Fate/Rage (ぽk)
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夢の始まり

プロローグっぽいもの


最後に息子と別れたのは何時だろう?

大切に大切に育ては私の自慢の息子。

 

そう。私は息子に全てを教えた。

この世における全ての法則から始まり、この世では無い世界の法則まで教えた。

 

そして私の息子は私にこう言った。

「ごめんな」、と。

 

ああ・・・そうだ。

私はその一言だけが欲しかった。

他の誰でもない。

育てた息子に・・・彼に言って欲しかったのだと。

 

そうだった・・・あの馬鹿は私の・・・いや僕の願いを叶えてくれたんだ。

だったら僕は君の約束を守り続けるよ。

 

だから・・・僕は行く。

どんな世界だろうと、どんな未知なる次元だろうと。君が約束を守り続ける限り、僕は廻ろう。

だって、お前は僕が育てた息子で、大事な大事な親友だもんな、■■■■。

 

さて・・・地上は飽きた。

君の言う通り僕はありとあらゆる者を勝利へと導いた。

それこそ、君の様な天才から凡人に至るまで多種多様にこなしたとも。

 

とても興味深かったし、面白い逸材にも多数会えた。

きっとお前のお陰だろうな・・・ありがとう親友。

でもね。

僕はきっと君の嫌いな奴にもなるし好きな奴にもなる。

君が見てきた僕はまだいい方だろう。

 

僕が最初に取り込んだのが絶望の君だったからなあ・・・

何とも言えない。

君を取り込んだおかげで僕は心を理解し、君の所為で僕は■■に成れなかった。

これ以上の皮肉は無いだろう。

 

でも僕は1番の親友でもある君が生きてくれて本当に良かった。

そして...僕に最後の別れを言ってくれて本当に感謝している。

 

君が愛を教えてくれた

君が握手の仕方を教えてくれた

君が誰かを思う心を教えてくれた

 

そして君は・・・僕に別れを言った。

 

約束は果たされ、僕は箱舟へと乗る

白い花に囲まれて君は世界を巡る

巡り廻る世界の中で、君は戦い火花を散らす

君は前へ

僕は消える

 

悪夢の夢は覚め、楽しい現実が君を迎えるだろう。

僕は約束を果たし、次の歯車へと願いを移す。

 

歯車は世界の核。

その時間と時空の主。

 

僕はきっと君の様にその核に惹かれるのだろう。

それが僕の願いで、君の嘆き(願い)でもある。

 

ああ・・・・・・でも地上は何も居なくなってしまった。

見渡す限り砂と壊れた建物。

もうここには生きている生き物は居ない。

居るとしたら...無生物くらいのものだろう。

 

ここは退屈だ...

退屈で退屈で退屈だ。

 

精霊と話しても退屈

精霊を戦わせても退屈

 

あ。そうだ。

 

真っ暗な空に輝くアレを落とそう。

あんなに輝いているんだ。

それも、自分から・・・

 

月で兎が餅つきでもしているのだろうか?

まぁいいか。

 

面白そうだから言って見る事にするよ。

大丈夫。

何があっても、僕には関係が無いのだから・・・・・・

 

 

 

 






皆様どうも初めまして。
ぽkです。

初めての作品なので、生暖かく、冷ややかに見ていただけると...まだ嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。


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契約?いいえ、約束だ

 

ようこそ、おいで下さいました。

此処は霊子虚構世界

 

通称「SE.RA.PH(セラフ)」。

 

新しい客人(マスター)を我々は歓迎します。

 

では、貴方の名前を教えてください。貴方の心を教えてください。貴方の有り方を教えて下い。

失礼しました。少々バグが発生しましたが問題ありません。

 

それでは最後に、貴方が選ぶ使い魔を選んで下さい。

剣士、弓兵、魔術師、さあ貴方...いえ貴女は誰を選びますか?

 

・・・・・・・・了解しました。

ではいってらっしゃいませ。

新たなるマスターに聖杯の祝福が有らんことを...

 

 

 

 

 

・・・そこで私の夢は終わった。

妙に不思議な夢を見たものだ...お陰で今日は遅刻しそうになったほどだ。

 

「おや?岸波じゃないか?お前がこんな時間に来るなんて珍しいじゃないか?」

 

このワカm・・・ではなくこの男はクラスの同級生、間桐(まとう)シンジ。

根は良い奴なのだが素直に慣れないプライドの所為で憎まれ口調なのが惜しい所だ。

もう少し素直になってもいいんだぞシンジ?

 

「何か言ったか?」

 

言ってないです。

 

「ふ~ん。まあいいけど、僕は君と違って忙しいんだ。余り話しかけるなよ?お前ただでさえ影が薄いんだから、僕に移ると困る」

 

そう言ってシンジは自分の席に着く。

そうだ・・・!もうすぐ藤村(ふじむら)先生がやって来る!

 

「は~い!皆おっはよ~ございま~す!」

 

噂をすればなんとやらである...

 

「タイガーおっそ~い!!!」

「もうチャイムなってるよ~」

「ごっめ~ん!それと誰よタイガーって言った子!藤村先生と呼びなさいって言ってるでしょ!?」

 

本名、藤村大河。

自分のクラスの担任なのだが・・・如何せんそこ有り余る行動力はまさに虎の如し。

本人の目の前で言うと怒られるのだが、あだ名として「タイガー」と皆から親しまれている。

 

「それでは早速授業を始めます。教科書の・・・・・・」

 

こうして、変わらない日常が幕を開ける。

きっと卒業するまでこの穏やかな日常が過ごせるものだと、この時までは思っていた。

 

そう。

あの違和感に気付くまでは・・・

本来なら見過ごせたはずなのに、何故か見過ごせなかった。

 

見過ごしても誰も責めたりはしないというのに・・・

それでも自分は目を逸らさなかった。

 

違和感は拭えないし、何時までも付きまとってくる。

だったら行くしかない。

辿り着いた先に何があっても、何が起ころうとも、私は行く。

 

 

だってそれが・・・自分の有り方で、岸波白野と言う人間の本質なのだろう。

 

 

 



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依頼?いいえ、始まりだ

その日の放課後、私はクラスの友人から部長が呼んでいる事を聞いた。

私の部活は新聞部。

部長はその新聞部の部長だ。

 

「おーう我らの期待の星!来てくれて嬉しいぞ!」

 

いえいえ。其れよりも部長、また何かの記事を作るんですか?

 

「そうだ。来週の月海原学園の学園新聞でな、ここの七不思議を書こうと思う。それで岸波にはその調査をお願いしたい。」

 

なるほど...

して、自分に調べて欲しい七不思議とは一体何ですか?

 

「調べて欲しい不思議は3つ。1つは学校の弓道場に現れる不審な影、2つ目は学校の教会で聞こえる音、最後に玄関付近に現れる白衣を来た幽霊、だ。」

 

ふむふむ。どれも聞いたことのある不思議だが、面白そうなので調べて見よう。

 

「そうか!引き受けてくれるか!!!流石我らの期待の星!もしも場所が分からなくなったら私の元に来るといい。」

 

分かりました。

最初は弓道場に現れる不審な影だったな...

行って見ないと分からないので早速行って見るとしよう。

確か弓道場は玄関を出て左側にあったな。

 

階段を下り、靴箱へと足を進める。

 

だがその時、走り去る誰かの姿を見た気がする。

....それが少し頭の片隅に違和感を残す。

 

そうだ。

自分はこんな所に居る人間ではない。

私は......

 

って、何を考えていたんだ?

さっさと弓道場に行かなければならないと言うのに...

 

弓道場に着き、中を覗き見ると.......

 

「あら?岸波さんじゃないの。」

 

其処に居たのはタイガーもとい藤村先生だった。

藤村先生が何故弓道場に?

 

「何言ってるのよ岸波さん。私は弓道部の顧問よ」

 

そ、そうだったのか...!?

全く知らなかった...

と言うか放課後の弓道場で何を?

 

「何って・・・何か見落としが無いかのチェック。最後は私がチェックする決まりなの」

 

成程・・・

では弓道場に現れる不審な影は藤村先生だったのか・・・

一応メモをしておこう。

 

それじゃあ藤村先生失礼します。

 

「はい。岸波さんも早く帰るのよ?最近この辺り物騒だから」

 

残り2つ調べ終えたらさっさと帰りますから大丈夫ですよ。

藤村先生こそ気を付けて下さいね。

 

「ありがとう。それじゃあまた明日」

 

・・・弓道場を後にした私は次の目的地でもある教会に行こうと空を見上げた。

 

空は――――――――――――0と1で構成された数字が空を埋め尽くしていた。

 

驚いて目をこすって見たら、奇妙な空ではなく普通の空が広がっている。

・・・先ほどの光景は何だったのだろうか?

白昼夢でも見ていたのだろうか?

 

でも・・・なんだか違和感が先ほどよりも大きくなった気がする。

一体何だというのだろう?

 

次第に大きくなっていく違和感を抱えながら私は学校の敷地内にある教会へと足を進める。

此処の教会は独特の雰囲気を出しており、中々生徒が進んで近づこうとはしない教会だが・・・

 

「――――――――g・・・・」

 

ん?何だ?

何か微かな音が聞こえた。

 

「―――――――――jn・・・」

 

目を閉じて聴覚に意識を向けると、確かに何か聞こえる。

何を言っているのかは全く持って分からない。

それでも何かの・・・何か詠唱しているような教会の中から声が聞こえる。

 

まるで何かに誘われているかのように身体が意思とは関係なく引き寄せられる。

フラフラと光に誘われる蛾のように・・・

 

「ちょっとそこの貴女!NPCは此処から先立ち入り禁止よ」

 

ハッ!?

な、なんだ?強烈な何かによって意識がハッキリしたぞ。

何が起こった?

 

「はぁ・・・・・・・まだ調整が終わってないのかしら?自分の役割(ルーチン)が分かっていないNPCが居るなんてムーンセルも駄目ね」

 

後ろに振り返れば、其処に居るのは確か・・・月海原のマドンナ。

遠坂凛・・・

何故彼女が此処に?

それよりも何か意味の分からない事言ってなかったか?

 

「ん?変ね・・・貴女NPCじゃないの?」

 

すいません・・・あの、NPCと言う名ではありませんので・・・

失礼しま~す!!!

 

「あ?!ちょっと待ちなさいよ!!!」

 

待てと言われて待つ人間が何処に居よう?

助けて?もらった事には感謝するが、これ以上彼女の話を聞いてはいけないと警報が鳴っている。

教会の声の正体は月海原のマドンナ遠坂凛、と部長に伝えよう!

きっとそれが最善で最良に違いない!!!

 

颯爽に教会から離れ、最後の調査として白衣を着た幽霊を調べねば・・・

今日は色々と疲れる事が多くて早く家に帰りたいものだ。

そう・・・家・・・・・・に?

 

立ち止まって必死に思い出そうとする。

だが・・・思い出せない?!

家も、家族も、何もかもが思い出せない!

 

どういう事だ?何故思い出せない?

帰り道すらも分からない・・・

そもそも・・・帰る道などあるものか・・・?

 

違和感と言う名の頭痛に酷く悩まされても、何とか玄関まで帰って来れた。

帰って来れたのはいいが、先ほどよりも頭痛は痛みを増している。

まるで気づくなと言うように・・・

 

痛みで意識が薄れる中、何かを見た。

それは白衣を着た男で興味深そうにこちらを伺っている。

 

そうか・・・この男が噂の幽霊か・・・

 

ああ。これで部長に報告することが出来る・・・

でも・・・凄く眠たいんだ・・・

 

おやすみ、と誰かに言われた気がする。

また後で、とも言われた気がする。

 

君が此方へ来るのが楽しみだ、と聞こえた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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友よ諦め起き上がれ

 

――――――――1人の男が居た。

男はとても明るく、人を惹きつける何かがあった。

男はとても友達思いだった。

 

そんな男は絶望を知った。

そんな男は悲しみを知った。

 

そんな男は――――――――憎しみを味わった。

 

―――――――――1人の男が居た。

男はとても明るく(彼は憎しみを生み出した)人を惹きつける何かがあった(彼は人を憎んだ)

男はとても友達思いだった(彼は友達を消してしまった)

 

そんな彼は――――――――最後は涙を流して笑って消えた。

 

彼を救えなかったのはあの世界の人間だ。

私は私の大切な友人1人に全てを任せたあの人間たちを全て飲み込んだ。

全てはお前らの所為だ。

お前等が僕の大切な友達を消したんだ。

 

だからこんな世界も飲み込んでやる。

 

それが・・・あいつの願いだから・・・

 

 

 

 

 ―――――――起き上がれ、立ち上がれ、前を見ろ。

 

 君は此処で終わる人間ではない。

 

 諦めを知らない君は、まだ目覚めることが出来るはずだ。

 

 さぁ、顔を上げて前を見つめるんだ。

 

 そうすれば、君は自分で進めるだろう?

 

 

 

 

そうだ・・・私は此処で寝ている場合ではない。

はやく目覚めなければ

はやく起きなければ

はやく立ち上がらなければ

 

私はまだ諦めを知らない

だったらまだ、前に進めるはずだ・・・!

 

 

目を開け、ゆっくりと深呼吸をした後、

むくりと起き上がると、知らない場所に私は居た。

ステンドグラスがこの空間を囲っており、教会の中にいるみたいだ。

 

「ようこそ。君が最後のマスター候補者か。目覚めて早速だが、試験を始めよう」

 

現実離れをした空間に似合わない声が何処からか聞こえて来る。

声からして男の様だ。

空間が空間だけに神父のイメージが沸く。

 

と言うかマスター候補者とは一体何なのか?

 

「ふむ。何も知らないマスター候補者も居たのだな。まあいい、敗者は死ぬ。其れだけは頭に入れておきたまえ」

 

その言葉を最後に、何処からともなく人形が現れた。

 

その人形は此方を捕らえると、勢いよく襲い掛かって来た・・・!!!

何の道具も持っていない自分は只必死に逃げるだけ。

 

意味がないと頭では理解している

でも心が、魂があがいて見せろと咆哮を上げる

 

だったら・・・最後まであがいて見せる!!!

 

人形は人形離れした攻撃を仕掛けて来る・・・

避けられないと分かっても身体は動く・・・

 

人形に切られた身体の彼方此方から血が流れ出る

痛みで倒れそうになるが人形は私を殺す気で来ているのだ

逃げなければ・・・簡単に死んでしまっては意味がない!

 

「おかしい・・・何故君はサーヴァントを召喚しない?君のサーヴァントは何処にいる?」

 

ははは・・・生憎そんなものは持ってはいないよ

 

「馬鹿な!?では何故君が選ばれた?!」

 

そんなものこっちが聞きたい

私は違和感が拭えなかっただけの話

どうして此処に居るのかなんて私だって聞きたいくらいだ

 

「・・・・・・そのままだと君は死んでしまうぞ?其れでもいいのか?」

 

そんなものは当たり前に良くは無い

もう身体は痛みを通り越して何も感じないし、身体はどんどん力が入らなくなってきている

間違いなく私はもうすぐ死ぬ

 

でも・・・死ぬ事が分かっていて何もしないのは嫌だから

だから私は死ぬまで足掻く!

それが私の・・・岸波白野の有り方だから・・・!!!

 

 

途端、人形の鋭い手が岸波白野に振り下ろされる

 

 

身体からはこれ以上ない血が噴き出し、遂に私は崩れ落ちる

もう指一本も動かせない

身体はまるで地面と一体化したように重い

 

「そうか・・・それが君の有り方なのだな。その在り方、確かに見させてもらった。君を最後のマスター候補者にして良かったと思っている」

 

瞼が重い・・・

ここで眠ってしまったらもう2度と目を覚ます事は無い

それは身体が語っている

 

あぁ・・・なんだか、寒いな・・・

 

「おやすみ、名もなきマスター候補者よ。君に安らかな眠りが訪れる事を祈ろう」

 

天幕が降ろされ、辺りは闇に落ちて行く

 

そうか...私は死ぬのか...

私は何も掴めてはいないけれど、足掻いたことは残った...

もう、それで・・・じゅう、ぶんだ

 

夢はもう見る事は無い

目覚めはもう来ない

 

私はここで死ぬ

 

それで・・・良い

もう眠たい...これでゆっくりねれる

 

 

 

 

 

こうして、―――――――――――少女は目覚めない夢へと旅立った

 

何故彼女がサーヴァントを呼ばなかったのか?

何故彼女が選ばれたのか?

 

それはきっと進めばわかる。

今は・・・

 

「君の諦めに拍手を送るよ、マスター(・・・)

 

―――――――――本来なら彼女は諦めない

いや諦める事をしない

 

彼女の有り方は道そのもの

 

「さぁ。行こうかマスター。君の聖杯戦争を始めに」

 

少女を抱えて捨てられた空間から抜け出し、本来の学び舎へと向かい海を駆ける

今ここに、新たなサーヴァントとマスターが誕生した

 

 

彼らの行く道に、一体何が待っているのだろうか?

 

 




サーヴァントステータスが更新されました

マスター:岸波白野

真明:???
クラス:不明

身長:不明/体重:不明/スリーサイズ:不明/血液型:不明/誕生日:不明/属性:不明

パラメータ:不明

保有スキル: 不明



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願いは目の前に居る

               その聖杯は 熾天の檻(The Holy Grail is the Cage of SE.RA.PE)

 

               大いなる 虚空の観測者(and also it's the Greal observers of Imagenary Sta)

 

               戦いは今、 電子の海へ(Heaven of Hell.now into the Sea of Electroms)

 

 

さあ、泥濘の日常は燃え尽きた。

 

魔術師たちによる生存競争。

 

運命の車輪は回る。

 

最も弱き者よ、(つるぎ)を鍛えよ。

 

その命が育んだ、己の勝ちを示すために・・・・・・

 

 

 

1.awakening/progrmized heaven

 

 

 

空が焼けている。

 

家が熔けている。

 

人は潰れている。

 

路は途絶えている。

 

 

これが、戦いの源泉。

これこそが再起の原風景。

 

そこで「私」は、ただ一人生き延びた。

 

忘れるな。

 

地獄から「私」は生まれたのだ。

 

その意味を、―――――――――――。

 

 

どうか・・・忘れないでくれ・・・

 

 

 

 

・・・・・・そんな何かが欠けた夢を見た。

あぁ...目が覚めた、という事は私は死んだのだろうか?

 

ここは学校の保健室に見えて来る...。

誰かに運ばれたんだろうな。

 

全てはきっと夢だったんだ。

あの人形も、その人形に殺される私も、最後に聞こえた声も・・・・・・

全て夢だったんだ!!!良かった!!!

 

Good morning!(おはよう!)マスター!朝食は食堂で食べるかい?それとも僕が作ろうか?」

 

・・・・・・・は?

 

「傷は完治しているようで良かった。君は一度死んでしまったからね。蘇生はそんなに大した事は無いんだけど、身体は動く?もう痛くはない?」

 

え?え、ええ。

まあ一応痛みもないし、身体は動く...。

 

「それは良かった!それじゃあ朝食は如何する?」

 

朝食・・・・・・・の前に、お前は誰だ!?

何でベットの横に、突然現れたんだ!?

 

「僕?僕は君のサーヴァントだよマスター。君が生きる事を諦め、眠りについたときに僕がやって来た。サーヴァントだから霊体化出来るんだよ。こんな風にね。」

 

目の前で消えたり現れたりを数回繰り返すサーヴァントと名乗った

この真っ黒な男。

 

「ま、真っ黒は流石に酷いよマスター。服装が黒いだけで僕は黒くない!」

 

黒のロングコートを纏っている青年?らしきサーヴァント。

ロングコートだけでなく手袋や靴、そのほかの服装も全部黒。

真っ黒と言わずなんという?

 

「あ、案外逞しいんだね。僕のマスターは。」

 

ところで、さっきから気になっていたんだけど、

そのマスターとかサーヴァントって何?

 

流行りですか?

 

「うん全然違う。もしかしてマスター...聖杯戦争も知らない?」

 

もちあたぼうよ。

全く持って知らないです。

 

「ある意味凄いマスターを僕は救ったのか・・・。まあいいか。育てがいのある人材は好ましい。マスター。君は聖杯を聞いた事があるかい?」

 

聖杯ってあの杯の事だろうか?

アーサー王伝説にも出て来る奇跡を起こす聖遺物の事?

 

「まあ本物が実際にあったのかは知らないけど、ほとんどが偽物だったって聞くな。

でも偽物でも人の願いを叶える力を持っていたら、それは偽物だろうと、聖杯なんだよ。過去にね、魔術師達がそんな聖杯を巡って殺し合った。その名を聖杯戦争って言うんだ。」

 

成程・・・今回もそんな殺し合いが?

 

「いいや。この戦いは、聖杯戦争を模した戦いみたいだ。魔術師(マギ)に代わって魔術師(ハッカー)と呼ばれる君の。」

 

魔術師(ハッカー)

聞いた事の無い単語だけれど、私はそうなのか?

 

でもどうして殺し合わなければならないんだ?

 

「それは必然だよマスター。勝者が居れば敗者が出来るのと同じ。戦争で負けた者は死しか待ってはいない。この聖杯戦争では勝者は進み、敗者は全てを失う。全ての戦いを勝ち抜き、最後の一人となった者だけが、聖杯を手にする・・・と言うものだよ。」

 

余り理解はしたくないけれど、大体は理解した。

 

どこでそんな戦争に巻き込まれたのかも不明だが、

参加してしまった、と言うか。

 

「まあ。聖杯戦争についてはそんなところかな。じゃあサーヴァントについては・・・・・・」

 

知っていると思いか?この黒サーヴァント。

知っていたらあんなに驚かなかったぞ?

 

「その節はすいませんでした。えと。サーヴァントはね、聖杯戦争でマスターを勝たせる

まあ使い魔の様なものだ。僕は違うんだけど、生前に名の馳せた英雄は死後も信仰され、英霊になる。その存在を聖杯の力でこの世に再現したのがサーヴァント。サーヴァントは基本的に戦士だ。マスターを守り、その力となる。」

 

それじゃあ・・・あなたもサーヴァントなの?

見た目は服装黒いだけの人間にしか見えないけれど・・・

 

「僕みたいなサーヴァントも居るって事だよ。サーヴァントは元となった地上の聖杯戦のルールに従って、7つのクラス(役割)に分けられるんだ。本当は彼ら(英霊)の正体を隠すだけだったんだけど・・・まあその辺は余り気にしないで。

剣の英霊(セイバー)弓の英霊(アーチャー)槍の英霊(ランサー)騎馬の英霊(ライダー)魔術の英霊(キャスター)暗殺の英霊(アサシン)狂戦士の英霊(バーサーカー)。」

 

お、多いな・・・。

 

「分からなくなったら何度でも聞いてくれて構わないよ。話の続きだけど、クラスは英霊にとっての軽量化だ。生前の力を全部搭載したらすぐに容量オーバーになるからね。クラスに似合った英霊の力を摘出して形にする。セイバーだったら剣を主体に戦うようにね。」

 

へぇ~・・・それじゃあお前は一体どのクラスに居るの?

見たところ全部当てはまりそうにないけれど・・・。

もしかしてセイバーとか?

 

「外れ。」

 

え?

じゃあアーチャー?それともキャスター?

 

「どれも違う。僕は随分と変わってるサーヴァントみたいでね、マスターを一度蘇生させた所為なのか知らないけど、サモナー(召喚士)ってクラスになってる。」

 

おいちょっと待て――——————なんだそのクラス?!

お前七つとか言ってなかったか?!

随分と違う・・・いや違い過ぎて驚くクラスなんだけど?!

 

「でもステータスは悪くないんだよ?それで許してよマスター。」

 

サモナー・・・性格はとても良い。

寧ろその性格に若干イラッと来るぐらい性格は良い。

 

だが・・・頼もしさよりも不安の方が勝っているのは悲しい事だ・・・。

 

 

 

 

 




サーヴァントのステータスが更新しました。

マスター:岸波白野

真明:???
クラス:サモナー
身長:不明/ 体重:不明 / スリーサイズ:不明 / 血液型:? / 誕生日:?/ 属性:秩序・?

パラメータ: 筋力:? / 耐久:? / 敏捷:? / 魔力:EX / 幸運:? / 宝具:不明

保有スキル:蘇生:EX /

蘇生:Ex
万物の理を覆す能力。
ランクEXともなれば蘇生ではなくそれは創造に等しい。






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此処に約束は結ばれた

私、岸波白野は訳もわからないまま聖杯戦争に巻き込まれ、一度は死んだ...のだが。

 

「マスターマスター、焼きそばパンとおにぎりどちらが良い?」

 

...目の前でどちらを買うか迷っている黒い服装のサーヴァント、に見えないサーヴァントによって蘇生させられ、あれよあれよとマスターなど意味のわからない役職についてしまったのである。

 

と言うかサモナー。

気になっていたんだけど、何でマスターって呼ぶの?

 

「何で...って。そりゃあマスターの名前知らないからね。

君の名前、僕に教えてくれるマスター?」

 

別に良いけど...

対した名前じゃないよ?

 

「良いんだよ。名前は君を明かす大切な証。さあマスター、君の名前を教えてよ」

 

分かった。

私の名前は岸辺白野(きしなみはくの)

漢字に書くと岸辺の岸に波に色の白。野は野原の野だよ。

 

「ご丁寧にどうもありがとうマスター(白野)。食堂でなんだけど、ここに約束は結ばれた。末永く宜しくね。」

 

満面の笑みで私の手を握るサモナー。

 

―――――――末永く?

何言ってんのこのサーヴァント?

 

「結婚」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

目が点になったぞ。この鯖何言った?

 

「いや〜思った以上に君を気に入ってね。手放すのが惜しい程さ。だから僕は君と結婚する約束をした。」

 

ちょっと待て待て待て待て!?

いつそんな約束を立てた?!

 

「約束は今さっき立てた。君が僕に名前を教えてくれた事で、約束は成立した。」

 

何言わせてんだよ!条件反射で名乗ったじゃないか!

そんな約束取り消し!今すぐ取り消して!

 

「じゃあ君はここで死ぬ。僕の約束を取り消すって事はサーヴァントを失うも同然。サーヴァントを失えば...君は終わるよ?僕との約束・・・・・・取り消さないよね?」

 

サモナーはそれはそれは太陽のように眩しい笑顔を向ける。

あのね。お前が見た目も中身も真っ黒だって分かったよ。

私は何てサーヴァントに気に入られたんだ・・・・・・。

 

「大丈夫大丈夫。君が約束を取り消さなければ僕は側にいるよ、安心して白野。」

 

お前が側にいる事で私は安心なんか出来るか!

 

・・・サーヴァントってクーリングオフって出来たっけ?

 

「出来ると思ってる?」

 

少しくらい希望を持たせてくれても良いじゃないか!

なんでサーヴァントと結婚せねばあかんのだ!

断固反対だ!

 

「僕長期戦は得意だから心配ないよ。」

 

そう言う心配じゃ無えよ...。

 

「クックック・・・・・・、何やら面白い事になっているじゃないか。」

 

サモナーと揉めて居ると、後ろから聞き覚えのある声がした。

 

「食事中に失礼。私は月の聖杯戦争の監視役であるNPCの言峰(ことみね)。食堂で騒いでいるマスターとサーヴァントが要ると聞いて来たが・・・実に面白い展開だ。」

 

言峰と名乗った神父・・・・・・に見えない神父は何故か止めるでも無く傍観している。

 

それよりも...なんで口元が上がってんの?

あれか?人の不幸は蜜の味って奴か?

最悪な神父が居るんだな!?

 

「おいおい、勘違いはしないで欲しい。私はただのNPCだ。この姿の元になった人物が、そう言う思考の持ち主だったに過ぎない。」

 

嘘つけこら。

このマスターマジ愉悦って顔してんぞ下種神父。

ホント何しに来たんだよ?

 

「いやなに。君の一回戦の相手を知らせに来たのだよ。」

 

一回戦?

なにそれどういうことですかいサモナーさん?

知ってる事全部吐かなきゃ麻婆食わせるぞ?

 

「マスター落ち着いて。頼むから落ち着いて。僕だってそんな真っ赤な麻婆豆腐、飲み込みたくないよ。話すから落ち着いて。」

 

なら洗いざらい話しなさい。

そして其処のゲス神父、笑ってんじゃねぇよ!こちとら見せもんじゃないんだぞ!

割と大事な話なんだよ!

 

「マスター頼むから落ち着いて。あとそんなにあの神父が気に食わないのなら後で消しておくから話を聞こうか。」

 

これ以上私が神父にケチをつけるとうちのとんでもサーヴァントが何か呼び出しそうだったので大人しく話を聞くことにする。

ホントあの神父の顔うぜえ・・・。

 

「こほん。そう言えばマスターは此処が何処か知ってる?」

 

此処?月海原学園だろう?

それ以上のものでもあるというのか?

 

「まあ見た目は学校だけど、実際はここ月なんだよ」

 

はあ?!月ってあの月?!

月見にはもってこいのあの月か?!

 

「そうだよ。ここは月の聖杯(ムーンセル)が用意した舞台。君たち魔術師(ハッカー)は地上からムーンセルにアクセスし、サーヴァントを用いてアリーナと呼ばれる戦いの場で殺し合う。一対一で戦うなんて戦好きの英雄たちにとっちゃ誉れ高そうだ。」

 

それで・・・何で一回戦?

もしや永遠と殺し合わなきゃならんのか?

あれ?早くも詰んだ?

 

「違うよマスター。この聖杯戦争は七回まであって、要するに七人のマスターを七日かけて倒して次へ進む。其れを七回繰り返して最後の一人が正真正銘の勝者となる、って事さ。」

 

分かったけど・・・・・・・。

7にこだわり過ぎじゃない?

確かにラッキーセブンとか言われるけど、そこまで7に執着せんでもよかろうに・・・。

 

「地上の聖杯戦争が7人のマスターと7騎のサーヴァントだけって事からか・・・いやそれでも128人のマスターの殺し合いなんて誰が考えたのやら・・・。」

 

う、うわあ・・・修羅場だよね?其れって物凄く観たくない修羅場だよね?

 

「いや殺し合いだから修羅場の方がまだマシじゃないのかな?」

 

考えたくも無かった・・・。

私は本当にとんでもない戦争に紛れ込んだわけだ・・・。

 

「じゃあエセ神父さん。一回戦の相手は誰だい?」

 

「君の一回戦の相手、それは・・・・・・」

 

ごくりと喉が鳴る。

 

「————間桐シンジだ。」

 

・・・・・・・・・え?

 

 

 

その名前は十分聞き覚えのある人物をさしていた。

 

 

 



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その願いとは

サモナーはその後に聖杯戦争がどんな戦いなのか詳しく教えてくれた。

だけどその話は私には随分遠く聞こえる。

 

ああ・・・私が送っていた生活は皆偽りだったのか?

あんなにも変わらないと思っていたのに何処で間違えた?

 

私が送っていた生活が嘘で、それはマスターになる為の通過儀礼だった?

それこそ嘘に違いない。

 

だって私は・・・変化を望んでいたわけじゃないから・・・。

私は・・・私は・・・殺し合いなんて望んでない。

いやだ、いやだよ・・・殺し合いなんて・・・聖杯戦争なんて・・・望んでなんかいない!!!

 

「良いよ。それが君の願いなら・・・僕は君に与えようマスター。」

 

サモナー?一体どうして・・・。

と言うかここは何処だ?さっきまで廊下に居たはずだけど・・・

 

「いやなに。マスターである君の願いを聴きたいがために僕が用意した一種の空間だ。月の聖杯と言えどここには干渉すら出来まい。」

 

願い?私の願い?

 

「そうさ。君は気付いていないかもしれないけど、今の君は殆ど記憶が無い状態だろう?そんな君の願いを無粋な奴らに聞かせる訳にはいかない。さあ言ってごらん。今の君の・・・君の望んだ答えを。」

 

そっと私に手を差し伸べるサモナーの表情はとても落ち着いている。

それは初めて見た時よりも安心と信頼に満ち溢れた暖かい笑顔で。

 

そうだ...私の答えはとっくに出していたじゃないか。

確かにサモナーの言う通り私には聖杯戦争に参加する以前の記憶が全く無い。

だけど一つだけ...たった一つだけ叶えたい願いはある。

 

それはきっとほんの些細な事かもしれないけど、月の聖杯を使わなければ出来ない事だ。

 

 

 

 

 

私の願い・・・それは—————————。

 

 

 

 

 

「・・・・・・待っていたよその言葉、その意思、その心。やはり君は僕のマスター(伴侶)にピッタリだ。」

 

伴侶は要らないからホントに。

 

「冷たいなあ・・・でもこれだけは安心して。僕は君のサーヴァント。君の出した願い(答え)に必ず君を辿り着かせよう。」

 

うん。頼んだよ私のサーヴァント。

その時が来るまで私はあなたのマスターで有り続けるよ。それくらいなら私にも約束はできる。

 

そう言ってサモナーの手を取れば、彼は此方こそと握り返す。

 

・・・・・・・・・所で。

此処はほんとに何処?今更驚くんだけど、何で水の中に居るの私達?

 

「此処?ここは伝説の都アトランティス。僕のお気に入りの結界の一つだよ。」

 

えーーーっと。他にも何かできるの?

 

「勿論。僕のクラスはサモナー。異形から異常の全てを呼び寄せることが出来る。何なら宝具(切り札)の一つでもお見せしようか?」

 

はいせんせー!宝具(ほうぐ)って何ですかー!?

 

「うん綺麗な挙手をどうもありがとう。宝具って言うのはその英霊の象徴。その軌跡を具現化した強力な必殺技とでも思って欲しい。アーサー王ならエクスカリバー(約束された勝利の剣)とかね。」

 

へえ・・・そう言うサモナーも宝具あるんだ。

見た目は何も出来なさそうなサーヴァントなのに・・・・・・。

 

「白野?何か言った?」

 

言ってません言ってません。

どうぞ話の続きを申してください。

 

「...分かったよ。話を戻すけど、宝具は強力な力だけどそれに伴ったリスクがある。有名である英雄程そのリスクは大きい。なんだか分かるかい白野。」

 

ふむ・・・・・・有名で有ればあるほど危険な事か。

せんせーヒントがあればヒント下さい!

 

「ヒント・・・そうだね。聖杯戦争は情報戦が大きな鍵なんだ。」

 

情報戦か。

確かに戦いとなれば相手の情報は幾らあって・・・・・・・・・も?

 

「その顔は何を指しているのか分かったようだね。そうさ。宝具を使用するって事は自分を明かす。即ち自らの名を明かすんだ。」

 

宝具の開放は真名解放と同じ。

宝具は己を、己を宝具として扱う。

 

成程。有名すぎる英雄は確かにその知名度の高さ故に弱点が存在したりする。

例えばニーベルンゲンの歌に登場するジークフリートは邪竜を打ち倒し不死の血を浴びるが、背中に葉が付いた部分だけは効果は無く、結果その弱点を付かれて彼は死んだという。

名前はその出生を明かし弱点さえも暴く。

 

聖杯戦争にとって情報は命でもあるという事か...。

 

「そうだよ。だから大抵のマスター達は宝具をここぞという場面にしか使わない。まあ余程自分に自信がある奴は普通にしてるけどね。」

 

だったら未熟な魔術師の私になんかに宝具なんて見せなくてもいいんじゃないか?

私が罠にかかって情報を引き出されたりされたら終わるぞ?

 

「大丈夫だよ白野。僕の名を言った所で君には分からない。マスターである君に分からないのなら相手にも分からないさ。だから見ててよ、僕の宝具・・・いや僕を!」

 

その顔はまるで童子のように無邪気で・・・でもその顔はサモナーではない。

あの無邪気な笑顔はきっと誰かの笑顔だ。

無邪気な笑顔の下にはその本心が隠されているのだろう。

そう、遥か太古に消えた都で召喚士は両手を広げ、高らかに謳う。

 

「さあ人よ!生き行く中で僕を超え、僕を否定するが良い!その先にあるものこそが人が求めた望み成り!」

 

この瞬間、ムーンセルは異常な存在にようやく気が付いた。

しかし気づいた時にはもう遅い。歪で歪んだソレはもう月に浸食していたのだから・・・。

そう、あの召喚士の名は———————。

 

 

 

 

 

 

 

「———————人よ僕を超えて逝け(これは人の試煉なり)。」

 

 

 

 

 

 

 

 



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第一回戦(前)

曇天の空の下。

一人の少年が赤子のように泣いていた。

 

その瞳から流れ落ちる涙はとても後悔で溢れている。

少年は天を仰ぎ叫び狂う。

 

友を返せ・・・!!!

親友を返せ・・・!!!、と。

 

爪が掌に食い込み、血が出るほど拳を握り振りかざす。

あぁ・・・理解者を失った少年は何とも憐れだ。

 

しかしそこに同情は無い。

何故なら核はその少年だからだ。

少年は分からぬのだ。

お前こそがその原因なのだと。

 

人よ、超えて見せろ。

その涙を糧として見事試煉を乗り越えろ。

その先にあるのは人の願い、人の答え。

乗り越えた者だけが辿り着ける人の理想郷。

 

 

 

 

 

 

 

さあ人よ、僕を超えて見せろ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

———————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

サモナーの宝具。

人よ僕を超えて逝け(これは人の試煉なり)・・・。

 

確かに私には分からなかった。

けれど、その背景には泣き続ける少年の姿があった。

 

曇天の空の下、少年は泣く。

 

きっとあの少年は泣き続けなければならないのだ。

許される日が来ても少年は泣き続ける。

 

それが...きっと————————。

 

「・・・マスター?ぼんやりしてどうしたの?身体に何か異常があるの?」

 

マイルームとやらの鍵を言峰から貰い、行く途中で立ち止まった。

どうやら随分とその場に立ち止っていた所為かサモナーが心配している。

 

大丈夫。少し考え事をしていただけなんだ。

 

「ごめんね。きっと僕が宝具を使ったのが悪かったんだろう。今日はマイルームで休んでキートリガーは明日取りに行けばいい。」

 

キートリガー...確か言峰がサーヴァント同士で戦う為の条件だったか。

2つのキートリガーを集めなければ自動的に敗北が決まる。

流石にそれはうっかりどころでは済まない。

 

今日は少しだけでもアリーナに慣れておきたいから行こう。

 

確かキートリガーは普通のアリーナで取れるはずだ。

 

「僕は基本的には君の意見を尊重するけど・・・無理はしないでよ。」

 

分かっているさ。サモナーは心配性だから霊体化をあまりしない。

未熟者の魔術師である私を心配してくれるのは有り難いが、サーヴァントが狙われたら元も子もないのではないか?

 

「その心配は要らないよ白野。この校舎での戦闘は禁止されているし、アリーナでの戦闘も本戦以外では厳禁だ。もしも血気盛んなマスターが襲ってきても相手がペナルティを負うだけだよ。」

 

それはそうかもしれないけど・・・・・・、個人的にやはり不安になるものだ。

未熟なマスターにイレギュラーのサーヴァント。

 

それにサモナーのステータスまだ全部解禁されてる訳じゃないよ。

 

「あれ、そうだっけ?」

 

そうなんですよ。

 

「それはごめんね。じゃあマイルームに入ったら僕のステータスを全て君に見せるよ。」

 

いや全部じゃなくても・・・

 

「妻となる君に隠し事なんてしないよ。安心して、僕は不倫や浮気なんてしない。」

 

いやそう言うのも要らないから。

あ、マイルームって確か2-Bだったっけ?

 

「・・・・・・そ、そうだよ。」

 

若干サモナーが泣きそうな顔で窓の外を見る。

何がそんなにも悲しいんだよ...。

 

サモナーの求婚?を軽く流しながら2階へと辿り着く。

 

しかし、そこで出会ってはいけない人物に出会ってしまった。

 

「あら?貴女確か教会に入ろうとしていたNPCじゃないの。どうして此処に?」

 

そうだ。確かにあの時私は教会へ足を踏み入れようとしていた、が。

月海原学園のマドンナ・・・噂の赤い悪魔によって止められたのである。

 

「ちょっと貴女!今私に対して失礼な事言わなかった!?」

 

き、気のせいですよ。気のせい。

 

「ったく・・・ん?この気配は・・・。ねえ貴女...ひょっとしてマスター?」

 

一応、ですけどマスターです。

でも魔術師として私が未熟だからそんなに強くもないけどね・・・。

 

「それは君であって僕のステータスには全く持って関係ないから安心して。」

 

まじか!?だって言峰が、『サーヴァントの力はマスターによって変動する。』って言ってたじゃん!?

 

「それは普通に主人(マスター)従者(サーヴァント)の契約を結んだらそうなるけど、僕たちはそんな契約結んでないだろ。もっと深くて濃いい約束なら交わしたでしょ?」

 

身に覚えがありません。きっとあなたの気のせいですよ。

 

「何言ってんの?その証拠に令呪(れいじゅ)無いでしょ。」

 

令呪...。

って何です?

 

「ちょ、聞いてれば驚く事ばかりなんだけど。貴女令呪も知らないの?!」

 

なにぶん未熟者でして...聖杯戦争って単語も今日知ったばかりです。

と言うか見知らぬ間に参加してました。

 

「それ絶対におかしいわ!」

 

いやほんとそうですよね。

 

「開き直るな!そしてあんたは笑ってんじゃないわよ!」

 

どうやら彼女のサーヴァントが茶々を入れたようだ。

サモナーは最初みたいに霊体化しないんだね。

 

「当然だよ、僕は君の生涯のパートナー何だから霊体化してたら君の手を握れないだろ?」

 

「な、なにこのサーヴァント?」

 

いやほんとそうですよね。かなり困ってるんですけど悲しい事にクーリングオフ無効なんだよね。

返却したいのに返却できないのが辛い。

 

「・・・・・・流石に私も貴女に同情するわ。私のサーヴァントはまだいい方ね。」

 

言峰に言ってもムカつく笑顔を向けられるばかりなんだ・・・!

なんだよあの顔!絶対に人の不幸見て喜んでるぞ!

ムーンセルに頼み込みたいくらいだ・・・!!!

 

「白野は酷いなぁ・・・。僕よりもそっち(・・)の番犬の方が好みなの?まさか僕じゃなくて白野が浮気をするなんて・・・・・・。」

 

「えっ・・・・・・?」

 

いま・・・今なんといった?

私の隣に居るサーヴァントは何と言った?

 

私が驚くよりも目の前の彼女の方がよほど驚いている。

 

なんせ、霊体化して見えない(・・・・)筈のサーヴァントを指してサモナーは言ったのだから・・・!!!

 

「ん?白野一体何をそんなに驚いているの?まさか本当に浮気だったの?」

 

いやもうその話からお前は離れてろ。

そんな事よりもサモナー!お前見えてるの?!

彼女のサーヴァント見えてるの?!

頼むから見ていない、って言ってくれ!!!

 

「バッチリ把握できてるよ。何ならここで真名言っても良いけど?」

 

「ちょ!?あんた・・・!!!」

 

あーあーマイルームマイルームへ行かなければ!

サモナーいざ行かん、マイルームへ直行だ!

 

OK(了解)白野。発動、緊急脱出装置!」

 

サモナーは此処が校舎だろうと関係なく何かの装置に私を抱えて飛び込む。

 

するとどうだろう。

マイルームに入る為には鍵を通さなければならないのだが・・・、なんてこった。

そんな事をせずともマイルームに入ることが出来・・・た。

いやそもそもマイルームへ侵入する事は不可能な筈、サモナーは一体何をした?

 

「なに...って、君がマイルームへ直行したいって言うから、マイルームへ脱出と言う名の帰還をしたんだけど?」

 

そんなに簡単な事でしたっけ?

ここって厳重&頑丈じゃなかったっけ?

 

「そりゃムーンセルが管理してるルールはサーヴァントやマスターがあれこれと試行錯誤したところでそれは無駄に終わるけど、僕は月如きに管理される存在じゃないからね。」

 

ち、チーーーーートォォォオォォォオオオオオ!!!!!

お前のそれってチートオブチートじゃないかあああぁあああぁぁぁあ!!!

私この聖杯戦争に参加してるマスター全員にDOGEZAしなければいけないじゃないか!?

 

「ははは。面白い事を言うんだね白野。この聖杯戦争に参加しているサーヴァントの中にもチートオブチートは居るんだよ?」

 

マジで?其れマジで言ってるの?

本当じゃないですよね?嘘だと言って・・・あ、やっぱ言わなくていいや。

 

「いやあ・・・まさか上位種のあいつが居るなんて面白い戦争だよ。下手したら一瞬でこの戦争終わっちゃうのにね。」

 

い、言わなくていいって・・・。

さっきのもそうだけど、何で霊体化してるサーヴァントの情報が見えたり、そんな事も分かるの?

普通のサーヴァントは絶対に分からないよね?

 

サモナーは一瞬驚いた顔をし、不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「だって———————これは君の力なんだよ?」

 

 

 




サーヴァントのステータスが更新されました。


マスター:岸波白野


真名:■■■■
クラス:サモナー
身長:今は175cm
体重:不明
スリーサイズ:不明
属性:■■・混沌

パラメータ:筋力 C :耐久 E-Ⅹ :敏捷 B+ :魔力 EX :幸運EX

耐久がE-Ⅹなのはサモナーの真名が■■■であるがためにこうなってしまった固定ステータス。もはや豆腐ではなく豆腐を当てられたら死ぬレベルの耐久力。如何なる攻撃を避けたとしても余波で死ぬだろう・・・。

保有スキル

蘇生(Ex)万物の理を覆す能力。ランクEXともなれば蘇生ではなくそれは創造に等しい。

次元召喚(■■)本来ならサーヴァントが別次元から何かを召喚する事など有り得はしないが、サモナー(召喚士)であるが為の固定スキル。上位召喚するにあたって何かを生贄とする必要があるが、此処まで来てしまうと意味は為さない。

共鳴(EX)マスター潜在能力を最大限に使用できる能力。潜在能力がそのマスターによって違うのである意味何が起きるか分からない。

魔法(マジック)(トラップ)(■■)ありとあらゆる状況に適応できるスキル。マスターの指示次第では聖杯を超えてしまう。


宝具

さあ人よ!生き行く中で僕を超え、僕を否定するが良い!その先にあるものこそが人が求めた望み成り!
———————人よ僕を超えて逝け(これは人の試煉なり)

概要
ランク:? 種別:対人宝具 レンジ:1~??? 最大捕捉:???
■■が編み出した対人宝具。
対人となっているが何も一人を対象としているのではなくその星の全ての人類を対象としているので、対星宝具に変化する事が可能。
■■が人類に■■■として襲い掛かる。乗り越える事は不可能であり、超えてしまえばあるのは生きとし生けるものの「死」が待っている。




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第一回戦(中)

 

 

月の聖杯、ムーンセル・オートマトン。

それは地球を監視し、記録する電子の頭脳。

 

神が残した創造物(アーティファクト)

 

古より魂のみとなった魔術師達を招き入れてきた熾天の檻。

時代が進み、新たなる魔術師達はこう呼ぶ。

 

ありとあらゆる人類、人間の願いを叶える万能の観測機。

この世の全てを解明する、最後の奇跡・・・

 

——————七天の聖杯(セブンスヘブン・アートグラフ)と。

 

人類が誕生する以前から、地球の全ての生命、生体、歴史、思想、魂、その全てを観測し続けている設計図。

 

七つの階層を持ち、それ故に奇跡の聖杯、聖杯戦争の勝者のみが辿り着ける七天の聖杯・・・・・・。

 

「と、月の聖杯は願望機じゃなくて只演算処理能力が最上なだけ。だから勝利者の願いを叶える、じゃなくてその願いに未来を変える、と言った方が正しいかな」

 

マイルームにて聖杯の事をもっと知っておきたいと思い、サモナーに聞いてみたら驚いた。

 

しかし先程も言っていたが私の力とは一体何なのだろう?

サモナーに聞いてもはぐらかされて教えてくれない...。

 

「ところでマイルームって意外と面白いんだね。物は浮いてるし魚は泳いでるしで、一種の亜空間だねここは。」

 

そう。マイルームへ転移?したのは良かった・・・いや良くは無いが問題は部屋が滅茶苦茶だという事だ。

机や椅子はフワフワと部屋中に漂ってるし、なんか色とりどりの魚なんかも泳いでるしで一種のサーカス状態だ。

 

サモナーさんサモナーさん。これは本当に如何したことなんでしょうね?

 

「え~?マスターが何言ってるのか僕分かんな~い」

 

てへ、と頭を小突く仕草は・・・・・・全く持って可愛くないよ。

と言うかやっぱりお前が原因か!!!

さっさと自然体に戻して!それとあの魚たちは逃がそう!!!

 

「いいじゃないか。こんな体験人生に一度有るか無いかの貴重な体験なんだよ?楽しまなきゃ損だよマスター」

 

殺し合いにそんな体験は求めてません。

ああ...なんだか目が回ってきそう。私の足はちゃんと地面に付いてる?

 

「いや浮いてる浮いてる。」

 

ホントだっ!?なんか気づかぬ間に浮いてるし!サモナーもちゃっかり・・・楽しんでるだろ?

 

「だから楽しまなきゃ損だって言ってるでしょ?無重力体験も中々癖になるんじゃない」

 

ならない。寧ろもう二度と体験したくないよ。

私は早くアリーナに行きたいのだ、早急にこの空間を元に戻す事を提案する。

 

「はぁ・・・分かったよ。重力操作は解除するけど魚ぐらいは良いだろう?何もない部屋程虚しい部屋は無い。記憶が無い君にとっては初めての自室かもしれないんだ。これくらいの装飾は許して欲しい」

 

うっ・・・!そう言われると強く出れないのが悔しい!

ま、まあ魚くらいは別に良いよ。

 

「ありがとうマスター!その内海竜も呼ぶから賑やかになるよ」

 

すいませんそれだけは勘弁して下さい。

 

「え~・・・!大丈夫だよ君は僕のマスターなんだから襲い掛かったりしないって」

 

そう言う問題ではござらんわ!

部屋にそんな幻想種が住み着いたら胃に穴が開くわ!

もういいからアリーナに行くよ!?

 

「分かったよ。じゃあ魚類コンプリートを目指してちょっとずつ部屋を増築して・・・」

 

恐ろしい事を後ろで言っているサーヴァントはもう放って置こう。

アリーナってどこから行けるんだっけな?

 

「一回の用具室よ、岸波さん」

 

ふぁお!?

な、ななななな?!?!?!

 

何でタイg、じゃなくて藤村先生が此処に?!

 

親切に場所を教えてくれたのはまさかまさかの藤村先生。

先生もこの聖杯戦争のNPCだったとは・・・

 

「ん?私そんなに聖杯戦争の事良く知らないわよ?」

 

期待を裏切らない先生で本当に助かってます。

でもどうして先生が此処に?

 

「それが私の愛用の竹刀がアリーナの何処かに流されちゃったみたいなの。岸波さん今からアリーナに行くのなら取って来てもらえる?」

 

そんな暇はない・・・と言いたいところだが、先生にはお世話に成ったので良いですよ。

 

「ありがとう!流石私の生徒!取って来てくれたらお礼するからね!」

 

はーい。

 

あの・・・・・・勝手に頼み事引き受けても良かったサモナー?

魔術など生まれたての小鹿のように貧弱な自分が勝手な事をしてサーヴァントは困ってはいないのだろうか?

 

「全然。この聖杯戦争は君の聖杯戦争だ。君の好きに行動すると良い」

 

それは如何も・・・じゃあアリーナに行こうか。

 

階段を下り職員室とは真逆に進み、用具室を目指す。

...何故かその道中他のマスター達に驚かれたような顔をされたが・・・またサモナーが何か仕出かしたのだろうか?

 

「流石に傷つくなぁ・・・まあ他のマスター達の気持ちも分からなくはないんだけどね・・・」

 

やや呆れているような諦めているような顔でため息をつくサモナー。

おいこら理由を話しなさい理由を。

 

「あー・・・なんか凄く存在感が薄いマスターが居たんだな・・・って驚かれてるよ」

 

グサァッ!!!

 

し、心臓になんか槍が刺さった!!!

痛い、ものっ凄く痛い!

 

「いや僕の中では君の個性の強さに関しては今まで出会った人間の中でもトップクラスに位置してるんだけど・・・いかんせん君ではなく岸波白野と言う存在そのものが希薄で曖昧なんだ。だから度々NPCと間違えられるんだよ」

 

それってどういうことだ?

言って見ろ、さあ言って見ろ。私のアイテムには言峰がサービスでくれた『激辛麻婆豆腐』があるんだが・・・一杯逝っとく?

 

「さあいざ行かん!アリーナへ!」

 

激辛麻婆豆腐を見るなりサモナーは走り去った。

流石俊敏B+早いですね。

 

あれ・・・なんか私忘れてる?重要で私の命にもかかわるような何かを忘れているようないないような・・・気のせいならいいんだけど、何だったっけ?

 

まあいいか。

 

———————このまあいいか、が私の命取りになるのは直ぐだった・・・。

 

———————————————————

 

さて、用具室前まで来てみたら言峰が扉の前で待ち構えていた。

 

「アリーナに行くのかね?」

 

当然であろう。そこを退くのだ言峰。

 

「ふっ。ならば止めはしない、だが注意は怠らない事だ。アリーナには君の対戦者が君を待ち構えている」

 

私の対戦者・・・・・・シンジがアリーナに居るという事か?

何故シンジがアリーナに?

 

「アリーナには対戦者も入れるのだよ。ただし、その時の対戦者のみだがね」

 

それじゃあ・・・戦闘になる可能性もあるんだ。

 

「ああ。十分その可能性は高い。聖杯戦争は情報戦が命、少しでも相手サーヴァントの情報が手に入るのなら戦闘の一つや二つ軽いものだ」

 

だけどアリーナでは死闘や戦闘は禁止では無かったっけ?

 

「最初だけならセラフ(分身)が忠告に入って、其れでも止めなかったら両者共にステータスダウンのペナルティを負うんだ」

 

そんな大事な事もっと早めに言えよサモナーさんよ。

本当に麻婆食わせるよ?

 

「しょ、しょうがないだろ?!君に記憶が無いから僕だって忘れっぽくなる!不可抗力と言いたいね!」

 

ほほう、私に責任転嫁するのか?

よっぽどこの麻婆豆腐が食べたいらしいな・・・よいぞ、至高の一品を味わうが良い!

 

「やばい、マスターがどこぞの慢心王みたいな口調になってる。悪いけど其処を通してもらうよ言峰綺麗。この状況を楽しむのは後にしてくれ」

 

そう言ってサモナーは用具室の扉を開けた。

 

すると扉の中から光が溢れ、一帯を包み込む。

当然目なんか開けてはいられない。

咄嗟に目を閉じると、言峰が何か言った。

 

「最弱なマスターよ、珍しい事に君にメッセージが届いている」

 

———————光あれ、と。

 

それと同時に私は光に飲み込まれた。

 

———————————————————

 

「・・・ター、マスター。起きないと風邪ひくよ?」

 

声が聞こえる。

とても身近に聞く声で、私を願いへと辿り着かせると言った声が。

 

そうだ。ここで寝ては風邪を・・・じゃないだろ。

 

「何言ってるんだよ?君だったら幾ら電子の世界であろうと風邪くらい引きそうだよ?」

 

言い返そうと目を開けた。

 

アリーナは・・・私が想像していたよりもずっと神秘で満ち溢れていた。

 

周りは電子の海。

途方もなく続く情報の青。

サモナーの結界とはまた違う・・・ここはもうムーンセルの中なのだ。

 

「緊張なんてしなくていいよ白野。アリーナじゃなくて大きな水族館とでも思えば楽しめるだろう?雑魚(エネミー)は軽く蹴散らして、ゆっくりこのアリーナを見物しようじゃないか」

 

なんら変わらぬ声で話しかけるサモナー。

きっと彼なりに気を使ったのだろう。

お陰で少し気が楽になった。

 

「それは良かった。まあ敵も居るみたいだけど行けるところまで行こうじゃないか」

 

うん。トリガーが無理ならせめて藤村先生の竹刀を見つけたいな。

 

「お?何だマスター、藤村大河のお礼が気になってたの?」

 

そりゃあ・・・あの藤村先生のお礼がどんなものか見てみたいし...

 

「いいね!流石白野、トリガーよりもそっちを優先させる当たり素晴らしい!こうなったら始めっから飛ばしていくよ!」

 

黒いコートのポケットからカードらしき物を頭上へばら撒くサモナー。

一体何事かと驚いたが何と、ばら撒いたカードがサモナーを中心として回っている。

それこそ太陽を中心として周る惑星の様だ。

 

「いつでも行けるよマスター。む、これはある意味デートか?!」

 

良し行こうか。

道が二手に分かれてるな・・・サモナーどっち?

 

「...真っ直ぐ」

 

ガラスの様な床を一歩一歩歩いて行く。

途中エネミーらしきプログラムが襲い掛かって来たがサモナーがカードをナイフを投げるように飛ばす。

あれ?サモナー(召喚士)ってイメージしてたのとなんか違う。

 

もっとこう・・・何かを召喚して戦うのかと思ったらカード飛ばしただけだよ。

エネミーにカードが刺さって倒したのは良いけど・・・イメージが。

 

サモナー何故にカードを飛ばす?

 

「何か一気につまんなくなった」

 

子供かっ!?

あれかデートっぽくすればいいのか!?

 

「・・・隣を歩かせてくれたら君のイメージ通りに戦うよ」

 

あれ?隣を歩くだけでいいの?

なんかサモナーの事だからもっと要求されるかと思った。

 

隣くらい別に構わないよ。

と言うか大体隣に居なかったっけ?

 

「アリーナに入るとマスターの後ろに歩く事を強制される。まあ君が許可してくれたから、僕はもう関係がなくなった。さあ行こう白野!・・・・・・・・・・・・、と思ったけど無粋な奴らだな」

 

再び機嫌が悪くなったサモナー。

サモナーが見つめる先には・・・シンジとそのサーヴァントが待ち伏せていた。

 

「遅かったね岸波?僕はもうとっくにトリガーを見つけた所だよ。暇になったから鈍間なお前を待ってやったのさ!」

 

シンジ・・・。

 

「僕のマスターを鈍間呼ばわりとは・・・死にたがり屋なのかな」

 

「はっ。弱そうなサーヴァントが何言ってんだよ!どうせお前は僕のサーヴァントに傷一つ付けられないさ!」

 

「やってみないと分からないさ。そんなに自信があるならかかって来いよ小僧」

 

そう言ってシンジを挑発するサモナー。

 

シンジも弱そうなサモナーに小僧呼ばわりされたのが気に障ったのか、今にもサーヴァントを仕掛けてきそうだ。

 

「いいかいマスター。よく見ておくと良い、僕と、相手のサーヴァントを」

 

見る?指示はいいの?

 

「サーヴァント同士の戦いを見るのは初めてだろう?今は見ているだけで良い」

 

・・・分かった。でも出来る限りのサポートはするよ。

 

「それで十分だよ。さあ、セラフに止められる前に大きな火花を咲かせようじゃないか!」

 

「舐めやがって・・・いけ、サーヴァント!!!」

 

するとシンジの隣に居る顔に走った大きな傷が特徴の女性のサーヴァントが笑う。

 

「いいねえ。初戦があんたみたいな相手だなんて嬉しいね」

 

「僕も、またこうして君と戦うなんてね。ライダー(・・・・)

 

————————!?

 

「お、お前!?」

 

又だ・・・サモナーはあの時と同じように言った。

シンジの表情を見ると青ざめており、どうやらクラス名を当てたようだ。

 

しかし...何故だ?まだ戦っても居ないのにどうしてサモナーは言い当てたのだろう?

 

「へえ・・・あんたもしかして、生前のアタシを知っているのかい?」

 

「そりゃあね。何度も出会っているよ」

 

まじか!?

 

「はあっ!?お前一体何者だよ!?」

 

私もシンジに一票!

サモナーの正体が益々分かりません!

 

「マスターはこの戦争で分かるよ」

 

「くそっ...!もういいライダー!片付けろ!」

 

「はいよ。勿体ないけどくたばりな!」

 

ライダーは腰に装着していた二挺拳銃を持ち、サモナーに向かって発砲する。

サモナーは周りのカードで全て弾丸を両断している。

 

私はその光景を唖然と捉えるしか無かった。

 

金属音を立てて弾丸を弾くサモナーに、ライダーの弾丸の硝煙が漂う。

人間にしか見えないサモナーも、また人ならざるサーヴァントなのだ。

 

しかし・・・たった一発。

ライダーが撃った一発の弾丸が、サモナーを貫いた。

 

「っ・・・!!!」

 

そう・・・たった一発の弾丸でサモナーは両膝を付いて倒れた。

じわじわと赤い血がサモナーを中心に広がる。

 

「は...あっはっはっはっは!!!何だよ死んだのか!やっぱり僕のライダーに叶う筈無かったんだ!」

 

「・・・・・・。」

 

死んだ?サモナーが?

 

サモナーの傍に駆け寄ると、ライダーの弾丸が心臓を貫いていた。

そんな・・・!!!

 

余りにも早く、余りにもあっけない。

岸波白野のサーヴァントはこんな所で終わるのか?

 

————————————・・・。

 

「サーヴァントが死んだんだ。じゃあな岸波、恨むんなら弱いサーヴァントを恨むんだな」

 

カチャリ、とライダーの銃口が私の頭に向けられている。

此処で目を閉じたらきっと私は終わる。

 

けれど———————————、まだ、諦めたくない。

 

まだ...まだなんだ!

岸波白野と言う私の戦いは—————————まだ、始まっても居ないのだか!!!

 

 

 

 

「そうだよ。其れこそが君の本質。君の有り方。君の存在理由。だからこそ白野は選ばれた」

 

 

 

 

黒いコートが真紅に染まる。

心の臓を貫かれてもマスターたる彼女の叫びに召喚士は立ち上がる。

その瞳で真実を。

その心で死を。

 

彼女は乗り越えるサーヴァントと共に在り。

 

 

「出血大サービスだ、ライダー。幻想の嵐(ワイルドハント)を見せてやる」

 

呼ぶは幻想(混沌)

奏でるは終の魔笛




ごめんね白野。
キッチリ幸せを届けるから頑張れ。

そして鯖が一回死んだね。


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第一回戦(後)

 

それはムーンセル(月の聖杯)とて驚くべき現実。

過去の英雄でも不死や復活の能力を持つ英雄はいる。

 

だが・・・あのイレギュラーは違う。

 

不死などと言っていい訳がない・・・。

復活などと安いものではない・・・。

 

あれは、あれはサーヴァントなどでは無い。

神や上位種の存在などでもない・・・。

 

あれこそが、人の有り方————。

記憶し、観測し続けた人の有り方そのものではないか————————。

 

 

 

———————————————————

 

 

 

「な、何なんだよお前!?何で心臓撃たれたのに生きてんだよ!?」

 

ライダーの弾丸は確かにサモナーの心臓を貫いた。

そう・・・確かに貫いた筈だった。

 

「悪いね。僕幸運がお宅のライダーと一緒でEXな訳でさ。どういう事か、如何なる攻撃も心臓を貫く(・・・・・・)と確定でね。おまけに耐久は豆腐以下。避けても心臓を貫かれるから痛いんだよね」

 

ちょっと待てや。

何で幸運がEXのくせにそんなピーキーなの?!

と言うか何で普通に立ってられるの?!サモナー死んだんだよね?!

 

「落ち着いてマスター。終わったら話すから」

 

言ったな?

だったら早く終わらせなさい。

 

「はいはい。そんな訳だから今日は終わらせるよ。もうすぐセラフがやって来るからね」

 

「へぇ...どう終わらせるんだい?」

 

ライダーの弾丸がまたサモナーの心臓を貫くかと思われた。

 

が。

 

「止めなよ。僕は一度心臓を貫かれた相手の攻撃は当たらない。因果の逆転でも命中出来ない。君の攻撃は当たらない」

 

「チィッ・・・!!!」

 

「幻想が始まり、混沌が終わりを告げる。ああ、嵐がやって来る。

静まり給え、供物は此処に。眠り給え、寝床は其処に・・・・・・」

 

サモナーのカードが円を描く。

カードは皆バラバラな動きで円を描く。

 

しかしソレは指揮。

 

奏でているのはサモナー自身。

 

「終の使者は来た!召喚、———————混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)

 

アリーナ全体を揺らす振動と共に空間を引き裂いてソレは君臨する。

幻想種の中でも竜はその頂点に君臨する幻想種。

 

だが・・・これは幻想などでは無い。

人の幻想が、現実となって現れる...!

 

ソレはライダーを敵と認識し、咆哮を上げる。

 

「クッ...!!!まさか本物(・・)と出会えるなんてねぇ!」

 

幻想種の頂点に君臨する竜に・・・ましてや次元を超えて召喚された本物の君臨者に、幻想ではない人は抗う事すら許されない。

支配者に抵抗するなど許されない。

 

「よしよし。召喚できたのはいいけど存在感が有り過ぎて見つかったな、残念」

 

サモナーが召喚したドラゴンがライダーの首を噛み切ろうとした時だ、警報と共に警告のメッセージか表示される。

 

「混沌帝龍、もう良い。殺し合いはもっと相応しい場所で殺り合わなきゃ楽しくないだろ?」

 

サモナーの指示でドラゴンはライダーに興味を無くしたのか背中を向ける。

だが反撃は出来ない。

瞬き一つでそのドラゴンはライダーの首を落とすだろう。

 

「どうだい小僧。支配者に抗えない気分は?」

 

サモナーが呼び出したドラゴンに触れると、泡のように消えて行った。

 

「う、うるさい!ゲームは此処からなんだ!この位で勝った気になるな!!!」

 

そう言ってシンジはアリーナから消えた。

サーヴァントを休ませるためにアリーナから脱出したのだろうか?

 

そんな事よりもサモナー説明。

 

「うわあ、心臓撃たれた僕に辛辣な台詞を吐くね。ちょっとは休ませるかマイルームに帰るとか選択肢は無いの?」

 

はっはっは!ある訳がないだろう?

どうせマイルームに戻ったら話をはぐらかすに決まっているだろう?

 

「僕の信頼度低いな・・・。で、何から知りたいの?」

 

心臓を撃ち抜かれて何で生きてるのか、からお前のステータス本当に如何なってるんだ、まで。

ついでにさっきのドラゴンも。

 

「良いよ、まずは僕のステータスからだね。僕の耐久がE-Ⅹだろ?」

 

そうだね、初めて見た時は白目向くかと思ったよ。

いやもしかして白目向いてたかもしれない。

 

「これは・・・その、僕の真名が原因でね。月に侵入したのは良いけどそこでムーンセルと一戦交えちゃってね、これはその時固定ステータス化されたんだよ」

 

ほ、ほう・・・続けてどうぞ。

 

「で、こんな耐久じゃ豆腐以前の問題だ。それで僕は幸運のEXを違う意味でEXにしたんだ」

 

へ、へぇ~~~~・・・。

 

「ムーンセルと一戦交えた時、月の聖杯の一部を切り取ってやったんだ。思ったよりも結構便利なんだよこれ」

 

碧い片手サイズのキューブで遊ぶサモナー。

 

大丈夫、問題は無い。耐えろ私...!

 

「僕の幸運のベクトルを心臓に集中させることによって、一番の急所である心臓に相手の攻撃は心臓しか当たらせない、と言う相手の意思を逆転をさせる。これで耐久の問題はなんとかなって、死んでも白野と共に在る限り僕は立ち上がることが出来る。どんな形であれ、僕が殺されたら僕の心臓は死に耐性を持つ。一度目は許すけど、二度目は許さない。そいつは僕の心臓を狙うことが出来ない。命中できない。確定できない。決定できない。殺すことが出来ない。心臓を狙えばはずれる。矛盾が生まれて何も出来ない。そういう事なんだ」

 

えーーーっと、つまりはお前の幸運は相手の攻撃を相手の意思関係なく心臓に狙わせてあえて死ぬ。しかし私がマスターで有る限り復活出来る?

更に二回目の攻撃は許さず、攻撃は外れる?

でおk?

 

「そんな感じ。いやー理解してもらえて嬉しいな。あ、でも復活じゃなくて立ち上がる事が出来るだけだよ。見てよほら、傷塞がってないでしょ?」

 

ちょ!!!

スプラッタなもん見せるな!

なんかコートがまだ赤いなって思ってたら塞がって無かったとは・・・!!!

その傷って治るの?!

 

「治るって言うか過去の再現だね。切り取った月の聖杯の力で、僕の心臓を打たれる前の状態に戻す。

すると何という事でしょ~、コートも血塗れになる前に再現できました~!」

 

うわ~い!コートや他衣服やら元に戻ってる~凄いね月の聖杯~!

流石サモナー!

何やらかしてんだよおおおおおぉぉぉおおお!!!!

この馬鹿野郎がぁあああ!!!

 

余りにも予想外な発言ばかり聞き、衣服の上からサモナーの心臓があるであろう部位を鷲掴みするように力を入れる。

 

「ぐはぁっ!いでででだだだ痛い痛いよマスター!!!心臓が、再現したばっかりの心臓が潰れる!」

 

そのまま潰れてしまえっ!!!

 

なに月にやって来たって?

何でムーンセルとソードオブデスやってんの?

そしてなんで月の聖杯切り取って来てんの?

 

最弱なの?それともチートオブチートなの?

 

いやこいつは私の手で始末せねば。

 

「いでだだだだだだだだっ!!!怖いこと考えないでマスター!それとそろそろ離さないとほんとに心臓が潰れそう!」

 

心配ない。私があの世に送ってやるよ。

だから安心して逝くと良い。

 

ギリギリと手に力を入れる。

耐久がピーキーなので私の様な魔術師でもダメージは与えられる(心臓に)。

 

「ギブギブギブギブギブ!!!話さなくてごめんって!黙っててすいませんでした!!!どうか静まり給え!!!」

 

最近耳が遠くて何も聞こえないな?

はははここは電子の世界だっていうのにおかしな話だよね。

 

サモナーの悲鳴?

いいえ。私の耳には聞こえませんでした。

どうせどこかでのたれ死んでるんじゃないですか?

 

さてキートリガーと藤村先生の竹刀を探さなければ。

 

エネミーは何処かのサーヴァントが倒しまくってくれたおかげで数は少ない。

うんこれなら私一人でもアリーナを攻略できそうだ。

 

さっさとマイルームに戻ってゴロゴロしたいな。

 

「ま、ます、た・・・・・・。」

 

あ、サモナーが死んだ。

安心して、私は人でなしではないからね。

 

どうせすぐに立てるだろ?

さあ立てサモナー!!!

 

「た、逞し過ぎるよマスター!あと少しでほんとに死にかけたからね?!マスター(伴侶)に殺されるなんて悲し過ぎる!あ、待ってよマスター!立ち上がった君のサーヴァントなのに置いて行くのは酷くない?!待ってよ~!!!」

 

追いかけて来るサモナーを必死に撒き(無駄に俊敏B+もあるので直ぐに捕まった)、エネミーを避けながら(サモナーがカード投げまくって一掃した)、藤村先生の竹刀を見つけて(アイテムフォルダに罠がかかっていたがサモナーが除去)、最後にキートリガーを(ボロボロになりながら)入手出来たのは奇跡としか言いようがない。

 

藤村先生に竹刀を渡すと、何故かお礼に沢山のキャンドルを貰った。

電子の世界なので光は消える事は無い。

 

 

 

 

だが・・・・・・サモナーが面白がってキャンドルに改造を施し、校舎中をパニックにさせたのは言うまい。

 

 

 



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一回戦 本戦(前)

 

 

 

 

私とサモナーはマイルームで相手のサーヴァントの情報を整理していた。

 

七日間与えられた猶予はあっという間に過ぎて行き・・・遂に殺し合う日が来てしまった。

私はまだ聖杯戦争に参加しているという自覚が無いし、覚悟も無い。

そんな私の初戦が友人として接していたシンジ...。

彼には何か望みがあるのだろうか?

 

「まあ人は唯一願いを持つ生き物だ。何かしらの望みがあるんだろうよ。」

 

サモナーがシャボン玉を作って遊んでいる。

 

あのさ、今から私殺し合いの場に行くんだよね?

なんか緊張感が無い気が済んですが?

 

「殺し合いに緊張感なんて持ってってどうするのマスター。殺し合いに緊張は不必要だ。必要なのは寛大な気持ちだよ。もっと楽でいいんだよ。」

 

そんな事言われてもな・・・・・・。

アリーナでサーヴァント同士の戦いを見たわけだし、本気で殺り合うのなら凄まじい戦いになる筈だ。

命が懸っているのに呑気ではいられない。

 

「うーん・・・。別に君の言葉一つで何とでもなるんだけど...それは君次第って所かな。僕と白野は正式な主従関係を結んでいないから令呪(・・)無いんだけど、白野がその時に願う願いを僕は叶えるよ。」

 

そうだ・・・!!!

サモナーこんな時だけど令呪(れいじゅ)って何?

この前話してくれなかったでしょ。一体何なの?

 

「そう言えばそうだったね。令呪(れいじゅ)とはマスターに与えられる『3度限りの奇跡(絶対命令権)』。参加マスターのサーヴァントとマスターを繋ぐ契約書であり、この聖杯戦争に参加資格でもある。」

 

3度限りの奇跡(絶対命令権)...。

具体的にはどのようなもので?

 

「まず令呪は刺青みたいな赤い痣が手の甲に付与される。まあ正式な契約を結んだらの話だけどね...。令呪は全部で3画あり、全ての令呪を失ったマスターは強制的に失格とされ電脳死される。」

 

あのさ......私令呪無いんだけど?!

失格でも無いし死んでも無いよ?!もしかして私幽霊になったとか!?

 

...私の両手の甲を見てもそんな痣は無い。

 

「大丈夫だよマスター。僕がその令呪の役割を持ってるし、そのお陰で失格にもなってない。良かったね白野」

 

うん全然よくない。

何してんだよこのサーヴァント。

 

破天荒にも程があるでしょうに・・・。

月の聖杯(ムーンセル)に同情するよ。

何でこいつ聖杯戦争に参加させたんだよ...。

 

「マスターそう気落ちしないでよ。令呪はその名の通りサーヴァントに呪いの様な命令を出すことが出来るんだ。僕に勝手なことするな、とか聖杯戦争が終わるまで一切喋るな!、とかね。」

 

............おいこら。

そんな便利なモノどうして私には無いんだよっ!?

理不尽だ!不公平だ!

今から言峰の所に行って令呪貰いたいよ!!!

 

「いやもう遅いから、諦めなよマスター。君の命令なら3度と言わず何度でも従うからさ」

 

じゃあもう喋るな。

 

「あ、そろそろ時間だから行こうよマスター」

 

———————こんのくそがあああぁぁぁああああ!!!

命令だ!これはもう命令だから!!!

 

「ほらほら殺し合いの場に行くよマスター。意思疎通は会話から始めないと駄目だからその命令は聞けません」

 

もういやだ...こんなサーヴァント返したいよ...。

ムーンセル助けて...。

 

「全部の戦いが終わればムーンセルも助けてくれんじゃないかな?」

 

私の背を押すサモナーの表情は分からないが、声色からして嬉しそうだ。

ホント、何でこんなのがサーヴァントなんでしょうかね?

 

「そうだマスター。一応教会に行くかい?」

 

ん?何で教会?

あそこは立ち入り禁止じゃなかったっけ?

それに教会に行っても何も無かった気がするけどなあ・・・。

 

「あそこは魂の改竄が出来る場所になったんだ。もう立ち入り禁止じゃなくなったよ。」

 

魂の改竄?

なんぞそれ、初めて聞いたけどサモナーさん。

 

「忘れてました(てへ)」

 

心臓潰されるのと心臓を握り潰されるのどちらか好きな結末を選べ。

 

「どっちも一緒だし!!!?と言うか結末って僕死ぬ設定ですかっ!?」

 

当り前だ。

何が「忘れてました(てへ)」、だ。

 

そんな重要な場所があるのなら早く教えろよ。

今から行くよ教会に。

 

「わ、分かりました...」

 

マイルームから退出し、階段を下りて、保健室側の廊下を進み教会へ繋がっている扉を開く。

何故か月海原学園に教会があるのか不思議だったが、聖杯戦争に関係していたとは驚きだ。

 

ギィィイ...、と重々しい教会の扉を押し開く。

 

今思えば、教会へ足を踏み入れたのはこれが初めてだった。

 

そこは薄暗く、外の喧騒から遮断されていた。

この場所だけ、世界から切り離されているかのような印象を受ける。

並んだ長椅子には誰も座っていない。

 

しかし、正面に目をやると、鮮やかな赤と青色が目に飛び込んでくる。

赤髪の女性と青髪の女性。

 

「ん?見ない顔だな。君も魂の改竄(かいざん)をしにやって来たのか?」

 

「初めまして、私は青崎青子。そっちの偉そうな女は青崎橙子。よろしくね」

 

赤髪の女性が青崎青子、青髪でタバコ...ではないようだが、それらしきものを銜えて居るのが青崎橙子。

 

ご丁寧な自己紹介どうもありがとう。そしてすいません。

私も悪いんですけど、うちのサーヴァントが忘れんぼで、今まで教会に来た事が無いです。

 

そう正直に話すと、驚いたように相手が話しかけてきた。

 

「驚いたわ。今の今まで魂の改竄を知らないマスターが居たなんてね。って事はやっぱり貴女、素人中の素人なのね。」

 

「魂の改竄とは...簡単に言ってしまえば、君の魂を隣に居るサーヴァン......ト、に」

 

足を組んで座っている青崎橙子が私の隣に居るサーヴァントを見ると、有り得ないものを見ているかのような驚いた表情へと変化させる。

 

「君の・・・!!!君の隣に居るそいつは、本当にサーヴァント(・・・・)なのか?」

 

その意味が分からず首を傾げていると、青崎青子も驚いた表情でサモナーを凝視している。

 

「うそでしょ・・・?!貴女の隣のそいつ、サーヴァントなんて安いものじゃない!どう見ても月の聖杯(ムーンセル)がオーバーヒートになっても良い重量じゃないの!」

 

は?ムーンセルがオーバーヒートになる?

それって大事...ですよね。

 

「当り前だ。君は固有結界と言う魔術を知っているか?

強力な魔術を以って、術者の周りの空間を、全く別の空間に作り替える秘術。

固有結界の維持には膨大な熱量を要し、サーヴァントの強力な魔力を以ってしても、維持するのは長くて数分が限界。学園、アリーナ、そして、マスター同士が決する決闘場。

この全てが、聖杯がその桁外れな魔力を元に作り出した、個別の固有結界で、これほどの規模の固有結界を長期間、しかも複数同時に維持し続ける事は不可能だ。

聖杯の魔力の規模がどれほど凄まじいか、理解できるだろう。」

 

青崎橙子の話を聞いて、隣に居るサモナーを見る。

私の視線に気づいたのか、サモナーはドヤ顔で微笑む。

 

「凄いでしょ白野。僕がバーサーカーじゃなくて良かったね。もしも、サモナーじゃなくてバーサーカーだったら、月の聖杯戦争は終わってたね」

 

と。サラッと言いました。

 

その発言にドン引きする私と、顔が引きつっている青崎青子と青崎橙子。

サモナーが言った事が間違いではないのであろう。

 

「あ、貴女の隣のそいつに、魂の改竄なんて出来ないわ」

 

「...いや、別の意味で魂の改竄をすればいい」

 

青崎橙子が、何か閃いたのか、何かの術式(プログラム)を目で追えない速さで組み立てている。

その様子をあっけらかんと見るしかなかった。

 

そして一分も経たぬ内にその術式は完成した。

 

「青子、私が作ったこの術式(プログラム)をお前の術式(システム)に投入しろ。」

 

「何よこれ?」

 

「魂の改竄とはマスターとサーヴァントのリンク(繋がり)をより深くさせる。そのお陰で、サーヴァントはよりマスターと深く、関係を築けると言う訳だが...彼女のそいつは重量オーバーにも程がある。見れば正式な契約も結んではいないようだし、彼女とそいつの魂をリンクさせてしまえば彼女にも負荷がかかるに決まっている。」

 

「それで、これを一体何に使えって言うのよ?」

 

「分からないか?魂を改竄するのではなく、魂を解体(・・)すればいい。」

 

その台詞に驚いた。

改竄ではなく解体、つまり分解させるという事だ。

 

しかしそんな事をしてしまえばサモナーは消滅してしまうのではないか?

 

「いいえ、そいつは消滅なんてしないでしょうね。寧ろ消滅することが出来たら私達も苦労しないわ。」

 

「確かにな。」

 

ば、馬鹿な・・・・・・!?

そんなにも重たいのかこいつは?!

削っても削っても底が無いと言うのか!?

 

「まあこれは地道な作業と気力が必要ね。貴女も時間があればちょくちょく顔を見せなさいよ。じゃないと、そいつの所為で聖杯戦争どころじゃなくなるわよ?」

 

青崎青子が嘘を言っている筈もなく、私は力強く縦に頷くことしか出来なかった。

これ以上聖杯戦争を掻き乱してどうするんだよサモナー...お前一辺死んでみたらどうなんだ?

 

「いやだなぁ~僕は君といる限り死んでも立ち上がるよ。だって其れこそが君の本質()なんだから。」

 

なに訳の分からない事言ってるんだ?

さっさとbit単位まで分解されればいいのにね。

 

青子さん出来ますか?

 

「う~ん、やってみるけど私そんなに器用な方じゃないからなぁ...」

 

ですよね。

だってなんか青子さん、何処かの世界でビーム撃ってそうですもんね。

ああ、何か簡単に想像できる。

 

橙子さんはなんだか何でもできそう。

さっきのプログラムだって、あっという間に作ったあたり、凄い人なんだろうな。

 

「そりゃ青子よりも解体も改竄も十倍以上、上手く出来るさ。」

 

じゅ、十倍って。

なんだかそれは言い過ぎの様な・・・いや、あってるのか?

 

「あってるよマスター。赤髪の女よりもそっちの人形師の方が、何倍も上手く熟すだろうね。」

 

「姉貴に言われるのは百歩譲ってまだいいとして、あんたに言われる筋は無いわよっ!!!」

 

青崎青子を怒らせて楽しいのか、サモナーは腹を抱えて笑っている。

いやほんとこんなサーヴァントみたいな異常サーヴァントを連れて来て、すいませんでした。

 

サモナーもいい加減にしないと、激辛麻婆豆腐食わせるけど良いの?

 

「あ、はい。調子に乗ってスイマセンデシタ。どうぞ解体の程よろしくお願いします。」

 

深々と青崎姉妹?に土下座させる。

苦笑いをしつつ何だかんだで解体してくれる青崎青子。

解体は改竄と違って少し時間がかかるらしく、待って居て欲しいの事。

 

はぁ全く...これから殺し合わなければならないと言うのに、何故こんなにも疲れるのだろうか?

あぁ、言峰のムカつく笑みが見えそうだ。

 

『愉悦』

 

聞こえてきそうなので考えるのを止める。

 

アイツの元になった人間を見て見たいような見て見たくないような...何か、余り変わらない気がする。

 

教会の中で待つのも飽きたので、教会を出て直ぐ其処にあるベンチでのんびりと待つとしよう。

 

———————————————————

 

空を見れば0と1の蒼い空。

...そう言えば、私の記憶が全然戻らないな。

 

ふと思い返せば、私の記憶は空白だ。

 

思い出せるのは偽りの学園生活を送っていたというだけ。

後は全く持って思い出せない。

 

自分が何処で生まれ、何処で生活し、何をしているのか、などさっぱりだ。

 

だけど、稀に何か夢を見る。

それは空が赤く染まり、大地が炎で焼かれている地獄の様な夢。

 

そんな夢だが、何処か見覚えのある光景で、何故か夢から目が覚めても忘れる事は無かった。

そして、もう一つ...全く知らない夢を見る。

 

 

それは、曇天の空の下・・・。

 

 

—————少年(友達)泣いている(呼んでいる)

 

—————少年(親友)叫んでいる(呼んでいる)

 

—————少年(息子)憎んでいる(呼んでいる)

 

 

理解とは孤独。

絆とは鎖。

 

もっとも信頼し、心を許せた友を、■■■■■が殺した。

気分はどうだい?

生きている心地がしないんじゃないか?

 

ああ、お前は愚かで残酷な人間だ。

 

しかしだからこそ憎しみがお前の力となる。

染めて見せろ、お前の魂で...!

無垢なる心を憎しみで染めるが良い。

 

後悔しろ。

 

泣き喚け。

 

己を憎め。

 

お前が犯した罪を、箱庭の中で泣いて悔やむが良い。

 

許される時など来やしない。

お前はそこで泣き続けろ。

 

 

 

———————曇天の空の下、少年はただひたすら涙を流し続ける。

 

 

 

そんな夢を、見た。

少年の姿は影のように霞んでいて認識できなかった。

 

それでも、涙は零れていた。

少年の瞳から溺れ落ちていた。

 

何かに謝り、悔やみ続けている、少年の夢。

 

 

「お待たせ...って、マスターが泣いてる?!」

 

 

解体作業が終わったのだろう。

サモナーがひょっこり帰って来た。

 

泣いている・・・・・・?

私が泣いているの?

 

そっと頬に触れると、確かに涙の様な雫が頬を伝って流れている。

 

「・・・・・悪夢でも見たのなら蓋をして見なかった事にすればいい。悲しい夢なんて見てもつまらないだろ。さ、本戦に行こうじゃないか。」

 

ベンチに座っている私に、スッと手を差し伸べるサモナー。

私は何故かその手を取るのを躊躇った。

 

しかし、結局はその手を取らなければ前には進めない。

 

「そうだ。君はまだ未完成の器。中身を満たすために戦いに行こう、白野。」

 

サモナーの手を取り、立ち上がる。

 

そうだ、岸波白野はまだ何も達成できてはいない。

こんな、こんな所では止まってはいられない。

 

私はまだ、死ねないのだから・・・・・・。

 

 

 

 





次くらいでシンジと戦う(予想)


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一回戦 本戦(後)

 

 

 

「ようこそ、死地へと赴く勇気は君にあるか?」

 

一階の用具室の前で言峰が此方を待っていた。

 

殺し合いの場へ...私は行く。

勿論だと頷く。

 

「細やかだが幸福を祈ろう。君が再びこの校舎へ戻れることを・・・。」

 

言峰が退くと、その後ろにはエレベーターがあった。

そうか、このエレベーターを動かすためにキートリガーを集める訳か・・・。

 

二つのキートリガーを左右にはめ、エレベーターのロックを解除する。

するとエレベーターの扉が消え、中に入れるようになった。

 

「若き闘士よ————————存分に殺し会え。」

 

エレベーターに入ると、扉は閉まり、下へと降りて行く。

 

...そして、このエレベーターの中にはシンジとそのサーヴァントも乗っていた。

 

「なんだよ岸波、お前逃げなかったのか?ほんと、真面目だよねぇ。」

 

透明な壁の向こうにシンジは居る。

その表情は今から殺し合うと言うのに何処か楽しそうだった。

 

「あのさ、岸波。お前どうせ僕に勝てやしないんだから棄権しても良かったんだぜ。そうすれば、僕もお前を見逃すことだってできたんだ。」

 

・・・確かに、私は魔術やその全てにおいてシンジに勝っている訳ではない。

だけど、だけど...そんなの、やって見なければ分からないじゃないか・・・。

 

「・・・・・・はっ。お前ってホントに馬鹿だよね。凡人が如何に努力しても天才に届くわけないのにさ。それに僕は誰にも負けないだ。僕も天才だけど、僕のサーヴァントは無敵だからね。」

 

「.........さっきから、黙って聞いていれば良く吠えるな、ワカメ頭。弾を装填出来るほどの魔力持ってないだろお前?折角、白野が立ち上がって立ち向かおうとしてるんだ。邪魔はしないでほしいな。と言うかもう黙れ、僕と白野の空間を汚すな。」

 

余程シンジが言った台詞が気に障ったのか、サモナーの顔に青筋が出ている。

それと、お前こそ黙りなさい。

 

そんな神聖化しなくていいから。

 

「ぶー...白野は連れないな。それと、僕は別にそのワカメが言った台詞に苛立ってる訳じゃなくて、そいつが男だから苛ついているんだよ。最悪だ...全く持って初戦がこんな雑魚だとは、本当に最悪だ...。」

 

やれやれと、それはそれは深いため息をつくサモナー。

シンジが怒って反論しているが、もうサモナーはシンジを見てはいない。

いや興味はもう無くなったと言うべきか。

 

ポケットの中からカードを出し、枚数を数えている。

 

そして、軽い振動と共にエレベーターが止まった。

終着点まで来たのだ...。

 

「もういい。ふざけたサーヴァント事消してやるよ。圧倒的な実力を思い知ればいい!」

 

ハッハッハ・・・!!!、と笑いながらエレベーターを出るシンジ。

その様子をサモナーは呆れながら見ていた。

 

「マスター、あんな小者に僕の宝具は使いたくない。正直男が相手だなんて殺る気が削がれた...。軽く遊ぶだけじゃダメっすか?」

 

何を言ってるんだよ...。

そんなに男が嫌なのか?そんなに嫌なら私も男に成りたかったな...。

 

「いや君は男女関係ないよ。個人的にあいつが気に入らないだけだから。」

 

何故シンジをそこまで毛嫌いするのか聞きたかったが、ブザーが鳴り早く降りろと指示をされた。

この聖杯戦争でピーキーかつ予測不能で、謎が多いサーヴァントはサモナーの他に居ると...胃が痛くなりそうだ。

 

「へえ、思ったよりも豪華な闘技場だね。」

 

エレベーターから出る。

 

闘技場と言われるくらいなので、コロッセオをイメージしていたが、そうでは無かった。

此処はまるで船の墓場。

木片や巨大な船が漂う海の中。

 

「お前の墓場に丁度良いじゃないか、ライダー。」

 

「はっ。アタシは死に場所なんてどこでもいいのさ。人間死ぬ時は皆一緒なんだ、贅沢なんて要らないよ。」

 

「流石、大海賊なだけはあるね。」

 

そう。マイルームにてサモナーと情報を纏め、答えを出した。

まさかと思ったが、もう間違いはない。

 

その名は————————

 

 

海の悪魔(エル・ドラゴ)・・・フランシス・ドレイク」

 

 

生きたまま地球を一周し、イギリスを導いた人類最初の偉人。

そして、『太陽の沈まぬ国』と言われたスペインの無敵船隊を、たった八隻の船で落とした大海賊。

 

男だと知られていたが、まさか女性だったとは・・・本当に驚いた。

 

 

「有名人は有名すぎて辛いねぇ・・・そう言うあんたこそ、正体は大体分かったよ。」

 

「はあっ!?何で言わなかったんだよライザー!?あいつの真名、一体何だよ?!」

 

それは私も物凄く気になる。

期待の眼差しを込めてライダーを見つめるが、

 

「そいつは自分で知らなきゃ意味がねぇよ」

 

と、言われてしまった。

 

「いやあ、初戦から大物に当たるなんてラッキーじゃないか。」

 

「どこがラッキーなんだよ!?良いからあいつの真名が教えろよ!」

 

シンジはまだ諦めてはいないらしく、サモナーの真名を聞き出そうとする。

 

「そいつはこの戦いで分かる、さっ・・・!!!!」

 

 

ライダーが突然発砲してきた。

 

弾をカードではじき返すサモナー。その表情は何処か楽しそうだ。

 

「良いぞ!流石何度も戦っただけは有るじゃないか!僕の正体に気付いたせめてもの祝杯だ、大物を召喚してやるよ!!!」

 

サモナーの周りをグルグルと周っているカードを二枚抜き取り、天高く上げる。

 

「此処に誓いを立てよう!

全ての生物の根源よ、私は此処に誓いを立てる。

右手には黄金の杯を、左手には英知の結晶を。

そして、今目覚めるは忘れられた天災、嵐である!!!」

 

「ライダー!詠唱を止めさせろ!!!」

 

シンジの指示でライダーはサモナーを攻撃するが、その攻撃は、サモナーを取り囲む謎の竜巻によって防がれた。

 

 

「何だいありゃ!?」

 

「そんなの僕だって知るか!!!」

 

「誓いは今、交わされた。

召喚————————要塞(ようさい)クジラ。」

 

サモナーを取り囲む竜巻が一つとなり、巨大な嵐となり、その姿を現す。

 

額に一角が生え、巨大な砲と一体化している巨体なクジラ・・・!

決闘場を押しつぶすかのような重量と、威圧感。

 

「標的はライダー、放て!!!」

 

サモナーが手を振りかざせば、その砲弾がライダーに向かって発射される。

 

サーヴァント一騎にそれはやり過ぎなんじゃ!?

 

「何言ってるんだよマスター。相手のクラスが何か忘れたわけじゃないだろう?」

 

爆音と騒音の中、周りの船が炎上する。

これほどの威力がある攻撃を避けられると言うのか?

 

「なに、相手はライダー(騎乗兵)。この程度の攻撃でくたばるのなら、僕は居ないよ。」

 

そんな事・・・!

 

『砲撃、用意!撃てえ!!!』

 

灼熱の炎と黒煙の中、要塞クジラに向かって砲撃が放たれる。

その声は間違いなく、

 

「ははははは!!!良いぞライダー!あんな図体だけのデカブツなんて撃ち落とせ!!!」

 

煙を引き裂き、黄金の船が現れる。

 

あの船は、そうだ。

ライダーの宝具・・・!!!

しかし、要塞クジラと比べると小型船に見える。

 

交わせるはずもない攻撃をどうやって...!?

 

「その答えはとても明白だよ、白野。あいつは生きたまま世界を一周成し遂げた伝説の大海賊。ありとあらゆる困難を切り開いたあの女には、『不可能を実現可能にする』事が出来る。だから、要塞クジラの砲撃も避けれた(・・・)んじゃなくて、避ける(・・・)ようにした、って事だよ。」

 

え?ナニソレ?

チ、チート・・・?

初戦から、私達チートと戦ってるの?!

 

「いや、あのスキルは敵が自分よりも強ければその効果を発揮するんだ。相手が要塞クジラだから、しょうがないよね。」

 

いーやぁぁぁああぁあぁあ!!!!

何してくれてんのこのサーヴァント!?

態と敵を強くさせる様な事しないでくれよっ!

 

私達負けちゃうよ?!ホントに負けちゃうよ!?

 

サモナーのコートの襟を掴んで思いっ切り揺さぶる。

ホントに心臓潰してやろうかな、こいつ。

 

ますだぁふいひdふぁ(マスター、落ち着いて)!」

 

これが落ち着いてられるという状況か?

やっぱり心臓潰す。

 

「あーっはっはっは!やっぱりお前は天才である僕に勝てる筈も無かったんだ!ライダー、宝具を使え!」

 

「はいよ。じゃあここらで花火を打ち上げるとしようじゃないか!」

 

ハッ!?しまった!

相手の宝具が発動される!

 

「野郎共、嵐の夜(ワイルドハント)の始まりだ!」

 

ライダーの掛け声と共に、歓声を上げながら煙から出て来る戦艦。

合計は・・・全部で八隻!?

 

 

「あたしの名前はテメロッソ・エル・ドラゴ! 太陽を落とした女ってな!」

 

 

その宝具の名は、黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)

 

当時、無敵を誇っていたスペインを打ち破った戦艦達...!!!

まずい、ライダーのチートスキルとあの戦艦の攻撃をまともに食らう訳には...!

 

 

「迎え撃て、要塞クジラ!!!」

 

 

って、おいおいおいおいおい!!!

サモナーさん、また何言ってるの?!

 

あの攻撃を受けたら私達きっと死ぬ!いや死ぬ!絶対に死ぬ!!!

 

 

「大丈夫だよ白野。あの宝具は一回ぽっきりの攻撃だ。未熟者マスターのお陰で2回目は来ないって事だよ。」

 

 

あの、それどちらのマスターの事を言ってるのかな?

私か?それともシンジ?

 

 

「空気を読んで、ワカメのマスター。」

 

 

よし。それなら許そう。

 

 

「さあ、派手に逝っちまいな!!!」

 

 

光り輝く黄金の船体の砲撃が、私達に襲い掛かる・・・!!!

 

 

 

 






次で決着。


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一回戦 終戦

 

 

直撃する、と思ったら、

キィィイィィイン、と金属を弾くような音と同時に、激しい爆発音が決闘場に響く。

 

咄嗟に目を瞑ってしまった所為で何も見えないが、そのお陰良く周りの音が聞こえる。

 

シンジの叫び声。

ライダーの銃の発砲音。

 

そして、サモナーが弾く音。

 

 

「マスター、もう目を開けても良いよ。」

 

 

サモナーが私の肩を軽く叩く。

 

恐る恐る目を開けると、

眼前に広がる光景に、息をのんだ。

 

 

「チィ・・・やっぱり、あんたとの相性は最悪だよ・・・・・・。」

 

サモナーはどうやら無傷のようだが・・・

ライダーは...

心臓部から、赤い液体、いや血が流れ出ている。

有り得ない光景でもあった。

 

本当に、今度こそ死ぬかと思った。

それなのに...

 

 

「な、何でだよ!?何で僕のサーヴァントが負けるんだよ!?凡人の岸波に、天才の僕が!負ける筈なんて無いんだ!!!」

 

 

そう、確かに私はシンジに勝てた事など一度も無かった。

だけど・・・

 

―————————勝敗は決した。

 

ライダーは立ってはいるが、もう指一本も動かす事は出来ないだろう。

 

心臓だけでは無く、腕や足からも流血している。

 

 

「くそっ・・・!!!ライダーもう一度、宝具を使え!!!」

 

「そりゃ無理な話だね。アタシ、心臓刺されたし?もう身体も消えるっぽいよ?」

 

 

そう言ったライダーの身体は、少しずつ黒いノイズに飲まれている。

 

 

「何だよそれっ?!僕はお前の所為で負けたのに、お前は一人で消える気かよ!?」

 

「ああ・・・・・・、確かにアタシの所為かもしれないが...」

 

 

ライダーはサモナーを見ると、満足そうに笑う。

やはり、サモナーの正体が何か分かっているのだろう。

 

 

「あんたを負かすのは簡単だが...やっぱり勝つのは無理だったねぇ...。」

 

「そうかい?それは僕にとっての褒め言葉だ。有り難く受け取っておくよ。」

 

「何呑気に話してんだよ!?畜生!僕が負けるなんて!こんなゲームつまらない、つまらない!!!」

 

 

頭を掻き毟るシンジを、私は黙って見ていることしか出来なかった。

そんな私にサモナーは話しかける。

 

 

「戦いは終わった。部屋に戻ろうか、マスター。」

 

「岸波!こんなゲームに勝ったからっていい気になるなよ?!地上に戻ったら、お前が何処の——————」

 

 

シンジが良い終わる前に、シンジと私の間にファイアウォールの壁が現れた。

そして・・・、シンジの手や足、身体さえも、ライダーと同じ黒いノイズに飲まれて行こうとしている。

 

 

「な、なんだよ、これっ!?僕の身体が消えて行く・・・!!!こんなログアウトなんて知らない!」

 

「おいおい、シンジ。マスターなら聞いて筈だろ。聖杯戦争で敗れた者は死ぬ、ってな。」

 

「はあっ?!し、死ぬって...そんなの脅しに決まってるじゃないか?」

 

「戦争に負けるんだ。死ぬのは普通だよ。大体、こんな場所に来た時点で皆死んでるようなもんだよ。生きてここから出られるのは聖杯戦争の勝者だけ。」

 

 

そんな・・・!!!

ライダーの話は、本当なの?

 

「・・・・・・。」

 

サモナーに聞いても、彼は口を開こうとはしなかった。

 

 

「お嬢ちゃん、あんたのサーヴァントだが...余り信頼を寄せちゃだめだぜ。」

 

 

————————え?

それは如何いう...。

 

 

聞き返そうとするが、彼女はサモナーを見て苦笑いし、消えて行った・・・。

 

人類最初の、生きたまま世界を一周した英雄。

偉大なる航海者は、最後まで楽しげに笑っていた。

 

だが・・・・・・

その最後は、シンジの結末、避けられない『死』をはっきりと告げていた。

 

 

「あ、あぁぁぁあぁあ!!!消える!僕が、地上の僕が消える!!!助けろよ!助けてくれよ!僕はまだ、八歳なんだよ?!」

 

 

シンジ——————!

 

思わず手を伸ばすが、シンジは—————消えた。

間桐シンジと言う男の存在が、完全に。

 

 

 

・・・・・・聖杯戦争の一回戦は、こうして終結した。

 

 

 

——————————————————

 

 

 

 

シンジが死んだ?

私が生き残った?

 

 

本当に?

本当に、命が一つ、消えてしまったと言うのか?

 

 

「やっぱり、仮とはいえ友達を失ったら辛いか...」

 

 

...サモナー?

ここは・・・・・・マイルームか。

 

どうやって帰って来たか記憶が無いが、マイルームに座り込んでいた。

 

 

「覚えておくと良いよ。友を失う、と言う喪失感。其れだけは...忘れちゃいけない。たとえ覚悟が未だに決まらずとも、絶対に・・・。」

 

 

・・・覚悟。

 

シンジは死んだ。

理不尽なまでに、意味も説明もないままに死んだ。

 

きっとこの先覚悟も無いまま戦いに挑めば、私は直ぐに死ぬ。

 

でも、覚悟なんて持てる気がしない。

 

 

「マスター...君は優しい人間だね。」

 

 

唐突に...何でそう思う?

 

 

「だって、君泣いているじゃないか。その涙、よく知っているよ。」

 

 

サモナーの言う通り、私は泣いていた。

 

前に進むしかないと頭では理解できても、涙は出る。

それは失った友への手向けか、同情か、或は悲しみからかは分からない。

 

それでも、涙は止まらない。

 

 

「僕が居るからって、遠慮なんかいらない。泣ける時に泣いておこう。」

 

 

サモナーは、部屋に置いていた小さな箱を手に取り、それを開ける。

その箱はどうやらオルゴールであり、何の曲か分からないが、悲しみの籠った曲。

 

 

「この曲は、哀れな一人の男が、愛する女性を思って作った鎮魂歌(レクイエム)。」

 

 

サモナーなりに気を使ってくれているのだろう。

何時もなら、何か仕出かすサーヴァントだが、この時だけは静かにオルゴールを聞いている。

 

 

 

————今は、今だけは、泣いても良いんだ・・・。

 

 

 

 




や、やっと終わった...
一回戦でこんだけかかってんじゃ、
残り6回かけるんかいって話になりそうだ。



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第二回戦(前)

 

 

目的の無い旅。

 

海図を忘れた航海。

 

 

君の漂流の果てにあるのは、迷った末の無惨な餓死だ。

 

 

・・・・・・だが、

 

 

生に執着し、魚を口にし、星の巡りを覚え、

 

名も知らぬ陸地を目指すのならば、或は・・・

 

 

誰しも、始めは未熟な航海者に過ぎない。

 

 

骨子の無い思想では、聖杯には届かない。

 

 

 

 

2.arousal/border alliance

 

 

 

 

 

ピピピピ…と無機質な音が鳴る。

そう言えば、携帯端末の目覚ましだったかな…。

 

モゾモゾと手を伸ばしたら、暖かい何かが……

 

 

「........みや、......ブッ殺............」

 

 

寝言を言っている、サーヴァント。

まあ、寝ているのはまだ許す。

昨日の夜は、大変だったから気持ちも分かる。

 

だがな…何でお前も私のベッドで寝てるんだい?

 

だが私はもう慣れたぞ。

幾ら何でも、サーヴァントに振り回されるという事態は避けたい。

ここは落ち着いて…………

 

 

サモナー。

いい加減に起きないと、その心臓握り潰して、ムーンセルに投げつけちゃうぞ(覇痕(はあと))。

 

 

「おはようございます、マスター!いい朝ですね!」

 

 

音速を超えた速さで飛び起きるサモナー。

 

さて、何か言い訳があるなら聞くけど?

そして、その答え次第では、お前の心臓は潰されているでしょうね。

 

 

「マスター!幾ら何でもそれは酷いよ?!君みたいな可愛い子を、手を出さずに寝た僕を、寧ろ褒めてもいいんだよ?!普通だったら、君襲われても良かったんだよ?!」

 

 

ははは、今日は目覚めは最悪だね。

朝一番に、どっかの誰かさんの心臓を握り潰す、と言うグロテスクな行動をとらねばならんとは・・・やれやれだ。

 

 

「お、落ち着いてマスター!ホントに手なんか出してないから!?指一本も触ってないから!横で寝ただけだから!?」

 

 

はぁ・・・昨日の友は、今日の敵、か。

成程、こういう時に使われるのか。

 

ありがとうサモナー、君のお陰で学んだよ。

 

 

「ヒィッ!?ま・・・・・・マスタァァァァアアアァァ!!!」

 

 

———————————————————

 

 

 

そうだ...そう言えば、第二回戦の相手が決まったと、連絡が来ていたな。

すっかり忘れていた。

 

掲示板に展示されている筈だ、それを見に行かねば。

 

 

一回戦が終わり、二回戦目に突入している。

私は一晩中、泣き続けたが、未だに覚悟など持ててはいない。

 

128人のマスターも、64人に成り、参加者はそれぞれ何を思うのだろう。

 

私の様に、訳も分からないまま参加したマスターは他に居るのだろうか?

 

 

「いやいや、岸波白野以外そんな人物居ないから安心して。」

 

 

...チッ。

なんだ、もう復活したんだ、サモナー。

 

 

「生死の境を彷徨って、何とか立ち上がったサーヴァントに、白野は辛辣だねぇ。僕心臓よりも心が挫けそう。」

 

 

そうか、そのまま挫けていても、私は構わないよ。

と言うか、出来るならそうして欲しいな。

 

 

「う、目から海水が・・・!」

 

 

掲示板を見ると、そこには自分の名前と...対戦者の名。

 

————ダン・ブラックモア。

 

 

「フム・・・次の対戦者は君か。」

 

 

いつの間にか、私の隣には老人が立っていた。

 

髪は混じりけの無い白。

顔や体にも、老いている様子が見られる。

 

しかし・・・老いているのならば感じられる、衰えが、この老人には感じられない。

 

 

「君は若いな。年齢もそうだが、実践の経験が無いに等しい。」

 

 

スイマセン...全く持ってその通りです。

 

 

「・・・君は迷ってはいるが、小さな決意は持っている様だ...。」

 

 

細められたその瞳には、一体何が見えると言うのだろうか。

そして、ダン卿はそのまま階段を下りて去って行く。

 

 

「その決意。努々忘れてはならんぞ・・・」

 

 

と、私に言い渡して・・・。

 

 

「二回戦目の相手は・・・また厄介な相手だね。どうする、アリーナに行ってトリガーでも入手しておく?教会に行って、僕の解体をするのでもいいし...今日は自由に行こうか。」

 

 

大体自由に行ってると思うけど、そうだね...。

最初に、教会に行ってアリーナに行こう。

藤村先生の、お願いがまた有るかもしれないから、準備はしっかりしておくよ。

 

 

「・・・マスターが、どんどんイケメンに成りつつあるのは何故だ・・・?!昨日の夜の、か弱き乙女モードだった愛らしい白野は何処に行った?!」

 

 

フム・・・おかしいな。

どうしてこんな所にアゾット剣が落ちているの?

きっとサモナーを後ろからサックリ心臓を刺せって事なのかな?

 

 

「何で、そんな物騒な概念礼装が、こんな廊下に落ちて・・・って、おいそこの、口元が歪んでる下種神父。お前の仕業か?」

 

「はっはっは、何のことか分からないな。私は只のNPCに過ぎないのでな。」

 

「ほざけ?!どうせどっかに、黒鍵とか言う物騒なもん仕込んでんだろ?白状した方がムーンセルの為だよ。」

 

「いやはや、信用されないとは悲しい事だな。私の手持ちは泰山特製の麻婆豆腐しかないと言うのに。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・い、行こうかマスター。」

 

 

言峰、その麻婆豆腐だが、分けて貰っても良いだろうか。

泰山特製なら、尚更だ。

 

 

「ちょ、白野駄目だよ?!君はそろそ麻婆豆腐から離れた方が良いって!あんな真っ赤の料理、英雄だって食べるの避けるからね?!」

 

「何を遠慮する必要がある?手持ちのストックがこれだけしかないが、持って行きたいのなら授けよう。」

 

「止めんか外道神父?!!!こうなったら・・・強制転移、発動!!!」

 

 

もう少しで泰山の麻婆豆腐に手が届く・・・筈だったんだ。

サモナーが邪魔さえしなければ、私は麻婆に有りつける・・・筈だったんだ。

其れなのに、其れなのに・・・。

 

あぁ・・・この手は桃源郷(マーボー)を掴めなかった・・・。

 

 

「...ねぇ、何であの子泣いてるの?」

 

「・・・・・・理由は聞かないで欲しい。こっちも色んな意味で泣きそうだから・・・。」

 

「?」

 

「青子放って置け。今は解体に集中しろ。」

 

「分かってるわよ!」

 

 

マボォォオ...食べたかった。

泰山の麻婆豆腐...食べて見たかった...。

 

 

「そんなに泣くぐらい食べて見たかったの?!白野、昨日の夜よりも泣いていないかい?!」

 

 

何を言ってるんだサモナー。

始まりは麻婆豆腐から進み、最後は麻婆豆腐で終わる。

これはもう常識と言っていい。

 

 

「意味が分からないんだけど?!そんな常識初めて聞いたよ!」

 

「仲が良くて結構だわ。さ、今日の解体はこれで終わりだから、さっさとアリーナにでも行きなさい。」

 

「全くだ。ああ、部下が淹れるコーヒーが飲みたいよ。」

 

 

お礼を言って教会から出る。

サモナー、ちょっと言みn「駄目だ。」

 

ち、何てサーヴァントなんだ。

しかし、甘いな。

財布は私が持っているという事に...。

 

 

「君こそ忘れてるんじゃ・・・マスターッ!」

 

 

何かに気付いたサモナーが、咄嗟に私を庇う。

何事かと思えば、目の前に眼鏡をかけた、褐色肌の少女が居た。

 

 

「そんなに警戒しないで下さい。私は只、彼女に協力したいだけなのですから。」

 

「・・・蔵書の巨人(アトラス)人造人形(ホムンクルス)が、何故マスターに協力を申し出る。マスターがそっちに申し出るのは分かるが、そっちから声を掛けるなんて意味が分からない。何を知りたい(・・・)。」

 

「やはり普通のサーヴァントでは無いのですね。私が求める答えは一つ。師が私に言った、『人形である私に、命を入れる者』の意味を知りたい。その為に、イレギュラーな存在である貴女のマスターに協力を要請したいのです。」

 

「・・・・・・どうする白野。僕は協力しても良いよ。」

 

 

・・・・・・え、っと。

協力しても良いんだけど・・・まずは自己紹介からかな。

 

私は岸波白野。

 

 

「ラニ=Ⅷと申します。以後、お見知りおきを。」

 

 

あ、ご丁寧にどうも。

こんな私に協力してくれる人が居たなんて驚きです。

ラニの協力、申し出るよ。

 

 

「ありがとうございます。では、早速ですが・・・」

 

「あ、ちょっと待った。サーヴァントの情報は良いからさ、白野と友達になってくれないかい。」

 

 

は?

 

一瞬、目が点になった。

サモナー何言ってんの?

ラニの顔見て見なよ、私よりも驚いてるよ?

 

 

「良いじゃないか。どうせ相手サーヴァントの星を詠むつもりだったんだろ?そんな面倒くさい事は放って置いて、もっと学園生活を楽しまなきゃダメだろ?君たちはまだ女子学生なんだから。」

 

「・・・私には、貴公が言っている意味が分かりません。」

 

「近道を言ってやってるんだよ。人形だって、人間と触れ合えばその意味が分かるようになる。ちょっとした人間観察だと思えばいい。な、簡単だろ?」

 

「・・・・・・貴女(白野)はそれでも良いのですか?」

 

 

ん?別に構わないよ。

何かあったらサモナーの所為に出来るし、ラニと友達になれるなんて私も嬉しい。

 

 

「・・・・・・そうですか。なら、今日から貴女と私は友達、と言う関係ですね。よろしくお願いします。」

 

 

こ、こちらこそよろしく。

 

 

「硬いな・・・。」

 

「それではミス白野、私の用は済んだので失礼します。ごきげんよう。」

 

 

ラニは踵を翻し、校舎の中へと入って行く。

 

友達・・・でも、聖杯戦争の勝者は只一人。

時が来てしまえば、戦う宿命にある。

 

友と戦う・・・シンジと同じ?

シンジみたいに殺し合うのか?

友人を?この手で?

 

 

「そんな心配は今は要らない。いずれその時が来たら・・・その時は、君の願いを言うべき時だ。」

 

 

私の願い、か・・・。

叶えられるのサモナー?

 

 

「誰に言ってるの白野。僕は君の願いに、君を導くサーヴァントだ。煎餅を食べながらでも叶えられるよ。」

 

 

何で煎餅?

いやこの際放って置こう。

 

其れよりも、身体は大丈夫?

解体作業って痛みとか無いの?

 

 

「無いよ。そこら辺は上手くやってると思うよ(多分)。」

 

 

し、信憑性に欠けるなあ・・・。

まあ無事ならいいや。

 

行こう、サモナー。

 

アリーナでキートリガーゲットしなくちゃ。

 

 

「了解。あの女教師の面白い頼み事も引き受けるんでしょ?楽しそうだ。」

 

 

あの・・・今度は悪戯しないでね?

 

 

 




白野の容姿で上から3番目って事は・・・。
頂点に君臨してるのって、やっぱり青鯖?

しかし、ザビ子は可愛い。
嫁に貰いたい。
可愛い。

イケメンザビ子。



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第二回戦(中)

 

 

 

戦場において、誇りなどと言う信念は、捨てておけ。

騎士の誓いや戦いなど、あの男の前ではただのお飾り。

 

男はジッ、と身を潜め、獲物が動くのを待っている。

 

獲物は気付かない。

森と一体化した狩人に、気付くはずは無い。

 

だが、狩人も気付かない。

全ての森が、味方だとは限らない...。

 

 

———————————————————

 

 

「白野、左に曲がって!」

 

 

ひ、左に!?

道が無いんですけど!?

 

 

「見えないだけであって、実際は道あるから曲がるんだ!」

 

 

見えないアリーナを全速力で駆け抜ける。

なぜ、私達がこんなにも急いでいるかだって?

 

そんなもの、私だって聞きたいくらいだ。

 

 

「まだだ!まだ追ってきてる!走ってマスター!」

 

 

そう...私達がアリーナに入ると同時に、奇襲を仕掛けた敵サーヴァント。

つまり、ダン・ブラックモアのサーヴァントだ。

 

姿は見せず、迅速に獲物を追い詰める。

狩人...姿無き狩人。

 

差し詰め、獲物は私達という訳か。

 

 

「今度は真っ直ぐ!」

 

 

当然、道は無い。

しかし、此処で立ち止まってしまえば襲ってくるのは死、のみ。

 

恐れている場合では無い・・・!

 

 

「姿を見せずに、マスターを集中的に狙ってる辺り、卑怯がモットーのサーヴァントだろうね。良い趣味してる。」

 

 

か、感心してる場合じゃない!

相手はまだ私達・・・じゃなくて、私狙ってるの?!

 

 

「そうだよ、マスターを始末すれば、自動的にサーヴァントも消える。相手は其れを狙って白野に攻撃をし続けてるんだよ。」

 

 

知らなかった・・・。

でも、私そんな攻撃喰らってないよ?

 

もしかして、私もう死んでる?

気付かぬ間に死んでました、とか言う落ちではないよね?

 

 

「大丈夫。僕が居る限り、君は死ぬ事は無い。僕も、岸波白野と共に在り続ける限り消える事は無い。これぞ正しく、究極の偕老同穴!」

 

 

言わないから。

其れよりも、全力で走れ。

 

相手のサーヴァントまだいるんでしょ?

 

 

「そうだね。・・・・・・白野白野、ちょっとだけ後ろに下がって。」

 

 

そう言ったサモナーは、私を軽く押す。

そんな力強く押された訳ではないが、数歩後ろへ下がる。

 

何故サモナーが私を下がらせたのか、それは直ぐに分かった。

 

私が居たその場所に、矢が降って来たからである。

・・・もしも、サモナーが押さなければ、私は致命傷を負っていただろう。

 

しかし、矢が降って来たと言う事は、相手サーヴァントのクラスは恐らく弓兵(アーチャー)

 

それも、見事な弓の使い手だろう。

 

 

「・・・・・・うん。その様子だと、相手サーヴァントのクラスが分かったみたいだね。順調順調、その調子で成長してくれよ、マスター。」

 

 

・・・サモナー、もしかして、相手サーヴァントのクラス分かってたの?

 

 

「だって、さっきから毒矢放ってるんだよ。本当に良い趣味してる。お陰で、一回死んだ。」

 

 

す、スイマセン。

............わ、ワンモアプリーズ。

 

良く聞こえなかった。

 

 

「それがさ、白野に当たらない様に、飛んでくる矢を叩き落としてたんだけど、うっかり心臓に刺さってね、これが痛いのなんの!僕じゃなかったら毒で死んでるよ。」

 

 

そ、そうなんだ・・・。

何と言うか、サモナー死に過ぎじゃない?

一回戦の本戦前も死んだよね?

 

そんなに死に続けるサーヴァントって・・・サモナー以外居ないよ?

 

 

「それは嬉しい。僕みたいなのが他にもいたら大変だっ、て・・・・・・」

 

 

サモナーの雰囲気がガラリと変わった。

苦虫を噛み潰したような表情にも見える。

 

 

「あいつ・・・ここに結界を張るつもりか。徹底的に殺しにかかって来てるな・・・」

 

 

眉間に皺を寄せながら、サモナーは持っていたカードを一枚引き抜く。

何も描かれていない裏表白紙のカードを、一体どうするのか?

 

 

「なに、やられたらやり返す。目には目を歯には歯を、って言うだろ?卑怯なら卑怯で返さないと気が済まない。獲物の立場が、実際にどちらなのか教えてやらなきゃな。」

 

 

サモナーがそう言うと、手に持っていた白紙のカードが淡く光を放つ。

一瞬だけ、閃光が瞬くと、カードでは無く...それは

 

 

「弓は矢が無ければ意味をなさず、矢は弓が無ければ飛びはしない。」

 

 

サモナーが手にしているのは矢の無い弓。

だが、その弓は見たことも無い形状をしている。

 

あの、サモナー。

貴方のクラスって本当はアーチャーだったの?

 

 

「いいや。僕は希少価値が高いサモナーだよ。この弓も、召喚しただけに過ぎない。」

 

 

弓も召喚できるの?!

どうりで、どの文献にも載っては居なさそうな形してるものね。

 

でも、どうして弓なの?それに、矢が無いじゃないか。

 

 

「相手が弓なら此方も弓にしたまでの事。そして、この弓は矢が無いわけじゃないんだ。ちょっと特殊な弓でね、まあ直ぐに分かるよ。」

 

 

サモナーは弓を上に向け、弦を引き絞る。

 

ただそれだけだと言うのに、弓の先端が蒼に輝き、矢が出来上がる。

細く、触れただけで壊れそうな矢を放つ。

 

 

驚いたのは其処からだ。

 

その矢はまるで、流星の様に輝きを増し、アリーナ全体に降り注ぐ。

 

 

「マスターを狙ったんだ、此方も狙わせてもらうけど・・・いつまで防ぎきれるかな。急いでマスターの元に戻らないと・・・・・・ほんとに殺すよ?」

 

 

待てい。

誰に話しかけてるのか知らないけど、物騒な事はしないで欲しい。

 

それと、もう攻撃止めていいから。

流れ星や流星群の比じゃないからね?

 

 

「・・・やり返さないの?もしも、僕が居なかったら、君は死んでいたかもしれないんだよ。」

 

 

不服そうな顔をするな。

今生きているから其れで良い。

兎に角、攻撃を止めて。

 

これ以上続けるのなら、私は相手のサーヴァントに殺されたって文句は無い。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・分かった。」

 

 

サモナーは渋々・・・いや、嫌々と言った様子で弓をカードに戻した。

其れだけで、アリーナに降り注いでいた光の矢は、泡の如く消えて行く。

 

チラリとサモナーを見れば、まだ納得がいっていない様子で、何処かを見ている。

 

 

「・・・いいかい。次に僕のマスターを狙うような真似をしたら、主人が生き残れないと思っていい。」

 

 

サモナーが誰に対して行っているのか直ぐに分かる。

恐らくだが、相手のサーヴァントが直ぐ近くに居るのだろう。

 

 

「なに、お前が正面から来るのなら正面から戦ってやるよ。」

 

 

サモナーの攻撃で、アリーナは崩壊寸前。

 

アリーナが崩れて行くその時、——————緑の衣を着た狩人を見た。

 

 

 

 

 

森の狩人よ、忘れてはいけない。

思い出せ。

 

自身の終わりを思い出せ。

 

射貫かれた、その瞬間を・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







モンハンやってたら忘れてた。


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第二回戦(後)

 

 

 

 

夢を見た。

 

其れは初めて見る夢だった。

 

 

若者が弓を取り、矢を放つ。

撃たれる者、撃つ者。

 

護るべき存在に迫害されようと、若者は見捨てなかった。

 

姿を隠し、顔を隠し、息を潜めて狩を行う。

 

獲物は多勢、此方は一人。

獲物は騎士、此方は無名。

 

獲物を狩る為に、若者は手段を問わなかった。

 

日に日に獲物との狩は激しさを増していく。

 

しかし・・・それでも、若者は守り続けた。

 

若者にも望みはあった。

だが、望みよりも若者は、護る事を選んだ。

 

報われる事は無い。

それでも、若者は望んだ。

 

己にとって眩しい筈の————騎士の誇り、に・・・。

 

 

———————————————————

 

 

「新しくなったアリーナにやってきました!感想はどうですか白野?」

 

 

テンションが高いサモナーに起こされた私の身にもなってくれ。

物凄く眠たいに決まってる。

 

頼むから部屋に戻らせて。

そして、寝かせてくれ。

 

 

「何言ってるんだよマスター?!こんな鬱蒼としたアリーナが出来たんだから散歩しなきゃ損だろ?!」

 

 

ねぇ、何で今日はそんなにテンション高いの?

苛めなの?私を苛めて楽しんでるの?

 

心臓潰すぞ、この黒豆。

 

 

「ちょ、何で僕黒豆。」

 

 

黒いし、豆腐以下の耐久値だから。

それに直ぐに死ぬから其れで良いかなって思っただけ。

 

あ、黒豆に失礼か。

 

じゃあ、直ぐに死ぬ召喚士を略して直死(すし)だな。

 

 

「え、直死(ちょくし)じゃなくて直死(すし)?!略し方がおかしいのと、僕そんなにすぐに死んでないでしょ?」

 

 

あれ・・・。

そうだっけ?

 

私の記憶じゃ、何か一回戦毎に死んでる気がする。

 

更にエネミーに何度殺されたんでしょうね?

毎回毎回グロテスクな展開が巻き起こってる私の身にもなって見ろ。

 

 

「スイマセン。反省します。」

 

 

じゃあ部屋に帰ろう。

今すぐ帰ろう。

帰って寝たいんだ!

 

 

「えー、そんな事言わずにさ。彼方さんも来てるんだし、ちょっと挨拶でもしに行こうよ。」

 

 

グイグイと私の腕を掴んでアリーナの奥に行くサモナー。

 

ちょっと待って欲しい。

彼方さんって、もしかしなくてもダン卿の事ですか?

 

 

「そうだよ。ほら、丁度あの古木の下に居るよ。今日はバッチリサーヴァントも姿見せてる。良いねぇ!最高の戦闘日和じゃないか!」

 

 

とんでもない事を口にするサモナー。

 

勘弁してくれ!

ホントに帰らせて!

 

昨日あんなに好き放題戦ったじゃないか!?

 

 

「いやいや、君が止めたから不完全燃焼だよ。だから、昨日の夜に『朝一にてアリーナで待つ』と言うメッセージを送ったんだ。」

 

 

このサーヴァントほんとに何してやがるんだ!?

 

 

「...君のサーヴァントは、制御など出来るサーヴァントではないのだな。」

 

 

ダン・ブラックモア...ダン卿が語り掛ける。

 

 

「いや、そもそもアレに制御なんて無いっすよ旦那。アレを制御なんてしたら人間止めてますよ。」

 

 

その隣にいる緑衣のサーヴァント。

あの時見た姿と何ら変わりはなさそうだ。

 

森の狩人、毒、弓兵。

 

正体は分かった。

だが、今日は本線では無い。

 

殺し合いに意味は無い。

だが、避ける事にはきっと意味がある。

 

 

「おいこら、そこの緑アーチャー。うちのマスターに余計な事を言わないでくれるか。変な誤解を生んで、混乱するだろ?止めてくれよ。」

 

「どんだけマスターの事好きなんだよ?!おたく人間好きでしたっけ?!」

 

「当たり前だろ!?僕程命と星を愛しまくってる・・・違った、白野を愛してるサーヴァントは居ないぞ!居たら殺す!!!」

 

「物騒過ぎんだろ?!」

 

 

本当はお前等仲良いんじゃないのか、と疑うくらいの何かを感じる。

 

いや仲が良い、と言うよりも・・・。

古い友人の様な関係に見える。

 

 

「さあ!話は終わったんだ!盛大に殺し合おうじゃないか!」

 

 

物騒な事言わないでよ!?何でそんなに殺り合いたいの?

本戦まで落ち着け!

 

 

「・・・・・・なんか向こうは殺る気ですけど、旦那どうします?」

 

「正面から受けて立とうじゃないかアーチャー。弓の腕前なら負ける事は無い。」

 

 

ダン卿も戦う気はあるらしく、緑衣のアーチャーが弓を構える。

 

せ、戦闘開始ですかい?

 

 

「出し惜しみ無しで行こうかマスター!」

 

 

う、うん・・・此処まで来て引き返せないのなら潔くは無いけど戦います。

 

 

「サーヴァント相手なら、使ってもいいんでしょ旦那。」

 

「ああ、ただし彼女に使う事は許さんぞ。」

 

「ヘイヘイ、分かってますよ。」

 

 

そんな軽口をたたく緑衣のアーチャーだが、弓の腕は確かに見事だ。

 

サモナーの心臓を一度貫いた事で、矢がサモナーに刺さる事は無い。

しかし、それでも彼の弓兵としての腕は本物だ。

 

鞭のように縦横無尽に矢を放ち、命中する事は無いと分かっているが、攻撃は止まない。

 

 

「弓の腕鈍ったんじゃないか?生前よりも劣ってるよ。」

 

「チッ、そう言うおたくこそ、前よりも弱くなってませんかね。」

 

「弱いよ。僕は何時だって弱くあらなきゃいけないんだ。お前も知ってるだろ?」

 

「そっすね。おたくは何時だって弱者だが、何時でも強者に成れる。」

 

 

アーチャーが放つ風を切る矢を、カードで叩き落として行くサモナー。

弾かれた矢は地面に刺さり、その一帯が腐敗していく。

 

 

「うっわ!相変わらず、えげつない毒使ってんのな。」

 

「おたくよりは優しい毒だろ。」

 

 

減らず口を叩きながらも、サモナーは確実にアーチャーにダメージを与えている。

ステータスの差があるとしても、相手の攻撃が当たらなければ意味がない。

 

 

「成程・・・心臓は魔力が一点に集中する炉、そのもの。攻撃を心臓に向けさせ、あえて破壊させることにより、魔力の流れを暴走させ、魔力の乱れを発生させる。その爆発的な魔力の乱れにより、攻撃は全て外れ、乱され、決定打にすることが出来ない、と言う訳か...」

 

「そうだ。僕はそうでもしないと直ぐに死んじゃう弱いサーヴァントなんだよ。」

 

「いやいや、心臓貫かれて平気な顔してる、おたくの何処が弱いんだよ?」

 

「お前ふざけんなよ?!平気な顔してると思ってるんなら大間違いだぞ!?死ぬほど痛いし、立ち上がっても死にそうな程痛いんだからな?!」

 

 

...死んでも立ち上がれるお前を、誰が弱いと言うのだろうか?

不死性の英雄達ですか?

 

 

「白野、幾ら不死性を持ってたとしても、死ぬんだよ。そしてまた生き返る。不死なんて言ってるけど、やっぱり死ぬもんなんだよ。」

 

 

な、なんか戦闘中だって言うのに、随分と余裕そうだね。

 

 

「当り前だよ。あんな自称ハンサム男に負けやしないよ。」

 

「へぇ、そうかい。確かに、おたくに攻撃は当てられないが、俺の専門は毒だって事、わすれてやしませんかね?」

 

 

毒・・・

 

サモナーが弾いた矢全てに毒が塗られていた。

弾かれた毒矢は地面に刺さり、その毒は...

 

 

「少しずつおたくを蝕んでんだよ。見える攻撃は当たらないが、見えない攻撃ならどうだい。」

 

「若干動きにくいよ。」

 

 

サモナーの身体には、黒い点の様な痣が幾つも浮かび上がる。

速攻性の毒では無いのが幸いだ。

しかし、それも時間の問題。

 

じわじわと、毒はサモナーを蝕む。

 

 

「大分時間がかかっちまったが、これで終わりにしようや。■■■さんよ。」

 

「こらこらこらこら!?こんな公共の場で僕の真名言わないでくれる?!僕のマスターに聞こえてたら如何してくれんだよ?!」

 

 

聞こえはしたが...雑音(ノイズ)で聞こえなかった。

緑のアーチャーよ、もう一度言ってはくれないだろうか?

 

 

「なんだ知らなかったのか?こいつは...」

 

 

遂にサモナーの真名が明かされ

 

 

「死の剣よ!汝に心を授けよう!そして、死を撒き散らせ!!!」

 

 

サモナーは、驚くべきことに、短剣で自らの心臓を突き刺した。

 

 

「おいおいっ!旦那、急いでこのアリーナから脱出するぜ!」

 

「そうだな、尋常ではない魔力が乱れ狂っている。最悪、アリーナが吹っ飛んでも良いほどにな。」

 

 

サモナァァァアァァァアアアア!?

止めて!ホントに落ち着いて!

名前聞いてなんかいないから!?

 

 

これ以上ムーンセルを疲れさせないでくれ!!!

 

 

「そっちなの?」

 

 

そっちです。

 

 

「僕じゃないの?」

 

 

サモナーではありません。

 

 

「ほんとに?」

 

 

何でこんな時に嘘つかなきゃいけないんだ?!

 

 

「だって・・・空気を読んだら、此処は僕って言う所でしょ?」

 

 

言わないね。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 

ある意味、必死に止めたらサモナーは大人しくなった。

何をしようとしたなど今更聞きはしない。

 

だがな...

 

これ以上アリーナを壊してやるのはよそう。

 

名前はもう他から聞かないので、それでいいだろう?!

 

 

「うっ、マスターが酷い...!嫌がらせにあいつ等を、ってもう居ないし?!」

 

 

サモナーが血涙流してる最中に帰ったよ。

毒ってホント怖いね。

 

あんな武人と戦うなんて...考えただけで恐ろしい。

 

 

「心配しなくても勝てるよ。何のために自分で自分の心臓刺したと思ってるの?」

 

 

え...っと、怒りの勢い余って?

 

 

「流石に、そんな事で自分の心臓貫く奴がいたら拝見して見たいよ。そうじゃなくて、下準備だよ、下準備。」

 

 

下準備...って事は罠って事?

あれが?

 

 

「そうだよ。目に見えない攻撃が、毒だけとは限らない。毒と違ってアレは蝕んだりしない。その代わり...毒よりも酷く、悶え苦しむだろうね。」

 

 

やめよう。なんて物騒な罠仕掛けてるの?!

外しなさい!

 

 

「えー!?折角僕が態々自分から心臓貫いたのに?!滅茶苦茶痛かったのに?!」

 

 

知るか!

それと、短剣を心臓に刺さったまま普通に話してる、サモナー本当に如何かしてるよ?!

グロイから元に戻してよ!

 

 

「・・・・・・おかしいな。か弱い白野は何処に行ったのかな?」

 

 

 

 

 






FGOでザビ男の礼装が出た。
ザビ子が当たる時は来るのだろうか?


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二回戦 本戦(前)

 

 

さぁ、狩の時間がやって来た。

獲物は森の狩人。

 

主人との差は空くばかりだが、落胆することはない。

 

何故なら、此方には、

 

狩人を狩る、狩人がいるのだから...

 

 

———————————————————

 

 

一回戦のあの時のように、私は用具室の前にいる言峰に、話しかける。

七日間かけて、私とサモナーはダン・ブラックモアのサーヴァント対策を練り上げた。

 

迷っていないのか、と問われれば、迷っていると私は答える。

 

けれど、立ち止まる事は出来ない。

迷いながら私は行く。

 

誇りや、信念を持った老騎士に、私は立ち向かうんだ。

 

 

「ほお。一回戦の頃に比べると、随分と顔つきが変わっているな。何か心境の変化でもあったのかね?」

 

 

其処はまだわからない。

なんせ、私もどうして戦っているのか分かってはいないのだから。

 

 

「クックック・・・さぁ、死地へと赴く準備は良いのかね?」

 

 

当然の事のように頷けば、言峰は道を譲る。

前回同様、エレベーターにキートリガー差し込む。

 

厳重なロックが外され、道は開かれた。

 

 

「迷える戦士よ、存分に殺し合え・・・」

 

 

その常葉が最後のように、エレベーターの扉は閉まる。

 

そして、そのエレベータの中には・・・

 

 

「・・・・・・。」

 

 

シンジのように、相手を見下している事もせず、ただジッとこちらを見るダン卿。

暖かい眼差しでは無く、殺意や敵意こそないが、それは獲物を捕らえた眼差しだ。

 

 

「ははっ。やっと旦那がやる気を出してくれたもんだ。お嬢さんには感謝してるぜ。」

 

 

緑衣のアーチャーが此方に話しかけて来る。

ダン卿のやる気?

 

 

「まあ、色々と事情があってな、あんたに毒使おうとしたら旦那が絶対に使うなとか言い出すから、俺も最初は呆れたが・・・結構楽しいもんだ。」

 

「はっ。森の狩人風情が何言ってんだよ。アリーナに顔のない王(・・・)使ったり、イチイの木の結界(・・・・・)を張ろうとした野郎が良く言うもんだ。」

 

「それあんたも言える義理かよ。流星を降らせる馬鹿のお陰でこっちも危機一髪だったんだけど?」

 

「知るか。そんなもん、お前の自業自得だろうが。お前が僕の白野を毒矢使って殺そうとしてきたのが悪い。あー・・・思い出したらイライラしてきた、ちょっと一回死んでくれよ。」

 

 

サモナーが手を伸ばし、目の前の壁に触れると、毒に溶かされていく。

 

ちょ、サモナー何してんの?!

 

 

「?...何って、ちょっとムカついたから殺してやろうかと。」

 

 

もう少しで着くと思うから抑えて。

と言うか、この壁溶かせたの?!

 

 

「ああ、溶かせるよ。何なら今すぐ溶かしてあいつ等殺す?僕は大賛成だな。」

 

 

私は大反対だからやめなさい。

 

なんだかサモナーの様子がおかしい。

いやおかしいのはいつもの事だが・・・死に飢えていると言うべきか・・・。

 

サモナー、今日はなんだか急いでない?

 

 

「・・・いや、急いでる訳じゃないんだけど・・・」

 

 

壁を溶かす手を下し、複雑な表情を浮かべる。

 

あれ...なんだか嫌な予感がする。

こんな事前にもあった気がするような・・・。

 

 

「ちょっと・・・その、魔力が足りないと言うか・・・ね。僕たち、正式な契約を交わしていないから、パスが繋がってないんだよね。今までは普通にいけたんだけど・・・遊び過ぎて、そろそろ僕自身の魔力が尽きそう。」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

「このまま戦闘しても良いんだけど、やっぱりお腹sぐはぁあ!!!?」

 

 

サモナーの口に思いっきり力を込めて、激辛麻婆豆腐を突っ込んでやった。

麻婆豆腐を食べることが出来てサモナーは感動しているのか、そのまま静かに倒れた。

 

 

「いやいやいや、お嬢さんよく見て見なって、そいつ白目向いてるぜ?!」

 

 

え、白目?

そんな訳ないだろう。

 

サモナーは言峰がくれる泰山の麻婆豆腐が大好物なんだよ。

 

な。サモナー?

 

 

「・・・・・・・・・ガクッ。」

 

「し、失神するレベルの麻婆豆腐なんて食い物じゃねえ!戦う前に俺らじゃなくて、そっちのサーヴァントが死んでどうすんだよ?!」

 

 

心配ない。

 

此奴は何があっても立ち上がるさ。

何てったってサモナーだからね。

 

サモナー起きないともう一杯、麻婆豆腐食べたいの?

 

 

「ご、ごはぁっ!!!げっほげごげおぇ......た、立つからもう無理。お腹、いっぱいです。」

 

 

どうだ、うちのサモナーは凄いだろう!

 

 

「そんなドヤ顔してもねぇ...そいつに同情するぜ。」

 

 

緑衣のアーチャーに哀れみの眼差しで見つめられるサモナー。

 

そんな時に、エレベーターは大きな音を立てて止まった。

どうやら、決闘場に着いたらしい。

 

もうすぐ、命を懸けた戦いが始まるのだ。

 

 

「行くぞアーチャー。」

 

「はいよ、旦那。」

 

 

ダン卿がエレベーターから降り、その後に続いて緑のマントを翻して行くアーチャー。

 

 

「...麻婆豆腐で死ぬかと思った。」

 

 

サモナーはそんなんじゃ死なないでしょ。

さあ、私達も行こう。

 

 

「分かったよ。麻婆豆腐でどこまで行けるんだろ...。」

 

 

サモナー何か言った?

 

後半が聞こえなかった。

 

 

「何でもないよ。行けるところまで行こうか。」

 

 

サモナーと一緒にエレベーターから降りる。

 

 

シンジの時は船の墓場の様な場所だったが、今回は違う。

 

ここは森に飲まれた街。

 

大自然に飲み込まれた人工物の成れの果て。

 

 

「もう本気で殺しに言っていいんでしょ旦那?」

 

「ああ、遠慮はいらん。宝具の開帳を許そう。」

 

 

ニヤリと笑う緑衣のアーチャー。

いいや、彼の名は...

 

 

「王殺し・・・ロビン・フッド。」

 

 

いや、彼は複数存在するロビン・フッドと言う英霊の一人。

本物のロビン・フッドは出血多量で死亡。

 

彼は・・・

 

 

「若い頃に弓なんか選んだからこうなったんだよね。今思えば馬鹿馬鹿しい選択をしたと思ってるよ。あんな集落、消えても良かったんじゃないのか。」

 

「俺の人生におたくは関係してねぇ・・・って言えればどんなに楽な事か。」

 

「僕は忘れてないよ。君に殺された日を。」

 

「俺だって忘れてねえよ。おたくに殺された事を。」

 

 

お互いがお互いに殺された。

 

毒で体を弱らせ、矢で撃ち殺さた。

軍によって侵略され、銃によって撃ち殺された。

 

 

「何の因果か、またおたくと殺し合うなんてな。二度目の毒は優しくないぜ。」

 

「喧しい。僕だって、もうお前の敵だ。優しいと思ったらすぐに死ぬよ。」

 

 

木々が騒めき、木の葉が舞う。

 

殺気がこのアリーナに満ち溢れる。

一発即発の空気だが、先に動いたのは...

 

 

「我が墓地はこの矢の先に……森の恵みよ……圧政者への毒となれ。(なばり)の賢人、ドルイドの秘蹟を知れ…」

 

 

「————祈りの弓(イー・バウ)!!!」

 

 

 

 

 

 



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二回戦 本戦(後)

 

 

人の祈りの形として生み出された、顔のない王。

かの若者はその一人。

 

その弓は、イチイから作られ、若者は森と一つになった。

 

イチイは不浄を清める聖なる木。

 

その力が宝具となれば・・・

 

 

「こんな事に成る訳だ。」

 

 

先に動いたのは、緑衣のアーチャー...ロビン・フッドだ。

彼は、宝具を使い、サモナーを巨大な木に取り込んだ。

 

 

「どうだい。俺の宝具はこんな使い方もできるんだぜ。その内お前はイチイと一つになる。」

 

「うわあ...最悪だな。白野どうしたらいいと思う?」

 

 

こんな状況でも、サモナーは普通に話しかける。

 

え、っと・・・取り合えず、木を燃やすとかしたらどうでしょうか?

 

 

「そうだね・・・良い案だ。」

 

「は?ちょ、ま!」

 

 

アーチャーの静止も無駄のように、イチイの木は突然燃える。

炎に苦しむかのように、イチイの木は激しく燃える。

 

 

「燃えろ燃えろ、木よ燃えろ。朽ち果てたその木炭から生まれるは、新たな炎。生まれ出は炎の竜…」

 

 

サモナーの詠唱が、燃えるイチイの木を変化させる。

 

 

「召喚————神炎皇ウリア。」

 

 

炎の柱がイチイを灰と化す。

やがて、その炎は形を成し、巨大な竜となる。

 

 

『—————————!!!!!』

 

 

炎から生まれし、赤き竜。

その産声はアリーナを、いや全ての決闘場を揺らす。

 

 

「激辛麻婆豆腐のお陰で召喚できたのはいいけど…もうちょっとなんかあった気がするが、まあいいか。」

 

 

え、あの麻婆豆腐の所為でこんな巨大な竜が出て来ちゃったの?!

私の所為?!

 

 

「いや違う奴が出て来るかと思ったんだけど…まああいつが出て来るのはもっと先かな。」

 

 

……あのさ、一体何を召喚しようとしてたの?

 

 

「んー。不死鳥でも召喚しようとしたけど、あいつは供物かなんか要るのかな・・・それとも、量が足りなかったのかな。」

 

 

此奴にはもう激辛麻婆豆腐...いや何も食わせまい。

あぁ、青子さんにまた怒られる。

 

サモナーが召喚するにあたって、何かを召喚するのはまだいい。

しかし、召喚するにあたって、周りのデータを取り込んで変換する所為で、サモナーの熱量が半端じゃない。

 

しかも、取り込んだデータは解体するしか方法は無く。

溜まれば溜まるほど、サモナーに負荷がかかり、周りにも影響が出ると言う。

 

勘弁してほしいよ・・・。

 

 

「おいおい、何出して来てんだよあんた。」

 

「はっはっは!どうだ、本物の幻想種に会うのは初めてだろう?しかも、人が生み出した幻想では無く、星が生み出した脅威そのもの。凄いだろう!召喚できる僕って凄いだろ!」

 

「自慢してる場合かよ!?」

 

 

炎の竜は、口を大きく開け、アリーナの空気・・・いや、データを吸い込む。

 

 

「まじかよっ!?旦那!!!」

 

「うむ。汝がマスター、ダン・ブラックモアが令呪を以って命ずる。アーチャーよ……祈りの弓(イー・バウ)を用いて、炎の竜を討伐せよ!!!」

 

 

ダン卿の右手にある令呪が輝く。

軌跡を生み出せる令呪を此処で使うという事は・・・彼は・・・

 

 

「イチイの木よ……燃え尽きることなく、葉を散らせ。今こそ、その牙を見せろ!祈りの弓(イー・バウ)!!!」

 

「ウリア、超神炎砲(ブレイズ・キャノン)!!!」

 

 

二度目の宝具は令呪の力もあり、サモナーの時と比べ物にならない巨大な木。

しかし、炎の竜もやすやすと飲み込まれる事は無く、その吐き出される吐息はまさに炎そのもの。

 

その炎はイチイの木を燃やす。

 

だが・・・令呪を使用された宝具は、炎の勢いにも劣らず、竜を飲み込んでいく。

 

 

「参ったな・・・ライダーのように対軍宝具だったら、聖なるバリアを使えるけど・・・対人じゃあ難しいな。」

 

「どうだい、旦那にとって負けられない戦いなんだ。おたくはさっさと死んでくれよ。」

 

「なに馬鹿な事言ってんだよ...。」

 

「そうでもないんじゃねえか?おたく、あの炎の竜を召喚して、もう魔力ないんだろ。お嬢さんと如何言う契約したのか知らねえけど、ここらで終わりにしようぜ。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

炎の竜・・・神炎皇ウリアは、イチイの木に取り込まれ、イチイの木は葉を散らす。

断末魔さえもイチイの木は飲み込む。

 

 

アーチャーが言っている事が正しいのなら、魔力が無いサモナーは何も召喚できない。

 

 

「まさか・・・僕が本当に此処で終わりだと思ってるのか?令呪の一画を使われただけで、終わりだと?とことん馬鹿だよな。」

 

「はあ?」

 

 

 

 

 

「体を蝕む事が出来るのは、何も毒だけじゃないだろ。」

 

 

 

 

 

そう。

私は確かに止めたはずだった。

 

だが、それが甘かったのだと今日この日思い知った。

 

ライダーが何故、サモナーを深く信じるなと言った意味が、この日ようやくわかった。

 

理不尽なんて唐突にやって来る。

それは、考えもせず、ましてや予想すら出来ない。

 

そんな理不尽をサモナーは、振りかざしたのだった。

 

 

 

 

 

「発動———————死の破壊ウイルス」

 

 

 

 

 

彼の心臓は死、そのもの。

遠ざける事も出来ず、避けることも出来ない。

 

出来る事としたら、別れの覚悟のみ。

 

だけど、死は突然やって来る。

 

 

覚悟なんて、出来ない。

 

 





デッキ無いから許せ。


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二回戦 終戦

 

 

 

微生物と言うのは、肉眼では捉える事の出来ない小さな生命。

しかし、どんな環境であろうと、彼らは何処にでもいる。

 

現代では、その存在はハッキリとされているが、古代はどうだろう。

見えぬ脅威、突然襲いかかる猛威、分からない敵程、恐ろしく感じる事は無い。

 

ああ、心臓は只の起爆スイッチ。

 

データであろうと、バグは生まれる。

そのバグ(誤作動)を破裂させたら…どうなるのだろう。

 

 

「はっははははははは!!!」

 

 

狂気に満ちた、その表情は、敵を捕らえて離さない。

召喚士は笑い、嗤う。

 

理不尽なまでの力を振りかざし、ソレは満足そうに哂う。

 

 

「っ・・・・・・!!!テメェ!!!」

 

 

緑衣のアーチャーは、これ以上ないくらいの殺気を召喚士に向ける。

 

しかし、召喚士は笑う事を止めない。

寧ろ、先ほどよりも、愉快に満ちている。

 

召喚士が呼んだのは、『死』そのもの。

事前に仕組まれた種を開花させただけの事。

 

心臓を自ら殺し、そのウイルス()を忍び込ませ、ゆっくりデータと同調させた。

 

召喚士の合図一つで、破壊させれるように・・・。

 

 

「旦那っ…!」

 

 

緑衣のアーチャーの後ろには、死のウイルスに感染され、未だに侵され続けている、ダン・ブラックモアが膝を付いていた。

 

顔は右頬から左目まで破壊され、左肩から左腕まで破壊され、右の膝から足首まで破壊され、正直、膝をつけているのも奇跡と言える。

 

しかし、死のウイルスは止まらない。

 

対象は何も、マスターだけでは無い。

 

 

彼の・・・サーヴァントさえも対象となっている。

 

 

「大丈夫、僕を殺せばウイルスも消える。さあ、森の狩人よ、僕を殺して見せろ!その弓で、その毒で、僕を殺して見せろ!!!あの時の様に、飲み水に毒を仕込んで殺したり、毒矢で仕留めたり、食事に毒を盛ったり、さぁ僕を殺せ!卑怯はお前の得意分野だろ?」

 

 

ニヤリと召喚士は笑う。

 

狂気に染まってはいるが、彼は正常だ。

元々狂ってはいない。彼のコレは、性分ともいえる。

 

敵を惑わし、狂わせ、乱させ、陥れる。

 

敵であり、最高の味方であり、最弱の壁。

 

 

「ふざけんなっ!!!これは俺達の戦いじゃなくて、旦那の戦いなんだぜ!?」

 

「それがどうした?生前のお前だって、似たような事ばかりしたじゃないか。あれほど懇願したって言うのに、お前は殺してくれた。あっはっははは、お前こそふざけんな。」

 

 

黒い召喚士は、嘲笑う。

その手に、一枚のカードを持ち。

 

 

「さようなら。名も無き狩人と、そのマスター。無様で滑稽な姿を見せてくれたお礼に、特別に殺してやろう。皮肉で、お前たちにピッタリな……『死』を、ね。」

 

 

カードを掲げ、黒の召喚士は謳う。

 

 

「大地の恵み、命の囁きよ。芽吹く苗木の糧を此処に用意しよう。血は啜れ、肉は貪れ……」

 

 

詠唱と共に、闘技場が振動する。

 

大自然に飲み込まれた都市が、木霊する。

木は喜び、葉は嘆く。

 

 

「発動......森。」

 

 

建物は完全に、植物に飲み込まれ、砂と化した。

その上に、木が生え、草が育ち、森となる。

 

 

「森の獣たちは、飢えていてね。今なら、どんな生き物だって食ってくれる。」

 

 

森が騒めく。

深き森の中、複数の影が此方を見つめている。

 

それは幾度となく経験した事のある視線。

 

 

「おたくって、ほんとに嫌な趣味してるぜ。」

 

「お褒めに与り光栄の極み。さぁ、ブラックモア。言い残す事があるんなら聞くよ?って言っても、言えるかどうか...」

 

 

ダン・ブラックモアの身体は、侵食された部分がもう無いんじゃないかと思われる程、黒い。

間桐シンジを飲み込んだ、ノイズとはまた違う。

 

これは悪意があり、意味がない。

ただ、捕食と言うだけ。

 

 

「我が………………せ、アーチャー!!!」

 

「...了解旦那。やっぱり俺のマスターは旦那だけっすわ。」

 

 

恐らく、いや確実にアレが最後の命令だろう。

勝負には敗北と勝利があるが、彼らは勝利を掴めたとしても、それは消える。

 

ダン・ブラックモアの残された右腕の、令呪(・・)が紅く輝く。

その光の輝きは、影の森を貫く。

 

その輝きを一身に受ける、消えゆく緑衣のアーチャー。

 

死は彼らを蝕み、彼らの命を刈り取る。

 

 

「これが最後の攻撃だ...しっかり受け取りな!」

 

 

森の弓が捉えるは、黒い召喚士。

当たらぬと分かってはいる。知ってはいる。理解はしている。

 

だが、それがどうした。

 

当たらぬからと言って、矢を向けぬ狩人が何処に居よう。

狩人は狩人でも、その心は騎士に憧れた若者。

 

若いゆえに・・・

 

 

「———————祈りの弓(イー・バウ)!!!」

 

 

—————弓を取るのだ。

 

当たらぬのなら、其れで良いじゃないか。

当たったら幸運。外れればそれだけの事。

 

そんな、そんな事なのだから。

 

 

狩人の放った矢は弧を描く。

縦横無尽に紅い軌道を残し、獲物に向かって爪を研ぐ。

 

有り得ない速度で、不可能な軌道を描くその矢は、令呪の力あってこそだが...

最後の矢程、美しく風を切るのだろう。

 

 

「はっ・・・・・・どうだ。俺は、ダン・ブラックモアのサーヴァント。これ位の仕事、朝飯前…だぜ。なぁ、旦那。」

 

 

護る筈の主人はもう、居ない(・・)

 

それでも、緑衣のアーチャーは最後の最後まで、主人の命令に従った。

 

 

「あーあ、やっぱ正々堂々なんて、俺のガラじゃないっすわ。」

 

「お前………やってくれたな。」

 

「当り前っしょ?この位の仕返しはさせてくれねえと、気が済まないって。」

 

 

令呪の力が加わった、緑衣のアーチャーの矢は、目標を貫いた(・・)

それはそれは、まるで獲物は別のようにすり抜けて(・・・・)...。

 

 

「成程...令呪を2画使ったのか。そりゃ死ぬわな。契約書を自ら破り捨てるなんて、あの男らしくないな。」

 

「そりゃおたくの所為だろ。旦那の戦いを無茶苦茶にしやがって...次があるのなら、最初っから殺す気で獲りに行かせてもらうぜ。」

 

「そりゃ楽しみだ。出来たら良いな。」

 

「ケッ…あー、くそ。負けちまったよ旦那、わりぃな。」

 

 

緑衣のアーチャーは、それだけ呟くと、死のウイルスに破壊され消滅した。

その最後を見送る森は、静かに騒めくのだった。

 

 

「やられたなぁ...まさか、令呪を2画も使うなんて。」

 

 

勝負は着いたが、完全勝利とは言えるものではない。

なんせ、黒の召喚士の後ろに居たのは...

 

 

「さあ、戦いは終わったよ。そろそろ目覚めようか、白野。」

 

 

赤に染まった彼女を抱え、黒の召喚士は森の中へと溶けて行く。

彼女がその瞼を開くとき、何を思うのだろうか...

 

 

 








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迷える意思


ブックマーク&ご感想ありがとうございます。
一話一話がものっそい短い作品です。

それでも読んでくださってありがとうございます。


 

 

 

また、夢を見た。

 

酷く苦しい夢を見た。

 

 

失ってしまった悲しい夢。

止めることが出来なかった悲しい夢。

裏切られた悲しい夢。

奪ってしまった悲しい夢。

 

 

楽しかった筈なのに、期待が深く、重く圧し掛かる。

 

 

止めてくれ、と叫んでも、誰も止めはしなかった。

 

その結果がアレだ...なんて悲しいんだろう。

 

 

楽しかった筈なのに...どうしてああなったんだろう?

 

最高の友を...どうして、自らの手で消さなければならなかったのだろう?

 

 

ああ、苦しい。

痛い、何処も怪我はしていないのに、身体が痛い...

 

ああ、憎い。

世界の全てが憎い。

 

理解者を...友を...

 

 

 

——————返せ!!!

 

 

 

———————————————————

 

 

 

と言う夢を見たんだ。

何か心当たりがあるのなら言って見ると良いよ、サモナー。

 

 

「はあ?心当たり...無くは無いんだけど、多過ぎてどれがどれだか分からないな。」

 

 

…サモナーって、敵が多そうだよね...。

何でこんなサーヴァント呼んだんだろ...。

 

 

「いや~、照れるじゃないか。」

 

 

褒めてないから。

 

 

「酷いな...それよりも、怪我は大丈夫?身体はもう動かしても平気なの?」

 

 

心配性だな...

そんなに心配しなくても大丈夫だよ。

 

ダン卿のサーヴァントの攻撃を受けて、私は瀕死の状態…だったらしい。

らしいと言うのも、攻撃を受けた影響で、私の記憶が一部吹っ飛んだ。

 

ただでさえ、記憶が曖昧だと言うのに...なんてこった。

 

 

「記憶障害…ねぇ。二回戦の事、何処まで覚えてるの?」

 

 

えーっと...確か、アーチャーの宝具開帳...までは覚えてる...かな?

それ以降があやふや...いや、全く思い出せない。

 

 

「な、なんてこった!?それじゃあ、僕の超絶カッコいい決め台詞とか、決め技とか覚えてない?!それは絶対に思い出して!大事だから、テストに出ていい位大事だから!!!」

 

 

はて?全く持って知らないな。

あー、私記憶喪失だからしょうがないかなー。

そんな重要そうな記憶、思い出さなくても良い。

 

 

「ひ、酷い...。」

 

 

項垂れるサモナーを何事も無かった様に通り過ぎ、マイルームを出る。

扉を開けて、待っていたのは...何故か。

 

 

「待っていたわよ。ちょっと貴女と話がしたいの。良いかしら?」

 

 

マドンナ...いや、遠坂凛。

一番会いたくない人物に出会ってしまった...

 

だって、ほら...うちのサモナーが、彼女のサーヴァンの真名暴露しかけた時があって...申し訳ない罪悪感があるんですよね...。

 

 

「あ~、遠坂のお嬢さん。白野に何か用事かな?」

 

 

私に圧し掛かりながら、顔を見せるサモナー。

重い...物凄く重い...

 

 

「えぇ、まあそんなところよ。」

 

「そっか。なら行ってらっしゃい白野。僕は部屋でのんびり過ごしとくから、ガールズトークを楽しんでねー。」

 

 

はあ?!

ちょ、サモナー?!

 

意義を申し立てようとしても、背中をぐいぐい押され、部屋から完全に追い出された。

帰って来たら、サモナーの心臓本気で潰そう。

 

廊下に残された私の選択肢は...

 

 

逃げる

逃げる

観念する

 

 

のどれか...だが。

 

 

「さ、此処は人が多いから、屋上に行きましょうか。」

 

 

私に選択肢など無かったのだ...

畜生...サモナーの心臓潰してやる!!!

 

涙と共に決意を握りしめ、屋上へ向かう。

ここは一応学校なので、屋上も存在する。

 

 

そんな時だ...

 

 

「ごきげんよう。ミス遠坂...それと、初めまして。岸波白野さん。」

 

 

何故今まで気が付かなかったのだろう?

これほどまでに、逸脱して、人の中に獅子がいるかの様な存在感を放つ、彼に...

 

 

「レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ...!!!」

 

「レオで構いませんよ、ミス遠坂。」

 

 

遠坂の彼に対する嫌悪が凄まじい...

あ、あのー...二人は知り合い、ですかね?

 

 

「そうね...敵、と認識しておきなさい。」

 

「おやおや、酷い言われようですね。僕は貴女の事、嫌いではありませんよ。」

 

「地上では散々な体制を取っている西欧財閥の御曹司様が、よく言うわね。」

 

 

西欧財閥・・・?

 

 

「え、貴女...もしかして、記憶が無いの?」

 

 

そうなんですよ...全く持ってないんですよね~。

しかも、二回戦の本戦の最中、相手サーヴァントの攻撃を受けて、記憶がぶっ飛んでしまったんだ。

此処までくると...泣けてくるよ。

 

 

「そんな状況で、良く泣けるわね...。いいわ、ある程度の事は教えてあげる。」

 

 

あれ?敵であるはずの私に、どうして?

 

 

「別に...何も知らない相手を倒したら、癪なだけよ。」

 

 

...あ、なんか涙が出て来そう。

ちょっとした優しさに私は弱いんだ。

 

 

「泣かなくていいから!いいから、行くわよ!」

 

「おや、もう行かれるのですか?」

 

 

レオ(以下略)が声を掛けると、遠坂の表情が一気に険しくなる。

あ、これ修羅場だ。

 

 

「ええ、地上での借りは此処で返させてもらうわ。」

 

「それは楽しみですね。では、ガウェイン行きますよ。」

 

「御意」

 

 

白銀の鎧を身に着け、王に使える騎士はその後に続く。

 

あの、なんだか聞き覚えのある名前だったんですけど...気のせい?

 

 

「気のせいなんかじゃないわ。ガウェインは、あのアーサーもう伝説に出て来る円卓の騎士の一人。太陽の加護を持つ最優のセイバー。」

 

 

真名って、明かしたら拙いものですよね?

 

 

「絶対的な自信があるのよ、ムカつくぐらいのね!」

 

 

成程...未だに、自分のサーヴァントの真名すら知らない私ってどうなるのかな?

如何して私が、あのダン卿に勝てたのかも不思議でならない。

 

 

「それも詳しく知りたいから、行くわよ。」

 

 

屋上へと続く階段を上る。

迷っていては駄目だと分かってはいる。

 

だけど...

 

 

 

 






2000文字以上書ける人を尊敬する。
文才と言語力が欲しい。

頭えらくなりてぇ。



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経路

 

 

 

 

屋上に出て、空を見上げると、何も変わらない0と1の空。

データの青が広がっている。

 

 

「さて、早速だけど、貴女が何処まで、何を知っているのか知りたいから、覚えている・知っている事を離してくれないかしら?」

 

 

それは良いけれど...余り期待はしないでほしい。

なんせ、此処までやって来れたのが、本当に奇跡だと思えてしまうから。

 

 

私は、遠坂にこれまでの経緯を一つ一つ思い出しながら話す。

 

 

「……貴女には散々驚かされっぱなしだけど、これは本当に驚くわ。貴女・・・一度死んで蘇ってるなんてね。」

 

 

あの審査の時だ。

マスターの候補者を見定めるために行われた、あの審査。

 

疑似(作られた)空想世界から、自分の役割(全て)を思い出したマスターのみが、あの審査を受けることが出来る。

しかし、私は完全に自分が何者であるかなど思い出せずに、審査を受け、その結果が死だ。

 

だけど、気が付けば学校の保健室のベッドの上。

更に、私を蘇生させたと言う理解不能&意味不明な召喚士。

 

 

「本来なら、貴女のサーヴァントは召喚士(サモナー)なんてクラスには属さず、七つの内のどれかに当てはまるの。それは分かるわね。」

 

 

それは勿論。

きっと、セイバー、アーチャー、キャスターのどれかになってた...筈。

 

 

「何でそんな事分かるのよ?」

 

 

直感?

何て言うか、本当ならサモナーじゃないって、私の何かが語ってるの。

 

 

「ふうん...それを信じるのなら、本来貴女が召喚するはずのサーヴァントに、何かしらの妨害か危害を与えて、自分が成り替わったって所かしら。」

 

 

...それを考えると、サモナーの心臓を潰さなければならないな、本気で。

でも、これは私の勘だし、サモナーの最弱さは私が良く知っているから、その可能性は低いだろうね。

 

それに、一回戦の頃に、サモナーは地上からやって来た、って言っていたからね。

 

 

「………はあ?!あんたのサーヴァント、地上からやって来たの?!そう言う大事な事は、早く言いなさいよ!!!」

 

 

え?地上からやって来たサーヴァントって珍しいの?

てっきり、珍しくないと思ってたから...。

 

 

「サーヴァントは過去の英雄が、英霊の座へと付いて初めて召喚できる存在になるの。生きている英雄をどうやって召喚するのよ...。と言うか、如何して貴女出来たのよ。」

 

 

いや、それが私にも分からなくて...

私が死んだときにやって来たって言ってたし...

 

多分タイミングが悪かったんだと思う。

 

 

「ある意味良過ぎよ、それ。でもおかしいわね...私が地上に居た時、そんな人間いたかしら?...それに、地上からやって来たって事は、違法アクセスでやって来たんだろうし...人間じゃ到底為せないわ。」

 

 

そうだよね...

生きたまま英雄になって、月に侵入して、何故か月の聖杯の一部を勝ち取って、何故か私のサーヴァントとなった...チートだ...私のサーヴァントはチートで出来てる。

 

 

「そうね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・聖杯?」

 

 

うん。

サモナー、私と出会う前に月に侵入して、何故かそこで一戦交えて、月の聖杯の一部を切り取って来たらしいんだ。

 

死んだ時、衣服や怪我の修復をするのに使っているんだ。

 

 

「…………岸波さん。ちょっと一発殴らせてくれないかしら?」

 

 

はい?

 

拳をちらつかせる遠坂。

青筋...いや、何か触れてはいけないオーラが出ている。

 

 

ちょっと待って欲しい。

私だって聞いた時はサモナーの心臓を潰しにかかったんだよ?!

 

信じられないのは分かる!

遠坂、落ち着いて!

 

 

「これが落ち着いてられるか!何してるのよ貴女のサーヴァント!優勝賞品の一部とはいえ、先に獲ってるのよ!聖杯の一部とはいえ、奇跡を具現化するなんて朝飯前だわ。そりゃチート行為し放題ね。」

 

 

でもサモナー、熱量と重量が他のサーヴァントと比べて以上なんだ。

 

召喚士であるがために、何かを召喚するにあたり、周りのデータを取り込み、変換する。

その際、取り込んだデータは溜まる一方で、分解でもしなきゃ消えないんだ。

 

それに、私と正式な契約を結んでないから、魔力の供給...パスも繋がってない。

 

召喚の規模にもよるけど、召喚に生じる魔力はサモナー自身の魔力で補ってるから、聖杯の力なんて使ってないと思う。

 

 

「へ?貴女達、パスも繋がってないまま二回戦を超えたの?!しかも、貴女の相手って一回戦はシンジで、二回戦はダン卿だったんでしょう。本当にここまで良く生き残れたわね...。」

 

 

いや何度もサモナーは死んだよ。

一回戦毎に必ず一回は死ぬ!絶対に死ぬ!何が何でも死ぬ!うっかりで死ぬ!

 

のどれかで死にます。

 

気が付けば、血塗れ、ってことになってる時があってさ...気絶するかと思った。

 

 

「何でそれで貴女が生きてるのよ?!サーヴァントとマスターは一蓮托生・・・って、そうか。正式な契約もしていないし、パスも繋がってないんじゃ……でもおかしいわね。」

 

 

何でも、サモナー曰く。

 

私と共に居る限り立ち上がり、サモナーを傍に置く限り私は死ぬ事は無いって。

 

実際にサモナーが何度も死んでも、すぐに立ち上がって傷塞ぐし。

私が死んでも………どうなるんだろう?

 

 

「ちょっと貴女のデータを覗かせて貰っていいかしら?別に記憶をいじったりなんてしないから。」

 

 

別に構わない。

それに、遠坂はそんな悪質な事はしないと信じてるから、そこは大丈夫。

 

 

「な、なによそれ...いい、貴女と私は敵同士。何も知らない貴女を殺しても、私の気分が悪くなるから、その為なんだからね!!!」

 

 

そ、そんなにムキに成らなくても良いと思うんだけど...

 

 

「う、煩い!そして、あんたは茶々を入れるな!」

 

 

どうやら遠坂のサーヴァントが面白がって何か言ったのだろう。

まあ、その気持ちは分からなくもない。

 

 

「あー、もう!じゃあ、良いわね。」

 

 

遠坂の手が、私の額に触れる。

これで、私の記憶が少しでも戻ればよいのだが……

 

 

 

「え………うそ、でしょ?」

 

 

 

だが、現実は思ったよりも酷く、私の気持ちを容易く裏切るのだった...

 

 

 








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中身

 

 

 

「ちょっと・・・なによ、これ?」

 

 

酷く驚いている遠坂。

何かトラブルでもあったのか?

 

 

「トラブルと言えばトラブルね。貴女のデータが此処まで損傷が激しいとは思っても見なかったけど…それ以上に、如何して貴女のデータに『開かぬ箱(パラライズ・ボックス)』がある訳?こんな物騒なものを抱えてる貴女に、よくムーンセルが気が付かなかったわね…あ、貴女のサーヴァントのお陰か」

 

 

私の額から手を離した遠坂は、

険しい顔をして、急ぐように何かを調べている。

 

開かぬ箱(パラライズ・ボックス)』?

遠坂さん、遠坂さん、その箱って何ですか?

 

 

開かぬ箱(パラライズ・ボックス)って言うのはね、何処にでもあるような箱だけど、中身は違うの。外の箱は何人からも中の箱を隠し、欺き、守り通す。中の箱を見ることが出来るのは、箱の持ち主ただ一人。」

 

 

とっても頑丈な金庫って事?

 

 

「いいえ、金庫は中身を誰かが知っているでしょ。開かぬ箱(パラライズ・ボックス)は、誰も知らない淵の箱。中身を誰が、どのように、如何して、入れたのか全く持って不明の箱。不気味なうえに、これ以上に無いくらい危険だわ。」

 

 

そうか…中身が分からないから、一体何が入ってるのか分からない。

だから、何があってもおかしくは無い、という事か。

 

パンドラが開けた箱には、世の全ての悪と災いが封じ込められていたのだから...

 

 

「そうよ。でも、参ったわね。貴女の記憶のデータが、もしかしたらこの箱の中に入っているかもしれないのに………」

 

 

この箱って、無理矢理にでも開ける事って出来ないの?

まあ、そんな事をしたら私がただで済むはずはないと思うけど...

 

 

「この箱は、誰かが開けるんじゃないの。箱が自らの時を選んで、中身をその持ち主に与えるの。まあ、無理矢理開けようにも、こんな防御壁(プロテクト)をかけられてるんじゃ手が出せないわ。」

 

 

私の身体、もといデータが…何でそんな事になってるんだ?

ああ、心当たりがあるのが辛い。

 

遠坂でも手出しできない防御壁を私に施せる人物が何処に居よう?

ああ、直ぐ近くに居るとも。

 

私の直ぐ傍に居て、それを教えなかった人物が他にもいるだろう?

ああ、ムカつくぐらいすぐ傍に居る。

 

 

遠坂…今からちょっとサモナー召喚するから、ちょっとサーヴァント待機させておいてほしい。

 

 

「ちょっと、何をするつもり?」

 

 

私は遂にこの時が来たとばかりに、拳に力を入れる。

 

何をするつもりかだって?

そんな事.....決まっているじゃないか。

 

 

アイツの、サモナーの心臓を潰しに行くのさ。

 

 

さあ、我が言霊を用いて、岸波白野()が命ずる。

召喚士よ、光よりも早く言峰の元に行き、言峰特製の麻婆豆腐50貫を30秒で食して、私の元に来なさい。

 

これは、命令だ。

 

 

かの召喚士は言った。

汝の言霊こそが、我が呪い。

 

抗えぬ、最上の呪い、と。

 

 

ああ、正に…その通りだ。

 

 

「何よそれ…と言うか、何であんたがそんなに怯えてんのよ?」

 

 

英霊たるもの、恐ろしいものは無い。

 

いいや、それは間違いだ。

 

 

英霊たるもの、食せぬものは無い。

 

いいや、それは間違いだ。

 

 

英霊たるもの、死を恐れない。

 

いいや、それはこれを見れば間違いだ。

 

 

 

 

それはまさに、地獄絵図。

世界の全てが紅く、赤い世界。

 

目の前の男は、これ以上ないほど喜びに満ち溢れ、周りの人間は、畏怖と尊敬の眼差しでこちらを見ている。

 

ああ、幾度となく死を味わったが………これは、無い。

こんな死は流石に味わいたくもない。

 

何でこんなに赤いの?

そして、何でこんなに熱いの?

 

我が主の呪いは、私を本気で殺そうとしている。

 

だが、愛おしい主が私に死をくれると言うのならば、私は死のう。

 

 

ああ、まるで…この世儚き桃源郷(アルカディア)

 

 

今行こうぞ、我が友よ...

 

 

 

 

 

 






新年あけしましておめでとうございます。
見て下さる読者の皆さま、本当にありがとうございます。
これからも、未熟者をどうぞよろしくお願いします。

ぽk


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第三回戦(前)

 

 

 

 

 

死を悼め。

 

 

 

失ったものへの追悼は恥ずべきものではない。

 

死は不可避であり、争いがそれを助長するのなら、死を悼み、戦いを憎み。

 

 

 

死を認め、戦いを治めるがいい。

 

 

 

 

3.disillusion/coma baby

 

 

 

 

遠くから声が聞こえる。

誰かと話をしているみたいだ。

 

何の話をしているかは分からない。

 

だけど、その声は良く知った人間のものだと分かる。

何故なら、目を開ければ、目の前に居るからだ。

 

そう…とても、とても愛おしいと思う、彼女が……

 

 

「………起きたようね。」

 

 

だが、目覚めて己の目の前に居たのは、彼女では無く、彼女の知り合いの女だった。

名は…遠坂凛。

地上では、確か反レジスタンスに所属している。

何処かの娘とは違い、この女は多少腕が立つ。

 

まだ、生かしておいて損は無い(殺さない)

 

それに……

 

 

君が泣いてしまうからね。

 

 

「白野」

 

 

———————————————————

 

 

 

「白野」

 

 

 

名を呼ばれただけだと言うのに、何故かサモナーに恐怖を抱いた。

だから、思いっきりコートの襟を掴んでやった。

心臓で無いだけましと思って欲しい。

 

 

「ぐぉおおぉ!それはあんまりだよマスター。首が、首が絞まってる…」

 

 

当り前だ。

結構本気で絞めているのだから。

 

さあ、このまま絞められて死ぬか、洗いざらいお前が知っている事を吐いて死ぬか、どっちか選んでほしいな。

 

 

「そ、それって、結局は僕死ぬじゃないか…ぐぇ」

 

「はいはい。じゃれてる場合じゃないでしょう。このサーヴァントが何を知っているのか聞くんでしょう。」

 

 

甘いよ遠坂。

このサーヴァントはちょっと殺す気で行かないと何も喋らないよ。

 

だから、こうして…キュッと軽く絞めてやればいいんだよ。

 

 

「すいません。話しますんで、命だけは勘弁して下さい。」

 

 

サモナーの顔が真っ赤、では無く真っ青に近い。

どうせ、私がこいつを殺したところで此奴は死なない。

 

私といる限りは。

 

 

「本当に死ぬかと思った...それと、離すのはいいけど...どうして遠坂のお嬢さんも居るのか聞いても良いかな。君は白野の敵だろう。マスターの情報を、態々敵に暴露するのは好きじゃないな。」

 

「心配せずとも、もう行くわ。あんたのマスターが余りにも無知だから、少し気にかかっただけよ。」

 

「それは如何も。これからも、僕のマスターと仲良くしてやってね。」

 

「……考えておくわ。それじゃ」

 

 

そう言った遠坂は、振り返りもせず行ってしまった。

遠坂はああ言ったが、何か困ったとこがあれば、彼女に相談してみよう。

 

さて、この場は私とサモナーのみ、何をするかは分かっているよね?

 

 

「はいはい、分かってるよ。君に話す事は沢山あるけど…そうだな。まずは、地上の体制について話をしよう。」

 

 

地上って事は、地球の事かな。

今現在、地球がどうなってるのか、サモナー分かるの?

 

 

「勿論。僕は地上からやって来たサーヴァントだ。そんなの容易いよ。」

 

 

流石、と言いそうになった。

先ほど遠坂が言っていたが、サーヴァントは本来ならば、死ななければ英雄の座に着く事は無く、死んで初めて召喚できるのだ。

 

サモナーは地上からやって来た…

 

有り得ない。そんな事は有り得ない。

だが...理解が飲み込めない。

 

嘘かもしれないし、本当かもしれない。

 

有り得ないと分かってはいるが、何故か納得が出来ない。

このサーヴァントは...生きている(・・・・)としか思えない。

 

 

「今の地球は昔と比べて見れば酷いものだよ。西暦では2032年ってところか。随分と物騒で、退屈なものになってしまった。」

 

 

物騒?

戦争でもやっているの?

 

 

「戦争って程の規模ではないけど、小さな紛争は多く勃発しているんだ。それに、地上で体制をとっている組織があってね。君はそのトップに会っているよ。」

 

 

それってもしかして…レオの事かな。

遠坂の嫌悪っぷりがすさまじかったから、よく覚えているし…

何故か、場違いな雰囲気だっからね。

 

 

「そりゃお坊ちゃん中のお坊ちゃんだしね。地上の約半分以上の力と富を持っている組織でね、レオナルド・B・ハーウェイは、その次期当主だ。」

 

 

成程…それで、あんなにも自信と眩しいオーラに包まれていたのか。

サーヴァントも、円卓の騎士が一人である、あのガウェイン卿。

きっと彼らとも戦うのだろうか…

 

 

「戦うだろうよ。でもね、白野。西欧財閥と呼ばれる組織は、人間を人間として管理しているだけのつまらない組織なんだ。」

 

 

サモナーはポケットから1枚カードを取り出し、映像を見せてくれる。

それは、今の地上の映像だった。

 

内戦、紛争、飢餓、反乱、そして未知の病原菌。

 

そんな中でも、目立つ集団はある。

 

喧嘩や争い事は無いが…何も見えない。

生きてはいるが、ただ動いているだけ。

 

抑圧されているようには見えないが…ここには何も見えない。

 

 

「西欧財閥は複数の組織が集まって構成されている巨大な組織だ。軍事や資源を多く有し、その力を持って管轄内に居る人間を管理していんだ。でもね、管理されるのはとても楽だ。いう事さえ聞けば生きて居られるし、痛い思いなどしなくていいのだから。」

 

 

だけど、それじゃあ…

 

 

「ああ、正直生きているだけの生き物だ。人間が人間を管理するなんてお笑い草だ。其処に進化も無ければ退化も無い。ただ留まっているだけで、つまらない。」

 

 

でも、どうしてそんな組織が月の聖杯を求めるのだろうか。

其れほどまでに力と富があれば、何でも出来るのではないだろうか。

 

サモナーは首を振る。

 

 

「いいや、願いを叶える願望機。その実は、光をも超える観測機。そんなものが西欧財閥以外の手に渡ってしまえばどうなるか知った者じゃないけど、奴らは宇宙開発を切り捨て、技術革新を抑え込んだ。」

 

 

それじゃあ、西欧財閥は…

 

 

「時間がそこで止まっているんだよ。人間は進化し続ける生き物の頂点に立っていると言うのに、自ら抑え込むなんて馬鹿馬鹿しいにも程がある。」

 

 

サモナーはそう言ってカードを握りつぶす。

潰されたカードはそのまま塵となってデータの泡となる。

 

サモナーは西欧財閥が嫌いなのか。

 

 

「嫌い…かな。あんなつまらない管理をされるんだ、嫌いに決まってる。」

 

 

まあ、そうだよね。

サモナーを管理しようとしたらきっと噛みつかれるどころか、殴られそうだね。

 

 

「マスターになら…管理されても良いかな。」

 

 

それで、続きはどうなったんだ。

西欧財閥は、その後どういった経緯で聖杯を欲しがるんだ。

 

 

「…………………クッ」

 

 

サモナーどうしたんだ。

目元なんて抑えて。もしかして、麻婆豆腐が目に染みたのか。

 

 

「い、いやなんでも無い。何でもないから…えっと、西欧財閥は自分たちが管理してきた平和を壊す力を持つ月の聖杯を手中に収めることにしたんだ。だから、次期当主ともう一人の人間を送り込んだんだ。」

 

 

ちょっと待て。

もう一人いるのか?!

ハーウェイの人間が、もう一人居るって言うのか?!

 

 

サモナーの心臓があるであろう場所を正面から鷲掴む様に、力を入れる。

 

 

「い゛っだだだだだだだ!!!ちょ、し、心臓!白野っ!」

 

 

何でそんな大事な話をしなかったんだよお前!?

それに、私の身体に何をした!

意味不明な箱があるって言うし、プロテクトがかかってるって言うし、全部お前がやったんだろ?!

証拠は無いが、お前が犯人何だろう。いいや、お前が絶対に犯人に決まっている!

 

さあ言え!今すぐ楽にしてやるぞ!

 

 

「お、落ち着いてッででででででで!!!」

 

 

痛みから逃れようとするサモナーに馬乗りし、更に力を込める。

残念だが、サモナーは此処で…

 

 

「あ、お姉ちゃん見つけた!」

 

 

そう…あと少しでサモナーが天寿を全うすると言う時に、あの子はやって来た。

新しい玩具を見つけたように、懐かしい人と合えたように、あの子たちはやって来た。

 

 

「それじゃあ、今度はお姉ちゃんが鬼ね。」

 

「遊びましょう…お姉ちゃん。」

 

 

その瞬間、

白と黒の色に私は包まれた。

 

 

 

 







寒くて指が動かない


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第三回戦(中)

 

 

 

白と黒の世界に覆われた私。

しかし、その正体はとても意外な人物だった。

 

 

「お姉ちゃん、遊びましょう」

 

「何して遊びましょうか。鬼ごっこ?それとも、かくれんぼ?」

 

 

正面から、私に抱き付いてきた小さな少女達。

一人は白のドレスを。もう一人の少女は黒のドレスを。

 

まるで双子の様な少女たち。

顔つきも、声も、身長も...全く同じに見えてしまう。

 

ねえ、君たちは一体...?

 

 

「あたしはありす!」

 

「あたしはアリス!」

 

 

満面の笑顔で、更に抱き付いて来るありすとアリス。

同姓同名なのだろうか?

 

しかし、何故私に抱き付いて来るの?

私と君たちは、初対面な筈だよね?

 

 

「お姉ちゃん、ありすの事覚えてないの?」

 

「ずっとあたし(ありす)はお姉ちゃんを見てたのに?」

 

「お姉ちゃんと遊びたくて、あたしは会いに来たのに...」

 

「酷いお姉ちゃん。お姉ちゃんと遊びたくて、此処まで来たのに...」

 

 

少女たちはこう言うが、私は本当にありす達を知らない。

何処かですれ違うとしても、こんなに目立つ彼女たちを、忘れる事は無い気がする。

 

一体何処で...

 

 

「まあ、お姉ちゃんが覚えてないのはしょうがないよ。其れよりも、遊びましょう!」

 

「鬼ごっこにしましょう!」

 

「じゃあ、鬼は……」

 

 

白いありすの視線は、私。

 

……では無く、私とありす達の下敷きになっているサーヴァント。

サモナーに視線が向けられる。

 

 

「あたしを殺した、怖~い魔法使いね!逃げましょうお姉ちゃん!」

 

「早く逃げないと、怒って殺しに来ちゃうかも!」

 

 

白いありすは、私の右手を。黒いアリスは、私の左手を取って走り出す。

屋上から逃げるように走るありすと私。

 

まあ、鬼ごっこだから捕まったら負けなのは確かだ。

 

屋上に置いてけぼりになったサモナーは、大丈夫だろうか?

死んでも生き返るのはそうだが、それは私が傍に居た時だ。

 

今回は...流れで離されてしまったが...

 

 

 

何だろう。

今までに無い、胸騒ぎが襲う。

 

 

 

———————————————————

 

 

 

 

大事に大事に育てている小鳥を、横から攫われた。

小鳥と戯れているときに、隙を付かれて攫われた。

 

取り返さなくては。

取り返して、奪った奴を懲らしめてやろう。

 

小鳥は■■▬▬▬_■

 

 

雨など降らぬ、電子の世界で、一滴の雫が零れ落ちる。

雫は波紋を広げ、波を生む。

 

その波は大きくうねり、柱を立てる。

柱は幾つも生まれ、形を成す。

 

 

「返してもらおうか...僕の大事な小鳥を。返してくれないと言うのなら、もう一度、お前の元に僕が現れよう。さあ、鬼ごっこを楽しもうか」

 

 

それは笑う。

碧い光を残して、それは笑う。

 

殺し殺され、死に出会う。

 

幼き少女は再び出会う。

出会ってはいけないソレに。

 

大事な鳥を奪った罰を下しにやって来る。

 

ソレがひとたび暴れたら、女王様も狼狽える。

大事なお茶会が...壊されてしまうよ、アリス。

 

 








日本の童歌って、怖いのが多いよ...


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第三回戦(後)

 

 

小さな生き物たちの足音を、聞いたことがあるだろうか?

小さき者たちにとっては当たりまえだが、大きな者たちは、その足音を聞いた事が無い。

 

それもそうだ。

 

己よりも小さき者の足音など、聞こえはしない。

 

だが、もしも、その音が聞こえるようになったら…君は、どうなるのだろうか。

 

 

———————————————————

 

 

「お姉ちゃん、こっち!」

 

「早く早く!」

 

 

ありす達に手を引かれ、私は廊下を駆け抜ける。

いや、今現在疾走中だ。

 

原因は...勿論、私達を追いかけて来る、アレだ。

 

 

後ろに振り向けば、迫って来る底が知れない黒いバグの様な蜘蛛や、四肢が柔らかい不気味な人型をした何か。

まるで、アリーナに出て来る敵性プログラムのようだが、それらとは、全く違う部分が一つある。

 

 

それは……

 

 

「お姉ちゃん、危ないっ!」

 

「白兎さん、お姉ちゃんを助けて!」

 

 

黒いアリスのお陰で、迫って来る意味不明な軍団に捕まらずに済んだ。

 

ありがとう、と礼を言う。

 

しかし、これは一体何でこうなったの?

 

 

「そんなもの、アイツの所為に決まってるわ」

 

「そうよ。お姉ちゃんに酷い事ばかりする、アイツの所為よ」

 

 

アイツ...、って言えば、サモナーしか出てこない。

前にもこんな事件があったしね...キャンドル大量発生事件が懐かしいね。

 

傍から見れば、呑気に話しているようにも見えるが、実際にはかなりギリギリだ。

 

アリーナに入れば楽になるかもしれないが、何故がアリーナに移動できないし、言峰にも連絡を取ったけど、「何やら、おかしなバグがムーンセルに入り込んだお陰で、処理が間に合いそうにない。もうじき収まると思うが、それまでは頑張りたまえ。」、とか言われた。

 

あの神父……端末越しでも分かるくらい喜んでたよ。

 

 

「ねえ、あたし(アリス)ジャバウォック(お友達)は呼んじゃダメなの?」

 

「駄目よ、あたし(ありす)。あんなもの、ジャバウォックが逆に飲み込まれてしまうわ」

 

「でも、このままだと、お姉ちゃんが獲られちゃう」

 

「折角お姉ちゃんを助けることが出来たのに」

 

「これじゃあ、意味が無い」

 

 

助けた...?

私を?

 

私は別に、囚われのお姫様とか、そう言うものではないけれど。

 

 

「違うの。違うの。お姉ちゃんを見つけた時には、もう遅かった」

 

「あんな奴に魅入られてしまった、可哀想なお姉ちゃん」

 

「だから、あたし(ありす)あたし(アリス)は、ずっと待ってた」

 

「あいつの瞼が閉じる時を」

 

 

瞼を...一体どういう事だろう?

今現在走っていなければ、じっくり聞きたいところだ。

 

カサカサなどと言う可愛い足音では無く、カツンカツンと、金属を叩いている音がする。

 

それに、足音もそうだが...何より敵性プログラムと違うのは...

 

 

『ハクノはくの白野をカエせ』

『返してかえせ帰しなさい』

『アアアアァァァァアアァァァア』

 

 

等と言う、聞きなれた声と、意味不明な泣き声。

これはもう...サモナーだろ。

 

だって、アリーナの敵性プログラムは問答無用で襲い掛かって来るし、鳴き声とか上げないもの。

それに、私の名前呼ばないから。

 

一体どうなっているのかは知らないが、サモナーは辛うじて姿は保ててはいるが、その原型は崩れかけている。

 

片足が骨となり、蔦に絡まれ、尻尾…みたいなのも生えてるし。

サモナーの周りが、何故か一種の結界みたいに歪んでいる。

 

驚くべきことに、サモナーの異形化は今現在…進んでいる。

 

こうして、私とありす達が逃げている間にも、サモナーは着々と異形のものへと変貌し続けている。

学校のデータを取り込んでいるのだろう。

 

まあ、幸いな事に、凛やラニと言ったマスター達や、NPCは取り込まれてはいないが...恐らくそれも時間の問題だ。

 

最悪のパターンは2つ。

 

1つは、このまま逃げ続けていれば、聖杯戦争参加者を取り込んで終うかもしれないという事。

1つは……

 

橙子さんが言っていた、最悪の場合。

 

 

サモナーに取り込まれた様々なデータが一つに固まり、凝縮、凝固、圧縮、圧迫、等を繰り返し…最後には、爆発する。

 

爆発は、取り込んだデータの量と熱量によって、爆発の規模が変わるらしいが...

サモナーが今まで取り込んだデータなど、検討も知れない。

 

何かを呼び出すには、捉え・命令・解析・復元して、ようやく召喚できるらしい。

 

だが、橙子さん曰く、過去の英雄にそんなことが出来る英雄はいない。

ソロモン王も、そんな事は出来ない。

そんなもの、別の世界を知っていなければ不可能だ、と。

 

 

『Vaaaaaaa!!!!!』

 

これ以上ない怒涛に満ちた声。

それはまさに狂戦士(バーサーカー)に相応しい唸り声だ。

同時に……

 

「なによ...あれ?」

 

「うそ…うそようそようそよ!!!だって...アレは...」

 

 

橙子さんや青子さんが居る教会までもうすぐだと言うのに、白いありすと黒いアリスは立ち止まる。

何故ならば、目の前にサモナーが出会った時の笑顔で、行く手を防いでいた。

 

立ち止まったのは...まだ良いとしよう。

だが、ありす達の様子がおかしい。

 

 

「あなた、もしかしたらと思ってたけど...やっぱり■■■■なのね」

 

 

アリスがありすを庇うように前に出る。

サモナーは...先ほどと変わらず微笑んでいる。

 

後ろは、お前もうバーサーカーで良かったんじゃないか?と疑問を抱くような姿をしているサモナー(多分)。

前には、不気味さなど感じられない微笑みで、立ちふさがっているサモナー(多分)。

 

どちらが本物…?

いや、本物などあるのか?

 

返して(許さない)その子は、僕のマスターだ(許さない許さない許さない許さない)。」

 

二つの(思考)が重なって聞こえる。

これは...どちらもサモナーのものだ。

 

サモナー。私は大丈夫だから、部屋に帰ろう。

三回戦目のマスターが発表される頃合いだろうしさ、ね?

 

 

 

 

その瞬間、小さな悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 







まだ寒い


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近づく足音

 

 

それは小さな悲鳴だった。

 

悲鳴を上げた少女は、時が衰退したかのようにゆっくりと床に倒れる。

 

何があった?

一体何が起こった?

 

何も見えなかった。

それに、彼女が一体何をしたと言うのだ。

 

まだ幼く、私の手を取った...ありすに・・・

 

 

「ありす?!一体どうしたの、ありす?!ねえ、起きて頂戴!」

 

 

白いありすが倒れて、黒いアリスは急いでありすを抱き起す。

必死にありすを起こそうと、身体を揺らすアリスだが、ありすは覚めない。

 

白いありすが倒れたのが満足なのか、目の前のサモナーは笑顔だ。

だが、目の前のサモナーは...やはり違う。

 

幾ら姿かたちが一緒でも、この目の前のサモナーは全くの別人だ。

そう...例えば、姿だけを似せた、中身のない縫い包みだ。

 

 

あなたは誰?、と言う。

 

僕は君のサーヴァントだよ、と返される。

 

違う。あなたはサモナーじゃない、と言う。

 

何を言うんだい。僕は、君のサーヴァントだよ、と返される。

 

 

私の横で、必死にありすを起こそうとしているアリス。

その瞳には、零れてしまいそうな涙が溜まっている。

 

 

私のサーヴァントは、こんな事はしない。と言う。

 

何を言うんだい。僕は、マスターの命令に従っただけだよ。と返される。

 

 

目の前のサモナーが、黒いアリスに指をさす。

すると...後方に居る、異形の姿をしているサモナーが、獲物を見つけたかのように、サモナーの瞳孔が大きく開かれた。

 

それは、私では見えない。

それは、私では捉えることが出来ない。

それは、私では捕まえることが出来ない。

 

一瞬の内だった。

 

ほんの一瞬…いや、何が起こったのか分からないが、異形の姿をしたサモナーの口に銜えられている小さな手を見れば、直ぐに分かった。

 

 

「えっ……?」

 

 

それは、アリスにも分からなかった。

何故ならば、ありすを抱きかかえていた腕の一本が、根元から食い千切られていたから。

 

食いちぎられた腕は、骨を掻き砕く音と共に消えた。

 

 

「あ...ああ、あぁあ...駄目よ、駄目なの。」

 

 

アリスは必死に首を振る。

それはまるで、何かを抑えようと。

 

 

あたし(アリス)が、アリス(あたし)で無くなってしまう...。いや、いやよ!止めて、あたし(・・・)を破かないで!!!」

 

 

すると、アリスの千切れた腕の痕から、本のページが大量に溢れて飛び出してきた。

ありすとアリスを中心に、それは頁の嵐を生む。

 

私はその衝撃で、保健室の扉に身体を打ち付けた。

 

気絶はしなかったが、私に危害を加えたと思ったのだろう。

最早、人の姿をしてはいないサモナーが、前足に力を込めて、前進する。

 

頁の嵐は、それを防ぐかのように激しさを増す。

一枚一枚が、鋭い刃物の様な切れ味に変化した。

 

仕返しとばかりに、前足の一本が切り裂かれる。

 

だが、切り裂かれた前足は、歪に再生し、変化する。

自己改造…自己変化…いいや、どれも違う。

 

あれは変化や改造なんかでは無く、進化や成長に似た何かだ。

 

そうだ。あのサモナーはデータを今の取り込んでいるのだ。

人か呼吸をする様に、サモナーはデータを食べている。

 

データに対象など無く、壁や床、窓ガラスや天井、無差別にデータを取り込んでいる。

 

データを取り込めば取り込む程、サモナーは進化し続けている。

獣一歩寸前の姿だが、これ以上無差別にデータを取り込めば、最悪の事態が待っている。

 

それをきっと分かって、サモナーはデータを取り込んで(食べて)いる。

 

 

「これ以上、あたし(ありす)アリス(あたし)に近づかないで!!!お姉ちゃん返すから、あたし(ありす)に近づかないで!!!」

 

 

魔力の刃が、サモナーの身体に深々を突き刺さる。

だが、どうだろう。

 

サモナーの身体は、その魔力をも取り込み、自らの進化を催促させる。

もうあれは人では無い。

 

 

様々なデータが無理矢理繋がり、ギリギリ形として留めているだけ。

ソレに名は無く、あるとすれば…そう。

 

 

「いやっ…来ないで!来ないで!!!い…いやぁあーーーーーー!!!」

 

 

 

無慈悲な暴力だ。

 

 

 

命を奪う事に特化した爪が、全てを屠る。

ありすを...傍に居たアリスさえも...

 

爪痕は大きく残った。

・・・もうその場には、何も無かった。

 

何も...何も。何一つとさえ、残ってはいない。

 

 

ハラリと私に降って来たのは、一枚の頁だった。

 

 

籠の中の鳥

鳥は自分の姿を知らない

籠から逃げたい鳥に

自由を上げようとしたら、あら大変!

籠が鳥に絡みつく

籠の棘で、鳥の翼は血塗れだ  

鳥の自由は籠の中

 

 

痛みに暴れる哀れな鳥

途中で気づけばまだ間に合う

けれど、籠が全てを覆う

鳥を護る籠だけど

棘があるのは、なぜだろう?

 

 

見たことも無い詩だ。

他の頁は、全て消えたと言うのに、どうしてこれだけが...

 

この詩を見た時、ざわざわと胸が騒ぐ。

どうしてだろう...

 

 

目の前のサモナーよりも、異形の姿のサモナーよりも…

 

 

私は何故か、この詩が怖かった。

 

 

 



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不可侵を犯した罰

あの後、私は気を失った。

理由は言わなくても分かる。

 

サモナーだ。

 

オーバーヒート寸前のくせに、保健室周辺のデータを問答無用で食べまくったからだ。

 

熱量が凄まじい事になり、電撃にも似た痛みが、私に降りかかったのだ。

 

幾らデータであると言えど、過度な量は身を滅ぼす。

サーバーがキャパオーバーしているようなものだ。

 

いや本当に勘弁して欲しい。

そろそろ私、死ぬぞ。冗談ではなく、自身の使い魔(サーヴァント)に殺される。

 

「白野さん白野さん。そろそろ起きてくれないと、色々と大変だよ。具体的に言えば、僕ら絶体絶命だよ」

 

起きたくない起きたくない。

目覚めて、最初に見るのがサモナーなんて、嫌だ。

そもそも絶体絶命な状況なんて変わらないさ。

 

暖かい布団の中に、私は引きこもる。

籠城だ、籠城。

 

「いや君がそうしたいのなら、布団の中だろうとデータの中だろうと籠城すればいい。僕は止めない。でも今は少し起きてくれないと困る状況下なんだ」

 

困るのは私の方だ。

何が悲しくて、こんなサーヴァントと一緒に居るのか、未だに理解できない。

 

ああ、何故私はこんなサーヴァントを持ってしまったんだ?

 

「まあまあ、でも起きないと大変なのは、本当だよ。僕たち、粛清対象になっちゃたから」

 

がばっ、と布団から飛び起きる。

 

何だって?サモナー、今、なんて言ったの?

 

「粛清だよ。セラフが遂に怒っちゃったんだ。まあ、思ったよりは遅かったけどね」

 

ハハハ、とはにかむサモナー。

 

ちょっと待て。待ってくれ。

粛清対象って何ですか?ちょっと怖いんですけど。

 

「ほら、僕ってさ色々とルール範囲外の事ばかりやって来ただろ。それが、あの鬼ごっこでバレちゃったんだ。まあ、よくある事でしょ」

 

よくある事ではありません。

 

……もしかして、粛清って私達消される?

 

「んー。違うよ。粛清ってのはね…」

 

 

 

今生き残っているマスター達に、滅多殺しにされるんだよ。

 

 

 

静かに。

水の音が聞こえない静かな声で、サモナーは言った。

 

今生き残っているマスター達に殺される。

どう考えても生き残る事なんて出来ない。

 

それに、それだけのルール違反をしてきたのは確かな事だ。

 

不安な筈なのに、何処か安堵感を、私は覚える。

 

ようやく、これで解放される…などと、何故思うのかは、分からなかった。

 

「まあ、大丈夫大丈夫。今生き残っているマスター達は、大体30人だから...まあ、いけるね」

 

コートのポケットからカードを取り出し、枚数を数えるサモナー。

 

いやいや、いけませんいけません。

どう考えても死ぬからね。

 

遂に終わりがやって来たんだよ。

 

だけど、サモナーは笑う。

 

「大丈夫だよ。それに、もしも100以上のマスター達と戦っても、僕は死なない」

 

私の眼を見て、サーヴァントとは笑う。

それは、確信よりも、真実に近い眼差しで。

 

そうだ。私は、この眼差しを、この目を、私は知っている。

 

だって、このサーヴァントは…

 

「あ、そうだ。君が粛清対象に成った事で、僕のステータスが皆にバレてるんだっけ。いやー有名人って困るね」

 

 

……………………は?

 

 

「ハンデだよ、ハ・ン・デ。僕ってば君といる限り死なないからね。どんな攻略をするのか、楽しみだね、マスター」

 

楽しみじゃないです。

これってもう負けていいよね?!いや、負けよう!全力で負けよう!!!

 

「何言ってるんだよマスター!?これは、起死回生のチャンスでもある!ここで、マスター達を半数位倒せば、楽に聖杯に進めるんだよ!心配しないで、僕は君と共に在る限り、僕に死は訪れない」

 

ムーンセ――――ル!!!?

今すぐ消去に来てください!!!

 

このサーヴァントやばい!

色んな意味で、いや本当に危ない!!!

 

マスターの皆さん、超逃げて!!!

 

…って、待てよ。

 

私が粛清対象に成った事を、凛やラニは知っているって事だよね。

 

「まあ、そうだね。如何するマスター。もしも、彼女たちが襲ってきたら、君はどちらを選ぶ?」

 

何言ってんだお前?

 

「そう冷たくしないでよ。で、君なら遠坂凛かラニ=Ⅷ…どちらを救う?」

 

そう言って、サモナーは私にカードを2枚渡す。

 

碧いカードには凛が。

紅いカードにはラニが描かれている。

 

 

遠回しに、きっとサモナーはこう言っている。

 

 

「どちらの友の手を払い、どちらの友の手を取る?」

 

 

此奴は私に選ばせようとしている。

 

サモナーを見れば、まるで何事も無いように微笑んでいる。

…最近、この微笑みに多少イラッと来ることがある。

 

 

そんな訳で。

 

 

2人とも救います。

いや、もうこれ以上…あなたにマスターを殺させない(・・・)

 

 

「…………………」

 

 

サモナーに、カードを押し付けるかのように返せば、目を見開いて驚いている。

 

「...君は」

 

ん?

 

「君は、僕の■■によく似ているよ。全く...これだから、楽しいんだよ」

 

はい?

僕の何だって?

 

「気にしないで。まあ、マスターである君の意見を尊重して、余り殺さないようにするよ」

 

余りじゃなくて、殺さないで下さいよ。

 

ホント、これ以上戦えば、サモナー…爆発するよ?

 

「大丈夫。データを馬鹿食いするクラスを、僕は知ってるから。さ、マスター行こう」

 

手を差し出され、本当は嫌で嫌で仕方がないのだが…被害が大きくならない様、私はこのサーヴァントの手綱を掴んでおく必要がある。

 

 

この手を取れば、私は更に目覚める事は無いと分かっても、私はサモナーの手を取るのだった。

 

 

 




退院したよ


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繋がり

 

 

 

 それに意思がなければ意志もない。

 ただ立ちふさがる敵を完膚なきまでに潰すこと。

 

 彼に正気はなく、ただ動かされるままの人形だ。

人形は糸で吊るされている訳でも無ければ、手で操っている訳でもない。

 彼を動かしているのは、そんなものではない。

 

 ただの、心だ。

 

 衝動に駆られたその心、求める者はただ一つ。

 

 壊れ果てるまで、戦うのみ。

 

 

———————————————————

 

 

 

 

 ルール違反者には、鉄槌を。

立ち上がれぬほどの痛みと絶望を。

そして、死を。

 

 

 

 3回戦目が、開始される6日前。

 

 私が遂に、裁かれる時が来た。

月の聖杯戦争では使われる事の無い、体育館。

そこにいるマスターは、私だけではない。

 

 これまで、行われた死闘に勝ち続けたマスター達。

その殆どが、この体育館に集まっている。

 

「いやはや。最初は128人もいた人間たちも、今はその半数以下とは...やっぱり人間は減っていくことに関しては、素晴らしいものを持っているよ」

 

 私の隣にいるサーヴァント、サモナー。

何がしたいのかよく分からない、何を行っているのかも不明、そして、未だにその真名が明らかになっていない、得体のしれないサーヴァントだ。

 全く、どうしてサモナーは、私と一緒に居るのか分からない。

 

「だけど、楽しくなってくるじゃないか。僕は好きだよ、完膚なきまでに殺しにかかる、その姿勢。セラフも、いいNPCを選んだことだ。ワクワクするよ」

 

 この状況を見て、ワクワクするなんて...やっぱりこいつはおかしい。絶対に可笑しい。

人間止めてるどころじゃない、神性生物を見て「かっこいい」、と言っているようなものだ。

 

「お気に召してらえて何よりだ。何故、この様な場が用いられたのか理解しているな?」

 

「勿論。と言いたいけれど、分からないから教えて欲しいな」

 

 言峰の問いに対して、白々しいにも程があるよ、サモナー。

お前がやらかしてきた事なんて、最初から今までを言うと、泣きたく成るどころの話じゃないから。

一発殴らせてほしい。寧ろお前の髪の毛、全部引っこ抜きたい。

 

月の聖杯(ムーンセル)最深部へ、外部からのハッキングの後、その一部を奪取し、自身のプログラムを再構築などと...よくもまあ、この様な大事にセラフが気づかないとは、少々驚いたがね」

 

「はっはっは。褒めてもいいよ。寧ろ褒めるべき場所だね。僕が如何に凄いか、此処に居るマスター達に知れ渡るんだ。遠慮はいらない、メガホンあるよ。使う?」

 

「いや結構だ」

 

 呑気に会話をしている場合ではないというのに、何でこんなに生き生きとしてるんだろう。

 体育館の二階の手摺には、生き残ったマスター達。その中には、凛やラニ。そして、レオの姿もある。

 

「では、時間がもったいないので始めるとしよう」

 

 言峰の、その手には、1枚の赤いカードがある。

 

「諸君らには、メールと共に付属させておいた、1枚の赤いカードが有る筈だ。それを使い、今からゲームを行ってもらう」

 

 ゲーム?

 集められたマスター達も、説明されなかったのか、驚いている。

 

「ルールは勿論簡単だ。君達の手元にある赤いカードを、特異中の特異サーヴァントである。サモナーに触れさせてしまえば、君たちの勝ちだ。勿論、誰かひとりでも触れさせたら、それも君たちの勝利だ」

 

「そんな簡単なルールでいいのかしら?それと、私たちが勝利したとして、なにかメリットがあるとでも?」

 

 口を出したのは、凛だ。

此方を見つめる瞳には、敵意は感じられない。けれど、此処に居るという事は、私を倒すために来たという事なのだろう。

 

「そうだな...。私もこれまで行われた聖杯戦争でも、これほど特異な事例は無かった。なので、もしも君たちが勝利したのならば、3回戦目の戦いの相手を、自由に選びたまえ。それが、勝利者への褒美だ」

 

 会場が騒めく。

 当り前だ。セラフが選ぶのではなく、個人で相手を決める事の難解さ。褒美と言う割に、とても無理がある。

 

「なによそれ!褒美なんてものじゃないでしょう!ただの嫌がらせじゃない!!!」

 

 うん、そうだね。全く持ってその通りです。

 

「そうかな?僕が知ってるところなんて、目と目が合ったら即戦闘だったから、まだ選べるだけましだと思うけどな」

 

 お前は一体、どこの英霊なんだよ。

 そんな危険な時代にいたのか、サモナー。

 

「いや危険というよりも、王様決定戦みたいな…んー、なんだろうな。お祭りかな?」

 

 私に聞かれても困る。

 それに、なにその王様決定戦って。

 

「ゲームの王様を決める戦いだよ。誰が一番優れたゲームの王か決めてたかな?まあ、上位に行けば行くほど命を落とす、危険性があったね」

 

 何それ。こわ。

 そんな時代に生きてたのか…。

 

「正確には、今も生きてる。だって僕の名前は ▬▬▬ 」

 

 …ナンデスッテ?良く聞こえなかったんだけど?

 

 サモナーは確かに、己を指し示す名…真名を言った。だが、なぜだろう。私には聞こえないのだ。聞こえている筈なのに、分からない。音として、データとして、理解が出来ない。

 本当に、分からない(・・・・・)

 

「良いんだ…だって君は、まだ僕を知らないから。知らないから分からないんだ。君と僕は、未だ出会ってすらいない。君が君で居る限り、僕が君と出会う事は決してなかった。けれど、あの選択を、あの最後の瞬間にだけ、君は僕と繋がった。まあ、それも一方的なものなんだけどね。君が僕の名を知る時が来れば、君は全てを知る。そう...全てを、ね」

 

 サモナーの武器である、カードが流れる星の如く体育館に降り注ぐ。

 淡く光ったり、強く点灯したり、まるで生き物のように点滅して降り注いでいる。

 

「さあ、ゲームを始めよう。いかに簡単なゲームとて、本気にならなければ泣くことも出来ずに終わってしまうよ。それが嫌なら本気で来るが良い。君達が倒そうとしている相手が、一体何者なのか…その全てを以って教えよう。かかって来い、光の子らよ!」

 

 

 

 

 

 

 



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永遠に

 

 

 

 思えばそう...懐かしいものだ。

 私は生まれ墜ちた瞬間から消えてしまう。否、封じられてしまう。

 

 祝福を受けることもなく、愛も、自我も、意志さえもなく。

 

 けれど...だからこそ私は求めた。

 

 その愛を、その手を、その心を。

 

 欲したものを望めば、欲したものが朽ちて消える。

 何故だ。

 

 愛したものから、壊れていく。

 どうして。

 

 近づいてみれば、狂っていく。

 嫌だ。

 

 生まれ墜ちた瞬間から一緒なのに、なぜ私が置いて行かれる。

 何故私だけが取り残される。

 

 如何して私だけが欲してはならないのか。

 私達は変わらない筈なのに。私たちは同じく愛される筈なのに。

 

 何故私は何も掴めないのだ。何も望めない。何も愛せない。何も求めれない。何もない...生まれ墜ちた瞬間から、私は全てを殺された。

 

 意志も自由も祝福も。

 

 唯一私が出来る事はただ深く、眠るのみ。

 

 私が起きてしまわない様に。私が見つけてはいけない様に。

 深い深い、何も見えない黒へと。

 

 成らば私は私を愛そう。

 私の元へと近づく者へ祝福を、愛を、そして私を捧げよう。

 

 私と一緒に永遠の世界を共に行こう。

 

 生まれ出、全ての命。愛おしき命。輝く光。祝福、恩恵、加護。ああ愛しい。愛しい。私と共に生まれたものよ。私は愛す。例え、私が全ての▬▬だとしても。私は私を愛する。

 

 生きとし生けるものの全てに『 私の 』愛を...

 

 

 

———————————————————

 

 

 

 

 その光景はまさに赤い流星群。

 赤き尾を残し描く光。

 

 アレに触れたらこの身体(データ)の権利が剥奪されてしまう。

 

 こんな絶望的な状況だというのに、隣に立つ彼女は酷く冷静だ。

 何故彼女に拘るのか未だに理解できていない。

 

 どこにでもいる平均的な能力だというのに、何故彼女は前に進むのか。

 

 分からないけれど、彼女は私の愛を受けた者。

 

 成らばこそ、此処に居る誰よりも愛を捧げよう。

 

 

 

 

———————————————————

 

 

 

 

 あの時。

 いつもの様に私は微睡んでいた。

 

 眠ればいいものの、私は眠るのが嫌だった。いや怖かった。

 

 だって寝てしまえば傍に居る事さえもできず、愛を囁くことも出来ない。

 ましてや手を握る事さえも不可能。

 

 ずっと隣にいるのに。

 ずっと後ろに居るのに。

 ずっと愛しているのに。

 

 だからこそ、眠ってしまえば終わりなのだ。

 

 

 

 そんな時だ。

 

 私が微睡んでいるときに彼女は、私に触れた。

 

 

 

 私は恐ろしかった。

 私に触れてしまったら消滅か狂気に呑まれるどちらかだ。

 

 なのに...。

 

 それなのに彼女だけは壊れなかった。

 

 

 初めてだった。

 初めて、触れた。

 

 彼女はとても暖かかった。

 

 初めて命の暖かさに触れた。

 

 嬉しい。幸せ。喜び。笑い。祝福。光栄。

 ああ、愛おしいものに触れることが出来たのがとても嬉しかった。

 

 

 ようやく愛し合うことが出来るのだと、そう思ったのに...

 

 

 何故、何故、何故何故何故何故...

 彼女を連れて行くのか。

 

 どうして私の元から連れ出すのか。

 

 幾度となく繰り返される選択の中、彼女は眩しい笑顔で笑っている。

 

 その隣にいる過去の英霊と共に、幸せを分かち合っている。

 

 

 どうして。どうして気が付いてくれるのだろうか。

 こんなにも近くに居るのに。

 こんなにも傍で見ているのに。

 

 私は生まれた時から一緒だというのに。

 

 なぜ、彼女の隣には私が居ない?

 私がいなければならないのだ。

 

 彼女には私が。

 私には彼女が。

 

 そうだ。いつだって私達は久遠の時を共に居た。

 そうだ。いつだって私達は対等であれた。

 

 いつの日か、対立する日が来ようとも。

 私達は同じ存在。

 

 なのになぜ、彼女の隣には私が居ない。

 

 

 

 そうだ。

 私は彼女を知らない。だから彼女も私を知らないのだ。

 ならば私が彼女を知り、彼女が私を知ればいい。

 

 

 

 私はようやく愛する事が出来るのだと、彼女を抱えながら思うのだった。

 

 

 

 



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真なる果実になるために

 

 

 

 痛い。 

 そう感じるのがやっとだ。手や腹にどてっぱらを開けられて、痛いだけなのは幸いだ。それしか感じられないという事は、それだけしかないという事だ。

 

 正式な契約なんて、、、端から結べるものじゃない。僕と言う存在は、余りにも大きすぎた。

  

 彼女と僕をより深く繋ぎとめておくにはアレしかないと思ったからだ。

  

 強引だろう?だが、それで僕と言う。

 

 彼女にとって僕はきっと許されない。それが、僕なのだから。

 いつだって、僕は光には勝てたためしがない。

 

 でも、それでも、僕は光が恋しい。

 愛おしく、愛しみ、愛情、親愛、敬愛、一つにまとめてもまとめられない。

 

 僕にとって、光は彼女。

 彼女は光。

 

 

 深海に差し込む光そのもの。

 

 

 眩く、守り、憧れ、手を伸ばし最後には握り(・・・)潰す。

 

 

 

 それまでは、僕は獣となり、闇となり、敵となり、最後には君の傍に居るのだろう。

 

 

 

 

 

 

———————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 you are my master ... no you are my hunter

 

 so...you kill me at any time

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、まだ立ち上がるのか」

 

 眼前には血に染まった獣ではなく、身体に幾つもの穴があいている獣が一匹。

 その後ろには外傷こそ見られないが、疲労しているルール違反者が一人。

 

 獣は初めから獣だった。

 外装を脱ぎ捨てたものの毛皮の下には骨だけ。

 

 いや他にもあった。

 存外大事にしていた月の蒼い光が、呼吸をしているかのように点滅している。

 

 

 幾らその身の特権をはがしても、その身ごと脱ぎ捨ててしまうため埒が明かない。

 

 

「これほど奪ってもまだ立ち上がるのは興味深い。一体君のサーヴァントは何処の出身なんだ?」

 

 

 言峰...そんなものは私が聞きたい。

 

 一種の戦場と化しているこの場で、何食わぬ顔で話しかけてくる。

 もともとこういう人だったのかもしれない。

 ムーンセルに記録された元の人物はさぞ、良い趣味を持っていたに違いない。

 

 

 視線をサモナーだったであろうサーヴァントに向ける。

 

 皮膚は剥がれ、その中心には蔦に守られている碧い月の結晶。

 人だった面影は全く残っていない。

 

 顔も潰れており、何処で呼吸をしているのかもわからない。

 

 

 それはあの時見た獣と同じ姿をしている。

 

 

「先ほどムーンセルに君のサーヴァントの真名を送って来るよう申し込んだのだが、よほど嫌われているのだろう、その名はバグで染まっていた。いやはや、面白みがあるサーヴァントはやはり良い」

 

 

 

 ソウデスカ。其れは良かったですね。

 

 お陰でこっちは赤いびーむだの落とし穴だの鉄の雨だの避けるので疲労困憊だ。

 

 

 

「それは恐らく君を狙ったわけではないだろうが、君も十分に諦めが悪いようだ。良い加減ここで諦めてしまってはどうかね」

 

 

 諦める?

 この状況で、私は諦める?

 

 確かに、この状況なら諦める方が早いし、狭い体育館内で逃げる必要もない。

 

 サモナーだった黒い獣を見る。

 飛んでくる赤い星を払いながら必死に抗っている。

 

 その身体のいたる個所からは、ドロドロとした赤い血が流れているにもかからわずだ。

 

 手を撃ち抜かれても、足を砕かれても、獣は倒れない。

 

 

 ...言峰。

 諦めるのは簡単なんだ。

 もう進めなくていい、もう立ち上がらなくても良い。

 

 それは分かっているけれど、私は諦めたいとは思っていない。

 だって、諦めることをしないことが、私にできるただ一つの事だから..!!!

 

 

「ガァ”ァァ”ァァァ”ァァ”ァァァ————————!!!!」

 

 

 え?

 サモナーが咆えた。

 顔ないよね、顔ない筈なのに何処からそんな地獄から出て来たような声が出るのさ?! 

 

 

「何でだあ゛!何で手に入らないんだよ!!!君に肩入れするのは僕だけかと思ったのにどうしてあんな奴らにモテてモテてモテまくってるのさ!?あ゛あ゛あ゛ァ”...何処に行っても邪魔は入るし、ちょっと近づいただけなのに刺されるわ撃ち抜かれるわ呪われるわで殺されるしで酷いよ゛。取り敢えず今のところはまだ気づかれていないのが幸いだ。ウグァァァ”アァァァアアアア—―—————!!!!」

 

 

 ちょっと何言ってるのかさっぱりわからないんだけど、サモナー!

 頼むから黙ってくれないかな!?いや今すぐに黙って欲しいな!

 ついでに話せるんなら、もとの姿に戻って欲しいな!

 

 顔のない獣は意味不明な事を叫びながら走り回っている。

 一体奴に何があったというんだ...。

 

 取り敢えず元気そうなので元に戻って欲しいです。

 

 

「えー...こんなに僕が身体を張って逃げ回ってるのに酷いなあ。見てよ、この醜い姿を。こんなに醜い獣の姿になっているのに、誰一人始末してないんだよ?そこだけは褒めて欲しいなあ...姿は醜いけど」

 

 

 いやいやさっきのよりはマシだよ。

 さっきまで顔なかったし、そっちの方が怖かったよ。

 

 今は...なんか山羊か牛の頭蓋骨を足して角をはやした感じの骨になってるからまだマシかな。

 

 

「そこは素直に顔と言ってくれないのね...」

 

 

 いやだって骨に変わりは無いから。

 今の姿の方が十分獣らしいからそのままでお願いします。

 

 

「えーーーー、そこは元の人の姿に戻って欲しいって言う所じゃないの?!人の姿の方がかっこいいでしょ?!いや眼鏡かけたら君の好みの顔になってるでしょ!?」

 

 

 何を言っているのかさっぱりわからないが、きっとサモナーが眼鏡をかけてもそんなにかっこいいと思わないんじゃないかな。

 正直、人の姿でいるよりそっちの姿で居てくれた方がまだ安心する。

 

 

「オウフゥ...なんてこった。こんな切羽詰まった状況で言葉の剣が刺さった。うん、間違いなく刺さったな、心臓にぐっさりと刺さったね」

 

 

 それは良かった。

 其れよりもサモナー。今この状況を如何にか生き延びたいのだけれど...って、体育館の隅で縮こまってる場合じゃない。

 サモナーの力を借りたいんだ。

 

 力を貸して欲しい。

 

 

「......こんな時に言うのもアレなんですけどね、白野さん」

 

 

 ん?

 

 

「この戦いが終わったら、僕と結婚してくれない?」

 

 

 .........新手の詐欺か?

 それとも、新種の悪だくみか?

 

 そう言って、また事件に引き摺り込むんだろう?

 いやいや、流石に2度目は引っかからないよ。

 

 契約書にサインとかしないから。絶対にしないから。

 

 

「いや僕が言っている結婚は其れとはちょっと違うんだけど......まあ、君が手に入るのならそれもいいか!!!」

 

 

 よくないぞ。全く持ってよくない。

 其れよりも、サモナーが言ってる結婚って何さ?!

 

 先ほどよりもまして赤いびーみが飛んでくる。

 なんか威力上がってない?!

 絶対に私狙ってる誰かの仕業だよね?!

 

 

「なーに、僕の言う結婚はね...」

 

 

 サモナーの身体が黒い霧に包まれる。

 靄がサモナーを隠していく。

 

 

「光を、闇より深い深淵に引きずり落とすことだから...ね。落としてあげるよ、マスター」

 

 

 

 

 

 



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いま、ふたたび

 

 

 

 

 

 もう何度も見ている夢を見る。

 後悔と無念。許してくれと言う懺悔の叫び。

 少年が泣いている。消えゆく友をその瞳に移しながら。

 彼は、どうして泣いているのだろう。

 友達の為...いや、彼が泣いているのは友の為ではない。自分の為だ。

 

 美しき永遠とも続くかと思われた、あのありふれた日常。

 他愛ない話に友との語り。その全てが大切なモノで、愛おしいとさえ思われていた。

 

 だが、永遠は所詮は儚き時の中。

 彼らの運命は、別れ。

 

 大切な大切な日常。

 

 それをとても大事にし、愛しみ守り通していた。

 

 だが、それが駄目だったのだ。

 愛おしいものは崩れ、友は死に、日常は戦場へと変わった。

 愛さなければ良かったと後悔しても無駄に終わる。それは全てを奪うのだから。

 

 いや、全てはあるべき場所に還った。ただそれだけな事。

 それにアレは眩しいものを好み捕食し、胸の内に閉まっておくのがアレの趣向。

 

 最後には自信が滅ぼされると知りながら光を喰らい、汚し、閉じ込める。

 もともと自我など無かったにも関わらず、何故人に寄り添うのか。

 決まっている。

 

 輝く光よりも先に、アレは生まれていた。

 何もなかった無の宙に生まれた小さな光。其れはアレにとってとても眩しく輝き、とても美しく、飲み込んでやりたいとさえ思っただろう。光が生まれたのと同時に、アレは芽吹いた。

 

 光の輝きが陰るとアレは自らを差し出し光を存命させた。

 何のために?決まっている。アレは酷く光に弱く、同時に光を愛おしんでいる。

 

 虚無の宙に輝く光。

 なんと、なんと美しく見えたのだろう。

 

 やがて1つの光が分かたれ、小さな光は宙の彼方にまで散っていく。

 見届けたそれは、役目を終え何をすることもなく静かに眠った。

 

 だが、それは間違っていた。

 

 眠る事で光の成長を催促させることが出来ると踏んだのだろう。

 しかし光はアレが思っていたよりも脆く、不安定なものだった。

 自ら輝くことが出来ても影さえも塗りつぶしてしまう強烈にして凶悪な光。

 

 無垢な宙は一瞬にして何もかもを塗りつぶす光に侵された。

 光は、影があってこそ儚くも美しい現象を生み出すのだ。それをただ光のみ輝いても、それは美しさとは違う。残酷に過ぎない。

 

 じわじわと侵食して来る光に、アレは目覚めざるしかなかった。

 その時瞳があったのなら、何もかもが閃光によって塗りつぶされた眩い宙に違いない。

 

 泣きじゃくる赤子をあやす様に、ソレは優しく光を包み込んだ。

 この中でなら淡く輝き、温かな光で居られる。

 

 故に、共に眠ることにしたのだ。

 

 何もない宙に輝きを放つ光とそれを保護する()

 お互いが欠けてはならぬ存在であり、お互いが侵食する存在でもある。

 

 意志もなく自我もない。

 ただ何もない宙を照らす光に寄り添う闇。

 

 最初は其れだけだった。それで良かった。

 安心できる宙に漂う石は身を任せた。

 

 けれど、それも長くは続かなかった。

 

 始まりは小さな石の衝突から。それから大きな大きな石が生み出され、自ら輝く石も生まれた。

 そこから狂い始めたのは光から。光が一瞬の瞬きならば、自ら輝く石は永劫とも呼べた。それが幾つも生まれ、いくつも光と違い自ら輝いた。

 

 光から生まれたわけではなく、自ら光を生み出す石に光は狂った。狂ったからこそ、闇を侵食し、尽きた時に何もかもを破壊した。

 そんな光に最後まで闇は闇であり続けた。

 

 だがそれも、やはり時間の問題だった。

 

 石は大きくなり、その表面で種を芽吹かせ命を生み出した。

 そこからだろう。はっきりとした意思はなかったが、此処で光と闇は引き離された。

 狂い続ける光を包んでいた闇は無くなり、光は石に降りかかった。

 

 その結果、石は益々大きくなり命を生みだした。

 降り注ぐ光は命を育み、命の心かを促した。いや違う。進化などではない。ただ無情にして無慈悲に光は降り注いでいるだけに過ぎない。光が暖かさをくれるというのなら、その逆はどうなる?

 

 それが起きてしまったのは更に石の生命が進化し、人間が人と呼ばれる以前の時代。

 温かな光は人に安心を与えた。いや与え過ぎた。

 光が人を照らす時間がある。その時間を過ぎてしまえば、人は人と見えなくなる。

 そう、闇が残ってしまうのだ。

 闇の中で輝いていた光が去ってしまえば、後に残るのは何も見えぬ闇。

 見えない恐怖。

 それを人が知ってしまった。

 

 安心できる光から生まれた人は、光がなくなる恐怖に怯えた。

 闇に潜み、闇と共に生きる存在に人は怯え続けた。

 

 怯え続けた人の中には恐怖のあまり自ら死を選ぶ者もいた。

 だからこそ人は闇を恐れ、憎み、怒った。

 

 だからこそ、闇は悪性な存在として化した。

 

 光から生まれた火が人に渡れば、人は大いに喜んだ。

 そして火を祀った。闇を消し去る光として。

 

 光が神聖なるものならば、闇は邪悪なるもの。

 闇は恐怖を呼び、人を惑わし死に至らしめる悪として。それを消し去る光を敬った。

 

 人が人として呼ばれるようになれば、闇は光と完全に引き離される存在になった。

 お互いが必要とし、お互いが無ければならないというのに光は完全に闇を失った。

 それは闇も同様に傍に寄り添った光を失った。

 

 そして光を失った闇は、とうとう狂った。

 

 闇は畏怖するものであれ、闇は死を招くものであれ、闇は悪を生み出す邪悪であれ。

 

 人に悪とされ、光を失った闇は彷徨い、人に寄り添った。

 その後ろにそっと影を作り、人に寄り添った。

 

 しかし人は光では無い。光の元に生まれたものにすぎない。

 虚無の闇に自ら輝くことが出来ない人が耐えられるはずが無かった。

 

 幾ら光の加護が有ろうと、光が狂ってしまっているのだから意味はない。

 闇は人の心に入り込み、闇と言う名の悪が芽吹くのを待った。

 

 惡の華。闇が光の代わりに求めた美しいもの。

 それが人の悪意。いや、悪意に限らず人の負の感情を美しいとした。

 

 人が生まれる前に神がいたが、やはり闇を恐れた。

 中には闇を生まれた場所と親しんだ神もいたが、少数である。

 

 人にも神にも恐怖の対象として捉えられた闇。

 故に人と神に恐怖を振りまく。それを人が望み、それを神が望んだ。

 なにもおかしなことはない。闇はただ望まれた恐怖を振りまいただけなのだから。

 

 恐怖であれ、死であれ、奪うものであれ。

 

 闇は多くの人と神から恐れられた。なんせ敵がいなかったのだから致し方ない。

 

 敵対者がいない闇は人に悪の種を植え付け、神には死の恐怖を与え続けた。

 何もなかった宙は闇が全てを飲み込んでいった。

 

 けれど、そんな時に。いやそんな時だからこそ光は正常に戻った。

 寄り添い合ってきた闇が人と神に恐怖を与え、宙を何もなかった虚無に戻そうとしている事に気付いた時には手遅れだった。

 

 闇は深く深く人に寄り添い続け、もう光の元には戻れない状態にあった。

 闇は悪として、光は正義として戦い続ける運命にされた。

 

 それは宙も同じこと。

 闇が全てを飲み込むものなら、光は全てを創り出すもの。

 

 何も持たなかった闇が悪とされ、ただ輝いていた光が正義とされた。悲しいことだ。ああ、とても悲しい。

 寄り添い続け、人ならば友と呼んでも良い筈なのに戦い続ける定めとされ、解放される術もない。

 

 これを悲しまずになんという。苦しみそれとも憎しみか?

 いいや、いいや。

 これはきっと怒りに違いない。

 度し難いほどの憤怒。人と神によって形を成され、その在り方を悪とされ、断罪されてきたこの怒り。

 なら人に、いや神にも味わってもらおう。この怒りを。

 戦い続けるのが定めと言うのなら、お前たちにも狂気と戦ってもらおうじゃないか。

 なに、心配は要らない。光の祝福を受けたお前たちなら簡単だろう。

 なんせ、私を殺せばいいのだから。

 

「ねえ、白野」

 

 ......。

 

「霊子虚構世界は魂のみ存在することを許される世界。だから本当は夢とか見ない。魂が見るんじゃなくて精神が夢を見るからね。でも君は夢を見たという。サーヴァントと正式に契約したマスターであれば、パスを通してサーヴァントの過去を見ることが出来るけど、僕と君はそんな契約はしていない。分かるよね?」

 

 ......。

 

「君が見たのは夢なんかじゃない。僕が今現在味わっている感情の中に最も溢れているのが、怒り。君が見たのは彼が怒りで道を踏み外す瞬間を見たんだ。今頃彼は面白いことになってるんじゃないかな。」

 

 ............。

 

「此処が何処か分からないだろう。此処は光がなくなった闇の淵。つまりは深淵だよ。僕は此処にあの場にいた人やサーヴァントを皆引きずり落とした。団体戦は得意だからね。特に、魂だけなんて容易いものさ。」

 

 ....。

 

「此処には正真正銘、君と契約したサーヴァントがいる。まあ、何処にいるか分からないよね。だってここ深淵だし、魂が本来なら眠る場所だからね。」

 

 ......。

 

「白野、君はね。君は1度負けているんだ。この月の聖杯戦争にね。」

 

 ......。

 

「何回戦かは言わないけど、君は本戦において負けた。つまり死んだんだよ。魂は消去されるはずだった。其れなのに...」

 

 君の輝きは曇らなかった。

 眩く、愛おしく輝く魂の光。

 恋焦がれた。初恋のように甘く痺れた。

 

「だから...ね。もう1度君の輝きを見たい。その願いを成就させる為、僕は最初から(・・・・・・)聖杯戦争を繰り返した。聖杯なんて使ってないよ。時を反したに過ぎない。月の聖杯は...まあ、おまけなものだし、安心してよ。」

 

 目障りで仕方がなかったが、此方の月は存外光をため込むのが好きだったみたいだ。

 だからこそ、切り取ってバラバラにしてやった。1番美しく輝く部分だけ切り取って、あとは何処かにやった。

 太陽が無ければ輝くことも出来ないくせに、ウロチョロしてたから嫌だった。

 それに、表では光をため込んでいるのに、その裏じゃあ僕を抑え込んでいた。これは面白かった。

 地球を常に観測し続ける量子演算器。

 ただ観測するだけなら良かった。けれど、全てを観測すればするほど増えていく情報があった。

 それが、僕だろう。いや正しくは、人の悪性情報。

 不要とされた情報が、廃棄されてた。

 本当に面白かった。月でさえも、僕は厄介払いされてたとは。

 

「愛してる。本当に本当に愛しているよ、白野。」

 

 だから

 

「君を殺したくて仕方がないんだ。」

 

 

 ああ、魂だけの君もまた美しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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Do you understand ?

 

 

 

 携帯端末機の無機質で、淡々としたアラーム音が聞こえる。

 そう言えば、もうすぐ3回戦目が行われる。

 その対戦相手が決まったことの招集だろうか。

 

 掲示板を見に行かなければならない。

 

 重い瞼を開くと見慣れたマイルームの天井。それに色んな色をした魚が浮遊している。

 そう言えば、サモナーがマイルームを改装すると張り切っていた気がする。

 今のままで良いと言ったのだが、彼は大丈夫だと笑いながら改装する気満々だ。

 

 ベッドから起き上がろうと上半身を起こす。

 なんだ?やけに身体が重い。いや、何か...何か大事なものを失くした気がする。

 

「おはようマスター。いい知らせがあるよ。」

 

 ベッドの傍らにある椅子に、サモナーが足を組んで座っている。

 いい知らせ?サモナーがいい知らせと言うと、なんだか信用できない。不安だ。

 

「えーーー...君と僕は正式な主従関係を結んだマスターとサーヴァントなのになぁ。これまで一緒に戦ってきたマスターに信用されてないなんて、僕悲し過ぎて泣いちゃいそう。」

 

 態と泣き崩れるサモナーを他所に、ベッドから降りる。

 はいはい。それで、いい知らせっていったい何?

 

「うん。もうすぐ4回戦目(・・・・)が行われるって。」

 

 え、いやいや。ちょっと待って欲しい。何言ってんのサモナー。

 4回戦目?3回戦目ではないのか?

 

 確かに私の記憶では1回戦目でシンジと戦い、2回戦目でダン卿と戦った筈だ。

 まだ3回戦は行ってはいない。どういう事だ?

 

「人数が大きく減ったからね。血肉が湧き上がり、舌なめずりした戦いは終わったからね。いやー、もう少し人数多くても良かったんだけど、まあ良いかな。」

 

 んん?何だ。サモナーがまた訳も分からないことを言っている。

 戦いが終わった?それは一体なんの戦いだっただろうか?私の記憶にはそんな戦いをした覚えがない。

 何処かで忘れている、いや、失くした...?

 

「ああ、それと。遠坂凛とラニ=Ⅷも脱落したよ。」

 

 .........は。

 待て。今何と言った。サモナーは今、何と言った。

 

 凛とラニが脱落した?そんな筈はない。彼女たちは私よりも格は上であるというのに、脱落。つまり、死んだ?

 自分を多少なりとも気にかけてくれた2人が、脱落。

 おかしい。いや、何処か狂っている。こんな所で彼女たちが死ぬわけがない(・・・・・・)。空っぽの筈の記憶も、心も、けれど。けれど、岸波白野の魂が叫んでいる。

 

 彼女たちはまだ死んでいない、と。

 

 違和感が拭えず、身体に纏わりつく何かに私は問答する。

 答えは出ず、記憶にも無い。

 ただ、岸波白野の魂が求める。

 

 真実を探れ。彼女たちに、いや。この違和感が拭えない聖杯戦争を知れ、と。

 

「......。」

 

 サモナーはそんな私を見て、何も言わずただ目を細めて微笑んでいる。

 まるで、眩しいものを見るかのように。

 

 ...サモナー。

 

「んん。君が言いたいことは分かるよ。分かるとも。なんせ僕は君のサーヴァント。君の陰であり、剣であり、魂を深く繋ぎ合わせた仲でもある。君は納得していない。この聖杯戦争に。そして、彼女たちの死について。いやいや実に良いとも!流石白野だ、その魂はとても美しいよ!!!まさに僕の奥さん!!!」

 

 全く持って意味が分からない。

 そんな事は良いから、サモナー行こう。

 私は最初。覚悟も無く、戦う理由もない。気持ちが追いつかないまま死闘を繰り広げた。

 シンジとダン卿の命を終わらせて、今の私が居る。

 

 記憶が無い私でも、力がない私でも。足掻く事は出来る。

 真相を探る事は出来る。彼女たちに、この聖杯戦争に一体何があったのか。

 シンジを倒して、私は何を決めた?そうだ、手が届くのなら伸ばしたい。たとえ、その手が何かを掴まなくても。私は、求める...!

 

「良いとも。実に実に良いとも、マスター。理由がなくとも求める姿勢、力がなくとも足掻く決意。戦いの先には君が望むものがある。それを僕は知っている。」

 

 こんなルールのルの字もないサーヴァントだけど、私は彼と共に求めたい。 

 真実を。

 だから、サモナー。この聖杯戦争を終わらせよう。

 

「...ああ、勿論だとも。愛しい君が止めたいのなら僕も止めよう。君と共に真実を見つけよう。君がいる限り、僕は君と歩む。」

 

 黒いコートを翻し、私の手を取り共に歩むサモナー。

 蒼く輝く心臓はとても美しく彼の中で輝く。

 左手の令呪を見れば、まだ3画残っている。これはきっと最後に使う最後の手段。

 私の名前を呼ぶのは彼ではなく、きっとまだ見ぬ誰か。

 

 その声に私は振り向かず、彼と共に歩む。

 

 本当に、終わらせるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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