インフィニット・ストラトス ~ぼっちが転校してきました~ (セオンです)
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第1話 そして彼はISに乗る

青春とは嘘であり、悪である。

青春を謳歌せし君たちは常に自己と周囲を欺く。

自らを取り巻く環境のすべてを肯定的に捉える。

何か致命的な失敗をしても、それすら青春の証とし、思い出の1ページに刻むのだ。

例を挙げよう。

彼らは万引きや集団暴走という犯罪行為に手を染めてはそれを「若気の至り」と呼ぶ。

試験で赤点を取れば、学校は勉強するためだけの場所ではないと言い出す。

彼らは青春の二文字の前ならばどんな一般的な解釈も社会通念も捻じ曲げてみせる。

彼らにかかれば嘘も秘密も、罪科も失敗さえも青春のスパイスでしかないのだ。

そして彼らはその悪に、その失敗に特別性を見出す。

自分たちの失敗は遍く青春の一部であるが、他者の失敗は青春ではなくただの失敗にして敗北であると断じるのだ。

仮に失敗することが青春の証であるのなら、友達作りに失敗した人間もまた青春ど真ん中でなければおかしいではないか。

しかし、彼らはそれを認めないだろう。

なんのことはない。

全て彼らのご都合主義でしかない。

なら、それは欺瞞だろう。

嘘も欺瞞も秘密も詐術も糾弾されるべきだ。

彼らは悪だ。

ということは、逆説的に青春を謳歌していない者のほうが正しく真の正義である。

結論を言おう。

 

ーーーリア充爆発しろ。

 

「おい比企谷。」

「な、何でしょうか。」

 

目が死んだ魚のように腐って、立っている生徒、比企谷八幡の目の前にいるのは、この女尊男卑が当たり前になったこの世界に置いて、最強と言われている女教師、織斑千冬が青筋を立てながら、1枚の紙を見ていた。

 

「貴様、爆発したいか?」

 

ギロリと八幡を睨み付ける。

 

怖いって後怖い。

 

そんなことを思いながら恐怖で押し黙っていると、千冬は盛大にため息をついた。

 

「ちなみに、比企谷このレポートのお題はなんだった?」

「ひゃ、ひゃい!」

 

盛大に噛んでしまった。

 

だって目の前にいるこの人めっちゃ怖いんだもん。

どれだけ怖いかって?

そりゃお前、肉食獣を相手にしていた方がいいって思えるレベルだぞ。

こういう人が行き遅れたりするんだよな。

 

「おい、なんか失礼なこと思ってないか?」

「そ、そんなことないですよ?」

 

ナチュラルに心を読まないでほしい。

 

「まぁそんなことはいい。それよりこれはどう言うことだ?」

「青春ということを書き綴ったレポートですが。」

 

千冬は頭を抱えながら、また盛大にため息をついた。

 

そんなにため息ついてたら幸せが逃げちゃうぞ。

あっ、だから…。

 

八幡がそこまで思ったところで再び千冬の死の宣告、凶悪な睨みを受けた。

 

やめて‼

僕のライフはもうゼロよ‼

 

「ったく…。とりあえず比企谷、今から言うことのどっちかを選べ。」

「出来ることなら。」

「よし、一週間後に織斑と模擬戦をするか、オルコットとするか、さぁ選べ。」

 

2択と思わせた1択でした。

ありがとうございました。

 

「どっちか選ばなきゃダメですか?」

「当たり前だろ。こんな舐め腐ったレポートに目の腐った生徒を教師である私が見過ごすわけないだろ?それとも何か?二人とやりたいのか。」

「喜んで選ばせていただきます。」

 

即答だった。

 

ばっか、二人とやったら泣いちゃうだろ、俺が。

当たり前だな。

 

気の進まない事ではあるが、選ばないと目の前にいる鬼教官に絞め殺されそうなので真剣に選ぶことにした。

織斑一夏。

男で初めてISを起動させた人物である。

今ではクラス委員をしている。

そして専用機は近接格闘型の白式。

実力はあのセシリア・オルコットを敗北一歩手前まで追い込んだほど。

だが、それでもIS自体の操縦技術は素人とあまり変わらない…はず。

そして次に、イギリスの代表候補生セシリア・オルコット。

専用機は遠距離射撃型のブルー・ティアーズ。

実力は言わずもがな。

だが、本人が自分自身の事をエリートと言っている辺り、プライドが相当高い。

ではその鼻っ面を叩き潰してしまえば、あるいはと言ったところ。

 

よし。

決まったな。

 

「決まったか?」

「えぇ。」

「どっちだ?」

「セシリア・オルコットとやります。」

「ほう。理由を聞いてもいいか?」

「いいですよ。選んだ理由は負けても特に自分へ不利になることはありませんし、それにビギナーズラックがあるかもしれないと思ったからですね。」

 

自分で言っといてあれだけど、ビギナーズラックはないわー。

マジないわー。

無さすぎて口調が可笑しくなっちまったじゃねぇか。

 

「わかった。なら、オルコットには私から言っておこう。」

「お願いします。」

 

そう言うと、八幡は職員室を後にした。

そして、職員室を出た瞬間、心の中で盛大にため息をつき、どうしてこんなことになったのか、つい最近の出来事を思い返していた。

 

***********************************************

 

総武高校へ入学する日だったあの日、八幡は犬を助けた事で交通事故を起こしてしまい、入学早々、ぼっちな高校生活が確定した。

その後、退院しようやく高校へと登校することが出来たその日、なぜかIS適性のテストが行われる時であった。

それについては八幡は知っていた。

何故なら、今では知らない人はいないとされるほど世界で初めてISーインフィニット・ストラトスを起動させた男がいると、世間が騒いでいる。

 

ちなみに俺はそれを小町から聞いた。

 

という訳で他にも男でISを起動できるやつがいるんじゃね?

って感じで世界単位で調査を開始した。

だが、見事に誰にも反応を見せなかった。

そう、女性にしか反応のしないISに男が乗ること事態、おかしいことなのだ。

だが、どこにでも例外、イレギュラーな存在はいるもので、どうせ起動しないとわかっていながら、日本の量産機である打鉄に触れた瞬間、起動させてしまった。

そしてその後は黒いスーツに身を包んだ人達に囲まれ、リムジンに乗せられ、家に強制送還させられた。

 

いやまぁ、今日の授業は終わったからいいけどね?

でももう少しゆっくり家に帰りたかった…。

 

家に帰ってからは、何故かIS学園の関係者が両親が帰ってくるまで家におり、小町が「お姉ちゃん候補がいっぱいだよ‼小町的にポイント高いよ‼」てな感じで騒ぎになり、そして両親が帰ってきたと思ったら、勝手に転校手続きをし始めた。

 

うん…。

とりあえず誰か俺の意思を尊重して?

そうじゃないと泣いちゃうよ、全俺が。

 

という訳でIS学園へ転校したのだが。

転校してきたやつは俺以外にも一人いた。

 

「今日は転校生を紹介します。」

 

1年1組の副担任、山田真耶がそう言うと、扉が開きそこから二人の少年が入ってきた。

一人は金髪の美男子、もう一人は目の腐った気だるそうな男子。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不馴れなことが多いかもしれませんが、皆さんよろしくお願いします。」

 

にこやかにそう自己紹介した。

それを見ていた八幡は、こう思った。

 

守りたい、この笑顔。

なにこの生き物。

めっちゃ可愛い。

ヤバイ。

何がヤバイってヤバイぐらいヤバイ。

ヤバイ、ヤバイしか言ってないよ俺…。

 

その時、不意に声がした。

 

「……谷‼比企谷‼」

「ひゃいっ‼」

「早く自己紹介せんかバカ者。」

「はい…。」

 

うわぁ…俺もしなきゃいけないの?

それ誰得だよ。

いやマジで。

まぁ、いいや。

っていうかいつからいたの?

 

「えっと、比企谷八幡です。よろしくお願いします。」

 

無難な挨拶と共に軽く礼をする。

教室の中がやけに静かだったのだが、八幡は気にした様子もなく、目の前にいる男子生徒、織斑一夏にこっそり目を向ける。

その瞬間、八幡は悟った。

 

うわぁ…こいつリア充じゃん。

なに今年1年こいつと一緒のクラスなの?

死んじゃうよ俺が。

何でって、そりゃお前ストレスでだよ。

決まってんだろ。

 

そんなことを思っていると…。

 

「「「「「キャーーーーーー!!!!」」」」」

 

いきなりだったので八幡は一瞬体がビクッと動いた。

 

え?何?

俺の目が腐ってるからって皆ビビりすぎじゃない?

 

ところが、クラスの反応は八幡の思っていたのと全然違っていた。

 

「男子‼それも二人‼」

「しかもうちのクラス‼」

「しかも守ってあげたくなる系とヤサグレ系‼」

「私、このクラスでよかった!」

「比企谷くん、私を罵って‼」

「デュノアくん、優しく抱き締めていい!?」

 

一気に教室がカオスとなる。

呆然とする八幡と苦笑いを浮かべるデュノア。

そんな彼を見ながら、八幡は思う。

 

可愛い。

マジ天使。

小町と同等以上に可愛い。

 

そんなことを思っていると、千冬が手を打ちならして場を沈めにかかる。

 

「静かにしろお前ら!これから2組と合同で実技訓練を行う。全員第2アリーナに集合。以上解散!」

 

そう言い終わるのと同時に、一夏は八幡達のところへやって来る。

それに気づいたシャルルが一夏に挨拶しようとするが。

 

「そう言うのはまた後からな?まずは移動が先だ。女子が着替え始めるから。」

 

そう言うと、一夏は八幡とシャルルの手を取り、教室から出た。

 

いきなり手をとるなよ。

友達かと思っちゃうだろ。

あ、でもデュノアの赤くなった顔可愛い。

マジデュノア天使。

養ってくれないかな。

 

そんなことを思っていると、周りに女子が集ってくるのが見えた。

 

「おい、なんか周り人多くねぇか?」

「そりゃあ俺たちが男子だからだろ?」

「なるほどね。要は俺らは客寄せパンダみたいな感じってことか。」

「例えがなんか嫌だけどそう言うことだな。」

 

一夏はそう言うと、少しペースをあげながら走っていく。

前から後ろから女子が集ってくる。

 

マジ怖い。

これだけでトラウマになるレベル。

羨ましい?

バッカお前、飢えた獣の目をして、逃がさないと言わんばかりに追ってくるんだぞ?

 

そんなことを思いながらも走っていき、目的地についた。

ここが俺らの着替えるところだ。

と、そう一夏は言った。

場所はアリーナの更衣室と言ったところだ。

なかなか広い。

シャワー室なんかもある。

八幡が辺りを見渡していると一夏から声をかけられる。

 

「とりあえず、早く着替えようぜ。千冬姉を怒らすと怖いからな…。」

 

そう言われ、服を脱ぎ出したのはいいが、なにやらデュノアが顔を真っ赤にしてこっちを見ている。

八幡はなんとなく声をかけた。

 

「どうした?」

「え!?あ、いや、何でもないよ!?」

「そうか。」

 

八幡は服を脱ぐと、水着のようなISスーツを着る。

黒のISスーツに着替え、後ろを振り向くとすでに着替え終えているデュノアの姿があった。

 

「早いな、シャルル。」

 

一夏がそう言うと、デュノアはわざとらしく笑いながらこう答えた。

 

「そ、そうかな?」

「俺なんか下が引っ掛かってなかなかはけないんだよな。」

「引っ掛かる!?」

「引っ掛かるよな?八幡。」

 

おい、いきなり名前呼びすんなよ。

友達と思っちゃって思いっきり引かれるところだったじゃねぇか。

だが、俺はそんなことは思わない。

最強のぼっちだからな。

 

「まぁな。ところで、時間は大丈夫なのか?」

「え?ヤバッ!二人とも早く行こうぜ。」

 

八幡は一夏に頷き返すと、デュノアの方に顔を向ける。

 

「行くぞ。」

 

短くそう言って一夏の後を追いかける。

しばらくすると、デュノアが待ってよと言いながら小走りにやって来た。

 

いくらでも待っちゃう‼

この先ずっと待つまである。

 

3人は第2アリーナに着くとそこにはすでに大半の生徒が集まっていた。

八幡は並ぼうと最後列へ行こうとしたのだが、千冬に呼ばれ渋々そちらに向かった。

 

「比企谷、お前にはこのISに乗ってもらう。山田先生。」

 

山田先生は他の教員とISを装備して、コンテナを運んできた。

そこには、比企谷八幡専用機と書いてあった。

 

「先生、これは?」

「お前の専用機、朧夜だ。」

 

コンテナが開き、中から漆黒のISが出てきた。

八幡はそれを見て、少し高揚を覚えた。

だがそれを隠し、千冬に質問をした。

 

「先生、ちょっと早くないですか?」

 

千冬は八幡が何が言いたいのか、何を思っているのかわかったような感じで頷いた。

 

「あぁ。確かに一週間位しか経ってないしな。お前がISを起動できると分かってから。」

「だったらなぜ?」

「元々、この朧夜は開発されたのはいいが、乗り手がいなくてな。そこで、白羽の矢が比企谷にたったというわけだ。」

 

なんとなくはわかった。

だが、なぜ自分に専用機を与えるのか、それがわからない。

 

「ちなみに、お前が専用機を持てたのは、男のIS操縦者のデータが欲しい、からだそうだ。」

 

つまりモルモットになれと言っているようなものだ。

あまり気は進まないが、貰えるものは貰っておこう。

 

「わかりました。」

「よし。だったら朧夜に触れてみろ。」

 

言われた通り、朧夜へ右手を差し出し、触れてみる。

するとそこから光が発し、頭の中に記録とも言える何かが駆け巡っていき、そして、八幡の体にISが装着された。

全身は漆黒で、所々に黄色のラインが走るわりと軽そうな見た目だ。

そして、八幡の顔は口許が出ている以外、隠されていた。

 

「比企谷、初期化と最適化のやり方は分かるか?」

「たぶん。」

「ではやっておけ。」

 

そして千冬は八幡のもとを離れ、生徒達の元へ歩いていき、何やら色々やっていた。

一方で八幡は単純に見えそうで決して単純ではない初期化と最適化をやっていた。

どれだけ時間が経っただろうか。

ようやく初期化と最適化が終わり、体に馴染んできた気がする。

これをファーストシフトと言うんだとか。

 

「終わったか。」

「はい。どうにか。」

「よし。では、凰‼」

「はい。」

 

八幡はこの少女を知っていた。

中国の代表候補生、凰鈴音。

専用機、甲龍を駆る努力家。

なぜこの事を知っているのかは、今はまだ秘密なのだが。

 

「では凰、比企谷と模擬戦をしろ。」

 

は?

今この人なんて言った?

ハチマンヨクワカラナイ。

 

「何でですか?」

 

凰よ、それは俺の疑問である。

 

「朧夜の機能性を見たいだけだ。」

 

えぇ…。

ただ自分が見たかっただけかよ…。

 

口許しか出ていないが、八幡の顔はすごい嫌そうだった。

 

「なんだ、その顔は。」

 

千冬に睨まれる。

八幡は咄嗟に顔を背ける。

大量の冷や汗をかきながら。

 

「異論、反論、抗議、質問、口答えは一切受け付けないからな比企谷。」

 

比企谷はため息をつきながら諦めたように頷いた。

 

「わかりましたよ。」

「よし。ではこれより比企谷と凰の模擬戦を始める。他の者は離れてよく見ておけよ」

 

八幡と鈴はアリーナの中央辺りまで進むと相対した。

八幡は敵のスペックを目の前に写し出されているものを見ていた。

 

甲龍、か。

左右の翼にある龍砲が厄介だな。

ただ、何とかなるか?

いや、まぁここは無難に機体の性能を見せるだけでいいだろう。

 

八幡はそう思い、甲龍のスペックデータを消した。

 

「二人とも準備は出来たか?」

「はい。」

「もちろんです。」

「では、始め‼」

 

その声と同時に鈴は2本の青竜刀、双天牙月を取り出す。

それを見た八幡は背中についている3基の流星を鈴に向けて放つ。

それぞれが独自の動きをし、鈴を取り囲む。

そして、その先端からビームが放たれる。

 

「え!?何よこれ‼」

「見て分かるだろ?ビットだよ。」

 

八幡はそう言うと、狙撃用ビームライフル、彗星を取り出し、鈴から距離を取り、その銃口を向ける。

そして一閃。

ビームが空を裂く。

鈴は何とかそれを避けるが、その先には流星が控えていた。

そこからもビームが空を凪ぐ。

鈴は苛立ちを隠せなかった。

近寄ることさえできず、あまつさえブルー・ティアーズでさえできない他の攻撃をいとも容易くやってきた。

 

「あんたそれってセシリアと同じBT兵器じゃないの!?」

 

その叫びはセシリア達のいるところまで聞こえていた。

そしてそれはセシリアも同じ事を感じていた。

 

あれはいったい何ですの?

わたくしと似たような兵器であることは確実です。

ですが彼の攻撃はビットと連携ができています。

そんなのはわたくしの中ではあり得ませんわ。

何故ならわたくしのブルー・ティアーズがいい例ですわ。

ビットを展開しているとき、それに集中するため、他の攻撃ができませんわ。

それが弱点のはずです。

ですが、今彼は普通に攻撃しましたわ。

ということはその弱点を克服した、と言うことなのですね。

厄介ですわね。

 

結論を出したのと、八幡が口を開くのはほぼ同時だった。

 

「あんまりベラベラしゃべるもんでもないが、この流星は第三世代型ISのBT兵器を参考にして、創られた自動追尾システムを搭載したビットだ。つまりは自分で制御させなくとも対象者へと攻撃する時と、自分のもとに戻すときに命じるだけで攻撃の時は勝手にやってくれるってことだ。凰、質問は以上か?」

 

そう言うと、八幡はビットを背中に戻し、武装を変換させた。

十六夜と朔光を装備し、鈴へ肉薄する。

十六夜は普通の刀だが、朔光はエネルギー刃の剣だ。

両方とも特に特殊能力はない。

 

「行くぞ。」

 

刀と剣の猛攻に鈴は防ぐことしかできない。

 

「くっ‼」

「どうした、中国の代表候補生。」

 

八幡は挑発の意味を込めそう言うと、鈴が反撃してきた。

それは不意討ちだった。

 

マジかよ。

やっぱ強ぇな…。

でもーー

 

「星影。」

 

八幡はそう呟くと、左から切りつけてきた青竜刀が受け止められた。

 

「何!?ビームシールド!?」

 

鈴の驚いた顔が八幡の目の前に浮かぶ。

一瞬、隙が出来たそれを狙って八幡は右に持っていた十六夜を鈴へと切りつける。

 

「きゃあ‼」

 

さて、ここでもう1つ見せておくか。

 

八幡は十六夜と朔光を戻し、サブマシンガンの新星を右手に持ち、鈴へ銃口を向け、無慈悲に撃つ。

すると、やけくそになったのか、鈴が龍砲を放つ。

 

マジかよ。

あれって無茶苦茶痛いんだろ?

当たったら死んじゃうって、マジで。

 

八幡は何とか回避する。

そして左手にオートマチックガンの鬼星を持ち、肉薄する。

そして、サブマシンガンで滅多打ちするが、鈴が距離をとって離れていった。

 

「あんた、なかなかやるわね。」

「まぁな。ちょっと短期間で色々叩き込まれたからな。」

「へぇ、でも、これで終わりよ‼」

「あぁそうだな、終わりだな。」

 

そう言うと八幡は背中の流星を消すと、そこに現れたのは、ずいぶんと砲身の長くデカイランチャー、月華を呼び出した。

そして、鈴へとその銃口を向ける。

ビームが収縮していくところを見ながら鈴は恐怖を覚える。

本能があれを受けたらヤバイ。

そう告げている気がした。

 

「行くぞ。」

 

そう言うと、足からパイルバンカーが出てきて地面に突き刺さる。

その姿はまるで固定砲台の様であった。

そしてーー

 

「ファイア‼」

 

その叫びと共にビームの奔流が空を焼く。

だがそれは、鈴のすぐ横を流れていった。

 

「あ…。ヤバッ…。」

 

八幡のそんな間抜けな声がしたと思ったら、鈴が急降下。

そして動けなくなっている八幡に怒濤の攻撃を仕掛け、鈴が勝利した。

 

「そこまで‼勝者、凰鈴音。」

 

勝者宣言があっさりと出る。

それを受けて八幡は盛大にため息をつき、空に目を向ける。

 

負けちゃったよ…。

まぁ、いいけどね。

負け惜しみじゃないよ?

ほんとだよ?

 

そんなことを思っていると、鈴がISを待機形態にすると、こちらに歩み寄ってきた。

 

「ちょっと、最後のは何?あれヤバイ気しかしないんだけど。」

「あぁ、あれか。超高火力のビームキャノン、月華だが?」

「そんなことを聞いてるんじゃないの‼何で動けなかったのかを聞いてるの‼」

「バッカお前、あんな高火力なランチャー撃ったら無事じゃすまねぇって。しかもほぼ全てのシールドエネルギー消費しちまうしな。」

 

そう、あれは一撃必殺であり、こちらのシールドエネルギーがなくなる諸刃の剣なのだ。

だからこそ、あまり使いたくはなかったのだが、今回はその性能を確かめるための模擬戦だ。

使うしかないだろう。

だからといって直撃させてしまっては鈴の命に関わるかもしれない。

そう、それでわざと外した。

威力を見せるだけならそれだけで十分過ぎるからな。

 

「そう。ということは、雪片弐型のシールドエネルギーを消費して発動するワンオフアビリティーの零落白夜みたいなものね。でもよくそんなのがあって拡張領域がいっぱいにならないわね。」

「まぁな。白式は第一形態からワンオフアビリティーを発動できるからであって、俺の朧夜はそんなことないからな。ま、と言ってもどんなワンオフアビリティーなのかは知らんが。」

 

実際知らない。

わずかなときとはいえ、さすがにこれからどうなるかは設計者でさえ知らないという。

そんなので大丈夫かとは思ったが、実際IS何てのは不思議なパンドラの箱の様なものだ。

完全に説明がつかないのは分かる。

 

八幡はISを待機形態にすると身体を少し伸ばす。

左腕をチラリと見るとそこにはバングルとして朧夜がはめられていた。

 

そして、何やかんやあった後、今に至る、というわけだ。

っていうか何で作文を書かされたのかよくわからんな。

まぁいいや。

さて、帰るか。

 

そう思うのと同時に寮に向かって歩いていった。

 

 




という事で始まりました。

これから亀更新かもしれませんが、投稿していくのでよろしくお願いします。

誤字脱字があれば指摘してください。
ですが、酷評だけはマジで勘弁してください(笑)

という事で頑張ります。


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第2話 彼は負けられない

2話目です。

では、どうぞ。




寮に着くと、八幡のルームメイトであるシャルル・デュノアがいた。

 

ヤバイ。

デュノアの顔見るだけで癒されるわ。

マジ天使。

養ってください、いやマジで。

 

そんな事を思いながら奥のベッドへと腰を掛ける八幡。

そんな八幡にシャルルは声をかけてきた。

 

「織斑先生に何で呼び出されたの?」

「いや、転校初日にもらった小論文の感想だったよ。」

「どんなこと書いたの?」

「何でもねぇよ。普通の書いただけでなんかつまらんとか言われた。」

 

もちろん嘘である。

 

「そうなんだ。」

「おう。」

 

会話が終了した。

 

いかん、なんか話さなければ。

くそっ。

こういう時だけ自分が嫌いになるぜ。

何か話題はないのか‼

ないですね。

ありがとうございました。

 

とそんなときだった。

不意にノックの音が聞こえた。

 

「誰だろう?はぁい。」

 

パタパタと扉まで走っていくシャルル。

扉を開けると予想外の人物がやってきた。

 

まぁ、予想何てしてないけどね?

ほんとだよ?

ハチマンウソツカナイ。

 

「比企谷八幡さんはいらっしゃいますか?デュノアさん。」

「うん。いるよ?何か用?」

「えぇ。ちょっとお話がありますの。」

「わかったよ。じゃあ入って。」

「お邪魔しますわ。」

 

そう言って金髪の美少女、イギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットが部屋のなかに入ってきた。

八幡は何のようかと言わんばかりにセシリアに目を向けた。

 

「あなた、わたくしと一週間後に模擬戦を申し込みましたわね?」

「あぁ、それがどうかしたか?」

「いいえ、わたくしもあなたには興味がありましたのでそんなことはどうでもいいんです。ですがなぜわたくしと模擬戦を?」

「織斑先生にオルコットか織斑のどっちかと模擬戦をしろって言って来たから。」

 

嘘は言ってない。

それまでの経緯は話さなかったが。

 

「そんなことは織斑先生に聞きましたわ。わたくしが聞きたいのはどうしてわたくしと模擬戦したいと思ったのか、それが聞きたいのです。」

「理由か…。特にないな。ただあるとすれば、イギリスの代表候補生の実力が知りたいから、それじゃ不満か?」

「わかりましたわ。それではわたくしとブルー・ティアーズの奏でるワルツで踊らせてあげますわ。」

「頼むから全力では来るなよ?」

「いえ。全力で行かせてもらいますわ。」

 

それを聞いて八幡は小さくため息をはいた。

 

めんどくさいな…。

バックレようかな。

でもそんなことしたら織斑先生に殺されそう。

やるしかないのかー。

やりたくないなぁ。

 

「わかったよ。じゃあな。」

 

八幡は会話を終わらせようとしたのだが、セシリアはそうではなかったようだ。

 

「もう1つよろしいですか?」

「……別に構わん。」

「あなたは何者ですか?」

「比企谷八幡、だが?」

 

八幡はその質問を聞いたとき、一瞬ドキリとしたが冷静さを保ち、そう答えた。

だがセシリアはその回答では満足いかなかったらしい。

 

「そう言うことを聞きたいのではありません。本当の事をお聞かせください。」

 

しつこいな。

とりあえずこの状況を打破するためには、さっさと会話を終わらせればいい。

なら、俺はこう答えるべきだ。

 

「何度も言ってるだろ。俺は比企谷八幡だと。」

 

セシリアはしばらく八幡の事を観察していたが、その腐った目からは何も読み取れなかった。

だからこそセシリアはこう提案した。

 

「では、わたくしが勝ったら、全て話してもらいますわ。」

 

そう来たか。

まぁ、当たり前か。

 

「じゃあ俺が勝ったら、これ以上余計な詮索はするな。」

「わかりましたわ。では、わたくしはこれで。また明日、教室でお会いいたしましょう。」

 

そう言ってセシリアは自室へ戻っていった。

 

なんか、負けられなくなったんだが。

あの事は出来れば話したくないしな…。

あの女、余計なことまで約束させやがって。

絶対に許さないノートにセシリア・オルコットって絶対かいてやる。

 

そう心に強く誓った八幡はこっちを見ているシャルルに気づくとどうした?と聞いてみた。

 

「八幡ってさ、何か謎が多いよね。そう考えると僕も八幡のこと知りたいな。」

 

やめて‼

その上目使いやめて‼

めっちゃ可愛いから。

教えたくなっちゃうから。

落ち着け、koolになれ。

なれてませんね。

大体koolじゃなくてcoolだし。

 

「まぁ、俺は謎だな。なぜならぼっちで誰も友達いないから。」

 

言ってて悲しくなってきた。

 

「え?僕たち友達じゃないの?」

 

え?あれ?

俺とデュノアって友達だったの?

誰か教えて‼

 

「そ、そうなのか?」

「うん。僕はそう思ってたけど…。八幡は違うの?」

 

うっ…。

そんな目で見るな。

俺の目が浄化しちまう。

あれ?いいのか。

 

「そ、そうだな。」

 

そう答えた瞬間、シャルルの顔に満面の笑みが溢れた。

 

守りたい、この笑顔。

もう男でもいいね。

いや、デュノアは男でも女でもない。

デュノアはデュノアだな。

うん。

 

そんな事を思いながら、始めて同じ部屋になって、緊張したことを思いだし少し頬が緩んだ。

あのときからシャルルは八幡と呼ぶようになった。

その時の嬉しさは人生のなかでなかなかなかったのかもしれない。

そう思うほどだった。

 

まぁ、そんなことはどうでもいいが。

どうでもいいのかよ。

俺としては大事なことだけどな。

もう俺の将来は決まったな。

デュノアルート一択だな。

誰にも異論は認めん。

 

そんなことを考えているとシャルルは八幡の方へ目を向ける。

 

「そう言えば、八幡って凰さんとの試合、手慣れてたね。」

「そうか?」

「うん。何かしてたの?」

「まぁ、してたことはしてたな。一週間ぐらいだけどな。」

「それであれだけ強いの?スゴいなぁ。」

「何もスゴくなんかないさ。ただ、必要に迫られたからな。」

「どうして?」

 

小首を傾げるシャルル。

 

可愛い。

ヤバイ、マジ天使。

中学の時の俺なら即行告白して振られちゃうところだったよ。

えー、振られちゃうのかよ。

当たり前だけどさ。

 

どうでもいいことを頭から振り払い、シャルルの質問に答えることにした。

 

「や、そりゃ俺が男だからに決まってんだろ。」

「何で男なら強くならなくちゃいけないの?」

「いつ、どこかの国がスパイを送り込んできて危害を加えてくるかもしれないからな。用心に越したことはないさ。」

 

スパイと言う単語のとき、一瞬シャルルがビクリと身体を震わせた。

八幡は何かあるのか少し気になった。

 

「どうした?なに驚いてるんだ?」

「え?なななな何でもないよ!?」

 

デュノアよ、つくならもう少しましな嘘をつけ。

なにか裏があるのか?

ぼっちの108の特技、人間観察の結果、あると判断した。

マイスウィートエンジェル、シャルル・デュノアを疑いたくはないが、自分の身を守るためだ。

しょうがない。

 

八幡はシャルルに何かあるのか、調べることにした。

とある人物をつてにして。

 

********************************************

 

その日の夜、とある場所に一人の女の人がいた。

アリスチックな洋服、頭の上にはウサギの耳。

全体的に華奢そうに見えて均整のとれた体つき。

そんな彼女のもとに一通のメールが来ていた。

 

「誰かな~?」

 

メールの差出人を見て彼女は笑みを浮かべる。

 

「始めてだね~はちくんから連絡来るなんてさ~。でも、この内容はなにさ~。この天災発明家、束さんに雑用を押し付けるなんてさ!ま、はちくんの頼みなら仕方ないね。」

 

そう言うととある人物の経歴を調べ始めた。

それを見ながら彼女、篠ノ之束は笑みをこぼした。

それは背筋が凍るような笑みだった。

 

*************************************

 

翌日。

八幡はシャルルに起こされ、着替えてから食堂へと向かい、朝ごはんを食べていた。

その時、少しはなれた場所から一夏がこちらにやってきた。

 

「シャルルおはよう。八幡もおはよう。」

「織斑くんおはよう。」

「うっす。」

 

八幡は短くそう言った。

 

何でこっちに来ちゃったの?

そのお陰でみんなこっち見てるじゃん。

ぼっちは人の視線になれてないのです。

ほら見ろ口調がおかしくなっちまったじゃねぇか。

 

八幡はその視線に耐えられなくなったのか、急いで朝ごはんを食べ、席を立った。

 

「八幡、速いよ~。」

 

シャルルがそう言いながらパンをかじっていく。

 

「そろそろ時間だから急いだ方がいいぞ。」

 

照れたように頬をポリポリと掻きながらシャルルにそういった。

すると、一夏が返事を返してきた。

 

「ほんとだ。サンキューな八幡。」

 

何そんなにナチュラルに会話に入ってくるの?

友達じゃないかって勘違いしそうになっちゃうだろうが。

それがわかったら以降は距離をとってくださいね。

 

そんな心の叫びをよそに、シャルルと一夏は急いでご飯を口に運び、八幡の元へと急いで歩いていく。

 

「八幡、お待たせ。」

「ん、おう。」

 

短くシャルルにそう答えると教室へ歩いていく。

教室までの道のりは苦痛だった。

 

何でそんなに見てくるの?

俺の目が腐ってるから?

それともデュノアを見てるのか?

それなら納得だな。

だってデュノアだもん。

どうでもいいけど俺がだもんとか使うとキモいな。

言ってて泣けてくるぜ。

 

割とどうでもいいことを思っていたせいか、周りの目を気にせず教室にはいることが出来た。

八幡は自分の席に座る。

席順としては織斑の右にデュノア。

さらにその右に八幡といった並びだ。

しばらくすると、副担任の真耶と千冬が教室に入ってきた。

教卓へと真耶が進んでいくと、おもむろに口を開いた。

 

「えっと、今日は転校生を紹介します。」

 

そう言うとクラスの中が騒然となる。

 

「うるさいぞ。よし。入ってこい。」

 

千冬が鶴の一声でクラスのみんなを黙らせると、扉の向こうにいるであろう転校生にそう指示を出した。

綺麗な銀髪、そして低めの身長。

そして何より、左目にしている眼帯が神秘性を醸し出している。

だが、纏う空気は切っ先鋭いナイフのようだ。

美少女ではあるのだが、どこか普通ではない感じに思える。

その少女は教卓の横で立つ。

だが、何もしゃべろうとしなかった。

 

「ボーデヴィッヒ、自己紹介を。」

「了解しました。教官。」

「教官はやめろ。私はもうお前の教官ではない。それにここではお前の教師だ。だから織斑先生と呼べ。」

「わかりました。」

 

千冬との会話が終わり、正面を向く。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

「それだけ、ですか?」

「以上だ。」

 

ずいぶん短い自己紹介だった。

 

そんな邪険にするなよ。

山田先生泣いちゃうぞ。

っていうか、もしかしてこいつ友達いないのか?

まぁ、そうだろうな。

どう見たって話しかけにくいし。

おっとこれはブーメランでした。

俺も目が腐ってるからな。

言ってて悲しくなってきた…。

 

八幡はそんなことを考えながらぼーっとしていると、千冬が口を開いた。

 

「ボーデヴィッヒはドイツの代表候補生だ。専用機を持たない者は模範にするように。持っているものは負けないようにしろ。」

 

そう言うとラウラは何を思ったのか八幡の前まで歩み寄ってきた。

 

「貴様が織斑一夏か?」

「は?ちが…。」

 

全部言えなかった。

なぜなら、ラウラにはたかれたからだ。

 

え?

目が腐ってるだけで叩かれちゃったの?

っていうか、違うって言おうとしたよね。

沸点低すぎない?

まぁ、いいや。

そっちがその気なら、俺もやってやるさ。

最低なやり方でな。

 

決心つけた瞬間、千冬がため息をつきながらラウラにこう言った。

 

「ボーデヴィッヒ、そいつは別のやつだ。一夏はあっち…。」

「おい、ドイツの代表候補生。軍出身なのかどうかは知らんがいきなりビンタで別人に挨拶するなんて相当沸点が低いようだな。」

「なんだと?」

 

千冬の発言の途中で八幡は口を開く。

それに驚いたのか、クラスはおろか先生二人でさえも呆然としていた。

 

「そんなんでよく代表候補生なんかになれたな。」

 

嘲笑しながら八幡はそう言う。

そしてーー

 

「出来損ないが。」

 

止めの一言を言った。

その瞬間、クラスの空気が一気に凍りついた。

そしてそれと共にラウラの目に殺気が籠る。

 

「なんだと?私が出来損ないだと?」

「あぁ。織斑とお前の間に何があったのか知りたくもないし、知ったこっちゃねぇ。だが、物事を客観的にとらえられず、感情的で冷静になれていない。これのどこが出来損ないじゃないって?」

「貴様、言わせておけば…‼」

 

どこから出したか知らないが、ナイフを持ち、八幡に突っ込んでくる。

クラス中に悲鳴がこだまする。

八幡は冷静に今の状況を考え、一つの結論に至る。

 

できるかどうかはわからないが、やるしかないだろ。

 

左腕を掲げ、小さく呟く。

 

「来い、星影。」

 

その瞬間、ラウラのナイフが八幡の腕に突き刺さった。

そう見えた。

千冬と真耶が慌てて八幡のところへ駆け寄る。

その光景を見て、二人は息を飲む。

ISに乗り始めて間もない彼が、部分展開を使い、ラウラのナイフを受け止めていた。

 

「くっ…。」

「どうした?」

 

ラウラはすぐさま距離を取り、ナイフを構え直す。

そして再びラウラが八幡の元へと接近しようとしたが、できなかった。

 

「比企谷、とりあえずそれをしまえ。それからボーデヴィッヒ、頭に血が上りすぎだバカ者。」

「しかし‼」

 

八幡はすぐに星影をしまったが、ラウラは納得がいかないのか千冬に抗議する。

だが。

 

「ボーデヴィッヒ、やめろと言っている。」

 

千冬はラウラを睨む。

その目を見てラウラは一歩下がる。

 

こっわ‼

何あれ、般若がいる。

怒らせないようにしないとな…。

 

八幡は千冬を怒らせないように注意しようと心に固く誓った。

その決意とほぼ同時に千冬が口を開いた。

 

「ボーデヴィッヒ、そんなに気に入らないなら、比企谷と模擬戦をしろ。」

「は?」

 

つい先程、怒らせないようにしようとした八幡はいきなりそんなこと言われたため、千冬に敬語を忘れて怒気を含んだ疑問をぶつけてしまった。

 

「なんだ比企谷。文句でもあるのか?」

「先生、そんな解決方法はよくないと思いますが。」

「話し合いをするより手っ取り早いだろ?それに…。」

 

八幡はその後の言葉がわかってしまった。

 

「ボーデヴィッヒは論戦するにはおつむが弱いからな。」

 

そう言われてはなにも言えない。

だが、一応反論はしておく。

 

「それならこのクラスで多数決をすればいいだけでは?」

「お前は何を言っている?ボーデヴィッヒがまともな票を貰えるわけがないだろ。お前の方が人気なのだからな。それとも、負けるのが怖いのか?」

「それは認めます。ですが負けるのが怖いのではありません。働きたくないだけです。」

 

それを言った瞬間、クラスの全員がため息をついた。

唯一、デュノアだけが苦笑いをしていた。

 

何でみんなため息ついてるの?

そんなにみんな働きたいの?

やだ、みんな社畜魂高過ぎっ‼

 

八幡はクラス全員のこれからを考えて、いかに働くのが負けな事なのか、論じようとしたが、千冬に先を越されてしまった。

 

「全くお前は…。だったらこうしよう。比企谷、お前が参加しない、もしくは負けた場合、生徒会に入ってもらおう。それも、雑務として。」

 

何だってー!?

働きたくないでござる‼

働きたくないでござるー‼

崩壊の能力使っちゃうぞ。

普通に考えて無理でした。

はい。

 

「先生、それ俺にしかデメリットないじゃないですか。」

「安心しろ。ボーデヴィッヒにも同じような条件を出す。」

 

そう言うと、ラウラの方へ顔を向けると、こう言い放った。

 

「ボーデヴィッヒ、お前が参加しない、もしくは負けた場合、比企谷に謝罪をしろ。きちんと誠意あるやり方でな。それから、お前が一夏のどこを気に入らんのか知らんが、その事も忘れろ。いいな。」

「了解しました。」

「よし。で、比企谷はどうするんだ?」

「はぁ…。生徒会に入って働きたくないのでやりますよ。」

「では、今日の放課後、第2アリーナで模擬戦を行う。二人ともいいな?」

「はい。」

「わかりました。」

 

八幡は盛大にため息をはくと、机に伏せて現実逃避をしようとしたが、千冬の持っていた出席簿が飛んできてそれどころではなくなってしまった。

 

あぁー。

帰りたい。

帰って小町に癒してほしいな。

ダメ?

ダメですねわかります。

だったらせめて放課後が来なければいいのに。

 

そんなことを思っていると、いつの間にか昼休みになっていた。

 

え?早くない?

早いよね?

おかしいよこんなの…。

 

そう悶えていると、シャルルが声をかけてきた。

 

「八幡、大変なことになったね。」

「あぁ。全く織斑先生の脳筋ぶりには驚いたぜ。」

「八幡、そんなこと言っていいの?」

「え?」

 

シャルルの怯えた顔を見て察した。

後ろに大魔神がいるということを。

 

死んだな。

 

八幡は死を覚悟して後ろを振り返る。

そこには青筋をこめかみの辺りに浮かばせている世界最強の女、千冬が笑顔と共に立っていた。

 

「比企谷、私の頭が何だって?」

「何でもありましぇんよ?」

 

恐怖のあまり噛んでしまった八幡。

 

「そうか。私の勘違いか。」

「そ、そうでしゅね。」

 

笑ってごまかす八幡。

だが、それがいけなかった。

 

「そんなわけあるか‼笑ってごまかすな‼」

 

千冬は手に持っていた出席簿を八幡の頭に降り下ろした。

物凄い音を立てて頭に当たり、八幡は崩れ落ちる。

 

「ふん。」

 

それで満足したのか、千冬はその後を去った。

 

**********************************************

 

八幡は千冬による制裁を受け、痛みでうずくまっていたが、昼ごはんを食べれなくなるのは嫌だったため、痛みをこらえながら食堂へと向かう。

痛みで忘れていたが、隣にはシャルルがいた。

 

「八幡、大丈夫?」

「まぁ、なんとかな。」

「ごめんね。僕が話題をふったから…。」

「デュノアのせいじゃねぇよ。気にするな。むしろあれだな、元から頭痛い子だったから変わらないまである。」

「何それ。」

 

シャルルがくすりと笑う。

 

えー、何この気持ち。

男にこんな気持ち持つなんて。

いや、良いのかもしれない。

むしろデュノア以外にないまである。

 

八幡はそう決定付けると、いつの間にか食堂にいた。

 

「今日は何食べるの?」

「ん?たまには飯が食いたいから唐揚げ定食にするわ。」

「そうなんだ。」

「デュノアはどうすんだ?たまには米も食ってみろよ。」

「え!?えっと僕は…。」

「もしかして箸が使えないとか?」

「うっ…うん。」

 

恥ずかしそうに顔を赤くしてもじもじしながら八幡の方を向く。

 

やめて‼

可愛いから‼

告白して振られちゃうから。

振られちゃうのかよ。

当たり前だけど。

 

八幡は頬をポリポリと掻きながら、短くこう答えた。

 

「なら、いつか練習しような。」

「う、うん‼」

 

満面の笑みを浮かべ、シャルルはそう答えた。

それを見ていた八幡もその腐った目にそぐわない優しい顔をしていた。

それは今まで妹である小町にしか向けたことのない顔だった。

周りにいた女子生徒たちは、その顔を見て顔を赤らめていったが、八幡は気付くことなく、食堂にいるおばちゃんに注文をして、トレーを受け取り、一番奥の席へと移動していった。

その後、いつ撮られたのかは知らないが、女子たちの間で八幡の優しい顔をした写真が校内中に広がったのは別のお話。

 

八幡とシャルルは向かい合うようにして座ると、小さく頂きますと言って食べ始めた。

 

「デュノア、ボーデヴィッヒの専用機の性能ってわかるか?」

「どうして?」

「少しでも情報がほしい。」

「わかった。ちょっと待ってて。」

 

デュノアは携帯端末をポケットから取りだし、操作を始めた。

そしてそれを八幡に見せてきた。

 

「はい。」

「おう。悪いな。」

「いいよ。僕にできることなら何でも言って。」

「あぁ。」

 

八幡はそれを受け取り、内容を見る。

ラウラの使用する専用機、シュヴァルツェア・レーゲン。

ドイツで開発された第3世代型IS。

主な武装は肩の大型レールカノン、両腕に付いているプラズマ手刀、そして6機装備されているワイヤーブレード。

 

これだけならよかったんだがな…。

 

八幡は一番厄介な物になりうる、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー、通称AIC。

これに注目した。

AICはもともとISに搭載されている、PICの応用で、慣性停止結界と呼ばれる。

対象を任意で停止させることができる厄介なものだ。

 

これの攻略法はないのか?

 

そう思いながら次々と資料を読んでいく。

と、そのなかに興味深い内容が書いてあった。

 

"1対1では反則的な効果を発揮するが、使用には多量の集中力が必要であり、複数相手やエネルギー兵器には効果が薄い。"

 

これを見て、八幡は勝利への道を作ることが出来た。

 

「サンキューな。お陰で勝てそうだ。」

「本当?でも、忘れないでね。ボーデヴィッヒさんも代表候補生だってこと。」

「あぁ、わかってる。」

「なら僕は八幡を信じるよ。」

「信じなくてもいいさ。見てくれるだけでな。」

「なら、僕は勝手に信じるよ。」

「そうか。」

「そうだよ。」

 

八幡は口許に笑みを浮かべ、シャルルの顔を見た。

 

裏切られるかもしれないけど、それでもデュノアが信じてくれるのを信じてみるのも悪くないかもな…。

 

八幡はそう思うと、ご飯を口に運んだ。

その日の昼ごはんはいつもより美味しく感じられた。

 

*****************************************

 

放課後がやってきた。

八幡はシャルルと共にすでにピットまでやって来ていた。

 

「八幡、信じてるよ。」

「そうか。ただ、勝つ保証はないぞ。」

「負けるって言わないんだね。」

 

少し可笑しそうにシャルルはクスクスと笑った。

八幡はその笑顔を見て、少し居心地が良くなった。

今まで、クスクスと笑われたことは、影で何度もあった。

だが、今シャルルが笑っているのとは違う。

八幡はそれに少し戸惑った。

だが、自分の親しい人が笑顔でいる、それがたまらなく嬉しかった。

小町が笑顔でいるときと同じように。

だからこそ八幡はシャルルにこう言った。

 

「あぁ。信じてくれるやつがいるからな。」

 

そう言うと、八幡はISを展開する。

漆黒の鎧を身に纏う。

すると、無線が入る。

 

「比企谷くん、準備はいいですか?」

「はい。」

「では、いつでもいいので、出てください。」

「わかりました。」

 

八幡はカタパルトに乗り、そして前傾姿勢になりながら前を見る。

 

やって来るか。

 

「比企谷八幡、行きます。」

 

八幡が射出され、アリーナへと出る。

そこにはすでに黒い重装甲なIS、シュヴァルツェア・レーゲンを纏うラウラがいた。

八幡はチャネルをオープンにする。

 

「ボーデヴィッヒ、悪いが勝たせてもらうぞ。」

「ふん。できるものならな。」

「では、比企谷八幡とラウラ・ボーデヴィッヒの模擬戦を始める。始め‼」

 

その声と同時に八幡は背中についている流星を展開し、ラウラへと飛ばす。

流星は各々行動し、ラウラを取り囲み、ビームを放つ。

 

「ふん。第3世代型のBT兵器か。こんなもの‼」

 

プラズマ手刀で手近に来ていた流星を破壊しようとした。

だが、ラウラの視界の隅でライフルを構える八幡の姿が写った。

 

「っ!?」

 

まさか、そんなはずはない。

ハッタリに決まっている。

だがなんだ、このうすら寒い気は。

 

ラウラの一瞬の動揺が回避行動を遅らせた。

ラウラに流星と彗星のビームが直撃した。

 

「悪いな。ボーデヴィッヒ。この兵器はBT兵器を発展させたものでマルチロックオンシステムで狙った敵を常に追いかけ、敵を攻撃する。だから俺自身も攻撃できるんだよ。」

「くっ…。」

 

ラウラは下唇を噛む。

 

強い。

兵装もそうだが、何より操縦者の扱いがうまい。

このままでは負けるかもしれない。

負けたくない。

この私に負けは許されない‼

もっと、もっと力を‼

 

そう思った瞬間、ラウラの耳許で何かが呟いた。

 

「何だ?」

「汝、力を欲するか?」

「あぁ。」

「ならば力を与えてやろう。」

 

ラウラのISが液体のように溶け始める。

周りの人は何が起きたのかわからない。

だが、なにか危険な事になる。

そう直感が告げていた。

その頃、管制室では千冬が真耶にこう言っていた。

 

「山田先生、警戒レベルを3に移行。そして模擬戦を中止に。」

「わかりました。しかし、ボーデヴィッヒさんに何が…。」

「わからん。とりあえず、警備部隊を向かわせてくれ。」

「わかりました。比企谷くんはどうしますか?」

「ピットまで下げさせろ。」

「はい。」

 

真耶は八幡へプライベートチャネルを繋ぎ、千冬から言われたことを伝えようとした瞬間だった。

ラウラのISと思われる物が姿を変え、打鉄のような姿をし、その立ち姿はまるで今一緒にいる千冬のようであった。

そしてそれが、いきなり八幡を襲った。

 

「っ!?どうしますか?織斑先生。」

 

真耶に焦りの色が混じる。

千冬はあくまで冷静を心がけ、こう命じた。

 

「私に任せろ。」

 

そう言うと、インカムを手に取り、八幡と通信を始めた。

 

「比企谷、聞こえるか?」

「先生、これは?」

「わからん。今からいうことをよく聞け。」

「はい。」

「ボーデヴィッヒは何らかの事態により暴走を始め、お前を攻撃し始めた。少しの間でいい。食い止めてくれ。そうすれば警備部隊がそちらにつく。」

 

しばらく沈黙が続いた。

そして、八幡から出された結論に皆が愕然とした。

 

「お断りします。」

「一応理由を聞こうか。」

「被害を大きくしないために、俺のことより先にやることがあるでしょう?まずはそちらを片付けてからにしてください。それに、この問題は俺とボーデヴィッヒのものです。だから解決するのも俺たちでやります。では。」

 

一方的にそう言うと、チャネルを切り、八幡は戦闘を開始した。

千冬は唇を噛みつつ、次の策に移る。

 

「山田先生、他の生徒の避難を。それと専用機持ちを招集してくれ。」

「わかりました。」

 

真耶はすぐに行動に移し、モニターを見つめる。

そこには2つの刀剣で切り合っている八幡の姿が写っていた。

焦る気持ちを押さえて、専用機持ちを待つ。

しばらくすると、管制室に専用機持ちが集まってきた。

 

「千冬姉、これは何だよ?」

「わからん。だが、もしかしたらVTシステムかもしれん。」

 

VTシステム。

ヴァルキリー・トレース・システム。

過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステム。

パイロットに「能力以上のスペック」を要求するため、肉体に莫大な負荷が掛かり、場合によっては生命が危ぶまれる。

現在では、あらゆる企業、国家での開発は禁止されているはずだ。

だが、今回のこの暴走はこれに共通点がいくつかある。

そう。

千冬に似すぎている。

だからこそ心配なのだ。

ラウラが、そして何より八幡が。

 

「織斑先生、私たちは何をすればよろしいのですか?」

 

セシリアが若干驚きを含んだ声で尋ねてくる。

 

「比企谷のサポートを頼みたい。」

「八幡のサポートですか?」

「あぁ。現在、比企谷は一人であの暴走ISに挑んでいる。」

 

そう言った瞬間、一夏、セシリア、鈴、シャルルの顔が強張った。

 

「だが、今の彼ではあれには勝てないだろう。だからお前らに頼みたい。」

「でも、警備部隊が出てるんじゃないんですか?」

 

鈴の質問は的確だった。

千冬はそうしようとした。

だが拒否された。

誰でもない八幡から。

 

「比企谷に拒否され、今は生徒の避難誘導を行っている。」

「なぜ、拒否されただけで八幡を見捨てるようなことをしたんですか?」

 

シャルルの問いは至極全うだ。

そういわれるのも仕方がない。

だが、今の八幡の戦いかたでは連携どころか警備部隊がやられる可能性が高い。

それほどまでに朧夜が、いや、八幡が強い。

なぜ、それほどまでに強いのか甚だ疑問なのだが、それを今考えても無駄だろう。

 

「今のあいつを見てみろ。連携できる戦いかたではない。だから、お前たちに頼みたい。説得と、あの暴走ISの鎮静を。」

 

各々の了解を聞き、少し安心する千冬。

 

頑張れよ、お前ら。

 

******************************************

 

八幡は千冬の言葉を聞かず、戦闘を続ける。

 

強いな…。

何であの時、あんなこと言っちまったんだ?

まぁ、いいや。

今はこいつを何とかしなきゃな。

しかしあの時、特訓しといて正解だったな…。

できればあの人にはもう会いたくはないけど…。

 

そう思いながらも十六夜と朔光を手に握りしめ、接近する。

ラウラの武装は変わっており、刀一振りだけになっていた。

だからこそ、あえて同じ土俵で戦っていた。

相手が刀を持っているのにこちらが銃なのは少し不利だ。

生身の人間同士であれば、ライフルを使ってもいいだろうが、事ISではそうもいっていられない。

機動力のあるISではライフルなどを持ちながら飛び、さらに撃ったりと余計な動作が入り、機動力が格段に落ちる。

だからこそ、機動力がそこまで落ちない刀剣で相対した。

 

こいつの行動パターン、どこかで見覚えが…。

 

そこまで思考した瞬間、ハイパーセンサーがなにかに反応した。

それはよく見覚えのある顔、シャルル達であった。

 

ちっ…何で来たんだよ。

 

心の中で悪態をつき、背面から流星をパージし、シャルル達の元へ飛ばした。

3つはそれぞれ連携を取りながら四人を追い詰めていく。

だが、それも時間稼ぎにしかならなかった。

三基ともに打ち落とされ四人がこちらにやって来る。

 

「八幡‼」

 

シャルルの叫びが耳にはいる。

だがそれを無視して、ラウラから距離を取り、月華を展開し、腰だめに構える。

そしてその銃口をラウラに向ける。

足からパイルバンカーが出て来て体を支える。

そして。

 

「ファイア‼」

 

その叫びと共にビームの奔流がラウラに吸い込まれるように真っ直ぐ放たれる。

直撃した。

八幡の耳に、四人の叫びが聞こえるが、すべて無視し、構えを解く。

そして、直撃した部分から暴走したISが溶けるように崩れ落ち、中からラウラが姿を現した。

八幡はISを解き、ラウラの元へ走っていく。

そして、落ちてきたラウラを抱き止める。

 

「大丈夫か?」

「……なぜお前はそんなに強い…。なぜ強くあろうとする?」

「俺は強くないさ…。ただ臆病なだけだ。それに、そんなこと聞いてもお前のためにはならんだろ。」

「どうしてだ?」

「お前はお前だからだ。」

「私が…私?」

「お前は俺じゃない。比企谷八幡じゃない。ラウラ・ボーデヴィッヒだ。だからお前はお前の強さを持て。それが本物の強さだ。」

「それが…つよ…さ…。」

 

ラウラは気を失った。

八幡はラウラを支えながら、なぜあんなことを言ったのかわからなかった。

だが今日の夜は確実に枕を抱えてベッドを転がるだろうと思った。

 

あーはずかしい。

何いっちゃってんの俺は‼

バカじゃねぇーの!?

恥ずかしすぎて死にたいよぉー‼

誰にも聞かれてないよね?

特に地面に降り立った3人の専用機持ちさんたち?

にやにやしてるけど聞いてないよね?

 

そんな心配しているときだった。

視界一杯にオレンジ色が覆った。

そして、右頬に衝撃が襲った。

 

「八幡のバカ‼」

 

八幡は理解するのに少し時間がたった。

どうやらシャルルにビンタされたみたいだ。

 

痛い…。

 

「何がバカなんだ?」

 

涙を流しているシャルルを見ながらそう言った。

 

「何で一人でやるの?僕たちは仲間じゃないの?」

「一人でやった方が効率的だし、それに、一人でやることは間違いなのか?」

「そうじゃないよ‼何で僕たちを牽制してまで突き放すの?そんなに信じられないの!?もっと僕を、僕たちを信じてよ‼」

「……。」

 

シャルルの言っていることは今の八幡のやり方を、いや、八幡自信を否定しているようなものであった。

 

なぜ他人に、俺の事を少ししか知らない人に俺自身を否定されなければいけないんだ?

俺は俺の流儀にしたがってやっただけだ。

信じたその先にあるのは、絶望だ。

信じてはその度に裏切られる。

それの繰り返し。

だから俺はいつの日か信じるのをやめた。

でもようやく、信じてもいいかもしれないやつが出来た、気がした。

なのに、裏切るようなことをするのか…。

やっぱり、世界は残酷で冷酷だ。

 

「デュノア、一つ俺の友達の友達の話をしてやる。そいつはそこそこ顔がよくて、成績もよかった。でもなぜかみんなから陰で嫌われていた。でもそいつは少ないが友達がいた。そのときは友達だと信じて疑わなかった。そして、いつものように学校に行ったら机がベランダにあったし、下駄箱の中には悪戯のラブレターも入ってた。極めつけは忘れ物をして戻って下駄箱に行ったとき、その友達が俺の下駄箱の中にゴミを入れてた。それを見て、俺は失望した。絶望した。つまりは上っ面の関係。偽物の関係。だから俺は…。」

 

八幡は最後の一言を言おうとした。

何も信じないと。

だが、それは叶わなかった。

シャルルが遮ったからだ。

 

「だから何?」

「は?」

「僕は八幡をいじめてた同級生でもないし、僕はいじめる事もしない。八幡が望むなら僕は八幡の言う偽物の関係じゃなく、本物の関係になりたい。だから…。だから…。僕を信じてよ。八幡に傷ついて欲しくない。だから…。」

 

そこまで言うと、シャルルは嗚咽し始めた。

心配そうに3人が寄ってくる。

 

この目、この口調、そして本気で心配してくれているとわかる涙。

あいつと一緒だな…。

俺が小町のために小町に暴言を吐いて自分を犠牲にしたとき、言葉は違っても俺のために、俺なんかのために泣いてくれる、怒ってくれる。

そんなやつを突き放すなんて俺には無理だ。

そんな強さは俺にはない。

俺は弱者だ。

だから、それが羨ましい。

だから、憧れる。

だから、近付いてみたいと手を伸ばしてしまう。

例え、その先が絶望しかないのだとしても…。

ならば、俺がデュノアにかける言葉は。

 

「デュノア、その、何だ。ありがとな。」

「え?」

「いや、だから、デュノアを、お前を信じるようにするよ。」

「うん…。うん‼これからもよろしくね、八幡‼」

「あぁ。」

 

八幡に向けられた笑顔は、かつての小町の笑顔のように眩しく、そして胸に暑いものが込み上げてくるような物だった。

 

これなら、デュノアとなら俺は自分自身がほしかった物が手にはいるかもしれないな…。

 

そう思った八幡は空を見上げた。

その空はいつもより青く美しく感じられた。

 




IS設定書いた方がいいですかね?
書いて欲しいなら言ってください。

ではでは次のお話でお会いしましょう。


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第3話 彼は彼女の秘密を知る

3話目です。

八幡が八幡じゃないので、違和感バリバリで、こいつ誰?みたいな感じになるかと思いますが、読んでくれると嬉しいです。
それが我慢ならない方は読まないことをオススメします。

では、違和感バリバリでも構わない方はどぞ。





ラウラのISが暴走が鎮圧された後、シュヴァルツェア・レーゲンを調べるとやはりVTシステムが使われていた。

千冬は怒りを覚える。

 

もしかしたら、まだ少女であるにも関わらず、死んでしまうかもしれない物を搭載させるとは…。

 

その憤りは真耶も同様だった。

 

「織斑先生、なぜ使われているのだと思いますか?」

「たぶんだが、軍事目的で搭載したのだろうな。」

「酷い…。」

 

千冬は真耶と一緒に検査室から出ると、一人でラウラの眠る医務室へ足を向けた。

医務室へ入ると、そこにはあどけない顔をしながら眠っているラウラの姿があった。

 

こうしていると、軍人ではなく、普通の少女だな。

 

柄にもなくそんなことを思いながらかける言葉を探していた。

そんなとき、小さな声がラウラから漏れた。

 

「うっ…。」

「目が覚めたか?」

「教官…。」

「今の気分はどうだ?」

「悪くありません。それに、負けたのになぜか清々しい気分です。」

「そうか。ならよかった。」

 

優しく微笑む千冬。

だが、寝転んでいる彼女の顔は未だ固いままだった。

ラウラは意を決したのか口を開いた。

 

「教官…。私が暴走したのは…。」

「あぁ。VTシステムによるものだった。」

「…そうでしたか。」

「あぁ。ところで、お前はこれからどうしたい?」

「私は…あいつに、比企谷八幡に己の強さを持てと言われました。でもそれがなんなのか、わかりません。」

「そうか。なら、お前は今日からラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

「え?」

「兵器としてのラウラ・ボーデヴィッヒではなく、一人の少女として、人としてのラウラ・ボーデヴィッヒになれ。そして、自分の強さを見つけろ。」

「はい。」

 

ラウラの顔にはもう迷いがなく、何かがストンと落ちたようにスッキリとした顔をしていた。

それを見て安堵するのと同時に、八幡に興味を抱いた。

 

あいつはいったい何者なんだ?

なぜそんなに他人の心に響くようなことを言える?

それとも、他人の心が響くように誘導しているのか?

あの腐った目は何を見て、何を感じ、何を思っている。

他人が見えていない部分まで見えているのか?

だったらそれがなんなのか知りたい。

知ってどうするとか考えていない。

ただ純粋に知りたい。

それだけ。

 

千冬は自分の心からそう思った。

それと同時にわからなかった。

なぜそんなに心が求めるのか、それだけがわからなかった。

だが、

 

束に会わせたら面白いことになりそうだな…。

 

そう思いながら、医務室を離れた。

 

*************************************

 

その頃、寮に戻っていた八幡はベッドに腰掛けながら、携帯端末を操作していた。

そこにはとある人物の事を調べた結果がメールで届けられていた。

その人物の名は、シャルロット・デュノア。

性別欄には女と書かれており、所属のところには何も書いてなかった。

だが、備考の欄には、女としてのシャルロット・デュノアは無所属かつ、存在しないことになっているが、男としてのシャルル・デュノアはデュノア社に所属となっていた。

 

なるほどね。

時期的に考えて導き出される結論は、織斑一夏と白式のデータの入手と男のIS乗りを宣伝、いや、この場合は自分達の会社を宣伝するため、か?

大人って汚いな…。

それとどうでもいいけど、束さん、もうちょっと簡潔に備考をまとめてくださいね。

もすもすひねもす~、とかはちくんのアイドル束さんだよ~、とかどうでもいいんで。

まぁ、いいか。

とりあえず、これからどうするか。

この事は当然デュノアに告げる。

けど、その後どうしよう。

この事実は裏切りだ。

俺自身と、その周りを欺いて過ごしていたのだから。

だが、もしデュノアが素直に自分の非を認め、自分の意思でやっていないのなら、小町のように俺のようなやつに対して泣いて怒ってくれた。

それに、デュノアとなら、この学園のお人好し共となら、欲しいものが手に入る気がする。

だったら、その先に絶望しかなくとも、俺は手を差し伸べてやる。

でも、そうでないのだったら、相手がどうなったって俺は、知らないし、俺は一生人を信じない。

 

そう結論付けるのと、部屋のドアが開くのはほぼ同時だった。

 

「ただいま~。」

 

シャルルはそう言いながら、八幡のところへと寄ってくる。

 

「どうしたの?」

 

シャルルはいつもと雰囲気の違う八幡を見て首をかしげる。

そう、いつもならただいまと言えばお帰りと返してくるはずなのに。

 

「デュノア。」

 

八幡はそう言うと、携帯端末を見せてきた。

 

「何?」

 

シャルルはそれを受けとると、その顔が強張った。

 

「八幡…どうしてこれを…?」

 

辛うじてそれだけ言うことが出来た。

その質問に答えようとしたのか、八幡はシャルルの肩に手をおいて、座るよう促した。

何も言わずにシャルルはベッドに腰を掛ける。

 

「どうしてってとある人物に依頼したから。」

「何で?ずっと疑ってたの?」

「いや。そうじゃない。これはお前のためでもあるし、何より、俺のためだ。」

「え?」

「デュノア、本当の話を聞かせてくれ。お前がこれからどうしたいのか、本当はどうしたかったのか、そして、デュノア社の事をどう思っているのか。」

 

八幡は真っ直ぐな目をしていた。

決してシャルルの方を向いてはいなかったが。

 

「わかった。ここまでバレてちゃ僕は言い訳なんかできないからね。」

 

一呼吸おいて話を始めた。

 

「ここの備考に書いてある通りだよ。僕は父の命令でここに来た。白式のデータと織斑一夏君のデータを入手しにね。でも、僕はそんなのしたくなかった。普通にここに入学してみんなと仲良くなって、強くなりたかった。でも、もう僕にはそんなことできない。たぶん女だってことがバレたって聞いたら本国に呼び戻されて、僕は二度とここにはこれないだろうね。」

 

八幡はそれを聞いて、嘘偽りのない言葉だと確信した。

なぜなら、すべてを諦めた顔、そして、瞳の中には自分の非を攻めるような色をしていたからだ。

もしこれが演技なら、役者になればいいと本気で八幡はそう思った。

と、その時ふと思い出した。

 

確か、IS学園の特記事項に…。

 

パラパラと生徒手帳を捲っていく八幡。

それを不思議そうに眺めているシャルル。

 

「どうしたの?」

「まだ諦めるには早すぎる。」

 

そう言いながら、生徒手帳をシャルルに見せてくる八幡。

それを受け取りながら文章を読んでいく。

そこに書かれていたのはーー

 

"IS学園に所属しているとき、いかなる企業も国家も団体にも属さない。"

 

これを見た瞬間、シャルルが涙を流し始めた。

 

「八幡、ありがとう。」

「俺はなにもしてない。」

「ううん。してくれたよ。だから、ありがとう。」

 

眩しいぐらいの笑顔を見て、八幡は頬を赤らめる。

 

やめて‼

そんな満面の笑顔見せないで‼

即告白して振られちゃうから‼

振られちゃうのかよ…。

 

「まぁ、何だ、デュノアはこれからどうするんだ?」

「みんなに女だって言うよ。名前だってお母さんがくれた大切なものだから。」

「そうか。だが、卒業したらどうする?」

「どうしよう…。」

「ま、そんときになったら、俺が何とかしてやるよ。正々堂々、真正面から卑屈で最低で陰湿なやり方でな。」

「でも、八幡が傷ついたらダメだよ?」

「何とかするさ。」

「約束ね。」

「あぁ。約束だ。」

 

二人は微笑み合いながらどちらともなく小指をだし、指切りをした。

それは八幡にとって、欲しい物が手にはいるかもしれない、希望の光だった。

 

*****************************************

 

次の日の朝、八幡が目を覚ますとすでにシャルル、いや、シャルロットがいなかった。

その事を特に気に止めずにいつものように食堂に行き、教室へ向かう。

教室に入り、自分の机に座ると、そのまま伏せてHRまで寝ようとしたとき、肩を叩かれる感触がしたので顔を上げるとそこには、ラウラがいた。

 

「何だ?」

 

何、もしかしてやり返しに来たの?

怖いんだけど…。

逃げていい?

ダメ?

えー…。

 

すぐに逃げれるように椅子を軽く引く。

 

「お前に言いたいことがある。」

 

そう言うと、ラウラは八幡の胸ぐらをつかむ。

クラスのみんなが、何事かと八幡達の方に目線を向ける。

 

「な、何だよ。」

 

何?

やっぱり仕返しに来たの?

ヤバイよ怖い怖い。

後怖い。

それに周りのやつらも見てるって。

注目しないで‼

八幡照れちゃう。

うん、キモいな…。

 

そう思っていたときだった。

いきなりラウラが顔を近づけてくる。

そして、唇に柔らかい感触がした。

 

「!?」

 

八幡は驚きで硬直するしかなかった。

 

え?

え?

え?

何やってんのこの子。

ビッチなの?

ビッチだよね?

 

混乱しつつ、ラウラを引き剥がす。

すると、クラス中が悲鳴に包まれる。

 

え?

俺が悪いの?

やめて‼

通報しないで‼

 

そう思ったのだが、予想と大きくかけ離れたものだった。

 

「始めては私がもらうはずだったのに‼」

「悔しい‼もっと早く話しておくべきだった‼」

「ボーデヴィッヒさんずるい‼」

 

それを聞いてラウラは大きな声でこう言い放った。

 

「うるさい‼私はこいつを嫁にする‼異論は認めん‼」

 

顔を赤くしながら、まるで恋する乙女のようにそう言った。

そう宣言した瞬間、クラスが阿鼻叫喚となった。

そんな中、担任である織斑千冬が入ってきたことにより、この騒ぎは沈められた。

当然のように八幡は怒られたが。

 

「えっと…今日は転校生を紹介します。」

 

少し戸惑いながら真耶がそう言った。

無理もない。

八幡、シャルル、ラウラの3人が転校してきて、新たなる転校生が来ると聞いて戸惑うのが普通だ。

だが、八幡は一人冷静だった。

興味がないとかではない。

すでに来る人がわかっているから。

 

「では、入ってきてください。」

 

教室の扉が開き、そこから金髪の少女が教卓の横まで歩いて来る。

彼女の顔を見て、クラス中が騒然となる。

それもそのはずだ。

彼女は男として、シャルル・デュノアとしてこの学園にやって来たのだから。

 

「えっと…デュノア君は、デュノアさんってことでした。」

「「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」」

 

そのリアクションを見て八幡は小さく笑みをこぼした。

 

芸人かよ。

 

そんなことを思いながらシャルロットの方を向く。

シャルロットは微笑みながらクラスのみんなの方を向き、改めて自己紹介を始めた。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、またこれからもよろしくお願いします。それと、黙っていてごめんなさい。変わらず仲良くしてくれると嬉しいです。」

 

シャルロットは頭を下げながらみんなに懇願した。

 

「当たり前だよ。」

「うんうん。」

「男じゃなかったのがちょっと残念だけどね。」

「でも、友達になるのはいいかも。デュノアさん可愛いし。」

 

口々にシャルロットの願いを受け入れていく。

それどころか、男としてこのクラスにいた時より溶け込んでいた。

 

よかったな。

これなら、お前も過ごしやすいだろ。

 

そう思いながら、今日一日を過ごしていった。

 

******************************

 

寮に戻ると、扉の前で誰かが立っていた。

真耶だった。

 

「どうしたんすか、山田先生。」

「比企谷くん。デュノアさんはまだですか?」

「えぇ。なんか今日はクラスのやつらと一緒に特訓だそうですよ。」

「そうですか。比企谷くんは特訓しないんですか?」

「働きたくないですので。」

「でもオルコットさんとの試合、あるんですよね。」

「そうですね。まぁ、何とかなるんじゃないっすかね。」

「そうかもしれませんね。比企谷くんの実力なら。」

 

微笑みながらそう言う真耶を見て、八幡は少し警戒の色を見せる。

 

どこまで知っている?

それとも、かまをかけているのか?

どちらにせよ、警戒しておこう。

束さんとの関係、いや、腐れ縁を聞かれても困ることはないが、めんどくさいことになりそうだからな。

 

そう結論付けて自分の部屋に入ろうとしたとき、後ろから八幡を呼ぶ声が聞こえた。

 

「比企谷、ちょっと来い。」

 

千冬だった。

 

「何ですか?」

「ここではちょっとな。着いてこい。」

「……わかりました。」

 

何を聞かれるのかさっぱりだが、一瞬答えに間を置いてしまった。

 

まぁ、何とかなる…かな?

早く寝たかったよ。

さよなら、俺の安息の場所…。

 

黙って千冬の後に着いていく八幡だったが、何となくどこにいこうとしているのかわかった。

 

「先生、この先って…。」

「あぁ。生徒会室だが?」

 

やっぱり‼

え?

あの勝負勝ったのに入れられるの?

働きたくないよぉー‼

めんどくさいよぉー‼

 

「おいどうした。目がさらに腐ってるぞ。」

「いや、何かめんどくさいなと思いまして。」

 

つい本音が漏れてしまった。

八幡は何となく死を予感したが、千冬はクスリと笑うだけでなにもしてこなかった。

 

「そう言うな。何、生徒会に入れようとかじゃないから安心しろ。」

 

何だそうか。

よかった。

ん?

よかったのか?

 

甚だ疑問なのだが、諦めて生徒会室まで同行することにした。

 

だって逃げるだろ?

死ぬだろ?

口答えするだろ?

死ぬだろ?

だったらおとなしく着いていくしかないんだよ。

やだなー。

生徒会室入りたくないなー。

 

そんなことを思っているうちに八幡と千冬は生徒会室の前まで来てしまっていた。

八幡は小さくため息を吐くのと、千冬が扉を開けるのが同時だった。

 

「入るぞ。」

 

中にはいると、一人の少女がいた。

八幡は彼女を知っていた。

といっても一番始めに調べていた人物なので、知らないわけがないのだが。

水色の髪、赤色の瞳、そしてその手に持つようこそと書かれた扇子。

全体的に掴み所のない雲のような雰囲気を持つ彼女の名は、更識楯無。

このIS学園の生徒会長にして、最強の専用機持ち。

 

めんどくさそうだな…。

 

この先、何を聞かれるのか予想をしつつ、面倒事は嫌だなという気持ちを抱きながら中にはいっていった。

 

「織斑先生、ありがとうございます。」

「気にするな。では私は少し用があるから席を外すぞ。」

 

そう言うと、千冬は生徒会室から出ていった。

八幡は机を隔てて彼女の前に立つ。

 

「で?何のようですか?更識楯無生徒会長?」

「特に用事はないんだけどねー。何となく君に興味を持ったから来てもらったんだよ。」

「そうですか。なら用がなさそうなので帰りますね。」

 

そう言って踵を返し、出ていこうとしたが楯無に止められる。

 

「まぁまぁいいじゃない。おねーさんと少しお話ししましょ。」

 

えー…。

ヤダよめんどくさい。

 

そう心の中だけに留めたはずが顔に出ていたようだ。

 

「あ、嫌そうな顔。おねーさん傷つくなー。」

「嫌そうな、ではなく嫌なんです。」

「えーなんでー?」

「部屋でゆっくりしたいからです。」

「あははは。君は素直だね。」

「そうですね。素直すぎて皆引くまでありますからね。」

 

それを聞いた楯無は爆笑した。

 

うわー受けてるー。

よかったですねー。

 

「で?本当の目的は何ですか?更識刀奈さん?」

 

それを聞いた瞬間、楯無の顔に緊張が走った。

 

「どうしてそれを知っているの?」

 

今までのおちゃらけた雰囲気はなくなり、瞬時にピリッとした空気になる。

 

「知ってるからですが。」

「……あなた、何者?」

「比企谷八幡ですが?」

「そうじゃなくて、君はこの間まで庶民だったんでしょう?だったらどうして?」

「知ってるのが悪いことなんですか?」

「言わないつもりなのね?」

「何も知らないので言えないだけですが。」

 

しばらくにらみ合いが続く。

先に目を離したのは楯無の方だった。

 

「いいわ。そう言うことにしておいてあげる。」

「どうも。」

 

そう言って生徒会室を立ち去ろうとしたが、後ろから聞こえた声で立ち止まる。

 

「あ、君は知ってると思うけど、私に妹がいるのよね。」

「それがどうかしましたか?」

「何でもないよ。まだ、ね。」

「そうですか。」

「それと、私、君の事気に入ったからね。」

「はぁ…。」

 

いきなりそんなことを言われた八幡は生返事をするしかできなかった。

その反応を見て面白かったのか楯無は小さく笑った。

 

「だから、君の事見てるから。そこのところよろしくね。」

「出来れば見ないで放っておいて欲しいんですが。」

「それは無理だよ。」

「だったら逃げますよ。」

「逃げたら追いかけるよ。」

 

にこにこと楯無はそう言う。

 

怖いよ。

顔とは裏腹に絶対心の中では笑ってねぇよ。

え、何?

オリハルコンで出来た仮面でも付けてるの?

 

八幡は若干居心地が悪くなり、楯無から目をそらし、捨て台詞を吐いた。

 

「勝手にしてください。」

「うん。」

 

八幡は楯無の顔を見ることなく生徒会室から出ていった。

 

******************************************

 

楯無は生徒会室を出ていったばかりの彼の事を思い浮かべていた。

最初はただの興味本意で呼び出しただけだった。

だが、彼は予想以上に面白く、尚且つ本当の私を見てくれていた。

その事で、いつのまにか素直になっていた。

だから柄にもなくもっと知りたいと思った。

それと同時にストレートな物言いが気に入った。

他にも、何やら秘密があるようだが、それがまた彼らしいと思ってしまった。

今日初めてあったのに相手の事がよくわかってしまった。

 

「ふふっ。おねーさんに目をつけられたら逃げられないぞ、比企谷八幡くん。」

 

楯無は扇子を開くとそこには、逃がさない、とそう書いてあった。

 

**************************************

 

八幡が部屋に戻ると、そこにはまた真耶が立っていた。

 

「まだデュノアは帰ってきてないんですか?」

「いえ。違いますよ。比企谷くんに伝えたいことがありまして。」

「何でしょう?」

「デュノアさんが引っ越しすることになりました。」

「そうですか。」

 

そりゃそうだろう。

若い男女が同じ部屋なんて間違いが起こるかもしれないからな。

だが残念ながら俺は絶対だがな。

……何か自分でへたれって言ってるようなものだな。

その通りなんだけどさ。

 

「で、それだけですか?」

「はい。」

「わかりました。では僕はこれで。」

「お休みなさい。」

「うっす。」

 

八幡はそう言って自分の部屋に入ったが、今まで以上に部屋が広く感じられた。

 

広いな…。

こんなに広かったんだな。

でも、デュノアが他のやつらと仲良くできるのなら、良いのかもしれないな。

 

そんなことを思っている自分を嘲笑し、お風呂に入ることにした。

 

*******************************************

 

その頃、別の部屋では、金髪の少女と銀髪の少女が対面していた。

 

「ボーデヴィッヒさんいきなり引っ越しすることになっちゃってごめんね?」

「別に構わんぞ。それより、嫁に挨拶したのか?」

「嫁…?」

「あぁ。私の嫁だ。」

「えっと…もしかして八幡の事?」

 

シャルロットの目から段々と光が消えていく。

ラウラはそれに気がつかないのか、肯定した。

 

「そうだ。」

「ふーん。」

 

そう返事をすると、徐にシャルロットは立ち上がり、どこかへと飛び出していった。

そしてその日、寮の中では一つの悲鳴が響いたそうだ。

 

それと、シャルロットとラウラの仲は良くなり、今では普通に名前で呼び会う中になった。

 

*************************************

 

それから数日が経った。

 

え?早いって?

バッカ、お前ここんとこ何もなかったからな?

ボーデヴィッヒが朝方俺のベッドに入っていたりだとか、その事でデュノアに尋問受けたりだとか、オルコットが織斑のために作ってきたサンドイッチを何故か食うことになったりだとか、とばっちりで篠ノ之に織斑と一緒に追いかけられたり、あ、でも凰の酢豚はうまかったな。

織斑、俺に食わせてくれてありがとう。

え?

何でその描写が省かれてるのかって?

そりゃお前あれだよ。

俺が思い出したくないからに決まってんだろ。

でも、今日はもっと嫌な日だけどな。

 

八幡はそんなどうでもいいことを思いながら席につくと、織斑がこっちに歩いてきた。

 

「おはよう。」

「おう。」

「そう言えばセシリアと今日戦うんだよな。」

「そうだ。」

「セシリアは強いぞ?」

「そりゃそうだろ。イギリスの代表候補生何だからな。相当の努力も積んでるはずだ。ま、本人のあの高飛車な性格でなければもっと上に行けると思うんだがな。」

「今でも強いだろ?」

「強いけど何とか対処はできる。お前との戦闘を見たが、あのブルー・ティアーズは欠点が多い。だから何とかなる。」

「なるほど。じゃあ楽しみにしてるよ。頑張れよ八幡。」

「お、おう。」

 

やめろよ友達かと思っちゃうだろ。

まぁ、今さらそんなことは思わないが。

 

八幡が呆っとしていると、視界に何かが入ってきた。

目線をあげていくとそこにはセシリアがいた。

 

「なんのようだよオルコット。」

「少し用がありまして。」

「何だよ。俺は用なんかないんだけど?」

「わたくしがありますのよ‼」

 

こいつは弄りがいがあるな。

え?

性格悪い?

バッカお前それは違うぞ。

俺は性格悪いんじゃない。

腐ってるんだ。

何それ自分で言ってて泣けてくる。

 

「で?何だよ。」

「あなた、この間の件といい鈴さんとの一戦といいずいぶん場馴れしてますわね?」

「そんなわけねぇよ。」

「嘘ですわ。それに、あなた今まで手を抜いてますわね?」

「言い掛かりは止めてくれ。そんなことはないし、なんならこの先もないまである。」

 

そう言うと、セシリアは疑い深そうに八幡の目を見る。

だが、その腐った瞳からは何も得るものがなかった。

 

「そうですか。ではわたくしはあなたに本気を出させてあげますわ。このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でるワルツで!」

 

そう言うと、自分の席へと去っていった。

それを扉のところで見ていた千冬が口許に微笑を浮かべていた。

それを見てしまった八幡の目は更に濁っていくのであった。

 

そして、いつの間にか放課後。

 

あれ?

何か早くない?

周りだけ加速する世界に行ってたの?

そんなわけないか。

 

と、肩を叩かれる感触がしたので、そちらに目線を持っていくと、そこにはシャルロットがいた。

 

「どうした?」

「そろそろ時間かなって思ってさ。」

「おう。サンキューな。」

「いいよ。僕が勝手にやっただけだから。」

 

マジデュノア天使。

小町と同じぐらいで天使だな。

小町に会いたい…。

 

「今日、勝てそう?」

「さぁな。」

 

八幡はそう答えながら立ち上がると、アリーナへと向かっていく。

その隣にはシャルロットが当然のようにいた。

 

「何か策はあるの?」

「特にないな。とりあえずやれるだけやってみるよ。」

「うん‼」

 

八幡はシャルロットと分かれ、更衣室へ向かっている途中、見知った少女がそこにいた。

 

「嫁よ。」

「だからその嫁ってのをやめろって…。」

「では、八幡、勝てるのか?」

「さぁな。」

「そうか。でも負けるとは言わないんだな。」

 

微笑みながらそう言うラウラ。

八幡は照れたのか、頬を赤く染めながらポリポリと指先で掻いた。

 

「んじゃ、行ってくる。」

「あぁ。行ってこい。」

 

照れたのを誤魔化すためにさっさと更衣室へ入り、着替えを済ませると、アリーナのピットへと歩いていく。

ピットへつくと、ISを展開し、向かい側のピットを覗く。

そこには一夏、箒、鈴、そしてこれから八幡と戦うセシリアがいた。

それを眺めていると、後ろから靴の音が聞こえてきた。

 

「何のようですか?生徒会長。」

「あはは。バレちゃったか。」

 

そう言いながら扇子を広げると、そこには残念と書かれていた。

 

「君の戦いぶりこの目でしっかり見てあげるね。」

「見ても何も面白くないですよ。」

「そっか。じゃあ君が負けたら、罰ゲームをしよう。うんそうしよう。」

 

あれ?

俺の意思は?

聞かないの?

 

「それに俺の意思は?」

「ないよ?」

「さいですか…。」

 

ため息をつくと、アリーナに真耶の声が響く。

 

「それでは比企谷くん、オルコットさん、準備出来次第、発進してください。」

 

それを聞き、八幡はカタパルトまで朧夜と共に歩んでいく。

それを見ながら楯無はこう叫んだ。

 

「頑張れ‼八幡くん‼」

「……まぁやれるだけやって来ますよ。」

 

そう言って大空へと駆けていった。

 




はい、八幡じゃないですね
すいませんでした。

ではここで八幡のIS性能を2話で結構説明しましたが、ここでも説明したいと思います。

機体名:朧夜(おぼろよ)
世代:第三世代型
開発元:倉持技研
備考:白式に継ぐ倉持技研の開発機。
拡張領域は非常に多く、武装は近距離から遠距離までと様々。
その為、非常に乗りこなすには難しい機体となる。
ある程度、白式からデータを引用してはいるが、その戦闘能力は全く別物だが、スペックは非常に高い。
燃費は若干悪い部分はあるものの、その分強力な武装があるため問題はない。
待機形態はバングルとして左腕についている。

武装名及び詳細
十六夜(いざよい)
普通の刀。

朔光(さくこう)
エネルギーで構成された剣。
白式の雪片弐型に似ているが、雪片のように自分のシールドエネルギーを消費して稼働することはない。

流星(りゅうせい)
背中に3つ纏まって装備されている。
第三世代型の特殊武装、ブルー・ティアーズなどから参考にし、それに自動追尾システムや、その他演算システムなどををつけたBT兵器のいろんな意味での完成版。
一度、攻撃を命じると、それぞれがそれぞれの適切な場所から、角度から、システムが計算し、攻撃するため、搭乗者に余計な負荷がかからないようになっている。

彗星(すいせい)
ビーム狙撃ライフル。
出力が調整できるため、その場面に適した威力で撃つことができる。
最大出力時には、ためが必要だが、超長距離射撃が可能となり、その威力もバカにはならない。

新星(しんせい)
サブマシンガン。
実体弾を使っている。

鬼星(おにぼし)
オートマチックガン。
これも新星同様、実体弾。

星影(ほしかげ)
両腕から展開することのできるビームシールド。
燃費が非常によく、シールドエネルギーを消費しないため、実戦でよく使えるものとなっている。
ただし、一回に使える時間は数十秒と短く、ずっと防御に使うことはできないため、連続しての攻撃に弱い。
第二形態になると、ビームを吸収し自分のシールドエネルギーに変換する事ができる。

月華(げっか)
流星をパージした時か、切り替えたときに見られる砲身の長い超高火力ビームキャノン。
発射するとき、足からパイルバンカーが出て来て、体を固定する。
エネルギーを溜めるのもあまり時間をとらず、撃つことのできる朧夜最強の武装だが、使用後は30秒間動けなかったり、シールドエネルギーを大幅に使ってしまうため、燃費は非常に悪い。
ただし、敵にも同等以上のダメージを負わせられるので一撃必殺かつ、諸刃の剣。
どれ程の威力かというと、一撃掠めたり直撃するとシールドエネルギーを満タンであってもなくすほどの威力。
下手をすれば絶対防御ですら防げない可能性があるため、危険な武装でもある。

単一仕様能力
黎明虎月(れいめいこげつ)
第二形態で使用可能。
これを使うと、自分自身、もしくは譲渡した一機の戦闘能力が格段に上がり、赤く変色する。


という訳で八幡の専用機、朧夜のスペックデータ(?)でした。

ではまた次のお話でお会いしましょう。


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第4話 そして彼女は彼の事を不思議に思う

はい。
キャラ崩壊が激しいお話が続き、4話まで来ました。
今回は八幡とセシリアの戦闘ですね。

ただし、作者の文才がないので、戦闘シーンが特に微妙かもしれません。

そして、最後にはあのキャラが‼
誰でしょう?

では、どうぞ。

追記
評価もつけてくれると、作者は喜びます。

では、気を取り直して、どうぞ。




八幡は目の前にいる青い機体を見ながら、オープンチャネルにしてセシリアと話始めた。

 

「悪いな。こっちの都合で模擬戦になっちまってよ。」

「いいえ、構いませんわ。それに私もあなたと一度お手合わせしたいと思っておりましたので。」

「そうか。まぁ、ほどほどに頼むわ。」

「あなたには、最初から全力でいかせてもらいますわ‼」

 

そう言うのと同時に試合開始のブザーが鳴り響く。

セシリアはライフルをこちらに向けると、挨拶と言わんばかりに初撃を放ってきた。

八幡はそれをなんなく避けると、背中にある流星をパージし、セシリアへ攻撃を開始する。

 

「くっ…。」

 

セシリアは流星が厄介な存在というのを認識していたため、唇を軽く噛んだ。

三方向からビームが飛んでくる。

しかも一つ一つの動きが早く、ビームが飛んできた方向に銃口を向けるもそこにはもうすでに何もない。

かわすことしかできず、段々と苛立ちを募らせるセシリア。

そんな彼女は視界が狭まっているのを気づくことが出来なかった。

気付いたのはロックオンされているという警告が目の前に現れた瞬間だった。

 

「!?」

 

そこにいたのは超高火力ビームキャノンを構えた八幡の姿だった。

 

「チェックメイトだ。セシリア・オルコット。」

 

八幡は勝利を確信し、トリガーに指をかける。

そしてーー

 

「ファイア‼」

 

ビームの奔流がセシリアに向かって流れていく。

そのビームは真っ直ぐ進み、セシリアのブルー・ティアーズの右側の翼を掠める。

セシリアは直撃してないことに安堵しつつ、今なら彼を仕留める絶好のチャンスと思い、ライフルを向けた瞬間、終了のブザーが鳴る。

 

「勝者、比企谷八幡。」

「え?」

 

拍子抜けした声がセシリアから漏れる。

 

「オルコット、自分のシールドエネルギーを見てみろよ。」

 

八幡からそう言われ、確認するとシールドエネルギーが0になっていた。

なぜいきなりここまで減っているのかセシリアにはわからなかった。

 

「なぜ…?」

 

そんな疑問が口から出てしまった。

たった一撃しか攻撃は食らっていない。

 

「教えてやるよ。」

 

その疑問を聞いていたのか、八幡が説明を始める。

セシリアは彼のもとまで降りていき、目の前に立つと八幡はゆっくりと口を開き始めた。

 

「この、最後の一撃に使ったのは月華という超高火力ビームキャノン。こいつの一撃はシールドエネルギーを軽く吹き飛ばすほどだからな。下手すりゃ絶対防御でも守れるかどうかわからん。その反動でシールドエネルギーがごっそり減るし、動けなくなるしで何とも使いにくい兵装だが、一撃必殺で使える。」

「と言うことは一夏さんのと同じってことですの?」

「厳密に言えば違うが大まかなところで言えばそうだな。」

 

セシリアは唖然としていた。

一撃必殺をそんなに簡単に使い、更に一回でも読みを間違えると、自分が負けたかもしれないそのある種賭けのような戦いかたをしていたことに驚きを隠せない。

 

「驚いてるみたいだな。」

「えぇ。まぁ。」

 

八幡はセシリアの表情を見て驚いてる理由が何となくだがわかった。

 

「お前と織斑の試合を見たが、あれだって似たようなもんだろ。しかもあいつの場合、剣だけなのにそれが一撃必殺になるって、俺とは違いすぎる。」

 

しかも動けなくなるってのがないしな。

いいなぁ、あれ。

でも射撃とかないからな…。

うん、朧夜でいいな。

むしろこの先ずっと朧夜でいいまである。

 

八幡がそう自己完結した時、セシリアが口を開いた。

 

「ですが、あなたは…いえ、わたくしは負けたのですから余計な詮索は無しですわね。」

「あぁ。」

「ひとつ、ひとつだけよろしいですか?」

「答えられるものならな。」

 

去ろうとして背中を向けた八幡はそのままそう答えた。

 

「では、あなたはなぜそんなにも強いのですか?その理由をお聞かせしてもらっても構いませんか?」

 

八幡はそれを聞いてセシリアの方へ顔だけを向ける。

セシリアはその顔を見ても不機嫌なのかそうでないのか、さっぱりわからない。

だが、少なくとも答えてはくれるようだ。

 

「俺が強い…ね。そんなわけねぇだろ。俺は弱い。誰よりもその事を俺自身が知ってることさ。もし俺が強く見えるのなら、そんなものは幻想だ。」

 

それを聞いたとき、セシリアは激怒しそうだった。

 

なら弱いあなたに負けたわたくしはどうなんですの!?

もっと弱いと、そう言うのですか!?

 

その心の叫びがわかったのか、八幡が言葉を付け足す。

 

「オルコット、お前は強さを何だと思ってる。俺は強さは何かを、誰かを守れるものだと思ってる。お前は自分が何を守ってきた。名誉か?名声か?金か?プライドか?それはお前が守りたいと思ったものだろ?だったらお前はそれを守れたのか?守れたのなら誰がどう思おうとそれがお前の強さで誇っていい強さだ。だけど、俺には今のところ守るべきものがないし、守ったこともない。だから試合では勝っても、勝負で負けてるんだよ。心で、だけだけどな。だから俺は弱いんだ。」

 

その言葉には不思議と暖かみがあった。

セシリアにはそれが自分の胸の中にスッと入っていく気がした。

それと同時に納得もした。

織斑一夏が強いわけを。

自らの仲間と姉を守りたいから、守るべきだと思っているから、強いのだ。

そしてそれは自分自身にも当てはまる。

両親の遺産を守るべく努力した日々。

あのとき、強かった理由は守るべきものがあったからだと思った。

納得するのと同時に八幡にたいして興味が湧いた。

 

なぜ、そのような考えが出来るのでしょう。

なぜ、こんなに心に響くのでしょう。

一夏さんと違うはずなのに、どうして気になるのでしょう。

この疑問すべて、彼は答えてしまうのでしょう。

根拠はありませんが何となくそう思います。

なぜかはわかりませんが。

そしておそらく、デュノアさんは彼のこういったところに触れて惹かれていったのでしょう。

ボーデヴィッヒさんもあの時かけられた言葉に含められている暖かい言葉をかけてくれた彼に好意を寄せているのでしょう。

ほんの少し、本当にほんの少しだけですがわかった気がいたします。

見た目は最悪ですが、中身はとても暖かくて優しいかた。

ただ不器用なためそれが表に出せない人。

それは一夏さんとは真逆の性格。

ですが、それが彼の魅力なのでしょう。

 

セシリアはそう結論をだし、八幡を見つめる。

相変わらず何を考えているのかわからない。

だが、セシリアは彼の心の一部を見た気がして気が軽くなっていった。

 

「比企谷八幡さん、わたくしの負けですわ。」

 

セシリアは心の底から敗北の宣言をした。

 

彼に完敗ですわ。

技術も、作戦も、肉体的にも、そして何より心で。

ですが、次対戦するときは負けませんわ。

 

セシリアは再戦の機会が待ち遠しく感じた。

それから、二人はピットへと戻っていった。

 

**************************************

 

八幡はピットへと戻ると、ISを解除し更衣室へ向かおうとしたが、目の前にいる人物に呼び止められ立ち止まる。

 

「お疲れ様。」

「どうも。」

 

八幡の前にいたのは楯無だった。

楯無は笑顔でそう言うと、手に持っていたペットボトルを八幡に渡す。

八幡は躊躇いながらもそれを受け取り、一口それを口にした。

 

「で、何のようですか。」

「いやーいいこと言うなって思って。」

「は?」

「気付いてなかったの?セシリアさんに言ってたあのセリフ、ここにいる全員に聞かれてたわよ。」

 

え?

楯無さん、笑顔で言うことじゃないよね?

っていうかそんなことしたの誰だよ。

俺の黒歴史が久々に更新になったよ。

具体的には4ヶ月ぐらい前。

 

八幡が軽く現実逃避をしていると、楯無が近くまで歩み寄ってくる。

それに気づいた八幡は少し体を後ろへずらす。

だがそれでもお構いなしに前に進んでくる。

 

「八幡くんって意外と優しいのね。」

「そりゃ、クラスメイトから話しかけるなよって言われる前に話しかけないぐらいには優しいですよ。」

「まぁ、そんなのはどうでもいいとして。」

 

どうでもいいってなんだよ。

傷ついちゃうだろ、俺が。

そして目が腐っちまうだろ。

元からか。

え、何それ超悲しい。

 

目を余計に濁らせながら八幡はそんなことを思っていると、いつの間にか楯無の顔が目の前にあり、驚いた顔をしつつ、目が離せないでいた。

 

「私、君のそう言うとこ好きだよ。」

 

やめて‼

その顔やめて‼

それに好きって言わないで。

勘違いしちゃうから。

まぁ、俺はプロのぼっちだから今さらそんなことで勘違いなんかしないが。

 

「そ、そうでひゅか…。」

 

噛んだ…。

死にたいよぉ‼

何で噛んじゃうの!?

俺の馬鹿‼

…勘違いはしなくても緊張はするな。

何それダメじゃん。

 

「んふふ。その反応が見れておねーさんは満足。じゃあね、八幡くん。」

 

怪しげな笑みと不敵な目をしながら、去っていく楯無。

八幡はその姿を見ながら彼女は要注意人物だと勝手にランクを上げた。

そしてしばらく、どうやって逃げようか考えていたが、あの人から逃げるのは無理そうだったので、思考を終わらせ更衣室へ向かっていった。

 

一方その頃、反対側のピットでは、セシリアを始め、一夏、箒、鈴の四人が八幡の事を話していた。

 

「セシリア、お疲れ。」

「一夏さん、ありがとうございます。」

 

一夏は手に持っていたタオルを渡すと、セシリアは頬を少し染めながらそれを受け取り、軽く汗を拭き取る。

すると、鈴が口を開いてきた。

 

「私とやったときより断然強くなってる気がするんだけど。」

「えぇ。彼はどうやら何か秘密にしていることがありそうです。ですがわたくしはそれを聞きません。それが彼との約束ですから。」

「まぁ、そんなのはいいとして、あいつのあの言葉はなに?自慢なの?何が自分は弱い、のよ!代表候補生倒しといて言う言葉がそれ?」

「鈴さん、あなたは少し勘違いされておりましてよ。」

「はぁ!?あんたは悔しくないの?」

「確かに言われた直後は鈴さんのように思いました。ですが、わたくしは彼の言うことも一理あると思ったのです。一夏さんの言っていた守られるだけじゃ嫌だ、今度は俺が守る。そう言ったとき、一夏さんはとても初めてISで戦ったとは思えないほど強かった。わたくしも両親の遺産を守っているときが一番強かったのではないかと思ってしまいました。」

「何が言いたいの?」

「ですから、簡単に言いますわ。鈴さんはもう一度彼と戦ってみてください。きっと彼の言っていることが分かりますわ。」

 

それを聞いた鈴は少し訝しげな目をセシリアに向け、ニヤニヤしながらこう言った。

 

「…あんた、あいつに惚れた?」

「………へ?」

「そ、そうなのか!?」

 

今まで黙っていた箒まで会話に入ってきた。

一方の一夏はこの女子トークの中に入ることが出来ずにいたが、八幡と戦ってみたいと人一倍思っていた。

 

「ち、違いますわ‼」

 

セシリアの金切り声が響く。

 

「何が違うの?」

 

声がした方を向くとそこにはシャルロットとラウラがいた。

その二人を見て、いたずらっ子のような目をしながら鈴が耳許で口を開いた。

 

「セシリア、さっきの比企谷の言葉を聞いて惚れちゃったらしいよ?」

 

その言葉を聞いた瞬間、シャルロットとラウラの顔が変化した。

それを見ていた3人は怯え、震えていた。

その様子を見た鈴は何事かとシャルロット達の方へ顔を耳元から離して顔を見た。

 

「ヒィッ‼」

 

短い悲鳴がピットに響く。

それと同時にシャルロットは携帯端末を手に持ち、どこかに連絡とり始めた。

 

「ねぇ、今すぐにオルコットさん達がいる方のピットに来てね。」

 

一方的にそう告げると、怖いぐらいにこにこしながらポケットに少し乱暴にいれる。

それが合図だったかのように、一夏が口を開く。

 

「あ、そう言えば二人とも名前で呼んでいいか?」

「うん。別にいいよ。」

「私も構わない。」

 

一夏は怯えながらも努めて明るくそう言うと、明るい声でそう返事が返ってきた。

会話を続けるためにも一夏は話題をなくさないように頭をフル回転させながら次に言う言葉を選び、口を開く。

 

「じゃあ俺の事も一夏でいいよ。改めてよろしくなシャルロット、ラウラ。」

「うんよろしくね一夏。」

「よろしくな。」

「俺の事も名前で呼んだなら、ここにいるみんな名前で呼び合おうぜ。」

 

それに反対するものは誰もいなかった。

お互いに打ち解けた時、制服に着替えたのであろう八幡がやって来た。

その姿を見ると、シャルロットとラウラの顔がまた変化した。

 

「八幡、どう言うこと?」

「は?何が?ってデュノアさん?怖いんですが。」

 

いや、マジ怖いって‼

目のハイライトさん仕事して‼

こんな表情していいのはヤンデレだけだって。

 

「何かな?」

 

ちょっ、怖い怖い。

笑顔だけど全然笑ってないし。

 

八幡は助けを求めるため、ラウラの方へ目線を移す。

 

「嫁……覚悟はできてるか?」

 

その瞬間、八幡は抵抗を諦めた。

 

…死んだな。

最後くらい小町に会いたかった…。

 

死を覚悟した瞬間、ピットに声が響く。

 

「ちょっと‼シャルロットとラウラ落ち着きなさいよ‼」

 

鈴の声だった。

八幡は鈴へと目線を移すと、何やら必死な表情をしながら二人を止めようとしていた。

 

「さっきのは冗談に決まってるじゃない。ただちょっとからかおうとしただけで…。」

「そうなんだ。鈴って意外とお茶目なんだね。」

「ヒィッ‼」

「そうか。嫁よ、信じてやれなくて悪かった。」

 

ラウラはそう言うと、頭を下げ、鈴の方へと向かっていく。

物騒な言葉を残して。

 

「私と嫁を騙した罪、償ってもらうぞ。」

 

罪ってなに?

ボーデヴィッヒさん、すごく怖いです。

あんなのに睨まれたら即チビっちゃうレベル。

いや、さっき睨まれてたわ。

とりあえず、凰頑張れ。

 

そう心のなかで激励を送り、八幡はそそくさと去っていった。

その後、鈴の姿を見たものはいたとか、いなかったとか。

 

*************************************************

 

セシリアはあの後、更衣室へ行き着替えてから寮の自室へ戻り、今日の出来事をシャワーを浴びながら考えていた。

一夏とクラス代表を決めるために戦ったあの日のように。

 

彼は何者なのでしょう。

わたくしたちと年は変わらないはずですが、どうして考え方がああも違うのでしょう。

過去に何かあったのでしょうか。

知りたいですわ。

ですが、彼は何も言わないでしょう。

不器用な方ですから。

 

そこまで考えていると、胸が高鳴る気がした。

セシリアは胸の間で手を軽く握り、胸の高鳴りを抑えようとした。

それは無意味だと知りながら。

 

「比企谷…八幡さん…。」

 

わたくしの彼に対する第一印象は最悪でした。

目も、性根も、第一印象で腐ってると思えるほどのオーラを纏っており、正直わたくしの父よりも卑屈そうだと感じました。

それに、他人と余り関わろうともせず、机で寝る始末。

ですが、鈴さんとの一戦。

ラウラさんの暴走の件にシャルロットさんの一件、それぞれを見てみると、鈴さんとの一戦以外は彼はとても優しく、暖かいけれど不器用な人、そう印象が変わっていきました。

わたくしだって一夏さんを見てから男性が全員が全員、悪い人ではないと言うくらい分かりますわ。

なので、今回も転入してきた彼をずっと観察しておりました。

それと同時に興味も湧いてきました。

彼はどういう人間で、なぜ鈴さんと戦ったときにIS操縦が素人であるはずの彼が、実践であれだけの善戦をすることが出来たのか。

それを受けてわたくしは彼と戦ってみたくなりました。

そしてその願いは届いたのか、彼と模擬戦を行うことが織斑先生から告げられました。

正直、嬉しかった。

でも織斑先生から聞かされたのは彼が一夏さんとではなくわたくしと戦うと言った、それを聞いて疑問を持ちました。

なぜわたくしなのか、と。

それで彼の部屋へ向かいました。

真相を聞き出すために、何より彼が何を考えているのか知るために。

結果としてはなにもわかりませんでした。

目は口ほどにものを言う。

そう言いますが、初めてそれを否定したくなりました。

彼の目を見ても、なにも読み取れませんでした。

そしてわからないまま模擬戦の時がやって来ました。

結果はわたくしの完敗でした。

一撃も与えられることなくわたくしは負けてしまいました。

彼は強い、その強さはどこから来るのか、どうして強いのか色々聞きたいことはありました。

けれど彼と約束した以上聞くことはできませんでした。

しかし、彼の心の中を少しだけ見た気がしました。

それを見たことで彼の印象はいい方向へ変わっていきました。

一夏さんの時とは違う暖かさと優しさ、すべてが真逆なのになぜか心地いい感じがしてくる。

不思議な方です。

そして今に至るわけです。

 

「本当に…不思議な方…。」

 

セシリアはシャワーを止めると、じっと佇む。

そして、バスタオルを手に持ち、体を拭き部屋着へ着替えてまた考え込んでしまった。

今の彼女の頭のなかは今まであったことのない性格及び性質をした彼のことで一杯だった。

その後、彼女が寝たのは夜中を過ぎた辺りであった。

 

**********************************

 

次の日、目が覚めると、またもやラウラが八幡のベッドにいた。

八幡は小さくため息を吐き、ラウラの肩を揺すり声をかけた。

 

「おい、起きろ。朝だ。」

「んー…。もう朝か?」

「さっさと起きろよ、ボーデヴィッヒ。」

 

ラウラから逃げるようにベッドから降り、八幡はそのまま脱衣所へと向かい、着替えてから顔を洗う。

その間にラウラは着替えていたりする。

最初の頃は八幡も戸惑っていたが、最近では慣れてきていた。

 

嫌な慣れだね。

俺のためにも来ないでほしいのだが…。

 

ぼうっとしながら歯を磨いていると、扉の向こうから声がした。

 

「おーい。八幡起きてるか?」

 

一夏の声だった。

 

珍しいな。

っていうか何の用だよ。

今日は休日だろ。

休む日なの、わかる?

だから俺は今日、ベッドの上で惰眠を貪り続けなければいけないんだよ。

 

八幡は無視することに決めたのだが、ラウラが扉を開けてしまった。

 

「お、ラウラ。八幡はいないか?」

「一夏か。嫁に何か用か?」

「いや、もうそろそろ臨海学校だろ?水着でも買いに行こうかと思ってな。」

「そうか。」

 

ラウラは興味なさ気に頷くと、部屋から出ていった。

一夏はなぜ出ていったのか不思議そうな目で見ていたが、八幡がいるのを確認するために部屋のなかに入っていく。

 

「八幡、どこにいるんだ?」

 

八幡はため息を盛大に吐き出し、口を濯いで一夏がいる部屋の方へ進んでいき、背後から声をかけた。

 

「何だよ。」

「うわぁっ!びっくりした。急に現れんなよ。不気味だろ?」

「いや、後ろからだから急にとかないと思うんだが。」

「まぁ、そんなことより、水着でも買いにいこうぜ。」

 

そんなことですか。

そうですか。

 

「嫌だよ。っていうか学校指定の水着でいいんじゃないか?」

「いやいやいや、学校指定のだとせっかくの臨海学校が楽しくないだろ?」

「何でだよ。どんな水着だろうと楽しめるだろ?」

「それは八幡だけだと思うんだが…。」

「そんなことないだろ。」

「とにかく、気分的に新しい水着で臨海学校行きたいからさ。行こうぜ。」

 

そう言うと一夏は八幡の手を取ると、外へ走っていった。

 

あれ?

俺の意見は?

て言うか手を繋ぐなよ。

回りの女子が騒いじゃってんだろ。

何人か鼻血出して倒れたぞ、擬態しろよ。

はぁ。行けばいいんだろ行けば。

 

諦めて着いていくことにしたが、握られている手を振りほどく。

 

「あ、おい。」

「一人で歩けるからいらんだろ。」

 

そう言いながら一夏を追い越し、歩いていく。

それを見た一夏は待てよと言いながら八幡の後をおっていった。

 

*******************************************

 

疲れた…。

 

八幡と一夏はショッピング街にあるカフェに入って休憩していた。

ただの休憩ではないのだが。

 

「はじめまして‼ごみぃちゃんの妹の小町です‼」

 

天真爛漫な笑顔で自己紹介をしているのは八幡の妹である、比企谷小町だった。

小町の目線は一夏だけでなく、途中で何故か一緒にいくことになった、箒を除くセシリア、鈴、シャルロット、ラウラにも向けられていた。

 

どうしてこうなった…。

 

八幡はなぜこうなったのか、考えるだけ無駄だとわかりながらも、現実逃避のため、こうなった経緯をはじめから思い返していた。

始め、一夏と八幡は街へ行くため、モノレールへと乗った。

偶然にもセシリアと鈴と出会い一緒に行動することに。

八幡は一夏ハーレムの中、居心地が悪そうにしていたが、買い物は続き、八幡が逃げ出そうとしたとき、そこへシャルロットとラウラに見つかり、逃げられなくなった。

そして団体となった二人の買い物は関係のないものにまで及び、寄り道をしていた。

その時、八幡がまたも逃げようと模索していたとき、後ろから声をかけられ、振り向くと小町がいた。

そして、カフェに入って雑談をしている。

 

何で俺が逃げようとしたときに毎回誰かが邪魔してくるの?

俺の行動読まれてる?

……偶然ってことにしたいな。

 

「…………ちゃん!お兄ちゃん!」

 

おっと、マイスウィートエンジェル小町が呼んでいるぞ。

 

「何だ?」

「何だじゃなくて、小町のお姉ちゃん候補は誰なの?」

「そんなのいないんだが。」

「またまた~、小町はお兄ちゃんの事なら何でも知ってるからね。あ、今の小町的にポイント高い。」

 

それはちょっと怖いが、小町なら許しちゃう。

だって天使だもん。

 

「小町的にびびっときたのが、シャルロットさんとラウラさんかな~。」

「え!?」

「な!?」

 

二人は小さくそう叫ぶと、顔を真っ赤に染めて、八幡の方へ目を向けた。

 

「小町、二人とも怒ってるだろ。そういうことを言うのはやめなさい。」

 

そう言うと、3人は一斉にため息を盛大に吐き出した。

 

仲いいね君達。

っていうか小町ちゃん、なにそのこいつわかってないなって顔。

俺なんて超わかってるから。

わかりすぎてこの社会が生きづらいまである。

 

「全く、これだからごみぃちゃんは…。」

 

やれやれといった感じで首を振ると、次へ話題を強引に進めた。

 

「セシリアさんはお兄ちゃんの事を知りたいと思ってますね?」

「っ!?そ、そんなことありませんわ‼わたくしは一夏さんの…って何を言わせるんですの!?」

「いや、今のは小町は悪くない。お前が自爆しただけだろ。」

「うるさいですわ‼」

「セシリア、そんなに怒るなよ。」

「一夏さん…。」

「八幡の事が知りたいなら素直にそう言えばいいのに。」

 

それを聞いた瞬間、小町は机にいきなり伏せ始めた。

よく見ると肩の辺りがプルプル震えていた。

どうやら笑いを堪えているらしい。

 

小町ちゃん、何を笑ってるの?

何がそんなにおかしいの?

あぁ、一夏の鈍感ぶりか。

確かにあれははたから見てると面白いけどな。

だからって笑うほどか?

いつからそんなに笑いのツボが低くなっちゃったの、お兄ちゃん心配です。

 

「?どうしました小町さん。体調が優れませんの?」

「い、いえ、だ、だいじょう…ぶっ…です。…ぷぷ。」

 

小町ちゃん?

最後の方声が漏れてますよ?

 

「おい小町、笑うのはいいがちょっとキモいぞ。」

 

八幡がそう言うと小町はスッと顔をあげてにっこり笑顔で八幡にこう言った。

 

「お兄ちゃんにだけは言われたくないよ。」

「ぐふぅっ‼」

 

強烈な一撃を受け、机に頭を打ち付ける八幡。

シャルロットがあたふたしてラウラが肩を揺すってくる。

セシリアと鈴は何となく見てない振りをしておきながら小さく笑っていた。

 

…帰りたい。

どうでもいいけどあのCMいいと思うんだよね。

いやだって早く帰りたいじゃん?

あったかハウスに。

いやでも俺に対しては家以外は冷たいんだけどね。

何それ泣けてきた…。

 

そんなこんなで戻らないといけない時間になったので、八幡たちは寮へ戻ろうと足を向ける。

そこで小町に呼び止められた。

 

「お兄ちゃん、たまには連絡してね?小町ちょっと寂しいから。あ、今の小町的に超ポイントたっかいー♪」

 

ウインクしながらそう言う小町。

 

「おう。俺も大好きな小町に会えなくて寂しいからたまに連絡してやるよ。あ、今の八幡的にポイント高い。」

「何それ。」

 

二人は笑い合うと、八幡の顔が優しげなものに変わり、小町の頭を撫でる。

その場にいた全員はその八幡の顔に見惚れてしまっていた。

ただし、一夏だけは仲がいいなとしか思ってなかった。

 

「ふぁっ!?お兄ちゃん、いきなりそれはダメだよぉ~。」

「いいだろ。小町成分を貯めなきゃいけないからな。」

「お兄ちゃんキモい。小町的にポイント低い。」

 

そう言いながらも小町の顔は嬉しそうに蕩けていた。

この場にいる女性陣は内心で撫でてほしいな、そう感じていた。

そんな中、八幡は一通り撫で終わり、小町と別れてみんなの方へ歩いていく。

すると、少し様子がおかしかったため、八幡が皆に聞く。

 

「どうした?」

「な、何でもないよ!?」

「何でもないぞ‼」

「何でもありませんわ‼」

「何でもないわ‼」

 

え?何で俺四人から攻められてるの?

俺悪くなくない?

聞いただけだよね?

え?聞くだけで犯罪になる?

何それ悲しすぎるだろ俺…。

 

「八幡、気にするなよ。」

 

そう言って一夏は八幡の肩に手を置くと、微笑んでいた。

 

…帰ろう。

そうしよう。

 

八幡は若干拗ねながらモノレールへの道を進んでいった。

 




はい、あのキャラとは小町ちゃんでした。
……何かすいませんでした。
上げて落とした感が半端ないです。

さてさて、これからどうなるのか楽しみにしてくださいね。

では、また次のお話でお会いしましょう。

追記
前の話で朧夜の武装を書きましたが、星影を少し変更いたしました。
それだけです。

では、また次のお話で。


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第5話 彼ら彼女らは海で遊ぶ

という訳で早いですが臨海学校のお話となります。

お気に入りが思ったよりも多くて嬉しいです。
感謝感激雨霰です。
これからもよろしくお願いします。

感想の方も様々な人からご意見や感想を貰えて嬉しいです。
本当にありがとうございます。

これからも更新していきますので、読んでいただけると嬉しいです。




唐突だが、臨海学校初日。

 

いやいや、早すぎない?

急展開過ぎて読者ついてきてないよ?

執筆者さん、ちゃんと仕事してね。

俺はしたくないけど。

 

八幡は誰に言うでもなくそんなことを思っていると、真耶の声が響く。

どうやら事務連絡らしい。

 

どうでもいいけど、久しぶりだね、山田先生。

モブキャラになっちゃったかと思っちゃった。

あれ、モブだったの?

確かにヒロインではないな…。

 

思考の海へと向かっていると、視界の縁に一夏がセシリアにサンオイルを塗ろうとしている姿があった。

八幡はそれを見ながら、足の裏が熱くなってきたため海へ入ることにした。

足が海水に触れると、そこからひんやりとした感覚が全身へ走っていく。

 

久しぶりだな。

前はいつ行ったっけ。

覚えてないや。

 

そんなことを思いながら少しずつ前に進んでいく八幡。

腰辺りまで浸かると、八幡は体の力を抜き、水へ体を預ける。

そのまま空を見上げていると、一夏が飛んできた。

 

「は?」

 

八幡は何が起こったのかわからずにすっとんきょうな声を出すと、体に力をいれ比較的浅い海底に立つと、一夏の飛んでいった方へ目を向け、そちらへ泳いで向かっていく。

 

「織斑、何で飛んできてんだよ。」

「いや、セシリアに殴られて飛んできたんだよ。」

 

何したんだよ。

っていうかあいつ力強すぎだろ…。

まぁどうせIS使ったんだろうが。

 

「そうだ。八幡、あのブイまで泳いでどっちが早く着くことが出きるか勝負しようぜ。」

「やだよめんどくさい。そこにいる凰とでもやっとけよ。」

 

即答でそう言ったが、一夏は諦めずに八幡に迫る。

 

「やろうぜ。鈴もいれてさ。」

「人の話聞いてた?やだって言ってんだろ。」

「負けるのが怖いのか?」

「バッカ。お前、俺なんて負けることに対して最強なんだよ。だから負けることが怖いなんてのはない。」

「なにその理論…。」

 

八幡は呆れてる一夏を放っておいて岸まで泳ごうとしたが、後ろから肩を掴まれた。

後ろを見ると一夏が笑顔でこっちを見ていた。

 

めんどくせぇ…。

何だよこいつ。

やるって言うまで離さない気だろ。

しょうがねぇ。

やってやるか。

 

「わかったよ。やればいいんだろ。」

「おう。鈴もやろうぜ‼」

「いいわよ‼受けてやろうじゃない‼」

 

そう言うと3人は一斉に泳ぎだした。

一番先頭にいたのは鈴。

ついで八幡、一夏の順だった。

何事もなく終わるかと思った矢先、鈴の動きが急におかしくなった。

 

足を抱えてる。

…足がつったのか?

あのままだと溺れるな。

 

「おい、凰が溺れかけてる。助けるからちょっと手伝え。」

 

八幡は一夏に手早くそう言うと、一夏と共に鈴の元へと泳いでいく。

その後、八幡が彼女の脇に手を入れ、一夏の背中に乗せて、砂浜まで泳がせた。

 

「鈴、大丈夫か?」

「うん。何とか。でも足がつっちゃって…。」

 

鈴がそこまで言うと後ろからセシリアがやって来て保健委員の鷹何とかさんと一緒に連行された。

一夏に助けを求めていたが、特に何もせず、いや、何も出来ず終わった。

二人は呆然と突っ立っていたが、後ろから八幡の事を呼ぶ声がしたので振り返るとそこにはシャルロットとバスタオルでぐるぐる巻きになっている謎の物体がそこにいた。

 

「…デュノア、そこにあるのは何だ?」

「バスタオルお化け…。」

 

一夏が絶句していた。

 

なんか珍しい。

織斑の驚いた顔始めてみたな。

でも男のみても面白くもなんともないな。

そんなことよりこのバスタオルぐるぐるお化けは何だよ。

まぁ、何となくは予想できるが…。

ほんとだよ?ハチマンウソツカナイ。

っていうか何二人で耳打ちしてるの?

俺らおいてけぼりなんだけど。

あ、それは元からか。

…泣いていい?

 

心のなかで泣こうとしたとき、バスタオルお化けがバスタオルを脱ぎ始めた。

八幡はとっさに顔を背ける。

 

裸とか期待した訳じゃないよ?

ほんとだよ?

だってそんなことしたら俺が通報されるもん。

 

八幡はバスタオルお化けが大丈夫だと思い、そちらに顔を向けると、そこには可愛らしいフリルの付いたビキニを着て、恥ずかしいのか顔を赤らめながら上目遣いで八幡を見ていた。

 

「八幡、ラウラ可愛いよね。」

「お、おう。可愛いと思うぞ。」

「か、かわっ!」

「それにデュノアも似合ってるな。」

「えっ!?あ、ありがとう。」

 

言えたよ‼

小町、お兄ちゃんちゃんと言えたよ‼

女子の水着、褒めること出来たよ‼

 

何だか異様な光景だった。

一人は顔を赤くしながら、ぶつぶつと呟きながら放心している少女、一人は隣の少女と同様に顔を赤く染めながら上目遣いで八幡を見て顔を蕩けさせる少女、もう一人は何かを達成できた喜びから感動して一人でじーんとしている少年、最後に完全に空気化している少年の奇妙な光景が出来上がっていた。

そこへ一人の少女が一夏の肩を叩き、こう言った。

 

「織斑くん、ビーチバレーやろうよ。」

「いいぜ。八幡もやるよな?」

「は?何を?」

「ビーチバレー。」

「やだよめんどくさい。」

 

めんどくさい。

動きたくない。

波と戯れていたい。

いやマジで。

 

「そんなこと言わないでさ、比企谷くんもやろ?」

 

上目遣いで顔を覗かれ、八幡は顔を赤くしながら背けると、色々と諦めたかのようにため息をつくと、ぶっきらぼうにこう言い放った。

 

「しょうがねぇな。さっさとやって俺は波と戯れたい。」

「捻デレだ。」

 

シャルロットがその光景を見て、そう呟いた。

 

デュノアさん?

変な造語造らないでね?

っていうかそれ小町にも言われたんだけど。

デレてないから。

断じてデレてない。

 

そうしてビーチバレーをやることになったのだが、人数が合わず、どうしようかと一夏と女子が何やら話し込んでいるとき、水着で登場したのが千冬と真耶だった。

 

「どうしたんですか?」

「これからビーチバレーやるんですけど、先生たちもやりませんか?」

 

女子は摩耶にそう言うと、真耶は千冬に目でどうするか聞くと、千冬は小さく微笑みではと言った。

という事で一夏、八幡、真耶の3人でチームを組み、ビーチバレーが進んでいく。

 

っていうかのほほんさん?の水着何かおかしくね?

似合ってるけどさ。

それに織斑先生、男子生徒の前でするような格好ではないです。

どことは言わないですが、それに目が吸い寄せられていくので。

対面するべきではないな。

でも後ろも見れないんだよな。

山田先生の水着姿はしたない。

自重して‼

 

ゲームの最中でも八幡はそんなことを考えながら体を動かしていく。

周りのギャラリーもこの戦いを見るために集まってくる。

それと同時に黄色い声も増えていく。

 

人が多い…。

そんなに見ないで‼

俺の体が穴だらけになっちゃう‼

なりませんね、はい。

 

試合はいい勝負のまま、続いていた。

そこへ、乱入者が現れた。

セシリアと鈴だった。

なぜか追いかけっこしており、鈴が追いかけられていた。

そして、前を見ていなかったのか、鈴が千冬の胸へ衝突した。

それに気づいた二人が縮こまって笑いが起きた。

 

…あれ?

ビーチバレーは?

終わったの?

まぁいいや。

ステルスヒッキーでフェードアウトしよう、そうしよう。

 

八幡はその場から音もなく立ち去ると、一人で色々なところへ行き、スイカを食べたり、蟹をつついて遊んでいたり、イソギンチャクを弄って遊んでいたり、波と戯れていたり、誰に気づかれるともなく海でやれることをやっていた。

そして一通り遊び終わると夕日を眺めるために上に行くと、そこにはポニーテールを風で揺らしている水着姿の箒がいた。

箒は足音で気づいたのか、後ろを振り向き、少し驚いた顔をした。

 

「お前か。」

「悪かったな、織斑じゃなくて。」

「んなっ‼わ、私は別に‼」

「わかったよ。ったく…。」

 

八幡は崖の縁まで行くと腰を下ろし、夕日が照らす海を眺めていた。

 

「何でここに来た。」

 

しばらく無言だった箒が口を開きそう言った。

八幡は特に理由もなくここに来たので何も言えない。

すると、箒は無言の八幡が怒っていると思ったのか、何をしていいのかわからないと言った風に困った顔をしていた。

八幡はその顔を見ると、何か言ってやるか、そう思い口を開く。

 

「別に…。ただここから夕日を見たかっただけだ。」

「そ、そうか。」

 

会話はそこで途切れた。

すると、何やら空からものすごい勢いで落ちてきた。

それは八幡たちの後ろで突き刺さった。

 

…人参…ね。

 

「篠ノ之、これどうしようか。」

「…どこかに飛ばしておいてくれ。」

「了解。」

 

八幡は朧夜を展開すると、強引に掴みそのままハンマー投げの様に振り回して海の方へ飛ばした。

 

「…宿に戻るか。」

「そう、だな。」

 

途中、千冬に会ったが明日誰かが来るかもしれないなとだけ言って別れ、宿に着いた。

 

*********************************************

 

戻ったのはいいが、八幡は居心地が悪そうに冷や汗をかいていた。

 

何でこうなってんの?

 

八幡の両隣にはシャルロットとラウラが座っており、更にはその回りも全員女で八幡の方をずっと見ていた。

 

織斑は?

織斑はどこいるの?

俺も守れよ。

 

八幡は周りを目だけで眺めると、一夏がいたがあちらも女子に囲まれて大変そうだった。

本人の顔にはそんなことはないと言うオーラが出ていたが。

 

「八幡、今日はどこに行ってたのかな?」

 

だから、デュノアさん怖いって‼

目のハイライトちゃんと仕事して‼

 

「嫁よ。なぜ私と一緒に行動しない。夫婦とは互いに行動を共にすると言っていたぞ。」

 

ボーデヴィッヒさん?

僕は君と夫婦になった覚えはないよ?

だからそんなに睨まないで‼

俺の防御力はもうとっくに0だから‼

 

「いや、海にいたぞ?だからみんな一緒にいただろ?一緒の海にいたんだし。」

「屁理屈はもう済んだ?」

「最後の言葉はそれだけか?」

「…。」

 

死んだな。

小町、お兄ちゃんは今日が命日になりそうです。

 

その後、シャルロットとラウラに八幡が攻撃され、悲鳴がこだました。

 

**********************************

 

目が覚めると、いつの間に移動したのか、一夏が同じ部屋にいた。

そして、なぜか千冬のマッサージをしていた。

 

今起こってる事を説明しよう。

誰にだよ。

まぁ、いいや。

起きたら織斑と一緒の部屋にいて、なぜかその織斑は織斑先生にマッサージをしている。

…だからなんでだよ。

 

いつまでたっても疑問が晴れないのがわかったのか、一夏に聞くことにした。

 

「おい、何でマッサージしてんの?」

 

その声と同時に部屋の扉が倒れ、そこから見知った顔が何人か倒れ混んできたのが確認できた。

 

えー…。

なにこの状況。

アニメでしか見たことないわ。

って言うか説教してるけど俺関係ないから抜けていいよね?

ダメ?

理不尽過ぎるでしょ。

特に逃げ出そうとしたときの織斑先生のあの目、ヤバイでしょ。

何がヤバイってその手の人間にしか見えないぐらいヤバイ。

 

一通り説教が終わったのか、部屋から出ていく千冬と女子5人を呆然と眺める八幡。

 

…。

うん、寝るか。

 

八幡は無言で布団を敷くともぞもぞとしながら布団に入りそのまま寝てしまった。

一夏はその姿を見て少し残念そうな顔をしながら、八幡にならって布団に入った。

こうして騒がしかった臨海学校の初日が終わった。

 

 




という訳で第5話です。
…何か、うん、これ面白いか…?

ま、いいや。
とりあえずまた次のお話でお会いしましょう。
ではでは。


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第6話 彼ら彼女らは任務を任される

はい、サブタイからもわかるかと思いますが、福音登場です。
この話での福音はアニメ同様無人機となりますが、夏休み明けの学校に来賓と言う形でナターシャさんが登場する予定ですのでお楽しみに。

という訳で、どうぞ。




次の日、起きて朝食を取ると、千冬に専用機持ちが個別に呼ばれた。

宿の裏側にあるちょっとした庭のようなところから少し下がった所へ向かう。

八幡がいったときにはすでに全員集まっていたが、そこには専用機を持たない箒までいた。

 

「織斑先生、何でここに篠ノ之が?」

「それはだな、これから説明するが…。」

「ちーーーーーいちゃーーーーーん!!!」

 

騒音が響いた。

その歩く騒音機はものすごい勢いで走って来た。

 

うわぁ…。

来たよ…。

めんどくさいことになるなぁ~。

関わりたくないからフェードアウトしよう。

そうしよう。

 

八幡はこっそりと逃げようとしたが、その歩く騒音に捕まってしまった。

 

「はちくーん‼久しぶりだね。元気にしてた?私が特訓してあげたから大丈夫だと思うけど、負けてないよね?それともわざと負けちゃってる?あはは、はちくんは相変わらず優しいね~。だから好きなんだけどね。」

 

矢継ぎ早に次々と質問するが、八幡はため息をつくだけで質問には答えなかった。

それは千冬も同じようで束の頭をアイアンクローしながら八幡から引き剥がすと、呆気にとられてる他の専用機持ちの前へ差し出した。

 

「お前は先に自己紹介ぐらいしたらどうだ。」

「えー、はちくんともっとおしゃべりしたかったのに~。」

「早くしろバカ者。」

「バカってなにさ、この天災発明家篠ノ之束さんをバカ呼ばわりするなんて‼」

 

ちゃっかり自己紹介しちゃってるよ…。

しかも天災の字がちょっと違うしね。

歩く災害だなありゃ。

 

八幡がそんなことを思っていると一夏と箒以外のメンバーが驚きの声をあげる。

 

「篠ノ之束って…。」

「IS設計者にして開発者…。」

「今や全世界が探してる張本人…。」

「なぜ博士がこんなところに?」

 

セシリア、鈴、シャルロット、ラウラの順に説明していた。

 

君たち仲良いね。

まさか全員揃って篠ノ之博士の自己紹介するとは。

八幡ビックリ。

 

「今日ここに束が来ているのは他でもない。束、例の物を。」

「はいはーい。」

 

ラウラの質問に千冬はそう答えると、束は何かのスイッチを手に持ち、それを押した。

すると、何か赤い物が落ちてきた。

 

「篠ノ之、お前の専用機だ。」

「え!?」

 

驚きの声は全員共通だった。

だが八幡だけはさほど驚いてはいなかった。

 

「箒ちゃんの専用機、白に並び立つ赤き機体、その名も紅椿‼この機体は第四世代型で、専用武装展開装甲が搭載されている束さんのお手製ですぶいぶい‼」

 

そう説明すると全員唖然としていた。

無理もない、各国は今第三世代型の試験運用ていっぱいいっぱいなのに新しく第四世代型を作ってしまったのだ。

研究者や操縦者でなくとも唖然とするであろう。

そんなものをたった一人で造作もなく作ってしまうのと同時に、今フィッティングしているがその早さは尋常ではないため、それに関してもただただ驚くばかりである。

 

相変わらずだな。

篠ノ之博士の技量は。

そりゃ各国が血眼になって探すわけだ。

 

八幡はその状況を少し懐かしみながらじっと見ていると、束が八幡を見るとその顔に笑顔が弾ける。

 

「はちくんが見てる‼頑張らないとね~。」

 

なぜかやる気になった束。

その言葉を聞いて、シャルロットとラウラが八幡を睨む。

 

え?俺なんかやった?

俺悪くなくない?

そんなの関係ない?

理不尽過ぎるでしょ…。

 

「よし、じゃあ箒ちゃん、細かいセッティングもやっちゃうからね~。後からちゃんと動くか確認しないとね。」

 

そう言うと細かな作業に取りかかる。

それも手際がよくて次々と終わっていくなか、千冬の元に真耶がやって来た。

 

「織斑先生、これを。」

 

真耶が持ってきたタブレットを受け取り、そこに書かれてる内容を確認すると、千冬の顔が険しくなる。

それを見ただけで八幡は良くないものだと感じ取った。

 

「束、細かいセッティングが終わったらテスト運転は中止にしてくれ。特命任務レベルAの任務の通達が今入った。学園上層部はお前ら専用機持ちにやってもらいたいそうだ。詳しい話しは宿に戻ってから行う。」

 

千冬はそう言うといち早く宿に戻り、対策を考えることにした。

専用機持ちとはいえまだ学生。

ならばいくつか作戦を考える必要があると考え、頭をフルに使う。

それは宿の宴会場に着いてからも続いた。

 

*********************************

 

専用機持ちは全員宴会場に集まると、畳の上に写し出されている画面を囲むように座り、千冬の説明を待っていた。

やがて、千冬は襖に写っている画面を背景にして座っている全員の方を向くと、説明を始めた。

 

「今から二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ、イスラエルの共同開発のIS『シルバリオ・ゴスペル』通称『福音』が制御下を離れて暴走、監視空域より離脱したとの連絡があった。」

 

その言葉を聞いた瞬間、この部屋の空気が一気に張り詰める物へと変わる。

 

「情報によれば無人のISらしい。」

 

その言葉で八幡は確信した。

どこかの国がハッキングしたのだと。

となるとだいたいの予想は出来るが、それだけでは証拠としては不十分だろう。

ならばここはその事に長けている人物にやらせるのが一番効率がいいだろう。

その事を言おうとしたのだが、その前に千冬が説明の続きを行った。

 

「その後、衛星での追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過する事がわかった 。

時間にして、50分後。 先にも言った通り、学園上層部の通達により我々がこの事態に対処することになった 。教員は訓練機で海域、空域の閉鎖を行う。」

 

その詳細データは自分達の目の前にある画面に写し出されていた。

動いている矢印が福音だろう。

その周りにある海域や空域に配置されている赤い点は教員の部隊だろう。

これを見て八幡は大体の事が予想できた。

 

「と言うことは俺達が福音の討伐をすると言うことですか。」

「その通りだ。」

 

厄介なことになったな…。

これが本当の事なら実戦経験のある専用機持ちならばまだ対処できるかもしれないが、織斑や篠ノ之は正直そんなに経験があるわけではない。

更に言えば俺もそんなにある方ではない。

ならどうするのか、織斑先生はどう考えているんだ?

 

八幡が思考しているとき、一夏が何か言っていたらしいがそんなことに気を取られず、まずは作戦内容を聞くことにした。

それと同時に、福音のスペックデータも要求する。

 

「織斑先生、福音のスペックデータと作戦内容を聞きたいんですが。」

 

セシリアも同じことを言おうとしたのか挙手していたが、八幡がそう聞いたため手を下げることとなった。

 

「比企谷、何か質問があるときは挙手をしろ。まぁいい。福音のスペックデータだが、口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低2年の監視がつく。それを忘れるな。」

 

そう言うと千冬は体を少し横にずらし、背後のディスプレイにデータを写した。

それを見ながら各々が福音のスペックについて口々にする。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型でわたくしのブルー・ティアーズのようにオールレンジ攻撃が可能ですわね。」

「攻撃と機動力が高いわね。この両方を特化した機体か、厄介ね。」

「この特殊武装が特に厄介だね。連続しての攻撃だから防御するのが難しい気がするよ。」

「この情報では格闘性能が未知数だな。偵察は行えないのですか?」

「それは無理だろ。最高時速が2450キロだからな。出来てアプローチ一回きりってとこだろうな。」

「比企谷の言う通りだ。」

「チャンスはたったの一回。一撃で決める必要がありますね。」

 

摩耶が最後にそう言うと、視線は二手に別れた。

その先にいたのは、一夏と八幡だった。

一夏はそれに気づいていないのか、腕組みをして頷いているだけだったが、目を開けたとき、視線が集まってるのを見て驚いていた。

 

「俺!?」

「当たり前でしょ。あんたの零落白夜で落とすのよ。」

「いやいやいや、八幡もいるだろ?」

「俺のもそうだが、今回は分が悪いな。誰かが足止めしてくれないと撃てないからな。」

「えー…。」

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。覚悟がないなら無理強いはしない。」

 

千冬のその言葉を受け、一夏は少し考える。

そして目を開くと、そこには覚悟を決めた目をしている一夏の姿があった。

 

「やります。いえ、やらせてください。」

「よし。なら作戦を考えよう。」

 

千冬がそう言うと、待ってましたと言わんばかりに天井から束が出て来て、作戦の内容をいい始めた。

 

「ちーちゃんちーちゃん、私の頭の中にいい作戦がなうぷりーてぃんぐ~。」

「束…部外者は出ていけ。」

「うわぁーん、ちーちゃんがいじめるよ~。はちくん助けて~。」

「嫌です。」

「即答だね。さすが言い合いで私を泣かせただけあって容赦ないね~。ま、いいや。後からはちくんとハグハグするとして、ここは紅椿と白式の出番だよ。」

「何だと?」

 

そう言うと思った。

篠ノ之博士の事だから紅椿はすごいスピード出るんだろうな。

それに展開装甲が搭載されているとか言ってたな。

それがなんなのかわからんがスゴいのは勘だけどわかる。

え?勘なんてあてにならない?

バッカ、お前俺の勘なんて当たりすぎて怖いぞ。

小町が風邪引きそうになったとき誰よりもいち早くわかるからな。

なんか話が反れたな…。

 

「紅椿のスペックデータを見てみてよ。」

 

そう言うと束はみんなの元に紅椿のスペックデータを写し出すと、その場にいた全員が唖然とする。

そこに書かれてあるスペックが本当ならば紅椿は高速戦闘をいとも容易くこなせてしまう。

それに、イグニッションブーストの比ではないほどに加速ができるため一気に間合いを詰めることもできる。

 

「ねぇ?このスピードさえあれば白式を紅椿が運ぶこともできる。白式はその分、エネルギーを零落白夜に注ぎ込むことができる。」

 

それを聞いたとき、千冬は腕を組み、何かを考えていた。

そして結論が出たのか、箒に視線を向ける。

 

「篠ノ之、出来るか?」

「やります。」

「そうか。では、30分後、この作戦を開始する。それまで各員、準備にかかれ。」

 

そう締め括り、作戦会議は終わった。

だが、八幡は千冬と束を呼び止め、その他の事の対策、いや、対抗をしようと切り出した。

そこには八幡達以外、誰もいなかったが。

 

「織斑先生、篠ノ之博士、ちょっと良いですか?」

「何々~?」

「手短に頼むぞ。」

「はい。まずは篠ノ之博士、福音がどこからハッキングされているか調べてください。それと織斑先生、この作戦は失敗する確率があるので俺もサポートに回って良いですか?」

「はちくん、どうしてそんなことを?」

「理由としては福音が広域殲滅を目的としたISだからです。今でこそアラスカ条約で軍事利用出来ないようになってますが、どう考えたってこの福音は軍事利用が目的で作られている可能性が高いです。だからこそ、どこかの国がそれを排除するためにハッキングしたっておかしくないでしょう。ハッキングして暴れさせてそれを問題にし、解体、もしくは凍結処理させるでしょう。」

「だったら、兵器がなくなるからいいんじゃないの?」

「それはそうですが、そのハッキングした国がそのあと何かしてこないとは限りませんからね。その為の予防です。」

「なるほどな。一理ある。束、頼めるか?」

「いいよ。はちくんとちーちゃんの頼みだもんね~。頑張っちゃうよ。」

 

八幡はその後、千冬たちと別れ、時間まで休むことにした。

何事もなくこの作戦が成功するようにと願いを込めながら。

 

*********************************

 

作戦実行の時間が来た。

一夏と箒は昨日みんなが遊んでいた砂浜にいた。

 

「行くぞ、紅椿。」

 

箒は手首についている2つの鈴がついている赤い紐へ手を伸ばすと、紅椿を展開する。

そこに赤い機体を纏った箒の姿があった。

それを見た一夏も白式を展開する。

展開が完了した二人に通信が入る。

 

「織斑、篠ノ之、聞こえるか?」

「はい。」

「よく聞こえます。」

「よし。今回の作戦をもう一度言う。篠ノ之が織斑を上に乗せ福音の元まで運び、織斑の零落白夜の一撃必殺で討ち落とす。今回は短時間で決着をつけることが必須だ。わかったな。」

「はい。」

「わかりました。織斑先生、私は一夏のサポートをすればよろしいですか?」

「あぁ。だが、お前も紅椿も初めての実戦だ。大丈夫だとは思うが、何か問題が起こるかもしれん。くれぐれも無茶だけはするなよ。」

「わかりました。ですが、出来る範囲で支援していきます。」

 

千冬はそれを聞き、箒が少し浮わついてるのを感じ、一夏にプライベートチャネルを繋ぎ、通信を行う。

 

「一夏。」

「は、はい!」

「そう緊張するな。これはプライベートチャネルだ。篠ノ之に聞かれる心配はない。」

 

若干声音に愉快そうな色が混ざっていたが、次に発せられた声は緊迫した色を含んでいた。

 

「どうやら篠ノ之は少し浮かれているな。あんな状態では何かしらやらかすかもしれん。いざとなったらサポートしてやれよ。」

「わかりました。」

 

一通り話し終え、千冬は作戦開始を宣言した。

その時、宴会場から一人の人物が出ていく。

千冬以外誰も気づいておらず、さして気にするものもいなかった。

 

 




はい、束さんがいい人ですね。
それに、ヒロインっぽい感じですね。
感じではなくヒロインですよヒロイン‼
大事なことなので二度言いました。

という事で次回はたぶん福音との戦闘ですね。

ではまた次のお話で。


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第7話 彼は彼らを追って飛び立つ

福音との戦闘です。
ですが、作者が文才ないため戦闘描写が少ないです。
申し訳ありません。
それに、途中可笑しいところもあると思います。
僕の文才がもっとあれば…。

それでも良いと言う方はどうぞ。




八幡は一夏と箒が飛び立ってからこっそりとISを展開し、束と通信を開始する。

 

「篠ノ之博士、聞こえますか?」

「聞こえるよ~。」

「今の状況を教えて下さい。それと、俺が飛び立ったらハッキングしている国を掴んでくださいよ。」

「わかってるよ~。この天災発明家篠ノ之束さんを信用しなさい‼」

 

疑ってはないけどね。

やる人だってことはわかるし。

でもなんでだろう、なぜか心配にと言うかイラッと来るのは。

 

「わかりましたよ。では、行ってきます。」

「はちくん、頑張って。」

 

少し神妙な口調になり、そう言ってくる束。

八幡は少しだけ笑って通信を切った。

 

さて、今の状況は?

 

紅椿と白式の2機を見ると福音とそう遠くない位置にいた。

 

早えよ。

想定してたより早えよ。

ったく、自分でこの役回りやるとか、らしくねぇな。

 

そう自嘲気味に飛び立つと、マックススピードで福音の元まで飛んでいく。

しばらくすると、八幡は再び今の状況を確認する。

二人は福音と交戦しており、どうやら一撃で倒すのは無理だったようで、若干苦戦している。

それを見た八幡は舌打ちをして、やはりスペックデータだけでは情報不足なのだと思い知った。

 

「くそっ…。思ったより福音の戦闘能力高すぎだろ…。」

 

八幡はそう呟くと、背中についている流星をパージすると福音に向けて放つ。

流星は福音へ向かって一直線で向かう。

と、その時気づいた。

一夏が船を守って戦っていた。

 

あれは…密漁船か?

あいつらしいが、篠ノ之は気に食わんだろうな。

だったら、福音の攻撃を何とかしてやるよ。

 

八幡はその場に止まると、背中に月華を装備し、それを腰だめに構える。

空中なのでどれだけの反動があるのか不安ではあるのだが。

それでも八幡は構える。

狙うは広範囲攻撃しようとするその一瞬の止まる時。

そのときは意外と早く来た。

 

「よし…。ファイア‼」

 

ビームの奔流が空を焼き、それは福音へ真っ直ぐと進んでいく。

福音はそれに気付いたが、回避不能だった。

そのビームは福音に直撃し、そのまま海に落ちたが、爆発音などは確認できなかった。

それを見た一夏と箒は呆然としていたが、八幡の姿を見て気を取り戻した。

八幡は止まった空中から大分後ろに下がった位置にいた。

どうやら反動で動けないらしい。

一夏と箒はそれを見て、八幡のもとへゆっくりと進んでいく。

だが、何か異変に気づいた。

海の波がおかしな揺れ方をしており、何かが移動しているのが見えた。

 

「あれは何だ?」

「一夏?」

 

どうやら気づいたのは一夏だけらしい。

すると、そこから先程落としたばかりの福音が八幡に向かって高速で移動していた。

 

「まずい‼八幡が狙われてる‼」

「なっ‼行くぞ一夏‼」

 

二人は急いで八幡のもとに駆けつけようとするが遅かった。

福音は八幡にエネルギー弾を放つ。

八幡は反動で回避行動が出来ず、そのまま直撃し海に落ちていく。

その瞬間、一夏と箒の元に一本の通信が入る。

千冬からだった。

 

「作戦は失敗だ。帰ってこい。」

 

それを聞き、一夏は歯を噛み締めるのと同時に八幡を回収し、箒と共に宿に戻っていく。

その途中、意外にも福音は攻撃してこなかった。

いや、出来なかったのかもしれない。

八幡の流星がスラスターを撃ち抜いていたのだから。

 

「やっぱりただ者ではないな…。」

「あぁ。八幡は何者なんだ?」

 

一夏の背中に乗せられている八幡を見て、箒と同様謎に思っている事を呟いた。

 

**************************

 

やられちまった…。

まぁ、いいや。

これでなんとか時間は稼げるだろう。

篠ノ之博士、早く見つけてくださいよ。

 

八幡はそう届くとも知れないエールを心のなかで言うと、世界が暗くなり、やがて真っ暗となった。

 

*****************************

 

八幡がやられたと言うのは瞬く間に専用機持ちに知れ渡り、衝撃を受けさせた。

みんな宴会場にいたのだから当然のことなのだが。

救護班と共に千冬をはじめ、専用機持ちや摩耶も一夏達の帰還を待つ。

しばらくすると、八幡を背負った一夏の姿が見えると、慌ただしく担架の準備と救急医療の準備が始まり、八幡を担架に寝させてからはスムーズに宿へと運んでいく。

その際、シャルロットやラウラが八幡の事を呼んでいたが一言も発するどころか目を覚ますこともなかった。

他の者は何も出来なかった自分を攻め、後悔し、そして戒めた。

そんな中、一人だけ落ち着いて指示を出していたものがいた。

千冬だった。

束でさえ少し取り乱していたのに対して何事もなかったかのように振る舞っていた。

そう、みんなの前でだけ。

一夏達が飛び立った砂浜から少し離れた岩場で千冬は握り拳をつくり、それを岩に叩きつけていた。

 

「くそっ…。」

 

あの時比企谷の作戦を断っておけば、浮わついた気持ちの篠ノ之を引き締めておければ、一夏やその他の専用機持ち全員でこの任務を行っておければ、千冬の中に様々な後悔の念が出てくる。

そんなことは意味を持たないと知ってはいても。

比企谷の容態はこれからどうなるかわからない。

だったらこれからどうするか考える必要がある。

だが、今こんな状態で専用機持ちに作戦を伝えたとしても混乱している最中ではミスをすることになるだろう。

だったら。

 

千冬はその場を離れ、宿に戻ると宴会場へ入り、専用機持ちに待機命令を伝え、これからどうするかを考えることにした。

 

**************************

 

待機命令を伝えられた専用機持ちは、八幡の眠る部屋へと足を運んでいた。

中に入ると、束がすでにそこにいた。

一夏と箒は顔を見合わせ、不思議そうな顔をしていると、束がこちらに気づいたようで笑いかけてきた。

 

「いっくん、箒ちゃん、どうしたの?」

 

笑顔ではあるものの、元気がなかった。

 

「姉さん、どうしてここに?」

「はちくんのお見舞いだよ。」

「どうしてお見舞いを?」

「大事な人、ううん。とても大切な人だから。」

 

箒は目を見開く。

なぜここまで他人であるはずの彼にここまで言えるのか。

その事に対してすごく驚いた。

 

「姉さん、比企谷と何があったんですか?教えて下さい。」

 

箒は疑問に思っていることの解消を行おうと、直球で質問する。

すると、それに反応したのかシャルロットとラウラも声を揃えてお願いをしていた。

 

「そういえばその事に対してまだ何も言ってなかったね。あれははちくんがISを動かしてしまった日の次の日、たまたま町の中であったんだよ。最初は興味本意で声をかけただけだった。目も腐っていたし、何でISが動かせたのか気になってね。そこで私の本性が暴かれちゃった。黒い部分を必死で隠そうとして不自然に振る舞っている悪い人、ってね。初対面でそんなこと言われたの初めてだったな~。」

 

懐かしそうに目を細める束。

そして気がつくといつの間にか全員が座って聞き入っていた。

 

「私、はちくんに聞いたんだ。この世界は楽しいか、ってね。そしたら即答で、そんなわけないでしょ、こんな理不尽で欺瞞に溢れてる世界なんて楽しくないですよ。それに、この世界は俺の目と同様に腐ってる、ってね。笑えちゃった。同時に興味が出た。何でこの年でその回答が出せるのか、そして何よりどうしてそんなに強くいられるのか。そしたらなんて言ったと思う?」

 

束はみんなにそう質問した。

シャルロットとラウラは何か心当たりがあるのか、察した顔をしていた。

 

「わかった人もいるみたいだね~。はちくんはこう言ったよ。俺は強くなんてないですよ。本当に強い人は何かを守れる人でしょ。あなたも、そのなかの一人じゃないんですか?俺は誰も守ったことないから知りませんけどね。ってね。びっくりしちゃった。確かに私は守りたかった。今は言えないけどね。それを言い当てられるんだもん。その後、私はつい聞いてみたくなっちゃった事があって聞いたんだ。何か欲しいものはある?って。それがとても心に響いたんだ。ところでみんなの欲しいものは何かな?」

 

一同は考え込む。

そして、一番最初に思い付いた一夏から口を開いた。

 

「俺はみんなを守れる力が欲しいです。」

「なるほどね~。」

 

笑いながら束は箒へ目を向ける。

 

「私は何者にも屈しない強い心が欲しいです。」

「箒ちゃんらしいね。」

「わたくしはみんなを支えれるほど強い心を。」

「さすがオルコット家のご令嬢。」

「あたしは何事にも負けない強い力。」

「そっかそっか。」

「僕は、誰かと一緒に歩める力が欲しいです。」

「なるほどね。君の境遇から行くとそうなるよね~。」

「私は、自分自身を見つけるために私自身が欲しい。」

「ふんふん。」

 

束は全員の欲しいものを聞き、口許を少し上げたが、すぐに元に戻り、冷たく突き放すかのような声でこう言った。

 

「みんなの欲しいものは綺麗で、それぞれが正しくて、それに手を伸ばそうと必死で目指してる。でも、ちっとも心に響かない。」

 

束の顔を見て、その場にいた全員が目を見開いた。

それは驚いたわけでも何かを察したわけでもなく、ただただ恐れてのことだった。

それほどまでに冷たい声だった。

 

「だからこの世界は退屈で、生きにくくて、理不尽で、詰まらなくて、自分勝手で、欺瞞に溢れてる。みんなの言ったことは綺麗事で、独りよがりで、偽善。確かにみんなを守れるのは大切かもしれないけど、視界に入らない人はどうやって助けるの?君は何でも出来るの?出来ないよね?」

 

一夏はそう言われ、何も言えなかった。

 

「箒ちゃん、何者にも屈しない強い心が欲しいって言ったけど、それ無理だよね。だって中学の時の大会、自分自身に屈してたじゃん。何かに苛立つのはわかるけどそれを表すようでは無理だよね。」

 

箒はそれを聞いて呆然とした。

確かにそうだと認めるしかなかった。

 

「みんなを支えれる強い心か。なら、自分自身が貶されて、汚されて、落とされ、最後には絶望を知ることになってもそれを表に出すことなくいつも通り振る舞える?これから努力すれば良いとか思ってるかもしれないけど、必ずしも努力は報われる訳じゃないんだよ?逆に報われない方が多いのに、それでもやるの?ううん、やれるの?」

 

挑発するようなその顔で見られたセシリアは少したじろぐ。

やらなきゃいけない、けれど出来るとも限らない。

そんな葛藤の中でセシリアは答えを見つけることが出来なかった。

 

「何事にも負けない強い力、じゃあみんなに蔑まれ、嘲笑され、貶められ、落とされ、そしてすべてを失っても強いままでいられる?」

 

鈴はわからなかった。

でも、そんなのは仮定の話だ。

いられるかもしれないし、いられないかもしれない。

道は一本ではないから。

だからこそ、鈴は悩み、選択する。

鈴がこの場で選択したのは、何も言わない、であった。

 

「誰かと一緒に歩める力。それって裏切られたらどうするの?裏切らないって確証がない相手って見つけるの大変だと思うけど?って言うかそれってつまり相手にそれを押し付けるってことじゃん。」

 

シャルロットは何も言えなかった。

確かに、と納得してしまう自分もいたから。

 

「自分自身が欲しいって、君はもう君じゃん。それ以外の何者でもない。それは欲しいものには含まれない。」

 

ラウラは言葉に詰まる。

それはすでに八幡にも似たようなことを言われた。

だったらどうすれば良いのかわからない。

何を言えば良いのかもわからない。

結局、黙ることしか出来なかった。

 

「私の言葉は全部正しいのかもしれないし間違ってるかもしれない。でも心に響かなかったのは本当。」

「だったら姉さんはどうして比企谷の言葉は心に響いたんですか?」

 

睨み付けながら箒は束にそうやって言葉をぶつけた。

 

「はちくんの欲しいものは?そう聞いたらこう返ってきた。

言わなきゃダメですか?

ってね。私はもちろんだよ、言わなきゃわからないしね、そう言った。

そうしたら真剣に言ってくれた。

そうですね。

言わなきゃわかりませんよね。

でも言ったからって理解できますか?

出来ませんよね。

人間、言葉にしたってわからないことだらけなんです。

それをわかった振りをして、言葉を見繕って、相手のご機嫌を伺い、嘘で塗り固めて、それで出来た偽物の理解で欺瞞の関係を持ち、暮らしていく。

醜い自己満足と、そんな傲慢な思い上がり。

だから言ったからわかるって言うのは傲慢なんです。

だから俺は言葉はいらないんです。

俺が欲しいのはもっと残酷で、過酷で、貪欲な願いです。

俺はすべてを理解したいんです。

完全にわかって安心したい。

わからないことはすごく、ものすごく怖いことだから。

でもそんなのは出来ないのは知っています。

こんな世界でそんなことが出来無いことも理解しています。

それに、そんな願望を抱いてる自分が嫌で、気持ち悪くて、ヘドが出ます。

でも、それでも、残酷でも、過酷でも、貪欲でも、欺瞞でも、お互いがお互いに完全に理解したいと思えるような、醜い自己満足を押し付け合い、その傲慢ささえ許容できる関係性が築けることが出来るのなら。

例えそれが悪だと糾弾されても。

それに手を伸ばし、例え、酸っぱくても、苦くても、毒でも、不味くても、そんなものが存在しないにしても、どれだけ背伸びしようと届かない願いであろうと、望むことが罪だとしても、その先に絶望しかないのだとしても、独善的で独裁的だと言われても、それでも俺は…。

俺は…。

俺は…本物が欲しい‼

そう言ったんだよ。」

 

穏やかな笑顔で懐かしむようにそう言った。

 

「私はその本物が何なのか分からない。でも、いつか見つけられる気がするんだ。だから私はそんな考えが出来るはちくんが羨ましかった、妬ましかった、憎ましかった、でも、それでも愛しかった。」

 

束の言葉に驚く一同。

それもそうだろう。

これは公開告白なのだから。

 

「だから私ははちくんを応援することにした。だから、はちくんを鍛えた。これが私とはちくんの関係。」

 

そう締めくくる。

一同は八幡に対しての評価が変わった。

と言っても気づかないものもいるようだが。

卑屈で卑怯で最低で、それでも優しい、そう思っていたのが、真っ直ぐで口下手でそれでもやっぱり優しい。

途中で気づいたのは、シャルロットとラウラだったが、今はその事に気づいたものもいる。

 

「そっか、だから八幡はあんなに優しいのか。」

「どう言うことだ?」

「俺にもさっぱりだけど…。」

「あんたねぇ…。」

「でも、勘でも八幡は優しいってことはわかった。」

「確かにそうですわね。」

「そうだね。僕も八幡には助けられたしね。」

「そうだな。嫁は素直になれないだけで本当は優しいからな。」

 

一夏、セシリア、シャルロット、ラウラの四人は八幡の優しさに気づいていたが、箒と鈴は納得できずにいたが、何も言わずに我慢していた。

 

「いっくんたちははちくんの優しさがわかるんだね。特にデュノア社の娘と黒兎隊隊長さんは私のライバルになりそうだね。負けないけど。」

「僕も負けません。」

「嫁は誰にも渡さん。」

 

三人が睨みあっているとき、布団の上の八幡の指先がピクリと動いた気がした。

 

 




はい。
変なお話でしたね。
すいません、皆さんの目を汚してしまいました。

本物が欲しいのところはやっぱり原作もしくはアニメから引用した方がいいでしょうか。
でも、あまりコピーしても…。

どんどん話を重ねていくごとに悪くなっていく…。

これからも我慢して読んでくれると嬉しいです。

では、また次のお話でお会いしましょう。


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第8話 彼らは再び交戦する

一夏くんの代わりに八幡が犠牲になった前回。

という訳で八幡が目を覚ますところからですね。

戦闘描写は前よりかは多いかと思います…。

では、どうぞ。




長い長い夢を見た。

実際はそんなに長くはないのかもしれない。

けれどなぜか長く感じてしまった。

本当に不思議な夢を。

 

ここはどこだ?

綺麗な場所だな。

天国か?

それにしては誰もいないな。

 

八幡は少しずつ歩きながら辺りを見渡す。

だが、そこには誰一人としていなかった。

 

まぁ、いいや。

 

八幡は木の根本に腰を下ろすと、自然の雄大さが感じられるこの世界をもう一度眺めた。

 

心が癒されるな…。

ずっとこうしていたい。

 

そう思い、目を瞑ろうとしたとき、隣から声がした。

 

「お前は帰る場所があるだろう?ここに留まるな。」

 

八幡は声のした方を驚きながらそちらに顔を向ける。

 

何時からいたの?

見逃していたのか?

って言うかこいつ誰?

知ってるような知らんような…。

 

「何か言えよ。」

 

謎の声の正体は、黒い服に身を包んだ少女が八幡の方を見ながら、八幡の隣にちゃっかり座っていた。

 

いやだから何でだよ。

 

「お前誰だよ。」

 

若干苛立ちながら少女に聞く。

その少女はため息を吐きながら質問に答えた。

 

「お前は私の事を知っているはずだが?」

「知らん。」

 

少女の問いに八幡は即答する。

再び少女はため息を吐く。

 

そんなにため息ついてると幸せ逃げちゃうよ?

何なら幸せなくて目が腐っちゃうまである。

俺じゃん。

何それ泣けてきた。

 

「全く…それでも私の相棒かよ。」

「は?意味がわからんのだが。」

「まぁ、いい。とりあえず伝言だ。あの銀色のを止めろ。いいか、止めるだけだぞ。まぁ、一部破壊ぐらいなら見逃してやる。」

 

念を押すように何度も言う。

八幡はそれを見て普通じゃないと思った。

 

「わかったよ。止めるだけ、なんだろ?」

「あぁ…ありがとよ。頼むよ。」

「相棒、なんだろ?礼なんて言うなよ。」

「それもそうだな。じゃあ頼んだぞ。せいぜい私を使いこなしてくれ。」

 

そういうや否や、彼女の姿は消え、世界が暗転した。

そして、体の感覚が戻ってくる。

 

体痛ぇ…。

あぁ、そう言えば福音の攻撃をモロ受けたんだっけ。

今どうなってるんだ?

めんどくさいけど、自称相棒のためにやんなきゃな。

起きるか。

 

八幡は指を少しだけ動かそうとするがピクリとしか動かない。

だから、目を開けようとした。

だが、日の光が眩しく、目を瞑ってしまった。

それでも開けると、目がなれてきたのか、知らないところで寝ていた。

 

「知らない天井だ…。」

 

言ってみたいセリフ言えた…。

 

八幡はしみじみと天井を見ていたが、急に現実に引き戻された。

 

「はちくーん‼」

 

束が目を覚ました八幡に気づき、飛び付いて抱き締めてくる。

 

ちょっ!

いいにおい、うっとうしい、柔らかい、恥ずかしい、痛い、恥ずかしい‼

離れて‼

 

「篠ノ之博士、痛いです…。」

 

ようやく出せた声で掠れながらも束を引き剥がそうとする。

だが、束は退こうとしなかった。

それどころか見せつけるかのようにずっと抱き締めていた。

それを見ていたシャルロットとラウラはムッとした顔をしたまま、八幡のもとへ歩み寄り、束を引き剥がさん勢いで八幡に抱きつこうとする。

 

え?

何で抱きついてるの?

これ犯罪にならないよね?

 

内心パニックになりつつある八幡だったが、体の痛みでパニックにならずに済んではいるが、彼女らに止めを刺されそうであった。

 

「姉さん、比企谷はけが人です。離れてください。」

「えー。はちくんともっとはぐはぐしたい~。」

「ダメです。」

 

箒は束を引き剥がすと、首根っこを持ったまま自分の前に座らせた。

それを見て他の人もシャルロットとラウラを引き剥がそうと立ち上がり、八幡から少し離れさせる。

すると、八幡が顔をしかめながら起き上がる。

 

「痛ぇ…。止め刺されかけたぞ。」

「ドンマイだな。」

「他人事だと思いやがって…。」

 

八幡の呟きに一夏が反応し、少し笑った。

それを見た八幡は一夏を若干睨み付ける。

 

「ったく…。ところで福音はどうなった。」

 

それを言うと一同の顔が曇るが、一人だけ嬉々として手をあげていた。

 

「はいはーい。はちくんから言われてた件、終わりました‼」

「わかりました。ありがとうございます。それは後に最終手段として持っておくとして、誰でもいいから現状の報告をしてくれ。」

 

一人一人の顔を八幡は見るが、誰一人として答えようとしない。

いや、答えたくないのか。

 

全く…誰か話してくれれば楽なんだがな…。

まぁ、いいや。

自分で確認するだけだ。

 

八幡は痛む体に鞭をうち、顔を歪めながら立つとそのまま部屋から出ていこうとした。

それに気づいたシャルロットは八幡を呼び止める。

 

「八幡、どこ行くの!?」

「織斑先生のとこ。」

「何で?」

「状況確認のためだよ。お前らは来なくていい。って言うか来るな。」

 

有無を言わせない、とでも言わんばかりに目に力をいれていた八幡。

その目を見てその場にいた全員が戦慄した。

その瞳の中に一匹の獣がいるかのような迫力だったからだ。

八幡はその場で動けなくなってる全員から視線を外し、そのまま宴会場まで歩いていったように見えた。

 

「追いかけなきゃ…。」

「そうだな。行くぞ、シャルロット。」

「うん。」

 

しばらく呆然としていたが八幡を追いかけることにした二人は部屋から出ようとした。

だがその前にこの部屋の扉が開いた。

 

「比企谷‼」

 

千冬が血相を変えてそこにいた。

一夏はそんな状態の千冬に驚きながらも尋ねる。

 

「どうしたんだよ千冬姉。」

「どうしたもこうしたもない。朧夜が福音と交戦を始めた。まさかと思ってきてみれば…。一人で福音を討つつもりだ。」

「何だって!?千冬姉、俺行ってくる‼」

「待て、お前だけでは力不足だ。だからこの場にいる全員で比企谷のサポート及び福音の討伐へ向かえ。」

「わかったよ千冬姉!」

 

一夏は全員を連れて福音の討伐へ向かっていく。

その間、何度か八幡に通信を繋げようとするが、向こうで拒否しているらしく一向に繋がらなかった。

 

「八幡、無事でいろよ。」

 

一夏は誰に言うでもなくそう呟くと白式を駆り、八幡のもとへと飛んでいく。

 

********************

 

あいつらに嘘言ったの不味かったか?

どうでもいいか。

とりあえず福音を破壊せずに何とかするか。

となると、シールドエネルギーを減らしきるのがベストか。

だがそうなると高機動型のこいつに月華を撃たなきゃならねぇが、それは難しいな。

だが、やるしかないか。

めんどくせぇがやるしかねぇ。

 

八幡は覚悟を決め、膝を抱えステルスモードになっている福音へ向かう。

それに気づいたのか、福音は起動を始め、サブスラスターで飛びながらこちらへ向かってくる。

八幡はとっさに十六夜と朔光をその手に持ち、斬りかかる。

サブスラスターだが機動力はあまり変わっていないように見える動きで鮮やかに攻撃を避けた。

 

くそっ…。

メインスラスターだけじゃなかったのかよ。

めんどくせぇ。

帰りたい。

宿じゃなくて家に帰りたいです。

ダメ?ダメですね。

 

八幡は背中の流星をパージし、福音へ襲いかかる。

福音はすべて避けきれないのか、いくつか受けながら八幡の方へ飛んでくる。

だが、その方向へ行かせないように流星が福音へ襲う。

 

このままいけるか?

まだわからんな。

だからここは慎重にシールドエネルギーを減らしていくのに限る。

 

八幡は両手に持っていた刀剣を粒子変換し、手に新星と鬼星を代わりに握るとその銃口を福音へ向け、発砲した。

何発かは避けられたが、残りの弾は当たり、徐々にシールドエネルギーを削っていく。

ある程度削れたと思ったとき、福音に異変が訪れるのと同時に後ろから八幡の事を呼ぶ声が聞こえた。

 

「八幡‼」

 

シャルロットが専用機、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを駆りながらこちらにやって来る。

 

もう来たのか。

思ったより早かったな。

 

そう思いながら振り返ると、ラウラの焦った顔が視界に写り込む。

その顔を見て急いで福音の方へ視線を戻すと、そこには姿を変えた福音の姿があった。

 

「くそっ…。セカンド・シフトか…‼」

 

福音のスラスターは外され、代わりにエネルギーで生成された翼を持っていた。

それを見た八幡と他の専用機持ちは驚愕し、一言も話せなかった。

だが、福音が攻撃モーションに入ると、八幡が全員へ通信を繋ぐ。

 

「攻撃が来るぞ。」

 

福音の翼の間にエネルギーの塊をつくり、解放する。

それは螺旋を描きながら八幡達の方へ向かっていた。

それを避けるが、福音の攻撃はそれだけに留まらなかった。

エネルギー弾を次から次へと放ち、近寄ることができなくなった。

 

「くそっ…。」

 

どうすればいい。

どうすればこの広範囲攻撃を止めることが出来る。

 

八幡は攻撃を避けながらも思案する。

それと同時に福音を観察する。

何か弱点がないかどうか。

だがそれはなかなか見つからない。

 

一か八かに賭けてあれしかないか…。

 

八幡はこんな考えしかできない自分がいやになるが、それが一番効率がよく、尚且つ破壊せずに倒す方法はこれしかなかった。

他に方法は山ほどあるのだろうが。

八幡は再び通信を繋ぐ。

 

「そのまま俺の考えた作戦を聞いてくれ。まずはオルコット、福音の攻撃が届かないような所から射撃をしてくれ。出来るか?」

「問題ありませんわ。」

「次に篠ノ之、凰、あいつの懐まで潜り込んで動きを制限できるか?」

「あぁ。やってやる。」

「誰に言ってるの?やれるに決まってるでしょ!」

「デュノアとボーデヴィッヒは全体のサポートを頼む。」

「任せて‼」

「嫁の頼みなら仕方がないな。」

「最後に織斑、俺が合図したら零落白夜で斬り込め。ただし、コアは砕くなよ?」

「わかった。」

「じゃあ行くぞ。」

 

各々が作戦通りに動いていく。

セシリアはいち早く適切な位置につき、射撃を行い福音の注意を引く。

その一瞬を逃さず、箒と鈴は斬り込んでいく。

福音は彼女らを振り切ってセシリアの元まで行こうとするが、シャルロットとラウラに阻まれ、一瞬動きが止まる。

それを見逃す八幡ではなかった。

 

「織斑、今だ‼」

 

それと同時に八幡も動く。

福音の真っ正面から斬り込もうとする一夏。

福音は回避行動をとろうとしたがそれは止められ、零落白夜の餌食となった。

なぜ止まったのか、福音の後ろから八幡が抱き抱えたからだ。

一同はその行動に唖然とした。

それを無視しながら八幡は未だ行動を続けようとする福音に向かって流星を使い、止めをさした。

福音は活動は停止し、長かった戦いがようやく終わりを告げた。

 

その後、福音をハッキングしていた国は何もせず、沈黙していると言う情報を束から千冬と八幡に連絡があったため、警戒だけしてなにもしなかった。

それと同時に、時間が空いたとき、束との関係と、何があったのかを詳細に聞かれることになった。

その後、福音と交戦した全員から、なぜ福音を抱き抱えたのか、問い詰められ、八幡は心身ともに疲れ果てていた。

 

 




零落白夜で落とせなかった理由ですが、回避行動は取れませんでしたが。防御ならできるという事で防御をしていた、というわけですね。
でも、防御しててもシールドエネルギーを大分減らせたという事です。

これ、本文中に書けばよかったと後悔しております。
すいません。

という訳で、また次のお話でお会いしましょう。


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第9話 彼は夏休みを家で過ごしたい

福音との戦いが終わり、次は学園祭と専用機持ち限定のタッグマッチトーナメントですね。

と、その前に息抜きと言うことで、夏休みのお話です。
では、どうぞ。



色々と忙しかった臨海学校を終え、夏休みに入り、八幡は家に帰って来ました。

いやだから展開早すぎない?

色々あったよね?

織斑先生に折檻されかけたりだとか、生徒会長となぜか特訓させられることになってボコボコにされたりだとか、色々あったよね?

色々省きすぎてアニメみたいに説明不足感あるんだが…。

って言うか俺は誰に言ってるんだ?

 

心の中で誰に言っているのかわからない突っ込みをしつつ、本を読んでいる八幡。

そこへ最愛の妹である小町が駆け寄ってくる。

 

「お兄ちゃん、帰ってきたんだからちょっと買い物付き合ってくれない?」

「えー、嫌だよ。休みの日まで外行きたくない。」

 

それに8月に入るまで夏休みじゃなかったしな。

 

心の中でそう付け加え、千冬を少し恨んだ。

 

勝手に福音と交戦したからって8月になるまで更識生徒会長と特訓とか、地獄だったんだぞ。

しかも夏休み入った瞬間に逃げようとしたら、織斑先生に折檻されかけるし…。

だから休みたいの。

わかる?

いかにマイスウィートプリティーエンジェル小町ちゃんの頼みでも聞けないな。

 

「何言ってるの、小町はお兄ちゃんのためを思って誘ってるんだよ?あ、今の小町的にポイント高い。」

「はいはい、高い高い。」

「でたー適当でたー。ま、いいや。お兄ちゃんが動かないならシャルロットさんやラウラさんに、お兄ちゃんが女の子と家でイチャイチャしてます。ってメールしちゃおうかな。」

 

小町のその呟きにピクリと反応し、素早い動きで立ち上がる。

 

「よし、どこいくんだ?ちょっと用意してくるから待ってろ。」

 

変わり身早すぎだって?

バッカ、お前、目が病んでるデュノアと軍隊で鍛えられたボーデヴィヒに睨まれても見ろ、死ねる自信あるぞ。

いやマジで。

 

八幡は部屋着から外出用の服に着替え、財布と携帯を持ち、小町の待つリビングへと急いで戻る。

 

「早かったね。」

「おう。小町と出かけられるのが楽しみだったからな。今の八幡的にポイント高い。」

「何それ。さっきまで行きたくないとか言ってたくせに。」

「さっきはさっき。今は今だ。ほらよく言うだろ?それはそれ、これはこれって。」

「そういう理屈はいらないから。」

 

若干、呆れた顔をする小町を見て、八幡は少ししょんぼりする。

 

「ほら、そんな顔してないでいくよ。」

 

八幡の手を引きながら小町は外へと向かおうと玄関を開けるとそこには、一人の男子が立っていた。

 

「およ?お兄ちゃん、誰か来たよ。」

「ん?げっ…。」

 

そこにいたのは、IS学園で同じクラスの同じ男子の織斑一夏だった。

一夏は八幡の反応を見て、少し肩を下げる。

 

「八幡、その反応はヒドイ。」

「で、何のようだよ織斑。」

「何となく、八幡と遊びたかったから。」

「あっそ。俺はこれから小町と出掛けなきゃいけないからな。お前と遊んでる暇はない。」

 

そう言うと、一夏は目に見えて落ち込んでいた。

 

「だからヒドイって…。じゃあ別の日に。」

「いや、別の日もないから。」

「えー。」

 

そう言うと、一夏がものすごい落ち込んでいた。

そんな彼のもとへ走り寄る一人の人影。

小町だった。

小町は一夏の耳許で何かを囁くと、一夏は顔をスッと上げにこやかに去っていった。

 

「おい、なに話したんだ?小町は誰にもやらんぞ。」

「お兄ちゃん違うよ。それに、詮索しすぎると小町的にポイント低いよ。」

 

ジト目で見られる八幡。

八幡は何も言えなくなったが、目を反らして少し前に出る。

 

「小町、行くぞ。」

 

そう言って、歩いていくと待ってと叫びながら小町が家に鍵をかけ、駆け寄ってくる。

 

「置いていくなんて小町的にポイント低いよ。」

「バッカ、俺が小町を置いていくわけないだろ?むしろ俺が置いてかれるまである。」

「威張って言えることじゃないでしょ。」

 

ドヤ顔をしていると、何故か項垂れながら、八幡の横を小町が寄り添って歩いていた。

 

何でそんな顔してるの?

疲れたの?

え?俺と一緒に歩いてるから?

泣いていい?

 

心の中で泣きながら、とりあえず駅の方まで来てしまった。

 

「ところで、どこいくんだ?」

「ん?その辺ブラブラするだけだよ?」

「ちょっと待て、それだったら俺いらなくね?帰っていい?」

「だーめ。」

 

なんだそれ可愛いな。

 

「何でだよ。」

「小町がお兄ちゃんと出掛けたかったから。あ、今の小町的に超ポイントたっかい~。」

 

あざとくウィンクしながら笑みを浮かべる小町。

八幡はそんな彼女を見て頬を緩ませながら、手を頭の上にのせ、撫でる。

 

「そうか。ったく、小町はわがままだな。」

「ふわっ!お兄ちゃん、いきなりはダメだよ~。」

 

いきなりじゃなかったらいいのか?

 

八幡はそんなことを思いながら、頭から手を離し、自分のポケットに手を突っ込む。

 

「じゃあ行くか?」

「うん‼」

 

満面の笑みで八幡と同じペースでならんで歩く。

二人の顔はとても幸せに満ち溢れている顔だった。

 

**************************

 

昼時、八幡と小町は二人でファミレスへ入る。

それは八幡の希望であったが。

 

「お兄ちゃん、何でサイゼ?」

「千葉県民ならみんな好きだろ。」

「そんなわけないでしょ。ま、小町的にはどこでもいいけどね。」

 

二人は店内に入ると、何組かの家族連れや、カップルなどが待っていた。

八幡と小町も名簿のようなものに名前を書き、待つことにする。

その際、椅子が一脚しか空いていなかったので小町に座らせ、その前に八幡が立っていた。

 

「ところでお兄ちゃん、学園はどう?」

「ん?まぁ普通だな。」

「えー。何かあるでしょうに。話してみそ。」

「何もねぇよ。あったためしもないけどな。」

「つまんないの。」

「俺に面白さを求めるな。」

「それもそっか。」

 

それっきり、店員に呼ばれるまで会話がなかったが、特に気まずくもなくむしろ心地よささえ感じていた二人。

そんな空間が、八幡は嫌いではなかった。

 

「二名でお待ちの比企谷様。お席へご案内します。」

「あっ、はい。」

 

やがて、店員に呼ばれ、返事をする八幡。

 

急に呼ぶなよ。

って言うか、急に呼ばれるとあっ、っていっちゃうの何で?

ぼっちの習性?

……悪かったな、コミュ症で。

 

心の中で毒づきながら、店員に案内されるがままに席につき、メニューを見ずとも何を食べようか決める。

一方の小町はメニューを開いて迷っていた。

 

「どうした?」

「ん?こっちとこっち、どっちがいいかなって。」

 

そこにあったのは、夏季限定の料理だった。

八幡は小さくため息を吐いて、しょうがないなと小さく呟くと、店員を呼び、オーダーする。

八幡が注文したのは、小町の迷っていた料理2品だった。

店員が去った後、小町は驚いた顔をしていた。

 

「どした?」

「お兄ちゃんが、お兄ちゃんが優しい…。」

「は?俺いつも優しいだろうが。優しすぎてみんなの輪に入らないようにしてるまである。」

 

そう言うと、小町は盛大にため息を吐き、呆れた目で八幡を見る。

 

小町ちゃん?

なにその目は。

可愛い顔が台無しよ。

 

「お兄ちゃん、それはお兄ちゃんが皆と関わろうとしてないからでしょ。全く、ごみぃちゃんだな~。」

 

え?なにそのごみぃちゃんって。

そんな言葉教えた覚えはありませんよ?

それにちょっと傷ついちゃうからやめようね。

 

そんなことを思っていると、料理が運ばれてきて、小町の目が輝く。

 

「お兄ちゃん、ちょっとあげるから、ちょっと頂戴。」

「おう。もとよりそうするつもりだったしな。」

 

あげようとして八幡は取り皿を貰ってない事に気づく。

 

どうやって分けよう。

取り皿もらうか…。

 

店員を呼ぼうと八幡がボタンに触れようとしたとき、小町が行動に出る。

 

「お兄ちゃん、はいあーん。」

「は?」

「ほら、あーん。」

 

小町ちゃん?

何してるの?

八幡よくわからない。

 

「お兄ちゃん、早く‼」

「いやだから取り皿もらうから。」

 

そう言うと、小町はこいつわかってないな、みたいな顔をしていた。

 

俺レベルになると、わかりすぎて社会が生きにくいまであるぞ。

と言うことはぼっちになったのは俺は悪くない。

社会が悪い。

違う?違うか。

 

「お兄ちゃん、こういう時は素直に食べるものだよ?」

「いや、俺リア充みたいな食べ方なんて知らんし。」

「確かに。でも、可愛い妹があーんしてあげてるんだよ?食べなきゃ損じゃない?」

「……可愛い妹のためじゃしょうがないな。ったく、わがままだな。」

「うんうん。小町、わがままだからね。はいあーん。」

 

八幡は言われるままに口を開けて、小町に食べさせてもらった。

 

始めてやったけど意外にいいな。

なにもしなくて餌付けされてる気分。

働かなくて食べる飯最高。

 

ご満悦な八幡をよそに、小町が顔を突き出し、口を開けていた。

 

「なにしてんの?」

「あーん。」

 

何をして欲しいのかわかった八幡は苦笑しながら小町の口に料理を入れる。

幸せそうな顔をして食べる小町。

その顔を見ていた八幡は柔らかい笑みを浮かべて、見入っていた。

 

何だろう、小町が喜んでると幸せになる。

この気持ち、まさか恋?

な訳ないな。

小町は大事な妹だからな。

邪な考えはしていない。

ほんとだよ?

 

二人はその後も他愛のない会話をしながら食事をしていった。

 

**************************

 

八幡と小町はファミレスから出ると、次の場所に移動する。

小町の希望でケーキを食べに行くらしい。

 

サイゼにもケーキあるだろ。

何でわざわざ違うところで食わなきゃいけないんだ。

 

心の中で抗議しながらも小町についていく八幡。

やがて、目的地についたのか、立ち止まり店の中へと入っていく。

小町は目を輝かせながら少し駆け気味にショーウィンドウを覗き込み、何にしようか悩んでいた。

八幡はそれを見ながら小町のもとへ歩いていく途中、何やら周りが騒がしいと思い、目だけを辺りに向けると八幡と携帯を見比べながら、騒いでいた。

 

え?俺指名手配されてるの?

通報されちゃうの?

何もやってないよ?

ほんとだよ?

だってぼっちだからあまり外にでないから。

……引きこもりじゃねぇか。

 

そんなことを思っていると、横から声をかけられた。

 

「あ、あの、比企谷くんですよね?」

「ひゃ!ひゃい。しょうでしゅ。」

 

かんだ。恥ずかしい死にたい恥ずかしい‼

この場から早く離れたい‼

 

心の中でのたうち回りながら、顔を赤くしている八幡をよそに、話しかけてきた女子は何やら二人でこそこそと耳打ちをしていた。

やがて、話が纏まったのか、再び話しかけてくる。

 

「一緒に写真撮って貰ってもいいですか?」

「えっ、いや、あれがあれだから、無理です。」

「…撮りますね‼」

 

え?あれ?

ちゃんと断ったよね?

おかしくない?

 

八幡は言われるがまま写真を撮られ、そのまま女子たちとわかれ、小町のもとに急いで向かう。

 

「あれ、お兄ちゃん何してたの?」

「知らない女子に絡まれてた。」

「あー、今お兄ちゃんは知らないだろうけど結構人気何だよ?」

 

え?

何だって?

あ、別に難聴系主人公になってないよ?

意味がわからなくて心の中で言ってるだけだからね?

 

「一夏さんと一緒にインフィニット・ストライプスで人気何だよ?」

「は?何で?って言うか、取材受けたことないんだけど。」

「お兄ちゃんが取材受けたのか、とかどうでもいいけど、一夏さんは爽やか系イケメンってことで人気になって、お兄ちゃんはヤサグレ系イケメンってことで人気になってるんだよ。まぁ、お兄ちゃんはその腐った目さえなければ基本スペックは高いからね。」

「おい、上げて落とすなよ。それに何だよ、ヤサグレ系イケメンって。」

「何か一部の女子の間で人気だよ?罵って欲しいんだってさ。その濁った目で見下されながら。」

「意味がわからん。」

「小町的には?お兄ちゃんが人気になって嬉しいわけですよ。それに、小町はこんなお兄ちゃんがいて鼻が高いんですよ。」

「はーん。どうでもいいけど。」

 

織斑はリア充って感じがするからわかるが、何で俺が?

女ってのはわからんな…。

 

腑に落ちないことはあるが、強引に納得し、小町にケーキはいいのかと聞くと、まだ悩んでいるらしい。

 

「で?今度はどれとどれで悩んでるんだ?」

 

小さくため息をつきつつも、小町のためだと思うと聞かずにはいられない八幡であった。

 

**************************

 

ケーキも食べ終え、やることもなくなったので帰路につくと、小町が何かを思い出したのか、先に帰っててと言ったので、八幡は一人家に向かって歩いていく。

帰ってくると、自分の部屋に入り、ベッドにダイブするような感じで寝転び、ぐだぐだしていた。

 

やっぱりぐだぐだしてるの最高。

何か優越感に浸れるよね。

最低だって?

まぁ、俺はカーストでも最低だからな。

……目にごみが。

 

心の中で泣きながら、八幡はこれからどうしようかと考えているが、特にやることも見つからず、寝ることにした。

出掛けて疲れていたのか、すぐに寝ることが出来た。

 




いかがでしょうか。
久しぶりの小町ちゃん登場です。
やっぱり二人の絡みはいいですね。
作者はこの二人好きです。
皆さんはどうでしょうか。

という訳で、八幡と小町がただ単に絡んでいた、という話でした。

では、また次のお話でお会いしましょう。


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第10話 彼は16度目の誕生日を迎える

夏休み編Part2です、はい。

前回から話は続いております。

って言うか、八幡が八幡じゃなさ過ぎて僕も驚いてます。
でも、投稿しちゃいます!

では、どうぞ。




八幡が起きると、外はもう大分暗くなっていた。

スマホを手に取り、時間を確認する。

結構いい時間だった。

 

…起きるか。

 

そう思いはするが、なかなかベッドから出られない八幡。

 

俺は悪くない。

このすべすべで少しひんやりした夏用シーツがいけない。

気持ちいいから出たくなくなる。

 

モゾモゾとしていると、部屋の扉が開いた。

そこからジメッとした空気がクーラーの効いた部屋に入り込んできて、少し不快感を感じる。

 

「お兄ちゃん、起きて。晩御飯出来たよ。」

「おう。いつもすまないねぇー。」

「いいよ。だらしないし、捻くれてるし、屁理屈言うけど、小町の好きなお兄ちゃんのためだからね。あ、今の小町的にポイント高い!」

「俺も小町の事好きだぞ。好きすぎて愛してるレベル。あ、今の八幡的にポイント高い。」

 

八幡はそう言いながら、ベッドから抜け出し、熱い廊下に出て、リビングへと向かう。

そして、リビングの扉を開けると、突然、発砲音が響いた。

八幡はいきなりの事でビクッとなり、硬直する。

それと同時に八幡の頭に細長い紙が乗っかる。

 

「「「「「「お誕生日おめでとう‼」」」」」」

 

八幡は目の前にいる6人を見ながら、今だ混乱している頭を稼働させようとしていると、後ろから肩を叩かれ、思考が停止する。

肩を叩いたのは小町だった。

 

「お兄ちゃん、今日は何の日か知ってる?」

「は?え?何?」

「やっぱり。」

 

納得し、笑っている小町を見て、今日が何の日だったか考えるが、特にめぼしい答えは見つからない。

 

「今日はお兄ちゃんの誕生日でしょ。」

「は?そうだっけ?」

 

誕生日?

そう言えばそうだったような。

 

「何言ってるの。今日は8月8日だよ?」

「そうだったな。これは友達の友達の話だが、そいつだけが呼ばれなかった誕生日会。そいつが参加した誕生日会では、自分のためかと感動していたら同じ日に生まれたクラスメートのために歌われていたバースデーソング。名前が間違ってる誕生日ケーキ。って言うか最後、母ちゃん何やってんだよ。息子の名前間違えるなよ。俺の誕生日はトラウマの誕生とか。ちょっと傷ついちゃうだろ。」

「お兄ちゃん…みんなの前でトラウマ公開しなくていいから。」

 

おっと、自分の心の中だけに留めておくつもりが、口に出ていたぜ!

……何かテンションがおかしいから、落ち着くために一句読むことにしよう。

病気かな?

病気じゃないよ

病気だよ

…これは病気ですね。

もう一句詠んでる時点で病気。

何かデジャヴ…。

ってか以前にこんなこと言った覚えないんだけどね。

 

そんなことを考えながら、目をさらに腐らせていると、背中を押される感覚がした。

 

「そんなことはどうでもいいから、はい、席について。」

 

強引に座らされた後、目の前にケーキが置かれた。

そこにはHappy Birthday 八幡!と書かれていた。

 

お、名前間違ってない。

 

変なところで感動してしまった八幡。

 

「これは僕が作ったんだ。」

 

ケーキを眺め、若干感動している八幡にシャルロットが声をかけた。

 

「マジか。すげぇな、これ。」

「ありがとう。喜んでくれて嬉しいよ。」

 

飛びっきりの笑顔で答えられ、顔を赤くしながら目を背ける八幡。

そんな姿が可笑しかったのか、周りは微笑んでいた。

 

「さて、では火を着けるとするか。」

 

箒が蝋燭を立てていき、それにラウラが火をつけていく。

 

おお、はじめての体験だから知らんけど、自分の誕生日を祝われるのってこんなに感動するものなのか?

いや、マジで。

 

火をつけ終わると、小町が部屋の電気を消すと、辺りが暗くなる。

だが、蝋燭だけは仄かに暖かい灯りを照らしていた。

そして、あのバースデーソングを合唱していた。

八幡は妙な照れ臭さと、感動で皆から目をそらす。

 

本当に、こいつらは…。

俺はこいつらと一緒に過ごしていきたいな…。

 

柄にもなく、そんなことを思い、今年の誕生日は初めてトラウマが生まれなかった。

その事を嬉しく思いながら、目の前にいるやつらに目を向け、歌が終わるのと同時に、蝋燭の火を吹き消した。

一息で消すことが出来、八幡は何となくよかったとか思いながら、心の中で感謝をした。

 

本当に、ありがとう。

 

「よし、じゃあ八幡、俺からプレゼントだ。」

 

一夏が八幡の目の前に笑顔で小さい箱を差し出す。

 

「お、おう。サンキュー?」

「何で疑問系なんだよ。」

「しょうがねぇだろ。慣れてねぇんだから。」

 

顔をそらしながら、一夏のプレゼントを受けとる。

そのそらした顔は嬉しそうであった。

 

「じゃあ私たちからもあげるわ。」

 

鈴がそう言うと、箒、セシリア、シャルロット、ラウラが八幡の前に立つと、一人ずつ渡していく。

 

「比企谷、気に入るかは知らんがこれ。」

「お、おう。」

 

箒はぶっきらぼうに、尚且つ押し付けるように渡すと少し目をそらす。

八幡は呆気に取られながらも受けとると、箒の態度に少し笑みを浮かべる。

 

「では、次はわたくしですわね。八幡さん、これをどうぞ。」

「八幡さん…?まぁ、いいや。サンキュー?」

 

少し大きめの箱を笑顔で渡す。

八幡はセシリアに名前で呼ばれ、驚きつつも受け取る。

 

「じゃあ次は私ね。ほら、受け取りなさいよ。」

「おう。えっと…何だ、サンキューな。」

 

言葉とは裏腹に優しく差し出す鈴。

八幡は少し吃りながらもプレゼントを受け取る。

 

「八幡、僕からも、プレゼント!」

「サンキューな。ケーキも作ってもらって悪いな。」

「いいよ。僕がやりたかっただけだから。」

 

シャルロットは少し元気よさげにプレゼントを八幡に渡す。

八幡はプレゼントとケーキのお礼を共に言うと、顔を少し背ける。

その顔は赤く染まっていた。

 

「嫁よ。私からのプレゼントだ。」

「…何だこれは。」

「指輪と言うものだが?何だ、嫁はそんなこともわからないのか?」

 

ラウラはくすりと笑うと、八幡にそれを差し出す。

八幡は受け取るべきかと悩み、小町の方を見るが、小町はにっこり笑顔だった。

 

ボーデヴィッヒさんのプレゼント重いよ。

それと小町ちゃん、何で笑顔なの?

受け取ったら怖いんだけど。

受け取らなくても怖いんだけど。

どうしたらいいかわからないよぉ~。

 

「安心しろ。高いものじゃないからな。それに、私は渡したいんじゃなくて貰いたいのだ。」

 

モジモジしながら顔を赤くして、八幡の方へ目を向ける。

 

何でそんなにモジモジしてるの?

デュノアさんがこっち睨んでるんですが。

怖い、怖い、怖い。

後怖い。

 

「いや、安心できんのだが…。」

「そうか…。私のプレゼントは受けとれないのか…。」

 

落ち込むラウラを見て、八幡は少しオロオロする。

 

「いや、その、何だ、サンキューな。」

 

結局受け取るしかなかった。

 

何で受け取ってしまったんだ?

まさか、俺は落ち込んだ相手とかの頼みは断れないのか?

なにそれ俺性格良すぎ?

 

八幡は全員から貰ったプレゼントを自室に持っていき、机の上に置く。

そこへタイミングよく小町が部屋に入ってくる。

 

「お兄ちゃん。」

「何だよ。」

「どう?」

「まぁ、良いんじゃないか?」

「何でそこで疑問系…。」

 

少し項垂れる小町を見ながら、近づいていく八幡。

 

「これを企画したの、お前だろ?」

「バレた?」

「ったく、余計なことを。」

「いいじゃん。小町は、あの人たち好きだな。真っ直ぐで、お兄ちゃんの事をわかろうとして、近づこうとしてる。だから、小町はそのお手伝いをしたかったの。ダメだったかな。」

「…ありがとな。ちょっと…いや、だいぶ嬉しいわ。」

 

確かに慣れてないし、まだ俺自身が完全に信じているわけでもない。

でも、それでも、あの蝋燭の火のように呆気なく消えるような希望の光でも、そこにあるのなら手を伸ばしたい。

その手伝いを小町がしてくれたのだ。

だったら俺は、それを断る理由も、拒否する理由も、何もない。

それに、裏切られたら小町に癒してもらえるだろうしな。

 

「そっか。って言うか最近お兄ちゃんのひねくれ具合が無くなってきて、お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃないみたい。」

「何言ってんだよ。俺は俺だ。人間早々変わるもんじゃねぇよ。」

「そんなことないよ。お兄ちゃんは変わったよ。ずっと見てきた小町だから、一緒に過ごしてきた小町だからわかることなんだよ?」

「そうか。」

「うん、そうだ。」

 

二人は顔を向け合い、微笑む。

 

確かに変わったのかもしれない。

他人だと言われても、しょうがないと思う。

チョロいって言われても仕方がないとも思う。

でも、例えそうだとしても、裏切られるかもしれないし、あいつらが影で何か言ってるかもしれない。

それでも俺は俺の信じた道を突き進む。

それに、せっかく小町が背中を押してくれたんだ。

答えなきゃ、カッコ悪いとこ見せることになっちまうだろ。

 

心の中でそう宣言すると、小町の頭に手をおき、リビングへ戻ろう。

そう言って離れようとした。

だが、それは小町に袖を掴まれ、出来なかった。

 

「小町?」

「お兄ちゃん、これ。」

 

小町はポケットから小さな箱を差し出してきた。

八幡はそれを受け取り、吃りながらも感謝の言葉を言う。

 

「その、何だ?ありがとう?」

「何で疑問系なの?小町的にポイント低いよ。」

「うっせ。慣れてねぇんだよ。」

 

頭を掻きながら、照れた顔を見られないように背けていたが、小町はバッチリ見えていた。

小町はそんな彼を見て、優しい笑みを浮かべて、心の中でこれからも頑張って、とエールを贈った。

その後、二人はみんなが待つリビングへと戻っていくと、人数が少しおかしかった。

数えると二人多い。

 

「あ、はちくんだ。お誕生日おめでとう‼何か欲しいものはある?あ、欲しいものって本物だったっけ?手に入るといいよね。私もはちくんと本物が欲しいな~。」

「へぇ、八幡くんは本物が欲しいのか~。おねぇーさん初めて知ったな~。」

「は?何で二人が?って言うかそれ、忘れてください。」

 

イヤマジで。

篠ノ之博士にあれを言った後、何であんなこと言っちゃったのか悶絶しちゃってたから。

あれはものすごい黒歴史だから。

だから生徒会長、聞かなかったことにしてくださいね。

って言うか二人とも何で知ってんの?

それよりどうやってここに来たの?

 

八幡の疑問よりも『本物』に食いついた二人だったが、束は案外早くそれを話題から外した。

と言ってももう一人は追求してきたが。

 

「えー何でさー。ま、いいや。」

「私はもう少し聞いちゃうぞ。」

 

僕は今すぐにでも逃げちゃうぞ。

こう見ると、篠ノ之博士が天使に見える。

うん、生徒会長はこれから悪魔って言おうかな。

 

束はそう言うと、箒のもとへ行き、出されている料理の数々を食べている。

一方の楯無は八幡にすり寄ってくる。

 

ちょっと?

何近寄ってきてるの?

何も言わないよ?

 

その時、八幡の腕が引かれ、廊下に連れ出された。

 

「お兄ちゃん、あの水色の髪の美人さん誰!?新しいお姉ちゃん候補なの?」

「違うから。あの人は更識楯無生徒会長。IS学園最強の人。」

「ふーん。」

 

小町はそう返事すると、中に入っていき、楯無と会話していた。

 

ちょっと小町ちゃん?

その人は危ない人だから、会話しちゃダメだよ?

主に俺が犠牲になるから。

 

心の中で小町にそう言うが、その言葉は届かない。

諦めて八幡は料理に手を伸ばそうと、そちらに顔を向ける。

 

って言うか今気づいたんだが、誕生日会の料理ってクリスマスとおなじなの?

何かすごいんですけど。

って言うか、誰が作ったのかわからんけどすごく旨そうなんですけど。

 

八幡は一人で料理に手を伸ばし、口に運ぼうとしたとき、シャルロットの視線を感じた。

 

デュノアが作ったやつなのか?

 

そう思いつつも口に運び、食べる。

 

「ね、ねぇ、それどう?」

「普通に旨いな。」

「そっか、よかった。」

 

ホッと胸を撫で下ろしているシャルロットを見つつ、箸が進んでいく。

 

旨いな。

小町の方がちょっと勝ってるか?

ま、何にせよ旨いからいいや。

 

そんなこんなで時間は過ぎていき、夜が更けていった。

後から聞いた話だが、束も楯無も玄関から入ってきたらしい。

 

…気付かんかった。

って言うか他のやつらは何にも言わなかったのかよ。

…言っても二人が帰るわけないか…。

 

*********************

 

いつの間に眠ってしまっていたのだろうか。

小町は目を擦りながら顔を上げ、昨日の八幡の誕生日会を思い返していた。

あれからシャルロット、箒、鈴の三人が作った料理を食べつつ、ゲームをして遊んで、楽しい時間が過ぎていった。

何だかんだで八幡もぶっきらぼうで、いつものように何でもないような顔をしていたが、小町は八幡が楽しんでいることを見抜いていた。

 

お兄ちゃんの楽しそうな顔久しぶりに見た気がする。

よかったね。

お兄ちゃんが欲しいもの、手に入るかもね。

 

そう思いながら、小町は立ち上がり、八幡を探す。

探すまでもなく、ソファで座って寝ている姿を見つけた。

 

「お兄…。」

 

声をかけようとしたが、八幡の左右の肩に頭を乗せているシャルロットとラウラの姿を見て、声をかけるのを止めた。

それによく見ると、足元には束、楯無の二人が頭を向けあって寝ていた。

小町は携帯を取り出し、カメラモードにする。

 

「よかったね。本物、近くにあるじゃん。」

 

そう言いながら、五人をフレームの中にいれ、シャッターを押す。

 

「はい、ぴーなっつ。」

 

そこには、幸せそうに眠っている五人の姿が納められていた。

その後、その写真を見せると、顔を真っ赤にして、シャルロットとラウラはあたふたしていたそうだ。

束と楯無はその写真を欲しいと小町に詰め寄り、八幡にはすぐに消すように言われた。

 

こうして、八幡16歳の誕生日は小町と楯無の危険な組み合わせが完成したり、騒がしさに包まれながら誕生日会は終わった。

 

 




誤字や脱字があれば指摘してください。

楯無さんと小町ちゃんが会っちゃいましたね。
束さんの事スルーなのは、後に説明します。
なのでお楽しみに。

という訳で、また次のお話でお会いしましょう。


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第11話 早くも学園生活が再開する

最近更新速度が遅くなってます。
今まではストックがあったのでよかったのですが…。
なのでこれからは少し遅くなるかと思いますが、完結はしたいので続けていきたいと思います。
これからも応援お願いします。

という訳で早くも11話まできました。
二学期が始まります。
展開早いって?
ナンノコトデスカ?
ヨクワカリマセンネ。

という訳で、第11話、どうぞ。




夏休みが明け、学園の生徒たちは全員体育館へ集まっていた。

 

あれ?

もう夏休み終わりなの?

つい最近、俺の誕生日だったよね?

おかしくね?

って言うか、夏休みはだらだら過ごしてたな。

…二ヶ月ぐらい足りない気がする。

もっと休みたかったです。

 

そんなどうでもいいことを思いながら、壇上を見ると、いつの間に進んでいたのか誰も人がいなかった。

そう思ったのだが、演台の後ろのモニターに生徒会長挨拶と映し出されており、舞台袖から姿を現したのはこの学園の生徒会長かつ、最強のIS操縦者、更識楯無だった。

彼女は一瞬、八幡の方を向き、笑みを浮かべると、すぐに視線をはずし、堂々と生徒全員を見る。

 

「IS学園生徒会会長、更識楯無です。色々あって紹介が遅れましたが、よろしくお願いします。」

 

楯無はお辞儀をしながら、そう言うと手に持っていた扇子でもよろしく、と表示していた。

若干、体育館内が騒然としたが、それもすぐに収まり、全員楯無の方へ目を向けていた。

 

「二学期には行事がたくさんありますが、皆さん楽しんでやりましょう。まずは、最初の行事、文化祭です。クラスみんなで話し合って出し物を考えてください。決まったら、クラス代表の人は今週中に生徒会室まで提出してください。以上です。」

 

みんなで話し合う、ね。

どうせ俺の意見は聞かれないだろうが…。

って言うかその前に働きたくないでござる。

文化祭めんどくさいでござる。

こうなったらあれだな、みんなに俺使えないやつアピールして、フェードアウトしよう、そうしよう。

男手なら織斑一人でなんとかなるだろ。

 

そう結論付け、実行しようとした。

だが、この時の八幡は、まさかああなるとはまだ知るよしもなかった。

 

****************************

 

集会は解散となり、クラスへ戻っていく生徒たちを見て八幡も歩き出すと、一夏が話しかけてきた。

 

「文化祭楽しみだな。」

「いや、別に。」

「そうか?一般の人も来るから結構楽しそうだぜ?」

「人の目を気にしなくちゃならんから嫌だ。って言うか、人混みが嫌いだからな。」

 

人混みって何で混みって書くの?

人がごみのようだ、とか言えないじゃん。

そんなことはどうでもいい?

そうですね。

 

「なら、八幡は裏方の事やれば良いんじゃないか?」

「やだよ。世の中よく言うだろ?働いたら負けって。」

「言わないよ。」

 

一夏は疲れた顔をしながら、肩を落とす。

 

あれ?

何か俺悪いこと言った?

言ってないよね?

 

「まぁ、いいや。とりあえず、今日やること決めないとな。八幡なら何やる?」

「は?何で俺に聞くんだよ。」

「八幡なら何かいい案持ってるかなってさ。」

「俺に聞くなよ。」

「何でだよ?」

「俺だぞ?」

「あぁ、何かごめん。」

 

謝るなよ、何か傷ついちゃうだろ。

 

八幡が余計に目を濁らせていると、自分のクラスにたどり着いたので、会話を切り、自分の席に座り顔を伏せる。

周りからは何やろうとか、どんなことやりたい?みたいな声があちらこちらからしていた。

やがて、授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、全員席に座り授業が始まったとはいっても、今日は夏休み明けなので、この日だけは特に授業らしい授業はないのだが。

八幡は一応顔を上げると、教卓のところに摩耶が立つのを確認する。

 

「皆さん、夏休みはどうでしたか?」

 

山田先生、夏休み、誕生日を祝われました。

それと、知らない女子に絡まれました。

それ以外は家と寮の中でゴロゴロしてました。

以上です。

…見事になんもしてねぇな。

休みの日は休まなきゃいけないからね。

ここ重要。

だから、俺は正しいことをしている。

 

八幡は一瞬ドヤ顔してしまいそうだったのを何とか抑え、摩耶の話に耳を傾ける。

 

「では、織斑くん、学園祭の出し物について話し合ってください。」

「は、はい。」

 

摩耶は教卓から離れ、一夏をそこに立たせ、出し物についての話し合いが始まった。

八幡は前のスクリーンに書かれているいくつかの候補を見て、げんなりとする。

 

ポッキーゲームとか誰得だよ、いやマジで。

王様ゲームとかツイスターとか学園祭にしてはちょっとショボくないか?

ってか誰だよ提案したやつ。

しかもそれぞれに織斑一夏と比企谷八幡と一緒にとか書かれてるし。

俺はやらないぞ?

めんどくさいことはやりたくないです。

それに、女子となんて俺のメンタル削りにきてるようなもんだぞ。

マジでやめて欲しい。

 

八幡は頬杖を突きながら、心ここにあらずといった風に聞き流していたが、クラスの全員がちょっと盛り上がってきたため、現実に戻された。

 

は?え?何の騒ぎ?

 

八幡は前のスクリーンに一際大きく書かれてる内容を見て、顔をひきつらせた。

それと同時に、一夏がこのクラスの出し物を宣言した。

 

「で、では、このクラスの出し物は『織斑一夏と比企谷八幡のご奉仕喫茶』に決定します…。」

 

宣言している一夏も、顔をひきつらせていたが、クラスの女子全員は盛り上がっていた。

そして、各々作業分担の話へと話が変わり、八幡は再び机に伏せたが、誰かに名前を呼ばれ、しぶしぶ顔を上げる。

目の前に立っていたのは、千冬だった。

 

「ちょっといいか?」

「…はい。」

 

このタイミングで呼び出されるってことは、篠ノ之博士との事か…。

やることないから別に良いけど、この人になんて説明しよう…。

本物が欲しいってのは言わなくて良いかな?

 

そう思いながら、千冬と共に廊下に出て、しばらく歩く。

二人は資料室に入ると、千冬は椅子に座り、その前に八幡が立つという形で向かい合った。

 

「さて、聞きたいことは、束との関係だが。どうやらお前は随分好かれているようだな。」

「そうですかね。ただ遊ばれてる感じしかしませんけど。」

「そうだな。それもあるな。」

 

千冬は小さく笑うと頷き、そう言った。

その顔はあまり長く続かず、すぐに顔を引き締め、次の質問に移った。

 

「さて、それよりもお前は束と接点があったんだな。どこで知り合った。」

「IS適正があるとわかった次の日でしたか。たまたま、読みたい本があったので買いにいこうと町に出たときでした。篠ノ之博士に偶然にも出会ったんです。」

「なるほど。それで?」

「その時に少し会話をしました。その会話は省かせてもらいますが。」

 

ここだけは言えない。

俺の黒歴史よりも恥ずかしいことは絶対にこの人には言えない。

 

心の中でそう思いながら、会話のところを突っ込まないでくれると良いなと思っていた八幡。

だが、千冬は会話は興味なかったらしい。

 

「それで?その後は?」

「その後、別れて本を買って家に帰りました。そしたら、家で妹と楽しそうに喋ってました。」

「ほう。お前に妹がいたのも驚きだが、二人でしゃべっていたというのも驚きだ。」

 

本当に驚いているようで、千冬は少し目を見開いていた。

 

「それで、まだ続きがあるんだろ?」

 

やっぱり鋭いなこの人。

敵に回したくないです。

って言うか、ブリュンヒルデに勝てる気なんてしないけどね。

俺とやったら瞬殺されるレベル。

もちろん俺が。

話がそれたな。

 

「あります。その後、何を思ったのか俺を鍛えるとか篠ノ之博士が言って、ここに転校してくるまでずっとISに関しての手解きを、それはもう鬼のように教えてもらいましたよ。でも、ISのコアの事は聞いても答えてもらえなかったんですが。」

「そうか。それであれだけの技量を…。比企谷、ひとつ質問なんだが。」

「何ですか?」

「お前、IS学園の特記事項やその他の冊子は読んだんだろうな。」

「は、はい。それと、諸連絡に来てくれたとき、風邪引いてると嘘ついてすいませんでした。」

 

八幡は思わず土下座をして謝った。

 

俺の土下座、何か安いな…。

 

その土下座を見て、千冬は小さくため息を吐き、そんなことはどうでもいい、と言った。

 

助かった。

この人に手を出されたら死ぬぞ、絶対。

『ダメ、絶対。』じゃなくて、『死ぬ、絶対。』だな。

うまくねぇな…。

 

「まぁ、いい。過ぎたことだしな。…なるほど、お前が強いわけがわかったよ。」

「…俺は強くなんかないですよ。」

 

心の中で留めるつもりが、口に出てしまっていた。

しまったと思ったが、すでに手遅れだったが、千冬はキョトンとした顔を向けるだけだった。

八幡は目を反らし、違う話題を探そうとしているが、他人とあまり会話をしたことのない彼にとって、話題を探すのは難問であった。

 

くそ、こういう時はリア充が羨ましいぜ。

 

そんなことを思っていると、いきなり肩に手を置かれた。

八幡はその事に驚きながらも、真正面にいる千冬から目をそらすことが出来なかった。

 

「お前は強いよ。その己を貫ける意志、いや、お前の場合は意地か?それを持っているからな。だから、お前はお前の強さを肯定しろ。何、お前が強いことは直に証明できるよ。学園祭の後にある、専用機持ちのみの、タッグマッチトーナメントでな。」

「…買い被りですよ。」

 

八幡にはそう言うしか出来なかった。

だが、それで大体の意志はわかったのか、八幡の横を歩いていきながら、こう言った。

 

「そうか。だが、お前はオルコットの一戦の時言ったな。強さとは誰かを守る力だと。」

「まぁ、はい。」

「お前はもう守ったじゃないか。それを自覚しろよ。じゃあな、早くクラスにもどれよ。」

「…うす。」

 

俺は誰かを救ったのか?

そんなことはない。

全部、俺のためにやったことだから。

でも、でも、何でか、織斑先生に言われた言葉は、俺が誰かを救ったと思わせる力があった気がする。

 

八幡は自問自答を繰り返すが、いっこうに解がでない。

それどころか、どんどん迷宮に、まるで底のない泥沼に足を突っ込んだのかと思わせるほど呑み込まれていく。

八幡はしばらく動くのはおろか立ち上がることすら出来なかった。

 

*************************

 

八幡が思考の海から抜け出し、クラスに戻ると、まだ話し合いが続いていた。

どうやらあまり時間は経っていないようだ。

八幡は自分の席に座ると、顔を伏せようとしたのだが、シャルロットに名前を呼ばれ、それが出来なかった。

 

「八幡、織斑先生とどこにいってたの?」

「いや、別に。」

「そう?ならいいけど。」

 

八幡は話すつもりはなかったが、こうもあっさり引くとは思ってなかったため、拍子抜けした感じがあったが、それでも黙っていた。

シャルロットは何やら落ち着かない感じだったが、特に何もしてくる様子もないので、こちらも動かなかった。

 

それに、こういう時間は別に嫌いじゃないしな。

 

心の中でそう言うと、シャルロットが口を開いた。

 

「ねぇ、知ってる?」

「え?何?まめしば?豆知識披露しちゃうの?」

「え?まめしば、何て言ってないよ…。」

 

なにその膨れっ面、あざと可愛いんだけど。

中学までの俺なら即告白して振られるな。

振られちゃうのかよ…当たり前だけど。

 

「それより、八幡の役割何か教えて上げるよ。」

「は?いや、別にいらんのだけど。働きたくないし。」

「そんなこと言わないで、とりあえず聞いてみてよ。」

「いや、これからあれがあれしてあれだから聞きたくない。」

「八幡、断りかたが雑すぎるよ。何、あれがあれしてあれだからって…。それに一番最後の聞きたくないって本心だよね?」

 

呆れるような口調で、八幡に言うシャルロット。

 

「そんなことはないですよ?」

「何で敬語になってるの?まぁ、いいや。ほら、ちょっと来て。」

「ちょっ!待てって。」

 

シャルロットは八幡の手を取り、役割決めをしているところまで引っ張っていく。

その時、八幡は少し頬を染めて目を反らしていた。

 

「みんなー、連れてきたよー。」

「デュノアさんありがとう。」

「気にしないで。じゃあ僕、メニューを考えなきゃいけないからあっちいってるね。」

 

え?あれ?

いきなり連れてこられて、放置ですか、そうですか。

 

若干拗ねていると、八幡が勝手にのほほんさんと心の中で呼んでいる少女が話しかけてきた。

 

「ひっきー、ひっきーの役割はね~、執事さんだよ~。」

 

何か、調子狂わされるような喋り方だな…。

って言うか、ひっきーって何だ。

俺は引きこもりじゃないぞ。

そんなことよりも執事って何だ、執事って。

 

「いや、執事、俺、やらなきゃいけないのか?」

 

何か最初の方単語羅列しただけじゃねぇか。

とうとう頭が壊れたか。

…自分で言っといてなんだけど、とうとうって何だよ。

まるでその内壊れるのわかってたみたいじゃねぇか。

……話それまくりでしょ、俺。

 

「当たり前でしょ。織斑くんと比企谷くんの二人で執事やらなきゃ‼せっかく男子が二人いるんだからさ。」

 

えっと…こいつ誰だっけ…?

確か、相、相、相なんとかさんだ、そうだそうだ。

って言うか、何だその理論は。

 

八幡が名前を覚えていない普通の少女、相川清香はそう言うと、八幡が少しキョトンとする。

 

「はぁ?」

「だから、執事をやって、女の子達をご奉仕してね。」

「は?いや、無理なんだけど。」

「ダメ。やってね?」

「…はい。」

 

軽く睨まれ、つい頷いてしまった八幡。

 

俺に決定権はないのか。

わかってた、わかってたけど俺の意志も聞いてくれると嬉しいな。

…めんどくさ。

 

結局、やることになってしまい、八幡は肩をがっくりと落とした。

この先どうなるか、たくさんの不安を残しながら。

 

 




のほほんさんがしゃべりましたよ‼
…いや別にのほほんさんが好きなわけでも嫌いなわけでもありませんが…。
という訳で文化祭突入です。
さて、ファントム・タスク(あってますか?)との絡みが出てきますね。
まぁ、それはもう少し先だとは思いますが…。
とりあえず、これからどうなるのか、待っていてください。

ではでは、次のお話でお会いしましょう。


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第12話 彼ら彼女らは最高にフェスティバる

お久しぶりです。

サブタイは俺ガイルから取りました。
何かすいません。
でも、文化祭って言う共通点があるからいいと思うんですよ。
え?言い訳だって?
ナンノコトデスカ?
はい、すいません。

という訳で、第12話、どうぞ。


文化祭当日、八幡と一夏は執事服に着替え、教室に待機していた。

 

何か馬子にも衣装で、全く似合ってねぇな…。

織斑の方がカッコよく見えるのはあいつがイケメンだからに違いない。

まぁ、別にいいんだけどね?

それよりショックなのは、クラスの女子に顔はイケメンだけど目が腐ってるから今のままでも十分なんだけど、今回はメガネ掛けてね、って言われたことなんだけど。

確かに腐ってるけどさ、もうちょっとオブラートに包んで欲しかった。

 

そんなことを思っていると、続々とクラスメイト達が教室に入ってくる。

中にはメイド服を着て接客する人、コック姿で料理する人と様々だが、喫茶店なので、そんなに凝った料理でもするわけではないが、料理する人までメイド服だとやりにくいと要望があったらしい。

それを八幡は後から聞かされた。

 

後から聞いたって俺に決定権ないじゃん。

俺も料理作りたかった。

今さら言ってもしょうがないか…。

…働きたくないな~。

 

そんなことを思いながら目を腐らせていると、IS学園、学園祭開始の音楽が鳴り響くのと同時に八幡のクラスはやる気に満ち溢れていた。

 

「よーし、頑張るぞー!!おー!!」

「「「「おー!!」」」」

 

謎の掛け声をしていたクラスメイトを見て、八幡は照れながらも、小さくそれをやっていた。

それに気づいた一夏はニヤニヤしていたが、気にせず、お盆を手に持つとそこから離れていった。

やがて、客がどんどん入ってきた。

それどころではなく、行列も出来ており、次から次へと仕事が入ってくる。

しかも、悪いことに男子がせっかくいるため、男子に接客して欲しいとほとんどのお客がそう言うため、一夏と八幡がやらなくてはならない状況になってしまっていた。

 

「お待たせいたしました。アップルパイセットでございます。」

 

一夏は臆することなく、接客していく。

 

あ、あれがリア充の余裕なのか…!!

 

一方の八幡はと言うと…。

 

「お、お待たしぇいたしましゅた。チーズタルトしぇっとでごじゃいましゅ。」

 

…噛みすぎだろ俺ええええええ!!

恥ずかしい恥ずかしい死にたい死にたい死にたい。

アイデンティティがクライシスしちゃって個性が壊れちゃったよ。

どんだけ壊れてんだよ、て言うかどこの何縄くんだよ。

手をくねくねさせちゃうの?

…誰だよ何縄くんって。

 

そんなことを思っていると、必ずお客の女子たちはこう言う。

 

「可愛い。って言うか、何かイメージと違うけど、これはこれで凄くいい。」

 

何が可愛いんだよ、それにいいって何だよ。

…女子の言ういいとは100%どうでもいい人だから気にしないよ。

 

目を更に腐らせていると、のほほんさんが八幡のもとに走ってきて耳打ちする。

 

「ひっきー、指名が入ったよ~。」

「お、おう。」

 

何だよ指名って。

何、ここはホストなの?

 

そんなことを思いながら、指名してきたと言う人物の方へ歩み寄っていく。

 

「い、いらっしゃいましぇ。」

 

また噛んだ…。

いい加減になれろよ俺…。

でも、ぼっちに会話を求める方が悪いよね。

つまり、俺は悪くない。

何でも会話で済まそうとする社会が悪い。

違う?違うか。

 

「君が比企谷八幡くん?」

「あ、はい。」

 

急に聞かれるとあ、とかつけちゃうからやめてくださいね。

 

「ふーん…。」

 

謎の女性は、金色の髪を靡かせながら、胸元が開いているスーツに身を包み、品定めをするかのように、八幡を眺めていた。

何となく居心地が悪くなり、八幡は一歩後ろに下がろうとしたが、彼女がスッと視線を戻したため下がることはなかった。

 

「ごめんねいきなり。私は、ナターシャ・ファイルス。シルバリオ・ゴスペルの操縦者よ。」

「はぁ。で、何か用ですか?」

「君にお礼を言いたくて。本当はもっと早く来たかったんだけどね。あの子を回収したり、壊れちゃってたから直してたりしてたらなかなか行けなくて。」

「い、いえ、別にお礼なんていいです。」

 

八幡はナターシャにお礼を言われることなんてないと思いながら、一歩下がる。

 

「ううん。そう言う訳にはいかないよ。だから、お礼させて?」

 

そう言うと、ナターシャは一気に八幡との距離を縮め、顔を近づける。

その瞬間、頬に何か柔らかいものが当たった感触がした。

八幡は一瞬何をされたのか分からず、硬直していたが、理解した後には顔を真っ赤にしてあたふたしていた。

 

「え?は?え?」

 

何、いきなりそんなことするなんてさすが外国のかたですね。

これって挨拶だよね?

そうだよね?

 

内心パニックになりながら、口をパクパクしていると、ナターシャは微笑み、耳許でこう囁いた。

 

「私、君の事気に入ったから、また会いに来るね。」

 

ファイルスさん、そんなこと言うと勘違いしちゃうからやめてくださいね。

わかったらこれから、近寄らない、話しかけない、ボディタッチしないを徹底してくださいね?

 

顔を赤くしながら、抗議しようとしたが背後からの殺気を感じ取り、顔が真っ青になる。

 

「あら?ライバルは多い感じかな?でも、私も参戦しちゃうからね。」

 

そう言うと、またね。と手を振りながら、颯爽と去っていくナターシャ。

八幡は呆然としながら、これから起きるであろう最悪の事態を想定して心の中で泣いた。

 

ファイルスさん、あなたとんでもない爆弾を落としていって…。

小町、助けて。

こういう時、お兄ちゃんどうすればいいの?

 

その質問に誰かが答えてくれるわけもなく、シャルロットとラウラにお仕置きされた。

 

**********************************

 

シャルロットとラウラからのお仕置きが終了し、教室に戻ってくると、扉を開けてすぐのところに楯無がメイド服を着て、そこに立っていた。

八幡はそれを見ると、扉を閉め、逃げていく。

 

…何か知らんが、今捕まると絶対面倒な気がする。

それに、チラッと見たが、あのとき織斑と話していたのってあれだよな?

 

八幡は携帯を取り出し、束にメールを送ろうと思いながら、何時だったか束が言っていたある組織の中にいる人だろうと考え、特徴を書き綴り送信したのと同時に、なぜか目の前には楯無がいた。

 

え?何でいるの?

瞬間移動とか出来ちゃうの?

怖いんですけど。

逃げていい?逃げれませんね、はい。

 

八幡は色々と諦め、大人しく捕まることにした。

 

「八幡くん、何で逃げるのかな~。おねぇーさん、悲しいな~。」

「気のせいですよ。」

「ふーん…。素直に言わないと、小町ちゃんに色々と聞いちゃうぞ。」

「な、何で会長が小町に聞くんですか?って言うか、連絡先知りませんよね?」

「え?この間、八幡くんの誕生日の時に聞いたよ?例えば、八幡くんの欲しいものは本も…。」

 

本物と出てくる前に八幡は言葉を遮る。

 

「わかりました。逃げました。すいませんでした。」

 

もう速さが足りないとは言わせないぜ。

…誰に言ってんだろ俺は。

 

八幡は自分で自分を突っ込むと、楯無と向かい合う。

 

「それで会長、何か用っすか?」

「八幡くんに会いたくて。」

「会いましたね。それでは。」

 

そう言うと八幡は立ち去ろうと振り返る。

だが、楯無はそれを見て慌てて八幡の肩を掴む。

 

「待って。ちょっとお話があるんだけど。」

「…何ですか?」

「今から生徒会主催の演劇に織斑くんと出てくれない?」

「…いやで…。」

「本物…。」

 

断ろうとした八幡だが、楯無にぼそりとそう言われ、恥ずかしさのあまり即答してしまった。

 

「わかりました。すぐに出ますよ。」

 

何でそんなに本物で反応するのかって?

恥ずかしいからに決まってんだろ。

恥ずかしすぎて死ねるまである。

…マジで今後言わないでくださいね、会長。

 

八幡の返事を聞いた楯無は笑顔で案内すると、更衣室で衣装に着替えさせられ、王冠を頭に被され、コンサートホールのようなところへ行かされ、一夏と一緒に周りに演劇で使う物が置いてあったり小道具が置かれていたりと、様々だったが、始まる兆しが見えない。

 

「何か、おかしくねぇか?」

 

この事に疑問を感じたのか、一夏が八幡にそう言う。

八幡も、なぜまだ始まらないのか、不思議に思っていたところだった。

そんなときだった。

いきなり、照明が消えスポットライトが八幡と一夏を照らし出すのと同時に、二人の後ろにモニターが出て来て、何やら映像が写し出されていた。

 

「ワルキューレ、それは、戦う女の姿。そんな彼女らが戦う理由は、王子さまとの特別な関係になりたいと願うからである。」

「織斑、何か嫌な感じがするんだが…。」

 

八幡はこのナレーションの声に聞き覚えがあり、なおかつ今ここにいる状況を考え、嫌な解にたどり着いてしまった。

その間もナレーションは続く。

 

「奇遇だな。俺もだよ。」

 

そう答えたのとほぼ同時にこの舞台のあらすじが済んだのか、始まりの合図が鳴り響く。

 

「…逃げるぞ。」

「お、おう。」

 

八幡はいち早く逃げ、なぜかそこにあった煉瓦で作られているのかは知らない、塔の中に入る。

すると、外から叫び声が聞こえた。

 

「一夏!!早く出てきなさいよ!!出て来て私にその王冠を渡しなさい!!」

「織斑、呼んでるぞ?」

「いやいやいや、出てったら何されるかわかんないんだけど。て言うか滅茶苦茶怒鳴ってるからね?俺怖くて出れないよ。」

 

八幡の言葉に必死に言い訳を考えて、逃げようとする一夏。

 

それもそうだな。

捕まったら面倒だし。

 

そう思っていた時だった。

八幡のポケットから軽快な音楽が鳴った。

とっさに掌で押さえたが、八幡は全身から冷や汗が出てくる。

 

「…八幡、逃げようぜ。」

「…そうだな。」

 

二人は立ち上がり、逃げようと前を向くと、後ろから鈴の姿が見えた。

その手には青竜刀が握られており、ものすごい勢いでこちらに迫ってきた。

 

「一夏!!待てぇぇぇぇ!!」

「八幡、行こうぜ!!」

「いや、俺関係ないし動きたくないから。」

 

そう言うと、八幡はとばっちりを受けないように少し奥まった部屋に入ると、そこで息を潜める。

あっちの方では八幡の裏切り者とか、薄情者とか、叫び声が聞こえるが気にしないことにした。

八幡は鈴達が去ったことを確認すると、携帯を取り出し、メールの内容を見る。

 

やっぱりね。

となると、仕掛けてくるなら今か。

だったら早めに行動しておくか。

ったく、テロみたいな活動は止めて欲しいな。

俺が働くことになるから。

 

早速、活動をしようとすると、前と後ろからよく見知った顔が現れた。

 

「ゲッ…。」

 

シャルロットとラウラだった。

二人の姿は何やら西洋風の鎧を纏っており、端から見ていると物々しい雰囲気を醸し出している。

 

って言うか、何で鎧?

ワルキューレだから?

それはないでしょー。

…口調が変になっちまったよ。

 

そう思いつつ、どうやって逃げようか、考える。

八幡はとっさに浮かんだ作戦で逃げようと、さっきまでいた部屋の出入り口に近い壁に背中を預け、息を潜める。

やがて、シャルロットとラウラは部屋の中に入ってきたが、八幡を見つけられないのかキョロキョロしていた。

八幡はその隙に流れるような動作で外に出ていくと、走り出す。

足音に気づいたのか、二人が声を上げる。

 

「八幡、逃がさないよ!!」

「私の嫁ならば、黙って捕まれ!!」

 

いや、怖いから。

マジで怖いから。

って言うか、嫁じゃないからね?

捕まりたくないです。

何されるのかわかったもんじゃねぇから。

 

恐怖心に負けないように走っていると、一夏がセシリアに狙撃され、箒には刀で切りつけられたり、鈴には青竜刀で攻撃されていた。

 

…あれ、修羅場?

武器を取り出してやる修羅場とか戦場だけにしろよ。

思わずここが戦場かと疑っちまうだろうが。

 

一夏から目をそらし、どうしようかと頭を巡らせていると、なぜか地響きがした。

 

え?なに?

地震なの?

それとも織斑捕まっちゃったの?

 

何が起こったのか分からず思わず立ち止まってしまった。

 

「それでは、今から希望者による乱入です♪」

 

は?

 

余計に訳が分からず、フリーズしていると、周りに制服を着た女子がやたらと増えてきた。

 

「比企谷くん、私に王冠頂戴!!」

「ずるい!私も欲しい!」

「ひっきー、私にちょうだ~い。」

 

何か知らないけどヤバイ!

何がヤバイって一人一人が怖くてホントマジでヤバイ。

これなら肉食獣に追われてた方が良いかも…うん、どっちも嫌だわ。

ってか、王冠脱げばいいんじゃね?

 

そう思い、走りながら王冠を取ろうとしたとき、再び楯無の声が聞こえた。

 

「王子さまの王冠は大切なもの。自分で取るなんて考えられません。」

 

は?

なにそれ、脱いだらどうなんの?

え、何か怖いんですけど。

迂闊に取れないじゃん!

 

そんなことを思っていると、目の前から女子に追いかけられている一夏の姿が見えた。

そして、いきなり消えた。

 

「は?」

 

八幡は身近にあった隠れられそうなところに入り、シャルロットとラウラにやったようになんとか抜け出し、一夏の吸い込まれていった所へ八幡も強引に入っていった。

 

 

 




ストックが尽きてきたので、更新速度は遅くなります。
それでも自分なりの解釈で終わらせたいと思いますので、よろしくお願いします。

話はファントム・タスクがそろそろ登場です。
少し展開が早い気がしますが、これからはあまり早くならないようにしたいと思いますので、応援お願いします。

ではでは、また次のお話でお会いしましょう。


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第13話 彼らの前に現れたのは

更新遅くてすいません。
書いては消し、書いては消しを繰り返していたら、こんなに遅くなってしまいました。

これからも亀更新かと思いますが、読んでくれると嬉しいです。

では、どうぞ。




八幡は一夏が消えた所から、下へと行くと広がっていたのは更衣室だった。

そのまま息を潜めてどうなっているのか耳を澄まそうとしたが、その必要もなく、大きな音がした。

その音を聴いて、八幡の体が少しビクッと跳ね、その後すぐ駆けつけようとしたが発砲音が鳴り響き、身を屈めた。

 

「くそっ…。何してんだよ。」

 

そう呟くと、目の前に白い機体が一瞬だったがいた。

次の瞬間には銃弾がそこに驟雨のように撃ち込まれてくる。

八幡は咄嗟に左腕にISを部分展開させ、星影を使いなんとか防いだ。

 

おいおい、これはヤバイな。

助けを呼んだ方がいいか?

いや、それだと織斑が危ない。

だったら。

 

八幡が結論に至っても相手は攻撃を休めることなく、一夏を狙って発砲していた。

その間、一夏はずっと逃げ続けていたが、逃げきれないと判断したのか、攻撃し始めた。

 

くそっ…。

自分から捕まりにいってるようなもんじゃねぇか。

ったく、めんどくせぇ。

 

八幡は静かにISを展開させ、流星を敵のISに向けて放つ。

敵のISの一部しか見えてなかったが、それで十分だったようで流星が攻撃を始めた。

 

「なっ!?誰だ!!」

 

敵が気づいたのか、少し苛立たしげに声を張り上げる。

八幡はそれに応じることなく、音もなく背後に近寄り、十六夜と朔光を蜘蛛の形をしている敵のISに斬り込む。

一夏をつかんでいた腕の一本が切り落とされ、一夏がその場を離脱し、八幡の後ろにつく。

 

「織斑、外と通信をしろ。俺がちょっと足止めしとく。」

「わかった。」

 

そう言うと、八幡は吹き飛んでいった敵、オータムの元へいき、十六夜と朔光から新星と鬼星に切り替え、オータムの頭に狙いを定め構える。

 

「よう、ファントム・タスクのオータムさん。」

「てめぇ、わかってやがったか。」

「とある情報提供者からね教えてもらったんだよ。」

「っち。」

「で?何が目的だ。」

「…。」

「無言か。どうせ、白式のデータとか盗もうとしたんじゃねぇの?」

「…っ!!」

「その反応、当たりか。じゃあそう言うことなら、お前を拘束しないとな。」

 

八幡がそう言うのと同時にオータムのIS、アラクネから糸が無数に出てきた。

捕まると思い回避行動をしたのだが、為す術もなく捕まってしまった。

だが、八幡は自分が思っているより冷静にこの状況を把握し、それと同時に対処の方法を見つける。

その時、通信がひとつ入った。

一夏からだった。

 

「八幡、大丈夫か!?」

「あぁ。それより、外との通信は出来たか?」

「何とか出来たけど、応援は来れないらしい。何でも相手にハッキングされてロックされてるらしい。」

「なるほどね。じゃあ俺が何とかするから、後は頼むぞ。」

「何とかって何だよ?」

「見てればわかるさ。」

 

そう言うと、勝手に通信を切り目の前のニヤニヤと薄ら笑いを浮かべて余裕そうな雰囲気を醸し出しているオータムを見て、ひとつため息を盛大に吐いた。

 

「何だよ。お仲間と仲違いしたか?」

「は?仲違いするまで仲良くなっちゃいねぇよ。」

「ならなんだよ。あぁ、自分の弱さに呆れたか?」

 

オータムは高笑いをすると、それを見ていた八幡の口許が上がる。

それに気づいたオータムは八幡を睨み付ける。

 

「何笑ってんだよ。」

「いや、案外お前って隙だらけなんだなって思ってさ。」

 

八幡は背中の流星をパージし、オータムに放ちそのまま月華を装備する。

オータムは流星の攻撃を防ぎながら、怪訝そうな目をこちらに向ける。

 

「さて、これからどうするでしょうか。」

 

楽しそうにオータムに質問する。

だが、それに答えられず睨み続けるオータム。

八幡は答えを言わず、一夏に通信を繋ぐ。

 

「織斑、俺の近くに来い。」

 

その一言だけを言うと、通信を切り、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。

 

「答え合わせといこうか。答えは…。」

「八幡、何だよ?」

「っと、その前に織斑、月華を天井に向けてくれ。」

「何でだ?」

「いいから。」

 

意図が分からないようで、首をかしげていたが、月華に手を伸ばし天井へとその砲口を向ける。

 

「答えは…天井を吹き飛ばす、でした。」

 

そう言うと、八幡はファイアと叫び月華の攻撃を放ち、天井に大穴を開け、一夏に糸を切ってもらい外に出る。

八幡は月華をしまうと、流星を戻す。

オータムはボロボロになりながら這いずり出てくる。

その様子を眺めていると、後ろから声がかかる。

 

「八幡、大丈夫?」

 

振り返るとそこにはシャルロット、ラウラ、箒の三人がいた。

 

「おう、何とかな。他のやつらは?」

「セシリアと鈴はもう一機、ISの反応があったからそっち向かってるよ。」

「そうか。じゃあそっちに織斑と篠ノ之は応援に行ってくれ。何か嫌な予感がする。こっちは三人でなんとかするから。」

「わかった。八幡、気を付けろよ。」

「あぁ。」

「箒、行くぞ。」

「わかった。」

 

二人はこの場から離脱すると、セシリアと鈴の応援へと向かった。

八幡は再びオータムの方へ視線を移すと、ほぼ満身創痍な状態で立っている姿を見た。

 

「降伏はしないんだな?」

「当たり前だ!!お前らなんかに負けてたまるかよ!!」

「そうか。」

 

八幡は短くそう答えると、オータムの懐まで一気に間合いを詰める。

 

「イグニッション・ブースト!?」

 

シャルロットが驚きの声を上げているが、八幡は気にせず十六夜と朔光を手に持ち、斬り込む。

 

「くそがぁ!!」

 

複数ある足を器用に使い、攻撃と防御を交互にやろうとするが、八幡は足許に潜ると、次から次へと足の間接部を狙い、切り取っていく。

 

「なっ!?」

「さて、これでもまだやるか?」

「くっ…。」

 

オータムが舌打ちし、八幡が銃口を向けたとき、空から何かが降り立ってきた。

 

***************************

 

セシリアと鈴の二人を援護しに行った一夏と箒は、目の前にいる蝶を思い浮かべられるISと対峙していた。

 

「お前は誰だ!?」

 

一夏はその相手に声をかける。

その相手は何も答えず、口許だけを歪めて笑うと、セシリアのBT兵器と同じものを飛ばし、攻撃してきた。

 

「箒!」

「わかっている!!」

 

くそっ…。

隙がねぇ。

何か、何か、こいつに勝てる方法は。

 

一夏は避けながらそう考えていると、いつ移動したのか敵が目の前にいた。

 

「なっ!?」

「死ね。」

 

相手はそう言うと、一夏に砲口を向ける。

だが、それが火を噴くことはなかった。

よく見ると、箒、セシリア、鈴の3人が加勢し、相手に攻撃を始めたからだった。

 

これならいける!!

 

そう思った一夏だったが、相手が予想以上に強く、撃墜どころか足止めにもならず、八幡達がいるところまで飛んでいってしまった。

 

***************************

 

オータムに銃口を向け、相手が諦めの顔をした時、誰も気づかなかったが、いつの間にか一機のISが空いた天井からこちらを眺めていたが、オータムの事を見ると、BT兵器を使い、シャルロットたちも巻き込み、攻撃を繰り出してきた。

 

「くそっ…。」

 

八幡は小さくそうこぼすと、敵に向かって飛んでいく。

 

「八幡くん、行ってはダメよ!!」

 

その瞬間、楯無が八幡を止めた。

八幡は一瞬、迷ったが敵に向かわず、そのまま着地した。

その敵はオータムの所へ降り立つと、こちらに警戒しながらオータムを回収した。

その際、オータムはコアを回収し、逃げていった。

それだけだと思ったが、蝶のISを身に付けている敵がいきなりアラクネをこちらに投げた。

そこからは何か、カウントダウンのような電子音が鳴り響いている。

 

自爆か!?

どうする。

決まってる。

俺がやってやる。

 

八幡は両腕の星影を展開すると、身を守ろうとしたが、いかんせん距離が近すぎる。

 

防ぎきれるか?

 

不安が残りつつ、時間が来て爆発に巻き込まれる。

だが、思ったよりも衝撃がなかった。

それどころか、顔に柔らかいものが当たっている感触があった。

 

俺死んだのか?

じゃあここは天国?

え、マジで?

最後に小町に会いたかったよぉ!!

 

そんな風に嘆いていると、上から声が聞こえた。

 

「あん。」

 

は?

なに?今の声。

何か嫌な予感しかしないんだけど。

って言うか、どっちが上かなんてわからないけどね。

 

八幡は何やら不穏な空気を感じながら、恐る恐る目を開けようとする。

 

怖いから目覚めたくないです。

何でって?

だって目の前に人影がありそうだもん。

 

そんな風に思いながらも、意を決し目を開けることにした。

 

「は?」

 

目を開けたそこにあったのは、なぜか真っ暗な闇だった。

 

嫌だから何でだよ。

なに?目が覚めたら真っ暗って。

目が覚めたら真っ暗とか死んじゃったの?って思っちゃうだろ。

 

なぜ真っ暗なのか、さっぱりわからない八幡。

すると、真っ暗のその塊が動く感じがわかった。

 

え?ワームかなんかの腹の下なの?

怖いって。いや、マジで。

 

そう思っていると、予想外のものが目の前にアップで写っていた。

 

「ばぁ~。」

 

…はい?

なぜ会長が俺の目の前に?

って言うか、さっきの暗闇は何だったの?

 

「あれ?反応が薄いな~。おねぇーさん、ちょっとがっかり。」

 

八幡が黙っていると、なぜか楽しげな声を出しながらそう言う楯無。

 

「いや、何が起きたのかさっぱりわからなかったので。」

「そっかそっか。ところで、お姉さんの胸の感触はどうだった?」

 

そう言われた瞬間、八幡の思考がフリーズした。

それと同時に、段々と顔が赤くなっていく。

楯無は八幡のその顔を見て、くすりと笑いこう言った。

 

「その顔が見たかったのだ~。」

「…どいてください。」

 

からかわれたことがわかり、むすっとしながら八幡はそう言うと、楯無が抱きついてきた。

 

「拗ねないで~。」

 

ちょっ…マジで止めて!!

色々と柔らかくていい匂いで恥ずかしいので。

わかったらこれから俺に構わないでくださいね。

 

「拗ねてません。」

「まぁ、そんなことはどうでもいいけど…。八幡くん、織斑先生が怒ってたよ?」

「は?何でですか?」

「勝手に相手と交戦したから。それに、織斑くん達を別のところへ応援に行かせたでしょ?それがいけなかったみたい。」

 

え?マジで?

これ、俺マジで死んじゃうんじゃない?

…逃げなきゃ。

 

使命感にも似た感情を持った八幡だったが、その顔は青くなっていた。

 

「そ、それよりも、他のやつらは大丈夫ですか?」

「えぇ。デュノアさんとボーデヴィッヒさんならそこにいるわよ?」

「え?」

 

楯無が指を指した方向に首を向けると、そこには怒り心頭の二人がそこにいた。

 

「お、おい、何でそんなに怒ってるんだ?」

「八幡、惚けなくてもいいよ?きれいなお姉さんに抱かれてスケベ面をしてるのにね、ラウラ。」

「そうだな。シャルロット、嫁をどうしてやろうか。」

「そうだね。少し痛ぶってから、尋問だね。」

「シャルロット、そこは尋問じゃなくて拷問にしたらどうだ?」

「うん、それがいいよ。」

 

終始笑顔でそう言う二人。

八幡は体中から嫌な汗が止まらなかった。

楯無はそれを笑顔で見つめていた。

 

笑ってないで助けて!!

マジヤバイって。

何、二人ともヤンデレなの?

いやでもデレてないか、そうするとただの病んでる危ないやつだ。

ヤバイヤバイヤバイ。

逃げなきゃ、織斑先生に殺される前に殺されちまう。

だから会長、早くどいてください。

 

その願望を瞳に込めて楯無を見る。

だが、ただ笑顔でいるだけで抱きついたまま、その抱き締める力を強くしていた。

 

ちょっと!?

今のでわかったよね?

何で離さないの?

いや、いい匂いだし柔らかいし気持ちいいからいいんだけどね…って違う違う。

煩悩退散煩悩退散。

 

八幡は身動きがとれないまま、シャルロットとラウラの接近を許してしまった。

シャルロットは左腕にシールド・ピアースを。

ラウラは右腕のプラズマ手刀を部分展開し、八幡にそれを向ける。

 

死んだな。

小町に会いたかったよ。

ごめんな、最後までダメなお兄ちゃんで。

 

そんなことを思い、目を瞑る。

だが、一向にシャルロットとラウラの攻撃がやってこない。

不思議に思った八幡は恐る恐る目を開ける。

するとそこには、彼女が先程纏っていたIS、ミステリアス・レイディの武器、蒼流旋で二人の攻撃を弾いていた。

 

「おねぇーさん、八幡くんのこと気に入ってるんだよね~。だから手を出されると困るかな?」

 

いつの間に離れていたのかはわからないが、八幡は助かったことに胸を撫で下ろす。

 

「会長、僕は八幡に用があるんです。邪魔しないでください。」

「私と嫁はこれから大事な話をしなくちゃならない。だからそこを退いてもらおう!!」

「そういえば、まだ言ってなかったわね、君たちには。IS学園の長である生徒会長はある一つの事実を象徴しているの。何かわかる?」

「わかりません。」

「今はそんな話はどうでもいい。」

 

シャルロットとラウラはお互いに言い分は違うものの、それぞれ答えた。

楯無はそれを笑顔で聞くと、こう告げた。

 

「この学園最強であれ、ってね。」

「そんなの、やってみなきゃわからないじゃないですか。」

「そうだ。シャルロットの言う通りだ。」

「困ったな~。じゃあ、こうしよっか。模擬戦で証明してあげる。」

「わかりました。」

「嫁は誰にも渡さん。」

「ここで賭けるのは、八幡くん自身じゃなくて八幡くんが被っていたこの王冠。」

 

どこから出したのかわからないが、その手には八幡の被っていた王冠が握られていた。

それを見た瞬間、シャルロットとラウラの食い付きがよくなった。

 

って言うかいつ取ったの?

どこで取ったの?

よくこんな状況でとれましたね。

 

八幡は変なところで感心してしまった。

 

「わかりました。必ず勝って八幡の王冠を僕が貰います。」

「生徒会長だかなんだか知らんが、その王冠は私が貰う!」

「うん。盛り上がってきた~。じゃあ明日も文化祭あるから、明々後日、第3アリーナでって事でどう?」

「はい。それで構いません。」

「私もそれでいい。」

「うん。じゃあそう言うことで、じゃあね。」

 

楯無はそう言うと、この場から立ち去って行く。

残された八幡とシャルロット、ラウラはその後ろ姿を眺めていた。

すると、後ろから足音が響いてきた。

八幡はそちらに視線を移すと、素早く立ち上がり逃げ出そうとした。

 

何でここにいるの?

山田先生とかと解析してるんじゃないの?

怖い怖い怖い。

 

八幡の恐怖の対象、千冬は逃げ出そうとしている彼を見ると、駆け出し肩を掴む。

 

「比企谷、ちょっと聞きたいことがある。着いてこい。」

 

…早くね!?

おかしいって!!

相当離れてたよね?

何で一気に間合い詰められてるの?

これがブリュンヒルデの実力なのん?

っべーわ、マジヤバすぎっしょー。

……口調がおかしくなっちまったよ。

 

情緒不安定気味の八幡を引き摺り、千冬はこの場を去っていった。

後に残されたのは、破壊されたこのホールと二人の少女だけだった。

 

 




ファントム・タスク出てきました。

今回のお話はどうでしたでしょうか。
可笑しな所は指摘してください。
ちなみに学園祭は二日間となっていますので、ご了承下さい。

評価や感想お待ちしております。

という事で、また次のお話でお会いしましょう。


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第14話 何事もなく文化祭は進んでいく

お久しぶりです。

もうしばらくは文化祭が続くのでご了承下さい。
そして、本当に今更ですがキャラ崩壊してますので、その点もご了承下さい。

では、どうぞ。




今の状況を説明しよう。

二日間の文化祭初日、ファントム・タスクの襲撃により、一時混乱となったが、すぐにその混乱は収まり、今では普通にクラスでの出し物をしているし、部活に入ってるやつは部活の出し物の方に行っている。

そんななかで俺は、生徒指導室に織斑先生と一緒にドキドキしながら座っている。

何でドキドキしてるかって?

そりゃお前あれだよ、殺されるかもしれないのにドキドキしない方がおかしいだろ。

 

そんなことを考えながら、八幡は千冬と対面しあう形で机を挟み座っていた。

まるで事情聴取を受けるような形であるが。

 

「それで、何か言うことはあるか?」

「な、何がでしょうか。」

「お前、勝手に戦闘したな。それに、貴様は私たちとの通信まで切って、さらには私の指示を聞かずに勝手にしたが、いい度胸してるな。」

「いえ、これはですね、事情がありまして。」

「ほう?言ってみろ。」

「まず第一にですね、織斑が目の前でいなくなりまして、それで探していたら戦闘に巻き込まれまして、それで仕方なく交戦してました。第二に、現場の状況から判断して別にいいかなと思い、織斑と篠ノ之を応援に向かわせました。」

 

一通り早口で捲し立てるように事情を説明すると、千冬は静かに足を組み直し、八幡を睨み付ける。

 

いや、だから怖いって。

そんなに睨み付けてももう俺の防御力はとっくにゼロだから。

むしろ防御力どころかHPまでゼロになってるまである。

 

「そうか。なら、もし怪我人がいたら責任は取れたか?」

「…すいませんでした。」

 

その言葉を聞いて、地面に正座し頭を下げる、見事なまでの流れ作業で土下座をした。

 

ヤバイ、土下座までの動きがスムーズ過ぎてヤバイ。

何がヤバイって、土下座世界選手権があったら金メダルとれちゃうぐらいヤバイ。

…色々ヤバイな。

 

そんな事を考えながら頭を下げ続けていると、頭上から千冬のため息が聞こえた。

 

「まぁ、いい。とりあえず、今日はグラウンドの整備な。」

「え、マジですか?」

「何だ?文句あるのか?」

「ありません。喜んでやらせていただきます。」

 

ギロリと睨まれ、八幡はすぐにそう言うと千冬に背を向ける。

 

え?手の平返しが早いって?

バッカ、お前ブリュンヒルデを怒らしたら、俺の命がいくらあっても足りないぞ。

って言うか俺は誰にいってるんだ?

 

八幡は失礼しますと言って退室すると、いつの間に戻っていたのかは知らないが、生徒と外部から来た人たちが学園祭を楽しんでいた。

八幡はクラスに戻る気になれず、グラウンドの整備をしようと、足を出したとき背後から名前を呼ばれた。

 

「比企谷くん。」

 

おい、比企谷くんとやら呼ばれてるぞ。

…俺か。

 

八幡は後ろを振り返るとそこにいたのは、ナターシャだった。

 

「何か用っすか、ファイルスさん。」

 

訝しげな表情でナターシャを見ながら不機嫌さを前面に押し出しながらそう言った。

ナターシャは少し寂しげな表情をしながら、口を開く。

 

「ひどい。比企谷くんに会いたくてここに来たのに。」

「会いましたね、それでは。」

 

そう言って素早く立ち去ろうとしたのだが、肩を思いの外強く掴まれ、逃げることができなかった。

 

「比企谷くん、どこ行くのかな?」

 

怖いって。

何で俺の周りの女子は強い奴ばっかなの?

え?俺が弱いだけ?

その通りです。

 

「織斑先生にグラウンドの整備をやれと言われてるので、そちらに行きますが…。」

「ふーん。じゃあそこまで行くのに付き合っちゃうね。」

「は?」

 

いや、何でだよ。

そこは、頑張ってね、と言ってどっか行っちゃうパターンだろ?

何でそうしないんだよ。

 

その思っているのが、顔に出ていたのかナターシャは微笑みながら八幡にこう言った。

 

「さっき言ったよね?比企谷くんに会いたいからここに来たって。ちょっと話そうよ。」

「…うす。」

 

渋々了承すると、笑顔でそれに答えるナターシャ。

 

「ところで、さっきの事だけどさ。」

「何ですか?」

「比企谷くんも戦ったの?」

「はい。戦いましたが?」

「そっか。」

 

そこで会話が途切れたが、彼女は八幡の横から退こうとしなかった。

八幡は気恥ずかしさと共に疑いの面持ちで歩いていく。

すると、ナターシャがいきなり立ち止まる。

 

「ねぇ、比企谷くんはどうしてあの子を助けたの?」

 

あの子?

あぁ、福音の事か…。

どうしてってそれは…。

 

「相棒に頼まれたんすよ。あいつを助けてやれって。」

「その相棒って誰?」

「わかりませんよ。ただ、何となく自分でもなんでかは知らないし、その相棒の事を信じてるわけでもないんですけど、その相棒ってやつは意外と近くにいそうなんですよね。」

「そっか。」

 

そこで一旦区切ると、ナターシャは口を開く事なく八幡を見つめた。

八幡は恥ずかしくなり、目を背けるとナターシャが近づいてきた。

 

「じゃあ、もうひとつ、いい?」

 

上目遣いで見上げるナターシャを見て、八幡は頬を染める。

 

「べ、べちゅにいいでしゅよ。」

 

何で噛んじゃうんだよ‼

恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!

…死にたい。

 

その反応を見て、くすりとナターシャは笑い、八幡から離れる。

 

「比企谷くんはさ、何でそんなに目が腐ってるの?」

 

…は?

最後に聞くとこそれですか?

もっと他にないの?

…ないな。

って言うか最初に聞かないだけマシか?

 

「…元々ですよ。生まれつきです。」

「ふぅーん。ホントに?」

「…はい。」

「違うよね。比企谷くんは私には見えないところまで見えてる気がするの。」

「いや、俺も見えないものは見えないですよ。」

「そう言うことじゃなくて、この世界の事とか、人の事。」

「見えませんよ。何も。」

 

八幡はそう言うと、ナターシャに背を向ける。

それを見たナターシャは、八幡のそばに駆け寄る。

 

「何か隠してない?」

 

その問いには何も答えなかった。

ナターシャは答えが帰ってこないとわかると、八幡の前に出ると、行く手を塞いだ。

 

「話して。」

 

そして、真っ直ぐな目を向けながら、八幡を見つめる。

八幡はそれを真正面から受けると、諦めたかのようなため息と顔をして口を開いた。

 

「わかりました。簡単に話しますよ。」

 

そして、八幡はこれまでの事を簡単に簡潔に話始めた。

その話はナターシャにとって、予想外の事だった。

全てを聞いた後にナターシャは深刻な顔をしていた。

 

「比企谷くん、どうしてそこまでされてるのに、そんなに心が強くいられるの?」

「強くないですよ。弱すぎて豆腐より脆すぎるレベル。」

 

少し冗談を挟んだが、ものすごく睨まれた。

 

え?何で睨んでるの?

真剣に答えないとダメなの?

泣きそうなんですが…。

泣いていいんですね、そうですか。

 

「じゃあ仮にそんな弱いメンタルで、よく今まで生きてこれたね。」

「…そうですね。親にもお前はゴキブリ並みだなと言われましたからね。」

 

何で車に轢かれて病院にいった後、親が来てからの第一声がそれって…。

それにいじめを相談しようとしたときも、お前ならなんとかなる、とかもうちょっと息子を労れよ。

 

そう言いながら目をさらに腐らせていると、ナターシャが少し笑うと口を開いた。

 

「そっか。じゃあそのゴキブリ並みの強さの源は何?」

「小町とマッカン。」

 

八幡は即そう答えると、ナターシャは少し引いていた。

 

え、何かまずいこと言った?

俺まともなこと言ったよね?

 

「比企谷くん、小町って誰?」

「妹です。」

「じゃあマッカンは?」

「マックスコーヒーです。」

「マックスコーヒーってなに?」

「最高の飲み物ですよ。俺のソウルドリンクです。」

 

珍しく目を輝かせながら力説する八幡。

 

マッカンは千葉県民なら嫌いなやつはいないとされるソウルドリンクだぞ。

異論は認める。

…認めちゃうのかよ。

って言うか、IS学園に来てショックだったことは小町に会えないし、マッカンはないし、全生徒女子だし。

…俺よく生きてたな。

話それたよ。

 

「そんなことはいいですが、他に聞きたいことがないなら俺は行きますね。」

 

そう言ってナターシャの横を歩いていく途中、首根っこを掴まれ動きを止められた。

 

「待って。最後に、比企谷くんは何を信念にしているの?」

「…働いたら負け?」

「本気で言ってる?」

 

はい。とは言えないんですけど。

何でこんなに怖いの?

睨んでるだけでしょ?

HPが減っちゃうよ…。

 

冷や汗を大量にかきながら、返答する。

 

「そ、そんなことはありませんよ?冗談いってみたくなっただけです。」

 

必死に弁明を図るが、今もなお睨み続けるナターシャ。

 

やめて!!

僕のライフはもうゼロよ‼

…いや、ほんとやめてください。

土下座でもお金でも何でもあげますから。

 

「じゃあ真剣に話して。」

「俺の信念は、欺瞞なんていらない、ですかね。」

「欺瞞がいらないなら何が欲しいの?」

「…恥ずかしいので言わなくてもいいですか?」

「言わなきゃ君のクラスの女子に他の女と遊んでたって言っていい?」

「それだけはやめてください。」

 

そういわれて八幡はすぐに土下座へと行動を移した。

 

何かIS学園に来てから土下座の回数が増えた気がする。

俺の頭ってすごい安いんだな…。

自分で言ってて泣けてきたぜ。

 

「じゃあ言って。」

 

八幡は一瞬言葉を詰まらせたが、自分の命と恥ずかしさ、どちらがより大切なものか、すぐに計算して口を開く。

 

「…本物…ですかね。」

「本物?それはなに?」

「いや、俺もよくわからないんですよ。ただ、それはとても大事なことだと思うんですよね。」

「そっか。うん、ありがとう。私も、ひとつの答えが出たかもしれない。」

「それは?」

「…まだ内緒。」

「そうですか。」

「うん。それと、もうひとつ。私、比企谷くんの事好きだな。」

「そうですか…はぁ!?」

 

何を言ってるのか八幡よくわかんない。

って言うかそんなこと言わないでほしい。

勘違いして告白して振られるから。

しかも十秒かからずに。

…振られちゃうのかよ。

しかも十秒以内とか…。

 

内心ではそんなことを考えていたため、ある程度は落ち着いていたが、顔は真っ赤になっていたり、ちょっぴり挙動不審になっていたりしていた。

 

「どどどど、どういう意味でしゅか?」

 

噛みまみた。

恥ずかしい。

死にたい。

埋まりたい。

 

「そのままの意味だよ。何か君といると私は素直になれて、励まされて、前を向ける気がする。それに、比企谷くんは言葉は悪いし突き放すような言い方をするけど、優しいって感じもするし。会ったばかりで、お互いの事を知らずにこんなことを言うのは間違ってると思うけど、私は比企谷くんの事、好きだな。」

「…えっと…。」

「答えは別に今じゃなくていいよ。ただ、私の気持ちは本物だよ。」

「…っ!!」

 

本物と言う言葉を聞いたとき、恥ずかしさからなのか驚いたのか、はたまた両方なのかはわからないが、八幡は息を飲んだ。

黙っている八幡を見て、ナターシャは彼に背を向けると、最後に一言言って、去っていく。

 

「じゃあね。また、どこかで会いましょう。」

 

八幡はただ、突っ立っていることしか出来なかった。

 

最近、俺の周りの奴らが俺にたいして好意的に接してくるのはなぜなのだろうか。

デュノアやボーデヴィッヒ、篠ノ之博士や更識会長、ファイルスさん。

特に彼女らはその好意が強いような気がする。

でもわからない。

なぜそんな風にいられるのかが。

俺にはわからない。

 

そんなことを考えていたため、立っていることしか出来なかった。

やがて、ある程度気持ちの整理がついたところでグラウンドへ向かい、整備をしていく。

その間も彼女達の事を考えていた。

そして、ひとつの結論へと至った。

 

この好意はきっと優しさなのだろう。

あいつらはお人好しだ。

だから皆、の中に俺もいて、だからこそ優しくするのだろう。

なら、その優しさは嘘なのだろうか。

答えは否である。

何故なら、彼女らははじめから個人だけに対してではなく、全員に優しいのだ。

最初から自分にだけに向けられてないとわかるその優しさは本物なのだろう。

きっと慈悲とか憐れみとかではない、本心からなのだろう。

だから彼女らのそれは好意ではなく、優しさと言うことになるのではないか。

それにしても俺なんかに優しくしたって特に何にもならないのにな。

ったく、奴らは本当にいい奴過ぎるだろう。

 

そう思いながら、若干赤らんできている空を見上げながら、そう思いを馳せた。

その空は八幡が今まで見てきた空よりも、綺麗な気がしていた。

そうして、IS学園の学園祭一日目は過ぎていった。

 

 




ナターシャさんの口調とかキャラとか間違ってたりするかもしれませんが、目を瞑ってくれると助かります。

という訳で次回も文化祭ですね。
次も読んでくれると嬉しいです。

予想以上にお気に入り件数が多くビックリしてしまいました。
八幡の人気やべぇ…。
八幡に負けないように面白い作品にしたいと思いますのでこれからもよろしくお願いします。

それでは、また次回にお会いしましょう。


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第15話 彼ら彼女らの文化祭はまだ終わらない

サブタイ長い…。

という訳で久しぶりの更新です。
不定期ですいません。
これからも頑張って書くのでよろしくお願いします。

では、どうぞ。




昨日、グラウンドの整備をしていたため、全身が少し痛む八幡は昨日と同じく執事服に着替え、眼鏡をかけ、教室へと向かう。

教室にはすでに数名が集まっており、何やら話し合っていた。

と、その中の一人が八幡に気づき、近づいてくる。

 

「比企谷くん、今日やることについて追加点あるから、これ見ておいてね。」

「お、おう。」

 

顔近いって。

名前は知らないけど。

確か相なんとかさんだった気がする。

まぁ、いいや。

 

八幡はもらった紙に目を落とすと、首を傾げた。

 

え?これは何、やらなきゃいけないの?

えー…めんどくさいし恥ずかしいんですけど。

って言うか、誰得だよいや、マジで。

 

その紙には、やって来たお客さんが希望したらツーショットを撮れるサービス、と書かれていた。

 

*************************

 

学園祭二日目が始まり、八幡たちのクラスにはすでに行列が出来ていた。

そのうち、IS学園の生徒が大多数であり、一般客がなかなか近寄れない雰囲気があった。

それでも、並んでいる人は少なからずいたのだが。

 

「すいませーん。」

「こっちも注文いいですか?」

「あっ、ちょっと待ってくだしゃい。」

 

この通り、大忙しだった。

 

って言うか、何で噛んじゃってんだよ俺…。

それよりも忙しすぎるんだけど。

昼はまだだよ?

何、皆俺の執事服が似合ってないから身に来たの?

やる気なくすわー。

 

そう思いながら、注文を取りに行ったり、ツーショット写真を申し込まれたり、空いた席に客を案内したりと目まぐるしく働いて次のお客を呼びに行くと、八幡の見知った顔がそこにはあった。

 

「お兄ちゃん、見に来たよ。」

「小町。いや、お嬢様、こちらになります。」

「おじょっ…。」

 

可愛い。

小町の照れた顔、超可愛い。

写真に残しておきたいレベル。

 

八幡は少し気持ち悪い笑みをしながら、小町を見ていたのだが、仕事の事を思いだし、案内をする。

小町を席に座らせ、メニューを差し出す。

 

「ご注文がお決まりでしたらお呼びください。お嬢様。」

「お兄ちゃんが、しっかり仕事してる…。」

「バッカ、お前、俺なんてちゃんと仕事しすぎてこれから仕事をしたくないまで働いてるからな。」

「よかった。いつものお兄ちゃんだ。」

「何だよ。俺はいつも通りだ。」

「そうだね。」

 

小町は八幡に微笑みかけると、それに八幡も微笑む。

 

「じゃあ、決まったら呼べよ。」

「うん。頑張ってね、お兄ちゃん。」

「おう。」

 

小町は仕事に向かう兄の後ろ姿を見て、少し寂しいような嬉しいような複雑な心境だったが、メニューを見てそれが嘘のように消え去っていた。

 

「すいませーん。」

「はーい。」

 

小町が手を上げながら呼ぶと、八幡ではない声が返事すると、その人がやって来た。

 

「およ。シャルロットさんじゃないですか!メイド服似合いますねー♪」

「小町ちゃん?こんにちは。久しぶりだね。」

「はい!お久しぶりです!」

 

元気良く小町がそう答えると、シャルロットはメニューを聞き始める。

 

「あ、お嬢様、ご注文はなんでしょうか?」

「これです。執事のご褒美セット、ってやつです。」

「は、はい。わかりました。えっと、どちらの執事にいたしましょう?」

「んー、このクラスって二人いたんですよね?」

「うん、そうだよ。」

「一夏さんはいい人だけど、やっぱりここはお兄ちゃんがいいな。あ、今の小町的にポイント高い♪」

「かしこまりました。少々お待ちください。」

 

シャルロットはそう言って下がると、八幡のもとへ向かっていく。

八幡はそれに気づき、シャルロットが来るのを待っていた。

 

「八幡、注文が執事のご褒美セットで来たから、小町ちゃんの所に行ってくれる?」

「………は?」

「いや、だからね?」

「意味はわかるんだが、何で小町がそれを?」

「僕だってわからないよ。でも多分わからずにたのんだと思うんだ。」

「えー…。妹相手にやるの?まぁ、小町だからいいか。ほら、小町って天使だし。」

「八幡、何言ってるの?」

 

おっと、心の中で留めておくつもりが、あまりにも小町が天使すぎて口が動いてしまったぜ。

だから、そんな変な人を見るような目で見ないでくれると助かるんだが。

 

八幡はジトッと見ているシャルロットにそう言いたかったが、小町のもとへ注文されたものを運んでいくことになり、何も言えなかった。

八幡の持っているお盆の上には、ジュースとショートケーキが乗っていた。

 

「お待たせしました。」

 

八幡は静かにそれらをテーブルに置き、椅子に座る。

いきなり座った彼を見て小町は少し戸惑う。

 

「お兄ちゃん、仕事はしなくていいの?」

「いや、これも仕事の一貫だから。」

「え?何が?」

「いや、お前の頼んだセットは執事が食べさせるセットなんだよ。」

「は?えっ!?そうなの!?」

「あぁ。」

 

八幡は小さくため息をはく。

一方の小町は顔を赤くしながらそわそわしていた。

そして、決心したのか八幡の方に目を向ける。

 

「お兄ちゃん、小町はケーキが食べたいです。」

「え?やるのか?」

「う、うん。たまにはお兄ちゃんに甘えて食べさせてもらうのもいいかな、って思って。ダメかな。」

「別にダメじゃねぇけど。」

 

そう言うと、八幡はフォークを持ち、ケーキを一口大に切りフォークに刺して小町の口元へと運んでいく。

小町はじっとそれを見つめ、口を開き、中にいれてもらう。

 

「ん。美味しい。」

「そ、そうか。」

 

おかしい。

食べさせてるだけなのに何でこんな気持ちになるんだ?

まさか、これが恋!?

いや、そんなわけないから。

小町は恋する相手じゃない。

妹だし、天使だからな。

理由になってない?知るか。

 

八幡は小町の食べるスピードにあわせて、次から次へと口に運んでいく。

小町も美味しそうに笑顔で食べているため、八幡の顔つきも心なしか柔らかくなっていた。

それに気づいていた周りの客や、クラスの人達が携帯やカメラなどを気づかれないように取りだし、写真に納めていた。

そして、それが八幡の気づかないところで広まっていたのは言うまでもない。

 

*********************

 

最後の一口を食べ終えると、小町は嬉しそうにごちそうさまと言うと満足そうな顔をしていた。

だが、その口許にはクリームがついていた。

八幡はそれに気づくと、手を伸ばし、拭い取り、自分の口に運んでいく。

 

「お、お兄ちゃん、何したの?」

「は?クリームとっただけだろうが。」

「いや、取ったのは小町的にポイント高いけど、何でそれを食べたの?」

「もったいないだろうが。」

 

ちゃんと残さず食べないともったいないお化けが出るからな。

…子供っぽいな。

 

「お兄ちゃん、それにしても手慣れてなかった?まさか、他の女の人とやってるの!?小町のお姉ちゃん出来ちゃうの?」

 

目の前できゃーきゃー言っている小町を見て、八幡はため息を吐きながら呆れ返ってこう言った。

 

「あのなぁ…他の女子にやれるわけないだろ。」

「何で?」

「よく考えても見ろ。……俺だぞ?」

「すごい納得できる答え…。」

「だろ?」

 

なぜか胸を張る八幡を見て、小町は少しため息を吐く。

だが、それと同時に小町は安堵した。

どこかへ離れていくのではないかと、寂しさもあったからだ。

小町は八幡ほどではないがブラコンなのだから。

 

******************

 

小町は会計を済ませると、八幡に向かって敬礼しながらこう言った。

 

「では、小町は帰るであります!」

「何だよ、もう帰るのか?」

「うん。お兄ちゃんを見に来ただけだからね。あ、今の小町的にポイント高い♪」

「はいはい。それがなければな。」

 

いや、あっても可愛いからいいけどね?

今の八幡的に超ポイント高い。

 

二人は会話短く済ませ、小町は家に八幡は仕事へと戻っていく。

 

俺だけ仕事するとか…。

これはアレだな、今仕事しておけばこの先仕事しなくてよくなるんじゃね?

なりませんね、わかります。

働きたくない…。

 

そう思いつつ、段々と慣れ続けている自分のスペックを凄いと自画自賛し、社畜への道真っ直ぐな未来を想像し、目を腐らせていった。

 

***********************

 

八幡は一夏と交代で休憩することになり、教室を出ようとすると呼び止められた。

 

「八幡、どこ行くの?」

 

シャルロットだった。

 

「どこって、休憩にいくんだが。」

「じゃあ、僕と一緒に休憩しよ?」

「いや、休憩ってのは一人でやらなくちゃいけないんだぞ?」

「何で?」

「誰かといると気を使って気疲れする。だが、一人でいれば誰にも気を使うことがなく休むことができる。だから休憩は一人でやらなくちゃいけないんだぞ、わかったか?」

 

それを聞いたシャルロットは盛大にため息をつくと、やれやれと言わんばかりに首を横に振る。

 

あれ?俺なんか間違ってる?

いや、そんなことないよね?

大丈夫だよね?

それとも何、俺の存在自体が間違っちゃってるの?

そんなのラノベぐらいにしとけよ。

タイトル、やはり俺の存在は間違っている。

売れないな。

それどころか、新人賞に出したら選考前に破り捨てられるまである。

…また話がそれちまったな。

 

八幡は現実に戻ると、シャルロットがジトッとこちらを睨んでいた。

 

「八幡、聞いてる?」

「あぁ。聞いてるぞ。聞きすぎて周りから引かれるまである。」

「うわぁ…。」

 

おい、何だその憐れみの視線は。

そういう視線は傷ついちゃうからやめようね、主に俺が。

 

「八幡、また現実から離れてるよ…。」

「そうか?」

「八幡ってそう言うところあるよね。」

「いや、ぼっちだからな。」

「またそういうこと言う。僕たちがいるじゃん。」

 

その上目遣いやめてもらえませんかね、めっちゃ可愛いから。

可愛すぎて告白して振られちゃうから。

振られちゃうのかよ、当たり前だけど。

 

「八幡?」

「ん?あぁ、なに?まぁ、最近はなんだ、アレだ、一人じゃなくてもいいかなとは、思ってる?」

「何でそこで疑問系なの?でも、そう思ってくれてるだけでもいいや。」

 

そう言うと満面の笑みを八幡に向けるシャルロット。

それを見た八幡は頬を染め、それを見られないように顔をそらし、明後日の方向を見ていた。

 

そんな顔はやめてね。

超可愛いから。

天使かと思っちゃうから。

いや、デュノアは俺みたいな底辺野郎に優しく接してくれるから、天使だったな。

そういえば、小町に夏休みの時言われたけど、俺変わったのか?

自分ではよくわからんが。

でも、確かに変わったのかもしれない。

優しさなんて嘘だと思っていた。

優しい子は嫌いだった。

いつだって期待して、いつも勘違いして、そしていつからか希望を持つのをやめた。

はずだった。

だけど、こいつらと会って本物なのか自分ではわからないし、それが嘘なのかもしれないけれど、その優しさに触れた。

そして、期待していいのだと、希望をもっていいのだと、俺が欲しい物に手を伸ばしてもいいのだと思えてきた。

例え、また裏切られたとしても。

人間早々変わるもんでもないって思ってたんだけどな…。

 

自嘲気味にうっすらと笑みを浮かべると、突如シャルロットではない人に声をかけられた。

 

「何を笑っている?」

「っ!?なんだ、ボーデヴィッヒか。」

「何だとはなんだ。まぁ、いい。嫁よ、どこかに行くのか?」

「あぁ、今から休憩に行くんだよ。」

「そうか。なら私と行こう。」

 

ラウラは八幡の腕を取り、そのまま外へ行こうとした。

だが、シャルロットがそれを阻止するような形で逆の腕を取った。

 

「何をする、シャルロット。」

「八幡は僕と休憩するんだよ?」

 

怖い、二人とも超怖い。

この二人に囲まれてるとかもう死しか思い浮かべられない。

しかも腕を取られてるから逃げようにも逃げられねぇんだよな…。

あれ、これ詰んでね?

 

その間も二人は睨みあっている。

八幡は極力彼女たちを見ようとせず、上の方を見る。

そんな修羅場な時、とある人物が八幡のもとへとやって来た。

その時、彼は後にあんなことになろうとは思いもしなかった。

 

 

 




文化祭の続きですね。
話がなかなか進みませんが、気にしたらダメですよ?

これからも頑張ります!!

という訳で次のお話でお会いしましょう。


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第16話 彼女は彼の一部分を知る

更新遅くてすいません。
感想やそんなに高い評価ではないですがもらえて嬉しいです。
これからも感想や評価をつけてくれると嬉しいです。

という訳で、どうぞ。



八幡が修羅場に突入しているとき、その後ろから突如現れたのは、この学園の教師である千冬だった。

 

「比企谷は…いたな。」

 

八幡を呼ぼうとしたのだが、すぐに見つけ彼のもとに歩み寄っていく。

よく見るとシャルロットとラウラに腕を引っ張られていた。

 

「何をやっている。」

 

少しあきれたような口調でそう言うと、三人はこちらに気づいたようで、一瞬身を固めた。

 

「いや、これから休憩なので、どこかに行こうと。」

「僕も八幡と一緒に休憩しようと。」

「私も同じです。」

「なるほど。だが比企谷、お前にお客が来てる。ちょっと着いてきてもらおうか。」

 

千冬は八幡にそう言うと、彼の顔が分かりやすいぐらい嫌な顔をしていた。

 

これ絶対厄介なやつだろ。

嫌な予感するもん。

え?あてにならない?

バッカ、俺の悪い予感は当たるぞ?

当たりすぎて回避不可能なまである。

何それ、俺の人生辛すぎ…。

 

千冬の後ろをついて歩いていくと、進路相談室の前で立ち止まる。

 

「ここにお前に会いたいと言っている来賓がいるんだが…。」

 

そういった瞬間、扉が開き勢いよく中から人が飛び出してきた。

 

「はちくーん、会いたかったよ~。」

「束…。」

 

八幡はよくわからないうちに抱き締められ、千冬に呆れられていた。

 

え?これ俺が悪いの?

悪いの博士じゃね?

織斑先生、だからそんな、女をたぶらかしやがってとか言う目で見ないでくれます?

たぶらかしてないから。

なんならこれから先もたぶらかさないまである。

 

勝手に自己完結していると、千冬が束の頭を鷲掴みにすると、八幡から引き剥がした。

 

「ちーちゃん、痛いよ~。」

「離れろバカ者。早くこの部屋に入れ、見つかったら面倒だ。」

「え~。もう少しはちくんとはぐはぐしたい~。」

「いや、結構です。」

「え?やりたいの?」

 

いや、話聞いてた?

結構ですっていったよね?

まさか、否定的な意味でとらえてないの?

えー…この人バカなの?

いや、バカじゃないだろうけど、バカだよね?

あれ、矛盾してる。

 

「はちくんひどい!!この私の事をバカって思ってる!!この束さんは天災発明家なんだぞ!!」

 

頬をぷくっと膨らませながらぷんぷんとでも言わんばかりに怒っていた。

 

あざとい。

確かに、そう言うところは天災かもしれん。

男子高校生の心を揺らしちゃうから。

俺は揺れないのかって?

バッカ、この人バカだけど外見は物凄くいいからたまにドキドキするんだぞ。

大半は何やらかすかわからないからドキドキするけど…。

って言うか、何ナチュラルに心読んでんだよ。

怖ぇよ。

 

「おい、お前もさっさと入れ。」

 

千冬に声をかけられ、八幡も部屋の中に入っていく。

部屋にはいると、千冬と束が対面して座っており、少し異様な光景に見えた。

八幡は手近な椅子に腰かけると、右側に千冬、左側に束という席順となった。

その光景を見て、八幡は少し変な感じがしたがそれも千冬が口を開いたことでそれが消えた。

 

「さて、比企谷に来てもらった理由だが、先日お前があの福音の操縦者と一緒にいるところを目撃してな。」

 

え?いたの?

ステルスヒッキーよりもステルス性能高くね?

ブリュンヒルデともなるとそれも規格外のスペックになっちゃうのか。

 

八幡が少し恐怖を覚えている間も千冬は続けた。

 

「それで、少し尾行していたんだが。興味深いことを聞いてしまってな。」

 

まさか、まさかまさかまさか?

いやいやいや、あれじゃないよね?

本物とかじゃないよね?

もしそれだったら今日はベッドに入って悶えることになる。

あれほんとに恥ずかしいからね?

って言うかもしかしてあいつ等も知ってるのか?

うわー…学校行きたくないよぉー。

…死にたい。

 

心の中で悶絶していると、八幡の予想通りのワードが千冬の口から飛び出した。

 

「本物、それが欲しいみたいだな、比企谷。」

「うぐっ…。」

 

頬を若干赤く染め、目をそらして答えないでいると、束が口を開いた。

 

「ちーちゃんの言うとおりだよ。はちくんの欲しいのは本物だよ。」

「お前も知ってるのか。」

「うん。だって、それを一番最初に聞いたの私だし。それに、ちーちゃんより前に箒ちゃん達にも福音の事件の時に言ったしね~。」

「は?篠ノ之博士、それ本当ですか…?」

「うん♪」

 

いや、うんじゃねぇよ!!

何言っちゃってんの!?

恥ずかしい死にたい恥ずかしい死にたい恥ずかしい恥ずかしい!!

バカじゃねぇの!?

何で言っちゃうの。

俺が恥ずかしがるってわかってないの!?

…わかってませんね、わかりました。

ヤバイ、恥ずかしすぎてアイデンティティがクライシスして、個性が崩壊しちゃう。

あれ、何かデジャヴ…。

って言うか、これ言うと小町が俺の真似してこう言ってたな。

『アイデンティティ?はぁー?往々にして個性個性言ってるやつに限って個性がねぇんだ。大体ちょっとやそっとで変わるものが個性なわけあるかよ。』

いや、これ名言だろ。

誰だよ最初にいったやつ。

俺だよ。

って言うか、俺混乱しまくってんな…。

 

八幡が混乱している間も、二人が勝手に会話を進めていっていた。

途中途中、束が八幡の台詞をそのまま言っていたりしたが、聞こえない振りをして何とか発狂せずに済んだ。

だが、聞こえない振りも千冬が話しかけてきたため、やり過ごすことができなかった。

 

「比企谷、お前の言う本物は何だ?理解したい、というお前の願望か?それとも、理解し会える関係ということか?」

「……正直、俺にもまだわかりません。ただ、俺は嘘で塗り固められた欺瞞の関係が嫌なんです。だから、俺は理解したい、知って安心したいんだと思います。その本物自体も欺瞞なのかも知れないっすけど。」

「そうか。お前は面白いやつだな。それに、どこか私に似ている。」

「そうだね。ちーちゃんとはちくんは、どこか似てるね。」

 

八幡はそう言われて首を振ることで否定した。

 

「いや、そんなわけないっすよ。俺は織斑先生と全く違いますよ。織斑先生は俺みたいな事をしないでしょう?」

 

八幡は福音の時のような事を、というニュアンスを含めた口調でそう言うと、千冬はあっさりと頷き、肯定した。

 

「確かに、お前のような事をしたくはない。福音の時ような自分を大切にしない行動はな。だが、それこそ大事な人、お前風に言うなら本物の関係を築きたいと思うやつを助けにいくなら、私は何でもするつもりだ。だが、それでもお前のやり方は理解できないし、行動もしたくない、肯定したくない。」

「別に俺は理解して欲しいとは思いませんし、正しいことをやっているつもりもないですよ。ただ、それが一番効率的で、何よりそれしか思い浮かばなかったのでやっただけです。」

「お前は自分の命を何だと思っている。」

「俺は俺自身が好きです。ただ、俺が死んだって悲しむ者なんているはずないでしょ、ぼっちっすから。」

 

そう言うと、千冬は我慢できなかったのか机を思いっきり拳を叩きつけると、八幡を思いっきり睨み付けていた。

 

「ちーちゃん、落ち着いて。」

 

束が宥めているが、その怒りは収まらなかった。

 

「お前は自分への存在価値を卑下しすぎている。お前がいなくなったら悲しむやつはいるだろ!」

「確かにいますね。小町とか、まぁたぶん両親もじゃないっすかね。」

「あいつ等はどうだ。」

 

千冬のその声音には静かな怒りがこもっており、八幡は恐怖を覚えたが、それを必死に隠し平静を装う。

 

怖い、怖いっていや、マジで。

ほんとなんで俺の周りにいる女子ってこんなに怖いの?

俺のHP削るのがそんなに楽しいのん?

色んな意味で死んじゃうよ?

 

心の中でおどけながら、千冬へ回答した。

 

「悲しむでしょうね。でも、それが演技ってのは考えないんですか?」

「あいつ等はそんなやつじゃない。」

「人間の心なんてのはわかりませんよ。わかるというんでしたら、いさかいなんて起きませんからね。」

「お前はあいつらをどう考えている。」

「俺はあいつ等となら本物を見つけられると思ってます。」

「なら…。」

「でも、信用も信頼もしてません。まだ、あいつ等の事なんて何一つわかってないんですから。」

 

その言葉を聞き、口を閉じる千冬だったが、その目は八幡を鋭く射抜いており、外そうとはしなかった。

八幡はその視線に気づきながら、目を合わせようとはしなかったが、その目からは何か意思があるように感じられた。

千冬は何故かそれに引き付けられ、口を開く。

 

「お前は何を感じて、何を考えている?」

「別に何も考えてないっすよ。」

「ちーちゃん?」

「束、こいつと一緒にいたとき、何か感じなかったか?」

 

千冬はこれ以上八幡に何かを聞いても無駄だと感じたのか、束に八幡の事を聞き始めた。

束は少しだけいきなり話しかけられたことに驚いていたが、すぐに考え、八幡の事を思い出す。

 

「そうだね~。何を思っているのかわからないし、私の事をどう思っているのかもわからない。でも、自分の意思を曲げない強い心と信念を突き通す力を持っているね。それに、はちくんはよく誤解されるけど、とても優しいんだよ。その点ではちーちゃんにとっても似てるね。」

「信念?束、こいつの信念は何だ?」

「それははちくんがさっき自分でも言ってたけど、上辺だけの関係、馴れ合いは必要ない、だと思うよ。その他にもあるのかもしれないし、何のかもしれない。でも、これが信念だってわかるよ。」

「どうしてだ?」

「だって、はちくんは本物が欲しい、そう言っていたから。」

 

千冬は納得したのか、沈黙している。

束は更に続けて言葉を紡ぎ出す。

 

「ちーちゃん、さっきはちくんが優しいって言ったよね?」

「あぁ。想像つかないがな。」

「福音の時、はちくんは何で箒ちゃん達から福音を遠ざけたと思う?」

「それは…。」

「ちなみに自己犠牲なんかじゃないよ?はちくんはそれが最善だと思ったからそれをやったんだよ。」

「何が最善なんだ?」

「普通に考えてみてよ。あの時、いっくんと箒ちゃんがやられそうになったとき、はちくんがとった行動。それと、福音へ一人で立ち向かったときの行動。ちーちゃんならわかるはずだよ。」

 

千冬は束にそう言われ頭を回転させる。

計算して、計算して、間違っては計算し直し、必死で考える。

そして、ひとつの回答が出た。

 

「まさか…。」

「ちーちゃんの思った通りだと思うよ。まず一つ目、いっくんと箒ちゃんから自分に福音の狙いを変えさせた理由、それは後の事を考えて一撃必殺を持ついっくんと、第四世代の専用機を持っている箒ちゃんの二人を失うより、過失が少ないと思ったから。」

 

束はその考えに自信を持っていた。

だからこそ、目線だけで八幡に確認を取るため、彼の濁った目に合わせる。

八幡は恥ずかしいのか、小さく頷きそれを肯定した。

 

「そして、もう一つ。一人で福音を倒しにいった理由、これは推測だからわからないけど、福音を破壊しないためと、もし自分がまたやられたとしても、戦闘データの回収と福音のエネルギーを減らすことができるから。違う?」

「まぁ、そんなとこっすかね。」

 

何でそんなにわかっちゃうの?

理解され過ぎてて逆に怖い。

俺は理解できてないんだけど…。

 

八幡は自分の考えとほぼ一緒だったので、驚きつつもそれを肯定した。

すると、束は少しだけ微笑むと更に続けた。

 

「はちくんは最後まで他の人のことも考えて行動していたんだよ。」

「だが…。」

「ちーちゃんの言いたいことはわかるよ。誉められたやり方じゃないのはわかる。でも、それ以外に何もなかった。確かにそんなやり方じゃ本当に守りたい人を守れないかもしれない。でも、何かやらないと何もできないまま終わっちゃう。」

「確かにな。だが、どうして相談しなかった、比企谷。」

「相談したら皆でやれ、とか言うんでしょう?そりゃ、皆でやることは理想です。でも、理想は理想です。現実じゃあない。現実では誰かが貧乏くじを必ず引く。今回はそれが俺だった、それだけですよ。」

 

なんならこれから先も貧乏くじしか引かないまである。

何それ、俺の人生終わってるじゃん…。

 

そうやって自虐していると、千冬が口を開く。

 

「だが、私としては全員無事にやりたかった。」

「全員守るなんて無理です。誰かが傷つかなきゃ守れませんよ。」

「だからと言ってお前が傷ついていい理由にはならない。」

「いや、別に俺は…。」

「…そうか。私はお前の事を理解していなかったのだな…。束、何だ、その、ありがとう。」

「ううん。ちーちゃんならわかってくれると思ったよ。」

「そうだな…。私はお前のことが心配になってきた。比企谷、お前はこれからどうする?」

「どうするとは?」

「これからもそういう方法をとるのか?」

「…そうですね。それしかないのなら。」

「そうか…。だが、これだけは覚えておけ。お前が傷ついて悲しむやつがいる、ということをな。」

「…うす。」

「悪かったな。こう言った話になってしまって。」

 

優しい顔でそう言うと、千冬は立ち上がり未だ座っている八幡の肩に手を置くと、最後にこう言った。

 

「だが、お前に私、教師としてではなく個人として気になっていたからな。少しだけ、お前を理解できた気がするよ。お前の事を知って少しだけ自分と重ね合わせてしまったよ。」

「……何か格好いいっすね。」

「そうか?」

「えぇ。」

「そうか。…早く教室に戻れよ。」

「うす。」

 

八幡の返事を聞いて、束と共に教室から出ていった。

 

あれ?目立つからここにいたんじゃなかったっけ?

いいの?

え、俺の気にしすぎ?

 

しばらく疑問を浮かべていた八幡だったが、すぐに立ち上がり、教室へと戻っていく。

その途中、ちゃんと休憩できなかったな、と思いながら。

 

 




千冬が八幡の事を少し知りましたね。
最初から思ってはいたのですが、二人って似てると思うんですよね。
と言っても完全に理解し会えるわけではないとは思いますが…。

何はともあれ、文化祭も次回で終わらせるつもりです!
その後はたぶんアニメを沿っていくかな?
出せればですが、ダリルとフォルテを出そうかと考えています。
口調とかわからないので他のSSを見たりして、研究します。

では、次のお話でお会いしましょう。


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第17話 文化祭はまだ終わらない

更新遅れて申し訳ございません。
これから忙しくなるのでなかなか更新できないと思いますが、できるときにやりたいと思いますので、ご配慮してくださると嬉しいのと同時に、これからもよろしくお願いします。

という訳で文化祭はこの話で終りだと思います。
きっと、たぶん、maybe。
何で英語使ったんだ…。

まぁ、そんなことはいいとして、皆さんの応援のお陰でここまでこれました。
では、第17話どうぞ。


休憩がちゃんととれず、そのまま教室に戻った八幡を待っていたのは、シャルロットとラウラからの尋問だった。

 

いやいや、俺なんもやってなくね?

おかしいよね。

だからそんな怖い顔しないでくれませんかね。

 

「八幡、織斑先生に呼ばれてたけど今度は何したの?」

「嫁よ、私はいくらでもお前を待つぞ。」

 

ちょっと待て、何で俺が何かした前提で話が進んでるの?

そんなに俺って悪く見えるの?

目?目が原因なの?

それにボーデヴィッヒさん、さりげなく健気アピールはいらないから。

あざとさマックスだからね?

どこのいろはすだよ。

あれ?いろはすって誰だよ。

まさか俺の頭の中にはもう一つの世界の記憶が…!?

…中二病乙。

 

「違うぞ。俺はなにもやってない。」

「犯罪者は大抵そういうんだよね。」

「嫁よ、正直に言え。」

 

だから怖いって!

特にボーデヴィッヒさん、あなたの言え、は言わなきゃわかってるだろうな?みたいな意味絶対含んでるよね?

って言うかさっきから二人の当たり強くね?

嫌いなのはわかったからそんなに俺のHPごりごり削るのやめてくれない?

 

「じゃあ織斑先生にでも聞けよ。」

 

八幡はそう言うと仕事に戻っていく。

 

ヤダ、俺ってば仕事しようとしてる!!

社畜適正高すぎなの!?

やだなぁ…誰か養ってくれないかな~。

 

目を腐らせながら、仕事場に戻ると、お客が何人かこちらを見て驚いていた。

 

あ、眼鏡するの忘れてた。

っベー、これ通報されるパターンだわー。

口調おかしくなっちまったよ。

って言うか自分で言っててなんだけど、通報されちまうのかよ。

虚しい…。

 

そう思っていたのだが、周りの反応は八幡が思っていたより酷いものではなかった。

いや、色んな意味で酷いものかもしれないが。

 

「比企谷くんだ。」

 

何だよ。

俺いちゃダメなの?

 

「あの目って自前なのかな?」

 

自前ですが何か?

さりげなくディスるの?

 

「あの全てを蔑んだような目が?」

 

別に蔑んでねぇよ。

腐ってるだけだ。

…自分で言っちまったよ。

 

「もしあれが自前なら、私罵って欲しいかも…。」

 

俺にそんな趣味はないからね?

と言うかあなた、病院いった方がいいよ。

 

「私はそこまでMじゃないから別にいいかな。」

 

とか言いながら期待を込めたような目を向けるのやめてくれません?

めっちゃ可愛いから。

と言うか見つめるなよ。

 

「って言うか私はいちはちがみたいなー。」

 

おい、頭の中腐ってんじゃねぇの?

それ誰得だよ、マジで。

 

「あ、私も見たい!」

 

おい、腐ってるやつもう一人いたぞ。

怖い、ほんと怖い。

何が怖いって、あの顔はもう妄想の世界に入って俺の身が危険なことになってるってわかるぐらい怖い。

何言ってんのかよくわからんくなったな…。

 

一人一人に突っ込みを入れながら脳内で遊んでいると、一人の客がすいませんと手を上げているのに気がついた。

八幡はスルーしようとしたのだが、八幡しか気づいてないようだったため、自分がいくことになった。

 

「ご注文をお伺いします。」

「あ、目が…。」

 

おい、何だよ。

途中で切るなよ。

傷ついちゃうだろ。

 

八幡は心の中だけに止めるつもりが、つい口に出てしまっていた。

 

「目はデフォルメだ。それより注文早くしろよ。」

 

不味いと思ったときには、もう遅かった。

 

げっ…これ土下座ですか?

土下座やればなんとかなりますか!?

ヤダ、八幡くんってば土下座のことしか考えてない!!

いや、謝る基本は土下座じゃないの?

違う?

 

内心焦っていると、八幡の予想外の出来事が起きた。

 

「あ、あの、もっとそんな感じで接客してもらっていいですか?」

「は?」

 

え?どういうこと?

このままでいいの?

いや、確かに普段使わない言葉使ってたから、楽できるのはいいけど…。

 

「ほんとにいいのか?」

「はい!!って言うかこれからずっとそれでお願いします!!」

「お、おう。」

 

戸惑いつつ、いつも通り振る舞おうとする八幡を見て、そのお客は目を輝かせながら何故か興奮していた。

 

危ない人じゃないよね?

俺が言えることじゃないけど。

 

「とりあえず早く注文してくれ。」

「はい!!八幡様!!」

「は?八幡様?いや、様いらないからね?」

「わかりました、八幡様!」

 

いや、わかってないよね?

何、君は難聴系なの?

え、何だって?が口癖なの?

やめとけ、いつか痛い目見るぞ。

 

そんなことを思いつつ、注文を聞くと、その場から立ち去っていく。

すると、次の場所から声が上がる。

 

「すいません。」

 

おい、誰か行って上げろよ。

って言うか織斑どこ行ったんだよ。

…何あーんとかしちゃってんだよ。

爆発しろよ。

 

八幡は一夏が客にサービスしているのを見ながらそう思い、声が上がった席までいく。

 

「ご注文をお伺いします。」

「あ、あの。」

「何でしょうか。」

「私もあの人たちのように接客してもらっていいですか?」

「いえ、これはサービスというわけではないのですが…。」

「そう…ですか…。」

 

え、何でそんな悲しそうなの?

そんなにして欲しいの?

肩肘張らずにできるから俺的には別にいいけど、接待としては最悪じゃね?

 

そんなことを思っていると、クラスメイトの一人がこそっと耳打ちしてきた。

 

「いいんじゃないかな?やって上げなよ。」

 

八幡は耳にいきなり生暖かい息をかけられ、驚いたのとぞわっとしたため、少し震えてしまった。

 

ちょっといきなりはやめてくれない?

こそばゆいから。

耳弱いから。

いや、マジな方で。

 

八幡は気だるげにため息をひとつつき、いつも通り振る舞うことにした。

 

めんどくさいけど、敬語使うよりかは疲れないからな。

しょうがなくだぞ。

 

「で?これでいいのか?」

 

急に話しかけたのが悪かったのか、女性客の肩が跳ねる。

それと同時に八幡の顔を眺め、顔を綻ばせた。

 

「はい!!」

「んじゃあさっさと注文してくれ。」

「じゃあ、これをお願いします。」

「わかった。」

 

思いの外好評だった普段通りの接し方が意外で八幡は少し驚いたが、新鮮だからだろうな、と八幡は勝手に結論付けた。

 

と言うか、何でたまに顔を赤くしたりする人いるの?

怒るくらいなら最初からやれとか言わなきゃよかったのに…。

それに、何でデュノアとボーデヴィッヒはさっきから睨んでんだよ。

やりにくいし、怖いからやめて欲しいんですが…。

 

シャルロットとラウラは文化祭が終わるまで、八幡を眺め、顔を赤くして照れている女性客を無言で睨み付けていたことは、八幡は知らない。

その目はまるで、八幡は自分のものであると、訴えているようであった。

 

**************************

 

「「「「かんぱーい!!」」」」

 

文化祭が終わり、教室で打ち上げを行っているのは八幡達のクラスだった。

全員コップを持ち、お菓子や出来合いの料理を食べて談笑していた。

 

「織斑くんの接客すごかったね!」

「確かに。手馴れてたよね。」

「あ、凄いって言ったら、比企谷くんもじゃない?」

「確かに~。」

 

え、俺凄かった?

マジか。

っベーマジ嬉しすぎっしょー。

あんま褒められたことないから、意外と嬉しいな。

でも…。

やっぱりこう言うのは苦手だ。

 

八幡は誰にも気づかれずに教室から出ていき、少しだけ騒がしい廊下を歩いていく。

その際、八幡の教室から、あれ、八幡は?と声がしたが、それを無視して寮まで歩いていく。

もう少しで寮に着くところで、見知った顔を見つけた。

八幡はその人を無視して中に入ろうとしたが、声をかけられたため、無視することはできなかった。

 

「比企谷。」

「…なんすか。」

「お前はこんなところにいていいのか?」

 

微笑みながらそう言うのは、千冬だった。

 

「えぇ。それに、俺はああいうことが苦手なので。」

「そうか。」

「では、おやすみなさい。」

「ちょっと待て。お前に会いたいというやつがそろそろ来るはずだが…。」

「誰ですか?」

 

そう言って、千冬の視線をたどっていき、そちらに体ごと向けると何かが勢いよくこちらに走ってきた。

 

「は?」

 

八幡は訳がわからず、逃げようとしたのだが、首根っこを千冬に捕まれ、それができなかった。

 

ちょっと?

織斑先生、生徒を見殺しにするんですか?

あれ、絶対ヤバイでしょ。

って言うか、走ってくるやつ誰だよ。

 

八幡はよく目を凝らして、千冬から逃れようとしながら走ってくるものを見る。

フードを被っていてよくは見えないが、人のような気がする。

 

いや、二足歩行で、しかも走れて、フード被れるって人間しかいなくない?

違う?

 

そんなことを思っていると、その人は八幡の前で立ち止まり、フードを取る。

フードを取ると、流れるような金髪が姿を表し、整った顔立ちの女性、ナターシャが微笑みながら八幡を見ていた。

 

「久しぶり、比企谷くん。」

 

呆気にとられ、呆然としている八幡はいまいち何が起こったのかわからずにただ立ちすくんでいた。

 

え?何でここにいるの?

あれ?帰ってなかったの?

 

自問自答するもいっこうになぜここにいるのか、さっぱりわからなかった。

 

「比企谷、呆然とするのはわかるが、一応相手は来賓だ。ちゃんと挨拶ぐらいしろ。」

「え、あ、はい。」

 

いきなり声かけないでくださいね、ビックリしちゃうから。

という事で、今後俺に声をかけるときはいきなり声をかけない事を徹底してくださいね?

 

勝手に心のなかで千冬にそう宣言し、ナターシャに挨拶のため、軽く頭を下げながら挨拶をした。

 

「うっす。」

 

そう言うと、なぜか千冬が頭を抱えていた。

 

え?俺なんかマズった?

おかしいな、ちゃんと挨拶したつもりなんだが…。

は?あれが挨拶じゃない?

バッカ、お前らも挨拶の時に、うーすって言うだろ?

それと一緒だよ。

…違いますね、はい。

 

ちゃんと挨拶しようかと思った八幡だが、し直すのも気恥ずかしかったため、しないことに結論付け無言を貫き通した。

 

***********************

 

それからしばらくして、八幡は千冬とナターシャを連れ、自室に戻っていく。

 

いや、勘違いしないでね?

俺が帰るって言ったらついてくってファイルスさんが言うんだよ?

ほんとだよ?

…疑問符多いな。

 

心の中で言い訳を言いながらベッドに腰掛け、二人を椅子に座らせた。

 

「それで、ファイルスさん何でここに来たんですか?」

「え?比企谷くんとお話ししたかったからだよ?」

「それだけ、ですか?」

「うん、そうだけど?」

 

えー…。

めんどくさいんだけど。

早く寝たいんだけど…。

 

不機嫌さを全面的に出しながらだるそうにする八幡。

千冬はそんな彼の姿を見て、微笑むと立ち上がり、ナターシャへこう言った。

 

「ま、お前も今日は疲れただろう。ゆっくり休めよ。邪魔したな。」

 

そう言うと、千冬はナターシャの肩に手を置き、目だけで合図すると少しだけ納得していなさそうだったが、立ち上がる。

 

「また来るね。じゃあね♪」

 

ナターシャは八幡にウインクしながら投げキッスをして、立ち去っていった。

 

美人って様になるな…。

ハッ…何ですか、口説いてるんですか?

正直、結構来るものがありましたけど、僕に好意がないと思うので、からかうのは止めてください。

ごめんなさい。

…あれ?何でこんな台詞言ってるんだ?

やだ、何か怖い!!

 

八幡は先程の光景が忘れられず、誰にもいないにも関わらず辺りを見渡してしまった。

 

しまった、ここは誰もいなかったぜ。

何か恥ずかしいな…。

 

少し頭を冷やすため、洗面台へと向かおうとバスルームの扉を開けたとき、異変に気がついた。

 

あれ?誰かいるの?

え?強盗?

 

警戒しつつ、咄嗟に身を屈め身構える。

すると、シャワールームの扉が開き、中から一人の人が出てきた。

八幡はすぐに背後に立ち、右手に鬼星を持ち構える。

だが、なぜか声が出なかった。

 

「八幡くん、それ、しまってくれる?」

 

そう言ってこちらに顔を向けたのは、この学園の生徒会長である更識楯無だった。

 

え?何でここにいるの?

って言うか、その素晴らしい身体隠して!!

目のやり場に困るから!!

 

八幡はすぐに鬼星をしまい、その場にしゃがみこみ目を手で押さえながら謝った。

 

「すいません!!」

「八幡くんのエッチ。」

 

八幡が謝ると、楯無は彼の耳元で妖艶な声でそう囁き、息を吹き掛けた。

その行動に、八幡は耳まで真っ赤に染めると、シャワールームの奥の方まで進み、楯無から距離をとった。

 

ちょっと?

何してくれてるの?

それはヤバイから、いやマジで。

俺だって男なんだよ?

目は腐ってるけど。

…ほっとけ。

 

そうやって一人悶々としていると、部屋の扉の方から声がした。

 

「八幡?いるの?」

「嫁よ、いるなら返事しろ。」

 

…ヤバくね?

何でこんなにも不幸というやつは連鎖するんだ?

どっかの不幸体質な主人公じゃないんだから…。

そう言えばこの作者ってその話読んだことないんだっけ。

って誰に言ってるんだ俺は…。

というか、作者って誰だよ。

 

八幡はこれから起こるであろうめんどくさいことから目をそらしながら、最後にこう思った。

 

平穏に暮らしたい…。

 

それが今の八幡の心からの願いだった。

 

 




はい、少しのサービスカット?ありましたね。
八幡にですよ?

はてさて、これからどうなるのか作者である自分自身も楽しみです。

あ、後八幡が車に引かれた事は後々とある人物が関係してきますので、よろしくお願いします。
決して忘れていた訳じゃないです。
ただ、いつ出そうか迷っていたからです。
…言い訳ですね。
という訳でその人物は八幡のヒロインとなるわけですが、ヒントです。
生徒会メンバーです。
これだけでたぶんわかるのではないでしょうか。

後、誤字脱字があれば書き込んでください。
一応確認はしているつもりですが、あるといけないので…。

という訳でまた次のお話でお会いしましょう。


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第18話 彼女は彼の事で悩む

ようやく文化祭も終り、次に何やろうと考えている途中ですが、とりあえず更新。
とはいえ、もう大体は決めてるんですけどね。

それは置いといて、お気に入り件数とUAが思った以上にあってびっくりです。
感謝感激雨霰です。
という訳で最後までお付き合いしてくださると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。

では、第18話、どうぞ。


八幡は今、自分の部屋なのにも関わらず、休むことすらままならない戦場にいた。

部屋の中にはあられのない姿の楯無。

部屋の扉の向こうにいるのは恐らくシャルロットとラウラ。

 

ヤバい。

何がヤバいってこれ俺が血を見ることになるぐらいヤバい。

何とかしなきゃ♪

キモいな…。

 

自虐し、精神的にダメージを受けていると、バスタオルで身体を隠した楯無が扉の方へ向かっていく。

八幡は彼女を止めるべく立ち上がり、慌て気味に近寄ったが、時すでに遅し。

扉を開き、満面の笑みを浮かべていた。

 

「ごめんね。今からお姉さんと八幡くんはお話しするから、邪魔しないでね?」

 

終わった…。

だってデュノアさんのあの怒気を含んでるあの目怖いし。

ボーデヴィッヒさんもあの目はヤバい。

俺を殺そうとしてるよ。

ふぇぇ…。

俺の平穏な日々はどこ行った?

 

絶望しきった顔をしていると、シャルロットとラウラが八幡に目を向け、満面の笑みを浮かべながらこう言った。

 

「八幡、明日聞かせてもらうからね?」

「貴様は私の嫁という自覚がまだ足りないようだな…。その身にしっかり刻み付けてやるとするから、明日覚えていろよ。」

 

八幡にとってその言葉は死刑判決だった。

 

デュノアさんのハイライトちゃんと働いて!?

めっちゃ怖いから。

怖すぎて悪夢を見るまである。

それに、ボーデヴィッヒさん、俺は君の嫁になった事実はないんだが?

って言うか刻み付けるって物理的じゃないよね?

いや、そうじゃなくても嫌なんだけどね?

俺Mじゃないから。

そう言うのは材木座にやってあげて?

誰だよ、材木座って…。

 

そんなわりとどうでも良いことを考えていると、楯無は部屋の扉を閉めベッドのところまで歩いていく。

その時、外から何やら物騒な声が聞こえてきたが、八幡は無視して奥の方に逃げていく。

窓の前に立ち、外を眺めていると、楯無が口を開いた。

 

「ちょっと頼みたいことがあるの。」

 

その顔は真剣そのもので、八幡は軽口を言える状況ではなく、真面目に答えることにした。

 

「何ですか?」

「明日、生徒会室まで来てくれない?そこで用件を話すわ。」

「…分かりました。」

 

受けないという選択肢もあったのだが、八幡は少しの間をおいて、承諾した。

 

まぁ、この間の襲撃の時助けてもらったしね?

そのお返しというか、借りを作ったままにしたくないから、しょうがなく引き受けるからな。

そこ注意しろよ?

テストに出るから。

…何のテストだよ。

 

自分で突っ込みを入れつつ、話が終わったのかと思ってベッドへ入ろうとすると、突然楯無が目の前に立ち塞がった。

 

あれ?さっきまでベッドに腰かけてなかった?

運動能力高すぎない?

逃げる暇なんてなかったんですけど…。

 

「まだ話しは終わってないんだけどな~。」

 

そうだった?今の終わってたようにしか感じなかったけど。

 

「終わったでしょう?」

「終わってないの!明日の事なんだけどさ、放課後にシャルロットさんとラウラさんと戦うじゃない?」

「そうでしたね。」

「2対1なんて不利だと思わない?」

「いえ、全く、全然。」

 

仮にも学園最強と言ってんだから、勝てるでしょ?

無理だったら何で受けたんだよ…。

 

「ひっどーい!八幡くんがいじめる。」

 

…どことなく篠ノ之博士に似てるな。

泣き真似とか、仮面被ってるとことか。

 

「八幡くん、何か失礼なこと思わなかった?」

 

え?口に出してなかったよね?

エスパーなの?

怖いって。

後怖い。

 

「思ってましぇんよ?」

 

噛んだ。

しょうがないじゃん、怖いんだもの

はちまん

 

楯無は噛んだ八幡を見て、くすりと笑うと彼の隣にやって来きて頭を八幡の肩にもたれさせた。

 

ちょっと!?

近い近い近いいい匂い!!

そんなことすると、あれ?俺の事好きなのかな?って勘違いしちゃってから告白して一瞬で振られちゃうからやめてくださいね。

一瞬って…短すぎだろ。

当たり前なんだけどさ。

 

「八幡くんは私の事どう思う?」

「どうとは?」

「うーん…腹黒いとか、性格ドブスとかって感じの。」

「それを聞いて何すんですか?」

「ん?別になんでもないよ。」

 

根拠はないし、顔も見れないから何を思っているのかわからないけど、何かを諦めようとしているように見えるな…。

それが何かはわからないけど。

 

「そうですね…。まだ、よくわからないですね。確かに何か仮面をつけて人との距離を開けているように見えます。その点では、腹黒いでしょうね…。」

「そっか。そうだよね。」

「でも、あなたは自分を探してほしいように見えます。」

 

八幡のその言葉を聞き、ハッとしたような顔をしている楯無を見て、八幡は自分の言葉があっているのだと確信した。

 

「そんなこと…ないよ。」

「そうですか?」

 

無理して否定してくる彼女を見ながら、簡潔に疑問としてぶつける八幡。

楯無はその疑問には答えず、黙って立ち上がった。

八幡は立ち上がってくれたことにホッとしながら、彼女の顔を目だけで追う。

 

何を心の中に抱えているのかは俺は知らない。

知りたいとも思わない。

所詮、その人が背負わなければいけないものだからな。

だから、俺からは何も聞かない。

 

そう思い、八幡は彼女から目をそらした。

楯無は扉を開けようとするが、開かれることはなかった。

その代わりに口を開いた。

 

「ねぇ、八幡くん。」

「なんすか?」

「私の本名知ってるわよね?」

「そうですね。」

「いつか本当の私を…見つけてね…。」

 

八幡はその真相を知るため、後ろを振り返るがそこにはすでに誰もいなかった。

 

*************************

 

楯無は自室に入ると、ベッドに力なく倒れ込む。

そして、なぜ彼にあんなことを言ってしまったのか、考えた。

 

何であんな事を言ってしまったのだろう…。

わからない。

彼のことは少しは理解しているし知っている。

ただ、なぜ彼にあんなことを言ったのかわからない。

信用しているのかと言われると、していると思うと答えるだろう。

なぜ、と言われると答えられない。

ただ、これだけはわかる。

彼ならば、比企谷八幡という男ならば、本当の『更識』でない更識楯無を見つけてくれる。

いや、更識刀奈を本当の私を見つけてくれる、そんな気がする。

もう、そんな希望など、捨て去ったはずだと思っていたのに…。

彼の第一印象は写真で見ただけだが、最悪だった。

目は腐っているし、怠そうにしているし、何より写真からでもわかる卑屈そうな雰囲気を出していた。

それと同時に興味が出てきた。

だから彼を生徒会室に来てもらって、彼の事を知ろうとした。

だけど、知られたのは私だけ。

私はあまり知ることができなかった。

あれだけ罪人と言われても反論できない更識の仕事をしている私ですらも。

幾重にも重ねた仮面を掻い潜って彼は私の事を見ていた、気がした。

そして、今日その事がわかった。

彼は私の事を、理解していた。

私は彼の事をきちんとは知らない。

だからこそ、何度も接近した。

その結果、私は彼のほんの一部を知った。

捻くれてるくせに優しいところや、本物が欲しいと願っていること、そして最後に、彼は何か隠していることがあるということ。

これらだけでは彼の本当のことはわからないだろう。

理解できないだろう。

だからこそ、私は彼に興味を引かれたのだろうか。

違う、と思う。

この気持ちが何なのか、初めてのこの気持ちを理解できない自分がいる。

いや、本当はわかってる。

でも、私がその気持ちになるのはダメな気がする。

だけど、彼ならそれすら許すような気がする。

彼は誰よりも優しくて真っ直ぐなのだから。

 

楯無を初めての気持ちに動揺しながら、ため息を切なそうに吐き出すと、再び思考の海へと旅立つ。

 

私は更識になってから、いろんな仕事をした。

非合法なこともした。

それらをしていくにつれて、最初はいつかなれるだろう、いつか何も感じなくなるだろう、そう思った。

でも、現実は違った。

ひとつ、またひとつと仕事をしていくたび、私の心は鎖で縛られていった。

そしてそこから痛みを生じた。

だから私は、幾重にも重ねた仮面をつけ、道化となった。

痛みは嘘のようになくなった。

私はホッとした。

けど、なぜか心にぽっかりと穴が開いてしまった気がした。

そして私はその仮面が自分ではずせなくなってから気付いた。

虚無だ、偽物だ、私は何もない、と。

私は彼に会うまでずっと、本当の自分を見てくれるものはいなかったと結論付け、諦めた。

ただ、私はこんなことに妹を巻き込みたくないと、こんな風になって欲しくないと思い、距離を置き守った。

だから、こんなことを思うのは本当にらしくないし、そんな気持ちなど、もうないのだと思っていた。

けど、彼がそうさせなかった。

正確には彼と出会ってしまい、私がその気持ちを封印から解除したのだ。

 

「本当にらしくないな…。」

 

楯無はそう呟き、目を閉じて彼の事を想像しそのまま眠りについてしまった。

最後までらしくないと思いながら…。

 

***************************

 

楯無のいなくなった部屋を静かだな、と思いながら窓越しに空を見ている八幡は、彼女が立ち去り際にいった言葉の意味を考えていた。

 

生徒会長が最後にいった言葉、あれは本当なのだろう。

だとしたら今の彼女は本当の自分ではないのだとしたら、偽物なのだろうか?

その答えは、否だ。

それ自体も彼女自身だ。

ではなぜ、彼女は本当の私、と言ったのか。

それは俺が感じた違和感、更に言えばオリハルコンで作られた仮面を誰かに外して欲しいのではないか?

その可能性は大いにある。

ならば、なぜ俺に言ったのか。

それはわからない。

ただ、可能性があるのならば、俺が彼女の仮面に気付いたからだろう。

だからこそ、俺なら外せる、そう思ったのだろう。

だが、残念ながら俺はそんな器ではない。

それは彼女にもわかるだろう。

…本当にわからない。

だったら、俺にはどうしようもない。

 

そう結論付けながらも、気になってなかなか諦めることができなかった。

 

************************

 

次の日、楯無、シャルロット、ラウラの三人が模擬戦する日、三人の目覚めは良好だったが、楯無は昨日の事を思い出し、顔を少しだけ赤面させた。

 

何であんな事を…。

 

楯無の黒歴史がひとつ、できた瞬間であった。

気持ちを改めるため、洗面器の前まで歩いていくと、冷たい水を顔に当てると小さく声を出した。

 

「よし。」

 

その後、制服に着替えると朝食をとるため食堂まで行くため、自室から出ていった。

 

**********************

 

眠たい目を擦りながら、千冬に物理的教育をされないようにアラームで起きる八幡は、のそのそとベッドから降りると、そのまま洗面所へいき、水を貯め、そこに顔を突っ込んだ。

 

…冷たい。

当たり前だけどね?

いや、でもなんか気持ちいいな。

ずっとこうしていたい…。

あ、怖い教育者がいるから無理だわ。

いい加減にやめとくか…。

 

水から顔をあげ、栓を抜くとその様子を見ずに制服に着替え、食堂へと向かう途中、八幡の今一番会いたくない二人が目の前からやって来た。

 

「あ、八幡。一緒にいこうよ。」

 

デュノアさん、目が一緒に行かないとわかってるよな?って感じで超怖いです。

 

「一緒に行くぞ、嫁。」

 

いや、だったらその前にその威圧的な雰囲気を消してくれませんかね。

怖いから、マジで怖いから。

 

当然のごとく、断れるはずもなく八幡は彼女らについていくことにした。

三人は食堂につくと、各々朝食を頼み椅子に座る。

その時、さりげなくフェードアウトしようとした八幡だったが、シャルロットに殺気込められた視線を受け相席した。

 

男なのに情けないって?

バッカ、デュノアが本気出したらやべぇぞ?

何がヤバイって命が何個あっても足りないと思うくらいヤバイ。

 

「ところで八幡、昨日の夜の事なんだけどさ?」

「あ、あぁ。」

「あれはどういうことか、説明してくれるよね?」

「嫁よ、夫婦とは包み隠さぬものと聞いた。話してみろ。骨ぐらいは拾ってやる。」

 

怖いって、後怖い。

いやマジ怖い。

ヤバイ、怖い。

あれ、怖いしか言ってなくね?

 

八幡は彼女らに睨まれ、冷や汗をだらだらとかきながら、弁明しようと口を開く。

 

「いや、あれはでしゅね、生徒会長しゃんがなぜか俺の部屋にいましてでしゅね、シャワーを浴びていたわけでしゅよ。決して俺からしゃしょった訳ではないでしゅよ?」

 

噛みまみた。

わざとではありません。

デフォルトです。

何それ、色んな意味で終わってない?

 

「そっか。ならいいや。」

「そうだな。あの生徒会長を叩きのめせばいい話だ。今日の放課後が楽しみだな。」

 

八幡は少しホッとしたが、目の前で好戦的になっている彼女達を見て、少し体を震わせた。

 

あれ、風邪引いたのかな?

引き込もっていいよね?

ダメ?

ですよね~、なーんかわかってました~。

何かキモいな…。

 

自虐して、精神的に更にダメージを受け、今日の放課後に模擬戦があると想像すると、自分がやるわけでもないのにげんなりしてしまった。

そして、八幡は小さく、誰にも聞こえないようにこう言った。

 

「どうしてこうなった…。」

 




八幡の最後の言葉じゃないですけど、作者自身もどうしてこうなった…。と言いたいです。
シャルロットとラウラの二人がヤンデレになりすぎてる気が…。
気のせいですよね?
気のせいですとも!!
気にしたら敗けです。
それに、あんまり話が進んでない気が…。
まぁ?あんまり話が進みすぎても、わけわかめになっちゃうところもあると思うので、いいんですけどね?
次回、話はちょっと進んで会長とヤンデレ化した二人が戦うところまで持っていくつもりです、はい。
ですが、予定は未定と言うことで…。

では、また次回お会いしましょう。


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第19話 彼女らは負けられない

お久しぶりです。
遅筆で本当にすいません。
何分、ストックがない状態でして、それに最近少し忙しかったりして書けなかったわけですよ、えぇ。
…はい、言い訳でした。
すいません。

取りあえず、この前の話からの続きです。
いや、ほんとはクリスマスとか書きたかったんですよ?
でも、何故か進まなかったんですよね~。
小説にすらクリスマスでイチャイチャする描写を嫉妬する俺はきっと精神異常者なのですね。
まぁ、そんなことは置いておいて、第19話どうぞ。



なぜか今日も何事も事件がなく、放課後を迎えた。

八幡はいつもならうきうきして帰るところだが、今日はそれが出来ずに気持ち的に沈んでいた。

その事がわかるかのように、机に顔を伏せていた。

そのせいか、心配して声をかけていた生徒が何人かいた。

中には当然のごとく一夏の姿があったのだが、八幡はめんどくさいやつが来たと思っただけで、すげなくあしらっていた。

そんなこんなで放課後となったのだが…。

 

何か早くね?

おかしいよね。

いつも早く終わって欲しい時とか、まったく時間進まないのに、何で嫌なことがあるとこんなに早く時間って過ぎるの?

嫌がらせなの?

世界や人だけでなく、ついに時間にまで嫌われた…。

何それ悲しい。

っていうか、これまでの描写少なくない?

作者さん、ちゃんと織斑ハーレムが騒いでいたの描写して!!

いや、やっぱり鬱陶しかったから別にいいや。

うん。

このままでいいよ。

ダメ?

ですよね~。

よし、作者さん、とりあえず書こうか。

…っていうか作者さんって誰だよ。

俺は誰に向かって言ってたんだよ。

頭おかしいやつみたいだろ。

 

そんなことを当然のごとく一人で考え耽っていると、シャルロットの声が聞こえてきた。

 

「八幡、行くよ。ほら、立って。」

 

シャルロットは八幡の肩に手を置くと、ゆさゆさと揺らし起こしにかかるが、八幡はなかなか起きようとしなかった。

 

めんどくせぇよ。

俺は行かない!!

行かないったら行かない!!

駄々っ子みたいだ?

知るか、めんどくさいことは行動したくないの、わかる?

 

八幡は駄々を捏ねながら、机に伏せていると人の気配が至近距離で感じられた。

 

「八幡、起きなかったらわかってるよね?」

 

シャルロットの声だった。

八幡はそれに反応してすぐに起きると、全身から冷や汗を出しながら、少し寒く感じる空間にいるシャルロットの顔色を伺う。

 

怖いって。

マジ怖い。

ほんとに怖いから、その暗黒微笑やめてくれない?

HPが減っちゃうから、主に俺の。

周りのやつ?

そんなの知らん。

だって、俺は自分の身を守るので精一杯だもん♪

…引くわ~、無いわ~、っていうかぶっちゃけ俺が、だもん♪っていうと怖気が走るな。

 

シャルロットは起きた八幡を満面の笑みで迎えると、ほら、行くよ。と言って手を握ってきた。

その瞬間、周りの女子が声をあげ、一斉に騒がしくなった。

八幡はその反応を無視して、恐怖の対象になりつつあるシャルロットの後を引き摺られるようにしてどこかへと連れ去られてしまった。

 

**********************

 

八幡が引き摺られ連れてこられた場所は、第3アリーナだった。

ここは今日、シャルロット達が模擬戦をやる場所だ。

シャルロットはフィールドに八幡を残して、着替えると言ってその場を離れた。

 

あれ、俺置いてけぼり?

ねぇ、帰っていい?

って言うか、今からここでやるのに何で俺こんなところにいるの?

死んじゃうよ?

いや、真剣と書いてマジと読むぐらいに。

 

そう思っていると、ピットからISスーツを着た楯無が降りてきた。

 

ちょっと?結構な高さないっけ?

それを飛び降りるとか、あなた人間やめてません?

さすが生徒会長様です。

 

「八幡くーん、これから私戦うから、激励してー。」

 

え、何、何でそんなに早く間合いを詰めれるの?

ほんとに人間?

どこぞのなにはすより早かったぞ。

会長はやい、怖い。

と言うかそんなことより、そのスーツで強調されてる胸を更に自分で強調するのやめてくれません?

ニュートン先生の万乳引力の力が働いちゃうから!!

 

八幡は必死に目をそらそうと頑張りながら、言葉を探す。

 

「えっと、頑張って下さい?」

「何でそこで疑問系になるのよ…。」

「なれてないんです。察してください。」

 

これがヒッキークオリティ。

何かどっかの通販で売ってそうだな。

ヒッキークオリティのなんちゃら!みたいな?

…誰も買わないし、そもそも通販を詳しく作者知ってるの?

 

楯無はにっこりと意地悪しそうな笑顔を浮かべると、八幡に顔を近づける。

 

「へー、なれてないんだ。じゃあお姉さんがなれさせてあげようか?」

「は?ちょっ!離れてください!」

 

離れてよ、いやマジで。

いい匂いするから。

何で女子ってこんなにいい匂いするの?

…何かこうやって聞くと俺が変態みたいだな。

でも、男だからしょうがなくない?

違う?

違いますね、すいませんでした。

 

心の中で見事な土下座をしながら、体を倒しながら楯無から逃げようとするが、中々逃げられずついに倒れてしまった。

 

何かこの光景見ると会長が俺を押し倒してるみたいに見えるな。

見えるじゃなくて押し倒されてるけどね。

あれ、八幡混乱してる!

誰か助けろください!

ふざけてる訳じゃなくてリアルガチで。

キャラガー、ホウカイシテルー。

俺はリアクション芸人じゃないからね。

 

誰かが助けに来るのを待ちながら、未だに意地の悪い笑顔を浮かべながら八幡の顔を眺める楯無。

 

「んふふ。もう逃げられないよ。じゃあまずは、女の子になれるために、抱き締めてあげる。」

「ふぇっ!?」

 

おい、変な声出ちまっただろうが。

読者の皆さん引かないでね?

誰だよ、読者って…。

 

そう思っていると、誰かの足音が聞こえてきた。

八幡は顔をそちらに向けると、そこにいたのはスーツに身を包むシャルロットとラウラだった。

 

「会長?何やってるんですか?」

「私の嫁に手を出すな!」

 

突っ込みどころはたくさんあるが、二人ともオメガグッジョブ。

オメガグッジョブと言えばあの最強ゲーマー兄妹の妹かわいいよね。

八幡結構好きだよ?

え、あれが好きな人はロリコンなの?

マジか。

ならばいいだろう。

俺はロリコンだ!

話それすぎてない?

 

八幡は思考からこちらに頭を切り替えると、そこには女の戦いと書いて戦争と読ませるようなにらみ合いが繰り広げられていた。

 

「あら、別にあなたたちの彼氏じゃないでしょ?だったら私が何してもいいんじゃない?」

「それを言うなら会長もそうじゃないんですか?僕たちの事を言うんだったら。」

「私の嫁に対する思いは誰にも負けん!!」

 

え、何これ超怖いんですけど。

みんなの目からハイライト消えてる気がするのは気のせいですかね。

この光景見てると、織斑先生一人の方がいいレベル。

あ、でもあの人も超怖いからやっぱりなしで。

今ならファイルスさんが超恋しい。

あの人あんまり怖くないからね。

 

「なら、戦うしかないようね。」

「そうですね。」

「そうだな。」

 

ちょっと?

俺をここに置いておいて今から戦うつもりですか?

危ないからせめてピットに上げてくれない?

いや、それ以前に怖いんだが…。

 

「行くよ、リヴァイブ!」

「行くぞ。」

「いらっしゃい、おふたりさん。」

 

シャルロットは自分の機体の名を叫びながら、ラウラは相手を睨み付けながら、楯無は二人を挑発しつつ、ISを身に纏った。

シャルロットはラファール・リヴァイブ・カスタムⅡを、ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを、そして楯無はミステリアス・レイディを。

三機はそれぞれの色をしており、視界にいれる分にはいいが、目の当たりにすると、特に今は殺気だっているため近寄るどころか視界にすらいれたくない。そう思うものもいるだろう。

ちなみに八幡は絶賛目をそらし中だった。

 

怖い。

マジ怖い。

どれぐらい怖いって目の前で虎と黒豹、そしてユキヒョウが動物園から抜け出して、同時に襲いかかられてるぐらい怖い。

…別に色が関係してる訳じゃないよ?

ほんとだよ?ハチマンウソツカナイ。

 

後ろから爆音や金属のぶつかり合う独特な音がこだましているが、八幡は気にせずその場で彼女らから顔を背け、うずくまっていた。

時折、物騒な言葉が後ろから聞こえたり、女の子が使っていいのかと疑問に思う怒号や暴言を吐いていたりと、無茶苦茶だったが八幡は空を見上げ、青空が今日も素敵、と現実逃避して聞いていないふりをしていた。

 

うん、やっぱり今日もいい天気だな。

え?後ろの描写を書けって?

バッカお前、書いたらあいつらのイメージが崩壊するぞ?

と言うか、俺が怖いから意識を別の事に持っていかないと、心が壊れてハートブレイクしちゃう。

…ハッ!意識高い系の言葉遣いになっちまった。

ちくしょう!

俺は意識高い系じゃない。

自意識高い系だ!

よく覚えておけ、ここテストに出るから。

何のテストかって?

そりゃお前あれだよ。

八幡検定だよ。

いらない?

ですよねー。

 

そんなことを考えつつ、何やら静かになったため八幡は恐る恐る後ろを確認すると、二人を倒して王の如く君臨している楯無と彼女のISミステリアス・レイディが真っ先に目に入った。

その姿はまるで他の追随を許さない絶対神のようであった。

 

マジかよ。

強すぎない?

これがIS学園最強の力なの?

見る限り、無傷に近いんですけど…。

 

八幡はなんとも言えないような顔をすると、笑顔でこちらに手を振る楯無と目があった。

楯無はその後、八幡に投げキッスを贈ると、地面に降り立ち自らの口から勝利を宣言した。

 

勘違いしちゃうからそんな行動やめようね。

つい告白して振られちゃうから。

振られちゃうのかよ、俺悲しすぎでしょ。

しかも冷たく振られちゃうんだろ、どうせ。

…泣きたい。

 

心に自分で傷つけている八幡のもとに楯無が歩み寄ってきた。

 

「八幡くん、取りあえず彼女たちをお願いね。」

 

そう言うとどこかへと立ち去ってしまった。

 

え、後始末俺がすんの?

めんどくせぇ…。

 

面倒だと思いながらもやる自分は社畜スキルがあるのかと、少しショックを受けながら八幡は敗北した二人のもとへ歩みを進める。

 

「おい、大丈夫か。」

「何とかね。手加減してもらえたらしいし…。」

「あぁ、強すぎる。」

 

二人の顔は暗く、沈鬱な表情をしており落ち込んでいるのが目に見えていた。

八幡は小さくため息を吐くと、二人に対して語りかける。

 

「お前らな、あの人に勝てると思ったのか?仮にも最強生徒会長様だぞ?あんな化け物に勝てるかよ。」

「それは八幡が戦ってないから言えるんだよ!」

「確かに俺は戦ってない。」

「だったら!」

「それでもそれくらいわかるさ。」

「なぜだ。」

「雰囲気ってやつ?」

「曖昧だね…。」

「って言うかお前ら、たかが一回負けただけで落ち込みすぎだろ。」

 

その一回が、もし模擬戦でなく、本当の戦闘だったら死んでいたかもしれないが、発破かけるならこれくらいは必要か。

だからそんなに睨まないでね。

 

「俺なんて何回負けても落ち込まないぞ?何せ俺の人生から全て負けているからな。負けることに関しては俺が最強。むしろこれから先勝てることが想像できないまである。」

「…何か、嫌みにしか聞こえないんだけど。」

「奇遇だな、シャルロット。嫁よ、だったらお前は何でセシリアに勝てたのだ。」

「たまたま、偶然、奇跡。運が良かっただけだ。」

「何か、嘘っぽい。」

「確かにな。嫁は誤魔化すとき、微妙に目が左右のどちらかに動くからな。」

 

え?

そんな癖が俺にはあるの?

俺知らないよ?

くそっ、ラノベとアニメの、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。を見直さなければ。

あれ、俺何言ってるんだ?

まさか、本当に俺の記憶はパラレルワールドの俺の記憶と繋がっているのか?

そんな訳ねぇだろ。

何か頭痛が痛い…。

 

自分で言って自分で呆れていると、シャルロットとラウラは立ち上がり少し晴れやかな顔をして八幡の方を向くとこう口にした。

 

「何か八幡を見ていると、負けて落ち込むのがバカらしく思えてくるよ。」

「そうだな。そういう意味では嫁は凄いな。」

「あれ、俺さらっとディスられてる?」

 

褒められてると思ったらディスられてたよ…。

…敗北を知りたいぜ。

いきなり何言っちゃってんの、俺。

頭がとうとうおかしくなっちゃった?

…はぁ。

 

「そんなことないよね、ラウラ。」

「あぁ、被害妄想が過ぎるぞ嫁。」

「えぇ…。」

 

何か二人が酷いんですけど。

え、もとから?

やだな~そんなことあるわけないじゃないですか~。

…どこのあざといろはすだよ。

あざといろはすってなんだよ。

いろはすがあざといのか?

いや、いろはす美味しいけどあざといって何?

…話がそれちまったよ。

取りあえず、二人が酷いんだけど。

え?

愛情の裏返し?

それこそあり得んな。

俺に愛情を向けてくれるのはいない!

何それ超悲しい。

…あ、小町がいたわ。

いやでも最近、ちょっと冷たくなっちまったんだよな…。

反抗期かな。

お兄ちゃん心配です。

 

そんなことを考えつつ、自爆もしていたため、げっそりした顔を向けると、二人は本当に楽しそうに笑っていた。

八幡はこのとき、ガラにもなくこのまま時間が止まってくれたらいいのに、と思っていた。

だが、そんな時間は止まってくれるはずもなく、現実は非情なものだった。

 




何か本当に話が進まないのは俺の気のせいではないはず…。
これから話は進むと思いますので、どうか見捨てないで見てください。

次は楯無さんメインかな?
あ、予定では次に八幡を引いた車の主?乗ってた人?がわかりますよ。
お楽しみに。

あれ、ネタバレ?
…見なかったことにしてください。

ではでは、次のお話で!


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第20話 彼女は彼に依頼する

明けましたおめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
遅い?
はい、知ってます。
申し訳ございません!(土下座)
遅筆で本当すいません。
ほんとはですね、もうちょっと早く更新するつもりでしたが、なかなか時間がとれませんでした。
なのでこんなことになってしまいました。

楽しみにしてくださっている読者の皆様、こんな僕ですが、これからも作品を読んでいただけると嬉しく思います。
そして、完結までお付き合いください。
よろしくお願いします。

という訳で20話目となりました。
キリがいいですが、特に番外編を書くわけでもありませんが、どうぞお楽しみください。
では、どうぞ。



八幡たちの空気を壊したのは、意外な人物でもなかった。

この場にいて当然な人、更識楯無だった。

 

「八幡くん、さぁ行こう♪」

 

右腕に抱きつきながら、シャルロットとラウラを一瞥しそう言った。

 

ちょっ!

近いいい匂い恥ずかしい鬱陶しい近い柔らかい恥ずかしい!

俺の事を悶え死なすつもりですか、そうですか。

って言うか、何で俺は悪くないのにデュノアとボーデヴィッヒはこっち睨んでるのん?

嫌いなのはわかったから睨むのはやめてくれませんかね。

 

八幡は楯無が来たことにより、死んだ魚のような腐った目を更に腐らせてげんなりとしていた。

その一方で、楯無はシャルロットとラウラから八幡をとることができ上機嫌になっていた。

それを決して表に出さないように細心の注意を払いながら。

 

**********************

 

楯無は八幡を半ば引きずるようにして校舎の中に入り移動していた。

 

何かいきなり過ぎて状況がよく飲み込めないんですが…。

え?俺のことはどうでもいい?

知ってましたよ、えぇ。

というか、生徒会長さんはいつ着替えたの?

え、あの消えてた時間に着替えてたの?

なら納得です。

 

八幡は引っ張られながら、そんなことを考えつつ、これからどんなめんどくさいことがあるのか、と考えながらひとつため息をついた。

それと同時に楯無は立ち止まり、ドアを開ける。

中に入る前に八幡はこの部屋がなんの部屋なのか見ると、生徒会室と書かれていた。

 

「会長、お疲れ様です。」

「虚ちゃん、お疲れ。あ、八幡くん適当に座ってて。」

「あ、はい。」

 

八幡は適当に一番近くにあった椅子に腰を下ろし、この部屋に来たのも二度目か、と思いながら割りと広いこの部屋を眺める。

物は少なく、閑散としている。

 

うーん…。

あの生徒会長のことだからもうちょっと物が多いと思ったんだけどな。

意外とスッキリしてる。

…にしても、なにこの沈黙は。

それに、なんで虚さん?もずっとこっち見てるし。

え、何、目が腐ってるから睨んでるの?

それとも俺のことがキモいから睨んでるの?

どちらにしてもごめんなさいね?

文句なら生徒会長に言ってくださいね。

 

「よし。」

 

彼がそんなことを思いながらじっとしていると、楯無の声が響いた。

そして、彼女は虚の近くに座ると八幡の方を真剣な眼差しで見ていた。

 

え、何?

俺抹殺されるの?

物理的にも、社会的にも?

自分で言っといてあれだけど、物理的に抹殺されたら社会的に抹殺されても関係なくね?

違う?

 

若干ビビりながら、居住まいを正すと楯無が口を開きとあることを口にした。

 

「八幡くん、頼み事があるの。引き受けてくれない?」

「…めんどくさいです。」

「そこをなんとか!お願い!」

 

楯無は手を合わせながら頭を下げる。

それを見た八幡は少しキョドりながらもこう答える。

 

「…内容によって受けるか受けないか決めます。」

「ありがとう!」

 

八幡の答えに納得したのか、はたまた引き受けてくれるかもしれないことに喜んだのか、彼女の顔から仮面が外れとてもいい笑顔を彼に向けていた。

となりにいた虚も驚いたようで、少し目を見開いていた。

 

「八幡くん、次の専用機持ち限定タッグマッチトーナメントに私の妹の簪ちゃんと一緒に出てくれない?」

「…理由を聞いてもいいですか?」

「そうね…。あえていうなら、私のため、かな。」

 

そう言う楯無の顔はどこか浮かない顔をしていたが、すぐにいつもの笑顔に戻るが、八幡はどこか無理をしているように見えた。

 

「引き受けてくれる?」

 

いつもの調子はどこ行っちまったんだよ、生徒会長。

なんでそんな辛そうな顔してるの?

そんなに俺に頼むのが嫌なの?

いや、まぁ、何となく理由はわかりますけどね?

…しょうがない。

目の前で知ってる女子が辛そうにしてるんだからな。

助けないと小町に嫌われちまう。

 

「…わかりました。その代わり、条件があります。」

 

その条件を口にすると、その場にいた二人が目を見開き驚いていたが、その条件を飲むこととなった。

 

*************************

 

しばらく、談笑していた三人だったが、いや主に楯無が八幡に絡んでいただけだが、八幡が部屋に戻ると言うと虚が彼の袖を指先でつまみ、静止させる。

 

え?何、これから告白?

いや、ねぇよ。

天地ひっくり返ってもないまである。

 

「その、4月は申し訳ありませんでした。」

「は?」

「私たちのせいであなたにお怪我をさせてしまって。」

「何の事です?」

「事故の事です。」

 

八幡はそれを聞くと、少しだけ顔を歪めさせる。

 

「あの時は私たちの犬を助けていただきありがとうございました。」

「別にあなたのために助けた訳じゃないんで。もし、そんなことで俺に優しくしようと思うのならやめてください。はっきり言って迷惑です。」

「ですが…。」

「はぁ…。もう一度言います。別にあなたのために助けた訳じゃないし、感謝される覚えもありません。なので、この話はもう終わりにしてください。」

「…わかりました。」

 

八幡の苛立ちが相手に伝わったのか、はたまたこれ以上口論していても無駄だと理解したのかはわからないが、今この場ではもう事故の話は終わった。

そして今度こそ八幡は生徒会室から立ち去っていった。

 

まぁ、正直なところ生徒会室なんて長居したくないしな。

って言うか、前のことを蒸し返されてそれに謝られるいわれもないのに謝られると、何か表現できないけど、あれだな。

まぁいいや。

とりあえず、生徒会長さんの妹をタッグマッチトーナメントに誘えばいいんだろ?

…めんどくさ。

 

気が滅入るようなことばかりだが、八幡はひとつため息をはいて、この事を忘れようと自室へ戻り休息をとろうと考え、少しだけ歩くのが早くなってしまっていた。

 

**********************

 

八幡が去っていった生徒会室では、二人がお茶を飲みながら、片方は沈鬱とした顔を、もう片方はお願いを聞いてくれたことによる安堵ともう一人のことを心配した何とも言えない表情を浮かべていた。

 

「…あの、お嬢様。」

「なぁに?」

「私は何か間違えてしまったのでしょうか…。」

「…そうね。確かに間違えたかもしれない。でも、これで終わりじゃないでしょ?」

「え?」

「彼に言われたこと。」

「そう…でしたね。」

「それを彼と一緒にやっていくんだから。これからまた彼に会える。ならその時に間違えなきゃいいだけのこと。」

「そうですね。ありがとうございます。」

「ううん。私と虚ちゃんの仲でしょ?」

「ありがとうございます。」

 

虚の顔が少しだけ明るくなるのを見て、楯無は少しだけ頬を緩ませ、窓から見える空を眺める。

そして、彼が何を考え、何を感じ、何がしたいのか、そんなことを考え、少し眉間に力が入る。

 

八幡くん、あなたは何を考えているの?

何がしたいの?

もし、あなたの言っていることができたら…世界が変わってしまう。

良くも、悪くも…。

でも、そんな彼に着いていきたい。

いや、彼の背中を追ってみたいと思う私がいる。

どうしてなんだろう?

どうしてここまで私を彼は引き込むの?

わからない。

…もしかしたら、彼が、彼のことがわからないから?

でも、彼のことを知ろうとすると楽しくてしょうがない。

だから私は彼の後を追っていく。

ふふ、女が男の背中を追いかけるなんて、思いもしなかったわ。

比企谷八幡、本当に不思議な人。

 

**********************

 

八幡は自室に戻るとすぐに制服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。

シャワーを浴び終わり、寝巻きに着替えてからベッドの端に座り、これからどうしようかと考えていた。

 

今から食堂行くのもなぁ…。

しょうがねぇ。

自分で夕飯でも作るか…。

 

八幡は鍋を手に取り、休みの日に小腹が空いたら食べようと思っていた袋に入っているラーメンを手に取り、沸騰した水の中に乾麺を入れ、適当な具を鍋に入れて器に盛りつけ、椅子に座って食べ始める。

 

うん、袋ラーメンでも最近のは普通にうまいからな。

こういうときに技術の進歩ってすげぇって思う。

ん?ISはどうかって?

バッカ、お前あれはまだコアの部分がブラックボックスになってるんだぞ?

それが解明されてから技術の進歩って言うんだよ。

違う?

違うか?

あれ?

…まぁいいや。

理系のことなんて知らねぇや。

って言うかこれって理系なのか?

…話それたな。

そもそも俺は誰に対して解説?をしてるんだ?

 

そんなことを考えつつ、八幡はラーメンを完食し、器と箸を洗い、歯を磨き、いつでも寝れるように準備を終えると部屋をノックする音が聞こえた。

 

誰だよ、俺は眠たいんだよ。

…居留守使うか?

無駄だな。

電気つけてもぞもぞやってたわけだし。

はぁ…しょうがない、出てやるか。

 

八幡は扉を開け、相手の顔を見て少し驚いた。

そこにいたのは、一夏だったから。

 

*******************

 

八幡と一夏はお互いに向き合いながら椅子に座り、コーヒーを無言で啜っていた。

 

…あれ?何か用があるんじゃないの?

口開いたの俺がコーヒーに練乳を入れてた時に少し話したぐらいだぞ?

無言で見つめ合ってるとか、赤い縁の眼鏡をかけてる腐ってる女子がこの場を見たらキマシタワー!!とか言って鼻血だして倒れてるとこだぞ。

って言うかキマシタワー!!って誰が言うんだ誰が。

…目を離せないのはこいつの顔がちょっと怖いからだ。

決して俺がホモなんかではないことだけは言っておこう。

俺にそんな性癖はない!!

 

そんなアホなことを考えつつ、八幡は一夏が話すまでじっと待つことにした。

だが、いっこうに話す気配がない。

八幡は痺れを切らして、自分から聞くことにした。

 

「おい、ずっと黙ってんじゃなくて何か話せよ。」

「あ、あぁ。悪い。えっと、助けてくれ!!」

「…は?」

「助けてくれ!!」

「いや、言い直さなくていいからね?聞こえてて、は?って言っただけだからね?」

 

それに、俺が難聴系になったら殺されるの確定だしな。

むしろ聞こえてても殺されるまである。

え、何それ八幡もう生きていけない。

 

「とりあえず、話を聞いてくれ!!」

「わかったから、ちょっと落ち着け。」

「お、おう。」

「で?俺に助けてほしいことって?」

「俺と、タッグマッチトーナメントに出てくれないか?」

「無理。」

「即答かよ…。ってそうじゃない!俺が八幡と組まないとヤバイんだって!」

「何がヤバイんだよ。」

 

って言うか最近の若者はヤバイしかいってなくね?

ヤバイしか言ってなくて頭ヤバイんじゃねぇかってぐらいヤバイ連呼してるよね。

あれ?俺も連呼してる?

ヤベェ…。

 

「俺が八幡と組まないと俺の命が危ないんだ!」

「何でだよ。」

「箒とセシリアと鈴が組まなきゃわかってるだろ?って言わんばかりに詰め寄ってくるんだよ!」

 

…想像できてしまった。

ってちょっと待て、織斑の方がそれということは…。

デュノアとボーデヴィッヒはどうなる?

あれ?俺の人生詰んだ?

…今のうちに言い訳でも考えておくか。

 

そう思いつつ、一夏の相談をどうしようか悩んでいると、いきなり扉がどんどんと激しく叩かれた。

 

「一夏!ここにいるのはわかっている!早く出て私とタッグを組め!!」

「そうですわ!!早く出て来てくださいませ!!」

「一夏ー!!さっさと出てこないとこのドアぶち抜くわよ!?」

 

おい、なんだこれは。

俺は借金なんぞしてないつもりだが…。

あ、これは借金取りじゃなかったか。

ハチマンウッカリ。

って言うか最後、ここ俺の部屋ってわかってる?

わかったらそんなに強く叩かないでくれませんかね。

 

八幡がそんなことを思っていると、ドアが破壊され鬼の形相をした三人が入ってきた。

 

あれ?

何で破壊しちゃってんの?

いくらなんでもやりすぎだろ。

 

八幡は腐った目を更に腐らせ、その瞳に怒気を含ませ三人を睨み付ける。

 

「おい、ここが誰の部屋なのか知っているのか?」

 

三人は鬼の形相で八幡を睨み付けたが、小さくヒッと悲鳴を上げガタガタと震え始めた。

 

「聞いてるだろ。ここが誰の部屋なのか、わかっているのか?」

「す、すまない!」

「つ、つい頭に血が昇ってしまいまして…。」

「ほ、ほら落ち着きなさいよ!」

「…言い訳はそれだけか?なら、歯を食いしばれ。」

 

その日、この寮一帯に謎の悲鳴がこだましたと言うが、詳細は誰も知らず、その事を一夏たちに聞くと顔を真っ青にして知らないと言うだけになったが、それは別のお話。

 

**********************

 

簡単にドアを修復し、まだ顔が青くなって歯をカチカチと震わせている一夏を前にして八幡は暫しの間、考え込む。

 

「よし、俺が解決してやる。」

「え?ほんとにいいのか?」

「まぁな。だが、どうなっても俺を責めるなよ?」

「え?」

 

八幡はサディスティックな笑みを浮かべると再び顔を真っ青にした一夏が震えたのは言うまでもない。

その後、八幡は一夏を自分の部屋に戻させ、ベッドに身を投げこれからどうなるのだろうと考えつつ、何とかなるかと思いながら眠りについていった。

その考えが甘いものだと気付いたのはずっと後のことなのだが。

 

 




はい、特に話も進まず、いつも通りの僕でしたね。

うーん、今後の展開はどうなるのでしょうか。
いや、僕としてはキャラを自由に動かしたいのですが、いざ書いてみると、え、こんなこと言うの?見たいなことが多いんですよね。
え?そんなことない。
ですよねー…。
僕の文章はすべてキャラに持ってかれてます(笑)

そんなことはどうでもいいとして、八幡の出した条件とは?
なんだと思いますか?
予想してみてください。

では、また次のお話でお会いしましょう。

追記
感想や評価をくれると嬉しく思います。
アドバイスなんかもくれると僕はとっても喜びます。
ではでは、次回にお会いしましょう。


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第21話 彼と彼女は出会う


遅くなってしまい申し訳ございません。
なかなか筆が進まず、気づけばこんな期間が空いてしまいました。
遅筆で本当にすいません。
完結まで頑張りますので、皆さま最後までお付き合いください。
なお、更新は不定期でありますのでご了承下さい。

という訳で最新話です。
今回の話ではあのキャラが出てきます。
意外と難しいですね、ここまでキャラが多いと…。
一夏達が完全に空気になってしまった…。
番外編で一夏達の事書こうかな…。

という事で、一夏達の事を番外編で読みたい方はコメント欄にお書きください。
読みたいと言う方が多ければ書きます。
その話を上げるのは遅くなるとは思いますが…。
これはアンケートか?
アンケートですね、はい。
という訳でよろしくお願いします。(強制ではございません)

ではでは、最新話、楽しんでくれると嬉しいです。
それではどうぞ。



次の日の朝、八幡は携帯のアラームで目が覚めると、モゾモゾとしながら起き上がり、ひとつ大きく欠伸を漏らし布団から出る。

布団から出た後、顔を洗うために洗面所へと向かい、その扉を開く。

 

「は?」

 

いやいやいや、いい感じでモノローグ入ってたよね?

気のせい?

作者さん、気のせいだそうです。

ってそれどころじゃねぇ!

何で扉開けた瞬間に女の人が着替えてんの?

あれ、何か髪の色が水色っぽいぞ?

…嫌な予感しかしない。

とりあえず…。

 

「すいませんでしたぁ!!」

 

見事な土下座が完成した。

 

「へ?」

 

その着替えている女の人は気付いていなかったのか、間抜けな声を漏らした。

 

あれ、気づいてなかった?

じゃあ逃げればよかったのか…。

…いやどっちにしろ逃げるにしても謝るにしても背中しか見てないからな~。

どうせなら…。

はっ!煩悩退散煩悩退散!!

男子だからしょうがないね。

しょうがないよね?

 

そんなことを思いながら頭を下げ続ける。

と、ここで八幡はこの着替えている女の人が誰かわかった。

不可抗力とは言え、美しい背中を見てしまったのはこの学園の生徒会長、更識楯無だった。

 

「八幡くん、とりあえず頭を上げようか。」

 

ふぁっ!?

そそそそそんなことしたら見えてしまうではないか!!

…キャラ崩壊しすぎだろ俺。

 

「大丈夫だからさ、早く頭上げよう?」

 

…何か怖いんですけど。

ヤバイ。

何がヤバイって殺気を感じるぐらいヤバイ。

 

そう思いながらも、有無を言わせぬ楯無の言葉に八幡は従い顔を上げると、八幡の腐った目に写ったのはISを纏い、ランスをこちらに向けている楯無の姿だった。

 

…死んだな。

小町、お兄ちゃんもうダメみたい。

悲しんでくれるかな…。

 

「最後に言い残す言葉は?」

「…見事な曲線美だったっす。」

「変態!!」

 

八幡はその言葉を聞き、この世に変態でない男子はいるのかと思いながら気を失っていった。

 

**********************

 

楯無は気を失っている八幡を見ながら、頬を赤く染め、先程言われた事を思い返す。

 

…言い方は変態っぽかったけど、美しいって言われたのはちょっと嬉しかったな。

 

そんなことを思いながら八幡をベッドまで運んでいき、制服に着替え彼のとなりに横になる。

楯無は小さく微笑み、八幡の頬をツンツンとつつき、彼の反応を楽しみながら、ここに来た本来の目的を思い出す。

 

あ、そうだった。

私今日からここに八幡くんと暮らすんだった。

忘れるとこだった。

もうっ!

私ってばおっちょこちょいさん♪

…何でか知らないけどテンション上がっちゃったわ。

 

楯無が八幡の部屋に来た最大の理由、それは前の王冠の件だった。

王冠を手にした者はその男子生徒と一緒に住める、という事でやって来た。

楯無自身、内心ワクワクしながら八幡の部屋に潜入しとなりのベッドでドキドキしながら眠りにつき、朝にシャワーを浴びていた。

その時、八幡がやって来るというイレギュラーな事態に出くわした。

若干、焦ったがこういったことになるのも面白いと思いこの景品を仕掛けたのだから文句は言えないが、流石に少女の裸体を見て土下座するという行為に腹が立ち、ISを起動させてしまった。

 

…ちょっと、やり過ぎちゃったかな?

いっか、お姉さんの背中は高いからね♪

 

そう思いながら、目の前の彼が目を覚ますまで楯無は八幡の頬をツンツンと突っつきながら微笑んでいた。

 

*********************

 

…何だが頬に違和感を感じる。

何だろう?

 

八幡はうっすらと目を開けると、目の前には何もなかった。

その事に違和感を感じつつ、未だつつかれている方を向くと、目の前に楯無が笑顔で寝転んでいた。

 

「おはよ。八幡くん。」

「…お、おひゃようごじゃいましゅ。」

 

…そうか、俺気を失ってたんだな。

って言うかまた噛んだし。

気にすんな。

気にしたら負け。

何から負けるのか知らんが…。

 

「って言うか、何でここにいるんですか?」

「ん?この間の王冠覚えてる?」

「えぇ、まぁ。」

「あれ、八幡くんと一緒の部屋で過ごせるってアイテムなの。」

「へぇ~…は?」

「聞こえなかった?」

「いや、聞こえてては?って言いましたからね?」

「そっか、ごめんごめん。」

「…謝る気ないでしょ。」

 

コロコロと笑う彼女を見てうんざりしながらそう呟くと、ベッドから降り、反対側のベッドの方まで行き、仕切り板を壁から取りだし制服に着替え始める。

八幡は壁を挟んだ向こう側に女の人がいると思うと緊張していたが、このままでは千冬の物理的な制裁を食らうことになるため、迅速に着替える。

 

「何でそんなことを?」

 

八幡はさっきの話の続きでそう聞いた。

それとほぼ同時に着替え終わり、仕切り板を元に戻し楯無へ目を向ける。

 

「そうね…あえて言うなら、面白そうだから。」

「…そうですか。なら、出ていってくれません?」

「理由を聞いてもいい?」

 

理由ね。

そんなのは簡単だ。

それは…。

 

「迷惑だからです。」

「…めい、わく?」

「はい。何が面白くて女子と一緒に住まなきゃいけないんです?しかも俺の了承もなく。」

「うぅ…。」

「って言うか、先程の洗面所での事俺は悪くないですよね?この部屋に勝手に入ってきて、勝手にシャワー浴びて、勝手に着替えて、それで見られてIS使って俺を気を失わせるまで攻撃するとか、正気ですか?」

 

…何か滅茶苦茶な気がする。

うん、でも今回に限っては俺は悪くない。

冤罪だ。

無罪だ。

そうだよね?

大丈夫だよね?

 

若干不安に駆られつつ、楯無を少しだけ睨む八幡。

楯無はそんな彼を見て申し訳なさそうに身を縮こまらせ正座していた。

 

「ごめんなさい。」

 

急にしおらしくなったからビビったぜ。

って言うか、何か癖になりそうだな。

やだ、八幡ドS!?

いや、至って普通だからね?

 

「という訳でお引き取りください。」

「やだ♪」

「はぁ…。」

 

即答された八幡はため息を盛大に吐くと、心底嫌そうな顔をして部屋を出ていく。

すると、楯無は八幡の腕に抱きつき、意地悪を思い付いた子供のような顔をしていた。

 

ちょっ!

近い近い近いいい匂いいい匂いいい匂い柔らかい離れて!!

そういう無邪気な行動がですね、男子高校生を勘違いさせて結果的に質屋へと送り込むことになるんですよ。

それがわかったら、過度なボディタッチをしない、休み時間男子の席に座らない、忘れ物をして男子に借りない、徹底してくださいね。

だがしかし、俺は訓練されたぼっちだ。

だから勘違いもしないし、変な期待も持たない。

特に、目の前にいる生徒会長さんには。

 

そんなことを思いつつも、頬を染めていると楯無の顔が八幡の耳元へ近づく。

 

「八幡くんのためでもあるんだよ?」

 

俺のため?

ちょっと待て、俺のためとは?

もしかして…。

 

ハッとした表情を浮かべつつ、楯無の顔を至近距離で見つめ会うと真面目な顔をした楯無が頷き返し、八幡はなぜ彼女がここに来たのか理解した。

 

「…わかりました。ただし、変なことはしないでくださいね?」

「善処するわ。」

 

そう言うと八幡から離れ、先に歩き始める。

八幡はそれを追おうとするが、背中に痛いほど殺気をぶつけられ、恐る恐る後ろを振り返るとそこにいたのはとてもいい笑顔のシャルロットとラウラであった。

 

「うす、デュノア、ボーデヴィッヒ。いい天気だな。」

 

冷や汗を大量に流しながらご機嫌を取ろうとする。

だが、彼女達の機嫌は治らず、笑顔のまま八幡に近づき嫉妬のまま何があったのか聞かれ、ひとつひとつ丁寧に教えていくと、彼女達は理解したのか同情的な目になっていく。

 

ちょっと?

そんな目で見ないでね?

昔のトラウマ思い出しちゃうから。

あれは数年前、普通にコンビニまで行こうとしていただけなのにストーカーと間違えられ交番まで連れていかれ、事実を話すと警官に同情の目で見られるというある意味で傷ついた出来事…。

まだあるぞ?

あれは中学の頃、この世に名もなき神が…ってつい包み隠さず言っちゃうとこだったわ。

読者の皆さん誘導尋問うまいな。

あれ?読者って誰だよ。

 

「僕は…うん、会長だからね。」

 

ちょっとデュノアさん?

あなた会長の事になると逃げ腰になるのは気のせいですかそうですか。

 

「くっ…。私と嫁との時間を…。」

 

ボーデヴィッヒさん?

僕はいつからあなたの嫁になったのん?

俺としてはボーデヴィッヒがベッドに来なくなってのんびりできるからいいけどね?

ほんとだよ?

 

「まぁ、あの会長の事だ。何かあるんじゃねぇの?知らんけど。」

「そうだね。あ、八幡朝御飯まだでしょ?一緒に行こうよ。」

「そうだな。ボーデヴィッヒ、行くぞ。」

「そうだな。では、嫁よ行くぞ。」

「いや、だから俺は嫁じゃねぇっての…。」

 

そう言いながら朝ごはんを食べに食堂へと向かっていくのであった。

 

************************

 

時間は経ち、昼休み。

八幡は早速楯無の妹に会いに行くことにした。

 

ようやく行けるか…。

何で俺は朝食の時、タッグ組むの誰?って聞かれたの?

え、何?

そんなに俺と組むのが嫌なの?

デュノアとボーデヴィッヒに嫌われてるの?俺は。

なにそれ超泣ける。

鍵の人生とか言われてるアニメを見てるよりも泣けるレベル。

…考えてること恥ずかしすぎる。

というかもうタッグ組むやつ決めたって言ったときの二人の顔はよくわからんかったな。

真っ赤にして怒ってるみたいなんだけど、何かぶつぶつ呟いてるし…。

ま、とりあえずそんなことは置いといて、更識に会いに行かねぇとな。

 

八幡は1年4組へ向かう途中、何度か女子とすれ違いその度にきゃーっと顔を真っ赤にして騒いでいた。

 

え、何?

そんなに俺と会うのが嫌なの?

…引きこもろうかな。

…死にたい。

 

ちょっぴり傷つきながら八幡は4組にたどり着き、その扉を開く。

すると一斉に中にいた女子達が八幡に気づき注目する。

それと同時に一人の女子生徒が八幡のもとへ歩み寄ってきた。

 

「あ、あの、なにかご用ですか?」

「え、えっと、あの、人を探してゆんでしゅ。」

 

噛みまみた。

うおおおお!

恥ずかしい恥ずかしい死にたい!

…もういいや。

 

「えっと、誰でしょう?」

「んんっ。更識ってやつだが…。」

「更識さんなら、あそこに。」

 

一番窓側の後ろに彼女はいた。

八幡は彼女を見て、会長にそっくりだと思った。

だが、外見は似ているが本質は違うように思っていた。

 

何てーの?

人を寄せ付けないって言うか、人見知りと言うか、他者と関わりたくないみたいな感じだな。

やだ、何か友達になれそう。

 

八幡は女子生徒にお礼を言うと、簪の席に向かっていく。

 

「ちょっといいか?」

「…何?」

「今度の専用機持ちだけのタッグマッチトーナメント、俺と出ないか?」

「…無理。」

「…何でだ?」

「まだ、出来てない。」

「は?」

「…専用機、まだ出来てない。」

「何でだよ。」

「自分で作ってるから。」

「なるほどね。んじゃあ手伝おうか?」

「いらない。」

「…いや、そうは言ってもな。俺出れないじゃん。」

「そんなの知らない。」

「はぁ…。とりあえず、あんたのISどこまで出来てるのか見せてくれない?」

「…やだ。」

「何でだよ。」

「あなたには見せたくない。」

 

え、なにそんなに俺って嫌われてるのん?

ヤバイわー、やる気なくすわー。

会長さん、織斑の方が適任ですよ、これ。

 

「見てみたいんだよ。」

「……。」

 

小刻みに震える簪。

八幡は彼女を見て声をかけようとしたが、それは出来なかった。

彼女は立ち上がり、八幡を睨み付けると拳を握りそれを八幡の顔面に叩きつけた。

八幡は大したダメージではなかったが、呆然としてしまった。

その一方で簪もなぜ手を出したのか、わからない様子で少し慌てていたが、すぐに目をそらしそのまま走り去っていった。

 

…ここまで嫌われてるのかよ。

やべぇ、会長さん、前途多難だぜ?

 

その後の4組では、何やら八幡を心配する声と簪を責める声があったが、それを何とか八幡が止めて教室から去っていく。

最後にひとつため息をこぼしながら。

 

******************

 

どうして、どうしてあんなことをしてしまったのだろう?

あの人が変なこといったから?

あの人が余計なこといったから?

あの人の事が不快だから?

あの人の目が気持ち悪かったから?

どれも違う。

ただ、なぜかあんなことをしてしまった。

確かにあの人のISのせいで私のISの開発がものすごい遅れた。

ただでさえ白式で時間をとられたというのに、余計にあの人の朧夜に時間をとられた。

あの人が悪いわけではない。

好きで私から時間を取った訳じゃないのはわかってる。

でも、何だろうこの気持ちは。

わからない。

…何もかもが、わからない。

誰か、ううん、ヒーロー、私を助けて。

 

簪は走りながら人のいないところまで行き、そこにうずくまって八幡を殴った右手を見ながらそんなことを思っていたが、誰も彼女を助ける人はいなかった。

ましてや、そんな心境も誰かがわかってくれるはずもなく、ただただ時間だけが過ぎていった。

最後まで現れるはずもないヒーローに助けてもらえることを夢見ながら。

 




はーい。
八幡が助けた犬の飼い主と簪ちゃんが登場しちゃいました。
…何か話がまとまってない気もするけど、気にしない気にしない。

八幡と簪は無事にタッグになれるでしょうか?
ちなみに若干先の話をすると、あのゴーレムの襲撃、あります。
更に言えば、アニメに出てこなかったあのキャラも…。
おっと、ネタバレになっちゃいますね。
というか、原作読んでないから口調とかが心配ではありますが…。

でも、頑張りますよ!!

てなわけで、また次回のお話でお会いしましょう。
ではでは。


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第22話 彼は彼女に踏み込もうとする

更新するのが遅れてしまい、誠に申し訳ございません。

仕事が忙しかったり、体調を崩してしまったりと、なかなか筆が進まず、このように遅い更新となってしまったことをお詫び申し上げます。
これからも不定期な更新となりますが、引き続き読んでくださると嬉しく思います。
何卒、これからもよろしくお願い致します。

さて、今回のお話ですが、八幡が八幡じゃないです!
今更感が半端ないですが…。
ですが、これが僕の作品です!
…偉そうに言えることでもありませんが。

という事で、これからもよろしくお願いします。
頑張って更新しますので最後までお付き合いくださいませ。

最後に、感想や評価をしてくれると嬉しいです。

では、どうぞ。



生徒会長さん、もう俺には無理だよ…。

 

殴られた八幡は周りの騒ぎを静め、自分のクラスに戻り机に伏しながらそう思う。

その様子を見て何人か声をかけていたが八幡は適当に答えるだけで詳しくは話さなかったが、どこから聞いたのかシャルロットとラウラの二人は詳しいことを知っていたらしく、今現在八幡の頭元に怒りのオーラを出しながら仁王立ちしていた。

そういったことも含めて先程のように思っていた。

 

「八幡、どういう事かな?」

 

何がでしょうか。

 

「嫁よ、あの事は本当なのか?」

 

どの事でしょうか。

 

「ねぇ、聞いてるの?」

 

聞いてますけど顔をあげたくありません。

更に言えば話したくもありません。

怖くて。

 

「嫁!聞いているのか!!」

 

聞いてるよ?

答えないだけで。

 

「八幡、早く起きないと頭撃ち抜くよ?」

「嫁、早く起きなければシュヴァルツェア・レーゲンの餌食になりたいらしいな。」

「よう。二人ともどうしたんだよ。」

 

行動が早すぎるだって?

バッカお前、ここで早く起きなきゃ殺されるんだぞ?

だったら早く起きなきゃいけないだろうが。

だからしょうがない。

…しょうがないよね?

 

「それで、なんでタッグマッチのタッグが他の人なの?」

「いや、別にいいだろ。人それぞれで。」

「ほう。なら、私たちを選ばなかった理由を聞こうか。」

「言わなくても……言う、言うからデュノア、その銃をしまえ。それと、ボーデヴィッヒはその振り上げた手を下ろせ。」

 

シャルロットとラウラの二人は八幡に言われて、粒子変換で出していたショットガンと、プラズマ手刀をしまい、不満そうな顔をしながら八幡の方を見る。

 

「いや、何、俺のISと相性良さそうなのがなかなかいなくてな。」

「え?僕のリヴァイヴなら気にしなくていいのに。」

「シャルロット、それは違うぞ。私の方が嫁との相性はいいぞ。」

「いやいや、デュノア、お前のリヴァイヴと朧夜だと俺の流星が生かされないんだよ。お前の戦いかただと、近づいたり離れたり相手との距離を自分の有利にしていくやり方だと思う。だが、それが流星にとって邪魔なんだよな…。次にボーデヴィッヒだが、お前は俺にデュノアみたいな攻撃の仕形をしろってか。俺にはそんなことはできない。だからこそ、他のやつと組むんだ。わかったか?」

 

うわぁー。

何か自分で言っといてあれだけどすごい無理があるな。

 

八幡はそう思うのと同時に彼女たちの目から光が失っていくのを見て背筋が凍った。

 

「八幡は、そう思うんだね?ふーん。わかったよ。ラウラ、一緒に組まない?」

「そうだな。シャルロット、よろしくな。それから嫁。」

「トーナメントで当たったとき、楽しみだね?」

 

怖い怖い怖い。

まさかのヤンデレルートに入っちゃったの?

いつものデュノアさんに戻って!

それからボーデヴィッヒ、睨むな。

俺の防御力はこれ以上下がらない状態まで来てるから。

というか、元から防御力はないまである。

何それ、弱すぎ。

 

シャルロットとラウラの二人はにっこりと笑顔を八幡に向けると、立ち去っていった。

嵐が過ぎた後、目の前に襤褸雑巾のような物体が八幡の目の前をふらふらと通っていく。

 

「助けて…。」

 

そう一言言うと、教室の床に伸びた。

八幡は見てない不利をしようと顔を伏せようとしたそのとき、額に何かがぶつかった。

それを確認するため、顔をあげるとそこにあったのは青い物だった。

 

…これって、あれだよな?

あの金髪のビットだったような…。

 

なぜか命の危機を察し、八幡は急いで教室から出ていく。

 

ヤバイヤバイヤバイ!

何でかは知らないけど、逃げなきゃヤバイ気がする!

 

廊下を走っていると、百合百合している二人の女子とすれ違ったが、特に気にせず走り続ける。

そして、階段を駆け下りようとしたとき、目の前に再びセシリアのブルーティアーズが視界に入った。

 

「逃げ場…なさすぎだろ…。」

 

息を切らしつつ、咄嗟に隠れる八幡だが、後ろからただならぬ気を感じて恐る恐る振り返ると、そこには鬼がいた。

 

え、鬼?

作者さん、人じゃなくて鬼なの?

どんなファンタジーだよ…。

って言うか、そんなこと思ってる暇ねぇわ。

やべぇ…。

今度こそマジで死ぬかもしれない…。

 

そう思いながら、逃げるのを諦めた。

 

*******************

 

さて、早速だが今俺は正座させられている。

しかも廊下で。

冷てぇよ。

まるであれだな、俺の事を見る目と同じだな。

…俺の人生悲しすぎ。

というか、目の前にいる鬼「何か変なことを思ってないか、比企谷。」…もとい篠ノ之、鳳、オルコットは腕を組んで仁王立ちしてるんだが。

その視線も冷ややかでMじゃない俺にとっては地獄でしかない。

…って言うか、さらっと心読んでんじゃねぇよ。

 

「それで、何か言いたいことはあるか。」

「今なら許してやってもいいわよ?」

「えぇ。エリートなわたくしが許して差し上げますわ。」

「セシリア、比企谷に負けといてよくエリートとか言えるわね…。」

「うっ…。」

 

鈴にそう言われ、セシリアは口をつぐむ。

 

って言うか、さっきから何の話なの?

何も言いたくないし、許すような口調じゃないし、色々ツッコミどころは満載なんだが…。

 

「ところで、なんで俺はお前らから責められてんの?」

「とぼけるな!」

「あんた、よっぽどぶん殴られたいみたいね?」

「比企谷さん、正直に言ってくださらないとうっかりブルーティアーズが火を吹いてしまいますわ。」

 

別にとぼけてねぇよ。

おい、殴るとか女の子が言っていい台詞じゃないだろ。

オルコット、それはうっかりじゃなくて意図的と言うんだぞ。

わかってる?

 

「…いや、マジでわからんのだが…。」

「…なら、どうして一夏は私とタッグを組まない!!」

「そうよ!!普通なら私と組む予定だったじゃない!!」

「そうですわ!!一夏さんとタッグを組めたら、人の目を盗んでイチャイチャ…こほん、わたくしたちが勝つと思っていますのに!」

 

…え、何これもしかして織斑を巡る修羅場?

というか最後、学校でイチャイチャするなよ。

爆発させたくなっちまうだろ、全俺が。

やっぱり俺の敵だったか、リア充め。

 

そんなことを思いつつ、ひとつため息をつくと立ち上がり、彼女たちを少し見下ろしながらこう言った。

 

「そんなの知らねぇよ。織斑から何を聞いたのか知らんが、俺は会長と組めば、と言っただけだ。他のやつと組まれると嫌なら会長から奪って見せろよ。」

「なっ…!」

「あんたね!」

「か、会長から奪えって!」

「何だ、自信がないのか?だったら、出なきゃいいだろ。それに、お前らは俺がまるで罪人みたいに振る舞ったな。俺はあいつにアドバイスしただけだ。行動したのはあいつだ。なのにこの扱い。お前ら、いい度胸してるな。」

「そうだな。お前もいい度胸してるな。」

 

八幡の後ろから、ものすごいオーラを纏いながら千冬がゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

 

「いや、あの、そのですね?」

「なんだ、言い訳ぐらいなら聞いてやるぞ。私の授業をサボっている言い訳をな。」

「いえ、俺はべつゅにしゃぼってるわけじゃにゃくてでしゅね、しにょにょにょたちに追い回されてこんにゃ時間になってしまったわけでしゅよ。」

「そうか。で?その篠ノ之はどこにいる?」

「は?え?」

 

あれ?今までいたよね?

どこ行ったの?

早くない?

って、先生の後ろに忍者みたいに音を殺して走ってるの篠ノ之たちだと思うんだけど!

ちょっと、あれは放っておいていいのん?

おい、鳳何をサムズアップしてんの?

ムカつくんだけど。

タッグマッチ覚えてろよ…。

 

八幡はそう決意すると、目の前にいる千冬に目線を合わせ、どうやって逃げようか考える。

だが。

 

「比企谷、私から逃げられると思うなよ。」

 

…死んだな。

 

八幡はそう察すると、千冬に連れられどこかへと去っていった。

授業の最中、どこからかわからないが、校舎全体に誰かの悲鳴が響いたと言う。

 

**********************

 

千冬からお話を肉体的にされ、ボロボロになりながらクラスルームへと戻ると、自分の机に倒れるように座り顔を伏せる。

 

…死ぬかと思った。

いやマジで。

これからは怒らせないようにしないと…。

 

八幡はそう決意すると、寝ようとした時だった。

頭上から気の抜けるようなのほほんとした声が聞こえてきた。

 

「ヒッキー、どうしたの~?」

「…あ?いや、魔王を怒らせちゃダメだって思い知っただけだ。」

「魔王って誰?」

「バッカ、お前、そんなこと言ったら消されるぞ。俺が。」

「へぇ~。消されないようにね~。」

「お、おう。」

 

他人行儀過ぎだろ。

いや、他人なんだけどさ。

 

そう思いつつ、今度こそ顔を伏せ、眠りにつこうとしたのだが再び阻まれた。

 

「八幡くーん。」

 

…無視しようそうしよう。

みんなもそう思うよね?

…みんなって誰だよ。

そのみんなの中に俺入ってねぇよ。

ヤバイ、なぜか涙が…。

 

軽くトラウマを思いだし泣きそうになったが、八幡はこの教室にやって来た珍客を無視することを決め、泣きそうなのをグッとこらえた。

 

「…へぇー。お姉さんを無視するんだ。」

 

怖い怖い怖い。

あと怖い。

めっちゃ怖い。

冷たい声出しすぎですよ。

いやマジで。

 

「八幡くん、起きるなら今のうちだよ?」

 

起きてたまるか。

めんどくさい事になりそうだし。

絶対に起きない。

起きないったら起きない。

 

「そっか。なら、さっき八幡くんが織斑先生の事を魔王って…。」

「何のようですか、会長。」

 

対応が早い?

そりゃそうでしょ。

織斑先生にバレたら何されるかわからないしな。

最悪殺されかねん。

 

そう思いつつ、教室の外に出ていこうとする楯無を目で引き留めると、会話を続けようと口を開く。

 

「何か用があるのでは?」

「そうだったそうだった。簪ちゃんの方はどう?うまくいってる?」

「…。」

 

その質問をされ、八幡は押し黙る。

彼の反応を見て楯無は少し察した。

 

「うまく行ってないみたいね。」

「えぇ、まぁ。殴られましたし。どんだけ俺の事嫌いなんだよ。」

「え!?簪ちゃん、君の事殴ったの?そんな事しない子なのに。」

 

楯無は物凄く驚いた顔をして八幡の顔を見る。

その一方で八幡は目の濁りが酷くなり、何やらぶつぶつと呟いていた。

 

「うん。君なら簪ちゃんを任せられるね。」

「ちょっと?話聞いてました?」

「うん。聞いてたよ?」

 

そう言うと楯無は手に持っていた扇子を広げ、そこに書かれていたのはバッチリと、そう書かれていた。

 

ねぇ、それってどうなってるの?

なんで毎回違う文字が書かれてるの?

誰か知ってる人がいたらコメント欄にどうぞ。

あれ、この発言メタい?

 

「だったら…。」

「そうだね。普通なら、止めるよね。でも、あの子がそこまで感情を出すのはあなたが初めて簪ちゃんの感情を出させたの。だから、任せたいと思ったの。」

「…わかりましたよ。でも、どうなっても知りませんよ?」

「大丈夫だよ。君なら、ね。」

「俺の評価高いっすね。」

「八幡くんが自分の自己評価が低すぎるだけだよ。」

「…そんな事ないですよ。」

「そっか。」

 

楯無は何かを悟った風に頷くとじゃあねと言って教室から出ていった。

 

…俺はそんなに評価をもらえるやつじゃないですよ。

本当に…。

 

そう思うのと、授業の始まるチャイムのなる音が同時だった。

 

***********************

 

放課後、八幡は早速もう一度簪のいるクラスへと向かっていった。

中に入っていくと、心配そうにこちらを見る女子がいたが、その視線に気づかないふりして真っ直ぐ簪のもとへと歩み寄っていく。

 

「ちょっといいか。」

「…何。」

 

ぶっきらぼうだが、八幡の言葉に答えた。

八幡はその事に安心しつつ、次の言葉を紡ぐ。

 

「ちょっといいか?」

 

八幡は目で教室の外に行こうと簪に合図すると、彼女は小さく頷いて先に教室から出ていった。

簪の五歩ぐらい後ろから後を追っていく八幡。

二人は人気のないベンチに腰かけると、無言で真正面を向く。

その沈黙も長くは続かず、簪が八幡にこう問いかけた。

 

「で?何の用?」

「タッグマッチの事だが。」

「それは断った。」

「だな。まぁ、お前が本当にやりたくないんだったら俺も諦める。」

「なら、何で。」

「そうだな。お前の事を知ろうと、知っておきたいと思ったから、じゃ不満か?」

 

柄じゃねぇな。

本当に、こんなの黒歴史にも程がある。

…でも、彼女には俺が踏み込んでいかないとダメな気がするから。

それに、知りたい、知っておきたいってのは『本物』に近づく気がするから。

だから柄にもないが問うしかない。

 

自嘲気味に、呆れた風に自分のことをそう思いつつ、簪に問いかける。

 

「お前、何で俺の事が嫌いなんだ?」

「っ!」

 

いきなりそんな事を聞かれ、驚愕で目を見開かせる。

眼鏡に隠されていてもわかるそれは、ある意味で八幡の予想通りだった。

 

「答えたくないなら別に構わない。次行くぞ。お前、姉みたいになろうとしてるのか?」

「っ!!」

 

やっぱりな。

才能に恵まれ、学園最強の名を欲しいままにしている会長と比べられればそうもなるか。

それも更識家なら、尚更だな。

だったら…。

 

「もしそうだとすれば、お前は会長みたいになれない。」

 

現実を突きつけてやる。

俺が彼女に踏み込む前に、彼女に正々堂々と、真正面から、卑屈に、卑怯に、最低に、陰湿に、現実を突きつけてやる。

彼女が会長になれない事を知らしめ、自分と言う自分が決めた殻を破らせるために。

…ったく、何て事をやらせるんだよ、あの会長さんは。

 

そんな事を思いつつ、隣で小さく震えている彼女を見て罪悪感に苛まれながらも、心を鬼にして次の言葉を紡ぎだしていく。

それは簪にとって鋭利な刃物で傷口を抉られる感覚に近いものではあるのを知っていて。

 

 




…なんだこれ。
八幡が簪を苛めてるように見える?
やだなー、気のせいに決まってるじゃないですかー。

まぁ、そんな事はいいとして、何か書きたかったことと違う気がしますが、気にせず更新してしまいました、はい。
次回はどうなることやら。

こんな作品ですが、最後までお付き合いくださいませ。

ではでは、次のお話でお会いしましょう。



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第23話 彼女は小さな光を見出だす

お久し振りです。
1か月ぶりの更新…。
遅い…遅すぎる…。

最近お仕事が忙しくて中々書けなかったのが原因ですが、もうちょっと早く更新できるように頑張ります!
なので、これからもよろしくお願いいたします。

という事で何時のまにやら23話です!
きり悪いですね(笑)
今回の話でも簪は出てくるのですが、キャラ感掴めない…。
だからキャラ崩壊あるかもです。
何ならキャラ全員が崩壊してるまである。

まぁそんなことはどうでもよくてですね、今回も八幡が八幡じゃないのでよろしくです。

では、どうぞ。



「お前は会長みたいになれない。」

 

その一言を言われた瞬間、私の中で何かが砕けた気がした。

私はお姉ちゃんみたいになれない。

頭の中ではわかっていても、こうして面と言われると何かモヤモヤした何かに覆われるような感じがする。

 

「お前は会長じゃないし、会長になれない。もしお前がなろうとするのであれば、それは憧れじゃないし、目指す目標ですらない。ただの依存だ。」

 

そんなことないって言えない自分がいる。

どうしてだろう。

わからない。

何もかもがわからない。

お願い、ヒーロー助けて。

 

「お前は会長に嫉妬したのか?嫉妬する前に自分で何かしようとしたのか?」

「わかった風に口聞かないでよ。」

「わかるさ。お前の事なんか、最底辺にいる俺が理解できるぐらいだ。お前だって本当は知ってんだろ?自分が最底辺にいる事ぐらい。」

「そんなことない…。きっといつかヒーローが…。」

「ヒーローなんてこの世にいねぇんだよ。何かあってから、何か起きてからしか動かねぇやつがヒーローな訳あるかよ。そんなのは二次元だけだ。」

「そんなこと…。」

「あるんだよ。いるとしたら何でお前の前に現れないんだ?」

 

私は何も言えなくなった。

もう、やめてよ。

これ以上聞きたくない。

 

そんな簪の願いとは裏腹に八幡の言葉はその耳に届いてしまう。

 

「現れないのは、いないからだ。だから自分でやらなくちゃならない。誰かに頼ろうとするだけじゃなく、一人でもできるようにならなくちゃいけない。」

 

簪は呆然と八幡の顔を見る。

その腐った目を見て心の闇が溢れ出るかと錯覚した。

だが、次の一言でそれがすべて消え去った。

 

「だが、お前はもう限界まで来てしまっている。だったら、誰かに頼れ。あの会長だって誰かに頼った。だったらお前のやり方は間違ってる。それにな、どうしてお前は自分自身を、何より自分の能力を肯定してやれない。否定するなとは言わない。だがな、肯定できないやつに否定なんて出来るわけねぇだろ。」

 

簪はその腐った目が少し優しい目に変わった気がした。

気のせいだろうと思いながらも、その目から目が離せなくなった。

 

私は…間違っていたの?

わからない…でも、もしかしたら、わかるようになるのかもしれない。

だったらどうするべきなの?

 

「わからないなら足掻き苦しめ。たぶん、きっとその先に答えがあると思うぞ。」

 

そう言いながら八幡は席を立ち、簪が自分で答えが出せるように一人にした。

 

*************************

 

俺は何であんな恥ずかしいことを…。

死にたいよぉ!!

明日授業受けたくないよぉ!!

何が正々堂々、真正面から卑屈に卑怯に最低に陰湿にだよ。

恥ずかしいことをペラペラとしゃべっただけじゃねぇか!

 

簪と別れた後、八幡は自分の部屋に戻るとベッドに仰向けでダイブし一人、悶えていた。

 

うぐおおおぉぉぉ!!

もうやだ。

こんなこと言ったのは俺じゃない。

すべて妖怪のせいだ。

もしくはこんなことさせた会長のせいだ。

俺は悪くない。

お、何か落ち着いてきた。

 

「はぁ…。」

 

ため息をひとつついてベッドから起き上がろうとしたとき、先程まで会っていた少女とよく似た少女がこちらをぽかんとした表情で見ていた。

彼女は乾いた笑みを浮かべながら、後ろに一歩後ずさる。

その動きでお互いにこの状況を認識したのか、何とも言えない空気がここを支配していた。

 

「えっと…どうだった?」

 

ねぇ、ちょっと?

その、え、なにこいつ。ちょっとキモいんだけど。みたいな目を向けながら困惑した表情するのやめてくれませんかね。

それに、話題そらすの下手すぎだろ…。

 

「いつも通りてひゅよ。」

 

やべぇ、俺もいつも通りじゃねぇわ。

って言うか、この人ほんとにここに居座るつもりかよ。

 

「そ、そっか。何か進展はあった?」

「さ、さぁ?あ、後はあいつ次第ですからね。」

「そ、そうだよね。」

「ところで…さっきの見ましたよね?」

「う、うん。」

 

うごおおおぉぉぉ!

超恥ずかしいんですけど!

やべぇやべぇやべぇよマジやべぇよ。

ヤバイがヤバイぐらい出てくるほどヤバイ。

死にたい…。

 

「わしゅれてくりぇましぇんかね?」

 

噛み噛みだわ。

しっかりしろ、俺の滑舌!

 

内心でまたもや悶えていると、楯無は小さく笑って舌を少し出しながらいたずらっぽくこう言った。

 

「忘れないよ♪」

 

何だそれ、あざとい。

…けど可愛いなおい。

 

その顔を見て、少し顔を赤らめていると楯無がそれに気づき、詰め寄りながらその事を指摘していた。

 

「あ、赤くなった~。照れちゃったの?」

「い、いえ。違いますよ。あんな姿みられて恥ずかしくて顔が赤いだけです。」

「えー?ほんとに?」

 

近い近い近い。

だから近いって。

後近い。

何、近寄らないとダメなの?

って言うか何でそんなに近寄るの?

意味なんてないよね?

 

更に近寄ってくる楯無から目を背けながらそう言うと、彼女は微笑みながら八幡の心を読んだような事を言った。

 

「近寄るのはね、八幡くんとスキンシップがしたいから。」

「ちょっと?なに勝手に心のなか読んでるんすか。別に俺はスキンシップとかどうでもいいですよ。って言うか、俺みたいな根暗にスキンシップ取るより織斑みたいなやつの方がきっと面白いですよ。」

「私は、八幡くんがいいの。」

 

そんなこと言うなよ。

勘違いして告白してすぐに振られちゃうだろ。

って振られるのかよ俺…。

いや、当たり前だけどさ。

 

八幡は小さくため息をはくと、楯無から距離を取り、ベッドから降りるとシャワールームへ向かった。

 

「どこ行くの?」

「ちょっとさっぱりしてきます。」

「おねぇーさんも一緒にいい?」

「はっ!?」

この後、八幡はシャワーを浴びたのだが、何故かぐったりしており、一方の楯無は顔がつやつやしていたと言う。

 

*************************

 

八幡が退席した後、しばらく座っていた簪は、ようやくその重い腰を上げ、立ち上がった。

その途中も先程まで会っていた彼の言葉をずっと心の中で反芻していた。

 

私はお姉ちゃんみたいになれない…。

それはわかってた。

私がどれだけ頑張ってもお姉ちゃんには届かない。

でも、頭ではわかっててもたぶん実行できていなかった。あの人の言うとおり、お姉ちゃんを目標に見立てたふりをして、依存していたのだと思う。

でも、これから私はどうしたらいいの?

わからない。

けど、わからないで終わらせちゃダメなのはわかった。

だからこそ、私が今するべき事は…。

 

簪はどこかスッキリした顔になると、少し急ぎ気味に歩き出した。

その姿はまるで真っ暗な道の先にある小さな光を求めて歩く姿のようであった。

 

*******************

 

連絡をもらった彼女は自分のクラスに一人、椅子に座って連絡してきた人物を待っていた。

しばらくすると教室の扉が開き、彼女が待っていた人物がやって来た。

 

「どうしたの~?突然呼び出して。」

 

のほほんとした口調の彼女、布仏本音は本音を呼び出した人物こと、更識簪にそう言った。

簪は本音に近寄っていき、いきなり頭を下げた。

 

「本音、私のIS造るの手伝って。」

 

いきなりの事で驚いた本音だったが、優しく微笑むとこう返事を返した。

 

「かんちゃんがそう言ってくれるのを待ってたよ。」

 

簪はその言葉にはっとしたのか頭を上げ、本音の顔を見つめる。

その目に写るのも、その表情からも嘘は見受けられなかった。

 

「よぉーし、早速他の人にも協力してもらってやっちゃおー。」

 

のほほんとした口調で今一やる気なのかそうでないのかわからないが、本音は早速誰かにメールを飛ばしていた。

簪はそんな彼女を頼もしそうに見ながら、待ってたという言葉を聞き、少し感動していた。

それと同時に、簪はもうひとつやることを心に決めた。

 

******************

 

八幡が簪と話してから数日がたった。

八幡からも簪からも会おうとはせず、ただ時間が経っていた。

 

ふむ。

来ないということは、きついこと言い過ぎたか?

いや、でもなんか恥ずかしいことを言ったような気が…。

うっ…頭が。

…って言うか、タッグトーナメントどうしよ。

早く決めないとな…。

 

そんなことを思っていると、八幡のもとに一夏が近寄ってきた。

 

「よう。八幡、タッグの相手決まったか?」

「まだだよ。早くしねぇと織斑先生にしばかれるな…。」

「千冬姉、容赦ないからな。」

 

小さく笑いながらそう言うと、いきなり神妙な顔になる。

 

「ところでさ。」

「何だよ。さっさと用件を話せ。」

「楯無さんの特訓、めっちゃきついんだけど…。」

「知らねぇよ。むしろもっと特訓しろよ。俺はしたくないけど。」

「他人事だと思って…。」

「いや、実際他人事だろ。俺に被害がなければそれでいい。」

「とか言いながら臨海学校で俺らを庇って大怪我したよな。」

「あれは、ああした方が効率がよかったからだ。」

「そう言いながら、結構八幡ってやることやるんだよな。」

「うるせぇ。」

 

八幡は若干ムッとしながらそう返すと、一夏が笑う。

そんな二人の光景を周りの女子達はほのぼのした気持ちで眺めていた。

その時だった。

教室のドアが開き、そこから一人の少女が八幡の方へ歩み寄ってきた。

八幡もその人物に気づき、若干驚いた顔を浮かべる。

 

「比企谷くん、私と…その…タッグ…組んで?」

 

簪は少し恥ずかしいのか、頬を赤く染め、少し吃りながら上目遣いで八幡にそう言った。

その表情に少し照れた八幡は頬を赤く染めながら、こちらも少し吃り気味で答えた。

 

「お、おう…。」

 

何だよ。

いきなりそんな表情は破壊力抜群すぎだから。

破壊力高すぎて、「んちゃ。」で地球壊れちゃうまである。

何それ、破壊力高すぎ。

 

「ありがとう。それと、ごめんなさい。」

「…別にもう気にしてないからいい。」

「ありがとう。これから、よろしく。」

「よろしくな。更識。」

「……でいい。」

「は?」

「簪でいい。」

 

そう一言言うと、走って教室から出ていった。

 

何だったんだよ。

わからん…。

 

そのやり取りを見ていた一夏のファンは少し暖かい目をしてその光景を眺めていたのだが、一方の八幡のファンは相手を射殺すような目をしていたという。

とくに金髪と銀髪の少女からはヤバイ視線が送られていたらしい。

その後、その少女達と八幡はどこかへと行ったらしい。

八幡は首もとを引っ張られながら。

 

あれ?

俺死んじゃうの?

って言うか、何でこの学園に来てから命の危機に何度も会うの?

モテ期じゃなくて、死に期?

何それ、そんなのいらないんですけど。

 

若干現実逃避していた。

その後に続く事がどんなことになるのかと思いながら。

 

**********************

 

助かった…。

マジあの人超天使。

いや違うな。

女神だな。

今日からずっと着いてく。

 

あのあと、八幡はシャルロットとラウラから責められることなく教室に戻ってきた。

その理由としては織斑先生に助けられたからだ。

いや、たまたまそこを通りかかった千冬が彼らを目撃し、授業前に何をしてるんだ、という展開になり引き摺られていた八幡には同情の眼差しを送り、見逃してくれたがシャルロットとラウラの二人はこっぴどく叱られたらしい。

 

俺は知らんけどね。

関係ないし。

というか、俺の場合は被害者だからね?

いやまぁ目は腐ってるけどさ。

たまに加害者に間違われることも…。

何それ悲しい。

 

自虐で心を痛めていると、いつの間にか昼休みになっていた。

 

あれ、さっきまで一時間目じゃなかった?

気のせいですか?

そうですか。

 

八幡が時間の流れがおかしいと感じていると、真ん前から声が聞こえた。

 

「お昼ごはん、一緒に食べない?」

 

その言葉に反応して顔をあげるとそこにいたのは簪だった。

八幡は何を言われたのか少し考えていると、さらにもう一度簪が同じ事を言った。

 

「お昼ごはん、一緒に食べない?」

「何でだよ。俺と一緒に食べてもいいことないぞ。」

 

何なら俺の顔見ただけで気持ち悪くなって食欲失せるまである。

何それ、俺超かわいそう。

 

「八幡とタッグ組んだから。」

 

はい?今なんと?

 

「はい?今なんと?」

 

心の声と一緒の事言っちまったぜ。

 

「タッグ組んだから。」

「いや、その前。」

「八幡。」

「なぜに名前呼び?」

「何となく?」

 

疑問系なのかよ。

って言うか、何となくで呼べちゃうの?

誰か教えて!

 

八幡が軽く混乱していると、簪が小さく笑った。

 

「何だよ。」

「何でもない。早く行こ。」

「おい、引っ張るな。」

 

袖を引かれながら八幡は食堂へと向かっていった。

その光景を見ていたシャルロットとラウラは新しい敵が現れたことを、内心で少し焦っていた。

一方で本音は簪の成長を驚きながらも嬉しく感じていた。

 

 




はい、どうもです。
最近話の続きが思い浮かばなくなってきた僕です。
次どうしようかな。
なんとかなるでしょ(笑)

次の更新が何時になるかわかりませんが、待っていてください。

ではでは、次のお話でお会いしましょう。


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第24話 彼と彼女は練習を始める

お久しぶりです!
体調を崩して更新が遅くなってしまいました。
申し訳ありません。

ここまで引っ張っといてなんですが、文章は今まで通りのクオリティ…。
成長しろよ…。

これからも頑張って更新するのでよろしくです!
では、どうぞ。



八幡と簪は教師にアリーナの使用許可をとり、今現在第2アリーナにISスーツに着替えてピットにいた。

 

え、ほんとに今から練習すんの?

めんどくさいんですけど…。

帰って寝たい…。

 

「八幡、聞いてる?」

「あぁ、聞いてる聞いてる。何なら聞きすぎてもう聞きたくないまである。」

「…絶対聞いてなかった。」

 

簪にそう言われ、八幡は図星だったのか目をそらす。

その様子を見て簪は小さくため息をはく。

 

「八幡、もう一回言うからちゃんと聞いて。」

「わかったよ。」

「私の専用機がどこまで戦えるか、戦闘データがほしい。だから、まずは私と模擬戦して。」

「わかった。」

「それから作戦を考える。これでいきたいと思うんだけど。」

 

そう言うと簪は不安気な目を八幡に向ける。

八幡はそれに気づくと小さく息を吐き、小さく微笑むとこう答えた。

 

「あぁ、それでいいぞ。まずはお互いにどういう性能か知る必要がありそうだしな。」

 

そう言いながら無意識に簪の頭に手を運んで撫でていた。

 

あれ?

俺何しちゃってるのん?

ほら、更識が顔を真っ赤にして怒っていらっしゃる。

ごめんね?

すぐどけるから命だけはお助けを。

 

「わり。」

 

そう言いながら手を離すと名残惜しそうな顔をしながら、簪は彼に目を向けた。

 

「もっとやってくれてもよかった…。」

「え?何だって?」

「何でもない。」

 

俺、難聴系主人公にでもなっちゃった?

いや、でも声が小さすぎて聞こえなかっただけだからね?

ほんとだよ?

ハチマンウソツイタコトナイ。

 

そんなことを思っていると、簪が右手を差し出し専用機の名前を呼ぶ。

 

「来て、打鉄弐式。」

 

打鉄弐式と呼ばれたその機体は、上半身にほぼ装甲がなく身軽そうな見た目とは裏腹に、翼や脚部が若干重装甲になっている。

八幡はそれを見て、彼女の専用機がどのようなものかを想像する。

 

打鉄と名前についているくらいだ。

その系統なのだろう。

ということは第二世代型か。

じゃあ、打鉄ってことは防御寄りなのか?

いや、それはないだろう。

防御寄りであるのなら、脚部スラスターや翼部スラスター何かはそんなに多くないだろう。

となると、機動型か。

って、ついあの人のようなことをしてしまったぜ。

…思い出したらなんか疲れてきた。

 

そんなことを思いつつ、八幡は左腕にあるバングルを右手で触れつつ、こう呟く。

 

「来い、朧夜。」

 

八幡を一瞬で漆黒の鎧が身を包む。

簪は改めて八幡の専用機をまじまじと眺める。

 

「更識、その機体は初期化と最適化はもう済んでるのか?」

「え、うん。終わってる。慣らし運転も終わってるけど、まだ戦闘はやってない。」

「わかった。なら先いってるぞ。」

 

八幡はそう言うとカタパルトまで行き、ピットの外に飛び出ていく。

それに続いて簪もピットから飛んで出ていく。

 

「よし。じゃあどうする?タッグトーナメント形式でシールドエネルギーを全部切れるまでやるか、それとも半分切ったら終わりにするか。」

「半分でいい。」

「了解。なら、行くぞ。」

 

八幡はそう言うと手始めに両手に新星と鬼星をグリップさせ、簪に銃口を向け発砲する。

簪はそれを見事な機動力で避け、隙を見て反撃の山嵐を八幡に向けて発射した。

 

ミサイルか?

避ければって、マルチロックオンシステムが使われてるのかよ。

めんどくせぇな。

 

八幡はミサイルから距離をとりながら移動し、背中の流星をミサイルに向けてパージする。

流星は複雑な動きをしながら次々とミサイルを落としていく。

簪はそれに驚きながらも、八幡に近づいていき夢現を両手に持ち、それを振るう。

八幡は若干対応が遅れたが、何とか星影で受け止めると流星を簪に向ける。

簪はそれに気付き一旦離れるが、流星は簪を追い続けビームを浴びせていく。

八幡はその間に彗星を出し、動き回る簪に狙いを定め引き金を引いていく。

その攻撃を彼女は避けるが、全て避けきれるわけもなく被弾して少しずつ追い込まれていく。

 

強い。

これが、八幡の実力。

敵わない。

でも、私だって強くなるんだ。

だから…。

 

簪は夢現で反撃しようとするが、流星に行動を制限され中々八幡のもとに突っ込むことができない。

八幡もじわりじわりと追い込んでいくため、一定の距離を保ちながら引き金を引く。

 

これでいつかは更識のシールドエネルギーは減っていくだろう。

なら、このままあまり動かずに撃っていくか。

この方が楽だし。

 

そう思っていると、簪の専用機の背中に何かが出てきた。

 

「いくよ、打鉄弐式!」

 

荷電粒子砲を八幡に向けて撃つ。

八幡はいきなりの事で驚きながらも、何とかそれを避ける。

 

おいおい、荷電粒子砲まであるのかよ。

もしかして俺と同じオールレンジ攻撃が可能なのか?

いや、流星みたいなのもないし、ライフルなんかもなさそうだ。

となると、タッグトーナメントでは難しい立ち位置にいるな。

だが、俺と連携をとるなら支援してくれるといいな。

いや、俺前に出たくないけどね。

 

そんなことを思いつつ、荷電粒子砲を避けていく八幡。

簪はそれに若干苛立ちながらもめげずに射ち続ける。

八幡は彗星を戻し両手に十六夜と朔光を握り、簪に向かって肉薄する。

それを見て驚いていたが、すぐに長刀、夢現を両手で握り交戦する。

八幡の流れるような鮮やかな剣筋を何とか防ぎつつ反撃しようとするが、どうしても防戦一方になってしまった。

 

「どうした?その程度か?」

「そう、かもしれない。」

 

何だよ。

もう諦めるのかよ。

 

八幡はそう思ったが、簪から次の言葉を言われ認識を改めた。

 

「だけど、負けたくないから、諦めない。」

 

その言葉を聞き、八幡の口許に笑みがこぼれる。

 

何だよ、良い顔してるじゃねぇか。

それに、もう誰にも依存してなさそうだな。

 

「そうか。」

「うん。八幡にも、負けたくない。」

 

必死に食いついてくる簪を見ながら、八幡は徐々に剣速を速めていく。

簪はそれを受けつつ、内心で敵わない、そう思っていた。

それは現実のものとなり、ついに八幡の攻撃が簪に届くようになっていった。

打鉄弐式のシールドエネルギーはだんだんと減っていき、もう少しで半分になりそうになったとき、簪は山嵐を起動させミサイルを八幡に向けて放つ。

八幡は咄嗟に簪から離れ、星影で数発を受け止め、残りを二振りの刀剣で切り裂くとその勢いのまま簪に斬りかかる。

爆発した影響か、煙で八幡の行動を見ることができない簪は距離をとろうとスラスターを噴射したが、すでに目の前になぜか刀を振りかぶっている八幡の姿が見えた。

 

どうして?

さっきまでいなかったのに!

 

混乱しつつも夢現で防ごうとしたとき、簪に衝撃が襲った。

 

なに!?

 

衝撃をした方を向くと、そこにはエネルギーで構成された剣が打鉄弐式を捉えていた。

その攻撃で簪のシールドエネルギーは半分を切り勝敗が決した。

簪は上空で俯きながら、アリーナのグラウンドへと降り立つ。

そんな彼女の様子を見て八幡もグラウンドへと降りていく。

 

「やっぱり、勝てなかった。」

「ま、まだこれからだろ。気にすんなよ。」

「でも、悔しい。」

 

そうか。

こいつは勝つ気でいたんだな。

俺は常に負けたいと思ってるけどな。

何なら負けたいと思ってなくても負けているまである。

あれ、目から涙が…。

 

「だから八幡、私を鍛えて。」

 

真剣な眼差しで八幡に訴える簪。

その目を見て断る勇気を八幡は持っていなかった。

 

「わかったよ。めんどくせぇ。」

 

最後の言葉は小さく呟いたはずだが、簪の耳に届いていたようでムッとした顔をしていた。

 

「八幡、私と特訓するのいや?」

 

特訓が、というより働きたくないんです。

というより働いたら負けと思ってるまである。

何なら専業主夫になるのもめんどくさくなりつつあるレベル。

いや、考えても見ろ、束さんの専業主夫にでもなってみろ。

ものの1日で胃に穴が開くぞ。

何なら半日で限界を迎えるまである。

 

そんなことを思ってても口に出さず、事実を話すことにした。

 

「いや、お前は別に特訓とかいらんだろ。日本の代表候補生なんだし。実力は申し分ないと思うぞ。ただ、まぁ、何だ?お前と俺はタッグだから、連携をとれなきゃいけないからな。仕方ないから練習だけは付き合ってやる。」

 

目をそらしながら、若干頬を染めながらそう言った。

簪はしばらくぽかんとしていたが、すぐにくすくすと小さく笑い始め、八幡にこう言った。

 

「八幡って素直じゃない。」

「ばっかお前!俺なんか超素直だからな。働きたくないって常に言ってるレベル。」

「必死すぎ。」

「ぐっ…。」

 

おい、こいつってこんな性格だったか?

かわい…げふんげふん、こうしてた方が生き生きしてて良いんじゃねぇの?

いや、まぁ、知らんけど。

 

そんなことを思いつつ、八幡の顔が少しだけだらしなくなっていると、朧夜の警告を示すアラームが八幡の耳に響き渡る。

一気に真剣な眼差しになる八幡。

咄嗟に星影を起動させ、簪もろとも守りの体勢に入る。

八幡は全神経を集中させ、辺りを見回す。

 

誰だ?

さっきのはロックオンされた音だったぞ。

 

そう思いつつ、殺気を身に纏い睨むようにある一点を眺めていた。

その方向は八幡を狙撃したであろう人物がいる方向だった。

 

あれは…黒い機体か…。

は?

何であいつが撃ってくるんだよ。

ボーデヴィッヒさん。

 

ラウラは何故かシュヴァルツェア・レーゲンを纏い、八幡を睨み付けていた。

彼女だけでなく、その少し前にはシャルロットが隠れて潜んでおり、ライフルを構えて狙撃をしようとしていた。

 

っていうか、何で俺狙われてるの?

賞金首かなんかなの?

俺にかけられてる賞金なんてたかが知れてるだろうに…。

言ってて泣けてきた。

 

八幡は目を若干腐らせながらチャネルをオープンにし、シャルロットとラウラに通信を繋げる。

 

「おい、何で撃ってくるんだよ。」

「嫁よ、私というものがいながら他の女にデレデレするとは、良い度胸しているな。」

「ちょっと待て、俺がいつデレデレしたと?そんなことはしていない。無実だ、冤罪だ。何なら俺がそんなことしたらお縄になるまである。」

 

更に言うなら見ただけで通報されるレベル。

何それ、俺の自由無さすぎ…。

 

「八幡、嘘はいけないよ?」

「えー…。」

「でも八幡、そこにいる人を一瞬でも可愛いって思ったよね?」

 

は?

いやいやいや、思ってないよ?

ほんとだよ?

ハチマンウソツカナイ。

 

「そ、しょんなこと思ってないれしゅよ?」

「可愛いって…。」

 

八幡の後ろでは簪が顔を真っ赤にして俯いていた。

それを見たシャルロットとラウラの二人は八幡を睨み付ける。

 

「八幡、思ってたよね?」

「嫁、どうなんだ。」

 

高圧的に八幡の前に立つ二人。

八幡は彼女たちを見てすぐに土下座へと行動を移した。

 

「すいませんでした。」

 

あれ、何で俺謝ってんの?

理不尽じゃね?

っていうか、可愛いって思っちゃダメなのかよ。

可愛いは正義なんだぞ。

何なら小町は可愛いから小町の存在は正義となるまである。

わかったか!!

 

「ねぇ、そんなのわからないよ。」

「そうか、可愛いは嫁にとっての正義か。なら私たちの正義はデレデレした嫁をこらしめること、ではダメか?」

 

ちょっと?

お二人さん、落ち着こう?

ほら深呼吸して。

だからそのプラズマ手刀とパイルバンカーを仕舞おう。

ね?

今のあなたたちは怖いから。

っていうか、普通にしてた方が可愛い。

何ならすぐに告白しても良いレベル。」

 

「八幡!?」

「い、いいいいいきなり何を言うんだ、嫁は!」

「は?」

「八幡、口に出てた。」

 

嘘だろ。

絶対殺されるわ。

だって顔を真っ赤にして怒ってらっしゃる。

っていうか更識さん、声が冷たいです。

前門の虎、後門の狼を実体験してる比企谷八幡です。

うーん、これは違うな。

だって危機は前からしかないもん。

 

そんなことを思っていると、シャルロットとラウラが口を開いた。

 

「まぁ、今回だけは許してあげよっか。ね、ラウラ。」

「そうだな。シャルロットの言うとおりだな。」

 

そう言うと二人は簪の方に目を向け、火花が散りそうなほど強い視線を交わしていた。

 

怖い怖い怖い。

あと怖い。

え、何?

女ってこんな目出来るの?

超怖いんですけど。

小町、お前だけはやるなよ。

これお兄ちゃんとの約束ね。

破ったら八幡的にポイント大暴落。

むしろ、この世界が恐慌に陥るレベルで落ちるまである。

 

しばらくそうしていた彼女たちだが、シャルロットとラウラがISを解き、歩き去っていくと簪は小さく息を吐き出した。

 

八幡って、罪な男。

天然のたらし?

ジゴロ?

うーん。

ライバル多いな。

 

そう思った簪であった。

その一方で地面に正座している八幡はどんな思いでいるかなどわかるはずもなく、女って怖いと思いながら立ち上がるのだった。

 




え?話が進んでないって?
いつものことだから気にしたらダメですよ?
次は頑張って話を進めますので、よろしくです。

ヒロインがどんどん増えていく。
それと…
簪ちゃんの口調難しい…。

では、次のお話で。


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第25話 準備を始める少女たち

お待たせしました!
今回はオリキャラが最後の方に出てきます。
…そうしないと箒ちゃんがタッグマッチに出れないので(笑)

という事で、今回のお話は題名の通り、ヒロイン達の目線からという話となります。

では、どうぞ。



八幡と特訓をはじめて数日が経った。

彼の指導は的確で私もどんどんとうまくなっている…と思う。

今回は負けられない。

…色々と。

 

簪は、再び八幡との練習をするため、ピットからISを纏いつつ飛び立っていく。

すでに八幡は上空を飛んでおり、簪を見た瞬間、彼は流星を飛ばして応戦してくる。

今回はどうやら、ブルーティアーズを真似ているようだ。

 

なかなか、接近できない…けど前に進むんだ。

私だって強くなりたいから!

 

簪はミサイルをあらゆる方向へ打ち出し、流星を落としにかかるが、なかなか当たらず思うようにいかなかった。

 

どうしたら…どうしたら…?

…迷ってる暇はない。

私にできることは、感覚を掴むことだけ。

だったら、足掻いて意地でも八幡の元へと行く!

 

夢現を手に取り、近づいてきた流星を斬っていこうとするが、動きが早くて捉えきれずにいた。

簪の顔に焦りの色が見え始める。

そして、段々と冷静さを失い、動きが鈍くなっていく。

八幡はそれに気づくと、小さくため息を吐きながら彼女にどうやってアドバイスを言おうか迷っていた。

そんなことをしていると、簪のシールドエネルギーが切れ、そこで練習は終了となった。

 

「最後の方、ダメダメだったな。」

「わかってる。」

「なら、どう改善すればいいか自分がよくわかってるんじゃないか?」

「うん。冷静さが足りない。こんなんじゃ八幡達に追い付けない。」

「ま、少しずつ自分のペースで強くなっていけばいい。ただ、あまり遅すぎてもダメだけどな。」

「うん。八幡の足を引っ張らないように頑張る。」

「んじゃ、今日はここまでだな。」

「明日も…よろしく。」

「わかってるよ。ったく、何で俺が…。」

 

ふふっ…。

文句言いながらでも、結局八幡はやってくれる。

これは…捻デレ?

新しいデレの種類が追加された。

本当に八幡は優しい。

それでいて、どこか厳しい…気がする。

どこが、といわれてもわからない。

でも、優しくて厳しいような気がする。

だから、だからこそ私は、八幡の足を引っ張らないように、八幡と肩を並べるように練習する。

追いかけるだけは、もう嫌だから。

 

簪はそう思いつつ、更衣室へ戻っていくのだった。

タッグトーナメントまで、残りは一週間を切っていた。

 

********************

 

八幡をめぐる競争相手が増えたことを危機的に感じているシャルロットは的に向けてラピッド・スイッチを駆使しながら次々と中心を撃ち抜いていく。

 

何で、八幡は僕を選ばなかったんだろう。

僕はそんなに弱いのだろうか。

だったら、このトーナメントで証明する。

八幡の横にふさわしいのは僕なんだって!

 

最後の的も真ん中を撃ち抜き、地面に降り立つとこう呟いた。

 

「僕は強敵だよ、八幡。」

 

そして再び、的が出てくるのを確認すると、遠距離射撃や近接格闘を織り混ぜながら撃ち抜いたり、破壊したりしていく。

シャルロットはそれをこなしながら、このトーナメントで優勝したら八幡に何をしてもらうかを考えていた。

 

何してもらおうかな。

あ、ナニでも…これはさすがに早いかな。

ご褒美は最後まで考えおこうかな。

あ、それとも八幡に考えてもらおう。

うん、そうしよう。

それがいいに決まってる。

楽しみだな~。

だから、絶対に勝つ!

 

勝手にそう決めると地面に着地し、残りの的を射撃で撃ち抜くとISを待機形態にしてアリーナから立ち去っていく。

その顔はなぜか幸せそうであった。

 

***************

 

全く、嫁はまだ自覚が足りんようだ。

だが、そこがまた嫁のいいところではないだろうか。

いや、やはり浮気は許せん。

 

ラウラはそう思いながら、ロッカーを見つめそこに偶像の八幡を想像する。

その目はロッカーを射貫くかのように鋭く、殺気が籠っていた。

 

比企谷八幡、貴様は私が唯一認めた男なのだ。

だからこそ、私の嫁にならなければならない。

 

第三者からすると、この思考はいささか疑問に思うところではあるのだが、ラウラのその目、そのオーラ、全てが本気であることを物語っていた。

そして、そんなラウラは軍事用のナイフを取りだし、目の前を縦一直線で振り切った。

のはいいのだが、ロッカーを切りつけてしまい、少し慌ててしまっていた。

 

「ど、どうする…というか、ここって…。」

 

ラウラは何かを思いだし、恐る恐るといった風にロッカーの扉の裏側を見た。

そこには真っ二つに切り裂かれている八幡の隠し撮りした写真があった。

 

「あぁ…えっと…テ、テープが確かこの辺に…。」

 

震える手で少し散らかっているロッカーへ手を伸ばすが、それが更なる悲劇を生んだ。

テープを取り出したはいいもの、手が震えているため今にも落ちそうなナイフに触れてしまい、雪崩のごとく中のものがラウラを襲った。

何とか脱出したものの、どうにもならないことを察してこう叫んだ。

 

「衛生兵、衛生兵ー!!」

 

そこには涙目で座り込んでいるラウラの姿があったそうだ。

 

****************

 

うーん…何かつまらないなー。

一夏くんは一夏くんでいいんだけど、やっぱり比企谷くんの方が面白いな。

…はっ!

まさか、これが俗に言う比企谷菌に感染した状態と言うの!?

 

一夏との練習の最中にそんなことを考えながら、楯無は水で標的を作りながらダメ出しをする。

 

「ほら、また無駄な動きがあった!もっと早く近寄って斬りなさい!そうじゃないとやられるわよ!」

「わかってます!くそぉぉ!」

 

意地で食らいついている状態の一夏を見ながらも、思考は八幡の事を考えていた。

 

比企谷くん、私たちが優勝したら私と色々しましょうね。

あんなことや、こんなこと、果てにはそんなことまで。

うふふ。

あん、もう楽しみ♪

 

妄想を膨らませながら一夏の標的を作る姿は何とも異様な光景だった。

何故なら、今の楯無の口許には幸せそうな笑みが浮かんでいたからだ。

 

そんなことをしたら、家族にならなきゃ。

子どもは何人がいいかしら。

私の幸せの為にも、一夏くんを立派にしなきゃね。

もし、成長しなかったら、そうね。

一夏君に惚れてるであろう人達に色々あることじゃつまんないから、ないことないことを吹き込んじゃおうかしら。

ふふっ。

 

そう思うのと同時に一夏は何やら悪寒を感じた。

そして、キョロキョロしていると楯無が作った標的に顔が当たり、墜落した。

それに気づいた楯無は絶対に言おうと心に誓ったのであった。

 

******************

 

わたくしの誘いを断るだなんて男としてどうかと思いますわ!

全く、年上の女性の色香に惑わされるなんて!

わたくしもそれなりのプロポーションを…一夏さん、破廉恥ですわ!

 

シャルロットと同じように的を射撃で撃ち抜きながらそんなことを思っていると、顔が赤くなるのがわかる。

それを振り払うかのように頭を強く振り、ビットを射出させ的の真ん中を次々と撃ち抜いていく。

 

「一夏さん、覚悟していてください!絶対にこのわたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが優勝いたしますわ!」

 

そう強く誓ったセシリアだったが、その前に立ちはだかるであろう強敵のペアを思い浮かべる。

 

その前に、倒さなければならない相手がいますわね…。

比企谷八幡さん。

彼と、そのペアの方は侮ってはなりませんわ。

…きっと彼らが負けることはないでしょう。

わたくし達以外には。

 

その自信がいつまで続くのかはわからないが、セシリアは自信満々に自分の心に刻み付けるかのように決意した。

 

***********************

 

幼なじみを放っておくなんて、幼なじみの風上にも置けないやつね、全くもう!

あーもう、イライラする!

 

鈴は苛立ちをぶつけるかのように的に向かって龍砲を撃ちまくる。

それらは綺麗に的の中心を撃ち抜いていた。

だが、それに反して鈴の気持ちは綺麗とは言い難かった。

 

ほんっとにあいつは美人に弱いんだから!

べ、別に嫉妬なんてしてないわよ!?

いつか騙されるんじゃないかって心配…どうでもいいけど!

…でも、あたしってそんなに魅力ないのかな。

 

表情がコロコロと変わるその姿は見る人によっては守ってあげたくなってしまう姿であった。

少し落ち込んでいたが、すぐに立ち直り、こう決意する。

 

見てなさい、一夏!

必ずあたしが優勝して見せるんだから!

 

その後、鈴はセシリアと練習するために、セシリアのいるアリーナへと向かっていった。

 

*******************

 

外にあるベンチに座り、定まっていない太めの三つ編みの髪型の少女を膝枕している金髪のホーステールが特徴的な彼女、ダリル・ケイシーは膝に寝ている小柄な少女、フォルテ・サファイアの頭を撫でながら目の前のアリーナで練習しているだろう漆黒のISを見ながら歯噛みする。

 

「ちっ…あんなやつがいやがったか…。」

 

その呟きに気づいたのか、フォルテは眠たそうな目を擦りながらそれにこう返した。

 

「大丈夫ッスよ。ウチらは誰にも負けないッス。」

「あぁ、そうだな。俺らが負ける訳ねぇよな。」

 

ダリルは自分の恋人であるサファイアの一言に微笑みながらそう返した。

そして、サファイアも漆黒のISを乗りこなす彼の事をじっと観察するかのように眺めていた。

その心の中にある一抹の不安を拭いきれずに。

本当にあんなのに勝てるのか、と。

 

******************

 

このままでは、タッグマッチに出れないではないか。

 

内心で焦りつつも、専用機持ちが見つからない今、箒は落胆の色をその顔に宿していた。

 

はぁ…これでは何もできないではないか。

 

戦闘狂ではないが、彼女も一夏をめぐって戦っている一人なのだ。

その為になにもしていないのは致命的だった。

そう、勝ったら一夏に何かご褒美を貰うと言う事ができなくなってしまう。

 

…誰かいないものか。

 

「はぁ…。」

 

小さくため息をつくと、後ろから声をかけられた。

そこにいたのは真耶と背の低い小動物のような少女だった。

 

「篠ノ之さん、ちょっといいですか?」

「山田先生、どうしたんですか?」

「篠ノ之さんはまだタッグが決まっていませんでしたよね?」

「はい。そうですが…。」

「なら、彼女と組んであげてください。」

「え?えっと…彼女は?」

「彼女は1年3組、エレオノーラ・セラミさんです。」

「イタリアの代表候補生…。よろしく。」

 

赤みがかった茶髪はもとから癖っ毛なのか跳ねており、本人も気にしていないところを見るとそう言うことに疎いと言う事がわかる。

 

「えっと…なぜ私が?」

「篠ノ之さんもタッグマッチに出たいかと思いまして。」

「私は…出たく…なかった…。」

「エレオノーラさん、目立ちたくないのはわかりますけど、せっかくの機会ですよ?」

「私には…関係ない。」

「もうっ!ダメですよ、そんなことを言っては。」

 

可愛らしく怒る真耶を見ている箒は本当に怒っているのか疑問に思った。

 

「しょうがないな…。真耶ちゃん、うるさいし…。やってあげる。」

 

箒はその言葉に少しだけ頭に来た。

 

「私はやる気のないやつとはやりたくない。」

「えぇっ!?篠ノ之さん、何言ってるんですか!」

 

その言葉を聞いたエレオノーラは野性の肉食獣のような力強い瞳を箒に向けた。

箒はその目を真っ正面から受けとめ、睨み付けていた。

その二人の様子を見た真耶はおろおろとしているだけだった。

と、そこへ救世主がやって来た。

 

「山田先生、この状況は?」

「織斑先生!えっとですね…。」

 

一通りの説明を終えると、千冬は頭を抱えため息を盛大に吐き出した。

 

「お前ら…。しょうがない。なら、こうしよう。エレオノーラ、篠ノ之、模擬戦をしろ。それでお互いの実力を知ればいいだろう。」

「…めんど…。」

「エレオノーラ、何か言ったか?」

「い、いや、何もいってない…。」

「私はそれでも構いません。」

「よし、ならば明日の放課後、第四アリーナで行う。それまで準備しておけ。」

 

そう言うと、彼女らに背を向け立ち去っていく。

そのはずだったが、千冬は不意に立ち止まりエレオノーラに顔を向けると、こう言い放った。

 

「そういえばエレオノーラ、私に向かってめんどくさいって言おうとしたよな?」

「え、あっ…いえ…。」

「言おうとしたよな?」

「…はい。」

「ふむ、ならば貴様はタッグマッチに出ろ。」

「にゃっ!?」

「異論反論抗議質問口答えは一切受け付けないからな。では。」

 

千冬にそういわれ、しゅんと座り込むエレオノーラは捨て猫を彷彿とさせる姿があった。

しゅんとしながらも、エレオノーラは本気を出すことを心に決めた。

その一方で箒は彼女の隠れていたその牙に気づくことはなかった。

 




どうも、遅筆で有名な作者でございます。
こんなダメ作者ですが、最後まで完結させますのでお付き合いくださいませ。

さて、新しいキャラとして、エレオノーラ・セラミを出しましたが、どうでしょうか(笑)
無口で動物的な性格にしたいのですが…難しいですね(笑)
上手く書けているかわかりませんが、皆さんに愛されるようなキャラになってくれることを祈ってます。
そんな彼女が使う専用機は次回のあとがきで詳しく書きたいと思います。

エレオノーラ・セラミ
1年3組所属。
イタリアの代表候補生。
赤みがかった茶髪で、瞳は黒っぽい茶色。
髪の毛は癖っ毛でお洒落っ気がなく、放っておいたまま。
基本的に無口で動物的な行動をする。
制服はとくに改造はしていないためそのままなのだが、サイズが少し大きいため、萌え袖みたいになっている。
愛称はエレン。

という事で、エレオノーラの詳細を今回書きました。

ではでは、次回のお話でお会いしましょう。


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第26話 その時、比企谷八幡は

遅くなってすいません。
それと、皆さんお久しぶりです!
ほんと、遅筆ですいません。
更新を待っていただいている読者の皆さんに心からお詫びします。

という事で、サブタイに初めて?人物名が入りました。
まぁ、あまりそれは関係ないのですが…(笑)
今回はタッグマッチトーナメントが始まりました。
えー、作者はですね、原作を持ってないのでおかしいところがあるかもしれませんが、スルーでお願いします。
それはもうドライブスルー的な感じで。(あまりうまいことは言えてない)

気を取り直しまして、どうやって終わらせようか、ちょっと悩んでます(笑)
まぁ、なるようになるでしょ。

と、言うことで第26話、どうぞ。



タッグマッチトーナメント。

専用機持ちのみで行われるトーナメント式の模擬戦闘行事。

その本来の目的は学園側が機体の性能を見るためではなく、さらにはみんな仲良くやることでもない。

戦闘において、チームワークの重要性と作戦の立案など、前の事件などを踏まえて専用機持ちのスキルアップを目指したものだ。

とはいえ、戦争をするものではないので、例えば前回の福音の事件のようなことが起きたときに対処できるようにとの考えだ。

そうは言ってもやはり各々の力を見るためにこれは開かれているものであり、さらに言えば、IS企業やその国のトップ達は自国の代表候補生がどれぐらいのものか気になるものであり、他の専用機持ちの実力も知りたいものだ。

そういった理由で開かれていた。

もちろん、その事に八幡が気づかないわけもなかった。

 

****************

 

タッグマッチトーナメントが開催され、アリーナには各著名人が集まっていた。

八幡はそちらに目を向けると、一人の女性と目があった。

彼女は八幡の視線に気がつくと、胸の前で小さく手を振りながら柔らかく微笑んでいた。

その女性の名は、ナターシャ・ファイルス。

福音事件の時に出会った女性だった。

 

あの人も来てたのかよ。

って言うか、意外だな。

あの人があんなに有名だなんて。

 

八幡はそう思いつつ、開会セレモニーの言葉をぼんやりと聞き流していた。

しばらくして開会セレモニーは終え、本選に移行した。

トーナメント表は数日前に発表されており、今回は全部で6組のタッグがトーナメント戦を行う。

一回戦は八幡と簪のペア、箒とエレンのペアが対決することになっている。

そのため、八幡と簪は更衣室へ向かい、ISスーツを身に纏い、ピットへと向かっていた。

 

「一回戦とか…めんどくさ…。」

 

一人、悪態をつきながら八幡はピットへと向かっていた。

静かなピットまでの渡り道。

だったのだが…。

 

「はーーーーちくーーーーーん!!!」

 

騒音を発しながら八幡にダイブする天災。

八幡はそれを綺麗に避け、何事もなかったかのように歩き続けた。

 

「うぅ…はちくんがひどいよぉ~。相手してくれないよぉ~。こうなったら…地球を破壊してから私も死ぬ!!」

「はぁ…。あなたがそんなこと言ったら本当にやりそうで怖いんですが…。」

「やっと反応してくれた!んー、でも地球は無理かな。月なら壊せそうだけど。」

 

ちょっと?

何物騒なこと言ってんの?

超怖いんですけど。

いや、マジで。

 

そんなことを思いつつ、なぜここに束がいるのか、今更ながらに疑問が浮上してきた。

 

「ところで博士、こんなところにいていいんですかね?」

「んー?見つからなければ大丈夫だよ~。それに何より、私がはちくんに会いたかったからね♪」

 

そう言いつつ、束は八幡に近づきながらにこにことしていた。

 

「はちくん、負けたらわかってる?」

「…はぁ。わかりましたよ。手は抜きません。」

「うん。でさ、ひとつ言いたいことがあるんだけど。」

「何ですか?」

 

八幡がその事を聞くと、目を閉じ、何かを考えるそぶりを見せた。

束も真剣な表情をして、八幡の思考が止まるのを待つ。

そしてーー

 

「篠ノ之博士、頼みたいことがーー。」

 

束は八幡のそれを聞くと、了解と敬礼をしながらそう言うとどこかへと走り去っていった。

それを見届けてから八幡はピットへと歩き始めた。

 

***************

 

ピットへたどり着くと、すでに簪が壁を背にして待っていた。

八幡の顔を見るなり、むすっとした顔をすると、ボソッと小さくこう呟いた。

 

「…遅い。」

「悪いな。ちょっと知り合いにあってな。」

「私とその知り合い、どっちが大切?」

 

ちょっと?

話が変わってません?

って言うか、飛びすぎだと思うんですが。

飛びすぎて宇宙まで行っちゃうレベル。

 

「いや、どっちが大切とかないし。でもまぁ、悪かったな。」

 

そう言いながら無意識のうちに八幡は簪の頭を撫でていた。

いきなりのことに彼女は目を丸くしていたが、耳まで真っ赤に染めると俯いてしまった。

それに気づいた八幡は少し慌てた様子で手を離す。

 

「あ、わり。」

「あ…。」

 

何でそんなに名残惜しそうなのん?

怒ってたんじゃないの?

違うの?

 

八幡は盛大に勘違いをしつつ、気持ちを切り替えようと相手の方のピットを眺める。

そこには真っ直ぐにこちらを睨んでいる箒とあくびをして退屈そうにしている少女の姿があった。

彼女がエレオノーラだろう。

そう考えつつ、どういう戦いかたをするのか八幡は警戒することにした。

やがて、時間がやって来たため、ISを身に纏いカタパルトからグラウンドへと降り立つ。

八幡と簪の前には赤いISと緑が主体のカラーリングされているISを纏っている箒とエレンのペアがこちらを睨んでいた。

 

「比企谷、お前とは一度やりたいと思っていた。」

「篠ノ之さん、俺なんかした?何か怒ってません?」

「怒ってはいない。だが、お前は私が倒す!」

「はぁ…。まぁいいけどさ。」

「…比企谷…八幡。」

「…何だよ。」

 

いきなりエレンが八幡の名前を呼んだのに反応して、つい返事をしてしまった。

 

「…興味深い。」

「えー…。」

 

意味がわからないといった風に声を出す八幡を眺めつつ、全身を舐めるような目でエレンは彼を観察していた。

簪はそんな彼女を睨み付けながら、自分のやるべきことを頭の中で整理していた。

そうこうしていると、試合開始の声が上がり八幡が十六夜と朔光を手に篠ノ之へと突っ込んでいく。

簪は後ろへと下がり、夢現を手にしながらいつでも山嵐を稼働できるように準備をした。

八幡の方へ視線を動かそうとしたとき、簪の視界の隅に緑色の何かが高速で寄ってきたのが見えた。

そちらに目を向けると、ダガーナイフを逆手に持っているエレンの姿が間近にいた。

 

「っ!」

 

簪は咄嗟に後ろへと飛び退くが、エレンの方が早かったらしく、2回切りつけられてしまった。

シールドエネルギーが少し減るのを横目で見つつ、牽制のための山嵐を何発か、射出させる。

それをエレンはダガーナイフをしまい、四足になるとミサイルを避けつつ、手の甲に隠されている鉤爪でミサイルを切り落としていく。

 

強い…。

でも、何で飛ばない?

もしかして飛べない?

 

簪は短時間でそう考えると、上へと上昇し少し様子を見ることにした。

空中で止まっていると、エレンは彼女を見上げたまま何もせずに立ち止まっていた。

 

やっぱり。

なら、ここから攻めていけば。

 

そう思ったのも束の間。

エレンは手首の下、ちょうど手首らへんの辺りから太いワイヤーーー大体の太さは大縄の縄ぐらいーーを出し、簪の足へとそれを飛ばす。

簪はそれを避けつつ、少し驚く。

だが、それは一本だけではなく、もう片方の手首から同様のワイヤーが簪のもとへ飛んでくる。

それを避けつつ、唇を軽く噛む。

 

そらは飛べないけど、その代わりにそんなのがあるってこと。

あれは、厄介。

捕まったら引きずりこまれそう。

 

そう思いつつ、そのワイヤーを避けていると、エレンが痺れを切らしたのか、しゃがみこみ思いっきり上へと跳躍した。

地面は下に陥没し、エレンは上へと急上昇した。

簪は信じられないものを見た気がして、目を見開く。

一方のエレンはというと、簪に近づきワイヤーを射出し体に巻き付ける。

 

「っ!?」

「捕まえた。」

 

簪はその一言で背筋が凍るような思いをした。

そう呟いたエレンの目はまるで、獲物を狙う獰猛な肉食動物のような目をしていた。

一緒に落下しながらも彼女の目は鋭いままだった。

その時、簪の心の中に敗北の二文字が浮かんだ。

 

********************

 

八幡は相手が得意とする接近戦にも関わらず、有利に試合を展開していった。

それは箒が一番よくわかっていた。

自分が不利になっているのだと。

地上、及び空中で剣を交えているのだが、じわりじわりと箒のシールドエネルギーが減っていっている。

その事に苛立ちを感じながらも八幡に斬りかかる。

八幡は簪の様子も見つつ、作戦をどうするかを考える。

しばらく見ていると、エレンが驚くべき跳躍をみせ、彼は少しだけ焦る。

 

マジかよ…。

飛べない代わりにあの身体能力かよ。

って言うか、キック力とか半端ねぇな。

援護するか。

 

そう思ったのだが、エレンが簪の至近距離にいすぎて援護することが出来ない。

内心で舌打ちをしながら眺めていると、真正面から不機嫌な声が聞こえた。

 

「余所見をするな!!」

 

その一撃を八幡は咄嗟に星影で防ぎ、箒をそのまま押すと彼女から距離を取り、簪の元へと飛んでいく。

八幡はすぐに剣をしまい、新星と鬼星を両手にグリップさせ、狙いをエレンへと向ける。

その際に流星を箒へと飛ばしておくのを忘れずに。

そして、発砲した。

何発かエレンに当たり、簪から引き剥がすのに成功した。

その後、八幡はすぐにチャネルを簪のに繋げ、通信を始める。

 

「更識、一旦距離をとれ。」

「わかった。」

「俺が出るからサポートは頼んだ。」

「任せて。」

 

八幡はチャネルを切ると、一気にエレンへ肉薄する。

エレンは咄嗟に反応が出来なかったのか、こちらを見て一瞬だけ硬直していた。

その一瞬を見逃さず、八幡は蹴りを一発いれると、狙いも何もない発砲をした。

エレンはバク転をしながら避けると、距離を取り警戒したようにこちらを睨んでくる。

 

中々、機動力は高いな。

って言うか、本当に飛べないんだな。

飛べないぶん、他がすごいことになってんだけど。

 

そう思いながら、どう攻めようかと悩んでいると、エレンから動いた。

走りながら太股に装備されているナイフを手に取り、八幡に向けて投擲した。

それを星影で受け止め、八幡は彗星を出しエレンへと狙いを定める。

 

中々狙いの中に入ってくんねぇな。

まぁ、牽制できればそれでもいいや。

とりあえず、更識には伝えとくか、俺の作戦。

 

再び八幡はチャネルを簪のに繋げると、簡潔に作戦内容を話し、何発か彗星で牽制射撃を行う。

エレンは中々攻めきれずに焦っていた。

グラウンドの端と端にいるため、中々距離が縮まらず、尚且つ箒がこっちに来れないように流星で囲む。

一人にやられているのも焦りの原因となっていた。

エレンはこの状況を打破すべく、捨て身の覚悟で一気に間合いを詰めていく。

防御も避けもしない無防備な突っ込み。

その事で八幡が驚くと思っていたのだが、エレンの予想は外れ、彼は冷静だった。

そしてーー

 

「今だ。」

 

その呟きと共に打鉄弐式の山嵐から残りのミサイル全てが発射された。

エレンはすぐに立ち止まり、背中にランチャーを出し迎撃しようとしたのだが、八幡の正確な射撃によりミサイルを落とすことが出来ずに、直撃してしまった。

これによりシールドエネルギーがゼロとなり、脱落した。

八幡は彼女から目を離し、箒へとその目を向けると、月華を構えて相手に向ける。

 

「ファイア!!」

 

月華から出されたビームの奔流は紅椿の翼に直撃し、試合は終わりを告げた。

はずだったのだが、上空からまるで月華のような威力のビームが降り注ぎ、グラウンドの地面を抉り取った。

 

*****************

 

「やっぱり来たんだ。」

 

アリーナの来賓席の上部から眺めている一人の少女、篠ノ之束はそう呟くと、どこかから片方の耳につけるインカムを取りだし、どこかへと通信し始めた。

その相手は、今試合を終えたばかりの八幡のもとであった。

 

「はちくん、今から状況を説明するよ?」

「わかってます。」

「とりあえずそこにいる人たちを全員避難させてね。」

「はい。」

「その次にちーちゃんに連絡をして無事な専用機持ちの人に支援をしてもらえるように言ってね。」

「わかりました。とりあえず、今からやってみますよ。」

「お願いね。これはこれからのためになるためのことだから。」

 

最後にそう呟くと、インカムを耳から外し、端末を出し今の状況を明確に整理し始めた。

ビームの持ち主の一体はタッグマッチを行っているアリーナに降り立ち、残りの同じ敵、ゴーレムⅢは3ヶ所に別れて降り立っていた。

束はそんなことを整理しつつ、八幡のもとへデータを送った。

 

「…何で、こんなこと…。」

 

そう呟いた言葉は誰にも聞かれることなくこの喧騒に揉み消されてしまった。

 

*********************

 

千冬と真耶は突如襲ってきた未確認ISの対処に追われていた。

 

「くそ。」

「織斑先生、どうしますか?」

「とりあえず警戒レベルを上げ、生徒及び来賓の避難を優先に動く。山田先生、指示を出しもらってもいいか?」

「わかりました。」

 

指示を出そうとしたとき、一本の通信が入った。

その通信の持ち主は比企谷八幡だった。




んー…何か微妙なような(笑)
まぁでもわりと進んだ方じゃないですかね?

そんなことは置いておいて。
エレンちゃんの専用機の詳細書いておきますね。

機体名:ベスティア・スクーロ(深緑の猛獣)
世代:第三世代型
開発元:イタリアの企業
備考:待機状態は緑色を基調としたミサンガ。
全身は緑色をしているが、所々で黄色やその他の色がラインとして入っている。
全スペックは平均的だが、燃費効率は非常によく長期戦での戦闘では他の追随を許さぬ強さを誇る。
短、中距離の戦闘スタイル。
そして何より他のISと違うところは空を飛べないところ。
ただし、猛獣の名を持つだけあり、身体能力はとてつもなく高い。

ベスティア・スクーロの武装
アルティーグリオ(猛獣の爪)
手の甲を包み込むようにして出てくる鉤爪。
猫や虎のように出し入れができ、移動するときや使わないときに収納できるように便利になっている。
両手に装備されている。

スピーネ・フルースタ(薔薇の鞭)
手のひらの下、つまり手首から出てくる超硬質ワイヤー。
相手を縛ったり、そのまま叩いたり、空中移動するときに使ったりする。

マンティード(秘めたる牙)
腰に現れるダガーナイフ2本。
その他にも、右太股に出てくる投擲用ダガーナイフ5本がある。

脚部ビームブレイド
膝から爪先にかけて現れるビームブレイド。

ルッジート・ラービア(猛獣の咆哮)
背中に現れる高火力ビームランチャー。
ベスティア・スクーロで一番の火力を誇る。

シールド2枚

オートマチックガン一丁

単一仕様能力
イヴォルジオネ・ベスティア(大地の成長)
シールドエネルギーを満タンにし、そのエネルギーを使いつつ、全ての攻撃の攻撃力を底上げする。

カッコ内は一応日本語訳ですが、直訳ではありません。

ではでは、また次のお話でお会いしましょう。
あでゅー。


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番外編1 ある日の彼ら

皆様、お久しぶりです。
この作品を楽しみにしてくれた方、お待たせ致しました。
大変遅れて申し訳ありませんm(_ _)m

仕事が忙しかったり、スランプに陥り書けなくなったり、体調を崩してしまい、このように長いこと期間を開けてしまいました。
感想欄に待ってますのコメントや、続きを読みたい、などを書いてくださった読者の皆様、大変励みになり、このように投稿することが出来ました。
大変ありがとうございました。
この場をお借りして謝罪と御礼の言葉をお伝えいたします。

さて、本編はまだ書けていませんが、僕が書きたいなぁ、と思っていた番外編の短編2本を今回は投稿しました(^ω^)
とは言っても読んでみたらがっかりするかもですが(笑)

ちなみにサブタイの数字ですが、これからもこのように番外編をちょくちょくいれればなぁと思い、入れてみました(^ω^)
評判がよければ番外編を出す予定です(笑)

長くなりましたが、もし、楽しみに待ってくれていた読者の皆様、大変遅くなってしまいましたが、番外編ではありますが読んでいただければ嬉しく思います。

では、どうぞ(^_^)/



「暇だ…。」

 

八幡は誰に言うでもなく一人呟いた。

いつもの八幡であるなら暇な時間は読書をするのだが、生憎と全て読み終わり、読みたいと思う本も見つからなかった。

 

たまにあるよね。

暇なときに限って読みたくなるのがないときって。

え?ない?

嘘だろ…。

 

そして、そういう日に限って宿題も出ていなかったりする。

それも、土日という休みの日に。

 

いや、めんどくさくなくていいんだけどね?

もういいや…。

寝るか…。

 

ベッドへダイブし、目を瞑りしばらくして寝れそうになったとき、八幡の部屋の扉がノックされた。

 

…誰だよ。

せっかく寝れそうだったのに…。

 

八幡はそう思いながらもごろごろと転がっていると、不意にガチャリと音がして誰かが入ってきた。

それに気づいた八幡は跳ね起き、侵入者を捕まえるため全神経を集中させながら視線を鋭くした。

 

誰だ?

っていうか、どうやって開けたんだよ。

 

「八幡くーん!!」

 

……おい。

何でこの人が来ちゃったのん?

ヤバイ気しかしないんだけど。

ほら、俺のアホ毛センサーが反応してる。

あれ?

そんな機能あったっけ?

 

「無視するのは、おねーさん的にポイント低いよ~。」

 

…。

ちょっと?

何で小町の真似してるの?

っていうか、仲良くなりすぎ…。

小町ちゃん、早く離れなさい。

お兄ちゃん心配で夜も眠れないから。

何なら昼寝もできないレベル。

 

「もー反応してよー。つまんない。」

 

頬をツンツンと突っつきながら、頬を膨らませる突然の来訪者、楯無はそういいながら八幡の顔を両手で挟みながら自分の方に顔を向けさせた。

 

ちょっと、近い近い近い。

後近いから。

すごい近い。

早く離れてよ~。

 

「何でしゅかね。僕はこれからあれがあれしてちょっと忙しいんれすけろ…。」

 

噛み噛みじゃねぇか…。

ちょっとは落ち着けよ。

いや、無理だわ。

ドキがムネムネしてるから無理だわ。

 

「八幡くーん、どこか行こーよー。」

「嫌ですよ。一人でどっか行ってください。」

「えー?さっき暇とか言ってなかった?」

 

おい、どんな耳してんだよ…。

っていうか、いつからいたんだよ…。

俺のプライバシー返して。

 

「という事でレッツゴー♪」

「ちょっ!引っ張らないで!」

 

楯無は強引に八幡の手を取り、どこかへと引き摺るようにして外へ出ていった。

 

*******************

 

さて、私はどこに来ているのかと言いますと、日本のカラオケでございます!

って、ただのカラオケに何でこんな紹介してんだよ…。

 

出掛けたときは二人だったが、その間に何人かが追加され、大所帯となってしまっていた。

 

ごめんね、受付のお姉さん。

生徒会長が威圧的な態度で強引に部屋に入って…。

 

そんなこんなで八幡、楯無、簪、シャルロット、ラウラ、エレオノーラ、一夏と箒、セシリアに鈴の要するにいつものメンバーで部屋に入っていた。

カラオケになれていないものはキョロキョロと辺りを見回し、エレンに関してはあらゆるところをチョンチョンと突っつき回っていた。

その度にビクッと反応していた。

八幡ははじめて大人数でカラオケに来たため、落ち着かないのかキョドっていた。

それは単に落ち着かないだけではなく、両隣に楯無とシャルロットが身を寄せていたからでもあった。

 

近い柔らかい良い匂い落ち着かない!

何でそんなにくっついてくるのん?

ほら、俺を射殺すような視線を更識とボーデヴィッヒがしてくるじゃん。

そしてセラミ、俺の膝にいちいち座ってくるのはやめなさい。

頭撫でて上げたくなるだろうが。

 

「ほら、さっさと歌おうぜ。」

 

そう言いながら一夏が曲を入れる。

採点を忘れずに入れていた。

 

織斑、歌うのは良いが、まずはこっちを何とかしてくんない?

歌どころじゃないんだが…。

 

そんな気持ちを知らずに一夏はマイクを握り、歌い始めた。

それに続き、次々に歌っていくメンバー。

 

あれ?

何か知ってる曲が何曲かあった気が…。

あぁ、中の人が同じ…何も言ってないぞ?

言ってないったら言ってない。

 

そして、楯無が歌い終わった後、八幡の番がやって来たのだが、彼は曲を入れたつもりはなかった。

 

あれ?

何で俺マイク持たされてるのん?

何を歌わされるの?

 

八幡が歌わされるのは、『DT捨テル』だった。

 

ちょっと待って?

何でこの曲なの?

いや、確かに俺の中の人はこの人だけども…。

この発言メタいな…。

いやいやいや、そんなことより、ヤバくね?

特にそこのデュノアさんたち?

ガッツポーズしなくて良いからね?

はぁ…歌うしかないか…。

 

八幡はなにかを諦め、歌い始めると、何人かは顔を赤くさせ、俯いていた。

しかし残りの女子たちはギラギラした目で八幡を見ていた。

そして、歌い終わったとき、八幡の近くにすり寄ってきたという。

 

「は?ちょっと?っておい!ぎゃあぁぁぁぁ!!」

 

カラオケルームの一室からひとつの悲鳴が鳴り響いたというが、真相は神のみぞ知る。

 

――――――――

 

「はぁ…。」

 

自室でベッドに横たわりながら読書をしている八幡はひとつ溜め息をつく。

今日は休日ということもあり、八幡はのんびりまったりしていた。

 

のんびりできるのはいいけど、あれがもうないしなぁ…。

でもかといって買いにいくのもめんどくさいし…。

はぁ…。

 

八幡が直面している問題は、マッカンことMAXコーヒーの在庫が切れてしまった事であった。

 

どうでも良いとか思ったそこの人、俺にとっては死活問題なんだよ。

…はぁ、買いにいくか。

 

そう決心し、外へと出ようとしたとき、八幡の部屋の扉が叩かれた。

八幡は溜め息をつきながら重い腰を上げながら扉を開けた。

 

「どもどもー。整備課2年、新聞部副部長の黛薫子でーす。取材させてね。」

「………。」

 

八幡は何も言わずに扉をそっと閉め、鍵をかけた。

 

よし、マッカンは明日買いにいくことにしよう、そうしよう。

え?外に誰かいるって?

気のせい気のせい。

ダッテハチマンウソツカナイモン。

 

ベッドに横たわりながらどんどんと音をあげる扉を無視して読書に勤しんでいた。

 

『もうっ!あっ…!たっちゃんなら何とかしてくれるかも♪』

 

そう言うと、扉を叩く音が止み、八幡は小さく息を吐き出した。

だが、このとき彼は何も知らなかった。

薫子が呼びにいった人物が誰なのか、またその人が突拍子もないことをしてしまう危険人物だということを。

 

********************

 

薫子が去っていってからしばらくすると、再び扉を叩く音がした。

八幡はそれを無視しながら、読書をし続ける。

 

『たっちゃん、よろしく!』

『わかったわ!開かぬなら…壊してしまえ、蝶番!!』

 

あれ?今の声どっかで聞いたような…。

っていうか、何で壊すんだよ…。

 

という心の声を無視したかのように、部屋のドアがものすごい音をたてて破壊された。

 

っ!?

マジでやっちゃったの?

俺のプライバシーなくね?

元からですかそうですか…。

うっ…涙が…。

 

破壊されるのと同時に八幡はビクッと動き、起き上がってしまっていた。

そして、恐る恐る扉を破壊した人物を盗み見ようとしたとき、扉があった所から二人ほど勢いよく中に入ってきた。

 

「新聞部です!いやぁ~取材の許可してくれてありがとうね、比企谷くん。」

「いや、許可した覚えないんですが…。」

「あれ?でも、扉開けてくれたじゃん。」

「…壊したんですよね?はぁ…。で?なぜ会長もここにいるんですかね?」

 

中に入ってきた二人の人物を腐りに腐った目で忌々しげに眺める。

 

「ん?何か面白そうだったから来ちゃった♪」

 

IS学園最強にして生徒会長でもある更識楯無もこの場に来ていた。

 

「はぁ…。」

 

八幡は本日何度目かわからないほどついた溜め息を再度吐き出すと、観念したかのようにベッドに座った。

 

「で?何の取材ですか?」

「およ?受けてくれるの?」

「まぁ、僕の座右の銘は押してダメなら諦めろ、ですからね。」

「なるほど。」

 

いつの間にか薫子の手にはレコーダーが握られていた。

 

「さてさて、まず始めに聞きたいのは、この学園に来てどう思った?」

「はぁ…。めんどくさい、ですかね。」

「ふむふむ…。つまり、ホモ、と。」

「ちょっと待って、どうしてそうなるの?」

 

八幡が敬語を忘れ、つい突っ込んでしまったが、薫子は何食わぬ顔をしながら首を傾けていた。

 

「ん?何か違った?」

「ホモとこの学園に来てめんどくさいと思うのは違うんじゃないんですかね…。」

「え?だって女だらけの所に来てめんどくさいって言うことはそういうことじゃないの?」

「いやいや、俺はホモではないです。普通です。」

「ふーん。つまんないの。」

「ちょっと?聞こえてますよ?」

 

危ないところだった…。

ただでさえ、居場所のない俺がホモ疑惑で更になくなるところだったわ…。

あれ、目から塩水が…。

 

「じゃあ、次の質問に行くね。えっとーー」

 

*******************

 

時々、楯無も会話に混ざったりしてつつがなく取材は終わった。

途中から話が脱線はしたりしたのだが。

 

「うん。比企谷くん、取材ありがとうね。」

「いえ。」

「次も来て良いかな?」

「…疲れたんでほどほどにしてください。」

 

また来るのかと目を更に腐らせながらどんよりとそういう八幡。

 

いや、ほんとにもう来てほしくないわ。

俺の精神的にも肉体的にも…。

 

「ふふっ。でも来なくて良いとは言わないのね。」

「…まぁ、黛先輩だけなら来ても良いと思ってますよ。」

「わかったわ。じゃあまた今度美味しいネタをよろしくね。」

「こんな俺みたいなやつから美味しいネタなんてとれないでしょ。」

「ん?そうでもないよ?ね、たっちゃん?」

「そうね。美味しすぎるネタがたくさんあるもの。」

 

胡散臭いなぁ、と言わんばかりに八幡の顔に皺がよる。

楯無はその顔を見て小さく意味深な笑みを浮かべると胸の前で手を振り、そのまま八幡の部屋を去っていった。

 

何だよ、最後のあの顔は…。

絶対変なこと考えてるわ…。

っべーわ、マジべーわ。

…あれ、この言い方どっかで聞いた覚えが…。

 

「ありゃ、たっちゃん行っちゃった。じゃあ私も行くね。じゃあまたお願いね~♪」

 

薫子も部屋から出ていくと、八幡は小さく溜め息を吐き出しながら覇気のない声でこう呟いた。

 

「扉、直していかねぇのかよ…。」

 

その後、八幡の部屋の前を通っていった千冬になぜか八幡が怒られるのであった。

 

理不尽すぎるだろ…。

やっぱりあれだな。

人生は苦いからコーヒーくらい甘くないとやってられんな。

つまり、マッカンは人生を生き抜くために必要なものとなる。

違うか?

いや、違わない。

 




はい。
何番煎じかはわかりませんが、こんなお話でした。
今回のお話で会話文が出てきたキャラは八幡と楯無さんとまさかの一夏くん、薫子さんでした。
なんというか、駄作者ですね…。
自覚しております(´・ω・`)

次の更新はいつになるかさっぱりですが、次は本編へ戻ると思います(^ω^)
また楽しみにしていてください。

ではでは、あでゅー\(^o^)/


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第27話 その時彼らは

おひさしぶりです。
1年ぶりの更新となってしまいました。
この一年間、色々ありすぎまして…。

久しぶりすぎて、うまく書けているかわかりませんが投稿させていただきます。




管制室に一本の通信が入ったため、真耶はすぐそれに出た。

そこから、思いがけない人物の声が聞こえてきた。

 

「織斑先生、山田先生、早速ですがここにいる人たち、いえあの未確認ISが現れた付近にいる生徒たちの避難をまずはさせてください。その後、無事な専用機持ちにあれの牽制をさせてください。後は俺がやりますので。」

「ちょっと待て!」

 

千冬はそう叫んだのだが、八幡に勝手に通信を切られ何も言えなくなってしまった。

それに、通信をブロックしているのか、こちらからの通信が届く事はなかった。

 

「くそ…。山田先生、専用機持ちを未確認ISの元へ配備させ、その周辺にいる避難者を救助。」

「は、はい。」

 

真耶は手早く通信を専用機持ちに入れ、警備隊にも観戦者の避難誘導を指示し、今の状況を確認し始めた。

 

「織斑先生!」

「まさかここまでひどいとは…。」

 

現状を確認した二人が見たものは、4ヶ所で暴れているゴーレムⅢの姿だった。

そのうちの2体は専用機持ちが対処しているものの、撃破できずにいた。

それは誰よりも早く迎撃していた八幡も同様であった。

 

比企谷、お前は試合の時に月華を使った。

だから、エネルギーが足りないはずだ。

なのにどうしてお前は…。

そして、どうして私はここにいる…。

どうしたら良い…。

助けに行ってはやりたいが、ここを離れては不味い…。

 

千冬が思考の海に沈んでいるとき、新たな通信が強制的に繋げられた。

その事で、真耶が半分パニックになっていた。

 

「誰だ…。」

 

警戒心からか、千冬の声はとても低かった。

 

「もすもすひねもす~♪ちーちゃんの愛する束さんだよぉ~♪」

「…。」

 

千冬は無言で強制的に通信を切った。

大きなため息をつきながら手を頭に持っていく。

 

「もう!何で切るのさー!」

 

再び通信が繋がったと思ったら、束の抗議の声が聞こえてきた。

 

「お前が意味のわからん事を言い始めるからだ。」

「え~。ちーちゃんは私のこと愛してないっていうの!?」

「当たり前だ…。」

「むーっ。ふんっ、良いもんねー。ちーちゃんに良いこと教えようと思ったけど、やめとこっと!」

「なに?」

 

けなすような言い方ではあったが、千冬は束のその言葉に引っ掛かった。

 

良いこととはなんだ?

その事と、束との関係はなんだ?

まさか…。

 

「あっ、やっぱり気になっちゃう?気になっちゃうのかな?かな、かな、かなかな?」

「…話す気がないのなら切るぞ?」

「私はそれでも良いけど、ちーちゃんが困るんじゃないかな~。」

「どういうことだ?」

「今ここで起きてることだよ?」

「っ!?お前、今どこにいる!」

「ん~…はちくんのそば、かな。」

「何故そこに?」

「そんなことより、良いこと、知りたい?」

「…あぁ。」

 

束が強引に話を戻したのが気にくわなかったのか、千冬は少し不機嫌そうになっていた。

というよりも勿体ぶっていることが、千冬には苛立たしいのだろう。

 

「何とそれは!ちーちゃんが今回なにもしなくて良いってことだよ!」

「…は?」

 

今、この駄兎は何と言った?

私がなにもしなくて良い、だと?

 

「どういうことだ。」

 

千冬の声音は誰が聞いても怒気をはらんでおり、更には隠しきれないほどの殺気が溢れていた。

その証拠に真耶でさえも怯えていた。

 

「あのゴーレムに人が乗ってないからだよ。」

「…どういうことだ?」

 

何故無人だと私がなにもしなくても良いのだ?

そもそも、誰があれを倒すというのだ?

 

「ぶっちゃけていうと、はちくん一人で全部相手できちゃうんだよね。」

「は?比企谷のエネルギーは残り僅かではないのか?」

「確かに残りわずかだよ。でも、それでも、はちくん一人でやっちゃうんだよ。それに、朧夜はそのために作られたんだから。」

「っ!?」

「元々、朧夜は一対多での戦闘を目的として開発されたんだよ?それに私がちょっと手を加えただけ。それに、あのゴーレムは私が遊びで作ったものが盗られちゃったやつなんだよね…。」

「ちょっ、ちょっと待て。朧夜は白式のデータを使ったのではないのか?」

「そうだよ。でもね、本質は全くの別物なんだよ。共通点はどちらも一撃必殺を持っていること。そして、どちらもどう進化するかわからない。」

「そうなのか…。それで束、お前は何を盗られたって?」

「…じゃあ、そういうことだから!」

「ちょっと待て!」

「織斑先生、切れちゃいました…。」

 

あの駄兎め…。

説教が必要なようだな…。

 

*******************

 

ちーちゃんに次会うのが怖いよぉ…。

逃げればいっか♪

それよりも…。

 

束は顔を上げ、今まさに戦闘中である八幡に目を向けた。

朧夜の背中についているはずの流星はどこかに消えており、手には新星と十六夜が握られていた。

流星は先程、別のゴーレムの所に飛んでいき、狙撃していた。

 

はちくん、わかってると思うけどエネルギーがそろそろ尽きるよ。

どうするの?

ひとつ手がない訳じゃないけど…。

 

八幡も束の考えていることはわかっていた。

だが、それは何時如何なるタイミングで来るのか、予測できない。

 

「…はちくん、頑張れ。」

 

束は最愛である八幡を誰にも聞かれることのない声でエールを送った。

 

*******************

 

八幡は今現在、2機のゴーレムと交戦中であるが、エネルギーが残り僅かになっており、目に見えて焦っていた。

 

ちっ…あの時、月華を撃つんじゃなかったな…。

くそっ、何か手はないか…考えろ、戦いながらでも考えろ。

考えることしか出来ないだろ、だったら何か…何でも良い、使えるものだったら…っ!

 

八幡は流星が今射撃しているゴーレムの近くに二人、専用機持ちがいるのを確認するとその二人へ通信を繋げた。

 

「比企谷八幡でしゅ。頼みたいことがありゅんでしゅが。」

 

…何でこんな時に噛むの?

バカなの?死ぬの?

…今日はベッドの上で叫ぼう。

 

「何の用ッスか?」

 

笑われなかったことに驚きつつ、八幡は手短に用件を伝えようとする。

 

「そこにいる未確認ISを倒してくれませんか。」

「ウチだけでッスか?」

「もう一人の方とお願いしたいんですが。」

「あん?俺がそんなことする訳ねぇだろ。確実に倒せるとは思えねぇ。」

 

…やっぱりそういうよな。

篠ノ之博士に調べてもらっといて良かった…。

だから、ちょっと相手にとって嫌みなことを言わせてもらう。

あれ、俺いつの間にこんなに腹黒になっちゃったのん?

 

「そうですよね、出来ませんよね。アメリカ代表候補生でありながら亡国企業、通称ファントム・タスクのエージェント、ダリル・ケイシーさん?」

「てめぇ…何のつもりだ。」

「別になにもしませんよ?ただ、何か行動しないと怪しまれますよ、とアドバイスをしているだけです。」

 

八幡はダリルに対してプライベートチャネルを繋いでいるため、フォルテには聞かれなかった。

そのため、フォルテはなぜダリルの声に怒気をはらんでいたのか、わからなかった。

 

「何を考えてやがる…。」

「何でしょうね。まぁ、とにかく忠告しました。後で何されても聞きませんから。」

 

勝手に通信を切られたダリルは軽く舌打ちをし、BT兵器であろう武装に防戦一方になっているゴーレムを睨み付けた。

 

「どうかしたッスか?」

「いいや、別になんでもねぇよ。」

 

ダリルは微笑みながらそう言うと、最愛のフォルテの頭を撫でながら、頬へひとつ唇を落とした。

一方で八幡はあの二人が中々戦闘に加わってくれないことに若干の苛立ちを感じつつも、どこか納得している顔であった。

 

ま、そうなるよな…。

て言うか、シールドエネルギーがもうそろそろなくなりそうなんですけど…。

やっぱり一人で相手するにはキツかったか…。

 

そう思っているとき、流星がそれぞれの動きをしながら八幡のもとへ戻ってきた。

 

ちっ…やっぱり仕留めきれないか…。

どうする。

 

一瞬、ほんの刹那の時間ではあったが、戦闘を中断し思考してしまった。

 

「っ!?」

 

目の前にゴーレムが迫り、力任せに振るった腕が八幡に当たり、吹き飛ばされてしまった。

そのまま壁にぶつかり、肺の空気が全部出されたような感覚を覚えながら、意識が薄れていった。

 

くそっ…。

油断した。

このまま俺はやられるのか?

リスクリターンの計算が甘過ぎたな…。

マッカンぐらい甘々だったな…。

なにそれ、美味しそう。

 

下らないことを考えている自分を自嘲しながら、八幡は意識を手放していった。

 

***********************

 

「ふん…。似合わないことを。」

 

そこにはいつか見た黒い服を纏った少女が八幡の横に同じように座っていた。

 

「無様だな。」

「ちょっと?そんなに俺のメンタル削って楽しい?」

「そんな趣味はない。」

「いや、趣味じゃないだろうけど俺のメンタル削れてたからね?」

「…それより、私の相棒としてまだまだ力の使い方がわかってないみたいだな。」

 

強引に話を変えやがった…。

 

「力?何のことだ?」

「何度も言うけど、それは君が一番よくわかっているんじゃないか?」

「前も言っていたが、それがわかんねぇんだよ…。」

 

その言葉に彼女はくすりと微笑む。

そして、ゆっくりと立ち上がりながら言葉を紡いでいく。

 

「確かに、私がまだ目覚めていないからな。」

 

それはどういう意味だ?

まだ目覚めていない?

ならば今この目の前にいるのは偽物なのか?

いや、なにそのラノベの設定みたいなの。

 

「ひとつ、聞きたいことがある。」

「なんだ?」

「君には私たちの姿はどう写る?」

 

私、たち?

複数形には意味があるのか?

…どちらにせよ、答えは変わらない。

 

「そうだな、俺の目には一応人間には見えるぞ。」

「素直じゃない奴め。…だが、嫌いじゃあない。仕方ないから力を貸してやる。だから約束してくれ、必ず…私たちを救うと。」

 

最後の言葉の重みを感じたのか、八幡は一瞬返事をするのに躊躇ったが軽く微笑み、返事を返した。

 

「ありがとう。では、行くぞ相棒。」

「おう。」

 

八幡がそう答えると再び意識を取り戻し、目が覚めるとゴーレムがこちらにゆっくりと近づいてくるところだった。

それを確認した瞬間だった。

朧夜が突然、光だし少しずつ機体に変化がみられた。

元々、シャープな見た目だった朧夜だったが、よりシャープなものヘと変わり、所々に見られた黄色のラインはそのままに、新たに青のラインも所々に見られるようになった。

 

…なんだ?

これが、セカンドシフトか?

 

光が落ち着いてきた朧夜の両腕には今までビームシールドを出すための機能しかなかった部分に穴が開いていた。

 

…使い方が何故かわかる。

いや、ほんとどうしちゃったの?俺。

中二病再発しちゃったのん?

ま、別に関係ないか。

 

八幡はその場から立ち上がり、再び戦闘へと向かっていく。

朧夜のシールドエネルギーが満タンになっていることを確認してから。

 

*********************

 

え?はちくんの機体…セカンドシフトになったんだ。

そっかそっか。

なら、もう安心だね。

それにしても…まさかビームシールドが変化するとは…。

白式見たいにどうなるか読めない子だなぁ…。

 

束はそう分析しつつ、よりシャープな機体を駆る八幡を見ながらデータを録っていた。

 

「さて、はちくん、ここからだよ。」

 

その言葉に反応するかのように戦闘は激しくなっていった。

 

*******************

 

八幡は再び2機のゴーレムと戦闘に入っていく。

流星をパージし、自身は十六夜と朔光を手にゴーレムへと向かっていく。

 

「何時までも、思い通りにはさせねぇよ。」

 

ゴーレムは腕を八幡に向け、ビームを放ってくる。

その一撃一撃は全て月華に匹敵する威力のものだが、星影はそれらをことごとく防ぎ、全てを吸収し朧夜のシールドエネルギーに変換していた。

その能力に八幡は驚きつつも、遠隔操作している分の燃費を考えるとちょうど良いことに気付き、星影を積極的に使っていく。

ただし、星影も弱点があり、連射されると弱い点である。

一度の使用時間が限られているため、必ず一度は発動をやめる必要があるのだ。

 

使いやすいと思ったら意外と使いにくいんだよなぁ…。

吸収しなくて良いときはしないけど、長時間使えないのはきついな…。

まぁ、でもこれ以上何かを求めても意味ないんだけど。

 

そう思っているときだった。

八幡が戦闘していると、束から通信が入り、手短に用件を伝えられ、その内容は一機が撃墜されたとのこと。

 

よし、残りは3体だな。

何とかなるだろ。

…って言うか、いい加減めんどくさいんだよな。

 

八幡は流星を戻すと、目の前にいるゴーレムへ再び飛ばし、月華を出現させる。

流星のビームを避けるゴーレムに照準を合わせ、月華を放つ。

 

「ファイア!」

 

そのビームの奔流はゴーレムのど真ん中を貫き、爆散させた。

それとほぼ同時だった。

 

「ちょっと良いッスか?」

 

焦りと不安が入り交じったかのような声で通信をいれてきたのはフォルテだった。

 

「なんですか?」

「ウチがこんなこと頼んで良いのか、わからないけど、助けてほしいッス。」

「何があったんです?」

「ゴーレムがビームを乱射してきて…ウチらは何とか避けれたんスけど、建物に直撃してその破片が…先輩に当たって…それで…。」

 

最後の方は嗚咽が混じり、よく聞こえなかったが八幡は何が伝えたかったのかを理解し、その場を飛び去った。

 

確かにいきなり攻撃されたら、すぐには展開できない…。

どうしてもタイムラグが発生しちゃうしな。

一瞬とはいえ、その一瞬が戦闘では命を奪うことになるかもしれないからな…。

そもそも、何であらかじめ展開してなかったのん?

バカなの?死ぬの?

…今死にかけてました。

 

そんなことを考えながら流星をいち早くゴーレムへ向かわせ、これ以上被害がでないように攻撃を始め、八幡はフォルテの元へ降り立った。

フォルテは小柄だが、自分の大事な人を助けるため、ダリルを一生懸命背負っていた。

 

「早速ですが、この場から離れて保健室へ行ってください。」

「わかったッス。あなたは…?」

「あいつを倒します。」

 

そう言うと、八幡は一気に勝負をつけたいのか、それとも八幡に力を貸したのかはわからないが、朧夜が淡い赤に光っていく。

そして、ゴーレムへと肉薄したとき、赤い光が粒子のように残像を残していった。

 

「綺麗…。」

 

フォルテはダリルを背負いながらその光景を眺めていた。

その声に反応したのか、ダリルは薄くなっている意識のなかでその光景を目にした。

その目にはどう写ったのか、本人にしかわからないことだが、軽く微笑んでいたのは、嘲るための笑みでないことは誰の目にも明らかだった。

だが、それは誰の目にも止まらなかった。

 

 




フォルテとダリルを出してみたものの…うーん…あまり上手く書けてない気が…(´・ω・`)
久しぶりだというのに、話もあんまり進んでないし…(´・ω・`)

まぁ、いつもの事でした(笑)

という事で、またいつになるかわかりませんが、少しずつ更新していきたいと思います(*^^*)
こんなダメダメな作者ですが、完結までお付き合いしてください。


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