魔法少女リリカルなのはvivid 紅き鉄腕 (tomato88)
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プロローグ

追記
現在、オリ主のデバイスの意見を募集しております。
ご協力力よろしくお願いします
締め切りは未定です
活動報告で待っています


これは夢の中のお話。 誰も知らない、私だけが知っている物語。

 

▽▽▽

じゃあ、今から1つ昔話をしよう。

遠い昔、ある世界のある王国に赤、青、緑の3つに別れた一族がいました。

赤の一族は魔法を使って炎を生み出すことができました。また、その炎を使って様々な道具を生み出し、鍛治士として活躍していました。

青の一族は昔ながらに腕っ節が強く、体も丈夫で代々王様を護る兵士として活躍していました。

緑の一族は森を育て、その森から作られた薬草などを使い医者として活躍していました。

3つの一族は互いを敬い助けあって生きてきました。

 

ある日、3人の女の子がそれぞれの一族に生まれました。

その3人は仲良く、日々切磋琢磨し、大人になっていきました。

そしていつしか3人はそれぞれの一族の指導者となっていました。

そんな時、3人は王国のパーティーに招待されました。

そこで、3人は1人の王子を好きになり、それが戦争のきっかけとなってしまいました。

3つの一族は互いに一歩も譲らず、ついに青の一族によって緑の一族が滅ぼされてしまいました。

赤の一族も指導者が突然行方不明となってしまいました。そして、戦う力のなくなった赤の一族は青の一族に敗北を宣言しました。

ここに戦争は青の一族の勝利ということで幕を閉じたのです。

その後、青の一族の指導者は王子と結婚をしましたが、戦争によって疲弊し、破壊されきってしまった国を元に戻すことは叶わなくなってしまいました。

そして、3つの一族は1つとなり、色を変え、流浪の一族として様々な地に散らばってしまいました。

ーーーーこれで私の話はおしまい。 どう? 面白かった?

ーーーえ? つまらない? そう、それは、残念だね。

あ、ちょっと泣きそう。 うぅ。

ーーん? なになに?

面白くない理由はハッピーエンドじゃないから? みんなが笑えて終わってないじゃないかって?

ふふ、確かにそうだね。 でも、私は現実はこんなもんじゃないかなって思うんだ。 最後には笑えて人生を終えられるなんて人はほんの一握り……

私は泣いたり叫んだりして一生を終えた人たちをいっぱい見てきたからね。

結局、私自身、あの2人とは仲違いしたまま「さよなら」しちゃったし……

ー私はそんな話、認めないって? どうして、前に進もうとしなかったのかって?

んー、そうねぇ。 私も途中で話し合いの場を設けようとしたり、戦闘をやめるよう呼びかけたりしたんだけどね?

……でも、1度灯されてしまった炎は消せなかったの。 気づいた時には誰も私の話なんて聞いてくれなかった。

一応リーダーだったんだけどなぁ……

ありがとね? 私の話を聞いてもらって。

本当はこの話にはまだ続きがあるんだけど……

もう時間だからまた今度ね?

それじゃあ、君はそろそろ行かないとね。

何かあって私はずっと側にいるから!

安心して前に進んで行きなさい!

後ろを向いちゃダメだからね!

 

▽▽▽

彼女が誰なのか私は知らない。

でも、たぶんまた会える。 いや、きっと。また。



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始まり

閲覧ありがとうございます。


新暦0078年 第61管理世界スプールス

「キャロ、確かここら辺だったよね? 反応があったのは」

「うん。 そのはずだよ、エリオくん」

つい数時間前、パトロールを終えた僕たちが戻ってきたときに事は起こった。 突然、膨大な未確認の魔力反応が現れたのだ。 反応がなかなかに遠い場所にあり、尚且つ早く確認しなければならないもののため戦闘力もあり移動手段もある僕とキャロが現場に向かうことになった。

「酷いな……これは」

一面燃えて灰になった木が生い茂っている。 もう少し先を見ると大きな穴が空いている様だ。 まさしく隕石が落ちたらこんな風になるのだろう。

「キャロはここで待ってて。 僕はあの穴を見てくる。 それと何があるかわからないから戦闘の準備だけはしておいて」

「うん、わかった。 気をつけてね」

僕は慎重に穴の方へと向かっていった。

 

▽▽▽

 

「キャロー! 急いでこっちに来てー!!」

 

さっき穴の方に向かったエリオくんから連絡が入った。 慌てている様だったので戦闘になってるのかもしれない。私は急いで穴の方に向かった。

そこで目にしたのは私より幼く長い黒髪で病院服を着ている少女を抱き抱えているエリオくんの姿だった。

困惑している私を他所にエリオくんは話ている。

「キャロ、早く本部へ帰ろう。 この子意識がない様なんだ早めに安全なところに運んで保護した方がいいと思う」

「え、あ、うん! そ、そうだね!」

本部に帰って来た私たちはまず、少女をベットに寝かせ隊長に報告を済ませた。

「ふむ…… そうか、ご苦労だったな二人とも」

「いえ、結局のところあの子を保護してからすぐに戻って来てしまったのでほとんど調査をしていませんから……」

「はい! なので私たち今から調査に行ってきます。 あの子のことよろしくお願いします」

そう言って私たちは頭を下げたのだが、隊長は少し申し訳なさそうにしてこう言った。

「あー、その、すまんな。 君たちが出て行った後に別の者も向かわせたんだ。 何があるかわからないからな。 だからそいつらに調査は任せて、お前らはあの子の面倒を見てやってくれ」

「「は、はい! 了解しました!」」

「それでは後はよろしくお願いします」

「おう! 若い奴らはおじさんたちに仕事を任せてしっかり休んでおけ」

ーー その数日後、私たちが保護した謎の少女が目を覚ました。

▽▽▽

 

 

ん……ここは……どこ? 何も、何も思い出せない。 私がわかるのは名前と力の使い方だけ。 だったそれだけ。

向こうで声が聞こえる。 誰かいるのだろうか。わからない。 思い出せない。 私は一体何者なんだろう。

声が近づいてくる。

「あ、目が覚めた? 大丈夫? 自分が誰かわかる?」

白い服を着た赤毛のお兄さんが私に近づいてきて声をかけてくる。 私は何もわからない。 だから首を横に振る。

「そっかぁ…… じゃあ名前はわかるかな?」

名前……名前ならわかる、 私の名前はーー

「日野、紅音」

「紅音ちゃんかぁ。 可愛い名前だね。 でも、名前の感じからしてなのはさんに似ているから地球出身なのかな?」

「地球……? ここは地球じゃないの?」

「うん。 ここは第61管理世界スプールス、って言ってもわかるかな?」

「わからない」

お兄さんは何かを考える様な表情をした後、笑顔で私に「お腹減ってない? ご飯食べれる?」と聞いてきた。

お腹が減っている私はすぐに頷き、食事のあるところまで連れて行って貰った。

「はい! 美味しいよ!」

「ありがとう……」

 

食堂に着いて席に座らされるとピンク髪のお姉ちゃんが食べ物を持ってきてくれた。 たぶん、私の分なのだろう。

「えっと、お兄ちゃんとお姉ちゃんの名前は?」

「あ、そういえば言ってなかったね。 僕はエリオ。 エリオ・モンディアル。 それでこっちが……」

「キャロ・ル・ルシエです」

「エリオにキャロ…… うん。わかった」

それを聞いて私は食事に集中する。

その間、エリオとキャロの話を聴いてみよう。 そう思った私は二人の会話に耳を傾ける。

「それで、キャロ。 どうやら彼女、地球人らしいんだ」

「え? 地球?」

「うん。 それにどうやら記憶喪失らしくて。 仕方ないからフェイトさんに聞いてみようと思うんだけど……」

……フェイト? 確か、聞き覚えがある。

「フェイト・テスタロッサ……」

「「え?」」

顔を上げてみると驚愕の顔をしている二人が目に入った。どうしたのだろう?

「ねぇ、紅音ちゃん。 フェイトさんのこと知ってるの?」

「うん」

「ど、どうゆうことだろう、キャロ?」

「わ、私に聞かれても…… とりあえず、早くフェイトさんに話を聞こう!」

「そうだね。 それじゃあメールを打つか」

少し思い出した。 私が何者だったのか。 フェイトに会えばたぶんもっとわかるのだろう。




オリ主 簡易プロフィール

日野紅音(ひの あかね)
名前の由来は赤そうなやつぶっこんだだけ。

長い黒髪で病院服を着ている10歳ぐらいの少女。
左目が赤、右目が黒のオッドアイ。
性格はクールで寡黙。 むしろ、ボーとしてる。 でも、感情は顔に出やすい。


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身元と謎

閲覧ありがとうございます


「それでエリオ。 話って何かな?」

僕は今、やっと時間の空いたフェイトさんと電話している。 既にあれから3日が経った。 僕とキャロは一応の保護者役として紅音の側に最低でもどちらかが近くにいる様にしていた。 だが、それを見た隊長が気を利かせて「重要参考人の保護及び警備」と言う任務をくれた。これで二人で付きっ切りで面倒を見ることができる。

「3日前、スプールスで未確認の大きな魔力を感知したんです。 それで調査に行ったところ一人の女の子が現場で倒れていたので保護したのですが、その子がフェイトさんの名前を知っていたので何かわからないかと思いまして」

「んー、それはどんな子なの?」

「えっと、写真がありますので。 えーと、はい。 この子です。 名前は日野紅音と名乗っており記憶がーーフェイトさん? 聞いてますか? フェイトさん!?」

「嘘……っ! なんで……」

 

フェイトさんがかなり狼狽えている。 やっぱり知っていたか……

「フェイトさんはこの子のこと知っているんですか?」

「うん…… この子は私の友達。 でもーーー

▽▽▽

 

 

「あ、お疲れ様、エリオくん! フェイトさんに聞いて何かわかった?」

「うん。 だいたいのところは。 それにしても紅音はなにをやってるの?」

「私にもわからない。 「それ、見せて」って言われたから渡したら何か始めちゃって…… 変なことしてなければいいんだけど……」

「でも……あれって確実に中のプログラム弄ってるよね?」

「え? あ!? 本当だ!? えー……どうしよう……」

「まぁ、なんとなるんじゃないかな。 たぶん」

「たぶんって、エリオくん……」

そうこう話しているうちに彼女がデバイスを弄るのを終えたらしい。

「これ、面白いね。 無駄なプログラムやバグ、消したから。 使いやすくなってると思う」

「え? ちょ、ちょっと試してくる! エリオくん、紅音ちゃんのことよろしくね!」

「え、あ、うん! わかった」

そう言ってキャロは走り去ってしまった。

この一連の行動に僕はさっきのフェイトさんとの話を思い出していた。

ーーでも、彼女は行方不明なの」

「え? 行方不明?」

「うん。 闇の書事件、エリオも知っているでしょ?」

「は、はい」

「その事件が終わった後、彼女、事故に遭ったの」

「事故……ですか」

「そう。 彼女には焔さんっていうお姉さんも居たんだけど、そのお姉さんと一緒に事故に遭って、お姉さんは死亡。彼女も意識が戻らなかったの」

「どんな、事故だったんですか?」

「えっとね、確か居眠り運転のトラックによる事故……だったかな? でね? お姉さんは下半身が潰れちゃって、紅音もぶつかった衝撃で心臓の活動がほとんど停止、それにトラックの破片が左目に刺さったらしくて……」

「え?!」

「うん。 それでお姉さんの要望で紅音に心臓と片目を移植したことで紅音が生き残ったって聞いたよ」

「そんなことが……」

「その後、しばらくしてから紅音が病院から姿を消したの。私たちも探したんだけど見つからなかった」

「その話を聞くに彼女は時間移動をしてきたんでしょうか?」

「それはわからないけど…… でも、よかったよ。 紅音が生きてくれて」

「そうですね。 あ、最後に一つ」

「ん? どうしたの?」

「紅音は当時、魔法について知っていましたか?」

「知らなかった、はずだよ? それがどうかした?」

「いえ、なんでもありません。 では、また何かあったら連絡します」

「うん、お願いね」

ーーエリオ。 ねぇ、エリオ。 聞いてる?」

「あ、ごめん。 ボーとしてたよ」

フェイトさんとの話を聞いて、疑問の幾つかは解決できたが、それでも彼女には謎が残っている。 フェイトさんの話では紅音は魔法について何も知らなかったはず。 名前すらも。 だけど、こっちに来た時には魔法について知っていた。 これはどういうことなんだろう? ここに来る前にどこかの世界にいたのか? それとも元々知っていた?

それにーー

 

「エ、エリオくん! ケリュケイオンの魔法の発動が1.5倍も速くなってる!!」

 

そう。 キャロのデバイスを弄っていた時から思っていたが、紅音はデバイスについて知り過ぎている。 知識としてではなく経験として。 一体、彼女は何をしていたのか。 正直予想がつかない。

 

確か、一ヶ月後に合宿があった筈だ。 これは危険を冒してでも連れて行った方がいいかもしれない。




次回、合宿編です

追記

事故のことを闇の書の事件の後、ということに書き換えました。

追追記

紅音の失った方の目を具体的にしました。


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合宿 開始前

中途半端かもしれません



「エリオくん。 本当に連れて行くの?」

「うん。 もしかしら紅音について何かわかるかもしれないからね」

紅音がここに来てから一ヶ月が経った。その間に起こったことと言えば、紅音は炎熱の魔力変換資質を持っていながら通常魔法も得意であること。 デバイスの設計図を持ってきたが材料がなく、作らなかったこと。僕たちの休みが取れなくなりそうになったことぐらいだ。

今日から4日間、ルーのいる世界にオフトレーニングの合宿に行く。 これには僕たち、元機動六課の面々とヴィヴィオとその友達。 それに引率としてノーヴェさんが参加するそうだ。

「それに、フェイトさんと話したんだけど、紅音をミッドチルダの方に預けようかなって話になっているんだ」

「えー?! 私、その話聞いてないよ!?」

「昨日、いきなりフェイトさんから電話が来て、話した話だったからね。 昨日、キャロは紅音を連れて出掛けてたでしょ? その時に来たんだ」

「それでも時間あったでしょ! 私と紅音ちゃんを除け者にするなんて酷いよ!」

「ごめん。 言おうとは思ってたんだけどなかなかタイミングが」

「もう、次からは気をつけてね!」

「はい……」

そんなことで僕がキャロに怒られていると紅音が裾を引っ張ってきた。

「エリオ、今日、行くところってどんなとこ?」

紅音も段々とこちらに慣れてきたのか最初の頃に比べるとかなり話しかけてくるようになった。 正直、かなり安心である。

「んーとね、自然がいっぱいあって、温泉とかもあるところなんだ」

「温泉に入れるの? やった!」

偶にこうしてはしゃいでるのをみるとまだ幼い子供なんだなと改めて確認させられる。 クールな子なのでこういう姿は珍しい。 まぁ、思っていることはすぐに顔に出るのだが。

「それに、今日はなのはさんとフェイトさんも来るし、紅音と同じぐらいの年の子たちが来ることになってるよ」

「そうなんだ。 仲良くなれるといいな」

「そうだね」

こうして僕たちはルーたちが待つ世界へと向かった。

▽▽▽

 

 

「いらっしゃーい! ようこそ、ホテルアルピーノへ!」

「久しぶり、ルー」 「ルーちゃん、久しぶりー」

僕たちはカルナールに着いて、そしてルーの待つ彼女の家にたどり着いた。 どうやら僕たちが一番乗りのようだ。

「この子が紅音ちゃん?」

「うん、そうだよ」

「日野紅音。 よろしく」

「私はルーテシア・アルピーノ。 よろしくね、紅音」

そう言って彼女たちは握手をしていた。 キャロをみるとどうしてか悲しい顔をして項垂れていた。

「私だって少しは身長伸びたのにまた差が広がってる……」

この呟きが聞こえたので僕にはどうすることもできないと感じ、すぐに放置した。 キャロに身長の話をするとかなり根に持つのだ。 それは勘弁したい。

「あ、エリオとキャロに頼みがあるんだけど、いいかな?」

「ん? 僕たちにできることなら」

「ガリューと一緒に薪を取ってきてくれないかな? ちょっと数が足らなくて……」

「それぐらいなら大丈夫。 その間、紅音の面倒見ててくれないかな?」

「頼んでるのはこっちだから、それぐらい大丈夫ー」

「それじゃあ荷物を置いて、少し休憩したら行くよ」

「よろしく〜」

▽▽▽

 

 

エリオとキャロはガリューとかいう召喚獣とともに薪を取りに行ってしまった。 一方、私というとルーテシアの膝に座って髪を梳いて貰っていた。

 

「紅音の髪って綺麗ねー」

「そんなことないと思うけど、 よくキャロに洗ってもらってるからかな?」

「そうなんだー。 なら、今日は私が洗っちゃおうかなぁ〜」

「本当? なら、お願い」

「お姉さんに任せなさ〜い」

昔、お姉ちゃんによく頭を洗ってもらっていたような気がする。

……そうか、私には姉がいたのか。

段々と少しずつだけど、思い出していく記憶。 どうしてこんなに大切なことを忘れてしまったのだろうか。 思い出せない。 何も。 あの二人に会えば少しは思い出せるのだろうか。

「あ! そろそろみんなが来る時間! 準備しないと!」

「準備?」

「そう、準備。 今日は大人数だからねー、やることも多いんだ」

「そうなんだ。 なら私はここで待っていればいいの?」

「ん〜、そうなるかなぁ。 大人しくしてるんだよ?」

「うん」

 

そう言ってルーテシアは外に出て行った。

その30分後、ルーテシアは大人数を連れて帰ってきた。

この出会いは私にとって良いことなのだろうか、それても悪いことなのだろう。 どっちだろう。



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再開と出会い

閲覧ありごとうございます
全然進んでません


「ただいまー」

ルーテシアが帰ってきた。 他の人たちはどこにいるのだろう。

「他の人たち? あぁ、それなら隣のコテージの方にいるよ。 皆さんこれから訓練だって言ってたけどその前に何人かはあなたに会いに来るんじゃないの?」

「そう、わかった。 ならここで待ってる。 エリオとキャロは?」

「あの二人もコテージにいるはず。 さっき戻ってきてた筈だから」

「わかった。 ありがとう」

私も用事が済んだらコテージの方に行こう。 私はどの部屋に行けばいいのだろう。 後で聞いておかないと。

 

「ほら、噂をすれば」

「え?」

 

そこには私の記憶とは違い大きく成長した二人が立っていた。

なのはとフェイト。 私の友達。 確か、ここは私のいた時間より13年経っていたはず。 なら彼女たちはもう22か。 私はまだ10歳になる前のままだというのに随分と差がついてしまった。

「紅音ちゃん!」 「紅音!」

二人が抱きついてきた。 感極まっているのだろう。泣いている。 私にとって彼女たちと最後にあったのはほんの少し前だが、彼女たちにはもうかなり前の話。 それも行方不明の友人とやっと出会ったのだ。 それならこうもなるか。

……私は随分と薄情なやつだな。 この状況をこんな冷静に分析するなんて。

 

「なのは、フェイト……いたい」

「あ、ご、ごめん! 嬉しくてつい……」

「ご、ごめんね?」

「別に、大丈夫。 それよりも二人とも久しぶり……なのかな? 私にとってはそんな昔のことじゃないけど」

ルーテシアがこちらを見ながら笑っている。 私はそれを見て少し恥ずかしくなって「あっちいけ」という仕草をする。

 

「うん……本当に久しぶり…… もう二度と会えないと思ってたから……」

「私も…… 本当に会えてよかった……」

「泣かないでよ。 私は生きてるし、こうやってまた会えた。 それで、それだけでいい」

「うん……そうだね!」

「それにしても本当、10年前と変わってない。 変わったとしたら眼の色ぐらいかな?」

 

眼の色? この紅い眼のことか。 これは、やっぱりお姉ちゃんの……

「フェイトちゃん、 そろそろ」

「そうだね。 それじゃあ、紅音。 私たちは訓練があるから、また後でゆっくり話そ?」

「うん、そうする」

「あ! 紅音ちゃんさえ良かったらなんだけど、私たちの娘たちの相手をしてくれないかな? 娘も紅音ちゃんに会いたいって言ってて」

「うん、私はすることないから暇が潰せるなら」

「ありがとう! お願いね! それじゃあ行ってくるね!」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

彼女たちは元気そうだ。 きっと幸せなのだろう。 それよりも二人に娘が出来たのか。 この時代は女同士でも子供ができるんだな。

 

「いや、そういうわけじゃないから」

「あ、ルーテシアいたんだ」

「ずっといましたよ!」

「ごめん。 出て行ったのかと……」

 

結構、本当に思っていた。

 

「まぁ、別にいいけどね。 それよりもヴィヴィオたちのとこに行くんでしょ? 私もそっちに合流するつもりだから一緒に行こ?」

「うん。 わかった」

 

 

▽▽▽

 

コテージの裏が目的地らしい。 そこに着いた時思い出したようにルーテシアが言った。

 

「あ! そういえば紅音って今日水着持ってきてるの?」

「水着? 持ってきてないけど」

そもそも何も聞いていないのだ。 持ってきているはずがない。

 

「あちゃー、 たぶん今日は近くの川に遊びに行くはずだから水着がないとダメなんだよねぇー。 ちょっとここで待ってて私のお古があったはずだから」

「え? あ、行っちゃった……」

エリオとキャロの話では大人しそうなイメージがあったのだが、実際に会ってみるとだいぶ印象が違った。 やっぱり、実際に会ってみないとわからないことは多いようだ。

そこから待つこと5分。

「あの〜」

そろそろなにかしようかな、と考え始めた頃、突然後ろから声をかけられた。 振り返るとそこには私の同じか少し低いぐらいの身長に金色の髪、それに緑と赤の左右で違う色をした綺麗な瞳の少女がいた。

……どうしてだろう、あの色違いの瞳に見覚えがある。 どこの家系のものだったか……

あ、そうだ。 思い出した。 聖王の一族だ。 なら彼女はその関係者なのかもしれない。

 

「えーと、どうかしましたか?」

「あ、ごめん。 なんでもない。 それよりもあなたは?」

「あ、はい! 私、高町ヴィヴィオっていいます! 小学3年生です! あなたが紅音さん……ですよね?」

あぁ、この子がなのはとフェイトの娘か。 髪の色などフェイトと似ているところがあるが、この雰囲気、中身はなのはにそっくりなのだろう。

「うん、 そう。 日野紅音。 よろしくね、ヴィヴィオ」

「はい! よろしくお願いします! 紅音さん!」

「歳、1つしか変わらないから、さん、とかいらないし、敬語じゃなくていい」

「わかりました! じゃあ、紅音。 これでいいかな?」

「うん、バッチリ」

 

うん。 やっぱり、素直ないい子だ。 まだ、少ししか話していないがそれがよくわかる。

 

「お待たせ〜ってあれ? もうヴィヴィオ来てたの? 早くない?」

「うん! ママたちから紅音のお話聞いてたから、早く来ちゃった」

「コロナは?」

「ノーヴェと一緒に来るって」

たぶん 向こうから歩いてきている2人がそのコロナとノーヴェなのだろう。

 

こうして私はヴィヴィオと出会った。

この出会いがどうなるかは今は誰にもわからない。




ルールーの口調がわかりません
誰か教えて……

追記
少し次の話と合わせるために言葉を増やしたり変えたりしました。


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出会い ヴィヴィオ視点

ヴィヴィオ視点です

追記
紅音のオリジナルデバイスの意見を募集しています。
ご協力よろしくお願いします。


私、高町ヴィヴィオは今日から4日間、ルールーが住んでいる世界、カルナージに旅行兼合宿で遊びに来ています!

これから川に行くということで私とコロナはルールーが作ったコテージで水着に着替えている最中です。

「ねぇ、コロナ? 紅音さんってどんな人なのかな?」

「ヴィヴィオってば、先週からそればっかり。 少し焼いちゃうなぁ」

「え?! 私そんなにいつも言ってた!?」

 

私がママたちから紅音さんについて聞いたのは今日から1週間前のこと。

 

ーー「あ、そう言えばね」

「ん? なぁに、なのはママ?」

久し振りにフェイトママの仕事が早く終わったのて3人で食べていた夕食の時の話。 ふと、思い出したようになのはママが私にあることを伝えてきた。

 

「今回の旅行にね、私たちの古いお友達が来るんだよ!」

「へ〜、そうなんだ〜」

「実はその子、10年以上前から行方不明でね? この前、やっと連絡を取ることができたんだ!」

「へ〜」

 

ママたちのお友達かぁ、 きっと綺麗な人なんだろうなぁ。

優しい人だといいなー。

私は最初、そんなことを思っていたはず。 だけど、フェイトママの言葉で私は紅音さんに興味を持ったんだ。

 

「紅音ってボクシングかなり強かったよね?」

「ボクシングー? フェイトママ、ボクシングってなぁに?」

「えーとね、 ボクシングっていうのは地球の格闘技の一種でグローブをつけた拳だけで戦うスポーツのことだよ」

 

か、格闘技〜!!

 

その時の私の目はとっても輝いていたと思います。

私だって格闘家の端くれ。 格闘技という単語になるとつい反応してしまいます。

 

やっぱりママたちと同い年なんだし、かなり強いんだろうなぁ…… 教えてもらったりすることはできるのかなぁ?

私のスタイルは「カウンターヒッター」 足ではなく拳の方をよく使う。 ボクシングというのは拳のみを使うというのだからそういうところはとても発達しているはず。 私は既にこの時、紅音さんに会うことがとても楽しみになってしまいました。

 

だけど、もう1つびっくりすることがあったんです!

 

「ヴィヴィオには申し訳ないんだけど……

紅音ちゃんはよくわからないけど行方不明になった時のままこっちに転移して来ちゃっているらしくて、ヴィヴィオに教えることはできないかも知れない、かなぁ?」

「へ?」

 

と、いうことはつまり……?

 

「紅音ちゃん、たぶん今は10歳かなぁ」

「え〜!? 私とほとんど変わらないの?!」

それはそれれでびっくりなことでした。

私にとってそれは別の側面で喜ぶことのできることでした。

 

「なら! 一緒に練習できるの!?」

 

そう、 つまり一緒に切磋琢磨する仲間になるかもしれないということです。 私はこの日から紅音さんに会うことを心待ちにしていたのです。

 

「コロナ〜、準備まだ終わらないー?」

「うんー、先に行ってていいよー? 私はノーヴェ師匠と行くからー」

「わかったー! 早く来てねー!」

 

こうして私は1人、待ち合わせ場所に向かったのでした。

 

えーと、確か紅音さんの特徴は「私と同じか少し大きいぐらいの身長で長い黒髪の人」だったかな?

待ち合わせ場所に近づくと女の子が1人ボーと空を見ているのが目に入りました。

あの子が紅音さんかなぁ?

 

私はとりあえず声をかけてみようと思いました。

 

「あの〜」

「はい」

 

その人が振り向いて私の方を見た時、一瞬、驚いたように目を見開いてその後はじ〜〜と私を見てきました。 私はというとその人の眼に魅せられたしまいました。 私と一緒で虹彩異色。 そして私と違って深い赤色の目。 血のような目。 私はそこに悲しい印象を持ってしまう。

そこまで考えたところで私は我に返った。

 

「えーと、どうかしましたか?」

「あ、ごめん。 なんでもない。 それよりもあなたは?」

 

なにか気になることでもあったのだろうか? それよりも先に自己紹介をしなければ!

 

「あ、はい! 私、高町ヴィヴィオって言います! 小学3年生です! あなたが紅音さん……ですよね?」

 

私が自己紹介をするとその人は何かを納得したような表情をしていた。 クールそうな見た目なのに意外と表情は豊かなのかもしれない。

 

「うん、そう。 日野紅音。 よろしくね、ヴィヴィオ」

「はい! よろしくお願いします、紅音さん!」

「歳、1つしか変わらないから。 さん、とかいらないし、敬語じゃなくていい」

 

あ、少し照れてる。 可愛いなぁ

 

「わかりました! じゃあ、紅音。 これでいいかな?」

「うん、バッチリ」

 

「お待たせ〜、ってあれ? ヴィヴィオもう来てたの? 早くない?」

 

ルールーが来た。 どこに行ってきたのだろう? それに少し大きめのカバンを持っているが何が入っているのかな?

 

「うん! ママたちから紅音の話聞いてたから、早く来ちゃった」

「コロナは?」

「ノーヴェと一緒に来るって」

 

噂をするとなんとやら。 コロナとノーヴェが向こうからやってきました。

 

「よお、待たせたな、チビども」

「お待たせしました〜」

「遅いよ!2人ともー」

 

実際、私はそこまで待たされていないので怒る必要はないのだが、これはノリというものだろう。

「はは! 悪いな。 っと、お前が紅音か? あたしはノーヴェ・ナカジマだ。 今回はこの2人の引率として来てる。 よろしくな」

「コロナ・ティミルです。 ノーヴェ師匠からストライクアーツを教えてもらっている授業中の身です。 宜しくお願いします!」

「お、おい! コロナ! あたしは師匠じゃねーって何回言ったらわかるんだよ!」

「私たちにとっては立派な師匠ですよー? ね、ヴィヴィオ?」

「うん! そうだね!」

誰がなんと言おうともノーヴェが私たちの師匠であることは変わりはない。 そんなやり取りをしていると、私は紅音がポカンとしているのに気がついた。

「紅音? どうかしたの?」

「えっと、 ストライクアーツってなに?」

 

あ、そっか。 こっちに来てからまだ一ヶ月しか経ってないんだもんね。 知らなくて当然だよね!

 

「ストライクアーツはミッドチルダで一番広がっている格闘技で『打撃による徒手格闘技術』の総称のことだよ」

「格闘技……」

 

あ、あれ? 反応が薄いんだけど……? まさか、忘れてるの!?

 

「うん。 私、ストライアーツはできないけどボクシングならできるよ」

 

よ、よかったぁ〜! 記憶喪失とは聞いていたから忘れてたりしてなかったか心配してたとこはあったんだよねー

 

「おっ! 紅音はボクシングやってるのか! ファイトスタイルはなんだ?」

 

紅音がボクシングをやっているということを聞いてノーヴェが興味を持ったようだ。

 

「一通りできるけど、強いて言うならカウンターヒッターなのかな?」

「それは本当か!? おい、ヴィヴィオ! 紅音はお前と同じファイトスタイルだってよ!」

「ほ、本当!?」

「うん。 カウンター得意」

そ、それは楽しみだよ! どうしよう、一回、紅音と模擬戦やってみたい……

 

「うし! コロナとルーテシアには悪いがお前ら模擬戦やるか?」

「え?! いいの?!」

「おう! もちろん、紅音が了承してくれたらのはなしだけどな」

「紅音はどうする?」

「うん、いいよ。 やろうか」

 

やった〜! すっごいテンション上がってきたよー!

 

「決まりだな。 演習場まで行くぞー っとその前にヴィヴィオ、お前一回着替えてこい。 その格好のままではやれないだろ?」

「え? あ、そうだね。 演習場だよね? なら着替えたらすぐに行くから先にいっててー」

 

こうして、急遽私と紅音の模擬戦が決まったのでした。




私はボクシングについて詳しくありません。だいたいははじめの一歩みながら書きますので指摘があったりするならお願いします。


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模擬戦

前半はノーヴェ視点
後半はヴィヴィオ視点となっています

連絡です。
紅音のオリジナルデバイスについての意見を募集しています。
ご協力よろしくお願いします


「それじゃあ、4分1ラウンドで射撃砲と拘束はなしの格闘オンリー、文句はないな?」

 

「うん。 大丈夫」

「私も大丈夫」

 

「よし! それじゃあ、 レディッッ、ファイッ!」

 

あたしが急遽取り決めた試合。 コロナとルーテシアには本当に悪いと思っている。 そう、さっき2人に言ったら

「大丈夫ですよ〜 私も紅音さんがどれだけ強いのか見てみたいですし〜」

「私なんて模擬戦見ること自体久しぶりだからね。 ちょっとワクワクしちゃう!」

何てことを言われた。 2人とも楽しみにしているようだ。 私が今回、こんなことをしたのには少し理由がある。 フェイトさんから頼まれているのだ。 もし、紅音がミッドチルダに行くとすればヴィヴィオたちと一緒に面倒を見て欲しいと頼まれた。 実際のところまだ紅音がミッドチルダに来ることは確定ではないし、格闘技自体、やらないかもしれない。 だけど、もし面倒をみることになるとすれば、まずは実力を知っておきたい。 つまりはそういうことだ。

 

ふむ。 ヴィヴィオは私が教えた通りのオーソドックスな構え。 うん、よくできてる。

紅音の方はどうかなっと、あれは……ヒットマンスタイル、だったかな? それにしてもかなり前傾姿勢だな。 カウンターヒッターって聞いたからてっきりアウトボクシングをするのかと思ったが違うのか? 気になるな。

お、まずはヴィヴィオから攻めに来たか。 ヴィヴィオのスピードは速いぞ? さぁ、どうでる!

ヴィヴィオは素早いダッシュで一気に拳の当たる位置まで身体を持って行った。 そこから放たれるのはジャブ。 まずは、どう動くかを観察するつもりなのだろう。

紅音がヴィヴィオのジャブを避けた瞬間、ヴィヴィオはその場に崩れ落ちた。

……はぁ?! 紅音を見ると拳を振り切っている。 正直に言うとあたしは何も見えなかった。 他の2人も同様なようで唖然としている。

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

あたしはその声にハッと我に返りヴィヴィオの元へと向かった。

 

「あ、あのぉ。 すみません。 ヴィヴィオのパンチが速かったもので、反射的にカウンターを……」

「それは大丈夫だ。 ヴィヴィオだってそういうことがあることはわかってやってるんだ。 お前が謝ることじゃない。 それよりもだ。 お前、何をしたんだ?」

あたしは何も見えなかった。 もしかしたらかなりの大物なんじゃないのか? こいつは。

「えっと、ヴィヴィオのジャブに合わせてカウンターを……」

「それはわかってる。 どんなカウンターを打ったんだって聞いてる」

「はい。 ジャブに合わせて右で顎に向かってクロスカウンターを」

「そうか。 悪かったな。 声荒げちまって。 とりあえずヴィヴィオを部屋まで運ぼう」

「は、はい」

「ヴィヴィオ、大丈夫なんですか?」

 

コロナが心配そうにヴィヴィオの容体を聞いてくる。 その質問に紅音は顔を暗くする。

気にしなくていいのに、と思うが無理な話か。

 

「あぁ、問題ないはずだ。 あたしはそこまで柔に育てたつもりはねぇ」

「そ、そうですよね…… ルールーが先にコテージに戻って氷とか準備してくれています。 私たちも早く行きましょう」

「あぁ、そうだな」

 

 

▽▽▽

 

 

「ん……? あれ? ここは……?」

「あ、起きた? 身体痛いとかない? 大丈夫?」

 

紅音が心配そうに私の容体を聞いてきた。

……あぁ、そっか。 私、負けちゃったのか。 それも一発で。 紅音のカウンター速かったなぁ。 私もあれぐらいのスピードで打てるようになりたいなぁ。

 

「うん、大丈夫だよ! 心配かけてごめんね?」

「ありがとう。 ノーヴェ呼んでくるからここで寝てて」

「うん! わかったー!」

 

そう言って紅音は部屋を出て行く。 窓から外を見てみるとまだ日が高い。 模擬戦を始めてからそんなに時間は経っていないのだろう。

私は紅音に言われたように少しベットに横になっていようかなぁ。

 

「おい、 入るぞー! あ? なんだ元気そうじゃねーか」

「あはは。 なんか身体動かしたい気分で」

結局、寝れなかった。 むしろ、横になるとあの模擬戦でも一発を思い出してしまい、早く練習がしたくなる始末。 どうやら私はあのカウンターに魅せられてしまったらしい。 それほどに綺麗なパンチだった。

 

「程々にしとけよ? 顎を撃ち抜かれたんだ、無理をするな」

「うん! わかってるよー!」

その日は結局、元々予定してい川遊びには行けず1日ゴロゴロしたり、お話ししたりして過ごしました。

明日は陸戦演習。 紅音はそれには参加するのだろうか?




次回、 陸戦


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陸戦 その1

閲覧ありがとうございます

只今、紅音のデバイスについての意見を募集しています。
詳しくは活動報告まで
ご協力よろしくお願いします


「それで、紅音は今日の試合はどう見てるのかな?」

「そうだね…… 難しいところ」

 

2日目、今日は陸戦試合の日。 私はメガーヌ、シャマル、ガリュー、フリードとともに見学だ。 ヴィヴィオからは「参加したくなったいつでも言ってくださいっ!」と言われているが私が参加して大丈夫なのだろうか? 前衛の数多くならない?

 

今回の試合は赤組と青組の二手に分かれている。

赤組ははやてを筆頭にリインフォースII、キャロ、ザフィーラ、コロナ、ティアナ、エリオ、スバル。

青組はなのはを筆頭にフェイト、ルーテシア、ヴィータ、ヴィヴィオ、シグナム、アギト、ノーヴェ。の8対8となっている。 実際のところ、リインフォースははやてとアギトはシグナムとユニゾンしているので7対7である。

 

現在、試合は序盤。 前衛同士がぶつかり合い始めたところだ。 それにしてもノーヴェとスバルの動きは凄いな。 あの技の応酬にはこの私ですらテンションが上がってしまう。 それに、ヴィヴィオもよくやる。 ザフィーラに対してかなり善戦しているのではなかろうか。 シグナムとヴィータの対決は今更言うまでもない。

 

「みんな、凄いな」

「あら、やっぱりそう思っちゃう?」

「うん。 次は私も参戦しようかな」

「私ももう少し若かったら参戦したのにね〜」

 

かなり自信がある言い方だったがメガーヌは強いのだろうか? 後でルーテシアに聞いてみよう。

 

「でも、紅音ちゃんは魔法、使えるの?」

「うん。 エリオとキャロに教えてもらった。 邪魔にはならないと思うよ」

 

一ヶ月、みっちり練習しました。

 

「なら、よかったわ。 もし紅音ちゃんが出るなら私も出ないといけないよね!」

「あ、そっか。 人数的にシャマルも入らなきゃいけないのか。 でも、それって差ができない?」

「私は後方支援しか出来ないからそんなに戦力にならないから大丈夫よ!」

「それだけでも充分、脅威」

シャマルも後方支援があるかないかでどれだけ違うかわかるはずなんだけどな……

 

そんなこんな話していると試合はもうすでに終盤。 何人かはもう脱落している。

 

「ティア〜! わたしの仇とって〜!!」

「あ〜、クソ! やられたー!」

「またフェイトさんに勝てなかったぁ」

「ユニゾンは卑怯だろ〜!」

「負けちゃいました〜」

「私も〜」

 

残っているのは赤組がはやて&リインフォース、ザフィーラ、キャロ、ティアナの5人。

対して青組も同じくなのは、フェイト、ルーテシア、シグナム&アギトの5人だ。

 

ここから一気に砲撃組が撃ち始めるだろう。 そうなると有利なのはティアナとはやてのいる赤組か?

 

「そろそろ、なのはちゃんが魔力収束を始める頃じゃないかしら」

 

シャマルのその言葉通り、なのはは魔力を集め始めた。

それにしても、そんなに魔力を集めて大丈夫なのだろうか? まぁ、長いこと続けているのだろうし問題ないか。

 

「あ、はやてちゃんも大きいの撃つつもりみたいよ!」

「ティアナもみたいだね」

 

これって残りの人たち生きてられるのかな? 絶望的じゃない?

「「スターライト! ブレイカー!!」」

「ラグナロク!!」

 

3人が同時に魔法を放った。 結果は……?

 

「やられてもうた〜」

「すみません〜!」

「すみません。 こっちもです」

「流石に2人同時には無理だよー!」

「あ〜ん! ライフが〜!!」

「うぅ〜。 やられちゃいました〜」

「ごめん、なのは。 生き残れなかった……」

 

生き残ったのはシグナム&アギトとザフィーラか……

どうやらあの3人は端っこで戦っていたのが幸いしてか、被害を受けなかったようだ。

あぁ…… シグナムが笑いながらザフィーラをボコボコにしてる……

 

結局、ザフィーラがやられたことにより青組の勝利となった。

▽▽▽

 

 

「紅音! 試合、どうだった?」

「かっこよかったよ」

「えへへ〜 ありがとう〜!」

「次は私も出ていいかな?」

「え? 出てくれるの!?」

「うん」

 

私だってさっきの試合見て疼かない訳がない。 強い人たちがいっぱいいるのだ。 今の自分の力がどの程度なのか試せるいい機会だ。

「コロナー! 紅音、次は出てくれるってー!」

「本当にー! これはもっと楽しくなるね!」

 

喜んでくれているようでなによりだ。

 

「私、次出ること伝えてくるね」

「「いってらっしゃーい!」」

 

私は2人に見送られながらなのはたちの方へと向かった。

どうやら、なのはとフェイトとはやてとノーヴェの4人で次の対戦の組み合わせを考えているようだ。 これは好都合だ。

 

「ねぇ、 話してるとこ悪いんだけど、 次、私も出たい」

「え?! 大丈夫なの!?」

 

ノーヴェ以外の3人はなんだか驚いているようだ。 ノーヴェというとニヤリとした笑みを浮かべている。 さも「来ると思ったぜ」的な感じに。

「うん。 だから、私とシャマルも含めた18人で組んで」

「ノーヴェ、本当にやらして大丈夫なの?」

「問題ないと思いますよ? 紅音は相当、実力はありますし、 魔法もエリオとキャロが教えていたと言うのも昨日、聞きました。 だからいけますよ」

「なら……いいんだけど……」

どうやら、大丈夫だったようだ。

「よろしく」

 

私はそう言うとまたヴィヴィオたちの元へと戻った。

「あ! どうだって?」

 

戻ってきたことに気づいたのかヴィヴィオが声をかけてきた。

 

「大丈夫だって。 ノーヴェが太鼓判押してくれた」

「よかったよ〜 私だって紅音との試合楽しみだもん」

「ありがとう、コロナ」

 

私たちはしばらくの間、他愛もない話を楽しんだ。

 

「それじゃあ、そろそろ始めるよ〜」

「「「はーい」」」

 

「そういえば、紅音ってデバイスについて詳しいんだよね? 今日、何か持ってきてたりするの?」

ふと、思ったのかヴィヴィオがそう尋ねてきた。

「私が考えたデバイスはあっちでは材料なくて作れなかった」

「そうなんだ…… それは残念だなぁ」

 

私もそう思う。 ミッドチルダに行けば材料はあるはずだから機材さえあれば作れるはず。

 

「なら紅音も今日は簡易デバイスでやるの?」

次はコロナが質問してくる。

 

「大丈夫。 武器はある」

「え?」

 

覚えていたけど、使う機会がなかった武器。 一生使うことのないと思っていたもの。 でも、ここにいる人たち相手なら使っても問題ないだろう。

2人とも期待したような目で見てる。 そんなに見ないで欲しいんだけどな……

 

「それじゃあ……おいで、紅」




次回、紅音参戦&鉄腕登場


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陸戦 その2

紅音、マイスターになる

お願い
現在、紅音のオリジナルデバイスのアイデアを募集しております。
ご協力よろしくお願いします


「それじゃあ……おいで、紅」

 

そう呟くと紅音の下に魔法陣が浮かぶ。 そして紅音を光が包み込んだ。 え? え? これから何が始まるの? 武器を出すんだよね? どういうこと〜!?

 

光が見え薄れてきて現れたのは少しあどけなさがのこる女性。 大体、年齢にすると18歳ぐらいかな? 赤い髪の長髪。顔は「紅音が成長したらこんな感じかな〜」という感じですらっとした手足を持つ全体的にスレンダーな女性。 もっとも目を引くのは彼女の髪と同じような色の腕に装着している義手みたいな物。 ってあれって〜!!

 

「そ、それ! まさかチャンピオンと同じ鉄腕?! しかも大人モードまで!?」

「大人モードって言うのはわからないけど、確かにこれは鉄腕だよ」

 

横にいるコロナも口を開けて唖然としている。 あのコロナがこうなのだから相当の驚きだろう。

 

「紅音って何者?」

「わからない。 けど、見つけられたらいいな」

 

あ、紅音って記憶喪失だった…… 悪いことしちゃったなぁ……

 

「ごめんね、紅音」

「大丈夫、気にしないで」

 

「おーい! そろそろ始める…ぞ……ってマイスター?! なんでここに?! てか死んだんじゃないのか!?」

「え? あ、アギト……?」

私たちが遅いので呼びに来たであろうアギトが紅音の姿を見た途端、狼狽え始めた。 マイスターって言ってたよね?

当たり前のような風に紅音は言う

「次の試合、私とユニゾンしてくれる?」

「は、はい! もちろん!」

「ありがとう」

シグナムさんの知らないところでアギトが奪われている場面を目撃してしまいました。 そういえば、コロナがさっきから何も喋っていないけど、大丈夫かな?

 

「こ、コロナ? さっきから黙ったままだけど……大丈夫?」

「へ? あ、う、うん。 大丈夫だよ! ちょっと色々あり過ぎて混乱してるだけだから!」

「そ、そうだね…… と、とりあえずもう行こうか? アギトも私たちを呼びに来てくれたんだよね?」

「お、おう。 そうだったな。 よし! いくぞー、お前ら!」

「「おー!」」 「おー」

 

 

 

▽▽▽

 

「それじゃあ! 試合開始〜!」

 

メガーヌさんの一言で試合は開始されました。 今の私は青チーム。 メンバーは私とコロナ、ルールー、フェイトママ、八神司令、リインフォース、シグナムさん、ザフィーラ、スバルさんの9人。

対して赤組は紅音、アギト、なのはママ、ティアナさん、エリオくん、キャロさん、ヴィータさん、シャマル先生、ノーヴェの9人。

試合が開始されて早々、2つの赤が猛スピードで近づいてくるのが見えた。

……は、はやすぎない? 隣にいるスバルさんもすっごい驚いてるんだけど。 言うまでもなくノーヴェと紅音&アギトだ。 私たちとの距離がどんどん縮まっていく。 そうして2人は私たちを抜き去っていった。

「はっ! ヴィヴィオ、急いで追いかけるよ!」

「ら、ラジャーです!」

あ、危ない…… 戦うつもりで身構えていたから通り過ぎて行った時、少し気を緩めてしまった。 気をつけないと!

 

「待ってよ〜! 2人ともー!」

「だれが待つかよ!」

「紅音も私たちと戦ってよ〜!」

「やだ」

 

そんなこんな追いかけっこが始まってしまいましたが、私たちだって必死なんです。 八神司令やルールーが落とされてしまったら司令塔がいなくなってしまい、こちらが不利になるからです。

 

「これ、どうしますか?」

「ん〜、 応援呼んだ方がいいかなぁ…… フェイトさんなら追いつけそうだし」

「そうですね! なら私がフェイトママが抜けた穴を塞いできます!」

「ありがとう! ヴィヴィオ」

 

一方その頃、 紅音たちの方はというと……

 

「なかなかしつこいな、あいつら」

「そうだね。 でも、このままはやてを落とせれば大砲は無くなるから。 後々楽をしたいなら早くし落とさないと」

「それはわかってんだけどなぁ…… おっと、ヴィヴィオがどっか行くぞ。 あの方角だったら……フェイトさんか? それだったら厄介だな。 下手したら追いつかれるぞ」

「その時は、その時。 今は進もう」

 

だんだんと近づいていくのがわかる。 あれ? この感じ……まさか

 

「お前も気づいたか。 ありゃ、どう考えても大砲をセットしてんな」

「うん。 どうする?」

「この序盤で一か八かの特攻はよくねぇな。 仕方ねぇ。 迂回して先にお嬢の方を潰そう」

「アギトもそれでいい?」

「おう! マイスターと組んでの戦闘は久しぶりだからな! 早く戦いたいぜ〜!」

アギトは早く戦いたいようだ。 私もそうなのだが、これが作戦だから仕方ない。

「なぁ、アギト。 どうして紅音のことマイスターって呼ぶんだ?」

なんだ、そんなことか簡単なことじゃない。

 

「そりゃ、私を造ってくれたからに決まってるだろ!」

「うん。 私がアギトを生み出した経験はあるよ」

「ど、どういうことだ……? アギトは古代ベルカ時代の融合機だろ? なんでそんなもん紅音が作ってるんだ?」

「さぁ? 私にはわからない」

「私もだ」

 

確かに、ノーヴェの疑問は当然のことなのだが、私には当たり前としか思えないから違和感はないのだ。

「それよりも、ノーヴェ。 シグナムが護衛についてるけど、どっちもやる?」

「あー、そうだな。 1on1でやるか。 いけるか?」

「もちろん。 なら、私たちがシグナムをやるよ。 アギトもシグナムと戦う機会なんてそうそうないだろうし」

「わかったよ。 でも、無理はするなよ?」

「うん」

「それじゃあ…… 3.2.1.ゴー!!」

 

合図とともに二手に分かれて飛び出す。 相手も来ることは予想していたようで対応が早い。

 

「アギト、いけるよね?」

『おう! もちろんだ!』

 

まずは一発……

 

「『飛竜一閃!』」

 

どうだ……?

 

「私の技か…… カードリッジシステムがない代わりにアギトで魔力と威力を補っているのか。 よくやるな」

「まぁ、一発じゃ無理だよね」

 

ダメージもほとんどあるようには見えないし、不意打ちは失敗か。

「ならば、こちらも行くとしよう」

シグナムがレヴァンティンを構える。 横目でチラリとノーヴェの方を見るとかなり押しているようだった。 あれは時間の問題だろう。

 

「アギト、防御頼める?」

『防御だけか?』

「うん。 攻撃は私がやるから」

『わかった! 任せろ!」

 

ここからは単純明解。 私が接近して殴る。 シグナムが私を斬りつけてくる。 私が避け損なったものはアギトが防御してくれている。

 

『マイスター! そろそろ決めないと、援軍が来ちまう!』

「そうだね。 よし。 アギト、シグナムの動きを止めることはできる?」

『何かやんのか?』

「うん。 大きいの撃つ」

 

今の私が撃てる最大の魔法。 これなら多分、一発で……

 

『なら拘束で縛る! でも、少ししか止めることは出来ないと思うぜ?』

「それでもいい。 お願い」

『了解だ! 一回ユニゾンを切るぞ!』

ユニゾンを切った私たちはそれぞれの準備をする。

 

「ユニゾンを切った……? 何かするつもりか? だが、先に倒せば問題はない。 覚悟っ!」

「マイスターはやらせねぇ!」

アギトがシグナムを止めている今がチャンス。 私は魔力を集める。 魔力収束。 ブレイカー。

 

「アギト! 準備できた!」

「いっくぜー!」

「くっ! 拘束か!」

 

いけ、いけ、いけ、いけ……

 

「インフェルノ・ブレイカー!!」

 

シグナムが炎の砲弾に飲み込まれていく。

変換した炎熱を普通の魔力で圧縮し、またその上に炎熱を乗せる三段構造。 正直、過剰攻撃な気がするが気にしない。

 

「おー! すげー!!」

 

アギトも喜んでくれているようだし、シグナムの犠牲は無駄にならなかったようだ。

 

さて、ノーヴェの方も終わったようだし、次は、っと



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陸戦 その3

閲覧ありがとうございます。 今回は短めです。

お願い
現在、紅音のオリジナルデバイスについてのアイデアを募集しています。 私にみなさまの知恵をお貸しください。


それは突然の出来事でした。 ピカッ! っと光ったと思ったら私たちのいる方向に砲弾が真っ直ぐ飛んできたんです! 運良く少し離れたところからだったので余裕を持って避けることができましたが…… それに飲み込まれているシグナムさんを見てしまいました。 つまり、あれを撃ったのは紅音ということです。

『ごめ〜ん! やられちゃった!!』

「シグナムさんも?」

『そうみたい。 もう、コロナとザフィーラもやられっちゃたみたい」

「赤組の方は?」

「え〜と、ティアナさんとエリオ、それにヴィータさんも脱落してるね」

これはこっちの方が不利なのではないでしょうか? 人数的に。 実際問題、フルバックがいなくなってしまったのはかなり辛いです。 回復手段がないということですから。

「どうするの? フェイトママ」

「そうだね…… 私たちもバックを倒しに行こうか? 消耗戦だったらこっちが有利だろうし」

「わかった!」

 

こうして私たちはキャロさんとシャマル先生がいる所へ向かったのですが……

 

「行くよ! はやてちゃん!」

「私だって負けへんで!」

 

なんなんでしょう。 この世紀末は。 特大砲の撃ち合いで周りの建物はほとんど崩壊。 確かに八神司令から前に出るとは聞いていましたが、こんなことになってるなんて思いもしませんでした。

 

「えっと、ヴィヴィオ? 先、急ごうか?」

「う、うん!」

 

赤髪の3人はまだ追ってくる様子はありません。 きっとスバルさんとリインフォースさんが戦っているからだと思います。

 

……あ! いました! キャロさんとシャマル先生です!!

 

「それじゃあ、2人同時にやろうか?」

「うん!」

 

……よし! いきます!!

 

「ディバイン〜!」

「プラズマ〜!」

「「バスター(ザンバー)!!」」

 

「しゃ、シャマル先生!? なんかヤバそうなのが来てますよ!?」

「え? あ……」

「「キャアァァァァァ」」

 

どうやら、きちんと当たってくれたようでした。 とりあえず一安心。

 

「うぅ〜」

「いたたた……」

 

ついでに撃破もできました! これで、戦力はだいたいイーブンです!

 

「あ…… 間に合わなかった」

「紅音? スバルさんたち倒したの?」

「リインフォースを倒したから後はあたしがやるってノーヴェが」

 

どうやら、リインフォースさんは倒されてしまったみたいです。 それにしても、一体どうやってリインフォースさんを倒したのでしょうか?

 

「それは…… アギトが「私がスキを作る! だから、マイスターは行ってくれ!」って言いながら自爆したから……」

「え? そ、そうなんだ……」

アギトさんも脱落したんですね。 あと残りは……

ふと、気付くとさっきまで鳴り響いていた砲撃戦の音が消えていることに気づきました。

「あの、 ママたちの戦いは終わったの?」

「私がはやてに不意打ちで一発入れてきた」

「え?! じゃあ、八神司令もやられちゃったの!?」

「そういうことだよ! ヴィヴィオ!」

「あ、なのはママ!」

そうです。 八神司令が負けているのならなのはママが生き残っている可能性は高いのは当たり前のことでした。

 

「と、いうことで。 フェイトちゃんには私の相手をしてもらうよ!」

「望むところ!」

 

この展開は……

 

「ヴィヴィオの相手は私」

「ですよねー」

 

私の前にとてつもない強敵が立ち塞がることを意味しました。




結構、なんて呼んでるのかわからない人が多くて困ってます……


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陸戦 その4

閲覧ありがとうございます。

戦闘シーンって難しい。 あぁした方がいいなどのアドバイスがありましたら、ぜひ、教えてください。


「それじゃあ、行くよ、ヴィヴィオ」

「負けないよ〜!」

 

なら、今度は私から……

 

「速い……ッ!」

 

まずは1度、ジャブで牽制…… あれ? 避けられた。

 

「は、速い〜! 昨日見てなかったら絶対当たってるよ!」

「その割には結構余裕そうで避けてたと思うけど?」

「まぁ、私は目が良いのが自慢だからね!」

 

目が良いか…… それに対応力もズバ抜けてる。 確かにもっと鍛えればかなり強くなりそう。 でも、まだ私の方に分がある。

 

「なら、次は私から行くよ〜」

「こい」

「ハァ!」

 

やっぱり、鋭い。 ……痛っ。

「なに……? 今の」

「やっぱり、魔法があるならまだやりようある!」

 

魔法? ということは、何か飛ばしたの?

 

「まだまだ行くよ!」

 

……うん。 だいたい見えてきた。

 

「もう、だいたい見えてきたよ。 なんて言うんだっけ? えっと、『ソニックシューター』だったかな?」

「あれ? もう看破っちゃったの?!」

「前にキャロに教えて貰ったから、わかった」

魔法を教えて貰った時、確か最初に教えてもらったかな? 鋭くて速い単発の球。 私の技能ではまだ、そんなに素早くは出せないから使ってはいなかったけど…… 接近戦で使うとこんなにも効果ごあるんだ。 勉強になる。

「だけど、まだ!」

距離を取った? 大きいのが来る。 なら、それを避けて懐に潜り込む……

 

「ディバインバスター!」

 

速い! これは懐に潜り込むタイミングがない。

 

「一閃必中! アクセルスマッシュ!!」

 

避けきれない……ッ!

 

「くっ……ッ!」

「私だって魔法戦競技ならそこそこやれるんだよ!」

「痛いの貰っちゃったな…… 」

「よし! これでトドメ!」

 

ヴィヴィオが右拳を振り上げて拳を出す体制になる。 これってまさか、チャンス?

 

「はぁ!」

 

来た。 おお振り。 やっぱり、ヴィヴィオはまだ甘い。 これなら……!

 

「はっ!」

 

ジョルトカウンター。 全体重を前に乗せて放つジョルトをカウンターに使うパンチ。 決まったら一撃。 ミスったら負ける、博打のパンチ。 でも……

 

『試合しゅ〜りょ〜!! 今回の勝負は引き分け!」

あぁ、ミスった。 ほとんど、ライフが残っていないところでかすってしまった。 まぁ、当たってくれたから負けにはならなかったけどね。

 

向こうで倒れているヴィヴィオの元へと行き、手を差し伸べる。

 

「ヴィヴィオは強いね。 やられちゃったよ」

「それはお互い様だよ〜 私なんて最後にあんなのが来ると思ってなかったもん」

「切り札だからね。 そうそう打たないよ」

「そうだよねぇ〜 でも、楽しかったよ! またやろうね!」

そう言いながらヴィヴィオは私の手を取る。

 

「もちろん。 今度は負けないよ」

「それはこっちのセリフだよ。 3回も4回も負けてられないから。 ほら、これで小学生組はお終いだって! ママたちの試合、一緒に見よ?」

「あ、待ってよ、ヴィヴィオ」

 

これが私の初めての魔法戦競技。 楽しかった。 また、やりたいなぁ……




これで、陸戦は終わりです。 でも、合宿はまだまだ続きます。


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川遊びと誘い

閲覧ありがとうございます。
一部分、機嫌が悪い時に書いたので、不快な思いをする箇所があるかもしれません。 先に謝罪します。
ごめんなさい。


ここの世界に来て3日目になった。 今日は色々あって初日に出来なかった川遊びをやるそうだ。 しかも、今日の午前は大人組もオフだそうで、全員参加になった。 たぶん、かなり賑やかなものになるだろう。 しかし私は……

 

「どうしたの? 紅音。 早く行こうよ!」

「もうみんな待ってるよ?」

「いや、その、はい……」

 

もう私たちは着替えて集合場所に集まっているであろうみんなの元へと向かっているのだが、私の足取りは少し重い。 それもそのはず。 昨日ノーヴェからヴィヴィオたちがかなり泳げるということを聞いてしまったからに他ならない。 そう、つまり私は……

 

そんなことを考えているうちに集合場所までついてしまったようだ。 もうみんな集まっている。 最後に現れた私たちを見た面々は私の顔を見てだいたい事情を察したらしく乾いた笑顔を浮かべている。

 

「ママたちどうかしたの?」

 

そのことにヴィヴィオは気づいたようだ。 このなんとも言えない空気の中、代表してなのはが一歩前に出た。

 

「あのね? ヴィヴィオ、コロナちゃん。 実は紅音は……カナヅチなの」

「「え……?」」

 

そう、私はカナヅチなのだ。 思い出すこと半月前、あれはエリオとキャロが休みだからと近くの湖に遊びに行った時の話だ。

あの時の私は泳げないということをすっかり忘れていて、思い出したのは湖に入ってしばらくした時だった。 正直な話をすると溺れてエリオに助けてもらった。 それから、時間を見つけては暇な人に声をかけて教えてもらったりしたのだが全くうまくならなかった。

 

「そうだったんだ…… ごめんね? 無理矢理連れ出したりして」

「だ、大丈夫だよ? 私だって昔に比べたら少しはマシになったと思うし……」

「そうだ! ねぇ、ヴィヴィオ。 私たちで紅音に泳ぎを教えてあげよ?」

「そ、そうだね! ありがとう、コロナ。 よーし! 頑張るぞー!」

「おー!」

 

知らない間に私のための水泳教室が開かれようとしていた。 教えてくれるというのなら喜んで受けよう。

 

「なら、私たちも教えようか?」

「そうね。 そうしましょうか」

「あたしも混ざっていいか?」

「あ、私も!」

 

結局、みんなで私に教えることになりました。

 

 

▽▽▽

 

 

つ、疲れた……

 

現在、私は水泳教室がひと段落したので、川から上がって休んでいる。 隣にはノーヴェがいる。

 

「それにしてもやっぱ、すげーな。 なのはさんは」

「昔はあんな子じゃなかったのに……」

 

本当になのはが怖かった。 泳げない人に向かって「さぁ、1キロ先まで泳ごうか?」ってどういう意味だよ。 ティアナなんてその顔みて泣きそうになってたよ?

それに、ヴィヴィオはやっぱりなのはの娘だった。 あの子もあの子で似たようなことやってきたから本当に困った。

何回、コロナが助けてくれたことか……

 

「まぁ、そのおかげでだいぶ泳げるようになってなったんじゃねーか?」

「そうなんだよね…… スパルタって怖いね」

「なぁ、話は変わるんだけどさ」

「ん?」

 

ノーヴェが真面目な顔をして話しかけてきたので、つい身構えてしまった。 なんの話だろうか?

 

「DSAAに出てみる気はないか?」

「DSAA?」

「あー 『公式魔法戦競技会』の略称なんだが…… そうだな、見た方が早いか。 お嬢! ちょっと来てくれ!」

公式魔法戦競技会…… つまり、昨日みたいなやつかな?

 

「はいは〜い! どうしたの〜?」

「今、DSAAの動画、出せるか?」

「大丈夫だよ。 ちょっとまってて…… はい! 出すよー」

 

その動画には広いリングで殴ったり、蹴ったり、撃ったり、様々な方法で戦う少女たちが写っていた。 1on1なのか。

 

「これがDSAAだ。 まぁ、見ればわかるが昨日のやつを小さいリングで1on1でやる感じだな。 どうだ? 興味ないか?」

「これに私が出れるの?」

「おう。 年齢は満たしているからCLASS3以上のデバイスがあれば」

 

デバイスがあれば出れるのか。 今考えているやつが大丈夫ならいいんだけど……

 

「なになに? 紅音はDSAA出るの?」

「今、誘っている最中だ」

「そういえば、何でノーヴェは私を誘ったの?」

「あ、いや、それは……」

 

いきなり、しどろもどろし始めた。 何か隠してる?

 

「そのな? 気を悪くしないで欲しいんだが……」

「いいよ、早く言って」

「あたしに経験を積ませて欲しいんだ」

「経験?」

ルーテシアはそういうことかという感じで納得している顔をしているが私にはさっぱりわからない。

 

「あいつら、ヴィヴィオとコロナな。 来年にはDSAAに出れる年齢になるから絶対に出るというと思うんだ。 だけど、そん時になってコーチのあたしが足手まといになっちゃ意味がねぇ。 だから、そうならないためにも経験を積ませて欲しいんだ」

 

あぁ、そういうことか。 ノーヴェはあの子たちのことしっかり考えているんだな。 あの子たちの頑張りの力になれるのなら……

 

「都合のいい話だとはわかっているんだがたの「いいよ」めな……いいのか?! 」

「うん。 あの子たちの力になれるのなら安いもの。 それぐらいならいつでも。 私も魔法戦競技、だっけ? に興味あるし」

「ほ、本当か!? あ、ありがとう! 助かるよ!」

 

ルーテシアは…… もう向こうで遊んでるのか。 動くの早いな。 いや、気を使ってくれたのか? まぁ、どっちでもいいや。 少し恥ずかしいけど……

 

「これから、よろしく。 ノーヴェ師匠」

「おう、 よろしくな、紅音」




合宿は終わりかな? たぶん


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終わりと始まり

閲覧ありがとうございます。
相も変わらず短いです。 皆さんは1本、1本長い方がいいですか?


楽しかった合宿も終わり、私たちは一時の別れとなった。

 

「紅音と過ごした4日間すっごく楽しかったよ!」

「大会が始まるときにはクラナガンに来るんだよね? 楽しみにしてるよ!」

「うん。 私も楽しかった。 実はまだ誰にも言ってないんだけど…… 私、クラナガンに住もうと思ってるんだ」

「え!? 本当に!?」

「それだったら私たちと同じ学校に通ったりするのかな?!」

「い、いや、そこまではわからないけど……」

確かに、その選択肢もあるのか……

エリオとキャロにしっかりと相談しないといけないな。 私も2人と同じ学校に通ってみたいし。

 

「そろそろ行くよ、紅音!」

「わ、わかった! それじゃあ、私はもう行くね」

「「またね!」」

 

こうして、私は2人に別れを告げた。 なのはたちにも挨拶したし、もう大丈夫。 さて、どう話を切り出せばいいのだろうか……?

 

 

▽▽▽

 

 

「紅音ちゃんは今回の旅行楽しめた?」

「うん。 来てよかった」

「そう言ってもらえると連れて行った甲斐があるよ」

 

私たち3人はスプールス行きの船に無事乗れて一息ついたところだ。 少し予定より出るのが遅くなってしまったので危うく乗り遅れるところだった。

「そう言えば、紅音はミッドチルダで暮らしてみたいとかないのかな?」

 

私はそれをどうやって切り出そうかと悩んでいたところでエリオが突然、問うてきた。

 

「えっと、どういうこと?」

「ん? いや、別に変な意味はないんだけど……… ヴィヴィオたちと仲良くしてたからね。 そういうことを思わないのかな?ってさ」

なんか、それだけではない気がする。 何か言いたそうだけど言い難い感じがある。

「うん。 あの…… 私、ミッドチルダに行ってみたい」

「やっぱり、そう言うと思ったよ」

「え……?」

 

驚く私に2人は笑いながら事の真相を話す。

 

「実はね? フェイトさんが紅音ちゃんをミッドチルダで預かろうか?って言ってくれてて、私たちだけじゃ決められないからヴィヴィオたちと会わせてから聞こうと思ってたんだ」

「うん。 だから、改めて聞くけど、紅音はどうしたい?」

私は……

 

「私はミッドチルダに行きたい!」

 

 

▽▽▽

 

 

 

「ミッドチルダ、遠い……」

 

あの後、スプールスに着いてから1日。 エリオとキャロのおかげでとんとん拍子のように、私のミッドチルダ行きが決まった。 だが、決まったのはいいのだが私の住む家が見つからなかったらしい。

だけど、そこになのはが「なら、紅音ちゃんが住む家が見つかるまで私の家で面倒を見ようか? 紅音ちゃんがいた方がヴィヴィオも喜ぶと思うし」 という一言で私は高町家にしばらくお世話になることになった。

そして現在、私はなのはが迎えに来るということで空港にて待ちぼうけを食らっていた。

「遅い。 なにやってるの」

 

そんな一言がため息とともに落ちる頃、なのはの姿がやっと現れた。

 

「紅音ちゃーん! お待たせ〜」

「なのは、 遅いよ」

「ごめんね〜 ちょっと道路が混んでて」

「なら、いい」

 

道路が混んでいたのなら、仕方がない。 いくら1時間待ちぼうけを食らっていたとしても、怒ることじゃない。

 

「早く行こ」

「そんなに急がないでよ〜」

「急いでない」

 

嘘だ。 内心かなりワクワクしている。 自然と歩く速度が速くなっていく。 それがなのはもわかっているのだろう。 私を見ながら微笑んでくれている。 それを見た私は気恥ずかしくなってそっぽを向いてしまう。

 

…… 懐かしいな。 まだ、フェイトと出会っていなくて、紅葉が綺麗な頃。 アリサとすずかが習い事だから2人で帰っていた時。 偶々見つけた捨て犬。 かなり衰弱していて、私たちは慌てて病痾に連れて行ったんだっけ。

その後、元気になったと伝えられて2人で急いで病院へと向かう道。 その時もこんな感じだった。

あの子、元気に生活してたかなぁ……

 

「さてと、紅音ちゃんは長旅で疲れたでしょ? 寝てていいよ?」

「うん。 そうする」

 

私は心地よい揺れを感じながら夢の中へと落ちていった。




次回もそんなに進まないかも?


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閲覧ありがとうございます。
今回はかなり、短いです。


その日は……そうだ。 確か、お姉ちゃんが珍しく夜に出かけて行ったのを見かけたから気になってこっそり後をつけたんだっけ。

それで、こっそりのはずだったんだけどすぐにバレて結局、一緒にいることになっちゃったんどよね。

何を見てるの?

 

ーーほら、空が色とりどりに輝いてるでしょ? 私はこれが見たかったの。

 

あれは、なんなの?

 

ーーさぁねぇ。 なんなんだろうね。 よくわからないけど、綺麗じゃない?

 

今からどこに行くの?

 

ーー気の向くままに……かな? そんなに遠くには行かないから安心してね?

 

こんな感じに話しながら海鳴の街を歩いていたんだ。 違和感に気付いたのは少ししてからだった。

人に誰にも会わない。 まだ、9時や10時。 いくら子供が出歩く時間ではないにせよ、大人の姿すらみられない。

何かがおかしい。 子供だってそれぐらいに気づく。

 

お姉ちゃん。 誰にも会ってないけど本当に出歩いて大丈夫なの?

 

ーーあー、言われてみればそうだねぇ。 まぁ、心配することないよ。 偶にはこんな日もある。

 

私はお姉ちゃんの顔をみて、何も言えなかった。

こんなに不気味なのにあんなに楽しそうに笑っているお姉ちゃんの顔をみて、私は不謹慎にも……怖くなってしまった。

そんな時だ。 空からあいつが降ってきたのは。

 

 

 

▽▽▽

 

 

ーーいたよ! 紅音ちゃん、ついたよ! 起きてよ〜!」

 

……何か夢を見ていた気がする。 どんな夢だったかは思い出せないけど。 絶対に忘れてはいけないもの、そんな気がする。

それよりも、着いたのなら起きないと。

 

「起きたから、揺するの……や、め、て……」

「ご、ごめんなさい! やりすぎちゃった?」

「う……ん……」

「ご、ごめんなさい〜!」

 

まったくこの子は。 こういうところはいつになっても変わらないな。

 

「大丈夫…… うん。 大丈夫」

「よ、よかったぁ…… よ、よし! 家に入ろうか?」

私はその言葉に頷いて肯定する。

高町家の家…… デカイ。 それが私の第一印象だった。 エリオとキャロに言われたのだが、ここ、クラナガンはミッドチルダの中心だから地価がとても高いと聞いた。 それはもうスプールスだったら超豪邸が建てられるぐらい高いと聞いた。 それなのにこの広さ。 庭まである。 どのくらい高いのか私には想像もつかない。 私も将来、こういう家を買いたいものだ。

 

「ここで、少し待っててねー」

 

玄関の前でなのはが私にそう言ったので、家主の言葉には逆らえない。

 

「いいよー!」

 

なのはからの許しが出たので家の中に入ることにする。

扉を開けると……

 

パンパンパ〜ン!!

「「「お帰りなさい、紅音(ちゃん)!!」」」

 

破裂音とともにそんな言葉が私を迎えてくれた。

 

「…………た、ただいま」

 

 



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DSAA1ヶ月前

閲覧ありがとうございます。

今回、ミカ姉登場


高町家に居候し始めてから一ヶ月が経った。 私はヴィヴィオたちと同じ学校、St.ヒルデ魔法学院の初等科4年生となった。 ここに来てからもそれなりに充実した生活を送っていると思う。

朝はヴィヴィオとともに学校に行き、授業を受け、放課後はノーヴェを交えてDSAAのための特訓。 それが終わり、家に帰るとまだ完成していないデバイス作り。 ここ最近の生活はこんな感じ。 特訓も順調。 デバイスももうすぐできる。

さて、私は今日、ノーヴェさんに連れられて道場みたいなところに来ている。 なんでも、ノーヴェの知り合いがスパーリングの相手をしてくれると言うのだ。確かにあと1ヶ月後にはDSAAが開催される。 この話は私にとって願ったり叶ったりだった。

 

「どうした? 随分と楽しそうだな」

「うん。 スパーなんて久々だから楽しみ」

「そりゃよかった。 今日はちょっとした仕上げの面もあるからな。 都市本戦でも上位に残ったことのあるやつだ。 胸を借りるつもりで挑んでこい」

「わかった」

そうこう話しているうちに目的地に着いたようだ。

なんというか、日本にある剣道場を彷彿とさせる建物だった。

「ここだ。 邪魔するぞー」

ノーヴェがその建物の中に入っていく。 そこに入ると1人の女性が正座をしていた。

 

「やぁ、いらっしゃい。 待ってたよ」

「悪りぃな。 この時期にスパーの相手、頼んじまって」

「いや、気にしなくていい。 私もちょうどこいつを試し切りしたかったんだ。 おあいこさ」

「そう言ってくれるなら助かる」

 

この人の特徴を述べるとするなら長い黒髪に袴。 それに豊満の胸だろうか。 名前は確か…… ミカヤと言ったはずだ。

 

「おっと、すまないね。 初めまして、ミカヤ・シュベルだ。 よろしく頼むよ」

「日野紅音。 よろしく」

「うしっ! 自己紹介も済んだところで、まずは1本目始めるか!」

 

その言葉に私たちは頷き、準備にはいる。 彼女の武器は刀だったはずだ。 天瞳流抜刀居合術だったか? これならノーヴェが簡易デバイスを持ってこいと言った理由もわかる。 いくら、魔法があるからって破れてしまってはどんな怪我をするかわからないからか。 心配性のノーヴェのことだ、たぶん間違っていないと思う。

「お互い準備は済んだな? よし! まずは1本目、始め!」

 

私は今回、鉄腕は使わない。 最初だからという理由もあるが、私自身の、鉄腕を使わない時にどのぐらいのダメージを与えられるか確認したいからだ。

「ふむ…… 動かないのならこちらから行くぞ」

 

その言葉通り、彼女は刀にかけていた手に少し力を入れ、一気に引き抜いた。

 

「水月!」

「……っ!」

速い。 ほとんど何も見えないぐらい速い。

だから、私はほとんど勘で刀に拳を合わせた。 だが、ただ合わせただけの拳、簡単に吹き飛ばされる。 だけど、その吹き飛ばされた流れのまま後ろに飛び、被弾は免れた。

 

「ふむ…… あれを初見で避けるか。 これはナカジマちゃんが気に入るのもわかるな。 実にいい素材を持っている。 だけど、まだ判断力が鈍いね。 私が居合を使うとわかった時点で君は接近戦に持ち込むようにするべきだったよ」

「あなたの居合がどんなものか確認したかったからだけど、そんなものいらなかった。 ごめんなさい。 私は自分の力を過信しすぎてたみたい」

本当に失礼なことをした。 相手は都市本戦に出場経験のある選手だ。 ノーヴェだって言ってたじゃないか「胸を借りつもりでやれ」って。

なら、これは実戦だ。 やらなきゃやられる戦場だ。

 

「よし。 第二ラウンドといこうか。 そんなにダメージはないのだろう?」

「うん。 行きます。 おいで……紅」

私は鉄腕を呼び出す。 だが、その時。

 

「邪魔するぜー、ミカ姉」

 

さらなる相手が現れた。




次回はあの方登場


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DSAA1カ月前 その2

閲覧ありがとうございます。

結局いつも通りに中途半端……


「邪魔するぜー、ミカ姉」

 

その声で、私は鉄腕を呼び出すタイミングを失ってしまった。 だから、私はその来訪者に抗議の目を向ける。

 

「なんの用だい、ハリー。 私はなにも連絡を受けていないよ?」

「あー、悪りぃな。 今日はあいつらがいねーから、誰かと練習しようと思ってここに来たんだが……先約がいたのか」

ハリー…………ハリー・トライベッカ。砲撃番長の名の通り我流の近接射砲撃魔法を得意としている選手だったかな? 私と同じ炎熱変換持ちだから、この人の試合は何回も観た。 去年はミカヤに秒殺されていたはずだ。 こんなこともあるんだなと印象に残っている。

 

「悪かったからそんなに睨まないでくれよ……」

「自業自得」

 

だが、上位の選手だろうと真剣勝負の邪魔をしたことは許さない……

 

「えーと、どうすんだ? これ」

「一度休憩にした方がいいかもしれないね」

「しゃねぇ、そうするか。 紅音、休憩にするぞ!」

 

確かに、このまま続けてもグダグダになるのは目に見えている。 仕方ないか……

 

「自己紹介がまだだったよな。 オレはハリー・トライベッカだ。 ハリーって呼んでくれ!」

「日野紅音。 ハリーの試合は何回も観たよ。 時間があったら近接砲撃のコツを教えてくれたりしたら嬉しい」

「本当か!? あ、ありがとうな…… よし! さっきの詫びだ。 いくらでも付き合うぜ!」

「うん。ありがとう」

 

ノーヴェに相談せず勝手に頼んでしまったが、まぁ、大丈夫だろう。 元々、今日は一日中、ミカヤとスパーをやる予定だったのだ。 今更、1人増えたところで変わらないはずだ。

だけも、一応、報告はしとかなければならない。

 

「ノーヴェ」

「どうした? 何か気になることでもあったか?」

「ハリーもスパーの相手やってくれるって」

「わかった。 悪いな、ミカヤちゃん。 練習して量減っちまうかもだけどさ」

「大丈夫さ。 私も大会前にハリーの強さが見れるのだから安いものだよ。 なら、ここでは手狭かもしれないね。 どうしようか?」

 

そもそも、この道場はバリアなどは貼ってあるのだろうか? 普通に魔法を撃ったら壊れてしまうのではないか? 私が心配することではないと思うが、気になってしまう。

いや、今はそれよりも他の場所があるかどうかだ。 ない場合、砲撃の練習ができないかもしれない。 どうしたものか……

 

「それなら、もうオレが場所確保しといたぜ。 どうせ、私のスタイルじゃあここでは全力出せねぇからな」

「なら、そこに移動しようか。 2人ともそれでいいかな?」

「あたしは平気だ。 紅音は?」

「大丈夫」

 

こうして、私たちは急遽、場所を移動するこになった。

 

▽▽▽

 

 

 

「よし、ここだ!」

 

着いたのは1つの市民センターだった。 私もよく練習で使ったりするがなかなかに使用率が高い。 たまにスペースがなくなるときもあるぐらいだ。 そして、当然と言うべきかその辺りを考慮して予約制の魔法戦専用訓練所も用意されている。 たぶん、今回使うのはここだろう。

 

「本当にいいのか? お金を払わなくて。 あたしだって給料もらっている身だ。 自分の分ぐらい払えるぞ?」

「練習の邪魔しちゃったのは事実ですから、これぐらいやらしてください」

「そう言うならありがたく受け取るけどよ……」

「あざっすっ!」

 

確か、市民センターだからそこまでの値段ではないが子供にとっては高いかもしれないと聞いたことがある。 まぁ、ハリーはバイトをしていると言ってたし、問題ないだろう。

 

さてと、どう攻めようかなぁ……

ハリーは戦闘で魔力付与打撃も使っていたはずだ。 懐に入っても気をつけなければいけない。 それに、真正面から突っ込んでもあの砲撃を受け切れる自信はない。 いや、意外とそっちのがいいのか? 砲撃は一撃撃ったら連続はできないはず。 なら、一撃目さえ相殺できれば潜り込めるか?

うーん。 悩みどころ……

 

ーーてんのか! おい!? 紅音!! 聞いてんのか!?」

「あ、ごめん、ノーヴェ。 考え事してた」

「まったく、本番に集中し過ぎてセコンドの話が聞こえませんでしたとかやめろよ?」

「わかってる。 気をつけるよ」

 

そんなに深く考え込んでいるつもりはなかったのだが…… まぁ、話が聞こえてなかったのは事実だ。 気をつけなければ。

「そんじゃあ、まずはどうする? オレとしちゃあ紅音の実力が気になるんだが……」

「なら、まずはハリーが紅音ちゃんとやってみたらどうだい? 私はもうすでに一度、やっているからね」

「それでいいよ」

「なら、決まりだな。 2人とも準備に入ってくれ」

 

今回は出し惜しみはなしだ。 手の内を晒せ出したくない気持ちもあるが、それ以上にたとえ練習だとしても負けたくない。 さっき、そう感じたはずだ。 胸を借りるつもりで、全力で。

 

「そろそろいいかー?」

「「おう! (大丈夫)」」

 

「始めるぞ。 レディィ、ファイッ!」

 

ゴングが鳴った。 まずは……

 

「先手必勝だぜ! ガンフレイム!!」

 

ハリーから赤い砲撃が繰り出される。

だけど、これぐらいなら!

 

「よし、命中! やったか!?」

「まだまだ。 これぐらいなら大丈夫」

 

そして、私は鉄腕を装着した腕を構える。

 

「全力で、やる!」

 




近いうちにデバイス出すかもしれません


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DSAA 1ヶ月前 その3

閲覧有難うございます。
今回は非難覚悟の回です。 その点を踏まえて読んでください。


「全力で、やる!」

 

そう叫んだ彼女の腕には私たちの見慣れたものが装着されていた。

「……ちょっと待て。 お前のそれはなんだ?」

「鉄腕だよ?」

「や、やっぱり鉄腕なのか!? み、ミカ姉! もういうことだよ!?」

「私も驚いているよ。 本当にあったとはね」

 

ハリーが驚くのも無理はないと思う。 私だってナカジマちゃんから聞かされた時は半信半疑だった。 実際にその目で見るまでは。 私との対戦で使おうとしていたのもあれなのだろう。

 

それにしても

 

「武器のコンセプトとしては決して珍しいものじゃないけど、鉄腕はジークが持っているもの1つしか存在していないと聞いたことがあるよ」

「模倣品を疑ってるなら違うと断言できるよ。 あれは本物だ」

「その自信は一体どこから出てくるんだい?」

「まぁ、見てれば分かるさ」

 

紅音ちゃんとハリーの戦闘は紅音ちゃんの不利な状況で進んでいる。 ハリーの弾幕が濃いので思うように接近できないのだ。 だが、1つ1つを丁寧に回避し、防御している。 ハリーも攻撃が当たらずイラついている様子がある。

そろそろ4分経つ。 1R目、終了が近い。 さっき「鉄腕を持っていようとルーキーには負けねー!」と息巻いていたせいもあるのかもしれない。

 

「1R目、終了! 紅音はちょっとコッチ来い」

うーん…… 1Rが終わったがどうしてあそこまでナカジマちゃんが自信を持っているのかがわからないな。

 

「ミカ姉。 あの鉄腕本物かよ? ジークしか持ってないんじゃなかったのか?」

 

やはり、ハリーも気になっていたのか。 確かに、防御性に問題は無さそうだ。 これはダメージ量からも明らかだ。

……ん? 紅音ちゃんのダメージ量、150だけとは些か少なくないか? 時々、ハリーは爆撃も混ぜていたはずだ。 防御したとしてももう少しダメージがあってもよさそうなものなのだが……

「ナカジマちゃんが言うには本物らしいよ。 ただ、あの自信のある顔、気になるね。 もしかしたら何かあるのかもしれない」

「どうなんだろうなぁ まぁ、ジークとやる時の予行練習のつもりでやってやる! 鉄腕を使っている時のジークは打撃が主体だからな。 似たようなもんだろ」

 

ナカジマちゃんがハリーのことを呼んでいる。 そろそろ2R目を開始するのだろう。

 

「何にせよ、油断はしないようにね。 懐に潜り込まれたら危険だと思うよ」

「忠告ありがとよ! そんじゃ、まぁ、行ってくるぜ」

 

2R目も展開は同じだ。 ハリーが撃って紅音ちゃんが避ける。 これの繰り返し。 少しぐらい攻めないと試合にならないと思うけど……

 

「紅音ちゃんはどうして無理をしても攻めに行かないのかい?」

「あー なんていうかべきか…… 今のあいつは魔力を調節する暇がないんだよ。 あいつの魔法はノータイムで撃つのは危険だからな」

 

まだ、魔法を使用するのに慣れていないということなのかな? でも、ナカジマちゃんが教えているのなら、まずはそこを直すと思うのだけど……

 

「魔力制御が致命的に下手というわけではないんだよね?」

「そうだな。 むしろ上手い方だと思うよ? 炎熱に変換した魔力をわざわざ普通の魔力で薄めたりしてるからな」

 

……どういうことだ? それではただ、魔法の威力を低くしているだけじゃないか。

 

「あいつの魔力は濃すぎるんだよ。 ほとんどマグマみたいなもんだ。 いくら非殺傷設定だからと言って人に向かって撃っていいもんじゃねぇ」

「マグマ? そんな変換資質存在するのか?」

「まぁ、こいつを見てみてよ」

 

ナカジマちゃんがジェットエッジを手渡してくる。 そこにはホログラムが写っている。 何かの写真なようだ。

これは…… 山でも噴火したのかな? 辺り一面火の海だ。

 

「これはなんだい?」

「エリオとキャロが送ってきた写真だよ。 初めて紅音が魔法を使った時のものだってさ」

「……え?」

 

これが魔法を使った後? こんなことが可能なのか?

 

「さっきの鉄腕のことなんだけどさ、あれはチャンピオンが使っているものとは少し違うんだよ。 元々の鉄腕の攻撃力と防御力。 それに加えて紅音自身の魔法から身を守るためのものでもある」

「そうだったのか…… いや、それだけじゃないはずだ。 君のあの顔はもっと、こう、イタズラを考えているような顔に近かったよ」

「あー…… ばれてたのか。 紅音が防御した時をよく見てみてよ」

紅音ちゃんを? ふむ。 特に変わっているようなことはないと思うけど……

いや、なんだあれは? ハリーの魔法が吸収されているように見えるぞ。

 

「見えたか?」

「あぁ。 鉄腕にぶつかった魔法が吸い取られているように見えるね」

「それでだいたい正解だ。 あの鉄腕には炎熱に変換された魔力だけを吸収して保管。 そして、その魔力を外部へ放出することができるらしい。 まぁ、一種のロストロギアさ」

 

現代の武器に触れただけて魔法を吸収するものは存在しない。 魔法戦技では魔法を受け流す技術もあるが吸収とは違う。

 

「逆に言えば、炎熱に変換された魔力じゃないと吸収できないんだけどな。 本当にほんの少しの違いしかないんだよね」

「それだけでもかなりのアドバンテージがあると思うけどね。 まぁ、ハリーにしたら天敵以外の何物でもないな」

 

ナカジマちゃんが言っていた鉄腕からの吸収された炎熱の魔力を放出するというのはあれか。 紅音ちゃんの腕が炎に包まれている。

それに、そろそろ終わりが近づいてきてるな。 ハリーの魔力切れが近いようだ。

 

「ハァハァハァ…… いくらなんでもしぶと過ぎるだろ……てめぇ……」

「ハァハァ…… ボクサーにスタミナは重要だから…… 私は特に減量とかないし……」

「仕方ねぇ! ここからは殴り合いだぁ! いっくぜー!」

「殴り合いなら負けない!」

 

この殴り合いを制したのは僅差でカウンターを当てた紅音ちゃんだった……

 

▽▽▽

 

 

「かぁー! 負けたぁー!!」

「鉄腕のおかげ」

「まぁ、魔法を吸収されたらそれは勝てないだろう」

 

あの殴り合い。 なかなかに見応えがあった。 ハリーは自分の頑丈さを押し出したような一撃必殺を狙い、紅音ちゃんはその1つ1つにカウンターを当てていった。 だが、ハリーだってただ大振りしているのではなく、レッドホークで牽制しながらの攻撃だった。 それまで全てを躱していたのだから凄いことだ。

 

「次はぜってぇ負けねぇからな!覚えてけよ!!」

「私だって負けるつもりはない」

あの2人、なんか仲良くなれそうだ。 炎熱の変換資質持ち同士通じるものがあるのかもしれないね。

 

「さて、次はどうしようか? 紅音ちゃんは連戦だから休ませるとして…… ハリーはやれるのかい?」

「当たり前だ。 去年の借り、ここで返すぜ!」

 

この後も、ローテーションで順番を回し、かなりの数、試合数をこなした。

今日は身のある練習になった。

ここに来て、かなりの強敵が現れた。 私も参加資格があるのは今回を含めてあと3回。 今年も楽しくなりそうだ……




次回はデバイス回……かな?
あと、合宿での陸戦試合ですが、あの時の紅音の魔法は時間をかけたので打てたようなものです。 他はだいたいアギトの魔力です。


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デバイス完成

閲覧ありがとうございます。


ミカヤとハリーとのスパーをした1週間後、ついに私のデバイスが完成した。

 

「で、できた……っ!」

「どれどれ〜 うん! バッチリだよ!」

「ありがとう、シャーリー。 せっかくの休みなのに手伝ってくれて」

「いえいえ、なのはさんの頼み事だからね! それに、頑張ってる子を応援したくなるのが大人ってものよ!」

 

シャーリーにはよく手伝ってもらっていた。 私の知識では現代の魔法に合うプログラムが作れなかったからだ。 私の持っている知識は今でいうベルカ式と呼ばれるものらしい。 私の砲撃はミッドチルダ式なので、どうしてもそのプログラムを作る必要があった。 それをなのはに相談したときに紹介されたのがシャーリーだった。

 

「さて、あとはマスター認証だけだけど、今しちゃう?」

「今日はナカジマ家に泊まりにいくからその時にする」

「わかった! それじゃあお茶にしましょうか。 紅音ちゃんは緑茶がいいんだっけ?」

「うん、そう。 お願い」

「はーい! ちょっと待っててねー!」

 

そう言ってシャーリーはこの部屋に備え付けられている台所へと向かった。 この部屋はシャーリーの趣味である機械を作るためにわざわざ買った部屋だそうだ。 設備も最新のものがほとんどでどれだけのお金をつぎ込んだのが想像することができない。

 

「お待たせ〜! はい、緑茶!」

「ありがとう」

「それで、どう? 自分で1からデバイスを作り上げた感想は?」

 

ミッドチルダに来て1ヶ月間、知識と手に残っている感触を頼りに作ってきた。最初は順調だった。 元々テーマは決まっていたしベルカ式の魔法のプログラムはすぐに作れたからだ。 しばらくするとミッドチルダ式の魔法のプログラムを作ろうとしたが、これがうまくいかなくて全く製作は進まなかった。

その時にシャーリーを紹介してもらい、なんとか先に進むことができた。 そして、ついこの間、外装が完成し、今日、中身の最終確認をシャーリーにお願いしたのだ。

 

「これでやっとスタートラインに立ったって感じかな。 これからこの子と一緒に歩いて行くんだって」

「ふふっ! 大切にしてあげてね!」

「もちろん」

 

この後、ノーヴェが迎えに来るまでシャーリーと新デバイスの意見について議論していた。

 

 

▽▽▽

 

 

 

「いらっしゃいッス〜!」

 

ナカジマ家へと到着した私が最初に見たのはノーヴェに少し似た赤毛の女性だった。

 

「ウェンディ、わざわざ外で待ってたのか」

「ノーヴェの教え子が泊まりに来るって聞いたッスからね! これは妹の私が最初に合わなくてどうするッスか!?」

「はいはい。 ひとまず、そこどけ。 家に入れねぇだろうが」

「す、すまないッス。 紅音も、どうぞ入ってくださいッス!」

「お邪魔します」

 

中に入るといい匂いが漂ってきた。 お腹減ってきた……

 

「今日は特別ゲストも来てるッス」

「あ? 特別ゲスト?」

 

なら、今日は私以外にも誰か来ているのか。

 

「たぶん、紅音もすぐに仲良くなれると思うッスよ!」

「あぁ、だからスバルもいるのか」

 

スバルの関係者?

 

「それじゃあ、どうぞッス」

「今日は泊まるんだろ? 自分家だと思ってゆっくりしていってくれ」

 

通されたのはリビングだった。 中には5人の人がいて、スバルと茶髪の少年と初老の男性。 それと小柄な銀髪の女性と茶髪の女性。 さっき言っていた特別ゲストとはあの少年のことだろう。

 

「おう、来たか。 俺がこの家の家主のゲンヤ・ナカジマだ。 今日は人が多いがゆっくりしていってくれ」

「は、はい。 日野紅音。 よろしく」

 

この人が家主…… うん、優しそうでよかった。

 

「私はチンク・ナカジマだ。 これでもこいつらの姉だ。 よろしく頼む」

「それで私がディエチ・ナカジマ。 よろしくね」

 

銀髪の方がチンクで茶髪の方がディエチ…… うん。 覚えた。

「よろしく。 チンク、ディエチ」

「紅音〜! ちょっとこっちおいでー」

 

スバルに呼ばれてリビングにあるソファーの方に近づく。

 

「なに? スバル」

「ほら、ダメだよ? 挨拶しないと」

「わ、わかってるよ! えと、初めまして! トーマ・アヴェニールです! 紅音……だよね? 俺のことはトーマって呼んでよ。 よろしく!!」

 

トーマ…… うん。 大丈夫。

 

「日野紅音。 よろしく、トーマ」

「う、うん!」

トーマとは仲良くなれそうだ。 ウェンディが言ったとおりかもしれない。

 

「私はギン姉の方を手伝ってくるから2人で仲良くね!」

 

そう言ってスバルはキッチンの方に向かっていった。

 

「ねぇ、トーマ。 ギン姉って?」

「スゥちゃんのお姉ちゃんでナカジマ家の長女だよ」

「この家の子は一体何人いるの……」

 

ゲンヤはすごいな。 この人数を1人で育ててるのか…… 私には想像つかないな。

 

「紅音はノーヴェ姉に格闘技教わってるんだよね? 紅音にとってノーヴェ姉ってどんな感じ?」

 

私から見たノーヴェ。 まぁ、決まってるよね。

 

「優しい師匠。 私たちのこといつも考えてくれてるし。 そういうとこ、私は好きだな」

「よかった。 そう言ってもらえると俺も嬉しいよ」

 

そういうトーマは本当に嬉しそうだった。 たぶん、ヴィヴィオもコロナも同じこと言うんだろうなぁ……

 

「あたしは背中がむず痒くなるけどな。 そう言われると」

「あ、ノーヴェ姉! 久しぶり!」

「おう。 久しぶりだな、トーマ」

 

ノーヴェが着替えから戻ってきた。 いつも会うときはジャージだから私服姿は新鮮だ。

 

「そういや、デバイスのマスター認証いつやるんだよ?」

「夕食後にしようかなって。 使用感も少し試したいし」

あの子の感触はまだ試してないし。 こんなに多くの強者がいるんだ。 いいアドバイスがもらえるかもしれない。

 

「え? デバイスって?」

「あぁ、こいつは自分のデバイスを自作してたんだよ。 マスター認証はまだ終わってないらしいけどな」

「え!? すごいなそれ!?」

「そんなことない」

 

多くの人に手伝ってもらったし。 アドバイスもいっぱいもらった。

 

「そんなことないよ! 充分凄いって!」

「そ、そう……? ありがとう……」

 

私は褒められるのに慣れていない。いつもそっぽを向いてしまう。 直そうと思ってるけど状況は良くならない。

 

「お前ら飯だぞ、って何してんだ?」

「なんでもない。 お腹すいたし、早く食べよ」

 

私は照れ隠しにさっさとテーブルの席へと向かった。

 

▽▽▽

 

 

夕食、美味しかった。 偶には大人数で食べるのもいいな…… そう思う夕食だった。

ギンガは色んなものをよそってくれたりしたし、ゲンヤからはおかずを少しもらった。 チンクとディエチは色々と優しくしてくれたし、ウェンディはノーヴェの昔話やらで笑わせてくれた。 あの時のノーヴェの慌て様は見ていて面白かった。

うん。 いい家族なんだってよくわかる風景だった。

 

……さて、そろそろやるか。

 

「お? そろそろやるのか」

「なになに? 何かするッスか?」

「これから、私のデバイスのお披露目とマスター認証する」

「私たちも参加していい?」

「うん。 もちろん」

 

ギンガの質問に私は許可を出す。 わざわざ、みんなが集まったこの時を待っていたんだ。 ダメなんて言うはずない。

「それじゃあ、開けるよ」

みんなが息を飲む音しか聞こえない。 場は静まり返っている。 私はデバイスが入っている箱をそっと開けた。

 

「ワン!」

 

そこに入っていたのは1匹の犬。 この子が私のデバイス。

補助・制御型でぬいぐるみ外装のクリスタルタイプ。

 

「こりゃたまげた。 まさか可愛いワンちゃんが入ってるとは思いもよらなかったよ。 その犬種、柴犬かい?」

「うん。 私が昔、飼っていた犬種。 動物型もあるって聞いたからやっぱりこれかなって」

昔、怪我をしてたのを見つけて保護したあの子。 クリスタルタイプがあってぬいぐるみ外装にできると聞いた時からこの子を考えていた。 うん。 やっぱり相棒をこの子にして良かったと思う。 まだ早いかもしれないけど。

 

「いいッスねぇ〜! 可愛いッスねぇ〜!」

 

そう言いながらウェンディは犬を撫でる。 よく見ると他の人もちょっとうずうずしている。 途中で釘をさすべきかもしれない。

 

「ウェンディ、そろそろ始めたいから後にして」

「うぅ〜! どうぞッス……」

 

名残惜しそうにこちらに渡してくる。 確かにこの子、撫で心地いいんだよね。

 

マスター認証は外で行う。 中でやると色々と危ないのだ。

全員が外に出たのを確認して、私はマスター認証を始める。

 

「マスター認証、日野紅音。 術式はミッド混合のベルカ主体。 名前は『紅葉』 セットアップ!」

 




デバイスの名前はもみじです


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聖王教会にて

閲覧ありがとうございます。

今回はかなり短めです。


「紅音のデバイスってこの子なの!? 可愛い〜!」

「本当だね〜! 触ってもいいかな?」

「いいよ」

「ワン!」

 

今は放課後。 場所は聖王教会。 どうして私たちがここにいるかという事なのだが、なんでもシスターシャッハという人が練習を手伝ってくれるというので今日の練習場所はここになったらしい。

 

「モフモフしてるよ! ヴィヴィオ!」

「やわらか〜い!」

「ワン!」

 

今日、ヴィヴィオたちにデバイスを見せた時からずっとこんな感じだ。 毛並みは自信作だったから褒められて私も嬉しい。

 

「紅音お嬢様、お茶のおかわりは如何ですか?」

「もらう」

「かしこまりました。 それでは」

 

私たちは今、聖王教会の庭のテーブルでお茶とお菓子をいただきながらくつろいでいる。 ディードとオットーがわたしたちの世話をしてくれている。 お茶もお菓子も美味しい。

 

「それにしても、ノーヴェ姉様遅いですね。 何かあったのでしょうか?」

「さっき遅れると連絡がありましたよ。 なんでも救助隊の方に少し呼ばれたと」

「そうなんだ。 なら、もう少しゆっくりしてても大丈夫だよね?」

「大丈夫だと思いますよ」

「わかった」

 

ヴィヴィオとコロナが紅葉を弄っているのを見る。 紅葉は気持ちよさそうに撫でられている。

 

「そういえば、この子の特性はどんな感じなの?」

「んーとね、私の魔力の調整が主かな? あとはプロテクト補助。 知っての通り私の装甲は無いに等しいから」

 

ナカジマ家に行った時に試し撃ちをさせてもらったが、予想以上の出来でかなり安定してそれなりのが撃てるようになった。 任意で出力もあげることが出来るし、充分な成果だと思う。

 

「あー、そうだねぇ。 なにせヴィヴィオのアクセルスマッシュ1発でライフ無くなっちゃうもんねぇー」

 

そうなのだ。 確かに機動力を上げようと思って装甲は薄いものにした。 しかし、私自身ここまで打たれ弱いとは思いもよらなかった。 だから、ここまで防御ではなく避けることを主として練習してきた。

 

「シスターシャッハの攻撃は並のスピードでは反応できませんよ? 今日はそこをメインとして練習するのでは無いでしょうか」

「私より速い相手か…… 確かにやったこと無いかも」

 

速いといえばヴィヴィオだが、ヴィヴィオよりもスピードに関しては私の方が速い。 だけど、魔法の運用や動きの予想、戦略はヴィヴィオの方が上だ。

 

「ノーヴェ姉様が到着致しましたよ。 では、私はシスターシャッハを呼んできますので、これで」

「よろしく、ディード」

 

どうやらノーヴェが到着したようだ。 今日の練習、楽しみだ。



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聖王教会にて その2

閲覧ありがとございます。


「わりいわりい、遅くなった」

「救助隊の方は大丈夫?」

「あぁ、問題ねぇよ」

 

なら良かった。 突然呼び出されて中止とかは嫌だからね。

しばらく待つと離れたところからこちらにやってくる2人組が見えた。 たぶん、どちらかがシスターシャッハなのどろう。 もう1人は誰?

 

「こんにちは、皆さん。 あなたが紅音さんかしら?」

「うん、そう」

 

2人組の金髪で物腰が柔らかそうな人が声をかけてきた。

 

「私はカリム・グラシア。 騎士団に所属している騎士です。 今日はあなたに興味があって練習を見に来てしまいました」

「興味?」

「えぇ、私は聖王教会のものですから、エレミアに伝わる鉄腕を使うと聞いたら興味が出るのは当然ですよ」

 

そういうものなのだろうか? 私はヴィヴィオのオリジナルであるオリヴィエについては何も知らない。 そもそも、私の使っている鉄腕はその当時にあったものとは別物と言っていい代物だ。 だから、私の鉄腕に興味があったとしても当時の有益な情報なんてほとんど無いようなものだ。

まぁ、もしかしたらそんなものただの建前で、本当はただ見たかっただけかもしれないが。

 

「そういうものなの?」

「えぇ、そういうものです」

 

カリムは笑顔でそう返してくる。 その笑顔に私もつられて笑いそうになってしまう。 これがこの人の魅力なのかもしれない。

「えっと、そろそろ始めてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、ごめんなさいね、シャッハ。 どうにも紅音さんの事が気になってしまって……」

「彼女に何かあるのですか?」

「いえ、そういうわけでは無いのですが……」

 

なんとも少し不気味な話をしている。 私だってまだ、全ての記憶を思い出したわけでは無いのだ。 一番肝心な『どうやって転移したのか』を思い出せないのだから。

それにしても

 

「おまえらー! 準備はいいかー!」

「「「おー!」」」

 

私もだいぶ、このノリに慣れてきた気がする。

 

 

▽▽▽

 

 

「そろそろここら辺で切り上げておきますか?」

「そうですね。 DSAAまでもう少しですからね。 疲れを残すといけないでしょうから」

 

や、やっと終わった……

「動けない〜!」

「私も〜!」

 

今日の練習はいつにも増してキツかった。 最初はいつも通りだったのだ。 だが、実戦形式の練習に入ってからが酷かった。

 

「シスターシャッハってあんなにスパルタなの〜! 私、そんなこと聞いてないよ〜!」

 

そう、シャッハはスパルタなのだ。 私たちが追いつかないギリギリのスピードを維持し、私たちが気を失わない攻撃を続ける。 そしてその最中、ひたすらダメだしされるのだ。 確かに上手くできたときは褒めてくれる。 だが、それ以上にダメ出しのの方が多かった気がする。 いつぞやのなのはを思い出すほどだった。

そんなとこを思い出しているとシャッハが声をかけてきた。

 

「紅音にぜひ、戦ってほしい子がいるんですが、やってくれませんか?」

「私は別にいいけど。 ノーヴェ、やっていい?」

「おう。 今日の総復習だと思って気楽にやってこい」

 

ノーヴェからの許しが出た。 なら、私はすぐに始められる。

 

「相手は?」

「たぶん、そろそろ来ると思うのですが…… あ! 来ましたよ」

 

シャッハが指を指した方向に目を向けると修道服を着た女の子が何かを運んでいるのが見えた。

 

「あ、シャンテだ」

「ヴィヴィオ、知り合い?」

「うん! シスターシャッハのお弟子さんだよ〜」

 

シャッハに弟子がいたのか。 通りで教えるのが上手いはずだ。

 

「シャンテちゃんがスポーツドリンクの差し入れに行きたよー」

「ありがと〜」 「ありがとうございますっ!」

 

ヴィヴィオとコロナはシャンテからドリンクを受け取っていた。 そして、シャッハは1つ、ため息をこぼして訝しげな視線を向けている。

 

「シャンテ、あなたがこんなことするなんて何が狙いですか?」

「ギクッ!」

「まぁ、ちょうど良かったですよ。 どうせ自分も参加したくてこんなことしたんでしょう?」

「うっ…… バレてたかー」

 

この人がシャッハの弟子のシャンテか……

 

「最後にあなたには紅音の相手をしてもらいます。 すぐに身体をほぐしに行ってください」

「え!? いいの!? さっすが師匠! 話がわかる〜!」

 

そう言ってシャンテはどこかへと走り去って行った。 それにしても足速いな。 やっぱりシャッハと同じスピード型か。

 

「紅音、シャンテは強いから気をつけてね!」

「紅音ならきっと勝てるよ!」

「ありがとう、2人とも。 でも、練習試合なんだし、そこまでテンションあげなくても……」

 

2人とも練習の疲れでテンションおかしくなってないかな? 私の気のせいならいいんだけど……

 

「お待たせ〜! さぁ! あたしの演奏楽しんでってよ!」

「うん。楽しみにしてる」



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聖王教会にて その3

閲覧ありがとうございます。


「へ〜 それが噂の鉄腕かぁ」

「そんなに噂になってるの?」

「うんっ! 陛下が来た時に毎回話してたよ。 だからあたしも興味あったんだよねぇ。 1本ぐらいやってみたいなーってさ」

 

だからカリムも知っていたのかもしれない。 正直、そこまで広がって欲しくないと思っている。 ヴィヴィオには少し注意を促すべきかもしれない。

今はそれよりもシャンテの相手だ。 彼女もきっと、シャッハのように私より速いと思う。 相性としては最悪だ。 どう攻略しようか。

 

▽▽▽

 

 

 

「ヴィヴィオは紅音がどう動くと思う?」

「んー、そうだねぇ。 たぶんスピードはシャンテの方が速いと思うけど、いつもと変わらないんじゃないかなぁ?」

私の考えは『いつもと変わらない』です。 紅音は私と同じカウンターヒッターだからかやっぱりパワーが足りません。 だから勝つためには相手の力を利用する戦法しかありません。私はそう思っていました。

だけど、紅音は違いました。

 

「ヴィヴィオ、紅音、いつもと構えが違うよ?」

「あれ? 本当だー」

 

いつもはヒットマンスタイルを前傾にした構えでした。 スピード重視の攻撃的構え。 でも、今回のは……ノーガード?

 

「な、なんでノーガードなの!?」

「今日の練習であれやってたっけ?」

「わ、わかんないけど…… どうするんだろ?」

 

ノーヴェがなにも言わないってことはたぶん何かあるんだろうけど……

 

私たちの心配とは関係なく試合は始まってしまいました。

 

「まずは、小手調べ、っと!」

 

シャンテは消えたように見えるぐらいのスピードで真っ直ぐに動き、剣を横薙ぎに振りました。

 

「いっただき〜! って、あれ?」

「え〜!?」

「あ、あんな避け方できるの〜!?」

 

上半身だけを後方に反らすスウェーディフェンス。 紅音はこんな避け方もできるんだ…… 凄いな〜!

 

「はっ!」

「痛っ! そこから攻撃してくるとかどんな腹筋してんだよ〜!」

 

紅音はそのままの体勢から顎を狙って拳を撃ちました。 私には出来そうにないかなぁ……

 

「コロナはあれ、できると思う?」

「どうなんだろう〜? やってみなくちゃわからないかなぁ」

「だよねー。 でも、あんな避け方真似したらノーヴェから怒られそ〜」

「それもそうだねぇ。 私たちは私たちなりにね!」

「うんっ!」

 

戦いは続いています。 シャンテが攻撃をしているのに対し、紅音が攻撃することは少ないですがほとんどの攻撃を捌き切っています。 きっと、これが練習の成果だと思います。

 

「も〜! なんで当たらないのさ〜!」

「もう少し、コンパクトに鋭く。 シャンテの振りは少し大きい」

 

確かに、紅音が言ったようにシスターシャッハの振りに比べると少し大振りのような気がします。 それでも充分速いことには変わりないのですが……

 

「なら! これならどう!?」

 

そう言って、シャンテがした攻撃は上と横から同時に来る十字のように振りました。 これならさっきみたいなスウェーもできないしガードもし難い。 後ろに下がったらそのまま追撃される。 なかなか対応に困る攻撃です。

 

「なら、前に出ればいいだけ」

 

紅音は少し速い縦の剣を鉄腕の上を滑らせるように逸らし、横からの剣が来る前に懐へと潜り込みました。

 

「あ…… やばいかも」

「アクセルスマッシュ!」

紅音のアクセルスマッシュが決まり、シャンテは綺麗な弧を描いて飛んで行きました。

 

「綺麗に決まったね〜!」

「だね〜 でもいつの間に私のアクセルスマッシュ使えるようになったんだろう? コロナ見たことある?」

「んー、前に魔力付与打撃を練習してたのは見たことあったかなぁ。 でもそれぐらいかも」

「やっぱり? 隠れて練習したりしてるのかなぁ?」

 

DSAAも近いですし、少しでも手伝えることがあったらやりたいんですけどね〜

 

「ねぇ、ヴィヴィオ。 私たち、いつか紅音に追いつけるよね?」

「もちろんっ! 追いつけ追い越せ、だよ〜!」

「そうだよねっ! よーし、頑張るぞ〜!」

「おー!」

 

▽▽▽

 

 

 

「今日はありがとうございました。 チビたちもいい経験になったと思います」

「こちらこそありがとうございました。 私もいい経験になりましたよ。 それに、シャンテが紅音にリベンジするために張り切っていますからね。 最近ダラけていたあの子にはちょうど良かったです」

「そう言っていただけると助かります」

 

大人組が会話をしている中、私はシャンテから因縁をつけられていた。

 

「次は私が勝つからな!」

「負けないよ」

 

よほどあの負けが悔しかったらしい。 少し涙が溜まっている。

 

「暇だったら、いつでも来なよ。 練習相手ぐらいするからさ。 結局、あたしが勝つけど」

「ありがとう。 まぁ、私が勝つかな?」

しばらく、こんな不毛なやり取りが続いた。

 

DSAA開催まで、後1週間。




次回から大会入る予定です。


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DSAA開始

閲覧ありがとうございます。
この話では一番上がエリートシードとなっています。


聖王教会での練習から2日経った。 そろそろDSAAの書類が届く頃だろう。 そう思ってノーヴェに電話で聞いてみたところ、もうすでに届いていたようだった。

 

「悪いな。 こっちから連絡しようと思ってたんだが、都合がつかなくてな」

「別にいいよ。 それより、どうだった?」

「えーと、これだな。 お前は……予選1組だな」

 

予選1組…… つまりは去年のチャンピオンがいるブロックか。

 

「ジークリンデ・エレミアのいるところ……」

「あぁ。 こいつを倒さなきゃ都市本戦には行けねぇ。 厳しい戦いになると思う。 だが、あたしはお前なら勝てると思ってるよ。 まぁ、まずは順調に勝ち抜くことが大事だがな」

「そうだね。 頑張るよ。 ね? 紅葉」

「ワン!」

 

負けるつもりはない。 みんなの応援に応えたい。 そういう気持ちより私にとって今は楽しみの方が大きかった。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「待ちに待ったDSAA本番だね! ヴィヴィオ!」

「うん! しっかり紅音を応援しようね!」

 

今日はDSAAの選考会です。 今日の結果次第でどこのクラスに入るのかが決まります。 初参加だとエリートクラスに行くことはほとんどないのできっと紅音はスーパーノービスに行くと思いますけど、何があるかわかりません。 しっかり応援したいと思います!

 

「紅音の番が来たみたいだよ!」

 

コロナも今朝からテンション上がりまくりです。 それはそうと紅音の番が来たようです。 いつ見ても落ち着いてるように見えるな〜!

 

「それじゃあ、せーの!」

「「紅音! ファイト〜!!」」

 

 

▽▽▽

 

 

「「紅音! ファイト〜!!」」

 

観客席から2人の応援が聞こえた。

 

「ヴィヴィオとコロナがお前のこと、応援してるな」

「恥ずかしい……」

 

相手から変な目で見られているような気がする。 かなり恥ずかしかったが、2人が応援してくれるのは素直に嬉しい。 うん。 大丈夫。 やれる。

 

「そんじゃ、行ってこい」

「うん」

 

ノーヴェとはもう既にどう動くか話し合った。 気分は高揚しているが頭は冷静だ。 それがノーヴェもわかっているから特に口は出さなかった。

 

相手も格闘家タイプ。 あの構えだと、スバルと同じシューティングアーツかな?

 

ホイッスルが鳴る。 試合が開始された。

 

「先手必勝! えぇい!」

 

相手が真正面から突っ込んでくる。 遅いわけではないがシャンテやヴィヴィオに比べると格段に遅い。

これなら……

 

「これでおしまい」

 

伝家の宝刀、カウンター。 突っ込んできた相手からの右ストレート。 それに合わせたカウンター。 試合時間、10秒。 私のDSAA初試合はこれで幕を閉じた。

 

 

▽▽▽

 

 

 

「はいよ、お疲れさん」

「ありがとう」

 

ものの数秒で試合を終えた私は着替えて結果を見に行ったノーヴェを待っていた。 そして戻ってきたノーヴェがジュースを手渡してきた。

 

「結果は?」

「スーパーノービス。 まぁ、初参加じゃなきゃエリートは確実だったろうな」

やっぱり初参加だと無理か……

 

「まぁ、一回でも勝てりゃエリートクラスだ。 そう落ち込むなって」

「わかってたことだし、大丈夫。 それよりもみんなと合流しよ?」

「そうだな」

ヴィヴィオたちのいる観客席に行く途中、ハリーとその取り巻き3人と出会った。

 

「よぉ! 紅音。 試合、見てたぜ」

「うん。 どうも。 ハリーから見て、試合、どうだった?」

「悪くなかったんじゃねーか? オレとやった時よりは強くなってるように見えたぜ? まぁ、数秒だけだったからまだわからねーけどな」

「それもそうだね」

 

私たちがそれなりに仲良く話している風景を見て、ハリーの取り巻きがひそひそと話している。 少し聞こえる内容は「あいつがリーダーを倒したっていう……」 「あの後、泣いて大変だったよなぁ」 「ちょ、お前ら」

 

そんな会話がハリーにも聞こえていたのだろうか、目に涙を溜めてプルプルと震えている。

 

「お前らぁ! 変なこと言うんじゃねぇ!」

「「「す、すみません〜!!」」」

そう言って取り巻き3人は走って逃げてしまった。

 

「お前ぁ! ちょっと待てー! 悪いな紅音、また後でな」

 

ハリーも3人を追いかけて行った。 そして、残された私たちは再びみんなの元へと向かった。



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対ジーク

閲覧ありがとうございます。


上位シードの人たちが順当に勝ち上がっている中、私たちのチームナカジマ代表の紅音も勝ち上がっています。 そして、ついに今日は第4回戦、去年のチャンピオン、ジークリンデ・エレミア選手と紅音の対決の日なんです。

 

▽▽▽

 

 

 

「ヴィヴィオ〜! 私、緊張してきちゃったよ」

「私も〜」

 

現在、私たちは紅音の応援のために観客席にいます。 今日は休みの取れたママたちや八神家とナカジマ家一同、それにティアナさんと大勢で来ています。 みんなが一斉に休みを取れるなんて奇跡に近いものですが、紅音の日頃の行いが良いのだと思います。

 

「すまないが、隣、いいかな?」

「あ、ミカヤさん! 5回戦進出おめでとうございます!」

「ふふ、ありがとう。 見ていてくれたのかい?」

「はい! 格好良かったです!」

 

そう言ってミカヤさんは私の隣の席に座ります。先ほどのミカヤさんの4回戦はあっという間の決着でした。 ほとんど対戦相手に何もさせずに完勝していました。 来年には私もこういった人たちと戦うことができるのでしょうか? 今から楽しみです。

「そう言って貰えて嬉しいよ。 それよりも、紅音ちゃんの調子はどうだい?」

「良いですよ! 意気込みもすごかったですし! ね、コロナ」

「はい! 紅葉も調子良さそうでしたよ!」

「それは面白いことになりそうだ。 きっと、この試合の勝者が私の相手になるだろうからね。 どっちが勝つか楽しみだよ」

 

そして、ついにアナウンスが流れました。

 

『只今より、1組、第4回戦、第1試合を開始します。 選手が入場します』

 

▽▽▽

 

 

 

「今日はありがとう、2人とも。 セコンド引き受けてくれて」 「わん!」

「気にしないで。 僕たちは元々、紅音の試合を観るために来たんだから」

「そうだよ! 間近で応援できるんだもん! 願ったり叶ったりだよ!」

 

昨日、エリオとキャロが応援に来てくれると知った私はノーヴェに相談して、2人に私のセコンドになってくれないかと頼んだ。 急なことだったので断られることも考えていたけど、2人はそのお願いを聞き入れてくれた。

 

「そう言って貰えると助かる」

 

正直、この4回の試合の間でノーヴェが忙しそうにしているのを見てきたから、受けてくれて本当に助かった。 それに、2人は私の保護者だから私が元気にしているということも見せたかった。 紅葉も紹介したかったし。

 

「そろそろ入場だが、準備はいいか?」

 

ノーヴェがそう聞いてくる。 身体は程よく暖まってるし、頭も冴えてる。

「私は大丈夫。 紅葉は?」

「わん! わん!」

 

紅葉は部屋中を走り回っているこれなら大丈夫そうだ。

 

「問題ねぇみたいだな。 んじゃ、行くとするか」

 

アナウンスとともに入場した私が見たのは会場が満席になるほどの観客の数だった。 右側の最前列にヴィヴィオとコロナが手を振っている。それに2人の隣にはミカヤとハリーとハリーの取り巻きの3人が見える。 その少し後ろの辺りにはなのはとフェイト、ティアナにスバル、八神家とナカジマ家の面々が見える。

 

「この観客の数に飲まれんじゃねーぞ、紅音」

「わかってる。 私が見るのは観客じゃなくて相手、でしょう?」

「おう。 今日は私だけじゃない、エリオとキャロもいるんだ。 安心して戦ってこい」

 

2人を見ると、力強く頷いてくれた。 大丈夫。 やれる。

 

『ジークリンデ・エレミア選手の入場です』

 

私の相手はあの昨年チャンピオンの『黒のエレミア』ジークリンデ・エレミア。 私は相手が入場してくるのをじっと見つめていた。




次回は一人称か三人称か迷ってます。 意見などあったらお聞かせください


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対ジーク その2

閲覧ありがとうございます。

誰か、ジークの関西弁についてアドバイスください。 真面目にわからないです……


試合が開始されるというアナウンスが流れている中、コロナがこちらに近づいて来る人影に気づきました。

 

「ねぇ、ヴィヴィオ! あれって砲撃番長のハリー・トライベッカ選手じゃない!?」

「え? あ! 本当だ!?」

 

ハリー選手とハリー選手のセコンドの3人がこっちに向かって走ってくる。

 

「ふぅ〜 間に合ったぁ」

「この試合は絶対に観たいって言ってたのリーダーじゃないっすか! もっと早く起きてくださいよ!」

「わりぃわりぃ。 起こしてくれてありがとな、お前ら。 ミカ姉も席確保してくれてありがとな」

「いや、お礼なら私ではなくこの2人に言ってくれ」

 

そう言ってミカヤさんは私とコロナの方に目を向けます。

 

「この2人は?」

「紅音ちゃんのチームメイトだよ。私の隣にいるのがヴィヴィオちゃんでこっちがコロナちゃんだ。 来年には私たちのライバルになる子たちでもあるね」

 

ミカヤさんの紹介に私たちは照れ恥ずかしかなってしまいます。 なんて言ってもあのミカヤさんからライバルになると言ってもらえたんです。 嬉しくないはずがありません。

 

「ほー。 こいつらが……」

 

なんとも興味津々といった様子でハリー選手は私たちのことを見てきます。 紅音が何か言ったのでしょうか?

 

「とりあえず、席を確保してくれてありがとな」

「は、はい!」

 

ハリー選手は番長と呼ばれているので、怖いイメージがあったのですが、そんなことないように感じられました。

「あ! 紅音出てきたよ!」

 

コロナの声で私はリングの方に意識を戻します。

 

『ブルーコーナーからは4戦4勝4KO、地球生まれの期待のルーキー! 日野紅音ッ!!』

 

「やっぱり、地球生まれって珍しいのかな?」

「この大会で地球生まれの人って出たことないらしいよ?」

 

コロナがなぜそんなことを知っているのかはさておき、紅音もなかなか期待されているようです。 そこかしらから期待の声が囁かれるのを耳にします。

 

『レッドコーナーからは前大会の覇者。 現在、優勝に一番近いとされている選手、ジークリンデ・エレミアァァァ!!』

 

「やっぱし、ジークのやつの声援は凄まじいなぁ」

「仕方ないよ。 あの子の戦いは芸術だからね。 それだけ、みんな魅了されているということさ」

 

ミカヤさんとハリー選手の会話が聞こえます。 確かに、この歓声は今まで聞いたこともないような大きなものでした。

 

「コロナ! この声に負けないように、頑張って応援しよう!」

「うん!」

「ジークには悪いが私も紅音ちゃんを応援するとしよう。 君たちはどうするんだい?」

 

ミカヤさんは私たちを見た後、ハリー選手たちに問いかけます。

 

「そりゃ」 「まぁ」 「ねえ?」

「な、なんだよお前ら……」

「ふふ、そういうことか。 あの時の負けが相当悔しかったようだね」

「あぁ! もう! わかったよ! 紅音ー!! 負けんじゃねぇぞー!!」

 

私たちもハリー選手に負けじと声を張り上げます。

 

「「ファイトー!! 紅音ー!!」」

 

きっと、少しでも紅音の役に立てるように。

 

 

 

△△△

 

 

 

「ミカさんと番長はあの子を応援するんか……」

 

自分の知り合いが相手のことを応援してるとなんとも言えない気持ちになる。 だけど……

 

「あの子との勝負、楽しみや」

 

彼女の試合は全て一撃で終わっとる。 それも、カウンターのみで。 きっと実力の半分も出してない。

でも、なんやろうなぁ……

 

似とる気がするんよなぁ、私とあの子は。 現に、よー見たら服装もにとる気がするし。 んー、謎やな。

 

『両者、リングに入ってください』

 

まぁ、とりあえず。 いつも通りやるだけや。 殴り合えばきっと分かり合えるはずや。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「いいか? 最後の確認だ。 基本はチャンピオンに組みつかれないように左で牽制、慣れてきたら積極的に攻めろ。 だけど、相手は総合格闘家だ。 それに、射撃戦も得意だ。だから何をしてくるか想像がつかねぇ。 そういう時は臨機応変に対応するんだ」

ノーヴェの言葉に私は黙って首を縦にふる。

 

「僕たちもついてるからね」

「頑張って!」

ヴィヴィオたちの応援も聞こえてくる。 大丈夫。 落ち着いてる。 視野も広い。 身体も軽い。

 

「それじゃあ、やろうか? 紅葉」

「ワォーン!!」

 

応援の返事をするように、会場中に紅葉の遠吠えが響いている。

 

 

 

▽▽▽

 

 

『両選手、リング中央まで移動してください』

アナウンスの指示通りに私はリング中央まで移動した。 構えるチャンピオンに私は待ったをかけた。

「チャンピオン。 ボクシングの最初の挨拶、わかる?」

「えーと、先ずは拳を合わせて〜、のやつよな?」

「うん。そう。それをやって欲しいんだけど……」

「ええよ。 やっぱ、礼儀は大事にせなあかんもん」

「ありがとう」

 

この大会、ほとんど拳を合わせないで始まってしまうのでなんか物足りない気がしてならないのだ。 うん。 よかった。 チャンピオンが気前のいい人で。

 

「ほんなら、始めよか」

「うん」

コツッ

 

これがスタートの合図だった。 お互い、一歩身を引き、出方を伺う。

 

トントントン、と相手に合わせてリズムを刻む。

 

トント

 

そのリズムを半テンポズラして、チャンピオンが姿勢を低くして、突撃してきた。

リズムをズラされた私は反応できず、モロにタックルを食らってしまった。

 

「……ッ!」

 

鋭く、速い。 タイミングも嵌められた。

 

「紅音ぇー!! 迎撃しろぉ!!」

 

言われなくてもわかってるッ!

 

バランスは崩れてるけど…… 手は自由。 なら、撃てる!

 

「ガンフレイム!」

 

私はちょうど手の位置にあった彼女の顔面に向かって砲撃を撃ち込む。

 

重心が前のめりになっている今なら、確実に当たる。 そう思った瞬間、彼女は私から手を離し、その場に倒れこむかのように一気に身を屈めた。

 

「……ッ!」

 

あの状態から避けられた。 判断が早い。 それにこの状況、結構まずい。

「追撃や!」

 

体勢が崩れている私より、先に動いたチャンピオンは再度、低い姿勢からのタックルをしてきた。 一気に関節技で終わらせる気だ。 なら、先ずはここから逃げることを優先しないと。

 

「点火!」

 

一瞬、視界が真っ白になる。 身体にGが重くのしかかる。

 

「あの体勢から避けられてもうた。 君、凄いなぁ〜」

「褒めてくれて、ありがとう」

 

原理は簡単。 ただ足元で小規模な爆発を起こしただけ。 その衝撃で移動したのだ。 一言で言うならジェット噴射。 瞬間的な速さは折り紙付きだが、いかんせん、身体への負担が大きい。 正直、使いたくなかった。

 

『今までにない攻防を繰り広げている両選手! これがまだ都市本戦ではないなど、冗談のように聞こえます!』

 

確かに、チャンピオンは強い。 それに総合格闘というところで拳と砲撃しか武器のない私には不利なのだ。 予定変更。 攻めよう。 様子見なんてしてたら確実に負ける。

 

「ほんなら、エレミアの技、見せたるよ」

「じゃあ、私もとっておきを見せてあげる」

 

今はエレミアなんて関係ないよね、お姉ちゃん。

 

「「鉄腕、解放……」」



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対ジーク その3

閲覧ありがとございます。


「おーおー、紅音のやつ、ここまでやるのかよ。 それに、さっきのオレの『ガンフレイム』だろ? いつの間にできるようになったんだよ」

「さぁね? 相性が良かったんじゃないのかい? 数日でできていたよ?」

「ゲッ! まじかよ。 こりゃ新技考えねぇといけねーかもしんねぇなぁ」

 

試合が始まってからの最初の攻防は、引き分け、と言うよりは紅音の方が少しダメージを食らったものでした。

ミカヤさんやハリー選手はあれを見て、どう思ったのでしょうか? 先程の会話でだいたいは想像がつくような気がしますけども。

『な、なんということでしょうか!! 紅音選手もチャンピオンと同時に鉄腕を出しました!!』

 

そういえば、この大会ではまだ一度も紅音は鉄腕を使ってませんでした。確か、一昨日まで調整が長引いていたと言っていました。 機材がなくてシャーリーのとこまで通っていたそうです。

 

「ねぇ、ヴィヴィオ。 紅音の鉄腕ってどこが変わったか知ってる? 見た目じゃ何も変わってないように見えて……」

「んーとね、手首を動かしやすくなってる……だったかな? 前のじゃ手首がほとんど動かせないって言って嘆いてたから」

「手首? どういうことだろう?」

「わからないけど…… 何かするつもりなんだと思う」

 

この前、庭で練習していたものをこっそりと見た時にやっていたコンビネーションをやるのかな?

 

「お、紅音から仕掛けたぜ」

ハリー選手の言葉で私は意識をリングに戻しました。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「君が噂の鉄腕使いやったか。 なるほどなぁ」

「噂?」

どうしてこんなに広まってるのだろう? そんなに見せびらかした事はないはずなんだけど……

 

「えっと、ヴィクターが言ってたんよ。 あ、ヴィクターはヴィクトーリア・ダールグリュン選手のことなんやけど、わかる?」

「さすがに、わかる」

 

雷帝の子孫だったかな? 頑丈そうな鎧を着けてたから私とは反対だな、と覚えていた。

 

「そのヴィクターがな? 風の噂で紅い鉄腕を使う子が大会に出てくるー、って、ゆーてたんよ。 私も気になってたんやけどな。 大会では誰も見てないって聞いてがっかりしてたんよ」

「ちょっと、色々と改造してたから出せなくて…… なんか、ごめん……」

「あ、別にええんよ? 君が気にすることやないんから」

「そう? なら、そろそろ仕掛けてもいい?」

 

まだ、一度も試してないから結構、うずうずしてる。

 

「ええよ。 ほんなら、楽しもか」

「もちろん。 それじゃあ、今度はこっちから」

 

今の私とチャンピオンの距離では拳は当たらない。 砲撃を溜める余裕もない。 だけど、溜める必要がなかったら、大丈夫だよね。

 

「バレット……」

突き出し気味に構えた左手から、肩と手首の捻りのみで打つ、コークスクリューブロー。 そして、拳に乗せた炎熱変換された魔力をそのまま圧縮し、放つ技。

 

「うわっ!? 予備動作なしで撃てるんか!? それなら私だって!」

 

そう言うとチャンピオンは大きく後ろに後退して、周囲に無数の魔力球を展開した。

 

「ケヴェイア・クーゲル!」

 

そして、その展開した魔力球を私に向けて飛ばしてきた。

 

「紅葉、 一気に抜けるよ。 シールド制御、お願い」

『ワン!』

「それじゃあ、点火!」

 

魔力球の間をほとんどチャンピオンに向かって直線の距離を一気に駆け抜け、そのまま拳をぶつける。

 

「はぁ!」

「それは、甘いで!」

「え、あ」

 

私の拳はいなされ、加速していた私の身体はそのまま、壁に一直線に向かって吹っ飛んだ。

 

 

 

▽▽▽

 

 

『り、リングアウト〜ッ! カウントが入ります!』

 

「あー、もう! 何やってんだよ!? あれほど冷静に行けって言ったじゃねぇか!?」

「えっと、少し落ち着いて」

「チッ! まぁ、あいつもこれで少しは目が覚めただろ。 最初にリズム崩されてから浮き足立ってたしな。 ちょうどいいか」

 

壁と衝突する前に防御してたみたいだし、大してダメージはねぇだろ。

 

そう思っていてもなかなか立ち上がらない紅音に苛立ちが隠せない。 ボクシングの癖でカウントギリギリまで休んでいるのはわかってるんだが、こっちも、焦っているのかもしれない。

 

『18! 立った! 紅音選手、立ち上がりました! カウントギリギリでの起ち上り、ダメージの方が心配されます!』

 

レフェリーが紅音に駆け寄り、状態を聞く。 足もフラついてないし、焦点も合ってる。 大丈夫そうだな。

 

「目付きが変わりましたね。 なんというか、鋭くなってる」

「紅音ちゃんのあの顔って集中し過ぎて何やらかすかわからないんだよね〜。 森を焼け焦がした時もあんな感じだったし」

「そうなのか? まぁ、期待するしかねーか」

 

そろそろ、チャンピオンの度肝をぬかしてこい。

 

 

 

▽▽▽

 

 

「結構大きな音して行っちゃったけど……大丈夫?」

「派手な方が痛くない。 大丈夫」

 

うん。 足もしっかりしてるし、目も見える。 それに、リズムも戻った気がする。 あくまでマイペースに。自分が相手に合わせるんじゃなくて、相手を自分に合わせるつもりで。

 

そこから繰り広げられたのは拳の応酬。 打っては避けて、避けては打って。

 

「もうすぐ! 1ラウンド目も終わりやな!」

「そう、だね。 一発でも当ててから帰るよ!」

「させへんで!」

そろそろ、改造した鉄腕の力を見せる時。 手首の可動範囲を広くしただけだけど、今の私にはこれだけでも十分。

 

『両選手、どちらも被弾せず、1ラウンド目が終わろうとしています!』

 

集中だ。 ジャブの軌道は慣れさせた。 これでいい。 まずは一発でも当てる。

 

「……ッ!?」

 

ガンッ! と、チャンピオンの顔面に私の拳が入った。 だが、ジョブだからか威力は大きくない。 それでも、驚かすぐらいはできたと思う。

 

『な、なんと〜! チャンピオン、クリーンヒットォォ! そして、 ここでゴングです!! 1ラウンド目、終了〜!!」

 

そのアナウンスを聞いた私は避けたはずのジャブが当たって驚いた顔をしているチャンピオンを尻目にノーヴェたちの元へと戻った。

 

「後半は悪くなかった。 あの調子でいけばそうそう被弾はしないはずだ。 それで、どうだ? あの技はうまく決まりそうか?」

「見てたでしょ? あと1ラウンドぐらいはバレずに打てるよ」

 

エリオとキャロの頭には疑問符が浮かんでいるが、次のラウンドあたりでノーヴェが教えるだろう。 それに、まだ披露してない技もあることだしね。

「わかった。 焦らず、じっくりいけよ」

「うん。 それじゃあ、行ってくる」

私は3人に見送られながら、リング中央へと足を向けた。



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対ジーク その4

閲覧ありがとございます。

やっと、対ジーク完結。


「はぁ〜。まだ1ラウンド目なのに、ヒヤヒヤするよ〜」

「ほんとにねー。 リングアウトした時はどうなるかと思ったよ〜」

 

本当にリングアウトした時はこちらもヒヤリとさせられました。 その時は私もコロナも開いた口が塞がらがらなくて……

 

「なぁ、チビたち。 1つ質問なんだがよ」

 

ふと、気になった様子でハリー選手が私たちに質問してきました。

「なんですかー?」

「紅音の最後の一発。 あれはなんだ? オレにはジークがあいつのパンチを完全に避けた気がしたんだけどよ。当たったよな?」

 

やっぱり、気になりますよね。 それに、遠目で見ると紅音のあの技がどれだけ凄いかよくわかります。

 

「はい! あれは手首から先の捻りでパンチの軌道を変えてるんです。だから、避けた上にパンチを当てることができたんです」

「マジかよ…… あぁ、だからさっき鉄腕がどうとか言ってたのか」

「はい! でも、私も練習してるのを見ただけなので、名前まではわかりませんけど……」

「それはこの試合が終わった後にでも聞いてみるか。 それに、あのガンフレイムを弾丸みたいに連発するやり方は面白いな。 オレも練習してみっか!」

 

ハリー選手はそう言って、その場で少しだけシャドーを繰り返します。 でも、たぶんあの技はあの独特な構えからじゃないと打てないんですよね。 でも、そこまで紅音が教えるのかなぁ?

 

「でも、まだ隠し玉はあると思いますよー。期待しててください!」

「そうなのかい? ふふ、それは期待が持てるね」

 

私もここからの展開がどうなるか、楽しみです!

 

 

▽▽▽

 

 

 

『第2ラウンドは開始早々から紅音選手がチャンピオンに向かって果敢に攻めます!』

 

当たる。 多少、威力は逃されているとはいえ、確実にダメージは入ってるはず。 もう少し……

 

「避けられないんなら捕まえるまで!」

 

チャンピオンがジャブを打って伸びている私の左腕を掴もうと手を伸ばす。 それなら。

 

「点火!」

「くぅっ!」

 

接近してのボディ、ボディ、ボディ。 そして、バックステップで一旦下がって、息を整える。

 

『チャンピオンに3連続のボディブローが炸裂! 紅音選手の鮮やかなヒットアンドアウェイに、 チャンピオンは未だその姿を捉えることができません!』

 

「ふふ、凄いなぁ。 私、こんなパンチ見たことないよ。よしっ! ほんなら、ここからは私も攻めるで!」

「そう。でも、これで決める」

 

点火して接近、そしてボディと見せかけて、軌道を修正して、顔面にアッパー。だが、それを見越してか、チャンピオンは両手を顔の前に出してアッパーを防御する。 防がれた。

 

「甘いよ!」

「まだ!」

 

私はもう一度アッパーを打つ。 そして、それを見たチャンピオンは両手を顔の前に出し、再びアッパーを防ごうとする。 そう、それでいい。狙い通り。

 

拳の向きを横から縦に、そして、狙うは真ん中。 顔の前に構えている両手の真ん中の隙間。

 

ガンッ! と会場中に金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。 構わない、そのまま押し込め。

 

「はぁぁッ!」

 

足を踏み込め、腰を回せ、拳を突き上げろ。

 

ゴンッ!

 

顎に私の拳が当たって、チャンピオンの顔が上へと、跳ね上がる。

 

『チャンピオンの顔が上に跳ね上がったぁぁ!!』

いけ、もう1つ。

 

「ホワイト・ファング!!」

 

左アッパーとチョッピング・ライトの高速コンビネーション。 それが顔が上がったままのチャンピオンに決まる。 感触的には、綺麗に拳が入った。普通だったらこれで決まったはず。現に、チャンピオンの目からは光が感じられない。 だけど、油断はできない。

 

「よしっ! 飛燕からの燕返し、最後にホワイト・ファングのコンビネーション! 練習した通りだぜ! 今だ紅音! そのまま一気に畳み掛けろ!」

 

背後から、ノーヴェの指示が飛んでくる。そうだ。これで、終わりにするんだ。

 

「ディバイン・バスター!!」

 

魔力を一瞬溜めて撃つ、高速砲。 もう後は放出するだけ、それだけでこの試合は終わる。 だけど、なんだ。 なんでこんなに嫌な感じがするんだ。 背中から嫌な汗が垂れてくる気がする。

そう思いながらも、私は勝負を決めるため、高速砲を発射した。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

『決まったァァァァァ!! 紅音選手の高速砲がチャンピオンに命中! そのまま壁まで吹き飛ばされましたァァァァァ!! これは決まったかぁぁ!? いや、紅音選手もリングに膝をついています!! これは、これはダブルノックアウトだァァァァァ!!』

 

うるさい。 解説者の声が頭に響く。 あぁ、クソ、やられた。 右腕を持っていかれた。肘から下の感覚がない。 そうだ、なんで忘れてた。これでいったい何人の仲間がやられたと思ってる。 あいつらにはあれがあったじゃないか。ガイストが。

 

とりあえず、このままじゃいけない。 立たないと。

 

そう思って立ち上がろうとしても、身体にかなりのダメージを受けたせいか思うように立ち上がれない。 フラつきながらもカウントのうちに立ち上がることができた。

 

『紅音選手、立ち上がりましたぁぁ!! チャンピオンは……立ってます! 先程のダメージがないと言わんばかりのしっかりした足取り!! これは形勢が逆転したか!?』

 

冗談じゃない。 ダメージは確実にある。それに、 あの目は違う。 生気がない。 正直、意識があるかどうかすらわからない状態。 でも、それが今の状況では1番やばい。 一時的とはいえ、ほとんどダメージがないような動きをしてくるはずだから。 それに、もう一撃でも食らったら私のライフが全て削れる。

 

『第2ラウンドも残り1分! どちらもライフは危険域! この試合、どっちに勝敗が転ぶか想像がつきません!!』

 

「紅音ぇ!! それ以上食らうんじゃねぇ!!」

「早くそこから動いて!!」

「紅音ちゃん!!」

 

わかってる。 そんなこと、自分が1番わかってる。 でも、足が地面にくっついたように動かない。 クソ、動け、動け、動け。

 

「ガイスト・クヴァール……」

「くぅ!」

 

なんとか転がることで避けることができた。 だけど、これがあと何回避けられるか……

「はぁ……はぁ……」

チャンピオンがあいつの姿とダブってしまう。 違う。 ここは戦場じゃない。 ここはリングだ。 目の前にいるのはあいつじゃない。 去年のDSAAのチャンピオン、ジークリンデ・エレミアだ。 そうだ。 これは試合なんだ。 まだ、やれる、まだ。

 

「ふぅ…… 」

 

落ち着け。 混乱するな。 冷静に状況を把握しろ。

 

「すぅ……はぁ……」

 

今の私の状態は、ダメージ大、右腕は動かない、足元はふらつく。だけど、魔力は残ってる。 なら、やれるのは1つだけ。

 

「紅葉、左手にありったけの魔力を集めて。 玉砕覚悟で一撃、行くよ」

『ワン!』

 

集中、集中、集中。 相手をよく見ろ。 最小限で躱せ。 掠ってもいい。 どうせあと一発だ。

 

『ワン!!』

 

よし、準備はできた。 あとは、いつも通りだ。 狙え。

「はぁ……はぁ……」

 

チャンピオンが鋭く、速く、死角から攻撃を仕掛けてくる。 私はそれをひたすら避けながら、好機を待つ。

 

……ッ! 来た、大振り。

 

ガイストが防護服に掠り、破ける。 その衝撃で、少しだけよろめいたところに止めとばかりの大振り、チャンスは今だ。 いけ。

 

「インフェルノ・ブレイカァァァァァ!!」

 

身体を捻れ、音速を超えろ。

 

「はぁぁぁ!!」

 

大振りを躱してのカウンター。 確実に、決まった、そう思っていた。

 

「え……?」

 

大振りした右手とは逆の左手で、下から掬い上げられるように、腕をぶん殴られた。 私の砲撃はそのまま上空へと、逸らされた。

 

私が最後に見た光景は迫り来る鉄の塊と空に浮かぶ白いタオル。 それと、

 

「ごめん」

 

チャンピオンのボソリと言ったその一言だった。

 






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試合後

閲覧ありがとうございます。

お気に入り数が100を超えました。 ありがとうございます。 引き続き読んでもらえるよう頑張ります。


「シャマル先生。 紅音の様子は……?」

「右腕は折れてるわね…… それに、左手にもヒビがはいってそうだわ。 でも、脳には異常は見られないから、まだ安心ね」

「そうですか…… わざわざありがとございます」

「大丈夫よ。 それじゃあ、私はもう行くから、何かあったら連絡してね」

「はい……」

 

あたしはシャマル先生が部屋を出て行くのを見送ってから医務室いあるイスを紅音が寝ているベッドの隣に持ってきてから腰掛けた。

 

あの後……

 

あたしは急いでタオルを投げたがもうすでに遅かった。

ガンッ! とチャンピオンのカウンターが紅音の顔面に綺麗に決まった。 そして、紅音はそのまま地面に崩れ落ちた。

 

しん……とさっきまでの大声援が嘘のように会場が静まり返った。

 

『試合終了ッッッッ!! 不利な状況からの逆転劇! この熱戦を制したのはチャンピオン、ジークリンデ・エレミアだぁぁぁ!!!』

 

わーっ! というチャンピオンへの大歓声の中、わたしたちは急いで紅音の元へと駆け寄った。

 

「すみません! 担架お願いします!」

 

紅音の容態を確認してから担架の用意ととエリオとキャロにシャマル先生を連れてくるようにと指示を出す。

 

「「は、はい!」」

 

2人はそう返事をしてから、大急ぎでシャマル先生を探しに向かった。 2人とは入れ違いにDSAAの救護班が担架を持ってやってきた。 両腕を動かさないように頼みながら、あたしは救護室に運ばれていく紅音を見送った。

 

歓声はまだ止まない。 この中には少なからず紅音に対してのものもあるはずだ。 紅音は大怪我をした。 これはあたしにとって謝っても許されることではないだろうし、きっと、これからも後悔する。 だけど、あいつがここまでチャンピオンを追い詰めて、観客を沸かせたことに希望を持っても、いいだろう。

 

「あの、すみません」

 

水筒やタオルなどをカバンに詰め込んで、急いで紅音の元へと向かおうとした矢先、後ろから声をかけられた。 声の主は、チャンピオンだった。

 

「なんだ?」

「今日はごめんなさい! 私のせいで紅音選手に大怪我を……」

なんとなく、チャンピオンが申し訳なさそうにしてたのはわかってた。 でも、試合中の事故は選手の責任じゃない。 あたしたちセコンドや大会運営側の責任だ。 だから、チャンピオンが申し訳ないと思うのは違う。 だけど、あたしが言っても彼女はわかってくれないだろう。 そういうわけで。

 

「あたしに謝っても意味ないだろ。 だから、インタビューやらなんやら終わったら紅音の病室に来いよ。 あいつはチャンピオンと話しがってたしな」

 

あいつはクールな性格とは反対に感情が顔に出やすいからな。 言葉に出なくてもなんとなくわかる。 これは、あいつにとって、いい方向に転がるかもしれない。 あたしは、そう判断した。

 

「でも…… 合わせる顔が…… ないんよ……」

 

そういう感情はよくわかる。 あたしだってそうだった。 だから、紅音のためにもチャンピオンのためにもここは引けない。

 

「卑怯かもしれねーが、本当に申し訳ないと思うならあいつに会ってやってくれないか?」

 

こんな言い方をされたら流石のチャンピオンも渋々と頷くしかなかった。

 

「安心しろ。 そん時は2人にしてやるからよ。 そんじゃ、また後でな」

 

そう言ってあたしは紅音のいる部屋へと向かった。

 

そんなついさっきのことを思い出しながら、同時にそろそろ来るかな、と別のことも考えていた。

 

ドタバタと廊下から数人の走っているような音が聞こえてきた。 その音はこの部屋の前で一度止まり、その後、静かにゆっくりと扉が開かれた。

 

「入っても大丈夫だぞ」

 

あたしの言葉に安堵したのかぞろぞろと入ってきた。 ヴィヴィオにコロナ、ミカヤちゃんにハリー選手とそのセコンドの人たち。 ヴィヴィオとコロナだけが来ると、もしかしたらなのはさんたちが付いてくると考えていたあたしは予想外の人物に少し、面を食らった。

 

「紅音が寝てるからあんまり騒がしくするなよ」

 

一応、そう注意してからみんなに紅音の容態を大まかに説明した。 右腕が折れていること、左腕にもヒビがはいってること、今は疲れなどで寝ているだけだということ、後遺症は特にないこと。

 

「とりあえず、しばらくは安静だな。 ヴィヴィオ、家の時とかなるべく手伝ってあげてくれ」

「うん! もちろん!」

「コロナも、頼むな」

「はい!」

 

2人の元気のいい返事にあたしは大きく頷いてから、今度はミカヤちゃんやハリー選手の方を向いて、チャンピオンのあの技に注意するようにと伝えておく。

 

「わかった。注意するよ」

「オレは何があっても自分を曲げねーぞ! 真正面からやってやらぁー!」

「よっ!」 「さすがリーダー!」 「女の中の女!」

「お前ら、それって褒めてるのか……?」

 

なんとも頼もしい返事を頂いた。 まぁ、彼女らなら大丈夫だとは思うが。 一応、な?

 

「ん…… うるさい……」

 

ベットに寝ていた紅音がもぞもぞと上半身だけ体を持ち上げた。 そして、目を擦ろうと左手を上げたが、その時、ギブスに巻かれている自分の腕を見て、自分がどんな状況かを把握したようだった。 すぐわかった。 目に見えて落ち込んでいる。 あたしたちはそんな紅音の姿にどう声をかけていいかわからず、あたふたしていた。 そんな中、紅音がポツリと一言、言葉を零した。

 

「そっか、負けたのか……」

紅音は少しだけ、間を空けてもう一言「あと少しだったんだけどな……」 そう言って、あたしたちの方を向いて、失敗しちゃったという風に苦笑いをした。

 

暗い雰囲気のまま、静まり返った部屋の中に、コンコン、というノックの音が響いた。

 

「失礼しま〜す」

 

そう言って部屋に入ってきた人物はチャンピオン、ジークリンデ・エレミアだった。



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昔話

閲覧ありがとうございます。




「…………」

「………………」

「クゥ〜ン…………」

 

今、この部屋にいるのは私と紅葉とチャンピオンの3人だけ。 ノーヴェが気を使ってみんなを外に出してくれた。 私のためでもあり、チャンピオンのためでもある。 本当に優しいコーチだ。

 

「その犬、かわええな。君の自作?」

「うん。 紅葉っていうの」

「私、生物型のデバイスに憧れがあるんよ。 いいなぁ……」

「そうなんだ」

「うん」

 

そして、また沈黙。 さっきからずっとこんな感じだ。 お互い、なんて話出していいかわからない。

 

「その、今日は、ほんま、ごめん」

 

沈黙を破り、チャンピオンがそう切り出した。 だけど、私はなんのことかわからず、首を捻る。 実際、謝られることがあっただろうか?

 

「腕、折ってもうて……」

「あぁ、そういうこと……」

 

なんだ、そんなことか。 チャンピオンが私になにが言いたかったのか、なんとなくわかった。きっと、彼女はガイストを使いたくなかったのだ。任意で使えるかはわからないが、あの時は一種のトランス状態だったのだろう。 だから、加減ができなかった。 だから、腕を折ってしまった。そんなこと、気にする必要ないのに。

 

「チャンピオンが気にする必要はない。 格闘技をやっている以上、怪我は付き物」

「でも……」

 

見た目はあいつに似ているのに、性格は全く正反対だな。あいつなら、こんなに人を気遣わない。 そもそも、ちょっと、いや、かなり人を壊すのが好きな気持ち悪いやつだったはずだからな。 そう思うと、あの人が1番マシだったのかな?

 

「そもそも、知っている技を受けた私が悪い」

「エレミアの技、知ってるん?」

「知ってるのはガイストだけ」

 

私の言葉の意味をチャンピオンはよくわからなかったようで、頭に疑問符が浮かんでるようにみえる。 まぁ、仕方ないか。 ミカヤとジークの話によると、どうやら記憶は受け継いでおらず、戦闘経験だけを受け継いでいるとかなんとか。 だから、いつの時代にどんな技が出来たのか知らないんだ。

 

「チャンピオンは、エレミアがどうして『黒のエレミア』って呼ばれているのか知ってる?」

突然、自分の家のことを聞かれたチャンピオンは、驚いた顔をしたけれど、すぐに頭を切り替えて、私の質問について考え始めてくれたようだった。 だが。

 

「ごめん、わからない」

 

わからなかったようだ。 まぁ、別にだからと言って何かあるわけでもないし、そもそも、この質問にはそこまで大した意味はない。 ただ、話を始めるきっかけにすぎない。

「赤と青と緑の3色を混ぜると黒ができる」

 

私はあの人の記憶を懐かしむように思い出す。

 

「エレミアは昔、3つに分かれていた。 炎熱変換した魔力を使って武器を作る赤。 その武器を手に取り戦場に出る青。 そして、傷を癒す緑」

 

あの時は、良かった。 皆、仲良く手を取り協力し合っていた。

 

「1つの国にその3つの勢力があった。 お互いの勢力のリーダーであった仲が良く、それらは協力し合い、国を豊かにしていった。 だけど、あることがきっかけで、3つの勢力は敵対してしまった」

 

お姉ちゃんから聞かされた昔話。 私はこの話が嫌いだった。 誰も幸せにならない、残酷な話だったから。だけど、今は違う。 あの人の記憶を持ったから。 あの人の気持ちを知ったから。

 

「やがて、争いが始まり、国は荒れ果てていった」

 

チャンピオンは静かに真剣に私の話を聞いてくれている。 紅葉もいつの間にか目覚め、起き上がっていて心配するような目で私のことをみている。 頭を撫でようかと手を伸ばそうとして、やめた。 両手が包帯でグルグルで撫でられないと思ったから。それが少しもどかしい。

 

「争いが終わったのはそれから1年後のことだった。緑の勢力のリーダー出会った女が倒され、その後、赤の勢力のリーダーも戦いの最中、行方不明になった。争いに勝利した青の勢力のリーダーは生き残った者たちを1つにまとめ上げ、国を復興しようとしたが無駄だった。 そして、1人、また1人と国を離れていった」

ここに来てからわかった。 お姉ちゃんの話が嘘ではなく、作られた話でもなく、本当のことだということが。

「これで、話はおしまい。 まとめ上げた時の色が黒。 離れていったから土地がない流浪の民。 つまりはそういうこと」

 

ふぅ、と1回、息を吐き出す。 こんなに長く話したのは久しぶり。 昔から口数はそこまで多い方じゃなかったから。

 

「なんで、そんなに私の家のこと詳しいん?」

チャンピオンからの質問。 内容は聞きたくて当然のこと。 だけど、その質問は私の話を信じてくれているということ。だから、私も隠すようなことはしない。

 

「私はエレミアの子孫だから」

 

やっぱり、チャンピオンは一言、そう呟いて俯いた。噂では、エレミアの子孫はもうほとんど残っていないらしく、チャンピオンとその家族だけになっているらしい。だからか、何か思うところがあるのかもしれない。

 

しん、と静かな部屋の中でなんだか、居た堪れない気持ちになった私は何か話題はないかと全力で頭を回していた。

 

「君は、炎熱変換資質を持ってるから『赤のエレミア』ってゆーんでいいんよな?」

 

何か口にしようかと思ってた矢先に、突然、チャンピオンが顔を上げてそう聞いてきた。 いきなりだったので、びっくりしてしまったが、うん、と返事を返すことはできた。

 

「つまり、私と君は親戚?」

「そ、そういうことになるね」

チャンピオンが身を乗り出すように近づいてきた。 その目はなんというか、キラキラしたものになっていた。

 

「私、さっき生物型のデバイス欲しいーゆーたろ?」

「うん」

「実は、妹も欲しかったんよなー」

 

あ、これはやばいやつかも。 そう思っても、もうときはすでに遅くて、ベットの縁に腰掛けていた私の背中に回り、そのままホールドされた。

 

「いつもなーヴィクターになー娘扱いされるんよー! だからなー私も年下の妹みたいな子がいて欲しかったんよー!」

 

頭を撫でながら、そう言ってくるチャンピオン。 腕が動かせない状態の私はなす術がなく。

 

「チャンピオン、やめて」

 

そう言って、抗議するしかなく。 だけど。

 

「ジークって呼んでねーな」

 

全く聞いてくれない。 「私にはもうお姉ちゃんがいるんだけど」 と言っても「親戚のオネーさんやから関係あらへん!」と言われてしまった。

誰か、助けて。 そう願ったゆえか、救世主は、現れた。

 

「失礼、入りますわよ」

「え!? ヴィクター!?」

 

ガチャリと扉を開けて部屋に入ってきたのはヴィクトーリア・ダールグリュン選手だった。たぶん、彼女が1番最初に見た光景は我が子が両腕が塞がっている少女を襲おうとしている様だろう。

 

「ジーク? 何をしていますの?」

「え、あの、いや、これには……」

「問答無用! そこに直りなさい!」

 

しばらく私はジークの説教を聞きながら寝る羽目になってしまった。

あぁ、紅葉が暖かい……



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高町家にて

閲覧ありがとうございます。

久々に書いたので少し紅音のキャラがブレているような気がしますが、ご了承ください。



「紅音ちゃーん! 迎えに来たよ〜! ってあれ? どうしたの?」

「なのはぁ…… 助けてぇ……」

「大丈夫やで〜! お姉ちゃんがちょーとばかし紅音の髪を弄るだけやからな〜」

「ジークの言う通りよ。娘の髪を整えるのも母親の務め。一般常識ですわよ?」

 

私は今、前髪をジークに弄られ、後ろはヴィクターに抱きしめられながら髪を結んでは解いてと遊ばれている。そもそもこうなったのは10分ぐらい前にジークが言った一言から始まった。

 

「それでジーク? その子とはどんな関係なんですの?」

「私の妹や!」

「妹……? ジークに妹がいるなんて聞いたことないわよ?」

「そうなんやけど……でも! 紅音は私の妹やで!」

 

と、こんな感じに話しているのを寝ながら話半分に聞いていた。 そして、2人の話がヒートアップして声が大きくなり、寝れなくなった私はとりあえず起きたのだが、私の髪が寝起きでボサボサだったらしく「娘がだらしない格好をしていてはこのヴィクトーリア・ダールグリュンとしての名が廃りますわ!」とか言って現在、こんな感じになってしまった。かなり端折ってしまったがだいたいこんな感じ。 とりあえず言えることは、私はヴィクターの娘ではないし、ましてやジークの妹ではない。 まぁ、確かに遠い親戚ではあるのだけれど。

 

「え、えっと…… お取り込み中のようだし、私、車の中に戻るね? 紅音ちゃんはそれが終わったら駐車場に来てね! 待ってるから〜」

「待って、なのは! 私も行く!」

「ダメです。紅音はまだ支度が整っていませんもの。 帰る時も身だしなみを整えるのは淑女の嗜みでしてよ」

「せやで。 そんな時間はかからへんから、大丈夫や!」

 

そう思いたいのはやまやまなんだけど……

 

「ジーク。 ツインテールと三つ編みどちらがいいかしら?」

「ん〜。間をとっておさげってどうや?」

「それはいい考えね」

 

これは長いやつだ。 私にはそう確信できるものがある。 だって、目が私の髪を弄るときのヴィヴィオとコロナのあの、キラキラとした目にそっくりなんだもん。

 

「早く終わってくれないかなぁ……」

 

結局、この後1時間ぐらい髪を弄られて、満足した2人から開放された。

 

 

▽▽▽

 

 

「あははは…… それは大変だったね、紅音ちゃん」

「うん。本当にそう。こっちが両腕を使えないことをいいことに……ッ!」

次に試合で当たった時は絶対にボコボコにしてやる! そう思う私だった。

 

「紅音ちゃんの前髪を弄ってた黒髪のツインテールの子が今日戦ったチャンピオンなんだよね?」

「そうだよ」

「最初見たとき、試合中とは別人で誰かわからなかったよ〜」

「そうかな?」

「うん! もっとキリッとしている印象だったかなぁ」

そう言われて、試合中のジークと私の前髪を弄っている時のジークを思い返してみる。 どっちも変わらない。 私としては楽しそうにしている印象しかない。 ガイストを使った時と部屋に入ってきたときは暗い表情をしていたけど、約束したから、それは大丈夫だと思う。

 

車の窓から外を見ると家の近所まで着いていた。 もう5分もしないうちに着くだろう。

 

「そういえば、腕はいつ頃治りそう?」

「確か……左腕はヒビだけだから、明日には大丈夫だろうって。右腕はわかんないけど、明日またシャマルに診てもらうことになってる」

 

いくらヒビだからって1日、2日で治せる魔法って凄いなと思わざるを得ない。 地球で骨折すればそんなもんじゃ治らない。 魔法が改めてどんなものか思い知らされた。 その分、代償もあるわけだけど。

 

「送って行こうか? はやてちゃんの家だよね?」

「ノーヴェが送ってくれるって。 それぐらいはやらせてくれって、さっきメール来た」

「わかったよ〜。 さぁーて! 我が家に着いたよ〜」

 

車を車庫に入れてから車を降りる。 外の風はまだまだ生暖かくて、私がここに来てからそんなに時間が経っていないんだな、と感じさせる。

 

「紅音ちゃん? 中に入らないの?」

「待って、今行く」

 

こっちの生活は楽しい。ただ、私の家族がどうしているのか、今はそれが気がかりだ。 そのぐらいの余裕はできた。

 

「なのはママ〜! これで大丈夫かな〜?」

「すいません! 私のやつも見てもらっていいですか?」

「うん。上手にできてる! 2人ともバッチリだよ!」

「「やった〜!!」」

 

家の中に入り、着替えを持って風呂場に行く途中にそんな賑やかな声が聞こえてきた。 ヴィヴィオとコロナが何か作っていた様子だった。 なんだろう、とキッチンの方を覗こうとしたけど、フェイトに「紅音は先にお風呂に入らないとね〜」とそのまま風呂場に連行されてしまった。

 

とりあえず、今は身体の疲れを癒すのを先決にしよう。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「今日はなのは特製、紅音ちゃんの好物の和食御膳でーす!」

 

今日の夕食に出てきたのは和食だった。 白米、豚汁、切り干し大根、豆腐ハンバーグと魚の煮付けに玉子焼き。後はご飯のお供に味付け海苔だった。 高町家では基本的に洋食の方が多い。 なのはの実家がカフェだったり、こっちでは米が少し高かったりで和食の出る機会が少ないのだ。

 

「今回はなんと! ヴィヴィオとコロナちゃんがほとんど作ってくれました!」

「えへへ〜」

「頑張りましたっ!」

「凄い、2人とも」

 

私は素直に2人を褒める。見た目からも美味しさが伝わってくる。 白米のふっくらした感じとか、玉子焼きのキレイな形とかだ。 きっと、煮付けの柔らかさも煮崩れしないいい具合な感じだろう。

 

明日に学校がないからか、コロナは泊まっていくそうで、本日は5人での夕食だ。 私の隣にはヴィヴィオとコロナ。 向かい側にはなのはとフェイトがいる席順だ。

「そういうことで、食べよっか?」

「せーの!」

「「「「「いただきまーす!」」」」」

 

とは言ったものの。

 

「私、どうやって食べればいいの?」

 

今日は両腕が塞がっていて箸は持てない。 さっきまで美味しそうな料理にテンションが上がって忘れていたが、どうすればいいのだろう?

 

「あーうん。頑張って! 紅音ちゃん!」

「私たちのことは気にしなくて大丈夫だからね!」

 

なのはとフェイトのよくわからない言葉に首をかしげる。 だが、その意味は隣から突き出された料理を見て、わかった。

 

「はい、あ〜ん」

「ヴィヴィオ……?」

 

私が箸で摘んでいる料理をまじまじと見ていたらヴィヴィオはもう一度「あーん」と言って私の口元にその料理を持っていく。

 

「えっと、あーん」

 

料理を口に含みながら、状況を理解する。 多分、自分で食べられないなら誰かが食べさせればいい。 そういうことでこの配置なのか。 つまり、コロナからも来るのか? そう思ってもう片方を見ると。

 

「はぁ……はぁ……ッ!」

 

今にも鼻血を出してしまいそうなふにゃけた顔をしているコロナがいた。 本能的に危険を察知して、ヴィヴィオの方に向き直る。 あれは関わっちゃいけない。そう思わせる何かがあった。

 

「あーん」

「美味しい」

「ありがと〜。次は何がいい?」

「それじゃあ、玉子焼きで」

「これが良さそうかなぁ。 はい、あーん」

「あーん」

 

こんな感じで今日の夕食は進んでいった。 3人に見られながら食べさせられるのは恥ずかしかったけど、美味しいから良しとしよう。 うん。 そうしないと顔の火照りが収まりそうにない。

 

「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」

 

夕食も終わり、各々、片付けやお風呂など動き始めた。 後は寝ることしかすることがない私は紅葉を連れて、庭に出た。

 

「負けちゃったね。紅葉」

「くーん」

「心配しないで。 負けたのは悔しいけど、死ぬわけじゃないし。 また来年、チャレンジ出来るから。 私ね。 腕が治ったら一度、海鳴に戻ろうと思ってるんだ。 紅葉もついてきてくれるよね?」

「わん!」

「ありがとう」

 

少しだけ思い出した、あの時の記憶。 海鳴に行けば何か思い出すかもしれない。 そう思いながら、私は夜空を見上げる。

 

「あの日も、こんな綺麗な夜空だったな……」




しばらくはほのぼのが続きます。 それが終わったら進級かな?


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スプールスに里帰り

閲覧ありがとうございます。

本当はヴィヴィオ辺りを中心として書こうと思ったのですが、思いつかずこうなりました。 次こそは! と思ってるんですけどね……


「それじゃあ、行ってきます」

「気おつけて行ってらっしゃい。 エリオとキャロによろしくね」

「うん、わかった。……フェイトおばあちゃん」

「あ! ちょっと!? 紅音!?」

 

フェイトの制止を聞かず、私は家を飛び出す。 あの日、試合に負けてから1週間が経った。 次の日に受けた診察では左腕は問題なく完治し、右腕は1ヶ月ぐらいはかかるだろうという結果だった。 シャマル曰く「あの技を戦場で受けていたら右腕は千切れていた」と言われた。記憶には千切れるどころか消滅している人もいたはずなので、運がよかったと言わざるをえない。

「えっと、この船で良いのかな?」

 

あの日はあの日で楽しかった。 アギトがほとんど私と紅葉にベッタリだったからシグナムが嫉妬で怒り狂ってみんなで止めたり、リインに魔法を習ったり、ザフィーラとヴィータには戦闘時の立ち回りや戦術を学んだ。見学の時に見たミウラという人のパワーがとてつもないことが印象に残っている。後ははやて特製鉄板焼きが凄く美味しかった。 さすが関西人。

 

『間も無く、スプールス行きの次元船が発車します。もうしばらく座ってお待ちください』

話は変わって、今日から二泊三日、1日だけ余分な休みを挟み、私はスプールスに帰ることになった。 ほとんど実家に帰るようなものだ。だが、まず第一の目的は私が落ちてきたところに何か残っていないか調べることだ。 たぶん、ほとんど調べられていると思うが、もしかしたら、があるかもしれない。 それを求めて、私はスプールスに行く。 当然、エリオとキャロに会いに行くのも目的なんだけどね。

 

『間も無く、スプールスに到着します。 降りる際はお忘れ物がないよう、ご注意ください』

 

これが、ここからが私の第一歩。 あの日、何があったのか思い出すための、第一歩。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

スプールスに着いた時には空は真っ暗になっていた。 2人ももうすでに仕事が終わっていたらしく、迎えに来てくれた。

 

「ただいま、お父さん、お母さん」

「あはは…… 紅音、さすがにそれはやめよう。 僕たち、3つしか変わらないんだからさ」

「そうだよ!? 私たちまだ13歳なんだよ!?」

「一応、こっちの戸籍上は私の親。 呼び名的には間違ってない」

 

こっちに来た時に私は新しい戸籍を持った。 理由は簡単。 元々の私の戸籍は既に死亡扱いになっていたからだ。その際、私の親は海鳴を離れていることを聞いた。 それに消息も分からないらしい。 だから、今までは特に何も調べてこなかったが、まずは、第一歩として、こっちの世界から調べようと思った。

 

「まぁ、そうなんだけどね…… よしっ! 明日は僕たちもお休みが貰えたから、今日はゆっくり休んで、明日に出かけようか?」

「うん。そうする」

「あ、じゃあじゃあ、 紅音ちゃん! 一緒にお風呂に入りに行こう?」

「いいよ。でも、ちょっと待って。 荷物置きに行かなきゃ」

「大丈夫だよ。それぐらい僕がやっておくから。紅音はキャロとゆっくりしておいで」

「そう? それじゃあ、お願い」

その場で手早く下着と寝間着と石鹸を用意する。 取り出すだけなので、そこまで時間はかからないが片腕だと少しやりづらった。 結局、キャロが手伝ってくれたんだけどね。

 

「エリオ。 紅葉とこの荷物、よろしく」

「任せておいて」

「それじゃあ、行ってくるね! エリオ君!」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい。 こらこら、フリードはこっち」

エリオ、紅葉、フリードに見送られながら私とキャロは風呂場に向かった。 そこまでの距離はなく、少し歩くだけで着いてしまった。

 

ここのお風呂はそれなりの大きさがある。行ったことはないが日本にある銭湯などを想像したらいいだろうか、だいたいあんな感じだ。

 

「片腕だとやりにくいよね? 私が洗っていいかな?」

 

キャロが洗いにくそうにしていた私を見て気を使ってくれた。

「いいの? お願い」

「任せて! じゃあ、まずは頭から〜」

この1週間、髪やら背中やらを洗ってもらうことが多い。 と言うより、ヴィヴィオが私が入っているときに無理矢理風呂場に乗り込んでくる。 前々から言ってくれればいいのだけれど、いつも突然過ぎてビックリする。そういうイタズラ好きなところとかに、やっぱりなのはの娘なんだな、とそう感じる。

 

「明日の予定はもう決まってるの?」

 

髪も体も洗い終わり、湯船にゆっくりと浸かりながら明日の予定を確認する。

「午前中に調べておこうかなって。 折角、こっちに来たからゆっくりしたいし」

「うん。わかった。終わったらピクニックでもしようか? 私、張り切ってお弁当作っちゃうよ!」

「本当? 期待してもいい?」

「うん! 何がいいかな〜」

 

その日1日は2人とともにのんびりと過ごした。 ノーヴェに「いい機会だから、この際しっかり休んどけ。 だけど、治ったらみっちり練習だかんな」と言われたので、これはこれでちょうどよかった。 紅葉もフリードと仲良くなれたようだし。 遊んでいるその姿はとても微笑ましいものだった。 そして。

 

明日、何か見つかるといいな。

 

そう思いながら、私は眠りについた。

 

再び夜が明け、時間は経って。私たちはあの場所を訪れていた。 私が見つかったあの場所に。

 

「どう、紅葉。何かありそう?」

 

そう問いかけるが紅葉は首を横に振った。

 

「そう、わかった。 2人の方はどう!」

「こっちは何もないよ!」

「こっちも!」

 

少し離れた位置で調べてくれている2人にも聞いてみるがいい結果は出ていないようだった。 この辺りを調べ始めてからもう2時間以上経過している。 三方向に分かれておかげで、もうほとんど調べ尽くしたはずだが、まだ何も見つかっていない。

 

「はぁ…… 紅葉。 2人を呼んできてもらえる?」

 

そろそろ切り上げようと思い、紅葉にそう頼む。だが、返事が返ってこない。 不審に思った私は一旦周りを見渡す。紅葉の姿はそこにはなかった。

 

「紅葉ー どこー」

 

少し周りを歩いてみたが、紅葉がいない。 こういうことが今までなかったためか、私はひどく動揺した。

 

「紅葉!? どこなの!?」

 

その私の声に気づいて、エリオとキャロが来てくれた。 そして、一緒に探してくれたが、紅葉は見つからなかった。

 

「僕はもう一度上から探してみるよ。 フリード、行こう」

「大丈夫だよ。 きっと見つかるよ」

「うん……」

 

またしばらく歩いて探す。 そして、30分後、やっと紅葉を見つけることができた。

 

「紅音! ここから50メートル先に紅葉らしきものを見つけた!」

フリードに乗り、上から探してくれていたエリオが見つけてくれた。

 

「紅音ちゃん! 急ご!」

「うん!」

 

地面の感触を確かめる。 うん。 大丈夫そう。

 

「キャロ、ちょっとごめん」

「え? きゃっ!」

 

キャロを左腕で抱える。 キャロは軽いから私でも持てる。 だから、50メートルぐらいなら、こっちの方がいい。

 

「点火」

 

一瞬目の前が真っ白になる。 それに、圧力で右腕が痛む。 だけど、そんなこと気にしていられない。

 

「紅葉!」

「わん!」

 

紅葉を見つけた時点で踵で滑るように減速し、止まる。 そのまま、目を回しているキャロを紅葉を見つけた嬉しさでその場に落としてしまった。

 

「う〜ん……」

「あ、ごめん、キャロ」

 

空から降りてきたエリオにキャロを任せ、私は紅葉に小走りで駆け寄る。

 

「よかった……」

「わん!」

「それ、どうしたの?」

 

紅葉が持っていたのはクリスタル状の何かの破片だった。

 

「あれ? これ、どこかで……」

 

……ダメだ。思い出せない。 けど、私はこれが、何かのキッカケになる。 そう思った。

 

「ありがとう、 紅葉。 これで少しは進展しそうだよ」

 

私はその破片をそっと、ポケットの中にしまった。

 

 

▽▽▽

 

 

「本当に大丈夫? 専門の機関に調べてもらった方が……」

「大丈夫。これぐらい、自分で調べてみせるよ」

 

結局、紅葉が見つけた破片しかめぼしいものもなく、調査もそこそこに、私たちは一度、寄宿舎に戻ってきた。そして、2人の反対を押し切り、あのクリスタル状の破片は私が自分で調べることにした。 あれを他人の目に渡してはいけない。 そんな予感がしたから。

 

「無理はしちゃダメだよ! 何かあったら私たちに相談!」

「うん。 そうするつもり」

自分で調べると言っても専門の機材がなければ何もできない。だから、そこらへんは相談しないといけない。だけどとりあえず今は。

 

「みんな、準備はいい?」

「お弁当よし!水筒よし! シートよし! 着替えにタオルに雨具よし! いつでもいけるよ〜!」

「出発」

「わん!」「キュ〜!」

 

みんなとピクニックを楽しもう。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「紅音、気をつけて帰るんだよ」

「フェイトさんによろしくね!」

「うん。 ありがとう2人とも」

 

スプールスに来てから2日が経ち、私はミッドチルダに戻ることになった。楽しかった時間はあっという間に過ぎた。

 

「今度休みができたら僕たちの方がそっちに遊びに行くからね」

「今度はみんなでショッピング!だね!」

「楽しみにしてるよ。 それじゃあ、時間だから。もう行くね。 おいで、紅葉」

 

2人に別れを告げ、次元船に乗り込む。 ここに来てよかった。 そう思いながら、膝に乗せた紅葉を撫でながら、外の景色を眺めながら、私はこれからのことについて想いを馳せた。



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高町ヴィヴィオの1日

閲覧ありがとうございます。

今回はオチも何もない日常回です。 ヴィヴィオの回想として書いているので、少し読みにくいかもしれません。 ここら辺が読みにくいなどがありましたら、教えてくれると助かります。


「紅音! 朝だよ! 早く起きて〜! 学校に遅刻しちゃうよ〜!!」

「ん……あと5分……」

 

紅音がスプールスから帰ってきた次の日、案の定と言うか、紅音は起きてこなくて、結局、いつも通り私が起こす羽目になったのですが……

「なのはママ〜! 紅音起きないよ〜!」

 

余程疲れていたのか全く起きる気配が全くありません。 いつもだったらもう少し起きやすいのですが……そういうわけで! 今回は対紅音起こしヴィヴィオ最終兵器! なのはママを呼ぶことにしました。 紅葉を作っていた時などはいつもこんな感じだったので私が呼んだらすぐになのはママは来てくれました。

「もう、いつも言ってるでしょ〜。 紅音ちゃんを起こすときはこうやって、よいっしょ! 一気に布団を取り上げるのが1番早いんだよ〜」

「お〜!! パチパチ」

「う〜……」

 

紅音の一瞬の隙をついてなのはママは一気に紅音が包まっていた布団を剥ぎ取りました。それはもうプロの技です。 布団を剥ぎ取られた紅音はしばらく、紅葉を抱いて暖を取ろうとしていましたが、とうとう観念したのかゆっくりとした動作で起き上がりました。

 

「おはよう……」

「う、うん! おはよ〜」

 

紅葉を胸に抱きながら半目で目を擦っている紅音は私より年上ということを忘れてしまうぐらい可愛いんです! なんなんでしょうか? こう……守ってあげたくなるような感じでしょうか? 合宿の時にコロナが紅音のこの表情を見て鼻血を出したのはナイショです!

 

「じゃあ、ヴィヴィオ。 ママは先に下に戻ってるから、紅音ちゃんの着替え手伝ってあげて」

「はーい!」

 

まだ寝惚けている紅音を起こして、着替えを手伝います。片手だけじゃあボタンが締めにくいですからね。

 

「早く治らないかな」

「体、鈍っちゃうもんねぇ」

「うん。 それに、着替えられないし、食べづらいし、お風呂入りにくいし」

「あはは……」

 

話しながら2人一緒にリビングに行きます。テーブルの上にはもうすでに朝食が準備されていました。 パン、ベーコン、スクランブルエッグに色とりどりのサラダ。 とても美味しそうです。

 

「ふぅ…… これは食べさせられなくて済む……」

 

隣にいる紅音がぼそりと言った言葉が私の耳に入ってきました。 これを逃す理由がありません。

 

「紅音……その、迷惑だった……かな?」

「え!? い、いや、別に、そういうわけじゃ……」

「紅音のためを思っての行動だったんだけど、迷惑だったよね? ごめんなさい……」

「謝らないで。 ヴィヴィオが私のために色々とやってくれてるのはわかってるし、嬉しいし、感謝もしてる。 ただ……慣れてないから……ちょっと恥ずかしくて……」

 

顔を真っ赤に染めながらそう言う紅音は可愛くって。 イタズラが成功した私はつい顔をニヤけさせてしまいます。 その顔でバレたのか紅音が更に顔を真っ赤にしながら。

 

「ヴィ〜ヴィ〜オ〜!」

「えへへ〜。 ごめんなさ〜い!」

 

2人してリビングの前でふざけていたらママからのお叱りの言葉が飛んできました。 早く朝食を済ませないと本当に遅刻してしまう時間になってしまいました。 私たちは急いで、それでもしっかりと味わって朝食を食べ、学校へと向かいました。

 

 

▽▽▽

 

 

 

「コロナ〜! おはよー!」

「おはよう、コロナ」

「こぎげんよう、紅音、ヴィヴィオ」

 

学校の前で出会ったコロナを含め3人で教室まで向かいます。 紅音の教室は私たちの教室の少し奥なので途中まで一緒なんです。

 

「そういえば、2人は昨日のDSAAの試合は見た?」

「うん! 見たよ〜」

「見てないけど、ハリーが勝ったことだけは知ってる。 ガンガン連絡来てた」

「あー、あのメール、ハリー選手からだったんだ」

「そうだったんだ〜。 紅音、そのメール差し支えなければ見せてもらってもいいかな?」

「いいよ。 えーと……これかな」

 

ホログラムに映し出されたメールに書かれていた内容を要約するとこんな感じです。

 

『今日の試合見てくれたか? 5回戦突破だぜ! 次、勝ったら本戦だ。 お前の分までオレがジークをぶっ倒してやるからよ! 楽しみに待ってろよ!

P.S. 冬にミッドチルダで開かれる大会にオレは参加するつもりだからよ。 お前も腕が治ってたら是非、参加してくれよな!』

 

本当はもっと色々と書かれていたのですがだいたいこんなことが書かれていました。 絵文字もふんだんに使われていて、なんというか、ハリー選手って可愛い人なんだなーって考えたりします。

 

「ハリー選手って砲撃番長って呼ばれてて怖いイメージがあったけど、全然そんなことないよね〜」

 

コロナも私と似たり寄ったりの感じ方でした。 紅音はというと。

 

「偶に、なんであんな格好してるんだろうって思うときがある。 がっつり魔法少女っぽいの着てそうなのに」

 

なんか変な方向に向かっていました。

 

そんなこんな私とコロナは教室の前で紅音と別れました。 授業を受け、今は昼休み。 コロナと今日はどこで食べようかと話しながら紅音を教室まで呼びに行きます。 実は紅音のカバンには紅葉が入っているのでお弁当はいつも私が持ってたりします。 なので、最近は3人で食べることがほとんどです。

 

「すみません。 紅音いますか?」

 

扉の前の席の先輩に頼んで紅音を呼んでもらいます。

 

「紅音ー! いつもの子が呼んでるよー!」

「わかった。それじゃあ、また後で」

「はいはーい」

ここに来ると紅音はいつも誰かしらと一緒にいるので少し安心したりします。 紅音の交友関係って広いんですよねぇ。

「お待たせ。 どこで食べる?」

「天気も良いし、中庭とかはどう?」

「いいね。 ヴィヴィオもそれでいい?」

「うん! いいよ〜」

 

場所が決まったところで、中庭に移動しました。 多少混んでいたのですが運よく、1つ空いているベンチを見つけ、そこに座ってお弁当を食べます。

 

「はい、紅葉のはこれね」

「わん!」

 

サンドイッチを齧りながら、何気なくしゃがんで紅葉にご飯をあげる紅音を眺めていると、ふと、ある疑問が浮かんできました。

 

「ねぇ、コロナ。 ぬいぐるみ型のデバイスってご飯、食べれたっけ?」

「え? んー、どうなんだろ〜?」

 

そう、すっかり忘れていたのですが紅葉はデバイスなのです。 私の近くにぬいぐるみ型のデバイスがないからなのかも知れませんが、ご飯を食べるデバイスなど聞いたことがありませんでした。

そういうわけで、紅音にその疑問をぶつけてみました。

 

「なんで紅葉はご飯を食べるのかって? それは、アギトやリインと一緒だよ」

「どういうこと?」

「紅葉はぬいぐるみ外装のクリスタルタイプのデバイスだけど、実はほとんど本物の犬と同じ構造になってる」

「それって脳とか内臓とかってこと?」

「うん、そう。 だから、体を動かすためには栄養を取らなくちゃいけないからご飯を食べる。 ユニゾンデバイスと似たような構造だね」

「「へ〜」」

 

私とコロナ、2人して驚嘆の声をあげます。 正直、紅葉がそういう構造だとは知りませんでした。 初等部ではユニゾンデバイスについてなんて授業、ありませんからね。 高等部までいくとどうなのかは知りませんが。

 

「とりあえずはデバイスでも普通の犬と変わらないってことだよ。 さ、早く食べないと午後の授業遅れるよ」

そう言って、紅音は私たちに笑いかけてくるのでした。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「ん〜! あともう少しだ〜!」

「ふふ、お疲れ様。 ココアで大丈夫だったかな?」

「うん! ありがとっ!」

「それにしても、その日記、長く続いてるね〜」

「でしょー? もう最近なんて書いてないと落ち着かなくて〜」

 

この日記は初等部に入った時、学校で出ていた宿題の延長です。 最近の内容は紅音と遊んだことや、コロナと読んだ本の感想、ノーヴェが教えてくれた技や戦術。 その他にも様々なことを書いてあります。

 

「どれどれ〜? ママにも見せて〜」

「いいよー」

 

この日記を読んでいると私は私なんだ!という実感が湧いてきて…… 今では私の宝物の1つになっています!

 

「へ〜 こういう練習してるんだ〜。 あ、これとか使えそう」

「パクるの禁止〜!」

「えー ケチー」

「ヴィヴィオ、ケチじゃないもーん」

 

ママとのお話がひと段落したところで、本日の日記もあと少しです。 よし! 頑張るぞー!

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

学校も終わり、ノーヴェの時間が空いているということで今日は練習があります。 なんやかんやみんなで最後に練習したのは1週間以上前の話です。

 

「紅音はヴィヴィオを見ておいてくれ。 コロナはあたしと練習だ」

 

練習に参加できない紅音は私のパンチを見てくれることになりました。

 

「ほっ! やぁ! はぁ!」

 

ミットなどは使わずにひたすらにシャドーを繰り返します。 勿論、相手のイメージは紅音です。 避ける。避ける。打つ。避ける。 その繰り返しです。

 

「ストップ。一旦、休憩」

「ふぅ。 3分間打ちっぱなしってなかなかキツイんだねぇ〜」

「魔法戦競技は4分間なんだけどね。 でも、最初からそこまで長く出来ないから徐々に長くしていくよ」

「はーい!」

今日は3分シャドーをし、1分休憩。 それを今回は2回で1セットとし、3セット行いました。 終わった頃にはもうヘトヘト。 足は動かない、腕は持ち上がらない、そんな状態でした。

 

「紅音の見てたらもう少し楽そうだったんだけどなぁ〜」

「ヴィヴィオはちょっと腕が大振りなんだよ。 もっと1回をコンパクトに。 しっかり腰と背中を使ってやらないと」

「うぅ〜 もうちょっとだけ待って……」

「休憩は長めに取ってるからゆっくりしてて大丈夫だよ。 じゃあ、私はコロナの方見てくるね」

 

そう言って紅音はコロナとノーヴェがの方を見に行きました。 1人残された私は息を整えてから先ほど紅音が言っていたことを頭の中で反復させながら、パンチを出します。

 

「えっと、コンパクトに腰と背中をつかって…… うーん……」

 

ワン、ツー。ワン、ツー。 ワン、ツー。

 

何回か繰り返しますが、なかなかコツが掴めません。

 

「うーん……」

「ヴィヴィオ」

「え? あ、もう時間?」

 

気づいたら練習を再開する時間になっていました。 私はこの疑問てモヤモヤした気持ちをぶつけてみました。

 

「ねぇ、紅音? さっき言ってたことってどういうことなの?」

「そうだね……じゃあ、はい、 ヴィヴィオ。 ここにヴィヴィオ渾身の右ストレート、打ってみて」

「う、うん。 わかった」

 

紅音の意図はわかりませんが、言われた通りに今の私の力を込めて、この一発に集中します。

 

「行きます! すぅ……はぁ!」

 

私は紅音が出した左手に向かって右ストレートを打ち出します。 パァン! という甲高い音がしたのですが……

 

「あ、あれ?」

 

紅音の左手は何かに押さえつけているように、全く動きませんでした。

 

「もっと脇締めて」

「こ、こう?」

「うん、そう。 今度はその構えのまま打ってみて」

「いっくよ〜! えいっ!」

 

今度は先ほどとは全く違いました。 突き抜けるような、そんな感覚が腕に伝わり、音もそれに合わせてドンッ! というような感じになっていました。

 

「すごーい!! なんかこう威力が倍になった!って感じだよ!」

「ヴィヴィオの場合、スタンス自体が広いからパンチを出すときに体が開いて威力が分散しちゃうの」

「そうなんだ〜」

「蹴りも使うから仕方ないとは思うんだけどね。 だから、ここぞというときにでも使ってみてよ」

「うん!」

 

私の欠点はノーヴェに言われているように魔力量が少なく、一撃の威力が低い。でも、これで突破力が大きくなれば戦術に大きな幅が生まれます。 たぶん、ノーヴェはこれがわかってて今日、紅音を私に付けたんだと思います。

「ねぇ、もっと練習してもいいかな?」

「もちろん。 片手だけどけど、ミット借りてきたから」

「流石、紅音! それじゃあ、よろしくお願いします!」

「まずは確認しながらやろうか」

「押忍!」

 

この後の練習でだいぶ感覚を掴んだと思います。 まだ実戦に出せるようなものではないですけど、来年に向けて、頑張ります! 目指すは大好きな2人と勝ち上がることです!

 

 

▽▽▽

 

 

 

「終わった〜!」

「お疲れ様」

「え!? あ、紅音!? 部屋で寝てたんじゃないの!?」

「こんなに早くは寝れないよ。 今、ちょっと調べてるモノがあって。 疲れたから休憩しようと思って」

「へ、へ〜 そうだったんだ〜 」

「うん。 なのは、私にもココア貰える?」

「いいよー ちょっと待っててねー」

 

なのはママは台所に紅音は私の隣の椅子に腰掛けました。

さっきの日記には紅音のことについて多く書いていたので妙に恥ずかしくなってきて……

 

「ヴィヴィオ」

「ひ、ひゃい!」

「えっと、なんかソワソワしてるけど大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ〜!」

「そう? それならいいんだけど」

上手くはぐらかすことができたことに一安心です。 今朝、似たようなことで紅音をからかったので余計でした。私はこの話題から話を逸らすためにさっき紅音が言っていたことについて聞きます。

 

「紅音。 今度は何を調べてるの?」

スプールスで何か見つけたのでしょうか? 昨日は時間がなくて聞けませんでしたから、私は知らないんです。

 

「これだよ。 スプールスで紅葉が見つけたやつなんだけど」

紅音がポケットから取り出したのは宝石のような破片が入っているケースでした。

 

「綺麗だね〜」

「うん。 今はそれが私とどんな関係があるのか全くわからないけど、紅葉を信じて、頑張らないとね」

「私にも何か手伝えることがあったら言ってね! いつでも手伝うよ!」

「そうさせてもらうよ」

 

私はこの時、この破片が原因で紅音があんなことに巻き込まれるなんて夢にも思いませんでした。それが起こるのはもっと先の未来でのこと。 だけど、今は何も変わらない、いつもの日常を過ごしている。




次回は1ヶ月経った話の予定です。


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決闘

閲覧ありがとうございます。

先に言っておきます。 タイトル詐欺です。 戦うのは次回です。 すみません。


「貴様ァッ!! 私が勝ったらアギトを返してもらうぞ!!」

 

シグナムのその言葉を聞いて私は、今日何度目かわからないため息を吐いた。

 

「ど、どうすんだよー!マイスター!」

「お、落ち着いてください! アギト!」

流石のこの事態にいつも元気なアギトがオロオロとしている。 それにつられてリインもオロオロとしているが。

 

「どうしてこんなことになったんだっけ……」

 

思い返すのは数時間前、たぶん、私が八神家を訪れたところから始まった。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

季節は夏から秋へと変わり、あの日から1ヶ月が経った。 この1ヶ月であったことと言えば、まず最初はマリアージュ事件だろう。 詳細はよくわからないが、冥王イクスヴェリアが関係しているのだけは聞いている。大事件だったのかもしれないが、私にとってのマリアージュ事件はイクスという友達ができたぐらいの印象しかない。 今の彼女は聖王協会で眠りについている。 私の予想ではそう遠くないうちに目覚めるだろう。

 

次に先日、DSAAの各ブロックの決勝進出者が決まった。 私の知り合い、ジークとヴィクターにミカヤにハリーが残っている。 私も来年には…… そう思いながら試合を観る日が続いている。

 

そして、今日はついに私のギブスが取れる日なのである。 来週に学院祭があるから、結構ホッとしている。

 

「やっと練習できるようになるね、紅葉」

「わん!」

 

頭の上に紅葉を乗せ、海岸沿いを歩く。 目的地は八神家。

今日は休日なのだが大人組は全員用事があり、送ってもらうことができなかった。 なので、今日は私と紅葉の2人で電車を乗り継いでここまで来た。ちなみに、紅葉は本物の動物ではないから別料金だったり、ゲージに入れないといけないとかはなかったりする。

 

「今日もやってるね、八神家道場」

 

ザフィーラを先頭にその後ろを多くの少年少女たちが走っている。 いや、1人だけザフィーラの前を爆走している少女がいるか。

 

「おい! ミウラ! 始まったばっかりだ! スピードを落とすんじゃない!」

「は、はい!!」

 

ミウラ・リナルディ。 八神家道場の期待の新人。私やヴィヴィオとは真逆の強打者。 来年のDSAAには参加すると聞いているので楽しみだ。 当たれば、の話だが。

 

「それじゃあ先を急ごうか、紅葉」

「わん!」

 

ここまで来ればあと少しで八神家に着く。 私は駆け足で八神家へと足を向けた。

 

「待ってたぜ! マイスター!」

「お待ちしてたですよ〜」

「お出迎え、ありがとう。 アギト、リイン」

 

アギトとリインに迎えられながら八神家に足を踏み入れるやいなや、甘い香りが漂ってきた。

 

「今、はやてちゃんが道場のみんなのためにお菓子を作ってるですよ〜」

「あたしたちの分もあるって言ってたからマイスターも一緒に食べよーぜー!」

「そうだね。 ところでシャマルはどこ?」

「部屋に色々と取りに行ってるですよ。 リビングにいて、って言ってたです!」

「わかった。 それじゃあ、お邪魔します」

 

アギトとリインに案内され、リビングへと向かう。 キッチンの方にいるはやてに一声かけてからアギトに勧められたソファに腰掛ける。

程なくして、救急箱やらハンマーやらが入った大きなカゴを持ってシャマルはリビングに現れた。

 

「お待たせしてごめんなさい。 それじゃあ始めちゃいましょうか」

「よろしくお願いします」

 

そう、確かここまではよかったはずなんだ。 アギトもリインも紅葉と遊んでたし、私はシャマルから諸注意を受けていたし、他に家の中には、はやてしかいなかったから。

 

「はーい、これで終わりですよ〜」

「長かった……」

「そうねぇ。 それじゃあお風呂湧いてるから入って行ってね!」

そう、ここから何か嫌な予感がしたんだ。 確かにずっとギブスをしていたから右腕は早く洗いたかったし、ここまで来るのにも遠かったから汗もかいていた。 だけど、シャマルのニヤニヤとした顔といいわざわざアギトとリインと風呂に入らしたり、何か怪しかった。 なんだか、誰かを思い出すようで。

「マイスター! あたしがマイスターの髪、洗ってもいいか?」

「ん、いいよ」

「やったぜ!」

 

のんびりと少女が3人と犬が1匹で風呂に入る。 リインは早速といった感じで自分好みに設定したお湯に浸かり、紅葉もそれに続いた。 私とアギトは先に髪や体を洗うことにした。

 

「なんだかこうしてると昔のことを思い出すなぁ」

「こんなことしてたっけ?」

「え!? 昔は毎日一緒に風呂にはいってたじゃねーかよ!? マイスターは覚えてねーのか!?」

そう言われても覚えてないものは覚えていない。あの人の記憶にアギトと風呂に入ったものはない気がする。 あれ? そもそもアギトってーー

 

「紅葉ー! そっちに行っちゃダメですー!!」

「よし、これでおわ……ちょ!? うわっ!?」

「アギト!!」

 

暑くなってきたのか、紅葉が湯船から飛び出した先には立ち上がりかけたアギトがいた。 ぶつかりはしなかったもののそのままバランスを崩して転んだアギトを私は支えようと私は……

 

「ふ、2人とも大丈夫ですか!?」

「私は大丈夫……」

「あたしも……」

 

どうやら、ギリギリのところでアギトの頭を保護することに成功したらしい。 私がアギトを押し倒しているようにも見えるかもしれないが、そこは気にしないようにしよう。

 

「ありがとう、マイスター」

「アギトが大丈夫そうでよかった」

 

ただ、これだけなら本当によかったのだが……

 

「今の大きな音はいったいなんだっ!?」

 

こんな状況でよりにもよって1番来てほしくなかった人が来たのは不幸としか言いようがなかった。

 

 

▽▽▽

 

 

そんなこんな、シグナムがあの状況を見て何か勘違いを起こし、決闘を挑まれた。その結果、八神家道場が開かれている砂浜での模擬戦が行われることになった。正直、怪我明けでいきなり試合はキツイ。それに、相手がシグナムだから尚更だ。

「私たちははやてちゃんと一緒に観ることにするです」

「立場上、あたしはどっちの応援も出来ないけど…… 頑張れよ! マイスター!」

 

そう言って2人ははやての元に向かった。 はやては八神家道場の生徒たちと共に見学。 ザフィーラは審判。 ヴィータはシグナムのセコンド。 つまり。

 

「私が紅音ちゃんのセコンドをやりまーす!」

 

シャマルが私のセコンドにつくということだ。

 

「えっと……どうかしたの?」

「別に」

 

無意識のうちにシャマルをずっと見ていたらしい。まぁ、いいや。

 

「後で話があるから」

 

どうせ後で問い詰めるつもりだったから、ちょうどいい。今は惚けているシャマルに釘を刺しておくだけにしておく。とりあえず今は……

 

「日野紅音ッ! いざ尋常に、勝負ッ!」

 

あの変な勘違いをしているであろうバカ娘に勝つことが先だ。

 



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決闘 その2

閲覧ありがとうございます。

進んでないです。


紅音とシグナムの戦いは両者互角の戦いとなっていた。シグナムはレヴァンティンのリーチの長さが仇となり、紅音は怪我明けのせいか身体のキレが少し悪い。それでも、2人のハイレベルな攻防は観るものを魅了していた。

 

▽▽▽

 

 

 

「は、はやてさん!! あの人、シグナムさんと互角に戦ってますよ!!」

「せやなぁ」

 

みんなが歓声を上げている中、私の隣にいるミウラは一際大きな声でその興奮を私に伝えていた。

 

「すごいなぁ……」

「後で話してみるか?」

「いいんですか!?」

「紅音ちゃん、いい子やからすぐに仲良くなれると思うで」

 

キラキラと輝いている目をしながら紅音ちゃんとシグナムの試合を観ているミウラは微笑ましく見えた。 それにしても……

 

「「ハァッ!!」」

 

紅音ちゃんは紅い鉄腕に包まれた拳を、シグナムはレヴァンティンを振り、ぶつけ合い、火花を散らす姿はあんな理由から始まったとは思えないほどに綺麗で美しいものだった。

 

「ミウラも来年は紅音ちゃんと戦うことになるかもしれへんで? よ〜く観て、学ぶところはしっかりと学ぶんやで?」

「はい!」

「いい返事や」

 

ミウラみたいに尊敬の眼差しを向けるものがいる中、逆に不安そうに試合を観ている者もいる。

 

「大丈夫やでー、アギト」

「な、なんだよ、はやて」

 

私は前にいる2人の頭を撫でる。

「ほら、2人の顔、よー見てみー」

きっかけは負の感情だったかもしれない。だけど、それだけじゃあこんな試合にはならない。 今の2人は楽しそうに、シグナムは口角を上げ微かに、紅音ちゃんは闘志むき出しの顔で、笑っている。

 

「楽しそうですね〜」

「リインもそう思うやろー? 確かに、きっかけはアギトの取り合いだったかもしれへんけど、今の2人はそんなこと忘れて戦いを楽しんでるはずや」

「うぅ〜 それはそれでショックだ〜!」

「まぁ、2人ともアギトのことが大好きなのは疑うことなく本当のことなんやけどなー」

 

シャマルが言ってた事が正しいなら、私は2人にはしっかりと仲直りして欲しい。

 

「フッ、もう降参か?」

「まだまだッ!!」

 

もう大丈夫だとは思うけどなー

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

今回の試合は病み上がりの私のことを考慮して3分1ラウンドの5ラウンド制だ。 試合ももう中盤。 次は第3ラウンドだ。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……シャマル、水……」

「どうぞ! でも、大丈夫? 凄く息が上がっているけど……」

「だい、じょうぶ……」

 

シャマルにはそう言ったものの実際のところ、かなりキツイ。 ペースは握られっぱなしだし、 未だ有効打すら与えられていない。 シグナムのあの剣捌きに身体が追いついていない。

 

「クソッ……」

 

水を頭からぶっかける。 ヒヤリと冷たい水が火照った身体に心地よい。 これで少し、冷静になる事ができた。

 

「シャマルからみて、どう?」

「うーん…… 押されている、としか言えないわ……」

「やっぱり、そうだよね」

 

練習不足、実践不足、怪我明け。 言い訳をしたらキリがない。だけど、そんなんじゃダメだ。

 

「やるっきゃない、だね。よしっ! 行ってくるね、シャマル」

「う、うん! 頑張って!」

 

勢いよく出てきたはいいが、実際のところどうする? あれを使うにしてもたぶん、チャンスは一度きりだ。 その一度で決めなくちゃならない。

 

「結局、力不足の私にはカウンターしか決め手がないよね」

「そんな気持ちで私に勝てると思っているのか?」

 

そんな私の独り言にもシグナムは目ざとく反応してくる。 まぁ、仕方ないとは思うけど。

 

「今の私じゃあ出来ることは限られてるから。 その中で全力で当たるだけ」

「なら、今のお前の力、私に見せてくれ」

「もちろん」

 

会話はそこらへんにしておく。 私の体力も限界だ。 ここで、決める。

 

「さて、新技試そうか、紅葉」

「わん!」



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決闘 3

閲覧ありがとうございます。


まずはどう動くか……

 

スピードで撹乱? 意表を突いて一気に? 様子見で砲撃? うん、こういう時は……

 

「前に出る!」

「そうこなくてはなッ!」

 

一気に加速してシグナムの懐に潜り込む。誘われている。 そう思わせられるほど簡単に潜り込むことができた。

 

……なるほどね。

 

この距離、あの人と同じ距離。 だから接近戦。 今の私の力がみたい。 本当に言葉の通りという意味か。 私の力がまだあの人には及ばない。 そんなこと自分でもわかってる。 だけど、私にだってボクサーとしての意地がある。

 

「この距離なら、負けないッ!」

「それはどうだろうなッ!」

 

左ボディ、柄頭で防がれる。そこから体重移動で右側へと移動し右ボディ。 これは右肘で防がれた。 次は飛燕で右ボディと見せかけてのアッパー。 これは大きくバックステップすることで避けられた。

……だけど、逃がさない。

 

点火して再度接近。距離を離されてはいけない。チャンスを作るのにはこの距離を保たなければならない。

 

留まるな。足を動かせ。 狙いを絞らせるな。 今はまだ。

ジャブでレヴァンティンを牽制しながらあわよくば大砲を狙い続ける。 プレッシャーを与え続ける。 そしてまた、近づいては離れ、近づいては離れ。 1分、それを続けた時、好機は訪れた。

 

「なかなか……攻めるタイミングが掴めんな……ッ!」

そう言ってシグナムは大きく後ろに下がった。

 

そろそろか……

 

ここが勝負どころ、そう決めた私は紅葉に短い指示を出してから一気に走り出す。同じ加速、同じ速度、同じ動き。

 

「もらったッ!」

 

シグナムが左から右へと横薙ぎにレヴァンティンを振るう。大きく下がって再び突っ込んできた私を迎撃するのが目的だったんだろう。 そんなことわかってる。だから……

 

「ッ!?」

 

罠を張った。残像という罠を。 1発を入れるために。今のシグナムには斬撃に全く手応えがなく、透けたように見えたはずだ。これで避けてから接近してくると踏んでいたであろうシグナムの行動を一瞬でも止めることができる。

 

「点火ッ!」

「まだだッ! レヴァンティン!」

 

シグナムがレヴァンティンを振り切る前に一気に突っ込む。だが、私はもうすでに大きなミスを犯していた。 それは単純に、残像を見せる位置がシグナムに近すぎたのだ。

 

連結刃へと姿を変えたレヴァンティンが大きくしなりながら左側から襲いかかってくる。 位置を間違えたことでシグナムがレヴァンティンを変形するタイミングが早まり、私自身も飛び出すタイミングが早くなってしまった。

 

「クソッ!」

 

点火している状態では動きは止められないし、方向転換できない。 慌てて左腕でカードの姿勢を取る。 一瞬の間、すぐに大きな衝撃が左腕にのしかかってきた。そのまま大きく吹っ飛ばされ、飛ばされたのは海の方角だった。

 

「紅葉!」

 

慣れない浮遊制御。着水するギリギリで浮くことに成功した。

 

「ありがとう、紅葉」

 

シグナムからの追撃はない。 私が飛ばされた時にドクターストップとばかりにシャマルがタオルを投げたのがチラリと見えた。

 

浮遊も安定してないことだし、ゆっくりと戻ろう。

 

そう思いながらフラフラと空中に浮きながら私はみんなのところへと戻っていった。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「惜しかったな〜 紅音ちゃん」

「なぁなぁ、どうしてシグナムはマイスターが近づく前に切ろうとしたんだ?」

「そうです! 今までシグナムがあそこまでタイミングを間違えたのは見たことないです!」

「あー、あれはなぁ? 蜃気楼、ゆーやつや」

 

蜃気楼、大気中の温度差で光が屈折して遠くのものが近くに見えたりする現象。 私は2人に、生徒たちにも聞こえるようにそのことを説明する。

 

「つまり、紅音ちゃんは温度差を考えながら戦ってた、ってわけや。 なかなかできる芸当ちゃうでー?」

 

私の言葉に子供達は様々な反応をした。そうそう真似できるものではないけど、いいものが見れたと思う。 シグナムも満足そうな顔をしてる。

 

「さてと、みんな〜! おやつにするよ〜!」

 

紅音ちゃんが戻ってくるのを待ってからおやつタイムの開始や!

 

 

 

▽▽▽

 

 

結局、今日は八神家に泊まることになった。遊んで食べて練習して、時間は経ってさっきまで八神家道場の子達で賑わっていた砂浜も今は波の音しか聞こえないほど静かだ。

 

「静かよねぇ〜」

「たまには、こういうのもいいかな」

「なのはちゃんとヴィヴィオちゃんと一緒に住んでると賑やかでしょう?」

「そうだね。 だから、毎日が飽きない」

今ここには私とシャマルしかいない。 他のみんなは家にいる。シャマルとはゆっくり話したかった。 シャマルはあの人のことを覚えている。だから。

 

「シャマル、これは確認なんだけど、闇の書はどこ?」

「紅音ちゃんも知ってると思うけど、闇の書事件の時にあーすらのアルカンシェルによって消滅させられたわ。 今はもう存在してないわね」

「そう……」

 

これは、なのはから聞いていた。 その闇の書事件の時にすずかとアリサは魔法たついて知ったらしい。 私はその場にいなかったけど。確か、お姉ちゃんと一緒にいたと思う。

 

「じゃあ、闇の書の中身はどうしたの?」

「中身? 私たちヴォルケンリッターとかのこと?」

「うん。 あの人が探してたものが闇の書の中にあったはずなんだけど……」

 

あの人が何を探してたのかは私は覚えてない。あの人にとって大切なもののはずだけど、私は何かわからない。

 

シャマルは少し考える素振りをした後、首を横に振った。どうやら彼女にもわからないらしい。

 

「まぁ、仕方ないか」

「お役に立てなくてごめんなさい……」

「大丈夫。 気にしないで」

 

それはきっと私が思い出さないといけないことのはずだから。

 

「それじゃあ、聞きたいことも聞けたし家に戻ろっか?」

「はーい」

 

少しずつ前に進んでる。そう、私は思ってる。 そうそう、八神家の前に着いた時、シャマルがこんなことを私に言ってきた。

 

「紅音ちゃん、ありがとうね。 あなたのおかげで私たち、ヴォルケンリッターのお母さんを思い出すことができた」

そう言った時のシャマルの笑顔は私の頭から離れない。



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学院祭

閲覧ありがとうございます。

今回は日常回。 次回で終わらせるつもりです。


「さっすが紅音! 似合ってるぅ〜!」

「私がこんな格好してなにか意味ある?」

「もっちろん!」

「どんな?」

「売り上げが上がる」

「えー……」

 

今日はみんなが待ちに待った学院祭。当然、先週に右腕が完治した私はほとんどお手伝いできなかったため、当日のお仕事に回された。 その内容は接客。そう、接客だ。

 

「そんな目で見ないでよ〜! 時間ないから渡されたやつで決まりって言ったでしょー?」

「いや、でもさすがにもう少しいいのあったでしょ?」

「わかってないな〜 その格好だから良いんじゃないの! そう! メイド服は最強のコスプレよ!!」

 

コスプレ。つまり、学院祭での私たちのお店はメイドアンド執事喫茶だ。だから、今の私の服装はメイド服。

 

「それじゃあ、頑張ってね〜」

「え、あ、うん」

私の友達はこういう子多いなぁ……

 

私はそんなことを考えながら言われた持ち場についた。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「いらっしゃ………………いませ、お嬢様」

「お姉ちゃんが来たで〜」

「もちろん、私もね」

 

学院祭がスタートし、あっという間にお昼時が近づいてきた。店が飲食店のため、少し早めのランチを食べようとほぼ席が満席に近い状態。なんやかんや出入りは激しいためお客様を長時間待たせるようなことにはなっていなかった。知り合いはまだ誰1人来ていない。 順調に進んでいるはずだったのだが……

 

「お席へとご案内します」

「はーい」

「うぅ……娘の頑張っている姿を見れるなんて……」

 

今は何も考えるな。相手は客だ。 決してジークとヴィクターなのではない。 客だ。 断じて知り合いだと思うな。 特にこの2人の前では。

 

「こちらへどうぞ」

「おおきに〜」

「ありがとう、紅音」

「メニューはこちらになります。 お決まりになりましたら、お呼びください」

 

一礼してから私はその場から逃げるよう去った。なんであの2人が来たの? 誰かが呼んだの? しかも、あの2人が、特にジークの方が、有名だからか他のお客さんも少しざわつき始めている。 それだけならいいのだけど、ちらほらと「さっきお姉ちゃんとかなんとか言ってたよね……?」 「あっちの金髪の子がお母さん……?」 なんて聞こえてきている。 遠縁の親戚なんだけどなぁ……

「紅音〜! 注文ええか〜?」

「あ、はい! ただいま!」

 

考えるのは後だ。 それに、どうせ後でなのはとフェイトが来るんだ。 この2人に恥ずかしがってたら接客なんてできやしない。

 

「私はこの『萌え萌えオムライス 〜メイドの魔法付き〜』で!」

「なら、私はそれに加えて『メイドのご奉仕』もつけるわ!」

「そんなんがあるんか!? あ、いや、でも今月はお金あらへん……」

「もう、それぐらい私がどうにかするわ。だから、頼みたいなら頼んでもいいのよ?」

「ええの!? おおきに、ヴィクター」

「ええ。それじゃあ、紅音。 オーダーはこれでお願いね」

 

2人はワクワクしたような、楽しんでいるような顔をしているから気づかないかもしれないけど、たぶん、今の私の顔はかなり引きつってると思う。 だって『メイドのご奉仕』はかなり値段が跳ね上がるから誰も頼まないと思ってたし、その内容がメイドがご主人様に食べさせるというものだし、それをこの大勢の中でやるとか……

 

「かしこまりました。 料理をお持ちいたしますのでしばらくお待ちください」

 

それでも笑顔は絶やさない。そうでもしないと恥ずかしさで逃げ出したくなる。 さっきメイドアンド執事喫茶を提案したやつがこっちを見て親指を立てて来たけど、後で文句の1つでも言ってやろう。そう思いながらも、私は無心で作業をするのだった。

 

▽▽▽

 

 

 

「ほな、次はヴィクターの家でな〜」

「いつでも歓迎するわ」

「うん。 行ってらっしゃいませ、お嬢様」

 

長い、本当に長い30分だった……

 

最初に「おいしくな〜れっ! おいしくな〜れっ!」と魔法? をかけさせられ、2人へ「あ〜ん」をやった。 正直に言って、かなり恥ずかしかった。

 

とりあえずこれで一安心、だが、そうはさせてくれないのが私の知り合いなわけで。

 

「マイスター! 来たぜー!」

「こんにちはです!」

「こんにちはっ!」

「悪りぃな、騒がしくて」

「あーうん。 お帰りなさいませ、お嬢様」

 

次に来たのはアギト、リイン、ミウラ、ヴィータのちびっこ4人組だった。

 

「そんで、身体の調子はどうなんだ? また無茶なことしてねーだろうな?」

 

お昼はそこらへんの屋台で食べたらしく、4人はドリンクとケーキを頼んでゆっくりとしていた。 ついでに私は接客と言う名の休憩に入っていた。サボりじゃないよ? 一応、接客と言うことになってるから。

 

「してないよ。 というより、ヴィヴィオのランニングに付き合ってるぐらいで、ここ最近はまともな練習してないよ」

「いや、それ結構無茶してねーか?」

「そうかな? そんなことないと思うけど」

 

たかだか10キロやそこらだし、ダッシュで! とかならまだしもただのランニングだしなぁ。

 

「まぁ、大丈夫ならいいんだけどよ。 毎回そんなことしてっとなのはからの雷が落ちるからな?」

「気をつけます……」

 

なのは、怒ったら怖いからなぁ……

 

そんなことを考えながら私は話題を変えようと他の人に話を振る。

 

「ミウラは来年の大会、出るんだよね?」

「え? あ、はい! もちろんですっ!」

「もう今からザフィーラも熱が入ってて練習が大変そうなんですよ〜」

「ミウラなんかこの前のシグナムとの組手でボコボコにされてたもんなー」

「あはは…… ボクは紅音さんにはまだまだ届かきそうにないですね……」

「そんなことをやってみなくちゃわからないよ。ミウラの攻撃が1回でも当たったら私なんてすぐ終わっちゃうだろうし。 ねぇ、ヴィータ?」

「あぁ。 そもそもなぁ、 本番までにこいつより強くなってりゃいい話なんだからな!」

「は、はい! 頑張ります!」

 

その後、しばらく雑談してから4人は教室を出て行った。



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学院祭 その2

閲覧ありがとうございます。


「私はそんな感じだったよ」

「紅音の方は精神的に疲れそうだねー」

「2人の方はどうだったの?」

「んーと、私たちはミュージカルやってるんだけど、これがまた結構大変で」

「衣装は重いし、動きは激しいし、声を張り上げないといけないからね〜」

「なるほど。 でも、そう言いながらも2人とも楽しそうだね」

「「楽しんでるよ〜」」

 

現在、私たちがいる場所は中庭。 とりあえずは1時間お昼休みが貰えるらしく、ちょうど時間の空いていたヴィヴィオとコロナとともにちょっと遅めのお昼ご飯を食べていた。

 

「ヴィヴィオはメイドカフェって行ったことある?」

「学校の近くにないし、海鳴にもないから知ってはいても行ったことはないかな?」

 

うん。予想してた通りだった。 それに、ヴィヴィオの場合、海鳴に行った時は翠屋の手伝いをしているか、遊園地などに遊びに行ったりしていたと言っていたからメイド喫茶や執事喫茶などが多くあるところに行く機会などなかっただろう。

 

「コロナは?」

「え!? 私!? ないよ! ないない!!」

コロナの予想外の反応に私たちは2人して小首を傾げる。 コロナはそういうお店には行かないよねー、というノリで聞いたのだが…… なんだろう? やらかした? まぁ、それでも……

 

「これは」

「やるしかないよね」

 

私とヴィヴィオはお互いの意思を確認してからこう言った。

 

「「本当のことを教えないとイタズラしちゃうよー!」」

 

 

ーーー

 

 

「コロナが悪いんだからねー!」

「はは……それは一体誰に似たのやら」

「きっと、なのはママからかな?」

 

そう言ってニコニコ顔でこっちにグーサインを向けてくるヴィヴィオ。 その隣には「もうお嫁に行けない……」と呟きながら倒れているコロナがいる。私とヴィヴィオによってくすぐり地獄にあっていたのだ。 詳細は省くが、とりあえず1つ言えることは、私たちは別にコロナの趣味がどういうものだろうと嫌ったりしないということだ。

「そういえば、紅音は今日、紅葉連れてきてないんだね」

 

ヴィヴィオ的にはもうこの話はおしまいなのだろう。 いきなり違う話題を振ってきた。 まぁ、確かにさっきの話を無闇に長続きさせても面白いことはほとんどないのだが。

 

「さすがに飲食店だからね。 家でお留守番してもらってる」

変わらずコロナは倒れたままだ。きっとすぐに回復するに違いない。

 

「まぁ、こっちに来る前にはフェイトが面倒見てくれてるから心配しなくても大丈夫だよ」

「そうなんだぁ。 じゃあ、紅葉にお土産でも買っていかない?」

「あ、そうだね。 そうしようか」

 

こうして私たちは倒れているコロナが起き上がるのを待ってから屋台が並んでいるエリアへと足を向けた。

 

 

▽▽▽

 

 

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「あははー、ただいま〜」

「ごめんね、紅音。 遅くなっちゃった」

「大丈夫。席に案内するね」

 

どんどんと学院祭の終了が近づく中、終了1時間前になってようやくなのはとフェイトがうちの店に来た。 ヴィヴィオたちのミュージカルを観てから来るとは聞いていたのでこのぐらいにはなるだろうとは思ってた。

 

「ご注文はいかがなさいますか?」

「そうだなぁ…… じゃあ、このオリジナルアイスコーヒーを貰おうかなー」

「あ、私も同じもので」

「かしこまりました。 一応言っておくけど、翠屋のコーヒーと比べたらダメだよ?」

「わかってるよー」

「そう。 ならいいけど」

 

この店の飲み物はオリジナルだ。メニューを決める係がコーヒー好きの子と紅茶好きの子に分かれて色々と研究したり試作したり、試作したりしていたらしい。どちらも少し甘めなので、人を選ぶかもしれんない。ついでに言うと、私は好きな味だ。

 

「お待たせしました、オリジナルアイスコーヒーです」

「ありがとー」

「ありがとう」

「うん」

 

一応、私の仕事はこれで終わりらしい。後は食器の片ずけがあるらしいが、とりあえずは1時間休憩時間ができたということだ。メイド服からいつもの制服へと着替えてなのはたちと合流する。

 

「ごめんね、フェイト。 紅葉の世話任せちゃって」

「大丈夫だよ。紅葉、ずっと良い子にしてたから、困ることなかったから」

「私が帰ってきた時なんてフェイトちゃん、紅葉を抱いて居眠りしてたもんねー」

 

なのはのその言葉を聞いた瞬間からフェイトの顔がみるみると赤くなっていって、照れながら一言。

 

「なのは!? それは言わない約束でしょ!?」

「あれー? そうだっけー?」

「もうー!」

なのはのからかい方とかフェイトの照れ隠しだったりとか、やっぱり2人とヴィヴィオは似てるなあ、なんて感じたりする。

 

……さて、そろそろ2人が来そうな時間だな。私はいちゃついているなのはとフェイトを尻目にそんなことを考えた。



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海鳴へ

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今月の雑誌の見出しには『ジークリンデ・エレミア、インターミドル二連覇達成!』と書いてあった。 早いもので、季節は冬。地球では12月の終わりに差し掛かっていた。

 

「ヴィヴィオー、紅音ちゃーん、準備できたー?」

「私はできた」

「私も大丈夫だよー!」

 

マリアージュ事件が原因で都市本戦の開催が1ヶ月遅れてしまった。それに伴い、世界大会開催にも遅れが生じた。しかし、その後は何事もなく順調に進み、ついに先日、世界大会が終了し優勝者が決まった。 圧倒的な力を見せつけ優勝したのはジーク、ジークリンデ・エレミアだった。 多少のアクシデントはあったが、ジークは己を優勝へと導いた。

 

ジークは優勝した。だから、約束はしっかりと守らないと。次元船の中で考えておくか。 とりあえず、今は……

 

「それじゃあ、地球に向けてしゅっぱーつ!」

「「しゅっぱーつ!」」

 

約1年ぶりの里帰り、目的があるとしても楽しまなくちゃね。まぁ、問題が一つあるわけだけど……

 

 

 

▽▽▽

 

 

「紅音ちゃん、大丈夫?」

「うぅ…… たぶん、大丈夫……」

現在、私たちは海鳴に1番近い空港にいる。 つい、数分前に次元船から降りて、後は電車に揺られるだけ、となるはずだったのだが……

 

「もう、長い船旅だから夜はしっかりと寝なきゃダメだよー! って言ったのにー」

「ごめん……ぅぅ……」

 

ジークとの約束、そのことについて色々とやっていたら楽しくなってしまい、夜更かし、船酔い、時差ぼけの三拍子をやらかしてしまった。 夜更かしは別の理由があるけどね。 うぅ……気持ち悪い……

 

「ママ、どうするの?」

「今の紅音ちゃんの状態じゃあ、電車は無理だよねぇ。 ちょっとお父さんに迎えに来れるか聞いてみるから、ヴィヴィオは紅音ちゃんと荷物をちゃんと見ててね?」

「はーい! わかった〜」

 

私とヴィヴィオに荷物を預け、なのはは公衆電話へと向かった。さすがにこんな人の多いところでレイジングハートなんて使えないから。

私がそんなことを考えている隣でヴィヴィオはルンルンと隣で上機嫌に鼻歌を歌っている。

 

「ヴィヴィオは、なんでそんなに元気なの……」

「えへへ〜」

 

まぁ、大方、出発前は楽しみ過ぎてよく寝れなかったから、次元船の中では爆睡してましたってパターンだろう。 実際に、出発の時は眠そうにしてたし。 次元船の中では私はほとんど画面とにらめっこしてたからよく覚えてない。

 

「連絡取れたよ〜。 お父さん、車で迎えに来てくれるって。 あと紅音ちゃんにこれ、薬買ってきたよ」

 

しばらくするとなのはが戻ってきた。 なのはの手にはさっき、コンビニか何かで買ったであろうビニール袋がぶら下がっていた。中身は私への薬とペットボトルが3本だった。

「ありがとう……」

「ありがとうっ! なのはママ!」

「どういたしましてっ」

 

薬を飲んでしばらく休んでいると気持ち悪さがだいぶ治まってきた。 たぶん、なのはのお父さんが迎えに来る頃には完全に治ってるだろう。

 

「お父さん、もう少しで着くって連絡来たけど…… 大丈夫? 紅音ちゃん」

「……」

約20分後、なのはがそう聞いてきた。 うん、体調は大丈夫だ。気持ち悪さはもうない。 ただ……

 

「そんな目で見ないでよ〜! 確かに、アリサちゃんとすずかちゃんに紅音ちゃんのことを連絡し忘れてたのは私が悪かったけど……」

 

そう、これだ。夜に緊張して寝れなくなり、ジークとのこと約束の品に逃げた理由だ。昨日、発覚したことだ。てっきり私はもう2人に伝わっていると思ってた。

『あ、もしかしたらアリサちゃんとすずかちゃんに紅音ちゃんのこと伝えてないかも……』

 

これは 次元船の中で、いきなりそんなことを言われた。理由を問いただしたところ……

 

『なかなか紅音ちゃんのこと切り出せなくて……気づいたえあ言ったと思い込んじゃってた』

 

あはは〜、と笑っていたなのはを叱ったのは言うまでもない。 あー、友達に会うってだけで緊張する……

 

「ほら、お父さん、着いたって。 行こ? 紅音ちゃん」

「うん……」

空港の出口付近になのはのお父さんは立っていた。 ヴィヴィオはなのはのお父さんに飛びつきに行き、なのはもヴィヴィオの後を追いかけて行った。 いつもの私なら、これからお世話になるなのはのお父さんに挨拶に行くところだろう。 だけど、今の私はそんなことを考える余裕もなかった。 なんたって、向こうに停めてある黒塗りの高級車の中にいるアリサと目が合ってしまったから……



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海鳴で

閲覧ありがとうございます。


「ねぇ、アリサ?」

「なによ、紅音」

「そろそろ離してくれない?」

「やだ」

「ほら、シートベルト付けないと車が出発できないから」

「やだ」

「ほら、運転手さんも困ってるよ? だから離して」

「やだ」

 

簡潔に言おう。アリサに捕まった。そして車の中でずっとアリサの膝の上に乗せら、抱き締められている。なのはとヴィヴィオはなのはのお父さんの車に乗ってとっくに行ってしまった。なのははアリサを止める役目、つまりはすずかがいない今、こうなることはわかってただろうに……

アリサは昔からそうだ。会うたびに私を撫でたり、抱きついたり、餌付けされたりした。なのは曰く『紅音ちゃんが忠犬ハチ公みたいにいつも誰かのこと待ってるからじゃないかなー? アリサちゃん犬、大好きだから』だそうだ。なのはが待ち合わせの時間に来ない時が多いんだもん。

 

「仕方ない。出てきて、紅葉」

『ワン!』

 

私はずっと体の中に隠していた紅葉を外に出して。

「はい、私の代わりにこの子を抱いてて」

「ワン!?」

「わぁ…… 可愛い〜!!」

 

アリサは私を解放して代わりに紅葉を抱き始めた。助かった。アリサが犬好きで。それと、ごめん、紅葉。今度、美味しいものでも買ってくるから。

 

私がシートベルトを付けたのと同時に車はゆるやかに出発し始めた。

 

 

▽▽▽

 

 

 

「ねぇ、なのは? 私に何か言うことがあるよね?」

「あはは〜。 その、ごめんなさい」

アリサの車で翠屋まで送ってもらった私は早速なのはを問い詰めていた。なのはに『積もる話もあるだろうから、私たちは先に行ってるね〜』と言われ連れてかれたヴィヴィオは兎も角として、知ってて私を見捨てたなのはには謝ってもらわなきゃ気が済まなかった。折角、海鳴を見て回る時間があったのに……

 

「まぁ、素直に謝ったし、許す」

 

アリサも久しぶりに私に会ったせいか、もしくは成長したおかげか、昔よりはだいぶマシになっていた。しばらく泣き付かれたりしたけど、それぐらいはね?

 

「とりあえず、夕飯食べよ。 折角、なのはのお母さんが作ってくれたものだし、ヴィヴィオも早く食べたそうにしてるし」

そして私は先ほどから目を光らせ、うずうずとした様子でお腹を鳴らしている親友を見た。確かにあのヴィヴィオがこうなるのはよくわかる。瑞々しい色とりどりの野菜にジューシーなハンバーグ、トロリとしたコーンスープ、そして、主食にスパゲッティ。デザートに翠店名物のシュークリームまである。一目見ただけで美味しいとわかるものだ。

 

「まだまだ先は長いなぁ……」

「頑張りなさい、なのは。そしていい男を捕まえるのよ!」

「え〜。私にはヴィヴィオとフェイトちゃんと紅音ちゃんがいるから別にいいよ〜。 そうだよね〜? ヴィヴィオ〜?」

「くすぐったいよママ〜」

 

ワイワイとした人数は少なくとも、高町家の食事風景。

私も昔この街でお父さんとお母さんとお姉ちゃんと、こうやって……

 

別に涙が出てきたりする訳じゃない。お姉ちゃんは私の中に生きてるし、お父さんもお母さんもきっとどこかで生きてる。いつかまた4人で、なんてもう絶対にないけど、生きてる希望がある、今の私にはそれだけで十分だ。

 

夕食を全て綺麗に平らげて。食後の運動も兼ねて、そのまま高町家に向かう2人と別れて私は散歩に出かけた。目的地は海の見える、あの公園だ。

 

「よくここでお姉ちゃんと一緒に練習いてたなぁ」

 

私と違って蹴り技が得意だったお姉ちゃん。ジャンルは違えど、ここで一緒に練習していた冷たく心地よい海風を感じながらベンチの一つに腰掛けた。

 

そうやって、いつまでそこにいただろうか。

 

「隣、いいですか?」

私は大人びた女性の声で我に返った。慌て、どうぞ、と一言返事をする。

 

「ありがとうございます」

 

柔らかく丁寧な言い方だったがどこかで聞いたことのある声だった。その女性は手入れの行き届いている綺麗な長髪に薄紫を中心とした落ち着いた服装。その顔は……

 

「なのは……?」

 

さっきまで一緒にいて、ヴィヴィオと共に家へと向かうために別れた、高町なのはの姿がそこにはあった。



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スタークス

閲覧ありがとうございます。


「ナノハ……懐かしい名前ですね」

 

なのはに似た女性はそう言って、何かを懐かしむように空を見上げた。なのはを知ってるのか。

 

「私はナノハに似ているかもしれませんが、別人です」

 

なのはに似ているからかわからないが、何か不思議な感じだ。昔から知っているような、そんな感じ。

「あぁ、そう言えば自己紹介がまだでしたね」

 

少し彼女は何か考える素振りを見せてからこう名乗った。

 

「スタークスと、そう、呼んでください」

 

スタークスというのは確実に偽名だろう。本当はこの人のことを警戒しなくちゃならない。なのはに似ている容姿、チラチラと見えるレイジングハートに似た球体の付いているネックレス。他にもいろいろと理由がある。だけど、私はスタークスは大丈夫だと、なぜかそう思う。

 

「海鳴に来たのは今日で3回目です。だいたい、13年前の話ですね。前回は2回ともなのはたちに会うのが目的でした。だけど今日は、アカネ、あなたに話があってこの街に来ました」

 

別に私の名前を知っていようが驚くことじゃ無い。スタークスは13年前と言った。きっと、彼女はあの日に何か関係している。

 

「これは、ただの私のお節介です。あなたが期待しているようなことは話せませんし、あなたが、私の知っているあなたと同じ道を辿るとも限りません。それでも、聞いて欲しいんです」

そう前置きしてスタークスは話を続けた。

 

「彼女ら3人の戦いはまだ終わっていない」

 

スタークスの話を聞き逃してはいけない、本能がそう告げてる。

 

「あなたは近いうちに大きな敵に出会います。それは逃れられない運命です」

 

木々が風で揺れることもなく、波の音さえ聞こえないこの薄暗い公園にスタークスの声だけが響く。

 

「あなたはその戦いで大きな怪我を負うかもしれません。最悪、死ぬことも考えられます」

 

ここからが一番重要なのだろう、スタークスは一度、大きく息を吐き出してから、再度、話し始めた。

 

「それでも、あなたはそのーー」

 

スタークスは私の頭を指差して。

 

「記憶と」

 

次に腕を指して。

 

「拳と」

 

最後に脚を指差して。

 

「脚を使って」

 

私はスタークスの言いたいことがなんとなくわかってきた。

 

「打ち破ってください」

 

結局、私もジークと同じ、過去に縛られるもの、というわけか。自然と笑いがこみ上げてくる。『私は違う』そう思ってたんだけどなぁ。

 

「さて、話も終わったことですし、そろそろ私は帰ります」

 

スタークスは私が笑い終わるのを確認してからそう言った。

 

「それに、私のお迎えが来てしまいましたので」

 

確かに向こうで何人かの足音が聞こえる。その足音はどんどんこっちに近づいてきていて、時期にここへとたどり着くだろう。

 

「では、アカネ、また会いましょう」

 

スタークスのその言葉を聞き終わると同時に、私の意識は深い闇へと落ちて行った。

 

▽▽▽

 

「紅音ー! 朝だよー!」

「 ヴィヴィオ、うるさい……」

海鳴に来ても変わらず、ヴィヴィオに起こされて私の1日がはじまる。

 

「もう朝ごはん出来てるから、食べ終わったら海鳴の街を見に行こう?」

「ん……わかった……」

ヴィヴィオが部屋から出て行く音がするのと同時にもぞもぞとベットから体を起こす。

 

「なんか、変な夢見たな……」

 

なんか、随分とリアリティのある夢だった。夜の公園でなのはに似た女の人から話を聞く夢。

 

「あの人、最後に何を言ってたんだろ」

また会いましょう、とそこまでは聞こえていた。その後に何か言っていたような気がするけど、なんだろう。

 

「まぁ、いっか。 早く着がえよ」

 

今日はどこに行こうか、そう考えながら、私はヴィヴィオを待たせないように急いで準備を始めるのだった。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「自分が何をしたかわかっているのか!?」

「まぁまぁ、王様、ちょっと落ち着こうよ」

 

どこかにある美しい緑がある星。そこには一軒、木造の家が建っていた。その中では現在、説教が行われていた。

 

「そもそもどうしてレヴィではなく、シュテル、貴様があんなことをしたんだ」

「ボクだってこんなことしないよ!」

「あー! うぬは黙っておれ! 我はシュテルと話しておるのだ!」

 

なのはに似た女性ーーシュテル・ザ・デストラクターはそんな2人のやり取りを尻目に地球に想いを馳せる。

 

「ユーリのことを頼みましたよ、アカネ」

「呼びましたか? シュテル」

「いいえ、何でもあいませんよ」

「シュテル! 貴様は我の話を聞いておるのかー!?」

「わー! 王様が起こったー!」

 

そんなシュテルの騒がしい日々はまだまだ続く。

 

 

 



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記憶を求めて

閲覧ありがとうございます。いつものことですが 、今回も短めです。


「ねぇねぇ! これとかどうかな?」

「いいんじゃないかな? よく似合ってる」

「それじゃあこれにしよーと! 紅音、ちょっと待っててね?」

「わかってる」

 

私はヴィヴィオがレジに小走りで向かって行くのを見送って、その店を出た。この店は女の子向けの小物が売っているところだ。

「私がいた時とほとんど変わってないなぁ」

 

ここは海鳴にある一番大きなショッピングモールだ。店は多少変わっているが、大まかなところは13年前とほとんど変わらない。

今日は元々、買い物をするために外に来たわけじゃない。今日は私の記憶を取り戻すためにあちこち周ろうという計画だ。結局のところ、ただのショッピングになってしまっているけど。

 

「お待たせ〜」

 

ベンチに座って一息ついていると、ヴィヴィオが小さめの紙袋を持って店から出てきた。その髪には先ほど買った青いリボンが結ばれている。

 

「なんかヴィヴィオ、顔がニヤついてない?」

 

気にするほどではないかもしれないけど、今のヴィヴィオは悪戯を思いついた時のような顔をしている。

 

「えへへ〜、ちょっと待ててね〜」

 

そう言って、ヴィヴィオは持っていた紙袋をガサゴソと何かを取り出した。

 

「はい、これ。紅音にプレゼント!」

ヴィヴィオが取り出したのは彼女が持っていた紙袋よりもっと小さい袋だった。

 

「開けていい?」

「うん! もちろん!」

 

私は袋を破かないように貼ってあったテープを剥がした。

 

「あ、これって……」

 

中身は今ヴィヴィオが付けているリボンの色違い、赤色のリボンとシンプルなデザインの赤いゴムだった。

 

「私とお揃いっ! コロナの分も買ってあるよ〜」

 

そう言えば、ヴィヴィオが前に私も髪を結んだらどうかって言ってたっけ。確かに試合中、自分の炎で毛先が変になることがあるんだよね。

 

「ありがとう、ヴィヴィオ。大切にするよ」

「よかった〜」

 

折角だから、早速付けてみることにする。簡単にゴムで後ろ髪を1つに束ねて、結び目のところにリボンを蝶々結びで結ぶ。

 

「えっと……、どう、かな?」

 

なんだか首がスースーしてなんだか落ち着かない。んー、夏はいいけど、冬はちょっと寒いかも……

 

「おー! 似合ってるよー!」

「なら、よかった」

 

暫く休憩した私たちはショッピングモールから出て、他の場所へと移動を開始した。

 

まずは図書館。確か、古い新聞も置いてあったはず。

 

「あ、あった。これか」

 

13年前の3月、その新聞の小さな記事。

 

「海鳴市で起こった少女ひき逃げ事件?」

「うん。これがお姉ちゃんが死んだ事件だと思う」

「あ……」

記事の内容はこうだ。海鳴市で2人の少女がトラックか何かでひき逃げされる事件が起こった。2人は姉妹で姉は死亡、妹は意識不明の重体。犯人は未だ逃走中。

 

「犯人は結局、今も捕まらずじまい、か……」

「え!? 犯人捕まってないの!?」

「そうらしい。フェイトがそう言ってた」

 

そもそもこの事件、不自然な点が多すぎて一部ではオカルト事件として未だに騒がれてる、とかなんとか。

 

「はっきり言って、何かの次元犯罪に巻き込まれた線もあるかな、って私は思ってる」

「魔法ってこと……?」

「うん、そう言うこと」

 

記事の小さな写真は凹んだ電柱を中心として取られていた。ここは…… あの動物病院の近くかな?

 

「ヴィヴィオ、これから結構、歩き回ると思うけど、大丈夫?」

「うん!」

「じゃあ、行こうか」

 

大まかなルートを決めてから。私たちは図書館を後にした。次の行き先はなのはがフェレットを預けた動物病院の近くだ。

 



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記憶を求めて その2

閲覧ありがとうございます。 今回で海鳴編終了です。アリサとすずかの出番少なくてすいません。


6年生が卒業し私たちも4年生に進級する、その間にある春休み。あまり宿題も出ることがなく、みんなが、例えばなのはやフェイトが2人でどこかに旅行に行っていたように遊んでいるそんな日。その日は快晴だった。たったそれだけ、いつもと変わらない、日常だった。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「ここだ」

「もう道路も電柱も直されてて事件の面影が何もないね」

 

なのはが最初に魔法と出会ったと聞かされた場所。そこが私が事件に巻き込まれたところだった。特に2つは関係がないと思うが、私が魔法に関わると予言されていたように見えて苦笑いを浮かべてしまう。

 

「どう? 紅音。 何か思い出せそう?」

 

ヴィヴィオが心配そうにこっちの顔を覗き込んできた。ヴィヴィオは私が事件のこと、お姉ちゃんが死んだ光景を見てしまっていた場合のことを心配してくれている。私にとって人死になんて今更なのに。それが身内であれ、他人であれ。だけど、そんなことヴィヴィオには言えない。こんな光景は私の中だけで十分だから。あぁ、考えが逸れてた。今はあの日のことを考えないと。

 

「そうだね……」

 

さっきの考えを頭から振り落とすように外側へと押し出しておく。どこまで憶えているか、私にとってももう1年近く前になってしまった記憶。詳細はよく覚えていないが、これだけははっきりしている。その日の夜の記憶だけがない。それだけは。

 

「夜か……」

 

私は一言、そう言葉をこぼす。夜に何かあったか? 夜、夜、夜…………

 

「空が光ってた」

「光ってた?」

「うん。ピンクや黄色、黒に白。他にも色んな色が光ってた……気がする」

 

一瞬、お姉ちゃんに手を引っ張られながらも空を眺めている自分が見えた、気がした。

 

「ごめん、折角付き合ってもらってるのに、今はそれしか思い出せない……」

「大丈夫だよ!」

 

付き合ってもらってるのに何も成果のない申し訳なさと何も思い出せない自分への不甲斐なさで俯向く私にヴィヴィオは笑顔で言った。

 

「少しは思い出せたんだよ? それなら紅音は大丈夫。きっと全部思い出せるよ!」

 

ヴィヴィオの底抜けの優しさ、それはヴィヴィオが過去を乗り越えたからこそ手にできたもの。今の私には到底手に入れることができないもの。それでも、今の私にはその優しさがありがたかった。

 

「そう、だね。うん、そう。ありがとう、ヴィヴィオ」

「えへへ〜、どういたしましてっ!」

 

いつかは私も少しはヴィヴィオに近ずくことができるだろうか。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「ここが最後」

 

ここは住宅街にある空き地。高町家からそう離れていない場所にある。もうとっくに陽は落ちて、辺りは照明灯と月明かりで照らされている。

 

「私の家があった場所」

「ここが……」

 

地球に来たら、一度、ここに寄りたかった。今の私の場所はどこか、改めて認識するために。

 

「昔はなのはがここを通るからって、ここで待ち合わせして、よく一緒に学校に行ってた」

 

よく私が寝坊して遅刻しそうになったのを覚えてる。バスに置いてかれそうになったのが一体何回あったことか。だけど、私にとってはつい1年前でもなのはにとってそれはもう昔話。随分と遠いところに来てしまったな、と思わせられる。

 

「全部、なくなっちゃたなぁ」

 

赤い屋根が目印だった家も少し広めの庭も『日野』と言う表札も、どれもこれも無くなっている。だからって、悲しくなるわけじゃない。今の私の居場所はここじゃない、そう、わかっているから。

 

「ヴィヴィオ、そろそろ帰ろーー」

 

私の視線の先。照明灯の光に照らされながら向こうから歩いてくる人影。その影は成長しててもアリサ同様、私にとって見慣れたものだった。

 

「あ、すずかさんだ。 おーいっ!」

ヴィヴィオが元気よく手を振って呼びかける。向こうもこっちに気づいて手を振りながら小走りで走ってくる。

 

「ヴィヴィオちゃん、久しぶり〜。元気にしてた? えっと、そっちの子は……え……紅音ちゃん……?」

「うん、久しぶり、すずか……すずか?」

 

すずかは固まっていた。さすがにこんな反応されると思ってなかった私は結構、動揺した。

 

「紅音ちゃんが元気そうで本当に良かったよ……」

「私も、すずかが元気そうで良かった」

 

10分後、私はヴィヴィオと協力して固まっていたすずかを動かすことに成功した。オロオロとしていたすずかにこうなっている経緯を説明した。その際、なのはとフェイトとアリサ、誰も私の安否をすずかに説明してなかったことがわかった。そりゃ、知らなかったんだから、あんな反応もするか。

 

「立ち話もなんだから、早く家に帰ろ? すずかさんも来る予定なんだよね?」

「そうだね、そうしよっか」

「わかった」

 

ヴィヴィオの声かけで私たちは高町家へと向かった。

 

その日の夜は4人でどんちゃん騒ぎをしたのは言うまでもない。

 

 

 



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大会1週間前

閲覧ありがとうございます。


「それで、何か手がかりは見つかったの?」

「私もそれ気になってたんよ。あ、あがりや」

「んー、あんまりいい結果じゃなかったかな。はい、あがり」

「そうですが、それは残念ですね。そう言えば、紅音様に頼まれていた品が昨日届きましたから後でお持ちいたします。それと、私もあがりでございます」

「また最下位……」

「どんまい、ヴィクター。エドガー、もう持ってきてもらえる?」

「畏まりました。失礼します」

私はさっきエドガーに入れてもらった紅茶を飲んで一息つく。ジークも同じように紅茶を飲んでゆったりとし、ヴィクターはババ抜きで最下位だったので散らばっているトランプを回収してシャッフルし始めていた。まだ続けるんだ。

私が紅葉とジークとともにヴィクターの家を訪れたのは2時間も前の話だ。それからずっと今まであらゆるトランプのゲームで勝負している。今日、初めて知ったのだが、ヴィクターは運がない。確かに、今まで損な役回りが多いと思っていたが、今までのゲームが全て最下位だということから、ただ単に運がないということがわかった。

 

「紅音〜、エドガーになに頼んでたん? お姉ちゃん、気になるよ〜」

「ジークが優勝したから、約束通りデバイス作りに勤しんでるだけ」

 

ジークとの約束、それは私がジーク専用のデバイスを作るというもの。コアは従来のものを使用するとして、データは現在のものに更新、外見は新しく作成中である。

 

「来週から大会が始まるから完成するのは春頃になるけど」

「それでも嬉しいよ! おおきにな〜、紅音〜」

そう言ってジークは私にだきついてきた。暖房の効いたこの部屋では正直に言って暑いことこの上ないが、言っても離してくれないと思うのでされるがままにしておく。

 

「それで、どんな感じのデバイスにするつもりなの?」

 

紅葉を膝に乗せながら、優雅に座っているヴィクターがそう聞いてきた。

 

んー、ジークに見せないなら別にいっか。

 

そう思った私は手元に持っている携帯端末をヴィクターに差し出した。しばらく、それを眺めていたヴィクターだが、突然立ち上がると端末を私に返し、ジークに詰め寄った。

 

「私にデバイスを譲って頂けませんか? ジークリンデ・エレミアさん」

「ヴ、ヴィクター? なんか、顔が怖いんやけど……」

「そんなことございませんわ。私はいつも通りですわよ?」

「絶対嘘や!? 一応言っておくよ、ヴィクター。紅音が作ってくれるデバイスは私のものやー!」

 

2人の取っ組み合いを尻目に、私は自分の作った設計図を眺める。そこには黒色の柴犬がデザインされていた。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

ヴィヴィオからメールが来たのは4限目が始まる少し前のことだった。

 

『昨日話していた子をお昼に連れてきてもいいかな?』

 

そう書かれていた。昨日の子と言うと、私がヴィクターの家に行っている時にヴィヴィオとコロナが無限書庫で仲良くなったという子だろう。確か、名前はリオ・ウェズリー。2人と同じクラスだと聞いた。どんな子だろうか、ワクワクしながら、私は待ち合わせの場所である中庭へと向かった。

私が中庭に着く頃にはすでに準備万端っ! といった感じの3人がシートの上に座っていた。見慣れた金髪と薄い茶髪。それと見たことのない青みがかった黒髪。あの子がリオかな? そう思いながら3人の方に向かっていくとヴィヴィオがこちらに気づいて手を振ってくれる。

「ごめん、待たせた」

 

私はそう3人に一声かけ、シートにの上に座る。

 

「紅音、この子が昨日話してたーー」

「リオ・ウェズリーです! 日野紅音さんですよね!? インターミドルの試合観てました! チャンピオンとの試合はすっごく感動しました!」

「あ、ありがとう……?」

 

コロナが止めてくれたが、ぐいぐいとくるリオに一歩引いてしまう。リオは見た目に違わず笑顔が似合う元気な子らしい。私の知り合いにはいないタイプかも。

 

「あたしも春光拳っていう格闘技やってるんですけど、今度、手合わせお願いしてもいいですか?」

「もちろん。色々な相手とやるのは楽しいから」

 

リオともすぐに仲良くなることができ、4人での初めての食事は楽しく終了した。

 

来年のインターミドル、ノーヴェは大変だろうなぁ。

そう思いながらも賑やかになるであろう練習風景を想像し、笑ってしまう。来週からは冬の大会が始まる。ノーヴェの狙いではここで優勝してインターミドルではシード権を得ようという魂胆らしい。組み合わせを見たが、第一シードであるハリーと当たるのは反対のブロックにいる私は決勝までいくしかない。

 

「よしっ! 頑張ろうっ!」

 

時間は流れ、1週間後、大会が始まった。



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大会開催

閲覧ありがとうございます。


開会式も終わり、選手控え室に向かう途中、特攻服を着た人を見つけた。もちろん、ハリーのことだ。その近くにはメガネを掛けた人がいて、2人はどうやら何か言い争いをしているらしい。

 

「今度こそオレに勝てるといいなぁ、デコメガネ」

「えぇ。前回の屈辱、倍にして返してあげますよ」

 

2人の間には火花が散っているように見える。なんだか話しかけづらい。ハリー、こっちに気づいてないみたいだし、また後で話せばいっか、と2人の横を通り抜けようとした瞬間、ハリーに捕まった。

 

「おいおい、なんだよ、紅音。挨拶の1つぐらいしてくれてもいいじゃねーかよ」

「なんだ、気づいてたんだ」

「当たり前だろ? オレとお前の仲じゃねーか」

 

自分の話を遮られたせいかさっきからあちらからの視線が痛い。チラリと顔を見ると今にも暴走しそうなぐらい顔に怒りマークが付いているような表情をしていた。この人のことは知っている。インターミドル、ベスト8位に入ったエルス・タスミンだ。今回の大会の第2シードでもある選手だ。順当に勝ち上がれば、準決勝で当たる相手。

 

「ハリー選手? その子は一体誰なのですか?」

 

彼女は表面上は笑顔を取り繕っていても声でイラついているのはバレバレだった。ハリーもそれを知ってか口を端に釣り上げてこう言った。

 

「決勝でオレとやりあう相手だ」

「な……」

 

エルス選手が固まった。ハリーの言葉の意味は『お前はこいつに勝てない』『お前なんて見ていない』というものだ。

 

「ハリー、挑発するのに私まで巻き込まないで」

「別にいいだろー? オレはこの大会でお前とやり合うの楽しみにしてんだからよ」

 

ため息をつきたくなるが、我慢する。確かに、エルス選手に勝たなきゃいけないのは本当だし、私もハリーと公式試合で戦うのを楽しみにしていた。

しばらくすると、エルス選手がフリーズから復活した。ただ、怒りは収まっていないらしく怒り顔は継続中だ。エルス選手は私にビシッ!と指を指す。

 

「えぇ、いいですとも。えぇ、いいですとも! 先ずは貴方を倒してからハリー選手を倒すとします! それでは次はリングの上で会いましょうッ!」

 

彼女はそう言ってドスドスと音を鳴らしながらその場を後にした。

 

「それじゃあ、そろそろオレも行くわ。絶対、勝ち上がってこいよ」

 

1人残された私も一回戦の準備のために控え室の中に入っていった。

 

 

 

▽▽▽

 

 

「紅音、1回戦の相手はーー」

「シュータータイプで距離を置いてくる。距離を離される前に一気にカタをつけろ、でしょ?」

 

2人しかいない控え室。やけに声は響いて聞こえる。

 

「なんだ、いやにやる気だな」

 

私がいつもよりも闘志を燃やしているのが、ノーヴェには不思議に思ったらしい。別に深い意味があるわけじゃない。

 

「勝ちたい相手がいるから。それに……」

「それに、なんだ?」

「一応、先輩だから、あの3人より前に行ってるってとこ、見せたい」

「アハハ! なんだよそれ!」

「ただの意地だよ。今度はライバルとして当たるかもなんだから」

 

まだ負けてやるつもりはない。ただのそういう意思表示。

 

「よしっ! そろそろ時間だ! 準備はいいか?」

「聞かれるまでもない」

「そうだな。行くか」

「うん!」

 

とりあえず、1回戦、勝たないと。



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対エルス

閲覧ありがとうございます。


『大会もいよいよ大詰め! ハリー選手に続き決勝に進出するのはエルス選手か!それとも紅音選手か! いったいどちらになるのかぁぁ!』

 

外からはそんなアナウンスとともに大きな歓声が響き渡っている。早いもので気づいたらもう準決勝。第3シードに苦戦した以外は特に危なげなく勝ち進んできた。ノーヴェ曰く、「うまく体力を使わずに勝ち進んでいるからここからは多少無理ができるぞ」だそうだ。

 

「それじゃあ、今日もよろしくね。紅葉」

「わん!」

 

バインド対策はしっかりしてきたつもりだ。実際になのはと模擬戦したり、キャロにバインドのセオリーを教えてもらったり。やってきたことができれば勝てない試合じゃない。勝って、決勝だ。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「やはり、あなたがここまで来ましたか。紅音選手」

「ハリーと約束したから。決勝の舞台でやり合うって」

「そうですか。ですが、残念ながら勝つのは私です。ハリー選手を倒すのはこの私です!」

「へぇ、なら見せてよ。あなたの力」

「もちろんですッ!」

 

安い挑発にもエルス選手は乗ってくれる。なんとなく、私は彼女の人柄がわかった気がした。ノリがよく、単純で優しい人。たけど、今はそれすら使わせてもらう。

ゴングがなる。試合開始。私は一気に駆け出した。

 

「真っ直ぐ来るとは……舐められたものですねッ!」

 

エルス選手のバインドは、なのはやキャロとは違い物理的な手錠の形をしている。そんなものが何十本と一斉に殺到してくる。私はその手錠の数に足を止めざるを得なかった。

 

「チィ!」

 

私は手錠に触れないよう、細心の注意を払いながら、エルス選手のことを観察する。前から来たと思ったら後ろから、右に意識を向ければ左から。転送と遠隔操作をうまく混ぜたバインド。シュータータイプならいざ知らず、私みたいな格闘タイプなら捕まえることは簡単だろう。ただ、よく見ているとトラップがない。なのははバインド使いで一番警戒するべきはトラップだと言っていた。これなら……いけるッ!

 

「ソニックシューター……ファイア!」

 

ずっとバインドが飛んでくるわけじゃない。相手だって人間だ。魔力の量には限りがある。私はエルス選手の攻撃が弱まった瞬間、ソニックシューターをエルス選手に向けて1つ飛ばした。当然、ガードするためにエルス選手の攻撃の手は止まる。ここがチャンスだ、一気に行け!

点火で距離を詰め、拳を大きく振り上げる。

 

「甘いですよ! そんな攻撃ッ!」

 

私が距離を詰めている間にリカバリーしていたエルス選手は手錠を持った手で右ストレートのカウンターを放った。拳を大きく振り上げている私よりも先に当たるだろうパンチ。だけど、読みが甘い。

エルス選手が驚愕した表情を浮かべる。何せ、感触がないどころか、腕が体を突き抜けてしまっているから。シグナム相手に使った時とは違い、上手くいった。蜃気楼、公式戦初使用だ。

「はぁッ!」

 

ジョルトカウンター。エルス選手の体重が前に乗っている状態の今、私は彼女の顎を狙ってそのパンチを打つ。会場にゴンッ! という鈍い音が響き渡る。エルス選手は背中から落ちるようにして倒れこんだ。

 

『エルス選手ダウンだぁぁぁ!』

 

ニュートラルコーナーに移動を促された私は痛む右手を摩りながら移動する。結論から言うと私の渾身のカウンターはエルス選手の硬い頭でガードされた。

 

咄嗟に避けるや防御するんじゃなくて頭突きをしてくるとかどういう事……

 

そんなことを思いながら次の手を考える。

 

『おーと! エルス選手立ち上がりましたぁぁ!』

「あれで私を倒せると思ったら大間違えですよ!」

 

アナウンスと同時にエルス選手はそう言いながらリングまで上がってきた。試合再開だ。

 

「紅音! ダメージが残ってるこのラウンドで決着付けろ!」

 

チラリと時計を見ると残り時間は約10秒、時間がない。一気に近距離で砲撃をーー

 

「えっ!?」

「すみませんが、不意打ちを取らせて頂きました。このラウンドはあなたに差し上げます!」

 

バインド、それも気づかないうちに仕込まれていたなんて……ッ!

 

無情にもこの状態のまま、大きな動きも見せず第一ラウンド終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

 

▽▽▽

 

 

「ごめん、仕留めきれなかった」

「いや、あれは仕方ない。あたしだって外から見ていても気づかなかった。それぐらい上手いタイミングでやられちまったな」

 

私はノーヴェの言葉に無言で頷く。きっと、倒れる瞬間にもう仕込んでいたはずだ。それはあのラウンドを逃れる算段が付いていたということ。してやられたな。

 

「それに、まだブレイカーを撃つべきタイミングじゃなかったんだろ?」

「うん。距離も遠かったし、魔力もまだ足りない」

「なるほどな……。まぁ、とりあえずは次のラウンドもその調子でいってこい。バインドに捕まった時はどうするか、わかってるよな? 練習通りだぞ!」

「わかってる。そのために苦手なプールに通い詰めたんだもん。さっきは出来なかったけど、今度こそ」

 

ノーヴェと拳を合わせると私はリングに上がる。第2ラウンドの始まりだ。



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対エルス その2

閲覧ありがとうございます。


「先手必勝! バニッシャー!!」

 

第2ラウンド早々、エルス選手は勝負を仕掛けてきた。

 

どうする。相手がこのまま1ラウンド目と同じことを繰り返すわけがない。考えろ。何を仕掛けてくる。

 

そんなことを考えている間にもとんでもない量のバインドが私に向かって飛んできている。避け続けること2分、ついに状況は動いた。それは、私がしてやられる、という形で。

 

「ここですッ!」

 

誘われた。そう分かってはいても、気づくのが少し遅かった。上手く組み合わされたバインドの数々は私をリングの隅に追いやるための罠だった。

 

「いけ……ッ!」

 

この位置からの攻撃は大体予想通り、全方位からのバインド。ただ、わかってはいても、そうそう避けられるものではない。避けられるかは神のみぞ知る。一か八かだ。

 

「点火!」

 

間に合うかーー

 

「私のバニッシャーの方が速い!」

 

一瞬の衝撃。だがそれは、点火によって加速するようなものではないく、止められる、引っ張られる力だった。

 

「くそッ!」

「やっと捕まえましたよ!」

 

見るまでもなく、両腕が手錠により捕まえられている。それに、まだまだ! と言うようにエルス選手は次々にバインドの量を増やしていく。

 

『紅音選手! ついにエルス選手のバインドに捕まってしまったぁぁ!』

 

大丈夫だ。落ち着け。そう、自分に言い聞かせる。これはピンチでもあり、チャンスなんだ。

距離はーー少し遠い。魔力量はーー十分。あとはタイミングだけだ。

 

「このまま、勝たせていただきます……ッ!」

「くぅ……ッ!」

 

締め付けがどんどん強くなっていく。まだだ、耐えろ。

 

『紅音選手のライフがどんどん削られていく! このまま決着となるか!?』

「これで……止めです!」

 

エルス選手が一層力を入れようと一瞬、引く力を抜いた。ここだ。練習通りにやるんだ。

 

一気に脱力、足はしっかり踏み込んで、腰を回転させ、拳を……押し出すッ!

 

みしり、という音とともに体を縛り付けていた圧力から、解放された。

これだ、この感じ。ノーヴェに習ったバインド対策、アンチェイン・ナックル。

 

「ディバイン・バスター!」

 

ただ、バインドから解放されるだけでは終わらない。私は押し出した拳に速射砲を乗せ、放つ。いつもよりスピードのでている速射砲は一直線にエルス選手に向かっていき、油断していたエルス選手に命中した。

 

……ここで終わらせるッ!

 

黒煙がリングを埋め尽くしている中、私は走って、距離を詰める。点火は使わない。今は、溜める方に集中したいから。

 

「「もらった!」」

 

声が重なる。どちらも渾身の右ストレート。タイミングもほぼ、同時だった。しかし、僅かながら、エルス選手の方が攻撃に入ったのが速い。

 

「はぁっ!」

 

それはエルス選手もわかっている。残り少ない私のライフを削りきるつもりだ。だからこそ、だからこそ隙ができる。

少しだけ、大きく振るわれた右手。ハリー辺りならこれで十分かもしれない。だけど、私はボクサーだ!

ドン、と私の拳がエルス選手を打つ。その場所は胸の中央から少し下がったところ、鳩尾と呼ばれる急所の1つだった。

 

「とどめッ! インフェルノ・ブレイカーァァァァ!」

 

紅い炎の奔流。エルス選手はそれに飲み込まれ、壁に叩きつけられた。エルス選手のライフはゼロ、私のライフは残り僅か。

 

勝ったーー

 

ここに私とエルス選手の勝負は終りを告げた。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

会場は拍手に包まれていた。私はノーヴェに肩を貸してもらいながら、リングを後にした。その途中、観客席にヴィヴィオ、コロナ、リオの3人を見つけた。自分のことのように喜んでくれていて、嬉しかった。

 

「どうしたの、ノーヴェ?」

 

控え室に戻る途中の廊下。なぜかそこでノーヴェは立ち止まった。

 

「あー、なんて言うかな? お前と話したい、って言ってるやつがいてな。ここで待っててくれ、って頼まれたんだよ」

 

私が頭に疑問符を浮かべている間にも、控え室で待ってるからなー、とノーヴェは行ってしまった。仕方なく、近くにあったベンチに座り紅葉と戯れていると、向こうからこっちに来るような足音がきこえた。

紅蓮のような髪に自称不良とは程遠い可愛らしい服装。

 

「よっ! 紅音!」

「なんだ、ハリーか」

「なんだとは、なんだよ」

「別に」

 

ハリー・トライベッカ、私が決勝で当たるその人だった。

 

「それで、話ってなに?」

「ん? 大したことはねーよ。決勝前にお前とサシで話したかっただけだ」

 

和やかだった雰囲気が一転し、ピリッと張り詰めた空気が辺りを漂う。

「オレが大会前に言ったこと、覚えてるよな?」

「楽しみにしてる、てやつ?」

「あぁ、そうだ。あの言葉に嘘はない。だから、もう一度言うぜ。『お前との試合、楽しみにしてるぜ』」

 

そう言って、ハリーはギラギラとした目で拳を突き出してくる。それに私はーー

 

「こちらこそ」

拳をぶつけて答える。

 

「さぁて、紅音とやるからにはそれ相応に準備しないといけないからな。オレはもう行くぜ」

次にハリーと会うのはリングの上だ。最初に戦った半年前とは違う。今回も勝てるとは限らない。

 

「私も練習しないと」

 

私は急いでノーヴェのいる控え室に戻っていくのだった。

 



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対ハリー

閲覧ありがとうございます。


「ヴィヴィオ! コロナ! 急がないと紅音の試合始まっちゃうよ!」

「リオったら、そんなに急がなくて大丈夫だよ」

「急ぎたくなるのもわかるけどね〜。なんたって決勝戦だもん!」

 

ついに今日、紅音とハリー選手の決勝戦が行われます。会場はインターミドル程の大きなものではないにしても席は既にほぼ満席。辺りを眺めてみると紅音のクラスメイトが何人か応援に駆けつけてくれているようで、嬉しい限りです。

 

『長らくお待たせいたしました! これよりーー』

「あ、そろそろ始まるね」

「う〜、緊張してきた〜!」

紅音はきっと勝ってくれる、私はそう信じて声を出します!

 

「紅音ー! がんばれー!」

 

▽▽▽

 

 

決勝の舞台、いつも通りとはいかず、やっぱりそれなりに緊張する。

 

『青コーナー、その一撃は『電光石火』! その拳で数々の強敵を打ち破り、決勝の舞台まで上り詰めた紅きルーキー! 日野、紅音!』

アナウンスとともに、最前列にいるヴィヴィオ、コロナ、リオの3人の声が聞こえてくる。その声が緊張で固まっていた身体をほぐしてくれる。

 

『続いて赤コーナー、今大会の第1シードにして、昨年の優勝者。その背中に刻まれた異世界語『一撃必倒』のごとく、全ての敵をなぎ倒して勝ち上がってきました! 『砲撃番長』ハリー・トライベッカ!』

 

大きく手を天に突き上げながらハリーはゆっくりとした足取りで入場してくる。そして、そのままリングの中央を通り過ぎ、私の目の前で止まった。

 

「この日が待ち遠しかったぜ。やっと、お前と公式の場でやり合える、この日を、な」

「前回やったのはただの組手だからね。まぁ、今回も負けるつもりはないけど」

「そのつもりで来てくれないとリベンジにならねーからな」

「それもそうだね」

 

炎熱変換資質持ち、スタイルは近づいて殴るか砲撃をぶっ放すかのどちらか。性格の違いはあるが、お互い、やることは変わらない。

 

「紅音、自分のペースだ。相手のペースに乗る必要はないからな」

「うん、大丈夫」

「頑張るッスよ!」

「もちろん」

 

セコンドにはノーヴェとウインディが付いてくれている。様子見をするつもりはないけど、先ずは立ってここに戻ってくること。

 

「それじゃあ、行ってくる。紅葉、お願いね」

『ワン!』

 

そうして、ゴングは静かに鳴らされた。

 

「「ガンフレイムッ!」」

 

開始早々、お互いその場から動かずに砲撃を放つ。スピードは私の方が上、だが、威力はハリーの砲撃が上回った。

慌てずによく見て避ける。鉄腕に掠ったせいで少しライフが減少するが構わない、一気に突っ込め。

 

「そうくると思ったぜ! もういっちょ、ガンフレイム!」

避けた先、ハリーはそこへ砲撃を放つ。だけど、その砲撃を私は避けない。蜃気楼、ギリギリ当たらないように映し出す。

 

「あー! それあるの忘れてた?!」

 

ハリーのセコンド側から「それはないですよ、リーダー!」という叫び声が聞こえてきたが、ハリーの馬鹿さ加減に感謝するべきか、技が上手くいったことに喜ぶべきか。

 

接近しての打撃戦。

「くっそ! 当たらねぇ!?」

ハリーは基本、利き腕である左の大振りしかしない。避けるだけなら容易い。ただ、一撃の威力が大きいので安易にカウンターを打ち込めない。

 

倒れないな……

 

会心のカウンターが何回も入っているのはずなのに「そんなの効いてねぇ!」と言わんばかりに反撃してくる。

今すぐに効果は見込めないが、ボディに攻撃を集中するべきか、そう考えていた時、ハリーが動いた。

 

「これならどうだ!」

地面に向けての砲撃、威力はない代わりに風圧が強い。後ろに大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「これで仕切り直しだぜ、紅音!」

「やってくれるね……ッ!」

 

あの砲撃がある限り、毎回こうやって押し戻されるのは明白だ。私の場合、一撃の威力はそう高くない。ハリーの頑丈さを考えると、攻め切れない可能性がある。

 

その後は激しい砲撃戦が展開されたが、お互いほぼダメージを負うことなく第1ラウンドは終了した。



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対ハリー その2

閲覧ありがとうございます。


「おりゃァァァッ!」

「はぁぁぁッ!」

 

左腕によるストレート、右腕によるアッパー、右足によるローキック、ハリーの攻撃は左腕による大振りしかなかったものが、蹴りなどを織り交ぜるようになり始めた。

 

『壮絶な砲撃の撃ち合いだった第2ラウンドとは打って変わり、第3ラウンドはお互いの身体を使った格闘戦だァァァッ!』

 

射撃戦はどちらも魔力を大量に消費しただけでクリーンヒットはなかった。ハリーも射撃戦が続いても決着がつかないとわかるやいなや、デバイスであるレッドホークを使った接近戦を仕掛けてきた。もしかしたら、残りの魔力自体、少ないのかもしれない。

この状況は私としては願ったり叶ったりだった。射撃戦ならいざ知れず、格闘戦ならただの不良娘であるハリーには負けない。それを証明するかのように、この第3ラウンドは私がハリーの攻撃を避け、防ぎ、カウンターを当てる、そんな一方的な展開になっていた。

 

「まだまだいくぜぇぇ!」

 

だから楽勝か、そんなはずがない。私にだって疲労が溜まっている。ライフがどんどんと少なくなっているのにも関わらず、ハリーは一歩も下がらない。叫び声を上げながら、炎を纏わせ、腕をふるう。そのスピードは未だ衰えず、耳元で風を切る音が聞こえるたび、精神がすり減っていくのがわかる。

 

結構、ダメージ与えてるはずなんだけどな。

 

ハリーの攻撃を受け止め、鉄腕に魔力を吸収させながら、そんなことを考える。ここまで、自分の拳の軽さが憎らしく思ったことはない。

 

『おーと! ここでゴングだぁぁ! 第3ラウンドの格闘戦は紅音選手有利の展開。最終ラウンドは紅音選手がそのまま突っ走るののか、それともハリー選手が逆転するのか!』

 

「ここまで来れば作戦に大きな変更はない。その調子で冷静に勝利を掴んでこい!」

「紅音なら出来るッスよ!」

2人はこう言っているが、なんだろう、このままだと危ないような気がする。ハリーのあのギラついた目は、何か狙っているようなーー

 

ーーね! おい、紅音!」

「え? なに、ノーヴェ?」

「もうブザー鳴ってるぞ」

「あ、本当だ」

 

なにか、ボーとしていた。しっかりしないと。

 

「大丈夫ッスか?」

 

顔を軽く叩いて気合いを入れ直す。

「うん、大丈夫。行ってくるね」

 

私は一抹の不安を感じながら、リングに上がった。

 

「これが最後のラウンドだぜ、紅音」

 

リングの中央で不敵な笑みを浮かべ、仁王立しているハリー。特攻服なのも相まってそれはとても様になっていた。本来の彼女がどんな感じの人なのかは別として。

 

「そうだね」

「オレかお前、どっちが勝っても恨みっこなしだ。正々堂々、最高の試合にしようぜ!」

 

ゴングが鳴ると同時に一気に駆け出す。もう鉄腕には十分な熱が溜まっている、リングの魔力もそうだ。

ハリーが左腕を後ろに引くのが見える。あとはこの攻撃を肘で受けて右のカウンターで決める。魔力を右手に集中させる。

左肘に重い衝撃。今だ、いけ。

 

「悪いな」

 

そのハリーの呟きが、私の予感が間違えていなかったことを分からせた。

 

「オレの勝ちだ」

 

背筋に悪寒が走る。慌てて身体を避けようとするが、間に合わない、拳を押し込まれる。

 

「パイルバンカーァァァッ!」

 

その瞬間、会場に大きな炸裂音が響き渡った。突き抜けるような衝撃。あまりの激痛に身体が硬直する。その一瞬をハリーは見逃さなかった。

 

「決めるぜ、ガンフレイムッ!」

 

吹き飛ばされ、身体を壁に叩きつけられる。身体に力が入らない。薄れゆく意識の中、ある表示が目の前に映った。

 

『システム、エグザミア起動』

 

 

 

▽▽▽

 

『紅音選手、ダウンだァァァァァ! ハリー選手の鮮やかな逆転! これは決まったか?!」

 

壁に身体を預けたまま、紅音はピクリとも動きません。

 

「嘘……ッ!」

「そんな……」

 

コロナとリオはその光景を信じられないといった表情で見ていました。たぶん、私も同じような顔をしていると思います。

 

紅音のライフは残り少ないとはいえ、まだ残っています。立てばまだ、望みはーー

 

『紅音選手、立ち上がった! だが、ダメージが大きいのか、足元がおぼつかない!』

 

「「「良かったぁ……」」」

 

思わず、安堵のため息が漏れます。フラフラと千鳥足でリングに上がり、構える紅音。

 

「……ッ!」

 

こちらからは髪に隠れて見えない、紅音の表情。けれど、一文字に閉ざされた口元だけがやけにはっきりと見てとれました。さっきまで楽しそうに試合をしていた紅音とは違う、そう思わずにはいられません。

「大丈夫かな、紅音」

「紅音ならきっと勝ってくれるよ! あたしはそう信じてる!」

「そ、そうだね!」

きっと大丈夫。あれはクラッシュエミュレートの痛みを我慢してるだけなんだ。私はそう思うことにしました。

試合再開のゴングが鳴る。その直後、紅音はその場に倒れこむように前のめりになって、そして、その姿を一瞬消した。

 

「ーーえ?」

 

紅音が選んだ攻撃は膝打ち。ハリー選手の胸元目掛けて打ち出した膝。誰もが予想していなかった攻撃。当然というか、不意を突かれたハリー選手はその攻撃をもろに食らってしまいました。

これだけで、紅音の攻撃は終わりません。ちょうど、鳩尾に膝が入ったのか上手く呼吸ができず、動けないハリー選手に膝を狙ってローキック、膝が曲がり頭が下がったところにこめかみ目掛けてハイキック。

 

「あのボクシング一筋だった紅音が蹴り……?」

 

紅音の流れるように繰り出される足技の数々は、時には剣に、時には鞭のように変化していきます。それはどことなく、シグナムさんのレヴァンティンを使った剣技に似ていました。

 

炎を纏わせた脚でハリー選手の肩に向けて踵落とし。そして、満身創痍、ライフもほとんど残っていないハリー選手にトドメと言うように剣に見立てた脚を斜めに蹴り上げ、魔力を撃ち出した。それはさながらシグナムさんの飛竜一閃。そんな砲撃並みの攻撃はハリー選手のライフを全て削り、壁に大きなクレーターを作くり上げました。

 

「紅音……」

 

勝利を喜ぶわけでなく、苦しそうに顔を歪ませ、立ち尽くす紅音の姿を私は忘れません。今日、この日、私は紅音の闇に初めて触れた気がします。

 

『試合終了ォォォォォッ! 逆転に次ぐ逆転! 勝利を掴んだのはルーキー日野紅音だァァァッ!』



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大会が終わって

閲覧ありがとうございます。


夢を見ていた。

 

「ーーはどこに行った?!」

「まさか、あいつが……ッ!」

 

私の記憶じゃない。これは、あの人の記憶。

 

「クソッ! こいつら話も聞きやしねぇ!」

「ここを早く抜けないとーーが!」

 

ずっとむかし。ヴィヴィオの元となった聖王が生きていた古代ベルカ時代よりも前の話。

 

「残念ね。もうーーはこの本の中。どう足掻いても無駄」

「殺す……ッ! あなただけは……あなただけは何があっても絶対に……ッ!」

あの人はもうこの世にはいないけれど、その魂と技術はきっと今も、受け継がれている。

 

▽▽▽

 

 

 

何やら周りが騒がしい。なんで、こんなにうるさいの?

 

…………あれ? ここ、どこだっけ? 私、何してた?

 

暗かった風景に少しずつ光が差し込めた。見えてきたのは、雲ひとつ無い青い空。私は仰向けに倒れていた。

 

そうか、私、ハリーの攻撃を受けてーーーー

 

「負けた……」

 

あそこまで追い詰めていたのに、結局、逆転されて敗北。

 

敗者は立ち去るのみ、そう思って立ち上がろうとしたが身体に力が入らない。

 

「なーに、しけたツラしてんだよ」

 

眩しかった太陽が遮られ、そこから差し出された手があった。

 

「ハリー?」

「おう。 ほら、早く立てって」

 

ハリーに急かされ、力の入らない腕を無理やり動かして、差し出された手を掴んだ。そして、起こしてもらうまでは良かったのだが、やはりと言うか、脚に力が入らない。

 

「ごめん、ハリー。肩貸して」

「しゃーねぇなぁ」

ハリーの肩に腕を回し、体重を乗せる。それで、やっと地に足がついたような感じがした。

 

「ほらよ、見てみろよ、この歓声。これが、ここまで来たやつしか味わえねー特権ってやつだよな」

そう言って、ハリーは顔を上げるように促す。そこには、良いものを観たといった観客の顔。拍手は未だ鳴り終わらない。

 

「うん、そうかも、しれない」

だけど、負けた私はハリーにそう返すことしかできない。これは勝者への歓声、敗者には慰めにしかならない。

 

「だから、なんでそんなしけたツラしてんだよ」

「だって……」

 

私は観客から目を反らすように俯いてしまう。そんな私の様子にハリーは大きくため息をついた。

「何を考えてるのかは知らねーが、顔を上げろよ。勝者にそんな顔は似合わないぜ?」

「え?」

 

勝った? 誰が、誰に?

 

「作戦通り、上手くいってたはずなんだがな。最後にあんな隠し球があるとは予想もしてなかったぜ」

ということはーー

 

「まさか、私が勝ったの……?」

「あぁ、そうだよ。なんだ、嫌味か?」

 

目を細めてハリーがこちらを睨んでくる。私は慌てて首を横に振った。

 

「まぁ、なんとなくわかってた。あれがジークと同じ、エレミアの真髄だってことぐらいよ」

 

そうか、だから、あの人の夢を見てたのか。

 

「次は、それを含めてオレが勝つからな。楽しみにしてろよ?」

「いいや、次も私が勝つよ。あの人の力を使わないで、自分の力だけで」

それぐらいできないと、きっと頂点まではたどり着けないと思うから。

 

「そろそろ、オレは退散するとすっか。お前の仲間もそろそろ来るんだろ?」

 

そう言えば、観客席の最前列にいた3人の姿が見えなくなっていた。もしかしたら、こっちに来てくれているのかもしれない。

「ほら、もう自分で歩けるだろ? 早くあっちに行ってやれよ」

 

ハリーの肩に置いていた手を解かれ、軽く背中を押される。少しよろけるが、大丈夫。自分の足で立てる。

 

「じゃあな。また、リングの上で会おうぜ、紅音」

「うん、また、いつか」

 

そう言うと、ハリーは特攻服を翻し、堂々とした出で立ちでリングを後にした。

 

「勝てたんだ、私」

 

なんか、実感がわかないな。最後のことは全く覚えてないわけだし。

 

「お疲れ」

 

ベンチではノーヴェが1人、満足げな顔をしていた。

「よく頑張ったな」

 

珍しく、恥ずかしがらずにノーヴェは私の頭を撫でる。それほど、コーチとして、ノーヴェも嬉しく思ってくれているのかもしれない。

 

「今、ウェンディのやつに医務室手配してもらってるから、早く行くぞ」

「うん、わかった」

 

テキパキとノーヴェは後片付けを始める。私はというと怪我人には仕事なんて任せてられないとベンチに座らされている。その時だ。

 

「あ〜か〜ね〜っ!」

 

大きな少女の声と軽やかに駆け抜ける音が耳に入った。

 

「ん?」

 

そして、後ろを振り向いた瞬間、軽い衝撃。誰かが抱きついてきたようだった。

 

「紅音っ! 優勝おめでとうっ!」

 

抱きついて来たものの正体はリオだった。満面の笑みを浮かべ、私に抱きつきながら、その場を何回も飛び跳ねている。

 

「ありがとう、リオ」

 

他の2人はリオが到着してから数分後に現れた。2人とも走ってここまで来たのか息が切れていた。コロナは顔を赤くしていたが、大丈夫だろうか?

 

「やったねっ、紅音」

「おめでとうっ!」

「ありがとう、2人とも」

 

ヴィヴィオとコロナが挙げた手に私の手を重ね、ハイタッチを交わす。

 

「仲良く喜んでいるところ悪いが、そろそろ行くぞ」

 

その後は、試合のインタビューと高町家でのお祝いがあり、解散する頃にはもう空は薄暗くなっていた。

 

「ここに来てから、だいぶ経ったな……」

 

私は庭に出て、夜風に当たりながら、そんなことを考える。

もうすぐ、私がここに来てから一年が経つ。その間、いろんなことがあって、いろんな人と出会えた。きっと、あのまま年を取っていたらわからなかったものもあった。それが、私にとっていいことなのかどうかは定かではない。でも、少なくとも今の私はこの生活に満足している。

「あ、紅音、ここにいたんだ」

「ヴィヴィオ? 外になんて来て、どうかした?」

 

それは、ヴィヴィオの存在が大きいかもしれない。私がここに来てから、初めてできた親友、それが高町ヴィヴィオ。この世界で色々と助けてもらったのは言うまでもない。

 

「たまには、2人でゆっくり話したいなーって」

そう言って、ヴィヴィオは照れ笑いを浮かべた。思い返してみると、確かに最近、2人でいることはほとんどなかったかもしれない。学校ではコロナとリオも一緒だし、家に帰ったら、なのはかフェイトのどちらかいる。それに、私が部屋に引きこもっている時も多かった。

 

「ここで?」

「ちょっと寒いけど、しっかり防寒してきたから大丈夫だよ!」

「そう。それならいいんだけど」

 

そして、私たちは語り合う。これまでのこと、これからのこと。それはなのはに怒られるまで続いていった。

そして、季節は冬から春へ移れ行く。次の1年が今、始まろうとしていた。



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春になって

閲覧ありがとうございます。今回から新章突入です。アインハルトはまだしばらく登場しません。


「紅音ー! 早く早く〜!」

「はいはい…………わかってるよ…………」

「紅音ー! 寝ちゃダメー!」

 

眠い目をこすりながら、私はヴィヴィオの後を追う。リビングから漂ってくる美味しそうな匂いがお腹を、くぅ、と鳴らさせる。

大会が終わって、2ヶ月近く経った。ついこの前まで冬であったのが嘘のように、日は長く、風は暖かく、桜は開花し始めた。

 

「ママたちは今日、お休みだから」

「お祝いモードで美味しいものいっぱい作って待ってるよ〜」

「「はーい」」

 

なのはとフェイト、2人に見送られながら家を出る。今日は終業式。私が小学4年生なのも今日で最後だ。そう思うと、13年越しの進級かと、妙な感動が私の中に沸き起こる。

 

「紅音、紅葉が何か振動してるんだけど…………」

「え? あ、本当だ」

 

ヴィヴィオの言った通り、頭の上に乗せている紅葉が微かに振動していた。どうやら、進級の感動で気が付かなかったみたいだ。

 

「えっと、ヴィクターからのメール見たい」

ヴィクターがこんな早朝に連絡を寄越すのは結構珍しい。事実、いつもヴィクターからの連絡は昼か夕方のどちらかだからだ。

 

「えっと、『今日、学校が終わり次第すぐに私の家に来なさい。あなたに見せたいものがあるの』…………?」

「へー。見せたいものっていったいなんなんだろうね?」

「この前ジークには新型のデバイス渡したし…………珍しいパーツ?」

 

この前、ジークにはめでたく私が作った新型デバイス『クロ』を渡すことができた。その名の通り、見た目は紅葉と瓜二つの柴犬。中身は多少改造しているとはいえ、元々のジークが持っていたデバイスのデータが使われている。あの時に渡した場所がダールグリュン家だったというのもあり、ヴィクターの発狂っぷりはすさまじかった。ジークの試し打ち版ガイストを食らってやっと、動きが止まったレベルだ。どれほどひどいものだったか容易に想像できるだろう。

 

「まぁ、とりあえず、なのはには夕飯前には帰るって伝えないとね」

「伝えなくて帰ってこなかったときは恐ろしい目に合うからね…………」

 

そう言ってヴィヴィオは遠い目をしていた。いったい何があったのだろうか。こうして、私たちは学校に向かい、晴れて、一年間の成績表を受け取るとともに、小学4年生としての学校生活は終了した。

ヴィヴィオたちはそのまま無限書庫に向かうという言うので、私は一人で校門の前で待ち続ける。10分を過ぎたあたりに一台の大きな車が私の前に停車した。

 

「お待たせ、紅音。さぁ、早く車の中に入りなさい」

 

ヴィクターはそう言ってエドガーに指示を出し、ドアを開けさせる。周囲の視線が痛いのでありがたくそうさせてもらう。中に入るとそこにはヴィクターとエドガーの他にジークとクロの姿もあった。私は頭の上から紅葉を降ろし、クロと遊ぶように促す。車が発進する頃には、二匹はじゃれあって遊んでいた。

 

「それで、ヴィクター。話って?」

「それについては我が家に着いてから話すわ。それよりもーーーー」

 

そうしてヴィクターが取り出したのはケースに入ったトランプだった。

 

「いつかの雪辱、ここで晴らさせてもらうわ」

 

なるほど。私とジークは顔を見合わせニヤリと笑う。

 

「「望むところ(や)!」」

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「また負けたわ…………」

「ほら、ヴィクター。項垂れてないで早く行くよ」

 

ほどなくしてダールグリュンの屋敷には着いた。道中のトランプ対決はヴィクターの全敗。結局、雪辱を晴らすことはできなかった。

 

「まぁ、勝つのは次の機会ということで。それでは、部屋に案内するわ、2人とも」

 

気を取り直したヴィクターは私たちの前を歩いて道案内をする。

 

「なぁ、紅音」

「なに、ジーク」

「私、この屋敷に何回来ても道覚えられないんやけど」

「奇遇だね。私もだよ」

 

よく来ているのに部屋に行くまで毎回道案内をしてもらっているのはこれが理由だ。よくわからないけど、覚えられないんだよね。

部屋に案内され、席に着き、エドガーが入れてくれた紅茶を飲む。うん、今日も美味しい。

 

「それで、今日はなんのために私を呼んだの?」

「あ、それについて、先ずは私が話してもいいかな?」

 

断る理由もないので、私たちは無言で頷く。それを見たジークは再び口を開いた。

 

「紅音、この前の大会で番長と試合してたやん?」

「そうだね」

「それを私の両親がたまたま新聞で見たらしくて、この子誰? って聞かれたんよ。それで、別に隠す必要もないから、色々と喋ってもうて…………」

「まぁ、別にそれぐらいなら」

 

特に支障はないだろう。聖王教会にも知られていることだし。

 

「話はそれだけじゃなくて、昨日、私の両親が面白いもの見つけたから、ダールグリュン家に送っておいたって言われて…………」

 

そう言うとジークはヴィクターの方を見る。その視線を受けたヴィクターはなにやら、エドガーに指示を出した。数分後、戻ってきたエドガーは手元に一冊の古ぼけた分厚い本を持っていた。ヴィクターはそれを受け取るとゆっくりとテーブルの中央に置いた。

 

「これ、なに?」

革を使って作られているらしい表紙に書かれている題名は文字が掠れて読めない。

 

「わたくしが調べたところによると、どうやら題名は『青が黒になった日』製作者は『ゴルト・エーベルヴァイン』内容はどうやら、歴史書…………みたいな感じかしら?」

「本の題名も製作者の名前も聞いたことないなぁ。紅音は?」

 

そう、ジークから話を振られどうだったかと考える。さっきから気になっていた。ゴルト・エーベルヴァイン、どこかで聞いたことあるような名前…………

何かを思い出して、私は口を開いた。

 

「もしかしたら、私のご先祖様の時に生きていた人かも」

 

確か、お姉ちゃんが話してた『エレミアの話』に出てきた登場人物にいたはずだ。国王、ゴルト・エーベルヴァイン。そう呼ばれていた気がする。

 

「読んでみていい?」

「え、えぇ、まぁ」

 

何やら歯切れの悪いヴィクターから手渡された本はずっしりと重く、表面はひんやりと冷たかった。ページを開く。

 

「『我が名は国王ゴルト・エーベルヴァイン。いつか、これを読まれる方には真実を知ってもらいたい。これは私が引き起こした罪だ。その罪をここに書き記していこうと思う』」

 

古代ベルカ語で書かれているその文章はエレミアの話と私の記憶が本物であるという確証を持つのに十分過ぎるほどだった。

 

「紅音、古代ベルカ語読めたんやね」

「うん、当然」

 

そもそも、最初から私はこっちの言葉を知っていた。未だ、他の人がそのことに気づいたことはないけど。なんか、なのは辺りのせいで話せること前提になってなかったっけ。実際はギリギリ記憶が残っていただけなのに。

 

「続き読むよ。『ことの発端は私が彼女にあることを依頼したところから始まったーーーーーー」

 

 



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ゴルト・エーベルヴァイン

閲覧ありがとうございます。


心地よい風が吹き抜け、わたしの紅い髪を揺らす。わたしの足元には辺り一面、色とりどりの花が咲き乱れている。なんだか、一つの芸術作品のように感じられた。

 

「お姉ちゃーん!」

 

大きな麦わら帽子を被った小さな少女が花畑の真ん中でこちらに手を振ってくるから、尚更、そう思ってしまうのかもしれない。

わたしは彼女の方へと歩みを進める。側まで近づくと少女は花を傷つけないように気をつけながら、わたしのところに駆け寄ってきた。わたしは少女の頭に手を乗せ、優しく語りかける。

 

「ユーリ、一緒に花の冠でも作ろうか? きっと、ゴルトにプレゼントしたら喜んでくれると思うよ」

 

わたしがそう言うと、ユーリは一層とキラキラと目を輝かせ、笑顔を浮かべた。

 

「本当ですか!? お兄様に喜んでもらうためなら、私、頑張りますよ~」

「うん。先ずは花を摘んでみようか?」

 

ユーリはニコニコと楽しそうな笑顔を浮かべながら花を一つ一つ丁寧に傷つけないように摘んで行った。花冠を作れる程度の量を摘んだところで、花畑にある大きな木の下の木陰に移動して花の冠の製作を始めた。

 

「ユーリ。こういうのはねーー」

「むー、難しいですね……」

 

うーん、うーん、と頭を悩ませながら花の冠を作っているユーリはなんだか、とても微笑ましく思う。

わたしも、いつもは一人、工場に篭って武器を作ったりしているから、たまにはこういうのんびりとした時間を過ごすのも、悪くない。

 

「赤のお姉ちゃん、こんな感じでどうですか?」

そう言われて、ユーリから手渡されたのは一部、ちぐはぐな部分もあるが一生懸命に作ったのであろうと、製作者の気持ちがよくわかる一品だった。

 

「うん、よくできてる。上手だよ、ユーリ」

「えへへ〜 よかったです〜」

「そうだ。せっかくだから、ブラウの分も一緒に作っちゃおうか? きっと、自分の分が無かったら不貞腐れちゃうよ、あの子」

「そうですねっ! よーし、もう一踏ん張りです!」

まだ摘んだ花は残っているし、わたしはユーリのために指輪でも作ろうかな。

これが、私の中に残るロート・エレミアとユーリ・エーベルヴィンとの、幸せな最期の記憶。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

すべては私が彼女に『アレ』を頼んだことから始まった。

 

「魔法を記録する魔導書…………ですか? ゴルト様」

「あぁ、そうだ。今の世の中、多くの優れた魔法が存在している。私はその魔法たちを半永久的に後世へ残しておきたいんだよ」

 

私が彼女、緑のエレミアの長であるグリューンに依頼をしようとしたのは一冊の魔導書だった。グリューンはその話を聞くや否や、肩口で切り揃えられた淡い金髪を弄りながら、私に問うてきた。

 

「どうして、その魔導書の製作をわたくしに? ロートの方が適任なのではございませんか?」

 

そのグリューンの疑問は当然だろう。武器や防具は勿論のこと、デバイス、魔導書の製作を専門としているのはロート率いる赤のエレミアだ。しかし、残念なことに今は魔導書の製作をロートには頼むことができない。

 

「確かにそうかもしれない。だけど、今、彼女には他のことを頼んでいるんだ」

「あら、そうなんですか」

「あぁ、だから君にしか頼める人がいないんだ」

ロートにはとある武器とデバイスの製作を依頼していた。きっと、ロートなら最高傑作を作ってくれるに違いない。

私は

 

「それで、魔導書の製作、頼めるかい?」

 

グリューンは口元に手を置き、少し考えるそぶりを見せた。そして。

 

「ええ、勿論ですとも」

 

彼女は口元に薄い笑みを浮かべ、そう答えた。

 

「このグリューン・エレミア、我が命に代えてもゴルト様の頼み、果たして見せますわ」

「そんな大袈裟な」

「いいえ。大袈裟ではございませんわ。これはわたくしの心からの気持ちです」

「そうか。それでは、魔導書の製作、よろしく頼むよ」

「はい。それでは、今日のところは失礼いたしますわ」

 

グリューンが部屋から出ていくのを確認すると、私は乗り出していた体を、深々と椅子に預けた。

 

「ふぅ…………」

 

グリューンの大袈裟な言葉に少し困惑してしまったが、彼女がこの仕事を受け持ってくれて助かった。そういう魔法は彼女の専門だからな。

……これで、私の夢は前に進むことができるはずだ。質量兵器がない世界を、この手でーー

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「質量兵器のない世界………… まさしく、今のような世界のことよね? 古代ベルカ時代は殺して奪えって感じだったけど、どうやら、この人は違うようね」

「極力、戦争は避けようとしてたから。ただ、兵士としても指揮官としても優秀だったよ。ゴルトは」

 

他の国では2桁、3桁と戦争があったというのに、あの国で戦争があった回数など簡単に片手で数えられるほどしかない。それも、攻撃されたからには建前上、戦争をしなければならなかったというものだ。

 

「これが紅音が話してた3つのエレミアがあったっていう時代なんやね」

「そう。ヴィヴィオのモデル、聖王オリヴィエが生きてた時代より前の話」

懐かしいという感情はおかしいかもしれないしれないけど、ゴルトやユーリが、国がまだ平和だった幸せな日々。だけど、もう既に何かが壊れてしまっていたのかもしれない。今だからこそ、そう思う。

 

「あ、ページが破れてる。えーと、次はもう魔導書が完成間近になったあたりみたい」

 

ここから、あの国の崩壊が始まった。



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ゴルト・エーベルヴァイン

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グリューンから魔導書が今日中に出来ると連絡を受けた私は早々に身支度を整え、グリューンの元へ向かおうとした。

 

「よ、よぉ、ゴルト」

「おはよう、ブラウ。帰ってきたばっかりだというのに朝が早いな」

「へへっ、まぁな」

 

彼女の名前はブラウ・エミリア。長い黒髪を二つに束ねた小柄な少女だ。だが、こう見えて戦闘に秀でた青のエレミアの長であり、そして、私と婚約中の女性だ。ここ一週間は隣国の小競り合いに加勢しに行ってもらっていて、昨日遅くに帰ってきた。大暴れしてきたせいか、随分と早く寝ていたようだった。

 

「すまない、私は急ぎの用があるのでな。また、後でな」

「あー、悪い。ちょっと待て。ゴルトはユーリがどこにいるかしらねぇか? 昨日一緒に遊ぶ約束してたんだけどよ、どっかに出かけちまったみたいなんだよな」

「なに? 私はそんなこと一言も聞いていないぞ。……まったく。危ないから外へ出かけるときは一声かけるよう言ってあるのに」

 

私がそうぼやくとブラウは仕方なさそうにため息を吐いた。

 

「ゴルトも知らねぇか。しゃーねぇっ。おれはユーリ探しに外ぶらついてくるわ」

「わかった。くれぐれも気をつけてな」

「問題ねーよ。俺より強い奴なんてこの世にはいねぇって」

 

そう言ってにやりと笑う彼女を私は見送った。ユーリのことは彼女に任せるとして、私は自分の仕事に集中しなくてはな。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「ようこそいらっしゃいました。今お茶をお持ちいたしますわ」

「すまないね」

 

グリューンたち緑のエレミアはその色の通り、多くのものが国の中心から外れた木々の生い茂る森の中で生活している。昔、それとなくグリューンに尋ねてみたのだが、どうやらこの辺は薬品に変えられる草や花が多く存在しているようで、この場所を守る意味も兼ねているようだった。

そんなことを思い返していると、グリューンがお盆にティーセットとお茶菓子を乗せたお皿を持って戻ってきた。

 

「お待たせしました。こちら紅茶とお茶菓子にクッキーです。今回のはどちらも自信作ですので、きっとゴルト様のお口に合うと思いますわ」

「そうなのか。そこまで言うのなら、早速いただくとしよう」

 

ニコニコと笑顔のグリューンが見守る中で私はティーカップに口をつける。しつこくない、さっぱりとした甘酸っぱさが口の中に広がってくる。クッキーも紅茶に合ったものでとても美味い。

 

「うむ、流石はグリューンだな。大変美味だ」

「ふふっ。ありがとうございます」

 

私とグリューンはしばらく会話を楽しんだ。だが、やはり私も一国の王。次の予定の時間が差し迫っていた。

 

「すまない、次の予定があるでな。そろそろ本題に移させてもらっても構わないか?」

「あぁっ! ごめんなさい! わたくしとしたことがゴルト様にご迷惑を……」

「大丈夫だ。そう気悩むことではない。すまないが『例のもの』を持って来てもらえないか?」

「はい。ただいま」

グリューンは一礼すると部屋を出ていった。

 

そう言えば、ブラウはユーリを見つけることは出来ただろうか。ユーリが行くところは限られているとは思うが、何処かで何かないとも限らない。

 

ユーリは私のただ1人の肉親なのだ。何かあっただの考えたくない。

 

そう椅子に深く座り込んで考え事をしていると、ドアをノックした音が聞こえ、考え事から意識を離した。今は『例のもの』についてだ。ユーリはブラウに任せているのだ。きっと大丈夫であろう。

 

「ゴルト様。『アレ』をお持ちいたしました。どうぞ、お手にとって見てみてください」

「これが『夜天の書』か……」

 

一見、厚い革張りの本のようにしか見えない。手に取った感想も高級な革を使っているのだろうと言ったものしかない。

 

「今はまだ、試しにわたくしの回復魔法しか入っておりませんが、問題なく使えると思いますわ。ただ、色々と問題がありまして……」

「ほう。一体その問題とはなんだい?」

「魔法を記憶する方法ですが、やはり無条件で、とはなりませんでした」

「やはりそうか……」

「はい。少量ではありますが、魔法使用者本人の魔力が必要となります」

 

なるほど。私の想像していた最悪の場合に比べたら格段に優しいものだ。自分の魔力を分けるという行為が少し厳しいことかもしれないが、これぐらいならば説得することも可能だろう。

 

「ありがとう。魔力を少量の魔力ならば話せばわかってくれる人はきっと大勢いるはずだ」

「ゴルト様からそう言って頂けるなんて、わたくしにとって最高の幸せですわ」

 

これで後はロートの作品と組み合わせればこの『夜天の書』は完成する。

「もう少し調整することもございますが、これで大方完成とみてもよろしいと思いますわ。それにロートの作品たちもこちらで預かっておりますから、後はわたくしに任せてください」

「そう、だね。今すぐ持って帰りたいところだが、そうとも言ってられないだろう。夜天の書はお返しするよ。これが私の手元に来る時を楽しみにしている」

「はいっ! 必ずや、ゴルト様の期待に応えてみせます!」

 

こうして私とグリューンは別れた。屋敷へと帰った私を待っていたのは信じたくない報告だった。

 

「ユーリが見つからない、だと?」

「は、はい! 今朝からユーリ様が見当たらないとブラウ様から伝えられ、使用人総出で捜索をしましたが、見つからず……」

「そうか、わかった。まだ捜索していないところはあるか?」

「山の下の方や森など、ユーリ様が行かなそうなところの捜索はまだです」

「ならそこらを重点的に捜索してくれ。何かあったら私に連絡を」

「かしこまりました!」

 

その日、ユーリを発見することは叶わなかった。



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