三崎鉄道物語 (元町湊)
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樟葉と文
905仕業その1
受験勉強に嫌気がさしたので息抜きに書きました。
駅の位置関係が分からないと思いますが、勘弁してください。
路線図はあるんですよ?一応。ただ.xlsxなだけで。
「9056E異常ありません。当駅より905仕業担当運転士に引き継ぎます」
「905仕業担当運転士、9056E異常なしの旨、了解しました」
この905仕業担当運転士―――千林樟葉は前の運転士との形式的な引継ぎを終え、雑談に入る。
「にしてもやっぱりこの時期お客さん多いよね」
「そうですね。まあ、大きな祭りですししょうがないですよ」
「そうなんだけどね。それに、交通機関だからお客さんが多いに越した事は無いけどね」
「ははは。そうですね」
そんな話をして2、3言交わすと、
「あ、じゃあ、お疲れ様でしたー」
「あ、はい。お疲れ様ですー」
と挨拶を交わしてそれぞれの持ち場へと向かう。
樟葉は運転台へと入り、運転台にタブレット型の端末を挿す。
そうすると、これから走るべきルート、従うべき制限速度や各駅における時刻が表示された。
それを確認すると、運転台に時計をセットし、ブレーキハンドルを挿し込んでブレーキテストを行う。
『臨時急行、緑ヶ丘行きです。次は小室に停まります』
ブレーキテストを終えたところで戸締め灯が点灯し、出発合図のブザーが鳴った。
「急行、出発進行! 次、小室停車!」
緑色に灯るATC信号を指差し、ブレーキを解除してからマスコンを入れ、列車を加速させた。
◇◆◇◆◇
「急行、青葉停車! 進行9番! 停目10!」
『まもなく、青葉に着きます。9番線到着、お出口右側です。ドアから手を離してお待ちください。 この列車は当駅より快急の緑ヶ丘行きに種別変更いたします。予めご了承ください』
ブレーキを常用最大まで押し込み、一気に速度を落としてから停車位置付近で一気に緩めて停める。所謂残圧停車と呼ばれる手法で樟葉は列車を止めた。
ドアが開き、樟葉の後ろでは乗る客降りる客で騒がしくなっている。
そんな中樟葉はタブレット型端末に手を伸ばし、種別の再設定を始めていた。
「(種別、快急……っと)」
設定更新と書かれたボタンをタップし、樟葉は前面の種別が更新されているか、一旦外に確認に出る。
「(種別表示よし、っと)」
運転席に戻り、端末の設定完了のボタンをタップすると、表示内容は時刻表に戻った。
時刻を見ると、まもなく発車時刻だった。
『快急の緑ヶ丘行き、発車いたします。扉を閉めます、扉を閉めます。ドア付近の方はお荷物お体強くお引きください。ドア、閉まります』
車外スピーカーから車掌の案内が聞こえ、ドアが閉まる音がしたが、戸締め灯は点かなかった。
樟葉が編成状態と書かれたボタンをタップすると、各車の状態が一目で分かる画面に切り替わった。
それによると、4号車でまだ扉が閉まっていないようだった。
樟葉が押しに行こうと立ち上がり、乗務員室の扉を開けたところで、側灯は全て消えており、駅員が絞った赤旗を上げているのが見えた。
するとその直後、車掌からの出発合図が送られてきて、出発できる状態になった。
樟葉はすぐさま運転席に戻り、
「快急、出発進行! 次、大沢停車!」
と、指差し喚呼して列車を発車させた。
◇◆◇◆◇
「快急、緑ヶ丘停車! 進行6番! 停目共通!」
『ご乗車ありがとうございました。まもなく、終点の緑ヶ丘に到着です。車内にお忘れ物をなさいませんよう、今一度お手回り品をお確かめください。 6番線に到着いたします、お出口は左側です。ドアから手を離してお待ちください。 この電車は到着後、回送電車になります。お客様のご乗車はできませんのでご注意ください。 本日は三崎急行電鉄をご利用くださいまして、ありがとうございました。 担当は青葉運輸区の狛田でした』
「P35信号確認!」
今まで0km/hの位置にあった赤針が35km/hの位置まで跳ね上がり、そこから徐々に下がっていく。
この赤針の示す速度より上回ると非常停止する為、そうならないように速度を下げていき、停止位置に停めた。
「緑ヶ丘、到着定時!」
樟葉は前後切替スイッチを切位置にした後、ブレーキハンドルや運転台から時計や端末を抜き取り、運転士用の鞄を持って折り返しの運用のために反対側の運転台へと小走りで向かう。
今日は臨時ダイヤでの運行なので、折り返しに余裕が無い。 ひっきりなしに来る列車を捌かなくてはならないため、早く線路を空けなければならないのだ。
編成の中間辺りまで来たとき、向こうからさっきまで車掌をしていた狛田
「運転お疲れ、くーちゃん」
「まだまだよ。これを車庫まで持ってかなくちゃ」
「そうだったね」
そんな話をしていると、ホームの天井に吊り下げられているスピーカーから、
『業務放送、業務放送。6番車内点検終了、ドア、閉めてください』
という放送が聞こえた。
「やばっ、早く行かなきゃ」
「そうね。じゃあ、また青葉で」
「うん。じゃあね」
そう言って私達はそれぞれの場所に向かった。
運転室に着いた私は、端末やらを設置した後、種別の設定に移っていた。
「(種別、回送っと)」
種別変更し、外に出て確認、戻ってきて出発の時間を待つ。
出発まで後1分というとき、文ちゃんからの試験ブザーが来た。
『
「
『
「
これを終えると、ATCの信号はすでに赤から緑に変わっていた。
「回送、出発進行! 緑ヶ丘定発! 次、郡界橋停車!」
列車は郡界橋に向けて走り出した。
喚呼は東急をモデルにしています。
保安装置はATC-Pをモデルに。
端末は私の想像です。モデルがあるとするならば近鉄の端末みたいなやつ。タブレットだけど。
絵とか描きたいけど絵心無い。皆無に等しい。
運転台とか描きたいなー。
ちなみに、駅の位置関係について。
芝山美浜(最初の駅)ー小室ー青葉ー大沢ー郡界橋ー緑ヶ丘
の順です。間にもっと駅あるけどね。
12/24 路線図公開します。
12/24 思うところがあり、内容を少し(?)変えました。
02/04 ダイヤ改正ついでに路線図公開場所変更。見たい方は活動報告へ。
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905行路その2
って言うと東進の某先生に殴られるそうなので言わないようにします(遅
クリスマスでいろんな作者さんが色々投稿してるので、そのテンションで書き上げたら書き上がってしまった。
あ、前回の話を一部修正しました。それと、前回の後書きのところに路線図をアップしました。宜しければご覧ください。
それでは第2話をどうぞ。
郡界橋の車庫に向けて、列車を走らせていると、指令から呼び出しされた。
『こちらは青葉指令です。指令からC線(=青葉線下り内側線)の腰当、
作者注:緑ヶ丘〜青葉は方向別三複線で、下りの外側線からA線、B線、C線となり、上りの外側線がF線と呼ばれている。外側線は主に普通列車、中側線は準優等列車、内側線は優等列車が走行している。
私は制帽についているマイクで指令との交信を開始した。
「はい、こちら9021A運転士です。どうぞ」
『えー、これより、当列車の行先変更の通告を行います。どうぞ』
「続けてどうぞ」
『はい、それでは、9021Aは、行先を所定の群界橋から青葉へと行先変更となります。青葉での着発線や各駅の通過時刻につきましては、端末を参照してください。
よろしければ復唱どうぞ』
「それでは復唱します。
9021Aは行先を郡界橋から青葉へと変更、各駅の通過時刻、青葉到着番線は端末参照、以上、承知しました、どうぞ」
『はい、復唱オーライです。それではよろしくお願いします。 続きまして、相手変わりまして同列車の車掌、応答願います』
指令との交信を終えた直後、端末に表示されていた内容が変わり、郡界橋の先まで開通情報や通過時刻が表示された。
それを横目でちらりと確認し、私は意識を前方へ向けた。
◇◆◇◆◇
「回送、青葉停車1番! 停目10!」
この駅でもORPの赤針に引っかからないように気をつけて減速し、停車位置に停めた。
停車位置では引継の運転士さんが待機していて、私はその人と交代する為に急いで乗務員室を出た。
「9021A異常ありません。当駅より937仕業担当運転士に交代します」
「937仕業担当運転士、9021A異常なしの旨了解しました」
最期に軽く敬礼して引継を終え、私は運輸区に向かう為に階段を上った。
階段を上るとそこは駅のコンコースで、花火大会帰りと思われるお客さんで混雑していた。
私はその流れにのって改札口まで来た後、一番端にある職員用の出入り口から外に出た。
しばらくそこで待っていると、遅れて文ちゃんも出てきた。
「ごめん、待った?」
「ううん、そんなには」
「いやー、人が多くて大変だよー」
「そうね。でも、私達はお客さんがいてなんぼの仕事だから。多いほうが嬉しいのよね」
「分かってますってー」
そんな話をしながら私達は駅前のロータリーを歩き、駅のすぐ近くの5階建てのビルに入った。
ここが私達の所属する青葉運輸区の入っているビルで、私達は階段を使って2階まで上がった。
上がってすぐ右手のドアを開けると、そこには私達と同じような制服を着た人たちがたむろしていた。
この中にはこれから帰る人、これから寝る人、これから仕事に行く人など、様々な人が休憩中で、同僚達と談笑していた。
私達はその中を縫うように歩き、乗務終了の点呼のために助役の前まで歩いていった。
助役の前に着くと、私達は互いに敬礼した後、点呼を取った。
「905仕業担当運転士、ならびに車掌、乗務終了しました」
「はい、お疲れ様でした。掲示板に張られている連絡事項などを確認してから、気をつけて帰宅してください」
「「分かりました」」
最後にまた敬礼して、終了の点呼は終わった。
その後、言われた通りに掲示板へと向かい、連絡事項などを確認する。
特にこれと言って重要なものは……。
「ねえ、文ちゃん」
「何? 先に言っておくと、臨時列車の希望は私出さないよ?」
「え!? 何で……」
「私は余計な仕事増やしたくないですしー。 それに、これくーちゃんの行きたかったイベントに対しての臨時じゃん。 希望出して当たったらイベントいけないよ?」
「え!? …………ホントだ」
「よく見なよ……」
「ありがと、文ちゃん」
「そうだ、私はありがたいんだ。もっと崇め奉れー……ってね。さ、着替えてさっさと変えろ? もうこんな時間だし」
そう言って文ちゃんが指した時計を見ると、既に23時になろうとしていた。
「そうだね。早くしないと最終が出ちゃう」
「そうそう。ほら、行くよ」
そう言って文ちゃんは人の間を縫って行った。私もその後に続いて部屋を出て、更衣室へと向かう。
更衣室はこの階の1個上で、階段を上った左側にある。
女性用更衣室と書かれたドアを開け、中に入って自分のロッカーの前で私服に着替える。
着替えていると、私のすぐ後ろで着替えている文ちゃんが話してきた。
「夕飯どうする?」
「夕飯? まあ、この時間じゃどこも閉まってるだろうしねえ……」
「昨日のカレーまだあったっけ」
「アレは今日の朝と昼で食べちゃったじゃない」
「え、アレで最後だったの!?」
「そうだよ? 言わなかったっけ」
「聞いてないよ~」
そう言うと、文ちゃんは力なく床に座り込んだ。
「夕飯……私の夕飯……」
「…………あ」
「なに? どうしたの……?」
私は今思いついた事を文ちゃんに言った。
「そういえば、この近くに私の知り合いがやってる店があったっけ」
「そうなの!?」
「たぶん。あまり行かないからあやふやだけど、確かこの近くで夜遅くもやってたはず」
「じゃあ、そこに行こう! 今すぐ行こう!」
「はいはい、分かりました。でもその前に、まずは着替えちゃいなさい」
「はーい」
そう言って文ちゃんは着替えを再開した。
私も最後の1枚を着て、制服をハンガーにかけて荷物を取り出してロッカーを閉めた。
「文ちゃん、準備はいい?」
「いつでもオッケー!」
振り返ると、既に行く気満々な文ちゃんの姿が見えた。
私はそれを見て少し笑ってしまう。
「ふふ、それじゃ行きましょ」
「レッツゴー!」
そうして、私達は更衣室を出て店へと向かった。
前回保安装置のモデルはATC-Pと言ったな。アレは嘘だ。
……スイマセン。よくよく考えたら機能的にはメトロのCS-ATCじゃないですかヤダー。
回送列車における車掌の乗務場所とかも変えるし、なんなんでしょうね、この作者は。
……スイマセン。もう変える所は無いと思います(無いとは言ってない)。
変更点が出たら随時お知らせしたいと思います。すみません。
次はダイヤとか公開できたらいいなぁ、なんて。
それでは、また次回。
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非番前夜
大通りを少し歩き、路地へ入る小さな交差点を曲がってしばらく歩くと、目的の店が見えた。
暖簾も看板も何もなく、一見するとただの民家に見える。
「ここだここ」
「ほんとに?」
「ほんとにほんとだって。 さ、入ろ?」
そう言って、私は引き戸の取っ手に手を掛け、その戸を開けた。
◇◆◇◆◇
「いらっしゃいま……」
「やー、栄さん。 久しぶり」
「葛葉ちゃん! 本当に久しぶりねぇ!」
中に入ると、お客さんは誰もおらず、居るのはここの店主である栄さんだけだった。
栄さんはカウンターの内側で何かしているようだったが、久しぶりに私がこの店に来たことに対して喜んでくれたらしい。 包丁を置いて、カウンターの内側から出てきて私の手を握って上下に激しく振った。
そして、私の後ろに立っている文ちゃんを見た。
「よく来てくれたわね。今日はゆっくり……その子は?」
「えーっとね、この子は狛田文ちゃん。 私とおんなじとこで働いてるの」
「狛田文です。 樟葉ちゃんとは同じ職場で働いています。 えーっと、くーちゃん。 この人は?」
「この人は栄さん。 ここの店を一人で切り盛りしてる人」
私がそう簡単に文ちゃんに紹介すると、栄さんは握っていた私の手を離し丁寧にお辞儀をして自己紹介した。
「上町栄です。 この店“けいしん”の女将です。 よろしくお願いします」
さて、と一旦前置きした後、
「今日は何にしますか?」
と聞いてきた。
「んじゃあ、私は適当にお願い。 文ちゃんは?」
「んー、よくわかんないからお任せでお願いします」
「二人とも“お任せ”ですね? わかりました。少々お待ちください」
そう言うと、栄さんは料理を始めた。
◇◆◇◆◇
「くーちゃんと栄さんってどんな関係なの?」
「ん? なんで?」
「いや、さっきかなり親しそうだったkら」
「ああ、そういう……」
私は水を一口飲んでから話し始める。
「私と栄さんは家族みたいなものかな」
「家族みたいなもの?」
「そう。 私には両親が居なくて栄さんが育ててくれてたんだ。まあ、私がこうして生きている以上、両親は何処かに存在するんだろうけどね」
「捨て子ってこと?」
「そうなるのかなぁ?栄さん」
「そういう事になるわね」
「だってさ」
そこで私はまた水を飲み、
「そう言う文ちゃんはどうなの?」
「私?」
「そう」
「私の親は……まあ、あんまりいい人とは言えないかぁ」
「へぇー」
「家柄は良いんだけどね」
「そうなの?」
「うん。結構大きな家らしいんだけど、両親が嫌いでそんなのどうでも良かったからなぁ……」
「そりゃあもったんないことしたね」
「いや、今でも後悔してないよ。父親は私が小さい頃はよく遊んでくれたけど、一度離婚して新しいお母さんが来て、その人との子供が出来ると、興味は全部そっちに行って私は蚊帳の外、新しいお母さんは私のやる事なす事全部否定したから」
「……」
「あの頃は良かったなぁ。同い年の子とも一緒に遊んだりしたし、父遊んでくれる親も優しい母親もいて……」
「……」
「戻れるなら、昔に戻りたいなぁ」
「ねえ文ちゃん」
「……ん?」
「今幸せ?」
「そうだねぇ、幸せっちゃあ幸せかな」
「ならそれで良いんだよ」
「……私が戻りたいって言うのは、離婚する前にだよ?」
「それでも。いくら戻ったところでご両親の離婚は避けられないだろうし、それに、今が良ければ、それでいいんだよ。きっと」
「……そんなものかねぇ?」
「そんなものだよ」
私と文ちゃんは同時にコップに手を伸ばし、水を飲み、コップを置き、
「「……ふぅ~」」
そして同時に息を吐き、
「さ、暗い話はヤメヤメ!……栄さん、料理は?」
「もうすぐ出来ますよ」
「はーい」
そして私達は栄さんの料理を楽しみに待つのであった。
◇◆◇◆◇
翌昼。
「……頭が、痛い……」
どうやら昨日飲み過ぎたらしい。
今日は非番だからと飲み過ぎた……。
頭痛が痛い頭を押さえ、なにやらもう一つの山がある隣を見ると、そこには文ちゃんが。しかも裸。
サクバンハオタノシミデシタネー。
いや違う、絶対にそんな事は無かった。無かった……よね……?
まずは落ち着こう。
そもそもここは何処だ―――栄さんのお店だ。
どうしてここにいる?―――終電を逃したから。
どうして頭が痛いのか―――昨日飲みすぎたから。
なぜ隣に裸の文ちゃん?―――サクバンハ-オタノシミデシタネー。
いや違うっ!
頭を振って全力で否定するも、頭痛が痛い事で悶絶するハメになるのであった。
まずは落ち着こう。
そして以下無限ループ。無限ループって(ry。
◇◆◇◆◇
結局、文ちゃんは裸族だったって事で解決しました。
メデタシメデタシ?
まあ、その話は置いといて、今日は文ちゃんと一緒に花火大会に行く日だった。
栄さんに着付けをお願いし、私と文ちゃんは浴衣を着ていた。
「二人ともよく似合っているわね」
「そうですかー?」
「ありがとうございます」
「気を付けて行ってらっしゃい」
「「はーい」」
こうしていると、齢20ちょっとでも中身は子供なんだなーと感じる。じゃあ、しなきゃいいじゃんという話なのだが。……あ。
「栄さん、私の分もよろしくね」
「はいはい、わかってますよ」
「それじゃあ行ってきまーす」
私と文ちゃんは外に出て青葉駅へと向かう。
「くーちゃん」
「何?」
「最後どういう意味?」
「最後?」
「私の分もーって」
聞かれてたのね。
「大した事じゃないよ。今日は私にとっては育ての父親、栄さんの夫の
「……大した事じゃん!行かなくていいの?」
「んー、叡さんなら友達を大事にしなさいって言うだろうし、許してくれるよ」
「そう……なの?くーちゃんがそう言うならいいんだけど……」
「じゃ、ほら、急ご?」
「……そうだね」
私達は再び青葉駅へと歩みを進めた。
ここで主人公達の名前の元ネタ紹介。
千林樟葉:千林+樟葉(京阪本線)
狛田
上町栄:上栄町(京阪京津線)
上町
以下後書きという名の愚痴。
乗務員の普段見えないところを書くというのはそれなりに難しいです。
例えば乗務点呼だったり、指令との交信、詰所での過ごし方や始業検査など
今新しく書いている章では、ある列車の話を書いているのですが、正直考えが甘すぎた。実際の列車はどうなのかの資料がなさすぎる。
まあでも、それを書ききったらもう何でも書ける気がする(書けるとは言ってない)。
また、活動報告にてシチュエーションを募集中です。
こんなの書いてーみたいなのがあったら、活動報告の方でコメントお願いします。
以上、受験日前日に書き上げた話と後書きと愚痴でした。
次回はなるべく早く書けたらいいなーと思っています。
それではまた次回。
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901仕業その1
花火大会を見に行った次の日、私達は普通に日勤だった。
「今日のはどれだっけね」
「901だよー」
「901,901っと……」
運転士と車掌の仕業表は同じところにあるので、私も文ちゃんと一緒に仕業表を探した。
「祭りダイヤも今日が最後だね」
「やっと終わって清々するよ」
花火大会開催中は祭りダイヤと呼ばれる臨時ダイヤで運行しており、普段各駅停車などの鈍行列車でしか走らないような車両も準急や準快といった準優等種別で走ることもあるため、大きなお友達には大変人気があるが、その一方で、本数増加により乗務員の人数が足りなくなって休憩時間が短くなったり、先行列車との間隔が詰まってノロノロ運転せざるを得なくなったりと、乗務員(特に運転士)には大変不評なダイヤである。
「あ、あった901」
「どこどこー?」
私が先に見つけ、そこへ文ちゃんが来た。
2つの仕業表を取り出し、車掌用のそれを文ちゃんに渡す。
「あ、ありがとー」
と、仕業表を受け取った文ちゃんは目を丸くしていた。
「どうしたの?」
と私が聞くと、
「こ、これ……」
と言って、仕業表を見て固まっていた。
「今日の901はお前らか」
「ご愁傷さま」
後ろで出発を待っていた運転士たちがそんなことを言っていた。
「それってどういうこと?」
「ん?その行路は臨時の各停にしか乗務しないからな。こまちゃんがそうなるのも無理はないさ」
「こまちゃん言うな!」
文ちゃんは各停の乗務が嫌いだ。
前に理由を本人に聞いたところ、駅を通過しないから、と言われた。
「じゃあ、甲特急ばっかりのダイヤにしてもらいますか?(ニッコリ)」
「そ、それはそれでいや!」
甲特急(に限らず、特急系統)は検札が面倒とのこと。
「じゃけん、諦めて乗りましょうねー」
「うぅー……」
そんな文ちゃんを引き連れて、私は点呼場に向かう。
「点呼願います」
「点呼、礼」
互いに敬礼して点呼を始める。
「第901仕業、担当運転士千林樟葉、車掌は狛田文。
乗り出しは9603B、途中省略で乗り終わりは171Mに便乗。
時刻変更、着発線変更、徐行関係、工事情報全てなし。以上」
「徐行関係はありませんが、各駅混雑が予想されますので、進入発車共に注意してください。それでは安全運転でお願いします。礼」
最後にまた敬礼して点呼を終える。
床に置いておいた乗務員鞄を持ち、私は青葉車両所に、文ちゃんは青葉駅に向かった。
◇◆◇◆◇
青葉車両所は、三崎急行の持つ車両所の中で一番大きい。
この車両所は2つの区画からなり、1区と呼ばれる区画では主に車両の留置や仕業・交番検査用の施設があり、留置線場は上下2層構造で片層25本ずつで合計50本、それに加えて臨時で使う用の留置線が何本かある。
一方、2区と呼ばれる区画では重要部検査や全般検査、車両の解体等の大掛かりな施設を持つ。
新車搬入時に使用するのもこの区画だ。
なので私はこれから1区に向かうのだが、この1区は滅茶苦茶広い。
いや、正確に言えば縦に長く、その長さは2km。幅はそんなに無いが、あるところは500mくらいある。
こんな距離、いちいち徒歩で移動していたら面倒だし時間がかかるので、この車両所には職員が使える自転車がある。
車両所を入ったところに駐輪場があり、そこでどれでも乗りたい奴に乗る。あるのはどれも前かごのあるママチャリタイプの自転車で、鍵だけが改造されて忍錠でも使えるようになっている。
そこから自転車に乗り、自分が乗務予定の車両が留置されている場所まで行き、そこの指定の置き場に置く。
この自転車を元の位置に戻すのは、次ここに車両を止めた人だ。
続いて私は出区点検を行う。
まずは足回りの点検。これを全車両やると、次は手歯止めを外してから運転台に乗り込んで電源を入れる。
「札外して、パンタ上げて……電源投入よしっと」
そこでまた外に出てパンタが正常に全部上がってるかの確認。
確認を終えると今度は起動試験。
ブレーキ試験をしてから車両を前後に動かして正常に動くかの確認。
これも異常なしっと。
さて、と、保安装置も入れ終わり後は出発を待つだけだ。
「今日は
最終日の閉会式には40号玉の打ち上げもあったりするので中々盛り上がって面白いのだが。
「まあ、インフラ職員だし、|仕方なし≪しゃーなし≫」
昨日休みが取れただけありがたいな。なんて自嘲しながら待っていると、出区時刻になり、構内信号機が進行を示した。
私は制帽を被りなおし、列車を発車させた。
「構内進行。進路、出区1番」
◇◆◇◆◇
「保安停止」
青葉駅手前の出区線までくると、その手前にある信号機は赤だった。
この信号機はATCの指示速度を示したもので、ATCが入っていない、または指示速度が0km/hのときは赤を示し、それ以外のときは橙が点灯するようになっている。
ATCを投入すると、頭上からジリリリ……とベル音が聞こえ、チンという指示速度を示す音と共に消えた。
「保安、ATC進行、信号35」
パァン!と軽く警笛を鳴らしてから列車を動かす。
「停目10両、信号P35」
ホームの中ほどまで来るとORPの照査速度を示す赤針が跳ね上がる。
それに触れないよう速度を落とし、列車を停車位置に止めた。
停車位置に止めると、予め開けておいた乗務員室の窓から文ちゃんが手をつっこみ、客室のドアを開けた。
私は急いでマスコンを非常位置に、レバーサーを切位置にして乗務員室を出た。
「文ちゃん、あとよろしく!」
「はいよー」
ホームを走らず、だが歩かずの速度で歩き、だがそれでも反対側の運転台につくころには発車ベルが既に鳴動していた。
「やばっ」
ポッケから忍錠を取り出して鍵を開け、運転台の準備にかかる。
「保安装置投入して……
また外に出るとベルは鳴り止んでいた。
「前照灯よし、行先、種別、列車番号よし」
また急いで乗務員室に戻ると、ちょうどそこで文ちゃんからの出発合図が送られてきた。
「ふう……戸締め点灯、合図よし。ATC進行、信号60、進路芝山よし」
席に着く前に喚呼し、しながらマスコンを引いた。
「青葉10秒延、各停次駿河停車」
こん○○は。
花火大会の話は……気にしないでください。
きっと2人で楽しんだんですよ。きっと。
あと、今まで保安装置のモデルをATC-Pだとか、CS-ATCだとか言ってましたが、私が考えていたのはATACSでした。知人に言われて気付きました。すみません。
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