ドラゴンは孤島にて独り (ささのみ)
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夢の跡――1

もともとDMMORPGものは好きだったんですが、この設定にゴチゴチに固められたオーバーロードは超ド級のストライクでした。
全巻購入後、貢ぎたい衝動は抑えきれず、遂にはブルーレイまで……。ごめんね奨学金。一生大事にするからねっ!

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ギルド武器のハンマーとメイスって同じ役割ですよねっと指摘され、本当だと思いハンマーが無くなりました。


 ドラゴン。それはファンタジーにおける最強の種族。火炎の息を吐き大地をも焦がし、空を覆う巨大な翼で天を制する存在。時には悪の象徴として語られ、時には正義に一助する神秘として謳われる。世界によってドラゴンの在り方は無数だ。

 

 DMMORPG大傑作の一つ、このYGGDRASIL(ユグドラシル)においても、ドラゴンという言葉が指す意味は多数ある。時にはユグドラシルでも有数の強力なモンスター種族。時にはワールドエネミーが一つ、八竜。時にはプレイヤーが選択可能な強種族の一つである竜人。そして、――ドラゴン系統の種族で構成された第八位ギルド『老龍孔(ラオ・ロンシィ)』。

 

 此処は彼らが根城にする広大な山脈の、最も高い山であるピラトゥラ山の頂上。その頂上には全高三百メートルに及ぶ豪華絢爛な大聖堂が、星空の下で金や白金を塗したようなその美しい姿を、満天の夜空に誇っている。十八もの塔は天に達しており、実質上そこはユグドラシルのオブジェクトが設置できる最高高度である。このワールドの最も広い平地を規準に考えるのならば、五千メートルもの高度にある。

 

 そのギルド、――通称ラオ――のギルド方針は「拠点を華やかにする」。たったこれだけだった。いや、だからこそユグドラシルでも有数のギルドになれたのかもしれない。最初は少数だったギルドメンバーも、技術者が技術者を呼び、物好きな美術家が自らを売り込みにやってくる。その内メンバーの半数が創作畑の人間かプログラマーという、中々に異質な構成になっていった。

 

 そんな彼らが集まり盆地に街を造り、仕事帰りの息抜きに思い思いに街を装飾する。そんな日々が繰り返されると、いつの間にか大山脈はワールドで一番の秀麗さを得ていた。

 

 ――山頂には天に達する大聖堂。そこから下の山腹には巨大な扉があり、無限の財宝が無造作に置かれた旧宝物庫に繋がっている。また隣の火山の山腹に目を遣れば、教会と墓地のある街が荘厳な雰囲気で月の光に照らされている。

 ミスリルで出来た階段を(くだ)ると、アンデットや暗闇を好む竜の住む深い渓谷が深遠を覗かせている。渓谷の周りにはドラゴンワームという蟲のモンスターが住む、蟻塚のような膨らみが無数に点在し、時折身震いするように揺れていた。此処から更に麓を見下ろせば、層のように広い盆地が(つら)なり、上から順にヨーロッパ風の街、湖沼と遺跡のある大森林、中世の城砦都市を思わせる街がある湿地帯。もし下から此処まで歩いてくるならば、これらすべて通らなくてはならず途方も無い距離を歩かされる。

 今度はぐるりと視線を半周し、切り立った崖の方に目を遣ると、其処には大きな切れ目がありその中から飛竜(ワイバーン)の寝息が無数に漏れてくる。割れ目の周りには、鳥の巣のように傾斜に建築された寺院が数箇所発見できた。設定では、此処にはとある飛竜のNPCが住み、飛竜を指揮して制空権を管理しているとのことだ。

 その崖の麓にはゴツゴツとした岩が転がっているものの、一箇所だけ湯が溜まっている場所がある。温泉だ。巨大な水竜のモンスターが湯に浸かり、のんびりと泳いでいる。

 右を見ても左を見ても、空を見ても地中の中でも、街の中にも水の中にも。ありとあらゆる場所にドラゴンが居る。

 

 此処が拠点となる前には山頂下の宝物庫以外、ほぼ何も無かったと言っても誰も信じないだろう。あの天を貫く大聖堂もプレイヤーの作ったものだし、温泉だってマジックアイテムで源泉を仕込んでいるものだ。渓谷の下の屍や竜の棲家も、その周りの蟻塚さえも。盆地すべてを覆う町並みだって、数年もかけて造られた逸品である。

 ギルドマスターもこの光景には誇りを持っていた。何処の誰に見せても恥ずかしくないほどの絶景。ドラゴン達の息衝く理想郷。

 

 しかし、ギルド拠点の中でも最高峰と呼ばれ、公式PVの依頼が舞い込むほどの完成度を誇るこの大聖堂と山脈も、今日で見納めであった。

 

 ――それは誰にも回避できない終焉。ユグドラシルサービス終了の日だ。

 

 

 

 大聖堂の一室。白亜で囲まれたその部屋には、ベンチやソファや安楽椅子、果ては座布団などの椅子類の家具で溢れている。そこに腰掛ける二つの影。椅子の数に比べるとあまりにも少ない利用者だ。かつては椅子が足りないときもあったこの部屋も、最後の時を前にするとここまで寂しくなる。

 

 安楽椅子に座っている者は、財宝を持て余す覇王のような豪奢な身なりをしていた。腰に帯びるメイスと僅かに原型の残っている服装から神官だと推測できる。また、一目で純粋な人間ではないことも分かった。

 袖から出た腕にあるものは、白い肌ではなく鱗だった。目を凝らすと腕や足の末端部位には白い硬質な鱗が煌めいており、その先には鳥類の爪を巨大化し一体化させたかのような指が五本すらりと美しい。頭部には黒く輝く闘牛のような二本の角が長く伸び、強靭な印象を周囲に与える。鱗のない、人間じみた部分は顔だけであり、そのすぐ下の首元からは鱗が垣間見えている。そのシルエットもおおよそは人型にも関わらず、長い尻尾が生えておりどこか人と恐竜の混血種を思わせた。

 ドラゴンと人間のハーフである、とある亜人種に酷似している。ただ実態は違い、彼は異形種であるが。

 

 もう一人、対面のソファに座る男は紺色を基調としたぶかぶかのローブを羽織っている。こちらには角や尾、鱗などは生えていない。獲物と思われる黒く光沢のあるスタッフをソファの上で寝転がせている。若く、中性的で端麗な顔立ちだが男性であることはおぼろげに分かる。魔術師、そんな言葉が似合う男だ。

 

 この二人には所属ギルド以外にも共通することがある。

 

 彼らはプレイヤー、――両者とも異形種であるドラゴンだ。ユグドラシルにおいてドラゴンは人の姿に擬態することの出来る種族なのだが、前者の男は種族特有のデメリットで異形を隠しきれていない。

 前者の男の種族は、聖竜(ホーリードラゴン)の最上位である神聖竜王(アークホーリー・ドラゴンロード)。信仰系の魔法を習得するドラゴンが多く選ぶ種族だ。事実彼も神官(プリースト)系統の道を――より暴力的な構成ではあるが――修めている。

 魔術師のほうは魔竜(マギドラゴン)の派生の一つである封神竜王(セイルスピリット・ドラゴンロード)。状態異常や精神異常に特化したドラゴンの種族であり、妨害魔法ばかりを使う捻くれた魔法詠唱者に好まれていた。とはいえ、ドラゴンの魔法詠唱者は近接戦闘が得意というメリットがあるため、純粋な魔力系魔法詠唱者よりは利に適った構成と言えよう。バフではなくデバフを極めているあたり、素直とは程遠い性格だろうが。

 

 捻くれ者であろう魔導師が大きく欠伸のポージングをしたあと、言葉を発する。無論、口は動かない。

 

「思えば十二年。長いようで、――いやホント長かったですね。こんなに長い間やったゲームはこれぐらいですよ。僕が始めたのは六年ほど前でしたね。トンボさんはもう何年になりますか?」

「クロウンモさんはそれぐらいでしたか。そうですね。十年にはなりますか。あの時はまだ中学生ぐらいでした。ラオ開設からは九年ぐらいかな? ……よくみんな俺なんかについて来ましたよ。ギルマスとして不思議で仕方ないですね」

 

 苦笑のアイコンを出す異形な覇王風の男――トンボは大きく頷いた。トンボの我が侭に八十八人もの人間が付き合ってくれた。感謝してもしきれない。そんな気持ちであった。

 

「結構みんな楽しんでましたよ? 特にワールドアイテムを横取りした時なんか大笑いしてたじゃないですか。コカトリスなんて煽りすぎて逃げ遅れてましたしね」

「あー、あったあった! 晒されたやつだ。いじけてしばらく内装ばっか弄っててね。何で落ち込んでんだってこれまた面白くて」

 

 言葉に笑いが混ざり、しばらく華やかな昔話が続く。ウロボロスで締め出された場所へワールドアイテムを用いて侵入したり、ワールドアイテムの効果時間が切れて世界から水平に落下死したり、集めた鉱石で熱素石(カロリックストーン)を生み出したり、トンボが隠し種族を発見したり、始めたばかりのプレイヤーをギルドに招いたら平均レベルが落ちてギルドランクが下がったり、初心者をレベリングに連れ回したり、企画関連の掲示板が埋め尽くされたり、種族レベルの振り方を考察しあったり。

 

 思えば馬鹿笑いの絶えないギルドだった。誰をとっても笑いの種であった。

 真剣に街を造る夢想家。資材を集めて満足する蒐集癖。NPCの設定欄を絶対に全部埋める設定魔。所持金すべてを装備に費やす金欠の戦闘狂。レベルのすべてを生産系で埋め尽くした生産馬鹿。大聖堂全域の天井画を遂に描きおおせた画家。ポンコツの癖に演説だけはやたら上手い軍師。純文学作家の偏屈卿。何事にもOKの二つ返事で返す向こう見ず。リアルでは病弱な格闘オタク。過剰な防衛装置を配置する臆病者。デバフで優位を取った途端に煽りだす皮肉屋。そして我が侭でギルドを一度滅ぼしかけるギルドマスター。

 しかしそれも昔の話。最近では活動しているのは極々少数。たった今に限れば二人という有様だ。しかしそれでもトンボの心は平穏だった。

 

「ああ、もうこんな時間ですか」

 

 唐突にクロウンモが時計に目を遣る。時刻は既に深夜帯だ。学生の頃ならばなんでもない時間であったが、社会人となった二人にしてはあまりにも遅すぎる。クロウンモは申し訳なさそうに言葉を続ける。

 

「すいません。明日も仕事ですので……。僕は落ちますね。トンボさんはどうなさいますか?」

「ああ、最後まで起きてようかと。思い入れの深い場所ですから」

「夢でしたもんね」

「ええ」

 

 クロウンモはトンボに微笑みのアイコンを出す。優しげな感情が語気にも現れていた。第三者が見れば年下のクロウンモがトンボに対する感情としてはやや不適切にも思える。しかしトンボは特に気にする様子もなかった。それはトンボ自身でも自覚していることだからに他ならない。トンボは笑顔のアイコンを出し、答える。

 

「ドラゴンが住まう山脈。ユグドラシルに設定に沿った上で創られた素晴らしい場所ですよ、此処は。正直手放したくなくて、データをコピーしたぐらいですから」

「違法じゃないんですか、それ」

 

 二人が苦笑の声を漏らし、クロウンモがメニューを開きログアウトの文字に指を掛ける。そのままこちらを向き笑顔のアイコンを再度出し、別れの言葉を交わす。

 

「二ヵ月後に新しいMMOが出るらしいじゃないですか。よろしければ合流しましょう。色々声掛けときますんで」

「ええ、折って連絡ください」

「じゃあ、また今度」

「ああ、またね」

 

 トンボが手を振ると、図ったように友人の姿が掻き消える。ログアウトされてもしばらくトンボは余韻に浸かっていた。挙げた手を下ろすのに数秒を要するほど、名残惜しそうに。恐らくは今生の別れになるだろうからだ。他のタイトルをする気力は、正直無い。

 トンボが二年以上も続けたゲームタイトルはこのユグドラシルだけだ。中学からの青春をユグドラシルに注ぎ込んだという、コンコルドの誤りじみた感情もあった。だがそれ以上にこの山脈に愛着があり、ドラゴンに対する憧憬があったからこそ、サービス終了という日を迎えられたのだろう。

 

 ――ドラゴン。それがトンボこと、樹山(きやま)(ひじり)の渇望であり生きる燃料だった。絵を描くことも文を書くことも得意としない一人の少年が、精一杯自分の理想郷を描くことの出来るキャンパス。それが彼にとってのユグドラシル。彼にとってのエレボール大山脈。

 荒廃し世界の隅々まで汚染された現代では、実在した自然ですら心に思い描くことは難しい。実在すらしないドラゴンとなれば更に困難を極める。ユグドラシルは、そんな涸れた空想を(うるお)すだけの泉となってくれた。ユグドラシルには感謝してもしきれない。あんな死臭のする現代にも、空想(ファンタジー)は今もなお息づいていると教えてくれたのだから。

 

「……さて、あとは俺だけの時間だな」

 

 こんな、誰も居なくなった部屋でただただ終わるのは真っ平御免だと、トンボは強く思う。

 本当なら最後の最後にやって来るかもしれない仲間達に義理を立て、終わりの時まで此処で待ってもいいのかもしれない。しかし今日という日に帰ってくると言った仲間は既に全員来て、去っていった。もし仮にトンボが誰かを誘っていたならば、返事が無かったとはいえ待っていただろう。だが、それをしないためにも、トンボは誰一人誘っていなかった。それは今日という日の終わりを、二ヶ月前からずっと心に描いていたからだ。歴史の止まる日にふさわしい終幕を。

 

 立ち上がり大きく伸びをする。体にだるさはないがリアルでの癖だ。勢いよく立ったので安楽椅子がギィギィと鳴りながら、主人との別れを惜しむ。少なくともトンボにはそう聞こえたし、そう思うほどセンチメンタルな心情だった。

 

 時計に目を遣るともう時間が無い。急ぐ必要も無いだろうが、すぐに動き出す必要はあるだろう。

 

 トンボはコンソールを操作し、装備を部屋着から戦闘用のものに変えていく。その際、ついでに武器を仕舞う。宝石の埋められた腕甲(ヴァンブレイス)、黄金に輝く胸当て、最高峰の毛皮のマント、左右に複数ポーチのついた竜皮のベルト、金で刺繍された紋章が施された魔獣皮のブーツ。それらはベルトを除けばすべて神器扱(ゴッズ)

 そして――この世界の最後に持つべき武器は決めてある。

 

 自らの手の甲に視線を落とす。その視線は指に嵌めてある一つの指輪に止まった。

 指にはめてある八つある指輪の一つ、リング・オブ・ラオ・ロンシィ。拠点内において無制限の転移効果を持つ指輪を用いて向う先は、大聖堂の最奥――礼拝堂だ。コンソールを操作し、転移を実行する。

 

 

 

 チャンネルが切り替わるように、視界が一転する。――転移後、見上げるのも馬鹿馬鹿しい空間が現れた。

 規模と材質を除けば、人々の思い描く礼拝堂とさほど変わらない造りだ。しかし随所にはドラゴンのギルド特有の、特異な趣向があった。

 その部屋には八十九にも及ぶ柱と、それらに彫刻された様々なドラゴンの紋章が規則正しく、平行に並んでいる。それらは一本一本がギルドメンバーを示している。その間を結ぶように置かれた白金(プラチナ)で装飾された柵、その上にあるものはヒヒイロカネ製の燭台。蝋燭の先に灯っている火は永久に消えることなく、光の加減で部屋を美しいグラデーションで織り成す。嵌めこまれたステンドグラスは、外が暗闇のために蝋燭の光でかろうじて竜をモチーフにしたその形が分かる程度のものになっているが、この部屋の荘厳さは、夜の暗闇よっても引き出される精巧な仕組みとなっていた。深夜である今だからこそ、それが手に取るように分かる。

 例えば、壁や天井に埋め込まれた金剛石(ダイヤモンド)藍玉(アクアマリン)がきらきらと反射する姿は夜空すら思い起こさせる。並べられた長椅子すら光沢を持ち、植物のつたを模った彫刻が彫られる拘りようだ。

 また、蝋燭の(ほの)かな光が両脇の天井にある天井絵を浮かび上がらせる。天井を覆い尽くすそれらは、この拠点を手に入れるまでの経緯を描きだしたものだ。ギルメンのひとりが絵柄に飽きたため、途中でガラリと画風が変わっている。

 

 その奥には聖餐台(せいさんだい)とギルドシンボルを描かれた巨大な垂れ幕。やはり建築家と美術家が本腰で創っただけあり、飽くなく美を追求したものとなっていた。これで防衛能力も最高峰なのだから、あらゆる意味で傑作だ。

 

 トンボは、そんな荘厳なる部屋の奥にある聖餐台を見る。聖餐台の上に奉られているギルド武器――カナダに実在する職杖(メイス)をモチーフに模られたそのメイスは、三つの神器扱(ゴッズ)アーティファクトと世界級(ワールド)アイテムの熱素石(カロリックストーン)から成る、恐らくはユグドラシル中のギルド武器の中でも頂点に君臨するであろうモノだ。

 

 トンボが聖餐台までの長い距離をコツコツと歩き、ギルドの象徴であるメイスに手を伸ばすと、武器の周りに幾つもの赤と白の光の軌跡達が、グルグルと公転を始めた。トンボはこの武器のテーマが、ロストテクノロジーだという事を思い出す。

 

「あー。可変武器、だったかな? 確か……」

 

 この武器に触れるのはギルドマスターであるトンボにも二度目のことだった。外に持ち出す機会も一度とて無かったし、普段使っている武器の性能も高位の神器扱(ゴッズ)だったのも相まり、お披露目の時意外は誰も触らなかった。普段は此処が使われないというのも理由のひとつだったかもしれない。

 

 トンボは武器を握った手でスナップをきかせて、武器に衝撃を与えてみる。そうするとメイスの柄が伸び、槌頭に埋め込まれたアーティファクトが前面に押し出される。三秒程度の時間を経て完全に変形する。メイスからスタッフへ。変化を目にし満足すると、また三秒掛けて手に馴染んだメイスの形状に戻す。

 

「メイス、スタッフ、ライフルの三形態だったな。俺は狙撃なんて出来ないのにさ」

 

 かつての仲間の(こわだ)りを思い起こしながら割れ物のように大切にギルド武器を腰にさげる。装備に満足したトンボは再度指輪の力を使う。転移先は旧宝物庫の門扉(もんぴ)前。この大山脈における始まりの地へと。

 

「始まりの地が最後の場所か。平凡な最後というか、下らん感傷かもな」

 

 現れた夜空の下、独り()ちてトンボは全長二十メートルにも及ぶ扉に手を掛ける。扉は相手を認識したようで、のろのろと開いていく。

 

 待ち時間に、風に煽られながらも振り返る。そこは開けており、月の明かりで足元が見える程度だ。闇視(ダークヴィジョン)のおかげで、暗く影になっている場所は傾斜であることが分かる。少し歩を進め見下ろすと、眼下に広がるは仲間達の遺産。今や名前だけでも残っているメンバーは全盛期八十九人の半数にも満たない。残った者も時折思い出したかのようにやって来て、ほんの少しだけ内装を弄って帰るばかりだ。

 毎日ログインしているのはトンボだけだし、その次に頻繁にログインするクロウンモも、週に二回程度。

 

 眼下のあの街なんてもう三年間誰にも触られていない。大森林だって弄るのはもうトンボぐらいだ。渓谷の周りの蟻塚は中途半端な数のまま一向に増えない。

 

 ――盛者必衰の理。ならばこの世界が終わるのは致し方のないことかもしれない。

 

 ガコン、と扉が最後まで開ききる音がした。振り向くと、眩い光に照り返された金貨の山が目に飛び込む。石床が見えないほど分厚い金貨の層も、二十メートルある天井に達する金貨の山々も、もはや見慣れた光景だ。時計を確認したトンボはゆっくりと金貨の海を踏みしめていく。

 

 山脈のように連なる金貨の山、それらに埋もれる工芸品の数も計り知れない。足元に転がる七色の聖杯や、ミスリルで出来た芸術品の鎖帷子(くさりかたびら)などを足で払いながら奥へ奥へと進む。

 もしその背中を見たものがいたのならば問わずにはいられないだろう。何処へ行くのか、と。ゲームゆえ、背中越しに垣間見えるその表情は変わりはしない。だが表情だけが感情を表すものではないと、トンボの背は語っていた。

 この地にいれば(いや)(おう)にも思い出す。仲間達の思い出。ドラゴンについて語った日々。――もう戻らない、あの日々を。

 

 ――最後の日を独りで過ごそうと思った。それは瀬戸際まで気丈に振舞える自信がなかったから。

 

 それを証明するかのように、彼の背には哀愁の念が揺蕩(たゆた)っていた。

 

 

 

 




どうでしたでしょうか?
やや描写がくどいかなと思いましたが、一度指が動いたら削るほうが難しく……。
削れそうな場所があれば、指摘ください。一考のうえ修正いたします。出来るだけ読みやすい文章にしたいと思っていますので。


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夢の跡――2

化け物回。ナザリック勢を書きたい……。



 トンボは財宝の上を歩く。歩を進めるたびに金貨の山が崩れ、金属の擦れる音が辺りに反響する。この宝物庫は魔法の光<永続光(コンテニュアル・ライト)>によって照らされている。そのため、山から零れた金貨は、まるで太陽光を反射する夏の川のようにキラキラと流れ輝いていた。

 

 トンボはそんな光景をよそ目に歩いていく。垂れた尻尾が金貨の山を大きく崩すが、まるで気にしない。もとより自在に操ることができるわけでもないものなので、その点は諦めていた。そうやってどんどん歩を進めていると、遂に目的地が見えてくる。

 

 其処は広大な宝物庫の中でも更に巨大な空間だ。天井は今までの倍以上に広がり、左右の壁は同時に視界へ入れることが叶わない。相変わらず金貨に埋もれ床は見えないが、足で少し掘ってやれば、黒曜石で出来た、薄く紋章の入ったタイルが現れるはずだ。

 

 此処に来て金貨の層が薄くなっているのはこの空間が広大なことにも原因はあるが、それ以上にあの(・・)金貨の山が原因だろう。

 

 トンボが見上げてやっと、その金貨山の頂上が見えた。いままであった二十メートルの山々すら優に越える、はるか高いものだ。トンボの視線は頂上にあるひとつの椅子に注がれていた。それは玉座と言ってもいいほどの(ぜい)を極めたものだ。ユグドラシルでも超希少な金属で出来た椅子のベースに、これまた超希少な宝石や金属で美しく装飾されている。その価値はトンボの神器扱(ゴッズ)装備の二つ分に匹敵するほどだ。

 その椅子はギルドで作ったものではない。元から此処にあったものだ。拠点を落とした際の特典のひとつであり、宝物庫に金貨が大量に野晒しにされている要因でもある。あの椅子は壊されない限り、宝物庫の財宝を無断に持ち出すことが出来なくさせる、という強力な効果があるからだ。

 

 当然、この宝物庫の心臓部を護る存在はいる。そう思い、一歩だけ足を伸ばすと、ちょうど反応する境界線だったらしく、金貨山の裏から宝物庫の守護者が顔を覗かせた。

 

 それは巨大なドラゴンだった。赤錆色の鱗が、全長百三十メートルは優に超す巨体を覆っている。長い首を器用に使い、金貨山を崩さずにこちらを睨んでくるその姿は、まさしく強欲な邪竜のものだ。その瞳は光をギラギラと反射し、狡猾で邪悪な理知の色を含んでいる。腕と翼は一体化しており、まるで蝙蝠(こうもり)の腕のようだった。もし伝記に伝わる邪悪な火竜を描いたのならば、これこそがふさわしい。

 

 その邪竜、名をイグノアも、この拠点の特典のひとつだ。元々はエレボール大山脈のラスボス的存在だったのだが、討伐後は番犬的存在となりこの地を守護している。その防衛能力は非常に高く、モンスターであるため装備品を身に着けることはできなくとも、上位ランカーのワンパーティー程度なら易々と屠ることができる。また、高い防御力と凶悪な割合ダメスキルを保有し、弱点である蛇腹以外ほどんどダメージが入らない。その蛇腹にも鉱石を熱して張り付かせて作った宝石鎧があり、これを壊さない限り弱点は晒されないのだ。極悪非道にも程がある。その強さを身を持って体験しているトンボは、つい警戒してしまい足が止まる。

 此処を占領する際にギルド全員で闘ったのだが、五度目のトライでなんとかギリギリで倒せただけで、初見ではまず突破は不可能だろう。それは強さのインフレが起こり始めたユグドラシルでも変わりない。

 

 邪竜イグノアはトンボをしばらく睨みつけていたが、相手が誰かを判別したようでそっぽを向いてその場に伏した。猫のような所作ではあるが、巨大なドラゴンがするだけで可愛さは霧散し、代わりにほっと安堵の息がこぼれる。

 

 何をビビッているのだが。確かにバグか何かでこちらを襲うと考えることは出来たかもしれないが、今までなかったことに怯えるなど杞憂も甚だしい。トンボは気を取り直し、玉座までの山頂へと歩いていく。

 

 金貨の山を崩しながら、山頂まで登り詰める。現実なら金貨山を倒壊すること必至の登り方だが、ゲームであるため一定量以上の金貨は崩れ落ちない。ようやくの気持ちで玉座に手を掛け、ふと左手の時計を見遣る。

 

  23:48:42

 

 あと十一分、一人反省会には丁度いい時間だろう。

 玉座に腰掛け、想像以上の座り心地の良さに内心驚嘆しつつ、眼前に広がる金貨の海と山脈に思いを馳せる。

 

 この宝物庫だけでいくつストーリーがあったものか。初めて此処を訪れたとき、その美しさに仲間達は悲鳴をあげたものだ。俺なんかは「まさしくエレボールだ!」と叫んで走り、暴れまわっていた。落ち着いた後も、仲間の何人かは金貨を集めては此処に放り込む作業を繰り返し、ある者は工芸品を作っては飾っていたりしていた。金貨に目の眩んだ侵入者達がイグノアに焼き殺された時なんかは、大聖堂で決死の防衛準備をしていたメンバー達がすっ転ぶほど拍子抜けしたものだ。

 

「それもいまや昔か――」

 

 ランキング第八位に居座ったのも昔の話だ。トリニティに一泡吹かせてやったのも、昔の話。ウロボロスを二度手に入れたのも、また昔の話なのだ。ギルメン全員を揃え、悪名高いギルド同士の決戦に横槍を入れ漁夫の利を得たのだって、昔の話になる。報復にギルドメンバーの半分が一瞬で消し飛ばされたのだって、結局は昔の話に過ぎない。

 

「楽しかったさ。だけどそれ以上に、嬉しかった」

 

 夢を叶えられたことが。それを認められたことが。協力してもらえたことが。

 八十九人の夢想は、今此処で潰える。そしてその模造品だけがトンボの手に残ることだろう。

 

 虚しい。

 

 すべてが終わったら、何をすれば満たされるだろうか。理想とする物語でも書き綴ればいいのだろうか。それとも世界中の物語を読み解けばいいのだろうか。もしくは幻想を絵に描き起こせばいいのだろうか。――馬鹿馬鹿しい。これほどまでの創作を終えたトンボでは、最早そんな事で満足できるとは到底思えなかった。

 

「抜け殻だ」

 

 したい事は何もない。十年もの長い期間で積み上げてきた世界は、今日をもって完成してしまう。俺には何も、何も……。

 

 時計の針は無慈悲にも進んでいく。秒針が一周し、長針が揺れ進む。揺れる長針を見るたびにトンボの胸は締め付けられる。

 

 23:59:35 ――36、37、38……

 

 トンボは目を瞑り、静かに数えだす。現実を見たくない、その一心で。

 

 23:59:57 ――58、59……

 

 終わった。覚悟を決め、ゆっくりと目を開き、現実を受け入れようとした。

 

 しかし――

 

「……はぁ」

 

 0:02:41 ――42、43…… 

 

 世界は変わらず、金貨の海だった。時計を見れば、終了の時から既に三分近くロスしている。このロスは2138年の技術はおろか、その百年前の技術だったとしてもあり得てはならないほどの痴態であり、最悪の愚行だ。

 

 トンボの胸中にあった虚しさを埋めるように、新たなる感情が徐々に沸いてくる。それは憤怒だった。そして溜まった感情が段々と理性を決壊させ、憤怒という熱が溢れ出る。それはまず地団駄に表れ、次に表情、そしてついには怒号となって表れた。

 

「ざ、ざっけんなよ! クソがッ! これからブツ切りされるまで怯えて過ごせだとッ!? なっ、舐め腐りやがってッ!」

 

 人生で感じたことのないほどの憤りが、トンボの脳を占める。煮えたぎる憎悪が湧き続け、その怒りは天井知らずだった。視界すら赤黒く染まりゆくほどの憎悪と激昂。温和とは程遠い性格とはいえ、トンボは理知的な人間だ。このご時勢に高校まで進学できるほどの我慢を持っている。クズとしか形容できない教員に理不尽な暴力を振るわれても、まだ我慢できるほど精神力のある男だ。あまり優秀でない上司をヨイショすることで、グレーな企業のブラックゾーンから脱出できるほどの(さか)しさも持っていた。

 

 ただ、その精神力の源であった夢想が、最後の最後で信頼していた存在から侮辱されている。それだけは、それだけは赦せるものか。赦せてなるものか――。

 

 だがしかし、次に感じる感覚がトンボに冷たい混乱をもたらした。その正体は胃から沸きあがり喉を詰まらせる、液体状の酸っぱい味覚。――ユグドラシルにはないはずの、味覚。

 

「おっ、おえっ!? げぇっ! かはッ、はぁ、はぁ……」

 

 トンボは驚愕の余り、玉座から立ち上がり、そのまま地面に(うずくま)ろうとする。その時金貨の上に足を置こうとしたのだが、どういう理屈なのか、金貨を踏んだ足がずるりと滑った。一瞬ひやっとする浮遊感ののち、悲鳴を上げることすらままならず、金色の雪崩と供にトンボは金貨山の麓までガラガラと転げ落ちていく。

 

 金貨と金貨に挟まれたトンボはゆっくりと起き上がるも、困惑と恥ずかしさに涙目になっていた。

 

 息も絶え絶えながら、困惑をぼそりと呟く。

 

「いったい何が……」

 

 電脳法によって消されているはずの味覚を感じた理由が分からない。肌に張り付いた金貨の感触が嫌にリアルで気持ち悪い。収まらない胸焼けの正体が掴めない。もしこれが異常事態なら何故強制ログアウトされないのか。詳しくはないが、それぐらいの安全性はあるはずだろう。疑問符で頭の中が一杯になるトンボの背後で、その声は響いた。

 

上座(かみざ)に座するものがその(ザマ)とはな」

 

 その重低音の返答は、トンボの予期しないものだった。反射的に振り返り声の主を見る。

 

 直後、戦慄。トンボは声を押し殺すのが精一杯だった。邪竜イグノア――百三十メートルを超える竜――がこちらを睨んでいたのだ。声の設定をなされていないモンスターが、まさか喋る筈が無い。トンボは心の内でそう否定したが、すぐさま証拠を見せつけられる。イグノアの口が動き語ったのだ。それこそユグドラシルではありえない現象だった。

 

「どうした? 頭でも打って記憶でも欠落したか? ラオの名を冠するものよ」

「な、何が起きて……」

 

 状況が分からないながらも、イグノアがこちらに害意がないのはなんとなく把握したトンボは、せめて取り繕わなければと奮起する。イグノアのステータスは非常に高い。相性の関係とソロ型のビルドで、それなりに闘えるものの、トンボには勝率は皆無。もし襲われればリスポーンは必須だ。跳ねる心臓を抑え、出来るだけ気丈な調子を声に乗せ、言葉を選び、言う。

 

「い、……いや! す、すまない。怒りで我を忘れていた。みっともない姿を見せてしまった。…………ところで、日を跨いだにも関わらずユグドラシルが続いてるようだが、何か分からないでしょう……だろうか?」

 

 口調はこれでいいのだろうか。質問して良かったのだろうか。この問いで正解なのだろうか。トンボは自らに降りかかった不条理を、一厘たりとも理解は出来ていない。順を追って理解していこうと思って告げた言葉が、イグノアの逆鱗に触れないことを祈りながら、邪竜を見つめる。大きく裂けた口が開き、牙が見える。トンボは喰われるかと思ったが、そのままイグノアは言った。

 

「ユグドラシルが続く? 今日が過ぎれば、明くる日が続くのは道理だろう。はたまた宗教的な意味合いならば、知らぬ」

「知らないか。……サービス終了の日が昨日だったんだけれどな」

「サービス終了……。やはりプレイヤーの言うことは分からぬ。貴様らの造り上げた、あの者たちならば理解してくれるやもしれないが」

 

 心当たりはNPCだったが、もしかしたら別の情報を持っているかもしれない。

 

「あー、NPCのことか?」

「逐一、答えなければならないのか? 上座と言えど、付き合いきれんぞ?」

「ご、ごめんな……いや、すまない! では俺はこれで!」

 

 トンボは半ば逃げるように、指輪の力を使い転移する。逃げた先は礼拝堂だ。礼拝堂は大聖堂の最奥であり、最大防衛能力を誇る。何が起きているか分からないながらも、拠点内で最も安全な場所に転移したのはトンボなりの英断だった。安全に転移したことを確認すると、大きな溜息と供に長椅子の一つに座り込む。

 

「どうしてこうなった……」

 

 どうしてこうなった。心の中で何度も呟く。未だ冷静さは取り戻せていない。落ち着くまで延々と深呼吸を繰り返す。

 

 幾分か時間が経過し、なんとか最低限の落ち着きを取り戻したトンボは、ゆっくりと現状把握に乗り出す。

 

 真っ先に思いついたのはコンソールの操作だ。鋭い爪先を動かしいつもの操作をするが、コンソールは浮き上がらない。予想は出来ていたため、すぐに他の操作も試みる。強制アクセス、チャット機能、GMコール、強制終了。やはりどれも反応が無い。だろうな、という言葉と供に苦笑が漏れる。

 

 もういっそ現実だと仮定して動いたほうがいいだろう。胃酸が沸きあがるDMMORPGなんて聞いたことがないのだから。だがダイブ中に攫われて、高度で違法な実験に投げ込まれた可能性も否定できない。むしろそうであれば理性が長く保てそうだ。トンボはありえそうな可能性をひとつ見つけてみると、腹部の痛みが和らいだ。

 

 だとすると、どこまでユグドラシルの常識が通じるかを確かめなくてはならない。トンボはゲームの説明書を読むタイプだ。斜め読みではあるが。

 

 そうして行うのは魔法の発動実験。トンボは神官職なので回復魔法と補助魔法がメインだ。攻撃魔法も持ってはいるが火力は低いし、この場における実験には相応しくないだろう。トンボは自分の中心に意識を傾け、複数個の魔法を発動する。

 

 <最上位治癒(グレーター・ヒール)><生命力持続回復(リジェネート)><底無し活力(エンドレス・ハート)><永続光(コンティニュアル・ライト)

 

 発動された魔法は四つとも成功する。周囲が明るくなり、こころなしか、気分も明るくなる。魔法の発動には問題なさそうだ。だがそれだけで安心することはできない。トンボにとって最重要なのは特殊技術(スキル)のほうだ。

 

 大きく深呼吸し、自身の持つすべての常時発動型特殊技術(パッシブスキル)を発動するように、意識を注ぐ。なんとなく感覚で、発動自体は確認できた。そして次に発動しているスキルの総数を数える。ぶつぶつと確かめるように七十以上ものスキルの名前を挙げていく。百近いスキルを保有するトンボにとって、スキルこそが戦闘における生命線なのだ。

 

「――各種オーラスキル、白亜結界、竜衝聖印、竜種神格Ⅲ、人間種神格Ⅱ。よし、大丈夫だろう。スキルも問題なく発動しているはずだ。まぁ、弱点ぐらいは消えても良かったんだが」

 

 最後にアイテム。トンボが思考を巡らせるとふと思いつき、腕を何か(・・)に突っ込んだ。次元の裂け目とも形容できそうな亀裂の中に、上腕まで吸い込まれていた。なんでもありだな、と鼻で笑いつつ、常備している消費系のアイテムを確認すると、それを閉じる。

 

 一段落ついたトンボは、その場で横になる。いっそ此処で寝ちまうか。そんなやけくそな気持ちになりながらも、なんとか自制する。

 

 この山脈はトンボ達が創り上げた地であり、理想郷だ。トンボに限って言えば、この広大な土地にあるすべてのギミックを熟知している。過疎化が始まったころからは、暇があればギルド拠点を独りで探索していたぐらいだ。

 

 そんな自分が何故、よりによって理想郷で怯え隠れなければならないのか。そんな見栄にも似た信念が、トンボの自暴自棄を踏み止まらせていた。

 

「さて。あとはNPCだけだが、呼んでいいものかね」

 

 牙を剥き襲い掛かってこないとも限らない。第一、ギルドメンバーをどのように捉えているかが問題だ。上位者として見てくれているのか、無能な上司を相手にしているような気持ちなのか。ギルドメンバーを我が侭に振り回してきたトンボは、なんとなく後者な気がしてならない。

 

 このままでは埒があかないので、せめてもの目安として、カルマ値を危険度とする。

 

「となると……教会か、大聖堂だな。近いほうならディーラか。確か彼女(ディーラ)は――」

 

 突如、ガコンと扉の開く音が大聖堂に響く。トンボは半身だけ起き上がり、背もたれを盾に入り口の方を見遣る。

 

「大聖堂を巡回しているんだったな」

 

 開けられた扉から除いたのは一匹のシスターだった。彼女はやはり、シスターという言葉を裏切らないような、黒地のベールとロングスカートのワンピースを纏っている。肌に張り付く、きめ細かい純白のコイフ。最高品質の修道服はその美しい造形だけではなく、高い魔法防御力を誇る。実利も兼ね備えた神器級(コッズ)アイテムだ。役職は大聖堂のシスター長。一見完璧にも思える彼女だが、ひとつだけアブノーマルな点がある。彼女の種族は、(ドラゴン)ではない。竜長蟲(ドラゴンワーム)という蟲系の種族だ。そのため、ドラゴンの保有する人間擬態のスキルを持たず、柔らかなコイフに包まれた顔に目や鼻や髪は無い。ドラゴンワーム特有の、ペリカンのクチバシのような顔だ。

 

 ディーラがトンボを見つけるとさも当然のように深々と礼をする。社会人としての常識を人並みに身に着けているトンボは、それは最敬礼に属すものだと分かった。腰を曲げ頭を垂れる際に、弾力に富むはずのディーラの肌は、何故か光沢を持ち光を反射させる。こちらを伺うディーラは、口を――もはや顔といったほうが適切だろう――僅かに動かしたことが、トンボの目にも分かった。

 

「これはこれは、偉大なる頂の長、トンボ様。御方がこの最奥の礼拝堂にお越しになられるということは、御礼拝でございましょうか? ……もしや敵襲でございましょうか?」

 

 とても丁寧で敬意溢れる態度だ。トンボはディーラの態度から自分が優位だと勝手に信じ、出来るだけ気丈な声を意識しながら答える。仲間の作ったNPCゆえに嫌悪感などは微塵も無いが、それでも人型ワームの動く様はちょっとしたホラーを感じる。

 

「異常事態、とだけ言っておこうか。俺を初めとするプレイヤーに異変が起こったようだ」

 

 トンボは口に出したあとでナイスな発言だと思った。トンボだけの異変の可能性もあるが、プレイヤー全員の異変にした咄嗟の機転は、自分を褒めてやりたいほどだ。

 

「それは……よろしければ私達を使ってください。どうでしょう? 微力ながら何かお手伝いできることはございませんでしょうか?」

 

 トンボは心の内でガッツポーズを取る。自分の立場の分からない現状では、NPCの自発的な助言は最も望んでいたものだった。喜びを外見に出さないよう努めたが、嬉しさは声になって滲み出る。

 

「よし! そうだな。では――」

 

 トンボは自問する。魔法の起動実験、スキルの起動実験、アイテムの確認、アイテム――指輪だけだが――の起動実験、NPCの確認が済んだ今、何をするべきか? すぐに思いつく案はNPCの召集を行うこと。ディーラはトンボに対し敬意を払っているようだが、一人残らずそうだとは限らない。裏切りを前提としたNPCは一人足りとて居なかったはずだが、意思を持って動き出した今、どう性質が変容しているかが最大の懸念事項だ。モンスターであるイグノアは例外とし、最大戦力達の意識を確認しておかねばなるまい。トンボは覚悟を決めた。

 

「クリアランス5(ファイブ)を召集する。場所は会議室だ。色は……そうだな、インディゴの間でいいだろう」

「承知いたしました。メンバーを確認させていただきます。デイヴァロン、ウカミ、マルタ、ガーライ、トリュシラ、オルドル、ボフマン。この七名でよろしいですね?」

「そうだ。だがディーラ、君にも同席してもらおう。今はそれだけでいい。それとだが、このエレボール山脈周辺で何か異変はなかったか?」

 

 ディーラは思案するように首を傾け、クチバシのような口先を上に向ける。そうですね、と言いながら恐る恐るという風に言葉を継ぐ。

 

「真偽の確認は取れてませんが、外に出たシスター達が(しお)のにおいがすると言っておりました」

「潮のにおい?」

 

 潮のにおいと言うと、鼻が馬鹿になるようなあの腐乱臭だろうか。トンボは周囲に毒沼でも出現したかと思ったが、ディーラの次の言葉で詳しい状況を理解する。

 

「異常事態ということを踏まえますと、周辺一体が海洋になっている可能性がございます」

 

 やっぱり寝てしまおうか、そんなことを思い始めるトンボであった。




私はストックを一つ貯めることが出来たら、一つ前の話を推敲して投稿しているんです。
ですので今、三話が完成した状態なんですが、一万字以上あるんです。推敲によってまた増えそうですし、めっちゃ長い会議ですし削ったほうがいいでしょうか? というか山脈勢がナザリック並に多くて胃が痛いよ。

追伸:今回登場した邪竜イグノアですが元ネタがあります。Smaugで検索してみればまんまな画像が出てくるはずです。


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会議

ひええ、今週で二話投稿する予定だったのに……。一気に七人重要な新キャラだすんじゃなかった……。
書いてて思ったんですが、これじゃあほとんど一次創作ですね。とほほ。


 大聖堂最大の塔の先で、白い尾を力無く垂らしながら周囲を見渡す影が一つ。闇夜の中、辺りをしきりに見回している。人間ならば何も見えないに違いないが、闇視(ダークヴィジョン)の効果を持った者ならば真昼のごとくはっきりと見えている。影が一つ、眉をしかめながら独り言ちた。

 

「海? 海なのかこれ? 海だとしたら山脈は島になってるのか? ……そんな映画あったな。恐竜のテーマパークだけど」

 

 また()きの知識を思い浮かべながら、トンボはもう一周ぐるりと見回した。海しかない。小島や大陸といったものは、種族的に強化されている視野の中にも見当たらない。耳を澄ませば波の音が聞こえてくるが、それ以外は至って静かなものだ。騒ぎ立てても良さそうなものなのに。

 

 自身に降りかかった理不尽には胃を痛めていたトンボだが、山脈を襲った理不尽には素直に怒りを感じていた。ユグドラシルで作った理想につまらぬちょっかいを挟まれたのだ。自然の美しい絵画に、前衛的で原色カラフルな額縁をはめ込まれたような気分だ。少なくともそれはトンボの嫌いとするものだった。

 

「ああもう、一々付き合ってたら駄目だ。このあと会議もあるっていうのに……。今、新たに分かる事は此処が孤島になっちまったってことぐらいか。はぁ……」

 

 おお神様、貴様は何て下らないことを考えているのだ? トンボの神官らしからぬ問いに答えてくれるものは誰もいない。

 

 トンボはしかめっ面で手元に一冊の書物を取り出し、それを眺めた。羊皮紙で出来た灰色の書物には、エレボール山脈のNPCの情報が多数掲載されている。内容はさながら小説家の書いた設定集のようなものだ。それもそのはず、これは設定魔と小説家が共謀して書き上げたもので、小説風味で地名やNPCのことが書かれている。たしか著者は「吟遊詩人っぽい物語風にしたぜ」と言っていた。結局意味は分からず仕舞いだったが。

 

 あと三十分。三十分後にクリアランスの最も高いNPC達がやってくる。彼らはNPCの中でも、「ドラゴンという種族縛りを守った上で多くのメンバーに傑作と認められた」存在だ。作品としてだがこの書物にも多めにページが割り振られている。迫り来る時間の中、必死に読み込んでいくうちに冷や汗が流れる。もし知らずに会っていればどんな醜態を晒したのか、また今から会う者達の性格は御しきれるのかものなのかという不安、そういった類の冷や汗だ。ドラゴンゆえ、目に見えるほどの汗の量ではないが、トンボだけは焦燥を深く実感していた。

 

「時間か……」

 

 トンボは本を閉じ、覚悟を決めて指輪の力を起動させる。指輪便利だな、と現実逃避を挟みながら。

 

 転移した場所は見慣れた会議室の一つであるインディゴの間だ。間接照明をふんだんに使った青をベースとした部屋で、雰囲気に合った十個のイスとテーブルが置かれている。なんでも古典的な未来感ある会議室をイメージして造られたらしい。かつては企画事の説明会に使われており、似たような造りのものが色の名前で区別され、計十三個あるはずだ。かくいうトンボも、ギルド襲撃作戦、ワールドアイテム強奪作戦、大森林製作委員会、などで利用していた。

 

 インディゴという深い青色を選択した理由はトンボの個人的な好みでしかない。名前がカッコイイからだ。しかし色というものは精神に影響を及ぼすこともあり、少し緊張しているトンボの精神にインディゴブルーは良い方向で働いていた。当人すら気づかないほどの小さな僥倖である。

 

 落ち着いた視線で部屋を見渡すと、入り口の横でディーラが控えていた。目を合わしただけで深々とお辞儀される。トンボは自分が座る予定の椅子の隣を引き、座るように促す。小賢しいが咄嗟に頼れる人物を横に置いておきたかった。しかしディーラは引かれた椅子を見ると、畏まりながらも抗議した。

 

「トンボ様、私はクリアランス4です。クリアランス5の方々と同じように卓を囲むのは、頂の御方達への敬意が欠ける行為に思えます。私は後ろで立っていたほうがよろしいのではないでしょうか?」

「いや、いいんだ。今回の異変は出来るだけ多くの者に知ってもらう必要がある。それに今回の趣旨は会議をすること。今回はメンバーを限定したが、今後は各地の代表にも参加してもらうつもりだ。一人席を外させたらいずれは例外が増えてしまう。……その導入的な意味合いとしても座ってもらいたいんだ」

 

 咄嗟のセリフではあったが、本心だった。山の勢力図を纏めるためにも、最終的には上位に設定された者すべてと話す必要がある。NPCの総数を考えると胃の痛くなる話だが、身の安全を考えるならば必要不可欠なことだ。愛しい理想郷で暗殺されるのだけは避けたい。

 

「身に余る光栄。そこまで仰るなら、座らせていただきます」

「よろしく。ディーラ」

 

 トンボがそう言うと、ディーラは肩と声を震わせながら「ありがとうございます」とだけ言い、トンボの隣席に座った。自分だけ立ったままなのも悪いと思い、ほんの少し豪華な企画者用の椅子に座る。しばらくもしないうちに、トントン、と扉を叩く音がした。トンボは「入ってくれ」と言った後に、自己嫌悪に陥る。俺は何様だ、と。

 

 入ってきたのは、目に掛からない程度に長いミディアムの黒髪で背の高い女性だった。モデルかと思うような整った顔立ちとスタイルだが、黒のローブを羽織っており肌の露出は控えめだ。知性と好奇心の溢れた自信家の顔は、命を吹き込まれたことでより顕著になっていた。正直に言うと、トンボのタイプにドンピシャであった。

 

 彼女こそが、エレボール山脈の魔法最強。名をデイヴァロン・ディアソート。魔道竜王(アストラルマギ・ドラゴンロード)の系譜を組む、ドラゴン主義者。魔法とドラゴンを研究する学者だったはずだ。デイヴァロンはトンボを見ると深々とお辞儀をし、深い知性を感じるも柔らかな声で敬意を示す。

 

「魔法学堂管理補佐、デイヴァロン・ディアソート。御方からの命により、不肖の身ながら馳せ参じました」

「よく来てくれたなデイヴァ。君のような見聞の広い者が来てくれたのは嬉しいよ。好きな席に座るといい」

「そんなご謙遜を! 私達の始祖であり、頂の御方であるトンボ様の召集に応じないなどあり得ません!」

「お、おう。そうか。それはありがたい」

 

 書物ではもう少しお堅い印象だったんだけどな。トンボがそんな事を思っていると、デイヴァがまるで当然のように隣に座ってくる。普通両脇が空いている席から埋まるんじゃないのか。そんな焦燥も無視し、デイヴァはにこやかにトンボに微笑みかける。トンボはほぼ初対面の美女にいきなり好意的に迫られてビビらない男ではない。反射的に視線を下に泳がす。ローブの合間から、デイヴァの綺麗な肌色を覗かせていた。ヤバいと思い、出来るだけ自然にすぐさま視線を上げるも。

 

「こちらにご興味がおありですか?」

 

 デイヴァの、調子近距離から放たれる甘い声と上目遣いが炸裂した。トンボにはクリティカルヒットだ。狼狽と誘惑に負けそうな精神を必死に押さえ込むが、声を出すほどの余裕はない。首より下は幾分か冷静だったため、掌をデイヴァの頭に置いて、ポンポンと撫でるようにするので精一杯だった。横からディーラの助け舟――ではない声が上がる。

 

「デイヴァ、トンボ様にそんな即興の誘惑が通じるはずありませんよ」

「何を言うかと思えば……。私はただ構いませんと言ったまで。売り込むようなマネではないわ」

「まぁ、あんなに甘えた声を出しながら。よく言えるものですね」

「……ねぇ、なんのつもり? 長蟲(ワーム)風情の割に雄弁なようだけれど――」

 

 ワームという単語を聞いたトンボは、これ以上は喧嘩の元になると判断し、仲裁に入る。

 

「よせ。じゃれあうために設けた席じゃないぞ。それにデイヴァ。ディーラはドラゴンではないが山を守護する大事な仲間。そのような弁は控えてくれ」

「も、もうしわけございません……」

 

 トンボも人種差別、もとい種族差別は勘弁だ。普段なら煽り立てる側のトンボでも上位者として振るわなくてはならない。一生演技するのは流石に無理だが、この会議中はそう振舞おうと決意する。一度そうしようと決めたら幾分か気が楽になった。トンボに賢者のような余裕ある心持ちが生まれる。開き直りとも言えるが。

 

 どっしりと椅子に座り、流れに身を任せようとしたトンボに次なる刺客が現れる。トントン、と控えめな扉の音と供に中に素早く入ってくる者が一人。入ってきた者は大声で自己表明する。

 

「ワイバーン斥候(せっこう)隊隊長。ウカミ・フォバットギア! ただいま参上いたしました!」

 

 大きく挙手しながら入ってくる少女は異様に小さい。身長は百二十センチちょっとしかない。小さなシルエットによく似合った子供らしい表情が、過保護な大人達の庇護欲を刺激することだろう。ただ、蒼の瞳と銀交じりの黒髪、そしてそれらによく似合う白い肌のみは、幼さよりもどこか人形のような印象を受ける。彼女の服装は軽装で、フード付きの盗賊服のようなもの。その服はデイヴァとは別の方向で露出は少なく、デイヴァの服が露出を減らすような作りなのに対し、ウカミのは砂漠に出ても機能するような作りである。より実用的な装備だ。

 

 トンボは既知の姿であることに安堵しつつ、着席を勧める。

 

「ようこそウカミ。好きな席に座るといい」

「ウカミ、こっちこっち。私の隣に座らない?」

 

 またディーラとの対立を煽るのかとデイヴァのほうを見たが、その表情はゆるく崩れていた。どうにも高尚な理由ではなくただの好意からのようだ。ウカミがデイヴァの隣に座るのを見てから、トンボはウカミに話しかける。

 

「ウカミ、警備体制は最低限維持できているか? 周囲が海になっているのは分かっていると思うんだが、一応な」

「はい! ウカミよりかは弱っちいですが、優秀な飛竜を警備に担当させています。すぐに対空部隊に連絡できるようにしてますよ」

「なるほど、問題なさそうだな」

「ウカミは優秀ねー。ドラゴンの誇りだわぁー」

 

 くしゃくしゃとウカミの頭を撫でるデイヴァは満面の笑みと言って差し支えないほどだ。「ドラゴンという種族に誇りある」という設定はこんな形になるのか。予想外にほどがある。静かに唾を飲むトンボだった。美女が美少女を笑顔でなでなでするという、微笑ましい光景に目を細めながら見ているとウカミが思いついたように声を上げる。

 

「あっ、三人ほど近寄ってきますよ。火山側の三人かな、と思います!」

 

 その言葉にトンボは書物に書かれていたことを思い出す。ウカミは非常に優秀な斥候としてデザインされた100レベルNPCだ。戦闘力こそ60レベル程度しかないが、危機探知能力、隠密行動能力、逃走能力、索敵能力、飛行能力などに非常に長けている。仮に戦闘が始まっても必ず情報を持って山に報せられるように、十二分な能力が振られている。今はどうか知らないが、山脈周囲を飛び回るようにAIが組み込まれており、プレイヤーを発見次第会話ロゴに敵襲を報せるメッセージを送るように設計されていた。

 

 その時の名残だろうか、とトンボは考察していると、予期されたとおりに扉が開かれた。向こう側にいた三人は談笑しながら中に入ってくる。赤髪褐色で皮鎧を着た女性、金髪の白ローブを纏う女性、痩せ型で壮年(そうねん)風の男性。扉を開けた赤髪の女性が歩を止めず、振り向きながら、言う。

 

「ほーら、あたしの言うとおりやっぱりこっちじゃん。第一、インディアンレッドの間なんてないしさ」

「うーん。わたくしにはそう聞こえましたが……。確かに耳に入ったものより長すぎた気もしますね。ガーライさん、こっちですよー」

 

 女性陣の会話に挟むように、彼女達の後方から耳に残る渋い声が響く。

 

「分かっているよ。この俺を誰だと――ほら、二人とも、御前だぞ。しゃきっとしよう、しゃきっと」

 

 気づいた順に礼をした三人を見ながらトンボは嬉しい誤算に微笑みそうになる。正直、ここまで集まるとは思っていなかった。何人かは欠けるだろうと考えていたのだ。特に男性――ガーライ・ゾイジャックは来ないだろうなと思っていた。カルマ値最悪かつAI最高峰なガーライこそ、裏切り筆頭だな。とすら警戒していたほど。

 

 渓谷を通り過ぎた侵入者を、大聖堂への階段で挟み撃ちにするために造られたNPC、ガーライ・ゾイジャック。アンデットや耐久の高いドラゴンを率いて敵の背後を取るという、中々にえげつない戦法から分かるとおり、ガーライのカルマ値は最低値。通常のAIではアンデットを率いるなどは不可能で、難解かつ長々としたAIによって作戦の実行を可能とした。製作時にはプログラムを作れるメンバーが総動員するほどの盛り上がりを見せたNPCだ。

 AI重視だったため性格などの設定は後付けではあった。その性能に引っ張られるように決まった設定は、邪悪で賢く、嗜虐心あふれる悪性そのものと呼べるようなドラゴン。ドラゴン特有の強欲さと高慢さをも兼ね揃えた、まさに邪悪という設定だった。

 

 深々と礼をするガーライに、トンボは敬意を表した。自分の警戒心を恥じらい、今までと違って礼を返すという姿勢が出てくるほどに。

 

「よく足を運んでくれた。マルタ、トリュシラ、ガーライ。わざわざ召集に応じてくれたことに深く感謝するぞ、皆の衆」

 

 皆の衆なんて生まれて初めて言ったぞ、などと思いながらトンボは鷹揚に頷く。映画やテレビで見た光景をフラッシュバック気味に思い出しながら、トレースするので精一杯だ。そんな限界の近いトンボの前に、三人は臣下の礼を取る。片膝をつき頭を垂れる姿勢、生まれて始めて見る光景だった。

 

 え、なにこれは。声には出ない驚愕がトンボを包み、フラッシュバックが走馬灯レベルまで加速する。幼少期に見た西部劇あたりまで飛んでいた意識は、ガーライの言葉でなんとか戻ってきた。

 

「はっ! 感謝の言葉、ありがたき幸せ。ですが我々はみなラオ・ロンシィの御方に造られた存在。貢献と奉仕こそが義務にして生き甲斐です。そのような謙遜は我々には身に余りましょう。どうか我々を好きなようにお使いください」

 

 椅子に座っている女子三人も、深く頷いているのを確認したトンボは、キリキリする胃痛を「断腸の思いとはこういうことか?」などと勘違いする。トンボはリーダー役をすることは嫌いでもなく、うまくこなせる自信はあるが、ボスの立場など人生で一切経験したことがない。会社で部下に命令するときでさえも可能かどうか逐一聞くような性格だ。そのせいで役職のわりに仕事が多かったほどなのに。わき腹を抑えたい衝動を抑え、トンボは深すぎる敬意に答える。

 

「そ、そうか。……だが君達はこの山脈とドラゴンという種を守護するために生み出された存在だ。もう少し我が侭になってもいいと思うんだがな」

 

 ギルドメンバーを振り回したトンボの心からの感想だった。というよりもトンボの我が侭はノリに近く、戦闘職の仲間達が飽きないようにするためにやっていたところもある。ギルド襲撃なども基本的に志願形式だったし、抗議があったら計画を大きく見直すなんてザラだった。強行することはまず無かった。それは皆ノリが良かったからかもしれないが、トンボもそうあろうと務めていたのは事実だ。仲間の為の我が侭。そういうものをしていいと思う。尽くされは子供の役割で、尽くすは親の仕事だ。トンボは自分を子供とは思わない。

 

「ともかく、席に座ってくれ。まだ来ていないのは……オルドルとボフマンだな」

「あ、二人なら扉の前にいますよ!」

 

 ウカミが手を上げながら言う。その言葉に卓を囲む何人かが首を傾げる。まず声を上げたのはマルタだった。頬に手を当て首を傾げ、おっとりとした母性あふれる声で。

 

「何をしているのでしょう? もしかして部屋が分からないんでしょうか?」

「いやいや、あんたじゃないんだからさ。あたしは開き戸だと思ってるに一票で」

「それこそありえないわよ。どっちが先に入るかで揉めてるんじゃないの? ほら、オルドルは見栄っ張りだから」

「私が見てきましょうか? 一応、此処のシスターですので」

 

 ウカミを除いた女子四人がわいわいと話している間に、ガーライがゆっくり扉に近付き、勢いよく、しかし音もなく開けた。その行為には巧妙な技術があり、更に容赦の無さと用意周到さがあり、ああやっぱカルマ値-500だわ、とトンボに思わせるのには十分だった。

 

 開けられた扉に気づかない二人、オルドルとボフマンの会話はどうやら架橋を迎えていたらしい。茶髪で鎧を着た青年、オルドルが声を荒げる。

 

「だから! ちょっとした芝居に協力してくれって言ってるじゃないか! 僕の造物主にちょっとぐらい良い格好させてくれよ! ちょっと扉を開けて僕が堂々と入るまでドアノブを握るだけじゃないか!」

「そんなことをしたらわしら土着竜が格下に思われてもおかしくないじゃろう。なんでこんな会議の場でそんなことしないといけないんじゃ。わしにだって守りたいメンツぐらいあるんじゃ!」

「いいだろ、友達じゃないか僕達。ここまでだって一緒に歩いてきたじゃないか」

「友達とは初耳じゃな。いつから友達になったつもりじゃ?」

「階段上がる頃には友達っぽい雰囲気だったろ?」

「冗談も大概にしてくれ……」

 

 室内にいた者は全員眉をひそめた。何しているんだこいつら。滑稽ではあるが、その場の全員の意識が初めて一致した瞬間である。特にトンボは眉間に指を当てる有様だった。なにせ自分の作ったNPCが、ものすごく馬鹿そうな会話の原因だったのだから。しかしまだオルドルは気づかない。語りに熱が入ったのか、身振りまで大げさになっている。ボフマンはこちらに気づいたようで、立派な髭が地面に着きそうなほど深く礼をした。

 

「なあ頼むって。クールな登場の仕方して、こう、なんというか、ちょっとした孝行したいんだよ。いや口にすると恥ずかしいな。まあ、一生のお願いだ。まだ集合までちょっと時間があるしさー。早くしないと他の人も来ちゃうかもしれないしさー」

「…………いや、どうやらわし達が一番最後のようじゃな。ほれ見ろ、さっさと言い訳の一つでも考えておくんじゃな」

「は?」

 

 トンボを見たオルドルは見る見るうちに顔を青ざめ、ついに耐えかねたようにその場に伏した。両膝と額を床に付け、まさしく平伏した。背丈の高い者がやっているため、分かりづらいがそれは土下座だった。

 

「も、申し訳ございませんトンボ様! これほどの痴態をお見せしてしまい、トンボ様に取り返しのつかないご迷惑を! この愚者、死んで詫びる所存であります!」

「よ、よせよせ! 死ぬな死ぬな! 落ち着け! 謝罪するのは俺ではなくボフマンにしろ。それで今のは忘れよう。それでいいか皆の衆」

 

 部屋にいる全員が苦笑いを浮かべながら――ガーライだけは満面の笑みだが――頷き、オルドルがボフマンに直角に近い角度の礼で侘び、なんとかその場は収まった。

 

 こうして会議室にすべてのメンバーが揃った。トンボが来てからたった十分もしない間の出来事である。

 

 

 

 長く、精神を摩耗する道のりだったが、トンボはようやく会議を始めれそうだった。初期の想定より何段階か繰り下げられた第一関門を、ようやく突破した安堵感に包まれる。全員が席に着き静まり返ったところで、トンボは進行役として語りだす。

 

「今回は俺の呼びかけに集まってくれてありがとう。クリアランス5が一人も欠けることなく集合してくれたことは、素直に嬉しいことだ。――さて今回召集をかけた理由だが、俺達がまったく別の場所に転移されたことだ。此処に来るまでの道中で皆見たと思うが、ここは海洋に囲まれた孤島になってしまっている」

 

 トンボの言葉に全員の表情が引き締まる。特に海については表情に怒りを表す者が多くいるほどだ。トンボは自分と同じような感情を持ってくれて、何処か嬉しくもあった。

 

「更に問題なのは、俺がログアウト……もとい、故郷への帰還が出来ないことだ。そう気にしなくてもいいかもしれないが、このままの状態だと俺の体に悪影響が及ぼされる可能性もある。少なくともラオの仲間達の帰還は、そうそう望めないだろう」

 

 サービスが終了したのだから、やってくるわけもない。そんな事をぼうっと思うも、マルタの表情がすーっと青ざめるのを見たトンボは軽率な発言を後悔した。マルタを作ったのはクロウンモだ。創造主に対する思い入れが強いのは、さっきのオルドルで知っていたのに。罪悪感がトンボの心を苛む。トンボの次に頻繁にログインするクロウンモと会えなくなってしまった可能性を考えるのが恐ろしいのか、マルタは俯き、震えだした。

 

「……マルタ。そう恐れるな。クロウンモさんはつい二時間前までユグドラシル内で活動していた。もしかしたらこちらにも来ているかもしれない。そうとも。この世界の広さ、どの程度の規模の転移なのか、それが分からないうちは絶望するのはまだ早い!」

 

 自然と語気が強くなるのを、トンボは実感していた。仲間達がいるかもしれない。マルタを慰めるために言った言葉は、孤独を感じている自分をも鼓舞する言葉だった。

 

「今回の会議の議題は、――この異変の調査、そして仲間達の捜索だ。この世界は一面海に包まれているのか? 大陸は存在するのか? そこに仲間達はいるのか? 俺達は依然最強種族なのか? 他に転移してきた勢力はあるのか? それらは幾つあるのか? あらゆることを調査しなくてはならない。では全員に問う。この異変が始まってから何か前兆のようなもの、もしくはかつてとの相違点を発見したものはいるか?」

 

 何人かが顔を見合わせ、全員が首を横に振るのを確認すると、デイヴァが代表して「前兆を確認したものはおらず、しかし相違点もございません」と言う。想定した答えだった。

 NPCの変化を知るのは俺だけか、と内心で呟くトンボだったが、相違点は少ないほうがずっといい。あらかじめ考えていた幾つもの議題のうち、最重要とも言える次の議題に移る。

 

「次にこのエレボール山脈の警備に関することだ。視認できる限り周辺に勢力は存在しないようだが、全盛期と同等の警戒態勢を敷くべきだと思う。この世界の強さの平均が分からないうちは最大限警戒するべきだ。馬鹿馬鹿しい話だが、もしかしたら渡り鳥に山脈を壊されるほどかもしれんからな。さて、このことについて何か意見のある者はいるか?」

 

 トンボは席を囲む者達を見る。彼らは目で会話するように仲間達へ視線を泳がせる。席を囲んでいるほぼすべての人間が意見を思いつかなかったようだ。そんな中一人だけ、ガーライが厳かに手を挙げた。

 

「では俺が」

「発言を許そう。ガーライ」

 

 トンボに一例し、気品溢れる声で意見を述べる。

 

「山脈の警備を全盛期と同等と仰りましたが、現在我らは海に囲まれています。ならば空の警戒より海への警戒を進めたほうがよろしいかと。水竜と水生のシモベを動員し、周囲の探索および警戒に当たらせるのはどうでしょう?」

「空よりも海……なるほど、ガーライの言うとおりだ。水竜は……この場にはいないな。専門家として……デイヴァ。水竜は海水での活動は可能か?」

 

 デイヴァが少し考えるような仕草の後、答える。

 

「可能です。ただ水竜の多くは深海へ潜ることには適しません。警備を水竜、探索を水生のシモベなら十分な働きが出来ましょう」

「よし、ではより多めに斥候隊に空からの探索をさせようか。ウカミ、周囲に島や大陸は見えないがどの程度の航続距離が可能だ?」

 

 ウカミはその時初めて子供に似合わない真剣な表情をし、ぶつぶつと数字を呟く。ほんの数秒で計算が終わったのか、表情を柔らくし、答える。

 

天眼竜(アイアゲート・ワイバーン)に限れば平均時速八十キロで五日間の継続飛行が可能です。ウカミならその倍の速度が出せます。帰還のことも考えると三日間の捜索が限界ですが、直線距離にして三八四〇キロメートル! 十分な探索が可能だと思います!」

 

 数が膨大すぎて距離感がつかめない。トンボは心の内で疑問符を浮かべるが、周囲の表情はウカミを褒めるような雰囲気だったので、トンボは周りの流れに乗っかることにした。

 

「流石だな。それだけの距離ならばなんら問題は無いだろう。……一応、ウカミにも探索に入ってもらおうか。八方向への調査だ。ウカミ以外の方角にはツーマンセルのチームを組ませること。何か意見は?」

 

 三秒ほどの沈黙の後、デイヴァがその場で礼をしながら返答する。どうやら会議の形式は固まってきたようだ。

 

「…………私達に意見はございません、トンボ様のお望みのままに」

「よし、次に拠点内の資源に関することだ。ユグドラシル時代だったら鉱山の資源は日を跨けば回復していたがこちらでもそうなのか? それを確かめる必要がある。その件には土着竜王(インディジェネス・ドラゴンロード)に任せたい。構わないなボフマン?」

 

 長い髭の生えた肥満気味な、ドワーフに見えなくもない男が胸と腹を張り、大きな声で宣言する。

 

「このボフマン・クラフトロード。その任、承りました! 頂の御方に満足する結果を報告すること、誓いましょう!」

「よし、任せたぞボフマン。事の次第によってはこの山脈の外から資源を探さなければならないかもしれない。その時は外界に派遣することもある。頼めるか?」

「もちろんでございます! わしらにすべてお任せください!」

 

 大丈夫かと内心思いつつも、別にボフマンは悪い事をしていないのを思い出す。事の元凶だったオルドルのほうを見遣る。視線に気がついたのか背筋を伸ばし、恐縮している。

 

「オルドルには、……いつもどおりの警備を任せよう。一番広い地域だしな」

「はっ! お任せください」

 

 それだけでオルドルの会議は終了した。次はディーノ。大聖堂の巡回と最終防衛機能を持つNPCであるため、使い道は多くある。しかし今必要なのはたった一つ。

 

「ディーノ、君には大聖堂内でギルドメンバーの痕跡がないか探してもらいたい。もし身に覚えのない存在がいたら傷つけないように捕縛しろ。レベル的に捕縛が無理なら、客として扱え。同郷の者の可能性もある」

「はっ、承りました。シスターも動員しましょう」

「五獣の使用も認める。……いや黄龍には対空を警戒させろ。他の四人に限る」

「了解いたしました」

 

 次はガーライとマルタだ。マルタはどこか抜けているとこもあるが山脈内でも最高峰の知能を持つNPC、という設定だったはずだ。ガーライのことは信頼してもいいがカルマ値が最低値のため、どんな事が起きるか分からない。対極に位置するカルマ値最高のマルタと組ませて内政に当たらせるのがいいだろう。

 

「ガーライ、マルタ。君達にはこの大山脈の内政に該当するものを託したい。山脈は九割程度自給自足が成り立っていたが、孤島となった今そうとも限らない。この大任は二人に任せ正確を期したい。二人の意見に相違点が見つかれば俺に報告するように」

『はっ! お望みのままに』

「よし、まずは食糧問題、次に金銭(ゴールド)の収入と支出、その他思い至った点に当たれ」

 

 未だ役割の与えられていない赤髪のトリュシラが、心配そうにこちらを見る。トリュシラは山脈内で最高の戦闘力を持つNPCだ。そのため役割は、単純かつ明瞭。

 

「トリュシラ。君は開発されていない地区、家畜の平原などに軍を用いて現地を監視させろ。世界の変わった今、地中から来る敵もあり得る。古代、それで滅びた街がいくつもあるほどにな。ウカミの飛竜(ワイバーン)とガーライの渓谷からアンデットを用いろ。疲労のないアンデットなら場を埋めるには最適だろう。この案に係わる三者、何か意見は?」

 

 渋い声が賛美の言葉を送る。それに、ウカミ、トリュシラが続く。

 

「まさに最適案かと思われます」

「私のところは構いません! あまり多くは貸せませんけど!」

「このトリュシラ、完全なる防衛をお約束しましょう」

 

 不服がないのを確認し、おおよそのことは決まった。

 

 さて、あとはデイヴァだけだ。妙案を思いついたのはいいが、いざ口に出すのは躊躇われる。中々言い出せないトンボを、不安そうで真摯な瞳でデイヴァは見つめる。そこには純真な色があり、それを見たトンボは覚悟を決める。セクハラじゃないからね、と思いながら。

 

「デイヴァには、しばらく俺と行動を供にしてもらいたい。というよりも、俺がデイヴァと行動を供にする。ドラゴンと魔法についての知識を蓄えるのと、この世界の特異な法則性を見つけるのが目的だ。不必要だと思うが護衛の意味合いもある」

 

 意識の差を観測するためにも重要なことだ。デイヴァは特にドラゴン兼魔法の研究者。デザイン的には教授だ。教えを請うには最適な人選、もとい竜選だろう。

 デイヴァは驚いたように目を大きく見開き、微笑んだのち深々と礼をする。

 

「はい。トンボ様に恥じない働きをお約束します。必ずやご満足させてみせましょう」

 

 その後の上目遣いはまたもやトンボに炸裂した。しかし先ほどと違い、不意打ちではないのでまだ耐えることが出来た。色々な種類の冷や汗を押さえながら、解散の言葉を言う。

 

「俺の会議の案はこれで終了だ。他に何か案のある者。…………いないな。では、今から七時間後に各員作戦を開始すること。それまで休憩、準備を進めよ。以上だ」

 

 指輪の力で会議室から脱出し、大聖堂の最も高い塔、その天辺(てっぺん)に転移する。視線を上へ移動させるとそこには満天の星空が広がり、トンボの心を癒すには十分だった。

 

「はあ、頑張った……。頑張ったよ、俺」

 

 明日にはきっと青空を見ることもできるだろう。それを見て癒しを得よう。なんと貴重で掛け替えの無い経験だろうか。そう思うも、心のうちには不安が燻り、満たされない。異物が入り込んだような違和感があった。

 

 ドラゴン達は、ラオ・ロンシィを上位者と見てくれている。それは間違いない。そこに不安は無い。ではこの不安は何だろうか。トンボは不安の正体を考える。

 

 その時、ふと思い出されたものは、曇った空とドームの中に住む人々、そんな中でも笑っていた人達。両親や妹の顔。古い友人達。

 

 トンボはなにも、日本の家族や友人に会うためだけに、この世界を捨てたいとは思わない。現実世界でも家族を(かえり)みないでゲームに明け暮れたようなトンボらしい発想だろう。しかしそれでも望郷の気持ちは消えず、あの人類終末期の地球が遠く懐かしい。

 

「なんなんだろうな。…………寂しいのかな」

 

 幸いなことに、この弱音を聞いたものは誰もいなかった。




一言キャラ紹介

デイヴァロン・ディアソート
  ドラゴン主義の美人ちゃん。嗜虐心とかは別に無いよ。魔導竜。
ウカミ・フォバットギア
  斥候役のロリ。カルマ値は低い。バカだけど有能。天眼竜。
マルタ・ホットライン
  聖女。金髪。まったり系。設定に落とし穴あり。神聖竜。
ガーライ・ゾイジャック
  めっちゃ賢い超ド級のゲス。邪悪の塊。感情豊か。暗黒竜。
トリュシラ・デルバルド
  アタシ系お姉さん。褐色赤髪。戦士。紅蓮竜。
オルドル・ファインライズ
  トンボ製作。拠点防衛の重要人物。間抜け。結晶竜。
ボフマン・クラフトロード
  ドワーフっぽい。生産職。一番まとも。土着竜。
ディーラ(名字なし)
  手足のある長蟲。一応100レベル。竜じゃないからクリアランス4。


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