魔王少女の女王は元ボッチ? (ジャガ丸くん)
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プロフィール(キャラ関係でネタバレあり)

永らく書いていなかったコレを再度やりだすに当たって数多く寄せられたプロフィールや眷属整理から書き連ねました。

本編は今しばらくお待ちくださいませm(__)m





プロフィール(八幡&眷属など)

 

 

名前:比企谷八幡

 

種族:人間→悪魔→???

 

年齢:16歳

 

立場:セラフォルーの女王兼王

 

神器類:神器"鬼呪装備"

 

経歴

幼少の時期から親からの迫害や周囲から虐げられていたこともあり、幼くして老成していた。セラフォルーとの出会い彼女の女王となる。以後家族の元に分身を残し旅や冥界に行くことが日常となっていった。

中学の修学旅行から家族や表の住人のほとんどとは決別し、裏の世界でのみ生きることを決めた。

神器に宿る阿朱羅丸には過去幾度となくその身を犠牲にぶつかり合っていたが、とある事件から和解を済ませることとなった。

 

 

 

名前:ゼノヴィア・クァルタ

 

種族:人間→悪魔

 

年齢:16

 

立場:女王

 

神器類:無し(ただしデュランダルを所有)

 

経歴

ほぼ原作同様。

ただし、コカビエル戦後リアスではなく八幡に拾われることとなった。

絶賛修行中。

 

備考:現在眷属最弱

 

 

 

名前:シノン

旧姓:朝田詩乃

 

種族:人間→悪魔

 

年齢:16

 

立場:僧侶(1)

 

神器類:???

 

経歴

???

八幡の眷属となってからはオカンポジションに定着している。

 

備考:日常の中において間違いなく眷属どころか八幡を含めた上で最強を誇る。怒らせるダメ。絶対ダメ。

 

 

(NEW)

名前黒歌

 

種族:猫妖怪→悪魔

 

年齢:???

 

立場:僧侶(1)

 

神器類:なし

 

経歴

??

 

備考:未登場

 

 

 

名前:ヴィザ

旧姓:???

 

種族:純血悪魔

 

年齢:???

 

立場:騎士(1)

 

神器類:???

 

経歴

???

現在では八幡の騎士を務めている。

眷属内最年長であり、普段から騒いでいる八幡の眷属や関係者達を温かく見守っている。過去のことがあってからかは定かではないが若い者達がひたむきに努力をしていることに対しそれを応援する節がある。

 

備考:意外にも戦闘を楽しむ節があり、眷属内での訓練の際は率先している模様。

 

 

 

名前:ユウキ

旧姓:紺野木綿季

 

種族:人間→悪魔

 

年齢:15

 

立場:騎士(1)

 

神器類:神器"白昼夢(デイドリーム)"

 

経歴

かつて自身の周囲を襲った災厄のせいで家族を全て失ってしまった。その際八幡により救出されたが当初は大きな反発があった模様。

しかし、ある時自身と過去との決着をつける機会が訪れた模様。

現在では人懐っこく、天真爛漫といった彼女の本質が前面に出されている。

 

備考:眷属内において凄まじい速度で成長している模様。

 

 

 

名前:阿伏兎

 

種族:夜兎→悪魔

 

年齢:32

 

立場:戦車(1)

 

神器類:無し

 

経歴

???

夜兎族の数少ない生き残り。同族愛が強く、同じ同族であるユウを気にかけている。自身のことを奮い立たせた八幡とユウのことを信頼している模様。

 

備考:かなり巻き込まれ体質というか面倒ごとを押し付けられることが多い。主にフリードとクロメの仲介役を果たすことが多々ある。

 

 

 

名前:比企谷ユウ

旧姓:ユウ

 

種族:夜兎と仙狼のハーフ→悪魔

 

年齢:15

 

立場:戦車(1)

 

神器類:神器"食物連鎖(イーター)"

 

経歴

???

現在は八幡の戦車を務めている。

 

備考:普段は男にも関わらず愛玩動物のような可愛さを発揮している。八幡のことを実の兄のように慕っており、彼を否定するものが居ようものならその喉元を喰いちぎらんばかりに暴れ狂う傾向あり。

 

 

 

名前:リタ・モルディオ

 

種族:純血悪魔

 

年齢:15

 

立場:兵士(1)

 

神器類:???

 

経歴

???

八幡の2番目の眷属。かなり昔から八幡とは交流がある模様。幻想都市ナザリックの大開発に大きな貢献をしている。八幡や八幡の家に住む仲間(かぞく)と協力し多種多様なアイテムを開発しており、冥界屈指の開発者でもある。

 

備考:眷属内では唯一の最初の眷属である長門について知っている。他のメンバーはリタが最初の眷属と思っている模様。

 

 

 

名前:クロメ

 

種族:人間→悪魔

 

年齢:14

 

立場:兵士(1)

 

神器類:神器"死者行軍八房"

 

経歴

???

姉との死別後は八幡の眷属候補となり、堕天使勢力の元にスパイ工作を行っていた。駒王協定の際に正式に八幡の眷属入りを果たし、現在では八幡の兵士を務めている。

 

備考:嫌いなものはフリード

 

 

 

名前:フリード・セルゼン

 

種族:人間→悪魔

 

年齢:21

 

立場:兵士(1)

 

神器類:人工神器"幼子の悪戯(チャイルドトリック)"

 

経歴

???

八幡と出会ってからは天使、堕天使側のスパイとして行動していたが、駒王協定の際に正式に八幡の眷属入りを果たした。現在は八幡の兵士を務めている。

 

備考:仲間(かぞく)から酷い扱いをされているが本人はそれを楽しんでおり、彼らも心から彼をひどく扱っているわけではない。クロメを除いて。みんな彼とのコミュニケーションだと理解している。クロメを除いて!クロメを除いてね!

 

 

 

名前:長門有希

 

種族:???→悪魔

 

年齢:16

 

立場:兵士?(1)

 

神器類:???

 

経歴

???

八幡最初の眷属。

その存在を匿うため駒王の端にある高級ビルにて待機をしながら世界中の勢力の情報を集めている。

 

備考:実は眷属内最強の模様

 

 

 

名前:比企谷恋

旧姓:???

 

種族:人間→悪魔

 

年齢:16

 

立場:兵士(1)

 

神器類:???

 

経歴

???

現在八幡の兵士を務めている。

とある英雄の子孫である。

 

備考:2本の触覚のような髪は八幡レーダーとなり八幡を探す模様。

 

 

 

名前:マギルゥ

正式名:マジギギカ・ミルディン・ド・ディン・ノルルン・ドゥ

 

種族:人間→悪魔

 

年齢:???

 

立場:兵士(1)

 

神器類:???

 

経歴

???

現在八幡の兵士を務めているが、基本的に気を許した相手以外には深そうで適当なことを言っている。年齢は知られてはいないがヴィザに次ぐ長年者の模様。

 

備考:かつてのレーティングゲームの際、瞳から光が消え、凍てつく吹雪のような視線をしながら敵を倒していた模様。意外と八幡を気に入っている。

 

 

 

NEW

名前:ベンニーア

 

種族:死神→悪魔

 

年齢:???

 

立場:兵士(1)

 

神器類:???

 

経歴

鬼呪龍神皇のファン。

 

備考:阿伏兎、フリードを駒王に連れてきた。

 

 

 

NEW

名前:ミッテルト

 

種族:堕天使→悪魔

 

年齢:16

 

立場:兵士(1)

 

神器類:無し

 

経歴

???

レイナーレがアーシア神器を抜く時には既にスパイとして活動していた模様。その際に八幡からフリードと2人で動くように言われていた。

 

備考:八幡のことをハッチと呼んでいる

 

 

 

その他(眷属外関係者)

【メイド長】レティシア=ドラクレア

・レム

・ラム

 

【マギルゥの使い魔】ビエンフー

 

【執事長】セバス・チャン

 

【生物化学班】Dr.サンダーランドJr.

 

【原典関係】

ジブリール

アズリール

 

 



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八幡の柔らかチキン解体術♪
元ボッチが指導者としてやってきましたよ?


ハーメルン初投稿なので温かく見守って貰えれば幸いです……


side ???

 

放課後、日が沈み始め街の景観が夕陽色に染まっていくこの時間が俺は好きだ。夕焼けは人の心を落ち着かせる効果があると言われているが、それは人に限った事ではないだろう。事実この景観は腐り濁っている俺の目から見ても素晴らしいものである。校舎の屋上で腰を下ろしながら、俺は1人自慢のアホ毛をピクピク跳ねさせながら静かにこの時間を堪能していた。

そんな雰囲気を壊すように携帯の振動が俺の身体を刺激する。俺の携帯が鳴るのは珍しい。俺の携帯番号を知っているやつが少ないとは言わないが、殆どの奴がかけてくることはない。

とはいえ、鳴ったことに対して驚くことでもなかった。かかってくる理由も、かけてきた人物もある程度予想できたからだ。数分前に感じた2つの力の塊。それだけで理解するには俺には充分だった。携帯を取り出し画面を開くと予想通りの相手からのメッセージが届いている。そこにあるのはただ一言。

『オカルト部室に来て下さい』

あまりにも簡潔に書かれたその言葉に思わず笑ってしまいながら、彼女らしいと思い立ち上がる。はぁ、と一息つくと黒い影が俺を包み、その場には静寂のみが残っていた……

 

 

 

???side out

 

イッセーside in

 

ライザーが消えた部室は静かだった。部長の婚約をかけたレーティングゲームが行われることになったが戦力差が明らかだからだ。

 

「大丈夫よ。ライザーなんかには負けないわ」

 

そういって眷属達を励ます部長だが安心はできない。無論あんな奴には負けたくないし部長を渡す気もないが、敵の眷属に為すがままにやられた俺は何も言えない。

 

「無理でしょうね」

 

部長の言葉に答えたのは眷属ではなく、その場に居合わせたグレイフィアさんだった。

 

「そんなのやってみないと……」

 

「わかりますよ」

 

部長の否定の言葉を彼女は冷たく返す。

 

「ライザー様は非公式とはいえレーティングゲームを既に幾度となくこなしています。それに加え眷属の数も揃っている上に、質も現時点ではライザー様が上です。」

 

そういってグレイフィアは俺たちにも視線を向けてくる。

 

確かに彼女の言うとおりである。

数は相手が15人

対してこちらは

部長、朱乃さん、木場、アーシア、雪ノ下、由比ヶ浜、俺、小猫ちゃんの8人。

人数はほぼ倍の違いだ。

質は俺が一撃でやられたことでわかる。

無論朱乃さんや木場がそう簡単に負けるとは思えないが……

雪ノ下と由比ヶ浜はつい最近転生したばかり、その上俺が無理を言って頼んだので部長が転生させてくれただけで、神器も持っていない。

無論ルークとナイトの駒の性質上力は上がるがそれだけだ。

 

部長もそれを理解しているからか、グレイフィアさんの言葉を受け押し黙る。

 

「ですので、こちら側からも支援させていただきます」

 

『は⁉︎』

 

押し黙った部長だけではなく、その場に居合わせた全員がグレイフィアさんの言った言葉に反応する。

 

「え、えっとグレイフィアさんは部長の事を結婚させたいんじゃ……?」

 

思わず思ったことを言葉に出した俺に対し

「いいえ。寧ろ反対ですよ。私もサーゼクス様も。しかし、酒の勢いとはいえ一度約束してしまったことは貴族として取り消せないとのことでしたので、サーゼクス様と話し合いをした結果レーティングゲームで決めるように仕向け、リアスお嬢様を勝たせればよい、との判断がくだりました。」

 

その言葉に俺たちは絶句してしまう。

いろいろ言いたいことがあるがまず何よりも

 

「うわぁ、あのライザーって人超不憫……」

 

「由比ヶ浜さん。あのような下卑た相手にはそういった対応が適切なのよ?」

 

俺が思ったことを由比ヶ浜が口に出し、雪ノ下がそれを否定する。

 

「ところで支援ってなんですか?」

 

ライザーに対するなんとも言えない空気が出始める中木場がグレイフィアさんに問い出す。

そういえば支援があるって言ってたな……

 

「直接は手を出せないのでレーティングゲームまでの10日間、こちらで皆様の特訓に付く先生を用意することになりました。」

 

『先生?』

 

「はい、その方は……いえ、どうやら来たみたいですね。」

 

俺たちの反応にさらに返そうとするグレイフィアさんだが、何かを感じ取ったように部室の入り口の方へと体を向ける。

それと同時にノックの音が部室に響いた。

 

「どうぞ入ってください。」

 

ノックに対してグレイフィアさんが反応し、ドアが開いていく。

 

そこには俺のクラスメイトであり、俺の友人である男がいた。

 

 

「は、八幡⁉︎」

 

 

 

イッセーside out

 

 

八幡side in

 

 

「は、八幡⁉︎」

 

オカルト部室に入るとまず驚きの声をかけられる。驚いているのはイッセーだけではなく、雪ノ下と由比ヶ浜、それに小猫も目を見開いている。そこまで驚くなよ。特に小猫は。

 

「はぁ、お久しぶりですねグレイフィアさん。」

 

「はい、八幡様は元気そうで何よりです。」

 

とりあえず久々に会った相手に挨拶をするがその返しに思わず笑ってしまう。

 

「ふふ、やめてくださいよ。最強の女王様に様付けで呼ばれるのはなんか、こう……モヤモヤします。」

 

「ご謙遜を。最強の女王など名ばかり。八幡様に比べたら取るに足らないでしょう。」

 

ふふふふふ、と2人して儀礼的なやり取りをすませる。その間他の奴らはポカンとしてやがるな。

 

「さてと。それでグレイフィア、ある程度呼ばれた理由はわかるが一応聞こうか。何の用だ?」

 

「八幡にリアスお嬢様及びその眷属の方々を指導して欲しいのですよ。10日後のライザー・フェニックス様とのレーティングゲームに備えて。」

 

わかりきっていた本題を聞き、予想していたとおりの返答が返ってくる。

 

「ったく。あのシスコン魔王が……嫌なら手前でなんとかしろってんだ。」

 

「立場がありますからね。」

 

俺の心にもない言葉をグレイフィアは笑いながら返してくる。

 

「わかったそんじゃそういうことで……」

「待ちなさい‼︎」

「なんだよ?」

 

俺がグレイフィアの依頼を受けようとした瞬間、雪ノ下が叫び出す。

 

「何故あなたがここにいるの?」

「ここの学生だからだが?」

「嘘ね。あなたの名前なんて全校生徒の名簿になかったわよ。」

「イッセー、俺はお前のクラスメイトだよな?」

「え?……あ、ああ。」

 

俺と雪ノ下の早いやり取りからいきなり振られたイッセーは慌てながら答える。

 

「そんなはず……まぁ、いいわ。では生徒だとしましょう。」

「実際に生徒なんだがな……」

「今更何しに来たのかしら?私達の前から勝手に消えておいて。」

「話聞いてなかったか?お前らに会いになんてこねぇよ。グレイフィアに呼ばれたからだ。リアス・グレモリー及びその眷属を鍛えるためにな。」

「あなたにそんなことできるわけないじゃない。あなたなんかに……」

「できますよ。」

 

ふと俺らのやり取りにグレイフィアが割り込んできた。

 

「彼ならば、貴方方を鍛えることができますよ。」

 

その言葉を聞いて尚雪ノ下は引き下がらなかった。

 

「そ、そんなことないわ。だって彼は‼︎」

「やめなさい雪乃‼︎」

 

ヒートアップし始める雪ノ下をグレモリーが声を荒げ止める。

 

「っ」

グレモリーに止められた雪ノ下は悔しそうに唇を噛み締めるが流石に主に反論はしないようだ。

 

「私の眷属がすみません。ですが私からも聞きたいのですが……」

止めたグレモリーだったが、気にはなるのだろう。確かに俺のことに対して何も説明してなかったな。

 

「ああ、説明を忘れていましたね。」

絶対嘘だ。わざと話してなかっただろ。

その証拠に口元がにやけている。

 

「彼、比企谷八幡様は四大魔王が1人、セラフォルー・レヴィアタン様の女王ですよ。」

 

 

『は?』

 

おーおー、グレイフィアの言葉で全員開いた口が塞がらなくなってんな……

 

「ちなみに私との個人的な手合わせでは、現在824戦中372勝370敗82引き分けと彼が勝ち越しています。それも神器も使わずに。」

それも私は手加減されてますし、とグレイフィアは付け足した。

 

 

『はぁぁぁあああああ‼︎⁉︎???』

 

あ、グレイフィアの奴が余計なこと言って更に騒がせてやがるな……

 

「は、八幡が悪魔⁉︎」

「セラフォルー様の女王ですって⁉︎」

「あらあら……」

「へぇ。」

「それってすごいんですか?」

「うそよ……」

「ヒッキーが……」

 

各々思うことがあるのか呟いている中、ふと袖を引っ張られた。

 

「八幡先輩って悪魔だったんですね。」

 

「ああ、まぁな。黙ってて悪かったな。」

 

「いえ、今度またケーキバイキングに連れて行ってくれるなら。」

 

「かまわねぇよ?」

 

俺がそう返すと俺の袖を引っ張った張本人。

搭城小猫はグッと拳を握りニヤける。

守りたい、この笑顔……

 

「小猫ちゃん八幡と知り合いなのか⁉︎」

俺と小猫が仲良く話していたからかイッセーが驚きの声をあげる。

 

「甘いもの巡りをしてます。」

 

「ああ、それって彼のことだったんだ。」

 

小猫の言葉に聞いたことがあったのか木場が相づちをうち、イッセーがマジかよ⁉︎とまた声を荒げる。

 

ってかここの奴らうるせーな。

 

「んじゃ、とりあえず、明日から特訓するから学校休めよ?そういうことで。」

 

そう言って立ち去ろうとするが、今度はもう1人の方が止めてくる。

 

「ひ、ヒッキー‼︎」

 

「はぁ……なんだよ。」

 

「え、あ、えっと……今まで何してたのかなーって思ったり……」

 

「別に?俺の今の任務はシスコン魔王2人から頼まれた、ソーナ・シトリーとリアス・グレモリーにもしものことがあった際の護衛くらいだし、それ以外は適当にフラフラしてるだけだよ。」

 

「そ、そうなんだー、あ、あははぁははは。」

顔を引きつらせながら無理やり笑う由比ヶ浜だが、その笑いは次第に収まり、そして深刻そうに聞いてくる。

 

 

 

 

 

 

「なんで……どうして奉仕部からいなくなっちゃったの?」

 

 

 

 

八幡side out

 

 

イッセーside in

 

 

「なんで……どうして奉仕部からいなくなっちゃったの?」

 

その一言に部室が静まり返る。

俺たちは雪ノ下と由比ヶ浜から話は聞いている。彼女たちが中学の時に起きた事件。

勝手なことをした八幡が勝手に消えた話。

聞いた時はそいつは最低野郎だなと思っていたが、八幡がそうだったのか。

 

 

「どうして……ねぇ……」

 

由比ヶ浜の言葉を八幡が復唱するように呟く。

その顔に何故か寒気を感じてしまう。

 

「はぁ。なぁ、あの時。本当に俺だけが悪かったのか?」

 

少しの間の後、八幡が出した言葉への返事は誰もしない。おそらくみんな感じているのだ。

このなんとも言えない寒気を。悪寒を……

 

「なぁ、雪ノ下。あの依頼はリスクが高かった。だからどうしても断るべきだった。俺がそういった時、俺に決定権はないと言って否定したのはお前だよな?」

 

その言葉に雪ノ下は答えない。

 

って、え?

今なんて言った?

八幡に決定権はなかった?

ちょっと待って欲しい。

俺たちが聞いた話では依頼を受けたのは……

 

 

「なぁ、由比ヶ浜。あの時リスクが大きかったのにその場の空気に合わせてやろうやろうって言ったのはお前だよな?」

 

その言葉に由比ヶ浜は俯く。

 

 

やはり何処かおかしい。

俺らが聞いてた話と食い違いがある。

 

「なぁ、雪ノ下お前は俺に決定権がないと言って受けたくせに、最後はクラスが違うからって俺に丸投げしたじゃないか?その上お前は言ったよな?俺に任せるって。」

 

その八幡の一言一言は重々しい。

 

「なぁ、由比ヶ浜。お前は終始何もやらなかったじゃないか。やろうやろうって言っといて。結局何もしなかったじゃないか……」

 

八幡の言葉に雪ノ下と由比ヶ浜の顔色がどんどん悪くなっていく。それが、八幡の言ってることが本当のことだと如実に物語っていた。

 

「だから俺がやったんだろ?相反する2つの依頼。告白したい奴と告白を避けたい奴。その妥協点として俺が偽の告白をしたんだろ?なのに、俺のやり方が嫌い?人の気持ちを考えろ?」

 

ふと俺は気付く。

自身の身体が震えていることに。

八幡が出している気配に恐怖を感じていることに。

 

「巫山戯るなよ?俺はお前らの都合のいい玩具じゃないんだよ。」

 

その言葉を最後だったのか感じていた悪寒が消える。

 

「っはぁ……」

 

思わず呼吸をすることを忘れていたようで、俺はようやくそれに気付き思い切り肺に空気を送り込む。

 

「ああ、わりぃ。ちょっと魔力が漏れ出てたみたいだな。」

 

なんともないように八幡が告げる。

 

あれでちょっと漏れ出た?

その八幡の言葉と実際に感じた気配に背筋に冷や汗を流す。

 

「まぁ、お前らのことなんでどうでもいいがな。」

 

その八幡の言葉にその場にいたグレイフィアさん以外が目を見開く。

 

 

「所詮、偽りの日常。セラフォルー様みたいになりたくて入ってみたが、やっぱり俺は駄目だな。どんなに頑張ってもセラフォルー様のようにはやっぱりなれない。」

 

その言葉にどんな想いが込められているのか俺にはわからない。でも、そこに八幡の複雑な想いが込められていることは彼の顔を見て読み取れた。

 

雪ノ下と由比ヶ浜は唇を噛み締め、俯いたまま何も言わない。

周りは八幡の雰囲気に殆どが圧倒されている。

だが、例外もいた。

 

小猫ちゃんだけは

何故か雪ノ下と由比ヶ浜を睨んでいた。

 

「……さない。」

 

「小猫ちゃん?」

 

よく聞こえなかったが小猫ちゃんは何かを呟いていた。

 

「さて、それでは私はそろそろ失礼します。」

 

この雰囲気の中みんなに聞こえる声で発したのはグレイフィアさんだった。

 

「おぅ、お疲れ様。まぁ、こっちはやれるだけやるさ。」

 

「よろしくお願いいたします。それと最後にセラフォルー様からも2つ伝言を頼まれているのでそれだけお伝えします。」

 

「なんでグレイフィアがセラフォルー様からの伝言を預かってんだよ……」

 

「1つ目がソーナ様の件、ご苦労様だそうです。2つ目が特訓の時は万全の体制でやっていい、とのことです。」

 

「……了解。」

 

では、とグレイフィアさんの足元に魔法陣が現れ姿を消す。

 

「んじゃ、明日から10日間グレモリー家所有の山で特訓するからな。朝早いから遅れるなよ?グレモリーは俺ら全員の公欠手続き頼むわ。」

 

そう言って八幡は部室から出て行った……

 

 

残されたこの部屋では、皆がソファに腰を下ろすボスンという音が聞こえてしばらくの間、誰も言葉を発しようとはしなかった。

 

 

 

 

 




回覧ありがとうございます。
誤字脱字、感想など頂ければ幸いですm(__)m


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実は○な元ボッチ⁉︎

お先に言っておきます。

原作と幾つか食い違ってくる設定が何個か出てくるかもしれませんのでその辺はご了承下さい。

暖かい目で見守っていただければ幸いですm(__)m



八幡side

 

暖かくなり始めたこの季節でも、山を登っているとなれば、早朝の日が出始めるこの時間帯にもまだ肌寒さが残っている。周りに生い茂る木々のざわめきとこの肌寒さがただの山に不思議な雰囲気を纏わせ、俺の心に僅かながらも安らぎを与えてくれる。

思えば悪魔になって長いことが経つ。

悪魔になってからというもの魔王の女王としての仕事に励んでいたせいか、こういった風景や雰囲気に安らぎを求めることが増えた気がする。

とはいえ、今日は1人で来ているわけではないので後ろを振り返り後続の者にも声をかける。

 

「おーい。イッセーバテるの早過ぎるぞ。」

 

「うるせぇ‼︎なんでお前は荷物持ってないんだよ⁉︎」

 

俺の声にイッセーは理不尽とばかりに反論する。その背には普通の人からすれば恐ろしさすら感じる量の荷物がある。

 

「イッセー先輩遅いです。先に失礼します。」

 

イッセーが俺に文句を言っている中そのイッセーを横からひょいっと小猫が抜いていく。

その際に小猫が持つ荷物の量にイッセーは目と口を盛大に開く。その量は軽く見積もってもイッセーの10倍はある。戦車の性能を加えているとはいえ結構な量だ。しかしあの量……予想以上にお菓子を持ってきやがったな小猫のやつ…………

 

「ほら、イッセー。駒の性能があるとはいえ、その量で小猫に負けるなよ」

 

「鬼か⁉︎」

 

「そもそも、悪魔になりたて以前にお前は身体が全然出来上がってねぇ。悪魔になったからある程度は上がってても今のままじゃ神器の有る無しに関わらず瞬殺されるぞ。今は少しでも身体を作りやがれ」

 

「ぐっ……」

 

俺に全くの正論を言われ、イッセーは歯を食いしばりながら歩いていく。

 

「中々に厳しいんだね?」

 

イッセーの相手を終え歩き始めた俺に木場が笑いながら話しかけてくる。背には必要最低限のみ入れられているであろう荷物がある。

 

「不本意だがサーゼクス様やセラフォルー様、それにグレイフィアに頼まれたからな。やるからにはしっかりやるさ。それに、イッセーの奴が筋トレできるのは今のうちだけだ」

 

「どういうことかしら?」

 

木場の発言に対して答えた俺に、更に尋ねて来たのはリアス・グレモリーだった。

 

「そのままの意味だよ、リアス・グレモリー。これから10日間、あいつには筋トレなんかしてる暇はない。」

 

「どうして?基礎を鍛えることは悪魔にとっても重要なことでしょう?」

 

「ああ、もっと時間があればな。今回は時間が足りなすぎる。まぁ、詳しくは着いたら話すさ。」

 

リアスの尤もな言葉を俺は軽く流す。

どうせこの後説明するのだ。

ならここで話すのはただの2度手間である。

 

「あらあら、ところで彼女達はいいんですか?」

 

「何がだ?」

 

俺たちが話しているところに入ってきた朱乃の問いに俺はわかっていながらもしらをきる。

 

「雪乃ちゃんと結衣ちゃんのことですよ」

 

「「「っ⁉︎」」」

 

朱乃さんの一切気遣いのない言葉にリアスと木場、それと少し離れたところにいる小猫が身を震わせる。

 

「リアス・グレモリーの眷属なんだろ?なら出来る限り鍛えるさ。転生して間もないが少しは使えるようにした方がいいだろ?」

 

特に深い反応はせず答える俺に朱乃さんが目を伏せながら首を振る。

 

「そういうことではなくてですね。昨日あなたが帰った後いろいろと彼女達に……「関係ありませんね」聞い……って、え?」

 

朱乃さんの言葉を消すように言う俺に周囲の者たちは驚きの色をみせる。

 

「あいつらがどうしてリアス・グレモリーの眷属にいるのかなんて、俺にはどうでもいいんですよ。あいつらが俺のことをなんて言っていようと、ましてやあいつらが俺にどんな感情を向けようと、俺には全く関係のないことですから」

そういう俺の視線の先にはイッセーより更に遠くにいる3人の姿がある。疲れ果てグロッキー状態の黒髪長髪の女性を真ん中に置き、金髪の元シスターとピンク髮の少女が肩を貸している形だ。それを見る俺の瞳には何も宿っていない。他の奴らから見れば知り合いを見る目ではないと言われるだろうな。

 

 

そんな俺の言葉と瞳に宿るものを感じ取ってか、朱乃もリアスも木場も目を伏せている。

ただ、小猫だけは俺と同じ方を見ていた。

 

 

「俺が今やるべきことはお前達を鍛えること。それだけのために俺は今ここに来てるんだよ」

 

そう言って俺は再び歩を進めながら腕につけた時計で現在時刻を確認する。

グレイフィアに言われた万全の体制を作る為の時間確認を………

 

 

 

八幡side out

 

 

イッセーside in

 

 

 

目的地に着く頃には俺は完全にグロッキーだった。服は水の中に飛び込んだかのようにビショビショになり、肩を激しく揺らしながら呼吸を整える。隣では荷物を一切持っていなかったはずの雪ノ下が俺と似た様な形で地に伏している。その近くには背中を摩っている由比ヶ浜と心配そうに見るアーシアがいる。

 

「……………」

 

正直言って彼女達2人にどう接すればいいのかわからない。俺は元々八幡と友人であり、八幡が悪い奴だとは思っていない。むしろいい奴である。そんな彼と複雑な過去を持つ2人に対し俺はどう接すればいいのだろうか。一方は友人でいい奴。もう一方は大切な仲間で、でも俺たちに多くの嘘をついていた。結局昨日は部長によって彼女達に対する暫定的な処置は決まったものの、それだけだった。今彼女達の側にいるアーシアは2人のことをどう思っているのだろう……

 

「ほい、それじゃあ荷物置いて動きやすい服に着替えたらまたここに集合な」

 

俺がそんなことを考えていると八幡はそう言って木造りの建物へと入っていく。俺も考えるのを1度やめ、木場の肩を借りながらやや遅れてそれに続いていった。

 

 

「はぁ、まだ始まってもいないのに疲れた」

 

「あはは、お疲れ様イッセー君」

 

廊下を少し歩きながらボヤく俺に木場が笑いながら労いの声をかけていると自分達の部屋につきドアを開ける。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

そこには上半身裸の八幡がいた。

その身体は普段の様子からは想像できないものだった。細マッチョという言葉がピタリと当てはまるであろうその体型は本当に八幡なのか疑ってしまうほどだが……………

 

 

「なんで上半身裸で携帯弄ってんだよ⁉︎」

 

「あ?別にいいだろ。ただの最終確認だよ」

 

そう言って携帯をポケットにしまい服を着始める。いや、最終確認がなにかは知らないけど上半身裸の必要は絶対になかったよね⁉︎

 

「ねぇ、イッセー君」

 

「なんだ木場?」

 

「僕は向こうで着替えるけど……覗かないでね?」

 

「死ねぇぇぇぇぇえええええええ」

 

八幡の姿を見た木場が何やら血迷ったこと、それも僅かに頬を紅くさせながら言い出し、俺の絶叫が宿舎に響き渡った。

 

 

 

 

「さてと、まずお前らのこの10日間やることを説明するぞ」

 

着替え終えた俺たちは宿前の少し開けた場所に集合している。着替え終えた部長たちの姿は体育着だ………あ、やばい。眼福すぎて血が……

 

「変態……」

 

俺の鼻から垂れる男の血潮を見た小猫ちゃんから辛辣な言葉が飛んできた………

 

「おーい、イッセー。興奮してないで話聞けよ?」

 

やや呆れ気味に俺に注意してくる八幡に対して俺はサムズアップで答えると八幡は溜息を吐いてしまう。

 

「はぁ、まぁいいか」

そう言って一呼吸おいた後、八幡はゆっくりと今回のやることを端的に告げていく。

 

「まず最初に小猫と木場は技術の向上な」

 

「「技術の?」」

言われた2人は首をかしげながら返す。

 

「ああ。バイザー戦とレイナーレ戦を見ても2人は技術の質が浅い。基礎は出来ていてもあくまで人としての延長線上でしかねぇ。悪魔として今の戦法を続けるなら、今持ってるものを昇華させていく必要がある。例えば……」

 

そこまで言った瞬間に八幡の姿が消える。

 

あれ?マジでどこに行った。

 

「ほらな?急にとはいえ一切反応できてねぇ」

 

次に聞こえてきた声は俺の右後ろからだった。その声につられ振り向くと、そこには木場の喉元に拳を置いてる八幡がいた。

 

「っ⁉︎」

 

木場だけでなくその場にいる全員が目を見開く。

 

「ま、今は反応できなくても構わねーよ。10日後には反応できる様に鍛えてやる。」

 

そう言って木場の喉から手を離し今度はその手を近くにいた小猫ちゃんの頭に乗せる。

 

「お前のこともな」

 

そう言ってクシャクシャと小猫ちゃんの頭を撫でると、彼女は気持ちよさそーに喉を鳴らしている。

ってかちょっと待って小猫ちゃん。

前に俺がやろうとしたら腹パン食らわしてきたのに何その扱いの差⁉︎

 

 

 

ってかさらっと流してたけど……

 

「なんでお前がバイザーとレイナーレのこと知ってんだよ⁉︎」

 

「俺の任はリアス・グレモリーとソーナ・シトリーにもしもの際があった時の護衛だぞ。遠いところからずっと監視してた。」

 

マジかよ⁉︎

 

「次にアルジェント、お前はひたすら全員の回復だけしろ」

 

あ、そのまま監視の件は流して行きやがった

 

「それだけですか?」

 

「ああ。まぁ、とりあえず今日はってとこだな。今日やってみてどれだけ回復の数をこなせたかによって残り9日間の内容が変わってくる。」

 

「わかりました。」

 

八幡の言葉にアーシアは平然と答える。

純粋すぎるよ……質問とかないのかな………

 

「んで、姫島先輩は回避技術と戦闘での動きの特訓」

 

「あらあら、回避と動きですか?」

 

「ええ。時間があれば新しい魔術とかも教えてもよかったんですが……今すぐに直さなきゃいけない場所はそこだけですね。」

 

「どういうことかしら?」

 

自分の女王が遠回しに駄目出しされたからか部長がやや不機嫌そうな問いかけに

 

「単純に経験が少なすぎるんですよ。レーティングゲームでは1人1人役割があります。姫島先輩はウィザードタイプ。できることなら側に補助を置いた上での遊撃が望ましいんですが……こちらは人数で劣っているのでそれができません。ですので常に距離をとりながら戦う動きと敵の攻撃の回避技術を上げます」

 

八幡は特に言い淀むことなく答える。

恐らく言い返されることも予想できていたのだろう。八幡の答えに部長はうっと顔を顰めるがしょうがないことだ。事実数では劣っているし……………

 

「次リアス・グレモリー。お前はメンタル強化だ。」

 

『メンタル?』

 

その言葉に全員が反応を示した。

 

「お、おい八幡。なんでメンタルの強化なんだ???」

 

部長が問う前に俺が問いかけてしまう。みんなも同じことを思っていた様で頭にクエッションマークが浮かんでいる。

 

「甘すぎるからだよ」

 

「どういうことかしら?私敵に甘さなんてかけた覚えはないわよ?」

 

八幡の言葉に先ほどよりも不機嫌になった部長の額には青筋が浮かぶ。

 

「甘いよ……眷属にな」

 

「え?」

 

八幡の予想外の言葉に部長はポカンと口を開いてしまう。

 

「その甘さはお前の美徳でもある。でもな、レーティングゲームにおいてはそれが弱点になるんだよ」

 

「どういうこと?」

 

「レーティングゲームは戦闘不能になった瞬間ゲームから退場させられる。逆に言えば戦闘不能にならなければ永遠にゲームは続くんだよ」

 

「それがなんだっていうの⁉︎」

 

八幡の回りくどい言い方に部長の言葉が強くなるが、次の言葉を聞き部長の勢いは消え失せてしまう。

 

「もし、相手が敵を戦闘不能にさせず、ただ痛ぶるような戦いをしてきた時、そしてそれをお前自身がなんとかすることができなかったら、お前は耐えられるか?」

 

「っ………」

 

その言葉に黙ってしまったのは部長だけではない。周りもその言葉に息を呑んでいる。

 

「お前は優秀な王だよ。恐らく俺がこうして訓練に付き合わなくてもライザーとの戦いはいいとこまでは行くだろう……でもな」

 

そこまで言って八幡は一呼吸おく。

そのおかれた間で部長と八幡の目が合っている。

 

「だからこそ、お前は自分の眷属が酷い目にあった時耐えられない。そうなったらお前は自分の全てがかかったこのレーティングゲームでも容易く降参するだろう?」

 

その八幡の言葉に部長は反論できない。

恐らく八幡の言ったとおりになることが想像できてしまったからだろう。

 

「でもなそれはお前の勝手だ。もしも降参なんてしてみろ?その時は眷属は助けられたかもしれない。でもな、ここにいる奴らはお前が婚約するのが嫌だから、ライザーに取られるのが嫌だから戦おうって意志を持ってるんだよ」

 

その言葉を聞いた部長は自分の眷属を見渡す。

視線の合った眷属1人1人は頷いていく。

その頷きには1人1人別の思いが乗っている気もした。

 

「だから、お前の課題はメンタル強化だ。降参なんてくだらねぇ思いがわかなくなるぐらい、強靭なメンタルに鍛えてやるよ」

 

そう言って八幡は一息つく。

 

「わかったわ……お願いするわ」

 

部長も納得したのか八幡の言葉に頷く。

 

「はぁ、説明つかれた……さてと。それでイッセー」

 

そう言って今度は俺の名前を呼ぶ。

いや、疲れたってまだ説明全員分はおわってないんじゃ…………

 

「お前に関しては個人レッスンな」

 

「はい?」

 

何故か俺だけ目的の見えないメニューを言い渡される。

 

「個人レッスン?」

 

「ハッキリというぞ」

 

え?なにこの真面目な雰囲気。

いや、さっきから真面目だったけども他のメンバーとは明らかに説明する時の感じが違う。

 

「今回の相手……ライザーを倒せる可能性があるのはイッセー。お前だけだ」

 

 

「………」

 

what!?

八幡のやつ今なんて言った⁉︎

 

「不死ってのはさ、破る方法が限られてるんだよ。相手の精神が崩壊するほどの大量の攻撃を喰らわすか、不死殺しの系統の攻撃を使うか、或いは再生できないほどの重大な損傷を喰らわせるかの3択だ」

 

 

俺の驚きを無視して八幡は淡々と語っていく。

 

「この中でそれができるのはお前だけなんだよイッセー」

 

その言葉に何処か顔が緩んでしまう。俺だけ……俺がライザーを倒して部長を助けられる。八幡から告げられた事実が俺の中でこだまする……

 

「だからこれから10日間、お前はひたすら俺と殺り合ってもらうぞ?」

 

が、八幡のその後に続いた一言に感じた喜びも消えていく。殺し合い?八幡と???最強の女王と呼ばれていたあのグレイフィアさんに勝ち越すほどの八幡と‼︎⁉︎

 

「え?」

 

「覚悟しろよ?」

 

「……はい…………」

 

「あ、あとそれ以外は悪魔の力になれること」

 

俺が諦めた後、付け足すように八幡は告げる。

それ以外のやつら……すなわち雪ノ下と由比ヶ浜である。しかし、そんな八幡の雑とも言える扱いに2人はただ俯くだけだ。

本当なら何か言いたいのだろうが、言い返すことができない。それは昨日八幡が帰った後に決めたことだ。嘘をついていたことについては後日きっちりとした処分が下されるらしいがこの10日間、まずは八幡と揉め事を起こすなと部長から注意されている。

 

「でもそれだと先輩は私達のこと見れないんじゃ……………」

 

「ああ。そうだな小猫。確かに俺はお前たちを見れない。」

 

「は?」

 

「昨日グレイフィアが言ってたろ。万全の体制でやってくれって」

 

ニッと小猫に微笑みかけた八幡が指をパチンと鳴らす。すると八幡の背後に魔法陣が現れる。

あれなにこれデジャヴ?

なんかこれ見たことある気がする……

いやというかこれって昨日………………

 

そんなことを俺が感じていると魔方陣から黒い影が生み出され風を切りながら螺旋状に魔方陣の周囲を包み込んでいく。

 

魔方陣を完全に包み込み終えると影はフッと霧散し、魔方陣を中心に1つの強い風が俺たちのそばを駆け抜けた。

あまりの風に思わず目を閉じた俺たちが再び目を開いた時そこには3人の人物がいた。

 

1人は中央に立つ初老の男性。

175、6はある見た目に似合わない長身で白髪オールバックのこの人物。

悪魔になりたての俺でもわかる。

一本の杖に両手をおき、黒いローブを纏っているが、飄々としつつもこちらのことを観察するように見ているその瞳に宿る気配からは、この人物が普通の人間では無いということが見て取れる。

 

 

2人目はその初老の男性の右横で片足に体重をかける形で立っている女性。水色の綺麗な短髪の両脇をリボンで結んでいて、アーシアと同じくらいあるその胸だが何よりも着眼すべきはその服。少し前に流行っていたロングマフラーを身につけた女性の服装は腹と太ももを見事にさらけ出している。簡潔に言えば軍人が着るような服装を破廉恥に改造した感じ。

や、やばい止まっていた俺の熱き血潮(鼻血)が再起動し始める。

 

このままでは再起動することが確実なのでその女性から目を離し最後の1人へと目を向ける。

 

3人目の左側にいる少女は体育座りの片足を伸ばした形で座っていた。腰まで伸びている長髪に頭につけた朱色のリボン。紫色の服に身を包んでいる少女。その胸には黒い鎧が付いているのだが、長年女子の胸を見続けてきた俺にはわかる。幼い顔立ちとその体型には似合わず、そのプレートが圧迫している胸の大きさが。それは先ほどの女性とほとんど変わり無いものなのだが、その幼い顔立ちでその大きさとなれば将来の胸(夢)が大きくなっていく。

 

「い、イッセーさん大丈夫ですか⁉︎」

 

気がつけばアーシアが俺の鼻を治癒している。

 

「ど変態……」

 

ああ、再起動してしまったことにより小猫ちゃんの視線が更に残酷なものになってしまった……

 

 

 

「ひっさしぶりーはちまーん‼︎」

 

俺がアーシアに鼻を治癒して貰っている最中、声を上げたのは長髪の少女だった。

 

「っと、久しぶりだなユウキ」

 

そう言って八幡は飛びついてきたユウキを抱きとめ、頭を撫で始める。なでられているユウキはふふふふーん、と鼻歌を交えながら気持ちよさように目を閉じた。

 

「あんた、たまには帰ってきなさいよ」

 

「仕方ないだろシノン。任についてる状態じゃあなかなか帰れないんだよ」

 

次に話しかけてきたのは水色の髪のシノン。

シノンはゆっくりと八幡の元へ行くと指をさしながら文句を言う。

 

「それでも、よ。みんな待ってるんだから」

 

「はぁ、わかったよ今度の夏は帰るさ」

 

その文句を渋々八幡が受け入れると彼女は嬉しそうな顔をする。

マジなんなんだよ八幡。

お前リア充だったのかよ⁉︎

 

「御二方共その辺にしてあげなさい。八幡殿が困ってらっしゃる。それに今はサーゼクス魔王様の妹君であるリアス・グレモリー様の前ですよ?相応の態度でいなさい。」

 

そんな女子2人に注意の声をあげたのは残る初老の男性だった。

 

「悪いなヴィザ。忙しい中呼び出して」

 

「いえ、八幡殿のお呼びとあらばいつでも。」

 

ヴィザの言葉でユウキとシノンが離れたことで自由になった八幡は労いの言葉を述べた。

 

「それよりも八幡殿」

 

一区切り、とばかりに八幡の名を呼んだヴィザは呼んだ八幡の方ではなく俺たちの方を見ていた。

 

「え、ええ。出来れば紹介してくれれば助かるわ」

 

ヴィザの意図に気づいた部長がいちはやく答える。

 

「ああ、そうだったな。」

 

そう言って八幡は3人に視線で促す。

 

そしてそこから知らされた事実は俺たちの予想をはるかに超えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はヴィザ、八幡殿の眷属で駒は騎士、悪魔です。皆様以後お見知り置きを」

 

「僕はユウキ、八幡の眷属で同じく騎士、悪魔だよ。みんなよろしくね」

 

「私はシノン、同じく八幡の眷属で駒は僧侶、悪魔よ。10日間よろしく頼むわ」

 

 

 

 

…………………………は?

 

……………………HA!!???

 

今なんと言った?

 

「し、失礼するけれども。今眷属って言ったかしら?」

 

部長もどうやら慌てているようで、噛みながらも3人に問いかける。

 

「ええ」

「うん」

「はい」

 

三者三様の答え方だが、その結果は全員が一緒だ。

 

あまりのことに絶句している俺たちの視線が八幡へと集まる。

 

 

「ん?ああ、言ってなかったな。俺はセラフォルー様の女王だが、だいたい2年半くらい前に爵位を貰ってるぞ?それと同時にセラフォルー様に連れられて悪魔の駒を貰うための石碑にも行ったからな。セラフォルー様の女王であり俺自身が王でもあるんだよ。」

 

そう言って八幡は彼自身の手に複数の駒を出現させる。

 

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎⁉︎』

 

その瞬間この山にオカルト部全員の絶叫が轟いた………………………

 

 

 




自分アニメのみの人なので原作の細かい設定がちょくちょくわからないのですが、食い違っていても、この作品の中ではこういう設定ってことなのでご了承下さい。

原作も読もうかな………

八幡が既に爵位を持ち眷属がいたのはどうだったでしょうか?

ではでは



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元ボッチ主導♪始まる特訓

今回は少し駄文になってしまったかもしれません。

次話はもっとよく描けるように頑張りますm(__)m

また誤字脱字などあればご指摘お願いします。
コメント投稿してくれました方々本当にありがとうございます。
コメントがあるだけで頑張れる気になるので今後ともよろしくお願いします。






「私はヴィザ、八幡殿の眷属で駒は騎士、悪魔です。皆様以後お見知り置きを」

 

「僕はユウキ、八幡の眷属で同じく騎士、悪魔だよ。みんなよろしくね」

 

「私はシノン、同じく八幡の眷属で駒は僧侶、悪魔よ。10日間よろしく頼むわ」

 

 

 

 

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎⁉︎』

 

ヴィザ達が自己紹介をし、俺が爵位と駒を持っていることを話すと辺りに絶叫が響き渡った。

 

「お前らうるせーよ、発情期か?」

 

片目を閉じ顔を顰めながら言う俺に彼らは揃って問い詰めてくる。

 

「いやいやいや‼︎ちげーよ⁉︎ってかなんだよ。ってことはあれかお前は自分だけのハーレムを作れるってことか⁉︎しかもそんな可愛い子を2人も連れて‼︎⁉︎死に晒せよ‼︎」

 

「何言ってんだ、お前は?こいつらは大事な仲間だぞ?手なんて出すわけないだろ?」

 

「「僕(私)は手を出されてもいいけどね(わよ)」」

 

呆れながら言う俺の言葉を消すようにユウキとシノンが横から口を出してくる。

 

「やっぱりハーレムじゃねぇか⁉︎」

 

イッセーはイッセーで膝を着き涙を流している。

 

「あらあら、てっきりセラフォルー様の眷属で八幡君の同僚かと思いましたが、まさか八幡君の眷属でしたか」

 

「セラフォルー様の女王ですし、持っていても不思議ではないけど……本当に持ってるなんて……」

 

純粋に驚き興味深そうにユウキ達を見る姫島先輩の言葉にリアス・グレモリーが反応する。

まぁ、彼女が知らなくても無理はない。2年半前といえばちょうど彼女はこの駒王学園の下見として既にこちらで住み始めていた頃だ。

それにタンニーンのように元々のスペックが桁外れな種族からの転生なら未だしも人から転生したものが持っていることが驚きなのだろう。

 

「八幡先輩が爵位持ち………っ……になればよかった」

小猫は小猫で何か言っているが所々聞こえない。

 

 

 

「っ⁉︎」

「…………」

 

「八幡さんってすごいんですね?」

「そうだね……」

 

視線を横にそらすとアーシアと木場が2人で話しているがその横にいる俺の元部活仲間は揃いも揃って目を見開き驚いたままでいる。

 

 

「それで誰がどの子で私たちはそれぞれどの子の面倒を見ればいいの?」

 

各々が驚いている中シノンが俺に疑問を向けてくる。その言葉を受け俺はグレモリーへと視線を移すと

 

「っ‼︎ごめんなさい。其方だけに紹介をさせて私達がしていなかったわね」

 

そう彼女が言うとまるで決まっている台詞の用に順々に挨拶をしてくる。

 

「私が彼らの主であり、悪魔でもあるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。3年で爵位は公爵。よろしく頼むわ」

 

 

「僕は木場裕斗、年齢は比企谷君と同じ2年生で騎士だよ。えーと悪魔です。よろしく」

 

 

「えっと……1年生。……搭城 小猫です。戦車です。…悪魔です。よろしくお願いします」

 

 

「3年生、姫島 朱乃ですわ。一応、副部長も兼任しております。駒は女王。今後もよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ」

 

 

「アーシア・アルジェントです。2年生です。最近悪魔に転生しました、元シスターで僧侶です。えっと、悪魔なのでよろしくお願いします」

 

 

「兵藤一誠です。ぐす、2年生で兵士です。悪魔です。よろじくお願いじます」

 

 

「えっと、由比ヶ浜結衣、2年生で戦車です。悪魔ですのでよろしくお願い……します」

 

 

「雪ノ下雪乃。2年で騎士。悪魔なのでよろしくお願い……するわ…………」

 

 

挨拶が終わると微妙な空気が場に流れる。

イッセーは終始涙ぐみながら話しているからスルーするとしてこの空気になった根源は……

 

 

「ユウキ、シノン。それにヴィザ」

 

俺が声をかけることで雪ノ下と由比ヶ浜に視線を向けていた3人がこちらを向く。

 

「ねぇ、八幡………」

 

「グレモリーの眷属だ。」

 

シノンが全て言い終える前に先に答える。

 

「でもさ……」

 

「かしこまりました。それならば致し方ないでしょう」

 

「「ヴィザ⁉︎」」

 

ユウキが追うように話そうとしたところで今度はヴィザが話を切る。話を切られたことよりもヴィザが納得したことに対し2人は責めるように声を発するがヴィザは全く動じない。

 

「今回の件はセラフォルー様にサーゼクス様、そしてグレイフィア殿、御3名から頼まれたことです。ならば納得するほかないでしょう。」

 

「「む~~~」」

 

ヴィザの言葉に2人はなんとも言えない表情で唸っている。そんな2人に対しヴィザは、それにと言葉を続ける

 

「八幡殿が気にしていないことを我々が気にして迷惑をかけることこそ、眷属としてあるまじき行為ではありませんか?おふたりの気持ちも充分わかりますが、今は抑えましょう」

 

そう言ってヴィザは俺の方へ視線を移す。

その視線に俺がうなづきで答えると2人はそれ以上は不快な顔を見せなかった。

 

「わりぃなうちの眷属が」

 

「い、いえ、別にいいのよ」

 

おれの謝罪にリアス・グレモリーは慌てて手を振る。

 

「さてと、んじゃ、そろそろ始めるか」

 

そう言って首を鳴らし全員の視線を集める。

 

「まずヴィザは雪ノ下と由比ヶ浜な。お前が適任だし、何よりユウキ達じゃ死にかねん。」

そういって俺は雪ノ下達へと視線を向ける

 

「かしこまりました」

 

俺の視線と言葉にヴィザは腕を体の前で曲げ頭をさげる。周りはというと俺の、死にかねん、という言葉に反応してか顔がやや青ざめている。

 

「次にユウキは小猫と木場だ。限界までふたりのこと追い込んでいいぞ」

そう言って今度は小猫と木場に視線を向ける。向けられたふたりは後ずさっていた。

 

「りょーかーい」

 

後ろに音符がつきそうなほど楽しそうにユウキは返事をする。

 

「追い込んでもいいけどやり過ぎるなよ……」

 

「わかってるよー」

 

一抹の不安は残るが次に行くか……

 

「んでシノンは姫島先輩とリアス・グレモリーだ。こっちに関してはやり過ぎなくらいでいいぞ」

 

「「ちょっ⁉︎」」

 

俺の言葉に2人が反応するが

 

「わかったわ」

 

シノンのまるで獲物を見るような怖い笑みを見ると黙ってしまう。

 

「そんくらいしなきゃメンタルなんて鍛えられねぇよ。姫島先輩は完全に巻き添えだけどな」

 

俺が付け足すと姫島先輩がリアス・グレモリーの方を見ていた。リアス・グレモリーは申し訳なさそうに姫島先輩のほうを見ていたが………

 

「最後にアルジェントは全員のところを回れ。んで怪我してるやつを治し続けろ」

 

「わかりました」

 

俺の言葉に素直に彼女は返事をする。

マジで純粋すぎるだろ………

 

あいつの任が終わったらしばき倒そう……

俺は心にそう誓った。

 

 

 

「ユウキ達は事前にやることは言ってあるから大丈夫だよな?」

 

「もちろん」

「ええ」

「心得ております」

 

三者三様の返事。

しかしそこには主に対する敬意も含まれている感じがした。

 

「よし、それじゃあ始め‼︎これから10日間みっちりやるぞ」

 

『はい』

 

と辺りにも響く声を張った瞬間、木場と小猫が吹き飛ばされた。

 

『はい?』

 

リアス・グレモリーの眷属は何が起きたのかわからないのか呆然としている。

そんな彼女らに2人を吹き飛ばした張本人は嗜虐的な笑みを浮かべながら囁く。

 

「ダメだよ、始めって八幡が言ったでしょ?そうしたらその瞬間に特訓は始まっているんだから。油断しちゃだめ」

そういうユウキの片手には腰の鞘から抜き放った剣が握られていた。

 

「ッガハッ」

「ケホッケホッ」

 

「ワンダウーン」

 

突然吹き飛ばされた2人が息を吐く中ユウキは楽しそうに呟く。

 

「ほれ、アルジェント。早速怪我人だ、治してやれ」

 

「…………は、はい⁉︎」

 

俺の言葉に少し遅れて返事をしたアルジェントは急いで2人の元に駆け寄ると怪我を治し始める。

 

「それじゃあ私も始めるわよ?」

 

シノンがそう発した瞬間、ビクッと2つの影がその場を離れそれを追うようにシノンが駆けていった。

 

「では、ここは危ないので我々は彼方でやりましょう」

 

そう言ってヴィザは雪ノ下と由比ヶ浜を連れ、既にユウキによる第2戦が始まりだしたこの場を後にする。

 

「お、おい。俺ら死なないよな?」

 

突然の開戦に戸惑っているイッセーは俺に問いかける。目の前にはユウキvs木場&小猫の戦闘が繰り広げられている。木場の魔剣創造で作られた大量の剣はユウキに届くことなく全て薙ぎ払われている。その魔剣の屍を小猫が超えていきユウキの側頭部に蹴りを入れようとするが逆に脚の側面を剣首で刺される。そうして巡ってきた激痛に顔を顰めた小猫は一瞬でユウキに蹴り飛ばされる。蹴られた小猫は木々を折りながら森の中へと消えていった。

 

「小猫ちゃんツーダウーン」

 

楽しそうに発したユウキは木場の方へ瞬時に移動し剣で薙ぎはらった。剣自体は自身の魔剣で防いだ木場だが勢いは止まらずそのまま小猫と同じ方角へと飛んでいく。

 

「木場くんもツーダウーン」

 

そう言ってユウキは血の付いた剣から血を払うように剣を振ると肩の上に剣を置く。

 

「ほら、アーシアさん。治しに行って」

 

「は、はい‼︎」

 

ユウキに促されたアルジェントは急いでふたりの飛んで行った方へと向かう。

 

 

「死なないギリギリのラインくらい、あいつらは見極めてくれるよ」

 

イッセーの問いに答えてやるもイッセーの顔から不安は消えるどころか益々増えていった……

 

 

 

八幡side out

 

リアス・グレモリーside in

 

 

「よし、それじゃあ始め‼︎これから10日間みっちりやるぞ」

 

『はい』

 

八幡の言葉に私たちが返事をした直後私の横に何かが素早く通ったようにかすかに風が吹いた。そんな風を感じた直後2つの轟音が響く。

 

『は?』

それがユウキが小猫と祐斗のことを飛ばした音だと気付いた私は呆然としていた。

 

 

 

「ダメだよ、始めって八幡が言ったでしょ?そうしたらその瞬間に特訓は始まっているんだから。油断しちゃだめ」

 

彼女の発言に身をこわばらせていると

 

「ッガハッ」

「ケホッケホッ」

 

吹き飛ばされた2人の眷属の息を吐く音が聞こえる。

 

 

「ほれ、アルジェント。早速怪我人だ、治してやれ」

 

「…………は、はい⁉︎」

 

八幡の言葉にアーシアは急いでふたりの元に向かっているが、私はまだ動くことすらできない。

 

 

「それじゃあ私も始めるわよ?」

 

その瞬間だった。

今まで動けなかった私とその隣にいた朱乃は身体を震わせ全力でその場を離れた。

とりあえずは距離をとる。

そう決めた私と朱乃はとにかく逃げた。

途中までは追ってくる気配があったが、それが消えた。

 

「だいぶ離れたかしら?」

 

「ええ、たぶん大丈ッカハッ⁉︎」

 

私の問いに返事をしようとした朱乃だったがその途中パンという音が聞こえたと思うと途中で崩れ落ちる。

 

「あ、朱乃⁉︎」

 

「魔力を帯びた弾丸で撃ったとはいえ、急所は外しているから大丈夫よ」

 

ゾクッと背筋が凍った。

突然話しかけられた私は思わず振り向き魔力弾を放とうとするが……

 

「気づくのが遅いわよ」

 

そういうと先ほどとは少し違い大きな銃を肩にさげ、ロングマフラーを身につけた女性は私のことを蹴り飛ばした。

 

「っつー」

重い一撃。戦車の駒を持っていると言われても不思議ではないほどの一撃をくらい私は地面と衝突する。その横では脇腹を抑えながら顔を顰めている朱乃もいた。

 

「んー、アーシアはなんだかんだでユウキのとこから離れられそうにないわね。相変わらず手加減が苦手みたい。しょうがないわね」

 

おそらくユウキ達がいるであろう方角を見た彼女はやれやれと首を振りながらこちらに手を向ける。その瞬間、私と朱乃の周りに魔方陣が展開された。

 

『っ⁉︎』

 

ダメージを負った上でさらに攻撃が来ると思った私達は瞬時に離脱しようとするが

 

「大丈夫よ」

 

シノンの声で止まった。

 

少しすると魔法が発動され私と朱乃が怪我をした部位に薄っすらと氷が張った。しかし、その氷は張ったと思ったらすぐに破れてしまう。

しかし、氷が割れた後怪我が跡形もなく消えている。

 

「私は僧侶。一応回復系の魔法も使えるのよ。ってことで、どんどん行きましょ」

 

そう言って彼女は肩にさげていた銃を降ろし始める。

 

そこからまた私と朱乃は離脱したのだった………

 

 

 

リアス・グレモリーside out

 

 

由比ヶ浜結衣side in

 

ヴィザという初老の男性に連れられ私たちは宿の中にまで戻ってきていた。

 

 

「あ、あのなんで宿の中に?」

 

「人が悪魔になってまず鍛えなければならないことが幾つかあります。1つ目は身体能力。2つ目が魔力の使い方。そして3つ目が飛び方です」

コツコツと靴の音をたてながら歩くヴィザさんは淡々と語っていく。隣ではゆきのんが静かにその話を聞いていた。

 

「身体能力、これは後ほど駒にあった動きをする上で鍛えますが、それほど重くおこうとは思っておりません。一朝一夕で伸びるものではありませんからね。飛行に関してもできなくても不便ではありますが、元々人間でしたら問題ありません。おいおい覚えていきましょう。ですのでまずはじめに魔力の使い方を覚えて頂きます」

 

そこまで話し終えると、ちょうど宿のリビングまで付いた。

 

 

「では始めましょうか」

席ついた私達の対面にヴィザさんは立ちそう呟くと胸の前に両手をかざす。すると両手のちょうど中心に光る丸い玉ができる。

 

「これが魔力です」

 

「これが……」

 

ゆきのんと揃って目を丸くしている私たちにヴィザさんは説明を続けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりだめだった……………」

 

あれから数時間。

ヴィザさんの指導のもと魔力をコントロールする練習をするものの、結局私はうまく扱うことができなかった。ゆきのんはすごくうまかったけど………

 

「大丈夫よ由比ヶ浜さん。少しずつ慣れればいいと思うわ」

 

「雪ノ下嬢のいうとおりですよ。最初からうまく扱える方など一握りです。少しずつ慣れていきましょう」

 

「うう、ありがとう」

 

フォローを入れてくれる2人に礼を言いながら私達は外へと向かっていた。

今度は飛行と身体能力を上げるらしい。

そうして歩いていると私はふと声に出してしまう。

 

「ヴィザさんって……ヒッキーの……眷属……なんですよね………」

 

「………ええ、そうですよ」

 

私の問いに足を止めヴィザさんは肯定してくる。

 

「なんで、ヒッキーの眷属になったんですか?」

 

私の言葉にゆきのんもピクリと反応する。

 

「何故……ですか。それを説明するには私と八幡殿の過去を話す必要がありますね」

 

ヴィザさんは何処か遠い方を見ていたため、語り始めてくれるかと思ったが、それは裏切られる形で終わった。

 

「しかし、貴方方にそれを話す理由がありませんね」

 

「何故かしら?」

 

ゆきのんも興味があったのかヴィザさんが答えてくれないことを知り聞き返す。

 

「今言ったとおり、私は八幡殿の眷属です。おいそれと主の過去を話したりはしませんよ。」

 

そう言われてしまえばこちらもこれ以上聞き返すことができない。ゆきのんも黙ってしまう。

 

「ああ、それとユウキ殿やシノン殿には聞かないほうがよろしいですよ」

 

「え?」

 

私たちが黙っているとヴィザさんが続けて発してくる。

 

「私とは違い御二方に聞いた場合、その場で殺されても仕方ないかと思いますので」

 

その瞬間世界が止まった気がした。

いや、止まってはいない。でもそう思えてしまうほどの恐怖が目の前にはあった。そこにいる男性は先ほどまでの紳士的で優しい者ではない。熟練の老兵の威圧がそこにはあった。

 

「八幡様は我々の主。その主に対する無礼や貶める行為、虐げなどをすることは、我々八幡様の眷属に対する最大の侮辱だと知りなさい。八幡様が貴方方のことを気にしていなくとも、眷属の中ではあなた方に対して、よろしくない思いを抱いているものが多いということも」

 

私もその1人だと……と続けるとヴィザさんから威圧が消えた。

そこで私は初めて知ったのだ。

あの時、自己紹介をした時に向けられた視線の意味に。そこに含まれていた眷属達の思いを。

おそらくそこには私たちが推し量れないほどの思いが込められているのだろう。

それほどまでヒッキーは慕われているのだ。

 

 

なのに私たちはどうなんだろう………

 

歩き出したヴィザさんの後を追いながら、私は今更ながら自分がしてしまったことと正面から向き合い出したのだった……………

 

 

 

由比ヶ浜side out

 

 

リアス・グレモリーside in

 

「それじゃあ、今日はここまでね。私は夕食を作ってくるから、ユウキ達のところに行って伝えてね」

 

どれくらいだったろうか。

まだ肌寒かった時間帯から始めた特訓は日が落ち始める時間帯まで続けられていた。

 

あの後逃げ………距離を取るたびに狙撃銃や魔力弾で攻撃され、その度に治されてはやられ、治されてやられ、治されてやられの繰り返しだった。

途中で心が砕けそうになったのは1度や2度ではない……なるほど。メンタル弱いわね…………

 

 

そんな地獄のような特訓が終えた後私達はヨロヨロとした足取りで小猫達の元へと向かう。正直、こっちがこれだけに向こうも心配だったのだが……特訓の途中ではそんな考えができる余裕などなかった………

 

「いた……みたいですわね」

朱乃が私よりも先に2人を見つけるが、そこにいたのは………

 

「こ、小猫、祐斗⁉︎」

 

「あ、部長?お久しぶりです」

 

「にゃにゃ………」

 

そこにいたの祐斗と小猫は明らかにおかしかった。目の焦点が合ってないし、久しぶりってなに⁉︎

 

「あれ?もう終わり?」

 

小猫と祐斗に駆け寄るとそばに立っていたユウキが声をかけてくる。

 

「え、ええ。シノンは夕食を作るって宿に行ったわ。それよりも……なにしたの?」

 

「そっかー。……ん?なにって?ずっとバトってただけだよ?」

 

「ずっとですか?」

朱乃が顔を引きつらせながら聞いてくる。

 

「うん、ずっと。でもダウン数は100超えたあたりから覚えてないや」

 

100⁉︎

 

「ユウキさん、正確には176ダウンです……」

 

176⁉︎

 

アーシアの治癒の休憩時間もあるのに176ダウンもするなんて正気の沙汰とは思えないダウン数である。

っていうかアーシアは数えてたのね。

 

「ぐへぇぇぇえええ」

 

あまりのダウン数に私達が戦慄している中、聞き覚えのある情けない声がこだましながら、これまた見覚えのある少年が転がってきた。

 

「いっ、イッセー⁉︎」

 

「ぶ、部長、来ちゃダメです‼︎」

 

転がってきた少年の元に思わず駆け寄ろうとするよイッセーが声を上げる。その言葉に私が足を止めた直後、イッセーの周囲を囲うように複数の魔方陣が展開される。

 

「どわぁー」

慌てて飛び退くイッセー。

先ほどまでイッセーがいた場所には複数の剣が刺さっている。

 

飛び退いたイッセーはそのまま前転し体制を立て直すがそんな彼の元に黒い影が訪れ、一撃がイッセーに振り下ろされる。すんでのところで籠手のついた左腕をイッセーは前に出しガードすると、ガキンッという金属音と共に刀を手にしている八幡の姿があらわれる。

 

「だいぶ見えるようにはなってきたな。今日はこんなもんか」

 

「こんなもんかじゃねぇ‼︎⁉︎なったよ‼︎なったけども、何度も死にかけたけどな⁉︎」

 

「フッ……このくらいさっさとこなさねぇとライザーには勝てねぇよ……クク」

 

「おい待て⁉︎八幡てめぇ、笑ってんじゃねぇか‼︎」

 

八幡の終了の声に反発するイッセー。

そんなイッセーを笑いながら彼は手に握っている刀を腰の鞘へとしまう。するとその刀は消えていった。

なんなのだろう。刀身が黒と鮮やかな緑の刀だったが………

 

っと、そんなことを考えるよりも彼には

いろいろと言いたいことがあった………

いくらなんでも厳しすぎないかと………

いくらなんでも詰め込みすぎではないかと……

 

だが、まるでじゃれ合うように冗談混じりで話すイッセーと八幡を見ると、そう問い詰める気も失せてしまう……………

 

 

「おやおや、ちょうどいいところでしたかな?」

 

「おお、ベストタイミングだぜ」

 

まるでタイミングを見計らったようにヴィザさんがやってきた。

ヴィザさんならば紳士的であったし大丈夫だろうとおもったのだが……

 

「ゆ、雪乃⁉︎」

 

彼の後ろには結衣に担がれたグロッキー状態の雪乃がいた。

何処もトレーニングはまともではないのだろうか……

 

「んで、各々どうだったよ?」

 

私が1人混乱する中、八幡は冷静に自身の眷属達に問いかける。

 

「うーん。僕のところは今後に期待かな。少しずつ対応できるようにはなってきたけど、まだまだって感じだよ。まぁ、初日だから仕方ないっちゃ仕方ないけど……」

 

そう言ってユウキはアーシアに治療され終えた祐斗と小猫を見る。そんな2人の様子を見たからか八幡は小猫の頭を撫で始める。

すると不思議なことに生気が戻ったように小猫は喉を鳴らしていた。

なんなのだろう。八幡の手には癒し効果でもあるのだろうか………

その横で言葉を発した張本人のユウキはうぅーとその光景を見ながら唸っている。

 

「私の方は少しばかりまずいですね。」

 

ユウキに続きヴィザが語り始める。

 

「由比ヶ浜嬢は魔力の扱いが少しばかり手こずっています。逆に雪ノ下嬢は魔力の扱いはかなりうまいのですが………」

 

そこまで言うとヴィザさんは雪乃の方へ視線を落とした後告げる。

 

「問題なのは駒の………騎士の性能を使うのは良いのですが……その、あまりにも体力がなさすぎるためすぐに力尽きてしまうのです……」

 

ヴィザさんのその一言で場になんとも言えない雰囲気が漂う………

騎士の駒を持ちながら、その性能を使うとすぐに体力的に力尽きる………

 

「ざんね………不憫だね……」

 

皆の心をオブラートにつつんだ一言にまとめ上げたユウキは雪乃に対して告げた。始めにやや本音が漏れていた気もする。

それよりも良かった。やはりヴィザさんの特訓はまともだったようだ。雪乃の体力がないだけで…………

 

 

「まぁ、そんなもんか。リアス・グレモリーと姫島先輩のことは後でシノンに聞くとして、とりあえずはこのままだ。ただし、アルジェントお前は明日から別メニューな」

 

「はい?」

 

八幡の言葉にアーシアは首をかしげる。

なにかしら?

 

「かなり治癒の魔法を使ったはずなのに、あまり疲れが見て取れない。それならお前に取っておきのアイテムがあるんだよ」

 

「とっておきですか?」

 

「ああ。」

 

そういうと八幡の横で魔方陣が展開され、その中から1つの拳銃が出てくる。

 

「これだよ」

 

「拳銃……ですか?」

 

「ああ、とはいえこの拳銃に殺傷能力はない」

 

そういうと八幡は銃口を未だ座ったままのイッセーに向けて魔力を込め始める。すると銃の側面につけられた丸い翠色の宝石のようなものが輝き始める。

 

「え?ええ?」

 

銃口を向けられたイッセーは戸惑っているが八幡はそれを気にせず引き金を引いた。パンっと乾いた音と共に発された弾はイッセーにあたり弾けた。するとイッセーの体を緑色の光が包見込んでいく。それと同時に傷ついた彼の身体から怪我が消えていった。

 

「うお、すげっ⁉︎」

 

弾を当てられたイッセーは突然の回復に目を見開く。

当然これには私達も目を見開いてしまう。

いったい彼に会って何度おどろかされているのだろう……

 

「これはなんなの?」

 

「うちの開発マニアが作った銃。心弾銃って拳銃さ。中には実弾は入ってない。あるのは空の薬莢だけだ。側面についた精霊琥珀っていう特殊な鉱石の力を借りて治療用の弾を空の薬莢に生成する。そうしてできた弾丸を打ち込むとこにより、当たった相手を治癒する特別な銃だ。この銃の優れてるところは複雑な魔方陣を必要としない。必要なのは治癒の技術だけで、それを弾に変えるのはこの琥珀がやってくれる。この銃ならアルジェントがわざわざ危険な戦闘に加わらなくても遠くから仲間を治癒できるだろ?」

 

「じゃ、じゃあ私も戦闘中に皆さんの役に立てるんですか⁉︎」

 

八幡の説明にアーシアは眼をキラキラ輝かせている。

それはそうだろう。

アーシアは戦闘には向いていない。故に戦闘中は近寄らない。だが、この銃があれば仲間が戦っている途中でもみんなを回復させることができる。そうなれば、アーシアの需要は計り知れない。

 

「まぁな。とはいえ扱いの練習をしないと敵に当たって敵の傷が回復ってことになっちまうから残りの9日間はこの銃で治療しろ。始めの3日間は今日と同じようにやられた奴らを、次の3日間は戦闘中の奴らを。んでもって最後の3日間は自分も攻撃を避けながら仲間に当てる練習な。ってもアルジェントに対してはそんなにエグい攻撃はしないが」

 

八幡がそこまで言い終えると頑張ります‼︎とアーシアは早速渡された拳銃を胸元で握っている。

 

「銃の扱いはシノンに聞け。あいつが1番銃の扱いに長けてるから」

 

「はい‼︎」

 

八幡が全て言い終えるとアーシアは勢いよく返事をする。

 

んじゃ今日はここまで解散解散と手を振ると八幡はちょっと散歩してくるわーと何処かに行ってしまう。

そんな彼の背中を見つめながら私は思わずにはいられない。

 

いったい彼の眷属にはどれだけの規格外がいるのかと……

今日会った3人にアーシアが握る心弾銃を作った者。

いずれも規格外であった………

そして何よりも、それを束ねる彼が何処まで規格外なのか。今の私ではそれを推し量ることはできなかった………

 

 

 

 




うーん。今回は微妙だったかな(-。-;

次話はようやく書きたかった場面を書けるo(^_^)o
なのでより一層頑張ります( ´ ▽ ` )ノ


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眷属と少女は彼に何を思うか………

ヤベェ(^◇^;)
なんだかんだで今回も駄文ってる気がする……

申し訳ないと思いながらも第4話どうぞ(-。-;


イッセーside in

 

 

「うんめぇぇぇえええええええ⁉︎」

「これは確かに……」

「モグモグ……美味しいです」

「シノンさんってお料理上手なんですね」

「これは心惹かれますね……」

「ええ、そうね………」

「これって………」

「うん、ゆきのんのより美味しいかも……」

 

八幡を除いた全員が宿に帰った瞬間、全員が何処からともなく漂う匂いに魅了され、本能のままに向かっていくと、そこにはシノンと彼女により作られた料理が並んでいた。

その料理はまるで漫画やアニメの世界でよくある大食いたちが集う酒場で出てくる料理。男子が1度は夢見る漫画メシと言われる物の数々だった。それは匂いや見た目だけではなく味もまたしかり。それはまさにレジェンド級だった。

 

「相変わらずシノン殿が作る料理は美味しいですね」

 

「うん、すっごく美味しいよ‼︎」

 

そういうのは俺の対面に座っているヴィザさんとユウキだ。この人達は毎日と言っていいほどシノンの料理を食べているのだろうか?羨ましい。とそういえば…………

 

「八幡の奴は来ないのか?」

 

ピシリと空間にヒビが入るような音が聞こえた。聞いた後で俺自身もやってしまったと後悔する。他の部員達は俺の方をジト目で見ているし、隣に座る小猫ちゃんに関しては俺のことをつねってきている……やめてまじで痛いから⁉︎

 

「心配せずともみなさんが思っているような理由でこの場にいないのではありませんよ」

 

俺たちが固まってしまっている中、ヴィザさんから発せられたのは否定の声だった。

 

「そうだねー、八幡は自分のことに関してそこまで気にはしないよ」

 

「そうね。もう少し気にした方がいいとは思うけど……」

 

ユウキとシノンにもヴィザさんの言葉を肯定するように述べる。

 

「そうなんですか」

 

「ええ、ですので大丈夫ですよ。あなた方が暗くなる必要はありません。安心なさい」

 

「「ごちそうさまでした」」

 

ほぼ同時だった。

ヴィザが俺らに対してそう言った後、由比ヶ浜と雪ノ下がメシを食べ終わりそそくさとその場を後にした。

その2人のことをシノンとユウキが横目で見ていたのに気づいた俺はやはり失敗だったと後悔する。彼女らは八幡の眷属だ。少し考えればわかることなのに浅はかな発言をしてしまった自分が憎い………

 

「イッセー君、本当に大丈夫だよ?八幡は本当にそんなこと気にしてないだろうし」

 

そう言いながらユウキは自身の近くに置いてある竹の皮の包みを撫でる。

 

「それは?」

 

「ああ、これは八幡の夕食。いつもは一緒に夕飯食べるんだけど、書類とかやらなきゃいけないことが多い日はいつも食べれないんだ。後は眷属の子とかの特訓に付き合った時とか。そういう時は自分のその日のトレーニングができないから、大抵みんなが夕食を食べてる時にトレーニングしてるんだよ」

 

俺の質問にユウキはここに八幡がいない理由も添えて答えてくれた。

 

「トレーニング?八幡君はヴィザさん達の主なのだろう?それだけの強さなのにまだ強さを求めているのかい?」

 

木場が思っていた疑問を素直にぶつけてきた。

確かに俺もそう思う。

実際にやりあったからこそ、八幡の底が知れないことがわかった。なのに、それだけの力があるのに、何故まだトレーニングを続けるのだろう。

 

「多くの人が間違える点ね」

 

「間違い?」

 

「ええ。あなた達の言う強さは本当の強さではないわ。それはただの技術よ。強さとはただそこに至るまでの過程の中にこそあるものなの。」

私はそれを彼から学んだ……

とシノンは付け加えながら何処か懐かしむように窓の外を見る。その瞳に映るものが何か、俺には到底わかるわけがなかった。

 

「ええ、我々は八幡殿と出会い多くのことを学びました。八幡殿の眷属は規格外な者が多いですが、一癖も二癖もあり、皆何かしらの過去を抱えているものなのですよ」

 

シノンの言葉にヴィザが追うように付け加える。2人が居なくなったからか、彼女らは少しずつではあるが、多くのことを話してくれている気がする。

 

「ただその過程の中に……でも、なんで八幡君はそんなに強さを?僕たちの言う強さとは違っていても八幡君が強いのには変わりないだろう?」

 

強さ、という言葉に反応する木場は、説明を聞いて尚問いてくる。

 

「それは私にも詳しくはわかりません。殆どが推測になってしまいますので………」

 

そういうとヴィザは飲みかけのスープを一口飲み一息つく。

 

「ごちそうさまでした」

 

「あら?小猫もういいの?」

 

「はい。失礼します」

 

いつもはもっと食べている小猫ちゃんが席を立つ。俺の後ろを回り、ヴィザさん達の後ろにあるドアへと向かい、そして消えていった。

 

「どうしたんだろう?小猫ちゃん」

 

「さぁ?」

木場の問いに俺も首をかしげる。

 

目の前にいるヴィザさんは何故か微笑している。

 

 

「しかし、推測でいいのならばお教えしますよ?」

 

「本当ですか⁉︎」

 

小猫ちゃんが去った後、ヴィザさんの発言に俺たち眷属一同は反応した。

 

「ええ、あのお嬢様方2人に言わないと約束していただけるのであれば」

 

2人とはおそらくこの場を真っ先に出て行った2人だろう。八幡との関係を知っているならば当然である。

 

「ええ、約束するわ。みんなもいいわね?」

 

ヴィザの言葉に即座に答える部長の声に俺たちもうなずく。

 

「ヴィザ~?」

ヴィザさんの隣ではユウキがいいの?とばかりにヴィザさんへ視線を向けている。

 

「あの2人でなければ構わないでしょう。八幡殿も隠しているわけではないですし。それにこれはあくまで私の推測ですので」

 

ヴィザさんの答えにユウキはシノンへと視線を向けると、シノンはいいんじゃない?と軽く返す。2人がokを出したことにより、やれやれとユウキも渋々了承した。

 

「恐らく八幡殿は護りたいんでしょうね。自分の大切なもの達を」

 

「護る?」

 

「ええ、八幡殿は優秀です。それこそ、悪魔の歴史に名を残せるほど。しかし、同時に敵も多いですがね。」

 

「敵、ですか?」

 

ヴィザの話に時折俺や部長は質問を入れていく。ヴィザさんはそれを特に気にすることなく答えていってくれた。

 

「はい。元人間だから……ではありません。八幡殿の場合はもはや体質と言っても良いでしょうね」

 

「体質?」

 

「そう、体質です。言ってしまえば八幡殿は目をつけられやすいのですよ。良い意味でも、悪い意味でもです。」

 

「どういうことですの?」

 

「そのままの意味です。殆どの場合は悪い意味で目をつけられますね。それの代表的な例が敵意です。多くの人は彼を劣った存在だとその外面と雰囲気から決めつけ彼を虐げるのですよ」

 

そういうヴィザの顔は何処か悲しげだった。

その両脇に座るユウキとシノンの顔にも同じようなものが浮かんでいる。

 

「それゆえに八幡殿の良さを気づかない者が大半なのですよ。しかし、中には気づく方もいるのですが……」

 

「ヴィザさん?」

 

「それに気づいた奴が取る行動は2択よ。八幡の良さに惹きつけられて共に歩もうとする者達。その集まりが私達眷属。でも、それとは全く真逆の行動をする奴らもいるのよ」

 

言い淀んだヴィザの変わりにシノンが、そしてユウキが答えていく。答える2人の拳は強く握られていた。

 

「逆、つまりは八幡の良さに気づいても、それを認めず今まで以上に八幡を虐げる奴らだよ」

 

そう答えたユウキの目には明らかに憤怒の色が見えている。

 

「だからこそ八幡殿は強さを求めるのでしょう。ですがそれは決して自分のためではないのですよ。」

 

「自分のためじゃないんですか?」

 

「ええ。それは恐らく、彼の良さに気づき歩み寄ってきた者達を護るためでしょう。彼を虐げる者の敵意が彼を慕うものたちへと向いた時、それを護るために」

 

言い終えたヴィザはふぅ、と溜息を吐く。

 

俺はここまで話してもらいようやく少しだけわかった気がした。強さが過程の中にある。それは結果なんかじゃないんだ。もしも、結果だけで見ていれば八幡がただ単に規格外なだけでしか思えない。でもそうではない。彼が強いのはそこに至るまでの過程の中でそれを手にしたからだ。その中でどれほどの苦痛があったのか………

恐らく雪ノ下達とのことですら、八幡にとってはその過程の1つでしかないのだろう。だからこそ、彼は今も尚歩き続けているのだ。彼にとって今もまた過程の1ページを刻んでいる途中なのだろう。その終着点にあるのは、自身の大切なものを護れるようになるまで。

 

俺も部長を護りたいと思ってる。

でもそれは今回のライザー戦に向けてだ。

でも彼は違う。

彼の目指す先は俺とは違いもっとずっと先にある。それがどれほど大変なことなのか……今の俺の実力では想像すらできなかった。

 

 

 

「彼は優しすぎるのです」

 

しばしの沈黙の後ヴィザさんがふと呟いた。

 

「自分と似た境遇にある者。苦しみから必死に脱しようとしている者。絶望に飲まれそうになる者。そんな者達を見ると、自分が傷つくことさえ忘れ助けようとしてしまう」

 

「そうね……八幡はそういう奴だもの」

 

「僕たちのことは大切に扱ってくるくせに自分のこととなるとすぐ犠牲にしても良いって思ってるからね……」

 

3人は目を伏せながら呟いている。

そこには3人のたくさんの想いが込められているのだろう。

 

その様子を見れば、俺にもたくさんの思いが溢れてくる。俺とてあいつとはクラスメイトであり親友だ。何も思わないわけがない……

 

「それを支えるのが我々の役目です」

 

ヴィザさんのその言葉は俺の中にも響いて行った。親友だからこそ支えられることがある。そんな思いが俺の中には生まれていた。

部長達も今の話を聞き、眷属に想われている八幡のことに感動したのか感極まったような雰囲気だ。

 

 

「そうだね、それじゃあ早速夕食ぉぉおお?」

 

そんな雰囲気をユウキさんの声がぶち壊した。

 

「どうしたのよ?」

 

「八幡の夕食がないよ⁉︎」

 

「え⁉︎」

 

突然の声にシノンが反応するもユウキ同様、八幡の夕食のおにぎりが消えていることに気づくと声をあげた。

 

あれ?そういえば竹の皮で包まれたおにぎりが消えてるな。

 

「ああ、それなら先ほど小猫嬢に持って行って貰いましたよ」

 

『はい⁉︎』

 

ヴィザさんのカミングアウトに俺たちは全員が声をあげ、同時にヴィザさん達の話が終わる前、小猫ちゃんが席を立ったところから脳内再生を始める。

 

 

 

 

 

『はい、失礼します』

 

そういった小猫ちゃんは俺の後ろを通り、ヴィザさんたちの後ろにあるドアを向かう。そうしてヴィザさんの後ろを通ろうとしたその時……

 

 

 

カシャ

ヴィザさんが何気なく竹の皮の包みを手に取っている

 

カシャ

それを持ち、手をテーブルの下まで持って行っている。

 

カシャ

小猫ちゃんが通る瞬間その手に持つモノを小猫ちゃんへとパス

 

カシャ

小猫ちゃんはそれを素早く受け取ると背中を俺らに向け手を胸の前に持ってくる。

これだと確かに俺らには見えないが……………

 

 

「あの時かぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁああ」

 

あまりの手際の良さに声をもう一度上げる。

 

「「なんでヴィザ⁉︎」」

 

自分たちが持って行こうとしていたユウキとシノンは当然でヴィザさんへと問い詰める。

 

「小猫嬢が不安そうな顔をしていましたのでね。恐らく八幡殿絡みのことだと思い渡しておいたのですよ」

 

ふぉふぉふぉ

と初老の男性特有の笑い方をしながらヴィザさんは湯呑みを手にする。

 

「ぐぅ~まさか八幡また………」

「ライバルが増えたかしら………」

 

ユウキとシノンが揃って爪を噛みながらぶつぶつと言っている様子を見て俺は心の中で叫ぶ。

 

(やっぱりハーレムじゃねぇか⁉︎)と…………

 

 

 

イッセーside out

 

小猫side in

 

 

 

私は今かすかに聞こえる戦闘音を頼りに森の中を歩いています。何故戦闘音が聞こえるのかと最初は不思議でしたが、八幡先輩はトレーニングをしているそうなのでそこにいるのかな?と思い、音のする方へと歩いています。

 

「八幡先輩……」

ふと呟かれた言葉を風に流されすぐに聞こえなくなってしまいます。手には手際よくヴィザさんから渡された先輩の夕食があります。ただのおにぎりのはずなのにすごく良い匂いがして、正直お腹がなりそうです。どうしたらこんな良い匂いのするおにぎりがつくれるのでしょう?

 

シノンさん恐るべし。

それにユウキさんも先輩に抱きついてました。

もしかしたら眷属に他にもいるかもしれませんし、なかなかの強敵です。

先輩が爵位持ちの悪魔だと知っていたら先輩の眷属になったのに………

 

とそんなどうしようもないことを考えていると聞こえていた戦闘音が止んでしまいました。

もう終わったのかな?

そう思いさっきまで音がしていた方へと走っていきます。

 

「先輩?」

 

そこで私が目にしたのは身体中傷だらけになりながら倒れている先輩とその先輩の前に突き刺さっている日本の刀。一本は前にも見たことのある緑色の装飾の刀でその上には黒髪の少女が乗っている。もう一刀は初めて見るが緑の装飾の部分が紅色のものだ。

 

「先輩⁉︎」

 

何が起きているかわかりませんでしたが、先輩が危ないと思った私は思わず先輩へと近寄って行きます。

 

 

「っつ、て小猫か?」

 

「せ、先輩大丈夫ですか⁉︎」

 

あまりにも気の抜けた声出す先輩ですがこちらとしてはそんなこと気にしてられません。

先輩の服は血に染まってますし………

 

《今日はこのくらいにする?ハチ》

 

「ああ、さんきゅーな。」

 

ふと、剣の上に座っていた少女が話しかけ、先輩がお礼を言うと、その少女は乗ってた剣に吸い込まれるように消えて行きました。

すると剣はまるで生きているかのように光り、そして先輩の下まで寄ってくると霧散して消えてしまいます。先輩は立ち上がると目の前にあったもう一刀を手にします。するとその刀の紅色の部分が一瞬光った後先ほどと同様に霧散して消えてしまいました。

 

「せ、先輩、今のは?」

 

状況についていけてない私に先輩は笑いながら答えてくれました。

 

「ん?ああ。心配かけて悪かったな。今のは、んんー、まぁ、俺の仲間だよ」

 

「使い魔のようなものですか?」

 

「んんまぁ、そんなもんだ。いつも手合わせしてもらってるんだよ。」

 

そう言う先輩ですが怪我しすぎではないですか?いくらトレーニングでも………私たちがユウキさんにやられたのとは比較にならないほどの重症ですよ。なんだかんだでユウキさんは致命傷になる攻撃はしてきませんでしたし……

 

そう思ったのもつかの間で、先輩につけられた全身の傷は気づいたら消えてました。残ったのは血に染まった服だけです…………相変わらずの治癒能力ですね………でも、それでも……………

 

 

 

 

「なんで、先輩はそこまでするんですか?」

 

「ん?」

 

私は聞かずにはいられませんでした。

 

「なんでそんなになるまでやり続けられるんですか⁉︎」

気がつけば私は声を張っていた。大声を出す私が珍しいからか先輩は目を鳩が豆鉄砲を食ったような風になっているが私は止まらない……

 

「どうして自分のことをそんなに酷使するんですか⁉︎」

私は自分の叫びを止められなかった……

 

 

「確かに先輩の神器なら直ぐに怪我は消えます。でも痛みがなかったことになるわけじゃないですよね……なんで、先輩はそこまで傷ついてまでやれるんですか……どうして自分のことを簡単に犠牲にできるんですか⁉︎私は……私は嫌です……先輩が傷つくのは……たとえ先輩が痛みに慣れてるとしても、それでも私は……嫌なんです………」

 

気づけば私の瞳からは涙が流れていた。

酷い子だと自分でも思う。

眷属でもなんでもない自分が、突然現れたと思ったら、相手に自分勝手な意見を言ったあげく泣いてしまっている。

それでも私は嫌だった。

 

 

 

 

 

八幡先輩と私はそこまで深い関係はない。

お互い甘い物好きで、とある事情で出会ってから、2人で甘いもの巡りをしていたくらいだ。

先輩にとってはなんてことはない出会いだったかもしれない。それでも私にとっては、大切な忘れられない出会いだった。

 

グレモリー眷属になってある程度経ったある日。その日も私はいつものように仕事を終え家に帰ろうとしていた。長引いたため、少し遅くなってしまったが、悪魔である私には問題ない……そう思っていた。

そんな私は、とあるはぐれ悪魔と遭遇し死にかけてしまった……それを助けてくれたのが先輩だったんです。

 

その時。私を庇い先輩は身体中を貫かれました。先輩は魔力を使っていなかったですし、何よりも魔力を隠していたみたいなので私は先輩が神器持ちの人間だと思ってました。

だからこそ、巻き込んでしまったとショックを受けたのですが………その気持ちは直ぐに消えました。貫かれたはずの先輩は次の瞬間何事もなかったかのように立ち上がると一撃ではぐれ悪魔を倒してしまったからです。

 

その日からです。私が先輩に少しずつ惹かれて行ったのは。会うたびに、一緒に甘いもの巡りをする度に、私は先輩の優しさに触れていきました。

 

 

 

 

 

先日、先輩が悪魔で、部長達の護衛の任についていることを知り、私は初めて理解しました。あれが偶然ではなかったことに。任についていたからこそ先輩は私を助けてくれたんです。グレモリー眷属である私を………

 

 

でも、それでも構わなかったんです。

それでも先輩が私を助けてくれたことに変わりはなく、先輩が優しいことに変わりはないんですから………でも、だからこそ私は……

 

 

 

 

 

「小猫……」

そんな私の名前呼び、先輩は優しく頭を撫でてくれました。

 

「私はあの2人のことが許せません。他の人のことならまだ、嘘つきとだけ思えたかもしれないのに。先輩の優しさに……先輩の良さに漬け込んで、利用するだけ利用して、傷つけて、先輩を苦しめ、最後は捨てて……その後も自分達の都合の良いように事実を塗り替えていった2人のことが………」

 

心の声だった。

自分が心の底から思っていること。

それを私は次々とさらけ出していきました。

 

「あの2人は元々イッセー先輩の知り合いでした。どこで出会ったのか、イッセー先輩とアーシア先輩の知り合いだったんです。そこまで深い関係とは言えなかったです。でも、あの2人はイッセー先輩にいろいろ話してました。先輩のことを改悪して………それが先輩のことだと知らなくて、イッセー先輩はひどく怒ってましたが。」

そう呟く私の手は自然と先輩の服を握りしめてました。

 

「そんなある日、とあるホテルで行われたパーティーをはぐれ悪魔が襲ったんです。そのパーティーにはイッセー先輩とアーシア先輩も行っていたみたいで……部長が異変に気付いてみんなで向かった時には、既にほとんどの人が死んでました。イッセー先輩も傷ついていて……はぐれは部長が倒したんですが、そこで微かにですが息があったのがイッセー先輩とアーシア先輩に守られていたあの2人だけでした。そこでイッセー先輩たちが部長に頼み込んで2人を転生させたんです……」

 

そういう私は一言一言に怒りが込められていた。

 

「あの2人は嘘で塗り固めた事実をイッセー先輩たちに話して、そうして同情を誘っていたから…だからあの人達は生き延びたんです……なのに……なのに、本当は2人は……」

 

そう言って私は歯を食い縛る。

思い返せば思い返すほど、悔しさと憤怒で心が満ち溢れてくる。知っていたならばあの2人を転生などさせなかった……

 

「先日、先輩がいなくなった後、結局後日詳しい処分を下すとのことになりました。でも、部長は一時とはいえ仲間だった人達を無下にはしないでしょう」

 

それが本当に悔しいとばかりに私は拳を握る。

 

 

 

 

 

そんな黒くなっていく私の心だったが次の瞬間太陽の陽が差し込むように晴れていく……

 

「ありがとな」

 

トクンと私の耳に私以外の心臓の音が聞こえてきました。それが先輩の心音だと気づき、そして今自分が抱き寄せられていることに気づいた私は急速に身体が熱くなっていくのを感じました。

 

 

「にゃ、せ、せせせせせ、せんぱい⁉︎」

しばらく抱き寄せた後、慌てふためく私を解放した先輩は私の目を見ながら話かけてくれました。

 

 

「ありがとな小猫、俺のことをそんなに思っててくれて」

 

そういうと先輩はまた私の頭を撫で始めますが….

 

「知ってたよ、あいつらが眷属になった経緯なんて」

 

ピクンと今度は私の身体が先輩の言葉に反応してしまう。

 

「ずっとリアス・グレモリーとソーナ・シトリーを見てたんだ。そいつらの眷属が眷属になった経緯くらい知ってるよ」

 

そういう先輩は、とても傷つけられた人間がするようなものではない笑顔を私に向けてきます。先輩はどうしてそんなに………

 

 

「俺がなんでそこまでするのかって言ったよな」

 

「っ、は、はい」

私がまた悲しみそうになったところで、先輩の今まで見た中で1番真剣な声に私はスパッと体制を立て直し聞く体制をとります。

 

 

「それをしっかりと説明するにはさ、俺が悪魔になった理由を話さなきゃならないんだよ」

 

「先輩が悪魔になった理由……ですか?」

 

「ああ、ってもこれ知ってるのは本当に少ないし、俺の眷属ですら知らない奴もいる」

 

その言葉に私は俯いてしまいます。

先輩の眷属でも知らないことを私が聞けるわけがありません………

 

「知ってるのは眷属内ではユウキやシノンと複数人。ヴィザは知らない。後はソーナと四大魔王様達、それにグレイフィアと他数名だけだ」

 

さらにがっくりきてしまいます………

 

「なぁ、小猫」

 

「なんでしょう?」

 

すっかりと項垂れてしまった私に八幡先輩はいつもの優しい口調で話しかけてきます。

 

「知りたいか?」

 

「…………へ?」

 

あれ?今の流れ的に聞けないと思ったんですけども、あれー?おかしいな。

 

「ん?知りたくないならいいけども」

 

「し、知りたいです‼︎」

 

珍しく意地の悪そうに聞いてくる先輩に私は慌てて飛びつきました。

 

「そっか、ならこっからはとある少年の話だ。」

 

そのとある少年とはおそらく先輩のことなのだろう……先輩はいつもそうだ。自分のことを話す時はいつも友達の話とか、とある人間とか、誰かに置き換えて話す。

 

その話は大抵残念なエピソードだが、

今回の話は大真面目なのだと、先輩の雰囲気が物語っていた……………

 

 

 

小猫side out

 

八幡side in

 

 

「なんで、先輩はそこまでするんですか?」

 

俺の相棒が消えた後、小猫が何か呟いてきた。

 

「なんでそんなになるまでやり続けられるんですか⁉︎」

そう思ったら今度は声を張ってくる。

彼女が声を張っているのを初めて見たため俺は目を見開いてしまう。

 

「どうして自分のことをそんなに酷使するんですか⁉︎」

その言葉が俺の胸に刺さる。

自分自身オーバーワークとはわかっている。

それでも俺はやめていない。

かつて主から言われた言葉を今、目の前にいる少女に言われ固まってしまう。

 

「確かに先輩の神器なら直ぐに怪我は消えます。でも痛みがなかったことになるわけじゃないですよね……なんで、先輩はそこまで傷ついてまでやれるんですか……どうして自分のことを簡単に犠牲にできるんですか⁉︎私は……私は嫌です……先輩が傷つくのは……たとえ先輩が痛みに慣れてるとしても、それでも私は……嫌なんです………」

 

気がつけば小猫は涙を流していた……

やってしまった、と後悔する。

雪ノ下や由比ヶ浜とは違う。

本気で護ってやりたいと思った相手を泣かしてしまった………

 

 

「小猫……」

 

「私はあの2人が許せません……」

 

名前も呼ぶも、彼女から返されたのは怒りの声だった。それは自分に対するものではない。自分のことを利用し、傷つけ、そうして最後は捨てたあの2人に対する罵倒。

俺はただ静かに彼女の言葉を聞き続ける。

 

彼女が話し終える頃には彼女がどれだけ自分のことを想っていてくれたのかがわかった。

ただ、それだけで……嬉しかった。

 

「ありがとな」

 

そう言葉に出した頃には俺は彼女のことをそっと抱きしめていた。ユウキとやりあっていた姿からは想像ができないほど細い身体は震え、今にも折れてしまいそうなほどだ。

 

「にゃ、せ、せせせせせ、せんぱい⁉︎」

慌てふためく小猫の身体を抱きしめ続け、意を決したように離すと、俺は更に言葉を紡ぎ出す。

 

 

「知ってたよ、あいつらが眷属になった経緯なんて」

 

その言葉に目の前の少女の身体は揺れた。

でも、知っていて当然なのだ。

任務でグレモリーとシトリーのことはよく観察していたから………

 

小猫が更に言葉をひねりだしてくるがそれを遮るように俺は口を開く。

彼女になら話してもいいだろう……

そう思えた。

特に隠しているわけではない。

ただ、気恥ずかしいという意味で俺は自分の過去を隠している。知っている奴らは少ないし。

 

でも、彼女には伝えよう……

俺のために、ここまで考え、心を痛め、涙を流したこの少女に対しては教えよう……と。

 

 

「こっからはとある少年の話だ……」

 

 

そう言って俺は自身の過去について語り始めた………

 

 

 

 

 

 




じ、次回こそは駄文じゃないのを書いてみせる‼︎

が、頑張ってみせます(-。-;

誤字脱字などありましたら感想欄で言っていただけるとありがたいですm(__)m


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ボッチな彼は孤独を嫌う

みなさん感想ありがとうございます。

たくさんの感想をいただきよりやる気が出ていました。

今回は八幡の過去編と少し長めです。


〜〜〜

〜〜〜

 

その少年は僅か6歳にして老成していた。

それは親による屑を育てるための英才教育を受けたからか、或いは周囲から常に悪意の視線や行為を受けてきたからか、彼は内外共に他の大人と遜色ない……否、他の大人よりもこの世を理解し、結論付けていた。

 

親の育て方により、血なんてものが本来なんの意味も成さないことを知った。

 

担任の悪意から大人もまた子供となんら変わらないということを知った。

 

クラスメイトの敵意から世の中のほとんどのものがくだらない優劣感に浸らねば生きていけない存在だと知った。

 

 

 

そんな彼の目は腐り、淀んでいった。

そうした外見の変化もまた、周囲にとっては彼を貶める更なるポイントにしかならない。

 

少年はその年にして人生に疲れて果てていた。

外に出ればたちまちクラスメイトの標的にされ、家にいれば両親からは相手にされないどころか自分がいないような扱いすら受ける。

 

2つ下の妹は外面ではいい妹装うも周囲の目がなくなればたちまち人のことをゴミ呼ばわりである。

 

 

『つまらねぇな』

少年の世界はまるで色の抜けた世界だった。

悪意を敵意を、そして負の感情を向けられるが故に彼はこの世界の誰もが見ようとしない汚い部分をしっかりと見つめてしまっていた。

 

 

『ねぇ君、ちょっと道を教えてくれないかな?』

 

放課後、彼がいつものように彼のベストプレイスである近所のちんまりとした公園に腰を下ろしていると、1人の女性が彼に声をかけてくる。

第一印象は不審者。

アニメや漫画などの世界にいるキャラのような服を着ている、いわばコスプレだ。

 

それだけならばまだしもその女性の服装はプリ○ュアみたいな……魔法少女が着るような服だ。しかし、それを着ている女性は明らかにそんな歳ではない。目の腐った俺から見ても美人と評価できる彼女はツインテールと揺らしているが、同時に彼女の胸もまた揺れていた。

 

『…………』

 

『ちょ、ちょっと待ってよ⁉︎』

 

無言で立ち去ろうとした俺の手を握りその場に止めようとする。

 

『すみません。お金なら持ってないので他の男性を当たってください。自分まだ6歳なんで』

 

握られた手を払い深々と頭を下げると一目散に走り出す。

 

『ちょっと私のことどう思ってるの⁉︎わー、待ってってば〜』

 

そう言って何を思ったのかその女性は俺に飛びつきギリギリのところで俺の足首を握る。走り始めていた俺は当然そのまま転け、その女性も連動するように転けた。

 

『逃げないでよ⁉︎本当に道がわかんなくて聞きたいだけだからさ⁉︎』

 

鼻を押さえながらそういう女性は涙目になっていた。

 

これが少年比企谷八幡と魔王セラフォルー・レヴィアタンとのファーストコンタクトだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【あはははははははは】

 

誰かが笑っていた。

そこでは黒髪長髪の少女が口元から飛び出ている歯を見せながら俺の周囲を回っていた。

 

【ねぇ、早く会いたいね……】

 

ぼやけていて顔はよくわからないが、その少女は笑っているように見えた。誰なのかわからないその少女は今日も俺の周りを駆け巡っていた…………………

 

 

 

『…………またこの夢か………』

 

最近……正確には4日ほど前からこの夢を見るようになる。いつも決まって相手の顔は見えず、いつも決まったように彼女は俺の周りを駆け回り声をかけてくる。もはや呪いにすら感じるが、やはりあの時関わるべきではなかったか………

 

そう思いながら俺は起床する。

両親は順風満帆な社畜生活を送っているため日曜でもいない。妹はおそらくまだ寝ているだろう。俺は顔を洗い、適当なものを冷蔵庫から漁ると、歯も磨かずに家を出て行く。

 

本当ならば家にこもっていたいのだが、4日ほど前から俺のある意味平穏なぼっち生活は終わりを告げた。

そうして向かった先はいつもの公園。

いつもならば誰もいないこの場だが、先日から続けて先客がいる。

 

『やっほーハチくん。今日も来てくれたみたいだね』

 

どういうわけか俺は、支取セラという女性とあの日からほぼ毎日会っていた………

結局あの日、俺が折れる形で彼女のガイドとして、この街を案内していた。当初はとある店に行く道だけだったのだが、何故かそういうことになっていた……

それからだ。学校が終わった後も、今日のように休みの日も彼女に付き合わさられる形で街を案内している。どうやら最近引っ越してきたらしく地理にそこまで詳しくないらしい。最初は何か変な目的があるのではと思ったが、よくよく考えれば、俺をどうこうしたところで彼女に一ミリもメリットがないので成されるがままになっている。

 

しかし、この成されるがままというのも案外悪くないのではと、ここ数日で思い始めているのもまた事実だった……

彼女は見た目とは違い、気遣いができる方である。それも余計ではない範囲であり、わざとらしくない範囲で……そんな彼女の対応に何処か居心地の良さすら感じているのにやや焦りながらも今日も街へと繰り出そうとするが……

 

『さってとー、今日も街を歩くけど、その前に紹介したい子がいまーす』

 

彼女からまさかの発言が飛び出てきたことにより、身体を強張らせた。何かあるのではと身構える俺だが、そんな俺に対し彼女は

 

『そんな固まらなくて大丈夫だよハチくん。紹介するのは私の可愛い妹だから♪』

 

そこまで聞いて俺は少しだけ興味を持つ。

彼女の妹のことは彼女から耳にタコができるほど聞かされていた。それこそもはや彼女の妹のことをほとんど知っていると言ってもいいほど………

 

そんな興味を持つ俺を他所にピョコっと彼女の背後から黒髪短髪の少女が顔を出す。

 

『ほら、ソーナちゃんあいさつしなさい』

 

セラにソーナちゃんと呼ばれている少女、支取蒼那は姉に言われるとゆっくりと出てきて俺へと挨拶をする。

 

『初めまして、ソー……支取蒼那です。ハチくんのことは姉さまから聞いてます……よろしくお願いします』

 

そう言って眼鏡っ娘……もとい蒼那は頭をさげる。それに倣うように俺も頭を下げ挨拶をすませ終えるのだが、いつまでたっても蒼那が視線を俺から外してくれない……

 

『俺の顔になんかついてるか?』

 

堪らず聞いた俺に対しハッと蒼那は目を開き誤ってくる。

 

『す、すみません。あ、あの……不思議な瞳をしているなと思ったので……』

 

『ああ、あんまりいいもんじゃないぞ。淀んでて腐ってて。』

 

『えぇー、私はいいと思うんだけどな♪』

 

蒼那の言葉を否定する俺の返事をセラが更に否定してきた。その言葉に嘘が込められていないのは今まで悪意と向き合ってきた俺にはわかるが、むしろ素直にそう言われる方が照れくさい。いかんせん、そう言った経験は少ないのだ……

 

 

『そう思うのはセラさんだけですよ……こんな眼、ロクなもんじゃない……』

 

『そ、そんなことありません‼︎カッコよくて素敵な眼だと思います‼︎』

 

『『え?』』

 

俺の照れ隠しの言葉を素直に受け取った蒼那が声をあげてきたことに対し、俺とセラは思わず口を開けっ放しにしてしまう。

 

『……え、あ………あの……えっと………』

 

思わず声をあげてしまったことに対する羞恥か、蒼那は耳まで赤くしながら俯いてしまう。

 

 

『ふーん。そっかー。ソーナちゃんもハチくんのこと気に入ったんだねー。』

 

そんな蒼那をセラはからかいながら抱きしめる。

 

『ちょっ、姉さま抱きつかないでください』

『えー、いいじゃん。姉妹なんだからこれぐらい普通普通。なんならハチくんもくる?』

 

楽しそうに話仕掛けてくる彼女は話しかけてくる。そこには微塵の悪意も裏もない。そんな彼女を見て俺は思わず微笑んでしまう。笑ったのなんて何年ぶりだろう……

 

『遠慮しておきます』

 

丁寧に断った俺にセラは残念そうにブーたれるのだった……………

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

「先輩……」

 

「なんだ?」

 

「途中からとある少年が俺になってますよ……」

 

「気にすんな……」

 

「はい……」

 

「まぁ、そんな感じでセラフォルー様達と会ったんだよ」

 

ムシャリと先輩はおにぎりをほおばりながら軽口に話していきます。

 

「先輩はどうしてお2人と仲良くなったんですか?」

ただ、その中でそれだけが疑問だった。

 

「第一印象は最悪さ、特にセラフォルー様はな。でもな、セラフォルー様もソーナも俺に対して一切と言っていいほど悪意を向けてこなかったんだよ。当時、多くの者に…それこそ家族からすら悪意を向けられてた俺にとってみれば、それが不思議でしょうがなかったんだ。だからかもしれないな。2人のことを知ってみたくなったんだ。もしかしたらこの2人なら信じてみてもいいかもしれないって。子供の頃の俺は純粋にそう思ったんだよ」

 

そういう先輩は何処か懐かしげに空を見あげます。

 

「でも先輩はその時はまだお2人が悪魔だと知らなかったんですよね?」

 

「ああ、それから大体1ヶ月近くは街の中で遊び倒してたな。お金は基本セラフォルー様が出してたし。後から聞いた話しじゃ、あの時の人間界の長期滞在の理由は駒王学園関連のことらしい。」

 

そこまで話してくれた時、ふと先輩の出す雰囲気が変わりました。

 

「でも、そんな関係はある日終わっちまったんだよ。今の俺からすればいい意味で。まぁ、起きたことは最悪のことだったけどな」

 

「え?」

 

「当時、とある悪魔がリアス・グレモリーとソーナ・シトリーの誘拐の計画を立ててたんだよ」

 

「部長と会長の?」

 

部長からも聞いたことのない話に私は首をかしげてしまいます。

 

「ああ、幸いリアス・グレモリーはサーゼクス様やセラフォルー様がいたから特に大きな問題にはならなかったんだが……」

 

そこまで先輩に言われて私は気づきます。

セラフォルー様も部長の方にいたってことは……

 

 

「ああ、小猫の思ってる通りその誘拐当日、ソーナの近くには俺しかいなかった……」

 

「でも先輩はその時神器を……」

 

「使えてないな」

 

私の言葉をすんなりと肯定してくる先輩ですが、それってかなり危険な状況ですよね?

 

 

「そんな計画を立てていたのが今は滅んだ元72柱の1つジャコブ家最後の当主、サタン・ジャコブだったんだよ……」

 

「サタン・ジャコブ……」

 

「ああ、そいつは実力的にはセラフォルー様達と遜色はなかったんだが……性格や思想が危ないってことで、4大魔王の候補から外されたんだ……それが気に食わなかったのか……或いはただ選ばれたセラフォルー様達への嫉妬かはわからんがな……」

 

そう言って先輩は話の続きを聞かせてくれますが、セラフォルー様達と同じ実力ってそれ本当にまずくないですか…………

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

 

ここ1ヶ月の間俺は友人と言えるであろう奴らと出会い、遊び倒していた。当初こそ必死になって今の関係に慣れることを拒もうとしていた俺だったが、そんな気はもう無くなっていた。

彼女らの俺に対する接し方を見ていてこういう人間もいるのだと、俺の中で1つの枠組みができたのだ。そう思ってしまうと早いもので、俺は彼女達とのこの日常を楽しんでいた。

 

そんなある日だ。

その日はいつもと違う点が幾つかあった……

 

1つ目は夢だ。

あの日から見ている夢の中で話しかけてくる少女の言葉が今日は少しだけ違っていた。

【あはは、ようやく会えるね】

そう言ってその日の夢は終わって行った。

明らかに違う一言だが所詮は夢と普通なら思うだろう。しかし、1ヶ月以上続く夢だ。気にするなという方が無理がある。

 

2つ目はセラがいないことだ。

アレでもセラは仕事をしているため、今日はどうしても外せない会議があるらしい。そのため今日は蒼那と2人だけで遊んでいる。

 

そして3つ目……その日俺たちはいつもの公園で普段よりも遅くまで遊んでいた。というのもセラが会議が終わったら迎えに来るらしいため、それまで遊んでいようという話になったのだ。

 

そんないくつもの物事が偶然か、或いは故意に重なったその日に俺はこの世界の本当の真実を知った……

 

『お前がソーナ・シトリーだな』

 

唐突にかけられた声。

それは俺が聞いたことのないほど冷たく、悪意に満ち溢れているものだった。そんな声に背筋を凍らせながら振り向くとそこによくわからない生物がいた。

 

形は人だ。

だがその足は牛の蹄のようになっており足にはバイソンのような毛が生えている。屈強な筋肉は長身その者の存在感をさらに強め、頭からは羊のような角が、背中には大きな黒い翼が生えている。セラのようなコスプレ……には見えなかった。コスプレと言い切るには、それらはあまりにもリアルで何よりもこの存在が出す雰囲気は明らかに人のものではなかった。

 

『来てもらうぞ』

『きゃあ⁉︎』

 

そう声を発した直後彼は目の前から消え俺の後ろで蒼那の髪を握りしめていた。

 

『お、おい、放せよ⁉︎』

 

思わず声をあげた俺にそいつは首をかしげてくる。

 

『ん?何故貴様は動けている?周囲には停止の魔法をかけている。魔力を持たぬものが動けるはずなどないのだが、ソーナ・シトリーの側にいたせいで効かなかったのか?』

 

その冷たい一言一言に心が折れそうになる。今すぐにでも逃げたいと身体が叫んでいた。それでも俺は体に鞭を打ち懸命に拳を振るう……

 

ガンという音が聞こえると共に俺の拳はそいつに届くことなく停止し俺の絶叫はその場に響く。膝をつきうずくまる俺の拳は赤く腫れあがり、まるでコンクリートを全力で殴ったようだった。

 

『魔力も持たぬ脆弱な人間が、私に触れるなどできるわけなかろう』

 

そう言ったそいつは俺のことを見下しながら手をこちらに向け

 

『こうなったのもこいつらと関わったからだ。悔やみながら死ね』

 

言葉を発するとともにその手のひらから紫色の閃光を放つ。その閃光が俺の胸元を貫きその場に蒼那の絶叫だけが響き渡った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ、ようやく会えたねハチ……』

 

気がつけば俺は真っ白な世界にいた。

そこには地面に刺さった一本の剣の上で座っている少女がいる。

 

トクン、と自分の鼓動が俺の中で響く。

 

ああ、俺は知っている。

こいつはいつも俺の周りを駆け回っていたやつだ……いつもは黒く見える少女の髪も明るいこの世界では黒というよりも紺色に見える。

 

普段のように走り回っているのではなく少女は座っているため、今までわからなかったことがいくつも頭の中に入っていく。

まず一目でこいつが人ではないとわかった。

さっきのやつほどではないがこいつから出る雰囲気は先ほどの存在と類似している。

そしてなにより先の尖った耳、頭につけたカチューシャと同じ黄色の角、そして笑っている口元から見える尖った牙と背中から出ている黒い翼がそれを物語っていた。

 

『お前は誰だ?ここは何処だ?俺はどうなったんだ⁉︎』

 

いきなり入ってきた多くの情報に混乱し思わず叫んでしまう俺を他所にその少女はぴょんと飛ぶと俺の懐まで近づいてくる。

 

『うーん。口で説明するのは面倒だから情報ごと渡しちゃうね』

 

そう言った少女は自身の手首を強く噛む。当然強く噛めば血が溢れ出てくるが、それを気にせず少女は俺と唇を重ねてくる

 

 

『んん⁉︎』

 

突然のことに驚き目を大きく見開く。口の中には血の味が広がると共にゼラチン質なものがこちらの口内にも入ってきた……がその数秒後、先ほどとは比にならないほど心臓が強く鼓動する。その瞬間、俺の頭の中に大量の情報が洪水のように流れ込んでくる。

唇を離した少女に抱え込まれる形で倒れた俺は少しの間入ってくる情報に悩まされる。

ようやく落ち着いてきた頃には、この状況を理解する。

 

 

『セラ達が悪魔……』

 

流されてきた情報の中にはこの世の真実があった。悪魔、神、天使、堕天使、神器。御伽噺の中のようなことが現実で起きている。普段ならありえないと一言で終わるが、先ほどのことと今の状況からそれを否定することは俺にはできなかった……

 

『そ、そうだ蒼那は⁉︎』

 

『大丈夫だよ、こっちだと時の進みなんてないから……今君が死んだと思って泣いてるねー』

 

『死んでないのか?』

 

『死んでたらここにはいないよー。死ぬ前に僕がここに呼び寄せてあげたから。それに身体も少しすれば元どおりさ』

 

目を細め笑いながら言う彼女に俺はすぐさま言う。

 

『なら、今すぐに戻してくれ‼︎早くしないと……』

 

『そうしてまた死ぬのかい?』

 

その言葉にピクンと俺の身体が跳ねる。

 

『君は人間だよ?対してあの悪魔は魔王と同等と言ってもいいね』

 

魔王、先ほど入ってきた情報の中にあった……

 

『そんな相手に君が勝てるわけないじゃん』

 

それにとその少女は続けてくる。

 

『彼女らは君を騙してたんだよ?悪魔であることを隠して、そして君を巻き込んだ。それは君の大嫌いなことじゃなかったのかい?』

 

確かにそうだ。

この少女の言うことは正しい。

 

『それに君に近づいたのも君が神器持ちだからかもしれないんだよ?』

 

正しい……

けれども違う。

あの2人の視線は……

あの2人の行動は……

そんなものじゃない‼︎

 

 

『そんな奴らのために君が傷つく価値なんてないだろう?』

 

『あるさ』

 

少女の言葉を俺は否定する。

少女はふーんとこちらを眺め俺の続きを待っている。

 

『確かに悪魔であることをあいつらは黙っていた。その結果として俺は巻き込まれた。でも……でもな‼︎』

 

必死になって声を張る。

それは本当に俺の声なのかと疑わしくなるほど強いものだった。

 

『それでも、あいつらが打算や何かで俺に近づいてきたってのは絶対にない‼︎それは俺だからこそ断言できる‼︎』

 

『へぇ』

 

『それにな、お前大事な部分を隠してるだろ』

 

『……どうしてそう思うんだい?』

 

『今流されてきた中に、神器のことはあってもお前のことはなかったぞ。それにお前はまるで俺の心を折ろうとするように話してきてる。そういう奴の言葉に素直に耳を傾けるほど、俺は純粋じゃねぇ』

 

『ふふ、6歳とは思えない言葉だね。まぁ、君の人生を考えれば当然か……』

 

俺の言葉を否定せず、少女は笑いながら続ける。

 

『そうだね。まず、彼女らは君が神器を持ってることは知らなかったよ。僕がずっとバレないようにしてたからね』

 

観念したように少女は真実を告げる。

 

『そして、なにか打算があったというのもないだろう。そこは僕も保証しよう』

 

でもね………

 

『君じゃあ勝てないのは変わりないよ?』

 

『俺では……なんだろ』

 

少女の言葉に俺は直ぐに返す。

 

『なら、お前の力を貸しやがれ‼︎』

 

『ふむ、でも何故そんなに彼女を助けたがる?知り合って間もないだろ?』

 

俺の言葉を受け少女は俺に問う

 

『そうだよ……』

 

『それでも彼女達が大切だから?』

 

『そうだ……初めてだったんだ。誰かをこんなにも失いたくないと思ったのは……』

 

俺の出した答えに少女は軽く返してくる。

 

『いいよ、力を貸してあげるよ。僕は強い子が好きだ。君はその歳ではありえない経験とそれに基づく思考がある』

 

『なら‼︎』

 

しかし、少女は続ける

 

『でも、足りないよ。君にはまだ足りない。何かを得る為に何かを失うのはこの世の理だろ?』

 

『何を渡せばいい?何を渡せば力をくれる⁉︎』

 

相手は求めている。だからこそ俺は聞く。何が必要なのかと……

 

『君の血さ、まぁ、それだけじゃないんだけどね。』

 

『どういうことだ?』

 

『僕の力を使えば使うほど、僕は君の身体に入っていく。そうしていつか君は僕に身体を乗っ取られるのさ……』

 

『っ⁉︎』

 

その言葉に俺は息を飲む。

失う?俺の身体を。

こいつが俺の身体を奪おうとしてくる……

 

『言っただろ?失うって。それが嫌なら……』

 

『やるよ』

 

でも、息を飲んだのは一瞬だった。

俺の中では答えは決まっている。

言葉を遮った俺を少女は目を見開き見ていた。

 

『あいつを……あいつらを助けられるならなんだってくれてやる……』

 

『おーおー、すごいね君。自分の全てを犠牲にして、それで尚助けようとする。ずっと見てきたけど……やっぱり君は他の人間とは違う。矛盾を抱え、自身の欲望に負け、世界を壊していく人間達とはまるで違う……』

 

そういう少女の目は爛々と輝いている。

 

『いいだろう。気に入ったよ、君の心が強い限り従い続けるよ………でもね、少しでも弱くなったら君の身体はどんどん奪われていく、それを忘れないでね?』

 

少女からの忠告。

ならば乗っ取らないでくれと切に思うが……

 

『ああ‼︎』

 

俺の力強い返事に満足したのか少女は今日1番の笑顔を向けてきた。

 

『君に従おう。一応は神器だしね。』

 

そう言って少女は俺に手を伸ばしながら述べてくる。

 

『君の神器の名前は鬼呪装備。僕の名前は阿朱羅丸。【鬼呪龍神皇】阿朱羅丸だ。多くの者には【吸血の女王】と呼ばれていたけどね。力が欲しい時は名前を呼ぶといい』

 

そういうと彼女は刺さっていた剣に吸い込まれていく。

 

『阿朱羅丸……』

 

俺がそう呟くとその剣が輝きを放ち俺の元へとやってくる。それを握った瞬間……俺の現実の意識は覚醒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実ではソーナが泣いていた。

本当に時間が経っていないことに驚きながら俺はむくりと立ち上がる。

 

立ち上がった俺に目の前の2人の悪魔は驚き声をあげた。

 

「ハチくん⁉︎」

 

「貴様何故生きている⁉︎」

 

そんな声を聞きながら俺は蒼那へと告げる。

 

「今助ける……」

 

「助ける?貴様がか?笑わせるな」

 

そう言って俺の目の前にいる悪魔、サタンは俺へと再び魔力弾を放つが……

 

「力を貸せ、阿朱羅丸……」

 

俺がそう呟いた瞬間、魔力弾は俺の手に握られている剣によって弾かれる。

 

「馬鹿な⁉︎」

 

驚くサタンを他所に俺は間合いを詰め、彼の右手首を神器である刀で切る。

 

「っ⁉︎」

 

自身が出していた障壁がやすやすと破られたことに驚くサタンはその痛みに思わずソーナの髪を握っていた手を離す。それと同時に俺は強化された身体能力をフルに使い蹴りを食らわせ、ソーナからサタンを引き剥がした。

 

 

「ぐぅぅうううっ」

 

苦痛をあげながら飛んでいくサタンを他所に俺はソーナへと言葉を発する。

 

「逃げろ‼︎」

 

「で、でも⁉︎」

 

「させると思うか?」

 

俺が逃亡を促すも相手はそれをさせてくれなかった。やべぇ、思ったよりも効いてない……

 

「まさか神器持ちとはな。だがそれだけで俺に勝てると思ってるのか?」

 

そう言うと同時にサタンの魔力が恐ろしいほど上がる。これが魔王クラスかよ……

 

「クソガキが、お前はここで殺す‼︎」

 

そう言った彼は魔力弾をいくつも放ってくる。弾き損ねた魔力弾は容赦なく俺の手足を貫ぬいていく。

 

「ぐぅ」

巡ってくる痛みに耐えながら俺は必死に立つが休む暇もなく俺は盛大に殴られ吹っ飛ばされた。

 

「ほぉ、まだ立つか……」

 

「がはっ」

 

吹っ飛ばされた俺は血を吐きながらも足に力を入れ必死になって立ち上がる。傷自体は阿朱羅丸が次々と治してくれているが、痛みが直ぐに消えているわけではない。

 

「傷が治っているな……それにその刀。見たことのない神器な上にかなりのものだ。本来なら回収したいが、些か時間も無くなってきた。そろそろ終わりにしよう。」

 

そう言ってサタンはゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。死が少しずつ迫ってくるのだ。

 

(くそっ)

 

《言ったろ?君じゃあ勝てないって》

 

舌打ちする俺に阿朱羅丸が脳内に直接話しかけてくる。

 

「こんなに強いのかよ……」

 

《ああ、こんなにも差があるんだよ》

 

俺の言葉を阿朱羅丸は肯定してくる。

万事休すかと思った時俺の脳内に1つの言葉が思い出される。

 

(なぁ阿朱羅丸)

 

《なんだい?》

 

(お前ならあいつに勝てるか?)

 

《あんなの倒すのは造作もないよ?》

 

(お前ならソーナを助けられるか?)

 

《もちろん》

 

その答えが聞ければ満足だ。

その答えだけで覚悟は決まった。

 

「阿朱羅丸‼︎俺の身体をやる。だから……だからこのクソ悪魔を倒してくれ‼︎」

 

「貴様は何を言っているのだ?」

 

唐突に大声を出す俺に目の前に迫ってきたサタンがその拳を振り下ろそうとした……その時

 

 

《あはははははははは》

 

突然周囲にも聞こえる声を阿朱羅丸が発したと思うと、俺の周囲を黒い影が包んでいき、そこで俺の意識は消えていった………

 

 

 

 

 

過去八幡side out

 

過去ソーナside in

 

 

 

 

 

私は後悔していた。

私達のせいで彼を巻き込んでしまったことに。私自身、恐怖で身体が動かないことに

 

目の前の少年は人間であるにもかかわらず目の前の圧倒的な存在に立ち向かっていた。

身体から血は流れ、服は赤く染まっている。

 

そうして吹き飛ばされた彼にサタンがトドメを刺そうとした時、彼は声をあげた。

 

「阿朱羅丸‼︎俺の身体をやる。だから……だからこのクソ悪魔を倒してくれ‼︎」

 

何を言っているのかわからなかった。

それはサタンも同じらしく、それを無視して殺そうとするが、その直後だ。

 

《あはははははははは》

 

 

幼げな声とともハチくんの周りを黒い影が包んでいく。

 

「な、なに?」

思わず疑問の声を上げるも、それに答えてくれるものは当然いない。ハチくんの側にいたサタンも同様らしく、ハチくんから跳びのき距離を取る。

 

 

『ふぅ』

 

黒い影が霧散し、現れたハチくんは一息つくと言葉を発する。

 

『ふふふ、やはり面白いね君は。他人のために自分をここまで犠牲にできるなんて。本当に面白いよ。』

 

「ハチくん?」

 

その雰囲気に私は戸惑ってしまう。

 

『さてとサタンくん。とりあえず…死んで?』

 

ゾクッと背筋が凍った。

それは先程のサタン以上の威圧。

それで気づく。

そこにいるのはハチくんではない。

ハチくんの姿をした何かだと………

 

「う、うぉぉぉぉおおおおおおおおお」

 

その威圧もモロに当てられたサタンは咆哮を上げながら魔力弾をひたすらハチくんへと撃ち続ける。

 

『あはははは、遅いよー』

 

それは楽しそうに避けるハチくんに当たることはなかった。

 

『んじゃ、いっくよー』

 

その瞬間ドガんという轟音とともにサタンが地面を削りながら飛ばされていく。先ほどの蹴りとは比べほどにならない威力を持つそれは瞬時に移動したハチくんが放ったものだ。

 

「っくそ⁉︎ぐぅ」

 

なんとか体制を立て直したのも束の間、なぜか蹴り飛ばしたハチくんは既にサタンの背後へと移動し終え、もう一度、今度は空に向かって蹴り飛ばす。

 

「っち、それなら……ば?」

 

連続して受ける規格外の威力の蹴りに血を吐きながらサタンは空で停止し反撃を試みようとするもその途中で目を見開く。

 

『そろそろ終わりにしようかぁー?』

 

何本もの刀が空に停止するサタン中心に回っていた。それは明らかに普通の刀ではない。まるで妖刀。呪いを纏っているかのようなその刀で周囲を囲まれたサタンは顔を引きつらせてしまう。

 

 

『君や僕が本気出したらこの辺りが更地になっちゃうから、そうなる前にちゃっちゃと終わらせるね?』

 

「う、うぁぁぁぁああああ」

 

先ほどの咆哮とは違うまぎれもない絶叫がこの場に響く。

 

『阿朱羅観音【串刺しの刑】♪っと、バイバーイ』

 

ハチくんが楽しそうにそう叫ぶとともに刀は一斉にサタンへと向かっていく。

絶叫を命乞いを、助けを求める声をあげながら刺されていくサタンはしばらくすると動かない肉塊と化した………

 

そうしてサタンが動かなくなった直後、私の前に魔方陣が展開される。

そこから出てきたのは、姉さまたちだった……

 

 

 

 

 

過去ソーナside out

 

過去セラフォルー side in

 

 

 

 

 

私は焦っていた。

数十分前私達を、正確にはサーゼクスの妹であるリアスちゃんを襲ってきた悪魔の対応に私達は追われていた。幸いリアスちゃんは会議をしていたところからさほど離れていないため危険は免れたが、私とサーゼクス、それにグレイフィアは襲ってきた悪魔達と交戦していた。

ほとんどを蹴散らし、終わったかのようにも思えたが最後に残った悪魔の一言により私の顔から血の気が引いて行った。

 

「ははははは」

 

「なにがおかしいのかね?」

笑っている悪魔に対しサーゼクスが問うとその悪魔は心底愉快そうに答える。

 

「確かに我々はここで死ぬさ。だが、サタン様が今頃ソーナ・シトリーの捕縛に成功していることさ」

 

最悪だった。

その悪魔の一言だけでその場が固まる。

 

「サタンだと⁉︎では貴様らは⁉︎」

 

「サタン様の眷属さ。せいぜい……こうか…いしや………が、れ………」

 

 

そう言って最後の悪魔も消滅していった。

その直後だ、私達が尋常ではない威圧と魔力を感じたのは

 

「ソーナちゃん…それにハチくんも⁉︎」

 

「確か君の妹と一緒にいた人間だね。セラフォルー急ごう。グレイフィア‼︎」

 

「はい」

 

私たちはグレイフィアの転移魔法で急いでその発信源へと向かうがそこで見たのは私達が思っていた光景とは全くもって違っていた。

 

 

 

 

「姉さま‼︎」

 

転移した直後、腰が抜けているのか、地面に座ったままのソーナちゃんが私を呼んでいる。

 

「ソーナちゃんよかった。でもこれって……」

 

私達の眼の前では何本もの刀で串刺しにされたサタンとそれに手を伸ばしながら息絶えたサタンを見ているハチくんの姿があった。でもそれよりも……

 

「セラフォルー……彼が君の言ってた人間かい?」

 

サーゼクスが警戒しながら私に問いかける。

グレイフィアもサーゼクスの前に立ち臨戦態勢だ。

 

「う、うん。で、でも、あんな雰囲気じゃないよ、いつものハチくんは」

 

私たちが戸惑っている中ふと、ハチくんが私達の方へと顔を向けた。

 

『やぁやぁ、ようやくご到着かい?魔王様方』

 

その声にゾクッと寒気がする。

違う。ハチくんじゃない。瞬時に判断し私も臨戦態勢に入るが……

 

 

『そんな警戒しないでほしいなぁ。そこのソーナ・シトリーを助けてあげたのに。まぁ、彼の頼みだけどね』

 

そう言うとハチくんはパチンと指を鳴らす。

その瞬間、サタンに刺さっていた刀が消え、サタンも消滅していく。

 

「君がやったのかい?」

 

『逆に僕以外できると思うかい?』

 

サーゼクスの問いに楽しそうに答えるハチくんはゆっくりとこちらに寄ってくる。

 

『大丈夫だよ、君達に危害は加えない。それを彼は望んでいなかったからね』

 

「あなたは誰なの?」

 

近づいてくる相手に警戒を解かずに私は聞く。

 

「僕?僕はハチの持ってる神器に宿るものだよ」

 

「ハチくんに神器⁉︎」

 

その言葉に私はおもわず声を上げる。

ありえない。ハチくんからは神器の気配などなかったはずだ……

 

『そりゃ、僕が気配を気取られないように隠してたからね。わからなくても仕方ないよ』

 

私の心を読んだように言い放ってきた。

 

 

「それで、彼をどうするのかね?」

 

その言葉に私とソーナちゃんの身体が僅かに跳ねる。そうだ、今その神器に宿る者がハチくんの身体を動かしてるならハチくんは……

 

 

『うーん。本当のところを言うと、このまま乗っ取ってもいいんだよ。僕としてもそうすればまた自由に動けるし。またいっぱい遊べるからね』

 

その言葉に私達は後ずさる。

そこに込められた一瞬の威圧からこの者がどれほど強いのかわかってしまう。おそらく3人がかりでも………

 

『でもね、止めにしたよ』

 

「え?」

 

『ハチは面白い。僕が見てきたどんなものよりも。だからもう少しハチに主導権を渡しとくさ。それにハチの血は極上だったしね』

 

そう言ってハチくんは自身の手首にまとわりつく血を舐める。

ただその行為だけで私達は恐ろしさを感じてしまう。

 

『だから、ハチのことよろしくね。また会おうよ、魔王様方………』

 

 

そこまで言い終えると糸が切れたようにハチくんは地面へと倒れこむ。

 

「「ハチくん」」

 

私とソーナが思わず駆け寄ると、ハチくんは気持ちよさそうに寝息を立てている。

 

「よかった……」

 

「ごめんなさい……私……私………」

 

安堵する私とは裏腹にソーナちゃんは不意に泣き出してしまう。

 

「ソーナちゃん?」

 

「ごめんなさい。姉さま……私……私はなにもできませんでした……ただずっと………」

 

「大丈夫。ハチくんも大丈夫だから」

 

涙を流しながら肩を震わせるソーナちゃんを私はしばらくの間抱きしめていた…………

 

 

 

過去セラフォルーside out

 

過去八幡side in

 

 

 

気がつけば俺はベットの上で寝ていた。

うっすらと目を開いていく俺の視界に真っ先に入って来たのはセラフォルーだった。

 

「セラ?」

 

「は、ハチくん起きたのかい⁉︎」

 

俺に名前を呼ばれた彼女は声を荒げながら俺に抱きついてくる。

 

「いづづづづづづ、痛い‼︎まじで痛いから‼︎」

 

「ご、ごめん」

 

そのあまりにも強い抱擁に苦痛の声を上げると彼女はすぐに離れてくれた。

 

「やぁ、起きたようだね」

 

「ハチくん‼︎」

 

セラフォルーが離れた直後、戸が開きソーナと赤髪の男性、そして銀髪の女性が入ってくる。

 

「ソーナ……無事でよかった……」

 

彼女の顔を見て俺は安堵する。

阿朱羅丸に身体を渡した後もうっすらと意識はあった。だからこそ、なんであいつが俺に身体を返してきたのかが本当にわからないが。

 

「ごめんなさい……私……」

 

「別にいいさ」

 

泣いて謝ってくるソーナの頭を撫でながら俺は返す。ソーナ顔を赤くしながらも、特に嫌がったりはしてこない。

 

「君が寝ていたのは3日ほどだが、ご家族には交通事故にあったということにしておいたよ。この病室代も私達で出している。それと学校への届けもね」

 

そう言って話しかけてきたのは先ほどの赤髪の男性だ。

 

「ありがとうございます。サーゼクス様」

 

その言葉に皆が驚いた。

 

「何故私の名前を?」

 

「聞きましたので」

 

そう言って俺は心の中で阿朱羅丸を呼ぶ。

すると俺の手元にあの刀が現れる。

 

「君はあの時のことを覚えているのかい?」

 

「はい」

 

サーゼクス様の言葉を俺は肯定する。

 

「もしよければ、なにがあったのか教えてほしいのだが……」

 

俺は頷くと、ポツリポツリとあの時のことを語って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「阿朱羅丸……その神器の中に彼女が⁉︎」

 

話を聞き終えたサーゼクスの顔は驚愕の色で染まっていた。

 

「鬼呪龍神皇……かつて神、龍、悪魔、天使、堕天使と見境なく襲った彼女が八幡様の神器の中に」

 

隣にいるグレイフィアさんは目を細めながら俺の刀を見ていた。

 

 

「姉さま。鬼呪龍神皇って?」

 

阿朱羅丸のことを知らないらしいソーナはセラフォルーに問いかける。正直言って俺もよくわかっていない。

 

「ふぅ」

 

セラフォルーは話す前に一息つくとその口を開いた。

 

「【鬼呪龍神皇】阿朱羅丸。通称吸血の女王。その昔、種族を問わずあらゆる種族を手にかけた吸血鬼よ。彼女の特異体質で血を吸った相手の力をコピーできるらしいよ。私が実際に会ったのは昨日が初めてだから本当かどうかわからないけど……それでも彼女は殺した相手の血を吸い、力をつけてはまた他の相手を殺す。そうした事を続けた吸血鬼。中でも1番被害が出ていたのが龍達。現存する龍と神器に封じ込まれた龍以外は全て彼女が狩ったと言っても過言じゃないわ………でも、多くの龍の血を吸い続けた結果、いつしか彼女の肌には鱗が生え、龍へと変貌して行ったらしいの。まるで呪いがかかったかのように。故につけられた名が鬼呪龍神皇」

 

そこまで言うセラフォルーの頬に汗が伝う。

強いとは思ってたけど、そんなヤバい奴だったのかよ阿朱羅丸って…………

 

 

「八幡くん。君はこれからどうするのかね?」

 

サーゼクス様に話しかけられた俺は答えない。

 

 

「その神器は強力すぎる。その上君が乗っ取られる可能性も高い。だからこそ、我々の保護下に入って………」

 

 

「嫌です」

 

サーゼクス様の言葉を俺は強く遮った。

 

 

「ハチくん⁉︎」

 

セラフォルーは驚き俺の顔を見てくる。

 

「何故だい?」

 

サーゼクス様からすれば不思議で仕方ないのだろう。強力すぎる神器を持っていれば普通の生活などできない。だからこそ、保護下に入れば普通ではなくとも平穏な生活はできる。

 

でも、俺はそんな事を望んじゃないない。

 

サーゼクス様達は俺の事を見ている。

俺の言葉を待っている。

こんなのは初めてだ。

こんなにも怖いのは……

こんなにも身体が震えるのは。

 

ふと震える手に小さな手が添えられる。

小さいと言っても俺とさほど変わらない手。

ソーナから差し出されたその手は俺の手を握ってくれた。すると震えが止まっていく。先ほどまでのことが嘘のように……

 

「ふぅ」

一呼吸置き、俺は語り始める。

 

 

「こんな事を言えば、僅か6歳の子供がなにを言っているんだと思うかもしれませんが……」

 

そこまで行き俺はみんなに視線を向ける。俺の前置きを聞いても、誰1人として視線をそらしてこない。真剣そのもので俺を見続けている。

 

 

「サーゼクス様……俺はずっと…ずっと…考えてたんです。俺がこの世界に存在する意味はなんだろうって……家にいれば親にはいないもの扱いされ、妹にはゴミ扱いされる。外に出れば周囲の人間、それこそ大人子供関係なく悪意を向けられる。せっかくこの世に生を授かったっていうのに、周りからは虐げられて、何も生み出すことも与えることもできず、悩み苦しみ悶えて、その果てにただ消えるだけなら今この瞬間に死んだ方がいいって、何度も何度もそう思ったんです。どうして俺はこの世に生まれてきたんだろうって………」

 

それは本当に僅か6歳が発するようなものではなかった。他の者が聞けば子供がなにを言っているんだと言うだけで終わるだろう。

しかし、目の前の4人は真摯に俺の言葉を受け止めてくれている。親にも学校にも伝えたと言っていたから、或いは俺がどんな扱いを受けているのか知ってしまっているかもしれないが…

 

 

「でも、初めてだったんですよ。本当に信じられる相手ができたのが……心を許せるかもって思える相手ができたのは……」

 

そういう俺の拳にはポツリと涙が落ちる。

 

「お互いの事を許容できて、それでいて理解し合える。そんな本物の関係ができる。初めてそう思えたんです……」

 

一度出始めた涙は止まらない……

 

「怖かったんです。あの時……初めてできた大切な相手の1人が連れ去られるかもと思ったら……また1人に戻るんじゃないかって……」

 

だからこそ俺はあの時必死に立ち向かった。

阿朱羅丸は他人のためだと言うがそんなことはない。俺は自分のためにやっていた……

また1人に戻りたくなかったから……

ようやく色づいた世界がまたあの白と黒の世界に戻ることに耐えられなかったから……

 

 

「自分の身体を失うことなんかよりも、自分が死ぬことよりも……1人になりたくなかった…」

 

 

そんな俺の言葉に4人の目元も潤んでいる。

 

「だから‼︎俺は嫌なんです。護られるなんて‼︎だってそれじゃあ、またいつ1人になるかわからないから‼︎」

 

護られるだけでは一緒にいられない。

護られるだけではいつしか護り手が死んでしまうかもしれないから……そうすればまた孤独になってしまう。それが怖くて仕方ない……

 

「だからお願いします。俺を悪魔にしてください。」

 

その言葉と共に俺は深々と頭をさげる。

そこにはたった6年。

けれども俺の全ての想いがこもっていた。

 

俺が唯一彼女達と離れない方法。

転生悪魔になるしか術はなかった。

 

「いいのですか?転生したらあなたに平穏はもう来ないかもしれないんですよ?」

 

「平穏なんて……1人じゃ意味ないです……」

 

グレイフィアさんの言葉に俺は首を振る。

 

 

「そうなれば、また身体を乗っ取られるかもしれないのだよ?」

 

「なにも出来ないよりはマシです……それに、今は阿朱羅丸にやられっぱなしですけど、いつかコントロールしてみせます」

 

サーゼクス様は俺にわかりきった事を聞くが、俺の決意は変わらない。

 

 

「姉さま……」

 

ソーナはセラフォルーの方を向いている。

 

この場において適任は彼女だ。

それはこの場にいる全員が理解している。

そもそも、駒を持っているのはサーゼクス様とセラフォルーだけなのだから……

 

 

「……私だってハチくんと一緒にいたいよ……遊んだ日々は忘れられない。それに私には最初から選択権なんてないもの………」

 

そう言ってセラフォルー俺の方へ向いてくる。

 

「ねぇハチくん……私の妹を、ソーナを助けてくれてありがとう。」

 

「自分のためです……」

 

「それでもだよ……でもね、ハチくん。あの場に間に合わなかった私にはこんなこと言う資格なんてないけど、ハチくんもなんだよ‼︎」

 

そういうセラフォルーの頬を涙が伝っていく。

 

「セラさん?」

 

「ハチくんもソーナと同じ私の大切な子なんだからね。だからもう2度と自分の身体を明け渡すなんてことしないで。自分の身体を無闇に酷使しないで……」

 

そう言いながらセラフォルーは俺の服を掴んでくる。セラフォルーもわかっている。あの場においてあれが最適解なことは。それをわかった上で彼女は矛盾する2つの気持ちを俺にぶつけてきた。

 

そこには妹を助けてくれた感謝と自身の身体を無下に扱ったことに対する憤りがある。

 

そんな彼女の言葉は俺に今までにない衝撃を与えてきた。

人に感謝されたこともそうだがなによりも自分の事をここまで大切にされたことが、必要とされていることが……俺には嬉しかった……

 

「はい……」

そう返事をした俺の手を取り彼女はその上に取り出した駒を置く。その形は兵士でも、騎士でも、戦車でもなければ僧侶でもない。

 

女王の駒。

それは悪魔の駒における最強の駒。

それはほかの駒とは違い眷属の主が1つしか持てないほかのどの駒よりも価値があるもの。

 

それも魔王である彼女の女王だ。

その価値は計り知れない。

 

だが、その場にいる誰もがセラフォルーがその駒を置くことに口を出さなかった。

 

そうして1つの輝きが俺を包み、俺は種族を超えた……………

 

 

 

過去八幡side out

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

小猫side in

 

 

 

「とまぁ、こんな話だ……」

 

全てを話し終えた先輩は何処か照れくさそうにそっぽを向いてしまいます。

確かに、言っててすごく恥ずかしいセリフも何個かありましたし、何よりもこれをあまりほかの人に知られたくない理由はわかりました。

 

「先輩……もしかしてユウキさんやシノンさんが先輩に抱きついたり、料理をずっと作り続けたりしてるのって……」

 

「純粋な好意もあるだろうが、この話を知ってるってのもあるだろうな……」

 

先輩の顔を赤くしながら言う言葉に私は思わず微笑んでしまう。

この先輩は寂しがり屋なのか……と。

 

「こんなのヴィザやほかの奴らに知られてみろ?俺は恥ずかしくて死ぬぞ?」

 

「そうですね」

 

私は手で顔を仰いでいる先輩にどうしても聞きたくなってしまったことが2つあった。

 

「身体は大丈夫なんですか?」

まず最初にそこだ。

先輩の身体は乗っ取られていないのか……と

 

「ああ、あいつとは数年前に和解した。今じゃ俺の大切な家族だよ」

笑いながら言う先輩を見て私はほっとします。

けれどももう1つあるんです………

 

「先輩」

 

「ん?」

 

「先輩は私から居なくなりませんよね?」

姉様みたいに………

 

「お前が望むならな……」

 

そう言って先輩はもう一度私の頭を撫でてくれます。やっぱりこの感じ懐かしいです。それに先輩の匂いを嗅ぐと落ち着きます。

 

「私も本物になれますかね?」

 

「さぁな、俺はずっとお前に悪魔だってこと隠してたからな……」

 

先輩……そこはうんって言ってくれないんですか……

 

 

「でも今はお互いに知ってる。悪魔だってことも、お互いのことも。過去のことも」

 

その言葉に私はピクンと反応してしまいます。先輩はセラフォルー様の女王ですし、何よりもサーゼクス様達とも良縁です。

姉様について知っていてもおかしくはないですが………………………

 

 

「だからなれるさ。小猫が辛いときはいつでも俺が傍にいて支えてやるから」

 

ふにぁぁぁあああああ

 

先輩その笑顔はズルいです。

反則ですよ。

 

 

いきなり向けられた先輩の笑顔に私は顔を赤くし、今すぐにでも隠れたい気持ちを抑え言葉を紡ぐ。

 

 

「わ、私も傍にいます‼︎今は難しいかもですけど、いつか私も先輩を守れるくらいになって‼︎」

 

私の言葉に先輩はそっかと答えると立ち上がる。

 

 

「そろそろ戻ろうぜ。だいぶ遅くなっちまった」

 

そういうと先輩は私に手を伸ばしてくれました。私は未だに残る顔の熱さを振り払い先輩の手を取り歩き出します。

 

この手が宿につくまで握られていたことは

私と先輩だけの秘密なのです……

 

 

 

 

 




まさか1万7千文字越えとは………

長くなってしまいましたが回覧ありがとうございます。

誤字脱字、感想などお待ちしております

ではまた次回お会いしましょう


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温泉というコミニケーションツール

前回長かった分今回は少し短めです。

みなさんのおかげでお気に入り600越えしました♪───O(≧∇≦)O────♪ありがとうございます。

では本編の方どうぞ


 

 

 

 

小猫side in

 

 

 

「んにゃ〜」

 

宿に戻った後私はみんなと温泉に入っています。いきなりハードな特訓をして疲れた身体から疲れが抜けて出て行くのを感じながら私はお湯に浮かびながら空を見上げます。周りでは部長達もそれぞれ温泉を堪能しており、端の方にはあの2人もいます。ユウキさんとシノンさんがいる為か端の方で湯に浸かってますが、そんな風になるなら一緒に入るなと思います。まぁ、本人達もあまり乗り気ではなかったところを部長に誘われたわけですが……

 

部長もさすがにこのまま不仲の状況でやって行くのはまずいと気がついているんでしょうね。

 

その2人が警戒するシノンさん達はというと仲良く互いの背中を流しあっています。それにしてもあのお2人もかなりのものですね……どうして私の周りにはこうも大きい方が多いのでしょう?私は浮かぶのをやめ、座りながら自分のモノを見つめます……

 

「どうかしたの小猫?」

 

そんな風に私が自分のモノを確認していると、この中でも大きい人代表の部長が話しかけてきました…………………

 

 

「いえ…なんでも」

 

なんか悔しいので私は鼻の下までお湯に浸かりながら返します。

 

「そう……」

 

何故か部長も元気がありませんね。

いや、まぁ不仲なことを懸念しているんでしょうが、そこまで考えなくてもいいのでは?

あの2人は正直いてもいなくても同じだと思いますよ…………戦力的には……

 

「……そういえば部長…………」

 

「何かしら?」

 

私は思い出したように部長に尋ねます。

 

「部長って貴族ですし、そういう高貴な位の人って幼い頃誘拐とかありがちな話ですけど、そういうことはなかったんですか?」

 

先輩の話を聞いててなんで部長が今までに先輩のことを知らなかったのか疑問に思ったんですよね………

 

「?特にないわよ。人間の世界ではありがちかもしれないけど、悪魔の世界でそんなことをすればどうなるかわからないし……それに私はお兄様がいるから手を出してくるような輩はいなかったわ……今回のライザー以外………」

 

「そう……ですか」

 

「いきなりどうしたの?」

 

「あ、いえ……ちょっと気になっただけです」

 

「そう……」

 

やっぱり部長は知らないみたいですね……

なんででしょう?

先輩が嘘をついてるようには思えませんし……

 

部長はどうやら全員のところを回っているらしく、今度はお2人の方へと向かって行きました。部長がいなくなった後も考え続ける私の背中に物凄く冷たいものが触れてきました。

 

 

「ひにゃにゃ⁉︎」

 

突然の冷たさに思わず声をあげ振り向くと、そこには氷の塊を持ったシノンさんと先ほどまでシノンさんと一緒に身体を洗っていたユウキさんがいました。

 

「八幡に聞いたんでしょ〜」

 

チャポンとユウキさんが私の隣に入ってきながら言ってきました。

 

「んにゃ⁉︎」

え?バレてます??

いやまぁ、少し遅くなりましたし勘ぐられても仕方ないですが、そんな簡単にバレるものですか⁉︎

 

「だからリアス・グレモリーにもあんなこと聞いたのよね?」

そう言ってシノンさんは持っていた氷をお湯の中に投げ入れた後、私の空いてる方の隣に入ってきました。……は、挟まれた⁉︎

 

 

「え、えっと、その……」

 

ゆっくりと近づいてくるお2人に気圧される私の頬にはツーと汗が流れ落ちます。決してお湯に浸かりすぎていたというわけではないです。

 

「ふふ、まぁ八幡のこと大切にしてあげてね」

 

ジリジリと近寄ってきたシノンさんは近くのをやめ、私に呟いてきました。

 

「え?」

 

「んー、別に怒ってたり、どうこうしようとかじゃないよ?ごめんね、なんか意味深な行動して。八幡が教えたならそれだけ。別に僕たちがどうこう言うのは違うからね」

 

そう言ってユウキさんも近づくのをやめてきました。

 

「ユウキさんとシノンさんは知ってるからあんな行動をするんですか?」

 

先ほどまで2人が出していた雰囲気が冗談だと気付いた私はふぅ、と一息つくと2人に質問を始めます。

 

「ん?まぁ、もちろんそれもあるけども、したいからしてるだけだよ。八幡に抱きついたり撫でられたりするのは気持ちいいからね」

 

ユウキさんの返事にシノンさんも私もとばかりに頷いてます……

 

「お2人も……先輩のこと好きなんですね……」

 

ん?私は思わず何といった⁉︎

お2人もってそれって自分で言っちゃった⁉︎

 

「「"も"、ねぇ~」」

 

んにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ

やっぱり反応してきた。

急激に身体が暑くなっていきますが少しでも隠れるため再び鼻の下までお湯に浸ります……

 

「あははは、小猫ちゃんも大胆だね」

 

ユウキさんが笑いながら言ってきます……

不覚でした……

 

「そうね……私も……私達も好きよ。私達の主としても、1人の異性としても……私達は八幡のことが好き。」

 

シノンさんが僅かに顔を上気させながら発してきた言葉に私はピクンと反応します。

 

「うん、そうだね。でもまぁ、僕達だけじゃないよ。眷属の子は殆どと言ってもいいね。さっき小猫ちゃんがいない時に話してたけど、そもそも八幡の眷属は、八幡に惹かれた者たちが集まった集団だから」

 

なにゃ⁉︎

私がいない間にそんなこと話してたんですか⁉︎

詳しく聞きたかったです……

 

「まぁ、でも私たちの中では鶴の一声でそういうゴタゴタは消えたんだけどね」

 

「鶴の一声?」

 

「誰が正室になるかよ」

 

「ぶふぅぅぅううう」

 

シノンさんの言葉に私は盛大に吹いてしまいました。口が湯に浸かっていたので、吹いた瞬間押し出された湯が鼻の中に入ってきてすごく痛いです。

 

「ケホッケホッ」

 

「あはははは、盛大に吹いたね」

 

ユウキさん笑い事ではないと思うんですけど…

 

「ど、どういうことですか?」

 

「一時期問題になったのよ。誰が将来八幡と共に歩むか……八幡がいない時にその話になって全員でどんぱちやり始めちゃったの……」

 

そ、そんなに苛烈な競争率なんですか……

 

「そんな時にヴィザがね『そもそも王とは美女を侍らせるものです。それは我々の王である八幡殿も同じでしょう。ならば妃が1人だけというのもおかしな話なのでは?』って言い出したの。そうしたらみんな"それだーっ"てなってその場は収まったわ……」

 

ヴィザさん…なんてこと言ってるんですか……

ってかシノンさん達それでいいんですか?

いやまぁ、先輩の側にいれるなら私もそれはそれで充分に嬉しいのですが……

 

 

「それからだよねー。今度は誰が正室になるかって話になったのは。まぁ、みんな側にいるとしても、結局それを決めるのは八幡だからそれぞれ頑張ろうってことになったけど……」

 

ユウキさんが笑顔で言ってますが、結局正室の競争率は高いままなんですね……厳しい戦いです……………でも、負けられません

 

「わたしも負けられません……」

 

私の言葉に2人は笑いながらがんばろーと腕をお湯から出し空へと突き上げる。

 

「っとそういえばどうしてリアス・グレモリーが知らないのかって話だったわね」

 

思い出したようにシノンさんが言ってきました。そういえば忘れてました……

 

「は、はい。」

 

「それね。彼女が寝てたかららしいわよ」

 

「はい?」

 

え?どういうことですか?

 

「あの日、会議をしていたサーゼクス様達の隣の部屋で遊び疲れた彼女は寝てたらしいわよ?それでグレイフィアが側にいて、襲撃があった瞬間彼女の周囲に結界だけ張ったらしいわ」

 

「結界ですか?」

 

「そ。それであのシスコン魔王が『リーアたんが起きたらどうするんだ‼︎』って向かってきた相手を倒したらしいの」

 

それは……………ちょっと引きます。

というか

 

「シスコンなんですか?」

 

部長のお兄さんって……

 

 

「シスコンね。サーゼクス様もセラフォルー様も。こっちが引くくらい。まぁ、サーゼクス様はセラフォルー様と違って表にはそんなに出さないけど……」

 

そういえば先輩もグレイフィアさんに向かってあのシスコン野郎とか言ってましたね……

 

「それで知らない部長って……」

 

その後も交流とかなかったんですか?

 

「まぁ、八幡は神器が神器なだけにそんなに表立って目立った行為はしないんだよ」

 

ああ、そうでした。

先輩の神器はものすごい奴でしたね……

 

「ま、そんな理由だよ。だから八幡のことを知ってる人って案外少ないの。まぁ、貴族の老害達には物凄く有名なんだけども………」

 

 

「なんでですか?」

 

 

神器のことがありますし、有名なのはいろいろと問題も起きるんじゃ………

 

 

「昔…….と言ってもわりと最近ね。3ヶ月くらい前。転生悪魔の八幡が爵位を持ってることや魔王の片腕として動いてることが気に食わなかった老害達がいて、突っかかってきたんだけど……」

 

「けど?」

 

「合同レーティングゲーム……老害達は4人……つまりは4人の眷属達総出で、こっちは私達だけの1対4のレーティングゲームをしたのよ」

 

「1対4⁉︎」

 

「あれは楽しかったよね。最終的にパーフェクトゲームになったし」

 

笑いながら語る2人に私は開いた口が塞がらない。では何か?先輩達はおよそ4倍の数を相手に1人も脱落することなく倒しきったのか……

 

「強すぎませんか?」

 

「まぁ、もともと八幡が規格外だからね。主が規格外だと、駒1つ分の価値も変わってくるから、そのまま眷属も規格外が多いのよ」

 

遠回しに自分たちが規格外であると認めたシノンさんは楽しそうに話している。

 

「私……追いつけるのかな………」

 

先輩にいつか守れるくらい強くなると言ったものの、本当に追いつけるのか少しだけ不安になってしまいました………

 

 

「大丈夫、大丈夫。しっかり強くしてあげるよ」

 

その横でわたしの特訓相手であるユウキさんは笑顔で言ってきますが、その笑顔は少し怖かったです………明日から、もっと頑張らないと…

 

 

 

小猫side out

 

八幡side in

 

 

 

「ふぅ、体から疲れってもんが抜け落ちるな」

 

「お前は爺か⁉︎」

 

俺のジジ臭い言葉にイッセーの奴は反応する。

 

 

「うるせぇ、明日のメニュー倍加するぞ?」

 

「すみませんでした‼︎」

 

俺の言葉にイッセーは手のひらを返し速攻で謝ってくる。

 

「まぁ、どちらにせよ倍加の予定だがな?」

 

そんなイッセーに俺は真実を告げる。

 

「理不尽⁉︎」

 

「勝ちたいんだろ?」

 

「勝ち……たい…です」

 

「なら倍加」

 

俺の残酷な言葉にイッセーはクソォーと膝を地につける。そんな様子を木場は苦笑いしながら見ている。おい、こっち見て頬を染めるな気持ち悪りぃ………

 

「イッセー殿、しっかりと湯に浸かり疲れを落とした方がいい。明日は今日よりも厳しくなるでしょうからね。木場殿もです」

 

2人にそう声をかけるヴィザも頭の上にタオルを乗せている。年不相応なその体はムキムキとは言わないが、鍛えられている筋肉はそれだけで老兵であるヴィザの、これまでに蓄積された層の厚さを感じさせる。

 

「…………」

 

「どうかいたしましたか?」

 

木場に視線を向けられていることに気づいたヴィザは手で掬った湯を肩にかける。

 

「あ、いえ。ヴィザさんはユウキさんと同じく騎士と言っていたので……ユウキさんとどちらが強いのかと……」

 

同じ騎士である木場からすればそれは気になるところなのだろう。

 

「はて。有利な相手不利な相手ならば断言することはできますが、真に己より強いか弱いかは勝負が決した後にのみ分かることでしょう。ユウキ殿とは手合わせはしたことがあっても、互いの全力を出し合ったことはありませんからね……」

 

ヴィザのやつ回りくどく言いやがった……

 

「えっと……さ。それってつまりどういうことだ?」

 

復活したらしいイッセーはヴィザの意味深な言葉に首を傾げている。

 

「はぁ、イッセーわからないなら覚えておけ。ある程度の実力があって、平然とこういう深い言葉を言える奴は、高確率で強い奴だ」

 

「んっと……要はユウキよりも強いのか?」

 

俺の言葉にイッセーは更に問い返してくる。

 

「強いも何もヴィザはうちの眷属最強を張る男だぞ。まぁ、相性もあるから一概には言えないが……」

 

「「んな⁉︎」」

 

回りくどく言うヴィザに代わり俺がストレートに言い直すと木場とイッセーは2人して俺の言葉に驚いているが、嘘は言っていない。

 

「純粋な剣の腕だけで言えばユウキの方に分があるさ。才能って意味ではシノンの方がヴィザよりもある。だけど、ヴィザは剣の達人な上に他の眷属達に無いこれまでの経験に基づいた高度な技術や戦術がある。」

 

目をパチクリさせる2人に俺は続けて言う。

 

「他の奴らの場合駒に性能以外にも役割とかつけたがるだろ?大概女王が王のサポート役とか、眷属最強とか……サーゼクス様の場合は女王は俺の嫁‼︎とか。うちではそこまで駒自身に意味をつけてないんだよ。その証拠に俺の手の行き届かない案件はヴィザに任せてるし、そもそもうちにはまだ女王がいない」

 

その言葉に今度こそ2人は絶句してしまった。

当のヴィザは絶句しながら見つめてくる2人を他所に笑いながら答える。

 

「とはいえ、実際ユウキ殿達と全霊で戦ったことは本当にありません。故にどちらが真に強いかはわからないのですよ。特にユウキ殿のように戦いの最中で進化していく相手ならば尚更のこと。いつか全霊でお手合わせをしてみたいものですが」

 

その言葉と漂う余裕が強さの証である。

実際にヴィザの実力は阿朱羅丸すら強いと言っているほどなのだからうちの中でトップと言っていいだろう。それこそうちが家族のような体制ではなく、他と同じ上下関係の強い体制ならばヴィザは間違いなく俺の女王の駒を手にしていただろう。まぁ、女王の駒じゃない理由は特にないのだが…転生させる時、駒は適当に選んでるし……

 

 

「どうしたらそんなに強くなれるですか?」

 

絶句から帰ってきた木場が最初にはなったのは疑問の言葉だった。

 

「修行や実践しかないでしょう。修行で身につけた物を実践で使い、それが相手に通用した時、初めて一歩踏み出すことができるのですから。ユウキ殿のように実践の中で次々と生み出していく方は稀です故」

 

そこまで言うとヴィザは一度湯から上半身を出し岩風呂の石の上に腰を下ろす。

 

「しかし、先程もそうでしたが、木場殿は少々焦りすぎかと……」

 

「ん?」

 

ヴィザの言葉に俺が反応してしまう。

先程が何をさすかはわからないが、おそらく俺のいない時に話していたことだろう。

 

「どうして……でしょう」

 

木場は少しだけ狼狽えながら返してくる。

 

「先ほどシノン殿が言っていたように。強さとは結果ではなく、そこに至るまでの過程の中にこそあるものです。今の木場殿はまさに結果のみを求めているように見える。どのような結果を……どのようなものを望んでいるのかは存じ上げませんが、ただ結果のみを求めていては、それは決して手に入ることはないでしょう」

 

さすがだなと思った。

俺はサーゼクス様からリアス・グレモリーの眷属のことについて聞かされているし、何よりも見てきたからわかっていることだが、ヴィザはそうではない。ヴィザは木場のことなど今日あっただけで知りはしないのだ。

 

にもかかわらず、ヴィザは木場の悩みを見抜いている。木場の過去からくる強さを求める気持ちに気づいている。

 

 

「焦らずに進みなさい。私達は悪魔。時間ならばたくさんある。ゆっくりでいいのですよ。少しずつ少しずつ、それでも確かに進んでいればいつか叶えることは可能なのですから。」

 

 

その言葉を聞いた木場は黙ってしまう。

いろいろと思うところがあるのだろう……

イッセーはイッセーでまた話についていけてないようだが……

 

「ふぅ、だいぶ長湯してしまいましたね。私はこれで失礼します」

 

そう言ってヴィザは立ち上がり風呂場を後にした。ヴィザが消えた後、それに倣うように俺もあがっていく。

 

その後、俺とヴィザが脱衣所で服を着替えている時に小猫達女子の声とイッセーの悲鳴が聞こえた気がしたが、俺とヴィザはそそくさと脱衣所を抜け出すと、シノン達が上がり文句を言ってくる前に寝ようと心に決め部屋へと向かっていった…………

 

 

 

 

 

 




今回はお風呂でのやり取りでしたね。
いつものように誤字脱字のご指摘や感想などお待ちしております。

ではまたお会いしましょうm(__)m


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特訓の終わり

今回も短くなってしまった。
すみません。
次回は結構長めに書く予定です。
ではでは本編へどうぞ。


 

イッセーside in

 

 

 

拝啓、お父様お母様。いかがお過ごしでしょうか?私めが家を出て10日が過ぎ去りましたが……私は今……地獄を見ています……

 

 

「ほれ、さっさと至らないと本当に死ぬぞ?」

 

そう言いながら俺の親友は彼の周りに浮かぶ大量の刀を俺へと飛ばしてきます。それが普通の刀なら未だしも切れ味抜群な上に言いようのない雰囲気を纏っているのだから洒落にならない。

 

「うぉぉぉぉおおお」

 

悲鳴を上げながら俺は時には避け、時には籠手で防ぎ親友の方へと向かっていこうとするが防ぎきれなかった刀が俺の足を捉える。そうして切られた部分から激痛が走り俺は地面へと伏せてしまう。

 

「くぅっ」

 

「はぁ」

 

苦悶の声をあげる俺に八幡は溜息を吐き近付いてくる。

 

「イッセー、このままじゃマジでまずいぞ?」

 

顔を顰めながら八幡は俺へと言ってくる。

 

レーティングゲームを明日に控えた今日の昼。俺は思ったよりも成長できていなかった……

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

 

遡ること特訓5日目

 

特訓の折り返し地点となるこの日の夕刻。

いつもならば夕飯を作るためにいないシノンもこの日はどういうわけかいた。

 

「それで、今日で半分終わるわけだがそれぞれどんな感じだ?」

 

木に寄りかかりながら八幡は自身の眷属達に問いかける。周囲にいる俺たちはみんな地べたに座り込んでおり、傷こそアーシアに癒してもらっているものの相変わらず疲れ果てている。

 

「私のところは……正直申し上げますと、私は今回こちらのお2人のレーティングゲーム参加はお勧めできません……」

 

ヴィザさんの言葉に雪ノ下と由比ヶ浜はピクリと反応するが言い返してはこない。自分でそう言われた理由がわかっているのだろう。

 

「理由は?」

 

八幡もヴィザさんに聞き返すが驚いている様子はない。まるでわかっていたことを聞き返すように言葉を発する。

 

「初日にも申し上げましたが由比ヶ浜嬢は魔力の扱いが苦手のようです。加えて神器も持っていない上武術の経験があるわけでもありません。いたって普通の人間が悪魔になっただけなのです。武術の才能が無いとは申し上げませんが、特別才能が高いというわけではありません。伸び代はありますがそれも長期的に見ればの話です。故に残り5日でライザー殿の眷属達に通用するほどの力は備えられないかと……」

 

ヴィザさんも自身の主に聞かれたからか、普通なら言いにくいことを平然と言い放っている……或いは内容が由比ヶ浜と雪ノ下のことだからかもしれない。

 

「次に雪ノ下嬢の方で言えば魔力の扱いはうまいです。しかし、魔力総量が低い上に何よりも彼女自身の駒である騎士の力を使うと、すぐに体力が尽きてしまうのでどうしようもありません。武術は少し嗜んでいるようですが、それがライザー殿の眷属に通用するかと言われれば、微妙なところです。手っ取り早く強くなるには魔力総量をあげて、魔力で体力を補うのが1番なのですが……魔力総量はそう簡単に上られるものでもないので……」

 

雪ノ下と由比ヶ浜は2人して俯いているが、その隣にいる部長はそれ以上に渋い顔をしている。その顔を見ると俺の心も痛む。2人が眷属入りした原因は俺にあるため、それ故に俺も罪悪感が生まれてしまう。

 

「まぁ、出る出ないはリアス・グレモリーが決めることとしてやれるだけやってやってくれヴィザ。すまないな」

 

「いえいえ、八幡殿の頼みとあらば。私も出来る限りの事はやりましょう」

 

八幡が謝るとヴィザさんは深々と頭を下げながら返している。そこには時折3人の見せる八幡への忠誠の意があるように見えた。

 

「それでシノンの方は?」

 

八幡はヴィザさんから今度はシノンさんへと視線を移し問いかける。

 

 

「こっちは問題ないわよ。朱乃さんの方はやられるだけじゃなくて反撃をしてこれるだけの余裕も出てきたし」

 

「ほぉ、シノンが手加減してるとはいえもう反撃できるようになったのか」

 

その言葉が意外だったのか朱乃さんの方を見ながら口元を僅かにあげる。というか、シノンさんいつの間に朱乃先輩を名前で呼ぶようになるほど仲良くなったの?

 

「ええ、それにリアス・グレモリーの方はメンタルはもう大丈夫だから朱乃さんと同じメニューに変えてるわ」

 

「……氷夢でも使ったのか?」

 

「ええ」

 

八幡の質問にシノンさんは笑顔で答えるが逆に八幡が少しだけ引いてた。

 

「やり過ぎくらいでいいとは言ったが……まさか本当に氷夢を使うとはな………」

 

「氷夢ってなんですか?」

 

八幡とシノンさんのやり取りに小猫ちゃんが割り込んでくる。俺たちも気になってたからありがたいけど……

 

「簡単に言うと氷の中に閉じ込めて悪夢を見させる技よ」

 

「悪夢……ですか?」

 

平然と答えてるけどシノンさん、それってかなりエグい技なんじゃないでしょうか?

 

 

「まぁ、見させたものは置いておくとして、あれを見て廃人になってないんだから大丈夫だと思うわよ。」

 

廃人⁉︎廃人って言いました⁉︎

マジでどんなもの見せたの⁉︎

見てみたい気もするけど怖くて聞けない。

ってか部長震えてる⁉︎

マナーモードみたいになってるけど本当に大丈夫だったの⁉︎

 

 

「まぁいっか。そんでユウキの方はどうだ?」

 

いっかってなに⁉︎

もっと心配しろよ⁉︎

 

「んん~、僕の方は面白いよ」

 

面白い?どういうことだ?

 

「2人とも2日目からまるで別人だね。この4日間、初日の何かに迷ってたり、余計なことを考えてるような感じは一切見受けられなかったし、何よりも剣や拳に乗せる想いが初日とじゃ雲泥の差だよ」

 

ユウキさんは本当に楽しそうに言っている。

 

「嬉しそうだな」

 

「まぁね。やっぱり戦いってのは楽しいから」

 

楽しそうな理由が酷いです……

というかユウキさんは戦闘狂なのかな……

というか木場は吹っ切れたみたいで良かった。

小猫ちゃんはどうしたんだろう?

 

 

「私達の方よりあんたの方はどうなのよ八幡」

 

「ん?俺か?」

 

シノンに話しかけられ八幡に全員の視線が向く。

 

「まだ、なんとも言えん」

 

「どういうこと?」

 

「本来ならこんな短期間じゃ無理なことをやらせようとしてるからな。昨日ようやくスタート地点に立ったって感じだ」

 

八幡の言葉に今度は俺が俯いてしまう。

 

「昨日⁉︎どういうこと⁉︎」

 

真っ先に部長が反応する。

まぁ、主として当然の反応だと思うが……

 

「イッセーには言ったが今回のイッセーの最終目標は禁手化だ」

 

『禁手化⁉︎』

 

俺の言葉に禁手のことを知ってるグレモリー眷属の奴らが声をあげる。

 

「まぁ、そういうことだ。普通ならこの短期間で至るなんて絶対無理だが、イッセーの場合神器の中にドライグ……赤龍帝がいる。そいつの力を借りれば可能だ」

 

八幡がそれを言うとみんな口を開けている。

聞いてはいたがすごいことなんだなと改めて実感する。もちろん八幡もあの時言ったことを全ては言っていない。

 

 

「間に合いそうですか?」

 

「微妙だな。ドライグを見たとは言っていたが会話は出来なかったらしい。明日から少しだけやり方を変えてドライグを無理やり目覚めさせれるように仕向けてみるが……まぁ、無理だったら最終手段使うがな……」

 

 

最終手段……それが何かは俺も聞いていないが、取り敢えず俺は昨日からメニューが更に増えて死にそうだ。

 

「どんどん増えてくぞ?」

 

俺の心を読んだのか俺の瞳から涙が零れ落ち、その日の話し合いは終了した……

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

 

明日ゲームがあるため今日は昼に切り上げることにしているのだが結果として俺は至ることは出来なかった……

 

「っくそ」

 

「まぁ、しゃーねぇだろ。そう簡単に至れるもんじゃねぇよ」

 

思いっきり左手で地面を殴る俺に八幡が声をかけてくる。

 

「でもよ⁉︎ライザーを倒すには俺が禁手化するしかないんだろ⁉︎」

 

「ああだから最後の手段を使う…だけどな」

 

そこまで言うと八幡は一度黙り、意を決したように口を再び開く

 

「本当にいいのか?リスクは話したろ?」

 

「構わないさ」

 

八幡の問いに俺は迷わず答えた。

 

「部長をあんな奴に奪われるくらいならどんな代償だって払ってやる」

 

「その結果自分の身体を失ってもか?」

 

「そっちのが何万倍もマシだ‼︎」

 

「ふふ」

 

「なんで笑った⁉︎」

 

俺が真剣に答える中不意に八幡が笑い出す。

 

「いや、わりぃ、ただ……俺も昔似たようなやり取りをしてたなって思っただけだ」

 

「昔……って八幡お前も……」

 

「俺のことはいい。それよりも左手を出せ」

 

これ以上聞いてくるなと言わんばかりに威圧の雰囲気を纏った八幡は右手を握りしめながら突き出してくる。それに応じて俺も拳を作り八幡のそれと当てる。

 

「ほい終了」

 

そう言って八幡は拳を離すと、そろそろ帰るぞと言って歩き出す。

 

「お、おい⁉︎」

 

特に何かした感じはしない。

無論禁手化できた感じもだ。

 

「できることなら強制禁手化なんてしない方がいい。だから、そいつはいざという時のためだ」

 

八幡は足を止めずに俺の疑問に答えてくる。

 

 

「数少ない友人が酷い目になんてあって欲しくねぇんだよ。だからこれが俺の最大の譲歩だ。大丈夫、いざとなったら使えるさ」

 

 

そういうと八幡は足を止めこちらに向き直す。

 

「欲望に素直になれよ、イッセー」

 

「欲望に?」

 

「ああ、欲望は醜い。時として大きな禍も呼ぶだろう。でもな……人間が………悪魔がこれまで生きてこれたのは良い意味でも悪い意味でも欲望に忠実だったからなんだよ。だから自身の魔力に……力に、自分の望む欲望を込めろ。そうすれば強くなるし、お前の中の奴は反応してくれる」

 

 

そういうと再び八幡は歩き出す。

本当にこれで大丈夫なのか?

一抹の不安が残る中、俺は八幡の後を追っていった。

 

 

 

イッセーside out

 

小猫side in

 

 

 

苛烈すぎる10日間が過ぎ、遂にレーティングゲーム当日になってしまいました。後30分ほどで開始されますが、緊張してか落ち着けず、その上イッセー先輩が集中するためとか言って部室でエロ本を読みだしてしまったので、少しだけと部室の外に出ています。

 

「よぉ、緊張してんのか?」

 

ふとかけられた声に振り向くとそこには先輩がいました。

 

「先輩、来てたんですね」

 

「ああ、ヴィザも来てる。さすがに10日間もこっちに集中してたから、ユウキとシノンには新しい仕事が溜まってて2人は帰ったけどな」

 

そうなんですか。

ユウキさん達にも見て欲しかったです……

でも先輩がいるだけでもやる気が湧いてきます。あのお2人も結局出るらしいですけど関係ないです。

 

「それよりもちょうどよかった。小猫に会いに行こうと思ってたんだよ」

 

「んにゃにゃ⁉︎」

 

わ、私にですか⁉︎

せ、先輩いったい何の用でしょう。

 

「何かご用ですか?」

 

「ああ、お前にこれを渡しとこうと思ってな」

 

そう言って先輩はポケットから小さい豆のようなものを1つ取り出して渡してきました。なんでしょう?

 

「これは?」

 

「ああ、世界樹の種子って言ってな。うちの開発マニアの回復アイテムシリーズの1つだ。食べれば受けたダメージも消費した魔力もフル回復する」

 

なんですかそれ⁉︎

とんでもない便利アイテムじゃないですか⁉︎

 

「どうして私に?」

 

これだけのアイテムなら部長やイッセー先輩に渡した方がいいんじゃ……

 

「それはな………」

 

そこで聞いた言葉は私のやる気を更に出すには充分すぎる言葉でした……

 

 

小猫side out

 

ソーナside in

 

 

 

今日はリアスの婚約をかけたレーティングゲームが開催される。私は時間があった女王の椿姫と共に生徒会室で空中に浮かび上がったモニターを見ている。そろそろ始まる時間帯になるだろう。

 

コンコン

 

不意にドアが叩かれる音がした。

誰だろう?

今日は一般の生徒は登校してこないはずだし、眷属の者ならノックなどしない。

 

「ハイ」

 

そう言ってドアを椿姫が開ける

 

「邪魔するぞ」

 

そこには予想していなかった人物がいた。

 

「だ、誰ですかあなた⁉︎」

 

突然の来訪者に驚く椿姫だが、当の彼はそれに答えず私の方へ声をかけてくる。

 

「よ、ソーナ。俺らも見たいから失礼するぞ」

 

そう言って彼は部屋の中へと入ってきます。

その後ろにはよく知る老人も一緒に……

 

「は、八幡君⁉︎それにヴィザ翁まで⁉︎どうして⁉︎」

 

「いやはや失礼いたしますソーナ殿。なに、10日とはいえ教え子達の初陣。それを見に来たのですよ」

 

「お、教え子⁉︎」

 

「サーゼクス様とグレイフィアに頼まれた」

 

ヴィザ翁の言葉に驚く私に八幡君が追加で説明を入れてくれて私はようやく理解しました。

 

「八幡君……お疲れ様です。私のことが終わってまだ間もないのに」

 

そう言って彼に労いの言葉をかける。

彼には3ヶ月ほど前に私の婚約で迷惑をかけてしまったばかりだからだ。

 

「かまわねぇよ。ソーナのこともリアス・グレモリーの事も。それより説明してやったらどうだ?」

 

そう言って八幡君は椿姫の方を見ます。

ああ、完全にスルーしてましたね。

 

「椿姫、彼は比企谷八幡君。お姉様……セラフォルー・レヴィアタン様の女王です。それと隣のご老人はヴィザさん。八幡君の眷属よ」

 

私が説明すると椿姫は慌てた様子で返す。

 

「せ、セラフォルー様の女王でしたか⁉︎失礼しました。女王の真羅椿姫と言います」

 

「ああ、そんなかしこまらなくていいですよ。年齢的に言えば先輩の方が年上なんで。セラフォルー・レヴィアタン様の女王比企谷八幡です。以後よろしくお願いします」

 

「八幡殿の眷属、騎士のヴィザです。以後お見知り置きを」

 

 

 

3人が軽い挨拶をし終えたその時、グレイフィアから開始の合図があり、レーティングゲームが始まった。

 

 

「始まりましたね」

 

椿姫が初めて見るレーティングゲームを見ながら呟くとそれに続いて私も言葉を発する。

 

「八幡君……リアスは勝てますか?」

 

「さぁな。やれるだけのことはやったが、時間も少なかった。だが………」

 

そこまで言葉を続けた八幡君は一度言葉を切りモニターを見る。

 

そこには体育館へと向かう2人の人物がいた。

 

 

「今回の重要点は3つ。その3つを乗り越えられなきゃ、あいつらに勝ち目はないだろうな。」

 

「3つ……ですか……」

 

勝ち目はないと言われなかったことに安堵を覚えながらも、3つの壁があることに私は不安を隠しきれない。

 

「大丈夫でしょう」

 

そう呟いたのはヴィザ翁だった。

 

「私は雪ノ下嬢と由比ヶ浜嬢の特訓だけに付き合っていましたが、それでも断言できます。ユウキ殿とシノン殿、そしてなによりも八幡殿との特訓に耐え抜いた彼らは、そう簡単に敗れはしません」

 

ヴィザ翁の言葉に私は少なくない驚きを見せる。

 

八幡君とヴィザ翁だけでも充分なのにさらにユウキちゃんやシノンさんまでリアスの特訓に付き合ったということにだ。

 

「随分と豪華な顔触れで特訓に着いたのですね」

 

「万全の体制でやれってグレイフィアから念押しされたからな」

 

八幡君はモニターから目を逸らさずにこちらの言葉に返してきます。その目は真剣そのものでした。やはり、八幡君は昔と変わらないですね………

 

そんなことを思いながら私もモニターに目を向けると、そこでは先ほどの2人が体育館内でライザー眷属と遭遇していました………

 

 

 

 

 

 




回覧ありがとうございます。

今回の物語にあった八幡がイッセーと拳を合わせた理由や、小猫と話したことの内容は次回は出るのでお楽しみに。


感想、誤字脱字のご指摘お待ちきております。


次回、レーティングゲーム本編プラスa

明日か明後日には登校予定です( ´ ▽ ` )ノ


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《終》やわらかチキン解体術

ふぅε-(´∀`; )

1日ペースで書くことを目標に頑張ってます。

そんな作者に感想を書いてくれている方々本当にありがとうございます。それが作者のパワーの源ですw

ではでは約束通り長めの本編へどうぞ





ソーナ side in

 

 

 

レーティングゲーム始まり戦況は私の予想に反してリアス達が優勢だった。真っ先に騎士と戦車が1名ずつリタイアした時はどうなることかと思ったが、彼女達を除けば正にリアスのペースそのものだった。今は相手の先兵を幻術にはめ、結界の中に封じ込めている。そうして先兵達を他の敵と引き離し、確実に倒しに行く戦略なのだろう。現れたのは騎士である木場祐斗君だ。

 

「やぁ」

モニターの中で笑顔でライザーの眷属達に祐斗君は話しかけるがその手には1本の剣が握られている。

 

「これで私達を嵌めたつもり?」

 

「たった1人で私達に勝てるとでも?」

 

そう言うライザーの眷属達には余裕がある。

当然だろう。数で優っている、相手はレーティングゲーム初体験。私もそう言う状況であったならそう思う。だが、知っている。数分前に知らされている。彼らのことをこの10日間鍛え抜いた者たちがいることを。だからこそ、私は確信していた。この状況で木場君が負けることはないと……

 

「そうだね……少し前の僕なら……もしかしたら勝てなかったかもしれないね……」

 

そう言って彼は自身の手に握られた剣を見る。

 

「結果を……目的を果たすことを考えて、それだけの為に生き永らえてきた。それを遂げるためだけに強くなろうとしてきた……」

 

彼が何を言っているのか私にはわからなかった。目の前にいる彼女たちも同様らしく、何を言っているんだとばかりに彼をジト目で見つめていた。ただ八幡君とヴィザ翁だけは木場君の言葉を聞き、少しだけ雰囲気が変わっていた。

 

「でも、ユウキさんと剣を交えて……ヴィザさんに言われて……僕はようやく理解できた。ようやく僕の中でしっかりとした1つの解として纏まったんだ。だから焦らないことにしたよ。今はただ……部長の為に君達を倒す‼︎」

 

そこまで言うと木場君は一瞬で敵の間合いに入ると1人を切り伏せる。

 

「「なっ⁉︎」」

 

目の前にいた相手が突然消えたからか、或いは隣にいた仲間が突然切られたからかライザーの眷属は目を見開きながら声をあげる。

 

「遅い‼︎」

 

突然の衝撃から我にかえり反撃に出ようとした2人だったがそれは結局できずに終わる。

反撃に出るよりも先に木場君が2人のことを斬り伏せたからだ。ライザーの眷属3人を斬り伏せた彼は剣についた血を払うと何事もなかったかのように走り去る。ただその場にグレイフィアによる実況放送のみが響くのだった。

 

「凄いですね……」

 

一瞬と言ってもいい出来事に思わず感嘆の声が出てしまう。

 

「ええ、見事な腕前です。10日前とはまるで別人ですね」

 

私の言葉に返してきたヴィザ翁の口角は僅かながらあがっていた。

 

「嬉しそうですね」

 

「私が直接見てはいませんが、やはりそれなりの活躍をしてくれるとこちらとしても嬉しいものです」

 

八幡君もそんな風に思っているのだろうか?

ヴィザ翁の発言に八幡君はどうなのだろうと思い彼を見てみると顔を顰めていた。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、まぁな……」

何故か木場君が活躍しているのにその様子はどこか浮かなかった。

 

「アレですよ」

すると横から椿姫が指をさしながら私が見ていたのとは別のモニターを指差す。

 

「……えっと、どういう状況ですか?」

 

「ふむ。イッセー殿が歓喜の声をあげていますが……」

 

そのモニターには裸の女性達とそれを見て歓喜の声をあげる兵藤君がいた。映像の隅には塔城さんが物凄く不快そうに彼を見ている。

 

「イッセーの奴が洋服崩壊(ドレスブレイク)とかいう技を使って相手の衣服を粉砕しやがった」

 

「え⁉︎」

 

八幡君から告げられた衝撃の事実に私は思わず声をあげる。映像の中では裸にされたライザーの眷属達が兵藤君に対して罵詈雑言の限りを彼へ向けていた。

 

「アレは八幡殿の仕込みですか?」

 

ビクンとヴィザ翁の言葉に私の身体が震えた。八幡君が教えた……八幡君にそんな趣味が……そうしたら私はどうしよう……いや、むしろ八幡君にならいくらやられてもいいのだけど、でも……

 

 

「んなわけねーだろ」

 

ボンっと八幡君の言葉に私の頭がショートした。わ、わわわわわ私はいったい1人で先走って何を考えてるの⁉︎急激に巡ってくる羞恥に顔が赤くし、身体を熱くさせる私をよそに八幡君は言葉を続ける。

 

「俺はただ、あいつに欲望に素直になれって言っただけだ。それがあいつの中でああいう結果になったってことだろ。今代の赤龍帝は最低だな……まぁ、一発でああいう形とはいえモノにできる点、変なところは優秀だな……最低なことに変わりはないが……」

 

「確かに……倫理的にどうかと言われれば顔を背けてしまいますが、女性限定とはいえ強力な技であることには変わりありませんね。まぁ、それもまた相手によるでしょうが……」

 

「だな。普通の女性が相手なら無力化できる強力な技ではある。逆にそれをすることによって殺意を強め向かってくる相手もごく稀にいそうだがな……」

 

「うちの女性の方々のことですか……」

 

「…………」

 

八幡の言葉を受けヴィザ翁は冷静に技の分析をしている。いや、冷静にならないでください。あれ最低な技ですから……

八幡君も八幡君です。

あと、ヴィザ翁の言葉に黙らないでください。

なんか怖いです。

でも確かにユウキちゃん達なら恥ずかしがる前にやってきた相手を狩りに行きそうですね……

 

ゴォォォオオオン

 

私達がそんなやり取りをしていると突如轟音がモニターから聞こえ私達はそちらへと視線を向けるとそこでは体育館が巨大な雷に打たれ跡形もなく消滅していきました。

 

「大胆な攻撃だな」

 

体育館は重要拠点として利用することができる。建物の構造上、罠を張り易く尚且つ入ってくるところも限られているため奇襲されにくいからです。そのため、人数で劣っているリアス達はそういった重要拠点を取ってくると思ったのですが……

 

「なかなかに良い判断です。衣服を粉砕されたとはいえ、攻撃されればやり返してはくるでしょう。そうして下手に時間を費やすよりは建物ごと粉砕してしまえば即時決着がつく。リアス殿は重要拠点を失いますが、それは相手も同じこと。いやはや、初のレーティングゲームとは思えない思い切りの良さですな」

 

隣のヴィザ翁の言葉になるほどと私も頷く。ヴィザ翁の言葉を聞けば確かに英断だったと思える。リアスは初のゲームにしてかなり優位に立っている、そう私が思った矢先だった。

 

「イッセー先輩、危ないです‼︎」

 

そう言って塔城さんは兵藤君のことを突き飛ばした次の瞬間、先ほどまで兵藤君がいた場所に巨大な爆発が起きました。

 

「小猫ちゃん⁉︎」

 

「ふん、助けられたわね坊や」

 

「てめぇ、よくも小猫ちゃんを‼︎」

 

突き飛ばされた兵藤君は爆発にのまれた塔城さんのことを呼びます。そんな兵藤君に上空からこの爆発を仕掛けた張本人、ライザーの女王である女性は笑いながら兵藤君へと言葉を発します。

 

「ほほぅ、タイミングとしては申し分ないですね」

 

私の横ではヴィザ翁が敵に賛辞の言葉を発しています。

 

「ヴィザ翁⁉︎敵を褒めないでください」

 

「いえいえ、敵とはいえ素晴らしいタイミングでした。獲物を狩り終えた瞬間こそ最も油断し易い場面。そして威力も申し分ない。ユウキ殿との特訓を受けていない小猫殿ならば確実に狩り取れていたでしょうな」

 

その言葉に私はえ?と目を丸くする。

ヴィザ翁はあの一撃を受けて彼女が仕留められていないと、そう言ったのだ。まさか、とは思ったが確かにグレイフィア様からリタイアの声が聞こえない。

 

「小猫ちゃんの仇は俺が取る‼︎」

 

それに気づいていない兵藤君が叫ぶと、悪態を吐くように声がモニター内に響きました。

 

「勝手に人を終わらせないでください」

 

そう言った彼女の服は所々焼け落ちている。

しかし、当の本人は腕をクロスさせていた。どうやら爆発を受ける直前に防御をしていたようだが……

 

「あれを食らって平然としていられるなんて……あなたどういう身体の作りをしているのかしら?」

 

爆発を起こした本人は平然としている塔城さんに問いかけてきます。

 

「小猫ちゃん⁉︎無事だったのか⁉︎」

 

兵藤君も驚きの声をあげてますが……仲間なのに強さを把握していないんでしょうか……

 

「あんなの……ユウキさんの一撃に比べれば、痛くも痒くもありません」

 

そう言って彼女は立ち上がる。

服装が破けている以外、そこまで目立った損傷もない。

 

「まぁ、伊達にユウキとやりあってたわけじゃねぇな」

 

「ええ、彼女も木場殿と同様に10日前とは比べ物にならないほど成長しています。お2人とも覚悟を決めておられた。そうした者の成長速度は驚くほど速い……特に今のは、攻撃が来ると予測した瞬間、イッセー殿をその場から離れさせ、自身には防御膜として魔力を纏わせていました。彼女は、僅か10日間における1028もの敗北の末、何1つ無駄にすることなく吸収して行ったのでしょう。」

 

「そうだな」

 

八幡君もヴィザ翁も今の塔城さんの行動に感嘆の声をあげているけれども、私と椿姫はそれどころではない。今の説明途中何といった⁉︎

10日間で1028の敗北⁉︎単純に1日102,3回は倒されているということか⁉︎いったいどれほどハードな特訓をしたのだ⁉︎

 

2人の会話に私達が戦慄している中も戦況は動いていくのだった……

 

 

 

ソーナ side out

 

八幡 side in

 

 

 

そのゲームは順調に進んでいた。

リアス達が常に常に優位に立ち、戦況を動かしていく。しかしゲームは遂に山場を迎えた。唐突にグレイフィアから告げられた姫島先輩のリタイア。

 

「やっぱりライザーの奴はフェニックスの涙を使ってきたか」

 

あの後姫島先輩が敵の女王と対峙し、イッセー達は木場との合流を優先させた。合流した先でライザーの妹がいたものの彼女自身、戦いに参加する意思がなかったのは運が良かった。そのため、その場は割と簡単に制することができしな。ただ、その後リアス・グレモリーとライザー・フェニックスとの対決が始まってイッセー達が合流した途端姫島先輩のリタイアを知らせるアナウンスがなった。

実力としては勝っていた姫島先輩が負けた理由は単純。勝ちを確信した姫島先輩が油断したその一瞬を相手は逃さず、フェニックスの涙で傷を全回復し姫島先輩を倒したのだ。

 

「ライザー‼︎」

 

俺の隣ではソーナが柄にもなく憤怒の色を見せている。まぁ、ソーナは一応リアスと幼馴染だしな。こんなことをされれば怒るだろう。

 

「ソーナ殿、コレは戦いです。たとえ相手が格上だろうとどんな手を使って来ようと、勝者のみが全てを得るのですよ」

 

ヴィザがそういうとソーナは釈然としない様子だが押し黙る。ヴィザの言葉が正論だと彼女自身わかっているからだ。それでも、納得はできていないのだろうが……

 

「こっからだな……」

 

モニターを見ながら呟くとその言葉に隣にいた真羅先輩が反応した。

 

「この展開を予想していたのですか?」

 

「ある程度はな。ライザーだって馬鹿じゃない。念には念を入れてきてるだろう。だからこそこっから連続してくるぞ。3つの重要点が…」

 

そう言っている途中でも、俺はモニターから視線を逸らさない。

 

「連続してくるのですか?」

 

今度はソーナが反応する。

 

「ああ。最も重要なのはイッセーが……今代の赤龍帝がライザー・フェニックスに届き得るかどうかってとこだろうな」

 

その言葉にソーナと真羅先輩は不安そうな顔をする。そりゃそうだ。今んところのイッセーは相手の服を粉砕したぐらいしかしてないからな……

 

「2つ目はそうなる前にリアス・グレモリーが投了しないかどうかだ。シノンが鍛えたから大丈夫だとは思うが、念のため山場として数えておくに越したことはない」

 

「確かに……」

 

リアスの性格を知っているソーナは俺の言葉を肯定する。

 

「そんで3つ目だが……」

 

俺がそこまで言いかけた時、その3つ目の重要点が動いた。

 

 

遂に動き出したライザーがまず初めに木場のことを燃やし尽くす。さすがにライザーの火を耐えられるほどの成長はできていなかったか……

 

そうして次にライザーは回復係のアーシアへとその火を放つ。リアス・グレモリーが庇いはするものの庇いきれず、彼女は火に包まれリタイアする。とはいえ、リタイア間際心弾銃でイッセーのことを撃ち抜き回復の役割をしっかりと遂げていた。

 

「今のはファインプレーですな」

 

俺もそう思う。

今の回復があるとないとでは大きな差だ。

 

 

しかし、ピンチなのに変わりはない。

ライザーの元には姫島先輩との戦闘を終えた彼の女王が戻ってくる。

 

「ふむ。そろそろ終わりにしようか?リアス」

 

そう言って彼は残りの眷属達……小猫とイッセーに向かって火を放つ……

 

「小猫ちゃん⁉︎」

 

その瞬間にイッセーの声が響いた。

再び小猫に庇われたからだ……

 

 

 

八幡 side out

 

小猫 side in

 

「小猫ちゃん⁉︎」

 

今日2度目のイッセー先輩の自分の名を呼ぶ絶叫を聞きながら私は火に吹き飛ばされていきます。全魔力をガードに回しましたが、それでも足らず私の身体は耐えられず、意識も失いかけました。でも、そんな中でゲーム直前の先輩との会話が頭の中で再生されました。

 

〜〜〜

〜〜〜

 

「どうして私に?」

 

世界樹の種子という超便利アイテムを手に取りながら首を傾げた私に先輩は真剣な顔をしながら答えてきました。

 

「それはな、今回の3つの重要点。イッセーの禁手化とリアスのメンタル。そして最後の1つにライザーの女王の攻略があるからだよ」

 

その言葉に私は更に疑問が浮かびましたが、聞くよりも早く先輩が答えを言ってきます。

 

「普通に挑めば、姫島先輩が勝つだろう。だが、ライザーはフェニックスの涙を使ってくる可能性がある」

 

それを聞いた私は驚きを隠せませんでした。初陣の相手にそこまでするのかと思ったのですが……

 

「勝つためならライザーはそうする。というか、それがレーティングゲームだ。特に今回のようなゲームでは勝てば全てを得て負ければ失う。だからこそ、相手も余裕を見せながらも念には念を入れてくるだろうよ」

 

そう言われると言い返せません。

あの焼き鳥にはムカつきますが、先輩の言ってることが事実だし、正しいからです。

 

「姫島先輩は強い。でも、どんなに強くても、相手の不意をついて一撃で倒さないと回復される可能性がある。だからこそ小猫なんだよ」

 

そこまで言った先輩は種子を握る私の手を握ってきました。

 

「ふにゃ⁉︎」

 

真剣な先輩とは裏腹にこの状況に嬉しさと羞恥を覚えてしまう自分がいます……

 

「リアス・グレモリーも姫島先輩も敵は警戒してる。だから不意を突くのは無理だ。イッセーはライザーを仕留める役がある。だから小猫に頼むんだ」

 

そう言うと先輩の握る手は強くなりました。

 

「わたしにできますか?」

正直不安だった。

現時点で相手は確実に格上だ。

でも、そんなわたしの不安を先輩の言葉が脱ぎ払ってくれました。

 

「小猫、お前は強くなってるよ。この10日間で驚くほどな。最終日のあの瞬間を思い出せ。そうすれば、お前の一撃は必ず相手を打ち砕く」

 

強くなってると言ってくれた。

相手を打ち砕けると……

 

「だから、小猫に頼むんだ。お前ならできると信じているから」

 

そう言って先輩は手を離し、今度は私の頭に手を置いてくる。その手はいつものように暖かく、それでいて少しくすぐったかったです。

でも……

 

「先輩……」

 

「ん?」

 

私は先輩を呼ぶとぎゅっと先輩に抱きつきます。先輩も少しだけ戸惑いの声をあげますが、振りほどこうとはせず受け入れてくれました。

 

 

ふぅ、充電完了です。

 

「先輩、頑張ります」

 

じっくりと充電した私は先輩から離れると覚悟を決めて呟きます。

 

「おう、頑張れ。しっかり見てるから。あと余裕があればイッセーのこと庇ってやってくれ。早々やられはしないと思うが、あいつが序盤でやられたら終わりだからな」

 

そう言って先輩は振り返りその場から離れていきます。その場に残った私の拳は強く握られていました。

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

失いかけ、うっすらとした私の視界には悲鳴をあげるイッセー先輩が写っていましたが、私が注視していたのはその反対側の視界。

 

私から興味が失せ、私に声をかけていたイッセー先輩達を見ているライザー、そしてその隣にいる女王。彼らの視界にはもう私はいない。私をいないものと判断し、イッセー先輩と部長だけを見ている。

 

 

 

 

「舐めるな……です」

 

服なんてもう焼け落ちてる。

姿は全裸に近い。

でも、そんなことは関係なかった。

そんな中でも私の動きは早かった。

 

無くしてはいけないと耳に入れておいた種子を取り出すとすぐさま口の中に放り込み、それを飲みました。

 

その瞬間、全身の痛みが消え力も湧き戻ってきます。気づかれる前に動き、勝負に出る。

 

飛んでいった私は屋根から飛び出るギリギリの位置で身体を反転させ着地、足に魔力を集中させ一気に加速させます。

 

私のことにようやく気付いたのかライザーと女王は驚愕の色を見せていますがもう遅いです‼︎

 

加速し近づく中で私は最終日のあの日の感覚を思い出していきました。

 

あの日……最終日、ユウキさんから唯一1本取れた時の感覚を………

 

特訓2日目にユウキさんは言ってました。

僕の刀は僕の腕の延長だと。

剣士にとって武器とは空手家の拳、ムエタイの膝…己の一部であるべきだと。

 

『研ぎ澄まさなきゃ。この剣のように。硬く、鋭く、それでいてしなやかで変幻自在に。1撃1撃に自身の想いを乗せるんだ。強く、深くね』

 

その言葉が私の中で今再びこだましていました。

 

 

この1撃に込めるのは、ただこのゲームで勝ちたいからとかそんな想いじゃないです‼︎

 

 

間近に迫った女王を前に私は思いっきり拳を引きます。

 

 

ここに乗せるのは応えるため。

私が勝つと言ってくれた先輩の期待に、私ならできると言ってくれた先輩の信頼に……

 

先輩から向けられた想いに応えるために私は勝ちます‼︎

 

引かれた拳は魔力を纏い一発の弾丸さながら女王の身体を捉えそして撃ち抜いて行きます。

撃ち抜かれた女王はそのまま轟音をたて木々を倒しながら吹っ飛んでいきました。そして……

 

《ライザー様の女王1名リタイア》

 

グレイフィア様の声が響き渡りました。

 

「やった………」

 

 

 

小猫side out

 

ソーナside in

 

 

 

それは一瞬の出来事だった。

やられたはずの塔城さんが、何故か復活し目にも留まらぬ速さでライザーの女王の元へと駆け寄ると力の限りを尽くし彼女を吹き飛ばしていった。

 

《ライザー様の女王1名リタイア》

 

グレイフィア様のその言葉がその勝負の行方を簡潔に知らせた。

 

「あの状態からライザーの女王を倒した⁉︎」

 

隣で椿姫が驚き声をあげるが、驚いているのは私も同じだ。何故あの状態から復活したのか、塔城さんから視線を既に離していた私にはわからなかった。

 

「ほっほ。八幡殿も用意周到ですな」

 

「相手がフェニックスの涙を使ってきたんだ。文句は言えねぇだろ」

 

そう言って八幡君とヴィザ翁だけは笑っている。

 

「何をしたの?」

 

「世界樹の種子。私の同僚と八幡殿が共同で編み出した回復アイテムです。瞬時に傷を癒し、消費した魔力すら回復させます」

 

「フェニックスの涙よりも凄いものじゃないですか⁉︎」

 

私の問いに答えてくれたヴィザ翁だが、彼の言葉に私は声をあげる。傷を癒すだけじゃなくて魔力まで全快なんて反則にもほどがあるアイテムだ。

 

「サーゼクス様には許可を取ってる。フェニックスの涙同様使用してもOKだそうだ。まぁ、量産はしにくいから一個しか渡せなかったんだがな……それよりもまた動くぞ」

 

そう言われ私も再びモニターへと視線を戻す。どうやら今のやり取りの間にまた戦況が少しだけ動いたようだ。

 

「ぐぁぁぁあああ」

 

悲鳴をあげているのは兵藤君だった。

どうやらライザーは女王がやられた後すぐに塔城さんを倒し、今度は兵藤君を倒すつもりらしい。

 

「リアス殿は最後まで倒さず、先に眷属全員を倒すつもりでしょうな。リアス殿の心を折るために」

 

ヴィザの言葉に私は唇を噛み締めた。

間違っていない。

レーティングゲームとしては正しい戦法だ。

だが、それでも幼馴染がそういう目にあっているのをただ見ているのは我慢できなかった。

 

 

「ここまでだな……」

 

そう言って八幡君は席を立ち上がります。

 

「ここまでって……勝てないってことですか⁉︎」

 

八幡君の言葉に私が反応し声を荒げました。

椿姫は八幡君の発言を受け彼を睨んでいます。

 

「いや、逆の意味でチェックメイトなんだよ」

 

「え?」

 

「リアス・グレモリーは万策尽きた。このままじゃ確実に負ける。でもな……リアス・グレモリーの策が尽きたことで、最後の手段を使うことになったんだよ。」

 

そう言って八幡君は指を弾き音を鳴らします。

何を言ってるのかわからない。

そう思った矢先、モニターの中で兵藤君の周囲に魔力の奔流が生まれ、彼はそれに飲み込まれていきました。

 

「八幡君何を⁉︎」

 

「俺は大したことはしてねぇ……ただ……」

 

そう言って八幡君は外していた視線をモニターに戻し言い放ちます。

 

「阿朱羅丸の魔力をほんの僅かだけあいつの神器に渡しておいて、それを今解き放ってあいつの中にいるドラゴンを無理やり起こした」

 

「っな⁉︎」

やったことについても驚いているが、結局それは反則なのではないのか?バレなければいいのでしょうか?

 

「阿朱羅丸は竜達に嫌われてる。そんな奴の魔力がいきなり自分の付近で目覚めれば、当然赤龍帝は反応する。あれはその余波だと思え」

 

そう言って八幡君はモニターから視線を逸らすと入り口の方へと歩き出します。それに続く形でヴィザ翁も立ち上がり彼の元へと歩いて行きました。

 

 

「どこに?」

 

「勝敗は決したよ。強制的とはいえ禁手化した赤龍帝に勝つ術をライザーは持っていない」

 

そう言って彼は部屋を後にした。

彼が部屋を後にして程なく、あっけないほど簡単に勝敗は決した。モニターには兵藤君に抱きついているリアスの姿が大きく映し出されながら………………………

 

 

 

ソーナside out

 

小猫side in

 

 

 

私が気づいた時には戦いは終わってました。

部室ではイッセー先輩を囲ってみんなが騒いでいます。雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩もちゃっかり空気に馴染んで混ざってますけど、何もしてませんよね?

 

そう思いながら立ち上がり私もその中に入ります。しかしそこでイッセー先輩が腕を押さえながら蹲り始めました。そこから説明会が始まり、現在朱乃さんにドラゴンの力を吸い取ってもらっている最中です。

 

「イッセー……」

 

「いいんですよ部長……俺が望んだことです……それに部長を助けられたんですから、このくらい安い代償ですよ」

 

「イッセー君はわかっていてやったのかい?」

 

「ああ、八幡から聞いてた。体の一部、或いは全てを失う可能性もあるって」

 

「八幡君が……」

 

木場先輩は問いに答えてくれたイッセー先輩を見ながら呟いています。

 

「でも、それでも俺が自分で考え決めたんです。あいつは俺にその選択肢を与えてくれた。だから俺は後悔もしてないし、八幡に感謝してる」

 

 

そう笑顔で応えるイッセー先輩ですが突如そこに思わぬ人物が入ってきました。

 

「ふざけるな‼︎」

 

全員が開け放たれたドアを見るとそこには先ほどイッセー先輩によって敗れたライザーがいました。

 

「ライザー⁉︎何故ここにいるの⁉︎」

 

「ふざけるな‼︎俺がこんな奴に負けたなんて認めるものか‼︎今ここでもう一度戦いやがれ‼︎」

 

興奮し声を荒げるライザーには前まであった余裕なんて微塵もありません。その顔は憤怒と憎悪にまみれてます。

 

「お兄様おやめください‼︎」

 

そんなライザーを諌めるように彼女の妹や眷属達が部室に入ってきた。

 

「離せ‼︎今すぐこいつと殺らせろ‼︎」

 

妹の制止すら聞かずライザーは私たちに向かって特大の火を放ってきました。

 

「見苦しいぞ、焼き鳥」

 

不意に冷たい声と共に私達の眼前まで迫っていた火は消え、私たちの目の前には刀を片手に八幡先輩が立っていました。

 

「なんだ貴様は‼︎」

自身の火が防がれたことが気に食わなかったのか、或いは突然現れた先輩が邪魔だったのか、ライザーは先輩に向かって吠えます。

 

「今回の勝負はグレイフィアが審判を務めた上、俺やサーゼクス様それにフェニックス卿まで見ていた。そしてお前は負けた。なら潔く引き下がれ。これ以上やるなら俺が相手するぞ?」

 

先ほどの声以上にその言葉には威圧が込められているのがわかりました。

 

「人間風情がほざくな‼︎」

そう言ってライザーは再び火を出してきます。

 

先輩が人間?

何を言ってるんですか?この焼き鳥野郎は?

先輩は悪……あれ?先輩から悪魔の気配がしません⁉︎

 

 

部長たちも私と同じことを感じたのか戸惑っています。そんな中先輩は刀を振りライザーの火をかき消しました。そうして火で塞がれていた風景を見た瞬間私達は思わず声を漏らしました。

 

 

「え?」

 

私たちがそこで目にしていたのは、ライザーの腹に2本の刀が突き刺さっている光景でした。いつ反撃したのか全く見えませんでした……

 

「ぐぁぁぁあああ」

 

いきなり襲ってきた激痛にライザーは苦悶の声をあげ膝を地につけると、いつの間にか悪魔の気配が戻っていた先輩は冷たくライザーに囁きかけます。

 

というかどういうことなんですか?本当に。

なんで悪魔の気配さっきまでなかったんですか?

 

 

「安心しろよ、刺さってるのはただの刀だ。でもお前のこれからの対応次第ではその刀はお前に恐怖を埋め込むぞ?」

 

先輩の目にギラリと怪しい光が宿るとライザーはピクリと震え始めた。

よく見れば部長達も何故か震えてますがなんでですか?あんなに格好いいのに………

 

「その辺にしてあげてください八幡。それにライザー様もです」

 

みんなが震える中声をした方を向くとそこにはグレイフィア様とヴィザさんが立っていました。

 

「っ……」

 

グレイフィア様に言われたからかライザーは悔しそうに俯いていますがそんな彼にグレイフィア様は淡々と告げていきました。

 

「八幡の言う通り、今回の勝負はリアスお嬢様の勝利です。それはサーゼクス様にフェニックス卿、そして私とセラフォルー・レヴィアタン様の女王である八幡の監視の下での結果です。これ以上やるというのなら、私も八幡も魔王の女王として動かせてもらいます」

 

その言葉にライザーの顔がたちまち白くなっていく。

 

「セラフォルー・レヴィアタン様の女王⁉︎じゃあお前があの⁉︎」

その言葉に反応し、ライザーの眷属達にもざわめきが広がります。

 

「あのとはどのことかわからんが、セラフォルー様の女王ではあるぞ」

 

「確実に3ヶ月前のレーティングゲームのことですよ」

 

あっけらかんと言う先輩の声にグレイフィア様が細目で睨んでいました。

先輩わかっててはぐらかしたんですね。

 

部長達はなんのことかわかってないみたいですけど、知ってる私からすれば有名になって当然のような気がします……

 

「しかし、八幡も意地の悪いことをしますね。実力で勝っているにもかかわらず、わざわざ神器を使い、悪魔の気配を消して人間の気配を出し油断させるなんて。」

 

え?そんなことできるんですか?

というか今までこの街にいて部長に気づかれなかったのってそれが理由⁉︎

私達がグレイフィアさんの言葉に驚く中先輩は苦笑いしています。

 

 

 

 

「さて、皆さん初のレーティングゲームでの勝利おめでとうございます。我々も教えた甲斐がありました」

 

そんな時だった。

おさまりかけたその場にヴィザさんが再び爆弾を投下したのだ。

 

 

「ど、どういうことだ⁉︎」

 

「そのまんまの意味だよ。この10日間俺とその眷属でリアス・グレモリーたちを鍛えた」

 

 

あれ先輩それ言っていいんですか?

 

「ふ、ふざけるな‼︎どうしてそんなことを」

 

「リアス・グレモリーを勝たせるためだが?彼女は今回の婚約を望んでいなかった。俺の主の妹、ソーナ・シトリーとリアス・グレモリーは幼馴染だ。ならその幼馴染が不幸な目にあうことを見たらソーナはどうなる?それは連鎖してセラフォルー様にも被害が及ぶ。だから俺が動いただけだ」

 

ライザーの放つ怒りの圧を受けながら、先輩は淡々と説明していく。さすがにサーゼクス様やグレイフィア様が頼んだとは言っていないが……

 

 

「そ、そんなの……」

 

「反則……とは言わせないぞ?」

 

ライザーが言い終えるよりも早く先輩は声を発した。

 

「お前はゲームを何度もしてるがリアス・グレモリーは今回が初だ。加えて数でもお前が勝っている。しかもお前はフェニックスの涙まで使ったな?圧倒的優位にあったにも関わらずだ。俺たちは10日間だけしか特訓に付き合えてないんだ。俺たちの特訓があっても、お前の方が有利だったはずだが?」

 

先輩は嘲笑を交えながら告げますが、当然それをあっさり認めるわけがありませんでした……

 

 

「ふ、ふざけるなぁぁあああああ」

 

咆哮をあげたライザーは先ほどのゲームですら見せなかった特大の炎を纏い先輩に襲いかかってきます。

 

「はぁ、めんどくさ」

 

先輩がそういうとライザーの咆哮が止み、それと同時にライザーが倒れました。

 

「お、お兄様⁉︎」

 

「何をしたの⁉︎」

 

慌てて駆け寄るライザーの妹を他所に部長が私達を代表して聞きます。

 

 

「別に?ただ、刺さっていた刀に呪力を込めてこいつを気絶させただけだ。今そいつはお前がシノンに見せられたような悪夢を見てるだろうよ」

 

それって部長がマナーモードみたいになってたあの……………

 

「引け、レイヴェル・フェニックス。それにライザーの眷属達もだ。これ以上フェニックス家の品位を落とすような行為をするな」

 

先輩に言われたライザーの眷属達はライザーを抱えると部屋を後にします。

 

「ご迷惑をおかけしました」

 

そう言って頭を下げてきたのは部屋に残っていたライザーの妹です。

 

「問題ねぇ、これで最後の依頼も終わりだ」

 

「依頼……ですか?」

 

「ああ、フェニックス卿からのな」

 

「初耳なのですが……」

 

どうやらグレイフィア様もその依頼を知らなかったみたいです。私達も目を丸くして先輩のことを見つめてます。

 

「内容が内容でしたので私と八幡殿だけが知っていたのですよ」

 

「ヴィザ翁?」

 

八幡に変わり答えたヴィザさんにグレイフィア様が視線を向けます。

ってかヴィザさんヴィザ翁って呼ばれてるんですね………

 

 

「万が一ライザー殿が敗れた場合、そしてその時彼が自身の敗北を認めなかった時、お灸を据えて欲しいとのことでした」

 

「お灸……ですか?」

その言葉にレイヴェルさんが首をかしげると今度は先輩が全容を明かしてくれました。

 

 

「まぁ、ぶっちゃけて言えばフェニックス卿も今回の婚約は反対だったんだよ。酒の勢いで言ってしまったはいいが、ライザーはグレモリーと婚約するほどの器が現時点ではないってさ」

 

 

『はぁぁぁああああああ⁉︎』

 

その言葉に私たちだけではなくグレイフィアさんすら声をあげました。

 

「だから、機会があればお灸を据えて欲しいって頼まれたんだよ。フェニックスは不死ではあるが決して絶対ではないってことをな。それだから少しきつい悪夢を見せる形にしたんだ。」

 

 

「どんな内容ですか?」

 

恐る恐る私が問うと

 

「ん?俺の神器の奴に永遠に追いかけられる夢」

 

先輩は笑いながら答えてきますがそれって……

 

 

「「本当の悪夢じゃないですか」」

 

はもった。

私とグレイフィアさまの発言が。

阿朱羅丸のことを知ってるが故に……

 

「小猫様もご存知だったんですね」

 

「はい」

 

あ、なんかグレイフィア様に少しだけ親近感が湧きました。なんか先輩経由でグレイフィア様と意思の疎通が少しだけ出来ましたし。

 

同情なんてしませんがそこで私とグレイフィア様はライザーに向けて静かに合掌をしときました。周りの皆さんは阿朱羅丸のこと知らないので話についていけてないみたいですが…………

 

 

 

小猫 side out

 

ヴィザ side in

 

 

コツコツと夕陽が差し込む廊下を私は主と共に歩いていた。

 

「ようやく1段落しましたな」

目の前に歩く主の後をついて行きながらふと言葉を発する。

 

「ああ。ヴィザも悪かったな。結構長く付き合わせて。ありがとうな」

 

「いえいえ、主の命です。ならば私はそれに従いましょう」

 

主からの労いの言葉に私は応える。

実際に1番疲れているのは主その人だ。

ならば自身の疲れなど気にしてはいられない。

 

そんなやり取りを続けたところでふと主の足が止まる。私もそれに倣い足を止めると彼は振り向き私へと告げてくる。その言葉は真剣そのものだった。

 

「ヴィザ……領に戻ったら眷属全員に今溜まっている仕事を全て迅速に終わらせるように伝えろ」

 

「かしこまりました」

 

主の言葉に頭を下げて了承の意を示すと彼はそのまま続けてきます。

 

「それと、いつでも動けるようにしておけ」

 

「というとやはり……」

 

「ああ、阿朱羅丸が感じていた通りだ。動くぞ、悪魔の歴史が……」

 

主は私の懸念を肯定しながら答えてくれた。

 

「きっかけが何かなんてわからない。俺が阿朱羅丸と出会ったからか、白龍皇が目覚めたからか、赤龍帝が目覚めたからか、或いはそれ以外のことかもしれない……だが先の大戦が終わってから随分と月日が流れたこの時代に変化は訪れるぞ。」

 

彼は感じていた。

今の日常が変わっていくであろうことに。

半年ほど前に彼が阿朱羅丸から言われ私たちに告げた言葉。そう遠くない未来に悪魔達……いや3大勢力全てを巻き込んだ事件が起き始め、それが新たな転換期へとなる……と。

その言葉が真実であったことに彼自身が感じている。感じた理由は彼の体質故か……

しかし、たとえそうなったとしても自分がやることなど決まっている。

 

 

「どこまでもお伴します。八幡様があの時私に手を差し伸べそれを取った時より、八幡様の傍に仕えると決めておりますから……」

 

そう、何が起ころうと自分は……

否、自分達は変わらない。

自分達は主の元に集ったその時から、やることなど何1つ変わってはいない。

 

「頼りにしてるぞヴィザ」

 

そこに込められていたのは眷属最強の自分に対する信頼か、それとも自分たち全員に対する感謝の気持ちか……いや、両方だったように思えた。

 

 

「お任せください。ところで八幡殿はどうなさいますか?」

 

自分たちにはまだいくつか仕事があるが主はこれでもう溜まっていた仕事はなくなったはずだ。あとは魔王様達の妹の護衛くらいだが……主の性格上それ以外にも仕事を取り、休むなどしないと思うが………

 

 

「俺はやることができた。」

 

「やることですか?」

 

「協力者から連絡があった。教会本部が持っていた聖剣エクスカリバーが堕天使コカビエルの手に渡ったらしい。しかも厄介なことにコカビエルがこの町に潜伏してるときたもんだ。それについての調査だよ。協会側も聖剣使いを2名こちらに送ってくるらしいしな」

 

 

主から話された今後の予定はやはり面倒ごとのようだ。話してる主は面倒くさそうに言っているが、それを放置などしたりしないだろう。

 

「かしこまりました。八幡殿もご無理はなさらぬように」

 

「わかってるさ」

 

笑いながら私の言葉に応える八幡殿をみて思わず苦笑いをしてしまう。

 

「では」

 

「ああ」

 

その言葉を最後にそこで会話は途切れその場から2つの影は消えていった…………

 

 

 




いかがでしたか?

これでライザー編は終わりで次回からエクスカリバー編へと入っていきます。

個人的には早く進めて3大勢力の会議編へと進んでいきたいε-(´∀`; )

コメントお待ちしております。

次回も明日か明後日には登校予定です。ではでは



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《聖×魔×呪》剣使い達の剣舞
甘いもの巡り


ふぅε-(´∀`; )

レポート書く合間に書いてるからやはり投稿がこんな時間になってしまったε-(´∀`; )




とある休日、ふんふーんと鼻歌を歌う少女を連れながら俺は街中を歩いていた。え?前回のちょっとシリアスな終わりはどうしたって?馬鹿野郎。ヴィザ達からもよく言われるが休みは大事だろう。だから休日を満喫してるだけだ。決して協力者と話し合うことに疲れてたり、あいつと話すのが凄くだるかったから、小猫に癒して貰おうなんて考えてはいません。

ホントだよ。ハチマンウソツカナイモン。

 

「どうかしましたか先輩?」

 

「ん?いや、なんでもない。それよりも早く行こうぜ、今日行くところはオススメなんだろ?」

 

「はい‼︎先輩も絶対に気に入りますよ‼︎」

 

そう言って小猫は俺の左腕に抱きついてくる。

なんだろう……いや、こうなることは薄々感じてはいたが、あの話をしてから小猫がユウキ達のようにスキンシップが多くなった気がする。俺としても悪い気はしないのだが、いかんせん小猫のようなマスコットキャラになり得るほどの容姿を持った子がいると視線が自然と集まる。そして最初こそ好意の視線だったものが俺を捉えた瞬間悪意へと変わる。そこには嫉妬や憎悪が含まれているのが目に見えてわかる。

その視線自体俺は気にしない。

今更悪意の1つや2つ気にしていたらきりがない。問題なのは悪意とは違った視線を向けてきている集団……

 

『……………』

 

なんでイッセー達は全員して俺らの後をつけてきてるんだ………もはや呆れてものもいえねぇよ。

 

彼らは気づいていないようだが、とっくに俺たちはそれに気づいている。そもそも、視線に敏感な俺と匂いや音に敏感な小猫(ユウキとの特訓で更に精度up)にとってあの程度尾行にすらなっていない。その上部長や由比ヶ浜の髪色は目立つことこの上ない。

 

しかし、小猫は小猫で別に構いませんよと俺に小さな声で囁いた後俺の手を握り、現在は抱きついてきている。

 

(まぁ、たまにはあいつらをからかってみるか)

 

そんな思いを抱きながら俺たちは目的地へと向かっていった。

 

 

 

八幡side out

 

イッセーside in

 

 

 

今日俺たちはとあるミッションを自分達に与えた。それは………

 

「ほらはやく。2人とも行っちゃうわよ」

 

そう言いながら部長は楽しそうに小猫ちゃんと八幡の後を追っていく。

 

そうB☆I☆K☆O☆Uである。

悪く言えばストーカーだ。

いや、悪く言う必要はないんだけども……

 

俺たちは絶賛2人を追跡していた。

理由は今日の放課後に開かれた眷属会議でのこと……

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

「それで、雪乃と結衣。あなた達自身はどうしたいのかしら?」

 

レーティングゲームを終えてから数日後。

この数日間にいろんな変化が起きていた。

部長が俺の家に住み込むようになったり……

八幡が学校に来なくなったりと………

他にもあるが、そんな中俺たちは部室のソファに座り会議を開いていた。議題は雪ノ下と由比ヶ浜の今後についてだ。

 

「……………」

 

雪ノ下はずっとだんまりだ。

口を開かずただ俯きバツの悪そうな顔をしている。

 

「わ、私は……できるなら……もう一度ヒッキーとやり直したいです……」

 

それとは対照的に由比ヶ浜は部長の言葉に答えた。

 

「それでまた先輩を傷つけるんですか?」

 

「小猫‼︎」

 

「事実です」

 

由比ヶ浜の言葉に反応した小猫ちゃんを部長は諌めるように声をあげるが、当の小猫ちゃんはそんな声を全く気にしていない。

 

まぁ、小猫ちゃんがそういう気持ちなのもわかる。八幡自身が気にしていないこととはいえあいつを傷つけたのは事実だ。昔のこととはいえ、それは簡単に許せるかと聞かれれば、素直に頷くことはできない。

 

「虫のいいことなのはわかってます……今さら何をってことも……私はあの時逃げたんです。ヒッキーがやった事に自分の気持ちを押し付けて、ヒッキーの気持ちも考えず、その上自分達の都合がいいように事実を塗り替えてきました。でも、特訓の最中ヴィザさんに言われて、私はようやくあの日の出来事と正面から向き合ってみたんです。そうして見えてきたのは……自分たちの酷い部分だけだった……」

 

そういう由比ヶ浜はギュッとスカートを握っていた。

 

「許してもらえると思いません。許されないようなことをしたから……それでもヒッキーに謝りたい……できることなら……もう一度ヒッキーとやり直したい……」

 

その言葉に隣にいる雪ノ下は目を開きながら由比ヶ浜を見ていた。

 

「雪乃も同意見かしら?」

 

「え……ええ。私も由比ヶ浜さんと同じです……」

 

「そう……」

 

2人の意見を聞き終えた部長は今度は俺たちへと順々に視線を回していく。

 

「俺は……わかりません。特訓の最中何回かそのことを八幡に聞いてみたんですが……その度に帰ってくる答えは同じでしたから。八幡はずっと『特にもうなんとも思ってねぇよ』って言ってました」

 

「僕は部長にお任せしますよ。正直なところ、僕は八幡君と出会って間もないですし……」

 

「わ、私も部長さんにお任せします……」

 

「私は構いませんよ。戦力という意味で不安は拭いきれませんが、ヴィザ翁の話を聞く限り、長期的に見れば伸び代あるらしいですから…… 」

 

「反対です……」

 

各々意見を言っていくが俺と木場、それにアーシアは部長任せだ。意外なことに朱乃さんは2人の残留に賛成らしいが、何故だろう……小猫ちゃんは相変わらず2人に敵意丸出しのようだが……

 

 

「はぁ……そうね」

 

全員の意見を受け頭を悩ませる部長だが……意を決したのか、遂に判決を下した。

 

「2人は残留ということにするわ。1ヶ月程とはいえ眷属になったのは変わりはないもの……八幡もそれほど気にしていないようですし」

 

その言葉を発した直後小猫ちゃんがものすごい形相で2人と部長のことを睨んでいたことを俺は今後忘れることはないだろう……

 

 

「ただし幾つかの条件があるわ」

 

部長の言葉に安堵したであろう2人はピクリと反応する。

 

「1つは毎日、朝早くに集まり特訓をすること。これにはイッセーも参加するのよ。実力をつけるために……2つ目は八幡と今後トラブルを起こさないこと。彼がセラフォルー様の女王ということもあるけど、それ以前に私たちの恩人よ。それを理解しなさい。この2つをしっかり守るなら私も復縁に少しだけだけど力を貸すわ」

 

 

 

力を部長の言葉にはい、と2人は返事をして、その会議自体は終了した。

 

 

「しかし……改めて考えてみると八幡の神器ってなんなんだろうな?」

 

「突然どうしたんだい?イッセー君」

 

会議が終わり肩の力が抜けた直後俺が不意に漏らした言葉に木場が返してくる。

 

「いやな、ドライグが言ってたことが気になってな………」

 

「あらあら、赤龍帝がなにかおっしゃってたんですか?」

 

「ああ、なんか八幡の神器には気をつけろって」

 

「八幡さんの神器にですか?」

 

俺の言葉に朱乃先輩とアーシアも反応してきた。

 

「セラフォルー様の女王になるくらいだから、かなり強力な神器を持っているんでしょうけど……赤龍帝が注意してくるほどとなると、もしかしたら神滅具の1つかもしれないわね」

 

「いやでも、あの言い方は普通じゃなかったですよ。嫌悪感丸出しで、憎んでいるかのようでした……」

 

俺の言葉に更にみんなは困惑する。

赤龍帝がそうまで言い、尚且つそれほどの敵意を向けるものが八幡の神器に宿っている。そう思うと知りたいと強く願ってしまう……

 

 

「モグモグ」

 

不意に俺の視界には俺たちが考えている中1人おやつを食べている小猫ちゃんの姿が映る。あれ?小猫ちゃんは気にならないのかな?

 

「小猫……あなたは気にならないの?」

 

「先輩の神器ですから仕方ないですよ」

 

そう言ってペロリと自分の指を舐めると手を合わせ食べるのを終了した。

 

「小猫……あなたまさかとは思うけど知ってるのかしら?」

 

部長の問いは全員が思ったことだ。

よくよく考えれば小猫ちゃんは初日の夜、八幡と2人っきりの時間があったし、何よりも2日目からまるで覚悟が違うとユウキさんが言っていた。もしかしたら……………

 

「さぁ?先輩本人に聞いてください」

小猫ちゃんは話す気はないらしい。でも……

 

「でも、その八幡自身も学校休んでるんだよ……」

 

そう、レーティングゲームの後八幡はここ数日学校を休んでいた。理由を知らない俺としてはすごく気になってしまう。連絡を取ろうにも、あいつは基本的に自分の連絡先を教えてこないし……

 

「とりあえず今日これで失礼します」

 

「もう帰るのかい?」

 

今日は午前授業だったため、時刻はまだ2時だ。帰るにはいくらなんでも早すぎるため、木場が小猫ちゃんに質問するが、そこからは予想外の返答が帰ってくる。

 

「はい、この後先輩と甘いもの巡りに行くので」

 

『は⁉︎』

 

小猫ちゃんの言葉に思わず俺らは声をあげる。

いやいや、八幡はここ最近来てないだぞ。いったいいつ約束したのだ?特訓中にそんな約束をしている余裕はないはずだが……

 

「あ、先輩からメールです。ごめんなさい。もう先輩が待ってるので失礼します」

 

そう言って小猫ちゃんは荷物を持つと部室を後にする……

 

「ねぇ、思ったのだけれど……小猫って八幡と付き合ってるのかしら?」

 

「いや、シノンさん達がいるからそれはないと思いますが……」

 

部長の素朴な疑問に俺が返すが正直自信はない……

 

「でも、小猫ちゃんは前々から甘いもの巡りを八幡君としているみたいだし。仲がいいのは事実だろうね」

 

「八幡さんを見るときの小猫ちゃんの目はすごく楽しそうです」

 

 

『……………』

 

木場とアーシアの言葉を最後に部室に沈黙が訪れる。気になる……八幡の神器に関してもだが、それ以上に2人の仲がどうなのか……

 

 

「尾行しましょう……」

 

「部長⁉︎」

 

部長がいきなりとんでもないことを言い出した。さっき問題は起こすなって言ったばかりですよね⁉︎

 

 

「いいんですか?」

 

「祐斗は気にならないの?」

 

「気にはなりますが尾行は……」

 

「それぐらいでは怒らないと思いますよ、たぶん」

 

「朱乃さん……説得力ないです」

 

どうやら朱乃さんは賛成らしい。

 

 

結局この後行くノリになって行き今に至る……

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

「カップルにしか見えないわね」

 

「そうですね」

 

「あらあら、楽しみですわ」

 

先頭を歩く部長達は楽しそうに話している。

俺と部長達の中間には苦笑いしている由比ヶ浜と彼女と話している雪ノ下がおりそんな彼女達を俺と木場は見ていた。

 

「小猫ちゃんはどうするんだろうね」

 

「なにがだ?」

 

不意につぶやいてきた木場の顔はどこか浮かなかった。

 

「小猫ちゃんは八幡君と仲がいい。好意を抱いているのは今の様子からでも見て取れるだろう?」

 

そう言って木場は部長達の先にいる2人を指す。そこにいる小猫ちゃんは後ろ姿からでも幸せそうなのが感じ取れる。八幡も八幡で抱きついている小猫ちゃんに対し嫌がる素振りは一切ない。

 

 

「まぁ、そうだな」

 

木場の言葉を肯定すると木場は話を続ける。

 

「そんな彼女が八幡君のことを傷つけた雪ノ下さん達を嫌っているのは明らかだった。もしかしたら小猫ちゃんは八幡君の眷属になろうとしてるんじゃないかなって思ってさ」

 

「小猫ちゃんが⁉︎そんな話聞いてないぞ⁉︎」

 

「あ、あくまで僕の予想だよ。現に部長もそんな話は聞いていないだろうし……でもあり得るかもって話さ」

 

胸ぐらを掴んで来そうな俺の勢いに押されながら木場は慌てて補足する。

 

小猫ちゃんが八幡の眷属に?

でもそれは実際にありえそうな話ではある。

 

「と、ともあれ早く追おう。もしかしたらその辺の事も分かるかもしれないよ」

 

木場に促され俺も本格的にストーキングを始めるのだった…………

 

 

 

イッセーside out

 

小猫side in

 

 

 

今日私は八幡先輩と最近できたお店にやってきました。これでくるのは2度目です。最初に来た時あまりの美味しさに本当に頬っぺたが落ちるかと思いました。何度も来たいのは山々なのですが、そのクオリティの高さからかお値段が学生に優しくありません。でも今日はこの間約束した通り先輩の奢りなので楽しみです。あれ?そういえば……

 

「先輩ってどれくらい稼いでいるんですか?」

 

いやらしい話ですが気になります。

先輩はセラフォルー様の女王ですしいったいどのくらい……

 

「ん?なんだ別に気にしなくても大丈夫だぞ。ここの代金くらい簡単に払えるから……ほれ」

 

そう言って先輩は財布からなにやら紙を取り出し私に渡してきます……

なんですかこれ?

なんかすごく数字がたくさん並んでますね。

上の数字はすごい数ですし。

あ、これ上からどんどん引かれてるんですね。

それでも1番下の数字はすごい数です……

 

そう言えばこの紙なんでしょう……

 

えっと………給料明細……………

 

 

「んにゃにゃ⁉︎」

 

給料明細⁉︎

この金額がですか⁉︎

どこのブルジョワですか⁉︎

 

「俺はセラフォルー様から貰ってる上に俺自身領地を持っててそこで税収だのなんだのあるからな。その上この間小猫に渡した世界樹の種子とか便利アイテムで稼いでるからな。ぶっちゃけて言えば稼いでる金額はセラフォルー様を超えてるし……」

 

とんでもない事実です。

先輩って超お金持ちじゃないですか……

 

「だから遠慮なんてすんな。最近じゃいくらなんでも稼ぎ過ぎって事で俺や眷属達の私財を使って領内を盛大に開発してな。そしたら領民が急増して税金が更に増えちまって、結局もとより稼いじまったぐらいだ……」

 

「わかりました。ご馳走になります」

 

とりあえず店員を呼んでメニュー表を全て4個ずつ注文しました。店員さんは3回くらい聞き返してましたが撤回はしません……

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

美味しいスイーツに舌鼓をうった後店を後にします。何故か帰る際スーツの偉そうな人がほくほく顏で見送ってきました。

 

「さてと……それじゃあ食後の運動と行きますか」

 

「珍しいですね。先輩がそういうことを誘ってくるのは。さっきのもそうですし」

 

「偶にはいいだろ。それにここまでされたんだ。やり返してもバチはあたらんだろう……小猫は嫌だったか?」

 

「い、いえ………先輩とならむしろ嬉しかったです……そうですね偶には……いいですね」

 

ニヤリと悪い笑みを浮かべた私と先輩は歩き始めました。

 

 

 

小猫side out

 

イッセーside in

 

 

 

「あれで本当に付き合ってないのかしら?」

 

お店から出た部長は額に手を当てながら呟いた。その様子はどこか苦しそうだ。

 

まぁ、それは仕方ないだろう。

俺たちも食べようとケーキを食べ始めたところまでは良かったのだが、ただでさえ甘いスイーツを食べているのにあんな光景を見せられたら、リアルに砂糖を吐いてしまう。

 

「小猫ちゃん楽しそうでしたね」

アーシアだけはニコニコとあの光景を思い出しながら笑顔を絶やさない。アーシアって意外と強いな…………それ以外のメンツは全員ほぼグロッキーなのに……

 

 

店の中で俺たちが見た光景。

まずそれぞれケーキを食べていく。だが各々全種類を1個食べ終えた後、不意に小猫ちゃんが八幡の口にケーキを運び出したのだ。まさかの行動に全員が飲み物をこぼしかけたが、その後八幡もやり返していた。そうして交互にやり続けた結果残りのケーキを全て互いに食べさせ合うという荒技をしていた。

 

 

このまま帰ってもいいのだが、実際になに1つわかっていない。そうなると意地でも最後までついて行きたくなる。

 

「部長早く行きましょう。早くしないと見失ってしまいますよ」

 

八幡たちは既に歩き始め、かなり遠くまで離れている。

 

「え、ええ、そうね。早く行きましょう」

 

そう言って部長が走り出し俺たちも続く。

 

 

「いたわよ‼︎」

 

そう言ってようやく近くまで八幡が見えてきた。本当に見失うとこだったな……八幡達は相変わらず手を繋ぎながら歩いている。 2人とも相変わらず楽しそうに歩いていて、その姿は角を曲がったところで見えなくなってしまう。

 

「やべぇ見失ったぞ⁉︎」

 

角を曲がったところで俺たちは2人を見失ってしまった。

 

「あらあら?どこに行ったのでしょう?」

 

「っく、これからがいろいろ知れるところだったかもしれないのに」

 

「そうですね部長。結局これといった収穫はなかったですね……」

 

朱乃さんと部長の声に俺も同調し脱力してしまう。

 

「えっと、この後どうしましょう?」

 

「どうしようかね?」

 

アーシアの問いに木場もふぅ、と首を傾げながら応える。

 

「そうね。このまま解散するのもあれですし、イッセーの家でみんなでお茶しましょうか?」

 

『了解です』

 

主の言葉に俺たちは応えると俺の家へと向かっていく………

 

 

 

「それにしても本当になにも得られませんでしたね……」

 

「そうね。結局八幡の神器のことも、八幡と小猫との関係も結局しっかりとはわからなかったわ。」

 

アーシアの問いに今度は部長が答えた。

 

「ヒッキー……小猫ちゃんと付き合ってるのかな……」

 

「あらあら、気になるのですか?」

 

「いいえ……って言えば嘘になりますけど……今更私にそんな気持ちを伝える資格なんて……ありませんから……」

 

「仲直りできるといいですね」

 

目を伏せる由比ヶ浜に朱乃さんは優しく声をかけると朱乃さんはそっと彼女から離れていく。そんな彼女に俺は近づき周りに聞こえないボリュームで話しかける。

 

「朱乃さん、やけに2人のことを庇ってますけどどうしたんですか?」

 

「別に庇っているわけではありませんが……八幡君からすこしだけ言われたことがあるだけですよ」

 

「八幡から?」

 

「はい、お前らが誰を眷属に入れていようと関係ないから俺のことは気にするな、と。八幡君はセラフォルー様の女王ですからリアスがそれを理由に2人を眷属から外す必要はないと」

 

意外だった。

気にしていないと言っていた彼が彼女達を想うようなことを言ったことがだ。

というか朱乃さんはいつ聞いたのだろう……

 

 

「私もそう思って彼に言ってみたのですが、否定されてしまいましたわ」

 

俺の心を読んだのか朱乃さんは言葉を続ける。

 

「変な気遣いをされる方が疲れる、らしいです。そんな気遣いをする暇があるなら自分の眷属を強くしろ。お前は女王としての役割を果たせ、と」

 

前言撤回だ、あいつらしい。

 

「みんなついたわよ」

 

俺と朱乃さんが話し終えたのと同時に部長が声をあげる。目の前には見慣れた俺の家。

 

「へぇ、いい家に住んでるんだねイッセー君」

 

そう言って木場は二階建ての俺の家を見あげている。

 

「いや、そんなことねぇよ。普通だ普通」

 

「いえいえ立派な家ですよ」

 

「小猫ちゃんもそんなことないって……ば?」

 

あれ?

木場の言葉に返した後ナチュラルに返してしまった後俺の首はギギギと音をたてながら半回転するとそこには小猫ちゃんがいた。

 

「え?……あれ?小猫ちゃん……どうして……」

 

俺に遅れて気づいたみんなも俺と同じく固まっている。俺も捻り出すように言葉を吐くと小猫は満面の笑みで答えてくる。

 

「どうしてもなにも、イッセー先輩達が私達をつけてきてたんじゃないですか」

 

ゾクッと感じた後背中に驚くほどの汗が流れてくる。怖い、怖すぎる。駒高のマスコットキャラであるはずの小猫ちゃんの笑みは決してマスコットキャラが出すようなものではなかった。

 

「こ……ねこ、いつからいたのかしら?」

 

部長が戸惑いながら問いかけると

 

「ずっとですよ?」

 

そう言って小猫ちゃんは今度は自分の影を見つめている。すると突然小猫ちゃんの影が浮き上がったかと思うと人の形になっていき八幡が現れる。

 

「よう、ストーキングとはいい趣味だなイッセー」

 

「えっと……いつから………」

 

「初めからだ。お前らの尾行なんて最初から気づいてる。」

 

「今のは……」

 

「俺の神器の力とだけ言っとこう。当然内容は話さない。ましてや人の神器のことや友人関係を探るためにストーキングなんてする奴にはな」

 

「えっと……もしかして話を」

 

「お前の影の中でずっと聞いてたぞ?」

 

『…………』

 

 

彼の言葉受け全員が黙ってしまう。

聞かれてた……俺たちの会話を……

俺たちの目的を……

ってかドライグは気づかなかったのかよ‼︎

 

《悪いな相棒。俺も気付かなかった……》

 

マジかよ⁉︎

どんな力なんだよ⁉︎

 

 

「とりあえずイッセーの家に入ろうぜ。話はそれからゆっくりしよう」

 

先ほどの小猫ちゃん同様にイイ笑顔になった八幡に促され俺たちは自宅へと入っていった……

 

 

 

イッセーside out

 

八幡side in

 

 

 

イッセーの家に置いて現在小猫を除くリアス・グレモリー眷属は絶賛D☆O☆G☆E☆Z☆A中である。彼らの前では俺と小猫が腕を組みながら仁王立ちしている。

 

「それで先輩どうしましょう」

 

「そうだな……」

 

「じょ、情状酌量の余地は?」

 

2人して彼らに威圧をかけながら意味深な会話をするとイッセーが慌てながら聞いてくる。

 

 

「「ないな(です)」」

 

無論そんなものがあるわけない。

 

「じ、慈悲を‼︎」

 

俺と実際にやりあったことがあるからかイッセーは他の面子以上に焦っていた。

うん……やっぱりたまにはこういうことをしてみるもんだ。面白い……

 

「先輩、こんなところにアルバムがありました」

 

どこから持ってきたのか小猫は一冊のアルバムを手にしていた。

 

 

「いいな。ここでイッセーの過去を公開してもらうか。それが罰ってことで」

 

「え?そんなんでいいのか?」

 

意外だったのかイッセーが声をあげるも俺はそれに軽く返す。

 

「もともとお前らをからかおうってことでああいうことをしたんだ。それほど怒っちゃいねーよ。他人の神器が気になるのなんて珍しくもねぇ。だからもう足を崩していいぞ」

 

そう言って俺も小猫も威圧を解くと安心したように各々足を崩し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは…………」

 

イッセーのアルバムをめくっている最中とある写真に木場が目を留めた。そこにはイッセーと1人の少女、そして壁に掛けられた1本の剣が写っていた。一目でそれが聖剣だとわかった俺は木場の方へと視線を移す。

 

 

「木場?」

木場の雰囲気が変わったのを感じたのかイッセーは木場へと声をかける。

 

 

「いや、なんでもないんだよイッセー君。ただ……こんなところで見つけるとは思わなかったからさ」

 

「???」

 

「祐斗……」

 

「大丈夫です部長……僕なら大丈夫ですから」

 

そう言って木場はアルバムを閉じるとそれをイッセーに渡す。イッセーは何が何だか分からず混乱し、リアス・グレモリーは心配そうに彼を見ていた。

 

「木場……ヴィザの言葉忘れるなよ」

 

「ありがと、八幡君。本当に大丈夫だよ」

 

俺の言葉に木場は応えるがその日木場のその雰囲気が消えることは結局なかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はどうだったでしょうか?

感想お待ちしておりますm(__)m

次回ようやく聖剣使い達が登場しますo(^▽^)o


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白と黒の激突

今回は短め次回も少し短めにします。
その後は長いのがくるかと……

そしてまさかのお気に入り1000超えた……
みなさんありがとうございますm(__)m

そしてやばい、キャラが崩壊し始めたかも……


「ふぁ……眠いな」

 

小猫と甘いもの巡りを行った翌日、俺は自宅であくびをしながら朝食を作っている。とはいえ俺が作ってるものといえば、昨日の夜に作ったタレにつけておいたローストビーフを挟んで作ったサンドイッチくらいだ。しかし、明らかにそれ以上の食事がテーブルの上には既にセッティングされていた。俺が作った物の他にもホタテの貝を器にして作られたグラタン、カルパッチョ、オムレツ、ピザなど多くの食べ物が並べられていた。ここにさらに今俺が温め直しているビーフシチューが加わるのだ。種類が多すぎるし、そもそも一つ一つが尋常じゃない量のためとても1人で食べきれるものではない。というか軽く10人前はある。

 

とはいえ朝食がこの量になった数日前から余りが出たことはない。

 

「「いただきます」」

 

そう言って俺と数日前俺の家に転がり込んできた小猫は手を合わせると食べ始める。

 

「先輩このローストビーフサンドすごく美味しいです」

 

「おう、そう言ってくれると作った甲斐がある。」

 

小猫の賛辞の言葉を素直に受け止める。小猫は俺にそう言った後もサンドイッチを頬張っているが、その姿を見ると何故か癒される……

 

「このシチューも美味しいです」

 

そう言って今度は小猫は温め直されたビーフシチューを口にした。

 

まぁ、美味くて当然だろうな……だってそのシチューは…………

 

「さすがシノンさんですね……」

 

そうこれを作ったのはシノンなのだ。

この料理だけではない。テーブルの上に置かれている殆どはシノンが作ったものだ。しかしシノンが作ったものだけではない。ローストビーフサンドに使われているパンを作ったのはヴィザだし、ホタテのグラタンはユウキだ。それ以外にも所々にシノン以外の奴が作ったものが含まれている。

 

「まぁ、そうなんだが……量が多いよな……」

 

「先輩今までどうしてたんですか?」

 

「無理やり腹に納めてた……」

 

俺の呟きに彼女は反応してきたが俺の顔は微妙な顔をしていた。

 

「あいつらが俺の事を心配して料理とかを魔法で送ってきてくれるのはありがたいんだが……俺は子供か……」

 

そう言って思わず嘆息を吐いてしまう。

 

そう、これらの料理は全て俺の眷属から送られてきた物だ。一時期俺が仕事で飯を食う暇すら惜しんで動いていたら、いつの間にかあいつらからこうして送られてくるようになってしまった……

 

 

「ヴィザ翁達も先輩のことを心配してるんですよ」

 

そう言って彼女は一度食事の手を止める。

(余談だがグレイフィアがヴィザのことをヴィザ翁と呼んでいたためかグレモリー眷属達もそう呼ぶようになった……)

 

「そりゃわかってるが……」

 

俺としても彼らの気持ちはわかってる。だからこそ反応が微妙なのだ。

 

「まぁ、今は小猫がいるから大丈夫なんだけどな」

 

そう言って俺が笑うと、はいっと小猫が相槌を打ち俺たちは食事を再開する。

 

そう、彼女……塔城小猫はライザー・フェニックスとのレーティングゲーム後、俺の家に住み始めたのだ。しかもこのことをリアス・グレモリー及びその眷属達は知らない。ちなみに俺の眷属達も……バレたら俺どうなるんだろう……

 

ぞわっ

 

なんか怖くなったので考えるのをやめた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡⁉︎八幡じゃねぇか⁉︎」

 

久々の学校への登校途中聞き覚えのある騒がしい声で呼ばれるが俺と小猫は振り向かずにそのまま歩いていく。

 

「いやいや、無視するな‼︎お前なんでここ数日学校休んでたんだよ⁉︎」

 

「やめてください。俺に朝から美女2人を、股にかけつつイチャイチャ登校してくる、侍らせ男の友人はいないので」

 

「侍らしてねぇよ‼︎」

 

肩に手をかけられ、それを払いながら俺が言うと再びイッセーが叫んだ。

 

「イッセー先輩朝からうるさいです」

 

「そうだぞ、この時間まだ寝ている奴だっているかもしれないんだ、迷惑を考えろ」

 

「誰のせいだ、誰の⁉︎それにお前だって小猫ちゃんと一緒にいるだろ⁉︎」

 

はぁはぁと肩で息をするイッセーに対し

 

「つーか昨日も会ったろ。何驚いてんだよ、キメェよ。小猫を見ながらはぁはぁ興奮してんじゃねぇよ」

 

「先輩……助けて下さい……」

 

「なんで俺が犯罪者みたいになってんの⁉︎」

 

再び俺と小猫はからかい始める。

 

「その辺にしてあげてくれないかしら?」

 

「おはようございます、八幡さん、小猫ちゃん」

 

そんなイッセーを見かねてか、彼と一緒に登校してきたリアス・グレモリーが彼に助け舟を出す。その隣ではアルジェントが笑いながら挨拶をしてきている。

 

「よう、リアス・グレモリー、それにアルジェントも。」

 

「おはようございます」

 

そんなリアス・グレモリーとアルジェントに挨拶をし直すと俺は再び足を動かし始める。

 

 

「そ、それで昨日は聞きそびれちまったが結局どうして休んでたんだよ」

 

そんな俺たちを追うように歩くイッセーは懲りずに聞いてきた。まぁ、これ以上からかうのは可哀想だしな……

 

「仕事だ仕事。お前らの相手をしてやってた間溜まってた仕事とかがあるんだよ」

 

面倒臭いので適当に言っておく。まるっきり嘘ではない。実際仕事である。別にこいつらを相手していた間に溜まったものではないが……

 

「っ………すまねぇな」

 

「別に気にすんな、受けたのは俺なんだ。」

 

俺の言葉を受けバツの悪そうな顔をするイッセーだがそんなイッセーに俺はいつも通りの感じで流し、学校へと向かうのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、めんどくせぇな」

 

 

学校に着いた後、登校の様子を見ていたらしい松田と元浜2人に絡まれたが、アルジェントとだけでなくイッセーがリアス・グレモリーとも同棲を始めたことをゲロって俺への視線を回避した。がんばれイッセー。

 

 

そんな久々の学校が終わった放課後、面倒臭がりながらも俺はオカルト部へと向かっていた。理由はなんでもソーナのところの新人とイッセー達との顔合わせに俺も参加してほしいらしい。リアスだけから言われたのなら断ることも簡単だったろうがソーナからも言われたとなれば断るなんてありえない。

 

サーゼクス、グレイフィア、セラフォルー、ソーナ……あの4人は俺の中でも特別な相手なのだから……

 

 

コンコン

 

「失礼するぞ」

 

オカルト部前に着きドアのノックと共に俺が入るとそこには既にソーナもリアスも顔合わせを始めていた。

 

「誰だお前?」

 

最初に声をかけてきたのは最近ソーナの眷属になった男……たしか匙とかいう奴だ。

 

「2年比企谷八幡だ。そこの兵藤一誠の友達だよ」

 

「ふーん。こいつのね……今大事な話してるからちょっと席外してくれねぇかな?」

 

どこか見下した感じが含まれた言い方を彼はした。それはイッセーの友人だからか、あるいは俺の体質のためだからかははっきりとしないが……

 

「だとよソーナ。帰ってもいいか?」

 

「いいわけないでしょう……」

 

「お前会長に対してなんて口聞いてんだ‼︎」

 

俺がソーナに話しかけるとその馴れなれしい話口調にか匙が激怒するが……

 

 

「やめなさい匙」

 

その匙をソーナが静めた。

 

 

「でも、会長こいつは……」

 

 

 

「わざわざ気配を消して……昔と違って少しだけ意地悪になりましたか?八幡君」

 

「さぁな。なったとすれば確実に主の影響だな」

 

「なんか……ごめんなさい……」

 

「別にかまわねぇさ、俺は今の自分が大好きだからな」

 

「そういうところは変わらないのね」

 

 

「あ、あの‼︎」

 

匙を無視して会話を始めるが、そんな俺たちのやり取りを見ていた匙が再び声をあげた。

 

「会長はこいつと知り合いなんですか?」

 

俺たちの会話を聞いてか恐る恐る聞いてきた彼にソーナはこの前真羅先輩に答えた時と同じように俺の説明をする。

 

「八幡君はお姉様、セラフォルー・レヴィアタン様の女王よ」

 

『はぁぁぁぁああああ⁉︎』

 

真羅先輩以外のソーナの眷属が全員声をあげるが、もはや見慣れた光景である。

 

「で、でもこいつ悪魔の気配が……」

 

「八幡君はいつも気配消してるのよ」

 

そう言ってソーナは俺へと視線を向けてくる。向けられた俺は肩をすくめ、それと同時に悪魔の気配をもどす。

 

 

『っ⁉︎』

 

突然露わになった悪魔の気配に驚く面々もいるが既に経験しているリアス・グレモリーやその眷属、真羅先輩は不思議そうに俺の方を見ていた。

 

「そんで顔合わせも終わったし帰っていいか?」

 

「少しぐらいゆっくりして行ったらどうです?八幡君、あまり休んでないんでしょ?」

 

「休める立場じゃねぇからな」

 

「ヴィザ翁達が心配してわたしにも様子を聞いてくるんですよ。私も皆さんと同意見です。偶には息抜きにお茶でもしませんか?」

 

「この後も仕事があるから、また今度な」

 

周りが置いていかれる中俺たちは会話を続けていく。匙と小猫の視線がすごく気になるが……

 

 

「そうやっていって、ほとんどしてくれたことないじゃないですか……」

 

「ソーナ……お前……」

 

「……なんですか?」

 

「拗ねてんのか?」

 

「っな⁉︎」

その一言でソーナの顔は急激に赤くなる。目を見開き口も半開き状態だ。

 

「だ、だ、誰が拗ねてるんですか⁉︎別にハチ君が構ってくれてなくても私は全然……」

 

「呼び方……昔の呼び方に戻ってんぞ……」

 

 

「っ〜〜〜」////

 

俺の言葉に今度は声にならない声を出しながら顔を背けてしまう。その様子をソーナの眷属の多くは唖然とした様子で見ており、グレモリーの眷属ほとんどはうわぁとこちらをジト目で見ていた。

 

 

ただ……

匙は白眼にしながら泡を吹いており

小猫はこちらを睨んでいる。

 

 

「まぁ今度お茶くらいなら付き合ってやる。だから今日はもう失礼するぞ」

 

そう言って俺が立ち去ろうとしたその時だった。過去最大級の爆弾がその場に投下された。

 

 

「せーんぱい」

 

「ん?」

 

先ほどまで睨んでいた小猫が満面の笑みで俺の方へ寄ってくるとその言葉は発せられる。

 

 

「あんまり遅くならないでくださいね。先輩が帰ってくるまで待ってますから」

 

『はい⁉︎』

 

全員の声が重なった。

比喩ではない。本当に全員の声がハモったのだ。先ほどまで白目をむいていた匙も、顔を真っ赤に染め背けていたソーナも、ジト目で見ていたグレモリー眷属も、唖然としていたソーナの眷属も全員だ。

 

「ど、どういうこと小猫⁉︎」

 

真っ先に声を出したのは小猫の主であるリアス・グレモリーだった。

 

 

「そのまんまの意味ですよ。レーティングゲームの後から私は先輩の家でお世話になってますから」

 

『はぁぁぁぁああああああああああ⁉︎』

 

全員がその言葉を聞き叫んだ。その拍子に部室の窓は割れ、校舎外にも響き渡る。

 

 

「おい、八幡どういうことだよ⁉︎」

「あらあら小猫ちゃんも大胆ね」

「なんで私に報告しなかったの⁉︎」

「小猫ちゃん……だから八幡さんと登校してたんですね」

「ヒッキーが………」

『…………』

 

多くの者が何も言えない中、グレモリー眷属の一部はなにやらごちゃごちゃ言っている。

 

しかしだ……

 

「あの小猫さん………」

 

いきなり爆弾投下しなくても良かったんじゃ……

 

 

「先輩、今日も一緒に寝てくださいね」

 

あ、やべぇ。

さっきの比にならない大きさのも投下された。

 

 

「どういうこと?」

 

聞こえてきた底冷えするような声に振り向くと、そこにはかつて無いほど怒りのオーラを纏ったソーナが仁王立ちしている。

 

「どうもなにも、先輩と一緒に寝ただけですよ。先輩と一緒にいると暖かいですし、撫でてくれる手加減も最高です♪」

 

ドヤァァァとものすごいドヤ顔で小猫が言うとソーナは青筋をピクリと動かし無慈悲な宣告をしてくる。

 

 

「八幡君……」

 

「は、はい……」

 

「このことはシノンさん達にも報告します」

 

「ふぁい………」

 

 

「それと小猫さん」

 

「なんでしょう?」

 

「負けませんよ?」

 

「望むところです」

 

その日俺は、久々に女の怖さを再認識した。

そして周囲にいた男性陣も同様だろう。

いい笑顔を向け合う2人を見てイッセーは震えてるし、木場も後ずさってる。

匙だって膝から崩れ落ちて……ってこれは違うか……

 

 

結局俺が部室を出て行ったのはこれから1時間後であり、後日俺がシノン達にこってりしぼられるであろうことは容易に予測できた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく解放されたか……」

解放された時には俺は既に疲弊していた。

 

 

 

 

あの後も小猫とソーナの話し合いは終わらず、終いには小猫は甘いもの巡り(俺の息抜きのこと)も話し始めソーナを更に煽り立てた。

ソーナもソーナで俺の小さい頃の話を引き合いに出し、小猫のことを煽り返す。その内容は常に俺のHPを削り続けていく。

 

そんなことが続きヒートアップした2人を止めたのはソーナの親友であり、小猫の主でもあるリアス・グレモリーだった。

 

 

「小猫いい加減にしなさい‼︎ソーナも、眷属が見てるわよ」

 

そう言われて2人はようやく正気に戻り周囲を見渡した。膝をつき白くなっている匙を除いた全員が唖然を通り越し、更には呆れを通り越して微笑ましそうに2人のことを見守っていた。

 

そうして自分達がとっていた言動を振り返った2人はかつて無い羞恥に襲われ耳まで真っ赤にしていく。

 

「本当に帰っていいか?この後も仕事があるんだよ」

既にメンタルHPがレッドゾーンに突入していた俺は割と本気で帰りたかった。

 

 

「まぁいいわ。ただ後日小猫のことについてしっかり聞かせてもらうわよ」

 

そんなリアス・グレモリーの言葉に俺は肩を落としながら部室を後にした……

 

 

 

「遅くなっちまったからな。あいつが怒ってなきゃいいんだが……」

 

そんなことを1人呟きながら俺は街中を歩いていた。協力者とこの後会う予定だったが、ソーナと小猫との件があったため結構遅れている。

 

俺が協力者と呼ぶ者。

 

それは本来眷属になるはずの者があえて眷属にならず、各勢力に混ざってスパイ紛いの行為をさせている者達である。

 

当然今回の相手もそう言った行為をしているわけで俺と会える時間も限られている。

 

 

「急がねぇとな」

 

俺がそう思った矢先だった。

それ以上に重要になるであろう案件が目の前にうつる。

 

「もう、全然つかないじゃ無い‼︎」

 

「わ、私のせいか⁉︎」

 

目の前で口論をしている2人の女性?声から女性と判断したが顔が隠れるほど深々とかぶったフード付きの白いローブを身に纏い、どう見ても不審者にしか見えなかったが俺が注視したのは彼女達から感じられるモノだ。

 

1人は手に持っている大きな布を纏ったモノから、もう1人の方は二の腕付近から感じられるモノから……

 

それは間違いなく聖剣と呼ばれる類のものが出す独特の雰囲気が感じ取れた。

 

そこで俺は瞬時に協力者の言葉を思い出し、彼女達が教会から送られてきた聖剣使いだと判断する。

 

「あ、あの……」

 

俺が出来る限り自然の状態を保っていると突然彼女達から声をかけられた?

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

できる限り普通で、いつもと変わらないように返事をする。既に身体は仕事モードに移り変わっていた。

 

「えっと、道を聞きたいのですが……」

 

「いいですよ」

 

「ホントですか⁉︎」

 

俺の言葉にあからさまに目の前の人物は喜び始める。

 

 

「ほら言ったじゃない。日本は親切な人もたくさんいるって」

 

「ここに来るまで何回も騙されたがね……」

 

ああ、何回も聞いてその度に騙されたのか……でもそれは確実にお前らの服装がアウトなんだぞ……とは口が裂けても言えなかった……

 

 

「えっと駒王学園の行き方を教えて欲しいんですが……」

 

「ああ、それならこの道をまっすぐ行けば着くぞ。でも、今日はもう遅いからたぶん入れないと思うぞ。それに明日は学校自体休みだから行くなら明後日にしとけ」

 

「あ、そうですか……ありがとうございます」

 

「本当に助かったよ」

 

そう言って2人はお辞儀をしてくる。

 

「いや、別に大したことじゃねぇよ」

 

そう言って俺はその場を離れるもしばらく彼女達のことを監視していた。俺の言葉を素直に受け取ってくれたのか、彼女達はその日学園に行くことが無いことを確認し俺は急いで待ち合わせ場所に向かう。ぶっちゃけ3時間ほどオーバーだ。たぶんキレられる。そんなことを思いながら俺は街中を走っていく。

 

 

 

 

 

 




感想などお待ちしております。

次回は少々長めに書く予定ですのでお楽しみにm(__)m


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そして彼は女王の前に立つ

前回行った通り今回も短め。

でも次回は八幡の過去回と同じくらい長く書く予定です。

では本編へどうぞ( ´ ▽ ` )ノ


日曜日

多くの者が休む中朝早く小猫は学校に向かった。昨日俺が消えた後何故かソーナとリアスの眷属対抗ドッチボールが始まるらしい。何故そんなことをしてるのか疑問しか残らないが当人達が決めたことならばこちらが口出しするようなことでは無いだろう……

 

小猫や他の奴らが頑張っている中俺はというと少々面倒臭いことになっていた。

 

「どうしたもんかね……これ……」

 

そう言って俺はかつてレイナーレ達が拠点にしていた教会跡地に訪れていた。もしかしたらここにコカビエルがいないかな?と割と軽い気持ちで来たのだが、入ってすぐ俺の目には予想していなかった光景があった。

 

 

「お前ら……なにしてんの?」

 

そこには縮こまりながら身を寄せ合っている2人の女性。昨日会った時は真っ白だったローブも汚れており、昨日と違いフードをとっていた彼女達は何故かげっそりとしていた……

 

「ああ……昨日の………」

 

「どうしてここに?…………」

 

俺の問いに逆に問い返してくる彼女達だが、昨日とは違いまるで元気が無い。

 

ぎゅうぅぅぅぅうう

 

「「あう……」」

 

ふと音がなったと思ったら2人揃ってお腹を抱えている。いや、こいつらまさかとは思うが…

 

 

「お前らもしかしてなにも食ってないのか?」

 

コクリ

 

「ここで寝泊まりしたのか?」

 

コクリ

 

アホだ……

教会の、しかも聖剣使いが廃墟で寝泊まりする上に空腹で今にも倒れてしまいそうとかシュール過ぎて笑えない……

 

 

ここで魔王の女王としての最良の決断をするのであれば放置しておくことだ。聖剣は悪魔達にとって脅威だ。ならばその聖剣使いが自滅してくれるのであれば願っても無いことなのだが……

 

「「………」」

 

まるで捨てられ、野良犬にでもなってしまったかのような目でこちらを2人は見てきていた。いや、してないかもしれないが何故かそう見えてしまう。

 

「飯……食うか?」

 

「「!!」」パァァァァアアア

 

2人の顔がこれでもかというくらい晴れやかなものに変わっていく。

 

 

 

今日の収穫。

聖剣使い達を拾いました……………

 

 

 

 

 

 

 

「うまい‼︎うまいぞ‼︎これが日本の和食というものか‼︎」

 

「うんうん、これが故郷の味よ‼︎」

 

1時間後

俺はあの後近くにある温泉施設にこいつらを連れて行きとりあえず軽く飯を摘ませた後先ず初めに風呂に入れた。あの汚くなったローブはコインランドリーで洗濯中だ。そうして出てきた2人はレンタルの浴衣を借り、食事処に集合すると同時に驚くほど食べ始めた。ぶっちゃけ小猫に匹敵するくらい。まぁ、ここの飯は確かに美味い。その代わり一般人からすれば値は張るし、何よりそんなガツガツ食べるところでは無いのだが仕方ないだろう。ぶっちゃけ風呂と飯がセットなのはここしか無いし……

 

しかしこいつら浴衣が思いの外似合いやがるな。

イリナの桃色の浴衣もゼノヴィアの空色の浴衣も彼女達と見事にマッチしている。無地なのにこんなにも魅力を引き出せることに対して、地味に驚きだった。

 

 

「ふぅ、昨日だけでなく今日までも……本当に感謝してもし尽くせない」

 

「はふぅ〜、ご馳走様でした」

 

俺がそんなことを思っていると、食事を終えた2人はそう言って胸の前で十字を切った。悪魔にとってそれだけで頭痛が襲うモノだが、現在俺は阿朱羅丸の力を使っているため効かない。

 

ソーナ達は勘違いで俺が気配を消していると思っているらしいがそうでは無い。

 

これは気配を消すなんて安いものではなく俺の身体を悪魔から塗り替えているのだ。そもそも阿朱羅丸の最大の武器は血を飲んだ者の力をコピーすることでありこれはその応用に過ぎない。

 

要は阿朱羅丸が吸った人間の血から人という力を俺の身体に上書きすることで一時的に悪魔でなくなっているということだ。

 

「まぁ気にすんな。あんな状態の奴らをほっておいたらこっちが後味悪くなる」

 

「そうか?でも本当に助かった」

 

そう言って青髪の少女は頭を下げてくる。

 

「っと、そう言えばこんなに世話になってしまったのに名前を名乗っていなかったね。私はゼノヴィア・クァルタだ」

 

「私は紫藤イリナ、助けてくれてありがとね」

 

そう言って名乗られてきてはこちらも名乗らないわけにはいかない。まぁ、セラフォルー様の女王とはいえ、そこまで目立ったことは3ヶ月前のゲームの時くらいだし大丈夫だろう。

 

「駒王学園2年、比企谷八幡だ」

 

「わー、じゃあ私達と同い年なんだ。」

 

そう言って彼女は笑顔で俺の手を取ってくる。

 

ん?この笑顔何処かで……

 

「ふむ。こう言っては失礼かもしれないが、この間の制服姿を見ていなかったらとても同い年には見えないな。なんていうか……すごく大人びている気がする」

 

俺がイリナの笑顔に引っかかっているとゼノヴィアが俺に向けて話しかけてくる。

 

 

「まぁな。誰もが見て見ぬふりしているような世の中のことを真っ向から直視してきたからな。その反動か何かだろ」

 

「……もしかして何かあったんですか?なら私達に話してみませんか?一応こう見えても教会の人間ですから。話してみたら神は手を差し伸べてきてくれます」

 

そう言ってイリナ、そしてゼノヴィアは俺の方を真っ直ぐ見つめる。その眼には俺に対する悪意など無い。彼女らはおそらく信仰に忠実なのだ。だからこそ悪意が無い。俺が悩んでいると思い、本当に親切心や慈愛を持って俺に問いかけてきているのだ。

 

「いや、もうだいぶ前に解決したことだ。だから大丈夫だよ。親切にありがとな」

 

そんな彼女達の言葉を俺は断った。

もう済んでいることだ。俺の悩みは既に神ではなくそれと相反する存在により解決されている。それでも彼女達の親切心は有難かった。

 

でも、だからこそ申し訳なさを感じてしまう。

俺自身正体を隠していることに、そして……

 

既に彼女らが信仰している神がいないということに……

 

 

「そうですか……でも、悩んだらいつでも相談してください」

 

そう言ってくるイリナ達に対し、俺は申し訳ないと思う気持ちを圧し殺し問い始める。

 

 

「そう言えば、2人はどうしてここに来たんだ?あんな風になってたってことはここの地理にそんなに詳しく無いし当ても無いんだろ?」

 

俺の言葉に2人は少々悩みながら答えてきた。

 

「あ、えっと仕事できたんです。昔この辺に住んでたことがあって大丈夫かなって思ったんですけど……」

 

「イリナが住んでたのは子供の頃の話だろ、覚えてなくても仕方ないさ」

 

イリナの言葉をゼノヴィアがフォローする。その時だ、俺の中で1つのかけていたピースがはまった。

 

聖剣使い

昔この街に住んでいた

子供の頃

この容姿

おれやイッセーと同い年

 

………っ

 

こいつイッセーと写っていた奴か⁉︎

 

ピースがはまり結論が出た後俺を襲ったのは面倒ごとの予感だった。ただでさえコカビエルとかで面倒なのに、この後に及んであの写真の子が教会の使い、それもリアル聖剣使いとしてここに来たということを木場が知れば面倒になることは確実だ。

 

(どうしたもんかね……)

やれやれと思いながらも既にある程度の覚悟は決まっていた

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

俺が面倒なことを予感しながら考えに没頭していると不意に声をかけられた。

 

「大丈夫ですか?なんか怖い顔してましたけど……」

 

「この目なら元々だぞ……」

 

彼女達が前にいるのに考えに浸ってしまった俺は、それに対して不信感を持たれまいと、無いも同然のユーモアを使う。

 

「そ、そういうことじゃ無いですよ⁉︎」

 

「確かに独特な眼をしているがイリナは怖かったのか?」

 

「ち、違うって⁉︎」

 

俺の言葉にゼノヴィアが乗ってくれたおかげでどうにかごまかせた。やってみるもんだな……

 

 

「それでお前ら今日はどうすんだ?明日学校に行くとしても今日の寝床ねぇんじゃねぇの?」

 

じゃれ合っていた2人の身体がピクリと動きを止めた。

 

「だ、大丈夫よ‼︎いざとなったら箱を持ってお願いすればお金をくれる人がいるはず‼︎」

 

「そうだな‼︎迷える子羊を救ってくれる者が他にも現れるはずだ‼︎」

 

いや、それ完全に乞食と変わらないぞ……

 

 

はぁ、と思わず嘆息を吐き俺は財布から諭吉さんを複数取り出す。

 

「ほれ、これでしばらくは持つだろ。これでその辺の格安のホテルに泊まったり、飯を食ったりしてしのげ」

 

そう言って俺はスーッと諭吉sを机の上に滑らせる。

 

「え⁉︎で、でも⁉︎」

 

「そうだ、これ以上助けてもらうわけには…」

 

「遠慮すんな。困った時はお互い様だ。それでなんとかやってけ。俺はこの後やることがあるからこれで失礼するぞ。乾燥機に入れてたローブも脱水終わるだろうし、一先ずはここに一泊してその後は格安のところに変えろよ」

 

そう言って俺は立ち上がる。

 

「「ほ、本当にいいの(か)?」」

 

「かまわねぇよ。じゃあな」

 

そう言って俺は外に出て行く。

出る際後ろから物凄い大声で感謝の声を述べられたが他の人の視線もあるので振り向かずに帰った。

 

というより、あの2人の容姿と食べっぷり、そして声の大きさや言動から終始目立っていたので俺にはそろそろ限界だった。

 

 

 

 

 

「ふぁぁあああ」

 

翌日大きなあくびをしながら俺は街中を歩いていた。学校はサボりだ。

 

というのも今日はオカルト部にイリナとゼノヴィアが来る可能性があるため仕事があると嘘をついて学校をサボった。別にそこまでして隠さなくてもいい気もするがあんなことをした手前悪魔ですよーっと会うのが少々辛かった……

 

 

あくびをしているのは夜遅くシノン達からの電話のせいだ。マジでなんで冥界とこっちで繋がっちまうんだよ……

 

 

 

しかし暇だ。

いつもなら仕事とかあるのだが、この前の協力者との接触でコカビエル側の戦力と目的がわかってしまい、尚且つ協会側の投入戦力もわかってしまっているので、久々にやることがなかった。

 

 

しかし、久々の何も無い時間だからか俺の中に流れるぼっちの血が騒ぎボーッとしながら歩いていると気がつけば夕方になっていた。

 

え⁉︎マジで何これ怖い。

 

久々に感じた時の流れの速さに戦慄していた俺だが突然声をかけられた。

 

「八幡君」

 

振り向いた俺の目の前には俺が昨日危惧していた人物……木場祐斗がいた。

 

 

 

八幡side out

 

木場side in

 

 

 

僕は悩んでいた。

あの日、イッセー君の家であの剣を見た時僕の中で落ち着いていた炎に燃料が投入された。

 

あの時、すぐにでも動き出したかった。

聖剣の手がかりがそこにあったから。

 

しかし、そんな僕の炎を止めたのはあの10日間の出来事。ユウキさんやヴィザ翁の言葉が鎮火剤となり僕の心を押し留めた。

 

しかし、今日……

聖剣使い達が僕の前に現れた。

思わず剣を振りたくなる。

今すぐにでも壊せと心の中で何かが叫んでいた。止まれ、止まれと必死に腕を握り抑え込む。ここでやれば部長達にも迷惑をかけてしまう。並の者では聖剣には勝てないし、ましてや悪魔にとって聖剣はそこにあるだけで脅威だ。

 

 

話が終わり彼女達が帰ろうとした時、彼女達はアーシアさんの存在に気付き彼女を否定した。

 

それがきっかけでイッセー君が激怒し2人に手を出そうとする。

 

「イッセー君、抑えて‼︎」

 

気がつけば僕は叫んでいた。

 

「なんだよ木場‼︎お前はなんとも思わな……」

 

声をあげたイッセー君は途中で言葉を止めた。

 

「祐斗⁉︎何してるの⁉︎」

 

部長が叫んだところで僕は初めて気がついた。僕の右手の爪が左腕に深く、深く喰い込み服が血で染まっていっていることに……

 

 

「っつ⁉︎」

 

気が付いた瞬間腕に痛みが走る。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

そう言って近づいてきたアーシアが僕の腕の傷を治していく。

 

 

「やはり、悪魔の傷を治すか……」

 

冷たく言い放ったゼノヴィアの声に再びイッセー君が反応した。

 

「お前な‼︎」

 

そう言って今にも飛びかかりそうなイッセー君の腕を掴み止める。

 

「放せよ木場‼︎」

 

声を張ってくるイッセー君に対して僕は思わず言ってしまう。

 

「僕が耐えてるんだ。イッセー君も耐えてくれ‼︎」

 

「ゆ、祐斗⁉︎」

 

その他の声は今まで出したことが無いほど低く、憎悪に塗れていた。そんな僕の声と様子を見てか部長も先ほど以上に驚いている。

 

「ふん。そこの男はよくわかっているようだな」

 

そう言って彼女らは帰って行った。

 

 

「どうして止めたんだよ木場‼︎」

 

止められたイッセー君は彼女達が消えた後も声をあげる。僕の過去を知っている部長達の顔色は悪いが……

 

「さっき言った通りだよ。僕が我慢してるんだから、君にあそこで突っかかって欲しくなかったんだよ」

 

そう言って僕はドアの方へと歩いていく。

 

「おい‼︎どこ行くんだよ⁉︎」

 

「待ちなさい祐斗⁉︎」

 

イッセー君だけでなく部長も声をあげた。

おそらくは僕が1人で無茶をしようとすると思っているんだろう。

 

 

「別に、じゃあね」

2人の制止の声も聞かず僕は部室を後にした。

 

とある事が思い浮かんだから……

 

思い浮かんだ事が正しいかどうか、答えが知りたくて僕は街中を歩いた。

 

そうして夕日が沈みかけた頃、僕はようやくその答えを知る人物と会う事ができた。

 

 

「八幡君」

 

僕の声を聞き振り向いた彼だが特に驚いた様子はなかった。もしかしたらこれすら予想していたのかもしれない。

 

 

「ん?どうしたんだ?」

 

そう聞いてくる八幡君だが、彼を前にいざ聞こうと思うと言葉が出てこなかった。

 

「えっと…………」

 

言葉を出そうとしては飲み込み、また出そうとして飲み込む僕に痺れを切らしたのか、その答えは聞く前に彼から発せられた。

 

 

「ゼノヴィア達にでもあったのか?」

 

「やっぱり……知ってたんだね……」

 

やはり彼は知っていた。

聖剣使い達がこの地に来ていることを。

そもそも、セラフォルー様の女王である彼がこの地に来た者達について知らないわけは無いと思っていたが、名前まで知っていることから、かなり深くこのことについても既に知っているのだと理解した。

 

「まぁな。俺にはいろんなところにツテがあるから情報が回ってくるのが早いんだよ」

 

そう言って彼はこちらを見据えてくる。

その眼はいつもの腐った目ではなかった。

それは澄んだ瞳。

そこには普段の彼ではなく魔王セラフォルー・レヴィアタンの女王比企谷八幡の姿があった。

 

なにもかもお見通しなのか……

 

そう思い思わずはぁと息を吐き出す。

 

「それで、木場……お前はどんな答えを出したんだ?」

 

「僕は……」

 

 

魔王の右腕に問いかけられた僕は自身の解を彼へと打ち明けるのだった……

 

 

 

 

 

 




今回は前回よりも短めになってしまいましたね。
でも次回はマジ長めです。
ご期待ください。

それと感想本当にありがとうございます。
感想を見てさらにやる気を出してるので感想お待ちしてます。
ではでは( ´ ▽ ` )ノ






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各々は想いを握り動き出す

お約束通り長めです。

どうぞご覧下さい。


ふぅε-(´∀`; )ホットミルク飲んで寝よ……


今俺の目の前には1人の悪魔がいた。

その悪魔の瞳はまだ揺れている。

彼は恐らく過去と現在との葛藤を抱えているのだろう。その迷いは俺がどれだけ言おうと拭えはしない。それを拭うには自分で割り切る以外手段はない。でも、それでも彼は……そんな状態でも彼は何かを想い、何かを成し遂げようと俺の前に現れたのだ。

 

ならば俺はそれに応えなければならない。

これから彼がどんな解を出すのかは俺でもわからない。それでも彼自身が考え、そしてそれを実行しようとしているのだ。だから俺もそれを受け止める。

 

 

「それで、木場……お前はどんな答えを出したんだ?」

 

「僕は……」

 

俺の言葉に木場は暫しの間俯くも意を決したように発する。

 

 

「僕はどうしてもエクスカリバーを壊したい」

 

わかりきっていた言葉。

しかし、これが彼の解では無いだろう……

 

 

「八幡君は僕の過去のことも知ってるんだよね?」

 

「ああ」

 

彼の本音でありそして解である部分を語る前に木場は確認を取ってくる。それを取り終えるとポツリポツリとつぶやき始める。

 

 

 

「みんなは殺されたんだ。みんな主のためと辛いことにも耐えていたのに……自分たちはいつか選ばれるって信じていたのに……そんなみんなを殺したもの達を僕は許せなかった。聖剣計画の首謀者も、エクスカリバー自身も……いつか必ず壊すと、そう心に決めていた。それが唯一生き延びた僕の贖罪であり義務だから……」

 

そういう彼は拳を握り締める。

彼の過去は中々に凄惨なものだ。

聖剣計画。

僅かながらも素質を持つ人間を材料にして集めた因子を凝縮、これを移植して人工聖剣使いを作り出す計画。木場はかつてこの計画の被験者であり、教会の人間に利用されそして最後は切り捨てられたのだ。彼もまた恵まれぬ過去を持っている。そんな彼が今自身の思いを打ち明けてくる。

 

 

 

「でもそれと同時に僕は、ずっとずっと思ってたんだ。僕が……僕だけが生きていていいのかって……僕よりも生きたい子がいた、僕よりも夢を持っていた子がいた……それなのに僕だけが生き残り、平和な暮らしを過ごしていていいのかって…どうして僕だけが生き残ったんだって‼︎」

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間俺はかつて、ある少女が俺に対して発してきた言葉を思い出し、木場とその少女の姿が重なって見えてしまった。

 

『みんな死んだ……ねぇちゃんも母さんも父さんも……それなのに…どうして僕だけが逃げ延びてるんだよ‼︎死ぬために生まれた僕がどうして……僕は父さん達みたいに何かを生み出すことも与えることもできやしない。なのに……どうして僕だけが…………たくさんの薬や機械を無駄遣いして、周りの人たちを困らせてその果てにただ消えるだけの僕が生き延びてるのに、どうしてみんなが死んだんだよ……』

 

 

彼とその少女がその言葉を発した理由はまるっきり違う。そこに至るまでの経緯も……

 

だが、どちらもそこには取り残された者の悲痛な思いが含まれていた。それは俺が唯一、未だに知らない痛みだった。

 

 

本当のつながりがあるからこその苦痛。

本当に大切なものとの別れ。

一度できたからこそ、それを失うことはとてつもなく怖く、そしておそらくだが想像ができないほど辛いのだ。その痛みは知らなくともその恐怖はかつて味わったことはあった。

 

その時俺はそれを恐れていた。

何としてもそれを阻止しようとした。

それこそ身体を明け渡してまで……

 

 

 

「だから僕は何としてもエクスカリバーを壊したい。僕の剣に……魔剣に僕の想いをのせて。それがみんなへの唯一の手向けとなるだろうから………」

 

俺が木場を重ね合わせる間も彼は一言一言口にしていく。

 

「でも今の僕じゃ恐らくエクスカリバーは壊せない。あの2人に会ってそう思った……だから八幡君に力を貸して欲しいんだ」

 

 

そう言って木場は頭を下げてくる。

 

 

「イッセー達には頼らないのか?」

 

「イッセー君達なら手伝おうって言ってくると思う。でも、できることなら彼らを巻き込みたく無い。聖剣は悪魔にとって擦り傷でも重症になる程のものだ……だからみんなを巻き込みたく無い……僕はまた…誰かを失いたく無い……」

 

 

それがこいつの答えか……

エクスカリバーの破壊。

目的は一切変わってはいない。

ただ、ヴィザの言葉を……ユウキの言葉を受けて、彼はそこに至るまでの道筋を大きく変えていた。

 

(1人だけでやるんじゃなくて誰かを頼る……剣に被害者達の恨みをのせるのではなく、自身の想いを剣にのせる……)

 

木場がもし主を持っていなければ……或いは主が俺ならばその答えは最も良い答えだろう。だが……俺はこいつの主ではない。

 

 

「断らせてもらうぞ」

 

俺の言葉に木場は目を見開いた。

 

「ど、どうして?」

 

「俺はお前の主じゃない。ましてやお前にそこまでしてやる義理もないからな」

 

「で、でも……」

 

俺の返答に木場は必至に言い返そうとするが俺はそれをさせる前に言葉を吐く。

 

「頼む相手が違うだろ?木場……お前の主はリアス・グレモリーだ。そしてイッセー達はお前の仲間だろ?仲間なら迷惑なんてかけてなんぼだ。巻き込みたくない?ふざけんな。お前があいつらを巻き込みたくないのと同じくらいあいつらはお前を助けてやりたいと思ってるんだよ」

 

その言葉に木場は押し黙る。

 

「だから後はそこで立聞きしてる奴らに頼れ」

 

「え?」

 

俺の言葉を不思議に思い振り木場は振り向く。すると物影から申し訳なさそうにリアス・グレモリーやその眷属達が出てきた。

 

「みんな……」

 

そこにいた彼女らに木場は驚いている。

後はイッセー達に任せればいいだろう……

 

 

「じゃあな頑張れよ」

 

そう言って俺はその場を後にした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、似たような言葉をこんなとこで聞くとは思わなかったな……」

 

《なになに?珍しく昔のことでも思い出しちゃった?》

 

俺がふと呟いた言葉に何処からともなくそれに応える声が聞こえた。

 

「珍しいじゃねぇか。お前がこんな時間から起きてるなんて」

 

《別に普段はやることがあんまりないから寝てるだけでいつも寝てるわけじゃないよ‼︎》

 

俺が返答するとその声は何処か拗ねたような声を発する。

 

「いつも夜は構ってやってんだろ阿朱羅丸」

 

《それとこれとは別さ》

 

話し相手はかつて俺の身体を幾度となく乗っ取った吸血鬼。だが、こういう風に話す様子からはそんなことは想像もできないだろう……

 

「はぁ、わりぃな最近はあまり構えなくて…」

 

《ハチが忙しいのはわかるけどさ……それにこうして話すのは久々だろう?》

 

そういえばそうだ。

最近は仕事で忙しかったうえ、家には小猫がいるためあまりこちらでは話ができない。無論その分寝ている間、阿朱羅丸の精神空間でめちゃくちゃおしゃべりしているが……

 

 

《まぁ、それはいいや。それよりもどうするのさ?》

 

 

「鬼呪召霊をやる」

 

阿朱羅丸の問いに俺は瞬時に答えた。

 

《相変わらずだねぇ。力を貸さない様に言いながら結局手助けしてあげるんだから……それとも彼とユウキが重なって見えたかい?》

 

阿朱羅丸の言葉に不意に足を止める。

 

 

《確かに込められた想いは似てたよね。まぁ、僕から言わせればユウキの方がもっと重く深刻だった気もするけど……それでも彼のあの出していた雰囲気は、込められた気持ちはユウキに似てたよ》

 

「そうだな……」

 

阿朱羅丸の言葉を俺はただ肯定した。

確かに俺は木場とユウキを重ねて見てしまった。大切な者を殺されたという意味であの2人は似ており、そして俺に対して発した言葉に込められた思いも似ていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信頼し合っているが俺とユウキが出会ったのはそんなに昔ではない。更に言えばユウキが今の様に明るくなったのは実は最近の話でもある。

 

 

俺の眷属は実は3種類に分けられる。

1つは俺が爵位をもらった後に出会い眷属となったやつ。

 

2つ目はそれ以前から交流があり現時点で眷属となっているやつ。

 

そして最後は眷属になる予定だが現在協力者として各勢力に紛れているやつだ。

 

 

ユウキの場合1つ目に当てはまる。

 

 

俺とユウキがあったのは俺が爵位をもらい、そして雪ノ下達の前から姿を消してからすぐのことだった。

 

【ダルクスの災厄】

 

それが俺とユウキが出会うきっかけだった

 

 

当時とある国で起こった奇病があった。

【拡散性ALS】

 

それが当時その地域で急速に広がっていた病だ。ALSとは萎縮性側索硬化症の略称で重篤な筋肉の萎縮と筋力低下をきたす神経変性疾患であり現在でも解明されていない病だ。

 

しかしこの拡散性ALSは従来のALSとは違った。名前はあくまで症状が似ていたためつけられたものであり、この病気はウイルス感染症とされていた。そしてその病は感染経路が完全に特定される頃には既に1国丸々を覆っていた。

 

そんな病気の蔓延した国でユウキは生まれたのだ。

 

 

ユウキの両親は医師としてこの病気を解明するためにその国に訪れ、そこでユウキを生んだのだが、医師としてその国にいた両親は既にウイルスに感染しており、生まれてきたユウキにはその病が遺伝子レベルで引き継がれていた。

 

しかし本当の悲劇はそれではなかった。

それはユウキが12の頃、ユウキの親がウイルスの感染経路を見つけた時に起こった。

 

 

 

当時現代医学では決して治せないとされていたこの病気も完全な感染経路を除き多くのことが解明されていた。

 

このウイルスが感染病であること。

このウイルスは感染するとともに遺伝子レベルにまでその猛威を振るい生まれてくる子供すらこの病にかからせること。

そして、従来のものとは違い初期の進行速度が異常に遅いにも関わらず末期になるとそれが急速に進行していく。それ故感染しているかどうかが非常にわかりにくい。

そして空気感染すること。しかし、空気感染だけではないということだ。

 

 

というのも街の隔離を繰り返して尚感染が止まることはなかった。故に医師達は感染経路を血眼になって探した。

 

そしてユウキの親が見つけた結論は当時その国を治めていた者にそして周辺国に恐怖を植え付けた。

 

この病の最大に恐ろしい点は植物にすら感染することだった。そしてウイルスは花粉にすらその猛威を乗せ広がるということ……

 

ユウキの親がそれを発表した時、当時の周辺国の動きは早かった。

 

モタモタしていれば自国にすら被害が及ぶ。

そう考えた周辺国はその国を焼き払った。

 

感染しない様に防護服を身に纏ったもの達がその国を焼き払い始めたのだ。その国は周辺国によりわずか7日で焦土と化した。

 

そしてこの事件はその周辺国の人種の名前をとってこう呼ばれた《ダルクスの災厄》と。

 

 

そんな災厄の中で俺はユウキと出会った。

 

あの時、家族の手により1人逃げ延びていたユウキの強い想いを感じ取った阿朱羅丸に促され、俺はユウキの前に訪れた。

 

逃げ延びていたユウキは死にかけていた。季節は冬。雪が地面に積もり、そしてユウキの上にも積もっていた。それでも彼女は地を這いながらなんとしても生き延びようとしていた。

 

「よう」

 

「君は…….だれ?」

 

雪に囲まれ、静まり返った空間の中あまりにも気楽な声を俺は出し、彼女は困惑しながら問いかけてくる。

 

それが俺とユウキとの始まりだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《おーいハチってば》

 

ふと昔のことを思い返していると阿朱羅丸の声が聞こえ俺は現実へと引き戻される。

 

「なんだ?」

 

木場のあの言葉のせいですっかりユウキとの出会いを思い返してた俺は頭を切り替え問う。

 

《昔を振り返っているところ悪いんだけどさ、どうやら動いたみたいだよ?》

 

気がつけば日も沈み夜になっていた。

 

「どんな感じだ?」

 

《うんとね、なんか堕天使陣営の敵を聖剣使い2人とあの魔剣使い君が追っていったよ。あと、なんかソーナちゃんとその眷属達も集まってるね》

 

リアス・グレモリーはどうやらソーナ達にも援助を求めたか……まぁ、背後にコカビエルがいるなら仕方ないか……

 

「阿朱羅丸、相手は堕天使の幹部だ。だから…」

 

《わかってるよー》

 

俺の言葉に最後まで言うなとばかりに阿朱羅丸は声を発してくる。

 

《いつでも力を貸すさ。僕はハチの家族だからね》

 

顔は見えないがそういう阿朱羅丸は笑っている気がした……

 

 

「それじゃあ、そろそろ本格的に動きますか……」

 

そう言って俺は動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

八幡side out

 

イリナside in

 

 

 

 

 

 

気がつくと私は教会の廃墟にいた。

どうして?と身体を動かそうとすると身体に激痛が起こる。

 

「起きたか?」

 

その声は目の前の男性から発された。

 

「八幡君?」

 

「まだ動くな。一応応急処置はしたがまだ身体にダメージは残ってるからな」

 

ダメージ?

彼の言葉に首をかしげるた時ようやく私の記憶は覚醒した。

 

「そ、そうだ‼︎ゼ、ゼノヴィアは⁉︎」

 

そう、自分は昨日堕天使陣営の者とやりあっていたリアス・グレモリー達を見てその戦いに参戦し、逃げた堕天使陣営の者を木場祐斗と追っていた。その先でフリードセルゼンにやられて、しかもその後にコカビエルまで出てきて………………

 

そこまで考えるとふと私の脳裏にあることがよぎった。

 

「八幡君って何者なの?どうしてここに?」

 

そう、彼の正体だ。

あの時コカビエル達に私の聖剣を取られた後から私はあまり覚えていない。でも、あそこで私が倒れていたにも関わらずここにいる。運んだのが彼だとしたら彼はいったい……

 

「コカビエルがお前を殺そうとしてたからな……まぁ、少しだけだが関わりのあるお前をあそこで見捨てるってのは流石に良心が痛んだだけだ。ゼノヴィアは今、リアス・グレモリー、ソーナ・シトリー達と合同でコカビエルと戦ってる」

 

そこまで一気に言うと彼は一息つき更に一言加える。

 

「んでもって俺はセラフォルー・レヴィアタンの女王だ」

 

そう言った彼から悪魔の気配が漏れ出す。先ほどまでは一切感じなかったのにいきなり感じた気配に私は驚きを隠せなかった……

 

「うそ……」

 

信じられなかった。

彼が悪魔だとしたら、私たちのことを知っていたはずだ。自分達が聖剣を持っていることに……でも彼は私達を助けてくれた……それになんでさっきまで悪魔の気配を感じれなかったのだ……どうして、どうしてと幾つもの疑問が私の頭の中でぐちゃぐちゃに混ざっていく。

 

「隠してて悪かったな」

 

そんな私に対して彼は本当に申し訳なさそうに言ってくる。その様子が更に私を困惑させた。

 

「まぁ、ゆっくり休め。じゃあな」

 

そう言って外へと歩いていく。

その背中に悪魔の翼が生える。

やはり……本当に悪魔なのだ……

 

聞きたいことはいろいろあった。

それでも私は言葉を続けられない。

覚醒した私の意識はそこでまたゆっくりと閉ざされていった。

 

 

 

 

 

イリナ side out

 

八幡side in

 

 

 

 

 

教会跡地を出た後俺は駒王学園上空を飛んでいた。今現在学校は結界に覆われている。張っているのはソーナとその眷属達。街に被害がいかないようにしているのだ。

 

俺の視線の先には高笑いをしているバルパー・ガリレイ。協力者からの情報では彼が聖剣計画の首謀者だ。

 

そしてそのバルパーの前で木場は何か青いクリスタルのようなモノを抱えている。アレについてもきいている。確か、聖剣の因子を集めた結晶だ。そしてその様子からそれが彼のかつての仲間達のものだということがわかった。

 

 

 

「あいつが言ってた通りだ。あの結晶があるなら割と簡単にできそうだな……やるぞ阿朱羅丸」

 

《はいよー》

 

それを見た俺は手を木場に向けると魔方陣を展開する。

 

「な、なに⁉︎」

 

突然木場の周囲に現れた複数の魔方陣を前にリアス・グレモリー達が驚きの声をあげていた。

 

「繋ぎを握りてここに定めん」

 

そう俺が呟くと魔方陣から木場の周囲の魔方陣からでた糸のようなモノが彼の握りしめる結晶と結ばれる。その瞬間、魔方陣もまた結晶と同じ青色へと染まっていく。

 

「鬼呪をもって此の鍵とす」

 

校庭では何が起きているのかわからない面々がいるが次の瞬間彼らの目の前に信じられない光景が生まれる。

 

「開け霊門」

 

俺がそう言った直後、木場の周りに展開していた魔方陣は消える。しかし、それと代わるように人型の半透明な存在が彼の周りを包む。

 

 

 

八幡side out

 

イッセーside in

 

 

「…皆。僕は、僕はッ!」

突然現れた光を前に木場は声をあげていた。

 

「あれって……」

「ああ、おそらくは……」

「犠牲者達……」

「おそらく先ほどの魔方陣が影響してるんでしょう」

 

部長達が口々に呟いている。

そして俺にも分かる……あれは処分されたものたち……木場のかつての仲間達だ……

先ほどの魔方陣が彼らを呼び覚ました……

 

 

「僕は…ずっと…ずっと……思ってたんだ、僕だけが生きていていいのかって……僕よりも生きたいと思った子がいた、僕よりも夢をもった子がいた、それなのに僕だけが‼︎」

 

木場を囲んでいる霊達に向かって彼は叫んだ。それは先日、彼が八幡に向かって言っていた彼の本心。それを今かつての同志達に伝えている。

 

そんな木場に対して霊達は彼に囁きかける。

 

「大丈夫だよ……」

「1人では無理でもみんな集まれば……」

「聖剣を…僕達を受けいれて……」

「怖くなんてない…たとえ神がいなくても…」

「神様が見ていなくても……」

「僕たちの心はいつだって……」

 

 

「1つ………」

彼らの言葉を受け木場が最後に呟く。彼の頬に涙が流れ落ちそして、結晶へと雫が落ちる。

 

 

その瞬間彼らは大きな光となって木場の中に流れ込んでいく。蒼白い光が木場を包み込んでいき、彼もまたその流れに身を任せている。

 

《相棒》

 

「ズズッ。な、なんだよ」

顔を鼻水でぐちゃぐちゃにしている俺にドライグが話しかけてくる。

 

《あの騎士は至った……所有者の想いが……願いが……欲望が……此の世界に漂う流れに逆らうほど劇的な転じ方をした時神器は至る……それこそが禁手化だ‼︎まぁ……至った過程にクソむかつく奴が関わっているがな》

 

 

 

 

 

 

「同志達は復讐なんて望んでいなかった……でも、僕は君たちを倒さなきゃならない……第2第3の僕たちを生まないために……今ここで君たちを倒す‼︎」

 

そう言って木場は手に1本の剣を作り出す。その剣を禍々しさと神々しさ……相反する筈の2つのオーラが混じりながら包み込んでいく。

 

「フ、フリードぉぉぉぉおお」

 

その雰囲気を危険視したバルパーは声をあげて彼の後ろに控えるフリード・セルゼンを呼ぶ。

 

「あいあいさー」

ふざけた返事をしながらバルパーの前へとやってきたフリードは相変わらずふざけながら言ってくる。

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃ、この4本のエクスカリバーをくっつけたエクスなカリバーちゃんに勝てると思ってんのか?」

 

あいつ………

 

「祐斗‼︎」

 

フリードのふざけた態度に怒りがこみ上げる中隣にいた部長が木場に向かって叫ぶ。

 

「やりなさい。貴方はこのリアス・グレモリーの眷属なのよ。その剣でグレモリーが威を示しなさい‼︎」

 

「はい‼︎」

 

「おーおー、くせぇくせぇ。手加減してやっからさっさと来いよ」

 

部長と木場のやり取りにすら茶々を入れるフリードだが、そんな奴に向かって木場は向かっていく。

 

「僕は剣となる。僕と1つになった同志達の魂と共に……あの時果たせなかった想いを……願いを……今ここで果たす‼︎禁手【双覇の聖魔剣】聖と魔の性質を持ち合わせるこの力…….同志達が与えてくれたこの力……破れるというのなら破ってみろ‼︎」

 

そう言って木場は黒と白の入り混じった剣をフリードに向かって薙ぎ払う。

 

「おいおいマジですかい⁉︎御本家を超えるとかどんなチートだよ⁉︎」

 

しかし、フリードもエクスカリバーで持ってそれを防ぐ。悔しいが剣の腕自体はフリードに分があった。

 

「そのままそいつを抑え付けておけ。あれはもう聖剣であって聖剣ではない。ただの異形の剣だ。そんなものいまここで砕く……そしてイリナの仇を今ここで取る‼︎」

 

そう言って剣技の差を埋めるようにゼノヴィアが介入してくる。

 

左手に持った聖剣を地面に突き刺すと右手を掲げ声を張る。

 

「ペトロ…パシレイオス…ディオニュシウス…そして聖母マリアよ私の声に耳を傾けてくれ。この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。こい、聖剣デュランダル‼︎」

 

そう言うと彼女の手の先に魔方陣が現れそこから大剣が現れる。

 

 

「マジすかぁぁああ⁉︎そんな超展開は流石にごめんなんすけど⁉︎」

 

ゼノヴィアの切り札にフリードが思わず絶叫する。そんな彼を無視し彼女は大きく振りかぶりデュランダルを振り下ろす。

 

「あぶねぇぇぇえええ⁉︎」

 

両手で剣を持ちゼノヴィアの一撃を防ぐが更にフリードが叫んだ。

 

「ちょ⁉︎ヒビ入ってる。エクスなカリバーちゃんにヒビ入ってるって。これ以上は折れるからやめて⁉︎」

 

そんな彼に向かって木場は聖魔剣を振り下ろす。

 

バキィィィィンと校庭に音が響き渡ると共にエクスカリバーが砕かれフリードも斬り伏せられる。

 

「みんな……見ていてくれたかい?僕らの力はエクスカリバーを超えたよ」

 

 

 

 

 

「聖魔剣だと⁉︎そんな馬鹿な⁉︎ありえるはずがない……反発するものが混ざり合うなど…いや、そうかわかったぞ‼︎聖と魔を司るバランスが崩れているならこの現象にも説明がつく。つまり……つまり魔王だけでなく既に神も………」

 

 

自身の傑作であるエクスカリバーが折られたとこに戸惑いながら何か呟くバルパーだが、次の瞬間彼の体を光が貫き、彼はただの肉塊と化した。

 

「バルパー、お前は優秀だった。その考えに至れたのもそれ故の事だろう。だがもとより俺一人で十分だ」

 

バルパーを殺した張本人コカビエルが遂にその腰を上げ校庭にいる者全てを威圧してくる。

 

「おい、お前……赤龍帝の力を限界まで高めて誰かに譲渡しろ」

 

「なんだと⁉︎」

 

「私たちにチャンスを与えるというの⁉︎ふざけないで‼︎」

 

コカビエルの唐突な申し出に俺も部長も声をあげる。

 

「ふざけているのはお前らだ。本当にこの俺を倒せるとでも思ってるのか?」

 

再び威圧が俺らにかかる。だがそれは先ほどよりも強力だった……

 

「っ⁉︎」

 

その威圧に反応するように俺は力を上げていく。その間もコカビエルは動く気配がない。

 

 

そうして限界まで高まった力を部長に譲渡した瞬間、部長が……コカビエルが動いた。

 

「はぁぁぁあああ」

 

譲渡した力を、渡した力の限りを尽くし部長はコカビエルに滅びの魔法を放つ。

 

 

「ははははは、面白いな魔王の妹、サーゼクスの妹よ、だが‼︎」

 

そう言ってコカビエルが振るうと逆に部長が吹っ飛ばされた。

 

「部長⁉︎」

 

渾身の一撃を容易く破られ倒れた部長に駆け寄った瞬間。

 

「はっ‼︎」

 

朱乃さんが雷を放つ

 

「俺の邪魔をするかバラキエルの力を持つ娘よ。でも、俺には届かんぞ?」

 

しかし、その雷すら簡単に弾かれ、彼女もまた吹き飛ばされる。

 

「バラキエル?」

 

「雷を自由に操る堕天使の幹部の名だ」

 

俺の出した言葉にゼノヴィアが答えてくるが、その後コカビエルから衝撃の言葉が発される。

 

「しかし愉快な仲間を集めたもんだ、リアス・グレモリー。赤龍帝に聖魔剣、そしてバラキエルの娘。なかなか集められるものではないぞ」

 

 

「バ、バラキエルの娘だと⁉︎」

 

その言葉に真っ先にゼノヴィアが声をあげる。俺も驚きを隠せない。

 

「朱乃さんが……堕天使の娘⁉︎」

 

「お前もあいつ同様ゲテモノ好きか……」

 

その言葉を聞いた瞬間、部長は立ち上がり怒りをあわらにする。

 

そんな部長の姿を見て俺は再び力を蓄え始める。

 

「ほぉ、今度はお前が来るか?赤龍帝?」

 

「イッセーダメ‼︎」

 

 

コカビエルの言葉をきき、部長が俺に制止の声をかけるが俺は力を溜め始める。

 

「イッセー君は力を……」

 

俺が溜め始めた瞬間、俺の前に木場、小猫ちゃん、ゼノヴィア、雪ノ下、由比ヶ浜がでる。

 

「早くしてください……」

 

そう言って小猫ちゃんを筆頭に、木場とゼノヴィアがコカビエルの元へ駆けていく。雪ノ下と由比ヶ浜は俺の前で俺を庇うように立っていた。

 

 

「「はぁぁぁああ」」

 

ガキんという音と共に木場とゼノヴィアが振り上げた剣は防がれる。しかし両手が塞がったところに小猫ちゃんが追い打ちをかけた。

 

「そこ‼︎」

 

しかし、次の瞬間コカビエルから堕天使の翼が生えそれで3人を吹き飛ばした。

 

 

「「「ぐぅ………」」」

 

「その程度か?」

 

「「まだだ‼︎」」

 

直撃した小猫ちゃんは部長の後ろから心弾銃を放つアーシアによって回復をしてもらう中、木場とゼノヴィアは再びコカビエルへと迫る。

 

「遅いんだよ」

 

 

しかし、再び振るった剣撃も全ていなされ再度吹き飛ばされる。

 

 

「くそ……」

悪態を吐くゼノヴィアだがそんな彼女を見てコカビエルはふむと顎をさすりながら呟く。

 

「しかし、仕える主をなくして尚、よくまぁそんなに戦えるものだな……」

 

「どういうことコカビエル?」

 

「主を亡くしたとはどうしう意味だ⁉︎」

 

コカビエルの言葉に部長とゼノヴィアが答えるが、

 

 

「おっと口が滑ったか……」

 

「答えろ‼︎」

 

コカビエルは適当に流すがゼノヴィアはそれどころではなく声をあげる。

 

「ん?待てよ?んははははは、そうだったな。戦争を起こそうとするんだ、今更隠す必要もないか……ははははははははははは」

 

そんな彼女の言葉を聞くとコカビエルは高らかに笑い出す。

 

「簡単なことだよ」

 

はぁ、と一息つき彼は口を開いた。

 

「先の三つ巴の戦争で……そして二天竜と交えた戦いの中で4大魔王と共に神も死んだのさ‼︎」

 

『な⁉︎』

 

それはあまりにも衝撃的な言葉だった

 

 

「神が……死んだ?」

 

アーシアは膝から崩れ落ちる。

 

「う、嘘だ……」

 

そう言うゼノヴィアもギリギリで持ちこたえているが、全身が震えている。

 

「神が……死んだですって⁉︎馬鹿なことを…そんな話聞いたことないわ‼︎」

そう言う部長も初耳なのかその瞳は揺れている。

 

「あの戦争で悪魔は魔王全員と上級悪魔の多くを、天使も堕天使も幹部以外殆ど失った。もはや純粋な天使は増えることすらできず、悪魔とて純血は希少だろ?」

 

その言葉に全員が押し黙る。

 

 

「もはやどの勢力も脆弱な人間に頼らねば存続できないほど落ちぶれた。天使も悪魔も堕天使も……どの勢力のトップも神を信じる人間を存続させるためにこの事実を隠した……」

 

 

「嘘だ……うそだ……」

 

ギリギリで耐えていたゼノヴィアも膝から崩れ落ち手を地面につける。

 

 

「そんなことはどうでもいいんだよ。俺が我慢ならないのは神と魔王が死んだことで戦争継続を無意味と判断したことだ。堪え難かったんだよ‼︎1度振り上げた拳を抑えることが。あのまま続けていれば堕天使が勝てたはずだ‼︎なのにアザゼルの野郎は2度目の戦争はないと宣言しやがった。ふざけるんじゃねぇ‼︎」

 

そう言ってコカビエルは拳を握る。

 

「主がもういらっしゃらないなら、私たちに与えられる叛意は?」

 

「っは‼︎ミカエルもよくやっている。神不在の中天使と人をまとめているのだから」

 

「大天使ミカエル様が……神の代行……だと⁉︎」

 

アーシアの問いの答えにゼノヴィアは絞り出すように声を発する。

 

「システムさえあれば機能していれば、ある程度はうまくいくだろうしなぁ」

 

その言葉にゼノヴィアもアーシアも目と口を開き呆然としてしまう。

 

「聖魔剣がいい証拠だ。聖と魔を司る者がいなくなったため、そんなイレギュラーが生まれてるんだろ」

 

その言葉に木場が自身の剣を見つめる。

 

「まぁいい。お前らの首を土産にあの時の続きを俺だけでもしてやる‼︎」

 

そう言ってコカビエルは光の槍を放つ。

 

全員が避け、動かないアーシアは小猫が庇うもゼノヴィアだけは間に合わなかった。

 

「危ない⁉︎」

 

誰かがそう叫んび、ゼノヴィア自身も目を瞑る。しかし、その槍が彼女に届くことはなかった。

 

 

「はぁ……やっぱり出張らなきゃダメか……」

 

そこにはよく見知った1人の男が刀を片手に立っていた。

 

 

 

イッセーside out

 

八幡side in

 

 

 

 

「はぁ……やっぱり出張らなきゃダメか……」

 

ずっと上空で彼らの戦いを見ていた俺だがそろそろ限界だった。

 

「なんだお前は⁉︎」

突如現れ自身の攻撃を止められたコカビエルは俺に叫んでくるがそれを無視してゼノヴィアに話しかける。

 

「随分参ってるみたいだな……この前教会で死にそうになってた時より厳しそうだぞ?」

 

「君はいったい……?」

 

突如現れた俺に彼女は戸惑っていた。

 

「無視してんじゃねぇ‼︎」

 

そう言って先程までとは比べ物にならないほどの大きさの光の槍をコカビエルは放つ。

 

「あ、危ない⁉︎」

 

「大丈夫だよ」

 

叫ぶゼノヴィアを他所に俺は振り向きもせず刀を振るい光の槍を霧散させる。

 

「馬鹿な⁉︎」

 

相当力を込めていたのかコカビエルから驚愕の声があがった。

 

 

「君は本当に何者なんだ?」

 

目の前にいる俺にゼノヴィアは聞いてくる。まぁ人間の気配のままこんなことしてたら普通はそう聞いてくるよな。

 

 

「お前もイリナと同じようなこと聞くんだな」

 

「イリナに会ったのか⁉︎」

 

ああ、そういや、イリナの奴は俺が無言でサラッと助けてたからこいつらからしたら死んでると思われてたのか……

 

「ああ、応急処置はして教会跡地に置いてきた」

 

「よかった……」

 

すると彼女は安堵の声を漏らす。

 

「八幡お前今まで何やってたんだ⁉︎」

 

そんなゼノヴィアを他所にイッセーが声を上げてきた。

 

「来るならもっと早く来て欲しかったわ」

「全くですわ」

「先輩……遅いです……」

 

3年2人と小猫が文句を言ってくるが酷いなおい……

 

 

「俺が最初から対処してたら意味ねぇだろ」

 

まぁ、そんな文句はサラッと流すのだが……

 

 

「というか、八幡君は神が死んでいることを知ってたのかい?」

 

「ん?ああ。セラフォルー様に黙ってろって言われてたけどな」

 

木場の質問にサラッとゲロる俺氏。

 

「だから……君は本当に何者なんだ……」

 

3度目のゼノヴィアの問い……

 

それにまたもスルーしコカビエルの方に向き直すと彼に話しかける。まぁ、結果として答えることになってるが。

 

 

「さてと……堕天使コカビエル。現在の状況はリアス・グレモリー及びソーナ・シトリー両名では対処不能と判断。よってこれより魔王セラフォルー・レヴィアタン様の女王である自分が対処を開始しますのでご了承下さい」

 

まるで用意されていた文を読み上げるように言った俺は自身から魔力を放出する。それとほぼ同時に言われた当のコカビエルとそれを知らなかったゼノヴィアは声をあげる。

 

「セラフォルーの女王だと⁉︎」

 

「悪魔……君が?」

 

「隠してて悪かったなゼノヴィア……」

 

イリナに言ったときと同様に申し訳なさそうに俺は呟く。

 

「じゃあ、始めるか?」

 

そして俺はコカビエルに呟く。

 

それと同時に俺から先程とは全く異なる質の魔力が出始めた。

 

 

 

 

八幡 side out

 

ゼノヴィア side in

 

 

「じゃあ、始めるか?」

 

彼がそう言った瞬間彼から出る雰囲気が変わった。

 

 

それと同時にコカビエルが空中に退避しながら彼へと攻撃を放つ。しかし目の前の彼はそれを全て容易くさばききる。

 

「っくそ‼︎」

 

そういってコカビエルが今までにない大きさの光の槍を作りこちらに投げてくる。

 

 

まずい⁉︎

本気でそう思った。

私はまだ立つことができない。

 

「に、逃げるんだ‼︎あれは……」

 

気がつけば声を発していた。

 

(何を言ってるんだ私は……彼は悪魔だぞ)

 

おもわず出してしまった自分の言葉に自分自身が驚くが

 

 

「逃げる理由がねぇ」

 

彼はそう呟くと刀を振るう。

 

そして先程までと同様に光は刀に触れた瞬間霧散していった。

 

「………」

規格外すぎる。

あんな一撃を苦もなく消し去るのか……

 

 

「っちぃ。これならどうだ‼︎」

 

舌打ちしたコカビエルらそういって今度は大量の槍を周囲に出現させた。

 

「これなら防げねぇだろ‼︎」

 

そういってコカビエルは槍を放つ。

それは広範囲で私だけでなく、グレモリー眷属にも及ぶものだが……

 

「阿朱羅観音」

 

そう彼が呟くと周囲に彼の持つ刀と同じものが出現し、光の槍全てを相殺していく。

 

 

「すごい……」

 

力だけじゃない。

操る刀1本1本がまるで達人1人1人に振るわれているかのよう鋭く、自在に操っていることに感嘆の声を出してしまう。

 

「あれを防いだだと⁉︎」

 

「堕天使総督の意すら無視するほど地に落ちたんだ、もうその羽根はいらねぇよな?」

 

そういって彼はコカビエルとの距離を一気に詰めていく。

 

「っく」

 

近づいてくる八幡に対抗するためコカビエルも光の剣を握るが

 

 

「ぐぁぁぁあぁぁぁああ」

 

突如苦悶の声を上げ始める。

よく見ると八幡は自分自身にコカビエルの視線を集めさせ、自分が攻め込むと思わせた上で、先ほどの刀の1本をコカビエルの背後に回りこませ彼の羽根を削ぎ落としていた。

 

うまい……純粋にそう思った。

 

「視野が狭くなってんぞ」

 

そういって彼はコカビエルを地面へと叩きつけた。

 

「っがは」

 

その衝撃でコカビエルは吐血する。

 

「すごいわね」

「こんなに強いのかよ……」

 

後ろから兵藤とリアス・グレモリーの声が聞こえるがまさにその通りだ。

セラフォルー・レヴィアタンの女王と名乗った八幡は堕天使の幹部を前にしても擦り傷すらおっていない。

 

「はぁはぁ、これなら……どうだぁぁぁああ」

 

突如コカビエルの咆哮が校庭に響いた。

見ると身体はふた回りも大きくなっている。

 

「力を全て身体強化に回したのか……悪くねぇけどよ」

 

咆哮を上げたコカビエル迫る中でも彼は平然としている。

 

「無駄だぞ?」

 

《あはははは、Boostだよ》

 

彼の刀の緑色の部分が光ると共に突如彼の近くからどこか幼い感じの少女の声がする。すると目に見えて彼の力があがった。

 

「ほい」

そう短く発しながら彼はコカビエルの打ってきた拳に自身の蹴りを合わせる。そして突進してきたコカビエルが吹き飛んで行った。

 

 

「ごほっごほっ⁉︎い、今のは⁉︎」

 

吹き飛ばされた彼は体勢を立て直すもそれどころではない。私も、私の後ろにいるリアス・グレモリー達も同じだ。

 

「ほらほら、早くしねぇとどんどん勝てなくなるぞ?」

 

《それ‼︎もう一回Boostだよ》

 

再度聞こえてきた声に思わず声を上げたのは兵藤だった。

 

「八幡……何でお前が…….なんでお前がその力を使えるんだよ⁉︎」

 

兵藤の声にその場にいる全員がうんうんと頷いている……いや、塔城だけはじっと八幡のことを見ているが……

 

「それが俺の神器の力だからな」

 

「うわ⁉︎」

 

八幡がそう言うと木場が声をあげる。

みれば彼の腕の部分に先ほどの刀の1本が擦りつけるようにしていた。

 

その時その刀に木場が流した血が付着し、それが刀に吸い込まれるように消えていくのを私は見逃さなかった。

 

「んじゃまぁ、ほれ魔剣創造」

 

「ちぃぃいい」

 

突如自身の周りに現れた魔剣に対しコカビエルは鬱陶しそうに腕を払い剣を砕いていく。

 

「………」

開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。

自身の力を使って見せた八幡に木場は口を開けっぱなしにしている。

 

「これが俺の神器の力なんだよ。」

 

「まさか刀に吸わせた血で、その者の持つ力を使うことができるのか⁉︎」

 

「当たらずとも遠からずってな」

 

コカビエルの荒げる声に彼はあっさり答える。

 

「っこのチート野郎っがぁぁぁあああ」

 

八幡に向かって罵倒するコカビエルだがその声が途中から尋常ではない悲鳴へと変わる。

 

「なぁ、そろそろ終いでいいだろ?」

 

彼が浮かせていた刀を2本、コカビエルの両肩に刺さっているが、先程までとはまるで違う黒いオーラが刀に纏わりついていた。

 

「鬼呪阿朱羅観音」

 

それをくらい膝をついたコカビエルは苦痛の声と共にその2刀を自身の肩から引き抜く。

 

「ぐぁ……なんなんだこれはぁ……」

 

「特攻作用のある攻撃ができるのが天使や堕天使だけと思ったか?お前らが俺らに使う光のように俺もお前らに対する特攻攻撃があるんだよ……まぁ、全種族に特攻だが……」

 

「………」

 

もはやコカビエルすら開いた口がふさがらない。それほどの実力差がこの場にはあった。

 

トドメをさす。そう思った矢先八幡は刀を納刀した。全員がどうして?と戸惑う中彼は空を見つめ大声を出す。

 

 

「んじゃまぁ、そろそろこいつを連れて帰ってくんねぇかな?そこに隠れてる子」

 

「あれれ?バレてたんだ」

 

あまりにも気の抜けた声がその場に響いた。

そしてそれと同時にソーナ達が張っていた結界がパリィンと割れていく。

 

 

そして空から白い鎧をまとった者が降ってきた。

 

「バニシングドラゴンだと⁉︎赤いのにでもひかれたか⁉︎なぜここに⁉︎」

 

「バニシングドラゴン⁉︎」

 

コカビエルの叫び声をきき兵藤も声をあげる。

 

じゃああの者が今代の……

 

 

「っくそ、なんでこいつまで……」

 

「んー。そりゃ君の回収だよ。アザゼルくんから頼まれてねぇ。堕天使幹部と戦える♪って思ったんだけどつまんないの、もう瀕死じゃん」

 

そう言うとコカビエルの元に瞬時に移動しコカビエルを地面へと叩きつけた。

 

「アザ………ゼ………ル……」

 

そうしてその一撃でコカビエルは遂に意識を失った。

 

 

「見事なもんだな」

 

「いやいや、やったのほとんど君でしょ?君強いんだね……今すぐにでもやりあいたいんだけど……今は回収が優先かな……」

 

そう言って白龍皇はコカビエルを肩に担ぎ、続いてフリードの元まで移動するとその首筋を掴み上げる。

 

「さってと……とりあえずはこの辺で……」

 

 

《無視か白いの……》

 

白龍皇が飛び立とうとした時、兵藤に宿る龍が声を上げた。

 

《生きてたのか赤いの……いいさ、いずれ戦う運命だ……こういうこともある》

 

《それもそうか……》

 

それに呼応して恐らく白龍皇の龍が返してくる。

 

《また会おうドライグ》

 

《そうか……またなアルビオン》

 

 

赤龍帝と白龍皇の会話。

そんな稀なシーンを見ている私たちだがそこにいきなりの介入者が出てくる。

 

 

《あはははは、君たちまるで恋仲だね。ねぇハチみてよこれ、BLだよBL……白と赤のコラボレーションってね》

 

先ほど聞こえた少女の声がその場に響いた。

 

《うるせぇ‼︎》

《何故お前がここに⁉︎》

 

赤龍帝と白龍皇はそれぞれ違う反応を示す。

 

「アルビオン知ってるの?」

 

《ああ、こいつは……》

 

《ねぇ?僕かハチが言うまで余計なこと言わない方が身のためだよ?ドライグもね》

 

アルビオンが何か言おうとした時、その少女の声から脅しの言葉が発せられる。

 

《っ⁉︎》

 

「アルビオン⁉︎」

 

いきなり黙ったアルビオンに白龍皇は驚きの声を上げている。

 

「アルビオンがこれだけ怯える相手……か。いいね本当に戦ってみたいな……でも今日はもう無理か……」

 

そう言って白龍皇は空へと飛翔する。

 

 

「おい!お前はなんなんだよ!」

 

そんな白龍皇を兵藤が止める。

しかし……

 

「すべてを理解するには力が必要なんだよ?もっと強くなってね私の宿敵くん。それと……ねぇ君の名前教えてよ♪」

 

白龍皇は明らかに兵藤よりも八幡に興味を持っていた。

 

「はぁ、比企谷八幡だ……」

 

「そっか、八幡くんか……ねぇいつか闘おうね」

 

そう言って白龍皇は去っていった。

 

 

 

白龍皇が去った後、ソーナ・シトリー達も集まってきた。堕天使幹部を倒したからか八幡を中心に彼女達は騒いでいた。そんな彼女達をよそに私は静かにその場を去っていった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……これからどうしたものか……」

 

教会には戻れない。

神不在を知ったとなれば恐らく私は異端の烙印を押される。たとえ押されないとしても帰ろうとは思わない。他の信者達に会わせる顔が無いからだ。彼らは今尚神がいることを疑っていない。そんな彼らに対する申し訳なさや、彼らがそれを知ってしまう可能性から、私は戻る気にはなれなかった。

 

「はは、野垂死にだなこれは……」

 

半分ヤケになりながら呟く。

 

「先日とそんなに変わんねぇなそれじゃ」

 

ピタリと私の歩む足が止まる。

 

「ふふ、容赦の無い言い方だね。アレはイリナが日本に来るのにファーストクラスに乗ってみたいと言ったせいなのだがね」

 

「そりゃ災難だったな」

 

そうして振り向いた先には彼が……

 

比企谷八幡がいた。

 

 

 

 

 

ゼノヴィアside out

 

八幡 side in

 

 

 

 

 

 

俺は見てしまった。

イッセー達が集まる中で1人まるでこの世の終わりかのように俯き消えていく少女を。

 

「んじゃ俺はセラフォルー様達に報告しなきゃいけねぇから失礼するぞ」

 

気がつけば俺は適当な言い訳をしその場を後にした……

 

《行くのかい?》

 

「ああ」

 

どうしても放っておけなかった。

どうしてもあの姿が重なってしまったのだ。

 

あの絶望している姿が……

まるで世界を酷く見ているその目が……

かつての自分と重なってしまった。

 

 

当然俺と彼女は全く違う。

それでも……重なってしまったのだから仕方ない。

 

《まぁ、聖魔剣君とユウキが重なって見えたのと同じだろうよ。理由も経緯も違う。それでも結果として同じような雰囲気をまとっているのさ。だからこそ重なって見える》

 

俺の思いに阿朱羅丸が応えてくる。

 

《まぁ、僕は賛成だよ。彼女は聖剣使いであると共に素質もかなりある。ただし条件があるよ》

 

「条件?」

 

《彼女の駒はーーーにすること》

 

その言葉に俺は思わず聞き返す

 

「ーーー⁉︎……えーっとどうしてでしょう?」

 

《1つは彼女の資質だよ。あの子ハチが思っている以上の才能があるよ。それを逃す手はないよね。2つ目は彼女が聖剣使いだから。悪魔の聖剣使いなんて面白いだろ?ならできるだけ強くしたいじゃん。3つ、そうした方が絶対面白くなりそうだから♪》

 

それはシノン達の反応のことを揶揄しているのか?

 

「はぁ、わかったよ……サンキュー阿朱羅丸」

 

《いやいや、面白くなりそうだし気にしないでよ》

 

 

そんなやり取りをしながら走っているとようやく彼女に追いついた。

 

 

 

「はは、野垂死にだなこれは……」

彼女は冗談混じりなんだろうがその様子からは冗談とは思えないようなことを呟いていた

 

「先日とそんなに変わんねぇなそれじゃ」

 

そんな彼女に俺はツッコむ。

 

「ふふ、容赦の無い言い方だね。アレはイリナが日本に来るのにファーストクラスに乗ってみたいと言ったせいなのだがね」

 

ああ、それで金を持ってなかったのか……

 

「そりゃ災難だったな」

 

肩をすくめながら俺は呟く。

 

 

「何か用かい?」

 

「ん?今後どうするのかと思ってな」

 

「さぁな。行くあても無い、それに……神がいないんだ。生きてく気力すら危ういな。こうやって冗談を言うのもそろそろ厳しいくらいに」

 

そういう彼女の顔色はやはり冴えない。

 

 

「そんなにショックか?」

 

「そりゃそうさ……私の全てだったんだ。主だけを信じてきた。それが既に居ないなんて……ショックを受けないはずがない」

 

「でも、お前は生きてるぜ?人生は命と心あっての物種だ。逆に言えば、それさえあれば何度だってやり直せる」

 

「簡単に言うな‼︎お前に私の気持ちが……」

 

「わからねぇよ」

 

俺の言葉に対して声を張る彼女に俺は断言する。

 

「俺にお前の気持ちはわからねぇ。俺は大切な物を失いかけたことはあっても実際に失ったことはねぇ。だからお前の気持ちはわからない。」

 

 

「なら‼︎」

 

 

「それでもお前のその見ている世界が間違いなのはわかる」

 

「見てる……世界…だと?」

 

俺の言葉に彼女は怪訝そうに眉をひそめる。

 

 

「汚いよなこの世界は……」

 

ただ一言。

その一言に彼女は目を見開く。

だが、その一言だけで彼女は俺の言葉を理解する。それが彼女がかつての俺と同じことを示す最大の証拠となった。

 

「俺もそう思ってた。みんな上辺だけ良いこと言って、心の中では別のことを考えている。都合の良い嘘で騙し、大多数を守るために平然と小を切り捨てる……でも、それはさ……この世界のほんの一部分でしか無いんだよ。俺はそれを昔教わった」

 

その言葉を受け彼女は俺に問いかける。

 

 

「本当に……君は何者なんだ?どうしてそんなことがわかる?どうしてあんなにも強い?どうして君はそんなにも……」

 

4度目の問い。

だが、そこには3度目までとは異なる意味が含まれている。

 

 

「比企谷八幡。元いじめられっ子のボッチで、今は魔王セラフォルー様の眷属だ。子供の頃人が見ないようなものを見て、人が味合わないようなことを経験しているので目が腐ってるのが特徴だ」

 

「ふっ、なんだそれは……」

 

やや自嘲気味に俺が言うと彼女は初めて笑った。

 

 

「もっと上を向けよ。世界は汚いもんだけじゃねぇ。もっともっと、お前が知らないような綺麗なもんだっていっぱいあるんだ」

 

「それを君が教えてくれるのかい?」

 

「お前が教えて欲しいならな」

 

首をかしげながら聞いてくる彼女に対して俺は手を差しのばす。その手には駒が置いてある。

 

 

「悪く無い……神がいないというのなら……自由に生きてみるというのも良いかもしれないな」

 

「ああ、なんせ人間でもあと70年以上、悪魔になればほぼ無限に生きれるんだからな」

 

「ああ、行くあても無い。だから世話になっても良いかい?」

 

「おう、うちは賑やかだぞ」

 

その俺の一言に彼女はまた笑い、そして駒を取る。その駒は女王の駒。それは阿朱羅丸から言われた彼女に渡せと言われたものだ。多くのものは勿体無いと言うかもしれない。けれども、面白いという理由が入っているとはいえ、阿朱羅丸がそうすべきと押してきたことだ。ならば、俺は阿朱羅丸を信じる。大切な家族ということもあるが、彼女の実力や潜在能力を見抜く目はヴィザの比ではないからだ。

 

そうして月夜の街中に1つの光が月光を霞ませる。今日この日、また1人家族が増えた……

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?

今回はちらっとユウキの過去も含んでましたが眷属の詳しい過去はそのうち番外編で出します。

ご感想お待ちしております。
ゼノヴィアの件とか……ヴァーリTSの件とか……文の書き方の件とか……どんなことを言われても今回は甘んじて受けてみせるw

ということで今回はここまで。

次回は3大勢力会議……にはまだ行きません。

その前に1つ話があるので、それを書いたあと3大勢力会議を書き始めます。

ではでは( ´ ▽ ` )ノ


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束の間の平穏

お待たせしました。

投稿が少々遅れましたね(^◇^;)


今回は3大勢力会議や冥界に行く前に入れておきたかったお話です。


ではどうぞ






「遅いです……」

 

コカビエル戦の後先輩は魔王様達に報告すると言って消えて行きました。もしかしたら今日は帰ってこないかもしれないです……それでも私は先輩の帰りを待ってました……

 

私しかいないリビングの空間では時計の針の音だけが響いている。私以外誰もいない……私しかいない空間……

 

気がつけば私は自分の付けているベルトを強く握りしめながら眠りに落ちていった……

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

 

 

幼い私はいつも姉様の後ろを追っていた。

姉様の真似をするのが……大好きだった。

 

だが、そんなある日だった……

姉様は私の前から消えてしまった。

 

そして変わりに姉様と同じ眷属だった者達が私の前に現れた。そこで私は彼らから知らされた。姉様が自身の力に溺れ主を殺し、はぐれ悪魔となったことに。

 

「こいつを殺せ‼︎あの野郎の変わりにこいつに責を負わせろ‼︎」

 

そう言って彼らは私に襲いかかってきた。姉様に対する怒りを私に向けてきたのだ。

 

私は逃げた。

走り、走り、走り続け……

そして遂に力尽き倒れた。

 

すぐ目の前には自分を殺そうとする者達が迫ってきている。死にたくない……そう思った。何かの間違いだと必死に心の中で叫ぶ。でも、いつも私を守ってくれていた人は……私の側にはもういなかった……

 

「死ねぇ‼︎」

 

薄れていく視界の中で追ってきた者達が叫び切りかかってくる。しかし、その攻撃は私に届くことはなかった……

 

「な、なんだ⁉︎」

 

その攻撃を誰かが止めていた。

 

「罪もねぇ奴に対して、大勢で何やってんだよ……」

 

視界がぼやけていてはっきりとはしないが、声から少年だとわかった。

 

「っち、邪魔をする………」

 

叫ぼうとした者の言葉が途切れる。

 

「ぜ、全員でかかれ‼︎」

 

何やら慌てている彼らを前に

 

「はぁ、もうお前らはもう退場してくれ……」

 

少年は嘆息を吐きながら呟くと、周囲には悲鳴が響き渡る。数秒後、そこに立っていたのはその少年だけでした。

 

「もう大丈夫だぞ」

 

そう言って彼は倒れている私の頭に手を置くとワシャワシャと髪を撫でてきます。

 

何故か心地の良いその感覚と危険が去った安堵から私の意識はそこで切り離されて行きました……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どこ?」

 

気がつけば知らない場所で眠っていた。

上半身を起こそうとして痛みが走るが、それに耐えながらかけられていた毛布をめくり自分の身体を確認する。

 

手当てがされていた。まだ痛みはあるものの傷自体はほとんど治っている。

 

ふと此処に自分以外がいることに気づく。

 

その人物はなにやら部屋の端でカチャカチャと物を組み立てている。

 

「ん?ああ、ようやく気がついたの?」

 

その少女は私に気づき手を止め話しかけてきた。

 

「え……えっと……」

 

「動かないで。傷は塞がってるけどまだ痛いでしょ?」

 

そう言ってその少女はこちらへ歩み寄ってきた。

 

 

「それで、どこまで覚えてる?」

 

「???」

 

彼女の問いに私は首を傾げた。

 

「襲われてたことは覚えてる?」

 

「っ⁉︎」

 

その言葉に私は思い出していく。

そうだ……私は………

 

「あなたが助けてくれたんですか?」

 

「違うわよ」

 

私の言葉に対し彼女は否定で返してくる。

 

「あんたを助けたのは私じゃなくてあの馬鹿よ。まぁ、あの馬鹿はなんか急な仕事がはいったって言ってあんたを此処に置いてどっか行っちゃったけど……」

 

「馬鹿?」

 

いったい誰のことなんでしょう

 

「そ、大馬鹿よ。自分のことなんて気にせず誰かのために自身の身体のことなんて忘れて助けようとする究極のお人好しと言ってもいいわね……まぁ、私もあんたと同じく、その馬鹿に助けられた口だけど……」

 

「あなたも……?」

 

「っそ……まぁいいわ。しばらくゆっくりして行きなさい。どうせ行く場所も無いんでしょ?」

 

そうだ⁉︎

 

「あ、姉様は⁉︎」

 

「知らないわよ、あんたの姉なんて……」

 

私の問いにまたも否定の言葉を返してくる。

 

「姉様……」

 

私はスカートをギュッと握りしめながら瞳を潤ませる。どうして?と答えなんて帰ってこないのに何度も何度も呟く。

 

「ちょっ⁉︎な、泣かないでよ⁉︎私が泣かせたみたいじゃない⁉︎は、話なら聞いてあげるから泣き止みなさいよ⁉︎」

 

そんな私の様子を見た彼女は慌てながら言葉をかけてきてくれた。

 

 

 

そこから私はポツリポツリと話し始めていく。

 

姉様が突如姿を消したことを……

それと時同じく自分の前に自分のことを狙う姉様の同僚達が現れたことを……

そして、彼らから姉様が彼らの、姉様自身の主を殺し、はぐれになったと聞いたことを……

 

 

「それであの馬鹿に助けられたのね……」

 

彼女は最後まで私の話を聞いてくれました。

 

「…………」

 

全てを話し終えた後私の身体は次第に震えだしました。姉様がもういないことに、姉様の行為で自分が死にかけたことに……そして、自分がひとりぼっちになったことに対する恐怖や不安が一気に込み上げてくる。

 

そんな私の頭を彼女は撫でてきます。

それは少し前に感じた少年にされたのと同じような感覚で、何故か安心できるものでした。

 

 

「はぁ、大丈夫よそんなに震えなくても。私は此処にいるから1人じゃないでしょ?それにあまり帰ってはこないけどあの馬鹿だっているんだから……だからそんな顔しないの」

 

私の不安を読み取ったのか、彼女は囁いてきました。その言葉は私の不安を少しだけ取り除いてくれました…………

 

 

 

それから2〜3週間ほどでしょうか……

私は彼女と一緒に暮らしていました。

とはいえ、彼女だけではなく此処には他にもいろんな人が居ました。彼女曰く、全員馬鹿さんの雇った使用人らしいですけど……助けてくれた方なので名前を聞きたかったんですが……彼女は彼女で

 

「あれ?そういえばあの馬鹿の名前なんだっけ?」

 

と、とんでもない発言をし始めてしまいました。あのあなたも助けてもらったんですよね?

 

 

だが、そんな日々も楽しかった……

彼女が何かを作っているのをそばで見るのも、できたものを使ってみるのも、彼女が自身の武器と言っていたベルトで試作品を不用意に壊してしまった使用人をしばいてる姿を見ているのも……何もかもが面白い出来事だった。

 

 

姉様がいなくなった不安も彼女のおかげで少しずつなくなっていった。

 

そんな日々の中で彼女との仲も深まった。

 

そして彼女が馬鹿さんのことを想っていることも話の節々でわかりました。なんだかんだ言いながらも、馬鹿さんに感謝している彼女の話を聞き、私も会ってみたいという思いが強くなります。

 

 

けれど私は……

結局その方に会うことはできませんでした……

 

 

「やぁ、君が白音ちゃんだね」

 

楽しい日々が過ぎていくある日、赤髪の男性が私の元を訪れたのです。

 

「あれ?あんたサーゼクスじゃない。こんなところに何しに来たの?あの馬鹿ならいないわよ」

 

「知っているよ。彼に頼まれて此処に来たのだからね……しかし、頑張っている彼を馬鹿呼ばわりとはかわいそうに………」

 

「あ、あの……」

 

 

私を置いてやり取りをする彼女とサーゼクスと呼ばれる男性に私が目をパチパチしていると

 

「ああ、悪いね。私はサーゼクス・ルシファー。四大魔王の1人だよ」

 

「ま、魔王ですか⁉︎」

 

サーゼクス様は自己紹介をしてきた。

そしてその言葉に私は声をあげる。

 

魔王がどうして私に?

という思いもあるが、それ以上に魔王に対して子供とはいえあんなにも軽い感じで会話している彼女に驚いてしまった。

 

「ああ。実は君を助けた者に頼まれてね」

 

「馬鹿さんにですか?」

 

私の言葉にサーゼクス様は苦笑いしている。

 

「ああ、そうだよ……ふふ。ふぅ……実は今君の立場はとても危うくてね」

 

なんとか笑いを押し込め、真面目な雰囲気を作ったサーゼクス様からよくない知らせが伝えられた……

 

「君の姉が正式にはぐれ悪魔として認定された。それにより今君の立ち位置はとても危ういんだよ」

 

しかし、それは予想できていたことでもあった……

 

「でも、君に罪はない。だからこそ、今すぐ有力な者の眷属となって安全を確保する必要がある」

 

「眷属……ですか?」

 

「ああ、幸いつい先日私の妹が駒を渡された。だからこそ、彼が私に頼んできたんだよ……」

 

その言葉に私は数週間前の彼女の言った彼への評価を思い出す。

 

究極のお人好しよ

 

ふっと笑ってしまった。

確かに彼女の言う通りだ。

見ず知らずの相手に此処までするのだから……

 

「でも、迷惑はかけたくないです……」

 

「迷惑ではないよ。妹は眷属を手に入れ、君は安全を手に入れる。WinWinというやつさ」

 

私の言葉にサーゼクス様はすぐに返してきた。

 

でも……私は彼女と離れなくなかった……

 

もしかしたらまた1人になってしまうかもしれないから……それに馬鹿さんにだって会ってみたい……

 

「行きなさいよ」

 

そんな私の心を読んだ彼女はそっと私に言ってくる。

 

「別にこれが今生の別れってわけでもないでしょ?眷属になるなら、あんただって悪魔になるわけだし、寿命はいくらでもあるわ。だから、今は安全の確保を優先させるべきよ……」

 

私の身を案じてくれる彼女の言葉を受けて私はサーゼクス様についていくことにした。

 

 

「ほらこれ」

 

私が出立する朝、彼女が1つのベルトを渡してきた。

 

「ベルト?」

それは彼女が自身の武器と呼んでいたものでした。

 

「そうよ、私のお気に入り。これを貸してあげる。だから……また会いましょ、白音……」

 

そう言って彼女は手を差し伸べてくる。

その顔はこの数週間でも見たことのないほど赤くなっていた。

 

 

「はい、ーー………」

 

彼女の名を呼び私もその手を握りしめる。

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

 

懐かしい夢を見ていた……

もう何年も昔のことを思い出してしまう……

 

結局その後私は彼女には会えていない。

 

サーゼクス様の話では、彼女はあの後研究に没頭しているらしく、会う暇がないらしい。

 

私は馬鹿さんについても聞いてみたが、何度聞いてもサーゼクス様ははぐらかしてきた……

 

教えてくれてもいいのに………

 

そして、今に至るまでわたしは……彼女と再会できず、馬鹿さんのことについても何も知らないままだった………

 

 

 

 

そんなことをぼやける意識の中で考えていると、私の頭がワシャワシャと撫でられた。

 

 

 

「起きたか?」

 

そこでは先輩が私のことを撫でてくれてました。

 

 

「せん……ぱい?」

 

その時私の中で何か欠けていたものがはまりかける。

 

「もしかして……、せんぱいが………」

 

しかし、それはあくまではまりかけるだけではまりきることはなかった……

 

 

「八幡、荷物は此処でいいかな?」

 

「ああ、取り敢えずそこ置いとけ」

 

そこに何故か聖剣使いが立っていたからだ。

 

 

「えっと……なんで此処にいるんですか?」

 

「ああ、挨拶が遅れたね。今日から此処に住まわせてもらうことになった。これからよろしく頼む、同族として」

 

そう言って彼女は背中から黒い翼を出す。

まさか……………

 

「先輩……」

ある結論に至った私は普段よりも2オクターブ低い声で先輩に話しかける。

 

 

「な、なんだ……?」

 

先輩も心なしか怯えている。

 

「もしかして……セラフォルー様達に報告するのは嘘で、女性に手を出しに行ってたんですか?」

 

「手、手なんて出してねぇよ⁉︎」

 

「嘘だってことは認めるんですね?」

 

「うぐっ……」

 

「先輩……」

 

今度はとびきりの笑顔になって私は宣言する。

 

「ソーナ会長経由でシノンさん達に報告させてもらいます」

 

私がそう告げると、先輩はマナーモードのように震えだすが、今はそんなこと気にしない。

 

せっかく先輩と2人きりだったのをこれから邪魔されることになるのだ……このくらいはしていいはず………

 

 

そう思う私は、先輩に対する怒りや拗ねなどが混じり合った複雑な感情を抱いたため、先ほどのことをすっかりと忘れてしまっていた……

 

 

 

 

 

小猫 side out

 

八幡 side in

 

 

 

 

 

 

コカビエル戦から一夜明けた朝。

ハッキリ言って憂鬱だった。

取り敢えずセラフォルー様達には通信でことの顛末を知らせた際労いの言葉をかけられたまでは良かったのだが、なにやらグレイフィア経由で授業参観の情報が彼らに入っており彼らが後日この街に訪れるらしい。3大勢力会議を行う場所の視察という名目で……

会議というのも面倒臭いが、最大に面倒臭い点はセラフォルー様が授業参観に来るということだ。あの人はシスコンの上に何故か俺のことをソーナ同様に……弟みたいに扱ってくる節があって正直人前では御免被りたい………

 

「はぁ」

 

「どうかしたのかい?」

「先輩はよく溜息ついてます……」

 

思わずため息を吐いてしまう俺にゼノヴィアはやや心配そうに話しかけ、小猫が横から彼女に補足している。

 

「いや……なんでもねぇよ……取り敢えずお前はあんまり学校でやんちゃするなよ……」

 

こいつは真面目だと思っていたし、実際真面目なのだが……今朝の件があったから何をしてくるかわからない……

 

「当然さ、主に迷惑をかけるようなことはしない」

 

そう言って彼女はその豊満な胸を張る。横では小猫がその胸を見て睨んでいたが……

 

 

彼女ゼノヴィアは今日から駒王に入学する。

昨日の夜にサーゼクス様達に言ったばかりなのに、今朝には既に手配されているあたり、本当にサーゼクス様とグレイフィアのことは尊敬できた。

 

あと余談だが小猫やソーナになんかされる前にとヴィザにだけは直接ゼノヴィアのことを伝えておいた。みんなにそれとなく伝えてくれと……

 

 

「不安だ……」

 

そんな俺のつぶやきにゼノヴィアは文句を言ってくるがそれをあしらいながら学校へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「ゼノヴィア・クァルタだ。これからよろしく頼む」

 

「はぁぁぁぁああああああああああ⁉︎」

 

始業のチャイムと共に教師と共に入ってきたゼノヴィアが挨拶をするとイッセーが大声を上げる。うるせぇな…………取り敢えずうるさかったので鳩尾にワンパン食らわしたが、俺は悪くない……はず。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……どういうことかしら?」

 

放課後、リアスやソーナの眷属達……つまりはこの学校の悪魔が全員オカルト部に集合していた。

 

集合して早々、リアス・グレモリーはゼノヴィアに聞いてくる。その言葉に答えるように彼女は黒い翼をバサッと出し説明を始める。出した瞬間小猫と俺以外目を丸くしていたが……

 

 

「改めて、ゼノヴィア・クァルタ……悪魔だ。思うところあって八幡の眷属にさせてもらった。これからよろしく頼む」

 

「八幡の眷属ぅぅうう⁉︎」

 

腕を組みながらそう言うゼノヴィアにイッセーがまた叫んでいる。もう一発いれてやろうかな…

 

他の奴らもイッセー同様に驚いて……いや、ソーナがめっちゃ睨みつけてた……やめて防御力下がるから……

 

 

「まぁ、そう言うことだ。仲良く……とは言わないがトラブルだけは起こさないようにしてくれ……いろいろ面倒くさくなるから」

 

頭をガリガリと掻きながら俺が言うとソーナとリアス・グレモリーもうなづく。

 

「それとゼノヴィア」

 

続いて俺が声をかけると、彼女もその意図をわかっていたようで一歩前に出て近く。イッセーの隣にいたアーシアに……

 

「君に謝らなければならないな、アーシア・アルジェント……」

 

「え?」

 

「主がいないならば救いも愛もなかったわけだからね……本当にすまなかった。君の気がすむならば私を殴ってくれても構わない……」

 

そう言って彼女はアルジェントに対して深々と頭を下げた。いや、お前が構わなくても俺的に自分の眷属が殴られてるのあまり見たくないのだが……

 

「そ、そんなこといいですよ⁉︎」

 

慌ててアーシアも首も慌てて首を振った。

 

「だが……」

 

「私は今の生活に満足しています……今は悪魔ですけど……本当に大切な人たちに出会えたので幸せです」

 

「……そうか……ありがとう……」

 

こうしてかつて神を信じていた現悪魔の2人が和解した………

 

 

 

「そういや、イリナはどうしたんだ?」

 

「ん?ああ、あいつなら帰ったぞ。ついでにあいつが寝てた横にゼノヴィアのエクスカリバーを置いてきたし」

 

「エクスカリバーを?」

 

「悪魔が持ってたら後々面倒だろ?だから昨日ゼノヴィアと一緒に行ってきた。まぁ、あいつが起きる前に去ったからあいつがゼノヴィアのことをどう思ってるかはわからんがな」

 

イッセーの問いに俺が答える。

 

 

「そうか……でもお前はそれでいいのか?」

 

「構わないさ……神がいない以上、私の今までの人生は破綻したに等しいからな……それに……彼が言ってくれた。この世界の綺麗な所を……この世界の素晴らしさを教えてくれると」

 

 

そう言って彼女は俺の方を向いてくる。

 

 

うん。ゼノヴィア……眷属なら空気読んでくれ⁉︎小猫は昨日の夜にこのこと含め全部聞いてるけど……ここにはソー……

 

 

「八幡くん」

 

がちんと俺の身体が固まりギギギギギと首を回していく。

 

「今日、八幡くんの家でいろいろ聞かせてもらいます。もちろん通信でシノンさん達も交えて……」

 

 

 

この瞬間今日の夜も昨日同様オワルことが決定した…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あちーなおい……」

 

翌日俺は学校のプールにいた。

目の下に盛大な隈をつくって……

 

昨日の夜は大変だった。

ソーナがお泊りセットを持ってきたため、ほぼ徹夜状態で話をし続けていた。

 

不幸中の幸いだったのはシノン以外仕事でいなかったことだろう……ヴィザが早速働いてくれたらしく、シノンも少しだけ知ってはいたが通信を終えるときの言葉が怖すぎた……

 

『みんな話があるみたいだから夏は絶対に帰ってきてね』

 

満面の笑みで言われてしまった俺はただ頷くことしかできなかったが……

 

 

そんなことがあったため、プールなんかにいないでさっさと寝たい気分である。

 

しかも隣ではリアス・グレモリーが大声を出しているため頭に響いてくる。どうやら昨日俺が帰った後にイッセーの常連が堕天使の総督だという件が彼女に伝わったらしい……

 

 

俺からすれば物凄い今更感がある。

俺の方は阿朱羅丸がだいぶ前からアザゼルのことに気づいていたからな………

 

 

しかし……

 

「なんでソーナもいるんだ?プール掃除ならリアス・グレモリー達にやらせるって話じゃなかったのか?」

 

そう、何故かソーナもいるのだ。

 

俺は小猫に誘われ、ゼノヴィアは俺の眷属として付いてきたが、何故かソーナまで付いてきた。

 

 

「別にいいじゃないですか……」

 

そう言う彼女は黒一色のビキニを身につけている。その姿を見て俺はつい周囲を見渡してしまう……スクール水着の小猫とアーシア……白の水着のリアス・グレモリーに紫の水着の姫島先輩…それに水色の水着の由比ヶ浜……うん、声には出せないが男子としてこの光景は素直に感動してもいいのではないだろうか?

イッセーなんかは声に出して小猫にすごい目で見られてるし……

 

 

「そういやゼノヴィアが来てねぇな」

 

そう、今日集まったメンバーの中で彼女だけがまだ来ていなかった。雪ノ下は何やら用があるらしく来ないとのことだ(リアス談)

 

 

「また彼女ですか……」

 

思わず声に出した俺の言葉をソーナが拾ってきた。

 

「そりゃ、新しい眷属だからな。新天地で馴染めないなんて目に合わせたくねぇんだよ」

 

「……私には全く構ってくれませんのに……」

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでもありません‼︎」

 

なんなのだろう?

怒って小猫達の方へ行ってしまった。

 

まぁ、いいか……

あいつを探してこよう………

 

 

 

 

 

 

 

「こんなところにいたのかよ……」

 

「ああ、八幡か………どうかな?おかしくはないだろうか?」

 

そう言ってゼノヴィアは自身が身につけている緑の水着を見る。

 

「ん、ああ似合ってんぞ。それより遅かったな…どうしたんだ?」

 

「初めての水着でね。着るのに時間がかかってしまったんだよ」

 

ふーん。はじめてねぇ……

やっぱり教会側だとそう言う娯楽系はあまりできないのか……

 

「まぁ、それ以外にもわけはあるんだが……」

 

「ん?何かあったのか?」

 

「ああ、少し考え事をしていてね……八幡に頼みがあるんだ……」

 

「なんだ?」

 

もしかしてやはり馴染みにくいのだろうか……もしそうならばなんとかしないといけないが……

 

 

そう思っていたが……俺のその考えは木っ端微塵に砕かれることになる……

 

 

「八幡……私と子供を作ってくれないか?」

 

 

 

 

 

………

………………

………………………

………………………………

 

 

HA?

 

 

こいつは今なんといった?

なんか決して軽々しく言ってはならないことをこいつはサラッと言った気がするが………

 

 

「ん?どうしたんだ?聞こえなかったのか?私と子作りをして欲しいと言ったのだが……」

 

 

いや、聞こえてるわ⁉︎

ってか聞き間違いであって欲しかったわ⁉︎

 

《ッーーーーードタドタ、バンバン》

 

阿朱羅丸は心の中で大笑いしてんじゃねぇ⁉︎

 

突然のことに戸惑っていると俺はゼノヴィアに押し倒された。

 

あれ?こいつこんなに力強かったっ……って女王の駒で力が上がってるのか⁉︎

 

 

「君は言ってくれたよな。教えてくれると……」

 

そう言いながらゼノヴィアは倒れた俺の上に跨ってくる。

 

いや、言ったけども意味が違う気がするんですけど⁉︎

 

「私は知りたい……今まで神に仕えていたからそう言ったことはできなかった……でも今は違う……なら八幡に色々教えて欲しいと思ったんだ……」

 

そう言って彼女は自身の水着を外し始める。

 

 

「おい、ちょっと待て⁉︎一旦落ち着け⁉︎」

 

あまりのことに俺も取り乱し始める。

あと阿朱羅丸いい加減笑い止みやがれ‼︎

 

「私は男性経験がない……それでも精一杯やってみせる。だから抱いてくれ……」

 

 

そう言って彼女はついに俺のことを抱きしめ始める……

 

 

待って⁉︎当たってるから……女性の最終兵器が当たってるから⁉︎

 

そうしてゼノヴィアの顔がだんだんと近づいてくる……

 

こいつ俺(主)の言葉全く聞いてなくね⁉︎

 

 

「何してるんですか?」

 

「油断も隙もないです……」

 

 

突如俺たちは声をかけられる。

しかし、それは救いの声ではない……

救いというにはそこにいる2人はあまりにも不穏な空気を纏っていた。

 

 

「八幡くんは昨日の分だけではまだまだ話し足りないみたいですね」

 

「先輩……今日の夜も宜しくお願いします」

 

どうやら今日も俺は寝れないらしい…………

 

 

 

 

 

 

 

八幡side out

 

???side in

 

コツコツと足音の音だけがその場に響いていた。

 

「きたようね」

 

私の言葉にその足音を出していた少女は立ち止まる。

 

「それでどうするの?」

 

「ーーーーーー」

 

「そう、ならこれを渡しておくわ」

 

そう言って私は彼女に1つの短剣と1つの試験管を渡す。試験管の中では黒く細長いものがムズムズと蠢いている。

 

「ーーーーーー」

 

「ええ、これがあればあなたでもできる。しっかりやりなさい」

 

「ーーーーーー」

 

そこで会話を終え彼女は去っていった。

 

 

 

ふふふ、楽しみね…………

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?

感想お待ちしております。

次回からようやく3大勢力会議編。

そして遂に彼の主が学園に……………



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3大勢力会議
魔法少女な義姉とナルガ娘な義弟が来るそうですよ


遅くなってすみませんm(__)m

やはり、モンハンは買うべきではなかったか……

とりあえず本編へどうぞ……


 

ゼノヴィアのトンデモ発言があってから数日……その日は遂に来てしまった……

 

グレイフィアから聞いた話ではサーゼクス様は昨日からイッセーの家に泊まっているらしい。しかも今日に限って言えばグレモリー卿も来ると言ってきたので驚きだ。そういえばグレモリー卿もなんだかんだでリアスの事を溺愛してたな……………本当にあの2人あんまりリアスの事を溺愛していると妻に酷い目にあわされるぞ……

 

 

しかしだ、彼らが来るのは問題ではない。問題は俺の主まで来る事だ……

 

正直言えば学校をバックレれば済む話なのだが、そうすればソーナが2人分の愛情……もとい可愛がりを受ける事になるので休むに休めなかった。

 

 

「先輩どうかしましたか?」

 

「ふむ、今日はいつも以上に眼がまずい事になっているぞ?」

 

そんな俺の様子を心配した同居人達が声をかけてくる。彼女たちは知らないのだ……俺の主が来る事を……無論ソーナも知らない。

教えてない理由として言えば確実にあいつは仕事と言って生徒会室から出て来なくなるから……そうすれば逆に俺が2人分の可愛がりを受ける事になるため、あいつには言っていない。

 

 

「ん……まぁ……いろいろあんのさ……」

 

そう言いながら空を見上げると青い空を雲が漂っている。いいなぁ雲は……自由で……………

 

 

 

「お、八幡じゃねぇか」

 

「おはようございます」

 

「よぉ、アルジェント」

 

「俺は⁉︎」

 

俺がそんな事を考えながら歩いているとふとイッセーとアルジェントに声をかけられた。相変わらず元気だなぁ……

 

「そういやリアス・グレモリーが一緒にいないのは珍しいな」

 

「部長さんならなんかサーゼクス様とグレイフィア様を案内するそうです」

 

ああ……まぁ、あいつからしたら久々の生リアスだしな……シスコンが水面下で爆発しても仕方ないか………

 

「お前はまたなんかやったのか?」

 

「あ?」

 

「いや、いつも以上に眼が腐ってたから、またなんかして小猫ちゃんやゼノヴィアを怒らせたのかと」

 

「んなわけねぇだろ……つい先日とんでもねぇ目にあったばかりだぞ………つーか俺から手を出した事なんて一度もねぇ……」

 

イッセーの言葉に俺は心外とばかりに首を振る。実際俺から手を出した事はない……なんか勝手に手を出された事なら何度も経験があるが……

 

 

 

 

「やぁ、ここで会うのは2度目だね。前来た時も思ったけど、ここっていい感じの学校だよね」

 

そんなやり取りをしていると校門の前で俺たちは話しかけられた。

 

「?誰だ?」

 

イッセーは相手が誰だかわからずに首を傾げている。アルジェントや小猫、ゼノヴィアも同様に頭の上にクエスチョンマークが並んでいた。

 

まぁ、そりゃそうだろう……

 

目の前にいる女性は腰まで伸びた銀髪を揺らしながら俺たちの前へと歩いてくる。俺たちを……正確には俺を見る目は爛々と輝いておりその青い瞳はシノンと比べても遜色がないほど綺麗なものだった。

 

 

「はぁ、イッセーに用があるんだろ?俺は先に行かせてもらうぞ」

 

そう言ってすれ違おうとした俺を彼女は腕で制してきた。

 

「待ってよー、そこにいる私の宿敵君よりも、私的にはあなたの方が気になるんだから行かないでよ」

 

「お前の相手はイッセーだろ、ならいいじゃねぇか、白龍皇」

 

 

『は、白龍皇⁉︎』

 

俺の言葉にその場にいた他の者たちが声をあげると同時に一歩下がり警戒し始める。ただ……

 

「八幡から離れろ‼︎」

 

ゼノヴィアだけは主である俺を気遣ってか、デュランダルを手にし向かってくる。

 

「やめとけゼノヴィア……」

 

そんな彼女に俺は制止の声をかける。

 

「どうしてだ⁉︎こいつは……」

 

 

「やる気があるならとっくにやってるだろ……それに……こいつがやる気があったとしても今のゼノヴィアじゃ太刀打ちできないぞ。それと木場お前もだ。不意をつこうなんてやめておけ」

 

「バレてたんだね……」

 

俺の声を聞き校門の内側から木場が現れる。その手には聖魔剣が握られていたが、その剣はすぐに霧散していく。

ゼノヴィアもゼノヴィアで俺の言葉に素直に従い剣を収めてくれた。

 

 

「私としてはやっても良かったんだけどね〜。まぁ八幡くん限定だけど。君以外とやっても面白くなさそうだし」

 

そんな様子を見た白龍皇は笑いながら言ってくる。

 

 

「俺はやりたくねぇよ白龍皇となんて……それよりも何の用だ?俺早く教室行って寝たいんだけど……」

 

「学校は寝るところじゃないと思うんだけどなぁ……まぁいいや。えっとね今日は顔合わせだよ。私だけ知ってて八幡くん達が私の事を知らないのはフェアじゃないし、私名前すら名乗ってないよね」

 

まぁ、確かに名乗ってはないな……

知ってるけど……

例のごとく協力者経由で……

 

 

「私はヴァーリ、今代の白龍皇だよ。よろしくね八幡くん、それに………」

 

そこまで言うと俺の目の前からヴァーリが消える。はぁ……わざわざ挑発しなくてもいいだろうに……

 

 

「君もね、兵藤くん。あんま強そうじゃないけど、一応は宿敵みたいだし」

 

そう言うヴァーリはイッセーの眉間に指を当てていた。

 

他の奴らは見えていなかったらしく目を見開いている。

 

「無防備だねぇ……私が本気で今殺ろうとしてたら……んん〜〜してたら八幡くんが止めてたかな……まぁいいっか。私が本気で殺ろうとしてたら君今死んでたよ?」

 

笑顔で彼女はそう言うがイッセー達の顔は引きつっている。まぁ無理もねぇか……

 

「ねぇ、兵藤くん。君はこの世界で何番目に強いと思う?」

 

「なに?」

 

イッセーの目の前から2歩下がりくるんと身を回した彼女は唐突にイッセーに聞いてくる。イッセーはその言葉を怪訝そうに聞き返す。

 

 

「君のその禁手化……まだ未完成だけど上から数えて4桁……だいたい1000〜1500位かな……でも宿主のスペックが低いからそれ以下かもしれないね」

 

「なにが言いたい?」

 

「君は貴重な存在なんだよ。だから兵藤一誠のことは充分に育てたほうがいいよ、リアス・グレモリー」

 

「っ部長⁉︎それに朱乃さんまで⁉︎」

 

その言葉にイッセーは振り向く。

そこには彼の主であるリアス・グレモリーがいた。いやまぁ、もとからこっちから見てる俺とゼノヴィア、それに木場は気がついてたけども……

 

「白龍皇……なんのつもりかしら?」

 

「別に?ただの顔合わせだよ。強いて言うなら彼が乗り気なら戦ってくれないかなーなんて期待もちょっとだけしてたけど」

 

リアス・グレモリーの問いに彼女はわざとらしく指を口元におき、俺の方を向いてくる。

 

いや、本当にお前の相手はイッセーだろ……

 

 

「俺なんかじゃなくてイッセーに構え、イッセーに……白龍皇と赤龍帝はぶつかり合う運命なんだろ?俺なんかに構ってんじゃねぇよ」

 

「んー、でもなんかさ、詳しくは教えてくれないんだけどアルビオンが君の強さが2桁……或いは1桁に届くって言ってたから気になったんだよね……」

 

余計なことを……

阿朱羅丸が脅してたから阿朱羅丸のことは言ってないと思うが面倒クセェな……

 

彼女の言葉に今度は俺に視線が集中してしまう。そりゃそうだろう。いろんな存在がいるこの世界で1桁代の強さなんて異常としか言えない。というか正確には俺がではなく、俺の中にいる阿朱羅丸が1桁なのだろう……

 

「そんな強くねぇよ。俺の力なんて二天龍様に比べたら取るに足らねぇもんさ」

 

《《どの口が言ってやがる(いる)‼︎》》

 

おお、白と赤が被ったな。

本当に阿朱羅丸が言う通りBLなのではないだろうか……

 

 

「うーん。やっぱり今やりあっちゃダメ?」

 

そんな龍達の反応を見てヴァーリが再び俺に近づいてくる。やれやれ、と俺はそんな彼女の耳元に近づき彼女だけに聞こえる声で囁いた。

 

「焦らなくても、どうせ近い将来やり合うことになっちまうんだろ?」

 

ピクンと俺の言葉に彼女の瞳が反応した?

 

「へぇ………やっぱり君……面白いね」

 

「安心しろ…お前らが動いたところで大した被害は出ねぇから他の奴に言ったりしねぇよ」

 

「そっか……なら楽しみにしておくよ……」

 

そんな俺らの囁き合いを他のメンバーは不思議そうに見ているが俺から離れたヴァーリはこの上なく愉快そうに笑っている。

 

「じゃあね八幡くん……それに赤龍帝くんも。近いうちまた会おうよ……」

 

そう言って彼女はその場から去っていった。

 

 

「どういうつもりかしら……堕天使陣営の彼女が悪魔である私達に接触してくるなんて……」

 

 

「その辺はもう関係ないと思うんだけどな」

 

「どういうこと?」

 

リアスの言葉に俺が呟くと彼女がそれに反応した。

 

 

「堕天使総督アザゼル。あいつはお前が思ってるようなやつじゃねぇ……ってことだよ。まぁ、俺は会ったことはないんだが」

 

「ならどうしてわかるの?」

 

「聞いたからだが?」

 

「セラフォルー様から?」

 

「いんや、協力者から」

 

「協力者?」

 

「そ、各勢力に紛れてる俺の仲間からな」

 

「か、各勢力に紛れてるぅ⁉︎」

 

俺がさらりと言うとグレモリーは声を上げた。

 

「うるせぇよ。ほら遅刻するからそろそろ行くぞ」

 

「ま、待ちなさい‼︎各勢力に紛れてるってその事をお兄様達は知ってるんでしょうね⁉︎」

 

俺がそう言って足を進めると後ろからグレモリーが慌てて追いかけてくる。

 

心外だ……

各勢力に仲間を紛れさせるなんてこと……

魔王様達の許可なしでやると思うのか……

 

ちゃんとサーゼクス様は知っている。

サーゼクス様だけだが……

正確には知っているというかばらしたと言った方が正しい。昔に起こったある件がきっかけでどうしてもサーゼクス様には言っておかねばならなかったからな……

 

まぁ、もうこいつらや他の奴にバラしても問題ないだろう。三大勢力会議も近いしな……

 

 

 

 

 

八幡side out

 

イッセーside in

 

 

 

 

学校に着いた後俺は保健室で寝ていた。

というのもヴァーリに会ってしまったせいで腕が龍化してしまったからだ……そういえば

 

「なぁドライグ……」

 

《なんだ?》

 

「強い奴の近くにいると腕が龍化するなら、なんで八幡といても大丈夫なんだ?」

 

そう八幡は強い。

先ほどヴァーリが言っていた。

八幡の強さは2桁……或いは1桁に届くと。

それならばなぜ……

 

《そりゃあいつは普段人間に化けてやがるからな。それだから反応しないんだろう》

 

「人間に?」

 

《ああ、詳しい事を言うのはまだ控えさせてもらうがあいつの中にいる奴……そいつはとんでも無く特殊な奴だ。そいつの力を使って身体を人間のものに作り変えてる。しかも中にいる奴自体も普段は眠ってやがるからな。だから反応しねぇのさ》

 

へぇ、と思わず感心してしまう。

ということは八幡には光とかそう言ったのも効かないのだろうか?

 

「なるほどねぇ、それよりもあの女の子が白龍皇ヴァーリか……」

 

《ああ、お前の宿敵だな……》

 

「なぁ、前から思ってたんだが白い龍と赤い龍っていったいどういう関係なんだ?」

 

《神と天使、堕天使、悪魔の3大勢力が戦争をしていた時、異形の者達や人間がそれぞれの勢力に力を貸していたんだが……ドラゴンだけは例外でな、大半は戦争なんて我関せずで好き勝手生きていたんだが……戦争の最中大ゲンカを始めた2匹の龍がいたのさ。》

 

 

「2匹ってまさか⁉︎」

 

 

《世界の覇権を握る大戦争なんて御構い無しで戦場を2匹で暴れまくったんだ》

 

「なんで、そんなに喧嘩してたんだよ…」

 

俺が呆れながら放ったこの言葉にドライグは思わぬ言葉を返してきた。

 

《お互いがちょっかいを出されたなんて、噛み合わない事を言ってそこから発展した。なんていうくだらない理由だ……っと当初は思ってた、だが俺らが封印される間際にわかったことなんだが…俺たちは互いにちょっかいなんて出しちゃいなかった。俺たちが喧嘩をするように仕向けた奴が居たんだよ》

 

「仕向けた奴?」

 

《お前の親友くんに宿ってる奴さ》

 

「なんだと⁉︎」

 

今度こそ俺は声を上げてしまった。

 

《まぁ、だからこそ俺やアルビオンはそいつのことを心底嫌ってる。》

 

「そんなことが……」

 

《話がズレたな……そんでもって戦場を駆け回る2匹を先に始末しないと戦争どころでは無いってんで3大勢力は一時休戦して、2匹を殺しにかかった》

 

「どんだけ暴れたんだよ……」

 

《そんなことに2匹は怒り狂った。神ごときが魔王ごときが龍の戦いを邪魔するなと……まぁ馬鹿丸出しの逆ギレだな。そんで最終的には2匹は刻まれ魂を人間の持つ神器として封印された……そうして封印された2匹は人間を媒介にして何度も出会い何度もやり合ってるのさ》

 

 

「それがドライグとアルビオン……」

 

ドライグの話を聞き終え俺はそう呟くと保健室から出て行った。時刻はもう昼休みの時間帯だ。そのため俺はオカルト部室で昼を食べようと歩き出すが……

 

 

 

「おい、魔女ッ子の撮影会だとよ‼︎」

 

「やべぇ、早く行こうぜ‼︎」

 

突然聞こえてきたその声に俺は耳を傾け、それを発した人物達が向かった方向へと俺も走って行った。

 

 

 

「あら?イッセーじゃない?どこにいくの?」

 

「体育館に魔女ッ子の撮影会があるそうなので見に行こうかと‼︎」

 

「ま、魔女っ子⁉︎まさか………」

 

「あらあら……」

 

俺が走って向かっている最中、部長に朱乃さん、アーシアがいた。部長の言葉に俺は走りながら答えると部長がなぜか驚いている。

 

「私も行くわ……」

 

そして何故か部長達もついてきた。

 

 

ようやく体育館に到着するとそこではカメラのシャッターの渦の中に1人の女性がいた。

 

「あれは魔法少女ミルキースパイラルセブン・オルタナティブのコスプレじゃないか⁉︎」

 

「イッセーさんお詳しいんですね」

 

「とあるお得意様の依頼でアニメを見続けてるからな……」

 

俺の中ではアニコス巨体のおっさんが浮かび苦笑いしてしまう。

 

 

「こらぁ‼︎学校で何やってんだ⁉︎さっさっと解散しろ‼︎」

 

俺がそんな悲しい光景を思い出していると、突如体育館に大声が響き渡る。声のした方へ視線を向けると匙が撮影会の真ん中で集まった生徒達に注意をしていた。

 

集まってた男達はブーたれているがしぶしぶ解散していった。

 

「ったく、公開授業の日に要らん騒ぎを起こすなよ……」

 

そう言いながら匙は頭を抱えていた。

 

「はぁ、あのご家族の方でしょうか?」

 

「うん」

 

一呼吸おき、今度はコスプレの女性にも注意を促す。

 

「そんな格好で学校に来られると困るのですが……」

 

「えぇ、これが私の正装なんだけど」

 

「いや、そんなわけないでしょ……」

 

しかし、相手は一切反省していなかった。

 

 

「よぉ匙、ちゃんと仕事してんじゃん」

 

「からかうな兵藤」

 

「匙、何事ですか?」

 

そんな匙に俺はからかいながら声をかける。匙はそれに対してやめてくれと反応する。すると、体育館の戸が勢いよく開き会長が入ってきた。

 

「いえ……会長このお方が……」

 

「ソーナちゃぁぁぁぁん」

 

「あっくっ⁉︎」

 

匙がそんな会長に事情を説明しようとするとコスプレ女性が声をあげながら会長の元へと走っていく。そんな彼女を見た会長は目を見開き数歩後退した。

 

「もしかして……会長のお知り合いとか……」

 

うそだろ⁉︎とばかりに匙の声が震えている。まぁ、コスプレ女性が会長の知り合いっていうのは普段の会長からは想像できないよな……

 

「あれれ?どうしたのソーナちゃん?お顔が真っ赤だよ?せっかくお姉様との再開なのだからもっと喜んでくれてもいいんだよ♪もっと抱き合いながら百合百合な展開でもいいと思うよ?お姉ちゃんは」

 

え?お姉ちゃんって言った⁉︎

もしかしてあの人って………

 

ってか会長の頬を汗が流れてるけど大丈夫ですか⁉︎

 

「お姉さまってまさか……⁉︎」

 

「セラフォルー・レヴィアタン様よ」

 

俺の言葉に部長が答えてくれた。

ってことはこの人が……

 

「この人が八幡の主⁉︎」

 

「お、俺も会うのは初めてだな……」

 

俺同様匙も彼女を見つめていた。

 

 

「本当はお姉ちゃんに会えてとっても嬉しいんでしょ?」

 

「セラフォルー様お久しぶりです」

 

未だに言葉を続けている彼女に部長が話しかけた。

 

「あら、リアスちゃんおひさー。元気してましたか?」

 

「はい、お陰様で……八幡にもお世話になりました」

 

「そうそう、ハチくんもリアスちゃんと会ったみたいだね。今まで会えてなかったからいい機会だと思ったんだよ」

 

「ええ、初めは驚きました。ところで今日はソーナの公開授業に?」

 

「うん‼︎正確にはソーナちゃんとハチくんの。2人とも酷いんだよ‼︎私に今日のこと黙ってたんだから……もう、お姉ちゃんショックで……………天界に攻めこもうとしちゃったんだから」

 

そう言ってセラフォルー様は持っていたステッキを空高く掲げた……

 

冗談なのか本気なのかよくわからない……

 

「ん?リアスちゃんあの子が噂のドライグ君?」

 

「はい、イッセー挨拶しなさい」

 

「あ、はい‼︎兵藤一誠です。リアス・グレモリー様の兵士をやっています」

 

ふと、挨拶が遅れていたことに気づき急いで挨拶を済ませる。

 

「初めまして、魔王のセラフォルー・レヴィアタンです。ハチ君やソーナちゃんと仲良くしてあげてね。それと………」

 

そこまで言って言葉を切るとセラフォルー様はそこでクルリと一回転し決めポーズを取る。

 

「レヴィアたんって呼んでね♪」

 

「は………はい……………」

 

そんな彼女に俺はただ頷くことしかできなかった。周りにいた会長以外が苦笑いをしている。

 

 

「お姉様。お願いですからこういった公式の場でそのような格好は……」

 

「そんな、ソーナちゃんそんなこと言わないでよ……ソーナちゃんにそんなこと言われたら私悲しいよ‼︎お姉ちゃんが魔法少女に憧れてるって知ってるでしょ‼︎この服だって前にハチ君が冥界に戻ってきた時に無理言ってまで作らせた一級品なんだよ‼︎最上級悪魔の一撃すら防げるくらいの防御力だって備わってるんだから‼︎」

 

「八幡君の苦労が目に浮かびます……」

 

あの服……八幡が用意したのか……

あいつも大変だな……

 

「きらめくスティックで天使や堕天使を纏めて抹殺なんだから♪」

 

「お姉様がきらめかれたら小国が数分で滅びます……」

 

 

なおも続く姉妹のやり取りを見て俺はふと呟いてしまう……

 

「セラフォルー様……会長のこと溺愛してるなー」

 

「ええ、むしろ過剰なほどセラフォルー様は妹であるソーナ会長を溺愛していますのよ」

 

そんな俺のつぶやきに朱乃さんが反応してくれた。そんなやり取りをする俺らを他所になおもセラフォルー様は会長の周囲を移動しながら話しかけ続けている。やべぇ、会長が震えてるよ……今にも泣き出しそうなくらい……

 

 

「もう……もう‼︎」

 

そして会長が限界を迎えそうになった時救いの手が差し伸べられた。

 

 

「それくらいにして下さいセラフォルー様。」

 

「あー、ハチ君‼︎」

 

「は、はちまんくん……」

 

声のした方に振り向くとそこには八幡がいたのだが……何かおかしい。

何故か八幡の肩の上には少女がいる。

肩車をされている少女は心底満足そうに八幡の頭の上に顎を置いているのだが……その少女の格好はどう見ても……

 

「ロリナルガ娘"ぉぉぉぉおおお⁉︎」

 

俺がまたしてもつぶやいたが、その言葉が最後まで行くと共に俺から苦痛の声が漏れ吹き飛ばされた。

 

 

「い、イッセーさぁぁぁぁあん⁉︎」

 

そんな吹き飛ばされた俺の元にアーシアは急いで駆け寄り治療を始める。何が起こったのかわからず上半身を起こすと先ほどまで俺が立っていた位置には八幡の肩の上に乗っていたはずの少女が立っている。セラフォルー様と会長を除いた周りの奴らはポカンした表情でその少女を見つめていた。

 

 

「まぁ、今のはあんたが悪いわね。初対面の人を相手にあんなこと言ったんだから」

 

そんな俺に聞き覚えのある声がかけられる。

その方向を向くとそこには俺らがつい最近世話になった人が立っていた。

 

「やっほー、シノンちゃんとユウ君も来てたんだね」

 

「ええ、私とユウは都合が合ったので」

 

「ん。セラフォルー様……お久しぶり」

 

 

「え、えっと……セラフォルー様この子は?」

 

ようやく戻ってきたのか、部長がセラフォルー様に問いかける。

 

「この子はね比企谷ユウ君。ハチ君の弟君だよ♪」

 

 

『はい⁉︎』

 

え?弟?八幡に弟がいたのか⁉︎っていうか弟って男⁉︎こんなに可愛いし、どっからどう見ても女性用ナルガ装備なんですけどぉぉぉおおお。

 

そこまで思った俺は再び吹き飛ばされた。

 

「なんか、すごくムカついた……」

 

ふんす、とユウがこちらを睨んでくる。

やばい、せっかく治ったのにまた怪我が……

 

 

「あらあら、八幡君には弟君がいたのですね」

 

「ん、にぃとお酒、飲み交わした……だから、義兄弟?」

 

いや、酒飲み交わすって古風な……

ってかこんな子供に酒飲ますなよ⁉︎

 

 

「ほらユウ。こっちはサーゼクス様の妹のリアス・グレモリーだ。挨拶しろ。シノンは既に面識あるから」

 

「ん。比企谷ユウ。15歳。にぃの眷属で戦車。よろしくね?」

 

八幡に促されユウ君も挨拶をする。その際頭からピョコっと獣耳が出てくる。

ってぇぇぇええええなんで獣耳が⁉︎

いや、マジでナルガ娘にしか思えねぇし15って1つ違いなの⁉︎ってかなんでこんなに可愛いのに男なんだヨォぉぉぉぉおお。

 

「ごふぅ」

 

「またよからぬこと考えてた」

 

そんなことを考える俺の鳩尾に本日3発目の拳が放たれた。

 

「懲りないわね……」

 

なんかシノンさんから嫌な視線を感じるけれど気のせいだと信じたい。

 

 

「それよりもハチ君‼︎どうして私に今日のこと教えてくれなかったの‼︎」

 

 

そんな俺を放っておくようにセラフォルー様は頬を膨らませながら八幡へと問い詰め始める。

 

 

「グレイフィアから聞いていたんでしょう?なら、俺が直接言わなくてもいいでしょう」

 

「それでもハチ君やソーナちゃんの口から聞きたかったんだよー」

 

「次回から気をつけます。それよりもセラフォルー様……あまりその格好でウロウロしないでください」

 

「ハチ君までそんなこと言うの⁉︎いいじゃない‼︎私は魔法少女に憧れているんだから‼︎」

 

「セラフォルー様‼︎」

 

「な、なに⁉︎」

 

流れるような会話の中八幡が唐突に声を強めた。

 

 

「あなたが魔法少女に憧れているように……俺やソーナも貴方に憧れているんです。普段そういった格好をするのは構いません。貴方のかわいがりもソーナは照れていますが、本心では嫌ではないはずです」

 

「っちょ⁉︎ハチ君⁉︎」

 

八幡の言葉に会長が思わず声をあげた。

ってかハチ君って……やっぱり会長もそう呼ぶんだ……匙、泣くな……頼むから隣で号泣しないでくれ。

 

 

「ハチ君やソーナちゃんが……」

 

「はい。しかし、俺もソーナも年頃ですので、公の場では恥ずかしいのです。今日の夜、シノンやユウもうちに泊まるので、ソーナも招いてその時にゆっくりとお話など聞きますのでどうか今は控えてください」

 

そこまで言う八幡の顔には心なしか疲れが見える。ああ、あいつやっぱり苦労してるのか……

 

 

「生徒会室にモニターを用意してあるのでそこで午後の授業の様子をみてください。そこでしたら俺の授業もソーナの授業も同時に、それも360°どの方向からでも見れますので」

 

「ハチ君……わかった。お姉ちゃん今は我慢する‼︎だから今日の夜は相手してね。それでそれで久しぶりにハチ君とソーナちゃん3人で寝ようね‼︎」

 

「………はい……」

 

そこまで話し終えるた八幡と会長が視線を合わせていた。

 

(はちまんくん……)

 

(耐えろ……そうじゃなきゃ今可愛がりを受けることになる……)

 

(はい………)

 

そんな風に会話をしているように俺は思えた。

 

 

「八幡、いきなり来いなんてどうしたんだ?」

 

 

ようやくひと段落ついたと思ったその場に新たな人物が現れる。その人物の登場は収まりかけたその場を再び荒らす予感を感じさせていた。

 

「よぉ、ゼノヴィア」

 

そう言って八幡はゼノヴィアの方へと向き直る。

 

「ん?彼女たちは?」

 

「顔合わせだよ。俺の主と、お前の同僚とのな」

 

そう言って八幡はセラフォルー様やシノン、ユウを見る。心なしか3人の頬が膨れているような気がした……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遅れて申し訳ないですm(__)m
次回はもっと早めに投稿できるようにします。

感想を書いてくれている方々、本当にありがとうございます。


そして次回は顔合わせ会①
ゼノヴィアと会ったセラフォルーとシノン、ユウの反応は如何に?

ではでは感想お待ちしておりますm(__)m




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眷属と認められて……(短話)

長いことお待たせしました。
しかし、待たせて申し訳なかったのですが今回はかつてないほど短めです。

次回投稿は1月中旬を予定。(次話は1万越え予定)
それからは週一投稿していこうかと思います。

ではでは


駒王学園。

この学園の体育館では現在進行形でなんとも言えない雰囲気が漂っていた。4大魔王の1人、セラフォルー・レヴィアタン様の我儘がなんとか収まったと思った矢先、八幡の新しい眷属…ゼノヴィアがやってきたからだ。

 

え?なんでそんな雰囲気になるの?

 

ゼノヴィアが来た瞬間、一瞬頬を膨らませたセラフォルー様とシノンにユウは現在、目を細めながら……まるで値踏みでもするかのような視線を彼女に向けていた。

 

いや、まぁそういう目で見る理由は大方わかるけども………もっとオブラートに包んだ感じに出来ませんかね……

 

 

「あっと………新しく八幡の眷属になったゼノヴィア・クァルタだ。よろしく頼む……」

 

 

ゼノヴィアもその視線の意に気がついたらしく表情を硬くする。

 

 

「通信では会ったけど、実際に会うのは初めてね。改めて挨拶するわね。八幡の眷属のシノン……駒は僧侶。よろしくねゼノヴィア」

 

3人の内初めに挨拶したのは面識があったシノンだった。ゼノヴィアに対して思うところがあったのかその話し方はいつもの彼女そのものだ。

 

「魔王でハチ君の主セラフォルー・レヴィアタンだよ。私のハチ君の眷属としてよろしくね。」

 

それに追随する形でセラフォルー様が挨拶をする。何故か私のという部分を強調して……それとすごくイイ笑顔だ……具体的にどれくらいかと言うと軽く俺が震えそうになるくらい。

 

「……ユウ…………にぃの眷属で戦車……よろしく……」

 

ユウはユウで未だに値踏みするようにゼノヴィアを凝視していた。

 

「おーい、新しい家族なんだから仲良くしてくれよー」

 

3人の挨拶に思わず俺は脱力してしまう。シノンはどうやら納得してくれたようだが、セラフォルー様とユウは明らかに納得していないようだった。

 

「お、お姉様落ち着いてください。」

 

先ほどまで泣きかけていたソーナもそんな姉の姿を見て声をあげる。周りに視線を移せば、全員の顔が引きつり、僅かながら後退していた。

 

まぁ、ユウやセラフォルー様の雰囲気を間近で受ければそうなるのは仕方ない。

 

一方は魔王であり、もう一方は俺の眷属における現時点のもう1人の最強の悪魔だ。

 

俺の眷属で規格外は多くいるものの、中でもヴィザとユウは現時点において他の眷属とは明らかに違う強さを持っていた。

 

そして威圧という点ではユウは確実にヴィザよりも強い。それは彼らの戦闘スタイルの影響があるだろう。ヴィザが技術の強みがあるのに対しユウの強みは純粋な戦闘力。

おそらく、こと体術のみの戦闘においてはユウは俺よりも強いだろう。

 

補足として言うならばユウを現眷属最強として推しているのは俺であり、ヴィザを推しているのが俺の神器の中にいる奴ら(・・)だ。

 

 

そんな俺の眷属と主が納得せずゼノヴィアのことを見ているのだから周りも気が気ではないだろう……しかし

 

 

「まぁ、これからハチ君のことよろしくねゼノヴィアちゃん。」

 

そう言ってこの雰囲気の原因の片割れが笑顔でゼノヴィアに抱きついた。

 

「え……うぇ⁉︎……ちょっ…………」

 

 

セラフォルー様にいきなり抱きつかれたゼノヴィアは何が何だか分からず、普段は出さないような顔を見せながら戸惑いの声を上げた。

 

それもそうだろう。今抱きついているセラフォルー様は先ほどまでの雰囲気とはまるで違うのだから。

 

「セラフォルー様?」

 

そんな彼女の行動が理解できなかったのかユウはセラフォルー様の方を向きながら首を傾げた。

 

 

「うーん。正直なところを言うと君みたいな子をハチ君の眷属……それも女王の駒を渡すなんてもったいない‼︎って言うのが本音なんだけどね。でも、ハチ君が選んだことならいいかなって今思い直したんだ。ハチ君もそれにムカつくけど彼女も人を見る目はピカイチだからね♪」

 

彼女……それが誰のことかわかる者はこの場において数名しかいなかった為、皆が頭にクエッションマークを浮かべている。ただ1人、あの日の惨状を間近で見たソーナだけが顔を暗くした。

 

 

ゼノヴィアはゼノヴィアで混乱しながらも認めてもらえたということは頭の中に入ってきた為安堵の息を漏らす……

 

 

「にぃ……」

 

そんなゼノヴィアの安堵を打ち消すようにもう1人の原因が俺に声をかけてきた。

 

「ん?なんだユウ」

 

「なんで女王の駒をだしたの?」

 

そのユウの問いかけに俺へと視線が集中する。

 

 

「別に、今回眷属にしたいと思ったのは俺だが渡す駒の種類を決めたのは俺じゃねぇよ。」

 

その俺の答えに、阿朱羅丸の存在を知る者達は目を見開いた。

 

「あーちゃんが?」

 

ユウもやはり驚きを隠せないようだった。

まぁ、阿朱羅丸が女王を出すという選択をした事は実際驚くべきことなのだろう。普通に考えて今のゼノヴィアには女王の駒に見合う資質など見受けられない。そう思っているであろう眷属達に対して俺は忠告した。

 

「シノン……それにユウもだが……うかうかしてるとユウキだけじゃなくてゼノヴィアにも抜かれるぞ」

 

今度こそ彼らは絶句してしまう。

ユウキならばまだわかる。

ユウキなら……成長速度も戦闘センスも、そして神器もとんでもないものである彼女ならば少なくとも数年後にはユウやヴィザすら超えうる可能性があるからだ

 

しかし、まさか自分達が完全に格下として見ていた……自分達の足元にすら及ばないであろうと思っていた人物がいつか自分達を超えると暗に自分の主から言われるとは思わなかったのだろう。

 

俺の言葉から数秒の間の後ユウはゆっくりとゼノヴィアの方へと歩き出し彼女の前まで来ると深々と頭を下げた。

 

「ん、ごめん……今回のはユウが悪い……改めてよろしく」

 

そう言って頭を上げると手を差し出す。

その差し出された手をゼノヴィアはどうするか迷ったが、それも一瞬だけですぐにユウの手を握った。

 

そんな何処かいい光景の外でリアス達は終始冷や汗を流していた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なぁ、お前こうなるとわかっててユウに説明とかしなかったろ?)

 

(自分の目で確かめて、自分の耳で聞いた方がいいでしょ?)

 

(そりゃそうだが言っといてくれればもっと穏便に済んだろ……リアス・グレモリー達を見ろ、彼奴ら冷や汗だらだらだぞ……)

 

(まぁ、彼女達は……ほら、外野だから)

 

(ひでぇな)

 

しかし、ユウとゼノヴィアとの光景や空気に成り果てているリアス・グレモリー達の横では、初めから通信でゼノヴィアの眷属入りの経緯を完全に把握していたシノンは俺の言葉にてへぺろとばかりにはにかんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




待ってたのにこの量⁉︎とお怒りになる方がいるかもしれませんが、すみません。次回は一気にギャスパーの話まで通り過ぎていく予定なので許してくださいm(__)m


では、次回は面白いであろう話を行きます‼︎


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魔王の滑った一言


まずはじめに謝罪m(__)m

全然1万字行ってないですm(__)m

言い訳としましてはテストや資格を取る勉強というのがありますが、言っておいた文字数に達していないこととなかなか更新しないことに対することを今ここで謝らせてもらいます……すみませんm(__)m


でも完結まではやるつもりです。
これと、pixivに投稿してるふたりぼっちと野良猫邸は絶対に(=゚ω゚)


というわけで少なくてすみませんがどうぞ………

次回投稿は未定……
できれば3月中に投稿したい…………










 

 

 

 

体育館の揉め事の後は特にこれと言ったこともなく、俺たちは予定通りソーナやセラフォルー様達を交えて自宅でパーティをしようとしていた。のだが………

 

 

 

「ねぇ、ハチくん……どういうことかな?」

 

俺の自宅にソーナとともに来たセラフォルー様は声を1オクターブ低くして俺を問い詰めていた。その問い詰める姿からは魔力が漏れ出し、家がギシギシと音をたてている。

 

本来ならば逃げたいのだが……現在とてもうごける状況ではなかった。

 

困った俺は"ええ"と言葉を濁しながらもセラフォルー様の不機嫌の元凶たる2人の頭を撫で続ける。

 

「何続けてるのさ⁉︎」

 

そう言ってスパーンとセラフォルー様は俺の頭を叩いた。その衝撃にグラつきながらも俺の膝を枕にして寝ているユウと小猫を起こさないように腰から下は動かさない。風呂に入った後夕飯を待っている間に寝てしまった2人は(ユウの外見もあって)まるで姉妹のようだ。

 

 

「なんで小猫ちゃんまでいるの⁉︎」

 

 

そう言ってセラフォルー様は俺の膝の上にいる2人……正確には小猫の方を睨んでいた。

 

 

「いろいろあったのよ」

 

「シノンちゃんは知っててなんで私には報告しなかったの‼︎」

ウガーーーーとセラフォルー様は両腕を挙げて抗議の姿勢をとる。

 

そんな不機嫌なセラフォルー様を他所に彼女の問いに答えたシノンは台所で夕食を作っていた。その身につけたエプロンは、いつもの彼女のクールさの陰に隠れた優しさや親しみやすさを前面に出すには充分すぎるアイテムであり、正しく理想の嫁像を纏めた姿だった。

 

つまり何が言いたいかというと……

 

 

久しぶりにその姿見たけどシノンマジ天使‼︎

 

俺はリアス・グレモリー達の強化合宿では結局見ることのなかったシノンのエプロン姿を今、堪能していた。

 

「むーーー」

 

「八幡くん……」

 

「ん?なんだよ?」

 

不意に向けられた視線と声に俺は目を顰める。シノンの隣で共に食事を作っているソーナが頬を膨らませながらこちらを見ていた。セラフォルー様も先程とは意味合いの違う視線を俺に送っている。具体的に言うと先程までは浮気をしている彼氏を見るような殺気のこもった目だったが、今はまるで拗ねた子供のような視線だ。

 

「八幡…声に出てなくても私達はあんたの考えてることだいたい読めるわよ?それと……ありがと」

 

 

oh……

 

何それデジャヴ?

なんかそんな言葉を前にも言われた気がする。

 

 

いつだったかなと考え直すと、ここ最近ゼノヴィアや小猫の特訓を朝や夜にしている時に2人から同じことを言われた気がする……と最近の出来事を思い出しながら俺はシノン達に反論する。

 

 

「別にお前らのことなんてなんとも思ってないでしゅよ……」

 

しかし大事なところで噛んでしまう点、そういうところは昔から変わっていないのだろう。

 

 

 

 

「ふぅん……なんとも思ってないねぇ…….私のことを眷属にするときあんな言葉言ってくれたのに?」

 

「ぐっ…….アレはアレだ。そのとき思ったことだよ……」

 

 

 

 

 

「私の婚約話のときあんな形相で相手を倒していたのにですか?」

 

「えっと……それはほら、相手が調子に乗っていろんなやつと組んできたから……」

 

 

 

 

 

「私の眷属になるときもかなり想いのこもった言葉だったけど…….」

 

 

「うぐ………それは……あれです、あれがあれなんで……」

 

 

 

 

連続してシノン、ソーナ、セラフォルー様から問われていく。その答えに初めはそれっぽいもので答えていたが、最後のセラフォルー様に関して言えば全く良い言い訳が見つからなく、もはや否定すらできていなかった。

 

 

「「「ひねデレだねぇ……」」」

 

 

懐かしい言葉を3人が俺へと向けてくる。

 

近頃はセラフォルー様の女王として相応の態度を取っているが、どうも眷属や親しい間柄の奴らだけでいると昔のような態度になってしまう。

 

「その言葉も久しぶりだな……」

 

「あんたが素直にならず捻くれてたからでしょう。いつもは普通にできるのに、私達の前だとボロ出して」

 

「そんな八幡君も良いと思いますよ」

 

「そうだねー、ハチ君も偶には気を抜かなきゃ‼︎」

 

「お姉様はもう少し気を張ってください‼︎」

 

「えー、そんなぁー」

 

 

と姉に抱きつかれ調理の手を止めながら姉妹独特の会話をする2人と調理の手を休めていないシノン、膝の上にいるユウと小猫、そして風呂場にいるゼノヴィアの気配を感じながら俺は物思いに耽ってしまう。

 

 

そんな態度が取れるのも彼女達やヴィザ達の前だけだろう……と俺は思わず頬を緩めてしまう。この場の、この空間の居心地の良さに心が満たされていくのが感じられた。かつて望んだ、本物の関係はこの場に満ち溢れている。そのことがどうしようもなく嬉しかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷戦という名の食事をみんなで取った後に待っていたのはセラフォルー様による俺とソーナの可愛いがりだった。

 

え?なんで冷戦かって?

小猫ははっきり言って大食らいだが、ユウはそれを越す大喰らいだ。正直眷属の中でぶっちぎりでよく飯を食べる。もしかしたら悪魔1かもしれないが……

そんな2人が限りあるおかずを取り合うのは火を見るよりも明らかであるのだが、シノンの前でそんなわかりやすい料理の取り合いをした日には1週間飯抜きにされる。そのため、おかずの取り合いは静かに、それでいて激しく行われていた。具体的にはシノンが俺に構ったり、セラフォルー様と話をしている時に視線がそれた瞬間に騎士顔負けのスピードで一瞬にして掻っ攫って行った。

 

ってかシノンさんマジオカン……

ユウはまだしも既に小猫の胃袋も掴んでるし……

 

 

それはそれとして…………

 

覚悟はしていたがやはりセラフォルー様の可愛がりは辛いものがあった。

主に俺の精神がガリガリと削れていく面で。

 

 

抱きつかれ、撫でられ、頰ずりされ、匂いを嗅がれ……最終的には2人揃って押し倒されと数ヶ月ぶりのセラフォルー様の可愛いがりは俺とソーナの予想を軽々と超えた過剰なものだった。

 

 

横にいた小猫やゼノヴィアは呆然といった表情だったが、セラフォルー様の可愛いがりや愛情を知ってるユウとシノンは仕方がないと割り切っているのか、やれやれといった様子で俺たちを放置し、2人でボードゲームを興じていた。

 

そんな男としては嬉しくも俺としてはハタ迷惑な行為から逃げるために風呂に行くという口実をつけ俺はその場から離脱していった。

 

残されたソーナはセラフォルー様と共に風呂に入ることになるわけだが、あの可愛いがりの後に他人を気遣う余裕なんてない。

(すまん…….ソーナ)

俺は静かに合掌した。

 

 

 

 

 

八幡 side out

 

 

小猫 side in

 

 

 

 

2時間近く続いていたセラフォルー様の可愛がりから逃げるように風呂場へと先輩が消えていった後、ようやく満足したのかセラフォルー様は満足そうにソファに座りなおした。

 

その可愛がりを受けたもう1人の被害者であるソーナ会長はというとぐったりとした様子で、フローリングの上に伏している。

 

 

 

「はぁ〜〜堪能したよぉ。後は3人で寝れば満足できるね☆」

 

 

「相変わらずですね、セラフォルー様は」

 

「ありがと☆シノンちゃん」

 

満面の笑みを浮かべながらソファに座るセラフォルー様にシノンさんは苦笑いしながらお茶を出しました。

 

 

 

「うーん。相変わらずシノンちゃんが淹れるお茶は美味しいね☆」

 

 

「お茶に関して言えば私よりもあの子の方が上手いと思いますよ?」

 

 

「それでもここまでおいしいお茶を出せる人はそういないよ☆」

 

 

そう言いながらセラフォルー様はお茶を啜る。

 

 

あの子……というのは先輩の眷属の誰かでしょうか?ゼノヴィア先輩も頭にクエスチョンマークを浮かべながらシノンさんの話を聞いています。ユウさんはといえばソーナ会長に耳掃除してもらってますね。なんか幸せそうです……というかその獣耳は本物だったんですね……

 

 

そんな先輩の眷属……家族達のほのぼのとした様子を見ながらシノンさんが淹れてくれたお茶を口に含もうとした時、ふとセラフォルー様と視線が合いました。その瞬間彼女から私に向けらて発せられた唐突な言葉に私は思わず停止してしまいました。

 

 

 

 

「でも、変な縁もあったもんだね……昔ハチくんが助けた子が今こうしてまた再会してハチくんと暮らしてるなんて」

 

 

 

「え?」

 

その時……私の中で数週間前に思い至った……ゼノヴィア先輩がこの家に来た日に考えていたことが浮上し、今まで合わなかったピースがカチリと間違いなくはまった音が私の中でこだましていました。

 

 

 






あとがきでも言いますが本当にすみませんm(__)m

できる限り投稿できるようにはします。

本当にすみませんm(__)m


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やはり妹よりも姉の方が強いのは仕方ない?

インターンシップでなかなか執筆ができず申し訳ないです(´・_・`)

それでも少しずつでも書き進めていきますのでどうかお付き合いください(=゚ω゚)




今回はあまり人が登場しません。
それと今回は前に書いた伏線?の様なものの回収回です。
伏線(眷属と少女は彼に何を思うか……の時に作者は張ったつもり)
伏線にもなってなかったらすみませんm(__)m


では本編へどうぞ♪


ザッザッと土を踏みしめる音が周囲にこだまする中俺は1人、いつもの教会の廃墟に訪れていた。

 

《でもさすがシノンね……セラフォルーの飲むお茶に睡眠薬を平然と入れる点あの子もある意味問題児だわ》

 

1人歩く俺の腰にはいつもの剣とは違い装飾部分が朱色の刀が携われている。そこから発せられる声もまたいつもの何処か軽い声ではなく、そこはかとなく上品な雰囲気があった。

 

「まーな。しかし、なんか風呂から出たら小猫の奴の様子がおかしかったが何かあったのか?」

 

《さぁ?セラフォルーが何かしたんじゃないの?それよりももうじき着くわよ》

 

 

「ああ、わーってるよクルル」

 

そう言って俺は刀を撫でながら目的地を見据える。

 

時刻は2:00

こんな真夜中になにをしてるのかと言われれば、ただのはぐれ退治である。

いつもならばソーナやオカ研の奴らに任せるのだが、あいにくソーナはセラフォルー様が寝ながら抱きついているため風呂にも入れず今夜は就寝、グレモリーもサーゼクス様が来ているから暇ではないのだ。

 

 

《でも久しぶりね、ハチが私のことを使ってくれるなんて》

 

もうじき着くと気を引き締めさせたにも関わらず、ふとクルルは俺に囁いてくる。

 

「もうじき着くんだぞ?」

 

《ハチが私を使って怪我でも負うと思う?それに久しぶりなのはホントのことよ》

 

 

至極正論な返しをされた上その口調は何処か拗ねた子供のようだった。

 

「まぁ、そうだな。それにクルルのことはそう簡単に見せられないからな……まぁ、今度の会議の時にはみせることになりそうだが……」

 

拗ねるクルルを慰める様に刀を撫でる手の動きを早くしながら俺は呟く。

 

 

《それは私達を3大勢力に明かすってこと?》

 

「まぁ、そういうことだ。3大勢力で手を取り合おうとした時、阿朱羅丸が……鬼呪龍神皇が悪魔側にいるということを言わないわけにはいかないし、そうなればクルルのことも説明しておかないと後々3大勢力の間に亀裂が入りかねないだろ?」

 

 

《みんな驚くわね》

 

溜息を吐きながら面倒くさそうにする俺に対しクルルはフフと笑いながら囁いてくる。

 

全くもってその通りだ。

そもそも、阿朱羅丸のことに関しては悪魔側しか知らないし、クルルに至っては悪魔側ですら知っているのは1人……俺の眷属ですら知らないことだ。そもそもその1人も魔王とかそういう類の者ではなく偶々知っただけだ。

 

そんなことを話せば当然全員驚愕するだろう。

またそうなれば神器マニアのアザゼルが俺の神器がどういうものか詮索してくるだろうから隠し通すことは難しい。

 

何よりも……

俺の禁手に関して……いや俺の神器そのものについても話さなければならなくなるだろう。

 

そう考えると本当に憂鬱になってくる……

 

 

 

「阿朱羅丸のやつしっかりやってるかな」

 

憂鬱になった俺は遠い目をしながら空を見上げる。いわゆる現実逃避である。

 

《ハチ…………まぁ、しっかりやってると思うわ。最近ハチと阿朱羅丸の頑張りで彼女の実力、異常な速度で上がってるもの。それこそハチが言った様に油断してたら他の子達が抜かされるんじゃないかと思う程の勢いでね》

 

まぁ、当然じゃないかしら?

と最後に告げるとクルルはその刃を紅く滲ませ俺に本命の件を知らせてくる。

 

クルルの言葉にそれもそうかと思いながら彼女の知らせを受け俺は抜刀しゆっくりとその本命へと近づいていく。

 

 

その本命も……はぐれ悪魔も俺に気がついたのか草陰から勢いよく飛び出すと俺の首めがけて自身の鋭利な爪をたてようとしたが……

 

その爪が俺に届くことはなかった……

 

ゴスっと鈍い音がするとその悪魔は潰れた自身の手を抱えながら呻き、地面に屈み込んでしまう。

 

彼の手は俺の首に届く前に透明な壁にぶつかり自身の力とその壁の圧力により潰れてしまったのだ。

 

 

 

 

「相手が悪かったな……」

 

そう言って俺は掲げた刀を振り下ろす。

ただ、それだけではぐれ悪魔は消し飛び今日の仕事は終了した。

 

 

《はぁ、つまらないわね》

 

 

「まぁ、仕方ないだろ」

 

はぐれ悪魔にも言った通り、本当に相手が悪いのだから。

 

俺が手に持つこの刀は鬼呪龍神皇である阿朱羅丸の……アシェラ・ツェペシの実の双子の姉であるクルル・ツェペシであり、吸血鬼の始祖なのだ。その実力は阿朱羅丸と比べても遜色ない強さなのだから、そこらのはぐれ悪魔に対しては過剰戦力極まりない。

 

 

「ホント……セラやソーナ……シノン達にバレたら面倒くさいんだろうな……」

 

 

《会議の時本当に疲れることになりそうね。特になんで私がこの神器の中にいるのかとかね》

 

「全くだ……」

 

 

 

再び深い溜息を吐きながら俺はその場から離れていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、なんの用ですか?サーゼクス様」

 

 

 

翌朝襲いかかる眠気を押し退け、迫り来るセラフォルー様を仕事という名の力で退けた俺はシノンとユウに見送られ学校へと向かった。道中小猫が俺を見ては目を逸らし、見ては逸らしの繰り返しだったが気にしない。こういう時はそっとしておいたほうがいいというのが俺の持論である。隣にいるゼノヴィアはと言うとこちらも俺に勝るとも劣らない眠気と戦っている様だ。朝練→学校→夕方の鍛錬→夢の中での阿朱羅丸との鍛錬とスーパーハードコースの鍛錬をしているため、やはりどうしても疲労が残ってしまう様だ。心配して少し量を減らすか?と聞けば、自分はまだまだだから減らさなくていいと言ってくる点、こいつも確実に俺の眷属……もとい問題児である可能性が否定できなくなってくる。

 

本当にそのうち鍛錬が趣味とか言いださないか不安だ……

 

 

そんなことを考えながら歩いている俺たちの前に現れたのはみんなご存じサーゼクス様だった。うん、眠いからかテンションおかしくなってるな俺……

 

 

《いつものことだろ?》

 

ウルセェ阿朱羅丸。

つーかクルルはまた寝てるのか?

あいつ昨日拗ねてた割にいつも寝てるよな……阿朱羅丸以上に……

 

 

《クルルはグータラだからね。吸血鬼も子供達を造ったら後はテキトーな代役を造ってそいつに吸血鬼の国のことを任してたくらいだし》

 

そんなこと言って後でしばかれるぞ阿朱羅丸……

 

《大丈夫、大丈夫。僕と違ってこんな時間にクルルは起きて……くりゅせゃありゅうねせあ》

 

 

あ、阿朱羅丸さん?

 

 

《ハチ、ちょっとこの子借りてくわよ?》

 

 

サーッイエッサー

さらば鬼呪龍神皇……流石の阿朱羅丸もクルルには勝てなかったか………いや、実力は同じくらいのはずなんだがな………

 

 

 

「八幡くん?」

 

 

「ああ、すみませんサーゼクス様。少々寝不足でぼーっとしてました」

 

 

サーゼクス様の言葉でようやく現実に戻ってきた俺はこれ以上失礼のない様頭を仕事モードに切り替えた。

 

 

「大丈夫かい?あまり無理はしない様にね。それよりも僕は一応ここにはプライベートで来ているんだ。敬語はよしてくれ。今ここにいるのは魔王サーゼクス・ルシファーではなく八幡くんの友人のサーゼクスだよ」

 

そう言って俺を労いつつも敬語をやめる様促してくるサーゼクス様に対し、心の中で仕事でここの下見に来たのではなかったのかと軽く突っ込む俺は悪くないと思う。

現にサーゼクス様の隣にいるグレイフィアはサーゼクス様のことを睨んでるし……

 

 

「はぁ、わかったよサーゼクス。んで何の用だ?」

 

 

俺が言われた通りに口調を素に戻すとサーゼクスは満足げに笑い俺に話しかけてくる。

 

魔王にタメ口を聞いてる俺を隣の小猫とゼノヴィアは目を丸くして見ていたが……

 

 

「実はね、つい先ほどリアスに彼女の封印を解く様に言ってきたんだ」

 

「……マジ?」

 

「うん、マジだ」

 

 

サーゼクスの言葉に思わず返した俺の様子が気に入ったのか彼はご満悦の様子で返してくる。

 

 

「んで、俺に念の為に様子を見に行って必要ならあいつの枷になれと?」

 

 

「そんなことは言わないし、これは命令でもなんでもない。言ったろ?友人としてここに来ていると」

 

 

俺の皮肉めいた発言に苦笑いしながらも彼は続ける。

 

 

「私は友人として君に頼みたいんだよ。本来ならば彼女は君の眷属にするべきだった。しかし、当時はまだ君が駒を持っていなかったからね。とはいえ君の僧侶枠にもう空きはない。だから君に頼みたいんだよ。1人の友人として。彼女に力を貸してやってほしい」

 

 

そう言ってあろうことか彼は頭をさげる。

それを見たゼノヴィアと小猫は先ほど以上の驚きを見せる。

 

まぁ、プライベートとはいえ魔王が頭を下げたんだ、そりゃ驚くわな……

 

グレイフィアはサーゼクスを睨んでるかな?と思ったがそんなことはなくむしろ彼女の顔には疑問の色が浮かんでいた。

 

なんでだ?

 

《僧侶に空きがないってサーゼクスが言ったからじゃないかしら?》

 

あ、帰ってきたんですねクルルさん……

阿朱羅丸については触れないでおきます…はい。ってか確かにその通りだな。シノンはともかくもう1人の僧侶については俺の眷属とサーゼクスしか知らないから疑問に持たれて当然か。

 

というかなにこいつさらっと言ってやがる……

 

 

「わーったよ。どちらにせよ、あいつは短い間とはいえ俺が面倒を見てたんだ。今更もう1度見るくらいわけねぇよ」

 

サーゼクスに対する若干のイライラが溜まりながらも俺は了承する。

 

 

「そうか、受けてくれるか。ありがとね八幡くん」

 

そう言って彼は頭を上げると満足そうに頷く。

 

 

 

また面倒なことになるなと思いながら俺は溜息を吐く。ほんと溜息を吐いてばかりだ……

 

 

 

 

 

サーゼクス様は仕事があるらしくまた冥界に戻っていった。それを見届けた後俺たちは学校へと足を急がせる。

 

 

 

(始祖様)

 

 

そして急ぎ足で学校へと向かう最中ふと、俺にそんな声が聞こえた気がした。

 

 

放課後にあいつに会いに行くのか……

 

そう思うと面倒臭くもあり、楽しみでもあった。なんというか、妹の様に甘えてくるあいつのことは嫌いじゃないしな………

 

 

 

 

 

 




今回もそんなに量はなかったですね(^з^)-☆


はい、冗談です、すみませんm(__)m

できれば次回で一気に会合編を終わらせてその後閑話を入れたいと思っています。

でもたぶん後2.3話あって閑話になると思います(-。-;

それと活動報告にアンケートを乗っけたのでコメントなどしてもらえると幸いですm(__)m


ではでは。




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始祖様?違いますお兄ちゃんです

アンケートを取った結果短くても月数回単位で出してほしいというお言葉が多かったので、そうします。

月に3.4本。文字数は4000字前後になると思います。

アンケートご協力ありがとうございました。


*この作品ではギャスパー及びヴァーリは女性にTSしてます。





放課後まだ日が強いこの時間帯、俺はゼノヴィアと小猫を連れて開かずの間と言われている教室に向かっていた。

というかゼノヴィアはわかるがグレモリー眷属である小猫は最近俺の近くに居すぎじゃね?と疑問に思ってしまう。

 

しかも朝から続くチラ見しては目をそらすを未だに継続中でありどう反応すればいいのかわからないから困ってしまう。

 

《まぁーたハチは女の子に何かしたのかい?》

 

ああ、阿朱羅丸復活してたんだ……

 

《……ハチも同じ目に合えばいいよ……》

 

突然聞こえてきた声に思わず応えてしまうと阿朱羅丸から嫌な雰囲気が漏れ出してきていた。忘れていたことと、助けなかったこと、加えて今の反応がよろしくなかった様でヘソを曲げてしまったらしい。

 

 

マッカンやるから機嫌直せよ……

 

 

《あんな甘いの飲むのはハチとユウくらいだよ⁉︎》

 

 

解せぬ……あんなにおいしいのに……

 

 

 

「む?八幡、どうかしたのか?」

 

 

俺が阿朱羅丸と心話をしていると不思議思ったのかゼノヴィアが問いかけてくる。

まぁ、阿朱羅丸達との会話は他の奴らから見りゃ、1人で次々と表情を変えてる様にしか見えないから不審がられても仕方ないが……

 

 

「ん?ああ、これから会いに行く奴のことでちょっとな」

 

そう言って俺は誤魔化す。

まぁ、阿朱羅丸と話していたと言ってもいいが、内容を聞かれた時それを話すのが面倒だしな。

 

 

「これから会いに行くのはリアス・グレモリーの眷属なのだろう?封印されていたと聞くがどうして……」

 

 

とゼノヴィアがそこまで続けた言葉は突然途切れる。

 

「ったくグレモリー達はあいつに何したんだ……」

 

 

「は、八幡これは⁉︎」

 

ガシガシと乱暴に頭をかきながらため息を吐く俺にゼノヴィアは驚きながら聞いてきた。

 

まぁ、隣にいる小猫が突然石になったように固まってりゃそうなるか。そうじゃなくても最近は実力が急上昇してるから今起きた違和感は感じ取れるだろうし。

 

 

「これが封印されてた原因だよ。あいつの神器、停止世界の邪眼は時を止めるからな」

 

そう言って驚いているゼノヴィアに構わず目の前にある目的の部屋のドアを開け、小言を言おうとする……

 

 

「ったく、なにやって………」

 

 

「始祖様〜〜〜〜〜」

 

 

が、それは弾丸さながらに飛んできた少女により遮られた。

 

 

グフッと肺の空気が外に漏れ出し、僅かに揺れた身体の態勢を整え飛んできた少女の頭を撫でると、先ほど言おうとしていたものとは別の小言を続ける。

 

 

「久しぶりだなギャスパー。でも危ねぇからいきなり飛んでくるな。あとなんで時止めてるんだ?」

 

 

「はい‼︎お久しぶりです‼︎始祖様‼︎‼︎えっと、リアス部長に無理矢理外に出されそうになったのでつい……あっ、戻しますか?」

 

 

彼女の言葉に俺は顔を上げるとそこには固まっているオカ研の面々がいた。しかも、イッセーに限ってはなんか棺桶の前で前のめりになってるし。おおよそギャスパーにセクハラでもしようとしたのか……

 

俺の言葉に元気よく答えながら身体に抱きつく力を一切弱めないギャスパーを愛でながら俺は目の前の光景にため息を吐く。そして念のために注意しておく。

 

「いや、まだ戻すな。それとギャスパー……始祖様って呼ぶな……」

 

「えー、どうしてですか⁉︎」

 

瞳を潤ませながら首を傾げてくるギャスパーの可愛さに割とノックアウト寸前になりながらもなんとかして続ける。

 

 

「いいか、そのことを知ってるのはギャスパーお前だけなんだ。だから2人だけの時ならまだしも他に人がいる時にそう呼ぶのはやめてくれ」

 

「それは……わかってますけど、今は時を止めてますし、2人だけの………」

 

 

とそこまで言い終えたギャスパーはようやく俺の後ろにいたゼノヴィアに気がついたのか目をパチクリさせる。

 

 

「え、えっと……私は今のことを聞かなかったことにすればいいのか?」

 

 

「ああ、そうしてくれ。いずれ話すから……」

 

 

俺の言葉を聞いていたゼノヴィアはどうすればいいかわからず、取り敢えず聞かなかったことにしてくれた。

 

 

「な、ななななな、なんであなた動けるんですか⁉︎」

 

 

逆にギャスパーはというと動けているゼノヴィアに驚きを隠せず思わず声を上げる。

 

 

「ああ、こいつはゼノヴィア。俺の眷属だ。あとはまぁ、動けるのは当然だな。むしろ、俺と阿朱羅丸で特訓してるのにこれで止められてたら俺らがショックだわ」

 

 

「始祖………んん。お兄ちゃんとアシェラ様がですか⁉︎」

 

 

ギャスパーの問いに俺が答え、その答えにまたもや驚くギャスパーだが、俺はそれどころではない。

 

「……えっとギャスパー……今のお兄ちゃんってとこもう3回言って?」

 

久々のギャスパーのお兄ちゃんコールに俺のシス魂に火がついてしまった……

 

「え?は、はい‼︎えっとお兄ちゃん?」

 

それは上目遣いで何処か恥ずかしげに……

 

「お兄ちゃん??」

 

それは首を傾げながらあざと気に……

 

「お兄ちゃん‼︎」

 

そして最後は意識を何処かに飛び立たせそうな俺を引き戻すように強く……

 

 

「………っは⁉︎」

 

天使だ……天使がいた……

正直ミカエルやガブリエルとかとは比べものにならないほどの天使力を秘めている

 

 

《いや、ギャスパーもハチも悪魔だけど》

 

 

阿朱羅丸とクルルが揃って突っ込んでくるがスルーだスルー。俺にとって今大事なのは……

 

 

「毎日俺の味噌汁を作ってくれ」

 

 

ギュッと今度は俺が強くギャスパーを抱きしめる。

 

《あーあ、また始まった……》

 

お前らって仲良いよな……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふぇぇぇええええ⁉︎ええええ、えっと、おおおお兄ちゃんどうしたんですか⁉︎」

 

 

俺の突然の行為にギャスパーは顔を真っ赤にしながら腕を上下にブンブンと振り回している。

 

 

「っあ⁉︎わ、わりぃつい……今離すから……」

 

 

仕事の疲れのせいか、ギャスパーの可愛さのせいか……或いはその2つが交わってか、とんでもない行為に出た俺はようやく冷静さを取り戻し始め、ギャスパーから離れようとするが……

 

 

「え、えっと………べ、べつにいいです……少し驚いただけで、お兄ちゃんにギュッとされるのは嫌じゃないので……」

 

 

oh……その角度、その瞳……その言い方は破壊力が強すぎる……

 

 

ギャスパーの一言で離れようとしていた手を戻し、再び抱きしめようとする俺だが……

 

 

「八幡?」

 

 

ゾクッと寒気を感じ、瞬時に振り向く。

 

「主様……これはシノンやユウたちにも報告させてもらいますね?」

 

そこには空気になりつつあったゼノヴィアが不穏な雰囲気を纏いながら腕を組んでいた。

言葉遣いも丁寧になっててビックリだ。

それに初めてこいつに主様って言われたわ。

 

うん。怖すぎる……………

 

 

「え、えっと………」

 

 

「かまわないよな?」

 

 

何か返そうと口ごもる俺に彼女は強すぎる疑問をこちらに述べてくる。

いや、それもう疑問じゃない…………

 

 

「はい……」

 

ゼノヴィアもか……

どうも……俺の眷属の女性陣は怖い連中が多い気がする……

 

 

冷や汗を頬に流しながら今夜もあまり寝られない事が確定した俺の後ろでは、ギャスパーがガクガクと震えながら身を隠していたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで八幡とギャスパーの関係はなんなのかしら?」

 

 

その後ギャスパーに停止を解除させ、ギャスパーの紹介をし終えた後、グレモリー眷属とゼノヴィアを前に俺とギャスパーは俺たちの関係を質問してくる。

 

ギャスパーはギャスパーで問い詰められるように聞かれたため、俺の背後に隠れてしまった。

 

 

 

「別に大した関係じゃねぇぞ?昔死にかけてたこいつを俺が拾って、世話して、サーゼクス様に預けただけだ」

 

 

そういって俺は背後に隠れる彼女の頭を撫でる。

 

 

「貴方が?」

 

初耳だったらしいグレモリーは首を傾げている。

 

「ああ。面倒な事に巻き込まれることが多いのか知らんが、わりとそういう知り合いは多いぞ、俺は。駒をもらったのだって数年前だ。それまでは俺が保護し続けるわけにもいかず、魔王様達に頼んで代わりに保護してもらってた。中にはギャスパーみたいに転生悪魔になってるやつもいる」

 

 

「へぇ、八幡さんはそういうこともしているんですね」

 

「八幡って意外と面倒見いいよな、目が腐ってるけど」

 

 

俺の説明にアルジェントとイッセーが反応する。その隣にいる小猫の身体がビクンと俺の言葉に反応していたのを俺は見逃さなかった。

 

 

《いや、ハチこれバレてるね》

 

《というか、それを確信にする為にワザと言ったんじゃないの?》

 

まぁな……

さすがにあんなに見ては目を逸らされを続けられたらなんでか気になるしな。セラフォルー様が、或いはシノンやユウが何か言ったとして、小猫がこうなる理由はこれくらいだろうし。

 

 

他にもあるっちゃあるが、アレはサーゼクス様しか知らないしな。

 

 

 

 

「あら、どうかしたんですか?」

 

 

「ん?いや、なんでもねぇよ。ただ、イッセーの言葉にカチンと来てまた前みたいな特訓をつけてやろうかと思ってただけだ」

 

ふと姫島先輩に声をかけられる。

相変わらず俺は阿朱羅丸達と話していると不信に思われるらしい。いい加減この癖を直さないとな……

 

 

「いや、それはやめてくれ⁉︎」

 

俺の言葉にイッセーは慌てて首を振っている。

 

「僕としてはどうしてギャスパーちゃんにお兄ちゃんって呼ばれてるのか気になるな」

 

そんな首を振るイッセーを傍に木場は全員が聞きたかったであろうことを聞いてくる。

 

 

「さぁ?ギャスパーがそう呼んでるだけだし、俺も悪い気はしねぇからそのままにしてる」

 

「そうだな、呼ばれて喜んでいたしな」

 

「「「「「「「………」」」」」」」

 

 

その質問に正直に答えるが、横から入れられたゼノヴィアの一言で全員が俺を冷たい目で見てくる。おいなんだその眼は。

 

 

「なんだよその眼は」

 

 

「ロリコン?」

 

 

「ぶちのめすぞ?」

 

ふと放たれたイッセーの言葉に阿朱羅丸(刀)を顕現させ柄を握りしめる。

 

 

「じょ、冗談だって……」

 

先ほど以上の慌てようで後退するイッセーに嘆息を吐く。取り敢えずギャスパーに適当に説明してほしい。だから阿朱羅丸をそんな尊敬の眼差しで見てないで説明をしてくれ。

 

「えっと、ギャスパーちゃんはどうして八幡さんをお兄ちゃんと?」

 

ナイスだアルジェント。

 

 

「え……えっと、お兄ちゃんといるとすっごくポカポカしますし、それに安心できるので……あとあと、お兄ちゃんはすっごく強いですし、優しいので……」

 

 

俺に隠れながらもおずおずと言うギャスパー。

だからその感じが保護欲をそそってくるんだよ……守りたい、この笑顔……

 

 

 

「っとまぁ、俺とギャスパーの関係はそんな感じだ。それよりも取り敢えずギャスパーの神器の制御の手伝いをするようにサーゼクス様に頼まれたから」

 

ギャスパーの言葉と態度を受け、軽く絶句している面子を他所に俺は言っておかなければならないことを忘れないうちに言っておく。

 

 

「ほ、ほんとですか⁉︎」

 

ギャスパーもその言葉を受けて目をキラキラさせながら俺を見てくる。

 

 

 

「おう」

 

 

そんなギャスパーの頭を俺はただ撫で続けた。

 

 

 

撫で過ぎて目を合わせて来ようとしない小猫が何かを決心したように近づいてきて俺のことを思いっきりつねってきたのと、ゼノヴィアが俺の肩を掴み、ミシミシと音を立てさせていたのはこの数分後の光景だった…………

 

 

 

 




次回!
ようやくアザゼル登場。


そして、八幡の協力者の1人がついに……………


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吸血鬼達の会合そして……


なんとか今月内に書き終えた(=゚ω゚)

さぁさぁ、今月3話目お楽しみにo(^_-)O


本編へどぞどぞ





 

「んで、どうしてこうなった?」

 

ギャスパー封印解除2日後の夜。

俺は制御の手伝いをすると言ったものの立て続けに急な案件があり、面倒が見れずそれを片付けてやってきた今日。

 

 

何故かギャスパーは部屋に引きこもっていた。

 

その部屋の前では俺に問いかけられてたグレモリー眷属達がバツの悪そうな顔をしながら俯いていた。しかし、いつまでも俯かれたままでは話が進まないため、俺はイッセーを名指しにして聞くことにする。

 

 

「おい、イッセー。黙ってないで答えろ。どうしてこうなった?」

 

名前を呼ばれたイッセーはビクンと身体を震わせた後事の経緯を話し始めた。

 

 

曰く、ギャスパーを鍛えて神器のコントロールをさせるため、みんなで特訓したらしいのだが、途中から悪ふざけが始まりギャスパーにニンニクを渡したり(由比ヶ浜)、追回したり(イッセー)したらしい。

 

更にはその最中、堕天使総督であるアザゼルが現れギャスパーの神器について制御のコツを教えたらしい。まぁ、アザゼルの本当の目的は俺や木場に会いたかったらしいが、俺は不在だし、木場も用事があったようでいなかったようだ。

 

 

ここまででも言いたいことはあるのだが、その後更なる問題があった。

 

 

 

1つ目はイッセーの仕事について行ったこと。

 

何故、よりにもよってイッセーについて行ったのかと俺は問いただしたい……

 

イッセーの顧客の多くは癖の多いやつで、なんでも今回の相手はあのコスプレ巨人だったらしいので尚更タチが悪い。

 

 

2つ目はその後に"もうこのメンツで特訓したくない"と言ったギャスパーに対して雪ノ下の毒舌が炸裂したのだ。

 

3年近く前の話だが、かつて彼女の毒舌を受けていた俺にはわかるがあいつの毒舌はギャスパーには相当こたえただろう。

 

 

そこにトドメを放つように由比ヶ浜が元気が出るようにとギャスパーに料理を作ってきたと言うからもはや呆れるしかない。

 

ギャスパーはその料理を見た後即座に部屋に引きこもってしまったようだし………

 

取り敢えずまず言うべきことは……

 

 

「なぁ、リアス・グレモリー。お前にとって眷属ってなんだ?」

 

「え?」

 

「今回のは完全にお前の監督不行届だ。別にお前が自分の眷属をどう思っていようとお前の勝手だがな。眷属同士でこんなことをやって、その関係がひび割れるのを防げないなら……眷属なんて持たないほうがいいぞ?」

 

グレモリーが疑問の声を上げるのを聞かずに言いたいことをすべて言い終える。

 

「……そうね……ごめんなさい」

 

グレモリーも俺の言葉が身に染みたのか本当に申し訳なさそうにこうべを垂れる。

 

 

「それにお前らもだ。仲がいいのはいいことだがその中にも礼儀は必要だし、なによりもギャスパーには数日前にあった奴らもいるんだろ?そうじゃなくてもほとんどの奴がギャスパーと親密ってわけでもない。それなのに無理矢理特訓ともいえない特訓をして、ギャスパーの意思を無視して追い回すような鍛錬をして、そんなんで本当に改善すると……強くなると思ったのか?」

 

 

グレモリーだけでなく、今度は彼女の眷属達に向かって発する。その言葉にギャスパーの特訓に付き合っていた面子は目をそらす。

 

今回のは明らかな悪ノリ。巫山戯である。

 

だが、彼らは知らない。

彼らのほとんどは大事なことに気づきもしない。小学生でも知ってるやつは知っていることに。だけど、わからない奴らにはいつまでたってもわからないこと。

 

 

「お前らがただの悪ノリや悪巫山戯だと思ってることでも、やられてる相手は苦痛を受けることもあんだよ。何でもかんでも自分の目線でしか見れないなら……ギャスパーの気持ちをわかってやれないなら……もうあいつの前に立つな」

 

 

合宿の特訓の時やコカビエルの時、助けてやった俺からは想像もできないほどの冷たい声を彼らに放ち俺はギャスパーのいる部屋を見つめる。

 

そんな俺の声色に驚いてか、或いは俺の視線に籠るものに何かを感じてか、彼らは各々別々の思うところがあるらしい。

 

グレモリーは心底後悔するように下唇を噛み締めている。

 

姫島先輩もグレモリーと思うことは同じなのか拳を握りしめていた。

 

木場は今回のことにあまり関わっていないが俺の瞳を見て何やら聞きたげな様子でいる。

 

アルジェントは今回その場にいたが、ただ笑うだけで特に何もしなかった自身を責めるように自分の二の腕をつねっていた。

 

イッセーや由比ヶ浜は悪巫山戯が過ぎたことを自覚しているのかギャスパーの部屋を見て謝りたそうにしている。

 

だが、その中で2人だけ他と違う奴がいた。

 

 

1人目は小猫。

彼女はもまた今回の特訓には不在だったらしい。やはりあの日以降少しおかしい彼女はその特訓に出ず、ここ数日家にすぐ帰り自室にいたらしい。そんな彼女は他とは違い、ただ俺の目を見ていた。

そして彼女の瞳はまるで俺を心配するかのように見ている。いや、事実しているのだろう。

今回の件はある種、俺の昔の黒歴史という名の古い傷を軽く抉るような……思い出させるようなものだ。

俺の過去を知っている小猫は俺がそういったことに敏感なことも知っている。

 

 

だからこそ心配しているのだろう。

 

そんな彼女の瞳の色を読みとる時、目があうと彼女はふいっとそらしてしまうのだから、未だに彼女の中であの件は片付いていないのだろう。まぁ、近い将来なんとかするつもりだが……

 

 

 

 

そしてもう1人は雪ノ下だった。

 

彼女は他の奴らには気づかれないように俺を睨んできている。その瞳は黒く、まるで呪い殺さんが勢いで荒んでいてかつての彼女からは想像もできないほどだ。

 

 

 

 

そんなグレモリー眷属を他所に俺は阿朱羅丸(刀)を顕現させその柄を強く握りしめる。

 

 

俺が突然刀を出したことに驚く彼女達を無視して俺はその刀を扉に向かい抜刀し、ギャスパーが閉じこもっている部屋のドアを切り裂いた。

 

 

『ええぇぇぇぇぇぇええええ⁉︎』

 

全員が俺の突然の行動に驚きながらいる中俺は納刀するとゆっくりとギャスパーの入っているダンボールに歩み寄っていく。

 

 

ダンボールに空いた穴から彼女の目が見え、俺の目と合う。するとビクンとダンボールが揺れ、恐る恐るといった様子でギャスパーが顔を出してくる。

 

 

そんな彼女をみて俺ははぁと深い溜息をつくとその歩みを止める。そして俺が歩みを止め右足を床にトンとつけた瞬間、俺とギャスパーを中心に黒い影が2人を覆っていく。後方でグレモリー達が驚いているのを感じながらも俺は続け、その影が俺とギャスパーを完全に包み込むと、俺とギャスパーの視界は黒一色の世界から一変し、真っ白な世界に変わる。そこはほぼ毎晩俺が見ている世界。

 

 

かつて、初めてここに来た時は1人の吸血鬼がいた。この場には今、2人の吸血鬼が住んでいる。

 

 

《やぁやぁ、来たみたいだねギャスパー》

 

《会うのは久しぶりね、ギャスパー》

 

その住人は、俺と共に来たギャスパーを歓迎していた。

 

「クルル様にアシェラ様⁉︎」

 

 

当のギャスパーは唐突に自身の前に現れた自身の祖先であり始祖である2人に驚き、慌ててダンボールから飛び出ると平伏しようとするが、それを阿朱羅丸の声が止める。

 

 

《あー、別にしなくていいよ。そういうのめんどいし。それと何回も言ったと思うけど、今の僕は阿朱羅丸ね》

 

 

「は、ははははははい、アシェラ様」

 

 

《んーーー、なんだかなぁ……》

 

《それは無理だと思うわよ?彼女達にとって私たちはある種神みたいな感じだし、その時の貴方はアシェラ・ツェペシだったんだから》

 

 

何度言っても直すことが叶わない自身の呼ばれ方に阿朱羅丸は首を傾けながら唸る横でクルルは唸る妹を見て、苦笑いしながら応える。

 

 

「って、ここはどこなんですかぁぁああ⁉︎」

 

 

阿朱羅丸とクルルが突然現れたことで周囲が変わっていることにようやく気がついたギャスパーは目の前の始祖2人を前に再度声を上げた。

 

 

「落ち着けギャスパー。ここは俺の精神世界だよ。」

 

そんなギャスパーに俺は宥めるように声をかける。

 

 

「精神世界……ですか?」

 

「ああ、さっき黒い影に俺たちは包まれただろ?現実の俺らの身体はそのままあの影に包まれたままだ。精神だけ、ギャスパーを俺の精神世界に連れてきた。ここはいわば、阿朱羅丸とクルルが住んでる家みたいなとこだよ」

 

「アシェラ様とクルル様の……」

 

 

俺が説明することでようやく納得したのか、ギャスパーは落ち着きを取り戻してきた。

 

 

 

《それにしても、面白い目にあってたねギャスパー。僕達もハチ経由で聞いてたよ、クククッ》

 

「わ、笑い事じゃないですぅー」

 

 

「それに相変わらずハチのことを始祖様って呼んでるし。ハチは始祖様よりもお兄ちゃんって呼んだ方がうれしがるよ?」

 

「え、えっとそれは……始祖様は鬼呪装備で始祖様達を宿していますし、なによりも始祖様の()()姿()はやっぱり、始祖様が1番しっくりくるので」

 

 

その証拠に阿朱羅丸のからかいにもブンブンと腕を振りながら抗議することもできるようにはなっている。

 

っておい、阿朱羅丸余計なことまで言わんでいい。ギャスパーも始祖様やめい。お兄ちゃんの方がいい。むしろ推奨するまである。

 

 

 

《まだニンニクの抗体ができてなかったのも驚いたけれど、どうして停止世界の邪眼まで制御できないことになってるの?》

 

 

 

そんなギャスパーに対し、俺たち3人が思っていたことを代表してクルルが問いかける。問いかけられたギャスパーはえーっと、と下を向きながら恥ずかしそうに答えた。

 

 

「そ、その。始祖様達御3方がいた時は別に問題なく使えたのですが……その、御3方がいないとどうしても不安になって……怖くなって……そうしたら他の人とも話すのもうまくできなくて……それでウジウジしてたら相手が苛立ったり、逆に興奮したりしてきて…………それで迫られたら知らないうちに発動しちゃいました」

 

 

『……………はぁ』

 

「さ、3人揃って溜息を吐かないでくださいよぉー」

 

 

制御できない理由を聞き思わずついてしまった溜息にギャスパーは再び抗議の姿勢をとる。

 

毎回思うけど腕をブンブン振りながらとるそのポーズ可愛いな、はやらせようぜ……

 

 

 

《まぁ、ハチの嗜好はともかく困ったことには変わりはないわね。私達がいれば問題なく使えるけれど、いないと不安定になるんじゃ正直、この先厳しいわよ》

 

 

《そうだねぇ。やっぱり厳しいよね。ハチの嗜好は置いといて》

 

 

「始祖様の嗜好はですか?」

 

 

「おい、お前らだからナチュラルに心読むな。あとギャスパー気にするな。」

 

「えっと……こうですか?」

 

 

やけに俺のsan値を削ってくる2人に今度は俺が抗議すると、ふとギャスパーが俺を叩いてきた。でも全然痛くない。いわゆるポカポカパンチだ。

 

 

《ギャスパー……その辺にしといた方がいいよ。ハチが再起不能になる》

 

《まったく。私と阿朱羅丸。世界でも屈指の力を持つ2人を使えるのに、私の造った種族にやられるのはどうかと思うわよ?》

 

「で、でもでも、これ意外と楽しいですよ‼︎」

 

 

ホントにやめて2人とも。

俺のHPが尽きる。

そしてギャスパー。

 

オメガグッジョブ。

 

 

 

「い、いい加減話を戻そうぜ……ギャスパーがこのままだと危険だろ?」

 

 

ギャスパーにポカポカをやめさせ、2人にもこれ以上san値を削ってこないように言い、俺は話を戻す。すると、途端にギャスパーの元気が目に見えてなくなっていった、

 

 

「うぅ……やっぱり僕なんかじゃダメなんでしょうか……一族からも嫌われて……やっぱり僕なんかじゃ……」

 

 

そうして急降下していくギャスパーだったが、それを見た俺たちは3人で目を合わせ、そして実行する。

 

 

ギャスパーの神器をコントロールさせる為に。

 

そしてなによりも、彼女の為に。

 

彼女が力に振り回されるのは自信がないから。

だからこそ、自信をつけさせる。そして………

 

 

 

 

 

 

 

()()を、今ここでギャスパーに協力させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャスパー……貴方それは私達に対する侮辱かしら?」

 

「え?」

 

 

クルルから聞こえる声に思わずギャスパーは身を震わせる。明らかにクルルが怒っているように見えるからだ。まぁ演技だが……

 

 

「ふぇぇ、そんなことないです。始祖様達を侮辱なんて……」

 

「でもさー、ギャスパー言ったよね?自分なんてって」

 

 

「は、はい……」

 

 

今度は阿朱羅丸から言われギャスパーはひどく怯えながら応えた。

 

 

 

『それが僕(私)達を侮辱してるんだよ(のよ)‼︎』

 

 

「……え?」

 

 

帰ってきた思いもよらない答えにギャスパーは目を見開いた。

 

 

《忘れたの?昔私達が言った言葉を?》

 

《忘れたのかい?僕達が君のことをどう思ってるか?》

 

 

2人の言葉を聞き、ギャスパーはハッと先ほどよりも更に目を見開く。

 

 

それはかつて、俺たちとギャスパーの特訓をしていた時に言った言葉だった。

 

 

《もしも、忘れているなら今ここでもう一度言うよ》

 

 

《だから、今度こそ忘れずに覚えておきなさい》

 

 

そう言って2人はその身に宿る力を解放しながらギャスパーへと声だかに宣言する。

 

 

その姿はまさに伝承通りの存在。

この世界の2強。

無限の龍神や赤龍神帝に勝るとも劣らない強さを持つ神の如き吸血鬼の姿。

 

 

《ギャスパー・ヴラディ。貴方は吸血の始祖である私クルル・ツェペシと》

 

 

《吸血の女王である鬼呪龍神皇阿朱羅丸》

 

 

『この両名が認めたこの世界で唯一の吸血鬼であると‼︎』

 

 

「っ⁉︎」

 

 

自身の誇りと共に宣言されたその言葉は俺たちと離れてから、臆病になり、縮こまっていたギャスパーの胸に確かに届いた。

 

その証拠にギャスパーは今にも泣きそうな顔をしながらも強くその拳を握っている。

 

 

《2度と忘れるな、僕達が君を認めていることを……そして》

 

《私達は貴方の罪を既に許しているということを》

 

 

そして今度こそギャスパーはその瞳から涙を流す。

 

 

 

彼女の罪。

 

それはかつて彼女が多くの親族を殺してしまったことだ。

 

これはクルルが吸血の始祖であるが故に知っていたこと。吸血鬼という種族を作り出した彼女は、何処で吸血鬼の血を継ぐものが生まれ、何をしているのか知ることができる。

この力でクルルは知り、俺と阿朱羅丸はそれを聞いたのだ。

 

それはギャスパーが生まれたときのこと。生まれたときの彼女は人の形をしていない黒く蠢く不気味な物体でしかなく、その禍々しいオーラに包まれた形容しがたい存在であった。それを見た彼女の母親は自分の胎内に宿っていたモノの異形さに精神に異常をきたし、数時間後にギャスパーが通常の赤ん坊の姿に変化したときにはショック死していたという。出産に立ち会った産婆を含めた従者たちも数日以内に次々と変死し、彼女の父親は生まれたばかりのギャスパーが周囲の者に無意識に力を使い呪殺したのだろうと今もなお推測している。

 

しかしその正体は、まだギャスパーが母親の胎内にいるときに魔神バロールの断片化された意識の一部が宿って生まれた存在であり、ギャスパーが「停止世界の邪眼」を持って生まれたのも、バロールの力に神器が引き寄せられたものなのである。

一部のためかその神性は失われているもののその力は強大である。それこそヴィザやユウすら凌ぐほどの……

 

 

そんな存在を内包している彼女はその存在を知らない。知っているのは自身が親族を殺したということだけだ。

 

 

そんな彼女はかつて阿朱羅丸とクルルを前に頭を地面につけながら謝罪をしてきた。

 

自分は同族を殺してしまったと。

自分は忌まれる存在であると。

 

 

しかし、そんな彼女の悲鳴にも似た告発を2人はまるで子供のいたずらを許すように簡単に許した。

 

自分は吸血鬼を造った後他の者に吸血鬼を束ねる事を任せているから関係ないと。

 

そもそも自分は吸血鬼の始祖の妹なだけで、吸血鬼達に崇められているのがよくわからないと。

 

 

でも、2人はその後に続けた。

 

それでも自分達が許すことで、ギャスパーの負担が、罪が軽くなるのなら、自分達は許そうと。

 

そう言って2人はギャスパーを許した。

その時も彼女は泣いていた。

 

それなのに忘れてしまっていたのは、俺たちがいなくなり不安になった他にもう1つ理由があるだろう。

 

それこそがギャスパーの中にいるもの。

かつて魔神バロールであった存在。

それがギャスパーと混ざり合うことで、記憶もまた曖昧なものになっている。

 

だからそれを今ここで完全に目覚めさせる。

そして協力させるのだ。

 

 

 

「まぁ、そういうことだギャスパー。俺も阿朱羅丸もクルルも。お前のことを認めてるし、信頼もしてる。だからあんまり自分を卑下するな」

 

 

「始祖様…………」

 

そう言って俺はギャスパーに歩み寄り頭の上に手を置くと優しく撫でる。

それに合わせて阿朱羅丸とクルルも俺たちを()()()()()()()()()()()

 

 

「とはいえ、それだけで自信をつけるのは難しいからな、だからお前に真実を教えるよ」

 

「真実……ですか?」

 

「ああ」

 

 

首をかしげながら彼女の涙を拭きながら俺は応える。そして、彼女に問う。

 

 

「お前はそれを知ったらショックを受けるかもしれない。余計自分が怖くなるかもしれない。それでも聞く勇気はあるか?」

 

頭に乗せた手を、涙を拭いた手を彼女の肩に置きながら俺は聞く。そうして問われたギャスパーは口を開けては何かを言おうとし、そして閉じる。

 

それが数回繰り返され、意を決したように彼女は言葉を発する。

 

 

「僕は……怖いです。できるなら知りたくない。できるならそんな怖い目にあいたくないです………」

 

 

震えながら発せられるその声は弱々しいものだった……しかし……

 

 

「それでも……クルル様が……アシェラ様が……そして……始祖様が僕のことを認めてくれた。御3方が僕のことを信頼してくれるなら……それに応えたい。だから……」

 

 

そう言って彼女は俺の瞳を見て決意する。

 

 

「僕は知りたいです。知った上で受け入れたい」

 

 

そういう彼女の震えはすでに止まっていた。

 

そんな彼女の決意に俺も応えるべく。

 

彼女の中に鬼呪を流し込みそして中の存在を無理矢理起こす。

 

 

そして………………

 

 

 





次回、ギャスパー・バロール登場。

そして話は加速していきます(=゚ω゚)


感想お待ちしてます(=゚ω゚)ワクワク
あと、バロール・ギャスパーを出そうとした時とある難問にぶちあたったのでそれについて活動報告に記載しているのでわかる方がいれば教えてもらえると幸いですm(__)m



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乗り越える少女

今月ラスト分。

ただ注意として、今回は少し……ちょっと……かなり無理矢理感があるかもしれないです。

それとギャスパー・バロールが結局どんな感じか詳しくはわからなかったので半分オリキャラ化してる様な感じになってると思います。

そして、協力者この話で出せなかった………
でも次回は出しますのでご了承下さい。

いろいろごめんなさい……


では本編へどうぞ……





突如起こった爆音と共に先ほどまで俺とギャスパーが立っていた場所を中心に巨大なクレーターが出来上がる。

 

すんでのところでギャスパーを抱えその場を離脱した俺は一定の距離をとり、状況の整理がついていない少女を背後に庇いながらその中心を見る。少し離れたところではクルルもその様子を静観していた。

 

 

《へぇ……見た感じ神性が失われてるのにまだこれだけの力が出せるなんて……さすがといったところかな?》

 

そこでは不敵な笑みを浮かべながら話をしている阿朱羅丸と腕から血を流しながらもその血を舐める肌から何まで黒く染まっているギャスパーが立っていた。

 

 

【……ナゼカオキレタトオモッタラ……ナルホド……キュウケツノシマイドノタチカ……それに………】

 

見た目はギャスパーのそれでも声は幾分も低く、口調も大きく異なるそれは何やら納得したと思うと俺の方を見つめ笑った。

 

 

【オモシロイモノガイタモノダ。ソコニイルノハ……ニンゲンカ?イナ……アクマカ?ソレモイナ……ナニモノデモナイニモカカワラズナニモノニモナレル……スウキナソンザイガイタモノダ………】

 

 

それは愉快げにその笑みを深めた。

その顔は声に似合わずまるで子供が興味を示すかのような何処か無邪気なものだったが、常人ならばその似合わなさに逆に恐怖を抱くだろう。

 

 

《随分と余裕だね?》

 

そんなそれに阿朱羅丸は臨戦態勢に入りながら声をかける。しかし、そんな好戦的な阿朱羅丸とは裏腹にそれは掌を阿朱羅丸に向けて話す。

 

【タタカウリユウガナイ……ホンライナラバ、カンケイナクタタカウトコロダガ、メザメサセテモラッタノダ。ナニヨリモ……オマエタチサンニンハギャスパー・ヴラディニトッテ、トクベツナソンザイダ。ナラバタタカイタクハナイ……カナウトモオモワナイシナ】

 

そう言ってそれら腕を下ろす。

その反応に面白くないとばかりに口を尖らせながらも阿朱羅丸は拳を引いた。

 

 

「え……えっと……」

 

そんな中俺の背後にいるギャスパーは1人訳も分からず混乱していた。

 

 

取り敢えず大きな戦いにならずに済んだことに緊張を僅かに緩め彼女に説明していく。

 

 

「こいつはギャスパー・バロール。お前の停止世界の邪眼に宿る者……いや、その言い方は正確じゃないか……元々こいつは赤ん坊でまだ母親の中にいたギャスパーに宿った魔神バロールの断片化された意識の一部が宿った存在で、むしろ停止世界の邪眼はこいつに引き寄せられた副次的な物なんだよ」

 

「………え?」

 

俺の言葉に彼女は何を言ってるのかわからない……そんな表情になってしまう。

 

 

《つーまーり。ギャスパーの出生時のあの事件の大元はこのバロールってことだよ》

 

俺に続ける様に阿朱羅丸が話すとギャスパーの瞳が揺れた。俺は今にも崩れそうな彼女の身体を支え気を強く持つ様に背を摩る。

 

 

《でも、だからこそ今の会話で聞きたいことができたわ。貴方はギャスパーにとって有害なことをしようとはしていない。にも関わらず、どうしてギャスパー出生時にあんなことを?》

 

 

そして、目の前に立つバロールに吸血の始祖であるクルルが問いかける。如何にクルルと言えど眷属の行動の動機などはわからない。故に今ここで問い正す。あの日何故バロールがあの様なことをしたのか……

 

【フ……ハナシテモイイガ……ソレヨリモマズタダシテオカネバナラナイコトガアル】

 

そう言ってバロールはその場に座す。

 

 

【ヒトツメハ、スデニシュウチノコトヤモシレヌガ、コノミハモウシンセイヲオビテイナイ。ユエニマジンバロールデハナク、コノミハオマエタチノイッタトオリ、ギャスパー・バロールデアルトイウコト】

 

それは予想できていた。

だからこそ俺たちは予めそう呼んだのだ。

 

 

【フタツメハワタシハコレマデズットネムッテイタ。ユエニコイニチカラヲツカウコトハデキナカッタトイウコトダ】

 

 

《それはつまり……》

 

いち早くバロールの言葉に反応し、答えを導き出したのはクルルだった。そして、未だ答えのわからない俺たちに対しバロールはあの日の本当の真実を話す。しかしそれはあまりにも呆気なく呟かれた。

 

 

【タダノフウンナジコサ】

 

『は?』

 

 

その紡がれた言葉にクルルを除いた俺たちに3人は思わず声を漏らした。

 

 

【ギャスパー・ヴラディガウマレタアノヒ……タマタマチカクニイタツェペシュノムスメガ……ムイシキニカノジョノジンギヲハツドウサセ……ワタシヲフカンゼンナガラモオコシタ。ソノケッカ、モレデタチカラニヨッテ…ギャスパー・ヴラディノシンゾクガマキコマレ、シンデイッタ……タダソレダケダ。ワタシガコロソウトオモイ……ヤッタノデハナイ】

 

 

そして今度こそ俺たちは絶句する。

 

狙ってやったわけではない。

目覚めようと目覚めたのではない。

ただ……多くの偶然が重なり……ギャスパーの出生の事件が起きたのだ……

 

だからこそ思わず脱力してしまいそうになるがそれを必死にこらえる……ここで脱離してしまってはそれこそギャスパーが持たない。

そう思ったからだ。

 

 

「っ…………」

 

見ればギャスパーは震えながら自身の唇を噛んでいた。震える身体を必死に抑えようと腕を掴む彼女の瞳の様は目まぐるしく変わっていく。

 

そこには恐怖だけでなく、悔しさや遣る瀬無さといった数多の感情が写っていた。

 

 

「ギャスパー⁉︎」

 

そんな今にも消えてしまいそうなギャスパーの手を上からそっと握り締める。

 

「っあ…………」

 

俺に握られ一瞬ビクンと身体を揺らした彼女だがその口から一言漏れると、まるでその漏れた言葉に先程迄の感情が乗り移り出て行ってしまったかの様に震えが止まっていく。

 

 

そんな手を握られたまま俺の顔を見てくる彼女の顔は、蒼白く変化していたのが嘘の様に治り仄かに紅色に染まっていた。

 

すると先程とは何処か違う様に震え始めたと思うと彼女は握られているその手に自らの額を置く。

 

ほんの数秒のはずが数十分にも感じられたのはここが精神世界だからではないだろう。

 

 

数秒の後顔を上げた彼女は何かを決意したかの様に頷くとバロールに向き直り、声をかける。

 

 

「バロールさんは……僕の身体を乗っ取ろうとしたりしますか?」

 

その声は弱々しくも確かに呟かれた。

 

【ソモソモ、スデニワタシハオマエダ。チカラヲカスコトハアレドキガイヲクワエルキハナイ】

 

 

「バロールさんは……始祖様達をどう思ってますか?」

 

その意のわからぬ質問に怪訝そうに眉を潜ませる俺たちを他所にバロールは答える。

 

 

【ギャスパー・ヴラディガオモッテイルノトオナジダ。ワタシハオマエナノダカラナ】

 

 

そして次に紡がれた言葉で俺たちは理解する。本来ならば俺たちがバロールに頼もうとしていたことを彼女本人が頼もうとしていることに。

 

 

「バロールさんは……僕が神器を扱う時の補佐などはできますか?」

 

 

 

【ギャスパー・ヴラディガソレヲノゾムノナラバヤブサカデハナイ】

 

 

そして彼女は大きな一歩を踏み出した。

 

 

「なら……僕に協力してください。僕は……臆病です。1人じゃあなにも出来やしない。でも……それでも始祖様達は僕を信じてくれた。僕を認めてくれた。だから僕はそれに応えたい。始祖様達に守られるだけじゃなくて、始祖様達と一緒に戦えるくらい強くなりたい‼︎だから……僕は望みます。バロールさんの事はまだ怖いです……でも、バロールさんがいなければ始祖様達に会うことはなかった。だからこそバロールさんに対して感謝の気持ちもあります。始祖様達に会えたことは僕にとってこの上ない幸運だから……そしてバロールさんは僕よりもこの力を使いなれているから……だから……力を貸してください」

 

 

【カマワナイガ、イチゾクノオオクヲコロシタワタシヲオマエハシンジラレルノカ?】

 

 

「は……はい……その……怖いですけど……悪い人ではないと……思うので……」

 

 

勇気を振り絞り発したのか、震えを止めてる様に見えて彼女は拳だけ震えていた。

 

その拳を俺は再び握る。

今度は強く。

それに応える様にギャスパーも強く握ってくる。

 

 

 

 

【フ、フフフ、ハハハハハ……ワタシガワルイヒトデハナイ……カ……ソンナコトヲイウノハオマエクライダロウサ。マァイイサ。チョクチョクハテツダッテヤルヨ】

 

 

その言葉を最後にバロールは黒い霧となって霧散した。その瞬間ギャスパーの身体が僅かに黒くぼやけた。

 

 

《戻ったみたいだねー》

 

《そうね》

 

《伝承で聞いてた感じとは結構違ったね?》

 

《伝承なんてよくねじれるものでしょ?》

 

見守り続けた2人の吸血鬼はバロールが消えると地べたに座りこむ。

 

 

「ギャスパー……大丈夫か?」

 

「……始祖様……」

 

「悪かったな……怖い思いをさせて」

 

「い、いえ……いいんです。確かに怖かったです。僕の中にいるバロールさんのことも……僕の神器の事も……それでも……知れてよかったです」

 

そう言うとギャスパーはペタリとへたり込んでしまう。

 

「あ……あれ?足の力が………」

 

力がうまく入らず立てなくなったギャスパーを見て、俺はその頭をそっと撫でた。

 

 

「お疲れ様、ギャスパー………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから1時間後。

ギャスパーを撫で続けた俺はふと呟く。

 

 

「そろそろ帰るか?」

 

流石に精神世界にこれだけいると疲労が大きくたまる可能性がある。

 

精神世界は現実の時が進まないという意味では便利だが、その分精神は疲労する。

 

故に居すぎると戻った時に大きな精神疲労に見舞われるのだ。

 

 

「あ、はい‼︎」

 

 

元気を完全に取り戻したギャスパーは元気よく声を上げる。

 

 

《また来なねギャスパー》

 

《まぁ、今度は私達が行くことになりそうだけど》

 

 

「はい‼︎クルル様、アシェラ様。あっち(現実)でもお2人に会うのを楽しみにしています。」

 

そう言ってギャスパーは頭をさげる。

 

 

「んじゃ、行くぞ?」

 

そう言って俺は戻ろうとした時何か柔らかいものが俺の頬に触れた。

 

 

《あ⁉︎》

《んな⁉︎》

 

 

 

クルルと阿朱羅丸の声が聞こえると同時に俺たちは現実へと戻る。

 

 

現実に戻り、まとわりついていた影を払った俺は右手で頬を押さえていた。

 

その俺の隣では右手の人差し指と中指で自身の唇を軽く押さえるギャスパーが"えへへへ"と、ただ微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、この後明らかに様子のおかしかった俺たちに気づいたゼノヴィアを筆頭に今夜の寝れない夜の会議は更に凄惨なモノにグレードアップしたのはまた別の話である。

 

 

 

 




どうでしたでしょう?

ギャスパーが立ち直るシーンは無理矢理でしたかね(^◇^;)?
あと、バロールを受け入れるシーンも……


個人的には確かに思うところはあれど八幡達に会うきっかけとも言っていいこの事件を作ってくれたバロールに対する僅かな感謝があり……それがきっかけで………

という感じを強く出したかったのですが……うまく出せなかったかも……


次回……ホントの本当に協力者登場。


感想お待ちしております……





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協力者も変わらず主を信頼す

今回も4000字程度。

そろそろ大学が始まるから貯めなくちゃな(^◇^;)


ではとりあえずどうぞ(´・Д・)」





コツコツコツと靴と石畳により響くその音が教会の廃墟にこだましていた。そこには10代前半の少女がフンフーンと鼻歌交じりに座りながらリズミカルに座っている石を蹴っていた。お菓子を食べながら、誰かを待っている彼女の揺れる短髪は黒く、その傍らには日本刀の形をした神器が置かれている。

 

 

「遅いなぁ」

 

そう言いながら彼女はまた1つお菓子を手に取り口に運ぶ。その仕草は子供らしいものの、その瞳には年不相応の実力を垣間見させるほどのものがあった。

 

 

「ひゃひゃひゃ、そりぁあいつは忙しいからなぁ。今度3大勢力会議にも出席しなきゃいけないみてぇだし……なによりここの管理を任されてるクソ悪魔達はそれほど優秀じゃないしな……あ、それよりーーーちゃんそのお菓子を 頂戴♪」

 

そんな彼女の呟きに答えたのは長椅子に座る青年だった。パッと見では何も持っていないように思えるが、よく見ればその服の中には幾つもの武器が隠されている。そしてその立ち振る舞いはやはり強者のものだった。

 

「やだ。これは八幡から貰ったやつ。絶対にあげない」

 

「ケチくせぇな」

 

そんな彼の言葉を少女は強く拒絶した。

 

「おいおい。久々に会ってみりゃお前さんは相変わらずだなぁ……つーか、お前も近いうちにそのクソ悪魔になるんだろうが、このすっとこどっこい。それに嬢ちゃんも菓子ばっか食ってると太るぞ?」

 

そんな2人に呆れながら中年の男性が深いため息を吐く。ハチのやつ早く来てくれ、とぼそりと呟く彼は頭を掻きながら胡座をかいていた。

そんなやる気のなさが滲み出している彼だがその実、この3名の中では頭一つ飛び抜けている実力を持っていた。

 

 

「ひゃひゃひゃ。そりゃそうか……ちっ、どうも長いことこのキャラを続けてたから抜けきれねぇな」

 

 

「ーーーはもともとそんな感じ。むしろそれがノーマル。今でもこっちの仲間かどうか疑わしいくらい」

 

 

「おやおや、ーーーちゃんがそんな風に分析できるほど俺のことを見てくれてたなんて僕ちん感激で涙の海に沈みそうですわ」

 

 

「……そのまま浮かんで来なければいいのに…」

 

 

「なーんでお前さん方は会うと毎回互いを挑発し合うんだよ……」

 

巫山戯て言い合っている2人にめんどくせぇと再度溜息を零しながら中年の男は2人を眺める。当人たちが巫山戯合っているつもりでも、この2人のレベルが本当にお巫山戯を始めればこの教会なんて一瞬で消し飛ぶだろう。

 

 

「ーーーが悪い。いつもこっちに突っかかってくるから」

 

「いやいや、ーーーちゃんが弄りやすいからだよ」

 

「……斬るよ?」

 

「やれるもんならやってみるかい?」

 

互いの瞳から光が消え少女は傍らにあった刀に手を添え、青年は一歩身を引き臨戦態勢に入る。とても知り合い同士に放つものとは思えない殺気を互いに放ちながら睨み合い、少女が刀を抜きかけた瞬間、ようやく待ち人が訪れた。

 

 

「そこまでにしとけ」

 

ただ一言。

その一言で2人から殺気は消え、少女はまるで子犬のようにその人物へと駆け寄り、青年はダンナァと身構えていたのを解いた。

 

「八幡久しぶり‼︎」

 

「おぅ、こうやって会うのは3ヶ月ぶりか」

 

八幡もその飛びついてきた少女を受け入れるとワシャワシャとユウにやるように頭を撫でた。

 

「旦那お疲れさん」

 

「おぅ、ーーーもお疲れ。ってかお前よくあいつから逃げてこれたな。最悪誰かを送ろうかと思ってたんだが……」

 

「天才っ子の人工神器のおかげだっちゃ」

 

「……そんだけ巫山戯られてたら心配もねぇか」

 

 

先ほどまで殺気立っていたとは思えないほどの変わり身の早さを見せた2人に苦笑いしながら最後の中年へと視線を向ける。

 

 

「ようやく来てくれたからハチ……まったくこいつら2人揃える時はヴィザかシノンどちらかを付けろって言ってんだろぉ」

 

「そうしたかったがヴィザは忙しいしな。シノンはこっちに滞在中だからやろうと思えばできるんだろうが……あいつにもいろいろ準備してもらってるからなぁ」

 

「ったく、だからって俺をつけるかねぇ……それよりもその顔の傷どうした?お前さんが傷を負うなんて普通じゃねぇだろ?」

 

「シノンとユウに手痛くやられた……」

 

「お前さん……なにしたんだよ……」

 

「いろいろあったんだよ……」

 

 

はぁ、と八幡が息を吐く。

大丈夫?とばかりに抱きついている少女がこちらを見上げてきたのに大丈夫だと答えると、撫でる手をより気持ちよくなるように動かす。

 

 

 

「相変わらずだねぇ……まぁ、女ってのは手にあまるくらいが丁度いい」

 

「そりぁ、DSくらいですかぁい?」

 

「いんや、メガドライブくらいだ」

 

八幡の傷に呆れながらも話し続ける中年の言葉に青年が質問し、どーでもいい解答をわりかし真剣に彼は答える。

 

 

 

「まぁ、アホ話はその辺にしといて今日呼んだ理由を話すぞ?」

 

 

語り始める2人を現実に戻すべく、八幡は少女の頭から手を離し軽くパンパンと叩くと本題を述べ始めた……

 

 

〜〜〜〜〜

 

〜〜〜〜〜

 

 

「つーわけで頼めるか?」

 

小一時間ほど続いた話に区切りをつけると彼らに確認を取った。

 

「ひゃひゃひゃ。問題なしだぜぇ。ようやくクソめんどくせぇ裏方から表に出れるんだ。寧ろ問題があるわけがねぇ」

 

これまで常に裏方として動いてきた青年はその顔に歓喜を浮かべ両手を広げながら答える。

 

 

「姉が死んで、1人だった私を助けてくれたのは八幡です。なにもなかった私に居場所や家族を与えてくれたのは他でもない八幡なんです。だから八幡が望むなら私はそれを叶えます。ただ粛々と任につくのみ。それが私のやりたいことだから。だから問題ないです」

 

刀を取った少女は固い決意を持って言葉を述べる。

 

 

「俺は別に問題ねぇぞ。今も昔もやるこたぁ変わりない。ほぼ絶滅した種族の生き残りであるはみ出し者の俺の手を、無理矢理引っ張り上げたのはお前さんと同族であるユウだ。ならこの引っ張られた手、命尽きるその時までお前さんらのために使う。戦に生き戦に死ぬ。それが俺たちの種族だよ」

 

そう言う中年の男性は最初と変わらずあっけらかんとしている。しかし、言っていることとは裏腹に決して死ぬ気などない強い光がその瞳にはあった。

 

 

「そうか……ありがとな……お前ら」

 

八幡はそんな自身の眷属達に感謝の念を述べる。

 

「よせやい。感謝なんてされる程でもねぇ。むしろ、してもしきれないのはこっちの方だっての」

 

「ひゃひゃひゃ、そうだぜ旦那。旦那の眷属がどういう集まりか……旦那だってわかってるだろう?」

 

「うん。だから八幡は私達に自信を持って命令すればいい。たとえどんな命令でも……私たちはそれに従う」

 

 

そんな恥ずかしい台詞を平然と言う3人に目頭が熱くなるのを感じながら俺は言う。

 

 

「頼むぞーーー、ーーー、ーーー」

 

「「「了解(あいよ)」」」

 

 

そうして最後の確認を取った後八幡はその場を後にしようとするが、青年に止められる。

 

 

 

「あ、それよりも旦那。ヴァーリはいいのか?」

 

「ああ。ーーーの方から聞いてたがお前も知ってたのか」

 

「まぁな。なんたって俺っちの前でヴァーリを誘ってたしな」

 

「問題ねぇよ。会議には俺とシノン、ユウが出るし、遅れながらだがお前らも来る」

 

「りょーかい。それともう1つ。堕天使側からはーーーちゃんを、元天使側として俺を戻すわけだが……問題にならねぇか?」

 

「まぁ、普通ならなるだろうな。そもそも間者が入ってたなんてなにを言われるかわからない。だが……その間者以上のネタを出せば薄まるだろう?」

 

 

そう言う八幡の顔には黒いものがあった。

 

 

「おいおい。どんなサプライズ用意してんだ?」

 

 

「お前達も知らないようなことだよ」

 

「ひゃひゃひゃ、マジでか。そりぁ会議が楽しみになっちまうなぁ」

 

そう言って彼は笑いながらその場を後にした。

 

 

まぁ、あいつなら笑えるだろうな……他のやつは笑えないようなネタになるだろうが……あいつのぶっ飛んだ感性なら爆笑するだろう。

 

 

そんなことを思いながら八幡は今度こそその場を後にした。

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

「それじゃあ、ギャスパーと小猫はここに居てね」

 

会議当日。

オカ研の部室でダンボールに入ったギャスパーとソファに座る小猫にグレモリーが告げた。

 

 

「連れてかないのか?」

 

ギャスパーはここ数日でかなり伸びた。

バロールが力を貸しているからか、感情的になってもそう簡単に暴発はしないようにはなってきている。

 

「ええ。制御できつつはあるけれど、まだ時々暴発することがあるから連れてかない方がいいと思って」

 

そう言う彼女は暗い顔をしてしまう。

まぁ、本音としては眷属として全員連れて行ってやりたいのだろう。数日前俺が少しだけ怒ったのが効いたのか、彼女なりにもう一度ギャスパーとやり直すべく話し合ったらしい。

 

結果としてまぁ、悪くはない方向に行った。

ギャスパーの中の奴のことは知らないが……

 

仲がいい方向に行ったのがあってか……或いは俺やクルル達にあってか……もしくはバロールが起きたからかは定かではないが、ギャスパー自身も変わってきているしな。

 

 

まぁ、問題があるとすれば……

バロールの変わりようだが……

 

 

そんなことを思いながら八幡は疲れた顔になってしまう。

 

あの日……ギャスパーを目覚めさせてから1週間ちょいが経つが、バロールの変わりようが衝撃すぎた。

 

 

昨日会ったのだが……なんというかその俗世に染まってしまった。主にギャスパーのやるパソコンの所為で。暇な時はギャスパーと一緒にニコ◯を徘徊しているとバロールが言った時は俺も阿朱羅丸もクルルも耳を疑った。それに一人称が威厳のありそうだった私からギャスパーと同じボクになってたのも中々衝撃的だったし。

 

一昨日あいつらと夜に小一時間も話してたとはいえ、精神世界を途中強制中断したのだからどれほど衝撃的だったかはわかって貰えるだろう。正直あのバロールは相手にしたくない。なんかすっごい疲れるから……

 

 

 

「にぃ?大丈夫?」

 

「あんた、また目が凄い勢いで腐ってるわよ?」

 

「八幡なにがあったんだ⁉︎」

 

そんな俺を心配して声をかけたのは俺の眷属達だった。

 

 

「ああ、ちょっと疲れてるだけだから心配すんな」

 

そう言って笑うと八幡は会議室へと足を運ぶ。

 

切り替えだ切り替えと自身の思考を整えていく。これから始まるのは大事な会議なのだからと魔王の女王に相応しい佇まいを作っていく。

 

 

「痛⁉︎」

 

バンッとそんな八幡の背を突如強く叩く奴がいた。

 

「シノン?」

 

八幡はその叩いた人物に視線を移す。

 

 

「大丈夫よ。そんな気張らなくても。素のあんたでも充分女王に……私たちの主に相応しいんだから」

 

そう言って彼女は微笑んでくる。

 

「おう……」

 

そんな彼女の気遣いに感謝しながら八幡は前を向く。

 

 

 

 

 

 

 

これから起こる大仕事を前に彼の覚悟は決まっていた。

 

いや、彼だけではない恐らく多くのものがなんらかの覚悟を持ってこの会議に臨むだろう。

 

 

 

ある者は自身のことについての覚悟を。

 

ある者はこれから変わりゆくであろう世界に対しての覚悟を。

 

ある者は何処までも主についていく覚悟を。

 

ある者は自身の理想のための覚悟を。

 

そしてある者は……自身を肯定するため……自分が自分であるが為に行うことの覚悟を決めていた。

 

 

多くの覚悟が交差するまで残り……1時間……

 

 

 

to be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?感想お待ちしております。

そして次回はようやく会議に入れる。


ではお楽しみに(=゚ω゚)ノ




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《会議前編》小さき猫は歩み出す

おー、久々の1万字超えの話です。


前、中、後とやりますがおそらくは3つとも1万字超えるかと思います。


ではでは本編へどうぞ。






いつもならば平穏なこの学園もこの日は並々ならぬ緊張感に包まれていた。廊下の窓から見える空には多くの堕天使や天使、そして悪魔が睨み合っている。一触即発とは言わないがいつ大戦の続きをしてもおかしくない雰囲気が流れる中、俺と3人の眷属は会議室の前で立っていた。

 

「遅い」

 

俺の足に寄りかかる様に立っているユウがポツリと呟くとそれに同意する様にゼノヴィアとシノンが頷く。

 

既に会議室には天使勢と堕天使勢は揃っており、悪魔勢も俺とセラフォルー様を除けば全員が揃っている状態だった。こんな時まで自由か‼︎と叫びたくなるが、そんなフリーダムなところが良くも悪くもセラフォルー様らしかった。

 

 

「ごめーん。遅れちゃった☆」

 

「ようやくですか」

 

そして待つこと十数分。ようやくやってきた主に嘆息を吐きながらも壁に寄りかかっていた身を起こす。セラフォルー様の口調はいつもと変わりないが服装はしっかりとした正装になっているので安心した。まぁ、流石にこの会議にもコスプレで来るほど不真面目ではないのだろう。

 

「ねぇ、ハチくん聞いてよ‼︎半ちんと黒ちゃんが正装はダメって言ってこの服を無理矢理着せてきたんだよ‼︎酷いよね‼︎」

 

前言撤回である。この人は普通にコスプレで来ようとしてた。俺はそんな主に何処まで本気なんだという意味を込めた視線を放ちながら、内心セラフォルー様のソレを止めた同僚の2人に……ありとあらゆる戦術を俺に叩き込んでくれた師匠方に感謝を込めた。

 

 

「それよりもさっさといく」

 

セラフォルー様の発言にユウが嘆息を吐きながら入室を促す。まぁ、俺たち以外はいるんだから当然か。

 

 

「そうだねぇ。それじゃあ……」

 

とそこまで言ったセラフォルー様の雰囲気が突如変化する。その変化につられ、俺たちもまた気を引き締める。

 

 

「行こっか☆」

 

相変わらず巫山戯ているのか真面目なのかわからない口調だが彼女が出す雰囲気はまさに魔王そのものだった。

 

そうしてセラフォルー様がドアを開け放つ。その先にいるのは各勢力の首脳とその付き添い。そんな重要人物達の視線を1つに集めながら俺たちは部屋へと入っていく。遅れたにもかかわらずその歩みは悠然としたものであり、それが余計に視線を集めるのだった。

 

入室直後、3人は壁際にある椅子に座る。セラフォルー様は首脳達の待つ円卓へと腰をかけ俺は当然の様にその後ろで控える。

 

「おいおい、随分と遅い登場じゃねぇか。待ちくたびれたぜ」

 

そんな中口を開いたのは中年のおっさん。金と黒を織り交ぜたプリン頭の男性だがこの男こそ堕天使勢の総督アザゼルである。

 

 

「ごめーん。いろいろやることがあって遅くなっちゃったの」

 

そんな文句を言うアザゼルにセラフォルー様はいつもと変わらぬヘラヘラとした様子で答える。

 

「はっ。お前さんは相変わらずだな。まぁ、俺としてはお前さんの後ろにいる奴に興味があるところだが……」

 

そう言ってアザゼルは俺へと視線を移す。

 

「まぁ、一応初見の奴らもいるんだ。付き添いの自己紹介と行こうぜ?」

 

そう言って彼は彼の後ろにいる付き添いの2人を見る。片方はここにいるほとんどが知っている銀髪の女性。イッセーの宿敵であり今後世界の情勢に大きな影響を及ぼすであろう人物。そしてもう1人は体面上初対面ということにしている少女だった。

 

「今代の白龍皇のヴァーリだよ。よろしくね」

 

「付き添いで来たクロメです」

 

そう言って自己紹介をするが2人とも壁に寄りかかったままである。そして今度は天使勢の代表であるミカエルが彼の後ろの人物に視線を向けた。

 

「え、えっと、紫藤イリナです……」

 

先の2人とは違い彼女の声は何処か居心地の悪そうな様子だった。彼女の視線の先には彼女の元同僚がおり、見ては眼を逸らすという最近の小猫の様な反応をしていた。

 

「サーゼクス・ルシファー様の女王、グレイフィア・ルキフグスです」

 

「セラフォルー・レヴィアタン様の女王、比企谷八幡だ」

 

それに続き悪魔勢も付き添いの紹介を終える。すると、やはり口を開いたのは堕天使総督だった。

 

 

「ほぉ、お前さんが噂の女王か。ヴァーリから聞いちゃいるがなにやらとんでもねぇらしいな」

 

その瞳を俺は知っていた。

うちの天才っ子が興味のある研究素材を見つけた時と同じ瞳である。

 

「今はこの会議を進めるのが最も重要なことだと思いますが?堕天使総督殿」

 

故に俺はそれを逸らす。にこりと笑いながらもその瞳には黙れという意志を込めて強く返した。

 

そんな俺の意志をフンと鼻で笑いながら彼は他の首脳陣へと視線を戻す。

 

「そんじゃまぁ、始めるとするか」

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

〜〜〜

 

 

会議自体は少しずつではあるが進んでいた。

アザゼルのコカビエルの件の報告及び謝罪から始まり、互いが互いの腹を探りながら会話は続いていく。

 

 

「アザゼル、1つ訊きたいのだがどうしてここ数十年神器所有者をかき集めている?最初は人間たちを集めて戦力増強を図っているのかと思っていた。天界か冥界かに戦争をしかけるのではないかとも予想していたのだが」

 

 

「そう、いつまで経ってもアナタは戦争をしかけてこなかった。白龍皇を手に入れたと聞いた時には強い警戒心を抱きました。それに貴方の後ろにいる彼女も普通ではありませんよね?」

 

サーゼクス様が問い、それに追随する形でミカエルが問う。

 

 

「別に?俺が神器を集めてたのは研究の為さ。なんなら、一部研究資料もお前たちにおくろうか?ってか、研究していたとしてもそれで戦争なんざしかけねえよ。戦に今更興味なんてないからな。俺は今の世界に十分満足している。部下に『人間界の政治に』手を出すなと強く言い渡してるぐらいだぜ?宗教にも介入するつもりはねえし、悪魔業界にも影響を及ぼさせるつもりもねぇ。それにクロメはうちの秘蔵っ子だ。神器所有者の中でも特に問題があるわけでも無く、神器を暴走させたりもしなかった。実力で言えばヴァーリにも引けをとらねぇ程のな。まぁ、それも研究の成果と言えるが……にしても俺の信用は三竦みの中でも最低かよ」

 

「それはそうだ」

 

「そうですね」

 

「その通りね☆」

 

 

 

アザゼルの言葉に首脳陣は全員肯定する中俺だけは1つだけ否定した。彼女の実力は決して研究の成果ではないと。そんな俺の心を読む様に向かいにいる少女は俺に微笑みかけてくる。

しかし、それに気づいた者はいなかった。

 

 

 

「チッ、神や先代ルシファーよりもマシかと思ったら、お前らもお前らで面倒な奴らだ。こそこそ研究するのもこれ以上性に合わねぇしなぁ……もう面倒だ和平を結ぼうぜ。もともとそのつもりもあったんだろう?天使も悪魔もよ?」

 

 

そんな彼らの反応を受け、探り合いに疲れたのかアザゼルは思い切ってぶちまけた。

 

 

「次に戦争をすれば、三竦みは今度こそ共倒れだ。そして人間界に影響を大きく及ぼし世界は終る。俺らは戦争をもう起こさないんじゃない。起こせないんだ。神がいない世界は間違いだと思うか?神がいない世界は衰退すると思うか?残念ながらそうじゃなかった。俺もおまえたちもいまこうやって生きている。たとえ神がいなくてもこの世界は回るのさ」

 

そう言って彼は両手を広げる。

 

彼の言葉に多くの者は肯定していた。その言葉に反論する者はこの場にはいなかった。

 

 

「なら、話し合いもだいぶいい方向へ片付いてきましたし、そろそろこの世界に影響を与えそうな存在に……二天龍にお話しを聞いてもよろしいかな」

 

そうミカエルが言うと今度はヴァーリへと視線が移る。

 

 

「私は強い人と戦えればそれでいいよ」

 

そんな彼女が発するのはシンプルな一言。

相も変わらず戦闘狂の彼女はその実この会議はどうでもいいものだった。

 

 

「君はどうなんだい?イッセー君?」

 

「え?俺⁉︎」

 

突然振られたイッセーは慌てながらも何か言おうと考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

《ハチ……近くにまで来てるよ》

 

とその時阿朱羅丸から唐突に話しかけられる。

 

(意外と早かったな)

 

《まだ襲うつもりはないみたいだけど、いつでも転移できる様にしとくよ?》

 

(ああ、頼む)

 

阿朱羅丸の言葉を受け俺は横目で窓の外に出を見る。所々に薄っすらとだが魔力の流れが見えた。阿朱羅丸の言うことが事実である事を目で確認すると俺はいつでも動ける様に準備をした。

 

 

と、なにやらイッセーがアザゼルに乗せられバカな事を口走っているのが聞こえたがスルーする。

 

 

「そんで、お前さんはどう思ってるんだ?八幡」

 

「なぜ俺に問う?」

 

 

するとイッセーの発言の次に俺が発言を求められた。

 

 

「何故もクソもあるか。お前さんはコカビエルを簡単にのしたんだ。それだけじゃねぇ。聞いた話じゃお前さんの神器には二天龍の因縁の相手がいるそうじゃねぇか。お前さんも充分、この世界への影響力を持ってる」

 

アザゼルの発言で俺へと一斉に視線が集まる。

 

いよいよかと腹をくくる。

 

「俺は興味ない。天使や堕天使がどうなろうと俺の知ったことではないし。極論を言えば悪魔がどうなろうと知らん」

 

その俺の言葉にその場にいたほとんどの者が少なくない驚きを受けた。まぁ、魔王の女王が言っていい台詞ではないだろう。でも言わなければならない。俺は魔王の女王である前に……()()()()()()()なのだから。

 

「俺は俺の大切な奴らと毎日楽しくふざけながら生活できれば他はなにも望まねぇ。そのために3大勢力で手を取らなきゃいけないなら、喜んで手を取り合う」

 

その言葉は決して褒められたものではないだろう。しかしそこにいる誰もが彼が3大勢力で同盟を結ぶのに反対していないことはわかった。

 

「それじゃあ……「だがな」んぁ?」

 

アザゼルが俺の言葉を受け話そうとするがそれを俺が途切らせる。

 

 

「なんだよ?まだ何かあるのか?」

 

言葉を途切らせられたアザゼルは首を傾げながら俺へと問う。

 

「あぁ。手を組む上で俺の神器に関して言わなきゃ、今後3大勢力の間で亀裂が生まれかねないからな」

 

俺がそう言うと俺の中にいるものを知る者たちは何処か不安げに俺を見る。

 

「ほぉ、お前さんの神器ねぇ。さっきも言ったが気になるな。いったいなにが宿ってるんだ?」

 

「私も気になりますね」

 

それを知らない天使、堕天使の首脳は興味津々といった様子で俺の方を見る。

 

「俺の神器には……ちっ」

 

そうして俺が話そうとした瞬間、盛大についた舌打ちが停止した世界に響いた。

 

(このタイミングってなんだ?狙ってんのか?)

 

《すんごいタイミングだったね。しかしギャスパー、なんで暴走したのかな?》

 

《今意識をギャスパーに向けてみたけど、なんかすごく興奮してたわよ?》

 

《(興奮?)》

 

 

《おおよそ、ハチ関連の幻術でも見せられて心臓でもドキドキして暴発したんじゃないの?》

 

 

《……ハチ?》

 

(いや、俺のせいじゃないだろ?)

 

俺と阿朱羅丸の疑問にクルルが答えると微妙な空気が流れるが気を取り直し俺は1人静かに転移していった。

 

 

八幡 side out

〜〜〜

 

〜〜〜

イッセー side in

 

 

「お?赤龍帝が動けるようになったみたいだぜ」

 

突如襲われた感覚には覚えがあった。おそらくギャスパーの神器だろう。でも、いったいどうしてギャスパーの神器が発動したのがわからなかった。

 

戸惑いがある中周囲を確認すると動けるのは三大勢力の首脳陣とその付き添いに八幡の眷属。それと木場、部長、そして俺なわけだが、どういうことか八幡がその場にいなくなっていた。

 

「な、何かあったんですか部長?」

 

「テロだよ」

 

俺が質問するとそれに答えたのは部長ではなくアザゼルだった。

 

「お兄さま、私を旧校舎に向かわせてください。私が責任を持って奪い返します」

 

そう言う部長は唇を噛み、拳を強く握っていた。恐らくは悔しいのだろう。ギャスパーが何者かにやられたということよりも、自分の不甲斐なさが。あの時、八幡に聞かれた時に置いていくと言わず、連れて行くと言えば良かったと……

 

 

「言うと思ったよ、しかし外は魔術師だらけだ。どうするんだい」

 

そんな部長にサーゼクスは問いかける。

 

「っつ、それは・・・」

 

 

 

サーゼクス様の問い返しに言葉を詰まられる部長。

その額にはうっすらと汗が滲み出していた。

そんな部長を視界に入れながらも俺はどうしても聞きたいことがあった。

 

 

「えっと、あの、誰か八幡のこと知りませんか?」

 

 

「え?」

「もーなに言ってるの赤龍帝ちゃん、ハチくんならここに……」

 

 

『あれ?』

 

部長の疑問の声が漏れ、セラフォルーがなにを言ってるのかと答えようとするとそこでようやく皆が気づく。八幡が消えていることに。

 

 

「あれ⁉︎ハチくんは⁉︎」

 

「おい、あいつ何処に行きやがった⁉︎」

 

セラフォルーが若干取り乱しながら声をあげアザゼルも周囲をキョロキョロ見回すが何処にも彼はいなかった。

 

 

「にぃならもうギャーちゃんのとこに行ったよ」

 

困惑する俺たちに答えを言ったのはいつの間にか立ち上がり準備運動をしているユウだった。

 

 

『はい⁉︎』

 

一同が驚く中、今度はシノンさんとゼノヴィアから俺たちへと爆弾発言が投下された。

 

 

「禍の団がここを襲う事は協力者経由でわかってたことだもの。下準備はしといて当然だと思わない?」

 

 

「まさか本当に来るとは……八幡の言葉とはいえ半信半疑だったが、いやいや恐れいる。」

 

 

『はぁぁぁぁああああ⁉︎』

 

その言葉を聞いた俺たちは絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーか、協力者ってなんだよ?」

 

少ししてようやくおさまった場でアザゼルがシノンさんへと疑問の声をあげた。

 

 

「八幡の眷属の一部或いは眷属候補が各勢力の中に間者として紛れ込んでるだけよ」

 

なんでもないように言うシノンさんだが、それは先ほど以上の爆弾発言だった。

 

「っ、おいおい。なんだそりゃ⁉︎うちにもいるなんて言わねぇよな⁉︎」

 

「それが本当なら、いろいろと問題だと思いますが?」

 

驚くアザゼルとミカエルだが、度肝が抜かれるのはここからだった。

 

 

「天使勢にはもういないわよ?天使側にいた奴にはだいぶ前に天使側からは離れていろいろなとこに行ってもらってるから。まぁ、堕天使側は現在進行形だけどね」

 

そう言って彼女はチェスの駒を自身の腰に下げていた巾着の中から兵士の駒を取り出す。

 

「それは……」

 

 

「知っての通り、悪魔の駒よ。まぁ、八幡のだけど」

 

サーゼクスの呟きに答えると取り出した指で遊びながら彼女の友人へと話しかける。

 

 

「はい、八幡から。取り敢えずは臨機応変に対応しとけって言われてるわ。と言っても八幡から既に指示が出てるだろうけど」

 

 

そう言って彼女はピンッと駒を友人に向かって弾く。誰もがその行く先を見守る中いち早く向かう場所に気がついたアザゼルは目を見開いてしまう。

 

 

「ふふふ、やっとこれで本当の意味で家族になれるね」

 

 

そう言って笑いながら彼女は、堕天使総督を押して秘蔵っ子と言わしめたクロメは悪魔の駒を握りしめる。

 

 

眩い光が部屋を覆い、それが晴れるとバサッと彼女は蝙蝠の羽を開く。それこそが彼女が悪魔に転生した証拠だった。

 

 

 

「ごめんね?アザゼル。私はもともとこっち側なんだ」

 

ふふふと笑いながら跳躍しシノンさんの隣へと着地したクロメに誰もが開いた口が塞がらなかった。

 

 

「く、くく、クロメ、お前???」

 

よほど驚いているのかアザゼルは信じられないようなものを見ているように彼女を見ていた。

 

 

実際俺たちも信じられない。

数分前にアザゼルから白龍皇にも並ぶと言われていた彼女が、その実は八幡の眷属候補だったのだから。

 

 

「ちょ、ちょっとどういうこと⁉︎私そんなこと聞いてないよ‼︎」

 

そしてその場において最も声を荒げたのは八幡の主であるセラフォルーだった。

 

ってそれよりも……

 

「せ、セラフォルー様も知らなかったのですか⁉︎でも八幡は協力者については魔王様は知ってると……」

 

部長も思わず声を上げる。

そう、つい十数日前にあいつは言っていた。

にもかかわらずセラフォルーは知らないと言っている。なにがどうなって……

 

 

「ああ、知ってたのは僕だよ。まぁ、堕天使側にもいるとは思わなかったが」

 

あんただったんかーーーい。

軽く手を上げながら自白したサーゼクスに思わず突っ込んでしまった。彼の後ろに控えるグレイフィアさんも目を見開いている。

 

 

「っちょ⁉︎なんでサーゼクスちゃんは知ってるのに私には知らせてないの⁉︎」

 

「いや、僕もたまたま知ることになっただけなんだよ」

 

そう言ってサーゼクスはぽりぽりと頬を掻く。

 

 

アザゼルはアザゼルで嘘だろと頭を抱え、ミカエルは一体誰が?と顎に手を当てながら思案する。

 

 

当の本人であるクロメはどこから取り出したのかお菓子を食べながらユウやゼノヴィア、シノンと話をしておりどこ吹く風の様子だった。

 

 

停止した会議室で起きる、ほのぼのとした会話をする当事者達と頭を抱える堕天使総督に難しい顔をしながらブツブツと考え込む天使長。そして問い詰める魔王と問い詰められる魔王……

 

 

 

その後、真の魔王だなんだと宣うカテレア・レヴィアタンが到着するまで、このカオス空間は続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー side out

〜〜〜

 

〜〜〜

小猫 side in

 

それは突然のことだった。いきなり現れた白いローブの集団は一瞬の間に私とギャーちゃんを拘束すると、なにやらギャーちゃんに怪しい魔法をかけて無理矢理停止世界の邪眼を暴発させた。当のギャーちゃんは暴発させた後顔を赤くさせながら涙目になっているが、一体どんなことをされたのだろう?

 

そんなことを思いながら周囲を見渡すが、いるのはローブの集団だけだ。

 

 

「不覚です……」

 

誰にも聞き取れないような小さな声でボソリとつぶやきながら私は目を伏せてしまう。

 

最近の私はどうもおかしいです。

でも、その原因はわかっている。

あの日、セラフォルー様があんなことを言った日から私は先輩と普通に話すのも出来ないほど意識してしまい、聞かなければならないのに聞けず、言わなければいけないことも言えないままです。

 

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

「でも、変な縁もあったもんだね……昔ハチくんが助けた子が今こうしてまた再会してハチくんと暮らしてるなんて」

 

「え?」

 

セラフォルー様の一言と視線に私は凍りつきそして同時に今まで欠けていたピースが私の中でカチリとハマる。そんな音がしました。

 

「……それって、どういう、こと、ですか?」

 

途切れ途切れになりながら必死に言葉を絞り出す私に対しセラフォルー様はあれ?と疑問符を頭に浮かべながら言葉を続ける。

 

「あれ?知らずにハチくんと一緒にいたの?てっきり知った上でハチくんに近づいたんだと思ったんだけど?」

 

そう言って彼女はシノンが入れたお茶を啜る。

 

「ん?ああ、もしかしてーーが言ってた親友の白音って小猫ちゃんのこと?」

 

「っ⁉︎」

 

それに続きシノンさんから出てきた唯一無二の親友の名前に思わず体を硬直させてしまう。

 

 

「ーー?」

 

ゼノヴィアさんは知らない名前に首を傾げているとユウくんがそれの疑問に答え、それにソーナも同調する。

 

「ん、アーシアの心弾銃や世界樹の種子、それ以外にも多くの物を発明してるにぃの眷属。天才っ子とか天才少女とか呼ばれてる」

 

「ーーさんですか。確かに彼女の数多くの発明は冥界に大きな貢献をしていますね。個人的には八幡くん同様もう少し休むべきだと思いますが……彼女は研究となると食事も忘れて没頭してしまいますからね」

 

2人の発言にかつて見た彼女が物を作る姿が私の中で思い出されていく。懐かしい。あの時以来会いたくても会えない私の親友の話が今目の前でされていた。

 

「へぇ、それじゃあ小猫ちゃんは知らずにハチくんと会ってその上で普通に惚れちゃったんだ」

 

ボンッとセラフォルー様の言葉を聞いた瞬間私の頭は爆発して湯気を上げる。

 

 

「え、ええ、な、なにゅを⁉︎」

 

「かみかみだと説得力ないよー。でもまぁ、ハチくんらしいね」

 

そう言いながら彼女はあくびをかく。

 

「小猫ちゃん」

 

「は、はい」

 

そんな彼女はその少しだけトーンを下げて私に向き直ってくる。

 

「ここでの様子から小猫ちゃんはがハチくんの過去を知ってるのはだいたい把握できたし、ここにいる子は全員ハチくんの過去を知っているからこそ言うね」

 

そう言ってセラフォルー様は周囲を一瞥すると真剣な眼差しで言ってくる。

 

 

「ハチくんは誰よりも強いけど、その反面誰よりも弱いんだよ。誰かが側にいて支えてあげないと折れてしまうほど。彼の過去が、多くの者に虐げられた経験が今尚彼の無意識下で彼を縛り上げている。だから、ハチくんを裏切る真似だけは絶対にしないでね。これはゼノヴィアちゃんにも言えることだけど」

 

そういう彼女に同調するようにシノンさんとユウくんが頷く。そんな3人に想いに応えるように私とゼノヴィアさんは答えを返しました。

 

 

「しません。先輩には何度も助けられてますし、それ以上に先輩を傷つけたくないので」

 

「神の不在を知って絶望してた私に陽の光を浴びせてくれたのは八幡だ。だから私は彼と一緒にいる。裏切るなんてこと絶対にしない」

 

 

私達がそう応えると3人は満足そうにうんうんと頷く。

 

 

「でもシノンいいの?にぃの正妻候補が増えちゃったんだよ?」

 

しかしユウの唐突の発言に今度は私だけではなくその場の全員が凍りついた。

 

 

「ええ、負ける気はないもの」

 

さっきまで優しい雰囲気を出していたシノンさんから極寒の冷気が噴き出してくる。決して比喩ではありません。現に彼女の持つお茶が凍ってますし。

 

 

「いえ、シノンよりも付き合いの長い私の方が八幡くんの側にいますよ?」

 

そういうソーナ会長から何時もの会長らしい振る舞いが消えていた。

 

「それを言うなら私の方がハチくんに早く会って………」

 

とセラフォルー様が参戦しようとした瞬間、彼女はソーナ会長に抱きつきながら倒れてしまう。

 

 

「ちょっ、お姉様⁉︎」

 

突然のことに驚くソーナ会長だが、セラフォルー様のこの謎の原因をシノンさんが簡単に自白しました。

 

「ーーが開発した超強力睡眠薬。やっぱりお茶に入れておいて正解だったわね。まぁ、本当は八幡がやられるのを防ぐためだったけど。ソーナも巻き込んでくれたのは有難いわ」

 

「全然有難くありません‼︎というか何を盛っているんですかシノンは⁉︎」

 

ーーはそんな物も作ってるんですね。

ソーナ会長、どんまいです。

 

私が心の中で合掌していると、ひょいひょいと袖を引っ張っられたのでそちらに向くとユウくんが私の袖を手にしていました。

 

「それで小猫どうするの?にぃに言うの?」

 

そこで私はハッと自覚しました。

 

そう。先輩には言わないといけない。

かつて助けられたことを含め、あの時ーーと話していた時から聞きたかったことがいろいろあった。

 

「……聞きます」

 

しかし発された私の言葉は少しだけ戸惑いも含まれていた。どうやって聞けばいい?

 

今更のことを聞く機会がないということに私はその時に気づきました。

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

 

そこから結局私は聞くことができず、今日まで何の進展もなく、その上心ここに在らずのところを襲われこうして拘束される始末。

 

 

「ホント……ダメダメです」

 

再び開かれた口からは先程以上に力のない言葉が漏れ出す。自分の不甲斐なさに今にも泣きそうになってしまう。

 

「せんぱい……」

 

「呼んだか?」

 

ポツリと呟いた言葉に知ってる声が返ってくる。

 

え?と顔を見上げるとそこには彼の姿があった。

 

 

「っな⁉︎貴様どこから⁉︎」

 

「転移魔法は封じてたはず⁉︎何故急に現れられる⁉︎」

 

それに真っ先に声をあげたのは私とギャーちゃんの周りにいるローブの集団でした。

 

 

「お兄ちゃん⁉︎」

 

ギャーちゃんも先輩に気がつき声をあげます。

 

「お兄ちゃん、ぼ、ボク……」

 

ギャーちゃんは瞳に涙を浮かべながら声を発しようとします。おそらくは暴発させてしまったことに思うことがいろいろあるのでしょう。

 

「せんぱい……」

 

そして私からも泣きそうになりながら声が捻り出される。でもそこにはギャーちゃん以上に多くの想いが込められていました。

 

 

「大丈夫だよ」

 

そんな私達に先輩は一言だけ返します。

しかしその一言だけで私もギャーちゃんも安心感を覚え、そしてその安堵からか瞳からぽろぽろと雫をこぼしてしまう。

 

「貴様、動けばこいつらを……」

 

それ以上その男の言葉は続かなかった。

 

『っな⁉︎』

 

突然の出来事に周囲の人達は思わず息を呑んでしまう。それもそうだろう。突然自分達の横にいた仲間が白目を剥き、泡を吹きながら痙攣しているのだから。

 

 

「とりあえず、お前ら全員眠れ」

 

そう言って先輩は目を見開きます。

その瞳はいつもの黒い瞳とは違い、赤くそして不思議な文様が浮かんでいました。

 

そして先輩のその目を見た瞬間、周囲にいた者達はバタバタと倒れていってしまう。

 

 

「っはー、これやるとやっぱ目がショボショボするな」

 

そう言いながら制圧を終えた先輩は片手で目頭を押さえながらこちらに向かって歩いてくる。

 

「っと大丈夫だったか?」

 

そしてそう言って先輩は空中に刀を出すと私たちの拘束具を切り裂き、地面に膝をついた私たち2人の頭を撫でてくれました。

 

「お兄ちゃん‼︎」

 

ギャーちゃんは解放されると直ぐに先輩の胸へと飛び込んでいきました。先輩の胸に顔を押し当てながらごめんなさいとひたすら謝っています。先輩はそんなギャーちゃんに優しく大丈夫だと慰めています。

 

 

そんな2人を見ながら、先輩に頭を撫でられた頭に手を軽く当てると私の中であの日のことがより鮮明に思い出される。

 

そして私はそのまま先輩に向かって呟いた。

 

「先輩……」

 

「ん?」

 

「先輩が助けてくれたのは、これで3度目ですよね」

 

 

そう言って先輩の瞳を真っ直ぐ見つめる。

 

今日この場と駒王街で、そして私が1人死にかけたあの時。その事をようやく先輩へと私は告げた。

 

 

「ああ、そうだな」

 

隠すこともなく肯定した。

 

「あの‼︎」

 

そして肯定した先輩に私はようやく言える。今言わなければもう言えそうにはないから。

 

 

「あの時……助けてくれてありがとうございます。私は助けてもらえて嬉しかったです。それにーーにも会えて……本当にありがとうございます」

 

そう言って私は頭を深々と下げる。

 

 

「おう。結局あの後は仕事で会えなかったが、お前がこうして元気でやってる姿を見れて良かったと思うよ、白音」

 

そんな私の頭を先輩は撫でながらかつての私の名前を呼びます。

 

それだけで何か熱いものが胸の奥で生まれ、それは瞳にまで染み渡り、再び雫を作り出していきました。

 

 

「あの時は面識はなかったが……久しぶり白音」

 

 

「はい、久しぶりです。馬鹿さん(八幡先輩)

 

 

 

そう言って私はギャーちゃんを巻き添えにしながら八幡先輩へとダイブしていった。

 

 

 

 




今回はここまで、感想お待ちしております。


しかし、これから大学が始まってしまうから、今のうちに書き溜めねば(´・Д・)


ではでは




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《会議中編》規格外な魔王の女王

大学が始まる前にあと1つだけ投稿したかったので書き上げました。

今回は前からやりたかった所なのですが、やはり1つの場面で複数人が同時に動く描写は下手くそだorz

読みにくかったりカオスだったりする可能性が今話は高いですがどうか暖かく見守ってください(=゚ω゚)


それと何人からか質問が来たのでここに追記及び次話の頭にも書いておきますがTSしたヴァーリの見た目はSAOのアスナを銀髪、青瞳にした感じです。

では本編へどうぞ。






 

「ほれそろそろ行くぞ」

 

魔法使い達が倒れているのを無視しずっと先輩に抱きついていた私とギャーちゃんは先輩のその一言で惜しみながら先輩から離れる。

 

「シノン達がいるから大丈夫だろうがそれでも向こうが気になるからな」

 

そう言って先輩はゆっくりと歩き始め、私達はそれについて行った。

 

 

外に出ると真っ先に目に入ったのは数十或いは百にも届きそうな数の得体の知れない獣と私達を襲ったのと同じローブの魔法使いが数百人。そしてそれの中心にいるなにやら黒いオーラを纏った長髪の女性にそのそばにいる白龍皇だった。

 

 

「っち、ヴァーリてめぇも俺の元から去るのかよ‼︎」

 

遠くからは片腕を失った中年の男が叫んでいる。背中から生える翼とその数、そしてあそこにいることからおそらく彼が堕天使総督であるアザゼルなのだろう。

 

 

「言ったでしょ?私は強い奴と戦えればそれでいいって。まぁ、クロメちゃんがまさか悪魔側、しかも彼の眷属になるとは思わなかったけど」

 

「白龍皇が無限龍に降るのか⁉︎」

 

「まさか?あくまで協力するだけだよ。『アースガルズと戦ってみないか?』なんて魅力的な誘いを受けたら、自分の力を試してみたい私が断るわけないよ。アザゼルはヴァルハラ……アース神族と戦うことを嫌がるでしょ?戦争は好きじゃないもんね」

 

「俺はおまえに『強くなれ』と言ったが、『世界を滅ぼす要因だけは作るな』と言ったはずだ」

 

「関係ないよ。私は永遠に戦えればそれだけで充分だから」

 

「……そうかよ。いや、俺は心のどこかでおまえが手元から離れていくのを予想していたのかもしれない。おまえは出会った時から今日まで強い者との戦いを求めていたものな」

 

 

「今回の下準備と情報提供は白龍皇ですからね。彼女の本質を理解しておきながら放置しておくなどあなたらしくない。結果、自分の首を絞めることとなりましたね」

 

 

とヴァーリとアザゼルとの会話を邪魔するように長髪の女性が笑いながら声を上げる。

 

 

「私の本名はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファーだよ」

 

 

長髪の女性の横で彼女は両手をひろげながら高らかに宣言する。その言葉にそれを知らない人たちが驚いています。かく言う私も少なくない驚きがありますが、正直先程の先輩の余韻が残ってるのでそこまで入ってきません。

 

遠目からその光景を見ていると校舎からシノンさんを筆頭に会長やアーシアさんなど続々と人が出てくると、サーゼクス様達首脳陣と合流していく。そして会議室に出席すると言っていた人達が先輩以外全員合流するのを見届けると不意に先輩が胸ポケットを探り始める。

 

 

「停止世界の邪眼の効果が切れたからみんな動けるようになりつつあるな」

 

そう言いながら取り出した腕輪をギャーちゃんに投げ渡す。

 

 

「ギャスパーこれつけとけ。これ付けとけば何があっても暴発はしねぇから」

 

「は、はい‼︎」

 

渡された腕輪をギャーちゃんが腕につけたところで向こうの方々がこっちに気付いたみたいです。

 

 

「ギャスパー‼︎小猫‼︎大丈夫だった⁉︎」

 

真っ先に心配の声を上げたのは部長でした。

 

 

「2人とも怪我とかねぇから大丈夫だよ」

 

「よかった……」

 

そんな部長の声に先輩が答え部長から安堵の声が漏れる。

 

「っおい、八幡‼︎てめぇ協力者ってなんだおい‼︎」

 

「シノンから聞かなかったか?」

 

「聞いたが納得できるか⁉︎」

 

次に声を上げたのはアザゼルです。なにやら切れてますが、協力者って言葉やこの言動からなにやら先輩に出し抜かれたのでしょう。

 

 

「そもそもクロメはお前のとこで保護される以前に俺の眷属候補になってんだ。むしろ見抜けなかったあんたのミスだろ。挙げ句の果てには白龍皇を敵側に渡す始末だし」

 

んぐっとあまりにも正論なことにアザゼルは思わず黙ってしまう。

 

「ってか、あんなの相手に片腕失うって油断しすぎじゃねぇか?」

 

「そうね、油断しすぎね」

 

「甘々」

 

「アザゼルはいつもこんな感じ」

 

「おめぇら俺に辛辣すぎねぇか⁉︎」

 

先輩の言葉に続けるようにシノンさん、ユウくん、そしてクロメと呼ばれていた子が次々とアザゼルに言葉の暴力を振るっていく。

 

言われたアザゼルは体を震わせながら声を上げるが、アザゼル以上に声を上げたのは長髪の女性だった。

 

 

「あんなの…ですって⁉︎それは私が真なる魔王の継承者であるカテレア・レヴィアタンだと知って言ってるのかしら?」

 

青筋を浮かべながらそう言う彼女に先輩は笑いながら返す

 

 

「とてもお前さんが現四大魔王に勝てるとは思えんが?」

 

「言わせておけば……」

 

そう言ってアザゼル以上にふるふると震える彼女を他所に先輩は次々と自身の眷属に指示を出していく。

 

「シノンは全員を守ってろ。お前が1番適任だ。ユウはカテレアの周りにいる合成獣をやれ。そこそこの強さはあるから()()()()()が少しはあるだろ。ゼノヴィアはクロメと一緒に魔法使い達をやってくれ」

 

『了解(ん、わかった)』

 

相変わらず先輩は頼もしく、敵が周囲にいる現在でも安心感を覚えさせてくれるなにかがある。

 

 

 

先輩に言われ各々が動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中それは突然起きた。

 

 

「ひゃっ⁉︎」

 

「わっ⁉︎」

 

「えっ⁉︎」

 

アーシアさんとギャーちゃん、そして私の声が唐突にその場に響く。その声は何故かその場によく響いた。アーシアさんはイッセー先輩に、ギャーちゃんはユウくんに、そして私がシノンさんへと飛ばされる。

 

 

「先輩、なにを……⁉︎」

 

そして私達を飛ばした張本人である先輩へと振り向き言葉をかけようとしたがその言葉が最後まで出ることはなかった。

 

私だけじゃない。周囲の人達全員が絶句している。

 

 

ポタリ、ポタリと赤い液体が地面へと垂れる。

私達を飛ばした先輩の胸には銀色の剣が刺さっておりその剣の漆黒の柄を握っていたのはカテレアと同じ黒いオーラを纏った私の大嫌いな長髪の女性だった。

 

 

『先輩⁉︎(八幡⁉︎)(ハチくん⁉︎)』

 

 

その場に全員の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫 side out

 

阿朱羅丸 side in

 

 

 

 

「っは、はははははははは、私を馬鹿にするからそのような目にあうのよ」

 

そんな絶叫の中、カテレアが笑い声をあげながらその光景を見下ろしている。

 

 

「雪乃、あなた……一体なにを⁉︎」

 

グレモリーが声を震わせながらハチの胸に剣を刺した相手に問う。

 

 

「なにって、決まっているじゃないですか?」

 

逆になにを言ってるのと言った様子で彼女は答えた。

 

「彼がいなければ私の人生は狂わなかった。彼がいなければ、姉さんや私の周りの人達は死なずに済んだ。彼がいなければ私がこんな目にあうこともなかった。だから復讐しただけよ?」

 

そういう彼女の目は黒く澱んでいた。

 

 

「おっと」

 

そんな彼女に水の針が襲うが彼女は騎士のその能力を使いその場からカテレアの元へと移動する。

 

 

 

ーーふーん魔力を体力へと変換してるのか。それに他の奴らに気づかれないようにしたのも魔力の応用だね。魔力総量自体は低いのに扱いには秀でてたし、無限龍の蛇で魔力を増やした結果1皮、いや3皮くらい剥けたって感じか。まぁわざとじゃなきゃハチは喰らわなかったんだろうけどーー

 

 

「よくも……よくも八幡くんを⁉︎」

 

怒り、彼女に真っ先に攻撃したのはソーナだった。そこにはいつもの冷静な彼女の姿はなく、怒りに身をまかせている、そんな感じがした。

 

 

「八幡さん……⁉︎」

 

そんな彼女の後ろではアーシアが治療をしようと試みるが銀製の剣に阻まれてしまう。

 

 

「少し失礼します。」

 

そう言ってアーシアの前に座り、ハチに刺さる剣を抜いたのはミカエルだ。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いえ、彼には協力者などいろいろ聞きたいことがある。こんなとこで死なれては困ります」

 

アーシアは礼を言いすぐさま治療に移る。その周囲には駆け寄ったイッセーや木場、小猫にギャスパーが囲っていた。

 

 

 

そのさらに後方、少し離れたところではサーゼクスとグレイフィアに2人がかりで抑えられている女性の姿があった。

 

「離して……サーゼクスちゃん、グレイフィアちゃん。私……あの子を殺さなきゃ……」

 

そういう彼女には普段の巫山戯た様子が一切ない。目からハイライトは消え、今にも学園ごと消し飛ばしそうな勢いの彼女をサーゼクスたちは必死になって止めている。

 

しかし、意外にも最もキレそうな八幡の眷属たちが一切その場から動いていない。ゼノヴィアだけ当初動こうとしていたが、側にいたシノンになにか耳打ちされると、あっと目を見開きながら声を漏らすと、そのまま落ち着いてしまう。

 

 

 

ーーあー、これはバレてるね。まぁハチの過去を知ってれば当然か、むしろセラフォルーとソーナが慌てすぎなんだよなぁ。サーゼクスとグレイフィアは抑えるのでそれどころじゃないみたいだしーー

 

 

 

 

 

 

 

「ゆきのん⁉︎どうして⁉︎」

 

「何度も言わせないでちょうだい由比ヶ浜さん。復讐のためと言ったでしょ?」

 

 

「でも、ヒッキーは関係ないじゃん‼︎それに狂わせたって、中学のあれは全面的に私達が悪いのに‼︎」

 

一方グレモリーと姫島の近くでは由比ヶ浜が雪ノ下に声を張っていた。彼女は友人に問う。どうしてと。しかし友人の言葉は彼女には受け入れられないものだった。

 

 

「なぜそんなことを言うのかしら?彼がいなければ私たちはこんな不快な目に合わなくて済んだのに?彼さえいなければ……」

 

まるで狂ったように言ってくる彼女に由比ヶ浜は恐怖すら覚えた。壊れてる。彼女は初めて友人のことをそう思った。

 

 

「ゆきのん……」

 

そう呟いた時、彼女の胸に黒い氷が刺さった。

 

 

「ゆ、結衣⁉︎」

 

突然攻撃された由比ヶ浜に驚き、彼女を見た後グレモリーはそれをやった本人を見る。

 

「それにね、由比ヶ浜さん。貴方も悪いのよ?貴方は殺すつもりはなかった。なのにあの男とやり直したいなんて言うから。だから貴方が悪いの」

 

雪ノ下がそう呟くと由比ヶ浜は膝から崩れ落ちる。

 

 

「結衣⁉︎」

 

グレモリーが慌てて彼女を支える。

驚いているのは彼女だけではなくグレモリー眷属達全員だった。

 

「リアス先輩……」

 

薄れていってる意識の中由比ヶ浜がグレモリーを呼ぶ。その声に反応して彼女を見たグレモリーに彼女は告げる。

 

「今まで本当にすみませんでした」

「騙して眷属になって、その上足を引っ張るだけ引っ張って、本当にごめんなさい」

 

他にも言いたいことはあるだろう。雪ノ下に対して問い詰めたいこともあるだろう。でもそれをせず彼女は真っ先にグレモリー達へと謝辞を述べる。それは彼女自身、もう助からないとわかっているからだろう。

 

「結衣、今そんなこと言わなくても……」

 

そういうグレモリーだがわかってしまう。彼女の命が尽きることが。だからこそ、彼女の瞳から雫が落ちてくる。

 

「リアス先輩……ありがとうございます」

私なんかのために涙を零してくれてと……彼女は礼を述べる。

グレモリーにとって経緯はどうあれ彼女は眷属だ。故に泣くのなんて当然だ。しかし、その当然のことが由比ヶ浜には嬉しかった。

 

ふと由比ヶ浜の視線がアーシアの治療を受けている彼を捉える。アーシアは由比ヶ浜の方を見ながらも悔しそうに八幡の治療をしている。本当ならば由比ヶ浜の方にも行きたいのが目に見えてわかった。そして眠っているように倒れている彼に由比ヶ浜は最後の力を振り絞るように呟いた。

 

 

「できれば……ヒッキー…と………もう一度だけ……やりなお……したかった……なぁ……それで……しっかりと……ごめんって……あやまり…たか………った…………」

 

万感の思いを込めた呟きを残し、グレモリーが支えていた体は消え、彼女の手に戦車の駒だけが残った。

 

 

「雪ノ下……てめぇ八幡だけじゃなくてどうして由比ヶ浜まで‼︎」

 

そう言ってハチの側にいたイッセーが真っ先に声を荒げた。

 

「言ったでしょ?彼女が悪いと。それに私はその男をやれるというから禍の団(こちら側)に着いたのだから、もう貴方達とは敵同士。ならおかしくないでしょ?」

 

「ってめぇ」

 

そう言って拳を握り立ち上がろうとしたイッセーの横を小猫が通り過ぎる。

 

 

「小猫ちゃ……⁉︎」

 

呼びかけようとしたイッセーから思わず声にならない悲鳴が出る。

 

「………」

 

なにやら呟いている小猫はおよそ人が放つものではない何かを纏いながらゆったりと歩いていく。その正体に気がつけたのは極一部の者だけ。

 

 

ーーあれは、仙術だね。無意識下に漏れ出てるし、なにより纏ってるのが負のものばかり……このままじゃまずいけど、まだ終わらないの⁉︎ーー

 

 

ーーうっさい、この馬鹿に言いなさい。あれほど心臓は避けるように言ったのに見事に心臓をやられてるんだからーー

 

 

 

そうして小猫が走り出そうとし、サーゼクス達が抑えていたセラフォルーが2人を引き剥がし、その力を解放しようする。

 

 

「ストップよ」

 

「まつ」

 

そんな2人を止めたのはシノンとユウだった。

 

「どいてください」

 

「どいてユウくん」

 

 

「退くわけないでしょ?あんた達このまま学園ごと吹っ飛ばしかねない勢いなんだから」

 

「シノンちゃんはなんで怒ってないの?」

 

あまりにも冷静なシノンにセラフォルーはその目に怒気を込めながら問いかけた。

 

 

「ハチがあんなモブ達にやられるわけないでしょ」

 

「なんですって」

 

やれやれといった様子で彼女が呟くとカテレアが叫ぶ。いちいち叫ぶ点シノンの言う通りモブらしい。

 

 

「雪乃が刺したのは刺すと同時に光の属性を帯びる特殊な剣なのよ?それも心臓を刺されて生き延びられるとでも思ってるの?」

 

「本当に貴方達は何処までもその屑を盲信してるのね?」

 

カテレアと雪ノ下が2人して笑いながらこちらを侮蔑してくる。

 

 

「あんたもそう思ってるの?」

 

そんな2人を無視してシノンは2人の後ろにいるヴァーリへと問いかけた。

 

「……わからないなぁ」

 

『ヴァーリ?』

 

そんな彼女の発言にカテレアと雪ノ下が振り向く。

 

「カテレア達が言うように普通なら死ぬ。だけど八幡君ならって気がどうしても消えないんだよね。なにより…….」

 

そこまで言うと彼はハチの方へと視線を移し気になっていたことを呟く。

 

 

「アルビオンが感じたことだけど八幡君の生命力がまるで落ちてない。なによりも……アルビオンとドライグ……二天龍がああまでいった男がそう簡単にやられるとは思えないんだよね」

 

そう言って彼女はシノンへと視線を戻した。

 

 

「ですってよセラフォルー様」

 

「だから小猫も落ち着く」

 

 

『でも⁉︎』

 

そう言っても尚引き下がらない2人に仕方なくユウが告げた。

 

「むかし、にぃがサタンと戦ったときのこと、おもいだす」

 

『え?』

 

その言葉に2人の動きが止まった。

そして彼女達の中で思い出されるのはハチが話していたこと。そう彼はかつてサタンに魔力の光線で貫かれた後……

 

まさかと思い、2人が振り向こうとした時、その先で声が上がる。

 

 

「ひゃっ⁉︎」

「八幡君⁉︎」

「八幡⁉︎」

「お、お兄ちゃん⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

阿朱羅丸 side out

 

八幡 side in

 

 

 

 

 

 

「っー、心臓を刺すのはやめてくれっての。死にはしないが痛いし直すのにも少し時間がかかるんだから……っとやっぱり身体を変えるのは間に合ってなかったから光のせいでまだフラフラすんな」

 

そんなことを言いながら俺は何もなかったように起き上がった。周囲を見渡すとみんな驚いているがそこに由比ヶ浜の姿はなく代わりにグレモリーが泣きながら何かを握っていた。

 

(由比ヶ浜が逝ったか……)

かつて1度は心を許しかけた相手が消えるのはやはり気にしていなくても思うところは少しだけあったのか目を伏せてしまう。

 

そんな俺の周囲では唐突に起き上がった俺を見て驚きの声が上がっていた。

 

 

「ひゃっ⁉︎」

「八幡君⁉︎」

「八幡⁉︎」

「お、お兄ちゃん⁉︎」

 

『馬鹿な⁉︎』

俺を確実に殺れたと思っていた雪ノ下やカテレアも同様に声を上げた。

 

 

その声につられるように離れていた奴らも俺に飛びつくように迫ってくる。

 

「ハチくん‼︎」

「八幡君‼︎」

「先輩‼︎」

 

「っごは⁉︎」

 

弾丸さながら飛んできたセラフォルー様とソーナ、小猫が抱きついてくるのだが、一応病み上がりのようなものなので辛い。

 

 

「いでででででで、痛い‼︎傷とか治ってるけど、普通に締める力強すぎですから⁉︎」

 

あまりの辛さに思わず声を上げる。

助けてくれと視線で信号を送ると、やれやれといった様子でシノン達がセラフォルー様達を引き剥がした。

 

 

「あんた。なんで避けなかったのよ」

 

ようやく解放されふぅと安堵の息を漏らすもすぐさまシノンに問い詰められる。

 

「いや、咄嗟だったし、仕方ねぇだろ」

半分は本気で半分は嘘である。

咄嗟だったのは本当だが避けようと思えば避けれた。それをしなかったのは手っ取り早く三大勢力に理解してもらうため。俺という鬼呪龍神皇がどれだけ規格外であるかということを。まぁ、そのために心配はかけてしまったのは心が痛むが……

 

 

シノンもふーんと言いながら目を細めているから完全には信じていないだろう。

 

「にぃ、あのタイミングでやられるのはウケ狙い?相手を笑った後にその刺客にやられるって」

 

「八幡あれってわざとかな?」

 

「死んだフリとはいただけないな」

 

そして次々とほかの眷属達がジリジリと迫ってくる。

 

「ハチ君わざとって何⁉︎わざと受けたの⁉︎なんでそんなことしたの⁉︎」

 

「八幡君……貴方は自分の身体をもっと大切にといつも言っているのに……」

 

「先輩、酷いです……」

 

それに追随するように引き剥がされた3人も俺に再びジリジリと迫ってくる。

 

 

 

 

 

「いやいや、それよりもなんで無事なんだよ⁉︎普通そっちを疑問に思うだろ⁉︎」

 

そんな俺たちに耐え切れずアザゼルが突っ込んだ。

 

『それは八幡(にぃ)だから』

 

「なんでだよ⁉︎」

 

眷属一同に一言でバッサリ切られたアザゼルは声を上げるがそれを無視して彼女達とセラフォルー様達はどんどん俺へとにじり寄ってくる。

 

 

 

 

《あはははは、もうバレてるんだから仕方ないね。後々のお仕置きは甘んじて受け入れなよ》

 

 

『⁉︎』

 

そんな中突然阿朱羅丸の声がほかの奴らにも聞こえる様に放たれた。

 

「あーちゃん?」

「この声って……」

「なんだ?(です)」

 

 

周りの奴らが反応する中俺はため息まじりに呟く。

 

「おい、なんで出てきたんだよ」

 

《いやいや場を整えてって言うハチの意見はわかるけどここまでカオスになった場はそう簡単に収まらないでしょ?まぁ、カオスにしたのはハチ自身だけど。だから僕が納めてあげようと思ってね》

 

「むしろ余計にカオスにならねぇか?」

 

《いやいや、簡単なことだよ。僕が出ればある程度の説明はすぐ終えられる、百聞は一見に如かずってね。まぁ、さっきも言ったけどシノン達の怒りは尤もなんだから、それは今晩にでも殺られるといいよ♪》

 

他を無視して繰り広げられる会話に周囲がポカンとしつつある中、仕方ないかと決心する。

 

 

「シノン、それにみんなも叱りは後で全部聞くからこの場は引いてくれ」

 

俺の言葉にシノン達はりょーかいと言っていたが目は一切笑ってなかった。

 

 

「なぁ、アザゼル、ミカエルお前らは俺の神器について知りたがってたよな?」

 

「あ、ああ」

「ええ」

 

 

「なぁ、白龍皇お前は強い奴と戦いたいんだよな?」

 

「うん?そだよ」

 

 

阿朱羅丸の声できっかけを作り、少しだけ落ち着いた場で俺が彼らに問いかけた。

 

 

「なら見とけよ」

 

そう言って俺は刀を取り出す。

取り出した刀は宙へと舞い俺の言葉に反応し翡翠色の装飾が光り輝いた。

 

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

その言葉と共に刀を影が多いつくし、その影はやがて人の形へと変わっていく。

 

その様子を全員が見ている中、影が剥ぎ取れた瞬間、その姿に彼女を実際に見たことある者やその声を知る者は声を上げた。

 

 

「はぁ、こうやってこっちでハチ以外の奴と会うのはいつぶりかねぇ……って合宿の時に小猫ちゃんにはあったか。魔王様達は久しぶり、前はハチの身体経由だったからこうして会うのは初めましてになるかな?それに会ったことのある奴もちょくちょくいるしね」

 

 

 

「お前は⁉︎」

『まさか⁉︎』

「どういうこと⁉︎」

 

アザゼルとミカエルは顔を知っているのか驚きの声を上げ、セラフォルー様やサーゼクス様は突然現れた彼女に驚愕の声を上げる。

 

それ以外の奴らも突如現れた阿朱羅丸を見て目を見開いて驚いている。俺の眷属を除いて……

 

 

「僕は阿朱羅丸。鬼呪龍神皇阿朱羅丸さ。多くの者には吸血の女王と呼ばれているけどね」

 

 

《貴様‼︎》

《どうして出てこられている⁉︎》

 

彼女の自己紹介を前に声を上げたのはアルビオンとドライグだった。いきなり声を荒げた二匹の宿主達はどうした?といった具合に問いかけているが。

 

 

「あははははやっぱり驚くよねぇ。神器に閉じ込められてる筈の僕がどうして出てこられるかって」

 

 

そう、それがここにいる多くの者の疑問。

本来神器に宿る者はその魂だけを封じられている。故に外に出ることなど不可能なはずなのだ。だが、阿朱羅丸はその常識すら嘲笑うように周囲に告げた。

 

 

「簡単なことさ。ハチに宿る神器は……否ハチの神器はイレギュラーな物なんだよ。まぁ、それこもれもそこに宿ってる二天龍達のおかげなんだけどね」

 

 

《どういうことだ⁉︎》

 

敢えて俺に宿るという言い方を訂正し、二天龍を煽るように言った阿朱羅丸の言葉にアルビオンが敵意丸出しの声を発する。

 

 

「この神器はね、聖書の神が作り出した神器というシステム外にある神器なんだよ。なんたって聖書の神の力を使って僕が作った神器なんだからね」

 

両手を広げながら得意げに彼女は語る。その語りを俺や眷属達は既に周知の事と黙って聞いているが他の奴らはそんな余裕はない。開いた口がふさがらない状態だ。

 

 

「かつて僕は二天龍を戦争の中に誘き出し、その混乱に乗じて聖書の神の血を吸った。まぁ、それはそこの天使長様が知ってることだろ?」

 

「はい……ですが貴方はそれだけですぐに姿を消してしまった」

 

阿朱羅丸の言葉にミカエルに注目が集まると彼はそれを肯定した。

 

「まぁ、聖書の神の力が欲しかっただけであとはどうでもよかったからね。でも十数年前、調子に乗ってムゲン達が争ってるところに突撃していってね。流石に二匹を同時に相手にするのはきつくて再起不能の重傷を負ってね。それでこのままじゃ死ぬと思って済んでのところで僕は神器を生成したんだよ」

 

 

誰もが彼女の言葉を疑った。ムゲン達に突撃していった。神器を生成した。ありえないとばかりに目の前にいる存在を疑っている。

 

 

「そして僕は神器を作る時、僕自身の身体の一部を使うことで新種の神器を……この世界で唯一無二のイレギュラーな神器を作った。そして神のシステムを利用してそれと最も適性のある人物を探した。そうして見つけたんだよハチをね。僕が作った神器、宿った者或いは両者契約の元身体と魂を取り込むことでその力を復元する神器"鬼呪装備"をね」

 

その言葉に今度こそ全員が固まってしまう。何を言っているんだとほとんどの者の思考が停止した。

 

 

「なんで外に出られるか?簡単だよ。この神器の能力は力の復元。それの極致である"禁手(バランス・ブレイカー)鬼呪顕現"は神器に宿る者の復活なんだから。まぁ、復活できると言ってもハチがいてこそだけどね」

 

そう言って阿朱羅丸は俺のそばに降り立つと不敵に笑いながら更に爆弾発言を続ける。

 

 

「それにこの神器はハチが使う刀が神器の本体じゃない。あれは僕という存在が強く入っているものであって本体は既にハチと同化しているからハチから神器を取り出すこともできない」

 

「え⁉︎」

 

阿朱羅丸のその発言はシノン達も知らないことであるが故に彼女達も声を上げた。

そう、これがバロールが言っていた面白いものの真相、何者でもないにも関わらず何者にもなれる由縁。阿朱羅丸の身体の一部を使って作った神器とほぼ同化している俺はもう、悪魔ですらない。俺自身が鬼呪龍神皇になっている。それ故に阿朱羅丸の補助がない状態でも阿朱羅丸の使う力は使うことができるのだ。

 

 

「だからこそ、今ここで君達にしっかりと告げさせてもらうよ。ハチは()()()鬼呪龍神皇じゃない。僕の力と同化しているが故にハチ自身が鬼呪龍神皇なんだよ」

 

そう言った彼女は俺の両肩に手を置く。ふふふ、と悪戯が成功した子供のように笑っているがやってることが規格外のためその笑みには何処か黒いものが含まれている。

 

 

「さぁてと、それじゃあそろそろ殺り合おうかな?白龍皇ちゃん。殺り合いたかったんでしょ?」

 

そうして言いたいことを言い終えた彼女は不意にヴァーリへと言葉を向ける。

 

「っ⁉︎いいね。面白そう」

 

ヴァーリも先ほどの言葉に呆気を取られていたが阿朱羅丸の言葉に意識を戻しその顔に笑みを浮かべる。

 

 

「ヴァ、ヴァーリ‼︎あれは危険です。私たちも手伝いますよ。雪乃」

 

「ええ、わかってるわ」

 

 

そう言って無限龍の蛇で力を上げた2人が加勢に入ろうとするがそれをヴァーリ自身が止めた。

 

 

「やめて欲しいなぁ。アレは私が1人で相手をしたいんだから」

 

 

予想もしなかった拒絶の声に戸惑う2人だがそんな2人に阿朱羅丸は笑いながら話しかけた。

 

「あー、大丈夫だよ。君達の相手はもう到着するみたいだし」

 

「な、なにを……」

 

カテレアが阿朱羅丸の言葉に疑問を上げようとした時、その声は突如2方向から地面へと飛来した物の轟音によって掻き消された。

 

「っな⁉︎」

 

その飛来した物の正体を見て彼女は思わず大声をあげてしまう。

それは本来ならば後詰めとしてやってくるはずだった彼女の眷属や仲間と魔法使い達だった。否、だったものといったほうが正確だろう。着ていた衣服から判断こそできるが、彼らは肉塊と化していたのだから。

 

 

 

「やれやれ、遅くなっちまったか?っとなぁんでハチのやつは地べたに座ってんだ?なんだ?サボりか?」

 

「ひゃひゃひゃ、旦那がサボりなんてありえねぇだろ。おおよそまたなんかやってシノンの姉御達に怒られたんだろ」

 

 

「もう、早く行ってくだせぇ。あっしはこの後も行かなきゃいけねぇところがありやすし、ここで見られるわけにはいかねぇんで」

 

 

 

飛来した方向を見ると空中にまるでトンネルのような黒い穴が出来ておりそこから漏れ出すのは3人の男女の話し声。

 

「ひゃひゃひゃ、別にいいじゃねぇか。なんならロリっ子、お前さんのケツを……」

 

 

「この変態がぁぁぁああああっす‼︎」

 

「うぉぉぉおおおおおい⁉︎」

 

そんな声が聞こえ見覚えのある白い長髪の男性が吹き飛んでくる。しかし、そこはさすがというべきか空中で3回転ひねり繰り出し着地する。

 

「あ、旦那お疲れ……」

 

「あー、お前は‼︎‼︎」

 

そんな男性の声をヴァーリが妨げた。

 

「あれ?知ってるの?」

 

「こいつ私から逃げる時に人の胸を揉んでってた変態だよ‼︎」

 

阿朱羅丸の問いにヴァーリは怒りながらその男を睨みつける。

 

「おお、あんたはあの時の揉み級準1級のスーパーボインドラゴンのおねぇちゃ……「へぇ」ひぃぃぃいい⁉︎」

 

 

そんな男が巫山戯倒しているとシノンが周囲を凍らせながら彼に近づいて行った。

 

「さっきの様子じゃあの子にもセクハラしたようだし、白龍皇にもしてたのね。アーシアちゃんの時にみんなでお仕置きしたけど足りないみたいね?」

 

「あ、姉御……ちょっとまっ………おぅぇぇええええええええ」

 

 

と途中まで叫んだ男は次の瞬間蹴り飛ばされ猛スピードで吹き飛ばされた。そうして飛んで行った先にはユウがおり、そんなスピードで飛んで行った彼は当然のごとく……

 

 

「ふん‼︎」

 

と飛ばされた男の脇腹を容赦なく左ストレートで打ち抜く。

 

「ごっはぁぁぁああ」

 

そうして飛ばされた先にいるのは刀を片手に立っているクロメであり、先日の件からもこの男とは仲が悪い。となるとその行く先は目に見えており。

 

「こっちに来るな」

 

ズバンと刀を鞘に入れたまま男を吹き飛ばす。

 

 

「ぐぇぇぇえええ」

 

 

そうして飛ばされた男は先ほどとは違う意味で3回転ひねりを起こし俺の前に飛んでくる。当たりそうになれば流石に俺も吹き飛ばそうかと思ったが極めて残念なことに手前で止まってしまった。

 

とりあえず顔をこちらに向けしゃちほこのようになってるこいつに聞いておく。

 

 

「おーい、フリード大丈夫か?」

 

「あ、ああ。でも旦那……助けてくれても」

 

「いや、確実にお前が悪いからな」

 

そう言って俺は手前で止まったフリードの頭に拳骨を落とす。

 

「ぐげぇ……なんで旦那まで……」

 

「悪かったな白龍皇」

 

「う、うん……今の見たら少しだけスッとしたからいいよ……」

 

 

様子からして仲間のような振る舞いだったのに容赦のない様からヴァーリも少し引いていた。

 

 

 

「んじゃ、俺も行ってくるから、じゃあな」

 

「へい、お疲れっす」

 

そう言って穴からもう1人中年のおっさんが出てくると穴は閉じてしまう。

 

ドンと結構な高さから落ちたにも関わらずまるでなんでもなさげにこちらに歩み寄ってくる男は呆れ顔でつぶやく。

 

 

「お前さんはそのセクハラ癖なんとかしないとそのうち女性陣に殺されるぞ?」

 

「うっせぇ、おっさんは黙ってろい」

 

「お疲れさん阿伏兎。大丈夫だったか?」

 

「大丈夫だったかじゃねぇよい。歯ごたえがないにも程がある。それよりもお前さんどうしたんだ?お前さんがあんなんに殺られるとは思えんのだが」

 

「まぁた、何時ものよ」

 

阿伏兎の問いにシノンが答えるとまたかいと阿伏兎ため息を吐く。

 

「だ、旦那、旦那が効率とか重視するのはわかりますけど自分の身は大切にして欲しいっす」

 

 

それに続くように起き上がったフリードがまともなことを言う。

 

「フリード、あんたもまともなこと言えるのね?」

 

シノンも俺と同じことに驚いていた。

 

「いやいや、普段ふざけてるだけで真面目な時は真面目にやりますよ俺っちは⁉︎」

 

「存在が巫山戯てるのに?」

 

「クロメちゃんは黙ろうかぁ?このロリっ子が」

 

「なに?この間の続きやる?」

 

「おう、上等だ。姉御たちもいるからここで一発お前にかまして……」

 

 

「ちょっちょっと待ってくれ⁉︎」

 

ヒートアップしていく内輪ネタに耐えきれなくなったゼノヴィアが声を上げる。

 

「フリード・セルゼン。お前は敵のはずだろう⁉︎どうしてそんなに「仲がいいのってか?」そ、そうだ‼︎」

 

頭に疑問符を浮かべていたのはゼノヴィアだけではない。周囲の多くの人物がただでさえ阿朱羅丸の説明が追いついていないのにフリードの登場に理解できずにいた。

 

あ、そういやフリードのことゼノヴィアにも言ってなかったな……

 

 

「ひゃひゃひゃ。なら今ここで聞いとけよ。俺っちは天使側に始まり一部の堕天使や数ある無法者たちのところに潜り込んだ協力者フリード「ほれよ」って旦那タイミングそこ⁉︎」

 

フリードの話を遮るようにフリードに兵士の駒を投げ当てる。すると話途中だったフリードの身体が輝き出し彼は仕方なくしゃべるのをやめるしかなくなった。

 

 

「まぁ簡単に言えばこいつも協力者ってこった」

 

「旦那ひでぇな……まぁ、そういうことだよ。あん時言っただろ?手加減してやるって。あんな脆い剣じゃ俺様の実力の半分も出しきれねぇっての」

 

 

そう言いながら蝙蝠の翼を広げバサバサとまるで確認でもするように振るうフリードだが彼を知っているイッセーたちだけでなく、そこにいるほとんどの者が考えられる容量のキャパを超えていた。それほどまでにこの数分で多くのことが起きすぎているのだ。

 

 

 

「うーん。しかし、1人も倒れてないのに全員揃っちまったし……少し変えるか。ユウと阿伏兎であの合成獣達を、クロメとゼノヴィアで魔法使い達を、フリードがカテレアの相手をしてシノンは雪ノ下を見張っとけ」

 

そう言って俺は重い体を立ち上がらせる。

 

「別にいいけどそうしたら守りはどうするの?」

 

「ああ、こいつにやってもらう予定だぞ?」

 

シノンの疑問に俺はもう1つの眷属の知らない者を呼び出す。

 

突然出てきた緋色の刀にイッセー達だけでなく眷属一同も不審に思っている中、ギャスパーだけがやけにキラキラした目でこちらを見ていた。

 

 

「んじゃまぁ、頼むぞクルル」

 

そう言うと先ほどの阿朱羅丸同様に黒い影が集まりだす。違うのはそこから現れる人物。

 

 

「はぁ、ようやく私もお披露目ね」

 

そう言って現れたのは腰よりも下まで伸びたピンク色の髪をなびかせる緋色の瞳の少女。

 

その場にいる全員がまたも呆気を取られる中その少女が発した言葉は敵味方上司眷属関わらず全員の度肝を抜いた。

 

 

「初めましてになるわね。私はクルル・ツェペシ。吸血鬼の始祖にして鬼呪龍神皇の姉よ。以後よろしく頼むわ」

 

 

そう言って彼女はにこりと笑う。

 

何人かは、はぁ⁉︎と再び声を上げそれ以外が、主に首脳陣を中心とした人物達が俺の方へと視線を向ける。

 

 

「ああ、さっき阿朱羅丸が言いましたよね?宿った者或いは両者契約の元身体と魂を取り込むことでその力を復元するって。クルルは数年前に会って俺の神器の中に入ったんですよ」

 

 

 

向けられた視線に答えた俺の言葉に首脳陣達の心が初めて1つになった。

 

 

『もうとりあえずこの場を収めてくれ』と。

 

あまりの出来事の連続についていけなくなった彼らは遂にこの場を納めればとりあえずそれでいいと考えたのだった……

 

 

 

 




いかがでしたか?

これは書き始めようと思った時から雪ノ下がここで裏切り由比ヶ浜はここで死ぬという設定にしようと思っていたのですが……


感想お待ちしております(^◇^;)汗


次回会議編は終了します。




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《会議後編》チートな眷属

お待たせしました(=゚ω゚)
おそらく今月最後の投稿。


これで会議編終了。
次回は閑話を挟んで冥界編に行きます(`_´)ゞ
そして案の定複数人同時進行はムズイ……
誰かいい書き方を教えてくれよと作者は弱気になってみたり♪

うん……気持ち悪いな。やはりあのキャラはミサカがやるからいいのか……

では本編へどうぞ。





 

こんなはずではなかった。

白龍皇からもたらされた情報により相手のことを把握していたカテレアたちが立てた計画は完璧なものだと彼女たちは自負していた。

 

魔法使いたちを使い停止世界の邪眼を暴発させ3大勢力の戦力を大幅に削った上で白龍皇に加え、合成獣やオーフィスの蛇による強化で充分制圧できる見積もりだった。その上で噂の女王を不意打ちで殺す。仮にこれらの事が出来なくともそのまま暴発させ続ければ自分達もろとも3大勢力全員を停止させられるため、その後に後詰めの部隊が来ることで完全に勝利できる。

 

その筈だった。

 

 

しかし今その計画は次々に瓦解していく。

 

そのたった1人の女王が企てた策略によって彼女達の勝ち筋は次々に潰されて行ったのだ。

 

ギャスパーの迅速な奪還。

後詰めの事前の処理。

不意打ちすら意味を為さなかった。

 

加えて現在のこの状況にカテレアは酷く焦っていた。自分の魔王の末裔としての血とオーフィスの蛇により得た力に多大な自信を持っている彼女でさえ目の前で起きている事はとても受け入れがたいことだったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ん……シノンの料理の方が美味しい」

 

「弱いねぇ、まぁさっきやった木っ端悪魔よりはマシだが正直2人がかりでやるほどのことじゃない。まぁ退屈しのぎにぁなるか」

 

「ならユウが全部食べていい?」

 

「おぅいいぞ。食い過ぎて腹壊すんじゃねぇぞ?」

 

「ん、大丈夫」

 

そう言って阿伏兎の注意に答えたユウは周りにいる合成獣に向けて腕を振り下ろす。ただ腕を振り下ろしただけ。ただそれだけのことで合成獣たちは吹き飛んでしまう。そうして奇声をあげながら吹き飛んで行った合成獣の一匹の喉元を目掛けてユウは喰らい付く。

 

「ゴジュリ」

 

嫌な音と共に鮮血が彼の可愛らしい顔に飛び散る。そんな血を気にもせず彼はジュルジュルと捕食を続ける。

 

大きかったそれは瞬く間に小さくなっていき全てが彼の胃の中へと消えていった。

 

「つぎ……」

 

捕食を終えた彼が次の獲物へと視線を向けた途端周囲の合成獣達は彼から出た威圧に怯え逃亡を図ろうとする。しかし、彼らがそれをすることは叶わなかった。それを許すほど彼らの目の前にいる存在は甘くない。

 

 

「オォォォォオオオーーーーン」

 

その小さな身体から出るとは思えないほどの咆哮を彼があげると周囲が激しく揺れ逃亡を図ろうとした合成獣達はビクンと体を揺らすと地に伏してしまう。辛うじて立ち上がり尚を逃げようとする数匹には捕食者が更に襲いかかってくる。

 

 

「ガルル‼︎」

 

そう言って跳躍しまず1匹目に踵落としを喰らわす。落とされた合成獣はその圧力に潰され、更にそれで止まらず彼を中心に巨大なクレーターが生まれる。

 

そんなことには光景に目もくれず逃げる残り2匹だが突如現れた炎の壁が行く手を阻んだ。

 

「ん‼︎」

 

そうしてその壁を作った本人は素早く2匹の懐に入ると拳と蹴りで撃ち抜く。その一撃に2匹の身体に大穴が開けられた。

 

 

「ふぅ」

 

 

 

合成獣達が全て動けなくなったのを確認し一息ついたユウは手を合わせ、先ほどの摘み喰いでは発しなかった言葉を発する。

 

 

「いただきます」

 

その一言を最後にユウは次々と合成獣を喰べていく。その様を見て真っ先に言葉を発したのはアーシアだった

 

 

「イッセーさん、私……」

「ア、アーシアは見ないほうがいい」

 

その言葉にイッセーが慌てて動きアーシアの目を押さえた。確かに今の光景は気の弱いアーシアにはとても耐えられるものじゃないだろう。

 

 

「お、おい八幡⁉︎あいつはなにをやってんだ……」

 

堪らずイッセーがユウの主である八幡へと問いかける。ユウのことをあまり知らない他の面々もイッセー同様に俺の方へと視線を移した。

 

 

「ただの食事だよ」

 

「しょ、食事ってだってあいつが食ってるのは「食物連鎖(イーター)」え?」

 

「それがユウの神器だよ。あいつは飯を食えば食うほど強くなる。そしてその食材がより強ければ強いほどそれを食べたユウ自身の力が上がっていくんだよ」

 

 

「そ、そんな神器があるのかよ……」

 

「それじゃあ、彼のあの強さは神器による強化によるものなのかい?」

 

イッセーの問いに答えると次は木場が質問を続けてくる。

 

 

「いんや、違うぞ?」

 

「え?」

 

しかしその問いを彼は否定した。

 

「あれはユウ自身の素の力だ。なんなら駒の性能も使ってねぇよ」

 

『は⁉︎』

 

その言葉に反応したのは彼らだけではなく疲れ切っていたアザゼルとミカエルも反応してしまう。

 

 

「ユウはそもそも悪魔になってなかった頃でも並の悪魔や天使、堕天使を圧倒する力を持っていたからな」

 

 

「そんなことあり得るのかよ……」

 

「あり得るさ」

 

イッセーの言葉に即答し更に続ける。

 

 

「なんたってあいつは今は絶滅したと言ってもいい二大傭兵部族、夜兎族と仙狼族。その二部族のハーフなんだからな」

 

 

「はぁぁぁぁああああ⁉︎」

 

その俺の言葉に一目散にアザゼルが叫んだ。他はミカエル以外頭にハテナマークを浮かべている。

 

 

「冗談じゃねぇぞ⁉︎夜兎と仙狼のハーフだと⁉︎方や異常なまでの身体能力を持つ種族と方や高度な仙術を自由自在に扱う種族じゃねぇか⁉︎ありえねぇだろ⁉︎それにその二部族はもう完全に絶滅したはずじゃ……」

 

「だから、ユウはその生き残りなんだよ。その上仙狼族の長が死ぬ前に抜き取ることで代々継承してきた神器、食物連鎖(イーター)もしっかりその身に宿してるしな。ついでに言えば阿伏兎は純粋な夜兎の生き残りだよ」

 

 

「もう、お前もお前の眷属もなんなんだよ」

 

 

興奮しながら早口に喋っていくアザゼルに八幡は極めて冷静に話していく。一方のアザゼルは彼の最後に加えられたついでの一言にクロメが転生した時同様に頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの‼︎」

 

そんな空気を無視して今まで絶句するだけでずっとミカエルの側に控えていたイリナが声を上げた。

 

「ん?なんだ?」

 

「あの、なんでゼノヴィアはあんなに……」

 

そこまで言うと彼女は言い止め下を向いてしまう。彼女が言っていたゼノヴィアの方角を見るとクロメと2人で魔法使い達を相手にしているのだが、ゼノヴィアの動きが前とは明らかに違っていた。

 

イリナにとって何よりも1番気になることはやはりかつての同僚なのだろう。みんながユウの行動に注目してる中1人ゼノヴィアの方を見ていた。

 

 

 

「別にただ起きている間は俺が、寝てる時は阿朱羅丸が特訓についてただけだよ」

 

イリナの疑問に軽く答えた彼はジッと視線の先にいる彼の女王の成長した姿を見る。

 

「さすが、阿朱羅丸……先見の目じゃ勝てねぇな」

 

「まぁ、色んな奴の血を吸ってるだけあってそういう力も備わったんでしょ?ハチも鬼呪龍神皇といってもあくまであいつの一部だけを取り込んだ形になるから、そりゃ敵わないわよ」

 

ぼそりと漏らした彼の発言を側にいたクルルが拾った。

 

そんな2人の視線の先でゼノヴィアはデュランダルを自在に振り回していた。

 

 

「はぁぁぁああああ‼︎」

 

その動きには一月程前まであった無駄が明らかに消えていた。

 

「へぇ、意外。新しく眷属が入ったとは聞いてたけど現時点ではそんなに強くないって聞いてたのに」

 

その様子を間近で見ていたクロメが動き回りながらゼノヴィアに話しかける。

 

 

「一月前、八幡と阿朱羅丸に言われた。お前のそれは剣の性能に頼って振り下ろすだけのチャンバラだとね。それからずっと八幡に基礎を叩き込まれ、阿朱羅丸とは実践をやり続けていたんだ。それなのに成果が出なくては眷属の名折れだ‼︎」

 

そう言って魔法使いを薙ぎ払うとゼノヴィアは後退しクロメと互いに背をくっつけ合う。

 

 

「いいなぁ、私基本的な剣術はほとんどヴィザ翁に習ってて八幡は偶にアドバイスしてくれただけだから羨ましい」

 

「そうなのか、私もヴィザ翁とは通信では話したが実際には会っていなくてね。是非ヴィザ翁にも剣の指導を頼みたいものだ」

 

「なら今度冥界に行った時みんなで剣術の模擬戦やろうよ」

 

「それはいいアイデアだ、なっと‼︎」

 

 

早くも打ち解け合っている2人は話しながらも攻撃を続ける。そして魔法使いが半分ほど消えた時クロメがゼノヴィアに告げた。

 

 

「ゼノヴィア、何かやろうとしてるのはわかるけど今回は譲ってもらってもいい?」

 

「……そんなにわかりやすかったかい?」

 

「ううん。でも阿朱羅丸や八幡に修行をつけてもらってるならたぶん、もっとすごい手を持ってるんだろうなって思っただけ」

 

「……わかったよ。今回は譲ろう」

 

「ありがと♪」

 

ゼノヴィアの言葉に一言礼を済ますと彼女は剣を強く握り不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「じゃあ行くよ?死者行軍八房」

 

彼女がそう言うと先ほど彼女が切り捨てた魔法使い達が不意に立ち上がりかつての仲間であった者達襲い始めた。

 

 

「っな⁉︎」

 

 

その様子に怯えた魔法使い達はソレに攻撃をするが、焼かれようが切り裂かれようがソレは止まることなく彼らに近づいていき、そうして彼らを襲っていった。

 

 

 

「相変わらずエグい光景ね」

 

「まぁエグいが禁手の方が更にエグいからな」

 

 

その光景を見ながらなんでも無いように八幡とクルルは喋っているが、その後ろにいるイッセー達は先ほど以上に顔を青くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「死者行軍八房。倒した相手を一時的に操る神器。相変わらずの強さだねぇ。まぁ、倒した相手が弱すぎだな。もっと強ければロリっ子も禁手を使ってたかもしれないが」

 

 

「よそ見をするな‼︎」

 

「いやいやいや、おばさん弱すぎよ?」

 

ガキンッと飛ばされてきた魔弾を剣で軽く弾くフリードにカテレアは唇を噛み締める。

 

本当にこんなはずではなかったと……

 

「んじゃまぁ、俺っちもそろそろ真面目にやりますか」

 

そう言うと彼はゴソゴソと懐を探り始める。

 

その間もなくてカテレアは攻撃を続けているが何故かその全てはフリードを避けるように飛んで行った。

 

「お、あったあった」

 

ようやくお目当の物を見つけたのかフリードはその顔をニヤリと歪ませカテレアを見据えると声だかに叫び始めた。

 

 

「さぁ、始めましょうかね‼︎これから始まる俺っちの俺っちによる俺っちのための戦い、名づけてフリード劇場。今から叔母さんをご招待するぜ?」

 

そう言って彼が取り出したのは水風船だった。

 

 

「っこの何処までも巫山戯て……⁉︎」

 

 

その意味不明な言動と取り出したものに怒りを露わにするカテレアだが次の瞬間その顔は驚愕の色に染まった。

 

 

 

「これは⁉︎」

 

その戦いを見ていたサーゼクス達もまた驚きの声を上げる。それもそのはずだ。一瞬にして学園全体に彼の持っていた水風船が何百、何千と浮かんでいるのだから。

 

 

「ひゃひゃひゃ、これが天才っ子が作った俺っち専用の人工神器幼子の悪戯(チャイルドトリック)だよ。ガキの悪戯の怖いところはいつどこでどんな悪戯を仕掛けたかわからないことだ。そしてそれがいつ作動するかもな。この神器はいわば備えあれば憂いなしとでもいうべきものでねぁ。あらかじめ別の場所に仕掛けた悪戯を自由に移動させられるんだよ。例えば今回のこの悪戯は阿伏兎の部屋に仕掛けた水風船トラップをこちらに持ってきただけだしな。」

 

「おいてめぇいつ俺の部屋にそんなもんやりやがった⁉︎」

 

「ひゃひゃひゃ、知ってんだろ。この神器は悪戯してる最中は姿や気配、匂いすら消せるんだよ。相手の意識をそらしてるって言うべきか」

 

 

「そういうことじゃねぇ⁉︎つか何勝手に仕掛けてんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ⁉︎」

 

そんな阿伏兎の声が校庭にこだました瞬間水風船が一斉にカテレアに向かっていく。序盤は交わしたり迎撃したりしていたが、そのあまりの数に飲まれ、次第に水風船が当たっていくが問題はその中身だった。

 

ビチャ

「ぐぼっ……⁉︎ゲッホゲホ、な、なんだこれ⁉︎舌が痺れる⁉︎」

 

ビチャ

「い、痛い、は肌が焼ける⁉︎」

 

ビチャ

「臭いぞこれ⁉︎」

 

ビチャ

「っあぁぁぁああああ頭がぁぁぁああ」

 

「ひゃひゃひゃ、いい気味だ‼︎それこれも喰らいやがれぇぇぇええええええ‼︎‼︎」

 

次々とあたり、その中身のものに苦しめられるカテレアにむかい手に持っていた水風船を投擲した。

 

ビチャ

「なんだこれ⁉︎何故服が溶け……」

 

 

「いいね、いいね‼︎やっぱり水を使った攻撃はこれが1ば…ズガガガンッ……え?」

 

 

 

「お前さん、俺にこんなのやろうとしてたのか?」

 

「フリード遊びすぎ……」

 

「あまり、こういう行為は感心しないな」

 

「禁手"ひゃっ……"「まてぇい⁉︎禁手はやめろロリっごぉぉぉぉおおおおお」いい気味」

 

 

カテレアに対しある種セクハラのような攻撃を続けていたフリードは既に戦闘を終えた眷属達により地面にめり込まされた。

 

 

「っくっぞぉ……ごのぉぉおおおお‼︎」

 

未だ苦しむカテレアは溶けた服を抑えながら咆哮する。すると彼女の背後に魔法陣が展開されそこから飛び出てきたものに多くのものが目を丸くした。

 

蒼い鱗に鋭い爪、そして水を纏いながら現れたそれはまさに……

 

「へぇ、リヴァイアサンね……そう言えばレヴィアタンの家系は代々当主になったらリヴァイアサンを調伏するって聞いたことがあるけど、あれって本当だったのね」

 

「まぁ、一部の人間にはレヴィアタンとリヴァイアサンは一緒って見られることもあるからな。しゃーねぇ。あいつらがやったらここら辺吹き飛びかねないし俺が「私が行くわよ?」クルル?」

 

 

「結局誰も敵わないんだから防御の意味ないでしょ?それに私が直々に出るわけじゃないわよ」

 

 

そう言ってクルルは目の前のリヴァイアサンを見据えるとつぶやいた。

 

 

「上位吸血鬼(ヴァンパイア)生成、"ヴコドラク"、"ウピオル"」

 

そう彼女が呟いた瞬間2つの黒い靄が生まれその中から牙を生やした2匹の吸血鬼が現れた。

 

 

「行きなさい」

 

その彼女の言葉に従い知性なきその吸血鬼はリヴァイアサンへと向かって疾走していく。

 

 

 

「グルァァァァアアア‼︎」

 

 

「っぁぁぁああああああ⁉︎」

 

 

しかしそのリヴァイアサンは、咆哮を上げると突如カテレアを食いちぎりその場には彼女の絶叫が響き渡った。

 

 

「おいおい、逆に食われてるじゃねぇか」

 

「ああ。当主になって調伏する。けど彼女は出来てなかったのね……ただ当主ではあったから呼べただけで」

 

「いや、それでセラフォルー様達に勝とうとしてたのかよ」

 

「夢物語もいいとこよね」

 

 

 

「な、なんでお前らはそんな冷静でいられるんだよ⁉︎」

 

いつもと変わりないように話している八幡達にイッセーが堪らず声を上げた。

 

 

「逆に聞くぞ?カテレアは今回のテロを引き起こした上に間接的とはいえグレモリーの眷属を、お前の同僚を殺したんだぞ?そんな相手に何か思うところがあると思うか?」

 

 

「そ、それは……」

 

「覚えとけ。殺す覚悟も殺される覚悟もましてや失う覚悟もないなら力を振るおうとするな」

 

 

そういうと彼はリヴァイアサンの方を見る。そちらでは2匹の吸血鬼がリヴァイアサンを蹂躙していた。リヴァイアサンの水撃を避け、鱗を削り、肉を切り裂く2匹は何処か愉悦に満ちた顔をしていた。

 

 

 

 

「にぃ、あれなに?」

 

「ん?クルルが作った吸血鬼だよ」

 

「作ったぁ⁉︎」

 

「クルルは吸血の始祖だ。今いる吸血鬼の祖先はクルルが作った最上位吸血鬼達が交配して生まれた存在なんだよ」

 

「クルルって阿朱羅丸より強かったりするの?」

 

「んー、まぁ同じくらいの強さなんだが、阿朱羅丸がクルルに勝てたことはないな……」

 

「あの阿朱羅丸が勝てないのか……」

 

「当然俺も勝てねぇしな」

 

「っぁぁぁ……ぞれっでどんなヂード?」

 

「お前大丈夫か?」

 

「げっごうぎづい……」

 

「死ぬなよ?フリード」

 

 

その怪物達の戦いを見ていたユウ達はクルルの作った吸血鬼に興味津々とばかりに八幡に聞いてくる。話を聞いていたクルルは何処か得意げに胸を張っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「っ⁉︎どうして⁉︎」

 

そしてこのテロがそろそろ幕が引きになりそうになり始めた頃その声は響いた。

 

「どうしてもなにも。あんたの魔法じゃ私には傷すらつけられないそれだけよ。たとえ、身体に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()しててもね」

 

「っ⁉︎どうしてそれを⁉︎」

 

「そんだけ魔力を使ってれば分かるわよ。あんたからあそこにいるリヴァイアサンと似たような感じが漏れ出てるんだから。まぁ、その因子のおかげでオーフィスの蛇にも耐えられてるみたいだけど、その程度じゃねぇ?」

 

「っ」

 

そのシノンの言葉とともに発せられた威圧に雪ノ下は舌打ちをしながらもすこしだけ後退する。

 

 

「まぁ、慌てないでよ。あっちの戦いが終わるまで大人しくしててくれるとありがたいから」

 

そう言って彼女はこの場における最大の戦いを繰り広げ始めた2人へと視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは♪いいね白龍皇。ハチやクルルに比べたら全然だけど、まぁゼノヴィアやサタンとかに比べたら楽しめる方だよ♪」

 

「っ⁉︎強いね……すごいや。これが鬼呪龍神皇か……世界は広いや」

 

《ヴァーリ気をつけろ‼︎何かくるぞ》

 

「わかってるよ」

 

 

アルビオンの声を受け防御の体制に入るがそれは全く意味をなさなかった。ヴァーリの防御をまるですり抜けるように阿朱羅丸の攻撃はヴァーリの腹部に直撃する。

 

 

「ゴホゴホッ……半減させてるのにこの威力なの⁉︎それにすり抜けてきた⁉︎」

 

「あはははは。昔のハチみたいなこと言うね♪懐かしいなぁ、ハチも昔似たようなこと言ってたね。そのネタが分かった時はチートじゃねぇかって叫んでたし。最近じゃそんな泣き言のようなことを言わなくなってすこしだけ楽しみ減っちゃったけど」チラッ

 

「へぇ……八幡くん泣き言言ってたんだ」チラッ

 

「そうそう。泣きべそかいてた時もあったよ。まぁ、今は今で頼もしいからいいんだけど」チラッ

 

 

 

「ですってよハチ」チラッ

 

 

「お前らなに?俺のこと好きなの?戦闘中にまで俺の精神をガリガリ削ってきて」

 

 

「「大好きだよ(よ)?」」

 

「うーん。嫌いじゃないかな」

 

 

「ああ、そう」

 

そんな彼女達の突然の精神攻撃に八幡はため息を吐く。

 

 

「まぁハチいじりは今度にして……そろそろ幕を引こうかな?」

 

「っ⁉︎そう簡単には終わらないよ⁉︎」

 

そう言った阿朱羅丸の雰囲気の変化を感じてか、ヴァーリはより一層警戒の色を強めた。

 

「まぁ、これは授業料だと思っておきなよ?ついでにハチの件でムカついたから諸共で喰らいなよ‼︎」

 

そう言うと阿朱羅丸は手を掲げた。

それに呼応するように大地が、空間が激しく揺れ始めた。

 

 

「あんの馬鹿⁉︎」

「完全に調子のったわね……」

 

阿朱羅丸がやろうとしていることにいち早く気がついた八幡とクルルは思わず声を上げた。

 

 

「クルル‼︎シノン‼︎ユウ‼︎それにグレイフィアも‼︎俺たちでできる限りの防御を俺らの周囲とこの土地に張れ‼︎‼︎阿伏兎とフリード、ゼノヴィア、クロメは念のためにできる限りの防御を‼︎」

 

 

そう八幡が声を張ると眷属達が一斉に動き出す。疑問はあるだろう。なにが起きてるのか聞きたいだろう。だがその欲求よりも先にある彼らは動いた。自身の想いよりも主人である八幡の言葉に本能が先に従ったのだ。

 

グレイフィアも一瞬だけ間があったが、八幡の言葉に素早く反応したあたり、彼への信頼がうかがえる。

 

 

 

「お、おい⁉︎これはなんなんだよ⁉︎」

「物凄く嫌な予感がするね⁉︎」

「これは……デタラメですね……」

「これって大丈夫なの⁉︎」

 

各首脳陣も驚く中、八幡が周囲の全員や他の天使や堕天使、悪魔達も近くに転移させると同時に防御を張り始める。

 

 

そんな俺の指示と行動を見たからか、或いは自身の本能が告げたのか、さすがのヴァーリも表情を強張らせていた。

 

「ちょっ、ちょっと⁉︎これってかなりやばいんじゃないの⁉︎」

 

《ああ、非常にマズイぞ⁉︎というかこいつはここら一帯を焦土にでもする気か⁉︎》

 

そして2人が焦る中雪ノ下が空を見上げ呟いた

 

「これって……」

 

それを見た彼女も遅れながらヴァーリに近づくと結界を張る。雪ノ下が突然近くに来たことになに?と振り向いたヴァーリだが、雪ノ下の視線を追った結果、視界に入ったその者に目を見開くと慌てて全力で防御に回った。

 

 

 

 

「ほれ、来たぞ‼︎」

 

「なんじゃありぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ⁉︎」

 

 

八幡の声を聞き真っ先に声を上げたのはイッセーだった。いや、寧ろ声を上げれただけ立派と言ってもいいかもしれない。

 

イッセー以外のグレモリー眷属やソーナ達はもはや絶句していたのだから。

 

 

そうして俺たちは全力を持って防御の質を高める。自分だけならば食らってもいいが、あれの余波すら逃さず押さえなければ周囲の被害がでかすぎる。

 

 

「さぁ‼︎喰らいなよ‼︎災害豪雨‼︎」

 

そう言って阿朱羅丸は笑いながら空から落ちてきた巨大な隕石群をヴァーリ達へと軌道修正する。

 

 

 

「あいつは馬鹿なのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ‼︎‼︎‼︎⁇⁇⁇⁇⁇⁇」

 

 

 

隕石群が衝突する直前アザゼルの絶叫が上がったがそれは隕石群の轟音によりかき消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、一丁上がりってね」

 

 

「「一丁上がりじゃねぇ(ないわよ)⁉︎」」

 

「ゴヘッ⁉︎」

 

 

隕石群が全て落ち終え僅かだが守りきれなかった衝撃の余波が校舎を半壊させ、土地を荒らした。先ほどまで戦っていたヴァーリ達はおろか離れたところで戦っていたリヴァイアサンやヴァンパイア達も消えている。そんな中、それを起こした当の本人は一息つくが、そんな本人を八幡とクルルが全力で地面に叩きつけた。

 

「お前はアホか⁉︎危うく周囲が吹き飛ぶところだったわ‼︎ってかヴァーリのやつが半減させてなかったら校舎は跡形もなく消えてたわ⁉︎」

 

「あなた馬鹿なの⁉︎あんなの撃つ必要なんてなかったでしょ⁉︎地球が壊れるような威力の技を平然と使うなんて⁉︎」

 

「い、いや威力は弱めたよ?」

 

「「どのくらい?」」

 

「え、えっと……神が放つ全力の一撃くらい……」

 

 

「「手加減してねぇだろ(ないでしょ)‼︎」」

 

「ムギュゥ」

 

八幡とクルルの一撃が今度は見事に頭にクリーンヒットすると阿朱羅丸から変な声が漏れると彼女の身体が緑色に光り出し光の粒子となり八幡の中へと戻っていった。

 

 

「良いのが入ったな」

 

「後であっちでもしばいとくわ」

 

「頼む」

 

 

はぁと彼は今日1番の大きなため息を吐き全員がいる方へと視線を移す。その視線の先では多くの者が口をパクパクとしている。眷属やグレイフィアに至っては地面に膝をついていた。

 

しかし、それも当然だ。地球を壊す程の技を校舎が半壊するレベルにまで抑え込んだのだから、八幡やクルルはともかく他の奴らはほぼ魔力切れしているだろう。

 

 

「な、なんつー技使ってくれるのよ⁉︎」

「おいおい、こいつぁ洒落になんねぇだろ」

「ってかよくあれを此処まで抑え込めたな⁉︎」

「にぃ、もうくたくた」

「八幡はなんで平気なの?」

「今のは凄かったな……」

 

そんな膝をつきながら声を上げる眷属の横ではグレイフィアが八幡を睨んできていた。

 

 

「八幡……これでこの前のお嬢様の分の貸しはチャラですよ………」

 

 

「ああ、悪かったな」

 

そう言うと彼女も睨むのをやめる。

 

 

「そ、それよりも白龍皇達は⁉︎」

 

「いやぁ、危なかったよぅ」

 

思い出したようにソーナが声を上げるとそれに応えるように黒い靄からヴァーリと雪ノ下を担いだ男が現れた。

 

「闘戦勝の末裔……美猴か……」

 

「っお、俺っちのこと知ってんのかい?レヴィアタンの女王くん」

 

 

「ああ、お前んとこのジジイに会ったら代わりにぶん殴っといてくれって言われてる」

 

「うへぇ、マジかい。ってかお前さんの今のなんなん?ギリ逃れたからよかったけど余波だけでもヴァーリ達がボロボロよ」

 

 

「ああ、ありがとね美猴くん。おかげで助かったよ」

 

「いいってことよ。それよりもこいつはどうする?」

 

ヴァーリに礼を受け取った悟空はもう片方に担いでいる雪ノ下を見て言った。

 

「ああ、連れて帰るよ。リヴァイアサンの因子と適合できてるから研究材料として連れ帰ってこいって言われてるからね」

 

「だがよ、やっこさんが逃がしてくれるとはとても思えねぇんだが?」

 

そう言うと悟空の先にいるのは八幡の眷属達。

 

しかし、意外なことに彼らに助け舟を渡したのは八幡だった。

 

 

「やめとけ。お前らもう魔力もねぇだろ」

 

 

「私はあるけどなぁ」

 

しかし、その八幡の静止の声に抗うようにセラフォルーが告げた。

 

 

「ハチくんにあんなことしといて逃すわけないでしょ?」

 

「やめてください、セラフォルー様。いくら俺でもユウ達を庇いながらでは勝てる気がしないんで」

 

「何言ってるのハチくん?あんなのに負けるわけ……」

 

「こいつらじゃなくて、こいつらを戦力的に仲間だと思ってる奴の話ですよ」

 

 

そう言って八幡は遥か遠くの上空を見つめる。

 

「ハチくん?」

 

「ああ、やっぱりハチも気がついてたのね。そうね、眷属達がほぼ全員魔力切れの上、阿朱羅丸が寝てるから今やり合うのは得策じゃないわね。まったく阿朱羅丸があんなのやるから様子でも見に来たのかしら?」

 

「さぁな。だがクルルの言う通り今はやり合いたくねぇな」

 

 

「にぃ、誰のこと言ってるの?」

 

「気がついてねぇのか?まぁ魔力切れしてるから仕方ないか。此処からは少し離れたところでこいつらの……禍の団の親玉がこっちの様子見をしてんだよ」

 

 

『なっ⁉︎』

 

 

八幡のその言葉に全員が一斉に彼とクルルの視線を追った。当然、彼らの目では捉えることはできないが、確かに嫌な感じだけは感じ取れる。

 

 

 

「まぁ、何はともあれ逃してくれるならありがてぇよい」

 

 

「1つそこの横のやつが目を覚めたら伝えといてくれねぇか?」

 

逃げられることを確信した悟空は安堵の息を吐くがそんな彼に八幡は話しかける。

 

「なんだい?」

 

「お前がどうなろうが勝手だ、俺を殺しに来ようと好きにすればいい。だが、お前が俺の眷属に……大切な奴らに傷をつけるようなら……」

 

 

そこまで区切ると八幡の纏う雰囲気が変わった。先ほどまでの休んでいるものではなく、殺意と威圧をまるでコートを羽織るように纏いながら彼は言葉を続ける。

 

 

「殺す」

 

その一言は静寂の中校庭にこだました。

声量もいつもと変わらないはずなのに。

此処にいる誰1人としてその言葉を聞き逃す者はいなかった。

 

 

「あ、ああわかったよい……」

 

その言葉に悟空は冷や汗を流しながら黒い靄の中へと沈んでいく。

 

 

「……負けたけど、今度は八幡くんが相手してね」

 

沈む寸前、ヴァーリはその言葉を残した。

 

彼らが消えた後、こちらを見ていた存在が消えたのを確認し終えた八幡は盛大に息を吐きながら尻餅をつく。

 

 

そんな彼の元に身体を引きずりながら近寄って行った彼の眷属達はしばらくの間彼の側に居続けた。

 

 

 

 

 

 

その後校舎を修復し再開された会議では幾つかの決まりができた。

 

 

1つ、3大勢力は今日この時点を持って協力関係を結ぶ。故にこれ以後の許可のない種族間の戦闘を禁ずる。

 

1つ、各勢力の非常時、3大勢力間でその助力をし合うこと。

 

1つ、各勢力の今後については、この後さらに協議を重ね決めていくこと。

 

1つ、鬼呪龍神皇は3大勢力の最大戦力とし神皇の身内に手を出さない限り3大勢力に対する敵対行動を禁ずる。神皇は現在の各勢力に紛れている協力者を各勢力のトップである天使長、堕天使長、魔王に報告すること。

 

1つ、上記の事項のその代償とし3大勢力は基本、鬼呪龍神皇が出す要求を常に受け入れるものとする。

 

 

 

 

 

これを決めた際、特に最後の2つの条項を決める際に大揉めしたのは言うまでもないことだが、天使側、堕天使側は今回の阿朱羅丸の戦いを目の当たりにして其処だけは譲らなかった。

 

それはひとえに決して敵に回したくないという彼らの想いの現れだった。

 

 

 

そして今回、謀反者を出した堕天使側と悪魔側に対しての罰は特に設けられはしなかった。

 

これにはリアス・グレモリーが1番安堵の息を吐いていた。

 

 

 

かくして、第1回3大勢力会議は終幕した。

 

 

 

 

 

 




ふぅ(=゚ω゚)疲れた……


次回閑話です。

感想お待ちしてます。


とりあえず寝よう……ではでは



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閑話
【閑話】最初の眷属


お久しぶりです。

これから少しの間閑話が続きますのでご了承くださいm(__)m





 

 

 

夏休み。

それは学生にとってまさに夢の時間と言えよう。学校公認のこの長期休暇は学生が自由きままに過ごせる最大の時である。部活に勤しむ者たちはこれを機にと自身の目標に向かってより濃密な時間を過ごそうとする。そうでない者も友人との遊ぶ時間を大切にしたり、恋人との甘い時間を過ごしたり、或いは友人も恋人もいないボッチsは自宅にこもりPCやゲームのデバイスをいじり倒すことだろう。

 

 

つまりだ。

何が言いたいかというとだ。

夏休みとは休みなのだから休むものである。

海外のフリーダムな方々だけでなく、日本の立派な社畜の皆様でさえ自分の好きなように時間を費やす時間があるだろう。(たとえ少しであろうと)

 

 

つまり、つまりだよ。

 

 

「夏休みが始まる前に、既に俺の予定表に休みの文字が無くなっているのは間違っている‼︎」

 

 

あぁ……専業主夫になりたい…………

 

 

「まぁた始まったわね。あんたのその変な理論」

 

「おいおい今年もか?お前さんはこの時期になると毎年同じこと言ってねぇか?」

 

「毎年こんな感じなのかい?」

 

「にぃヒモがいいの?」

 

「なら八幡のこと私が養う」

 

「旦那、なら有給とか獲りゃいいんじゃねぇか?旦那なら溜まってるだろ?」

 

 

「ほとんどない。ほとんどセラフォルー様がなにか私事に取り組む度に俺が呼ばれて有給が消えていく。あれは一応休みってことでやってるから。」

 

 

「それはもうブラックだろ……」

 

 

はぁ、と縁側で溜息を吐きながら空を見上げると夕陽が目に沁みた。手で瞳を少しだけ隠した後視線を庭へと移すと風流のある池と木々が、風に揺れる度に波紋と木々のせせらぎを視覚と聴覚で感じさせた。そこで茶を飲もうものならシノンからジジ臭いと言われそうだが、正直心はもうジジイです。

 

 

なんせあの日の会議の後は尋問コースまっしぐらで根掘り葉掘り聞かれた。そして答えざるを得なかった。もともと言おうと思っていたとはいえ、阿朱羅丸のあの技の所為で予想以上に周りの食い付きが強かった。

 

具体的に言うと1週間ほどそれ関係で寝られなかったくらい。

 

 

まず尋問が2日間ノンストップで行われたのだ。無論、尋問の前に学校は元どおりにしておいたが、その所為で俺はずっとオカ研の部室に3大勢力の首脳陣達と共にいた。

 

 

そんなことがあれば心労が凄くなるのは想像に難くないが、会議が終わった後は当然眷属が待っていた。そこから通信で冥界にいる眷属達とディスプレイ越しに話し合いが始まり、結果として終わったのが翌日の夜。

 

しかし、それが終わったからといってそこで全てが終わったわけではない。

 

その後他のところにも行っている協力者と()()()()()()()()()()()に連絡を取り同じ説明をした結果、驚くことに1週間も徹夜をする羽目になっていた。

 

そうして全ての説明が終わった時俺は倒れるように眠りにつき起きたのが翌日の夜。いや、寝すぎだろ俺……

 

次の日に学校に行けばイッセーに何故1週間も学校を休んだんだと聞かれたので過労だと答えるとバツの悪そうな顔で俯いてしまった。

 

 

リアス・グレモリーの方はと言えば俺が休んでいる間に、サーゼクス様の計らいにより失われた駒、騎士の駒を補充していた。どうやって補充してきたのかは知らんが……

 

とはいえ、戦力になっていなかった奴らだがメンバーを2人失ったのはまぁ、少なくない損害だろう。今後の彼女の課題は眷属集めが主になってくるかもしれない。

 

 

そんな彼女達をよそに小猫経由で知っていたことだがアザゼルがオカ研の顧問となり学校にも来ていたのだが、正直だる絡みがウザかった。なんならあいつの家に豪雨落とすレベルで。あ、もちろん災害の……

 

そんなウザ絡みやリアス・グレモリーやその眷属のメンタルケアなど細かいところに気を使っていたからか思いっきり寝た分も無駄になるくらい疲れてしまったわけで………

 

 

 

「いいなぁ、草木や雲は……自由で……」

 

現在俺は枯れていると言ってもいい状況だ。

 

 

『だめだこれ……』

 

後ろで仲の良い眷属達が俺を見ながら何か言っているが気にしない。気にするほどの心の余裕がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで深夜、眷属達が寝静まったのを確認した後、俺は1人夜道を歩いていた。

 

マジの1人で。

 

 

というのも阿朱羅丸はクルルの説教で多大なダメージを心身共に負った後暫くは動けなくなっていたがそれが治ると共にクルルと共にみんなの夢に駆り出されていた。2人の存在を知り、ゼノヴィアの特訓を知ったシノン達の、特訓をつけてほしいという願いを元に……

 

 

というわけで俺は1人だ。

2人の本体は俺の中にあるが2人の意識が彼方に行っているため1人と言っていいだろう。

 

 

そんなガチボッチの俺が何故夜道を歩いているかというと例の如くはぐれを狩るため……ではない。

 

 

夜風を受けながら歩を進めること数十分。

街のはずれ……駒王町の最端にある高層ビルの前で歩みを止めここにいる俺の()()()()()の部屋のあたりを見上げた。

 

保持している神器が神器なだけにずっと待機してもらっている眷属だったが先の会議で決めた内容があるが故にもう公にしてもいいだろうと今日ここに訪れたのだ。それとある種心労の回復のため。

 

 

「閉じ込めてるとは言わんが、こんな所に待機してくれなんて……リアス・グレモリーのギャスパーに対することを偉く言えた身分じゃねぇな」

 

そんな自分に対する毒を吐きながらビルへと入って行く。こんな毒を彼女が聴けば、"私が望んでやっているから貴方が気にすることではない"とか言いそうだが……

 

 

ビルの入り口入り、インターホンで彼女の部屋へと呼び出しを押す。

 

 

ガチャっと機械音が聞こえると共に声が聞こえるでもなくドアが速攻で開いた。

 

無口なところは相変わらずのようだ……

 

ふっ、と思わず苦笑いをするとドアを抜けエレベーターへと乗り込んでいく。

 

目指す場所は最上階。

今ビルの最上階の全ての部屋が彼女の家となっているのだからそこ以外行く理由はない。

 

「あいつらにまだ秘密にしてることがあったなんて言ったらキレられるかな……」

 

彼女のことを知る眷属は皆が言うところの天才っ子ともう1人の2人だけだ。その2人だけは彼女を知っている。というよりは他の奴らはおそらくあの天才っ子を最初の眷属だと思っている。はずだ……

 

そんなことを考えているとチンッと目的の階へと到着した音が鳴る。

 

カツカツと足音を立てながらドアの数歩前まで来るとギギギッとドアが開く。

 

下でインターホンを押したからくるのは分かっているとして、こうもタイミングがいいとまたしても苦笑いが出てしまう。

 

そうして俺はドアからぴょんと顔だけ出した少女へと声をかけた。

 

「久しぶりだな」

 

「……………」

 

俺の言葉に対しコクリと頷き返事をした彼女に促され部屋へと入って行く。案内されたリビングにはほとんどと言っていいほど何もなかった。生活に必要とされるもの以外が置いてないのだ。まぁ、それもまた彼女らしいところだが……

 

 

「なぁ、なんでその格好なんだ?」

 

とりあえずそれを突っ込もう。

魔女っ子か?魔女っ子なのか?と言いたくなるような姿を彼女はしているのだから。さすがに帽子はかぶっていないが夏というこの時期を考慮すればそれは見てるだけで暑い格好だ。

 

 

「……貴方がくれたものだから」

 

 

そんな俺の疑問に何故聞いてくるの?とでも言うように彼女は答えた。

 

ちくしょう可愛いじゃねぇか……

 

 

リビングにある机の前で胡座をかくと瞬時にお茶が出されてきたのでそれをまず一口だけ飲む。シノンに勝るとも劣らない味である。

 

 

「…………ここにきたのはそういうこと?」

 

「ん?」

 

対面に腰を下ろした彼女が不意に問いかけてきた。

 

 

「私はこれについて理解している」

 

そういうと彼女の目の前に一冊の本が現れる。

鎖が巻かれているそれは本来悪魔が持てるような代物ではない。溢れ出る聖の力がそれを如実に物語っている。しかし、それを彼女は持つことができているのだ。俺同様に自身の身体の情報を操作することによって……

 

 

「あの2人の鬼を貴方は公にした。そしてこのタイミングで貴方はここに訪れた。なら来た理由は容易に想像できる」

 

「…………私の事も公にするつもり」

 

「しかし、そうすれば天使側が動く」

 

 

 

 

 

 

「だろうな。だからこそ先の会議で取り決めたんだ。"鬼呪龍神皇は3大勢力の最大戦力とし神皇の身内に手を出さない限り3大勢力に対する敵対行動を禁ずる"ってな」

 

「裏を返せばこれは俺の身内に手を出した場合は敵対行動を起こすってことだ」

 

 

「…………そう」

 

そこまで話すと彼女は一口お茶を飲み次の言葉を続けた。

 

 

「貴方は初めからそのつもりだった?」

 

「さぁな、あいつらが頼むって言って決めたことだ」

 

「……そう」

 

「ああ、そうだ」

 

 

「………ユニーク」

 

 

 

そこまで言い終えると彼女は立ち上がり此方へと近寄ってくる。そして俺の膝の上へと降り立った。

 

 

「……おい?」

 

「私は貴方に情報収集という面で多大な貢献をした」

 

「まぁ、そうだな……」

 

突然変わった話に戸惑いながらも肯定する。

実際こいつのおかげでだいぶ助かっている。ここには何もないが隣の部屋には部屋一面にディスプレイが設置されており、大量の情報をこいつは集めてくれている。

 

 

「働いたものに褒美を与えるのは主の役目」

 

「……それで?」

 

「私は貴方に対してそれ相応の褒美を受け取る権利が……」

 

「回りくどい。端的に言うと?」

 

「撫でることを推奨する」

 

「初めからそう言え」

 

 

回りくどく要求してきた彼女の頭を俺は撫で始めた。ショートカットの短い髪だか、その髪はサラサラとしていて指の間を抜ける感覚は気持ちの良いものだった。

 

 

「そろそろいいか?」

 

「………」

 

フルフルと首を横に振る彼女が満足したのはそれから30分も経過した時だった。

 

 

 

「なぁ」

 

「………?」

 

 

暫くの間撫でていた手を止め俺はふと彼女へと声をかける。彼女は俺へと視線を向けてくる。

 

 

「いろいろ、すまんな。情報収集についてもそうだが、ここに押し入れるような形になっちまって」

 

「かまわない」

 

俺の謝罪に彼女はなんとも思っていないように答えてきた。やっぱりそういうかと俺の中で何か悪いような気持ちが増え続ける中彼女は続けて言葉を発する。

 

 

「私の立場を私は知っている。貴方がこうするのは当然。またわたし自身この待遇は貴方のわたしを気遣う気持ちと信頼から来ていると思われる。故に謝罪は不要」

 

「……」

 

「貴方は数ある駒の中から()()()()()を渡した。あの駒は前例がないが分析の結果、希少度から言えば女王の駒より高い。にも関わらず貴方は躊躇いなくそれを渡してきた。」

 

「……」

 

「そしてなによりも……貴方は私に感情を芽生えさせた。だから私は貴方を裏切らない。そして私は貴方が決して裏切らないことを知ってる。それだけで信じる理由は十分」

 

「そうか……」

 

「……そう」

 

 

彼女の言葉を聞き俺はゆっくりと彼女を抱きしめた。

彼女はただ前に回されたオレの手をギュッと握りしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃまた日曜の夜にくるわ」

 

時間もかなり遅くなった頃名残惜しいが帰宅することにした。

 

「………」

 

コクリと彼女は頷く。

彼女の元にはほぼ毎週来れるようにはしている。それが俺のできる唯一の彼女を寂しくさせない方法だからだ。

 

まぁ、それも近いうち終わりを迎えるだろうが……

 

 

 

「………また……」

 

ポツリと呟かれたその言葉に俺は笑いながら返した。

 

「ああ、またな有希」

 

 

そう言って俺は家に向かって歩き出す。

 

終わったばかりだが近いうちにまた世界が荒れることは想像に難くない。それほどの物を長門有希という少女は持っているのだ。

 

 

ビルを降りて地上から見上げると強化されている異常な視力が彼女の姿を捉えた。

 

 

彼女もこっちがみえているからか軽く手を振っていた。

 

 

そんな彼女に手を振り返し俺はその場を離れる。その手に残った彼女に触れた感触が疲れた心を少しだけだが癒してくれた気がした。

 

 

「はぁ、もう少し頑張るか」

 

 

呟かれた言葉が夜風に流れていく中俺は1人夜道歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




newキャラ登場(=゚ω゚)
涼宮ハルヒの憂鬱の長門有希さんでした(´・Д・)

感想お待ちしてます(できればいい方で´д` ;)


ではでは


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【閑話】夏の星

まだまだ続きます閑話回です。

冥界編を入る前に数人のキャラとの過去回想回や親しくする様子を描写した回を書けたらと思います。

何はともあれ本編へどうぞ。




 

 

 

 

「ウォォォオオオオン」

 

 

 

 

夏休み開始を1週間後に控えた今、俺たちは釣り糸を垂らしながらボーッと海を眺めていた。何が悲しくて野郎だけでここに来にゃならんのかと悲しみに明け暮れていると、そんな俺の気分を晴らすかのようにユウが雄叫びを上げた。見れば魚を釣ったことに対して雄叫びを上げているようだ。

 

「おーい、あんまり叫ばんでくれよ。なんせこんな時間だ。近所迷惑になっちまう」

 

そんなユウに対し苦笑いしながら声をかけるのは同じく釣り糸を垂らすアザゼルだ。そもそもここに俺を呼び出したのはこいつなのだがまさかとは思うが暇つぶしのために俺を呼んだのだろうか?もしそうなら即刻乱闘だ。乱闘パーティだ。

 

まぁ…ユウは普通に俺についてきたが。

 

 

「駄元帥殿は気楽でいいねぇ……で?なんか話でもあんのか?ないなら帰りたいんだが?というか帰っていいか?いや、帰る」

 

 

「駄元帥ってなんだ⁉︎すげぇやな響きなんだが‼︎⁉︎……まぁ、待て待て。別に冷やかしとかで呼んだわけじゃねぇんだ。どうしてもお前さんに頼みたいことや聞きたいことがあって呼んだんだよ」

 

なんだよ。素敵な響きだろ駄元帥って。

地上ニ階六畳一間に住んでる某ライトノベルの魔王幹部みたいでいいだろ?あいつはガチNEETだけど……

 

「んでなんだよ?」

 

「はぁ、これはサーゼクスからもそのうち来るであろう話なんだが……お前さんの知り合いでもなんでもいいが、誰かスカウトできたりしねぇか?」

 

「スカウトだぁ?」

 

「もちろんお前さんのとこじゃねぇ、リアス・グレモリーのところにだよ。正直な話、サーゼクスからこいつらを強くしろって言われてもまず戦力が足りねぇんだよ」

 

 

ああ、なるほど。

確かに今回の件でグレモリーは眷属が減ってしまったし、元々眷属の数が多いわけでもない。確かに早急に見つけなければ今後の活動にも支障が出かねないだろう。

まぁ元のメンツがそもそも使えてたかは甚だ疑問ではあるが。

 

「あー、ならいいのがいるから夏休みに帰省した時にでも紹介するわ」

 

「お!マジでいるのか?」

 

「まぁな……元は俺のとこに入るかってことになってたんだが諸事情でうちに入るのはやめた方がいいってことになった奴がいてな。今は冥界にある俺らの家で使用人として勤めてる。っても実力はあるぞ。少なくとも木場を圧倒するくらいは剣の腕が立つ」

 

まぁ、リアス・グレモリーのとこなら大丈夫だろう。女性が多いのはあれだが、そのほとんどは既に好意を抱いている相手が限定されてる。リアス・グレモリーや姫島先輩、アーシアはイッセーに夢中だし、ギャスパーや白…小猫は俺らの方にいることが最近多くなってきちまってるしな。

それに若干そっちの気がありそうな木場いるし、なんだかんだでイッセーとも仲良くやれるだろうから今度連絡しておくか……

 

「そうか!ならその時にでも紹介してやってくれ」

 

その言葉にアザゼルは満足そうに頷くと竿を一度引き上げる。そのタイミングに合わせて俺は声をかけた。

 

 

「んで、それで終わりなら帰っていいか?この調子じゃここら一帯の魚が全部ユウの腹の中に収まっちまうんだが?」

 

「うぉぉい⁉︎どんだけ食ってるんだ⁉︎」

 

俺が気怠げに指をさすとアザゼルがその方向を見て声を上げた。

 

「ん?」

 

そこではユウが釣った魚を片っ端に丸呑みしていってる。その上もはや普通に釣っておらず仙術を行使しているため魚が海からどんどんユウの方向へと飛んできていた。

 

「……にぃも食べる?」

 

俺たちの話を聞いていなかったのかユウが一匹の魚を俺の近くへと近づけてきた。

 

「ユウが食べていいぞ」

 

「ん」

 

俺がそう言うとコクリと頷き再び食事に戻る。

本当によく食うやつだ。近いうち有希を公にした後眷属内で大食い選手権でもやってみるか。

 

「ってことで他にあるなら早めに言え。下手したら生態系が壊れる……」

 

「いや、なら止めろよ……はぁ、まぁいい。お前さんの眷属の神器についてなんだ「断る」が……ってはえぇよ」

 

ユウを見たアザゼルは軽く嘆息をもらすとヒョイっと糸を海に垂らし、おそらく本題であるであろうことを語り始めるがそれを俺は速攻で断った。

 

「いいじゃねぇか。あのフリードとかいう奴の人工神器ってのもすげぇ気になるだよ。そうじゃなくてもクロメやお前みたいな規格外の神器持ちが揃ってて更にはユウや阿伏兎だったか?そんだけの実力者がお前の元に集ってるんだ。

所持してる神器がなにか気になるのは当然だろ?」

 

そんな否定した俺に対しアザゼルは諦めずに話し続ける。その瞳は完全にうちの天才っ子の興味全開モードと同じものだった。

 

(ああ、駄目だ。こいつどこまでも食いついてきそうだな……)

 

《なら、ここで消し炭にしとく?》

 

《そんなことするわけないでしょ?ちょっと頭の中をグチャグチャにするくらいにしときなさい》

 

(やめてやれ……)

 

「俺が知る通常の“食物連鎖(イーター)”はそれほど強くねぇはずだ。なんたって食えば強くなるって言っても通常の飯で劇的に強くなるわけじゃねぇ。だがそれを手にしたのが元々高位の実力備えた種族なら話は別だ。しかもそれが夜兎と仙狼のハーフともなりゃな。それこそ神滅具クラスの効果を持つって言っても過言じゃねぇ。強い奴の死骸を食料と認識して食べればそこで得られる力は絶大だからな。その上先日見せた実力。あれが駒の性能も神器の力も使ってないってんだから恐ろしい」

 

俺の中では今日はいる阿朱羅丸やクルルが物騒なことを呟いているがそれを知らないアザゼルは尚も語り続け、途中話を区切り一息ついた。すると竿の先に向けていた視線を俺に向け真剣そうに続けた。

 

 

「そんな実力を持った奴とまるでなにもないかのようにお前の眷属は接してるんだ。つまり……あいつらの実力もそれと近いところにあるってことだろ。そうなりゃ神器マニアとしてどんな神器を持ってるか気になるのは仕方のねぇことだろ?」

 

真剣に見える瞳もそこにマニアとしての精神が宿っているからかどこか子供のような感じがしてならない。

 

「まぁ…言いたいことはわかる。」

 

「なら‼︎」

 

「でも教えねぇぞ」

 

「うぉい⁉︎」

 

そんなアザゼルに俺はやはり断った。

 

「幾らなんでもそうホイホイは教えられねぇよ。会議でも決めたろ?俺自身に手を出す分はかまわねぇが、身内に手を出すってんなら話は別だ。無論お前にそんな気持ちがねぇってのもわかっちゃいるがそれでもあいつらの情報を俺が簡単に渡すわけねぇだろ」

 

「……」

 

「そんな顔しても駄目だ……ってかきめぇぞ」

 

本当にキモい……その顔をシノン達がやるならば効果は絶大だったろうが相手は男だ。それもユウのような可愛い系の男の娘ではなくおっさんがそんな顔しても需要はない。

 

「はぁ、まぁ駄目元だったからいいが……1つだけ答えてもらってもいいか?」

 

「答えられることならな」

 

俺の答えは想定内だったらしく渋々ではあるが引いたアザゼルが顎に手を当てながら問いかけてきた。

 

 

「お前さんの眷属は鬼呪龍神皇であるお前さんから見ても強いか?」

 

「ああ。俺には勿体無い程にな」

 

その問いに俺は素直に答えた…自慢の眷属だと

 

 

「そうかい……ならこれだけは言っとこう。堕天使陣は……少なくとも俺はお前さんやお前さんの眷属に害を与えるつもりは全くない。何があってもな。俺個人からすりゃお前さんの神器みたいなイレギュラーを間近で見ていられることが何よりも退屈しのぎになるからな」

 

そんな俺に対しアザゼルも気分が良さそうに、豪快に笑いながら思っていることを口に出した。

 

「俺は玩具かよ……」

 

「あながち間違いじゃねぇだろ?セラフォルーやサーゼクスから聞いたところによると、プライベートじゃあセラフォルーの弟みたいな立ち位置らしいじゃねぇか。姉にとって弟ってのは可愛い家族であると共に愛でたい玩具でもあるだろうよ」

 

「……確かに………」

 

その言葉に否定はできなかった。

振り回されたり、愛でられたり、無茶振りされたりと割と思い当たる節がある。

 

「まぁ、そういうこった。なんか困ったら言ってくれ。できる限りの手伝いはするさ。神器に関しちゃ俺も相当の知識だ。役に立てることは多いだろうさ」

 

そういうとアザゼルは立ち上がり竿を片手に帰っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その言葉が変わらないことを願うよ」

 

《まぁ大丈夫だと思うよ?》

《あの男は自分の勢力とハチの力の差をよく理解してるから大丈夫よ》

 

俺の呟きに阿朱羅丸とクルルが応える。

ユウも俺の呟きが聞こえたのか首を傾げながらこちらを見ていた。

 

「はぁ、帰るか」

 

「♪♪♪」

 

そう言ってクシャクシャとユウの頭を撫でると気持ち良さそうに喉を鳴らす。そんなユウと俺は立ち上がり家へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日!

駒王学園では夏休み開始の前日に終業式があるがその終業式の前には5日間ほどのテスト休みがありその前には期末テストの返却日がある。つまりは今日なわけだがかつて俺はセラフォルー様の眷属の天才の師匠2名に鬼の教育を受けたこともあるので高校生の問題で躓くことはまずない。それは結果が物語っており俺の学年順位はいつだって88番だ。さすが8まん。

 

1年から毎回88番をとってることにいったい何名が気づいてるのかはわからないが、毎回この順位を取るのは中々骨が折れるのだ。なんせ周りがどれくらいとるか予想しなければならないのだから。まぁ、暇つぶしにはなる。

 

なんてくだらない事を言うくらいには俺には余裕があるのだが、問題は俺ではなくバカ2名だった。

 

 

「ど、どうしよう……」

 

「私は赤点は避けれたがどれも平均点以下だったよ」

 

オカ研の部室では現在イッセーとゼノヴィアが暗い顔で床に手をつけていた。

 

 

悪魔側では今回の期末テストでほとんどの者が一定以上の成績を収めており、特に問題がないように思われたのだが、今回2人のおバカが発見された。

 

 

「しょうがないイッセーね。私が勉強を見てあげるわ」

「あらあら、リアス。イッセー君の勉強は私が見るから大丈夫ですよ」

「あ、あのイッセーさん。英語なら私も教えられます」

 

そんな地に伏すイッセーにオカ研のイッセーラブ勢はここぞとばかりにイッセーに声をかける。イッセーは涙目になりながらリアス・グレモリー達の手を取るがたぶんあいつは後悔するだろうな……

 

《グレモリーはきつい勉強メニューをやりそうだね》

《そうね》

 

グレモリーの瞳から何かを感じ取ったのか阿朱羅丸とクルルがそう呟く。イッセーには悪いが俺も同意見だ。グレモリーの特訓、こと肉体疲労しない類のものに関してはあいつはやたら厳しい節があるので恐らくイッセーは精神的に大ダメージを受けることになるだろう。

 

 

「……そ、その八幡……」

 

 

そんなイッセーを見ていると不意にゼノヴィアが語りかけてきた。瞳を潤ませながら。

 

 

「別にうちじゃそういう系のノルマはねぇぞ?実際こういう学校のテストをうちの眷属で受けさせてみれば、お前と同じような点を取る奴も数人はいるだろうしな。適材適所だよ。適してない奴が無理にやろうとする必要はない。適してない部分は最低限修めて、適してる点を伸ばせばいいんだよ」

 

そんなゼノヴィアを見て思っていることを瞬時に悟った俺はすぐさまゼノヴィアのフォローに入る。眷属のメンタルケア大事……

 

 

「八幡……」

 

「まぁ、赤点を取ってたら流石にシノン達が黙ってなかったろうが別に赤点はとってないし、基本平均点と赤点の中間だろ?なら俺は別に怒ったりしねぇぞ?それにここ最近ずっと特訓ばっかやってたんだ、ある程度は仕方ねぇさ」

 

そう言って俺はゼノヴィアの背を軽く叩いた。

 

「っま、頑張れ。夏休みは冥界に帰って本格的な特訓ができる。それを全部終われば実力もそうだが勉学の方もできるようになるから」

 

「そ、そうなのか⁉︎」

 

「おう、だから楽しみにしとけ」

 

「ああ‼︎」

 

力強く頷いたゼノヴィアは瞳をキラキラと輝かせている。

 

ああ、これは……

《うん。ある種特訓マニアだね》

《特訓狂にならないことを祈るわ》

 

うん。思ってたから言わないでくれ2人とも。やっぱ、俺の眷属は癖のあるやつしか揃わないのだろうか……

 

《そだね》

《そうね》

 

はぁ、と2人の言葉に嘆息して窓から外を見渡す。蝉の煩わしい鳴き声に太陽の強い日差し。例年と変わらない暑い夏を感じながら俺は休みのない夏休みの予定をどんどん練っていくのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の夜!

昨日は休んでいたからか今日もまたゼノヴィアたちの夢の中に特訓へと旅立っていた阿朱羅丸達だが俺はというと珍しいことに本当にやることが何もない夜を過ごしていた。

 

 

そんな久々の暇な夜中なら寝ればいいと言う話なのだが、悪魔は本来夜の方が元気なため久々に夜道の散歩をしていた。

 

しばらく歩き公園に着いた俺は本来なら立ち入り禁止である芝のエリアへと入るとそこに転がり空を見上げる。

 

空には数多の星々が輝いている。

 

 

 

 

春は夜桜夏は星、秋には満月冬には雪

それだけでも世界は十分綺麗に見える。

それでも世界が汚く見えるならそれは見ている本人の心が病んでいる証拠だ。

 

俺の男の方の師匠はそう言った。普段寝てばかりなのに何格好つけているんだとその後女の方の師匠に怒られていたが。

 

でもよくよく考えるとあの2人天才軍師って言われてた頃からそんな漫才のようなことを続けているのか……そう考えるともはや熟年の夫婦だな……なんであの2人結ばれないんだろう……

 

 

とまぁ余計なことはさておき……

 

 

でもその格好つけられた言葉は間違いではなかった。その証拠に今この世界はこんなにも綺麗に映っているのだから。

 

 

「もう10年近く経つのか」

 

ふとその言葉が漏れた。

 

 

セラフォルー様やソーナと会ってから俺の日常は変わった。辛いこともあったが、それ以上に格段に楽しい思い出がある。

 

阿朱羅丸に出会った。

この世界の裏を知った。

悪魔になった。

師匠達にしごかれた。

セラフォルー様やセラフォルー様の眷属達といろんな思い出を作った。

 

そして、守りたいもの達ができた。

眷属ができた。

信頼できる者たちが、背中を、心を預けられる家族ができた。

そしてクルルとも出会った。

眷属達とレーティングゲームに出た。

 

 

その中に悲しい、辛い思い出が全くないといえば嘘になる。悲しいことも辛いこともあった。それでも、それ以上の出会いが、縁があった。

 

 

今の俺があるのは。

セラフォルー様達や眷属達や俺の大切な友人達がいてこそだ。

 

 

「いろんなやつらに助けられてきたな」

 

セラフォルー様やソーナにはその出会いそのもので俺という存在を救ってもらった。

サーゼクス様やグレイフィアには悪魔になりたての頃、度々世話になっていた。

師匠方には女王としての振る舞いや知識、戦いの戦術を教えてもらった。

阿朱羅丸には昔からなんだかんだで助けてもらっていた。

クルルは付き合いはまだ長くないが既に手の指では数え切れないほど助けてもらっている。

 

眷属達に関してもそうだ。

あいつらは俺が助けていると言うが違う。

助けてもらっているのはこっちの方だ。

あいつらがいなければ俺はここまで心を他人に開いてはいなかっただろう。

そういう意味であいつらは俺にとっているだけでも助けになっているのだ。

 

特に俺の過去をすべて知ってるシノン達に関して言えば感謝しきれない程よくしてもらっている。

 

 

「らしくねぇか……こんなん」

 

暇だったからだろうか。

みんなに対する感謝の気持ちで心が溢れていく。今でも昔から続く捻くれた性格は完全には治っていない。親しい者達だけでいる時はどうも捻くれてしまう。そして、その捻くれを受け入れてくれるあいつらとの空間が恋しくてたまらないのだ。

 

 

 

「人間強度がずいぶんと下がったもんだな」

 

昔のボッチの俺からは想像できないほど下がっている。大切なやつが出来すぎた。そしてそれをもはや手放すことができない自分がいる。

 

 

「だからこそ……か」

 

 

だからこそ強くならなければいけない。守れるように。自分だけではなく。大切な者達を。

 

 

「暇ってのも考えものだな」

 

暇だとどうしても昔のことやみんなのことを考えてしまう。普段は仕事が多くて云々言っているが、なんだかんだで仕事がある方が俺はいいらしい。あぁ、なんと素晴らしき社畜魂か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなことあいつらに聞かれたら本当にまずいな……」

 

 

そしてまたポツリと呟かれる。

こんなことを聞かれたらあいつらからどんな反応をされるかは想像に難くない。少なく見積もっても1週間は側に居続けられる気がする。

 

 

そうして呟かれた言葉は風に乗って消えるはずだった。少なくとも俺はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何がまずいの?」

 

「おぅわぁ⁉︎」

 

しかしその呟きは突然の来訪者によって受け止められてしまった。本当になんでここにいるのかわからない来訪者によって。

 

 

「な、なんでお前がここにいるんだよユウキ⁉︎」

 

 

「えへへへ、ようやく仕事が全部終わったから来ちゃった♪後1週間もすれば八幡達が冥界に帰ってくるのはわかってたけど我慢できなくて。それにシノン達だけズルいよ‼︎僕だって八幡と一緒にいたいんだからね」

 

 

 

 

 

 

そこには満面の笑みを浮かべるユウキがいた。

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?


次回はユウキ回突入。

今後閑話で少しずつ眷属との出会いやら関係やらを出せていけたらと思っています。このキャラとの閑話回を早めに出して欲しいとか要望があれば感想でコメントお願いします。希望が多ければ、そのキャラとの閑話を早めに書けるように思考していきますので。


ではでは。感想お待ちしております。



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【閑話】夏の夜に《ユウキ編①》

今回みじかめです。


ご了承ください。

メンタルが砕けつつある作者より。





「それで何がまずいの?」

 

「…………」

 

「黙ってないで教えてよ八幡」

 

公園の街灯が辺りを照らす中グイグイと俺の服の袖を引っ張ってくるユウキを前に俺はどうすべきかと悩んでいた。そんな俺からは逃げるような言葉が飛び出る。

 

「それよりもここにきて大丈夫なのかよ」

 

「大丈夫大丈夫、ヴィザにいろいろ任せてきたから」

 

ケロッと言うユウキだがヴィザにまた事務作業を押し付けたらしい。ユウキは戦闘には特化しているが事務作業の方は残念だ。ゼノヴィアと同じなのだ。

 

そんな殴りたくなるほど可愛らしくもイラっとくる表情に呆れながらも俺は

 

 

「ヴィザには休みをやらねぇとな……」

 

と自身の眷属で最も多忙な男に対し申し訳なさそうに声を漏らす。

 

「それなら真っ先に八幡が休むべきだと思うよ?」

 

「押し付けた奴が言うな」

 

「っあて⁉︎」

 

漏れ出た声をユウキが拾うがどの口がそれを言うのだと彼女にデコピンを食らわすと、割とすごい音が鳴り響く。

 

まぁ、人間界の建造物なら吹き飛ぶレベルのデコピンだしな。むしろそれを痛いで済ませるユウキがすごい。

 

「うぅー、傷物にされた……」

 

「どこで覚えてきた……」

 

それと同時にユウキは額を押さえながらとんでもないことを言い出す。ホント心臓に悪い。特にシノンや他の連中に聞かれればただでは済まないだろう。

 

 

 

 

俺が物理的に……

 

 

 

「……それよりも本当に何がまずいのさ?」

 

そんなしょーもないことを俺が考えているとユウキが話を戻す。そんな彼女に

 

 

「なにも?」

 

と白々しくシラを切るが、

 

「あー、シノン達とおしゃべりしたくなってきたな♪聞かれちゃまずいことなんでしょ?」

 

と、意味深に言ってくる。その顔はしてやったりとにやけていた。

 

 

 

「……どこから聞いてた?」

 

ヒヤリと頬の横を汗が垂れる。

まさか、とその自分の考えを否定して欲しいがために彼女に確認をするも

 

 

「もう10年近く経つのか……」

 

「初めからじゃねえか⁉︎」

 

その淡い希望は簡単に打ち砕かれ、がくりと肩を落とし深いため息をついた。

 

 

口に出していた内容は少ない。しかし、その少ない内容だったとしても始めから聞いていたとなればユウキの事だ、ある程度は語らずとも察しているのだろう。

 

 

 

「わかってるのに聞くなんて人が悪いぞ?」

 

「悪魔だからね♪」

 

 

そうだったなコンチクショウ。俺もお前も人じゃなかった。

 

 

先ほど同様満面の笑みで応える彼女にまたしてもデコピンを食らわせたくなる。

 

 

 

 

「まぁでも大丈夫だよ」

 

そんな俺の衝動を宥めるようにユウキがふと呟いた。

 

 

「ん?」

 

 

 

「八幡が僕たちを守ってくれるように僕たちが八幡のことを守るからさ」

 

いきなりそういう物言いは反則じゃねぇか?

 

そう思いながら俺はユウキのその言葉にただ相槌を返した。

 

 

「……そうか」

 

「うん」

 

 

それだけ言うとユウキは寄り添う様に俺の隣に座ってくる。まるで彼女の全てを俺に預ける様に…….

 

 

 

ユウキはやはり察していた。俺がなにを考えていたのか。いや、彼女だけではない。口に出さないが眷属達は殆どのやつが気づいている。俺の過去を知っている奴も知らない奴も、俺がどう考えているのかある程度察しているのだ。

 

 

本当に俺には過ぎた眷属達だ……

 

 

そう心の中でつぶやく。

愉快でやさしくて、強くて、それでいて自分の弱さを受け入れ乗り越える力を持つものたち。

 

そんな彼女達が俺には少々眩しく感じられた。

 

 

「別にそんなことないよ」

 

「……心読むなよ」

 

もはや日常茶飯事となりつつある俺の心が読まれるこれも、恥ずかしいが何度もやっているこのやりとりが何処か安心する。

 

 

「八幡限定の技だけどね」

 

なははははと、はにかみながらユウキは此方を見上げてくる。上目遣いをしながら向けられた赤い瞳が俺の瞳と合うとそのはにかみが止む。

 

 

「だってさ、僕達からすればさ八幡以外が主ってのは考えられないから」

 

 

そういうユウキの瞳は懐かしむような雰囲気が込められていた。

 

 

「だってあの時助けてくれたのは他でもない八幡だから」

 

 

続けるユウキの言葉を俺はただ黙って聞き続ける。

 

 

「新しい家族や居場所をくれたのは八幡だから」

 

 

そこまで言うとユウキは俺から視線を外し身体を預けたまま空を見上げる。

 

 

十五夜の月と満天の星空。

その美しい光景が彼女の瞳に映ると、赤い瞳にその光景が投影される。空に広がる光景以上にその彼女の瞳の方が何倍も美しく見え、不覚にもドキリとしてしまった。

 

 

 

「僕に生きることに意味なんていらないって教えてくれたのは八幡だから」

 

 

そんなユウキの瞳を見入っていた俺に彼女が続ける様に声を放てば、俺も現実にしっかりと引き戻され彼女の言葉に対して返していく。

 

 

「それは教えてねぇよ。ユウキが自分で見つけたんだろ?」

 

 

 

「それでも八幡がいたからわかったことなんだよ?だから僕からしたら八幡が教えてくれたようなものだよ」

 

 

そんな俺の反応すらわかっていたのか、ユウキは言い淀むことなく告げていった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、父さんも母さんも、姉さんも彼処で僕らを見守ってるのかな?」

 

 

そう言ってユウキは右手を空へと伸ばしていく。伸ばしきったところで手のひらを閉じ暫く握りしめたままでいる。そして脱力した様にその手を下ろしていった。

 

 

「だとしたら俺に向けて天罰がくるな。ウチの娘に近寄るんじゃない‼︎とかお前の親父さんにいきなり激昂されそうだ。」

 

そんなユウキの言葉に俺はややふざけながら返すと彼女は再び笑い出した。

 

 

「あはははは、父さんなら言うかもね。その時は僕が守るよ」

 

 

俺のふざけた言葉にユウキものっかる。

 

それと同時にゆっくりと俺の手の甲に彼女は自身の左手を置いてきた。振り払いはしない。ただ、自分の手のひらを返し、お互いの掌を重ね合う。

 

 

 

「うん、僕が守るよ。八幡にはいっぱい助けてもらっちゃってるし、それに……僕はもう失いたくないから」

 

 

そう言ってユウキは指の隙間に彼女の指を絡め力強く握りしめてくる。そんな彼女を見て俺も手に力を込める。

 

 

 

 

 

 

昔の俺ならここで

 

守る必要なんてないし危ないなら逃げればいい。逃げちゃダメなんて強者の考え方でしかない。弱者である俺たち有象無象はそうやって生きていけばいい。つまり、俺は間違ってない、インフレ過ぎるこの世界が間違っている。

 

と、でも言っていただろう。

でも、今はもうそんなことは言えない。

捻くれは未だに消えない。おそらくそれはもう性分なのでなくならないだろう。

 

しかしこういうマイナスな考えは……逃げる様な考え方はもう捨てたのだ。

何故ならもう逃げることはできないから。

 

逃げるにはあまりにも、大切なものが出来すぎた。

 

 

ここにいるユウキだってそうだ。

割と眷属内で考えれば付き合いが短い部類に入るユウキだって俺にとっては既に大切な家族だ。たかだか数年とはいえ、それだけでも彼女のことを大切に想うには十分な時間だ。

 

 

 

 

 

「でも、そっか。八幡からしたら悪魔になってもう10年近く……僕からしてももう2.3年前になるのか」

 

 

不意に空を見上げるユウキがつぶやく。その言葉が出たのは俺の心を読んだからかは定かではないが。

 

 

「早いもんだねぇ」

 

「そうだな」

 

 

 

先ほどまでユウキが出していた懐かしさが俺にまで伝染し、2人してあの頃のことを思い出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?

感想お待ちしてます。


次回前にやったものよりもより詳しいユウキの過去回です。
おたのしみに。




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【閑話】病の子《ユウキ編②》

俺は……お久しぶりです。



……更新お待たせしましたm(__)m





〜〜〜

〜〜〜

 

春。

 

木組みの家と石畳の街並みを僕はいつも部屋の窓から眺めていた。昔は人通りも多く活気の満ちていたらしいが、今では本当にそうだったのか疑わしい。確かに今でも人はいるがそこには活気がまるでない。まるで街全体が死んでいるかのように、人々の瞳には英気がなかった。それが、こどもの僕でもよくわかった。或いはこどもだったからこそ、そういったことを敏感に感じ取ったのかもしれない。

 

 

父さんと母さんは今日も何やら研究に没頭している。いつもいつも、四六時中研究ばかりで僕の相手なんてほとんどしてくれない。

 

それでも僕は2人のことが好きだった。

僕と違い、誰かの役に立てているあの2人のことが誇らしかった。

 

 

 

お姉ちゃんは今日も僕の手を握り家の中を駆け回る。そんな元気な彼女も僕と同じ病に侵されている、らしい。実際侵されているかどうかは今の技術ではまだはっきりできるほど進行していないが、十中八九感染しているというのが父さんたちの見解だ。

 

ううん。僕やお姉ちゃんだけじゃない。

この街にいる全ての人が病に侵されている。

 

それこそがこの街が死んでいるように見える理由。この街は世界から隔離されていると言ってもいい。でも、今こうしている間も隔離区は広がっている。病の範囲を広げないように隔離を繰り返しても、それは収まることなく今も周囲の街に広がっていた。

 

 

そんな病が広がる理由を父さんたちは研究している。

 

 

 

 

 

 

夏。

 

 

お姉ちゃんが病に侵されていることが断定された。お姉ちゃんはわかってたことだからと僕に笑顔で応えるが、その瞳が滲んでいたのを僕は見逃さなかった。わかっていたことでも、それでも恐怖に駆られるお姉ちゃんに、僕はただ抱きしめ、大丈夫だよと自分より大きな姉を抱きしめる。結果として身長差から抱きつくような形になってしまったけど、それでもお姉ちゃんはありがと、と一言発して僕を抱きしめ返してきた。

 

 

それから少しして母さんが歩けなくなった。病が進行して自分では歩けなくなり、今は車椅子で生活をしている。

 

 

それでも母さんは諦めず研究に明け暮れていた。辛いはずなのに、それでも私たちがやらなくちゃと言いながら、苦しそうに……

 

 

 

 

 

僕はそんな母さんに対して何もできなかった。母さんの役に立つものを僕は持ち合わせていなかった………

 

 

 

 

 

 

 

秋。

 

遂に父さんと母さんが病が広がる理由を突き止めたらしい。でも2人はちっとも嬉しそうじゃない。むしろ逆で、顔を青くしていた。

 

 

この時からだろうか。

今まで病気のために飲んでいた薬や、週一で使っていた機械を使用しなくなったのは。

 

 

 

僕はこのとき知らなかった。

 

 

 

 

 

母さんたちが突き止めたこの事実が、もたらす災厄を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして冬。

 

その日は唐突に起きた。

 

 

街に宇宙服のような服装の人たちがやってきて。街を燃やし始めた。

 

 

逃げる人達は炎の中を通る弾丸によってその身を貫かれ倒れていく。

 

人が死んでいく。

街が消えていく。

 

 

父さんが母さんの車椅子を押して、姉ちゃんが僕の手をとって走り、街の外へと出て行く。

 

先日降り積もったはずの雪は街から出た熱風により溶けて水溜りに変わっていた。そんか水溜りを踏みしてながら、走って走って峠に差し掛かる。

 

呼吸が乱れて苦しい

走り続けて足がガクガクと震え始めている

 

 

ねぇ、どこにいくの?

 

 

 

パァン

 

 

 

そんな疑問を上げようとした時、乾いた音がそれを遮る。それと同時に父さんの身体がぐにゃりと曲がり地面に倒れた。

 

それと同時に母さんの悲鳴が響く。

父さんは動かず、ただ腹部から赤い液体が流れている。

 

 

父さん?

 

 

 

ふらふらの足で父さんに近寄ろうとすると、僕らが走ってきた道からあの宇宙服の人達がやってくる。

 

 

その人が手に持っているものを僕に向け

 

 

パァン

 

 

と2度目の乾いた音が響く。

 

それとほぼ同時に僕の目の前に母さんが覆いかぶさった。

 

 

母さん?

 

 

なにこれ?

なんか暖かくてネットリとしたものが僕の手に流れてきた。これって……

 

 

 

 

遊んであげれなくて

見守ってあげられなくて

一緒に生きられなくて

 

"ごめんね"

 

 

 

戸惑う僕の肩に顔をのせて、母さんはそういった。

 

 

 

 

 

っぁ……

 

 

その出来事に身体が硬直する。

思考が追いつかない。

 

 

 

そんな僕に構わず、宇宙服の人達はもう一度僕のほうにモノを向け……

 

 

 

 

パァン

 

 

 

3度目の音。

 

 

しかしそれが鳴ると同時に僕の身体が突き飛ばされ、峠の道の外へとその身を投げ出される。

 

 

 

呆然とする中、僕が最後に見たのは口から血を流しながらもこちらに微笑みを向けている姉の姿だった。

 

 

 

"にげ……て"

 

 

言葉には出ていない。

でも最後に見た時、姉の口はそう動いていた。

 

 

 

 

 

峠から落ち、自由落下する中で今起きた光景が高速再生のように何度も何度も頭の中で駆け巡り、下に流れている川に落ちるその直前で、僕は絶叫を上げた。

 

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

「ッゲホゴホッ」

 

ビチャビチャと水音を立てながら、力を振り絞り、陸へと上がると共に口から吐瀉物を撒き散らしてしまう。

 

 

どれくらい流されたのだろうか?

ここはどこなのか?

 

 

身体が痛い。川に落ちた時に身体全体を打ってしまった。それに寒い。先ほどまで炎に迫られそれから逃げるように走り続けていた時とは異なり身体から体温が逃げて行っている。いつの間にか降り始めていた雪がそれを余計に促進させる。

 

それに走り続けていたのと着水の衝撃でもう立てない。

 

 

 

 

「っぐ……父さん……母さん……ねぇちゃん」

 

 

動かせる腕を使い、這うように川から全身を新雪が積もる陸へと移動させていると、口から言葉が漏れ出す。

 

 

「どうして……どうして⁉︎ッゲホゲホ」

 

先ほどの光景が思い出されて、再びえずいてしまう。

 

 

頭からあの光景が離れない。

 

 

死んだ……

 

父さんが

母さんが

姉ちゃんが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズッ、ズッ、ズッ

 

 

 

 

 

「っあ⁉︎………はぁはぁ……っぐ……逃げ……なきゃ……何処かに……」

 

 

みんなの死で思考が正常に機能しない中でも新雪を踏みしめる音を聞いた僕は身体を引きずって身体を無理やり動かしていく。

 

冷たい。痛い。辛い。苦しい。

 

 

新雪が積もる地面の冷たさが。

身体を動かすたびに響く痛みが。

みんながいない辛さが。

 

それらをひっくるめた苦しみが僕を襲ってくる。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

そうしてしばらく動いた後、逃げようと動かす身体が動かなくなる。力を入れようにも全身が震えて動けない。

 

 

「はぁ…………………はぁ………………」

 

呼吸も苦しくなってきた。

身体に雪が積もり始め、服が凍り始め、身体が先ほど以上に重く感じる。

 

瞼も重くなってきた。

 

 

 

 

僕も……ここで死ぬのかな………

 

 

 

近づいてくる足音を聞きながらそんなことが脳裏によぎる。

 

 

 

ザッ……

 

 

 

うっすらとあいた視界に誰かの足が入り込む。

 

この人が僕を殺すのか……

 

 

 

そう思い、瞳を閉じる。

 

 

しかし、いつになってもその時が来ない。

 

不思議に思い、重い瞼をあけ、グググッと首を上に向ける。

 

 

「よう」

 

 

そこにいたのは宇宙服ではなく黒いローブに身を包んだ男性だった。頭から飛び出たアホ毛を揺らしながら膝をつき僕の近くに寄ってくる。

 

 

静まり返った雪景色が広がる中、あまりにも気楽な声色に僕は困惑しながら問い返す。

 

 

「君は……だ……れ?」

 

 

そう言った後僕の視界は歪んで行った。

 

薄れていく意識の中、何か温かいモノが僕のことを包んでくる気がした。

 

 

 

 

 

>>>>>>>>>><<<<<<<<<<

 

 

 

 

「ひでぇ光景だな」

 

 

その景色を見ながら俺は一言呟いた。

 

数日前任務のついでで寄った時は白銀の雪景色が広がっていたその風景は今や灼熱の炎によりその姿を消失させていた。

 

街は燃え、人の悲鳴があがり、周囲には焦げの匂いと血の匂いが広がっている。

 

 

《やっぱり、人間は醜いね。自己の欲のためにこういうことを平気で行う。罪悪感も感じず、むしろ嬉々として。ホントに胸糞悪いよ》

 

 

そんな光景を見た阿朱羅丸が吐き捨てるように言葉を発した。

 

 

「……阿朱羅丸……」

 

《そんな顔しなくてもハチの事はそういう風に思ってないから大丈夫だよ。ハチには感謝してるし、それに……ハチは僕の家族だからね》

 

 

阿朱羅丸のその言葉に俺が苦しそうに彼女の名を呼ぶと、彼女はすぐさま俺の思っていたことを否定した。

 

 

《だからしっかりしなよ。爵位も悪魔の駒も貰って名実共に上に立つ存在になったんだから。》

 

 

「ああ、そうだな……」

 

さすがは吸血の女王とまで言われていただけあって、上の立場に着くということを彼女は俺以上に理解していた。

 

 

やはり年の功か……

《ハチ?》

ごめんなさいなんでもないです。

 

 

 

《はぁ、そういうところは相変わらずだね。まったく……まぁいいよ。もう慣れたから、ハチのそういうところも僕は受け入れたわけだし》

 

 

「……ありがとよ」

 

阿朱羅丸には本当に感謝しているよ。

長い時間の中でこいつと和解できたことが、俺にとって最近では最も嬉しいことだ。こんな風に話すのなんて前は考えられなかっただろう。

 

 

 

《ん?ハチ……あっちになんかあるね》

 

 

そう思っていると、阿朱羅丸がなにかを感じ俺に告げてくる。

 

 

《これは……神器だね。神器と凄い感情のうねりだ。これを出してる本人が気づいているかはわからないけど、ここまで強い感情のうねりは久々に感じたよ》

 

 

「…………」

 

 

《いくのかい?》

 

「お前が教えたんだろ?」

 

《教えただけだけどね》

 

ケラケラと笑いながら阿朱羅丸は続け

 

《まぁ、ハチならそうするよね。そう思ったから言ったよ》

 

悪びれもせず話してくる。

 

 

「お前な……」

 

《あはははは、大丈夫だよ。もう前とは違う。僕がしっかりと力を貸してるんだ。それにいざとなったら今はまだ寝てるクルルの力を少しだけ借りればいいだけのことさ》

 

 

俺はそんな阿朱羅丸の言葉に嘆息を吐きその場から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辿り着いた場所では1人の少女が震える身体を引きずっていた。

 

 

 

「よう」

 

《ハチ、死にかけてる子に対してその気軽さはどうかと思うよ》

 

 

「君は……だ……れ?」

 

 

《もう意識を失う数歩前だね。その状態でハチに会うのは厳しかったかな?》

 

え?なにそれ?

それは俺の目の腐り具合や気持ち悪さを揶揄しているのか?

 

《まっさかー。いたいけな少女を背負ってあげるハチはすっごくやさしいねー》

 

 

おいこら棒読みになってんぞ

 

 

《ロリコン》

 

なんでだよ⁉︎

 

見た目からしてもこいつと1つか2つしかかわらねぇだろ⁉︎

 

 

《…………》

 

 

急に黙るのやめてくれませんかね?

ホントに……マッカンあげるから……

 

 

 

 

そんなコントのようなことをしながら俺は少女を背負い、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







感想お待ちしてます。




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閑話まとめ回

お久しぶりです。

長らく待たせた上、今回も割と短めです。

閑話は今回で終了し次回から夏休み編に入りたいと思います。


では短いですがどうぞ。


 

「それが僕たちの出会いだったよねー」

 

あたりが静まり返っている中、ユウキのその言葉が夏の夜風に流されていった。そんなユウキの言葉を八幡は語り合う中でユウキが出した酒を飲みながら、懐かしそうに目を細めた。あまり進んで酒を飲むほうでは無い2人だが、それ故に今この場は彼らにとって酒というアイテムを使うほどのシチュエーションであるともいえるだろう。

 

「まぁその後が大変だったんだけどな」

 

「うっ……」

 

彼のその一言にユウキは何処か申し訳なさげに顔を顰め、そんなユウキの表情に彼は思わずクスクスと笑ってしまう。

 

しかし、ユウキが顔を顰めるのも八幡が思わず笑ってしまうのも仕方のないことなのである。今のユウキは比較的明るく、会ってすぐの相手とも仲良くできるコミュ力の塊のような少女だが、当初は親の死や病気の本当の原因(・・・・・)を知った彼女は、少し前の木場とは比べ物にならないほどの憎悪と復讐心を抱えほとんどの者との交流を拒んでいた。

 

「しっかりと進めるようになったか?」

 

「うん、ハチのおかげでね」

 

残りの酒を流し込み一息ついた後、かつて一度は大きく立ち止まっていた少女は笑顔で答える。彼を呼ぶ名前も八幡からハチへと愛称に変わっていた。

 

かつての病、それを故意にばら撒いた諸悪の根源である悪魔は数年前、八幡とその眷属たちの手によって討伐された。それがきっかけで彼女は再び歩みを進めることができるようになったのだ。

 

「『復讐は決して何も生まない。けれどそれを成さなければ進めない人間はいる。大切なのはその過程で捕らわれず、それを成した先を見据えること』だよね」

 

「……そうだな」

 

ふと呟かれたユウキの一言に先ほどとは変わり八幡は何処か照れくさそうに頬を掻きながらそっぽを向く。それはかつて彼女に彼が投げかけた言葉である。彼はその身の上や経験からそういった数多くの名言ないしは迷言を残している。そういった点では彼は今も昔も黒歴史を作り続けていると言ってよいだろう。

 

その数々に彼の眷属の転生悪魔はもちろん、純血(・・)であるヴィザも救われてきた。

 

「お父さんもお母さんも、そしてお姉ちゃんも復讐なんて望んでなかったと思う。それでも復讐をやったのはほかでもない僕自身のため。その事実から目を背けちゃいけないし、その事実があるからこそ、僕はこの先進んでいける。僕のことを助けてくれたハチのために、僕の背中を押してくれたみんなのために、そして僕自身のために、僕は僕が選んだ道を進む」

 

そういう彼女の瞳に強い意志が宿り、話の途中離された手が再び彼の手を握りしめた。そんな彼女の言葉と行為を彼はまっすぐに受け止めた。

 

「おう」

 

ただの一言。

しかし、その中には確かにユウキのことを理解しているという意思が込められていた。

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ行こうか」

 

それからしばらく、言葉を発するでもなく、ただただ空を眺めていた二人の沈黙を破ったのはユウキの名残惜しそうな一言だった。

 

 

「そうだな」

 

あまり遅いと明日がつらいし、と付け足し立ち上がった彼は自宅へと足を向ける。

 

 

「うん」

 

ありがとう。

 

その後ろを追うように立ち上がった彼女が付け足した一言は、ただ風に流されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side八幡

 

翌朝も夏というにふさわしい日だった。燦々と降り注ぐ日の光に溶ける思いを味合わされながらも俺は夏休み前の休日を過ごしていた。数日後に終業式を控える中、俺が買い出しから帰ってくるとものの見事に家が占領されていた。

 

 

グレモリーの眷属とソーナの眷属に……

 

 

「お前らなんでいるんだよ」

 

「おかえりなさい八幡君。遅かったですね。実は夏休みの予定について話をしているのですが」

 

そういってソーナが説明をし始める。

 

要約すれば、夏に全員冥界に帰るので一緒に帰らないかってことか。

 

ソーナたちと帰るのに別に断る理由もないしいいか、そう思い返事をしようとしたとき、自宅に不法侵入するものの気配を感じ取った。

 

「別に構わねぇぞ。どうせそこのおっさんも一緒に来るんだろ?」

 

そういって俺が不審者(笑)の方に指をさしながら返事をすると全身が一斉にそちらへと視線を移した。

 

「かぁー、なんだなんだお前らは気が付かなかったのか?八幡の眷属は全員気が付いてたのに、まだまだだなぁ」

 

そういって入ってきたアザゼルは笑いながらリアスたちに話しかけるが、笑っていられるのも今のうちである。不法侵入者撃退に定評がある馬鹿、もとい狂人が現在この家に住んでいるのだから。

 

そんなことを思っているとアザゼルの頭上に何やら白い物体が現れた。アザゼルはそれに気が付いていないようだが、突如現れたそれは重力に従い自由落下していき、アザゼルの頭に当たり水のようにはじけた。

 

「うお!?なんだこりゃ?」

 

突然降っていき白い液体に驚くアザゼルだが次の瞬間その姿に明らかな変化が訪れた。

 

そしてその姿に場のほぼ全員が唖然としてしまう。

 

「ンン、ッタク。ナンナンダ……ヨ……」

 

いきなり頭部が濡れたことにより不愉快そうに舌打ちをするアザゼルだが、自身の体の変化に気が付いたのか言葉をとぎらせてしまった。

 

そんなアザゼルの姿にユウキ達は必死に笑いを堪えている。最近慣れてきたのかあのゼノヴィアも一緒になって。

 

「ぐひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

 

そしてそれを行った当の本人、フリードは腹を抱えながらフローリングを転げまわっている。

 

そう、ゲームのポリゴン体のような姿に変わってしまったアザゼルを見ながら……

 

 

「ナンジャコリャァァァァァァァアアアアアアア⁉⁉⁉⁉」

 

終業式前のとある休みの日。

我が家ではアザゼルの絶叫が木霊した。

 

 

 

 

ちなみに30分後にアザゼルは元の姿にきちんと戻りました。

 

 

 

 

 





次回は9月上旬には投稿したいと考えています。
では。


次回こそ長文で仕上げたい……



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突撃冥界御自宅訪問
再開の時



ふぅ、今回はそこまでひどく間は空いてないはず。


さてさて新章突入。


どうぞどうぞ







 

 

 

 

戸締りとは自身の家を守るための防衛行為である。これを怠るということは、泥棒さんに対してどうぞ好きなだけ盗んで下さいと言っているようなものというのが、世の見解だ。

 

だがちょっと待ってほしい。

田舎に行けば鍵なんて付いてない家もあるし、むしろ家主の知らぬ間に隣人が上がり込み、『ちょっと雨が降り出してたから洗濯物入れといたわよ』などと、フレンドリーを通り越し、もうあんた家族の一員なんじゃね?と思うくらいのコミュ力を発揮している地域だってある。

 

そう。つまり鍵という概念自体が間違っているのだ。むしろみんな鍵など付けずにオープンにしていけば、みんなのコミュ力も上がるのではないか。

 

結論を言おう。

 

戸締りなんて必要ない。

 

違うか?……うん。違うな……

 

 

いや、鍵を開けっぱなしにするにしても人がいればOKだ、よし俺が残ればいいんじゃねぇか?よし!今回の帰省はお前らだけで……

 

 

 

「さっきからなに馬鹿やってんのよ。早く行くわよ」

 

「ほら、早く行くよー」

 

 

シノンとユウキが家の玄関前でカチャカチャと鍵を閉めては開け、開けては閉めを繰り返していた俺を左右からガッシリとホールドすると俺の身体を引きずり、無理やり動かし始める。

 

あぁ、さらばマイホーム。

 

 

「にぃの家は冥界にある」

 

「ハチィ、おめぇどんだけ帰りたくねぇんだよ……」

 

そんな俺の様子を見ていたユウと阿伏兎が目を細めながら突っ込んでくる。

 

「ほいほーい、んじゃまぁ行こうぜ☆」

 

「おめぇさんは相変わらずテンションたけぇな……」

 

俺の代わりに戸締りを終えたフリードが鍵のついたチェーンを指の周りでブンブン回しながらふざけた口調で話すフリードに阿伏兎が低いテンションで反応する。

 

まぁ、阿伏兎は夜兎の上に悪魔だからな。尋常じゃないほど太陽に弱い。傘をさしているから動けないほどではないが……

 

 

「ひゃひゃひゃ、とーぜん。俺っちはあんまし屋敷に行けなかったからな。久々に帰れるってんでテンションMAXだぜ♪」

 

「……うざ」

 

「おやおや、ロリメちゃんもテンション低いなぁ」

 

「……殺すよ?」

 

「お?やるってか??上等!さぁ、殺り合おうか?」

 

 

 

「……2人とも?」

 

「「す、すんません(ご、ごめんなさい)」」

 

 

「オメェら2人は、本当にシノンとヴィザには弱いな……」

 

 

相変わらず、すぐに喧嘩を始めようとするフリードとクロメだがシノンの"いい"笑顔付きの一言で態度を一変し頭を下げる。

 

フリードに至ってはコンクリに頭を擦り付けてるし。

 

 

「ほぉらぁ、早く行こうよぉ。小猫はもうとっくに出て行ったし、早く行かないと集合時間に間に合わないよ?」

 

「八幡、私は冥界に行くのが初めてだから行ってみたいのだが!」

 

 

土壇場になって帰りたくなくなった俺の腕を揺するユウキと先日俺の家についての説明をシノン達から受け興味津々なゼノヴィアの笑顔についに根負けし、俺は自分の足で歩き始めた。

 

 

「……んじゃ、帰るか」

 

 

「「「「「「「おー」」」」」」」

 

 

 

 

夏休み初日の予定。

 

【冥界への帰省】

 

 

 

 

「やっと来ましたか」

 

「遅いわよ」

 

 

集合場所に行くと既にソーナとグレモリーの眷属達は集まっており俺達が最後だった。いやでも集合時間まで後10分もありますけど……

 

 

「時間には間に合ってるだろ?」

 

「一緒に住んでる小猫はとっくに着いてたわよ?」

 

「間に合えばいいじゃねぇか」

 

「相変わらず八幡くんは……」

 

はぁ……と、グレモリーとソーナ2人揃って額に手を当ててため息を漏らした。

 

「遅れて悪かったわね、八幡がギリギリになって帰りたがらなくなったから」

 

「また……ですか」

 

「うん、まただね」

 

それに共感するようにシノンとユウキがため息を漏らしながらソーナ達に遅れた理由を簡潔に話すと全員してジト目でこちらを見て来た。

 

「んだよ?」

 

「最上級悪魔、それも爵位を貰っている身なのですからしっかりしてください」

 

「いや、してるだろ……ただ帰りたくねぇだけで」

 

「何故ですか!ハチくん貴方は「セラフォルー様がうちに来て帰りを待ってるらしい」………」

 

「それも明日の夜に特別イベント、それいけレヴィアたんのライブを開催するらしい。俺の領地にあるスタジアムで」

 

俺の態度に対して、注意をしようとしたソーナだが、帰りたくない理由を話した瞬間、ピシリッという効果音と共に黙ってしまう。

 

周りもソーナ同様に止まってしまった。

 

「……ハチくん」

 

「なんだ?」

 

先ほどとは打って変わり、まるでお通夜の様に静かになってソーナは俺の肩に手を乗せて呟いた。

 

というか、さっきから呼び方が昔に戻ってるぞ……

 

「強く生きてください」

 

それほどまでか⁉︎

と他の奴らは思ったかもしれないが、俺とソーナにとってはそれほどなのだ。

本当に、あの人……もう少し可愛がりを抑えて、あの格好を辞めてもらえればマジでリスペクトできる方なのに……

 

「ああ」

 

そんなソーナの一言に俺は静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、さっさと乗れイッセー」

 

「ここから降りるのか⁉︎」

 

 

テンションを下げながらも、グレモリーや眷属達にフォローを入れられながら冥界の入り口まで移動してくるとその入り口にイッセーが驚きの声をあげた。背後ではゼノヴィアやアルジェント、そして匙もここが?と阿伏兎達に聞いていた。

 

 

まぁその4人は初冥界だしな。

 

 

「まぁ、普通の上がり用エレベーターにしか見えんが、悪魔限定で地下に行ける」

 

 

「「「「地下に⁉︎」」」」

 

 

「まぁ、アレだろ?子供の作る秘密基地的な感じだよ」

 

 

『いや、それは違う(います)(な)(わ)』

 

フリードの一言に全員が否定の声をあげた。

 

 

 

 

 

 

「こ、ここが冥界⁉︎」

 

エレベーターから降りた第一声にイッセーは驚愕の声をあげる。

 

人間界と風景はさほど変わりはない。建物とかも。しかし、明らかに違うモノにイッセーは驚いたのだろう。

 

この広がる紫色の空に。

 

 

「す、すげぇな」

 

「そんな面白いもんなんてないぞ。空が紫色なのと海がない以外、人間界と変わらん」

 

「海が…ない……だと⁉︎」

 

「お前は驚く点がおかしいぞ」

 

 

とそんなことをイッセーと話していると後続も降りて来た。

 

やはり他のメンツも驚いている様だが……ってちょっと待てよ?

 

「今思い出したんだがゼノヴィアはともかく、ほかの奴らは使い魔を取りに一回冥界来たことないのか?」

 

「ええ、行こうと思ったのだけれど、専門の方が腰を痛めていたらしくて結局行ってないのよ」

 

「私のところもです」

 

ザトゥージ……

あいつ、絶対マスターにはなれねぇよ。

もう年だし、パクリだし。

 

 

諦めて人間界でGOでもやってろ……

 

 

「八幡!ここが冥界なのか!」

 

「ああ、まぁ、人間が言う所の地獄みてぇなもんだ。」

 

「そうか!なら昔私が送った連中に会えるかもしれないのか。なんだか複雑な気分だな」

 

「そうだな」

 

ゼノヴィアの言葉に笑って答えながら俺たちは駅のホームへと向かって行く。

 

俺達が先導しそれにグレモリー眷属やソーナの眷属がついて行く形だが、それでも各々が眷属という枠を超えてお喋りをしながら歩みを進めている時、唐突にその声は響き渡った。

 

 

「なんですってーーーーーー」

 

 

その声を聞いた瞬間全員がピタリと足を止めてしまう。

 

「ーーー行きがないってどういうことよ⁉︎」

 

「いえですから、本日は運休でして」

 

「知ったこっちゃないわよそんなこと⁉︎いいから出しなさい‼︎」

 

「そ、そう言われましても……」

 

 

 

……………

 

 

「おいおいなんだこの声ってどうした八幡⁉︎」

 

 

不思議に思い最初に声を出したのはイッセーだったが、俺の姿を見て心配をし始める。

 

俺の頭を抱えた姿を……

 

 

「あー、あはははは」

「まったく……」

「ひゃひゃひゃひゃひゃ」

「おいおい……」

「…………」

「あ、彼女もいるんだ」

「な、なんだ?」

 

「なんで彼女が……」

 

その声を聞いてかユウキ達も各々違う反応を見せる。唯一わかっていない眷属であるゼノヴィアは他のメンツを見て頭にクエッションマークを浮かべ、その隣ではソーナも俺と同じ様に頭を抱えていた。

 

 

 

 

「……まさか!」

 

そんな中、俺の眷属とソーナ以外で反応した奴がいた。

 

 

「ちょ、ちょっと小猫⁉︎」

 

 

突如声の下方向に走り出した小猫はグレモリーの制止の声も聞かず、全速力で向かって行く。

 

 

「はぁ、行くぞ……」

 

そう行って小猫の後を追う様に俺が走り出すとそれに続いて全員が走り出す。

 

 

 

八幡 side out

 

小猫 side in

 

私は全力で走っていた。

部長が後ろで何か言っていたが、それも聞かずに走って行く。

 

 

声のした方に。

 

だって、だってあの声は聞き間違えない。

 

 

走りながら、自身の腰に巻いてあるベルトに片手を添えギュッと握りしめる。

 

 

先輩は、先輩の眷属達はこの声の主を知っていた。そして私もこの声の主を知っている。

 

先輩と同じ、私の恩人。

 

怖くて震えて、1人寂しかった私に声をかけてくれた、私の大切な友人。

 

色々あって、長い間会えなかった。

 

でも……でも、この先に……!

 

 

そうして走って行ったその先にその人物はいた。

 

相変わらず怒ってる。

昔、使用人の人に怒っていたその姿が今の彼女と重なる。

 

頭につけてるゴーグルもサイズが大きくなっただけでデザインは変わらない。

 

 

見た目は……ほっ、私と同じ様です。

リアス部長や朱乃さんのように成長してたら少しだけ嫉妬してましたよ。

 

 

はぁはぁ、と息を漏らしながらその側まで来ると私は叫んだ。

 

 

「リタ‼︎」

 

 

突然名前を呼ばれた彼女はピクッと反応しこちらを向いて、そして……

 

 

「…白……音?」

 

 

 

「リタ……」

 

「白音⁉︎」

 

 

数メートルまで近づくと、はぁはぁと肩で息をしながらこくりこくりと首を縦に降る。

 

リタも驚きながら私の本当の名前を呼んでくれた。

 

 

「ひ、久しぶりです。リタ」

 

「白音!」

 

私がそう言うと彼女が私に抱きついて来る。

 

 

ってぇええええ⁉︎り、リタ⁉︎

 

 

「白音じゃない⁉︎久しぶりね‼︎元気だった?あんたのこと心配してたのよ。サーゼクスに聞いても大丈夫の一言でそれ以外ないし。あの馬鹿に聞いても元気そうだぞ、とか変わりないぞ、くらいしかないから」

 

抱きつきながら畳み掛けるように言葉を発する彼女に私も嬉しくなり言葉を発する。

 

 

「わ、私も、会えて嬉しいです。先輩とはつい最近ようやく先輩があの時の人だって知って。それ以前にサーゼクス様に聞いても今彼女は忙しいとかではぐらかされてたので…」

 

そう言って私も彼女に腕を回し抱き返す。

 

先輩と会った時と同じく、瞳が潤んでしまう。久々の友人が私のことを忘れずに覚えていてくれたことが嬉しかった。

 

そうして互いの身体を離し、先輩の時と同じ様に挨拶をした。

 

 

「久しぶりです。リタ。白音改め、塔城小猫です」

 

「久しぶりね、白音。いえ、小猫。リタ・モルディオです」

 

 

そういって私たちは互いに差し出した手を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 





うん。基本、4000〜7000の間で、たまーに1万越えの投稿をすることにしました。

その方が、そこまで間開かずに投稿できるので。


というわけで、新眷属であり、小猫の友人はテイルズオブヴェスペリアからリタ・モルディオさんでした。


ではでは、次回もお付き合いしていただければ幸いですm(__)m







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女王壁越えの時

ふむ。私が来た!




……いや。本当にすみません。

前回9/23からおよそ4ヶ月以上更新してないとか……
すんません……

それでも待ってくれた方々のためにようやくかけました!

就活の年ということもあり、なかなか更新できなくなっていきますが、それでも待っていただからと幸いです。


さてさて、久々なので少し文が変かもしれませんが、変であればご指摘お願いします。


ではではどうぞ!








"感動の再会"、そういってもいいものだろう。幼い頃、訳合って離れ離れになった親友と時を超えた出会い。

 

 

それは人だろうと悪魔だろうと、妖怪だろうと、たとえ人外であろうと素晴らしいものだ。

 

 

ドラマやアニメなどでそういったものが好きな人々であれば感動の涙を流し、ドラマの中の登場人物でさえ、その再会を祝福するだろう。

 

 

だがしかし、だがしかしだぁ。

 

 

ドラマではこういう感動の場面ではあまり意識されないことだが忘れてはいけないことがある。

 

 

そう、TPOだ。

 

 

場合はわかる。

そういう風に行動しても仕方ないだろう。

 

 

 

でも……

思い出してほしい。

 

 

今どういう時だ?

どういう場所だ?

 

 

 

先ほどまでリタは駅員と口喧嘩をしていた。

当然それを止めるために駅員は何人も近くにいる。加えていえば、俺とグレモリー、ソーナ及びその眷属もいるのだ。

 

 

場所は駅だ。

 

 

そして少し前まで彼女達は互いの名前を呼ぶのに少しだけ大声を出していた。

 

 

そうすれば当然その他の視線も集まってくるわけだ。

 

 

つまり、俺が言いたいのはだ。

 

 

 

「百合百合してるところ悪いんだけど、その辺にしといたら?リタ、小猫。いろんな人が見てるわよ?」

 

 

 

 

シノンが代わりに言ってくれたな、おい。

 

 

 

「っぁ⁉︎、だ、誰が百合百合よ⁉︎ば、バッカじゃないの⁉︎」

 

そのシノンの一言にうちの兵士は小猫から即座に離れ、顔をこれでもかというほど赤く染めながら大声をあげた。

 

 

その姿は普段の年不相応な大人ぶった態度とは違い、少女が羞恥に耐える年相応に見える。

 

「っにゃ⁉︎わ、私は……」

 

一方小猫の方も、リタに負けない程赤くなっていた。駅中であんな風に抱き合ったのだ。俺ほどではないにしろ、黒歴史にはなるだろう。

 

 

「おーおー、おあついこった」

 

「ひゃひゃひゃひゃひゃ」

 

『………』

 

 

おい阿伏兎、茶化すのやめてやれ。フリードも笑いながら激写するのはやめい。他のやつに至っては呆然としてるじゃねぇか。

 

シノンとソーナは額に手を当ててるけど…

 

 

「ひゃひゃひゃひゃひゃ」

 

よほどツボに入ってしまったのか、或いは久々に会う彼女に対して弄りたい気持ちが勝ったのかフリードの笑いと激写は止まらず、次第にリタの身体がプルプルと震え始めた。というかリタの周囲の空間も震えてる。僅かだが魔力が溢れ出てるし……

 

 

 

「っこの!!!!」

 

 

あ、切れた……

 

 

「いつまでとってんのよ、この変態!!!」

 

 

フリードのソレに堪忍袋の緒が切れたのか、溢れ出ていた魔力が彼女の周囲に収束し魔法陣を形成して行く。

 

 

「ひゃひゃ……こりゃヤベェか……」

 

その込められる魔力量の多さに気がつき携帯をしまうと、その場から逃れようと……

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ

 

 

 

 

 

 

できなかった……

 

 

 

「ちょっ!?氷ってシノンの姉御!!?なんでぇ!!!???」

 

 

足首から下がカッチコチである。

そりゃもうカッチコチ。

フリードが慌てて剣で氷を破ろうとするが、魔力をまとわせた剣すら弾き返す程のカチコチ度である。

 

 

「逃げられて駅を壊されても困るでしょ?自業自得なんだからくらっておきなさい」

 

とてもイイ笑顔でそういうと今度はひんやりとした青白い光がリタとフリード以外を覆い始める。

 

 

まってぇぇぇえええ俺も助けてぇぇえ

 

 

そんなフリードの声もガン無視である。シノンは駄目だと俺や他の連中にも目を向けるが誰1人として合わせようとしない。いや、いた。最後の1人で目が合う。

 

クロメだ。

フリードと目があったクロメはクスリと可憐な笑顔を彼へと向ける。そして……

 

 

 

「死んでね?」

 

 

無慈悲な一言を告げる。

 

 

 

「天光満つる処に我はあり」

 

そんな彼の後ろから巨大な魔力の奔流とともに詠唱が紡がれる。

 

 

「黄泉の門開くところに汝あり」

 

その声は先ほどまでの恥じらいを持った乙女の声にあらず。

 

 

「出でよ、神の雷…!」

 

それは、普段の大人びた彼女の声でもない。

 

 

「これで終わりよ!死ねぇぇええええ」

 

彼女が稀に見せる、怒りに身を任せた時の声である。

 

 

 

「インディグネイション!!」

 

Indignation すなわち憤怒を示す雷。

 

それが今、冥界と現世を繋ぐ駅にけたたましい轟音と共に降り立ち、1人の男の絶叫が響き渡った……

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

「初めまして、リタ・モルディオよ。この馬鹿の兵士をやってるわ。まぁ、普段は研究所からほぼでないし、あんた達と関わることもあまりないでしょうから覚えなくてもいいわよ」

 

 

何処かスッキリとした顔の彼女はすっかりいつもの彼女に戻り、グレモリー達へと挨拶をする。

 

彼女らからすればドン引きである。挨拶の内容も内容だが、それ以上に先ほど撃った魔法により少し離れた場所で焦げたフリードが放置されているのだ。しかも未だにプスプス音を立ててるところから威力の高さが伺えるし、これ初見なのに引いてない姫島先輩はおかしい。

 

あれか?ドSだからか?

慣れてるからなのか?

 

 

「え、えっとあの……あいつは……」

 

「ああ、大丈夫よ。アレはゴキブリ並みの生命力だから。それに死んでたら死んでたで、そこまでの奴だったってだけよ」

 

匙が顔を引きつりながら聞くが返ってきた言葉がこれまた酷いためもはや全員絶句である。

 

 

「大丈夫よ、あいつなら。しぶとさだけならうちで最強だし」

 

「ゴキブリだからね。鬱陶しい……」

 

「うむ。悪は滅んだ」

 

「適切な扱いだと思うよ?」

 

 

しかし、うちの女性陣は冷たい。

 

シノンとクロメ、ゼノヴィアさらにはユウキまでがリタを援護するような形をとった上

 

「まぁ、死にゃぁしないだろ」

 

「…シノネェのおかげで……駅…壊れてない」

 

 

男性陣もフリードの心配をする者はいなかった。

 

 

「おーい、生きてるかー」

 

 

さすがに可哀想なので生存確認だけ取る。

 

ピクピクッ

 

 

うん。動いてるし大丈夫だろ。

 

 

「お前らのフリードに対する扱い酷すぎるだろ……」

 

 

そんな俺たちの仕打ちに流石のイッセーもフリードに哀れみの視線を放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、そういえばもうあんたが帰ってくる時期だったわねぇ」

 

 

列車に乗り、それぞれの眷属ごとに分かれ席に座るとリタが声をかけてくる。というか、眷属ごとに分かれてるのになんで小猫はこっちにいるんだ……いや構わんが……

 

 

「にしてもお前さんもうちょいマシな挨拶があっただろうに」

 

 

「あんたには関係ないでしょ阿伏兎。それに私がここの面子以外と関わりを持つなんて本当にないでしょ?なら初めから言っといたほうが互いのためよ」

 

「親切さの方向がぶっ飛んでるだろぅ……」

 

結局あの後、大した交流も持たずにリタは電車へと乗っていった。本来なら向かいたい場所があったらしいのだが、行くための電車がないのと、俺たちが帰ってきたのも相まって今回は俺たちと共に帰るようだ。

 

 

「そういや、他のみんなはどうなってる?」

 

 

「ヴィザはあんたからの指示通り、あいつ(・・・)のことシゴいてるわ。他のメンツは屋敷にいると……あぁ、そういえば今朝私が出るタイミングではぐれ悪魔討伐の依頼があったってヴィザが言ってたから、誰か出てるかもね」

 

「……そうか」

 

「なによ?」

 

「いや、珍しく罵倒しないなと思ってな」

 

「あんたが私のことどう思っているか改めて理解したわ」

 

 

いや、本当に珍しい。雪ノ下程ではないがリタは昔から俺のことを罵倒することが多い。とはいえ本心じゃないのは知ってるし、いざという時は他の奴らと同じく俺の身を案じてくれるのは理解してるが、それでも全くの罵倒なしは珍しい。

 

 

「別に…ただ……久々に会ったのに罵倒するのも可哀想と思っただけ。ただそれだけよ」

 

 

ツンデレですね…はいわかります。

 

 

ゴシッ

ガッ

ボコッ

ガツン

ドシッ

バコッ

 

 

「リタは分かるがなんでシノンさんたちまで殴るんですかね?」

 

『なんとなくよ』

 

 

うちの女性陣は本当に厳しい。

そんなことを思いながら、今尚焦げたままの男をチラ見し、まぁフリードのような激烈な攻撃でなくて良かったと安堵した。

 

 

その後も互いの近況報告やら、クロメがようやく正式な眷属入りした事に対しての挨拶などが行われていく。その挨拶ではリタも普通に、というか友好的に挨拶を交わす。相変わらず仲間(家族)には優しさが出る性格である。まぁ、それが彼女のいいとこでも………

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ」

 

「ああ、何か来るな」

 

「おおよそアザゼルが来てなかったのと関係あるんでしょ」

 

「にぃ……少し先に……龍の気配ある……」

 

 

「ああ、あいつの気配だな」

 

「ってことは」

 

「まぁ、そういうことなんだろう。今のソーナの眷属とグレモリーの眷属じゃ協力してもあいつには勝てないだろうしいい相手だろ。おおよそグレモリーかアザゼルあたりがサーゼクス様に頼んだんじゃねぇか?」

 

 

はぁ、とめんどくさそうに俺らはため息をつく。確かに見知った俺らよりもあいつに頼んだほうが効率はいい。見た目的にも怪物だし。中身は普通にいいやつなんだけどな……

とはいえ俺らを巻き込まんでほしい。

 

 

 

 

「む?なんの話だ?」

 

「なんの話ですか?」

 

 

ああ、さすがにゼノヴィア達にはまだわからないか。

 

 

「ん、ああ。あのな……」

 

 

小猫とゼノヴィアに話そうと来た俺の言葉は、魔法陣による転移によって遮られた。

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

「ちくしょう!?なんなんだこいつ!?」

 

「おい兵藤なんとかなんねぇのか!?」

 

「なんで俺なんだよ!?なんとかなったらとっくにやってるわ!!!」

 

 

なんか匙とイッセーが言い合ってるが、そんなことしてる暇あるのか?

というか言い合ってないで戦え。

お前ら以外吹き飛ばされてんじゃねぇか。

 

 

「グォォォォオオオオオオ」

 

おー、すげぇ迫力。

さすがタンニーンのおっさん。

 

 

 

「せ、先輩!助けなくていいんですか!?」

 

「八幡私達も行こう!」

 

 

あー。訳を知らない2人が騒いでる。

まぁ、いきなり転移させられた上、ドラゴンと遭遇して、グレモリー眷属とソーナの眷属がやられてたらそうなるわな。

 

 

まぁ………

 

「ゼノヴィア、試験よ。あのドラゴン。討伐して見せなさい」

 

リタさんの試験が始まった……

それもベリーハードなのが。

 

「八幡達はやらないのか!?」

 

「なによ?手助けが必要なの?」

 

おい、リタ。そんな安い挑発じゃ

 

「む。必要ないぞ!確かに強そうだが、私だけでもいける!そこで私の剣技を見ているといい」

 

のるのかよ………

 

 

「はぁ、ゼノヴィア」

 

「なんだ?」

 

そんなゼノヴィアに対してとりあえず言っておこう。

 

 

「今のお前じゃ勝てないぞ」

 

「っ!」

 

俺がそういうと、彼女は顔をしかめる。

 

「ただ、まぁ。自分がドラゴン相手にどれぐらいやれるかは知っとけ。久々に実戦でデュランダル使っていいから」

 

「……わかった。自分がどのくらいか……知ってくるとしよう」

 

 

その顔はどこか悔しそうだっ。

まぁ、お前じゃ勝てないなんて主に言われたらそうなるか。でも、まぁ。所詮はまだ(・・)だ。この夏休みが終わる頃には……な。っとそうだ……

 

 

「小猫、お前も行っとけ」

 

「先輩はあのドラゴン知ってるんですか?」

 

さすがに俺らの反応見てればバレるか。

それこそゼノヴィアみたいに単純でもない限り。

 

「まぁな。だから胸を借りるつもりでやってこい。この夏休み。俺らのとこで修行するなら尚更だ。自分のレベルは知っておいたほうがいい」

 

「……わかりました」

 

 

そういうと小猫は拳を握りしめゼノヴィアの後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼノヴィア視点

 

八幡に言われデュランダルを出した私はドラゴンの元へと駆けて行った。

 

正直、勝てないと言われヘコんだ。それはそうだ。確かにドラゴンは強い。でも、それでも八幡や阿朱羅丸、そして最終的にはクルルにまで特訓を施されたのだ。あまり長い時間ではない。それでも確実に強くなっている実感があった。

 

 

 

「やってみせる。あのドラゴンを」

 

 

正直燃えている。

あのドラゴンを倒せば、八幡だけでなく、他の眷属達も認めてくれる。

そんな思いが私の中で芽生えた。

 

だが、それだけではない。

私は知っている。

自分が最も弱いことを。

だからこそ、負けられない。

自分が女王のなのに。

眷属最弱。

 

そんなのは嫌だ。

そんな思いもまた、自身の中で芽生えていた。

 

 

 

 

 

 

 

そんな自身の思いを知るはずもなく眼前のドラゴンは兵藤や匙を振り飛ばし更に咆哮を上げた。

 

 

「おぉぉぉおおおおお」

 

 

そんな相手に呼応し私も吠えながら駆けて行く。

 

そんな私に対しドラゴンの拳が迫ってきた。

防ぐことは出来ない。力量的に受ければこちらが飛ばされる。故に私は身体を回転させドラゴンの拳を受け流し、足に魔力を貯め、そのままその腕を高速で走り抜けていく。

 

私が受け流したのが、或いは高速で走り抜けてくるのが予想外だったのか一瞬だけだが、ドラゴンの目が見開かれた。

 

 

しかし、それも一瞬ですぐさまドラゴンは空いている片手で私を狙ってきた。

 

でも、それでいい。

この1ヶ月程度の間だが、八幡達からは多くのことを学んできた。足に魔力を貯め一気に駆け抜ける技法もその1つだ。

 

にやり、と思わず笑みを浮かべ迫りくる拳に、正確には拳のその先、ドラゴンの腕に向け剣を振るう。

 

ドラゴンは硬い。

だが、それでもいける。

その自信があった。

何故なら自分が扱っている武器こそデュランダルなのだから。

 

この世で数少ない、特殊能力の類を持たずして伝説級武装の仲間入りを果たしたデュランダルの特性。それこそが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グォォォォオオオオオオ!!??」

 

 

先の咆哮とは違う、叫び声のような声をドラゴンは上げた。

 

そのドラゴンの片腕は大きく、深い切り傷が刻み込まれ、血が吹き出している。

 

 

そう、これこそがデュランダルの特性。

どこまでもただ強い威力。

このデュランダルは威力の高さのみで伝説級武装の仲間入りを果たしているのだ。

 

阿朱羅丸とクルルは揃って言った。ゼノヴィアこそデュランダル使用者歴代最強になる……と。

 

まぁ、理由はデュランダルはパワーゴリ押しが本来の正しい使い方だからという、ゼノヴィア的には素直に喜んでいいものかどうか迷う言葉であったが…….

 

 

切り裂き飛び出した血を頬に付けながらも、空中で体制を整え地面へと着地する。

 

そして、それと同時に後ろに飛び退いた。

 

瞬間、私が着地した点にドラゴンのしっぽが振り落とされる。

 

油断はしない。

そもそも、八幡達はあのドラゴンが格上と言ったのだ。ならば、それを倒す自信があったとしても油断だけはしてはいけない。

 

八幡達の眼がどれだけ良いのかは知っている。だからこそ油断はしない。

 

 

 

そう、していなかったのだ。

 

なのに………

 

「ぐぅ…….」

 

突如襲ってきた拳に対し今度は受け流すことができずデュランダルでガードする。

 

身体は飛ばされ岩へと激突し、周囲の岩も粉砕された。

 

「がはぁ……」

 

油断はしていなかった。

でも、見えなかったのだ。

 

飛ばされる前の場所にはドラゴンの拳があった。

 

 

先ほどとは雲泥の差の速度での攻撃。

 

「これが……ドラゴン……か」

 

様子見か、或いは他に理由があるのか。

 

あのドラゴンは手を抜いている。

 

この時そう悟った。

 

 

でも……それでも………

 

「諦める……理由にはならない!」

 

軋み、悲鳴をあげる身体を起こし剣を構える。魔力で身体の要所を覆う。全身を覆っては大量に消費する魔力も要所のみ覆うことで節約できる。それもまた、阿朱羅丸達から教わったことだ。

 

 

でも……教わったことだけでは足りない。

 

眼前にいるドラゴンは既に自分には目も向けず、小猫とやりあっている。

 

小猫もイッセー達と比べれば奮闘しているがそれでも負けるのは時間の問題である。

 

 

考えろ………

 

普段、パワーこそ全てと考える自分なりに考えていく。

どうすれば勝てるのか。

 

考えろ………

 

阿朱羅丸達には考えるよりも行動の方が自分は強くなると言われた。でも、それだけじゃこの相手には勝てない。

 

考えろ………

 

より強い一撃を出す方法を。

どうすれば、あの悪魔の様なドラゴンを倒せるのか。

 

 

悪魔のようなドラゴン………

 

 

ふと自分の中で何か、カチリとハマるような音が響き渡った。

 

悪魔とドラゴン。

 

本来なら1つにはならないもの。

 

2つのモノを1つに……

 

 

 

確証はない。

今自分の考えていることはできるかどうかなんてわからない。

そもそも、前例があるとはいえ、前例の者は無からそれを作り上げているのだ。

対して自分は既に完成されたそれと未熟な自分を合わせるような物である。

 

普通に考えれば出来るわけもなく、そもそもそんなことを考えようとすらしない。

 

 

でも………

 

 

『不可能ってのはそれを可能にできていないだけ。いずれは可能に出来ることなのよ』

かつての修行の中でクルルが自分に言っていた言葉だ。

 

「やってやるさ……」

 

そう呟き、私はデュランダルを手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

八幡side

 

それは僅かに感じた違和感だった。

俺的には、自身の実力を知ってほしいという意味合いを込めて、ゼノヴィアと小猫を向かわせた。

 

 

だが……だがしかしだ!!

 

 

 

「おい、あいつ何しようとしてやがる!?」

 

『あれは……』

 

『あっはっは、いいねいいね、ゼノヴィア。やっぱり彼女をハチの眷属にして正解だったよ』

 

 

ゼノヴィアのやろうとしていることを悟った俺とクルルは驚愕し、阿朱羅丸は愉快そうに笑っている。

 

そしてゼノヴィアがやろうとしていることに他の面々も気がついていく。

 

 

「おいおい、そんなことできんの?」

そう言う阿伏兎は驚きながらも興味深そうに目を向ける。

 

 

「……普通は無理よ。確かに木場?とか言う奴の前例がある。でも、質が違いすぎるわ」

彼女を差し向けたリタは、彼女のやろうとしていることを否定する。

 

 

「そうね、確かに無理よ。木場くんのように自身が無から作り出すんじゃないのだから」

そう言うシノンだか、その目は何処か期待がこもっていた。

 

 

「聖剣の方が……強すぎる」

先程までとは変わり興味津々の様子でユウは呟いた。

 

 

「あいつにまだそんな技は無理だろ?」

そう言いながらもフリードは彼女から視線を離さない。

 

 

「うん。実力不足」

クロメもいつの間にかお菓子を食べるのをやめていた。

 

 

そうして他の面子が期待しながらも否定する中、1人だけそんな彼らの言葉を否定する。

 

 

「いんやー。出来ると思うよ」

 

「……どうしてそう思うのよ?」

 

自身の言葉とは真反対のことを言うユウキに対してリタがゼノヴィアから目を離さずに問う。

 

 

「いやー。みんなも感じてるんでしょ。この感じ。だからみんな目を離さない」

 

その一言だけでリタは押し黙る。

 

そう。ここにいるみんなが感じているのだ。

 

自身の限界の扉を開いたその時と同じような感覚を……

 

「それにねー、わかるんだよ」

 

 

そしてユウキは続ける。

その一言は何よりも俺たち納得させた。

 

 

「同じ剣士だからね」

 

 

絶剣の名を持つ剣士がその言葉を紡いだ。それはユウキの実力を知っているものからすれば、これ以上ない言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその時は訪れる。

 

聖なる気と魔なる気。

 

2つの奔流がゼノヴィアを中心に溢れ出ていく。

 

 

 

小猫と闘っていたタンニーンもゼノヴィアの気配に気がつく。しかし、律儀にも待ってくれている。腕を切り裂かれながらも、ゼノヴィアの成長を優先してくれるあたり本当に感謝しかない。

 

 

そんな、多くの者に見られながらゼノヴィアは動いた。

 

その手にあるのはデュランダル。

しかし、先程までとは違う。

綺麗な蒼と金で光り輝いていたデュランダルではない。外側の金色は変わりない。しかし蒼かった刃がより深く、暗い蒼色へと染まり、その刀身からは聖なる気と共に魔なる気が溢れ出ている。

 

 

 

そうして振り下ろされる一撃の重さを知ってか、タンニーンはあろうことか大きく息を吸っている。

 

ドラゴンブレス

 

 

龍の代表的な攻撃方法であり。

高火力の技である。

 

それを格下であるはずのゼノヴィアへと向ける。それほどまでの一撃だとタンニーンも判断したのだ。

 

 

 

 

そうして2つの力がぶつかり合った。

 

 

 

そうして巻き起こった煙が晴れた先で露わになったのは。

 

地面に倒れるゼノヴィアと地面に突き刺さるデュランダル。

 

 

そして……

 

 

浅くではあるが胸部が割かれ、血を流しているタンニーンだった。

 

 

 

それのさす意味は……

 

 

「ふむ。手加減してたとはいえ……我がブレスに打ち勝つか……八幡よ、貴様またとんでもない者を眷属に加えたな」

 

 

その場の多くの者が思う言葉をそれと戦った張本人。タンニーンが呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 




久々の投稿どうでしたでしょうか?

サブタイトルの通り女王であるゼノヴィアが自身の壁を超えて行きました。まぁ、その辺詳しくは次話でも話します。

あと、原作ブレイク前提であってるのもあるので、デュランダルに魔力入れる?無理無理とかやめて……ジャガイモハートがブレイクする。

ゼノヴィア強くなりすぎ感については修行編で八幡達がどんなことをゼノヴィアにしていたのかを語る会を設けるのでその時に理由を説明するので悪しからず……


あ、ちなみにタグにしつこいってくらいキャラ崩壊とかそう言う関連のタグを足しました。理由は八幡じゃねぇよと言う意見が多かったからです…….

八幡オリ主化ってタグ見ろや……

と真っ黒ジャガ丸くんも出て来ましたがw(ㆀ˘・з・˘)


さてと……感想お待ちしてます。

長くまたしていた分、八幡オリ主化以外の感想ならなんでもバッチコイです。受け止めてみせます。だって待たせたんだもん………(*・ω・)ノ



……ジャガ丸くんのジャガイモハートが砕けないくらいのでお願いします(´・∀・`)

ではでは、次回更新の時にお会いしましょう。






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アホ毛の義妹

割と早めにかけた。

履歴書書く合間に書いてたのでクオリティに不安が残りますが投稿します(*・ω・)ノ


タイトル通り。
ユウが義弟だった。
ならば義妹もでてくる。
だって出したかったんだもんw(*・ω・)

では、どうぞ。





 

それは真っ白な空間だった。

 

周囲には何もなく。

 

ただ永遠に広がっている白の光景。

 

先ほどまでの死闘が嘘のような無音の世界。

 

無音ゆえにキーーンという独特な耳鳴りが聞こえてくる。

 

 

私はこの場所を知っていた。

 

ここは私がいつも夢の中で訪れていた場所。

 

 

悪魔となったあの日から、強くなるためにひたすら剣を振るってきた場所だ。

 

 

そして今、私がここにいるということは……

 

 

 

 

 

「……私は………負けたのか……」

 

 

『うん、そうだね。君は負けたよ』

 

 

拳を強く握りしめながら漏れ出た言葉によく知る声が背後から聞こえてきた。その声に反応するように振り向けば、やはりよく知る人物が……よく知る人物達がいた。

 

 

『ドラゴンはどうだった?』

 

「……強かった……私なんて足元に及ばない程に……終始手加減をされていた気がするよ」

 

 

『そうね、タンニーンは手を抜いていたわね』

 

『まぁ、アレでも一応はドラゴンだからね。悪魔になってもその強さは健在さ』

 

 

彼女達の言葉から、やはりあのドラゴンが手を抜いていたことを理解する。それと同時にあのドラゴンのことを知っていたということも。

 

 

「………」

 

 

『勝てなくてへこんでいるのかしら?』

 

『へこんでるんじゃん?』

 

俯いたままの私に対し2人は軽口を叩くが今の私に言い返す余裕はなかった。

 

ただ、勝てなかった。

そのことを再認識し拳に力が入っていく。

 

 

『……悔しかったのかい?』

 

「……違う」

 

先ほどの軽い感じではなく真剣な声色の阿朱羅丸の言葉を否定した。

 

『……情けない……そう思ってるの?』

 

「………」

 

クルルの言葉に黙ったまま拳に込める力が更に強くなっていく。

 

 

ピチャリ

 

 

握り締めすぎたその拳から血が滴り落ちた。

 

 

図星……なのだ。

 

 

悔しさもある。

でもそれ以上に情けない。

その想いが自分の中で膨れ上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

勝てないと八幡から言われた。

でも、それでも私は……勝ちたかったのだ。

私が私であるために。

私が女王(わたし)であるためにも。

 

弱い自分が嫌だった。

女王という駒を貰っておきながら、私は彼の期待に応えられているのか。心の中で不安だった。その想いは彼の眷属に会ってから更に加速していく。

 

自分にはユウキのような才能はない。

ユウのような天性の力もない。

フリードのように予測できない動きもない。

阿伏兎のような豪腕もない。

クロメのような剣技もない。

 

そしてリタのような強大な魔術もない。

 

 

皆がわたしにないものを持っていた。

対してわたしはどうなのだろう。

 

デュランダル

 

伝説級武装であるこの剣しか私にはないのだ。私はただこの剣を振り回すことしかできない。それ以外の力を持っていないのだ。

 

 

情けなかった。

女王であるのに最弱であることが。

恩があるのにそれを返せないでいることが。

 

彼はいつも私を気遣ってくれた。

プールの時も、修行の時も、学園の中でも、私生活の中でも彼は悪魔になりたての私を気遣い、そして優しくしてくれた。

 

 

だからこそ認めて欲しかった。

 

彼にだけではない。

同僚である彼女達にもだ。

 

初めて会った時の彼の目を私は今も覚えている。体育館に八幡が私を呼んだ時、あの時会ったユウの目だ。

 

何故こんなのを……

 

そういった目だった。

 

無論今では彼がそう思っていないのは知っている。でも、時折思ってしまうのだ。彼らが普通に接してくれるのは、八幡から言われたからではないかと……

 

心の奥底では私が女王であることを蔑んでいるのではと……

 

 

そして、それはユウに限った話ではないのでは………と。

 

 

 

 

だからこそ勝ちたかったのだ。

勝って胸を張りたかった。

 

私が八幡の女王であると。

証明したかった……

 

 

でも私は……

 

 

 

 

 

『弱い……なんて思ってるなら勘違いも甚だしいわよ』

 

『そうだね、傲慢にもほどがあるよ』

 

「え?」

 

 

ふと沈んでいた顔が上がり目の前の2人が視界に入る。瞬間、自分の身体が硬直する。何故かわからない。でも間違いない。この2人は今…….

 

 

 

 

 

 

怒っていた。

 

 

 

 

『はぁ、どうしてこうもわかってないのが多いのかな』

 

『ギャスパーと同じね』

 

『全くだよ』

 

 

そんな怒りのオーラを出しながら、2人は呆れたように語り合っている。

 

わからなかった。

何故2人が怒っているのか……

 

『あのねぇ、ゼノヴィア。ハチやハチの眷属を舐めすぎだよ』

 

『そうね、ついでに言うなら私達のことも舐めてるわね』

 

「そ、そんなことは『あるよ(わ)』……っ⁉︎」

 

彼女達の言葉を否定しようとするが、2人の声に遮られビクリと身体が揺れる。

 

 

『修行を始めて1ヶ月、それだけの期間でドラゴンに勝てると思ってるなんて傲慢もいいとこだよ』

 

それはわかっている。

それでも私は……

 

『そして何よりもみんながあなたのことを心の中で蔑んでいるなんて考えを持つのもいただけないわね』

 

ドクンと心臓が跳ね上がる。

どうしてわかったのか……

なんで?と口に出したいが出せずにいた。

 

『自分が弱いからみんなに認められない』

 

『他者と比べ自分に才能がないと決めつけて沈んでいく』

 

『そうして勝手に落ち込み』

『勝手に腐っていく』

 

そんな行為を……

 

『『人は不毛という』』

 

 

 

その言葉に思わず声をあげたくなる。

 

知ったようなことを言うなと。

 

初めから才能がある存在が

 

初めから強き種族が

 

弱い自分について知ったようなことを…と

 

 

しかし、その言葉が出る前に彼女の前に来た阿朱羅丸が私の頭を叩いた来た。

 

痛い。

 

精神空間でも、痛いものは痛い。

 

 

『知った口を…と言いたそうだね。でも、それはゼノヴィアにも言えることだよ?』

 

 

何……を

そう言おうとすると阿朱羅丸は少し距離を取り指を弾いた。

 

 

ピシっ

 

 

空間に亀裂が入り、そこからある光景が見えて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈しっかし、嬢ちゃんは気持ち良さそうに寝てるねぇ〉

 

〈アレだけの力を使ったんだから当然ね。全く力の使いすぎで倒れるなんて、タンニーンが本当に敵なら死んでたわよ〉

 

〈よく言うわねリタ。ゼノヴィアが倒れて1番慌ててたのあんたじゃない〉

 

〈ひゃひゃひゃ、全くだ〉

 

〈リタ、慌ててた〉

 

〈んなっ!?わ、私は別に慌ててなんかないわよ!〉

 

〈リタ諦めた方がいいよ。誰がどう見ても慌ててたから〉

 

〈リタは八幡と付き合いが長いだけに似てるからねぇ。敢えて憎まれ口を叩かれるようになろうとするところとか〉

 

〈クロメにユウキまで!?違うわよ!誰があんな不完全な技を撃つような子を心配してなんて〉

 

〈誰も心配してなんて言ってないわよ〉

 

〈っぁ!?〉

 

 

 

〈おいおい、墓穴にも程があるだろぅ。それよか不要な意地なんて張るもんじゃねぇぞ。お前さんも見てただろあの技。コイツァ大した奴だよ〉

 

〈そうね。本当に大した子よ。初めて会った時とは大違い。自分の見る目のなさに軽くショックを受けたわ〉

 

〈それ、ユウも同じ……ゼノヴィア強い〉

 

〈ひゃひゃ、そうだな俺が会った時なんて雑魚もいいとこだったんだぞ?正直1ヶ月でここまで化けるなんざ、並大抵の努力じゃねぇ〉

 

〈うん、ゼノヴィアは頑張ってる〉

 

〈八幡が言ってた通り、ボク達もうかうかしてられないね〉

 

〈……わかってるわよ。この子のアレが凄かったことくらい。でも、あんな無茶な技やり続けたらこの子がもたないじゃない……このバカと同じようにいつまでも無茶し続ける〉

 

〈お前さんが差し向けたんだろうが〉

 

〈だから、わかってるわよ!でも、それでも私はこの子が、家族が無茶するのは見たくない〉

 

〈親切さだけでなく、気遣いや優しさの方向もぶっ飛んでるなぁ、お前さんは〉

 

〈仕向けたのは慢心させないため?〉

 

〈けけ、おおよそやり合って負ければ、オーバーワークをやめさせるきっかけになると思ったんじゃねぇか?〉

 

〈オーバーワーク?〉

 

〈ユウキ、あんた気づいてなかったの?この子明らかなオーバーワークで疲れが溜まってるのよ?私たちが前に緩めるように言っても修行内容変えないし、リタもここで負けさせれば少しの間落ち込んで修行をやめるって考えたんじゃないの?〉

 

〈………〉

 

〈結果はその真逆。新技出て来て大変なことになっちゃったけどね〉

 

〈まぁ、その辺はこの夏俺たちが仕込めばいいだろう?〉

 

〈うん〉

 

〈まぁ、それもそうか〉

 

〈早く起きないかしら?〉

 

 

 

 

 

 

 

 

「っぁ………」

 

そこには倒れている自分を囲むように会話をする彼らの姿があった。

その光景に。その言葉に、パタリと思わず膝から崩れてしまう。

それと同時に視界が滲んで行った。

 

「私は……私は………」

 

ひとりよがりだったのだ。

彼女らは自分が思っていたような事を考えてはいなかった。

勝手に決めつけて。

勝手に判断して。

 

これじゃあ、阿朱羅丸達からあんなふうに言われても仕方ないじゃないか。

 

 

『はぁ、わかった?そもそもが間違ってるんだよ』

 

『みんなあなたのことを家族だと思ってる。そしてあなたのことを想ってるのよ』

 

 

ああ。

そうだった。

女王だとか、才能があるとか、彼女達と自分の関係はそんなものでは無い。そんな簡単な関係では無いのだ。どうして気がつけなかったのだろう。

 

『まったく。ゼノヴィアは思い込みが強いね』

 

『そうね。やっぱり考えちゃダメなタイプな』

 

酷い言いようである。と、普段なら言い返せるが、今の状況では言い返すこともできない。

 

『ということで、家長からのお話ね』

 

『おとーさーん』

 

「誰がお父さんだ、誰が」

 

びくんっと再び身体が反応した。

目の前の2人ではない、別の声が。

よく知る声が背後から聞こえたからだ。

 

恐る恐る振り返ってみれば、

 

 

「はぁ……悩みすぎなんだよお前は」

 

八幡(あるじ)がいた。

 

 

「っぁ、わ、私は…!!?」

 

驚きながらも必死に声を上げようとするが、それを遮るように彼は私の頭を撫でてくる。ふわり、と乗せられた手がワシャワシャと私の髪を乱していく。少しだけ強引で、いつもより少しだけ乱暴で、それでいて嫌ではない不思議な感触が私を包み込んだ。

 

 

「まぁ、アレだ。恩を返そうとか、自分が弱いとかそんなんで落ち込む必要はねーんじゃねぇの?まだ、悪魔になったばかりだ。俺たちゃこれまで積み重ねて来たもんがあるし、簡単に抜かれちまったら俺たちの立つ瀬がない」

 

 

それに……と彼は私の頭から手をゆっくりとおろし肩に手をかけると、こちらの目を見て優しく言葉を紡いだ。

 

 

「ゼノヴィアは弱くなんてねぇよ。阿朱羅丸やクルルが認めるくらいだぞ?お前を弱いなんて言う奴は2人の言葉を否定することになるんだ。それに……俺のゼノヴィアだぞ?弱いわけがない」

 

「っぅあ!!!???////////////」

 

 

不意打ち

 

幾ら何でも不意打ちすぎた。

 

いきなりの俺のもの宣言に私の顔が、身体が、一気に熱くなっていくのを感じた。

 

顔なんてもう真っ赤だろう。

 

「ん?どうしたボーッとして大丈夫か?」

 

「っぁぁああああ!?だ、だ、だ大丈夫かだ。も、も、も問題はない」

 

そう言って彼と目を合わさないようにしようと思わず彼に抱きついてしまう。

 

「ぜ、ゼノヴィアさん?」

 

何をやっているんだ私は!?

余計に身体が熱くなって来た!!??

 

 

だが、何故か離す気にはなれない。

いや、でも、このままじゃ………

 

 

そのあまりの羞恥心からか、私の意識はそこで途絶えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、アレ……』

 

『たぶん俺の家族的な意味合いでしょうね』

 

『でもアレだとさ……』

 

『仕方ないわ、ハチだもの』

 

『そうだね……ハチだもんね……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

「お、起きたみてぇだぞ」

 

 

「ん?」

 

目が覚めてまずはじめに目に入ったのは私の仲間(家族)だった。

 

「ようやく起きたのね」

 

「まぁあっちでアザゼル達の説明も終わる頃合いだしちょうどよかったんじゃない?」

 

「ん、ゼノヴィアおはよう」

 

 

私の目覚めに気がついたのか皆が私の周りに集まりだした。身体を起こそうとするが身体が重く起き上がれない。

 

 

「シノンが治したとはいえ相当なダメージだったんだ。今日明日は安静だな」

 

その声聞き真上を見上げれば、八幡の姿がある。そして、今の自分の体勢に気がついた。

 

 

「っぁあああああ!!!???」

 

再び身体に湧き上がる熱を感じ、先ほどまで重く上がらなかった身体を反射的に上げる。

 

 

ギシッ

 

 

傷んだ床を踏んだような音が身体からなり、鈍い痛みが入ると共に声をあげてしまった。

 

「いっつ!!!!!!!」

 

「何やってんのよあんたは」

 

そんな私の様子を呆れながら見ていたシノンが再び私に回復の魔法をかけてくれた。

 

 

 

「……にぃと夢の中で何かあった?」

 

「っあ///////そ、それは」

 

 

『はちまん?』

 

そして顔を真っ赤にする私を見た瞬間、全員が八幡の方へと視線を向ける。

 

サーっと彼が視線を逸らせば、もはや恒例ともいっていいような説教が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。起きたのか」

 

10分ほどだろうか。

絞られている八幡への説教、もとい問い詰めを止めたのはドラゴンだった。

 

 

「あ、あなたは」

 

「ふむ。しっかりと挨拶はしていなかったな。俺はタンニーン。元ドラゴンの同じ転生悪魔だ。先の一撃、見事だったぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ドラゴンの先ほどまでとは違う風格のある雰囲気にのまれつつも返事を返す。

 

「しかし、八幡。貴様どれだけの眷属を揃えれば気がすむのだ?」

 

「いや、別に俺は強い眷属を求めてるわけじゃないんだが」

 

『あっはっは。まぁ、僕がいる時点でハチの周りには強い奴が集まるようになるけどね。タンニーンもいい具合に切られてるし。ゼノヴィアグッジョブ!だよ』

 

「やはり貴様の中のやつを潰さねばどうにもならんか」

 

「おい、やめろ。それ俺も潰されるから。阿朱羅丸も煽るな。俺が潰れる。物理的に」

 

タンニーンが来たことで問い詰めから逃れた八幡だが、今度はタンニーンともめ始める。

正確には阿朱羅丸とタンニーンに板挟みにされている形だが。

 

 

そんな彼を見ていると、ようやく熱かった身体も普段通りに戻っていく。

 

でも完全に消えたわけではない。

 

暖かい。

 

心地の良い暖かさがこの空間にはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼノヴィア side out

 

───────────────────

 

八幡side in

 

 

「おーっし、んじゃそろそろいくか」

 

イッセー達への事情説明を終えたアザゼルが彼らを連れて俺たちの方へとやって来た。正直俺は疲労困憊である。

主に問い詰めと板挟みのせいで。

 

俺がタンニーンと阿朱羅丸と板挟みにあっている間、シノンに治療され続けたゼノヴィアがシノンに肩を借りつつ立ち上がるのを確認した後イッセー達へと視線を向ける。

 

彼らの顔はうかない。

 

まぁ、小猫を除いてコテンパンにされたのだから仕方のないことだが。

 

むしろ小猫はよくやったとグレモリーに褒められていた。

 

ソーナ達の方では何やら今後の課題のようなものを眷属内で話しているが、まぁ、その辺は後々しっかりと話せ。今はもう早く電車に戻って寝たい。

 

明日はセラフォルー様が来て休めないのだ。ならば今日休みたい、所なのだが、あいにくグレモリー卿に礼がしたいと呼ばれているため休めない。なのでゆっくりできる車内に1秒でも早く戻りたい気持ちなのだが……

 

 

俺のこうした願望は得てして壊されるものである

 

 

 

「にぃ、何か来る」

 

 

俺以外で最初に気がついたのはユウだった。

 

そこから他の者達も気がつき始める。

 

「何か凄いスピードでこちらに来てるわね」

 

シノンもそのなにかの方角を見つめながらゼノヴィアをいつでも庇えるように構える。

 

 

「おいおい、結構な速度だぞ!?」

 

アザゼルもまた、驚愕しながらもグレモリーやソーナ達を庇うかのように前に出た。

 

 

 

そして……

 

 

 

ドガーーーーーン

 

 

せっかく瓦礫をどかし、ここに来る前と同じ形に戻した地形が飛来した何かにより崩れ去っていく。

 

 

【っぁああ、あの……小娘ガァァァォ!!】

 

 

そうして飛来して来たなにか……

 

飛来して来た悪魔が起き上がりながら咆哮をあげた。顔には青筋を浮かべ、明らかに切れていた。

 

 

『激おこプンプン丸だね』

 

阿朱羅丸……どこで覚えて来たそんな言葉。

 

 

【ちぃ!なんだてめぇらはぁ!!】

 

 

「それ、こっちのセリフなんだけど」

 

怒声をあげながら、俺たちに気がついた悪魔は声をさらに荒げた。

 

そんな言葉に至って冷静にシノンが応える。

 

「あ、こいつ今朝ヴィザが言ってたはぐれ悪魔じゃない。確かゴライオス、だったかしら?」

 

『は、はぐれ悪魔!?』

 

リタのその一言にグレモリーやソーナ達が驚きの声をあげた。

 

「ゴライオスってーとあれか?あの巨大化する神器持ってた」

 

「ええ、確か数日前に主を殺して指名手配されてるわ。レートはSSね」

 

『え、SS!!?」

 

そのレートに思わずソーナが声をあげた。

 

まぁ、SSクラスはそうそういないからな。最上級悪魔と同列だし。

 

【その髪色、てめぇ、グレモリーか。それに堕天使もいるってことはてめぇが堕天使総督かよ】

 

ソーナ達が驚く中、眼前のはぐれ悪魔は冷静にこちらを分析し始めた。

 

グレモリーやアザゼルのことについて知っているところを見ると、ただの筋肉ダルマということではないだろう。

 

 

【ちぃ、てめえらに構ってる余裕はねぇんだ、どけ!!!】

 

「リタ、こいつのはぐれになった理由は」

 

「ああ、それは【弱ぇやつを殺して何が悪い!】……だそうよ」

 

「はぁ……めんどくせぇな」

 

とりあえず、主殺しの理由を聞こうとすると本人があっさり吐いてくれた。できればまともな理由なら助かったんだけどな……

 

「とりあえず、見逃すのは無しだ」

 

そう言って俺は構えた。

いや、俺だけではない。

ユウキ達もグレモリーやソーナ達を庇うように前に立つ。

 

【ああ!なんだてめぇは!?聞こえなかったのか?俺は急いでんだ】

 

これから来るであろう衝撃に備えるために。

 

 

【邪魔するんじゃぎゃぁぁあああ】

 

 

そしてその時は来た。

 

突如飛来した斬撃の嵐がはぐれ悪魔に叩き込まれていく。俺たちのことがムカついていたのか知らんが、彼女の存在を……彼女から逃げていたということを意識から外したのが運の尽きである。

 

リタは言っていた。

 

今朝はぐれ悪魔討伐の依頼があったと。

 

そして、こいつはここに吹き飛んで来た。

ということはうちの誰かがこれをやったことになる。

 

基本的にこうした依頼は俺の眷属しか動かない。そして現在の俺の眷属において、今こうした依頼で自由に動ける奴は1人。

 

そして、ここに向かって来ていた、もう1つの気配とも一致する。

 

 

グレモリーやソーナ、及びその眷属を抱え、少し離れたところまで飛び退いた俺たちは静かに合掌する。

 

ゴライオス。

確かに巨大化の神器は強力だろう。

しかし、彼女の前ではそんなもの意味をなさない。

 

ここに吹き飛んでまだ死んでいないということは、彼女は神器を使っていなかったのだろうが、今の一撃は神器を使った攻撃(それ)である。そして、恐らくは今ので既に重症だろう。

 

 

そして、彼女がそれを出したからには。

 

肉片のかけらも残らないだろう。

 

それほどの巨大な力。

 

ユウ達のように特別な種族ではない

純粋な人間である。

 

 

しかし、彼女の祖先はかつて英雄とも言える偉人だった。

 

 

スタン、と岩の上に1人の少女が舞い降りる。

 

紅蓮の瞳と髪を持つ少女は独特な形の戟を片手にふぅ、と息を吐く。

 

 

その光景に彼女を知らない者達は目を点にしながらその光景を見つめる。

 

まぁ、俺らが動かなかったらグレモリー達も巻き添えで木っ端微塵になってた可能性があるので、その反応は仕方がないといえば仕方がないのだが。

 

そんな、彼女達を他所に赤髪の少女はこちらに気がついたのかチャームポイントである二本のアホ毛、もとい触覚……のような毛をピクピクと反応させながらこちらへと飛んで来る。

 

 

 

「ん……おにいちゃん………久しぶり」

 

俺の前まで来て止まると俺同様のアホ毛(ただし数2本)が撫でろと言わんばかりに高速でピクピクと動く。

 

そんな義妹の頭を俺は静かに撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




わかる人にはこの赤髪の少女わかる。

というかこのキャラを知ってる人ならば、即わかってしまうレベルで特徴を書いてしまった。

感想お待ちしてます。

次回はようやくグレモリー邸につきます。
ではでは




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温泉というなの暴露場




評価の欄の言葉でカチーッンとくる言葉を受けて勢いで書き上げた。ムシャクシャしたが反省はしない(u_u)


ということで本日もまた投稿。

それと謝る点を2点。

1つはグレモリー邸まで行かなかった(u_u)
あと知識はアニメと他の方のSSのみなんでここから少しずつ原作とずれてくるかもなんでご了承を。

2つ目は前話にて最後に出て来た眷属の口調に誤りがあったため微妙に修正しました。

このキャラ出すこと決めてたけれど、口調があってるかやや不安もあるため、口調が違う、などあればご指摘お願いします。随時直すので(u_u)


ではではどうぞ。





 

 

 

「ん……おにいちゃん………久しぶり」

 

 

ユウと同じで口数や感情の少ない義妹はそう言ってチャームポイントであるニ本のアホ毛をピクピクと高速で動かしている。

 

それはまるではやく撫でてと催促しているかのようであった。

 

そんな彼女の頭を静かに撫でる。

 

すると彼女の頬が髪や瞳と同じく紅色に染まっていく。

 

会うのはリタと同じく久方ぶり。

こうして彼女の頭を撫でるのも久方ぶりなのである。それ故にか、普段からあまりそう呼ぶなと言ってるのだが、気が緩んだ彼女は軽い爆弾を落とした。

 

「ん……ご主人様の手……気持ちいい」

 

 

『ご主人様!?』

 

先ほどまで固まっていた彼女の事を知らないメンツが彼女の発言に大きく食いついてきた。

 

 

 

「……恋」

 

「ん?」

 

 

そんな恋に対して注意しようとするが当の本人は漏れ出てしまった愛称に気がついていないのかこちらを見上げてくる。

 

 

どうしたの?と表情が言っている。

 

口数も感情も少ない彼女だが、わりと長い付き合いであるということと、彼女以外でもユウのように似たような者がいるためか表情から言いたいことや感情が読めてしまう。

 

 

先ほどの一撃を繰り出したとは思えないほどの無垢な笑顔……

 

それはギャスパーの時と似た

保護欲を大いに刺激するものだった

 

 

 

 

 

守りたいこの笑顔

恋を咎めるなんてできない

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……恋。あんまり知らない人がいるところで八幡のことをそう呼ぶのはやめなさいっていつも言ってるでしょ」

 

そんな俺の心情を察してか、俺の代わりにシノンが注意を促した。

 

「……?」

 

「ご主人様って声に出てたわよ」

 

「……あ」

 

どうやら本当に言葉に出していたことに気がついていなかったらしく俺やシノン達を交互に見つめている。

 

マジ可愛い……

 

 

「………」

 

そうしてしまいにはどうしていいか分からずこちらをずっと見つめてくる。

 

今までも何度か注意されているせいかその眼はオロオロとしており、どうしよう、と俺に訴えかけてきていた。

 

 

「うん……今度から気をつけよう。うん。次から気をつければ大丈夫だぞ恋」

 

そう言って彼女の頭を先ほどよりも強く撫でる。瞬間、彼女の顔に笑顔の花が薄っすらとだが咲いた。

 

 

うん。やっぱり咎めるなんてできない

 

 

「はぁ……あんたは……」

「やっぱり最大のライバルは恋かな……」

「ズルイ……」

「あんの……バカが…」

「ジーーー」

「八幡くん……」

 

なんかうちの女性陣とソーナが何か言ってるが気にしない。久々の恋成分である。

義妹を愛している俺からすればマッカンと同じくらい必要不可欠な成分なのだ。

 

ならば、周囲の目など気にするものか。

 

「彼女はだれなんだ?」

 

そんな中シノンに担がれているゼノヴィアがようやく先の爆弾発言から戻ってきたのか疑問の声をあげた。

 

「ああ、こいつは【ガァァアアア】なんだ、まだ動けたのか」

 

そんな彼女の問いに答えようとした時背後から雄叫びが上がる。

 

振り返ってみれば、傷だらけになりながらも先程とは異なり、先程帰ったタンニーンと同じくらいの大きさに膨れ上がっていくはぐれ悪魔の姿があった。

 

しかし、その身体中には先の攻撃でついたであろう無数の傷が刻まれており、正直ノックアウト寸前である。

 

【ゴォォオオガァァアアア!!!】

 

もはや意識がないのか、或いは暴走状態にあるのか、もはや人語を話さずこちらへと一直線に向かってくる。

 

 

その事態に先ほどまで固まっていたソーナ達も迎え撃とうと迎撃態勢に入る

 

 

しかし……

 

 

【ガ!?】

 

 

その行為は無駄に終わる。

 

 

【ガ、ガ、ガ!!!?????】

 

 

先ほどまで俺に撫でられていた恋によって。

 

 

彼女は先ほどまで地面に差していた戟をいつの間にか片手に持ち掲げていた。

 

 

ズシャァァン

 

そして彼女がその戟をもう一度地面にさすと同時にはぐれ悪魔は地へと崩れ落ちていった。

 

 

その表情は彼女が時折見せる不機嫌さを物語っていた。自意識過剰と言われるかもしれないが、確かに彼女の顔はこう言っていたのだ。

 

 

久々の時間を邪魔するな……と

 

 

そんな一瞬の出来事にソーナ達は再び固まってしまう。中でも騎士である木場や巡は目を見開いていた。まぁ、恋の斬撃が騎士の能力を持ってしても一切見えなかったらそうなる。しかし、そんなことで驚いていては彼女とはやっていけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋の実力は俺の全眷属(・・・)内でいえば中堅に位置している。

 

表向きの2強のヴィザとユウ。

本当の意味で最強の有希。

その3人よりも劣るが汎用性に優れるシノンと異常な速度で成長を続けるユウキ。

 

 

そんな猛者達がいれば実力が中堅であるというのはなんらおかしいことではない。

 

しかし、問題を挙げるとするならば実力的には上記の者達の方が上にもかかわらず模擬戦では恋が無敗を誇っているということだ。

 

阿朱羅丸曰く。

恋はだれよりもやりにくい相手だそうだ。

 

実際、魔力量も、戦闘技能も、才能も殲滅力もリタや阿朱羅丸によって数値化すれば、恋は中堅である。しかし、彼女は負けないのである。

 

それが、何故なのか詳しい理由はわからない。だが、1つ言えるのは……

 

 

悪魔になったとしても、彼女は英雄の子孫であるということだ。無論彼女自身も眷属になってから修行はするようになっている。

 

 

だが、それを差し引いたとしても、彼女の無敗の理由はそこにある気がしてならないのだ。

 

 

 

 

まぁ、最も………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事を終えたからか、こちらを見ながら褒めて褒めてと言わんばかりに、再度アホ毛を高速で動かしている彼女をみれば、そんな些細なことは気にならなくなるのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久々の再会と仕事終わりというのも相まってか、いつも以上にアホ毛を動かす恋に犬耳と尻尾が見えた気がしました まる

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

「えっと……ゼノヴィア・クァルタだ。これからよろしく頼むよ」

 

ところ代わり車内。

 

 

 

 

あの後、先の戦闘により固まっていた奴ら(恋の事を知らない奴ら)には恋もまた俺の眷属であると説明した。それなら挨拶をとグレモリー達が出てくれば恋は彼女らを無視して小猫を撫で始めた。曰く、小動物っぽいとのこと。

 

まぁ、猫だしな………

 

 

戸惑う彼女らをよそに小猫をもふり続けた恋は満足したのか俺に近づいてきたと思えば背中に張り付き動かなくなる。

 

断固として彼女達と挨拶をする気は無いようだ。

 

やれやれと嘆息を吐きながらも挨拶は恋の気が向いたらと言い列車に戻ることとなったのだ。

 

その時小猫が完全にフニャけた顔をしていたのは問題ないはずだ……たぶん。

 

 

 

とまぁ、列車に戻ったわけだが、恋は絶賛ゼノヴィアを観察中である。

 

ゼノヴィアは戸惑いながらも挨拶をするが、それをスルーし尚も観察を続けている。

 

 

次第にオロオロし始めるゼノヴィアだがこればかりは助けられない。

 

ある種これはうちでの試練のようなものである。まぁ、先ほどまで不安を抱えていたゼノヴィアにはきついような事を言うことになるが………

 

しかしこれはほぼ全員が味わってきている。

 

 

恋は中々人に心を開かない。

と言うよりは人をなかなか信頼しないと言った方がいいだろう。

その警戒心の強さはプロぼっちである俺ですら驚くほどである。

 

故に俺の眷属は総じて一度は必ず恋との間に壁を生じさせる。信頼を得れるまで、彼女は決して相手に心を開いたりしないのだ。

 

 

とはいえ、一度信頼を置いた相手は家族同然に扱い、普段の寡黙な様子からは想像ができないほどの純真無垢で思いやりのある心優しい彼女の姿を見せてくる。

 

さらに言えば好意を持った相手にはそれこそ忠犬の如き深く一途な慕情を向けてくる。

 

 

ソースは俺とシノン。

俺かシノンが自宅にいれば必ずと言っていいほどどちらかの後ろをついて回っている。

 

 

とまぁ、そう言うことなのでゼノヴィアには頑張れと心の中でエールを送りながらも眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

そう、眠りについたのだが…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早くね?」

 

「ええ、早いわね」

 

グレモリー領に、シトリー領に行く前に汚れた身体を洗うため温泉のある駅で降りることとなったようで眠りから起こされた俺は目の前の光景に目を見開いた。

 

というか一瞬で目が覚めた。

 

 

「あ……れ、恋そこは………」

 

「…………」

 

そりゃ眼が覚めるだろう。

 

あの恋がゼノヴィアを撫でているのだ。

それも身体中。

しかも何故か犬耳と犬尻尾をゼノヴィアがつけて。おい、それどうした。というか尻尾はどうなってるんだ……

ってかどうしてこうなった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞けば俺が寝て30分ほど経ってからだろうか、恋は突如動き出しゼノヴィアの頭を撫で始めたという。

 

そうして撫で始めてから10分。

戸惑うゼノヴィアを他所に撫で続ける恋の口から犬……というワードが出てきたと思ったらゼノヴィアの頭だけではなく至る所を撫で始めたという。

 

次第に顔を赤く染め始めるゼノヴィアを見たフリードが恋に犬耳と特性犬尻尾の札を恋に渡せば即座にそれをゼノヴィアへと使いもふり続けたという。

 

 

その様をフリードは激写し始め、恋もまたそれに呼応するかのようにそのもふりスキルを全開にゼノヴィアをもふっていった。

 

 

そして現在にいたる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「犬っぽかったのか?」

「犬っぽかったみたいね」

 

『意外なところで気に入られるものだね』

『それもまた才能じゃない?』

 

俺とシノンの言葉に阿朱羅丸とクルルが反応する。本当に意外な才能である。

というか、眷属内で最短記録じゃねぇか?

とりあえず恋、その辺にしとけ。後フリードカメラ没収な…………

 

 

その後、解放されたゼノヴィアはとんでも無く艶かしい状態になっていた為、シノンやユウキ達に支えられながら下車をしていった。

 

 

 

 

結論。

 

比企谷恋のもふりの技術は義兄譲りである

 

 

 

 

追記

 

満足したのか恋の顔は満たされ、何処か誇らしげだった。

 

 

 

 

 

 

八幡 side out

 

───────────────────

 

シノン side in

 

 

 

 

「はぁ……今日は……中々得られない体験が多いな……」

 

チャプンと湯に浸かったゼノヴィアはダラ〜っと身体を伸ばし疲れを流していた。

 

タンニーンとの戦闘よりも恋による疲れが大きい気がするのは彼女だけで無く私達も感じていることだ。

 

ほら、眼閉じなさい。

 

「ん……」

 

そんな彼女の様子を視界に入れながら目の前にいるゼノヴィアを疲弊させた人物……恋に向けてお湯をかけて行く。それと同時に燃え盛る焔の様に紅い彼女の髪に着いた泡が流れ落ちていきその髪本来の輝きが戻って行く。

 

2、3度洗い流せばすべての泡が流れ落ちる。それに合わせて手櫛で彼女の髪に着いた水分をとっていけば、ピュンと彼女のアホ毛が力を取り戻したかのように跳ね上がった。

 

(まだ濡れてるのに飛び出すってどんだけ強い髪の毛なのよ……)

 

彼女の髪を洗う度に思うことを頭によぎらせながら終わったわよと呟き立ち上がる。

 

その言葉を聞いた彼女もまた立ち上がれば私の後を追ってきて、共に湯の中へと身体を沈めていった。

 

 

 

「はぁ………ほとんど動いてないのに今日は疲れたわね」

 

まだ昼の時刻にもかかわらず1日働き通した様な疲れを私自身も感じながら深く息を吐いた。

 

 

「シノン…….つかれた?」

 

そんな私の様子を見てか恋はこちらを覗いてくる。その顔には分かりにくいがこちらを心配している色がうかがえた。

 

 

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

 

そういって微笑みかければ彼女は無言で目をそらし、やがてその瞳を閉じ湯に身を任せ始めた。

 

 

相変わらずの寡黙さである。

私達のことを信頼しているのはわかっている。それでも八幡と比べればその差は歴然だ。本当に彼女は彼によく懐いている。確かに他の眷属と比べれば自分にも懐いている方だが八幡とは比べるまでもない。

 

そんな彼女がある意味八幡に1番近いのだ。正直あの近さは羨ましい。

 

 

 

そんなことを思いながら目を周囲へと移せばグレモリー眷属やシトリー眷属が和気藹々と語り合っていた。その中にはユウキやクロメもいる。

話し合いの中でじゃれあい始め互いの身体を弄りあっているがスルーしよう。

 

 

リタはその中にはおらず少し離れたところで小猫と2人で温泉に浸かりながら幸せそうに足を伸ばしていた。

ほにゃーと緩むその顔は珍しい。

小猫もまた同様である。

 

 

そんな光景を見ていれば知らず識らずのうちに私は笑っていた。

 

楽しいと心の底から感じていた。

 

 

すぐそばには妹の様な……ペットの様な少女がいて、周りには大切な仲間がいる。やりがいのある仕事があって、帰る場所があり、家族がいる。そして何よりも大切な人がいる。

 

 

いつも最後には私が呆れながら止める役になりつつも彼女らとの、彼らとの馬鹿騒ぎはその実、私は大好きなのだ。

 

 

 

私は1人ではないと実感できた。

かつて震えていたこの手の震えはもう無い。

1人恐怖に苛まれていたあの時が嘘の様に、今この瞬間が満たされていた。

 

 

この瞬間がずっと続いて欲しい。

本心からそう思える。

 

あの時私を助けてくれた彼がいたからこそ今こうした瞬間があると思うと自身の中にある思いが溢れ始め次第に顔が熱くなっていく。

 

それは決して湯に浸かっているのが原因ではない。

 

そんな私の耳に彼の声が聞こえてきた。

 

ピク、とその声に反応し湯の中を移動し始める。私が移動するのに気がついたのか恋もまた着いてきた。

 

 

着いた場所は温泉の端。

 

ただ、この温泉は変わった作りで出来ており、二階が女子風呂、一階が男風呂といった様で、ここから八幡たちの声が遮蔽物なしで聞こえてくる。

 

「おにいちゃん?」

 

恋も聞こえてきたその声に反応し耳を澄ませる。なんだか盗み聞きしている様で申し訳ないが申し訳なさよりも好奇心が勝ったのだ。

 

 

『はぁ、このままここで寝れねぇかな』

 

 

相変わらずジジくさいことを彼は言っていた。そんな彼に対して男湯に浸かる面々はやれやれと言った風に声をかける。

 

 

『にぃ、それやったら、のぼせる』

 

『お前さん……本当に高2か?』

 

『うるせーぞ駄元帥。てめぇらに巻き込まれたせいで疲れてるんだ』

 

 

『いや、むしろ後半は僕たちが巻き込まれてたよね』

 

 

『それよりも八幡!てめぇやっぱりハーレム築いてるじゃねぇか!』

 

『癪だが兵藤に同感だ!てめぇ会長だけにとどまらずあんな美人に囲まれて!』

 

『だから何度も言ってんだろ、あいつらは家族だっての』

 

『いやいや、ハチよ。そうは言うがよ実際のところどうなんだ?』

 

『あ?』

 

『そうっすよ旦那。あんだけ美人な眷属がいるんだ。何かしら思うところはあるでしょ?』

 

 

 

そんな話をしている中で阿伏兎とフリードが唐突に話を切り替えていった。

 

 

『思うところねぇ……』

 

『おお、そうだなここは風呂場。ちょうどいい機会だ。裸の付き合いってことでいっちょさらけ出してくれよ』

 

『んでだよ』

 

『そんな顔すんな。ほら先ずはイッセーからだ』

 

『俺っすか!?』

 

 

 

 

それは非常に気になるものだ。

 

兵藤くんはどうでもいいけれど。

八幡が私達のことをどう思っているのか。

なかなか聞けない素の部分が聞けるかもしれない。そう思い聴覚へと意識を集中させようとして私は気がついた。

 

 

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

 

 

いつの間にか私や恋以外の女子も集まっていることに。と言うかソーナあんたどんだけ必死なのよ……そんなに真剣な顔して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから始まった男達の語り合い。

兵藤についてはスルーさせてもらう。

と言うかアザゼル。

あんたは女子の胸をなんだと思ってるのよ……ボタンとか……氷漬けにするわよ……

 

 

 

『んじゃ、次はてめぇだな八幡』

 

『俺は話すなんて言ってねぇぞ』

 

『いいじゃねぇかハチ』

 

『そうっすよ旦那』

 

『にぃ』

 

〈〈いいんじゃないのハチ?〉〉

 

 

『なんでお前らまで出てくるんだよ阿朱羅丸、クルル』

 

 

はぁ、と八幡がため息を吐くのが聞こえた。

どうやら諦めた様だ。

 

そのため息を聞いてたソーナや私達は先ほど以上に感覚を研ぎ澄ませた。

 

 

『そうだなぁ……といってもあいつらは本当に家族だからな』

 

『それだけじゃねぇだろぅ。ほれ先ずはリタあたりはどうなんだ?かなり長い付き合いだろう?ちなみに家族ってこと以外でな』

 

『なんでやけに積極的なんだよ阿伏兎……リタか……リタはそうだな……一言で言えば変人だな』

 

『………』

 

 

彼の言葉に男湯で、そして女湯でも静寂が訪れる。

私達の近くではふるふると震える少女がいた。あいつ……とかいって歯を食いしばっている。

 

 

八幡あんたデリカシーがないわよ……

 

 

 

『へ、変人って?』

 

『三度の飯より研究。娯楽より研究。研究を最優先に動く変人だろ』

 

『お、おい、ハチよぉ『だけど』んん?』

 

『あいつには感謝してる。昔からなんだかんだ言いながら俺を支えてくれた。眷属になってくれって言った時なんて嫌味を言いながらも眷属になることに一切の抵抗無くなってくれた。俺が困っているときはなんだかんだ言いながらいつもさりげなく手助けしてくれた。俺がわからない時はいつだってあいつが教えてくれたんだ。』

 

 

『………』

 

『だからあいつは俺にとって大切な家族だ。あいつが辛い時は俺が支えてやる。今までずっと支えてきてくれたんだ。あいつが崩れそうになったらすぐに助けてやるさ』

 

 

 

「……馬鹿八幡…….」/////

 

 

先の怒りはどこに言ったのだろうか。

リタは顔を先ほどとは違う意味で赤くし湯船へと沈んでゆく。

 

 

 

 

 

『んん、そうか……ならユウキはどうだ?』

 

『ユウキは……小悪魔か?』

 

『小悪魔ぁ?』

 

『ああ、なんつーか、たまにあざとさを感じる。まぁ、そこがあいつの可愛いとこでもあると思うんだが』

 

 

「か、かかか、可愛い//////」

 

 

2人目撃沈である。

リタを追ってユウキも湯船へと沈んでいった。

 

 

 

『なら、恋は?』

 

『天使だ』

 

『は?』

 

『だから天使だ。それにギャスパーもだな。あの2人は天使、異論は認めない』

 

『いやいやいや、どういうことだよ!?あいつらは悪魔だろうか!??』

 

『うるせぇ、恋とギャスパーだぞ!?あの可愛さはもう種族なんて超えてるわ!というかあいつらに比べたら他の天使達なんてちゃんちゃら可笑しいわ!!!』

 

 

相変わらずね……

 

「……///」

 

「あわわわわわ////」

 

恋は相変わらず無言だけど顔赤くなってるわね。ギャスパーは耐えきれず沈んでいったけれど……

 

 

『んで、クロメとかはどうなんだ?』

 

『あいつは将来美人になると思うぞ?髪も綺麗だし。お菓子を食べてる姿も可愛いが、普段仕事モードの時なんかはキリッとしてるしな。仕事が早くて助かってるし。なんていうか……娘?みたいな感じだと思う。最近肩を揉んでくれるしな』

 

 

おとうさん………

娘みたいって………

 

「将来……美人……えへへへ」

 

 

まぁ、クロメがいいならいいけど……

 

 

『小猫ちゃんなんてどうなんだ?』

 

『うーん。恋達とは違った感じの妹?か。一緒に甘いもの巡りする仲だが……まぁ、一緒にいて和む相手ではあるな。なんつーか本当に子猫みたいで可愛いし』

 

「…一緒にいると和む……可愛い…/////」

 

連続撃沈が止まらないわね。

 

 

『旦那、ゼノヴィアやソーナはどうなんですかい?』

 

 

『あの2人か?そうだな。ソーナは幼馴染だな。昔は可愛くて、今は綺麗になって、ああ、セラフォルー様について唯一共感できる理解者でもあるな…………ゼノヴィアは新しい家族だ。さっきの戦いでもあいつは新しい技を出してた。こんなに早く成長するとは思ってなかったよ。ただ、ユウキ達以上に迫ってくるのは勘弁してほしい』

 

『どうしてだよ?美人に迫られるのは役得だろ?』

 

『美人だから問題なんだろ…….どれだけ理性が揺さぶられてると思ってんだ……』

 

 

へぇ…….揺さぶられてたの

 

今度私もやってみようかしら

 

「ハチくん……/////」

「び、美人か//////」

 

 

はぁ、ほぼほぼ全員撃沈ね。

 

でも、こうしてみるとみんな幾ら何でも簡単に落ちすぎじゃないかしら。

 

好きなのはわかるけど……

でも、もうちょっと表情を隠すとかあるんじゃ

 

『んじゃラストか?シノンはどうなんだ?』

 

ビクン

 

その言葉に私の体が反応してしまう。

 

 

『シノンか……』

 

その声は先ほどまでとどこか違っていた。

 

『おいおいどうしたよ?ここまで来て隠すのはなしだろ?』

 

『いや、まぁ……そうだな……母親みたいな感じ……なのか?』

 

はは……おや………?

 

 

『ははおやぁ!?』

 

『ああ、俺は実の両親なんてほぼいないも同然の様に生きてきた。だから時々思うんだ。優しくしてくれるシノンが。心配して時折俺に対して怒ってくるあいつを見てると思っちまうんだ。母親ってのこういう感じなのかな……って』

 

「『………』」

 

 

『だから、なんつーか。わかんねぇんだよ。俺自身も。あいつのことは家族だし、大切に思ってる。あいつも弱いとこがあって俺はそれを守りたいと思ってる。それでも、あいつの優しさに触れると時折甘えたくなっちまうんだよ……』

 

 

そういう八幡の声色は先ほどとは違い羞恥を含んでいるものだった。

 

そしてそれを聞いた瞬間、理解した瞬間、急激に熱が私を襲う。

 

「っぁあ///////」

 

 

 

そうして勢いよく私は湯船へと沈んで言った。

 

 

「ふぅぅぅううううう」

 

この熱は私の氷を使ってもしばらく冷めることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後アザゼルにより私たちが聞いていたことが八幡にバレ、彼の忘れろーーーという声が女風呂にまで木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

シノン side out

 

───────────────────

 

八幡 side in

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぉぉぉぉおおおおお」

 

「にぃ、元気出す」

 

「おにいちゃん……」

 

 

風呂から上がった俺は絶賛頭を抱えて悶えていた。どうしてあんなことを言ってしまったのだろうか。疲れてて気が緩んでしまったのか、普段なら言わないであろうあんなことを言ってしまった上に本人達に聞こえていたなんてなんて拷問だ………

 

 

そんな悶えている俺を慰める様に義弟と義妹が俺の背をさすって来てくれる。

 

 

弟と妹の優しさが心にしみる。

 

でもその優しさが今は痛い………

 

 

少し離れたところではうちの女性陣や小猫、ソーナが顔を赤く染めながらこちらを見ている。昔の俺ならあんなことを言った俺に対して怒っているんだと割り切れたが、今の俺にそんなことはできない。というかそんな風に言ったらそれこそコキュートスに落ちた方がマシなんじゃないかというくらいの地獄にあうだろう。

 

 

だからこそ、余計に悶えたくなってしまう。

 

 

 

「ふぅ……ほら、悶えてないで早く行くわよ。もうすぐ列車の発車時刻になるんだからみんなももう行っちゃうわよ」

 

そう言ってシノンがこちらへと寄ってくる。

顔を再びあげれば他の奴らは確かに駅へと歩き始めていた。

 

「お、おう……」

 

先ほどのことがあるのでどうしてもぎこちない返事になってしまった。

 

「ふ……ふふふ」

 

「な、なんだよ」

 

俺の返事がおかしかったのか笑い出すシノンに羞恥を感じながら問いかける。

 

「別になんでもないわよ」

 

「……」

 

その返事に少しムッとなりながらも立ち上がり歩き出す。その俺の後ろをユウと恋が付いて来た。

 

「ねぇ、八幡」

 

ふと前を歩く彼女が俺に背を向けたまま声をかけてくる。

 

「なんだよ……」

 

「私、やっぱりあんたのことが好きよ。どうしようもなくね」

 

「っ//////」

 

突然の言葉に思わず顔が赤くなって行く。

それを実感できた。

 

「あんたが私たちのこと大切にしてくれるのは知ってる。だから私は別に誰か1人を選んでくれなくていいと思ってるの。正妻とかも含めてね。だって……」

 

そう言って彼女は振り向いてくる。

 

その顔を紅くさせながら。

満面の笑顔とともに。

 

「悪魔なんだし、1人に絞る必要なんてないじゃない」

 

そしてその笑みは本当に悪魔らしかった。

 

その笑顔に先ほど以上に体温が上がって行く。まるで再び風呂に入っているかの様に身体が熱くなっていった。

 

 

「まぁ、そういうことよ。気長に待つわ。あんたの覚悟が決まるまでね」

 

 

そういうと彼女は早足でかけて行った。

 

その時見えた髪から覗く耳が紅くなっているのに俺は気づく。

 

とんだ、仕返しもあったもんだとぽりぽりと頬をかきながら俺もまた歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おにいちゃん……」

「にぃ……」

 

 

その様子を見ていた弟(戦車)と妹(英雄の子孫)が拗ねて駅まで俺の腕をつねり続けて来たのが地味なトラウマであるのは余談である。

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?

書いてて個人的に思ったのはあまりにも視点を移さない方がいいかなー?とか個人的には思ったんですが、見てくれる方が読みにくければ次回あたりからできる限り視点を固定していきます。

今回は若干シノン回な感じでしたかね?


ではでは感想お待ちしております(u_u)

次回こそグレモリー邸にいく………


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ファンだそうですよ

履歴書量産の合間にできた一品。

どうぞご覧くださいませ(*´∀`*)






 

 

 

 

「ふわぁーーー、あーーねむ」

 

列車に乗り直した後、わりと早めにソーナの領に着き彼女達と別れをすませると、直ぐに眠りについていた俺は、ようやく着いた目的地の駅へと降り立つと盛大なあくびをかく。

 

「んーー」

「んん、にぃ、おはよう」

 

その両サイドでは俺と共に眠りについていた恋とユウが伸びをしながらアホ毛と獣耳をピクピクと動かしていた。

 

 

「行くわよ」

 

魔王領に向かうアザゼルと別れたグレモリーは自身の故郷に来たからか、普段よりも落ち着き余裕を持っており、荷物を片手に駅の外に向けて歩き始めた。その後を俺たちも続いて行く。

 

 

そして、グレモリーやその眷属達が駅から出たその瞬間

 

『リアスお嬢様お帰りなさいませ』

 

外に待機していたメイドを筆頭に、領民達が多数集まっており一斉に声を上げ始める。

 

湧かんばかりの声に臆病なギャスパーやアーシア、そしてこういう場が初めてのゼノヴィアがビクンと身体を揺らした。

 

 

「こ、これって部長の送り迎えですか!?」

 

俺たちの前方ではその視線と声を直に受けたイッセーが目を白黒させながらグレモリーへと問いかける。

 

 

「ええ、そうよ。馬車が用意してあるはずだから早く乗りましょう」

 

そんな視線に慣れているのか、混乱するイッセー達を他所にリアスは荷物をメイドに持たせ、笑顔で馬車へと向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー達もできる限り粗相はすまいと、彼女の後を追うように歩いて行くがそれは俺達が駅から出た瞬間止まることとなった。

 

 

 

 

 

 

『っえ!?』

 

 

 

 

それは誰の声だったのだろう。少なくとも俺たちが来ることを知っていたメイド達からではないだろう。

 

しかし、その声が上がると共に先ほどまでの割れんばかりの歓声が時が止まったかのように止んでしまった。

 

 

「……え?な、なんだ???」

 

 

いきなりのことに先ほど以上に混乱するイッセーが周囲をぐるぐると見回す。しかし、それはイッセーだけではない。グレモリー眷属や先ほどまで慣れている様子だったグレモリー本人も戸惑っていた。

 

こちらでもゼノヴィアが俺たちと周囲の領民を何度も見ている。

 

そうしてたっぷりと静寂の期間が生まれた後に…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『キャーーーーーー!!』』』

 

悲鳴……ではなく歓声が上がった。

 

それも先ほどのグレモリーとは比にならないくらいの声量でだ。

 

君たちグレモリー領の領民だよね?

 

 

「あれ、八幡様じゃない!!?」

「ええ、八幡様ね!!!!?」

「シノン様もいる!?お姉様!!!」

「ユウ様も!可愛いーー!!!」

「恋様もよ!」

「阿伏兎様もいるわ渋い!!!」

「あそこにいるのはリタ様じゃない!?」

「ユウキ様も!!?どうして!?」

 

「見たことない方もいるけど新しい眷属かしら!?」

「黒髪の女の子も可愛い!」

「青髪の子はクール系ね!!」

「あの白髪の人、かっこよくない??」

 

 

 

 

『『『キァァァアアア』』』

 

 

 

うるさい……

寝起きの俺にこの声量はかなり来るものがあり、隣では聴力の高いユウが自身の獣耳を伏せていた。

 

「こ、これは?」

 

俺の眷属一同が苦笑いする中、この現象について全く心当たりのないゼノヴィアは眷属内で唯一戸惑っていた。

 

 

「ああ、まぁ、少し前のレーティングゲームでな……ちょっとワケあって魔界全土で放送してたんだよ。これはその反動だ」

 

「は、反動????」

 

説明を受けてもまだ理解しきれないゼノヴィアだが、ここにいてはいつまで経っても進まないので後でなと耳打ちすると俺たちは歓声の中を突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

俺たち全員が乗れるほどの大型の馬車へと乗り込み、湧き出る歓声から遠ざかって行くと思わず息を漏らしてしまう。

 

「他の領でこれは予想外だったわね」

 

少し離れたところに座るシノンも頬を掻きながら苦笑いし、俺の眷属達は皆それに同意するようにうなづく。

 

 

「あれってどういうことなのかしら?」

 

そんな中状況を飲み込めなかった組の代表としてグレモリーが先ほどの歓声について問いかけてくる。知らないメンバーの視線が俺へと一斉に集まり、俺が口を開くのを待っていた。

 

 

「ああ、あれはな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

……この事のきっかけは今年の初めの頃まで遡る。実のところ、その頃の俺は王としてのレーティングゲームには参加していなかった。

 

加えて言うならばそれまでもセラフォルー様の女王としてたまに出るくらいの出場経験しかない。本当にたまにくらいの頻度でしかレーティングゲームには参加していない。

 

 

当然である。

セラフォルー様は魔王であり、そんなに気軽にレーティングゲームをする事なんてできない。それでもセラフォルー様の僧侶であり、俺の先生でもある2人からレーティングゲームでの立ち回りや戦略などは常に教えてもらっていたし、セラフォルー眷属内でわかれてプチレーティングゲームを非公式に行なっていたこともあった。

 

 

そんな俺が王となり駒を持ってから数年が経ち遂にその機会が訪れた。

 

王として公式で初めて戦ったのだ……

 

 

しかしそれは……

 

 

 

 

 

 

ソーナの婚約をかけたゲームだった。

 

 

貴族において政略結婚は珍しくない。それはグレモリーも経験しているし、当然ソーナもまた同様に政略結婚を組まれていた。

 

当時の彼女はこれまたグレモリー同様にそれを拒み続けていたのだ。しかし、そんな彼女の相手もまたしつこかった。

 

最初はのらりくらりとかわしていたソーナだったが時が経つにつれて次第に迫ってくる相手に嫌気が差し始め……

 

結果、彼女から衝撃の一言が飛び出るまでにことは発展する。

 

 

 

 

『私は強い人としか夫として認めません!少なくとも、お姉様の女王である八幡よりも強い方でないとお断りです!』

 

俺が巻き込まれた瞬間である。

 

 

そしてそこから婚約者の動きは早かった……

 

 

ならば彼に勝てばいいのだろうと婚約者は俺に迫り始め、俺は俺でソーナやセラフォルー様からその婚約者を叩きのめしてくれと頼まれた。

2人の頼みを断れるわけもなく俺はレーティングゲームを行うことになったのだが……

 

 

 

レーティングゲームでやりすぎたのだ。

しかしそれは仕方のないことなのである。

 

それはレーティングゲーム直前。

 

 

これでソーナを俺の妻にできるだの

ピーーーするだの

ピーーー、ピーーー、ピーーー

 

 

などと、俺に高々と宣言してきた相手に対して、俺はキレてしまった。

いや、キャラではないのはわかっていたが、それでも相手のソーナに対する言い分はひどかった。それこそグレモリーの時のライザーが可愛く見えるほどである。

 

 

そうしてキレた俺は、眷属そっちのけで1人で無双した。刀に鬼呪を込め敵をなぎ払うだけでなく、今まで相対してきた相手の能力をフルで使い、挙げ句の果てにはミニサイズのものではあったが災害豪雨を振りまき、敵をフルボッコにした。それはもうボッコボコに。

 

その間、わずか2分である。

 

 

 

当然、反感をかった。

相手は貴族。

俺は転生悪魔。

 

 

ただでさえ元老院の者達は純血を好む傾向が強い。結果が気に食わなかったのか、元老院の爺達は俺を批判し始めた。特に相手家が俺を強くディスり始めたのだ。

 

 

当然その批判される俺の背後には俺の眷属達がいるわけで…………

 

 

今度は眷属達がキレた。

 

 

そこからは互いに売り言葉に買い言葉。

 

気がつけば俺たち対その時いた5人のうち4人の元老院の爺とその眷属とのレーティングゲームが即日開催。

 

普段口だけでろくに動こうとしない元老院の爺達と現役バリバリ且つチート達の集まりである俺たちとの戦い。

 

結果は考えなくてもわかるだろう。

 

 

元老院の爺達はボロクソにされた。

 

 

それも今度は俺が動かず眷属達にである。

 

シノンがゲーム盤全体を凍らし、ユウキとヴィザが敵が認識するよりも早く斬り刻み、ユウとリタが特大の仙術と魔法をゲーム盤に降り注がせ、最後に恋と阿伏兎の一振りで敵が吹き飛んでいった。それのループ。

 

 

数では圧倒的に有利であった元老院達に対しそんなの数などモノともせずに進んで行った俺の眷属達は徹底的に元老院の爺達を叩きのめしたのだ。

 

 

そこまでは、まだ良かったのだ。

いや、よくはないのだろうが、まだ大丈夫な範囲ではあったのだ。

 

これらのゲームは非公式。

非公開のものである。

故にそれで終わり元老院とは仲が悪くなりながらも俺は何事もなく今後も過ごすはずだった。

 

 

 

 

なのに、なのに……

 

 

その時唯一レーティングゲームに参加しなかった元老院のロリ婆と4大魔王様方。

 

 

彼ら、彼女ら5人のせいでそれが大事へと変わってしまった。

 

 

 

 

 

事はその翌日。

レーティングゲームが終わり人間界に帰る前に1週間だけ休暇をと自宅で自堕落に怠惰を貪っていた時である。

 

 

 

 

 

『昨日、4大魔王様立ち会いのもと大規模なレーティングゲームが行われました』

 

 

 

飲んでいたマッカンを吹き出した瞬間であった。非公式のはずのゲームが何故かテレビに出ている。というか、セラフォルー様は知ってたけど、サーゼクス様やアジュカ様、ファルビウム様が見てたのは初耳である。

 

そして、

 

 

『本日はゲストとして4大魔王様の皆様がお越しくださいました』

 

「「「「何やってんだーーーーーッ!」」」」

 

我が家で眷属一同声をあげた瞬間でもあった。

 

 

しかし、その勢いはとどまることを知らず。

 

 

『更には、昨日のレーティングゲームを魔王様方と共に見ていたこのお方にも来ていただきました』

 

 

『ふむ、怠惰を司る悪魔ニオ・ベルフェゴールここに顕現なり!』

 

 

それは元老院が1人。

エメラルドグリーン色の髪をなびかせ、着飾る服は大胆にも腹や脚が大きくはだけている。若く、その姿は見る者を魅了する美しさがあるが……忘れてはいけない、彼女は元老院の一員であると。

つまりリアルロリ婆である。

 

 

そこからは出るわ出るわ俺たちと元老院4人とのレーティングゲームの映像。

更にはあの婚約者との試合まで放送された。

 

魔界全土にである。

 

 

何やっちゃってるのあの人たち?

魔王と元老院ただでさえウマが合わないのに余計こじらせにかかったのか?というかなんでその元老院の奴と仲良さげに出てんだ!?

 

それにファルビウム様は昔の俺と同じで働いたら負け精神なのになんで珍しくやる気出してテレビに出てるんだ!!?やる気出す場所ちげぇだろ!?

 

そしてロリ婆!!!!

テメェが何より、なんで魔王様達と一緒にいやがる!!!!

 

 

 

 

そんな俺の心の声も虚しく……

 

 

俺たちの試合は冥界全ての民達へと広がっていき……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、あの歓声……ということね」

 

 

「まぁ、おおまかにはな」

 

俺が話を終えればグレモリーは頭を痛そうに抑える。

 

圧倒的な数の有利にあった相手を

純潔悪魔である元老院の者達を

 

数で劣る俺らが倒したのだ。

 

当然そんなものを見れば、領民達は彼らに惹きつけられていく。

 

 

でも、でもだグレモリー。

俺も頭を抑えたいのだ。

 

 

正直あのロリ婆……ニオ様が元老院の中でも珍しい親転生悪魔派とは思わなかった。マジで……

 

ちなみに負けた元老院達のその後は知らない。というか行方がわからない。ニオ様曰く、若いうちは知らない方が良いこともあるのだぞ?、だそうだ。何それこわい……

 

ベルフェゴールってかなり権力的にも高いお家だから、余計怖さに箔がつく。

 

 

「なんというか……」

「八幡さん達すごいですぅ……」

「相変わらずだね」

「さすがに凄すぎますわね……」

「先輩達相変わらず鬼畜です……」

「お前……容赦ねぇな……」

 

「そんなことがあったのか……」

 

 

 

この話を知らなかったグレモリー眷属達やゼノヴィアが口々に感想を述べる中俺らは終始苦笑いである。

 

それもそうだ。

あのレーティングゲームのせいか出場した俺たちには領民の間で二つ名の様なものが生まれ密かにその名で呼ばれているというのを俺たちは知っている。その中には正直恥ずかしいようなものもあり、苦笑いしてしまうのは仕方のないことなのである。

 

 

まぁ……アレがあったおかげでというべきかアレのせいでというべきか、元老院であるニオ様との繋がりができたのはありがたかった。あのテレビを許すかどうかは別として。しかし、許すかは置いといて感謝はしている。あの映像はある種俺への手助けだったのだろう。あれのおかげで今まで向けられていたヘイトはいくらか軽減された。貴族達からのヘイトは増えたが………

 

 

 

尚もこの話で盛り上がる俺の眷属達とグレモリー達を他所に俺は外の景色へと視線を逸らしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「で、でっけぇぇぇぇええええ」

目の前の城を見上げながらイッセーが感嘆の声を上げる。

 

 

 

 

 

とまぁ、そんなこんなで漸くグレモリー邸についた。なんか長かったな……体感的に4ヶ月くらいかかった気がする。

 

ん?気のせいか?気のせいだなうん。

 

 

「そうよ。ここが私の家よ」

 

 

その言葉に絶句するイッセー、アーシア、ゼノヴィアの3名。

 

「まぁ、こんなものじゃない?うちだと諸事情でこの2倍くらいの大きさになるけど」

 

 

「「「はぁぁぁあああ!?」」」

 

グレモリー邸を見て呟いたシノンの言葉に3人は思わず声を上げてしまう。アーシア。お前そんな声出すんだな……

 

 

「まぁ、うちは人も家族も多いからねぇ」

 

うん。本当に多いんだよな。

ユウキの言葉に俺もうんうんと共感する。

 

使用人にメイドだけでもそこそこいるんだが、それに加えて動物が多い。使い魔が家にいるというのがあるがそれでも多い。それも普通の犬猫からドラゴンまでとピンからキリまでである。

 

まぁ、一番の原因は恋がしょっちゅう拾ってくるからなのだが。

 

その度にシノンやヴィザが誰かの使い魔ではないかとか、誰かの間者ではないかと魔法を使い検査しているのはうちでは見慣れた光景であった。

 

 

そんなことを知らない3人……というかグレモリーの眷属達も口を開けっぱなしにしてしまっている。

 

 

「入らなくていいのか?」

 

そんな俺の言葉に現実へと戻った一行はグレモリー邸のドアを開け放った。

 

 

「おかえりなさいませお嬢様」

 

 

まず目に入ってきたのは駅でも見たようなメイド達とその先頭に立つグレイフィアである。今日はグレモリー邸にいるのか。

 

 

「皆様もようこそおいでくださいました。では、ご案内いたします」

 

そういうとグレイフィアは歩き始める。その後ろをついていく俺たち。

 

 

 

「リアスお姉様!!!!!」

 

 

と、そこで俺たちの歩みを止めたのはものすごいスピードで走ってきた紅髮の少年である。

 

少年はその勢いのまま走ってくる。

見た目に反してかなりのスピードだ。

 

キューッと音を立てながらブレーキをかけた少年はちょうどグレモリーの手前で止まると嬉しそうにグレモリーの顔を見上げた。

 

「ミリキャスじゃない。大きくなったわね。でも廊下を走っては駄目じゃない」

 

「あ、うっ……す、すみません。で、でもリアスお姉様に久々に会えて嬉しくなってしまい……それにお姉様は益々美しくなられていたので!」

 

「あらあら、その歳なのに上手ね。さすがにお兄様の子だわ」

 

「はい!」

 

 

「あ、あの……部長……この子は?」

 

その様子にたまらずイッセーが訊くと、リアスはその少年の背を軽く俺たちの方へと押しながら応えた。

 

「この子はミリキャス・グレモリー。お兄様の子供よ。私からすれば甥……ということになるわね」

 

ああ、もちろん俺たちは知ってますよ……会ったことはなかったけども。

 

「ほら、ミリキャス挨拶なさい。この2人が私の新しい眷属よ」

 

そういうとグレモリーはアーシアとイッセーの方へと視線を向けた。

 

 

「初めまして。ミリキャス・グレモリーと申します」

 

「あ、は、初めまして。お、おれ……わ、わたしくはの名前は兵藤一誠とも、もうします」

 

「わわわわわわたしは、アーシア・アルジェントとももももうします」

 

ガチガチだなこいつら……

 

 

「イッセー、アーシア……そんなに固まらなくて大丈夫よ。この子はお兄様の子だけれどグレモリーの人間でもある。お兄様は魔王だけれど、だからと言ってこの子が次期魔王というわけではないわ」

 

ああ、なるほど。だからイッセー達は緊張したのか。相手が魔王の子供って考えれば緊張もするか。

 

「そ、そうなんですか……」

 

「よ、よかったですぅ」

 

 

「あ、それと、お姉様そちらの方々がおっしゃっていたお客様なので………す……か…」

 

 

ふと、こちらに気がついたミリキャスがこちらを見ながらリアスに尋ねるが何やら固まっている。

 

 

「ええ、そうよ。彼がセラフォルー様の女王の……ってミリキャス?」

 

グレモリーもミリキャスが固まっているのに気がついたのか首を傾げながらミリキャスの方を向く。

 

 

「は」

 

「は?」

 

ミリキャスの呟かれた一言を復唱するようにグレモリーも呟く。

 

あ、嫌な予感してきたわこれ……

俺の第六感(アホ毛)がそれを告げている。

 

 

「ははははは、八幡様!!!!????」

 

廊下に響く声。

おおよそ貴族が出すようなものではないそれが廊下を通り越し、城へと響き渡った。

 

「ははは、八幡様が、()()()()()()様がどうして!!?まさか、お姉様がおっしゃっていたお客様って!!?」

 

グフゥ………

 

思わぬところで二つ名が飛んできたことにより心の中でではあるが吐血する。

 

「ち、血染めの鬼神???」

 

「八幡の二つ名だよー。前のレーティングゲームで、敵の返り血を浴びながら相手をなぎ倒していく姿はまさに鬼神。領民達が勝手に考えた二つ名だけど、意外と広まってるんだね」

 

「ああ!絶剣様に氷獄の射手様!?それに小さき獣王様に紅蓮の破壊者様、ああ!深淵の探求者様に災禍の拳王様まで!!!」

 

グフゥ

ゴフゥ

ガフゥ

ゲフゥ

ゴハァ

グバハァ

 

俺に引き続きユウキにシノン、ユウに恋、リタ、阿伏兎の6人が吐血する(心の中で)

 

ユウキはまだマシである。

俺らのは酷い。

領民よ……二つ名とか痛いからやめよう…

 

意外とこういうのが心にくるから。

見ろ。普段動じないユウや恋でも、思うところあるのか吐血している(心の中)

純血悪魔とかはそういうな気にしないみたいだが、元人間視点からいえば、二つ名とかは厨二っぽさが全開である。

 

 

 

そしてミリキャス……影響されんな。

 

 

「え、絶……氷…え?え?」

 

そんなミリキャスの言葉に戸惑っているグレモリーを他所に、ミリキャスは俺たちの前へとくると

 

「みみ、ミリキャス・グレモリーと申します。は、八幡様のことはテレビで拝見させていただきました。あ、あの、よろしければ、さささ、サインください!」

 

 

それはもう大きな声で俺たちに対して腰を90°に曲げて頼み込んだ。

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

「………」キラキラ

 

 

心にわずかにだが傷を負った俺や眷属は今、用意された俺の部屋に集まっていた。

 

そこには俺らだけではなく、先ほど俺たちの心を抉ったミリキャスもいる。

 

故意で抉ったわけでないぶん怒るに怒れない。隣を見れば、回復はしつつも未だダメージの残る眷属達とノーダメージの眷属達がいた。

 

 

あの後、夕飯の時間までは自由行動とのことでそれぞれの部屋に案内されたのだが、ミリキャスがどうしてもとのことで、グレモリーからも頼まれたので俺の部屋に集合した次第である。

 

というか、グレモリーもミリキャスの食いつき具合に若干引いていた気がしなくもない。

 

 

 

「ほれよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

ここにいる全員分。

それこそ、あのレーティングゲームに出ていないゼノヴィア達の分を含め色紙を持ってきたミリキャスに対し、俺たちはアイドルになりきった気持ちでサインを書くと彼にそれを渡した。

 

いや、正直なりきらないとなんで書いてるんだろって悲しくなってくるんだよ……

 

 

「あ、あの!宜しければ皆さまのお話をお聞きしたいのですが!」

 

そんな俺たちの気持ちなど知らず、尚もキラキラと目を輝かせながらミリキャスは俺に詰め寄ってきた。

 

 

「あ、ああ。まぁ……いいぞ。何が聞きたいんだ?」

 

他の奴らにSOS信号を目で送るも全員が視線をそらす。おい、主を助けろよ…こういう時だけ主を主張するなって?馬鹿野郎。こういう時以外でいつ主張するんだ、などとやりとりをするも結局俺が折れる形となりミリキャスの言葉に応えた。

 

 

「あの、お父様から八幡様は鬼呪龍神皇でもあると伺ったのですが、本当でしょうか!?」

 

 

おぃぃぃいいいいい!

 

あのシスコンなにばらしてんだぁぁぁああ!

 

 

心の絶叫である。

いや、まぁあの場で言ったから三大勢力の上層部にバレてるのはわかるよ?うん。

 

でもまだ年端もいかない子供に言うなよ!?

 

 

「あ、ああ。まぁ、そうなる……な」

 

「やっぱりそうなのですね!お母様から鬼呪龍神皇の伝説を数多く聞いていたのですがお聞きしてもよろしいでしょうか!?」

 

 

グレイフィアさんぇ……

 

あの夫婦……

 

 

「別にいいけど……どうして聞きたいんだ?」

 

 

できる限り冷静に。

そう。ステイクールである。

 

こう言う時こそ落ち着いて……

 

「鬼呪龍神皇はあのムゲンにすら並びうる存在だとお伺いしました。それに鬼呪龍神皇が普通の吸血鬼から強くなっていったことも。そのお話が、僕大好きで!なので実際の話をお聞きしたいのです!」

 

「いったいどんな話しやがったぁぁあああ!?」

 

 

無理だった。

 

まるで人間の子供が英雄譚の話に憧れるような、そしてそこに描かれる英雄にあったかのような反応をするミリキャスに対し、俺は思わずこえをあげてしまうのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?

今回はオリキャラがやや入りました。

原作を読んでいないのでベルフェゴールが実際に出てきていたらごめんなさいm(__)m


ちなみにこのベルフェゴール、モデルは携帯ゲームアプリ"カコタマ"に出てくるベルフェゴールをモデルにしております。見ていただければ少しはイメージしやすいかと。またニオという名前は適当に持ってきて引っ付けただけなのでそれほど深い意味はありませんのでm(__)m


次回、八幡の領にまでいけたらいいなと思っています。


ではでは感想お待ちしております。



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冥界名所の大都市


(´・∀・`)……できた。


とりあえず八幡の領地に到着した。

さぁ、どうぞどうぞ。






 

 

 

パタリと自身の身体をベットへと投げ出せば自然と身体の力が抜けていった。

まるで自分の身体が自分のものでないような感覚。ただ単に完全な脱力をしているだけなのだが、そんな風に感じれてしまう。

 

《まぁ、あんたは昔阿朱羅丸に身体を取られてた時もあったからその感覚と完全脱力の感覚が似ているんでしょ?》

 

《むー、確かに昔はやってたけど、今はもうやってないよ!》

 

そうして瞼を閉じ、この何処と無く心地良い感覚に浸っているとクルルと阿朱羅丸が話しかけてくる。そういえば、今日はあまり話をしていなかったな。

 

《まぁ、話せるような感じじゃなかったからね》

 

《そうね。今日はお疲れ様》

 

そういって2人の労いの声を聞きながら瞼を開けば、天井から降り注ぐ灯の優しい光が視界に広がる。

 

「本当に疲れたな」

 

ポツリと声が漏れ出てくる。

 

リタと小猫の再会

タンニーンとゼノヴィアの戦い

恋とはぐれ悪魔の乱入

温泉での新たな黒歴史

そして予想外すぎるミリキャス

 

ここ最近でも最も濃い1日だったと断言できた。身体こそさほど疲れていないものの精神的な疲労がピークに来ていた。

 

特に最後のミリキャスで残りのMPをごっそり持っていかれた感じである。

 

 

あの後、俺が悪魔になってからの軽い流れや、俺たちが領内で行なっていること、更には俺でなく阿朱羅丸がかつて起こした伝説まで聞かれて来た俺は社交儀礼よろしくと言った感じで淡々と応えていった。

 

そんな俺の応えにもミリキャスは終始目を光らせ、挙げ句の果てにその後の食卓でヴェネラナさんやグレモリー卿にまで興奮した様子で話すほどご満悦だったようだ。

 

その時のグレモリー卿やヴェネラナさんは笑いながらよかったなと言っていたのがせめてもの救いだった。

 

いや、本当に。他の貴族ならこんな風にはいかない。他の貴族達からのヘイトはすごいから。メイン盾はれるくらい……

 

 

そんな心労たまる時間を過ごした俺は食後真っ先に部屋へと帰って来た。

 

帰る前にグレモリー卿達からは娘の婚姻の時はありがとうと礼は貰っているので、即部屋へ向かってもモーマンタイなのである。

 

 

そして現在。

1日を振り返ると疲れを思い出してしまい、開いた瞼を再び閉じるのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動けねぇ……」

 

目が覚めれば付いていたはずの灯りが夕焼けのような薄暗い灯へと変わっており、何よりも身体が動けない状態になっていた。とはいえ感覚的にそこまで長く寝ていないはずである。

 

疲れていた俺に気遣ってか珍しく阿朱羅丸やクルルは俺の夢には出て来ていなかったなぁなどと思いながら周囲を確認すれば動かない理由が直ぐに解けた。

 

 

「ん……にぃ……」

「んん……おにぃちゃん…」

「すぅ……すぅ……」

「んん……むにゃ……」

「すー……すー……」

「くぅ……くぅ…」

「んん…………」

「………ん………」

 

眷属や小猫が人の身体をホールドしていた。

 

いやおいお前ら、このベットのサイズでこの人数いるのはおかしいだろ……

 

 

はぁ、とため息を漏らしながらも気配を探れば、ベットの真横でベットを背もたれに眠る阿伏兎やフリードの気配も感じれた。

 

お前ら、用意された自分の部屋で眠れや…

ってか風邪引くぞ……

 

思わず突っ込む俺の言葉に応えるものはいない。当然だ。みんな寝ているのだから。

 

ホールドされている腕をなんとか起こさずに外し腕を解放されたところでふと気がつく。

 

 

「んん……んんん……ん……」

 

 

右隣で俺の右腕をホールドしていたゼノヴィアがうなされていることに。

 

「うう……ブレス………あああ……」

 

あれだけあった日なのに阿朱羅丸に修行でもつけてもらっているのかと思ったが、それは彼女のうなされている言葉から否定される。阿朱羅丸がブレスを使うなんてことはほとんどない。ならばあり得るとすれば今日のタンニーンとの戦闘に関連することだろうか。

 

 

うなされている彼女をみながらそんなことを考察しているとふと彼女の瞳から雫が垂れ始める。

 

「わた……しは………まって……みんな……」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、俺は自然と解放された手を彼女の頭へと置きゆっくりと撫でた。優しく、赤子を触るかのように、ゆっくり、ゆっくりと自身の指を青髪の合間に通していく。

 

不安だったのだろう。

自身の立場が。

他人からどう思われているのかが。

 

俺自身もかつてはそうだった。

 

阿朱羅丸やクルルのおかげでだいぶ落ち着いたとはいえ、それでもまだ夢に出てくるほど彼女は悩んでいたのだ。それに気付きながらも、早急に手を打つことができなかったのは俺としても歯がゆかった。

 

何よりも、俺自身も苦しかった。

 

 

それでも、彼女は進んだのだ。

進み自ら道を切り開いてみせた。

 

 

そんな彼女は、あの時の彼女は、誰よりも輝いていたと断言できる。

 

 

通していく手が次第にただ撫でるだけからゆっくりと彼女を包み込むような魔力を帯びた撫で方へと変わっていく。

 

 

そして薄い魔力の幕が彼女を包み込むと、先ほどまでの苦しみから解放されたように、彼女の表情に笑みが浮かび始める。

 

 

これもまた鬼呪龍神皇として得た力の一つ。夢魔の血を得た際に夢に干渉できるようになったのである。自分に今できるのはこれだけ、ゼノヴィアに彼女が望むような幸せな夢を見させることだけだった。

 

 

はぁ、と再び息を吐くと共に彼女の頭から手を引いていく。

 

が、不意にその手を彼女に掴まれた。

 

 

ドキッとしながら彼女へと視線を戻せば

 

「えへへへへ……八幡………」

 

 

もうキャラ崩壊とか言えないほど顔をにやけさせながら眠るゼノヴィアが俺の手を自身の頬へと擦り寄せていた。

 

 

「っ!!?」

 

思わず顔だけでもそらした俺だが手から感じる感覚のせいで今見た彼女の顔が背けてもなお思い浮かんでくる。

 

 

そんな俺の気持ちなど知らず寝ている彼女はなおも頬ずりをし続けて来ていた。

 

 

「本当に……心臓に悪いな……」

 

自身の体温が上がるのを感じながら俺は目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

「……ちまん。起きなさい、八幡!」

 

ボォーとした意識の中、自身を呼ぶ声が聞こえ徐々に視界がクリアになっていくにつれてその声は大きく聞こえ始めた。

 

 

「おはよ……おやすみシノン」

 

「二度寝しない!」

 

「ぴゃぁ!?」

 

朝の挨拶を済ませ再び夢の世界へと旅立とうとしていた俺の首元に突如キンキンに冷えた冷気が入り込み思わず変な声を上げながら飛び起きてしまった。

 

 

「まったく……ほら阿伏兎!フリードあんたらもさっさと起きなさい!」

 

ふぉぉおおお!?

ぬにぁぁああ!?

 

何やら向こうでも俺と同じような現象が起きている。さすがオカン。慣れた様子で全員を起こしていっている。フリードは掛け布団を握りしめて抵抗しているけども……

 

 

クイクイ

 

 

シノンたちのことを見ながらそんなことを思っていると不意に袖を引っ張られた。

 

 

「おにぃちゃん……」

 

見れば櫛を持ちながら上目遣いで恋がこちらを見ている。

 

 

………ぐはぁ!?

 

 

八幡の80000のダメージ。

やったね。クリティカルだ。

 

 

《ハチ………》

《はぁ、あんたは……》

 

なにやらうちの吸血鬼姉妹が呆れているような気がしたが気にしない。気にしたら負けだ。

 

 

「おー、こいこい」

 

「♪♪♪」

 

持っていた櫛を受け取り彼女を膝の上へと乗せ、紅蓮の髪を櫛でといていく。

 

サラサラとした髪は櫛でつかえることはなく整っていき……

 

ピョン!

 

アホ毛が元気を取り戻したかのように立ち上がれば、あっという間にピッカピカのいつものヘアスタイルへと変わった。

 

「ほれ、終わったぞ」

 

「ん……」

 

返事をする恋は何処か名残惜しそうに立ち上がると数歩移動した場所で座り、こちらを見てくる。

 

そうして入れ替わるように膝の上へと着地して来たユウの髪を俺はといていった。

 

 

「ほれ、できたぞ」

 

「ん、にぃ、ありがと」

 

ぴょこんと出した獣耳を動かしながらユウが膝から降りると俺も立ち上がり軽く伸びをする。

 

「やぁ、おはよう八幡」

 

「ん、もう大丈夫なのか?」

 

「ああ、疲れも取れたしそれに……いい夢を観れたおかげかスッキリしてるよ」

 

「よかったな」

 

そんな俺にゼノヴィアが挨拶をしてくる。その顔には夜に見た色は無い。解消出来たようでなによりだ。

 

 

「今日はうちに帰るけど、あんま気張るなよ」

 

「ああ、わかってるとも」

 

そういってポンと彼女の肩を叩き、未だに断固として起きることを拒み続けているフリードの元へと向かう。

 

 

「いーやーだぁぁぁあああ」

 

「お前さんも粘るねぃ。いい加減諦めろってんだ」

 

「阿伏兎の言う通りだ、さっさと起きろ」

 

シノンからの眠気覚ましにも必死に抵抗し、掛け布団を断固として離そうとしないフリードに呆れながら俺や阿伏兎も声をかける。あたりを見回せばリタはなにやらイジっており小猫はその様子を食い入るように見ていた。クロメに関してはフリードの抵抗する様を冷たい視線で見ているし、ユウキはその様子を見ながら苦笑いしている。

 

「……起きろ」

 

「あ、はい……」

 

刹那、部屋が絶対零度まで一気に室温が下がったのでは無いかと思える程冷たい声が呟かれる。()()を味わったことのない者達……リタの方へと意識を向けていた小猫や身体をほぐしていたゼノヴィアがビクリとその声の元へと振り向いた。

 

 

見ればパキパキと足元を僅かに凍らせているシノンがいる。絶対零度とまではいかなくとも室温が下がったのはあながち間違いではなかった。

 

 

その様子を見たからか先ほどまで抵抗していたフリードは自身の意見を180°変えてみせ布団から飛び出して来て……

 

「……遅いわよ」

 

「はい……本当にすみません姉御。この通りですお許しください」

 

土下座である。

 

そりゃもう見事なまでな土下座。

洗練されたかのようにも見えるそれは元日本人の俺から見ても美しいものがあった。

 

「ここが自宅ならなにも言わないわ、けど此処はグレモリー邸なの。この後予定も入ってるの。だから手間取らせないでくれるかしらだいたい……」

 

「それくらいにしてやんな。さっさといかねぇとグレモリー達にどやされる」

 

「……わかったわ……」

 

そんな彼に阿伏兎が助け舟を出せばようやく下がった部屋の温度が戻っていくように感じた。

 

 

 

「……シ、シノンさんはあんなにこ、怖いのか?」

 

「ん、シノネェ怒らせると怖い。魔王も裸足で逃げ出す」

 

「ユーウなにか言ったかしら??」

 

「……」フルフル

 

 

 

 

部屋の端ではゼノヴィアとユウがヒソヒソと話しており、その声を拾ったシノンの笑顔に高速で首を振るユウがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんで、なんでお前らまで?」

 

 

朝食をグレモリー邸で済ませ、いざ領へと出発しようとした矢先グレモリーたちが門の前で待ち構えていた。その手には昨日とは違うバックが握られている。

 

 

なに?どこかに旅行でもいくのか?

 

そうか、なら良い旅行をな。

 

「馬鹿、現実見なさい。付いてくる気満々でしょ明らかに」

 

えー、なんで俺の心の声に反応するんですかね?リタさん。

プライバシーって知ってます?重要なことですよ?

 

「あんたに必要なの?」

 

あ、いつものパターンですね、はい。

 

 

もはや慣れた眷属の読心術に諦めながらグレモリー達へと向きなおり

 

「いや、お前らなんで付いて来ようとしてんだよ?」

 

「いいじゃない。あなたの領地見てみたいのよ。私は知らなかったけど、結構有名みたいだし」

 

疑問をぶつければ、それがなにか?とばかりに返してくる。

 

「はぁ……別にいいが馬車とかないぞ?」

 

 

「え!?ねぇのか!!?」

 

「ないわ」

「ないわよ」

「ないね」

「ないよ」

「……」

「ないみたいだぞ」

「ないな」

「ないぞ」

「ない」

 

 

俺の言葉に驚きの声をあげるイッセーだが、それに反応するように眷属一同が俺に同調した。

 

「あー、列車でいくとか?」

 

「行かないな」

 

そうか!とばかりにイッセーが再び声をあげるがそれを俺はバッサリと切り捨てた。

 

 

「列車でいけないのかしら?」

 

そんな俺たちに対し彼女自身も予想外だったのかやや汗をかきながらグレモリーが訊ねてくる。

 

 

「いけないこともないけど、今日切符を取ってないもの」

 

「切符?」

 

応えたシノンの言葉に再び疑問の声があがる。まぁ、自家用列車があれば関係ないと思っているのだろう。しかし、それは甘い。

 

「ええ、うちの領地……というよりはもう都市といったほうがいいわね。人が来すぎて大変だから1日にこれる人数を制限しているから、列車で来ようとしたら半年待ちくらいになるわよ?」

 

『は!?』

 

その言葉にグレモリー眷属一同が固まった。

 

最近お前ら固まりすぎじゃね?

 

「だから行くなら走って行くか飛んでくかのどちらかだ」

 

「え、えっとここからあなたの領地は……」

 

「こことシトリー領くらいの距離があるな」

 

「………」

 

その言葉にグレモリーは白くなり始める。まぁ、こいつらにその距離を移動しろってのがキツイか……

 

「……先輩……なんとかなりませんか?」

 

そんな中小猫がこちらへと歩み寄り人の袖を引きながら頼み込んできた。

 

「……まぁ、なんとかなるっちゃなるが…」

 

そう応えればグレモリーに色が戻って行く。

 

「ならお願いするわ!」

「お願いします」

「お願いしますわ」

「お、お願いですぅ」

「頼む!」

「えっと……よろしくね」

「よろしくです」

 

 

はぁ、とため息をつきながら俺は片手を横に出す。

 

正直これは嫌いだ。これを通るの自体はいいんだが、あいつが作ったこれを通るのと違い、これを自分で作り出すのは好きではない。なんというか、すごく酔うのだ。通った後気持ち悪くなるし、だから本当は走って行きたかったんだけどな……

 

 

 

ぶぅん、と黒い穴ができると同時に船酔いしたかのような気分の悪さに襲われた。

 

 

「……いくぞ」

 

 

そういって自分が率先して入って行き、俺の後ろに他の面々は続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨今、年間観光者数が数千万人にまで登った領地があった。そこは悪魔やドラゴン、妖怪といった多種多様な種族が暮らしている冥界でも珍しい都市である。

冥界のほとんどの領地では悪魔のみが生活しており、それも一部で多くが何も手を施していない無法地帯である。そんな領地がほとんどである中その領地はまさに異例中の異例と言えよう。いや、もはやそれは領地ではなく都市と呼んだほうが良いのかもしれない。

 

転生悪魔が主流となる中そんな都市があれば上流貴族達の格好の的になるのではと思うかもしれないが決してそんなことはない。街に敷かれた警備は些細な諍いにも目を光らせ、また領民達や領主達との間でも信頼関係が強いせいか過去幾度かそのような事態が起きた時にも逆にそのような輩を撃退し、二度とできないように反撃までした始末である。

 

冥界随一の安全な都市。

そして、冥界随一の観光名所でもあるのがこの都市である。領主達の手により改造に改造を重ねた都市は何処か御伽噺の世界のような雰囲気を醸し出し、更には都市に入る前に見えるその風景は多くのものを魅了させた。

 

 

人は……んん。

 

その都市を知る悪魔やドラゴン、妖怪達はその地をこう呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想都市ナザリック

 

 

と。

 

 

 

 

 

 

 

「な、な、な、なんじゃこりぁぁぁあああああああああああああああああああ!!?」

 

 

気分が大変優れない中、隣にいるイッセーがかつてないほどの声をあげた。

 

うるせぇよ。てめぇの顔に向けて吐くぞ…

 

 

未だ船酔い感覚が続く身体に鞭を打ち立ち上がれば自身の故郷とも呼べる都市が目に入る。側ではグレモリー眷属達やゼノヴィアが口をポカンと開けながらナザリックを見ていた。

 

 

俺がワープで来たのはナザリックから少し離れた場所にある丘である。ここはよくユウや恋と昼寝をするのに訪れるのだが、ここからはナザリックを一望することができた。

 

 

まず最初に目に入るのは何と言っても()()()()()()()()()()()()()だろう。これは天才っ子のリタが作り出したとあるモノを使った応用である。図書館や博物館、闘技場や擬似海水浴場といった住宅系以外の建物が主であり、都市の中央に位置する我が家を軸にその周囲を廻っている。

 

悪魔やドラゴンなどの飛べる種族はそのまま飛んで行き、そうでない種族は従業員に声をかけることによりそこまで運んでもらうシステムである。

 

作った理由は一つ。

 

恋とユウが某天空の城を見て作りたいと言ったのがきっかけである。

 

ちなみにバ○スといっても落ちない。

落ちたら領民への被害半端ないしな。

 

落ちなかった光景を見てユウと恋がひっそりと「おちない……」「鯖、よくたえる」などと言っていたが気にしては負けだろう……

 

ってか落とす気だったのかよ。

 

 

次に目に入るのは都市の中心に位置する()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。それこそが我が家であり、あの大樹の中をくり抜き、一つの家として使用されている。その大きさに似合い大樹は異常なまでの強度を誇っており、頻繁によく起こる我が家のじゃれ合いにも耐えられるほどだ。

 

元は阿朱羅丸が持っていたモノであり、それをかつて俺に憑依した阿朱羅丸が勝手に隠し場所から持って来たのだ。

 

ちなみに名は"宝樹アダム"らしい。

 

……名前からして持って来ちゃいけなそうなモノだったが聞かなかったことにしたのは懐かしい思い出である……

 

 

 

そしてそれらを見た後に目にとどまるは都市の外壁だろう。もはや芸術品とまで言っても良いような作りである。都市を囲うように建てられている外壁はこの都市の名前の由来となった某大墳墓のそれと似ていた。違うのはそれよりも更に巨大だという点だ。

 

ちなみにこの外壁。

発案者は俺であり、この外壁を思いついた際眷属一同から俺の癖に良いセンスと言われたのだが、実際に考えたのはクルルである。

 

 

そして最後に目に入ってくるのがそんな都市を飛び交う多種多様な種族達、現在主に飛んでいるのはうちのペットであるドラゴンや鳥達なのだが、それ以外にも多くのもの達が都市の周辺を飛び交っている。そしてそれは都市中央の宝樹アダムの根から溢れ出るライトブルーの光と葉から溢れ出るライトグリーンの光。この2つの薄っすらとした光と空中の建物と相まってまさにこの都市の由来である幻想的な風景をさらに引き立てていた。

 

 

これこそが幻想都市ナザリック。

 

ちなみに名前は阿朱羅丸がティン!と来たからこの名前にしたとか……よくわからんが。

 

 

 

そんな都市を目の当たりにしたからかグレモリー眷属一同は先ほどからミリも動いていない。本当に石像になったからのよう固まったままである。

 

 

「ゼノヴィア?大丈夫?」

 

「……っは!?こ、これが八幡の領地なのか!?」

 

「ん、まぁそうだな。うちは基本領地を全部有効活用しようって考えでやってるから気がついたらこんだけでかくなってた」

 

あとは家族間でのフザケで開発してたらこんな風になっちまったんだが……

 

 

「す、すごいな。聞いてはいたが……これは想像以上だ!!!!」

 

固まりから解けたゼノヴィアはその瞳をキラキラと輝かせながら都市を見つめる。

 

その瞳……できればやめて……昨日のミリキャスを思い出す。

 

 

「……っと、さっさと行くぞ」

 

気分の悪さからだいたい復活した俺はそう言って都市の方へと歩いて行く。それにつられるようにようやく現実へと戻って来たグレモリー達がその後に続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、なんであっちの大門から入らないんだ?」

 

 

都市の間近まで迫った中大門から逸れた場所に向かう俺たちに対しイッセーがおもむろに疑問の声をあげた。

 

「忘れたか、グレモリー領でのあの騒ぎ」

 

「あ……」

 

「うちの領民ならすぐに収まるが観光客が近くに寄って来たらめんどくさいだろう」

 

「なるほど」

 

先日のあの様子を思い出したのかイッセーも苦笑いしながら納得している。

 

 

グレモリーや姫島先輩達は歩きながら塀の作りを興味深そうに見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、ついたぞ」

 

大門から離れた場所にある認識阻害のかかった塀をすり抜け都市内部に入り、都市の端にある倉庫の中を抜けていきようやく出口のドアの前まで来ると一息つく。

 

「この先が都市内部か!」

 

「まぁ、実際はすでに都市内部なんだけどね」

 

「倉庫の中だからね」

 

 

そういうと俺と眷属達は魔法陣からフードを取り出しそれをかぶる。

 

「それも変装ですか?」

 

「まぁ、家に着くまでのな」

 

その様子を見た小猫が首を傾げてきた。

 

 

 

「んじゃ、行くぞー。パパッと家に帰るぞ」

 

そういってドアを開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【領主様おかえりなさいませ!!!!!】

 

瞬間、グレモリーの時が可愛いと思えてしまうほどの大音量の歓声が俺たちを迎えた。

 

 

 

『は?』

 

俺や眷属一同呆然である。

 

いや、マジで。なんでバレてるし。

というか、なんで領民達が待ち構えているのだ?この抜け道は俺たちしか使えないし、そもそも俺たちしか知らないはずである。

 

 

なのにどうして……と大歓声の中思考を巡らせているとその原因がわかった。

 

 

というよりも原因が見えてきた。

 

 

「ほぉーれ、儂のゆうた通りじゃろ?我らが領主様のお帰りじゃ♪さぁさぁ、皆々様盛大な拍手でお出迎えじゃ」

 

あ、参加費はここに入れてのー、と領民から金を取りながら手から鳩やら風船やら手品感覚で出している者がいた。

 

膝下まで伸びているブロンドの髪をなびかせながら二又のとんがり帽子をかぶった彼女はまるで悪戯が成功したかのようにニヤニヤしながらこちらを眺めている。

 

ピンクや黒、紫の色合いをふんだんに使ったピエロのような服装と腰回りにつけた大量の本によってできたスカートの様に見えるその姿は一度見ればなかなか忘れることはないだろう。ってか忘れません。そもそも俺の眷属だし。

 

 

「久しぶりじゃのぅハチ。元気にしておったかの?」

 

ニシシシと笑いを浮かべる彼女の足元には独特な帽子をかぶった珍妙な彼女の使い魔がおり、こちらを見ながら申し訳なさそうな顔をしていた。

 

 

 

とりあえずヴィザ、ヴィザは何処だ!?

 

なんでこんなことになってやがる!!?

 

 

 

「ヴィザならあの坊の特訓中じゃよー」

 

 

 

ガッデム!!!!!!!!

 

 

 

着ていたローブを投げ捨てた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 





見てくれてありがとうございます。

新しい眷属出ましたね。
さぁ、当ててみよ!

……でも見てくれている人たち感のいい人多いからまたバレるんだろうな(確信)


まぁ、次回になればわかるのですけどねw

そしてヴィザが特訓している坊も次回出ます。


ではでは感想お待ちしております。




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眷属?いいえメイドです。



ほい!(*´ω`*)

ちょっと短め。


そして話が全然進んでいかないorz


とりあえずどぞどぞ(*´Д`*)





 

 

 

 

 

「ふむ。なかなか面白かったのぅ」

 

ニシシシと笑いながらこちらを見て来るピエロ服の女性を殴りたい衝動にかられながらとりあえず大歓声から抜け出した俺たちは彼女へと問い詰めを始めた。

 

 

「おい、あればどういうことだマギルゥ!」

 

「んー、儂なりのサプライズじゃよ♪お出迎えは派手な方がええからのぅ。なんじゃ?感謝感激したかの?」

 

『しねぇよ(ないわよ)(ない)』

 

 

全く悪びれる様子もなくコテンと首を傾げながらいう彼女に対し全員が否定の声をあげれば、なんじゃー、つまらんのぅと彼女は頭の後ろに手を回し口を尖らせた。

 

 

「はぁ……まぁ、このことに対する処置は後でシノンたち任せるとしてヴィザはどうした?」

 

俺自身が言ったところで無意味なのだろうと諦め、うちの年長者は何処だと問いかける。

 

「うーん?なんじゃ、お主は儂よりもヴィザのほうがええのか?もしやあれか?Bえ「早くしろ」あやつならー空中闘技場じゃよー♪」

 

 

なおもふざけ倒そうとする彼女に対し僅かな殺気を漏らせば態度を反転させて空の方へと両腕を指した。

 

 

「マギルゥネェさん…………ってびぇぇぇええええええええん!?」

 

 

その移り変わりの早さに彼女の足元にいる珍妙な生物……使い魔であるビエンフーが呆れながら見ているが直後彼女の前蹴りが炸裂し遥か彼方、宝樹の方へと飛んでゆく。

 

「さぁ、あやつのところに行くのじゃろ?ならば善は急げじゃー」

 

 

そんなビエンフーを一瞥もせず、まるで何事もなかったかの様にケロリと言う彼女に対し俺らだけでなくグレモリー達まで白い目を向けていた。

 

 

「なぁ、八幡……こいつもお前の眷属なのか?」

 

そんな空気に耐えられなかったのか、或いは呆れ果ててか、イッセーが俺の方へと視線を移し聞いてきた。

 

「まぁな……」

 

『えぇ……』

 

「なーんじゃーお主らは、会ったばかりの相手に失礼じゃのぅ」

 

俺の肯定の声に質問をしたイッセーだけではなく他の奴らまで疑いの声をあげながら彼女へと再び視線を戻した。

 

まぁ、初対面じゃそう思うのも仕方ない。

胡散臭さが全開だからな。

身体中から滲み出てるまである。

 

 

「まったくお主ら、儂を誰じゃと心得る。自分で言うのも嬉しいが八紘四海をまたにかけ、ドラゴンも笑う大魔法使い。その名もマジギギカ・ミルディン・ド・ディン・ノルルン・ドゥ!、略してマギルゥと覚えておけぃ」

 

そんな彼らの反応に対しデデンという効果音がつきそうなポーズと共にマギルゥが自己紹介をし始めた。

 

 

『ま、マギルゥ?』

 

「ちっがーーーう、"トナリノキャクハ、ヨクカキクゥキャクダ"の"カキクゥ"のアクセントでマギルゥじゃ」

 

『…………』

 

どうやら理解できなかったらしい。

 

「はぁ〜、かく力説しても分かり合えぬ、人とは悲しいものじゃて」

 

「いや、お前もこいつらも悪魔だろう」

 

「おや、そうじゃったの。それはうっかりしておったわ♪まぁ、そんなことはどーでもいいがの♪」

 

 

もはや付いていくことができずただただ呆然と見ているグレモリー達を他所にマギルゥは興味なさげに彼女達へと背を向ける。彼女もまたリタと似ており、基本的に眷属以外には興味のかけらも持たないため、その様子に俺たちは苦笑いを浮かべた。

 

 

「ほほぅ、お主が新しい眷属かの?ならば!今のうちに持ちネタを増やしておくことをお勧めするぞい」

 

 

そんな俺たちの間を縫う様に動きゼノヴィアの隣まで歩み寄った彼女は何やら吹き込み始める。

 

 

「も、持ちネタ?」

 

「そうじゃ、眷属が増えるたびにパァーッとパーティーを開くのがうちのしきたりでのぅ。そこで新人は一発ギャグをかまさねばならんのじゃ」

 

「そ、そうなのか!?」

 

「そうじゃよ♪」

 

「し、しかし私は」

 

「安心せい!儂がとっておきを教えてやるからのぅ♪」

 

「ふ、ふむ、それなら……」

 

「おい、テキトーなこと教えんな。とりあえずヴィザと合流。その後うちに帰るぞ」

 

 

放っておけばこのまま騙され続けかねないゼノヴィアと騙し続けかねないマギルゥを一瞥し翼を出すと、空中闘技場へと向かって行き、それに続く様に眷属やグレモリー達が続いて行く。

 

 

「あ、こら待てぇいお主ら、儂を置いて行くでないわー」

 

 

そんな俺たちの後をマギルゥとゼノヴィアが必死になって追いかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

わずか数十秒ほど上空へと飛んで行った時、それは突如として起きた。

 

 

「あっつ!!!?」

 

 

俺たちが向かう先、空中闘技場から巨大な灼熱の炎が天へと登っていったのだ。その熱がこちらまで伝わってきたため、イッセーが思わず声をあげる。

 

 

「なーんで結界張ってねぇんだ?」

 

 

周囲の気温が上がる中、空中で止まった阿伏兎が疑問の声をあげれば

 

 

「別に、あいつ程度なら張らなくても問題ないからでしょ?ここから地上までかなり離れてるから」

 

 

彼の特訓を少しだけ付き合ったシノンが応える。

 

 

「で、でも木に当たったら危なくないか?」

 

「ああ、この樹は燃えないよ。これ燃やしたいなら、というか傷をつけたいなら阿朱羅丸の全力の災害豪雨でもやらなきゃ傷つかないとおもうよ?」

 

「っな!?」

 

 

ふと漏れ出たゼノヴィアの素朴な疑問にユウキが応えればゼノヴィアは目を見開いた。

 

 

まぁ、宝樹だしな……

ほんと……どこから持ってきたんだよ……

 

 

 

「ね、ねえ!どういうことよ!?」

 

「何がだ?」

 

 

するとその炎を見たグレモリーが今まで以上に声を大にして叫んでくる。

 

 

「何がだ?じゃないでしょ!だってあの炎は!!!!」

 

「いいからいくぞ」

 

 

そんなグレモリーの声を右から左へ受け流し再び闘技場へと向かい飛んでいく。

 

 

「ぶ、部長。あの炎知ってるんですか?」

 

「……っ貴方も知ってるはずよイッセー」

 

「お、俺も?でもあんな馬鹿でかい炎なんて見たことないですよ?」

 

「……あそこまでの大きさなんて私も知らないわよ……でもあの炎は……」

 

「あらあら、もしかして」

 

『?』

 

 

察しのいいグレモリーや姫島先輩はどうやら気がついたらしいが他のグレモリー眷属はわからない様だ。

 

 

まぁ、あいつらにとって炎の違いといったら大きさくらいで質の違いがわかるのはグレモリーや姫島先輩くらいか。あれだけデカくなってりゃ、()()()()とは思わんだろう。しかもここは俺の領地だし。

 

 

後ろから聞こえる声に対しそんなことを考えながら、俺は意外と成長しているあいつとヴィザのいる闘技場へとさらに加速して向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なめるなぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」

 

「ほっほっほ。なかなか良い筋ですがまだまだそれでは私には届きませんよ」

 

 

そこでは見知った顔の2人、青年と老人が闘技場の中心で炎と刃を交えていた。

 

 

「っがぁ!?っくそ!今日こそ、今日こそ貴殿から一本取ってみせるぞヴィザ翁!!」

 

 

青年の方からは並々ならぬ覚悟がその形相からうかがえる。察するに、相当模擬戦をしているのだろうが一回も勝ててないのだろう。

 

 

「ええ、とって見せなさい。貴方はまだまだ伸びる」

 

 

対して老人の方は普段と変わらぬ様相で相手をあしらっていた。しかし、手には()()()()杖があることから青年の方がそれなりに粘っていることがうかがえる。

 

 

「ヴィザがあしらってるだけとはいえ抜刀するほどまで伸びたのか」

 

 

その光景を見て青年の成長具合に高い評価をつけた。ヴィザは全く本気ではない。それでも抜刀させるだけでも素晴らしい成長である。

 

 

「おお!主人殿、帰って来たのか!」

 

 

そんなことを思いながら闘技場の観客席の中を歩んでいると1人の少女がこちらに声をかけて来た。

 

 

「ん?なんでお前がここにいんだ?」

 

「なに、ヴィザ翁達のサポートさ。タオルや使用後の闘技場の整備。こういった仕事も私たちメイドの仕事だ」

 

 

えっへん、とこちらに向かって胸を張ってくるメイド少女の傍らにはタオルやモップなどが置いてあった。

 

 

「いつもすまないな」

 

「それは言わない約束であろう八幡」

 

 

そういって金髪の長い髪を揺らしながら少女は微笑んだ。

 

 

 

 

「あれ?レティシアまでいる?」

 

「おお、ユウキ、それに恋達まで。長旅お疲れさまである」

 

 

そんな彼女の微笑みを堪能しているとユウキ達が追いついて来たようで開口一番に彼女がいることに驚いているようだ。

 

 

対してレティシアはメイドであるにもかかわらず割とフランクに彼女達へ話し返した。

他のところから見れば眷属という地位にいる者に対してメイドがこんな態度を取れば打ち首とかあるかもしれないがうちではそんなの関係ない。メイドや使用人全員含め家族である。

 

 

「えっと、君は?」

 

 

そんなみんなの帰還を迎えたレティシアに対して頭に疑問符を浮かべたゼノヴィアが誰だと問いかけた。

 

 

「おお、これは失礼。新しい眷族であるゼノヴィア殿。私はレティシア・ドラクレア。主人殿の家でメイド長を務めている。今後会う機会も多くなるだろう。よろしく頼む」

 

 

初対面であるからか俺たちに話すよりもやや丁寧な形でレティシアは挨拶をする。

 

 

「む。そうなのか。ゼノヴィア・クァルタだ。よろしく頼む。ところで……メイド長とは?君は眷属ではないのか?」

 

 

対してゼノヴィアも挨拶を返すがふと彼女の挨拶に疑問に思ったのか頭に?マークをつけながらレティシアへと首を傾げた。

 

 

「ああ、わたしは違うよ。主人殿の家には私のように眷属にはならなくともこの家に仕えている者が、主人殿と……八幡と共に歩むことを決めた者が多数いる。多くは悪魔には転生することに抵抗があったり、眷族は面倒だからといった理由であったり様々な理由から眷属にはならずに仕えている者だ。私もその1人だよ」

 

「そうなのか」

 

 

疑問が解けたからかゼノヴィアは手を差し出しレティシアと握手を交わす。

 

 

その直後、特大の炎熱が俺たちを襲った。

 

 

「あっつめたぁああああ!!??」

 

 

シノンがすぐさま反応したことにより一瞬の熱さから、瞬時に熱が冷気に変わり、その変化にちょうどやって来たイッセーが声を再びあげた。

 

 

『なっ!!!?』

 

「やっぱり……」

 

 

しかし、そんなイッセーとは対象的にグレモリーやその眷属達は闘技場の中心へと視線を移すとグレモリー眷属が驚愕し、グレモリー本人はどうしてと困惑顔をしていた。

 

 

「はぁはぁ、喰らえ!!!」

 

「ほぉこれは」

 

 

そんな俺たちのことなど知らず闘技場では自身の持てる魔力を総動員して作ったであろう炎が青年を中心に圧縮され始める。

 

 

「いっけぇぇええ!!!!!」

 

 

圧縮された炎が青年から空に放たれやがて折り返しヴィザへと迫っていく。

 

 

瞬間俺たちは視界に広がった灼熱の光に、思わず手で目を隠した。

 

 

やがて炎の光が弱まって行き、闘技場の様子が再び目に入る。

 

 

「ほほほ。悪くない技でしたよ。フェニックスの炎を極限まで圧縮し、敵に当てると同時に爆発させる。いやはや、肝を冷やしましたぞ」

 

 

そこには無傷のヴィザが何事もなかったかのように立っていた。

 

 

「っく…かすり傷すらつけられないのか……」

 

 

 

「いえいえ、貴方は強くなった。私も一瞬人工神器を使ってしまいました。取り敢えずはここまでで特訓は終了です。頑張りましたねライザー殿」

 

そう言ってヴィザは悔しそうに膝をついているライザーの肩に軽く手を乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、てめぇなんで!?」

 

「なんで貴方がここにいるのライザー!!」

 

 

「……別に俺がここに居ようと君には関係ないだろリアス、赤龍帝」

 

 

特訓が終わり、闘技場中央へ向かうと真っ先にイッセーとグレモリーがライザーへと敵意を向けた。それに対して彼はまるで少し前の諍いがなかったかのように応える。

 

 

「っな!てめぇは部長のことを!!」

 

「なぁ?彼はイッセー達の知り合いかい?」

 

 

今にもライザーへと飛び掛からんとするイッセーとは違い彼の素性を唯一知らないゼノヴィアはコテンと首を傾げた。

 

 

そんな彼女に対しシノンとユウキが彼について話し始める。彼女の顔は次第に曇って行き、話が終わる頃にはライザーに対して冷たい視線を向けていた。

 

 

「と、いうわけよ」

 

「そんな彼がどうしてここに?」

 

 

冷たい視線をそのままに彼女は俺に対して疑問を投げかけた。

 

 

「ああ、それはな「強くなる為だ」だそうだ」

 

 

応えようとした俺の声を遮りレティシアからタオルを渡され身体を拭いていたライザーがゼノヴィアの問いに答えた。

 

 

「強く?」

 

「ああそうだ。あの時俺は負けた。不死の力を持つフェニックスこそ絶対であり最強。俺は何の疑いもなくそう思っていた。赤龍帝に負けた時もそうだ。まぐれだと……偶々だと自分に言い聞かせ無様にも暴れようとした」

 

 

自嘲しながら話す彼は一呼吸置くと今度は俺へと視線を移す。

 

 

「だが、あの時知った。不死は……フェニックスは絶対ではない事を。あの黒き鬼の龍に嫌という程理解させられた」

 

 

彼の拳が不意に強く握られる。

 

 

「理解すれば怖くなった。死という概念が。今まで感じなかった恐怖が俺の身を襲って来た。気がつけば俺はただあの鬼の龍から逃げだしたんだ」

 

 

だが!と彼は両手の拳を胸の前で合わせる。

 

 

「あの鬼の龍に気付かされた。逃げていたところで何も変わらないということに。そして、死から逃れたいのならば強くなれと諭された!」

 

 

合わせた拳を降ろし俺へと向けられた視線が一層強くなる。

 

 

「だからこそ、俺は強くなる。そしていつかレーティングゲームで貴方を倒すほどの大悪魔になってみせる!!!」

 

 

そう言うと彼は視線を俺からグレモリー達へと移した。

 

 

「謝罪はしない。あれは互いの家が決めた事項だった。だからこそ俺はお前らには謝らないぞリアス。だが……俺は変わるぞ。もう油断はしない。もう驕ることは辞めた。次やり合う時はもうお前達には負けはしない。覚えておけ。先のゲームの借りはいつか必ず返す!」

 

 

そう言うと彼は魔法陣を自身の足元に展開させる。

 

 

「っつ!?待ちなさい!!」

 

「ヴィザ翁此度の特訓感謝する。また機会があればお願い致します。そして……八幡殿。変わるきっかけを与えて頂き感謝します」

 

 

そして制止の声をあげるリアスを他所に俺たちへと礼をあげるとその姿は消えていった。

 

 

後に残ったのは変わったライザーに対してこれからの期待を持つ俺たちと、複雑な想いを胸に込めたグレモリー達だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






いかがでしたか?

次回はそこそこ話が進む予定(*´Д`*)

感想お待ちしております。


ではでは



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新たな予感

プロフィール投稿からしばし経ちました……


ちょっとしたリハビリを兼ねて文字は数はそこまで多くありませんがお許しくだされm(__)m


とりあえずリハビリは完了した!
次は長文で話を盛り上げていかばんだ!

というわけでリハビリ話どうぞ……









 

 

 

「あいにくと今は今宵の準備で人が出ていて使用人の類は私しかいないのでな」

 

闘技場から自宅へと戻る途中、レティシアから今日の夜の予定を話されたことにより俺のテンションはだだ落ちしていた。

 

人目に触れないように裏道を通ってはいるが、この街の美しさは裏道にも抜かりはない。途中で子供や警邏隊達とすれ違いながらも自宅へと歩を進めるが、俺たちの後ろについて歩くグレモリー眷属達は俺以上に暗い顔をしている。

 

理由は言わずもがな。

ライザーとヴィザの戦闘である。

 

おそらく、今のグレモリー眷属ではヴィザにあそこまでの力を出させることはないだろう。実際に稽古を受けたことがあるが故に彼女たちは俺の眷属の実力を大まかな形ではあるが知っている。

それが余計に自分たちとライザーとの差を見せつけられる形となったのだ。

 

《まぁ、いいきっかけでしょ?正直今の彼女達すこぶる弱いよ?それこそ、赤龍帝なんて禁手すらできてないんだから》

 

そんな彼女達を見て阿朱羅丸はケラケラと笑っている。クルルは彼女達に関しては何も言わないが、おおよそ思っていることは同じだろう。あるいは、何も感じていないのかもしれない。

 

《後者よ》

 

あ、そうですか……

 

もはや常識レベルに読まれる心を空高く投げ捨てつつ、先程闘技場でリアス・グレモリーが放った言葉を思い出す。

 

 

『大丈夫よ!イッセー。ライザーなんかには負けないわ!貴方もいるし、何より私達はあの時よりも強くなっているんだから!』

 

 

彼女からしてみればただ苦し紛れに出た言葉か、イッセーを盲信しての言葉か……

 

しかし、彼女はそういいながらも、その言葉には力は篭っていなかった。

 

自分を奮い立たせるため?

自己を保つため?

それとも眷属達のため?

 

いずれの理由かは定かではない。

 

 

でも、アレは自身を騙し、眷属すら騙そうとする行為だ。

王としてああいう風に振舞わなければ、とさせるのは生まれが貴族だからか……

 

ただ、俺はそれは好きにはなれなかった。

 

他者に対して自分を偽り、奮闘させるために言葉を吐くならわかる。

だが?彼女はそれを眷属達に言った。

何故?

眷属は家族ではないのか?

少なくともグレモリーが言うところの、慈愛を持って接する相手とはそういう形であるはずだ。

家族に対してすら自己を偽るというのならそれはもう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がかつて嫌っていた

欺瞞である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッゴフ」

 

「捻くれた考え方しない」

「ほっほ、奮起のさせ方は人それぞれですからな」

 

そんなことを考えていれば、もれなくシノンの肘鉄とヴィザの言葉が俺にクリティカルヒットしたのだった。

見れば他の眷属たちも苦笑いやら、ジト目やらしている。

 

お前ら、その仕方ないなぁって顔やめろ。ってかなんでゼノヴィアもそういう顔してるんだおい。

 

《仕方ないと思うよ(わよ》

 

 

俺に援護はなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅に着けばレティシアが言っていた通り普段はそれなりにいるメイド隊や執事達はおらず、出迎えたのは……

 

「ちょ!?こっちにくんな!?おい、ちょ、まっ?うぉぉぉおおおおお………」

 

 

大量の動物達だった。

 

 

「フリード…轢かれた」

 

「フリード、動物には好かれてる」

 

ユウと恋は雄達に轢かれていくフリードを見ながら既に手元に抱き上げた動物を撫でている。

他の面々を見ればそれぞれの足元や手元には動物達がおり各々可愛い出迎えに対してやや頬を緩ませながら手触りのいい動物達の毛を堪能していた。

 

そんな眷属達を見る俺の元へはというと。

 

 

『ワフッ!!!』

 

2匹の犬が力強く吠えたかと思えばおすわりの姿勢で俺の前で待機している。

毛艶も他の動物達とは比にならないほど艶めいており、それはどこか神秘的にすら感じた。

 

 

……この犬。珍しく阿朱羅丸が連れてきたペットであり俺の使い魔?であったりする。

 

けれども、普段呼ぶことはない。

可愛がることはするが基本的には広い自宅内で我慢してもらっている。

理由はなんか出したらやばい気がするから。

阿朱羅丸が持ってきたものにまともなものがあったことなどない。

 

 

ふわりと2匹の頭を撫で、グレモリー達のことをレティシアへと任せ俺は自室へと向かう。シノン達も各々やることがあるのか自身の部屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

アダム独特の匂いが漂う廊下は、ただそこを歩くだけで心を落ち着かせ、生物に安らぎを与える効果がある。

そのためか、この後に億劫なことがあるにもかかわらず、今はこうしてゆっくりと気持ちを落ち着けさせられている。

 

そんな落ち着いた時間を堪能しながら、自身の部屋を開ければ見慣れた空間が広がる。

 

こんな大きな屋敷に相応しくない、至って普通の高校生のような自室。違いがあるとすれば、やや広さが広いだけだった。

 

すぅ、っと軽く息を吸い込めば嗅ぎ慣れた、いわゆる自分の匂いというものがする。

 

吸った分をふっと吐き出せば、肩のにも降りた気がした。

 

帰ってきた…

 

 

この部屋に来てようやくそんな気がする。

 

やはりパーソナルスペースというのは大事なものだと、こうして帰ってくるたびに思う。

こういった自室があるから気を休めることができるのだ。

 

 

 

 

 

「ーーーーー」

 

そんなことを思いながらも無言の視線を感じ振り向けば、ふわりと窓から風が入りカーテンが揺れ動いた。

 

俺自身が開けたわけではない。

ましてや使用人達が開けっぱなしにすることなどないだろう。

 

その証拠に1つの封筒が窓際に置いてある。

拾い上げそれを開いてみれば

 

 

"冥府と禍の団にうごきあり"

 

 

簡潔な一文のみが書かれていた。

 

《冥府にもねぇ。あの骨組み、また面倒なことしそうだよ》

 

《一回解体(バラ)してから組み直すべきかしら?》

 

それを見れば阿朱羅丸とクルルが物騒なことを漏らし、思わずため息が出てしまう。

 

禍の団に関していえば予想通りなのだが、冥府に関しては少しだけハズレた。

 

 

「もう少し大人しくしてると思ったんだがな……」

 

冥府を仕切るハーデスは馬鹿だか阿呆ではない。アレでもオリュンポスの三柱神の一柱なのだ。だからもっと機を見ると思ったのだが……

 

《機を急ぐ理由ができたか……》

 

《会談で私たち2人をバラしたせいかもしれないわね》

 

あの骸骨は自分達と人以外に対し排他的である。特に冥府の頭上に住んでいる者達、即ち悪魔と堕天使については特に毛嫌いが激しい。

 

その一角に鬼呪龍神皇が入ったとなれば焦るのも分からなくはない。

しかもそこに吸血の始祖であるクルルもいるのだ。下手をすればそれこそ新しい勢力を築けるほどの量の吸血鬼を生み出されるのではと勘ぐった可能性もある。

 

 

「働きたくねぇな……」

 

切に願うことである。

 

『ハチは働くよ(わね)』

 

鬼2人から完全否定である……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、面倒臭いでやんすねぇ」

 

「…………」

 

 

魔王の女王が吸血鬼2人と戯れている頃、冥界の端では2人の悪魔が死体の山の上でナザリックの方を見ながらため息を吐いていた。

 

「あの老害どもは相変わらずの悪魔嫌いでしたしねぇ」

 

「………」

 

フードを深くかぶった少女の呟きにもう1人は答えない。

 

 

「はぁ……働きたくねぇでやんす」

(働きたくねぇな……)

 

奇跡的にもナザリックにいる女王と言葉がかぶる瞬間であった。

 

 

「まぁ……ハチさんのためならこのくらいするっすけど」

 

そんな言葉とは裏腹にその瞳はまるで子供がヒーローに憧れるかのように爛々と輝いている。

 

いや、現に彼女にとってはヒーローなのだろう。彼女の愛用のマントの裏にはかつて八幡と阿朱羅丸が考えた彼らの文様が描かれており、さらにはその下にサインらしきものが書かれていた。

 

 

「早く聖地に帰りたいでやんすねぇ」

「……zzz」

 

 

そう言いながら死体の山の上で足をばたつかせる彼女とは違い、もう1人は眠いのか寝てしまっている。

 

 

実際先ほどまでは暴れていたが、それが終われば無言になっていた。

流石に3徹で動いて入れば眠気に負けるのだろう。普段は喧しい彼女もこうなって入れば可愛げがある。

 

「まぁ……あっしから言われせてみれば、その胸はもぎとれればいいと思うでやんす」

 

 

やや嫉妬まじりの視線を向けるも、ピクリと何かに気がついたのか視線を元に戻した。

 

「動きやしたか……ではお仕事再開と行こうでやんす」

 

そう言って横に差していた鎌を抜き取りクルクルと器用に手と腕の周囲を回していく。

 

ガチャン、と手で握りしめ視線を隣へ移すと

 

 

隣で寝ていた彼女はおきていなかった。

 

 

 

「はぁ……あっし1人でやるでやんすか」

 

 

ため息を漏らしながら地を蹴れば、音速に匹敵するのではと思うほどの速度で距離を詰めていく。

 

 

目指すその先には…

かつて駒王学園を襲った合成獣の群れが暴れていた……

 

 

 




次回!
若手会合
ハチの眷属たちがはっちゃけます!







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若手の集結

リハビリったら意外と指が進んだのでそのまま書き上げました


若手会合編どうぞどうぞ






憂鬱。

意味:気持ちが晴れ晴れしないこと。

 

誰もが一度は味わったことがあるだろう。

班行動とかで1人置いていかれた時。

2人組のペアを作れと言われて1人残ってしまった時。

打ち上げムードのクラスの中1人打ち上げに誘われなかった時。

 

などなど憂鬱な気持ちになるのは人それぞれいろんな理由があるだろう。

 

《全部経験談じゃん》

 

 

は?ちげぇし。誘われなかったんじゃない、空気を読んで行かなかっただけだ。

ぼっち舐めんな阿朱羅丸。

 

 

……とそれたな。

 

まぁ、何が言いたいかといえばだ。

人には憂鬱になる時がある。

そんな時何もかも、それこそ立場やしがらみなんかを全て忘れて自由になりたい時というものがあるのだ。

周りはそれを尊重するべきだろうし、なによりもリフレッシュというものは誰にでも必要である。そこに種としての差異はない。

 

 

結論を言おう。

人間界に帰ろう。

 

 

 

「にぃ、いく」

「おにぃちゃん……いこ」

 

絶賛、ユウと恋に襟首を掴まれ引きずられてる俺は、空を見上げながら心の中で呟いた。

 

「行きたくない」

 

『声に出てる(ぞ/よ/わよ/)』

 

 

眷属と阿朱羅丸やクルルからの総ツッコミをもらった瞬間である。

 

 

 

 

地獄の一夜(それいけレヴィアたん)を終え、うちの家族(濃いメンツ)との再会を終えた俺はその後絡まれるゼノヴィアに合掌しながらも逃げるように自室へと向かい眠りに落ちた。

 

逃げる際、生物化学を研究しているDr.サンダーランドJr.に

 

「なかなか見ない天然物の聖剣因子を持つ存在!!うーん、是非とも解剖したい!!!」

 

などと言われていたゼノヴィアなんて見てない。仮になってたとしてもシノンたちが流石に止めるだろう。たぶん……

 

 

そんなことを考えつつ、まだ寝ぼけつつある状態で歩いて行きつつ、すれ違う使用人たちに挨拶を交わしていた。

 

 

鬼や悪魔、竜人などと他では即戦力として眷属に勧誘されそうな種族がここでは使用人として普通に生活している。

 

正義命の執事長のセバス・チャンやメイドにかなりのこだわりを持っているメイド長のレティシア、他にも濃ゆいメンツはこの家に多い。

 

 

特にメイドの鬼の姉妹など個性が強すぎるだろう。

 

昨夜イッセーがセクハラで他のメイドに吹き飛ばされた際など

 

「八幡君、お客様が吹き飛ばされてしまいました」

 

「八幡様、お客様が無様にやられてしまったわ」

 

などと真顔で言ってくるのだから個性の強さがなかなかである。特に姉の方。

 

 

 

とくだらない事を考えて入ればリビングにつき、一直線でテーブルへと着席する。

ボーッとした様子のリタや阿伏兎は既に着席しており、シノンやヴィザ、使用人たちは他のメンバーを起こしに行っている頃だろう。

何故かフリードの悲鳴が聞こえるがいつものことである。

数分すれば凍りついたフリードを含む、眷属、使用人一同、リアス・グレモリーの眷属たちが集まり朝食が始まる。

 

当然昨夜のことがあるので俺の主もまたここにいるのだが……

 

 

「あ、ハチ君も今日の若手会合には()()()()()()出席だからね」

 

 

飲んでいたマッカンを吹き出した瞬間だった。いや、俺だけじゃない、他のメンバーも面食らっている。

動いているのは口を動かし、次々と料理を咀嚼していくユウと恋、小猫の3名だけだった。

 

 

 

セラフォルー様曰く、俺は爵位を持ち眷属がいるという点と、年齢も若く、悪魔になったのも比較的に、悪魔の歴史から見れば最近であるということで若手側として出ろとのことである。

 

転生悪魔の俺が若手の会合に若手側に出れば純血悪魔から反発が起きそうなものだが…

 

「あ、それはもうわたし達5人で済ませてあるから♪」

 

笑顔で言うセラフォルー様がとても怖かった。ってか5人て確実に魔王様達とニオ様である。

 

何してんの貴方達?

暇なの?馬鹿なの?

 

 

ただでさえ昨夜の出来事で気分が沈んでいる俺の目から光が消えていくのだった………

 

 

 

 

 

 

そして時は戻り現在……

 

ユウと恋に引きずられる俺からは生気が消えていた……

 

 

 

 

 

 

会合場所に向かう途中、俺と眷属達は終始認識阻害をかけていた。

というのもグレモリー領やうちの領のようなことになるのを防ぐためである。

現に魔王の妹であるグレモリー達だけで既に黄色い歓声が上がっているのだからかけておいて正解だろう。

 

 

そうして憂鬱な気分自体を忘れようと勤めながら歩いて行けばようやく目的地へと到着する。それと同時に認識阻害を解除すれば扉の前にいた使用人らしき人物達がわずかに驚いたようだった。

 

 

「こ、これは。失礼……お待ちしておりました。グレモリー様、そして比企谷様。こちらへどうぞ」

 

 

すぐに立て直した使用人達はこちらへ向かい頭を下げる。ついついこちらも頭を下げてしまうのは日本人としての癖だろうか…

 

下がっていた頭が上がれば、使用人らしき人物達の1人が先導し始め、俺たちはそれに従って歩いていく。

 

 

少し歩けば、なにやら奥から複数人の気配が感じ取れた。その先頭に立つ存在はその中では一際大きく、俺達の中で言えばフリードと同等といったぐらいだろうか。見てみれば逞しい身体付きの黒髪の男性がこちらを見ていた。血に頼り、修練というものを積まない者が多い純血に悪魔の中でも数少ない、鍛え抜かれた存在がそこにはいた。

 

 

「サイラオーグ!」

 

「リアスか。随分と久しいな」

 

男性に…サイラオーグに対し声をあげたグレモリーに対し、彼はにこやかな表情で手を差し出せばグレモリーもその手を取り、握手を交わした。

 

 

「若手悪魔最強のサイラオーグか」

 

ポツリと俺が呟けばそれに反応したのか

 

「はじめまして、比企谷殿、その眷属の皆様。サイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主です。皆様のお噂はかねがね。あのレーティングゲームをみて、是非お会いしたいと思っておりました」

 

 

「……比企谷八幡だ。セラフォルー様の女王を務めてる」

 

 

こちらにも笑顔で握手を求めてくる。

なんてコミュ力だ!?

初対面の相手にこんなにも自然に……

 

《ハチのコミュ力が足りてないだけだよ》

《そのとおりね》

 

吸血鬼2人からの鋭いツッコミを貰いながらも握手を交わした俺はコミュ力の化け物(俺命名)から手をすぐさま離した。

 

 

「ねえサイラオーグ。あなた、眷属と一緒にこんな通路で何をしていたの?」

 

 

タイミングのいいことにグレモリーがサイラオーグへと疑問をぶつけてくれた。

 

「ふん、あまりにもくだらんから出て来ただけだ」

 

「くだらない? もしかして、他のメンバーも来てるの?」

 

「ああ。アガレスもアスタロトもすでに来ている。その上ゼファードルだ。着いた早々にアガレスとゼファードルがやり合い始めてな」

 

 

なにやら純血悪魔同士で揉めているらしく席を離れてきたらしいが、個人的に言えばそのノリに乗ってこの会合の席から離れたい俺である。

 

 

などと、もはや叶うことはないだろうことを考えていた俺の視界の先で建物が大きな揺れとともに何かが壊れるような凄まじい音が聞こえてきた。

 

 

「まったく、だから会合の前の顔合わせなどいらないと俺は進言したのだ」

 

 

音のした方にある大きな扉にこの場の全員が向かい始める。

 

そして、グレモリーによって開かれた扉の先には、見事にボロボロになった大広間があった。用意されていた机や椅子も例外無く全て壊されている。

 

その中央に、睨み合うようにして佇んでいるのは2人。1人は眼鏡をかけた一般的に言えば綺麗な女性。そしてもう1人は顔にタトゥーを入れた世間一般的に言えばヤンキーのような人物。

 

 

関わると面倒臭い。

その直感を信じ、俺はそっと眷属達を引き連れ待機室から離れ、先にセラフォルー様達がいるであろう会合の場に向かった……

 

 

 

 

 

 

「あれ?ハチ君?なんでハチ君達だけなの?」

 

「おぉ、八坊久しぶりじゃのう」

 

行けば元老院の悪魔達はまだ来ていなかったが、既にあの5人は揃っており、セラフォルー様とニオ様は俺を見た途端疑問の声をあげた。

 

 

「たぶん、ゼファードルはサイラオーグあたりに伸されてると思いますよ」

 

 

その一言だけで5人にはなにがあったのか伝わったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まずはこうして集まってくれたこと感謝しよう。ここにいるのは次世代を担うであろう若き悪魔達である貴殿らを我らが見定める場でもある」

 

 

20分程経ったであろうか。

ようやくきたグレモリー達にはなぜ自分だけ先に行ったのかというような恨めしげな視線を受けつつも、あの場にいた全員とライザー、ソーナを含む若手が集結した。

意外だったのはボコボコになりながらもゼファードルが参加していることである。

ヤンキーはタフネスだった……

 

そこからさらに数分経てばニオ様以外の元老院4人が現れ所定の位置に着く。その際睨まれた気がするがスルーする。

断じて俺の後ろから滲み出てる殺気を気にかけてではない。

 

 

そして会合の始まりをニオ様が普段俺たちの前ではあまり見せない威厳に満ちたオーラを纏いながら開幕の言葉を述べた。

 

 

そこからは悪魔の歴史やら、なにやら、9人全員がまるで校長のような長い挨拶を済ませていく。

 

 

「さて、君たち8人は家柄など考えなくても相応の実力を持つ、申し分無い次世代の悪魔だ。だからこそ、デビュー前に互いに競い合い、その力をより高め合っていって欲しい」

 

最後の1人となったサーゼクス様が8人にそれぞれ視線を向けながらそう口を開く。正直、面倒である……

 

 

 

「我々もいずれは『禍の団』との戦に投入されるのですか?」

 

 

そんなサーゼクス様の言葉にサイラオーグが思わず聞き返してしまう。

たしかに今の言葉ならそう聞こえなくもないが

 

 

「それはまだなんとも言えない」

 

サーゼクス様はそれをにごした。

 

 

「君たちは……正確には八幡君を除く7人はまだ実力不足だ。そんな君たちを、次世代を担うであろう君たちを戦線に投入することは我々としても望ましくない。本来ならば八幡君とて同じなのだが、彼はセラフォルーの女王でもあるからね。それに実力も僕らと比べて遜色ない」

 

 

そうサーゼクス様が答えれば俺へと自然に視線が集まる。

あらやだ注目されてる?

 

《現実を見なよ》

《あんたいつからオネェになったのよ》

 

日々鋭さが増す2人のツッコミを受けつつとりあえず笑っておく。

 

 

サーッ

 

 

何故か部屋の温度が下がった気がした。

周囲を見れば震える者、顔を青くする者続出である。何故?

 

 

『ハチの笑顔が怖いからよ(だよ)』

 

 

とても理不尽な理由でした……

 

 

 

「お言葉ですが、若いとはいえ、我らとて悪魔の一端を担っています。たしかに比企谷殿と比べれば小さき身でしょう。しかし、この年になるまで先人の方々から多くのご厚意を受けている身でありながら、何も出来ないとなれば……」

 

 

「サイラオーグ。その気持ちは嬉しい。勇気も認めよう。だが、ハッキリ言わせてもらえれば、それは無謀というものだ。万が一にも、キミ達を失うわけにはいかないのだ。次世代を担うキミ達は、キミ達自身が思っている以上に、私達にとってはかけがえのない宝なのだから。焦らず、ゆっくり、確実に成長していって欲しいのだよ。八幡君に関しては完全に例外。特殊なケースと思ってくれたまえ」

 

厳しくも優しいサーゼクス様の言葉に、サイラオーグさんも納得したのか、それ以上言う事は無かった。

 

 

いや、納得すんのかよ!

 

 

 

 

「さて、長い話に付き合わせてしまって申し訳無かった。これで最後だ。冥界の宝である君たちに、それぞれの夢や目標を語ってもらおう」

 

 

 

「俺の夢は魔王になる事。それだけです」

 

最初に答えたのはサイラオーグ。迷い無く、サーゼクス様を正面から見据えながら堂々と言い切ってみせた。

 

「ほお、大王家から魔王が出るとしたら前代未聞だな」

 

その答えに興味深そうにお偉い様方は耳を傾ける。

 

 

「私はグレモリーの次期当主として、レーティングゲームの各大会で優勝する事が近い将来の目標です」

 

次に答えたのはグレモリー。

それから、アガレス、アスタロト、ゼファードルの順でそれぞれの夢や目標をサーゼクス様たちに伝えていく。

 

そして……

 

「俺の目標は八幡殿に認めて貰い、そしていずれレーティングゲームで八幡殿達に勝つことです」

 

そう答えたのはライザーだった。

その言葉に周囲は目を丸くさせていた。

それはそうだろう。

純血悪魔が転生悪魔に認めてもらうなどと言えばこうなる。

 

しかし今までどこか退屈そうな瞳をしていたニオ様の瞳がライザーの言葉を聞いた瞬間光った。その口元は不敵な笑みを浮かべている。

 

まるで面白いモノを見つけたかのように。

 

「ほぉ、八坊に勝つか……それは並大抵のことではないぞ?」

 

「重々承知の上です。自分でも過ぎたる目標ということは理解しております……が」

 

そう言ってライザーは視線をニオ様から俺へと移した。

 

「誰しも、超えねばならないカベというものがあります。それが俺の場合八幡殿であったそれだけのことです。むしろ高いカベゆえに滾ります」

 

 

誰だお前はと前の彼を知るもの達ならば叫びたいだろう。

阿朱羅丸とのリアル鬼ごっこを味わったライザーは転生でもしたのだろうか?

そう思えるほど、どこか熱血の入っている節がある。

 

おい、ニオ様オトコじゃな、とかいうんじゃない。熱血止まらなくなるだろうが……

 

そんな意外すぎる告白をしたライザーの後に続くのは

 

 

「私の夢は。。。冥界にレーティングゲームの学校を建てる事です」

 

ソーナだった。

 

 

「学校?レーティングゲームを学ぶ場所ならばすでにあるはずだが?」

 

元老院の1人がヒゲに手を当てながらソーナへと聞き返した。

 

「それは上級悪魔と一部の特権階級の悪魔のみしか行く事が許されない学校の事です。私が建てたいのは、下級悪魔、転生悪魔も通える分け隔ての無い学び舎です」

 

言い終えた彼女の瞳には成し遂げてみせる為の熱がこもっている。

誰しもが分け隔てなく通える学び舎。

 

最初それを聞いた時は驚いたものだ。

 

 

『ハチ君のように差別を受ける存在がいる。そこに人も悪魔差異はありません。だから私は誰もが通える学園を作りたい!どんな生まれであろうと、掴める機会を与えるられるような場を!』

 

 

俺という存在と過ごしたことで、彼女の夢はより強固なものとなっていった。

 

そんな夢を俺やセラフォルー様は応援している。

 

 

しかし……

 

 

「「「「ふはははははは」」」」

 

この老害どもは別だった……

 

 

「それは無理だ!」

 

「これは傑作だ!」

 

「なるほど。正に夢見る乙女というわけですな!」

 

「若いというのはいい!しかし、シトリー家の次期当主ともあろう者がそのような夢を語るとは……ここがデビュー前の顔合わせの場でよかったというものだ!」

 

その夢を真っ向から否定した。

 

 

「ソーナ・シトリー殿。下級悪魔、転生悪魔は上級悪魔たる主に仕え、才能を見出されるのが常。その様な養成施設を作っては伝統や誇りを重んじる旧家の顔を潰す事となりますぞ?」

 

「さよう。悪魔の世界が変革の時期に入っているのは我々も認めている。だが、変えていいものと悪いものの区別くらいはつけてもらいたい」

 

「たかが下級悪魔に教育など、悪い冗談としか思えんな」

 

 

そんなふざけた言葉に対してその横でセラフォルー様から静かな殺意が滲み出しているのがわかる。

老害どもには伝わってないがこちらにはヒシヒシ伝わってきていた。

ニオ様はその隣でつまらなそうな目をしているが……

 

「まったく、人の転生悪魔風情に爵位を与えるなど、シトリー家はどうしておるのだ。もっとしっかりと考えて行動していただきたい」

 

「まったくだ。そもそもそんな男が何故この場にいるのか理解しがたいというもの」

 

瞬間、セラフォルー様から伝わる殺気が赤子に思えるのではと思うほどの殺気が俺の背後から訪れた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は……間違っていたのか……

自分の夢を話し、今もこれからも努力を惜しまずにつけていたつもりだった。

 

しかし、私の夢は一蹴される。

元老院の方々には笑われ、あまつさえハチ君やシトリー家に対する言葉まで言われる始末。

 

そんな時だ

下に俯き、拳を強く握りしめるしかできなかった私すら背筋が凍るような感覚に陥った。

 

いや違う。実際に凍っているのだ。

 

 

 

この会合の部屋全体が……

 

 

 

 

 

 

 

「言いたいことはそれだけかしら?」

 

数ヶ月前、あのレーティングゲームで名を馳せた、氷獄の射手がその場にはいた……

 

 

いや、彼女だけではない……

 

あの時名を馳せた者達に加えそのほかの眷属達までもが臨戦態勢入り元老院の4人に向かって強大な殺気を飛ばしていた。

 

 

こちらに向いてないことはわかる。

でも、向けられていなくても息がつまる。

身が震え、本能が身体へと警告を発した。

逃げろと。

この場から離れろと。

しかし、身体はその意思とは反してまったく動くことはない。

 

 

 

「それだけって聞いているのだけれど?」

 

もう、あなたが女王でいいんじゃないですかね?そう思えるほど今の彼女の雰囲気はそれであった。

 

 

「な……なにほ……」

 

向けられてなお意識を保っていたのは純血故の誇りか、或いは意識が落ちない程度に調整されていたから定かではない。

しかし、先ほどまでのような高圧的な態度が彼らからは消えていた。

 

 

「随分と好き勝手いってくれるじゃない」

 

立場的に言えばシノンの方が低いはずにも関わらず、その言葉は紡がれた。

まるで彼ら眷属の言葉を代弁するかのように。

 

 

「この()()()()()

 

 

言ってしまった……

結構な人数が思っていることを。

 

 

「な、ななな、き、きしゃま、いったいだれぇにむかっひぇ!」

 

未だにうまく喋れない中、それでも元老院の4人は憤慨した様子でシノンに対して物申そうとするが……

 

 

「やれやれ、少しは黙ってはいかがでしょうか?」

 

静かに、されど重くのしかかる言葉によってその様子は鎮圧される。

 

「ヴィザ…翁………」

 

それを発した人物の名を思わず呟いてしまう。彼が発した圧は先ほどのシノンの比ではなかった。にもかかわらずこちらに一切の被害がないのは、その年季と技術故か……

 

 

ヴィザの血筋を知ってる私や姉様…そして目の前にいる魔王様や元老院の方々は先ほど以上に張り詰めた空気を感じた。

 

 

「全く……やはり貴方方はどうにも度し難い。先にサーゼクス殿が若手は冥界の宝。そのように言ったにもかかわらず」

 

 

普段閉じられているかのような瞳とにこやかな笑顔の老紳士はそこにはいない……

 

 

「若手の夢を笑い、挙げ句の果てには私が剣を捧げた主に対する言葉」

 

 

その瞳は開かれ、老練の悪魔としての……

かつて魔翁(マオウ)と呼ばれていた男の姿があった。

 

 

「若造があまりつけあがるなよ?」

 

瞬間、元老院の首が飛んだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かのような錯覚に陥った。

 

実際にはそんなことは起きていない。

 

しかし、本当に飛んでしまったかのような、飛ばされたかのような幻を見た。

周りを見ればほかの若手達も驚いている。

それだけでそれを見たのが自分だけではなかったと判断できた。

 

 

「ヴィザよ、その魔力を抑えい」

 

そこに割って入ったのはこれまで黙っていたニオ様。その背後からはヴィザ翁に引けを取らない魔力が漏れ出している。

 

 

 

「貴方が私に指示するのですか?ニオ?」

 

そんなニオ様にまるで対抗するかのようにヴィザ翁は魔力を更に溢れ出させていく。

 

 

一触即発か……そう思われた中

 

 

「ヴィザ」

 

一言。たったそれだけでヴィザ翁から溢れて出ていた巨大な魔力が消失した。同時にニオ様から出ていたものも……

 

 

「ニオ様も面白がってませんか?」

 

「くく、気づいておったか。なに、ヴィザが怒るなど久々だったからの。思わず突っかかって見たくなってしまったわ」

 

はぁ、とその言葉に対しハチ君がため息を漏らせば

 

「シノンよお主もおさめよ。ここは論議はすれど武力行使はしてはならん。こやつらに対してそれをやるのは……」

 

とびきりの笑顔を持ってニオ様は応えた。

 

 

「我の特権じゃからのぅ」

 

 

その時私は思った。

 

なんでニオ様(この人)が魔王じゃないんだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「してハチ坊よ。最後は主じゃ。主の夢はなんじゃ?ゆうてみぃ」

 

 

数分後、元老院の4人を退場(物理)を済ませたニオ様がこれまでにないほど楽しげな様子でハチ君に問いかける。

 

 

「おれすか?」

 

「お主以外に誰がおる」

 

たわいのないやりとり。

けれどそれすら愉しげに見えた。

 

 

「おれはそうっすね、とりあえずは今の生活を維持することですかね?」

 

「今の…か?」

 

ほかの若手の面々はポカンとした様子でその会話を聞いている。

たしかに先のやりとりを見せていた眷属を持つ主にしては些か小さな夢に見えたのかもしれない。

 

けれど……

 

 

「おれは転生悪魔なんで……とりあえずは周りを守るので精一杯なので」

 

そう彼は守っているのだ。

その身一つで。

一つの都市を。

何万という民達を。

それはほかの異形のものからだけではない。

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それはこの悪魔社会に身を置く彼にとってどれほど過酷なことか……

 

 

「そうか……ならば守ってみせい。己が力を持って。周囲を、家族を、大切な民達を!その行く末を我に見せてみよ!」

 

ドンッと効果音が付きそうなほど威厳に満ちた言葉がその場で放たれる。

 

それだけで。

たったそれだけのことでハチ君がニオ様から期待されているのがわかった……

 

 

 

「かないませんね……」

 

自分のなんと不甲斐ないことか。

自身の夢を笑われ、立場を恐れなにもできなかった自分の。

 

彼は違った。

たしかに彼は動いてはいなかった。

けれど、彼を守らんとする者達は、いずれも彼に影響され、彼を守らんが為に動いた。

 

彼のこれまでの生き様が、彼の眷属や周囲に対する姿勢が、彼が築いてきた全てが、彼の周りにあるのだ。

 

 

眷属から全幅の信頼を寄せられて、民から支持され、ニオ様やおそらく魔王様方から期待を寄せられている。

 

 

その姿はまさしく……

 

 

 

 

 

 

 

 

私が将来目指す、教師像であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、それとの、お主らの実力を見極めるという意味でも、切磋琢磨するという意味でもレーティングゲームの若手リーグ戦を行うが、手始めに最初のエキシビションとしてハチ坊vsほかの7人の若手悪魔でやるからの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁぁぁああああ!!!???』

 

 

 

その場にいた若手全員が最後の最後で声をあげてしまった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





原作とは違いライザーさんは若手に年齢変更させていただきました。





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ドキ☆冥界夏合宿〜命のポロリもあるかもよ♪〜
特訓の始まり『生きろ女王、超えろ猫娘』


今回は短め。

楽しんでくれたら幸いです(・ω・`)


 

それは、若手会合の翌日に起こったことだった。ニオ様から八幡の眷属と他の若手がレーティングゲームを行うと言われたあの後には、ソーナ・シトリーや、リアス・グレモリーから、そんな!?という驚愕の視線を、ライザー・フェニックスやサイラオーグ・バアルからは好戦的でどこか愉しげな視線を、他の者達からはやや怯えた視線を感じていた。

 

しかし。ニオ様や魔王様達はその発言を覆すことはなく、8月20日、会合が7月27日に行われたのでおおよそ20日間の猶予が若手には与えられた。

 

 

そして、その日他の若手からの視線を受けつつも私達はナザリックへと帰還したのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ始めましょうか」

 

現在。何故か伊達眼鏡をつけたリタがその後ろに多くの機材を運んでいる阿伏兎達と私を引き連れ、先日ライザー・フェニックスとヴィザ翁が戦っていた闘技場へとやってきていた。

 

 

眷属達全員が集い新参者である私の方へと視線を集めた。

 

 

「え……と、何が始まるのか説明を…」

 

「簡単なことよ、今からレーティングゲームまでの間のあんたの特訓よゼノヴィア」

 

 

クイッと眼鏡を持ち上げたリタは側に置かれた機材を次々と弄り回していきながら応える。

 

 

「現状、一番の不安要因はあんたよ。これは純然たる事実。悪魔になりたてっていうのもあるけど、もっとも私達と付き合いが短いというのもあるわ」

 

その言葉に先日のタンニーンとの戦闘を思い出してしまい、思わず拳に力が入りそうになるが

 

 

「けど、あんたの可能性は正直私じゃ見切りきれないわ。それこそ、阿朱羅丸が言ったようにうかうかしてれば私達が抜かれかねないくらいには」

 

次に続いた言葉にポカンと口を開けてしまっう。

 

 

「だから、レーティングゲームまで()()()()()()()使()()()()()あんたを鍛える。昨日全員で話して決めたことよ」

 

 

そう言ってパチンッと最後のコマンドを入力し終えたのか、リタは立ち上がりパンパンとズボンについた土を払った。

 

他の者へ視線を向ければ全員がリタの言葉に同意を示すように頷く。

 

 

「反則な手?」

 

その言葉に嬉しさと、特訓という言葉にワクワク感を覚えながら、ふと疑問に思った言葉を口に出した。

 

 

「あー、反則な手っすね。20日間しか無いにもかかわらずそれ以上の時間を使って特訓することができるんだからなぁ」

 

その疑問に答えたのはフリードだったが、その顔はどこか暗かった。

 

「あんたはこの特訓受けたことあるからね。あの時のことでも思い出した?」

 

そんなフリードにシノンがクスリと笑いながら視線を移せば、フリードは苦虫を噛み潰したような顔になってしまう。

 

 

「20日間でそれ以上の特訓?」

 

 

どういう意味なのだろうか?

まるで言っている意味がわからず頭上にクエッションマークが咲き乱れた。

 

 

「百聞は一見にしかず、見てもらった方が早いねー」

 

そう言ってユウキが歩き出していく。

こちらとやや離れ闘技場の中央に着いた時こちらに振り返ると笑顔を見せてきた。

 

 

瞬間、世界が変わる。

 

 

 

「っっっっっなぁあ!!!????」

 

 

何が起こったのか私には理解できなかった。

一瞬。ほんの一瞬瞬きをしていた間に世界が変わってしまったのだ。緑生い茂る広大な土地に。遠くには塔のようなものも見えた。

 

 

「ようこそ、僕の夢の世界【アルヴヘイム】へ」

 

 

そう言って満面の笑みを浮かべるユウキとは対照的に未だに私は混乱している。一体ここは何処なのだと。夢の世界とはいったい……

 

 

「ここはね、僕の神器"白昼夢(デイドリーム)"で作られた僕の夢の世界。僕という存在を表す世界なんだよ。言葉通り白昼夢。僕の夢の中の世界というわけさ」

 

 

神器!?これが!!?

聞かされた答えに驚きながら周囲を見渡す。

澄んだ空気に、気持ちのいい風、それに揺られる草原。とてもでは無いがこれが夢であるとは思えなかった。

 

 

「そして大事なことが一つ。この世界での死は現実世界同様の死だ。夢だからって油断して死ねば向こうにはもう戻れないよ」

 

その言葉にゾッと背筋が凍る。

何故そんなことを言うのか……

まるで……

私が死ぬかもしれないようなことを……

 

 

「でも。そんな事とは別にいいこともある。それはここは夢であるがゆえに現実世界とは時間の流れが違う。ここで何日、何週間、何ヶ月、何年居ようが現実ではほんの数秒〜数分程度だ」

 

 

そんな私の疑問を知ってか、知らずかユウキは淡々と説明を続けていく。

 

 

「にもかかわらず、ここで得た経験はそのまま現実世界でも受け継がれる。修行するにはもってこいの場所だね」

 

 

「ただ……」

 

そこで一回、話を区切り彼女はこちらへと歩み寄ってくる。

 

 

「あまり長いことここで経験を積みすぎると現実で受け継がれた時身体が持たないこともあるから、やりすぎは厳禁なんだけどね」

 

 

そう言って彼女は私の肩を軽く叩きリタ達の方へと歩んでいく。

 

 

「そう言うわけでここでやるのは限界ギリギリまで。現実世界での1日で1回だけこの世界に入って特訓をするわ。ここ以外での特訓はしなくていい。だけど……」

 

 

そう言ってリタは眼鏡を外した。

 

「毎日出るここでの課題をクリアできなければ、ここから出ることはできない。1日1回しか入らないと言っても、その時間が数日、或いは何ヶ月もかかることだってある。1つのノルマをクリアするまで出ることは禁止。そう言うルールのもとで行うわ」

 

そう言った彼女の、そして他の面々の眼は真剣そのものだった。

 

「……やるやらないはお前の自由だゼノヴィア。正直オススメはしない。阿朱羅丸達とやってたやつの何十倍もきつくなることだからな」

 

 

それでもやるか?

 

 

今まで口を挟んでこなかった主から……

八幡から最後の確認を取るかのように聞かれる。

 

 

「私は……」

 

ギュッと瞼を閉じれば今も浮かんでくる。

タンニーンとの戦いが。

駒王で見た他の眷属たちの戦いが。

昨日の会合での皆の姿が。

 

自分には足りないのだ。

強さが。

力だけの話ではない。

心の強さすら私はみんなに比べれば弱いのだ。

 

でも、それでも

 

「私は……やる」

 

踏み出さなければ行けない。

こんなところで止まっているなど考えられない。だって私は……

 

「そう。なら私たちも全力で協力するわ」

 

そういうリタの顔には笑みが浮かんでいる。

いや、リタだけじゃない。

他の眷属や八幡も笑っていた。

そんな彼らに向けて私も笑みで返す。

 

 

そう、私はこんなところで止まるなんてありえないのだ。だって私は登り始めたばかりなのだから。

 

この先、果てしなく続いていく強者坂を。

その先で彼らは待ってなどくれない。彼らは歩み続けるだろう。それに追いつくには、走るしかないのだ。

 

駆け上がらなければ、彼らに追いつくことなどできない。

 

 

「なら、ここからは私達に任せてもらうわよ。ハチ」

 

「ああ、わかってるよ。ユウは連れてかせてもらうぞ?」

 

「ん、わかった」

 

私の言葉に満足したように笑った八幡はそう言ってユウを連れて、消えていった。

おそらく、この世界から出たのだろう。

 

 

「さて、それじゃあ始めましょうかゼノヴィア」

 

八幡の消えた跡をずっと見ていた私だが、リタの声で再び彼女へと視線を戻した。

 

「やるのは20日間。レーティング3日前には終了よ。あんたには1日1個、合計20個のノルマをクリアしてもらうわ」

 

彼女の顔には先程の笑みは消え、真剣な顔に戻っていた。

 

「だから私たちからまず言えるのはこの一言よ」

 

最初のアドバイスとも言えるその言葉を私は気を引き締めて待った。

 

「絶対に死ぬな」

 

「どんな特訓をする気だ!!??」

 

盛大にツッコンだ私は悪くないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side八幡

 

「にぃ、ゼノヴィア大丈夫?」

 

白昼夢(デイドリーム)から出た後、ナザリックを一望できるいつもの丘に向かう途中、ユウから心配そうな声色の質問が漏れた。

 

その瞳には目に見えた彼女に対する気遣いと心配が浮かんでいる。

 

「まぁ、あいつなら大丈夫だろ」

 

そういう俺も正直不安である。

ユウに大丈夫と返しておきながら、冷や汗を流していた俺はリタから昨日渡された書類に目を落とす。

 

 

 

【ゼノヴィア魔改造計画書】

made in リタwith ヴィザ

《ノルマ一覧》

1日目『神器を使わないフリードの撃破』

2日目『神器を使わないクロメの撃破』

3日目『マジギギカの試練withマギルゥ』

4日目『夜兎との鬼ごっこwith阿伏兎』

5日目『ヴィザから1本取る』

6日目『氷の試練withシノン』

7日目『ユウキから1本取る』

8日目『機械仕掛けの大試練withリタ』

9日目『ケモノ戦記with恋のペット達(ガチ)』

10日目『大乱闘スマッシュファミリー』

11日目以降

成長度合いによって変更

主にガチバトルを計画中

 

 

 

 

……あいつ死なないかな。

本気で思ってしまった。

全員が1回はタイマンでやり合うのはまだ、100……いや1000歩譲ってわかるとしよう。

 

だが9日目と10日目、そして11日目以降が問題である。

 

いや、その前も十分問題あるのだが、それにしてもだ。

 

 

恋のペット達(ガチ)はマズイ。

ドラゴンを筆頭に様々な幻獣がいる。

最悪ゼノヴィアが灰塵と化す可能性すら出てきている。その後の大乱闘スマッシュファミリーだ。あれは眷属同士による実力80%戦闘(バトルロイヤル)である。実力の80%までという制約を課して行うものだが、他のメンバーの80%を果たしてゼノヴィアが受けきれるのか……

 

「……」

「……」

 

横から覗き込んできたユウも俺と共に静かに空中に浮かぶ闘技場に向かい合掌を行い、再び丘へと歩みを進めていく。

 

 

 

 

そうして丘が見えてくる同時に丘の上で立っている存在が視認できるようになってきた。小柄なその存在は、しかし、強い決意を感じることができた。

 

 

「よぉ、小猫」

「ん、小猫、よろしく」

 

「はい……先輩、ユウ君。よろしくお願いします」

 

 

彼女は今度のレーティングゲームでは敵である。しかし、それでも彼は、彼らは彼女に手を貸す。彼女のために。

彼女の仲間はアザゼルから手ほどきを受けるだろうが彼女はそれを拒み俺のもとに来たのだ。ならば俺たちだって応えよう。

 

「じゃあ、移動するとするか」

 

そう言って俺は翼を出し空へと羽ばたいていく。それに続くように2人も空へと身を投げ出した。

 

向かうはナザリック空中施設が一つ。

"修練堂"

ゼノヴィアのようにユウキの白昼夢(デイドリーム)ではなく、純粋な修練の際俺たちがよく使う施設である。

 

 

 

施設につき、翼をしまい、振り返れば、小猫はやや震えていた。それでも、彼女の決意が消えた様子はない。

 

「先輩……ユウ君」

 

振り向いた俺たちに対し彼女は言葉を続けた。彼女にとって大きな1歩となるその言葉を。

 

「仙術の特訓お願いします」

 

怯えは消えず、されど確かな1歩が踏み出された。

 

それに答えるのは世界を渡りありとあらゆる種族の血を吸い、力を模倣してきた鬼呪なる龍を宿せし存在と、ありとあらゆる仙術を自在に操る仙を司りし狼の血を引きし存在である。

 

ここに1人の猫魈の目の前に、仙術を恐れる少女の前に2人のエキスパートが彼女のために動くのだった。

 

 

 




今年あと1回は少なくとも投稿したいな(・ω・`)

ではではー


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【狂人の壁】と【仙狼の霊薬】

あけましておめでとうございます
(ものすごく今更).

今年の第一弾更新となります。

今年一年で何話出せるのか、或いは最終話まで行くのかわかりませんが見てくださる方々、温かく見守っていただけると幸いです。

では今年の第一弾更新どぞどぞ、
尚原作と異なる点が今後多く出てくるのでご了承ください



 

 

その者狂人である。

 

苛烈な年少期を過ごした少年の心は荒んでいた。眼に映る者は全て敵である。

その日その日を生きるため、なりを潜め、人を殺し、その血肉すら自らの糧へと変えてきた。

 

そんな少年は青年へ変わるかどうかという頃、その先の人生を変える出会いを果たした。

 

それこそが未来、彼の主となる存在である。

さして自分とは変わらぬ年の子が、自分以上の力と、自分以上の濁った眼を持っていた。

にもかかわらず、その者の眼には光があったのだ。不思議だった。

ただ、ただ、第一印象はそれである。

 

濁りきった瞳の奥に宿る光、それが彼を動かし、未来を決めた最大の要因だった。

 

 

その後青年は、天使陣営のエクソシストとして名を挙げることとなる。

しかし、名を挙げた彼はそれから数年後はぐれとなり、教会をあとにした。

それでも、そんなことをしていたにもかかわらず、彼は今も生きている。狂気的な笑い声をあげながら。

 

それはひとえに、彼の強さゆえである。

人の身でありながら、あらゆるクズ悪魔を倒し、あらゆる天界からの刺客を退けてきた。

 

悪魔となりさらに上がったその実力は普段の彼の周囲によって埋もれがちである。眷属内ではそういうキャラ故に軽視されがちであるが忘れるなかれ。

 

彼は遊びながら、ふざけながら、上級悪魔であるカテレア・レヴィアタンを無傷で圧倒していたということを。

 

 

「ひゃひゃひゃひゃひゃ、おいおい、どうしたよ?その程度かゼノたん。そんなんじゃ草が生えちまうぜ」wwwww

 

そういう青年は、フリードはおおよそ人に見せられないような狂気的な笑いを見せている。その足元にいる倒れ伏しているゼノヴィアに対して。

 

「っぐ……こんなに……っがぁ!?」

 

所々から流血しながら目の前のフリードを睨む彼女は立ち上がろうとすれば、蹴りをその身に叩き込まれ吹き飛ばされていった。

 

「ッゴホ、…はぁ、はぁ」

 

なんとか受け身をとった彼女はその勢いを利用し立ち上がるが、その姿はボロボロである。対するフリードは所々服が切れてはいるものの、その身に刃が届いた形跡はない。

 

 

「たりねぇ、たりねぇ。そんなんじゃ俺っちは倒せねぇぜゼノたん」

 

そう言って片手に持つ銃で肩をトントンと叩く。一見隙だらけである。しかし、明確な一撃は未だいれられていない。

 

「意外か?俺っちに一撃すら入らないのが?」

 

彼女の考えを読みとったのか彼はさらにその笑みを深めた。

 

「舐めてたんだろ?普段のリタにやられてる俺が、シノンの姉御に遊ばれてる俺が、そういう立ち位置にいる俺なら倒せると。そう思ってたんだろ?」

 

そういう彼から狂気的な笑みが消えていった。

 

「あめぇよ。あめぇんだよ!そういう表面しか見ないとこも、こっちを殺そうとする気概も、勝利に対する渇望も!」

 

そこにいたのは1人の戦士である。

 

「俺は!俺たちは!旦那の家族であるとともに旦那の手足だ!旦那を守る盾であり、仇なすものと戦う剣だ!その俺たちが、その筆頭となる眷属達が弱いわけがねぇだろうが!」

 

普段の彼とはまるで違うそれに呆然とゼノヴィアは彼を見つめる。

眼に宿るのは強い意志。

そこに普段のふざけたものは一切混じっていなかった。

 

「来いよゼノヴィア!俺を倒すってノルマで鍛えられるのは腕っ節だけじゃねぇ。心の強さ、想いの強さを徹底的に鍛えてやる!」

 

それは彼だからこそ出た言葉。

眷属内において様々な勢力の元に間者として紛れ、その度にその勢力から逃げてきたからこそ、それでもなお主の為に動いていた彼だからこその言葉だった。

 

「うぉぉぉおおおおおお!!!」

 

その言葉に呼応するように彼女は再び走り出す。呆然としていたが、持ち直し剣を取る。じわり、と聖なる輝きを放っていたデュランダルに黒い気配が現れ始めれば、先の打ち合いとはまるで別格の威力を放ち始めた。

 

ギャリンギャリンと金属同士が激しく触れ合う音が鳴り響き、周囲に火花が散っていく。

 

力ではゼノヴィアに分がある。

しかし、速度ではフリードに分があった。

 

互いが互いの得意な分野に相手を引きずり込もうと動き出す。先ほどまでと同じ流れである。しかし、先程はついていけなかったゼノヴィアがフリードの速度に徐々にだが付いて行き始めていた。

 

緩急を使いゼノヴィアを翻弄していたフリードの剣を彼女は捉え始める。

 

それに驚いたのは他でもない打ち込んでいたフリードである。

 

(やれやれ、相変わらず嫌だねぇ、天然の天才型ってやつは)

 

心中で悪態をつきながらフリードは次の手を考えていく。

彼は彼女のような天然の天才でない。

彼の強さの秘訣はその人生における数多の経験と積み重ねてきた修練にある。

それを戦闘の中で積み重ねた手札を切っているのだ。

しかし、ゼノヴィアは違う。

成長しているのだ。この戦闘の中で。

それは稀に見る天然の天才型。

戦いの中で新しい力を、技を、戦法を編み出し、それを瞬時に使っていく。

眷属内で言えばユウキや恋に近い存在である。それは堅実に修練を積むフリードにとっては天敵の部類に入る。

 

 

(っち、どこまで上がるか読めねぇ)

 

堅実故に相手の動きを読み、堅実故に相手の弱点を突いていく。普段おちゃらけ、ふざけているキャラとは裏腹に戦闘での根幹に堅実さを持つ彼にとって戦闘中に相手の強さが激しく変わるなど厄介以外の何者でもない。

 

(これが阿伏兎やユウキなら楽しいっていうところだろうがな)

 

ふと、同僚の考えが頭によぎるがそれを振り払う。

結果の見えない勝負ではふざけない。

 

それが彼の信条とするところだ。

勝てるとわかればとことんふざけるが、そうでなければどこまでも真面目に。

それが彼の強さの一面でもある。

頭が硬いわけでもなく、柔らかすぎるわけでもない。

それ故に不測の事態でも瞬時に行動できる。

それ故に彼は今まで幾度となく生き延びてきたのだ。

 

 

(負けれねぇ!)

 

自分が負けるまでこの戦いは続くがそれでも彼は微塵も負ける気は無かった。

 

 

 

「そぉぉおおらぁぁああああ!」

 

 

剣戟の合間に銃弾を撃ち込み始める。

ここからが彼の本領である。

神器を使用不可であろうともその力は最上級悪魔にすら引けは取らないのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところ代わり修練堂では……

 

 

「にゃ、にゃああああああ」

 

尻尾と猫耳を生やした1匹の猫娘が生まれていた。その顔は真っ赤になっており、甘えるように八幡にその身を擦り付けている。その横では彼女を撫でる八幡とユウが嘆息を吐くという珍妙な光景が広がり、2人してやり方を間違えたかな、とやや後悔の念が生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

 

搭城小猫はずっと悩んでいた。

自分だけが八幡と繋がりが薄いことに。

他の面々である彼の眷属はもちろんのこと、昔からの付き合いである会長は彼と確固たる繋がりがあった。それが羨ましくもあり、悩ましくもあった。

それをさらに助長させたのが彼の女王、ゼノヴィアである。

 

自分よりも付き合いは短いのにずっと彼の側に彼女はいた。

彼や彼の関係者に良くしてもらっていた。

 

それが堪らなく、羨ましかった。

 

そして怖かったのだ。

彼女の成長が。

彼女の成長が伸びていくたびに、その分自分と彼らとの関係もまた遠ざかっていくようで。

 

駒王協定の際自分はどうだった?

 

敵に捕まっていた。

しかしゼノヴィアはどうだろうか?

 

彼女は他の眷属と共に見事に禍の団を殲滅してみせた。

 

その頃からだろうか。

力を求め始めたのは。

 

だが、その時はまだ仙術を学ぼうとは思っていなかった。当然だ。リタが、八幡がいたとはいえ小猫にとってそれはトラウマであるのだから。

 

 

だが、その考えを打ち砕いたのがタンニーンとゼノヴィアとの戦いである。

あの戦いにおいて、おそらく小猫が最も衝撃を受けていただろう。

 

こんなにも遠くなっていたのかと。

 

今の自分がタンニーンに傷を負わせられただろうか?

否。絶対に負わせることなどできはしない。

 

だが、彼女は。

数ヶ月前まで自分と大差なかったはずの彼女はそれを成し得たのだ。

そして、彼女を囲うように集った主やその眷属達を見た時、小猫の中で決意は決まった。

 

おいていかれたくないと。

この先も共に歩みたいと。

自分もあの場にいたいと。

 

 

故に彼女は今回の修行期間で八幡に頼んだ。

自身に仙術を教えて欲しい……と

 

 

 

 

 

その結果彼ら2人が持って来たのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マ、マタタビ……ですか?」

 

猫に、特に猫妖怪に絶対渡してはいけないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、単なるマタタビ、違う」

 

顔を引きつらせながら声を出した小猫の言葉を訂正するようにユウが持って来た壺をポンポンと叩きながら続ける。

 

「これ、仙狼に伝わる仙術修行の際に使う霊薬、通称"魔堕々尾(マタタビ)"」

 

なにその名前、と小猫は後ずさりしてしまう。

 

「仙術、一番怖いの、負の気に呑まれること。でも、この魔堕々尾(マタタビ)飲めば、大丈夫。先にこれに、呑まれてる、から」

 

どんな荒療法だと心の中で叫んだ小猫は悪くないだろう。しかしそんな小猫も

 

「これ、動物系の力を持ってるなら、誰でも有効。仙狼族の、みんな、これで10の時には、みんな、仙術使えるように、なる」

 

その荒療法とは裏腹の効果に目を見開く。

 

「仙狼の里に、伝わる、霊薬。だから、本当は、あまり使わないけど、今回は、小猫の、ため、だから」

 

ケモノ仲間だし。

 

と、付け加えるように呟いたユウを見た後思わず八幡の方にも視線を移せば、コクリと彼も頷いている。

 

彼らなりに小猫に対する優しさがそこにはあった。

 

 

「取り敢えず、これ、少し飲んでみる。飲んだ量に、応じて、無意識下に、空気中の気を、取り込むから、最初は、飲むだけで、やることない。まず、慣れから」

 

 

完璧なプランである。

小猫自身、まさかそんな便利アイテムがあるとは思っていなかっただろう。

 

 

これならできる。

そう思い決意を更に深めた小猫だが、ユウがその手元の瓶の蓋を開けた瞬間。

 

彼女の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

そして現在……

 

「にゃ、にゃああああああ」

 

「うん、最初は、こうなる」

 

「先に言っておいてくれユウ」

 

 

一匹の発情猫が出来上がった。

ただ、その身に僅かながらだが、仙術の気を内包していたことに気がついた八幡は、ただただ、苦笑いするしかなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何だったでしょうか?

個人的に何故か最終話だけはこういう形で締める!
というのが完璧に決まってしまった今日この頃ですw

その最終話を今年中にお届けできるのかどうか
わかりませんが更新頑張ります!w


次回もよろしくなのです!ノシ




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管理者不在の駒王町

久しぶりです。

久しぶりなのに短くてすみませんm(_ _)m

今回迷いに迷って、眷属1人出すことにしました(レーティングゲームに向けて)

この子は結構当初から眷属にしようと思いながら、いつ出そうかなぁと思い、長門が表舞台に立つ時に一緒にお披露目かと思いながらも今回出すことにしました。





 

 

「あーーもーー暇っす!」

 

日の時間が長くなりつつあるこの時期、灼熱の外界とは打って変わり、文明の叡智(エアコン)を効かせた部屋にてその声は響きわたる。

 

白のTシャツと短パンを身にまとった少女は夏らしくアイスの棒を食べながらも文句の声をあげた。

 

活発そうな見た目と違わず声をあげた彼女の対面には静かに氷菓を頬張る魔女服の少女。

 

駒王町の端にある高層マンション、比企谷八幡が眷属長門有希の部屋は夏の暑さにも負けず、文明の恩恵を最大限に享受していた。

 

「ハッチ達やワガママ姫が居ない間の街のパトロールって言っても、ハッチが正体を明かした今、この街に来る阿呆はそうそう居ないっすからねぇ」

 

そうボヤいている彼女の言う通り、八幡達が冥界に里帰りしてからこの街にはぐれが来たことはない。

仮に来たとしても今こうしてボヤいている彼女からしてみれば大概のはぐれ悪魔ならば処理出来うる上、対処できない場合は最悪有希が出張ればいいだけである。

 

しかし、鬼呪龍神皇がこの街にいることが各勢力に知れ渡ってからというもの、この街に来る人外の数は目に見えて減っていた。

 

そのおかげでこうして彼女達は部屋の中で自堕落に生活しているわけだが、その反面やることがないというのも事実であった。

 

「はぁ、うちも冥界に帰りたかったっス。ハッチ達はあの女王の特訓に付き合ってるだろうし、うちらだけ仲間はずれっすよぉ〜」

 

チュパっとアイスを舐め終えた彼女は棒をゴミ箱へと投げ捨てバタンと床へ体を投げ出し手足をバタつかせる。

 

ナザリックにいるメイド長と同じ黄金色の髪がクシャリと床と頭の間で潰れ、バタつかせる度にツインテールは揺れ動いているが、満足したのかピタリと動きを止めれば、普段のつり目が緩み口を尖らせ

 

「ユッキーはずっとここにいるけどいいんすかぁ〜?」

 

対面に座る有希へと問いかける。

 

「もうじき、私も表に出る時がくる。それまで何の問題もない」

 

しかし帰って来たのは機械的な返事。

 

面白くない。

そう思った彼女は身体を起こし、その青い瞳で有希を捉えた。

 

「む〜、ユッキーはそればっかっす!仮にユッキーがそうだったとしても何でうちまでここで待機なんすかぁ〜」

 

詰まる所、彼女が言いたいのはそこである。

 

八幡の決定故に従っているが自分のことを未だ秘密にしていなくてもいいのではないか。

そもそもフリードやクロメと言った人物達や未だスパイ活動に奔走している眷属、そして彼女自身のことも既に首脳陣は知っているのだ。

 

彼女が生きていること、そもそも八幡の眷属候補であったことを聞いた際、首脳陣。

特にアザゼルはポカンとしたアホヅラを晒したらしいがそんなのは彼女にとってはどうでもよかった。

 

大事なのはもう出ても問題ない自分が出されていないことである。

 

「うぅ……ハッチに限って意味のないことはしないと思うっすけど…早くハッチのとこに行きたいっすぅ〜」

 

先程まで元気だった彼女は途端にしぼんでいってしまう。心なしか黄金色に輝いていたはずの髪の毛の色が薄くなったようにも見えた。

 

 

 

「大丈夫」

 

「んぁ〜?」

 

そんな彼女が見るに耐えなかったからか、或いは同じ眷属であるからか、有希は手に取っていた氷菓を一旦手放すと視線を彼女へと移し

 

「あなたの出番はもう来る」

 

「へ?」

 

一枚の紙を彼女へと差し出した。

 

「今度、若手メンバーと彼がレーティングゲームをする。そこが貴方の初陣。私はまだ出れないけど、貴方は来るように書いてある」

 

「………ほへぇ?」

 

ポカンと呆けたのも束の間、差し出された紙を目にも留まらぬ速さで掻っ攫うと先程までの様子が嘘のように、食い入る様に紙へと視線を移した。

 

読み進むにつれその身体はプルプルと震え出し、皺1つなかった紙は握られる強さが増したせいで次第にしわを増やしていく。

 

 

「んんんん、やったっすぅ〜〜!!」

 

震えが止まったかと思えば今度は紙を握りしめたまま両手を天高くあげ立ち上がり歓喜の声をあげた。緩んでいた瞳はいつものようにつり目に戻り、どこか気の抜けていた顔は先程とは違う形で緩んでいた。

 

「やった、やった、やったったぁ〜!ついにうちの出番っすねぇ〜!!!」

 

テンション0、100%もかくやと言った具合の移り変わりを見せた彼女は尚も歓喜の声をあげ続ける。

先程まで暇で仕方なかった身と例に漏れず八幡の眷属であると考えれば妥当な反応ではあるが……

 

 

 

「………」

 

そんな有頂天な彼女とは対照的に、役目を終えたといった様子で有希は氷菓へと再び手を伸ばし始める。もぐもぐ、と恋やユウとはまた違った大食いの有希は氷菓を口に運びながらも視線は目の前の同僚に向けたままだった。

 

 

「(彼女は優秀。そもそもスパイ行動の際、他に一切悟られることがなかった)」

 

その心中では目の前の彼女のことを考えている。

 

「(グレモリーは全く気がついていなかった。けど、そもそも過保護とも言える彼がアーシア・アルジェントの件で完全にスルーするはずがない。たとえフリードがいたとしてもそう。確実に2名以上当てる)」

 

「(あの時、彼が動かなかったのはスパイが2人(・・)あの場にいたから)」

 

 

「(そう。優秀。けど……)」

 

「空回りしないことを忠告する」

 

考えたが故に言葉を発した。

 

「わかってるすよぉ〜。うちだってハッチの眷属なんすから、みっともない格好できないっす♪」

 

が、そんな忠告も聞き流すかのように返事をする。

 

はぁ、と彼女には聞こえない程度の嘆息が吐かれた。

 

 

有希自身、勘というものをあまり信用していないが珍しくこの時は不安を覚えた。

 

目の前の彼女はレーティングゲームで何かやらかす。

 

そんな勘がどうしてもしてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ミッテルト」

 

彼女に聞こえないほど小さな声で有希は彼女の名を不安げにつぶやくのだった。

 

 

 

 

 

 




感想は受け入れよう。
心が持つかどうかは別としてw

プロフィールにミッテルトを追加しておきましたので。
眷属今どんな感じか確認したい方はそちらをお読みくださいませ!


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前夜祭【前半】



久しぶりの投稿。短めです
復帰用の慣らし。

内容は閑話な感じ。
今回は前半。
次回後半は力入れます。


 

 

 

 

豪華絢爛とはまさにこのこと。

匠によって装飾されたであろうシャンデリアは会場を明るく照らし、飾られる絵画は芸術に疎いものでさえ一度は足を止めるだろう。

 

会場の至る所で待機している者たちは髪型も服装もピシッと決め込まれており、立ち振る舞いは一流のそれであるとわかる。

 

出されている料理は庶民から見れば驚愕の一言であり、食して見ればそれは至福へと変わっていく。まさに目で楽しみ、味わうといっても過言ではないだろう。

 

 

『・・・』

 

そんなパーティー会場に場違いな様子で佇むものが数名。

 

方や男性は紅髪の主人の横で、方や女性は同僚に囲まれながら固まっていた。

 

 

「おいおい、いつまで固まってんだよ?」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

「…あ、わりぃ……」

 

そんな固まってる女性、ゼノヴィアの緊張を解こうと軽く肩を叩いた阿伏兎だったが、その瞬間あげられる声にならない悲鳴に忘れていたとばかりに謝罪を口にした。

 

ゼノヴィア・クァルタ

八幡眷属一同の特訓(デスマーチ)を乗り越えるも、過去にも未来にも、これ以上はないだろうと言うほどの痛みに襲われていた。

 

それを見たフリード・セルゼン(過去同じ体験をした者)は言った。

白昼夢(デイドリーム)悪夢(デイドリーム)。経験値やダメージが現実にフルバックするあれは、まさしく鬼畜の所業である…………と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、よく生きてた、ね」

 

もきゅもきゅと口に料理を運びながら痙攣するゼノヴィアを見ていたユウはポツリとそんな言葉を漏らした。

 

「……何度か手放しそうになったがね」

 

なにを、とは誰も聞けなかった。

否、聞く必要がなかったと言っていいだろう。ほとんどの新規加入者はこれを通ってきている。というか、冥界にいる眷属はほぼ毎日白昼夢(デイドリーム)内での戦闘訓練をしているのだから今更だろう。

 

「ま、あくまでレーティングゲームに出ても恥ずかしくないレベルだけどね」

 

「……辛口……もきゅもきゅ」

 

「恋、頬につけてるわよ」

 

「ん…….シノン……ありがと」

 

そんな彼女の言葉もリタによる辛口で両断されてしまう、が男性陣では、

 

「(リタの奴は相変わずだな)」

「(そう言ってやんな、女ってのは繊細なんだ。男の手にゃぁ余るもんなんだよ)」

「もきゅもきゅ、(メガドライブ、くらいが、ちょうどいいん、だっけ?)」

 

と慣れた対応である。

というか普段の八幡眷属の光景であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(相変わらずつまらない。権力だの、血統だの。擦り寄ってくる輩は限りを知らずってこと?掌返しの早いことで)」

 

一方壁に背をつけ周囲を見回していたクロメは会場の状況を冷静に分析していた。

 

パーティー会場にそぐわない、団欒としている眷属達とは対照的に八幡は儀礼的な挨拶回りをしていた。その横にヴィザ翁とユウキを供にして。

 

そして幼いながらも、そういった黒い感情には目敏い彼女は自身の主人が挨拶する相手がどのように主人を見ているか察していた。

 

 

「ほんにどーでもいいの」

 

呟かれたその言葉にスッと主人から発生源へと視線を移せばそこにはパーティー会場には似合わない、相変わらずの格好をしたマギルゥが腕を組みながら主人達を、正確には主人たちの相手を見ていた。

その瞳は暗く、光が宿っていない。

無関心という言葉が正しいだろう。

 

 

「不機嫌だね?」

 

「それはお主もじゃろうて。そもそも儀礼的なモノに何の意味がある?セラフォルーの女王という立場こそあれど、あのような輩ども、本来なら構う必要とてないじゃろう」

 

 

それに

 

 

「どーでもいいんじゃよ。あそこにいる奴らは八幡を見ているようで見ておらん。八幡を通してヴィザやニオ、セラフォルーを見ておるだけじゃ」

 

絶やしたくなる……

 

言葉にこそ出なかったが、その瞳にはその言葉がありありと浮かんでいる。

 

そしてそれはマギルゥだけではない。クロメ自身も感じていることだ。

 

他の眷属とてそれは知っているし、八幡自身もそれを知っている。

知っている上で無視しているのだ。

いちいち構うだけでも無駄であると。

それは理解できても納得はできない。

 

クロメはそう感じている。

マギルゥはそれ以上黒く感じているようだが。その心内を知っているのは彼女自身と八幡くらいだろう。

 

視線をマギルゥから八幡へと移した彼女はただ主人の背中を見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です」

「おつかれー」

 

「ああ」

 

手すりに腰をかけ、ベランダから外の風を浴びる自身の主人に2人は声をかければ、やる気のなさげな声がかえってくる。

 

 

「いやー、バレバレだよねぇ」

 

「そうだな」

 

挨拶回りで回った相手のことを思い出しながら、あははははと笑うユウキの言葉に同意しながら、八幡はヴィザから手渡されたグラスをあおり、視線を外へと移した。

 

 

「こういうのはやっぱりなれねぇな。ヴィザが後ろにいたからまだ良かったが」

 

「私がいたことで余計に気を使わせてしまったようですが…」

「いなければ余計面倒くさくなりそうだよねぇ」

 

 

そう言って2人は主人と同じく外へと視線を向けた。

 

 

【早い話がニオ達に口添えしろってことだからね。】

【あんな奴ら解体(バラ)せばいいのよ。】

 

一方うちにいる吸血鬼2人も不機嫌この上なかった。

 

『明日暴れる(休む)か』

 

八幡を除く関係者が心を揃えた。

新人達からすれば飛んだとばっちりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日…か」

 

拳を握った男性が1人静かに滾っていた。

彼は理解している。

彼らの強さを、理不尽さを。

新しく入った眷属も見かけた。

しかし、1ヶ月近く前の話だ。

それだけの時間があれば、実力なんて測れない。ましてやかの王の女王だ。

 

成長力など自分が想像できる範囲ではないだろう。だが、だからこそ……

 

 

「滾るというものだ」

 

ゴォッと炎をなびかせながら不死鳥は握りこぶしを開き視線をテーブルへと移す。

そこにある紙はニオ様へと提出した今回のレーティングゲームの参加メンバーの表である。

新人達の名前とそれぞれの眷属の名前が書かれる中1人異彩を放つ欄がある。

 

 

ライザー・フェニックス

眷属不参加

 

 

ただ1人。

眷属を伴わない参戦を希望した。

提出をした時、受け取ったニオは笑っていたが、ライザー本人は真面目そのものである。

 

 

 

「勝てぬとも挑ませてもらうぞ。鬼呪龍神皇!」

 

 

 

 

 

 






作者が皆を代表して言おう。

「なんでこうなった?!!」

このライザー誰??!!?!?

次回。あの姉現る!



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前夜祭【後半】

れんぞくぅ!
とーぅこぅ!






 

怖かった。

ずっとずっと。

呑まれることが。

自分が自分で無くなるのではないかと。

だからずっと目を背け続けてきた。

その力から、過去から。

全て姉のせいにして。

そうしていれば楽だったから。

そうしていれば傷つかなかったから。

 

でも、気がついたら傷ついていた。

大切な友人と差をつけられ。

想い人が離れていってしまうようで。

 

情けなくて、悔しくて。

辛かった。

 

 

だから……

逃げるのをやめました。

背けるのをやめました。

 

追いかけたい背中ができたから。

付いていきたい人達がいるから。

 

だから踏み出した。

踏み出せた。

それを大切な人たちは支えてくれたから。

 

 

そして恐れていたモノを制御できた時。

私の頭にはとあることが過ぎりました。

 

だから……

私はそれを確かめたい。

確かめなきゃいけません。

 

 

それが過去との決別となろうとも。

それが新しい関係の始まりだろうとも。

 

それが……

 

やり直すことができる結果になろうとも。

 

 

どんな結果になろうとも。

 

私は逃げません。

 

今日ここではっきりさせてみせます。

 

 

 

 

だから…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「答えてもらえますよね?姉様」

 

「にゃ、にゃははははは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初感じたのは匂いだった。

先輩やユウくんの特訓のおかげで仙術を完璧とは言わないまでも扱うこと自体はできるようになって、周囲の気や匂いに敏感になった今だからこそ、感じ取れた。

 

 

「少し、お手洗いに行ってきます」

 

 

自然と嘘を吐き、リアス部長達から離れていく。廊下に出れば次第にその足は速くなっていき、最後には走ってその場所に向かっていく。より強い匂いがする方に。

 

角を曲がれば、自分が走って近づいていたことに気がついたのか、黒猫が走っていた。

 

そして確信する。

すれば勢いは早まりほぼ全力疾走に近い形で走る。屋敷を抜け、森に入り、ようやくその黒猫は木の上で止まった。

 

それを確認し、私も足を緩める。

一歩一歩確かめるような速度へと変わり、目の前まで行くとそれは止まる。

 

 

「なんでここにいるんですか?」

 

そして止まった足の代わりのように口が動き出した。

 

 

「どうしてあの時私を置いていったんですか?」

 

かつての自分ならそんな勇気もなかっただろう。

 

 

「どうして姉様が暴走したなんて噂が広まったんですか?」

 

しかし、今は違う。

 

 

「制御できて。しっかり向き合ってわかりました」

 

今は覚悟も勇気もある。

 

 

「手助けがあったとはいえ私にできて、姉様にできないわけがない」

 

 

だから……向き合える。

 

 

 

「答えてもらえますよね?姉様」

 

「にゃ、にゃははははは…」

 

 

その一言をキッカケに黒猫は和服の女性に戻り乾いた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃはは。白音元気そうだにぁ」

 

「答えてくださいよ、黒歌姉様」

 

 

久しぶりの再会に妹の安否を確認した黒歌はしかし、目を細めた妹の睨みに冷や汗を垂らしてしまう。

 

 

「し、白音。そ、そんな怖い顔しなくても」

 

「答えろ駄猫」

 

「駄猫?!!?」

 

 

実の妹から言われたあまりにもあんまりな呼び方に衝撃を受ける黒歌だが

 

 

「だ、駄猫は言い過ぎなんじょわぁぁぁあ??!」

 

「っち、外れた」

 

 

突如訪れた気弾に緊急回避で飛び退いき地面へと着地した。その後ろでは木々が無慈悲にも薙ぎ倒されており、先ほどの威力が伺えた。

 

 

「っちょ?!白音、これ、当てていい威力じゃないにゃ??!!?」

 

「そのくらいじゃ、姉様は死なないでしょ?」

 

「DEAD or ALIVE !!??!?」

 

無表情に言う妹に流石の黒歌も泣きそうになっているがその間にも小猫の周囲には仙気が集まっていく。

 

 

「姉様がどう言う理由ではぐれ悪魔認定されたのか知りません。主人殺しをしたからとか、そんな自分が見てもいないことを軽々と信じたりはしません。少なくとも私が知ってる姉様は無意味に殺しなんてしない。だから姉様にはもう、恨みなんてない」

 

「白n「だけど!」e?」

 

「私を置いていったことは別です。そのおかげでリタや先輩にも会えましたが。それとこれとは関係なく。置いていったこと自体に腹が立ちます」

 

「し、白音?」

 

妹が自分のことを恨みの対象にしていない。

その一言が嬉しかったが、その後膨れ上がる気に思わず後ずさりしそうになる。

 

 

「さぁ、答えろ姉様。なんで。なんで私を置いていった‼︎‼︎」

 

「にゃ、にゃぁぁぁああああ??!?!?」

 

 

荒れ狂う小猫の気弾を前に姉妹の追いかけっこが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー、荒れてるなぁ」

「ん、気を吸って、気分、高揚してる」

「ま、呑まれてなきゃ大丈夫か」

 

その様子をパーティー会場のベランダから見ていた八幡とユウはどこか気の抜けた声をもらした。

 

「うひゃひゃ、いい威力だなぁ」

「ありぁ、森が禿げちまわねぇか?」

 

フリードは笑い、阿伏兎は呆れながら

 

 

「おやおや、仲睦まじいですなぁ」

「いや、あれば仲が良いと言うのか?!」

 

ヴィザはほっこりしつつゼノヴィアに突っ込まれ

 

 

「姉妹ゲンカなんてあんなもんよ」

「たのしそうだねぇ」

 

リタは友人の生き生きとした姿に安心し、ユウキは混ざりたそうにしながら

 

 

「もふ…もふ」

「ほら、動かないの」

 

恋はシノンに撫でてもらいながら

 

 

「かっかっか、どっちが勝つかのぉ」

「黒猫に一票」

 

マギルゥとクロメはどちらが制すかを当てようとしながらその光景を見ている。

 

 

 

「まぁ、めんどくせぇけど行くか。ヴィザ頼むわ」

 

「かしこまりました」

「私もついていくわ」

 

そう言ってヴィザに頼みごとをした八幡はベランダを飛び降り、それについていくようにリタも飛び降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にげるな!」

 

「逃げなきゃ当たるにゃ!」

 

「当たれ!」

 

「断るにゃーーーー」

 

「っそこ!」

 

「あ、あぶにゃ??!」

 

「っち、気弾で相殺しないでください」

 

「しなきゃ当たってたにゃ??!」

 

 

壮絶な姉妹の追いかけっこは当初は小猫だけが気弾を撃つ形だったが、それだけでは対応しきれなくなった黒歌が気弾を撃ち始め、結果として現在、互いが互いの気弾を落とし合う弾幕戦へと変化していった。

 

その練り込まれる気の量に被弾した場所は吹き飛び、次第に森の木々は削れていき、阿伏兎の言うように禿げ始めていた。

 

 

「だいたい姉様はいつもそうです。勝手に決めて。勝手に行動して!」

 

「な、なんにゃ!私だって色々考えて」

 

「無い頭で何を考えるんですか!」

 

「ひどいにゃ!?!??!」

 

 

しかし、当人たちはそんなことは気にせず気弾を撃ちながら喧嘩を続行していた。

 

 

「こ、小猫ちゃんなにやって?」

「「うるさい!!!」

「ごわぁぁあ??!?!!?」

 

 

流石に音に気がついた兵藤達がやってくるが、一言と気弾のもとに吹き飛ばされていく。

 

その光景に後を追ってきたリアスやその眷属は呆然とし、飛んできたタンニーンは森の状態に手を額へと当てた。

 

その直後

 

 

「あー、もーーー。白音もうしつこいにゃーーーーー」

 

先に我慢の限界にきたのは黒歌だった。

 

気弾の嵐についに我慢できず声を上げる。

如何に愛しの妹とはいえこれだけ気弾を浴びせられればたまったものでは無い。

 

「歪められし扉、今開かれん」

 

黒歌が言葉を紡げば周囲に黒い気が集まり始める。それを視認できたからこそ小猫もまた詠唱に入った。

 

「この名を以ちて戒めを刻め!」

 

対象的に白い気を集めた小猫。

その2人の仙術が打ち出される。

 

「ネガティブゲイト!」

「フラッシュティア!」

 

 

そして巻き起こる黒と白の仙術の軌跡。

互いが互いに術を打ち込んだそれは中央で激突し周囲に凄まじい被害を巻き起こしていく。

 

が、

 

 

「滅殺の小魔弾」

「鬼呪の小龍弾」

 

突如訪れた2つの弾丸によりその力は霧散していく。

 

 

「んにゃ?!!?」

「うぇ?!!?」

 

その当然起こった現象に思わず猫姉妹は目を見開いてしまった。

 

 

「そこまでしとかないかい?」

「予想以上に広がったなぁ。というか来るの早くねぇか?」

「なに、僕も初めから見ていたからねぇ」

 

聞こえてきた声の方へと視線を上げればサーゼクスと八幡、そしてその後ろに控えるグレイフィアとリタがいた。

 

「お、お兄様!??!」

 

兄の突然の出現に妹のグレモリーが先ほどの小猫達の弾幕戦以上に驚いている。

 

「やぁ、リーアたん」

そんなリアスに笑顔で手を振るサーゼクス。

 

「な、なぜお兄様がここに?そ、それよりもはぐれ悪魔の黒歌がここn「ああ、それは構わないよ」i……え?」

 

驚くリアスをよそに地面へ降り立ったサーゼクスは彼女を手で制すと黒歌の方へと視線を向けた。

 

 

「やぁ、久しぶりだね」

 

「……そういうことかにゃ?」

 

 

黒歌へと向けた挨拶に対し、黒歌は目を細めながら聞き返した。

 

そんな2人を訝しげに見るグレモリーおよびその眷属とタンニーンだが、魔王であるサーゼクスの口からは彼女らの思いもよらない一言が飛び出した。

 

 

「黒歌くん。禍の団への潜入任務ご苦労様。この時点をもってはぐれ悪魔の認定は解除、全悪魔に君の任務については通知することになる。本当に長い間の協力者としての潜入お疲れ様だったね」

 

「よーやくかにゃぁ」

 

 

その言葉に誰もが耳を疑った。

今なんと言った。

協力者と言ったか。

ということは……と全員が脳裏によぎったその時。

 

 

「やーっと戻ってこれたにゃあ!はーーちーーー「ふんっ!」ふぎゃぁあ??!?」

 

 

任の終了を聞いた黒歌が八幡へとルパンダイブを決め込もうとした瞬間、小猫による気弾がその脇腹を捉えた。

 

「っよし!」

 

「よくないにゃ?!??!!」

 

ようやく当たった気弾に小猫は拳を握り、当てられた黒歌は泣きそうな顔をしながら小猫に抗議した。

 

「なにするにゃ!?」

 

「先輩に飛びつくな泥棒猫」

 

「ひどいにゃ!!??!」

 

その後も小1時間程姉妹ゲンカは続いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっかっか、賭けはわしの勝ちじゃのぉ」

 

「むー、無念」

 

尚、ベランダでどちらが勝つかかけていた2人。軍配はマギルゥに上がった模様。

 

商品は八幡の膝上権。

 

勝手に賭け事の商品にされた八幡だが、後日知らされるまで知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

尚、マギルゥが1時間ほど膝上を占拠した結果、後日膝上争奪戦が眷属内で始まったのは完全に別のお話。

 

 

 

 

 

 








多分こんな感じ


猿「あ、あれぇ?黒歌スパイ?なんで?!?なんでスパイ!!?」

眼鏡「なん……だと」

白龍皇「八幡くんは手広いわねぇ」












次回!
レーーーティングゲーーーーム


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【開幕】

先に言おう。
今回は前書き2000近くある上に
本文がある。

前書きを別話として投稿しようとしたが。
絶妙に一話投稿するには短すぎて、他と一緒にするには長かったからいっそのことと思い前書きに入れ込んだ。

前書きも楽しんでくれるといいな!

では前書きスタート!




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「よっよっ……っよっと」


明るい声に聞こえるが、その光景は決して明るくはなかった。1本1本がそこらの魔剣や聖剣を上回る斬れ味を持つそれである。
それをまるでジャグリングするかの様に回している上にユウキは目を瞑っているのだから、見る人が見れば肝を冷やすだろう。

しかしそんな様子を気にも止めずに各々が自己の精神集中に意識を向けていた。


恋はその肩に戟をたてかけ空を眺め

ユウは獣耳を生やしながら瞑想し

シノンは銃を一度バラしながら確認し

阿伏兎は編笠を傍らに壁に寄りかかり

クロメは刀の手入れをし

フリードはクルクルと銃を手元で回し

マギルゥは本を読み

リタはパソコンをいじり

ゼノヴィアは刃禅をし

ヴィザはただ八幡の横に控え

黒歌は猫の状態で八幡の膝の上で丸くなり

そして……






「うぉぉぉおおお!やるっすよーーー」

ミッテルトは腕をブンブン回しながら瞳を輝かせていた。





各々が各々の準備をしている中


「さて……それじゃあ担当を決めるか」

小さく呟いた八幡の声は、それだけで全員の視線を集めるのには十分だった。
















『それではレーティングゲームを開始します。転移開始1分前。参加者は速やかに準備をしてください』



グレイフィアがアナウンスをするとともに新人達に緊張感が走る。

当然だ。相手にするのはセラフォルーの女王率いる眷属達なのだから。

だが、その緊張感を一際強くする存在が他にもいたのもまた事実である。

それは……

「コォォォオオオオ」

仙気を纏いながら息吹行う小猫と

「・・・・・」

ただ1人眷属も連れずに参加し今尚背後に陽炎を起こしているライザー


そして……


「勝てるとは思いません。ですが1人でも落としましょう」

約1ヶ月前とは明らかに違う魔力を纏うソーナ

この3名の変化にその他のメンバーは戦慄を覚えざるを得なかった。



















ー転移完了ゲームを開始しますー








「さて、当たりを引いた様だが期待値は如何程なものか……」

そう言って無精髭を蓄えた男は同僚の元から飛び立ち目標へと向かっていく。

その先にあるのは……




「おらぁぁぁああああ!!!!」

「っな?!!?!?」

轟音と共に着地した男は手に持つ番傘を振るい周囲へと甚大な被害をもたらす。

それに咄嗟に反応できたのは1人。
強襲された者達の主人ただ1人だった。


「っはっはー。さぁ、やろうじゃないかルーキー」

「っつ!?阿伏兎殿!!」

黒髪の青年。
若手最強と名高いサイラオーグの前に、彼以上の徒手空拳を持つ者。

2大傭兵が一角
夜兎の阿伏兎が立ちはだかった。





時同じくして別の場所でも、それぞれの会合がされていた。





「にゃははははは。よろしくねぇ?白音」

「・・・・」

「っちょ?!!?無言で気弾の打たないで?!!?!」

姉妹は前日の続きが始まり





「悪いけど赤龍帝、君の相手は私が務めさせてもらう」

「上等だ!」

女王は今代の赤龍帝の前に立ちはだかり





「さーて、あの頃からどれだけ強くなってるかなぁ?かな?」

「今回は小猫ちゃん無しでボク1人か。でも簡単に負けません」

聖魔剣の使い手の前には絶剣の異名を持つ剣士が剣を抜き





「きひひひ俺っちも暴れるかぁ」
「フリード邪魔」

「っ、貴方達が相手ってわけね」
「リアス油断しない様に」
「あわわわわ」
「ふ、2人も来たですぅ??!!!?」

残ったグレモリーおよびその眷属には、敵眷属の中でも最悪の中の悪さが目立つ2人が並び立ち





「さてさて、若手会合からのあなた方の進展。ここで見極めさせて貰いましょう」

「てっきり貴方はハチくんの側に控えると思ったんですが、私達のところですか」

「ええ、我が主人は申した『見極めろ』と。であらば、私はあなた方を見極めなければなりません。ソーナ嬢」

「各自後退。生半可な攻めや守りはヴィザ翁には悪手です。最初から出し惜しみせずに他の若手と合流を優先します」

魔王の妹は魔翁を前にもしても冷静な判断を下し





「さーて!うちの相手はあんたっすか!」

「堕天使の転生悪魔か。第1戦にはいいだろう」

「うちをなめないほうがいいっすよ?」


不死の鳥は自身の種族が苦手とする光を使う者を相手取る。




それでも尚



「ほら?逃げなくていいのかしら?一瞬で終わるわよ?」

「な、何よこんなのはんそ…きゃぁあああ」



その眷属は猛威を振るい



「、、、次」

「な、なんだこいつは?!なんで攻撃が効かないんだよ!!??っぁぁああああ??!??!?」



それを止める術も持たない者達は




「………」

「…………」ピクピク 

「……つまらない」





瞬く間にやられていく。


そう力なき者達は……


「暇だなぁ」
「そうじゃの」
「そうね」



かの王はおろか、その王の周りで待機する2人の眷属にすらたどり着けはしないだろう。





 

 

 

「っはっはー。いいねぇ。その気迫、その膂力。徒手空拳に賭ける思い。悪くないぜ」

 

 

「っく。こちらの拳を容易く受け止めるか」

 

 

男と男の語り合い。

 

そう呼ぶにふさわしい闘いがその場では行われていた。

 

互いに使うのは五体のみ。

普段手に持つ番傘を地面に突き刺し置き去りにした阿伏兎は、その腕っ節を持ってサイラオーグを圧倒していた。

 

 

「さぁて、ここでクイズだ。無抵抗で俺に殴り飛ばされて退場させられるのと。抵抗して俺に蹴り飛ばされて退場するの。どっちか選べ」

 

 

そういう阿伏兎の顔は嗤っていた。

 

「っつ、ぉぉぉおおおおおお!!!」

 

そんな阿伏兎の問いを無視して己の拳を振るうサイラオーグ。

眷属は会合した瞬間に退場させられもはや1人となった。それでも逃げるという文字は彼にはない。目の前に自分以上の徒手空拳の使い手がいるのだ。ここで挑まずしてどこで挑むのか。

 

果敢にも前へと進むサイラオーグ…だが。

 

 

「ん?どっちにしても退場させられるっ?別にいいじゃないか。たかがクイズだろ?」

 

その拳は無慈悲にも繰り出された蹴りによって吹き飛ばされる。

 

 

そも、魔力を持たないサイラオーグにとって、阿伏兎はある種の天敵である。

 

なにせサイラオーグ唯一の武器ともいっていい徒手空拳において上回られているのだ。

 

夜兎の膂力と長年にわたる戦いの中で生まれた判断力はサイラオーグのそれと比べるまでもない。

 

だが……

 

「まだ……だぁ!!!」

 

だからこそ、サイラオーグは折れない。

不利などいつものことである。

どんな時だって魔力を持たない自分は不利な立場なのだ。

今回だって不利という面では何も変わっていないではないか。

 

故に突き進む。

努力の悪魔とも言える彼は。

否、彼だからこそ、誰よりも諦めずに、誰よりも最後まで挑み続けていく。

 

 

そんな彼の雄姿に阿伏兎はニヤリと口角をあげた。

 

 

「いいねぇ。若い芽が順調に育ってる様で。最近ヴィザの気持ちがわかる様になってきていけねぇや」

 

っま、だからといって負けてやる気はないがな。

 

そう言って阿伏兎は拳を握りなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、始めようか。赤龍帝」

 

「っは!きやがれ!」

 

 

ガチャリ、と地面に突き刺したデュランダルを抜き放つゼノヴィアに対し、赤龍帝の籠手をつけた左腕を前に出す兵藤。

 

その顔はニヤついており、明らかに不穏なことを狙っている。

 

 

そんな兵藤の様子など構いもせずゼノヴィアはその場でデュランダルを構え

 

「ではいかせてもらおう」

 

「っぅぉぉおおお。って、え?」

 

力のままに振り下ろした。

瞬間変態の感か、或いは赤龍帝としての危機察知能力か、瞬時に横に飛んだ兵藤は自身が先ほどまでいた場所を見て戦慄する。

 

ただ一線。

 

ゼノヴィアの元から続く割れ目。

自分のいた場所まで伸びるそれは彼の顔から血を引けさせるには十分だろう。

 

 

「デュランダルは他と違い純粋な力に特化した聖剣。であれば戦い方はそれを中心に置きながら展開するのが望ましい」

 

そんな兵藤を無視し語るゼノヴィアだが、彼女の持つデュランダルが黒い光を放ち始めた。

 

 

「即席の剣術などチャンバラ。剣術の腕は日々積み重ねるしかない。であれば自分に必要なものは何か。同じ剣士であるユウキにヴィザ翁にクロメに無く、自分にある長所とは」

 

それは木場の持つ聖魔剣とは比べほどにならないほど禍々しく

 

「それすなわち一撃の破壊力。今の段階では全力ではなっても山の一部を両断するくらいだが、ユウの拳と同じく、いずれは山を消し飛ばす威力を放ってみせる」

 

先の戦いで見た聖剣よりも輝かしかった。

 

「さぁ、こい赤龍帝。先の戦いではタンニーンに勝てなかったが。まずは龍繋がりで君を倒させてもらう」

 

そう言って繰り出される無数の重撃。

一太刀でも食らえば潰されかねないそれを、兵藤は慌てて倍加させて足で逃げていく。

 

 

「そ、そんなのありか!??!!?」

 

「そんなのありかだと?こんなもの可愛いもんだろう!!!!ユウはなぁ、ユウキ達はなぁ。あんなにも、あんなにもぉぉおおおお」

 

「っちょっ!?なにを???!??!?」

 

 

その途中心の声が漏れ出すゼノヴィア。

覚悟を決めていたとはいえリタ達によるデスマーチはトラウマといってもよいモノとなっていた。

 

 

「っ、そこぉ!洋服破壊(ドレスブレイク)!!」

 

「っはぁぁああ!!!」

 

「うそーーん?!!?!?」

 

 

そんなゼノヴィアに対し兵藤とて逃げるだけではない。得意の女性特攻(ゲスの極み)を発動するが、それはあっけなく斬り伏せられる。今まで防がれることのなかった女性特攻(ゲスプレイ)を防がれたことに思わず声を上げてしまう。

 

 

「こんな技!フリードの幼子の悪戯(チャイルドトリック)に比べればただのセクハラ行為だ!」

 

 

むしろただではないセクハラ行為とはなんなのか。そんな言葉が頭によぎるが相手はあのフリードである。想像で勝てるはずがない。

そもそも兵藤とは違う意味で頭のネジが外れている相手なのだから。

 

「思い出したらムカついてきた!フリーーードォォォオオオオオ!!!」

 

「俺はフリードじゃねぇぇえええええ??!?!?」

 

 

兵藤の抵抗は虚しく。

結果として火に油を注ぐ結果となっていた。

 

 

『相棒、このままじゃ勝てんぞ?』

 

そんな中、唯一冷静を保っていたのが彼の中にいるドライグである。

 

「っても、どーするんだよ!!」

 

『使うしかあるまい。俺としては認めたくないが、至ることはできているのだから。認めたくはないが』

 

「2度も言うことかよ??!」

 

 

本当に不本意そうに言うドライグに対し、逃走に必死な兵藤は心外だとばかりに話しかける。

 

「ほう?余裕そうだな?」

 

そんな様子を見てさらに攻撃の手を強めるゼノヴィア。兵藤にはドライグの言う手しか残っていなかった。

 

 

「っくそ。まだなりたてで長くできねぇが。仕方ねぇ!!!」

 

部長からも使い時を考えるように言われているが、このままでは使わずに落ちてしまう勢いである。

 

「いくぞドライグ!!!!」

 

禁手(バランスブレイク)

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!』

 

 

瞬間兵藤はライザーと戦った時同様の鎧に包まれていく。

 

 

「ほう」

 

それを見たゼノヴィアは一度後退する。

初見の相手に対してまず伺う。

恋のペット達を相手にした時嫌という程叩き込まれたことである。

 

「いつのまに禁手化(バランスブレイカー)を?」

 

 

素直に出てきた疑問。

この短い期間に禁手化(バランスブレイカー)という神器のある種極みに到達したことに感心するも

 

 

「部長の乳首を押したんだ!至らないわけがねぇだろ!!!」

 

返ってきた言葉に失望する。

 

「……ないな」

 

『やめろぉぉおおおお!!!そんな切実な声で言わないでくれぇぇええええ!!!』

 

そうして思わず出た言葉に過敏に反応するドライグ。彼からしてみれば不本意ここに極まれりなのだろう。

 

 

「今はもう天界陣営ではないが……やはり君は一度浄化された方がいい」

 

そう言ってデュランダルに先ほど以上の魔力を送り込む。

 

「っは!この状態ならお前の剣も怖くねぇ!」

 

対して兵藤は一瞬で限界まで倍加する。

 

ここに八幡の女王とリアスの懐刀との激戦が幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっちは面白そうだねぇ」

 

リアスからすれば1人でも落として勢いに乗りたい場面であろうこの場所で

 

「それにしてもさぁ木場くん」

 

しかし現実は非情である。

 

「君この1カ月なにしてたの?」

 

近くの岩場に腰をかけたユウキは倒れ伏す木場を眺めながらつまらなそうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその近くでは。

 

「こんなものかな」

 

パンパンと手を払う少女と

 

「っぐ………」

 

膝をつくグレモリーと姫島

 

 

 

そして………

 

 

「きひゃ♪」

 

楽しそうに銃を回すフリードの側には

 

 

 

「あわわわわわ」

「はわわわわわ」

 

 

震え、抱き合うアーシアとギャスパーがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




三本投下!
今日はもう寝る!


レーティングゲーム遂に開催、

今後はグレモリー、ソーナ、サイラオーグ、ライザーを纏めてかければなぁと思いつつ。
レーティングゲームの終わらせ方も考えてますのでよろしくなのです。

黒歌の細かい話は小猫vs黒歌編でやるからよろしくにゃ!

ではでは!お休み!!!


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覚悟とネタと

今年最後の投稿かな?かな?




 

山の一部を断つ一撃

山の一部を吹き飛ばす一撃

 

その2つの衝撃が連続するよう展開されていく。

上段から振り下ろした剣は返す刃で下段から上へと降り抜かれ最後には横薙ぎに剣撃を放つ。

対して両の手を使った拳はそれぞれの剣撃に対応するように振るわれた。

 

互いが互いに周囲への影響など気にすることもなく。繰り出す攻撃。

 

側から見れば拮抗しているように見えるそれも。だがしかし、悲しいことに拮抗などしていない。

方や目の前の敵しか見えておらず、方や周囲を見回す余裕を持ちながら対応している。

拮抗して見えているのだとすればそれは……

 

 

「ふむ、そろそろいいか」

 

相手の手の内を探るために片方が様子見をしていたからだろう。

 

 

「待たせたなデュランダル。解き放つぞ」

 

そしてようやくその様子見が終わったことを証明するように呟かれたゼノヴィアの言葉。

それに反応するようにデュランダルの出力が上がっていく。

 

「っおい、なんだそれ?!!」

 

先ほどの比にならない魔と聖のエネルギーに驚愕の声をあげる兵藤。

 

 

「そもそもデュランダルはその威力、切れ味ゆえに鞘を持たない。それに私の魔力を乗せているんだ。本来この程度の斬れ味な訳ないだろ?」

 

不敵な笑みを浮かべながら腰を低くし、デュランダルを水平に構える。

その瞳は兵藤を見ているようで見ていない。

 

その瞳が捉えるのは彼の周囲。

特異な能力がなくとも聖剣であるデュランダルに自身の魔力を流し込むことによって、邪なる気には敏感に反応できるようになったゼノヴィアは的確に兵藤の先を読んでいた。

 

赤龍帝たる兵藤。

その能力は非凡なものだが、彼自身は凡才だ。それは彼が赤龍帝の力を扱えてないというわけではない。むしろ奇妙な技を作るという意味では歴代最強とも言える鬼才だが、ここでいう凡才とは純粋な戦闘能力についてだ。

 

呑まれかけていたとこから脱し、向かい打とうとした兵藤に対し、ゼノヴィアは足に魔力を分け加速、距離を瞬間的に詰め、横薙ぎにデュランダルを振るう。

 

たとえ、能力を倍加していようと扱えなければ何の意味もなさない。

 

ゼノヴィアの動きを見ることはできても、反撃しようとしても、それを実行することをできなければ何の意味をなさず、デュランダルは赤龍帝の鎧の腹部を捉え、ミシミシと嫌な音を立て、吹き飛ばす。

 

 

「っぁぁああああ??!!?」

 

「逃がさん」

 

突如襲ってくる激痛に声を荒げる兵藤だがその隙を彼女は逃さない。

 

 

「っぐ、俺は、俺は負けれねぇんだ!!」

 

しかし、予想外なことに立ち直りが早い。

無様に飛び、転がっていった兵藤はその勢いのまま立ち上がると構え直す。

 

「ほぉ、見上げた根性じゃないか」

 

「部長の為にも俺は負けれねぇ!」

 

自身の主人の為、リアスグレモリーの為。

立ち上がり迎撃しようとする。

まさしく物語に出てくる主人公。

どんな不利な状況にも、どんな困難な状況にも立ち向かう。そんな姿。

 

しかし。

 

「自分の為の間違いだろ?」

 

無慈悲な袈裟斬りが繰り出される。

 

「ッナァァア???」

 

まるで瞬間移動したかのような動きに

 

いつ斬られたのかさえわからないその動きに

 

再度突然訪れた痛みに

 

彼は鎧が解除され膝をついた。

 

 

「部長の為?君は何をしていた?山籠り?特訓?そんなの当たり前のことだろう。本当に彼女のことを思うならこんな場所で彼女の恥部を突いたなどと言わない。本当に彼女を思うなら覗きのような行為をしない」

 

そんな彼を前にゼノヴィアはただ冷酷に告げていく。

 

 

「君のそれは全て自分の為だろう?」

 

デュランダルを空高くかかげ

 

 

「私も覚えたての言葉だが覚えておくといい兵藤」

 

 

 

 

まさしく女王と呼べる雰囲気を放っていた。

 

 

 

『お主は主人から可愛がられ、おだてられたからといって強くなろうと思うのか?主人の為にという言葉の元強くなるのか?違うな。自身が力をつけるのは何処まで行こうと自分の為だ。まずそれを認めねば先には進めない。自身の主人の為とはトドのつまり、主人の為になりたい、主人にこうあってほしい、主人にこうしてほしいという自身の我欲からくるものなのだから』

 

 

特訓3日目

マギルゥから言われたその言葉を紡ぐ。

 

 

本来この後には

 

『まぁ、それをハチもわかっておる。じゃから大切なのは依存しないことじゃ。あの白猫やソーナにはその節があるがお主は違えぬな。何も主人の為と言うなとは言うておらん。じゃがの、依存していては、人という字のままの通り、いずれ寄りかかられている方に負けてしまう。まず1人と1人になり、自立できねばの。そして自立しても、それでも寂しくて、寄り添いたくて、一緒に居たいからその身を寄せ合う。それ故に人という字は人と書くのじゃよ』

 

ま、ワシらは悪魔じゃがの♪

 

 

という、言葉が紡がれるがそれはこの場では紡がない。

 

ただ、かかげたデュランダルを垂直に振り下ろす。

 

 

 

 

なにせ、彼女の言葉を送るには目の前の男性はあまりにも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚悟が足らない

 

 

 

 

 

ズガンッと振り下ろされたその聖剣は兵藤には当たらずに地面に当たる。

 

それと同時に

 

 

 

『リアスグレモリー様兵士1名リタイア』

 

 

女王と懐刀との戦いの終幕が告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リアスグレモリー兵士1名リタイア』

 

 

1つの戦いが終わりを告げられる一方で、そんなことなどには耳も貸さず、この戦場において先の2人と以上に苛烈を極めていたのは

 

 

「どっせい!!!」

 

「っふん!!!」

 

猫姉妹である。

 

 

 

先日の続きをするかの如く互いが仙術を行使しながら動く。

もはや2人の動きは鏡写しになっていた。

 

黒歌の黒い気弾が動けば、小猫の白い気弾が迎え撃つ。黒光りの稲妻が動けば白雷が対抗し、漆黒の風が吹けば純白の風がその行く手を阻んだ。

まるで生き物のように自在動く気弾と、時折紡がれる仙術の攻防が繰り出され、千日手となりつつあった。

 

 

仙術においては黒歌に一日の長があるが、近接戦では小猫が勝る。加えてゼノヴィアを除く八幡の眷属達は各々が制約を受けていた。

 

阿伏兎であれば【魔力の使用禁止】などであるが、黒歌が受けていた制約は

 

「(っんにぁ、流石に辛いにゃあ)」

 

 

仙術による索敵と先読みを行い小猫の攻撃をいなしている黒歌だが、その頬には汗がたらりと垂れる。

 

その瞳にはよく見れば魔法陣がうっすらと描かれていた。

 

(【視界の閉鎖】……思ったよりもきついにゃん)

 

せめて白音が仙術をここまで使いこなしてなければ、と妹の成長への喜び5割、現状に対する不満5割と心の中で悪態を吐く。

 

 

「っそこ!!!」

 

そんなことを考えてる間も終始小猫は攻めることを辞めない。視界が見えていない黒歌にはわからないが、2本の尻尾が小猫の後ろで揺れ動いている。

 

 

仙術で上回る黒歌だからこそ対抗できており、このまま長引けば他が動きこちらが次第に優位になっていくだろう。

 

しかし、

 

(それは姉としてできないよねぇ)

 

姉としての矜持がそんな外的要因による優位で勝つことを良しとしない。

 

たとえ制約を受けている現状でも勝ってこそ姉なのだ。

 

 

だが、だからこそ彼女は焦る。

 

 

(シノンがシノクニを使う前に終わらせにゃいと)

 

 

同僚の魔法が出る前に決着をと。

 

ゲーム開始前に決められたこと。

シノンの切り札の1つの使用。

 

前回の会談の際に老害に対し発言したこともあり、ある程度の力を見せつける必要があるからこそ、必ずシノンは使うだろう。

そして使われれば、若手の中でそれに対抗できるものはいない。

 

故に、

 

「ほらほらぁ、いくわよ白音!」

 

黒歌は自然エネルギーを先程以上に取り込む。自然から得たエネルギーが多ければ多いほど、それは強大な仙術となり小猫を襲っていく。

 

 

 

先程まで相殺されていた魔術は小猫の物を貫通しその身を襲う。

鏡写しのように動いていた気弾も、黒歌のそれは速度を増し、小猫のそれを打ち破りその身に迫った。

 

突然の変化に目を見開くも、即座に後ろに飛び距離を取る小猫。

 

しかしそれを許すほど今の黒歌は優しくない。

 

 

「んに"ゃ?!」

 

着地の瞬間、地から天へと登る雷撃を受けた小猫は驚きと苦痛の声をあげる。

そして、そこで足を止めたのが失敗だった。

 

先程まで避けていた気弾がその数の猛威を振るう。無数の痛みに耐えながらも更に跳びのき距離をとっていく小猫だが戦車の駒で防御力の上がっているにもかかわらず、その姿は痛々しい。

 

「んにゃー、ごめんね白音。でもこれで終わりにゃ!」

 

一方、そういって笑顔を見せる黒歌だが、彼女とて余裕ではない。

仙術を使うために取り込むエネルギーが多ければ多いほど強大な仙術になるが、当然それを扱うためにそれ相応の代償もある。

 

気を抜けば、悪意に呑まれるだろう。

気を抜けば、それこそ暴走とてありえる。

自身の制御できる自然エネルギーの量とて限度があるのだ。

今の黒歌は、攻撃から防御、小猫の動きまで全てを仙術頼りで動いている。

 

そもそも、動きの感知は自然エネルギーを取り込み、自身の魔力を入れ、薄くした状態で周囲に広げるものだ。

索敵ならばいいだろう。

しかし、今の黒歌は常に仙術で小猫の動きと周囲を感知している。

つまり、常時仙術エネルギーを取り込んでは垂れ流している状態なのだ。

 

さしもの黒歌でも、そう長く持つものではない。

 

 

「にゃはは、取り敢えず今日のところは私の勝ちにゃ」

 

だからこそ、終わりの一撃を放つ。

頭上に乱回転を起こしている黒い魔球はその勢いを増し小猫へと放たれた。

 

「っ……」

 

顔を歪め、姉を見る小猫だがそれを避けるほどの体力は先の回避で使ってしまっている。

そもそも、仙術で上回る黒歌と撃ち合い続けていたのだ。どちらが先にガス欠になるかなど想像に難くない。

 

けれど、最後までその攻撃から彼女は目を離さない。ここで負けるとしても、戦いの中で目をつぶらない。

 

魔球は徐々に近づいていき、そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃーーーーっす??!!?!?!」

 

「へ?」

「んにゃ?!」

 

突如飛んできた金髪少女へとクリティカルヒットを起こした。

 

 

『・・・八幡様、兵士1名リタイア』

 

不運にも痛みを感じないように気絶できるよう殺傷性こそ低いものの、魔球に込められた自然エネルギーが多かったからか、突如飛んできたミッテルトはそのまま気を失ってしまう。直撃した頭部は大きなこぶが出来ており、心なしか煙が出ているようにも見える。

 

なんとも言えない空気が流れながらも、審判のグレイフィアからダウンの合図がされると共に彼女は転移させられていく。

 

 

 

 

「あの女を一撃で気絶させるか…流石は鬼呪龍神皇の眷属だな。不本意な倒し方ではあるが仕方ないか……大丈夫か?リアスの戦車」

 

「「っ??!」」

 

呆然としていた2人だが、突如かけられた声に2人は視線を移す。

視界が見えないにもかかわらず、突然の事に周囲への索敵を怠ってしまっていた黒歌からすれば不意打ちもいいところだ。

 

 

「ライザー……フェニックス!!」

 

「一応は同じチームだがな。まるで敵に出会ったみたいに名前を呼ぶな……不本意ではあるが相手がいなくなってしまった。勝手ながら助力させてもらうぞ」

 

そういって彼を炎が包む。

過去に受けた時以上に熱く眩い炎に思わず腕で影をつくる小猫だが、炎が収まると彼女は目にする。

先程までミッテルトと戦っていたからか、あちこち傷ついていた身体ではない。

まるでゲームが始まる前に戻ったが如く身なりを整えられたその姿を。

 

 

「さぁ、挑ませてもらうぞ鬼呪龍神皇の眷属。仕切り直しだ!」

 

 

 

 

ライザーはキメ顔でそういった。

 

 

 

 

 




次回!
ライザー視点!

何故ミッテルトは飛ばされたのか。
黒歌は2対1の状況をどう切り抜けるのか。

お楽しみに!


そしてミッテルトへ合掌!



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終わりへのカウントダウン

どうも!おひさしぶりです。


不定期な更新ですがお許しください。





 

「何故光を使わない、舐めているのか?」

 

 

黄金の炎槍を無数に放ち、空を高速で飛び回る相手に対して、ライザーは疑問を口にした。

 

「傷ついた身体でよくそんなこと言えるっすねー」

 

対する相手はおちゃらけながら返してくるがその間も炎槍を避け続けている。

 

「じゃあ聞くっすけど、ヴィザ翁やユウ達が全力を出したとして、若手が勝てる可能性があると思うんすか?」

 

「0だな」

 

「つまりはそういうことっすよ」

 

それだけの短い会話でライザーは理解する。理解できてしまう。

 

「つまりは制限か」

 

「正解っす〜♪」

 

笑顔で答える彼女、ミッテルトはパチンっと指を弾いた。ただ、それだけのことでライザーには無数の稲妻が降り注ぐ。光力が含まれていないそれだが、大地をライザーごと削り取っていった。

 

「っぐ、なるほど。リアスの女王とは比べ物にならん威力だな」

 

しかし、フェニックスたる彼は瞬時にその姿を取り戻す。

先程からこの繰り返しを互いに続けていた。

 

 

(これ程の威力。光力を含めばそれこそ上級悪魔だろうとタダではすまんな。制限がつくとすれば光力の使用禁止か…いずれにせよ長引けばそれだけこちらが不利になるのは間違いない)

 

だが、この過程を繰り返し続ければ周りが次々と倒され、状況的不利に追い込まれるのはライザーである。

 

「とーぜんっすよ。あーんな主人の危機よりも自分の都合を優先するやつと比べないでほしいっす」

 

ライザーの内心など知ったことではないミッテルトはさも心外そうに文句を言う。

 

 

こうして会話をしている間も互いに攻撃を続けている。しかし、その殆どはミッテルトに当たることがない。

 

 

「まぁ、あんたは弱くないっすけど。でもあんたの攻撃じゃあ、私を捉えられないっすよ」

 

 

(俺の攻撃は効かない。全力で穿てば落とせるだろうが。何よりこいつは速い。)

 

おそらく昇格によって騎士の速度を手にしているであろう彼女に己の全力を当てることはできないだろう。

 

「だんまりっすかー?」

 

 

(であれば、当てるだけの隙を作ればいい)

 

 

『リアスグレモリー兵士1名リタイア』

 

そこまでライザーが思案した時。

1人の退場が伝えられる。

 

 

「っお!ゼノっちはやったみたいっすね」

 

 

(そして、相手は油断している。ヴィザ翁と比べればまだまだ。なにより、そろそろだ)

 

 

「ふふーん。何考えても無駄っすよぉ。たとえ結界で囲って移動範囲を狭めてても」

 

 

「……気がついていたか」

 

 

彼の言葉に当然とばかりに口角があがり、ありありとした自信が見受けられる。

 

 

「とーぜんっす。移動しながら結界を縮小させてたけど、無駄なんすよねぇ」

 

 

「いいや、これでいい」

 

 

しかし、そんな彼女に対して、彼は真っ向からその言を否定した。

 

 

「なに?」

 

「結界内でこれだけの戦闘を行った。それだけで意味がある」

 

「なにをいっているんすか?」

 

 

結界の中で行った戦闘にこそ意味がある。

そう言い切った彼に対して、笑みが薄れた彼女は全くわからないとばかりに目を細めた。

 

 

「俺が大技を出そうとするときは必ず回避に移る。即ち俺の攻撃はお前に通じる」

 

 

「それがなんすか?」

 

「なら、当てる為の隙を作ればいい」

 

「そんなの作らせるとでも?」

 

苛立ちながら問い返す彼女の手には稲妻が走っていた。

 

「なぁ、知ってるか?」

 

「ぁあ?」

 

彼女の額には青筋が浮かんでいた。

 

「密閉された空間…結界内で俺の炎を…火を燃やし続けた後、この結界を破壊したらどうなると思う?」

 

 

「……は?」

 

しかし、その表情は彼の言葉にて呆けた顔へと変わる。

 

「答えは身を以て味わえ」

 

 

刹那、その空間を震わすほどの大爆発が起きる。

 

 

「ぐぅうううううう!!??!?」

 

突然の爆発に対応しきれず、爆風をもろに受けた彼女は苦悶の声を上げながら吹き飛ばされた。

 

 

 

─────

【バックドラフト現象】

密閉された空間で火が生じ不完全燃焼によって火の勢いが衰え、可燃性の一酸化炭素ガスが溜まった状態の時に熱された一酸化炭素に急速に酸素が取り込まれて結びつき、二酸化炭素への化学反応が急激に進み爆発を引き起こす現象のことを指す

─────

 

 

ライザーが結界を張っていたのは決して相手の回避範囲を狭める為ではない。この現象により、相手の虚をつくことである。

 

本来これは人が導き出した叡智だ。

幾星霜の時を得て人が解明した現象。

魔力という概念を念頭に置いた人外では探知できない方法である。

 

ヴィザとの特訓を経て、貪欲なまでに力を求め始めたライザーが目をつけた。

人という種の可能性。

次代に繋ぎ、未知を既知へと変えてきた力。

その恩恵ともいえる化学を悪魔たる彼が使ったのは。人間であったにもかかわらず、自身では決して辿り着けぬ境地に達している男の影響である。

 

鬼呪龍たる彼の強さを考えた時。

彼のルーツを。人間という種のルーツを辿り、調べ、考えた結果。

 

ライザー・フェニックスは自分なりの結論を出したのだ。人間の強さを。驕りを、先入観を捨て考えたが故に出た結論だった。

 

 

それを彼がこの場で使ったということは。

つまり、彼の中で人のそれは。彼にとって力足り得るということに他ならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っぐぅ。いまだ!!」

 

 

自身が起こした現象による被害を受けながらも、彼は決してその隙を逃さない。

 

ジワリと空間が歪む。

人型である彼の姿がぶれ始め、その周囲を金色の炎が漂い始めた。

 

 

 

 

 

まさにその時彼は目にする。

 

 

 

敵対者たる彼女を吹き飛ばした方向を。

 

そこにはまさに決着がつくように見える猫の姉妹がおり、吹き飛ばされた彼女はそれに気づいている様子はない。

 

 

 

 

「やろうテメェぶっころーーーー」

 

 

気がつくどころかこちらに対して暴言を吐いてる面を見れば、よほど自分のやったことが気に食わなかったのだろう。

 

 

しかし、それが彼女の運の尽きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃーーーーっす??!!?!?!」

 

「へ?」

「んにゃ?!」

 

 

 

それはもう見事なまでなフレンドリーファイアである。猫姉妹も素っ頓狂な声をあげているが、これはひどい。

吹き飛ばしたライザーですらそう思った。

 

 

 

『・・・八幡様、兵士1名リタイア』

 

 

 

………

 

 

 

「あの女を一撃で気絶させるか…流石は鬼呪龍神皇の眷属だな。不本意な倒し方ではあるが仕方ないか……大丈夫か?リアスの戦車」

 

 

「「っ??!」」

 

呆然としていた猫姉妹が彼の声に反応する。

 

 

 

 

「ライザー……フェニックス!!」

 

「一応は同じチームだがな。まるで敵に出会ったみたいに名前を呼ぶな……不本意ではあるが相手がいなくなってしまった。勝手ながら助力させてもらうぞ」

 

極めて冷静に見える彼だが、ただ、一周回って吹っ切れてしまっただけである。ただ、不本意なのは嘘偽りのない本心である。故に自分の気持ちを切り替える意味も込めて

 

 

「さぁ、挑ませてもらうぞ鬼呪龍神皇の眷属。仕切り直しだ!」

 

 

 

 

ライザーはキメ顔でそういった。

キメ顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミッテルト殿が落ちましたか。いやはや、ライザー殿の進歩も侮れない。まぁ彼女の油断が原因の可能性も否めませんが」

 

やれやれとばかりにその笑みを深めた初老の男性は直後、迫り来る水を吹き飛ばした。

 

 

「ふむ。会合するやいなや撤退しつつ牽制をする。友軍との合流を視野に入れつつも、可能であれば削りに来るその姿勢。実に良いものです」

 

 

「っつ。さすがヴィザ翁。やはりそこまでうまくはいきませんか」

 

 

所々に切り傷を負いながらも1人もかけることなく友軍との合流を目指すソーナに対し、ヴィザは感嘆の声をあげる。

 

しかし、ソーナ自身苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

明らかに手を抜かれている。

元々手を抜いてくることは予想できていた。

しかし、ここまで抜かれて尚一撃も入らないのだ。後退を主に置いているとはいえ、これはこたえる。

 

 

 

「卑下することはありません。開幕に落ちたアガレス、グラシャラボラス、アスタロトの3家。残るは王のみのバアル家や少数とはいえ落ち始めたグレモリー家。単騎で挑んでいるライザー殿を除けば、ソーナ嬢だけが誰1人落ちることなく、今尚奮戦している。魔力を使っていないとはいえ、これは誇るべきことです」

 

開幕落ちの方々は相手が悪かったですが…

 

と付け加えるようにヴィザ翁は呟く。

 

実際3家にはリタ、ユウ、恋が向かったのだ。手加減を知らない(しない)3人だ。

いかに制約を守っていようとオーバーキルは避けられない。

 

 

 

そんなヴィザの賛辞など彼女たちは気にも留めず他のチームとの合流に動く。

 

たしかに周囲は落ちているが、落ちるのにかかる時間が彼らにしては遅い。それは目の前の彼と同様に手加減を課せらている可能性が高いと踏んだが故だった。

 

少なくとも

 

 

 

「ですが…これだけ他の方々が落としている中で私だけ何も得れていない状態はいただけませんね、故に」

 

 

自分たちが合流できるまでは粘ってもらえると踏んでいた。

 

だが、それはもちろん

 

 

星の杖(オルガノン)

 

 

 

彼女たちが落ちなければの話であった。

 

 

 

「っな!!?!?」

 

瞬時に

 

 

 

『シトリー眷属・・・』

 

 

刹那、ソーナの背後にいた眷属の多くの脱落のアナウンスが流れる。

 

 

瞬きすらしていない。

しかし気がつけば、残るのは自分と匙のみとなっていた。

 

「っぐ、ぁぁぁああ」

 

その匙も足元に血だまりを作っているのを見れば、避けきれてなどいないのは明白だ。

 

 

話には聞いていた。

警戒はしていた。

それでも、避けることも、見ることもできなかった。

 

ソーナの額にたらりと冷や汗が流れ落ちる。

 

 

「これでようやく、私も面目が保てますな」

 

 

 

 

そんな彼女たちを前に熟練の老兵は、まるで何事もなかったかのように微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─戦局は大詰めを迎えようとしている。─

 

 

 

 

魔力なき少年は絶対的な能力差のある強者(夜兎)に対しそれでも尚抗う。

 

 

姉は妹や挑戦者(ライザー)を迎え撃ち。

 

 

老兵は若い芽を追い詰める。

 

 

役割を果たした者たちは先行きを見守り。

 

 

魔王の妹たる少女は、眷属が落ちるたびに悲痛な顔を浮かべるが未だ戦いは終わらず。

 

 

 

 

─されど・・・戦局は確実に終わりへと向かっていた。─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─なぜならば。─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろね」

開戦時、王の側に控えていた少女は戦場から最も遠い場所に訪れていた。

 

 

─彼女に課せられし命令(オーダー)は1つ。─

 

 

 

 

 

 

「後1人」

 

 

敵陣営が10人を切った瞬間に自身の持つ広域殲滅魔法(・・・・・・)を発動することである。

 

 

落ちる者は誰か?

 

サイラオーグか

ライザーか

ソーナか

匙か

或いは残るグレモリー眷属の者達。

リアスか

朱乃か

小猫か

木場か

ギャスパーか

アーシアか?

 

 

─しかし、1つだけ分かり切っていることは。─

 

 

 

 

 

 

 

「早く終わらないかしら」

シノンは呟く。魔力の練るその周囲にはうっすらと白い霧が広がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

─先に落ちていた方が遥かに良いと思えるということは間違いないということである。─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「退屈ね」

遠くを見つめる彼女はまるで絵画。

美術品かと思えるほど幻想的だった。

何故なら、霧に覆われたその周囲は。

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで時を止めたかのように凍り果てているのだから。

 

 

 

 






このレーティングゲームは後2話で終わらす予定。


不定期な更新ですがお付き合い頂けると光栄です。





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シノクニ

ちょっとだけまきで。




 

「そろそろかなぁ」

 

そう呟いた少女は地面へと突き刺した剣を引き抜く。

 

既に機は熟した。

同僚達もその任を全うしている。

 

一部落ちた者も居るがさしたる影響はない。

 

 

クロメとフリードはしっかりとグレモリー達の足止めを行なった。

 

黒歌は未だ決着していないが、もう待つ義理はないだろう。そう自分の直感が告げている。

 

 

他の面々に関しても、もう十分に落とした。

 

 

であれば、自分の手にてトリガーを引こう。

 

 

 

「本当につまらないゲームだったよ。小猫ちゃんがあれだけ伸びてたから、君にも期待してたのに」

 

 

そう言ってボロ雑巾のように地面へと放り出された木場に歩み寄っていく。

 

侮蔑の目線を向けられた木場には、もはや抗う術も、異論を唱える余力も残っていなかった。

 

 

「努力するのは当たり前。生物にとって停滞は退化そのものだ。君は、君達は強くなった気になっているけど、いったいどんな努力をしたの?」

 

 

その声は普段の明るい彼女とは打って変わり非常につめたい。

 

 

 

「聖魔剣に頼って、剣術がおざなり。幕末の天才剣士に師事していたとは思えないほどにね。天才剣士に師事したから強くなったと思った?禁手に至ったから少しは対抗できると思った?甘いよ」

 

 

そう言って彼女は剣を掲げ

 

 

「君は君達は何をしてるの?ライザーは恐ろしい速度で成長してる。小猫ちゃんは過去を乗り越え長い強者坂を駆け上がろうとしてる。僕ら相手には神器が効かないから使ってないみたいだけど、ギャスパーも歩み始めた。なのに君は、君達は何をしているんだよ」

 

 

 

終わりの始まりたる引き金を引いた。

 

 

 

 

 

『リアス・グレモリー様の騎士1名リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まっだかなぁ、まっだかなぁ」

 

「完全に遊ばれてるわね」

「ええ」

 

 

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

 

「ひ、人の言葉を喋ってくださぁい」

「ひ、ひぅぅううう」

 

 

時は遡り、グレモリーは遊ばれていた。

相手が攻撃を当ててこないのだ。

 

してくるのはひたすら行動の制限。

まるでこの場から逃さないように移動制限をかけられていた。

それはギャスパー達も同様だった。

 

 

相手の意図が読めない上に行動の制限。

そして自身達の赤龍帝(切り札)の脱落。

 

それが彼女を焦らせていた。

 

 

 

「っ、このままじゃ不味いわね」

 

勝てるとは思ってはいなかった。

 

それでもあちらの王に会うこともできず終わると思ってはいなかった。

自分達なら赤龍帝(最愛の人)となら成せる。そう思っていた。

 

 

 

このまま(・・・・)じゃ?もしかしてまだ何かできると思ってるの?」

 

ふとしたつぶやきだった。

しかしそれを聞いたクロメはまるで言っている意味が理解できないとばかりに首をかしげる。

 

 

「どういう意味かしら?」

 

その言動に彼女は眉をひそめた。

その側にいる姫島も同様である。

 

 

「別に。ただ、聞いていた通りだと思っただけ。本当とは思わなかったけど」

 

 

 

無能王

それが彼女が下された評価だった。

厳しく、つめたい評価だ。

八幡達はレーティングゲーム前、どんな者が相手であろうと分析を行う。

彼らは決してリアス・グレモリーという悪魔が嫌いではない。しかし、彼女を知り合い、友人としてではなく、1人の王として評価した結果がこれである。

 

赤龍帝の変態性(眷属の暴走)を止められず、ギャスパー(有能な眷属)を放置し続け、あまつさえ本人は女王と共に赤龍帝(愛する人)と情事にふけようとする。

 

確かに全体的に見ればかなりの粒揃いだ。

神器持ちだけで見ても

赤龍帝の籠手

聖母の微笑

魔剣創造

停止世界の邪眼

と規格外のものが多い。

加えて悪魔への特攻攻撃である雷光を使える姫島に仙術を身につけた小猫だ。

本人も消滅を使えるのだ。

 

(八幡達を除けば)間違いなく最も才が揃っている。にも関わらず、それを全て台無しにしているのは、間違いなく王の責任だろう。

 

 

分析の際真っ先にシノン(・・・)が言い放った評価。オカンのような暖かさと永久凍土のような冷たさを持つ彼女だからこそ。

手心も遠慮もなく言い放ったのだ。

 

 

 

あの無能は落とすな、私が落とす。と

 

 

 

 

 

 

 

そんなことを知り得ないグレモリーだが、彼女を見るクロメはシノンの言を理解する。

 

確かに、あまりにも『王』として未熟である……と。

 

 

 

 

そうしてクロメが理解した時

 

 

『リアス・グレモリー様の騎士1名リタイア』

 

 

引き金が引かれた。

 

 

 

「祐斗!」

 

そのアナウンスを聞き思わず名前を叫ぶ彼女だがそんなことはもはやどうでもよくなった。

 

 

「きひゃひゃひゃひゃ、きたきたきたぁ!!お勤めごくろっさん!バイビー」

 

「うるさい」

 

刹那、彼女達はその場から離脱した。

彼女達だけではない。

現在戦っている全ての戦場から八幡の眷属は離脱したのだ。

 

 

「な、なに!?消えた?」

 

 

突然消えた敵に周囲を見回すグレモリーだがそれは各戦場でも同じであった。

 

黒猫は決着がつかなかったことを悔しそうにしながら

夜兎は名残惜しそうに

翁は不敵な笑みを浮かべながら

戦闘が終わっているもの達は漸くかといった具合にその場から消えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各陣営がなにが起こっているのかわからずただ周囲を見直している中、その異変に真っ先に気がついたのは、急激な成長を遂げている者達(小猫とライザー)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだあれは!!?!?」

 

「っ?!」

 

 

2人は悪寒が止まらなかった。

急激に膨大な魔力を感じたかと思えばフィールドの端から天へと一筋の白い煙のようなモノが立ち上がる。

そうして煙が天へと昇りつめると、まるでシャボン玉に閉じ込めていたかのように一気に煙が霧となり広がり始める。

 

 

 

2人は見てしまう。

霧が触れた瞬間、建物が植物が水が大気すら凍って行っていることに。

 

 

2人は理解してしまう。

あれに触れてはいけないと。

触れれば最後仮死状態なんて生ぬるい。

瞬時に体表どころか心臓まで凍りかねないモノであると。

それはまさに世界が死んでいた。

無機物も有機物も等しく凍りつきその時を止めている。

 

 

 

「っ、リアスの戦車!」

 

「!、ありがとうございます」

 

 

理解すれば早かった。

ライザーは自身の持つフェニックスの涙を小猫へと投げ当て回復させると、全力で駆けた。彼女も礼を述べるとそれに続くように駆け出していく。

 

 

 

 

「あれは、なんなんですか!」

 

「俺が知るか!わかるのは俺の炎すら瞬時に凍らせられるようなバグ技ってだけだ」

 

「いくらなんでも反則でしょう!!!」

 

「俺にいうな!というか無駄口たたく暇があったら駆けろ!」

 

「もう駆けてますよ!!というかどこに逃げるんですか!逃げ場なんてあるんですか!!」

 

「ことここに至ればできることは王への特攻だけだ。恐らくそこにあの黒猫や他の眷属もいるはずだ」

 

「詰んでるじゃないですか!」

 

「そんなことはわかっとるわ!」

 

 

まるでコントのようなやり取りをしながら2人はかける。

敵の王(八幡)が居るであろう位置へ向かって最短で最速で一直線に。

その速度故に霧とはかなりの距離を取れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、会長俺は置いて行ってください!このままじゃ会長まで!」

 

「駄目です、眷属を置いてなんていけません。何より彼らに対抗するには貴方の力が必要です!」

 

「っでもこのままじゃ本当に」

 

 

 

不幸なことに霧の発生源に比較的近かったソーナと匙は霧にジリジリと迫られていた。

 

負傷している匙を持ちながら移動するソーナだが、霧の方が僅かに早い。

 

 

 

「まだ、フェニックスに塔城達が残ってます。ここで俺のせいで落ちるよりもそちらに合流した方が遥かにいいです」

 

待機室にいる時から感じていた、自分達以上の強者の名を上げながら匙は懇願する。

自分を置いて行ってくれと。

 

 

「ですが!」

 

それでも、とソーナは言い淀む。

頭では理解している。匙を連れて逃げ切るのは現実的ではないことなど。

それでも彼女は知っている。

あの霧の恐ろしさを。

それ故において行けなかった

例えグレイフィア様の判定の元死にはしないとわかっていても。

あの霧に触れることがどれ程危険かということに。

 

 

「最後まで足を引っ張ってすみません。でも、最後の最後に一矢報いて下さい。まだゲームは終わってないんで」

 

 

刹那自分の身体にかかる負荷が消えた。

 

 

「っ匙!!」

 

彼自身がソーナの腕から抜けだしたのだ。

 

その行為に目を見開きながら戻ろうとするがすぐそばまで来た霧と匙の言葉に阻まれる。

 

 

「あとはお願いします」

 

 

 

 

 

 

『シトリー様の兵士1名リタイア』

 

 

匙の姿は消え、リタイアのアナウンスが流れるが彼女は見てしまった。

 

 

匙が転送される刹那、氷ついていた姿を。

 

 

 

 

「っやりすぎですよ。シノンさん!」

 

意図は理解はできる。

実に有効な手段だ。

自分達がここからの行動を試されているのも十全にわかっている。

 

 

だからこそ、彼女は向かう。

眷属達の思いを背負って。

 

王としての責務を果たすために。

この試練にも乗り越えてみせようと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、来たようじゃの」

 

 

語尾に音符がつきそうなほど軽い言葉が飛ばされる。飛ばした本人は実に愉快そうに笑っているが、受け取った者達にはそんな余裕はなかった。

 

 

「退いてください」

「そこを通してもらうぞ」

 

後方には迫りつつある死があるのだ。

一刻でも早く行かねばならないのだ。

 

 

「かー、焦るでないわ。よいか、物事とはじっくりゆっくりと考えてからうご…っと危ないのぉ!いきなり何をするんじゃ!」

 

「全く危うげなく避けておいてよく言う」

「当たってください」

 

そんな彼らはのらりくらりとしたマギルゥに対して不意を突くもやすやすと避けられてしまう。

 

 

 

「ん?おやおや、他の団体様もご到着のようじゃな」

 

 

その言葉通り2人が警戒しながらも後ろへ視線を向ければ見知った面々がやってきた。

 

 

「小猫!無事でよかったわ!それにライザー?!!」

 

途中で合流をしたのかリアス達のそばにはソーナやサイラオーグが立っている。

 

しかし

 

「およ?お主はよくまぁその怪我で立って居れるの。阿伏兎のやつは余程楽しんだとみれる」

 

サイラオーグの傷を見て同僚の名を羨ましそうに呟くがそんな彼女に対して

 

「余裕ね。1人でこの人数を?」

 

どこにそんな余裕があるのか

 

こんな状態でもそんな問いかけを出すグレモリー。

その問いにマギルゥは不敵に笑った。

 

 

 

「勿論わし1人で十分なんじゃが、あいにくとこれまで何もしていなかったんでの。わしら2人が相手じゃよ」

 

腕を組みながら見下すようにこちらを見るマギルゥだが、刹那大地が凍りついた。

 

 

その光景に彼女達に悪寒が走るが、霧とは違い自分達が凍ることはない。

 

しかし白い氷の粒子が流れるようにマギルゥの側へと寄って行けば、その隣で渦を巻き始める。

 

 

パキリパキリと音を立てながら粒子は集って行き人型を形成し始めれば、彼女達の知る人物へと変わっていく。

 

その光景を彼女達は目を見開きながら言葉を失った。

 

 

 

 

「ふぅ。間に合ったわね。思いのほか小猫達が早かったからもう始まってるかと思ったわ」

 

 

「よく言うわ。先に始めていればおんしは怒るじゃろうに」

 

 

氷の粒子から元の姿へと戻ったシノンの軽口にマギルゥは苦笑いしながら応える。

 

 

 

「さて、始めましょうか?」

 

 

周囲の凍りついた光景を作った少女(シノン)

腹黒い魔法使い(マギルゥ)

 

 

生き残った若手連合の前には絶望が立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回!
レーティングゲーム最終と観戦者視点、終了後の話を少し盛り込んでレーティングゲーム編は終了っす



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無慈悲な差

レーティングゲーム自体は終わり。


戦闘場面むずすぎる。
特に複数人いるときは……orz


 

 

「さて、始めましょうか?」

 

 

 

その言葉が始まりの合図だった。

直後、シノンの腕から多量の氷塵が舞い散り生き残った者たちを襲い始める。

 

 

「触るなよ!」

 

即座に反応したライザーは警告を飛ばす。

他の者たちも言われずともと言った具合に氷塵を避けるが数が多過ぎる。

 

 

「この規模の魔法を放ちながら、まだこれだけの事を。いったいどれだけの魔力を」

 

「奴らを俺らの基準で考えるなリアスの戦車。奴らはそのまま次元が違う」

 

あの王(八幡先輩)ありてこの眷属ありですか。それと…さっきから戦車、戦車言ってますがやめてください。私は塔城小猫です」

 

「ッフ、そうか。ならばいくぞ塔城。現状俺らが行くのが最も可能性があるだろう」

 

 

そんな氷塵を対応する中で余裕のある2人が避けながらも対策を練っていく。過去の遺恨がなくなったわけではない。あくまでライザー(一貴族)グレモリー眷属(小猫)であるが、上を貪欲に目指す者同士この場においては同じ考えであった。

 

 

「やれやれ、ライザーと小猫(おんしら)シノンだけに意識を向けて良いのか?」

 

しかし、そんな2人に対し声がかかる。

刹那、2人は強烈な悪寒を感じ取り全力で跳躍した。

 

 

ドガァンと轟音が轟くとともに周辺に地響きが続く。その突然の事態に回避に徹していた者たちが一様にその爆音のあった方へと視線を向ければ。

 

 

数秒前まで小猫とライザーがいた場所には大きなクレーターが出来上がっていた。

 

 

「っかっかっか。爆心地はげに恐ろしきことになるのぉ」

 

それを作ったであろう本人は高笑いをあげながら狂気的な笑みを浮かべていた。

 

 

ライザーと小猫(おんしら)は他よりも厄介そうじゃからのぉ。儂が相手をしてやろう」

 

 

宣言された2人は大きく後退し

 

 

「上等だ」

 

「行きます」

 

 

魔力を高め、少し離れた場所では

 

 

「私たちのことは眼中にないってわけね」

 

「舐めないで欲しいですわ」

 

リアスや姫島も同様に破滅と雷を放とうとする。

 

 

だが

 

「頂きじゃよ。スペルアブソーバー」

 

それらの魔力はマギルゥの一言の元に霧散した。

 

 

「「「「っな!!?!!」」」」

 

その現象に驚愕の声を上げる一同。

 

「ほぉれお返しじゃ」

 

カラミティフレア

 

 

 

直後巨大な炎の壁が生存者を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シノンの氷により冷え切っていた場所に炎の壁を出現させれば当然周囲は水蒸気でさらに白く染まる。

 

 

「やれやれ、これでいったいどのくらいの生存者が残ることやら」

 

 

「どうかしらね」

 

 

白い霧を見つめながらシノンとマギルゥ(強者たち)はポツリと言葉をこぼす。

 

そこにはこれで終わるならそれまでといった意味も含まれていた。

 

 

彼女らからすれば生存しているメンバーの半数に興味がないのだ。それこそナザリック(自分達)に教えを請いに来た小猫やライザー、阿朱羅丸やクルルが期待するギャスパー以外歯牙にもかけていない。

 

 

「「ほぉ(へぇ)」」

 

だからこそ、霧が晴れた眼前の光景に驚きと興味を示した。

 

 

「っぐぁ。これは呪いの類の炎か……俺自身にまとわりついて回復ができなくなるとは…さすがの規格外だな」

 

 

そこには膝をつき、体から煙を吹いているライザーがおり、その後ろにいた生存者達は無傷のまま立っていた。

 

 

『ら、ライザー(さん)!!!?!?』

 

 

守られた者達(その後ろにいた者達)は驚愕の声をあげる。当然だ、守られるなど思われていなかったのだから。

 

 

「っなん……で」

 

「はぁ、はぁ、一矢報いるためにも、まだお前に落ちてもらっちゃ困るんだよリアス。お前が落ちれば眷属も強制的に落ちるんだからな」

 

わからないといった具合のリアスに絞り出すような苦しげな声で彼は告げる。

 

 

「聞け!リアスの眷属、シトリー、バアル」

 

 

しかし、彼はまだ落ちないまだやり残したことがあるがゆえに。

 

 

マギルゥ(やつは)おそらく魔法を吸収する。魔法を打とうとした瞬間、霧散した魔力がやつに流れていったのが感じ取れた。魔法は使うな。接近戦で戦え!」

 

その言葉に驚いたのは他でもないマギルゥ本人であった。まさかたった一度の攻防で見極めたのか。その目にはライザーに対する僅かながらの興味が浮かぶ。

 

「シノン殿は氷。あらゆるものを凍結させる。その気になれば時間さえ。だからこそ、戦えるのは凍結を解除できるほどの炎の使い手か或いは」

 

そう言って彼は1人の少年を見る。

 

 

「っえ?っえ??」

 

「お前だけだ吸血鬼」

 

その視線と言葉にオロオロと狼狽えるギャスパー。言外にシノンと戦えと言われているのだ。

 

「勝てとは言わん。だが、鬼呪龍に見出された者なら意地くらい見せろ!!」

 

その言葉に彼女は目を見開く。

なぜライザーが知っているのか。

なぜ自分に言い放ったのか。

疑問はいくつもある。

だがそれよりもギャスパーの中で浮かんだのは彼らに言われた言葉。

 

 

『世界で唯一の吸血鬼であることを』

 

 

そして

 

『頑張ったな』

 

そう言って撫でてくれる、義兄の手の温かさである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら!俺の奢りだ!!バアル、お前も最後まで根性を見せやがれ!!!」

 

 

そう言って彼の瞳から一粒の雫が落ちる。

その雫を掬うように彼の再生の炎が触れた瞬間。

 

 

ブワッ

 

 

生存者達を山吹色の光が包み込んだ。

温かく、どこかホッとするその光は凍りついた空間の中で、冷えた者達の身体を暖めて、そして……

 

 

「傷が無くなっていく!!?」

 

サイラオーグを筆頭にこれまで傷ついていた者達の身体を癒していった。

 

 

【フェニックスの祝炎】

フェニックスの涙を再生の炎で蒸発させ、その水蒸気を広範囲に広げることで、一定範囲の者達を癒す、ライザーの切り札の1つだある。

 

 

「あとは任せたぞ!」

 

そういうとライザーの周囲を金色の炎が包み込み、その姿を変えていく。

それはまさに巨大な金色の炎鳥。

その身そのものを炎へと変えた彼はシノンとマギルゥ(強者達)へと一直線に飛んで行く。

 

 

ズガァァァアアン

 

今度はシノンとマギルゥ(彼女達)の周囲を水蒸気が覆った。

 

 

まさに決死の一撃。

生存者達の回復と敵への攻撃。

一矢報いるために最大限の功績を残そうとしたライザー。

 

 

そして……

 

 

『フェニックス家王リタイア』

 

結果は告げられた。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ何故あんな大きな隙を見逃したんじゃ?」

 

「あんたもでしょ。あれだけ意地を見せようとしているやつに対して、不躾な横槍は入れないわよ。これはゲーム。戦争じゃないんだから」

 

「最後の一撃は?」

 

「覚悟を決めた男の決死の一撃よ?避けるなんて無粋だわ。こちらも相応で迎え撃つわよ」

 

 

晴れていった水蒸気の中から無傷の2人(・・・・・)が現れる。

 

ライザーの決死の一撃はこの2人、正確にはシノンにとって脅威たり得なかったのだ。

 

 

しかし、それでも彼はやり遂げた。

彼だけではない。生存者達が一矢報いるための情報を残していったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁああああ」

「負けません!」

 

真っ先に動いたのは小猫、そして回復したサイラオーグだった。

 

 

「まぁ、ここはあの坊が決死の覚悟で残した意思に応えてやろうかのぉ。シノンそっちは任せたぞい」

 

そういうやいなや、マギルゥは翼を出しサイラオーグと小猫(2人)とぶつかり合う。

 

鍛えた肉体の拳と仙術で強化された拳がマギルゥを襲い、それに魔法を持って対応していく。ライザーが残した情報を元に、格闘を得意とする2人が瞬時に動いたのは、まさにライザーの意思の強さが伺えるところだろう。

 

 

(やれやれ、嬢はともかく他のものまで意思を強めよった。あの坊にはほとほと呆れるのぉ)

 

2人の格闘家に襲われるマギルゥはそれでもなお余裕をもって対応していく。

 

 

 

(あやつがいなければ十全の術は使えんが、まぁ問題ないじゃろ。少なくともシノンが終えれば嬢は消える。バアルの小僧は警戒には値しない。落ちないように時間を稼ぎつつ、小僧を落とすかの。それはもぉ惨めにのぉ)

 

 

その中に黒い何かを抱えているのを知る者はこの場には居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《力が必要かい?》

 

《必要なら手を貸そう》

 

《君との、あの姉妹との、あの男との約束だからねぇ》

 

《君はボクでボクは君だ》

 

《さぁ行こう半身。この力(ボク)を使ってみせろ!》

 

 

 

 

 

 

 

「僕は、僕だって!やれるんだ!」

「ギャスパー!?」

 

 

「やっぱり来たわねぇ」

 

 

マギルゥが2人を対応する中、シノンもまた対応を迫られていた。

 

 

 

「力を貸して!バロール!!」

《ああいいぜ》

 

 

ギャスパーの声に底冷えするような声が応えたと思えば、彼女の周囲に暗闇が広がり、ズブリ、ズブリと何かが蠢くような音が聞こえる。

 

 

「GYAAAAAAAA!!!!!」

蠢くような音から一転、獣の鳴き声が響けばその暗闇から無数の魔物が放たれ、シノンへと向かっていく。

 

迫り来る魔物に対し、それでも冷静に対処し氷塵が魔物を覆い凍らせていく。

 

 

しかし、

 

 

「GYAAAAAAAA!!!!!」

 

「っな!?」

 

ここで初めてシノンが驚愕の声をあげた。

凍らせたはずの獣がその拘束を解き再び襲ってきたからだ。

 

思わずその場から飛び退くシノンはあることに気がついた。

 

 

(魔物の肌が振動してる……まさかシバリングで凍結からの拘束を解いたの?)

 

その光景に彼女は覚えがあった。

かつてユウが自分の凍結を解除してみせた荒技。シバリングによる凍結解除。

 

眼前の魔物はそれをしてみせたのだ。

 

 

「だったら!」

 

少なくとも今尚迫ってきているシノクニのような瞬時に身体の中心まで凍結させられねば無意味。そう悟ったシノンは周囲にの氷塵を雹へと変え魔物へと放つ。

 

だがここで2度目の驚きを目にする。

 

 

自身の放った雹が魔物へと当たる前に空中で停止しているのだ。

 

「シノンさん自身は止められない。でも貴方の放った攻撃なら止められる!!」

 

それは魔物の後方にいるギャスパーによる時間停止だった。シノン自身とは格の差があり止めることはできない。しかし、彼女の放つものであればとギャスパーは食らいついてみせた。

 

「いっけぇぇえええ」

「援護します!」

 

勢いに乗るギャスパーは魔物を更に増やしシノンへとけしかける。

それに呼応するようにソーナやリアス、姫島が魔法を放つ。

 

身体を流動する氷塵へと変え、それらを避けるが、それにしても魔物の数が多い。

 

次第に優勢に変わっていく状況に笑みを浮かべ始める生存者達。

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてね」

 

 

 

「え?」

 

 

 

ギャスパーには何が起こったのかわからなかった。気がつけばあれだけ多くいた魔物が全て切り刻まれているのだから。

 

 

「っな!!?」

 

その光景に周囲も声をあげるが、何が起きたのかはわからない。

 

 

「な、何をしたんですかぁ!」

 

そう言いながら再度魔物を呼び出すギャスパーだが。

 

 

「甘いわよ」

 

スパンと呼び出した獣は両断される。

 

 

「な、なんで?」

 

「一体いつから私が氷しか使えないと勘違いしたのかしら?」

 

「で、でも一体何を?」

 

「わからないわよね?だからやったのよ」

 

 

一転、状況は先ほどと同じに戻ってしまう。

 

 

「氷の魔法はそもそも風の魔法と水の魔法を合わせることで生まれる複合魔法の1つ。純血の人外はその血に宿る能力として最初から氷魔法を使える奴もいるけど。基礎に戻れば複合魔法よ。そして私は元人間。当然基礎を積んでるに決まってるでしょ?」

 

 

だから……

 

 

「きゃぁ!!!!??」

 

 

『グレモリー眷属女王・僧侶リタイア』

 

「朱乃!アーシア!!?」

 

 

「こうやって貴方の眼では知覚できない風で切っただけよ」

 

 

何事もないようにギャスパーの同僚をリタイアさせたシノンはぺろりと舌なめずりをした。

 

 

 

 

 

その発言に、その結果に残されたソーナとリアス、ギャスパーは愕然とする。

 

これでも足りないのかと。

明らかに優勢だった。

ギャスパーの魔物による氷の無力化。

ギャスパー本人による防御。

リアス達による援護射撃。

 

行けると思った。

しかし、それでも尚足りないのだ。

 

眼前の少女には。

 

 

 

 

 

「いい夢は見れた?自分たちの力量は把握した?次回以降の課題は見つかったかしら?見つかろうが見つかるまいが終わりには変わりないけど」

 

 

そういうと彼女は手を空に掲げる。

すると周囲に迫ってきていたシノクニがシノンの掌に集まり圧縮されていく。

 

 

"おんしマジか!!?"

 

 

マギルゥの叫ぶ声が聞こえるが、それすら無視して彼女は動作を続ける。

 

 

あれだけ広大に広がっていたシノクニが再び集約されていき、彼女の掌の上に野球ボール程となりおさまる。

 

 

"逃げるが勝ちじゃよ"

 

 

 

小猫とサイラオーグを対応していたマギルゥはそれを見ると逃げた。

おそらく転移の類であろうそれを使う程の彼女の様子に周囲は冷や汗を垂らす。

 

 

 

「はぁ!!!」

 

そんなシノンに対し、マギルゥが消えたことでフリーになった小猫が気弾を打ち込むが。

 

 

 

パキンっと彼女に届く前に空中で停止してしまう。

 

 

「っな!?」

 

 

その光景はまさにギャスパーの時間停止。

もはや何度目かもわからない驚愕を味わう彼女達だが、もはや勝負は決した。

 

 

 

「小猫やギャスパーはいい働きだったわよ。ソーナもヴィザ相手に耐え切ってたんだから流石よ。でも今はもう。さよなら」

 

 

その言葉とともに彼女はシノクニの玉を握りつぶした。パリンとガラスが割れるような音が響いた瞬間。

 

八幡たちが待機し、結界を張っている場所を除き。フィールドのすべての時が止まった。

 

 

風が

 

雲が

 

葉が

 

大地が

 

空間が

 

そして

 

 

生命のすべてが等しく凍結されたのだ。

 

 

 

 

 

シノクニ.ver永久凍土(パーマフロスト)

 

 

 

 

圧縮に圧縮を重ねたシノクニの玉。

その圧縮の枷を外すことで瞬時に周囲へと広がり。ものの数秒で国にすら死を与える本来のシノクニの使い方。

 

 

当然少し離れたところどころか周囲にいた彼女達に逃れるすべは無い。

 

 

 

 

 

 

 

『若手連合全員のリタイアを確認。ゲームセット。勝者は八幡様陣営』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソォォォオオオナちゃんがーーー!!?ハチくんの眷属流石だけどソーナちゃんが凍っちゃった!!!!?」

 

「リーーーアたーーーーん!!!?!?」

 

 

一方客席では絶叫が飛んでいた。

 

 

(えげつねぇことこの上ねぇ。だが奴らは本気じゃなかった。一体どんな人材が集まってやがる!………っ胃が…)

 

 

 

某堕天使長はピキリと自身の胃から出る嫌な音を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたは自分が何をしたか分かってるの!」

 

「貴方は眷属としての役割を分かっておられるのですか?」

 

「ハチ、ガツンと、いう」

 

「ん…まさに……言うべき」

 

「まぁ、自業自得だなぁ」

 

「うぇぇぇええええ、ゆる"じて"ー」

 

 

『ダメ!』

 

 

「お、おいお前らその辺に」

 

『ん?』

 

「しなくていいぞー。俺は何も見てない。見てないからな。ほれ恋、ユウ菓子でも食べよう」

 

 

「ハチィィィィィイイイイイイたすけでぇーーーーーーー」

 

 

 

 

 

とある一室では

 

 

私は落ちました。悪い眷属です。

 

といったプラカードを下げ正座させられている元堕天使が泣きながら主人に助けを求めていた。

 

 

 

 

 

 




次回!
閑話を入れるとおもう。

そして暑くて溶けそう………


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ゲーム後の日常1


リハビリ!


 

 

 

 

───────────────

王とは、誰よりも怠惰に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!

全てのNEETの羨望を束ね、その道標として寝転がる者こそが王!

故に!王とは孤高、その姿勢は多く者に理解されない故に!

───────────────

 

 

 

 

なにが言いたいかというと。

やることがなかった。

いやいや、それはいいことだ。

休めるときには休むは俺の基本方針だ。

むしろ社畜生を歩む俺に取ってはそんなひと時はオアシスといってもいい。

 

だが………

 

 

 

 

「容赦ねぇな」

 

 

 

レーティングゲームが終わり、お叱りと言う名の体罰を受けているミッテルトを視界に入れないようにしながら呟かれたそれは彼らに聞こえるでもなく霧散していく。

 

作戦会議通りとはいえなんとも呆気ない幕切れである。結果を見れば慢心してやられたミッテルトを除き、制限を付けて尚落ちたものはいなかった。

 

ライザーと小猫、そして最後に意地を見せたギャスパーは試合にこそ勝てなかったもののその評価は上がるだろう。

 

ライザーは言わずもがな。

小猫はライザーと共に終始奮闘。

ギャスパーはバロールの力を見事使いこなしたのだから。

 

しかし、それだけだ。

 

かろうじてソーナがヴィザから生き延び続けたことが評価される程度で、それ以外の者達の評価は低い。

 

特に初期に落ちた3家以上に注目を集めていたグレモリーは尚更だろう。

 

赤龍帝は大した機能をせずに落ち、グレモリー本人は殆どなにも出来ていないのだ。

 

 

 

「荒れるか?」

 

《そもそもアレに期待されてたことにボク達は驚きだよ》

 

《圧倒的名前負けね》

 

自分たちでやっておいてなんだが、本当にこれで良かったんだろうかと、俺は溜息を吐かざるを得なかった。

そんな俺の言葉に阿朱羅丸やクルルが反応するがその声色は退屈そうである。

 

 

しかし、ここで気になるのはニオ様達の目的である。彼女達クラスであればらこうなること自体は予想できていたはずだ。

 

慢心を消す為?

いや、この結果になろうと彼らの慢心がそうやすやすと消えるとは思えない。

 

力の誇示?

可能性がなくはないが、わざわざ俺たちを若手組に入れるほどではない。

 

《もっとシンプルだと思うよぉ〜》

 

 

なに?

 

 

思考を巡らせている俺にわからないのかとばかりに阿朱羅丸は声をかける。

 

《面白そうだから、それ以上に理由は必要かい?》

 

これだから年寄りどもは・・・

 

 

 

 

「やぁ、失礼するよ」

 

 

そんな折に、コンコンと小気味良い音がなり、こちらの返事を待たずに言葉と共に入室した男に、先程まで騒いでいた眷属たちも視線を一つへと集めた。

 

 

「小言か?」

 

紅色の髪を揺らしながらこちらへ向かってくる相手に目を細めながら反応すれば

 

 

「リーアたんに関しては、まぁ、レーティングゲームだからね。取り乱しはしたが小言を言う程小さな男であるつもりはないよ」

 

 

俺の訝しむ視線と言葉に対し、くくくと笑いながらそう返してきたサーゼクス。その後ろにはグレイフィアがいつものように付き添っていた。

 

 

「少しお願いがあってね」

 

「面倒ごとはいやだぞ。何せ今回のレーティングゲームで疲れたからな」

 

 

(いや八幡は動いてないじゃん)

 

俺の言葉に皆が一様に意味のある視線を送ってくるがそれは受け流す。

 

《何でアレ面白そうなら受けようよー》

 

《そうね。ほとんど小猫の特訓に出ていたせいで最近暇でしたかないわ》

 

若干2名はここ数週間が本当にお気に召していない様子だが。

 

 

「なに、大したことのない相談のようなものなんだ。実はね」

 

「こいつ人のことを殆ど無視して話し始めやがった」

 

 

魔王はみんなマイペースなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけであいさつでもしとけ。ほらお前イケメンだから。適当にスマイル振りまいて歯を輝かせれば男でも女でも堕ちるだろ」

 

 

「おいおい。そりぁないだろ八幡」

 

 

「・・・部長この方は?」

 

「お兄様から話が来たの。いい人を紹介するからって。新しい眷属、騎士の駒を消費したわ」

 

 

 

数日後。

手を額に当てながら溜息を吐くグレモリーと軽口を叩く俺が小猫達の前に立ち1人の男性を紹介していた。

 

 

「まぁ、新メンバー兼お前らの講師その2だよ。アザゼルだけじゃあ足りないみたいだし。それに駒王の管理に関しても、人手足りなさそうだからな。シスコ・・・サーゼクスから頼まれて募集した結果、なんとか一名見繕えたから」

 

 

「見繕え・・俺は粗品か何かか?」

 

「挨拶しろよ?」

 

そんなコントめいたやり取りをする俺だが、相手の金髪イケメンは苦笑いしている。

 

 

「はぁ・・・ガイ・セシルだ。八幡とはまぁ古い付き合いでな。何度か眷属になるか迷ってたんだが、問題があってなれなくてな。今回グレモリーさんに眷属をって話が出て、八幡とサーゼクス様から推挙されたんだ。よろしく頼むよ」

 

 

 

 

キランと歯を輝かせながら笑うガイに思わずため息が出てしまう。こいつはいい奴だし実力もあるが一つ問題がある。

 

 

「そうなんだ。よろしく。僕は木場裕斗」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

木場とガイは何か気があうのか熱い握手を交わす。

 

 

「そうなんですか。塔城小猫です。よろしくお願いし「うわぁぁぁぁあああ!!?」ま……す?」

 

瞬間。場が凍りついた。

 

木場に続き眷属と聞き挨拶しようと近づいた小猫に対しものすごい勢いで遠ざかるガイ。

 

そのあまりのことに皆が言葉を失った。

 

 

 

「彼…女性恐怖症らしいのよ。八幡のとこに行けば確実に女性陣が揶揄ってくるからということで入らなかったらしいわ」

 

頭痛を感じるのか、額を抑えたグレモリーが漏れ出すようにつぶやく。

 

「………なんでうちに来たんですか……」

 

「私や朱乃、アーシアはイッセーが。小猫は八幡が居るから大丈夫だろうってお兄様が」

 

「…ほかにいなかったんですか?」

 

そんな言葉に思わず小猫がジト目になり、グレモリーを見る。

 

 

「希望者を募ったが居なかった。ガイだけが元々サーゼクスとのツテがあったのもあって頼み込まれた末に落ちたからな。頼み込まれた末に。女性恐怖症は基本日常生活だけだ。戦闘には影響ねぇよ」

 

 

「す、すまない。君自身に何か問題があるわけじゃないんだが…」

 

「……先輩………不安です」

 

「基本的にいい奴だから。剣術の腕もユウキと真っ向から打ち合えるレベルだ。あの手この手使って眷属化までしたんだ。受け入れてくれ。いい奴だから。偶にイケメン過ぎて顔面殴りたくなるくらい」

 

 

「酷い言い草だ……」

 

 

 

小猫と俺のやり取りに肩を落とすガイだが、言われてること自体は事実なので強く反論できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明くる日!

 

 

 

「数にも負けず、禍の団にも負けず、敵の怖さにも圧力にも屈せず、丈夫な体を持ち。鍛え抜かれた力と技で忠義を貫く、そんな生徒に私はしたい」

 

 

「っちょお!?たんまっす!それは流石に、ぎゃゃぁぁぁああああっす」

 

「っ、やはり速いな…これが音に聞く星の杖(オルガノン)か」

 

「・・負けません」

 

 

 

 

 

「頑張らないと1%組手終わらないぞ?」

 

呑気な声をあげながらその様子を見るレティシアとは異なり、ミッテルト・小猫・ライザーの3人からは苦悶の声が漏れていた。

 

相対するは星の杖(オルガノン)を起動したヴィザ。本来のそれとは違い、刃が黒く染まっているが、それが彼の枷となり得ていた。

 

黒く染まったその凶刃は通常よりも遥かに重く、星の杖(オルガノン)の性能を多く削いでいる。

 

しかし、それでも十全な速さを持つそれはヴィザという老練の戦士が使うことで十分な兵器となっていた。

 

それを証明するように、3人は至る所を切り刻まれており、対するヴィザは普段と何一つ変わりがなかった。

 

 

 

「ヴィヴィヴィ・・ヴィザ翁!っちょおっと待って欲しいっす!確かに今回のレーティングゲームではウチが悪かったっすけど!毎度毎度、帰ってくるたびに修行がきつくなったら、ウチは禍の団とかと戦う前に・・・」

 

 

「ええ、では・・・」

「彼らが殺すのが先か、修行で殺してしまうのが先か・・・勝負です」

 

「ちっがーーーーう!色々とおかしいっすよ!久々の戦闘でテンションでも上がってるんっすかーーーー!!!?」

 

 

「とばっちりもいいとこです」

 

「だな。だがこちらの方が燃える、だろ?」

 

「・・・そうですね」

 

 

 

珍しく高揚しているヴィザに対し、泣き顔になりつつあるミッテルトと修行を付き合っている2人のやり合いは、夕飯の知らせが来るまで続いていた。

 

 

 

 

 

 

「本当にひどい目にあったっす」

 

「お前さんの自業自得だろぅ」

 

食後、1日のことをボヤくミッテルトに間髪入れず阿伏兎がツッコミを入れる。

 

眷属や屋敷に住まう者達が広間に集まり、各々がやりたいことをやっている。

 

特に目につくのは食後の休憩を決め込んでいる八幡だろう。某人どころか悪魔すらもダメにするソファにグデンと座っており、その腹部や伸ばした太腿には同じく休憩をするユウや恋の頭がある。

 

食器を片付けるメイド達からは微笑ましそうな視線が彼らに向けられていた。

 

 

「っぅ。それは……そうっすけど……」

 

「まぁ、これに懲りたら慢心は捨てるこった。んなもん持ってて百害あって一利なしだ。慢心と油断、余裕は全くの別もんだからな」

 

「旦那が気にしてないとはいえ、本来なら姉御達にしばかれるはずだったんだ。ジィさんには感謝しとけよ」

 

「・・・わかってるっすよ」

 

 

フリードのいう事実に、ミッテルトの声色は更に落ちていく。

 

ヴィザが扱き直すと言わなければ、間違いなく彼女はシノン達にしばかれていただろう。それも死んだ方がいいとすら思えるように。

それだけ今回のことはマズかった。

 

敵に倒されるならまだ良かった。

自身の力及ばないところであれば。

だが今回は違う。

 

ミッテルトは本来であれば制限されていても十分勝てる相手に負けたのだ。

それもその相手自身ではなく、自身の視野の狭さが招いた、フレンドリーファイヤーによって。

 

 

当然黒歌も小言はもらっていた。

 

しかし、彼女はそもそも、視覚を封じていたのだ。加えて多大に魔力も仙術も使っていたとあっては、咄嗟の判断が遅れるのは仕方のないこととも言えた。

 

 

それ故に。

ただ、光力の使用を禁じられていただけのミッテルトの失態は重いのだ。

 

八幡からすればさほど重要な戦ではなかったが故に気にはしていないが、眷属達がそうではなかった。

 

 

自分たちの失態は主人たる八幡の失態。

 

故に細心の注意を払った。

相手が格下であっても、制限をつけていても。その中で十全に力を出せば、完全勝利など容易い戦だった。

 

 

 

「この汚名は必ず返上するっす」

力強く彼女は呟く。

 

自身も理解しているからこそ、ミッテルトは落ち込み、その心中では激しく燃えていた。

次こそはと。

 

彼女の言葉に耳をすませていた周囲の眷属達はただその言葉に笑みを深めるのだった。

 

 

 

 

 





日常少し続くよ!


次回の日常はグレモリー!!

新メンバーがまさかまさかの人を推薦入部!
新メンバーとの絡み回ですね!




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ゲーム後の日常2



グレモリー眷属(男)回。

一誠救済回と言ってもいい。




 

 

 

 

 

 

 

レーティングゲームが終わり数日。

 

夏休みの終わりを目前に、冥界での生活の最後の日、グレモリー眷属の男子は1つの部屋に集まっていた。

 

親睦会を兼ねたそれであったが、面子は男のみ。というのもグレモリーは前回のレーティングゲームの結果から、夜遅いこの時間でも指導を課せられている。

ひとえに、何もできずに、指示も飛ばせずに落ちるのは王として失格とのこと。

姫島もまた、女王としてのあり方をヴェネラナ・グレモリーからグレモリー共々学んでいる。

 

 

ギャスパーや小猫は八幡の自宅に行っており、昼間のグレモリー家での特訓で疲れたアーシアはすでに寝ている。

 

 

かくして、男子会が図らずも開かれたわけだが、木場や兵藤もまた特訓で疲れている為、2人はベットに寝転がりながら話をしている。

 

新しく加入したガイはと言えば、椅子に逆向きに座り、背もたれに腕を置きその上へと顎を乗せていた。

 

 

最初は何故兵藤や木場が転生したのかといった話やガイの悪魔生の話。

他にも趣味など当たり障りないことを話していた。

そんなおり、武器などの話となり際兵藤が赤い籠手を見せた際その言葉は放たれた。

 

 

 

 

 

「へぇ、その腕が噂に聞く。赤龍帝に渡してまでフェニックスに勝ったんだって?」

 

何気ない一言だった。

ガイとしては興味本位の言葉であったが、その問いに対して応えた兵藤は徐々にその言葉の力を弱めていく。

 

 

 

「ああ!そうだ。部長のた・・め・・・に」

 

「どうしたんだい?イッセーくん?」

 

その姿に心配した木場は寝転がっていた姿勢を正し、ベットの上にあぐらをかいて座り直した。

 

 

 

「いや、ゼノヴィアに言われたことがな」

 

対する兵藤は自身の籠手を宙に上げ見つめる。

 

「ふむ、なにがあったんだ?」

 

先ほどまでとは打って変わったその様子にガイは疑問を投げかけた。

 

 

「実は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね」

 

話を聞いたガイはふむ、指を顎に当て相槌を打つ。木場はただだんまりとどこか痛々しげに下を向いてしまっていた。

おそらく、彼は彼でレーティングゲームの際に言われたことを思い出しているのだろう。

 

 

 

 

 

「俺は間違ってたのかな?自分の命と引き換えにしてでも部長の為になりたい!部長のおっぱいを揉みたいって思って、頑張って、禁手にまで至ったのに。まるで通じなかった」

 

聞く人によれば違うそこじゃないというだろう。しかし彼にとってすべてはそこに帰結していた。飽くなきまでのエロへの探究心。

 

それこそが兵藤一誠の原動力なのだ。

 

 

 

「命と引き換えにしても……ね」

 

 

そんな彼の言葉に対し、ガイは含みを持った反応をする。

 

「ん?どうしたんだい」

 

その反応が気になったのか、木場は俯いていた視線をあげガイへと移す。

 

 

 

「いやなに。命を賭けることだけが本気である証なのかねぇと」

 

 

「どういうことだ?」

 

「ガイは命を賭けることが本気じゃないと言うのかい?」

 

 

そのガイの言葉に訳がわからないとばかりに2人は首を傾げた。

命をかけること以上に本気である証などあるのかと、2人の視線はいっていた。

 

 

 

 

「人それぞれだろ。俺は生きることに執着するからこそ、何かを成したいと強く思うんじゃないかって考える・・・良い悪いじゃない。そういう【信念】かな?」

 

 

「生きることへの執着・・・信念・・」

 

 

「一誠や裕斗がグレモリーの為に動くのも元は生きることへの執着があったからなんじゃないか?生きる為に悪魔になり、そして生きる道を開いてくれたグレモリーの為に戦う。違うか?」

 

 

「「それは・・・」」

 

否定できなかった。

今自分たちが生きているのは主人たるグレモリーのおかげなのだ。

生きさせてくれた。

生き返られてくれた。

そんなグレモリーに対して恩を返したいと思うのは当然のことであった。

 

それはガイ風にいうのであれば命に執着していたからこそ恩を返そうとしているとも取れる。

 

 

 

「一誠がゼノヴィアに言われたのはそういうことだと思うぞ。人は人の為にしか命を賭けられない、なんていうが逆に言えば命を賭けられる程度の事なんだ。命をかけてくるやつは強い。だけど、命を大切にするやつの方がもっと強いんだ。勝つことじゃなくて、生き残り勝つ道を探すからな」

 

「「・・・」」

 

2人は遂に言葉を失う。

ガイの言葉への返しを彼らは持ち得なかった。

 

 

「まずは認めることから始めよう。自分のことが大切だって。自分は利己的であると。そりぁ、そうだ。満たされない者じゃ、誰かを満たすことはできない。グレモリーの為じゃない、自分の為に動いていたと認めるんだ。その上でグレモリーにも何か返そうと思えばいい。返す為にまずなにが必要なのか、どういう行動をするべきなのか、逆にどういったことがグレモリーの不利益になるのか。一度立ち止まって考えるべきだと思うぞ」

 

 

「「部長の利になる……不利益になること」」

 

思い当たる節があるのか、2人は顔をさらにうつむかせてしまう。

 

 

「ああ、例えば一誠。お前さんは自分がしたいからと行動するが、その行動の結果、被害者は居ないのか?お前はライザー殿の時、グレモリーが傷つけさせまいと奮闘した。じゃあ、お前が覗いた女子の傷ついた心はどうでもいいのか?他人が傷つけるのは悪くて自分が傷つけるのはいいのか?」

 

「そ!そんなこと……」

 

「加えて言えば、眷属がそんなことをしていた場合、普通であれば主人の教育不足として主人は嘲笑われ、その立場を悪くする。眷属の一挙手一投足が王の風評に、評価に関わるんだ」

 

 

ガイが言った言葉は奇しくも数時間前、八幡の眷属たちがミッテルトに対して言っていた言葉に似ていた。

 

 

「その上で聞くぞ。お前の行動は多くのものに対して胸を張って言えるものか?」

 

「・・・いえ・・ない」

 

少しの間があり、呟かれたその言葉は赤龍帝とは思えないほど弱々しかった。

 

 

「なら、これから改めればいい。悪魔の人生は1万年以上。長い時間があるんだ。その時間を使って今まで傷つけた女以外、世界中の女を幸せにするぐらいしてみろ」

 

「で、できるわけないだろ!!?」

 

「それぐらいの気持ちで動けってことだよ。今回のレーティングゲームで若手たちの評価は粗方固まっちまったんだ。一度落ちた評価を取り戻すのは簡単じゃない。だからまずはそれぐらいでっかい気概を持って変わらなけりゃ何も始まらんだろう」

 

 

「ガイ……」

 

「っま、今日会ったばっかのやつに言われてもあれだろうがな」

 

 

言い切り終えたガイは思わず苦笑いしてしまう。

 

 

「そんなことねぇ。なんだくそ!八幡が言うようにめちゃくちゃイケメンじゃねぇか!!爆ぜろ!!」

 

「おいお「でも」ん?」

 

 

「変われるようにしてみる。また間違えるかもしれないけど、その時はまた戒めてくれないか?ガイ、それに木場も」

 

「い、一誠くん」

 

 

顔を上げ宣言する兵藤に木場は驚きの声を上げる。木場がみる兵藤の顔はまるで憑物が落ちたかのようだった。

 

 

「俺変わるから。見ててくれ。入った初日からこんなだせぇ姿見せるやつだけど。これから頼むよガイ、木場」

 

 

 

「「ああ!(うん)」」

 

 

その夜、グレモリー眷属男子メンバーは遅くまで語らいあった。

今までのこと、これからのこと。

 

そしてどうなりたいかという夢のこと。

 

 

聞く人によれば口だけに聞こえるものも多かったが、彼らの中にその夢を笑うものはいなかった。3人が3人ともこれから先のことに想いを寄せる。

 

間違いなくグレモリー眷属たちにとってこの日、ガイ・セシルの加入は大きな変革をもたらした。

 

 

後日彼らの変化を見た魔王や女王は口を揃えて言った。

 

 

 

 

『いい意味で想定外』

 

と。

 

それほどまでに、この日の出来事は彼を、彼らを変えていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ガイを眷属にした理由?
ゼノヴィアの加入で1名騎士に空きあり。
一誠の変態ロクデナシっぷりを矯正できるのは某俺は悪くねぇ親善大使を親友に持ち、見捨てず、声をかけた男しかいたいと思ったからじゃい!w

もう少しだけ日常回続くよ!


次回の日常回は!
「ニオ、ナザリック来たる!」

近日or遠日公開!




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ゲーム後の日常LAST

当日公開でした!w

短いけど次へと繋がるための話だからw
(同日、それも短いスパンで2つあげてるので飛ばし読み注意で)

あとがきも読んでくれると嬉しいな☆




 

 

 

「悪魔生〜色々花咲けば〜あよいしょ、酒を注いでは呑み飲まれ〜、酒を注いでは呑み飲まれ〜」

 

 

朝、機嫌の良さげな声が温泉に響いていた。

みるものが見れば見目麗しい少女が湯に浸かって歌っているように見えるが、その者の年齢はヴィザとタメである。

 

それ故に一緒にはいっているものは死んだ目をしながらその歌を聴いていた。

いや、目はもともと死んでいるが。

 

 

「はぁ…相変わらず突然きて無理やり付き合わさせるのはやめてくれませんかねぇ?」

 

八幡は普段と変わらない瞳をジト目にし合法ロリへと言葉をかける。

相手の姿に反応はしない。

歳も歳だし、何より慣れた。

慣れとは怖いものである。

 

「っかっかっか、良いでわないか。今に始まったことでもなし。それに我とハチ坊との間で間違いなど起ころうはずもなかろう」

 

愉快げに笑うニオは両手を広げ存分にアダム温泉を堪能していた。

 

 

「俺が眷属にどやされるんだよ」

 

「あやつらももう我相手には諦めておろう?そも、ヴィザやわしがおるからある程度の自由がきくのじゃ。このくらいは許容せい」

 

 

ニヤニヤと笑うニオ、若手会合の時に見せた厳格な態度などそこにはなかった。

 

 

「この風呂は良い。このような見た目じゃが中身はもはや年寄り。そんな我の中まで若返られるような湯じゃ。そこにお気に入りと入る。なんと至福なことか」

 

「俺はおもちゃのアヒルかなにかか」

 

「っかっかっか、お主がおもちゃでおさまるタマかの?いつも我の予想を上回る動きをする。ヴィザの件といい、いつ会っても飽きぬ男の子よ」

 

そのやり取りは旧知の仲すら思わせた。

 

 

「それで、ハチ坊。動きは掴めたかの?」

 

緩めた表情のまま、視線だけ真剣にニオは問いかける。

 

「ああ」

 

そんな彼女に対し短く返事を返せば彼女の顔はより一層愉快げに歪んだ。

 

 

「そうかそうか。それではもう時期というわけか?」

 

「ええ、間違いなく近いうちには」

 

「つまりは久々に我も戦えるか。滾るノォ」

 

 

「はぁ」

 

八幡から思わずため息が出る。

ヴィザもそうだが、どうしてこの年代の者達は自分にここまで正直なのか。

ヴィザにしろニオにしろ戦闘狂の気がある。

そうでない者でもこの年代の者達はクセが強いのだ。リリンしかりである。

 

 

「それに、その時は原典(オリジン)所有者も動くのであろう?」

 

ピシリ。

ニオが言葉を発した瞬間、空間に亀裂が入るかのように空気が張り詰めた。

 

 

「何故それを?」

 

「っかっかっか。そんなに警戒するでない。なにも彼奴をどうこうしようなどせんよ。ただ、お気に入りの子の動きは見ておきたくなるものであろう?」

 

 

「つまりは、元から知っていたんですね」

 

 

ストーカーめと呟きながら諦めたようにため息を吐くと、空間の軋みが嘘のように解けた。

 

 

「我に隠し事ができる存在などいないからノォ。それこそ無限や夢幻であろうと……の」

 

勝てるかどうかは別じゃがのー、っと軽く言うが八幡からすれば心臓に悪いことこの上ない。

 

 

「それに、それを含めて我がハチ坊の後ろ盾となっておるんじゃ。じゃから入浴(趣味)くらい付き合わんか」

 

軽快に笑いながら言う彼女に対して反論できない八幡。

セラフォルーの眷属とはいえ、元老院が手を出してこないのは八幡の強さ以上にニオが後ろ盾となっていることに他ならない。

それをわかっているが故に彼はニオに大きく出れず、また……

 

 

「さて、そろそろ出るぞ!出た後はドリンクじゃ!フルーツ牛乳が我を待っている!」

 

この裏表ない満面の子どもじみた笑みを見ては、中身が年寄りとわかっても許してしまう。

 

 

「ほら、行くぞハチ坊!なにをしておる。主は今日帰ってしまうのじゃ。存分に我に付き合うのじゃ」

 

この人のノリや感じは、素直になったあいつの姉を思い出してしまう。

だからこそ、嫌いになんてなれないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、ひきぎゃ、ひきぎゃや……ゆい……あじゃ?ぐぎゃぎゃ、ぐげぇ、グゲェギャギャギ」

 

 

 

とある地下室にてそれは呻いていた。

もはや支離滅裂になっており、理性はほとんど感じられなかった。

 

 

 

「はぁ、これで完成。まぁ、使っても彼らにはほとんど意味のない獣だけど。ここまで理性も無くなって、姿形が変わってくれると私としては情も何も生まれなくて助かるけど」

 

 

まるでゴミを見るような目で獣を一瞥した女性はつまらなそうにため息を吐く。

 

 

「そーそうくんもシャルバくんも動くみたいだけど。無駄なのにねー。彼に勝てる存在なんて居ないのに」

 

自身が所属する組織のメンバーにもかかわらず、彼らに対して容赦のない言葉を呟く。

 

 

「ようやく手に入れた自由。謳歌しなきゃ損ってもんだよねー」

 

ニコニコと笑う顔は心の底から笑っており、楽しげだった。

 

「さぁさぁ、完成っと。後はこれをシャルバくんに届けたらお仕事しゅーりょー。本当にお姉さんは疲れちゃったよ」

 

ぐいーっと体を伸ばしながら完成した報告の連絡文を飛ばす。

 

 

「ふふ、もうすぐ会えるねぇ。君はどんな顔するかな?驚き?悲しみ?私がやったことを知ったら怒ったりするのかな?楽しみだよ八幡くん。君に会えるのが」

 

 

 

今また1人。

自分に正直に生きる者が動く。

おのが目的を果たすために。

 

その先にあるのは何か。

 

バットエンドかハッピーエンドか。

 

 

いずれにしろ歴史は動き出した。

 

 

 

NEXT!

 

New chapter entry

〜絶対人外戦線〜

 

 

 

 

 

 

 

 





次回新章突入!

このSSを投稿し始めて1.2を争う書きたかった章

時間かかるかもですが、じっくり書いていきますよー







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絶対人外戦線
序章~正史との乖離~


少しまいた。

次回以降の話を早めに書き始めたかったので。
まきはしたものの久々なので試験投稿









夏休み明け。午前中で授業が終わるこの日はいくつかの変化がみられていた。

 

まず1つ目が複数人の転校生。2年の教室では金髪のイケメン男子と空色の短髪美女が話題の中心にいる。

言わずと知れたグレモリー眷属のガイと八幡の眷属であるシノンである。

 

話すときはクールに、しかし至近距離まで近づくとビクつくガイに周囲は面白そうに話しかけている。

 

一方のシノンはといえば、当たり障りのないような受け答えのみにとどまっていた。

 

元々シノン自体が人間界に来る予定はなかったのだが、直近、眷属たち一堂に遠出が控えるように指示が出ていた。それを受け、普段であれば仕事に駆り出されることの多かった面々は余暇の時間が与えられている。そこで彼らが目を付けたのが八幡の人間界での生活である。

 

もはやワーカーホリックといっても過言ではないほど、普段の言動が一致せず働いている主人に対してストッパー兼世話役としてシノンが人間界に駆り出された。

 

学校に通うシノンとゼノヴィアが人間界に八幡と在住。

ほかの面々は領地運営及び周辺での簡易な任務に就いていた。

 

当然世話役なんてと反発しようとした八幡ではあるが、放っておけばラーメンしか食べなくなる、仕事もやり続けるといったシノンの言葉と視線に縮こまってしまった。

 

 

 

── それでいいのか主人よ ──

 

 

2つ目の変化は学園災の1人である兵藤だ。

 

いつもであれば恒例のメンバーで猥談に華を咲かせているのだが、どういうわけかそうした言動が見受けられない。周囲は彼が別人ではないかと疑い、仲間の2人は体調でも悪いのかと心配した。

 

1部生徒の中には休みの間、遂に警察のお世話になったのではといううわさが流れ始める始末である。

 

 

それに対して兵藤は何も答えなかった。

 

 

まぁ、さらに少数の生徒には新入生であるガイとまるで莫逆の友であるかのよう語り合っている姿から、そちらの扉を開いたのではないかと勘繰られ始めていた。

 

 

 

── ウスイ本まったなしである ──

 

 

そんな普段とは違う学園生活が過ぎた後、オカルト研究部部室でも普段と違う光景が見受けられた。

 

「告白された?」

 

「はい…」

 

顔を赤く染め上げるアーシアに対して胡散臭気に話を聞く八幡。その横では腕を組んだシノンが顔を顰めていた。

 

「んでなに?受けるの?」

 

「い、いえ!私にはその…ぃしぇーしゃんが……」

 

ごにょごにょと語尾を弱めていくアーシアだが、まぁそれはそうだろうと2人は聞いていた。彼女が兵藤に対して好意を抱えているのは周知の事実である。それをどこぞの貴族が昔助けてもらいました。惚れました。今ようやく向かいに来れました。結婚してください。

 

等といわれたところで、ノーセンキューである。

 

 

「しかし、アスタロトがねぇ」

《身体目的だね》

《性癖ね》

 

 

ぼそりとこぼれた彼の言葉を吸血鬼の2人が拾い上げる。それを聞いたアーシアはボンッとトマトのように赤く染まってしまった。

 

 

《ウブだねぇ》

《まぁ、聖女なら仕方ないわね》

 

 

好き勝手言っている2人がケタケタと笑っている。

 

そんな2人とは対照的に八幡はシノンへと視線を移せば、彼が言いたかったことを理解したのか、2人そろってため息を漏らした。

 

「まぁ、好きにすればいいんじゃない?グレモリー眷属内のことなんだから、私たちはノータッチね」

 

「許すはずないじゃない!!!!」

 

これ以上関わるのは面倒くさいとばかりに呟かれたそれは大音量の叫び声に半ばかき消された。発生源であるグレモリーはこめかみにしわを作りながらフルフルと震えていた。

 

 

「アーシアは私のーーー」

 

 

声量を落とさずに叫ぶ彼女に嫌気がさしたのか、シノンは目には見えない薄い膜を自身と八幡の周りに付与する。

 

すると2人はまるでグレモリーの声が聞こえていないかのように平然としながらお茶を飲み始めた。

 

 

「ーーーーー」

 

 

いや、実際に音は遮断され、2人だけの会話空間となったといってもよいだろう。

 

 

 

『それでどうするのよ。関わりたくはないけど、次のゲームはこの2家よ。それにディオドラって言えば』

 

『ああ、例のやつだ』

 

『面倒事よね?』

 

『確実にな。多すぎだろ、次のレーティングゲームは北欧のオーディンだけじゃなくあの骸骨まで来るんだぞ』

 

《あの骨は処分でいいと思うよ》

《犬のえさにでもしちゃいなさい》

 

 

 

その中での話は重々しい。

セラフォルー、ニオという強大なバックアップと独自の情報収集力をもつ彼らだからこそこの先起こる面倒事を予感していた。

 

 

ましてや骨・骸骨と呼ばれる存在を示唆した瞬間、吸血鬼2人はあからさまにいやそうな顔をする。

 

 

『…シノン、今日の夜の眷属全員の予定ってわかるか?』

 

 

しばらく続いた沈黙の後、何かを決意したように彼は彼女の瞳をのぞき込む。

 

 

『ないわ、どこかに私用で出かけていなければ特に重要なことはないはず。最近の命令で出かけるにしても遠出はしていないはずだし』

 

『なら眷属全員を絶対に集めろ。場所は人間界のうちだ。お前らに会わせたいやつがいる』

 

 

その真剣な声色と普段使われることのない絶対という言葉に、彼女は普段の軽い形ではなく、眷属としてふさわしい対応を見せた。

 

 

『了解しました。すぐに連絡します。でも会わせたいやつって…』

 

 

まさかという目で彼女は目を細めた。

その視線から逃れるように彼の顔は明後日の方角へと逃げていく。

 

 

『…話してはいるんでしょうね?』

 

『ニオ様は知ってた。あとはリタとミッテルトは知っている』

 

 

知ってたという言い回しの言葉に対して予想が当たったのか、彼女は先ほどとはまた違った種類のため息をこぼすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お主が来るとはのぅ。どういう風の吹き回しじゃ?」

 

「ファファファ、なに。かの鬼を宿したものがいるのであれば気にもなるというものだ」

 

「相変わらず、ガチャガチャとうるさい身体じゃのぉ」

 

「蝙蝠が、相変わらず口の減らないことじゃ」

 

レーティングゲーム当時、貴賓席では異様な光景が広がっていた。

前回はいなかった隻眼の老人とまるで死そのものを体現している骸骨。

そしてそれらを前にしても普段と変わらない様子のニオ。

 

しかし周りでは気が気ではなかった。

 

何せニオが相手しているのは北欧アースガルズの主神であるオーディンとギリシア勢力、オリュンポスの3柱神の1柱であり、冥府の王であるハーデスだ。

 

 

どちらも世界でも指折りの実力者であり、権力者である。

 

4大魔王でさえハーデスが来るのは予想外だったのか緊張と警戒心をあらわにしている。

 

 

 

「っかっかっか。おかしなことはするなよ?」

 

「ファファファ、なに、別におかしなことをしようと等思ってはおらん。わしは当たり前のことしかせんのでな」

 

「ほー、当たり前のことか?」

 

「そうじゃ、あたりまえのことじゃ」

 

「っかっかっかっかっかっかっか」

「ファファファファファファファ」

 

「おい、これ一番危ないの儂じゃね?」

 

 

黒い気配を隠そうともせず話す2人に対して、来る時を間違えたかな?と冷や汗を垂らしたオーディンは悪くないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、時代は動き始める。

ここは正史の世界ではない。

数多くのイレギュラーが存在している。

 

本来ではいなかった存在が。

本来ではたどらなかった物語が。

今まさに開幕しようとしていた。

 

 

 

 

「ぬかりなし。すべてはハーデス様のお心のままに」

 

ある者たちは自身の神の為にすべてを尽くすだろう。

 

 

「ふん、忌々しい偽りの王が。だが、今日冥界は生まれ変わる!」

 

ある者は己の野望の為に動くだろう。

 

 

「ようやく、ようやく会える。今ここであなたの真意を確かめる。何故あんな小僧に仕えているのか。何故あの時いなくなってしまったのか。今日こそ決着をつける」

 

ある者は知るためにその命すらかけるだろう。

 

 

「フフフ、たーのしみだなぁ。どんな結末になるんだろう」

 

ある者は出向かずとも行く末を傍観しているだろう。

 

 

「…アシェラ?でも違う…あれはなに?」

 

ある龍は疑問を解きに向かうだろう。

 

 

だが、間違いなくわかっていることは。

これから先訪れるものは3大勢力の戦争以降最大規模の戦闘だということだけである。

 

 

最後に笑うのは神か?旧勢力か?新勢力か?

それを知るものは未だいない。

 

 

 

 

 

「……ようやく、戦える。…彼と、みんなと。……たのしみ」

そうつぶやく少女の傍らには鎖がキリキリと音を立てて1本、また1本と鎖が解けていく本がカタカタと揺れていた。

 

 

 

 

 





次回以降戦闘やいろんなキャラの過去関連も出できます。

時間あるときに書き溜めていくので気長にお待ちくださいませ。


~PS~
感想が心に刺さる今日この頃……
作者、ハイスクールDDはアニメ、SSのみの回覧ですが、
その他関連作品などは小説網羅済みですorz

自分が書いてみたいなぁって思う範囲で書いてますのでYO☆RO☆SI☆KUゞ






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老練の過去

短め

生存確認を含め
先に書きたかったところの部分を少し出します。

次話
今回の話の後の展開や他の場面展開も大きく動きますので!


 

 

 

 

 

1人の悪魔の話をしよう。

 

そう、生まれるのが数秒遅かっただけで栄光ある魔の王ではなく、その懐刀となってしまった。畏怖と尊敬を受けながらも決して仕える側から逃れられなかった悪魔の話を。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

数千年前、アスモデウス家に次期魔王となる子が生まれた。魔王家血統に相応しい魔力と叡智を感じさせる瞳、赤ん坊ながらも風格すら感じさせる御子。

そこにその男は数秒遅れで生まれた。

 

生まれてしまった。

 

その数秒がその後の生を明確に分けたのだ。

 

 

 

 

御子が生まれて百数年。

目紛しい成長を遂げた彼らだが、光を浴びるのはいつだって御子であった。

 

『さすがは若様』

 

『これで悪魔の未来は安泰だ』

 

『素晴らしいです若様』

 

若様若様若様若様

 

 

いつだって褒められるのは御子であった。

いつだって讃えられるのは御子であった。

 

それを前に弟は。

 

ただ、瞳を閉じ御子の後ろを歩き続けた。

 

 

お前はアスモデウスを支える柱だ。

 

お前はアスモデウスの懐刀だ。

 

お前はアスモデウスの影だ。

 

 

幼少の頃より何も変わりはしなかった。

 

何十何百何千の戦いに赴こうと

何百何千何万の敵を薙ぎ払おうと

 

彼がどれだけの功を積み重ねようと

 

それを誇ることはなく

それを知らしめることもない

 

 

 

 

 

 

彼は刀であった。

ただ自身の主人たる兄が望む時、望む成果をあげるだけの刀。

 

 

だからこそ大戦の折

魔王たる兄が死したことで

彼は生きる指針を失い

 

冥界から姿を消したのだ。

 

 

 

多くの者が彼を探した。

次期魔王は彼だと

今まで見向きもしなかった者たちが

彼を求めた。

 

 

 

 

しかし捕まらない。

唯一彼と親交の深かったベルフェゴール家の息女がその行方を掴むも連れ戻すことはなかった。

 

 

 

 

枯れ木の流木

 

 

 

 

 

行方を掴んだ彼女が彼を評した言葉である。

 

かつての彼と比べるべくも無い。

あの静かに滾っていた闘志は

抜き身の刀のような鋭さは

彼には存在しなかった。

 

 

 

 

ただ世を見て歩くだけ。

その様はまるで大海に漂う流木であった。

ひたすら流れ、いつ尽きるかもわからない人外として灯火が消えるまで意味もなく、価値もなく、誰とも関係を気づくことなく静かに終わる。それで良いと彼は思っていた。

 

 

 

 

 

 

そのはずだった。

あの日までは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その悪魔は幼かった。

数千年の時を過ごした彼とは比べものにならないほど幼く、その言動はどこか矛盾じみたものもある。

にもかかわらずその濁った瞳には光があった、かつて彼の兄や友にも垣間見た光。

彼がついぞ持つことのなかった未来を動かす心意とも言えるものをその悪魔は持っていた。

 

 

それがこれまで何1つ興味を示さなかった彼の心を僅かに揺らしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年の時を経てあの幼い悪魔は青年と言えなくも無い歳まで成長した。

 

その間何度か彼は青年を見かけた。

 

いまだに多くの矛盾を抱えながらも歩くその姿はどこか彼には眩しかった。

 

滑稽なはずだ

自身の中に棲まう核爆弾のような存在と手を取り合う様は

 

阿呆なはずだ

矛盾したことを気付きながらも進む様は

 

無駄なはずだ

手の届かないものに手を伸ばそうとする様は

 

 

 

なのに、なぜ青年は和解している?

世界最強クラスの化け物と

 

 

なのに、なぜ青年はいまだに立っている?

その生き方は傷を負うだけなのに

 

 

なのに、なぜ青年は手にしている?

届かないはずだったものを

 

 

 

 

彼はわからなかった。

青年のことが。

 

そして青年を見ていると感じる自身の如何とも言い難い感情がなんなのか……

 

 

 

 

 

その感情がなんなのかを彼が知ったのは数ヶ月後だった。

 

 

青年の中の化け物と青年自身によって知ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫉妬

 

 

青年の中に棲まう化け物にそう言われ久しく感情が大きく揺れ動いた。

そんなはずはない。

ありえない。

自身がそのような感情を持つこと自体がありえない。

 

 

羨ましかったんだろ?

 

否定否定否定。

化け物の言の葉に心を惑わされるなと強く自身に念じていくがそれは青年の言葉によって塵となった。

 

 

 

 

あぁ、兄に認めて欲しかったのか

 

 

思考が停止した。

数千年の時を過ごしてきた彼にとって、それは初めての思考停止だろう。

 

そして同時に彼の中でナニカが壊れたのだ。

 

そこからは酷いものだった。

罵倒、癇癪、八つ当たり。

 

年老いた彼からは

かつて懐刀とまで言われた彼からは

枯れ木の流木と評された彼からは

 

想像も出ない程荒れ狂った。

 

 

 

まるで長い間堰き止められていた感情の膿を吐き出すように暴れ、そして力尽きた。

 

その後も青年を見かけるたびに癇癪は続き、都度3回に渡り青年に沈められた彼は遂に瞳から雫を溢した。

 

 

なにをしているのだと。

何千歳も年下の青年に八つ当たりし

自身の感情のコントロールすらままならず

まるで幼児ではないかと……

 

 

 

 

 

そんな彼を

消え入りそうな彼を救ったのは

 

彼は嫉妬の念を送っていた青年だった。

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クルゼレイ。私はあなた達が思うような立派な存在ではないのですよ」

 

 

 

 

若手のレーティングゲーム中に起きた大規模な襲撃の中、彼は自身の甥に対してなげかけた。

 

 

「私はあの時逃げたのです。兄の死から。責のある立場から。そして自分の心から」

 

「そんな私を救ってくれたのが、そんな私をまた歩かせるきっかけをくれたのが八幡です。阿朱羅丸です」

 

 

「彼が、彼らがいたから、今の私はいる。今こうして立っている」

 

 

どこか懐かしみながら彼は思う。

 

そう、自分は兄に認められたかったのだと。

いや、正確には違う。

自身が命を賭すに足る主人に認められたかったのだと。承認欲求。

あの頃はせめて兄にはという淡い想いがあった。だが今は違う。

 

 

「ただ、生まれながらに決められて定めに抗い、天命を自身で決める。なんたる幸福なことか」

 

その言葉に離れた地で冥府の王と向き合う友(・・・・・・・・・・)が笑みを浮かべた。

 

 

 

「私が、私の意思を持って剣を捧げた主人はただ一人。その主人を脅かすのであればクルゼレイ。兄の息子であるあなたと言えど容赦はしません」

 

 

 

そうは言い放ち瞳を開くヴィザの姿に

多くの者が前アスモデウスを幻視した。

 

 

 

 

 

 



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老練の告白/裏切りと切り札

書きたかった話2


どぞどぞ




「剣を捧げた主人だと?天命を自身で決めるだと?その結果があの小僧か?あんなガキが、あんな存在があなたの全てを捧げるに足る男だと!!」

 

ヴィザの言葉に拳を握り血を滴らせたクルゼレイが牙を剥き出しにしながら叫んだ。

 

 

「ふざけるなぁ!!!!貴方ほどのお方が、あの様な小僧の下につくだと!配下に甘んじるだと!!?ただ、運良く鬼呪龍を宿しただけの存在に。僅か10数年しか生きていない悪魔の何たるかも知らぬガキに忠を尽くすというのか?あれが、父上以上の存在だと!!!!」

 

 

ありえない。

自身の許容を大きく超える言葉にクルゼレイ・アスモデウスは声を荒げる。

 

 

「ただの人ではないか!ただの醜い生き物だ!今の悪魔の上層部と同じだ!自身の欲求を優先する。どこまでも利己的な存在だ。あの小僧の過去を知らないとは言わせない。ただ自身に酔っているだけの道化ではないか!!!」

 

 

甥の嘆きに、ほんの僅かにヴィザの瞳が細められる。

 

 

「間違っている。今の悪魔のその在り方も貴方も。何故だ?貴方ほどの方があの小僧の矛盾に気づかないわけもない。今の上層部の滑稽さを理解できないわけがない。それなのに何故貴方がそれを許容しているんだ!!!」

 

 

怒り、困惑、悲しみ。

あらゆる感情をごちゃ混ぜにしながらも甥は叔父へと問い詰める。

長年考えるもついぞ答えの出なかった問いの答えを知る為に。

 

 

「ええ、理解していますとも」

ーその程度のことー

 

 

そんな彼に対してヴィザは極めて静かに返答する。

 

「上層部が老害であることなど1から10まで解っている」

ーその在り方も考え方もー

 

 

人に頼らなければ種の存続が危ういと自覚しながらも人を下等種族と見る考えも。

自身たちの立場を必死になって保持しようという在り方も。

 

 

ー嫌というほど知っているー

「ええ、解っているのです。八幡殿が矛盾を抱えているなど」

 

 

自身の主人のことは1番解っている。

矛盾の最たる例が中学の時に起こった事件だ。そもそも、あの時彼がそこまでやる必要など本来はなかったのだ。彼がわざわざ自己犠牲などしなくてもよかった。しかし彼は行った。それが最善だと信じて。

 

自身がセラフォルーと同じ方法などできないと知ってるのに。

他者への勝手な期待はやめたと言いながらも、なお期待を止めることのできない矛盾を抱えながら。

 

 

 

「しかし、それでもなお私は八幡殿に仕えた。ええ。理解していますよ。過去の彼が抱えていた矛盾には。理解していますとも。彼が今抱えている矛盾も」

ーだがそれがどうしたー

 

 

その言葉に顔を歪ませていたクルゼレイは呆けてしまう。

 

 

「完璧な存在などこの世には居ませんよ。人も悪魔も神でさえも何かしらの矛盾を抱えている。何かしらの過ちを犯している」

ーだからこそ……ー

 

 

「私は八幡殿を主人とした。ええ、クルゼレイ。貴方の言う通り彼は〈まだ〉10数年しか生きていないのです。だからこそ八幡殿の未来に私は賭けた。鬼呪龍と出会い、セラフォルーの女王となり、数々の矛盾を痛みを自己陶酔を抱えながらも、僅かに10数年でここまで成長し得た八幡殿に」

 

 

まるで甥に自慢するように彼は話しかける。

 

「自身に酔っている?可愛いものでしょう?数千年もの間、只管に抜き身の刃であれと自身に念じ、数年前までその在り方酔っていた私と比べれば」

 

 

自重気味に笑いながらも今度は叔父として指摘する。

 

「矛盾を抱えている?それは貴方もでしょう?クルゼレイ。禍の団の悪魔達もまた人間を下等生物と見ている。そんなところに在籍している貴方もまた酷い矛盾を抱えている」

ー違いますか?ー

 

その言葉にクルゼレイは顔を再び顰めさせた。

 

 

「主人が道を間違えそうになるのであれば我らが正しましょう。我らが叱りましょう。3年前のように。主人が自己陶酔を続けるのであれば我らが醒ませましょう。私自身がかつて救われた時のように」

 

続けるヴィザの瞳はまるで少年のように光を宿していた。

 

「その先に生きる八幡殿のことを私は見てみたい。僅か10数年でここまで成長した彼がこれから先悪魔として万年生きた時、一体どれ程の存在になるのか。どのような志を持つのか。そして何を成すのか。それを私は近くで見ていたい。その歩みを共に感じたい」

 

 

ギリッと音が聞こえそうなほどに歯を食いしばるクルゼレイへと告白しながら、ヴィザは手にしていた杖を強く握った。

 

 

「ええ、ええ。小僧大いに結構。最初から完成された存在の行く末など面白くもなんともない。不完全で不安定で不相応なことなど百も承知。それでこそ、行末を見る甲斐がある。そも、この身もまた未だ未完の身。八幡殿と共に歩いてから多くの者に出会い、自身の弱さを知った。自身の未熟さを知った。ならばこそ、主人たる八幡殿と共に歩き成長するも一興。年長者として見守るもの一興。そして」

――敗者として従うも一興――

 

ニヤリと笑い杖を前に掲げる。

その顔には不安も後悔もない。

 

ただあるのは期待。

 

魔翁たる自分を精神的にも力量的にも打ち負かせて見せた主人への期待と。

そんな主人や同僚と共に歩む未来への期待。

 

 

 

かつてベルフェゴール家の息女が枯れ木の流木とまで言った男の姿は今。

彼の兄が見たことすらないほど強く、気高く燃え上がっていた。

 

 

 

「っっっ!!!!!」

 

そんか叔父の姿を前にクルゼレイは握りしめた拳を突き出す。

刹那多くの魔力球が放出されるが、標的に到達する前に掻き消される。

 

掻き消した張本人に対し、更なる苛立ちを集わせ、先程の倍以上のそれを打ち出すが結果は変わらない。

 

 

「認め…るか……認められるものか!!あの小僧にそんな可能性などっ。そんな未来などっ。私は認めない。認めてやるものか。叔父上が負けたなど。あの小僧に父上を超える程の資質があるなど!!!!アスモデウスはそんな安いものではない!!!!!!!」

 

 

その叫びに呼応するようにクルゼレイの纏う魔力が膨れ上がり周囲の空間が歪んでいく。

 

 

「一体どれほど喰らったことか。悪魔らしいといえば悪魔らしい」

 

色欲の悪魔として名高いアスモデウスの力を色濃く受け継ぎ、喰らうことで次々と力を溜め込んでいくその力はまさに先代アスモデウスの力であり脅威なのだろう。

 

もっとも……

 

 

「兄上と比べるべくもない。現代で言えば最上級なのでしょう。しかし、過去の大戦から見れば未熟もいいところ」

 

郁数千万の死線をくぐり抜けてきた男にとって、その力は脅威に値しなかった。

 

 

「もうやめなさい、クルゼレイ。これが叔父として最後にかけられる通告です。私とて出来るならば兄上の子を殺めたくはない」

 

静かに、しかし明確な殺意とそれとは反する暖かさを僅かに含ませヴィザは告げる。

 

 

 

「オジウェェェェエエエエエエエエエ!!!」

 

 

しかし、止まらない。止まることなどできない。彼の中に流れる血が。彼が積み上げてきたものが。今ここで引くという選択肢を取らせることを許さない。

 

そうでなくては自身がアスモデウスであることを誇示できないが故に。

 

そうでなくては自分を保っていられないが故に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さよなら、クルゼレイ。先に兄上に会っていてください。いずれは私も逝きます。その時は貴方が驚くような、兄上が笑うような経験を、物語を、土産話を持って逝きます」

 

 

 

1つ決着は着いた。

 

魔の王を志す若き芽が摘まれたその場で、一筋の雫が大地を潤した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィザの方は決着がついたようじゃな」

 

世界において指折りの実力者同士が睨み合う場でニオは僅かに口角を上げた。

 

 

「忌々しい。げに恐ろしき早斬りよ。あのまま枯れ落ちていれば良いものを……呪いを受けた鬼が余計なことを」

 

そんなニオとは違い冥府の王はカタカタとその身を震わせる。

 

「っかっかっか。ヴィザに八坊を仕向けたのはまさに行幸じゃった。立ち直るどころかまさか、ついぞワシがつけることのできなかった火をやつにつけ燃え上がらせたのじゃからのぉ」

 

 

「コウモリがっ……」

 

愉快愉快とばかりに笑うニオと心底不愉快そうに睨むハーデス。

 

一見睨み話し合うだけのように見えるも、互いに牽制し合い千日手となりつつあった。

 

 

冥府の王たるハーデスは紛れもなく強者だ。

それも上から数えた方が早いほどに。全勢力でトップ10に入るというギリシア勢力中最強の神の名は伊達ではない。

 

しかしそんな神すらも苛立たせているのがニオである。

 

 

(あいも変わらず忌々しい。冥府の死すら廃らせる力。ベルフェゴールの力"怠惰"を突き詰め退廃にまで昇華させるとは。もはや権能の領域じゃろうに)

 

苛立ちを隠しもしないハーデスの内は表以上に荒れていた。

 

悪魔としての力を昇華させ続けた結果。

信仰を廃れさせ、畏怖を忘却させ、研鑽を途絶えさせる姿なき無貌の権能にまで至った悪魔は各神話から大いに警戒をされている。

 

それこそ冥府の王たる自身が出向かねば止まらぬ程に。

 

 

「っかっかっか、何久しぶりの闘争じゃ楽しもうでないか?」

 

「ファファファ、余裕ではないか?良いのか?鬼には龍が向かう。あの若造共はオーディンの護衛で動けん。鬼の眷属たちが如何に強かろうと、この数相手にどこまで持つか?」

 

しかし、冥府の王には勝機があった。

無ければこの場には居ない。

 

鬼呪龍神皇にニオ。

この2人を止めねば冥界に打撃を与えることなどできない。

 

しかし逆を言えば2人さえ抑えれば如何とでもなる。

 

 

数の暴力、そしてその数に質を与えた。

この場はもちろん。

原初の大樹の獲得すら狙うハーデスはここに来て口角を上げた。

 

 

 

「確かに鬼の眷属は強い。だが、それだけよ。鬼の眷属など捨て置き他を潰せば良いだけ。ファファファ、お主や鬼ならばいざ知らず、ここまで広範囲の我軍を退けるのに果たしてどれほどが血を流すか?」

 

死の神に相応しい笑みを浮かべながらニオに問いかける。

貴様らは終わっていると。

 

 

 

合成獣に死神。

神滅具による魔獣。

更には捨て石のコウモリ。

 

数と質を兼ね備え。

特記戦力である者達を抑え。

 

この場と大樹への強襲をかけた。

 

 

「ファファファファファファ」

上手くいけば大勝ち。

仮に失敗したとしても大きな打撃を不愉快な奴等に与えることができる。

 

 

自身の策と巡り合わせに笑いを上げるハーデス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし

 

「っかっかっか。知っておったよ」

 

「なに?」

 

 

誤算があるとすれば

 

 

 

「知っておったよ。お主らが攻めてくることも。規模も質も策も。何から何までの」

 

 

「なにを?」

 

 

それは2つ

 

 

「お主がこの場で暴れることも」

 

 

王は知らなかった

自身の勢力に裏切り者がいたことに

 

 

 

「お主が宝樹アダムを狙っていることも」

 

 

王は知らなかった

残り2人の眷属を

 

 

「だから備えた。最高の戦力を」

 

 

そして今

 

 

「最高の神殺しを」

 

 

それらは現れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、疲れたっすねぇ。あっちこっち飛び回ってあっしはクタクタでやんすよ」

 

 

知っている

されど冥府の王が嫌う気配を内包した少女と

 

 

「定刻。タイミングは問題ない?」

 

 

知らない

けれど感じる忌々しい気配を

 

 

 

「っかっかっか、グッドタイミングじゃのぉ長門、ベンニーア(・・ ・・・・・)

 

 

「っ貴様ぁ!!」

 

そしてそこで初めて冥府の王は明確な怒りを示した。

 

何せ目の前にいる少女の片割れ。

それは紛れもなく……

 

 

「死神でありながらコウモリっ!呪いを受けた鬼にその身を売ったのか!!!!」

 

 

自身の配下たる死神であった。

 

 

 

 

 

「別にあっしはただ、ハーデス様やクソ親父のやり方についていけなかっただけっすよ。あんたらは閉鎖すぎていけねぇ。別に人だけでなく他の神話とも仲良くやればいいのに」

 

 

「この恥晒しが、ワシ自らの手で八つ裂きにしてくれる!!!!」 

 

 

怒髪天を衝く勢いで荒ぶる死の力。

されどそれはベンニーアやニオに届くことはなく。

 

 

「障壁展開」

 

ただ長門の一言によって拒まれた。

 

 

「っこのガキが」

 

口汚く台詞を吐くハーデスに対し涼しげな表情の長門は続ける。

 

「彼から許可は得ている。他の眷属、彼の王(セラフォルー)にも通達済み。展開しても?」

 

 

「かまわーーーーん!ワシも許そう!」

 

先ほど以上に愉快そうに笑うニオの返答を受け彼女は神器を展開する。

 

 

「っそれは??!!!」

 

それに気がついたハーデスに冷や汗と焦りが現れた。同じ神威を感じ取りそれが何なのかを理解してしまった。

 

 

「なぜそれを悪魔が持っている!!!」

 

 

そんなハーデスの声すら気にせず長門は告げる

 

 

 

 

「展開解放【"原典(オリジン)"】」

 

刹那神器に巻きつかれていた鎖が解かれ莫大な聖光気が解き放たれる

 

本来であれば悪魔にとって猛毒な光

しかし転生悪魔たる長門の性質と情報変換という彼女独自の異能により魔なる存在にも適応された光が場を通り抜けていった。

 

 

「ありえん!!!!それは聖書の原本だぞ!黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)同様、聖書の神が残したものが何故??!!」

 

聖書の神の遺志を宿す聖槍

聖書の神の権能を宿す原典

 

どちらも最上位に位置する神滅具

 

 

その片割れが悪魔陣営

それも鬼呪龍神皇の元にあることにこれまでにないほどの焦燥がハーデスを襲った。

 

 

「っかっかっか、何かわかれば話が早いのぉ。やれ、長門」

 

今日イチの悪どい笑みを浮かべながらニオが告げれば、言われるまでもないとばかりに長門は唱える。

 

 

「っ!!!まっ」

 

「召喚」

 

 

止めに入るハーデスだがそれは見えぬ障壁に拒まれる。

 

 

 

 

天翼種(フリューゲル)

 

 

 

刹那天が割れる。

空を飛び交う異形たちは。

 

各地で戦闘に身を浸からせていた者達は思わず立ち止まり空を見上げる。

 

そこには

 

 

 

 

 

「Excuse マイマスター。お久しぶりです。ところでグランドマスターは何処に?早くグランドマスターの××××××で○○○○な****を☆☆☆☆にして□□□□□「ジブにゃんストーーーーーップにゃ!!!!!」

 

 

 

 

神殺しとしてはとても

 

そう。

 

とてもとても言動が残念な者と

 

 

「っちょアズリール先輩??!っむが」

 

それを止める姉

 

 

 

 

そして

 

 

『あははははは』

 

 

背後で笑う姉妹達がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コメントお待ちしております。


ほんじゃまた気が向いた時間ができた時に(・ω・)ノノシ


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ナザリック防衛網

連日投稿


書こうと思うと不思議と進むよね!

戦場の話を詳しく書く前にもう一方のナザリックの方を書きたかった。


そしてまたキャラ増える。
超クロスオーバー。無限に増え続けるキャラに終止符はいつ打たれるのか。作者もわからない。








 

 

 

かつて聖書の神が作り出した存在。

 

人間には信仰を広げながらも他神話には武力を持って自身の勢力を広げた聖書の神が生み出した原初の存在。

 

神滅具の原点にして天使達のプロトタイプ。

いや正確には聖書の神すら予想を超えた性能となった彼女達を劣化調整させたものが天使であるが故に。

 

 

本来の天使と言っても過言ではないやもしれない。

 

 

その名

 

 

天翼種(フリューゲル)

 

 

聖書の神に作られた神を殺す為の尖兵。

 

頭上に幾何学模様を描き回る光輪を掲げ、腰部より一対の翼を生やした、まさしく天使という容姿をしている。

 

 

その強さは語るまでもなく各神話が体感している。

 

 

何せ彼女達は……

 

 

 

 

聖書の神が自ら作ったにもかかわらず

危険すぎるという理由から黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)同様に聖書の神自ら 封印(・・)した存在であるのだから。

 

 

 

その封印が解かれているのは当然、原典(オリジン)保有者の長門とグランドマスターと呼ばれる八幡。

そして彼の中にいる鬼が関係しているのだがそれは後に語られよう。

 

 

今大切なことは。

 

 

 

かつて神々が恐れた神殺しが今また現代に姿を表したということである。

 

 

「ぐへへへへグランドマスター」

「いい加減にするにゃ〜〜」

 

 

 

性格は変わったのか、元々そういうものなのか。非常に残念美人な神殺しであるが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありえぬ…」

 

茫然自失とはまさにこのことか。

まるでうわごとのように呟かれた言葉。

それを発したハーデスの顔色は白骨にもかかわらず青白く見えた。

 

それほどまでに目の前の光景が信じられなかった。かつての悪夢が甦ったかのように。

 

その身体はフルフルと震えていた。

 

 

「お主らは何をしたのか分かっているのか?アレは世の理を壊すぞ?」

ー馬鹿なことをー

 

 

「なに、問題はなかろう。かつての殺戮兵器(フリューゲル)とは違う。今や知識やグランドマスター(八幡)をひたすらに追いかける変態種(キチガイ)だ。戦闘狂なとこは変わりないが、過去の奴らとは雲泥の差よ」

 

 

「それこそあり得ん。やつらは「万物は変わる」……」

 

 

天翼種(フリューゲル)だけではない。かつて神々を、権能保有者を倒せたのは同じ権能保有者か天翼種(やつら)だけだったが、今は違う。時代は変わり過去に劣等種と言われていた種族から権能保有者、或いはそれと対抗しうる存在……"超越者"が生まれるようになった。お主らが恐れていた消滅の可能性はなにも天翼種(やつら)だけではない」

 

 

神々が絶対と言われた神代とは違うと確信を持って話すニオにハーデスは口を閉じてしまう。

 

 

「世の理を壊す?そんなものそもそもありはしない。万物万象流転していく。もはや神は不滅の存在ではない。そんなもの大戦の折に聖書の神が消滅したことで分かりきっていることじゃろう?神器に遺志や権能を遺そうともな」

 

 

「……」

 

 

 

「神代は終わった。神の絶対性は失せた。それだけの変化が既に起きている。天翼種(やつら)が変われぬ道理などない」

 

「『神はいなくとも世は廻る』この世に絶対に必要な存在などありはしない」

 

 

 

「っ、定命の者どもが。図に乗りおって」

 

 

かつて堕天使総督が言った言葉をニオもまた放つ。現存する神話群からすれば腑の煮え繰り返ることこの上ないだろう。

 

彼等には神代から生きてきた自負がある。

この世を作ってきた功績がある。

無限や夢幻などの例外はいるが、誰よりも長くこの世を見てきた。

神代、神秘を手放し、人に世を渡す選択をしたのも彼等だ。

しかし……

 

「我らが神秘を捨てたのは決して汝等のような者達の為ではない!!!」

 

それは全て人という種族に賭けたからだ。

世界を食い潰す可能性もあるだろう。

それでもそれが人の選択であれば認められる。少なくとも冥府の王であるハーデス自身は。

 

 

故に……

 

 

「終わらせる。それが叶わずとも汝らが表に出れぬ程に痛めつけてやる。それが冥府の王として使命だ。その身に滅びようとも貴様ら人外に思い知らさせてやろう」

ー必ずなー

 

 

堅固な意志を持って宣言する。

 

 

「っかっかっか、上等じゃわい。もとよりそのつもりじゃろう?じゃがどうする?天翼種(フリューゲル)だけではないぞ?」

 

 

「なに?」

 

死の纏ったオーラがニオの言葉により霧散した。

 

「先にお主はベンニーアに言ったの?裏切り者と。死神の裏切りはもう1人おるぞ?それこそお主ご自慢のプルートと同等以上が」

 

 

「……は?」

 

何を言っているのかハーデスには理解ができなかった。

自身の懐刀とも呼べるプルートは伝説とも呼ばれるほどの最上級死神である。神霊の序列で言えば各神話群の最上位には劣るものの場が整えば上位。名のある神にすら匹敵する実力者だ。

 

そんなプルートに並ぶほどの死神。

ましてや裏切り者など

 

 

「っ??!!!!!!」

 

そこまで考えたハーデスに最悪の予想がよぎる。あり得えない。処分した筈だ。

この手自ら終わりを与えた筈だ。

 

しかし一度よぎってしまった考えは拭えない。もしも仮にニオの言葉が事実であり、自身の考えが間違っていなければ。

 

天翼種(フリューゲル)を見た時以上の汗が冥府の王から滲み出てくる。

 

その顔には明確に失態の二字が浮かんでいた。

 

 

「っかっかっか。我が、八坊が、アシェラ達が。宝樹などという超弩級のアイテムに何の備えもしていないとでも思ったか?失態だのぉハーデス。鬼呪龍神皇の復活を聞き、悪魔陣営に入ったことを聞き、焦ったのぉ?」

 

 

ハーデスの変化にニヤニヤと笑いながら話すニオだが、彼にとってはそれどころではなかった。

 

 

「っプルート!現状を報告しろ!!」

 

目の前の敵には目も暮れず部下の名を念話を使い叫ぶ。しかし、その声に返答はない。

いつもであれば即座に帰ってくる声が、今は聞こえなかった。

 

 

「っかっかっか!!!今引くのであれば逃してやっても良いぞ?なに、気にするな。お主のその表情が見れただけで釣りがくる♪」

 

 

「っ、コォウモォリィィィィイイイイイ」

 

 

この世のものとは思えぬほど低く憎悪にまみれた声が戦場に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻り開戦直後

 

幻想都市ナザリックでは普段とは違う光景が見られていた。

 

普段周囲を飛んでいる幻獣達は街中に降り立ち、人の活気に満ちていた街中は静まりかえっていた。

 

一方で沸き立つ場所はコロシアム。

そこではナザリックの四方の環境が映し出され、多くの者がまるでショーでも見るかの様に酒を飲みながら騒いでいた。

 

 

突如現れた死神や異形の者たちと戦う者の姿が映し出された水球を見つめながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南側

 

 

死神ではなく合成獣などが中心となり攻め込んでいたこの場では、メイド達が近寄らせぬようにと張った魔力の柵越しに遠距離から街を守っていた。

 

 

「抜かせるな。栄光あるナザリックにあんな獣を入れたとあれば主人殿に申し訳が立たん」

 

 

「レムレムどうやら招かれざるコソ泥が来たわ」

「姉様姉様、どうやら招いていないお客様がみえたようです」

 

 

「羨ましいっすーーー私も暴れたい!!!ユリねぇ」

 

「ルプー、落ち着きなさい」

 

 

 

 

メイド長たるレティシアを筆頭に数多くのメイドたちが自身の身の丈の何倍もある合成獣達を遠距離から葬っていた。

 

 

オーフィスの蛇を入れた合成獣は決して弱くはない。しかし、それでも獣はナザリックの外壁にすら到達できずにいた。

 

 

その最たる理由は無数の弾幕をまるで散歩するように避けながら合成獣達を叩き伏せる男だろう。

 

 

 

「ここは神皇の住まう地。あなた方の様な理性のカケラもないものがおいそれと立ち寄って良い場所ではないのですよ」

 

火や水、雷に風。

災禍を体現したかの様な戦場をゆったりと歩む男の前に新たな獣が飛び出すが。

 

パンッとまるで風船が割れる様な音が鳴ったかと思えば男の前にいた獣は弾け飛び周囲一体に血を撒き散らした。

 

 

「はぁ、四方からの攻勢など無意味。ここにいる戦力を知らずに来るとは愚かなことです」

 

そう言いながらも男。

 

竜人であるセバス・チャンはその瞳を赤く染め次々とその拳を振るっていった。

 

 

 

 

 

 

 

西側

 

 

「各自複数人であたれ!。相手は死神だ。下位とはいえ神霊の端くれ。油断せず数と地の利を活かせ!!」

 

 

警備隊長を務めるジンは的確に指示を飛ばしていた。

 

 

「ドッカーン」

 

 

そんな彼女の視界に死神達が爆風で吹き飛ぶ姿が入ってきた。

 

 

「クレー!1人で先行するな!!」

 

 

「っうぇ?!ご、ごめんなさいジン団長」

 

 

焦った様に戻ってくるクレーに溜息を吐きながら戦場へと視線を戻す。

 

指示通り複数であたる警備隊員達に対し、死神達は明らかに焦っていた。

 

 

 

「流石は八幡さん。驚くほどの周到さだ。私も見習わねば」

ー襲撃の報せを聞いていなければこの数の対応には遅れていた筈ー

 

他神話への間者など普通は不可能に近いにもかかわらずそれを行った腕と用意周到さに舌を巻きながらジンは抜いた剣を握りしめ動く。

 

 

「風よ……私に応えるのだ!!!」

 

刹那周囲に暴風を撒き散らし死神達を孤立させていく。

 

 

「我らの誇りにかけて、八幡さんの期待に応え、街を守るのだ!!」

 

『おお!!!!!!!(おー)』

 

 

普段、ナザリックの治安維持に勤める警備隊は有事の今。

 

ナザリックを守る盾となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北側

 

「はぁ、ゴミが。弱いんだから突っかかってこないでよ」

 

白い神父服を血で染めながら自身の潰した魔獣を一瞥しながら少年はため息を漏らした。

 

 

「相変わらず口が悪いなシンク。神皇がここ最近構ってくれないから苛立っているのか?」

 

「そんなんじゃないよ!ったく。こんな奴らあんたら2人で充分だろう?ヴァン」

 

 

その口汚さに思わず声をかけた無精髭の男、ヴァンに対し隠しもしない苛立ちをシンクはぶつけた。

 

 

 

「神皇不在の今、この街を守るのは我らが使命の1つだ。メイドや執事部隊、警備隊、それにあの方がいるとはいえ我々鬼呪龍教団もまた動かねばならん」

 

 

「こんなゴミ相手に全軍も必要ないだろう」

 

「武威を示すというのは大切だ。凄惨に無慈悲に蹴散らしてこそ、今後この様に来る愚物を減らす糧となる」

 

「っち」

 

どこまでも冷静に話すヴァンに舌打ちで答えたシンクは無言で拳を振るう。

 

雷と風を纏った拳は魔獣の命を刈り取り地に伏せさせた。

 

 

「それもあいつ1人で充分だろう」

 

 

 

つまらなそうに呟くシンクの視線の先には

 

 

 

 

 

 

 

「許さんぞぉ……ごみの分際でぇ、カスの分際でぇ……神皇の住まうナザリックを穢すだとぉぉおおおおお!!!!!!」

 

 

荒れ狂う神父が魔獣達を薙ぎ倒していた。

 

 

 

「貴様らは震えながらではなく藁の様に死ぬのだ!!!声を上げることすら許されぬ!!それ程の大罪を貴様らは犯した!!!」

 

 

怒髪天を衝く勢いは止まらず次々に死を撒き散らす姿に、それを見る周囲の団員は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

アンデルセン神父(あのホムンクルス)1人で全て終わりそうな勢いなのにやる気なんて出ないよ」

 

 

そう呟いたシンクの耳は、違いないと小さく呟くヴァンの声をしっかりと拾っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリックに集う戦力が

 

合成獣を

死神を

魔獣を

 

 

襲いかかる火の粉を振り払う中

 

 

最後の場所では怒りの声がこだましていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東側

 

 

ハーデスの命を受けたプルートは獣や部下を引き連れ各方面からナザリックに襲撃をかけていたが、その結果は芳しくなかった。

 

 

 

「あの戦力、呪われた鬼が……どこまでも忌々しい」

 

 

苛立つ心を押さえながら静かに各戦場を俯瞰する彼の心にわずかな焦りが生まれていた。

 

 

 

「潰すつもりだったがこの戦力では難しいか……ならば陽動となっている間に宝樹を切り取り転移する」

 

「おや、もう行かれるのですか?」

 

 

 

門前に並び立つ幻獣達を前に主人の命令を遂行する為動き出そうとするプルートの横に突如、老執事が現れた。

 

 

 

「っ!!!?」

 

突然のことに驚きながらも手に持つ鎌を振り抜きそのドス黒い刃が老執事に届く前に

 

 

 

ッキン

 

 

 

重い抵抗を受け、老執事に届くことなく鎌が静止してしまう。

 

 

 

 

「っく!!!」

 

瞬時に魔力弾を放てば老執事はその場から消え失せ、それと共に鎌にかかる抵抗が消え失せる。

 

 

 

「やれやれ、いきなりとは。昔とは違い随分と荒っぽくなりましたか?プルート」

 

 

シュタッと幻獣達の前に再び老執事が現れればまるで旧知の中のように声をかけられる。

 

 

 

「……何者だ?昔だと?」

 

 

その何処か聞き覚えのある声色に訝しみながらもプルートは問う。

手に握る鎌をいつでも振り抜けるように臨戦態勢に入りながら眼前の老執事を睨んだ。

 

 

 

 

「おや、私が誰かわかりませんか?白骨するほど歳を取り、冥府の死神のトップにまでなりながらかつての師(・・・・・)を忘れるとは。これだから老いを楽しめない存在は」

 

 

そう言いながら老執事の姿が歪み、みるみるうちに若返っていく。

 

 

その姿とかつての師(・・・・・)という言葉、そして聞き覚えのある声色にプルート思わず鎌を落としそうになってしまった。

 

 

 

 

『……ありえぬ…』

 

 

奇しくも天翼種(フリューゲル)を見た自身の主人と言葉が重なるがプルートの内心はハーデスの比ではない。

 

 

「……ウォルター…」

 

若返えりかつての青年のような姿を前にプルートは混乱の絶頂を迎えた。

 

 

かつて自身を鍛えた存在。

今の強さになる根幹部分を作ってくれた師。

 

 

行き過ぎた行動と、過激な思想の末。

冥府の王の怒りを買い処分されたかつての死神のトップ。

死神の中の死神とまで呼ばれた男を前に、鳩が豆鉄砲を食ったようプルート立ち尽くしてしまった。

 

 

 

 

 

 

「思い出したか。全く、私のことを忘れるとは無駄な歳の取り方はしたくはないな?プルート」

 

 

 

「何故……いや、一体どうやって生き延びて……あの時あなたは……」

 

 

そんなプルートを気にする仕草もなく話しかけるウォルターに辛うじて戻ってきた思考から言葉が漏れる。

 

 

何故生きているのか。

どうやって生き延びたのか。

どうしてここにいるのか。

 

 

無限にも広がる疑問。

 

しかし、その疑問に浸らせてくれるほど眼前の存在は甘くなかった。

 

 

「っ!!!!?」

 

 

突如感じた悪寒に本能に従うがままに回避を行えば、先ほどまでプルートが立っていた場所が深々と切り裂かれていた。

 

 

 

「おや、避けましたか。その直感は相変わらずのようで」

 

 

 

師の代名詞ともなった技。

見えぬ鎌による攻撃にプルートの思考は急速に冷静さを取り戻していった。

 

 

 

「っはぁ。貴方は敵なのですね」

 

 

「何を今更、この場においてそのような確認を。元より私を切り捨てたのは冥府の神だ。そして拾い上げたのが呪われた鬼だ。男吸血鬼(ドラクル)となった今、八幡お坊ちゃまに仕える者としてナザリックに降りかかる火の粉は払わねばならん」

 

 

 

その言葉に冷静さを取り戻しつつあったプルートは似合わずも声を荒げてしまった。

 

 

ドラクル(・・・・)っだと?!仕える者(・・・・)っだと!!!??貴方が自ら誰かに仕えるというのか!!!!」

ーあの貴方がー

 

 

 

かつてのウォルターを知るプルートだからこそ、あり得ぬとばかりに叫んでしまう。

 

 

少なくともプルートの知るウォルターは自ら誰かに仕えるような男ではない。

ハーデス様ですら御しきれなかった男が生まれて僅か10数年の転生悪魔に仕えているなど到底信じられる話ではなかった。

 

 

 

「何を考えている。何を狙っている」

 

 

裏がある。

そう思うのは自然なことだった。

 

 

 

 

「っふ。ただ、八幡お坊ちゃまこそ私が仕えるに値すると判断したまで。その点はヴィザと大した差はない」

 

 

「……バカな…」

 

そんな考えをウォルターは真っ向から砕く。永き時の中で最も大きな衝撃を受けるプルートだが、やはり現実に戻したのは彼の師であった。

 

 

 

 

 

「それよりもいいのか?そんなに呆けてばかりいて貴様の前にいるのは敵だぞ?」

 

 

 

 

刹那再び襲いかかる見えぬ鎌に回避へと移るが今度は避けきれず手傷を負ってしまう。

 

 

 

「っく。貴方は…っくぅ」

 

 

自身の許容量を超える出来事に。

されど主人の命に従うべく思考を落ち着かせようとするプルートだが状況は決して好転しない。

 

 

見えぬ鎌。

その正体たる不可視の鋼線にその身を削られながらも距離をとっていく。

かつて一度も勝てなかった師を前に主人の命を遂行するための最善を尽くそうとズレた仮面を元に戻す。

 

数分前まであった余裕など無くし、今尚削られていっている部下達に気にかけることもできず眼前の元死神を見据えた。

 

 

 

 

 

 

「小便はすませたか?冥府の神へのお祈りは?かつてのように隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」

 

 

しかし、そんなプルートに無慈悲な暴虐の嵐が襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撤退じゃな」

 

 

「っはぁ?!!」

死神たる自身が死を感じた瞬間視界が一変し、敬愛する主人の声が聞こえた。

同時に濃密な殺気から解放されたプルートは忘れていた息を吐く。

 

 

 

 

「ハ、ハーデスさま……」

 

 

「わしのミスじゃな。焦り、戦力の把握をし損ね、離反に気づかなかった。大失態じゃ」

 

 

目の前の主人、そして視界に映る悪魔の姿に自身があの場から拾い上げられたことを悟ったプルートはその身の震えをおさめかけ、直後硬直してしまう。

 

 

 

「こ、これは……!!?」

 

 

周囲に聞こえる阿鼻叫喚の声

 

濃密な血の香り

 

そして何よりもかつて見たことのある天翼種(バケモノ)が暴れまわる様を視界におさめた彼は再び息を忘れてしまった。

 

 

 

 

「他の者達には自身で転移し冥府に戻るよう告げた。プルート戻るぞ。此度は敗北(・・)じゃ」

 

 

白骨にも関わらず苦虫を潰したように表情がありありと見えるハーデスの言葉にプルートただただ頷くことしかできなかった。

 

 

 

「覚えておれコウモリが。次は殺す、必ず殺す。お主らに未来などありはしない」

 

 

「っかっかっか、負け惜しみ。充分に聞かせてもらったわ」

 

 

 

最後の最後まで愉快そうな笑みを崩さないニオに対し、特大の憎悪と憤怒を撒き散らしながら冥府の王は、間も無く終わりを迎える戦場をあとにした。

 

 

 

 

 




一斉に出すとキャラの言葉ごちゃごちゃして書けなくなる為こういう時にキャラを出していく。


各キャラの過去編とか日常編とかは思い浮かぶのに
それを書く時間が少なすぎる今日この頃というかほぼずっと。


そして唐突に出てくる教団

しかたないよね!
テイルズのシンクとかヴァン好きだし!
アンデルセン神父とか絶頂を覚える好きくらいだし!!!!(少佐感)


それでも長い目で作者に付き合ってくれる方はコメントをくれると少しでも励みになりますm(__)m

今後ともよろしくなのです。




今回追加されたキャラ
オーバーロードより
プレアデス達


原神より
ジン・グンヒルド
クレー


テイルズオブジアビスより
シンク
ヴァン


HELLSINGより
アレクサンド・アンデルセン
ウォルター・C・ドルネーズ





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