絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち (黑羽焔)
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設定(人物) ※原作並びに当小説ネタバレ注意

本作品の人物設定。

話が進むたびに追記していくと思います。

2016/8/9  『謎の少年』にCV追加。『~は勇者である』主要人物を追加。
2016/8/18 『三好夏凜』の設定解禁。
2016/8/31 『来栖操』・『乃木園子』の設定解禁。
2017/3/8 『皆城総士』・『皆城乙姫』の設定一部解禁。
2017/4/5  『三ノ輪銀』の設定解禁。


<蒼穹のファフナー>

●真壁 一騎(原作主人公。当小説主人公その1) CV:石井真

誕生日:9月21日 / 星座:乙女座 / 血液型:O型 / 身長・体重:169cm・56kg/ 好きな物:静かな場所、美味い食事

年齢:20歳(『蒼穹のファフナーEXODUS』時)→13歳(『結城友奈は勇者である』世界への転生後)

 

『蒼穹のファフナー』・『蒼穹のファフナーEXODUS』主人公。口下手で他人と積極的に関わろうとしないが、根は純朴かつ実直で、冲方丁(ファフナー脚本・小説著)氏曰く母性的な性格。天才症候群の影響として、驚異的な運動能力、反射神経、肉体の耐久力を持ち、転生後もその能力は健在である。

 

当作品では『蒼穹のファフナーEXODUS』最終話にてベイグラントのコアの足掻きにより総士を助けようとした際に世界からいなくなった……という設定である。

 

転生後は『結城友奈は勇者である』主人公である結城友奈の近所へと引っ越した(前日談である『鷲尾須美は勇者である』の1年前)事となっており、神樹から彼女を守ってほしいとの神示を受け事が起きるまで彼女と日常を共にしていた。

 

●皆城 総士(当小説主人公その2) CV:喜安浩平

誕生日:12月27日 / 星座:山羊座 / 血液型:A型 / 身長・体重:173cm・61kg/ 好きな物:コーヒー、チェス、クラシック音楽

年齢:20歳(『蒼穹のファフナーEXODUS』時)→13歳(『結城友奈は勇者である』世界への転生後)

 

一騎の幼馴染で乙姫の兄。責任感が強く寡黙な少年。成績優秀だが、愛想がない事と大人びた性格もあって、同世代の仲間に対しても上から目線的であり、周囲からは孤立しがち。言葉足らずで不器用な性格が禍して誤解を受けることが多いものの、実は仲間想いでナイーブ。天才症候群の兆候により、複数の人間の思考や感情を並列に処理できる頭脳を持つ。

 

当作品では『蒼穹のファフナーEXODUS』最終話にて原作通りに肉体が消失。フェストゥムの世界の『存在』と『無』の地平線にて別れを告げようとした際にベイグラントのコアの足掻きにより総士を助けようとした一騎と共に世界からいなくなったという設定である。

 

転生後は『結城友奈は勇者である』の神樹を奉る組織である大赦で事が起こるまでの準備を妹である乙姫や協力者たちと共に進めており、原作開始の3か月前に引っ越してきた。

 

引っ越してくる前に『鷲尾須美は勇者である』出来事に関わったためにゆゆゆ世界での人々の本質を知り、自らが思うところもありどうにかしようとの考えに至っている。

 

●皆城 乙姫(竜宮島前コア)CV:中西環

誕生日:3月5日 / 星座:魚座 / 血液型:O型 / 身長・体重:143cm・39kg / 好きな物:プリン、三色カレー

年齢:12歳(『蒼穹のファフナー』時)→11歳(『結城友奈は勇者である』世界への転生後)

 

総士の実妹であり、竜宮島のコア。胎児の時に母が瀬戸内海ミールに同化されたことで、人でありフェストゥムでもある希少な「融合独立個体」として生まれた少女。

 

自分の置かれた立場を知り抜いているがゆえに老成して達観したところはあるが、好奇心旺盛で明るく元気な性格も持ちあわせている。他人には冷徹な態度で接する事が多いが、兄の総士をからかったり甘えたりするなど、歳相応の少女らしい面も持ち合わせている。

 

当作品では『蒼穹のファフナー』最終話にてワルキューレの岩戸へと戻り、劇場版『蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』にてコアの成長期を乗り越えた際に完全に消失したが、自らの世界を救うために神樹が次代のコアである皆城織姫の記憶を元に存在が再構成され、普通の人間として転生した設定。

 

転生後は『結城友奈は勇者である』の神樹を奉る組織である大赦で事が起こるまでの準備を兄である総士や協力者たちと共に進めており、原作開始の3か月前に引っ越してきた。

 

引っ越してくる前に『鷲尾須美は勇者である』出来事に関わった。彼女なりに何か思うところがある。

 

●皆城 織姫(竜宮島現コア 正史EDルート) CV:中西環

乙姫の言わば娘にあたる島のコア。『蒼穹のファフナーEXODUS』にて原作キャラの『立上芹』によって命名された。

 

『蒼穹のファフナーEXODUS』最終回後眠りにつく中、ある時に異世界の電波を受信し覚醒。異世界の神である神樹と交信し彼神の世界を救う為に共謀。一騎・総士・乙姫を送り込んだ設定。

 

●来栖 操(『蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』版) CV:木村良平

劇場版に登場するキーパーソンの一人。竜宮島に漂着した艦の中に眠っていたヒト型のフェストゥム。外見は10代の少年を模しており、人懐っこく人として振るうことを好む。

 

当作品では劇場版『蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』にて核ミサイルを防ぎ、生まれ変わった後その意識が消滅する前に神樹の手により『人(どちらかと言えばフェストゥムの独立融合個体)』として転生した。

 

転生した後、現在は大赦の乃木園子の傍についている。

 

<『~勇者である』シリーズ (『結城友奈は勇者である』などの3作品の総称)>

●結城 友奈(『結城友奈は勇者である』主人公) CV:照井春佳

身長:154cm / 学年:中学2年生 / 血液型:O型 / 趣味:押し花 / 好きな食べ物:うどん / 誕生日:3月21日

 

楽天家だがまっすぐで責任感が強くどんなことでもまっすぐに進む強さを持つ。そのため「勇者」という単語や自分が勇者であることに対して、並々ならない誇りとこだわりをもつ。勇者部では雑用を担当する。

 

・原作と相違点

「乃木若葉は勇者である」などでさらに謎になった彼女だが、当小説では普通の少女である設定を準拠。

 

一騎と幼馴染設定。美森とも親友の間柄なのは変わりない。好物に一騎の作るカレー追加。

 

今作では2度も助けられた事によるのか一騎に対してある種の『憧れ』を抱いた。

 

●東郷 美森 CV:三森すずこ

身長:158cm / 年齢:中学2年生 / 血液型:AB型 / 趣味:菓子づくり / 好きな食べ物:うどん / 誕生日:4月8日

 

過去に遭った事故の影響で両足の自由と記憶の一部を失っており、友奈のサポートをうけながら車椅子で学校に通っている。勇者部ではブログの編集などのパソコン関係の仕事を受け持っている。上品でおっとりしているが、パソコンや菓子づくりなどと多才で濃ゆい一面をみせることもあり、頭も回ることもあってか大仰で堅苦しい物言いをすることがある。

 

・原作と相違点

総士に対して記憶の奥に引っかかるような違和感がある。

 

●犬吠埼 風 CV:内山夕実

身長:163cm / 年齢:中学3年生 / 血液型:O型(ビジュアルファンブック内の設定準拠) / 趣味:散歩 / 好きな食べ物:うどん / 誕生日:5月1日

 

行動力があふれており、大食いで大雑把。時折、中二病めいた発言をもする。「女子力」という言葉を好んで使う。勇者部では部長として部員に指示を出す他、自身もボランティア活動での劇の台本などを担当している。

 

ある事故で2年前に両親を亡くし現在は妹の樹と2人暮らし。家事全般を取り仕切り、その能力は非常に高い。

 

・原作の相違点

前世で同様の立場についていた総士により御役目に対する責任はある程度は払拭された。しかし、この先にある種の葛藤と向き合う事に。

 

●犬吠埼 樹 CV:黒沢ともよ

身長:148cm / 年齢:中学1年生 / 血液型:O型 / 趣味:占い / 好きな食べ物:うどん / 誕生日:12月7日

 

姉の風を尊敬しているが、彼女の大雑把な言動に突っ込むこともしばしば。控えめな性格で頼れる姉の庇護の下にいる自分の立場に疑問を抱いており、いつかは姉に並びたいと思っている。勇者部では友奈と共に雑用を担当する他、劇で使用する音楽の編集などを受け持っている。

 

・原作の相違点

特にはなし。乙姫と勇者部のメンバーの中では密接に関わることとなる。

 

●三好 夏凜 CV:長妻樹里

身長:151cm / 年齢:中学2年生 / 血液型:B型 / 趣味:健康に気をつける / 好きな食べ物:うどん、煮干し / 誕生日:6月12日

 

勇者としての意識が高く、剣術の訓練などには非常にストイックに取り組む。しかしその反面、自身や身の周りのことには無頓着。

 

・原作の相違点

勇者部と共闘したためある程度の実力は認めた。しかし、彼女は大赦の上層部と関係の深いところにいたせいか現在大赦寄りの考えとなっている。

 

●乃木 園子 CV:花澤香菜

身長:156cm / 年齢:中学2年生 / 血液型:O型 / 趣味:ぼーっとする / 好きな食べ物:うどん / 誕生日:8月30日

 

『鷲尾須美は勇者である』の登場人物の1人。上品な顔立ちでおっとりとした純粋無垢な性格。

 

当作品では『鷲尾須美は勇者である』は大体原作通りの展開で進んでいるため、彼女は大赦に奉られた姿での登場となる。

 

現在は自分の信念をもって来栖と共に活動している。

 

●三ノ輪 銀 CV:花守ゆみり

血液型:A型 / 趣味:漫画を読む / 好きな食べ物:うどん、しょうゆ豆ジェラード

 

『鷲尾須美は勇者である』の登場人物の1人。とても陽気な性格で、活発。だが、運が悪く、しょっちゅうトラブルに出くわすがめげない精神力をもつ。

 

当作品では『鷲尾須美は勇者である』は大体原作通りに進んだものの。彼女はバーテックスからの襲撃で窮地に陥った時に、親友2人を逃がし1人で戦い。その後、勇者システムの端末を残しその行方が知れずにいたという設定である。

 

当小説ではクロスオーバーにおけるイレギュラー対象キャラ。

 

●神樹(原作設定入りオリキャラ) イメージCV:悠木碧

『~は勇者である』シリーズのキーパーソンともいえる。土着の神々の集合体ともいえる神様。

 

ある歪みを見つけ調査した際に未来での悲惨な出来事を先読みしてしまう。彼世界の勇者では対応できない未来だったため対策を講じようとした際にファフナーの世界を発見し助けを求めた。

 

神様の集合体でもあり、彼女はその一神らしいとの事。



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設定(戦闘関連) ※原作並びに当小説ネタバレ注意

一部伏せあり。話が進むたびに追記していくと思います。


●『蒼穹のファフナー』勢

<前提>

『勇者である』側の世界に合わせた専用システムとして運用。勇者と同じ白兵戦を行う。開発元は現在明かせないが壁紙のロゴに『Alvis』の文字が見えるのが特徴。なお、いまだに明らかになっていない機構(作中で総士が示唆した)あり。

 

通常兵器に耐性があるバーテックスに対しても十分な効果はある。これはミールの欠片により兵器の性質が変化しているためである(勇者システムの神の力と同等)。

 

研究並びに改良の結果、現在はエインヘリアルモデル相当の追従性の実現に至っている。

 

本編では言及していないが世代別で言うと、

第1章~第2章時期:第3世代

第4章以降:第4世代

とする。

 

 

<ファフナーパイロット>

・真壁一騎(第1章~第2章)

ルガーランス(第1章第12話にて後期型に変更)、レールガン、デュランダル、マインブレード

 

・真壁一騎(第4章)

アップデート後のシステム。特殊兵装使用と対バーテックス・フェストゥムに対する防御強化のため、それまでの防護服から装甲を纏うパワードスーツ方式となった。

 

・真壁一騎(???????モード)

当システムの切り札ともいえる形態。最終決戦にて解禁。『存在と痛みを調和する存在』を体として現す。

 

・皆城総士(通常時)

ガルム44、レイヴンソード、デュランダル、マインブレード

 

ジークフリードシステム

分離統括型全ファフナー指揮管理システム。今作品では総士のシステムに内臓されておりこれで読心を防ぐための思考防壁と張り、一騎らファフナーパイロットへクロッシングすることで指揮や意思疎通を行えるようになる。また、勇者システムへの接続も可能となっている。

 

・皆城総士(???????モード)

当システムの切り札ともいえる形態。最終決戦にて解禁。『存在と無を調和する存在』を体として現す。ただし、このモードを使用時にはジークフリードシステムの使用は不可能。決戦時にはそれを引き継ぐ人物あり。

 

〈島のコア〉

・皆城乙姫

ブリュンヒルデ・システム

元は島の防衛機構を統括するシステムでコア型と言われる人とフェストゥムの独立融合個体である彼女ならではの専用システム。当作品ではこのシステムを介して使用される防衛兵器である『ノルン』の使用に特化したシステムとなっている。無数に際限なく使えるが、乙姫自身がミールのコアの役割を果たしているのとシステムのリソースのほとんどを使用しているためか彼女自身の防衛能力が皆無である。

 

また『ノルン』には原作の使用用途の他にファフナーの装備のひとつである『イージス』装備のデータを流用・昨日追加しており、当作品では障壁を足場にするなどで使われている。

 

なお、最終決戦時には乙姫にはもう一つの役目を課せられる。

 

〈ファフナーコア〉

・マークザイン

一騎が第1期途中で乗り換えたザルヴァートル・モデルと呼ばれる規格外クラスのファフナー。機体に使用されたコアはノートゥング・モデル『マークエルフ』のものを移植したもの。

 

今作品では神樹の手によりゆゆゆ世界に影響を及ぼさない力として作品に登場する精霊と同サイズにデフォルメ化されている。現在は力に制限をかけられているが敵の攻撃を受け止め防いだり、SDP『増幅』などの能力でサポートしている。

 

日常でも一騎を手助けすることが多く一騎曰く「おとなしいけど器用で色々助かる」らしい。

 

・マークニヒト

ファフナー作中で敵側に回り一騎ら島のファフナーに立ちはだかったザルヴァートル・モデルと呼ばれる規格外クラスのファフナー。機体に使用されたコアはノートゥング・モデル『マークフィアー』のものを移植したもの。EXODUSでは総士が搭乗し圧倒的な力を披露した。

 

今作品では神樹の手によりゆゆゆ世界に影響を及ぼさない力として作品に登場する精霊と同サイズにデフォルメ化されている。現在は力に制限をかけられているが敵のワームスフィアをあっさりと弾いたりと制限されてもその力は健在である。

 

日常では不気味な印象が強いのかよくわからないが精霊『牛鬼』だけは過敏に反応している模様。他の一面は現在判明していない。

 

・??????????

最終決戦前にある人に託されるファフナーコア。

 

●『勇者である』勢

〈前提〉

『勇者システム』自体には対フェストゥムの機能はなく、ファフナー勢からの恩恵を受けることで強化。話が進むたびにその恩恵を受ける。

 

〈強化項目〉

1.ジークフリードシステムのクロッシング許可

フェストゥムの一番の特徴である読心能力を防ぐ恩恵の付与、思念によるシステム内での通信手段の確保、感覚共有による連携力の強化。

 

ゆゆゆの勇者システムは戦う意志を固めた状態でアプリをタッチすることで霊的回路を接続。神樹と繋がり勇者の力を借りるという方式…俗に言えばファフナーとのクロシングにある意味で似通っていることから採用に至る。

 

強化項目はあと2つ実施予定。一つは最終決戦前に、もう一つは最終決戦時に条件を満たす。

 



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プロローグ
序章1 僅かな異変


炎のように燃え上がるかのように辺り一面赤く染まった世界。そこには生きているものは全くといっていい程存在していなかった。

 

そんな赤き世界に突如天から翡翠色の光が流星のように地表へと降下する。地面に衝突する前に光を発すると減速し、その場に安置されるようにその場に留った。

 

その留まった物体は、金色に輝くクリスタルともいえるがボロボロで今にも砕け散りそうである。

 

その物体の周辺に不自然なほど白く、人間のよりも遥かに巨大で、不気味な口のような器官を持つモノが集まってくる。それらは、人類の生存圏を後退させ後に『バーテックス』と呼ばれることになる生命体である。

 

赤く染まった世界の実質的な支配者とも言える奴等は日本に残された人類安寧の地のひとつを攻め滅ぼし、もう1つの安寧の地へと侵攻を開始していたのだが、異変を察知した一部の個体がここに集まってきたようだ。

 

【!?】

 

その中のバーテックスがその口を開け物体を喰らう。ここには不必要であると判断したのか、物体をまるで飴を砕くかのように噛み砕こうとする。

 

【!!!!!】

 

だが、ここで物体を喰らったバーテックスに異変が起こる。その白き体を覆うかのように翡翠色の結晶が口周りから生成され全身を覆い、完全に結晶に飲まれると一斉に砕けた。

 

【これが…『星屑』…。だが我々が我々たるには足りない】

 

覆われた結晶の中から出てきたのは少年ともいえる姿をした人のような生命体である。

 

【我々はお前達から理解する必要がある】

 

人のような生命体はゆっくりと地面へと降りる。バーテックスが仲間の敵討ちでもあるかのように生命体を喰らおうとするも地面から触手のような根が生えバーテックスの巨体を刺し貫く。刺し貫かれたバーテックスはジタバタと抵抗を見せるもすぐに動きを止め、その身体のいたるところに翡翠色の結晶に包まれて、そして砕けちる。

 

その光景は人のような生命体が逆に星屑のバーテックスを片っ端から食らいつくすにふさわしいといえるものであった。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

-四国大赦本部 神樹の間-

人類がバーテックスの襲来を受け世界中が蹂躙された中で残された安寧の地『四国』。ここには『神樹』と呼ばれる特殊な樹木……一説には多くの土地神が人々を守るために集まったもので、瀬戸内海に巨大な植物の根が幾層にも重なり作られた『壁』という結界を張り、結界内に恵みをもたらしている。

 

ここは、そんな神樹を管理し、またバーテックスに関するあらゆる対応を行う『大赦』と呼ばれる組織の本部である。神樹と呼ばれる樹木もここの一室に安置されていた。

 

そんな外の世界に起きている異変を察知したかのように神樹の輝きが一層増していく。

 

輝きが頂点に達すると、目も眩むほどの閃光が解き放たる。光が治まるとそこには1人の人間の女性の姿をしたものが現れた。

 

「なんていうことなのでしょう……あのような生命体までいるなんて……」

 

この女性のような姿をしたのは、かつての西暦に土着神と呼ばれた神の内の1体。便宜上「彼女」と呼ぶことにするが、彼女は四国にいながら壁の外の状況を見た際に異変を見つけた。彼女は目をつぶり神樹に触れるとその樹は淡く輝く。そして、手を放すとその瞼が開き呟いた。

 

「あれはこの世界のものではなく、他の世界から来たもの。星屑と事を構えるくらいですから友好的とは言えませんね。……今は対策を講じなければ」

 

金色の生命体が脅威とみた彼女は考えを巡らせ対策をたてようとする。……が、突如電流が走るかのように思考が彼女の中に流れ込んだ。それは未来の記憶とも呼べるもので、最初に流れ込んできたのは、金色の生命体の復活までの時間・今現状での未来についてだった。

 

「(!?)嘘……私達じゃあ…勝てない!」

 

結果は最悪なもので、金色の生命体は四国へ侵攻。四国中の戦力を結集させ対抗するも生命体に食い尽くされ神樹まで取り込まれるというものであった。

 

「事が起きるまでの時間がありますが…いったいどうすれば。……これはなんでしょうか。あの生命体が出てきた空付近に歪みみたいなのが見えますね」

 

金色の生命体が降ってきた空にわずかな時空の歪みともいえるものを見つけた彼女は再び神樹に手を翳し歪みを探った。

 

「これは、あの生命体がいた世界なのでしょうか?」

 

彼女は金色の生命体がいた世界を垣間見る。

 

その世界は本来なら知識を記憶し続ける『ミール』と呼ばれる光子結晶体が「極稀な行動」を起こしてしまったがために悲劇が起こってしまった世界で、その世界の人類はミールから派生した金色の生命体『フェストゥム』の侵略から生き残るための戦いを続けていた。

 

彼女はその世界での記憶、つまりは歴史を紐解く。瞬く間に異世界を調べ尽くしその中で、世界を大きく動かしたある記憶を発見した。

 

人類をフェストゥム等の危険な存在から守り、文化と平和を次代に伝えることを目的とし「楽園」と呼ばれた島の人たちの物語である。島の人たちの活躍により、ミールを人類に有益なモノに変容させる事に成功させたり。ある時は間違った事を覚えてしまったミールに対して生命の循環を学ぶことで共存を望むようになり行動を促せ。比較的最近の記憶では、後にエクゾダスと呼ばれる過酷な旅を達成、島に戻り戦い抜き多大な影響を及ぼすある事態を乗り越えた。

 

その島の人たちの事に興味をもった彼女はさらに深くまで知ろうとする。そしてその出来事の中心にいた2人の少年の姿を見つけた。1人は光沢のある銀白色の『存在』の名を冠し、もう1人は紫色の『否定』の名を冠する巨人のような兵器に搭乗し過酷な世界の現状と戦っていた。その活躍は英雄2人ともいえる程凄まじいものであった。

 

「……この2人なら実力も申し分もありません…ですが……」

 

英雄2人に至るまでの彼らの人生は凄惨で辛いものであった。彼女はその内容を見てしまったためか目に悲哀の色が深く漂った。

 

そして、閲覧を終えると彼女の瞳にその搭乗者が砕け散る光景が映る……つまりは世界を救う代償としてその命を燃やし尽くした2人の少年の最期の姿である。

 

「……表向きは世界を救った英雄のように見えますが、いくつもの辛く悲しい出来事を乗り越えてたからですね」

 

彼女は呟き少し考え込んだが、この2人を候補者として選び行動に移ろうとした。その時、

 

 

 

 

 

【そこでみているのは誰?】

 

 

 

 

 

「(!?)繋がり過ぎた!」

 

【…もう一度言うわ。島をみているのは誰? 何故、見ているの?】

 

不意に異世界からの突如の交信が来たため彼女は愕然とする。だが、すぐ冷静になり思考を巡らせる。

 

「あの、……申し訳ありません。貴方らの島に興味があって見させていただきました」

 

【……まあいいわ。敵意というものを感じないから。ところであなたの名前は?】

 

「え?」

 

【互いを認識するにはまず名前から知った方がいいわ】

 

苦し紛れの答えを出した彼女は異世界からの交信から相手がかなり幼いということを見抜いた。さらにあちら側からは敵意もなく、純粋にこちらが気になった事もあってか警戒を解き、まずは互いの存在についての証明をすることとした。

 

「(達観しているようだけど、声の感じからして素直な幼子みたいな感じですね。敵意もないですし、もしかしたら交渉できるかも)……わかりました。とは言っても、私はある集合体の代表みたいなものですけど…一先ずは『神樹』と呼んでください」

 

【わかったわ。……私の名前は『皆城(みなしろ)織姫(おりひめ)』。あなたの世界でいえば竜宮島の神様とも言える立場みたいなものよ。それで何故、島を見ていたの?】

 

神樹と呼ばれる彼女は正直に織姫という存在にこちら側の世界の事情と異変を打ち明けた。その上で異世界の存在と交渉ができる可能性もある事でそちらの旨も伝えると織姫も興味をもったのかそれに応じる。

 

今ここに、2つの異なる世界の神様のような存在との邂逅が実現した。




前回投稿した短編がそれなり好評だったのと連載作品の1つがトラブルで駄目になったため新たな作品に着手してしまった作者です。

プロローグ的な0話が完成したため投稿。今話では、2作品のキーパーソンである神様的な存在の2人の出会いとイレギュラー的な事態の発生の語りとなっております。

意外と共通点が多いこの2作品ですが注意書きにもある通り、鬱成分はほどほどに書き上げたいと思っています。

なお、現在明かせませんが介入するファフナーキャラは既に決めてありますので、誰がくるか楽しみに待っていてください。


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序章2 希望を壊す者、救い紡ぐ者

一騎と総士が世界からいなくなることになったオリジナル編


辺りは何もなくただ真っ暗な空間。そこに1人の青年が浮かんでいた。

 

「……う」

 

青年の名前は『真壁(まかべ)一騎(かずき)』、第3アルヴィス上空でのマークレゾンとの決戦にてパイロットであるジョナサンに同化を介した説得を成功させ自我を取り戻させた。しかし、ベイグランドのコアにより宇宙へと追放されたはずだった。

 

彼は顔を見上げその真っ暗な空間を見る。4年前、北極での決戦の時と同じような空間なため比較的冷静だった。

 

「……フェストゥムの世界」

 

「その入り口……『存在』と『無』の地平線だ」

 

「総士!」

 

声がした方を向くと、そこに彼の親友ともいえる『皆城(みなしろ)総士(そうし)』がいた。……以前よりも遥かに……手が届かない程遠くにいる。

 

「僕は今度は地平線を超えるであろう…無と存在の調和を……未来へ託して」

 

「待て、総士。俺も…っ!甲洋…来栖…」

 

一騎は総士の元へと駆け寄ろうとするが2人の青年に止められる。2人の顔を見た一騎は思いとどまる…「まだそこへ行くべきじゃないと」。

 

一騎は穏やかな表情で総士を見送ろうと決める。

 

そして、総士と一騎の一時のお別れの言葉を紡ごうとした……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまえらもいなくなればいいんだ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総士の後ろに突如、幼い少年が現れる。激しい憎しみの感情を蓄積させ、世界を支配しようとしたベイグランドのコアのフェストゥムである。

 

【お前等のせいで世界が…「憎しみ」の世界でなくなる。だったらそうなる前にお前等を消してやる!】

 

ベイグランドのコアは突如ワームスフィアーと呼ばれる湾曲空間を展開。総士を飲み込もうとする。

 

「総士ぃぃぃぃぃ!!!」

 

一騎は甲洋と来栖の手を振り払い、総士の元へと駆け寄る。だが、そんなことをすれば……。

 

「「一騎!総士!」」

 

甲洋と来栖の叫びも虚しく一騎は総士と共に湾曲空間に飲み込まれた。

 

【はは、これで未来へは繋がらなくなった……あは、はははははは】

 

「お前がぁぁぁぁ」

 

甲洋はフェストゥムの力を使い、ベイグランドのコアを真っ二つに斬り裂いた。切り裂かれたベイグランドのコアは今度こそ消滅した。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「そんな…一騎が…総士が…」

 

元凶は倒した。が、2人は戻ってこない。残された2人は打ちひしがれそうになった。

 

こうして、『真壁一騎』と『皆城総士』は世界から……いなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

【なんとか間に合いました】

 

「そうね。でも、神樹。本当にこの世界の2人でいいの?」

 

誰もいなくなった空間に青色に透けている織姫と虹色の球体のような存在が浮かんでいた。

 

【はい。私の世界に来てもらうにはあの方法しかなく、条件を満たすのはこのタイミングだけでしたので…】

 

「そう…それで次は?」

 

【次の可能性を紡ぐ世界へ向かいます】

 

「わかったわ」

 

織姫の了承を得ると、2つの存在は次の世界へと跳びたった。




不死身モードになった一騎を最強状態で転生するためにちと無理やりな展開でした。


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序章3 命の終わりと再起

2015/12/19 誤字及び表現修正
2016/1/29 前話との繋がりのため若干修正


真壁(まかべ)一騎(かずき)』と『皆城(みなしろ)総士(そうし)』はシュリナーガルで生き残った人たちを新天地まで退避させ、竜宮島へ戻り戦い抜き希望を勝ち取ることができた。だが、その代償なのか2人は島からいなくなる……存在と無の世界にて同化現象で死んだ……はずだった。

 

「総士、どういう事だ? 俺たちは確かに……」

「僕にもわからない…しかし、ここは?」

 

気付けば知らないどこかの世界とも言えるような幻想の世界に2人はいた。

 

(死んだから島に還るはずと思ってたのだが、僕の肉体が違うからなのか?……いや、それなら一騎がここにいる理由にならない)

 

【私がここへと呼びました】

 

思慮へと耽る総士だったが突如頭に直接語りかけるような声に2人は辺りを見渡す。だが、そこには誰もおらず、2人の目に映っていたのは1本の大樹であった。

 

「誰だ? 僕と一騎を何故ここに呼んだ?」

 

【私の名は『神樹』……とある世界での神様。あなた達の世界でいう『ミール』のような存在ですね。ここに来ていただいたのは、貴方達にお願いをするためです】

 

「(!?)この声は…あの樹からなのか」

 

2人は未知の存在からのコンタクトに驚くも同様な存在と対話したことがあるためかすぐに平静となる。

 

「大丈夫よ。あの存在は敵ではないわ」

 

ふと声が聞こえそちらの方へと振り向く。そこにいたのは、彼らにとって見慣れたアルヴィスの制服に身を纏った1人の少女である。

 

「……織姫か。コアへ還ったはずでは?」

 

「還ったのは事実よ。そして、ここにいる理由は彼女が説明してくれるわ」

 

「ここにいる…理由?」

 

織姫が一騎と総士の間に並び立ち、神樹と呼ばれる存在と向かい合う。

 

【織姫さん、こうして実際に会うのははじめてですね。…彼らも連れてきてくれてありがとうございます】

 

「構わないわ。神樹、彼らにも説明してあげて。…2人共、これから話す事はすべて事実よ。ありのままに受け入れて」

 

織姫の言葉を聞いた2人は頷く。

 

【わかりました。まずは私の事と世界のことから説明します】

 

神樹から自らが異世界の神様の集合体である事、彼神のいる世界の現状、自らが守護する四国の事について話す。

 

そして、神樹からここに呼んだ事に関する本題へと入る。

 

【今、私達の世界を無にしようとする存在…今まさに敵が干渉しようとしております。そこで、貴方達に世界を救ってもらいたいのです】

 

「敵とは?」

 

【あなた方の世界でいう『フェストゥム』と呼ばれる存在です】

 

フェストゥムと聞いた一騎と総士は驚愕した。彼らの世界に悲劇をもたらした存在に対する脅威を知っているためである。

 

【私達の世界は『バーテックス』と言われる存在により人類の生存圏はかなり縮小してしまいました。ですが、バーテックスの対処法はあるのですが、フェストゥムと呼ばれる存在に対する対抗手段は私達の世界ではありません。……この世界の事は対策を建てようとした際に偶然見つけ島の事を知りました。織姫さんとはその時に…私がそういう対策をして無かったのもありますが】

 

「島を見ていた割にアザゼル型みたいなはっきりとした敵意を感じられなかったし、最初はまた新たなミールかと思ってたわ……ちょっと話から外れたわね。ここまでの経緯は理解できたかしら?」

 

織姫のフォローもあってか、神樹の話を理解した一騎と総士は頷く。そして、総士から質問が投げかけられる。

 

「それで僕と一騎に何をさせたいんだ?」

 

【ある手段を用いて私達の世界に介入し、来るであろうその存在に相対してほしいのです。本来なら私達の世界の住人で解決するべきですが、私はこういう異変が起きた場合のあらゆる行使が認められています。はっきり申し上げると今回の件は私達の手に負えません】

 

「つまりは僕たちの力を借りたいと?」

 

【そのとおりです】

 

「だが、どうやってそちらの世界へ介入する?」

 

【手段は『転生』という手段をとります】

 

「転生?」

「それは『輪廻転生』という類でいいのか?」

 

【そのとおりです。通常なら世界への介入は不可能に近い行為ですがその人の生をやり直す『転生』ならその問題を解決できます。……ですが】

 

神樹は一瞬押し黙り、その様子に一騎は首を傾げ、総士は怪訝そうな顔を浮かべる。

 

【『転生』はまさにその人の命をやり直す事です。本来の転生とは違って私等神が介入する事になるのでその生が終わった後の保証が出来ません……もしかしたら元の世界に戻ることができなくなるかもしれません】

 

神樹の一言に辺りの空気がズシリと重苦しくなる。一騎と総士は押し黙ってしまう。

 

【……ごめんなさい。私は神としては新米の方ですし転生に関してはこれ以上はわからないのです。それに身勝手ですよね。命が終わってしまった貴方達を突然こんなところに呼び出して、勝手な事を頼んでしまって…】

 

「俺は行くよ」

「……僕も行こう」

 

【……え?】

 

「話も聞いてしまったし、俺としては放っておけない事だと思う」

 

「そのフェストゥムとやらがもしかしたら誤った学習をし、他の世界やまた僕たちのいた世界…島を襲うかもしれない。それなら、僕達がやるべきだと思います」

 

【で…でもいいのですか!?】

 

「『かもしれない』という事なら、戻れる可能性もあるという事だ」

 

「神樹、先に言ったでしょ。私達の島の戦士はそれぐらいでは折れないわ」

 

彼らの目に浮かぶ覚悟を感じとった神樹は決意した。

 

 

 

 

 

【……分かりました。それでは貴方達を『転生』する形でその世界へと送ります。一騎さんと総士さん…それに協力者としてもう1人と共に!】

 

「もう1人?あとは誰なんだ?」

 

【織姫さんこちらに】

 

神樹の呼びかけにより前へと出る織姫。一騎と総士は何事かと互いに顔を合わせる。

 

「どういう事、一騎と総士以外にだれか必要なの?」

 

【一騎と総士さんは転生の条件を満たしていますが、実はここにもう1人条件を満たす人がいます。……織姫さんにゆかりのある人が】

 

「誰……(!?)まさか!」

 

【そのまさかです……】

 

神樹の輝きが増していき、織姫の周りに虹色の光に包まれる。さらに織姫から輝きが発せられる。

 

咄嗟に腕で光を遮った一騎と総士だったが、光が治まり腕をどけ目を開けると、

 

「(!?)な!」

「…織姫が…2人!」

 

「……久しぶりね。総士、一騎」

 

島のコアである織姫とうりふたつの少女がそこにおりその瞼がゆっくりと開かれる。そして彼女は織姫とは違い高飛車な物言いではなく歳相応の少女のように話した。その違いに気付いた総士がその少女の名を言う。

 

「(!?)…まさか『乙姫(つばき)』か!」

 

「そうよ、総士。…ええと、はじめましてかな?『織姫』」

「…そうね、『乙姫』」

 

乙姫が織姫の姿を見つける。2人は見つめ合った後感極まったのか互いに抱き締めあう。

 

「……お母さん……」

「よしよし。…でも、見た感じ私達姉妹だよね」

「……その方がいいかも。乙姫姉さん」

「(!?)うん、織姫ちゃん」

 

「こうして見ると姉妹ぽく見えるな。なあ、総士」

「……そうだな」

 

「もしもまた『ここ』にいたらね。次はこうしたかったの!」

 

満足したのか2人は離れ、一騎と総士の間に並び立つ。

 

【織姫さんはまだコアとしての役目が残ってますから乙姫さんを2人の協力者として同行させます。次は……貴方達の戦う力ね】

 

「それならもう来ているわ」

 

織姫が視線を送ると、3人はそちらの方へ振り向く。

 

「(!?)…『マークザイン』!」

「『マークニヒト』まで…」

 

そこに光沢のある銀白色と紫色の巨人のような兵器が鎮座していた。一騎と総士にとって最期まで戦い抜いた機体、フェストゥムに対抗するべく開発された「思考制御・体感操縦式」有人兵器『ファフナー』のザルヴァートル・モデルとも呼ばれた規格外兵器である。

 

「こんなものまで……」

 

ザルヴァートル・モデルの危険性から忌むべき存在だと認識している総士はニヒトを見ながら怪訝そうな顔で言う。それとは対照的にザインを見ていた一騎が呟いた。

 

「総士、大丈夫だと思うよ」

 

「いったい何を根拠に……」

 

「総士、ニヒトの事をありのままに感じなさい」

 

織姫に言われニヒトを見上げる総士。見ているとふと気づく、内蔵されたコアの意思のようなものが随分と様変わりしたように感じられた。強いて言えば、解体作業や作戦行動中のあの不気味さがすっかりと鳴りを潜めたように思えた。

 

「……ザインもなんだ。今は俺らと共に行きたいって言ってるように思えるよ」

 

「私がいなくなった間に、このコア達も変わったみたいね」

 

【私達の世界ではファフナーを整備できるような環境や技術は伴っておりません。よって、この2機には私達の世界に合わせた力となっていただきます。それでなら連れて行くことができますので】

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

――― 紆余曲折もあって、数時間後に準備は完了した。

 

【これで転生の準備は完了です。…何か思い残すことは?】

 

「島の事はどうなる?」

 

「島の事は任せなさい。あの出来事の影響かしばらく平和は続くから問題はないと思うけどなんとかしてみせるわ」

 

織姫に島の事を託した3人は神樹にその旨を伝えた。

 

【それでは、転生後のお話をします。前世の記憶は転生直後から残っているので話し方や振る舞いには気を付けてください。あちらの世界のサポートのために必要な端末にすべて情報を載せておきます。最後に…私のわがままですが、どうか貴方達の新たな人生に幸がある事と私達の世界の『勇者』の事をどうか宜しくお願いします】

 

「一騎、総士…姉さんの事を頼むわね」

 

一騎・総士・乙姫は最後に神樹の言った『勇者』という言葉が気になったが、神樹がまた光り輝くと辺り一面の花びらが舞い上がりその瞬間光に包まれて意識がとんでしまった。

 

 

 

―――こことは違う場所、自らが住む楽園と呼ばれる島、そして世界を守った2人の少年。

 

その代償はあまりにも多く、楽園へ還ることはできたがその世界からいなくなった。

 

だが、異世界と呼ばれる場所の神と呼ばれる存在によりその身を移した。

 

そこで出会いがある事を今の僕たちは知る由がない。

 

君たちは知るだろう。

 

これから語るのは本来なら交わりもせず記されることもない物語を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ったようね」

 

【はい。無事にこちらの世界へと転生しました】

 

3人の旅立ちを見届けた織姫であったが、不意に足音が聞こえすぐに後ろへと振り向く。そこには1人の少年が立っていた。

 

「こんにちは」

 

「やっと来たようね。3人は先に行ってしまったけど」

 

「ええ~行っちゃったの……。少しは話したかったんだけどなあ」

 

【さて、次は貴方とですね】

 

簡単なあいさつを交わし、織姫と神樹は新たに来た少年との話し合いを始めるのであった。




ファフダス24話見てからのテンションで組み上げましたので色々超展開気味かもしれません・・・。版権キャラの『神様転生』物ですしこんなものでしょうか?

導入部はこれで終了で、次章からは『~は勇者である』の世界に転生した直後の真壁一騎の主観でしばらく進めていく予定です。あまり多くは話さない彼のイメージが強いのか今話では台詞少なめでしたが次話ではそれなりに多くしたいと思います。

以下、アニメ『結城友奈は勇者である』式の次回予告
「ここが神樹の言っていた世界か」

【貴方方にはこの世界でそれぞれ役目があります】

「君は?」

「私は『結城友奈』よろしくね!」

第1章「真壁一騎の章【転生-はじまり-】」
3話目にしてようやくゆゆゆ主要キャラ登場。


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第1章『真壁一騎』の章【勇者-はじまり-】
第1話 出会いと事件


時期系列は『鷲尾須美は勇者である』の1年前からスタート。

しばらく一騎視点で物語が進みます。

2016/1/8 誤字修正


神世紀297年讃州地方のとある一軒家に真壁一騎と呼ばれる少年がいた。神樹により転生させられた1人である彼の意識は覚醒した。

 

「…ん」

 

その瞼がゆっくりと開かれる寝ぼけながらも思いきり足を蹴り上げ布団を蹴っ飛ばす。寝ぼけた頭だが薄暗い部屋の天井を見る。そこはかつて竜宮島の自室の古ぼけた和室の天井に似ているようで少し違う事に気付く。

 

そして、むくりと起き上がる。意識が覚醒した頭で今までの事を振り返り前世の記憶を思い出した。そして、島のコアである織姫と神樹から頼まれたことも。

 

行動を起こそうとし立ち上がった一騎はここで自らの違和感に気付く。明らかに自分の見ている世界が低く感じるのだ。辺りを見渡しカーテンを開けると窓に自らの姿が映った。

 

「(!?)小さく…なってる!?」

 

一騎は自らについて動揺している中、突如として部屋内に電子音が鳴り響く。ふと音をする方を見ると机の上にある端末の着信音のようだ。

 

「これ、電話かな?……総士!」

 

一騎は端末を持ち上げ、画面を見ると『皆城総士』と出ていた。端末の操作に少し手間どうが着信のアイコンに触れ電話に出る。

 

《一騎か?》

 

「総士!」

 

《どうやら、一騎も無事に転生とやらができたようだな》

 

「…あ、あぁ。総士もな…乙姫は?」

 

《ここよ。総士と同じところにいる》

 

乙姫が電話に出た。どうやら総士が端末を渡したようだ。

 

「乙姫もそっちにいたのか?」

 

《うん。今の私は総士の本当の意味での妹として覚醒したみたい》

 

「え!」

 

《変わっていた事には私もだし、総士も驚いてたよ。その時の総士はね…《っ…乙姫!そ、それ以上は止めて変わってくれ!》総士に止められちゃった…変わるね》

 

電話の向こうで総士が乙姫の発言に慌てていたようだが、何回かコホンとせき込み落ち着いた総士が一騎へと告げる。

 

《……今のは気にしないでくれ》

 

「……総士はどこにいるんだ?」

 

《そこから離れた街だ。車で1時間弱の距離だからだから気軽には会いに行きづらいな》

 

「そうか。ところで俺はどうすればいいんだ?」

 

《まずは神樹の言っていた端末の情報とやらに目を通しておくんだ。この端末はどうやら日常生活に特化した一種のツールだ。極めて便利だ。見てみたら転生直後の僕らの経歴みたいなものもあった。それとどうやら神樹から僕たちにそれぞれ役目があるらしく事が起きるまで日常を送りつつ過ごせだそうだ》

 

「……役目ってのはなんなんだ?」

 

《僕の場合は神樹を奉っている組織の一族のところにいるからアルヴィスのように根幹に関わっていきそうだ。その関係でやる事もあってしばらく自由に動けない。すまないが…そっちはなんとか1人でやってくれ。幸い連絡手段はある互いに連絡を取り合おう《総士~呼んでるよ~》何かあったら連絡してくれ》

 

「……あぁ。こっちも頼らせてもらうよ」

 

総士や乙姫の無事にほっと安堵する一騎。電話を切り、総士が言っていた情報とやらを見ることに。電話には手間取ったが端末の操作はアルヴィス内で少しはやっていたこともあってかすぐに中身を見ることができた。

 

それには神樹からのメッセージも同封されていた。

 

【真壁一騎さんへ

 

この端末を起動させたということは無事に転生は完了したということですね。この端末は来るべき時に必要で先に言っておいたこの世界の情報はこの端末から見ることができます。なるべく手元から離さず持っておいてください。

 

身体が小さくなってるのはこれから出会うであろう子達に年齢を合わせたからです。なお、転生した貴方方には役目があります。貴方の場合はとある女の子を護ってください。そのために、その人の家の近所へ引っ越したということになっております。

 

島のミールの祝福でフェストゥムとなったと聞きましたが、転生し新たに人として生まれ変わってもその力は健在です】

 

「……」

 

神樹からのメッセージを見てしばし唖然とする一騎。

 

【敵の事に関してはあなた達に不便にならない様配慮、特に制限を設けることも致しません。すべて貴方達にお任せいたします。重ねて言いますが、どうか新たな世界での人生に幸があらんことを】

 

メッセージを読み終わり、この世界の情報や経歴を一通り目を通す。

 

一騎は立ち上がると部屋の窓を開ける。

 

「……ここが神樹の言っていた世界か」

 

そこには竜宮島のように海と山に恵まれてはいるが自然と営みとの調和がとれており、少なくとも表向きの竜宮島よりも文化が進んでいるような感じだった。

 

神樹からのやるべき事もあるが、一騎はこれから生きることとなる風景や営みに見惚れてしまっていた。

 

「本当に平和だな……それに島に似たような感じもあるか」

 

『カズキー、起きてるの?』

 

不意に部屋の外から女性の声が聞こえた。

 

「(ん、そうか。こっちの世界での両親がいるんだった)。いるよ、母さん」

 

『お隣の結城さんのところへ挨拶に行かないといけないから降りてきなさい』

 

「わかったよ。(久しぶりに母さんって言ったな)」

 

 

 

着替えた一騎は二階の自分の部屋から一階の居間へと下りると母親らしき女性がいた。

 

「(!?)」

 

「どうしたの、一騎?まだ寝ぼけているのかしら?」

 

「いや…なんでもないよ。(ここまでやるのかよ)」

 

この世界での母親はかつて自分のいた世界の母親『紅音(あかね)』とうりふたつで一騎は驚くもなんとか平静を装う。

 

「そう?食べたら行くわよ」

 

食卓に座ると2人は「いただきます」と食前の挨拶をし母親が用意した朝食を食べ始めた。

 

「(そういや結局世界からいなくなるまで戦い続けていたからこういうのは久しぶりだな。それに…こういう食事もだな)」

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

-結城家-

「昨日越してきました真壁です」

「…どうも」

 

昨日引っ越してきた(一騎が知ったのは端末の情報でだが)真壁一家は近所の結城家へ挨拶しにきた。一騎も母親に続いて頭を下げ簡単に挨拶をする。この場に父親がいないのは朝早くから仕事に出たと朝食の時に聞いた事を補足しとく。

 

「この子恥ずかしがり屋なんですよ」

 

呟き気味の挨拶に聞こえたのか母親がそれをフォローする。結城家の両親も挨拶を返し、結城家の居間へと通される。

 

「お母さん来たよ~。あ、こんにちは~」

 

入ってから少し経ち1人の女の子が入ってきた。話によると結城家の一人娘のようである。元々は赤髪のセミショートヘアを後ろで一つに束ねているのが特徴だ。女の子は一騎の姿を見つけ人懐っこい笑顔で彼に話しかけてきた。

 

「こんにちは。えっと、君は?」

 

「私は『結城(ゆうき)友奈(ゆうな)』よろしくね」

 

「ほら、一騎も」

 

「あ…『真壁一騎』です。よろしく」

 

友奈と言う少女も交えて両家の会話が始まる。内容は子供である一騎と友奈にとってはどうでもいいかもしれないが互いの親の事もあってかその場で静かに聞いていた。

 

「ん?」

 

そんな中一騎は自分を見る視線に気づく、見れば友奈が時々こちらをチラチラと見るような動作を見せている。

 

「(なんでだろう…やっぱり気になっちゃうなあ)」

 

その様子を見た友奈の父が声をかけた。

 

「友奈、一騎君と一緒に出掛けてきたらどうだ?わざわざ付き合う事もないしね」

 

「(!?)いいの!お父さんありがとう~」

 

友奈の父から許可をもらった友奈は立ち上がると一騎の元へと駆け寄る。

 

「一騎君、行こ!」

 

「ああ、行こうか」

 

友奈は嬉しそうに一騎を誘う。一騎も友奈の気持ちをくんでなのか共に行くことにし、友奈の両親と自身の母に一言挨拶すると友奈と共に出かけることになった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:一騎

互いの両親に気をつかわれたのか近所の一人娘である友奈と出かけることになった。正直に言うとあのままあそこに居ても借りてきた猫のように大人しくなっていたと思う。

 

「ここが商店街でね~近くには大型のショッピングモールもあるけど、私はこっちの雰囲気が好きかな」

 

今は、こんな感じで案内してもらいながら友奈の話を聞いている。ちなみに最初は苗字である『結城』で言おうとしたら「名前で呼んで」と返されたのでそのまま名前で友奈の事を呼ぶことにしている。

 

案内されながら彼女と話してみると印象としては天真爛漫で相手の事は放っておけないといった性格であるのが印象に残った。俺は口数は少なく話題に乏しいこともあってか話題があまり続かない方だ。そんな様子を見た彼女はあの手この手で話題を振り場を和ませようとしてきたほどだ。

 

「……ど、どうしよぉ~」

 

「(!?)君、どうしたの?」

 

案内の最中困っている女の子を友奈が見つけ俺たち2人はその子に駆け寄った。

 

「ネコちゃんがね…あの木に登って降りれなくなったの」

 

「君のか?」

 

「うん……」

 

「よぉし、私達が助け出しちゃうよぉ~」

 

「本当?お姉ちゃん、お兄ちゃん」

 

友奈はこう言ってるが、猫が登っている木は相当な高さである。よく見るとどっかから落ちたのか前足を切ってしまった様な傷があった。

 

「とにかく、助けなくっちゃ!よいしょ!」

 

友奈が木に登ろうとしたが少し進んだ辺りで滑り降りてきた。どうやら、木の幹が滑りやすいせいか伝って登るのはきつそうだ。

 

「うぅ~全然駄目だ」

 

「友奈…登って助けるのもいいんだけど…穿いているものを考えような」

 

「(!?)あはは…ごめんね~」

 

危うく友奈のスカートの中身が見えそうになって俺は顔を赤くしながらも顔を背けた状態で言った。

 

「ど、どうしよう。お兄ちゃん」

 

女の子は俺を頼ってくる。この木じゃあそのままは登るのはきついな。辺りを見渡すと一番低い枝は2メートル半くらいだ。今の俺の身長でもそのまま跳んでも届かないな。……ん、ふと見ると近くに足場となりそうな土管ブロックがあるな、これなら……。

 

「2人共ちょっと下がってろ」

 

俺の一声で2人を下がらせる。俺は距離を稼ぐために一旦下がり加速し走る。そして、土管を足場にして跳び一番低い枝を掴みぶら下がった。

 

「「ふ…ふぇぇぇぇ!」」

 

2人と猫は驚いているが枝をよじ登るとそのまま猫の元まで登っていく。

 

「驚かせてごめんよ。良い子だからこっちに来い」

 

猫に近づくにつれ慎重に事を進める。猫は俺が登ってきた時に刺激したようで驚いていたものの落ち着くまで待ったのもあってか警戒心を解いた。俺はすぐさま猫を抱きかかえるとその場から下へと飛び降り、唖然としている女の子へと手渡した。

 

「はい、もう離すなよ」

 

「うん、ありがとうお兄ちゃん」

 

「今度からは気を付けてね」

 

やれそうに思ったから試してみたけど島にいたときの『天才症候群』の身体能力はあるみたいだな。その後、女の子はお礼を言うとそのまま駆け出して行った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

No side

「すごい~すごいよぉ~一騎君!」

 

友奈は一騎の身体能力に感激し色々聞いてきたがなんとかこなした。一騎は照れくさそうにしている。

 

「一騎君があんなに運動が出来るなら、うちの武術やったらきっとうまくなりそうだよ」

 

「武術?友奈もやってるのか」

 

「そうだよ~。お父さんから習っててマッサージだってできちゃうんだよ」

 

「それ…武術と関係あるのか」

 

先程の出来事もあってか一騎と友奈の会話も弾む。2人は連絡もあったこともあり家路へとついていた。

 

「僕が直したんだ。だから、僕のものだ!」

 

ふと通りがかった公園でそんな子供たちの声が聞こえ2人の足が止まる。会話の内容を聞いているとその輪の中心にいる子がゴミ捨て場にうち捨てられたラジオを直したようで自慢しているようだ。

 

「へぇ~私よりも小さいのに凄いねぇ~」

 

「えっへん!」

 

友奈はそんな様子に脳天気な声で語る。

 

「そういや本当に聞こえるのかよ」

「俺、聞いたんだって。本当だよ!」

 

「『声』ってなんなのかな?」

 

「この前いじってたら偶然聞いたんだ。……「とても綺麗な声」が」

 

「『声』?」

 

それを聞いた一騎の表情が変わる。「とても綺麗な声」に関して…それは一騎たちの前にいた世界で明らかに知っているものだったからである。

 

「ねえ、ラジオの音が変だよ」

 

その時ラジオから聞こえてきたノイズが擦れ、キーンという耳鳴り音が辺りに鳴り響くと音が消えた。

 

いつの間にかラジオ周りにいた子供たちはその沈黙により皆息を呑み、ラジオに注目していた。

 

 

 

【あなたは―――】

ラジオから心を撫でる心地よいようで綺麗な声が聞こえた。

 

 

 

【そこにいますか?】

 

 

 

「―――っ!!!」

その中でただ1人そのラジオの『声』を知る一騎は咄嗟に動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……あれ?」

 

友奈は何かに揺られているような感覚を感じながらゆっくりとその瞼を開ける。

 

「友奈、やっと目覚めたか」

 

「一騎君?あれ、私なんで…っ!!!」

 

目覚めた友奈の顔が一気に赤くなる。何故なら今彼女は一騎によりおんぶされた状態で運ばれているからだったからだ。どうしてこうなったか友奈は一騎に尋ねた。

 

「…あのう、どうしてこうなったのかな」

 

「……ラジオからキーンって大きな音が鳴り響いてな。俺は咄嗟に耳塞いだからなんともなかったんだけど他の子が急に倒れて。幸い介抱したらすぐ起きたんだけど友奈だけ目覚めなくてそのままおぶって家まで行こうとしたんだ」

 

「そうなんだ…。なんだか迷惑かけちゃったかな」

 

「歩けるのか?」

 

「うん、大丈夫。本当にありがとうね」

 

そんな友奈は太陽のようなまぶしい笑顔で微笑みお礼を言ってきた。それを見た一騎は一瞬顔を赤くしてしまった。

 

「一騎君?」

 

「なんでもないよ、友奈」

 

友奈のきょとんとした顔を見てなんとか一騎は持ち直す。2人は自分たちの家までの道をお互いの事で色々話ながら再び歩き始めた。

 

そんな中、一騎は友奈に対して気になった事を聞いてみることにした。

 

「そういえばさ」

 

「友奈って結構人は放っておけないのかな?」

 

「そうだよ~」

 

「どうして?」

 

「う~ん、なんというか……わからないや」

 

「え?」

 

「誰かが困っていていたり、傷付いてしまうことがなんとなくというか…いやなんだ。それで体が勝手に動いてしまうというか…あはは、なんだかしんみりとした話になちゃったね」

 

友奈は誰かを放っておけない性格なのか困った人を見ると助けに行ってしまう。そういう行動に関しては深くは考えたことはないらしい。

 

一騎は友奈の言葉に彼女の本質を見たような気がした。

 

「あぁ~もうこんな時間。お昼ごはんだから戻って来てって言ってたんだ!一騎君、急ご!」

 

「あぁ。わかったよ」

 

友奈は思い出したかのように足を早めた。

 

 

 

「(しかし、まさか俺の時と同じような事が起きるなんて…力を使ってなかったら相当まずい事になったぞ)」

 

本当のことを言えば、あの声で友奈や子供たちは相当()()()状態に一瞬はなった。……が、一騎がいたことであの場をいさめることが出来た。

 

「(……俺たちが体験したあの事と同じなら奴等は近いうちにきっと来る…総士と乙姫にも伝えたから大丈夫だと思うが)」

 

今は事が起きるまで見守るしかない。実はというと、友奈は神樹の言っていた護るべき女の子だそうだが、そのような任務のようにただ守るという感情ではない。ただ、今はこの世界の人間として、

 

 

 

――― この子を守ろう。

 

 

 

そんな当たり前の感情が芽生える。一騎は気持ちを新たにし友奈に追い付くと2人は家へと急いだ。




ゆゆゆ主人公『結城友奈』と転生後の一騎との出会い回でした。ラストはちょっとした事件がおきましたのでまたゆゆゆ成分が少な目になってしまった…。

一騎の母親である紅音は完全なそっくりさんとなっておりますので接点はほぼないと思います。

次話は結構時代が跳びます(以下予告)。
神世紀299年、中学へと進学となった一騎と友奈。そこで新たな2つの出会いが待っていた。

「貴方のお名前は?」

「私は……」

1人目は結城家の近所に越してきた後の友奈にとっての親友となる女の子。

「貴方達にお勧めの部活が…ほかにあるわ!」

「ほぇ!」

「え?」

「ん?」

「貴方達にお勧めの部活が…ほかにあるわ!」

「なぜ、2回も言ったんだ……」

2人目はドヤ顔の1つ上先輩である女の子。

第3話『勇者部』…【あなたはそこにいますか】


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第2話 勇者部

アニメ版10話部分をベースにした。東郷美森と犬吠崎風との出会いとなります。

2016/1/14:誤字及び一部修正。一部反映し忘れてました。
2016/12/8:誤字及び一部修正。


-神世紀299年春 結城家 道場-

一騎と友奈が出会って特に大きな出来事もなく早2年も経った。一騎は肩透かしを食らわされた様な気分だったがこれ以上行動を起こそうにも自らは裏方としてもやれそうな事はない。大赦という組織にいるらしい総士と乙姫に今は任せるしかない。

 

幸い一騎の体の調子の方もこちらの世界では特に問題なく、色々を試してみた所むしろファフナーに乗る前のいわゆる全盛期な状態でかつさらに強靱にしたような体となっていた。

 

先の事を考えていたが、ある時前話での一騎の活躍を聞いた友奈の父から、

 

『うちの武術も習ってみないか?』

 

との誘いを受けた。「教えてもらった方がいいか」と思った一騎はその申し出を受けた。

 

「えぇい!!」

 

現在はこうして隣人として親しくなった友奈と日々を過ごしてることもあってかこうして一緒に稽古を受けたりもしている。友奈は華奢な見た目とは裏腹に鋭い突きを一騎に向かって放つ。一騎はそれを一つ一つ捌いていく。

 

「きゃぁ!」

 

果敢にも懐に飛び込みラッシュを仕掛ける友奈だったが、一騎は一瞬の隙を突き友奈を投げ飛ばした。一騎の一本勝ちである。

 

「(やりすぎたかな?)大丈夫か、友奈」

「大丈夫だよ一騎君」

 

友奈はゆっくりと起き上がる。昔から武術を叩きこまれている身として身体能力は十分高くしっかりと受け身をとっておることもあり打ち身とかの影響はないようだ。

 

「そこまで、今日はここまでにする」

 

「え、お父さんちょっと早い様な」

 

ボケる友奈に対し、一騎は少し呆れふと息を吐くと友奈に問いかけた。

 

「あのな友奈。今日は何の日か分かってるのか?」

 

「今日、何かあった……ような?あぁ~~~!!!」

 

友奈は突然立ち上がり足早に道場の出入り口へと向かった。

 

「……すみませんね。うちの娘が」

 

「もう慣れたようなものですから……それじゃあ俺もいったん家に戻ります」

 

余談だが真壁家では両親が共働きでいないことが多く一騎は結城家でお世話になっている。そのため友奈のこういう光景ももはや見慣れた様なものである。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:結城友奈

お父さんや一騎君に言われてやっと思い出した。今日隣の家にまた新しい人が越してくるんだった~!

 

この日を楽しみにしていた私は道場を飛び出すとシャワーで汗を流してすぐに身支度して外に出た。そうすると、一騎君とは反対側のお家で引っ越しの作業を始めていた。

 

ふと見ると門の前にそれらしい姿が、

 

「新しいお隣さんだ!」

 

私の声に気付いて車椅子の子がこっちに気付いて振り向いた。特徴は長く伸ばした黒髪を青地に2本の白い線が入った大きめのリボンで纏めてる…綺麗で凄く可愛いなあ。

 

でも、なんだか不安そうで俯いているようだった。それに突然の事でなんだか分からない顔でこっちを見てるなあ。よぉし、

 

「同じ年の女の子が引っ越してくるって聞いてたから楽しみにしてたんだ!」

 

「この子と仲良くなりたい」という思いで一杯の私は手をさしのべる。

 

「年が同じなら同じ中学になるよね。私は『結城友奈』宜しくね」

 

私はにこりと微笑む。車椅子の子はさしのべられた手を掴むと私をじっと見る。すると表情が少し柔らかくなったように見えた。よかったやっぱ笑っている方がいいよ~。

 

あ、一番重要な事を聞かなきゃ!

 

「貴方のお名前は?」

 

「私は……『東郷(とうごう)美森(みもり)』」

 

東郷さん…かっこいい苗字だねえ。

 

side out

 

 

 

友奈と『東郷美森』という名の車椅子の少女の名前の紹介が終わった頃2人は不意に足音が聞こえそちらに振り向いた。そこには彼女らよりもひとまわり背の高い黒の短髪の男の子が立っていた。

 

「一騎君!」

 

「友奈、先に挨拶は終わったのか」

 

「え?知り合いなの」

 

東郷美森という少女は突然現れた見知らぬ男の子におどおどとしていたが友奈の知り合いということで警戒心がいく分か解けた。

 

「紹介するね東郷さん。この男の子は『真壁一騎』君。私の家の近所の子でちょうどあなたとは反対側になるよ」

 

「『真壁一騎』です。ええと…」

 

「『東郷美森』よ」

 

「よろしく、『東郷』」

 

「よろしくね。結城さん、真壁君」

 

東郷は友奈と一騎の手をそれぞれ握り握手をした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

3家の子供たちの顔合わせも終わり、友奈が東郷にこの辺を案内したいとの希望で一騎もそれについていくことになった。

 

そんな中案内したのは近くの大きめの都市公園だ。今は桜の時期と重なっているためかどの樹も桜の花が咲き誇っている。そんな中を友奈は東郷の車椅子を押し、一騎は一歩後ろからそれに続き公園内を色々とお互いの事などで話ながらうろついている。

 

東郷も徐々に打ち解けてきたようなのか自分の事を話す事が多くなる。東郷が料理が趣味ということで一騎がそれに興味をもったのが切欠である。

 

「一騎君も料理できるんだ」

 

「まあ、それなりに」

 

「結構美味しいよ。東郷さんのもいつかきっと食べてみたいかな」

 

「そう…ね。今はこの身体だし、慣れてきたらってことでいいかしら?」

 

一騎は前の世界では幼い頃から料理をしているし喫茶店の雇われコックもしたことがあった。口数が少ない彼でもこういう話題には自然と会話が続く。

 

「あ、ちょっと行ってくるね。一騎君、東郷さんの事をよろしくね」

 

会話も一段落し友奈はある桜の木の下につくと傍に車椅子を止めて離れて行ってしまった。何か作業をしているようだが、一騎はこの場合どうしようかと考えていたが、東郷が先に口を開いた。

 

「あ…あの」

 

東郷は思い切って気になった事を一騎に聞いてみる。

 

「ゆ…結城さんは…なんで私のためにここまでしてくれるのかしら?」

 

「ここまでって?」

 

質問の意図がわからず首を傾げる一騎。

 

「結城さんは事故で足がこうなって…記憶も失った私にこうして向き合ってくれている。それでなんでここまでしてくれるのか、どう考えているのかが気になってしまって」

 

一騎は思った。友奈は東郷にとって事故で不自由な体になって始めて出来た友達だ。それに事故の事で悲観的になっているようだ。自分にうまく言えるかと問いかけるが、

 

「……そうは深く考えてないと思うよ」

 

友奈とはそれなりに付き合いがある事で自然と思った事を口にできた。

 

「え?」

 

「多分、東郷と仲良くしたいってことしか考えてないんじゃないかな。2年も一緒にいるけど、あの子は本当にまっすぐなんだ」

 

一騎なりに友奈の事を東郷に説明していく。そうしていると友奈が2人のもとへと戻ってきた。

 

「東郷さ~んおまたせ~。はい、これ」

 

友奈は東郷に即席で作ったのか桜の花びらであしらった押し花の作品を手渡した。

 

「さっき東郷さんが桜の花びらを持っていたのを思い出して作ってみたんだ。今日仲良くなった記念だよ。これからもよろしくね」

 

手渡されたプレゼントと友奈の笑顔に東郷の表情が緩む。東郷はそれを純粋に『嬉しい』と感じた。

 

「ありがとう…友奈ちゃん」

 

「(!?)うん!」

 

東郷は友奈に満面の笑みでお礼を言うと一騎へと向き直った。

 

「……友奈ちゃんの事、教えてくれてありがとうね…一騎君」

 

「わぁ…一騎君まで名前で呼ばれちゃった~」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

数日後、一騎・友奈・東郷は地元の中学『市立讃州中学校』へと入学した。一騎は前の世界での竜宮島での学校ではみんな私服だったためこちらの学校の制服の着心地に違和感を感じていたがようやく慣れてから1週間が経った頃、

 

「友奈ちゃん、チアリーディング部に誘われていたんでしょ。入らないの?」

 

「押し花部からの誘いだったらなあ」

 

「そんな部活存在しないでしょ」

 

「そだね~」

 

放課後校内では部活動の勧誘が盛んに行われていた。友奈と東郷はこれといった部活が見つからず校内を徘徊していた。

 

「あら」

 

「東郷さんどうしたの?」

 

2人の正面から見慣れた顔の少年が接近してきた。何かに必死な様子である。

 

「「か…一騎君!?」」

 

「(!?)友奈、東郷、頼む!」

 

「ど…どうしたの!?」

 

「ちょっとここに隠れるから誰が聞いてきてもはぐらかしてくれ!」

 

「なんで…「いいから!」」

 

一騎は2人にそう頼み込むと空き教室へと身を潜めた。友奈と東郷はそれに唖然としていると幾多のも足音が彼女たちの耳に届いた。

 

「どこいった少年!!!」

「仲良く部活地獄としゃれこもうか!!!」

「こっちに行ったはずだ、探せ!!!」

 

彼女たちの目の前を一団が通り過ぎって言った。全員目が血走っているせいで2人はそれに恐怖した。そんな中にいた1人が足を止め彼女たちの姿を見つけた。

 

「おい!」

 

「は…はひぃぃ!」

 

「黒髪の1年生が通って行かなかったか?」

 

「……すみません、会ってはないです」

 

「そうか、邪魔したな」

 

一団がいなくなると友奈は空き教室にいた一騎を呼んだ。

 

「一騎君、行ったよ」

 

「はぁ……行ったか」

 

「どうしたのよ、一騎君。それにあの一団はいったい」

 

「いや、なぜだか知らないけど。運動部からの勧誘がしつこくってな。あれはその勧誘の人たち……」

 

「そんなになの、一騎君?」

 

「野球部にバレーボールにサッカー…というか運動部ほぼすべてからだな」

 

「うわぁ……」

 

中学に入ってから普通に馴染み溶け込むことができた一騎だったが、ここ最近の悩みはこうした運動部関連の勧誘らしい。放課後になるとこうしてほぼ勧誘に追われていた。

 

友奈と東郷と合流し3人は校内を徘徊してると友奈が一騎に質問してきた。

 

「一騎君は入りたい部活はあるの?」

 

「特にはないけど、運動部とかのああいうのはちょっと…でも無下にはできないからなあ」

 

「難しいわね…」

 

「貴方達にお勧めの部活が…ほかにあるわ!」

 

「ほぇ!」

「え?」

「ん?」

 

不意にかかる声を聞いたため3人の足は止まった。

 

「貴方達にお勧めの部活が…ほかにあるわ!」

 

「なぜ、2回も言ったんだ……」

 

3人が振り向くとそこには1人の女生徒がいた。特徴としては黄色の長めの髪をシュシュで2つのテールにしている。また、友奈や東郷よりも一回り背の高い女の子だ。

 

「あたしは2年生の『犬吠埼(いぬぼうさき)(ふう)』、『勇者部』の部長よ!」

 

『勇者部』という聞き慣れない部活名に首を傾げ、互いになにそれといった感じで見つめ合う一騎と東郷。

 

「『勇者部』……とってもワクワクする響きです~!」

 

「「えっ!」」

 

そんな中友奈は興味津々の様子で目を輝かせている。

 

「わっかる~。フィーリングあうねえ」

 

風は勧誘用に持ってきたチラシを渡し、3人に『勇者部』についての活動内容の説明をした。世のため人のために活動をするのがモットーで要約すれば様々な活動や部活動の助っ人などをする何でも屋のようなボランティア部に近い部活動である。それを恥ずかしがらずに勇んでやる事から風が『勇者部』とつけたらしい。

 

「私憧れてたんだよね。勇者って言葉の響きに…かっこいいなって」

 

「その気持ちがあれば…君も勇者だ!」

 

「おお~勇者!是非とも入部したいです!」

 

「凄いところに食いつくわね……でも、友奈ちゃんらしい」

 

「東郷さんも入ろうよ~」

 

「えぇ」

 

どうやら、友奈と東郷は『勇者部』に入る事を決めたようだ。その一方、2人を他所に一騎は迷っていた。

 

「一騎君も入らないの?」

 

「と言われてもなあ」

 

「ん?あんた、どっかで見たと思ったら運動部に追われている1年の男の子ね」

 

「知ってるんですか」

 

「あんな様子を見せられたらただ事じゃないって誰でも思うわよ。『勇者部』部長として事情聞いてあげるから話してみなさい」

 

「私が説明します。実は……」

 

友奈は風に一騎の事情を説明した。それを聞いた風がにやりと笑い、ニコニコしながら一騎へと向き直った。

 

「ええと、真壁だっけ?」

 

「な、なんですか」

 

「運動センスが抜群なんだって?」

 

「は…はい」

 

「でもさ、なんで運動部には入らないの?」

 

「……取り合いが激しくて何処入ってももめそうだから」

 

「取り合うってそんなになの?」

 

「友奈ちゃんから聞いた話だけなんですが一騎君は小学生の頃、この地区ではトップクラスの運動能力でスポーツテストの記録を全部塗り替えたそうなんです」

 

「まじんこで!!!」

 

「大まじです!!!」

 

友奈は一騎の元へ駆け寄り手を握り上目使いで彼を見る。

 

「一騎君としても放っておけないんだよね?」

 

「……まあ、そうだけど。頼ってくれてるわけだから下手には断りにくくって……」

 

「ははぁ~ん、だったらなおさら『勇者部』に入った方がいいんじゃないのかしら?」

 

「はぁ!?」

 

風の提案に一騎は素っ頓狂な声を挙げる。風は畳みかけるように自らの考えを一騎へと伝える。

 

「助っ人としてあたし等が公平に管理すれば問題はなさそうだと思うわ。そこら辺は交渉する。それに真壁は見た感じあんまり人付き合いは得意な方じゃないようだし。知り合いと同じ部なら気が楽だと思うわ」

 

「一騎君、風先輩もこういってるし一緒にやろうよ」

 

「友奈ちゃんもこう言ってるし、風先輩もなんとかしてくれるようだからこれほどいい条件はないと思うわ」

 

「……わかったよ」

 

こうして風の入れ知恵により一騎は悩んだが、結局友奈や東郷の援護もありいい感じに言いくるめられその方がマシかと割り切り勇者部へ入部することに決まった。まだ、部活動の入部申請の時期ではないということで入部の確約を取り付け今日は解散となった。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

side:犬吠埼風

【・ ・ ・ 送信しました】

 

あたしはある所へとメールを送信する。これほどうまくいくとは思わなかったけど当初の目的は達成できた。

 

みんなには黙っているけどあたしにはある秘密がある。それも世界に関わる事だ。でも、騙しているような気分だしこのまま黙っていてもいいのかしら。

 

駄目…みんなの顔が頭をよぎって…素直には言えないよ…。唯でさえあたし等の班が可能性が一番高いし早めにこういう覚悟させないといけないのに……もしかしたら選ばないかもしれないけど……。

 

今は心のうちに潜めておこう。機会が出来たら…なんとか言えればいいし。あの子達いい子そうだから…多分、大丈夫。

 

「でも、なぜ大赦は男の子である真壁も手元に収める様指令を出したのかしら?」

 

あたしはそんな事を思いつつも家路へと急いだ。そろそろ可愛い妹が帰ってきていると思うからね。




まだまだプロローグ部分が続きますが次話で終了し、その次の話から原作本編へと入ります。

以下、次回予告
ひょんな事から勇者部に入った一騎であったが幼馴染の友奈とその親友である東郷とともにそつなくこなし、学校生活を送っていた。そんな中頃、

「皆さん。今日は転入生を紹介します」

「『皆城総士』です。宜しくお願いします」

一騎の盟友である総士の転入がしてきた。この事でもう一つの出会いが紡がれる。

「お、お姉ちゃん!どうしてこっちの学校に」

後の勇者部の後輩となる1人の女の子であった。

次回、第4話『集う者たち』

「君はこのまま『秘密』を仕舞い込んでもいいのか?」

「あたしは……」

…【あなたはそこにいますか】


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第3話 集う者たち(前編)

第4話は2部構成となります。これはその前編となります。

今話は、原作開始から約3か月前にもう1人の主人公候補の転入と残りの主要キャラとの顔合わせとなります。


中学へ入学後、『勇者部』といわれる校外活動などのいわゆるボランティアに近い事を行う部活動に入った一騎・友奈・東郷であったが設立してから間もないということで色々と奔走した。例えば勇者部の決まりのようなものを作ろうと部長である風が提案し、4人で悩み提案を出し合った結果、

 

「これだーーー!!!」

「出来たーーー!!!」

 

一、挨拶はきちんと

一、なるべく諦めない

一、よく寝て、よく食べる

一、悩んだら相談!

一、なせば大抵なんとかなる

 

という感じの『勇者部5箇条』が誕生した。なお、一騎が関わったのは3つ目の項目である。中々意見を言わない一騎に対して友奈が「何か好きなものはないの~」と聞いたところ、

 

「美味い食事」

 

と応えたら風「よく食べる…かな」にいった所友奈が直感的に「たた食べるんじゃなくって、食べたら寝なきゃ」と返したら風のフィーリングがきたのかアイデアが膨らみ3つ目の項目に仕上げた訳である。

 

 

 

活動の方だが地道に学校内で成果を挙げつつも結果を公開しないといけないということで、

 

「と、いう訳でホームページの方を開設しました」

 

「「「おお~」」」

 

その模様をパソコン関連に知識があった東郷がネット上にホームページを作り更新するという手法をとった。東郷の多彩な一面を垣間見た3人は大変驚いたのは言うまでもない。

 

 

 

勇者部の活動を広めるための手段も出来た事で後は実績をあげるだけである。幸い地道な営業や広報活動のおかげか風が依頼を受けてくることが多くなってきた。幸い部内でも様々なタレントを持っている部員だったので、パソコンを使えるためか機械系に強い東郷がホームページ管理やそういった系統の依頼担当、運動能力に長けた一騎と友奈が雑務並びに運動系の助っ人、万能型である部長の風がそういった営業といった感じに役割が分けられた。

 

「友奈ちゃん凄い!」

「えへへ~ぶい!」

 

友奈は今日も校外試合の助っ人として精を出していた。その一方で我らが主人公一騎も

 

――― カキーン!

 

「しょ…初球満塁サヨナラホームランだと」

 

野球部の人員が足りない事での助っ人として今回は打率8割、50メートル5秒台をいかした走・守で大活躍だった。そしてこうやって試合を決めチームメイトからの熱烈な祝福を受ける。まんざらでもなかったが謙遜しながらも一騎はそれを受けた。一騎は前の世界ではある出来事のせいで協調性もなく人付き合いには無頓着だったが今は精神的に成長しそれなりに向き合えるようにはなっていた。

 

「一騎君だっけ。ある意味凄すぎるよねえ」

「幼馴染だし、友奈ちゃん羨ましいなあ」

 

「え、なんで?」

 

「「(幼馴染なのに、なんもないの!!!)」」

 

女生徒からの評価も上々である。それに対する男子の羨望があるそうだがそれはまた語るとしよう。ともかく、一騎もそれなりに学校生活を満喫していた。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

-神世紀300年 讃州中学 1年教室-

年も明けたある日、一騎・友奈・東郷がいつも通りに登校した。教室に入りクラスメイトと軽く談笑すると担任の教師が教室に入ってきたので席に着いた。

 

「はい!皆さん、おはようございます」

 

『おはようございます』

 

「こほん、皆さん。突然のお知らせですが今日は転入生を紹介します。…入ってきてください」

 

にわかに教室がざわめく。担任が誰かを呼び、それに応じたのか教室の扉が開かれる。そこに1人の薄めの土色で長く伸ばした髪の男子学生が入ってきた。

 

「(!?)」

 

一騎は驚愕する。何故ならその男子学生には見覚えがあるのだ。

 

「静かに。――― 今日から皆さんのクラスメイトとなる『皆城総士』さんです。…皆城さんご挨拶して」

 

「『皆城総士』です。宜しくお願いします」

 

教室が再びざわつく。反応は三者三様である。

 

「(……何も聞いてないぞ)」

 

「(あれ、総士君ってたしか?)」

 

「(……どうしてなのかしら……あの男の子を見るとなんか…この心にひっかかるこの感じなんだろう?)」

 

友奈は一騎から聞いていた事を思い出し、東郷はみんなとは裏腹に心にひっかかるような違和感を感じたが頭を振り自分を持ち直した。

 

 

 

皆城総士の転入により騒がしくなった1日だったがあっという間に放課後となった。

 

「総士君が一騎君の言ってた親友なんだ~」

 

「そうだな。引っ越す前からの付き合いだけどまさかこっちに来るなんて聞いてなかったが…」

 

「突然の事だったからな連絡が出来なかったんだ。……それにしてもすまないな助けてもらってしまって」

 

「いいわよ。困っている人を助けるのはお互い様だしね。さあ、着いたわよ」

 

転入生ではもはやこの世界でも伝統なのか質問攻めにあった総士だったが、一騎・友奈・東郷のフォローもあってかなんとかこなした。その時に一騎が昔総士と知り合いだった事がクラス中に判明し大変驚かれた。

 

そんな事を話しているうちに勇者部に宛がわれた部室であるに辿り着き4人は部室へと入室した。

 

「こんにちは。友奈・東郷・一騎並びにお客様入ります」

 

「お、来たわねー…ってお客様?」

 

友奈達は風に転入生の総士についての事情を説明した。

 

「そっかー。今日騒がしいと思ったらそういうことね」

 

「そこまでだったんですか?」

 

「まぁね。それでなんで転入生の…ええと」

 

「『皆城総士』です」

 

「皆城をここに連れてきたわけ?」

 

「今日は休みをもらおうかと。総士はそれの付き添いで」

 

「転入して一騎がこちらの学校にいたと聞いて…是非とも会いたいという人がいまして。それで許可ももらえたらなと……」

 

「(ほほう)律儀ねえ…いいわよ。依頼もない事だし今日は休みにする予定だったから問題ないわよ」

 

話を聞いた風は何か考え込む動作をしたがあっさりと許可を出した。

 

「「ありがとうございます」」

 

「親友同士仲良くね」

 

「それじゃあ俺たちはこれで」

 

一騎と総士は先に部室を後にした。既に友奈と東郷には事情を話しており先に帰ると伝えている。

 

「東郷さん、休みになったしどうしようか?」

 

「そうねえ…あら、風先輩何をしているのですか?」

 

友奈・東郷が休みをどうしようかと話し合おうとしたが、東郷が振り向くと風が帰り支度をささっと終えていた。

 

「ふふふ……一騎の親友って奴がどんなのかが気になるしあたしはこのまま追ってみようと思うわ!友奈と東郷はどうなの」

 

「風先輩それはあまり「いいですねえ。私も付き合いますよ!」…ゆ、友奈ちゃん!」

 

「東郷はどうするの?」

 

「東郷さんも行こうよ~」

 

「……はぁ。友奈ちゃんもこう言ってるし私も行きます」

 

友奈がいないとあまり自由には動けない東郷も風の提案に乗ることにした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「総士、俺に会わせたい人って誰なんだ?」

 

「来ればわかる。連絡したらすぐにでも会いたいと言ってたぞ」

 

「お前この辺の道知らないだろ。大丈夫なのか?」

 

「これから行くところなら大丈夫だ。端末に地図と案内のアプリもある。極めて便利だ」

 

「……なじみ過ぎだろ」

 

総士の案内で街中共にを歩く一騎。周りから見れば仲の良い親友のように見える光景である。

 

 

 

 

 

「何処に行くんでしょうかね?」

 

「それに誰かと会うって言ってたよ。風先輩はどう思います」

 

「ふっふっふ。アタシには分かっちゃったかな」

 

「おぉ~~~!!!いったいどんなのですか?」

 

「ずばり……昔好きだった女の子よ!」

 

「風先輩…流石にそこまで都合よくいかないのでは……」

 

一方、一騎・総士の後を追跡中の友奈・東郷・風は総士が会わせたがっている人の予想を風が大胆に推理するが流石に「それはないでしょ」といった感じで友奈と東郷は苦笑した。

 

 

 

 

 

「……一騎」

 

「なんだ?」

 

「さっきから追ってきているが…放っておいてもいいのか?」

 

「特には害はないと思うよ」

 

どうやら2人には既にばれている様だ。

 

 

 

 

 

そうこうしている内に目的地に着いたようだ。友奈・東郷・風は近くの物陰からその様子を見ていた。

 

「…あれ、ここ小学校じゃん」

 

風がポカンとした表情になる。総士が案内したのは讃州中学校からそう離れていない小学校である。ちなみに一騎と総士は正門の所で誰かを待っている様だ。

 

「ここで待ち合わせなんでしょうか?」

 

「2人共見て、手振っている子が2人に近づいているよ」

 

一騎と総士の元に黒髪の少女が近づいてきた。2人の背丈もあるせいか少女はかなり小さく見える。……が、同時に彼女たちの背後から誰かが迫っていた。

 

「お、お姉ちゃん!どうしてこっちの学校に?」

 

不意に声が聞こえ振り向く3人、そこにいたのは風と同じ黄色の髪だがショートヘアーで前の横らへんを2か所まとめ、アクセントに花飾りをつけた風よりも一回り小さな女の子であった。

 

「い、樹!」

 

風の実の妹『犬吠埼(いぬぼうさき)(いつき)』である。樹は特にこれといった事もなくいつも通りに帰ろうとしたがその際に3人の姿を見つけ声をかけた。なお、既に姉である風の紹介で勇者部の人たちとは顔を合わせている。

 

「(!?)友奈さんに東郷さんまで……ここでなにをしてるんですか?」

 

「えっと…樹ちゃん」

 

「……ごめんなさい、これにはちょっと訳が」

 

妹の突然の襲来により混乱する風、それに慌てふためく友奈である。比較定冷静だった東郷は樹に事情を説明しようとし、風と友奈が樹に向き合った。

 

 

 

 

 

「こんにちは~♪」

 

「「うひゃあ!!!」」

「ッ―――!」

 

突如聞こえてきた無邪気な声に悲鳴をあげる友奈と風、東郷はギリギリ踏みとどまり、事情がわからない樹は突然の事に目が点となり固まっている。

 

「…やぁ、真壁サンに皆城サン……偶然デスネェ」

 

友奈・東郷・風が振り向くとそこには一騎・総士と黒髪の少女がそこに立っていた。突然の出来事が続き風が一騎たちになんとか応対するも完全な棒読みだ。

 

「偶然も何も着いてきてるのはわかってたんですが…気になるなら一言声をかければよかったのでは……」

 

「……それは(もっと)もです」

 

総士の意見に風は萎縮する。もはや部長という威厳も面影はそこにはない。

 

「そういえばその子は誰なんですか?」

 

そんな風を置いて我にかえった友奈が総士に純粋な疑問を投げかけた。

 

「この子は僕の妹だ。一騎に会いたがっていたのもこの子だ」

 

「始めまして、『皆城乙姫』です」

 

 

 

「なんだか…おいてかれている感じです」

 

「ご…ごめんな、樹」

 

「ちゃんと事情説明するから…ね」

 

片や乙姫が自分の名前を紹介した一方で事情が分からず展開についていけない樹を一騎が慰め東郷がそれをフォローしているという状況になっていた。

 

その後、風がなんとか立ち直るのを待ってから互いの自己紹介と状況の把握という事になった。




以下、解説
●皆城総士
今作品の第2の主人公。後に専用の章で活躍を語る予定。

●友奈フラグ
現時点では一騎の事は男友達程度としか思ってません。

●東郷フラグ
後に語りますが、前日談に繋がります。

にぼし大好きのツインテールの子は原作第3話で出す予定なのでそちらのファンの方はもう少しお待ちください。


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第4話 集う者たち(後編)

第1章3話の後編部分となります。

『蒼穹のファフナー』でおなじみのあの店を『結城友奈は勇者である』の世界でも出します。


――― 前話終了より時間は少し戻って

「ここだ」

 

「…ここって小学校じゃないか。こんなところで誰が?」

 

「すぐにわかる」

 

「毎回こうだな」と思った一騎は総士の言う通り正門の前で待つ。すると、こちらに向かってくる小さな少女の姿に気付いた。

 

「総士~!」

 

「はしゃぎ過ぎだ、乙姫」

 

「会いたかったのって…乙姫の事か」

 

「そうだよ一騎。久しぶりね」

 

2人に駆け寄ってきたのは総士と同じ日に小学校へと編入した乙姫であった。

 

「本当に…久しぶりだな」

 

一騎は微笑み乙姫を迎える。

 

「さて、こうして再会できたのは喜ばしいことだが…あちらの方はどうしようか」

 

総士が視線を送る方向を見ると4人の少女がいる。なにやら慌ただしい様子のようだが…。

 

「あの人たちは?」

 

「俺の所属している部活の人たちだな。1人は部長の風先輩の妹さんだな」

 

「そうなんだ。でも、一騎が部活するなんて……ちょっと意外」

 

「押しに負けたというか……って乙姫!?」

 

乙姫が走って勇者部の方へと行ってしまった。総士はそれに頭を抱え、

 

「……困ったものだな。一騎、僕たちも行くぞ」

 

「……苦労してるな、お前」

 

一騎と総士も乙姫の後へつづいた。こうして、前話の出来事に続くのである。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

勇者部の3人+樹は一騎・総士・乙姫と共に当てもなく歩いていた。

 

「本当にっすみませんでした!」

 

「……」

 

「……風先輩、俺たちはそんなに気にしてませんので頭上げてください…」

 

ある意味潔い風の謝罪に一騎と総士は対応に困ったが本人たちも特に気にしていないとの事でその場は収めることにした。

 

「え?私の1個下なんですか!」

 

「そうよ。たまに総士といるともっと下に見られちゃうことがあるけどね」

 

「こんなに小さいからねえ~お兄さんが大きいからなおさらだよ」

 

「そうなると名前で呼んだ方がよろしいかもね」

 

「うん。名前で呼んでいいよ。総士と区別がつかなくなっちゃう」

 

その一方で風を除いたガールズトークが始っていた。引っ込み思案の風の妹樹も無邪気な総士の妹乙姫と色々話して気があったのか雰囲気は良好のようだ。

 

「成り行きでこうなりましたけどどうしましょうか?」

 

「そうだな」

 

「なんだか迷惑をかけたようだし、ここはこの勇者部部長犬吠崎風がこうして知り合ったゲスト2人を入れてかめやでおごってやるわ!!」

 

「おお~風先輩太っ腹です!」

 

「お…お姉ちゃん悪いんだけど、かめやさんは今日定休日じゃあ」

 

「な!犬吠埼風…一生の不覚、うぅ~穴があったら入りたい…」

 

「そんなこともあるよ、よしよし」

 

樹の突っ込みで汚名返上とならず落ち込む風の頭を乙姫が撫でる。彼女なりの慰め方のようだ。

 

「だったら、俺の行きつけの店がありますのでそっちに行きませんか?」

 

「え、真壁の行きつけの店?珍しいわね」

 

「あぁ~もしかしてあの店か~」

 

「あの店ってなんだ?そんなになのか」

 

「来ればわかるよ。(総士と乙姫なら多分驚くと思うよ)」

 

総士と乙姫にそっと小声で囁いた一騎。総士と乙姫は首を傾げるも一騎を先頭にみんなが続いた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「懐かしいなあ。私は久しぶりに来たよ~」

 

友奈の脳天気な声と共にどうやら目的地についたようだ。

 

「あはは……」

「(一騎、なんでこの店があるんだ……)」

「(俺だって最初見た時は総士と同じ感じだったぞ)」

 

一騎が案内したお店は洒落た小さな喫茶店だったが店名が『楽園』、竜宮島にあった店と同じ名前と外装を見た総士と乙姫は唖然とした。

 

「落ち着いている感じですね」

「ほ~なかなか雰囲気ある店じゃないの」

「なんだかふらっと寄りたくなる気がします」

 

「こっちに越して母さんにつれられて来たんだ。父さんの知り合いがやってるんだ」

 

東郷・風・樹がそれぞれ店の感想を述べると、一騎を先頭に店内へと入った。

 

「あれぇ~?なんだかずいぶんと忙しそうだよ」

 

友奈が店の混雑に気付く、夕方もあってか混雑しているのはわかるが店の対応が追いついていない一騎はそう思った。

 

「いらっしゃ…真壁の坊主か!」

 

「「(!?)」」

 

この店の店主らしき壮年の男性が応対した。その顔は総士と乙姫にとっては明らかに知っている顔とそっくりだったからだ。

 

「(一騎、もしかして店主の名前って)」

「(……溝口さんだよ。なんでか俺の周囲が知っている人のそっくりさんだらけなんだ)」

「(一騎もか…)」

 

一騎と総士が漫才のような会話をする中、店長が続けて言った。

 

「ちょうどよかった。シフトの代わり際に混雑しやがった。しかも、大学生のバイトが講義で遅れ気味だし、こちとら追加分のケーキを取りに行かないといけねえ。ちょっと手伝ってくれ!」

 

「…分かりましたよ。みんな適当に座っててくれ。ちょっと手伝ってくるから」

 

「一騎君、私も手伝うよ」

 

「それには及ばないわ。真壁、友奈!」

 

風がみんなの前に出て、胸を1回ポンッと叩く。そしてくるりとその場を1回転すると右手を前にかざしドヤ顔で言った。

 

「この窮地、勇者部が引き受けたぁぁ~!」

 

「か…かっこいい~~~!!!」

 

「え、えええええ!!!」

 

風のはっきり言うと恥ずかしい決めポーズに乙姫が目を輝かせ反応する。それに樹は目が点となり驚いた。

 

「お嬢ちゃんたち、あの噂の勇者部か!ちょうどよかった。後でサービスするから手伝ってくれないか?」

 

「風先輩が決めてしまいましたが、私もお手伝いさせて頂きます」

 

「任せてください~」

 

「お姉ちゃん、勇者部じゃない乙姫ちゃんと総士さんはどうすればいいの?」

 

「本来なら手伝う義務はないが……「総士~私らも手伝うよ」な!?」

 

「いいの乙姫ちゃん」

 

「せっかくこうして会ったんだし、いいでしょ総士」

 

「総士、俺からも頼む」

 

「……しょうがないな」

 

「お姉ちゃん、私も手伝うよ」

 

「さっすが私の妹」

 

乙姫ノリノリな様子で、親友である一騎の頼みで総士も渋々ながらも協力する事となった。勇者部ではないがその活動も姉からじかに聞いている樹もやる気の様である。

 

「真壁の坊主ならここのメニューの事分かってるから厨房だな。そうだな……後1人程厨房に入って、残りは接客……おっと小学生組は裏手の方で皿洗いだな。じゃ、俺は早々に行って取ってくるわ」

 

「友奈ちゃん、私をあそこまでお願い。一騎君、私は邪魔にならないように手伝うわね」

 

「あぁ。わかったよ」

 

「樹、乙姫連れて裏手の方をお願い」

 

「分かったよ。お姉ちゃん」

 

「で、問題は総士なんだけど…接客できるの」

 

「それぐらい僕にも出来る」

 

こうして楽園の店長の頼みで勇者部一同+3人はお手伝いが始った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 1時間後

勇者部の一同+ゲストのみんなの奮闘もあってか夕方のラッシュの時間を乗り越えた。遅れて来たバイト店員の人たちの加入や店長が早々に戻ってきたこともあるが、各々の活躍が光っていた。

 

前世では雇われコックの経験もあってか手慣れた様子でメニューを仕上げていく一騎、車椅子ながらも手際が良く見た目以上に機敏に調理の補助を行う東郷。

 

接客の方も男性客に対しては気さくでサバサバとした風、明るく相手がとろけてしまうような笑顔を持つ友奈。女性客に対してはクールで落ち着いた総士。タイプが違う3人の活躍でトラブルなくお客店内でつかの間の一時を楽しんでいた。

 

一方裏の方では小学生ながら奮闘する樹と乙姫により綺麗になった食器が滞りなく供給された。

 

「いやぁ、本当に助かった。これは俺の驕りだ」

 

7人は既にテーブル席についており、目の前には店長が奢ったメニューであるカレーライスが置かれている。

 

『いただきます』

 

「ッ―――!……美味しい!」

 

「何これ!…何杯も食べたくなっちゃうわ!」

 

「頬っぺた落ちちゃいそうです」

 

「♪~」

 

どうやら大好評のようで、風に至ってはおかわりを頼んでいる。

 

「……何だか私の中での認識が揺らいでしまったかも。友奈ちゃんは前から来ているの?」

 

「そうだよ東郷さん、昔から何杯も食べてたよ。それでうどんと同じくらい好きになっちゃたんだ。……それにしてもまた腕前上がったのかな。前よりも美味しい♪」

 

友奈もこの店では常連といった立場である。そのせいかカレーに関してはうどんと同じくらい好きになったらしい。

 

「(この味、まさかな…)一騎、少し聞きたいことが」

 

「どうした、総士」

 

「……ここのカレーに関わってないか。どうもな、お前のカレーに似ているような」

 

「少し…ね。実は…」

 

 

 

――― 3年前

一騎が親につれられこの店を知った後、友奈と共に訪れた時に起こった出来事である。

 

「いつも来てくれてるからな。俺の新作カレーを食べてくれ」

 

「「いただきます」」

 

店長が店をもっとにぎわせたいとの事で新しく出す新作のメニューを開発し、こうして常連相手に試していた。その日は友奈と一騎だったが、事の次第は食べた後の友奈の一言で始まった。

 

「……一騎君が作ってくれたカレーの方が美味しいような」

 

「友奈!」

 

「ほう、話を聞かせてもらおうか嬢ちゃん、坊主」

 

「う……」

 

その後、店長に根掘り葉掘り聞かれた一騎だったが店長から協力を要請され新作の改良に着手し成功した。その後、一騎の腕前を認めた店長がこうしてメニューの監修を依頼するようになった。

 

 

 

――― 現在

「っていうことがあったんだ」

 

「……こっちでもコックとしてやっていけるんじゃないか」

 

「多分…ね」

 

――― prrr

 

「あ、ちょっと私出るわね」

 

店長の驕りのメニューを食べ、デザートを摘まみみんなが会話する中、スマホにメールがきたようで風が席を外した。

 

「(風先輩、またあの顔だったな)」

 

――― prrr

 

「一騎、すまない少し外すぞ」

「?あぁ」

 

同じく総士も席を外した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

【差出人:大赦

宛先人:犬吠埼風

件名:勇者支援者着任報告

 

本日を以って犬吠崎風が担当する地域にて大赦から勇者を支援する大赦一族の2人を遣わました。

 

神託の時も近くなっています。彼らと協力しお役目に備えるべし。

 

以下、大赦一族の名前及び画像が添付されている】

 

「…あの2人…大赦の一族の人なの」

 

風が大赦からのメールを確認し驚愕していた。すると気配を感じ後ろへと振り向いた。

 

「総士……」

 

最初は総士の事を『皆城』と呼んでいた風だったが妹の乙姫がいることがわかったので名前で呼ぶ。

 

総士は表情を変えずに風と向き合った。

 

「大赦からの連絡か」

 

「えぇ…驚いたわ貴方も乙姫ちゃんも大赦の人だったなんて」

 

「あぁ。とは言っても巫女でまだ幼い乙姫のサポートとして昔からこういう事に関わっている」

 

「昔?」

 

「こちらの話だ」

 

風はばつの悪そうなそうな顔をしながらも総士が大赦の者ということで頭を切り替える。

 

「それで何の用なの」

 

「こちらに来てすぐに会うと思ってなかったからな。こうして大赦に関わっている者同士少し話をしようかと」

 

「何よ?口説く気なのかしら」

 

「そうじゃないが…」

 

風からのからかいにわずかに表情が変わるもすぐに総士は気付いた。大赦の関連の話になるとどうも感情を押し隠しているように見える。そして、気になった事を聞いてみる事にした。

 

「……君はこのまま『秘密』を仕舞い込んでもいいのか?」

 

「…唐突過ぎないかしら?」

 

「時々そういう表情をすると気にしてた奴がいて、僕もこうして君と話してみて思った。僕の経験上だがこのまま黙って抱え込むのはよくないと思うが、無理に言う必要はないが……」

 

風は俯きながら考える。彼女なりに考えを纏めている様だ。総士はその様子から彼女なりにこの事に悩んでいるのが伺えた。風は総士も大赦の使者という事あまりにも的を得た発言から誤魔化せないと思い口を開く。

 

「これでいいのよ。……あたしは…いやあたし達が選ばれるとも限らないし、事前に言って選ばれなかったらまた辛くなるだけだし」

 

風なりの考えを聞いた総士はこれ以上は彼女自身も辛いと思った。

 

「わかった…。それが君の考えならここに来たばかりの僕からはこれ以上は言わない」

 

「え?」

 

「それだけ皆の事を思ってるから言えないのだろう?……変な事を聞いてすまないな」

 

総士は大赦内の使者について派遣された少女たちの事は知っている。大赦に関わる人たちの子だがお役目の事に関しては全くの素人だ。そういう子達に覚悟とかを問うのは無理な話である。事実、目の前にいる風ですらお役目に関する事を候補者たちに言えておらず黙ったままである。

 

「え…えぇ。それは気にしてないわよ」

 

「最後にこれだけは言っておく、いつか言わなければいけない時もくるかもしれない。それだけは忘れないでほしい。その時は、僕や乙姫も立ち会おう……そろそろ戻らないと乙姫たちが心配するな」

 

風もうなずくと2人は話ながら楽園の店内へと戻った。

 

「(真壁司令や遠見先生の苦労もわかるな…それをあの様な子たちに言わせるのはやはりどうかしている)」

 

と総士は心で思っていた。

 

 

 

 

「ねえ、お姉ちゃん」

 

店内にもどってくつろいでいた風に樹と乙姫が訪ねてきた。

 

「私も春から中学に入って勇者部に入るって乙姫ちゃんにも話したらね。乙姫ちゃんもも興味もって」

 

「私も勇者部の活動やってみたいと思って。友奈さん達が是非ともって言ってたよ」

 

「そっか~。でも、まだ小学生だから正式な部員にできないわね。ん~~、あたしから『特別部員』ってことで承認するわ」

 

「わ~い」

 

「ありがとうお姉ちゃん」

 

そう言うと乙姫は総士の元へ駆け寄った。

 

「総士もやってみないの?」

 

「…あまり気が進まないが…」

 

先程の風との会話で少し気まずい事もある。総士は自分がいてはデメリットしかないと思い断ろうかと考えていたが。

 

「ちょっといいからしら?」

 

風が総士の元へ駆け寄り耳元でささやいた。

 

「(さっきの事を気にしているようなら筋違いよ。もう終わった事だし、お役目と勇者部は別よ)」

 

風のささやきを聞いた総士は少し考えた後に「考えておこう…」と答えた。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

喫茶『楽園』での憩いの一時を過ごした後、7人は別れそれぞれ帰路へとついた。

 

一騎は友奈・東郷を家まで送り届けた後、総士たちと話す事もあるので総士・乙姫が讃州地方に引っ越したという家へ向かっていた。どうやら、一騎の住んでいる所と同じ方角でかつ近いとの事らしい。

 

「ここが僕たちの住む家だ」

 

「…大きいな。2人で住んでいるのか」

 

「そうだよ~」

 

そこは2人で住むには少し大きめの家がそこにあった。

 

「どちらの学校にも近いし、商店まではほぼ5分で便利だ。それに……」

 

「…また始まったよ…一騎、早く入りましょう」

 

総士からの説明を乙姫が止め、一騎は皆城家へと入る。そして、居間に通された一騎はソファーへと腰掛けた。

 

「さあ、久しぶりに直接話そうか」

 

「話すって何を……」

 

「これからの事だよ、一騎。そうでしょ、総士?」

 

椅子に深々を腰掛け、切り出してきた総士だったが一騎がぽかんとした様子で返した。乙姫はそれにフォローを入れる。

 

「そうだな。それを話そうか。それでいいか?」

 

「構わないよ」

 

「あの連絡があってから恐らく奴らがくると予想をたてた僕たちは大赦での地位を使って準備を進めようとした。それが僕たちの神樹からの役目みたいだったからな。そして、こちらに来たのは最も可能性が高いという事らしい」

 

「可能性って?」

 

「四国の結界である『壁』の向こうからやってくるこちらの世界の『敵』と戦う『勇者』が選ばれる事だ」

 

総士が続けて『勇者』の説明をする。神樹の言っていた『勇者』とは、こちらの世界で人類の生存圏を後退させた存在と相対するために神樹が選んだ少女の事らしい。

 

そして、敵は恐らくそのタイミングで侵攻するとの神樹からの通達で最も可能性の高い地域へと赴任したそうだ。

 

「それで俺はどうすればいい?」

 

総士は一騎に端末用のSDカードを差し出してきた。

 

「僕たち専用のシステムのデータが入ったものだ。スマホに差し込んでインストールしといてくれ。あとは時が来たらになるから、説明にも目を通しといてくれ……また巻き込んでしまうな一騎」

 

「どうなっても俺はやるだけだよ。総士」

 

「そういうと思ったよ」

 

一騎は既に覚悟はできている様だ。総士はその様子を見てある意味安心していた。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方、赤く染まった世界にて……、

 

side:???

【ようやく12の存在も元通りになったか】

 

輝く大きな樹を目指し巨大な白い物体が刻々と集結しつつある中、その様子を見ている存在がいた。この世界に舞い降りた異質な存在である。

 

【……2年前…僕に近き者に邪魔はされたが……今度は絶対に】

 

以前とは違いしっかりとした『自我』があるようだ。その存在は輝く大きな樹を睨みつける。

 

【あの神樹を喰らって…僕が『生命の頂点』となり……この世界を手に入れる!】

 

 

 

 

――― こうして役者はそろった。

 

この3か月後、多くの星の煌きがこの世界の安寧の地へと集うであろう……。絶望という名の『祝祭』と共に……。

 

その時こそ、僕らの本当の役目が始まる。

 

だが、同時に彼女たちの日常がいったん終わる事を彼女たち自身が知る由もなかった。

 

――― 【皆城総士】




以下、解説。
●喫茶『楽園』と店主
外装及び内装はほぼ同じなイメージで。店主はファフナーの世界での異能生存体の溝口さんのそっくりさんです。もしかしたら、また出すかもしれない。

●犬吠埼風
作者から結構いじられていますが、『~は勇者である』では影の部分が大きいキャラでもありゆゆゆでは作者の贔屓キャラ。皆城総士と関わる予定。

●犬吠埼樹
作内では皆城乙姫と最も仲良くなるポジションいわゆる芹ポジになるかと。

そろそろ設定集でも作った方がいいのかな?

次回予告は、ゆゆゆ原作で言う第1話になるためなしです。いよいよ次話から原作突入となります。


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第5話 迫りくる時

ゆゆゆ原作第1話前半部分となります。

クロスの影響のせいか序盤にしては勇者部の人数が多めとなっております。

2016/1/29 誤字修正


――― 昔々、ある所に勇者たちがいました。勇者は人々に嫌がらせを続ける魔王に説得するため

 

に旅を続けています。

 

そしてついに勇者は魔王の城へ辿り着きました。 ―――

 

 

 

「やっと辿り着いたぞ魔王!もう悪いことはやめるんだ!」

 

「私を怖がって悪者扱いを始めたのは、村人たちの方ではないか~!」

 

「だからって嫌がらせはよくない! 話し合えば分かるよ!」

 

「話し合えば、また悪者にされる!」

 

「君を悪者になんて、しない!!!」

 

ここはとある幼稚園、ここの一室にて園児たちは人形劇に夢中になっていた。ちょうど一番の盛り上がり所とも言える『勇者』が『魔王』を説得する場面であったが、勇者役の人形が一番ここまで言い切ったところで、

 

「あ、あわわわわ~!?」

 

演技に熱の入りすぎたのかセットの張りぼてを倒してしまった。それにより勇者・魔王役を演じていた2人の女子学生の姿が現れてしまう。突然の出来事に園児たちはにわかにざわめき始める。幸いだったのか倒れた張りぼてが園児たちに当たってないことに2人は安堵した。

 

しかしながら、人形劇はまだ続いている。勇者役の子は演目を続けようとうぅ~と唸り声を挙げる。

 

「勇者キッ―――ク!!!」

 

「ちょ!おまっ!話し合おうってさっき!」

 

勇者人形の勇者キックが魔王人形に見事に決まる。予想外の事態に魔王役の子は勇者役の子のアドリブに突っ込みを入れた。

 

 

 

その一方 ―――、

 

「…全く、僕はこんな力仕事は向いていないというのに」

「そうは言うなよ」

 

そんなトラブルが起きている事も知らず人形劇が開催されている教室へと向かう男子学生が2人、

 

一方の男子は大きめの寸胴、もう一方の男子は大きめの釜を持ち運んでいた。

 

教室の前へと辿り着いた2人だったが、目的の教室内がざわついているのに若干気になり顔を見合わせる。

 

「こちらですよ」

 

案内をしていた保育士の女性が教室のドアを開ける。

 

 

 

「わっはっはっはっは~! ここが貴様の墓場だ~!」

 

「魔王がノリノリに!…おのれ~!」

 

男子学生2人が見た光景は、台本とは違う内容になってアドリブで演じている2人の女子学生、どうすればいいか分からずあたふたしながら『魔王のテーマ曲』を選んだ音響役の女子学生の姿があった。

 

「……いつから、脚本が変わったんだろう?」

「……さぁな。恐らく、ステージ倒した事によるのだろう」

 

黒髪の男子はきょとんとした様子で、土色髪の男子はその光景を呆れながらも恐らくこうなったであろうと予想たてながら様子で見ていた。

 

「みんな!一緒に勇者を応援しよう!が~んばれ!が~んばれ!」

 

『は~い。が~んばれ!が~んばれ!』

 

そんな中、唯一冷静だった車椅子の女子学生のナレーションにより子供たちを煽動し、

 

「ぬぉぉぉぉ!みんなの声援がわしを弱らせるぅ~」

 

「お姉ちゃん!いいアドリブ!」

 

魔王役の女子学生のアドリブにより人形劇はなんとか持ち直して来た。音響役の女子学生が思わず褒める。

 

「今だ!勇者…パ~~ンチ!!」

 

「いってぇぇ~~」

 

勇者が必殺の一撃で魔王を倒した。魔王役の子は本気で痛がるような演技を見せる。その絶叫の迫力に園児は釘つけになる。

 

「これで魔王も分かってくれたよね。もう友達だよ!」

 

「シメて、シメて……」

 

「―――というわけで、みんなの力で魔王は改心し祖国は守られました」

 

「みんなのおかげだよ~ブイっ!」

 

『ブイっ!』

『万歳ー!万歳ー!』

 

魔王役の女子学生の指示で車椅子の女生徒がナレーションで締める。勇者役の女子学生が喜びを露にすると園児たちも同じように返した。

 

「なんとか大団円といったところ…かな」

 

土色髪の男子学生は頭を抱えている中、黒髪の男子学生は園児たちに好評だった様子に一応は微笑んだ。ハプニングはあったもののなんとか人形劇は大盛況に終えることができた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:結城友奈

ふぅ…張りぼてを倒してテンパっちゃったけど園児たちに好評で良かったよ~。

 

と、こんな感じで校外活動に青春を燃やしている私達。

 

讃州(さんしゅう)中学の3年生、私が所属している部の部長、犬吠埼(いぬぼうさき)(ふう)先輩。黄色の長い髪を2つに分けているのが特徴。この舞台のお話を考えたしっかり者。

 

後輩で部長の妹、犬吠埼(いぬぼうさき)(いつき)ちゃん。同じ中学の1年生。お姉ちゃんのことが大好きで黄色のショートヘアが特徴かな。

 

黒い髪の女の子が私の大親友東郷(とうごう)美森(みもり)さん。去年中1の時に隣に引っ越してきた。だけど本人の希望で苗字である東郷さんって呼んでるの。

 

「はい、みんな~。勇者部のお兄さんたちがお昼ご飯を持ってきたわよ~」

『わ~い』

 

そして、今回の劇に参加してないけどこうして園児たちの昼食を持ってきてくれた私と同じ学年の男の子2人もいます。

 

「おいし~♪」

「誰が作ったの~?」

 

「こちらのお兄さんが作ってくれた。…こら、割り込むな!」

 

「まだ十分にあるからな」

 

黒髪の男の子が真壁(まかべ)一騎(かずき)君。私が小4の時に東郷さんの反対側の隣に引っ越してきた。少し口下手だけど、料理が得意などで風先輩曰く女子力が高いそうな。今日の園児たちの昼食を作ってくれたのも彼なの。

 

土色髪を長く伸ばしている男の子が皆城(みなしろ)総士(そうし)君。今年の年明けに両親の仕事の都合こっちの町に引っ越してきたそうな。一騎君とは親友のような関係でいつも一緒にいるところがよく見られる。寡黙で物静かだけど、「不器用だけど根はいい奴だよ」と一騎君は言っていた。実際、東郷さんや風先輩の手伝いをする所をよく見かけるからその通りかも。

 

最後に勇者役と務めたのが私結城(ゆうき)友奈(ゆうな)。赤髪のセミショートヘアを後ろで纏めているのが特徴です。

 

この6名が()()に所属している部活のメンバー。私達はみんなのためになることを勇んで

 

実施するクラブ ――― そう讃州中学勇者部なのです。

 

side out

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 翌日

-讃州中学 友奈・東郷のクラス-

「起立、礼!」

 

「神樹様に、拝」

 

「はい、さようなら」

 

生徒達は先生の号令に従い、立ち上がり、頭を下げる。そして、神棚の方へ向き礼をしたまま手を合わせ、日頃の恵みをもたらす神樹様に感謝と信仰を捧げる。神世紀の世界の住人にとってはいつもと変わらない儀式のようなものである。

 

挨拶を終えた生徒たちは、それぞれ帰路につく者、部活へと向かう者などに分かれていく。何も変わらないいつもの学校の風景である。

 

「友奈~!今度の対外試合、助っ人のお願いしたいんだけど……」

 

「ん?おっけー、いくよ~」

 

友奈と東郷は荷物を纏め帰り支度をしていると後ろの席の眼鏡の子が声をかけてきた。頼みを快く引き受ける旨の返事をすると斜め後ろの東郷の席に回り込む。

 

「今日も忙しいの?部活?」

 

「勇者部だよ!」

「そう、勇者部」

 

「……なんか、何度聞いても変な名前だね~」

 

「そぉ?かっこいいじゃん、じゃね~」

 

眼鏡の子の疑問に友奈と東郷は顔を見合わせ微笑みながら答える。2人は眼鏡の子に手を振ると教室を出た。

 

 

 

廊下を暫く歩くと、ちょうど隣の教室から見慣れた2人の男子学生が出てきた。

 

「あ、一騎君~、総士君~。おつかれ~」

「お疲れ様です」

 

「あぁ。お疲れ」

「お疲れ。結城、東郷」

 

1年の時は同じクラスだったが2年になった際に4人はちょうど隣のクラスに分かれてしまったのである。

 

「も~『友奈』でいいのにぃ~総士君」

 

「す、すまない。この呼び方は僕の癖みたいなものだからな…」

 

(相変わらず、不器用だな)

(不器用ね)

 

友奈は少しむすっとした態度をとり、それを見た総士はつい謝ってしまう。合流した4人は共に話をしながら廊下を歩き続けると『家庭科準備室』『勇者部部室』のプレートがある部屋の前へと辿り着いた。ここが勇者部の部室である。

 

「こんにちわ~、友奈・東郷・一騎・総士入りまーす」

「こんにちわ~」

「こんにちわ」

「…失礼する」

 

一騎が扉を開けると友奈が先に挨拶をする。東郷・一騎・総士は各自それぞれ挨拶をする。東郷は器用に車椅子を動かすと部室内での定位置であるパソコンの前に着いた。

 

「お疲れ様です~」

「お、来たわね~」

 

4月から入部し机で占いで使うタロットカードをいじっていた樹が友奈達に気付き挨拶を返す。奥から出てきた部長の風が体を出して手を振ってきた。

 

「昨日の人形劇、大成功でしたね~」

 

「え~? ていうか何もかもギリギリだったわよ」

 

「結果オーライで~」

 

「みんな喜んでましたね~」

 

「友奈ちゃんのアドリブ良かった~」

 

「……受ける私は、激ハラドキドキ丸よ」

 

「勇者はクヨクヨしてても仕方が無い!」

 

「いつもポジティブですね~」

 

「ポジティブなのはいいんのですが……」

 

「ハプニングがあったとはいえ…何も知らない僕たちにとってあの状況は理解が出来なかった……

 

あの時の風先輩の苦労も分かるかもな」

 

「うぅ~2人はアタシの苦労を分かってくれるのね~」

 

風は自らの苦労に関して一騎と総士に同意を求めてくる。2人はたじろぎながらも頷いた。

 

「こほん……じゃあ今日のミーティング、始めるわよ~」

 

「「「はーい」」」

 

「「分かりました」」

 

風は切り替えるとみんなに指示を出し、本日の勇者部の活動を開始した。

 

「うへぇ~、かっわい~♪」

 

「こんなにも未解決の依頼が残っているのよ~」

 

風が取り上げたのは『子猫の飼い主探し』。勇者部の初期からやっている活動のひとつだ。

 

「こんなにですか…」

 

「た、たくさんきたね…」

 

結構な数だったので呆気にとられる樹と一騎。

 

「なので、今日からは強化月間。学校を巻き込んだキャンペーンにしてこの子達の飼い主を探すわ!」

 

「オオォッ!!」

 

「学校を巻き込む政治的発想はさすが一年先輩です!」

 

「あ、ありがとう……」

 

「せ、政治的な発想はともかく、極めて効果的だな」

 

感慨の声をあげる友奈に、少し他とはずれたような褒め方の東郷。風と総士は苦笑いしながらもお礼と突っ込みを言う。

 

「学校への対応はアタシがやるとして、まずはホームページの強化準備ね。――東郷・総士任せた!」

 

「はい!携帯からもアクセスできるように、モバイル版も作ります。総士君、この際だから色々改装しちゃいましょうか」

 

「さすが~、詳しいね~」

 

「そうだな。では僕は……」

 

友奈はまたもや感慨の声をあげる。彼女はこうして褒める事で雰囲気を良くするムードメーカー的な立場となっている。

 

東郷と総士は色々話し合うと、東郷はパソコンのキーボードを打ちはじめ、総士はどこからか取り出したタブレット(自前)の操作を始めた。

 

「俺たちはどうしましょうか?」

 

「えっとぉ、まずは今まで通りだけど……今まで以上に頑張る!」

 

「アバウトだよ、お姉ちゃん……」

 

一騎の問いに適当な返答をする風。妹の樹はその様子にどうすればいいのかわからずおどおどとしている。

 

「それだったら、海岸の掃除行くでしょ?」

 

「はい」

 

「そこでも、人に当たってみようよ!」

 

「ああ!それいいです!」

 

「それしかやれる事はなさそうだな」

 

友奈が樹に提案すると一騎と樹はそれに同意すると、作業に没頭していた東郷と総士の手が止まった。

 

「完了した」

「ホームページ強化任務、完了です」

 

「早いな、もう終わったのか?」

「「「え、はやっ!!」」」

 

一騎は総士の技量を知っているため反応は薄かったが、その他3人の目が丸くなった。

 

「しかもよくできてるぅ」

 

「……すごぉ」

 

東郷は敬礼しつつも、総士は腕を組みながら佇んでいた。

 

「……東郷も総士並に凄いんだな」

 

「総士君、やりますね」

 

「これくらいなら簡単だ」

 

総士と互角の技量を持つ東郷に対して一騎は素直な感想を述べた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「はい、お待ち」

 

「は~い♪」

 

「三杯目……」

 

部活も終わり、勇者部のメンバーは行きつけのうどん屋である『かめや』に足を運んだ。一騎や総士もこの世界の住人になってからこの地域のうどんの味に慣れたようで食べることが多い。中でも一騎に至っては、

 

『……駄目だ。今の俺じゃあここまでのうどんは作れない……。どうなってるんだこのコシは!』

 

と始めて食べた時に大絶賛するほどであった。今でもうどんの試行錯誤をしているのはまた別な話である。

 

(そのうち、メニューに『一騎うどん』でも増えそうだな)

 

それを知った総士の心境はこのようである。話は少し脱線したが元に戻そう。

 

「うどんは女子力をあげるのよ~」

 

((そう言いながらどれだけ食べるんだ))

 

ここは言葉にしてはいけないと思い、一騎と総士は突っ込みを心の中で留めた。

 

「でも…2人共ホームページ強化すごかったです!」

 

「あの短時間で仕上げるとか」

 

「プロだぁ~」

 

「凄いよ。総士、東郷!」

 

それぞれが総士・東郷を褒め称える。2人は少し照れつつも一騎たちにお礼を告げる。

 

「先輩、天ぷらどうぞ」

 

「おぉ~気が利くね~。君、次期部長は遠くないよ~」

 

「いえ、先輩見てるだけでおなか一杯に……」

 

風の食べっぷりは凄まじく、周りのお腹が膨れてしまうほどの潔さだ。そして、今東郷から頂いた天ぷらごと三杯目も完食し器を置いた。

 

「いらっしゃいませ~!3人様でしょうか?」

 

「すみません~ここで待っている人たちがいて~」

 

「乙姫、こっちだ!」

 

聞きなれた声に気付いた総士が自らの席に来店してきた3人の小学生っぽい女の子を招く。

 

「お~いいタイミングで来たわね。『特別部員』達」

 

「「「お邪魔しま~す」」」

 

先頭に立っていた乙姫と共に彼女の友人であるセミショートとおさげの少女がやって来た。乙姫を中心とした小学生組3人は勇者部の『特別部員』として部長である風が認めている。偶然にも勇者部の活動を知ったこの2人の少女が乙姫と同じクラスメイトでもあり顔見知りであった事もあってか意気投合したらしい。

 

なお、余談だがこの事もあってか乙姫たちの後押しにより総士が勇者部に入る原因になってたりもする。

 

3人もうどんを頼むと勇者部の人たちはこの前あった人形劇の出来事など他愛のない話を広げる。しばらく団欒が続いたが、

 

「あ、そういえば先輩。話って?」

 

友奈が思い出したように話題を振ってきた。風がそろそろかと話題の口火を切る。

 

「あぁ、そうだ。文化祭の出し物の相談」

 

「え、まだ四月なのに?」

 

「夏休みに入っちゃう前にさ、色々決めておきたいんだよね~」

 

「確かに。常に先手で有事に備えることは大切ですね」

 

「東郷と同じ意見だな」

 

「今年こそ、ですね~」

 

「去年は準備が間に合わなくて、何も出来なかったんですよね~」

 

「男手の一騎が運動部の助っ人にとられまくったからねえ……」

 

「えっと、……なんかごめんなさい」

 

「……そんなことがあったのか」

 

「ふふん、今年は猫の手も入ったしね~♪」

 

そう言いながら風は樹の頭を撫でる。樹は突然撫でられた事でつい声を挙げてしまっていた。

 

友奈は頭をうならせるも考えが付かず話し始める。

 

「う~ん、せっかくだから一生の思い出になる事がいいよね~」

 

「尚且つ、娯楽性があって、大衆が靡くものでないと」

 

「えぇ~、でも何したら……乙姫ちゃんたちは良い考えないかな?」

 

「う~ん、難しいなあ。2人はどうなの?」

「全然だよ~」

「こっちもあまり~……」

 

樹が乙姫ら小学生組に振るも不発のようで、一同はこれといった意見が出ずに風がいったん締めた。

 

「それをみんなで考えるのよ~。はい、これ宿題。それぞれ考えておく事~」

 

風の一声に女性陣は声を挙げ、男性陣も賛同の意思なのか頷いた。

 

「うん、いい返事! すみませ~ん、おかわり~」

 

「「えぇっ!?」」

 

「四杯目!?」

 

風のまさかの四杯目の注文に小学生組を除く(来るまでにどれだけ食べていたか知らない)一同は驚愕した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

かめやの駐車場にて一同は解散となった。一騎・総士・乙姫は友奈・東郷と同じ方角だが、今回は真壁・皆城家では食材の買い出しに行かなければならなかったため、友奈と東郷はデイサービスの車に乗って先に帰っていってしまった。犬吠埼姉妹と乙姫の親友2人はどうやら同じ方向のようでともに帰ったようである。

 

「あ~今日も楽しかった~。話聞くだけでも色々楽しいね総士」

「あぁ。そうだな」

 

総士はご機嫌な乙姫の対応をしている中、一騎は何か物思いにふけているようだ。総士はその様子が気になったのか一騎に問いただした。

 

「一騎、何を考えている?」

 

「……なぁ、総士。今はこうしてこの世界で暮らしている訳だけど俺たちにこれ以上出来ることはないのか」

 

「……残念だが、今の僕らにできることはないんだ。島にいた時と同じで敵が来るまで待つしかない」

 

「そうか…」

 

「……一騎。やはり島の事が…」

 

「気になるって言えばそうとしか言えないな」

 

一騎の様子を見た総士は空を見上げながら呟く。

 

「あの時に僕が巻き込まなければ……甲洋と来栖が元の世界に」

 

「総士、俺はあの行動をとった事は後悔してないよ。さすがに生まれ変わるとは思わなかったけどね」

 

総士は一騎顔を見る。その目には後悔という色は全く見えない。総士は完全に思い過ごしと思い目をつむる。

 

「ふっ。そうか」

 

「2人共、なにしんみりしてるの?」

 

乙姫が2人を見上げるように見つめてきた。

 

「なんでもないよ、乙姫」

 

「そう?」

 

一騎はそれに答える。

 

その後3人は商店街で買い物をし皆城家へ向かうと一騎が調理した夕食を食べる。そして終えると、一騎はそのまま家へと帰った。

 

 

 

side:皆城乙姫

神樹が私達に3年も日常を過ごさせたけど、2人はもう大丈夫そうね。

 

敵との戦いの準備もあったけど、私は2人があの戦いに投じてた事を知った時から休ませたかった

 

…それは神樹や織姫も同じ考えだったわ。……神樹は何か他に考えを持っていたみたいだけどね。

 

私としては居場所は違うけどある意味で人として生きることができるようになったしこう言うのもなんだけどうれしいかな。

 

 

 

……だけど世界は待ってはくれない。

 

 

 

「乙姫?」

 

「あ…うん。なんでもないよ」

 

私達の新たなる航海の時が目前に迫りつつあるのは確かだよ……総士、一騎。




次回は樹海突入からのゆゆゆメンバー対乙女座の戦いとなりますが、ラスト辺りにイレギュラー事態となると思います。

以下、解説
●皆城乙姫
作者のファフナー贔屓キャラ。織姫は役目がある事もあったがどうしても2人を導くポジが欲しかったので採用。勇者部内での会話だとどうしても一騎・総士が空気化してしまうためその絡みの対策でもある。

神樹とつながってるのも仕様。・・・戦闘では空気化しませんよ。

●乙姫の友達2人
転入してからできた模様。イメージは賢明な人ならわかるはず。

●勇者部特別部員(当作品オリジナル要素)
当作品内での乙姫たちの勇者部での役割。ようは時間があった際のお手伝いさんみたいなもの。

活動報告内の専用ページにてアンケートを募集しております。機会があればどうぞ。


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第6話 樹海

原作第1話後半~第2話乙女座戦終了まで。

今話はゆゆゆ勢中心の話になるため一騎たちの出番はほとんどありません。

後半に当小説の作者考案のオリジナル敵勢がついに現れます。ここからゆゆゆ原作とファフナーとの繋がりがかなり強くなってきます。

2016/2/2 表現一部修正
2016/3/27 前書修正(何故今まで気付かなかったし…)


――― 前話から翌日

-友奈&東郷のクラス-

「それでは黒板に書かれている3つの文を ――― …」

 

「(勇者部らしい出し物か…なんかないかなあー)」

 

現国の授業の最中だったが、友奈は昨日風が言っていた文化祭の出し物について頭の中が一杯になっているようだ。彼女のノートにはなにかのキャラクターの落書きが描かれている。

 

「(もっとこうみんなが喜ぶ楽しい何かか…!)」

 

友奈はため息を吐く。そんな友奈を東郷が気になったように見つめる。視線に気付いた友奈は「なんでもないよ」と返し、東郷はその様子にくすっと微笑んだ。

 

「結城さーん、なんでもよくないですよー。…じゃ、教科書読んでもらおうかしら」

 

「…はい」

 

それを先生に見られていたようで友奈は注意されてしまう。クラス中から笑い声がどっと聞こえた。

 

注意を受けた友奈はしょんぼりと落ち込み、気を取り直して教科書を読もうとした。

 

 

 

――― その時である。

 

 

 

「ッ!」

 

突如携帯からアラームが鳴り響く。その音は教室中まで鳴り響いた事で友奈はさらに慌てた。

 

「携帯ですか?授業中は電源を切っておきなさい!」

 

「はいっ!すみません、いま止めま…あれ?」

 

友奈が携帯の画面を見たがそこに描かれていた表示に手を止めてしまう。友奈の後ろの席でも動きがあったのを見た先生はその生徒の方向を見た。

 

「ん…東郷さんもですか?」

 

「なに、これ…」

 

東郷の携帯も友奈と同じようにアラーム音が鳴っており、画面も友奈を同じものに変わっていた。

 

 

 

 

 

【樹海化警報】という不気味な画面へと……。

 

 

 

 

 

アラームが鳴り終わったと同時に外で異変が起こる。穏やかに吹いていた風によって舞っていた葉や空を飛んでいた鳥たちがそこに縫い付けられたように停止した。

 

やっとアラームが止まった事に安堵した友奈は顔を見上げた。

 

「あ、すみません。止まり……先生?」

 

彼女が目にしたのは固まっているクラスメイトや先生の姿であった。

 

「あ、あれ?」

 

「友奈ちゃん?」

 

「ん、東郷さん」

 

友奈は東郷の元へ駆け寄る。どうやら今動けるのは自分と東郷のみである。

 

「これ……どうしたの……?」

 

「何だか様子が……」

 

 

 

-讃州中学 廊下-

友奈と東郷が未知の出来事に困惑しているその頃、ある教室から1人の女生徒が慌てた様子で駆け出してきた。

 

「(まさか…まさか……そんな!)」

 

風は躓きながらもすぐに態勢を立て直し、学校では廊下を走ってはいけない事など気にもせず駆け抜け、階段を一気に駆け上がる。

 

目的の教室に辿り着こうとした時、1人の女生徒が辺りを見渡しながら出てきた。

 

「樹!」

 

「(!?)お姉ちゃん!よかった…お姉ちゃんは無事だった!あのね、クラスの皆が…」

 

樹の肩に手を当て走ってきたことにより荒げた息を落ち着かせた風は樹を真剣なまなざしで見つめる。

 

「樹、よく聞いて!――― あたし達が…当たりだった…」

 

空が割れて7色の光とも呼べるものが『壁』とよばれる四国の結界からあふれ出す。それは次々とあたりを飲み込んでいき学校へと迫ってきた。

 

「…お姉ちゃん!…お姉ちゃん!」

 

不安がる樹を風は抱え込むようにし、

 

「東郷さん!」

「友奈ちゃん!」

 

友奈は咄嗟に東郷に抱きつきかばった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

光が収まっていく。友奈が目を開けた先に待っていたのは、

 

――― 幻想的とも言えるおとぎのような空間であった。

 

街はその全てを色とりどりの樹木の飲み込まれており、その世界の中心と思わしき場所にある大樹からの太い根で構成された世界となっていた。

 

「何これ、何処(どこ)ここ! 私また居眠り中?」

 

パニックになってほっぺを抓っている友奈だったが抓った痛みでここが現実という事を直感していた。

 

「……夢じゃないみたい」

 

「……教室にいたはずなのに」

 

友奈の隣にいる親友東郷が幻想的な世界に驚愕しつつも辺りを見渡す。そして、不安になり俯いてしまった。

 

「大丈夫だよ! 東郷さんには私がついている!」

 

「……友奈ちゃん…うん」

 

東郷を安心させようと、彼女の震える手を握る友奈。不安を押し止めることは出来たが、どうすればいいかと思考を巡らせようとした。……その時である。

 

――― ガサッガサッ

 

2人は何かをかき分ける音が聞こえたため警戒を強める。友奈は東郷を守るかのように音が聞こえる方へと立ちふさがった。

 

「東郷さんは私が守る!」

 

友奈は身構え、美森は恐怖に震え友奈の制服を掴む。

 

「友奈! 東郷!」

「友奈さ~ん!」

 

「樹ちゃん! 風先輩!」

 

茂みをかき分け犬吠崎姉妹がやって来た。友奈と東郷はその姿に安心し友奈に至っては2人に抱きつく。友奈と樹は泣きながら不安が多少なりとも解放された事を実感した。

 

部長である風はみんなを安心させるためになんとか冷静に装いながらもこの状況をみんなに説明し始める。

 

「不幸中の幸いかな。みんな携帯を手放していたら見つけられなかった」

 

「「えぇっ!」」

 

風は彼女たちに見せるように携帯を操作する。アプリをタッチすると自分たちの現在位置が表示された。

 

「……これ…」

 

「このアプリに、こんな機能があったんですね……」

 

「隠し機能……?」

 

「その隠し機能は、この事態に陥ったときに自動的に機能するようになっているの」

 

「えぇっ、便利!」

 

「このアプリ、部に入った時に風先輩にダウンロードしろって言われたものですよね?」

 

「……えぇ」

 

心なしか説明する風の表情が暗い。答え辛そうだが美森はまっすぐに問いかけ、友奈と樹はこの場所が気になるようで不安そうに見つめる。

 

そして、風が意を決して言葉を紡ぐ。

 

自らが神樹を奉っている組織『大赦』から派遣された事、ここは友奈たちの世界で奉っている神樹が作り出した『樹海』と言われる結界であるという事、そして、神樹様に選ばれた一同はこの中で敵と戦うこととその敵の目的を聞いた。

 

一緒に暮らしている樹ですら気づけなかったのは、風はこの事は選ばれなければずっと黙っていることを決めていたからである。

 

そんな中、東郷は辺りを見渡した後に風に問いかけた。

 

「ねえ、風先輩。あのここには私達だけなんですか? 勇者部がそういう人たちの集まりなんですよね。でも…一騎君と総士君がいません」

 

「それは……残念だけど…」

 

風がその2人の事を話そうとした。

 

「あの、そういえば……この『乙女座』って書かれている点って何ですか?」

 

……が、友奈の一言で風が血相を変えて立ち上がる。

 

「来たわね」

 

風が見上げた方向をここにいる全員が向く。そこにいたのは、巨大な存在であった。その存在を『バーテックス』という名であること。そして、それが世界の恵みである神樹のもとまで辿りつき滅ぼし人類を殺すのが目的である。すなわち、神樹に選ばれたものが戦うべき敵である。

 

「……そんな…あんなのと戦えるわけが……」

 

東郷が目の前の強大な存在による恐怖に震えている。

 

「方法はあるわ」

 

風は一筋の希望の説明をする。アンロックされたアプリに神樹様に選ばれた『勇者』となるための機能がある。3人は画面を見ると芽の生えた種のようなアイコンがあった。

 

「……『勇者』」

 

「「「「きゃぁ!!」」」」

 

乙女座は4人に向け卵状の塊をばしてきた。塊は炸裂しその爆風に彼女たちが悲鳴をあげる。

 

「殺される」という恐怖に身がすくんで動けずにいる東郷の姿を見た風は覚悟を決めたような顔で友奈に叫んだ。

 

「友奈、ここはまかせて東郷と一緒に逃げて! 早く! 樹も一緒に逃げて!」

 

「は…はい!」

 

「ダメだよっ!! お姉ちゃんを残して行けないよ!」

 

風の説明により樹も戦い方は知っている。樹は風の制服の袖をギュっと握り、

 

「ついていくよ…何があっても……。どうしたら、いいの?」

 

「―――私達は神樹様に守られているから…大丈夫…樹続いて!」

 

「う…うん!」

 

犬吠埼姉妹が神樹に戦う意思を示し、携帯端末のアプリをタッチすると光に包まれた。

 

――― 風は髪が金に染まり、黄色を基調とした白き衣を纏い、

    左の太腿にオキザリスの花の刻印が刻まれる。

 

――― 樹は黄緑を基調としたドレスのような衣を纏い、

    背中に鳴子百合の花の刻印が刻まれる。

 

その装いを変えた2人はその場から飛翔し敵に相対した。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

side:結城友奈

東郷さんを連れて離れた私たちだったけど風先輩から着信ので根の影に隠れて電話に出た。

 

「風先輩っ!?」

 

《よし、繋がった!》

 

「風先輩! 大丈夫ですか!? ……バーナントカと戦ってるんですか!?」

 

《こっちの心配よりそっちこそ大丈夫!?》

 

私は東郷さんの様子を見る。さっきから「ごめんなさい…」って呟いてる。……無理もないよ。怖いよね…。

 

《…友奈、…東郷。黙ってて、ゴメンね…》

 

風先輩が責任を感じて謝ってきた。……けど、違う!

 

《2人はなんとかアタシが助ける!》

 

「……風先輩は、みんなのためを思って黙ってたんですよね。こんな大変な事ずっと一人で打ち明ける事もできずに」

 

風先輩は妹思いもあってみんなに優しい。それを知っているからこそ、私は自然と言葉が出た。

 

「――― それって、勇者部の活動目的通りじゃないですかっ。だから、風先輩は悪くない」

 

《(!?)やっちゃった!》

 

「風先輩! 樹ちゃん!…こっちに来る……?」

 

爆弾が風先輩と樹ちゃんに直撃した。煙で2人の姿が見えない。

 

そして、バーテックスがこちらを向いて今にも撃ってきそうだ。それを見てしまった私は涙を滲ませ足がすくんで動けなくなってしまう。

 

「友奈ちゃん、私と一緒にいたら危ない! 私を置いて行って!」

 

(!?)東郷さん何言ってるの!そんな事…出来るわけないよ!

 

「お願い逃げて! 友奈ちゃんが死んじゃう!」

 

それでも東郷さんは私に逃げるよう必死に促してくる。風先輩に言われて東郷さんを任されたから逃げてきたけど…今私の友達でもある姉妹が前線で戦っているのに東郷さんまで……と、ここで私は気づいてしまった。

 

――― こんな事をして、何が友達なんだ。

 

私は涙をぬぐう。中学に入ってからできた出来た親友、部活と通してできた仲間たち、そしてあの男の子…一騎君の事が頭に浮かぶ。私はその人たちの事を考えてたら自然と動き出せた。

 

――― そんなの出来ない。

 

「やだ……」

 

そう考えると自然と怖くはなくなった。私は東郷さんのその言葉を否定し右手に持った携帯を握り締めると走り出す。

 

「ここで友達を見捨てるような奴は……」

 

バーテックスは塊を放ってくる。その爆弾と言えるものが私の方へ向かって飛んでくる。

 

「……勇者じゃない!」

 

そして、無常にも私に爆弾が直撃する。

 

「きゃぁ!友奈ちゃぁん!!!」

 

東郷さんが私の名前を叫ぶ。だけど、煙が晴れると私の無事な姿がそこにあった。風先輩の言っていた通りに戦う意志を示そうとしたら左手が無意識に前へと突き出していた。そしたら左手が桜色の手甲に包まれていた。どうやら、これで爆弾を壊したみたい。

 

ふと見ると傍らに白い牛のような何かが浮いている。アプリにあった精霊ってこの子なのかな?

 

「嫌なんだ! 誰かが傷つく事、辛い思いをする事!」

 

神樹様に戦う意思を示しながら続いてくる爆弾に蹴りを叩き込む。そうすると今度は同じ桜色のブーツに包まれる。

 

「みんながそんな思いをするくらいなら、私が頑張る!」

 

昔一騎君が見せてくれた跳躍をイメージして最後の一発を飛んで避ける。そのままバーテックスにロケットのように向かっていくと私は右手を思いっきり振りかぶる。宙を舞う私は光に包まれると、髪の色が桜色に染まり髪型がポニーテールへと形を変え、服も黒いインナーに白と桃色を基調をしたスパッツとコートのようなものに変わっていた。

 

跳んできた爆弾を右手で殴りつけるとそっちも手甲に包まれて、そこに桜の花びらの刻印が刻まれた。

 

「友奈……!」

「友奈さん!」

「友奈ちゃん!」

 

「うおおぉぉぉぉぉ!!勇者ァ…パァァァァァンチ!!!」

 

思いっきり叫びながら私は必殺の一撃を放つ。いつもお父さんの道場でやっている正拳突きだけど振りかざした右手で思いっきり殴りつけたらバーテックスの一部が吹き飛ばされた。

 

「勇者部の活動は、みんなの為になることを勇んでやる。私は讃州中学勇者部結城友奈!。私は!勇者になる!」

 

着地した私はバ-テックスを見上げ、神樹様に戦う意思を示した。

 

side out

 

 

――――――――――

 

 

 

「友奈さん凄いパンチ! カッコイイ!」

 

「なんだかみなぎってきた!(これならきっと私も戦える…あの怪物を倒さなきゃ)」

 

爆弾が直撃したが犬吠埼姉妹だったが神樹の遣わした世界を守る力である精霊の障壁によって無事だった。『精霊』とは神樹が選んだ勇者に遣わした攻撃の力でもあり、勇者を守る存在でもある。

 

樹は友奈を賞賛するが、乙女座のバーテックスは光に包まれ損傷した部位を再生させていた。

 

「バーテックスはダメージを与えても回復するの。封印の儀式っていう特別な手順を踏まないと、絶対倒せない!」

 

「て、手順って何、お姉ちゃん」

 

「あいつの攻撃を避けながら説明するから、避けながら聞いてね。来るわよ!」

 

「またそれ~! ハードだよぉ~!」

 

風の一声で3人は散開。爆撃の雨の中、風の指示通りの位置へと向かう。

 

「みんな…、友奈ちゃん…(駄目…私、戦うなんて…できない)」

 

そんな中、東郷は皆と一緒に戦おうと考えていたがバーテックスを見ると恐怖にかられ怯えていた。

 

そのために彼女の出来ることは恐怖心と戦いながら皆の無事を祈るしかなかった。

 

「えーと、次は祝詞(のりと)を唱えるんだよね…ってうわぁぁ…これ全部…?」

 

位置についた友奈と樹は武器を翳し祝詞(のりと)を唱える。そのあまりにも長さに呆れたものの一つ一つ詠唱していく。

 

「おとなしくしろ! コンニャロ―!!」

 

「「そ…それでいいのーッ!!」」

 

風のゴリ押しに思わず突っ込んだ友奈と樹だったが、各人に使わされた精霊『牛鬼』・『犬神』・『木霊』によって結界が展開、制限時間のような数字が表示され、乙女座から四角睡の形をした物体が飛び出してきた。

 

「数字はアタシ達のパワー残量。零なったらこいつを倒せなくなる! だけど、封印されてむき出しになったのが『御霊』。いわば心臓のようなもので破壊すればこっちの勝利よ!」

 

「それなら私が行きます! くらえぇぇ!」

 

友奈が御霊を殴りつける…しかし、ガンッと金属を叩きつけたような乾いた音が響き渡った。

 

「かったぁーーーい! 硬すぎるよコレェ~!」

 

「友奈変わって! くらえ、アタシの女子力をこめた渾身の一撃をー!!」

 

風は飛び上がり宙返りしながら手に持った大剣で落下の勢いを利用し思いっきり叩きつける。その一撃で御霊にひびが入った。

 

しかし、樹が周りを見ると樹海に張っている根が枯れ始めていた。

 

「…枯れてる?」

 

「はじまった、急がないと! 長い時間封印していると、樹海が枯れて現実世界に悪い影響が出るの!」

 

風のその言葉を聞いて友奈が再び御霊に向け飛翔する。

 

「時間がない!」

 

(神樹様…お願いします。どうか皆をお守りください!)

「(痛い…怖い…でも…)大丈夫!」

 

東郷の祈りが友奈に通じたのかひびが入った御魂に友奈の拳が叩き込まれる。ひびが広がっていき御霊は耐えきれずに自壊し分解されそこから出た光が天へと散っていく。

 

心臓とも言える御霊を破壊された乙女座の体が砂となって崩れていった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「勝った…よかった……」

 

初陣ながらも敵の撃破に成功した友奈・風。樹はその場で喜びを分かち合い、離れた所で東郷も恐怖で戦う意思が出せないが彼女らの無事を祈り敵を倒れたことで安堵の表情を浮かべようとしたが、

 

「え、何……なの?」

 

その時である。東郷は前線にいる3人の上空から迫る光の玉に気付いた。その光の玉は友奈たちの方へとゆっくりと降りたっていく。まるで空から降る流れ星のようだ。

 

 

 

光の玉ともいえるそれに気付いた3人は何が起きたか分からずそれを見上げる。そして、光の玉が弾けるとその正体が現れる。先程のバーテックス程な巨大さはないが、大きさは人間よりもはるかに大きく、不気味な巨大な口、無脊椎動物のような袋状の身体に触手のような手が数本ついている。

 

その色は一瞬目を奪われるほど美しい金色に輝いている。しかし、友奈たちはその神々しさに一瞬惹かれるものの先程倒したバーテックスとは違う異質な感覚に襲われる。その嫌な予感で我にいち早く我に返った風は2人にむかって叫ぶ。

 

「嘘でしょ…樹、友奈! そいつから離れて!!!」

 

「風先輩?」

 

「あいつは…やばい……」

 

「お姉ちゃん、あのバーテックスは?」

 

「大赦が言っていた…金色のバーテックス……」

 

風が明らかに金色のバーテックスを警戒し畏怖していることに友奈と樹はただ事ではないことに気付き彼女の元へ駆け寄る。

 

そして、その存在は、

 

【あなたはそこにいますか】

 

ただ一言…3人に問いかけた。何度も何度も同じ質問を。3人はどうすればいいかわからずに首を傾げた。

 

【……】

 

「(!?)樹、危ないっ!!!」

 

何度も質問をしてきた金色のバーテックスは突如触手を伸ばす。とっさの事で動けずにいた樹に風は咄嗟に駆け寄り庇った。

 

「風先輩!」

「お姉ちゃん!!!」

 

それにより風は金色のバーテックスの触手に絡め取られてしまう。手にもった大剣で斬りつけようとするも雁字搦めにされているせいでうまくできない。

 

「このぉ、離せ!!!」

 

「風先輩を離して!!!」

 

友奈が飛び上がり右手で金色のバーテックスの真後ろから殴りつけようとする。

 

【……】

 

「え?」

 

「避けられた!」

 

「(……違う。明らかに動くのが早かった…。まるで分かっていたかのように)」

 

友奈の一撃を金色のバーテックスは見もせず軽やかに避けた。恐怖に震えている東郷だったがその動きの不自然さに気付いた。金色のバーテックスは予想して避けたのではなく明らかに()()()()()()()()()避けたのが彼女の目には見えていた。

 

「お姉ちゃん! 友奈さん!」

 

樹は右手の花環状の飾りからワイヤーのような糸を射出し金色のバーテックスに放つ。

 

「きゃぁ!!」

 

しかし、複数に折り重なるように放った樹の攻撃を避けると友奈までも捕えてしまう。そして、風と友奈を捕えたまま上空へと舞い上がった。

 

【あなたは、そこにいますか】

 

「(な、何?精霊のバリアが効いてない!?しかも、この感覚…あたしの中からなにかが……なくなって…いく……)」

「あぁ…うぅ……」

 

金色のバーテックスは友奈と風に接触するような動作を見せる。2人は自分の中でなにかが無くなってしまうような感覚に襲われ、ぽっかりと穴が開いたようになってくる。それが危険だとみた精霊が防ごうとするも防ぎきれない。友奈と風の体の所々に翡翠色の結晶が生えてくる。

 

「お姉ちゃん!!!」

「友奈ちゃん!!! いや…もう…やめて……」

 

2人の窮地にどうにも出来ず、2人は涙を流しながらも叫ぶ。

 

(あれ? なんでだろう…何も思わなく、感じなくなってくる)

 

そんな中友奈はその感覚に囚われながらも思っていた。

 

(前にもこんな感じになったような……。……私はあの時どうなったんだっけ?)

 

溶けていくような感覚に襲われていた時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(お前はまだそこにいろ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に友奈の頭に昔の記憶が蘇る。あの時、手を差し伸べてくれた人を彼女は思い出した。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

【!?】

 

突如、一筋の流星のような閃光が風と金色のバーテックスの間に入る。友奈と風が囚われていた触手を切り裂かれ、2人を抱えたその流星は地面へと降りたつ。

 

光が治まりその正体が表す。その姿はどこかの組織の制服と思わせる服装にその上に紺色のコートを羽織った井出達である。

 

「あ…あの人は」

 

その近くにいた樹はその正体に気付く。見た目は友奈たちと同じ中学生くらいの子だ。そしてその人が手をかざすと意識を失っている友奈と風に纏わりついていた翡翠色の結晶が砕け散る。

 

「う…うぅ~ん」

 

友奈が目を覚ます。ゆっくりとその双瞼が開かれると助けてくれた人の顔が見えた。その顔は彼女にとって見知った人であった。

 

「……一騎…君?」

 

「遅れてごめんな。友奈、風先輩」

 

樹が3人の元へと駆け寄ってくると一騎は風を樹へと託す。友奈も託そうとしたが彼女はふらつきながらもなんとか歩けるようだ。

 

「樹、風先輩と友奈の事を頼む! 東郷もいるから一緒にいてくれ!」

 

一騎が手をかざすとそこに大型の馬上槍とも呼べる武器が現れる。恐らく、金色のバーテックスの触手をそれで切り裂いたのであろう。

 

「この世界でもまた奪い。痛みを与えるだけなら俺がお前を消してやるぞ! ……『フェストゥム』!」




次回、ついにファフナー勢の戦闘が始まります。

以下、解説
●両作品の敵勢
バーテックスとフェストゥムは意外と共通点が多いですが、当作品ではバーテックス < フェストゥムと作者内でランク付けしています。

どちらも再生や進化能力は持っています。ですが、バーテックスは通常兵器が効かないという利点がありますが、同化耐性なかったら取り込まれて即終了だと思います。

●オリジナルフェストゥム
あるミールがゆゆゆ世界で独自に進化したもの。こちらも話が進むたびに語ろうと思います。

●戦闘方式をゆゆゆ世界準拠にした理由
ファフナーでやってもいいですが、戦闘フィールドである樹海の特性もあったため。多分、被害甚大になると作者が思いました。


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第7話 新たなる航海

ゆゆゆ原作乙女座戦終了後の一騎と金色のバーテックス(フェストゥム)との戦闘回です。

当クロスではファフナー勢はゆゆゆ勢の勇者システムに合わせた戦闘スタイルとなるためか独自設定が多いです。そのため色々超展開気味だと思います。

以下、会話の括弧書詳細。
「」:通常の言葉での会話。
《》:電話やシステムを通しての会話。
【】:思念(テレパシー)関連の会話。

2016/2/6 誤字&一部加筆修正
2016/2/22 表現一部修正


-一騎&総士のクラス-

犬吠崎姉妹が邂逅したその頃、友奈・東郷の隣のクラスではもう一組がこの異変に巻き込まれていた。

 

「総士、これは!」

 

一騎は流石に自分たち以外の時間が止まってしまうともいえる異様な状況ははじめてだった為少し困惑気味だった。しかし、このような異質な状況でも冷静だった総士が立ち上がる。

 

「……一騎、どうやら僕たちのやるべき時が来たようだ」

 

「(!?)じゃあ、これが」

 

既に総士たちから説明を受けていた一騎はこの事象が何かを思い出す。

 

「あぁ……『敵』が来た!」

 

総士がそう叫んだと同時に彼らもまた壁から迫る光に巻き込まれる。強烈な閃光に目を瞑った一騎だったがその瞼が開かれるとそこは未知の世界ともいえる異質な空間が広がっていた。しかし、彼にとってはどこか見覚えがある場所のように思っていた。

 

「『樹海』だ…。神樹が展開する結界で敵との戦場とも言える場所だ」

 

一騎の元へ総士が説明しながら歩み寄る。

 

「竜宮島の戦闘フィールドのようなものか……それにしても前に神樹と会った所に似ているな」

「同じ場所だからな」

 

なるほどと一騎が頷く。

 

【一騎さん、総士さん聞こえますか?】

 

不意に頭の中に声が響く。声の感じから神樹が2人に呼びかけたようだ。

 

【……バーテックスの侵攻がはじまりました。それに応じて『あの存在』も……準備はよろしいでしょうか?】

 

「あぁ」

「僕も問題はない」

 

【それでは貴方達のこの世界に合わせた力を……!】

 

端末がほのかに光を放つ。一騎は画面を見ると表示が変わっていた。何故か背景のロゴには何故か

 

『Alvis』

 

の文字があった。

 

【総士さん達のおかげでなんとか完成させることが出来ました。一騎さん、総士さん…どうか…私が選び戦う運命(さだめ)を与えてしまった『勇者』たちの事をどうか宜しくお願いします……】

 

神樹の声が遠ざかるようにして聞こえなくなる。すると、一騎は総士へと向き直る。

 

「それでどうする?」

 

「これを使ってみんなの所へ向かう。時間がないから説明しながらの移動になるぞ」

 

「分かった」

 

総士が携帯のアプリを起動しマップ画面を表示させる。そこには彼らにとって見知った人たちの名前が表示されており、2人はその人たちと合流するために樹海のなかを進んでいった。

 

 

 

「待て、一騎!」

 

総士が突如として足を止める。一騎はどうしたのかと聞こうとしたが戦闘中なのか轟音が辺りに響く。

 

「総士、あれが」

「あぁ。この世界の敵である『バーテックス』だ!」

 

2人は偶然にも見晴らしのいい位置にいたためそこから神樹が選んだ勇者とこちらの世界の侵略者バーテックスの戦いを眺める。

 

「友奈たちの使っているのがこの世界での力なのか?」

 

「そうだ。『勇者システム』、四国を守護する神様である『神樹』の力を扱う為に大赦が開発した討伐システムだ」

 

「それで『勇者』と呼ばれるのか…っ!?」

 

総士が淡々と説明していく中、勇者部の3人はバーテックスを取り囲む。そして、バーテックスからコアのようなものが摘出され、友奈と風はそれに攻撃を加えるとバーテックスの残された体は砂となり崩れていった。

 

「……普通の女の子があそこまでやれるなんてな。ある意味凄いな」

 

「……そうだな」

 

「…総士?」

 

一騎は総士の表情の僅かな変化に気付いた。さらにそれを踏み込んで聞こうとした。その時である。

 

「(!?)なんだ!」

「あれはっ……!」

 

2人は上空から迫る光の玉に気付く。その光の玉が弾けその正体が露わになる。

 

「……(ソロモンに応答有り…だが種類は分からず。やはりこちらの世界での独自の進化個体か)」

 

総士が無言で端末のアプリを操作し金色の敵を解析し始める。

 

【あなたはそこにいますか】

 

「…ッ!?」

「あれが神樹の言っていた『敵』か!」

 

一騎と総士は金色の敵の声により背筋が凍るような感覚に襲われる。そして、一騎が前へと出る。

 

「……行くのか?」

 

「あぁ。どうすればいい?」

 

総士は一騎の意図を接したかのように言葉を続ける。

 

「簡単だ。アプリに意志を示せばいい。だが、前のファフナーとは勝手が違うぞ……また飛ぶことになる。飛べるか、一騎」

 

「……飛べるさ。俺とお前なら。そうだろ」

 

一騎と総士は携帯端末のアプリに触れる。2人は光に包まれると一方は友奈たちの方へ、もう一方は東郷のもとへと飛翔する。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

――― 時は前話の直後へと戻る……。

side:東郷美森

「……何? 今度は何なの?」

 

友奈ちゃんと風先輩が突然現れた金色のバーテックスに捕まったけど一騎君が助けてくれた。……と思ったら今度はこっちにも光が降ってきた…。

 

光が収まるとそこには一騎君と同じような服装だけど深い紫色のコートを纏ってる。

 

「…無事か、東郷?」

 

「総士君! その姿……」

 

同じ勇者部の一員である総士君がそこにいた。

 

「幾分か説明する事もあるが今はそうは言ってられない状況だ。友奈と風先輩が樹に連れられてこっちに来る」

 

「でも、あのバーテックスはどうするの?」

 

「あれは一騎がやる」

 

「一騎君が!?」

 

いくら一騎君とは言ってもあの化け物……。

 

「今から僕がそのサポートをする」

 

そう言うと総士君は端末の操作をし始めて呟いた。

 

「一騎、聞こえるか?」

 

《あぁ、聞こえる》

 

「今からシステムとの完全なクロッシングを行う……エンロール完了、クロッシングを開始する!一騎…僕が見ているものが見えるか?」

 

端末を操作すると何もない空間にいくつもの画面が出現し総士君はそれを操作しはじめた。

 

side out

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「ああ…見える」

 

『ジークフリード・システム』 ――― 一騎たちの世界での戦う力ファフナーの指揮管理システムのである。それは一騎や総士の使っている端末にはそれが内蔵されており、総士はシステムを起動させる事で一騎の脳の被膜神経に直接接続(クロッシング)を行う。今、一騎の視界には金色のバーテックスの他に赤く透けている総士の姿も映っている。『見える』とは総士から見た光景が見えるという事である。

 

金色のバーテックスは一騎に対し綺麗な声で問いかけるように。

 

【あなたは、そこにいますか】

 

そんな一騎は後ろにいる友奈や目覚めかけてるも意識が朦朧としている風を抱えている樹の姿をちらりと1回見る。そして、口を開いた。

 

「ああいるさ、……ここにな!」

 

その『答え』と同時に風ははっと目覚める。

 

「……いけない。そいつに『答え』ちゃ駄目!」

 

風がそう叫ぶと金色のバーテックスは一騎の方へと高速で向かってくる。一騎は3人から離れるように駆け出した。

 

「バーテックスが一騎さんの方に向かってます!」

 

「まさか…真壁のやつ、囮を…」

 

「風先輩、どういう事なんですか?」

 

金色のバーテックスについてある程度聞いている風が2人に説明をする。

 

「あの金色のバーテックスは…質問を何度もしてきて、『答えない』と問答無用で襲ってきて、『答える』と『同化』しようとしてくる」

 

「ど…同化って」

 

「さっき、私と風先輩が受けたやつですよね。……それじゃあ一騎君は!」

 

友奈は一騎のとった行動の意味に気付く。

 

 

 

 

「……なんだか感覚が違うな」

 

一騎は総士からもらったアプリの説明を一通り目を通してある。島にいた時は刷り込みのように情報を覚えさせられていたが、こちらの世界ではそれはないためでもある。さらに、神樹がこちら世界で使えるようにした専用の戦闘システムはファフナーに近い感覚で動かせるようなっているとあった。

 

だが、実際に使ってみるとその感覚の違いに今、戸惑っていた。

 

《そのシステムは言わば人間サイズ化したファフナーみたいなものだ。…まあ、サイズや今の状態だと違和感があるのも仕方ないが一応は『エインヘリヤル・モデルのマークエルフ』くらいの追従性はある…来るぞ!》

 

総士の指示を受けながらも友奈たち3人から敵を引き離す一騎。彼は消耗した友奈たちや東郷の安全のために囮として移動している。

 

目論見通り、追跡してきた敵は『同化』しようとその触手を一騎へと伸ばす。

 

《この辺でいい。一騎、敵を迎撃しろ!》

 

【分かった】と声でなく思念で返した一騎は伸ばされた触手を回避しその懐に入ると『ルガーランス』と呼ばれる槍で斬りつける。袋のように見える胴体を横薙ぎに引き裂く。

 

【!?】

 

突如の攻撃に敵は明らかに面をくらったようになる。残った触手を刃のように変えるとそれらを振り下ろしてきた。それを一騎は尋常ならざる反応速度で回避し、その一本を両断する。

 

 

 

「一騎さん、凄いです!」

「でも、さっきは友奈ちゃんや樹ちゃんの攻撃をあっさり避けたのに…一騎君が凄いのかしら?」

 

友奈と風を引き連れ東郷と総士の元へと辿り着いた樹は一騎を賞賛する。東郷は敵が先程の友奈と樹の攻撃をあっさり避けたのに一騎の攻撃には対応できていないことに疑問をもった。

 

「東郷、あの金色のバーテックスは『同化』の他に『読心』って能力も持ってるの」

 

「『読心』ですか?」

「それって、心を読むって事ですよね?」

 

「そうよ。さっき友奈と樹の攻撃が避けられたのもそれよ」

 

「そして、今は僕がシステムを起動させて『読心』に対する防壁を展開している。『読まれない』からこそこれで敵と同じ土台で戦うことが出来る」

 

風と共に空中に浮いたいくつもの画面からあらゆるデータを照合し操作していた総士が東郷の疑問に答えていく。

 

 

 

 

そのようなやり取りをしていると状況に変化があった。触手を何本も切り裂かれた敵に一騎が(ルガーランス)で袋の部分を左下から突き込む。突き込まれた敵は痛がるようにジタバタと暴れるがそれも気にせずさらに深く突き込もうとしたが、

 

「っ…!?」

 

槍に触手が纏わりついていた。無理やりにでも突き込もうとした槍だがこれ以上敵を貫けない。そう思っていると音をたてて(ルガーランス)がひん曲げ、ねじ切られた。

 

《(!?)一騎、離れろ!》

 

総士の指示と同時に一騎はその場から離脱する。すると敵の背後に黒い何かが蠢いたように見える。

 

そして、周囲の何もないところに黒い球体を何個も発生させる。まるで敵が自分の危機を察知し身を守ろうともがき無差別に放ってくる。

 

一騎は自らにくるものだけを避ける。しかし、球体の一つが樹海の一部に接触。呑み込まれた根の部分が抉れたように消えていた。

 

《『ワームスフィア現象』…ひと通りの基礎現象は押さえてあるのか! 一騎、樹海を傷つけるな!》

 

「くっ!」

 

一騎は樹海を極力傷つけないように回避に専念しながら右手に破損した(ルガーランス)を持ったまま左手にハンドガンを具現化し放つ。放たれた弾丸は敵に何発も命中しその体を抉るも効果的とは言えない。

 

「(!?)総士、みんな危ない!」

 

無差別に放たれた一種のブラックホールとも呼べる球体が総士たちに迫る。一騎はそれに気づき叫んだ。

 

近づいてくる狂気に東郷は青ざめる。友奈は咄嗟に東郷を風は樹を抱えその場から離れようとする。

 

だが、そんな状況にでも総士は動じてなかった。

 

「……防げ、『ニヒト』!」

 

球体が総士を飲み込もうとしたとき障壁ともいえる力場が発生し黒い球体を弾いた。何事もなかったのを察した友奈と東郷が顔を見上げると総士の目の前に紫色で、形状が鋭角的で各部に結晶体のような装甲所々にある。生物的でまがまがしい姿の機械人形が浮いていた。

 

「「精霊!?」」

 

ちなみに大きさは友奈たちに使わされた精霊と同じ大きさである。

 

「「「「(!?)」」」」

 

その時である。友奈たちが驚いてるのを他所に突如背後から飛んできた飛行物体が敵に煙と火をあげながら突き刺さった。

 

【今私にできるのはこれだけだよ。総士!】

 

《(!?)一騎! 『レールガン』を使え!》

 

総士はその正体をすぐに察し行動を始める。総士の指示と同時に動き出した一騎はハンドガンを投げ捨て敵の方へと走り出す。その間に敵に突き刺さった飛行物体が開くどうやら一種の武器コンテナのようで中から長銃のような武器が射出され一騎はそれを空中でキャッチした。

 

【!?】

「そこだぁぁぁぁーっ!」

 

一騎は敵の口をもいえる箇所に長銃(レールガン)を突き込む。すぐに武器のトリガーを引くと敵の内部に突き込まれた銃身から高速の弾丸を発射され炸裂した。

 

炸裂し吹き飛ばされ無残にもボロボロとなった敵の奥に煌く結晶のような物体が露わとなる。

 

《敵の結晶核(コア)か!? 一騎!》

「任せろ!」

 

すぐに右手に持っていた折れた(ルガーランス)結晶核(コア)に突きつける。残された刃が縦に開かれると一騎の傍らに光沢のある銀白色で丸みを帯びた機械人形が具象化し基部にエネルギーの充電を始める。

 

「……くらえぇぇぇぇ!!!」

 

(ルガーランス)から放たれた弾丸は敵の結晶核(コア)を寸分たがわずに穿ち貫いた。

 

一騎はその場から素早く離れると、敵は黒い球体に包まれてその場から消滅した。

 

 

 

「「「……」」」

 

敵は撃破されたが友奈・東郷・樹あまりにも出来事の連続により呆けていた。

 

「……倒した…の?」

 

風がそんな重苦しい空気ながらも口を開く。総士はしばらく辺りを警戒しているようで緊張はしていた様子だったがこれ以上の敵は認められない事を確認した彼は画面を閉じると警戒をやっと解いた。

 

「あぁ。これ以上は確認されない」

 

その言葉を聞いた勇者部の女子陣だったが気が抜けた影響なのか友奈・風・樹はその場にぺたりと腰が抜けたかのように座り込み、東郷は車椅子の座席に寄り掛かった。

 

こうして、選ばれた『勇者』と呼ばれる少女たちと『祝福を受けた来訪者』2人の最初の戦闘が終わった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「……ちぃ。()()邪魔をされたか」

 

――― その一方で、この光景を見ていた存在が舌打ちをするとふっと消えていった。




次回は初戦後の処理というオリジナル回となります。多分、まさかのキャラを出すと思います。

以下、解説
●ジークフリード・システム
『蒼穹のファフナー』に出てくる兵器ファフナーの指揮管理システム。当小説では現在総士の端末にこれの本体が組み込まれており、総士はこれを用いて指揮管制やフェストゥム勢力の読心を防ぐ役割を担っている。

●マークザインとマークニヒト
しばらくは精霊と同ポジションで一騎と総士をサポート。ファフナーのコアであるミールが意志を持っているという事からこのポジションで出してみたかった。

ただし、最終付近で本気を出す予定。

●武器コンテナミサイル
ぶっぱなしたのはあの子。


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第8話 動き出す者たち

原作アニメ第2話の樹海帰還からのオリジナル回。原作と内容を変えてあります。

2016/2/23  表現一部修正
2016/11/14 『鷲尾須美の章』にて須美達の担任の名前が確定したため修正


――― 樹海発生後から数刻後

-大赦 讃州地方支部-

「神樹様の神託の通りだ……」

「『バーテックス』だけでも十分な脅威なのに……早急に対策を練らねばな!!」

「しかし、どうすればいいのだ」

「それよりもあの2人はなんだ! 男の勇者なんて存在しないはずだぞ!」

 

この世界で神樹を祀り、その裏では人類の敵『バーテックス』を一手に担う組織『大赦』。しかし、今回の襲来で起きたイレギュラーの連続により現在は混乱の真っただ中にあった。

 

「……はぁ」

 

そんな中、冷静に状況を見つめている1人の薄めの茶髪の男性がいた。そして、自らに歩み寄る足音も聞こえそちらの方へと振り向くと背の小さな少女が立っていた。

 

「こんにちわ」

 

「…乙姫ちゃんか。戻っていたのか…けど、どうしてこちらに?」

 

「神樹にお願いして送ってもらったのよ、『春信』」

 

『春信』と呼ばれた男性はなるほどと頷いた。

 

「そうか。そうなると勇者たちと共に総士君やもう1人の『来訪者』も帰ってきているという事か」

 

「そうよ。…お願い、みんなを迎えに行ってあげて」

 

「手配は済んでいる。すぐに行動を起こそう」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 時間は少し戻って

-市立讃州中学 屋上-

敵との初戦を終えた勇者部の一行だったが突如として樹海が揺れ始め、舞い散る葉によって視界が阻害されてしまった。

 

そして再び目を開けた時、そこは見慣れた街並みが見える学校の屋上であった。

 

「あ…あれ? ここ…学校の屋上?」

 

「神樹様が戻して下さったのよ」

 

風がそう言うと立ち上がる。どうやら変身も解除されている事に友奈や樹も気づいた。そして、戻された時の配置のままで友奈はすぐ隣にいた東郷の前でひざをついて手を握り合う。

 

「東郷さ~ん。無事だった? 怪我はない?」

 

「友奈ちゃん…友奈ちゃんこそ大丈夫?」

 

「うん! なんともないよ! もう安全…ですよね?」

 

無事を分かち合った2人は風に問いかけると頷く。すると、学校の屋上に安置されている祠の向こうから友奈たちの方へ歩いてくる姿がある。

 

「一騎さん、総士さん! 無事だったんですね!」

 

「あぁ」

 

樹からの呼びかけに肯定の意を示す一騎。総士は無言ながらも頷いた。

 

「ほら見て?」

 

「みんな、今回の出来事気づいてないんだ……」

 

風に促され、友奈・東郷・樹は屋上からの景色を見つめる。

 

「そっ、普通の人からすれば今日は普通の平日。守ったんだよ、みんなの日常を」

 

「よかったぁ……!」

 

「ちなみに世界の時間は止まったまんまだったから今はモロ授業中だと思う」

 

「「「「えぇ!?」」」」

 

風の発言に総士を除いた一同は思わず振り向く。

 

「ま、後で大赦からフォローを入れとくわ…っと」

 

「うわ~ん、お姉ちゃん…怖かったよぉ~」

 

泣きながら胸元に飛び込んできた樹をまるで母親のようにあやす風。

 

「よしよし、よくやったわね。…冷蔵庫のプリン、半分食べていいから」

 

「あれ元々私のだよぉ~!!」

 

「……(みんなが無事でよかった…けど、私は……何もできなかった……)」

 

そんな姉妹の微笑ましい光景を見てつい笑みがほころぶ友奈と一騎。その一方で東郷は俯きながら何かを考えこんでいた。

 

そんな中、どこかへと連絡していた総士が口を開いた。

 

「……残念だが、今日は早退だ」

 

「「「「「……え?」」」」」

 

ぽかんとした表情になる5人。

 

「総士君、どういう事なの? …っ!」

 

東郷が問いかけようとしたが、学校の正門辺りに見慣れない車の列が到着した事に気付く。

 

「あれは…大赦の……『霊的医療班』! どういうことなの?」

 

「大赦から連絡があったからだ」

 

風がその列の正体に気付いたが、総士が間を割って風にメールの内容を見せると事情の説明を始めた。

 

「大赦で呼ばれている『金色のバーテックス』に接触した、結城と風先輩、それに一騎は一刻も早く検査を受けてもらう。その他みんなもだ」

 

「お、お姉ちゃんや友奈さん、そんなにまずい事なんですか?」

 

「多分大丈夫だと思うが一応…な」

 

総士は一騎の元へ駆け寄りそっと耳元でささやく。

 

「(…いくら生命限界がなくなったといえ、今の体で何が起こるかわからない。おとなしく検査を受けろ)」

 

総士のささやきに一騎は正直に頷く。

 

こうして6人は大赦の霊的医療班の車に連れられ病院へと向かった。なお、学校などには既にフォローが手配済みなのを補足しておこう。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-讃州地方 病院-

『霊的医療班』によって即連れ去られた勇者部の一行は病院にて精密な検査を受けた。大赦の『霊的医療班』は特に金色のバーテックスに接触した友奈と風、それに一騎にに対しては重々に行われた。

 

「う~ん、詳しく調べてみたけどいたって健康体よ。総士君が懸念していた症状も今のところはないわ」

 

「そうですか……」

「よかったね。一騎」

 

検査を終えた一騎に女性医師がその結果をえ、いつの間にかそこにいる乙姫は胸をなでおろす。

 

「…で、なんでこんな所に乙姫がいるんだ。それにこの人達は誰なんだ?」

 

検査が終わった一騎と総士は病院のある一室へと通された。そこには乙姫と共に薄めの茶髪の男性がいた。

 

「…学校の方は午前中で終わったよ。ここにいるのはみんなの無事を見たかったから」

 

「そのうち一騎にも顔合わせさせようと思ってたが…この人は僕たちの『事情』を教えた協力者だ」

 

「紹介が遅れたね。私は『三好(みよし)春信(はるのぶ)』。大赦の職員で、君たちの事を知って協力している者の1人だよ。で、こちらの医師が…」

 

「……『安芸(あき)静流(しずる)』。今は大赦の『霊的医療班』に出向している身だわ」

 

「あ…どうも」

 

春信と静流が自己紹介をし会釈をすると一騎もそれにつられて会釈をした。

 

「……教えてもよかったのか?」

 

「少なくとも僕と乙姫だけではやれることも限られている。それで大赦にいた伝手もあって協力者を募ったんだ」

 

いくら前の世界でアルヴィスに携わっていた総士でもやれる事は限られている。協力者を募ったという答えに一騎はとりあえず納得した。

 

「僕はもう少しこの人たちと話す事がある…一騎、お前ははどうする?」

 

「(この場にいてもなあ…)…よく分からなさそうだしロビーで待ってるよ」

 

「そうか」

「もし頭が痛いとかの何か違和感があったら誰かにすぐ言うのよ」

「お大事にね~」

 

優しく声をかけた静流に一騎はしっかりと頭を下げ部屋を後にした。

 

 

 

「…大赦は大騒ぎだ。神樹様の神託どおりの敵に『来訪者』である君らが本格的に動き出したことによるのが主な要因だな」

 

部屋に残った総士は乙姫と共に春信から大赦の内情が伝えられた。

 

「……それが当たり前の反応でしょう」

 

「でも、おかげで専門部署設立の後押しができそうだわ。…騒動を利用する形だけどこれで勇者たち共々あなた達のサポートしやすくなる」

 

「それと……乙姫ちゃん用のシステムがもう少しで調整が終わるって連絡もきたよ。先の戦闘でのデータも捉れた事で早まったみたいだ」

 

「ありがとうございます。春信、『静流先生』」

 

乙姫が静流に行儀よく頭を下げる。しかし、総士はそれを快く思って無い様な表情である。

 

「総士、何かあるの?」

 

「いや、しかし…」

 

「もしかして、私も戦うのが嫌なの?」

 

「そんなつもりではないのだが」

 

「…そういうの『えこひいき』っていうんだよ。私だってコアとして島を守っていた身だよ! そんなので仲間外れってのはもっと嫌よ!」

 

言い返せない総士に対して乙姫が言い詰めよる。そんなちょっとした兄妹喧嘩を春信と静流は微笑ましく見ていた。

 

それに対して話題が外れないようにと静流が咳払いをした。

 

「こほん…、総士君、勇者に選ばれた皆さんはどうなされるのかしら?」

 

「彼女らには……」

 

総士は一瞬だけ間を置くと、その瞳にはある種の決意のようなものをこめ大人達に返した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「あ…」

 

「…ッ! 一騎君!!」

 

一騎は病院の廊下を歩いていると友奈と遭遇していた。

 

「そっちも検査が終わったのか?」

 

「うん。なんともなかったよ」

 

いつの間にか2人は共に歩き始めていた。しかし、友奈は珍しく黙り込んでおりいつものように話しかけてこない。一騎はどうしたものかと考えを巡らせていたが、

 

「……一騎君だったんだ…」

 

「どうしたんだ?」

 

「……初めて会った頃…あの時に助けてくれたの」

 

「あの時か…たしかに背負っては 「違うよ!」 え?」

 

「知ってるよ…あの時に本当に何が起こったのかを」

 

「…覚えていたのか!?」

 

「そうみたい…。思い出したのはあのバーテックスに捕まったときだけどね」

 

友奈は立ち止まり一騎に向き合うとふっと1回深呼吸する。

 

「……なんだが、凄かったなあ一騎君。2回も私の事を助けてくれたしまるで…」

 

「友奈ちゃん! 一騎君!」

 

「「ッ!」」

 

友奈が何か言いかけた時、2人の姿を見つけたのか東郷・風・樹が駆け寄ってきた。どうやら、いつの間にかロビー近くまでついたようで彼女らはそこで待っていたようだ。

 

「友奈ちゃん、本当に大丈夫なの? 一騎君も!?」

 

「うん、大丈夫だよ。異常なしだって~♪」

 

「俺も特には異常はないよ。何かあったらすぐ伝えてくれって言われたけどな」

 

「そう……。本当に良かった」

 

安心したのかほっと息を吐く東郷。

 

「そうだ! 風先輩は?」

 

「ヘーキヘーキ…」

 

心配そうな様子で制服の裾を掴まれている樹を傍らに風がいつもの調子で返した。

 

「みんなここにいたのか?」

 

「総士! 話の方は?」

 

「報告を受けただけだからすぐに終わった」

 

大赦の人との話を終えたのか総士と乙姫が病院の奥から出てきた。

 

「乙姫ちゃん、どうしてここに?」

 

「私も大赦の関係者だから…学校が終わった後にここにつれてこられたの」

 

「そう。…で、あんなに騒いでた総士さん…結局何もなかったけど、そこはどうなんですかね」

 

「……それはよかった」

 

風はジト目で総士を見つめるもなんとか返事を返した。

 

「そういやさ。総士、真壁あんた達本当はいったい何者なの? 乙姫ちゃんも大赦の関係者みたいだし…」

 

「う~ん。説明しときたいとこなんだけど」

 

「…外を見てみたらどうだ」

 

外を見るともう日が落ちかけ、辺りは暗くなろうとしていた。

 

「うわ~もうこんな時間か。こりゃあ部活もできなさそうね……依頼は明日にまとめて片づけましょ」

 

「そうですね。…急ぎのものではなかったのが幸いでしたね」

 

今日は色々な事がありすぎたためあってお流れにすることにした。風から翌日部室の方で話す事になり解散の流れとなった。

 

「時間も遅いから皆を送っておこう」

 

正面玄関には大赦所属の車が並んでおり、総士の計らいに友奈・東郷・風・樹は快諾した。

 

 

 

-結城家前-

「じゃね~東郷さん」

「まったね~」

 

「また…」

 

大赦の車は結城家の前に到着し下りた後、友奈と乙姫は手を振りながら東郷を見送った。東郷はいつも通りの挨拶で返すも先程から何か考え込んでいたようで若干暗く感じた。

 

「それじゃ私もこれで…」

 

「友奈!」

 

友奈が結城家へと戻ろうとしたが一騎に呼び止められそちらへと向いた。

 

「さっき何か言いかけてたんだけど…いいのか?」

 

「う~ん。遅くなったし、また今度でいいかな」

 

「そうか」

 

友奈は少し残念そうな表情で言った。彼女の気にしてないという感じから一騎は追求をやめ、言葉を変えた。

 

「あの時の事だけどさ」

 

「ん?」

 

「明日…話すから」

 

「(!?)……。うん、わかったよ! じゃね~3人共~」

 

友奈は笑顔で返すと手を振り結城家へと帰宅した。それを聞いたのか乙姫がいかにも気になるという顔で一騎の顔を覗き込むようにして聞いてきた。

 

「…で、いいの、一騎?」

 

「あぁ。…あまり隠し事をしててもな…」

 

それを見た総士は一騎に向かいあう。そして、あの話し合いの時に大人たちに伝えた考えを伝えることにした。

 

「一騎、明日僕らの事をみんなに伝えようかと考えている。敵の脅威もあるがこれ以上黙っていてもデメリットしかない。…それでいいか?」

 

一騎は総士の考えに頷き同意を示した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-市内某所 ???-

「うん…わかった…ありがとうね~」

 

ベットで横たわる少女が語りかけるようにある存在からの報告を聞いていた。そして、それを伝えたある存在は光が弾けるように消えていった。

 

「……はじまったの?」

 

「きゃ!」

 

入れ替わるように出てきた少年の声にぎょっとした声が出てしまった少女。声がした方を向くと彼女にとって見慣れた人物が立っていた。

 

「なんだ~。驚かせないでよ~!!!」

「ごめんごめん!」

 

少年が少女に謝ると姿勢を改めてベットの傍にある椅子に座る。

 

「新たな『敵』は確かにいたよ…でも、逃げられちゃったからどんな奴かは…」

 

「そっか~……。でも、『わっしー』達が無事でよかったよ~。それにしてもあの人たち強いね~」

 

少女は勇者を救った2人を賛美した。

 

「報告はこれぐらいしかないかな?」

 

「うんうん。いつも動けない私のために本当にありがとね~」

 

「気にすることはないよ、■■。さて、今日はどんなお話をしてくれるのかな?」

 

「えっとね~」

 

少年はその後時間を許す限り少女のする話を聞いていた。




色々とフラグを投下しました。そして、今作品のOTONAポジ一部登場。

●三好春信
ゆゆゆ原作キャラ『三好夏凛』の実兄。今作品のOTONAポジその1。裏で色々とやらせます。

●安芸静流
『鷲尾須美は勇者である』に出てきた担任の先生に名前をつけたキャラ。今作品のOTONAポジその2。ファフナーとのクロスなのでそれっぽい名前になってしまった。ポジション的にはファフナー原作キャラの『遠見千鶴』ポジションになると思います。

この度、公式にて苗字が確定したため修正しました(修正前:遠海→修正後:安芸)

活動報告にまたアンケートを実施しますのでご協力を。


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第9話 異世界からの来訪者

原作第2話での勇者部での説明会シーン。


-讃州中学 家庭科準備室兼勇者部部室-

 

「遅れました~友奈、東郷入ります~」

 

翌日の放課後、日直の仕事を終えた友奈が東郷と共に勇者部の部室へとやって来た。どうやら彼女たちが最後だったようで部室内には既に勇者部部員が集まっていた。

 

「その子懐いてるんですね~」

 

「えへへ、名前は牛鬼って言うんだよ」

 

「可愛いですね~」

 

「ビーフジャーキーが好きなんだよね」

 

「牛なのに!?」

 

「……共食い?」

 

友奈が頭の上に精霊『牛鬼』乗せながら樹と会話しつつ椅子に座り、東郷がその隣へと車椅子を動かした。その友奈の牛鬼についての話に樹の突っ込みが入り、一騎は見方によっては若干ブラックに聞こえる反応を返した。

 

そんな中、風が黒板に何かを描き込み、準備が出来たようで皆の方に振り向いた。

 

「……さてと、皆元気でよかった。乙姫ちゃんは総士から大赦の用件で呼び出されて来れなくなったけど…早速だけど昨日の事をアタシと総士から色々説明していくわ」

 

風が自らの描いた…友奈や樹から言えば個性的かつ現代的なアート画を使って説明を始める。簡単にまとめると、

 

・昨日の敵である『バーテックス』は合計で12体。人類が住めなくなった壁の向こうから来る事が神樹様のお告げで分かった事。

 

・『バーテックス』の目的は神樹様の破壊。以前にも襲っており追い返すのが精一杯だったが、神樹様の力を借りて勇者と呼ばれる姿に変身し人知を超えた力を扱う『勇者システム』として運用している事。

 

・注意事項としては戦闘時に展開される結界である『樹海』が何かしらの形でダメージを受けるとその分日常に戻ったときに災いとして現れるといわれているらしい。

 

「(隣町の事故はそれの事だったんだ)」

 

友奈は教室で級友が話していた事件の話を思い出した。複数台が絡む事故で2・3人と怪我人が少なからず出て、一時その処理に道路が寸断された程の大きな事故だったそうだ。

 

「派手に破壊されて大惨事、なんてならないようにアタシたち勇者部が頑張らないと」

 

「……その勇者部も、先輩が意図的に集めた面子だったという訳ですよね?」

 

「…………うん、そうだよ。適正値が高い人は分かってたから」

 

東郷からの指摘に風は申し訳なさそうに答える。東郷は総士の方へ振り向く。

 

「…総士君もなんですか?」

 

「そうだ」

 

「アタシ達は神樹様をお奉りしている大赦から使命を受けてるの。この地域の担当として」

 

「僕と乙姫がこっちの地方に赴任してきたのは担当者や勇者たちのサポートが目的の一つだからだ」

 

「知らなかった……」

 

「黙っててごめんね」

 

風は改めて今まで黙っていた事をみんなに謝った。そこに友奈は問いかける。

 

「次は敵、いつ来るんですか?」

 

「明日かもしれないし、一週間後かもしれない。そう遠くはないはずよ」

 

部室は静まり返る。またいつ来るかもしれない未知の存在からの脅威にさらに空気が重くなった。

 

「それと今回は神樹様の御神託で『金色のバーテックス』と呼ばれる敵も出てくるとあったの。それで実際に出たんだけど……」

 

「風先輩、ここからは僕が話します」

 

「……わかった。東郷、この事だけど私にも分からないことがあるから総士にお願いするわ」

 

風が友奈たちの下へ向かい。変わりに総士が一騎と共に黒板の前へと出る。

 

「ちょ、ちょっと待って。なんで真壁もそっちに?」

 

「俺もどちらかと言えばこっち側だから」

 

一騎が風に答える合間に総士が黒板に何かの画を張り付けた。

 

「あ…!」

「それって昨日の『金色のバーテックス』!」

 

総士の張り付けた画にはバーテックス『乙女座』のあとに現れた『金色のバーテックス』が映っていた。

 

「…風先輩、大赦ではこの『金色のバーテックス』の事はどこまで聞いていますか?」

 

「……大赦で聞いていたのは、『同化』と『読心』の能力事。それに出現した場合は質問に答えずに担当した勇者候補と早々に逃げる事。…それしか聞いてないわ。説明する人が相当念を押していたから唯事ではないと思ったけど……」

 

総士の質問に風は思い出しながら答えた。勇者の講習の際になぜかその話に関しては担当者が相当必死だった様子で語っていたというのが印象に残っていたからだ。

 

「(どうやら春信さん達がそっちのほうをうまくやってくれたようだな)『金色のバーテックス』は大赦の方で調べた結果、バーテックスではない()()()()()という事が実証されました」

 

「そ、その生命体っていうのは?」

 

樹が呟くように総士に問いかける。

 

「……『フェストゥム』、『祝祭』の意味を持つ生命体だ」

 

友奈たちは驚きの声をあげる。そして、総士が改めたかのように4人に問いかける。

 

「僕と一騎、それに乙姫はこの存在の事を知っているが。正直に言うと皆にとってはとても信じがたい内容だと思う」

 

部室内がにわかにざわめく。突拍子もない事を言われ4人は動揺するも風が総士と一騎に問いかける。

 

「なんでそう言えるの?」

 

「僕…いや、僕と一騎、乙姫の正体も含めての事になるからだ」

 

「「「「(!?)」」」」

 

4人はぎょっとした表情になりさらにざわめく。そんな中、一騎は友奈がこちらにじっと見つめているのに気付いた。その表情は突然の事にどうすればいいか分からず少し不安になっている様だった。

 

「大丈夫…いつかは話さなければいけないと思っていたから」

 

一騎は安心させようとわずかに微笑んで頷いた。

 

友奈が他の3人に同意を得るかのようにひそひそと話し合う。そして、代表するかのように意を決して口を開いた。

 

「……一騎君、……総士君、あなた達はいったい?」

 

一騎と総士は互いに顔を合わせると彼女たちに告げる。

 

 

 

 

 

「俺と総士、それに乙姫は」

 

「この世界ではなく。こことは違う世界からある敵を倒すためにやって来たんだ」

 

 

 

 

 

最初に総士は友奈たちとは違う世界の事を大まかに可能な限り話した。

 

ケイ素で構成された生命体『フェストゥム』、一騎たちが守り戦った楽園『竜宮島』、人類がフェストゥムに対抗するために専用開発した「思考制御・体感操縦式」有人兵器『ファフナー』の事。

 

そのあまりにも大きく信じがたい内容に友奈たちは驚くしかなかった。

 

「……まるでSFのような世界ねえ」

 

「無理はないと思う。だけど、本当の事だ」

 

「一騎さん達の精霊である。この2体が……」

 

「あぁ。これが『ファフナー』だよ。こっちの世界に来た時にこうなったみたいで随分と小さくなったけどな」

 

風が総士に率直な感想をもらす中、一騎たち傍らにはこの世界でいう精霊という立場となり現界されている『マークザイン』と『マークニヒト』に対して樹が訪ね。興味ありげにそれを見る友奈・東郷、それに彼女たちに付き従う精霊たち。

 

【…!!!…!!!】

 

「牛鬼~どうしたんだろう?」

 

そんな中、友奈の精霊である牛鬼はニヒトに対し冷や汗をだらだらと流しながら震えている。

 

「こほん、次の話をしよう」

 

次に一騎たちの世界の出来事を話す。事前に乙姫も交え話し合ったのもあってか悲しい出来事を語るのは避けた。一騎と総士が最期を迎え既に命を終えた乙姫と共にこの世界に襲来した敵を倒してほしいと()()()()に頼まれこの世界に来た事にして話を締めくくった。

 

「…以上が僕たちの正体だ」

 

「「「「……」」」」

 

部室内は静寂に包まれる。有り得ないような内容だったのか困惑しているように見える。

 

「(やっぱり4人には信じられない内容だったかな…)」

 

一騎がそう思っていると、

 

「それでも……その話が本当の事だったとしても…風先輩も…総士君も……なんでもっと早く、勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか。友奈ちゃんも樹ちゃんも、死ぬかもしれなかったんですよ」

 

聞き手にまわりここまで喋る事はなかった東郷が口を開く。暗い顔をしつつ東郷が苛立ちを込めた口調で風と総士に詰め寄っている。その声は怒りにより少し震えていた。

 

「…ごめん。でも、勇者の適正が高くても、どのチームが神樹様に選ばれるか敵が来るまで分からないんだよ。むしろ、変身しないで済む確率の方がよっぽど高くて…」

 

「そっか。各地で同じような勇者候補生が……いるんですね」

 

「…人類存亡の一大事だからね」

 

風が謝り、理由を伝えるも東郷の怒りは治まらない。

 

「……こんな大事な事、ずっと黙っていたんですか!!」

 

「黙っていたのは事実だ。だが…」

 

「……こういう事になるくらいなら…ちゃんと話してほしかった…」

 

東郷は部室から出て行ってしまった。

 

「東郷さん!…私行きます!」

 

「…っ! 総士、すまない。俺も行ってくる」

 

「……あぁ」

 

友奈がすぐさま東郷の後を追う。少し遅れて一騎が総士に一言言うと友奈の後を追った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎・結城友奈・東郷美森

 

他の部活も活動中のざわめきが聞こえる中、部室を出て行ってしまった東郷の後を追った一騎と友奈。東郷は車椅子という事もありその行動範囲は限定されるため渡り廊下にて1人佇んでいる所をすぐに見つけた。

 

「おまたせ、一騎君」

 

声をかけようとどうすべきか考えていた一騎だったが、その場からいったん外れていた友奈が戻ってきた。その手には自販機で買ってきたのかお茶のパックが握られていた。

 

「どうするんだ?」

 

一騎が問いかけようとしたが、友奈が東郷の元に駆け寄ると、

 

「…友奈ちゃん」

 

「はい、東郷さん。私のおごり」

 

いつもの笑顔を振りまきお茶のパックを東郷に手渡した。東郷は戸惑いの反応を見せる。一騎は友奈の行動に驚きながらもその推移を見守る事とした。

 

「え…なんで」

 

「さっき、東郷さん私のために怒ってくれたから…ありがとうね、東郷さん」

 

その友奈の笑顔に東郷は、

 

「ああ…なんだか友奈ちゃんの笑顔が眩しい」

 

恥ずかしさのあまりなのか顔を抑えながら反応を返した。友奈は頭の上に乗っている牛鬼と共にとぼけた表情を見せる。

 

東郷は自らの気持ちを吐露する。

 

昨日の戦闘の際に東郷は戦闘の恐怖に震え勇者へと変身が出来なかった事で勇者部の役にたてなかった自責の念が生まれてしまった。さらに大赦の使者である事を隠していた風と総士に反感した事でその苛立ちを抑えられずにただ感情的にぶつけてしまった。

 

落ち着き気持ちが整理されたことでそれが過ちだと気付いたが、

 

「それにね…総士君や妹の乙姫ちゃん、友奈ちゃんの幼馴染の一騎君の秘密まで知ってしまって。あんなこともあったから勇者部で過ごしたみんなとの日常が消えてしまいそうで……それで怖くなってしまったのもあって……」

 

友奈が頷きながら東郷の告白を素直に聞き入れる。

 

「友奈ちゃんは皆の危機に変身したのに…国が大事時なのに…私は…私は……勇者どころか…敵 前 逃 亡!」

 

「わ~、東郷さん! そうやって暗くなってたらダメー!!!」

 

その吐露に歯止めが効かなくなったのか東郷の濃ゆい一面が出てしまい暗い言葉ばかりが続いてしまった。友奈は必死にそれを止め、なんとか東郷を落ち着かせた。

 

そして、東郷は一息付いて問いかける。

 

「…友奈ちゃんは風先輩や総士君達が隠していた事について怒ってないの?」

 

「んー、そりゃあは驚きはしたけど。でも、風先輩や樹ちゃん、総士君や乙姫ちゃん、それに一騎君に出会えたのもこの適性のおかげだったら嬉しいかな」

 

友奈は自分の思った事を東郷に出していた。

 

「……私は…中学に入る前に、事故で足が全く動かなくなって、記憶も少し飛んじゃって。学校生活送るのが怖かったけど、友奈ちゃんと一騎君がいたから不安が消えて、勇者部に誘われてから、学校生活がもっと楽しくなって。……そう考えると、適正に感謝だね」

 

「これからも楽しいよ。ちょっと大変なミッションが増えただけだし」

 

「そっか、そうだよね。友奈ちゃんって前向きだね」

 

さっきまで暗かった東郷の表情が笑顔がほころぶ。それを見て友奈もつられて笑顔になっていた。すると扉が開く音がして2人は渡り廊下の勝手口の方を見た。

 

「っ! 一騎君」

 

「東郷、もう大丈夫なのか」

 

「……うん」

 

一騎が近づき東郷に気をつかいつつも声をかけた。東郷が申し訳なさそうに声をかける。

 

「さっきはごめんなさい。話の途中だったのに、2人にあんな事を言ってしまって」

 

「気にしてないよ。…それに俺もお互い様だ。こうして秘密を隠してきたんだから」

 

「ううん、それは気にしてないわ」

 

「東郷さん! 一騎君も暗くなっちゃってるよ!」

 

友奈の突っ込みに東郷はあっという表情するも一騎もつい頭を下げてしまった。

 

その時であるドンッ!という大きな衝撃が周囲を包んだ。

 

「なんだ?」

 

一騎が辺りを見渡すと、外で練習に励んでいた運動部の人たちの動きが止まっていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:皆城総士、犬吠埼姉妹

 

「……甘かったかなアタシ」

 

一騎と友奈東郷の後を追い出て行ってから風がやっと口を開いた。隠し事をしてしまった事で東郷があそこまで怒ってしまった事でさらに落ち込み。そのため部室内の雰囲気は暗くなっていた。

 

樹はどうすればいいかわからずオロオロと風と総士を交互に見つめている。

 

「……後悔しているのか?」

 

「…うん。総士が言ったとおりにこういう時が来ちゃったわけけど…。なんというか、ずっしりではなく潰されるほど重くくるなんてね…。こうなるんだったら最初から説明しておけば良かっただなんて…」

 

「今回のは結果的にそうなってしまっただけだ。その決断が甘かったという見通しがあったかもしれないが、無駄だったという訳ではないと僕は思うが、…で、君はどうしたい?」

 

総士は敢えて厳しく風に接する。

 

「どうするって?」

 

「東郷の事だ」

 

「たしかにああいう結果になってしまった。だが、君はこの地区の勇者候補の担当者なんだろう? 起きてしまった事は仕方がないし、部長としても放っておけないはずだ」

 

「…人が落ち込んでいるに手厳しいわね。まるで、そういう事が手慣れているみたい」

 

「僕もこういう立場にたっていたからな。何度も人間関係で衝突した事もあったし、時には今みたいな事もあった。…結局は向き合ってみないと和解もできないし、理解することも出来ない。ずっと後悔して過ちを犯すくらいなら僕はそうする」

 

これには総士の過去も関係している。

 

指揮官として合理的に非常な対応を努めてしまったため仲間から孤立し、一騎だけなら自分の苦しみを理解してくれると思っていたが島から出て行ってしまった出来事もある。後に和解する事は出来たが、この世界での人類の護り手に選ばれた彼女たちにそういった事をさせないと不器用ながらも語った。

 

「そうね…分かった。アタシなりに東郷と向き合ってみるよ」

 

風は樹に特技のタロット占いを頼むと風の精霊である犬神を相手に見立て謝罪の練習を始めた。彼女なりに東郷と向かい合ってみることにしたのだろう。

 

総士はやれやれといった表情で佇んでいると、

 

「…あれ?」

 

樹がタロットカードをめくろうとしたが、その一枚がめくる途中で空中に静止した。

 

そして、辺りにアラーム音が鳴り響くと犬神が風の端末を運んできた。

 

「…まさか2日連続でバーテックスが!!!」

 

災厄は勇者と異世界からの来訪者の平穏を許すはずがなかった。




一騎たちの立場を勇者部のみんなに一部バラしました。隠していてもデメリットしかないと思いますので。

ここからしばらく原作2話の展開が続きます。その話が終われば次章に突入しにぼし大好きのツインテールのあの子回となります。

以下、次回予告。
「待っててね。倒してくるから」

連日での襲来、バーテックスは勇者たちの脅威に戦力を増やしていた。

「3体同時に来たか……」

「お…多すぎない…」

「なんとかしないと!」

そんな中、祝祭が再び勇者を襲う。

「一騎、『フェストゥム』の狙いは!」

「友奈ぁ~!」

「友奈ちゃんを…いじめるなぁ~!!」

次回、第10話『三つ巴』

【見せてもらったよ。僕と違うミールの子たちよ…なら、これはどうかな?】

…【あなたはそこにいますか】


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第10話 三つ巴

原作第2話、戦闘回。

2016/3/20:誤字&表現修正


――― 樹海警報より前、東郷が部室から出て行った頃。

side:皆城乙姫

 

今日は勇者部のみんなに事情を説明するつもりだったんだけど春信から私用のシステムが完成したとの事で学校を早退しそちらの方へと出向く事になっちゃった。今はその帰りで大赦の車で移動中。

 

「すまないね。学校を休ませてまで付き合わせてしまって」

 

「ううん。構わないよ、春信。……先生や友達にはちゃんと話しておいてるから大丈夫だよ」

 

私が大赦の関係者である事は私の周りの人にはもう話してある。この事を話した時には…、

 

『乙姫ちゃん、大赦の巫女さんだから大変だね~』

『私達も協力するよ。休んだとかのフォローは任せてね~』

 

とこんな感じで意外であっさりと受け入れられた。この世界の信仰もあるけど芹ちゃん達みたいにいい人で良かった…かな。

 

「いい友達をもったね」

 

春信が私を気遣って声をかけてくれる。前に聞いたところ溺愛している妹がいるそうで、それもあってか私に対しても優しくに接してくれるそうな。……その妹とは今は色々あって疎遠気味でへこんでいることもあるけどね。

 

「厳しい事言うねえ…」

 

だけど、春信は総士と違ってずっと器用だから話せば妹さんも分かってくれるはずだよ。…やっぱり、兄妹の仲が悪いのはよくないよ。

 

「今はあちら側になってしまったけど…いつかきちんと話して、仲直りをしたいかな。さてと、話を戻そう。乙姫ちゃん用のシステムはご要望通りの性能の再現できたし、ご指定の機能もつけたから仕様は目を通しておいてね。…かなり複雑そうだけど問題は?」

 

…大丈夫だと思うよ。前の世界ではもっと()()()()()も動かしていたから。あの時は出来ることは少なくてこれでやっと……。

 

「―――っ!止めて!」

 

私の一声で運転手が車を路肩に止める。

 

「どうしたんだい?」

「(!?)……来る!?」

 

私がそう言うと、車内に突如アラーム音が鳴り響く。春信がその元が私の端末の物と気づくと、只ならぬ表情で叫んだ。

 

「すぐにドアを開けろ! 乙姫ちゃんきを……」

 

「春信!!」

 

春信がそう言いかけると運転手共々固まってしまった。まさか連日で来るなんて……。

 

「……急がなきゃ!」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

No side

-樹海-

「この感じ、また敵が現れたって事だよね…」

「そういう事になるな」

「……うん」

 

樹海の世界に投げ出された友奈・一騎・東郷は辺りを見渡しながらそう呟く。友奈は迫りくるバーテックスを一度見上げるとすぐに手元の端末のアプリに触れた。

 

「はあああ、変身!」

 

友奈が変身ヒーローの如く叫ぶと敵に対抗するための力、『勇者』の姿へと変わる。

 

「東郷さん、待っててね。倒してくる」

 

「(!?)待って、私も……」

 

東郷の脳裏に前回の戦いが呼び起されて言葉を詰まらしてしまう。恐怖心もあるが大事な友達が戦いの場に行ってしまう。そんな気持ちにかられていた。東郷は友奈と一騎の事を心配なのか悲しげに見つめている。

 

「……無理するなよ」

 

「大丈夫だよ、東郷さん」

 

呼び起された恐怖心に震える東郷の手を友奈が優しく握る。コート姿の一騎も友奈の隣につきに優しく語りかける。

 

東郷は不安と恐怖に震えながらも2人に言葉を返す。

 

「…………友奈ちゃん…無事に帰って来てね。一騎君…友奈ちゃんや勇者部みんなの事をお願いします」

 

「…頑張るよ」

「……行ってくるね」

 

東郷は2人をなんとか送り出した。それが弱い自分が出来る数少ない役割をしなければならないことになんとも歯痒い思いをしながら。

 

東郷の頼みに一騎は頷くと友奈と共に飛翔した。

 

 

 

【一騎、聞こえるか?】

 

【総士か!】

 

友奈と共に樹海を進み、マップに表示されている総士・風・樹の元へと向かう一騎だったが総士からクロッシングでの思念が入る。

 

【そのまま進みながら聞いてくれ。敵は今のところは3体。いずれもバーテックスでタイプは『蠍座』、『蟹座』、『射手座』だ。現在『蠍座』、『蟹座』が接近中で距離を置きながら追従する形で『射手座』。距離を置いている『射手座』は遠距離攻撃を持っているからのこの布陣だろう】

 

【っ! バーテックスの情報があるのか!】

 

【大まかだがな。戦略としてはで先行している『蠍座』、『蟹座』を勇者達に撃破させるために一騎にはそのサポートを頼みたい】

 

【バーテックスには通常兵器が効かないのだろ。ファフナーの武器が効かなかったら】

 

【その点は問題はない。こちらはミールのコアの干渉もあって性質が変わっているからなダメージは与えられる。が、本体である御霊の露出には手間取るだろう。よって、勇者達の封印の儀を使うのが一番だ】

 

【…まあ、あれを見ればな】

 

【(それもあの機能さえ使えばそれは解決するが、奴らの事を考えると今は出したくない事もあるがな)あぁ。それほど勇者たちの力は凄まじい事は分かる。だが、それ以上に戦力としての問題を抱えている】

 

【どういう事だ?】

 

【選ばれた少女たちはほとんど素人だ。一騎、僕たちもかつてそうだっただろう? いくら力があっても…知識を植え付ける等をして準備してきたとしても…最初はな……】

 

それに関しては一騎も思うところがあったのか総士に同意した。力があってもその力の振り方を知らなかったため始めの事は常に苦戦を幾多も余儀なくされた事があったためである。

 

事実、勇者に選ばれていただけの少女が訓練も積まずにそのまま戦いに行くのは2人からも無謀すぎると思えた。

 

【…だから、僕と一騎で彼女たちのサポートをするまでだ。一騎、フェストゥムはまだ姿を見せないならそれまでは勇者たちの援護。

 

…ただし、状況に応じていつでも動ける様に…できるか】

 

【そうだな。戦いに慣れているのは俺らだけだからな…分かった。やってみる!】

 

一騎は心で総士の考えに肯定の意を示す。そして、友奈と共に他のメンバーとの合流を果たす。2人の位置は風・樹・総士がいる位置とちょうど挟み撃ちとなっていた。

 

「友奈・樹、とりあえず遠くの奴は放っておいて、まずはこの二匹纏めて封印の儀に行くわよ! …それと総士と一騎は…」

 

「一騎には風先輩たちをサポートする形で動かせます。僕らは封印の儀とかはできませんので」

 

「分かったわ」

 

総士の意外な応対に一騎はクロッシングでの思念で疑問をぶつける。

 

【いいのか? 友奈達に指示を出さなくて】

 

【指揮系統を複数すればデメリットが多い。それなら勇者の指揮を風先輩に任せて僕達がフォローしたほうがいい】

 

風は端末を消すと大剣を構える。友奈と樹は指示に従い戦闘態勢に入ろうとした。その直後、一番遠い位置にいる射手座のバーテックスの上部の口が開かれ、大きな矢が番えられそれを放った。

 

「お姉ちゃん!!」

 

放たれた矢の速度は凄まじく撃たれてからでは回避できない程だ。狙われた風だったが精霊によりその一撃を防いだもののその衝撃によって空中に弾き飛ばされる。なんとか風は態勢を立て直すと根の上に着地した。

 

追撃といかんばかりに射手座はその身を上に揺らすと下の口から無数の光の矢を撃ち出す。矢の雨は風と樹にに降り注ぐ。姉妹は咄嗟にその場から離れた。

 

「風先輩! 樹ちゃん! なんとかしないと!」

 

「(!?)友奈、こっちだ!」

 

一騎は友奈の手を引っ張る。すると友奈のいた位置に矢が降り注いだ。矢の雨を回避した一騎はレールガンを構え、射手座に狙いをつけるとその引き金引いた。

 

放たれた超電磁の弾丸だったがそれは突如板状の物体により防がれた。蟹座の周囲に浮遊する反射板ともいえる物体を使い、矢の雨を反射させた多角攻撃を展開し始めた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:謎の存在

 

樹海の世界で、この戦いを静かにかつにたりとした笑みを浮かべながら見ている少年の姿をしたものがいた。

 

【ふーん、連日で戦力の投入ねー。力をつける前にやるなんて中々やるじゃん。それじゃあ、もう少し盛り上げてみようかな】

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎・結城友奈

 

射手座と蟹座の連携に分断されてしまいはぐれてしまった一騎と友奈は矢の雨を受けないように走っていた。逃げながら一騎は総士に連絡を取る。

 

「分断されたか、【総士!】」

 

【こっちは風先輩と樹と退避済みだ】

 

聞くと総士も狙われ風と樹と共に根の間に潜ってやりすごしたらしい。

 

【蟹座の反射板の影響で動きづらい。ここまでの連携が密とは厄介だ……。それにさっきので蠍座の位置が見当たらない。そっちで見てないか?】

 

【いや、こっちでも見かけない。…狙撃しようにも俺の腕じゃあ止まらないとレールガンで撃てないし。この攻撃ではうかつに接近できないぞ】

 

【……ちぃ、見つかった】

 

総士の思念が一時的に切れる。クロッシングは繋がってるから無事だと思われるが、おそらくは蟹座に見つかり攻撃から避難しているためであろう。

 

「(蠍座がいない…か。……この辺りにはいるはずなんだけどな)」

 

ふと一騎は友奈を見ると走りながらもキョロキョロと辺りを見渡しているのに気が付いた。恐らくは他のみんなの事が心配なのであろう。一騎はみんなの無事を伝えようとした。

 

その時、地面が唐突に揺れた。

 

「え?」

 

「(まさか、隠れてた)友奈ぁー!!」

 

一騎は地面の揺れを何とか踏ん張りつつも友奈を咄嗟に抱えその場から離れようとする。しかし、足元から蠍座の尻尾が現れ、避けきれず2人の体を突きあげる。空中に投げ出された所を蠍座は2人纏めて横薙ぎに振りぬいた。

 

「がぁっ!!」

「きゃぁ!!」

 

「友奈ちゃん! 一騎君!」

 

2人は東郷の近くまで弾き飛ばされる。

 

「い…つっぅ……」

 

一騎は痛みなんとか堪えながらも立ち上がる。手元にはルガーランスが具現化されておりそれでなんとか防いだようだ。すぐに友奈の方を見る。怪我などはないようだが蠍座の攻撃の衝撃で気を失いかけていた。

 

「「(!?)」」

 

ふと見上げると蠍座が接近して尻尾を振り上げた。一騎はすぐさま防御態勢に入った。

 

【!!!???】

 

蠍座の攻撃が突如止まる。見れば、その真上から光り輝く玉が6つも接近していた。それが弾け金色の正体が現れる。

 

「フェストゥム!!」

 

前回の戦闘で現れた新型のフェストゥムである。

 

「…これは…きついな…」

 

一騎は友奈と東郷の姿を目配せる。彼にとって分の悪すぎる展開となってしまった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:皆城総士・犬吠埼姉妹

 

「……ちぃ、見つかった」

 

蟹座に再び見つかったため矢の雨からの退避を余儀なくされた3人は再び走り出した。

 

「どうするのよぉ~これぇ~!!!」

 

「(!?)あぁ! 友奈さん、一騎先輩!」

 

樹が異変に気付き指を指す。それに気付いた総士と風もその方向を見ると一騎と友奈が蠍座の一撃を喰らう瞬間であった。

 

「ぐぅ…!」

 

「総士!」

「総士先輩!」

 

「……大丈夫だ。ッ!」

 

すると、総士が何かに堪えるように顔をしかめる。風と樹が駆け寄ろうとした時に3人の周りを取り囲むかのように3つの光球が出現した。それが弾け、その正体が現れる。

 

「(!?)フェストゥム!」

「え…えぇぇぇ! お…多すぎない…」

 

3体のフェストゥムが徐々に3人ににじり寄ってくる。

 

「(乙姫はいないが仕方ない)……一時的に、ジークフリード・システムを『分割統轄モード』へ移行」

 

総士が端末を操作するとガルム44と呼ばれるライフルを具現化させる。

 

「って、総士。あんたも戦えるの!?」

 

「この状況じゃあ仕方ない」

 

ガルム44を構える総士。だが、

 

「(!?)また来ました」

 

蟹座から矢の雨の反射攻撃が降り注いだ。3人は咄嗟に避ける。

 

【【【!!!】】】

 

しかし、それは3体のフェストゥムにも降り注がれる。さらにその攻撃は何故かフェストゥムに続けて行われた。

 

「同士討ち!?」

 

「ど…どうなってるんですか?」

 

「(どういう事だ? あのバーテックスはフェストゥムを明らかに狙っている…まさか)ともかく、態勢を立て直すぞ」

 

総士が冷静に状況を分析しながらも3体のフェストゥムにガルム44の弾幕を浴びせる。バーテックスの援護もあってか2体程消滅した。

 

【総士!】

 

【一騎、どうした】

 

【フェストゥムが現れた! 何故か友奈を狙ってる! 蠍座にも狙われててやばい!】

 

【なんだと!】

 

総士は動揺するも一騎の言ったある事に疑問をもった。

 

(一騎を無視して結城を狙ってる? ……前回の戦闘や2()()()の事もある…まさか!)

 

総士はその疑問を並列思考で考え確信を至るも銃身下部に装備されているミサイルで残った1体も消滅させた。

 

【一騎、フェストゥムの狙いは!】

 

しかし、ここで一騎からの思念が切れてしまった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:東郷美森

 

友奈ちゃんと一騎君がバーテックスの攻撃で弾き飛ばされた。その一撃で今友奈ちゃんは動けなくなっている。さらに、総士君が言ったフェストゥムまで私達の前に現れた。

 

その窮地に一騎君は、

 

「くそぉ!」

 

友奈ちゃんを守るために彼女を抱えながらフェストゥムの触手攻撃を槍で切り裂き捌いている。だけど、抱えている分制限が出来てしまって思ったように戦えてない。それでも3体は仕留めたからそのまま離脱したいところなんだけど、

 

「はぁ…はぁ…しまっ!」

 

ついに疲れが出てしまって膝をついてしまう。そこに蠍座の尻尾でも攻撃がとんでくる。

 

「(!?)お前…」

 

それを友奈ちゃんの精霊が必死で防いでるも蠍座は何回も針や尾で叩きつける。そのたびにピンク色の閃光が散る。見れば防ぐのが辛そうだ。

 

それを目の前に見せつけられた私は痛めつけられている友達の姿を見て思い出す。足が不自由になって記憶を一部失って不安になっていた私に手を差し伸べてくれた2人の事を……。

 

「…やめろ」

 

自然と私にかられていた恐怖心以上のある気持ちが芽生える。

 

「……やめろ!」

 

救ってくれた人が酷い目にあっている。たしかに怖いけど、それ以上に失うのも…嫌!

 

「友奈ちゃんを…一騎君を……いじめるなぁぁぁぁぁ~!!」

 

大切な人を…みんなをこれ以上傷つけないで!!!

 

「(!?)東郷、逃げろ!!!」

 

……蠍座の尾が私に襲い掛かってきたけど、目の前に卵の形をした存在が現れ攻撃を防いだ。これが…私の精霊…。

 

「東郷さん…」

 

「私、いつも友奈ちゃんや一騎君に守ってもらってた。……だから、次は私が勇者になって、みんなを守る!!」

 

神樹様に私の戦う意思を示しアプリに触れる。すると私の姿が青のインナーに白を基調とし帯が垂らされた衣装を纏う。朝顔の刻印が私の胸元に刻まれた。

 

「綺麗……」

 

変身が完了したと同時に狸のような精霊も現れる。いつの間にか右手には拳銃が握られていた。

 

(どうしてだろう…変身したら落ち着いた。武器を持っているから?)

 

私はその拳銃で蠍座の針を撃つ。放たれた弾丸は針をあっさりと砕いた。

 

「もう、2人には手出しをさせない!」

 

金色の体をもったフェストゥムも私に迫る。私が手をかざすと今度は青い火が揺らめく精霊も現れると2丁の銃が具現化される。

 

「心を読むけど、これなら!」

 

銃から散弾が放たれる。フェストゥムも広い範囲に攻撃する散弾をさすがに大きく避ける。避けられたけど蠍座には当たり、その身体に無数の弾痕を穿つ。避けたフェストゥムは私に迫るけど、

 

【【【!!!???】】】

 

一騎君が1体に槍で切り裂き、残り2体を長銃の2射で仕留めた。切り裂いた個体には槍を変形させ内部から撃ち貫いた。

 

私の姿に気付いたのか友奈ちゃんと一騎君が歩み寄ってきた。

 

「東郷さ~ん!」

「助かったよ、東郷。それに、その姿は」

 

「うん、私も『勇者』としてみんなと一緒に戦います!」

 

「(!?)うん!」

 

side out

 

 

 

――――――――――

 

 

 

No side

 

「あーもー! しつこい男は嫌いなのよ!」

 

「モテる人っぽく避けてないでなんとかしようよ。お姉ちゃん!」

 

「(そもそもああいうのに性別はあるのか!?) 【総士、蟹座から離れてくれ!】…ん?」

 

一騎からの思念と同時に蟹座の上に蠍座が落ちてきた。その勢いに蟹座は押し潰された。

 

「よっと、そのエビ運んできたよ~」

 

「サソリ「でしょ!」だ!」

 

風と総士から突っ込みが飛ぶ中、東郷と一騎が友奈の両隣りにやってくる。足が不自由な東郷は衣装の4つの帯が足代わりとなっている。

 

「東郷先輩…!」

 

「遠くの敵は私が狙撃します」

 

「…東郷、戦ってくれるの」

 

「はい…風先輩、総士君、部室では言いすぎました。ごめんなさい……」

 

「……アタシの方こそ…ごめんなさい」

 

「……僕も気にはしていない。それよりも今はバーテックスを」

 

「…はい。援護は任せてください!」

 

「…わかったわ、東郷。みんな散開、手前の2匹まとめてやるわよ」

 

風の指示で友奈・東郷・樹は動き出す。

 

「一騎、東郷と共に射手座を。僕は3人の援護だ」

 

「お前、指示しなくても戦えたのかよ」

 

「時には前線に出ることもおり込み済みだ」

 

一騎や総士も援護のために動き出す。

 

「こいつがみんなを苦しめた……おとなしくしてて!」

 

東郷は銀色の長銃を具現化させるとうつ伏せとなる。射手座が仕留めようと大型の矢を撃ってくるも彼女は冷静に引き金を引き放たれた大型の矢を撃ち落とす。そして、射手座に狙いを定めると連射での正確無比な狙撃を何発も叩き込んだ。

 

(東郷のやつ…遠見並の腕前…だな)

 

一騎は率直な感想を呟きながらも配置についた。その間に友奈・風・樹は蟹座・蠍座に対し封印の儀を発動。光に包まれた2体から本体である御霊が転げ落ちた。

 

友奈は蠍座の御霊に目掛け拳を突くが、突くたびに御霊はすばやく避けて捉えられない。

 

「かわって、友奈ぁ~はぁああ! 点がダメならぁ~! 面の攻撃でぇ~!」

 

風は大剣を巨大化させ刃ではなく大剣の腹で殴り飛ばす。飛ばされてバーテックスの一部に衝突した御霊を総士が長剣(レヴィンソード)で斬りつける。

 

「ッ! 浅いか……!」

 

御霊は浅く斬られ罅が入るも今度は空中に逃げた。

 

「だったら、最後は押しつぶ―――す!!!」

 

風は上段に大剣を構えると御霊を地面に叩き落としそのままの勢いで押し潰した。

 

「ひとぉぉぉつ!!! 次!」

 

「次は……あれれ~!」

 

友奈が蟹座の御霊に目をやると彼女の目の前で御霊が増殖した。

 

「厄介だな…」

 

「あの私に任せてもらってもいいですか…!」

 

樹は右手の飾りを前にかざすとそこから放たれた緑色の糸が増殖した御霊を捉える。

 

「数が多いなら…まとめて、ええぇい!」

 

そのまま引っ張り上げると糸の結界に捉えられた御霊を縛り上げる。縮まった糸の結界は増殖した御霊を豆腐のようにスライスしていき、最後には本体がバラバラになった。

 

残った蠍座と蟹座の抜け殻ともいえるそれは砂となり分解され始めた。

 

「ナーイス樹ぃ~! あと1体よ!」

 

《精一杯援護します!》

 

「次で最後だよ! 封印開始!」

 

東郷と一騎が狙撃で射手座の動きを止めている間に最後の封印の儀を展開。しかし、出てきた射手座の御霊は射手座の抜け殻の周囲を目にも止まらない速さで周回し始めた。

 

「この御霊…動きが早い!」

 

「…ッ!」

 

一騎がレールガンでの1射を放つも高速で動く御霊を捉えられずに外れた。

 

(さすがにうまくはいかないか…)

 

「一騎君…十分よ……」

 

東郷が引き金を落とすと銀色の長銃から弾丸が放たれる。それは寸分たがわず一撃で御霊を撃ち抜いた。御霊は砕け散り、射手座の抜け殻も砂と化した。

 

「東郷先輩…!」

「1発で撃ち抜いた…!」

 

「状況終了…みんな…無事でよかった…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:謎の存在

 

【あは。中々やるじゃないか】

 

戦闘の一部始終を見ていた少年のような存在が勇者たちに賛美を送る。

 

【勇者たちの戦いも良かったけど、これでやっと判明したよ】

 

その視線は一騎と総士の方に向けられる。

 

【見せてもらったよ。僕と違うミールの子たちよ……なら、これはどうかな?】

 

少年のようなものは右手を翳す。すると、砂となったバーテックスの残骸が集まり何かが生成し始められた。もう片方の手もかざすと翡翠色の物質が出現し、その生成された何かに物質が溶け込んだ。




ゆゆゆ界のマークゴルゴである東郷美森の大覚醒回でした。

余談ですが、ゆゆゆのキャラソンの乃木園子の曲名が『EXODUS』ねえ。もしや公式はこのクロスを・・・いや、話がそれました。

以下、解説
●総士の通常時の戦闘スタイル
スパロボでのマークアインの武器とスタイルと使用。RoLでは起動実験で総士はマークアインを使っていたためでもある。

先の事ですが、一騎と共に切り札として例のアレになりますよ。

●乙姫の行方
次回では大活躍の予定。

以下、次回予告
「ソロモンに応答…また新型だと」

「攻撃が……」

謎の存在が使わした新型に苦戦する一騎たち。

「このまま放っておくなんて…私にはできないよ!!!」

何もできない勇者たち。

【総士、あなたはまた選ばなければいけない時がくる】

(この事なのか、乙姫…織姫…)

総士が下した決断は?

次回第1章最終話、第11話『クロッシング』

【私も戦うよ…新たな居場所を守るために】

…「「「「私達……はここにいる!!!」」」」


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第11話 クロッシング(前編)

第11話は3部構成となります。これはその前編となります。

2016/6/18:一部修正(紛らわしいので乙女座をフェストゥムに統一)


「(!?)……戻らない?」

 

3体バーテックスによる連日の襲撃、その最中にフェストゥムまでも襲来という事態に見舞われたが、東郷が勇者になった事で窮地を脱し殲滅に成功した。しかし、樹海化は解けずにいたせいか風・樹・友奈の3人は困惑した表情で辺りを見渡している。

 

「まだ敵がいるって事なんでしょうか……」

 

一騎と共に合流した東郷が辺りを見渡しながら呟いた。

 

4人は一騎と総士の方を見ると警戒を解いていないようで総士に至っては次々と出る画面の情報を処理している。

 

「きゃぁ! な、何!?」

 

樹が驚く中、警報音と共に『SOLOMON』の文字が描かれた画面が現れ、既に開かれていた画面が赤く染まる。

 

「(ソロモンに応答…また新型だと……)そのまさかだ…新手だ!」

 

「みんな! あれを!」

 

友奈が声をあげ他のみんなはそちらの方へと見ると、壁に近い海とも呼べる場所で、

 

――― 砂のようなものが渦を巻きながら集まり何かが形成し始められていた。

 

「「「「「「な!?」」」」」」

 

形成されたその正体を見て一同は驚愕した。

 

「う…嘘。あれは昨日の」

「何であんなのがまた出てくるのよ」

「お…お姉ちゃん、あれって…」

「『乙女座』のバーテックス!」

 

昨日、勇者の初陣にて襲来した『乙女座』のバーテックスとうり二つであった。

 

「でも、色が違います!」

 

「(!?)あの個体から『フェストゥム』と同じ反応を示している」

 

その色合いは白が基調だったのが金色が基調となっている。未知の存在が迫る前に総士は一騎への思念での会話を始める。

 

【一騎、連戦で辛いが……】

 

【大丈夫だ。俺はまだやれるよ】

 

【……あの存在、恐らくはフェストゥムだがお前に任せる】

 

【分かった。けど、友奈たちはどうする?】

 

【どの道フェストゥム相手では無理だ。それと…】

 

総士は一騎に勇者たちを出させたくはない理由を一騎に話した。

 

【……それは俺も気になってはいた……そういうことならみんなを頼む】

 

一騎は総士に告げるとその場から飛翔し友奈達から離れた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:前線

 

総士が友奈たちを下がらせている間、一騎は新たに現れたフェストゥムと対峙していた。

 

【フェストゥムがどこかでバーテックスについて学んだ……姿なのか】

 

「総士、友奈たちは!?」

 

【あぁ。今のところは抑えている。彼女たちには酷だがフェストゥムの恐ろしさは創造を超えているからな。……未知のタイプで不覚的要素も多い。消耗しきる前に片づけるぞ】

 

一騎はバーテックスの連戦で消耗しており、相手は未知数だ。結局は出たとこ勝負しかない。

 

【!?】

 

フェストゥムはその体の構成が終わると一騎の姿に気付いたのか、いきなり尾から漆黒の卵状の塊と飛ばしてくる。

 

「昨日のやつと同じ?」

 

塊に狙いを定めるとレールガンで撃ち落とす。撃ち落とされた塊は膨れあがり黒い球体となって散った。

 

【ッ!? ワームスフィアの爆弾か!】

 

「だったら!」

 

地面を踏み込み駆け出し接近する。フェストゥムは塊を複数飛ばしてくるが、一騎は進路上の邪魔となるものをハンドガンに持ち替え撃ち落とし、避けやすいものをあっさりと避ける。

 

フェストゥムとの距離が近づと今度は塊の量を増やし直撃は避けられない程の弾幕を張る。

 

【!?】

 

一騎の傍らにいるザインが前に出て右手を前へと突き出すと塊が当たり炸裂しワームスフィアに包まれる。だが、その黒い球体から無傷の一騎が飛び出してくる。ザインがワームスフィアの塊を防いだようだ。

 

そして、残りも距離があっさりと詰まり肉薄するととルガーランスを乙女座の体を刺し貫こうと叩き込む。

 

しかし、その切っ先は突如発生した不可視の障壁に阻まれる。接触した影響で障壁とルガーランスとの間に火花が飛び散る。

 

「硬てえ……けど」

 

一騎はルガーランスを押し込むと障壁はひび割れていく。するとねじ込まれた切っ先が障壁を貫通し砕き、その無防備な乙女座の中心部あたりへと突き立てれる。

 

結晶体(コア)ごと体を吹き飛ばせ!!!】

 

ルガーランスの刃状の砲身が乙女座の体の傷口を広げ、一騎は武器のトリガーを引くとフェストゥムに弾丸を叩き込んだ。叩き込まれた弾丸が炸裂しフェストゥムは爆炎に包まれる。

 

「「やったッ!」」

 

必殺の一撃がきまった事で喜ぶ友奈と風。それに対し息を飲み、静かに見つめる東郷と樹。

 

爆煙から一撃を放った一騎が現れる。内蔵された一撃を放った影響か空中へと投げ出されていながらもその瞳は爆炎に巻き込まれた乙女座の方を見ている。

 

その時である。爆煙の中からしなる何かが横薙ぎに振り払われた。

 

「(!?)」

 

空中にいたためほぼ無防備な状態で横薙ぎの一撃を受けてしまう。ルガーランスを咄嗟に盾代わりにするも巨大な何かの一撃は無情にも一騎の体をピンボールのように弾き飛ばしてしまう。

 

「――― つぅ!!」

 

何とか受け身を取り地面へと着地しブレーキをかけその勢いを殺そうとする。地面を焦がしながらも何とか踏み止める事が出来た一騎はその正体を見た。

 

煙が晴れた事により乙女座の全容が現れる。ふと見ればマフラーのように身にまとっていた布のような部分がぶら下がっており横薙ぎの一撃は恐らくそれだという事が理解できた。そして、弾丸が叩き込まれた影響で乙女座の身体は抉られておりその部位から砂が流れている。

 

しかし、フェストゥムの抉られた部分に翡翠色の結晶が包まれるとそれが砕けると体は再生され元の姿に戻ってしまった。

 

「(!?)攻撃が……」

 

【再生能力……! それも瞬時にだと!】

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:後方

 

「ちょっと! これってまずいんじゃない!」

 

乙女座のバーテックスを模したフェストゥムと戦闘に入った一騎だったが状況はよくはなかった。何度もレールガンでの銃撃を叩き込む、ルガーランスによる斬撃や刺突を加えても片っ端から再生されてしまう。

 

それにより乙女座は一騎に攻撃を加えつつも勇者たちの方へ向け進行し始めており、現在は総士の指揮の下一騎がなんとか踏ん張っているような戦況であった。

 

「総士君、私達も!」

「このままだと一騎先輩が!」

 

「だめだ!!」

 

「……どういう…ことなんですか!?」

 

友奈と樹を声を荒げ強く窘める総士。あまりの豹変に2人は押し黙るもそれに疑問をもった東郷が尋ねる。総士は思い切って勇者たちに理由を打ち明けた。

 

「まずは、フェストゥムの読心能力を防げない君達勇者ではかえって足手まといになる」

 

フェストゥムが持つ読心能力の前ではあらゆる戦術や考えが読まれてしまう。常に先手をうたれ不利になるのは目に見えている。それを防ぐことが出来なければ対等に戦うことが出来ない。

 

「それに昨日の戦闘、今回結城が狙われた事でフェストゥムの目的に確信がもてた。奴らの狙いは……君達、神樹に選ばれその力をもった勇者との同化だ!!」

 

基本的に固有の意志を持たないフェストゥムだが、それを統括するミールの指示で動いているためある程度の狙いが読める。総士は一騎が狙われず、勇者たちが率先して狙われ同化に及ぼうとしたことや他の情報から目的を推測した事だったが、総士は包み隠さず話した。

 

「……君達勇者を守るには仕方のない事なんだ」

 

「「「「……」」」」

 

総士の衝撃的な説明に絶句する勇者4人。

 

「でも……それでも……」

「友奈ちゃん?」

 

「このまま放っておくなんて…私にはできないよ!!!」

 

そんな中、友奈は総士に強く反発する。普段は楽天家な彼女らしくない強い言葉に驚く一同。

 

「行けるなら僕も行っている!」

 

本当なら自らも援護をしたい。だが今総士が勇者たちから離れれば彼女らに何らかの危険が及ぶ可能性が高い。総士はその立場に付かなければならない事に歯痒い思いをしていた。

 

「あぁ! 一騎先輩が!」

 

樹が指差した方を見る一同。

 

「ぐあっ!?」

 

フェストゥムの布の尾の一撃が一騎に加えられた瞬間であった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:3人称

 

一騎は乙女座に猛攻を与えなんとか戦線を維持していた。それも驚異的な再生能力の前に無力化され、敵が怯まずに猛攻をしている中という不利な状況、連戦での消耗というハンデを背負っている中である。仕留めようと攻撃を加えていた一騎は乙女座の体に深々とルガーランスを突き立てた。

 

【!?】

 

それをわずらわしく思ったのか乙女座はその体を勢いよく揺らし抵抗の様子を見せる。空中にぶら下がった状態となってしまった一騎はルガーランスを柄を握り締め必死に耐えていたが、

 

「あ…」

 

勢いに負けついに投げ出されてしまった。そこをフェストゥムの布の尾の一撃が叩きつけられられる。

 

「ぐあっ!?」

 

「つぅ!?」

「総士!!」

 

直撃はザインが相殺するも叩きつけられた衝撃が一騎の体を貫く、その『痛み』は受けた一騎だけではなくシステムでクロッシング中の総士にも襲った。『ジークフリード・システム』で感覚などの共有されるためである。

 

無常にも乙女座は地面に叩きつけられた一騎に対しワームスフィア爆弾での追撃を加える。5人の目の前で炸裂、一騎はワームスフィアに呑み込まれた。

 

「「……!?」」

「「一騎君!」」

「かずきぃーー!」

 

総士の慟哭が樹海内に響く。昨日の戦闘にてワームスフィアの脅威を目の当たりにした勇者4人は思わず目をつぶり顔を背けてしまう。

 

 

 

 

 

――― その時、異変が起こった。

 

 

 

 

 

「――― え?」

 

一瞬、空耳かと思った樹が最初に目を見開いた。耳を澄ましてみると、

 

「…う、歌? どうして!」

 

樹海内に歌声がたしかに聞こえた。聴いたことはないが、澄み通っており、そしてどこか暖かくなるような歌を。

 

「誰が…歌っているの?」

 

樹の言葉に反応した友奈・東郷・風も突如聞こえてきた歌声が気になるのか辺りを見渡す。

 

「あれは!?」

 

ワームスフィアが消滅すると、一騎の無事な姿がそこにあった。彼の周りに4機の飛行物体が浮遊しており。それらが互いにエネルギーを共有し障壁を構成していた。

 

「歌? ……まさか!」

 

一騎が歌の聞こえる方を見上げると根の上に1人の少女が立っていた。その姿は一騎や総士を同じような制服のような服装だったが一騎たちのような男性が穿くスラックスではなく、こちらはスカートとなっているもので羽織っているコートは巫女装束を思わせるようなデザインとなっている。

 

「……乙姫!」

 

【私も戦うよ…新たな居場所を守るために】




というわけで、乙姫参戦です。

年度末なので忙しいですが残り2部も仕上がり次第投稿したいと思います。


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第12話 クロッシング(中編)

原作2話後のオリジナル戦闘回

2016/5/15:感想欄指摘による誤字修正


-樹海内 神樹-

大赦の車で移動中だった乙姫は樹海の展開に巻き込まれた後神樹の元へといた。そこで神樹から力を受け取った乙姫は一騎や総士、勇者の4人を離れた場所から見守っていた。

 

「侵入したバーテックスは倒されたみたいね」

 

現在はちょうど侵入してきたバーテックスが殲滅された頃である。

 

【はい。……ですが、未来はいまだ変わっていません】

 

神樹からの思念と同時に壁に近い海ともいえる場所に『乙女座』のバーテックスとうり二つの生命体が現れる。

 

「あの姿はバーテックス、感じられるのはフェストゥムとも言うべきかな」

 

【えぇ。そしてあの存在が…】

 

「神樹が()()という未来でこの世界を滅ぼした存在の一つなのね」

 

戦闘が始まるも苦戦する一騎の姿を一度見ると乙姫は歩み出る。

 

「……だけどこの違和感は何なんだろう?」

 

【行くのですか】

 

「うん。消えてしまった私に新たな体と居場所を与えてくれたあなたやこの世界、それにみんなを滅ぼさせたくはないから」

 

【……乙姫さん、今のままでは分岐は動きません。一騎さんや総士さん、勇者たちに選んでもらわないと】

 

「その求めているのを与えるのが新たに生まれた私の役目…、本当に欲しいのかはもう一度選んでもらうためにね。……総士や一騎、そして幾多の中からあなたが選んだ勇者にも……」

 

【……そうですね。乙姫さん、再現したブリュンヒルデシステムを使用するためかその力のほとんどをシステムに回している分攻撃を防ぐ力はありません。……本来ならあなたのための精霊を用意できればよかったのですが……】

 

「ありがとう…でも、大丈夫…」

 

乙姫はアプリに触れ光に包まれる。すると、両手を掲げ歌い始める。

 

(そして、あのフェストゥムにも)

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 時は前話の直後へと戻る……。

 

フェストゥムの一騎に対する攻撃は乙姫の遣わしたノルンの障壁によって防がれた。その行動を感知したフェストゥムは乙姫を敵と認識したのか有無を言わさずに尾から爆弾を放つ。

 

「……そう。あなた達も会話のない道を選ぶの」

 

乙姫が寂しげな表情を見せると彼女の直上に4機の無人機動兵器『ノルン』が具現化され飛行し乙女座の姿をしたフェストゥムへとむかう。乙姫の思念で操作する飛行体は内蔵されたビーム砲を発射、爆弾を撃ち落としフェストゥムに光線を浴びせる。その光線は1発1発の威力は低いが確実にその体表を削り取っていく。

 

さらに、ノルンはフェストゥムが前進しようとしたら攻撃、反撃したら離脱させるように展開させる。フェストゥムは攻撃された箇所はすぐに再生するもノルンの手数や機敏性に対応できずその足は鈍った。

 

「行って!」

 

鈍った隙に一騎を保護していたノルン4機をフェストゥムの周囲に配置すると障壁で囲い込んで動きを封じた。その間に乙姫は一騎に思念を開く。

 

【一騎、大丈夫?】

 

「あ…あぁ。正直、少し危なかったけどな」

 

【武器は?】

 

一騎がフェストゥムを見上げると突き刺さったルガーランスまで結晶に包まれると再生と同時に砕け散った。

 

【……今、新しいのを送るね】

 

乙姫からの思念と同時に前の戦闘で飛来したコンテナが一騎の元へと飛来する。地面に刺さったコンテナが開くとそこには純白の真新しいルガーランスがあった。

 

「(これは! あの時のは乙姫がやったのか)このルガーランスは!」

 

【一騎にはこっちの方が合うと思って】

 

思念で会話しているうちにフェストゥムが動き出す。そして、障壁を展開しているノルンの内の1機を布の尾を翻して掴んでしまうとそのまま握りつぶしてしまう。

 

1機のノルンを失った事で障壁の強度が弱まってしまい簡単に壊される。そして、周りに配置された3機も布の尾を振り回し破壊した。

 

【(!?)動き出した! 一騎、お願いもう少し耐えて!】

 

「…とは言っても、あいつ再生しまくるぞ!」

 

乙姫はさらに4機のノルンを具現化。残っている4機と共同でビームの連射で動きを少しでも封じようとする。島のときより連射力が強化されたビームの雨ともいえる弾幕によりフェストゥムの前進をなんとか阻止する。

 

【…あれは学んで新たに分岐した存在…】

 

「え!?」

 

【さわりの部分だけどそう感じた…けど、それだけでは足りない。今はあのフェストゥムをもう少し知るための時間が必要なの…だから、お願い】

 

「……わかった」

 

ここで乙姫からの思念が切れる。一騎は気にはなったが一先ず頭の隅に追いやるとフェストゥムに穂先を向けるとルガーランスの刀身が左右に開かれエネルギーが収束される。狙いを定めトリガーを引くと開かれた刀身からプラズマ弾が発射される。

 

先程使っていたタイプは刀身の展開によりコアを露出させそのまま荷電式の弾を撃ち込むコンセプトのため射撃武器としての使用は適してはいない。以前の戦闘では露出しているかつほぼゼロ距離射撃に近かったから問題はなかった。

 

それに対し、乙姫が送ってきたタイプはプラズマ砲を内蔵したものとなっており遠近両用の武器としての使用ができる。一騎はそれを感覚的に理解できた。

 

放たれたプラズマ弾はフェストゥムの巨体を抉る。プラズマ弾は貫通こそはしなかったものの抉った表面が赤熱化するほどの威力でフェストゥムの身体が陥没しついに悲鳴をあげた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:後方

 

(間に合ったのか…乙姫)

 

乙姫が根の上から飛び降りる。あっという声を挙げた勇者4人であったが、乙姫はノルンを1機展開すると発生させた障壁の上に乗りそのまま5人のもとへゆっくりと降りたっていく。

 

それを見届けた総士は多くの情報からフェストゥムの分析を再開した。

 

(なんといっても即時の再生が厄介だな。速度も異常すぎる……。あれだけの再生能力、条件なしであそこまで可能なのか。……まさかな)

 

総士は敵の一番の特徴である再生能力に目をつける。フェストゥムが持っている能力である超次元現象(SDP)。そのひとつである『再生』。それは島の仲間である一騎や剣司、芹も同様の能力を扱った事もあった。

 

しかし、フェストゥムも同様の能力を使った場合は他の個体の同化にさせることによる再生であり、一騎たちの使ったSDPの方には条件があった。

 

乙女座の姿をした個体はほぼ無条件で再生し続ける事に総士は疑問をもった。

 

「乙姫ちゃん…その姿…」

 

「どちらかと言えば、総士や一騎と同じかな」

 

乙姫が5人の元へと降りたつ。樹ら勇者たちが戸惑っているのをよそに総士の隣に駆け寄る。

 

「総士、状況はどうかな?」

 

「ノルンでの援護もあってか先程よりは良くはなった。……しかし、さすがにああいう真似は許容は出来ないぞ」

 

「……どうしてもあのフェストゥムの事を知りたかったの」

 

「……そうか」

 

総士は乙姫を窘める。乙姫は目を瞑る。

 

「じょ、冗談でしょ…あんなもんくらってんのに!」

「このままではキリがありません!」

 

そこに犬吠崎姉妹の驚きの声があげたためすぐに総士は我に返る。見れば一騎の放ったプラズマ砲で深くえぐられたフェストゥムの損傷個所が結晶に包まれるとまたすぐに再生してしまう。

 

【効いているのはずなのに全く堪えてないなんて。こんなの初めてだ……】

 

これまで幾多のフェストゥムと戦闘した一騎でさえも戸惑っている様である。

 

「そう…そうなのね」

 

どうすればいいのかという雰囲気に包まれかけたが、乙姫は囁くように言葉を続ける。

 

「人への敵意は変わらないみたいだけど、……ただ一つ私等がいた世界とは違うものを感じたよ。私たちのいた世界にはなくてこの世界にあるもの……。あのフェストゥムはそれをもってしまった」

 

【(!?)なんだと!】

「乙姫、あのフェストゥムに」

 

「うん。少し呼び掛けてみたの」

 

乙姫は元は竜宮島のコア型と言われる人とフェストゥムとの融合独立固体であり、フェストゥムに語りかける事で意思疎通を図ることが出来る存在だ。彼女はその能力で感じたフェストゥムの印象を総士に伝えた。その言葉に風が乙姫に疑問をぶつける。

 

「乙姫ちゃん、あなた…あのフェストゥムっていうのと話せるの?」

 

「ちょっと違うかな。あくまで語りかけるだけっていうとこかな。でも、それで情報を得ることは出来るよ…」

 

乙姫は前線にいる乙女座の形をしたフェストゥムをじっと見つめる。

 

「一騎や総士の役目はあなた達と共に戦う事…私の役目はそれを導く事。それが、神樹から託されたこの世界での私の役目…」

 

「「「「神樹様!?」」」」

 

「総士や一騎は既に選んだよ。……あなた達は何を選ぶの?」

 

勇者部の4人が驚く中、乙姫は再びフェストゥムに語りかけはじめる。

 

【(!?)止まった】

 

それに呼び掛けに応じたのかフェストゥムの動きが止まる。すると、彼女だけに分かるある種の情報のようなものが彼女に流れ込む。

 

(そっか。あなた達は…あの時の)

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:謎の存在

 

別なミールと認めた戦士に対抗できる個体を送り込んだ。思惑通りうまくはいっておりその存在は上機嫌となっていた。

 

「いったいなんなんだよ」

 

しかし、乙姫が介入し確信を得ようとしている。その存在はそれに次第に苛立ちを募らせる。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

【お前はいったいなんなんだ!】

 

その情報から乙姫が確信に至ろうとしたが、突如として割り込んできた思念に乙姫が目を見開く。ゾッとするような心を刺すような敵意と共に6人の目の前に無脊椎動物のようなフェストゥムが現れる。初戦の時と同じ個体である。

 

「ひぅ……」

 

フェストゥムは勇者や皆城兄妹に明らかな敵意をぶつける。それに戦慄したのか樹が風の傍らで震えたじろぐ。それに気付いた風は妹をそれ以上に恐怖させないとなんとか気丈にも表情を引き締め守ろうと抱き寄せる。

 

東郷はフェストゥムを正面に見据えながらも友奈の様子を見る。ふと見れば彼女の表情がわずかに優れないように見えた。

 

「心配しないで東郷さん…大丈夫だから」

 

友奈は東郷を安心させようと答える。しかし、東郷は友奈の手が僅かに震えているのを見た。彼女は風と共にフェストゥムの同化を受けた身である。脅威が迫った事により一種のトラウマのようなものが呼び起されてると東郷は思った。

 

「(友奈ちゃん、怖いのに私を安心させようと…なら、私が友奈ちゃんや風先輩、樹ちゃんを守らないと)」

 

今回の戦いで勇者に変身する事ができ、ある種の覚悟を決めている東郷は脅威にさらされていた中で唯一我を保っていた。

 

東郷は震える友奈の手を握ると、もう一方の手に銀の狙撃銃を具現化させ、万一に備える。

 

【これ以上、僕等の邪魔をするな! 勇者を寄越せ!】

 

謎の存在の感情に呼応するかのようにフェストゥムは敵意と共に口が開く。その内部には生物でいうサメ歯のような結晶刃で構成されている。

 

「「「「っ!!」」」」

 

明らかに邪魔者を喰らおうとする姿に囚われ萎縮する勇者4人。フェストゥムはじりじりと迫ってくる。

 

「どうしてそう勇者に固執するの?」

 

乙姫が堂々とした態度で疑問をぶつけるとフェストゥムの動きは止まる。

 

【そんなのお前等、他のミールには関係ない!】

 

「あなた達からは勇者を固執するほかにはっきりとした事が言えるよ。あなた達は勇者…神樹の力を恐れている。そんなに言葉を使えるのに…会話ができるのになぜなの」

 

謎の存在に呼応するかのようにフェストゥムは明らかに動揺をみせる。

 

【知ったように言いやがって…もう、いい。僕らに食われてしまえ!】

 

だが、謎の存在が会話を無理やり遮るとフェストゥムは乙姫に食らいつこうとその口を大きく開いた。

 

「(!?)乙姫、これ以上は無理だ。みんなと一緒に逃げろ!」

 

総士は限界だと悟り乙姫に逃げるように促せ武器を構える。

 

【うおおおおおっ!!!】

 

一騎はみんなの救援に向かうために即時再生する乙女座の形をしたフェストゥムを再起不能に追い込もうと奮闘する。

 

異世界から来た3人は絶望的な状況でも決して諦めを見せてはいない。勇者4人その目の光は失われず光り輝いているように見えていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:勇者4人

 

「みんな…」

 

「友奈ちゃん?」

 

「私たちにも出来ることは…本当にないのかな? このまま諦めてもいいのかな?」

 

「友奈!?」

「友奈さん!?」

 

「一騎や総士君、それに乙姫ちゃんはあんな怪物と向き合ってるのに諦めてないよ。これって勇者部五箇条の「なるべく諦めない」だよね」

 

「「「(!?)」」」

 

決して諦めていない一騎・総士・乙姫の姿を見た友奈が東郷・風・樹に問いかける。はっとした表情をしている勇者3人に友奈は意を決したように決意を述べた。

 

「私、行きます! 総士君に止められたけど、ただ見てるだけなんて出来ません。…そんなの勇者じゃないよ!」

 

友奈が飛び出そうとしたが、誰かに手を引っ張られてその足を止めた。

 

「……東郷さん?」

 

「友奈ちゃん、私も行くわ…あの時は本当に怖かった…けれど仲間を目の前で失いたくありません。……勇者として、覚悟はできているわ!」

 

東郷が並々ならぬ決意を顔に浮かべ同行する意思を示す。

 

「あ~もう。黙ってれば勝手にすすめて……後輩たちが無茶しようとしてんのに先輩として部長としては黙っておれないわ! 樹、あんたは「お姉ちゃん、私も行くよ!」って樹!」

 

「怖いけど…お姉ちゃんやみんなと一緒ならやれそうな気がします! だって、なにがあってもついていくって決めたもん」

 

犬吠埼姉妹の決意も受けた友奈と東郷は頷く、そして4人は目の前の脅威に目を据えた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

【食われて僕らと一つになれ!】

 

フェストゥムが大口を開けて食らいつこうと皆城兄妹に迫る。

 

【総士、乙姫!】

「ッ!逃げろ、乙姫!」

 

「総士、一騎、ありがとう。でも、大丈夫……」

 

総士がフェストゥムに対抗しようと機関砲(ガルム44)のトリガーを引こうとし、乙姫はそうつぶやくとまるでその出来事を受け入れるかのように目を閉じた。

 

「選んだのは私たちだけじゃないよ。フェストゥム!」

 

突如としてフェストゥムの口内が炸裂し、その身がたじろいだ。

 

「ッ!」

 

総士は機関砲(ガルム44)での攻撃は仕掛けていない。つまりは自分がやったのではない。彼は自らの背後を見た。

 

「……!」

 

「東郷!」

 

「はああああぁぁぁぁ!」

 

見れば東郷が狙撃銃を構えていた。状況から銃撃を行ったのであろう。総士が驚いている間に友奈が凄まじい速度で駆けフェストゥムの懐に飛び込むと下顎の辺りに拳を叩き込みつつも足に力を込め踏ん張り振り抜く。叩き込まれた巨体は上空へと吹き飛ばされた。

 

敵と認識したフェストゥムは触手を刃に変えると友奈に向け放つ。

 

「させません!」

 

触手が緑のワイヤーに絡め取られ、友奈への反撃が不発へと終る。ワイヤーはさらにフェストゥムの巨体を縛り上げた。

 

「お姉ちゃん、今だよ!」

 

「ナイス樹ぃー! でやあぁぁぁ!!!」

 

風が大剣でフェストゥムの巨体を一文字に唐竹割りした。見事に分かたれた巨体の内部に光り輝く結晶体(コア)が露となる。

 

「君達…」

 

「ごめんなさい、総士君」

「私たちを助ける為に遠ざけてくれたのはわかるけど……」

「やっぱり黙っては見ることは出来ません」

 

「しかし!」

 

「あーもう。グダグダ言うのは後ででいいわ。私たちだってこの世界を守るのに選ばれてしまったけど…これくらいならなんとか出来るし、協力させて」

 

【あな…たは、そ…こ…にい…ます…か】

 

予想だにしない反撃にフェストゥムの声は絶えたえである。

 

「(!?)復活する前にコアの破壊を!」

 

「任せてください! でぇぇぇい!」

 

総士が咄嗟に指示を飛ばす、それに答えた友奈がフェストゥムの結晶体(コア)を殴りつける。結晶体(コア)はあっさりと砕け散り友奈はすぐさまその場から離脱。フェストゥムは黒い球体に包まれ消滅した。




乙姫の電波タイム。勇者部の4人がある意味で覚悟を決める回でお送りしました。

苦戦の7割方が乙姫の語りなのであった。

次回、勇者部一同がクロスならではの強化されると思います。


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第13話 クロッシング(後編)

対オリジナルフェストゥム戦決着編。

作者の祝福(オリジナル・強化要素)入ります。

2016/6/21 思念での会話括弧:【】を一部電話・システムなどの会話括弧:《》に変更。内容一部修正&戦闘内容加筆修正(友奈のシーンが主)


(こうもあっさりと倒せるとはな……バーテックスと対峙出来る程だからもしやと思っていたが)

 

バーテックスという規格外な生命体に対抗出来うる力を得た勇者は現代兵器を凌駕するとも言われている。迫りくるフェストゥムは倒されたのを見た総士は内心でそう呟いた。

 

「うん! これならいけるよ!」

 

「よくやったわ友奈。でも、安心するのはまだ早いわ。これからが本番よ」

 

勇者4人は皆城兄妹の元へと駆け寄ると、風が話を切り出した。

 

「……総士悪いけど、アタシらは真壁の援護に行くわ!」

 

「何!?」

 

「再生しまくるのだったらあのフェストゥムにアタシら勇者の力も叩きつけてやるわよ。さっきだってそれで倒せたようだし無意味じゃないわよ!」

 

「―――ッ。メチャクチャだ…!!! あの個体は倒せたとはいえ同じようにはいく保証はないぞ!」

 

「『なせば大抵なんとかなる』! やらないよりかはやってみるべきだよ!」

「みんなとならきっとやれます!」

「このままここにいても状況は変化しません…。だから、総士君…お願いします」

 

「……(彼女たちの意思が相当硬いようだが……たしかにこのままでは状況は好転しない。だが問題が山済みだ。第一、僕から離れてしまったらフェストゥムの読心が防げなくなる。読まれて同化でもされたら…)」

 

一時は反論するも勇者4人の決意をくみながら総士は考え込む。

 

「それがあなた達の決めた事なの? 危険だと分かっていても」

 

「うん。……私たちを助けてくれたように、今度は一騎君たちを助けたいの」

 

乙姫が勇者4人に訊ねると友奈が代表して答えた。東郷・風・樹も同時に頷く。

 

「そっか…それがあなた達の選んだ選択なのね」

 

勇者たちの意志に呼応するかのように傍らに彼女らの精霊が現界される。そして、乙姫の傍らに寄り添ってきた。

 

「……あなた達も勇者と同じように」

 

生き物?に近い形の牛鬼や犬神・刑部狸(ぎょうぶだぬき)は頷き、青坊主や木霊・不知火(しらぬい)は肯定の意志を示すように乙姫の周りをまわる。乙姫は精霊たちにそれぞれ触れると精霊は主の元へと戻っていく。

 

そして、彼女らの意思を受け取った乙姫は微笑むと意を決したように話を切り出した。

 

「……わかった。あなた達もフェストゥムと戦えるようにしてあげる」

 

「「「「え?」」」」

 

「……そうすれば総士も考えてくれるよね?」

 

まるで分かっているかのように語る乙姫の姿見た総士ははっと気づき静かに尋ねる。

 

「乙姫、その口ぶりだと」

 

「うん、例のシステムは完成したよ。だから、私はここに来たの」

 

「……乙姫としてはどうしてほしい?」

 

「……私のワガママになるけど、彼女たちには力を貸してほしいかな。だから…」

 

ここで乙姫はいったん一呼吸置く。そして、本心を告げた。

 

「彼女たちを導いてあげて、総士!」

【新たな戦士を導きなさい、総士!】

 

この時総士には乙姫の声に混じってもう1人の声が聞こえたような…気がした。

 

「(ッ!…この事なのか、乙姫…織姫…ならば僕のやる事は)わかった。なら…乙姫、頼む」

 

「任せて。みんな、端末を出して」

 

総士はそれを受け入れるかのように迷いなく、勇者4人は困惑気味に勇者システムが入った端末を取り出すと乙姫がに触れる。端末に何かがインストールされたようだ。

 

「乙姫ちゃん、…これはいったい?」

 

東郷の問いかけに総士が答えた。

 

「……これは『勇者システム』を僕らが使っている『ジークフリードシステム』に接続・反映できるようにしたものだ」

 

「それでどうなるのよ?」

 

「クロッシングを維持すれば、フェストゥムに思考を読まれることはなくなる。奴らとこれで対等の立場になれる」

 

「戦えるようになるって事…ですよね」

 

「そうだ。だが、それでもフェストゥムに対しての危険が大きいがな。特にああいう新型だとな」

 

「やります。それで一騎君が助けられるのなら」

 

総士の忠告に友奈が即答する。3人も覚悟を決めているようで一歩も引くつもりは無いようだ。

 

「わかった。まずはみんな目を閉じるんだ」

 

「クロッシングのために勇者システムを登録する!…5秒待て!」

 

「あぅ!」

「っ!」

「いたっ!」

「きゃ!」

 

《……エンロール完了。クロッシングを開始する! みんな、目をゆっくり開けてくれ》

 

目を閉じちょうど5秒後に友奈・東郷・風・樹の全身に鋭い痛みが走る。その痛みに声をあげる4人だったがそれも徐々に引いていき、総士の指示通りに目を開く。

 

《…驚いたな…ここまで同じとはな》

 

「ちょっと総士、痛いじゃないの!!…って、ええ!」

 

「総士先輩の声が…頭の中に響いています!」

 

《霊的回路から被膜神経に接続して直接頭の中に語りかけている。一種の通信手段とだけ考えればいい。痛みは接続の際のものだ。……何か異常はないか?》

 

「特にはありません」

「うん。なんともないよ」

 

《そうか。これでジークフリードシステムの思考防壁が君達に反映される》

【システムで繋がっているから念じれば声を届かせることも出来るよ】

 

《こ…こうかしら?》

「おお! 東郷さんの声も聞こえる」

 

東郷がシステムを用いた通信をすぐに使いこなし友奈が感慨の声をあげる。

 

(あとは勇者たちをどう戦線に組み込むかだな。担当者である風先輩の立場もあるが…どうしたものか)

 

総士の考え込んでいる中、風が総士を見つめ話しかける。

 

「総士…たしか、アンタは前線指揮官…それやってたって言ってたわよね」

 

「そうだが」

 

「さっきだって真壁に対する指示が的確だったし、アタシらじゃフェストゥムの事を全然わからないわ…だからこそ、お願いしてもらってもいいかしら?」

 

総士たちの話を聞いていたのと実際にその指揮を目の当たりにしていたのもあって、この状況での最善な配置を風は総士に伝える。

 

彼女としてはフェストゥムに関して詳しい総士たちの方がうまくやれると思っていた。

 

風が意外とあっさり引いた事に総士は驚くもその意を受けた。

 

「…了解した。ここからは僕が指揮をする。みんな頼むぞ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

勇者達に指示を出す。受け取った勇者たちは行動を開始した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:前線

 

一方、すぐに再生するフェストゥムの相手をしていた一騎だが、

 

「これじゃあキリがないな……」

 

ノルン4機の援護もあってか進行を完全に食い止めていた。しかし、依然としてフェストゥムが即時再生している影響か決め手に欠けている状況である。

 

「《一騎!》…総士か!? そっちは大丈夫なのか?」

 

《こちらに出てきたフェストゥムは撃破した》

 

そこに総士からの思念が入りその報告に内心ほっとした一騎だったが、それでもいまだに戦闘中なのもあってか敵を睨みつけなおす。

 

《それよりも今そちらに援軍を送る》

 

「援軍?」

 

その言葉に疑問を投げかけようとしたがそれはフェストゥムの体の表面に何かが直撃し炸裂する。間髪おかずに何発も撃ち込まれその表面は削がれていく。一騎はその攻撃がきた方向にいたある姿を見た。

 

「(!?)あれは!!」

 

 

 

《東郷の遠距離攻撃で勇者の攻撃の有効性を確認する!》

 

「……了解」

 

一騎が見たのはうつ伏せの態勢での狙撃を敢行する東郷の姿だ。銀の長銃から放たれる正確無比な狙撃。神樹の力が宿っているその弾丸は容赦なくフェストゥムを撃ち貫きその外殻を削り取る。

 

 

 

「なんで東郷が……これは」

 

一騎は共有されている情報を見るとジークフリードシステムの登録者に勇者4人の名前がある事に気が付いた。

 

《私たちがお願いしたんです。そうしたら乙姫ちゃんが》

 

「乙姫がか!?」

 

友奈の声が聞こえてくる。どうやらシステム経由での思念のようだ。一騎もこれには少し戸惑ってしまう。

 

《一騎、言いたいことは色々あると思う。だが、今はあいつをなんとかするぞ》

 

「……当てになるのか」

 

《そうだと判断したまでだ》

 

【分かった】と一騎は総士に思念を返した。総士なら考えもなしに戦力を動かしたりはしない。一騎は一先ず気になる事を後に回すことにした。

 

《(!?)総士君、一騎君、あれを!》

 

狙撃を加えていた東郷が敵であるフェストゥムの異変に気付き2人に思念を送る。

 

一騎が見上げるとこれまで火線を集中させても片っ端から再生されるフェストゥムが東郷の狙撃をくらったにも関わらずその再生は鈍っていた。

 

総士のシステムを用いた解析結果が提示される。すぐに彼は驚きの声をあげた。

 

《これは…敵のSDPが阻害されている! 神樹の力がコアに何らかの影響を与えているのか!?》

 

驚くも敵に有効打を与えられている事が確認した総士は思考を切り替えると指示を出す。

 

《一騎は一時態勢を立て直せ! 風先輩はそのまま攻撃開始》

 

「分かったわ。とぉぉりやあぁぁぁ!」

 

風が勢いよく突撃すると巨大化した大剣で上段に構え振り下ろす。フェストゥムは回避し振るわれた巨大な刃はその巨体を霞めその体表はぱっくりと割れる。

 

「ッ! 避けるならーーー!」

 

間髪入れずに斜めに切り上げる。今度はその巨体を捕え一部を切り裂いた。

 

「何度でも叩きつける!」

 

風は勇者の力に強化された膂力により巨大化した大剣の勢いを抑え込み何度も振るう。その外殻を大剣の腹で叩きつけ、切り裂き削っていく。

 

【―――!】

 

叩き込むたびにフェストゥムの困惑した思考が伝わる。

 

 

 

――― なぜ、あなたの考えていることがわからないの…と。

 

 

 

「(!?)」

 

その思考が風に伝わり僅かに動きが止めてしまう。その生じた隙を狙い布の尾を振るおうとした。

 

【!?】

 

しかし、それは振るわれることはなかった。フェストゥムの巨体を緑色のワイヤーが絡め取りその動きが封じられた。

 

《お姉ちゃん、今だよ!》

 

樹が先程と同じようにワイヤーを幾重にも束ね放ったようだ。4つの右手首の花環から放たれたワイヤーを必死で支えている。

 

《敵の思惑に乗るな、入り込まれるぞ!》

 

総士の叱咤により風は我を取り戻す。危うく前回みたいな過ちを繰り返しかけた。風の心にある種の怒りが立ち込める。

 

「このぉ! 口説くんだったら心なんて読まないでしっかり言いなさい!!」

 

大剣を掲げると縦一文字に射出口である尾を寸断した。

 

【―――――――!!!】

 

声にもならないようなフェストゥムの叫びが辺りに轟く。切り裂かれた尾は黒ずんだ状態で地面に落ちる。

 

自らの存在の危機を感じ取ったフェストゥムは脱出しようともがく。その力に樹は必死に耐えようと堪えるも少しずつ引き摺られていく。

 

「樹!!」

 

風は大剣を手放すとすばやく樹の下へと跳び彼女を支える。なんとか踏みとどまるも2人は身動きが取れなくなってしまった。

 

「(!?)あぁ!」

「こ、こいつ、樹の糸まで」

 

押され始めたフェストゥムだったがまだまだ抵抗を見せる。2人が動きを止めたのを見ると絡め取っているワイヤーをなんと同化し始める。接触している部分のワイヤーが翡翠色の結晶に覆われはじめる。

 

「樹、糸を切り離して!」

 

風が叫ぶも結晶が姉妹に向かっていく。樹は慌てふためしまい一種のパニックとなって次の行動に移れない。

 

【私に任せて!】

 

同化しようとしたフェストゥムに無数の光弾が突き刺さる。乙姫が8機のノルンのビーム砲の集中砲火をフェストゥムに浴びせ怯ませる。

 

【新しい力を見せてあげる!】

 

8機のノルンでフェストゥムの周囲を取り囲み障壁を張ると。ノルンからフェストゥムに向け光線が放たれる。

 

【!?】

 

フェストゥムの抵抗が急激に鈍ると同時に同化も止まる。樹はワイヤーを切り離した。

 

【止めれるのは短時間だけだよ!】

《わかった。結城!》

 

「了解!」

 

総士の合図と共に友奈がフェストゥムに向かって突っ込む。風と樹はフェストゥムの注意を引く役目だったようだ。友奈はロケットを彷彿とさせるような速度で敵との間合いを詰める。

 

すると、フェストゥムを囲っていた障壁の一部が解除されノルンが数機足場となるように展開する。

 

【使って!】

「分かったよ、乙姫ちゃん!」

 

友奈がノルンが展開した障壁を足場にしてさらに接近。その接近に気付いたのかフェストゥムが無理に布の尾を動かし迎撃しようと構える。

 

「友奈ちゃんの進路を!」

 

東郷が友奈の突撃を援護するために狙撃銃の引き金を引く。放たれた銃弾は布の尾に命中炸裂しはじけ飛んだ。

 

これによりフェストゥムの抵抗するための手段はすべて失った。

 

友奈は動きが止まったフェストゥムの目の前に浮遊するノルンへと到達すると構えた。

 

「はぁぁぁぁ!!! 勇者ァ…パァァァァァンチ!!!」

 

勇者内で一番の破壊力をもつ友奈だが、フェストゥムに長時間の接触は同化の危険が高い。だが、総士は敢えてこの一撃を繰り出せる友奈をトドメ役に選出した。

 

そして、東郷・風・樹の持つ勇者の特性を活かし、友奈の得意な間合いへと誘った。そして、彼女たちは手筈通りに事を進めることにこの瞬間成功した。

 

友奈は全身全霊の力を込め桜色に輝く右拳をフェストゥムの巨体に叩きつける。叩きつけた部分が罅割れていきその外殻はバリンという音と共に砕けた。

 

そして、友奈はその体内に光り輝くものを見つけた。

 

「あった! コアだよ!」

 

【結城、そのまま破壊できるか】

 

「やってみるよ!」

 

友奈はその場からジャンプすると空中で構える。その右拳に再び桜色を纏わせるとコアに叩きつけようとした。

 

「え!?」

 

しかし、それは突如現れた不可視の障壁によって阻まれた。手甲と障壁が接触し青白い火花が飛び散る。

 

「最後の最後にバリアなの…このぉ!!」

 

友奈は無理にでも拳を突き入れようとする。それにより火花が大きくなる。

 

【!?】

 

友奈の傍らに桃色の牛のような生き物…精霊の『牛鬼』が現れる。彼の精霊は友奈の周りに光を纏わせ障壁を張り、そのエネルギー放出を防ごうとする。

 

「・・・きゃぁ!!!」

 

障壁により友奈は弾かれその体が宙を舞った。すぐにノルンが彼女の下へ向かうと障壁を展開しキャッチする。

 

「いたた……硬すぎるよぉ…」

 

「(!?)お姉ちゃん、見て!」

 

樹がフェストゥムの再生が再開された事に気づき姉である風に伝える。

 

「まずいわ…今トドメささないと堂々巡りだわ!」

 

 

 

【……分かっているな、一騎】

【あぁ!】

 

この状況についに一騎が動いた。態勢を立て直した一騎はルガーランスを握りそれを頭上に掲げる。

 

【あの障壁は該当がある…フェストゥムの障壁と同じだ。……再生する前に()()であのコアを仕留めろ!】

(ただの攻撃じゃ駄目だ……もっと…確実に仕留められる一撃を…それなら!)

 

総士から解析結果を受け取ると一騎は目を瞑り集中する。そして、心で穏やかにしザインに対して念じ一種のクロッシング状態へと入る。

 

【(俺はお前…お前は…俺だ!)】

 

ルガーランスの持ち手が翡翠色の結晶に覆われる。穂先が展開すると先程からおこなっている砲撃よりも凄まじい量のエネルギーがほとばしり始める。

 

【そう、受け入れることがあなたの力】

 

【友奈、離れろ!】

 

【(!?)うん!】

 

一騎の思念を友奈は受け取る。彼の意図を察したのか跳んでその場から離れた。

 

「ほぇ!」

 

跳んだ瞬間にノルンが友奈の周りに障壁を張る。友奈が驚いているのをよそにノルンが障壁に包んだまま彼女を守るようにその場から離れていく。

 

「でりゃあぁぁぁぁぁ!!!」

 

一騎はエネルギーが十分に収束され輝きを増したルガーランスを振り下ろしコアにその穂先を向け引き金を引いた。

 

「「「「ッ!!」」」」

 

ルガーランスから轟音と辺りを震わすほどの衝撃と共に放たれたのは巨大な光の奔流と言うべき閃光。勇者4人は目がくらむような閃光に思わず手を翳し、樹海内の木々が揺れ葉が勢いよく煽られるほどの凄まじい衝撃に精霊たちは反応しすぐさま障壁を張り勇者達を守る。

 

そのまま白銀の閃光は障壁を張っている結晶体(コア)に直撃する。光の奔流はそのまま障壁やフェストゥムごと結晶体(コア)を飲み込む。

 

【ギャアアアアアあああぁぁぁぁぁ…….....

 

断末魔のような声とともに障壁は解けるかのように消滅し、光の奔流に結晶体(コア)は耐えきれずに砕け、残ったフェストゥムの残骸も閃光が空の彼方に過ぎ去ると消滅していた。

 

ルガーランスのエネルギーを放出しつくすと持ち手と一騎を同化していた翡翠色の結晶が砕け散ると刀身が閉じる。一騎はゆっくりとルガーランスを降ろす。

 

【敵反応消滅……増援らしき反応もない。戦闘終了だ】

 

3体のバーテックス、介入してきた多数のフェストゥムとこちらの世界での独自に進化したフェストゥムという未曽有の侵攻は、恐怖を克服した1人の勇者、命を終え新たな役目と居場所を得た少女、そして2つの世界の力が合わさる事で殲滅に成功した。

 

総士からその言葉を聞いた一騎は戦闘態勢を解く。そして、ようやく戦闘が終わった事を実感した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「ははは……今度はビーム砲ですかい…真壁のやつ、どんだけ規格外なのやら……」

 

風は驚きのあまり目が点となり心ここに在らず状態になっていた。敵が倒されたことに緊張の糸が切れてしまったのか樹は喜びを隠せずにはしゃぎそのまま風に抱きついた。

 

「やったーーー! やったよぉ~お姉ちゃんー! 私たち勝ったんだよね!」

 

「そうね……もう大丈夫よ」

 

我に返った風は樹の頭にポンと手を置き撫でた。その姿を見た東郷は微笑むがすぐにはっとした表情となる。

 

「(!?)そうだ! 友奈ちゃんは」

 

「東郷さ~~~ん!」

 

ノルンの障壁に乗った友奈が右手を振りながらゆっくりと地面へと降りたつと東郷の元へと駆ける。

 

「友奈ちゃん、よかった…怪我とかない?…あっ…」

 

東郷の手を握る友奈だったが、どうやら先程のコアが発生させた障壁と打突の衝突の影響か友奈の勇者の装備である右の手甲が擦り切れたように傷付いていた。傷付いた姿を見て落ち込む東郷だったが、

 

「東郷さん、見た目はこうだけど意外となんともないよ」

 

「痛くないの?」

 

「うん、少しヒリヒリするけど…牛鬼が咄嗟にバリアを張って守ってくれたみたい」

 

「そう……。本当に無事で…よかった」

 

すると、敵がいなくなったのか樹海が揺れ始めたのに一同は気づいた。現実への帰還の時が来たようだ。




またかなりかかってしまった……。そして、ようやくのタイトル回収。次話は戦闘後処理回で一騎・総士・乙姫の事を勇者部にすべて打ち明けます。

●勇者部の強化内容
・勇者システム適性者のジークフリードシステムの登録許可
フェストゥムの一番の特徴である読心能力を防ぐ恩恵の付与、思念によるシステム内での通信手段の確保、感覚共有による連携力の強化

なお、後々に強化は追加する模様……。

茶番:今話ラストシーンNG集(犬吠埼風メタ発言レベル増大版)
「やったーーー! やったよぉ~お姉ちゃんー!」

敵が倒されたことに緊張の糸が切れてしまったのか樹は喜びを隠せずにはしゃぎそのまま風に抱きついた。

「私たち勝ったんだよ! ……? お姉ちゃん?」

樹は顔を見上げると風の目が点となっており彼女は声をあげた。

「……な、なんなんなのよーあのビームはぁぁぁ!!! …マテ○アル・バー○ト…もしくはライ○ーソー○なのか…それとも全力全壊収束砲(スター○イト○レイカー)……ともかく人間戦略兵器ってレベルじゃないわよーーー!」

「(!?)メタすぎるよぉ~! おねえちゃんー落ち着いてよぉーーー!」

あまりにも規格外的な光景に風が振り切ってしまったようだ。それを樹はなんとか宥めようとした。

没理由:シリアスだったのにこういう終わりは流石にないと思ったため。マテ○アル・バー○トを入れた理由は風の中の人の出演作品ネタである。他二つは言わずもがな。


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第1章最終話

原作アニメ第2話、樹海からの帰還からのオリジナル回(説明会含む)。

一騎、総士、乙姫の立場を勇者部のみんなにばらします。

2016/6/30 加筆修正(東郷が謝罪するシーンにて一騎が抜けていたため)


一面に広がる樹海から現実へと引き戻され、6()()は帰還を果たした。初めの時のと同じ神樹の社がある屋上に立っている。既に服装は元に戻っており、東郷もいつの間にか車椅子に座っていた。

 

「なんとか帰ってこれたわね……2回目なのにキツすぎっしょ……」

 

戻ってきたのと戦いの後で気が抜けた影響か風は自分の身体が気だるく感じる。どうやら、相当な疲労が溜まっているようだ。ふと見れば、他のみんなも疲労が表れているのがはっきりと分かる程だ。

 

「……今回はみんなに色々助けられちゃったな」

 

「あぁ。ところでお前は大丈夫なのか、一騎?」

 

「一応な」

 

「……後で検査でも受けておけ、次に差し支える」

 

「……お前もな、総士」

 

「ふっ……」

 

一騎と総士がそんなやり取りをしていると勇者たちがざわめいているのにに気付く。

 

「あれ? 乙姫ちゃんがいない!」

 

友奈が辺りを見渡し、1人足りない事に気付く。いつの間にか共にいた乙姫の姿がそこにおらず、友奈の動揺した様子が東郷・樹までも伝播しオロオロと周囲を探し始める。

 

風がふっと一度息を吐くとみんなを安心させようと微笑みながら、

 

「みんな乙姫ちゃんなら心配いらないと思うわ。樹海が解かれた後は各地に点在する元いた場所に一番近い祠に転送されるから…乙姫ちゃん、たしか大赦の方で出ていたからそちらの方の祠…だよね、総士」

 

総士が頷くと着信音が辺りに鳴り響く。総士は発信元を見るとすぐさま端末を操作し、通話機能をみんなに聞こえる様設定した。

 

《みんな、無事に戻れてる?》

 

「(!?)乙姫ちゃん!」

「うん、みんな無事に戻れてるよ」

「ほら、私の言ったとおりでしょ」

 

友奈・東郷・樹はほっと胸をなでおろす。

 

《よかった~。早速で悪いけど、大赦の人たちに戻ってきたことを伝えちゃったからもうすぐ…》

 

そう乙姫が言いかけると屋上から正門付近に昨日来た大赦の『霊的医療班』の車が到着したのを6人は見た。

 

「……乙姫、『霊的医療班』がもう来たぞ」

 

《そっか。それじゃあ皆、何かあるといけないから検査を受けに行ってね》

 

「……これってまた活動がお流れ…ですよね」

「……友奈ちゃん…その通りだと思うわ」

 

どうやら本日の勇者部の活動もお流れが決定してしまったようだ。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-皆城家(讃州地方)-

 

時が変わって夕暮れ、特に異常はないという事で昨日よりも時間はかからずに解放された勇者部の4人は総士や乙姫から部室内では話せなかった内容を打ち明けたいと皆城家へと誘った。

 

今は話の内容をまとめるために一騎を入れて話し合っている所である。

 

「わざわざこんな事をする必要があるのか?」

 

「一騎の場合、結城に最初に関わった事件の事も話すのだろう? そうなると、僕たちとフェストゥムとの関連性も言わないといけないからな。……そこまで考えていたのか?」

 

「うっ……」

 

「私たちがいてよかったね。…一騎だけじゃあややこしい事になっていたかも」

 

図星を突かれた一騎。彼なりに友奈に話すつもりだったが内容を聞いた総士から不十分だと言われたのが発端である。そういうのは一騎は疎いのである。

 

「幸いなことに僕らの家なら部室内では話せない様な事も話せるし、僕たちのいた世界を知ってもらうために都合のいいものも置いてある」

 

「都合のいいもの?」

 

「見ればわかる」

 

3人は話す内容を決めると皆城家の居間へと向かう。そこには友奈・東郷・風・樹がくつろぎつつも待っていた。東郷は車椅子ではなく室内に置かれたソファーへと座っている。

 

「お待たせしました」

 

「ううん、それほど。で、何を話すのかしら?」

 

「はい。部室では途中で終わってしまいましたが全てお話します。その前に……」

 

風が代表して総士に訊ねる。総士は少し間をおいて4人に訊ねた。

 

「部室内で話した内容についてみんな理解の方は?」

 

「うーん、率直に言うとあんまし現実味がないんだよねえ」

「私もあの時、ああ言ってしまいましたが…冷静になってみるとどうも…」

 

風と東郷が本音を打ち明ける。友奈と樹も理解はやはり出来てはいない様子である。

 

「やっぱり、唐突に言われてわからないよね」

 

4人は頷く。「やはりか」と思った総士は次の手を打つことにした。

 

「口頭だけでは理解するのに限界がある。……みんなにはこれから僕たちの世界の事を説明するための映像資料があるからそれを見てもらってほしい。ただ…」

 

「? ただ……?」

 

「これから見せる映像は非常に酷で」

「とても悲しい物語なの……」

 

「そうなの、一騎君?」

 

「……あぁ」

 

総士の説明を聞いた一騎は自分らの世界の映像の内容を察し友奈の質問に肯定した。

 

映像作品は一騎たちの事情を知ってもらう為にも非常にメリットがあるものだが、反面…これまで平和を過ごしていた友奈たちにとっては悪影響が大きい。

 

勇者4人は悩んでいたが意を決して…、

 

「「「「……お願いします」」」」

 

「(!?)いいのか?」

 

「一騎君たちが話し合っている間にみんなで決めていたんです」

「このまま御役目であの…『フェストゥム』っていうんだっけ、そいつらとあたるなら聞いておいて損はないと思ってね」

 

どうやら4人で話し合って自分らの意思を決めていたようだ。それを目の辺りにした乙姫と一騎は総士を後押しした。

 

「……うん、これなら大丈夫だと思うよ。総士」

「……俺も話してもいいと思う」

 

「…わかった」

 

腹を決めたのか総士はどこからか出したメモリーをレコーダーに接続する。

 

「総士、それは?」

 

「僕たちの世界の映像がまとめられているメモリーだ」

 

映像は始まり、テレビ画面にその内容が映し出される。

 

 

 

それは太平洋に浮かぶ孤島『竜宮島』を中心に起こった記録。

御役目の受ける前は平和な四国で生まれた彼女たちにとっては関係のない物語。

島に声がこだまし、その平和は砕け散った。未知の生命体『フェストゥム』の合図である。

巨大なロボット『ファフナー』を駆って戦う一騎、それを指揮をする総士の姿。

島の中心部、人工子宮ワルキューレの岩戸の内部にて佇む乙姫の姿。

 

それを見た勇者部の4人は一騎・総士・乙姫が元々は別の世界の人間だと実感ができた。

 

島とその周囲の世界の物語は走馬灯のように語られていく……。一騎が島を出て行く出来事、北極ミールとの決戦、砕け散ったミールから生まれた新たなフェストゥムの群れとの戦い、アルタイルと呼ばれる存在を巡る国連軍までもが相手取った戦い。

 

最後は淡い金色の機体が光沢のある銀白色の機体を貫いたが、一騎が淡い金色の機体のパイロットに語りかけその正気と取り戻したが2機とも黒球に包まれるところで……。

 

 

 

「「「「………」」」」

 

「これで映像は終わりだ」

 

部屋は沈黙に包まれていた。…いや、誰も言葉を返せないと言った方が正しい。

 

「ひっぐ…ぐすっ…」

(なによ……私たちの比じゃないわよ………)

 

風の胸の中で樹は泣いていた。風も樹を宥めているが自らも俯きその目から涙を流している。

 

「……うぅ……」

「東郷さん…ぐすっ…」

 

東郷も両手で顔を覆いながらも涙と共に鳴き声を漏らす。友奈はそれを慰めようとしたが自らも溢れる涙は抑えられず嗚咽しながらテーブルに突っ伏した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 数分後、

 

勇者部の4人の心の負担が大きく、場が落ち着くまで時が流れた。ようやく落ち着いたのを見計らった総士は、

 

「心苦しい映像を見せて申し訳ない」

 

「いや、いいわよ。…アタシ達が決めた事なんだしさ」

 

風が遠慮がちに総士に返事をする。

 

「……何か質問はないか?」

 

「そういえば、総士君たちはいったいフェストゥムとどんな関係が…あの映像を見る限りだとなんか…」

 

ここで東郷が間を置く。勇者部内では大仰で堅苦しい物言いをすることがあり、最も頭が回るためか映像を見てその事に気が付いた。

 

言葉が詰まったが、東郷は喉まで出欠けたその疑問を投げかけた。

 

「…人間じゃあなくなっているような感じになってます」

 

東郷以外の3人が驚きの声をあげる。

 

「そうだよ。私と総士、一騎はフェストゥムに関わって様々な事もあって人から変わってしまったの……私はコア型っていう人間とフェストゥムとの独立融合個体」

 

「僕は北極での戦いで肉体が完全に同化されたため一時肉体を手放して再構成した。その結果、人間とフェストゥムの融合体に近くなったがな」

 

「……俺の場合は『存在と痛みを調和する存在』として島の祝福を受けた」

 

その言葉に場の雰囲気は凍りついた。東郷は自分の思っている通りの事となってしまった。

 

(そんな…私はなんていう事を聞いてしまったのかしら……)

 

東郷はある意味地雷を踏んでしまった事に罪悪感を感じてしまった。

 

「そんなの関係ないよ!」

 

「友奈ちゃん!?」

 

「乙姫ちゃんや総士君、それに一騎君がこうやって告白してくれて…あまりにも唐突な事でビックリしちゃったけど…今までの営みで笑ってたりもしてた。あの笑顔は本物だと思います。だから…一騎君は一騎君、総士君は総士君、乙姫ちゃんは乙姫ちゃん、私たち勇者部の仲間だよ!」

 

友奈の発言に東郷の沈んだ気持ちは戻された。同時に申し訳なくなった東郷は謝罪する。

 

「ごめんなさい、総士君、乙姫ちゃん、一騎君。余計なことを伺ってしまって……」

 

「気にしなくてもいいよ」

 

「それで結城はこう言ってるが、君たちはどうなんだ?」

 

「アタシから見れば、アンタ達も立派な部員でもあり仲間よ!」

「お姉ちゃんと同じ意見です。乙姫ちゃんたちが言った事を信じます!」

「私も…友奈ちゃんや勇者部の人たちを助けてくれたから…たとえ、あんな話を聞いても信じれます」

 

それを聞いた一騎・総士・乙姫は戸惑った様な表情をみせる。そしてまた静かになったが、

 

「すまなかった」

 

総士からの謝罪で6人はあっけにとられた。

 

「総士が謝った!?」

 

「何故か試すような事になっていたような気がしただけだ。それで謝るのは当然だろう!?」

 

「変なの~総士~」

 

「「「「「ぷっ…」」」」」

 

乙姫につられたのかどっと場は笑い声に包まれた。総士は羞恥心で顔を紅くし俯かせる。

 

「さぁってと、話は聞かせてもらったけど」

 

風は意を決したかのように立ち上がると総士に向かい合う。

 

「どうする気だ」

 

風が3人に目線を送ると友奈・東郷・樹は頷く。

 

「これで疑問も解決したし、こうして腹を割って話す事も出来たからあらためて勇者部部長でもありこの地域の勇者の担当者として言わせてもらうわ……バーテックスだけでなくこうしてフェストゥムっていう敵も出てきたし、私たちだけじゃあ手に負えないからこの四国の『国防』に協力してほしいわ」

 

「(!?)『国防』…!」

 

東郷がうっとりとした表情となる。それを聞いた一騎たちは、

 

「わかった。こちらこそ宜しく頼む」

 

互いに固い握手を交わした。この世界に転生した『来訪者』と選ばれた『勇者』が繋がりあったのであった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-結城家前-

 

友奈と2人きりになった一騎ははじめて出会った時の真実を語る事にした。

 

「それであの時、何があったの?」

 

「あの時はな……」

 

 

 

――― 回想:3年前

 

ラジオの『声』を知る一騎はなんとかしようと咄嗟に動いたが、『声』を聞いてしまった子供たちや友奈が倒れてしまう。

 

「っ!」

 

1人1人の安否を見る一騎、子供たちは気絶している程度だったが、

 

「(!?)友奈!」

 

友奈の異変に気付く、彼女の髪の色と同じ赤だった瞳の色が、

 

 

 

――― 金色へと変わっていた。

 

 

 

「同化…現象…」

 

一騎は突如目の前に起こった出来事に冷静ではなくなっていた。「このままでは『あの時』と同じだ。どうすればいいんだ」と思考を巡らせる。

 

総士に連絡…いや、それじゃあ間に合わない。今すぐ対応しなければ目の前の子がいなくなってしまう。

 

(今、どうにかできれば、同化をどうにかしないと)

 

そう思った時に、

 

【島のミールの祝福でフェストゥムとなったと聞きましたが、転生し新たに人として生まれ変わってもその力は健在です】

 

頭にそのメッセージが浮かんだ。試してもいないためどうなるかはわからないが、一騎は友奈に手を翳す。

 

(お前はまだそこにいろ!!!)

 

そう心で念じると友奈の眼の色が元に戻っていく。すると、

 

――― ボンッ!

 

という音と共にラジオの電気部分が壊れた。

 

回想終了 ―――

 

 

 

――― 現在

 

「ということがあったんだ」

 

「そっか~…。そうだ、あの子達は?」

 

「あの後、見たけど特になんともなかったよ…。一応、総士にも連絡して問題はないと言ってたけどな」

 

「よかった~」

 

友奈はホッと安心したのか息を吐く。

 

「一騎君ってたまに大人っぽいとこあったけど…」

 

「あぁ、20歳の時にこちらの世界へ『転生』したからな」

 

友奈たちにはこの世界へ来るために『転生』した事とそれを行ったのは神樹である事は伝えてある。友奈たちはこの四国を護るの神様である神樹の名を出されたときに大層驚いたようだった。

 

「ふ~ん。まるで『勇者様』だね!」

 

「…はぁ」

 

「だって、私たちを助ける為にこの世界に来たんでしょ。だったら、私たちと同じ『勇者』だよ」

 

一騎はきょとんとするも人一倍勇者にこだわりを持つ友奈はその意見を譲らない。なぜか、それを言われた一騎は悪い様な…そんな感じは一切なく純粋にうれしいと思えた。

 

夜も深くなってきたという事で話は切り上げ友奈は結城家の玄関へと向かった。

 

「それじゃあ、一騎君。まったね~」

 

「あぁ、またな」

 

友奈が自宅へと戻ると、一騎は思う。友奈といると遠見みたいについつい話してしまう。例えるなら、どんなものでも明るくする灯みたいな存在だ。それもどんな暗闇も照らしてしまうほどだ。

 

だからこそ、一騎はそれを消してしまっては駄目だと思った。それはこの先戦う為の決意を新たにするには十分な理由であった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

これが、僕たちの新たな航海の始まりだった。

 

出会うは星の名を関する侵略者と戦う選ばれた勇者と呼ばれる少女たち。

 

しかし僕たちは知ることになるだろう。

 

彼女たちにおとずれる残酷な真実とその裏に潜む新たな敵を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-四国某所 浜辺-

 

「ふっ! はっ! たぁぁああ!」

 

ある日の夕刻、浜辺にて少女が二振りの木刀を振っていた。その型は恐らく剣術が疎い人でも思わず魅入ってしまうような出来である。

 

彼女は一心不乱に舞うように木刀を振るう。

 

――― prrrr

 

その時、彼女のものと思われる自転車の荷物入れにある端末から着信音が鳴り響く。それに気付いた少女は剣舞を止めると端末を操作した。

 

「…遅かったわね」

 

端末に送信されたメールの内容を見た少女が呟く。相手先は大赦で……

 

【――― を以って、讃州地方への赴任を命じます。当地に赴任された担当者並びに選ばれた勇者と共同し御役目にあたるべし。

 

注意事項:神樹の神示にあった『金色のバーテックス』を確認、十分に警戒し事にあたられよ】

 

「『金色のバーテックス』…ね。そんなの関係ないわ。敵なら一挙に殲滅するだけ…それで完全勝利よ!」




ご都合主義過ぎたかなあ…ともかく、これでやっとゆゆゆでの日常回に入る事が出来る……。日常回2話ほどやったら第2章へと突入します。

ラストに出てきた子が第2章にスポットを浴びることとなります。……いったい何ぼっし-なんだ……。


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幕間1 『来訪者たちの日常です』(一騎編)

時期系列は『結城友奈は勇者部所属』の第1話のころの日常回です。




――― 5月某日 土曜日

 

一騎の朝は意外と早い。これはこちらの世界にやって来てからも変わりはないようだ。

 

元々の世界では真壁家の食事を一手に担っていたことや仕事柄もあり、その慣れた手つきで今は朝食の準備をしているようだ。

 

「一騎、来たぞ」

 

「…開いてるから入ってもいいぞ」

 

味噌汁を温めながらお玉でかき回していると聞き慣れた声が聞こえ一騎は誘う。すると、見慣れた2人がやって来た。

 

「おはよう、一騎」

「おはよう……」

 

「おはよう。……総士、なんだか眠そうだな」

 

微笑みながら一騎は挨拶を返す。総士は目をこすりながら入室してきた。

 

「昨日も徹夜したんだって」

 

「ここのところやることが多すぎてな…」

 

「またか……、ともかく今もっていくから座ってくれ」

 

一騎に促され食卓へとつく総士と乙姫。ここ最近の真壁家ではもはや見慣れた光景である。両家とも仕事が忙しい影響か両親がいないことが多くこうして集まって食事をとることが多い。一応、総士も料理とかはできるそうだが、

 

『そこまで測って料理するなんて、総士っておもしろ~い!』

 

総士の調理風景を見た乙姫がそんな感想を笑いながら言っていた。それ以降、総士が乙姫とともに一騎のもとで食事をとることが多くなったのである。特に余談だが兄の威厳を保ちたいのかわからないが一騎のもとで修業中ということらしい。

 

「そういや、一騎。そちらの母親の姿が見えないようだが」

 

「母さんは……『あの人が大変そうだからしばらく手伝ってくるわね』って言って昨日父さんところに行ったんだ」

 

「お仕事…かな?」

 

「そうみたいだ。さあ、召し上がれ」

 

そう他愛のない話をすると食卓にメニューが揃う。本日のメニューはご飯、味噌汁、焼き鮭といった簡素な和食のようだ。

 

「「いただきます!」」

 

『わああぁぁぁぁ! 遅刻! 遅刻ー! いってきます~!』

 

丁寧に手を合わせ、いざ食べようとした矢先、3人にとって聞きなれたような声が聞こえる。

 

「……あの声、結城か?」

 

「みたい…だな」

 

「いつもだったら美森ちゃんがいるおかげでこうはならないのにね~。でもまだ早いのにどうしたんだろう?」

 

「東郷は今日休みだってさ」

 

今週、友奈はクラスで係の仕事があったがいつも起こしに来る東郷は今日に限って一身上の都合で欠席のようだ。それにより朝起きられずの遅刻というパターンである。

 

「そっか~」

 

疑問が解けたのか乙姫は朝食に再び手を付ける。総士は気にせずマイペースで朝食を食べているのをみた一騎も食べ始めるのであった。

 

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

「はい、お粗末様でした」

 

食べ終わった総士は手早く食器を重ね、一騎は手際よく洗い始める。まだ登校まで時間もあることから乙姫はテレビを点け、適当なチャンネルをいじり始めた。

 

「一騎」

 

「ん、どうした?」

 

食器をふきながら総士が話を切り出した。

 

「今日僕は半日授業には出るが、部には用事があって出れない」

 

「なんかあるのか?」

 

「率直に言えば、大赦の方だな」

 

なるほどと一騎はうなずく。同時に食器を洗い終え水を止める。

 

「急なことで出向かないといけなくなった。それでだが一騎、勇者部の方に休みの(くだり)を伝えてほしいのと風先輩にこれを渡してほしい」

 

「わかった。いつも通りに勇者部の方に顔を出すつもりだったからな」

 

片づけ終わると総士は学生鞄からクリアファイルを取り出すと一騎に手渡す。一騎は頷くとすぐに自分の学生鞄に入れると今度は弁当をこしらえ始める。

 

「乙姫、お昼はどうするんだ?」

 

「今日は行くとこあるから作ってくれないかな~」

 

半日授業で給食がない乙姫の分を含め3人分の弁当をこしらえる一騎。あらかじめ用意したおかずを手慣れたように弁当箱に詰めていく。

 

弁当を作り終えた一騎は少量のご飯と焼き鮭が一尾余っているのに気が付いた。

 

(もったいないし使ってしまおう。それに友奈の慌てようじゃあ…な)

 

 

 

――― デーレーデーレーデッデデデッ

『撃て撃て! 合体させなければ奴は大したことはない!』

 

「面白いのか?」

 

「ほかのチャンネルはニュースばっかりで…これしかなかったの」

 

総士が乙姫の隣に座ると視ていた番組に対してふと質問を投げかける。視ていたのは昔の名作を放送する番組で今日のは忍者を模したロボが敵に対して大立ち回りを演じている場面であった。お目当ての番組がなかったため仕方なく視ていた乙姫はそう呟いた。

 

「出来たぞ。そろそろ出ようか」

 

一騎に促され、乙姫はテレビの電源を落とそうとした。

 

――― ドドン! デーデーデーデーデッデッデー

 

「「「(!?)」」」

 

テレビから流れてきたあるBGMの出だしを聞いて3人の足が止まった。そして、出てきた番組のロゴを見た。

 

『ゴオオオォォォォバイン!!!』

『あの名作が原作者監修による再構成とHDリマスター化により再見参! 新番組『機動侍ゴウバインR』 今夏放送予定』

 

「わぁ~この世界にもあったんだ~♪」

 

(というかなぜこの世界にある…僕らの世界と交わった影響か)

(……衛や堂馬、水鏡がこれ見たらどうなってたんだろう……)

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-讃州中学 家庭科準備室兼勇者部部室-

 

時間はあっという間に過ぎていき午前授業が終わり学内では家路につくものや部活動へと励む者が出る中、一騎は勇者部へと足を運んだ。

 

「どうも」

 

「(!?)一騎先輩、お疲れ様です~!」

「おぃ~す。…って総士はどうしたの?」

 

「大赦の方に急に出向かないと行けなくなったそうで」

 

「うーん、参ったわね…ただでさえ今日は欠員がいるってのに」

 

「それなんですが、総士からこれを」

 

スケジュール管理に頭を悩ませる風に一騎は総士から預かったクリアファイルを手渡す。

 

「これは総士と東郷が抜けた分の今日のスケジュールと…うそぉん、あいつここまでやってくれたの!?」

 

風がクリアファイルの内容を見ると総士が極めて効率的に仕上げた本日のスケジュールと翌日以降の依頼で使う資料だった。

 

「助かるわ~。…っとスケジュールは少し手直しすれば…うし、半ドンで依頼どうこなすか悩んだけどこれでまわせそうね」

 

風がやっと本日の勇者部依頼消化のスケジュールをまとめ終えその場で伸びをする。

 

「そういえば友奈の姿が見えないな」

 

「まだ来てないのよ。どこで油売ってるのかね」

 

「お姉ちゃん、依頼の方は友奈さんが来てから?」

 

樹が風に買ってきた炭酸水を渡しながら本日の依頼に関して聞いてくる。

 

「いや、真壁には早々に『あの依頼』に行ってもらうわ」

 

「……またですか」

「あはは……なんというかこりませんねえ」

 

風が『あの依頼』を口にすると一騎が呆れたかのように樹は乾いた笑みを浮かべる。

 

「サッカー部からがっつり一騎も借りたいとの依頼も入ってるし、あいつら…放っておいたり断ったらまたなんか言ってきそうだしね。と、いうわけで時間もギリギリになりそうだしいつも通りに容赦なしにやっちゃいなさい。アタシ等は友奈が来たらすぐに出るわ」

 

「わかりました。それじゃあ先に行ってきます」

 

一騎が部室から出ると例の依頼先に向かった。

 

 

 

数分後、入れ違うかのように友奈が慌てた様子で勇者部室へと駆け込んだ。

 

「はっはっ…、遅くなりましたーっ。結城友奈ただ今参上!」

 

「友奈、おっそ―い!」

「お疲れさまです! 友奈さん」

 

友奈が部室内見渡しながら呟く。

 

「あれ~一騎君と総士君は?」

 

「総士先輩は大赦に呼ばれて急に休みになりまして~」

「真壁は先に依頼に向かわせたわよ。…友奈、何かあったの?」

 

「はいっ! 犬吠埼部長殿! お腹が減って動けませんっ……」

 

ぐううぅぅ……という豪快な音が部室内に響いた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-讃州中学 体育館-

 

『待っていたぞ、真壁ぇー!!!』

 

「はぁ……」

 

依頼主が待ち合わせ場所に指定した体育館へと赴いた一騎であったが入ってすぐにため息を吐いた。なぜかそこには柔道着を着込んだ男子が5人とその他大勢が待ち構えており床のフローリングには授業で使う専用の畳が敷かれていた。

 

「勝負はいつも通り、今日は俺たち5人が相手だ」

 

風たちが『あの依頼』と言ったのはこの挑戦者たちの果し合いを受けることである。

 

この挑戦ができたのは一部の男子が讃州中学でも美少女を言われる子が集まっている勇者部の女子と付き合おうと依頼に見せかけたデートの誘いが多く来たことに始まる。それに所属する黒一点である一騎がずるいと言い初めたいわゆる嫉妬である。

 

それを知った風がその男子を集め「アンタたち…あまり関係のない依頼ばっかりまわすんじゃないわよ!?」とさすがに強めに言って切り捨てた。

 

それがある意味で火が付いたのか一騎よりもいいとこ見せようと今度は挑戦状を叩き付けた。もともと運動能力が高すぎる一騎を助っ人として向かい入れるために部活間で決める際の手段だったのを利用したとのことだ。

 

(まるで昔の剣司みたいだな)

 

と思いながら一騎はその挑戦者たちを寄せ付けず圧勝した。それ以来、時期の節目あたりに一気にそういった依頼が来ることとなった。

 

風は初めのころは断りまくっていたが、あとを絶えなかったため挑戦を受け一騎があっさりと勝利したところぴたりとやんだ。依頼が滞るということで思いっきりやらせる事にしたのはそのことである。

 

現代社会にてこういうのは問題になる……はずなのだが、男子内でルールが決められ、迷惑にならないよう最大限に配慮しているせいか、一種の娯楽のようなものとなっていた。

 

『いざ! 勝負!!!』

 

(5人くらいならすぐ終わるか)

 

 

 

――― 数分後

 

『――― (チーン)』

 

畳の上には挑戦者である5人の男子が床に転がっていた。ある男子は一騎に掴み掛ろうとするも躱されその勢いで投げられ、やっと掴んだと思ったら逆に投げ返されたり、関節技を決めようとしたらいつの間にか掛けられていたと結果はやはり一騎の圧勝であった。

 

「お疲れさん、一騎。後処理はこっちでやっとくわ~」

「ほかにも依頼があるんだろ? こっちは気にしなくてもいいぞ」

 

「あぁ。すまないな」

 

事を終えた一騎は汗一つかいていないため見学していたほかの男子たちに促されその場を後にした。

 

『これで勝ったと思うなよ……』

 

負け犬たちの遠吠えが続いているが…相手が相手である。まあ、そのうち剣司並にかっこいいイベントがあって報われる……

 

【ええと…あんまりそういうのは~…】

【お断りさせて頂きます(ジト目】

【こういうのもなんなんだけどさ…やっぱり馬鹿じゃないの?】

【ええと、無理です】

 

はずは無かった。どうやら勝手に商品にされているせいもあって勇者部の子たちの評価はプラスどころかマイナスを振り切っているようだ。

 

『それでも…それでも…俺たちは』

 

【はぁ! バッカじゃないの!】

【う~んと……ごめんね~】

【一生懸命なんだけどさ…ごめん、付き合えないや!】

 

うん、ごめん。君たちにはどうやら無理っぽい。……なんか多かったような。

 

『ちくしょうめ~!』

 

名もなき男子たちの慟哭が体育館に響き渡った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 閑話休題(それからさらに時間が経って)

 

「やっと終わったな」

 

あれから一騎はサッカー部での紅白戦・そのあとの練習相手など久しぶりにがっつりとした依頼をこなし部室へと戻ろうとしていた。

 

「先輩抜けてどうなるかと思っていたけど…あれなら心配はなさそうだ。今年はかなりいいとこまで行けそうだな」

 

「一騎君、みぃ~つけた!」

 

そう呟いていると聞きなれた声で一騎は振り向いた。

 

「ちょうど真壁も戻るとこだったのね」

 

「はい。本日のはすべて終わらせました」

 

友奈・風・樹も本日の依頼を片づけ部室へと戻るとこだったらしい。一騎のもとへと駆け寄り和気藹々な模様となったが、

 

――― ぐううぅぅ……

 

と友奈の腹が鳴ってしまう。

 

「うぅ~お腹空いた……」

 

「? 昼食べていないのか?」

 

「そうみたいです」

 

聞けば遅刻しそうになって朝食を抜いただけでなく昼食も食べていないらしい。樹や依頼先の人たちからの差し入れをもらっていたそうだが、友奈が力加減も考えずに依頼にエネルギーを使うせいか常に腹ペコになっているそうな。

 

「…あれ? 部室の前に何かありますよ?」

「ほえ?」

「弁当の箱と…魚の骨?」

 

一同は部室の前に置かれた弁当箱となぜか添えられた魚の骨を見つける。

 

「あっ!? すみません、それ私のですっ!」

 

「「「はあっ!?」」」

 

友奈がその件に関して皆に説明をする。いざ昼食を食べようとした友奈だったが気が立っていた2匹の猫を見つけ喧嘩を止めようといつもの思い付きとお人よしなところが出てしまったのかなんと弁当を2匹の猫に与えてしまったそうな。

 

「なんか友奈さんらしいです」

 

樹が感慨の声をあげたが、一騎がそんな能天気な友奈を心配した様子で

 

「友奈、いくら助けるのはいいんだけどさ、自分のこともっと気を付けろよな」

 

「えへへ~ごめんね~」

 

友奈がそう言うと腹の音がまた鳴り、「お腹空いた」としょんぼりとした様子となる。

 

「かめやにつくまでもつのか?」

 

「う~ん、ちょっときついかも……」

 

それに見かねた一騎は弁当箱が入っているバックから何かを取り出し友奈に手渡した。

 

「一騎君、これ」

 

「余りものだけどこれでもたせとけよ。本当は朝に渡したかったけど都合が合わなかったしさ」

 

一騎が取り出したのはラップにくるまれたおにぎりであった。友奈はきょとんとした表情でおにぎりと一騎を交互に見る。すると、人に優しくされるのが弱い友奈は感動のあまり号泣しながらおにぎりにパクつく。

 

「うう…うまい、うますぎるよぉ~! 樹ちゃんが天使なら、一騎君は神様だよぉ~!」

 

部室にいるときに樹からうどんクッキーをもらい、その時の喜びの反応になぞらえて一騎に精一杯の感謝をあらわした。

 

「よ…喜んでもらえてなによりかな」

 

(さっき部室で女房役がいるじゃないって言ったけど、真壁の奴、女房役も似合ってるじゃない)

(一騎先輩の場合、むしろ旦那も女房役もどちらも兼ね備えてますね)

 

そんな光景を犬吠埼姉妹が微笑ましく見つつも内心で茶化す。この後、4人は風のおごりでうどんを食べるためにかめやへと足を運ぶのであった。




『』で囲んでいるタイトルはゆゆゆ世界の日常模様で描くことにしているので試行錯誤の部分が大きいです。そのためファフナーキャラもゆゆゆ世界のはっちゃけた日常のためキャラがぶれているかもしれません。

それと日常回は『結城友奈は勇者部所属』・『結城友奈は勇者である 樹海の記憶』などからの抜粋となります。

次回は総士と乙姫の視点となります。

●機動侍ゴウバイン
竜宮島で刊行されている漫画雑誌に連載されている漫画作品のひとつ。著者は大粒あんこ(原作キャラである小楯衛の父、保が著者)。EXODUSでは新シリーズ「真・機動侍ゴウバイン」や原作キャラの堂馬広登の主演で実写特撮映像化も実現したらしい。

シュ○ちゃんが無双する洋画などの文化が残っているらしいゆゆゆ世界の四国ということで竜宮島文化も参入したらこうなったんだろうなあという作者の妄想である(西暦換算だとファフナーの150年ほど未来がゆゆゆ)。



茶番:たまには出番がほしいんです(せっかく精霊と同じ扱いになったので入れてみる)
「おはよう、一騎」
「おはよう……」

「おはよう。……総士、なんだか眠そうだな」

微笑みながら一騎は挨拶を返す。総士は目をこすりながら入室してきた。

「昨日も徹夜したんだって」

「ここのところやることが多すぎてな…」

「またか……、ともかく今もっていくから座ってくれ」

一騎に促され食卓へとつく総士と乙姫。総士は眠い目を少しこすったが、

「ん?」

何かを発見した。気のせいかを思いもう一度目をこするとそこには、

【……(ふよふよ】

「……は?」

食器を器用に運ぶ友奈たち勇者に仕える精霊サイズとなったザインの姿があった。総士は目の前の異様な光景に眠気が盛大に吹っ飛びツッコミを入れた。

「一騎!」

「どうした?」

「なぜ、ザインがこんなことをしている?」

「なぜって…いやぁ、前々からこういうのに興味を持っていたようにしていたから試しにやらせてみたら思いのほか器用で、今じゃあ親がいない時限定だけど家事にすごく助かっているんだ」

「へ~面白~い♪」

乙姫が感慨の声をあげる。

【……(ヤッテミヨウカナ)】

ニヒトが虎視眈々とその様子を見ていた。なぜかザインのやっていることにどうやら興味を持ったようである。


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幕間2 『来訪者たちの日常です』(総士編)

時期系列は『結城友奈は勇者部所属』の第1話のころの日常回の総士視点。

『結城友奈は勇者部所属』第1話にて欠席していた東郷の独自視点あり。


-讃州地方 皆城家 総士の自室-

 

夜も更けている時間、部屋内にキーボードをたたく音が響く。

 

「……」

 

総士は竜宮島でも日常の傍らこうして島を守る防衛機構組織であるアルヴィスでの業務をこなすという二重生活を送っていた。そして、すべき事が始まったことである意味その生活リズムに戻っていた。

 

複数の事象を並列的に処理できるというを持っている天才症候群を持っているため日常生活と事務仕事をこなすのは彼にとってたやすいことである。

 

「……ふぅ。ようやく終わったか」

 

ここで一息をつく総士。とり進めていた作業が完了したようだ。

 

「もう朝か。だが、3時間は寝れるな」

 

欠点を挙げるなら没頭しすぎて夜も明けることが多々である。既に水平線から太陽が昇りかけていた。こうして睡眠時間が疎かになって眠りかけているのを乙姫には呆れられ、一騎からは注意されるのがいつもの朝の光景なのである。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-讃州地方 病院 研究室-

 

半日授業を終えた総士は病院へと足を運んでいた。総士たちを協力している大赦『霊的医療班』の静流に呼ばれたからである。

 

「総士君、待たせたかしら?」

 

「いえ、それほどは」

 

謙遜しながら答える総士。静流は笑みを浮かべると向かい側の席に座る。

 

「ふふっ…。こうしてあなただけで話すのも久しぶりかしら。いつもは兄妹一緒なのにね。それで乙姫ちゃんは?」

 

「乙姫は…今日は『あの子』に会いに行きました」

 

「そう…今日あなたを呼んだのは。あなたに伝えることが多々と…メインはあなたの検査ね。私ととしても『ジークフリードシステム』…あなたの世界で使われていたものの悪影響が心配なのよ。こうしてあなた達が元いた世界の事を聞いた身としてはね」

 

カルテを取り出す静流。神妙な顔つきで言葉をつづける。

 

「心配してくれるんですね」

 

「そうよ。だって、あなたは私の『()()()』ですもの」

 

静流は2年前までは大赦に所属する身である学校の教師をしており、その縁もあって転生直後の総士を受け持ったことがある。

 

しかし、その話をした静流の表情が暗くなった。

 

「……だからこそ、あの子たちと同じようなのは…もう見たくはないのよ」

 

「やはりあの時のことを…まだ」

 

「情けないわね。…いまだに後悔して割り切れないもの」

 

「無理もありません」

 

2年前、彼女にとってある忘れられない()()()が起きてしまい3月に教師を辞め大赦での医療並びにある研究をするために『霊的医療班』へと移った。総士・乙姫から正体を打ち明けられ、ある種の決意を持っていたこともあったが……。

 

「だからこそ、先生はこちら側で動くと決めたのでしょう?」

 

総士に諭された事もあって静流は話を切り上げ本題に入ることにした。

 

「そうね…それじゃあ、本題に入るわね。まずは…『ジークフリードシステム』の影響ね。医療的な観点とカウンセリングを行ったうえで言わせてもらうけど……」

 

『ジークフリードシステム』はその負荷と副作用をシステム搭乗者が全て負うことになり、搭乗者は後で各パイロットが戦闘で受けたダメージがフラッシュバックの発作で襲われる。

 

それは総士が使っているシステムでもそれがほぼ再現されてしまっている。

 

「意外なことに最初の発作以来、全然起こってない……そういう認識でいいのかしらね」

 

「そうなります」

 

「……カウンセリングなどの医療的に見ればひとまず大丈夫よ。でも、もし何かあったらすぐに言うのよ。乙姫ちゃんもいるんだからね」

 

「ありがとうございます……そのことに関しては肝に銘じておきます」

 

「診断はこれで終わりね。次はこれを」

 

静流は机の引き出しからカード上のものを取り出すと総士の目の前に置いた。総士は自前の端末にカードを差し込むと映し出された内容に目を通し始める。

 

「これは…あの時の新種のフェストゥム資料ですか」

 

「そうよ。不十分だけどわかったことだけまとめたの」

 

「いえ、これだけでも助かります。新種相手では手探りのようなものですから。勇者たちにも情報を共有しておきます」

 

総士は情報の確認が終わると端末の電源を落とし鞄にしまった。

 

「それとこれも伝えておきたいの。…大赦の方で近々『勇者』が派遣されるとの情報も掴んだわ」

 

「(!?)大赦からですか?」

 

「そう、あの出来事のあとに大赦が手中に収めた候補者から神樹様に選ばれた子がいたのよ。だけど、その候補者の育成には()()()()()()が絡んでいるの」

 

「そうなると。十中八九、こちらの監視の意味での派遣になると言う事ですね」

 

「そのとおりよ」

 

そのとき、部屋に誰かが訪ねて来たのかノックの音が部屋に響く。

 

『静流局長、お時間です』

 

「ここまでね」

 

時間ということで総士は席を立った。

 

「今日は大赦で重大な会議があると父から聞いています。御健闘を」

 

「ありがとう…大赦の方はあなたの父君と私たちでなんとかするから。勇者たちやもう一人の来訪者である一騎君の事……それに派遣されてくる新たな勇者の事を任せたわ」

 

静流が頭を下げる。総士も会釈で返すと部屋を後にした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

(やはり一筋縄ではいかなくなったか)

 

総士はこの世界にきて3年間大赦という組織に関わった。そのため、その大赦内部の現状を垣間見て、そして知ってしまったのだ。人類をフェストゥムから守り文化を伝えるためアーカディアン・プロジェクトを遂行するための組織第1アルヴィス『竜宮島』とこの世界での防衛機構である『大赦』との大きな違いを。

 

それが如実となってあらわれたのが2年前の事件の後処理である。これまでは密かに動いていたのだが独自にかつ能動的に動くようになったのもそこからである。

 

(父さんたちも動いているが今のままでは芳しくもないな。綻びが多すぎる。とはいえ、その前に一騎にはいずれ話さなければならないか)

「総士君?」

 

総士は思考にふけりながら歩いていると不意に声が聞こえ振り向いた。

 

「(!?)東郷か」

 

本日学校を欠席したはずの東郷であった。

 

 

 

side:東郷美森

 

一身上の都合で休んだ東郷だったが病院を訪れた理由は過去に遭った事故の影響で不自由となった両足と記憶の一部消失に対する定期診断のためである。

 

「大丈夫よ。そのうち良くなるから…ね」

「うん…」

 

結果は芳しくもなく落ち込み気味の東郷を母親が慰める。母親と共に診察室を後にした東郷だったが治るかもわからないという不安にその表情は少し曇っていた。

 

「手続きに行ってくるから少し待っててね」

「うん」

 

東郷が頷くと東郷の母が総合受付へと向かっていく。

 

「あら?」

 

その場に残された東郷は目の前にいた見慣れた人影に気づき声を掛けた。

 

「総士君?」

 

side out

 

 

 

「どうしてここに?」

 

「大赦からの要件でここに来たのだが…あぁ、そうか。東郷は休んでたから知る由はないか」

 

偶然会ったことで生じた東郷の疑問に淡々と答える総士。

 

「あらあら。総士君、こんにちは」

 

ばったり出くわした総士と東郷の2人の姿に微笑ながら駆け寄る東郷の母。纏う雰囲気と面影は一人娘である美森にそっくりだ。

 

「こんにちは」

 

一騎と友奈の繋がりもあって既に顔馴染みの関係である。総士は挨拶で返した。

 

「お母さん、終わったの?」

 

「手続きは終わったのだけど、今日は先生と話で長くなりそうなの。それで美森には先に帰ってもらおうと思ったのだけど」

 

東郷の母は総士のほうを見つめると、

 

「総士君はこれから帰るのかしら?」

 

「はい。もう用がないですのでまっすぐ帰ろうかと」

 

「それなら…美森を総士君に送ってもらおうかしら」

 

「? 僕がですか」

 

「そう。同じ勇者部の子だしね。この子も不自由だしその方が安心すると思うわ。それに……こんなイケメンさんなら悪い子が寄り付かなそうだしね♪」

 

「は、はぁ…」

「お、お母さん!!」

 

東郷の母のマイペースさに思わず素っ頓狂な声をあげる総士。からかいに頬を紅くし東郷らしからぬ強い口調で返した。

 

 

 

 

 

東郷の母のやり取りを終え、ともに家路へとつくこととなった総士と東郷だったが、

 

「―――!!!」

「その…なんだ。君の母さんはいつもああなのか?」

 

ノンステップバスに乗車中、東郷はこうして顔を紅くし俯いていた。母親から突拍子もないことである事、そして東郷にそういう耐性がなかったためか頭から湯気が出るほど恥ずかしがっていた。

 

「(もう、お母さんったら。なんでああいう事を)あ…うん。たまにああいう風になってしまうことがあってね」

 

総士からの問いかけに頷きつつも徐々に回復していく東郷。

 

そして、目的の駅に着くと2人は降りる。東郷は自ら車椅子を動かす。総士が補助をすると言ったが、東郷が今日は自分で動かしたいと断った。総士は東郷に合わせ隣を歩き出す。

 

しばらくは話題もなかったことがあり2人の間に静かな時が流れていった。2人の周りでは普通の日常の一幕が所々に点在していた。

 

「ねえ、総士君? 少し聞いてもいいかしら?」

 

ここで東郷が先に話題を振った。

 

「病院で何をしていたのかしら?」

 

たしかに総士は本格的に始まった御役目の対応もしなければならなくなったため忙しくなったのは勇者部の彼女たちから見ても明らかである。

 

偶然にも出会った東郷は総士の活動が気になり興味本位で聞いてみた

 

「僕は大赦内では『霊的医療班』に所属している扱いだからな。時々、こうやって呼ばれて出向くことがある」

 

「そう。最近は総士君、本当に忙しそうだから。これも私たち『勇者』に関することなの?」

 

「そうだ。大変だがやりがいはそれなりにある」

 

こんな感じで話題を紡いでいく2人。総士も気になった質問で返す。

 

「東郷はどうして今日病院に?」

 

「私はね…この足の定期検査かな。そういえば総士君には詳しく話してなかったわね」

 

東郷は総士に1年前に引っ越す前に遭った事故の事を話す。その影響で両足が付随となり車椅子での生活を余儀なくされ、さらに記憶の一部、ある2()()()の出来事がすっぽりと抜けてしまった事も総士に語った。

 

「…それで今もこうして定期健診で病院に行くことがあるの」

 

「不安ではないのか?」

 

「ううん、大丈夫よ。最初は不安だったけど友奈ちゃんや一騎君。勇者部のみんなのおかげでこうして暮らしていけるから」

 

静かに微笑む東郷の姿を見て総士は話題を切り上げることにした。雰囲気がどんよりとしてしまったため話題を変えようと総士は考え込んだ。

 

「あっ!!!」

 

そのとき、曲がり角から自転車が飛び出してきた。反射的に東郷は飛び出してきた自転車を避け車椅子を動かすのをやめ止まろうとした。

 

――― ガシャン!!!

 

「え!? きゃぁ!!!」

 

その時である。運が悪く前輪部分がグレーチング状の排水溝に落ちてしまった。勢いよく落ちてしまったためバランスを崩し勢いよく前に投げ出されてしまった。地面に投げ出され叩き付けられると思った東郷は食いしばりつつも目をつぶった。

 

「・・・?」

「怪我はないか?」

 

東郷は目を見開く。どうやら総士が投げ出された自分をとっさに捕まえてくれたようだ。

 

「え、えぇ。おかげさまで…あら?」

 

東郷が総士の顔を見ると紅くなっているのに気づく。どうしてだろうと思ったが今の態勢を見て彼女は気づいた。今総士は、東郷の腰回りに手を回し抱きかかえるようにして捕まえたようだ。そして、自らの胸の双丘が総士の腕に乗っているような状態となっている。

 

余談だが、普段東郷は制服姿で目立たないが、その胸は豊満である。

 

「す、すまない。こうするしか手はなかったんだ!」

「だだ、だ。大丈夫よ総士君。これは不可抗力だから!…ッ!」

 

そんなやり取りをしつつも車椅子に身を預けると総士は溝に落ちてしまった前輪を溝から外した。

 

「東郷、あんなこともあったし、やはり僕が押そう」

「あ…う、うん。お願いしようかしら」

 

東郷はお言葉に甘え、総士に車椅子を押してもらうことにした。

 

「――― 総士君」

 

東郷がそう呟くと、体を総士の方に向けまた一言。

 

「…ありがとう」

 

「大したことはしていないさ」

 

そう答えた総士に押され2人はまた歩き出した。

 

 

 

 

 

「あ~~!」

「あ、友奈ちゃん!」

 

聞きなれた能天気な声で親友が近くにいることにすぐに気づいた東郷。声の主である友奈もすぐに駆け寄り、後に続いて一騎・風・樹もやって来た。

 

「む~。総士君、東郷さんの車椅子押してる~そこは私の特等席なのに~」

「何々? 休んで今日は…うぬぬこれってデー…」

 

「違「う」います!!!」

 

風にもからかわれながら合流した総士と東郷は、勇者部のみんなと共に風のおごりでかめやへと向かうのであった。




前半総士の暗躍、後半は東郷との日常でお送りしました。フラグの設立回でもあったりする。

すみません、幕間をあと1話投稿してから第2章に入ります。

次話は近作品での大赦の内情、一騎たちが関わったことで変わってしまったあるキャラの顔出しを行います。

●東郷の母
東郷をさらに天然&濃ゆい一面を前面に出した風に書いてみました。


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幕間3 蠢く影、抗う者たち、眠れる少女

一騎と総士が勇者たちと共に過ごす中、一方大赦では大きく事が動き始めようとしていた…。

2016/8/9 次回予告追加。一部加筆修正。


-四国大赦本部-

 

大赦内部では大人たちによるある話し合いが進められていた。それはバーテックス以外の人類の脅威でありこの世界では未知の敵『フェストゥム』。神樹の神託があったとはいえ起きてしまったさらなる危機に対しある方針が採択されていた。発起人らしき厳格そうな男性が中心となり大赦の現在の主要な幹部に意見していた。

 

この男性はこれまで外部協力機関を率いる立場として大赦内では特に勇者システムの開発や『霊的医療班』への支援を行い大赦外ながらも大赦への繋がり並びにその影響力はかなりのものであった。ここまで上り詰めた境遇もあってなのかその卓越した手腕は大赦にいたすべての者を明らかに圧倒していた。

 

話し合われている内容は厳格そうな男性が設立したある機関が今回の事態に協力し対応したいとの事である。

 

その男性の意見に対し明らかに難色を示し一部の大人たちが反論する。意見するのはこれまで中心となっていた大人たちの派閥である事件後の勇者の方針を決めた事でその地盤を盤石なものとしていた。言わせれば『古い価値観』を持つ一団あげてくる意見は所詮は建前のようなものでその本質はどこか自分の保身を感じさせるように聞こえていた。

 

(これが…今の大赦なの)

 

傍聴席にいる静流が神樹をあしらった仮面の下で小声で呟いた。

 

そして、厳格そうな男性はそういった『古い価値観』を持つ派閥を正論で返す。

 

「その短絡的な考えでは決して奴ら…『フェストゥム』には勝てん! 先に見せた通りかの生命体は『バーテックス』をも凌駕する能力を持つ。特に『フェストゥム』がもつ同化能力は勇者システムの障壁が効かない事が判明した。これではあの一件…いや、それ以上の悲劇が起こるのは明らかだ」

 

そして男性の意見に呼応して大赦で格式の高い3家である乃木・鷲尾・三ノ輪もそれに同調する。あの事件以降『古い価値観』を持つ大人が決めた方針に疑問をもった名だたる家系が厳格そうな男性の一派に名を連ねているようだ。

 

「…それはわかる。が、それよりも樹海内に入って来た勇者以外の3人はいったい何者かね? そして、何故貴様らはその3人を知っているような素振りを見せているのかね?」

 

議論を行うたびにこうして対立が露となり白熱する。『古い価値観』を持つ大人たちがのらりくらりと何度も躱そうとし話はまだ平行線をたどるかと思われた。

 

「待ってください!」

 

『(!?)』

 

そのとき、会議中にも関わらず少女らしき声と共に一団が部屋内に入って来た。ひときわ目立つのは格式の高い人が乗るような駕籠とその周囲には駕籠にいる人物の従者らしき成人男性が2人、巫女服を纏った女性が3人、明らかに子供と思われる姿の人物が1人という構成である。

 

「あ、あのお姿は!」

 

大人たちがその正体に気づき辺りが騒めき始める。従者が駕籠を下ろす。

 

「■■様、どうしてこちらに!」

 

「重要な会議中申し訳ありません……。本日はこの件に関して神樹様からの神託がおりましたので参りました」

 

「神樹様から!?」

「いったい何が?」

 

「お静かに!」

 

大人たちが騒めくが、巫女服の一団がそれを宥め押さえ込んだ。

 

「神樹様からの神託の内容はあの3人の事とこれからについてでした。…あの3人は勇者と共にバーテックス並びに未知の脅威である『金色の祝祭』…フェストゥムと呼ばれる生命体と戦うための戦士が2人、それを導く子を遣わしたということです」

 

大人たちは驚愕するも巫女服姿の女性の代表は言葉を続ける。

 

「これまでこの3人は神樹様の神託の元、これまで外部協力者である機関に委任させてきました。大赦としてはこの機関と協力。共に2つの脅威に対応せよということです」

 

「それは分かった…だが、神樹様はなぜ我らを頼らなかったのだ?」

 

「それに関する神託はありませんでした。何か考えがあっての事でしょう」

 

その言葉に一部は黙り、一部は納得がいかないのかブツブツと文句を言う者がいた。そして、厳格そうな男性は一団に尋ねた。

 

「では、これを聞いた上での大赦側の見解は?」

 

「大赦側としては今回の御役目に関して機関に協力を要請。機関にも自由に動けるための権限を認め共に今回の事態にあたってほしいのですが」

 

「それを大赦からの正式な要請と受け取っていてもよろしいのですか?」

 

「私から大赦の代表としてお願い申し上げます」

 

駕籠の中にいる少女が幕越しに告げる。大人たちは明らかに驚愕するも言い返せない。駕籠にいる少女がどんな存在か分かっており、たやすく反論できないのだ。

 

その後、一団の神樹様からの神託を聞いた上で議決をとったが、結果は明らかなものであった。

 

「く…。反対意見はなし。よって、機関の今回の御役目に対する協同を認めることとする」

 

「正式な通達などは追って対応します」

 

大赦側でフェストゥムに対抗できる手段をもつある機関の介入を認める採択がここに決定された。厳格そうな男性は会釈をすると同調した一族の者たちを引き連れ部屋を後にした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:『古い価値観』を持つ大人たち

 

「なんという事だ! あの御方まで出てくるとは」

 

採択が既決された事に悪態つく大人たち。あの事件後に直々に管理することにした少女がここまではっきりと意見を物申すとは思っていなかったようだ。調べでは最近までは確かに無気力で人形のようになっていたというのに。

 

「慌てることはありません」

 

一団の中心にいる人物が宥め続ける。

 

「ともかく、奴らは『勇者システム』以外のバーテックス対抗手段を持っていることは確だ。……だからこそ、まずは調査が必要だな」

 

「はぁ…調査ですか…?」

 

「強味を持っているからなのような強硬に出られたのでしょう。だからこそ、奴らの弱みを見つけるのです…そして、奴らの対抗手段を確実に大赦のものとするのです」

 

「おお」

 

「さすればあのような下賤な奴らにいい顔はさせれまい」

 

今回は自分たちの都合通りにはうまくはいかなかったが、この期に及んで『古い価値観』を持つ大人たちの悪意はさらに助長したようだ。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:????

 

「……ふぅ~緊張したよぉ~」

 

会議終了後、その場を後にした一団だったが駕籠に乗った少女は緊張が解けたのかどうやら素に戻ったようだ。それを見た一番小さな従者が駕籠に近づく。

 

「■■、大丈夫?」

 

「うん~なんとかぁ~。……『■■■■』~これでよかったのかな?」

 

声の感じから10代の少年のような声だ。駕籠の中の少女がその従者に対して愛称のようなあだ名で呼ぶ。どうやら2人は親しい関係のようである。

 

「十分だよ。ありがとう、■■」

 

「だけど~また大人たちがうるさく言ってきそう……」

 

駕籠を支えている従者が何かを伝えようと視線を小さな従者へと送る。

 

「……任せてだってさ。もしもの時は俺もなんとかするよ」

 

「そっか~。……お願いね、『■■■■』」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:皆城乙姫

-讃州地方 ?????-

 

「それでね。この前はこんな事があったんだよ」

 

乙姫は白く清潔感がある静かな部屋にいた。彼女はその部屋にあるベットに横たわる少女に語り掛けるように話す。話す内容はこれまでにあったことなど他愛のないことが多い。それでも少女は反応を見せずまるでおとぎ話に出てくるような眠り姫のように穏やかに眠り続ける。

 

「……今日も目覚めず…か」

 

そのとき部屋内にぶわっと風が入り込んできた。そして乙姫は部屋内に気配を感じ窓側へと見るといつの間にか部屋内に備え付けられた窓が大きく開けられておりその傍には人間の女性がいた。

 

桜色のまっすぐ美しい長髪で神々しい装束のような和服に身を包んでいた。

 

乙姫はその女性を一瞥し微笑むと

 

「その姿は久しぶりね。『神樹』」

 

「えぇ、お久しぶりですね。乙姫さん」

 

『神樹』と呼ばれた女性がはにかむ。ベットに眠る少女に気づくとその頬に触れた。

 

「……あなたから見てこの子はどうかな?」

 

「変わりありませんね…あんなことがあったのに」

 

「そっか~」

 

『神樹』と呼ばれた女性が改めると乙姫に告げた。

 

「今日、あなた達の事を大赦の上層部に伝えました。これ以上隠し通すのは無理そうです」

 

「その大赦の上層部っていう人たちはどうしたのかな?」

 

「脅威に対してなのかひとまず合意はしてくれました。ですが…」

 

『神樹』と呼ばれた女性は悲しげな表情をみせる。それを見た乙姫も同様だ。

 

「おそらく…また自分たちの都合のいいような解釈をしてしまうでしょう」

 

「仕方ないよ…人っていうのはそれぞれあるから…思うようにはいかないの事の方が多いよ」

 

乙姫は椅子から立ち上がるとまるで諭すかのように告げ始める。

 

「本当だったらね変えるためには色々と知って選ばなきゃいけないの。何度でも何度でも、それが未来に繋がっていくために必要なことだから。だけど…この世界は知ることを隠し、選ばせることができない。これは私がこの世界に生を受けて知ってしまった事……」

 

「だけど、こんな事で変わるのでしょうか…それともまた変わらないのでしょうか」

 

「あなたはそれを変えたいと思ったらそれを選んだ。この子も本来ならこの世界から消えてしまうはずだったけど、それが変わってしまった。……少しでも変わりつつあるんだよこの世界は」

 

意味深な事を告げていると2人は部屋の外に誰かが近づいてきているのを感じた。

 

「ここまでですね…乙姫さん、世界の事、勇者の事。これからもお願いいたします。今の私はこれしたできないもので」

 

「『神樹』は十分にやってるよ、だけど……」

 

『神樹』と呼ばれた女性は首をかしげる。

 

「今度来るときはあなたの本当の名前を教えてほしいかな。神様の集合体だし『神樹』だと全体をさす言葉になっちゃうから…あなた自身の事を知りたいな」

 

「そうですね…今度は…是非」

 

『神樹』と呼ばれた女性はその意味を理解すると微笑みながらその部屋から消えた。すると、部屋にノック音が響く。

 

「乙姫ちゃん、名残惜しいけど時間だよ」

 

「わかったよ。春信」

 

春信に呼ばれたことにより面会時間の終わりが近いため名残惜しそうに立ち上がる乙姫。数歩歩むと振り返り横たわる少女に向け呟いた。

 

「あなたはいつ目覚めるのかな?…そして、どちらを選ぶのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ■ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:厳格そうな男性

 

会議後、機関のトップともいわれる厳格そうな男性は自らと同じ意志を持つ同士のもとへと訪れていた。

 

「それでは設立の見込みがたったということか」

 

「ああ。……外部の協力の方が大きかったがな」

 

話し合いの中心にいるのは厳格そうな男性と壮年の男性。

 

「よく大赦にいる派閥も合意してくれたものだな、■■」

 

「それに関してだが『彼女』が動いたことにもよるらしい」

 

「大赦に奉られたあの子か!」

 

思わないところで事が大きく動いていたことを知り驚愕した声があがる。

 

「それでは、かねてより進めていたあの計画をこの世界でも」

 

「うむ。この件に関してほかに何か」

 

部屋内が静寂に包まれる。どうやら、この場にいる人たちには異論がないらしい。

 

「異論はないと見た……現時刻を以って『Alvis(アルヴィス)』計画を始動、対フェストゥム並びにバーテックスへの脅威に対するあらゆる活動を開始する!」




次章以降で出す予定の重要キャラの顔出しとファフナー勢が関わったことによる大赦の動きをお送りいたしました。

以下、解説。
●『古い価値観』を持つ大人たち
『乃木若葉は勇者である』にて大赦の前身である大社の時点で真っ黒な組織内情が明らかになってしまったためゆゆゆでの大赦でも反映。

これが感想内で言っていた『勇者を捧げるのを静観するだけの立場の人』ですが、はっきり言うと今作品ではファフナーの人類軍に近い奴らになるかと。

●会議中に現れた一団
少女は言わずもがな奉られたあの少女です。原作よりも活動的になっています。

●眠れる少女
クロスオーバーならではのイレギュラー対象キャラです。正体は……まあ、ある意味世界からいなくなるはずだった『~は勇者である』シリーズでは重要なキャラです。

以下、次回予告
「勇者部ファイトぉぉ!」

前回の襲撃から数えて1か月。バーテックスの3度目の襲来に対抗する勇者部。

「バーテックス確認…ってなんかいっぱい出てきた!?」
「あれもバーテックスなの!?」

バーテックスも大幅に戦力を増大させ神樹を目指す。

「思い知れ、私の力!!」
「まさか…あの子…1人でやる気!?」

そして、その戦場に突如参入してきたのは紅き装束を纏った少女。

「もしかして、あなたは春信の?」

次回、第2章『援軍-さんせん-』開幕…第12話『星屑』

「ふん、ちょろい。私にかかれば…完全勝利よ!」

…【あなたはそこにいますか】


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第2章 【援軍-さんせん-】
第1話 星屑(前編)


ゆゆゆ原作第3話の戦闘前の導入回となります。

作者のオリジナルフェストゥムの説明会でもありますが少し短めです。

2016/8/12 加筆修正(勇者たちの会話を盛り気味に)
2016/8/14 誤字修正


視点:襲来したミール

-四国 壁の外の世界-

 

前回の襲撃から数えて1か月半、壁の外には4本の牙のようなパーツが特徴的な大型のバーテックスが迫りつつあった。

 

【あれだけやられたってのにこりないねえ……まあ、お互いさまだけどさ…おや?】

 

それを少年のような存在がその様子を垣間見ていた。前回の戦闘では乙姫の問いかけに対し明らか拒否の意思を見せたミールの意思のひとつである。

 

【随分と増やしたものだな……僕のコアやミールが来るのにまだまだ時間がかかりそうだから…今回はバーテックスに譲ってあげよう……神樹は僕の物にするけどね】

 

前回の戦闘で消耗し、他のコアの集結も完了していないためどうやら高みの見物の状態らしい。

 

ふと見ると、山羊座の名を冠するバーテックスの周囲に金属質のロボットのようなもの、何かの生命体に近いもの…様々な種類の小さな個体が群がり追従し始める。

 

次なる襲来の時は間近へと迫っていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 時間は少し遡って

 

視点:勇者部

-皆城家(讃州地方)-

 

「……いやぁ~。平和ですねえ~」

「そうねえ~」

 

晴れ晴れとした日曜日、友奈と風が皆城家の軒下にてゆったりと過ごしていた。

 

「お姉ちゃん、友奈さん……平和なのは分かるんだけど」

 

それを樹は明らかに呆れたかのような様子で見つめていた。ここ1か月の間、バーテックスやフェストゥムの襲撃が来なかったことで彼女らはいつも通りの日常を過ごしていた。そのため、その緊張がどうやら抜けきってしまったようだ。

 

「友奈、風先輩。そろそろ戻りましょうか」

 

「ふぇ~。一騎君~もう少しここで日向ぼっこしたいよぉ~。今日はこんなにいい天気なのに~」

「そうよぉ~樹。今日は依頼もないし~」

 

だらけた顔で友奈と風が言うが、

 

「そうなんだけど…」

 

樹と一騎が申し訳なさそうに視線を送るとそこには東郷と明らかに不機嫌そうな態度で佇んでいる総士の姿があった。

 

「総士と東郷があの様子だからな」

 

「「……はい」」

 

その姿を見て友奈と風はある意味現実へと引き戻された。

 

「うぅ~東郷さん~あんな数覚えきれないよう……」

「もう座学も大切よ友奈ちゃん。せっかく総士君が教えてくれてますもの。さあもう一息よ」

 

「全く…重要なことだっていうのに」

「総士もそこまでにしておけよ。友奈と風先輩、それに樹が怖がってるよ」

 

「(がたがた)」

「(ぶるぶる)」

「あぅぅ…総士さん怖いです」

 

不機嫌さが総士の顔に出てしまったため、その怖さに部長で年長者であるはずの風、友奈と樹が震えた。

 

今日皆城家に勇者部が集まったのは、戦闘のブランク期間をある意味危惧した総士が風に進言したためである。総士としては情報の共有や選ばれた勇者たちが神樹の力により戦えるが素人も同然であるため指導だ。基礎的な訓練は勇者システムの都合上できないのでせめて座学をという事らしい。

 

今回はフェストゥムの種類・特性や友奈たちの勇者の特性に合わせた戦術方法などである。

 

「一騎君たちは前の世界で……こんなのやれてたの? 時間とれてたのかな」

 

「いや、こんなにやっても意外と暇な時間はあったぞ」

「そこは考えられてスケジュールを組んでいたからな。これも極めて影響が出ないように僕が組んだ」

 

「合理的なんですね」

 

友奈の質問に答えた2人に東郷が感慨の声をあげる。

 

「それにしても改めて思ったのですがこんなに種類があるんですね……どうも横文字だらけですが」

 

「そうだな。種類は数多く発見されて反映されてきたからな。……それと今回新たに出現した個体。最初のは形は独特だが『スフィンクス型』と言われる最も出現頻度が高いタイプと全く同じ特徴を見られた。よってこの個体の名称は『スフィンクスDS(Der Stern)型種』と呼ぶことになった」

 

「この前出てきた乙女座のバーテックスに似たようなのは何て呼ぶんですか?」

 

「個体名称は『レナトゥス型 ユングフラオ種』と呼ぶことになっている。こいつは完全に新種だな」

 

「レナトゥス?」

「ユングフラオですか……」

 

「意味はそのまま『再生』と乙女座のドイツ語読みだ」

 

「ほうほう、なるほど。ドイツって授業でやっていたけど昔あった国でしたっけ?」

 

「そうよ友奈ちゃん」

 

「詳しい解析の結果、外周部の装甲は攻撃に反応して即時再生するというバーテックスの性質に非常に近い事が分かった。『再生』とつけたのはその特性からだな。僕たちのもつミールの力に反応して発動していたようだ。……勇者の神樹の力によって阻害されていたようだが」

 

「この世界に来たミールはそれを恐れていたかもね」

 

乙姫が差し入れなのか飲み物と人数分のコップを持って戻って来た。その周りに手伝いなのか飲み物を抱えている精霊たちの姿があった。

 

「すっかり懐いちゃってるね」

「うん、とってもいい子たちだよ」

 

はにかむ乙姫の姿を微笑ましい様子で視る樹と風。

 

「乙姫ちゃん、意味深な事言ってたけどどういうことなの?」

 

「うん、あのミールに途中で拒否されたからすべては分からなかったけど……。神樹からあのミールがバーテックスを同化したって聞いてたの。もしかしたら、バーテックスを同化してその特性も引き継いでしまっていると思うよ」

 

「そうなのか、乙姫!?」

 

乙姫の発言に一騎は思わず声をあげた。

 

「間違いないと思うよ。だからこそ、あのミールは神樹を恐れてたの…多分勇者を同化して神樹の力の源を知ろうとしている」

 

「それで知ってどうする気なのよ」

 

風の纏う雰囲気が変わりそれが部屋中に伝播する。見れば全員が乙姫の事を見つめていた。乙姫は真剣な様子で話を続け、自分の考えを伝える。

 

「バーテックスはともかく、どうしてフェストゥムが四国の結界を抜けれないかがずっと気になっていたの」

 

「竜宮島のバリアに侵食できるほどなのにか?」

 

フェストゥムには島を覆い侵食するなどの個体も確認されている。それを知った総士は乙姫に疑問をぶつけたのだが彼女は首を振り明確に否定した。

 

「これもこの前語り掛けたときに分かったことだけどね…彼らは既にあらゆる手で侵攻しようとしたけど出来なかった。…バーテックスと同じに性質になってしまったからこそこの結界を抜けれないと思うの」

 

「それって神樹様がある意味でフェストゥムからも四国を守っているという事ですか」

 

「そうだよ美森ちゃん。それに気づいてしまってさらにその途上でミールは勇者の事を知った。だからこそ、神樹の結界の力の根源を学習しようというのが私が導き出した敵の目的ってこと」

 

「なるほどね。それがアタシ達勇者が狙われる理由っていうことね……」

 

予想以上に進んでいた事態に勇者部一同暗くなっていた。

 

「もちろん、そんな事は絶対にさせないよ。総士や一騎もあなた達と一緒にバーテックスと戦うし、フェストゥムの好きにはさせないよ。今回のもそのためだよね、総士」

 

「あぁ、そうだ。今回のもそれを防ぐための一環だ」

 

乙姫は安心させようと微笑みながら語る。

 

「ごめん3人とも…アタシ達そんなに真剣な話だと思ってなかった…。そんなにアタシ達勇者の事を思ってくれてたなんて」

 

事の重大さに気づいた風が頭を下げる。一騎はそれを宥めた。

 

「気にしなくてもいいですよ風先輩。俺の同期も後輩も最初はそうだった人が多かったですから」

 

風以外の勇者も現実的な事だと認識を改めた。そんな中、ふと東郷が思ったことを口にした。

 

「それですと私たちも『勇者システム』を使いこなすために鍛錬を行う必要がありますね」

 

部内でも最も頭の回る東郷が意見を続ける。

 

「一騎君たちと共に戦うことになるし、私たちもある程度の実力を持てば一騎君たちの負担も必然的に減るわ。総士君はどう思うのかしら?」

 

「たしかにその方が楽になるな」

 

「いい考えだよ東郷さん~それだったらみんなで朝練しようよ~」

「いいですね~」

 

「東郷……友奈は朝起きれれるのか?」

「起きれなかったことの方が多いわね」

「樹、あんたもよ」

 

3人に指摘され出鼻をくじかれた友奈と樹はゴンとテーブルに頭をぶつけた。その時である。

 

「「ひゃぁ!?」」

 

すると端末から警告のアラームが鳴り響く。風と総士が真っ先に端末の画面を見た。

 

「『樹海化警報』だ!」

 

「あぁ~もう。あんた達はお呼びじゃないっての!!…みんないいわね」

 

風が立ち上がると出撃前に気合いを入れるために喝を入れた。

 

「勇者部出撃ぃ!! 1か月ぶりだけどなんとかするわよ!」

 

「「「「おーーー!!」」」」

 

友奈・東郷・樹・乙姫は手をあげ気合いを入れた。一騎と総士は形式上手を上げただけであった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 同時刻

 

-讃州地方 某アパート-

side:????

 

あるアパートの一室、ここに引っ越してきた薄茶色の髪で左右のツインテールにしている少女が荷解きを終えると休憩なのかベットへと横になっていた。

 

少女は横になりながら物思いに更けていた。

 

(ついに始まるのね。ここでの生活…、そして御役目が)

 

彼女は大赦からの御役目を受けた身である。この時のために長らくその御役目のために鍛えてきたのだ。そして正式に憧れていた御役目につくことができたことで彼女の心は高揚していた。手を伸ばすとその拳をギュっと握りしめる。

 

(ちょっと興奮しすぎたわね。とりあえず…今日の夕食とサプリ、あとは…にぼし買ってこなきゃ)

 

その時である。机の上に置いた端末からアラームが鳴り響く。彼女はすぐに端末に手を取ると

 

「フン、おあつらえむきね。私の初陣…魅せてあげるわ!!」

 

彼女は端末を手に取り立ち上がり端末のアプリに触れる。すると、彼女の装いが変わるとともに窓の外から光が迫り彼女はそれに飲み込まれた。

 

 

 

 

 

――― この時の私はなんにも知らなかったわ。この御役目で出会った妙にチンチクリンな人たちのおかげで、居場所と仲間があることの意味を知ることになるなんてね。




次回、ついにサプリ&にぼし好きなツインテールのあの子が本格的に参戦します。戦闘回なため構成には少し時間がかかります。

以下、解説
●オリジナルフェストゥム
・スフィンクスDS(デア シュテルン)型種
「~は勇者である」の世界に出てくるバーテックスの基本個体である星屑を模した外見をもつ。バーテックスを同化、情報の反映により外見が変化した模様。基本的な能力はスフィンクスA型種と同じ。

フェストゥムではやられ役のポジション。

・レナトゥス型種(タイプ:ユングフラオ)
バーテックス(乙女座)の外見にフェストゥムの能力(読心、同化、爆弾のワームスフィア属性付与)を加えたもの。『再生』に特化したSDPをもち、同じミールの力に反応し発動していたため一騎の手にもおえなかった。しかし、勇者たちの神樹の力の因子によりSDP能力が阻害され外殻を破壊。直接のコアへの攻撃により殲滅された。

総士が持ち帰ったデータにより新種であるレナトゥス(ドイツ語で再生 これはバーテックスの残骸から生まれ変わった事によりつけられた)型と名付けられた。タイプ名はドイツ語での12星座意味。

レナトゥス型種はあと2体ほど出す予定。

●敵ミール
戦力の合流が間に合わず今回は見学の模様。


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第2話 星屑(後編)

原作第3話の戦闘回。ついに三好夏凜が本格参戦します。

原作ではあっさり終わった山羊座戦ですが、当小説では戦闘を盛った再構成という形でお送りします。



-樹海内-

 

「あれが5体目……」

 

全体を見渡せる高所から東郷が狙撃銃のスコープ超しに出現したバーテックスを捉える。樹海の展開される前に全員変身済みである。

 

「(バーテックスは12体…全部倒せば御役目は終わる…残ってるのはあいつを含めてあと8体…その前に)…総士、フェストゥムは?」

 

「…現在は確認されていない」

 

風は5体目のバーテックスを前に気合いを入れる。総士が情報を確認したがフェストゥムの姿は今のところはないらしい。

 

「……今回は近くにいない。どこか遠くから私たちを見てるのかな…それとも…」

 

「乙姫ちゃん、誰の事なの?」

 

「この前のミールの事だよ。今はなにもする気配がないけど。念のために気を付けてね樹ちゃん」

 

「うん、わかったよ」

 

「みんな、ここで撃退するわよ」

 

風が勇者たちに喝を入れようとする。そんな中、友奈は不安な様子を見せていた。

 

「……1か月ぶりだからちゃんとできるかな……」

 

「え…えーとですね…ここをこうこう」

 

「ほうほう」

「勇者システムのアプリ説明ってこうなってるんだね~」

 

「……元々は一般人という事を差し引いても緊張感がなさすぎる…」

 

スマホを片手に説明する樹。それに相槌をうつ友奈と興味津々な様子で見る乙姫。総士はその光景を見て頭を抱えた。

 

「あ、でもフェストゥムがまた急に出てきたらどうしよう……」

 

「そこは総士がうまくやってくれるよ。考える担当だからな」

 

「一騎!」

 

「本当の事だろ。俺が戦闘に慣れていない頃そんな事言ってたじゃないか」

 

「ふふ~ん、頼りにさせていただくわよ。皆城指揮官」

 

一騎の純粋な言い分に総士は思わず声を荒げる。ちょっとした漫才のような光景となり風がそれを茶化した。その合間にバーテックス『山羊座』が結界の境目を超え切ったのを見た風は攻撃前に勇者部に対し攻撃前の檄を入れようとした。

 

「勇者部ファイトぉぉ……」

 

「オーーー!!!」

 

女性陣が風の号令に呼応する。――― がその直後バーテックスの頭上に何か突き刺さり炸裂、爆発が起こった。

 

「……えっ…ちょ……っ」

「東郷さんが!?」

 

「……私じゃない」

 

東郷が狙撃銃を構えているものの発砲はしていない事を告げる。

 

「(!?)それじゃあ、一体だれが」

 

「(!?)システムに反応。あそこに誰かいる!」

 

総士の一声と共に周囲を見渡していた風がその姿を見つけた。その瞬間そこにいた少女らしき姿の子はその場から飛翔した。

 

 

 

 

 

視点:突如乱入した少女

 

その少女は薄茶色の髪を2つのテール…風とは違ってツーサイドアップの髪型をし、赤を基調とした装束に身に纏い2本の刀を携えている。左肩にはサツキの花の刻印が刻まれており、その傍らには友奈たちの精霊と同じような存在…デフォルメされた鎧武者のような生き物が追従していた。

 

「ちょろい!」

 

少女は次々と刀を顕著し投擲。山羊座に命中し突き刺さった刀は次々と炸裂し、その爆発で山羊座の巨体がよろめく。

 

「(!?)」

 

刀を続けて投げようとした瞬間少女はバーテックスの後方にいた存在に気が付く。すると彼女にめがけいくつもの光弾が飛んできた。少女はすぐさま反応し二振りの刀でそれをはじき返すも迎撃を受けたがため勢いが止められ着地した。

 

少女が辺りを見渡すと、どこからか現れた無数の生命体が彼女を取り囲む。彼女はその生命体を一瞥する。

 

「フン、大赦の言っていた奴らね」

 

大赦から事前に聞いていた少女はその正体に気づく。同時に生命体は勇者姿の少女へと襲い掛かった。

 

「だけど、あたしの敵ではないわ!」

 

その刹那、少女は二振りの刀で一閃し切り裂く。切り裂かれた生命体は光となり消滅した。

 

 

 

 

 

視点:勇者部

 

突如現れた勇者姿の少女が大群相手に大立ち回りを演じている中、勇者たちはバーテックスを守るかのように追従している生命体に驚きを隠せないようだ。

 

「…なんかいっぱい出てきた!?」

「あれもバーテックスなの!?」

 

「…『星屑』」

「大型のバーテックスのなり損ないみたいなものだ。だが、あれもバーテックスと同じ存在だ。(それにしてもあの子は…先生の言っていた大赦から派遣されたという勇者か)」

 

皆城兄妹からその正体が伝えられる。

 

「それよりもあの子はいったい何者なんでしょう。同じ勇者のような姿ですが……」

「ともかくあの子を助けないと!」

 

星屑に関して詳しく聞こうとしたがそういう状況ではない。友奈たちは突如として現れた少女の方が気になっているようだ。

 

少女のおおよその正体を掴んでいた総士はすぐに指示を出した。このまま放っておけば勇者たちが前線にいる少女の元へ向かってしまうとの判断である。

 

「一騎、先行して道を切り開け」

 

「分かった!」

 

「風先輩と樹、結城は一騎が突破した残りを掃討しつつカバーしながら前進。東郷は狙撃による支援を」

 

「了解! 勇者部突撃ぃ~! バーテックスとあのちっこいのを討伐、あのツインテールの子に続くわよ!」

 

「「「了解!」」」

 

勇者部が風の号令に元気よく返事をする中、一騎はルガーランスの穂先を展開、挨拶代わりと言わんばかりに群がる星屑の一団にプラズマ弾を発射。放たれた光弾が炸裂し星屑が吹き飛び道が開かれる。すると一騎はすさまじい速さで加速し突入した。

 

「一騎君、早っ!!!」

 

友奈たちは慌てて一騎の後を追う。

 

「乙姫、ノルンでみんなの援護をしてくれ」

「わかったよ。総士」

 

残された総士兄妹は高所からの狙撃援護をする東郷と共にジークフリードシステムでのサポートへと入るのであった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

プラズマ砲で崩れた星屑の大群に一騎が突撃する。星屑も彼を敵と認識したのか迎撃態勢を取ろうとする。

 

「でやぁぁぁ!」

 

尋常ではないスピードのまま、ルガーランスで横薙ぎに振るい数体を切断。星屑は光となって砕ける。どうやら、バーテックスのなり損ないとも言われるのか個々の戦闘力は高くないようだ。

 

北極でのミールの決戦、シュリナーガルでの戦いなどで無数の敵を相手にした一騎にとって多数の戦いは問題にはならない。尋常ではない反応速度で次々と襲い来る星屑を切り裂き突破口を作る。一騎の突入した事で大群の一陣が真っ二つに割れていく。

 

《このままあの少女のところを目指し、山羊座を叩くぞ》

 

一騎は頷くとさらに殲滅速度を上げていく。

 

「はぁっ!!」

 

その開いた道を少し遅れて友奈が続く。

 

打撃系の武術(本人曰く中学に入ってからはある程度しかやっていないそうだが)の心構えがある友奈は早さと重み両方を兼ね備えており星屑の体を拳で打ち抜いていく。

 

「ふっ……てやぁぁぁ!」

 

少し大きめで丈夫そうな個体に対し足を高く上げ勢いよくかかとを落とす。空手の試し割りをするかのように星屑を真っ二つに割った。

 

その大技の隙を狙ったかのように他の星屑が襲い掛かるが、

 

《…そうはさせない!》

 

狙撃地点から東郷が狙撃銃による援護射撃。友奈に襲い掛かろうとした星屑をすべて1発で撃ち貫いた。

 

「東郷さん、ありがとう~」

 

《どういたしまして…撃ちもらしは任せてね、友奈ちゃん》

 

友奈が手を上げ感謝の意を示すもののすぐに一騎の後へと続く。東郷は狙撃銃についているカードリッジのようなものを入れ替え装填しなおすと再び星屑に狙いを付けた。

 

 

 

犬吠埼姉妹も一足遅れなものの群れの中と突破していく。

 

「おりゃぁぁぁ!!」

 

風はその手に持った大剣の威力と大きさを活かし叩き切り、大剣の腹での豪快なスイングで星屑をぶっ飛ばす。

 

「こ…来ないでーーー!!!」

 

樹はワイヤーでなんとか1体1体絡め引き裂いていく。接近戦が得意な友奈と風とは違いある程度離れたところから出来るのが強みだが、明らかにその殲滅速度は遅かった。

 

それを隙と見た星屑は樹に狙いを定め取り囲もうとする。樹は必死で逃れようとしたが、

 

「あぅ…!」

 

尻もちをついて転んでしまう。その隙に星屑は一斉に襲い掛かる。樹は迫りくる恐怖に思わず目をつぶる。

 

しかし、樹の身には何も起こらなかった。

 

再び目を開けると襲ってくるはずだった星屑が切り裂かれたり、また穴だらけになっている個体までが目の前にあった。

 

「樹、怪我はない?」

【樹ちゃん、大丈夫?】

 

樹にとって頼もしい姉である風がそこにいた。その周囲には援護してくれたのかノルンまで浮遊していた。

 

乙姫からの思念と共に我に返った樹に風が手を伸ばし引き起こす。

 

「(…お姉ちゃんもみんなもやっぱり頼もしいや)」

「立てる?」

「うん…」

 

自分のふがいなさに少し気分が沈むも姉である風の姿を見てそう思う樹。引き起こす合間に星屑は姉妹を取り囲んだ。大部減らしたにも拘わらずかなりの数がいた。風が大剣を握り構えなおす。

 

(どうしよう…1体1体じゃあお姉ちゃんに負担がかかっちゃうよぉ)」

 

樹が風に負担をかけまいとどうするか考える。ふと、頭に前回の戦闘の事が浮かんだ。

 

「(あの時は巨大なやつを縛り上げたんだよねえ。結構伸ばしたんだよなあ…)あ、そっか」

「樹?」

 

樹は右手の花環状の飾りを頭上に掲げる。星屑が姉妹に襲い掛かろうととびかかって来た。

 

「まとめてぇぇぇーーー!!!」

 

迫りくる星屑だったが姉妹の目の前で身動きができなくなった。風が周りを見ると結界状に編まれた樹のワイヤーにより星屑が囚われた。樹は一気に引っ張り上げると周りにいた星屑が豆腐のように切り裂かれ消滅する。

 

「やるわね樹!」

 

風が樹の頭をなでる。そして、姉妹は臆することなく星屑を確実に撃破していった。

 

 

 

(へえ…トーシロながら結構やるじゃない)

 

星屑を見事な刀捌きで殲滅している少女が勇者部たちの活躍を見て呟く。

 

(って言ってる場合じゃなかった。こいつら…しつこい!)

 

遠距離攻撃を持つ小さな星屑が光弾を放ってきた。樹海が傷つくことを嫌った少女は刀で踊るように上空へとはじき返す。しかし、山羊座がその隙を狙ってなのかレーザーじみた怪光線を放ってきた。

 

「(!?)ちょ、そんな大きいの…っ!?」

 

防御態勢をとった少女だったが、突如目の前に展開したノルンの障壁に阻まれる。

 

「とりゃぁぁぁ!!」

 

肉薄した友奈と東郷の狙撃により牡羊座周辺の小さな星屑が撃破される。

 

「このぉ!?」

 

そして、星屑の大群を突破した一騎がルガーランスを同化させると穂先にエネルギーを充電し山羊座に向け高出力のビームを放った。

 

【!?】

 

山羊座は第2射をすぐさま放つ。2つの閃光は一騎と牡羊座の中心辺りで衝突。押し合いになるかと思われたが白銀の閃光が牡羊座のビームを飲み込むとその残光が山羊座に直撃した。あまりにもの威力でその巨体はかなりたじろいだ。

 

「(今だ!)封印開始! 思い知れ、私の力!!」

「まさか…あの子…1人でやる気!?」

 

樹と共に遅れて到着した風が驚きの声をあげる中、少女はその隙に刀を一本投擲しその刀が地面へと突き刺さる。すると『封印の儀』の術式が展開されその陣内に取り込んだ

 

取り込まれた山羊座の上層部の装甲が開かれ中から御霊が飛び出る。しかし、御霊のせめてもの抵抗なのか大量のガスが勢いよく吹き出てきた。

 

「なにこれガス!?」

「けほっ、けほっ」

「何も見えないよ~」

 

友奈たちの精霊が障壁を張りガスから身を護る。一騎もどこからか飛んできたノルンが障壁を張りそこでやり過ごそうとする。

 

「くそっ!」

 

《撃つな、一騎! 引火性のある可能性がある。爆発したらみんな巻き込まれるぞ!》

 

一騎がルガーランスでの射撃でガスを吹き飛ばそうと判断したが総士がそれを止める。

 

「そんな目暗まし…気配で見えてるのよ!!」

 

少女がガスで視界が悪い中その場から飛翔。刀を両手で上段に構えるとそのまま振り下ろす。

 

「殲…滅!」

諸行無常(しょぎょうむじょう)

 

少女が決め台詞を言うと御霊はあっさりと真っ二つに切り裂かれた。御霊を失い残った山羊座の本体も砂と還った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

今回襲撃したバーテックスがすべて殲滅されたのか少女は友奈たちの目の前に降り立った。

 

「えーと、…誰?」

 

友奈が少女の事を尋ねようとし、後方にいた東郷・総士・乙姫も一騎たち4人の元へと駆け寄って来た。

 

「……まぁ、少しは出来るようだけど…揃いも揃ってぼーっとした顔してんのね」

 

その様子を見ていた少女は戦闘が終わり間の抜けた友奈たち勇者を見て口を開き、集まった勇者部の面々を一瞥する。

 

「こんな連中が選ばれた勇者に…そっちの3人が神樹様が寄越してきた『来訪者』ね」

 

「あの…「なによ、チンチクリン!」チン…はうっ」

 

少女にぞんざいに扱われた友奈が思わず声をあげる。さらに少女はどうだと言わんばかりに鼻で笑った。

 

「あたし『三好(みよし)夏凜(かりん)』。大赦から派遣された正真正銘、正式な勇者。あんたたちとは違う次元なの。トーシロは()()()…はい、お疲れ様でした」

 

「「「「え、えぇぇぇぇぇ!!!」」」」

 

三好夏凛と名乗る少女の言い草に勇者たちは驚きも含めて叫ぶ。

 

「ん~」

 

「な、何よ!」

 

乙姫がいつの間にか夏凛の近くまで忍び寄っていた。乙姫はいつもの調子で興味ありげに夏凜を見つめていた。

 

「どこか似たような感じかと思ったら……もしかして、あなたは春信の?」

 

「うぇ…な、なんで兄貴の事を」

 

「あ~。どおりで面影があると思ったよ~」

 

乙姫から見るとどうやらその面影があるらしい。思わないことで自身の兄の名前を出されたためか毒気が抜かれてしまい逆に素っ頓狂な声をあげてしまう夏凛。

 

そうこうしているうちに樹海が揺れ始め現実世界へと戻されようとしていた。

 

「と、ともかくこれ以上の話は今度よ!」

 

夏凜が勇者部に対し意味深なセリフを残すと一同は現実世界へ引き戻されたのであった。




やっとにぼっしーが出せた。

ここからのバーテックス陣営には『樹海の記憶』や『乃木若葉は勇者である』の要素を加えある程度強化して登場させます。

●三好夏凜
ようやく登場した完成型勇者。原作とは違い勇者部と共闘したためある程度の実力は認めた模様。

以下、予告。
「私が来たからもう安心ね。完全勝利よ」

襲撃からの翌日、友奈たちのクラスへと転入した自称完成型勇者『三好夏凜』

「よろしくね。夏凜ちゃん」

「いっ、いきなり下の名前!?」

夏凜と仲良くなりたい友奈だったが、夏凜は考えの違いから拒否する。

「真壁一騎…異世界から転生したっていう『来訪者』ね」

その最中来訪者である一騎に対し、夏凜がとった行動は?

次回、第13話『転入生』

「真壁一騎、あたしと戦いなさい」
「…どうしてなんだ?」

…【あなたはそこにいますか】


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第3話 転入生

原作第3話、夏凜の勇者部襲来(1回目)~浜辺のシーン。夏凛編スタート。

2016/9/5  誤字及び表現修正。
      会話内容(総士の夏凜に対しての印象、一騎と夏凜の会話内容)加筆。
2016/10/1 時系列の誤りを確認。転入日を原作通りにするため序盤を修正。


-讃州中学 一騎&総士のクラス-

 

「なんだか騒がしいな」

 

バーテックスとの戦闘からしばらく経ち6月9日の木曜日、クラス内では休み明けという事である意味で憂鬱とも言える日…なのだが今日はうって違って落ち着きがなかった。一騎はその様子に気づき呟いた。

 

「よっ。一騎、総士」

 

クラスメイトの一人である早瀬が声を掛けてきた。一騎と総士も簡単に挨拶を返すと経緯を聞いてみることにした。

 

「何かあったのか?」

 

「朝から職員室に見慣れない子がいるってもちきりで、それで転入生じゃないかとかの噂が広まって騒めいているそうだ」

 

「転入生? こんな時期にか」

 

転入生が来たという経緯を同じクラスの一員である矢島が答える。

 

「降矢がどっかから拾ってきたきた情報だと…釣り目で髪はツインテールの女の子だそうだ。転入試験は満点ということらしい」

 

「満点? 総士以来だな」

「そういえばそうだったな」

 

余談だが、総士も讃州中学へと転入した際に受けたテストでは満点だった。本人は大したことはないと気にしてはなかったようだ。

 

「だけどどこのクラスに入るかまでは分からなかったそうだ」

 

(転入生か……面倒事にならないといいが…まさかな)

 

ふとある予感を抱く総士だったが担任の教師が教室内に入ってきたため話は切りあげる。

 

SHR中、友奈と東郷のいる隣のクラスがにわかにどよめいていた。ある意味でその予感が的中するのは放課後の時である。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-讃州中学 家庭科準備室兼勇者部部室-

 

勇者部には一騎・総士を含めたメンバー6人と黒板を背に腕を組んでいる少女…昨日のバーテックスとの戦闘中に現れた『三好夏凜』がそこにいた。友奈たちと同じ讃州中学指定の制服を身に纏っている。その横には彼女の精霊と思わしき鎧武者のような存在が浮いていた。

 

「――― そう来たか」

 

「転入生のフリをするのも面倒くさい。でもまあ、私が来たからにはもう安心ね! 完全勝利よ!」

 

「なぜ今になって? どうしてもっと早く来てくれなかったんですか?」

 

東郷が尤もな事を夏凛に問う。

 

曰く、すぐに出撃したかったが大赦の意向でそれが出来なかったらしい。大赦は二重三重の策を練っており万全を期するために友奈たち先遣隊のデータを基に完全な勇者を完成された。それが自らの事だとスマホを見せびらかしながら夏凛は語る。

 

「その上、あなた達トーシロと違って戦闘のための訓練を長年にわたって受けてきている!!」

 

夏凛が近くにあったモップを手に取り振り回しポーズを決める。……が、黒板に当たったがためなんとも締まらない結果になっている。

 

「黒板に当たってますよ」

「狭いところで振り回すのは危ないぞ」

 

東郷と一騎から率直な突っ込みが出る。

 

「しつけ甲斐がありそうな子ねー」

 

「なんですって!?」

 

風が鼻で笑うと、夏凜が憮然とした表情を返した。

 

「…まあ、いいわ。…で、こっちのが『皆城総士』に『真壁一騎』…あんた達が神樹様に遣わされたっていう『来訪者』ね…まあ、1人足りてないようだけど小学校じゃあ時間が違うからいいわ。あなた達の事は大赦から報告は受けているわ。あたしが来たからにはバーテックスやらフェストゥム。どちらも大船に乗ったつもりでいなさい」

 

夏凛が一騎と総士をにらみつけながら自信高々に自らの話を締める。

 

「…なんでこっちをにらむんだ」

「まるで好敵手とみているかのようですね」

 

一騎がぼやく中、友奈が立ち上がると夏凛の前で立つ。

 

「よろしくね。夏凜ちゃん」

 

「いっ、いきなり下の名前!?」

 

「嫌だった?」

 

「…フン、どうでもいい。名前なんて好きに呼べばいいわ」

 

友奈はいつものように微笑み夏凜に話しかける。呼び方が決まると続けて、

 

「ようこそ、勇者部へ」

 

「……部員になるなんて一言もしてないわよ」

 

「え? 違うの?」

 

「違うわ。私はあなたたちを監視するためだけにここに来ただけよ」

 

夏凛は友奈の申し出をはっきりと否定するも明らかに戸惑っている様子である。

 

「もう来ないの?」

 

「……来るわよ。そういう御役目だから」

 

「なら、部員になっちゃった方が早くない?」

 

「う……」

 

友奈の提案に考え込む夏凜だったが一理あるという事で同意することにした。

 

「ま、いいわ。そういうことにしておきましょうか。その方が監視しやすいでしょうしね」

 

「監視監視ってあんたねぇ。見張ってないと私達がサボるみたいな言い方やめてくれない? それにここに大赦から派遣された人もいる事忘れてないかしらね」

 

風が夏凜の言い分にご立腹である。だが、夏凜はそれを鼻で笑うとさらに偉ぶって、

 

「偶然選ばれたにすぎないトーシロがでかい顔するんじゃないわよ! 「ムッ!」 大赦のお役目はおままごとじゃない。なのに大赦から派遣されたはずのこいつがいるのに全くなってないなじゃいの!?」

 

今度は総士をにらみつけ指を指す。弁説の矛先が総士に向いたようだ。

 

総士は夏凜が自らに言いたいことは大体予想は出来ている。ようは偶然に選ばれた勇者部の一員が自覚がないことを指摘しようとするのだ。それは総士も理解はしていたが前例(最初のころのファフナーパイロットたちの事)があることである程度は許容はしていた。が、流石に夏凜の図々しい部分が大き過ぎる事もあり彼はそれの対処を考えていた。

 

「あんたがもっとしっかりしてれば、こんなトー……ぎゃああああああああ!!!」

 

ヒートアップした夏凜は総士に言葉をぶつけようとしたが、突如絶叫し、それに思わず耳をふさぐ一同。その視線の先には…友奈の精霊『牛鬼』が夏凜の鎧武者の精霊の頭にかじりついていた。

 

「ななな、何してんのよこのくされチキショー!!!」

【ゲドウメー】

 

「外道じゃないよ牛鬼だよ。ちょっと食いしん坊くんなんだよね」

 

「自分の精霊のしつけも出来ないようじゃあやっぱりトーシロよ! ともかく、なんとかしなさいよ!」

 

夏凜がギャーギャーと喚き散らす。友奈が牛鬼の好物であるビーフジャーキーをチラつかせるもかじり応えが相当気に入ったのか牛鬼はなかなか離れない。

 

「…これじゃあ収拾がつかないな…」

 

収拾がつかないため総士はある手段に出ることにした。

 

「このぉーーー離れなさいよ!!!」

 

【~~♪・・・・・!?】

 

「とれた……ってぎゃぁぁああああああ!!!」

 

牛鬼が視線の先にいる存在に気づき夏凜の精霊を解放した。何かがいる気配を察知した夏凜が振り向いた先には……、

 

【・・・・・・】

 

ニヒトがただそこに浮いていた。それを間近に見てしまった夏凜は本日2度目の絶叫あげた。

 

「ななな、何よ。こいつ!!!」

 

「総士君の『ニヒト』よ。普段は牛鬼にかじられてしまうからみんな精霊を出せないの。でも、ニヒトがいると妙に大人しくなっていう事を聞いてくれるのよ」

 

「な、なるほど…そ、それはともかくその精霊さっさと引っ込めなさいよ!」

 

「この子勝手に出てきちゃうの…ごめんね。牛鬼驚かせちゃって」

 

牛鬼は友奈の差し出したビーフジャーキーにかじりつくと彼女の傍でおとなしくなった。

 

「あんたのシステム、壊れてんじゃないの!?」

【ゲドウメー】

 

「それで僕に何を言うつもりだったんだ?」

 

「……いや。もう、いいわよ」

 

さっきのドタバタ模様で夏凜はその気が失せてしまったようだ。

 

「そういえば、この子、喋れるんだね」

 

「ええ、名前は『義輝』。私の能力にふさわしい協力な精霊よ」

 

「あ、でも東郷さんには3匹いるよ」

 

「はい。……出ました」

 

誇らしげに夏凜が自慢するが、友奈が思い出したかのように言うと東郷がアプリを操作する。すると東郷の元に3体の精霊が現れた。

 

「牛鬼が大人しいうちにアタシらも出しときましょ」

「はいです」

 

「ほら、真壁も」

「俺もですか」

 

部長である風の指示で樹は素直に、一騎は必要あるのかと思いながら顕現させる。夏凜は複数の精霊を持っている東郷になんともいえない気持ちになるが、

 

「なんかロボットみたいわね」

 

「夏凜ちゃんは1体だけなんだね~」

 

「わ、私の精霊は一体で最強なのよ。義輝、言ってやんなさい」

『ショギョームジョー』

 

(ほう、姿も本質も常に変わるものということか……)

 

義輝の言葉に夏凜は愕然とした。その意味に総士はある意味関心できていた。

 

「達観してますね」

 

「そ、そこがいいのよ」

 

東郷のフォローを甘んじて受ける夏凜。

 

「…どうしよう、夏凛さん…」

 

「今度は何よ!?」

 

タロットカードによる占いを試みた樹がその結果に思わず声をあげる。出たカードは……、

 

「夏凜さん死神のカード……」

 

――― ポクポクポク…チーン

『死神』、夏凜を対象とした占いの結果はどうやら厄日のようだ。

 

「「不吉だ」」

「不吉ですね」

「極めて不吉だ」

 

「不吉じゃない!!!」

 

風・一騎・東郷・総士に不吉だと言われた夏凜は全力で否定する。

 

「ともかく、これからのバーテックス、それにフェストゥムっていう輩の討伐は私の監視の元励むのよ」

 

「部長がいるのに?」

 

「そうなのか、総士?」

「そういうのはとくには聞いてないが」

 

夏凜は友奈の発言によりまたペースを崩された。一騎の質問に対しては総士は聞いていないと語る。

 

「部長よりも偉いのよ」

 

「ややこしいな……」

 

「ややこしくないわよ!」

 

ずっと友奈のターンである。乗せられた夏凜の突っ込みがキレる。

 

「事情は分かったけど、学校にいる限りは上級生の言葉を聞くものよ。事情隠すのも任務の中にあるでしょ?」

 

「ふん、まぁいいわ。残りのバーテックスを殲滅したら、お役目は終わりなんだしそれまでの我慢ね」

 

「うん、一緒に頑張ろうね」

 

「うっ、頑張るのは当然! 私の足を引っ張るんじゃないわよ」

 

これ以上付き合えないと思ったのか夏凜が学生鞄を担ぐとそそくさと部室から出ようとする。

 

「ねえ、一緒にうどん屋さんに行かない?」

 

「……必要ない。行かないわよ」

 

「待て…ひとつ、いいか?」

 

黙って聞いていた総士が感じた疑問を夏凛に尋ねると夏凜の足が止まった

 

「なによ。皆城総士」

 

「大赦から派遣されたのは君だけなのか?」

 

「? そうよ。神樹様に選ばれたのはあたしだけみたいだし。それがどうかしたのよ」

 

「そうか…邪魔をさせた」

 

夏凜は首をかしげたが部室から早々と去って行く。部室内はまるで嵐が過ぎ去ったかのように静かになった。

 

(彼女は監視と言っているが建前上のようだな。試してみたが特に動揺した様子もなかったし、隠している素振りもなかった)

 

総士は夏凜の人柄をある程度予想すると窓の外を伺う。すると、視線の先にはある人物がおり、総士側から見ればまるで此方を窺っているようだ。

 

(おそらく、本命はあちらだろう)

 

「まるで嵐のような子だったわね。ああいうお堅いタイプは張り合い甲斐があるわね」

「張り合うの……?」

「頑なな感じの人ですね」

(……頑ななってなると…なんか似ているな)

 

部室内では夏凜の雰囲気にそれぞれの感想を述べたり思ったりする一騎たち。

 

一騎は夏凜の事を島にいたころのかつての仲間に1人に準えていた。幼い頃にフェストゥムに家族や友達を奪われ戦場に生きていた彼女も島での生活には最初はぎこちない態度だった。それが大赦の勇者として来た夏凜と似通っているように見えた。

 

そんな中、友奈はうーんと頭をうねるようにして考え込んでいた。

 

「友奈?」

 

「うーん、どうやったら仲良くなれるのかな……?」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

(……くだらない)

 

夕焼けの中、黒のインナーに白のタンクトップとショートパンツ。鍛錬の時の服装姿の夏凜は1人自転車に乗りながらそう考えていた。彼女にとっては学校というものはどうでもいいものであり、特に勇者の候補生として選ばれてからはさらに遠いものとなっていた。

 

(別に期待していなかったけど想像以下ね)

 

浜辺へとたどり着くと木刀を2本取り出し鍛錬を始める夏凜。ここには引っ越しをした際に見つけたところだ。鍛錬をしながら今日の事を振り返り勇者部を辛く評価する。特に勇者部の和気藹々とした雰囲気が気に入らなかった。青春を勇者になるために費やした夏凜にとっては受け入れがたい環境であった。

 

そして―――、

 

(『皆城総士』に『真壁一騎』…その妹の『皆城乙姫』、大赦が言っていた神樹に遣わされた『来訪者』。力を持っている…なのになんでああいうチンチクリンな奴らに何も言わない訳?)

 

バーテックス襲来の最中に現れたフェストゥムと対峙する戦士である総士たちを批判する。自分と同じ『敵』と戦うための戦士。だが、彼女には分からなかった。何故、選ばれたトーシロをそうまでして彼女の思う『勇者』にしないのか。

 

いらだつ夏凜は型の円舞を一心不乱に舞う。そんな雑念を振り払うかのように最後は思いっきり空を突く。

 

「……」

 

突いた状態で型をぴたりと止める。どうやらその日の工程を消化し終えたようだ。

 

「……凄いんだな」

「っ!?」

 

ふと彼女を賛美する声に夏凜はぎょっとする。没頭しすぎたせいなのか背後が疎かとなっていた。

 

「…!? 真壁…一騎!」

 

振り向いた先にはあの部室にいた男子の片割れである一騎の姿であった。

 

 

 

side:一騎

 

うどん屋で解散となった一騎は総士や友奈たちを別れいつもと違うルートで帰路についていた。

 

「……まさか、醤油がなくなってるなんてなあ」

 

不運にもいつもの帰り道のお店では売り切れていたため風が贔屓にしているお店を聞いてそっちで買った。

 

「今日は母さんと父さんが帰ってくるが時間に十分余裕はあるな。…けど何もないから戻るか」

 

一騎は海沿いの道を足早に歩いていると、浜辺の方に今日見たある少女の姿があった。

 

「…三好?」

 

今日転入していた夏凜が浜辺で木刀の素振りをしていた。ただ振っているのではなく素人目から見ても剣術型ともいえる一種の円舞である。一騎は足を止めると暫く彼女の剣舞を見つめていた。

 

夏凜は剣舞のラストを飾るかのように2本の木刀で思いっきり空を突く。夕焼けの光景もありそれは美しく映えた。

 

「……凄いんだな」

「っ!?」

 

思わず賛美の声をあげる一騎。それに気づいたのか夏凜は振り向いた。

 

「…!? 真壁…一騎!」

 

side out

 

 

 

「……何でここにいるのよ?」

 

「通りががっただけなんだけどな」

 

正直に答える一騎。夏凜が一騎を一瞥したが手に持っている買い物袋を見掛けたためそう思うことにした。

 

「ここで何をしていたんだ?」

 

「……鍛えてた。いつ『敵』が来てもいいようにね」

 

「ずっとなのか?」

 

「……そうよ」

 

嫌々ながらも一騎の質問に夏凜は淡々と答える。一騎もそれなりに話せるじゃないかと思っていた。

 

(…どうも結城友奈と同じ感じがするわ)

 

夏凜が感じた一騎の印象はそれである。話は続かず浜辺は静寂に包まれ2人の間に沈黙が流れる。

 

(どうしたものかしら……。ここで会うとは思ってもなかったから話が…そういえば)

 

夏凜は大赦から監視の命を受けている身なため一騎や総士の事はある程度聞いていた。そして、この前の戦闘にて個人的にある種の興味を持ったためか思い切ってある提案をしてみることにした。

 

「(こちらとしてもある意味都合いいしね)真壁一騎、ちょっと時間があるかしら?」

 

一騎は特に用事もなく、まだ時間にも余裕がある。夏凜の申し出に頷いた。

 

「あたしと戦いなさい」

「は?……どうしてなんだ?」

 

突然の提案に唖然とする。それは一騎にとっては無意味なことである。だが夏凜は、

 

「……樹海で戦っていたあんたの実力が気になった…それで純粋に剣士としてあなたと手合わせしたいだけよ。それだけじゃあ駄目なのかしら?」

 

夏凜なりの事情を聞いた一騎は少し考え込むが、

 

「わかった……それでいいのなら」

 

こういう挑戦だったら何度も受けている一騎としても下手に断るのも夏凜にとって悪いと思い申し出を受けた。

 

夏凜は木刀を一騎に手渡し、一騎は讃州中の上着を脱ぎ裸足となり砂浜に入る。

 

一騎は剣道でいう一般的な構えである中段の構えをとる。夏凜は2本の刀による二刀流を主としているが一騎に一本渡したため一刀で脇に構える。

 

(さすがに怪我をさせたらまずいか)

(…なんもない構えね。剣術に関して疎いと見ればいいのかしら。まあ、こっちから仕掛けさせてもらいますか)

 

互いに出方をうかがう両者だったが、夏凜が腰を低くして飛び出し横一直線に振るう。一騎は後ろに少し引き避ける。一騎は上段に構えると縦一直線に振り下ろす。夏凜は捻って躱すと一騎の死角に回り込み袈裟に振るう。一騎はそれにすぐさま反応し木刀で防ぐ。

 

(二刀だったらとれそうだったんだけど、力比べはあまり望むところじゃないわね)

 

鍔競り合いになるが力比べは夏凜にとって分が悪い。夏凜はわざと押される力を利用し後ろに引くと一騎と距離を置く。

 

(ここだ!)

 

バランスを少々崩した一騎に突きを加える。だが、一騎はすぐに立て直すと渾身の突きもあっさり回避した。

 

(嘘、このタイミングで避けた!?)

 

一騎は伸びきった姿勢の夏凜の木刀を叩く。夏凜は持っていた木刀を落とした。そして一騎は無手となった夏凜の首筋に木刀を添える。

 

「ええと、俺の勝ちってことでいいのか」

「……負けた…」

 

夏凜はその場にぺたりを座り込んだ。夏凜的には全力でやりあったが負けて悔しがっているようだった。

 

「これで…いいのか」

「十分よ。最後にいいかしら」

 

一騎は首をかしげる。

 

「どうしてかしらね……勇者以上の力を持つあんたがあんなチンチクリンと付き合うのが分からないんだけど。いざとなればそれであのトーシロ連中の目を引けるのに」

 

「そういう事はしないよ。勇者部のみんなは…仲間だからな」

 

「は? それだけ」

 

声をあげる夏凜であったが、一騎は荷物をまとめるとその場を後にしようとする。

 

「明日も来いよ。友奈たちがまた来ないかって心配してたぞ」

 

「……余計なお世話よ」

 

そっぽを向ける夏凜。一騎はその場を後にした。

 

「……フン、やるわね」

 

そっぽを向けた夏凜の顔は赤くしながらぼそっと呟いた。

 

彼女はまだ知らない。未だに1人で戦う彼女に問って一騎の言った仲間の意味に気づくのはまだ先の出来事である。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:総士

-皆城家(讃州地方)-

 

「お久しぶりです。父さん」

 

一騎と別れた総士は自宅へと直帰していた。そこには大赦に意見していた厳格そうな男性がいた。

 

「うむ。滞りなく犠牲もなしに進めたみたいだな総士」

 

「はい」

 

「なにか変わりはあったか?」

 

父と呼ぶ男性に対し総士は報告を続ける。

 

「……今日、大赦の監視者らしき影を見ました」

 

「そうか。遅かれ早かれこうなるとは思ってたが…総士、彼らも現段階では大きくは出ないはずだ。警戒は必要だが、そのうち…」

 

「時と場所を見て一騎には僕から話しておきます」

 

「頼むぞ。私はあの準備を進める。ひとまずこの話は仕舞いにしよう」

 

「はい、父さん」




何番煎じになるかもですが、対三好夏凜でお送りいたしました。

●大赦の方針への突っ込み
大赦の増援に関しての突っ込みは総士が内部事情を知っている設定なためなしとなりました。ただ、次回あたり勇者システムのあの機能に関しては総士が突っ込みと思います。

●一騎対夏凜
やりたかったネタシリーズ。一騎を勝たせたのは『蒼穹のファフナー』小説版にて道場娘(名前は出ていないが恐らく『要咲良』)にあっさり勝利した実績があったため。夏凜も二刀流じゃないですしね。

以下、予告。
「仕方ないから、情報交換よ」

翌日、情報共有のために夏凜は勇者部へと足を運ぶ。

「『星屑』…バーテックスの兵隊ともいえる奴らね」

「戦闘経験値を上げることで勇者は強くなる」
「ため込んだ力を開放する機能……」

「危険すぎる」

情報を共有する中、総士は勇者システムのある機能に明らかな否定を見せる。

「と、いうわけで今週末は子供会のレクリエーションをやります」

次回、第14話『変化』

「た、誕生日なんてやったことないから…」

…【あなたはそこにいますか】



追記:今週の『乃木若葉は勇者である』にてまじで心が散華しそうなんですが……。先週から崩壊の序曲みたいなのが始まってしまったし。


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第4話 変化(前編)

原作第3話、夏凜の勇者部襲来(2回目)のシーン。後半はオリジナル展開となります。


-讃州中学 家庭科準備室兼勇者部部室-

 

「――― 仕方ないから情報交換と共有よ」

 

翌日、夏凜は勇者部の部室へと足を運んだ。内心仕方ないという気持ちでいっぱいの夏凜は面倒くさいような表情だ。そこには昨日と同じメンバーが集まっていた。

 

「わかってる? あんた達があんまりにも呑気だから今日も来てあげたのよ?」

 

「…ニボシ?」

 

夏凜が袋から煮干を一尾取り出しかじる。風がその光景が気になったのかつい口に出た。

 

「何よ。ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPA、DHA。ニボシは完全食よ!」

 

「っ……まぁいいけど」

 

「あげないわよ」

 

「「いらない」わよ!」

 

何とも言えない視線を送る風。夏凜が不機嫌な様子でニボシを引っ込め自分の物だと誇示する。それに総士までもツッコミを入れた。

 

「じゃあ私の牡丹餅と交換しましょう?」

 

「……何それ」

 

「さっき家庭科の授業で…いかがですか? 牡丹餅」

 

「東郷さんはお菓子作りの天才なんだよ~」

 

友奈が東郷の事を自慢する。東郷は白い箱に入った牡丹餅を夏凜に差し出し勧めた。夏凜は若干の戸惑いの様子を見せるが、

 

「い、いらないわよ!」

 

「そうですか…みなさんはどうですか?」

 

「もちろん、いただくよ」

「東郷、俺も」

 

東郷のお菓子つくりの腕前はあの一騎ですらも認めるレベルである。夏凜を除いた勇者部の一同は東郷の好意を甘んじて受けた。

 

「……話を戻そうか」

 

話題が外れかけていたこともあってなのか総士が話を元に戻すことを進言すると夏凜は自らが持つ情報を伝え始める。

 

「いい? バーテックスの出現は周期的なものとみられてきたけど、相当に乱れている。これは異常事態よ! 帳尻を合わせる為これからは相当な混戦が予想されるわ」

 

「確かに…1か月前も複数体出現したりしていましたしね」

 

勇者部の一同は菓子楊枝を用いて一口大にした牡丹餅を味わいながら話を聞いている。東郷はふと自分が勇者となった日の戦闘を思い浮かべながら発言する。

 

「そういや、この前現れたちっこいやつは何なのよ?」

 

「そいつらは『星屑』…バーテックスの兵隊ともいえる奴らね。御役目でバーテックスがたまに率いているけど所詮は雑兵。出現経緯などは現在大赦で調査中だけど…私なら大抵の事態なら対処できるから問題ないわ」

 

風から前回の御役目にて出現した敵に関しての質問に夏凜は淡々と答えるとここでなぜか一騎を一度にらむようにして視線を合わせる。

 

(あの時の事…根にもってるのか…)

「(まあ、こいつはいいとして…ぼーっとしている割にはやるみたいだし)。貴女たちは気をつけなさい。命を落とすわよ」

 

何か悪いことをしたのか? そもそも決闘を申し込んできたのはそっちじゃないか? と一騎は自問自答する。一騎がある種の不安にかられる一方夏凜はそういうイレギュラー的な状況にも対応できるように勇者たちに促すと。次の話題へと移す。

 

「それと戦闘の経験を貯めることで勇者はレベルが上がりより強くなる。それを『満開』と呼んでいるわ。自分の『満開ゲージ』はわかってる?」

 

勇者システムの切り札である『満開』のついての説明をし、風が勇者服についている満開ゲージと呼ばれる円の中の花の紋様の補足も加える。

 

「満開を繰り返し戦闘経験値を上げることで勇者は強くなる」

「ため込んだ力を開放する機能……」

 

友奈は右拳、東郷は左胸、風は太腿、樹は背中に刻まれてある紋様は満開のゲージを示している。それが勇者システムのアプリにて説明があったと東郷が友奈に告げ、友奈は感慨の声を挙げる。

 

「……少しアプリの説明を見せてくれないか?」

 

ここで総士が勇者システムの説明にある疑問を感じる。東郷は自らの端末のアプリ説明を総士に見せた。

 

「(やはり…な)……メリットしか書かれていないようだが」

 

「何が言いたいの? デメリットもなさそうだけど」

 

「だったらそう明言すればいい。……三好、実際に『満開』を体験したことは?」

 

夏凜は横に首を振る。

 

「ここにその『満開』を体験したことがある人がいない。実際にどんなものかわからないという未知がある事だ。戦闘経験値を上げることで勇者は強くなるならそれを具体的にいったほうがいい。このアプリの説明だけでは極めて不十分だ」

 

「……何が言いたいわけ?」

 

「『満開』も確認されていないだけでアフターリスク…すなわち何らかの代償が起こり得るかもしれない。僕としては積極的に使うのはおすすめは出来ない。不測の事態に陥ったらそれでこそ危険過ぎる…僕たちがフェストゥムと対抗するための力であるファフナーと同じだ」

 

「・・・ふぁふなー?」

 

「三好やみんなにも教える必要があるな」

 

ここで総士は夏凜や勇者部のみんなに一騎や総士が使っている力ファフナーについての説明を行う。勇者部の4人は一騎たちの世界の事を知っているが、大赦から派遣されてきた夏凜が聞いていたのはあくまで大赦側からの情報のみで詳細は知らない。

 

人類がフェストゥムに対抗するために専用開発した「思考制御・体感操縦式」有人兵器でフェストゥムの持つ読心能力、同化攻撃、空間歪曲攻撃に対抗することが出来るのがこの兵器最大の特徴である。搭乗者は脳内を特殊な状態に変性させ、機体と一体となることで戦うことでその真価を発揮する。

 

一騎たちが搭乗したファフナーにはメインシステムにミールの欠片、即ちフェストゥムのコアが使われており、高い対フェストゥム対抗性を有しているが、その未知の分野が多く所謂身に過ぎた力と言えるものであるためその力の代償である同化現象の危険と常に隣りあわせだった。

 

「……つまりは敵の力も使っているという事なのね」

 

「そういうことだ。だからこそ扱いには慎重になっていた」

 

「だけどそれはそれ。満開にそういうデメリットは…この力なら敵に完全勝利できるのよ」

 

「そうかな? 総士の話が本当なら……俺としてはあまり力を持ち過ぎる事は良くないと思う」

 

「一騎君? どういうことなの」

 

「俺もかつてファフナーに乗っていた時に仲間を同化しそうになったことがあった」

 

「「「「「(!?)」」」」」

 

その力の代償というべきものには身をもって知っている総士のあまりにも筋の通った説明に一騎がマークザインという規格外の力を奮っていた経験談も交える。

 

かつて仲間の一人である遠見真矢を同化しそうとする衝動にかられた事もあったため仲間たちにはその力をふるう事の危険性を示唆した。一騎は総士の説明もあってか勇者システムもそれと同じようなものという認識に至っていた。

 

その身も毛もよだつような経験談を聞いた勇者部一同と夏凜の顔が引きつった。

 

「力を持つって事はそういう恐怖も付きまとってそれと向き合う。そんなものだと俺は思うよ。……怖いだろ? そういうの」

 

「総士先輩や一騎先輩の話を聞いていたら、なんだか怖くなってしまいました……」

 

部室内の雰囲気が暗くなる。夏凜も総士の極めて合理的な説明と一騎の経験談により何も言い返せなくなってしまった。

 

「『なせば大抵なんとかなる!』」

 

それをかき消すかの如く友奈が声をあげる。夏凜は友奈の言葉に首をかしげた。

 

「なによそれ?」

 

「勇者部五カ条だよ」

 

友奈の指さす方向に一同は目をやる。

 

勇者部五箇条

一.挨拶はきちんと

一.なるべく諦めない

一.よく寝てよく食べる

一.悩んだら相談!

一.なせば大抵なんとかなる

 

「はあ、なるべくとかなんとかとか……あんた達らしい見通しの甘いフワッとしたスローガンね。まったくもう、あたしの中であきらめがついたわ」

「(それには同感だ……)」

 

こんな連中が神樹に選ばれたのかとため息をつき、勇者部五か条の内容に呆れ夏凜はある種の諦めがついたようだ。一騎は友奈らしいなと思い、総士は夏凜の呆れに半ば同情を示した。

 

「そんなの使わなくっても私達なら出来るよ! みんなで頑張っていこ」

 

「友奈の言うとおりね。……ま、アプリの説明じゃあある程度任意で発動できるみたいだし、使うのはここぞという時にしておきましょ。それじゃ次の議題に入るわよ」

 

風がこの議題を締めると樹が次の議題に使うプリントを配布していく。プリントの主題には『子供会のお手伝いのしおり』と書かれていた。

 

「――というわけで、今週末は子供会のレクリエーションをお手伝いします」

 

「具体的には?」

 

「えーと、折り紙の折り方を教えてあげたり、一緒に絵を描いたり、やる事はたくさんあります」

 

「夏凜にはそうね、暴れたりない子のドッヂボールの的になってもらおうかしら?」

 

「ていうかちょっと待って! 私もなの?」

 

風が夏凜をからかうように言う。夏凜はいつの間にか自分も参加対象になっているという事に素っ頓狂な声をあげる。

 

反論する夏凜に風が夏凜の名前が書かれた入部届けを突きつける。

 

「昨日、入部したでしょ?」

 

「け、形式上……」

 

「ここにいる以上、部の方針に従ってもらいますからねぇ」

 

「それも形式上でしょ! それにあたしのスケジュールを勝手に決めないで!!」

 

「大赦から来ている総士もやってくれてるし、妹の乙姫ちゃんも友達と一緒に手伝ってくれてるのよ」

「夏凜ちゃん日曜日用事あるの? じゃあ親睦会を兼ねてやったほうがいいよ! 楽しいよ~」

 

友奈が眉を下げ悲しそうな表情で見上げる。俗にいう上目使いと言われるものだが夏凜はため息をつく。

 

「……わかったわよ日曜日ね。ちょ…ちょうどその日だけ空いてるわ…!」

 

夏凜がそう返事をすると友奈は喜び、風もはにかんだ。その様子に緊張感のないとこぼすとプリント片手に夏凜は部室を去った。

 

夏凜がいなくなった後の部室で風は友奈に問いかけた。

 

「しっかし、よく気が付いたわね友奈」

「えへへ~」

 

夏凜がいなくなった後、6人はある計画について話し始める。友奈が夏凜に関するある項目を見つけたため、子供会と同じ日に並行してある計画をやる運びになったためである。

 

「総士、乙姫ちゃんの都合は?」

「問題ないそうです。本人がぜひと言っていました」

 

総士が答える。友奈と風が乙姫にも是非参加してほしいと頼み総士はすぐにメールで乙姫に送信したところその返事は早かった。ものの数秒で「友達と一緒に参加したい」と返ってきたそうだ。

 

「樹、ケーキの予約は?」

「お店の目星はついています。帰りに友奈さん、東郷先輩と一緒に予約してきますね」

 

樹も抜かりはないようである。

 

「風先輩、ケーキ以外に何か用意しておきましょうか?」

「え、出来るの?」

「溝口さんに相談すれば」

「それだったらお願いするわ」

 

一騎からの意外な申し出に風は了承する。こうして計画の準備の段取りが次々と決まったため早めの解散とし各々は行動を開始する事となった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

一騎と総士は喫茶楽園の店主である溝口の元に訪れ、勇者部であがったある申し出を頼むとあっさりと受諾された。あの出来事以来溝口が気に入ったのか何度も勇者部に依頼してきており勇者部のみんなはそれをこなした。そのお礼なのかこうして溝口が個人的に色々と引き受けてくれるようになったのである。

 

「それにしてもお前らしくもないな」

 

そして一騎は総士と共に帰路へとつく中、勇者部室内で総士があそこまで意見したことを尋ねた。

 

「なにがだ?」

 

「いや、なんかさ。あそこまで言うなんて珍しいなって思ってな」

 

一騎から見ても目を丸くするような光景だったらしく、あのように物申す総士が珍しかったらしい。そういうことかと総士は頷くと意味深な事をつぶやいた。

 

「…それが本当だったらとしたらな」

 

「お前…やはり」

 

総士が必要なことを言うが、隠すときは徹底的に言うことはない。そういう情報管理には徹底していた。一騎は長い間共にいたせいもあってそれを見抜いていた。

 

「お前の思う通りだ。近く、お前にも話すつもりだった」

 

ここで2人の足が止まる。総士は意を決してそれを告げようとした。

 

「……っ!」

 

ところが総士は告げるのをやめると一騎の腕を掴んで引き足早に走ると近くの裏路地へといざなった。

 

「総士、いったい「やはり見られていたようだ」…何?」

 

一騎は一瞬振り向くとそこ黒塗りの車が停まっているのが見えた。総士が足早に歩きながら話し続ける。

 

「ここ最近、僕たちをずっと監視している連中だ」

 

「何で俺たちを?」

 

一騎は自分たちが監視されていることを知り戸惑いつつも総士に質問をぶつける。こういう事態に関して容易に想像ができない。

 

「僕たちがこの世界に遣わされたのを知ったからな」

 

「知ったって。なんか問題があるのか」

 

「選ばれた少女しか使えない『勇者システム』。この世界ではバーテックスと呼ばれる人類の敵と戦うためのただ唯一といってもいい対抗手段だ。だが、僕らが来たことでそれ以外の対抗手段が見つかれば……一騎、人類軍の事は分かるな」

 

「……あぁ」

 

人類軍 ――― 一騎たちの世界では最大の総意決定機構である新国連の軍事組織。フェストゥムとミールは完全殲滅することを基本総意としているこの組織が島に行った非道は一騎も目の当たりにしている。

 

総士は人類軍を引き合いに出したことで、一騎はなぜ大赦が自分らを狙うのかおおよそ理解はできた。

 

「(!?)もしや」

 

「あぁ。大赦も狙っているのさ、同じ異能の存在であるバーテックスに対抗できる僕らの力を」

 

総士がそう呟くといつの間に家へとたどり着いた。しかるべき時と場所にてすべて話すと総士が告げると2人は別れ帰宅した。

 

この日一騎は総士の口からこの世界に来て自分らが置かれている立場を実感した。それはフェストゥムが島に襲来しあの平和な日が崩れたのと似ているように思えた。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

side:喫茶『楽園』

 

「ふぃ~」

 

喫茶楽園の店主である溝口は客が全くいない時間に大っぴらに椅子に腰かけ休んでいた。はたから見れば酒場の飲んだくれのような感じである。愛用しているスキットルを開けると中の液体をぐいっと一気に飲む。

 

「あー溝口さん、またですかー!」

 

ガランと大きな音を立て店奥から女性店員が飛び出してきた。この喫茶では実質のNo2である。

 

「いいじゃん、お客さんもいないんだし。それにこれはお酒じゃないぞ」

 

「それでもです。いつ来るかわからないお客様に失礼です。……それと電話です」

 

実際中身はただの水である。痴話喧嘩になりかけたが、面倒くさそうな表情で電話に出た。相手はどうやら彼にとって旧知の仲である。その人からある事が伝えられると、

 

「何? それは本当か」

 

溝口の表情が変わる。それは明らかに堅気ともいえるものではなく、纏う雰囲気から歴戦の兵ともいえるものである。電話相手からある頼みを引き受けた溝口は電話を切ると店内へと戻った。

 

「溝口さんどうしたんですか」

 

戻ってきた溝口を見た女性店員もそれに察すると溝口と同じような真剣な眼差しで見つめる。

 

「……悪いな。これから暫く店を開けることが多くなりそうだ」

 

「……了解しました。こちらは任せてください」

 

「ありがとよ。……さぁてと俺も働こうかね」




大赦がついに動き始めたようです。私がどうも大赦サイドを書くとどうやらブラックな立場として出してしまいます。

一騎たちに監視がつけるのは、そういう情報管理だけは徹底していた大赦なら当然の処置だと思います。

後編は夏凜の誕生日イベントが中心となります。

追記:『乃木若葉は勇者である』最新話を見終わった心境(勇者たちに対して行った住人達に対して)
「どうしてそんなことをした。言え! なんでだ!」


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第5話 変化(後編)

夏凜の誕生日会となります。


土曜日、翌日のレクリエーションに備えてのある準備のために一騎は喫茶楽園に顔を出していた。昨日、総士から大赦から監視されていることを知った一騎だったが、総士からは「今はあくまで監視されているだけで、あちら側からは何もできないはずだ」と言い切いきった。しかし大赦の事に関しては総士も聞かれたくない内容の話だったのか

 

「しかるべき時と場所ですべてを話す」

 

と言い残しその日は別れた。

 

(どうなるかと思ったけど、総士の言う通りなのかな)

 

「一騎、お疲れさん。…悪いな、明日は新しい部員の歓迎会だっていうのに」

 

「仕方ないですよ。週末ですしね」

 

店前でそんな事を考えていると店長である溝口から声がかかる。終末は平日の倍くらいの客が訪れているため一騎はそちらの対応も並行しておこなったためかいつの間にか夕日が沈みかけていた。

 

「それじゃあ、溝口さん明日宜しくお願いします」

 

一騎は帰路につこうと振り返ったが

 

「……あ」

 

「……三好?」

 

店前にて夏凜とばったり出くわした。

 

 

 

side:三好夏凜

 

夏凜は土曜日の半日授業後まっすぐ家路につくと砂浜にて鍛錬に励んだ。日も赤く夕暮れになった頃に切り上げ夕食を買いに近くのコンビニに寄っていた。

 

(…明日か。こんな非常時にレクリエーションだなんて…)

 

夕食の調達をしレジへと向かおうとしたところ、ふと明日の勇者部のレクリエーションの事を思い出した夏凜はレジへ向かう途中にあったある商品に目がいった。

 

(…ね、念には念をってことよ)

 

その商品も手に取り買い物カゴに入れ会計をした。帰路につこうと自転車を走らせた夏凜はある喫茶店の前を通り過ぎようとしたが見慣れた姿を見つけ足を止めた。

 

「……あ」

 

「……三好?」

 

店内から出てきた真壁一騎がそこにいた。

 

side out

 

 

 

「なんだ、一騎。知り合いか?」

 

「ええ。この前中学に転入した子で、勇者部にも所属しているよ」

 

「ちょっと入部は形式上よ!」

 

「…なるほどね。(一騎の言っていた子はこいつみたいだな)」

 

溝口が頭を掻きながら納得した。

 

「偶然だな」

 

「…偶然、通りがかっただけよ。もうあたしが住んでいる家まで目と鼻の先だし」

 

夏凜の話では楽園からそう離れていないマンションが讃州地方で住んでいる所らしい。

 

夏凜の格好はこの前と同じ鍛錬時の服装である事に気づいた一騎は夏凜が今日も鍛錬に励んでいたのかと思った。

 

「今日もなのか。随分熱心なんだな」

 

「ふん、当然よ。…あんたこそこんなとこで油売ってるんじゃないわよ」

 

「こんなとこで悪かったなお嬢ちゃん!」

 

「……明日来るんだよな」

 

「そう言われなくても行ってあげるわよ!」

 

溝口の軽口や一騎の賛美も流し夏凜は自転車を走らせて帰ってしまった。明日の事も軽く話すつもりだったが夏凜の自転車カゴに入っていたある物を一騎と溝口は見てしまった。

 

「コンビニ弁当…それにサプリ…?」

「はぁ…年頃の女の子にしちゃあ随分と偏ってんなあ」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 6月12日日曜日

児童館でのレクリエーションの日がやってきた。

 

「「「到着~~!」」」

 

一騎と総士は乙姫やその友達2人を引き連れ現地に着いた。総士はスマホの時計を見るとどうやら集合時間の10分前に到着したようだ。

 

「早かったかな」

「いや、ちょうど良かったらしい」

 

乙姫ら小学生組はこの日を楽しみにしていたのかテンションは相当高い。そんな乙姫の和気藹々とした姿に総士は僅かに微笑んだ。

 

「なんだかうれしそうだな」

「(!?)兄としては…当然だ!」

 

「みんな~こっちだよ~」

 

正門の方には勇者部の女子陣が待っていた。先に到着し残りの参加者が到着するのを待っていたようである。

 

「「「おはよう~」」」

 

「おはようございます。ふふ、特別部員たちは今日も元気ね」

 

東郷が代表して小学生組に挨拶を返す。

 

「……三好が来ていないような」

 

一騎が夏凜の姿が見えない事に気づき勇者部の女子陣に尋ねる。

 

「そうなのよ。予定がないって言ってたわよね」

 

一同は頷いた。どうやら夏凜だけが来ていないようだ。

 

「昨日偶然会ったときは行くって言っていたのですが…」

 

「(!?)一騎君、夏凛ちゃんに会ったの!?」

 

「あぁ、楽園の前でばったりと」

 

一騎が昨日にあった事を一同に話す。友奈がその事に驚いた。

 

「…まあ、真壁の言う通りならそのうち来るわよ。ひとまず入りましょうか」

 

夏凜の到着を待たずに一同は児童館へと入る。これまでも夏凜は嫌々ながらも時間通りに勇者部部室へと顔だけは出していたことからそのうち来るだろうと信じて。

 

 

 

――― 10:01:45

 

「お姉ちゃん。もう、時間だけど……」

「夏凜は遅刻か」

「道に迷ってるとか!」

 

現地集合時間の10時になったが夏凜は来ない。勇者部の女子はそのことにどよめき始める

 

「ん~。夏凜ちゃん来ないのかな~」

「もう少し待ってみましょう」

 

レクリエーションの開始時間までは十分にあるということで一同は子供たちの相手をしながら夏凜を待つことにした。

 

――― 10:31:18

 

「風先輩、子供の興奮が最高潮に……」

「あ~~~れ~~~ぇ~~~!」

「「乙姫ちゃ~ん!!!」」

 

東郷が申し訳なさそうに風に言う。子供たちの津波ともいえるそれに乙姫が飲まれていた。

 

「夏凜はサボり決定ね」

「現地じゃなくて部室の方に行ってしまったのでは」

「現地集合と書いてあるし彼女がそれを見逃すとは思えないが…万一もあるな」

 

風が呆れた表情となり、一騎はもしやと思ったことを言うが総士がプリントに書いてあったことを示唆し返す。

 

「私、電話してみます!」

 

友奈がスマホに登録してあった夏凜の番号に電話を掛けるが……、

 

「あっ、夏凜ちゃ……! ・・・あれった……? 一瞬、繋がったのに切れちゃった」

「何も言わずに切ったの?」

 

「もう一度かけてみたらどうですか? ひょっとしたら、シャワー中だったとか!」

「あぁ、それなら手が滑ったとも考えられなくないわね」

 

「リダイヤル、リダイヤル……ん……あれれ? なんか……、今度は呼び出し音も鳴らない」

 

「もう何よ!? こうなったらあたしがかけてやるわ!」

 

友奈がリダイヤルするも今度は応答がない。風が怒り交じりに電話を掛けようとしたが、

 

「ひゃうっ! もう無理ですよ。子供たちが興奮状態に!」

「ぐっ…髪を引っ張るな!」

 

子供たちの行動がエスカレートし、樹には何人もの子供に纏わりつかれ、総士は男で長く伸ばしてしているのが珍しく思ったのかやんちゃな子供に髪を引っ張られていた。

 

「でも……」

「友奈、気持ちはわかるけど…今は勇者としての任務に集中しましょう」

「……はい…せっかく、色々買って来たのに残念……」

「三好……いったい何があったんだ」

 

なんとかしたいと思う友奈を風がたしなめる。一騎も夏凜のことを気になった子供たちの相手に戻ることにした。

 

――― 11:40:00

 

「すみません楽園です。昼食を届けに参りましたー」

 

おりがみ教室も終わり自由時間となった頃に溝口がやってきた。

 

「溝口さん、相変わらず時間に正確ですね」

 

一騎と総士が応対にあたる。溝口は子供たちの様子を伺いその元気にはしゃぎまわる姿にいいねえと頷いていたが、

 

「? 新入部員のあのお嬢ちゃんがいねえな」

「それが…時間になっても来なくって」

「おいおい…あのお嬢ちゃん来てねえのか。どうすんだよこれ」

 

申し訳なさそうに言う一騎に溝口も驚愕し参ったような表情となる。元々この子供会用の昼食を届けることは事前に子供会からの主催者から受けていたが、今回はそれに勇者部からの要請により用意してあったものもあった。

 

「……あのお嬢さんが誕生日だっていうから色々追加で用意しといたんだけどなあ」

 

今日は夏凜の誕生日である。友奈が入部届に書かれた彼女の生年月日を発見し、勇者部は子供会と重なるのを利用し誕生日会を開こうと準備を進めてきたのだ。その事を溝口にも相談したところなんと自腹を切ってまでその誕生日会のパーティー食も用意してくれたのだ。

 

「仕方ない。一騎、プランの変更だ」

「あぁ」

 

風とも相談し夏凜がこの子供会に来ない事を想定した上で一騎と総士は行動を開始した。

 

 

 

その後、子供会は夏凜が不在なものの滞りなく進み最後のメインイベントとも言える『勇者と魔王の人形劇』も前回の失敗もなく大盛況に終わった。

 

「すっごい♪すっごい~♪」

 

その劇を始めて間近で見た乙姫は大変はしゃいでいた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:三好夏凜

 

-夏凜のアパート-

――― 17:32:02

 

(…関係ない。部活なんて最初から行きたかったわけじゃないし……)

 

夕方、夏凜は自分のアパートにいた。トレーニング着にて室内に備え付けたルームランナーで走っている。

 

(…私はあんな連中とは違う…私は…期待されているのよ)

 

子供会に行こうとした夏凜だったが、迂闊なことにプリントにあった現地集合を見逃してしまい集合時間の15分前に勇者部の部室へと出向いてしまっていた。部室内で待っていた夏凜だったが11:30頃に友奈が連絡がきたが反射的に切ってしまい気まずくなったのかそのまま電源まで落としてしまった。

 

「(…だから『普通』じゃなくていいんだ ――― )…滞りなし」

 

自分は大赦に期待された『勇者』。そう自分に言い聞かせながらいつもの勇者の鍛錬という彼女の日常をこなした夏凜。それだけ彼女の勇者に対する意識は高い。だがらこそ彼女は自分の青春を捧げてまで費やしてきた。本来の勇者であるための『理由』をその心の内に隠して ―――。

 

「……誰?」

 

突如家のチャイムが鳴る。来訪者に心当たりもなく夏凜は首をかしげる。

 

「ひぅ……ッ!?」

 

チャイムの連打に夏凜は思わず声が出て身がすくんだ。女子中学生の一人暮らし、それだけでも襲う理由ともなりえるため急に怖くなる。夏凜は木刀を手に取ると玄関のドアへと手を掛ける。

 

「だ…誰よ。さっきから…もぉ…!」

 

「「「「「「「うひゃあああああ!?」」」」」」」

 

夏凜が木刀を構えたが来訪者の姿を見て手を止めた。そこにいたのは驚きの表情の勇者部の女子4人に見た感じから小学生の女子が3人…一人は彼女にとって見覚えがある子だが

 

「あれ? あんたたち…」

 

「あ…危なかった」

「……そんなものを持って出てきたら…さすがに僕も驚くぞ」

 

それと一騎と総士の姿であった。全員それぞれ荷物を持ち歩いていた。

 

side out

 

 

 

「まったく~何度も電話してのに電源オフにして…心配して見に来たのよ」

 

「心配…?」

 

風が来訪の理由を告げると夏凜ははっとした表情となる。今日子供会に顔を出さなかった事を思い出した。

 

「じゃ、あがらせてもらうわよー」

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

「……いいのですか?」

「気にしないでいいわよ~」

 

「何勝手に上り込んでんのよ! 意味わかんない!」

 

夏凜の静止も聞かずに夏凜の部屋に上り込む女子陣。一騎と総士は部屋の主である夏凜からの許可が出ていないのでどうしようかと思っていたが風に促され2人も続いた。

 

「殺風景な部屋……」

「どうだっていいでしょ!」

 

「! これすごいスポーツ選手みたい」

「勝手にさわんないでよ!」

 

「わあぁぁぁ…水しかない」

「勝手に開けないでよ!」

 

好き勝手に部屋を物色し始めた女子たちを後目に友奈と共に冷蔵庫の中身を見た一騎が夏凜に尋ねた。

 

「失礼だけど、お前…普段の食事どうしてるんだ?」

 

「ふぇ…ちゃ、ちゃんとバランス考えてとってるわよ。それがどうかしたの?」

 

「いや、本当に食材とか全くないから…もしや弁当だけなのか」

 

一騎は昨日夏凜が恐らく買ったであろう弁当を思い出す。まさかだと思い可哀相になって訊いた。

 

「う…でも、ニボシやサプリとってるし栄養も考えているから」

 

「食事ってそれだけか? …なんだか寂しくないか。自炊とかしているのか?」

 

つい出てしまった一騎の言葉に夏凜は項垂れた年頃の女の子がコンビニ弁当とサプリ・にぼしだけで生活していることを他人に心配され指摘されたためである。一騎は夏凜の昨日の買い物の品や口調から自炊が出来ない事を確信した。

 

「一騎のお節介さが出てしまったか」

 

一騎は自分以外の人に対しては人一倍気にかけ方である。総士もその事には見覚えがあり小声で呟いた。

 

「…やっぱし、持ってきて正解だったな。三好、台所借りてもいいか」

 

「ふぇ…あ、その…」

 

「使うが帰る前には片づける。結城」

「はい。夏凜ちゃんはこっちだよ」

 

項垂れ即答できない夏凜を友奈が引っ張っていった。一騎と総士は台所にて持ってきた品を使い作業を開始し始める。

 

「一騎君、総士君。手伝いましょうか?」

 

「いいよ。それほど時間はかからないし。東郷はそっちを頼むよ」

 

「ふふ、了解したわ」

 

「……全く勝手に使って」

 

「ほら、夏凜。次期勇者部部員でもある子たちを紹介するから顔をあげなさい。1人は知っている顔だけどね」

 

友奈たちが何かの準備をしているのを後目にぶつくさ言う夏凜に対して風は乙姫たちを紹介させようと促した。

 

「こうやって顔を合わせるのは初めてだね夏凜。私は『皆城乙姫』。総士の妹よ。で、こっちが私の友達の」

「『立上(たてかみ)(せり)』です」

「『西尾(にしお)里奈(りな)』よ」

 

この2人は一騎たちの世界で仲間だった人と同じ名を持っているが前世の記憶はない。乙姫本人も讃州地方に来てから出会ったときには大変驚いたが今は前の世界と同じ友人としてふるまっている。

 

「よ…よろしく」

 

「それにしてもよかったよぉ。もしかしたら寝込んだりしてんじゃなかったんだね」

 

「…別に…健康には気を付けてるし…」

 

「そっかぁ」

 

「総士、そっちは?」

「温め直しまで後10秒、盛り付けを含めれば規定より5秒遅い。若干の修正が必要だ」

「そこまでしなくていいから。出来たぞ」

 

「あっ、準備ができたみたいだね」

 

「な、何よこれ。どういうことなの!」

 

テーブルには一騎と総士が用意したフライドチキンやサラダなどの豪華な食事がずらりと並んでいた。

 

「――― あのね。ハッピーバースデイ! 夏凜ちゃん!」

「「「「「「「「おめでとう!」」」」」」」」

 

友奈が机の下に隠していた箱を開けその中身を見せる。中にはホールケーキが入っており、『誕生日おめでとう』と描かれたチョコ板も乗っている。

 

「何で、誕生日を知ってるのよ?」

 

「これよ、これ」

 

風は夏凜の入部届を取り出し見せた。生年月日が『神世紀286年6月12日』。つまり今日の事である。

 

「友奈ちゃんが見つけたんだよね」

「あって思っちゃった。だったら誕生日会しないとねって!」

 

友奈たちは夏凜の誕生日会をしたかった経緯を語る。本来なら児童館でやる予定だったが、夏凜が来なかったためできず、合間に迎えに行こうとしたが子供たちのはしゃぎっぷりに抜け出せなかったことも。

 

「乙姫ちゃん、幼年組の列に流されちゃっていたもんね」

「うん」

「でも、流された乙姫ちゃん…可愛かったなあ~」

 

「ん、どうした? ひょっとして自分の誕生日も忘れてた?」

 

夏凜は僅かに震えていたが小さな声で返す。

 

「…………あほ…ばか……ぼけ………おたんこなす」

 

「何よそれ?」

 

「誕生会なんてやったことないから…祝ってもらったこともなかったから……何て言ったらいいかわかんないのよ……!!!」

 

照れながら罵声を浴びせる。しかしそれは怒りというより戸惑いで出た言葉であった。それを聞いた友奈と乙姫は微笑むと

 

「「――― お誕生日、おめでとう。夏凜ちゃん」」

 

「さぁ、盛り付けるぞ。ケーキはご飯の後だ」

 

そう言うと一騎はひときわ目立つ大きな鍋を開ける。中身はカレーのルーでご飯をよそうとそれをかける。夏凜はそのカレーの香りに思わずごくりと生唾を飲んだ。

 

「さあ、座って」

 

友奈に促され夏凜が席に着く。主役なので一番目立つ中央の席である。風がジュースをコップに注ぎ全員に渡すと

 

「それじゃあ乾杯するわよ!…それでは乾杯!」

「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」

 

乾杯をすると料理をつまんだりおしゃべりしたりとそれぞれ過ごす。そんな中主役の夏凜は、

 

(こんなもの食べたら後が大変じゃないの……)

 

明らかにカロリーが高い料理にしり込みする。食べたらその後の消化が大変じゃないか等と頭の中で考える。

 

「一騎君のカレー美味しいよ」

 

友奈に促されスプーンに手を伸ばす。自分のために作ってくれたのもあって残すのも申し訳ない。夏凜は意を決して一騎カレーをひとすくいすると一口味わった。

 

「(!?)」

 

一口味わった夏凜に衝撃が走った。これは普通のカレーではない。程よい辛さと濃厚な味のバランスが見事にとれており明らかに手の込んでいるものだ。こういう美味しいものをあまり味わった事のない夏凜にもその違いは理解できた。そして、一騎カレーは夏凜の食欲中枢を刺激した。

 

「美味しい? 夏凜ちゃん」

 

夏凜は無言でうなずく。いつの間にかがっつきあっという間に平らげてしまった。顔をあげると一騎と目が合った。

 

「…お代わり…あるぞ」

 

夏凜は皿を差し出すと一騎はそれを受け取るとお代わりをよそった。

 

その後、楽しい時間はあっという間に過ぎた。途中、樹が夏凜が折り紙の練習をしていた成果である鶴を見掛け顔を真っ赤にして夏凜がそれを隠したり、友奈が夏凜の家のカレンダーに予定を勝手に書き込んだ際に彼女の頭のアイデアで劇をやることを思わず口走ってしまい文化祭の出し物が決定したりとともかく色々あった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:三好夏凜

 

「――― あいつら勝手にゴミを大量に増やしていって…、まったくどれだけ食べるのよ」

 

ゴミを出し終えた夏凜は自分の部屋へと戻る。ふと台所を見るとメモ紙が置いてあるのに気づく。

 

『量はあるからしばらくはもつよ。米もあるし炊飯器も貸しておく。鍋は合間を見て回収しに来るよ。冷蔵庫にサラダが入っているから忘れずにな。』

「まったく、あいつときたら…」

 

ふとスマホに着信が入っているのに気づく。

 

「何これ……招待?」

 

内容は勇者部が利用しているSNSの会話チャットへの招待であった。そのSNSへの招待を了承する。

 

 

 

ベットに潜り込むと流れて来る会話のログ(今回は友奈・東郷・風・樹のみ)を見る夏凜。内容は他愛のないものだらけだが、

 

「…ぼた餅って」

 

東郷からのメッセージに思わずツッコミを入れる。

 

「はぁ。了解…と」

 

返事を送ると時間もたたないうちに勇者部からの返事が返ってきた。

 

「わっ…わ、わ! も…もう!」

 

騒がしくなった会話に困り果て動揺し「うっさい!!」と返してしまう。案の定餌ともいえるレスが投入された結果、会話はさらに騒がしくなった。

 

「何なのよ、もう……」

 

『これから全部が楽しくなるよ!』

 

すると友奈からこのメッセージと共に写真が添付される。それを開くと今日の誕生日会の模様が映っていた。それを見た夏凜はなぜだかわからないが心の底から暖かくなるような錯覚に陥った。それを最後にスマホの電源を落とすと仰向けに転がる。

 

「…全部が楽しくなる…か。……世界を救う勇者だって言ってるのに…バカね……」

 

その言葉には棘のあるような感じはなくむしろ夏凜の本質ともいえる優しさが込められていた。夏凜は今日の楽しいことを思い穏やかに眠りにつこうとした。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――― ッ!」

 

スマホからのアラームに飛び起きる夏凜。反射的にスマホを掴むとその画面を見る。

 

「樹海化警報!?」




悩んだ末にファフナーキャラの2人はこのポジで落ち着きました。最初は参戦させようかと考えましたが扱いきれないと思い日常キャラとして出します。ただ、芹に関しては最後らへんで重要な役目があるかと……。

●本作品の夏凜の誕生日
原作通りに子供会はドタキャンしていただきました。これは続章2であるフラグを建てるためです。

●一騎の夏凜に対する生活態度の突っ込み
最初から一騎にやらせるつもりでした。家事従事してましたし、こういうのを見たら心配で何か言ってくると思います。

●一騎カレー
これにて勇者部部員全員に普及完了。園子様と()()1()()は最後らへんとなるかと。

以下、予告(次回はオリジナル回。追加戦闘回となります)

「フェストゥム!」

突如の樹海化警報に出撃した勇者部一同であったが突如として襲来するフェストゥム。

「いい…一人でやる!」

その脅威を知らない夏凜は1人突出してしまう。

「いや…やめて…心を見ないで!」

囚われる夏凜。

「お前は1人じゃない!」

一騎たちは夏凜を救い出せるか。夏凜はこの戦いで知るものは?

次回第2章最終話、第15話『現実』

「あたしは…ここにいる!!!」

●お知らせ
夏凜のエピソードが終わったら風と樹のエピソードをやる予定でしたが変更し、原作3話と4話に起きたあのエピソードを先にやります。ヒントはある勇者によって引き起こされた設定のストーリーとなります。

追記(2016/10/16):ゆゆゆ2周年か…(放送17日だけど)


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第6話 現実(前編)

追加戦闘回(オリジナル)。導入編のような感じです。


回想:三好夏凜

 

『いい子ね~』

『お前は本当によくできた子だ』

 

三好夏凜という少女が両親と歳の離れた兄を遠くからじっと見ている。彼女の兄は成績は常にトップ、品行方正で所属のサッカー部でインターハイ優勝、俳句を詠めば県の大賞に選ばれると完璧超人ともいえるものであった。

 

夏凜は最初、そんな兄の背中を自分なりに必死に追いかけようと努力していた。そのためか学校の成績や運動の方も兄と同じように優秀な成績を修めていた。だが、優秀すぎる兄と比べられたためか夏凜が評価されることは決してなかった。

 

両親は優秀な兄を目にかけ、家の廊下には兄の絵は飾られるが夏凜の絵が飾られることがなかった。

 

『……寂しくない…兄貴は優秀だもん』

 

そう言い聞かせながら幼少期を過ごす夏凜。両親を振り向かせられず悔しかった……いつの日か夏凜は両親と兄との間に入ろうとしなくなった。それでも、夏凜は努力を怠る事は決してしなかった。

 

『夏凜はえらいな』

 

夏凜の兄である春信もそんな彼女の努力を陰ながら見守っていたためかその健気な夏凜の事を認めており、努力をするためか自分に無頓着となり両親との間に入らなかったことで人との距離が離れていこうとする夏凜のために彼なりに愛情を注いだ。

 

そんな夏凜に転機がおとずれる。大赦での勇者適性検査の結果、その資格はありということだった。

 

『これで認めてもらえる。…兄貴にはない…あたしだけの事ができる』

 

自分を認めてくれない両親を見返し、優秀な兄を超えれるチャンスがきた事で夏凜は血をにじむような努力をした。

 

『夏凜…』

『何よ。兄貴』

『辛かったら……逃げてもいいんだぞ』

『――― ッ! ……逃げるつもりなんて…ない!』

 

当時大赦でも高い地位に就き、担当する部署の都合夏凜に会うことが少なくなった春信だったが夏凜の身を案じていた。だが、その言葉は勇者になることに固執する夏凜には届かず、兄の心配もむなしく彼女はさらに人とのつながりから離れていった。

 

そして、努力家の彼女は勇者の候補生でもずば抜けて優秀な成績を修め、神樹から選ばれたことで念願の勇者になれた。

 

『これで見返せる。兄貴を…超えられる!』

 

こうして夏凜は大赦の命で讃州中学へと赴任する。そんな彼女が出会ったのは…曰くチンチクリンで緩い感じの勇者たちと大赦曰く異世界から敵を倒すために来たと戦士たちであった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-樹海内-

 

「全く……もう夜も遅いのに」

 

勇者姿の風は深夜の敵の襲来に対して苛立ちを露わにする。夏凜を含めた勇者たち、一騎達は合流を果たしており敵の襲来に備え待機、総士は敵戦力の解析にはいっていた。

 

「敵バーテックスの戦力は星屑のみか」

 

さっさと片づけたい風は隣にいる樹の姿を一目見る。夜も遅いことでもう寝ようとした矢先の襲来だったためか寝惚け目になっていた。そのような様子を見て大丈夫なのかと夏凜は哀れむようにして見る。

 

「バーテックスちっこいのしかいませんし…なんだか前よりも数が少ないですね」

「…だったら、さっさと片づけちゃいましょ。夜更かしは女子力が育たないっつうの!」

 

「(だといいがな…むしろ少なすぎる方が気になる…それに大型種が不在なのは妙だ)」

 

戦力の解析を終え総士は今回の迎撃プランを練り終えるも敵バーテックスの戦力が少な過ぎる事に懸念を抱く。

 

「夏凜ちゃん! 今回から一緒に頑張ろうね」

 

「……頑張るのは当然って前にも言ったでしょ」

 

友奈は夏凜の方へと寄るとその顔を覗き見つついつものようにはにかむ。それに対し夏凜は手元のレーダーにて星屑の位置を確認しホーム画面へと戻そうとしたがある画像に目が留まった。

 

「そろそろいいか?」

 

一同は総士の方に視線を送ると夏凜も交え作戦概要の説明へと入る。

 

「状況は見ての通りだ。数は少ない上に星屑のみで一直線に神樹を目指している。今回も同じ方式で敵を叩く。前衛を一騎、結城と風先輩をすぐ後ろに中衛に樹、後方に東郷を配置させ、乙姫の操るノルンには相互的に援護させる。……そして、今回から結城と風先輩の隊列に三好も加える。万一の敵の参入もあるかもしれないがこれを基本としていく」

 

「さすが指揮官ね。みんな、それでいいわね」

 

「「「「はい!」」」」

「了解!」

 

風が気を引き締めさせようと声をあげる。

 

「もう、話はいい? 突っ込むわよ!」

 

「……三好のシステムをジークフリードシステムに登録していない。それに単独は危険だ」

 

「いい…1人でやる!」

 

「夏凜ちゃん、1人じゃあ危ないよ!」

 

「あたしなら十分にやれる…『完全勇者』のあたしで十分よ!」

 

夏凜はツンとした態度で総士と友奈の静止を突っぱねるとその場から跳ぶと先行して行ってしまった。

 

「……どうしたんでしょうか、夏凜ちゃん。何か焦っているような感じが見受けられましたが」

「……東郷もそう思ったか」

 

総士と東郷は夏凜の口調から焦りのようなものを感じていた。勇者部の一同が困惑した様子で夏凜の跳んで行った方向を見つめいた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:三好夏凜

 

「…悪い事しちゃったかな」

 

夏凜は星屑を2本の刀で斬り伏せ一刀で両断すると呟く。夏凜は少し後ろめたさを感じていた。神樹に選ばれた素人ともいえる勇者たちから暖かく迎えられ、自らの誕生日を祝われ、それを夏凜は素直にうれしいと感じた。

 

「だけど、私は大赦に選ばれた『勇者』!」

 

夏凜は自分にそう言い聞かせると跳躍し回転しながら星屑の一群をまとめて切り裂く。着地し舞うように刀を振るう。一太刀するごとに星屑は両断され生物とはおおよそ思えない奇声を挙げ消滅する。

 

夏凜が勇者になったのは兄を超えるところをみせつけ()()を認めさせること。

 

「……今は奴らを殲滅よ。一刻も早く!」

 

潜入してきた星屑はその数こそ夏凜1人に対しては無数と言える数だったが夏凜はそれを圧倒しあっという間に殲滅させた。

 

【諸行無常】

「はっ、アタシと義輝にかかれば楽勝よ……ッ!?」

 

夏凜の方にいた星屑のバーテックスは殲滅されたが、突如、心臓を刺すような悪寒に襲われる。ふと見上げると一筋の閃光が降り注いでくるのが見えた。

 

その正体である金色の体をし複数の触腕を持った生命体が地面へと激突する。

 

「落ちた……」

 

夏凜が唖然としているとその生命体は接触する地面に溶け込むかのようにその色を変える。するとその生命体をまるで背負うかのように2足歩行の土人形のような人間大サイズの生物になるとその足で立ち上がると人間の目ともいえる部位が見開いた。

 

「バーテックス? いや……こいつがフェストゥムってわけね。今回は同時侵攻っていうところかしら?」

 

夏凜は気持ちを切り替え2本の刀を構えると一目散にその距離を一瞬で詰めると、

 

「先手必勝!!!」

 

2本の刀をその生命体の体に突き立てた。だが、夏凜はその手ごたえに違和感を感じる。

 

「わっ! 何よこれ!」

 

突き立てた刀が背負っている生命体と同じ金色に染まる。夏凜は刀からすぐさま手を離したが、その刀はその生命体に取り込まれてしまっていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎

 

その一方、一騎・総士・乙姫・夏凜を除いた勇者たちは侵攻してきた星屑のバーテックスとの戦闘に突入していた。星屑のバーテックスと呼ばれる小体の数は前回に比べ多くはないが、それでも無数といってもいい戦力であるが、

 

「とぉりやぁーーー!」

「えぇ~い!」

 

既に3度という実戦を経験した勇者部員たちは星屑を圧倒。風は大剣のリーチを拡張し豪快になぎ倒していき、樹はワイヤーを鞭のように振るい切り裂いていく。

 

「東郷さんは私が守る!」

「それなら…友奈ちゃんの背中は私が守ります!」

 

友奈と東郷は互いに背中合わせとなり答える。星屑の数に東郷はいつも使う狙撃銃ではなく2丁の散弾銃による弾幕を張り星屑を寄せ付けず次々と撃ち落としていく。友奈は総士の指示通りに東郷に近づこうとする撃ちもらしを着実に撃破、裏をとってくる星屑を東郷の元にたどり着せない。

 

「友奈たちは大丈夫そうだな」

 

友奈たちの奮戦をジークフリードシステム経由で知った一騎は星屑にすれ違うついでに両断し突破する。

 

「――― ッ!」

 

乙姫が何かを感じ取りはっとした表情となる。必死な様子で一騎と総士に訴えかけた。

 

【一騎、総士! 今すぐ夏凜を追って!】

《乙姫、何があった!》

【敵が既に来てる!】

 

総士の端末に情報が送られてくる。レーダーに反応しないフェストゥムなどシリコン生命体の接近を知らせ、そしてその種別を判定する『ソロモン』と呼ばれるシステムからだ。

 

《一騎、ソロモンに応答。これは…来るぞ!》

 

順調に夏凜の元に向かっていたがソロモンに応答があったと同時に彼の前方に金色の体をしたフェストゥムがその道を防ぐかのように現れた。

 

《これは……タイプ断定せず、敵と認知していない…?》

 

だが、システムの反応はこれまでとは違う特殊なケースのものである。総士はこの情報に見覚えがあった

 

《厄介な相手が…風先輩、配置を変更します》

「どういうことなのよ?」

 

ただならない様子を感じ風が尋ねると総士が勇者一同に来るであろう敵の事を伝える。

 

「そんな! それでは夏凜ちゃんが危険だわ!」

 

《一騎、お前は三好の後を追え!》

「わかった!」

 

《風先輩は樹と。結城、君は東郷と組んで戦え》

「東郷さんと?」

《あぁ。今回の敵は想定通りなら遠距離の東郷も狙われる可能性が高い…だから、君が東郷を守れ》

「(!?)わかったよ。総士君」

 

一騎が行動を開始しようとするも数体のフェストゥムに行く手を遮られた。

 

《ここを通さない気か》

「……邪魔をするな、フェストゥム!」

 

フェストゥムの出現によりジークフリードシステムの恩恵を受けていない夏凜の身がこれでますます怪しくなった。一騎はスフィンクスの1体にプラズマ弾を発射し命中。爆散しずたずたになったフェストゥムが黒い球体に包まれ消失する間に邪魔をするほかの敵へと切り込んでいった。

 

【勇者たちの事は私と総士に任せて】

 

一方、総士は動揺が走る勇者を落ち着かせ、彼の指揮のもとそれぞれ星屑のバーテックスに立ち向かうのであった。




当作品の夏凜は『結城友奈は勇者であるS』などを加味し、かなり独自の設定を入れています。そのため戦闘方面では実力の高さから単独行動するようにシフトしてあります。

本編では勇者部の活動で部内になじんできた頃に第5話(後に出たゆゆゆのある作品の物語を除けば)ですのに勇者部の子たちと連携とってましたが、今作品では勇者部や一騎たちとの距離を一気に縮められそうな出来事を描きたいということでこの戦闘回となります。

なお、夏凜は現時点で()()()()()()はしておりません。後編はこれが鍵となります。

後編も出来次第投稿します。

蛇足:満開祭2(ゆゆゆの公式ファンフェスタ)までに投稿できればなあ・・・。


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第7話 現実(後編)

追加戦闘回(オリジナル)決着編。三好夏凜ハードモード。

2016/12/4 一部修正


一騎が夏凜の元へと向かった頃、勇者部員たちは星屑のほとんどの殲滅させていた。勇者部員たちはここぞという時の団結力が高く、数度の戦闘で勇者システムの力の使い方や総士の指揮もあって戦い方を理解したためでもある。

 

《来たか!》

 

そんな中、戦況を見定めてきた総士が樹海内に侵入してきた存在がついに視認距離へと入った。

 

《データに履歴あり。やはり同化特化の『コアギュラ型』か》

 

総士が敵の正体を告げる。混迷の色を見せる勇者たち、友奈と東郷・犬吠埼姉妹に夏凜のもとにも現れた2足歩行の生命体がそれぞれ1体づつ降り立つ。

 

コアギュラ型 ――― 明確な敵意を持たず攻撃をしないが、別名「スフィンクスの卵」とも言われるただひたすら同化のみを迫るフェストゥムである。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:三好夏凜

 

「―――ッ!」

 

夏凜は目の前にいるコアギュラ型のフェストゥムに苦戦していた。鍛え上げられた夏凜の斬撃は効かず、刀の投擲に切り替えるも炸裂する前に無力化されてしまっている。

 

対しコアギュラ型はその触手伸ばすも夏凜はすばやく距離をとる。元々彼女の使用している勇者システムは前衛向けに調整されており彼女の場合は速度を重視としており、動きの遅いコアギュラ型は彼女の速さに接近できずにいた。

 

(動きは遅いけど…埒が明かないわ。それに……)

 

これまで金色のバーテックスと呼んでいたフェストゥムが2体も現れ、背部が黒く発光すると彼女の進路を遮るように黒い球体(ワームスフィア)が発生する。倒せない敵に加え、敵は明らかに夏凜の軌道の先に置くようにして攻撃を展開。夏凜はなんとか反応し持ち前の速度でなんとか回避できているような状態であった。

 

この世界に来たもう一つの敵『フェストゥム』、勇者の候補生として敵を過小評価したつもりはなかった。勇者の力があったとしてもある意味バーテックス並かそれ以上の脅威は夏凜の予想をはるかに超えていた。

 

「あぁっ!」

 

そして、ついに追い詰められ空中へと逃れたがそれがいけなかった。ついにワームスフィアの一部が彼女を掠めてしまう。ワームスフィアによる空間湾曲で発生する膨大な熱が彼女に襲った。勢いを失った彼女の体は地面へと落ちた。

 

「つぅ…」

 

精霊のバリアが一部働いたのか夏凜の体が焼かれた形跡はなかった。しかし、熱さと焼けただれるような痛みに蹲っていた。

 

「……あ…」

 

蹲る夏凜はなんとか顔を見上げようとする。動けずにいる彼女の視界に広がっていたのはコアギュラ型が自分に目掛け覆いかぶさろうとする光景だった。

 

「くぅっ…あぁぁぁ!」

 

覆いかぶさったコアギュラ型は夏凜を土のような物体で体飲み込み拘束する。夏凜は必死にそれを振りほどこうともがき足蹴にするが、

 

「……」

 

奥に入り込むような感覚が彼女を襲う。その心地よい感覚が夏凜から抵抗するという思いを奪う。コアギュラ型はまるで優しく撫でるかのように夏凜の心の中の奥に入り込んでいく。

 

すうっと、ひどく自然に視界が暗転した。

 

「……いや…やめて」

 

惚ける夏凜だったがしばらくするとそれは嫌悪へと変わった。

 

「…心を見ないで!」

 

彼女の脳裏にあったこれまでの記憶が蘇り、勇者になった経緯や両親から正当に評価されず兄から離れ独りでいた記憶が呼び起される。心理的な侵攻に夏凜はそれを言葉をして思いっきり叫んだ。

 

(い…やだ…こんなところで終わりだなんて……)

 

夏凜の脳裏に今日の出来事が思い浮かばれる。それは彼女が勇者として青春を過ごし派遣されてきた地区で神樹に選ばれたとされたにも関わらず甘っちょろい人たちによって祝われた誕生日の出来事。フェストゥムは夏凜の心の奥まで読み取った。

 

(だれか………)

 

コアギュラ型は夏凜を本格的に『同化』し始めようとしようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点:真壁一騎

 

筈であった。近くに浮遊していた2体のフェストゥムが真っ二つに寸断され消滅。コアギュラ型の目をもいえる部分に槍が突き立てられていた。

 

「……また、奪う気か」

 

妨害してきた一群を突破してきた一騎は今まさに捕えられ同化されようとする夏凜の姿を見た。ルガーランスを握りしめ静かに呟く。……その声に少し怒りが込められていた。

 

その間にもコアギュラ型に突き込まれた刀身がゆっくりとその傷口を広げていく。コアギュラ型の同化による浸食も進んではいない。一騎の非同化状態はもはや同化特化のコアギュラ型をも寄せ付けずにいた。

 

「そこだぁぁぁーっ!」

 

ルガーランスのトリガーを操作しコアギュラ型の傷口にプラズマ弾が叩き込まれる。一騎は引き抜くと夏凜を捕えていた触腕を切り裂き彼女をその傍らに抱くとその場から離れる。コアギュラ型は黒い球体に包まれ消滅した。

 

《っ! 遅かったのか》

「いや、まだ間に合う!」

 

夏凜の意識は戻っていない。同化の途中で引き離されたが、瞳が金色に染まりかけていた。一騎は総士の静止を後目に夏凜の肩に手を置き、静かに目をつぶり心を落ち着かせ意識を集中させた。

 

 

 

side:三好夏凜

 

(私…いったいどうしたんだろう…)

 

何の音も聞こえない暗い海ともいえるような空間に夏凜がいた。しかし、夏凜の体はまるで水底へと誘うかのように沈んでいたにも拘らず、水面へと浮き上がろうとはしなかった。否、出来ずにいた。

 

(勝手に飛び出して…できると思ってたツケがあたったのかしらね)

 

勇者となり初陣を飾り、自分は出来る。兄を超えられると思い込んでいた。その結果がこれだ。

 

(バカだったのはあたし…敵を見誤っていた…だけど、それを決めたのはアタシ1人…)

 

中途半端に終わってしまうがどうせ自分は独りぼっちだ。敵に敗れここまでだと受け入れようとした。

 

(!?)

 

途端、夏凜の手を何者かが掴んだ。虚ろな目で顔を見上げる。水面下といえるところに眩い灯りを見た。

 

「それでいいのか?」

 

その問いかけに夏凜ははっとした表情となる。そして、その灯りを目を凝らして見ると1人の少年のような姿が見えた。

 

「お前は1人じゃない!」

 

水面にはあの灯りの他にも幾多の灯りが見えた。いつの間にか夏凜の体はそれに目掛け浮上し始め引き込まれていった。

 

 

 

No side

 

「う……」

 

「三好、大丈夫か?」

 

夏凜の目が開かれる。朦朧としているため視界がぼやけていた。しかし、焦点が定まるとがじっとこちらを心配そうに見つめている義輝の他に一騎姿がそこにいるのが見えた。

 

「……あたし、どうしたのかしら?」

 

「フェストゥムに同化されかけてた。奴等は倒したし、同化も…問題はないと思う」

 

「そう。……あんたやあいつらはああいう奴等とやりあっていた訳ね……」

 

「立てるか?」

 

一騎の伸ばした手を握ると夏凜は引っ張り上げられる力を利用して立ち上がった。

 

「遅くなってごめんな。フェストゥムまで現れるなんてな」

 

「……心配かけたわね」

 

その身を以ってフェストゥムの脅威を目の当たりにしたのか夏凜は一騎に申し訳なさそうに言った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:勇者たち

 

《決して接近戦はするな! 同化されて取り込まれるぞ!》

「(これが総士君の言っていた…)私がやるわ! 友奈ちゃんは残りの星屑をお願い」

 

東郷は両手の散弾銃を連射し集中してコアギュラ型に弾幕を浴びせる。だが、放たれた弾丸はコアギュラ型の体に吸収されてしまい、動じていないのかゆっくりのっしりと東郷に近づいていく。

 

「攻撃はしてこない…けど、効いてない?」

《弱点以外の攻撃は無効だ。頭部にある目を狙え!》

 

東郷は頷くと拳銃に持ち替え両手で構えて頭部に狙いをつけて撃つ! しかし、コアギュラ型はその弱点を触腕で塞ぎ防いだ。

 

(防がれた! …これじゃあ)

 

コアギュラ型は東郷を獲物と見定めたかのようにゆっくりと歩み迫ろうとする。星屑の一群の掃討中の友奈だったが、敵は大切な友達の1人に魔の手を伸ばしているのを見た。東郷が何発も銃弾を撃ち込んで止めようとするが弱点以外はほぼ無力であり、かといって自らも攻撃すれば恐らく同化されてしまうであろう。せめて、あのガードを一瞬でも解ければと友奈は物思いに沈む。それにより生じた隙に星屑の最後の1体が襲い掛かる。

 

《結城!》

「(!?)」

 

反応が一瞬遅れてしまった友奈だったが総士の一声により我に返りギリギリで攻撃を躱す。

 

「てえやああああ!」

 

回避した勢いをそのままに反撃と言わんばかりに星屑に鋭い蹴りを入れる。星屑は蹴り飛ばされコアギュラ型に衝突、それに反応したのか星屑に対し同化行動へと入ると東郷からは弱点である目が露となった。

 

《東郷、撃て!》

 

拳銃から放たれた弾丸はコアギュラ型の目をえぐる。弱点を破壊されたコアギュラ型の体は黒い球体に包まれ消失した。

 

「東郷さん、ナイスだよ~」

「もう! 友奈ちゃん、そんな危ないことして……でも、助かったわ」

 

友奈が東郷を称賛する。一方、東郷はお互いに無事だったことにほっと胸をなでおろす。

 

 

 

「なんでもありなのこれぇぇぇ!」

 

その一方、犬吠埼姉妹は担当した区域にも突如としてコアギュラ型が現れ、風は先手をとろうと思いっきり大剣を叩き付けた。…が、コアギュラ型はその体で受け止めると腕部で大剣を接触し同化されてしまった。

 

「相性、最悪でしょこれ!」

 

コアギュラ型に悪態つく風。樹も援護したいがワイヤーで捕らえようとするも片っ端から同化されてしまい何もできずにいる。総士から弱点が告げられるも有効打がないためか焦る姉妹にコアギュラ型が迫る。その時 ―――、

 

【!?】

 

ノルンが姉妹からコアギュラ型の周囲を旋回し攪乱しつつ光弾を撃ち込む。隙が生じるとそのうちの数機がコアギュラ型に目掛け突っ込む。コアギュラ型は接触したノルンの同化行動へと入り動きを止めた。

 

「今だ!……アタシの女子力でも喰らって」

 

チャンスと見た風は再び大剣を具現化させ巨大化させると上段に構え思いっきり頭部目掛け振り下ろす。

 

「…くだばれえええ!」

 

弱点である目ごと頭部をたたき割り風はそのまま離脱するとコアギュラ型は消滅した。

 

「うし、大物撃破!」

「さすがだよお姉ちゃん! 乙姫ちゃんもありがとう」

【どういたしまして】

 

コアギュラ型の撃破に湧く姉妹はハイタッチをする。

 

《対象の殲滅を確認。……増援はないようだ》

 

担当した区域の戦闘を終えた友奈と東郷も姉妹に駆け寄りお互いの無事を喜び合う。

 

「総士君、夏凜ちゃんは? 大丈夫…なのかな」

 

【夏凜は一騎がなんとかしたよ】

 

友奈が慌てた様子で尋ね乙姫に無事が告げられたことにより一同は安堵の表情を浮かべる。

 

「あ!」

 

そこに一騎に手を引かれる形で夏凜が現れる。

 

「夏凜ちゃん。大丈夫? 怪我とかはなかった?」

「あ…うん」

 

矢継ぎ早に友奈は夏凜に心配事をぶつける。これには夏凜も素直に聞きいれるしかない。

 

「全くもう、1人で先走ちゃって!」

「その…ごめん」

 

夏凜が風にぼそりと呟くと同時に一同は樹海から現実世界へと戻された。こうして、突如として襲来した星屑とフェストゥムとの戦闘は終わりを告げた。




夏凜ファンにとってはきつい描写が多めになってしまった。

だけど、この回やらないと原作第5話や原作3~4話の間にあったあの出来事まで夏凜の戦闘がなしとなるもので……。

●コアギュラ型
接近戦主体の勇者たちにとっては事前対策なしだと天敵だと思う。特にファフナー無印の19話を見るとね。



以下、予告。
(なぜこんなことをしているのかっ!)

あの出来事でふさぎ込む夏凜。そんな彼女を勇者部員たちはある依頼へと誘う。

「何!?」
「えっとぉ…えっとぉ」

依頼をこなす中、夏凜を見つめる小さな影。夏凜はその依頼で変われるのだろうか。

次回続章2『皐月-かりん-』

「まあ、楽しくなくはないかもね」
「お姉ちゃんの弟子にしてください!」

…【あなたはそこにいますか】


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第8話 皐月-かりん-(前編)

夏凜編の最終章。長くなったので前後編の2話構成。


――― 夏凜の誕生日から数日後

-讃州中学 家庭科準備室兼勇者部部室-

 

「―――ということで、今週末の活動はこのようになります」

 

平常授業の放課後、風・樹・友奈・東郷というメンバーで依頼に関するミーティングが行われていた。風が受けた依頼だったが友奈のアイデアで少し手を加えることになったがまとまったようだ。

 

「今度こそ夏凜ちゃんが参加にできますね」

 

「来てあげたわよ」

 

そこにクラスの仕事で遅れてきた夏凜が入室してきた。依頼を決めたタイミングだったため友奈が少し慌てふためいた様子を見せたがすぐに平静を取り戻す。

 

「今日も来てくれたんだね」

 

「まぁね……。それよりもあたしに用って何?」

 

そっけない態度をみせる夏凜。友奈たちはさっそく本題に入ることにした。

 

「あのね夏凜ちゃん。この前の勇者部の活動に参加できなかったからまた新たに依頼を用意したの」

 

「……小麦倉庫の整理?」

 

「夏凜さんのトレーニングもできて一石二鳥です」

 

東郷が概要の書いたプリントを手渡す。内容は小麦倉庫の整理で倉庫の管理人は老夫婦だが主人であるお爺さんが腰を悪くしたためのお手伝いがほしいとの事らしい。

 

「だからね。一緒にやろ?」

 

夏凜はそのプリントを一瞥しながら聞いていたが、

 

「……いい」

 

「今回もだめなの?」

 

夏凜は勇者部の提案を断った。どうしても夏凜にも一緒に来てほしい友奈は首を傾げ子犬のように見つめ何度も夏凜を引き留めたが、

 

「……御役目に関することじゃないようなら…帰る」

 

踵を返し部室から出て行ってしまった。

 

「また断られたか……」

「夏凜ちゃん、軟化したかと思いましたが、なんというかあれよりも意固地になっているような…」

 

風が出て行った夏凜にふと息を吐くようにして言う。前回の戦闘から夏凜は勇者部には顔を出すが勇者部の活動の誘いに対しては断ってすぐに帰ってしまうのである。その態度は他人に対してさらに無関心になっているような感じとなっていた。

 

「勇者部の活動も断ってますし、それに何か悩んでいるような感じもしました」

 

樹の言い分にうんうんと頷く風と東郷、ツンとした態度の裏に見え隠れしているのが今の夏凜に出ているのである。それに対し困っている誰かをほおっておけない友奈にとって彼女の力になれない事に少し悲しげな表情をしていた。

 

 

 

視点:三好夏凜

 

「……またやっちゃったかな」

 

一方部室を出て行ってしまった夏凜がぼそっと呟く。その言葉はどこか悪いことをしてしまったという罪悪感が顔に出ていた。部室のドアを背に身を置くと静かに目をつぶる。

 

(あの戦い…あたしは役に立てなかったから…)

 

バーテックスとは違う異質な敵フェストゥムに対抗できなかった事により、なぜか『自分は何もできなかった』という後ろめたさを感じていた。

 

そして、ここ最近の夏凜は勇者部に顔を出すだけで、友奈たちの誘いも断りすぐに帰ることが多くなっていた。

 

(帰ろう……)

 

今更戻るわけにもいかず夏凜はその場から去った。

 

「ん?」

「…三好?」

 

その寂しげな後姿を通りすがった2人に見られながら。

 

 

 

視点:勇者部

 

「三好の事ですか?」

 

要件を済ませ勇者部へと訪れた一騎と総士は風から夏凜とあった事を打ち明け、さらに最近の夏凜の心境について尋ねていた。

 

「勇者部五箇条、『悩んだら相談!』。人生経験が豊富そうだと思って…ね」

「思ってる事だけでいいから」

 

友奈は五箇条を提示し、東郷は率直に2人に建前をぶつける。一応は前の世界の年齢と合わせれば30は超えている一騎と総士である。2人は悩みながらもここ最近の夏凜に感じたことを語る。

 

「この前から何かおかしかったようなのは確かです。さっきも帰る姿を見たときに何か考え込んでいたように見えました」

 

「一騎先輩もそう思ってましたか」

 

「影響しているとすればこの前の戦闘では……三好は言動から自分に自信を持っているようでした。ですが、フェストゥムに遭遇し何も出来ずに同化されて窮地に陥った…その事で彼女の自身が揺らいでしまった。状況証拠しかないですが僕が感じたことはそれです」

 

「あー……」

「なんだかわかるかもです」

 

勇者一同は2人の意見に頷く。

 

「だったら、なおさら放っておけないよ。夏凜ちゃんも勇者部員だもん」

 

人一倍仲間思いの友奈の様子に一同は賛同する。

 

「そうね。あの子はなんだかそういう弱みを見せたくないような感じだしね。……依頼の日までまだ数日あるし、夏凜のフォローをみんなやっていきましょ」

 

下校にはもう遅い時間となったため風の一声によりその日は締めることになった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-皆城家(讃州地方)-

 

「夏凜の事?」

 

その日の夜、一騎は皆城家へと訪れていた。乙姫が夏凜と会った時に彼女を知っているような素振を見せていたのを思い出したためである。

 

「う~ん。私も春信から聞いたことだけだからそれでいいかな?」

 

「あぁ」

「その前に乙姫、夏凜と春信さんの事なんだが」

 

「……春信と夏凜は兄妹だよ」

 

「「はぁ!!!」」

 

乙姫の突拍子もない発言に素っ頓狂な声をあげる一騎と総士。

 

「――― って総士お前も知ってなかったのか!」

「総士にも話すのははじめてだよ。……大赦で一緒にいることが多くて色々聞いてたの」

 

春信は見た目は若いが誠実な性格をしており、総士は苗字が同じ事などから春信と夏凜が血縁関係がある事を見抜いていたが兄妹だったという予想までは至ってなかったようだ。

一騎と総士はここ数日の夏凜の事を乙姫に話す。

 

「そっか。…春信の思った通りになちゃったか」

 

「春信さんが?」

「春信は妹の事をよく話してくれてね。本当に大事に思ってたみたいだよ」

 

乙姫は続けて夏凜に関することを春信から聞いた限りの範囲で語る。

 

「総士や一騎が話した通りなら夏凜はみんなの事をそう悪くないと思うけどね」

 

夏凜に関することを聞いた上で一騎が口を開いた。

 

「俺…三好と話してみようと思う」

 

「考えがあっての事か」

 

「いや……そういうつもりじゃないけど」

 

一騎として今の夏凜を放っておくことに一抹の不安を感じており、総士と乙姫に自分の考えを告げる。総士はその理由をさらに踏み込んで聞こうとも思ったが、

 

「……なら一騎、三好の事を任せるぞ」

「ああ」

 

一騎との長い付き合いからそれを読み取り任せてみることにし一騎は頷いて返した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:三好夏凜

 

翌日の放課後、勇者部への顔出しから直帰した夏凜はいつものように鍛錬へと入っていた。精を出す彼女だったがその表情はどこか浮かない。

 

(――― だめ…こうじゃない!)

 

夏凜の舞う剣の型ははたから見れば十分に出来ている。しかし、ストイックな彼女はそれに満足が出来なかった。

 

「あぁ~もう!」

 

どこか満足できない夏凜は木刀を放り投げるとその場に寝転んだ。あの出来事があってからどことなくうまくいかない。

 

大赦にて勇者の候補生として特訓してきた夏凜としても『バーテックス』という人知を超えた敵と戦う以上その恐ろしさを知っている。だが、大赦での血のにじむような訓練を乗り越えたことでやれるという確固とした自身があった。……が、この世界に襲来したもうひとつの敵『フェストゥム』に夏凜の技は全く通じなかった。

 

(あいつらには余計に心配されたし……どう顔向けしたらいいのかしら)

 

あの戦闘後、勇者部のメンバーから落ち込んでいると思われ慰められた。直前の誕生日の事もあって夏凜は勇者部との接し方にそれ以上悩んでいた。夏凜は表面はツンとしているが人付き合いが少なく感情表現が苦手なだけでその本質はいい子なのである。そのためかあんなに啖呵を切ったにも関わらずこの低だらくだったことで夏凜は自分が少し惨めなように感じていた。

 

「……荒れてるな」

 

悩んでいると不意に声がかかった。夏凜はその声の主を確認しようと上半身を起こし振り向いた。

 

 

 

視点:真壁一騎

 

一騎は風たちに事情を話し勇者部を休んだ。総士のフォローもあってかすぐに許可は下り、夏凜が訓練しているであろう浜辺へと足を向けることにした。

 

『……夏凜ちゃんの事、お願いね一騎君』

 

友奈も行きたがっていたようだが依頼に行かなくてはならないためしょんぼりとしながら一騎を見送った。その際に夏凜の事を頼まれ、咄嗟に、なるべく頼りになりそうに頷き返した。

 

(さて…と)

 

案の定、夏凜は前に出会った時と同じ浜辺にいた。鍛錬中のようだったが途中で演舞をやめその場で寝そべってしまった。

 

「……荒れてるな」

 

その様子がつい口に出てしまう。夏凜はこちらに気が付いたのか起き上がり振り向いた。

 

「……ッ! …何の用?」

 

強く言われ思わず身がすくんだ。前もタイミングが悪かったからなと自分に言い聞かせると

 

「いや…、少し話をしに来た」

 

「部活はどうしたのよ」

 

「休んできた。…隣、いいか?」

 

そう夏凜に返事をする。すると彼女はどこか困惑した表情だったが、

 

「勝手にすれば」

 

と小声でぼそっと呟くと一騎は隣に腰かけた。

 

(さて、どうしたものかな)

 

一騎はこういう話を切り出すことは少ない。それに相手も自分から話題を出したりせず、どういう返事をしたらわからなくなるタイプのようだ。さてどう切り出したらいいものかと考えていると、

 

「あのお人よし集団の差し金?」

 

夏凜が先に話してきた。…が明らかに警戒しているような素振りだ。

 

「まあ…多少なりともあるかもしれないけど、俺はそういうつもりで来たわけじゃないから……」

 

「…あっそ。そういうことにしとくわ。で?」

 

包み隠さず言ったのもあってか少し警戒が解けたようだが少し荒れているような口調である。

 

「……思い詰めているようだけど。なにかあったのか?」

 

「別に…思い詰めてなんか」

 

「怖くはなかったのか?」

 

一騎の質問に夏凜は困惑した表情となるもののすぐに平静を装うとする。しかし、すぐに出た一騎のすべてを見透かしたような一言に夏凜は

 

「怖くなんかない!!!」

 

「……怖かったんだな」

 

声を荒げ強い口調で返す。が、夏凜はすぐにハッした表情となり気づいてしまう。かえって強く否定してしまったためか一騎は確信に至ってしまっていた。

 

「心に侵入されるっていうのは…な」

 

フェストゥムの読心により心に侵入された経験もある一騎も夏凜の気持ちが理解できた。夏凜は核心を突かれ暗い表情となる。夏凜は観念し語り始めた。

 

「……嫌な事を思い出されたわ。大赦から金色の…フェストゥムの事を聞いてたけど敵としての力を見誤ってた。…正直、怖かった。……少しでも忘れようとこうして鍛錬したの」

 

「じゃあ、どうして1人で」

 

「あたしは正式な勇者として大赦から御役目を受けて…世界を背負わされているのを期待されていた。……選ばれた私ならできるって思ってた」

 

「そんなになのか」

 

「そうよ。選ばれた勇者だから!……『普通』じゃなくていいんだ。あんなお気楽な連中と違っても…いいんだ」

 

一騎は夏凜が語ることに耳を傾け聞き入る。その声は少し震えているようだった。どこか自分に言い聞かせようとしているように感じた。

 

(そうか、……お前も)

 

一騎は夏凜に抱いていた疑念が確信へと変わった。今の夏凜が島にいたころの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に似通っていることから一騎が感情を込めて告げる。

 

「お前、それでいいのか?」

 

「なっ!」

 

「お前、さっきから自分をなくしてまで言い聞かせようとする?」

 

「そ…それは」

 

「世界を背負える? 人はそこまで背負えるほど大きくはないと思う。俺としては……小さな自分を守るだけでも精一杯だ。……目の前にある小さなものなんて捨てるのは簡単だ。だが、全てが終わったらお前には何が残るんだ?」

 

「あんたに何がわかるって言うのよ。…何が言いたいのよ!?」

 

感情的になる夏凜に一騎は言葉を続ける。

 

「三好、おまえの事はたしかにまだわからない事の方が多い。だけど、三好…『御役目』が終わった時のお前はどこにいるんだ?」

 

「……」

 

夏凜は何も答えられない。勇者になるための訓練に青春を費やした彼女の世界はとても小さなものであった。そして、御役目がなくなった後の夏凜の日常が思い浮かばなかった。

 

「この前の誕生日会どう思った?」

 

夏凜が祝われた誕生日会の事を思い出す。最初は余計なお世話だと思っていた。

 

「悪くは……なかった」

 

あの時の自分は楽しかったと夏凜は正直に答えた。

 

「そこに自分がいたんだろ?」

 

「うん」

 

小さくうなずき答える夏凜。だが、これ以上戦うこと以外の先の事が分からない。

 

「だから三好、今度の勇者部の活動、だまされたと思って参加してみろ」

 

「ふぇ…」

 

「そうしたら俺の言っていることも分かってくるはずだ」

 

「………そこまで言うなら」

 

夏凜は俯きつつも小さな声で返事をする。一騎の一押しはどうやら成功したようだ。




後編は『結城友奈は勇者部所属』のイベントを交え、夏凜が勇者部の一員となる経緯を描きます。

蛇足:いつの間にか連載し始めて1年経ったなあ……劇場版先行公開『結城友奈は勇者である -鷲尾須美の章-』までにどこまで進められるのやら。

追記(2016/12/4):同じゆゆゆSS書きの『りりなの』氏が満開祭り2の時に私と会った事を挙げているのを発見。こちらこそその筋はお世話になりました。


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第2章最終話 皐月-かりん-(後編)

『結城友奈は勇者部所属』ベースの夏凜回。『勇者部所属』での夏凜にとって重要な子の登場です。

それとファフナー原作キャラ元のオリジナルキャラが出します。

2016/12/10:誤字修正(あとがきの『晴信』→『春信』)


「どんどん運ぶわよ―――!」

 

依頼日当日、勇者部の一同と夏凜・一騎は依頼主である老夫婦が管理している小麦倉庫を訪れていた。総士は諸事情があってこの依頼には不参加である。

 

東郷は備蓄数の纏め、他のメンバーは小麦を運ぶという雑用という分担だ。

 

(なぜこんなことをしているのかっ!?)

 

夏凜も前日に一騎から言われたことが効いたのか渋々ながらも参加していた。

 

「ごめんなー重いん持ってもろうて」

「いえ、こういう時のアタシ達なんで」

 

(…ったく、こんな活動がなんになるっての…力を伸ばす努力はしないし。やっぱりこの部活なんて……)

 

こういう和気藹々なのが感にさわった夏凜はぶつくさと文句を言いながらも次の小麦袋を運ぼうとしたが、

 

「重いもの運ぶのは私にお任せあれー」

 

元気いっぱいに小麦袋を両側に抱えた友奈がダッシュで運んできた。

 

「あんただけには負けないんだからっ!」

「よーし、競争だーっ!」

 

それを見た夏凜は負けず嫌いな部分が表に出てしまい友奈に宣戦布告の形で叩き付ける。一方、友奈としては夏凜が乗ってきたように思ったのか競争する気満々のようである。2人は多数の小麦を抱え運ぼうとした。

 

「2人ともそうやって無理に持っていくと腰痛くするぞ」

 

そこに通りがかった一騎により注意された。……彼自身も3袋を抱えながらゆっくりと運ぶというなんともシュールな光景であったが。

 

「あはは…ついエキサイトしちゃったよ」

「…分かったわよ。(真壁一騎…、こいつも結城友奈と同じで本当におせっかい野郎! こんなんのやっていったい何がわかるっていうのよ)」

 

「ほんと仲がいいわね3人とも」

「…そうかなぁ~」

 

 

 

――― 閑話休題(時間が経ちまして)

 

 

 

『お疲れ様でした―――』

 

「みんなありがとうね。なんか思うとったよりはよ終わったのぉ」

 

「はぁ……(やっと終わった)」

 

勇者部の依頼はお昼前になんとか終わらせることができた。夏凜はようやく依頼という名の無駄な行為が終わったことに大きく息を吐きながら呟いた。

 

「それでは頂いていきます」

「子供らにたんと食べさせてな」

 

「…なんの話?」

 

「今の依頼でお婆さんたちから小麦1袋融通して頂いたの」

「保育園で子供たちと一緒にうどん作って食べるんですよ」

 

「はぁっ!? 終わりじゃないの!? トレーニングは……」

 

風たちの様子に指を指しながら尋ねる。隣にいた東郷と樹がこの先の予定を説明すると自分だけ聞いてなかったことに夏凜は反論しようとした。

 

――― ぐううぅぅ……

 

「腹が減っては戦はできぬってねー♪」

 

夏凜から腹の音が盛大に鳴った。恥ずかしさのあまりは顔が真っ赤となった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-讃州地方 某保育園-

 

「みんなーっ。今日はおうどん作るわよ―――!!」

 

『は~い』

 

風の挨拶に元気よく答える子供たち。四国香川のソウルフードである讃岐うどんを一から手作りすることに子供たちのテンションは十分に高い。。

 

「なんで…なんで私がこんなこと…」

 

エプロンを付けた夏凜が明らかに不機嫌な様子でぼやく。夏凜を怖がってなのか子供たちは近ようろうとすらしない。

 

「夏凜さん…あんな顔じゃあ子供たち怖がっちゃう…」

 

「私にまかせて! 夏凜ちゃーん、スマイルスマイルー」

 

「友奈、さすがにそれは……」

「アカン! それアタシでもイラってくる!」

 

(イラッ! 別に羨ましくなんか思ってもないし)

 

夏凜や場を盛り上げようと顔芸をする友奈、それに一騎は引き気味にぼやき、さすがの風も思いっきりツッコミを入れた。しかし、一部の子供たちには好評だったのか注目の的となってる友奈の元に集まってきた。夏凜はそれに照れ隠しなのかわからないが自分にそう言い聞かようとする。

 

「すみません、遅くなりました」

 

「お、来たわね~。時間通りね総士」

 

そこに遅れて総士が乙姫も連れてやってくる。兄妹ともに大赦での要件を終えこのうどん会のみの参加だ。

 

「みんな~元気~!?」

『元気元気~』

 

乙姫が子供たちに呼びかけ片手を高く掲げると子供たちもそれを真似する。

 

「みんな来たことだし。手筈通りにお願いね。……それじゃあはじめーーー!」

 

子供たちのテンションも最高潮である。風はうどん教室は開催を宣言した。

 

 

 

視点:3人称(夏凜を除く)

 

「わからないことはすぐに聞いてくださいね」

 

樹に子供たちは明るく返事をすると担当する勇者部員のところに集まって作り方のレクチャーを受けた後、園児たちが我先にとうどんの材料をとっていく。

 

「元気だね~」

「そうだな」

 

友奈と一騎もその光景に思わず笑みが綻ぶ。友奈はパートナーである東郷に一言言ってから材料をとろうとした。

 

「あれぇ~? お姉ちゃん、お兄ちゃん?」

 

聞き覚えのあるような声に気づきその手を止める。声をした方に振り向くが小さな子供たちは見づらい、

 

「こっちだよ」

 

そこに肩までかかる黒の長髪の5歳くらいの女の子がいた。2人はその小さな女の子に見覚えがあった。

 

「もしかして、猫の? ええと、名前は」

「よく覚えてたね~。あ……私は『羽佐間(はざま)翔詩(そら)』って言うの」

 

3年前に友奈に讃州市を案内してもらった時に出会った猫の飼い主である少女であった。一騎は女の子の似たような容姿と紛らわしい名前で困惑したがすぐに平静となる。

 

「今日が初めてなの?」

 

「うん。あのあとね~お父さんの仕事の都合で引っ越しちゃって…この前戻ってきたから勇者部のイベントに初めて参加するの」

 

「そうか…ん、三好?」」

 

顔見知りという事で話をしながらうどん作りの準備を進めていく。その最中、一騎は夏凜が集団から離れ1人残されているのとその傍に小さな園児がいることに気が付いた。

 

「あのお姉ちゃんは~?」

 

「あぁ。新入部員だけど…傍の園児は」

 

「私が引っ越した時にできたお友達。なんだけど……また、取り残されちゃったんだ…あれ?」

 

翔詩と名乗る園児が簡単に事情を話す。ふと見れば夏凜がその園児に何か言っているように見える。

 

「友奈お姉ちゃん~はやく~」

「一騎お兄ちゃんも~」

 

なんとなく放っておけない気持ちの一騎と友奈だったが自分の持ち場にいるほかの園児の事もありなんだか申し訳のない気持ちとなった。友奈は子供たちの人気者であり、一騎は園児たちから『料理のお兄さん』という認識を持たれている。どちらか片方が離れれば支障をきたすことになろう。

 

「一騎、僕たちが応対する。行ってこい」

 

「(!?)わかった」

 

「一騎お兄ちゃん~私も行く~」

 

総士は一騎の意図を読み取ったかのように促す。こういう場が初めての夏凜をフォローするために事前に話し合われて一騎が担当することになっている。2人は夏凜の元へと向かっていった。

 

「一騎お兄ちゃん来ないの~?」

 

「ごめんねみんな。今日の一騎君は新しい勇者部員のサポートなんだ」

 

「えーー!」

「一騎お兄ちゃんに教えてもらいたかったんだけどー」

 

友奈と東郷が事情を話す。一騎の作った料理を知っている園児たちからは文句が垂れるが……、

 

(乙姫!)

「ちゅうもーーーーくっ!」

 

黄色のキャラクターがプリントされたエプロンを着け三角巾を被った乙姫が園児たちに待ったをかける。それにより園児たちの視線が皆城兄妹に集まる。

 

「仕方ない……料理というものを教えよう!」

 

『おおーーー!』

 

「「えぇ!」」

(総士君が料理って……)

(初耳です)

 

紺色のエプロン姿の総士に園児だけではなく勇者部一行からも感慨の声があがる。総士はうどんの生地作りへととりかかる。

 

非常に手際が良かったので一同の注目は総士の方へと集まった。

 

「……ふむ…残り30回」

 

『ずごー!』

 

その最中真剣なまなざしでうどんを練っていた総士からの呟きに一同は思いっきりずっこけた。

 

「はぁ……乙姫ちゃん、総士君って料理の時はこうなのかしら?」

「あはは……これでも良くはなったほうなんだけどね」

 

その様子に東郷は思わず頭を抱えた。一騎の指導もあり多少の分量は気にはしなくなったがたまにこうなると乙姫が軽く笑いながら言った。

 

 

 

視点:三好夏凜

 

一方、夏凜は子供たちの輪から離れ独りぽつんと工程に入っていた。

 

「(…ふんっ。いつものことだしっ! 好きでやってるわけじゃ…)…最初は塩」

 

ぴりぴりとした一触即発の雰囲気を醸し出しながらうどんの生地を作り始める。

 

(こんな事…やっぱり意味ない)

 

最初に塩をとろうとしたが、夏凜はふと誰かに見られているような気配を感じる。

 

「何!?」

 

「はわっ!」

 

しどろもどろしかった夏凜は猛獣のごとく威嚇するように声をあげた。夏凜の視線の先にはその声にびくついたセミロングで脇にうさぎのヌイグルミを抱えた少女が自分の身を護るかのようにカーテンに包まっていた。

 

さすがに罪悪感を覚えた夏凜は少し声の質を落として少女を怖がらせないように尋ねる。

 

「…で、何よ」

 

「えっとぉ…えっとぉ。…ちょ、ちょっと待ってぇ! たいむっ!」

 

あっけにとられる夏凜をよそに園児は自分に言い聞かせようとうさぎのヌイグルミを相手に見立て自らを奮起させようとする。

 

「うんっ。私がんば…」

 

「早く。言いなさい」

 

夏凜は笑いかけながら園児をせかす。だが目元などが笑っていないのに園児は恐怖し観念した様子で、

 

「……お姉ちゃん上手…って言いたかったの」

 

「別に…普通よ」

 

小さな園児が独りうどんを作る夏凜の手際を褒めたかったとうさぎのヌイグルミを抱えながら小さく言う。夏凜はその園児の話に仕方ないなという感じで聞き入る。

 

「私、何をしても下手っぴいで……とっても上手なお姉ちゃん見てたの。それで『トロ子』って呼ばれてるの……」

 

(この子……)

 

『トロ子』と呼ばれる少女の話を聞いた夏凜は昔の事を思い出した。何も出来ず本当は自分のことをもっと見てもらいたい。それなのに振り向いてもらえない。

 

(あたしと…同じ…)

 

夏凜はいつの間にかトロ子と幼き日の自分の姿に重ねていた。なぜかわからないがそれをくだらない事と割り切る事が出来ず彼女は少し迷う。

 

【そこに自分がいたんだろ?】

 

一騎の言葉が思い出される。夏凜は少し自分に素直になってみることにした。

 

「私、三好夏凜。あなた名前は?」

 

「……『富子(とみこ)』」

 

優しく名前を言うと、園児たちからはトロ子と呼ばれるが自分の名前である富子と名乗る。

 

「…教えたげる」

 

「ふえ?」

 

「できないなら努力すればイイのよ。やり方教えるっての!」

 

きょとんとする富子の頭をポンと手を乗せ後ろにたつ。富子はうなずくと2人はうどん鉢に材料を入れうどんの生地作りへと入る。

 

「そうやって…ダマにならないように素早く丁寧に…」

「こ、こう…かな?」

「そうそう」

 

「富子ちゃーん」

 

そこに1人の園児が駆け寄ってきた。富子が声をしたほうに振り向く。

 

「あ、翔詩ちゃん」

 

「あぁ。…凄い~これ、富子ちゃんが?」

 

夏凜の指導の甲斐もあってか富子のうどん生地は丁寧に纏まっていた。

 

「うん。やればできるじゃない」

 

「へーやるじゃんトロ子!」

「私なんかすぐくっつちゃうんだよー」

 

それに反応した園児たちが集まり富子を称賛した。

 

「ありがとう。カリンお姉ちゃん!」

 

自分にもできた…その嬉しさのあまり富子はまぶしい笑顔でお礼を言う。夏凜はまんざらでもない様子で顔を赤くする。

 

(なんだ、そんな顔できるじゃないか)

 

「ねーねーお姉ちゃん。私にも教えてよ~」

「ずるいぞ~僕も~」

 

そんな夏凜の様子を少し離れたところから一騎は見ていたが、夏凜のお手並みに興味を持った園児たちが集まりもみくちゃにされそうになる。そのほほえましい光景に一騎もつい笑みが綻ぶ。

 

「ちょ、ちょっと、分かったから離れなさ~い」

 

一騎は子供たちに揉まれている夏凜に助け船を出すことにした。夏凜は一騎が来たことによってさらに動揺するものの子供たちのやんちゃに対応出来ずになりそうだったためその申し出を受けた。

 

 

 

「あのさ、今だから言えることなんだけどさ」

 

出来たうどん生地を麺棒で伸ばしているときに一騎が話を切り出した。

 

「今回の依頼のことで言い出したのは友奈なんだ」

 

「えっ?」

 

一騎は今回の依頼のことを説明する。クラスが一緒だったためか夏凜の凄いところを知り、さらに前回の子供会に参加していなかったため友奈が発起人となり夏凜を誘うという件になった事を。

 

『あんなに頑張り屋さんでイイ子のカリンちゃんなのに暗くなって、みんな怖いって言うんだよ。だからさ、一緒に頑張って自身とり戻させれば、きっと笑いあえると思うよ』

 

その事に夏凜も気になりさらに踏み込んで聞いてきた。

 

「なんで? あたしなんかのために」

 

「あいつとはそれなりに長い付き合いで、人の事ばかり考えている……そういうのは敏感なんだ。少しお人よし過ぎるように見えるんだけどな」

 

「……。余計なお世話だっていうの

 

一騎にも聞こえないように呟く夏凜であったが、これまでの棘のあるような感じではなく「しょうがないなあ」という感じであった。

 

 

 

「それじゃ、手を合わせて…『いっただきまーす!!』」

「おかわりいっぱいあるからね~」

 

風の食前の挨拶とともに園児たちは自分で作った個性的なうどんに舌鼓をうつ。夏凜もうどんに関しては無条件で好きであるためおいしそうに啜っている。すると、友奈が駆け寄ってきた。

 

「ねぇねぇ、夏凜ちゃん」

 

「なに?」

 

「勇者部の活動、楽しかった?」

 

「まぁ…今でも「なんでこんなことしたんだろう」って思うけど……楽しくはないかもね」

 

おそらくこれまでの自分だったら絶対に否定していたであろうが、夏凜は心に感じた気持ちを友奈に伝えた。友奈は「そっか」と返すが、その表情に笑みが綻んでおり今回の依頼の成功したと思ったようだ。

 

「カリンお姉ちゃん」

 

「ん、どうしたの?」

 

「あ…えっと…」

 

「富子ちゃん、がんばっ!」

 

翔詩が富子の背中を押すように声援を送る。

 

「お、お姉ちゃんの…弟子にしてくださいっ!」

 

「はあっ!?」

 

「カリンおねえちゃんみたいな出来るお姉ちゃんになりたんです! し、ししょーと呼ばせてくだしゃい!」

 

「し…師匠ーーー!」

 

翔に背中を押され富子は勇気を出してお願いをし夏凜は素っ頓狂な声をあげた。その微笑ましい光景に勇者部はニヤニヤし、園児たちははしゃぎながら見ていた。

 

夏凜は周りの視線に顔を真っ赤になりながらも富子の必死なお願いに渋々了承する形でなんとか場は落ち着いた。

 

「♪~」

 

乙姫がスマホを取り出すと、はにかんだ様子でその光景を撮った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:三好夏凜

 

正直、あいつの言っていたことはあたしには理解できなかった。

 

だけど誕生日や今日の活動、それにあたしを慕ってきた子の事は悪くは思えなかった。

 

いや、むしろイイものだと思った。

 

――― まあ、もうしばらくあいつらと一緒にいてもいいかな。

 

これがあたしの存在と居場所を見出す。最初の切欠のおはなし。

 

side out

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

――― 数日後

 

「わー、夏凜ちゃん、一番乗りだ!」

「すごいです!」

 

「……私は時間通りよ」

 

勇者部部室には夏凜が今日も一番乗りしていた。

 

「フン……おせっかいなアンタ達にまた勝手に心配されたら迷惑だもの」

 

「夏凜も勇者部員として自覚が出てきたわね」

 

夏凜は腕を組み照れ隠ししながら言う。その光景に東郷はくすりと笑い、風は自覚が出てきたことにうんうんと頷く。

 

「失礼する」

「みんな早いな」

 

少し遅れて一騎と総士も入室する。

 

「みんな、少し時間いいかしら……」

 

すると、夏凜が意を決したように一騎と総士に告げる。

 

()()()()。あたしも『ジークフリードシステム』とやらを…使わせてください!」

 

「なぜに敬語!」

 

変貌した夏凜に風が驚愕し、ほかの勇者部員もざわめくも夏凜は話を続ける。

 

「大赦から正式に許可をもらった。……もう、勇者だけでは手に負えない事態になってるようだしね。それに…このままあいつらにやられっぱなしで終わるわけにはいかないのが本音よ。だから、使えるものを使うだけよ」

 

「……わかった。今はそれでいいとしよう」

 

総士も夏凜の真意を深くは聞かずにあっさりと許可を出した。

 

「よーし、勇者部一同。今日もはりきって行っちゃうかーー!」

「ほらぁ、夏凜ちゃんもー!」

「わ、わかったわよ……」

 

「真壁と総士もね♪」

 

「「なぜだ!!!」」

 

風の掛け声に合わせ夏凜を含めた勇者たちは鬨をあげた。一騎と総士は鬨の声をあげないながらも渋々それに付き合う。

 

「勇者部~~っ!」

 

「「「「ファイトーーーッ! ファイトーーーッ!」」」」




これにより夏凜のエピソードである第2章がようやく終了となります。1年かけてやっと原作3話まで終わらせることができました。

《解説》
●富子
『結城友奈は勇者部所属』に登場する夏凜の弟子となる少女。引っ込み思案で自分に自信がない。夏凜関連のイベントでまた出番あり。

●羽佐間翔詩
『蒼穹のファフナー』の登場人物『羽佐間翔子』と元にしたオリキャラ。今作品では富子の友達として登場。実は第2話の少女をベースにしてたりもする。

(重大なネタバレ:俗にいう一騎ヒロインである3キャラはゆゆゆ世界には登場しません。ただし、本編では多少なりとも出番はあります)



《趣向を変えましておまけを2つ》
●おまけA【一騎の思い人】
side:真壁一騎&皆城総士

「ところで一騎、三好を誰に重ねていた」

「重ねていたって?」

「とぼけるな…どのくらい長い付き合いだと思っている」

「お前にはかなわないな」

一騎はふと目をつむる。一騎は夏凜が島のある仲間に似通っておりその子の事が思い出された。

「『カノン』だよ。最初はあんなそっけない態度だったな」

「確かにな」

『カノン』という少女の事を知るのはまだ先の未来である……。



●おまけB【その時の春信】
side:三好春信

「ん? 乙姫ちゃんからメールが」

この日も大赦で仕事に精を出す春信はメールが受信されているのに気づく。送り主は乙姫のようだ。

「……夏凜」

そのメールには2枚の画像が添付されていた。1つはパーティ帽を被りまんざらでもない様子で祝われている。もう1つは園児たちに囲まれ世話を焼いている。春信の妹であり現在讃州地方に勇者として派遣されている夏凜の様子であった。

(……よかったな夏凜。それを大切にしろよ……っと、この2つは)

すぐさま秘蔵のフォルダに厳重に保管する春信であった。



追記解説:
●羽佐間カノン(旧名:カノン・メンフィス)
『蒼穹のファフナー』での原作キャラ。原作では一騎のヒロインの1人である。

(重大なネタバレ:俗にいう一騎ヒロインである3キャラのためゆゆゆ世界には登場しません。ただし、本編では多少なりとも出番はあります)


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第3章 【賢者達-アルヴィス-】
第1話 闇


出だしのようなものなので短めです。


視点:『古い価値観』を持つ大人たち

 

「……以上が御役目のご報告となります」

 

大赦上層部では御役目…前回の戦闘の報告が行われていた。神樹の防御結界である『樹海』が展開されても大赦ではその全容を把握できる。必然的にそれは一騎たちの戦闘内容も大赦側に伝わるという結果になっていた。

 

「……凄まじいものだな」

「事実、読心を防ぐ力が反映された勇者たちの戦闘結果はかなりのものとなっております」

 

『来訪者』たちの力に驚きの声を上げる一同。上層部の会議は続く。

 

「あの力、やはり我らのものとするべきでは?」

 

「例の機関が拒否をした。こちらへの技術公開はしたくないそうだ」

 

「そうなると…やはり」

 

「来訪者のうち2人はあの機関の身内のものだ。口惜しいがガードが堅い」

 

「もう1人いるではないか。こちらはただの一般人だ。……こういう時のために我らは大赦の権力を手中におさめている。あとの事は神樹様と大赦という名のもとにどうとでもすればよい」

 

「その通りです。では、彼らを向かい入れるのです。……勇者システムが完成を迎えたからこそ、今度はこの世界にもたらされた力でさらなる躍進を」

 

神樹を信仰し奉っているとは思えない発言が飛び交い、その一団の会議は閉幕した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-皆城家(讃州地方)-

 

夏凜が本格的に勇者部の活動に参加してくれるようになってから1週間が過ぎた。前回の依頼の出来事などで彼女の中で何か変化があったようである。相変わらず個性的な勇者部員のペースに色々突っ込みを入れ嫌々ながらも依頼をこなしているようだ。

 

一騎も夏凜が自分なりに友奈たちと接している様子からもう大丈夫だろうと思うことにした。友奈たちもそんな慣れない夏凜を温かく受け入れ仲睦まじく交流している様子に一騎もつい笑みが綻んでいた。

 

夏凜が勇者部員として慣れてきた頃、総士から夏凜に対して自分たちの事を話しても問題はないと判断しそれをみんなに伝えた。そして、一同は皆城家へと訪れていたが、

 

「……で、夏凜はどうなの?」

 

「結城・東郷が様子を見ています」

 

「本当に悲しい物語ですから…私たちもあんなにショックを受けてしまいましたし、夏凜さんも……」

 

一騎たちの事情を教えるために件の映像作品を見た夏凜だったが静かに『……少し1人にして』と告げてきた。そんな夏凜の様子を察し一同は別室へと移り、志願した友奈と東郷が夏凜のいる居間のすぐ近くで様子を伺っている。

 

「みんな、夏凜ちゃんが落ち着いたわ」

 

会話している間に時間が流れ、東郷から夏凜がようやく落ち着きを取り戻したと声がかかる。

 

「……」

 

「夏凜ちゃん、大丈夫? 泣い「泣いてなんかないわよ!」…はぅ」

 

友奈の慰めに粋がるも夏凜の眼の瞼の下はほんのり赤かった。恐らくは一騎たちのいた世界の事実を知り涙し思いっきり泣いていたであろう。

 

「…ここまでの辛いものとは思ってなかったから、落ち着けるのに時間がかかっただけだからね!」

 

「まあ、何度でも見れるようなもんじゃないしね。アタシらもまた泣いちゃったわけだし」

 

(ツンデレ…)

 

明らかに強がっている夏凜がそっぽを向く。一騎はクラスメイトの男子が前に「そういう女子がいい」と前に小耳にはさんだことを思い出す。総士は夏凜がなんとか話せるような雰囲気であると見計らうと訊ねた。

 

「三好、話を続けてもいいか?」

 

「…いいわよ」

 

「これが僕たちが実情だ。これを見て君は?」

 

「どうってことないわよ。むしろ、包み隠さず教えてくれて清々した。……だけどなんであたし達にここまで教えるの?」

 

「……私もそれは気になってました」

 

夏凜と東郷を筆頭に勇者たちがざわめく。

 

「『何かを隠せば、信頼を失う。信頼が、今の我々の力だ』」

 

『え?』

 

「…僕たちがかつていた島『竜宮島』の司令官の方針だ。こちらの信頼を作りあげるために大体的な情報公開もしていたほどだ。だから、僕らはそれを示すために信頼できる人にはすべてを話すと決めている」

 

一瞬懐かしそうな表情を見せつつも決心めいたように勇者たちに理由を告げる総士。一騎は前の世界の父の事を引き合いに出してきたことに意外そうな表情となる。

 

「そう。……別にあたしもこれといって変えるつもりなんてない。…信じる事にするわ」

 

夏凜は納得すると一騎たちの事情を知った上で素っ気ない態度なものの受け入れることを表明する。

 

「ありがとう、三好」

「三好の勇者システムもクロッシングができるよう調整はしておいた。これからも頼む」

 

「……頼らせてもらうわよ」

 

一騎と乙姫は夏凜に微笑み。総士が夏凜の勇者システムもジークフリードシステムの恩恵を受けられるよう調整した旨を伝えた。

 

(それにしても大赦の記録映像よりも凄惨だったわ。だけど…)

 

するとここで夏凜が一騎たちの世界の映像作品を見たうえでふとある思いを抱く。それは元々は素人の勇者部とは違う正式な勇者として訓練されていた彼女だからこそ気づけた。

 

(あいつらは…『戦争』をしてきた?)

 

夏凜は今は胸の内にしまっておくことにした。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎

 

夕日も沈みかけ辺りが暗くなってきた頃、勇者部の一同は帰宅の途に着くことになった。自宅まで距離がある風・樹・夏凜を一騎が家まで送ることになっている。一同は友奈と東郷の家の近くに着くとその場で解散の運びとなった。

 

「いやぁ~。夏凜も勇者部員として活動してくれるようになって、この犬吠埼風部長、実に感動した!」

 

「何よ、それ…」

 

「照れちゃって、このこの!」

 

「ちょっと! やめなさいって!」

 

帰り道、風が夏凜が勇者部の活動に参加してくれるようになってから気分が良く。最近はこうやって揶揄うことが多い。夏凜はたまったものじゃないという感じで返し、樹と一騎は少し引き気味に笑みを浮かべている。

 

「前よりかは柔らかくなったかな」

「ですね~」

 

以前は常に厳戒態勢のような夏凜の態度だったが、勇者部との交流で鳴りを潜めていると一騎は感じていた。夏凜にとってはいい影響かはわからないが、ひとまずは仲良くしていることに安心感を抱いている。

 

「一騎先輩はすごいです! 夏凜さん、最初は尖ったナイフみたいでしたのに…今はああですから」

 

「そう大したことしたわけじゃあないんだけどな」

 

夏凜の雰囲気が変わった事もあり樹が一騎を称賛する。引っ込み思案の樹だが男子としては大人しめな部類に入る一騎なら分け隔てなく接することができる。対して、一騎は謙遜した様子で返した。

 

「大したことですよ。一騎先輩がいたからこそ、夏凜さんもこうやって勇者部の仲間として見てくれてますし、それにお姉ちゃんも仲間が増えてうれしいんですよ」

 

「そうか」

 

姉の風の事を語りながら一騎と共に歩む樹。一騎はそんな樹の会話を聞いていた。

 

「……お姉ちゃん、いつも一人で抱え込んでるから…もっと力になれればなあ」

 

「樹?」

 

「え、あっ…。今のは気にしないでください!」

 

「(!?)あ、あたしこっちだから!」

 

樹が一瞬見せた暗い表情に一騎は気に留めたが、風のじゃれつきを振りほどいた夏凜が叫ぶように一同に言う。交差点に差し掛かると住んでいるアパートの方向へと歩む。

 

「それじゃあ、ありがとうね真壁。助かったわ」

「一騎先輩、また明日です♪」

「……じゃあね」

 

「ああ、また明日な」

 

風と樹も夏凜とは反対方向へと歩み姉妹の住んでいるアパートへ歩む。

 

「さて、俺も帰るとするか。総士や乙姫も待ちかねているしな」

 

気づけばもう街灯に灯がともる時間で辺りの人通りも皆無である。いつもの道が少し不気味なように感じるがそう時間はかからないであろう。家へと戻りながら今日の夕食のメニューでも考えるかと一騎は足早に帰ろうと思った。

 

「(!?)」

 

その時、突如として数名の人が現れ進路を塞ぎ、すぐさま一騎を取り囲んだ。

 

「なんだ?」

 

現れた一団は白を基調とした喪服のような礼服に烏帽子、5つの根に7つの葉が描かれた仮面を被っている。一騎はその一団に身構え警戒を露にした。一団の長と思わしき人が一騎の前へと出る。

 

「真壁一騎様ですね?」

 

「……」

 

「失礼しました。私らは大赦の遣いの者です。あなたを迎えに来ました」

 

一団は自らの素性を告げる。名を出してきたのは神樹を奉り、この世界の守護を司る機関の名であった。




当作品の大赦は『乃木若葉は勇者である』も加味した。ある意味闇の部分が増長し暴走した組織形態となっています。そのためこの大赦という組織の人たちで不安を煽るような展開になるかと思われます。

これもこの章で本格的に参入する人たちを活躍させるために設定したものです。わかりづらい点などがございますがご承知置きください。

――― 次話では、裏で暗躍していた人たちがついにお披露目となります。


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第2話

――― 時は少し遡って

 

視点:皆城兄妹

 

夕日も沈みかけ辺りが暗くなってきた頃、勇者部の一同は帰宅の途に着くことになった。自宅まで距離がある風・樹・夏凜を一騎が家まで送ることになっている。一同は友奈と東郷の家の近くに着くとその場で解散の運びとなった。

 

「それじゃあ、真壁を借りていくわね~」

「私たちもここで。総士君、乙姫ちゃんまたね」

 

「まったね~」

「一騎!」

 

総士の呼ぶ声に一騎は振り向く。

 

「……気をつけろよ」

「ああっ!」

 

友奈と東郷はそれぞれの家の門をくぐり、一騎は犬吠埼姉妹と夏凜を送るために歩んでいった。それを見届けた総士と乙姫は自らの家へと歩み始める。

 

「一騎を行かせてもよかったの?」

 

意味深な事を問う乙姫に総士は淡々と答える。

 

「彼女たちもいる。変に手は出してはこないだろう…少なくとも今はな」

 

「まだ一騎には話せないんだ」

 

「機密の都合もある。……しかし、無理に混乱させないよう段階的には教えている」

 

ふーんと乙姫は相槌をうつ乙姫。皆城家の前に差し掛かった時

 

「その総てを伝えるのが今だったらどうするのかな?」

 

「(!?)」

「春信?」

 

突如背後から声がかけられた。振り返る兄妹の目に映ったのは春信であった。

 

「……どういうことですか?」

 

春信が乗ってきたと思わしき車から1人の男性が降りてくる。以前、総士とも話していた男性だ。

 

「父さん!」

「お父さん!」

 

「状況が変わったのだ。……上層部にいる輩が動き出した」

 

総士と乙姫に動揺が走る。その一言は2人にとって衝撃的な事が起きたと確信させるには十分である。2人は父と呼ぶ厳格そうな男性と春信から詳細を聞く。

 

「(予想されていた事態のひとつとはいえ早すぎるな)わかりました。僕たちも動く必要がありますね」

 

「うむ。まずはミールの戦士たちの保護を最優先とする」

 

今この場では総士にできることはない話を終えると総士は一騎の無事であることを思い、乙姫を気遣いながら迎えに来た春信の車へと歩を進めた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎

 

「俺を迎えに来た?」

 

一騎は突如として現れた大赦の遣いと自称する者たちに問いかける。

 

「はい。大赦では神樹様に選ばれた勇者と供に戦う『来訪者』。その方々を正式にお招きすることとなりまして、その前段階として少しだけお話を伺おうと……」

 

遣いの者が一騎を大赦に招くための口上を述べる。長く事務的な内容に近いため割愛するがようは大赦側が一騎たちから話を伺いたいとのことだ。

 

「今からですか?」

 

「今回は大赦としても急に決まりました事から……時間の方をあまりとらせませんので」

 

一騎としても大赦の遣いの口上はある程度の筋は通っている。しかし、突如として現れたことの謝罪や細かい要点で違和感を抱いていた。

 

「総士は?」

 

「は?」

 

「俺を『来訪者』って呼ぶなら総士と乙姫…俺の仲間である2人は?」

 

一騎はさらに遣いの者達に問いかける。

 

「ええ、あなたと同じように大赦の遣いの者が迎えに行っています。あなたの仲間である2人もきっと神樹様奉る我らの元へ向かうと仰っているでしょう」

 

遣いの代表は一騎の発した意外そうな表情となるが一騎の問いに答える。総士たちも他の遣いの者を派遣しておりその言葉を快く受けているであろうと言い放つ。

 

「……」

 

「だから一騎様も我らとともに」

 

一騎は口を閉ざす。

 

遣いの者たちは一騎に対してまるで選択肢を与えないかのように自分らとともに来ることをさらに推し勧めようとする。大赦の調べでは彼の者はこういう頼みには断れないというのが調べについている。供にこの世界に来た親友たちの名を出した事で少なくとも自分らの言い分を聞いてくれるであろうと遣いの者たちは思いこんでいた。

 

「……本当に総士がそう言ったのか?」

 

「え…えぇ。そうですとも」

 

一騎から返した言葉は遣いの者の予想しているモノとは違っていた。

 

「いや、急に決まりました事で総士様にも」

 

大赦の遣いの者たちの言葉を躱す一騎。どうにも遣いの者たちの言動に一騎は疑問を持ち始めていた。

 

(総士が大赦に気をつけろと言われていたけど…この人たちの事か…)

 

こうして対峙してみると仮面をつけた怪しい一団である。竜宮島を出ていき人類軍に捕まった経験やシュリナーガルでの出来事もありある程度の猜疑心が身についていた一騎はそれでもくいさがる大赦の遣いに警戒を抱く。それ以前に、仮面越しだが一騎にむける視線が人類軍に捕まった際の兵士や研究者たちのものに似ているような感じがした。

 

「どうも納得ができないです。総士に確認をとってもいいですか?」

 

一騎は以前、総士から大赦が一騎たちの力を狙っていると告げられていた事もあり何かあった際は優先的に確認の連絡を取るように言われておりそれを実行に移そうとした。

 

「……どうせ、私らが言った通りになりますよ」

 

総士に連絡を着けたいと進言した一騎であったがその言葉と共に遣いの代表に纏う雰囲気が変わる。多数の白き喪服の合間を縫うように多数の人影が乱入してきた。その装いは大赦の遣いのものと同じだが一回り大きいガタいの良い体形をしていた。

 

「どういうつもりですか!?」

 

「大人しく着いてくれば悪いようにしなかったのに……真壁一騎、大赦のためにあなたを連行します」

 

「ッ―――! そうか、やはり俺を騙すつもりだったんだな!」

 

「騙すとは失敬な……ああ、なるほど。もう一人の来訪者の入知恵か」

 

遣いの代表は1人納得に至る。

 

「だから、最初からこうすりゃあよかったんだよ」

「これは我々の最大の譲歩です」

 

「俺たちをどうするつもりだ!」

 

「あなたのお仲間も今頃は私らの元へと連行されている頃でしょう。…連れて行きなさい」

 

一触即発の状況、一騎は豹変した一団から逃れようという考えに至るが、彼の周りは一団に取り囲まれている。一団は今まさに拘束しようと一騎に手を伸ばそうとした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:????

 

一騎が大赦の遣いという一団に接触した頃、現場から少し離れたところに黒塗のバンが停まっていた。その車内には黒いタクティカルベストなどはたから見ればどこかの特殊部隊を思わせるような姿の男性が2人いた。

 

「……やぁっと見つけたんだが。あーらら、大捕りものかな」

 

「警察だったら現行犯逮捕もんですね」

 

「もみ消されるのが目に見えてますが…な」

 

2人は本性を現した一団にそれぞれ言葉を漏らす。助手席の男性がスキットルの中身を一口あおり、頭にバンダナを付けた運転席の男性が車内に備え付けられている無線機からの報告を受ける。

 

「全員現場に到着、位置に着いたようです。……それにしてもいいんですか? 俺の担当がこんな簡単もんで?」

 

「かまわねえよ。新婚ほやほやのお前も引っ張り出したんだからな。奴らの相手は年長者の勤めだ。それにお前さんは一騎を無事に送り届けるっていう大役があるだろうが」

 

「はは…だったらさっさと一騎の野郎を迎えに行くとしましょうか」

 

「おうよ」

 

一騎を知っているとされる男性2人は顔を見られないようにするためにマスクとゴーグルを装着。バンダナの男性はバンのアクセルを思いっきり踏み込んだ。

 

 

 

『―――ッ!』

 

勢いよく加速されたバンは一騎と大赦の一団との間を割るようにその車体を滑り込ませる。突如乱入してきた車両に一騎や大赦の一団は反射的によけた。

 

「なんだ!?」

「馬鹿な! この周辺一体の封鎖は完璧なはずだぞ!」

 

事前の根回しが完璧だと思っていた大赦の一団は驚愕する。それを余所にバンはまるで一団から一騎を守るかのように目の前で停車し助手席側のドアと後部ドアが開けられ、助手席側から1人の男性が降車する。

 

「一騎、乗れ!」

 

「(!?)え、あなたは!?」

 

「ほら、さっさと乗った」

 

一騎はその男性の声に聞き覚えがあったような様子で訊ねようとしたが、男性は一騎を後部席に押し込み後部ドアを閉める。ドアが閉められると同時にバンは発進しその場から立ち去ってしまった。

 

「……貴様、我らを大赦と知っての狼藉か! ―――!」

 

「知ってるよ。だけど、協定を先に破ったのはそっちだろう?」

 

残された男性に詰め寄ろうとした大赦の一団であったがすぐに止められた。見渡せば男性と同じような装備の一団に消音機のついた小銃を突き付けられ取り囲まれていた。

 

「おっと、動くなよ。一騎や皆城の兄妹をとっちめて何かをしようっていうのは調べがついているんだ」

 

「―――ッ!」

 

万事休すな状況に唇を噛みしめる大赦の代表。

 

「ここはお互いのためになかった事にしようや」

 

「ふざけるっ…」

 

男性はその一団に対して交渉を始める。悪態つく代表であったが、

 

「見なかったことにするって言ってるんだよ。……それとも?」

 

男性は一切の抑揚がない口調で告げる。それに気圧されたのか代表は黙り込んだ。

 

(さぁってと、後は頼むぜ…『トリプルシックス』)

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎

 

一騎はバンダナを着けた男性の運転するバンに乗せられどこかへと向かっていた。訳の分からない表情で一騎は運転手であるバンダナの男性に訊ねる。

 

「あのう…」

 

「懐かしいなあ」

 

「え?」

 

バンダナの男性はまるで一騎を懐かしむように言葉を続ける。

 

「あの時は島から出たファフナーパイロットであるお前を機体ごと捕獲。今回はお前を狙う輩から救出。何の因果かねえ。……相変わらず、巻き込まれてんな一騎」

 

「俺の名前を…」

 

「この辺なら…問題ないな」

 

一騎はバンダナの男性に聞き覚えがあった。バンはその途上で停車すると男性はマスクを取り外す。

 

男性の顔はその記憶の片隅に覚えがある。一騎は心底驚きつつもその男性の名前を呼んだ。

 

「道生さん!!」

 

「よぉ、一騎。色々聞きたそうな顔だな」

 

急に崩れたような態度で返す『日野(ひの)道生(みちお)』。一騎の混乱しているような様子と見た道生はやんわりと留めた。

 

「これだけ言っておく。おれはお前の敵じゃない」

 

「なんで…ここに?」

 

「あいつらがお前を捕獲するっていう情報を掴んでな。早いが俺はお前を迎えに来たってわけだ」

 

「迎えに…そういやあの人は?」

 

「溝口隊長だよ」

 

「溝口さん!?…それに隊長って」

 

「俺が今所属している特殊部隊の隊長さんさ。俺は副隊長の立場」

 

「な……!」

 

一騎はぽかんとなった。あまりにも出来事の連続でどうやら思考が停止したような様子となっている。

 

「ひとまずこれから総士がいるところに向かうから言いたいことはあいつに言いな」

 

道生は一騎を拉致しようとした一団の対策なのか複数のルートを使い分け警戒しつつもある場所へと向かうために車を走らせる。数十分ほど車に揺られ、一騎はやがてある施設へと到着した。

 

「ご苦労様です」

 

道生は乗ってきたバンをその施設の職員に預ける。一騎は目の前の施設と車を預けた職員に交互に視線を送る。

 

「こっちだ」

 

思考にふけろうとしたのを道生が制す。彼が先導し一騎は施設の中に誘われる。

 

「この施設は?」

 

「俺の職場って言ったところかな」

 

簡単に答える道生。2人は施設内へと歩を進める。

 

「ここだ」

 

そして、ある部屋のドア前へ到着すると道生に促され入室する一騎。その大部屋にはコンピューターのコンソールやタッチパネルの付いた近未来的なテーブルとゆったりと座れるような大きな椅子、奥には大画面のモニターがある。

 

一騎はその部屋に見覚えがあった。

 

「一騎!」

 

「総士、乙姫!」

 

「一騎、ケガはない? あの人たちに何かされていない?」

 

「何もされていないよ乙姫」

 

部屋には数人の大人と皆城兄妹がいた。乙姫が一騎に気づきすぐさま駆け寄り、遅れて総士が一騎の目の前へと立つ。一騎は総士に対して矢継ぎ早に質問をぶつける。

 

「……総士、お前の言っていた通りになった。お前、いったい大赦で何をやったんだ!? それにここはいったい?」

 

総士と乙姫も先ほど見た職員と同じ服装となっていた。その服装は白を基調とし紺の差し色が入った色合いで、総士は袖なしのインナーベストとスラックス、乙姫はスリットの入ったスカートと一体化したインナー。その上に長袖のジャケットに首周りに赤いマフラーのようなネクタイを着けている。

 

一騎は2人のその服装にも見覚えがあった。

 

「一騎、まずは落ち着こうか。話したいことも話せない」

 

「あ…あぁ」

 

余裕もなくどことなく興奮気味の一騎を総士はなだめる。

 

「司令、お連れいたしました」

「ご苦労」

 

すると、後ろに控えていた道生が部屋にいる責任者と思わしき人物にそう報告をする。ここではじめて一騎はその奥、中央側の席に座っていた人物の一人に気が付いた。

 

「この世界では初めましてと言うべきかな。一騎君」

 

その厳格そうな顔に見覚えがあった。竜宮島での最初のフェストゥムとの戦い、一騎は慣れないファフナーで出陣したものの唯一の武器を失い、新たな武器を受け取らなければ初陣で彼は死んでしまったかもしれない。

 

「総士の……父さん」

 

「そうだ。久しぶりだな」

 

それを自らの命を引き換えに送り届けた人物…『皆城(みなしろ)公蔵(こうぞう)』がそこにいた。

 

「ようこそ…一騎君。ここが ――― この世界の守護のために設立された機関『Alvis(アルヴィス)』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 『絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち』…第17話『その名は…Alvis(アルヴィス)




ついにこの組織の名が出せた…次話はゆゆゆの世界にアルヴィス設立などの経緯を一騎に打ち明ける回となります。

以下、解説
●日野道夫
ファフナー無印に登場した新国連のファフナー搭乗者。666(トリプルシックス)というコードネームを持つ優秀なパイロット。気さくな性格で兄貴分気質。

原作では23話にて壮絶な最期と遂げた。

●皆城公蔵
ファフナー無印及びROLで登場した総士の父親で、史彦の前に就いていたアルヴィス司令。

原作では史彦司令とは違い、フェストゥムに対して決戦の思想を持っていた…が、今作品ではある事情でその思想が変わっている立場となっている。それは次回に語ります。


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第3話 真相と歪み(前編)

2部構成でお送りいたします。

皆城家に関して相当の独自設定が入ります。


「『アルヴィス』だって!?」

 

「正確に言えば対フェストゥムを主目的として()()した組織だ。そして、私はそれを率いる立場としてここにいる」

 

『アルヴィス』司令官皆城公蔵が最後にそう付け加える。

 

「道生、戻ってきて早々すまないが、別室にいる要人たちを呼んできてくれないか。先に一騎君に我々の話をつける」

 

「了解しました」

 

初老の男性の一言で道生が部屋から退室していった。一騎は公蔵に促され会議室に備え付けられた席へその隣に総士と乙姫もつく。

 

「この部屋が似ているのは僕たちのいた世界、竜宮島アルヴィスの施設をそのまま再現したからだ」

 

辺りを見渡す一騎に対して総士が補足を加える。これまでの出来事で混乱気味だった一騎はようやく自分の置かれている状況を理解し始めたのか周囲を見渡す余裕ができた。

 

司令である公蔵は司令官の席へ、一騎たち3人と向かい合う形の席には初老の男性と白衣の女性がいることに気づいた。

 

「日野のおじさん!」

 

「また会えるとは…私も思ってもなかったよ」

 

道生の実の父である『日野(ひの)洋治(ようじ)』が懐かしむようにしながら答える。続いて一騎はその隣の女性に視線を送る。しかし、どこかで会ったのは確かであるがうまく思い出せない。雰囲気はどちらかといえば総士より乙姫に似ているような気がするが、

 

「さすがに私の事を覚えてはなさそうね」

 

女性の切り出しに一騎は困惑した表情を見せる。

 

「覚えて? 俺の事を知っているのか」

 

一騎の問いに女性は頷くと白衣の胸ポケットから一枚の写真を取り出す。

 

「え?」

 

「竜宮島の写真よ。島が航行し始めてから3年と経った頃のね」

 

それを受け取った一騎は心底驚く。一騎たちがかつていた世界と言われる写真に映っていたのは2組の夫婦。それぞれの母親に赤ん坊が抱かれていた。1組は一騎の父母である史彦と紅音の姿。そして…もう1組は総士の父である公蔵とその女性の姿だった。

 

(なんでだろう。たしかに会ったことがある…そう!)

 

一騎は記憶の奥底からその女性名を思い出し呼んだ。

 

「総士の…母さんなのか?」

 

「そう、『皆城(みなしろ)(さや)』。たった、数度しか会ってなかったのによく思い出せたわね」

 

物心つく頃、紅音とそう変わらない時期にいなくなった総士と乙姫の母『皆城鞘』が一騎の問いに肯定した。彼女の暖かな笑み、その昔少ししか会っていなかったが母である紅音とのつながりを思い出したことで一騎は少しづつ落ち着きを取り戻す。頃合いを見計らって総士が口を開いた。

 

「一騎、これがこの世界のアルヴィスだ。神樹の言っていた僕たちの活動に支障をきたさないための配慮との事らしい」

 

「総士の言う通り、我々の役目はこの世界の敵である『バーテックス』と何かが原因で襲来した『フェストゥム』へのあらゆる対応と支援。そして、君らを()()()から守るためにこの世界に遣わされたのだ。今回は緊急の事態ということで全員はそろっていないがな」

 

『人の手』、自分を捕えようとした一団の事なんだろうかと一騎は思った。

 

 

 

「一騎君、ここからは我々元竜宮島としての話となる。だが、その前に……」

 

その言葉とともに公蔵の表情が変わる。その何かに気づいたのか洋治が声を荒げる。

 

「(!?)公蔵、あの話をするのか?」

 

「ああ、これは私の罪でもあり、最後のけじめだ」

 

既に覚悟を決めているかのような表情で公蔵は返す。一騎はその意図がわからず困惑し始めていたが、公蔵が話を切り出してきた。

 

「まずは元の世界での…フェストゥムが襲来した真相を話す」

 

「ッ!?」

 

「この話をしなければ、私自身前へと進めん。…酷な事だがよく聞いてくれ」

 

公蔵から語られたのは、元の世界である竜宮島に対するフェストゥムの侵攻の真相と彼自身の話である。公蔵はそれを彼の『罪』と断言した。

 

当時司令だった頃の公蔵は後に司令に昇格した『真壁(まかべ)史彦(ふみひこ)』とは違い、フェストゥムに対して『決戦』という思想を持っていた事。そして、新国連の情報を事前に握っており、北極海ミールとの決戦である『ヘブンズドア作戦』の成功率がほぼゼロであることが容易に想像がついた。

 

それにより残された人類の兵力を失うことで竜宮島の未来が厳しいものになり、共生思想も理解できるがそれはあまりにも時間がなさすぎると。

 

公蔵は賭けに出ることために家族を犠牲にしてでも…否、後世に汚点を残してでも未来のためにすべてを投げ捨てる。竜宮島に戦いを余儀なくするために戦いを仕向けさせるためにすべてを知った総士を島の外へと出し、フェストゥムをおびき出させた事を。

 

「そんな……島を戦いに巻き込んだのは」

 

「私の仕業だ……」

 

一騎は怒りを露にする。今にも掴みにかかりそうな勢いだ。無理もない、島を戦いに巻き込んだ元凶ともいえる人が目の前にいるせいでもある。公蔵はまるですべてを受け止めるかのように一騎の罵声に何も言わない。

 

「だったら、また俺らを戦いに駆り立てようとするのか! あの大赦の使者っていう連中を同じように」

 

「その人はもうそんな事を考えてないわ!」

 

そんな一騎に鞘の制止する声がかかる。

 

「そんな事を考えていない…?」

 

「一騎君、落ち着いて! その気持ちもわかるわ…だけどその人は変わったの」

 

鞘が公蔵の告白を聞いた一騎に火消しの声をかける。その声は夫である公蔵を庇う様に思えるが、その声を聞いた一騎は鞘の眼にはどこか『信じてほしい』という感情が見え隠れしているような気がした。

 

「……これはこのアルヴィスの人たちほぼすべてに関わることなんだけど」

 

「私たちは知ってしまったのだ。竜宮島の戦いを……君たちが紡いだ『共生』という思想を」

 

さらに言葉を続ける。命を落としたと思っていた彼は島のミールと一体化し、島の戦いを見ていたと。それにより、フェストゥムとの共存に動いた島の出来事をすべて知った事により公蔵は自らの思っていた『決戦』という考えを改めなおした事。もう少し時間をかければ竜宮島司令となった史彦と分かり合えたかもしれないと語った。

 

「そんな事が…」

 

「アルヴィスに所属する人員のほとんどは前世の記憶、それと島のミールという存在になっていた事でこれまでの竜宮島の戦いの事も知っている。……だからこそ、私の考えを変えるには十分すぎた……。済まなかった。あの戦闘で多くの人命が失われてしまった事もある許してくれとは言わない」

 

ここで席を立ちあがる公蔵と鞘は深々と一騎に頭を下げた。鞘に宥められた一騎は冷静になっていたが再び困惑し総士に視線を送った。

 

「本当なのか?」

 

「僕も父の真相を聞いた時には何とも言えないような気持ちになった。…一騎、お前が思った通りの事を言えばいい」

 

総士はあえて一騎に委ねると示唆した。一騎は頭を下げる2人に口を開いた。

 

「顔を上げてください。島にとっては確かに許されない事だと俺は思います。だけど、それは過去の事でもう過ぎだ事です。あなたも総士と同じでそれに苦しんでいたのでしょう?」

 

公蔵も総士と同じで似たような苦しみを抱えていたのを告白してくれたのだ。その気持ちをある程度察した一騎は公蔵の『罪』を知った上で許す選択をした。

 

「俺を助けてくれたのは、そういう利用する気ではないんですね」

 

「…そうだ」

 

「わかりました。それを聞いたうえですが…俺はあなたを許します」

 

「…感謝する!」

 

それを聞いた公蔵と鞘は頭を上げるが、一騎の告白を聞くと公蔵は深々と頭を下げた。

 

 

 

公蔵の『罪』という告白を聞き終え場が落ち着くと会議室のドアが開かれる。溝口と道生を先頭に幾人かの人が入ってきた。

 

「溝口戻ってきたか」

 

「奴さんには話を着けた。今回の事件はお互いのためにない事にした」

 

「それでいい。今は事を大きくしたくない」

 

溝口から報告を受けた公蔵はこの場に必要な人材がそろったことで本題へと入ることにした。




次話は当小説での大赦の現状を語ります。

以下、解説
●司令役の裏話
公蔵:史彦の次点候補。ただし、こちらの場合『決戦』の思想をどうにかしないといけないがファフナーキャラを転生した前提にしたため、EXOでの設定を込みにして竜宮島の戦いを知ってもらい考えを改めてもらった。

史彦:諸事情で使いたくはなかった。カノンエンド版で出そうとも思っていたが、それだと失敗の後ろめたさもあったので断念。変わりにある場面で登場予定

ナイレン:後々にあるポジションで出すために断念。公蔵との2択だった。

●皆城鞘
皆城公蔵の妻で、総士、乙姫の母親。設定が明かされているのみで登場したのは『EXODUS』回想シーンのみである。公蔵の『決戦』での思想を変えさせるために採用。

設定のみのため作者の独自設定込みのオリキャラ化となっている。

余談だが、フェストゥムのタイプや位置を特定するAI「ソロモン」を設計した3人のうちの1人(他2人は近藤彩乃と要澄美)

●日野洋治
日野道生の実の父で、あのマークザインを作った開発者。当作品の技術チート枠である。


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第4話 真相と歪み(後編)

当作品独自の大赦体制の説明回。かなりの独自設定となります。

2017/2/4 一部修正


「……ッ!」

「あの人たちはお前があった人とは無関係だ」

 

一騎は溝口と道生が引き連れてきた人物に気づく。またもや愕然とした表情となった一騎はそれについて言及しようとするも総士に制される。2人が引き連れてきた要人のうち3人は大赦の正装を纏っていたためでもある。

 

「一騎君、この人たちは我らの組織の設立に力添えしてくれた大赦の一族の『乃木(のぎ)』・『鷲尾(わしお)』・『三ノ輪(みのわ)』家の長だ。決して君をかどわかそうとした一団とは関係はない」

 

「(!?)皆城氏、この子がもう1人の…」

 

要人の1人が一騎の事に気づき公蔵が頷き肯定する。

 

『この度は…私たちの不手際で本当に申し訳ありませんでした』

 

すると大社の一族と呼ばれる3人が一騎に深々と頭を下げた。

 

「勇者たちと供に戦ってくれて、それに命まで救っていただいたのに…恩をあだで返すような真似を」

 

「あ、いえ…。俺の方こそ何もなかったわけですし」

 

一騎をかどわかそうとした一団とは打って変わって清々しい態度での謝罪。深く聞けば今回の件は大赦の総意というわけではないらしい。一騎は既に終わった事に対してたじたじとなりながらもそれを制した。

 

「一騎君、今の大赦は一枚岩ではない。これから大赦の内情並びに現状、この世界でアルヴィスを発足させた理由を話す」

 

「…わかりました」

 

総士や乙姫がいたとされる組織『大赦』の事をある程度しか知らず、自らがこのような事に巻き込まれたかの理由を知る必要があると一騎は判断した。

 

「皆城氏、大赦の件に関しては我々が」

 

大赦の乃木と呼ばれる長が代表して、この世界の四国の根幹を支える組織『大赦』の現状の説明へと入る。

 

大赦という組織は、西暦時代においてバーテックス対策において政府から全権限を委任された防衛機構である『大社』がその場しのぎとも言える組織形態であったためこの国の暦が『神世紀』と改めた頃にその名を変え改革が行われた組織である。

 

大赦となってからはバーテックス対策だけでなく、この世界の守護と恵みをもたらす『神樹(ごしんぼく)』を守り奉る御役目も課せられた事により、設立からおよそ300年、かの総理大臣(政府)をも上回る超法的な組織となった。

 

奉っている神樹の力の管理、彼神に選ばれた『勇者』と呼ばれる少女たちのサポートなど、この世界での人類の敵バーテックスに対しての防衛に関するすべてを担っている。また、宗教的な一面をもっており神樹と彼神に選ばれた勇者の神聖性を第一に掲げている。

 

中でも情報管理に力を入れており、これはバーテックスの襲来が起きた頃にそのような未曾有の危機に発生した混乱により住人のモラルが低下、勇者たちを希望の象徴として全面的に押し出してしまった事もあってそれを裏切られたように見られてしまい勇者たちを蔑ろにしてしまった。その教訓から勇者たちに影響を及ぼさない様に徹底、その民心を纏め上げるために秘密をあえて隠した。

 

「司令…あ、俺らが元々いたアルヴィスの司令と随分方針が違うんだな」

 

「竜宮島の真壁司令はそういう情報公開に関しては本当に理にかなっていたんだ。だけど大赦の場合そういう背景があったから敢えて隠していたそうだ」

 

「……襲来当初のままで抵抗していたら、おそらくはこの四国ももたなかったでしょう。それだけ生き残った人類も消耗しており、一種の疑心暗鬼に陥ってましたから」

 

総士からの補足も加え話は続く。乃木から秘密を徹底し隠蔽したことでバーテックスを欺き勇者システムの技術向上のため時間稼ぎを行いなんとか撃退することができる段階までになったそうだ。

 

「(竜宮島はたしか計画の完遂まで7割も満たない時に襲来したって総士が言ってたな。この世界はそれ以上に悪かったって事なのか)」

 

「我らは直接勇者たちとともに戦う事はできないですが、こういう技術向上や勇者に支援を惜しまず、からくも300年四国の守護的存在である『神樹様』を守っておりました」

 

「体制に関しては竜宮島の運営に関わっていた僕たちから見ても非の打ちどころのなく、最初は大赦に協力する機構として事を行おうとした。……だが」

 

「だが?」

 

「僕たちは見たんだ。この神世紀の守護をつかさどる組織の……歪みを」

 

組織として長年続いていた大赦には様々な考えを持った人たちが属していた。その結果、派閥が生まれていた。

 

――― これまでの話に出ていた乃木らを中心とした『勇者を1人の人間として』という考えを持ちそれを貫いた穏健派ともいえる一派。

 

――― 勇者に対し一種の過激的な思想を持っており、これまで築き上げてきた方針を否定しようとする一派。

 

大赦にて密かにフェストゥムとの戦闘準備をしていた総士たちはこの2派の争いを垣間見てしまったのである。

 

過激派ともいえる一団は穏健派ともいえる一団の考えを弱腰と罵りあれこれ否定していた。さらに『神樹に選ばれた勇者が四国を守るために戦う』事を理解しながらも『バーテックスと決戦すべき』と『勇者の人命に配慮しない』事まで主張することがあった。

 

その背景にあったのは、勇者に選ばれるであろう少女をこれまで身内でのみで賄っていたが神樹によってえらばれる以上それだけでは戦力の安定化とは言えないもので時代の移るにつれその数は減っていたのである。

 

それを危機とみた過激派が『勇者たちの候補を四国中に拡大すべきだと』という意見を発した。一団は組織としては有為であり卓越した手腕を展開してくるほど優秀であったが、これまでの実績もあってか穏健派が瀬戸際で制していた。

 

その争いを見た総士たちは過激派からどこか自分の保身に感じたとの事らしい。まるで何かを焦っているかのように…その派閥は目の前の事態しか見えていなかった。

 

「総士、それだと『新国連』のような一団じゃないか!」

 

「大体はそうだ。そして、一騎を狙った奴らは、現在の大赦を運営する上層部の仕業だろう」

 

その強引的な手段や総意遂行のために手段を選ばない事から一騎たちの世界の相違決定機構『新国連』が連想された。総士はそれに肯定し、自らを狙っていた一団の事を知り一騎は声を荒げる。これまでの事、楽園と呼ばれる島を守るために戦った一騎にとっても新国連の考えを許す気にはなれない。それから生じた数々の悲劇を目の当たりにしているからだ。

 

「続いては、何故このような一団が今の大赦を動かすようになってしまったかの話をします」

 

「……三ノ輪さん、いいのですか? 辛いようでしたら……」

 

「……?」

 

三ノ輪の長が説明に入ろうとしたが鷲尾の長がそれを制そうとする。それを気になった一騎は総士にひっそりと尋ねようと視線を送ったが、三ノ輪の長がまるで自分に言い聞かせるようにきっぱりと断り説明に入る。

 

ある時、大赦にとって決定的な事件が起きてしまった。複数体のバーテックスの襲来により勇者の1人が残る2人を逃がしバーテックスを退けたが、勇者システムの端末を残しその行方を晦ました。

 

大赦で調査したが発見には至らず、『戦闘中行方不明』ような形となりこれまで築き上げた防衛体制でついに犠牲が出てしまったのである。

 

(泣いている?)

 

その事を語った三ノ輪の長の目の端にじわりと涙が滲んでおりぽろりと落ちた。一騎はその犠牲になった勇者がもしかしたらこの人に関係のある人ではと感じた。

 

嘆き悲しんだ大赦の人たちはその犠牲を2度と起こさせないために神樹に新たな力を願った。『勇者を死なせないような力を』……その力を授かった残りの2人勇者によりバーテックスに対し痛撃を与えることができた。しかし、またその勇者たちも新たな力の代償の糧とされた。

 

「力の…代償」

 

『勇者を死なせないような力』という新たな力、その名は『満開』と呼ばれその代償を聞いた一騎はこの日一番の衝撃を受けた。そして、総士が以前『満開』に関して彼らしからぬ意見を述べたことを思い出した。

 

「総士、お前!?」

 

「……知ったのは、すべてが終わった後だった……」

 

『勇者を死なせないような力』を手に入れ勢いづいた過激派たちの行動は早かった。その代償すらも気にせずその後の体制が決められただけでなく、その権力のほとんどを手中に治められてしまったのである。

 

「これが…今の大赦です」

 

「……」

 

「そして今回、一騎がその上層部のターゲットとされた。十中八九、目的はアルヴィスのもつ勇者システムに匹敵する力…こちらの世界に来たとされるフェストゥムに対抗するための力をも手中に治める気だろう」

 

こうして、権力の暴走という状態が起きていた大赦では思ったような行動がとれないと判断したため、公蔵らが中心となってかつ影響が大きく及ぶ前に手をまわしてくれた乃木ら一族の後押しなどの大きな支援があってアルヴィスを立ち上げたのである。過激派ともいえる一団の対抗手段としての超法的な組織との事らしい。

 

自らの知らないところで大きく動いていた事態を受け止めた一騎は複雑な思いでいっぱいになっていた。

 

「……一騎、今回の話を聞いたうえでどう思った」

 

「話の内容をそのまま信じるなら今の大赦は信用ならないっていう事しか」

 

「今はそれでいい、ほかに何か聞きたいことは?」

 

「アルヴィスを発足させた理由は分かったけど…肝心の目的は? 話を聞く限りだとフェストゥムだけじゃないように思えるのだが…」

 

「私が教えよう」

 

言いえて妙な質問に公蔵が答える。

 

「現在の大赦上層部の筋書きはこうだ。バーテックスを殲滅できる手段を手に入れた事で一般人から選ばれた勇者を戦わせる。そして、勇者はきっと『満開』を使う。それにより新たな力を手に入れる。そして勇者を管理しバーテックスとの決戦に備えるのが最終目標であろう」

 

「それだと友奈や東郷に夏凜、風先輩や樹まで犠牲になる。……俺はそれを認めたくはない」

 

「そうさせるつもりはない。アルヴィスの最大の目的は『この世界に来たフェストゥム』。しかし、この世界の現状を見た我々はもう一つの目的を打ち立てた。それは大赦という組織の正常化。今の大赦の思想ではこれまで築き上げてきた民意が破壊される。……我々のいた世界にもあった過ちを繰り返してはならないのだ」




今話は一度は完成しましたが、『乃木若葉は勇者である』が最終話をむかえ、かつ大赦の発足に関する事実が判明しましたのですべて書き直しました……。

以下、解説
●大赦に関する改定前と後
改訂前:勇者一族に発言力はあれど、事実的な決定権がない設定
改訂後:2派閥に分かたれた設定

●当作品の大赦
裏話でもあったようにブラックな一面を出した結果、『新国連・人類軍』のような機構に。ただし、それを是としないために初代勇者たちが頑張ったという前提で組んでました(のわゆ最終話を見ればその決意が身に沁みます)

●真実を早期に知る
これも初期プロットのまま。総士たちが最初から大赦に近い位置にいますしね。



次回は続章で、総士と乙姫から大赦にいた頃の話を少々。一騎がある決意をするまでの経緯となります。


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第5話 やがて来る日を選ぶために(前編)

一騎と総士の会話が中心となるオリジナル回の二部構成前編となります。ゆゆゆの世界で起きたある事件の真相を総士から語られます。


視点:アルヴィスの大人たち

 

「で、これでいいのか公蔵?」

 

一騎にアルヴィスの目的を話して数刻後、閑散としたアルヴィスの会議室にて溝口が訊ね。公蔵は無言でうなずいた。

 

「あの様子じゃあ『やる』って言ってもおかしくはなかったぞ」

 

「一騎君自身がそう言ってくる可能性も否定はできない。だがあえて総士たちと話させ考え選択するための時間を与えた」

 

「んな回りくどい事しなくてもいいのにねえ」

 

すると会議室に1組の男女が入室してきた。

 

「……それにこうなってしまったからにはもはや彼1人の問題ではないからな。一騎君がこの世界にあった事を知った上での『意志』を聞きたい」

 

「……皆城、一騎に何が起こったか話してもらうぞ」

 

「そのつもりだ」

 

(なるほど、こういう建前でもあるのかい)

 

男性が単刀直入に話を切り出す。公蔵と溝口は彼と旧知の仲である男女に対しての事情説明が始まった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎

 

現在、一騎は施設内に用意された一室にいた。

 

『今日はもう遅い……大赦上層部の事後処理は我々に任せて今日のところはこの施設で休みたまえ』

(あの様子だったらアルヴィスに入ってくれなんて言われるかと思ったけど)

 

公蔵はアルヴィスの目的を話した後に夜も更けている時間であるという理由から話を切り上げ、一騎を保護並びに大赦への事後処理する事を告げた。一騎自身はその余地を与えてくれたのに言われた理由を考えていたためかあまりよく眠れなかった。

 

(総士たちは何を見て知ったんだろうか)

 

一騎は昨日の総士たちの様子からその心境やこの世界の事について知った事が気になっていた。こちらの世界に来てからは敵が動き出すまで総士たちに事の次第を任せていたため些細な事しか話していないためだ。

 

時は経ち、気づけば朝となっていた。すると気配を感じ扉の方へと目を向けた。

 

「「おはよう、一騎」」

 

「……おはよう」

 

「眠れなかったのか?」

 

総士と乙姫がごく当たり前のように朝の挨拶をし入室した。訊ねた総士に一騎は頷いてから返す。

 

「昨日は色々ありすぎた……」

 

「そうか。少し話がしたい。来てくれるか?」

「朝食を兼ねてだけどね」

 

総士の手にはバスケットが握られており、中にはサンドイッチと水筒が入っていた。一騎自身も総士に聞きたいことがあるので頷くと踵を返し先導する総士と乙姫の後に続く。言葉を返さなくても互いにやる事がわかるといった感じである。

 

3人は部屋を出ると通路を進みエレベーターに乗る。一騎は昨日総士から言われていたがこの施設が前の世界のアルヴィス構造にある種の懐かしさを感じていた。

 

(前も何もわからない俺に「話すことがなければ、黙って歩くだけでいい」っていう感じだったな)

 

エレベーターから降りると通路を歩き、ある大部屋の自動ドアが開かれる。

 

「ここで話そう」

 

そこは『展望室』と呼ばれる。この施設の職員が利用する休憩所の一種と総士から説明を受けた。内装は竜宮島アルヴィスの展望室がほぼ完全に再現されているが唯一の違いといえば大窓には施設外の風景が広がっている。

 

「出来合いの物だが」

 

備え付けられたベンチに腰掛ける。そういや昨日の出来事の後、この施設に来てから何も口にしてなかったなと思いながら一騎は簡素な朝食をいただいた。総士や乙姫も食事に夢中である。終えてから話すつもりなのであろう。

 

「驚いたか?」

 

総士がコーヒーを入れた紙コップ片手にそう言った。乙姫はじーっと黙って成り行きを見守っている。

 

「…正直、まだ信じられないよ」

 

かつて亡くなった人たちとこの世界でまさかの再会を果たし、その人たちの作り上げた組織、この世界の組織である大赦の現状。あまりにも多くの情報で一騎は少し混乱しているようだ。

 

「僕や乙姫も最初に知ったときはそうだった。黙っていたことを聞かないのか?」

 

「いや、黙っていたのも何かあるんだと思って」

 

総士の短い一言に恐らく自分が今抱いているものと同じ思いをしたのだろう。一騎はそう思い一息つく。すると、大窓から見える朝の風景を見つめあることに気づいた。

 

「え……あれって……」

 

「気が付いたか」

 

大窓から見える風景は一面に広がる海だったのだが……それに相応しくない構造物が見えた。総士も一騎の様子に気づいた。

 

「『瀬戸大橋』だ」

 

総士はかつて橋だった構造物を淡々とした口調で教えた。同時に一騎はこの世界に来た頃に四国で起きた大きな事件を思い出した。

 

「2年前に大きな自然災害で壊れたっていうやつか」

 

「……表向きはな」

 

「えっ……」

 

思わず腰を浮かし、目が点になる。

 

「昨日の話覚えているか?」

 

「あぁ」

 

昨日語られたこの世界の話を思い出す。大赦の成り立ちとその方針、現在の大社の現状と分裂、起きてしまった勇者に関する決定的な出来事。

 

「……風先輩たちが勇者に選ばれる前に大きな戦いがあった。あの崩壊した瀬戸大橋はその戦いの跡だ」

 

静かな声で総士は告げる。

 

「一騎、勇者の戦いに関わり始めた今のお前なら自然災害が起きた原因がわかるはずだ」

 

【樹海が何かしらの形でダメージを受けるとその分日常に戻ったときに災いとして現れると言われているわ。派手に破壊されて大惨事、なんてならないようにアタシたち勇者部が頑張らないと】

 

総士は淡々とした説明を続ける。風の言葉、そして昨日の大赦の一族にあった勇者たちの話。一騎の疑念は確信に変わってしまった。

 

「……お前、見たのか」

 

「……見た」

 

【……普通の女の子があそこまでやれるなんてな。ある意味凄いな】

【……そうだな】

 

勇者の事を快く思ってなかった言葉も思い出される。総士の言葉は彼が目にしたであろう光景の恐ろしさを感じさせた。

 

「大赦にいた頃はその組織の方針の都合、あまり多くの事を話すわけにはいかなかったんだ。……だけど、いつかは話すつもりだった。一騎も神樹からのメッセージにあった役目を見ただろう」

 

「あぁ。俺の場合は『とある女の子を護る』。友奈の近くに引っ越してきたから彼女の事だったんだろう」

 

「後にわかった事だが結城の勇者適正は歴代最高だそうだ。恐らくはそれが要因だろう」

 

納得したような感じで一騎は頷く。一騎から見ても友奈はいつも前向きで自分より他人の事を優先するお人好しな普通の少女である彼女を守るという神樹からの神示の意味がこれでようやく理解できた。

 

「そういや、お前のは聞いてなかったな…」

 

「僕と乙姫が神樹から託された使命は2つあった。1つ目が『来るべき時に備え、戦闘態勢を整える事』。2つ目が『この世界に関するあらゆる事を知る事』。その一環として勇者たちの戦いを見守ってほしいとの事だった。一騎が結城と出会ったように、僕たちも勇者に選ばれた少女たちに出会った」

 

総士が神世紀298年にあった出来事を話し始める。その頃の総士たちは戦闘態勢の準備とも言える段階だったため、公蔵らと対フェストゥムに向けての準備と並行しつつ、この世界の敵であるバーテックスから四国を守り彼の敵と戦うために選ばれた神樹の『勇者』と呼ばれる3人の少女のサポートも行っていた。

 

「勇者として選ばれる少女は神樹によって選ばれるがそれは襲来直前まではわからない。その時に選ばれたのは歳は今の僕たちと同い年だ」

 

総士が淡々と続ける。そのサポートという役柄の都合、その3人の少女と接する機会が多く、乙姫とともに日常を送っていた。

 

「乙姫も彼女らにはよく懐いていた」

「……だけど、それは長く続かなかった……」

 

乙姫が表情を暗くしながら呟き、総士が話を続ける。その少女たちと関わり深くなっていたが突然おとずれた悲劇で終わりを告げた。詳細は大赦の一族の三ノ輪が話した通りである。

 

(総士はまた『犠牲』を間近に見てしまったのか)

 

一騎はただ総士の語っているの話に耳を傾けた。そうすることを望んでいるかのように思えたからだ。

 

「その勇者たちはどうなったんだ?」

 

「1人は大赦により直々に管理するという名目で今の大赦上層部の元にいる。もう1人は勇者に選ばれたことで大赦の一族の養子として招かれたが戦いの後に元の家に戻されたそうでその後の消息はわかっていない」

 

「3人目は……三ノ輪っていう人の言う通りか」

 

「そう…だな」

 

一騎は総士の語りからまるで苦しみを吐き出しているように感じられた。

 

「なんでそのような話をしたんだ?」

 

「僕たちが見てきたのをお前にも知ってほしかったからだ。無意味に混乱させるのを避けようとして……本質を言わなかったためにお前とのすれ違いを生んでしまった事もある。…結局は今になってしまったがな」

 

そんな事もあったなと前の世界の事を思い出す。あの頃の一騎と総士はすれ違ったまま戦っていた事もあり、総士自身その点を踏まえて告げた。

 

「総士…お前はその勇者たちを助けることは出来なかったのか?」

 

「無理だ」

 

総士がそう断言した。

 

「神樹によって僕たちの世界の力を持ち出すことはできた…が、使用するための開発もすぐに行ったが間に合わなかった」

 

「けど―――!」

 

「戦えるならとっくにそうしていた!!」

 

声を荒げ本気で怒りそうな一騎に総士は感情的に返した。辺りは一色触発の雰囲気になりかけた。

 

「総士、感情的になってはだめ! ……一騎も落ち着いて」

 

「乙姫?」

 

「ここで言い争うと伝えたいことも伝わらくなっちゃう。今は総士の話を聞いて…ね」

 

「あ、あぁ…」

 

「……すまない、感情的になりすぎた」

 

乙姫からの火消しともいえる一声により2人は踏みとどまった。気まずい雰囲気なのか互いに目をそらす。少しの静寂が流れる。

 

「……一騎、この世界はどう思う?」

 

総士は長い溜息をついた後、唐突に訊ねてきた。

 

「どうって……」

 

「お前の見たり感じたりした程度でいい」

 

「……竜宮島と同じで穏やかで平和なくらいしか」

 

その質問に戸惑いながらも答える。

 

「そうだ。バーテックスという災厄に苛まれながらも平和を維持してきた。だが、その平和は誰が守ってきたんだ?」

 

「誰がって……この世界だと勇者か……あ」

 

一騎はファフナーパイロットである自分らとこの世界の勇者たちに関してある点に気が付いてしまった。

 

「この世界も同じなんだ。誰かが勝ち取った平和を譲ってもらっているんだ」

 

「俺たちと同じ…か」

 

一騎は顔を俯かせる。総士は立ち上がると一騎の正面に移動する。そして、彼の中で決めていたこの世界を見て、知って、考えた末の思いを告げた。

 

「この世界は……竜宮島と同じだ。ここには島と同じ平和が守られている。最初はフェストゥムの脅威があったからこそだったが、それを抜きにしても守りたいと思えた。もう、同じような悲劇は繰り返したくない」

 

「総士…」

 

「一騎、僕に力を貸してくれ」

 

一騎は総士の告白に「お前も変わったな」とポツリと呟くと、総士の瞳をじっと見つめ

 

「『助けたい』と思ったからここに来た。俺もやるよ」

 

一騎なりに強い意志を込め総士に告げた。




わすゆでの出来事を語るタイミングに悩んでましたが、当作品でゆゆゆの組織である大赦の一派、ファフナーの組織であるアルヴィスとの対峙による発足もあったためこのような運びとなりました。

以下、解説

●今話時点での総士
これまで伏せてきましたが、ゆゆゆの世界に来た時点で大赦側にいた事もあり『鷲尾須美は勇者である』の出来事に既に関わった状態となります。

また、シリウスコミック版での総士の心情シーンやPSP版での設定を考慮した結果、少々正直すぎる総士となってしまいました。まあ、一種の変化ということになります。


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第3章最終話 やがて来る日を選ぶために(後編)

会話回の後編。


「そうか……ありがとう」

 

総士がやっと口を開く。それが待ち望んでいた答えだったのか柔らかく微笑んだ。

 

「……?」

 

しばしの沈黙が流れる。一騎と総士のやり取りを乙姫は静かに眺めている。

 

「…何か。おかしいか?」

 

「…いや」

 

間をおいてからの総士の問いについ口ごもり気恥ずかしくなる。

 

「言われればやるって言うつもりだった。だけど、お前がそんな風に頼んでくるなんて思いもしなくって」

 

「ッ! 僕だってこれくらいはできる」

 

「……2人って、あの時から変わったようで変わってないんだね」

 

一騎の返しについ強い口調で総士は返す。そのシュールともいえる様子に乙姫はクスクスと笑った。

 

「その様子だと話は終わったのようだな」

 

新たな声の発生源と共に展望室入口のドアを背に寄りかかっている道生がいた。

 

「ちょうどお前らを探していて見つけたのはいいんだがちょうど佳境でな。……入るタイミングを見計らっていたんだ」

 

「そうだったんですか」

 

道生が今度はばつが悪そうな表情で告げる。

 

「少し厄介ごとができてしまってな。それの解決のために一騎、ちょっと付き合ってくれ」

 

一騎と総士は互いに顔を見合わせる。訳も分からなかったがとりあえずついていくことにした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「道生さん」

 

「ん、なんだ?」

 

アルヴィス内の通路を進みながら一騎は道生に声をかけた。

 

「ここの皆はいつからこの世界に?」

 

「そうだな。個人差はあるようだが大体10に近い歳で前世の記憶が戻ったのが確認されてるようだ。俺の場合は記憶が戻ってから10年と少しだな」

 

「そんなに……」

 

「現アルヴィス職員全員というわけじゃないけどな。実際、こっちの世界の溝口隊長は性格はまるっきり一緒で、強いて言うなら並行世界の同一人物っていう感じだ」

 

道生がこの世界に来てからの話を聞き一騎は驚きつつも質問を続けた。

 

「……総士の言っていたことは本当に起きた事なんですね」

 

「ああ、事実だ。とはいっても現実世界じゃあいつの間に起きた出来事だからな。大衆には隠しているがアルヴィスの職員は全員知ってるよ。ただ、総士と乙姫だけどその戦いの一部だけは見たそうだ」

 

一騎は本当にあった出来事だということを改めて実感した。さらに昨日の話で伝えられたこと。この世界に隠された真実を知った上で道生に考えを告げる。

 

「道生さんはどう思ってます」

 

「人類軍の兵士として戦い続けてきた視点から言わせてもらう。…子供……それも年端もいかない女の子だ。そいつらにしか頼れないのは正直もどかしいとこがある」

 

島から出帆し人類軍として各地を転戦したという経歴がある道生として思うところがあるのか、やりきれないという表情で話を続ける。

 

「それによ…そいつらの事を何も考えないで只々神様に捧げるっていうのは人としてどうかしてるように思える。まあ、俺たちもそのような犠牲にしてきたからどうとも言えないんだけどな」

 

竜宮島でもファフナーの特性上戦えるのは主に子供たちであった。大人たちとしての立場にたっていたのなら色々あるのは一騎も思うところはあるのだな感じた。

 

 

 

目的の部屋へと到着すると道生は立ち止まり一騎に告げた。

 

「さてと…一騎、厄介事なんだがな…総士や司令から話を聞いて思うところもあるが、お前の考えはもうまとまったんだろ?」

 

「ええ」

 

思いがけぬ問いに肯定の意思表示なのか首を縦に降った。

 

「……それを伝えてない人がいるんじゃないか?」

 

「伝えてないって……」

 

道生からの問いに心当たりがなく直ぐに答えられない。道生は困惑する一騎にまた問いかける。

 

「前世の記憶が戻って一番最初に会ったのは誰なんだ?」

 

一瞬総士たちだろと思ったが、その問いにはっとした表情となった。

 

「やはり言ってなかったか……まあ、あちらさんもお前の知らない所で気づいていたようで本当に心配していたそうだ。ちゃんと話してこいよ」

 

そう念を押すとポンと背中を叩かれ一騎は部屋へと入った。

 

「(!?)一騎!」

 

その瞬間、一騎は彼を呼ぶ女性の声が聞こえたと思ったら抱きしめられた。そして直ぐにそこで待っていた人物に気づく。

 

「母さん…父さん」

 

この世界の両親であった(父は史彦(ふみひこ)と瓜二つです)。

 

 

 

「(……って、何を話せばいいんだよ)」

 

暫しの沈黙が流れる。何から話したものかと一騎は自問自答していている中、

 

「……皆城からすべてを聞いた」

 

真壁父が重苦しい空気を変えるかのように口火をきる。

 

「大変だったな」

 

反射的に頷いてしまった。

 

「……えっと、すべてってことは?」

 

「あなたの身に起きていたことよ」

 

「(!?)そう…なのか」

 

ぽつりと返事をする。

 

「ねえ、一騎」

 

真壁母は優しく語り掛ける。

 

「あなたにとっては言いたくても言えないようなことかもしれない。……私は無理には聞かないわ」

 

「お前!?」

 

「仕方ないわ。無理に言わせてもそれは一騎が望んだことじゃないから」

 

真壁父は両親のやり取りを一騎は静かに見ていた。

 

【ちゃんと話してこいよ】

「(そうか。…そういう事なのか)」

 

その最中、道生の言葉の意味を理解しそれが後押しになったのか、

 

「いや、話すよ。父さん、母さん」

 

両親の様子からあらかじめ説明は済んでいるように思えた。総士たち程ではないが一騎は彼なりに精一杯の話をした。

 

勇者に選ばれた友奈たちと一緒にこの世界の敵バーテックス、フェストゥムと呼ばれるこの世界にとって新たな敵と戦った事。

 

瀬戸大橋にあった事件や大赦…この世界の現状を聞いた事。

 

そして、総士たちに協力したいと考えている事を。

 

「……そうか」

 

「驚かないんだな」

 

「前から何か隠していることは分かっていたけどね。確信に変わったのは皆城さんから話を聞いてからだけど」

 

「黙ってたことは聞かないのか」

 

「それを聞いて何になる?」

 

一騎の考えを見透かしたかのように両親が言う。何と返したらいいかわからず、一騎は言葉を止めた。

 

「一騎、ひとつ聞きたいことがある」

 

真壁父がぼそっと訊ねてきた。

 

「勇者と一緒に戦うことはお前が選んだのか?」

 

両親にとっては当然とも言える質問である。自分の子供が命がけの戦いをしていると知れば尚更である。

 

「うん」

 

「そそのかされた訳では…」

 

「それはない!」

 

「あなた!!」

「す、すまない…」

 

思わず強い口調で否定してしまった。踏み込み過ぎたのか父は母により窘められた。

 

「こうなるかもしれないって総士から聞いたのは事実だけど……俺にできることならやるって決めたんだ」

 

「…誰かに言われた訳じゃなくて、お前自身が決めたと」

 

前の世界の父『史彦』とのやり取りを思い出す。あの時は『総士と約束した』と半ば総士に依存していたような形だったが、今回はしっかりとした自分の意志をもって答えたつもりだ。

 

「……そうか」

 

一騎の言葉に真壁父は頷くも目を閉じ腕を組んで考える。

 

「わかった。……それがお前の決めた事なら俺からはこれ以上は何も言うまい」

 

特に残念がるかのようにではなく淡々と返した。

 

「ねえ、一騎」

 

「何、母さん」

 

「あなたがそう決めたなら私からも何も言わないわ。ただ…一つだけ約束してくれるかしら?」

 

それに続くかのように真壁母が真剣な表情で言う。

 

「一緒に戦う子たちを守って、そして、あなたも含めて一緒に帰ってきて。約束してほしいのはそれだけ」

 

強い期待をこめた口調だった。なんだか、とんでもないように思えるほど難しい約束である。

 

「……分かった。頑張るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

翌朝、アルヴィスの会議室にて公蔵たちと一騎・総士・乙姫の姿があった。一騎の意志を聞いた上でその意志が固まったような表情で公蔵が告げる。

 

「一騎君、まずはこれを」

 

公蔵から平らな矩形のプラスチック製のカードが手渡された。

 

「この世界のアルヴィス所有施設のIDキーだ。この施設のほとんどにアクセスできる権限を備えている。元の世界で成人していた君ならこれを持つ責務も備えているからこそ、これを託そう」

「それと…これもね」

 

鞘から白を基調とし紺の差し色の入ったアルヴィスの制服が差し出される。デザインは竜宮島のものと同一である。

 

前の世界では戦うことを決め、アルヴィスへの勤務初日総士から着替えて来いと命令口調で言われ、仲間の1人がその制服に着替えることは「いつの間にか違う場所に来てしまった」とほのめいた事を思い出した。この制服に袖を通すという意味はそれほど大きい。

 

しかし、何も知らなかったあの時の自分とは違う。その責務と覚悟はもっているつもりだ。一騎は無言だが決意がこもった瞳で見つめ受け取ると促されて一時部屋を退室する。

 

 

 

その数分後、一騎はアルヴィスの制服に着替え戻ってきた。

 

「似合ってるよ。一騎」

 

乙姫が制服姿の一騎を称賛する。公蔵が目配せ一同の同意を確認した。

 

「現時刻をもって『真壁一騎』のアルヴィスへの復帰を正式に認めることとする」

 

簡単だが一騎の正式なアルヴィス編入を認め、一騎はアルヴィス式の敬礼で返した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

こうして、島を守り戦い抜いた人々が集った。

 

彼らがこの世界で新たな航路を見つける船乗りであるのか、

 

それとも苦難の航路へ沈む船乗りとなるのか。

 

それを知るのは誰もいない。

 

彼らはあえて苦難を行く……その先にある希望を知るのだから。




ゆゆゆ世界での真壁家の両親の表記は敢えてこのように描写しました。これでようやくアルヴィス加入編ともいえる第3章は了となります。


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幕間4 各々の思惑

2017/5/14 誤字修正+後書きに解説追加
2017/7/31 鴉天狗の呼び方をわすゆ3章仕様に変更


視点:皆城乙姫

 

「今回の事を総士と一騎君に話さないでほしい!?」

 

乃木園子とその一同がアルヴィスから去って行ってから数刻後、アルヴィス内での一室にて乙姫が施設の責任者である公蔵に対し、今回の件を総士たちに伝えないでほしいとお願いしてきた。

 

その考えの真意が読めず、公蔵は思わず声をあげた。

 

「まだ総士や一騎に伝えるのは早いと思うから……もしも、バレたら私がお願いしたって謝っておくから」

 

「いや…しかし……」

 

「安心して。どの道、今回のは私のワガママだから」

 

「(このような事態をワガママか)………分かった。今回の件は警備データの削除並びに関わった職員一同には一切口外させないよう徹底しよう」

 

公蔵は乙姫の懇願に折れることにし、その対応のために部屋を出て行った。

 

「出てきてもいいよ」

 

1人残された乙姫はそう呼びかける。部屋の陰になっているところから人間の女性が姿を現した。以前、乙姫の前に現れた『神樹』と呼ばれる女性だ。

 

姿を現した『神樹』は乙姫と向かい合う。

 

「こんにちは。『神樹』」

 

「こんにちは。……乙姫さん、勇者『乃木園子』に勇者『三ノ輪銀』の事を教えたようですね」

 

「うん。……園子ちゃんは知りたいという選択を選んだ。私はそれに答えただけだよ」

 

「彼女がここに来るという事は知っていたのですか?」

 

「どちらかといえば…予感かな。前々から私たちと同じ存在が嗅ぎまわっていたのもあったからね」

 

この世界の土着神と神をして崇められた少女は語り合う。

 

「……操と園子ちゃんを引き合わせたのはあなたの仕業かな」

 

「そうですね。……かつてあなたの島と敵対したフェストゥム達を私たちの世界に招いた理由は聞かないんですね?」

 

「それもあなたと織姫が選んだこと。あなたの意思なら私は尊重するよ」

 

『神樹』の意思というのに乙姫は納得したようだ。

 

「それが良い未来へと繋がるなら、私はそれに導くよ」

 

「勇者『乃木園子』と『来栖操』…、2人が出会った事で彼女に生じた変化も良い未来に繋がると」

 

「そのようにはいかないかもしれない。だけど、私は良い未来になってほしいかな」

 

静かに乙姫が呟いた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎&皆城総士

 

――― 時は本編の直後へ……。

 

大赦上層部の不穏な一面が明らかになった事件から2日ほど経った。幸い学校の方は休日だったため一騎や総士・乙姫はアルヴィスの施設で時を過ごしていた。当然、勇者部の活動に関しては欠席すると連絡を入れた。

 

「「失礼します」」

 

一騎と総士は日野洋治に呼び出され彼の担当する部署へと訪れていた。

 

「急に呼び出してすまないね。特に一騎君には窮屈な思いをさせてるのに」

 

「いえ、総士たちもいますし。特に不便はないです」

 

「そうか。先ほど、皆城司令たちからこの休み明けには戻れるようにはなるとの事だ。無論、誘拐などの対策もできている」

 

一騎としてもあのような輩に自分の生活が脅かされるのは不快に感じていたが、それらの対策ができたとの事らしい。また、この世界での防衛方式の都合、供に戦う勇者の傍にいた方がいいとの上の判断だ。

 

「日野主任、僕たちをここへ呼んだのは?」

 

世間話を終えると総士が口火を切った事もあり、洋治は本題へと入った。

 

「『ファフナーシステム』の事で呼び出したんだ」

 

「『ファフナーシステム』?」

 

聞きなれない単語に一騎は首を傾げ聞き直した。洋治が説明を始める。

 

「君たちが今使っている力を使うためのシステムをそう呼んでいるんだ。単純明快に『勇者システム』との差異の呼称かな。それで、ここに呼んだのはその媒体となるシステムのアップデートの件についてだ」

 

「(!?)そんな事ができるんですか?」

 

「この世界に来てから勇者システムに関する事を一から学び直したんだ。だから、ファフナーのように手に取るようにわかるよ」

 

一騎は思わず真顔になってしまった。元々、『一人でも多くの兵士を生き延びさせる』という設計思想を持ったファフナーの開発者であった洋治は、島を出帆して新国連である存在の協力の元『マークザイン』を作り上げたりし、竜宮島のファフナーの設計思想の大本を作った実績がある。

 

さらに『勇者システム』関連も学んだという事に一騎は真顔となって惚けていた。

 

「アップデートの内容は再現できていなかったファフナーの装備の実装だ。ファフナーの装備の方だが支援航空などの特殊兵装が使えるようになる。さらに防御面もフェストゥムやバーテックスどちらにも対応できるようになるだろう。ただ、その都合で仕様が変更となった」

 

「変わるのですか?」

 

「今の『ファフナーシステム』の防護服は勇者システムのを基に開発してある。開発した装備が大型のものが多い以上、今の防護服だと不便なのだ。それに精霊と同じようになったザインやニヒトの障壁もあるがこれから激化する戦闘においてそれだけでは心許ない。これがその詳細だ」

 

「……そう来ましたか」

「これを使う都合、仕方ないかもしれませんね。携行するには不向きですしね」

 

洋治は一騎と総士にアップデートの詳細情報を渡され、専門的な話を受ける。

 

「所で乙姫のは」

 

「乙姫ちゃん用のシステムは島の防衛機構などの総てを再現してしまっている。それゆえに発展性という余裕が現状ではないといったとこか。……次に調整の件だが以前に一騎君がシステムに違和感を感じてたって総士君から報告を受けていたのだが」

 

「そういや、最初の戦闘でそんな事言ったな」

「やはり、僕や乙姫で取ったデータだけですから、そういうズレというのはあったという事ですね」

 

「一騎君に要望があれば聞こう」

 

要望と言われたが、一騎としてはやはり依然と同じような感覚で使った方がやり易い。

 

「もう少し『マークザイン』に近い感覚にできないでしょうか? 今のでも反応が少し遅れている気がします」

 

単純明快だが真理をついた答えを出した。

 

「わかった。調整してみよう。それだと、今までの戦闘データだけでは足りないな。2人とも、少し手伝ってもらおう」

 

「「わかりました」」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

数時間後、システムのアップデートが完了した。同時に一騎たちが家へと帰れる目処が付いたという事で3人はアルヴィス所有の車に乗り自宅の途中まで送られ、その後は徒歩で家路へとついた。

 

「やっと戻れたか。なんだか、随分と長いように感じたよ」

 

日も沈みかけていた時間だがようやく戻れたことに安堵し大きく息を吐いた。下手をすれば長期間かかったかもしれない離れていたのは三日間だが一騎にとっては非常に長く感じられた。

 

「一騎君だ~」

「総士君や乙姫ちゃんもいるわ」

 

声に気づいた3人は振り向くと友奈と東郷がいた。讃州中学の制服であることから勇者部の活動を終え家路へとついていたのだろう。

 

「それよりもどうしたの~? 一昨日、一騎君の家に行ったら誰もいなかったし」

「総士君からは休みの連絡がありましたが…」

 

友奈と東郷が詰め寄ってくる。

 

「すまない。東郷は知っていると思うが実は大赦に呼ばれて一騎と一緒に……父から言われてな」

「それで急に行かなくちゃいけなくなったの。一騎からも話を聞きたいって言ってて両親と一緒に招待を受けたの」

 

一騎はどう答えたらいいのかと思っていると総士たちからのフォローが入る。東郷ははっとした表情となる。

 

「ん~どうして大赦に?」

「友奈ちゃん。多分、御役目に関する事よ」

 

東郷は総士と偶然に会った際にこういう活動をしていることは聞いてある。

 

「それで今日まであちらの方に」

 

「う~ん、御役目に関する事じゃあ…仕方ないよね。3人とも、お疲れ様」

 

友奈はきょとんとした表情なものの一先ずは納得してくれたようだ。

 

「あとで風先輩や樹ちゃん、夏凜ちゃんにも連絡してくださいね。それではみんな。また明日」

「じゃね~」

 

友奈と東郷はそれぞれの家へと帰っていった。

 

「我ながら口八丁なことをする羽目になるとは……」

「…あはは」

 

強引だろと一騎は思ったが、さすがに今回起きた事件を話すわけにもいかなかったため。総士たちに従った。幸いともいうべきか友奈と東郷も深くは聞いてこなかった

 

「だけど、いつかは話さないといけないんだよな」

 

一騎が申し訳なさそうに呟く。奇しくも一騎は今回の事件で総士たちと同じ『知る立場』となってしまったのである。彼の言葉はその重みを含んでいた。

 

「一騎、彼女たち勇者に」

 

「俺は話した方がいいと思うが、だめか?」

 

「今は無理だ」

 

一騎の発言に総士は頭を抱えると告げる。

 

「……時と場合を考えろ。いきなり真実を告げたとしてもすぐには信じられるか?」

 

「だって、総士が言ったら彼女たちが納得したじゃないか」

 

「あれは勇者システムの説明の矛盾をついたからだ。風先輩や夏凜が大赦に所属している以上大赦の上層部の意向を真に受けていると思われるし、この世界の神樹の信仰がある。僕らが真実を語ったとしても今の段階じゃあ信じる可能性は低いぞ」

 

「………」

 

総士が諭すように告げる。一騎も総士の言い分に納得し思いとどまったようだ。

 

「今は時を待て一騎」

 

まるで先を見据えたように総士は語る。彼としての考えがあるのだろう一騎は今はそう思う事にした。

 

だが、一騎たちはこの先試されることになる。真実に秘められし残酷な一面と真実を知る者としての責務を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

――― 同時刻

 

視点:乃木園子

 

-大赦系列病院 特別室(園子の病室)-

 

「そっか。アルヴィスの人たちが……」

「うん。彼らが一騎を助けてくれたんだ。……それにしても酷いなあ。せっかくこの世界を守ってくれているのにさ」

 

園子は来栖から大赦上層部の非道的な行いがあったとの報告を聞いていた。来栖もその事に関して怒りを露にしていた。もちろん、当事者に近い立場の園子も内心穏やかとも言えない。

 

(あなたの言う通りになったね…『つっきー』)

 

来栖に自らの心情を吐露した園子は新たな勇者のために出来る事をしよう。そう決めて来栖の協力を得て個人的な活動を始めていた。その一環として、来栖と共に情報を集めている際に大赦の現状を知ってしまっていた。

 

 

 

園子がかつての日常を過ごした親友たちと再会してから数日後、大赦で大きな動きがありついに勇者が選ばれ御役目が始まったのである。その中にはかつての友が含まれていた。園子はすぐさまやって来た大赦の大人経由でその報告を聞いた。

 

さらに乙姫から聞いていた新たな災厄が新たに選ばれた勇者を襲ったのも知った。それは乙姫が示唆した戦士たちにより排除された。

 

その事を知った園子はあまり時間が残されていないのを悟った。バーテックスと戦う勇者の御役目は言い換えれば化け物を追い払う儀式のようなものである。その過酷さを身をもって知るため、勇者たちが切り札である『満開』を使うのは目に見えていた。

 

そして、大赦が隠してある真実に到達してしまうであろう。すぐにでも園子は選ばれた勇者たちに対して動く必要があった。

 

 

 

同時に新たな災厄に対し何か手が打つ必要がある。だが、それは園子の思いがけぬ形で解決した。

 

大赦に協力している外部機関が今回の御役目への介入すると言ってのだ。その外部機関は乙姫たちが所属している後に『アルヴィス』と呼ばれる組織だったのである。

 

さらに、園子の元に神樹の御神託を聞いたとされる3人の巫女が訪れた。巫女たちは大赦設立当初から関わっているとされる格式のある方々で園子も催事の時ではないとお目通りにならない人たちだったのである。

 

何故か園子の立場で畏まる大人たちが多い中、彼女たちは来栖と同じように接してくれたのである。その3人の巫女たちと時間の許す限り話し信頼のできる大人たちと判断した。その巫女たちと一緒に大赦の上層部の会議へと乗り込み、その外部機関の介入を認めさせたのである。

 

「『みおみお』」

 

「ん?」

 

「お願いがあるんだけど~」

 

目下の災厄に手を打つことに成功した園子だったが、新たに選ばれた勇者たちにある懸念を持っていた。勇者の中にかつての親友もいるが戦いから遠ざかっているし()()()()()()()()()()()だろう。同時に勇者たちの傍にいる戦士たちにもその事を確かめる必要があるため自らの考えた計画を来栖に語った。

 

「う~ん、あんまりそういう事はしたくはないんだど…」

 

「傷つけるつもりじゃないよ。あの人たちにもお話するために必要な事なの」

 

「……分かったよ。それが園子にとって必要な事なんだね」

 

園子は頷く。計画の一部には来栖は難色を示したが彼は賛同の意を示した。

 

それを見届けた園子は目を瞑ると心で呼びかける。何もない空間から光がはじけるように3体の精霊が現れた。

 

「『セバスチャン』はあの子の元へ。あなた達はいつものように……だけど、これは最後になる…といいな」

 

園子は3体の精霊に命を与える。その中の黒い鳥のような精霊はどこかへと飛び立っていった。




第4章への繋ぎ回でした。次の章で園子様たちが大きく動きます。

〈解説〉
●ファフナーシステム
一騎たちが『蒼穹のファフナー』に出てくる兵器であるファフナーやミールの力を行使するためのシステム。安直だが『勇者システム』と区別するための名称。現段階でもアップデートによる向上は続いている。だが、島の機能をほぼ再現に成功した乙姫のは現在発展性がない状態。

●ファフナーとゆゆゆとの技術力
・ファフナー:科学的な技術力はかなり高い。それに加え、敵の力であるミールの解析、またはミールからその恩恵をもたらされているためか、その力に対する理解力が高い。
・ゆゆゆ:技術力は現代と同じ程度。霊的・呪術に関する技術力は300年の成熟もあってかかなり高い。反面、力に対する理解力は低め。



以下、おまけ(駄文注意)
●おまけ1
一騎たちの乗る車は古い木造建築のお店を通り過ぎた。架けられている暖簾から古きよき銭湯のようだ。その軒先で掃除をしている少年は車内にいた3人の姿を見た。

「(!?)一騎、総士? それに乙姫ちゃん?」

気づいたが既に距離が離れていたため確かめることが出来なかった。

「ん~、気のせいかな」

「こんにちは」

声に振り向くと黒髪に2つのテールにしている少女がいた。

「やぁ。あれ、トレーニングまた始めたんだ」

「うん。今日は…」

「今は誰もいないよ。だから、貸し切り状態。番台は母ちゃんだよ」

「そう。ならお邪魔させていただくわ」

「はい、いらっしゃい」



●おまけ2
車を降りた一騎たちは徒歩で家路についていた。彼らの背後の交差点から1組の男女の学生が話ながら歩んでくる。男子学生の傍らには1匹の犬がついてきている。すると、その背を見た男子学生が呟いた。

「……一騎?」

タイミングが悪く路地の方へ入ってしまい確認ができなかった。その様子を見た女子学生が訊ねる。

「どうしたの?」

「(気のせいか)……なんでもないよ。それより話って」

「うん……実は今度、『ゴールドタワー』に行かなくっちゃけなくなったの」

「そうなのか」

意味深な会話をし、一騎たちとは逆の方へと向かって行った。



●おまけ3:実は『神樹様』は……?
「最後に一つ聞いてもいいかな?」

「はい?」

「どうして、アルヴィスの制服を」

「こういう場ならそれ相応の格好がふさわしいでしょう♪」

対話を終えた乙姫がいつもの純粋な質問をぶつけてきた。今の『神樹』の格好は、アルヴィス女性職員用の制服であった。

「他に色々ありますよ。アルヴィスの成人用の制服や人類軍制服とかシナジティックスーツとか」

「ええと……」

「あぁ、乙姫さんのような少女でしたらこちらの方が良かったのかしら(神樹様の恵み衣装シリーズ、初代勇者用メイド服)」

(……こちらの神様ってコスプレ好き?)


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第4章 『記憶-しれん-』
第1話 変わりゆく日常 変わらない日常


第4章では『結城友奈は勇者である -樹海の記憶-』編となります。


視点:皆城乙姫

 

-皆城家(讃州地方) 乙姫自室-

 

「Zzz…Zzzz…」

 

深夜、ほとんどの人が眠りに墜ちているであろう時間。それは乙姫も例外ではなく。彼女はスヤスヤと穏やかな寝息をたてて寝ていた。

 

――― コンコン!

 

「う…う~ん」

 

室内に何かを叩いているような乾いた音が鳴る。それはまどろんでいた乙姫にも聞こえた。乙姫の双眸がゆっくりと開かれると掛け布団をめくりゆっくりと身を起こした。

 

「……?」

 

近くにある机の上に何かがいた。……が、寝ぼけているためか視界がぼやけていた。手の甲で目をこすり、目をぱちつかせるとそれははっきりと見えた。

 

「……!? わっ!」

 

思わず声が出て完全に目が覚めた。乙姫の目の前には黒の丸っこい体系で2つの赤い眼に嘴、同じ色の羽が背中についており、紫を基調とした山伏装束を羽織っている存在がいた。はたから見れば可愛らしくデフォルメされたどこか愛嬌?があるように見える。

 

その存在は机を嘴で軽くを2回ほど叩く。どうやら乙姫の聞いた音の原因はその存在によるもののようだ。少し驚いたがすぐに目の前の存在が何であるか理解ができた。

 

「……精霊? 勇者部のみんなのとは違うようだけど…もしかして、園子ちゃんの?」

 

鴉天狗(からすてんぐ)』と呼ばれる精霊は肯定の意なのか頷いてきた。

 

「ところで何の用で私の所に……あ!」

 

嘴に何かを銜えているのに気づく。鴉天狗から受け取ると折りたたまれた紙のようで乙姫はそれを開く。

 

【『つっきー』へ】

 

「園子ちゃんの手紙?」

 

内容は乃木園子が乙姫に宛てた手紙のようだった。文面から恐らく誰かに代筆させたのだろう。

 

【まずはこの前の事、私に会わせたい人がいるって聞いて『みおみお』に連れられてあなた達の施設に勝手に入り込んじゃったけど、考えてみれば無断侵入だったよね。その件に関してはごめんなさい。

 

それとミノさんの事もいまだに眠り続けて先がまだ見えないようだけど諦めずに末永く見守ってくれたこと……本当にありがとう。

 

『つっきー』から色んなお話聞いて、帰ってから『みおみお』とも話して色々悩みました。

 

私が勇者だったときの時代には何も教えられずに、あまりにも多くを失って…私はそれを受け入れるかのようになりかけてた。『みおみお』と出会わなったらもっと諦めていたようになっていたかもしれない。

 

だから決めたんだ。勇者たちに真実を伝えるよ。……だけど、真実を教えるだけじゃなくて、私は勇者たちに選んでもらいたい。そして、それを神樹様に伝えるために私は出来ることをするよ。

 

『みおみお』と一緒に過ごしたのもあるんだけど、『ミノさん』が生きてたのを知って……それで治りたいっていう気持ちが強くなったのが要因かな。……神樹様からすればワガママに見えちゃうだろうな…『ミノさん』みたいな犠牲を出さないように私たちから願ったのにね。

 

しんみりするのもここまで、実は『つっきー』にお願いしたいことがあるんだ。『そーそー』やもう一人の戦士にも関係がある事なんだけど ―――】

 

「……そっか。あなたも未来のために現在(いま)と戦う事を決めたんだね」

 

文面の後半部分にも目を通した乙姫は小さくうなずくとその手紙に返事をしたためる。

 

「園子ちゃんの元へお願い」

 

鴉天狗は頷くとその手紙を銜える。すると、羽を広げ浮き上がると光が弾ける様にその場から消えた。恐らく主の元へと戻ったのであろう。乙姫はそれを見届けると再び布団にくるまり床につく。

 

(今の園子ちゃんはかつての私と同じ。だけど……)

 

ふと園子の事に思いを巡らせる。乙姫はかつて瀬戸内海ミールの暴走により『竜宮島の守り神』という過酷な運命を背負わされていた。その事もあり、今の園子が自分の立場に近いように思えたが、この世界の事を知ったこともあってか自分との境遇の違いにもまた気づいていた。

 

(だけど、手紙の感じだとそれをただ受け入れただけじゃなさそうね。操との邂逅が彼女に新たな選択肢をもたらしたのかな。……それにしても、また総士たちに秘密にすることが増えちゃったかなあ)

 

その時が来たらちゃんと理由を話そう。そう決めると乙姫は目を閉じた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎

-讃州中学-

 

6月も後半という事で初夏ともいえる時期となった。讃州中学では衣替えの時期を迎え、女生徒の制服はジャケットとワンピースからセーラー服に、男子学生の上着はワイシャツと移行が完了していた。

 

そして、一騎の身に起きた事件が解決し無事に家に戻ってから次の日、一騎と総士が所属するクラスがまた騒めいていた。

 

(前にもこんな事あったよな)

 

既視感を感じていた一騎であったが、その一方総士の方は澄ました表情で佇んでいた。

 

「……なんだ?」

 

「総士、何か知ってないか?」

 

「……すぐにでもわかるだろう」

 

視線を送ってみたが総士ははぐらかした。この前とはうって違って平然とし過ぎている様子から何か知っていそうな様子であった。

 

「みんな、おはよう!」

 

訊ねようかと思ったタイミングで担任の先生が入ってきた。

 

「え~、みんなも知っていると思うが、副担任の山田先生が本日をもって産休に入った」

 

担任の先生からSHRでの連絡事項の他に副担任についての説明が入る。それに教室中がどよめくも以前からこうなるかもと聞いていたためかすぐに治まった。

 

「それで非常勤講師が代わりに教鞭を勤めることになった。今からその先生を紹介する」

 

代わりの先生が来たという事でまた教室内はどよめいた。それを合図に教室のドアから赴任してきたという非常勤講師が入ってきた。

 

「え…?」

 

まさかの人物が入ってきたため一騎は唖然とし目が点となった。それを余所に副担任の教師が教壇に着くと自己紹介を始める。

 

「この度、前任であった山田先生に代わりこのクラスの副担任をすることになった『日野道生』だ。よろしくなっ!」

 

 

 

あっという間に放課後の時間となり、一騎と総士は副担任となっていた道生に呼ばれ教室を出た。

 

「ああいう事件もあったが元々はサポートとしてこの讃州中学に入る予定だったんだ。用務員あたりだったんだが、偶然にも枠があってとの事でこうなった」

 

移動中に道生から簡単に経緯を説明される。一騎の事件もあったという事でその対策の一環としての派遣との事らしい。

 

「どうして言ってくれなかったんですか?」

 

「俺が辞令を受け取ったのも総士がこの事を知ったのも昨日の事だ」

 

「……そうなのか?」

 

「帰った後に知った」

 

総士は長い溜息をつき肩を落とした。

 

「サポートは道生さんだけなんですか?」

 

「表向きで動くのは俺だけだ。だが、大赦にも話をつけたし万一な事が起きたらアルヴィス側でもすぐに動ける態勢は整っている。それに俺がここに来たのはお前らの面倒を見るだけじゃないからな。次は勇者部に行くのだが、少しばかりお前らに協力してもらうぞ」

 

「?」

 

一騎と総士は道生の意味深な発言に首を傾げるも彼からの頼みを聞いた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:勇者部女子

-讃州中学 家庭科準備室兼勇者部部室-

 

「えぇ!? 勇者部に新しい顧問が来るんですか!」

 

「そうなのよ」

 

場所は変わって勇者部部室には一騎と総士を除いた部員一同が集まっており、これまで顧問として名を連ねていた教師が長い休養に入ってしまったのを風が報告していた。

 

「山田先生…前々から言ってましたが、それが今日になるなんて」

 

「こればかりは仕方がないわ。で、その新しい顧問の先生が真壁と総士のクラスの副担任だそうよ。2人はその先生に色々聞かれているのかしらね」

 

「それでお姉ちゃん…顧問の先生が変わるくらいで何かあるの?」

 

風の複雑そうな表情に樹が気づく。

 

「大ありよ。それも勇者部の存続に関わる事だわ」

 

「犬先輩、その程度で何なのよ? もったいぶらずに言ってほしいわ」

 

「その程度? 夏凜…アンタは事の重大さを理解していない!」

 

「……はぁ?」

 

間抜けた声を出す夏凜。友奈・東郷・樹も訳が分からない様子である。風の演説のような説明は続く。

 

「我が勇者部はこれまでの活躍もあって顧問だった山田先生を含め多くの人たちから理解を得られていた。だからこそ、私たちの勇者としての活動をやれてた。だけど、新しく来たっていう先生はそれを全く知らない。これは早々に勇者部の活動を理解してもらう必要があるわ!」

 

「確かにこちらの活動を理解してもらうのは必要な事だと思いますが…」

 

「そうだよ~お姉ちゃん。一騎先輩と総士先輩がいないけど、こうしてみんな集まってどうする気なの?」

 

風の動機は理解できたものの東郷と樹がこうして集まった理由を踏み込んで聞いてくる。風は待っていたかのようにプリントをみんなに手渡した。

 

「印象つけは大事よ~というわけで時間もないし、真壁や総士が来てないようだけど協力してもらうわよ」

 

「……嫌な予感がするんだけど」

 

勇者部にある意味で慣れ、部員たちがどういう人と成りかが分かってきた夏凜がぼやいた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:一騎&総士

 

道生から事情を聞いていたため少し遅くなってしまったが勇者部の部室前へとついた。

 

「ここが『勇者部』の部室ねえ。そういや、お前らを除けば女子だけだったんだよな」

 

「そうですが」

 

「他の男子から観れば女の花園っていったとこか。『このハーレム野郎』って言われてもおかしくはなさそうだな」

 

「「……からかわないで下さい」」

 

道生にからかわれながらも部室へと入室する。

 

「「「「「ようこそ、勇者部へ!」」」」」

 

「「な!?」」

 

動揺を隠せない一騎と総士。道生も部室内の風たちの様子に訳の分からなそうな表情をしている。

 

 

「山田先生の後任の顧問の先生ですね?」

 

「そうだ。『日野道生』だ。故あってこの学校に来て後任の顧問となった。よろしくなっ」

 

想定外の雰囲気に言葉を失っていたものの道生は部員たちの歓迎ムードを甘んじて受け入れた。

 

 

 

「お茶とぼた餅です」

 

部室内の歓迎ムードが落ち着き互いの自己紹介を終えると東郷が作ったぼた餅を友奈が、お茶を樹が配膳していく。

 

「うん。美味いな」

 

一口いただいた道生がそう呟く。話題は勇者部の活動についてになった。

 

「――― という感じで『みんなのためになることを勇んで実施するクラブ』というのをモットーに活動しております」

 

「なるほど。ボランティアサークルのような感じか」

 

「はい。幼稚園での人形劇や折り紙教室、捨て猫の里親探し、海岸のごみ拾いなど内容は多岐に渡ります」

 

風からアピールを交えたかのような勇者部に関する話に感服しているかのように聞き入っている。

 

(道生さん、分かっているはずなのになぜ彼女たちからの話を)

 

道生の様子に総士は疑問に思っている。事前に勇者部に関する事は前情報として習得しているはずだと。一騎も明らかに戸惑っている様子だ。2人を余所に風たちの勇者部に関する説明が終了した。

 

「山田先生から聞いた通りだな。品行方正、生徒の模範と言っていい程だな」

 

(上手くいったわね)

 

道生からの高評価に風は成功を確信した。道生は出されたお茶を口に入れると、彼が決めていた話題に移ることにした。

 

「勇者部の活動は改めて話しを聞いてみて分かった。それじゃあ、次は『御役目』に関する話をしましょうかね」

 

「…え?」

 

『御役目』という言葉に風は明らかに動揺を見せてしまう。無論、友奈・東郷・樹・夏凜もである。

 

「あ、あの先生『御役目』って勇者部の依頼とかじゃあ」

 

「誤魔化さなくていいぞ。俺も『知っている』人だからな。神樹様に選ばれた『勇者』たち」

 

風たちから秘密がばれたのかオドオドとした様子である。ここで平然と物事を見守っていた総士が口を開いた。

 

「みんな、道生さんは『御役目』の事を知っている。その道の関係者だからな」

 

『関係者!?』

 

「総士、一騎。あの話はもう勇者には言ったんだよな」

 

「はい。勇者になってからの翌日に…道生さんは俺たちと同じ世界にいた人なんだ」

 

「……一騎君や総士君と同じ世界の人だったなんて」

 

「ま、そうなるな」

 

一騎たちと同じ世界にいた人物が自分たちの学校の先生でかつ部活の新たな顧問であることに驚きの連発である。なんとか、その騒ぎも治まってくると風が疑問に思ってきたことを告げた。

 

「道生先生も真壁たちみたいに戦えるんですか?」

 

「いや、無理だな」

 

「それじゃあ、なんで私たちの学校に?」

 

「バックアップ要員だ。たしかに戦うのは無理だが、君たちが万全に戦えるようにサポートくらいなら俺たちでもできる。それを円滑に行うための処置だ。バーテックスとフェストゥムに対抗できるのは子供たちに頼るしかないんだよ。……特に君たちくらいになると多感でな。誰にでも言えないような悩みとか抱え込んじゃうことがあるんだよ」

 

(悩み……)

 

率直に目的を語る道生。その言葉に風はぴくりと反応を見せた。

 

「そういう訳だ。正式な通達は後で来ると思う。君たちは部活でも人類を守るためによくやってくれていることが話してみてよく分かった。初対面でこういうのはなんなんだが、悩みとかあったら気兼ねなく言ってくれよ」

 

「あ…は、はい。あの部に関しては」

 

「特にいう事はないよ。度さえ越えなければ今まで通りでいい。…そろそろ職員会議の時間か。今日はこの辺でお暇するよ」

 

そう言うと道生は部室を出て行った。残された部員たちだったが東郷が一騎と総士に道生に感じた印象を語った。

 

「なんだか気さくな感じの人でしたね」

 

「島では兄貴分みたいな人だったからなあ」

 

(兄貴…ね)

(悩み…か)

 

「夏凜ちゃん?」

「お姉ちゃん?」

 

「なんでもないよ、樹」

「ッ!? なんでもない!」

 

「そう? 悩んだら相談だよ」

 

「分かってるわよ…そのくらい」

 

(『悩んだら相談』か…自分たちで決めた事なのにね)

 

そんな中、上の空となっていた風と夏凜。夏凜は友奈に対し強がりの言葉で、風は樹を安心させようといつもの感じで返事をした。




次回から『樹海の記憶』本編が開始となります。ストーリーモードの時系列準拠で進行させていただきます。

……実はというと、精霊『鴉天狗』のデザインは鷲尾須美の章3章のプロモ公開で書き直してあったりします。

●勇者部顧問
勇者部の顧問に関しては原作でもいまだに語られていなかったため独自設定で作成。余談ですが、前の顧問の先生や一騎たちのクラス担任のイメージは『某高速学園ラブコメ』のあの御方たちで。

●風のフラグ
これは第4章を終えてからの第5章…原作で言う第4話の樹回に繋がります。


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第2話 樹海の世界に立つ竜人と……

『結城友奈は勇者である 樹海の記憶』本編開始。バーテックス勢力のみとの戦闘回となります。

2019/3/4 来主の誤字修正(何故今まで気づかなかったし)


視点:乃木園子

-大赦系列病院 特別室(園子の病室)-

 

「そっかー。『つっきー』は私たちに協力してくれるんだね」

 

「そうみたいだね」

 

鴉天狗から受け取った手紙を見た来栖がその内容を園子に伝える。園子はこれから行う上で唯一といっていい懸念が解消された様だ。

 

「後はぶっつけ本番かな~。元フェストゥムの『みおみお』たちが私の精霊の影響を受けてくれればいいんだけどね」

 

そう言いつつベットへと深く身を寄せる園子。何故かじーっと来栖の方へと見つめてきた。

 

「ねえ、『みおみお』……」

 

「どうしたの?」

 

「……手握ってくれないかな」

 

「どうして?」

 

「今からやる事は私にとっての大きな一歩だから、少し踏み出せる勇気が欲しいの」

 

不安げな声をささやいてくる園子。来主はきょとんとした様子でそれを聞き入れると園子の手を握ってきたが、すると突然彼女の横に寝転んできた。

 

「ふぇ!?」

 

「こうして欲しかったんじゃないの?」

 

「はぅぅ……思い描いてたシチュエーションをこうも早くにやってくれるなんて……だけど『勇気』が湧いてきたよ」

 

顔を赤くし目線を少しそらした園子、一方の来主はどうしたんだという感じで見つめている。園子はなんとか平静を保とうとしながら心の中で呼びかける。すると、前に鴉天狗以外に使命を与えた2体の精霊が現れる。

 

「それじゃあ始めるよ…みおみお、目を瞑って。……おやすみなさい」

 

(!?)

 

目を瞑った来栖だったが園子の一言により意識を失った。従者が何があったような様子で駆け寄ってくるが当の来栖はぐっすりと寝ているようだ。

 

「元はフェストゥムと言っても人になったからいけたようだね~。従者さん~あとはよろしく。……おやすみ~…」

 

上手くいったことを確信した園子はさらに深い眠りについていった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:勇者部

-樹海内-

 

次の日の放課後、アラームが鳴ったことで敵が襲来したことを察知した一同は周囲に色とりどりの樹木の世界にとばされた。現在、一同は樹海内の木の根の上に立っていた。

 

「やれやれ、忙しいわね」

 

「最近はよく来ますね。前に夏凜ちゃんが言っていたように出現の周期が乱れていることに関連があるのでしょうか」

 

「そうなのか、三好、総士?」

 

「…まあ、あながち大赦の言う通りじゃないの?」

 

「可能性は高いが…今はそういう議論をしている時間もなさそうだ」

 

壁に近い空間に揺らぎが発生しており今にも敵が出てきそうな感じだ。

 

「総士の言う通り、考えても仕方ないわ。みんな行くわよ! 夏凜、勝手なことしないでちゃんと言う事聞きなさいよ!」

 

「―――ッ。実戦なんだから関係ないでしょ。もうそんな事しないわよ」

 

「それを聞ければ十分。行くわよー勇者部変身!」

 

一同は総士の言う通り議論をやめることにし端末を構えた。風の一声により勇者部は戦闘時の姿へと変わった。

 

「変身完了♪ あれ…って、一騎君!?」

「「―――ッ!!!」」

「え…えぇぇぇぇっーーー!!!」

「ま、真壁! その姿はいったい!?」

 

友奈が隣にいる一騎を見るとこれまでとは違った姿に気づき驚きの声を挙げる。続いて他の勇者たちも一騎の方へと視線を送ると多種多様な反応を見せる。

 

「あー……やっぱし驚いちゃうよな」

 

目が点となっている勇者たちの様子から無理もないかなと一騎は思った。何故なら、今の彼は勇者服を基にした姿ではなく。黒に近い濃紺色の機械のような鎧を纏った姿となっていたからである。

 

「こちらが使っている戦闘システムを新たにバージョンアップしてさらなる戦闘向けの装備を変えた」

 

「そ、そうなの、総士君?」

 

「うーん、どっかで見たような?」

 

改めて一騎の方へと見やる東郷。機械人形とも思える姿に友奈は呟くとぽんと手を打ち、ぽつりと呟いた。

 

「……『ファフナー』」

 

「ん、なしたの友奈?」

 

「そうだよ。一騎君たちがいた世界のロボットだよ」

 

「それって総士君たちの世界の映像に出てきた機械人形の事?」

 

「うん」

 

「あいつだけ強化ってなわけ……」

 

東郷たちの問いに頷く友奈。今の一騎は『ファフナー・Mk.XI(マークエルフ)』を身に纏っているという姿となっている。夏凜はそれをずるいといった感じで見ていた。

 

「あら、総士と乙姫ちゃんは前のままなのね」

 

「一応はその形態にもなれるが、ジークフリードシステムの統括や指揮もあるからこちらの方が都合がいいんだ」

「総士たち以上に特殊なシステム使ってるし、私はファフナーパイロットでもないからね」

 

「―――ッ! 来ました……バーテックスです!」

 

「(!?)こちらでも確認した。星屑タイプのバーテックスが出現だけのようだ…フェストゥムはいないか」

 

樹の一声により会話は中断した。敵の侵攻が本格的に始ろうとしていた。

 

「敵が来るわよ。みんな戦闘用意!」

 

『了解!』

「……了解」

 

風が開戦前の檄を飛ばす。当然、勇者たちはそれに応えたが夏凜のみはこういう雰囲気にまだ慣れていないのかぽつりと呟いた程度だ。

 

「それで総士、今回はどう動けばいいのかしら」

 

「今回はフェストゥムの乱入を警戒するためにフォーメーションを一部変える。勇者たちは前衛を風先輩と結城、樹は中距離から、東郷は狙撃で後方からの支援。指定したルートに沿いながらバーテックスを優先して掃討してくれ。三好、君も前衛としての役割だ…いいな?」

 

「……文句はないわよ。その前に聞きたいことがあるんだけど」

 

前回先走ってしまった事もあってか夏凜からも異はないようだが質問を投げかけてきた。

 

「その『ジークフリードシステム』だっけ、前にあんな事言ったし、犬先輩たちが平然と使ってるんだけど本当に使っても問題ないの?」

 

「夏凜、どうして今聞くの?」

 

「勇者システムに対してそういう啖呵切って来たんだから何だかんだでデメリットがありますって事になったら困るからね」

 

「「「「あ……」」」」

 

その率直な言葉に勇者たちも動揺が走る。もしも、夏凜の言葉通りなら以前総士たちが反論した勇者システムの通りとなってしまう。

 

「心配ないよ、夏凜」

 

「この時が来るまでに力をより深く理解し研究を進めてきた。みんなのスマホにはその制御用のプログラムを。精霊たちにはその補助を行うための力を与えてある」

「与えた力はこの世界に来た私たちの祝福みたいなもの。だから…その力に恐れないで」

 

夏凜の問いに乙姫が真っ先に答えた。総士の補足も加わった事により一同は納得したような様子を見せる。

 

「そ、分かったわ。今はそういう事にしておいてあげる」

 

夏凜は数歩前へと歩み出る。

 

「どうしたの? 敵は目の前なのよ」

 

ぽかんとしていた勇者たちに声をかけると二振りの刀を現界させ構えた。

 

「総士、『ジークフリードシステム』の接続をお願い!」

 

「……了解した。クロッシングを開始する!」

 

その刹那、クロッシングの接続の影響で夏凜の全身に鋭い痛みが走った。

 

「―――!」

 

あまりにも痛みに夏凜は思わず食いしばった。しかめっ面となっている様子を見かねて友奈が声をかける。

 

「ええと、夏凜ちゃん大丈夫?…痛い…よね」

 

「……平気よ」

 

ぽつりと呟くように言うと夏凜はそのまま跳躍して侵攻するバーテックスの方へと向かって行った。

 

「接続には成功したが……」

 

「あ~らら、夏凜の奴、やせ我慢しちゃって」

 

「それよりも早く行かないと」

 

「風先輩、三好の事を頼めますか」

 

「OK~。まあ、前みたいな無茶はしないと思うけどね。みんな、行くわよ」

 

システムへの接続確認ができた旨を伝えると風の一声と共に勇者たちは夏凜の後を追い、バーテックスの群れへと向かって行った。その場には一騎・総士・乙姫の3人が残された。

 

「……今はこの戦闘を切り抜ける。一騎は遊撃要因で勇者たちを援護。乙姫は前回と同じだ」

 

「あぁ」

「わかったよ。総士」

 

総士は短い指示を聞き入れると一騎は思いっきり跳んだ。一騎はまるで「俺はこれだけ跳べるんだ」という感じで地面から蹴りだすと数十メートルを一跳びで移動すると着地、素の状態でどれだけ跳べるかを把握すると今度は背部のスラスターを吹かし跳ぶ、一瞬で数キロの距離を消滅させ敵集団へと迫った。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

視点:戦闘

 

ひずみを超えてきた勇者たちは星屑のバーテックスとの戦闘に突入した。

 

「せいっ!」

 

夏凜はほとんど反射に近い速度で二振りの刀を振るう。友奈の近くに寄っていた星屑が両断された。次の敵を狙い構えなおすと跳躍し敵バーテックスの集団へと詰める。

 

「はあああぁっーーー!」

 

白き閃光となった刃が敵の身体を切り裂き先頭の個体が両断される。二振りの白刃は次々と星屑を切り裂いていき、夏凜は集団へ割り込み駆けていく。長年の修練の成果をいかんなく発揮し紅色の暴風となった夏凜の速度に敵は対応できない。

 

「夏凜ちゃん凄い! よぉし! 勇者…ソバット!」

 

活躍に感心しつつも友奈も夏凜の後へ続く。星屑の噛みつきをひらりといなしつつ自分の身体を回転し後ろ向きになりつつその勢いのまま蹴り込む。後ろ蹴りをもろにくらった星屑の身体がくの字に曲がり吹っ飛んだ。

 

(緊張感のない……まあ、怖がってないところを見ると『慣れた』というのかしら。それに前々から見ていたけどそれなりに戦えている。少し浮ついているような感じだけどね)

 

どこか間の抜けている感じだが友奈を含め他の勇者たちもそれぞれの役割をしっかりとこなしている。今回の勇者システムは突然選ばれた少女でもいきなり戦えるほどの性能を誇っている。前回の戦闘の詳細を知らなかったとはいえ、普通の日常にいた少女たちがここまで戦えるとは訓練を重ねてきた夏凜にも思わぬ事だった。

 

《(たしかに三好の言う通りかもしれないな)三好、そのポイントの星屑は掃討された。次のポイントまでの道を開く》

 

総士の通信による音声と共に星屑数体が光線のような光に撃ち抜かれる。見れば一騎が銃のような武器を構え発射されるレーザーで的確に撃ちぬいていた。

 

今回、一騎は近接支援射撃による援護のために『ゲーグナー』と呼ばれるマシンガンタイプのレーザー銃を採用していた。この火器はレールガンよりも連射が可能で取り回しの利く利点が大きいためこのような数での戦いにはうってつけだ。

 

《ポイントクリア…次は結城の援護だ》

 

「次はそっちだな」

 

《風先輩、突出し過ぎています。東郷、風と樹のフォローを》

 

「りょーかいっ!」

「任務、了解です! 射線に注意して!」

「わかりました~!」

 

総士の指示を受けると一騎は近接格闘になるとルガーランスを振るい、次の援護地点へと向かう。長距離狙撃を東郷が担当する分動き易くなった一騎は総士の指示のもと次々と勇者たちが立ち回りやすいように星屑を仕留めていく。さらに勇者たちの動きにも気を配り、指示を飛ばし常に優勢な状況を保っていた。

 

 

 

戦闘開始から数刻後、敵の殆どが掃討されたが唐突に異変が起こった。

 

「(!?)何かくる!」

 

真っ先に気づいた友奈が叫ぶ。同時に総士の端末に2種類の情報が送られてくる。

 

『え?』

「……また?」

 

壁の揺らぎを見上げる友奈たち勇者と一騎たち。出てきた巨大で異質な存在に絶句した。

 

「ちょ、どういう事なのよ! アンタ達が倒したんでしょう!?」

 

夏凜も声をあげ、明らかに動揺している。

 

「総士、どういうことよ?」

 

「ソロモンに反応なし。逆にバーテックス反応に酷似。あれは『乙女座(ヴィルゴ)バーテックス』そのものだ」

 

揺らぎから出てきたのはヴァルゴ(乙女座)・バーテックス。神樹に選ばれた勇者である友奈・風・樹により倒されたはずの大型のバーテックスである。そのバーテックスの周りに取り巻きのような形で星屑のバーテックスが壁を越え侵入してきた。

 

「詮索は後よ。出てくるならまたぶっ倒してやるまでよ!」

 

《よせ、態勢が整ってない!》

 

困惑している一同に怒号のような声で檄を飛ばす。また倒してやろうと意気揚々に大剣を構え突撃をかけようとした。冷静に状況を見定めていた総士はすぐに声をかけ止めようとした。

 

「(!?)早い! くっ!!」

 

取り巻きにいた鋭利な角をもったバーテックスが急加速ミサイルのような速度で風に突っ込んできた。咄嗟に大剣を盾のように構え防いだ。しかし、突進の勢いに風が押されてしまう。

 

「風先輩!」

「このお魚の形したバーテックス、ひらひらと避けてくるよぉ」

 

吹っ飛ばされた風に気に掛けようとした友奈と樹だったが、彼女ら2人には魚のようなバーテックスがその周囲に纏わりつく形で取り囲んでいた。まるで泳ぐかのように空を舞い2人の攻撃をひらりと躱し、その隙を狙って噛みつこう接近、それを2人は躱すというに苦戦していた。

 

「ええい! 唸れ、私の女子力!」

 

風は大剣を樹海の根に突き立てる。大剣を押すような形でブレーキをかけると敵の突進をなんとか停める。

 

「(!?)はっ!」

 

だが、突進を止めた事により風に大きな隙が生じた。ヴァルゴ・バーテックスが風に目掛け尾から大量の爆弾を射出してきた。

 

「しまった! これじゃ動けない!」

 

《連携! ッ!!!》

 

風が声をあげ、総士が舌打ちをした。逃れようにも風の体は持っている大剣と樹海の根に挟み込まれるような形となっており動けずにいた。風は迫りくる『人類の敵』の自分の仲間すら利用した無慈悲な爆撃に思わず目を瞑った。

 

《一騎、東郷。カバー!!!》

 

「させるかぁ!」

「一騎君、合わせます!」

 

否、一騎が走りながらゲーグナーで連射、東郷はノルンの支援と散弾銃による弾幕を形成させ爆弾をすべて撃ち落とす。風に距離を詰めると鋭利な角をもったバーテックスをルガーランスで両断した。

 

「やぁっ!」

 

夏凜が十字に切るように二刀で一閃。数体の魚のようなバーテックス数体が一瞬遅れ、滑り落ちるような形で両断された。

 

「夏凜ちゃん!」

「助かりました!」

 

「惚けないで! 敵はまだいるっての!」

 

友奈と樹に叱咤しつつ夏凜は両手に持った刀を一振るいする。魚のようなバーテックスは夏凜を攪乱しようとその周囲を泳ぐ。

 

「いい? 直線的すぎるから躱されるの」

 

夏凜に目掛け魚のようなバーテックスが噛みついて来ようとした。しかし、夏凜は刹那のタイミングでそれを躱すとすれ違いざまに切り捨てる。

 

「あっちも同じ。攻撃したら隙ができる。それを狙って」

 

2人にアドバイスを送りながらバーテックスを一刀両断。その場にいた敵をすべて倒してしまった。

 

「せ…精霊のバリアがあるとは言え……死ぬかと思ったわ。残りはあのバーテックスだけね」

 

そこに風たちが合流してくる。残っている敵はヴァルゴ・バーテックスのみとなった。

 

「風先輩、前と同じバーテックスだったら……」

 

「そうね。御霊はものすっごーく硬いかも」

 

「そ、そうなの!?」

 

最初のバーテックスの光線の事を思い出したかのうように友奈が拳をさすりながら言う。その話を聞いた夏凜がしかめっ面となる。

 

総士は前回の戦闘状況などを推考し戦闘プランを構築する。

 

《初回の戦闘と同じでやり方でいく。東郷と乙姫は勇者たちが配置につけるようヴァルゴに対して支援攻撃。配置についたら封印役は樹と夏凜、御霊への対処は風先輩と結城、さらに保険として一騎。お前に任せる》

 

「ま、しょうがないわね。話の通りなら私のシステムじゃあ相性最悪だしね」

 

「決まったわね。勇者部突撃!!!」

 

風の一声と共に散会。ヴァルゴ・バーテックスが怒涛の攻撃を仕掛けるも東郷の狙撃援護と乙姫のノルンによる攪乱・牽制の前に何も意味をなさない。あっという間に勇者たちに取り囲まれてしまう。

 

「配置につきました~!」

「いい? しくじるんじゃないわよ……封印開始!」

 

樹と夏凜により結界が展開。ヴァルゴ・バーテックスの体がめくれ四角睡の形をした物体…『御霊』が飛び出してきた。

 

「汚名返上といくわよ!」

 

風が飛び上がり上段に構えた大剣を叩きこむ。ガツンという大きな衝撃音と堅いもの同士が接触し火花が飛び散る。

 

「ッ!? 前より硬い!」

 

「風先輩!」

 

「友奈、あんたは力を溜めて!」

 

御霊に飛び乗ると風は何度も何度も大剣を叩きつける。最初の時より相当硬くなっており叩きつけた衝撃で手が痺れそうになる。

 

「ちょっと、時間意外とないわよ!」

 

「あたしの女子力はこんなものじゃないわよ!」

 

数十回叩きつけ少し罅が入る。どうやら、壊せないほどまでにはなっていないようだ。

 

「友奈、今よ!」

 

風が後ろへと跳ぶと友奈が御霊に乗る。そして、右手を高く掲げる。

 

「勇者ァ…パーーーーーンチ!!!」

 

桜色を纏った必殺の一撃を御霊に思いっきり叩きつける。風が入れた罅に叩き込まれた拳は外殻を貫き穴をあけた。

 

「やった!」

 

《まだだ、活動を停止していない!》

 

大穴を開けているものの御霊はギリギリの状態で活動していた。やったと思っていた友奈を尻目にその場を高速回転。

 

「わわわ…きゃぁ!」

 

上に乗っていた友奈を弾き飛ばした。友奈は空中に身を投げ出されたがその場で受け身をとると近くにあった樹海の根にしがみついた。

 

「び、びっくりしたー…」

 

《一騎、『ピラム』を使え!》

 

「やってみる!」

 

いつの間に御霊の真上へと跳躍した一騎は持っていた先端に刃が付いた武器で狙いを定める。すると先端の矢のような形状をした部分を射出され、友奈の必殺の一撃で空けた穴へと寸分たがわずに入り込むと内部へと突き刺さる。さらにトリガーを引くと矢じりと柄を繋ぐワイヤーを通して対象に電流が送り込まれる。

 

【!!!!!!!!】

 

高圧電流を受けた御霊から煙が上がる。すると突き刺さった部分から土色へと変色していき御霊全体を覆う。ピラムの矢じりが引き抜かれると力を失った御霊がそのまま地上へと落下し破砕、残ったヴァルゴ・バーテックスの身体も砂へと還った。

 

《ヴァルゴ・バーテックスの殲滅を確認。敵はもういないようだ》

 

【フェストゥムはいなかったね。総士】

 

《あぁ、気になるところだがな》

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「自信があるのは結構……だけど、油断し過ぎよ!」

 

「「……ごめんなさい」」

「重々に反省しております」

 

戦闘終了後、友奈・風・樹を待っていたのは夏凜の説教であった。御役目に成功したもののその成果は上手くいったとは思えなかった。友奈たちもその事に対して思うところもあり、これまでの戦闘をこなしていたせいもあって少し浮ついていたのを自覚ししょんぼりとしていた。

 

「そこまでにしておけよ三好。みんなも反省しているようだしさ」

「そうよ。今回は私たちに慢心があったとはいえ、一騎君と夏凜ちゃん、乙姫ちゃんの援護で事なきを得たわ。だからこそ、その失敗を生かすべきだと思うわ」

 

「まぁ…分かればいいのよ。分かれば」

 

「はい……東郷さんの言う通りですね」

「……前にもなんとか倒せたし、あっさりとやれると思ってた。私たちに確かに油断があったかもね」

「なら、次はどうするか考えようよ」

 

一騎と東郷からのフォローも入った事で夏凜も一応は鞘を納めることにした。ポジティブな様子で失敗をどう活かすか意見交換を始めた友奈たち。夏凜はそんな和気藹々とした様子をみて仕方ないなという感じで息を吐いた。

 

「そうね……。アタシとしてもアンタ達がやられたら後味悪いし、こんな事にならないよう帰ったら特訓よ!」

 

『えぇぇぇ!!!』

 

「神樹様の力があっても使うのは君たちだ。それの使い方が伴っていなければ今のように足をすくわれてしまう。三好の意見に僕は賛成だな。(ま、三好がやり過ぎない様釘は刺すとしておくか)」

 

 

 

「(!?)あっ! 待って! ……行っちゃった」

 

友奈が樹海の樹々の合間に何かがいたのに気が付いた。発見したその刹那すぐに引っ込んでしまったが人影のような存在がいたように見えた。

 

「友奈、何かあったのか?」

 

「うん。今、そこに女の子がいたような?」

 

「ふぇ! お…お化けじゃ…ないよね」

 

樹が驚きの声をあげ周囲を見渡すも広がっているのはもはや見慣れてしまった樹海の風景である。

 

「……周囲にまったく反応がない」

 

さらに総士が断言する。友奈は端末を取り出し周囲検索をかけたが反応はない。

 

「そう…だよね。樹海の中で動けるのは、私たちだけだもんね」

 

「友奈ちゃん、気になるようだけど…樹海化がそろそろ解けるわ」

 

気のせいだと思いたいが樹海内にいたとされる人影がどうしても気になってしまう。東郷の一声と樹海化が解ける兆候が表れ始めたのもあって、友奈は一先ず頭の隅に追いやることにした。もはや定番となった桜吹雪が舞い、一同は日常の世界へと帰還を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:樹海の少女

 

「う~ん、強化したんだけどあっさりと……神樹様の力は一通り使いこなせてるって感じかなぁ~」

 

樹海の木の陰から1人の少女が飛び出してきた。小学生くらいの身長でどこかの学校の制服に身を包んでいた。友奈が見かけたのはこの少女であり、勇者たちの戦闘を陰から見ていた。

 

「粗削りだけど、私たちよりも強化されたシステムを使いこなしているし、仲も良いみたいだね。だけど~戦うってことはどう感じているのかな~」

 

「あ、いたいた」

 

意味深に呟いていると少女と同年齢と思われる少年が歩み寄ってきた。

 

「お~無事にこちらに来れたんだね~」

 

「先に行っちゃうからさ~随分と迷ってしまったよ。それにこの身体…なんだか動きづらい」

 

「まだこの世界に慣れていないから仕方ないよ」

 

「それで君の求める答えにはなったのかな」

 

「まだまだだよ~。求めるものはまだ先だと思うしもう少し暗躍するのだ~」

 

「そっか。それじゃ戻る?」

 

「うん~」

 

2人は手をつなぐと舞う花びらと共に樹海の世界から姿を消した。




ここから一騎はファフナーを纏った姿となります。ゆゆゆ原作6話で少しやりたいことができてちと生身だと構成上きつかったもので……。

『鷲尾須美の章』第3章『やくそく』上映前になんとか投稿完了。遅れた原因の大半はゆゆゆいですw

ちなみに私はランクは100超え。さらに今日、SSR秋原雪花も引いてるような状態とかなりのやり込み勢となっています。

しかしながら7月7日に満を持して3日限定でSSR三ノ輪銀を投入とは運営も粋なんだか狙いすましたかのようにやってきおって……。


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第3話 異変

『樹海の記憶』で起こった事件の語りを中心とした繋ぎ回。

ここ最近、いろんな意味で忙しく。執筆する機会がなかったが久しぶりの投稿です。


視点:3人称

 

「敵バーテックス、及び『星屑』を撃滅しました」

 

大型のバーテックス『乙女座(ヴァルゴ)』を再び殲滅してから数日。勇者部の一同と一騎たちは今日も樹海で御役目を果たしていた。これまでの戦いと一騎や総士・乙姫のサポートもあり、ほぼ完封といった感じで勝利をおさめた。

 

「よぅし、お疲れ! みんな、集まって!」

 

東郷からの報告を受け風が労いの言葉をかける。警戒態勢を解くと、ふと肩が軽くなったと思ったら担いだ大剣が消えているのに気づく。

 

「アンタもご苦労様。あとでご飯あげるからね」

 

「お姉ちゃん、お疲れ」

 

目の前にいた犬神が気遣って大剣を格納してくれたと思い、労いの言葉をかけて撫でる。風的には犬神のこのモフモフとした感じが好きで、犬神自体も満更ではない様子で堪能させていた。そうしている間に樹が風に駆け寄ってきたが、

 

「(!?)お姉ちゃん、後ろ! この前の女の子が」

 

風は反射的に振り向くと樹海の根の奥へと走って行っていく制服姿の女の子をちらっと見つけた。

 

「行っちゃった…。声かける暇すらなかった」

 

「風先輩! 女の子は?」

 

やって来た友奈・東郷・夏凜に上手くいかなかった表情で首を振る。友奈がしんみりとした感じとなる。

 

「そっか。でも、無事なようなんですね」

 

「そうね。……最初が友奈で、その次が東郷、夏凜に、今回はアタシ達。これで見てないのは真壁や皆城兄妹となったか」

 

友奈が女の子が怪我ひとつなく無事な様子にほっと安堵する。すると、東郷がふと呟いた。

 

「そういえば、今回の敵も前に倒した個体でしたね」

 

「はい、東郷先輩の言う通り『射手座』でした。『蟹座』、『蠍座』に続いてですね」

 

「襲来もパターン化、前まで周期が乱れていたのに……いったいどうなっているのかしら」

 

これまでの不規則なパターンではなく、数日の間をおいて攻めてくるというのになっていた。今回の襲撃はこの前から数え4回目なのである。そう話しているうちに一騎たちが戻ってきた。

 

「あ、真壁、総士、乙姫ちゃんお疲れ様。そっちはどうだった?」

 

「特に滞りはありません。…今回もフェストゥムの姿はなしでした」

 

「そう。…ところで、そっちの方でまた女の子見なかったかしら?」

 

「(!?)いたのですか?」

「残念だけど、私たちは見てないよ~」

 

「総士の方は?」

 

「……ないです。あらゆる探知も反応がありませんでした」

 

総士も首を横に振る。3人の報告に風は深く息を吐く。

 

「総士、みんな、あの子を探しに行ってこようか?」

 

「真壁、あの子を探しに行きたいのはやまやまだけど、じきに樹海化も収まるわ」

 

「勇者システムや総士たちの万能システムが当てにならない以上、戻ってから探すのは針山から針を探すようなもんだしね」

 

一騎が探しに行くという提案をする。風はありがたく頂くも樹海化も解けるという事でそれを諫める。夏凜からも勇者システムの端末などの探査にも引っかからず、探すのには手間がかかってしまうと主張される。

 

一同は少女の事が気になってはいたが、仕方ないという感じで受け入れた。

 

(バーテックスの侵攻の変化。樹海にいるとされるシステムの索敵にも引っかからない少女……何かあるのか)

 

そんな中、総士はこれまでの事に疑問を感じていた。しかし、情報が不足または不鮮明なため様々な憶測を生んだもののこれといった結論には至らず、何もわからず仕舞いとなっていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

明くる日の放課後、一同は勇者部部室内に集まっていた。部室内では風が神妙な面持ちで腕を組んで立っており、その表情から友奈はただ事ではないと思い静かに訊ねた。

 

「全員、集まったわね……」

 

「どうしたんですか風先輩? 怖い顔して……」

 

「……単刀直入に言うわ。昨日、大赦から報告があった。…………『壁』が枯れ始めたって……」

 

「ええっ!?」

「うそっ!? 壁が枯れるなんて一大事よ!?」

 

風の言葉に数瞬の間を置いてから理解した友奈たちが声を挙げる。神樹の『壁』は、彼女達も含め四国に住む人々にとってなくてはならない。それが枯れ始めるだけでも重大な危機を意味している。

 

「お姉ちゃん……」

「「……!」」

 

その事態に樹は不安げな表情で姉風を見つめ、一騎と東郷も息を呑んだ。さすがの総士も風の報告に衝撃を受けていたようだが、報告を終えた風にさらに訊ねる。

 

「風先輩、大赦はその件に対して他に何か情報は?」

 

「前代未聞なんだけど、不思議な事にこの件に気づいているのは私たちと大赦だけみたい」

 

「なんで……壁が枯れるなんて一大事なのに!」

 

「原因は不明。調査中だって……」

 

声を荒げる夏凜。風も大赦からの報告を目に通したが、現時点ではわからないと告げるしかなく、少し肩を落とす。今度は樹が恐る恐る手を挙げて訊ねてくる。

 

「お姉ちゃん、私も聞きたいことがあるの……あの時、女の子がいたよね?」

 

「そうね。ちらっとだけど見かけたわ」

「私も見ました!」

「む、そういえば」

「はい、私も見かけました」

 

話題が樹海にいた謎の少女へと移ると、目撃した勇者たちが騒めく。すると成り行きを静かに見守っていた一騎たちが呟いた。

 

「俺や総士は見てないけど……見間違いとかはないのか」

 

「うん、たしかにいたよ」

 

「これが1人だったらまだしも、結城たち複数人見てるとなると幻とか見間違いっていう感じじゃない事は確かだな」

 

道生がううむと腕を組み唸る。

 

「……大赦にも確認したんだけど、アタシ達以外には存在しないっていう返答があっただけ……」

 

「勇者じゃないの? じゃあ、何であそこにいたんだろう」

 

樹海にいれるのは特別な事情のある(イレギュラーケースである)一騎たちを除けば神樹に選ばれた勇者だけである。その訳が分からず、勇者部の一同は頭をうねって考え込む。

 

「どうしたの、総士君? さっきから静かなようだけど」

 

静かに佇み何か考え込んでいる様子の総士が気になったのか東郷が声をかける。

 

「再び現れたとされるバーテックス、樹海にいた少女、四国を守護する壁の異変。ここ最近、立て続けに連続して事が起こっている。しかしな……」

 

ぶつぶつと言い、さらに考え込む総士。暫くしてから見上げると、

 

「確証がありませんが。僕としては今回の事態…どれも何かで繋がっているようにしか思えないのです」

 

事が起こった時期が重なっており、偶然としては出来すぎているのに総士は大きな疑問を持っていた。

 

「……うむ。言われてみれば」

「神樹様の壁が枯れ始めたのも…樹海にあの少女が現れた頃ね」

 

総士の推論に風と夏凜が相槌をうつ。勇者部内でもあまりにも的を得ているともいえる意見に思え俄かにざわついた。

 

「それとこれまでの情報から推測しただけですので、大赦等の調査次第などでは変わってくると思います」

 

総士が最後にそのように付け加え言葉を終える。

 

「やはり私たちも何か手伝ったほうが……」

 

「おっと…調査の方なんだが、今は俺たち大人に任せてくれないか?」

 

道生から調査の方を任せてほしいと提案される。風が困惑した様子で訊ねてきた。

 

「え、どうしてですか?」

 

「言っただろ。戦うのが無理だから、君たちが万全に戦えるようにサポートするって、今がその時だ。ところで、…勇者部の活動の方はどうだ?」

 

「え、はい。…東郷」

「『子猫の飼い主探し』の方はホームページでの宣伝が完了しています。まだまだ呼びかけるつもりですが、あとは飼い主になりたい人の連絡待ちですね」

 

「そうか。なら、俺から君たちに言いたいことは只一つ。少し休んでほしい」

 

勇者部の活動も半ば完了していることを東郷が報告する。そして、活動内容も滞りがない事を確認した道生から休めと告げた。

 

「(こんな事態なのに!)で、でも……」

 

風から焦りに近いような感情の言葉が漏れる。

 

「風先輩、焦っても事はそう簡単には変わりません。『勇者システム』は持ち主の精神状態が大きく関わってきます。バーテックスの襲来が頻発し、壁の事で不安になってるのもわかりますが、張り詰めっぱなしでいざという時に変身できなくなったらそれでこそ弊害が出てしまいます」

 

総士が風の言葉を遮り、筋立った理由をつけて言い放つ。すると……意外な子が風に対し口を開いた。

 

「……お姉ちゃん。あまり根詰めるのも駄目だよ…。道生先生や総士先輩の言う通り、休も。……ね? 顔、少し怖かったよ」

 

「樹……」

 

樹が風の目をじっと見つめ、いつもと違う姉を宥めるかのように優しく語り掛ける。

 

「……そんなに酷い顔だった?」

 

「うん」

 

その言葉を聞いた風はどうやら思いとどまったようで、再び道生へと向かい合うと

 

「……わかりました。勇者部一同、休ませていただきます」

 

「おう、明日は偶然か振替休日ありの連休だ。しっかり休めよ」

 

「休み! やった!」

 

勇者たちの反応も多種多様だ。友奈がわいわいと騒ぎ、東郷と樹は喜ぶ友奈の姿に微笑んだ。

 

「(ふん、別に休まなくてもいいんだけど……。それなら特訓して)」

 

「あ、せっかくだし。夏凜は朝練以外の訓練禁止ね」

 

「はぁ、なんで!?」

 

これまでの学校生活や勇者部の活動で夏凜の生活パターンを知っていた風から先手をうたれ夏凜から素っ頓狂な声があがった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎

 

話をまとめ終えると解散の運びとなった。風たちは先に帰っていったが、部室内には一騎と総士が残っていた。アルヴィスの一員として道生と話をするためである。

 

「うまくいってよかった。感謝するぜ」

 

一騎と総士に会釈をし感謝を述べる。実は2人は道生に頼まれ、風たちを休むように促がしたのである。

 

「友奈を含めて何かをしてないと落ち着かないような子たちですから」

 

一騎がここ最近、勇者たちがどうも落ち着いてなく。連続した襲来でどうも不安に駆られていたようだったと語る。それは総士や道生も感じていたようで、少し強引ながらもこのように了承させたのである。

 

「さてと、お前ら今回の事件はどう思う?」

 

「妙な点が多すぎると思います。……時間が少ない割に情報が少ない」

 

「時間がないって……?」

 

総士の一言に一騎は反応する。

 

「……壁が完全に枯れてしまったら、四国の結界は失われる。あれからフェストゥムも姿を現していない。もしかしたら…手を下さなくてもそうなる事を知っているのかもしれない」

 

総士は風たち勇者には語らなかったが、彼自身が考えた最も最悪な可能性を語る。

 

「―――ッ。させないさ!」

 

一騎の言葉に思わず総士が真顔となる。一騎自身もそれは理解しているつもりだし、そうはさせるつもりはない。それを垣間見た総士もふっと短く笑う。彼も一騎と同じ心境のようだ。

 

「ここ最近、乙姫が積極的に動いているそうです」

 

「へぇ、乙姫ちゃんがか。やっぱ元は島のコアだが、以前と同じで自分で情報を集めているのか」

 

「そうですね。一騎のこともあったので、春信さんたちが彼女の身辺警護についているそうですが。近く、それとなく彼女に聞いてみようと思います」

 

『島のコア』としての力をもった乙姫なら今回の件に関して何か知っているかもしれない。建前上は公正であるため、回りくどい事にはなりそうだが、確かな答えや選択を導いてくれるものだと総士は睨んでいた。

 

これ以上は話すこともなくなってきたので、一騎と総士は勇者部部室のドアへと向かう。

 

「壁が枯れた原因の調査は迅速に行う。お前らも一応は休みだからといって羽目を外しすぎるなよ」

 

「「わかりました」」

 

道生のほうへ振り向き返事をしてからドアを開け帰路につく一騎と総士。この2人も道生から直々に休暇を言い渡されている(総士に関してはアルヴィスの活動を緊急時以外の禁止)。久しぶりの休みもあって友奈たちからある場所へとお出かけしようと誘いを受けている。彼ら自身も四国に忍び寄る危機に大しては思うところもあるが、今の状態ではやれることはない。何か光明を乙姫やアルヴィス・一応は大赦の調査で判明してくれることを細やかに願った。




次話は日常よりの話を描こうと思います。

以下、解説。
●犬吠埼姉妹
この時点では風は御役目への責務を背負い込んでおり、その重圧で必死になっているような状態(原作4話時点)で、樹は姉である風が心配であり思わず言ってしまったような感じとしてあります。


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第4話 『勇者』との休日 その1

出だしの部分のみで短め……ですが、後々の重要な伏線を。


翌日、一騎と総士は真壁家の前いた。今日は友奈たちと遊びに行く約束をしており、そのための待ち合わせてある。しかしながら、友奈たちも華の女子中学生、お出かけの準備には時間はかかるものである。

 

「一騎君、総士君、おはよっ!」

「おはよう! …待たせたかしら?」

 

一騎たちは雑談をしながら時間をつぶしていると、友奈が東郷の車椅子を押しながら結城家から出てきた。

 

「おはよう、友奈、東郷」

「…こちらも今来たところだ」

 

「あら、乙姫ちゃんはどうしたの?」

 

「乙姫は友達と遊びに行くって言って、朝早々に出て行ったよ」

 

「そうなんだ」

 

乙姫の不在を総士から聞き、納得したようにうなずく友奈と東郷。

 

「それでどこへ行くんだ?」

 

友奈たちから誘われたがその目的地は聞いていない。一騎の問いに友奈が反応を示した。

 

「うーんとね。あった、はい」

 

友奈がじゃじゃーんと陽気に口ずさむとスマートフォンのあるページを見せびらかしてきた。

 

「ほう、『イネス』か」

「確かこの前、うちにもチラシ来てたな」

 

「うん」

 

『イネス』という大型のショッピングモールサイトで、その新装開店のお知らせやイベント内容が網羅されている。

 

「あれ? 俺が友奈と会った時からなかったっけ?」

 

「あったね~」

「最近、駅前のほうで大規模な再開発が行われて新しくなったそうよ」

 

東郷からの補足もあり一騎たちも駅前でそんな事が行われていたなと思い出す。

 

「そうか。なら今日はそこへと向かうのか」

 

「うん、いいかな」

 

「せっかくの休みで僕たちも特に予定がない。付き合おう」

 

「やった!」

「ひゃ、友奈ちゃん、落ち着いて!」

 

はしゃぐ友奈が東郷の車椅子を押し我先に歩みだす。それが少し子供っぽいなと思いつつも一騎と総士も続いていく。

 

 

 

一同は市内を巡回するバスに乗り、目的の駅前方面へとたどり着いた。

 

「うわ~…」

 

友奈が見上げ辺りを見渡す。讃州中学周辺の自然の営みが残る場所とはうって変わって、駅前は開発が進み高層ビルが建ち並び発展したちょっとした摩天楼のようになっていた。

 

「すっごいよ~東郷さん。まるで迷路みたいだよ~」

「友奈ちゃん、迷っても私がいるから」

「えへへ、ありがと~東郷さん」

 

友奈は普段来ない駅前にはしゃぎながらも車椅子を巧みに操っているものの、人通りの多い場所であるための接触もありえる。そんな一騎たちはぶつからないように配慮しながら歩いている。

 

「一騎君、そんなに駅前が珍しい?」

 

「ん、あぁ。こっちにはあまり来ないからな。…竜宮島と比べれば随分と都会かもな」

 

「一騎からすれば物珍しいと思うのは無理はないな」

 

友奈たちにも一騎たちがいた世界、特に故郷である『竜宮島』のことは話してあるが彼女たちにとっては漫然としたイメージしかない。一騎と総士はせっかくなので話のタネとして語る事にした。

 

「……なんか田舎っぽい」

 

「だろ?」

 

最初はどのような生活だったかを語る。その話から友奈はつい思った第一印象をぽつりと呟いた。『竜宮島』は華やかなのは名ばかりで、友奈たちのいる街とは同じ山と海と自然には恵まれているが、「ど」を冠するにふさわしい田舎が竜宮島の表向きの姿なのである。

 

「竜宮島の街並みは『日本の平和と文化を継承』のための再現でもあったからな。おそらく、こちらの世界から見れば前時代的と言えるだろう」

 

「うーん、南の島って考えれば良さそうなんだけど、こう娯楽がないんじゃなぁ……」

 

友奈が少し残念そうにぼやく。

 

「……そうだったのか」

「『日本の平和と文化を継承』ね……」

 

「時代で言えば昭和初期くらいだ」

 

「それ、本当!? 詳しく聞かせて」

 

そんな東郷は竜宮島の文化の方に興味をもった。彼女の多種で濃ゆい感性を刺激したようである。

 

(このような話にここまで興味をもつのか)

 

東郷の変貌にさすがの総士もたじろいだが、質問に答える形で知る限りの説明を行った。

 

そうこう話しているうちに一同は目的地であるショッピングモール『イネス』近くへとたどり着いた。連休とイネス新装開店が重なった初日ということで人の往来はそれなりにあり、混雑しそうに思えた。

 

「それで風先輩たちとはどのように合流を」

 

「風先輩と樹ちゃんは開店直後のセールでもう来ているだろうし、夏凜ちゃんも時間通りに来るならもう向かってくると思うんだけど、どこで待ち合わせるか聞こうか?」

 

「お、友奈たち発見!」

 

風が手を振りながら友奈たちの元へ歩み寄ってくる。その後ろには樹となぜか夏凜もいた。

 

「いやぁ、ほんとっ偶然。荷物置きに帰宅してからもっかい来たんだけど、もしやと思った後ろ姿でね」

「人がいっぱいですから、こうしてすんなり集まれてよかったです」

 

樹の一言に一同は納得したかのように頷く。

 

「夏凜ちゃんも来たんだね」

 

「……まぁ、誘われてたわけだし」

 

「夏凜ったら、朝からイネスにいたのよ。にぼしとサプリ目当てで」

 

「ちょい待ち!」

 

意地が悪そうな笑みを浮かべながら風が経緯を説明する。すると夏凜は顔を真っ赤にしギャーと風に食って掛かる。

 

「あはは…どうしましょうか」

「こうなると止めづらいな」

 

目の前の状況にぽつんと置いてかれている感じの樹が乾いた笑みを浮かべ、一騎が困ったような表情で見つめ、総士ははぁと深いため息を吐く。

 

「(ふう、集まると姦しいとはよくいうが……ここまでとはな)みんな、そろそろ行きましょうか?」

(この状況で止めにいった!)

 

「あ、そうね。……みんな、今日は楽しむわよ~」

 

ちょうどよいタイミングで総士がとめると、風がみんなを促すと夏凜を除いた女子陣が『はーい』と返事をした。

 

「お母さん、ショーまで後何分~?」

「11時になったばかりよ。後30分もあるわ」

 

いざ行こうとしたときに通りすがった親子の微笑ましい様子につられて東郷は笑みを浮かべる。これからどんな楽しい日常になるか、東郷は心が躍らせつつも車椅子を押している友奈に話題を振ろうとした。

 

友奈とどんな話をしよう。『イネス』という普段では出かけない場所でどのように過ごそう。そのように思いを巡らせ入口のドアを潜ろうとした矢先。

 

【わっしー今、何分?】

【15時20分だから、後10分ね。もう少しでおばさんが入ってくると思うわ】

【わーい】

 

「え……?」

 

東郷が唖然とした状態で、口を僅かに開け佇む。脳裏に映像のようなモノが流れ込んできた。『わっしー』と呼んだ土黄色の髪の少女と時間を確認しあう内容で、東郷は突然の事態に意味が分からずぽかんとしている。

 

(最初は『イネス』っていう名を聞いても何も思わなかったのに…私、讃州市ではない『イネス』へ来たことがある? ……いえ、同じ系列の企業だからなのかしら)

 

「東郷さん? どうしたの、具合が悪いの?」

 

「あ、え。…なんでもないわ。普段来ないところだから、惚けちゃって」

 

「そう?」

 

友奈が止まってから心配そうに顔を覗き見してきた。はっと我に返った東郷は友奈を安心させようと惚けた事を告げる。友奈は一瞬首を傾げたが、東郷に問題がないと分かりすぐに微笑み返した。




次話は一騎と友奈メインの日常パートの予定です。

最近、あまり執筆する時間がとれずにいました。ゆゆゆ2期放送まで後2週間となりましたが、なんとか『樹海の記憶』編を進めなければなあ。

【今話の蛇足シリーズ】
『花結いのきらめき』のランク200突破しました。けど、最近新規SSRのラッシュが多くてSSRの絶対数増えたから狙って引きづらくなったなあ。

無料恵み2300で回したら、夏イベントの東郷さんだったし。


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第5話 『勇者』との休日 その2

大変遅くなって申し訳ありません。色々構成などで悩んだり、忙しかったりと色々ありました(ゆゆゆいのやり込みも含めてですか…はい、そうです)。

久しぶりの投稿。一気に休日話編を終わらせます。


イネスとは四国全域に展開する有名なショッピングモールのことである。イネスは駅前や人通りの多い繁華街にあると言われている。イネスならなんでも買えると言われている。週末はイネスで過ごす人も多い等々、友奈たち四国の人々にとってそのネームバリューはそれほど大きい。

 

あくまでも友奈たちの住む世界のことに限ってのことだが。

 

「一騎君、鯉のぼりみたい」

 

「ん、そっか」

 

落ち着きもなくキョロキョロと辺りを見渡す一騎、友奈はその光景につい微笑ましく例える。大人げなかったなと、一騎は恥ずかしそうになった。

 

もう少し落ち着けと総士は口出ししようとでも思ったがやめた。一騎にとっては竜宮島で過ごした日々しか知らない。こういうのには物珍しいのも無理はないと思ったからだ。

 

「お姉ちゃん、何処から行くの?」

 

「そうね~。どっかで遊んで、お昼ご飯食べて…買い物は午後からでいいわよね?」

 

「「賛成!」」

「了承です!」

 

風の中では一応の計画は練っていたようでとんとん拍子で提案し決まっていく。ここで夏凜が風の提案に疑問をもった。

 

「は、買い物は午後からってどういうことなの?」

 

「夏凜、荷物もちながら遊ぶの?」

 

風が辺りに視線を送る。人がごった返しているため荷物を持ちながらの移動は不便である。

 

「……まぁ、そういうことなら」

 

「真壁たちもそれでいいかしら?」

 

「いいよ」

「僕も異論はありません」

 

夏凜も風の答えに一応の賛成の意を示した。一騎と総士も特に異論はなく頷いた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:真壁一騎

まず最初に勇者部一同はゲームセンターに足を運ぶ。人は多いが混雑しすぎているほどではなく、東郷を連れて行っても不自由はなさそうである。風から遊び終わったら集合しようと決めて思い思いに楽しむことになった。

 

(はじめて来たけど、こっちの世界の人たちはこんなので遊ぶのか)

 

観光客気分に近い一騎が色々と遊べる筐体を眺めながらぶらつく。俗にいうゲームというのには縁がなく、どれをやろうにも目移りしてしまう。

 

「よ~し、いっくぞ~~! ええーーーい!」

 

ただ眺めていると友奈がパンチングゲームをしているのを発見した。えいとかわいらしい声で放たれたパンチが的を撃ち抜く。上位にランクインし、記録を作ったのが少女であることで周りのギャラリーが湧いた。

 

「やったー♪ あ、一騎君。見てた」

 

「あぁ。中々だな、友奈」

 

素直に褒めると友奈が嬉しそうにはにかむ。そのまぶしい笑顔にギャラリーの一部がやられたようだが、2人はそれに気づいていない。

 

「一騎君は何かゲームやらないの?」

 

「いや、こういうのには縁がなくって」

 

「それじゃあ、やってみようよ!」

 

友奈が筐体付属のパンチグローブを手渡してくる。見ているだけじゃだめだよなと一騎はそれを受け取ると、

 

(確か、こうやってたな)

 

見よう見真似で右腕に力を籠め拳を撃ち出す。パンチとターゲットが衝突した衝撃と音が辺りに鳴り響く。

 

『おおぉぉぉーーー!!』

 

「一騎君、凄いよ! ランクインしたよ! それも歴代ランクに入ってるよ!?」

 

「え…歴代ランク? どういうこと?」

 

「あ、えっとね。とっにかく凄いことなんだよ」

 

一騎の記録にギャラリーが湧き、友奈は狂喜乱舞する。叩き出したのは2位以下を大きく引き離し店舗での1位。そして、四国中に配置されたすべての筐体から算出されたランクでも3位という好成績である。

 

「一騎君でも1位じゃないんだね」

「トップは……『K・K』と『M・R』か。俺よりも上がいるんだな」

 

感心しつつもギャラリーが湧いている中その場を後にする。この後、その興奮が冷めあがらない中、記録を破ろうと挑戦者が続出するも、当分記録が塗り替えられることはなかったという。

 

 

 

「樹、リズムゲームに新曲入ってるわよ!」

「やるやるー!」

 

一騎は友奈と一緒にゲームコーナーを回っていると犬吠埼姉妹を発見した。

 

「友奈、あれは?」

 

「えっとね。リズムゲームの一種で、流れてくるリングが画面端のボタン近くにきたらタイミングよくタッチしていくゲームなの」

 

姉妹は洗濯機のような筐体のリズムゲームに挑戦しており、友奈は一騎に簡単に概要を説明しつつそのプレイ内容を眺めていた。

 

「「ほいほいほい、ほっほーい♪」」

 

「うまく繋げないと、音が途切れちゃったり、ゲージがなくなると途中で演奏がストップしちゃうんだ」

 

姉妹は追加された新曲に合わせコンボを繋いでいく。殆どパーフェクトともいえる成績を残しクリアした。

 

「お、友奈と真壁じゃん。どう、あたしたち姉妹のプレイは?」

 

「凄かったですよ~♪ さっすが仲良し姉妹! 息ぴったりです」

 

「ありがとうです! これでイベントコースクリアできましたよ♪」

 

「イベントコース?」

 

「あぁ、このゲームね。色んなタイアップみたいなことやってて、プレイしていけば色んな特典みたいなのがもらえるの。今の新曲は…あるアニメのみたいね」

 

「へぇ」

 

姉妹からプレイしていたリズムゲームの説明に相槌をうつ。

 

「……風先輩のやっていた曲。歌っている人、友奈たちの声に似ていたような」

 

「へ?」

「そうなの?」

「プレイに夢中で気づかなかったです」

 

「それと、東郷や三好も」

 

一同は筐体の方へ振り向くと、一般人プレイヤーがやっている新曲に耳を傾ける。

 

「あ~確かに似ているかも」

「言われてみればそうね」

 

夢中で気づかなかったが、新曲は5人の女性が歌っているようで、友奈たち勇者部の女子陣5人に声がそっくりなのであった。

 

 

 

【ROUND・1……FIGHT!!】

 

「ええーー! なんで立てるの!? 頭に入ってるでしょうが!?」

 

犬吠埼姉妹も合流し次に来たのは、卓上タイプの筐体が並ぶコーナーだ。そこで夏凜が『大土佐ファイト』と呼ばれる格闘ゲームをやっていた。

 

「夏凜さんは、格闘ゲームのようですね」

「だけどやったことがなさそうね」

 

犬吠埼姉妹の指摘通り、こういうゲーム類はやった事がないのか、その動きは初心者のそれであった。ムキになった夏凜はがちゃがちゃとレバーを動かしボタンを連打する。

 

【YOU LOSE!!】

 

すると住職のようなキャラの放った必殺技により夏凜の操作するキャラは負けてしまった。

 

「ええ!? なにコイツ! 火とか吹いてくんのアリ!?」

 

「うん。座禅ファイアーだよ。このキャラ爆炎住職だから」

 

「なにソレ?」

 

「……知らないでやっていたのか(俺もだけど)」

 

初心者であるはずの夏凜に格闘ゲームのキャラの特性なんてわかるはずもない。2ラウンド目もコンピュータ相手にあっさりと負けてしまった。

 

「……帰る!」

 

「ええ!」

「待ってよ~。まだ、1ラウンド残っているのに!」

 

へそを曲げた夏凜が席を立ってしまう。友奈と樹が慌てた様子で夏凜を止めようとする。一騎もこれには困り、どうすればよいのかとおろおろしている。

 

「あっちゃ~、夏凜の負けず嫌いなとこが変に火がついたわね」

 

それを見かねたのか風が助け舟を出そうとした。すると、プレイ途中の筐体をちらりと見ると、ぴかっと考えが閃き一騎に耳打ちをする。

 

「だ~か~ら~、もう1回あるんだよ~」

「もういい! あたしじゃ…」

 

【挑戦者現る!】

 

「ふぇっ!」

 

友奈が夏凜を宥めていると、ゲーム画面が暗転しメッセージが出た。

 

「あ、夏凜さん。乱入です! 対戦ですよ!」

 

何が起きているのかと慌てふためく夏凜を余所に筐体の向こうから風が顔を出した。

 

「ふふふ、夏凜~、その程度で逃げるなんて完成型勇者の名が泣くわね!」

 

「……なぁんですって!」

 

なぜか風は夏凜に挑発めいた発言をする。すると、夏凜の負けず嫌いなとこが刺激されたのか筐体にどすんを座る。背後に紅く燃え上がる炎のような闘志が吹き上がっている。

 

「ふ、風先輩!」

「お姉ちゃん、夏凜さんをやる気通り越して、殺る気満々だよぉ~」

 

「それでこそ、完成型勇者! 対戦相手は同じような初心者を用意してあげたから……思いっきり相手してやりなさい!」

 

今度は友奈と樹が筐体の向こうを見る。

 

「か、一騎君!?」

「一騎先輩!?」

 

「……風先輩に言われてな……」

 

筐体に座っていたのは一騎であった。どうやら風先輩に焚きつけられ乱入対戦の申し込みをしたようだ。

 

「一騎が相手ね。いいわ……、これが第2戦。前は私が負けたけど、次は勝つ! 思い知りなさ―――い!!!」

 

対戦相手が一騎だと知って夏凜の闘志はさらに燃え上がった。風の策謀に思いっきり巻き込まれたと一騎は思ったが時は既に遅し対戦の幕は切って落とされてしまった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:皆城総士

(さてと、どうしたものか)

 

総士も一騎と別れゲームコーナーを点々と見ていた。

 

(いつもなら乙姫がいるから付き合いではやれるが、こうも1人となるとな)

 

彼はチェスなどのボードゲームを嗜んではいるがこのようなビデオゲームに関してはあまりやったことはない。すると、ある筐体の前に人だかりができているのに気が付いた。

 

「あれは、『ガンシューティング』か」

 

「おい、なんかスゲーぞ」

「さっきから一発も外してないし!」

 

プレイ経験自体はないが、この世界に来てから出会った子のおかげである程度の種類は把握していた。日本軍人らしいキャラがライフル銃を携え戦場にいる敵を撃つというシンプルな内容だが、人垣越しにプレイしている人の姿が見えた。

 

「……敵兵の皆さん、今度は数で来ようというのね? 受けて立ちます!」

 

「はぁ!?」

 

思わず素っ頓狂な声が出た。筐体の前にいたのは東郷で備え付けられたライフル銃を構え出てくる敵を撃ち抜いていた。しかも、まるで皇国のために戦う愛国心溢れる兵士という感じである。

 

(命中率90%オーバー!?)

 

画面上部に何かの数字のようなのが表記されているが、恐らくはプレイヤーのスコアと命中率であろう。

 

「ここらで、一掃させてもらいます!」

 

最後の一団もフルオートによる掃射で一網打尽。驚異的なスコアでクリアしてしまった。東郷はふうと息を吐くとライフルを所定のケースに戻した。

 

『わあああぁぁぁぁ!!??』

 

「あら、あらら」

 

ある意味で自分の世界に入り込みのめり込んでいた。東郷はいつの間にか湧いたギャラリーに気づかなかった。歓声を受け、愛想を振りまいて去ろうとしたが少し困ったような表情となる。ギャラリーが集まったことで車椅子が通るスペースがなくなっていたのである。

 

「……すみません、通ります」

 

総士が声をかけて人垣をかき分けると東郷の元へと行く。ギャラリーも東郷の姿を見て察したのかすぐに通してくれた。東郷はぺこりと頭を下げると総士に押されその場を後にする。

 

「ごめんね総士君。また、助けられちゃったわね」

 

「熱中するのはいいが、あれは…な」

 

「あら、見ていたのね」

 

一騎からも聞いていたが改めて東郷の濃ゆい一面を目の当たりにした総士は少し乾いた笑みを浮かべ、見られてしまったと感じ顔を赤くする東郷。2人はゲームセンター内を回ることになった。

 

「両親からは遊技場に行くと不良になって……散財して人生が終わってしまうって親から言われていたの。こうやって遊ぶようになったのは友奈ちゃんや風先輩のおかげよ」

 

「一騎は?」

 

「主に運動部の助っ人に引っ張りだこだったわ。仲の良い男友達に誘われて遊んでたこともあったし、それに」

 

「それに?」

 

「……学期の合間にあるとあの依頼が」

 

「……この世界に来ても変わりはなかったのか」

 

総士のぼやきに呆れた笑いを浮かべる東郷。2人はクレーンゲームコーナーへとたどり着いた。

 

「総士君は何かやらないの?」

 

「いや、僕はこういうのはあまり来ないほうだからな。チェスとかのボードゲームが中心か」

 

「ちぇす? …あぁ、西洋の将棋のことね。そちらはさっぱりだわ」

 

「将棋ならどうだ。一通りは把握している」

 

「軍事将棋もできるわよ。ふふ、今度手合わせ願おうかしら。でも、こういうところに来たんだから何かやってみれば」

 

「そうだな。乙姫あたりに何個か持って帰るとしよう」

 

「本当に妹思いね。あら?…って、斑五郎!!??」

 

東郷はクレーンゲームのある筐体内のデフォルメされた猫のぬいぐるみに思わず声をあげる。

 

「…このぬいぐるみのことか?」

 

「え、えぇ……近所のいる野良猫にそっくりで思わず名前を」

 

そう語る東郷。斑模様の猫のぬいぐるみが気になってしまいずっと見つめたままだ。物欲しそうなとも思える表情である。

 

(はっ! いけない、思わず目を奪われてしまったわ。こんな難しそうな遊戯だし、私がこなせるとは)

 

(目が泳いでるな。このままだとやるゲームもなさそうだからな)

 

クレーンゲームの景品であるたためか遠慮がちになってしまう。それでも物欲しそうにみている東郷の心中を察したのか総士が筐体の前へと向かう。

 

「え…総士君?」

 

「せっかく、来たんだからな」

 

挑戦者の顔となった総士がコインを投入した。200円で3回アームを操作できるようだ。

 

「総士君、頑張ってね」

 

外から見た感じではアームが届くか届かないかのギリギリの位置に置いてある。1回目…斑五郎の奥側にアームを滑り込ませて転がした。

 

「最初はこんな感じだろう」

 

2回目…アームで動かし斑五郎を動かす。3回目でがっちりと斑五郎を掴み持ち上げた

 

「(!?)斑五郎が引き上げられて……!? あぁ…入った!?」

 

筐体の取り出し口から斑五郎を取り出し東郷へと渡す。

 

「ぶ、斑五郎……っ!!! あなた、こんな手触りだったのね。可愛い!」

 

驚きを隠せないまま東郷は斑五郎を受け取るとぎゅっと抱きしめ頬ずりした。

 

「ありがとう、総士君! …ところでこういう遊戯は」

 

顔を紅くしながら総士にお礼を言う東郷。小技を見たからかこの遊戯はやった事があるのではと簡単な気持ちで訪ねてみた。

 

「全くやってないとは言っていない。…少しばかり練習しただけだ」

 

率直に答える総士。その答えに東郷はどのくらい使ったのだろうと思ったが敢えてそれ以上は尋ねないことにした。

 

 

 

「…えっと」

「いったい何をやってるのやら」

 

「よっしゃあ! 三好夏凜の勝利よ!」

 

2人は卓上タイプの筐体が並ぶコーナーへと着いた。そこの格闘ゲームの筐体で勝利のあまり夏凜が吼えてガッツポーズを決めた。なにやら白熱していたようだが夏凜の台の反対側に一騎が燃え尽きたかのように突っ伏していた。

 

「あ、東郷さんに総士君だ」

 

「友奈ちゃん、何があったの?」

 

「お姉ちゃんが一騎さんを焚きつけて、夏凜さんと格闘ゲームでの対戦を」

 

この惨状?を横目に見つつ東郷が友奈に訊ねると樹が変わりに答えた。4人の視線が風へと注がれる。

 

「いやぁ、初心者通しで焚きつけちゃったら、夏凜がエキサイティングしちゃってね。夏凜は操作めちゃくちゃだし、一騎もガチャガチャにっていう感じで」

 

「総士…ボタン押しても反応しなかったぞ」

 

ぼやく一騎。それを聞いた総士が対戦内容が近くのターミナルにて映せる機能があったので見てみたが。

 

(どっちもどっちだな)

 

接戦であったが、対戦内容としては初心者通しという感じの内容であった。ちなみに、一騎のは反応が早すぎてボタンを早押ししてしまい、操作がささっていないだけなのであった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

ゲームセンターを出た勇者部一同は、少し遅い時間となったが風が予約した和レストランでお昼を済ませた。その和レストランは食後のデザートとして出される餡蜜が目玉商品で樹の希望もあってそこにしたそうだ。餡蜜は話題になっている通りの美味であり、あの一騎ですらも太鼓判をおすほどだった。

 

昼食後は服や雑貨などのアウトレットのコーナーへと向かった。それぞれの買い物をする。一騎と総士はさすがに女性物を買いに行こうとする友奈たちとは別れて行動し、本屋などで時間を潰した。

 

一通り回り終えると、外はあっという間に夕暮れとなっていた。

 

「はぁ~こんなに時間が過ぎるのはどうして早いんだろうか!?」

 

「はぁ、誘っておいて、何たそがれてるのよ!?」

 

「お姉ちゃんはいつもこうなんです…それじゃ皆さん、今日はこの辺で」

 

「風先輩、樹ちゃん、夏凜ちゃん。じゃね~」

 

その途上で、犬吠埼姉妹と夏凜と別れる。3人は背中を向けそれぞれの家路へと着く。

 

「一騎君、総士君。今日は…どうだった?」

 

「楽しかったかな」

「悪くはなかった。むしろ良かった方だ」

 

えへへと照れる友奈。東郷もいつもより晴れやかな感じで微笑んでいる。

 

「大変な状況でこう休むのはなんですけど、無理をし過ぎるのもよくありませんからね。…今日は本当にいい休日となりました」

 

気が付けばそれぞれの家の近くまで戻ってきた。

 

「それじゃあ、またな、みんな」

「また明日」

 

一騎と総士は別れを告げ背中を向け去っていく。それを見届けた友奈と東郷もそれぞれの家へと帰宅した。




この話の投稿日並びに時間。ついに『結城友奈は勇者である』の『勇者の章』第1話が始まりました。

PVを見た時点なんですが……やはり、ただでは終わりそうにありません。現在Gzマガジン連載中の『勇者である』シリーズの新作『楠芽吹は勇者である』、それに神世紀時代になるまでの物語を描いた『乃木若葉は勇者である』。この2作からの繋がりがあってこその物語となるのほほ必至でしょう。



次回は一気に事件を進めたいと思います。遅筆で拙文な作者の作品ですがこれからもよろしくお願いいたします。

蛇足:銀の誕生日イベントにて白無垢銀ちゃん+50にしました^^;


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第6話 夢の記憶

いよいよ事態は少しづつ動き始めます。あの御方が本腰を上げます。


side:皆城乙姫

一騎と総士が勇者部の子たちと休暇を過ごしている頃、乙姫は一人でうどん屋『かめや』へと訪れていた。

 

「これがうどん……! 四国で一番美味しいって言ってた食べ物なのか」

「『みおみお』よかったね~」

 

乙姫の向かい側に座る小学生くらいの少女と少年がうどんをすすっている。乙姫はこの2人に呼ばれここに出向いたのだが、今は普通に食事をする光景と化していた。

 

「もう食べないの」

 

「うん、もう十分だよ。……『この世界』でも味を感じたり、お腹が膨れるような感覚になるんだね」

 

「……『ここ』から出れば、そんなの忘れちゃうんだけどね」

 

乙姫は2人が注文したうどんを食べ終わると箸を置く。2人も食べ終わったので本題に入ることになった。

 

「『つっきー』ありがとうね。私たちの存在を隠してくれて」

 

「島にいたころもこうやって秘密裏に干渉してたの。だけど総士ならそろそろ怪しむ頃かな」

 

乙姫が島の守り神だった時は、建前上は公正であらねばならないため、島民の生活に干渉することはなかった。しかし、このように干渉するときは内緒であるがやっていたのである。

 

「なんで?」

 

「システムに干渉してたから。調べればその矛盾に気づくかも」

 

乙姫は首謀者である少女の申し出を受けシステムの干渉を行っていたのである。少女が樹海にいた際に、探知に引っかからなかったのは実は乙姫の仕業であった。少年は納得したように頷いたが、少女は少し専門的なことにわからず少し首を傾げた。

 

「よく分からないけど。話の通りなら時間がなさそうだね」

 

「そうね。それで、あなたの求めた答えは見つかりそう?」

 

「……『わっしー』と今回選ばれた勇者たち、それに『そーそー』のお友達次第かな」

 

「総士はいいの?」

 

「私の知っている『そーそー』ならきっと自力で解明させちゃうかも」

 

「そっか。でも……もしも見つからなかったら?」

 

「……その時はね ―――」

 

少女はいつもの間延びしたような感じではなく、はっきりとした答えを告げる。乙姫は少女の言葉を静かに聞き入れる。

 

「じゃ、私は行くね。『みおみお』?」

 

「俺はもう少し話していくよ。外で待ってて」

 

「分かった」

 

少女は店先で会計を済ませ先に外へと出た。席には乙姫と少女と供にいる少年が残された。

 

「……らしくなかった」

 

「あなたもそう思ったのね」

 

「あぁ、俺にできることはあるかな?」

 

「彼女の事をお願い。未来のために現在と戦っている彼女だけど、それは孤独の道。それを助けることが出来るのは一番近いところにいるのはあなただけよ」

 

「任せてよ」

 

少年は乙姫の願いを聞き入れ、誇らしげに言うと少女の後を追うように店を出て行った。彼女の事は彼に任せればいいだろう。

 

(園子ちゃんたちも動き始めた……『強いられた運命を新たに選ぶ』。総士や一騎たちは問題なさそうだけど、勇者たちにとってはここからが正面場ね)

 

乙姫が席を立つ。会計しようとレジに寄ったが、自分の分も会計されていたことに少し意外な表情を浮かべていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:勇者部

 

「はぁ…はぁ…」

 

友奈は肩で息をしながら樹海を駆けていた。気が付けば一人で樹海に立っており、すぐに敵が襲ってきたが変身し切り抜けた。

 

「東郷さん、風先輩、樹ちゃん、夏凜ちゃん。誰かいたら返事をして!」

 

肩で息をしながらなも迫りくる星屑を殴り倒す。もう何体目だろうと考えている暇もない。樹海にいるならみんながいるはずだと探しているが未だに見つからない

 

 

 

「樹、みんな! どこにいるのよ」

「お姉ちゃん、みなさん! 返事して下さ~い!」

 

別な場所では風が樹がそれぞれ星屑を倒しながら仲間を探している。

 

 

 

「端末のレーダーにも反応してない。どうなってるのよ……。まったく…あんたたち、私が見つけるまでにやられんじゃないわよ」

 

勇者システムのレーダー機能は沈黙を保ったままだ。夏凜は悪態をついたが、すぐにその場から滑空し、同じように戦う勇者部の一員を探す。向かってくる星屑はなで斬りとしていた。

 

 

 

「おかしい…」

 

東郷も仲間を探しながら二挺の散弾銃で敵を撃ち抜く。しかし、いつもと違うこの状況に疑問をもち始めていた。東郷が心を鎮め呼びかけるようとしたが、

 

「『クロッシング』が繋がっていない!? 総士君たちに何があったの?」

 

東郷たちにとっても心強い仲間たちが使うシステムが未動作となっていた。戸惑う東郷であるが、また星屑が襲来し考える間も与えてくれない。

 

「みんな…無事でいてください」

 

東郷が今できるのは、みんなの無事を祈り、敵を撃退することであった。

 

 

 

「友奈たちとのクロッシングが切れたままだ! 総士、そっちは?」

 

「原因がわからない。それに乙姫の姿も全くない!」

 

一騎と総士は2人で樹海にいた。友奈たちもそうだがいつもいるはずの乙姫も姿もない。それに勇者システムにも接続可能となった『ジークフリードシステム』の『クロッシング』の反応もない。

 

勇者たちや乙姫の不在という未曾有の事態にも関わらず、一騎と総士は連携し敵に対していた。

 

「支援射撃後に突入……今だ!」

 

フェストゥムとの戦いに身を投じ、互いの理解が深いため、その連携は敵を寄せ付けずみるみるうちに敵の数が減っていく。

 

総士の支援射撃とともに一騎は最後に残っていた太鼓のような形をしたバーテックスにルガーランスで刺し貫きゼロ距離射撃。バーテックスの身体は塵へと消えた。

 

「掃討を確認。敵はもういない」

 

「……そうか」

 

システムの不調並びに勇者とのクロッシングのみがない状態で続きその原因不明。さすがに一騎も困惑した表情を浮かべる。

 

「樹海化は解除されないが新手が来るかもしれない。……乙姫と勇者たちを探すぞ」

 

「総士?」

 

「乙姫も勇者も重要な防衛目標……戦術的にそう判断したまでだ」

 

総士は戦術的な理由も付けるも乙姫や勇者の捜索の指示を出す。

 

「僕はこの周囲を探す。一騎、あとで落ち合おう」

 

「わかった!」

 

一騎は総士の逆の方を向くと、勇者たちの捜索に赴こうとした。

 

「ここを探しても、みんなはいないよ」

 

「誰だ!?」

 

しかし、それを止める幼い声が聞こえた。一騎と総士が振り返ると小学生くらいの少女が立っていた。

 

「友奈たちが言ってた子…なのか」

 

黄土色の長い髪に青いリボン、肩口が膨らんだトップスにベスト、紺色のスカートと友奈たちが見たという樹海にいた少女の特徴に当てはまっていた。少女は逃げずに2人の事をじっと見つめている。

 

「勇者たちの心配はいらないよ。ここにはいないけど、別な所にいるから。『つっきー』はそもそもここに呼んではないから」

 

無邪気でのんびりと間延びした声で少女は答える。一方、少女の姿を見た総士は一瞬言葉を失うも目の前にいる子に訊ねる。

 

「……君は…なぜ、ここにいる?」

 

一騎は思いっきり目を丸くした。親友の声は少し震えていた……総士が動揺しているのである。

 

「……それは言えないよ~。今は君たちを含めて聞きたいことがあって来ただけだよ~」

 

 

 

「あなたたちは今、幸せ?」

 

「…何言って…?」

「え、えっと……?」

「何が言いたいのよ?」

 

風・樹・夏凜はそれぞれの場所で目の前の少女の問いかけに困惑の表情を浮かべる。

 

 

 

「幸せだよ! 勇者部として、みんなと一緒にいられて! 勇者として、一緒に戦えて! とっても……とっても幸せだよ!」

 

友奈が戦いの不安にいた東郷に言った時と同じ気持ちと決意で少女の問いに答える。

 

「そっか。みんなでいることがそんなに幸せなのね。そんなにこの日常が愛おしいんだ」

 

「うん、そだよ~」

 

「だけど、あなたたちが守りたいのはこの日常、だけどそれを守るという事は終わりのない道を行くことなんだよ」

 

「終わりのない道?」

 

少女がぽつりと告げる。友奈はどう答えればいいか分からず口籠ってしまう。

 

 

 

「今が苦しいと思ったら…そのまま……そこにいていいから」

 

「そこにいて…いい?」

 

東郷も少女の問いに答えを出せずにいた。今の終わりない戦いも苦しいと思ったが、親友である友奈や部の仲間たちの事を思えば不思議と戦う事ができていた。東郷は少女に声をかけようとしたが、辺りが徐々に白く染まっていく。やがて少女の周りまで浸食し少女を飲み込み始める。やがて、東郷の視界も白く染まっていく。

 

「あ……待って、あなたはいったい!?」

 

染まりゆく中東郷は少女に手を伸ばしたが、少女の姿は霞を掴むようにすり抜けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ……」

 

東郷が目を開ける。ほんやりとした視界には見慣れた天井。気づけば東郷は自室の寝所にいることを自覚し、上体を起こす。

 

「……夢?」

 

妙に生々しく、あまりにも現実的すぎるような夢であった。東郷は夢の中であった少女の言葉を少しづつ思い出していく。印象的に残ったのは少女が東郷を見つめていた時の眼……。

 

「あの少女は」

 

【また会おうね】

 

東郷の脳裏に言葉が浮かぶ。見覚えも聞き覚えもない。しかし、その言葉は東郷の脳裏に確かに思い浮かんだ。

 

「私を知っている? それとも、どこかで…?」




『樹海の記憶』編はキャラ毎の会話の変化が、主人公である友奈と『樹海の記憶』の黒幕であるあの子と関わりのある東郷が中心となるのと、元は異世界人であるファフナーキャラとのオリジナル要素を加えるのに苦労しております。

できれば、後3話ほどで『樹海の記憶』編を終わらせて、ゆゆゆ本編に戻る予定です。



そして、不穏になる『勇者の章』。果たして、残り3話で納得できるような終わりに落着するのだろうか……。


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第7話 問いと確信と

2作品のキーパーソンとの会話回。

蛇足:クリスマス夏凜、有償1000恵み10連で当たったぁ!


「総士、この子の事知っているのか!?」

 

総士が動揺することは少ない。時には感情的になることはあっても、総士がこのような表情になることはまずない。それは同時に、総士が目の前の少女と何かしらの関係があるのかと一騎は疑問に感じていた。

 

「あまり長くは話せそうにないから、私の事は後で『そーそー』から詳しく聞いてね。ところで……あなたたちは今、幸せ?」

 

「……何を言っている?」

 

少女の突然の問いに訳も分からないのは当然だと総士は返す。

 

(一応はここ戦いの場なんだけどな)

 

曲がりなりにもここは神樹の結界である『樹海』。敵との戦いの場である。最初は一騎も総士と同じように思っていた。

 

(……考えたこともなかったな)

 

とはいえ、少女の問いに一騎は総士のように無下にすることもできない。甘いと言われるかもしれないが一騎は純朴かつ実直な人間である。

 

「なぜ、真剣に考えている……?」

 

「駄目なのか?」

 

内心真面目に考えてしまい、総士は少々呆れたように息を吐く。

 

「あはは…『楽園』と呼ばれた島を守ってたって聞いてたから、『幸せだよ』ってあの勇者と同じことを言ってくれるものだと思ってた~」

 

間の抜けたやり取りにに少女はついくすりと笑ってしまった。しかし、答えを出せないでいたためかなのか少女は少し残念そうに言う。

 

「……戦いはそんな生易しいものじゃない。守る側としてもだ」

 

総士が少女に意見する。竜宮島を守る・ミールとの対話のための行動。どれも生半可に優しいものではない。

 

「そうだよね。『戦い』を知る『そーそー』にはそう言えちゃうよね」

 

樹海にいた少女と話していると辺りが徐々に白く染まっていった。樹海が白く塗りつぶされてその浸食は少女の方まで及ぶ。

 

「…時間切れだね。この世界の安寧の地を守る勇者たち……戦いへと巻き込まれた子たち。あの子たちが守りたいのはこの日常。だけど、この先にもっと苦しいことが彼女たちに襲ってくる……死よりも辛い目が」

 

「死よりも辛い目?」

 

少女はぽつりと語る。まるで自分と同じ目にあってほしくないと言っているように一騎は思えた。

 

「……『存在と痛みを調和する存在』と『存在と無を調和する存在』であるあなた達は勇者にどう祝福するのかな?」

 

最後にそう言うと、視界が完全に白く染まっていった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「ふあ…ふう……まだ眠い」

「実は私も…」

 

日付が変わり次の日の放課後、勇者部室にいつものように集まった部員たちであったが、友奈が眠そうに眼をこすり、樹に至ってはうつらうつらと舟をこぎそうになっていた。

 

「相変わらずね2人とも。昼休みからそうなってないかしら」

 

「うう……言わないでください~」

「もう寝たいです……やっぱり、お昼休みがずっと続けば良かったんだ」

「ああ~樹ちゃんの意見に大賛成だよ~」

 

「夜更かしでもしたの。全く…だったら私おススメのサプリでも決めとく? 独自に調合したやつなんだけど」

 

「あ~…ただの低血圧だと思うわ。特に樹は朝に弱くってね」

 

「なんだ、だったらもっと簡単だわ。この一粒で一日分の鉄分が」

 

夏凜が何やら複数の容器からサプリを取り出し友奈と樹に勧めてこようとする。なんでもサプリ便りの夏凜に風は呆れた顔でのらりくらりとかわす。

 

「夜更かしといえば……最近、変な夢を見ることがあって…それで中々寝付けなくて……」

 

「ん?」

「夢?」

 

世間話をしていた一騎と総士が東郷の発言に話を止める。

 

「ふーん、東郷が夜更かしとはね。だったら、あんたにこの特別調合の……「東郷、それってどんな夢だったんだ?」ちょっ!?」

 

サプリを勧めようとする夏凜の話を遮り一騎が訊ねる。風は内心で「グッジョブ」と賛美した。

 

「……見たこともない女の子が出てきて。それで「そのまま……そこにいていいから」って私に告げて、消えていくんです」

 

『………!』

 

東郷の発言に一同は息をのみ、部室内が一気に静かになった。

 

「え? それって…私も同じような夢を見ました。……お姉ちゃんも見たって」

「うそ、あんた達も見たの!?」

「その夢……私も見た。一騎君たちは?」

 

少し間をおいてから同じような『夢』を見たと発言する勇者部の女子たち。彼女たちの視線は一騎と総士に注がれる。

 

「昨日…見た」

「……僕もだ」

 

「ちょっと、全員同じ夢見たっての…?」

 

顔を合わせる一同。あまりにも出来すぎたとも思える事象に困惑する…友奈と樹の眠気が吹っ飛ぶほどの衝撃だった。少し間をおいてから総士がみんなに口を開く。

 

「みんな、その夢に出てきたのは…女の子だったか?」

 

「……はい。小学生くらいと思える女の子が」

「学校の制服…なのかな? う~ん、どこかで見たような」

「青い大きなリボン付けていたよね」

 

友奈は首を傾げて思い出そうとする。何はともあれ、一同の情報から夢で出てきた少女も同じだという事が分かった。

 

「女の子言ってたよね。『あなたたちは今、幸せ?』って」

「私も聞かれたわよ。みんなも?」

 

少女から聞かれた質問もみんな同じだったらしい。友奈は『幸せだよ』と少女に答えた事も話した。

 

「はは…友奈らしい答えかな」

「そうね。友奈ちゃん、そこまでみんなの事を思って」

 

友奈の答えについはにかんでしまう女子陣。総士はやれやれといった感じだ。

 

「それはともかく『偶然の一致』で済ませられないレベルな事はたしかだ」

 

「そうね……」

 

(今回の件は彼女の意思であるのは明らかになったのは確かだ。しかし、その目的と彼女を探知できなかったのが分からない)

(総士は、あの女の子のことを知ってた。あの表情はそんな感じだった)

 

総士はいったん纏めると、思慮にふける。同じように一騎も考え込んでいた。

 

「……ねぇ、うどん分が足りないわね……友奈もそう思わない?」

 

「……え? あ、はい! 足りてないと思います」

「わ、私もそう思います!」

 

「「は!?」」

 

風からの唐突な提案に思わず声が出た総士と夏凜。

 

「はぁ……」

 

「東郷、あんたは私と同意見みたいね。緊張感が足りないにも程が……」

 

「……私もうどん分が足りていないと思います」

 

夏凜は風の提案に意味が分からず意見してきた。東郷にも同意を求めようとしたが、口から出たのは真逆の意見だ。

 

「夏凜、総士、真壁。そんな難しい顔しないで。そうやって考え込んでもいい意見って出そうにないわ。だから、みんなでうどんよ。食べれば何か閃くかもしれないわ!」

 

うどんを押し出してまで3人を先導しようとする風。友奈・東郷・樹もそれに乗り気である。

 

(そうだな……。みんなはそういう子だったな)

「一騎君、行こ」

「あぁ」

 

「ふ……なるほど、気張りすぎるなって事か。僕もまだまだだな」

「そういうことよ。総士」

 

「さすがは勇者部部長ってところね。まあ、付き合ってもいいわよ」

「はいです♪」

 

風たち4人の押しに3人は折れた。こうなってしまった勇者部はトントン拍子に物事が決まってしまうため突っ込み切れないし止める気にもなれないのだ。

 

だが、勇者たちの和気藹々とした模様に部内の燻ぶった雰囲気が晴れたように思えた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「みんな、先に行ってくれないか?」

 

部活が終わる時間も迫って来たことで帰る算段となった勇者部。一同は部室を後にしようとしたが一騎が待ったをかけた。

 

「どったの、急に改まって?」

 

「……少し総士と話したくて」

 

「何々、男同士の…?」

 

風がからかうようにして訊ねようとしたが、一騎と総士の顔を一目見るとそのままドアの方へと振り向いた。

 

「ま、親友同士じゃないと話せない内容もあるからね…わかった。みんなには私から言っておくわ」

 

気を遣ってくれたのか風が部室から出て行った。部室内には一騎と総士のみが残される。

 

「総士、聞きたいことがある」

 

「お前からとは……だが、受けよう」

 

総士も聞きたいことがあるなら聞こう、答えようとする意志を感じられる。一騎は単刀直入に話題を切り出す。

 

「みんながいるから言わなかったけど、お前あの女の子の事知っているな」

 

「知っている。お前にも話したはずだが」

 

「……お前が会ったっていう3人の勇者の誰かなのか?」

 

この世界のアルヴィス施設にて総士が話してくれた3人の勇者たちの事を引きあいに出す。総士は僅かに頷いた。

 

「あの女の子は『乃木園子』。僕と乙姫が出会った勇者に選ばれた少女の一人だ」

 

「そうか。あの子がか」

 

「日常生活を送るのが困難になって大赦に祀られている……筈だったが、なぜか小学生の姿のままだったがな」

 

「なんで、俺たちの前に現れたんだろう?」

 

「……不明だ。あの子は突拍子でもない事を考える子だったからな、こればかりは本人に会ってその意図をただしてみない事には」

 

「あの子、どこか悲しい目をしてた」

 

一騎は園子が問いかけてきた時の彼女の目からどこか悲しそうに感じられた。前の世界でも同じような目をした少女たちと対話した経験による賜物である。

 

「お前もそう思ったか、僕の知っている彼女とはどこか影が落ちたような感じだ」

 

夢で出会った少女が『乃木園子』であると断定した総士も思うところがあるのか複雑な表情である。

 

「……なんだ、2人だけなのか?」

 

そうしていると道生が入室してきた。片手間には何らかの資料を持ち歩いている。

 

「みんなは帰ってしまったか」

 

「はい。俺らは話すことがあって少し残ってて」

「道生さん、『壁』の調査の方は」

 

「……わりい、成果はあげられなかったわ。こんなに長い歴史なのに大赦の方も『神樹様』の全容がわかってないのか調査は芳しくなかった」

 

人知を超えた存在である『神樹』は大赦でも総て分かったわけではなく、前例もない事態ということで早急な調査を進められているものの総士や一騎も納得させられるような結果があげられなかったらしい。

 

「それと、総士。システム自体には異常がなかったぞ」

 

「異常なしですか!?」

 

総士は道生経由でアルヴィスにジークフリードシステムなど総てのシステムの点検を依頼したが特に異常は見受けられなかったという。

 

「だけどな。司令からこれを渡してくれと」

 

道生から紙のファイルを渡される。総士はその中身を見た。

 

「……やはりか」

 

総士がぽつりと呟いた。一騎もファイルの内容を覗き見たが専門用語が多くてはっきりと理解することが出来なかった。総士はその内容を見終えると、一騎の方へと向き合った。

 

「一騎、僕は乙姫のところへ行く」

 

「今からか」

 

「なに、そんなに心配するような事じゃない……僕の予想を確信に変えるのかは乙姫に聞かなければならない」

 

「……わかった。そっちは任せる。友奈たちには俺が言う」

 

深く理由を訊ねようとしたがやめた。総士と乙姫、兄妹でもあり、元はコアとその導きをこう者としての関係の問題だなと一騎は思うことにし、2人は解散しそれぞれの目的の場所へと歩を進めた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「「乙姫ちゃん、まったね~」」

 

乙姫はこの日は友だちと学校で遊んでおり、気が付けば夕方の時間となっていた。その途上、帰りの方向が違うことで友だちに手を振り別れた。

 

(芹ちゃんたちをくっちゃべっていたら遅くなっちゃった。総士はもう帰ってるのかな)

 

そんな風に思いながら帰路へとつく。そんな物思いを耽っていたが、讃州地方にて住んでいる家の前にいた1人の人物を見つけたことにより中断される。

 

家の前にいた人物は、彼女にとって兄と呼べる人物であった。

 

「総士、ただいま」

 

「乙姫、戻ったか」

 

乙姫はいつもの帰宅の言葉を述べるが、総士の険しい表情になにがあったのかと、彼女も真剣な表情となる。総士の傍らにはあるファイルが抱えられているのに気づく。

 

「昨日、夢でだが『乃木園子』に会った」

 

「園子ちゃんに!?」

 

「彼女は僕と一騎、勇者たちを呼んだといっていた。それで君だけが呼ばれていなかったのが少し気になっていた」

 

「……私も会いたかったなあ」

 

「……本当に会っていないのか?」

 

総士がもってきたファイルを乙姫に見せる。内容はアルヴィス内の警備記録であった。

 

「隠していた割に綺麗すぎると思ったから前々から調べていたんだ」

 

「……ばれちゃったか」

 

乙姫も添削前の記録と総士の様子から自分の行動にごまかす気もなく、あっさりと認めるような形をとった。

 

「システムの方を疑ってアルヴィスに問いただしたら、今日父さんから渡された。……それにシステムを戦闘中に書き換えれるのは君しかない」

 

「……正解」

 

あっさりと白状する乙姫。

 

「怒らないの?」

 

「甲洋の事例もある。君はコアであった時から自分の意思で事柄を進めていた。今回もそうなんだろう?」

 

乙姫の問いかけに総士は首を横に振った。

 

「うん。園子ちゃんと約束したから」

 

「やはり会っていたのか!?」

 

乙姫は園子がアルヴィスへと来た時のことを話した。

 

「聞いた通りの彼女なら自由には動けない。なるほど、協力者がいるのか」

 

「近いうちに会うと思うよ。だけど、今はそれよりも重大な事があるよ」

 

「乃木がここでやろうとしている目的か」

 

「そう……『強いられてしまった運命』を知る彼女が勇者たちに与える試練。試練の答えを勇者たちに選ばせる…その時が」




『勇者の章』が「痛い 痛い 痛い 砕け散っていく位」……きつい。本当にあと2話で解決できるのかと……。


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第8話 少女の思い

本年度初投稿となります。

第4章ラスト…『樹海の記憶』ストーリーパート5・6話を統合したの戦いに向けた序章扱いの話となります。


「一騎君、どうしたの?」

「総士からのメール。讃州中に戻ったから今から部室に来るってさ」

 

総士が乙姫と話したことで確信に至ってから翌日、一騎は勇者部員とともに部室にて総士たちを待っていた。一騎は総士から届いたメールの内容を友奈と東郷に伝える。

 

「御出汁のうまみと天ぷらの風味が渾然一体となって舌の上から流れ込む。これが快感なのよ!」

 

「はいはい、どんだけ鍋焼きうどんが好きか分かったから」

 

その一方で、風は自らのおススメである『鍋焼きうどん』の熱い弁舌を垂れる。夏凜は飄々とし風の演説を聞き流すが、夏凜も香川県民であるためうどんは煮干し並に好物であるが、風の熱い弁舌の前にたじたじとした様子となっている。

 

「行き詰った時はうどんを食べるべし! 勇者部五箇条にもそう書いてるでしょ」

 

「書いてないわよ……、それで昨日うどん食べてから何か浮かんだの。部長さん?」

 

「……樹、追記しといて」

 

「誤魔化すなーーー!!! んでもって、何にも浮かんでなかったんかーい!」

 

「夏凜さん、これがお姉ちゃんですから」

 

夏凜の鋭い突っ込みが飛ぶ。それぞれの席に着いていた樹と友奈、一騎が苦笑いを浮かべていた。夏凜はそんな風の姿を見て深く息を吐き項垂れた。

 

「風先輩、壁が枯れるなんて差し詰った脅威のはずです。大赦の方からそれについて何か?」

 

「……それなんだけど。大赦のほうも何も言ってこないんだよね」

「このまま、壁が枯れ続けたら……いったい、どうなっちゃうんでしょう」

 

風の方でも大赦から調査が滞っているという報告を受け不安にかられて樹がつい口にして言ってしまう。

 

「そう…ですか」

「もしも、壁が枯れてしまったら……考えたくないわね」

「ねえ、一騎君。道生先生から何か聞いてないかな」

 

友奈が一騎へと訊いてくる。昨日に道生の報告を受けていたが、不安げな表情で見つめてくる一同に言うべきかと戸惑ってしまう。

 

「道生さんの方も残念だが芳しくなかったようだ」

 

「総士!」

 

思考中の一騎だったが、部室へと入ってきた総士が勇者部に調査が思いのほかうまくいってない事を伝えてしまう。その後ろには乙姫の姿もある。

 

「だけど、それでも諦めずに調査を続けているよ。だけど、私たちの世界とは勝手が違うし、私たち『ミール』と同じようなもので『神樹様』も人から見ればわからない事の方が多いからね」

 

乙姫が神樹に対してミールの例を挙げて答えていく。一騎たちのいた世界でもミールは極稀に吸収した情報に反応して、生態系に多大な影響を及ぼすほどの行動を起こすほどの大いなる結晶体である。竜宮島などでは解析などが進み、敵の力の利用などに昇華していたものの、どちらかと言えば未知の分野の方が占めていたくらいだ。

 

「それだけの大いなる存在。それも前例のない事を調べつくすのはそれだけ大変な事だし、大赦で奉っている『神樹様』を神聖化しているからかえって慎重になっているものあるかもね(人からみた神樹としてだけどね)」

 

「『神樹様に触れるのは罰当たりだ』っていう感じなのかな」

 

「そういう見方もあると思うよ」

 

「……なるほど」

「私たちも『神樹様』は教えられたことしか知らない。だけど、総士君や乙姫ちゃんの説明を聞いてみると、あまりにも知らない事が多くて、そんな風になっていたなんて考えすらもしませんでした」

 

学校や大赦からの教えでしかそれを知らない友奈たちは乙姫や総士の説明に徐々に理解を示す。

 

「あの、やっぱり私たちも調べてみませんか?」

 

内容なだけに重くなった空気の中、友奈が意見してきた。

 

「うーん、一理あるかもしれないけど」

 

「だったら、行きましょ! せめて、壁の近くまで行ってみれば、何かわかるかもしれません」

 

風としても友奈と同じ意見だが少し難色を示す。顧問でもあり大赦と関係がある(と思っている)道生の指示に反して行動すべきかと考えていた。無論、行き詰っている状況を放ってはおけない友奈たちの気持ちもわかる。

 

「(友奈の気持ちもわかるんだけどなあ。それで勝手に動くのも)。友奈、少し落ち着こうか」

 

一騎にも友奈の気持ちがわかる。それを理解しているからこそ意見を挟むことにした。

 

「一騎君……でも!」

 

「焦る気持ちもわかる。俺だって何とかしたいよ。だけど、何も分からずに動くのもどうかと思ってな」

 

ただ目の前の状況に動くだけの彼女が自分の姿を重ねてしまった。あの時、何も分からずただ従って、自分の気持ちだけで動いたあの出来事を。

 

「結城、君の言い分もわかる。一騎の言う通り、行き当たりばったり動くのがな」

 

「だけど!」

 

友奈は納得ができない様子である。それを見た総士が意見した。

 

「僕たちは『勇者部』という名の目的を達成するための一種のチームのようなものなんだ。一騎は気持ちだけで行動して迷惑をかけるのが良くない…そう言いたいんじゃないか?」

 

「……そうなの。一騎君」

 

「あぁ……島にいた頃だけど、俺もそれで多大な迷惑をかけちゃった事があってさ」

 

一騎がそれをやってしまったように、勇者部のみんなに自分と同じような事をしてほしくないという負い目があったように語る。

 

「……そっか」

 

一騎が普段見せないような表情を垣間見た友奈が思いとどまるが、みんなのためにと思った意見が咎められ、少ししょんぼりとした表情となる。

 

「が、その件に関しては僕としても総て否定するとは言えない。乙姫」

「あのね、友奈ちゃん。私も壁を見にいこうと総士たちに相談していたの。原因の元をちゃんとこの目で見てなかったからね。あ、もちろん道生とか関係者には許可はとってあるよ」

 

「ほんとっ!」

 

それとらしい理由で乙姫が許可を取っていたことを説明してきた。随分手際が良すぎるなと一騎は考えたが、それを聞いた友奈の顔がぱぁっと明るくなった。

 

「総士、チームっていうのも中々かっこいいじゃないの。そうね。許可もでてるなら私としても言う事がないわ」

 

「私も風先輩たちと同じ意見です」

「私も賛成です」

「ま、大赦が言ってこない以上、私たちがやらないとね」

 

「決まりのようね♪」

「うん、ありがと。乙姫ちゃん」

 

風がそれとなく締め、落ち着いてきた頃合に勇者部一同に訊ねる。東郷・樹・夏凜も反対意見はないようだ。いつもの調子を取り戻した友奈が後押ししてくれた乙姫にハイタッチをする。

 

「それじゃあ、早速行こっか」

 

「おー!」

 

「総士……こんなのでいいのか?」

「……それを言うな」

 

押しが弱い男子2人が置いてかれているような感じになっている中、勇者部は『壁』の調査へ赴くことが決定した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「とは言ったものの……」

 

調査に向かった勇者部と一騎たちだったが、讃州市にて壁が一望できる海岸に到着したところで立ち往生していた。

 

「ここからどうやって壁まで行くのよ」

「ボートとか?」

「真壁でもこの人数じゃあ絶対途中でバテるわね……」

 

(俺前提なのか!?)

 

目的である壁は遥か彼方の水平線の先、オールが備え付けられた小型のボートこそあれど労力の面から見れば現実的ではない。

 

「……勇者の姿になって飛んでいこっか」

 

「えぇ! 乙姫ちゃん、勇者の力を使ってもいいんでしょうか?」

 

乙姫の爆弾的な発言に驚愕する勇者部一同。樹に至ってはそんな事で使っていいのかと戸惑い声をあげてしまう。

 

「こうしている間にも神樹の根は枯れ続けちゃうよ。ね、総士」

「……良いだろう。これも後でフォロー入れてもらおう」

 

乙姫が総士に自分の考えを振ってきたが、少し間を置いたものの総士が迷いなく決断した。

 

「う~ん、なんだか乗せられているような気もするけど……じゃあ、さっそく」

 

「やめたほうがいいよ……」

 

風の号令により一同はスマホを取り出す。しかし、タップしようとした瞬間、彼女たちの行動を止めようとする少女の声が聞こえてきた。

 

「わっ、ビックリした!」

「ッ! いつの間に……?」

 

驚きの声を挙げ振り向く一同、樹海にいた少女がいつの間にかそこにいた。

 

「この子…どこかで?」

「あっ! お姉ちゃん、この子…」

「……ええ。やっと会えたみたいね。あなた、樹海にいた子よね?(夢に出てきた女の子にも似てるけど、聞くのは野暮ね) …いったい何者なの?」

 

今回の異変に関わる重要な参考人である樹海の少女に風は問いかける。

 

「あそこには行ってほしくないんだ……私みたいな目にあってほしくないから」

 

「行ってほしくない?」

「私みたいになってほしくない?」

 

少女は壁には行ってほしくないと勇者部に嘆願してきた。少女の言葉に困惑な表情を浮かべる勇者部一同。

 

「?」

 

すると、東郷と少女の視線が合った。少しの間、互いに見つめあっていた。

 

(なんでだろう、こう…支えていたくなるような衝動は……あ、あの子今笑った?)

(嘘や作り話という感じじゃない…よね)

 

東郷と見つめあっていた少女が僅かにほほ笑んだのに東郷は気づいた。少し間延びしたような話し方だが、少女の眼にはその言葉の通りの意志が込められており、嘘などを平気で言ってくるようには思えなかった。

 

(あの子は知っているという事なのか。いや、総士の話通りなら事実しか言ってないんだよな)

 

その様子を静観している一騎は少女の正体を大体しる身であるため、少女の動向に注意を向けていた。しかし、今の状態ではその真意は見えなかった。

 

「……あの、どういうことなのか説明してもらえるかな?」

 

「ごめんね。今はそれどころじゃなくなるから」

 

友奈が少女にさらに問いかけようとするが、少女の意味深な言葉に遮られるとスマホからけたたましい警告音が鳴り響く。敵の襲来を告げる樹海化警報だ。

 

「おっきなお姉さんの質問の答え、樹海にいたのは私だよ……だけど、これ以上知りたかったら、まずはあのバーテックスたちを……」

 

「え……あ、あれ!? いない……」

「……先に行ってるってことなのかしら」

 

樹海化警報に気を取られていると少女が風の問いにぽつりと呟くようにして答える。友奈と東郷はすぐに少女の方へと振り向いたが少女は姿を消していた。

 

「多分、これまでどおりなら向こうでまた会うことになるでしょうね」

「そんな気がします」

 

「詮索は後回しにしましょう、風先輩!」

「ええ、まずはバーテックスを倒すのが先! 行くわよ、みんな!」

「当然よ。この如何ともしない鬱憤、バーテックスで晴らさせてもらうわ!」

 

「美森ちゃん?」

「あ……はい。いい加減、ケリをつけましょう」

 

意識をバーテックス討伐へと切り替える一同、少女の事を考えていた東郷だけは少し遅れたものの戦闘態勢へと入る。

 

「……まずはバーテックスだな」

「あぁ。頼むぞ一騎。(乃木、話させてもらうぞ。君が勇者たちに選ばせようとしているものを)」

 

辺り一帯が光に覆われる。樹海の少女をめぐる戦いへの前哨戦が始まる……。




ゆゆゆ2期『勇者の章』が完結を迎えました。
勇者部の戦いの物語も終わりということになりましたが、彼女たちは『人』として『天の神』にその意思を示してくれた……これほど嬉しいことはありません。僅か6話という短い形などがあり納得できるのか……などの経緯はかなりあると思いますがね。

正直、『勇者の章』で懸念していた点がたくさんありましたが、逆にこのクロスと繋げれる点もあったことでこの小説の完結させたいというモチベはあります。

これからも拙筆な文ですがよろしくお願いいたします。


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第9話 交錯する思い

前回の投稿から半年以上掛かってしまい、申し訳ありません<(_ _)>

お盆に備えて纏めて投稿の予定でしたが、予想以上に難産状態です……。それでも完成した心情パートだけですが完成したので投稿。



今話は戦闘前の総士と東郷サイドのお話となります。


視点:皆城総士

 

勇者部一同が気づくと少女の姿はなく、辺りは樹海の世界へとなっていた。既に瀬戸内海とされる場所から無数の星屑が壁の外から侵入を果たし一部の個体に至っては陸地部分への上陸を果たし侵攻を開始している。

 

「各員、まずはこちらで指定したポイントに移動。向かってくる敵に対して3方向から迎撃する。新型などの細やかな判断はこちらで行う」

 

《了解!》

 

指揮を担当する総士は敵の侵攻パターンなどから最適な戦術計画を練ると一同に命令を出す。一団に対し分担して迎撃する陣形(フォーメーション)をとることにした。

 

星屑自体の力は勇者と比べれば雑兵程度だが、その数も物を言わせた人海戦術で襲ってくるため必然的に1人当たりで対応する数が増えてしまう。さらに、星座の名を関した個体程ではないが、星屑を凌駕する新型も交えてくる可能性もある。

 

星屑だけの対応に当たれば新型に意表を突かれ、新型を優先的に狙おうとすれば星屑の大群に囲まれ分断される。精霊の護りがあるため勇者の『命』は保証される…が、障壁は攻撃の衝撃までは防ぎきることができない。蠍座の猛攻によって友奈が気絶したケースもあり、それは決して万全ともいえる護りではないという考えだ。同じような事が起きれば使える戦力も減ってしまうなどのイレギュラーは避けたい。

 

今回は神樹を中心に見立て、正面と左右に1人ずつ立ち、その後方に遠距離役の東郷を配置。前衛を勤める3人がバーテックスを迎撃、討ち漏らしを東郷が仕留める。そして、前衛に疲労が認められたら待機していた1人と交代するローテーションを採用することにした。

 

(集団戦闘に関しては三好を除けば素人でバラバラだったのが当たり前だったが、ここぞという時の連携力には光るものがある。大まかな枠組みを組んで自らの力を発揮できるようにすれば良いだろう……)

 

彼女たちの持ち味を活かしつつも合理的に事を進め、これまでの戦闘経験も重り、少しづつだが形となり始めていた。

 

(……しかし、乙姫が最近よそよそしいところがあったが、前々から乃木とコンタクトを取っていたとはな)

 

勇者たちへの指揮の最中、あの出来事から大赦側に管理されたとされる乃木園子と共犯者的な立場に回った乙姫。彼女の目的を聞く事が出来たが、それは彼の理解の範疇をも越える内容であった。

 

(さしずめ僕たちは乃木が設定した盤上にいる駒、配役といったところか。……今は乙姫の導きに従うか)

 

園子が姿を現した以上、総士としては避けたいイレギュラーは起きてしまうであろうと半ば仕方のない気持ちで受け入れる事にした。長期戦への備えもその保険である。

 

(……1人乱れがあるか。らしくはないな)

 

その時、クロッシング経由で1人だけ心象的な揺れを感じた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:東郷美森

 

東郷は1人、狙撃地点にて狙撃銃のスコープ越しに敵の一団を狙撃銃のスコープ越しに覗き見、敵への攻撃合図を今かと待っていた。

 

「……あの子はいったい……」

 

勇者部の前に現れ、自らに微笑みかけてくれた子の事が気になってしまう。戦闘開始前ではあるがつい本音をぽつりと呟いてしまう。

 

東この前勇者部のメンバーと讃州市にオープンされたイネスでにて、彼女自身が覚えていない出来事がフラッシュバックされるという形で浮かび上がってきたのである。東郷は自身を気にかけてくれた友奈の手前心配させまいと気丈に振舞い、あれから少女に関して深く考えることはなかった。

 

(あの子の事は全く知らない。けれど…何なの、この気持ちは?)

 

勇者部内でメンバーが東郷が見た夢と同じだと聞いた。東郷は樹海の少女と事件には何らかの接点があると推測し、1日かけて独自に分析を行った。

 

夢で出てきた少女と片割れを『わっしー』と呼んでいた少女はあまりにも似すぎていたが、何度思い返しても少女の事は思い出せず、東郷自身彼女の事はまったく覚えてはいなかった。

 

(結局は思い出せなかった。だけど、この心に引っかかるような感じ……)

 

しかし、知らない筈なのに、東郷は樹海の少女に対し既知感を抱いていた。そのズレが強烈な不快さを生み、疑念を解決しようと思考のループが生まれていた。

 

《……らしくないな》

 

「―――ッ!」

 

思慮に耽っていると脳裏に声が響く。その声で東郷は思考の世界から現実へと引き戻された。

 

《樹海の少女か?》

 

「え…あ…うん。もしかして、分かっちゃった?」

 

総士に自らの悩みの大本を言い当てられ口ごもってしまう。

 

《君からは不安や苦悩の心理状態が強かったからな》

 

「……前に言っていたクロッシングでの繋がり? 」

 

《そんなところだ……すまない、こちらのデリカシーがなかったな》

 

(いけない…『くろっしんぐ』の事を忘れてたわ……不覚! 筒抜けだったわ……)

 

東郷の疑問に総士は答えた。『ジークフリード・システム』の詳細は聞いていたがあらゆる感覚や全体の戦況情報などでここまで分かるとは東郷の予測を大きく超えており、覗き見られたよりも戦闘中に余計な事を考えてしまった事に不覚と陳謝の気持ちにかられた。

 

《接敵には多少なりとも時間がある。何かあるのか?》

 

慌ててフォローを入れる総士、あと少し遅ければ東郷は間違いなく土下座し陳謝の態勢に入っているところである。総士は東郷の心身の安定のため相談に乗ると促す。

 

「……あの女の子、どこかで見たような気がするの?」

 

東郷は少し間をおいてから、イネスで起きた出来事を総士に打ち明けた。

 

《出会ったではなくて、見た?》

 

「えぇ、女の子2人が何かの待ち合わせの時間に駆け込んでいくのを。ほんの一瞬だけど白昼夢のような映像で。少女の1人は樹海の少女に似た子でもう1人の女の子を仇名で呼んでたの、たしか……『わっしー』」

 

《ッ!?》

 

声をかみ殺したような通信が聞こえた。年不相応とも言える(精神年齢的には大人だが)程に冷静沈着であるはずの彼があっけにとられたのだ。僅かな間のあと、いつもの冷静な感じで総士が尋ねる。

 

《……その『わっしー』という少女と樹海の少女を見たという事か》

 

「そ、そうね。総士君はどう思うのかな?」

 

東郷自身『白昼夢』と答えているが目覚めている状態で見る現実で起きた非現実的な体験ではなく、現実的な体験に近いと語る。

 

(東郷はそう言った空想で物を言う子ではない筈だが)

 

濃い物言いをすることはあれど、東郷は現実的に基づいた意見を言うタイプだ。

 

《(このケースは現実的な記憶の可能性があるのか…!?) 敵に動きがあった》

 

東郷の身の上から推測する。が、タイミングの悪い事にバーテックスが本格的な侵攻を開始してしまった。

 

《東郷、少女の言う通りなら敵を倒せば、僕たちの前に現れるはずだ。戦闘に集中できそうにないなら……》

 

「……大丈夫。戦えます」

 

《そうか。無理はせずに、確実に敵を倒すんだ。情報は逐一そちらに送っておく》

 

敵が来たことで東郷も戦闘へと思考を移行する。総士も東郷の意気込みから、無理矢理自らを奮起させようと強がりに感じたが、その言葉を信じ役目を全うさせることにした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

side:皆城総士

 

東郷の心理状態はまだ不安定だが、バーテックス相手に支援攻撃の任をこなしていることから当面は問題はないだろう。しかし、東郷がイネスで見たという白昼夢の内容を聞いて、僕はガラとなく動揺してしまった。

 

……無理もないか。東郷の身に起こっているのは、僕が『ジークフリード・システム』を使った際に、その後に散々起きた現象に近いからだ。

 

(東郷の身に起こっているのは突発的なフラッシュバックに近い現象だろう。しかし、何故彼女が乃木と一緒にいた記憶を)

 

戦闘の最中だが、並列思考を使い。東郷への考察を行う。

 

(東郷自身も内心、僕と同じ意見かもしれないが)

 

彼女は以前、事故で2年間の出来事が記憶からすっぽりと抜けてしまった事を言ってたな。……2年前!?

 

(瀬戸大橋の戦いと時期が重なる?)

 

僕らは2年前に戦った3人の勇者の事を知っている。あの戦いの後、乃木は大赦に祀られ、1人はフェストゥム側に接触し、最後の1人は御役目のために招かれた養子でだったが、その存在は大赦によって消された。今でもその行方は掴めてはいない。

 

東郷の身に起きた現象を聞いたことで僕は彼女に対してある疑念を持ってしまっていた。

 

「東郷、君は……あの」

 

運命というものがあったら『――― ふざけるな!』と叫びたくなるような衝動に駆られそうだな。僕はその衝動までもかみ殺し、今は冷徹に眼前の脅威の排除に尽力することにした。




4章後に語ることになるであろう、転生直後の総士編のためのフラグ建て。

タグの『W主人公』なのは、ファフナー側ではなく勇者である側にも当てはまる事。つまりはそういうことです。

次話は山羊座(樹海の記憶編)との決着。元凶である乃木園子との会話回となる予定です。


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外伝【乃木園子の章】
外伝1 奉られた少女と元祝福


2つの世界が交わってしまった事で生まれたある出会い。

2016/9/1 誤字脱字修正
2016/9/15 一部修正
2017/1/25 誤字修正


-神世紀298年秋 樹海内-

 

「瀬戸大橋が……崩れる!?」

 

黄土色の髪の少女が黒髪の少女を抱え陸地に跳躍し、地面へと下ろす。彼女の眼前には魚の形をした化け物が四国の象徴ともいえる『瀬戸大橋』を海中から壊しにかかっていた。

 

「わっしー…」

 

彼女は『わっしー』と呼ぶ少女を起こそうとしたが止めた。

 

彼女たち2人は勇者であり神樹からの神託により『バーテックス』と呼ばれる人類の敵が決戦を挑むことが判明し、もう1人の仲間を失ってしまった事あり新たな力を託されバーテックスと対峙していた。

 

その最中、新たな力を用いた際、起きてしまった異変に黄土色の髪の少女は気づいてしまった。いざという時に頭が働く彼女は新たな力の代償…勇者システムのおぞましい部分を看破してしまっていた。

 

この時点で黒髪の少女は足が動かなくなっており、彼女自身は片目の視力を失っていた。

 

その代償をこれ以上背負うのは自分だけでいい。そう覚悟すると身を起こした2体のバーテックスと対峙した。

 

「わっしーが痛めつけてくれたおかげで、私一人でもなんとかなるよ~」

 

黄土色の髪の少女は誇り高い気持ちになる。高らかに叫ぶとその力を使った。

 

「勇者は根性、だよね~ミノさん!」

 

異形な存在に真正面から向かって行った。

 

 

 

-神世紀299年8月30日 大赦系列病院 特別室-

 

黄土色の髪の少女は人類の敵バーテックス相手に切り札を何度も繰り返した。敵を撃退したものの代償で様々な身体の機能を失ってしまい寝たきりとなってなった。

 

彼女の名前は『乃木(のぎ)園子(そのこ)』。

 

ここは決戦で崩壊した瀬戸大橋を一望できる彼女のために与えられた病室。

 

「おはようございます」

「……おはよ~」

 

寝たきりとなってからはお付きの人に日記を新規に記述してもらったり、付け足したりしてもらっている。園子にとって数少ない日々の過ごし方だ。

 

「……それでは失礼いたします」

 

日記は検閲されてしまうだろうが、元から小説を書くのが好きな園子としてはそれで気が紛れた。

 

お付きの人は記述を終えると出て行ってしまう。園子はまた部屋に1人残された。

 

「……ぐすっ」

 

日常生活が送ることが困難となり大赦で直々に管理された園子であったが、言い方を変えれば『生き神』という形で安置されているようなものであった。親元から引き離され周囲の大人たちは彼女を『四国をその身をもって救った勇者』などとまるで彼女自身を神と崇めているようで『人』として見てはくれなかった。

 

「うぐっ……うう…」

 

園子の心は徐々に後悔に蝕まれていった。奇しくもこの日は園子の生まれた日…誕生日であった。

 

「わっしー…ミノさん……つらいよぉ…苦しいよぉ…」

 

齢13歳の身としては心が強く、ここまで心の内のつらさ・苦しさ・悲しさを出さなかった園子であったがここまでたまってきたものが表に出てしまったようだ。園子は涙を流しすすり泣いていた。

 

「ねえ?」

「…っ!」

 

園子が顔を上げると誰もいなかったはずの部屋に彼女と同い年と思わしき少年がそこにいた。

 

「…どうして、泣いてるのかな?」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:少年

-西暦2148年 竜宮島上空-

 

「ミール…俺はもう……戦いたくない!」

 

北極での決戦後に新たに生まれたミールとの戦いとなった竜宮島であったが、一騎の捨て身の説得によりその中心にいた彼は自らのミールにその意志を伝えることができた。

 

彼の名前は『来主(くるす)(みさお)』。

 

来栖はマークザインに封印されていたマークニヒトを駆り、一騎と共に空を駈ける。竜宮島の争いを察知した国連軍が爆撃機を派遣しており、今機体から核ミサイルが発射された。

 

「彼女を消すな、ミール!」

 

ミールの意思を感じ取った彼だったが結晶に包まれるとスフィンクス型フェストゥムの形態となり機体から飛び出した。『人類の火』とも言われる核をその体で受け止める。

 

「生まれよう……一緒に」

 

身体を失った来主は意識体となりミールに語り掛ける。

 

【一騎…君から空を見えなくさせているものは消したよ。勝手なことをしてごめんね。でも、これで君が空を見ることができて…うれしい】

 

ここで彼の意思は途絶えた。

 

 

 

 

 

-樹海内-

 

人類の火を止め新たに生まれ変わったはずの彼の意思は気づけば色とりどりの世界にいた。一騎・総士・乙姫が行ってしまったのを見た来主は神樹と織姫との邂逅を果たしていた。

 

「それで俺をどうしてここに呼んだの?」

 

【私から説明します】

 

神樹は少年に自らの事、世界の事、その現状、神樹の世界の問題を解決してほしい旨…一騎たちに話した内容と同じものを伝えた。

 

「それで俺がここにいるってことか。そういや、一騎たちの島にいたコアに似ているようだけど、君は誰なのかな?」

 

「あなたは……人懐っこさは変わってないけど。本質も変わらないのね」

 

「?」

 

「まあ、いいわ。私の事も教えるわ」

 

織姫の自らの事を教えた。

 

「そっか~。だから似ているのか。それと無事に生まれたんだな…次の俺が」

 

「で、神樹どうして()()の彼ではなくて、()()の彼を呼んだのかしら?」

 

織姫はふと疑問に思ったことを口にした。

 

【そうですね……。未来の彼はコアとしての役目があるせいかこちらの世界に来れる条件は織姫さんと同じで満たしていません。こちらの彼でしたら条件は満たしておりますし、おそらく『彼女』の力となれるでしょう】

 

「彼女?」

 

ここで来主にある思考が流れる人の形をしたフェストゥムの名残である『読心』だ。

 

【わっしー…ミノさん……つらいよぉ…苦しいよぉ…】

「これは…つらい…苦しい…悲しい……これはあの子のなの」

 

来栖はなぜか深い理由はわからないが、思考に流れた彼女の事が非常に気になった。

 

【(!?)やはり…貴方なら彼女の事を任せることができるでしょう。私の世界で貴方にお願いしたいことは…私が死なせないために与えた力を使ってしまった勇者である彼女の力になってほしいのです】

 

「……もう俺がいなくてもミールは次の俺が導いてくれるか。それなら俺はあの子の悲しさを消したいな」

 

【わかりました。……来栖さん、私のために奉げられてしまった『勇者』と私の世界を助けるために先へ行った彼らの事も宜しくお願いします】

 

神樹は来主の意思をくみ取ると神樹が光り輝く。辺り一面の花びらが舞い上がりその瞬間光に包まれて意識がとんでしまった。

 

 

 

 

「ん……」

 

意識を取り戻した来主は見知らぬ場所へといた。どこかの施設のようだがどうすればいいか流石にわからない。来栖はまずは状況把握へと乗り出した。

 

「ここが彼女のいるところと思ってもいいかな。……服はあるか…ん?」

 

服装は大赦の職員が着ている装束である。来主は目の前に2人が膝まづいてそこにいる事に気が付いた。彼は2人に言葉で語り掛ける。

 

「君たちは?」

 

「……我々はあなたの手となり足となる者」

 

その中の1人が来栖の手に触れる。すると来栖の頭に情報が流れ込む。流れ込んだ情報から膝まづいている2人の事が理解できた。

 

「そうか。君たちもあの戦いでいなくなったのか」

 

「いかにも」

「新たにこの世界に生まれ変わった我々はあなたの力となるように仰せつかっております」

 

「わかった。よろしく頼むよ。それでなんだけどさ…」

 

「存じております。その勇者の子の元へと案内します」

 

こうして2人の従者に案内され気配もなく部屋内に入った来主は園子との邂逅を果たしたのであった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「そっか~。気が付いたらここにいたんだね~。変なの~」

 

動けないため来主操に涙をぬぐってもらった園子は話に夢中になっていた。その表情は本来の少女のものへと戻っていた。園子の身近な話だったが久しぶりに同年代の子は話せたことで園子の心は満たされたためでもある。

 

「寂しくて泣いてたって事…なんだね」

 

「うん…お父さんやお母さん、仲の良い友達と会えなくなっちゃって…それに今日は私の大切な日なの」

 

「大切な日?」

 

「私の生まれた日」

 

「へぇ~それは大切…なんだよな」

 

「お誕生日を知らないの?」

 

来主は頷く、園子はふふっと笑うと誕生日と『大切』の意味を来栖に教えた。

 

「そっか。わかったよ、ありがとう」

 

「どういたしましてだよ~……ねえ、どうして君は私の事を……?」

 

ここで園子は自分の事を気に掛ける来栖に対して気になりさらに深く知ろうとする。自分のようにただ大赦に利用される人間のことをこんなに思ってくれる人はいなかったためでもある。

 

来主は少し考え込んだが深い意味はなかったので、自分の思いをあるたとえとしえ伝えることにした。

 

「……空って綺麗だと思う?」

 

「ふぇ?……まあ、綺麗だと思うよ~。昔はぼーっと雲を眺めて面白い形を探すのが好きだったんだ~」

 

「へぇ~」

 

「でも、こうなっちゃってからあまり見れなくて少しさびしいかな……」

 

来主が突如「空は綺麗か」と問いかけ、予想外のことに素っ頓狂な声を挙げてしまうも彼の問いかけに答える園子。園子の寂しい表情を見て来栖は続けて言葉を紡ぐ。

 

「綺麗なのにそれが見れないって凄く哀しいことなんだ。以前に俺を変えてくれた1人も空が見れなくってさ、今の俺なら彼の気持ちもわかるかな。それで、同じように悲しんでいる人をなんとなく放っておけなくってさ。だから、ここに呼びだされたのかもしれない」

 

来主の話を聞いて園子の目にはまた涙があふれていた。機能を失って以来、会う大人たちは園子のことを『世界を救う為に尽力した勇者』と見られていた。だが、目の前にいる少年は自分の事を『乃木園子』として見てもらえる。その事に園子は感情が爆発してしまい、

 

「う……うぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

「ちょ…ちょっとなんで泣いているの? 泣かないで!?」

 

少年はあたふたしながらも園子と慰る。園子は言葉を続ける。

 

「違うの…これはうれしいの」

 

「うれしい?」

 

「涙はね…悲しいだけじゃないの……うれしく出…って…涙が止まらないの…ふえぇぇぇぇん!」

 

 

 

 

 

ひとしきり泣いた園子はなんとか落ち着いた。

 

「ごめんね……」

 

「あはは…」

 

落ち着いた園子は少年に肝心なことを聞くのを忘れていたので少年に質問をする。

 

「そういえば、あなたの名前は?」

 

来主は座っていた椅子から立ち上がり、少し間をおいてから答えた。

 

「『来主操』。それが俺の名前だよ」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-神世紀300年4月 大赦系列病院 特別室-

 

来主と園子が出会って早くも8ヶ月が経った。園子だがあれから彼女にとっての楽しみが増えた。来主に勇者となって過ごした日常の話や自らの考えたお話しをしたり、人懐っこいが人として知らない事が多い彼に様々な事を教えたりしていた。大赦の人には黙ってである。少しスリルがある生活になったが、日が経つにつれ彼女は年相応の少女の態度でふるまえることが多くなった。

 

「そういえば俺…実は人間じゃないんだけど…」

「ええ~!!!」

 

ある時、彼が本来なら人間ではなくフェストゥムである事を口に滑らせたのを聞いた時には大変驚いたが、彼女の元に付き従う21体もの神樹の精霊の事もあり慣れていた事もあってかなんとか受け入れられた。

 

「でも、今は人間の性質もあるんだよなあ…どちらかっていうと混ざった感じ?」

「そっちの方が驚きだよ~」

 

ある日、彼女の親友の1人である『わっしー』が生来の名前に戻して活動している事、彼女が住んでいる地方に園子と共に日常を送ったある兄妹が引っ越したと聞いた。

 

その情報を持ってきたのは来主であった。色々知りたかったが動けない園子のために付き従う精霊と共に活動した結果である。

 

「そういや『みおみお』と出会って半年以上たっちゃったねえ~」

 

『みおみお』とは来栖のあだ名である。園子は親しい人にはあだ名で呼ぶのである……変なのが多いのがたまに傷だが。

 

ここで来主は神妙な面持ちで園子を見る。園子は唯ならぬ雰囲気に見つめ返した

 

「園子、実は君に伝えたいことがあるんだ」

 

あまりにも真剣な表情に園子は緊張し、来栖の言葉に聞き入った。

 

「調べていてさちょっと気になったものを見つけたんだ。だけど、正直に言うと……君にとってはつらいものかもしれない」

 

申し訳なさそうに語る来主に対する園子だったが、

 

「そんなにつらいものなの?」

 

「うん」

 

首を縦に振る来主。だが、園子はこれまでの出来事で隠し事はいけない事だと思っている。それを知っている来栖はだからこそ、園子に選ばせたのだが彼女の答えは決まっていた。

 

「それが残酷だったとしても私は受け入れる覚悟はあるよ」

 

園子の言葉を聞いた来栖は頷くと立ち上がる。

 

「わかった。それじゃあ行こうか」

 

「? 行くってどこに?」

 

「俺が見つけた()のところだよ。この場所じゃないんだ」

 

「ええ!?」

 

来主は従者に一言告げると従者の1人は園子を抱える上げるとその体が光り輝きその姿を変えた。

 

「え、えぇ~!!! これってみおみおの言っていたフェストゥム!?」

 

従者は赤い体をしたエウロス型のフェストゥムの姿へと変わった。来栖も園子の隣に抱えられる。

 

「ちょ、ちょっと待って! 大赦の人たちにばれちゃうよ~!」

 

「大丈夫、人払いもしなくて済むよ。頼むよ」

 

エウロス型は頷くと光り輝く。するとその部屋から1体と2人の姿がふっと消えた。

 

 

 

 

 

「園子、目を開けて」

 

来主にせかされ園子はその瞼を見開いた。

 

「……うわぁ~!」

 

園子の眼前に広がっていたのは澄んだ青空とかつてぼーっと眺めていた雲海ともいえる光景。今彼女はエウロス型に抱えられ空にいた。

 

「俺と出会ったときに園子が話してくれたのを思い出してね。今、俺が出来るプレゼントっていうのがこれなんだ」

 

園子はその夢のように広がる光景を眺めていた。いつの間にか心が高揚し感動していた。

 

「うん、最高のプレゼントだよ~ありがとう、みおみお~!」

 

来主に今できる最高の感謝を示す園子。それを見た来主は、

 

「それじゃあ目的地までこのまま行こうか」

 

「わかったよ~」

 

園子が来主に二つ返事で喜ぶとエウロス型はそのまま飛行した。一応、他からは見えないように配慮されてある。

 

そして、園子は来主と共に彼が言っていた見つけた人のところまで向かう。それが彼女にとってのある種の再会であることも知らずに……。




園子の誕生日に間に合わなかったよ……。

園子「間に合わなかったけど完成してよかったよ~」
作者「園子さま~!」

来栖「…そういや服あるんだね」
神樹「さすがにあの姿で出すわけにはいかないでしょう」

というわけで、陰ながら裏で活動していたゆゆゆのキーパーソン乃木園子の顔出しとファフナーのキーパーソン来栖操(HAE版)の出会いの話でした。感想内でその正体を察している人がでてたので早々に出すことにしました。

●乃木園子
先代勇者の少女であり、『鷲尾須美は勇者である』の登場人物の1人。原作どおりに奉られた状態での登場。原作では2年間ある意味での生き地獄を耐えた鋼メンタルであったが、今作品ではそれが緩和された模様。

●来主操(HAE版)
第0.5話に出てきたEXODU版ではなく、HAE版の来栖。来主自身、EXODUSにて先代を「前にいた存在」と区別はしているため本作品では別キャラとしての扱いとして採用。感想内で言っていた園子の味方として活躍してもらうメインキャラ。


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外伝2 再会…そして

あらかじめ『活動報告』等で語っていましたが、当話ではある原作改変が起こったという結果で物語を描かいています。


視点:乃木園子

 

片目の光を失う前はいつも見上げていた青い空、その最も近いところに彼女はいた。もしも動ければ綿菓子のような雲海にその手を伸ばしていたであろう。今、乃木園子は風となっていた。

 

「園子、大丈夫?」

「大丈夫~♪」

 

そばにいる来主が身体が不自由な園子を支えその身を案じる。かなりの高さだが呼吸が苦しいなどはない。恐らく、来栖に従える赤い体をしたフェストゥムによるものだろう。

 

「見えた。あそこだよ」

 

雲海を超えると目的地が姿を現す。もう少しこのままでいたいと園子は思ったが名残惜しそうな表情を見せものの園子は了承の旨を伝える。来栖の言う人に会いに行くという目的で本来自分がいるべき病室を無断で飛び出している分そこら辺の分別はついているつもりだ。

 

2人と1体は何かの施設だと思わせる構造物の屋上へむけゆっくりと降下し始める。

 

「やあ、首尾はどうだい」

「滞りなく…」

 

もう一人の来主の従者が施設屋上にて待ち構えており声をかける。園子はいつの間にか人間体となった従者に抱えられており用意された車椅子へと乗せられた。辺りを見渡すと屋上からは崩壊した瀬戸大橋が見えるため彼女が住む旧坂出市の近くだということは理解できた。

 

「私の住んでいる所に近くにこんな所が…」

 

「情報を集めている最中に見つけたんだ」

 

「そうなんだ」

 

「来主、私は戻る」

 

「ん、分かったよ。何かあったらよろしく」

 

「了承した。後は任せる」

 

従者の1人はそう言い残すとその場から消えた。

 

「何をしに行ったの?」

 

「園子がいなくなったら大変なことになるからそのためにね。……時間も限りがあるようだし行こうか」

 

「あー…」

 

来主に促されて3人は施設内へと入っていった。

 

 

 

施設内を進んでいく3人であったが、車椅子に乗る園子はきょろきょろと周り見渡していた。

 

「気になる?」

 

「うん……」

 

その様子を見かねて隣にいた来栖が訊ね、園子は正直に答える。園子がこれまで見てきた光景を思い返そうとするが、

 

「なんか……便利な道具を出してくれるたぬきロボットさんがいた世界?っぽいような~」

 

「……何、それ?」

 

「えっと、長くなりそうだからまた今度でいいや。みおみお、ここに会わせたい人が?」

 

「そうだよ」

 

「話してくれないのかな」

 

「…その時になってからね」

 

ある種の例えに脱線しそうになるも園子は来主に自分に会わせたい人について改めて確認をとるが来栖はその人について詳しくは教えてくれなかった。

 

通路を進みつつも園子は来主の会わせたがっている人物のあたりを付けようとしたが、彼女の知る限り該当する人物はほぼいなかった。

 

「閉じちゃってるねえ~」

 

やがて3人は金属で出来た両開きのドアの前に着いた。扉の横隣にはスリットの入った電子機器が備え付けられており、ドアは固く閉ざされているのを示すランプが赤く表示されていた。

 

「問題ないよ」

 

来主が目配せすると車椅子を押していた従者が対処をしようと電子機器の前に立つ。

 

――― pipipi

 

「「(!?)」」

「えぇ!!」

 

突如として機器から電子音が鳴るとランプが緑に点灯、ドアはゆっくりとスライドし開いた。

 

「何もしていない」

 

開けようとした従者が否定の意を示す。園子はおろおろとした表情で来栖を見つめてきた。

 

「開いたならいい。園子、行こう」

「う、うん」

 

来主は園子に促し、3人は部屋内へと入っていった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:????

 

この施設内の一室。モニターやコンソールがいくつも並んでいる部屋にて、施設の通路を進んでいる園子たちの動向をモニター越しに眺めている人たちがいた。

 

「そう…そのままそっちへ」

 

その中の黒髪の少女が小さく呟く。

 

「侵入者、進路を維持。数分後には重要区画深部へ到達する模様」

 

オペレーターが逐一動向を見定めをその情報を正確に伝える。

 

「……目的はあの少女か」

「そうよ」

 

責任者と思わしき男性が訊ねると少女はあっさりと肯定した。少女はそう言うと部屋の出口へと歩み始める。

 

「1人では危険ではないか」

 

「……心配なら人員をつけてもいいわ。大丈夫、こういうのは慣れているから」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:来主操

 

【来主】

 

従者が来栖に思念で呼びかける。

 

【やはり既にこちらが見られているようだ】

 

【うん、知ってる】

 

【ならばなぜ我々を(いざな)うのだ】

 

この施設に潜入してから来栖はこちらが監視されているのは把握していた。それを気にせずに園子を自らが探し出した人に会わせるつもりだったが、いざ潜入してみればまるで目的の場所へと誘導されていた。さらに、先ほどから施設内に人影がないという懸念あり、それも従者から示唆された。

 

【俺たちが来るのを待ちわびていたかもしれないね。懸念するのもわかるけど、もし俺たちに何かしようとしたら君は園子の事を優先】

 

【しかし!】

 

【やろうとしてるならもうとっくに仕掛けてくるはずだからね。ないという事はつまりはそういう事だよ】

 

来主は従者にそう念を押すと思念を切った。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

視点:乃木園子

 

やがて一同は施設の重要区画にある部屋の前へと着いた。

 

「……『特殊医療室』?」

 

園子は驚愕した表情でその部屋の名を見つめる。

 

「この扉の先に園子に会わせたがっていた人がいる」

 

「ここに……」

 

来主は頃合いとみたのか園子をここへ連れてきた目的を話すことにした。

 

「園子、君は勇者として3()()で戦っていたんだよね」

 

「うん…」

 

園子は勇者として戦いその代償で体が不自由になる前、仲間であり親友となった少女がいた。来主にも2人の事は話していたが彼は敢えて承知の上で園子に訊ねてきた。

 

(う~ん、『わっしー』は違うよねえ。元の家に戻ったから今は讃州地方だし)

 

最初に思い浮かんだのは親友の1人である『わっしー』だったが、彼女は不自由ながらも日常に戻った事は知ってある。こんな所にいる可能性はかなり低い。

 

「だけどね……。前に話したけど『ミノさん』は……っ!」

 

園子は言葉を詰まらした。彼女自身の言葉でその脳裏にある考えが浮かんでしまう。

 

「だけど…『ミノさん』は……『ミノさん』は…!?」

 

震える声で呟く。彼女はあの時、自分と『わっしー』を守って、1人残って戦って…、そして……()()()()()()。園子の脳裏に浮かんだのはあり得ない事である。

 

「園子」

 

来主は取り乱しかけている園子を宥めようと優しく語り掛ける。

 

「その気持ちは分るよ。だけど、俺は先に言ったよね? 『君にとってはつらいもの』だと」

 

病室にて来主の言ったことを思い出す。あの時、何があってもそれを受け入れることを彼に伝えたつもりだ。それが今さらこんなところで立ち止まるわけにはいかない。

 

「そうだね……みおみお、お願い」

 

意を決したかのように園子は顔を上げ伝える。従者が医療室のパネルを操作すると最後の扉が開かれた。従者が園子の車椅子を押し来主がその後ろへと続く。

 

部屋の中は奥行のある細長い部屋で、園子から見て右手側には大きなガラスの窓がある。

園子の車椅子はガラス窓の正面に止められた。

 

「(!?)……っ!!」

 

園子が息を呑む。ガラス越しには白く清潔感がある静かな部屋があり、中央に大きなベット、その周囲には医療用の機械が置かれていた。

 

ベットには灰色の髪の少女が横たわっている。園子はその少女の事を知っている。いや、見間違えるはずがなかった。勇者として選ばれもう1人の親友である『わっしー』と日常を供にした。園子の脳裏にはその思い出が蘇る。

 

だけど、その少女はあの戦いで……その後、先生からその魂を神樹様に抱かれて、残された私たち2人を見守っているはずだと聞かされていた。その失った悲しみはあの時たくさん泣いて流した。

 

その筈だった。だが、彼女は園子の目の前にいる。園子はその目頭が雫で潤うとその少女の名前を叫んだ。

 

「……ミノさん!!!」

 

園子は穏やかに眠り続ける少女の顔を覗き見る。その顔は間違いなく親友のひとりである『三ノ輪(みのわ)(ぎん)』であった。




ついに三ノ輪銀を登場させてしまいました。どうして、銀がここにいるのかは次回語ります。

●三ノ輪銀
先代勇者の少女であり、『鷲尾須美は勇者である』の登場人物の1人。原作では……彼女については原作か先行上映『鷲尾須美の章』第2章「たましい」にて。

設定集にある通り、クロスオーバー作品におけるイレギュラーキャラ(ス〇ロボでいう隠しキャラ的な扱い)となります。出番はまだ先ですがね。

余談ですが…作者が『勇者である』シリーズにはまる切欠となったキャラです。ゆゆゆ本編終了後にわすゆを見て彼女について知ってしまった結果ですがね。


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外伝3 【乃木園子の章】最終話

亡くなったと思われた銀と出会う園子。彼女が選んだ選択とは……。

『鷲尾須美は勇者である』並びに『鷲尾須美の章』の改変要素、人体欠損表現あり。

2017/5/1 後半部分加筆修正。おまけ追加。


-神世紀298年 樹海内 瀬戸大橋-

 

樹海と呼ばれる神樹に選ばれた少女たちが戦う結界。四国の玄関口と呼ばれる大橋に1人の勇者がいた。

 

「はぁ……はぁ…………」

 

橙色を基調とした装束を纏った少女『三ノ輪銀』である。戦闘不能になった2人の勇者を逃がし孤軍奮闘の活躍を見せた。しかし、周囲の激闘の跡を物語るように彼女の勇者服は敵の度重なる攻撃に裂け、敵のうちの1体が放つ光の矢により撃ち貫かれ右腕を失った……。

 

こうなってしまったのは3体の異形を退けるために防御を捨てた猛攻を行ったためである。今、ツケがまわっていた。銀は出血により常人ならもう命が落としてもおかしくはなかった。

 

「まだ……いるのかよ!」

 

退けたと思えた敵だったがその内の1体は侵攻を諦めてないようだ。銀はその敵を睨みつける。その眼にはいまだに燃え盛る焔のような闘志が宿っている。

 

(生きて…帰るんだ)

 

限界を超えた体をさらに酷使する。傷だらけなはずなのに不思議と痛みは感じなくなっていた。銀は左手の得物である斧を握りしめその一歩を踏み出す。

 

(みんなが待っている…アタシの護りたい人がいる所へ!)

 

銀を突き動かすのは友達や家族たちが住む町、それを護りたいという『思い』。それでも必ず帰るという強固な『意志』。

 

「このまま……出て行けぇぇぇ!!!!」

 

残っていた力を絞り出し跳躍、弾丸のような速さで突撃した銀は残っていた敵の体に深々と斧を打ち付けた。

 

銀の突撃の勢いに負け、敵の体は壁を越えた。

 

(どう……だっ…………人間様の…気合って………)

 

その刹那まるで花びらが散ってしまうように勇者装束が消滅、制服姿に戻った。同時に左手に持った斧が銀の手から離れ、制服のポケットから端末が滑り落ちた。そして、空を舞う銀も壁の外へと越え消えていった……。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-現在 某所 『特殊医療室』-

 

ミノさんと呼ばれた少女…『三ノ輪銀』は園子と『わっしー』と呼ばれる少女と一緒に勇者として戦い、日常生活では学び舎で供に学び、遊んだ間柄である。

 

見間違えるはずがなかった。あの時のバーテックスとの戦いで行方不明になっても彼女にとっては『ともだち』だ。

 

「園子、この子がミノさん…君と一緒に戦った勇者『三ノ輪銀』で間違いないの?」

 

「うん、ミノさんで間違いないよ」

 

来主の問いかけに答えると従者が小部屋の隔壁が開く。園子は眠り姫と化している銀の目の前へと連れられてきた。

 

「……ミノさん!」

 

学び舎で学んだ事、学校帰りに大型ショッピングモールに寄って遊んだ事、勇者として戦いその合間に鍛錬した事、辛い事も楽しい事も挙げればキリがない。

 

園子にとって戦い抜き不自由な身体となってからはの自らの支えであり只一つ残された思い出である。

 

来主と出会うまでは何度も何度も思い返す事で自らを保っていた。『ともだち』とずっと一緒にいれたらと夢に描いていたくらいだ。でなければ『園子』という感情を当の昔に失っていたかもしれない。

 

今、園子の目の前に銀がいるという現実がある。

 

「どうしたの? 私だよ。園子だよ」

 

銀に呼びかけるも反応はない。

 

「ねぇ、ミノさん起きてよ。園子だよ~目を…覚ましてよぉ」

 

何度も呼び掛けるが銀に届かない……いや、届いていない。

 

「……どうして眠り続けてるの?」

 

なぜ眠り続けているのか、それを来栖に訊ねようとしたが。

 

「あの戦いの後、彼女は戻ってきた。だけど、また眠りについた」

 

突如聞こえてきた声に一同は気づく。新たに部屋へと入ってきた女の子が園子たちの前に歩み寄った。

 

「……今の銀ちゃんは分岐を選ぼうとしている。彼女の意思が戻らないのはそれのせい」

 

園子にとってその少女は見覚えがあった。園子は2人の親友のほかにクラスメイトである男子生徒とその妹である女の子、親友ほどではないが日常を供にした兄妹の事が思い出される。

 

「……『つっきー』?」

 

「やっと会えたね。園子ちゃん」

 

園子はその女の子の名前ではなく親しみを込めた愛称で呼んだ。『皆城乙姫』の姿がそこにあった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「まずはようこそ。『Alvis』へ」

 

数刻後、一同は銀の病室の隣にある一室に案内された。乙姫が園子の対面に椅子をもってきて座り、来栖と従者が園子の隣のという形である。この部屋にもガラス越しに銀の姿が見ることができた。

 

「アルヴィス?」

 

「私と総士がもう1人の仲間と一緒に目的を果たすための組織って言ったとこかな」

 

「……『そーそー』もだったんだ」

 

乙姫の兄に対する愛称である。

 

「……っと、あなたとこうして向かい合って話すのは初めてだね」

 

「あの時は君たちにとって俺たちのミールは敵だったからね」

 

意味深な発言をする乙姫と来主に園子が声をかけた。

 

「あの~もしかして、『みおみお』がいた世界の話かな?」

 

「そうだよ…私たちの世界の事知っているの?」

 

「園子にはかつての俺がいた世界の事は話してある。それに…フェストゥムとしての話も」

 

「そっか。それなら私たちの正体も明かしてもよさそうだね」

 

乙姫は自分がかつていた世界 ――― 『楽園』と呼ばれる島とその島を中心にして起きた出来事(※勇者部に話した内容と同一)を先に話した。

 

「ほぇ~。波乱万丈だったんだね~」

 

「…なんか予想以上に驚いていないっぽい?」

 

「これでも驚いてるよ。勇者の存在を知ってなかったり、『みおみお』の話を聞いてなかったら多分信じられなかったと思うよ~」

 

来主から既に話を聞いていたためか園子の理解は早く、あっさりと受け入れた。むしろ園子にとっては、かつて身近にいた人が来栖と同じ世界にいた事の方に驚いていた。

 

「『つっきー』や『そーそー』も私たちのような御役目があったんだね」

 

「うん。やがて来る災厄である『フェストゥム』。それらに対抗するためにね」

 

「『フェストゥム』ってみおみおと同じ?」

 

「違うよ園子。このミー「乙姫よ」…あぁ、ごめん。それが君の名だったね。乙姫が言っているのは別のミール。…つまりは別の群れっていう感じかな」

 

「そうだね。ええと「来主操」…操の言う通りだね」

 

「そっか~」と声をあげる。一通りの話を聞いた園子は少し間をおいてから本題に入ることにした。

 

「ねえ、『つっきー』。さっき言っていた事ミノさんに関係があるの? そのせいで何があったの?」

 

銀に身に何が起きたのか。なぜ起きないのか。今の園子はそのような気持ちでいっぱいだった。

 

「気になるよね……」

 

乙姫がそう呟くと園子の思いに応えるように告げた。

 

「園子ちゃんは銀ちゃんがどうなったかは知っているよね?」

 

「うん……。ミノさんは私と『わっしー』を助けるために―――」

 

今でも園子にとっては出来れば思い出したくもない嫌な出来事である。複数体のバーテックスの襲来に対峙した園子たちだったが、バーテックスの連携により瓦解し園子と『わっしー』は戦闘不能となってしまった。唯一動けた銀は2人を逃がし1人で3体のバーテックスと戦った。

 

「ミノさんあの時ね。『またね』って手を振ってた。……私たちはなんとか動けるまで回復して戻ったんだけど……ミノさんいなくなってた……」

 

戻った2人が見たのは戦闘の跡ともいえる破壊痕、壁まで続く血痕。それを辿ったが最後に見たのは、銀の武器である戦闘で酷使され所々ひびの入った二振りの斧、画面が割れた携帯端末であった。

 

「わっしーと2人で探しても見つからなかった…大赦の方もミノさんは結局死んじゃって…神樹様の元へ還ったって……」

 

その後は自分らの運命を変えたあの決戦へと赴いた。園子が銀に関して知ることはそれだけである。

 

「銀ちゃんが発見されたのは園子ちゃん達があの決戦を終えてから騒動が収まり始めた頃だったかな」

 

乙姫は銀にあった出来事、園子にとっては日常から切り離さた後に起きた出来事の説明を始める。

 

「さっきも話した通り、私は元はコア型っていう人間とフェストゥムとの独立融合個体だったの。こちらの世界に来てからもその力は健在だった。その日、私はその力である気配を感じ取ったわ」

 

「ある気配?」

 

「人とフェストゥムが混じりあったようななんとも言えない感じだった。それで総士と一緒にそれを探してみたの。見つけたのは町中を彷徨う傷だらけの彼女だった」

 

「(!?)ミノさんが帰ってきてた…」

 

ここで園子は不可思議な点に気づく、あの惨状から見ても彼女がバーテックスとの戦闘で相当な手傷を負っているのは明らかである。それが時間が経ってからふらっと自力で戻ってきたのである。勇者システムの端末を手放してしまったことから神樹の力の恩恵もないはずだ。

 

「園子ちゃんが思うとおり、銀ちゃんだけでは戻るのは不可能だよ。壁の外にもあの存在がいるからね」

 

乙姫も同意を示す。園子もそれに関しては承知の上である。大赦の情報を集める中、大人たちが隠しているある秘密を知っているのだ。

 

「アルヴィスで保護して検査したけれど、銀ちゃんは……普通なら命を落とす程の傷を負ってた。そして……彼女から……」

 

園子は何とも言えない不安感が沸き上がった。そして、乙姫の口から園子でも思い描けない報せが語られた。

 

「銀ちゃんからある生命体の反応が検出された。今は壁の外にいるもうひとつの災厄……『フェストゥム』に間違いなく接触してる」

 

「え……?」

 

思わず声が出る。園子を驚愕させるには十分な内容だった。

 

「ミノさんはどう…なるの…」

 

問いかける園子だったが、乙姫は複雑そうな表情を浮かべる。

 

「今の銀ちゃんにあるフェストゥムの因子が彼女の損傷した器官を補っているように同化している。このまま同化現象まで発展してが症状が進行してしまうかもしれない」

 

「なんとかならないの!!」

 

「そのフェストゥムに呼びかけたけど、意識の奥底に入り込んでいるようで、そのフェストゥムが何をしようとするのかまでは……」

 

「嘘…だよね…」

 

「私にとってもはじめての反応だからどう言えばいいか……」

 

「治せないの? それともずっとこのままなの!?」

 

「……フェストゥムの因子を取り除くのは困難…成功したとしても今度は銀ちゃんの命がもたない」

 

乙姫が沈痛な面持ちで説明した。銀がフェストゥムと同化している事。それが彼女にとっては未知なる反応であるためうまく説明ができないようだ。

 

園子はここで来栖の言った『君にとってはつらいもの』の意味をその身をもって理解し顔を俯かせ泣き続けている。それを見た来主もさすがによい顔とは言えない。恐らく人で言えば申し訳のない気持ちであろう。

 

園子の目からぽろぽろと涙が溢れていった。

 

「せっかく……会えたのに……。えっぐ……ひっぐ……」

 

もう会えないと思っていた銀がここにいるのに、乙姫から語られた最悪になるかもしれない可能性。園子は不安に駆られ、天から地へと叩き落されたような気分となる。

 

次第に園子の声は嗚咽が混じったようになってくる。

 

「どうしようも…ないのかな……」

 

銀はもう目覚めない。否、むしろ今以上に悪くなるかもしれない。園子は次々と悪いほうへと考えてしまう。

 

「だけど彼女は生きている」

 

泣きじゃくる園子に来主は意を決して声をかける。

 

「2年間も俺たちと同じにならなかったんだ。これは彼女の意思がまだそこにあるって事だよね」

 

「え?」

 

来主の言葉に園子は顔を見上げる。すると、彼女のベットの傍にある機械から規則正しい音が鳴っているのに気づく。計器は銀が正常に呼吸し、確かに彼女が『生きている』のを示していた。

 

「操の言う通りよ」

 

「じゃあ、ミノさんは?」

 

「こんな状態だけど、今はこれだけは言えるよ。銀は『ここにいるよ』」

 

来主と乙姫の救いともいえる声で園子の眼には仄かな光が戻る。

 

【またね】

 

すると、園子は銀が自分と『わっしー』に告げたあの言葉を思い出す。あの時、彼女はいつもの下校時の気軽な感じの在り来たりな言葉だ。銀は約束事に遅れることはあってもそれを破るといった事はなかった。もしかしたら、あの時も彼女は生きて帰ってくるという意味で告げたのではないかと園子は思った。

 

(ミノさん、私たちとまた会うために……)

 

涙溢れる瞳で銀を見つめる園子。来主はそんな園子の震える肩にそっと手を置いていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

園子は来主を引き連れ自らの病室へと戻った。もっと乙姫と話したかったが先に戻った従者から時間だという連絡が入ったためである。

 

戻った園子は少し気分を落ち着けたいとの事を来栖たちに告げた。

 

この日は色々ありすぎた。最も園子にとって感慨深かったのは銀が生きていた事だ。もう現実で会う事はないと思っていた。せっかく仲良くなったのに別れてしまった親友の片割れ、園子にとってもしもまた一緒にいれたらいいなと思い何度も夢見た。

 

そして、日常を共にした兄妹の片割れである乙姫から告げられた事実。園子たちの住む世界にバーテックス以外の災厄、それが園子と出会った少年来主と同じフェストゥムである事。銀はその存在に接触している事。

 

乙姫から彼女の所属する組織でこれからも銀を治療または目覚めさせるための行動をし続けるらしい。乙姫曰く、銀が襲来したフェストゥムの手掛かりに成りうる事だと言っていた。深くは聞かなかったが、乙姫の口ぶりから以前にも今の銀と同じようになった人がいるかのような素振りだと園子は思えたそうな。

 

「園子、おはよう…落ち着いた?」

 

翌日、園子の様子を気にかけながら来栖がやって来た。園子の希望で今は彼だけだ。

 

「おはよ~。うん、色々あったけど、今は平気」

 

「そっか。園子が落ち込んでないかなって、ちょっとハラハラしてたよ」

 

必要以上に気を遣わせない様、いつもの調子で挨拶を返す。元フェストゥムである来栖には正直に自分の気持ちを表す。ちょっとした嘘ですらまともに受けてしまうからだ。

 

園子は本題に切り出す。

 

「『みおみお』、昨日はありがとう」

 

「ん、どういたしましてって言えばいいのかな。園子にとって辛いものを見せちゃったから……」

 

「ううん……私が『みおみお』と出会わなかったら……ミノさんが生きているって知ることはなかった…」

 

「そっか。力になれて何よりだよ。それで俺に何の用なのかな?」

 

「あのね……」

 

園子はいずれ選ばれるであろう御役目を行う勇者たちの事を話した。勇者システムは大型のバーテックスを倒すことが出来るほどに向上したが、以前から大赦で勇者の適合者を賄いきれないという問題が浮上。ついにその候補者探しを極秘裏に四国中に拡大したらしい。

 

その御役目は過酷で残虐な人見御供だが、園子はそれが自分たち住む世界を守るためにやらなければいけない事だと認識はしている。だが、大赦はそれを『残酷な真実』と判断し知る必要はないということで隠した。彼女にとって大赦の決定は許しがたいものだった。

 

最終的に神樹様に選ばれるといってもその候補者たちはその真実を何も知らない。自分たちの時代で何も真実を教えられずにあまりにも多くのものを失ったのをその身をもって経験した園子はその少女たちも多くのものを失い打ちひしがれる姿を容易に想像できた。

 

「……伝えればいいじゃないかな? 俺も何も知らないでやるっていうのは意味のないようなものだと思うし」

 

「うん、知らずにいるのは哀しいよ」

 

だからこそ、例え残酷な真実であっても伝えるべきだと園子は来栖に伝えた。

 

「だけど、園子はどうしたいの? 伝えるだけでいいの?」

 

「う~ん」

 

来主は真実を伝えることに賛同してくれた。だけど、園子はそれだけでいいのかと聞いてきた。言葉が出ない。園子としては伝えるだけで、その後の推移を見守るつもりだった。

 

「伝えるだけでいいよ……」

 

来主の問いに暗い表情になる。

 

「……この身体でも出来る事はそれだけだから」

 

どこか諦めたような感じで語る園子。

 

「園子、俺って頼りないのかな? どうも俺には園子の本心に聞こえないよ」

 

本質だけを見る来栖にあっさりと看破された。元はフェストゥムであるためか読心の能力は健在で人の嘘や偽りを見抜ける。

 

「やっぱり、『みおみお』には分かっちゃうよね」

 

園子は観念した様子で本心を語ることにした。

 

「あのね。私、あなたに会うまでどこかで諦めてたような気がするの」

 

不自由な身体になって以来、園子はどこか現実から逃げていたことを語った。四国を守るために力を使った代償でこうなった園子はそれを逃避するかのように思い出を振り返り、また夢の世界で過ごした日常を振り返る。園子はそれを繰り返していた。

 

目を閉じれば『また会える』。繰り返した園子にとってそれが当たり前のように思えていた。――― 来主と出会うまでは。

 

そして、彼との生活、彼からもたらされた現実や真実を知った事で自らに芽生えたある気持ちに気づいたことを来主に語った。

 

「ミノさんが生きてるって知って、私思っちゃったんだ。…やっぱり治りたいっていう気持ちが強いよ。……歩いて……友達を抱き締めに行きたいよ……。ねえ、『みおみお』。私、どうすればいいのかな?」

 

その問いに来主は迷いなく答えた。

 

「何度でも伝えればいい。治りたい。これが園子たちが望んだことがこれじゃないって、君の神様である神樹にに」

 

「だけど……、それは……」

 

園子の考えていることは言うなれば四国の神様である『神樹』に逆らうのに近い行為である。

 

「俺もさ、園子と同じ事があったんだ」

 

来主はかつて所属していたミールのフェストゥムの1体だった。所詮ミールの意思に準ずるだけの存在だった。ミールの意思の通りに動くことが正しいと思っていた。

 

しかし、人を理解し『空が綺麗』と思っていた時点で『個』を持っていた事と竜宮島の人たちとの邂逅で意思が揺らぎ所属するミールに疑問を持った。板挟みとなってしまった彼は苦しんだ。譲れず相いれなかったことで彼自身も争いに介入するのに発展した。

 

最終的には恩人の説得により『戦いたくない』という意思を自分でミールに伝えることが出来た。

 

来主はその経験談を園子に伝えた。

 

「この世界の神様もミールみたいに同じだと思うよ。結局は、抽象的にしか分からないんだ。だからこそ、これは違うとか理解できるように教えないと」

 

「そう…なのかな」

 

「だから…園子はどうしたいの?」

 

何時にもなく真剣な表情で園子に問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、やっぱり選ばれる子達に真実を伝えるよ。だけど、それで終わりじゃない。もう、私や『わっしー』、『ミノさん』みたいな悲劇はもう見たくない!

 

だから私は、いずれ選ばれる勇者たちと一緒に神樹様に伝えたい。私たちはこうでありたいって!」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

戦いで多くを失った少女は、かつて『祝福』と呼ばれた存在と出会う。

 

彼との出会いで少女は真実を知り、友がいるという事実を知った。

 

そして、苦難へと立ち向かう勇気が湧いた。

 

『乃木園子』と呼ばれる少女は現実へと航海する。それが彼女にとっての『EXODUS』の始まりだ。

 

 

 

――― 『絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち』外伝【乃木園子の章】最終話『EXODUS』




●三ノ輪銀に関して
3体のバーテックスを1人で追い払った際に最後の攻撃で四国の外へと出てしまったという原作改変。そこでフェストゥムが同化し、四国へと舞い戻った。3体のバーテックスにより瀕死の重症だったが失った機能を補うように同化された形で延命、まだ意識は戻っていない。

これは後々に重要な要素となります。



●おまけ【英雄2人が信じる可能性】
「総士、この子が例の?」

「あぁ」

アルヴィスへ復帰した一騎は総士に連れられ病室に眠る少女との邂逅を果たしていた。

復帰したことにより秘密を共有する立場となったため、眠り続ける『銀』という少女の事を聞いていた。

「治るのか?」

「見通しは不明だ。だが、僕としても諦めたわけじゃない」

「そうか」

淡々と答えていく総士。

「そういうお前はどうなんだ」

「俺も信じるよ」

「ほう。どういう根拠で」

「なんとなくだけどアイツの事もあったからな」

「ふっ」

2人はなんとなく銀はいつか目覚めるのを信じてみたくなった。今の銀はかつての島の仲間と同じ状態だ。だからこそ、2人はよりいい方へ賭けてみたくなったのだ。


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番外編
緊急番外編(作中内ネタバレあり)


台本方式のカオス特番。苦手な方はワームスフィアによるジャンプ(訳:戻る)推奨。

2016/12/29 ある重大発表につき加筆


作者「どうも。作者です。まずはメインとなるゲストの方々の挨拶から」

 

友奈「讃州中学勇者部、2年『結城友奈』です」

東郷「2年『東郷美森』と申します」

風「讃州中学勇者部部長3年『犬吠崎風』よ」

樹「い、1年の『犬吠崎樹』です。宜しくお願いします」

夏凛「2年…『三好夏凛』よ」

園子「2年生の~『乃木園子』です~」

 

作者「はい。勇者部の皆さんありがとうございます」

 

風「作者~なんでアタシ等をここに呼んだわけ?」

 

作者「まあ、君たちにとってとっても重要な事が今日起きたからね」

 

樹「重要な事…ですか?」

夏凜「それよりも…この変なヘルメットの女の子は誰よ?」

友奈「見た目は私たちと同じくらいなんだけど~?」

 

?「・・・(E.ゴウバインヘルメット)」

 

作者「あ~この小説の本編だと君たちは出会ってない子だからねえ。この子は当小説や発表では重要な位置づけにいるしこのような形で呼びました。この中だと、東郷さんと園子さんは顔見知りかな

 

東郷「小声で何か言った」

園子「もしかして~・・・」

?「ま、まあ今話は大目に見てよ」

東郷・園子「ってこの声はー!」

 

作者「東郷さんと園子さんは彼女の事に気づいたようですが絶対に言わないように気を付けてください!……今日は皆さん何の日か分かりますよね?」

 

夏凜「そんなの当然よ!」

樹「今日はみなとそふと10周年イベントの『みなと魂』で」

友奈「私たち勇者部の新五カ条の残り2つが発表された日だから(2016/10/23)」

 

作者「わかっているようですね。それじゃあみなさん言っちゃって下さい」

 

 

 

友奈「今日、私たちが活躍した『結城友奈は勇者である』の」

夏凜「()2()()…つまりは続編が決定したわ」

樹「それと~」

東郷「その前日談でもあり、私とそのっち…」

園子「もう1人の勇者の物語を描いた」

?「( ̄ー ̄)b 」

風「『鷲尾須美は勇者である』が2期の前半6話として映像化…さらに2017年3月に先行上映も決定!」

 

勇者部一同『わーーーー!』

 

 

 

一騎・総士・乙姫・来栖「「「「おめでとう!!!」」」」

 

友奈「わっ! か…一騎君。総士君と乙姫ちゃんも」

園子「おー『みおみお』だ~」

 

一騎「続編が決定したから祝ってくれって作者さんが」

 

友奈「そっか~わざわざありがとう。みんな」

夏凜「作者にしてはまともなサプライズね。まあ、ありがたく受け取っておくわ」

 

作者「重大な発表もあったわけですが…西暦時代からお祝いの言葉が…『丸亀城勇者学校』の方たちからですね」

風「『乃木若葉は勇者である』の初代勇者たちね」

 

乃木若葉【拝啓 讃州中学勇者部の勇者たちへ

 

この度、続編や既存作品の映像化が発表されたと聞いて代表して私が何か言葉を送ることになった。が…その…こういうのは苦手だからな。

 

私らも書籍やドラマCDなどで出ている身だが、作品的に元祖と言われる君たちの活躍の続きが描かれることを非常に喜ばしく思う。ともかく、おめでとう!

 

丸亀城勇者学校 西暦勇者代表 乃木若葉より】

 

園子「おお~ご先祖様のありがたな言葉が~」

樹「不器用そうに見えますが…こう心に来る言葉です!」

 

作者「長くなりそうですしこの辺ですかね」

 

園子「そうだね~」

風「んじゃあ、そろそろお開きにしましょうか?」

総士「作者、少しいいか?」

 

作者「なんでしょうか?」

 

総士「第10話のあとがきに対して…その…」

????「皆城君、下がって」

 

作者「ふぁぁ!!! 『遠見真矢』さん!!!」

 

遠見真矢「作者さん…あとがきにこれがあったんだけど…どういうこと?

 

『ゆゆゆ界のマークゴルゴ』」

 

東郷「私にたいする言われ…ですよね」

作者「あ…」

 

真矢「私の中の人…これになんて言ったか知ってるよね? 『ゴルゴおこだよ』(ドラゴントゥース改構え)」

 

作者「じょ・・・冗談じゃ!」

 

――― ズガーンDAYO

 

一騎「また作者爆発落ちか」

 

?「うわぁ(爆風にあおられヘルメットがとれる)」

 

風「あ、ヘルメットがとれた」

樹「灰色の髪の女の子?」

 

?「ワッツ!? ヘルメットが飛んで行っちゃったよ!」

東郷「やっぱりあなただったのね!?」

 

スタッフ【ばれる前に隠してください】

 

園子「わ~『ミノさん』~今はだめだよ~!」

来栖「ともかくこれで。あ、この子の正体は俺と園子編の『外伝2』で明らかになるよ」

?「メタ発言はやめて~」

 

総士「……収拾がつかなくなったぞ」

夏凜「だ、誰かアホ作者の代わりに締めて!」

 

友奈「う、うん。それじゃあみんな~知ってる人も知らない人も~これからも作者さんの作品を宜しくお願いします~」

乙姫「私たち『蒼穹のファフナー』の続編はいまだにわからないけど、続編が決まった『結城友奈は勇者である』と初映像化の『鷲尾須美は勇者である』応援よろしくね~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、2016/12/29 追記

 

乙姫「…って言ったんだけど」

一騎「わずか1年とは意外に早かったな総士」

総士「極めて重大な発表だった」

来栖「とても大きな大きな誕生日プレゼントだったね~」

 

『皆城総士生誕祭2016』にて『蒼穹のファフナーthe beyond』……制作決定




ゆゆゆ続編万歳! わすゆ映像化万歳!

……っていうテンションで書いてしまった。

ゆゆゆの続編が決まりましたが本作をこれからもよろしくお願いします。

2016/12/29追記:まさかファフナーもこれほど早く新作が発表されるとは思わんかった…


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結城友奈 生誕祭記念特別話

時系列は、当小説の第2話直後。

結城友奈に関しては明らかになっていない部分が多いため。当小説の独自設定の部分が多く占めています。

2017/3/21 後半部分を修正・加筆(友奈と東郷のシーンを追加)


-神世紀297年3月20日 真壁家-

 

「そうか。本当に問題はないんだな」

 

《ああ、あくまで簡易検査での結果だがな》

 

一騎は以前起きた事件(第2話より)の事後報告を総士から受けていた。

 

「それにしても地域ごとの一斉検診でどうにかしてしまうなんて」

 

フェストゥムに関してはまだ表沙汰にするわけにもいかなかったが、総士が周りに気づかれないように配慮してくれた。その手腕に一騎は舌を巻いた。

 

《僕も驚いてる……僕の家は大赦でも格式が高いとあったが……ここまで影響力があるとはな》

 

今の皆城家は総士でも計り知れない程の影響力があるということらしい。

 

《とにかく、一騎はその少女のことを頼む。また、フェストゥムに感応してしまうかもしれないからな》

 

「あぁ。任された」

 

そう言うと総士との連絡を終えた。

 

――― prrrr

 

間髪入れずに今度は家に備え付けられた古い黒電話のベルが鳴った。

 

「誰からだろう…はい、真壁です」

 

《もしもし、結城です》

 

受話器を取ると相手先は隣人の結城家の母である。

 

《ちょうどよかったわ。実は一騎君にお願いしたいことがあるの》

 

どうしたのかと思い要件を聞いてみた。

 

《明日うちの友奈の誕生日なの》

 

「友奈の誕生日なんですか?」

 

そう聞き返す。しかし結城母は申し訳なさそうに言う。

 

《そう。だけど、都合が悪いことにうちの父と明日出なくては行けなくなっちゃって多分あの子の誕生日を祝えないかもしれないの。友奈には言っておいて一応は納得はしてくれたんだけど……その》

 

都合が悪いことにその日のうちに結城両親から祝う事が出来なくなってしまったらしい。一瞬口ごもったので一騎は思わず聞いてしまった。

 

「友奈に何かあったんですか?」

 

《我慢していたようだけど内心凄くしょんぼりとしていると思うの……》

 

結城母から悲しげな声でさらに続ける。

 

《……あの子は私たち…ううん、自分より他人の事を本当に想ってくれるのはいいんだけど、それがあの子の良いとこでもあり悪いとこでもあるの。多分、あの子は相当我慢していると思うわ》

 

以前に友奈に訊ねた際の事を思い出す。他人を想いすぎているからこそなのかと一騎は思った。

 

「なら、どうして俺にその事を」

 

《友奈はあなたに本当に懐いているようだからね。あなたみたいな子なら友奈の事を任せられると思ったの》

 

これまでの友奈と一騎の様子からいつの間にか結城家の両親から信頼できる間柄になっていたようだ。

 

「わかりました。……俺にできることなら」

 

《ありがとう。あなたからならあの子も喜ぶと思うから…ね》

 

結城母との電話を終え受話器を置いた。

 

「(自分よりも他人の事を優先する子か)」

 

まるで島にいた時のあの子みたいだなと呟く。

 

「(プレゼントは必要だよな…他には)」

 

すぐに気持ちを切り替える一騎。その顔はかつて竜宮島の喫茶店『楽園』の雇われ店主の顔と化すると何かできないかと考え始めた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-神世紀297年3月21日 結城家-

 

「それじゃ、友奈言ってくるわね」

 

「うん。お母さん、お父さん行ってらっしゃい~」

 

友奈は朝早くに出る両親を明るく見送った。

 

「……さてと、行かなくっちゃ」

 

春休みであるため友奈は学校での友人と遊びに行くつもりだ。本来なら夕方には帰宅して両親と供に過ごすつもりだった。一瞬、寂しそうな表情を見せるが彼女は自分を奮起させるように言うと施錠し家を出た。

 

「あ、一騎君」

 

その声に気づいたのか一騎が振り向いた。

 

「友奈どこかへ出るのか?」

 

「うん。お友達と一緒にお出かけするんだ」

 

「そうか」

 

「うん。…あぁ~もうこんな時間!早く行かなくっちゃ。一騎君、またあとでね~」

 

スマホで時間を見た後、友奈はそそくさと行ってしまった。

 

「……少し、危なかったな。帰ってくるまでには終わらせないと」

 

一騎も準備のために動くことにした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「楽しかった~けど、随分遅くなっちゃったな~」

 

友奈は友人たちと命一杯遊び尽くした。商店街のうどん屋に寄り友人たちとだべったり、近所の大型ショッピングモールのゲームセンターで友人たちが様々な機種をやっているのを見たり自分もやったり、そのあとは服などを見たり、ジェラードショップでおすすめのジェラードを食べたり、ともかく挙げたらキリがない程だ。

 

「……しょうがないよね」

 

本当なら両親が友奈の誕生日を祝ってくれる……はずだった。今日は両親の急な要件が入った事を受け入れたと自分に言い聞かせるようにしてドアを開けた。

 

「……ただいま」

 

友奈がリビングに入るとぱん、という弾ける音が響き色とりどりのテープが宙を舞う。

 

「ふぇ?」

 

何のことだかわからなさそうな表情できょとんとしていると友奈はリビングにいる人影に気づいた。

 

「誕生日おめでとう」

 

「え…一騎…君?」

 

「? 今日誕生日なはずだろ?」

 

首を傾げ一騎が聞いてきた。友奈ははっと現実に引き戻された。テーブルの上には様々な料理と真ん中にはケーキが置いてあった。

 

「えっと…うん。私の誕生日なのは合ってるよ」

 

「そっか。よかった。間違えたと思ってた」

 

「どうして、一騎君が。それにこれ全部」

 

「俺が用意したよ。実は……」

 

一騎は友奈の両親に誕生日を祝ってくれと頼まれた事を告げた。両親も友奈には本当に悪いと思っていた事やらそのために一騎が変わりに祝ってほしいと頼まれたことも告げた。

 

「そうだったんだ……一騎君…ありがとう!」

 

 

 

ロウソクをケーキに立てると火を灯し、友奈は一息で火を消すと料理に手をつける。

 

「(!?)このカレー美味しいよ!」

 

「それは何よりだな。俺の一番の得意料理なんだ」

 

その中でも一騎の作ったカレーを絶賛した。これが後々に波乱をうむことになる(第4話にて)。

 

「友奈、これ」

 

一騎は包装されたリボン付きの箱を友奈に差し出す。

 

「わぁ~っ! これ、プレゼント? 空けてもいいかな?」

 

「もちろん」と一騎は返す。友奈はリボンを解き、包装を丁寧にはがし箱を開けた。

 

「あまりこういうのは分からなくって…」

 

中に入っていたのは桜の花びらの髪飾りだった。

 

「付けてみてもいい?」

 

一騎は頷くと友奈は早速髪飾りを付けた。

 

「似合ってる?」

 

「似合ってると思う」

 

「本当っ! 本当にっ!」

 

友奈は満面の笑みを浮かべ大いに喜び、一騎に詰め寄るような感じで聞いてきた。一騎はそれにたじろぐもなんとか首を縦に振り返した。

 

 

 

――――――――

 

 

 

-神世紀299年 結城家-

 

「…っていう事があったんだ~」

 

友奈は親友となった東郷にその事を語っていた。

 

「へぇ~。なんだか素敵ね。友奈ちゃんがいつも着けている髪飾りと一騎君にそんな事があったなんて」

 

東郷はうっとりとした表情でそれを聞いていた。

 

「でね、あの後夜遅くにお父さんとお母さんなんとか帰ってきたんだけど、一騎君2人の分まで用意してくれてて、そしたらお母さんが突然『…婿に来ない』って褒めてたら、今度はお父さんが『赦さんぞぉ』って事になっちゃって、私もびっくりしちゃったよ」

 

「へ…へぇ…」

 

友奈は少々呆れた状況になってしまった事を語り、東郷が乾いた笑いで返す。

 

「なんか…ちょっと羨ましいかな。友奈ちゃんの近くにそんな男の子がいるなんて。…友奈ちゃんは一騎君の事をどう思ってるのかしら」

 

東郷は気になった事を訊ねてみる。

 

「好きだよ!」

 

「え?」

 

東郷が目が点となり驚きの声をあげる。

 

「ど…どんな風に」

 

「美味しいご飯も作れるし、優しいし。気配りもできるし、好きだよ!」

 

「そ…そう(友奈ちゃんのこの感じじゃあ、なんだか友達としてっていう感じなのかな)」

 

友奈の答えから東郷はそんな感じだと思うことにした。

 

『友奈~東郷さん~、一騎君がきたわよ~』

 

「あ、友奈ちゃん。そろそろ時間よ」

 

「わかったよ」

 

その日は中学への入学の日である。友奈は鏡を見ると身だしなみをチェックし東郷の後ろへ着き車いすを押して部屋を出た。

 

友奈にとってとても大事なものとなった髪飾りは中学生となった今も欠かさず愛用している。




始めてキャラの生誕祭記念の特別話を描きましたがどうだったでしょうか?

蛇足:『結城友奈は勇者である-鷲尾須美の章-』見に行きましたが第1章からこの尊さ。だけど、次の第2章来月15日だけど…原作どおりなら…覚悟しなきゃいけないか

追記:終わらせ方がなにか物足りなかったのでシーンを追加。うまく纏めれたかな。


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東郷美森 生誕祭記念特別話

時系列は、当小説の第4話直後。

2017/4/11 プレゼントシーンの加筆修正(乙姫のセリフ追加)


-神世紀300年4月7日-

 

春。陽が差しこみ風も穏やかになり、人々にとっては過ごしやすくなってきた頃。

 

「ヤバイよヤバイよ~!」

 

友奈が慌てた様子でやってきた。

 

「……友奈さん誰かのマネですか?」

 

「違う、違うよ~!」

 

「……落ち着け…結城」

「友奈ちゃん、まずは深呼吸」

 

「すーはー…すーはー…。うん、落ち着いた」

 

あわあわと落ち着きのない友奈に総士が呆れるも宥めた。総士は勇者部に入部することは考えると言っていたが、乙姫がどうしてもと興味を持った事、勇者部との紆余曲折の出来事、それと部長である風の秘密と抱える御役目の事もあってか結局入部し事務を担当するようになっていた。

 

総士の隣に座っている乙姫もお手伝い的な形の特別部員として風が認めたが活動に友達と参加していることから半ば入部しているようなものである。

 

「もう少しであの日なんだけど…みんなって……もう買った?」

 

「東郷の誕生日プレゼントのこと? だったら当然、用意してあるわ」

 

席に着いた友奈が話を切り出す。今日、東郷を除く関係者が集まったのは近々にせまった東郷の誕生日のことである。

 

当事者である東郷は幸いともいうべきなのか私用があるため先に帰っている身である。

 

「友奈、もしかしてまだ迷ってるのか?」

 

友奈の顔が青ざめる……どうやら、図星のようだ。

 

「……だって、何にしようか迷ってるうちに今日が来ちゃったもん!」

 

「…前も同じこと言ってないかな。総士、いつかわかる?」

「……大体1週間くらい前からです」

 

一騎が訊ねるも友奈は未だにプレゼントを決めていないらしい。総士の答えに風はため息をついた。

 

「どうしても絞り込めなくって……うぅ~、ヤバイ、ヤバイよぉ~。私は何をあげたらいいんだろ~!」

 

「結城が一生懸命選んだものなら東郷も喜ぶと思うが」

 

「そんなんじゃだめだよーーー!!」

 

友奈は総士の言い分に真っ向から否定する。それもその筈、東郷の誕生日を知ったのは中学へ入学してから数日後で昨年は祝えなかったのである。

 

『つ、次の年に祝ってくれればいいから…ね』

 

当人である東郷からこう言われた友奈は張り切るのも無理はない。

 

「だって……東郷さんのお誕生日始めて祝うんだもん」

 

「総士、デリカシーなさすぎ……」

「……」

 

乙姫からジト目でにらまれる。総士はぐうの音もでない。

 

「友奈、総士が言いたいのは贈る気持ちの事じゃないかな」

 

「贈る…気持ち? う~ん、あっ」

 

一騎が総士のフォローを入れると友奈はふと以前祝ってもらった誕生日の事を思い出した。

 

「そっか! ありがとう、一騎君!」

 

何か閃いた友奈はすぐに飛び出していった。

 

「(不憫だ……)」

 

「行っちゃっいましたねぇ~」

「友奈のやつ……こういう時だけは行動が早いんだから、それじゃあみんな明日よろしくね」

 

一同は確認事項を終えると風の一声で解散となった。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

-神世紀300年4月8日 喫茶『楽園』-

 

東郷の誕生日当日、小学生である乙姫が讃州中学へ容易に入れないを考慮して喫茶『楽園』で行われることになった。それを聞いた店主の溝口が店の定休日ということで貸し出してくれたのである。

 

「友奈からだわ。店の前に来たそうよ」

 

半日授業を終えた一同は主役である東郷を待ち構えていた。そして、友奈に連れられ東郷が店内に入ると、

 

「わっ!?」

 

『お誕生日おめでと~!!!』

「東郷さん、お誕生日おめでと!」

 

「みんな……!」

 

一同はクラッカーを鳴らし祝福する。突然のことで東郷は目をぱちくりとさせたものすぐに笑顔が綻んだ。

 

 

 

誕生日会が始まり、ケーキのロウソクを東郷が吹き消すと風の一声でプレゼントを贈る時間となった。

 

「私と一騎先輩は、こういうのにしましたよ」

 

樹は讃州中学への入学したため目上の人である友奈たちの事を先輩つけで呼んでいる。

 

「木べらに、裏ごし器……お菓子作りの道具?」

 

「はい、東郷先輩には、これからも美味しいお菓子を作ってもらいたいから♪ 道具選びには一騎先輩からアドバイスをもらったので共同をいうことになりました」

 

「(!?)これ本職の人が使ってる物じゃない」

 

「俺なりにいい物という事で選んだつもりだけど」

 

「こんな良い物を。ありがとう! ふふ、貰ったからには美味しいのを作ってあげるわね」

 

東郷はその品を見抜くと感慨の声をあげた。

 

「続いてはアタシね。東郷といえば、コレしかない!」

 

今度は風が1冊の分厚い本を取り出すとテーブルの上に置いた。

 

「『歴史的軍艦大全』! やっと見つけたのよ」

 

「まあ、風先輩…ありがとうございます!!!」

 

おっとりとした見た目の東郷だが無類の日本史(特に近代史)が好きで彼女の強い愛国心の元となっている。東郷はまた感慨の声をあげた。

 

「私たちのはこれだよ♪」

 

総士がテーブルの上に箱を置くと乙姫が蓋を開ける。中身は淡い青に光る石のアクセサリーだった。

 

「綺麗なペンダント…」

 

「……これ結構な値段じゃないの」

 

「みんなが思うほど値段は高くはない。リーズナブルな価格だ」

 

「東郷さん、着けてあげるね」

 

東郷はお言葉に甘えて友奈にペンダントをつけてもらった。

 

「これにはね。ちょっとした意味があるの」

 

「意味?」

「もしかして誕生石ですか? 4月といえばダイアモンドですが」

 

「半分正解かな」

 

犬吠埼姉妹の問いかけに乙姫が少しいたずらっぽく答える。

 

「この石は『水晶』だ。4月8日の誕生石で、水のように柔らかく邪気を包み込み、浄化するとされている」

「石言葉っていうのがあってね。『永遠な愛』、『永続』、『浄化』という意味があるらしいよ。これからもみんなと絆を深めたいし、足が少しでも良くなってほしいと思ってこれにしたんだ」

 

「……素敵。乙姫ちゃん、総士君ありがとう!」

 

兄妹から贈られた誕生石の逸話に東郷はうっとりとした表情となる。東郷が2人に感謝すると今度は友奈の番だ。

 

「東郷さん、私からの一つ目のプレゼントはこれだよ」

 

「これは…まぁ、友奈ちゃんらしいね」

 

「コレかなって思って。悩んでいたんだけどこういうのは贈る気持ちが大切だから」

 

「ええと、この花は…レンギョウかしら?」

 

「うん、意味は『豊かな希望』。これからもたくっさん楽しい思い出になるようにね」

 

「これも素敵…なんとお礼を言ったらいいのかしら。でも、友奈ちゃんこれが1つ目って……」

 

「2つ目は夜になってからね。それまで楽しみにしといてね」

 

満面の笑みを友奈に見せた東郷であったが、彼女のもう一つのプレゼントの事に少し首を傾げた。誕生日会は盛況のうちに終わったのである。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「……あそこに見えるのが有名な北斗七星。北斗七星はおおぐま座のしっぽなんだよ」

 

誕生日会を終えた東郷と友奈はブランケットを敷いてその上に寝そべって星を見ていた。夜空に浮かぶ星々を友奈が東郷に教えていく。

 

東郷は友奈の意図が分からなかったものの、彼女の星座の紹介に耳を傾けていた。

 

「そんな星座があるの?」

 

「ええっと、……ごめ~ん! ドレがソレかわかんないよね!?」

 

「ううん、これも素敵な贈り物よ。私、初めてよ。友奈ちゃんが私のためを思ってるんだもん。みんなからもいっぱい貰って、とっても幸せな気分よ」

 

「ほんとっ!?」

 

「えぇ」

 

「えへへ。実はね、私の星座も東郷さんと同じ牡羊座なんだ。牡羊座同士の相性って最高なんだよ!すぐに仲良くなって、ずっと一緒にいられるんだって!」

 

友奈の面を向かっての告白に東郷は顔を紅くした。

 

「あら?」

 

少し顔を俯かせると胸のペンダントの水晶が淡く光っていた。

 

「わぁ~綺麗!」

「本当ね!」

 

その日は雲一つもなく、多くの星が見えるためか夜なのに辺りは明るい。照らす光が水晶に反射して輝いているようだ。東郷と友奈はそれに見入っていた。

 

「(記憶を少し失って、こんな足で不自由になったけど、私…幸せよ…みんな、ありがとう)」

 

東郷がふと目を瞑り、今日の事をを振り返りみんなに感謝する。そして、このままずっとみんなと一緒にいれるように星の下で願った。




誕生日SPは日常度増し増しのため特にフラグ建てはなしに進行。

友奈と東郷に関しては本編終了後の段階での誕生日SPやってみたいなあ……。


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犬吠埼風 生誕祭記念特別話

犬吠埼姉妹の淡々な日常を描いた特別話。時系列は本編終了後。

ふういつが中心になるかと。

2017/5/1 追記:後書きに後日談の簡単なキャラ設定追加。一部修正。


「うぬぬ……」

 

犬吠埼樹は多目的用の電子レンジを睨みつけ、今か今かと待ちかねていた。

 

――― チーン

 

焼きあがった品を今回のために樹に協力した4人の前に差し出す。分量の間違いや手順は……多分、間違っていないはずだ。

 

4人は差し出された品を一口頬張り咀嚼する。それを見守る樹の心臓は緊張で今にも張り裂けそうに鼓動していた。目を瞑り食いしばろうとしたが、子犬のように少し震えた。

 

「……悪くはないんじゃないか?」

「極めて平凡だが。…よく出来た」

「うん、及第点です」

「美味しいよ♪」

 

「本当ですか!?」

 

一騎・総士・東郷・友奈の順である。樹はぱぁっと表情が明るくなる。

 

「「やったね。樹ちゃん」」

 

「はい!」

 

樹・友奈・東郷がハイタッチをし合う。

 

「本番で出来れば、いう事なしなんだが」

 

「分かっています。明日の本番ではお姉ちゃんが帰ってくるまでに一人で完成させて見せます!」

 

樹が気合を入れる。明日は5月1日、勇者部()部長である姉犬吠埼風の誕生日だ。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-神世紀301年5月1日-

 

あの決戦を終え、あっという間に時が流れた。讃州中学勇者部部長であった風はその役職を後輩へと引き継ぐと讃州中学を卒業した。

 

風は両親を早くに亡くした身であり、妹である樹の事もあり、最初は就労することも考えていた。……が、そんな姉妹を見かねて支援をしてくれた人からの薦めもあり地元の高校へと進学することに決めた。

 

(少し…寂しいかな)

 

進学した風の心境はこんな感じだったらしい。仲間でバカ騒ぎし、女子力を振りまき、または振り回された。そんな仲間との思いが強かったのが影響したそうだ。

 

どうせならまたみんなで高校でも勇者部として人のためにやろう。風は中学での経験を活かし、また勇者部を作ろうと実績を積み重ねていた。

 

「んー、なんか今日は仕事が多いわね」

 

今は生徒会からの依頼で書類作業へと勤しんでいた。生徒会のメンバーはどうやら讃州中学出身のようでその伝手らしい。

 

「風、ごめんね。うちの生徒会長がまたサボってるようで」

 

「このための『勇者部』ですから」

 

副会長と雑談しながら書類を処理する。少しそわそわとしているのを見た副会長が聞いてきた。

 

「……なんか焦ってます」

 

「ふぇ…そ、そんなんじゃありませんよ~」

 

内心焦っていた。今日、妹の樹が早退したという連絡を()()()()()()()から受けたのである。風は早く帰りたいという気持ちを抑え、依頼の遂行をし、一刻も早く終わらせたかった。

 

(そろそろ限界かしらね)

「副会長、こちらの執務はすべて終わりました」

 

他の作業をしていた庶務が戻ってきた。

 

「ご苦労様。風、後は私たちでもできるからもうあがっていいわよ」

 

「あ…ですが…」

 

見ればまだ仕事の量が残っていた。

 

「いいわよ。そろそろうちの怠け者を呼び戻しますので」

 

「あ~……分かりました。それじゃ、お言葉に甘えてあがらせていただきます」

 

風はそそくさと出て行った。入れ違いに生徒会長が戻ってきた。

 

「風は行ったか?」

 

「……言ったわよ。怠け者さん」

「怠け者お疲れ様です。会長」

 

「仕方ないだろ。……総士から頼まれていたんだしさ」

 

散々な言われようだが、これも生徒会の計画のうちであった。

 

「ほぉら、仕事たまってますよ。生徒会長さん」

 

「はいはい」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「こんなに遅くなちゃった! 樹、大丈夫かしら。倒れたりしてないわよね……?」

 

風は帰路を急いでいた。頭の中は、早退した樹の事でいっぱいだ。

 

「こんな時に夏凜やみんなも知らないって一点張りだし…お姉ちゃん、いま帰るからね!」

 

自宅であるマンションの一室のドアを開ける。すると ―――、

 

「ジャジャーーン!」

 

「へっ!?」

 

風が目にしたのは、テーブルに並べられた料理と中央に装飾された箱が置いてあった。

 

「お誕生日おめでとっ!」

 

樹が笑顔で姉を出迎える。風は突然のことで少し思考が停止した。

 

「あ……」

 

「今日はお姉ちゃんの誕生日」

 

「そう……だっけ……いや、そうだった」

 

以前もこんな事があったなと風が思い出した。樹が急かし、風は席へとついた。

 

「今回も全部アンタが飾り付けたの?」

 

「そうだよ~♪」

 

去年もこんな感じで樹は祝ってくれた。風は次第に笑顔が綻んでいた。

 

「だけど……今回の私はちょっと違います!」

 

「え、何々?」

 

樹がテーブル中央の箱を持ち上げた。

 

「ジャジャジャジャーン!」

 

「(!?)これって…ケーキ」

 

中から出てきたのはシンプルなパウンドケーキだった。

 

「樹が作ったの?」

 

「そうだよ。去年は料理の方…少し失敗しちゃったから、今回は挑戦してみました。東郷さんや一騎さんのお墨付きです」

 

「美味しそうね。さっすがあたしの妹」

 

風は樹の頭を撫でる。えへへ~と樹の表情が綻ぶ。

 

「ケーキで時間が掛かっちゃって…ほかの料理は出来合いの物だよ」

 

「ううん、そんな事ないわ。絶対に美味しいに決まってるわよ。アタシのためにありがとう」

 

「お姉ちゃんが高校行ってるから今回は総士さんのお友達経由で生徒会の人たちに時間稼ぎお願いしちゃった」

 

「あぁ~、なんかおかしいと思ったらあの人たちもグルだったのね」

 

風がよそよそしかった生徒会メンバーの行動の真意に気づいた。

 

「さ、食べよ」

 

「うん、あれ?」

 

辺りを見渡すが一緒に暮らしているもう一人の妹分がいないことに気づく。

 

「夏凜さんは今日は園子さんたちの所です。『姉妹水入らずで過ごしなさい。頃合い見てみんなでお祝いに行くわ』だそうです」

 

「あやつめ…余計なんだか粋なんだかの計らいを……。

 

はぐっ! う……く……とっても美味しいわ!本当に涙が出るくらいに(去年と比べると…そっごく進歩してる~~~~!)」

 

大食感である風はあっという間の速度で食べる。昨年は樹の料理の腕前が……少し悪かったせいか余計に美味しく感じたそうな。




樹には頑張ればできる子であってほしいという感じで描いた結果このように。

当話に出てきた生徒会の人たちですが、生徒会長を某イノベイターの中の人で変換すれば……(多分どっかの話で出すかと)。



●後日談の簡単なキャラ設定(一部ネタバレあり)
犬吠埼風:高校へと進学。とある事情で後見人と妹分ができた。
犬吠埼樹:学業・勇者部・歌手と3足の草鞋状態。師匠に恵まれたのかある程度の自活力が付いた。

結城友奈:ゆゆゆ内の出来事によりある感情を自覚した。
東郷美森:記憶を取り戻し、同時にある思いも再び自覚。

三好夏凜:風のもう1人の妹分。ある事を身内に知られた結果である。

乃木園子:原作とは違い。住んでいるマンションでは2人ほど同居人がいる。


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三好夏凜 生誕祭記念特別話

三好夏凜を主役とした特別話。時系列は本編終了後。一部本編中のネタバレ及び原作変更あり。

ゆゆゆキャラの夏凜が主役なためファフナーキャラの出番は相当薄めです。

2017/6/13 誤字などを修正


-神世紀302年 6月12日早朝-

 

――― pipipipi

 

携帯端末のアラーム音が部屋中に鳴り響こうとした瞬間手が伸びる。

 

「……」

 

この部屋の住人である三好夏凜が端末を操作しすぐにアラームを止める。カーテンの隙間から刺しこむ光にむくりと反応し軽く伸びをしながら起き上がった。

 

(む…大分擦り切れて薄くなってる。そろそろ限界かしらね)

 

洗面所で顔を洗いトレーニングウェアに着替えた。

 

「お、おはよー夏凜。相変わらず早いわね~」

 

リビングへ向かうと同じ部屋の住人である犬吠埼風がいた。夏凜よりも早くに起きてキッチンで朝食を作っているようだ。

 

「…おはよう」

 

今の夏凜は風とその妹である樹と同居している。

 

勇者としての御役目が終えてから讃州地方で日常を過ごしたいと大赦へ希望を出していた夏凜だったが、体制が変わった大赦から風たちと一緒に暮らせという辞令がきた。大赦の前体制の事もあり夏凜もそうだが風たちにも色々あったようで詳しく聞いたが新しくできた後見人の意向らしい。その裏では讃州地方へと引っ越した夏凜の生活態度を知ったあるお人好しが一枚かんでいるのもあるが……。

 

「んじゃ、いってくる」

「玄関にいつもの置いてあるから忘れるんじゃないわよ~」

 

樹はまだ夢の中であろう。そう思った夏凜は風に見送られると玄関に置いてあるバッグと担ぐと駐輪場に置いてある自転車へとまたがり、日課であるトレーニングのため漕ぎだす。トレーニング場である浜辺へと着くと準備運動を終えた夏凜はバッグから木刀を二本取り出し素振りを始める。感触を確かめるように軽く何回か振ると、目を瞑りゆっくりと長く息を吸い一気に吐き出す。

 

「……ふっ!!」

 

目を見開き集中力を高め木刀を振るう夏凜がやっている型の円舞だ。御役目を終え平和に戻った今でも夏凜は欠かさず続けている。彼女にとって自らを現すものでもあり、これは夏凜が勇者として戦ってきた証みたいなもので今の時点ではやめる気はない。

 

「やぁっ!!!」

 

時間にしてみれば数分程度だが高い集中力と体力を必要する。見た目以上に過酷だ。その型の円舞を演じるのが朝の鍛錬の仕上げであるが勇者としての訓練を乗り越え、それからも鍛え上げてきた夏凜にとっては造作でもない。これでも勇者であった頃より訓練内容が少なくなった方だ。

 

「ししょー、お見事です!」

 

そんな夏凜に称賛の声があがる。自分を『ししょー』と呼ぶ幼い声に気づいた夏凜は声がした方へ向く。

 

「おはようございます!」

「おはよう、富子」

 

勇者部の活動で出会った園児『富子』がタオルと手渡してくる。夏凜は汗をタオルでぬぐいながらバッグからドリンクを取り出し飲み干した。鍛錬で火照った体によく冷えたドリンクが染みてくる。

 

「それじゃあ、始めるわよ」

「ししょー、よろしくお願いします」

 

一息ついた夏凜は富子への稽古の指導を行う。讃州地方で過ごしてから少し奇妙とも思える関係は変わっておらず今もこうして続いている。今でも彼女の家族とは贔屓になっているくらいだ。

 

「今日はここまで!」

 

「ありがとうございましたー!」

 

互いに礼を鍛錬と指導を終える。夏凜は荷物をまとめ自転車の籠にバッグを入れた。

 

「ししょー、少し待ってください」

 

「どうしたの、富子?」

 

弟子の様子に戸惑いの表情を見せる夏凜。それを余所に富子は自分のバッグをがさごそとし何かを探していた。

 

「ししょー」

 

意を決し、富子は夏凜の目の前に立つと小さな体を精一杯伸ばし箱を差し出してきた。

 

「お…お誕生日おめでとう!」

 

「あ……」

 

間の抜けた声を出す夏凜。今日は夏凜の誕生日であるが同時にもうこんな日だったんだっけ?と自問自答する。夏凜も笑みが綻び弟子からのプレゼントを受け取る。

 

「ありがとう」

 

正直に自分の気持ちを言葉に表すとその小さな頭を撫でる。くしゃくしゃと頭を撫でるとえへへと富子も満面の笑顔で喜んでいた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

富子を別れた夏凜はアパートへと戻り朝食を食べ終わった後、風と樹と一緒に出掛けることになった。その途上で、勇者部の仲間たちと合流すると地元のショッピングモール『イネス』へと向かった。

 

昨年は受験のために小規模なパーティとなったが今年は思いっきり遊んで誕生日を楽しもうというコンセプトらしい。樹に関しては歌手活動を本格的に始めた成果なのか、なんと推薦をとってしまったため憂いもなかった。

 

「おーーーーー! 『にぼっしー』、来てる来てるよぉ~。打点高いよぉ~」

 

服飾売り場にて主役である夏凜は園子の手により着せ替え人形と化していた。

 

「あー……やっぱり、私にはこういうのは…」

 

「そんな事ないよ~」

 

今の夏凜の服装は園子がセレクトしたフリフリの服装だ。普段は動き易いシンプルな服装を好む夏凜にとってこういうのは慣れておらず、恥ずかしさなのか顔を赤くしていた。

 

「あっはっは! 昔のアタシと同じこと言ってら! あはははっ!」

 

園子の親友の1人である『三ノ輪銀』が腹を抱えて笑っている。

 

「ッ! ……そういう、あんたこそ今の服装に対してどう思うのか言ってみなさい!!」

 

痛烈な突っ込みで返した。今の銀の服装も夏凜と同じフリフリの服装であった。銀は「うん、そうだったわ」と現実を直視したのか少し頭が冷えた様子だ。それを見た園子は光悦した表情となっていた。

 

(ま、まずい。このままでは園子が次何持ってくるか。かくなる上は)

 

銀に視線を送る夏凜。どうやら銀も夏凜が感じている危機のようなものを察したのか頷いた。

 

((……誰かに園子を止めてもらわないと!!))

 

「樹~こっちのはどうかしら?」

「う~ん、こっちもいいと思うな~」

 

「芹ちゃん、里奈ちゃん、これなんてどうかな?」

「私は良いと思うよ。芹」

「それだったら…これとこれ組み合わせれば」

 

決断が早かった夏凜と銀は最初に犬吠埼姉妹と2年後輩の乙姫ら『ツリセン隊』に助けを求めようとしたが服選びに夢中な様子である。

 

「一騎く~ん、どうかな?」

「ん、似合ってると思うよ」

 

「私にはこういうのは……」

「だけど、挑戦してみる価値はあるんじゃないか?」

「総士君がそういうなら…着てみようかしら」

 

「う~ん、服って色々多くって大変なんだね」

 

友奈と美森が試着した服装に対し、一騎と総士がそれぞれ感想を述べたり、または他のを勧めたりしていた。来主は学んでいる様子でこちらには目をくれてない模様だ。

 

「「詰んだ!!!」」

 

「『にぼっしー』、『ミノさん』」

 

園子が次の服をもってきたようだ。

 

「もう…」

 

「覚悟決めるしかないじゃないの…」

 

時すでに遅し、夏凜と銀は園子の方へゆっくりと振り向いた。

 

「次は…これ!」

 

「意外と…普通ね」

 

園子の手に握られていたのは女性ものの流行の服だった。胸に合わせて鏡を見たが普通に絵になっているようだった。

 

「楽しむのはおしまい。こっからは園子様、本気で選んじゃうよ」

 

「園子~、今日は夏凜の服だけって言ったのに!」

 

「『ミノさん』を見てたら、昔を思い出しちゃって……2人のキャップ萌えを見てみたかったんだ♪」

 

「アタシはついでかよ!……着替えてくるわ」

 

そう言って銀は試着室へと入っていった。

 

「本当はトレーニングウェア買いにきただけなのに…どうしてこうなった」

 

「『にぼっしー』可愛いとこいっぱいあるのに~もったいないよ~。それに『にぼっしー』はこういう服には疎いって聞いたの~。……『ふーみん』先輩と『いっつん』から私が渡したお洋服の本読んだんだよね」

 

「え…えぇ。まあ、一応は。でも、私…こんなにいいのかしら?」

 

夏凜が頷き答える。犬吠埼姉妹からいきなりファッション雑誌を渡され多少の予習は済んでいる。

 

「そのっち~」

「そのちゃーん、色々もってきたよ~」

 

「だからこそ、服選ぶ喜びを知ってほしいの…ね。それが私たちからのプレゼント~」

 

無邪気な笑顔を振りまく園子。夏凜は自分のために勇者部のみんなが動いているのだろうとは薄々感じていた。園子から手渡された服もそうだが、みんなで夏凜に合いそうな服を探しているのであろう。

 

「しょうがないわね。それが今年の誕生日のプレゼントっていうのなら甘んじて受け入れるわ」

 

「わぁ~ありがとう~『にぼっしー』」

 

「ただし、私にあった最高のを選んでやるわ……ん?」

 

「どうしたの~『にぼっしー』」

 

選ぼうとした矢先、夏凜の目にある物に目が奪われた。勇者部のみんながそちらの方を向いた。

 

「夏凜、あのワンピースがどうかしたのか?」

 

視線の先にあったのはショーウィンドウ内に飾られたワンピースであった。

 

「雑誌にあったやつ…なんとなく気になったような気がしたの」

 

「あぁ~あれね。今年の新作のやつよ。そういやんな事話していたわね」

 

一騎が確認を取り夏凜が答える。さらに、風から夏凜がそんな事を言っていたわねと示唆してきた。

 

「『にぼっしー』、あれが欲しいの?」

 

「ふぇ、でも高いんじゃあ」

 

「私たちでも買える値段です。良心的です」

「夏凜、今日は誕生日のアンタが主役よ。私たちは気にしないでアンタが決めなさい」

 

遠慮しようとしたが、勇者部の仲間たちから気にするなと言われる始末。夏凜の気持ちはさらに揺らいだ。

 

「お客様、あちらの新作限定物をお求めでしょうか?」

 

「え…あ、はい」

 

店員に聞かれつい答えてしまう。

 

「申し訳ありません。あちらの新作はつい昨日予約の方が入ってしまって…これから納品なんですよ」

 

「(!?)そんな……」

 

がっかりと肩を落としてしまう。どこかで欲しかったのかなと思い込んでいたみたいだ。

 

「『にぼっしー』」

「夏凜ちゃん…」

 

「仕方ないわよ。早い者勝ちのようだったし。さ、気を取り直してアンタたちが持ってきたのから選ぶことにするわ」

 

夏凜は割り切ると落ち込んだ表情を見せた園子と友奈を宥めた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

夏凜は仲間たちと思いっきり遊び食べ、みんなからのプレゼントを抱え夏凜たちは自分たちの住むアパートへと戻った。

 

「今日はどうだったかしら?」

 

「まあ、良かったわよ。やっぱ、こういうノリが勇者部らしいのかな。……うれしかったわよ。……ん?」

 

「どしたの夏凜。何この大荷物は?」

「宛名が夏凜さんですね」

 

3人は自分たちの住むアパートの部屋の前に宅配ボックスに丁寧に小さな箱と梱包された大きな箱が置いてあった。何かと思った3人だったが、宛名が『三好夏凜へ』と書かれていた。夏凜は何かと思ったがそれを自分の部屋へと運び入れると小さな箱から開けてみた。

 

「兄貴から?」

 

中に入っていたのはDVDであり、夏凜は自分のPCのプレイヤーにDVDを入れると機動させてみた。

 

《やぁ、夏凜。……元気にしているか?》

 

PCの画面には兄である春信の姿が現れた。大赦での正装姿だが仮面を外し素顔を見せている。

 

《こんな形ですまない。俺は大赦新体制の重要な立場でな……忙しい身だし今の俺の立場だと公には出づらいからな。こうやって合間に映像を撮って伝えるのが精一杯だったよ》

 

前置きはいいからという表情で映像を見る夏凜。兄である春信とは以前よりかは関係は円滑になったもののいまだ苦手意識をもっている。

 

《一昨年は夏凜が御役目を受けて、去年は俺も忙しくなって全く祝うどころか会う事すらほどんどなかったからな……前置きはここまでだ。同封している荷物を開けてくれないか》

 

そう言われて同封していた綺麗に梱包された箱の包装を破り蓋を持ち上げた。

 

「これ…買い換えようと思ってたのに!」

 

中には2着の服が入っていた。1着目が夏凜が買い換えようと思った真新しいトレーニングウェアである。

 

「こっちは、ふぇ…な、なんでこんなのを!」

 

2着目はなんとショッピングモールで見かけた今年の新作限定物のワンピースであった。

 

《夏凜…お誕生日おめでとう。昔はこうやって祝ったのに最近はご無沙汰だったからな。それに勇者として頑張ってくれた夏凜に何もできなかった事もな。だから、俺としての気持ちで受け取ってほしい。今回俺の伝えたかったことは以上だ。今度、機会ができたら様子見に行くからな》

 

画面を見つめたまま微動だにしない夏凜。兄からのビデオレターに顔を真っ赤にし、どうしたものかと送られてきたワンピースを見つめている。

 

「ど、どうしよう…こんなもの」

 

そう言いつつも胸にあて鏡でチェックしてみる。やはり不思議と似合っているように思えてしまった。

 

「……何が精一杯なのよ馬鹿兄貴。…………それだけ言われちゃあ、受け取ってあげるわよ」

 

前のような関係だったら夏凜は頑なに断り受け取らなかったであろう。

 

「……あいつの言っていた事、今ならわかる気がするな……」

 

そのような心境の変化は、讃州中学の編入から始まった彼女は多くの仲間やその周囲に出会った人たちとの思い出によるものだ。夏凜にとってとても大切なものとなっており、それが夏凜の成長にさらなる後押しをしていた。




当小説本編終了後の夏凜はこうなってほしいという感じで書ききった。『勇者部所属』の富子とも絡ませたかったし、いまだに本編で出てない実兄である春信も出したかった。

余談ですが、スマホアプリ『結城友奈は勇者である-花結いのきらめき-(以下、ゆゆゆい)』で初のSSRが夏凜かつリーダースキルも強力だったためかすぐにフル強化に。日常パートでも彼女の魅力が随所に出ていたためその結果さらに詰め込むようなことになってしまいました。

●後日談の簡単なキャラ設定2(一部ネタバレあり)
・『勇者である』シリーズ
三ノ輪銀:園子と来栖と共に讃州中学へ編入。本編ではあのようになりましたが、後日談では人として勇者たちと過ごすことになる予定です。

・『蒼穹のファフナー』
真壁一騎&皆城総士:事件終息後もゆゆゆ世界で過ごすことに。ただし、一騎に関しては特殊な事情あり(結城友奈フラグ対策)。
皆城乙姫:讃州中学へ入学。勇者部の正式な部員に。
来主操:事件終息後、乃木家の養子化。

●蛇足
ゆゆゆいに登場する西暦の勇者『秋原(あきはら)雪花(せっか)』。本作中だと必須カードとも言える性能を持ったキャラですが、短槍を投げて戦うのですが……連射性能が高く何本も投げるので思わずファフナーのSDP『引き寄せ【アポート】』でも使ってるのかと思ってしまった。

●追記
ゆゆゆいにて讃州地方にイネスがない事が発覚。この世界ではあるという事にしておいて下さい。


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犬吠埼樹 生誕祭記念特別話

犬吠埼樹を主役とした特別回。時系列は本編終了後。一部本編中のネタバレ及び原作変更あり。

ゆゆゆキャラの樹が主役なため、やはりファフナーキャラの出番は相当薄めです。


-神世紀301年12月7日 讃州市文化会館-

 

「おっそ~い!」

 

木枯らしも吹き、冬の訪れという季節に入ってきた。昨年のこの時期に勇者部はある事件に巻き込まれたようだが、同じ勇者部員でもありこの世界の来訪者たち、さらにこの世界へ有益なものとなったある種の存在の協力もあって誰も欠けずに無事に解決した。

 

そんな事件も終わって1年、風はある場所にて落ち着きもない様子で誰かを待っていた。

 

「風先輩…場所考えろっつうの!?」

「開場はしましたが、開演まであと30分もあります。少しは落ち着いてください!」

 

「せっかくの晴れ舞台なのに…これが落ちつけるかぁー!」

 

「芹ちゃん、里奈ちゃん…今の風先輩には何言っても無駄みたい」

「「…ですよね~…」」

『あはは…』

 

乙姫の言葉に芹と里奈は肩を落とし、この場に集まっていた女子数人、今はこの場にいない部員のクラスメイトも乾いた笑みを浮かべる。今の風は機嫌が悪いというより今日のイベントを楽しみにしていたのかかなりエキサイトしているようである。

 

そうこうしているとバタバタと風たちの方に一団が駆け寄ってきた。

 

「乙姫、みんな。待たせたようだな」

「……で、風のその様子だともしかして」

「いっつんニウム不足だね~」

 

風の中学卒業とともに引き継いだ讃州中学現3年生組である。しかしながら、爆発直前の風の様子に現部長の夏凜、副部長補佐の総士は呆れた表情を浮かべる。園子はいつもの調子だ。

 

「友奈、大丈夫なのか?」

「銀、こんなに無理をしちゃって……」

 

「だいじょうぶだよ~かずきくん」

「すみ~。ぎんさまはのーぷろぐれむだぜ~」

 

「友奈ちゃんと銀ちゃんは……こうなちゃったのか」

「うん、模試が終わってからずっと。引っ張って来たんだ」

 

現3年生組はこの日、高校受験の模試と被ってしまったのである。今日参加する予定のイベントにはなんとか間に合ったが、現3年生組の中で学力に劣る友奈と銀が模試を終えたが目が死んだ魚のようになっていた。一騎と美森が心配そうに声をかけたが、なんとか声に反応する程度の意識はあるようだ。

 

「風がこれ以上暴走する前に会場入りするわよ。それと一騎と東郷は、その2人を引っ張って行きなさい」

 

夏凜はこれ以上見てはいられないと思いみんなに先導の声をかける。一同は文化会館ので受付を済ませ会場入りした。

 

 

 

「『めぶー』、みんな~こっち~!」

「急いでくださ~い!」

 

「ちょっと待ちなさ~い」

 

「振り回されてるね~」

「やれやれですわね」

「……うん……」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

-讃州市文化会館 控室-

 

「ふふ、みんな無事に来れたみたいですね」

 

控室にて会話アプリの履歴を見た樹がぽつりと呟く。今の樹は勇者の頃に着ていたドレスのような煌びやかな衣装を纏っている。

 

「樹ちゃん、入るわよ」

 

「あ、はい。どうぞ~」

 

関係者と思わしき女性が入室してきた。

 

「樹ちゃん、調子はどうかしら」

 

「はい、バッチシです。いつでもいけます」

 

「ん、いい返事ね。衣装も…うん、問題なし。あとはあなたのバースデーライブ、その出番まで待つだけね」

 

今日はなんと樹のバースデーライブなのである。1年半前のある出来事で歌手を目指すという夢をもち、姉である風に内緒であるプロダクションに応募した。送った歌声がプロダクションの人たちの目に留まったのである。その後は一悶着があったようだが騒動が落ち着いたのちに開催されたオークションに樹は合格した。

 

樹はそのプロダクションが主催する新人アーティスト育成プロジェクトの一員となって厳しい練習を乗り越え、既にアーティストとして人前に出た。

 

「……今回のライブ、これまでと違って少し規模も大きめだわ。そのプレッシャーはこれまでの比じゃないけど…」

 

「大丈夫です」

 

その目に強い意志をこめ樹が応える。

 

「ふふ……あれだけ頑張ってきたし、レッスン通りの実力を出せば大丈夫よ。じゃ、時間になったらまた呼びに来るから待っててね」

 

マネージャーは樹の様子とその目に籠った意思からやれると判断したのか、最終確認のためにいったん部屋を出て行った。

 

樹は控室の椅子へと座り、昂る気持ちと大舞台に臨む緊張を少し抑える。

 

ここまで来るのに色々あったが、それはアーティストとしての厳しい訓練だけではない。今考えてみれば、これまでの控えめな性格で、頼れる姉の庇護の下にいた自分がこの場に立っているのは考えもつかなかった。それ以前に、この世界の恵みである神様『神樹』に選ばれ、わからずも世界を守るために戦った。姉が勇者適正者を集めるという目的で作られた『勇者部』の活動や日常でもいろんなドラマがあった。

 

だけど、樹にとってそれは大事な思い出であり、自分の夢を見つけ、その一歩を踏み出せた掛け替えのない宝物のようなものである。

 

「(ここまで来るのに色々あったなあ)わっ!?」

 

樹はこれまでの思いを振り返っていると、ふと頭にぽふっとした感じと重みを感じる。近くにあったセット用の鏡を一目見る。

 

「『木霊』!?」

 

木霊が樹の頭の上から彼女の目の前に降りてきた。さらに木霊の隣の虚空に光が弾けると鏡から植物の茎が生えたような外見の存在が現れる。

 

「『雲外鏡』まで! あ、あわわ!」

 

突然の出来事に慌てふためくも誰かに聞こえたらまずい。そう思った樹は少し声のトーンを落として1年ぶりに再会した2体の精霊に訊ねる。

 

「あ、あのう。どうして、ここに?」

 

とは言っても精霊は言葉では語ってくれない…一部の例外もいるが同様である。木霊と雲外鏡は宙に浮いたまま動き、何か意思を伝えようとしてくる。

 

「……んっと、私の応援にきた?」

 

木霊と雲外鏡は激しく動く。どうやら肯定のようである。樹は目が点をなるも、2体の精霊の意志を汲み取ったのか微笑んだ。

 

「……ありがと。木霊も雲外鏡も、私が勇者だった時、いつも守ってくれていた。私の事を思うのは当然…だよね」

 

木霊と雲外鏡をわしわしと撫でる。2体の精霊が嬉しそうにしているように見える。

 

「樹ちゃん、出番よ」

 

「あ、はい」

 

マネージャーに呼ばれ樹は控室のドアへと向かう。その途中、机の上に置かれた用紙を一目見ると、木霊と雲外鏡の方へと振り向いた。

 

「私はいつでもみんなと一緒にいる。みんなと……心で繋がっている。この歌だって、繋げてみせます!」

 

そう宣言すると控室を出る。木霊と雲外鏡がそれを見送ったが、樹には2体が『頑張って!』と言っているような気がした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

竜宮島でもこのような規模の催しはまずなく、会場の飲まれそうなボルテージに竜宮島組は驚きは隠せないまま、なんとか席に着いた。

 

ちなみに席順だが正面ステージを見て左側が階段となっており前の列から、

 

夏凜|銀|里奈|乙姫|芹|樹のクラスメイト3人

風|園子|操|総士|美森|友奈|一騎

 

である。

 

「これどうやって使うんだ?」

 

「こうやって、歌のサビとかになったら振って応援するんだよ」

 

会場入りしてなんとか復活した友奈から一騎はライブで使うペンライトの説明を受けていた。

 

『わああああぁぁぁぁぁ!!!』

 

会場はなんと満員。樹が新人歌手とは思えないほどの実力と可能性を秘めているのを表しているのであろう。

 

観客たちは今か今かと待ち望んでおり、場は既に仕上がっている。

 

そして、会場の証明が一斉に落ちた。前奏が流れ各所に設営されたスポットライトがステージの中心を集中して照らす、その中心には黄緑を基調としたドレスのような衣装を纏った1人の少女の姿があった。

 

「いつきぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「ちょ、暴れるな!」

 

これまで何とか抑えてきた妹に対する思いを爆発させ応援幕を掲げる風。立ち上がろうとしたため前にいた夏凜がそれを抑えようとする。

 

【みなさん、今日は私のライブに来てくれて……ありがとうございます!

 

1曲目は私のデビュー曲……『カラフルワールド』!】

 

少女は歌う叶えたい夢のために。それが叶った今でも歌い続ける。犬吠埼樹にとって歌はみんなを幸せにするもの。

 

いつか世界中に届けるという夢のために樹は飛び続ける。




前回の夏凜特別話と同じ。当小説本編終了後の樹といった感じで描きました。

樹「あはは、ありがとうございます」

作者「すまないね。この作品では出番が少なくてね」

樹「やっぱり絡ませずらいっていうのがあるんですか?」

作者「ぶっちゃけると、1期勇者部メンバー5人の中で一番絡ませずらい。原作4話・9話の犬吠埼姉妹の生い立ちまではあまり出番がないし、ファフナーキャラとの絡みも然りなんですよ。その話を除いて一番、シリアスな展開が似合ってないともいえるのもあるね」

樹「作者さんは私の事が…」

作者「嫌いではありません。勇者であるの子たちに嫌いなんてありません! 展開的に絡ませずらいだけなんです!」

樹「それが聞けて良かったです!」

作者「『勇者の章』はあと4話でどこに落着するかわからないけど、こちらの本編やもうひとつの勇者であるシリーズ原作物の更新も頑張っていきますので」

樹「これからもよろしくお願いしま~す!」


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第1章裏『皆城総士』・『皆城乙姫』の章【残された者達の権利】 (裏題:『鷲尾須美は勇者である』編)
第1話 もう一組の来訪者-きょうだい-


第1章第1話で起こった事件の皆城兄妹視点


僕の名は皆城総士

君がこれを聞くとき もう僕はこの世にいないだろう

 

最後の時間が終わった時 

僕らは 憎しみを連なる存在によって 消されたはずだった

 

その時 僕らは奇跡を目の当たりにした

異世界の神という 未知の存在によって

消えゆく僕らの命が救われたのだ

 

異世界の神は言った

遠い宇宙から来た未知の存在 フェストゥム

人類の理解を超えた力を持つ彼らが 世界を超え

彼神の世界に災いをもたらすのだと

 

彼神は僕らに 自らの世界を救う希望になってほしいと願った

願いを受け かつて消えていった命とともに 僕らは世界を超える決意をした

 

竜宮島 戦乱で日本が消滅した後

平和という文化を残すために作られた 人工の島

僕のかつての居場所だ そこを離れるのは心苦しいこともある

 

だが僕は知ることになるだろう

世界を超えた先にある 安寧の地と呼ばれる場所を

 

 

 

――――――――――

 

 

 

神世紀297年、四国香川県『大橋(おおはし)市』かつて日本の本州と呼ばれる陸地を結んでいた『瀬戸大橋』。四国の玄関口とも言える歴史的な建造物となった橋がある事でその名がついた街。

 

その街中にある大きな西洋風の一軒家。この世界の神様である神樹により転生させられた1人である彼、皆城総士の意識は覚醒した。

 

「……ここはどこだ」

 

総士はベットから起き上がると自室と思わしき部屋の窓から外を見る。外の見慣れない風景を眺めつつも思考を重ねる。

 

生存限界を迎え『存在と無の地平線』を超えようとしたが倒したはずの敵に邪魔をされたこと、助けに来た一騎とともに自らを呼び出したとされる神樹という神の頼まれたこと、

つまりは世界を超える前の記憶、知識などすべてを覚えていた。

 

「なるほどこれが転生というわけか。……身長が縮んでいるようだが何故だ?」

 

フェストゥムの側へと一時的に身を置いていたことがある総士でさえ、このように総ての記憶を持ちえた状態で再誕するのは一生をかけても経験できない。何故背が縮んでいるのかは理解しがたい状況だったが。

 

「誰だ!」

 

突如として部屋のドアを叩く音が聞こえた。総士は部屋の外にいる者に警戒を露わにする。

 

「総士、私よ」

 

ドアを開け入ってきたのは、神樹により再び生を受けともにこの世界へと渡った乙姫であった。彼女もまた総士と同じで再会した時より小さくはなっている。

 

「乙姫か。その様子だと君もか?」

 

「そうよ。生まれ変わる前の事を全部覚えているよ」

 

「そうか。……どうしてこのような姿になったのか。わかるか?」

 

「こうなったのは、これに全部書いてあったよ。総士のもあるはずだよ」

 

総士が問いかけると乙姫がもっていた端末を見せてきた。21世紀の文明レベルにて日常的に使われていた携帯端末(スマートフォン)である。乙姫に促されて辺りを探すと机の上に同じような端末が置かれているのを見つけた。

 

「記録されているのはこの世界での私たちの立場と経歴、それにこの世界でやるべき役目だよ」

 

はじめて触る端末ながらもファイルの展開を行う。まず目についたのは張本人である神樹からのメッセージであった。

 

【皆城総士さんへ

 

この端末を起動させたということは無事に転生は完了したということですね。この端末は来るべき時に必要で先に言っておいたこの世界の情報はこの端末から見ることができます。なるべく手元から離さず持っておいてください。

 

身体が小さくなってるのはこれから出会うであろう子達に年齢を合わせたからです。なお、転生した貴方がたには役目があります。与える使命は2つ、1つ目が『来るべき時に備え、戦闘態勢を整える事』。2つ目が『この世界に関するあらゆる事を知る事』です。

 

それを行うために、我々を奉っている組織『大赦』の一族として名を連ねてあります。その一族たちに加え、あなた側に近しい人たちが力となってくれるでしょう。あなたたちが目覚めるまでにその準備もできています。

 

それと総士さんの場合、フェストゥムの世界にて肉体を再構成し、そのどちらとも言えない肉体になったと聞きましたが、転生し新たに人として生まれ変わらせました。フェストゥムとしての力も健在です】

 

「……極めて都合がいいというかな」

 

【敵の事に関しては貴方達に不便にならない様配慮、特に制限を設けることも致しません。

そのために近く、貴方達にとっては心強い人たちと会うことになると思われます。

 

最後に重ねて言いますが、どうか新たな世界での人生に幸があらんことを】

 

この情報をそのまま鵜呑みにするなら、総士はフェストゥムの力をもった人間。もしくはかつての乙姫と同じ状態になったのかもしれない。詳しくは調べる必要はあるかもしれないが、それによりいくつかの疑問が生じた。

 

端末の情報を確認し終え電源を落とすと、今度はベットに座っている乙姫の目の前で屈み視線を合わせ訊いた。

 

「乙姫、僕たちがここでやるべきことは分かった。最後にひとつ聞きたいことがある」

 

「なぁに?」

 

「君のこの世界での立場はどうなっている?」

 

乙姫は元は竜宮島のコア…要塞都市である竜宮島の防衛や生命維持などを司る立場であった人でありフェストゥムでもある希少な「融合独立個体」として生まれたコア型に分類されるフェストゥムである。その特性上、長期間の外での活動には耐えられず人間として生きられる期間も限られる。それが神樹と呼ばれる人知を超えた存在の手により再誕したのだ。彼女はこれまで通りの存在であるのか、それ以外の存在であるかここではっきりしておく必要があった。

 

「私はね……」

 

乙姫は自分の端末を差し出してきた。意味深な発言に困惑するも総士は端末を受け取りそのメッセージを見た。お役目に関する文題は総士を同じだったが、

 

【乙姫さん、あなたはコア型のフェストゥムとしてその生を全うしてましたね。その特異性がある以上、現状のままでは不都合であると判断しました。……勝手ながらあなたの最後の『願い』を叶え、総士さんと同じ人として生まれ変わらました。コア型としての力もそのままですが、守り神ではなく人という事で、この世界では『神の声を聞ける』少女である巫女という立場となっております】

 

「芹ちゃんたちと別れを告げた時にね…『人として生きたい、一人ぼっちになりたくない』『ここにいたい』って思っちゃったんだ。千鶴のおかげで受け入れることはできたんだけど、こんな形で夢が叶っちゃった」

 

「……そうか」

 

「こう言うのも不謹慎かもしれないけど、また『人』として生きることができてうれしいよ。……いけないことなのかな」

 

「いけないことではない。『人』としては当然のことだ」

 

「……ありがと、総士」

 

乙姫は『ワルキューレの岩戸』へと還るまで僅か3か月という人として短い生。それは島での生活は彼女にとって掛け替えのないものとなっており、それにより親しい人や島の住民たちをの別れを惜しんでしまった。乙姫が語る心情を総士は静かに聞き入れると静かに微笑み頭を撫でた。

 

 

 

この世界で役目の確認を終えると、総士は端末に同じくこの世界に転生した親友一騎の連絡先を見つけ電話を掛けることにした。通話のコールが数回行われると一騎がでた。

 

「まずは神樹の言っていた端末の情報とやらに目を通しておくんだ。この端末はどうやら日常生活に特化した一種のツールだ。極めて便利だ。見てみたら転生直後の僕らの経歴みたいなものもあった。それとどうやら神樹から僕たちにそれぞれ役目があるらしく事が起きるまで日常を送りつつ過ごせだそうだ」

 

《……役目ってのはなんなんだ?》

 

話し声から案の定、一騎は覚醒したばかりで何をするべきか分からず困惑しているような様子であった。

 

「僕の場合は神樹を奉っている組織の一族のところにいるからアルヴィスのように根幹に関わっていきそうだ。その関係でやる事もあってしばらく自由に動けない。すまないが…そっちはなんとか1人でやってくれ。幸い連絡手段はある互いに連絡を取り合おう」

 

神樹が用意したとされる携帯端末(ツール)の存在を教える。こちらからもフォローを入れる必要が生じるが、総士たちから離れた場所にいる一騎との連絡手段の確保をできたのは大きい。

 

「総士~呼んでるよ~」

 

「……何かあったら連絡してくれ」

 

恐らく一騎も総士たちと同様、時が来るまで神樹から託された役目があるだろう。大筋の説明はできたので電話を終える。

 

「どうぞ~」

 

「失礼いたします」

 

乙姫が部屋外にいる人物に入室を促す。すると、部屋のドアが開けられ1人の女性が入室してきた。

 

「おはようございます。総士お坊ちゃま、乙姫お嬢様」

 

「おはよ。よく眠れたよ」

「(……暫くは情報収集だな)おはよう」

 

 

 

数刻後、総士と乙姫は皆城家の資料室に訪れていた。

 

この世界の皆城家は神樹を奉っている『大赦』でも大きな発言力をもつほど格式が高く、その関係で両親が忙しく家を空けることが多い。と、先ほど皆城兄妹を呼びに来た女性はが教えてくれた。その女性は皆城家で雇っている使用人の一人であり、朝食を済ませ調べ物をしたいとの旨を伝えると、この部屋へと案内してくれた。

 

「なるほど、神樹の加護があるのは四国地方のみか」

 

まず調べたのは転生した世界についてである。今いるこの場所は『神樹』と呼ばれる御神木の祝福を受け護られた日本の四国地方であった。

 

「四国地方しか残ってないとなると、竜宮島が作られたとされる北海道と同じような状況か」

 

四国の周囲を形成している神樹の根、通称『壁』の外には死のウィルスが蔓延されているとされている。神樹はそれらから人々を守り、結界内には人々が生きるための糧となる恵みをもたらしている。

 

一方で、総士たちのいたかつての世界の日本はフェストゥムの侵攻と人類軍による核攻撃により世界から消されてしまった。だが、核攻撃から辛うじて残った日本の北海道にて竜宮島アルヴィスを含む人工島が3隻建造され、その種や文化を残すことはできていた。

 

総士はその点から四国も同じ状況であるとの認識に至る。

 

「これも真っ黒だよ」

 

調べている最中、気になったのは資料の殆どが添削されていたことである。不都合と判断されたのか大部分が黒く塗りつぶされており、辛うじて見れたのは表向きに人々に伝えられている事象だけであった。

 

(『大赦』という組織の方針なのか?)

 

これほど意図的にとなると、何かの思惑があって本来記されているべきの情報を隠したと判断し、歴史書を本棚に戻す。続いて、スマートフォンに保存されていた情報を読み取る。神樹から障りの部分だけは聞いていたがさらに詳しく端末には記されており、総士たちにとっては十分知り得たい情報であった。

 

「……『バーテックス』か。『フェストゥム』がこの世界に来ているとなると、かの存在との交戦も避けられそうにないな」

 

この世界の人類の生存圏内が四国まで縮小、追い詰められてしまった元凶(バーテックス)。この世界での『フェストゥム』に相当するであろう人類の敵、恐らく彼の生命体との交戦は避けられないであろう。

 

「どの道、大赦にコンタクトをとる必要があるか……難しそうだがな」

 

必然的にかつ早急に接触しなかればならない。しかし、今の総士たちは小学生くらいの子供。子供の言う事を大人は信じてくれるのだろうか。

 

「飽きてきちゃっよ、総士……」

 

成果も上がらず飽きを見せた様子だった乙姫の表情が変わる。最初こそ首を傾げ、何かわからなそうな感じであった。思慮にふけっていた総士も乙姫の急変に気づく。

 

「乙姫、どうした?」

 

「待って、これは……」

 

これには総士もただならぬ乙姫の様子に状況を見定める。乙姫は窓越しに空を見上げていた。見上げた空には何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

この日、僅かな時間ではあるが四国中に異変が起きた。

 

空に向かって威嚇する犬や猫、我先に逃げ出そうとする小動物、空には鳥の1匹もおらず姿を消していたのが確認されたのだ。

 

しかし、時間が経つ度に終息を見せ、やがて元の営みへと戻っていったのである。

 

 

 

 

 

 

 

「総士、時間があるかと思ったけどそうもいかないみたい!」

 

「何……―――ッ!」

 

只事ではない雰囲気を察した総士が問いかけようとしたが、彼の脳裏にもまたある言葉が響き渡る。『心を優しく撫でるような透明な声』、同時に背筋が凍りつくような感覚に襲われる。それが意味するものを総士は瞬時に察してしまった。

 

「奴らに察知されたのか」

 

声を絞り出し総士は乙姫に問い、彼女もまた頷く。『祝福』の意味をもつ絶望が、総士たちが転生した四国の居場所を知ってしまったのである。

 

「転生初日から次々と……」

 

トラブルは重なるものである。端末の着信音が響き、画面を見る。相手は先ほど電話でやり取りをした一騎だ。

 

「一騎、何があった?」

 

揺らいだ感情をなるべく抑え込み、電話先の一騎へ問いかける。一騎がこちらに連絡を取ってきたのは粗方予想はついていた。

 

《今、『フェストゥム』の声を聞いた》

 

ぽつりと一騎は呟く。一騎も同様に『心を優しく撫でるような透明な声』を聞いたようだった。その声は間違いなく『フェストゥム』が人類に問いかけるもので、この世界に襲来した裏付けとなってしまった。

 

しかし、続けて出た言葉に総士は再び戦慄することとなる。

 

《それだけじゃない。……ラジオだ》

 

「何?」

 

《あの時と同じ。ラジオに受信してしまった声を聞いてしまったんだ》

 

総士の脳裏に『フェストゥム』を呼び寄せる原因ともなったあの出来事が浮かぶ。一騎と総士にとっても忘れることはないあの苦い思い出だ。

 

一騎はその光景に再び出くわしてしまった。しかも、彼から『フェストゥム』の声に感応してしまった子が出てしまったことに、総士や乙姫も動揺を隠せない。

 

「それで被害は?」

 

《ラジオに集まっていた子供たちは大丈夫だ。だけど…神樹のメッセージにあった女の子がその……『同化現象』に陥ってしまって》

 

「何だと!」

 

《それで力を使った。今は……寝てる》

 

「……また肩代わりしたのか」

 

《それでどうすればいいんだ?》

 

総士が苦々しげに呟く。一騎に潜む変性意識『万能感と救済意識』の表れなのか彼は同化現象を肩代わりする能力をもっているが、それを用いれば『同化現象』の症状の進行が進み『人』としての生存限界が近づいてしまう。前の世界の総てを引き継いだとはいえ、少女を救った一騎の身に何か起きてもおかしくはない。

 

「……こちらでも同化現象を含めて出来うるだけ早急に対応を検討する。それと、火急の事態以外は出来るだけ力を使うな。その少女の事も頼んだぞ」

 

《わかった……》

 

次々と起こる出来事に頭を抱えながらも総士は一騎にそのように告げ連絡を終える。

 

(転生初日というのにトラブルだらけじゃないか……まったく、『こんな子供だから信じてもらえない』と言ってられないな)

 

常人なら思考停止に陥ってもおかしくない状況でも総士は冷静に物事を見定め、今後の計画を練る。

 

「そ・・・当か。・・・ではない・・」

「・・・けど、・・のことよ。本日、『・・・・・答』は確かに」

 

「え……?」

 

すると、部屋の外から何やら慌てた様子の大人たちの会話が2人に伝わってきた。離れているうえにドアや壁を隔てているせいか断片的にしか聞き取れなかったが、その会話で聞こえてきた『ある専門用語』に乙姫は思わず目を丸くしてしまった。

 

「この世界にあるんだ……神樹のメッセージ通りなら」

「乙姫! おい、どこへ行くんだ」

 

乙姫が突如として部屋を出て行った。総士は思考を中断され、どこか確信をもった様子の乙姫の後を追う。

 

総士は考えに耽っていたため、大人たちが発した『ある専門用語』に気づいてはなかった。彼女を追うことで総士はその言葉の意味を目の当たりにすることとなる。




長らくお待たせして申し訳ありません<(_ _)>

リアルでの環境も変わり、休日などではソシャゲの『結城友奈は勇者である -花結いのきらめき-』『刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火』に没頭、他原作での小説を書いたりなどをして長らく手をついてませんでした。

章タイトルにもある通り、皆城兄妹は大赦サイドから開始ということで彼らの視点で『鷲尾須美の章』を語ることとなります。『結城友奈の章』の前日壇ということで、おそらくは『RIGHT OF LEFT』と同じような方式をとることとなる予定です……。

わすゆキャラいないじゃんとなりますが……次話で最も関わりが深くなる主要キャラの位置づけする子を出すこととなるでしょう。

更新が遅いですが、これからもよろしくお願いいたします<(_ _)>


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IFルート:有り得たかもしれない世界にて
『祝福されなかった世界にて』 ※閲覧注意


<注意>
1.当話は『絶望を超えし蒼穹と勇気ある花たち』の『バッドエンド』版。第1話にて『神樹』が見たとされる最悪な未来というコンセプトで書いています。よって、鬱成分や胸糞の悪い展開が含まれています。

2.『勇者である』シリーズ側の設定としては原作通りで変更点はありません。ただし、大赦は当作品準拠の設定となっています。さらに勇者であるシリーズでは最新作となっている『楠芽吹は勇者である』要素が若干入っております。

3.『蒼穹のファフナー』側ですが、『勇者である』世界に来てしまったとされる『ミール』『フェストゥム(当話では『金色の祝祭』と表記)』のみ介入しています。

4.序盤の書誌を纏めている人はごく普通の名もなき一般人です。

5.(尤も重要な要素)原作キャラ死亡表現あり!

それでもいい人はそのまま、苦手であるまたは見たくないなどの人は見ないでください。素直にプラウザバックでよろしいです(反響が悪ければこの話は削除いたします)


本日より大赦巫女様より、今度の御役目に関する報告をお纏めするという大役を仰せつかった。

 

神託のとおり神樹様を狙う人類の敵バーテックスの襲来期へと入り人類守護のため神樹様より与えられた勇者システムが新設されて2年ぶりである。四国全土へと候補者を拡大してからは初めての事だ。

 

神樹様により選ばれた名誉ある大役である『勇者』。今回の勇者はたとえこれまで普通であってもすぐに戦える。これまで日常を送ってきた子たちには酷な事だが、この四国を守り人類を滅ぼさせないためには名誉あることとして取り組まなけらばならない。

 

だけど神樹様はそんな子たちでも戦えるよう素晴らしい力をお与えになっている。その力は少女たちを護り、御役目をこなしてくれるであろう。

 

これからもその恵みのもとに歴史を繋ぐ。それを纏める大役は責任をもって当たらなければならない。だからこそ、やりがいというものを感じる。

 

ただ、唯一の懸念が『金色』に輝く存在ということだが……

 

大赦書史部 △△ 300.4.15

 

 

 

――――――――――

 

 

 

最初の御役目が起きた。ほんの数瞬の出来事であったが確かに樹海化されたとの兆しがあったそうだ。

 

最初のバーテックスは選ばれた勇者たちにより見事に殲滅された。これも2年前にご活躍成された勇者様によりバーテックスの心臓部分ともいえる『御霊』が発見され、その殲滅のための機能は想定通りに機能した。

 

人類はまた新たな一歩を踏み出すことに成功したのだ。

 

大赦書史部 △△ 300.4.25

 

 

 

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慌ただしかったが、昨日の御役目の詳細な報告が入った。

 

……大変痛ましいが犠牲が出てしまったのだ。

 

御役目でお亡くなりになったのは2人で、1人目は大赦より派遣され讃州地方の担当となっていた犬吠埼家の長女。2人目は四国全土の調査にて歴代最大の適正値を叩き出し、大赦より『友奈』という名前を授けられた少女である。

 

原因はバーテックスではなく、神託にあった『金色の祝祭』という存在だったそうだ。

 

新たな勇者システムは『精霊』と呼ばれる。かつて西暦と呼ばれた時代、初代勇者たちに用いられたがあまりにも協力ゆえに封印された力を最適化し、勇者を死なせないようにした守護があったが、『金色の祝祭』の前には機能せず勇者2人は結晶となり砕け散った……。

 

『金色の祝祭』は残る勇者2人を残して去っていった。何を考えているのか…その生態は全くもって不明。唯ひとつ分かっていることはバーテックス以上の脅威を持っているという事だ。

 

大赦書史部 △△ 300.4.26

 

 

 

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昨日、勇者を2人も失った悲しみも明けぬ中、バーテックスの2度目の襲来が起きたそうだ。それも2年前、最悪な事態となった複数体出現のパターンだ。

 

残された勇者は犬吠埼家の次女と2年前の御役目に選ばれ記憶を喪失・足が不自由となってしまった先代の勇者。危機的な状況なもののこうして私がこうやって報告書を書いているという事は無事にお役目を達せられたようである。

 

勇者システムの切り札ともいえる『満開』。その圧倒的な力の前に複数体いたバーテックスも歯が立たなかったようである。

 

満開を行ってしまった勇者には近いうちに影響も出るだろう。しかし、その分新たな精霊や武器が増え、きっと勇者様の力となってくれるであろう。

 

『金色の祝祭』は今回の御役目には現れなかったのは気がかりだが、バーテックスという強大な敵もいる以上、近い将来対策をたてる必要はある。

 

大赦書史部 △△ 300.4.27

 

 

 

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大赦で養成し先代の勇者の1人が使用していた端末を継承した三好家の娘が讃州地方へと入り、同じ頃に起きたお役目に参加なされた。

 

鍛錬を繰り返し、強力な援軍として調整された勇者はバーテックスを全く寄せ付けず。なんと1人で殲滅したそうだ。

 

1回目の御役目で想定外の事態があったものの12星座の内、撃退されたのはこれで5体目。バーテックス方面は至って順調のようである。

 

三好家の娘には期待できる。讃州地方の2人の勇者への支えとなり共に御役目をこなしてくれることを願いたい。

 

大赦書史部 △△ 300.6.5

 

 

 

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2度目の『金色の祝祭』の出現が確認された。今回は彼の存在のみの襲来であり、神樹様の樹海の展開もなされ勇者たちが迎撃に出撃なされた。

 

結果としては満開の使用により敵の撃退には辛くも成功したと言えるが、今度は三好家の娘が犠牲となった。霊的医療班によると中枢神経に異常が見られ現在も昏睡状態との事だ。

 

『金色の祝祭』には精霊の守りが通じない。先代の勇者の死をもってようやく実装された力……勇者を死なせないための守りがこれでは意味がないではないか。

 

……御役目と人類の生存のために勇者システムのさらなる改良と対策が急がれる。

 

大赦書史部 △△ 300.6.12

 

 

 

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本日は報告を2つ。

 

1つ目は、残された2人の勇者様だが日常を送るのが不可能になった。恐らくは満開を使った際のあの機能であろう。2人の勇者の処遇だが、大赦は直々な管理することを決め、大赦所有の病院へと移ることとなった。

 

2つ目は大赦…否四国としても大変痛ましい事実を書かなければならない。治療の甲斐もなく三好家の娘がお亡くなりになった。床についていた病室にて翡翠色の結晶が残されており彼女自身は忽然と消えてしまっていた。……最初に犠牲になった2人の勇者と同じ死亡例なのがその後の調査で明らかになった。

 

今回の事態を受け、上層部では極めて異常ともいえると判断を下した。早急な対策へと乗り出した。

 

しかし、勇者は御役目の期間内での補充は神樹様が選ぶため実質的には不可能である。これまでも御役目の途上での脱落などがあっても新たな勇者は選ばれることはなかった。事実、その後の調査でも勇者に新たに選ばれた少女は確認できなかった。

 

大赦書史部 △△ 300.7.1

 

 

 

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大赦上層部が非常事態宣言を発令することを決定した。対バーテックスに関しての殲滅は出現の周期が乱れているものの順調とのことだが、いまだに『金色の祝祭』に対する有効的な対処法が見つかっていない。

 

勇者の人数も足りない。そのため大赦は切り札として管理していた先代の勇者様を御役目へと投入することも決定された。

 

2年前の瀬戸大橋の決戦にて21回の満開を行い、現勇者の中で最も神樹様に近い彼女ならきっと現状を打破してくれると大赦は大いに期待しているとのことだ。

 

人類の希望はいまだに紡がれている。……上層部はそうおっしゃったが、私としても本当に四国を守り切れるのか……そう疑念を感じ始めていた。

 

大赦書史部 △△ 300.7.6

 

 

 

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巫女部より、神樹様の神託が導き出された。

 

……バーテックスの大規模な侵攻が始まる兆候がありとの事だ。

 

決戦までの詳細な時期は未定。大赦内では残された勇者を万全な体制にするための準備が進められている。万一に備え、戦力の拡大も決定。壁外のために組織された少女たちも戦線に加えるそうだ。

 

量産化された勇者システム…否、『防人』と呼ばれる少女たちも戦場へと駆り出すという事は余程切羽が詰まっているともいえる。

 

しかし、私たちにできることは数少ない。ただ一つできることは、神樹様に選ばれた勇者たちがこの四国を守ってくれるのを願うだけだ。

 

大赦書史部 △△ 300.7.7

 

 

 

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――― 大赦書士部の報告書はここで終わっている。その書誌を読んでいる女性が次のページをめくる。

 

内容はこの書誌を書いた著者の日記のようだ。どうやら、最後の報告書のあとに起きた出来事などが綴られていた。文字の書体を見ると丁寧にではなくむしろ殴り書かれているような感じである。

 

どうやら、最後の報告書を書き上げたのち、突如として神樹の結界である壁が崩壊し空を埋め尽くすほどの金色の存在が現れた。その著者は何もわからないまま、他の人々とともに避難場所まで逃げ込んでから日記のように纏めるという経緯から始まった。

 

またページをめくる。次に書かれていたのは著者がボロボロの状態で避難所へと駆け込んできた少女から聞いた事の顛末である。少女は『防人』と呼ばれる役職に就いており勇者たちと戦ったそうだ。

 

少女たちの話は避難所の人々を愕然とさせた。バーテックスとの決戦の最中、『金色の祝祭』が乱入、勇者・防人の連合チームとバーテックスを相手にした3つ巴へと発展したのだ。

 

勇者たちは満開を使い両存在と相対した。防人たちも必死に応戦したようだが、量産型システムとして作成された『防人』ではあったが精々星屑を相手取るのが限界であった。

 

勇者たちは殲滅と防人援護という板挟みとなり、何度も満開を繰り返した。だが、それも限りがあった。バーテックス側が半ば壊滅状態に陥ったところで『金色の祝祭』は勇者への集中攻撃を開始した。

 

『金色の祝祭』が放つ黒い球体が3人の勇者を焼き、一人また一人と勇者は力尽きていった。勇者という戦力の中心でもあり精神的な主柱を失った防人たちであったが、敵の脅威に戦場から逃げ出す者が出始め、戦いどころではなくなった。

 

『金色の祝祭』は逃げ出したものから襲った。命乞いする者も命からがら逃げようとする者もみんな死んでしまった。避難所まで逃げてきた少女には同じ小隊員に属している2人と慕っている指揮官と仲が良かったようだが、その3人が大赦や四国の人々にこの事を伝えるために道を切り開いたことでなんとか逃げおおせた事も話してくれた。その絶望ともいえる報告に誰しもが絶句し、その少女を慰めたり非難することもなかった。

 

内容を確かめながらページをめくる。日記は続いていたようだが数ページの後にそれは途切れた。書かれていたのは身を寄せ合い励ましあうような落書きであった。

 

「大丈夫」「ここにいる」「生き残る」等々、最初は必死に前向きになろうとしていた。

しかし、時間が経つにつれ精神も憔悴し始めたのを象徴するかのように「帰りたい」「両親に会いたい」など暗い書き込みも目立ち始める。

 

「―――ッ!!!」

 

女性が息が詰まったような声をあげる。衝撃的な書き込みが最後のページ全体に書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【どうせ みんな いなくなる】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これを書いた人は相当追い詰められてしまったのであろう。閉鎖環境ゆえの恐怖が狂気へと変わった。その精神状態を如実に示したものであった。

 

「私が見た最悪の未来……」

 

『神樹』は目をつぶりゆっくりと書誌と閉じた。ぽつりと呟くとその書誌がぱっと光がはじけるように消えた。

 

「……このような未来にならないために私は」

 

頭の中で反芻を終え再びその双瞼がひらかれる。立ち上がると傍にある芽に手を翳すと女性の周辺の空間に網目状にこの世界の記憶のような概念が展開される。彼女はその記憶をひとつひとつ確認していくと、突然として概念が一斉に動き始める。

 

「また未来が…変わった」

 

いくつもの概念が役目を終えたかのように消え、新たに追加され、並び変えられ繋げられる。道のように繋がっていた概念は無数にあるが、今の動作で繋がっていた概念の数は随分と減ってしまっていた。それだけの未来への選択肢が絞り込まれたのである。

 

「あの世界の人々が来てから、ようやくここまでとなりましたか」

 

自らの決断はいまだに正しかったとは結論づけることは出来ない。しかし、自分たちだけではここまでの未来を繋げる道は見えてこなかった。少なくとも『神樹』は自らの世界に未来をもたらしてくれる可能性があると考えている。

 

あの世界からやって来た『来訪者』の戦いは未だに続く。『神樹』が思い描く『未来』へのために彼女もまだ戦い続けるのである。




……思い付きでやってみたけど、バッドエンドはあまり書きたくないかな……。

<解説>
●大赦の御記に近い報告書
『乃木若葉は勇者である』中にあった避難者の日記のイメージ。

●最後にあった一文
『蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT』の劇中にあったあの場面のものです。

●『神樹』の未来を読み解く場面(オリジナル設定)
『蒼穹のファフナー EXODUS』でのSDP『予知』での未来干渉のイメージ。ただし、見れるだけで体験並びに未来更新は不可。例外としてその世界の記憶が一番強い概念の呼び出しならできる程度(劇中の書記呼び出し)



作者はこういうバッドエンドは嫌いではないですが…やはり作ってみて辛いとしか言えないですね。

本編ではこのようなENDではなく、未来につながるような自分なりのエンドは考えていますので、それにつながるよう書けるように努めていきます。


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