめる俺。

「皇一はほんの少し、逞しくなったかしら」

 春蘭に引き剥がされるまでの短い間だったけれど。

 

「ご主人様、も、もしかしてこの人も?」

 桃香たちに華琳ちゃんを紹介しないと。

「曹操ちゃん。俺の愛しいお嫁さん!」

「じゃあ、ご主人様に会いたくて返事も待ちきれずに来ちゃったんだ♪ あ、こんにちは。私は劉備って言います!」

「……違うわ」

「違うって、ご主人様のお嫁さんじゃないの?」

 ちょっ、桃香、その勘違いはあんまりでしょ。

 

「逞しくなったと言った矢先にもう泣くの? 相変わらずみたいね」

 大きくため息をつく華琳ちゃん。

「違うと言ったのは私がここに来た理由。……そんなことも分からないなんて、愛紗、本当にこれが貴女の主人なの?」

「桃香さまを愚弄するならば、華琳殿といえど許さぬぞ!」

「なんだと貴様!」

 愛紗と春蘭が睨み合う。

 

 その睨み合いを、華琳ちゃんの護衛でついてきたのだろう、季衣ちゃんの質問が止めた。

「えーと……ボクもよくわかんない。兄ちゃん、なんでなの?」

「俺たちが会うことを選ぶって、華琳ちゃんには分かっていたってこと」

 その説明にみんなが納得するよりも先に鈴々ちゃんが怒鳴った。

「おっちゃんを兄ちゃんって呼ぶななのだっ!」

「ボクも兄ちゃんのおよめさんだから、いいんだもん!」

「嘘をつくな!」

 豪腕腹ペコロリ武将の二人が喧嘩を始めそうだったので慌てて止める。

 

「この子は許緒ちゃん。本当に俺のお嫁さんだよ」

 俺に抱きついて得意気な季衣ちゃんと、羨ましいのかな? 複雑な表情でそれを見ている鈴々ちゃん。

 やっぱり驚いてる桃香と朱里ちゃん。……ついでに紹介しておこうか。

「あとね、そこの夏侯惇と夏侯淵も俺のお嫁さん」

「え、ええーっ!」

「はわわ……」 

 桂花は残って軍の指揮してるのかな? 流琉や三羽烏ももう合流してるはずだよね?

 

「い、いったい何人お嫁さんがいるんですか!?」

「三十一人」

 桃香の問に即答する俺。ちゃんと人数くらい覚えているってば。

「あら? まだ増えてないのね」

「増えないってば」

 またも大きくため息をつく華琳ちゃん。そして、俺の眼鏡を奪う。

 真桜にまだ会ってないから眼鏡バンドがないんで簡単に奪われてしまった。

 

「ご、ご主人様!?」

「おっちゃん綺麗なのだ!」

「はわわ!」

 せっかく三人には見られないで過ごしてきたのに、見られてしまった。

 

「改めて名乗りましょう。我が名は曹孟徳」

 驚いたままの桃香の表情に気をよくしたのか、華琳ちゃんが俺の唇を奪い、長い長ーいキス。

「皇一は私のモノよ」

 やっと俺を離して華琳ちゃんはそう言った。

 

「なんで眼鏡とるのさ?」

「キスするなら綺麗な顔の方がいいじゃない」

 そんな理由だったのか……。

「十倍返し、楽しみにしてるわよ」

 華琳ちゃん、二周目の時の事、思い出したのかな。

 俺は死亡フラグにならないように、すぐにその場で華琳ちゃんに十倍返しする。

 

 ……経験値×2ってもしかしてあっちの方のだったのかな?

 全力全開のキスで今までとは違う反応を返してくれる華琳ちゃんを感じながら、ふとそんなことを思ったのだった。

 

 




※すみませんが小白竜の歌詞は検索でお願いします


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三十話   姉?

 久しぶりの……道場以外では、三周目初めて会った華琳ちゃん。

 この甘い香りも、この柔らかさも久しぶり。お預けされてた嫁分を取り戻すべく貪るように口づけを続ける。

 いずれ戦って勝たなければいけないんだけど、今はまだその時じゃない。

 俺は嬉しくって仕方がない。

 だって蜀ルートと同じなら、これからええと……たしか半年ぐらいはいっしょにいられるはずだもんね。

 

「い、つ、ま、で、してるつもりですか!?」

 少しばかりの怒気をはらんだ愛紗の声で、名残惜しくも俺は華琳ちゃんを解放する。

「……腕を上げたわね」

 真っ赤になって潤んだ瞳で俺を見つめる華琳ちゃん。

 可愛すぎる!

 こんな場所、こんなタイミングじゃなかったらすぐにでも最後までいっちゃいそう。

 

「くっ。蛇らしく舌が二股にでもなったのではないのか?」

 あと、ギャラリーがいなければ、も最後までの条件に必要みたい。春蘭が俺を睨んでる。

 この場にいるほとんどの女の子たちと同じく頬が赤い。俺と華琳ちゃんのキスにあてられちゃったのだろう。

「蛇は止めてってば」

 離れ際に華琳ちゃんから回収できた眼鏡をかけながら抗議。

 

「そうです! ご主人様は蛇じゃなくて竜です! 双頭竜だもん!」

 いや、それ勘弁して下さい。この連中は意味知ってるんだからさ。

「ほう。それを知っているのに劉備、あなたは皇一の嫁ではないのね?」

「え?」

「お尻だけ、いえ、胸だけなの?」

 桃香のお尻と胸をじっくり観察しながらなに言ってるのさ華琳ちゃん。

「ちょっといいかしら?」

 って、観察だけじゃなくていきなり胸揉んじゃうの?

 

「むう。この胸なら挟めるの? ……いえ、……ふむ」

 桃香の胸を揉みしだきながら、なにごとかを考える華琳ちゃん。まあ、何を考えてるのかはわかるけど。

「あ、あん」

 桃香が真っ赤になって……感じてるのか、華琳ちゃんさすがだな。

「い、いつまでやってるのだ! 桃香さまをはなせ!」

「あら? 愛紗も? 構わないわよ」

 とっさに両手で自分の胸を両手でかばって後ずさっちゃう愛紗。

 愛紗も華琳ちゃんのフィンガーテクニック味わったことがあるからね。その脅威を思い出したのだろう。頬も赤らんでいる。

 

「華琳さま、そのあたりでお止め下さい」

「そうです華琳さま、いくら天井の戻りが遅くて欲求不満とはいえ、揉むならわたしの胸を!」

 秋蘭が止め、春蘭が泣く。

 だが、華琳ちゃんの手は動きを止めない。

 春蘭が言ったように欲求不満なの? 俺のせいなのか?

 

「ふふふ。可愛いわ劉備。あなたの目指すものは何?」

 桃香の耳に囁く様に問う。……だけじゃなくてついでに、はむっと耳朶を甘噛み。

 

「ひぅ! ……わ、わたしは、っう!」

 桃香に理想を聞いておきながら、攻撃の手は緩めない華琳ちゃん。

「こ、この大陸を、誰しもが笑顔で過ごせる、はふぅっ! 平和な国に、ひ! たい」

 それでも桃香はセクハラにめげず、なんとか言い切った。

 えらいぞ桃香。そして色っぽかったぞ。うん。

 

「これがあなたの主なのね愛紗」

 やっと桃香を解放。

 真っ赤な顔でふらつく桃香に愛紗が駆け寄って支える。

「そうだ!」

 満足したのか大きく頷く華琳ちゃん。

「その胸の想い、よくわかったわ」

 

「なあ、劉備の胸はそんなに重いのか?」

 春蘭の疑問にため息をついて秋蘭が説明する。

「姉者、その重いではない。胸の内の想い、つまり心の方だ」

「そうか。さすがは華琳さま! 劉備の本心を引き出すためだったのですね!」

 そりゃ春蘭なら華琳ちゃんに胸を揉まれればすぐに本心引き出されちゃうだろうけどさ。そんなことしなくても桃香はちゃんと答えたってば。

 

 

 その後、曹操軍と共同作戦。

 冀州へ進軍して黄巾党の拠点を攻めた。

 まあ、共同作戦といっても囮をやらされたんだけどね劉備軍は。

 けど敵主力部隊が留守中。囮役の劉備軍でも俺も死ぬことなく黄巾党に勝利。

 主力部隊がいないせいか、天和たちに会えることはなかった。無事だといいなあ。

 あと、驚いたことに季衣ちゃんが城の正殿の屋根に旗を突き刺してた。三羽烏は義勇軍として参加してたみたいだから、魏ルートのイベントも混じっているようだった。

 

 そして、黄巾との戦いを続けるため、予定通り曹操軍とさらに共同作戦をすることとなる。

 華琳ちゃんたちといれるのも嬉しいけど、大事なのはここで劉備軍に実戦経験をつませられること。

 桃香たちに指揮の仕方とかのいい手本を見せられるのは大きい。

 俺も戦闘指揮官として必死に勉強しなおし。

 黄巾党征伐に明け暮れて桃香たちの指揮能力は上がったけど、あまり華琳ちゃんたちとの時間はとれなかった。……寂しい。

 

 

「華琳さまよりも先に、わたしたちが貴様とするわけにもいくまい」

 春蘭に会いに行ったらなにか勘違いされた。

 三周目はいまだに魏の嫁さんたちとはしていない。……したのは白蓮と星だけっだりする。愛紗や雛里ちゃんともまだ。

「いや、そうじゃなくてね。孫策に会ったんだって?」

「なんだ、そのことか」

「ごめんね、期待させちゃって」

「き、期待などしておらん!」

 真っ赤になって慌てる春蘭を秋蘭とともに堪能する。

 

「孫策は道場で会った時と違った?」

「う、うむ。野獣だな、あれは」

 野獣か。春蘭が言うなよ。……いや、春蘭が言うから信憑性があるのかな?

「やっぱり孫策よりも先に天和たちを見つけないとまずいか」

「なんだ、貴様もあいつらが黄巾党の首領だと知っていたのか」

 うん。魏ルートみたいに天和たちだって気づいてたんだね。よかった。

 たしか他のルートだと討ち取られたって話しか出てこないから心配だったんだ。

 

「うん。でも張三姉妹は自分の意思で首領やってるわけじゃないはずだから、助けてやってほしい」

「そうなのか?」

「たぶん。詳しいことは捕まえてから聞いてくれ」

「そう言われてもな。やつらの居所はいまだに掴めぬのだ」

 あ! 魏ルートならここで大事なイベントがあったじゃないか!

 俺は慌てて春蘭たちに別れを告げ、今度は情報収集中の凪に会いに行く。

 

 

「た、隊長、申し訳ないのですが、華琳さまよりも先には……」

 凪まで……魏の嫁さんみんなで申し合わせているのかな?

「あのね、こんな森の中でそんなことしないってば」

 青姦とかさ、嫁さんの裸、他のやつに見せる可能性あることなんて俺がするはずないでしょ!

「俺が会いにくるのってそれしかないの? そりゃ最近は劉備軍の仕事とか、自分を鍛えるのに忙しくてみんなに会えなかったけどさ……。あっち抜きだって俺、ずっとみんなといっしょにいたいのに」

 なんか悲しくなってくる。いずれこの後、魏のみんなとは戦わなきゃいけないわけだし……。

 

「な、泣かないで下さい隊長!」

 え? 俺また泣いてた?

 凪がオロオロしてしまった。いかん、泣いてる場合じゃない。

 深呼吸して落ち着こう。吸ってー……。

「でええいっ!」

 大きく息を吸った後に息を吐こうとした時、凪がいきなり氣弾を発射。

 

「ゲフッ……ブホッ……」

 凪がなんで氣弾発射したかはわかるけど、タイミングのせいで咽てしまう俺。ああ、鼻水出ちゃった。

「だ、大丈夫ですか!?」

「ゲホッ、そ、それよりも敵なんだろ?」

「はい! 今仕留めます!」

 あっという間に数人の男達を倒す凪。うん。黄巾党の連絡員なはず。

 あれ? この時って凪の部下もいっしょにいたんだっけ?

 ミスったかもしれない。縛ったり、連行したりする人手足りないかも……。

 ……部下連れてこなかったってのは、もしかして凪、期待してた?

 まあ仕方ないか。とりあえずは本題に入ろう。

 

「隊長?」

「こいつらの所持品を確認しよう。なにか手掛かりがあるはず」

 そして当然のように、細い巻物を発見した。

 ……条件整えたら、やっぱりイベント発生しやすいのかな?

 俺は主人公の一刀君じゃないけど、凪に隊長って呼ばれてるから上手くいったのかもしれない。

 

 

 俺たちの参加も許された軍議で、発見した連絡文書によって黄巾党の本隊を発見したとの報告を受ける。

「じゃあ、そこに張三姉妹もいるのか」

「ええっ? 張角さんたちって女の子なの?」

 驚く桃香。

「手足がいっぱいある角が生えた大男って聞いてたのに~」

「と、桃香さま、そんな人間はいません」

「で、でも、尻尾はあるよね、きっと!」

 朱里ちゃんに詰め寄る桃香。なにを期待してたんだろう。

 天和たちに尻尾か。ケモミミとセットならアリかな、うん。

 

「報告によれば、張三姉妹も揃っているらしいが……どうやら、らいぶを行っているだけらしくてな」

「ああ。やっぱり」

 秋蘭も前回、シスターズのライブを経験したことあるからそう判断したんだろう。

「どういう状況かわかるのか?」

「うん。張三姉妹が黄巾党の首謀者ってわけじゃない。たぶん歌で大陸制覇とか言ったら勘違いされただけだと思う」

「なによそれ」

 二周目でも黄巾党にはいたらしいから、あんまり警戒してなかったんだろうな。そしたらいつのまにか祭り上げられちゃったと。

 

「黄巾は張三姉妹のファンの暴走ってこと。もう彼女たちでは止められなくなっちゃってるんだろうね」

「そう。……だからあの娘たちを救え、と?」

「うん」

「ご、ご主人様? 張角たちには討伐の命令が下ってるのですよ」

 驚き慌てた朱里ちゃんに雛里ちゃんが説明する。

「朱里ちゃん、張三姉妹もご主人様のお嫁さんなの」

「はわわ! またご主人様のお嫁さんですか!?」

 敵の首領が嫁って言われたらそりゃ驚くよなぁ。

 

「本当なのご主人様?」

「うん。だから絶対に助ける!」

「そっか。そうだね、張角さんたちが悪い人じゃないなら、助けなきゃ駄目だよね!」

 ……そんな簡単に納得しちゃっていいの桃香?

 討ち取れれば名を上げるチャンスなんだよ。

 まあ、絶対にそんなことはさせないけどさ。

 

「みんな、ご主人様のためにもがんばろう!」

「おうなのだ! お兄ちゃんのためにがんばるのだ!」

 鈴々ちゃんの返事に季衣ちゃんがジロリと睨んだ。

「なんでちびっこが、兄ちゃんをお兄ちゃんって呼ぶんだ!」

「鈴々のお兄ちゃんだからなのだ!」

 そういや最近そんな呼ばれ方してるな。おっちゃんでいいって言ってるのに。愛紗が指示したのかな?

 

「兄ちゃんはボクたちの兄ちゃんだ!」

「愛紗はお兄ちゃんのおよめさんなのだ! 姉者のおむこさんだから鈴々のお兄ちゃんであってるのだ!」

「そ、そんなのずるいぞ!」

「ふふーんなのだ!」

 焦る季衣ちゃんに勝ち誇った鈴々ちゃんだったが、華琳ちゃんの一言で逆転されてしまう。

 

「あら、では私もお姉ちゃんなのかしら?」

「にゃ?」

 季衣ちゃんと鈴々ちゃんが同時に首を傾げた。可愛いなあ。

「だって『お兄ちゃん』の妻なのだから」

 か、華琳ちゃんがお兄ちゃんって! 俺のことをお兄ちゃんって!

 しかもお兄ちゃんの妻って!!

 やばい俺、稟の様に鼻血が出てもおかしくないくらいだ。

 

「じゃあ……ボクもちびっこの姉ちゃん?」

「誰がハルマキの妹なんかになるかなのだ! どう見たって鈴々の方がお姉ちゃんなのだ!」

 いやどう見ても同じくらいにしか。

 

「うう、お姉ちゃんとしての立場が……」

「なにをおっしゃるのです! 私と鈴々の姉は桃香さまだけです!」

 落ち込む桃香を愛紗が励ます。

 まあ、そんなに姉がいたんじゃややこしいよね。

 ……みんな竿姉妹だよ、とおっさん臭いことを思ったけど、それは言わない方がいいだろうな。自重しよう。

 

 

 

 なんとか天和たちと連絡取りたかったけど、今を逃したらまた見失うってことですぐに戦うことになってしまった。

 華琳ちゃんとの約束がなければ、俺が黄巾党に潜り込んで接触するのに。何度か死ぬの前提でさ。

 仕方なく、劉備軍は桃香と愛紗と朱里ちゃんの攻撃組、俺と鈴々ちゃん、雛里ちゃんの捜索組に分かれて本隊と戦うことになった。

「愛紗、そっちで張三姉妹を見つけたら頼む」

「はい。心得ています。鈴々、ご主人様たちを頼むぞ」

「まかせるのだ。お兄ちゃんと雛里は鈴々が守るのだ!」

 うん。頼りにしてる。

 

 

「黄巾のやつら、すごい混乱してるみたいなのだ」

 敵陣から火の手が上がっている。

「うん。場所はいいかな? 雛里ちゃん」

「はい。張三姉妹が逃げてくるとすれば、たぶんここです」

 俺たちは雛里ちゃんの指示で逃走予定地点に潜んでいる。あまり目立たないように兵が少なめなのがちょっと心細いけど、鈴々ちゃんがいるから大丈夫だろう。

「お兄ちゃん、誰かきたのだ!」

 

 鈴々ちゃんが見つけたのは間違いなく天和たちだった。堪らずに駆け寄る俺。

「え? 皇一?」

「うん。やっと見つけた」

「嘘、本当に?」

「皇一さん……」

 俺を確認した三人も走ってきて俺に抱きついた。

 

「今までどうしてたの! 怖かったんだからね!」

 地和が怒鳴るがその目には涙が。本当に怖かったようだ。

「おなかすいたよー」

 天和も泣いている。

「華琳さまと連絡を取りたかったのですが、いつもあの人たちが側にいて、そんなこともできなくて……」

 やっぱりそうだったんだ。苦労したんだね、人和。

 

「とにかく三人とも、無事でよかった」

「でもわたし達、討伐の命令が下っちゃったのよ!」

「大丈夫。俺が可愛い嫁さんを死なせるもんか!」

 三人を抱きしめる腕に力を込める。

「……こーいち、ちょっと逞しくなったじゃない」

 ちょっとだけなの?

 

 しばらくその抱擁を楽しんだ後、三人を華琳ちゃんのところへ連れて行った。

「久しぶりね」

「もっと早く助けてほしかったわ!」

「ふふっ、元気そうね」

 三人の無事を喜んでいるのか、華琳ちゃんの機嫌はいいようだ。

 その後、魏ルートっぽい流れで張角たちは死んだことにされ、天和たちは華琳ちゃんのために働くことになった。

 

 

 戦いを終え、城へ戻ると広間に集合をかけられた。

 何進将軍の名代、呂布からのお言葉。……を通訳? するねね。

 呂布は喋ってないから、ねねが覚えてるんだろうな。元気そうでよかった。

 でも、華琳ちゃんが西園八校尉に任命されたってことだけ伝えると、もう行っちゃった。全然話できなかった。

 前以上に呂布に懐いているみたいだし、お兄ちゃんはもう用済みなのかな……寂しい。

 

「呂布は相変わらずのようね」

「怒ってはいないんだ?」

「皇一の情けない顔見たらそんな気も失せたわ。義妹を完全に取られちゃったみたいね」

「やっぱり、そうなのかな?」

 兄殿って呼んでくれてたねねが懐かしい。

 

 後で聞いた話だが、この時の落ち込んだ俺の顔を見ていたせいで、もう一度ねねがやってきた時に、季衣ちゃんが怒っててねねの話し相手のお誘いを断ったらしい。

 真・魏ルートの拠点イベントだと、知らない人にお菓子をあげるって言われてもついてっちゃいけない、って理由で季衣ちゃんは断ったはず。

 引継ぎがあるから、ねねは知ってる人ってことでもしかしたら誘いに乗っていたかもしれない。

 断らないとねねが何進に疑われるから、怪我の巧妙ってとこかな。

 

 

 宴会では、シスターズと早くも仲良くなった桃香が歌ってもらったり、歌を教えたりしていた。

「ア~ルト~~ロン♪」

 ちょっ、なんでその歌教えちゃうかな。

 しかもなんでみんなで歌っちゃったりするのかな。

「ねえ。歌のせいで双頭竜が恋しくなっちゃった~」

「お姉ちゃんずるい! ちぃだって久しぶりに皇一の双頭竜に会いたい!」

「ご主人様の双頭竜?」

 一瞬、桃香の目が光った気がした。まずいかな?

 

「なに言ってるんだよ、この酔っ払いめ」

 そう誤魔化すことにした。

「そうね。いくら久しぶりにちゃんとした食事ができたからって、姉さんたち呑みすぎよ。もう寝ましょう。皇一さん、姉さんを運ぶのを手伝って下さい」

 グッジョブ人和。

 俺は天和を支えながら、その場を脱出した。

 

 

 そして、朝帰りして愛紗に怒られたのだった。

 

 



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三十一話  つなぎ?

「なに? まだ華琳さんとしてなかったの!?」

「嘘でしょ?」

「まずいわね」

 三周目、俺と華琳ちゃんがいまだにしていないのを知った張三姉妹の反応がそれだった。

 

「何やってんのよ! やり直し始めてからどんだけ経ったと思ってんの!」

 地和が怒る気持ちもよくわかる。

 真・蜀ルートのように半年とまではいかなかったが、曹操軍と共同作戦をするようになってそこそこの期間があった。

 けど、互いに忙しかったりしてほとんど会えなかった。黄巾党征伐に明け暮れて各地を移動してたんだし。

 

 ……いや、それはいいわけか。

 なんか今、華琳ちゃんとべったりになったら、後で絶対に戦えそうにないってわかってるんだよ、俺。

 おっさんの野望、裸エプロンのためだとしても無理かもしれない。

 でも華琳ちゃんにそんなこと言ったら、嫌われるかもしれないしさ。

 だから自分から忙しくしてたっていうか。

 

 そんなことを張三姉妹に話したら呆れられた。

「ばっかみたい」

「それはそれ、これはこれ、だよね~」

 人和にいたっては大きくため息だけ。

 ううっ。へこむなあ。

 俺だって早いとこ華琳ちゃんとしたくてしたくてたまらないのに!

 

 

 

 そんなこんなで魏の嫁さんたちとほとんど夫婦性活できないまま、劉備こと桃香が平原の相に任命されてしまった。

 乱鎮圧の恩賞である。

 戦場を渡り歩くよりは、本拠地ができる方が有難いのはたしかなんだけど、華琳ちゃんたちと離れなければならないのが辛い。

 どうせ平原は離れなきゃいけなくなるんだろうし……。

 

 けれど、任命された以上は仕方がない。

 桃香たちには街を治めるという貴重な経験になることだし。

 俺たちは曹操軍に別れを告げたのだった。

「隊長、頼まれてたもんや」

 三羽烏はいまだに俺のことを隊長って呼んでくれてる。

「ありがとう」

 別れ際に真桜から餞別を受け取った。

 

「けど、なんで牛なんや?」

 俺が受け取ったのは兜。真桜に頼んでおいたもの。

 魏の兵士時代と同じ頭蓋骨の意匠。

 ただし、アレにあやかって牛の頭蓋骨。左右に大きく伸びた角がちょっと格好良い。

 もちろんお洒落だけではなく、フラグクラッシャー効果が本来の目的である。

 ……戦場で目立っちゃって逆に狙われやすくなるかもしれないけどね。かませ牛にはなりたくないなあ。

 

 

 知事っぽい仕事にも桃香や俺たちが慣れ始めた頃、城を星が訪ねてきた。

「約束通り、共に戦わせて頂きたい」

「うん! 一緒に戦おう星ちゃん! みんなが笑顔を浮かべて、平和に暮らせるその日のために!」

 桃香が即座に了承した。

 ……桃香の決意や目標を聞く度に、自己嫌悪に陥りそうになる。

 だって俺の目標は、華琳ちゃんの裸エプロンなんだから。

 

「どうなされた、主?」

 俺がちょっとイジケてる間にもうみんなは星を受け入れてたらしい。

「いやだから、主ってのは……」

「問題ありますまい。皇一殿は私の主人だ。別の意味でも」

 嫁に主って呼ばれるのはどうなの?

 

 

 白蓮のとこで多少の練習ができたとはいえ、ほとんど初めてといっていい内政。

「はわわ……雛里ちゃんすごい」

「あわわ」

「以前とはまるで違う発想力……わたし、そんなこと思いつきもしなかった……」

 雛里ちゃんが前回の記憶を引継いでいるんで助かってるけど、なんか朱里ちゃんが焦っているようにも感じる。

 まあ一度雛里ちゃんの話を聞くとすぐに理解しちゃう朱里ちゃんも凄いんだけどね。

 

「雛里ちゃん、朱里ちゃん、視察に行こうか?」

「視察?」

「うん。そういう建前で」

 桃香に任せてたはずの政務がこっちにも回ってき始めた。

 桃香の勉強のため、と任せっきりにしてた俺の能力は推して知るべし。

 ひいひい言いながら書類整理してると、どうせこの平原は出て行くことになるんだよなって考えが頭をよぎってしまう。

 このままではいけない! ので気分転換。

 

「俺だけだとサボってるって愛紗に怒られちゃうからさ」

 二人を連れて行ったら、口実だけじゃなくて本当に視察になるし。

「ご、ご主人様、雛里ちゃんと二人で行ってきて下さい。わたしはまだお仕事が……」

「ご主人様、お願いします」

 親友伏竜の言葉を遮る雛里ちゃん。

 俺は頷いてから、変に気を利かせようとした朱里ちゃんの手を引っ張って強引に連れ出した。

 俺だけじゃなくて、朱里ちゃんにも気分転換必要そうだったしね。

 もちろん反対の手は雛里ちゃんとつないでいる。ロリ軍師二人とお手手つないでお出かけ。うん、デスクワークの疲れも吹っ飛ぶよね。

 

「……ありがとうございます、ご主人様」

 城を出た辺りで観念した朱里ちゃんがお礼を言ってきた。こっちの意図は簡単に見抜かれたらしい。

「なんのこと? お礼を言いたいのはこっちだよ。こんなに可愛い子を二人も侍らせてるんだから」

「はわわっ!」

 真っ赤になる朱里ちゃんと雛里ちゃん。可愛いって言っただけでこれなんだから、本当に可愛い。

 

 二人が相談するのを聞いてたり、買い食いしたりしながら街を散策。

「お父さんと娘がお出かけ、みたいに見えてるのかなあ?」

 行く先々で「お父さん、これ買ってかない?」と声をかけられてしまった俺。

 そりゃおっさんだけど。

 璃々ちゃんぐらいの娘なら、いてもおかしくないんだろうけど。

 ……早く会いたいなあ璃々ちゃん。二周目までは黄忠に警戒されたのか、会うことできなかったし。

 

「ご主人様が眼鏡を外せば、そう言われることもなくなります」

「それは無理」

「ご主人様……」

 俺と握ってた手をいったん離す雛里ちゃん。大きく深呼吸してから、帽子を目深にかぶり直して顔を隠す。

 そして、指を絡ませる様に握りなおした。

 

「はわわっ! そ、それはっ!?」

「こ、恋人つなぎっ!?」

 驚く朱里ちゃんと俺。

「こ、こうすれば娘には間違えられません……」

 帽子のせいで顔はよく見えないけど、きっと夕日よりも赤く染まっているに違いない。

 

「……うん。きっとこれなら、親子には見えないね」

「は、はい……朱里ちゃんも」

「わ、わたしも?」

「……うん。ご主人様のためだよ……」

 今度は朱里ちゃんに手を離された。はわわわわと唸りながらしばし悩む。

 その後、決意したのか。

「ごめんなさいご主人様!」

 謝りながら指を絡めてきた。

 

「謝ることないのに。ありがとう朱里ちゃん。これでどう見ても親子には見えないね」

「は、はいっ」

 三人で赤くなってぎこちなく歩きながら城へ帰ったのだった。

 

 

 警邏中の鈴々ちゃんが目撃していたらしく、真似して手をつないできた時には驚いた。

 そして、愛紗に怒られた。

「ま、街中であのような手の繋ぎ方をするなどとは、破廉恥すぎます!」

「だって、親子と間違えられちゃったし」

「……そうなのですか?」

「あ、納得したよね?」

 うん。今の間はきっとそう。

 

「まあ、俺おっさんだからね」

「い、いえ、朱里と雛里が幼く見えるからそう思っただけです!」

「やっぱりそう思ったんだ」

「す、すみません!」

 ふう。なんとか誤魔化せたかな。

 

「ご、ご主人様はお若いです!」

 焦りながらフォローする愛紗が可笑しく思えてくる。おっさんなの気にしてないからいいのにね。

「今度、愛紗と出かける時も、親子と間違えられないように手をつないでいこうか?」

「なっ!?」

 赤面しながらも俺の手を見つめる愛紗。

 

「それとも、街中では破廉恥だから……」

「そ、それは……」

「閨でだけにしておく?」

「!」

 さらに真っ赤になって黙ってしまった。

 破廉恥だって怒ったのはそういうことだよね。

 

 初めての時、愛紗は華琳ちゃんと恋人つなぎしていた。

 俺と恋人つなぎしたのは、二回目の初めての時だった愛紗。

 季衣ちゃんとの時も、雛里ちゃんとの時も、初めての二人と恋人つなぎして励ましてた愛紗。

 そりゃ破廉恥なって言いたくなるかもしれない。

 その晩、三度目の愛紗の初めても、両手で恋人つなぎしながらだった。

 

「随分と待たせちゃったかな?」

 翌朝、目覚めた時もつないだままだった片手を見てそう思った。

 ……他の嫁も待たせちゃってるよね。やっぱり華琳ちゃんたちともしておけばよかったのかな?

 愛紗が起きるまで、そんなことをずっと悩んだ。

 

 

 

 それからしばらくして、反董卓連合結成の檄文が届いた。

「え? もう?」

 それが正直な感想だった。

 華琳ちゃんたちと半年もいっしょにいられなかったから、もう少し時間的な余裕あるんじゃないかって思ってたけど、やはり一刀君が呉にいる状態だとタイムスケジュールが呉ルートよりなんだろうか?

 

 わずかな期間にもう、董卓が相国になっちゃているらしい。

 月ちゃんと詠も記憶を引継いでいるせいもあるのかもしれない。

 

「さて、桃香はどうしようと思う?」

「当然参戦だよ! 董卓さんって長安の人に重税を課してるって噂を聞くし。そんな人を天子様の傍に置いておくなんて言語道断! さっさと退場してもらわないと!」

 ああ、いくら詠でも噂まで操作できなかったのか。

 それとも、噂なんて気にしてないで反董卓連合に勝つための準備しかしてないか。

 

「桃香さま……私には董卓がそんなことをするとは思えないのです」

「愛紗は董卓を知っているのだ?」

 鈴々の問いに頷く愛紗。

 

「私と雛里も知っている。なにしろ、董卓も主の嫁なのだからな」

「ええーっ!?」

「ま、またですか?」

 もういい加減慣れてもよさそうなのに驚く桃香と朱里ちゃん。

「お兄ちゃんの嫁はいろんなとこにいるのだ」

 慣れたのかあまり驚いたように見えない鈴々ちゃん。

 

「そ、それではご主人様のお嫁さん同士が戦うことになってしまいます!」

 朱里ちゃんの指摘で桃香が困った顔になる。

「ど、どうするの、ご主人様?」

「ここ一番で行動を決めるのは桃香だっていつも言ってるでしょ。俺はあくまでお飾りなの」

「で、でも……」

 俺に気を使ってくれるのは嬉しいんだけど、俺が決めるわけにはいかない。桃香がリーダーとしてしっかりしないと愛紗や星、雛里ちゃんが苦労することになるから。

 

「たとえ反董卓連合に参加しても、俺は董卓たちを助け出すから、俺の嫁だからってのは気にしないでいい」

「董卓さんに味方するっていうのは?」

「桃香さま。朱里ちゃんが言ったように、華琳さまをはじめとした諸侯が反董卓連合に参加するはずです」

「うん。華琳ちゃんは参加するよ」

 華琳ちゃんがもし参加しなかったとしても、袁紹のところには斗詩がいる。俺の嫁が戦いあうのは避けられないだろう。

「そっか。どっちにしてもご主人様のお嫁さんと戦わなきゃいけないんだ……」

 うーんと唸りだして悩む桃香。朱里ちゃん、雛里ちゃんと相談して結局、連合に参加することを決めた。

 

「ご主人様、絶対、董卓さんたちを助け出そうね!」

「うん。ありがとうみんな」

「お兄ちゃんまた泣いているのだ」

 俺泣いてた?

 

 その後、蜀ルートと同じく兵糧と軍資金の不足が話題になる。

 反董卓連合があるのはわかっていたけど、予想より早かったから仕方がない。

 よその補給をあてにする情けない決意。

 身体鍛えるだけじゃなくて、金策スキルも磨いておけばよかった。

「甲斐性なしでごめんね……」

 

 

 準備を終え、平原を出てから一週間。

 反董卓連合との合流地点に到着する。急いで準備したんだけどやっぱり最後になっちゃったみたい。

 白蓮に会うのかなと思ったら、まず会ったのは斗詩だった。

「久しぶりだね斗詩。元気そうで……もないか。大丈夫?」

 顔色が悪い斗詩に心配になり、おでこに手をあてる。

「だ、大丈夫です。ちょっと疲れただけですから……」

 そう言いながらも俺の手はどけない斗詩。うん、熱はないようだ。

 

「ご主人様、もしかしてその人も?」

「うん。俺のお嫁さんの顔良」

 そう紹介した途端。

「ンだとぉー! 斗詩はあたいの嫁だ!!」

 砂煙を巻き上げながら文醜も登場した。

 

「テメェ、いい度胸じゃねえか!」

 俺に掴みかかろうとする文醜。

「ご主人様になにをする!」

 それを、愛紗が止めてくれた。

 猫の子のようにあっさりと掴まってしまっている文醜。

 あれ? なんか魏ルート、流琉の登場イベントを思い出すな。あれは、文醜が掴まえている方だったけどさ。

 

「なにを騒いでらっしゃいますの?」

 今度は袁紹が出現。

 こんなに近くで見るのは二回目か。一回目は勉強会(くぱぁ)の時だったっけ。色は綺麗だったなあ。

 

「遅かったわね」

「華琳ちゃん!」

 俺は華琳ちゃんにかけよって抱きしめる。

「なんですの、この男は?」

「私の夫よ、麗羽」

 抱きしめられたまま、そう答える華琳ちゃん。

 

「このブサイクさんが? 華琳さんも趣味が悪くなりましたのね。お似合いですわよ。おーっほっほっほっ……」

「皇一」

 袁紹の高笑いが続く中、華琳ちゃんが俺の名を呼ぶ。……仕方ないか。

 華琳ちゃんを離し、眼鏡を外して手櫛で髪を整える。高笑いが止まったんで自己紹介。

「俺は天井皇一。字はないよ」

「私のものよ。そうね、似合いの夫婦でしょう」

 高笑いの形のまま開いた口を閉じない袁紹に、ふふん、と勝ち誇った表情の華琳ちゃん。

 

「さあ、軍議を始めましょう」

「ちょ、ちょっと華琳さん、まだ詳しい話を伺っておりませんのよ!」

「まずは軍議だろう」

 白蓮までもが現れて、袁紹を連れて行く。

「皇一と桃香もきてくれ」

 俺たちも参加して軍議が始まった。

 初めて見た袁術ちゃんは可愛かったな。馬鹿だけど。

 驚いたのは、翠じゃなくて馬騰ちゃんが来てたこと。

 既にもう華佗に診てもらって元気になってるのかな? 翠は代わりに五胡に備えて残っているらしい。

 

 

 軍議で決まったこと。

 総大将は袁紹。

 その後に頼まれた、というか命令されたこと。

 連合軍の先陣は劉備軍。

 かわりに要求したこと。

 兵糧と兵士。うん。真・蜀ルートと同じ要求。

 袁紹は俺にまだなんか話があるみたいだったけれど、準備があると断って自陣へと戻った。

 

 みんなに事情を説明したり、袁紹から約束した軍事物資や兵士の提供を受けていたら、客がきた。

「あなたが天井?」

 値踏みするような視線を投げかけてきているのは、江東の麒麟児。

「強そうじゃねえな」

 正しすぎる評価をくれたのは、太眉ロリBBA。

 

「冥琳、本当にこいつが蓮華たちの?」

「ああ。北郷を夫にしろとの雪蓮の強制を断り続ける理由」

 え? それって。

「皇一殿、安心するがいい。北郷には悪いがまだ誰も寝取られてはおらん」

「うん。俺、信じてるから!」

 信じてたけどやっぱり嬉しい。

「それ聞いたぐらいで泣いちゃうの? やっぱり一刀の方がいい男でしょ」

 うーん。

 道場主の記憶ないのかな? 俺がすぐ泣くって知ってたはずなのに。

 

「たしかに北郷には見所はあるがな、それとこれとは話は別だ」

 ありがとう冥琳。

 ごめんね一刀君。種馬の仕事はさせてあげられそうにない。

「そういえば冥琳、身体の方は大丈夫なのか?」

「馬騰といっしょに華佗もきているらしい。この戦の後、診てもらうつもりだ」

「ちょっと冥琳、どこか悪いの?」

 孫策が慌てた。

 冥琳の両肩を掴んで、おでこを合わせている。

「熱は……ないみたいね?」

 

「華佗にまかせりゃ大丈夫だろ」

 うん。華佗のおかげで元気そうだね馬騰ちゃん。

「あいつが婿だったらオレも安心できたんだけどなあ」

「なら馬騰ちゃんが婿にもらえばいいでしょ」

「お、オレが?」

 可愛らしく頬を染める馬騰ちゃん。おやおや、意外と脈あるんじゃない?

 ちゃん付けで呼んだのも流しちゃうぐらい動揺してるっぽいし。

 華佗のことを義父(おとう)さんって呼ぶ日がくるのかもしれない。……たぶん華佗って年下だけどね。

 

「なんだかよくわからないけど、とにかく華佗ってののとこに行きましょ、冥琳!」

 冥琳の身体を心配した孫策を当の本人が止める。

「大丈夫だ雪蓮。まずはここに来た目的があるだろう。天井を見に来ただけではないのだ」

 わかってるよ。

「協力しに来てくれたんでしょ?」

 華琳ちゃんに勝つためにも、呉との協力体制は作っておきたいからね。

 

 



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三十二話  反董卓連合?

 汜水関の戦い。

 先鋒を命じられた劉備軍だが華雄を誘き出すのにてこずる。

 こちらの挑発に乗ってこない。二周目の時は簡単に出てきてくれたのに。

 俺の嫁で引継ぎがあるツンデレ眼鏡軍師の詠が言い聞かせてあるんだろうなあ。

 なので挑発の路線を変更。

 

「華雄!」

「華雄」

「華雄!!」

 華雄の名を連呼する劉備軍(オレたち)

 まるでシスターズのファンのようなノリだ。

 さらに。

「猛将!」

「猛将!!」

「良将」

「良将!」

 称える声が汜水関に響く。

 思わず「イジメかっ!!」って言いたくなるのをぐっと堪える俺。

 

「あわわ。な、なんて恐ろしい攻撃……」

 雛里ちゃんが帽子で顔を隠して震えてる。

「そ、そうなの?」

 うーん、桃香にはまだわかんないか。

 

「例えばさ、敵軍から桃香のことを、大徳とか癒しおっぱいとか称える声が聞こえてきたらどう思う?」

「それは……恥ずかしいかも」

 頬を赤く染める桃香。

 

「まあ、華雄はこんなことで恥ずかしがらない性格だろうけど。でも、猛将とか言われてたらその気になるかもしれないし」

「うん、期待に応えなきゃって思っちゃう」

 うんうんと頷く桃香。

 いや、納得されてもね。

 本当のとこは孫策がくるまで罵声を続けるの嫌なだけ。

 華雄のこと知らないわけじゃないし。……いっしょに白蓮を助ける旅をした二周目の華雄とは別人とはわかっているけど。

 孫策がくれば華雄も出てくるだろうしね。

 

 協力を約束してくれた孫策軍が援護に来てくれた。

「なにやってんの?」

 呆れた顔の孫策にも説明。

「……蓮華には効きそうね」

 嫁にしたい君主一位、とか、美尻、とか連呼されて真っ赤になってる蓮華が浮かぶ。……いいかも。

「でもまあ、華雄には通用しなかったみたいだし、挑発お願いします」

 

 そして、華雄は因縁のある孫策の挑発によってやっと出てきた。

「劉備! 作戦通り、華雄は私が。張遼はあなたが相手をする。それで良いな?」

 ここで華雄を捕獲、仲間にしたかったんだけど、そうはいかないらしい。

 

「霞も引継いでてくれたらなあ」

 ここで張遼を仲間にできたら月ちゃんと詠の救出とか楽になるのに。

「……霞も嫁にするつもりだったのですか?」

 愛紗が俺を睨む。戦場のせいか、いつも以上に怖い。

「ど、どっちかっていうと、霞が愛紗を嫁にしたがってたんだよ」

「なっ!」

 それで動揺したのか、愛紗は張遼と遭遇できず、華雄、張遼共に虎牢関に退却してしまった。

 

 

 ほぼ真・呉ルートの通りに進んじゃったか。

「逃がしちゃったのだ」

 二周目だと、鈴々ちゃんが華雄を倒したんだったよね。

「まあ、今は汜水関を攻略できたことを喜ぼう」

 俺も死なずにすんでるし。

 超銀河フラグクラッシャーなリーさんのマークをイメージしたこの兜のおかげかな?

 兜の角を撫でながら真桜に感謝する。

 

「げぇっ! 関羽!」

 孫策に協力の礼を言いに行ったら一刀君もいた。

 ……一刀君、君にとってはネタなのかもしれないけど、愛紗にそれは止めてあげて。

「君が孫呉の天の御遣いだね?」

「あんたは?」

「俺は天井皇一。字も真名もない、って言えばだいたいわかるよね?」

「あ、あんたが……冥琳たちの?」

 値踏みするような一刀君の視線。

「うん。俺の嫁に手出ししたら泣いちゃうよ」

 冗談抜きでマジに泣くから、俺。

 

「ははは……大丈夫だよ、なんか避けられてるみたいだから、俺」

 力なく笑う一刀君。

「ごめんね、種馬の仕事の邪魔しちゃって。ええと、北郷君、でいいんだっけ?」

「ああ、名乗り遅れました。北郷一刀です」

 一刀君に右手を差し出す。

「嫁は渡せないけど、仲良くしよう」

 一刀君は微妙な表情で頷いて握手。うん。一周目の一刀君みたいに仲良くしたい。

 

 ふと見ると、桃香と孫策もがっちりと握手を交わしていた。

 その後、自陣に戻ってから「華琳さんと敵対したらごめんなさい」と謝られた。

 俺と一刀君が初対面してる間に、孫策たちとそんな話してたのか。俺の嫁のことを気にしてくれるのは嬉しいけど。

「それは後でじっくり話そう。今はそれより……ちょっと愛紗と話があるから」

 

「あの一刀君は、愛紗の主だった一刀君とは別人だから……」

 あんな言い方されてショック受けてるだろうなあ。

「……わかっていたのに、そっくりで驚きました」

「愛紗……元主にあんな……」

 なんて辛いんだ!

「ご主人様が泣くほどのことではありません」

「けどさ」

「もはや、私の主は桃香さまだけです。そして……大事な男の人はご主人様だけ」

 辛いだろうににっこりと微笑む愛紗を抱きしめる。

「愛紗ぁ!」

「ですから、ご主人様がなぜ泣くのです」

 俺はしばらく愛紗の胸で泣き続けたのだった。

 

 

 

 虎牢関では袁紹軍と曹操軍が先鋒。

 戦功が欲しいんだろうけど、虎牢関には呂布もいるし心配だ。

 飛将軍の相手なんて大丈夫かなあ。

 曹操軍の武将は引継ぎで呂布の強さを知ってるからまだいいとして、斗詩のことが不安な俺。

 なんか疲れてたみたいだし。

 

「孫策軍の動きにも気をつけてね」

 劉備軍のみんなに注意を促す。

 呉ルートならこの機を利用するはず。

 

 予想通り、記憶通りに前線に乱入していく孫策軍。

 後方の袁術軍を消耗させるため、敵を引っ張ってくつもりなんだろう。

 敵部隊が出陣すると同時に反転する孫策軍。

 けれど、呉ルートと同じようで、違った。

 

 虎牢関から出てきたのは深紅の呂旗を掲げる部隊だけ。華雄は釣れなかったらしい。

 詠も張遼も城門から出てこない。

 ……これは、詠の作戦?

 

 呂布が出てきたのに斗詩と文醜は逃げずに迎え撃つ。

 後に斗詩に聞いた話だと、潜ませた兵士と投網を用意しており、呂布を捕獲するつもりだったそうだ。

 一周目で一刀君たちが、二周目で俺たちがやった作戦。それを知ってる斗詩が真似しようとしたんだろう。

 その投網がいつのまにか、やたらに派手な物になっていたせいで、地味で目立ちにくい投網を確保するので忙しくなり疲れはてていたらしい。

 しかしそれも無駄になってしまう。

「恋殿の戦いの邪魔はさせないのです!」

 ねねの指示で火矢が放たれた。斗詩と文醜にではない。

 潜んでいた兵士たちを目掛けて。

「やべっ! 気づかれてた」

「ふふん。ねねにはお見通しなのです」

 斗詩と文醜はなんとか無事に逃げたが、網を焼かれて呂布に蹂躙される袁紹軍の被害は大きなものだった。

 

 そのまま、敗走する袁紹軍を追い、勢いづいて袁術軍にまで到達する呂布たち。

 孫策たちの望み通りに袁術軍にも甚大な被害を与える。

 袁術ちゃん大丈夫かなあ。

 ロリっ娘の無事を願う。

 

 適度に損害を与えたと判断したのか、迅速に引き上げて行く呂布隊。

 ねねだったら袁紹とか袁術ちゃんを討ち取ってとか、一気に勝利にとか言いそうだけど、それはしない感じ。

 やっぱり詠の作戦か。呂布の強さを見せ付けるっていう。

 袁紹や袁術ちゃんの首とっても戦は終わらないしね。

 むしろ、お荷物がいなくなって連合軍強化?

 

 

「こ、攻撃した方がいいかな?」

 桃香が迷う。

 劉備軍は撤退中の呂布隊を攻撃できる位置にはいるけど。

「愛紗、星、鈴々ちゃん、どう?」

「我ら三人でかかれば……けれど、この混乱では桃香さまとご主人様を守るために一人は残さねばなりません」

 呂布の実力を知っている愛紗。引継ぎしていて、二周目のこの時期よりも愛紗、星とも強くなっているにもかかわらず、さらに鈴々ちゃんもいなければ、か。他の軍の武将も協力してくれないと無理っぽい。

 

 孫策軍が仕掛けるかとも思ったけど、虎牢関から出てきたのが呂布隊だけだったので、用心したのかそれとも袁術軍を消耗させたことに満足したのか追撃はなかった。

 実際、呂布の撤退が始まると、それを迎えるかのように張遼隊が出てきたし。

 袁紹軍の被害が大きくて陣形を立て直すのに時間がかかったのもあり、連合軍は混乱し、呂布隊、張遼隊が虎牢関に引き上げるのを許してしまった。

 

 呂布の強さはやっぱり天下無双。

 俺の可愛い義妹嫁ねねのサポートもついて、ますます手が付けられなくなっている。

 ノれば強いって詠もねねを評価してたはずだし、手出し無用か。

 一周目、二周目で成功した投網捕獲はもう通用しまい。

 呂布の捕獲は諦めた方がよさそうか。

 

 

 翌日、偵察から虎牢関が無人との報告。

 えっと、今度は魏ルート?

 この状況で難攻不落の虎牢関を捨てるっていうのは……もしかして月ちゃんの身になにかあった?

 詠ってば月ちゃんの顔が広まるのを恐れて虎牢関に連れてきてなかったのかな。

 

「虎牢関を突破しよう」

 月ちゃんが心配だ。袁紹が出るのを待ってなどいられない。

「罠かもしれません」

 軍師に止められて結局、袁紹が関を抜けるのを待つことになってしまった。

 

 

 都での攻城戦が始まって数日。

 うん。まだ月ちゃんは無事みたい。よかった。

 その後はやはり魏ルートと同じく、昼夜を問わず攻め続けるコンビニ作戦。

 二周目では使ってってなかったから、詠も対策考えてないっぽい。

 数日続けたら、決戦を挑んできた。

 

 展開も魏ルートと同じ……とはいかなかった。

 まず、連合軍の勝ちが見えてきたあたりで愛紗と雛里に説得してもらって、ねねと呂布、その部下たちに投降してもらう。

 投網で捕獲なんて必要ないでしょ。

 もちろん、仲間になってもらうよ。

 

 

 俺は鈴々ちゃんたちと都に侵入。

 月ちゃんと詠を探す。

「ええと、たしかこっちであってるよな?」

「お兄ちゃん、どこへ向かっているのだ?」

「……俺の嫁さんとこ」

 もしかして、と期待していたらやっぱり、二周目と同じ場所で月ちゃんと詠は待っていてくれた。

 

「……遅いじゃない」

「皇一さん……」

 かけよって二人まとめて抱きしめる俺。

「ま、待たせちゃってごべんねぇ」

「ボクたちをどうするつもり?」

「お兄ちゃんは二人を助けにきたのだ!」

 泣いてる俺にかわって、鈴々ちゃんが言ってくれた。

 うん。無事な月ちゃんと詠を見て、抱きしめてほっとしたらなんか涙がね。

 

「泣いてる場合か!」

「そうなのだ。早くみんなのとこに戻るのだ!」

 詠と鈴々ちゃんに急かされて俺たちが移動しようとした時、連合軍の兵と遭遇した。

「あちゃー、遅かったか」

 真桜?

「先こされちゃったのー」

「さすが隊長です」

 沙和と凪まで。

 

「もしかして」

「せや。ウチらも月ちゃんたちの確保命じられたんや」

 そうか。

 三羽烏も二周目でこの場所、知ってたもんなあ。

「華琳ちゃん、月ちゃんのお茶、気に入ってたしね」

「へぅ」

 

「沙和、真桜、城の制圧に向かおう」

「いいのか?」

「だって月ちゃんたち連れてったら、隊長もっと泣いちゃうのー」

 うう、否定できん。

「月ちゃん、詠、隊長のこと頼むで」

 いやそれ逆でしょ。

「……ありがとうございます」

 深々と頭を下げる月ちゃん。

 凪たちも一礼して、城へと向かっていった。

 こうして、なんとか俺は死なずに月ちゃんと詠を助け出すことに成功した。

 

 

 華雄の行方は不明。

 討ち取られたという話も聞かないから、生きていると思う。

 味方にしたかったと白蓮が悔しがっていた。

 この後、袁紹と戦うことになるから戦力ほしいだろうし、二周目でも仲良かったみたいだからね。

 

 

 そして、反董卓連合の残る一つの心配だった春蘭の左目が無事。

 三周目でもやっぱり眼帯したままなんだけど、その下の目は健在。それを守るために眼帯も強化されているはず。

 張遼との戦いでその強化眼帯が役に立った。……わけではなく。

「馬騰ちゃんに敗れて降った?」

「ああ。いい土産ができたな」

 えっと、本調子の馬騰ちゃんってどんだけ強いの?

 馬上で張遼に勝つって……恐るべしロリBBA。

 

 張遼も華雄も手に入れられなくて、華琳ちゃん悔しがってるだろうなあ。

 月ちゃんと詠の確保を失敗した三羽烏、お仕置きされてなきゃいいけど……。

 

 

 

「兄殿!」

「ねね!」

 久しぶりの義妹兼ロリ嫁を抱き上げる俺。

「お、下ろすのです!」

「嫌だ。こないだ会った時、話できなくて寂しかったんだ」

「そ、それは悪かったのです。季衣にも怒られたです」

 季衣ちゃんに?

 

「ねねをいじめたら駄目」

「恋殿! こ、これは苛められてるわけじゃないのです」

「違う?」

 首を捻る呂布。

 二周目の時は捕獲した時、卑怯者って恨まれてると思って苦手意識あったけど、今は違う。その小動物的動作も可愛く見える。

 ふと見ると、愛紗もうっとりと呂布を眺めていた。

 二周目で愛紗は呂布と仲良くなってたのか。

 愛紗が一刀君のとこへ戻るって時、呂布にも引き止めるのを手伝ってもらえばよかった。

 

「俺は天井皇一。ねねが世話になったね。ありがとう」

 ねねを抱き上げたまま自己紹介した俺。

「ちんきゅ?」

 再び呂布が首を捻る。

「……ねねの兄殿なのです」

 

「……兄?」

「うん。義理だけどね。あとね、ねねは俺のお嫁さん」

「こ、こんな小さい子まで!?」

 驚いたのは桃香。

 そりゃ驚くよねえ。

「ねねは小さくなんかないのですぞ!」

 今回は朱里ちゃんがあまり驚いた様子を見せないのは、もう慣れたのか、それとも雛里ちゃんに俺の嫁さんのこと聞いているのかな?

 

「……ねねのお婿さん?」

「うん。よろしく」

「……恋」

「真名をくれるの?」

「……うん」

「俺には真名がないんだ。ごめんね」

 ねねのおかげか、二周目でもらえなかった呂布の真名を貰えてしまった。

 その後ねねを下ろして、月ちゃんや詠もみんなと真名交換。

「よろしくね、月ちゃん、詠ちゃん、恋ちゃん、ねねちゃん」

 桃香、嬉しそうだなあ。

 

「やっぱり、ボクたちは死んだことにされるワケね」

「ごめん。侍女として働いてくれると嬉しい」

「はい。ご主人様のためにがんばります」

 月ちゃんまでご主人様か……。

 メイドさんにご主人様って呼ばれるのか。救出できて本当によかった。

 仲間も増えたし、これから先も大変だろうけど、なんとかなるといいなあ。

 

 



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三十三話  水難?

 久しぶりにねねと寝た。

 恋もついてきたんで、あっちは無しだった。ただ寝るだけ。

 三人で寝るとたいてい俺が女の子にサンドイッチされるのだが今回は違った。

 川の字。

 ねねの両隣が俺と恋。

「なんだか親子みたいだな」

「ねねは子供じゃないです!」

「……ねねが恋の子供?」

「そ、そんな恐れ多いのです……」

 こっちからは顔はよく見えないけど、恋がしゅんとしたのがなんとなくわかる。

 

「子供かはともかく、家族、でいいんじゃない?」

 恋の家族っていうとセキトをはじめとした動物たち。それなら恐れ多いってこともないよね。

「ね、ねねが恋殿の?」

「……家族」

「恋殿ぉ!」

 ねねが恋に抱きついたらしい。俺に背中を向けるねね。……寂しいかも。

 

「……ご主人様はねねの兄。ご主人様も恋の家族?」

 そうくるか。

「ねねがそれでいいんなら、いいよ」

 なんて言ったらいいかわからないんで、ねねに丸投げ。

「……」

 返事がないところを見ると寝ちゃったのか。

 ふぁあ。俺も眠い。

 俺もねねの方に横臥して、その小さな小さな背中を抱きながら眠った。

 

 

 反董卓連合の後、平原に戻って一ヶ月。

 桃香が徐州の州牧になった。

 桃香が認められるのは嬉しいが、すぐに袁家との戦いになるんだろうから、喜んでばかりもいられない。

 どうせ徐州も手放すことになるんだろうし……。

 

 引越ししたらすぐに白蓮の援護に行くという手もあるか。

 ……新領地でそんなにすぐ兵や軍資金が貯まるわけないよなあ。

 白蓮も準備してるだろうし、少しは持ってくれるかも。

 恋はもうこっちにいるから、袁術が襲ってくるとしたら……孫策軍使ってくる?

 うーん、現状で恋姫の武将、軍師がどこにいるかまとめてみよう。*は俺の嫁で引継ぎ有りてことで。

 

 劉備軍は劉備、関羽*、張飛、諸葛亮、鳳統*、趙雲*、董卓*、賈駆*、呂布、陳宮*。

 月と詠は戦力としては考えられないけど、すでに恋がいるのが大きいな。兵の数は少ないけど。

 

 曹操軍、いやもう魏かな。曹操*、夏侯惇*、夏侯淵*、荀彧*、許緒*、典韋*、楽進*、李典*、于禁*、張角*、張宝*、張梁*。

 郭嘉と程昱はまだだろうけど、すぐなはず。張遼がいないけど戦力は充実してる。

 今いる全てが俺の嫁で引継ぎあるから洒落にならん。

 

 袁紹軍は袁紹、文醜、顔良*。

 名前付きのキャラは少ないけど兵は多いんだよなあ。

 記憶引継ぎの斗詩がいる。……けど、そのせいで斗詩は余計な気苦労ばかり増えてる気がする。元気だといいんだけど。

 

 袁術軍は袁術、張勲。

 そして客将の孫策の孫策軍。

 孫策軍に裏切られるだろうから、袁術ちゃんは助けたいなあ。

 

 すぐに袁術軍を倒して、呉になりそうな孫策軍。孫策、孫権*、周喩*、黄蓋、陸遜*、思春*、周泰*。そして北郷一刀。

 孫尚香*と呂蒙*は呉になる直前だっけ?

 冥琳はもう華佗に治療してもらっているはず。

 こっちも俺嫁が多い。軍師が三人とも引継ぎというのは、ズルいかも。

 呉ルートだから一揆の時に独立するのか、それとも魏と戦っている時にかはわからない。

 

 公孫賛。公孫賛*。

 白蓮のみ……せめて行方不明の華雄がスカウトできてればなあ。

 

 西涼。馬騰、馬超*、馬岱*、張遼。

 ただでさえ騎馬がすごいのに張遼もいるんで機動力はトップクラス。

 華佗のおかげで馬騰ちゃんは元気なようだ。

 華琳ちゃんは馬騰ちゃんと戦いたがってるだろうなあ。

 

 南蛮。孟獲。

 あとミケトラシャムと量産型がたくさん。

 ネコ耳ロリがいっぱいな夢の国。

 

 その他。黄忠、厳顔、魏延。

 蜀入りしないと仲間にならないだろう。

 

 

 こんなとこかな。

 ……蜀にいかないと璃々ちゃんに会えないか。南蛮のロリたちにも。

 うん。袁紹軍が攻めてきたら逃げ出そう。

 白蓮ごめん。やっぱり援軍出せそうにない。

 

 基本方針を引継ぎのメンバーと相談。もちろんロリに会いたいとかは伏せて。

「一つ目の問題は幽州のことを桃香に知らせるか、ってことなんだけど」

「桃香さまが知れば必ず助けようと言い出すはず」

「助けにいけばいいです! 袁紹軍など恋殿がいれば余裕なのです!」

 どうだろう? 兵の数凄いんだよなあ。

 

「……もし袁紹さんに勝てても、次は華琳さんです」

 雛里ちゃんの意見に皆が黙ってしまう。

 馬騰ちゃんや孫策たちと連携できれば、決戦もありかもしれないけれど、その前に劉備軍が手伝っても袁紹軍には勝てそうにないかな。

「桃香には秘密にするしかないか……それとも教えて、友の危機と自領どっちかを選んでもらう?」

「秘密にすべきね。援軍差し出す余裕なんてない。徐州捨てるならともかく」

 助けにいったら徐州は袁術ちゃんに取られるだろう。

 それに内政ほったらかしで行くというのも、後々の評判にどう繋がるか俺にはよくわからない。

 

 情報が入らない限り、秘密にするということに決まった。

「次の問題は魏領の通過なんだけど」

 蜀ルートのようにこっそり強引に抜けようとして魏軍と戦うか、それとも魏ルートのように華琳ちゃんに許可を得るか。

 俺たちの会議は続く……。

 

 

 

「で、なんであなたが訪ねてくるのかしら?」

 目の前の玉座には超絶美少女覇王様にして俺の最愛の嫁が座っている。

「州牧就任の挨拶かな。忙しいんで桃香本人はこれないけど」

「ふむ」

 

 俺は会議が終わってすぐに、引越しはみんなに任せて華琳ちゃんのとこにきていた。

 護衛は恋。当然、ねねも付いてきている。

 ねねいわく、親衛隊ができるまでの代わりらしい。ねねは二周目、魏で親衛隊やったからなんだろう。

 ……親衛隊か。魏は季衣ちゃんと流琉。呉は後付けで思春と明命が担当だったよな。斗詩もたしか親衛隊隊長もやらされてた気がする。

 必要なのかな?

 

「どうせなら、愛紗を連れてくればいいのに」

「夜這いでも仕掛けるつもり?」

「夫が構ってくれないから、欲求不満なの」

 やぶ蛇!

 俺だって愛しい華琳ちゃんとしたくて堪らないのに!

 

「と、ところでさ、来る途中、みんなが双頭竜って俺を呼んでるんだけど」

 ……べつに蛇で思い出したわけじゃない。

 なんか街の人たちがそこかしこで言ってた。

「しすたぁずが歌っている影響ね」

「ああ、桃香が教えてたっけ。じゃあ、俺のこと言ってたわけじゃなかったのか」

 なんだ、小白竜の替え歌のアレのせいだったのか。

 

「いいえ。あの歌は天の御遣いを指していると民衆は受け止めています」

 り、郭嘉。もういるの?

「そですねー。天の御遣いは北郷さんと二人だから双頭竜だと思ってるみたいですねー」

 程昱まで。

 一刀君まで双頭竜って言われてるのか。

 一刀君が知ったらどう思うかな? 双頭竜の本当の意味とか。

 

 引継ぎじゃない郭嘉と程昱がもういるのは呉ルートのせいなのか。

 ……やっぱり呉ルートなのか。

 ならば会議でまとまった案の一つの通りに動くとしよう。

 

「……華琳ちゃん、俺しばらくこっちいていいか?」

「どういうつもり?」

「嫁さんをちゃんと構いたい」

 他にも理由はあるけど、華琳ちゃんにあんなこと言われてほっておくわけにはいかない!

 

「華琳さま!」

 華琳ちゃんの返事の前に桂花が入ってきた。

「どうしたの桂花?」

「孫策の使者がきました」

 え? 孫策の?

 チラリと俺を見る華琳ちゃん。知らないと首を振る俺。

 

「通しなさい」

「俺、外した方がいいよね?」

 一応は魏の部外者だし。

「ここにいなさい」

 あ、そう。

 でも、孫策から直接使者がくるってことはさ。

 

 ……どういうこと?

 

「明命。と袁術ちゃん?」

「皇一様?」

 俺を見つけて一瞬驚く明命。だがすぐに任務を思い出したらしく、華琳ちゃんに向き直る。

 呉が独立したとの挨拶。

 そして贈り物として袁術ちゃんを届けに来たらしい。

 

 もう呉になっちゃったのか。

 さすが呉ルート。展開が早い。

 ……白蓮大丈夫かなあ。もう負けてたりしてるかもしれないな。

 

「張勲はどうしたの?」

 思わず聞いてしまう俺。

 だって張勲が袁術ちゃんといっしょにいないなんて考えられないでしょ。

 どこかに隠れて、震えている袁術ちゃんを見ているんだろうか?

 

「な、七乃は孫策に仕えておるのじゃ……」

「張勲が孫策に?」

 華琳ちゃんが聞き返す。

「そうじゃ。妾の命と引換えに……うわぁぁん! 七乃ぉ~~~!」

 泣き出してしまう袁術ちゃん。

 

「手元に置いとくと、袁術ちゃんといっしょに逃げられるかもしれないから、魏に?」

 ……冥琳あたりの差し金かな。二周目で華琳ちゃんが袁紹を一刀君のとこに寄越したやり方。

「やはり、邪魔者を押し付けるのは有効な手ね」

 華琳ちゃんも同じことを思ったみたい。

 

「このまま生かしておいても、人質をとったと麗羽が言い出しかねないわね」

「いや、殺しちゃ駄目だよ」

 そんなことをしたら、張勲の恨みを買うだけでしょ。

 恋姫随一の悪人という張勲の。

 たしか公式で、本気なら天下とれそうっていわれてた張勲。

 それを本気にさせてどうするのさ。

 

「……あなたの好みのようね」

 あれ?

 俺の真意伝わってない?

 たしかに袁術ちゃんは可愛いけど。

「そうね。皇一、滞在を許しましょう。袁術はあなたに任せるわ」

「え?」

「しっかり面倒見ることね」

 いやあの、袁術ちゃんよりも華琳ちゃんを構いたいんだけど!

 

 

 なんか怒らせてしまった華琳ちゃんとの会話が終わり、途方に暮れる俺。

「はあ……」

「どうしたのじゃ?」

 袁術ちゃん、いつのまに泣き止んだの?

「……君は俺の預かりになっちゃったから」

「……お主誰じゃ?」

 うん。反董卓連合の時に会ってるはずだけど、俺って地味で影薄いからね。

「俺は天井皇一。字はない」

「むう。どこかで聞いた気がする名前じゃの」

「兄殿は天の御遣いなのです!」

 説明してくれたのは今まで黙っていたねね。

 ここはねねに任せても大丈夫かな?

 

「ねね、ちょっとの間、袁術ちゃんを頼む」

「兄殿はどうするのです?」

「明命と話がある」

 もう帰ってなきゃいいけど。多忙だろうしなあ。

 

 

 なんとか明命と会うことができた。明命も俺に会いたかったらしい。

「皇一様!」

 猫好きなわん娘を抱きしめて堪能してから解放する。

 

 明命や呉の嫁たちの近況を聞く。みんな、一刀君には寝取られてないと聞いて再び明命を抱きしめる。

「ありがとう!」

「皇一様!」

 抱き返してくれる明命。

 こんな場所、こんな時間じゃなかったら押し倒してたのに残念だ。

 キスだけで我慢することにした。

 

「頼みがある」

「頼み?」

 明命ならなんとかなるはずの頼み。

 なくてもどうにかできるけど、あった方が楽になるものを譲ってくれとお願い。

 

「で、でもそんなものどうするんですか? まさか華琳様に?」

「そんなわけないでしょ!」

「そ、そうですよね」

 無理かな?

 でも……ここはどうしても聞いてほしい。

 俺は財布を取り出す。

 

「ただとは言わない」

「こ、これはっ!」

 明命に渡したのは財布から出した一枚の免許証。

「よ、よろしいのですか?」

 聞きながらも免許証から目を離さない明命。

 子猫が衣装を着ている写真を凝視している。

 

「うん。だって俺、もう何度も死んでるから無効だろうしね」

 そう。『死ぬまで有効』のバージョン。『なめられたら無効』だとすぐに無効になっちゃうしね、俺。

「お、お猫様が服や鉢巻や眼鏡を……」

 免許の写真じゃわからないだろうけど、猫が立ってるとか教えたらどうなるかな?

 

「……くれぐれも扱いには注意して下さい」

 明命から陶器製の小さな小瓶を受け取る。

「ありがとう」

「い、いえ。私こそ、このような秘宝を戴いてしまってありがとうございます!」

 上機嫌な明命。物欲に負けてしまったことは吹っ切ったらしい。けど、秘宝は言いすぎだよ。

 

 

「明命、孫策の警護に力を入れて」

 別れ際に警戒を促す。

「はい。おまかせ下さい!」

 元気よく返事してから明命は去った。

 墓参りが危険とかもっと具体的に説明した方が良かったかな?

 でも、別の場所やタイミングで襲われるかも知れない。油断しないためにもこれでいいはず。

 

 あとは華琳ちゃんにも忠告できればいいよね。

 俺はそのためにも滞在することにしたんだし。

 

 

 

「ええと……季衣ちゃん、さすがに今の俺がやっちゃまずいんじゃない?」

 翌日、季衣ちゃんに書類の手伝いをお願いされてしまった。

「ええーっ!? じゃあ、ねねお願い!」

「なにがじゃあ、なのです。ねねも駄目に決まってるです」

 恋は春蘭たちに連れてかれて訓練の相手にされている。

 ねねは恋のかわりに俺の護衛をすると言い張ってついてきた。

「一応、季衣ちゃんの書類も軍事情報だから、他国の人間にやらせちゃ駄目でしょ」

「あ、そうか。流琉ー」

 今度は流琉に泣きつく季衣ちゃん。そんなに溜めちゃったの?

 

「もう。今日は兄様に料理をつくってあげようと思ってたのに」

「そこをなんとか!」

「流琉、季衣ちゃんを手伝ってあげて。料理はまた今度でいいから」

 久しぶりの流琉の手料理は楽しみだけど、仕方がない。

「兄様は季衣に甘いんだから」

「そうなのです!」

 なんで俺責められてるの?

 

「お主らは天井の妹か?」

「にゃ? ボクたちは兄ちゃんのお嫁さんだよ」

 季衣ちゃんの宣言に小さな声で流琉が続く。

「は、はい。兄様のお嫁さん……」

「妹で嫁なのですぞ!」

 ねねが力強く。

 

「嫁? ……お主らは面白い趣味をしてるのじゃ」

「なんですと! 兄殿は貴様の命の恩人なのですぞ! それにむかってなんという言い草をするです!」

「そ、それとこれとは話が別じゃ!」

 ねねの勢いに若干腰が引けている袁術ちゃん。

「まあ、兄ちゃんの良さはお子様にはわからないか」

「ふふん。妾よりもお子様にお子様と言われたって、悔しくなんかないのじゃ!」

「ボクたちはオトナだもん。兄ちゃんにオトナにしてもらったんだもんねーだ」

 三周目はまだだけどね。

 

「わ、妾じゃって!」

「え? まさか兄様!?」

 季衣ちゃん、流琉、ねね、三人ともなんで俺を見るかな。

「ただの強がりでしょ」

「だって兄ちゃん、ちっちゃい子好きだし」

 季衣ちゃんにまで俺の趣味ばれてたの?

 

「うん。大好きだけど誰でもいいってわけじゃないし」

「そ、そうですよね」

「信用してほしいなあ」

 まあ、嫁さんの数考えたら信用できる要素ないけど。

「ねねは信用してるです!」

「ズルい、ボクだって兄ちゃんのこと信じてるもん!」

 

 むう。このままここにいても、季衣ちゃんの書類なくなりそうにないなあ。

「……袁術ちゃんは読み書きできる?」

「馬鹿にするでない! それぐらい余裕なのじゃ!」

「嘘!?」

 ああ、見栄はってるだけか。

 けど、俺にも手伝えたぐらいだからなんとかなるかな?

「無理でしょ?」

「余裕だと言っておるのじゃ!」

 

「じゃあ、難しい字を読むだけでいいから手伝ってあげて」

 それぐらいなら、出来るかな?

 ……袁術ちゃんだし期待しない方がいいか。

「面倒なのじゃ」

「やーっぱり読めないんだ」

「読めるのじゃ!」

 その気になったようなので、袁術ちゃんを残し俺とねねは部屋を出た。

 かなり不安だったけどね。

 

 

 不安は的中。

 袁術ちゃん、ちゃんと字は読めて得意になってたんだけど、それも途中まで。

 すぐに飽きてしまい、ちょっと目を離した隙に書類に落書きしたらしい。

 それは駄目でしょ。先行き不安だなあ。

 

 その夜。

「夕食はまだかの?」

「さっき言ったでしょ、今日は夕飯抜き」

 この程度のお仕置きで済ましちゃうなんて俺も甘いなあ。……天井だけにね。

 

「な、なんじゃと! そのようなことは聞いておらぬのじゃ!」

「……はあ」

 お説教の時にしっかり言ったんだけど、聞き流してたんだろうなあ。

 袁術ちゃんにちゃんと謝らせて、書類も結局手伝ったんだけどね。

「もう一回お説教からやり直す?」

「小言はいらぬのじゃ」

 

 部屋の扉がノックされる。

 最近は音で誰かだいたいわかる。ノックしてくれる人も少ないしね。

「流琉?」

 季衣ちゃんもいっしょにきてた。

「はい。兄様、御飯ができました」

「兄ちゃんいっしょに食べよう!」

 昼間のことで気を使ってくれたんだろう。

 よくできた嫁である。……けど。

「ごめん流琉。今日はお仕置きで夕飯抜きなんだ」

 せっかく作ってくれたのに、ごめん。

 

「え? 袁術だけじゃなくて、兄ちゃんも?」

「うん。俺は袁術ちゃんの保護者だからね。保護者責任で」

「なんじゃと?」

 怪訝そうな袁術ちゃん。

「それならば、妾の身代わりになってお主一人がお仕置きを受ければいいのじゃ!」

 その台詞に季衣ちゃん流琉が袁術ちゃんを睨む。

「ひぃ!」

 俺の影にかくれる袁術ちゃん。

 

「兄様が我慢する必要なんてありません」

「そういうわけにもね」

 それにお腹空いてる子の前で食事なんてできないよ俺。袁術ちゃんに俺の分あげちゃいそうだ。

「……わかりました。わたしと季衣もごいっしょします」

「え? ボクも?」

「元はといえば、季衣が書類を溜めたのが原因でしょ!」

 そうは言っても、季衣ちゃんに食事抜きは拷問に等しいでしょ。

 

「二人とも。気持ちは嬉しいんだけど二人は武官でしょ。身体を万全に保つのも仕事だよ」

「いえ、一食ぐらい大丈夫です。糧食が少なくなった時の訓練です」

「兄ちゃんだけに辛い思いさせない!」

 その後、何度言っても聞いてもらえず、四人でプチ断食することに。

 季衣ちゃんと流琉も俺の部屋に泊まることになった。……袁術ちゃんは元から、逃げ出さないように俺の部屋で寝泊りすることになっている。

 

 

「次は絶対ボクが勝つよ!」

「うん。鈴々ちゃんに伝えておく」

 しばらく雑談に興じていたら、ずっと黙ったままだった袁術ちゃんが口を開いた。

「……済まなかったのじゃ」

 ただ、それだけ。頭も下げなかったが、昼間無理矢理謝らせた時よりはずっといい。

 たぶん、腹の音以外では誰も袁術ちゃんを責めなかったのが堪えたのだろう。

 

「ボクは季衣」

 お腹が空いてるのににっこり笑う季衣ちゃん。いい笑顔だ。

「わたしの真名は流琉」

 季衣ちゃんに促されるように流琉も真名を名乗った。

「美羽なのじゃ」

 袁術、いや美羽ちゃんまでもが。

「俺は真名ないから好きなように呼んでくれ」

「ではお主のことはこれから、主様と呼んでやるのじゃ。ありがたく思うのじゃ」

 なんで萌将準拠? なんか補正が働いているのかな?

 

「様付けなら、おじ様の方がいいのになあ」

 四人で笑っていたら、ぐぅぅぅと腹の音にかき消されてしまった。

「……寝るか」

「ボク、兄ちゃんと寝る!」

「一緒に寝て……いいですか?」

 断る理由はない。……と言いたいところだけど、この部屋には美羽ちゃんが寝るための寝台も当然ある。

 せっかく仲良くなったんだから、季衣ちゃんと流琉ちゃんはそっちに寝てくれた方が美羽ちゃんも寂しくないと思う。

 

「美羽もおいでよ!」

 俺の考えを読んだように美羽ちゃんを誘う季衣ちゃん。

「狭いじゃろう」

「この部屋の寝台は、兄様が使う(・・)ことを考えて大きいから大丈夫ですよ」

「そこまで言うのなら仕方がないのじゃ」

 

 四人で寝る俺たち。

 三人は小さいのでまったく問題はない。流琉が言ったようにベッドはデカいし。

 さすがに美羽ちゃんがいる前ではエッチできない。華琳ちゃんともまだだし季衣ちゃんと流琉も納得してくれないだろう。

 腹音を子守唄に俺たちは眠るのだった。

 

 

 翌朝、空腹を誤魔化すために大量に摂取した水分がアダとなってしまっていた。

 状況が状況だけに犯人が誰とかは追求しなかった。

 ……俺じゃないことだけは確かである。

 

 



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三十四話  定番?

 プチ断食の一件以降、目に見えて季衣ちゃん、流琉と美羽ちゃんは仲良くなった。

 同じ釜の飯を食った仲ならぬ、同じ布団を漏らした仲といったところか。

 ねねもいっしょにいることが多い。

 ねねは俺の護衛の恋につきまとっているし、俺が美羽ちゃんと離れる時は美羽ちゃんが逃げ出したり悪さしたりしないように見張っているからだ。

 

 まあ、その心配はあんまりないと思うけどね。

 領地とられちゃって帰るところないし、頼りの張勲も孫策の配下にされてしまっている。

「美羽ちゃん、袁紹のとこに行きたい?」

「え……っ! 袁紹じゃと……っ!」

 膝の上でガタガタブルブルと震える美羽ちゃん。

 可愛いなあ。うん、張勲がイジメたくなる気持ちも少しだけわかる気がする。

 

「美羽ちゃんを人質にしているとか言われるのは華琳ちゃんも心外だからね、袁紹のところへ美羽ちゃんを渡そうって話がある」

 まあ、そんな言いがかりつけておきながら平気で戦争しかけてきそうだけどね、袁紹って。

「曹操は妾の袁家の名門の家名が欲しいのじゃ! それをみすみす渡してしまうなんてことは……」

「華琳さまはそんなの欲しがってないよ」

 もう片方の膝の上に座っている季衣ちゃん。ジャンケンに負けたねねがそれを羨ましそうに見ている。

 流琉は親衛隊として華琳ちゃんの護衛中でここにはいない。

 

「な、なんじゃと!?」

「だから、難癖つけられる前にさ」

「す、捨てないでたも!」

 美羽ちゃんが俺にしがみついてくる。

「捨てるなんて人聞きの悪い」

「主様は妾の保護者なんじゃろ?」

 たしかにそうは言ったけどね。

 

「華琳さまの役に立てばいいんじゃない?」

「妾の美貌が役に立つ時じゃな!」

 うん。美羽ちゃんも相当に可愛い。でもね。

「……愛玩用か。冗談でもそんなこと言うと閨に連れてかれるよ」

 それとも、もう少し育つまで華琳ちゃんの守備範囲外かな?

 桂花がオッケーなんだから微妙なとこか。

 

「なんじゃ、一人で寝れないなどとは曹操も子供じゃのう」

 意味がわかっていない美羽ちゃんの方が子供なんだけど。

 ……袁紹みたいに頭が残念な大人も勘違いしそうか。袁家すごいな。

「いや、むしろお子様は禁止のこと、されるかな」

「な、なにをされるのじゃ?」

「ええと……子作り?」

「女同士では子供はできんじゃろ?」

 ここはちゃんと性教育した方が……いや待て。それはそれで危険か。主に俺の尊厳が。

 もう教材になるのは絶対に嫌だ。変な趣味に目覚めちゃうかもしれなさそうで。

 別方向で華琳ちゃんの役に立ってもらうしかない。

 とはいっても、武力も知力も無理だよなぁ。

 

 

「なんで服屋さん?」

「華琳ちゃんの役に立つために影武者……は無理だけど、春蘭や桂花が美羽ちゃんを手放したくないって言うようにしようかなと」

 全くの逆効果もありえるけどね。

「にゃ?」

 ついでにランドセルや、ゴスロリ、エプロンドレス、猫耳カチューシャなんかも頼んでおこう。

 いつ受け取れるかわからないけど、人質になった俺に送ってくれた店主だ。きっとなんとかしてくれる。

 

「兄ちゃん、これってもしかして?」

「うん。華琳ちゃんコス」

 袁術、張勲のイベントであった衣装。呉ルートだからか、難なく揃えることができた。

 無印華琳ちゃんぽい装備。

 髪も沙和に手伝ってもらってくるくるにしてもらった。

「上手くできたの~♪」

 普段のくるくるは毎朝なんとか俺がセットさせられている。道具は華琳ちゃんが使っているのを真桜に複製してもらった。

「なりきり曹操セットって売り出そうか?」

「おそれ多くて誰も買えないの~」

 それもそうか。

 

「兄ちゃん、なりきり夏侯惇せと? なら売れると思う!」

「ていうか、それ季衣ちゃんが欲しいんでしょ」

「ばれた?」

 照れ隠しに笑う季衣ちゃん。可愛いなあもう。

 だから店主に、春蘭と秋蘭の衣装を季衣ちゃんと流琉のサイズで注文してしまった。

 

「……」

 無言のプレッシャーに負けてねねサイズの恋の衣装も。

 欲しいって言えばいいのに、おそれ多いとかで言い出せなかったのかな?

「隊長、沙和も欲しいの!」

「……沙和は人真似の衣装なんかいらないだろ?」

「それはそうなんだけど……」

 そんなに落ち込まれると辛い。美羽ちゃんのことでも世話になってるし仕方がないか。

 

「じゃあ、こんなのでどうだ?」

 たしか萌将伝で沙和たちが着てたのはこんなだったよな。

「隊長、なかなかやるの。でも三着ってことはもしかして?」

「うん。こっちが凪でこっちが真桜の分」

 沙和だけにってわけにはいかないでしょ。

「ありがとうなの! 隊長が選んだのなら凪ちゃんきっと着てくれるの!」

「その時は見せてね」

「当然なの~!」

 うん。これで二周目で見ることができなかった制服凪をやっと拝むことができる!

 

 

 

「どう、華琳ちゃん?」

 華琳ちゃんに偽華琳ちゃんな美羽ちゃんをお披露目。

 先に春蘭と桂花に見せたら「何を考えてる!」って怒られた。

 けどその後、「ここはもっとこう!」って駄目出しされた。

 華琳ちゃんの真似するのはいいのかな?

「……」

 あれ?

 なんか怒ってる?

 駄目出しをくらったとこは修正したんだけどな。稟も鼻血噴いて倒れるぐらいの出来なのに。

 

 無言で睨んでても可愛すぎる本物の華琳ちゃん。

 ……美羽ちゃんじゃなくて、俺を睨んでる!?

「……代用品があれば満足なのね」

 なに言ってるのさ華琳ちゃん?

 

「代用品って……まさか華琳ちゃんの?」

「皇一は小さいのが好きだものね」

「華琳ちゃんの代わりなんているわけがない!」

 華琳ちゃんを抱きしめようとしたら、スッとよけられ、大鎌を向けられる。

 冷ややかな目で俺を見ている華琳ちゃん。俺の後ろでは美羽ちゃんがガタガタブルブル震えている。

 

「誤魔化そうとしても無駄よ」

「誤魔化そうとなんてしていない! 俺の本心だ! 俺にとって華琳ちゃんは、誰にも代わりができない大事な女の子だ!!」

 鎌など気にせずに華琳ちゃんを抱きしめる。今度はかわされなかった。

「……ずっと私を求めなかったくせに」

 耳元で聞こえるすねた声。せっかく滞在を許したのに、って待っていてくれたのかもしれない。

「ごめん、ずっと我慢してた! 華琳ちゃんと戦うために。……でも、もう無理みたい」

 こんな近くで大好きな華琳ちゃんの匂いをかいだら、我慢なんてできるわけがない。

 まだ明るいけど、夜まで待つなんて不可能。

 

「いいよね、華琳ちゃん?」

「……そういう事を言う時は眼鏡を外しなさいと言っているでしょう」

 よかった。拒否はされていない。

 華琳ちゃんをお姫様抱っこに持ち直して、閨へ向かおうとする。

「袁術、あなたもいらっしゃい」

「妾も?」

「ええ。どこまで私の真似ができるか試してあげる」

 華琳ちゃんの真似?

 

「いや、華琳ちゃん、美羽ちゃんは華琳ちゃんの偽者とかじゃなくてね」

「あら? 袁術を嫁にするつもりはないの?」

「妾が主様の嫁? ……のう、嫁になれば捨てられないですむかの?」

 頭上にクエスチョンマークが浮かんでそうな表情の美羽ちゃん。意味わかって聞いてる?

「そうね。捨てられるどころか逃げ出すこともかなわないでしょうね」

「ちょっ、華琳ちゃんまさか逃げ出したかったの?」

 う、嘘だよね華琳ちゃん。

 

「……すぐに泣くのは相変わらずね。この曹孟徳が逃げ出したいなんてこと、あるわけないでしょう」

 俺の頭を撫でながら慰めてくれる華琳ちゃん。

 よかった。一安心だ。

「……こんな情けない男だけど、夫にする覚悟はあって?」

「かまわぬのじゃ!」

「そう。ならば我が真名を許す。華琳と呼んでいいわ」

「妾は美羽じゃ」

 俺にお姫様抱っこされたままの華琳ちゃんと、腰を抜かしてへたりこんでいた美羽ちゃんが握手。

 ……おれに選択権はないのね。美羽ちゃんが嫁になってくれるのは嬉しいけどさ。

 うん。ここでセーブ2に記録しておくのは当然だよね。

 

 

「桂花よりもキツかったわね」

 すやすやと眠る美羽ちゃんを眺めながら華琳ちゃんと枕話。

 華琳ちゃんと一緒にしたことがあるのは、春蘭、秋蘭、桂花にあと愛紗、白蓮か。季衣ちゃんも混じってきた一周目の時は、まだ二本じゃなかったし。

「なんか罪悪感というか、背徳感というか……」

 一応、建前上、多分、十八歳以上だから問題はないはずなんだけどね。

「それがいいのでしょう? 皇一が小さい子を可愛がる気持ちがわかった気がするわ」

「それは喜んでいいのかな?」

「季衣と流琉も楽しみね」

 それは……俺も楽しみかもしれない。

 それにしても、張勲に奪われて一刀君ですらもらえなかった美羽ちゃんのはじめてを、しかも華琳ちゃんのはじめてと一緒にもらえるだなんて贅沢すぎる!

 俺、もうすぐ死ぬんじゃないだろうか?

 

 

 

 美羽ちゃんも一緒だったが、やっと華琳ちゃんとできた俺。

 当然次は、待たせていた愛しい魏嫁たちと愛を確かめ合う!

 ……美羽ちゃんは、ねねや季衣ちゃんたちにまかせちゃったけど逃げ出すようなことはなかった。

 

「今度こそ、はじめてを華琳さまに捧げます!」

 二周目の時は春蘭と秋蘭二人同時にはじめてを貰ったんだけど、今回は春蘭たっての希望で華琳ちゃんと一緒にだった。

「姉者は可愛いなぁ」

 秋蘭も華琳ちゃんと一緒に。

「やはり処女をもらうのは皇一と一緒がいいわね。我慢した甲斐があったわ」

 ……満足してもらえてなによりです。

 

 

「流琉と一緒ー♪」

「季衣ったら」

 あれ? もしかして季衣ちゃんと流琉が一緒って初めてだっけ。

 できる限り優しく優しく。せいいっぱい優しくした俺。……精一杯って漢字にすると別の意味にとられそうだな。

 

 

「……」

「可愛い! うん。可愛いよ三人とも」

 赤面して緊張のあまり無言な凪を連れてきてくれた沙和と真桜。

 三人は俺が選んだ服を着てくれていた。

 この衣装の三人としちゃうのって萌将伝のイベントだったよね。まあ、あれみたいに屋外でしたりなんかしないから、別物なのかな。

「……お菊ちゃん改でも勝てへん……」

 真桜、お菊ちゃんは俺に使用しないで下さい。頼むから!

 

 

 桂花はねねと……といったことはなく、一人で相手をしてくれた。

 なんか、お仕置きらしく華琳ちゃんはきてくれていない。

「桂花のはじめて、両方貰えちゃうなんて」

 感激だ。一周目では到底考えられない。

「あんたとするまで駄目だってお預けされてたのよ!」

「ありがとう。とっても可愛かったよ」

「き、記憶を無くしなさい!」

 

 でもなんでお仕置きされたんだろう。

「あんたのせいよ!」

「俺のせい?」

「兵がまだ育成できてないって華琳さまに言ったそうね」

 うん。これから先起きてしまう不幸を避けるため。そのためにも俺は徐州へは行かず、ここに残っている。

 

「呉に攻め込むには不十分だろ」

「……袁紹のところに華雄がいるのが確認されたわ」

 華雄、よりにもよって袁紹のとこにか。

 ……あの袁紹が捕獲して、味方につけたってふれ回らずに秘匿し続けたのは、斗詩の判断だろうな。

「袁紹の単純な命令と、華雄は相性がいいわ」

「雄々しく、勇ましく、華麗に前進、だっけ」

 たしかにいろいろ問題がある指示だけど……華雄みたいなタイプは上手くこなしてしまうかもしれない。

「公孫賛も持ち堪えてはいるけれど、長くはないでしょうね」

「白蓮……」

 準備はしていたらしいけれど、まさか袁紹軍が武将増とは、白蓮も予想していなかっただろう。

 無事に徐州へ辿り着いてくれればいいけど。

 

「だから時間がないの。あんたがなんと言おうと華琳さまは呉を攻めるわ」

「それで、なんで桂花がお仕置き?」

「……あんたの話をもう少し聞くように華琳さまに進言してしまったからよ」

 忌々しそうに俺を睨む桂花。

 俺は無言で桂花を撫でる。

「……理由があるんでしょ、話しなさい」

「許貢の残党に注意して欲しい。……理由は言えない」

 孫策が死んで魏軍が負ける。この説明じゃたぶん信じてくれそうにないよね。

 許貢の名は季衣ちゃんと同じ姓なのに悪役ってことで覚えていた。

「……一応、覚えておく」

 

 

「おお、これが噂の双頭竜ですかー」

「こ、これがあれば華琳さまと……」

 ……なんで俺、風と稟に見られているんだろう?

 今夜は久しぶりに美羽ちゃんと寝ているのに。ベッドは別だけど。

 

「夜這いにきたのですよー」

「ふがふが……」

 風の説明に鼻に紙を詰めながら頷く稟。

「……星の友達ってのは間違いないらしいな」

 星にも夜這いされたっけ。あの時は大変だったなあ。

「お静かに。美羽ちゃんが起きてしまうのです」

 美羽ちゃんが眠るベッドを指差す風。

 

「ええと……なんで俺?」

 小声で聞く。

「稟ちゃんも華琳さまとしたくて堪らないそうなので、その練習といったとこですかねー」

「……」

 再び頷く稟。

「風は?」

「ただのつきそいでしたがー、これは稟ちゃん一人では無理そうなのです」

 それって……。

 

「みんなから話聞いたかもしれないけど、俺は嫁さんになってくれる娘じゃないと抱かないよ」

「あとは初物じゃねえと駄目、だろ」

 宝譿も小声。風の腹話術だったら、凄いテクニックだ。……腹話術、なんだよね?

 

「稟ちゃんは華琳さまとできるのだったら、蛇太守の嫁になるぐらい余裕、と言ってるのです」

「太守なのは、俺じゃなくて劉備だから。あと、蛇って言うな」

 三周目の風にはまだ蛇って言われなかったのになぁ。

「……覚悟はできてます」

 紙を鼻から抜いてシリアス気味な稟。

「はじめては華琳ちゃんといっしょがいいんじゃない?」

「そ、そんな、いきなり華琳さまとなんて……」

 慌てて再び紙を詰め始める。

 ああ、はじめてが上下血塗れじゃ嫌か。華琳ちゃんとそんなことになったら落ち込んじゃうか。

 

「風はいいの?」

「お兄さんならかまいませんよ」

 ……むう。三周目のこの二人にはまだ眼鏡外した顔は見られてないはず。

 風はなにを考えているかよくわからないけど可愛いし、真面目である意味不器用な稟も可愛い。

 うん。問題はないか。

 

 

 

 

「ずいぶん派手にやっているようね」

「派手って」

 華琳ちゃんほどじゃないと思うけどなあ。

 桂花、俺との翌日すぐに華琳ちゃんのとこに行ったし。

「そのために滞在してるのでしょう?」

 まあ、長い間ほっといた嫁さんのためってのもあるけどさ。

 

「……また呉には手出しするなと言うの?」

「まだ早いって言ってる。もっとちゃんと兵が育ってから……」

 ちゃんと説明したい。けど、華琳ちゃんにはネタばれ禁止を命じられている。

 

「霞がいないからって戦力不足だと舐めているのね」

「そうじゃなくてね」

「……」

 失敗したみたい。華琳ちゃんは聞いてくれなかった。

 後は明命に期待するしかないか。

 華佗も冥琳の治療で呉にいるはずだし。

 

 

 

 華琳ちゃんたちは呉に侵攻してしまった。

 俺と美羽ちゃんも同行させられている。

「妾のために孫策を倒すのじゃな」

「違うから」

「妾の城を取り戻してくれるのであろう?」

「違うから」

 のん気な美羽ちゃん。

 俺の方は、同じ馬に乗る美羽ちゃんの柔らかさや匂いを堪能する余裕もない。

 

 舌戦に出てきたと思われた孫策。しかし様子がおかしい。

 もしかして、駄目だったのか……。

「ひぃ!」

 孫策の姿を見て怯えて固くなる美羽ちゃん。落ちないように支えてやる。

 

 

「やっぱり……」

 自らが毒を受け、余命幾許もないと宣言した孫策。

「そ、孫策が毒をくらったということは勝ちなんじゃな?」

「いや、負けだ。魏と……俺の」

 動揺する魏軍とバーサーク状態の呉軍。

 呉ルートの展開を変えることができなかった。

 ……嫁たちとする時間を減らして、もっとできることがあったのではないか? そう自責しながら美羽ちゃんを親衛隊に預ける。

 

「主様?」

 懐から、布で巻いて大事に保護していた小瓶を取り出す。

 布を外し、小瓶の栓を抜く。

 中身は見ない。決意が揺らぐからだ。

 目を瞑り、一気にそれをあおった。

 

「ハチミツ水なら、妾も欲しいのじゃ!」

「違うか……ぶふっ」

 いくらなんでも即効性すぎなんじゃない?

 力が入らずに座り込んで、口元を拭ったら手が血塗れになった。ベタだなあ。

 ……もう意識がなくなってきた。

 明命ありがとう。この毒薬、あんまり辛くな……。

 

 

 

 

 

「ここどこ?」

 なにかの道場みたいな場所で俺は目覚めた。

 なんで俺、こんな所にいるんだろう?

 きょろきょろと辺りを見回したら、何十人もの女性がいる。

 

「コスプレイヤー?」

 女性たちはみんな綺麗だけど奇抜な衣装を纏っていた。

 ここはコスプレ会場かなにかなんだろうか?

 でも、可愛い娘ばっかりだな。レベルたっけー!

 

「逃げ切れなかったの?」

 そう聞いてきたのはトップクラスに可愛い美少女。

 ちょうどいい、聞いてみよう。

「あ、あの……ここ、どこですか?」

 でも、俺みたいな童貞がこんな超絶美少女と口を聞いていいんだろうか?

 

 



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三十五話  虎?

「なんの冗談?」

 アイドル級、いやそれ以上の超絶美少女。背も胸も小さい、俺の好み超ストライクな眼前の金髪ドリル少女が俺を睨みつける。

 プレッシャーというか、すごい迫力があって怖いのにすごい可愛い。

 反則だよこれ。震えがくるぐらいなのに目が離せない。俺、M属性開花させられちゃったんだろうか?

 

「華琳! あんな手を使ってまで姉様を亡き者にしようだなんて見損なったわ!」

 怒鳴り込んできたのは褐色の少女。やっぱり美少女。

 へそ出しというか、下乳まで見えているすごい衣装を着ている。もしかしてノーブラ?

 ……超絶美少女の方は華琳ちゃんって言うのか。覚えておこう。

 

「貴様! 華琳さまは孫策との戦いを楽しみにしていたのだぞ! 華琳さまのご意思であるものか!」

 眼帯黒髪の少女が華琳ちゃんと褐色の間に割り込んだ。

 左目につけられた眼帯は蝶の形をしている。

「あれは一部の兵士の独断よ」

 今度は猫耳フードの少女。

 ……ここには美少女しかいないようだ。

 

「そんな言いわけが通じるわけないでしょ!」

 髪でわっかを二つ作った少女が声をあげながらやってきた。

 下乳へそ出しの娘と姉妹なのかな? 肌と髪の色は同じだし。

 ……いや、肌はともかく、髪は染めてるかカツラか。さすがにあの色は天然ものってわけないか。

 

「……そう。もはや何を言っても言いわけでしかない。詫びなら後で入れてあげる。けれど、今はそれどころではないようよ」

「貴様!」

 抗議の声にも動じず、唐突に華琳ちゃんが俺の顔に手を伸ばしたかと思ったら、その細腕が俺の眼鏡を奪った。

「か、返してくれ!」

 なんてことをするんだ! 俺は眼鏡をしてない顔を見られるのが苦手なのに!

 

「どういうこと?」

 驚く超絶美少女。

 そりゃ、眼鏡がある時とない時で俺のイメージはだいぶ変わるけどさ。

 

「そう何度も皇一さんの顔で誤魔化され……皇一さん?」

 え? 俺の名前を知ってるの?

 まあ、ありふれた名前だから別のこういちと勘違いしてるだけなのだろうけど。

 

「ふむ……どこかいつもと違うような気がしないでもない?」

 俺の顔を覗き込んで疑問系な蝶眼帯。

「そんなこともわからないなんて……」

 そう言っている猫耳フードも驚愕の表情。

 

「華琳さま、どうしたんですか?」

 ピンク髪を二つに結上げた小さな少女が近づいてくる。うん、この娘も可愛いな。ロリだし!

「季衣、皇一の顔を見なさい」

「兄ちゃんの顔? ……にゃ?」

「どうした季衣?」

 他の少女たちも、俺の周りに集まってきた。

 なにこの羞恥プレイ。

 

「め、眼鏡返して」

「待ちなさい!」

 華琳ちゃんが俺を一括する。ビクリと反応して固まる俺の身体。

「嘘……」

「どうなってるの?」

 次々と俺の顔を見た少女たちが、驚きの声を上げる。

「……兄ちゃんが若くなっちゃった!」

 季衣ちゃんと呼ばれたピンク髪少女が叫んだ。

 

 

「若く?」

 え?

 俺が?

 なにを言ってるんだろう、このロリっ娘。

 

「あんた、天井皇一よね? 弟とかじゃないわよね?」

「そういえば、弟がいると言っておられた。その方ではないのか?」

 緑髪おさげの眼鏡メイドと長い黒髪をポニーテールにした少女が顔を見合わせる。

「お、俺の名前だけじゃなくて、家族構成まで!?」

 人違いの線は消えたっぽい。

 いったい何が目的で……。

 

 俺、拉致されたのかな?

 もしかして、ドッキリを仕掛けられてるとか……一般人に仕掛けるのは止めてほしいものだ。

 

「どこにカメラがあるの?」

「かめら?」

 反応したのはゴーグルを首にかけた少女。

 信じられないくらいの爆乳だ。俺が貧乳属性じゃなかったら目が離せないだろうなあ。

 

 道場っぽいここはセットなのかな?

「……そこ?」

 あまり物が置かれてないので、隠しカメラがありそうな場所にダッシュで直行した。

 脚がもつれて転びそうになったのは緊張のせいだろう。

 眼鏡なしでこんな大人数の女性に囲まれるなんて、拷問以外のなにものでもない。

 

「ほらやっぱり!」

 道場の壁にかけられていた、いかにも怪しい掛け軸をめくると壁が細工されていた。ここにカメラが仕掛けられているはず。

「わわっ!?」

 覗きこもうとすると、カメラではなく褐色巨乳の美女がそこから出てくる。

 先程の下乳へそ出しの少女に似ているかもしれない。

 

 暖簾をくぐるように掛け軸の下から出てきた美女が口を開く。

江東の虎(たいがー)道ー場ー!」

 え?

 タイガー道場?

 Fateの?

 そういえばこのセットはあれに似ている?

 

「母様!」

「お母さん!」

 やはり先程の少女と、ダブルリングな少女が声をあげながらやってきた。

 親子なのかな?

 

「本当に母様なの?」

「ああ。孫文台以外の何者でもない。二人とも大きくなったな」

 美女が少女二人を抱きしめる。

 少女二人の嗚咽が聞こえる。どうなってるんだろう?

 状況がさっぱりわからない。

 

「文台様!」

 今度は眼鏡の褐色美女が現れた。こっちは上乳へそ出し。

「冥琳か。雪蓮がいつも世話をかける」

「雪蓮の面倒を見るのが私の役目。お気になさらず。それよりも、これはいったい?」

 道場内の全ての視線が文台と呼ばれた褐色美女に集まっている。

 

「雪蓮が道場主を止めてしまったからな。またやる羽目になってしまった」

「なんと」

 この文台さんが道場主ってことは……道場内の美少女たちを見回すも目的の人物が見つからない。

「なんで、ロリブルマがいないんだ……」

 がっくりと膝をつく俺。

 文台さんが道着じゃなかったり、竹刀持ってたりしてないので期待する方がおかしいのかもしれないけれど。

 ロリブルマはいなきゃ駄目でしょおぉぉぉ!!

 

「あなたが江東の虎と呼ばれた孫堅……」

 江東の虎……江東区でレディースのリーダーでもやってたのかな?

 孫堅ってどこかで目にしたことがある名前だけど、どこだっけ? 漫画かギャルゲーだったかな?

 

「母様、もしかしてどうして皇一がこうなったか知っているの?」

「さすが我が娘、察しがいいな」

 え? 俺のこと知ってるの?

 もしかしたら、文台さん昔、俺のことをシメたことがあるとか? ……覚えてないけど。

 それが原因で俺が女性苦手になってるとか勘違いしてるとか?

 俺が女性苦手になった原因は別。はっきりと覚えているんだからね。

 

 

「小僧、めにゅうういんどうを開け」

 文台さんが俺に命令する。俺の方が年下っぽいけど、小僧はあんまりじゃない?

「ど、どれの?」

 辺りを見回す。

 ノートパソコンや携帯ゲーム機は見当たらない。携帯電話もどこかへいっちゃってるし、いったいどうしろと?

「早くしろ」

 うわっ、怖っ!

 さすが元レディース。迫力が違う。

 

「メニューウィンドウ!」

 やけになって叫んだ。かなり恥ずかしい。

「……嘘……出た」

 

 つづきから

 はじめから

 ひきつぎ

 

 視界にたしかにメニューウィンドウとしか言えない文字列が現れた。

 なにこれ? 立体映像?

 

「口に出さずとも、強く念じれば出てくる」

 文台さんのアドバイスに俺の頬が熱くなる。いらん恥かいてしまったみたいだ。

 でもこれ本当にどうなっているんだろう?

 横を向いても俺の視界から消えないし。

 

「引継ぎを選ぶがよい」

「選ぶってマウスとかコントローラやカーソルもないのに……」

 迷った挙句、指で押してみた。なんかクリック感の後、メニューが切り替わる。

 

 だれをひきつぎますか?

 ???

 愛紗

 ???

 ???

 翠

 星

 ???

 ???

 

「指を使わずとも、強く念じれば操作できる」

 ……なるほど。思考コントロールか。すごいな。

 俺、脳内にチップとか埋め込まれちゃってるのかな?

 もしかしてこの美少女たちはみんな宇宙人?

 ……可愛いから宇宙人でもいいか。

 

「もうよい。めにゅうういんどうを閉じろ」

 うん。今度はわかる。俺はメニューウィンドウ閉じろって念じた。

 視界からメニューウィンドウが消えた。

 それと同時に、道場内に三人の少女が出現した。

 

 出現。

 まさにそれである。

 なにもなかった筈なのに急に現れた、としか言いようがない。

 三人の少女は驚いた様子で辺りを見回す。やはり三人とも美少女である。

 

「主様!」

 金髪の小さい少女が俺へと駆け寄ってきた。

 

「ここは?」

「華琳さま!」

 残りの、頭に変な物体を乗せたやはり小さい少女と眼鏡は華琳ちゃんの所へ。

 

「袁術?」

「皇一、袁術まで!?」

 文台さんの娘二人から、俺に……これは非難の視線?

「主様! 死なないでたも!」

 金髪美少女は俺にすがりついて泣き始めた。

 

「ええと……」

 とりあえず泣き続ける少女を撫でる。

 これが冥琳って娘や文台さんだったら俺、逃げていただろうなあ。

 巨乳は守備範囲外だもんねえ。苦手といってもいい。

 

「袁術、そやつは死なぬから安心しろ」

「ほ、本当かの?」

 やっぱりこの少女が袁術ちゃんでいいみたい。

 グスッと鼻を鳴らす袁術ちゃんに話しかける。

「ほら、俺生きているでしょ」

「う、うむ。そうじゃな。主様が可愛い妾を残して死ぬはずがないのじゃ!」

 元気になったみたいだ、よかった。……それとも嘘泣きだったのかな?

 俺を騙そうと……いや、さっきのメニューウィンドウとか、いきなり出現とかすごい技術あるみたいだし、そんな小細工する必要ないか。

 そもそも俺なんかを騙してなんの得があるかっていう。

 

「わかったのなら袁術よ、最後に見た光景を話してくれるか」

「む? さっきからいったい、なんなのじゃ貴様は?」

「忘れたのか? この孫文台を」

「孫文台……ぴぃ!」

 文台さんの名乗りに、袁術ちゃんがガタガタブルブルと震えだす!

 

「ぬ、主様……幽霊じゃ! 怨霊じゃ! 悪霊なのじゃー!」

 幽霊?

「ちょっとぉ! 袁術、たしかにお母さんはもう死んじゃってるけど、怨霊や悪霊はないでしょ!」

 ダブルリングちゃんが頬を膨らます。

「よい。……袁術よ、呪われたくなかったらさっさと話すがよい」

「ひぃ! は、話すから呪わないでたも……」

 文台さんに脅かされて袁術ちゃんが語り始める。

 

「さ、最後に見た光景といわれてもの……主様が血を吐いて倒れたとしか言えぬのじゃ……」

「皇一が血を? 孫呉の兵に襲われたの?」

「ち、違うのじゃ、主様はなにやら小瓶を取り出して呷ったのじゃ。妾はハチミツ水かと問うたのじゃが、主様は違うと言いながら血を吐いたのじゃ!」

 さっきから言っている主様ってもしかして俺?

 俺が血を吐いて倒れた? しかも毒を飲んだっぽいし……。

 

「毒、ね」

 華琳ちゃんもやっぱりそう思うんだ。

「は、はい。たぶん私がお渡しした物かと……」

 消え入りそうな声でそう言ったのは、褐色で長い黒髪の忍者みたいな格好の少女。あれは……姫カット?

「明命?」

 そうか、明命って言うのか。可愛いけど、あっちのミンメイのコスプレじゃなさそうだ。

「できるだけ苦しくならないけれど、確実に死ぬ毒を。そう求められて譲ってしまったのです」

 

「皇一さんが自殺……?」

「ずっと自殺だけは嫌だっていっていたのに……」

「孫策のため?」

 華琳ちゃんの発言に、さっきの黒髪ロングポニーが前に出る。

 

「いいえ。たぶん華琳殿のため、でしょう」

 華琳ちゃんのために自殺?

 そりゃこんな可愛い娘のためなら、死んでもいいって思えちゃうかもしれないけど。

「……そう」

 華琳ちゃんは黙ってしまった。落ち込んじゃったのかな?

 

「自決した場合は罰則が適用される」

 文台さんが解説を始めたみたい。

 でも、自殺して死んじゃった人に罰則なんて必要ないような。被疑者死亡のまま書類送検みたいな扱いなのかな。

「罰則?」

「例えば、賭博中に賭ける直前に記録して、外れてたら当たるまで自決、などやりたい放題になる。よって制限があるのは当然だろう」

 記録? 制限? わかるような、わからないような話だ。

 

「それで、その罰則とはいったい?」

「自決時は、経験を失うのだ。今回の服毒なら五年分の経験といったところか」

 経験?

 経験値ってこと?

 なんかゲームであったな。死亡時には所持金と経験値を一定量失うって。

 

「……まさか経験って」

 華琳ちゃんがハッとしたように顔を上げた。

「うむ。そやつが歩んだ年月そのもの。ただし、周回特典でさらに倍、十年分が奪われた」

「やはり。やり直した二周分を差し引いて、身体の方は八年分くらいかしら?」

「ほう。そこまでわかるか」

 華琳ちゃんの解析に感心したように頷く文台さん。

 でも、十年分とか、二周分とかってなんのことだろう?

 

「どういう事なのです、華琳さま?」

 蝶眼帯も首を捻っている。

「……この皇一はね、十年前の皇一なのよ。当然、私たちのことは知らない」

 華琳ちゃんの言葉に道場内は騒然となった。

 十年前の俺?

 ……いやもしかして、この少女たちは十年後の俺の知り合い?

 

 

「兄ちゃん、ボクたちのこと、忘れちゃったの?」

「季衣、皇一は忘れたわけではないわ。本当に知らないのよ」

「そんな……う、うわぁぁぁぁん!」

 季衣ちゃんの号泣に誘われるように、道場内に泣き声が増殖する。

 ……お通夜状態?

 

「十年後の俺って、こんなにたくさんの女の子と仲良かったんだ」

 突拍子もない話だけど、さっきのメニューウィンドウとかもあって信じてしまっていた。

 季衣ちゃんの涙とか、これが嘘泣きだったら……みんな女優さんとかなのかな? それぐらい美少女ばっかりだし。

 まあロリの涙を疑うのは俺らしくない。信じることにしよう。

 俺がこんなに慕われてたみたいってことは、俺もしかして先生かなにかになってたのかな?

 兄ちゃんとか、主様とか呼ばせてる、駄目教師だったみたいだけど……。

 

「仲が良かったのはたしかね。皆、あなたの嫁なのだから」

「嘘!?」

「嘘じゃないわ」

 駄目教師どころか、犯罪者でした。

 なにやってるの、十年後の俺!

 

「だ、だって十年後って言ったら、三十路だよ俺! ちっちゃい娘もいるし、しかもこんなにたくさん……」

 ロリとか、重婚とか……い、いや、ロリに見えてみんな十六歳以上なのかもしれない。重婚の方は……どうしよう?

「抱いたらお嫁さんにするとよく言っていたわ」

「抱いた、ら?」

 ま、まさかこの人数全員と、俺が?

「あ、ありえない! この俺がそんなことできるわけがない!」

「……私のはじめての時は、目覚めない私を強引に抱いたわ」

「ま、まさに犯罪じゃないかそれ!」

 華琳ちゃんの処女を俺が奪った?

 それも非道な方法で?

 

 再び俺は膝をついた。

 十年後の俺、自殺するんなら犯罪を犯す前にしてほしかった。

 俺も、少女たちに混じって泣き始めたのだった……。

 

 

 眼鏡を返してもらって俺が泣き止んだところで、華琳ちゃんが問う。

「しかし、失う経験が倍なんて、それのどこが特典なの?」

「見たとおり若返っているだろう」

 文台ちゃんが俺を指差す。

「けれど、記憶まで失っては……」

 三十路から二十代に若返れば嬉しいかもしれないけどさ。せっかく華琳ちゃんの処女を奪えた記憶とかまで失ったら意味ないじゃん!

 ……もしかして、犯罪を犯した記憶を消去したかったのかな、十年後の俺。

「これだけの引継ぎがいる。多少の記憶など、問題あるまい」

 引継ぎってさっきのメニューのかな?

 

「あの、引継ぎって?」

 それから俺は引継ぎや、彼女たちと俺の関係、俺の能力のこと等を教えてもらった。

 もちろん彼女たちの名前も。どこかで聞いたことのある名前があると思ったら、彼女たちは三国志の世界の人間らしい。

 三国志なんて、詳しくないけどみんな男だったはず。まあアーサー王が女性なゲームの道場でしてる話なんだからと、それも信じることにした。

 驚いたのは俺の能力。セーブとロードができるらしい。ロードできるのはこの道場だけで、道場に来るには死ななければいけないそうだ。

 だから俺、やり直すために自殺なんかしちゃったのか。

 それまで俺、自殺はしたことなくて、こんなことになるなんて知らなかったようだけど。知ってたら自殺なんかしなかったのかな?

 

 失う経験が倍になる周回ボーナスの他にも、俺はもう一つ周回ボーナスをもらっているらしい。

「わかった。引継ぎでしょ。周回ボーナスの定番だもんね」

「いえ、引継ぎは皇一が抱けば使えるわ」

 マジですか。本当にこの人数と俺がしちゃった?

 ……もしかして引継ぎ目当てで抱いたのか、俺? そんな、有利に進めるためだけに……。

 ごめんなさい、ごめんなさい。少女たちを贖罪の気持ちをこめながら眺める。……美少女ばっかり。うん、引継ぎ目当てじゃなさそうだ、十年後の俺。

 

「じゃあ、もう一つの周回ボーナスって?」

 周回ボーナスが二つってことは三周目なのかな、って考えながら聞いたら華琳ちゃんの指示で、春蘭という真名の蝶眼帯が俺を羽交い絞めにする。

 彼女たちには真名っていう名前がある。親しい人にしか教えなくて、教えてもらってないのに呼んだら殺されても仕方がないらしい。物騒な世界だ。

 

「身体は八年前に戻ってしまったようだけど、こちらはどうなっているのかしら?」

 華琳ちゃんが俺のベルトを外し始める。

「ちょっ! ストップ。なにするのさ!」

 逃れようともがくが、全然逃げられない。春蘭の力はすごい強いみたいだ。

「おとなしくしていなさい!」

「誰か助けて!」

 俺の懇願にも、誰も救いの手を差し伸べてくれない。

 それどころか、泣いていたはずの少女たちまでもが興味津々と華琳ちゃんの作業を見つめていた。

 

「ふむ」

 俺のズボンと下着を脱がせた華琳ちゃんが満足そうに股間を見つめる。

「酷い……あんまりだ」

 止まったはずの涙が再び俺の頬を伝う。

「何を泣いているの。しっかりと見なさい。これがもう一つの周回特典よ」

 見ろって言われても……泣きながら俺は視線を下に移した。

 ……すぐに視線を戻した。

 

「W0!?」

 いやまさかそんな?

 きっと見間違いだ!

 恐る恐る再び股間を確認。

「XX!?」

 ……見間違いじゃなかった。

 俺の一人息子がいつのまにか双子になってました。

 

「安心なさい、ちゃんと両方使えるわ」

 華琳ちゃんの手が俺の息子達に触れる。

「嘘だ……」

 ちゃんと両方に感覚がある。

 脳内にチップどころか、俺は魔改造されてしまっていた。

「もう、そんなに泣かないの。あなたのこれを嫌ったり、怖がったりするものなど、ここにはいない」

 華琳ちゃんの言葉に少女たちみんなが頷いてくれた。

 嬉しいんだけど、素直に喜べない……。

 

 

 

「さて曹操よ、先程、詫びを入れるとそう言ったな」

 ズボンを履き直す俺を待っていたのか、ベルトを締めると同時に文台さんが華琳ちゃんに問い始めた。

「ええ。兵の暴走を止められなかったのだもの」

「ならば小僧、もう一度、引継ぎを開け」

 え? なんで俺?

 よくわからないけど、元レディースさんは怖いし素直に従おう。

 

「開きました」

「では、華琳の行を探して、それを押せ」

「っ! まさか、華琳さまの引継ぎを解除するつもり!?」

 桂花という真名の猫耳フードが文台に噛み付く。

 押しちゃ不味いのかな?

 

「だと言ったらどうする?」

 文台さんが睨む。桂花と、華琳ちゃんを。

「お待ち下さい!」

 愛紗という真名を名乗った黒髪ロングポニーが止める。

「それは、それだけは絶対にいけません! ご主人様が悲しみます」

「……私たちを知っている皇一はもういないのよ……」

「覚えている方が辛い、と?」

 文台さんが睨む。

「それでいいのか?」

 

「……いいわけないでしょう! たとえ私のことを知らなくても、私は皇一のことを忘れたくない!」

「華琳さま!」

 桂花や春蘭たちの顔が明るくなる。

 そして、文台さんが笑った。

「くくくく。誰が引継ぎを解除せよと言った?」

「え?」

 文台さんはよほどツボにはまったのか、しばらく笑い続けて説明してくれなかった。

 

「では、華琳の行を探してそれを二度押せ」

「二度? ……あ、あった」

 華琳ちゃんの行を押すイメージ。ピッとクリック感が脳に伝わる。指を使ってなくても感触はあるみたい。

 選択済みってことで反転していた華琳ちゃんの行の表示が変わった。

「え、ええっ? か、華琳ちゃん!?」

 華琳ちゃんが道場から消えてしまった。名を呼んだけれども返事は返ってこない。

「落ち着け。二度押せと言ったはずだ」

「あ、そうか」

 もう一度、表示の変わった行をクリックイメージ。華琳が曹操に変わり、行も反転した。

「こう? ……曹操に表示が変わったよ」

 そして、道場に華琳ちゃんが現われた。

「よかったー」

 ほっとしてよく見たら華琳ちゃんの衣装がさっきまでと違う気がする。

 

「うむ。では次に、大喬と小喬の行を探せ」

 今度は二人?

「……あった」

 連続して大喬と小喬って行がある。

 ???から開放されている他の娘たちと同じように選択済みになっているけれど、さっき紹介された娘たちにはこんな名前の娘はいなかったはずだ。……覚える名前が多いんで、あまり自信はないけど。

「ならば、やはり二度押せ」

 言われるままにその二行をそれぞれ二度クリック。今度は名前が変わるなんてことはなく、表示の反転がなくなって、再び選択済みの反転に戻っただけだ。

 それだけなんだけど……わ、道場にさらに二人の少女が現れてる。やっぱり凄い可愛い。ロリの双子?

 ……この娘たちとも、俺が?

 十年後のおっさんがこんな小さい子と……信じられないよ、やっぱり。

 というか犯罪間違いなくて信じたくないなぁ。

 

「冥琳さま!」

「いったいどうなって……」

 上乳へそ出し眼鏡こと冥琳に質問してる双子ロリ。

 

「もう閉じちゃっていいの?」

「いや、曹操の行を元に戻しておけ。一度押せばよい」

「……はい」

 指示に従うと、曹操から華琳へと文字が変わり、道場の華琳ちゃんの服装も変わった。

 

「……大喬と小喬を出すのが、こんな方法だったとはね」

「道場へと呼び出すのには、引継ぎを確認すればよい」

 文台さんの簡潔な説明。そういえばさっき、美羽ちゃんたちも引継ぎを確認したら道場に現われたんだっけ。

「私が昔の状態で、大喬と小喬の引継ぎを再確認することが二人が出てくる条件だったのね」

「これで、むこうに戻っても二人の存在は消えん。これをもって詫びとしろ」

 文台さん、怖いけどもしかしていい人?

 

「けれど母様、華琳は姉様を」

「雪蓮も油断していた。だがもう雪蓮は死なぬし、これで義娘も出番を得る。問題はない」

 文台さんに諭されて褐色下乳へそ出しの蓮華が押し黙った。

「よかったな、小僧の記憶を失わずにすんで」

 からかいが混じった文台さんのその言葉に華琳ちゃんが真っ赤になってそっぽを向く。

 それがまたツボに入ったのか、文台さんはまた笑い始めたのだった。

 

 

「お母さん、皇一の記憶を取り戻す方法、ないの?」

 ダブルリングの小蓮ちゃんことシャオちゃんが泣きそうな顔で聞く。さっきまで実際に泣いていたし。

「……本当は教えることができぬのだが、シャオの頼みならば仕方ないか」

 文台さん、娘には甘いの?

 末っ子のシャオちゃんが小さい内に亡くなったそうだから、それもあるのかもしれないな。

 

「そ、それは本当ですか!」

 愛紗だけではなく、少女たちみんなが身を乗り出してくる。

「ある、としか教えられんがな」

 がっくりと肩を落とす少女たち。……いや、少女たち全てではなかった。

 

「よかった! 兄ちゃんがボクたちを思い出してくれる方法があるんだね!」

 ピンク髪の季衣ちゃんがガッツポーズ。

「ははは。天井が華琳さまを忘れたままでいられるはずがなかろう!」

 春蘭も笑い出したことで、他の少女たちも微笑んだ。

 うん。みんな笑ってる方が可愛いな。

 

「お母さん、他にはないの?」

 うるうるとした目でおねだりするシャオちゃん。

「……ただし、思い出すのは全てではない。思い出させた娘の記憶のみ。……手がかりはこれまでだ。後は自分たちで考えろ」

 やっぱり甘いみたい。

 

「蓮華、シャオ、達者でな」

 これ以上は本当に無理なのか、文台さんは掛け軸をめくり、去ってしまった。

「母様!」

 蓮華が追うも、掛け軸をめくった時には、そこは壁になっていた。

「どうなっているの……?」

 それはさっきからずっと俺も思っています。

 

 文台さん、もう少し説明してほしかったなあ……。

 

 



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三十六話  戦う理由?

「思い出させる……やっぱりアレだよ、きっと!」

 ぽん、と手を合わせたこの娘は天和。

 その動きで大きな胸もぽゆん、と揺れる。

「アレ?」

 いったいなんのことだろう。

 頭をぶん殴られたりするのだろうか?

 

「またまた、とぼけちゃって~。皇一の大好きなことに決まってるでしょ♪」

 地和は天和の妹。三姉妹の次女だけど、胸は一番小さい。つまり俺の好み。

「俺の大好きなこと?」

「もぉ、皇一ってばエッチなんだから。女の子の口から言わせたいなんて♪」

 シャオちゃんなに言ってるの?

 って、アレってそういう意味か。

 

「無理無理無理!」

 広げた両手を目の前で振る。

「えー!」

「だって俺経験ないし! 超初心者の俺を十年後と比べないで!」

「ふむ、初々しい主も可愛いかもしれぬな」

 いつのまにか後ろにいた星が耳元で囁いた。

 ビクっとして慌てて離れる。

「いや、可愛いって、俺の方が年上だと思うんですが!」

 俺より年上そうなのは……いないな。冥琳が同い年ぐらい?

 

「そっ、それに! 愛のない行為は違うと思うんだ。……君たちは俺のこと知ってるかもしれないけど、俺の方は全然知らないわけだし……」

 やっぱり初めては好きな女の子とがいい。

 はあ、と道場のあちらこちらでため息が聞こえた。

「夢見る乙女のようだと思っていたけど、十年前はさらに上をいっていたのね」

 もしかして俺のこと?

 

「じゃあ、どうすればいいのよ!」

 シャオちゃんがぷくっと頬を膨らませる。

「……華佗はどう? 思い出させられるんじゃないか?」

 華佗?

「そうだ! 華佗はどうしたのだ? あやつがいれば孫策の毒ぐらいどうとでもなっただろう?」

 春蘭の質問で華佗っていうのがどうやら人の名前だってわかった。

 

「華佗は蓮華さまの薬の材料を探しに行っていて、いなかったのだ」

 眼光鋭い思春。言外に毒を使ったのはそっちだろう、って言っているみたい。

 あれはもしかして……ふんどし? 是非後ろから眺めてみたい。

 

「蓮華……しばらくは呉は攻めない」

「そう……いずれ攻めてくるということね」

「……さあ?」

 投げやりに答えているけど、元気なさそうだな華琳ちゃん。

 

 

「それで……ここにいるやつら以外には、皇一が若くなっちゃったことはどう説明するんだ?」

 白蓮だったかな、この娘は。

 全部ちゃんと覚えられるんだろうか、俺。

 新入生がクラスの同級生を短時間で覚えるような作業。

 アニメキャラとかなら設定こみですぐに覚えられるんだけど……いくら美少女揃いといってもかなり大変。

 

「ご主人様は天のお方です。そういうこともある、と納得してもらうしかないでしょうね……」

 雛里ちゃんは鳳統って軍師らしい。三国志詳しくないんで誰だかわからん。

「けどさ、記憶もないんじゃ偽者だって言われるんじゃないか?」

 太眉の娘は翠。太眉の二人は覚えやすくて助かる。

 

「既に偽者は出てきています。天の御遣いが二人もいるからと便乗したのか、自分も天の御遣いだと名乗る詐欺師が」

 このおかっぱの娘は斗詩。カブってない特徴で覚えるしかなさそう。

「……麗羽さまのもとにも現われましたが麗羽さまは顔を確認してから、いりませんわ、と」

「麗羽のことだもの、それだけではないでしょう?」

「はい……かわりに、若くて顔のいい男を探し出すようにとの指示を……」

 ここにいないらしい麗羽って娘は、イケメンさん集めて親衛隊でもつくるのかな?

「皇一のせいね」

 俺のせい?

 

「私に勝ち誇るため、ね。顔だけでは好みもあるから難しい。自分の方はしかも若い、と高笑いしたのでしょう」

「ごめんなさいごめんなさい……ですが、麗羽さまが満足するような者はなかなかみつからず」

「まさか、領地広げてるのって、そのためじゃないだろうな?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……野心は元々ある方なんです」

 よく謝る娘だ。なんとなく他人に思えない。

「そうだったな」

 現在、白蓮のとこに麗羽……袁紹っていうらしい。その袁紹が攻めてるらしい。

 嫁さんの所属する勢力が戦いあってるって、十年後の俺はどう思っていたんだろう。なんか俺もう、胃がキリキリと痛み出したんですが。

 

「ならば、皇一をすぐに徐州へ戻すわけにはいかないわね」

「華琳さま?」

「皇一が魏へ滞在していたのは、孫策の暗殺を防ぐため。……失敗に終わってしまったけれど、もう魏に残る理由はない」

 失敗って言った時の華琳ちゃんは辛そうだった。

「……たしかに、ご主人様が魏に赴いたのはそのため。ですが、それならばなぜ?」

「徐州へ皇一が戻ったと知れば、公孫軍との戦いを放り出してでも麗羽は徐州に攻め入り、奪おうとする。今の劉備軍に迎え撃つことができて?」

「……くっ」

 悔しそうな愛紗。

 ご主人様って俺を呼んでるように、俺は愛紗のとこでトップに近い立場らしい。

 

「まさに傾国の美男子ですねー」

「俺が戦争の原因とか止めて!」

 美人の嫁さんが多いから、他の男たちに恨まれててとかなら、まだわからないでもないけどさ。

 それで戦争になるのも嫌だけど。

 

「返さないとは言わないわ。時期が来れば……多分、袁紹軍との戦いの前あたりかしら?」

「あわわ……さすがです」

 驚いた顔を見せる雛里ちゃん。……そんなあからさまな反応は軍師としてはいけないんじゃ?

 

 

 それからまた状況を説明されて、ようやく道場から出ることになった。

 ロードすればいいんだよね。

 メニューウィンドウを開いて、続きから、っと。

「なんか三つあるんだけど……」

 というか、三つしかない。ページの切替もないみたいだし、こんな少ないセーブスロットでやりくりしてたのか、十年後の俺。

 

「一番は毎朝、記録していたわ」

 華琳ちゃんが教えてくれた。

 うん、俺もたぶんそうする。セーブできるとこ三つしかないけど、最新のデータはこまめに記録しておいた方がいいはず。

「けれど、それでは孫策の暗殺はたぶん防げないでしょうね」

「駄目だったらもう一回やり直せばいいんじゃない?」

 最新のデータで再開した方が問題少ないと思うんだけど。またロードすればいいんだしさ。

「……皇一は、死ぬのは辛いと何度も愚痴っていたわ。その覚悟があって?」

「辛いのは勘弁して下さい」

 なんか死んじゃう時の感覚とかあるっぽいな。死なずにロードできないのかなあ。

 

「ねえ、もう一回皇一さんが自決したら、また若くなるってことだよねえ?」

 太眉二号ことたんぽぽちゃんが目を輝かせている。

「可愛い皇一さんも見たいな~♪」

 いや、可愛くなんかないと思うけど。

「それいいかも。天和お姉ちゃんって呼んでもらおう♪」

「……興味はあるけれど、また一から説明するのは面倒」

 眼鏡のこの娘は人和。三姉妹の末っ子。

 そうだよなあ。記憶まで無くなっちゃうのは困る。現に今、かなり困っている。

「そうですね。先程の孫堅の話を聞く限り、失う経験が一定ではないようです。もしも、何十年分もの経験を失うことがあったら皇一殿は消えてしまうのでは?」

 こっちの眼鏡は稟。クールな感じだ。委員長タイプか。

 ……ふむ。やっぱりどう考えても自殺は禁止だな。

 

「三番はたぶん、初めから、の直後だよね」

「ええ。きっと三周目開始直後でしょうね」

 うん。俺のセーブのパターン通り。一番大きい番号はスタート直後。

 最新のは一番にセーブするから、間違って上書きしないためにいつもそうしてる。

 そこから大きい順にイベントや分岐でセーブを分けていくんだけど、三つしかないんじゃそれもできない。

 

「三周目の初めからでは、困る者が多いのではなくて?」

「……袁術が引継いでしまったのはまずい」

 冥琳が美羽ちゃんを睨む。

「袁術なら誤魔化されるのではない?」

 蓮華も美羽ちゃんを見つめる。

 あのさ、誤魔化されるとか本人の前で言わない方がいいんじゃない?

 

「ご主人様へのこの懐きよう……袁術が力を持っている黄巾あたりで、ご主人様を要求したら……」

 孫家の面々に睨まれて、俺の影に隠れるように震える美羽ちゃんを見る愛紗。

「ぬ、主様?」

 怯えた顔も可愛いな。

「大丈夫だから」

 なにが大丈夫なのかはまったく覚えてないけど。

「三番も駄目だとすると。……二番はなにかイベントか分岐点だと思うんだけど」

 俺の性格ならそうする。あとはエロシーンの直前とか。

 

「ええ。二番は私と美羽の初めての直前でしょうね」

「なるほど。俺らしいな。……って、えええええっ!? は、初めてって、もしかしなくても……」

 十年たってもやっぱり俺は俺みたい。

 ……じゃなくて!

「ふ、二人いっぺんに?」

 いくらなんでも、こんな美少女二人を? 嘘でしょ? 贅沢すぎでしょ?

「だって、皇一の相手は二人いないと大変じゃない」

「あ、……そ、そうか」

 俺のムスコは双子になってたんだっけ。

 

「もしかして、さんぴ……二人同時って普通にしてたの?」

「わたしたちは三人同時だったよ」

「ええっ? 姉妹丼!?」

 マジですか?

 なんか華琳ちゃんと美羽ちゃんの初めてを同時にとか、姉妹丼とか、聞いてるだけでムカついてくる。

 そんな奴、死ねばいいのに!

 あ、もう死んでるんだっけ。

 というか、俺なんだっけ。

 ……信じられない。信じたらきっと胃に穴が開く。

 

「今回はまだ、おあずけでしょうね。記憶を取り戻してから、でないと駄目なのでしょう?」

「う、うん」

 ざ、残念なんかじゃないんだからね!

 

 

 

 セーブ2をロードして再開した。

 一瞬で風景が変わる。どうやら道場とは別の室内らしい。

「マジですか……」

 信じられないけれど、全部本当のことなんだろうか。

 

 豪勢なベッドには華琳ちゃんと美羽ちゃんがいた。

「なにか思い出して?」

 そう言われても……。

 首を横に振るしかない。

「そう……」

 

 

 閨を出た俺たちは、玉座の間に集合した俺の嫁を自称する少女たちと合流。

 閨……寝屋、つまり寝室? そこにいたというのにまだ昼間だった。真昼間からそういうことをするつもりだったのか、俺。

 

 相談して、俺の部下という凪、真桜、沙和に城内や街を案内してもらうことになった。

 華琳ちゃんと軍師たちは、暴走して孫策を暗殺する連中を処分するのでついてこれないらしい。まだしてないことで怒られるなんて、可哀相な連中だな。

 

「これが俺の?」

「せや。機織の牛兜やな。ウチがこさえたんやで」

 真桜に渡された兜を眺める。

 牛の頭蓋骨の意匠の兜。横に大きく角が伸びている。たしかにカッコいいが、なんか怖い気もする。

「牛はわかるとして、機織って?」

 あれか。七夕の彦星と織姫からか? たしか彦星、牽牛は牛飼いで、織姫は機織してたんだっけ。でもなんで七夕?

 

「隊長の話やと、この牛の髑髏は死亡部落? をぶち壊す男の印なんや」

「死亡部落……死亡ぶらく……死亡フラグか!」

 七夕関係ないらしい。

 死亡フラグを折るから、旗折りか。なるほどなるほど。

「縁起物なんだな」

「せや!」

 俺はありがたくそれを被ることにした。

 ちょっと恥ずかしいけど、大きさはピッタリだった。

 

「ご主人様?」

 首を傾げているのは恋。最強の武将、呂布なんだそうだ。

 俺の嫁ではないので道場にはおらず、若返ってしまった、ついでに記憶その他も失ってしまった俺を見て驚いているのだろうか。

「ちょっと違うけど、ご主人様の匂いがする」

 くんくんと俺に鼻を近づけてくる。

 ちょっと違う? まさか加齢臭じゃないよね? いくら十年後だからってそこまで老けてないよね?

 

「さすが恋殿、それはちゃんと兄殿なのです!」

 ねねが喜ぶ。本当はねねちゃんと呼びたいけど、義妹だからとちゃん無しを強要されている。

「恋殿は兄殿の護衛なのです。いっしょにいれば安全なのです!」

 俺のガードマンか。

 ……凪たちも可愛いし、恋も可愛い。

 こんな可愛い娘ばかり連れて歩いていたら、逆に因縁つけられるんじゃない?

 

「ねねはどうするの?」

「ねねは美羽の見張りなのです。美羽は季衣たちと兄殿の記憶を取り戻す相談をするです」

 むむ。ロリっ娘が集って相談とな。

 なんかそっちの方に行きたいなあ。

 ……まあ、城内とかの案内はしてもらっておかないと困るだろうから、無理だけど。

 

 

 城内散策を終え、街を案内してもらう俺。

 俺は凪たち警備隊の隊長で街を警邏することも多かったそうだ。三周目は厳密にいうと違うらしいけど。

「あ!」

「な、なにか思い出しましたか!」

 凪たちが期待の篭った眼差しで俺を見る。

「……ゴメン、そうじゃないんだ。看板が読めない」

 古代中国っぽいのに会話ができるから、なんとかなるんだと思ってたら、読み書きは駄目そう。

 漢字は読めないこともなさそうだけど、意味がほぼわからない。

 

「そいうえば隊長はこちらへきてすぐ、必死に読み書きを覚えたとおっしゃってました」

「そうなんだ……三十過ぎて勉強とか大変だったんだろうな……」

 俺も覚えなきゃいけないんだろうな。漢文とか何年ぶりだろう。

 

 

「疲れた」

 暗くなるまで歩き続けてもうへとへとなんですが。

「隊長、体力無さ過ぎなのー」

「せやな」

 勉強だけじゃなくて身体のトレーニングも必要なのか。

 そんな勉強やトレーニングしながら、あんな数の可愛い娘たちに手を出したと。

 ……マジで俺なの?

 さんざん歩いて見て回ったのに何も思い出さないし、俺が思い出さなかったと知って、凪たちも落ち込んで、余計に俺が精神的に疲れてしまった気がする。

 

 

 それはともかく腹へった。ロードしてからまだ何も食べてない。

 夕食はなんか季衣ちゃんたちが用意してくれてるみたい。楽しみだ。

 城の庭に集まる俺たち。

「ついてくるですよ」

 ねねに案内されて向かった先は、玉座の間だった。

 テーブルと椅子が用意されている。ここで食事するのか。

 

「いらっしゃいませー!」

「ゆっくりしていってね!」

 流琉と季衣ちゃんが俺たちを出迎えた。

「店の予約ができなくてのう、ここならみなが使えると妾がひらめいたのじゃ!」

 まったくない胸をはり、うはははと笑う美羽ちゃん。

 そうか。ロリっ娘たちが相談していたのはこれだったのか。

 

「美味い!」

 玉座の間だからマナーとか気にしなきゃいけないんだろうかと心配だったけれど、春蘭とか見るとそうでもなさそうだし、ほっとしながら料理に手を出したら、絶品としか言い様のない味だった。

「お口に合いましたか?」

「うん。すごい美味い」

「よかった! こっちも美味しいですよ」

 嬉しそうに別の皿を渡してくれる流琉。

「もしかして、これ全部流琉がつくったの?」

「はい!」

 おそるべしロリ料理人。

 だが、俺はなんとなく流琉ならできて当然だよな、と思っていた。

 

 食事、というよりは宴会と化したそこでは、みんなが俺に酒をついでくれたり、なにか思い出したかと話を聞きにくる。

 俺の隣の椅子に座ったり立ったり順番に入れ替わっている。なんか落ち着かない。

「これなら立食パーティの方が……」

 あれ?

「立食……なんですって?」

 華琳ちゃんが聞いてくるが、俺はそれを知っていた。

 この先の展開を知っていた。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 俺の脳内にあるヴィジョンが浮かぶ。

 それに従って俺は、季衣ちゃんと流琉を連れ出した。

「どうしたの兄ちゃん?」

「酔い覚ましですか?」

 城壁に二人を連れてきた俺。

 うん。間違いない、ここだ。

 ここで主人公は、季衣ちゃんと流琉と会話をしたんだ。

 

「思い出したんだ! 季衣ちゃん、流琉!」

 俺は二人を抱きしめる。

「二人のこと、思い出した!」

「ホント?」

「ああ。季衣ちゃんは俺の大恩人で、流琉は最初、俺のこと疑ってた」

 うん。そうだ、思い出した。

 季衣ちゃんと流琉は恋姫†無双というシリーズのゲームのキャラクターで、ここはその世界なんだ。

 俺は実際に季衣ちゃん、流琉とすごした記憶だけでなく、ゲームの方の季衣ちゃんと流琉の記憶も手に入れた。

 

「よかったぁ!」

「兄様!」

 二人が俺に抱きつきながら泣く。俺も当然のように泣いていた。

 

 

「たぶん、二人のイベントがきっかけだと思う」

 玉座の間に戻った俺はみんなに説明する。

 まあ、みんな城壁にきていて、俺たちのことを覗いていたみたいだったけど。

「いべんと?」

「催し……じゃちょっと違うか。出来事……でたぶんあってるのかな?」

 

「俺が思い出したのは季衣ちゃんと流琉のことだけ。だからたぶん、この宴会が二人のイベントだったんだと思う」

 たぶん、じゃなくて確実にそう。

 あのイベントにはねねと恋がいなかったし別の娘がいたりしたけど、「季衣ちゃんと流琉が準備した玉座の間の宴会」が、条件だったんじゃないのかな。

 問題は、これが俺が経験したことじゃなくて、ゲームの方のイベントだということか。

 

「みんな、できるだけ普通にしてくれ。俺が記憶がないとかは気にしないで」

 俺が経験したこと、が条件ならみんなに前に俺にやったことを再現してもらえばいいんだけど、それで上手くいくかはわからない。

 ゲームの方のイベント限定だとすると、みんなに自然体で接してもらった方がイベント発生しやすいと思う。

 彼女たちが言うようにエッチすれば、記憶が戻るかもしれない。

 たぶんイベント扱いだろうし。

 けれど……もし、しちゃった後で俺の記憶が戻らなかったら。

 さらに、「十年後の俺の方がよかった」なんて言われたら……。

 エッチするほど好きになってしまった娘にそんなこと言われたら俺、立ち直れない。

 

「ともかく、これで皇一の記憶が戻るということが確認できたわね」

 うん。やっぱり、俺は彼女たちが言う十年後の俺と同一人物みたいだ。

 その後、宴会はさらに盛り上がるのだった。

 

 

 

 できるだけ普通に、と決めた俺は記憶がないながらも十年後の俺がやってた仕事を……できるはずもなかった。

 読み書きできない。

 体力ない。

 まずはその問題をクリアする方が先、と勉強やらトレーニングがノルマとなった。

 そして問題がもう一つ発覚した。

 馬に乗れない。

 

 ……本当はもっと大きな問題があった。

 恋姫†無双のことが思い出せない。

 季衣ちゃんと流琉がそのゲームのキャラクターだったことや、ここがその世界だということは思い出したのだが、恋姫†無双のストーリーやシステムが思い出せない。

 名前からするとアクションゲームというか、アレのパクリっぽいけどどうなんだろう?

 全体像を思い出せれば、もっと役に立つのに。

 

 

「ううっ、全身が筋肉痛だ……」

 調練に参加して鍛えられた。沙和は鬼軍曹だった。

 俺が仕込んだらしいけど、マジですか?

 だけど、次は読み書きを覚えなきゃ……自室でなんとか読もうと本と格闘していたら客が来た。

 

「思い出した!」

「本当か!」

 俺の部屋に来た客、春蘭が持ってきた大量の杏仁豆腐を食べてたら春蘭の記憶を手に入れた。

 うん、こんなイベントあったね。

 でも、一周目でも二周目でも春蘭が杏仁豆腐つくってくれることなんてなかったのにどうして?

「貴様は食い意地がはっているから、季衣と流琉のことを思い出したのだろう。ならば、食べ物をを与えればいいのだ!」

 春蘭が言うか!

 そんなイベントがあったから思い出しただけだっつの!

 

 ……なんて、その時は思っていたんだけど。

 

 

「思い出した!」

 春蘭が要求した秋蘭の焼売を食べていたら、秋蘭の記憶を手に入れた。

 

「思い出した!」

 凪たちと食事に行って、麻婆丼の話をしていたら、凪、真桜、沙和の記憶を手に入れた。

 

「ほら、やっぱり貴様は食い意地がはっているのだ」

 春蘭が得意気にニヤリ。

「うぐぅ……」

 否定できん。いくらそんなイベントがあるからって、食事イベントでしか記憶を取り戻していないってのはどうなのさ。

 それからは、思い出してない娘たちが食事に誘ったり、差し入れたりしてくるようになった。

 

「信じられないくらい美味いんだけど……ごめん」

 箸を置いて謝る。

「そう……」

 華琳ちゃんはそれだけ。

 俺に差し入れを持ってきてくれる娘の第一位が華琳ちゃんだった。

 流琉以上のすごい料理人であり美食家。この料理も華琳ちゃんがつくったもの。

 でも、俺が記憶を手に入れることはなかった。

 ちなみに第二位はねね。

 もっとも、俺はついでで俺の護衛をしている恋に差し入れしてるのかもしれない。

 

 

「華琳さまの料理をいただいておきながら、落ち込んでいるなんて何様のつもり!」

 桂花が怒る。

 その気持ちは痛いほどわかる。

 ……っていうか胃が痛い。

 落胆した華琳ちゃんの顔を見るのが辛い。

 美味い物を食べるのがこんなに辛いなんて思わなかった。

 

「早く華琳さまのことを思い出しなさい!」

「俺だって思い出したい!」

 そう。華琳ちゃんのことは真っ先に思い出したいのに。

「これ以上華琳さまの辛そうなお顔は見たくないのよ」

「俺だって!」

「いっそ死んでくれた方が諦めもつくのに、それすらさせない」

 怖いこと言わないで!

 あ、そうか。俺が死んでも道場に行くだけなんだっけ。

 

「あれ? 今日は読み書き教えてくれるんじゃなかったのか?」

 桂花の足は城外へと向かっている。

「華琳さまから直々に許可をいただいたのよ!」

 許可? なんの?

 

「……これはあんまりなんじゃ……」

 小屋の中で愚痴る。

 俺のまわりには子供たち。

 桂花が街の子供達に授業するついでに、俺にも教えようとしてるらしい。

 けどこの小屋、外から丸見え。子供達に混じってるのはとても恥ずかしい。

「あ、隊長なの!」

 げ。警邏の途中の三羽烏に見つかってしまった。……泣きたい。

 

 その後、春蘭にも見つかってしまい笑われたが、子供達が桂花と春蘭のどっちが俺の女かとからかってきた。

「思い出した!」

「え?」

「桂花も春蘭も俺の嫁さん!」

 そう。俺は桂花の記憶を手に入れた。

「見たか春蘭! 食い物以外でも思い出したぞ!」

 なのに桂花や春蘭は呆れ顔。

 え? なんで? もっと喜んでよ!

「貴様は食い物よりも、そっちの方が好きだったな」

「ある意味食べちゃうわけね、外道」

 呆れ顔というより、蔑んだ目。

 ふと気づけば、桂花の授業を受けていた俺をからかった女の子の手をとってはしゃいでいた俺。

「御遣い様ったら強引……」

 いや、そんなつもりないから!

 モブ子ちゃんも頬染めないで!!

 

 

 授業の帰り道。

 せっかく記憶が手に入ったというのに桂花はいっしょに帰ってくれなかった。恥ずかしがりやさんめ。

 だが、これで食事以外でもなんとかなる、と上機嫌でスキップしてたら、倒れている稟を発見した。

 慌てて近づき、よく見たら大量の鼻血を出している。

 マズくないか、これ。

「急いで医者に見せないと!」

 稟を抱えようとしてはたと気づく。

「動かしちゃ駄目かもしれない?」

 頭ん中の血管傷ついて鼻血出して倒れたんなら、動かしちゃいけないかもしれない。

 でも、一刻を争うかもしれない。

 ど、どうすれば……。

 

「どうかしたのですかー」

 慌ててる俺の前に、風が現われる。

「稟が、稟が!」

 動揺して詳しい説明ができない。

 その目の前で、風は稟を引きずって街の中へと消えて……。

「思い出した! 風、ストップストップ!」

 稟と風の記憶を手に入れた俺は、二人を追いかけるのだった。

 

 

 食事以外でも思い出せると確信した俺はシスターズのライブを見に行った。

 ちょうど、遠征から帰ってきたのもあったし。

 天和、地和、人和の記憶を手に入れた。

 こんな簡単なら遠征先のライブを見に行けばよかったのかもしれない。

 一報亭の焼売を差し入れながら、三人に思い出したと告げた。

 

 

 

「……ごめん」

 レンゲを置いて謝る。

 華琳ちゃんが用意してくれたのはお粥。

 最近胃が痛くて食欲が落ちた俺のためもあるが、俺が初めて食べた華琳ちゃんの手料理でもあるらしい。

 その思いでの品を食べても駄目な俺。

 やばい。今までで一番華琳ちゃんが落ち込んでる気がする。

 

「絶対に思い出すからそんなに落ち込まないで!」

「……」

「料理が悪いんじゃなくて、たぶん料理じゃ駄目なのかもしれないだけだから!」

「料理では、駄目?」

 メニューが違うとかじゃなくて、華琳ちゃんが料理を差し入れてくれるイベントがないだけなんだと思う。

「そう。私の料理が気に入らないわけじゃないのね」

 もしかしたら華琳ちゃんの料理人である部分が意地になってたのかもしれない。

「当たり前だよ。こんなに美味しいの。毎日でも食べたい」

 あれ? これってプロポーズ?

 やばい、なに言ってるのさ、俺!

 

「ふふ、贅沢ね」

 ああ、よかった。こっちではプロポーズにはならないのかな。

 ……嫁になってるんだからもうプロポーズしたことあるのか。どんなのだったんだろうな。

 華琳ちゃんが頬染めて「お受け……します」と言ってるの想像したらなんかムカついてきた。許すまじ、十年後の俺。

 

「きっと他のイベントで思い出すんだよ。だから普通に、いつも通り、華琳ちゃんらしくしてくれてた方が嬉しい」

「私らしく……ね」

 うん。華琳ちゃんの悲しそうな顔は見たくないんだ、俺。

 

 

 徐州から愛紗がやってきた。

 袁紹軍から逃げるために国境を抜ける許可を受けにきたらしい。

 あと、俺をむかえに。

「袁紹軍からってことは、公孫軍が負けちゃったんだよな。白蓮は無事なのか?」

 記憶は手に入れてないけれど、嫁のことは心配である。

「はい。無事に合流しています」

 よかった。劉備軍にいるみたいだ。

 

「留守番、か」

 魏軍のみんなは華琳ちゃんについて、劉備に会いに行った。

 若くなった俺を見たら劉備軍の連中とはまともに話ができないだろうから、と置いていかれた。

「恋殿とねねがいるから、兄殿は寂しくなどないのです」

 ありがとうねね。

 いまだに思い出せない義妹をなでる。

 

「俺も連れてってくれればいいのに」

「華琳殿は通行料に愛紗を要求するから、それを兄殿に見られたくないです」

「愛紗が通行料?」

 俺に見られたくない?

「二周目では、それを知った兄殿が酷く落ち込んだです」

 ああ、俺のためなんだ。

「けど、もしそれが華琳ちゃんのイベントだったら俺、思い出せるのにな」

「それでも、兄殿を悲しませたくなかったのですな」

 華琳ちゃん……。

 

 

 華琳ちゃんたちが戻ってきた。

 劉備たちの通過は許可したが通行料として愛紗をもらうのは止めたらしい。

 そして、俺は劉備軍に渡される。

 

 華琳ちゃんの記憶を手に入れないまま、華琳ちゃんと離れ離れになっていいのだろうか?

 俺はここに残った方がいいのではないだろうか?

「華琳ちゃん」

「皇一」

 華琳ちゃんの表情は今までと違っていた。

 

「桃香らしい桃香を見て、思い出したわ」

 桃香ってたしか劉備だよな。

 劉備らしい劉備ってなに?

「やはり大陸を手に入れることにする。覇王らしく! ……ついでに、皇一に私のことも思い出させてあげる」

 そう宣言した華琳ちゃんの顔は自信に満ち溢れていて、とても素敵だった。

 

 



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三十七話  御遣いさまLV1?

「やはり大陸を手に入れることにする。覇王らしく! ……ついでに、皇一に私のことも思い出させてあげる」

 それが別れの言葉だった。

 もっと話したかったけど、そんな暇はないようだ。

 華琳ちゃんは軍師たちと足早に去ってしまった。

 もうちょい名残惜しんでくれても……。

 

「どちらがついでなのやら」

 秋蘭がそう零しながら、華琳ちゃんを追う。

「次に会う時までに華琳さまのことを思い出しておけ!」

 春蘭もいなくなると、残されたのは俺とねね、恋。

「さっさと桃香殿と合流するです」

「妾を置いていくななのじゃ!」

 あ、美羽ちゃんもいたんだっけ。

 なんでも、魏に残っていると袁紹の人質扱いされるから、って理由で俺といっしょに出されるらしい。

 

「主様と乗るのじゃ!」

「ねねだって恋殿か、せめて兄殿と乗りたいのを我慢してるのですぞ!」

 機嫌が悪い美羽ちゃんとねねがタンデム乗馬でこっちを見ている。

 恋の後ろでしがみついてる俺を。

 劉備軍を追うために華琳ちゃんは馬をくれたけど、俺、実はまだうまく馬に乗れないんだよね。

 

 

 あっさり劉備軍と合流する俺たち。

 民間人を連れて逃げてるせいでそんなに移動速度ないみたい。

「ご主人様?」

 俺の嫁であるらしい娘たち以外は、俺の姿を見て驚く。

「ほ、本当に若返っちゃったんだ……」

 説明のために眼鏡を奪われた。

 ……なんですか? 俺、そんなに大勢に顔見られちゃってるんですか?

 

 一応、記憶も失っていることも事前に嫁たちから説明を受けていたらしく、俺が別人かと疑われることはあんまりなかった。

「ホントにお兄ちゃん?」

 鈴々ちゃんを除いて。

 

 疑わしげにじろっと俺を睨むロリ。

 視線が痛い。

「愛紗、説明してやって……愛紗?」

 助けを求めた相手の様子がおかしいことに今更ながらに気づいた。

 

「どうしたの? どこか痛いとか?」

「い、いえ」

「主、愛紗は通行料になり損ねて残念がっているのだ」

「なにを言う、星! 私をかばってくれた桃香さまに感動していただけだ!」

 言ってから顔を真っ赤に染める愛紗。

 

「と、いうことだ主」

 通行料って、劉備軍が袁紹から逃げるために魏領を通過するための通行料だよね。華琳ちゃんが愛紗を要求したっていう。

 ……華琳ちゃん、俺より愛紗の方がいいのかな。

 そりゃこんな地味で影が薄いのよりは可愛い娘の方がいいか。

 

「そういえば、記憶を無くされておいででしたな。愛紗は前回も同じ要求をされ、その時は通行料として売られてしまったのだ」

 笑いながら説明してくれる星。

 売られたって、人身売買みたいじゃないか。……あってるのか?

 

「仕方のない状況でした。だが、桃香さまはそれを覆した」

 へえ。桃香っておっぱいだけじゃないんだ。

 なんか劉備のイメージと違うなあって第一印象だったけど、そんなことなかったんだ。

「そ、そんなことないよう。あれは華琳さんが通行料を先延ばしにしてくれただけ」

「先延ばし? じゃあ後で愛紗を」

「ううん」

 ふるふると首を振る桃香。長い髪も揺れてる。

 

「わたしたちが南方を統一したら奪いにくるって」

「華琳ちゃんがそんなことを……」

 言うかもしれないのかな、華琳ちゃんなら。

 華琳ちゃんの記憶がいまだ戻らないせいで自信はないけれど、なんとなく言いそうな気もする。

 もしかしてそれで「覇王らしく」って言ってたのか。

 ……早く華琳ちゃんの記憶を手に入れたい。

 いまだ失敗続きなのはもしかして、華琳ちゃんが隠しヒロインとかでイベント自体が少ないとか?

 

「あと、華琳ちゃんを殺せば、借金は帳消しにしてくれるって」

「それは駄目! というか無理」

 思わず叫んじゃった。

「そうだよねえ」

 俺と桃香は二人して大きくため息をついた。

 

 

 驚いたことに、益州へ向かっている途中で逃げている相手である袁紹を拾ってしまった。

 華琳ちゃんと戦っているはずなのに、もう負けたの?

 というか、いつ追いついたの?

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 俺の嫁だという斗詩もいるし、保護することにした。美羽ちゃんの従姉妹らしいし見捨てるのも可哀相だよね。

 袁紹に敗れた白蓮も保護に賛成してくれた。いい人だなあ。

「それで、華雄はどうしたんだ?」

 華雄って誰だろう。

「あたいたち逃げるのにいっぱいで。斗詩も早くアニキに会いたいって言うしさー」

「文ちゃん!」

「あ、あたいは文醜。アニキなら猪々子って呼んでいいぜ!」

 斗詩に怒られるのを誤魔化すように猪々子が自己紹介。

 

「俺は天井皇一。真名ってのはないんだ」

「あ、天井さん?」

 袁紹が俺を睨む。

「……本物ですの?」

「ご主人様を疑うのか?」

 愛紗も袁紹を睨む。

 

 

 説明を聞くとおーほっほっほと笑い出す袁紹。

 若返ったとか記憶を失ったとかあっさり信じちゃうの?

「そう! 華琳さんとお別れになったんですのね! ならば、わたくし袁本初が貰ってさしあげてもよろしくてよ」

 いや、別れたわけじゃないから!

 まだきっと俺の嫁だから! ……たぶん。

 

「華琳さんのような背も胸も小さいチンクシャ小娘よりも、わたくしの方が」

 あれ?

 気づくと袁紹は縛られた上に猿轡を噛まされて運ばれていた。

「いつのまに?」

 それと、なんで亀甲縛り?

 

「主を泣かせましたのでな。これでも十分以上に甘いかと」

 星が縛ったのかな。

 ……俺、泣いてたのか。

「でも、そこまでしなくても……」

「あ、あれぐらい当然です!」

 朱里ちゃんに雛里ちゃんがこくこくと頷いて同意している。

 軍師ってロリでも過激なのか。なにか気に障ることでもあったのかな。

 

「ご主人様、元気出して!」

 桃香が慰めてくれる。

 ……当たってるんですが。

 咄嗟に離れる俺。巨乳は苦手なんです。

 いや、春蘭たちとの記憶も手に入れたから、もうおっぱい苦手じゃないのかもしれないけど。

 

「華琳殿がご主人様と別れるわけがないでしょう?」

「そ、そうかな?」

「ええ。あの方が諦めるなどありえません」

 ありがとう愛紗。愛紗の言う事なら、なんか信じられる気がする。

 ……桃香の言う事が信じられないってワケじゃないよ、多分。

 たださ、スキンシップ過剰な女性は疑うのが普通でしょ?

「なんかご主人様、酷いこと考えてない?」

 鋭い。

 

 

 俺たちはなんとか益州と荊州の国境沿いにある城、諷陵に辿り着いた。

 民間人を守りながらだから移動速度は遅かったけれど。

 って、俺もカテゴリーは民間人かもしれない。

 城を手に入れるために一戦あるのかと思ってたら、軍師たちの裏工作のおかげか、諸手をあげて歓迎されてあっさりと入城できてしまった。

 話を聞くと、益州の領主、劉璋の評判は無茶苦茶悪いようだ。

「無能な太守、か」

「どうしたのです? ご主人様、ため息などついて」

「いや、俺もみんなにご主人様なんて呼ばれてはいるけど、記憶がないせいで読み書きも覚束ないし、武力もない。馬だってやっと乗ってる有様。無能だよなあ」

 ……また大きくため息。

 十年後の俺のように知識だけでもあれば、少しは役に立てるかもしれないけど、嫁の記憶は手に入っても他のはまだ。

 自分の立ち位置がよくわからない。

 

「ご主人様が居てくれるだけでみんな頑張れるんだよ」

 桃香が励ましてくれる。スキンシップ込みで。

 さすがに、あんまり逃げるのも悪いので顔に出さないように必死に耐える。

 柔らかいなあ……。

 

「ご主人様は……以前のご主人様もそれを気になさって、いつも桃香さまを立て、自分は飾りでいいと仰っていました」

「飾り……」

「あ、いえ。そうは仰ってましたが、ご主人様は無能などとは程遠いお方です! 勉強も鍛錬も欠かさずにしておいでで、こないだなど、腹筋が割れてきたとお喜びになっておられました」

 腹筋か。そりゃ俺だって喜ぶな。やっぱり俺なのか。

 

 愛紗が他にも俺の思いで話を語ろうとした時、謎の部隊の来襲が報告された。

 もしかしたらいくら無能と評価されてる劉璋も、さすがに警戒して攻撃してくるのかと焦ったけどそうじゃなかった。

「馬の旗標?」

 

 

「皇一!」

 城内に案内され駆け寄ってくる太眉ポニーテール。

「翠」

「元気そうだな」

「ごめん、まだ記憶は手に入れてないんだ」

「そうか……」

 可愛い娘に悲しそうな顔をされると、罪悪感が半端ない。

 早くなんとかせねば。

 

「あ、でも魏の娘たちの記憶は結構手に入った」

 これは報告した方がいいだろう。記憶を手に入れる方法がわかったとも。

 まあ、わかったからといって簡単にはいかないのだけれど。

「ああ、華琳に聞いた」

「え?」

 華琳ちゃんに?

「というか翠、どうしてここに来たのだ?」

 愛紗が問うのでやっと俺もその事を疑問に思ったのだった。

 

 

「馬騰殿が華琳殿に降った?」

「……ああ。といっても戦ったわけじゃない。この前と同じく競馬だ」

 翠の母親の馬騰が、華琳ちゃんの部下になったらしい。競馬でってのがよくわからないけど。

 競馬で借金こさえちゃって、その返済のために給金のいい華琳ちゃんのとこに、とか?

 

「ふむ。華琳殿は馬騰殿と戦いたがってると見えたのだがな。よほどご主人様のことが堪えたのか……いやしかし、白蓮殿や霞もなしに勝ったというのか?」

「母様が負けるとこなんて初めて見た」

「なんと!?」

 愛紗だけでなく、星や白蓮、ねね、斗詩までもが驚いている。

 そんなにベテランギャンブラーなの?

 

「あんな大きい馬、たんぽぽも初めて見たよ~」

「絶影、か」

「絶影?」

 誰? 絶影って人が馬騰に勝ったってこと?

「華琳殿の愛馬だ。華琳殿が使うことはほとんどないが、な」

 ああ、人じゃなくて馬なのか。

 じゃあ華琳ちゃんがその絶影って馬で、馬騰に勝ったのか。

 うん、賭ける方じゃなくてレースで勝ったっぽいね。

 

「あの巨馬では華琳殿が見えなくなってしまうからな」

 ……華琳ちゃん、背のこと気にしていたみたいだからなあ。

「母様、背が低いことをずいぶん気にしていたからなあ。華琳と直接話して通じるもんがあったのかもしれない」

 へえ。翠のお袋さん、小さいんだ。

 コンプレックスも華琳ちゃんと近いのかもしれないね。

 

「……まさか翠、魏の尖兵として我らと戦いにきたのか?」

 星の一言で場の気温が下がった。

 ううっ、この雰囲気しんどい。気あたりっていうの? あれで気絶しちゃっていい?

 

「いや華琳がな、皇一のことが気になって戦えないと困るから、ってな」

「は?」

 よくわかってない俺たちに、たんぽぽちゃんが解説してくれた。

「お姉様はしょりすぎ~。皇一さんがお嫁さんのこと思い出し始めたけど、側にいなかったら思い出してもらえなさそうでしょ~? それを気にして戦いが疎かになるぐらいなら、お姉様とたんぽぽは皇一さんたちが南方を手に入れるのを手伝うようにって。後でもらう時にまとまってると楽だからって」

「華琳さんらしいねー」

 桃香が納得しちゃってる。

 ええと、つまり、蜀を手に入れるまでは翠とたんぽぽちゃんが味方になってくれるってことか。

 

「蜀の攻略終わったら、翠とたんぽぽちゃんがいなくなっちゃうのか。複雑だなー」

 味方になってくれるのは嬉しいし、早く蜀攻略したいけど、そうなると二人はいなくなっちゃうし、高確率で敵になるのはちょっとなあ。

「いやそれが、母様は皇一と劉備をよく見てこい、って。後は自分で決めろと」

「……皇一さんは天の御遣いだし、劉備さんは劉姓でしょ? 見極めろっておば様は言ったの。それでお姉様の眼鏡にかなうようだったら、そのままこっちに残れと」

「えっ、あれ、そんな意味だったのか?」

 たんぽぽちゃんがやれやれと首振り。

「そんなんもわからんかったんかい! ウチもつけられるワケや」

 いつのまにかサラシを胸に巻いた袴の娘がそこにいた。

 

「霞は愛紗に会いたかっただけだろ」

「それもある!」

 翠のツッコミに腕組んでうんうんと大きく頷く霞と呼ばれた袴っ娘こと張遼。

 魏嫁のイベントでも不鮮明ながらも出てきた記憶がある。

 愛紗の友達なのかな?

 

「翠と蒲公英だけでなく、張遼までもか。馬騰殿はいったい何を考えて?」

「よろしくね♪」

 悩む愛紗を他所に、主である桃香はあっさりと翠たちを受け入れたのだった。

 

 

 

 その後、みんなの真名交換が終わって……袁紹はどうしたんだろ? 朱里ちゃんたちが怖くて聞けない。斗詩もそんなに騒いでないし、生きてるとは思うんだけど。

 住民たちのまとめ役の長老の謁見を受けて、益州の状態を再確認。

「無能な太守を倒して、桃香に益州をまとめてほしいってことか」

「みんな大乱に巻き込まれるのではないかと不安のようです」

 民衆にとっちゃ高い税金を貪ってるのに自分たちを守ってくれそうにもない領主なんていらない、ってことなんだろうな。その気持ちはわかる。

 

「領地守りきれずに捨ててきた劉備軍を頼るなんて、よほどのことだと思う」

 守ってほしい相手としちゃ、ちょっと問題あるんじゃない?

「そ、それはご主人様のおかげですよ」

「俺?」

「はい。乱世を鎮めるという噂の天の御遣いに、みな期待しているのです」

 ああ、俺じゃなくて天の御遣いのおかげか。

 そっちは、主人公らしい呉にいる北郷一刀の方っぽい。

 手に入れた記憶でもゲーム中よく出てくるし、嫁の相手をしている。

 俺はたぶん、そのポジションを奪って嫁を寝取ったにすぎないんだろう。

 ……北郷一刀の恋人になってる娘を奪った記憶はないから、寝取ったというのは語弊があるけどさ。

 

「そんな不確かな噂なんてものに縋りたいほどに、疲弊して不安になってるってことか」

「歌も流行ってますし」

「歌?」

「双頭竜じゃな」

 美羽ちゃん、袁紹といっしょにいたんじゃなかったのか。

「妾の歌を聴け!」

 おっ、火爆弾の真似か。というか、シスターズの真似か?

 

「悪人、せいば~つ、せいば~つ、せいば~~つ♪」

 なんでか知らないけど、小白竜の替え歌なんだよな。直訳っぽいところもあるし。

「アルト~ロン、天、の御遣い~♪」

 シャオパイロンのとこがアルトロンになってる。

 なんでアルトロン? さっき双頭竜って言ってたから二頭竜のカッコいい言い方か。

 

「ご主人様の歌なんですよ」

 どうやら、俺が小白竜を教えて、朱里ちゃんと雛里ちゃんが歌詞を変更したらしい。それを桃香がシスターズに教えたと。

 短い歌だから、覚えやすくてよかったんだろうな。

「双頭竜はご主人様のことなんです」

 俺が教えたってことは死亡フラグ回避のため?

 アルトロン……ナタクって三国志だっけ? 覚えてないなあ。

 でもあっちのアルトロン、パイロットなら死亡フラグ回避にピッタリだろうけど機体名じゃなあ。むしろ回避どころか自爆フラグっぽい。

「天の御遣い様はお二人いらっしゃいますから、双頭竜と呼ばれてるんです」

 なるほど。主人公さんもこみでということね。それなら納得もいく。

 双截竜とかだったら、最後御遣い同士で戦うことになりそうだから、双頭竜でよかったんだろうなあ。

 それとも頭二つあっても個体数は一だから、二人揃って一人前とかなんだろうか?

 

「ありがとうなのじゃ! ありがとうなのじゃー!」

 まだ残っていた長老さんたちが美羽ちゃんの歌を絶賛しているのを見て、俺は美羽ちゃんの記憶を手に入れたのだった。

 ……美羽ちゃんが歌うイベントって美羽ちゃんの初体験に繋がるんだけど、相手は北郷一刀じゃなかった。そこら辺が不鮮明(モザイク)になるところから、きっとまだ記憶を入手していない名前持ちの人なんだと思う。

 うん。記憶を入手するためにエッチするっていうのは駄目っぽいな。

 条件が合わなかったらエッチしても記憶が入手できないかもしれない。無茶はできないよね。

 

「主様、どうじゃった?」

「さすがは俺のお嫁さん!」

 美羽ちゃんを抱き上げる。

 美羽ちゃんの初めては俺が守る! 不鮮明なやつになんか渡さない!

 ロードしたから美羽ちゃんまだ処女なんだよね。

 で、ロード前の華琳ちゃんといっしょだった初めての時の記憶も不鮮明。

 やっぱり両方解放する必要があるみたいだ。

 

「お、思い出したのかの?」

「うん」

「よかったのじゃ!」

 美羽ちゃんは俺にしがみ付いて泣き始めた。

 張勲がいなくて、保護者同然だった俺も記憶がない。仲良くなった季衣ちゃんたちとも別れて心細かったんだろうなあ。

 しばらくそのままでいた。

 

 美羽ちゃんが泣き止んだ後は、劉備軍のみんなも歌いだして喉自慢大会状態になってしまった。

 みんな、俺に思い出してほしいみたい。

 ……残念ながら美羽ちゃん以外の記憶は手に入らなかったけど、真っ赤になって照れながら歌う愛紗や雛里ちゃんはとても可愛かった。

 

 




現時点での劉備軍


愛紗、星、雛里、翠、蒲公英
白蓮、斗詩、美羽
月、詠、音々音

非嫁
桃香、鈴々、朱里
恋、霞
麗羽、猪々子


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三十八話  TDなDT?

 のど自慢大会で思い出せたのは美羽ちゃんだけだった。

 ならばと、ねねからの情報でみんなが食事を差し入れたり、外食に誘ってくれるようになった。

 

「愛紗?」

「見た目は料理長が作る物に劣るかも知れませんが、えぇ……どうでしょう、お口に合えば」

 愛紗が持つ皿に盛られたのは……チャーハン?

 どう考えてもチャーハンには使いそうにないイモリやら魚やらがはみ出している。しかも姿はほとんど残ったまま。そういう盛り付けなんだろうか?

 手遊びとか言ってるし、愛紗が作ったみたいだな。

 料理下手というベタスキル持ちのヒロインだったのか。

 ……これならイベント有りそうだし、食べるしかないのか。

 愛紗の眼差しにも期待の色がこもってるし……。

 レンゲを手に取り深呼吸。……あまりの刺激臭に目が痛い。

「いざ、実食!」

 

「……思い出し……た……」

 見た目通り、というか、それ以上の破壊力でした……。

 おかげで愛紗の記憶を入手したけどね!

「ご主人様?」

「忘れちゃっててごめん」

「ご主人様! 記憶が戻ったのですか?」

「うん」

 震える手で愛紗を抱きしめる。

 記憶と同じ香り。

 同じ感触。

 うん、そうだよ! おっぱいは怖くないんだ!!

 なんとなくそうしなきゃいけないと思って眼鏡を外す。

「もう俺以外の男のとこへは行かせない」

「……はい。約束します」

 俺が泣くより先に愛紗が泣いてしまった。

 女の子泣かせちゃったって焦って、もらい泣きすることすらできなかったよ、俺。

 

 

 

 次に来たのは袁家の連中。

「どーだアニキ!」

「おっさんかおまいは!」

 猪々子たちが得意気に差し入れてくれたのは、料理といっていいか疑問なものだった。

 ぶっちゃけ、女体盛り。

「調理はあたいの嫁だから、ぜってえ美味いぜ。盛り付けは麗羽さまで斗詩が器なんだから完璧っしょ!」

 猪々子は運搬担当かな。袁紹もいるけど猪々子一人で運んできたし。

「ど……どう、ですかぁ?」

 器となってる俺の嫁のはずの娘が赤い顔で聞いてくる。

 そんなこと聞かれても……いや、これは食べない方が失礼なのか?

「う、うん。美味しそうだよ」

「当たり前ですわ! ……納得してないんですのよ。わたくしと猪々子さん以外に可愛い斗詩さんを味あわせるなんて」

 ええと、料理じゃなくて器の方を味わうことになってるんですが。

 ……この場合は間違いでもないのか?

 スタンディングポジションを取った双子を誤魔化しながら悩む。

「斗詩がどうしてもって言うんだもん。しょーがねーじゃん」

「な、なんか私が言い出したみたいに……」

 もしかして二人に押し切られたのかな。

 可哀相に。早く解放してあげよう。

 俺は、意を決して箸を手に取った。

 

「思い出した……」

 俺は嫁である斗詩の記憶を入手した。

 ついでに、猪々子と袁紹の記憶も。

「はい、そこまでにしてあげてね」

 斗詩の胸に吸い付いてる猪々子と袁紹を止める。

「いいとこなのに邪魔すんなよー」

「また今度。……うん、今度こそはたぶん猪々子の願い叶えてあげるから」

 斗詩を起こして俺の上着を貸す。

 この部屋から出る時どうするつもりだったんだろ?

「もしかして文ちゃんのことも思い出したんですか?」

「もう殴られて起きれなくなるのは嫌かな」

 

「わ、わたくしのことはどうなんですの?」

 なぜか赤い顔で袁紹が聞いてくる。

 袁紹か。三周目では反董卓連合で会ったぐらいしか思いでないんだけどなあ。

「ええと……綺麗な色だったよ」

 意味がわかったらしい斗詩が赤い顔でジトっと睨んでる。

「色ですの? とにかく思い出すくらいにわたくしを美しいと思ってらっしゃるのですのね。おーっほっほっほ! よろしいですわ! わたくしの真名を差し上げますわ!」

 なんだか流れがよくわからないけど、俺は麗羽の真名も手に入れたのだった。

 

 

 愛紗も斗詩も、無印恋姫†無双の拠点イベントで記憶を入手できた。

 真のイベントじゃなくても大丈夫のようだ。

 まあ、それがわかっても記憶を入手するまで、無印のイベントだとか思い出せないからあまり意味がないのだが。

 でも、嫁以外の娘も記憶を入手できることが判明した。

 ……どっちも食事絡みだ。春蘭の「貴様は食い意地がはっているのだ」という幻聴が笑い声とともに聞こえてくる。

 早く他のイベントでもなんとかしたい。

 

 

 入手した愛紗の記憶を頼りに作戦を立ててみた。

 まずは愛紗と桃香と散歩する。

 記憶には愛紗ともう一人が街を散策中に子供たちと遊んでいるというイベントがある。

 残念なことにもう一人の姿は不鮮明(モザイク)だけど、たぶん桃香か鈴々ちゃんだと思う。

 猪々子や麗羽みたいに、嫁じゃない娘の記憶を入手できるのかを確認しよう。

「すみません、鈴々も探したのですが、姿をくらましてまして」

「いいよ。……なんか避けられてるみたいだし」

「鈴々がご主人様を避けるなど!」

 いや、本当に避けられてる。

「たぶん、俺が鈴々ちゃん越しに季衣ちゃんを見てるの、嫌なんじゃないかな?」

「え?」

「無意識の内にさ、季衣ちゃんもそうなんだよなあ、とか鈴々ちゃん見てるとつい思っちゃうんだ」

 だって似てるんだもん二人って。

 小っちゃいのにもの凄く強くて、大食漢。身長も同じくらい。

 ……違うところもあるけどさ。

「なんか仲悪いみたいだから口に出したことはないけど、鈴々ちゃん鋭いとこあるみたいだから気づいちゃったんじゃないのかな?」

「なるほど。鈴々ならありえます。……以前、と言っても二周目の時ですが私が魏にいる時、季衣がよく私に構ってくれていました。たぶん気を使ってくれていたのでしょう」

 ああ、それ、俺が頼んだんだっけ。

「その時に私も鈴々を思い出したのです。二人はよく似ていますから」

 うんうんと俺も頷く。

「そのことを言う度に季衣は似てないよと怒るのですが、それでも私の相手をしてくれました。いい子です」

「俺の嫁さんだもん」

 愛紗が微笑む。

 季衣ちゃんの四度目の初めてをいっしょに奪った仲なんだよね、俺と愛紗って。だから愛紗も季衣ちゃんを憎からず思っているのかも知れない。

 ……会いたいなあ季衣ちゃん。

 

 あれ?

 そういえば桃香は?

 会話に参加していないので、ふと気づくと子供と遊んでるというか、子供に遊ばれている桃香がいた。

「愛紗ちゃ~ん、ご主人様~~~」

 半泣きで助けを求めている。

 これだ!

 キタ!!

「思い出した!」

 狙い通りに俺は桃香の記憶を入手することに成功した。

 

「さて、目的も果たしたことだし桃香を助けようか」

「ご主人様、もしや?」

「うん。桃香のこと思い出したよ。愛紗のおかげかな」

 そう、桃香のイベントはやっぱり愛紗とセット扱いだった。季衣ちゃんと流琉、春蘭と秋蘭みたいに。

「桃香さまも喜ばれます!」

 

「お待たせ。助けにきたよ」

「ご主人様~」

 桃香を連れて帰ろうとしたら子供達が残念そうに落ち込む。それを見て桃香もまだ残ると言うので俺たちもいっしょに遊ぶことになってしまった。

「こんな時こそ鈴々がいればいいんですが」

「そうだね、次はいっしょにこよう」

 ……子供達と遊ぶのはとてもハードだった。

 魏にいた頃、身体を鍛えていなければぶっ倒れていたかもしれない。

 そう、今俺の背中で眠る桃香のように。

 これもイベントであったよな。一気に詰めてくるのか。

 

「桃香さまはこのところ、かなり張り切っておいででした」

 ああ、書簡とかたくさんあったなあ。

「ごめん、俺が手伝えればいいのかもしれないけど……」

 俺はいまだに読むのがやっと。女の子の記憶は戻るのに、読み書きとか、乗馬とかの記憶は戻っていない。

 だから、勉強と兵士の鍛錬に混ざっての身体作りが多くて、桃香を手伝うことはできなかった。

 ……おや?

「どうしたの? 意外そうな顔をして」

「いえ、ご主人様は桃香さまを避けておられた気がしていましたので」

「俺が?」

 この背中に感じる二つの膨らみを?

 

「はい。事あるごとに、決断するのは桃香さま、と頼られるのを嫌っておいででした」

「……それはあったかもしれない。桃香は俺がいない方がしっかりするかな、って」

 なんでそんな風に思ってたのかな。

 思い出せないシステムとかストーリーに関係することなのかもしれない。

「ごめん、まだよく思い出せない。……こないだみたいに俺がいない時でもちゃんと決断して欲しかったのかも?」

「ご主人様は桃香さまに期待されてるのですね」

 どうなんだろう。

 それに俺が桃香に期待することって、なに?

 

「愛紗や雛里ちゃんたち俺のお嫁さんが選んだ主だよ。期待しない方がおかしいでしょ」

 誤魔化し気味に言ってから不意打ちで愛紗にキスしてさらに誤魔化す。頬にするつもりだったんだけど愛紗が合わせてくれたんで、唇に。

「ご主人様……」

「これ以上は桃香が起きちゃうから、ね」

 俺は内心の焦りを隠しながら城へ帰ったのだった。

 

 

 いったい俺はなんのために劉備軍にいるのだろう?

 いまだ華琳ちゃんの記憶を取り戻せてないというのに!

 一周目も二周目も俺は華琳ちゃんの魏軍にいたらしい。そんな記憶も女の子絡みだが、ちゃんとある。

 なのになんで三周目は劉備軍に?

 そこのところが、大事な部分が思い出せない。

 嫁たちに聞いても、目を逸らして教えてくれなかった。

 雛里ちゃんにしつこく頼み込むと、華琳ちゃんを満足させるためと、やっと教えてくれた。

 華琳ちゃんは満足できる戦いを求めていたらしい。覇王って言っていたからそうなのかもしれない。

 三周目のスタート時に桃香たちに拾われたからちょうどいいと、劉備軍で華琳ちゃんと戦う決意をしたらしい。

 ……本当なの? と聞いたらあわわわと焦っていたので、まだなにかあるのかもしれない。

 

 部屋に戻り、一人で悩む。

 もしかしたら、華琳ちゃんと喧嘩でもしてしまったんだろうか。

 嫁を増やしすぎたのが原因?

 いや、俺が魏にいた時はそんな感じじゃなかった。

 じゃあ、華琳ちゃんではなく俺の方に劉備軍につく理由があった?

 一周目、二周目は終末を避けられずに終わってしまったらしい。三周目は華琳ちゃんが真のフォームでいることで終末は避けられると俺が言っていたそうだ。

 三周目は劉備軍の勝ちで終わるんだろうか?

 でも、魏は強い。雛里ちゃんや朱里ちゃんの話では、蜀を手に入れた上で呉と同盟しなければ勝負することすら、らしい。

 三国志、読んでおけばよかったか。

 後でまた雛里ちゃんたちと相談しないとこれ以上はわからない、か……。

 

 

 ……人の気配で目が覚める。考え事しながら寝ちゃったらしい。

 子供達との遊びはやはりハードだったようだ。ベッドで悩んでいてよかった。そのせいで寝落ちしたのかもしれないけど。

 ベッドの横に立っている人影。暗いんでよくわからないけど愛紗かな? やっぱりさっきのキスじゃ物足りなかったのかもしれない。

 寝ぼけてた俺は刺客かもとか考えもせず、人影をベッドに引きずり込んだ。

「ご、ご主人様?」

 愛紗ではないその声で俺の目が覚める。

「桃香!?」

 

「今日、ご主人様がおんぶして帰ってくれたって愛紗ちゃんに聞いたから……」

「あ、うん。お礼言いにきたのか」

「で、でも、ご主人様が望むんでも、お礼じゃなくて……ご主人様とするならお礼じゃなくて」

 なにを言って……両腕の中に納まってる桃香に気づく。

 顔を赧らめ潤んだ瞳。こ、これはイカン!

 慌てて腕の力を緩めたら、桃香は逃げるどころか俺の頭をがっちりホールド。目を閉じて迫ってくる桃香の顔。

「…………ちゅっ!」

 唇を奪われた。

 おんぶイベントの後は桃香キスだったのを思い出した。

 けど、キスの後は桃香が去っちゃうんじゃなかったっけ?

 

 

「畳み掛けられた……」

 桃香のイベントをコンボで決められたあげくに、いたしてしまったんですが。

 これがメインヒロインのパゥワー?

 そういえば桃香ってメインヒロイン?

「なんでいきなり……?」

「だってずっとご主人様に嫌われてるって思ってたのに、急に優しくなったから嬉しくなっちゃって、つい」

「え? 俺が桃香を?」

「うん。でもわたしに期待してるって愛紗ちゃんから聞いたから、勘違いだったみたい」

 てへ、と舌を出す桃香。

 これはあれか。

 もしかして俺がツン状態だったのか。

 ずっと桃香を避けていたのに、おんぶしたり期待してるなんて聞かされたら、デレきた! って思っちゃうのはわからなくもない……。

 

「身体、大丈夫?」

 つい両方使っちゃったけど、やっぱり愛紗も呼んだ方がよかったかもしれない。

「うん。ご主人様の双頭竜ってそういう意味だったんだねー」

「え? ……まさかそういう意味なのか?」

 自分の股間に意識がいってしまう。

 双頭竜ってこの双子のことだったなんて。

 街で子供達が歌っていたのが、まさか俺のムスコのことだったなんて……。

 

「うふふふっ。ご主人様のはじめて、もらっちゃった♪」

 あまりの羞恥プレイを知り意識がとびかけていたが、桃香の台詞ではっとする。

 そ、そうだ。記憶はあるけど、この身体はついさっきまで童貞だったんだ……。

 二本同時に脱童貞なんて……。

 なぜか、不機嫌そうな華琳ちゃんの顔が浮かんだ。

 

 

 

 童貞卒業してからすぐに諷陵から出陣。

 戦闘の記憶がない俺としては初陣なんだよね。

 男になった直後のタイミングで戦闘って、死亡フラグっぽい。

 桃香が妊娠しちゃってたら確実にそうだよね。ずいぶんと溜まってたからたっぷり出しちゃったんで怖いなあ。

 

 

 戦いは怖かったけれど、恋が守ってくれたんでなんとか生き残れた。

 あと、拠点イベント以外でも記憶入手できるってのが判明した。

 

 入手できた相手は紫苑と璃々ちゃん。

 もちろん桃香の説得のおかげで仲間にもなってくれている。

「なんか初対面の方がイベント扱いで思い出しやすいってのは複雑な気分だ」

 紫苑のエロイベント思い出せても非処女だからあんまり嬉しくないし。

 

 あ、でも璃々ちゃんにお父さんて呼んでもらうのはいいかもしれないな。うん。

 

 



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三十九話  睡眠不足?

 実戦マジ怖い!

 何度気を失いそうになったことか。

 強力すぎる護衛のおかげで俺のとこまで敵兵がくることはまだなかったけど、顔見知りの兵士が死んだ報告を受けたり、敵兵だった死体を見たり。

 十年後の俺、よくこんなの慣れたなあ。

 

「ちゃんと寝てやがるですか?」

 寝不足気味の顔をねねに気づかれた。

 寝不足なのは別に毎晩桃香が寝かせてくれないから、というワケではない。

 夢見が悪いせい。

 ここのところ、死んだ兵士が「死んでロードしてやり直してくれ」って言ってきたりする夢とかよく見る。

 その兵士が俺の能力知ってるはずもないから、幽霊とかじゃなくてただの俺の思いこみとか強迫観念とかなんだろうけど。

 わかっていてもぐっすり眠れない。

 ……ばれちゃったついでに、ねねに相談したら添い寝してくれた。恋もいっしょにだ。

 いまだ記憶を取り戻していない女の子と寝ることに緊張したせいか、その日は嫌な夢は見なかった。

 ねねは俺が思い出すことを期待していたらしく、それが叶わずにがっかりとしていたけれど。

 あと悪夢は見なかったけど緊張であんまり眠れなかった。

 

 そんな日が続いたある朝、張々という名のねねの犬に起こされた。

 犬とはいってもセントバーナードっぽい大型犬、その重さで俺が潰れる。

 なんとかその下から脱出すると、ねねだけでなく恋までいた。

 疲れている俺のために愛紗が休みをくれて、ねねと恋とピクニックへ行けということらしい。

 眠れてない、ってのはねねに黙っているように頼んでいたけれど、愛紗にはばれていたのかな。

「兄殿?」

「ご主人様?」

 張々に跨ったねねの先導で山を歩いていたら、二人のことを思い出した。

「家族のこと、忘れちゃっててごめん」

 家族の思いでっぽいイベントで記憶復活ってのは関係あるのかな?

 その後、川でセキトを洗うために恋が脱ぐという無印イベントも発生。

 ……なぜか俺がねねに怒られた。

 

 

 

 劉備軍は紫苑の勧めで巴郡を攻めた。

 紫苑推薦の厳顔、魏延を仲間にいれるためだ。

 一戦して力を示さないと納得してくれないなんて理由で。

「仲間になってもらうんだったら、無駄に兵を死なすことないのに」

 またさらに眠れなくなるのかな。

 十年後の俺、よくこんなの慣れたなあ。

「けれど桔梗、焔耶ともに頼りになる者たちです。戦ってでも仲間に入れる必要があります」

 愛紗が言うには、厳顔と魏延は二周目でも劉備軍、その時は北郷軍の武将になっていたらしい。

 ならばきっと、戦うのが正しいんだろう。

 

 結局、厳顔は鈴々ちゃんとの一騎打ちの末、仲間になった。

 一騎打ちで済むなら、兵が戦わないで済んだのに! 無駄死にさせないで済んだのに!

 桔梗の記憶が復活したけれど、もっと早く思い出せれば、と落ち込む俺だった。

 魏延も戦いに敗れたからっていうよりは、桃香の魅力で仲間に。

 焔耶の記憶も戻った。

 ……ますます落ち込んだ。

 桔梗と焔耶についての知識があれば、桔梗と鈴々ちゃんの一騎打ちだけで、後は桃香が説得すれば二人とも仲間になった可能性が高い。

 セーブスロットがもっとあったら、巴郡戦が始まる前のセーブを残しておけるのに。道場へ行くことがあったらそこからやり直すのに。

 十年後の俺だったら、すぐにやり直したんだろうか?

 ……いや、そもそも知識があるんだ。最初っから一騎打ちだけにしたのかもしれない……。

 

 うう、ネガティブになってばかりもいられないか。

 取り戻した記憶で明るい材料を探そう。

 ……じゃないときっと俺、おかしくなる。

 桔梗は非処女でした。残念!

 年上処女ってカテゴリーは好みなのに。

 桃香のおかげで、俺もおっぱい平気になったのが確認できたのになあ。

 

 そういえば桃香としちゃったことがばれて愛紗に説教された後、桃香も俺の嫁ってことになった。

 十年後の俺は、抱いた娘は全部嫁にしていたってのは本当らしい。

「大事な処女をもらったのだから、嫁にするのが当然。と仰ってましたな」

「一応、抱かれる前に嫁になってくれるか? って確認はしてくれました」

 星と斗詩が教えてくれる。

「ああ、双方の同意とかにも拘っておりましたな」

 それは当然でしょ。

 しかし……処女厨で独占厨か。我ながら面倒くさいやつだったみたいだな、十年後の俺。

「戦いが全部終わったら結婚式をしようと楽しみになさっていました」

 へぅ、と月ちゃんが頬を染める。

 でも、それって死亡フラグだよね。だから二周目もうまくいかなかったんじゃないの?

「ボクたちは知らないけれど、一周目では魏の連中とは結婚式したらしいわね」

 驚きの詠情報。

 俺が華琳ちゃんたちと結婚式!?

 って、そんな記憶もちゃんとあるんだよね。肝心の華琳ちゃんのウェディングドレスは思い出せないけどさ。

 ……愛紗は北郷一刀の嫁になってたみたいだし、思い出したくない記憶もあるみたいだ……。

 

 

 

 結局やっぱり俺は落ち込んでいたけれど、一緒に寝に来てくれたねねの様子もおかしかった。

「大丈夫か? 辛いんなら今日は一人で寝るからいいよ」

「……大丈夫じゃないのです」

「そうか」

 そろそろいい加減、あの悪夢にも慣れないとな……。

 

「ねねは大丈夫じゃないのです。悩んでいるです!」

「ねね?」

 ねねと共にきていた恋も驚いている。

「ねねは、兄殿と恋殿のどっちが大事かわからなくなってるのです!」

「え?」

 俺と恋?

 どゆこと?

 

「兄殿は婿。しかし、恋殿も我が主……」

「えっと、どうしてそんなことで悩むの?」

「恋殿としたいのです! 兄殿なら恋殿とねねができるです。……でも、恋殿が兄殿に汚されるのも嫌なのです」

 いきなりぶっちゃけすぎ!

 確かに今の俺なら二人とできるだろうし、そんな記憶もある。二周目のねねも流琉と一緒にしたし。

 なんか、もう片方のジュニアの感覚、つまり自分といっしょに抱かれている方が感じられる、って俺にはよくわからない報告もあるし。

 

「兄殿の毒牙にかかるくらいなら、ねねがほしいのです! でもそれには兄殿のち●こが必要なのです」

 うん。たしかにねねは大丈夫じゃない気がする。言ってることが矛盾している。

「……恋がほしい?」

 恋が首を可愛く傾げるものだから、ねねがさらに興奮してるな。

 どうすればいいんだろう?

 

「……俺が大事ってのは?」

「兄殿がねねのことを忘れて構ってくれなくなると寂しいです」

 思わずねねを抱き上げる。

「ああ、俺が忘れちゃって寂しい思いさせちゃったもんなあ。ごめん」

「そうじゃないのです。恋殿が魅力的すぎるから夢中になって、兄殿はねねのことなど忘れてしまうです」

「もう忘れない。可愛い義妹のこと、大好きな嫁のこと、忘れない!」

 ねねを抱きしめる腕に力をこめる。

 そっとキスをする。

 

「ご主人様、ねねをいじめるの、駄目」

 ねねが恋に奪われた。

「いじめてるわけじゃないよ。大好きの証明」

「……大好き? ……恋も」

 俺の唇が恋に奪われた時、ねねの瞳が光った気がした。

 

 

「これで恋殿も兄殿のお嫁さんなのです!」

 翌朝、ねねは上機嫌だった。

 もしかしたら悩んでいる素振りもねねの策だったのかもしれない。軍師らしく。

 ……そんなことはないか。

「……恋もご主人様の嫁?」

「うん。……もしかして嫌?」

 ふるふると首を振る恋。よかった。

「ありがとう」

 そういえば嫌な夢は見なかったし、疲れたせいかぐっすり眠れた気がする。

「ありがとう、ねね、恋」

 もう一度二人に礼を言った。

 

 

 

 霞が見廻りに行くというので、俺も誘われた。

 あんまり話す機会もなかったし、ちょうどいいかとそれに応じる。

 こんな時はいつも護衛としてついてきてくれる恋とねねは、霞がいれば大丈夫と珍しくいない。恋の家族の食料調達に出かけていた。

「そういえば恋とねねと同じとこにいたんだっけ?」

「せや。後は華雄がいればみんなおるんやけどなあ」

 華雄か。袁紹軍にいたはずなんだけど、今はどうしてるんだろう?

 

「この辺でええか」

 小川で小休止して、兵隊さんたちと距離を置く霞。俺にはついてこいってことは、なにか話があるのかな。

「ウチってさ……魅力無いかな?」

 いきなりの霞の質問で、俺の記憶がまた一つ復活。

 霞に関することを思い出した。

 ……って、このイベントは無印の霞のエッチイベントなはず。この先にエロシーンの記憶がある!

 

「ウチの処女、あげる」

 エロシーン回避のために、霞が魅力的なことを力説して納得してもらおうとしたが失敗したようだ。

「簡単にそんなこと言うんじゃありません! 処女は大事にしなさい!」

 あんまり話したことない霞といきなり、ってのはどう考えても駄目でしょ、うん。

「あ、霞に魅力がないってわけでは決してないから、そこんとこ誤解しないように」

「せやけど、やっぱ」

「違うの! 俺は嫁になってくれる娘としかしないの!」

「嫁なってもええよ。愛紗も嫁なんやろ?」

 ……もしかして、それが狙いか?

 そういえば、二周目で霞とした約束叶えてあげられなかったな。

 

「嫁になってくれるのは嬉しいけど、処女もらうのはまた今度かな」

「なんでや! やっぱりウチなんて興味ないんやろ!」

 違うってば。仕方ないな。

 眼鏡を外して霞にそっと口付けする。

「こんなとこで、そんなことしちゃ可愛い霞の裸、俺以外のやつに見られちゃうでしょ。兵隊さんとかにさ」

「あ……」

「それにね、俺の相手は一人じゃ大変なんだ。ましてや初めてだったら余計にね。だから愛紗と相談してみて」

「愛紗と?」

 萌将伝の霞だったら無理だろうけど、無印イベントをこなす霞ならきっと大丈夫だよね。

 赤い顔の霞といっしょに待機していた兵隊さんのとこに戻ったら、兵もなんか様子が変だった。やっぱり覗いていたか。

 

 

 

 翠とたんぽぽちゃんが俺を遠乗りに誘ってくれた。

 ここのところ、落ち込んでいたのを察したのかもしれない。

 翠の麒麟を借りる。頭のいい馬で乗馬に未だ慣れてない俺のいうことも聞いてくれる。

 三人と三頭で走っていたら、翠とたんぽぽちゃんの記憶が戻ってきた。

「俺のお嫁さんはいるか?」

「ここにいるぞーっ!」

 たんぽぽちゃんが片手を挙げながら返事してくれる。

 

「皇一、もしかして?」

「うん。思い出したよ。競馬場での翠と俺との二人だけの秘密とかも」

「★□△○×っ!?」

 うん。この翠の焦った顔も覚えているのとおんなじだ。

「安心して。誰にも言わないから」

「ええーっ! たんぽぽ、知りたいなぁ♪」

「ひ、秘密だっ!」

 誤魔化すように翠は馬の速度を上げて、俺たちを置いていってしまう。

「残念。でも、思い出してくれてよかった」

 たんぽぽちゃんの可愛い笑顔に、俺も思い出せてよかったと思うのだった。

 

 

 

「ご主人様、どういう事ですか?」

 霞を連れて寝室にやってきた愛紗。

 やっぱり怒っているなあ。変に誤魔化さずに素直に言った方がいいかな?

「霞の初めて、いっしょにもらって」

「なっ!」

「ウチを女にしたって!」

 霞も愛紗に縋りつく。

 

「霞も嫁にするつもりですか」

 半眼(ジト目)で俺を睨む美髪公。

「……霞も納得してくれている。それに、二周目の霞と約束してたんだよ、俺」

 後半は霞には聞こえないように愛紗の耳に囁いた。

「約束?」

「愛紗が俺を置いて行っちゃったんで、約束を果たすことができなかったんだ」

 二人で呑んだくれてたっけ。短髪公になっちゃった愛紗の髪をお守りにしたりもしたなあ。

「そ、それを持ち出すのはずるいです……」

 愛紗はいまだに、二周目俺を置いて北郷一刀のとこに帰ったことを気にしている。俺が酷く落ち込んだとかも聞いたせいだろう。

「……わかりました。霞、覚悟はいいな」

「優しぃしてな?」

 いや、それは俺に言ってほしかった。

 もちろん優しくするけどね。

 

 

「ご主人様はやはりご主人様です」

「……十年後の俺と同じだった?」

 愛紗は初めてじゃなかったけど、全く問題ない。

 奪ったのは十年後とはいえ俺だし、その記憶もある。

「はい」

 霞の初めてをもらった後、双子が両方愛紗にお世話になったのも関係してるのかな。

 

 

 

 白蓮の記憶が戻った。

 その時は、仮面白馬でも山中での初体験でもなかった。

 思い出したイベントは酔っ払い白蓮。

 ……なんか残念だった。

 

 

 

 そんなこんなで俺が記憶復活したり嫁を増やしたりしてる間に、劉備軍は益州の攻略を続けた。

 天才ロリ軍師たちの策もあり順調に州都成都を制圧し、そしてその情報を益州全土に流す。

 ……ついでに小白竜の替え歌も流行ってしまったらしいのも軍師たちの策なんだろうか?

 

 桃香が蜀の王になると、呉から同盟の使者がきた。

 ずいぶん手回しいいな。きっと前もって準備してたんだろう。

 使者としてきたのは二人の少女、大喬と小喬。

 人質として蜀に残るらしい。

「この二人では人質にはならないでしょう」

 愛紗がため息。

「そうだよね。人質なんていらないよねー」

 勘違いした桃香に雛里ちゃんが説明する。

「い、いえ、大喬さんと小喬さんもご主人様のお嫁さんなんです」

 そりゃ裏切られても殺せないよね。

 

 でも、俺はたぶんこの二人を送り出してきた冥琳の思惑がわかった。

 だって二人の記憶が手に入ったから。そのためにこそ二人を寄越してくれたんだと思う。無印でもこの二人は同盟の証としてて送り込まれたんだっけ。

 そっか。双子になったジュニアの片割れは大喬ちゃんのだったのか。

「大喬ちゃん、孫策と一緒にいなくていいの?」

「……おじ様、記憶が?」

「うん。二人のことは思い出したよ」

 君たちは覚えていないだろうけど、三人で大泣きしたことも。

 だから早く孫策と冥琳と一緒にいられるようにしてあげたい。

 

 ……孫策が北郷一刀と結婚したら、俺だけじゃなくて孫策の嫁でもある大喬ちゃんの扱いややっこしくなるなあ。

 他の男には渡したくないけど。

 どうしたもんかな?

 

 




現時点での劉備軍メンバー

嫁(記憶復活済)
桃香、愛紗、翠、蒲公英
白蓮、斗詩、美羽
恋、ねね、霞
大喬、小喬

嫁(記憶なし)
星、雛里
月、詠


非嫁(記憶復活済)
紫苑、桔梗、焔耶
麗羽、猪々子

非嫁(記憶なし)
鈴々、朱里


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四十話   メイドさん?

 蜀の王となった桃香は、治安の回復と税制の改革に張り切っている。

 俺の方はいまだに勉強とトレーニングに重点をおいていた。

 読み書きできなきゃ政務もあまり手伝えないし。

 色々知ってたはずの十年後の俺だったら政務を手伝ったり、必要な策とか出したんだろうか?

 ……桃香に対する扱い考えるとそんなことはなかったのかもしれない。今は俺にできることをがんばろう。

 

 俺にできること、か。

 勉強だけでよさそうでもあるが、そんなことはない。

 身体を鍛えるトレーニングは絶対に必要だ。

 戦場で生き残るためもあるけど、それだけじゃない。

「だって見られちゃうんだもんなあ、好きな女の子に」

 十年後の俺が腹筋が割れたのを喜んだという本当の理由が、最近わかった気がする。

 弛んだお腹を見られて嫌われたくないよね。

 

 そして勉強とトレーニング以外にも、それ以上にも大事なこと。

 みんなの支えになりたい。

 ……なんか話を聞いているとおっさんの癖にマスコット扱いだったような気もするが、それでも早くみんなのことを思い出したい。

 だから、開いた時間はみんなとの時間にあてる。

 桃香たちの手伝いがあまりできないのはサボってるわけじゃない。

 いいわけっぽいかな?

 

 

 

 メイドさん二人の買い物につきあっている俺は、月ちゃんから荷物を奪うように預かった。

「あ、ありがとうございます、ご主人様……」 

「いいよ。これぐらいなら余裕だから」

 真っ赤になって照れてる月ちゃん可愛いなあ。カッコつけられたし、鍛えてて本当に良かった!

 

 二人とも今はメイドをしているが、以前は武将と軍師だったらしい。

 眼鏡で軍師な詠はともかく、この儚げな月ちゃんが武将だったとはとても見えないんだけど。

 ……季衣ちゃんや鈴々ちゃんみたいな例があるんでなんとも言えない。もしかして無茶苦茶強かったりするんだろうか?

「なにを月を視姦してるのよ、この蛇太守!」

 なんか凄いことを言われました。

「蛇太守? 太守は桃香だし、そもそもなんで蛇?」

「あんたのが双頭の蛇みたいに……なに言わせようとしてんのよ、この変態!」

 頬染めながら怒る詠。可愛いけど酷い。

 というか、俺のムスコさんが蛇だというのか? このボクっ娘は。

 なんか他でも言われてた気もするけど、双頭竜の方がよっぽどマシじゃないか。

 双頭竜の歌も流行ってるらしいし、もしかして俺の下半身の秘密って相当広まっているの?

 ……双頭だけに相当。

 寒いギャグに気づいたせいか、俺はさらに落ち込んだ。

 

「詠ちゃん、ご主人様にそんなこと言っちゃ駄目だよ」

「だ、だって、こいつ未だに月のこと思い出さないのよ、月のことその程度にしか思ってないんだ!」

 ビシっと俺を指差す眼鏡メイド。

「……ご主人様、華琳さんのことを思い出しました?」

 月ちゃんの質問に首を横に振る俺。

 思い出したいなあ。今頃なにしてるかなあ、華琳ちゃん。

「……ごめん」

 詠が謝る。

「華琳を思い出せてないんじゃ、ボクのはただの言いがかりだった」

 ……月ちゃんや詠の中では、十年後の俺の一番は華琳ちゃんだという認識らしい。

 魏の嫁たちの説明でもそうだったけど、華琳ちゃんの部下じゃない娘もそう思っているのか。

 

 買い物を続けている途中で、露店で詠が見つけたかんざしを購入。

 月ちゃんにプレゼント。

 というより、それを買う詠の財布扱いな感じの俺。

 でも、そのおかげで二人のことを思い出した。無印のイベントだね、これ。

 かんざしを着けた月ちゃんを見て、ふとちょっとした悪戯?を思いつく。

「よく似合っているよ。お持ち帰りしたいぐらい」

「へぅ……」

 記憶に合わせて眼鏡を外してから、頬に手を添えて照れる月ちゃんをお姫様抱っこ。

「こら、荷物地面に置いてなにやってんのよ!」

「詠、ごめんね。季衣ちゃんがいればよかったんだけど」

「……それって」

 詠も気づいたようだ。

 俺が月ちゃんをお姫様抱っこしたのは、二人と初めて会った時。眼鏡を奪われた俺が月ちゃんをお姫様抱っこ。季衣ちゃんが詠を抱えて、二人を救出したんだっけ。

「うん。思い出したよ、二人のこと。忘れちゃっててごめんね。筋肉痛になってでも荷物はちゃんと運ぶから安心して」

 月ちゃんを下ろしたら、二人が俺に抱きついてきた。

「……ご主人様」

「遅すぎるわよ、この愚図!」

 怒ってながらも詠の声が涙声だったのには、触れないでおいた。

 

 

 

 いつまでも避けられてばかりも嫌なので、鈴々ちゃんを探していたら城壁の上でなんか薄い本を読んでいたのを発見。

「お兄ちゃん?」

「なに読んでるの?」

「お勉強なのだ」

 その薄い本を慌てて背中に隠したせいか、今日は俺を避けるように逃げられないで済んでいる。

「鈴々ちゃんが勉強!?」

 いつも勉強させようとする愛紗から逃げているのに?

「失礼なのだ!」

 いかん、怒らせてしまった。

 なんとかご機嫌をとらないと。肉まんでももって鈴々ちゃんを探せばよかったか。

 

「偉いね鈴々ちゃん。なんの勉強してるのかな?」

「それは言えないのだ!」

 おかしい。

 鈴々ちゃんが勉強してるなんて、もっと自慢してもいいはずなのに。

 これはあれか? テスト前に俺全然勉強してねーぜ、っていう……違うか。

 でも薄い本を隠すところも怪しいし。

 

 ……薄い本?

 思い出してしまった。

「もしかしてそれ、朱里ちゃんに借りた本?」

「お兄ちゃん、すごいのだ!」

 驚く鈴々ちゃん。

 うん。俺はちゃんと鈴々ちゃんの記憶を入手できているようだ。

 

「……にゃ? もしかしてお兄ちゃん、思い出したのだ?」

 時々鋭いんだよな、この娘。

「うん。だからその本の題名、教えて?」

 鈴々ちゃんから本のタイトルを聞いて、イベントを確認できた。

 このイベントが発生したってことは、鈴々ちゃんに嫌われてたってわけじゃなくて一安心。

 でも、これに興味を持ったってことはさ。

 

「ええと、鈴々ちゃん、その本で大人になる勉強はちょっと違うかも」

「そうなの? 鈴々早く大人になりたいのに」

「どうして?」

 あんまり大きくならないでもいいのに。

「ハルマキに負けるのは嫌なのだ!」

「季衣ちゃんに?」

「ハルマキもお兄ちゃんにオトナにしてもらったって美羽が教えてくれたのだ」

 ええと、美羽ちゃんなに教えちゃってくれてるんですか。

「鈴々もお兄ちゃんに大人にしてもらうのだ!」

 大きな声でそう宣言する鈴々ちゃん。

 慌てて周囲を確認する俺。

 愛紗あたりに聞かれたら、正座でお説教数時間のコースが確定しそうだ。

 

「ふう、誰もいないようだ。……鈴々ちゃん、そういうことは大きな声でいっちゃ駄目だから。だいたい、大人になるって意味はわかってる?」

「にゃんにゃんするのだ!」

 再び周囲を見渡す俺。……心臓によくないな。

「……鈴々ちゃん、それはやっぱりその本じゃ勉強できない。だから別の人に教えてもらお?」

「お兄ちゃんに教えてもらうのだ」

「愛紗に怒られるからそれは無理」

 ならば誰に教えてもらうかだけど、熟女にまかせるとテクニックの方を教わってきそうだし、真面目な子がいいだろうな。

 愛紗……はやっぱり無理か。鈴々ちゃんにはまだ早すぎるって言われそう。

 なら、詠……は鈴々ちゃんが俺のことを変な呼び方するようになりそうなのでパス。

 あとは……苦労人の二人か。

「うん。白蓮と斗詩に教えてもらって。二人ならちゃんと教えてくれるから。……そうだね、美羽ちゃんや朱里ちゃんたちも一緒に教わった方がいいかな」

「わかったのだ」

 二人に鈴々ちゃんを丸投げどころか教える対象増やしちゃったけど、鈴々ちゃんにこんな本を渡す朱里ちゃんにはちゃんとした知識があった方がいいはずだし、美羽ちゃんは俺の嫁だけど、なんかそっちの知識が不足してる。

 ……そんな娘とやっちゃったのか、十年後の俺。鬼畜かも……。

 

 

 鈴々ちゃんのことで一声かけておこうと朱里ちゃんを探したら、雛里ちゃんもいっしょに街の視察に行くことになった。

 市を見たり、お茶して朱里ちゃんにお菓子を作ってもらうことを約束したりしてたら、二人の記憶が復活した。

「もうあんまり親子と間違われないから、若返ったのも悪いことばかりじゃないのかな?」

「はわわっ、ご主人様記憶が?」

「うん。二人にも苦労かけたね」

 頭を深く下げてお詫び。

「あわわっ、ご主人様……」

「これからも二人には世話になると思う。頼りにしてるよ」

 俺たちは恋人つなぎで手をつないで城へと帰った。

 

 

 

 今夜はねねと恋がいない。

 他の女の子がくるのかな?

 ずっと俺といっしょに寝てくれてるねねと恋。

 ……別に毎晩エッチしてるわけではない。

 俺の護衛と、慣れたのか最近あんまり見なくなったけど悪夢予防のためだ。

 エッチはたまに。

 そのねねと恋は俺の部屋に他の女の子がくる時は外してくれることが多い。

 前もって女の子同士で打ち合わせとかしてるのかもしれない。

 

 とんとんと扉がノックされる。

 誰かな?

 記憶が戻っていない娘もたまにくる。

 いろいろ話をして、俺の記憶が戻らないのがわかると悲しそうに出て行く。

 あれは辛い。胃が痛くなる。

 まあ、今蜀にいる娘で思い出してないのは星だけだからその心配は薄いか。

 ……こないだみたいに星が夜這いしてくるのは勘弁してほしいけど。記憶が戻ったらって約束して諦めてもらったもんなあ。照明がなくて暗いのに星が落ち込んだのがわかって、かなりしんどかった。

 と、考え事してたら、ノックの間隔が短くなってどんどん、どんどん、と力強く連打されてる。

「ちょっと! いないの?」

 

「どうぞ」

 俺の返事で女の子たちが入ってきた。

 月ちゃんと詠。さっき怒鳴ったのは詠だな。

 そして。

 雛里ちゃんと朱里ちゃん。

「四人できたの?」

 二人ずつの組み合わせはわかるんだけど、それが二組いっしょとか。

 月ちゃんと詠だけだったらエッチもアリかな? だったんだけどなあ。

 

「あんた、白蓮と斗詩に性教育お願いしたでしょ」

「うん。もう済んだの?」

 鈴々ちゃん行動早いなあ。

「それで、鈴々ちゃんがすぐにご主人様のところへ行こうとしまして」

「……鈴々ちゃんらしい。でも、ここにきてないってことは止めてくれたんだろ?」

「はい。ご主人様のお相手は一人じゃ大変だと斗詩さんが説得してくれました」

 そうか。斗詩もやっぱり大変だったのか。ごめんね。

 

「鈴々ちゃん、美羽ちゃんにいっしょに行こうと誘ったのですが、美羽ちゃんは妾なら一人で大丈夫じゃ! と強がってしまって」

 むう、鈴々ちゃんと美羽ちゃんが逆な気もするが、美羽ちゃん一応経験者だしな。

 それにしても、美羽ちゃんから季衣ちゃんのことも聞いていたみたいだし、いつの間に二人はそこまで仲良くなったのかな?

「それで、鈴々ちゃんは愛紗さんを誘ってしまい……たぶんまだお説教されています」

 ああ……せめて桃香だったら可能性が高かっただろうに。姉妹丼はならずか。

 

「鈴々はそれでいいとして、朱里の方が、ね」

 呆れたとも困ったともいえる表情で朱里を見る詠。

「はわわわわ……」

 ええと、それってもしかして。

 ……四人ともお風呂上りか。いい香りがしてる。

 

「勘違いだったらごめんね、朱里ちゃん。こんな時間に俺の部屋にきたってことはさ」

 はわわと唸りながら少しの間の後、こくんと頷いた朱里ちゃん。さすが天才軍師、察しがいい。

「俺でいいの? 俺は……」

 言いかけてる途中で、詠が俺の眼鏡を奪った。

「そういう台詞の時は眼鏡を外す!」

「そ、そうなの!?」

「あんたは華琳とそう約束してた」

 マジですか?

 ……華琳ちゃんとの約束なら仕方がないか。

 眼鏡を外したまま仕切り直し。

 朱里ちゃんや他の娘の頬がさらに赤くなった気がする。

 

「俺でいいの? 俺は抱いちゃったら嫁にしてるみたいなんだけど」

「ご主人様がいいです。雛里ちゃんだけじゃなくて、わたしもお嫁さんにして下さい」

「わたしからもお願いします。朱里ちゃんもご主人様のお嫁さんに……」

 雛里ちゃんも朱里ちゃんを応援する。

 この二人は一緒の方が当然なのかもしれない。

「ありがとう」

 朱里ちゃんと雛里ちゃんにキス。

 

「……で、月ちゃんと詠ちゃんも?」

「ボクたちを除け者にするつもり?」

 眼鏡の奥でギロリと俺を睨む。でも怒りとは別に顔が赤く染まっているので微笑ましいというか、可愛い。

「除け者なんてそんなつもりはまったくないけどさ、月ちゃんはいいの?」

「……はい」

 ブラボー! おお……ブラボー!!

 思わず仰け反ってジャンプして拍手したいぐらいテンション上がっちゃったよ俺!

 こんな可愛い娘たちと5Pですよ! しかもみんな処女っ!

 筋肉痛もないし、今日の俺は頑張れる!

 

 

「もっと大きい寝台を用意しましょう」

「そうだね朱里ちゃん」

 さすがに五人で寝るのは難しそうだったので、月ちゃんと詠は自室へと戻った。本当の初めてを終えたばかりの朱里ちゃんに俺といっしょに寝るのを譲ってくれたらしい。今度埋め合わせしないと。

 でかいベッドか。魏にいた時のは季衣ちゃんと流琉と美羽ちゃんといっしょに寝れたぐらい大きかった。

 けど、そんなの申請したら愛紗に怒られそうな気もする。

 ……まあ、予算を通してくれる二人が納得してるから大丈夫かな?

 桃香もすぐ了承しそうだし。

 

 

 

 

 蜀へ外敵が侵入してきた。

 しかも二つ。

 西方の五胡と南方の南蛮。

 敵軍の初動から軍師たちは西への対処を優先と判断。

 しかし南も放っておくわけにもいかないので、警備兵たちが立て籠もってる砦に兵と武将を派遣して防衛に徹することになった。

 行くのは紫苑と恋、ねね。

 

 残りは五胡との戦いへ出陣。

 俺もそっちへ同行した。

 いつも護衛してくれている恋とねねがいないのは不安というか寂しい。

 ねねの言う通り、俺の親衛隊にした方が良かったんだろうか。ねねは二周目で魏の親衛隊にいたからなあ。

 けど、王である桃香を差し置いてってのはマズイだろうし。

 ……蜀の親衛隊設立するとしたら、焔耶が間違いなく立候補するだろうな。

 なんて設営された俺のテントで考えてたら、その焔耶と桃香が入ってきた。

「ご主人様こんばんは」

「こんばんは。って寝てなくていいの?」

 焔耶は桃香の護衛かな。愛しい桃香がこんな時間に男のとこへ行くなんて見過ごせなかったんだろう。

 

「もう。せっかく会いにきたのに」

「そうは言ってもさ。こんな時に」

「いつもは恋ちゃんとねねちゃんと寝てるご主人様は一人だと寂しいよね。一緒に寝てあげようって」

 ……恋が南方へ行くと立候補した時にまったく悩まずに決めたのは、もしかしてこういう思惑があったから? ってのは穿ちすぎか。

 桃香は腹黒ってキャラ説があったから、それに引っ張られてるのかもしれない。

 

「焔耶、桃香を連れていっていいから殴るのは勘弁して下さい」

 焔耶には何度か殴られてるけど、無茶苦茶痛い。たぶんしっかり手加減はしてるはずなんだろうけど。

「なにを言ってる。貴様、桃香様のお誘いを断るつもりか!」

「え? いや、だって」

「ご主人様、今夜は焔耶ちゃんもいっしょに、ね」

 真っ赤になった焔耶を後ろから押すような位置でに桃香が微笑む。

 

「い、いいのか焔耶? 桃香がこんなこと言っちゃってるんだけど?」

 焔耶が怒って殴りかかってきても防御できるように両腕を顔の前でクロスさせながら聞く俺。

 回避? 無理でしょ。

「お、お館の……なら、桃香様と一つになれるのだろう!」

 さらに赤くなって焔耶が吠える。

「ど、どこでそれを!?」

「あ、鈴々ちゃんの大人勉強の時にわたしと焔耶ちゃんも聞いていたんだ♪」

 挙手して桃香が報告してくれた。

「ちなみに教えてくれたのは詠ちゃん。わたし、一人でしかご主人様の相手したことないからビックリしちゃった」

 詠め、余計なことを。帰ったらオシオキ……は無理そうか。月に告げ口くらいしか俺に報復手段はないのか……。

 

「じゃあその時、俺が処女をもらっちゃったら、その娘を嫁にしているってのは聞いた?」

「うん。わたしもご主人様もお嫁さんだもん♪」

 嬉しそうに胸の前で両手を合わせる桃香。

「焔耶はそれでいいの?」

「か、構わん!」

「俺以外の男とするのは絶対に許さないよ」

「桃香様とならいいのであれば問題ない!」

 どうしよう?

 ……断ったら、焔耶が震えている手で今握っている金棒の威力を味わうことになりそう。

 焔耶も可愛いし、いいかな?

 処女だし。

 俺は流されるまま、桃香と焔耶と楽しんでしまった。

 

 

 

 五胡の軍勢はあっさりと撃退に成功。鎮守府を築き、兵隊さんを常駐させることに決めて、そのまま俺たちは南方の紫苑たちの下へ急行する。

 南蛮兵たちもすぐに撤退してくれた。

 ……南蛮兵ってネコミミロリばっかだったけど。

 俺たちの援軍の数にビビったのかもしれない。

 怖がらせちゃってごめんねロリっ子たち。いつか行こう南蛮。ネコミミロリたちの夢の国。

 

 

 

 

 成都に戻った俺たちは外敵を警戒しながらも通常業務を再開。

 俺は、勉強とトレーニングに励む。

 ……はずだった。

「昼間の酒は効くねぇ」

「まぁ、ご主人様ったら」

 昼間から酒を飲んでいた紫苑と桔梗に捕まった俺は、簡単に誘いに乗ってしまっていた。

 だって璃々ちゃんも一緒にいたからさあ。

 

「お館様もいける口か」

「いや、たぶん普通だけど」

 でも、久しぶりに飲んだアルコール、結構効いてるかもしれない。

「いやいや。量の多い少ないは問題でなく……」

 思い出した。この展開はあれか。

「璃々ちゃんが聞いてるし、下ネタ禁止で」

「酒の席には下ネタがつきものですぞ」

 ああもう、桔梗酔ってるな。

 こんな時は俺も酔っちゃった方がいいんだろうな。……そんな風に考えるってことはもう酔ってるか。

「お代わりですか?」

 紫苑が次々と俺の杯に注いでくれる。

 

 

「残念ですが俺は処女じゃないと嫌なんですぅ!」

「青いのう」

 あれ?

 なんでこんな話になってるんでしたっけ?

 たしか焔耶さんに手を出したことがばれて……。

 可愛がっていた娘を嫁にやる前に、確認せねば、でしたっけ?

 酔っていますね、俺。

 

「ですからお二人のお誘いもたいへん魅力的ですが受けることができませぇん」

「酔ってるのう」

「ええ。口調がいつも以上に丁寧になってるわ」

 はい。そりゃ酔ってますよ。

「俺にはそりゃぁもぉたぁくさんのお嫁さんがいるんでぇす」

「ならば多少の女遊びなど気にすることはあるまい」

「遊びで抱くことなんてしませぇん! ぜぇんぶ本気!」

「それはそれで気が多すぎる気もしますわ」

 紫苑さんの的確なツッコミ。

 

「……わけあって今はいっしょにいれないお嫁さんも多いんです。そんな娘たちも俺のために純潔守ってくれてるんでぇす! ですから! 俺が非処女の女性を抱いたら裏切りになるでしょお!」

「嫁ではない処女を抱くのは裏切りにならんというのが、いかにもお館様だのう」

「抱いちゃったら嫁にするもぉん」

 そろそろ、ここを抜け出して部屋に戻った方がいいかもしれない。

 でも、膝の上の璃々ちゃん可愛いしなあ。お酒臭くてごめんね。

 

 

「……頭痛い」

 夕方、というか気づいた時にはもう日は落ちていた。

 起きたのは自分の部屋のベッドだったけど、幸いにも熟女が一緒に寝ていることはなかったので一安心。

 ベッドもそっちで使った形跡ないし、たぶん大丈夫だよね?

 

 

 

 呉から使者として思春、明命、亞莎がきてくれた。

 準備がいるというので少し待ってから会いにいったら三人ともメイド服……いや、これはエプロンドレスか。

 みんな似合っている。思春なんか髪を下ろしていて、イメージがだいぶ違う。

 ……イメージって言っても記憶無くしてから道場以外で会うのは初めてだったりする。

 このエプロンドレスは、許貢の残党の生首の塩漬けといっしょに華琳ちゃんが呉に送ったものらしい。元をたどれば、俺が魏の服屋に頼んでいたものだそうだ。

 ……それにしても華琳ちゃん、処罰って殺しちゃったのか。

 まだしてもいない事で殺されるなんて、そんなにも怒っていたのか。

「たぶん皇一さまが記憶を失う原因でもあったことも理由かと」

 亞莎が教えてくれる。慰めてくれてるんだろうけど、俺が理由というのもちょっと気が重い。……まあ、顔知らないんで夢に出てくることはないだろうし、考えないことにしよう。

 今は三人の姿を楽しむ方が優先。

 三人のことも思い出したしね!

 

 三人が揃ってエプロンドレス装備ってのは萌将伝のイベントだったけど、記憶は復活した。

 あれはメイド喫茶をやったはず。

 でも三人のエプロンドレス姿が魅力的で、見ただけで済んでしまった。

 ……思春がその姿を俺に見せてくれるって条件が厳しすぎるからなのかも?

 

 記憶が戻った俺はふと湧いた疑問を聞く。

「でもさ、三人もこっちにきちゃって大丈夫なの?」

 亞莎は軍師だし、思春と明命は呉の親衛隊の隊長と副長だったはず。

 

「子種を貰いにきたのです!」

「は?」

 明命、それって質問の答えになってないんじゃ?

「雪蓮様は天の血を孫呉に入れるおつもりです。ですが、私たちが北郷様の子を産むことを受け入れないので、それならば同盟国の天の御遣い様の血をと」

「自分とこの天の御遣いじゃなくてもいいの?」

「雪蓮様の命だ」

 ああ、王の命令じゃ仕方ないか。

 

「俺としては凄い嬉しいんだけどなにか裏がありそうな……だいたいなんでこの三人なの?」

 エプロンドレスもらったのがこの三人なせいなのかな?

「皇一さまはおっきなおっぱいよりも、小さなおっぱいの方がお好きだからなのです!」

 宣言したとおり胸を張る明命。そこまで小さくはないと思うんだけど、巨乳どころか爆乳揃いの呉だと小さい部類になっちゃうのかもしれない。

「それならわかるけど……って、俺の好みとかまでばれてるの!?」

「皇一さまは小さな胸とか小さい娘が大好きなのです!」

 妙に嬉しそうで幸せそうな明命。たしかに俺の好みに合致している。

 ……小さい娘っていうのは背が小さいだけじゃないんだけどね。

 

 その明命に申し訳なさそうに亞莎が本命ともいえそうな理由を教えてくれた、

「……たぶん雪蓮様は思春さんがいない内に、蓮華様と北郷様の仲を後押しするつもりなのではないでしょうか」

「孫策って蓮華のお姉さんだよね、そこまでするかな?」

「この案を考えたのは張勲さんです」

「だから早く済ませて蓮華様の元に戻らねばならん!」

 俺の胸ぐらを掴みかねない勢いで思春が迫る。

 そうか。思春が俺のためにエプロンドレス着てくれるなんて出来すぎてると思ったけれど、蓮華のためという理由があったのか。嬉しいから別に構わないけど。

 

 

 俺とエプロンドレス三人との幸せな時間が終わると、三人はすぐに着替えて帰って行ってしまった。

 まあ、子種がほしいってことだったので、じっくりたっぷりと結構時間が経っちゃったけど。

 誰か命中してるかな?

「貴様が思い出すまで帰ってくるな、との命だったが既に思い出したのだ。問題あるまい」

「名残惜しいですが、またいずれ」

「ご達者で」

 俺は三人を見送った。

 うん。思春と明命のふんどし、後ろから眺めるチャンスだし。

 いつもならすぐに見えなくなっちゃうのに、初めての後でしかも俺がんばっちゃたから動きがぎこちないし。

 しっかりと目に焼き付けておこう。

 

 ……俺の嫁なはずの蓮華が心配な自分の心をそう誤魔化すのだった。

 

 



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四十一話  にょ?

 張勲の策略と聞いて心配していた蓮華。

 美羽ちゃんや猪々子はともかく、斗詩から聞いた話では一筋縄ではいかない相手らしい。

 そのサポートを受けた主人公こと北郷君の誘惑。

 心配すぎる。

 まだ思い出してないけど、俺の嫁なんだし!

 

 だが、その心配はすぐに解消された。

 蓮華が成都にやってきてくれたからだ。

 北郷君を猛プッシュしまくった孫策のことを怒っていたが、別に姉とケンカして家出したわけでもないらしい。

「同盟国の様子をこの目で確認するため」

 そう蓮華は言っていたが、当然のようについてきた思春がこっそり教えてくれた。

「……酔った蓮華様が北郷を怪我させてしまったのだ。蓮華様も責任を感じてしまって……そんな必要はないというのに」

「怪我? 責任を感じる程重傷なの?」

「ただの骨折だ。華佗もいるのだ、騒ぐほどのものでもない。その上、奴は気にするなと言いながら蓮華様に近づく始末」

「骨折ってそりゃ蓮華も気にするんじゃ……」

 北郷君も本当に気にするなって思ってるのかもしれないし。

 

「蓮華様に飲酒させたのだ。それぐらいの覚悟があってしかるべきだろう!」

「……ええと、もしかして蓮華って酒癖悪い?」

 酒癖悪かったのってたしか張飛だったような……他にいてもおかしくないか。

「機密事項だ」

 真面目な顔で言われてもね。それって肯定しちゃってるよね?

「いや、それってもしかしたらお酒飲ませたのは北郷君じゃなくて……蓮華と北郷君をくっつけようとする人の策だったんじゃ」

「……貴様もそう見るか?」

「張勲?」

「たぶんな。我らが呉に戻るのが遅れていれば危険だったかも知れん」

 思春たち、この前きた時はエプロンドレス着て、して、すぐに帰っちゃったもんなあ。

 寂しかったけれど、それで正解だったのかな。

 北郷君の急接近に焦った思春や軍師さんたちが説得して、同盟国の視察という名目で蓮華を寄越してくれたそうだ。

 

 

 うん。たしかにピンチだったかもしれない。

 戻ったばかりの蓮華の記憶から、俺もそう判断できた。

 俺の記憶が戻ったのは、蓮華の姿によるものが大きい。

 今いる場所は俺の部屋。桃香たちとの話が終わった蓮華が俺と二人だけで会いたいというので応じた。

 蓮華が着ているのは、無印で蓮華が北郷君に貰った服。

 普段のへそ出し、オーバーニーとは違う服。

 ミニスカートに思わず足に視線が向かう俺。あんまりにもじっくりとその生足を眺めていたせいで、すぐに気づかれてしまった。

「もう、そんなに見ないで」

「ごめん。よく似合っているよ」

「ありがとう。でも、足ばかり見ていない?」

「……ばれてた」

 そして、ぼんやりとあるヴィジョンが浮かんだので思わず要求してしまう。

「膝枕、してくれない?」

 無言でベッドに座ってくれたってことはいいのかな?

 蓮華の膝に頭を乗せた俺はその生足を堪能し、双丘のむこうの蓮華の顔を眺めていたら記憶が復活した。

 贈られた服で蓮華が膝枕をしてくれるイベント。無印のイベントだ。

 

 思い出した、そう告げようとしたら俺の眼鏡に水滴が落ちてくる。

 室内なのでもちろん雨ではない。俺を覗き込んでいる蓮華の涙だった。

「膝枕をしているのが悲しいの?」

 もしかして、俺じゃなくて北郷君にしたかったとか?

 

「そうじゃない……」

「す、すぐにどくから」

 頭をどかそうとしたら、蓮華の手が俺の頭部をおさえつける。

「もう少しこのままで……」

「う、うん」

 逃げないからもう少し力を緩めてくれると嬉しい。……けっこう痛い。

 

「あの」

「私のことを思い出してくれないのは、そもそも私と皇一さんには思いでがほとんどない。そのせいなのでしょう?」

 思い出した、って言おうとしてるんだけど。

 でも、泣いてた理由も知りたいしもう少し蓮華の話を聞こう。

「私の方だって思い出せるのは……二度の初めてぐらいだもの」

 蓮華の頬が染まっている。涙は止まったかな?

「あとは、勉強会と道場のことしかない」

 道場はともかく、勉強会ってなんだっけ?

 …………だいたい思い出してるけど、そんな記憶はない。ないったらない。うん。

「思い出すほどのものなど……元からないの」

 

 そういえば二周目では俺、蓮華関連のイベントほとんどこなしていない。

 もしかしてやるだけの関係だった?

「そんな男の嫁になっちゃったの、後悔してる?」

「いいえ。私たちは、孫家はあなたに恩がある。後悔などはないわ」

 ……それもちょっと嫌かも。我ながら我侭だけどさ。

 頭をおさえている蓮華の手に俺の手を重ねる。

「嫁になってくれたのは、恩があったから、だけ?」

 途端に蓮華の顔がさらに真っ赤になった。

「それ以上の感情もあったって思っていい?」

「……はい」

 よかった!

 本当によかった!!

 

 重ねている蓮華の手を、俺の首へと誘導する。

「繋がってるよね」

「え?」

「蓮華が初めて道場から戻ってきた時、こうして確認してくれたよね」

「え、ええ!」

「思い出したよ。たしかに少ない思いでなのかもしれないけれど」

 ええと、こんな時は眼鏡を外すんだっけ?

 ううっ、我慢して眼鏡を外して、と。

「思いではさ、これからもっと増やせばいい」

 ……膝枕されたままカッコつけてもしょうがないような気もする……。

 

 

「もしかしてこの服……北郷君に貰ったの?」

「ど、どうしてわかるの? ……でも袖を通したのは今日が初めてよ。思春がこれをあなたに見せろって」

 ありがとう思春。

 ありがとう北郷君、いやもう一刀君と呼ばせてもらおう。おかげで記憶が復活しました。本当にありがとう。

 そしてごめんなさい一刀君。やっぱり蓮華は俺の嫁です。

 お礼とお詫びを兼ねて、一刀君には後でなにか贈ろう。

 

「思春は呼ばなくていいの?」

 たぶんすぐに来る……というより、すぐそばに潜んでいると思うけど。

「私は皇一さんの嫁なのに、……北郷に心揺れることがなかったわけじゃないの」

 ……わかる気がする。戻ってきた記憶でもゲームの一刀君はいい男だもんなあ。ギャルゲ主人公様の攻撃によくも耐え切ってくれたと褒めてあげたいぐらいだよ。

「浮気はしてないんならいいじゃないか。……一人だと辛いよ。ましてや、蓮華は初めてなんだし」

「ううん、私が許せないの。辛いのはその罰。それに、華琳や愛紗……思春も穏も初めてで両方をしたと聞いたわ……」

 耳まで赤くなっている蓮華。

「いいの?」

「私も身体の全てであなたを感じたいの」

 

 

 

 ぐったりとしている蓮華。

 そりゃ国宝級の美尻までも堪能させてもらったのだから、身体の負担も大きかったのだろう。

 しかも、記憶にもなかった長髪蓮華とのエッチ。

 短いのもいいけど、長いのもいい。

 気がつけば俺は無意識の内に蓮華の髪を撫でていた。

「この髪は姉様が生きている証。あなたのおかげ」

「綺麗な蓮華の髪を守れたってことは、記憶を失った甲斐があったのかな?」

 そうとでも思わないと、自殺した十年後の俺が浮かばれない。

 華琳ちゃんのための自殺だったって魏のみんなは言ってくれたけど、長い間華琳ちゃんに悲しい顔させてしまったし。

 

「……私たちのことを忘れてしまったと知った時は、母様や姉様が死んだ時と同じくらい悲しかった」

「ごめん」

 華琳ちゃんだけじゃなくて、他の娘たちも悲しませてるんだよな……。

「早くシャオのことも思い出してあげて。あの娘も元気がないの」

「うん……」

 こんな時にもお姉さんなんだから。

 

 

 

 思春たちがきたり、蓮華がきたり、帰っちゃったりしながら、五胡撃退から二ヶ月が経過した。

 華琳ちゃんとの戦いに備えて南蛮制圧を行うことになった。

 南蛮か。ネコミミロリたちが兵だったけど、どんなとこなんだろう。

 朱里ちゃんの説明だと暑くて、虫が一杯いて、密林が生い茂っているらしい。……ジャングルだな。でっかいカブトムシとかいそうだ。

 あ、でももしかしたら渡航前の予防接種とか必要なレベルなんじゃないだろうか? 薬とかも用意してもらおう。

 それぐらいしか情報がないらしい。ネコミミの生態とかはないのか。

 二周目では蜀は南征の余裕がなかったらしく、愛紗も詳しいことは知らない。

 

 暑い。蒸し暑い。

 南蛮にきたはいいけれど、兵糧と水の確保が不安だと軍師が困っている。

 現地調達しようにも毒水と呼ばれるこの辺りの水。

 ええと、蒸留すればいいんだっけ? ……このくそ暑いのにそんな作業やってられないか。道具もないし。

 じゃあ、濾過装置か。

 実は簡単な濾過装置のつくり方なら覚えている。布とか石とか木炭とか砂を使うやつ。

 以前にプレイしたエロゲーで飲尿シーンがあって、それを受けつけなかった俺。

 でも、出してる方のキャラはかなり好きで、どうすればいいかなんて真剣に悩んでいろいろ調べた結果だ。

 濾過してまで飲尿したいか? と、この案は捨てたけど。

 当時の俺は馬鹿だったなあ。……今の俺? 嫁のなら平気かもしれない。

「それで濾過したら十分以上沸かしてから試して」

「さすがご主人様です!」

 どうして知ってるかは教えられないけどね。

 

 七縱七禽で南蛮大王は桃香に降った。

 可哀相な罠もあったが、その途中で俺は孟獲、南蛮兵たちの記憶を入手していた。

 ネコミミロリはやっぱりいいなあ。衣装もすごい露出だし。

 早く明命にも教えてあげたい。

 

 

 

 美以ちゃんたちも成都に居ついてくれた。

 美以ちゃんは美羽ちゃんや鈴々ちゃんと仲良くなったようだ。

 首輪繋がりなのか、大喬ちゃん、小喬ちゃんとミケ、トラ、シャムがいっしょにいるところも目撃した。

 一方、翠の様子がおかしい。

「なにか知ってる?」

「うん。今夜、皇一さんのお部屋にいくね♪」

 たんぽぽちゃんに聞いたらそんな返事が帰ってきた。

 

「その衣装は?」

「華琳が送ってきてくれた。元は皇一が服屋に頼んだものだって」

 答えてくれたのは翠。たんぽぽちゃんだけじゃなくて、翠もきてくれた。

 そして、二人ともゴスロリ装備。

 二周目で俺がプレゼントした服。

 十年後の俺が魏で注文していた服。

「送ってくれるなんて、華琳ちゃんも律儀だなあ」

「……ああ。だから迷っている」

「え?」

「南蛮も手に入れて、蜀はだいたいまとまったと思う」

「あ」

 そういえば翠とたんぽぽちゃんって。

「うん。もう任務はだいたい済んじゃったかな? 後はこの先どうするかをお姉様が決めるだけ」

 二人は華琳ちゃんの命令でこっちに味方してくれてたんだっけ。

 

「母様を治療してくれた華琳への恩は、二周目ん時に返したつもりだ」

 三周目の今は、自分で華佗を探してきて治療してもらったから、華琳ちゃんに恩はないらしい。

「けど、魏には母様がいる」

 馬騰は華琳ちゃんに競馬で敗れて、魏の客将になっている。

「でも、桃香さまのことは嫌いじゃないし」

 うん。元々翠はこっちの陣営のはずだから、悩んでいるんだろう。

「それに……皇一もいるし」

 うっ。赤面して上目づかいに見られたら、俺も照れる。

「あ、ありがとう」

 

 

「やっぱり、皇一のそばがいいな」

 俺の腕枕で眠る翠は裸だ。

 ゴスロリで寝るわけにいかないし、俺と愛を確かめ合った後だし。

「嬉しいけど、ちゃんと考えて」

「お姉様が決めたんなら、たんぽぽはそれに従うよ」

 たんぽぽちゃんは、反対の腕で腕枕中。当然、全裸。

 翠と同じように髪も解いていていつもとは違った可愛さがある。

「あとね、翠がどう決めても翠もたんぽぽちゃんも俺のお嫁さんだから」

「……わかった」

 俺の嫁ってことに納得してくれてるんだろう、二人が俺にさらに密着してくる。

 その感触に疲れ果てたはずの双子が立ち上がる。

「あとね」

「まだあるのか?」

「もう一回、いい?」

 ……結局、もう一回じゃ済まなかった。

 

 

 

「そっか。翠も五虎将ってのになったんだ」

 翠は桃香を選び、蜀に残ることにした。もちろん、たんぽぽちゃんや配下の騎馬隊もいっしょにだ。

「ええ。馬騰を魏に残したままなのが怪しいと疑う者もいますが、翠にそんな腹芸はできないというのが軍師たちの一致した意見」

 同じく五虎将になったはずの星の話に頷いて、運ばれたばかりの焼売を頬張る。

 柔らかい皮の中から、たっぷりの肉汁が……。

「熱っ!」

 慌てて水を飲んで口内を冷やす。

「主は猫舌であったな」

「うん。猫っぽい美以ちゃんたちの方がよっぽど熱い料理得意としてる」

「どれ」

 箸で焼売をとり、ふーふーと冷ましてくれる星。

「主、あーん」

 そ、そうきたか!

 勇気を振り絞って口を開ける俺。店主は厨房で、俺と星しかいない店内なのに滅茶苦茶に恥ずかしい。今たぶん俺の顔は真っ赤になっている自信がある。

 星が俺の口に焼売を運ぶ。

「ふふっ。どうですかな?」

 そう聞かれてやっと俺は咀嚼を始めることができた。

 

「……美味いな」

 うん。なにかわからない触感が混じっているけれど、確かに美味い。

 なんだろう?

 その正体が判明した時、俺の記憶が復活した。

 蜀の嫁で最後に残っていた星の記憶が。

 

「メンマ園……」

「おや、主もご存じでしたか。さすがですな」

 そう。ここは成都にできたメンマ料理専門店。星のオススメの店。

 ……まさか、メンマで記憶が復活するなんて。

 いや、星が俺の記憶が戻るように差し入れてくれたのはメンマと酒ばっかりだったけどさ。あと、夜這い。

 

「……まだ華蝶仮面で思い出した方が、こんな微妙な気持ちにならないで済んだかもしれない」

「なんと!」

 メンマを前にしながら、星が箸を置いて真剣な表情になった。

「やっと、思い出していただけたのか」

「うん」

「ならば、祝わない手はない。店主、酒を」

「午後もまだ仕事あるでしょ!?」

 星の追加注文を慌てて止める。

「いや、あまりの喜びに浮かれすぎましたか。祝杯は今夜にしましょう」

「そうだな。星のことまだ思い出さないのかって、白蓮も随分気にしていたから彼女も呼ぼう」

 白蓮いい人すぎる。

 

「ふむ。主がそう言うのなら……別に私一人でも受けきれる自信はあるのですぞ」

「自信?」

「主……約束を忘れたわけではあるまいな?」

 うっ、なんか星が怖い。

 約束って……ああ、夜這いしてきた時に記憶が戻ったらって、誤魔化したあれか。

「覚えてるよ。もちろん! ああ、今夜は楽しみだなあ!」

 わざとらしくはしゃぐ俺。

「ならば当然、良い酒を用意しておいてくれると信じていますぞ」

 ……やられた。さっきのは怒ってなかったのか。

 まあいいや。白蓮も誘って今夜は飲むことにしよう。

 

 

 

 今度はシャオちゃんが成都にきた。

 政略結婚で俺の嫁にってことらしい。

 ……既に俺の嫁なはずだけど。

 これも張勲の策、なのかな? 張勲、シャオちゃんが俺の嫁って知らなかったのかな?

 妹に俺を取られた蓮華が一刀君になびく、とか?

「なんかもう面倒くさくなったんじゃない?」

 シャオちゃんはそう言うけど、それもどうかと。

 

 シャオちゃんがきたということでその代わりに、人質だった大喬ちゃん、小喬ちゃんが帰ることになる。

 ……シャオちゃん、ホントに嫁として居つくつもりなのか。

「あとで孫策さまといっしょにお願いします」

「え?」

「その時は冥琳さまとあたしもいっしょだからね!」

 別れ際にそう約束して、二人は呉へと帰ってしまった。

 孫策は俺の嫁じゃないから無理っぽいんだけど。

 一刀君を種馬にした張本人なんだから、一刀君とすでにできてるんじゃないかな?

 ……もしかして大喬たちを呼び戻したのは、いっしょに一刀君と……いや、考えるのはよそう。俺は嫁を信じる!

 

 

 気づいたら膝争奪戦が発生していた。

 俺の膝に誰が座るかというあれである。

 美羽ちゃん、シャオちゃん、鈴々ちゃん、美以ちゃん、ねね、とメンバーがかなり違うけど萌将伝のイベントだ。

 ロリっ娘がこんなにたくさん。しかもみんな美少女。

 やめて、俺のために争わないで!

 言ったけど聞いてもらえませんでした。

 ……でもおかげでシャオちゃんの記憶も復活した。面子違ったけど大丈夫だったみたい。

「シャオちゃん、思い出したよ」

「ホント?」

「生えてるか確認させてくれる?」

「もう、皇一ったら♪」

 記憶が戻っただけじゃなくて、このイベントのおかげでシャオちゃんとみんなも仲良くなった。

 

 仲良くなったせいなのか、美羽ちゃんとシャオちゃんが夜這いにきた。

「大喬帰っちゃったから一人でもよかったんだけど」

「君たちは一人じゃ無理」

 いくらなんでもロリたちに双子両方の相手は大変すぎる。

「妾とて余裕なのじゃ! け、けど主様が言うのじゃ仕方あるまいの」

 そういえば美羽ちゃんは鈴々ちゃんの誘いを一人で大丈夫だって断っちゃったんだっけ。

 

「でも、まさか美羽ちゃんとくるなんて。孫家の人って美羽ちゃんのこと嫌ってると思ってたから」

「たしかに苦労させられちゃったけど、それは七乃のせいだった。って冥琳たちも言ってるしシャオもそう思うもん」

「張勲のせい?」

 まだ張勲のこと思い出せてないんだけど、そんな悪人なの?

「美羽がちょっと足りないのも、張勲が甘やかしたせいなの」

 ……勉強をよくサボるシャオちゃんが甘やかしたって言うぐらいなんだから、相当なんだろうな。

「そうじゃ。七乃は凄いじゃろう!」

 得意気に喜ぶ美羽ちゃん。

 俺とシャオちゃんが顔を見合わせる。

「こんなだから。それに皇一は、妻同士が仲良くしていないと泣いちゃうでしょ」

「……うん」

 否定してもしょうがない。たぶん泣く。

 

「華琳が一番なのはわかっているけど、今夜の皇一はシャオと美羽のものなんだから!」

「うむ。妾とシャオのものじゃな!」

 この娘たちですら、華琳ちゃんが一番扱いなのか。早く思い出したいな……。

 

 




現時点での劉備軍メンバー

嫁(記憶復活済)
桃香、愛紗、朱里、雛里、星、翠、蒲公英、焔耶
小蓮
白蓮、斗詩、美羽
月、詠、恋、ねね、霞


非嫁(記憶復活済)
鈴々
紫苑、桔梗
麗羽、猪々子
美以、ミケ、トラ、シャム


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四十二話  ちち?

「発情期? サカリがつくあれですか?」

「うん」

「それがなにか?」

 意図が読めないと、首を捻る愛紗。

「いや、南蛮の人間には発情期があるらしい」

「は?」

「まあ、人間と兎は年中発情してるっていうけど」

 だからバニーさんは兎なんじゃなかったっけ?

 ……今度バニースーツ作ってもらおう。誰が似合うかな?

 

「あの子たちにも発情期があると?」

 質問しながらも愛紗の顔は緩みっぱなしだ。

 その視線の先には、恋とともに庭で昼寝中の美以ちゃん、ミケちゃん、トラちゃん、シャムちゃんの南蛮娘たち。

 ねねがいないのは会議中なのかな。詠や猪々子、焔耶との攻略会議。あ、霞もか。

「だから、もしその時は愛紗も力を貸して」

「……美以たちにも手を出すつもりですか?」

 ギロリ、と俺を睨むがそれも一瞬。すぐにまた緩む愛紗の顔。

「たしかに美以ちゃんたち可愛いけどね。発情とかじゃなくて、好き同士じゃないと俺は嫌だし。……もし発情しちゃったら隔離して、男を近づけないようにして」

 それで駄目だったらその時考えよう。

 

 ……そういえばミケちゃん、トラちゃん、シャムちゃんのエッチイベントの記憶はあるけど、他の南蛮兵たち、ミケちゃんたちと同じ顔の量産型ちゃんたちはどうしたんだろう?

 発情期はあるはずだろうし、まさか全員一刀君が相手をしてたのか?

 それとも南蛮上層部だけが発情期が早く発生して、他はもっと後で発情期がくるとか?

 だいたい南蛮兵だけが女性のみで編成されてるというのもおかしい。

 もしかして、顔と格好は同じでも男が混じっているのか? それなら納得がいくけど……納得したくない。というか、確認したくない。詳しく調べない方がいいかもしれない。

 ……でも、南蛮兵が一気に発情期になったら大変だよなあ。

 

 

 蜀が南蛮を制圧したりシャオちゃんが嫁にきたりしてる間にも、華琳ちゃんは戦争の準備を進めていた。

 大規模な軍事行動を起こすべく、各地方に総動員令を発したとの情報が入っている。

 うちの軍師たちも蜀全土に緊急召集を掛ける。

 魏軍の目標が呉と判明するが、予断を許さない状況なのはかわらない。同盟国だし。

 内政に力を入れる桃香。

 兵、兵糧、軍資金。集めるものは多いが備えなければならない。

 やっと多少なりとも覚えた読み書きで、俺も政務を手伝おう!

 とはいえ、俺にできそうなことなんて限られてるんだけどね。

 

 量産型の南蛮兵ちゃんたち見ないなあと思ってたら、うじゃうじゃ出てきた。しかも仮面つけて。

 うん。華蝶仮面とむねむね団のイベントみたい。

 ……むう。今まで見なかった南蛮兵ちゃんたちがこんなに。ミケちゃんたちは召喚か分身を使ってるのかもしれないな。きっとそうだ。

 南蛮量産型ちゃんたちのことを考えるのを放棄して、仮面の戦いを眺める。

 恋も朱里も仮面つけてるし。白蓮まで。

 ……俺も作ろうかな、仮面。眼鏡奪われた時も使えそうだし。

 まあ、仮面つけても強くなるわけじゃないからやらないけどさ。

 

 イベント通りに華蝶仮面たちをフォローして、街の警備に取り込む。

 苦情対応以外の仕事できたかな?

 ……これも苦情対応かもしれないか。

 でも、賊は捕らえたけど、むねむね団は逃がしてしまった。

 後で麗羽をお仕置きしよう。

 ちっちゃいおっぱいを大きくしようとする邪悪な集団を許すわけにはいかない!

 

 

「なんですの皇一さん? 私をこんな所に呼び出して」

 なにか期待してるのか赤い顔の麗羽。

 呼び出した、と言っているが正確には呼び出したわけではない。麗羽と猪々子は現在、縛られている。

 麗羽はともかく、猪々子は暴れられたら危険なので星に捕縛を依頼、俺の部屋に連れてきてもらったのだ。

 あと斗詩は縛られていない。その必要ないしね。

 

「むねむね団禁止」

「なんのことですの?」

 む。とぼけるつもりか。

 ……マジで忘れてるんじゃなきゃいいけど。

「猪々子もなんで止めない?」

 麗羽と同じく趣味的な縛りを施された猪々子に問う。

 ……貧乳は大好きだけど、その縛り方は胸があった方が映えるかもしれない。

「だってさー」

「斗詩に苦労ばっかりかけないの」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「斗詩……」

 即座に謝り出した不憫な嫁を抱き寄せて囁く。

「……もしかして昨日きたのって、俺としたかったのじゃなくて麗羽が馬鹿やりそうって教えにきてくれた?」

「……はい」

「そっか。早とちりしちゃってごめんね」

「い、いえ。……嬉しかったです」

 昨夜、初めてをもらったばかりの嫁とのいい雰囲気。

 予定通り麗羽へのお仕置きは食事抜きに決定しよう。さっさと斗詩としようと麗羽に猿轡をかます。

 猪々子はどうしようかな?

 

「ちょーっと待ちな!? なに? 斗詩、アニキとしちゃったっての? あたい抜きで!?」

「だって俺の嫁だし」

「ご主人様」

 抱き寄せたままの斗詩の頬がさらに真っ赤に。

 

「斗詩はあたいの嫁だ!」

 縛られたまま、もぞもぞ動き出す貧乳非ロリっ娘。

 顔を真っ赤にしてるのは、照れてるとかじゃなくて力んでるせいだろう。

 猪々子も怪力だしやばいかもしれない。

「たしかここを……」

 猪々子が暴れるようなら、と星が教えてくれた通りに猪々子を縛っている縄の一部を引く。

「ひぅ!」

 うん。猪々子から力が抜けた。敏感な場所にちょうど当たっている結び目が押し付けられているようだ。

 ふむ。なるほど。

 

 

 

「も、もう止め……」

 力んでるのとは別の真っ赤な顔で泣きそうになっている。

「これ以上やったらお漏らししちゃうかな?」

 猪々子もそんなイベントの記憶あったし。

 ここまでにしておこう。

「……せっかく、斗詩と二人でアニキんとこいこうと思ってたのに。斗詩いないから諦めたのにぃ……」

「文ちゃん……」

「今からでも遅くねえ! アニキ、チ●コ貸してくれ!」

 ……お仕置き続行決定。

「駄目。俺のは嫁専用だから」

「そんなこと言わずに。あたいと斗詩のためにケチケチしねえでさあ」

 俺は双頭バ●ブじゃない!

「……わかった。猪々子はそこで見てるように」

 猪々子にも猿轡して、俺の方は眼鏡を外して、と。

 

 

「斗詩、斗詩ぃー」

 猿轡を解いた途端、猪々子マジ泣き。

 うん。猪々子の前でいちゃいちゃたっぷりに斗詩を可愛がった甲斐があったな。

 ……俺ってこんなにSだったけ?

「つ、次は私ですのね?」

 麗羽の猿轡も解いたんだけど、なに言ってんの?

「いや。だって俺のは嫁専用だし」

「なにをおっしゃってますの? それではお仕置きにならないですわ!」

「むねむね団のことは認めるんだ?」

「なんのことですの?」

 もっかい猿轡。

 

「ご主人様、文ちゃんのことも……」

 自分の胸で泣きじゃくる猪々子に同情したのだろう、斗詩が俺にそう言ってくる。

「そうだそうだ斗詩の言う通りだ!」

 ……あんまり反省してない?

「斗詩に迷惑かけない?」

「お、おう」

「俺の嫁になる?」

「なるなる!」

 やっぱり反省してないよね?

 ……なんだろう、今日の俺はやっぱりSモードなのかな?

 

「斗詩、斗詩ぃ」

 猪々子再びマジ泣き。

 猪々子も嫁にしたんだけど、斗詩といっしょにじゃなくて。一人で双子の相手してもらった。

 大好きな斗詩の目の前で初めてを、しかも縛られたまま両方同時に奪われるという。

 身体もそうだけど精神的に堪えたはず。

「文ちゃん、ご主人様、どうだった?」

 斗詩が笑顔でそう聞いてくるもんだから、さらに泣いちゃってるし。……斗詩もわかっててやってるっぽいなあ。

 

「あ、あたい、斗詩じゃないやつの嫁に……」

 ひっくひっくと泣き続ける猪々子。

「反省したかな?」

 俺の嫁になったのは認識したみたい。でも「ひっ」って俺を怖がるのはショックだ。

 そこまで激しく……しちゃったかな?

「こんなあたい、斗詩に見られたくないよぅ……」

 普段気の強い娘に怯えた目で震えながら言われるとゾクゾクくる。

 じゃなくて!

 やりすぎた!!

 嫁となった以上、ここまでやっちゃマズイよね。

 

「安心して」

 斗詩にキスしてから優しく猪々子の唇を奪う。

「斗詩も猪々子も俺のお嫁さんだから」

 斗詩と協力して猪々子の縄を解く。

 

 

「へへ。斗詩ぃ……アニキぃ」

 すりすりと顔を擦りつけながら、俺と斗詩との余韻に浸っている猪々子。

 ふう。猪々子の瞳からハイライトが失われる事態は避けられたようだ。

「本当に文ちゃんを感じるんですね、ご主人様」

 俺の双子の機能に驚いている斗詩。そういえばずっと一人で俺の相手をしてたんだっけ。

 

「つ、次こそ私の番ですのね!」

 あ、麗羽まだいたんだっけ。

「お仕置き終了。猪々子に酷いことしちゃった」

「ううん。アニキならいいんだぜ。なんたってあたい、アニキのお嫁さんだし!」

「文ちゃんたら」

 元気になった猪々子を斗詩と二人で撫でる。

 

「わ、私は?」

「だから終了。もういいよ」

 麗羽の縄を解いた。麗羽は暴れてないから跡にはなってないな。

 これ以上Sモードやったら、戻れなくなりそうだし。

「ず、ずるいですわ! 文醜さん、顔良さん!」

 泣きながら麗羽は部屋を出て行った。

「あーあ、泣かせちゃった」

「あれはないですよぅ」

 ……猪々子や麗羽に辛くあたったのは、せっかくやる気を出して政務を手伝おうとしたのに、回されてくる仕事が麗羽の苦情対応ばかりだったというのは、ほんのちょっとしか関係してない。はずだ、たぶん。

 いくら俺が美羽ちゃんの保護者扱いで、美羽ちゃんと斗詩が俺の嫁だからって、袁家関係の問題全部よこさないでほしい。

 ……麗羽が問題起こしすぎなんだよな。たしかこういうのは白蓮担当だったはずと記憶がいってるけど、白蓮にはちゃんとした政務手伝ってもらってた方がはかどるんだよなあ。

 

 麗羽の世話まかせっきりだったのって白蓮飼い殺し状態じゃん。

 軍師たちはそれ狙ってたのかな。桃香の兄貴……姉貴分って立場が微妙だから。

 ……そう思ってたけど、袁家の対処はハードすぎる仕事でした。白蓮凄い!

 

 

 

 泣かせちゃってからなんか麗羽がおとなしくなったみたい。

 余計な仕事が減ってほっとしながら、この先をみんなと相談する。

 といっても未だ記憶が不完全な俺には、赤壁で勝つ、ぐらいしかわからない。

 赤壁ってたしか、朱里ちゃんが風おこして勝つぐらいしか思い出せない。

 ……その後は?

 

「魏を倒すまで戦うことになるのかな?」

「いえ、それは無理でしょう」

「……天下三分の計、だっけ?」

 三国が争わないで済むようになる状態が、蜀の目指す目標。

 それが達成できればクリア扱いになるのかな?

 二周目まではクリアできなかったけど、クリアできたらどうなるんだろう?

「十年後の俺は、最後どうなるって言ってた?」

「戦いが終わったら結婚式をしようとよく仰ってました」

 うん。それは聞いたよ雛里ちゃん。

 結婚式エンドがあるのかな?

「元の世界に戻るつもりはなかったみたいだったのかな?」

「え? ご主人様、天へ帰っちゃうの?」

 驚いた顔で桃香が俺を見る。

 桃香だけじゃない。みんながじっと俺を見ていた。

 

「いや、せっかくお嫁さんになった娘を残して帰るつもりなんか、全くないし」

 帰る方法もわからないしね。

「そ、そうだよね」

「ご家族に会いたいという思いはないのですか?」

「みんなを紹介したいってのはある。俺のお嫁さんだって」

 みんな一斉に赤くなっちゃった。

 でも、もしもそれができたとしても問題なんだよなあ。

「もし戻れても十年後の世界じゃ、俺大変だろうな。本人証明とかできないかもしれない」

 帰れても困るだろうなあ。

 せめて記憶だけでも全部復活してればなんとかなるかもしれないけどさ……。

 

 

 

「ご主人様……」

「ありがとう愛紗。おかげで助かった」

 泣きそうな愛紗の頬を撫でる。

「そうおっしゃいますが、私は役に立てませんでした」

「そんなことないさ」

「そうにゃ」

「元気だすにょ」

 ミケとトラも愛紗を慰める。シャムは寝てる。

「愛紗と兄が手伝ってくれたからみんなの発情期おさまったのにゃ!」

 

 結局、美以ちゃん、ミケちゃんトラちゃんシャムちゃんたちの発情期は隔離してもやり過ごすことができず、四人とも俺の嫁になることに。

 愛紗にも事前に説明してあったので怒るどころか、南蛮娘の発情期が始まった時に居合わせたんで参加してもらった。

 ……だから落ち込んでるんだけど。

 美以ちゃんたちが慰めてくれるんですぐに復活してくれるといいな。

 ……肉球総攻撃いいなあ。復活前に蕩けちゃいそうな気もする。

 

「鈴々だってしたいのだ!」

 愛紗は元気になったんだけど、美以ちゃんの初体験のことが鈴々ちゃんにばれちゃって大喧嘩してしまった。

 それで再び落ち込んで……桃香といっしょに元気づけた。

「ご主人様、鈴々ちゃんもいっしょにしようか?」

「そんなことしたら、愛紗がまた落ち込んじゃうんじゃない?」

 鈴々ちゃんのことは……まず季衣ちゃんに相談したい。仲あんまりよくないみたいだから。

 季衣ちゃんに嫌われてまで、鈴々ちゃんに手を出すつもりはない。

 

 

 

 魏と呉の戦いが本格的に始まる前に俺たちは孫策と会うことにした。

「よくも顔を出せたものね」

 あれ?

 なんかすごい睨んでいるんですけど。

 この人が孫策、だよね。

 

「なんで怒ってるの?」

 困った顔の蓮華に聞いてみる。

「それが私にも……」

 蓮華にもわからないのか。仕方ない。

 怖いけど、直接本人に聞いてみよう。耐えてる方がもっと辛いし。

「も、もしかして、妹さんに手を出したこと、怒ってるの?」

 声、震えちゃったよ。

 

「……それもあるわ」

「ほ、他にも?」

 ……声、裏返っちゃった。だって目つきがさらに厳しくなるんだもん。怖いよう。

「冥琳も大喬ちゃんも私のよ!」

 はあ、と冥琳が大きくため息。……でもその頬は赤い。大喬ちゃんも真っ赤になってるし。

 

「……同衾を断っているのでな、伯符は欲求不満なのだ」

「……なんで断ってるの?」

 思い出してないけれど、蓮華やシャオちゃんの話では孫策と冥琳は恋人のように仲がよかったはずだ。大喬ちゃんは孫策の嫁だし。

 

「あんたのせいよ!」

 俺を指差す孫策。

 うん。剣で示されなくてよかった。へたり込むどころか、失禁してたかもしれん。

「伯符は手加減が効かぬ時がある。……処女を奪われては困るのでな」

「……俺のため?」

 こくりと頷く冥琳と大喬ちゃん。ついでに小喬ちゃんと穏も頷いていた。

「あ、ありがとう」

 うわ、なんか照れるけど嬉しい。

 

「乙女じゃないと駄目なんて小さい男ね」

 くっ。重要なとこなのに、小さいとか言うな!

「そう言うな。雪蓮とてそれを知ってるからこそ、いまだに生娘ではないか」

 冥琳の暴露に孫策が赤くなった。

「な、なに言ってるのよ冥琳」

「え? だって一刀君とは?」

 妹たちに一刀君の子を産めと進めてたんだから、自分から率先するとかはなかったの?

 

「皇一殿、伯符は道場の記憶が残っているようなのだ」

「……そんなものは知らないと言ったでしょ」

 たしか、二周目までは孫策が道場主だったんだっけ。

「隠して……いや、もしかして俺と同じように忘れてるのか? なにかきっかけがあれば思い出すのかも」

 冥琳が頷く。

「だから皇一殿、伯符を抱いてやってくれ」

 

「冥琳!?」

 冥琳の提案に俺だけでなく、孫策までもが驚いている。

「なんでそうなるのさ。別にエッチしなくたって俺、みんなの記憶戻ってるよ」

 冥琳と穏、それに孫策の記憶はまだだけど。

「……道場にいた者で、皇一殿と関係を持っていないのは伯符だけだ」

 孫堅もだけど、言わない方がよさそう。

「引継ぎで思い出すってこと?」

「可能性はあるだろう」

「でも、二周目で引継いだ娘たちは、一周目の記憶はなかったよ」

 冥琳だって一周目の記憶、なかったよね。

「ああ。実際に試してみるしかない」

 

「急にそんなこと言われても……」

 いくら処女でもなんか孫策、怖い。失われた記憶の中に孫策を恐れてる部分があるのかもしれない。

「なに? 私じゃ不満だとでも?」

 乗り気じゃなかったのに、文句つけてきたし。俺の心でも読んでるの?

「……よ、嫁になってくれない女は無理」

「ふん」

 ぷいとそっぽを向かれた。あまり追求して、俺の嫁に、って流れは嫌なんだろう。

「今すぐ、道場のこと思い出す必要はないでしょ。きっとそのうち思い出すよ、俺みたいに」

 俺もその話を打ち切った。

 

 

「……伝えねばならぬことがある」

 重苦しい雰囲気で冥琳が口を開く。

「苦肉の策なのだが」

 ああ、たしか黄蓋が裏切ったフリをするという作戦だったはず。

「うん。雛里ちゃんもやらない方がいいと言ってた」

 二周目でも失敗してるからって。

 

「それなんだが……」

 孫策と顔を見合わせる冥琳。

「黄蓋殿は苦肉の策どころか、戦えなくなったのだ」

「……え? 無事なの?」

 呉にはまだ、死んでなければなんとかできるほどの名医と聞いている華佗がいるはず。なのに戦えないってことは……。

 

「たぶんあんたが考えているのと真逆の方向ね」

「真逆?」

 ニヤリと孫策が笑った。

「孫呉は天の血を授かったわ」

「天の血……え? それって……」

 

 俺の嫁が避けてたせいで、種馬の仕事ができないと思っていた一刀君。

 孫策も道場の記憶のせいか、一刀君との関係はなかったらしい。

 だが、呉の女性キャラ残る一人黄蓋は一刀君を避けなかった。

 ……ということは、つまり。

 

「おめでた!?」

 

 



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四十三話  酔?

感想、評価ありがとうございます
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おかげ様で感想が100に到達しました、ありがとうございます


「おとうさんっ!」

「い、いきなりなに?」

「あ、つい。……おめでとう、一刀君」

 いかん、一刀君をお義父さんと呼んでしまった。

 危ない。もう少しで娘さんを下さいと言ってしまうとこだった。

 黄蓋の記憶が復活したついでに娘さんの姿も思い出したからね。

 黄柄ちゃん可愛い!

 あと、黄蓋の髪は白髪じゃなくて、元からあんな色だったみたい。黄柄ちゃんも似た色だったし。

 

 黄蓋の記憶が復活したのは、紫苑にお説教されるのを見たからだ。

 うん。萌将伝のイベント。

 なんで怒られているかといえば、飲酒しようとしてるのを見つかったからなんだけど。

「妊婦の飲酒は禁じられています」

 こっちでも常識なのかな?

「そうなんだ?」

 一刀君は知らなかったのかな? まあ高校生じゃ知らないかもしれない。

「授乳期も駄目なんだよ。母乳に影響があるからね」

「よく知っていますね」

「それなりにね。風疹とかも心配だけど、こっちじゃ予防接種なんてないだろうしなあ」

 そもそも妊娠しちゃってからじゃ予防接種は遅いんだけど。

「その辺は華佗に相談してる」

「なるほど。うちの時も相談しよう」

 それとも、避妊もしないでかなりの回数してるのに、まだできた様子もないってことは、そっちの方を相談した方がいいんだろうか?

 

 ……記憶が戻るのは嬉しいけど、紫苑と桔梗の時も思ったように、嫁じゃない人のエロシーンまで思い出しちゃうのは問題あるなあ。

 早く忘れることにしよう。

 

 黄蓋のお腹はまだそんなに目立ってはいなかった。

 悪阻も酷くないらしく、だから飲酒しようとしちゃったみたいだ。

「二周目のことでですが、愛紗に逃げられた主が酷く落ち込みましてな」

「そ、それは言わないでくれ」

 泣きそうな顔でこちらを見る愛紗。その話題はいまだに気にしているみたい。

「別に愛紗を責めているのではない。落ち込んだ主が霞とともに昼間から自棄酒に走っておりまして」

「あったなあ、そんなこと」

「それを黄蓋殿が説教したことがあったのです」

 説教なんかされたっけ?

 ……もしかして酔って記憶がとんでるのかも知れない。

「ご主人様になんと説教したのだ?」

「そんなに大事なら孕ませておけばいいものを、と」

「ご、ご主人様が私を!?」

 思わず俺も愛紗のお腹を撫でていた。

 

「まさかご自分の身で証明なさるとは。さすがですな」

 そんなフラグがあったのか。

 あれ?

「で、なんで星がそれを知ってるの?」

「……星、貴様も仕事をサボって昼間から飲んでいた口か!」

「いやいや。主殿を見守っていただけですぞ。それにあの時は昼間、ではなく朝からでしたな」

「いや、そうだったけど」

 ……駄目じゃん俺。

 

 

 

 シャオちゃんはこのまま里帰り。

 俺も護衛の恋とねねたちと共に呉に残ることに。

「もしかして俺って邪魔?」

 せっかく色々と手伝おうと思っているのに……。

 十年後の俺、桃香を鍛えるためにあまり口出しとかしなかったんじゃなくて、役に立たなかっただけなのかな?

「そんなことはありません。が、ご主人様と孫策が不仲のままというわけにもいかず……恋、ご主人様を頼む」

 困った顔の愛紗が恋に頼む。

 頼まれた方もこくりと頷いた。

「もしも俺になんかあっても道場に行くだけなんだろ?」

 そんなに心配しないんでもいいんじゃね?

「……ご主人様はよく仰ってました。死ぬほど痛い、と」

「なんか自爆したみたいだな」

 うん。死ぬのは大変そう。痛いのは嫌。

「恋がつくとはいえ、用心は怠らぬようお願いします」

「わかった。みんなの方も気をつけて」

 俺たちを残して、蜀のみんなは帰っていった。

 ……寂しいというか、心細いというか。

 呉にも嫁がいるんでなんとかなると信じよう。

 

 

「孫策と仲良くなるって言われてもなぁ」

 そもそも、いまだに孫策の記憶戻ってないし。

 俺の嫁で戻ってないのは冥琳と穏と華琳ちゃん。この三人が戻れば嫁さんに関する俺の記憶が全部復活することになる。

 ……一刀君の記憶は中途半端にある気がするな。他の記憶復活前の人のと違って不鮮明な部分も少ないし。恋姫をプレイした時は自キャラ扱いだから、とかそんな理由なのかもしれない。

 あとは、張勲か。美羽ちゃんの関係者なんだけど、みんなの話からだと癖が強いっぽい。

 早く記憶を取り戻しておいた方がいい気がするけど、まだ会えていない。美羽ちゃんを蜀に置いてきちゃったせいかも?

 まあ、美羽ちゃんは城に戻って孫策に会ったら殺されるって震えて泣き出したから、連れてくるわけにいかなかったんだけどね。

 南蛮勢と仲良く留守番してるはずだけど、おとなしくしてるといいな。今度は明命を美以ちゃんに会わせたいなあ。

 

「雪蓮お姉ちゃんと仲良く?」

「うん」

 まずは情報収集が一番。記憶も入手できるかもしれないし。

 とはいえ、戦時下な状況なので相手をしてくれる人物を探すのも大変だった。

「シャオのためね♪」

「それもあるのかな?」

 嫁の親戚との仲は大事だろうし。

「なら、やっぱりお酒かな?」

 お酒、か。

「うむ。それが一番じゃろう。儂もちょっとだけ……」

「祭! シャオに祭の赤ちゃん、抱かせてくれないつもりなのね」

 うるうると瞳を潤ませたシャオちゃん。

「くっ」

 黄蓋はそれに怯んだ。

「赤ちゃん大きくなったら差し入れますから、それまで我慢して」

「本当じゃな?」

「うん。その時はいっしょに飲もう」

「……わかった。天の御遣い様じゃ、さぞや高い酒を馳走してくれると期待して、今はこの苦行に耐えるとしようぞ」

 大げさな。

 でも、あと一年近くかそれ以上我慢するんだから大変か。

「いい酒と肴、探しておく」

「うむ。……祭。儂の真名じゃ。覚えておけ」

「いいの?」

「真名を交わした仲の宴会じゃ。楽しみじゃのう」

 どんだけ酒好きなんだろうこの人。

 ……禁断症状とか出ないといいけど。

 

「お酒は危険よ」

 ……蓮華が言うと説得力があるなあ。

 フラグ?

「うん。お酒は止める」

「そ、そんな簡単に納得するの?」

「だって危険は避けるべきだよ」

 どう危険か聞いて欲しかったのかもしれない。そのことを言おうとしたら思春に連れてかれちゃったけど。やっぱり忙しいみたい。

 孫策の情報では一番頼りになりそうな冥琳も忙しいだろうし、どうしたもんかな。

 

「皇一さん」

「穏?」

 俺を見かけるや、小走りに駆け寄ってきた穏を受け止める。

「私の読書につきあって下さい」

「読書? いいけど、忙しいんじゃ?」

「……やっぱり、まだわたしのことは思い出してくれてないんですねえ」

 がっかりとした様子だ。

「わかる?」

「はい。だってわたしと読書なんですよぉ」

 なんだろう?

 解説始めるとやたらに長い、とかなのかな。おたくにはよくある特徴だから珍しくもないけど。

 

「では、なにを読みましょう?」

「決めてないんだ」

「なにかオススメはありますか?」

「俺にそう聞かれてもね。勉強用に華琳ちゃんに貰った孟徳新書ぐらいしかわからないよ」

「孟徳新書!」

 うわ、すごい反応。

「も、持ってるんですか?」

「う、うん。こっちでも勉強できるように持ってきてるけど……」

「それにしましょう!」

 穏に引きずられるように部屋へと向かった。

 

 

 穏の記憶が復活した。

 穏の処女を貰った。

 穏の後ろの……。

「前もこんなだった気がする」

「本当に思い出したんですねぇ」

 いつのまにか自分の眼鏡ではなく、俺の眼鏡をかけている穏。

 でも興味がなくなったのか、すぐに自分の眼鏡に戻した。

 穏が興味があるのはやっぱり本なのかな?

「こんな体質なのに俺のために処女を守り抜いてくれて、ありがとう」

 欲情しちゃっても相手がいないと辛いのは、こないだ南蛮の娘たちの発情期でよくわかっている。あまりに辛そうで思わず手を出しちゃったくらいだった。

 それなのに、穏は処女だった。俺のために、ってそう思っていいんだよね?

「皇一さん……やっぱりこれ、直筆本ですよ」

 なんか俺の感謝の気持ち、届いてないっぽい……。

 その上、華琳ちゃん直筆のって確信してまた欲情しちゃうし……。

 

 

 穏のアドバイスで結局、冥琳に相談することに。

 夜更けに行っても忙しそうな冥琳。身体を壊さないか心配だ。

 休憩がてら、冥琳から孫策の話を聞いていたら、冥琳の記憶が復活した。

 冥琳からは孫策の話を聞くイベントが多いからかな?

 孫策の墓参りイベントまで浮かんで思わず涙が溢れる。

「……冥琳、無茶しちゃ駄目だって言っただろ!」

「そうか。思い出したか」

「うん……華佗にはちゃんと診てもらったんだよね?」

「ああ。ちゃんとあの煩い針も打ってもらった」

 煩い針?

 よくわからないけど……。

「よかった……」

 冥琳に縋るように抱きついて堪えていたものを放出した。

「よかったよぉ……」

 冥琳は嫌がりもせずそのまま俺を撫でてくれた。

 

「残念だが、このまま抱かれるわけにはいかない」

 結構いいムードだったんだけど、流れるようにとはいかないらしい。

「……初めては孫策といっしょがいい?」

「わ、わかるのか?」

 動揺しなくても冥琳が孫策大好きなこと思い出したし。

 

「うふふっ、冥琳を寝取ることはできなかったようね!」

「雪蓮?」

 いつのまにか孫策がいた。

 気配なんてまったくなかったのに……。

「冥琳、倒れちゃうわよ。休憩しなさい」

「ちょうど今、休憩していたところだ」

「なに言ってんの? 休憩と言ったらこれでしょ!」

 どん、と酒の入った器を机に置く。

「……ここにも酒好きがいたか」

 シャオちゃんや蓮華もお酒のことを言ってたもんなあ。

 まあ、このまま徹夜しそうな冥琳を寝かすためなのかもしれないけど。

「ふむ。皇一殿も同席するなら、その誘いを受けよう」

 

「思い出し……た」

 冥琳のおかげで追い出されることもなく孫策と冥琳と飲んでいたら、孫策の記憶が戻った。

 たぶん真の冥琳のイベントのはずだけど……孫策はお酒飲んでるイベントも多いからそのどれかかもしれない。

「なに? あんた泣き上戸?」

 ……孫策の死亡イベントが浮かんじゃっただけだい。

「いや、たぶん雪蓮のことを思い出したのだろう?」

「うん……」

 ぐいっと杯を呷る。

「あれを防ぐために十年後の俺がいなくなったのか」

「ああ……」

 冥琳は杯を置いて頷いた。

「だからこそ、雪蓮にも思い出してほしい。皇一殿のことを」

「私が毒矢に倒れたって言われてもさあ」

 手酌でぐいぐいと杯を重ねる孫策。

「孫策には道場で世話になった……あんまり説明とかしてくれなかったけど、少しは恩もあるから。それに孫策が死んだら、冥琳や蓮華たちが泣くし、大変だし」

 うん。孫策が死んじゃったら、呉の嫁みんなが泣くだろう。そんなのは嫌だ

「……ふん。なんか私のためじゃなくて、冥琳や蓮華のためじゃない」

「それでも、そのために皇一殿は記憶を失ったのだ」

「こいつが記憶失って、蓮華やシャオたちが落ち込んでたのよ!」

 陶器製のピッチャーのような器の酒がもう尽きたのか、逆さまにして揺すり、最後の一滴が自分の杯に落ちたのを確認する孫策。

「……それが私のせい?」

 その残った一杯を置いたまま、孫策が立ち上がる。

「もう寝る……」

「雪蓮」

 立ち上がった冥琳が孫策に肩を貸す。

「そう、雪蓮。それが私の真名」

「え?」

 もしかして真名を教えてくれたの?

「お酒のせいよ」

「じゃあ、後で呼ぶわけにはいかないか」

「酔ってて記憶がないとかいって呼ばなかったら、斬るわ」

 怖っ!

「今ので一気に酔いが醒めたんで絶対覚えておくよ、雪蓮」

 これで、雪蓮と仲良くなれたんだろうか?

 

 

 

「どうなってるの?」

 気づいた時には椅子に縛り付けられていた。

 しかも、下半身丸出しで。

 雪蓮と冥琳と飲んだ後、俺は部屋に戻ってすぐに寝たはず。

 うん。呉に残って俺の世話をしてくれているメイドさんに挨拶した記憶がある。……わざわざ残らなくてもよかったのに。

 

「おーほっほっほ! お目覚めになりました?」

 これが残ってくれたメイドさん。……そう、麗羽だったりする。

 最近大人しいんで油断していたら、いつのまにか呉にくるメンバーに紛れこんでいた。

 しかも、月ちゃんたちみたいなメイド服も用意して。

 呉に残されたのは、連れて帰るとまた面倒を起こしそうって意味が大きいんだろうな、きっと。

 

「やっとお話できますねえ、双頭竜さん」

 麗羽とともに俺の前に立つのは、バスガイドみたいな服を着た女性。

「七乃さん、ちゃんと皇一さんとお呼びしなさい」

 七乃? するとこの娘が張勲か。

「大人しくして下さいね。危害を加えないという約束で、護衛の方には目を瞑ってもらってるんですから。約束破っちゃうと困るんですよー」

 ……ねねは俺の能力知っているから、なにがあっても大丈夫だと信じてるんだろうな。

「お二人は今、小蓮さんといっしょにお散歩中。まあ、そんなことはどうでもいいんですけどねー」

 恋、シャオちゃんの飼ってる白虎とパンダにつられちゃったのかな?

 ちらりと俺の股間を確認する張勲。

「これがお嬢さまを女にしたという鬼畜棒ですかー」

「なにそれ?」

「これがお嬢さまのような可憐な幼女を弄んだ極悪鬼畜棒ですかー」

「……もしかして、美羽ちゃんを嫁にしたこと、怒ってる?」

 なんか美羽ちゃんをとっても可愛がってたって聞いた覚えがあるんだよな張勲って。

 

「嫁ですかー。孫策さんに怯えながら種馬さんの肌馬攻略を手伝っていたのに、それの最大の障害はお嬢さまを嫁に? 私がお嬢さま分の不足で苦しんでる間に?」

 うっ、顔は笑っているけど、なんか怖いこの人。

「もぎましょう」

 なにを? って決まっているか。

「もげるか!」

「二本もあるんですから、一本くらいくれたっていいじゃないですかー」

 そりゃ二本もあるのは正直不便だけど、それがいいって娘も多いんだ!

 

「もいでは駄目ですわ。七乃さん、その二本は不思議な力があるんですのよ」

「不思議な力?」

「片方に貫かれた者は、もう片方に貫かれている者を感じることができるんですのよ。おーほっほっほ!」

 なんかそんな機能あるっぽい。

 俺を使って擬似的に男性の感覚も得ることができるみたい。

 どんな仕組みかはまったくわからないけど。

「なるほど。これを使えばお嬢さまとー」

「それは本当なの?」

「猪々子が申しておりましたもの。間違いないですわ。おーほっほっほっほ!」

 ……あれ? 一人増えてる。

 

「なるほどねー。冥琳や大喬ちゃんが薦めるわけねえ」

「雪蓮?」

 俺の股間をしげしげと眺めている。

「面白そうなことしてるじゃない」

「は、はい。種馬さんの強敵を調べてるんですよー」

「私としてはこの際、七乃が一刀の子を産んでくれてもいいんだけど。大事に育ててあげるわよ」

 それって子供が生まれたら取り上げちゃうってこと?

「え、遠慮しますー。私はお嬢さまの子を産むって決めてるんですー」

 ガタガタ震えながらもよくそんなこと言えるなあ張勲。

 

「そ。じゃあ、これ貰ってくわね♪」

 ひょいっと椅子ごと軽々俺を持ち上げる雪蓮。

「あ」

「なにか?」

「い、いえ、なんでもありませーん」

 麗羽と手を取り合って震える張勲。

「せめてなんか穿かせて」

 涙ながらに訴える俺。

 下半身丸出しで運ばれるのは勘弁してほしい。

 

 

「雪蓮さまぁ」

「冥琳さまぁ」

 大喬ちゃん、小喬ちゃんがそれぞれの(つがい)の胸で幸せそうに眠っている。

「めーりん♪」

 雪蓮と冥琳は俺を挟んで手を繋いでいるし、なんだろう? 真ん中にいるのに感じるこの疎外感は。

 

「まさか本当に冥琳や大喬ちゃんを感じられるなんてねー」

「信じてなかったのに俺を拉致したの?」

「拉致なんて人聞きの悪い。悪党から救い出してあげたんじゃない」

 悪党って……麗羽と張勲はなにをしたかったんだろう?

「なんとなく、アリだとは思ったのよ」

「ああ、勘ですか」

 雪蓮は勘が凄いんだったよな。

 

「なにか思い出したか、雪蓮?」

「それが、ぜーんぜん」

 むう。道場主としての記憶は戻らなかったか。

「……皇一殿、次は雪蓮に両方使ってみよう」

「ちょ、ちょっと冥琳?」

 雪蓮も焦るか。そりゃそうだよなあ。

「なに、蓮華様もやったのだ。雪蓮ならできる!」

 な、なんでそんなこと知ってるの!?

「ちょ、ちょっと待って! もう今日はちょっと……」

 昨日、穏相手にハッスルしまくった翌日。

 さらに雪蓮&冥琳、雪蓮&大喬ちゃん、冥琳&小喬ちゃん、大喬ちゃん&小喬ちゃん、の組み合わせを何セットかやった。

 さすがにもうキツイかも。

「そうか」

 よかった。あっさり諦めてくれた。

 

 その後、出された料理は精力がつきそうな物が多かった気がした。

 

 

 

 蜀の方も準備が整ったとみんながきてくれた。

 とうとう華琳ちゃんと戦うことになるのか……。

 うう、気持ち悪くなってきた。

 これって船に乗ってるせいじゃないよね?

 ……もしかして悪阻?

 

 



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四十四話  三郎?

 決戦の地、赤壁に到着しても俺の体調は芳しくなかった。

 よりいっそう、酷くなっていた。

 もう胃液しか出てないんじゃないかという状況でも、こみ上げ続ける吐き気。

 鋭い腹痛を伴う異物感と鈍い頭痛。

「もしかしたら、一周目、二周目ではもう妊娠していたはずの俺の子が、今回はまだ妊娠してなくて、俺の身体に……」

 あまりの辛さにそんな馬鹿なことを口走っていた。

 口に出したら、なんか余計にそんな気がしてきた。

「華琳ちゃんとの子かな?」

 可能性が一番高いのは、唯一未だに思い出せない俺の嫁。

 他の嫁が言うには、俺のナンバーワンな娘。

 その最愛らしい超絶美少女の姿を思い浮かべようとする。

「ああ、悲しそうな顔しか浮かんでこないや……」

 理由はわかっている。

 悲しそうな顔ばかり見ていたからだ。

 でも、他の娘の記憶が戻ってきた時は喜んだ表情も見せてくれたし、別れる前には凛々しい顔も見せてくれた。

 なのに、その顔が浮かんでこないのは俺の方に原因があるんだろう。

 華琳ちゃんを悲しませているという自覚が。

 記憶が復活したら笑顔を見せてくれるのだろうか?

 

「早く産まれたいって、怒っているのかな?」

 不甲斐無い父親でゴメン。

 腹をさすりながら、生まれてくるはずだった子に心の中で詫びる。

「ただの船酔いでは?」

 心配そうに愛紗が覗き込む。いや、もう船から降りてるからね。

「二周目の俺、どうだった?」

 二周目の記憶を引継いでいる嫁たちに聞いてみた。

 

「二周目では魏の水軍の訓練にも参加していましたが、船酔いはないようでした」

 連絡のためにきて、俺の顔色に驚いていた明命が教えてくれる。

 うん。戻ってきた記憶にも二日酔いはあっても船酔いってのはない。

 ……でも、聞きたいのはそうじゃない。

「じゃあ誰か、俺の赤ちゃん、妊娠してくれてなかった?」

 俺の記憶にはないとこで誰か妊娠していたかもしれない。

「……いえ。私の知る限りでは誰もご主人様の子を授かってはいませんでした」

 愛紗の報告に明命や、他の娘たちも頷く。

 そうか。やっぱり華琳ちゃんとの子なのかな。

 それとも一周目で結婚式したっていう魏の嫁たちの誰かの子か。新婚旅行の思いでがエッチしかないっぽいしありえるな。

 ……結局、華琳ちゃんの子の可能性が一番高そう。

 

「ご主人様もしかして祭さんのおめでたを聞いて、赤ちゃん欲しくなっちゃった?」

 桃香はたしかに俺の嫁にはなったけれど、俺の能力の話はしてないんで二周目とかは知らない。

 だから嬉しそうにそう判断したのだろう。

 うん。かなり嬉しそうだ。

 ……桃香に赤ちゃんができるのは嫌じゃないけど、一番先にできちゃうのはなんかマズイ気がする。

 かといって呉ってわけにもなあ。天の御遣いの胤が両方呉に、ってことになっちゃうし。

 やっぱり華琳ちゃんに産んでもらいたいなあ、俺の赤ちゃん。

 それにロリ妊婦も見たいし……。

 早く華琳ちゃんに会いたい。会えればこの症状も少しはよくなる気がする。

 

 

 明命が一旦戻り、今度は名医と噂の華佗を連れてきてくれた。

 若い男だ。こんな男が診察と称して冥琳の身体を隅々まで……場違いな嫉妬してるな、俺。

 だいたい、雪蓮がいっしょだったんなら、おかしな事してたら今頃この男はここにはいないだろうし。

「はわわ! ご主人様と華佗さん……」

「う、うん」

 華佗に診てもらってる俺を見て、朱里ちゃんと雛里ちゃんが何ごとかを話し合ってる。

 ……腐ノリじゃなきゃいいなあ。二人とも赤面してるから余計不安になる。

 

「煩い針ってこういうことだったよね……」

 やかましい針のおかげで華佗の記憶も入手できたが、その針でさえ吐き気が治まったにすぎなかった。

「針で病魔を退治しても、皇一の心がすぐに新たな病魔を呼んでしまっている」

 当然のように悪阻ではなかったが、精神的なものらしい。

「心因的なものか。胃に穴が開きそうとかそんななのかな? 華琳ちゃんと戦うのが嫌……なんだろうな、やっぱり」

 大きくため息をつきながら、ふと思い出したことを聞く。

「華佗はまだ、曹操の頭痛診てないよね?」

「ああ。まだ曹操には会ったことはない」

 よかった。華佗には華琳ちゃんの裸は見られてないらしい。

 あれ?

 漢ルートの華琳ちゃんの姿の記憶、ぼやけてないな。どうなってるんだろう?

 ……ルート?

 もしかしたら、システム的な記憶も戻ってきてるのかな。

 

 

 江陵でシャオちゃんたちが戦い、策通りに撤退したそうだけど無事みたい。

 舌戦で華琳ちゃんとどんなことを話したか、後で聞こう。

 舌戦……華琳ちゃんとシャオちゃんが舌で戦ったのか。なんか別の意味っぽくて興奮するよね。じっくり聞かないと。

 華琳ちゃんは攻め落とした江陵に留まり、近くの軍港に多数の船を用意しているらしい。

「船戦か。二周目の時はたしか、陸戦でかたをつけちゃったんだよな」

「……あの時はどうかしてたわ」

 悔しそうに蓮華が目を伏せる。

「神速の驍将、白馬長史、錦馬超。この三人と騎馬を多数用意できていた華琳ちゃんは船戦なんてしたくなかったからね」

 さらに恋や愛紗も魏にいたし、勝てるわけないよね。

 

「皇一殿、記憶が?」

「うん。完全にはほど遠いけど、みんな以外の記憶も少しずつ戻ってきてる。……この子の記憶かもね?」

 言いつつ、愛しげにお腹をさする。

 妊娠ではなかったけれど、この腹痛や頭痛と記憶の復活は関係があるかもしれないと思ってる。

「そうか」

 たぶんわかってないのだろう。冷たくはないけれど、暗い目で俺を見る冥琳。可哀相な子を見る感じだ。

 

 もう少し説明したかったのだが、俺の身体に休憩が必要だと判断されてしまった。

「皇一殿は疲れているのだ」

「そうだよ。ご主人様はゆっくり休んで。赤ちゃんはその後で、ね♪」

「と、桃香様?」

 みんなの心配そうな顔を見て、休むことを渋々納得する。

 戦闘にならなければ今夜あたり数人来そうだしね。今のうちに体力回復に努めた方がいいんだろう。

 でもさ、この子は華琳ちゃんとしないと駄目かもしれないんだけど……。

 

 

「寝る前にせめてこれを飲むがよろしいですわ」

 いまだメイドをしてる麗羽から湯気の立っている湯のみを受け取る。

 胃袋空っぽよりはいいかとそれを飲もうとして湯気にたじろぎ、ふうふうと冷ましながらすすった。

 うん。俺って猫舌だからね。

「……甘い。ハチミツ湯?」

「ええ。お茶では眠れなくなってしまいますもの」

 一応、気を使ってくれているのか。

 こないだは張勲とグルになってなに企んでいたんだろう。おかげで雪蓮も嫁にできたけどさ。

 ……おや?

 雪蓮に嫁になってくれるか聞いたっけ?

 あとで確認しないと。

 嫌だって言われたら土下座かなあ。いいお酒用意した方が早いかもしれない。冥琳、大喬ちゃんにも根回ししておこう。

 

「染みるなあ」

 ハチミツ湯の甘さが疲れた身体に染み渡る。

 華佗の針も効いているらしく、まだ吐き気はない。

「ハチミツかあ、美羽ちゃん元気かな?」

 このハチミツなら美羽ちゃんも喜ぶかな。そう思いながら湯飲みのハチミツ湯を飲み干した時、ふとある疑問が浮かんだ。

「……麗羽、このハチミツの出所は?」

「七乃さんですわ。お気にいったのでしたら入手先を聞いておきますわ!」

 俺の返事を聞く前に、麗羽は張勲に聞きに行ってしまった。

 

「まさか……いくらなんでも……」

 不安で震えてしまう俺。

 今の体調不良のことや、華琳ちゃんとの戦いのことではない。

 別の意味でヤバい不安。

 その不安は、麗羽に連れられて張勲が部屋に戻ってくるまで続いた。

 

「あのハチミツですかぁ? たまたま見つけた珍しいハチミツですので、もう手に入りませんよぉ」

「そうなんですの?」

「その貴重な品を麗羽さまが無理矢理全部持ってちゃったんじゃないですかぁ。お嬢様に贈ろうと思っていたのに」

 半分以上泣きそうな張勲を見ると、もう残りはないらしい。

「美羽さんよりも皇一さんに差し上げたのですから、私、間違っておりませんわ。おーほっほっほ!」

 麗羽の高笑いは頭痛に響く。

「やっぱりか」

 この股間のムズムズは間違いないようだ。二人がいることも忘れて、自分の股間を確認してしまう。それぐらい焦っていた。

「なんてこった……」

 恐れていた事態。不安が的中してしまった。

 

「どうしたんですの?」

「……あのハチミツはもうないんだな?」

「は、はい」

 俺の様子に驚いたのか、素直に張勲が頷いた。

 いや、あの張勲だ。もしかしたらどこかにまだ残りがあるかもしれない。俺の記憶だと張勲に油断してはいけない。

 ……美羽ちゃんの記憶復活時にも不完全だった張勲の記憶も入手できたみたいだな。

「もしまだ残っていたら、二度と美羽ちゃんには会わせないよ」

「ほ、ホントにないんですよぅ」

 本当かな? ……まあいいか。

 後で明命に頼んで調べてもらおう。もし残っていたら全て廃棄してもらわないと。

 

「あのハチミツは毒だから……」

「ど、毒?」

 ガタガタと震えるほどに怯えている麗羽。

「もしかして、飲んじゃった?」

「い、いえ、私は飲んでませんが、皇一さん……す、すぐに吐き出すんですのよ!」

 俺のことを心配してくれてたの?

 俺の口に手を突っ込もうとする麗羽をなんとか退けて説明する。

「……もう遅いよ、ほら」

 やっぱり俺はどこかおかしかったのかもしれない。

 つい、麗羽と張勲に見せてしまっていた。

 最近やっと慣れた双子が、三つ子になっている姿を。

 

「そ、それは?」

「あのハチミツのせい。こういう事態に慣れてる俺だからこの程度で済んでいるけど、女性が口にしていたらどうなっていたかわからない」

 女の子にも生えちゃうんだけどね。

 それを知られちゃ非常にマズい。一部の俺の嫁が、俺を必要としなくなるかもしれない。

 だから、あのハチミツが残っていてはいけない。

「美羽ちゃんが飲まなくてよかった」

 ロリっ娘にこんなモノがあっていいはずがない!

「元に戻るんですの?」

 三つ子から目を離さない麗羽。

「さあ? ……なにも泣かなくても」

「わ、私のせいで……」

「華佗を呼べば大丈夫だから!」

「それならすぐに呼んで来ますわ!」

 また部屋を飛び出そうとした麗羽を張勲が止める。

 

「そんなに慌てることないですよー。双頭竜が三頭竜になっただけじゃないですか」

 三頭竜……某怪獣王の宿敵っぽいなあ。翼とか生えてきたらどうしよう。

「人事だと思ってのん気だね」

 元凶は君でしょうに。

 まあ、君が飲んで生やして奪うはずだった美羽ちゃんの処女はもう俺が貰っちゃってるから、許してあげるけどね。

 

「たぶん、たっぷり出せば消えるはず」

 イベントではそうだった。

「麗羽、張勲」

「な、なんですの!?」

「一人にしてくれ」

 手の開いてる俺の嫁さん呼んできてもらうのも考えたけど、やっぱり三つ子は見られたくないし。

 愛紗あたりならともかく、星だと後々までからかわれそう。

 気持ち悪いって嫌われるのも嫌だ。

 自分で処理するしかなさそうだ。

 

「ふむ。自分で出すつもりですか」

「そんなっ!? それならば私たちが出させて差し上げますわ!!」

「えっ?」

 麗羽と張勲がにじり寄ってくる。

「い、意味わかって言ってる?」

「この前、猪々子さんと斗詩さんが出させているのを散々拝見させていただきましたわっ!」

 あー、そういやそうだっけ。

 

「ちょ、張勲、止めてやってくれ」

「七乃、でいいですよー」

「……なんで真名くれるの?」

「だって他人じゃなくなるんですから」

 にっこりと笑う七乃の背後に黒い影が見える気がする。

「で、どれが可愛いお嬢様を女にした鬼畜棒ですか?」

 

 

「おや? 治っちゃったみたいですねー」

 俺の股間を確認する七乃。

「この私に相応しい黄金三つ首竜でしたのに」

 なにそのますますアレっぽい呼び方は? 黄金どっからきた?

「しくしくしく……」

 結局、体調不良でふらついていた俺は、二人がかりの連携に逃げることも関わらず、貞操を奪われてしまった。

 ……やっぱり三本だと使い辛い。二本が限界。元に戻ってよかったー!

 バージョンアップするとしたら触手へ、だろうなあ。俺にそっちの趣味はないけど。

「どれかわからないのなら、この際、全部使うしかないですねー」

 三本とも試す七乃に美羽ちゃんへの歪んだ愛情を感じて怖くなったけど、ハチミツの影響なのか、萎えることはなかったし。

 

「処女喪失は好きな人とじゃなきゃ駄目でしょ!」

 泣きながら抗議する俺。

「まだわかりませんの?」

 怒った顔で麗羽が俺の眼鏡と唇を奪う。

「一目見た時からお慕いしてましてよ、皇一さん」

「お、俺を?」

「随分とわかりやすかったと思いますけどねー。あの麗羽さまが侍女になってまでついてきたんですから」

 そ、そうだったのか?

 記憶にある麗羽にはそんな感じのイベントはまったくなかったんだけど……。

 

「な、七乃は?」

「そりゃ、少しでもお嬢様を感じたいに決まってるじゃないですかー」

 ある意味ブレないな、この娘は。

 でも……無理矢理とはいえ、やっちゃったもんは仕方ない……かなあ?

「二人とも……俺の嫁……か」

 搾り出すようになんとか声に出す。

「もちろんですわ!」

「ホントにメンドくさい人ですねー」

 な!?

 七乃はヤリ逃げするつもりか?

「まあ、お嬢様といっしょですからいいですけど」

 ふう。……七乃には苦労させられそうだ。

 嫁にして本当によかったんだろうか。

 

 ともあれ、これで嫁にしてない恋姫†無双の処女なヒロインは鈴々ちゃんだけか。

 全体の記憶が微妙に戻り始めているせいか、そんなことまでわかるようになった。

 ……別にフルコンプ狙ってるわけじゃないけどさ。

「いや待て」

「どうなさったんですの?」

 メイド服を着なおしていた麗羽が振り向く。

「華雄はどっちなんだろう?」

 ヒロインじゃなかったけれど華雄は処女だったのだろうか?

 

「かゆうま……ああ、華なんとかさんですかー。魏軍にいるみたいですよ」

 俺が聞きたかったのはそうじゃなかったんだけど。

 七乃の呼び方で華雄の記憶も復活した。エロイベントどころか拠点イベントすらないんで、処女かどうかはわからなかったけど。

「魏軍に?」

「はい。江陵での戦いにもいたみたいですよ」

 そうか。華琳ちゃんも馬騰ちゃんだけじゃなくて、華雄まで味方にしていたか。

 ……むむ、なんで俺、馬騰のことを馬騰ちゃんって?

 

 いかん。

 また頭痛が酷くなってきた。

 腹痛も激しさを増す。異物感も増大中だ。

 ジュニアを元に戻すためとはいえ、華琳ちゃん以外に出してる場合じゃないって怒ってるんだろうか……。

「やば……」

「大丈夫ですかあ? 顔色酷いですよー」

 あんまり心配してなさそうな七乃の声。

「……か、だを、呼んで、きて……」

 途切れ途切れに言いながら、セーブを念じる。

 なぜだか、ここでセーブしておかなければいけない。そんな気がする。

 セーブ、セーブ……。

 痛みと戦いながらそれだけをなんとか考える。

 ……セーブ……セー……。

 

 

 

 次に気づいた時には、道場だった。

 俺、死んじゃったみたい。

 そんなに重い病状だったのか。あの華佗ですら助けられないほどの。

 

 そして、赤壁の戦いはもう、終わっていた。

 

 




タイトルの三郎はキングギ○ラの首識別名から


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四十五話  好き?

「ここは……道場?」

 うっすらと覚えているこの場所。きょろきょろと見回す。

 その俺を、嫁である美少女たちが見つめていた。

 

「久しぶりね」

 声をかけてきてくれた超絶美少女は、唯一完全には思い出せていない俺の嫁。

「うん。元気だった?」

「……それなりにね。皇一の方は……」

 最後まで言わずに口を噤む華琳ちゃん。

 言わないでもわかる。俺はずいぶんとやつれてしまって……あれ? ここにいる時の姿って死んだ時の姿なのかな?

 そういえば俺、やっぱりあのまま死んじゃったのか。

 そんなに重い病状だったのか。あの名医華佗ですら助けられないほどの。

 

「俺の死因とか教えてほしい」

「はい。ですが、その前に引継ぎをご確認下さい」

 愛紗の指摘で気づく。道場にいるのが嫁の全員でなかったことに。

「ごめん、そうだった」

 頭をかきながらメニューを呼び出し、引継ぎを確認。

 うん。ほとんどの???が解放されているね。

 メニューを閉じたら、新たに嫁になってくれた娘たちが道場に出現した。

 

「……またずいぶんと増やしたものだな」

 春蘭が一人一人指差しながら数えていく。

 桃香、恋、霞、朱里ちゃん、焔耶、猪々子、美以ちゃん、ミケちゃん、トラちゃん、シャムちゃん、雪蓮、麗羽、七乃。

 十三人か。不吉な……。

 全員合計だと四十七人。四十七士か。むう、あれも末路を考えたら不吉かもしれん。

 

「ご主人様!? え? それじゃここって……わたしたちも死んじゃったの?」

 驚いた顔で俺や道場を見回す桃香たち。

「ええと……説明できる人、説明してあげて」

 俺もあんまり上手く説明できる気がしないので丸投げ。まあ、軍師さんたちなら大丈夫でしょ。

 

「雪蓮には説明したはずだ」

「朱里ちゃんにも説明したよね」

 冥琳と雛里ちゃんはそれぞれの相棒に事前に説明してたみたい。

「はわわわ……」

 朱里ちゃんはこくこく頷いているけど、雪蓮は首を捻る。

「うーん、やっぱ思い出せないんだけどなー」

 道場主だった頃の記憶は思い出せないのか。

 そういえば今の道場主は?

 

「やれやれ」

 大きなため息とともに文台さんが現われた。

 現われた、というか、いつの間にかそこにいた。

「こやつはもうほとんど思い出しているのに、情けない」

 ぽんと俺の頭に手を置きながら、ちらりと娘を見る。

「げっ」

 死んだ母親との感動の再会のはずなのに、蓮華やシャオちゃんの時と違ってあまり嬉しそうじゃない雪蓮。どちらかといえば腰が引けている。

「鍛え直す必要があるかもしれんぞ、冥琳」

 文台さんの方も娘ではなく、冥琳の方向いてるし。

「そ、そんなことより、祭が妊娠したの!」

 あの雪蓮がびびって誤魔化すなんて……。

「知っている。祭と会うのはもう暫く先になりそうだな」

 

(まご)の顔は誰が見せてくれるのやら」

 文台さんもこんなこと言うんだ。

 俺の記憶だと、蓮華の娘の孫登になるんだろうけど。

 ……いい加減俺の頭から手をどけてほしい。もしかして娘三人に手を出してしまったことを怒っているのだろうか。

 娘さんを俺に下さい、とか言っといた方がいいのかな?

(まご)の顔って言われても、ここに連れてくるのは……まさか皇一さん!?」

 蓮華、そんな顔で驚かないでって。

「近親相姦とかは嫌だってば」

 弟だけでリアル妹はいなかったけど、いても対象外だったはず。姪っ子ですら苦悩したんだしさ。

 ……可愛い姪っ子のことも忘れていたのか、俺。なんで今は思い出しているんだろ?

「ふん。連れてこなくても向こうのことくらいわかる」

 そういえばさっき、祭さんの妊娠を知ってるって言ってた。

 

「妊娠か」

 ふと、倒れる前のことを思い出してお腹に触れる。

 今は痛くない。

「なあ、俺ってなんで死んじゃったの? 麗羽と七乃に襲われたあたりまでは覚えているんだけど……」

 当事者の七乃の方を見たら、美羽ちゃんと抱き合ってた。

 美羽ちゃんの方はわんわん泣いてる。そんなに再会が嬉しいのか。無理やりだったけど七乃も嫁になってよかった、と思うことにしよう。

 

「皇一さんはあれからずっと寝込んでしまったんですのよ」

 猪々子に殴られた時みたいに死んでないけど、起きないって状況だったのかな。

 教えてくれたのはもう一人の加害者。

 隣で華琳ちゃんが疲れた顔をしている。俺の能力や道場のことを説明してくれたのだろう。相手はあの麗羽だ。苦労するのもわかる。

「麗羽に狙われていることも忘れるなんて、油断しすぎよ」

 怒ってるのかな。

「面目ない。まさか身分も怪しい俺のことを、なんて思いもしなくて」

 素直に頭を下げる。

「身分など皇一さんには関係ありませんわ!」

「どうせ顔目当てでしょう」

「美しい方をお慕いするのは当然でしょう。華琳さんは違いますの?」

 麗羽は顔目当てだったのか。……嫁になった娘に言われると辛いなあ。

 

「違うわ」

 華琳ちゃんがそう断言する。

 えっ?

 そんな顔で数名が驚いていた。

「確かに皇一の顔は気に入っているけど、それが理由ではない」

 うわ! 凄い嬉しい!

 華琳ちゃんは顔だけで俺と結婚してくれたんじゃなかったんだ。

 

「皇一には利用価値がある」

 えっ?

 今度は俺がそんな顔をしてるのだろう。

「天の知識。他の男には無い双頭竜。そして、何度もやり直せるこの能力」

 ……そんな。

 愛の無い結婚だったの?

 

「華琳殿!」

 愛紗が華琳ちゃんを睨んでいた。

「よもやそのような理由でご主人様を好いている、などとは申されまいな」

「もちろん違うわ」

 えっ?

 ほとんどの者がそんな顔。

 

「その程度で私は結婚などしない」

「その程度……ってめっちゃ凄いやん!」

 たまらずに霞がつっこんだ。

「使えるだけなら、部下か、そうでなければ敵とするだけ」

「けど、嫁でなければこいつの双頭竜は使えないわよ」

 詠、どこを指差してる?

「ふん。そもそも華琳さまや私たちが結婚した時は二本なかった。もしそうだったら、初夜の思いでも違っていたわ!」

 だから桂花までどこを指差してるのさ?

 

「……皇一に対しての最初の感情は、殺す。それだけだったわ」

 数名が俺の股間を指差していたり、凝視してたりしたけど、華琳ちゃんの話で道場は静まりかえった。

「そして、殺した」

 殺した?

 俺を?

「私が初めて皇一と会ったのは、私が道士干吉の術によって意識を奪われ、人形同然にされていた時」

 一周目の時に白装束の連中と戦った記憶はある。その時かな?

「皇一は私を敵の手から奪って、術を解いたわ」

「恩人じゃない。それを殺したの?」

 うん。なんで俺がその流れで殺されるのかな。

 

「私が意識を取り戻して、初めて見た皇一は、私を犯していたわ」

 えっ?

「私は、初めてを奪った男をすぐに殺した」

 気まずい沈黙が道場に充満する。

 そして俺に突き刺さる視線。

 背筋が凍るどころではない冷たい視線。

 

「それから、不可思議なことがおこった。気づけば、殺したはずの男がまた自分の上で腰を振っていた。だから、また殺した」

「はわわ……ご主人様、ろおどして再開してもまた華琳さんに手を出していたのですか……」

 うう。十年後の俺、動けない華琳ちゃんを前に我慢できなかったのか。

 がっくりと膝をつく俺。

「そして、また再び気づけば、私を犯している男」

「ご主人様……」

 そ、そんな目で見ないで。

「犯されて、殺して、犯されて、殺して。そしてまた犯されて。いつ終わるともしれぬ繰り返し。その男に対する憎しみは増大していく一方」

「ご、ご主人様にはきっとなにか理由が……」

 ありがとう、力なく俺をかばってくれる愛紗。

 でも、俺は……。桂花が時々俺のことを強姦魔って呼ぶのは、本当にそうだったからだなんて。

 くっ。

 どうやって華琳ちゃんに償えばいいというんだ!

 

「そう。理由はあったわ。皇一が私を犯していたのは、道士にかけられた術を解くため」

「そんな方法で術って解けるもんなのか? うし! 今度斗詩が術をかけられたら試してみよう!」

 空気を読んでないのか、それとも俺への非難の視線を誤魔化すためかよくわからない猪々子。

「皇一はそう確信していたのかしらね。だからこそ何度も殺されたのに、私を抱き続けた」

 どうなんだろ?

 目の前の欲望に負け続けたのかも知れない。

 ……でも、殺されるのって辛そうだしなあ。

 

「二十六度目でやっと、道場主から引継ぎのことを聞いた皇一が私を道場に呼び出して、それが終わったわ」

 二十六度って数えていたの?

 そこまで十年後の俺、他の方法とか考えなかったの?

「もっと早く教えてくれればね」

「ええっ? ちょっと、私のせいだって言うわけ!?」

「道場でのあなたは、主としてあまり役には立っていなかったように見えたわね」

 雪蓮の横で冥琳もうんうんと頷いている。

「姉様……」

 困ったような表情を見せる蓮華。

 

「待ちなさい。華琳が皇一のどこがよかったのか、まだ聞いてないわ。今の話だとただ憎かっただけじゃない!」

 非難の矛先が自分に向かいそうだったので、慌てて軌道修正をはかる元道場主。

「憎くて、誰だかわからなくて、なんのために私を苦しめてるのかもわからなくて。意識が戻ってもすぐには殺さずに観察したりもした。すごく痛くて、苦しかったわ」

 そりゃ何度も処女喪失してるのに身体の方は慣れないんだから。男の俺にはちょっと想像できないほど辛かったんだろうな。

「その男は曹操ちゃん、曹操ちゃんと何度も私の名を呼んでいた。私のことが憎くてしているのではなさそうだったわ。ならば私が欲しくて? その時は、迷惑な、そう思った」

 ……ストーカー認定されていたの?

「私が意識を失っているふりを続けていたら、後ろまで奪われたわ。だから、また殺した」

 そ、そっちまで貰っちゃっていたのか!

 なんで思い出せないんだ、俺!!

 

「私の全てを奪い続ける迷惑な男。なのに、引継ぎして事情を知り、皇一が私のことを好きだとそう言った時、何故だか嬉しかったわ」

 嬉しい?

「皇一以外の男に抱かれるなとそう言われた時は、男など必要ないと言いわけしてそれを認めてしまった。この私が!」

「へえ。負けを認めたわけね。あの曹操が」

 得心いったと頷く雪蓮。

「逃げられぬ相手ならば惚れてしまうのも手ではあるかもしれぬな」

 冥琳も同意してるのかな? ……そんな顔じゃなさそうだけど。

「ええっ!? 自分のために何度も命をかけてくれたご主人様のことが好きになっちゃったんだよね! 絶対そうだよ!!」

 桃香がそれにかみついている。

 

「ふふっ。勝手に想像なさい。恋愛感情に深い理由付けなど必要ないかもしれないけれど」

 楽しそうに華琳ちゃんが笑う。

 可愛い。

 やっぱり華琳ちゃんは笑ってる方がいい。

「よかった。恋愛感情はあったんだね!」

 うん! 本当によかった!!

 なのに、華琳ちゃんは気まずそうに俺から顔を背けてしまった。

「私は……皇一に好きだと言ってないの。……ただの一度も」

 ああ、そんな理由か。

「だからきっと、私のことだけ思い出せない」

 

「じゃあさ、今言っちゃえばいいんだよ♪」

 ぽん、と手を打ったのは天和。

 ……道場でみんなに見られながら? 無理ですそんなの。恥ずかしくて俺の方も耐えられません!

「……私が言いたいのはこの皇一にではないわ」

「華琳さんておじさんの方がいいの!?」

 いや桃香、なんでそんなに驚くかな。

 

「私が告げたい相手は、いつもは情けないけれど、私のために自分の器以上のことをしてしまう男」

「同じ皇一さんだよう」

 ご主人様、ではなく名前で呼ぶ桃香。そこになにかの想いが籠められているのはたしかだろう。

「私の皇一なら、ここまで私を待たせない」

 失望させちゃったんだろうか?

 ……なんで、もっと早く思い出せなかったんだ、俺。

 

「もしかしたら、華琳さまは失ったご主人様を美化してしまったのでは?」

「思いで補正ってやつか」

 雛里ちゃんの推察はありえるのかも。

 

「華琳さま、天井が未だに華琳さまを思い出さないから、大陸を離れるのですか?」

 春蘭、いきなりなに言い出すの?

「ど、どういうこと?」

「華琳さまは、これ以上戦いを続けて民を巻き込むのをよしとしなかったのよ」

 桂花の説明でだんだん状況がわかってきた。

 ……もしかして、もう赤壁終わっちゃってる?

 

「お、俺が寝込んでる間に戦いはどうなったの?」

「勝ったよー♪」

 ブイサインを見せる桃香。

「苦肉の策できなかったよね? それとも黄蓋以外の誰かが?」

「いいえ。しかし苦肉の策は使えませんでしたが、連環の計と火計が上手くいきました」

 そうか。やっぱり呉ルートだとあっさり連環の計が効いちゃったりするのか。

 東南の風、吹いちゃったのか。

 うん。思い出してきた。

 

「あんたが寝込んで起きなくなってなんているから、華琳さまが心配してそんな策に引っ掛かっちゃったのよ!」

 俺を指差す桂花。俺の体調とか、知ってたんだ。

「たぶんこちらの動揺を誘うために意図的に情報を流したのでしょうねー。お兄さんの話題が中心になって、連環を調べることができませんでした。えげつない手なのですよ。さすがは伏竜」

 風の指摘に朱里ちゃんがはわわわって慌てていた。図星みたい。

 まあ、俺が少しでも役に立ったんなら……。華琳ちゃんたちを心配させたのはかなり複雑だけどさ。

 

「って、ちょっと待って!」

「ご主人様?」

「華琳ちゃんたちは、俺を置いていっちゃうつもりだったの? 俺を……捨でるの?」

 ううっ。涙で鼻声になってる。

 呉ルート通りなら、華琳ちゃんたちは戻ってこない。

 卑弥呼ってヒゲ筋肉じいさんに連れられて……新たな外史とか言ってたはずだから、別の外史に連れてかれちゃったのかもしれない。

 そんなことになったら……。

 

「皇一の元へ行きたい者は、そうしなさいとは命じたわ」

「え゛?」

「だがな、一人たりとも華琳さまから離れたいという者はいなかったのだ」

 秋蘭の言うことはわかる。

 俺と華琳ちゃんだったら、華琳ちゃんを選ぶだろう。

 俺だってそうする。

 ……けど、やっぱり俺は魏のみんなに捨てられちゃったのか……。

 

「だって兄ちゃんなら、絶対に華琳さまのとこにくるもん!」

 俺好みのぺたんこな胸を張って自信満々に言い放つ季衣ちゃん。

「それどころか兄様は、お化けのような人から私たちを助けてくれてます!」

「お化げ?」

「私たちを先導すると主張する卑弥呼と名乗る怪人です。怪しすぎたので春蘭さまが斬りかかったのですが」

 ああ。やっぱり出てきたんだ卑弥呼。

「あやつ、かなりの使い手だぞ」

 腕組みして唸る春蘭。斬れなかったんだろうな。

「バケモノですよあれ、怖かったあ」

 季衣ちゃんが震えている。

 思わず抱きしめてしまった。

 季衣ちゃんの震えは収まったけど、周りの視線で今度は俺が震えそうになった。

 

「そのタイミングで、俺が死んじゃったわけか」

「曹操を逃がすのが嫌だったんじゃない?」

「……その可能性はあるかもしれません。眠るご主人様に勝利を報告したら、症状が急変。苦しみ出してそのまま……」

 雪蓮の勘か。当たってるのかも。

「赤壁勝利の影で死ぬ……呉ルート冥琳の役割っぽいなあ」

 俺の嫁の冥琳は華佗の治療で無事だけどね。

 

「冥琳が死ぬってどういうことよ!」

「ええと……俺の知ってる歴史だとそうなってたってだけ。大丈夫、俺の嫁は死なせないから」

 それを聞いて、俺に掴みかかってきた雪蓮が力を緩める。緩めただけで離してくれないのは、俺の嫁発言のせい?

「けど……雪蓮、冥琳、祭が生き延びて赤壁に勝ったとなると、蜀ルートの流れも出てくるかもしれないのか」

「……皇一、あなた記憶が」

「うん。みんな以外の記憶も戻ってきはじめている。……寝込んでいたせいかな?」

 恋姫†無双のだけじゃない。失ったはずの十年分の記憶も戻り始めているっぽい。

 戻ってきた理由は考えてもたぶんわからないので後回し。後で情報集めよう。

 

「それで、華琳ちゃん、やっぱり大陸は離れないでほしい」

「思い出してもいないのに、私を離さないつもり?」

 やっと雪蓮から解放された俺を睨む華琳ちゃん。

 攻撃的な鋭い視線。なのに可愛い! 抱きしめたい!

「ごめん。もちろんそれもあるけど、五胡が出てくる可能性がある」

「五胡が……三国が戦いで疲弊している時を狙う。ありえるわね」

 華琳ちゃんの判断に軍師たちも頷く。

 

「だからさ、三国が連携して五胡に備えた方がいいんだってば」

「……ふむ」

 考える華琳ちゃん。

 大陸を去ると格好をつけた手前、すぐには納得し辛いのかもしれない。

 

「あの」

 朱里ちゃんが華琳ちゃんに近づいていく。

「ご主人様の記憶のことで、お話が」

 俺の?

「華琳ちゃんのことを思い出せるようになるの!?」

「はわわわ……ご、ご主人様はちょっと離れていて下さい。ご主人様には聞かせられない話だと思います」

「春蘭」

 華琳ちゃんが道場の隅を指差した。

「はっ」

 俺は春蘭に首根っこを掴まれて猫の子のように隅っこへ運ばれた。

「なに話してるんだろ?」

「さあな」

「難しそうだからきっとわかんないよ。ボクたちと話そうよ、兄ちゃん」

 俺は諦めて、季衣ちゃんや朱里の話が気にならない嫁たちと話をすることにした。

 

 

 それにしても……セーブ上手くできてるのかな?

 何番にセーブできたのかさえ、思い出せないんだけど。

 もしセーブできてるとして、赤壁のどのあたりなんだろうか?

 

 



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四十六話  好き!

感想、評価ありがとうございます
評価に一言つけてくれた方、ありがとうございます


 セーブしたのはたぶん、セーブ3だと思う。

 セーブ1は毎朝のだし、セーブ2は重要イベント直前。

 残るはセーブ3しかない。スタート時点のはずだから、上書きしてもやり直しは容易なはず。

 いくら意識が朦朧としていても、それぐらいの判断はしてる。

 そう信じることにした。

 

「あ、けどロードできても病気で死んじゃうかもしれないのか」

 やっぱりセーブ2からの方がいいか?

 ……でも、なんとかなる気もするんだよなあ。

「うまくロードできたらさ、華佗に頼んで、俺の腹の中の異物を取り出してもらって」

「いいのですか? 華佗がそう言い出した時には、激しく拒否なさってましたが」

 うん。だってあん時は俺の子だと思っていたし。

「なんかさ、たぶんもう出しても大丈夫な気がするんだ」

 お腹に手を当ててみたけど、違和感はない。道場だからなのかな。

 

 恐る恐るたぶん使ったはずのセーブ3をロード。

 これで失敗だったら、また最初っからなんだよなあ……。

 

 

「ご主人様!」

 目を覚ました俺を涙ぐんだ蜀の嫁さんたちが迎えてくれた。

 ロードして始まったタイミングは、赤壁に勝利してそれを眠り続ける俺に告げた時。苦しみだした時にセーブしたのかな。

 ロード後は前回と違い、俺が苦しむことはなかったらしい。

 俺の言いつけどおりに華佗に手術を頼んだ愛紗たち。

 華佗も俺の腹部の異物の存在がはっきりとわかる、と俺の腹を切り裂いてそれを取り出してくれた。

「……ここか」

 服をめくって自分の腹を確認する。四、五センチの縫合痕。

 もう抜糸は済んでるらしい。麻沸散の影響もあってすぐに起きなかったのだと後で華佗が教えてくれた。

 

「こんな小さく切って、取り出せたの?」

 縫合痕を障りながら聞く。

 うん。痛くはないな。さすが華佗。

「ああ。まだあまりいじるな。だが、なんでこんな物が身体の中から……呪いの類か?」

 華佗が俺から取り出したものを見せてくれる。

 それは、胎児でもガン細胞でもなかった。

 手にとって確認してみる。

「もしかしたら、と思っていたけどやっぱりそうか」

「身に覚えがあるのか?」

「うん。けど、なんか白いな」

「それはたぶん、骨と同じ材質だ。天井の身体の中で作られたのかもしれない」

 これが俺の骨か。

 身体ん中で骨が増えてたから、苦しかったのかな?

 

 

 

 赤壁で大敗を喫した魏軍は、江陵を放棄した。

 現在は新野城へ入城したらしい。

「やっぱり戦うの?」

 桃香の問いに朱里ちゃんが頷く。

「はい。後の不安材料は減らしておくべきです」

「華琳殿も戦う準備をしています」

 戦いなんて早いとこ止めて、華琳ちゃんに会いたいけどね。

 

「わざわざ誘ってなんて、無理矢理戦いを作り出してるみたい……」

 桃香には、戦いを続けることに迷いがあるのかもしれない。

「桃香はなんのために戦うの?」

「ご主人様?」

「胸を張ってそれが言えないんなら、止めてもいい」

 俺の言葉に天才ロリ軍師たちが慌てだす。

「はわわわ、そ、それはまずいです」

「あわわわ、今さら止めるわけには……」

 

「ご主人様……」

 俯いたままの桃香。

 でも、よく考えればきっとわかると思う。戦いは避けられないことに。

 俺や朱里ちゃんたちが教えるのは簡単だ。

 けど、桃香は自分で見出さなければいけない。じゃないと、桃香を育てられてないって華琳ちゃんに怒られそう。

 

「朱里ちゃん、雛里ちゃん、桃香なら大丈夫だから、ちゃんと準備しといてね」

 桃香には聞こえないように二人を宥める。

「信じておられるのですね」

「うん。俺の嫁さんの一人だからね」

 

 

 

 襄陽にて会合する蜀軍、魏軍、呉軍。

 ……すぐにも野戦に突入しそうな陣を張ってはいるが、会敵、ではない。

「茶番、よねぇ」

 三軍の中央で欠伸まじりに雪蓮が呟く。

「そうぼやかないの」

 同じく欠伸を堪えながらの俺。

 俺と雪蓮の他は側にいない。

 二人から離れた場所で俺たちを見守っている。

 

「昨夜はずいぶん、おさかんだったようね」

「……そうでもない」

「なに、まだなの?」

 呆れた声と目線。

「いや、それがさ」

 弁明するより先に華琳ちゃんが現われた。供を連れてないその姿は、舌戦を仕掛けにきたように見えるだろう。

「……桃香はどうしたの?」

「くるよ」

 直前まで悩んでいた……わけではなく、戦う決意をした桃香を直前まで愛紗に特訓してもらった。

 そのせいで、疲れが出てしまったようだ。

 

「ごめんなさい。寝坊しちゃった」

 緊張感のかけらもなくやってくる桃香。

 うん。ガチガチになってるよりは、いいんじゃないかな?

 

「あなたらしいわね」

「えへへ」

 褒められたと思い、さらに表情を緩める桃香。……やっぱりもう少し緊張してもらいたいかも。

「じゃあ、予定通り始める?」

「……ほんとに五胡、くるんでしょうね? 来なかったら、かなり恥ずかしいんだけど」

 三国の軍がここに集ったのは、戦うためではない。

 決戦すると見せかけて、五胡を誘き寄せるため。

 国境付近には、密かに各国の兵が配置され、五胡の進行に備えている。

 真・蜀ルートの最後の戦いを準備万端で行う予定。

 

「そっちでも動きは掴んでいるんだろ? それにこなかったらこなかったで、三国の和平の宣言とかしちゃうにはちょうどいいでしょ」

 五胡が現われなかった時は魏ルートっぽい流れに持ち込む算段だ。

 まあ、一度は大陸から去ろうとした華琳ちゃんがこの場にいるんだから、さらに恥なんてかかせないけどね。

「……とりあえず、舌戦やっとく? そこから、華琳ちゃんと桃香が一騎打ちって流れで」

「茶番ねぇ」

 今度はため息まじりの雪蓮。

 桃香の数少ない見せ場なんだから、我慢してほしい。

 

 華琳ちゃんと桃香を残して、武将、軍師たちが控える場所へと戻る俺と雪蓮。

「……ずいぶん自信たっぷりだけど、勝てるつもり?」

「特訓はしたけどね」

 華琳ちゃんに桃香が勝つのは無理だろうね。

「やっぱ、私がやろうか」

「いや、雪蓮本気になるでしょ」

 俺と雪蓮は軍師たちの報告を聞きながら、始まった二人の舌戦を観戦する。

 

 

「こないわねえ」

「見抜かれたのかな?」

 舌戦が終わり、華琳ちゃんと桃香が戦っているが、二人の技量があまりにも離れているため逆に安心して見ていられる。

 華琳ちゃんが桃香に稽古をつけているようにすら感じるのは気のせいじゃないかもしれない。

「桃香様!」

 愛紗や焔耶は不安で仕方ないみたいだけど。

 

「曹操ってあんなに強かったのね」

「凄いでしょ」

「どっちの味方だ、お館!」

 焔耶が俺を睨む。その目に涙が溜まっているのは、桃香が心配なせいだろう。

「俺は嫁さんの味方。辛いかもしれないけど、桃香の頑張りを見てあげて」

 道場で和解し、三国が争う必要がなくなり、これで戦いは終わったと、五胡とわざわざ戦う必要はあるのかと悩んでいた桃香。

 ……俺としては五胡を共通の敵として戦えば、三国の絆が深まるっていう蜀ルートの展開は楽だから有りだと思う。なにより、ここで後々のためにも桃香が揺るがない信念を見せてくれた方が、蜀としてもありがたい。

 その思惑通りに、何度も何度も立ち上がる桃香。

 そろそろ、華琳ちゃんが桃香を認めて、三国の同盟とか連合とかを発表してほしいんだけど……まだかな?

 

「もしかしたら華琳殿は、桃香さまがどこまで立ち上がるか試してるのかもしれぬ。ご覧なされよ、あの楽しそうな顔を」

 うん。星の指摘通り、華琳ちゃんはSなスイッチ入っちゃった顔になってる。

 桃香の方は泣きそうになってるし。

 頑張れ、桃香頑張れ。

 

 ……やっと桃香が倒れて、華琳ちゃんが三国の連合を語り始める。

 慌てて、桃香に駆け寄る俺たち。

「……ごめん、負けちゃった」

「うん。よく頑張った」

 ……というか頑張りすぎ。いいタイミング見計らって倒れなさいって説明したのに。

「だって、華琳さんに私の気持ち、全部伝えたかったから」

 まったく。桃香の頭をなでてから、華琳ちゃんに向かう。

 

「まだこないの?」

 周囲には聞こえないように華琳ちゃんが囁く。

「うん。……華琳ちゃんやりすぎ」

 俺も小声で華琳ちゃんに抗議。

「だって……あなたの初めてはもらいました、なんて桃香が言うから」

 どんどん小声になっていったけど、最愛の華琳ちゃんの声を聞き逃す俺ではない。

「華琳ちゃん!」

 嫉妬してくれたことに嬉しくなって華琳ちゃんを抱きしめる。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! まだ大事な話が済んでない!」

 あ、そうだった。

 名残惜しいが、華琳ちゃんをはなす。

 そう。大事な……俺の作戦はまだ済んでないのだから。

 

「覇道を諦めるって言うのね、曹操」

 やる気の感じられない棒読みの雪蓮。

 もう少し真面目にやって。そんなに五胡と戦いたかったの?

 

「大陸を建て直すため、私は大陸を一つの国にするつもりだった。でも、あなたたちとならその必要はなさそうね」

 愛紗に支えられて、桃香が立ち上がる。

「華琳さん」

 その目には先ほどとは違う涙。

「私は大陸の平和を乱さない限り、あなた達の国のあり方には干渉しない」

 華琳ちゃんの宣言で、周りに動揺が広がるのがここからでも見て取れる。

 次は桃香と雪蓮が畳み掛ける番。

「三人がそれぞれの国を大切にしながら……」

 そして、俺は桃香の宣言を側で聞きながらも、心臓が破裂しそうなほど、緊張していく。

 

 

「ここに!」

「大陸連合の発足を!」

「宣言する!」

 三人の王が力強く宣言すると、兵たちの歓声が上がった。

 でも、俺はその歓声よりも自分の心音の方がやかましいほど。

 

「……皇一?」

「どうしたのご主人様? 顔色が変だよ」

 変ってなんだよ。

「雪蓮、桃香」

 名を呼ぶと、わかったと頷いて二人が離れていく。

 雪蓮はにやにやと。桃香は愛紗に支えられながら。

 

「華琳ちゃん」

 華琳ちゃんの名を呼んでから、大きく深呼吸。

「なにかしら?」

「今までずっと言えなかったことを言うよ」

 やっぱりものすごい緊張する。

 作戦とはいえ、こんな大勢の前でなんて止めておけばよかった。

 昨夜、言っとけばよかった……。

 

 

 昨夜、俺は華琳ちゃんの天幕にお邪魔していた。

 呼び出しを受けたからだ。

 魏軍へと潜り込むのは、明命が案内してくれた。魏の親衛隊たちも協力してくれたので意外とすんなりいってしまった。

「病はもういいようね」

「みんなに心配かけちゃったね」

「あんたの心配なんてするわけないでしょう!」

 桂花が即座に否定する。

 天幕には魏の主要な将、軍師が揃っていた。馬騰ちゃんと華雄がいないのは俺の嫁が集まったってことなんだろう。

 

「皇一、私のことを思い出した?」

「……それが、まだ」

 失望と非難の視線が天幕中から俺に刺さる。

 俺だって思い出したい!

 腹の異物を取り出せば思い出す、なんて考えもあったが、失った十年の大体の記憶は思い出せたのに、華琳ちゃんのことだけがぽっかりと抜けている。

 情けない。そして悔しい。

 

「泣くのはまだ早いわ」

「華琳ちゃん?」

「沙和が持っているもの、あれがなにかわかる?」

 沙和が両手で抱えるようになにかを持っていた。

「……布?」

 沙和が持っているからには服なのだろうけど、いったいなんだろう?

 

「皇一、自決を気にすることはないわ」

「でも、そのせいで俺はみんなのことを忘れちゃった。みんなに悲しい思いをさせた……」

 あんなこと、しなければよかった。

「あれは私に勝つために道場を使ったのではないのだから、気にすることはないわ」

 え?

 華琳ちゃんに勝つため?

「華琳ちゃん、いったいなにを……うっ、うう……」

 なんだ? 頭痛がする。

 もしかして記憶が戻るのか?

 けど、今まで記憶が戻った時にこんなことは……。

 

「春蘭」

「はっ」

 華琳ちゃんが声をかけると、春蘭が沙和の持っていた布の一つを受け取り、広げてみせる。

「エプロン? ……っ!」

 まただ。ずきずきと頭が痛む。

 

「桂花」

「……は、はい」

 桂花がゆっくりと服を脱ぎだす。ストリップ?

 猫耳フードを最後までとらなかったところに桂花の執着を感じる。

 そして……。

「は、裸エプロンっ!?」

 沙和から受け取ったエプロンを装着する桂花。

 男の浪漫がそこに具現化した!

 

「ぐっ!」

 あまりの痛みに両手で頭をおさえる。

 なんだ、これは?

「……もう少しのようね。全員、裸前掛けになりなさい」

 華琳ちゃんの指示で、華琳ちゃん以外の全員が裸になり、エプロンを装着する。

 パラダイスがそこに出現した。

「い、いったい……!」

 感涙してしかるべき状況なのに、頭痛がそれを許してくれない。

 あまりの激痛に立ってることもできず膝をつく。

 

「これでも駄目なのか!」

「華琳さま」

 期待のこもった眼差しを華琳ちゃんに向ける春蘭と桂花。

 二人とも華琳ちゃんを向いたので、俺に後姿を見せていた。

 裸エプロンのバックは最高だった。

 

「仕方ないわね」

 俺に見せつける様にゆっくりと脱いでいく華琳ちゃん。

 途中で稟が鼻血を吹き上げて倒れ、風が介抱している。

「か、華琳ちゃん……」

 沙和からエプロンを受け取って完成したその姿は、まさに完璧!

 全裸ではない。あえて靴下ははいているというこだわり! その上にたった一枚のエプロン。

 完璧で究極だった。

 

 ずきぃんという今までで一番鋭い痛みの後、痛みは消え失せた。

 そして、俺は全てを思い出した。

「ありがとう! ありがとう華琳ちゃん! 愛してる!」

 立ち上がり駆け寄って、華琳ちゃんを抱きしめながら思わず泣いてしまう俺。

 

「……あなたの名前は?」

「天井皇一」

「あなたの一番大事な人は」

「華琳ちゃん!」

 嫁さんみんな大事だけど、一番といったら華琳ちゃんで間違いない。

「私の初めてを奪った回数は?」

「三十二回」

 ……合ってるよね?

 

「やはり朱里の言った通りだったみたいね。さすがは伏竜」

「えっ?」

 天幕のみんなが俺の記憶の復活を喜ぶ中、華琳ちゃんが解説してくれた。

「皇一、あなたは私のことを思い出せなかったのではないの。……思い出したくなかったの」

「そんな馬鹿な」

 華琳ちゃんが微笑んでいた。

 

「あなたは裸前掛けの条件を満たせなかったことを思い出したくなかった」

 ……ああ、そうか。

「華琳ちゃんの期待に応えられなかった。失望されて、華琳ちゃんに捨てられてしまうのが怖かった」

 うん。思い出した。

 自殺なんかで道場使って、華琳ちゃんとの約束をはたすつもりなかったと、嫌われるのを心配してた俺。

 

「だから、思い出さなかったの?」

「たぶん……ごめん!」

 華琳ちゃんを強く抱きしめながら謝る。

 

 その後、みんなと話しこんでずいぶん夜更かししてしまった。

 エッチはしていない。

 というか、全員すぐ裸エプロンから着替えてしまった。

 残念でならない。

 あのパラダイスは絶対に忘れないようにしたい。

 

 

 あの時、言っておけばよかったと後悔しながらも、小さな箱を華琳ちゃんに手渡す。

「これは?」

 柔らかい小さな手に持たせたまま、その箱の蓋を開けた。

「指輪?」

 それを手に取り、じっくりと調べる華琳ちゃん。

「前のとよく似ているわね」

 そう。一周目の結婚指輪にそっくりな指輪。僅かな違いはあるけれど。

「白いのね」

「なんか、俺の骨なんだって」

 これこそが、俺の体内で発生した異物の正体。

「皇一の? 大丈夫なの?」

 心配そうに俺と指輪を見比べている。

 

「これを精製しようとして、俺の身体おかしくなってたみたい。今は大丈夫」

 なんで自分の身体で指輪を作らなければならなかったんだろう? マジで意味不明である。

「……そう。私に捨てられる、と記憶を封じたように、私との絆を形にしたかったのではなくて?」

「それならわからなくもないか。……でも、それで指輪なんかできちゃうのかなあ?」

 指輪が体内で完成するあたりで、嫁以外の失っていた記憶も戻ってきている。なにか、別の力が働いていたのかもしれない。

 まあ、それはともかくとして。

 再び大きく深呼吸。そして、眼鏡を外す。

 

「華琳ちゃん、結婚して下さい!」

 大きな声で告白する俺。

 これこそが俺の作戦。

 衆人環視の上でなら、断りにくいでしょ。というセコい計算。

 ……やっぱり止めておけばよかった! 無茶苦茶恥ずかしい。

 

「いきなりなにを言い出すの?」

「ずっと華琳ちゃんに言いたくて、でも言えなかったんだ。断られたらどうしよう、って」

「もう私たちは夫婦でしょう?」

 呆れた顔の華琳ちゃん。

 でもその頬は真っ赤だ。とても可愛い。

 

「今はまだ結婚式はしていない。前の時も交渉のついでみたいな扱いで、明確な返事をもらっていない」

 華琳ちゃんを見つめる。

「大好きだよ、華琳ちゃん」

 ストレートに俺の思いを伝える。眼鏡を外してなかったら言えないよ、こんな台詞。

 

「……」

 華琳ちゃんが口を開いた時、三国の兵士が駆け寄ってきた。

 連絡兵? このいいタイミングでまさか……?

 俺たちの微妙な表情にやっと状況を把握して、言い辛そうにしながらも兵士たちが報告する。

「ご、五胡の軍勢が……」

 やっぱりか。

 はじめて、五胡をこれほどまでに憎いと思った。

 もっと早くか、もうちょい遅くこいよう!

 

「求婚の返答は五胡を撃退してからね」

 いつのまにか戻ってきていた雪蓮と桃香。

「みんなーっ、曹操さんの返事が知りたかったら、五胡を倒そーっ!」

 五胡の襲来に動揺していた兵たちから再び歓声が上がる。なんか士気がすごい上がったみたいだ。

 俺と華琳ちゃんは真っ赤になっていたけど。

 

 

 五胡はあっさりと、とまではいえないが撃退に成功した。

 勝利宣言の時になぜか、華琳ちゃんだけではなく嫁全員にプロポーズする羽目になってしまった。

 恥ずかしさで死にそうだった。

 俺一人じゃ恥ずかしすぎたので、二人ほど巻き込んだ。

 一刀君が祭さんに。

 馬騰ちゃんが華佗にそれぞれ求婚した。

 

「鈴々もお嫁さんなのだ!」

 いつのまにか嫁が増えていた。

 まさか季衣ちゃんが鈴々ちゃんを連れてくるとは思わなかった。「可哀相だからちびっこもお嫁さんにしてあげて」って。

 季衣ちゃんいい子すぎる。鈴々ちゃんの目が赤かったので泣かれちゃったんだろうな。

 季衣ちゃんの前で泣く鈴々ちゃんってのはちょっと想像できなかった。

 ……すぐにベッドで見ることになったけどさ。

 

「わ、私もか?」

 華雄も初めてだったよ。

 

「抱っこしたらお嫁さんにするって、言ってたよ?」

 抱っこじゃなくて、抱いたら、だから。璃々ちゃんはもう少し待っててね。

 

 紫苑さんと桔梗さんは最近一刀君と仲良くなってる気がするので、もしかしたらもしかするのかもしれない。

 恐るべし熟女キラー。

 

 

 真の状態でスタートしたおかげか、終末はこなかった。

 これでもう、初めからやり直さずに済むっぽい。

 結局、道場の正体はわからなかったな。

 

 萌将伝のように都で暮らすことになり、そこでの記念式典の一環としてやっと結婚式を挙げた。

 さすがに全員一緒での初夜は無理だったのでいくつかのグループごとになった。一周目の一刀君の気持ちがわかる。

 まあ、俺の一番は決まっているのでそれを巡っての争いがなかったのが救いか。

「本当に、変態なんだから」

 ベッドの上で、華琳ちゃんが呆れている。

 新妻が身に纏うのは、わざわざ着なおしてくれたウェディングドレス。

 一生懸命頼み込んで、やっとオーケーしてもらった。

「変態は嫌?」

 ふるふると首を振る華琳ちゃん。

 そして、俺の耳元で囁く。

 

「皇一、好きよ」

 俺はもう死んでもいいと思った。

 ……フラグじゃないってば。

 

 




おつきあいありがとうございました
これにて完結です


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蛇足
蛇足一   設定他


 最後までおつきあいありがとうございます。
 感想、評価、一言ありがとうございました。
 みなさんのおかげで完結まで到達できました。


 今回は、人物紹介とか本編で使いきれなかった裏設定とかボツ設定とかです。
 ……あと、今書いててて思いついた追加設定とか。



萌将伝ZERO

 最初は萌将伝に繋がるルートを考えての話でした。

 一刀が3人いて、それぞれの陣営で活躍するという。最後はその3人がフュージョンしてしまう予定でした。

 

 

北郷(ほんごう)達刀(たつと)

 三人同主人公がややこしくなりそうだったので、一刀の双子の兄を考えました。

 当然、通称はタッちゃんな駄目兄貴。

 一刀の死体を前に「きれいな顔してるだろ」とか言い出しそうです。

 一刀妹もヒロインにするかもと思い、ボツキャラになってしまいました。

 名前だけ、五話でネタに使いました。

 オリ主に優秀な弟がいたりするのも、こいつを引きずっているせいかもしれません。

 

 

セーブ&ロード

 元々ドラクエSSの設定だったので、セーブスロットが3つしかありません。ロードも好きな時にできません。

 

 

タイトルに関して

 無双できるほど強くないへたれ主人公だから、無の反対で有ってことに。

 残念なイケメン†無双とか、イケメン魔法使い†無双にしなくてよかったとは思います。

 ジェミニとか、天の御遣いが二人とかにもかかっていますし。

 

 

26回

 メサイアがVF-25でルシファーがVF-27だから、その間で26と大して悩まずに決めた回数。

 別に救世主と魔王の間の数で、天の御遣いと覇王の間といったような深い意味はありません。

 

 

 

オリキャラ解説

 最初からできる限りオリキャラは出さない予定でした。

 

 

「非処女は嫌! 俺の未熟なテクニックを比較されたくない!」

 天井(あまい)皇一(こういち)

 恋姫†有双の主人公。略称は「アマコー」。

 シリアス薄めなこの話に残酷な描写タグが必要なのは、間違いなくこいつのせい。

 恋姫†無双の世界にくる前は失業中のおっさんで魔法使い。

 元々はドラクエSS用の主人公で考えていました。

 処女厨で独占厨でロリコンを採り入れたオリ主です。処女厨なせいで全ヒロイン攻略は叶わず。

 一章途中までは、イケメンにするかブサメンにするか迷ってました。

 特種能力はセーブ&ロードというチート級なのに無双はできず。

 二章で二本になったり、三章で若くなったり、記憶喪失になったり。

 トラウマを植えつけた初恋の女性は、悪い娘じゃないんだけど思ったことをすぐ口に出す年上の巨乳ビッチ。

 

 

それは馬というにはあまりにも大きすぎた。大きく、黒く、重く、そして……

 絶影。華琳の愛馬。

 黒王号並にデカくて強い。その大きさゆえ、華琳の小ささが際立つので普段あまり乗らない。

 END3の華琳のZⅡがA型とかかもしれない。

 あまりに強すぎるせいで出番がほとんど無いチート名馬。

 

 

「オレ、参戦!」

 馬騰。

 翠の親。無印では男性。真では女性。どちらも名前だけ登場。

 恋姫†有双ではロリBBAでオレっ娘。

 華佗のおかげで病を治した。

 オリ主のおかげで華佗への想いに気づいた。

 競馬でも速く、武でも張遼に勝つチート武将。

 

 

「はじめてなの。やさしくしなさいよね」

 天井(あまい)(みさお)

 華琳の生まれ変わり。

 オリ主の姪だが、血は繋がっていない。

 名前はもちろん曹操から。

 年齢はわけあって秘密。計算してはいけません。

 

 

「マスター、いつも言っていますがその訳は適当すぎます」

 ピーちゃん。

 END3のみに登場

 魔導書『太平要術の書』の精霊。

 ブック・オブ・ピースメーカーと適当な英訳をされ、そこからピーちゃんとオリ主が呼んでいる。

 インペラトル・ワンのサブパイロットとしてオリ主をサポートする。

 

 

 

恋姫†無双からのキャラ解説

 魏贔屓です。

 

「あと同性婚もアリみたいです」

 北郷一刀。原作主人公。

 スタート時はもっと活躍する予定でしたが、一番ワリを食ってしまった人。ごめんなさい。

 一刀ファーストはオリ主の心友状態。最強の北郷一刀でオリ主さえも攻略対象。

 一刀セカンドは三国志知識がマイナスに。

 一刀サードは熟女キラー。オリ主に娘を狙われたりオリ主の娘を狙ったり、な関係もアリかとは思いましたが熟女属性開花のため断念。

 華佗と馬騰を奪い合うオチも止めておいてよかったと思います。

 

 

「忘れるわけないでしょう! この私の初めてを奪ったのよ、二十六度も!」

 華琳(曹操)

 間違いなく恋姫†有双のメインヒロイン。

 メインヒロインなのに、開始直後に襲われ続けたり、三章後半でほとんど出番がなかったり。

 一章で裸エプロンを願うオリ主に応えていれば……。

 オリ主に惹かれたのは無印華琳であったためにM気質が……もとい、強引に求められたのが大きかったようです。二十八話の「奪ってみせなさい」発言には本心からの要求も多少混じっています。

 

 

「二回目は痛くないって聞いたのにー」

 季衣(許緒)

 オリ主の大恩人にして、たぶん恋姫†有双のセカンドヒロイン。

 とてもよいこ。

 二十話と二十一話で四回(四話、五話、十話、十九話)と言っていますが、十話の新婚初夜でロードしてますので、もしかしたら五回かもしれません。

 

 

「便利ではないか!」

 春蘭(夏侯惇)

 二周目以降は、初めてはオリ主に奪われることに。

 描写されてはいませんが、華琳に次ぐオリ主スレイヤー。

 

 

「姉者の初めてを奪うことができるとは……感謝してるぞ天井」

 秋蘭(夏侯淵)

 初期魏嫁では季衣に次いでオリ主に協力的。

 二周目以降は、初めてはオリ主に奪われることに。

 こんなクールな女性にランドセルをさせてしまいました。ごめんなさい。……ランドセルの正体を知った時の顔が見てみたいです。

 

 

「そ、そんなこと言ってないじゃない! あんたは嫌いだけど華琳さまと繋がるにはあんたが必要なの!」

 桂花(荀彧)

 二周目以降は、初めてはオリ主に奪われることに。

 初めてを奪われてからは、オリ主からの好感度大幅アップ。

 

 

「言葉巧みに季衣を騙したに決まっています! バカ……純真な季衣を弄ぶなんて!」

 流琉(典韋)

 緑髪義妹その2。

 当初は親友を騙した男と、オリ主を憎んでいました。

 

 

「じ、自分で頼む……」

 凪(楽進)

 オリ主に身体中の傷痕をペロペロされているはずです。

 

 

「隊長の話やと、この牛の髑髏は死亡部落? をぶち壊す男の印なんや」

 真桜(李典)

 オリ主の素顔写真を売って趣味用の開発資金にまわしている。

 双頭のお菊ちゃんを製作してみたりもしたが、満足できる性能にならず。

 

 

「ええっ? それだとせっかくの隊長のお顔、沙和しっかり見れないの! 断固拒否するのー」

 沙和(于禁)

 オリ主をコーディネイトしたくて仕方が無い。隙があればオリ主にお洒落をさせようとしてます。

 

 

「やっぱり没案の蛇おじさんのがよかったですかねー」

 風(程昱)

 実は、寝るボケはあんまり使えてません。

 

 

「ふが……話に聞く双頭の蛇とはこんな感じなのでしょうか?」

 稟(郭嘉)

 風とともに二周目で引継ぎを達成、三周目冒頭で星、風、稟に回収されしばらく独自ルート、にしようか迷っていました。

 

 

「それいいかも。天和お姉ちゃんって呼んでもらおう♪」

 天和(張角)

 本編終了後は一人でオリ主の相手にチャレンジ。

 

 

「化けて出るんなら眼鏡ぐらい外しなさいよぅ」

 地和(張宝)

 マスコットの小動物が足りないとオリ主に指摘される。

 

 

「……けだもの」

 人和(張梁)

 オリ主の眼鏡そっくりなお揃いのものを変装用という名目で用意してたりする。

 

 

「皇一殿が二度と目を覚まさぬと知った時、本当に愛していたのが誰かを悟った。そして、私の(こい)が死んだ。女としての私は死んだ!」

 愛紗(関羽)

 セカンド一刀から寝取り展開(?)のせいで出番が多かった。

 恋姫†有双のサードヒロインかもしれない。

 

 

「うふふふっ、ご主人様のはじめて、もらっちゃった♪」

 桃香(劉備)

 オリ主の初恋のビッチに似ているというボツ設定がありました。そのせいか、オリ主に避けられ気味だったり。

 

 

「愛紗はお兄ちゃんのおよめさんなのだ! 姉者のおむこさんだから鈴々のお兄ちゃんであってるのだ!」

 鈴々(張飛)

 季衣ががんばっていたため、対照的に影が薄くなったかもしれません。

 最後なんとかオリ主嫁にすべりこみました。

 鈴々&華雄の3Pは番外編にて。……予定はありませんが。

 

 

「皇一殿には世話になりましたからな。特に夜とか」

 星(趙雲)

 無印スタートだったため性知識に欠け、オリ主に夜這いを仕掛けた第一号。

 そして、初めては後ろの方。

 

 

「りょ、陵辱されると思ったじゃないか!」

 翠(馬超)

 オリ主にパンツを返してもらうのを忘れてました。

 ふきふきの元ネタ的な呼び方だと「すいすい」になるかな?

 

 

「でも、まだお嫁さん認定されてない、つまり皇一さんとシテない娘たちには熾烈な争いがあるの!」

 蒲公英(馬岱)

 オリ主から告白を引き出しました。

 

 

「はわわ! ご主人様と華佗さん……」

 朱里(諸葛亮)

 嫁入りが遅かったせいか、出番が少ないです。

 一番の活躍は二十五話おまけの黒化かもしれません。

 一応、オリ主が華琳を思い出さない真の理由を見抜いています。

 一刀×オリ主派。

 

 

「は、はい。つ、艶本よりもすごいこと、して下さい」

 雛里(鳳統)

 雛里仕官後の水鏡塾では、白馬の王子さまが迎えにきた、的な扱いだったかもしれません。

 オリ主×一刀派。

 

 

「それはそれで気が多すぎる気もしますわ」

 紫苑(黄忠)

 璃々のお母さん。

 娘がいるため、どう考えてもオリ主の性癖に合うことはできず、ヒロインにはなれませんでした。ごめんなさい。

 問題だったのは年齢じゃなくて……ぐはっ! ……(バタッ)。

 

 

「抱っこしたらお嫁さんにするって、言ってたよ?」

 璃々(黄叙)

 四十話でオリ主(酔っ払い)に抱っこされた時に「抱いちゃったら嫁にするもぉん」と言われて、すでにオリ主の嫁になったと思っているかもしれません。そのせいで、オリ主のことは「おとうさん」と呼びません。

 

 

「嫁ではない処女を抱くのは裏切りにならんというのが、いかにもお館様だのう」

 桔梗(厳顔)

 あんまり出番がなかったので、いっそ処女にしてしまえばよかったかもしれません。

 

 

「お、お館の……なら、桃香様と一つになれるのだろう!」

 焔耶(魏延)

 影が薄い。

 

 

「皇一は命の恩人だし……その、見ちゃったし……私と同じで地味だし」

 白蓮(公孫賛)

 初めては眼鏡付オリ主でした。

 

 

「冥琳も大喬ちゃんも私のよ!」

 雪蓮(孫策)

 謎の道場主からヒロインへ。

 嫁や冥琳や初めてを奪われたが、死なずに済んでいる。

 本編後は家督を蓮華に譲って、オリ主が真似して一刀に天の御遣いとしての仕事を全部まかせて隠居しようとしたり。

 

 

「私も身体の全てであなたを感じたいの」

 蓮華(孫権)

 オリ主のことは「皇一さん」とちゃんと年上扱いしていたりする。

 

 

「だって皇一のって一人じゃ大変だって沙和が言ってたもん」

 小蓮(孫尚香)

 オリ主の性癖から、おっぱい大きくならなくてもいいかと思い始めている。

 

 

「……同衾を断っているのでな、伯符は欲求不満なのだ」

 冥琳(周喩)

 華佗の治療により健康。

 死なずに済んだり、雪蓮の初めてをしっかり感じられたりと、影は薄いが幸せ。

 

 

「おまたもおしりも……ひりひりしますぅ」

 穏(陸遜)

 オリ主のジェミニを飲み込むおっぱいブラックホール。

 

 

「蓮華様に飲酒させたのだ。それぐらいの覚悟があってしかるべきだろう!」

 思春(甘寧)

 呉嫁ではなにげに抱かれている数が多いです。

 

 

「皇一さまはおっきなおっぱいよりも、小さなおっぱいの方がお好きだからなのです!」

 明命(周泰)

 な○猫の免許証と引換えにオリ主に毒薬を渡した。

 ロードで免許証を持ってない時に戻されたが、ちゃんともう一度貰っている。

 

 

「……たぶん雪蓮様は思春さんがいない内に、蓮華様と北郷様の仲を後押しするつもりなのではないでしょうか」

 亞莎(呂蒙)

 オリ主の素顔が眩しすぎてまともに見れないので、オリ主が眼鏡付きだとほっとする。

 

 

「あとで孫策さまといっしょにお願いします」

 大喬

 小喬の姉。雪蓮の妻。

 無印のみに登場。真・恋姫†無双以降リストラされた半陰陽少女。

 オリ主の二本目の本来の持ち主。

 大喬もヒロインにすると決めた時点で、とっちゃったのはオリ主のとこへと決めていました。

 

 

「冥琳さまもあたしも、初めてに決まってるじゃない!」

 小喬

 大喬の妹。冥琳の妻。

 無印のみに登場。真・恋姫†無双以降リストラされた中古少女。

 大喬のが無くなっちゃったので処女化に問題なくなってあっさりとヒロインに。

 

 

「そんなに大事なら孕ませておけばいいものを」

 祭(黄蓋)

 さすがに処女にはなりませんでした。

 二十五話の台詞は伏線でした。

 一刀のおかげで一番の見せ場が行えなくなることに。

 

 

危ない。もう少しで娘さんを下さいと言ってしまうとこだった。

 黄柄

 一刀と祭の娘。真・恋姫†無双の呉ルートラストに登場。

 祭のかわりとしてオリ主の嫁になる最終回構想もありました。

 

 

江東の虎(たいがー)道ー場ー!」

 孫堅

 原作のキャラが不明なのでオリキャラかもしれません。

 

 

「へぅ……こ、恐くはないです」

 月(董卓)

 イケメンにお姫様抱っこで命を助けられた時点で、実はもうおちていました。

 

 

「あんたのが双頭の蛇みたいに……なに言わせようとしてんのよ、この変態!」

 詠(賈駆)

 緑髪義妹候補だったが叶わず。

 

 

「しゃあないやろ、あん時はチ●コばっか見とったんやし」

 霞(張遼)

 愛紗好きがすぎるかもしれません。

 

 

「……恋もご主人様の嫁?」

 恋(呂布)

 恋がオリ主の護衛だったおかげで三章後半はあまり死にませんでした。

 

 

「兄殿のち●こは気味悪くなどないのですぞ!」

 音々音(陳宮)

 緑髪義妹その1。

 口は悪いですが、オリ主にもしっかり懐いています。

 

 

「わ、私もか?」

 華雄。真名のない人。

 オリジナル真名は、やっぱりつけない方がいいと思いました。

 最後なんとかオリ主嫁にすべりこんだ。

 

 

「私の美しさを見せるためなら仕方ありませんわねえ」

 麗羽(袁紹)

 不遇な扱いになってしまいました。

 

 

「あ、あたい、斗詩じゃないやつの嫁に……」

 猪々子(文醜)

 緑髪義妹その3。

 猪々子は、無印で麗羽にイタズラされて泣いたのが一番可愛いと思います。

 

 

「文ちゃん、ご主人様、どうだった?」

 斗詩(顔良)

 袁家では扱いのよいヒロインでした。

 

 

「う、うむ。そうじゃな。主様が可愛い妾を残して死ぬはずがないのじゃ!」

 美羽(袁術)

 妹ではなく娘ポジション?

 二章から出てきていればフォースヒロインにまでいけたと思います。

 

 

「これがお嬢さまのような可憐な幼女を弄んだ極悪鬼畜棒ですかー」

 七乃(張勲)

 どんなあくどいことをさせるか悩みましたが、結局大したことはしていません。

 

 

「愛紗と兄が手伝ってくれたからみんなの発情期おさまったのにゃ!」

 美以(孟獲)

 緑髪義妹その4(?)。

 

 

「元気だすにょ」

 ミケ、トラ、シャム

 南蛮兵。

 一般兵の発情期はどうしてるんでしょうね?

 

 

「あ、ああ。どうしたんだ? この秘薬が必要な患者がいるのか!?」

 華佗

 ある意味便利アイテム。「俺は馬騰と添い遂げる!」は、使いそこねました。

 

 

「いいオトコのお願いなら聞いてあげるんだけどぉ」

 貂蝉

 漢女。

 出番は少ない。

 

 

「ビッグ・ファイアのために」

 卑弥呼

 漢女。

 名前以外は直接登場していません。

 

 



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蛇足二   道場の正体

感想でもやもやするとの声がありましたので、道場の正体です。
あくまで蛇足ですので、読めば本編で出さなかった理由がおわかりになると思います。



「幼女を大きくさせない能力がいい」

「そんな能力でだいじょうぶか?」

「大丈夫だ。問題ない」

 

 

 

 ……随分変な夢を見た気がする。

 相手は誰だったかわからないが、どんな能力が欲しいって聞かれたから、答えた。

 自分があんな要求をしたことに苦笑する。

 なんでもいいなら、もっと他にもあるじゃん、ねえ。

 不老不死とか魔法とか。

 

 ……可愛い幼女が巨乳のビッチにならない能力ってのは悪くないか。

 うん。

 

 

 ……で、ここどこ?

 知らない天井というか、知らない部屋。

 起き上がって周囲を確認したら、自分が寝ていたのはベッドじゃなくて作業台のような物。

 それが乗っている床には魔方陣らしき模様がたくさん。

 気味が悪い生物のレリーフだらけの壁。

 

 そして、目の前には、巨大な爺さん。

 作り物じゃなさそうだけど、もちろん人間でもないっぽい。

 言った方がいいのかな?

「そんなでかいジジィがいるか」

 

「おお、目覚めたか、我が息子よ!」

 でかいけど、かすれてる変な声。元気ないのかな?

「?」

 息子? まさか俺のことじゃないよね?

 辺りを見回すが、俺とでか爺さんの他には誰もいない。

 

「お、俺の親父は普通の人間だけど。あんた誰?」

 ビビリながらも立ち上がり、なんとか聞いてみた。

「我が名はタムーア。この世界の主」

「この世界?」

「はざまの世界じゃ」

 どっかで聞いた世界だな。

 

「苦心の末、やっと手に入れた特異点に我が力を注ぎ込んで生まれたのがお前じゃ。我が息子よ」

 特異点? 力を注ぎ込んだ?

「息子よ! お前は我が仇を討つために生まれたのだ」

「生まれたってのか、改造されたみたいなんですが」

 ショッカーの怪人は大首領の息子ですか?

 

「残り少ない力もほとんど全てお前に注ぎ込んだ」

 俺の話、聞いてます?

 ……これってあれか?

 神様転生?

 なんか能力くれるって聞いた気がするし……。

 

「我が一族として、奴を倒すのだ!」

「やつ?」

「魔神ダークドレアム」

「だ……ダークドレアム?」

 聞いた覚えがある。

 戦った覚えもある。ただし、ゲームでだけど。

 たしかドラクエ6の隠しボスだったはず。

 破壊と殺戮の化身とか、物騒な名乗りをしていた。

 

「な、なんでそんな魔神と戦わなきゃいけないんだ?」

「戦う、ではない。倒すのだ!」

 そんな無茶言われても。だって6のラスボスをボッコボコに……。

「タムーア? ……まさかデスタムーア、さん?」

 目の前の爺さんの姿はたしかにデスタムーアの第一形態に似ている気がする。ただし、こっちの方が服も身体もボロボロだけど。

 

「奴に倒された時のわしがあまりにも……魔王の地位と誇りを失ったわしはデスの称号を捨て、ただのタムーアとなった」

 ああ、たしかにダークドレアム戦じゃラスボスがギャグキャラと化してたっけ。

 オリ主に蹂躙される踏み台転生者みたいだった。

 

 

「なんで俺が? 本当の息子とかいないの?」

「お前を探すために、様々な世界を渡った」

 俺の質問はスルーですか。

「わしは見込みのある者を鍛えるために道場を作った」

「タムさんが道場を?」

「うむ。霊界ともリンクしている小さな世界だ。わしが選んだ者は、例え死んでもそこからやり直せる。そう、あの忌まわしき勇者たちのように」

 俺がつけてあげた愛称もスルーですか。……6って主人公、勇者だったっけ?

 

「お前は、冒険の書を使うことができるはずだ。それを使えば失敗してもやり直すことができよう」

「これか」

 もう何度も見ているウィンドウを呼び出す。

 マジで冒険の書だったとはね。

 

「道場主ってのは?」

「その世界に詳しい死者だ。説明もなしでは息子候補も苦労するだろう」

 はい。全然説明してくれなかったから、苦労しました。

「周回ボーナスってのは?」

「その世界から得られる祝福だ。だが、元とはいえ大魔王であったわしに祝福など望めまい。関係者も同じであろう」

 ……それであんな嫌がらせばっかりだったのか。

 

「……なんで俺が選ばれた?」

「わしが選んだ世界は、滅びの世界。やがて消え去る世界。世界の滅びをおさえつける者こそ、奴を倒す力を持っていよう」

 たしかに終末ルート回避して、これからだって思っていたらこっちに来ちゃったわけだけど。

「元の世界に帰してくれ」

「奴を倒せたら、自分で帰れるぐらいの力は持っているはずだ。我が力を受け継いだのだからそれぐらいはできよう」

 倒すの前提で話を進めるの、止めてくれません?

 

「俺、すっごく弱いんだけど」

「心配するな。わしが残りの力のほとんどを注いだのだ」

 不安になって自分の身体を確認する。

「鏡どこ? ……あまり変わってないようだけど……おおっ!」

 ずっと悩みの種だった双子が一人息子に戻っていた。

「安心するがいい。第二形態で元の数に戻る」

 ぶっ!

「元の数ってなんだ! 第二形態って!」

「わしの息子だ、当然であろう。そして、わしからだけではない! 骨格にはゴールデンスライムから抽出した成分を注入」

「どこのクズリ?」

 握り拳に力を入れてみるけど、爪は生えてこなかった。残念。

「やっぱアダマンじゃないから駄目なのか」

 というか、父デスタムーア、母ゴールデンスライム?

 

「さらにとっておきの、対象の老化を防ぐ能力。これで強いが寿命の短いモンスターも長持ちさせることができる」

「い、今なんて……」

「対象の老化を」

「しまったぁ!」

 さっき見た夢はこれだったのか!

 ……俺はなんてミスをしてしまったんだ!

 

「なんじゃ?」

「幼女を大きくさせない、じゃなくて、対象を幼女にする、な能力にすれば良かった! 俺はなんて愚かなんだ!」

 それなら熟女も幼女にすることができる。いや、もしかしたらモンスターも幼女にできたかもしれないのに!

「……って、対象をってことは幼女以外にも使えるの?」

「無論だ。……ふむ。妖女か。さすが我が息子」

 なにに感心してるんだろう。タムさんもロリコンなのかな?

 

「このはざまの世界にも何百年かぶりに人間を堕とした」

「もしかして俺の知り合い?」

「わからん。他にあと二人の人間がここにいる。できればお前のようにわが子として生まれ変わらせたかったが、わしにはもう力が残っておらん」

 だからボロボロなのかタムさん。

 

「力試しに殺すもよし、道具として使うもよし。好きにするがよい」

「いや、それはちょっと」

 やっぱり大魔王ってことか。……元だけど。

「幸い二人ともメスだ。お前の力も使えよう」

 メスって。って、能力って女性限定なの?

「わしは最後の力でお前が憎きダークドレアムを倒すまで生き延びる。わしが死ぬ前に怨敵を打ち倒してくれ……」

 

 眠ってしまったタムさんを手術部屋(?)に残して、俺は二人の人間を探しに行く。

 ……どうやらここは城らしい。家具とかタムさんサイズのもあったりする。

 元とはいえ、大魔王の城なのにモンスターの姿がない。遭遇したら逃げようと思っているのだが。

 玉座の間とおぼしき場所に二人はいた。玉座デカすぎ。

「えっと、フォズちゃんとリッカちゃん?」

「はい」

「え、ええ」

 ナイスだタムさん。今ならあんたを親父と呼んでもいい!

 俺の知り合いではなかったが、宿屋の娘とロリ大神官。能力のあるロリ。最高だ。

 

「私たちが絶望したから、ここへ堕ちてしまったの?」

 たしか、はざまの世界ってそんな設定だったはず。

「うん。さらに俺は改造されて、その上難題を押し付けられた」

「そんな……」

「元のとこへ返してあげたいけど、タムさんもうそんな力もなさそうだしなぁ。探せば元の世界へ戻れる旅の扉……って、二人とも違う世界から来たっぽいなあ」

「え?」

 フォズちゃんは7の、リッカちゃんは9の世界だよね?

 

「……いいです。今、元の世界へ戻ってもすぐにまたここへ戻りそうだし」

「……わたしも」

「そんなに深い絶望なのか?」

 二人ともまだ主人公に会ってないのかな。

 

「ありがとう。ここに一人ぼっちなんて泣きそうだったんだ」

「でも、わたしなんかいたところで役にたてませんよ」

「そんなことはない! 美少女がいればそれだけで俺は嬉しくなれる」

 これがむさいオッサンが二人だったら地獄でしかないだろう。

「え?」

「それにたぶん、君達はすごい役に立ってくれると思う。フォズちゃん、リッカちゃんなにか得意なことは?」

 知ってるけどね。

 自分を見直して、少しでも自信を取り戻して欲しい。

 

「わ、わたしは宿屋を」

「私は……転職を」

「うん。すごい助かるじゃない。……一番役立たずはやっぱり俺か。あ、でも改造されたからちょっとは強くなってるのかな」

 呪文とか使えるのだろうか?

 タムさん武器とか用意してくれてないかな?

 

「さて、どうしたものかな?」

 二人と相談する。

「まずは現場の確認、かな? はざまの世界って言ってたけど、どんなとこなのかよく調べないと」

「食べられるもの、あるでしょうか?」

 探索することになった。万が一の場合に備えて、三人でいっしょに。

 モンスターいないといいなあ。

 

 

「とりあえずしばらくは大丈夫そうか」

 現在地はやはり城だった。

 ところどころ壊れて早めの復旧が必要そうだが、厨房はしっかりしており、食料も用意してあった。

 城の内部に住むものはいなかった。

 普通のサイズの調理器具や食器も見つかって、なんとか食事はできそうだ。

 火をおこすのが大変そうだったので、今回は水とパンだけで済ました。たぶん、魔法で火をおこしていたんだろうな。フォズちゃんなら着火できるかもしれないか?

 タムさんが一人で料理とかしてたんだろうか? ……なんか悲しくなってきた。

「大魔王としての立場と誇りを失ったって、嘆いてた。もしかしたら配下のモンスターに見限られてたのかも」

「何百年も一人で……」

 泣けてきたので、パンと水を差し入れに行った。

 

「あれ……」

 手術室(?)にタムさんの姿はなかった。

「どこ行っちゃったんだろう?」

「ここだ」

「?」

 足元から声がする。

 タムさんの声に似ているけど、もっと小さい。

「どこ? って!」

 目の前の床に小さな小さなモンスターがいた。

 

「これがタムさん?」

 フォズちゃんとリッカちゃんがテーブルの上のタムさんを興味深そうに眺める。

 モンスター、おおめだまを小型化したようなその姿はまさしく某親父。サイズもあんな感じである。

「こめだま、ってところか。なんで目玉なんてアレっぽい姿に」

「ダークドレアムを倒す瞬間を見るためじゃ! 力もほとんど失ってしまったがこの姿ならお前と共にいけよう」

 じゃって口調までアレっぽくせんでも。

 

「落ちたら危険かも」

 無事なベッドは一つだけ。巨大なまさしくキングなサイズのベッド。旧タムさんってガタイでかかったもんなぁ。

 枕もあったが大きすぎて首が痛くなりそうだ。

 

「せめてシーツぐらい換えようか」

 三人がかりでシーツと布団カバーを交換。

 かなりの重労働だった。

 

 その日は三人で寝た。

 とはいっても、俺は二人から離れてだけど。

 タムさんは俺のそばにいた。やっぱり寂しかったのだろうか?

 

 

 翌日、リッカが見つけた巨大な鋏で布団を解体。同じく巨大な針が見つかり数組の布団セットが完成。

 旧タムさんサイズってことは自分一人で裁縫とかしてたんだろうか。

 探せば食器のように普通サイズのも見つかるかもしれないな。

 

 

 

 小目玉タムさんの案内もあって城の構造をだいたい把握した。

 ただ、この姿になる時に記憶もかなり失っているみたいで、そんなに役にはたたなかった。

 次は外の調査。

 けど、狭間の世界ってモンスター強いんじゃなかったっけ?

 早くレベル上げてルーラ覚えて、元の世界に帰れるか試したいんだけどなあ。

 俺が戻りたい世界ってどっちだろう?

 生まれた世界か、それとも終末が回避できた世界か。

 ルーラでどっちにも行けるようになるといいな。

 

 危険なのでリッカちゃんとフォズちゃんを残し、城から出発する。

 装備は、鋼の剣と鉄の盾。それが、城で見つかった一番いい装備だった。

「他の品は配下がわしの下から去る際に持ち出してしまったんじゃろう」

 なんて迷惑な。

 あと、みつかった鎧は重いし、呪われているものしかなかった。

「わしの息子なのじゃから、呪いぐらいは余裕で無効じゃぞ」

 そう言われても呪われたら外せなくなるので、試す気にはならない。

 

 恐る恐るフィールドを散歩してると、モンスターに遭遇。

 出てきたのはドラクエお馴染みのスライムだった。

「わしの力が落ちて、この程度のやつがおるとは。情けないのう」

 肩の上で嘆くタムさん。

 でも、これなら勝てるかもしれない。

 

「俺たちの戦いはこれからだ!」

 ……俺は逃げ出した。

 やっぱりもう少し、呪文とか他の能力確認してからにしよう!

 

 

 




 という、ドラクエSSの外伝的な話が恋姫†有双でした。
 恋姫†有双では、無理に明かさなくてもいいかと思い、本編では触れていません。
 セーブ&ロードと道場の設定だけもってきたわけです。

 この蛇足の修正版と、続きを「USOくえ」というタイトルで連載始めました。
 恋姫†有双の連中もちょっとだけ出ています。
 原作が「恋姫†無双」から「ドラゴンクエスト」に変わっているので読みたい方はそちらで検索下さい。


タムさん
 オリ主にセーブ&ロードの能力を与え、自分の力を受け継がせ、破壊と殺戮の化身ダークドレアムを倒せと命令する謎の老人タムーア。
 その正体は「デス」の称号を失った元大魔王。つまりドラクエ6のネタラスボス、ヘタレ魔王と名高いデスタムーア。
 狭間の世界を創り出す程の強大な力を持つが、ダークドレアムに敗れて力を失い、「道場」を創るのがやっとだった。
 オリ主を息子と呼び、ダークドレアムが倒される瞬間を見るため、最後に残った力で小型な大目玉のようなモンスター(小目玉?)となる。そのまま某親父のようにオリ主についていく。
 恋姫†有双にも登場させようか迷いましたが、必要なかったですよね。


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ifエンド2アフター

END2 転生エンドの後日談です


「トリック・オア・トリート!」

「はい、これ」

 玄関の前で待っていた俺は、やってきた女の子たちに菓子の入った袋を渡す。

 中で待ってると、すごい勢いでドアを開ける子がいるので玄関が破壊されるからだ。

 まあ、他にも理由はあるけどね。

 

「ふむ。秋ちゃんは魔女か。お春ちゃんは……なにか間違っているかな」

 今生は別の名前があるにもかかわらず、前世の真名で呼び合うことが多い彼女たち。

 そのせいで俺もとっさに今の本名が出てこない時もある。

 

 春蘭と秋蘭は前世のように華琳ちゃんの親戚である。

 そして、俺の親戚でもある。

 おかしなことに華琳ちゃんではなく、俺と血が繋がっているらしい。

 従兄弟の娘だから、いとこ姪とか従姪(じゅうてつ)とか言うそうだ。こないだ調べた。

「む、そうか?」

 その従姪のお姉さんの方が自分の格好を見回す。

 顔を赤く塗って、角を二本とミノを装備したその姿。

「お春ちゃん、それはナマハゲだ」

 手には玩具の出刃包丁持ってるし。本物でなくてよかった。

「誰がハゲだ!」

「姉者、ハゲではない。ナマハゲだ」

 楽しそうに微笑んでいる秋蘭、知ってたなら教えてやってくれ。

 

「そ、そんなことはどうでもいい! 華琳さまはどこだ!!」

「華琳ちゃん? いっしょじゃなかったの?」

 聞かれた時のために用意していた台詞を使う。華琳ちゃんの居場所は知っているけど、教えられない。

 教えると、俺の命やその他が危ない。

 

「隠すとためにならんぞ」

 出刃包丁を俺に向ける。玩具とはいえ、春蘭が使ったら骨の一本ぐらいは持ってかれそうだ。

 その時、短い電子音が響いた。

「華琳さまからだ」

 スマートフォンを確認する秋蘭。華琳ちゃんからメールが届いたようだ。

「姉者、家で待っているようにと華琳さまからのメールだ」

「なんだと! 今すぐに戻らねば!」

「うむ。皇一、我らはこれで失礼する」

 今にも走り出しそうな姉をおさえて、別れの挨拶をするよくできた妹。

「そう。他の子がくるかもしれないから送っていけないけど気をつけて帰りなよ。あ、二人ともよく似合っている。とってもかわいいよ」

 うん。デジカメ用意しておくんだったなあ。

 前世よりも小さくなった二人の頭をなでて見送った。

 

 

 この外史に転生してきたのは華琳ちゃんだけではなかった。

 嬉しいことに俺の嫁全員以上がこの世界に生まれ変わっている。

「ご主人様、トリック・オア・トリート!」

「頼むからご主人様はやめて下さい……って、誰?」

 俺をご主人様と呼んだのは、着流しに般若の面、タオルを両手で頭上に掲げている子。

 正体はわかっているけど、からかい気味に聞いてみた。

「もう。わたしだってば!」

「桃香様、面をとらないと誰だかわかりませんよ」

 愛紗に言われて面を取ったのは、前世では会ってないはずの少女。

 

「ああ、桃香ちゃんだから桃太郎侍なのね」

「えへへ。わかる?」

「で、愛紗ちゃんは浦島太郎で鈴々ちゃんが金太郎か」

 釣竿と亀のぬいぐるみを持った愛紗に、斧の玩具とぷーのぬいぐるみを持った鈴々ちゃん。

 ……ハロウィンぽくはないけど。

 

「みんなかわいいね。ちょっと待っててね、写真撮るから」

 さっきの反省を元に準備していたデジカメで三人の写真を撮る。

「うん。ありがと、はいお菓子」

 撮影が終わると、菓子袋を渡す。

「大漁なのだ!」

 他のところでももらったのだろう、たくさんの袋を持ってご満悦の鈴々ちゃん。

 

「おーほっほっほっほ!」

 さっきから気にはなっていたんだけど、あえて無視していた停車中のリムジンから笑い声が聞こえてくる。

「そのような駄菓子で喜ぶとは、ずいぶんと安い女ですのね」

 もしかして出るタイミング見計らっていたのかな。

「なんだと! 鈴々を馬鹿に……おおっ!?」

 リムジンから出てきた人物、というより物体に鈴々ちゃんが目を輝かせる。

 

「すごいのだ!」

 うん。たしかに凄い。

 麗羽たちの仮装は、黄金の身体に三本の首と大きな翼、二本の尻尾という怪獣王のライバル怪獣だ。

 三本の首の付け根から、麗羽ちゃんを真ん中に三人が顔を覗かせていた。

「どうです? 特注品ですのよ」

 一目で造形の素晴らしさがわかる。これは間違いなくプロの作品だろう。

 思わずシャッターをきりまくる俺。

「ちょっ! アニキあたいらの顔、撮ってなくね?」

「あ、つい怪獣の顔に目がいってた」

「首とか羽動かすのも疲れるんだぜ、これ」

 猪々子ちゃんが愚痴る。そうか、それで三人で入っているのか。

 

「ごめんごめん」

 今度は三人の顔が写るように撮影。ついでに桃香ちゃんたちもいっしょに並んで撮る。

「もはやハロウィン関係ないけど、いいもの見せてくれてありがとう」

「おーほっほっほっほっほ。皇一さんには見る目がおありですのね!」

「アニキ、お菓子は?」

「トリック・オア・トリートです」

 猪々子ちゃんと斗詩ちゃんに言われて慌てて菓子袋を渡す俺。

 つい、ギ○ラの口に咥えさせてしまった。

 

「ごめんね、安もんの駄菓子しかなくて」

「かまいませんわ。大事にとっておきますわ」

「いや、食べてくれると嬉しいんだが」

「そ、そうですわね」

 麗羽ちゃんが赤面している。

 俺の嫁ではないけれど、桃香ちゃんや麗羽ちゃんにも前世の記憶はあるらしい。

 桃香ちゃんの記憶だと前世の俺は蜀ルートの一刀君ポジションだったというから驚きだ。

 

「これならもっとお菓子もらえそうなのだ!」

「お、そりゃいいな」

 鈴々ちゃんと猪々子ちゃんが意気投合。ギ○ラで荒稼ぎする予定らしい。

「も、もう行くんですの? 私、もっと皇一さんとお話が……」

「アニキは逃げねえけどお菓子の数には限りがあるんですよ、麗羽さま!」

「そうなのだ! たくさんもらうのだ!」

 鈴々ちゃんが三人入りの着ぐるみを持ち上げて、走っていってしまった。

 ……転んだりしなきゃいいけど。

 

「あれ? 愛紗ちゃんはいいの?」

 桃香ちゃんも鈴々ちゃんたちについていったようで、愛紗一人が残っていた。

「はい。今、華琳殿にメールをもらいまして」

「じゃあ、中に案内した方がいいのかな」

「おねがいします」

 

 

 もう玄関を破壊する子たちは済んだかなと、愛紗を部屋に通す。

「遅かったわね、愛紗」

 出迎える我が姪っ子、操ちゃんこと華琳ちゃん。

「なっ、華琳殿、その格好はいったい!?」

 華琳ちゃんを見て驚く愛紗。

 無理も無い。

 華琳ちゃんがまとっているのは、マント一枚きりなのだから。

 そんな格好だから春蘭に居場所を教えることができなかった。この姿を春蘭が見たら俺の命と世間体が危ない。

 

「見てわからない? 吸血鬼よ。あなたの浦島太郎よりもよほどハロウィンらしいでしょう?」

「それのどこが吸血鬼だ!」

「あら? 皇一のところの資料では吸血鬼の衣装はこれでいいはずよ」

 げっ。俺に責任転嫁ですか。

 

「一般的じゃないけどね」

 あくまで一部ではスタンダードになっているけどさ。

「その格好でここまで来たのか?」

「まさか。そんなことをしたら皇一が泣いちゃうわよ」

 うん。華琳ちゃんの裸は他の奴には見せたくない。俺だけのものだ。

 

「っと、お客さんきたみたいだ。華琳ちゃん、風邪引くからいい加減服着といてね」

 玄関に急ぐ俺。

「トリック・オア・トリック!」

 ドアを開けたら、孫三姉妹が待っていた。

 翼と尻尾と角の悪魔っ子スタイルの三人。

「待ってて、今お菓子を」

 その前に写真撮影か。

 

「皇一、聞いてなかったの?」

「え?」

「もう一回ね」

 頷き合う孫姉妹。

「トリック!」

「……オア」

「トリック!!」

 三人が一人一単語ずつで姉妹の順に言い直してくれた。

 あれ?

 

「……もしかして、イタズラ一択?」

「うん!」

 真っ赤になっている蓮華の横で雪蓮とシャオちゃんが大きく頷いている。

「別に皇一がシャオたちにイタズラしてくれてもいいんだけど」

 その台詞に俺は慌てて辺りを確認。

 よかった、付近に人影はなかった。

「俺の社会的立場を落とすような発言は控えて下さい」

「えっ、そんなものあったの?」

「本気で驚かないで雪蓮ちゃん」

 泣きたくなってくるのをぐっと堪える。

 このままここで話していても辛いだけなので、三人も中に案内した。もうだいたい来たはずだし。

 

「あなたたちも?」

 雪蓮たちを見るなりの華琳ちゃん。も、の後はなんなんだろう?

 さすがに裸マントではなくなっていた華琳ちゃん。

 けど、次は裸セーターですか。ちくちくしないのかな?

 というか、それ、俺のセーターなんですが。

「いつの間に冬物出したの?」

「衣替えはとっくに済ませたわよ」

 この家はもはや華琳ちゃんに掌握されているようだ。

 

「トリック・オア・トリック?」

「ええ。お菓子でなんて誤魔化されないわ」

「華琳もそうでしょ?」

 いや、華琳ちゃんはもっと上だったな。

「私はトリック・アンド・トリート。両方よ」

 

 

 なんとなく少女たちの目が戦場にいる時に近くなっていた気がしてキッチンに逃げだす俺。

 ハロウィンということで、南瓜を調理することにする。

 調理といっても、焼くだけだけどね。

 少し厚めにスライスした南瓜を下茹で代わりにレンジで加熱。

 熱したフライパンにバターを溶かし、それを焼く。南瓜の甘い香りが漂ってくる。

 軽く焦げ目がついたところで、裏返して両面焼いたらでき上がり。

 同じようにサツマイモと人参も焼く。

 でき上がった半分にはペッパーミルでガリガリとひいた胡椒をかける。

 男の料理は変に飾りつけなんかしないという信念のもと、ただ皿に盛った。

 

「できたよ」

 持って行くと、女の子たちが驚いていた。

「皇一殿が作ったのですか?」

「ホットケーキかなにかと思っていたわ」

 ああ、ホットケーキでもよかったかな。最近厚めに焼くコツわかったし。

 フォークと取り皿を渡して、華琳ちゃんと愛紗の間に座った。

「お菓子というよりはツマミだけどね」

「そうね。胡椒のかかったコレなんかいいカンジ」

 グラス片手に雪蓮ちゃんが南瓜をつまむ。

「あ、駄目でしょお酒は!」

「ふふん、これはノンアルコールドリンクよ」

 ドヤ顔で缶を見せてくる。

 

「そうなんだ、ごめん。焦っちゃたよ俺」

「私だってお酒ぐらい我慢できるわよ」

「そうですか姉様。ならばこれは皇一さんの分ですね」

 持参したのであろう袋から缶を取り出す蓮華ちゃん。最初に見た缶に微妙に似ているそれはノンアルコールではなかった。

「……ばれてた?」

 どうやら途中で密かにお酒にスイッチする予定だったようだ。

「ありがたく、これはいただいとくね」

「ビールに合いそうなのにー……」

 たしかによく合うけどね。

 

「南瓜は皮を切った方がいいのではなくて?」

 華琳ちゃんから駄目出しがきた。

「これは少し柔らかすぎな気がするわ。皮に火を通すために加熱しすぎたのね」

「華琳ちゃん、男の料理はそんな細かいことを気にしないんだよ」

 南瓜の皮も栄養あるし。

「妙なこだわりがあるのね」

「そうかな?」

 雑、大量、が男の料理だと思ってたけど違うのかな?

 

「これ以上、美味しいものができたら私たちの立場がないわ」

 サツマイモをつまみながら蓮華ちゃんが呟く。

 サツマイモのソテーも美味いよね。イモ天ぽいけどバター使ってるから洋風で。

「うむ。私たちも精進しなくては」

 愛紗がフォークを刺している人参は生でも食べられるから少し硬めに焼いてみた。これならスライスよりもスティック状にした方がよかったかもしれない。

 

「でもこれで、問題点が一つ解決したわ」

 シャオちゃん問題点って?

「そうね。クリスマスには間に合うかしら?」

「なんの話?」

「いつまでも皇一が無職のままでは困るでしょ」

 ぐさっ。俺のライフを削る言葉のナイフ。

 現に今も困っているけどさ。

 

「だから、私たちが職場を用意することにしたわ」

「はい?」

 職場を用意?

「ただ、条件が炊事洗濯掃除その他ができることだったんだけど」

 みんなの視線が空になった皿に移る。

「これなら大丈夫そうね」

 大丈夫ってなにがですか?

 

「炊事洗濯掃除って……俺にメイドになれとでも?」

「まあ、似たようなものね」

「女装は勘弁して下さい」

 メイドさんは好きだけど、メイドさんになりたいわけじゃない。

 

「私たちの寮の管理人をやってもらうわ」

「寮って?」

「今度できるの。みんなそこで暮らす予定よ」

 ひなたかさざなみ?

「ここでは全員で集まれないから」

 だからクリスマスまでに?

「遠くに住んでいる者たちも喜ぶことでしょう」

 愛紗まで?

 

 

「俺が管理人?」

「ええ」

 みんなで頷かないで。

「女子寮の管理人が俺って無理があるでしょ」

「そうかしら?」

「親御さんも納得しないと思うし」

 かわいい娘がこんなおっさんと一つ屋根の下で暮らすなんて危険だって判断するでしょうに。

 

「あなたなら問題ないってうちの親は言ってるわ」

 こら、弟夫婦、俺の危険性ぐらいわかっていてくれ。

「なにかあったら責任とってもらうし」

 いまだに未練たらしくチラチラとお酒を見る雪蓮。脳内で飲んでいるのはお酒だと変換しているのかもしれない。

 

「皇一殿は、我らと暮らすのはお嫌なのですか?」

「そ、そんなことはないけど……」

 おかしい。なんでこんなことになったんだろう?

 今日はハロウィンのはずなのに。

 ……はっ!

 

「そうか! これがハロウィンのイタズラなんだな!」

「イタズラ?」

「いやあ、俺、てっきりイタズラってえっちな方のとばかり思っていたけど、こんな手でくるとは」

 すっかり騙されちゃったよ。

 これからドッキリのプラカード持った子が入ってくるんだよね。

 

「イタズラはこれからよ」

「えっ?」

「この国にはあなたの言う法なんてないのよ。だからなんにも問題はないの」

「どうせだったら飲酒にも法の制限がない国がよかったんだけどなー」

 ニヤリと笑う華琳ちゃんと愚痴ってる雪蓮ちゃん。

 華琳ちゃんが望んだこの外史だと、俺と華琳ちゃんが結ばれるのに、なんの障害もないらしい。

 でも、法的にはそうかもしれないけど、世間的にはまずい。

 オタクやロリコンはご近所さんにはばれてないんだってば!

 

「ま、まだ早いでしょ」

「私の母親がいくつで私を産んだか知っているでしょう?」

「な、何歳だったっけかなー……」

 はやくドッキリのプラカードきてくれないかな。

 管理人とかも嘘だって早く教えてくれないかなぁ……。

 

 




ハッピーハロウィン

USOくえはもう少しお待ち下さい
少し予定変更なんです

まさか闘神都市2が……


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