FF逃走中 (知恵の欠片)
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招集(前編)

イリーナによるインタビューです。


我々神羅カンパニーが開発した最新の飛空艇には今、各世界の土地に降り立ち、参加者となる人物が乗せている最中である。最終的には男女合わせて20人の逃走者で構成される。参加するメンバー収容している最中、その間私は一人ひとりインタビューする任を預かった。一人目はこのメンバー随一の大男である。

 

「それではお名前をどうぞ」

「おれ、ガイ」

「このゲームの目的について教えてください。」

「おれ、しょうめいする。つよいこと。ながいきょり、はしれる」

 

ガイと名乗る青年、言葉は片言だが、筋骨隆々で十分強いと思われる。内心足は速そうには見えないのだが、あえて私はそれを言わず次のインタビューを行った。

 

「それではお名前をどうぞ」

「私はミンウだ」

「このゲームの目的を教えてください」

「私は生前、アルテマの本の封印を解き、そこで力尽きてしまった。だがその魔法があまりにも弱すぎて、弱すぎて……、挙句の果てに私は無駄死にと言われる始末……。それが悔しいのでこの魔法の研究、強化のための費用にしたい」

 

白いターバンを巻いたこの青年は涙ながら強い決意を宣言した。ただ我々の世界にあるアルテマは最強の魔法として存在しているのだが、そのことはあえて黙っておくことにし、次のインタビューを行った。

 

「それではお名前をどうぞ」

「エリアと言います」

「このゲームの目的を教えてください」

「私は生前、水の巫女として活動していました。なので水が清らかな場所を旅したいです。」

 

 若いながらも命を落とした、美人薄命とはこのことかと考えた。私も命を落とさないようにしようと決意し、次のインタビューを行った。

 

「それではお名前をどうぞ」

「リディアです」

「このゲームの目的を教えてください」

「私が育ったミストという村を復興させるためです。セシルやギルバートがいつも助けてくれるんだけど、私も何かできることを探さなきゃなって思って、参加しました」

 

 緑色の露出度の高い服を着た少女は見た目とは裏腹に意志はしっかりとしていた。復興、それは我ら神羅カンパニーもモットーとする言葉である。ここにも私と同じ同志がいるのだと感動し、次のインタビューを行った。

 

「それではお名前をどうぞ」

「私はアーシュラと申します」

「このゲームの目的を教えてください」

「自らの修行のためです。ここにはいろいろな参加者がいるので空いた時間に強さとは何か語り合いたいです」

 

 赤いチャイナドレスをまとった少女、彼女は恭しく礼をした。資料によると王女様らしい。ただその体躯は鍛え抜かれていた。

 

「すごく鍛えてますね、何かされてるんですか?」

「ええ、格闘技を。父に稽古をつけてもらえばいいのですが、まだまだ私は修行不足ゆえここに出ることで実力を証明して見たいと思います」

 

ガイも同じようなことを言っていたが、理由があると一段とその意志がよくわかる。ただ強さを求めているようだが、少なくともこのゲーム中、くれぐれも拳で語ることがないよう念押しし、次のインタビューを行った。

 

「お名前をどうぞ」

「ファリス・シェルヴィッツだ」

「このゲームの目的を教えてください」

「俺の子分たちに日ごろいつも頑張ってくれてるからたっぷり酒を奢ってやりたいと思うんだ」

 

 ファリスの一言に疑問を持ちほかの質問をぶつけてみる。

 

「私の資料には王族とあるんですが、子分ってなんです?」

「俺はある出来事からしばらく海賊をやってたからな、国のことは妹のほうが専門だ」

 

 ファリスは自慢そうに語った。私は手元にある資料とその端正な顔を何度も見比べる。性別は女性で登録されているのに、すごくイケメンに見える……。まさかその妹さんもこんな顔なんだろうか。そんな妙なドキドキを何とか抑えつつ、次のインタビューを行った。

 

「お名前をどうぞ」

「クルル・マイア・バルデシオンだよ」

「このゲームの目的を教えてください」

「特にないよ」

「は?」

「いや、だってさ。楽しそうじゃん、鬼ごっこ。頑張って走っちゃうよ!」

 

この金髪ポニーテールの少女、手元にある資料を見ると立派なお城のお姫様なんだけど……。たださっきのファリスといいここの世界の王族はこんな変わり者の集まりなのだろうか。まぁ元気なのはいいことだよねと自分に言い聞かせつつ、次のインタビューを行った。

 

「お名前をどうぞ」

「私はエドガーと言います。ところでお嬢さん、なかなか素敵ですね。もしよかったらこのゲームが終わった後私と食事はいかがかな?」

「あ、えっと……先に私の質問に答えてください…」

 

 私の質問以上に早口に質問を出されるもなんとか私の質問に答えるように促した。

 

「おっと、失敬。でなんだい?」

「このゲームの目的を教えてください…」

「それはいろいろなレディーとお近づきになれるからね。そしてハンターからレディーを守る……。完璧だろう?」

「は、はぁ……」

「というわけでさっきの私の質問に…」

「失礼しましたぁー!!」

 

……さっきから私の質問相手、どんどんハードル上がってない?金髪で青をベースにした甲冑をつけたこの男性、王様らしいのだけれど、あそこまでぐいぐいこられるとね……。何とか全力で逃げ出した。どうやら王族にまともな人はいないらしい。ゆっくり呼吸を整えてから、次のインタビューを行った。

 

「お名前をどうぞ」

「リルム・アローニィだよ」

「このゲームの目的を教えてください」

「おじーちゃんに今までお世話になってるから、私から何かプレゼントしてあげたいの!」

 

何とも健気な少女。ぜひおじいちゃんを喜ばせてほしいと言って次のインタビューを…、

 

「そういえばおねーさん、さっき色男に声かけられてて困ってたでしょ?」

「え、あ、うん…。それがどうかしたの?」

「今度困ったことがあったら私がとっちめてやるから、教えてね。まぁきっとほかの参加者にもちょっかい出すんだと思うけど」

「は、はぁ……」

 

 何とも健気で、かつ強い…。資料には10歳と書いてあるのだが、本当に10歳なのかと思う言動に唖然とした。先ほどインタビューしたクルルより大人っぽいなぁと思いつつ、次のインタビューを行った。

 前半最後のインタビューは……

 

「お名前をどうぞ」

「私はゴゴ」

「このゲームの目的を教えてください」

「私の特技はものまねだ。かつては世界を守るというものまねをした。今回はだから逃走者のものまねをする」

「…へ?」

「なんならハンターのものまねでもいいぞ」

 

 この者は全身に布を巻いた格好をしているが、性別はおろか、人かどうかも怪しい。この者からはまともな回答が得られそうになかったため、これにて一旦前半のインタビューを終えることにしたのだった。

 

 




簡単な設定集
低0から高10の値でミッション参加度、自首率を示します。
名前(出演作品)  (ミッション参加度、自首率)
ガイ(FF2)      (8,0)
ミンウ(FF2)     (5,0)
エリア(FF3)     (7,3)
リディア(FF4)    (6,1)
アーシュラ(FF4TA)  (5,0)
ファリス(FF5)    (9,0)
クルル(FF5)     (10,0)
エドガー(FF6)    (10,0)
リルム(FF6)     (5,2)
ゴゴ(FF6)      (10,0)

*あくまでイメージです


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招集(後編)

イリーナによるインタビューその2
出演する残りの10人が出ます



 世界各地を巡り、逃走者のすべてがこの飛空艇に乗船した。私の休憩も終わり、引き続きインタビューを継続する。後半最初の相手は……、

 

「名前は…、知ってるからいいや」

「ちょっと!アタシの扱い軽くない!?」

「しょうがない…、お名前どーぞ」

「まだ悪意を感じるんですけど…、いいや、ユフィ・キサラギだよ」

 

この短髪の黒髪少女は我らタークスの敵一味であるが、私と同じようにドン・コルネオに捕まって危うくひどい目に遭わされかけた。ゆえに敵と言えどもそこまで仲が悪いわけではないのだが、いじると面白い反応をするのであえてこんな態度で接することにしているのだ。

 

「で、目的は……、マテリアが欲しいのね」

「アタシのセリフを取るなぁ!それとマテリアだけじゃなくてそれでウータイを復興するの!」

「そうでした、それではさよならー」

 

後ろで不満を言う声が聞こえるが、軽く流して次のインタビューを行った。

 

「お名前をどうぞ」

「シド・ハイウインドだ。よろしくな」

「このゲームの目的を教えてください」

「シエラと一緒に世界の旅するのさぁ!」

 

 ここで私は一度マイクを切り、シドに質問した。

 

「シドさん、よく参加OKしてくれましたね、内心神羅をよく思ってないと聞いたのですが…」

「そりゃてめぇ、俺の行きてかった宇宙へなかなか行かせてくれねぇ。だけど俺の夢は結局神羅の計画で叶っちまったからよぉ、昔のことは忘れて楽しくいきてぇのさ」

 

 この逃走者の中ではだいぶいい歳をしている方だが、清々しく語ったシドを見て、私も夢を持ち頑張ろうという気持ちが芽生えた。新鮮な気持ちで次のインタビューを行った。

 

「お名前をどうぞ」

「俺はゼル・ディンだ」

「このゲームの目的を教えてください」

「俺んとこの両親に恩返しをするんだ。そのためにぜってえ逃げ切って見せる」

 

 すごく熱くしゃべるゼル。

 

「ちなみに具体的な恩返しとはなんでしょう?」

「うーん…、いや、まずはお金を手に入れてから考えるぜ」

 

はっきりまとまってないようなので、とりあえず頑張って逃げ切ってくださいねと笑顔で応援し、次のインタビューを行った。

 

「お名前をどうぞ」

「イデアと言います」

「このゲームの目的を教えてください」

「私はもともと孤児院を開いていました。今はもう無いのですが、もう一度あの時のように子どもたちと一緒に過ごせたらなと思い、この賞金でもう一度孤児院を開きたいと思います」

 

 とても優しい心の持ち主なのはひしひしと伝わってくるのだが、あの派手すぎる服装は子ども受けするのだろうかと疑問を持ち質問をした。

 

「ちなみにその服装は?」

「ええ、こちらの姿のほうが視聴者の方に受けるらしくて…以前の魔女の姿なのであまりよくないとは思うんですが…」

 

なるほど、ビジュアル的にこっちのほうが私たちにとって都合がいいのだと判断し、次のインタビューを行った。

 

「お名前を…、ひゃぁ!?」(とうとう人じゃなくなったし!)

 

 神羅のリーブが操作するケット・シーのデブモーグリのような恰好をした生き物が現れた。

 

「どうしたアルか?」

「すみません…、お名前をどうぞ」

「ワタシ、クイナアルよ」

「このゲームの目的を教えてください」

「ワタシこの世界の食べ物を食べつくして研究したいアル!」

「おすすめの食べ物はなんですか?」

「蛙アルよ!!」

「うっ……」

 

想像しただけで気持ち悪くなってしまう。

 

「ところでアンタの持っているそれは何アルか?」

「え、これはマイク…、ちょ、かじらないで~!!」

 

性別不明のこの生物により、結局マイクは使い物にならなくなり予備マイクを準備し、次のインタビューを行った。

 

「お名前をどうぞ」

「アーロンだ」

「このゲームの目的を教えてください」

「今回本当は俺じゃなく友人が出たいと言っていたのだが、今回の規定では参加資格がないらしい。それで泣く泣く頼まれてな」

 

すごく落ち着いたおじ様なのだが、鋭い眼光に得も知れぬ威圧感を放っている。

 

「その友人に一言お願いします」

 

私の唐突なお願いにも動じず、簡潔に決意を述べた。

 

「…ジェクト、行ってくる…」

 

一言に意志の重みを感じる…、そんな重さを感じながら次のインタビューを行った。

 

「お名前をどうぞ」

「パンネロよ」

「このゲームの目的を教えてください」

「私踊り子を目指してるの。この賞金でダンスを学べたらいいなぁって!」

「なるほど…、ちなみに空賊というのはどんな感じなんですか?」

「おっきな船で空を駆けるのよ、秘宝を求めてね。夢があるでしょ?」

「そうですね、ぜひ逃げ切ってください」

 

と、激励の言葉をかけ次のインタビューを行った。

 

「お名前をどうぞ」

「ラーサーと申します」

「このゲームの目的を教えてください」

「我がアルケイディア帝国は戦乱が続いており、民の心が疲弊してます。このような平和的なゲームを僕が参加することで少しでも今の帝国が変わったところを見せられればと思います」

 

 年だけで見るとインタビュー前半の王女様よりも幼いが、しっかりしている。やはりこの年ですでに君主として君臨しているからなのだろうか。また見た目もとてもかわいいので個人的に応援したくなる気持ちもある。前半の曲者王族たちとは大違いだとぼそっと呟いた後、次のインタビューを行った。

 

「お名前をどうぞ」

「ホープ・エストハイムです」

「このゲームの目的を教えてください」

「僕には救いたい仲間がいるんです。ただそのためにはどうやればいいのか……、その手段を得るには勉強しかないんです。だから学費を稼ぐために逃げ切って見せます」

 

 ホープはまじめな表情で力強く答えた。

 

「おっ、ホープ、インタビュー中か」

「あっ、ノエルさん!」

 

 ホープとのインタビュー中に突如入ってきたこのノエルという青年。このメンバーの中でかなりのイケメンの部類に入るであろう。次に行おうとしていた最後の逃走者なのでついでにインタビューすることにした。

 

「お名前をどうぞ」

「ノエル・クライスだ」

「このゲームの目的を教えてください」

「焼肉パーティーしようぜ。大勢でな。こっちの世界は食いものきっとたくさんあるだろ。それと元の世界に帰るまでにいろいろ旅もしたいし、な」

「僕に振らないでくださいよ…」

「ちなみにおすすめの肉ってなんですか?」

「アダマンタイマイさ!」

「え、あれ食べられるんですか!?」

「もちろん!というかホープも食べたことあるだろ?」

「ありません、というか食べ物として認識してませんでした」

「おいおい、冗談だろ?とりあえず成長期なんだからたらふく食っとけ!あ、もちろん、あんたも食べるよな!食い方は……」

 

 それからノエルが目の色を変えて語り続けるのでとりあえずマイクの電源を切り、インタビューを終了した。これで全員のインタビューが終わったことになる。20人の個性的なメンバーが集まりどんなドラマを見せることになるのだろか。

 




簡単な設定集
低0から高10の値でミッション参加度、自首率を示します。
名前(出演作品)  (ミッション参加度、自首率)
ユフィ(FF7)     (4,8)
シド(FF7)      (6,0)
ゼル(FF8)      (8,2)
イデア(FF8)     (5,1)
クイナ(FF9)     (4,3)
アーロン(FF10)    (7,0)
パンネロ(FF12)    (10,2)
ラーサー(FF12)    (10,0)
ホープ(FF13)     (4,5)
ノエル(FF13-2)    (9,0)


 ホープはショタ枠扱いなので、姿はFF13と同じイメージです。それなのになぜノエルとすでに仲良しかって?ここの世界は時間軸を無視した交流の場だからです。ご了承ください。


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逃走開始

逃走者説明が長くなりましたが、ようやく始まります。


 飛空艇が降下するころ、逃走者はモニターの見えるところに集まっていた。するとルーファウス社長が画面に現れ、簡単なブリーフィングを行った。

 

「今日、諸君に逃走したもらう会場は、バラムガーデンだ」

 

 他の逃走者が真剣に食いつく中、ただ1人、「俺の母校だぜー!」と騒ぐ男がいた。しかし、周囲は特に彼の言動に気を止めるものもなく社長の説明を聞いていた。

 

「まず諸君にはオープニングゲームを行ってもらう。単純に、ストップウォッチを止めてもらうだけだ。指定した時間の前後数秒、この範囲の間にストップウォッチを止めなければいけない。ゲームは3回、失敗した時点でハンターが放出される。成功すれば3分間の逃走の余地を与える。以後のことは以前説明した通り、捕まらず逃げ切ってほしい。自首を使うのもアリだ。自首用の電話は保健室と駐車場に1機ずつ用意されている。以上」

 

 飛空艇のエンジンが止まり、参加者が開催地に降り立つ。このバラムガーデンという場所は傭兵を育成する学校らしい。逃走者のエリアはこの広大な土地を隅々まで使うことができる。フロアは1階の2階が逃走エリアである。道路に面する入り口にはハンターボックスと大きなタイマーがあった。ハンターは3体、神羅カンパニー主催のためか、ハンターにはタークスのツォン、レノ、ルードが起用されていた。彼らは口を真一文字に固め、微動だにせず逃走者に恐怖を与える。

 

「さて、3人ボタンを押す人を選んでくれ」

 

 社長の言葉に逃走者たちは相談を始める。

 

「俺が行くぜ!」

 

 相談の声を遮るような大きな声、先ほども大声を出していたゼルであった。一同は驚いたようにゼルを見つめる。

 

「俺が行ってもいいよな?」

 

 特に異論が起こるわけでもなく周囲が頷いたので意気揚々とタイマーのボタンの前に立つ。もちろん失敗すれば彼だけがボックスの目の前にいるわけなので捕まるリスクも高まる。カウントする時間は12秒、前後1秒以内でクリアとなる。

 

(ピー)

 

 タイマーが動き出し、一同が固唾を呑んで見守る。

 

「ゼルならきっとやってくれるでしょう」

 

 イデアは優しげな表情でゼルを見守る。

 

「俺もガキの頃はあいつみたいに突っ込んでいたなぁ」

 

 ゼルと若いころの自分を重ね合わせ、しみじみと思うシドである。

 

「そこだぁっ!!」

 

 勢いよくタイマーを押すゼル。

 

「ちょっと早いんじゃないですか?」

「私もそう思う…」

 

 後ろで一緒に数えていたホープとリルムには不安の表情が見える。

 

 結果は……

 

 

「11.02秒!!」

 

「っしゃー!見たか!!」

 

 吠えながら勢いよく戻るゼルにメンバーはハイタッチで迎えた。

 

「あーっ、もう冷や冷やさせるんだから!」

 

 ユフィは興奮しつつも放出回避に喜ぶ。

 

「ちょっとせっかちだが、俺は嫌いじゃないぜ。次は俺が行く!」

 

 ゼルから勢いをもらったか、ファリスが自ら名乗り出る。

 

「ファリスー、頑張ってー!」

 

 クルルの声援に後ろ向きに手を振りながらボタンの前で静止する。大きく息を吐き、精神を集中させる。時間は16秒、前後0.7秒以内でクリアとなる。

 

(ピー)

 

「お願い…ハンター放出は避けて…!」

 

 エリアも一心に願う。

 

「だいじょうぶ、きっと。しんじる、あいつを」

 

隣にいたガイが彼女を気遣う。

 

「…、今だ!」

 

 ファリスが静かにボタンを押す。

 

「これは絶対大丈夫だ」

 

 エドガーの発言に周囲も頷く。

 

 結果は……

 

「16.12秒!!」

 

 逃走者たちに歓喜の輪が広がった。悠々と戻るファリスにみんながハイタッチを交わす。だがあと一回このゲームをしなければならない。時間の間もさらに狭まって25秒を0.4秒前後以内となる。だが、参加者の中からはこの人物を推そうというのがすでに広まっていた。

 

「ここぁ、やっぱりアーロンしかいねぇだろぅ」

 

 シドの発言により注目はアーロンが一手に引き受ける。誰も文句を言うものはいない。

 

「わかった、俺が行こう」

 

 アーロンはゆっくり踏み出し、ボタンの前へと移動する。その立ち振る舞いはまるでラスボスに立ち向かっていくかの如くである。

 

(ピー)

 

 1,2,3秒…、ごくごくわずかな時間なのに、とてつもなく遠く長く感じる。それは後方で眺めている逃走者たちにもアーロンにかかっているであろう重圧を感じることができたぐらいだ。いや、歴戦の戦士である全員が同じことを考えているに違いない。だがその緊張は次の言葉で解される。

 

「大丈夫です、僕たちはアーロンさんに信じて託したんです。なら僕たちにできることは決まっています」

 

 このメンバーの中で2番目に年下のラーサーの一言にユフィもそうだとばかりアーロンに声援を送る。ゼルもいつものようにやかましくアーロンの応援をする。もっともアーロンにはその声援があろうとなかろうと、彼の時間は明鏡止水のように穏やかで落ち着いていた。そして静かにボタンを押す。

 

「きっと…きっと、ぴったりだよ!」

「っしゃー!きっといける!」

 

 パンネロは小さく呟き、ゼルは言い聞かせるように喚く。周りの逃走者たちが大丈夫だなどと言いあっているそんな中、ただアーロンは静かに時間表示される画面を見つめていた。

 

「ただいまの結果……、25秒ジャスト!!」

 

 先ほどの声がさらにけたたましく広がった。あの緊張感の中よくジャストで成功したので盛り上がり方は尋常ではない。アーロンが戻ると真っ先にハイタッチをしに来たのは彼を推したシドだった。

 

「信じてたぜ」

「ああ」

 

 二人は熱いハイタッチを交わした。ほかの逃走者もそれ続く。

 

「さて、諸君は無事にオープニングをクリアした。今から3分間、諸君には逃走の時間を与える。3分後にはハンターが放出される、以上」

 

 そのセリフとともに逃走者たちは一気にバラムガーデン内へと向かって駆けだした。

 

「みなさん、またみんなで集まれるように頑張りましょう!」

「おうよ、てめぇも捕まるんじゃねぇぞ!」

 

 ホープのセリフにシドが応える。

 

「色男、余計なこと考えないで逃げるんだよ!」

「余計なこと?私にとっては大切なことだよ」

 

リルムの忠告もさらっと流すエドガー。

 

「パンネロさん、がんばりましょう」

「ええ、ラーサーも、健闘を祈るわ」

 

 お互いにエールを送る2人。

 

「おれ、まけない」

「逃走者のものまね…楽しみだ」

「ホブス山で鍛えた脚力を発揮してみせます」

「ミストのみんな…応援しててね」

「お金は全部ユフィさんがいただくもんね!」

「はしっぞ、おめえら!」

「食べ物のため、頑張るアル!」

「ふっ…行くか」

「行きましょう…各々の目的のため!」

 

各逃走者がそれぞれの思いを声に出し、散り散りになってゆく。ハンター放出まであと1分、彼らの命運や如何に。

 




 勝利の女神は誰に微笑むのか、次回、ハンター始動。さっそく誰かに捕まってもらう予定です。


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開幕からミッションまで

 逃走できる場所についてはゲーム内に描写が含まれていないところもあります。(例えばエレベーターの裏側や学生寮、2Fの教室辺りなど)それゆえ割と広い空間を逃げることになります。なおハンターはスピードのマテリアを装備(逃走者は不可)しており、どれくらい速いかと言えば50mを5秒前半のスピードくらいで走ることができます。


 ハンター放出まで残り1分、中にいるツォンが二人に声をかけた。

 

「レノ、ルード、知っているか?今日逃走者を確保した分だけ有給が増えるそうだ」

「ツォンさん、それ本当っすか!?」

 

 ルードも声には出さずとも小さくガッツポーズした。

 

「残り10秒前」

 

アナウンスとともにレノはルードを見やる。

 

「相棒」

「ああ」

「今日も残業無しだぞっと!」

 

 ブザーが鳴りハンターが放出される。このガーデン一帯に散った逃走者を目がけて……。

 

 一方その頃ほかの逃走者はどうなっているのだろうか。バラムガーデンの中央部にある逃走者がいた。エドガーだ。

 

「まずは女性を探して、守りながら逃走する。そうすれば私の好感度もぐっとうなぎ登りに違いない」

 

 参加者の中で特に好みはいますかという問いについて、

 

「すべての女性が私の好みと言っても過言ではない。誰でもウェルカムだ」

 

 この男、女好きのようだ。地図を見やるとこの先には図書館があることがわかる。

 

「それでは知的な私はハンターから隠れつつ、女性が来るのを待つことにしよう」

 

 その図書館にはすでに二人の女性が隠れていた。ファリスとクルルである。

 

「やっぱり図書館は落ち着くよな」

「ねー。シドとミドがいるところだもんねー」

「ま、いずれここも修羅場になるだろうさ…」

「うん、じゃあお互い頑張ろう!」

 

 彼女らはそう言い距離をとって入り口を見やった。ハンターの次に面倒な人が来るかもしれない。

 

 食堂では店をやっているわけでもないのにお客さん気分の者たちがいた。ノエルとクイナである。

 

「お前も何か食いに来たアル?」

「まぁ、食おうと思えば何でも…、っていうか今は逃げることに専念しなきゃだろ」

「ワタシこの世界にどんな食べ物あるか興味あったからここに来たネ」

「食いものか…、それは俺も興味あるな。ちなみに俺は肉料理が好きだな」

「肉!いいアルね!ワタシ蛙好物アルね!」

「蛙…か、俺達の世界ではもういなかったから食べたことはないな。」

「本当アルか!?今度絶対食べさせてやるアル!」

「おっ、まじか。サンキューな」

 

 別のことで意気投合した模様だ。

 

 訓練施設には内部も入り組んでいるためより多くの人数が集まっていた。

 

「訓練施設ですか…、普段はモンスターが放たれているらしいですね。私の修行にはもってこいです」

 

 格闘少女であるアーシュラが言う。いつでもかかってこいと言わんばかりにその発言には自信がこもっていた。

 

「おっ、あんたもここに来たのか」

 

 声の主はゼルだった。

 

「あの賑やかな…、それと私はアーシュラです。あんたとは呼ばれたくはありません」

「わりぃわりぃ、俺はゼルってんだ。よろしくな!」

 

 アーシュラは答えなかった。

「おい、なんで無視すんだよ!」

「あなた、品が無さそうだから」

「つまり、喧嘩を売ってるってことだな!?」

「私の言葉、どう捉えようとあなたの勝手です」

 

 ゲームとは別に険悪のモードだ。それを傍で見つめる二人の人物がいた。ガイとゴゴだ。

 

「どうする、あいつら?」

「私がハンターなら一網打尽だな」

 

 彼らを心配し陰で見守っている二人だった。だが彼らの近くにハンター。ゼルとアーシュラの両者は周りに全く気付かないどころかすでにファイティングポーズをとっている。

 

「今すぐかかってきてもいいんだぜ?」

「まさか私を恐れているのですか?」

 

 ハンターが2人を視界に捉え全力疾走する。

 

「おい、ハンターが後ろに!」

「え、本当!?」

 

 二人は脱兎のごとく駆けだした。そのままおいてけぼりになるゴゴとガイ。遅れてハンターの存在に気付く。

 

「とにかく二手に分かれるぞ!」

「わかった!」

 

 ハンターのターゲットはこの二人に絞られる。ガイはこの訓練場の中を、ゴゴは訓練場の外へ駆けだした。ハンターのターゲットは…、ガイだ。そのままハンターの魔の手に捕らえられる。直線距離では断然ハンターのほうが速い。

 

「おれ、ここでおわり?」

 

 そう、捕まればあっという間に終わってしまうのだ。捕獲された場合逃走者が持っている携帯電話に捕獲情報が伝わる。

 

 Rrrrr,Rrrrr!メールだ。

 

「逃走者ガイ確保、残り19人、ですか」

 

 メールを読み上げたのはラーサーである。彼はなんとハンターボックスの近くであるガーデン入り口ゲートの影にずっと隠れていたのだ。

 

「ハンターの皆さんも全員中に入ったと勘違いしてるんですね、きっと。わき目もふらず全力で走ってましたから」

 

ちなみにいつまで隠れているのかという問いに対し、「僕の出番が必要な時には動きます」との回答だった。

 

 校庭のそばにはリルムとホープがいた。

 

「もう捕まっちゃったんだ、情けないなー」

「ガイさんってあの大きな方だね。運がなかったとしか言えません……」

「大きいといえば…、あんたって私より4つも上なのにあたしとあんまり身長変わんないね」

「僕の身長が伸びるのはこれからだ…、というかリルムが大きすぎるんだよ」

 

 年下の少女になめられるホープ。

 

「あっ、ハンター来た、隠れて!」

 

 リルムが一瞥したその先にハンター。二人は木陰に隠れる。ハンターは傍まで来たが、反転して去っていく。

 

「この先には何かあるみたいだ、だけど今は通れないね」

 

 校庭の方は現在入ることはできない。それゆえハンターもわざわざ行き止まりの箇所に逃げ込まないと踏んだのだろうか。視界からハンターが消えるにつれて恐怖も消え去った。

 

 学生寮側にはパンネロがいた。

「さっきのあれはびっくりしたね。訓練場にハンターが入っていったと思ったら数分後逃走者が一気に逃げ出してきたからね。私もあわててこっちに逃げ込んだけどどうしよう」

 

 答えは簡単、ハンターから逃げるだけだ。パンネロがいる場所とは反対方向にリディアとアーロンがいた。

 

「なるほど、あなたは召喚士のガードをしていたんですね」

「あぁ、いくつもの試練があったがな」

「試練ですか…、その人はどうなったんですか」

「目的を果たして死んだ」

「えっ……」

「奴はそうだったが、その娘は違った。その父がやったこと以上をやり遂げ、生き延びた。運命の螺旋を打ち破ったんだ」

「私も私がなすべきことを頑張ります。だけどその方がどのように運命を乗り越えたかが気になりますね」

 

 昔話に花が咲いているようだ。幸いにもここにはまだハンターの気配はなかった。

 

 駐車場にはシド、イデア、エリアの3人がいた。車が数台駐車されていて、また薄暗いので隠れるには絶好の場所である。

 

「実は私の旦那もシドという名前なんです」

「そうかぁ、そりゃ不思議な縁もあったもんよぉ」

「逃走中なのにえらく暢気ですね…」

 

 話に花が咲く二人をよそにエリアだけはあたりを警戒している。

 

「実際ハンターはもう放出されて…あっ、隠れて!」

 

 エリアの見た先にハンター。まだ気づかれていないようだ。

 

「とりあえずこの車の陰に隠れていれば大丈夫そうかしら」

 

 だがハンターはこちらに少しずつじりじり来ている。

 

「そういえばイデアよぅ、あの道はどこに通じているんだ?」

 

 シドの見つめる先には大きなトンネルがある。

 

「あれはガーデンの外に通じます、私たちが最初にいた場所ですね」

「なるほど…、ただ直線だと見つかったら絶望だな…、まてよ、トンネル……。よし、俺ぁそこに行く。分かれたほうが全滅も防げるし、それに俺が囮になってやるぜ」

 

 シドは何か思いついたようなすっきりした顔で言う。

 

「シドさん…、私たちのためにそんなことしなくても…」

「へっ、俺は簡単にゃぁ捕まりゃしねぇよ、まぁ見てな」

 

 ハンターの視線を気にしつつ車の影に潜り込みながら、シドはトンネルのほうへとこっそり向かった。ハンターはそれには気付かなかったが、徐々にイデア達の近くに接近していた。その時である。

 

「ハンターよぉ、俺を捕まえてみろ!!」

 

 トンネルのほうから大きな声がした。当然シドの声である。ハンターは視線を変えトンネルのほうへと駆けだした。

 

「ひとまず大丈夫みたいね」

「シドさん…、大丈夫かしら…」

 

 確保の連絡のメールが入らないことを祈りつつ二人はその場所からあたりを引き続き警戒した。

 

 場所は打って変わり神羅の指令室。そこにはゲームを遠くから見つめる社長とイリーナの姿があった。

 

「ツォンさんたちなかなか探すのに苦労しているみたいですね」

「ああ、世界の中での歴戦の戦士たちだ。偶然にも一人捕まえたが不意を突かねば彼らは捕まらん」

「不意…ですか」

「ああ、だからこの場でミッションを新たに発動する」

「ミッションですか?」

「あぁ、クリアしなければただ狩られ続ける恐ろしいミッションだ」

 

 社長はパネルをタッチしミッションを発動した。残り時間110分、残り逃走者19名の運命や如何に。

 




 次回ミッション始動


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密偵からかいくぐれ

 ミッションが発動、逃走者には相当な重圧がのしかかる…


 時はミッション発動の数分前のことである。

 

「お前たち、準備は大丈夫だな?」

 

 銀髪の男のセリフに他の4人もそれに頷く。

 

「逃走者は誰一人手加減することなく鳴らせ」

「「「「はっ」」」」

 

 

Rrrrr、Rrrrr!メールだ。

 

「ひっ!?あ、なんだメールか…」

 

 保健室のベッドの下に潜り込んでいたユフィは肝を冷やしながら呟いた。

 

「これよりエリア内に5人の密偵を放った。密偵は逃走者を見つけると即時笛を鳴らしハンターを呼び寄せる。エリア内の3か所に密偵を停止させるレバーがあり、3つすべてレバーを操作することで密偵を追い払うことができる。ちなみにこの密偵はここバラムガーデンの傭兵であるSeedをも超える最強の忍者集団である……へ、忍者?」

 

 ユフィ自身も忍者であるためその脅威は十分わかっている。

 

「忍者?これは何なのだ?」

 

 同じく保健室にいたミンウに尋ねられるユフィ。

 

「足は速く、様々な術を使うことができる人だよ。まぁアタシみたいに最強なわけよ」

「……そうか」

 

 ミンウは呆れながら返事をした。どうやら彼は忍者に対する警戒度を一気に下げたようだ。

 図書館ではファリス達に合流したエドガーがいた。

 

「ところでお嬢さん達、忍者というのを知っているかい」

「ああ、とっても素早い奴だ。そんなのが5人も増えたとなるとさっさと止めにいかないとやばいな」

「ここに隠れているのもいずればれちゃうしすぐ出ないと」

「その必要はありませんよ」

 

突如誰もいるはずもない本棚の上から声がして3人が振り向くとそこには7,8歳ほどの少年がにんまりとした表情を浮かべていた。

 

「ぼくはエブラーナのツキノワです。それでは」

 

 ツキノワはすかさずアラームを発動させる。

 

「とにかく今は逃げなきゃ!」

 

 クルルは一目散に図書館の出口へ向かう。残った二人も一度は図書館から出かけたのだが、後ろから忍者が追ってこないとみてファリスがエドガーに声をかけた。

 

「俺はここで奴の動向を覗う。クルルはあんたに任せるぜ」

「しかしファリスは…」

「俺は俺でなんとかする。後は頼んだ!」

 

 ファリスに促されて図書館の出口へと駆けだすエドガー。クルルとの距離が50m以上は離れている。クルルが中央の案内板側の方向に向かったその瞬間、その付近にいたハンターに遭遇、反対方向へと逃げざるを得なくなった。遅れてきたエドガーはその様子を確認、素早く判断した。

 

(ここでハンターを私が呼び寄せればクルルは助かるかもしれない、だが図書館のアラームの音に気付きファリスまで巻き添えになってしまう…、致し方がないか…)

 

 エドガーはとっさに図書館方向に戻る。守ることは無理と判断したらしい。クルルはそのまま駐車場付近まで逃げたが、歩幅の違いすぎるハンターに直線では勝てるはずもなかった。そのままハンターの両腕に収まった。

 

「っはぁっ…っはぁっ…あーっ、悔しいっ!!」

 

クルルの叫びがエドガーの心に鋭く突き刺さった。

(すまない…、この借りは必ず…!)

 

無慈悲なメールの着信が各逃走者たちに届く。

 

「クルル確保、逃走者残り18人…」

 

 2Fにいたアーシュラが呟く。

 

「ちっくしょう…また捕まっちまったか」

 

 なぜかゼルも彼女の隣にいた。

 

「ついてこないでくれますか?」

「そりゃこっちのセリフだ!俺がエレベーターのドアを閉めようとしたときに転がり込んで入ってきたのはどこの誰だよ!」

「まさか女性を見殺しにしようとする品の無い人がいるとは思わなかったもので、そうでもしない限り私はあのドアをぶち破りあなたを大けがさせていたでしょう」

 

 相変わらず両者の火花は散っていた。ゼルは一度大きなため息をつき、話を切り替えた。

 

「とりあえず忍者という部隊が動いている以上停止ボタンを探さなきゃいけないからな。ここらを探すぞ」

「誰に向かって言っているのでしょう?私は最初からそのつもりです」

「くっそー…」

 

 アーシュラのそっけない態度にいらだちを隠せないゼル。

 

「相変わらずですな、アーシュラ殿」

 

 二人が見上げたその先には忍者がいた。何かの術を使ったのか壁に張り付いていた。エレベーターを使って登ってきたわけではなさそうだ。

 

「あなたは!?」

「お久しぶりでございます、エブラーナのゲッコウにございます。…御免!」

 ゲッコウのアラームの音にせかされ二人は二手に分かれ教室への逃避と探索を行うことを強いられた。

 

「エレベーター無しで登れんのかよ…、とにかくできるだけあいつから遠くに逃げなきゃな」

 

 ゼルはハンターよりも忍者のほうに恐怖を覚えたのだった。

 

 ゲートのそばに隠れていたラーサーはすでに行動を開始していた。向かった先はガーデン出口方面である。

 

「さすがにミッションが発動中なのに隠れているわけにはいきませんからね、あ、あれでしょうか」

 

 ラーサーが見やる先には密偵を停止させるレバーがあった。

 

「これをこうするだけですね」

 

 レバーを操作するとモニターにはストップの文字が表示された。

 

「あとふたつ。頑張って探しますか、あ」

 

 遠くに見えた門のほうから来るハンターの姿を見てその場で隠れた。

 

「あそこは入り口側からですね…ぐるっと回ってきたのでしょうか…」

 

 難なくハンターをやり過ごしたラーサーであるが、ハンターが来た方向から別の男が近づいていることに気付いた。シドだ。エリア、イデアをハンターの魔の手から救っただけでなくしっかり無事だったのである。

 

「情報収集も大事になります。きっとシドが何か知っているはずです」

 

 この少年、抜け目がない。

 

 Rrrrr!Rrrrr!メールだ。

 

「ラーサーの活躍により入り口付近のレーバーが解除。残るレバーは2つ」

「あの子すごいなぁ。私たちも頑張って探しましょう」

 

 学生寮をうろつくアーロンとリディア。その二人を見るまなざしが遠くにあった。それは逃走者でもハンターでもない、この男である。

 

(リディアが知らないおっさんと二人で仲良くしゃべってやがる!?というかリディアこれに出ているのか……、それにあいつなんで昔の格好をしてんだ…?いずれにしても鳴らすべきか鳴らさぬべきか……)

 

 エブラーナの忍集団を束ねる当主であるエッジは、自身の好意を抱く女性を見て思考を完全に停止させていた。その固まっている彼を見てひとりの女性が近づく。同じく忍集団の紅一点、イザヨイである。

 

「お館様、何をされているのでしょう?」

「おめえも見りゃわかるだろう。あそこにリディアがいるんだよ」

 

 エッジの発言にイザヨイはため息をついた。

 

「お館様、最初にご自身がおっしゃられたことをお忘れになったのでしょうか」

 

 確かにエッジは当初誰が相手であっても遠慮するなと言っていたのである。煮え切らない反応を示すエッジに対し、イザヨイが呆れたように言った。

 

「私が鳴らします」

 

 アラームの音に気付き二人は急いでここから逃げ出した。

 

「お館様、どうか落ち着いてください。では」

 

 イザヨイはさっと次のターゲットのもとへ飛び立った。

 

(ったく、こんなことなら逃走者名簿を確認しとくべきだったぜ…、ちゃんと逃げ延びろよ…)

 自身の任務を全うできないエッジ。頭を掻きながらつくづく思った。恋心とは恐ろしいものである。

 

 校庭の方ではリルムとホープはまだ留まっていた。

 

「そっか、ありがと、色男。じゃぁね」

(ひどいあだ名だ…)

 

 携帯電話を使って情報を集めていたリルムを見てホープはため息をつきながら思う。

 

「どうやら忍者があちこちで飛び回っていてなかなか大変みたい」

「やっぱりレバーを探すしかないのかな」

「でも実際ハンターは3体、忍者は5体。笛を鳴らしてもハンターが必ず来るとは限らない。だからここに隠れていても大丈夫だって」

「ほう、なかなか賢い娘がいますな」

 

 二人が驚いて後ろを振り向くと老人がそこにいた。

 

「拙者はザンゲツ。エブラーナの忍びの一人にございます」

 

 老人がアラームを鳴らそうとするとリルムは負けじと返す。

 

「どうせ鳴らしても無駄だね。ハンターが必ず来るとは限らないんだから」

 

 ザンゲツは冷静に返す。

 

「ほほう…、ですがこの袋小路に今再びハンターが現れれば一網打尽、どうなるかはお楽しみくだされ」

 

 老人がアラームを鳴らすとリルムは立ち上がり駆けだす。

 

「ま、待ってよリルム!隠れてれば大丈夫なんじゃない?」

「ちびっこは私に黙ってついて来ればいいの!さっきのはただの私のはったりよ!」

 

 とうとうホープと呼ばれなくなったことにへこみながらもリルムについていく。ザンゲツは小さくなっていく二人の影を見つめて呟く。

 

「若いうちは行動力に満ち溢れておる…、しかし動けばその分捕まるやも知れぬ…」

 

 ホールのほうに向かった二人はその予言のごとく学生寮付近を歩いていたハンターに目撃された。二人の逃げる姿を見てハンターが遠くから突進してくる。保健室の脇を通過し、ホープのほうをリルムが向くとハンターが彼の7,80m近くに迫っていた。

「速く!!」

リルムはホープに叫ぶ。二人とも必死に走るが、子どもゆえハンターとの距離はみるみる縮まっていく。リルムはエレベーターの階段を素早く駆け上がり、ホープも数秒ほど遅れて登り始めた。正面のエレベーターはすでに2Fで停止していたので裏側のもう一機のボタンを押す。

(このタイミングだと私たちは助からない…なら答えは一つ)

彼もすぐ後ろからついて来てはいたが彼を入れる時間はないと判断。素早く中へと入りこむと、速やかに閉じるボタンを押す。

 

「え…リルム…!?」

 

 ホープが愕然とした表情で彼女を見つめた。

 

「悪いね、ちびっこ!あとは頑張れ!」

 

エレベーターが昇っていくなかリルムが下を見やると、ホープは甲斐なくハンターに確保されたのだった。

 

「ホープ確保。残り17人か…」

 

 申し訳ないと思いつつも、自分の目的は果たさなくてはならない。両者を天秤にかけるのはほんの一瞬の判断なのだ。残り時間は105分、賞金は18万ギルを突破していた……。

 




 中央ロビーのエレベーターは2機設定です。(ゲーム内では1機のみでした)2Fの教室もぐるっと1Fと同じように配置されてあります。(教室内の構造はゲーム内と同じ)リディアはFF4からの登場ですが、エッジ並びに忍者集団はFF4TA仕様です。


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アイテムを確保せよ

忍者部隊活躍により逃走者は苦戦を強いられてます。エッジの原作でやってた壁抜けを使うと最強なので今回はしません。(それでも壁を登ったり平然と背後から現れるだけ十分チート性能ですが)やっぱ忍者ってすげー(棒)


 逃走者たちは忍者たちのアラーム攻撃に苛まれていた。保健室に隠れていたミンウも見つかり、食堂に隠れていたノエルなど、潜伏していた人物たちさえも忍者には見つかってしまった。だが偶然にもハンターに捕らえられることはなかった。近くにハンターがいなかったからである。ホープが確保されてから3分後、アーシュラの活躍により2F教室のレバーが、エドガーの活躍により訓練場のレバーは停止することができた。

 

保健室にいたユフィは気配を殺すことに成功、忍びが来て笛を鳴らされたのは心底肝を冷やしただろうが、鳴らされたのはミンウのほうで、彼が移動後引き続きベッドの下に隠れていたが再び鳴らされることがなかったのだ。そのまま彼女はじっとしているのだろう。

 

クイナに関しては食堂の冷蔵室に潜り込んでいたため鳴らされなかった。本来であれば逃走範囲ではないのだが、食べ物のにおいにつられたのか冷蔵室のドアをこじ開けたらしい。きっとガーデンの被害はある意味甚大になるのかもしれない。

 

とりあえずこのミッションに関しては忍者に対してハンターの数が少なかったために十分機能はしなかった。指令室からゲームを眺めるイリーナはつくづくそんなことを考えていた。それは隣にいるルーファウスにもわかるくらいの表情で。

 

「逃走者が思ったより確保できず残念か?」

「はい…」

「何も問題ない、君は逃走者をここで全員確保すべきだったと考えるのかい?」

「いや、そんなことはないですが、もっと削れるかと」

「フフ…、いずれこのガーデンはもっと修羅場になる、今はまだその時ではないだけさ」

 

 ルーファウスはモニターのプログラムを起動、パネルに触れる。

 

「これは……?」

「そんな彼らへのわずかばかりの救済策だ」

 

 Rrrrr!Rrrrr!メールだ。駐車場にいるエリアははっとしてバイブ音を押し殺しメールの確認をした。

 

「タイトルが…風紀委員のお使い?これよりエリア内に以下のお触れが出た。ガーデンに犬を持ち込むな。珍しい虫を見つけたら報告。紙屑捨禁止当然。以上の内容を3人の風紀委員に写真を見せることでハンターを一時的に止める銅の砂時計を受け取ることができる。該当する風紀委員は地図のパネルの前にいる。このアイテムはハンターの動きを一時的に止めることができる」

 

 隣にいたイデアがそれを聞くと、一瞬のうちにどちらを優先すべきか秤にかけ、彼女の考えた最善策をエリアに伝えた。

 

「そのアイテムを見つけるのも大事ですが、私たちも一度ここから離れましょう。ここの探索に来ていたハンターもちょうど出て行ったようなので、シドの出たあのトンネルを通っていけば大丈夫な気がします」

 

 イデアの作戦にエリアも従い、二人は駐車場から移動を始めた。

 

 一方クイナはまだ食堂にいた。ノエルは食堂にいたため忍者に見つかったわけだが、クイナは食堂の冷蔵室を漁るためドアを破壊し、その中にこもっていたため運よく忍者に見つかることはなかった。ミッションのメールをちらっと見るが、今のこの人にとって、それは重要なことではなかったのだ。

 

「ここの食べ物もなかなかおいしいアル。隠れることができて、かつ食べ物もあるなんて最高アルネ!」

 

 歪みなくまっすぐな食への探求心がハンターへの恐怖よりもはるかに勝っている模様である。スタッフがそれは生のままですがと聞くが、「素材の味を確かめるためアル」と返されてしまい絶句してしまった。

 

 一方2Fにいたゼルは頭を抱えていた。彼にとっての宿敵ともいえる人物が今回のミッションで登場すると予想されるからだ。もっとも彼が一方的にライバルだと思っているだけかもしれないが。

 

「あの野郎のとこに行かなきゃいけないのは癪に障るが…、でもアイテムは欲しいし…」

 

 彼が教室の中で呟いていると教室に入ってくる人物が一人いた。慌てて隠れるが見つかったらしい。

 

(やべっ…、なんとか逃げられないか!?)

「おい、そこのトサカ頭、何やってんの?」

 

 彼がひょっと頭を出し、目線を向けた方向にはリルムがいた。彼女は悪びれた様子もなく近づいていった。

 

「なんだよ、お前。脅かすなよ…」

「こんなもんでびびってるの?これは本当の意味でチキンなのかな?」

「お前…一番言ってはいけないことを言ったな…」

 

 子どもを相手にすでにキレかかっているゼルに対し、リルムは全く動じてはいなかった。

 

「と言っても今はそんなことを言っている暇はないの。早く隠れなきゃ!」

「どういうことだ?」

「ハンターが2Fに登ってくるかもしれないの!」

 

 リルムはホープが確保された後、ハンターがエレベーターに乗るリルムをじっと見つめていたらしい、それから判断したようだ。

 

「そりゃやべえ!ここの机なら多少は隠れられるからそうするぞ」

 

2人は速やかに机の下に隠れ、ドアのほうをちらちら見やるのだった。

 

 ラーサーはシドと合流してアイテムゲットのためのキーアイテムを入り口付近で探していた。

 

「しかしハンターに追いかけられていたのによく無事でしたね」

 

「あたぼうよ、トンネルの中は薄暗えから壁を蹴り登ったのよ。そしたらあいつらサングラスしてるだろお?そのおかげで天井に張り付いていてもあいつ気付かず走っていったからなあ」

「ハンターも見逃すんですね…」

 

壁蹴りジャンプでトンネルの上まで飛べることに苦笑いしつつ当たり障りのない返事を返した。シドとの会話に区切りをつけあたりの捜索をすると、ラーサーの先に見知らぬ女性がいた。髪は長く黒色の女性だ。そして犬を連れ歩いている。

 

「犬の連れ込み…きっとこれですね」

 

 ラーサーは女性に話しかけた。

 

「もしもーし、ここは犬の連れ込み禁止らしいですよ」

「えっ、ダメなの?いいじゃん、かわいいし」

 

 悪びれない女性に対し、ラーサーは怯むことなく反撃する。

 

「そもそも風紀委員がそれをルールにしているようなので僕がどうこう言って何とかなる問題ではないと思います、僕たちは報告をしないといけないので、証拠に写真を撮らせてもらいますよ」

「そんなこと言わないで、あ、ボクも可愛い顔してるね、ほら、私のことが好きになーる、好きになーる」

 

 女性はウインクしながらラーサーに媚びを売ろうとするものの…、

 

「ダメです」

「…はい」

 

 どうやらこの女性は折れたようだ。

 

(さすがこの年で一つの国を動かすだけのことはあるぜ…)

 

シドは口を出す暇さえなくラーサーの落ち着いた行動、そして対応に感心せざるを得なかった。

 

 一方学生寮にいるパンネロは部屋をくまなく漁っていた。

 

「紙屑程度ならここにありそうなんだけど、埃一つないのがねー」

 

 パンネロがうんざりしたようにつぶやく。彼女が部屋から出ると突如背後に人の気配を感じ、振り返るとどこから現れたのか、大量の布を巻いた人物がいた。ゴゴである。

 

「っ!?ってあなた何してるんですか!」

「さっきの忍者のまねー」

 

 ものまね師と言うだけあってものまねのクオリティは高い。だが今はそれを生かす時ではないだろう。パンネロは呆れながら返した。

 

「脅かさないでよ…」

 

 しかし階下からハンターの影…。二人はまだその足音に気付かない。

 

「私ここで紙屑探してるんだけどあるかな」

「私ここで紙屑探してるんだけどあるかな」

 

パンネロと同じポーズ、同じセリフを言うゴゴ。

 

「私のまねしないでよ…」

 

 パンネロが呆れてうつむいた。だが顔を上げた次の瞬間ハンターがこちらに向かっているのが見えた。こんな会話をしているそんな間にハンターに見つかったのだろうが、こんなところで幕切れを迎えるわけにはいかなかった彼女はいち早く気づき駆け出し、ゴゴが遅れて駆けだす。彼女はかろうじてハンターの視界の外へ逃げたが、ゴゴは一歩遅れたか、間に合わず確保された。

 

「さすがにハンターの足の速さは真似できなかったか…」

 

 あくまでものまねにこだわるゴゴ。だがゲームに集中しなければハンターの餌食となるのだ。

 

 ノエルは忍びにアラームを鳴らされてから保健室へと移動していた。

 

「ここには自主の電話がある、いざここまでハンターが来たら使うのも一手…それにしてもここは何もないなぁ。まぁ隠れられるとしたらベッドの下だな」

 

 ノエルがベッドの下を覗き見ると、彼を見る眼差しとぶつかった。

 

「やっほー…」

「……」

 

 ユフィの間の抜けた返事にノエルはため息をついた。

 

「お前、いつからここに隠れてるんだ?」

「最初からに決まってんじゃん」

「ってことはレバーとかも探してない?」

「当たり前じゃん、歩いたら見つかっちゃうもん、それにやばくなったらいつでも自首できるし」

 

 ユフィが保健室の自首用の電話を指さしながら力説する。

 

「ま、いいさ。俺は俺でなんとかするよ。じゃあな」

「私のために頑張ってねー」

 

 ノエルは命運を黙って待つよりも、自ら決めるほうが性に合っているようだ。背後のユフィは彼を快く送り出すのだった。

 

 訓練場にはエドガーがいた。彼は自分のふがいなさに憤っていた。自分が守ろうとした女性をあろうことか見殺しにしてしまった。せめてミッションに参加し、クルルに顔向けできるように彼も頑張っていたのだ。だが次の瞬間彼の目線は釘付けになる。とても可愛らしい黒髪の少女が草むらにちょこんと座って上目遣いをしていたからであった。エドガーはいつものように女性に話しかける紳士モードに素早く切り替え声をかけた。

 

「お嬢さん、こんなところで一体どうされたんです?」

「お気になさらず、私はここにいるように言われたので」

 

 無邪気な笑顔に自然と心が穏やかになるエドガー。

 

「ほう…私はエドガー。お名前を伺っても?」

「ええ、私はガーネットと申します」

「素敵な名前ですね、ところでその持っているものは何ですか?」

 

 少女は虫かごのようなものを手に持っていた。心は穏やかになったのだが、かごの中で蠢くものにエドガーは恐怖を覚えつつもガーネットは微笑んで答えた。

 

「はい、ブリ虫です」

 

 籠の中の虫を見るとドクロを思わせるような顔、黒光りする体はエドガーにとって生理的に受け付けないものだった。エドガーは何ともなかったかのように話を続けた。

 

「ガーネット…君はこんなもの持っていて大丈夫なのかい…?」

「ええ、大丈夫です」

 

 ガーネットの満面の笑みに押され、これにはエドガーも苦笑するしかなかった。見た目はともかく、ミッションに絡んでいると判断、泣く泣く写真に収めその場を後にした。

 

 図書館にいたファリスもアイテム探しに没頭していた。本には紙が使われているため紙屑も簡単に見つかると判断したのだ。案の定図書館内のカウンターのゴミ箱に鍵となる紙屑を発見。これでアイテム交換のためのアイテム3つすべてが逃走者によって獲得された。

 

「よし、あとはハンターに気をつけて行くだけだな…」

 

そう、アイテムを交換してくれる風紀委員の所まで無事にたどり着けるだろうか。ハンターは神出鬼没なのだ…。残り時間は85分、賞金は42万ギルを突破した。

 




リノアは名前を名乗ることもできず終わりました。次回アイテム交換+新ミッション発動。


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アイテムを確保せよその2

今回は牢獄DEトークからスタート。確保された人たちは今…


 殺伐としたバラムガーデン、その正面にはほのぼのとした空間がぽつんとあった。逃走者を捕獲している牢獄である。そこには4人の逃走者が和気あいあいと会話をしていた。

 

「おれのなかま、まだにげてる、ぶじ」

「私の仲間もそうよ。アイテムも見つけたみたいだし」

 

 ガイとクルルが話している。二人は直接彼らを見たわけでなく、動物たちとコミュニケーションをとることができるため情報を得ることができるのだ。

 

「それができるのになんでハンターの情報を得なかったんですか…?」

 

 ホープの言う通りハンターの位置など聞ければ捕まるリスクは激減したはずである。

 

「おれ、まきぞえにあった」

「その時は焦ってたんだもん、しょうがないよー」

 

 ホープの発言にもしょうがないとあきらめを見せた二人だった。

 

「ここはものまね師のゴゴに何かものまねをしてもらおうよ!」

 

 捕まったことから切り替えて話題を変えたいクルルは無茶ぶりをしてみたが、ゴゴは冷静に返す。

 

「私もそうしたいところなんだが…いかんせん世界の違うもの同士ゆえ、万人に受けないと思うぞ…」

「じゃあここのメンバーが増えたらやってもらいましょう、誰か逃走者のものまねということで」

「ふむ、そうするか」

 

彼らの時間だけはのんびり気楽に流れていく。

 

そのガーデン方向約500メートル先、ちょうどゲート付近にラーサー達はいた。アイテムを交換したくてもそのあたりにはちょうどハンターがいるためなかなか近づけない。

 

「ちなみに本当に僕がアイテムをもらっていいんですね?」

「あたぼうよう、おめぇが手に入れたもんだ。それに俺ぁなんとかなる。これでも一度ハンターから撒いてきてんだぜ」

「ありがとうございます。引き続き慎重にいきましょう」

 

 ラーサーはシドの粋な計らいに感謝をし、慎重に風紀委員のもとに進んでいく。

 

 2階にいたアーシュラは教室にいた。先ほど忍者のミッションからずっと2階をうろついていた。理由はもちろんアイテム探しである。だが彼女のいる教室の近くにはハンターが歩いていた。

 

「レバーは見つかったのはいいけどここにはもう何もないみたいね、1階でも捜索しましょうか」

 

 彼女は慎重に出口を見る。しかし、ちょうどハンターと目が合ってしまった。

 

「っ!」

 

 ハンターから逃れるため全力で駆けだすアーシュラ。追いかけるハンター。だが彼女も恐ろしく俊足だった。なかなか距離が詰まらない。彼女はじりじりと迫りくるハンターから少しでも距離を稼ぐため目の前の教室に逃げ込む。教室内の大量のデスク型モニターがあるのでそれをうまく使いながら距離を稼ごうと踏んだのだろうか。しかし…

 

「あ、アーシュラ!?」

「!?」

 

 逃げ込んだ教室でばったりゼルに出くわした。アーシュラは返事をする余裕もなく教室の奥へ逃げ込む。間髪入れずハンターが突入してきた。

 

「こんの…バカ!!」

 

 彼女に悪態をつくゼルであったが、今はそれどころの状況ではなくなってしまった。ハンターのターゲットが一時的にゼルに移るが、アーシュラも同様に牽制され両者にらみ合いが続く。この間の隙を見計らって同室に隠れていたリルムは足音を殺して教室から一気に逃げた。ハンターはゼルにフェイントを仕掛けアーシュラに襲い掛かる。アーシュラは教室の奥の方まで詰められた。だがアーシュラは突如大きなジャンプをしてデスクを踏み台にし教室の外へと跳ねていく。アーシュラの突然の動作にゼルは唖然と見送るしかできず、ハンターはそのままゼルに近づき確保された。そしてハンターはそのままアーシュラへの追撃を始めた。

 

「あんのアマー…、俺ははめられたっていうのかよ…、くっそー!!と、いうか俺達のデスクに乗っちゃだめだろ!!」

 

 その場に一人残されがっくり膝をつくゼル。いくら悔やんでも確保されてしまえばおしまいだ。

 

(あの男と一緒に捕まるのは御免よ!!)

 

 アーシュラは急いでエレベーターのほうに向かう。だが2,3歩足を進めたところで彼女は固まってしまった。エレベーターがなかったのだ。すでにリルムが逃走するときに使ったためである。固まっていたのはほんの刹那であったがハンターにとっては彼女を確保するためには十分な時間であった。彼女は引き返し反対側のエレベーターに移動しようとしたものの、2階はほぼ一本道になっているため、ハンターと向かい合ってしまったら逃げ場はない。なすすべもなくハンターによって捕獲された。

 

「っ…!しっかり確認できていれば…私はまだやれたのに…」

 

 どんなに足が速くても、冷静な判断ができなければ、生き残れない…。

 

 

 

 Rrrrr!Rrrrr!メールだ。

 

「逃走者のゼル、並びにアーシュラ確保。残り14人。そうか…あいつもやられちまったか…」

 

 メールを読み上げたファリスはオープニングセレモニーの戦友が確保されたことを知り落胆した。そんな彼女は今アイテム交換に向かっていた。だがそこにはすでに先客がいた。エドガーだ。だがただ交換するだけのはずなのに、なぜかもめているようだ。

 

「お嬢さん、とても美しい…私とこの後食事はいかがかな?」

「興味無!」

 

 エドガーは風紀委員の銀髪の女性を口説いていたようだ。

 

「おめぇもなかなかしつこいもんよ」

「ああ、おっと次の客が来たぜ。あんたは何用だ?」

 

 風紀委員と言いつつもいかつい男、大柄な男、独特な口調の女となかなか個性的なメンバーがそろっているらしい。ファリスに気付いたようで声をかけた。

 

「図書館のゴミ箱に紙屑が入っていた写真だ。これでいいよな」

「勿論。之渡」

 

 銀髪の女性からファリスは銅の砂時計を受け取った。

 

「ついでにこいつも連れてってほしいもんよ」

 

 大柄な男が困ったように言う。隣の女性も短く「頼」と頭を下げた。

 

「…エドガー、行くぞ」

「何を言う。こんな壮麗でクールな女性がいるのに口説かないなんてもったいない、もちろんファリスもすごく素敵だぞ!」

「とってつけたように言われてもねぇ…」

「彼奴何言無駄…」

 

 この個性的な風紀委員たちもファリスも含めエドガーに対し完全に呆れてしまっている。だがその背後から甲高い声が響いた。

 

「見つけたぞ、色男!!」

 

声の主はリルム。表側のエレベーターから降りてきたようだ。

 

「やあ、リルム。こんなところで何をしているんだい?」

「それはこっちのセリフだよ。逃走中にかかわらず何また口説いてんのさ」

「それは女性を見かけたら挨拶をするのが筋ってやつでな…」

「はいはい、言い訳は後でね、上にハンター近いからすぐ逃げるよ」

 

3人は風紀委員に会釈し図書館のほうへ向かっていった。

「何とか終わったもんよ…」

「少女御陰助……」

「…あのリルムとか言う子をリストに加えろ」

リルムのおかげでなんとか事態に収拾がついたため風紀委員たちも彼女に感謝してもしきれないようだ。

 

 ノエルは保健室を出る時、食堂に向かっていくハンターを目撃、しゃがんで様子をうかがうが、こちらを向く気配はなく、足音を殺して正面側へと移動をした。ちょうど風紀委員とラーサーが会話をしていた。

 

「あいつ…ここになんで犬を連れてきてんだよ…」

 

 リーダー格の男がため息を吐いた。

 

「知り合いなんですか?」

「訳有、秘密」

「教えられんもんよぉ」

「なんでお前らが答えんだよ、とにかく例の物やるよ、ほら」

 

リーダーの男は2人を睨みつけつつラーサーに銅の砂時計を手渡した。ちょうどノエルはその場面に遭遇し、声をかけた。

 

「お、あんたらもアイテムを手に入れたのか」

「ええ、これでアイテム交換が終わったみたいです」

「そっか、そりゃ残念」

「とにかく逃げ切ろうぜ」

「あ、そうそう、あっちの方向にハンター行ったから気をつけろよ」

「おうよ、おめぇもな」

 

 ノエルはそのままゲートのほうへと歩き、ラーサー達は保健室側へと歩いて行った。

 

 Rrrrr!Rrrrr!メールだ。

 

「アイテムの配布はすべて終わった。引き続きハンターに警戒せよ…えー、そんなぁ…」

 

 学生寮をうろうろしていたパンネロはがっくり肩を落とした。

 

「まぁハンターに捕まらなかっただけよしとしようか、うん」

 

 前向きな気持ちに切り替えぶらぶら動き始めると、赤い服の男と緑色の服の女が確認できた。アーロンとリディアだ。パンネロはほっとして二人に声をかけた。

 

「さっきここにハンターいてびっくりしたんだけど、二人とも大丈夫?」

「ああ」

「というか私たちずっとここにいるんだけどハンターが来ないのよ、忍者には見つかったけど」

 

 リディアの発言にパンネロは驚く。

 

「アーロンさんは以前召喚士のガードをやってたっていうの。だからかな?」

 

 それはないだろとパンネロは心の中で突っ込んだが、彼らといればもしかすると見つからないと判断した。

 

「一緒について行っていい?」

 

二人からは異論が何も出なかったため彼女は共に行動をとることにした。

 

 一方食堂にはクイナ以外に新たに入ってきた人物がいた。ミンウだ。

 

「正直ここは食事を意識した場所だから明るく作られている。ゆえに隠れる場所も少ないのが現状だ。いったいどうしたものか…」

 

 現状についてどうすべきか思案している中、背後からはハンターが近づいていた。

 

「とりあえず入り口側から死角になるテラスへ移動しよう。見つかったら終わりだと割り切れればいい」

 

 そう思っていた最中、ハンターが静かに食堂に入ってくる。

 

(この足音…、どうやらハンターがもうそこにいるみたいだ…)

 

 祈るようにして待つミンウ、だが彼の眼の前にハンターはいくら待っても現れる気配はなかった。ハンターが向かった先はクイナによって外された大きなドアである。中で食べ物を食い散らかしていたクイナはそれにまったく気づかない。

 

「ワタシ生ものばかりは飽きたアル、そろそろ厨房を使って何か作るアルね」

 

 だがそのままハンターと対面したが、冷蔵室の中は当然スペースもなくそのまま御用となった。

 

「ウー、残念アル…まだまだ食べられたアルのに…」

 

 一度本当の牢獄に入ってもらったほうがいいのかもしれない。

 

 一方指令室では……。

 

「逃走者が一気に捕まりましたね」

「忍者がいた時はハンターが密集していたのもあったが、今はうまく分散していたな。問題はこのミッションでどれほど生き残れるか、だ」

「というと?」

「彼らの仲間を思う気持ちを測るミッションだ」

 

 ルーファウスがパネルを操作し、ボタンに触れた。残り80分、賞金金額が48万ギルを突破したところで新たなミッションが発動する!!

 




 風紀委員のリーダー(サイファー)の指示したリストは「骨のあるやつリスト」です。銀髪の女性(風神)をもたじたじにしたエドガーを楽々おとなしくさせたリルムはやっぱりすごいと思います。またクイナ出番なしで終了…。今回もそうでしたが、今後の話ではちょいちょい牢獄DEトークが入っていきます。


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亀裂と修復

 新たなミッションが発動します。また今回は牢獄DEトークもウェートが増えます。


Rrrrr!Rrrrr!メールだ。

 

「クイナ確保、逃走者残り13名。またこれより校庭で学園祭ライブが始まる。開場は今から5分後である。ライブ中の5分間はハンターに捕縛されることはない。3名まで入ることができる。ただし誰かが入った瞬間その5分間はハンターが3体追加される…、まじかよ」

 

 メールを読み上げたファリスは絶句した。

 

「俺が逃げた時、あいつまだいたよな…。ずっとあそこにいたのか…」

 

 ノエルはクイナに対して呆れ気味だ。

 

 

「大丈夫、色男のアイテムがあればいくらハンターが増えても逃げられるって」

「リルム、1回しか使えないからね、束で来られたらおしまいだ」

 

 どうやらリルムは割とハンターが増えるリスクを考えていないようだ。エドガーが慌ててその危険さを説いた。

 

シドとラーサーは保健室よりのロビーにいた。さっき近くにハンターがいると話しかけられたにもかかわらずだ。

 

「ハンターは一定方向へと動いているような気がするんです、ノエルさん曰く、保健室から食堂側へ移動していったのであれば僕たちのいる方向に戻ってこないと踏んだわけです」

「お前さん、そんなところまで見てたのかい、やるなぁ」 

 

 シドはラーサーの明晰さぶりに相変わらず感心していた。ラーサーの仮説通り食堂から出てきたハンターは学生寮の方向へと歩き始めた。すると保健室から出てくる人影が見えた。ユフィだ。

 

「おい、ユフィ、お前今までどこにいたんだ」

 

シドが声をかけた。

 

「アタシはずっと保健室で隠れてたのさ」

「お前まさかライブ会場に行く気じゃねえだろうな?」

「まっ、まっさかぁ!?い、行くわけないじゃないののの」

 

 非常にわかりやすい反応だ。シドとラーサーはため息をつくと彼女に釘を刺して言った

 

「とにかくおめえは俺達のとこについて来い、いいな」

「えー…」

 

 シドの指示に渋々従うユフィなのであった。ユフィの行動が怖いのでライブ会場からできるだけ遠いところに移動した方が良いと判断、彼らはガーデンの入り口方向へ向かうことにした。

 

 ノエルはガーデンの入り口へと向かっていた。そこで彼はイデア、エリアと合流した。

 

「よう、そっちのほうは大丈夫だったか」

「ぎりぎりの所でしたが、シドさんのおかげでなんとか助かりました」

「そっか…あのおっさんやっぱりただものじゃないんだな…」

「ええ、とても優しい方です」

 

 そんな会話をする中で、エリアを見てノエルは少しばかり懐かしい気分になった。

 

「エリアって普段はどんなことやってんの?」

「水の巫女をしています」

「だからか…」

「え――」

「いや、なんでもない、とりあえず今この辺りは安全だが、どこか見つかりにくい場所を探そう」

 

 彼の脳裏にかつての仲間の、そして恋人だった巫女が浮かんだが、今はそんな時ではなく、気持ちを入れ替え辺りの警戒をしつつ、一同を安全な場所へと誘導した。

 

 ラーサー達が離れて、ライブ会場に一番近くなったのはミンウである。彼は運よく、先ほどのハンターに見つかることはなかったが、いつ何時襲われるかわからない。だが仲間を犠牲にして自分が助かるわけにはいかないのだ。だがかつて、アルテマの本の封印を解いた時はどうだっただろうか。自分が犠牲となり仲間を救った。今回ばかりはいい思いをしてもいいのではないだろうか。彼はジレンマに陥ってしまっていた。

 

「悩んでいても仕方ない…とりあえず近くへ移動しよう…。そこでまた改めて考えよう…」

 

 果たして彼はどんな行動をとるのだろうか…。

 

 学生寮にはアーロン、パンネロ、リディアの3人がいた。

 

「ライブかぁ…そのものに興味はあるけど…みんなに悪いよね」

 

 パンネロの一言にリディアも頷く。

 

「…っ、静かに下がるぞ」

 

 アーロンの見た先にハンター。3人は学生寮の他フロアへと移動する。最強のガードがいればわざわざライブ会場に隠れに行かなくても大丈夫そうだ。

 

 図書館では作戦会議が行われていた。

 

「私が見たハンターは2階にいたよ」

「さっき私は保健室側を歩いているハンターを見たな」

 

 それぞれが見たハンターの情報をまとめてどこに逃げるかの算段を行っているようだ。

 

「そうだとすればハンターはガーデン入り口の方に行けばなんとかなりそうじゃないか?」

 

 リルムがそこで口を挟む。

 

「私の仲間だった傷野郎が言ってた。今考えていることの逆が正解だって」

 

 リルムの一言にエドガーもその人物の言動が脳裏に一瞬思い浮かんだ。

 

「それはともかく、リルムはどこが安全だと考える?」

「2階だよ、そのためにはエレベーターホールの付近に隠れよう」

「なるほど、あえて敵の懐に潜り込むってことか、面白い、やろう!」

 

 ファリスの後押しによって3人はエレベーターホールへと向かうことになった。

 

 時は数分前に遡る。牢獄の中では数は賑わってきたが、実際は重い空気が漂っていた。

 

「……」

「……」

(話しづらい…)

 

 ゼルとアーシュラが放つ殺気に誰もが口をつぐんでいたのだ。

 

(ホープ、何かいい方法ない?)

 

 クルルが必死に訴える目でアイコンタクトを飛ばしてくる。

 

(誰かこんな時に雰囲気を変えてくれそうな人が良かったのですが…)

 

 ゼル、アーシュラを除きここにいるのは大食いの人外、片言の大男、謎のものまね師という異色メンバーのみで、ここの14歳の少年少女には頼ることができる人物がいなかったのである。

 

(そういえば逃走者のリストを見たらアーシュラさんは王族だったと思う。クルルなら話せるチャンスがあるんじゃない?)

 

 逃走前に他のメンバーの情報をちらっと聞いていた彼は彼女に伝えた。

 

(私にそんな大役を押し付ける気!?)

(そ、そんなことを言われても…)

(…、はぁ、わかったわよ。私だってこの空気はやだからね)

 

 彼女は折れ、意を決してアーシュラに話しかける。

「アーシュラさん、バル城王女のクルルと申します。お初にお目にかかります」

「これはこれはご丁寧に。ファブール王女のアーシュラです。よろしくね」

 

 クルルは内心焦った。アーシュラの口調はさっきまでの恐ろしい気配を微塵にも感じさせることがないほど穏やかだったからだ。

 

(あれ、意外と大丈夫じゃない?)

(いや…クルルの敬語に僕はびっくりで…)

(うるさいな…、まぁなんとか見ててよ)

 

 気を取り直しクルルは再びアーシュラと会話を続けた。

 

「アーシュラさんって走るのすごく速かったですよね」

「ええ、毎日山を走って鍛えてますから」

「王女様なのにすごいですね、なんでもモンク僧が集まるところだとか」

「ええ、心を鍛えるのにはもってこいです。誰かと違って」

「……」

 

 ゼルが小刻みに震え始め和やかな空気が一変ぴりっとする。口調こそ穏やかだが、アーシュラは笑ってはいなかった。

 

(話をうまくそらしてください)

(うん…やってみる)

 

 ホープのアイコンタクトで再び話を逸らす試みをするクルル。

 

「お父様はどんな方ですか?私には祖父しかいないのでよくわからないの」

 

 アーシュラはそれはそれはとばかり残念な表情を一瞬浮かべたが、彼女の父の姿をクルルに伝えようとした。

 

「どんな時でも強く厳しく、そして優しい方です。髪も辮髪で整ってますわ、どこかの鶏みたいな方とは違って」

 

 なぜかゼルに対し毎回一言一言棘のある言葉を吐いた。とうとうゼルが耐えかねて怒鳴る。

 

「うっせえよ!!王女様だかなんだか知らねえけど人をけなすだけしかできねえのかよ!!」

 

 ゼルの怒号に牢獄はさらに静まる。だがアーシュラは何も動じていないようだった。

 

(この人一応だいぶ年長者だよね…?)

(ガイさんよりは若そうだけど…でも沸点低すぎよね)

 

 怒号によりかえって冷静になったホープとクルルが諦めかけたその時だった

 

「はいはい、喧嘩はそこまでですよ」

 

 突如どこからともなく現れたイリーナが二人の喧嘩を遮った。

 

「あなたたちは確保されたとはいえ、ここも放送で映る場所なんでお願いしますね」

 

 淡々とした口調で二人を諫めた。2人が何とか落ち着いたところでイリーナがリモコンを取り出し、ボタン操作するとこの檻は移動し始めた。ガーデンの中の方へと向かっているようだ。

 

「ど、どこに向かっているんですか?」

 

 ホープの問いに対して、「今から皆さんをライブ会場へとお連れ致します」との回答が返ってきた。どうやらこの檻はラジコンのように操作するらしい。タイヤも伸縮自在に操ることができ、段差があるところでも難なく上り下りができるらしい。彼らが真っ先に会った逃走者たちはノエルたち3人だった。

 

「ホープ、どこに向かうんだ?」

「僕たちはライブ会場に連れていかれるみたいです」

「おまえたち、いく?」

 

 ガイの問いかけに対し、ノエルたちは首を横に振ったので、一同はほっとしたようだ。

 

「ノエルって言ったな、今度飯行こうぜ!」

「ああ、頑張って逃げ延びるからな」

 

 ノエルのインタビューを聞いていたゼルはその話を持ち出し彼にエールを送った。

 

「ワタシも行きたいアル!」

 

 ご飯と聞き勝手に便乗するクイナ。だがご飯は人数が多ければ多いほどおいしく感じるものだ。ノエルが「できるだけ大勢で飯を食おう」と告げると、この檻は3人を見送り、中へと進んでいく。ゲートも車両用の所を通過し、中へと入る。次に会った逃走者たちはエドガー達とシド達であった。

 

「こんなところに密集していると危ないぜ」

 

 ゼルが叫んだ。

 

「ちょうどここで出会っちまってな、これから別れるとこよ」

 

 シドが冷静に返す。

 

「トサカ頭、声大きい!」

 

 リルムの相変わらずの悪口は火に油を注ぐような形になりそうだったが、エドガーが申し訳なさそうに謝るのでなんとか冷静さを保つことができたゼルであった。一行と別れ再び檻は進み始める。ライブが始まるまで残り2分。中庭に入るとある男がそこにいた。ミンウである。檻のメンバーから驚きの声が上がる。

 

「おまえ、いくのか?」

 

 ガイが心配そうに彼に問いかける。問いかけに答えないミンウだった。彼はまだ悩んでいた。入って助かりたいという気持ちが強かった。ゼルやクルルが語り掛けてもうつむくのみだった。ライブ開始まで残り1分。だがミンウの迷いを断ち切ったのは意外な人物だった。

 

「あなたは自分に誇ればいい。昔の自分はこうだったからと今の自分に妥協したら、きっと未来の自分は後悔する」

 

 アーシュラである。ミンウはアーシュラの発言に一瞬ぼうっとしていたが、我に返る。

 

「そうだな…、私としたことが…。一時の感情に流されちゃいけないな」

 

 彼の眼差しに光が再び灯った。

 

「お前、いいとこあんじゃん」

「静かにしてください、気が散ります」

 

 そっぽを向くアーシュラに対し、なんでだよと言わんばかり大げさなポーズをとるゼル。だがその姿は…、

 

「なんだか兄妹喧嘩みたい」

「こいつが兄妹!?んなわけあるか!」

「ッ!?そんなことはない!」

 

 クルルの一言で二人とも揃って同じように否定したため、一行は笑わずにいられなくなった。その後ミンウと別れ、檻はライブ会場へ入る。今回のミッションでは参加者はおらずハンターは追加放出無しで終わる結果となった。残り時間は75分、賞金は54万ギル。

 




解説
ノエルの言っていた巫女:ユールのこと。時詠みの巫女。
リルムの言っていた傷男:セッツァーのこと、エンディングの名言
さて、次回はライブです。FF8のライブと言えば…



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ハンター追加!?

 前回のミッションは誰も参加せず無事に終わった。だが恐ろしいミッションが発動する…


ライブ会場につくと先ほどまでは誰もいなかったガーデン内だったが、ここにだけ人が集まっていた。ここの職員、生徒は魔法で連れてこられたらしい。開場はバンドのメンバーによってやや興奮した雰囲気に包まれていた。舞台上にいたのは…、

 

「セルフィ、キスティス、それにアーヴァイン!?」

 

 ゼルが驚いて声を上げる。彼の仲間である3人が舞台上にいたからである。

 

「まみむめもー!」

 

壇上のセルフィはマイクを取って大きく言った。ガーデンの人々は口をそろえて返事をする。ゼル以外の逃走者には意味が通じなかったがこれも挨拶のうちの一つなのだろう。

 

「みんな、ライブに来てくれてありがとうー!今日のライブにはスペシャルゲストがいまーす!檻の中にゼルいますかー?」

「お、おう、いるぜ」

 

 セルフィの突然の指名にやや戸惑っているゼル。

 

「至急ステージに上がって来て!」

 

 そう言われるとイリーナは檻の鍵を開け、ゼルを出す。ほかの仲間が見守る中セルフィは小刻みにジャンプしながらゼルを急がせた。ゼルが壇上に到着するとセルフィからギターを手渡された。

 

「これはまさか…あれをやるのか?」

「そう、あれをやるの!」

「俺が捕まってなかったらどうするつもりだったんだ?」

「ちゃんと裏にスコールが待機してるよー」

 

 セルフィが舞台裏の方を指さした。

 

「あいつギター弾けたのか!?」

 

ゼルが驚いて聞き返す。

 

「裏できっと『悪かったな』って言ってるわよ」

 

 キスティスが微笑みながら答えた。

 

「前はガーデンでできなかった学園祭、みんなのおかげで今回はここでできることになりました!本当にありがとう。それじゃ、本番、はっじめっるよー!」

 

 セルフィが会場の全員に向かって挨拶をして、演奏が始まった。開場のボルテージは一気に上がっていった。

 

 その様子を見ていた指令室のルーファウスは呟いた。

 

「仲間を信じた結果誰も損をせず…か。さすがは各世界の救世主たちだ。本当に頭が下がるな。だが、まだまだ面白いミッションを用意してある。たっぷり楽しませてくれ…」

 

 彼はパネルを操作しミッション発動のボタンを画面に表示した。不敵な笑みを浮かべながらボタンに触れた。

 

 

 

 時は戻ること5分、各逃走者たちにメールが届いた。

 

「逃走者の中で学園祭ライブに参加したものはいなかった。よってハンターの数は引き続き3体である…か」

 

 再び食堂に向かって歩いていたミンウが呟く。危うく味方を売るところだったと自分に反省しつつ、また自分を支えてくれたあの少女に感謝もしつつ逃走しようと決意を新たにしていた。そのメールを確認した直後、彼のもとに一本の電話が入った。

 

「…どうやって出るのだろう…、とりあえず何か押してみるか…」

 

 一方ユフィは学園祭ミッションが終わるとすぐに保健室に戻ってしまった。

 

「ユフィさん大丈夫ですかね?」

「あいつぁ大丈夫だ、ほっとけほっとけ」

 

 シドとラーサーはのんびり歩きながら学生寮の方向へと向かっていた。ハンターはきっと近いが、万一の場合に備えて銅の砂時計もあるので安心である。

 

 エレベーターホールにはエドガー、リルム、ファリスの3人がいた。周囲のハンターを警戒しつつ、ファリスとリルムはエレベーターの監視をしていた。この位置からは大きな円を描くホールを眺め下すことができるためハンターの位置がわかりやすい。リルムとファリスはそれぞれ学生寮から出てくるハンターと図書館の方へ向かうハンターを確認し、エドガーに告げる。その間、エドガーは携帯で連絡をとり情報を収集していた。エドガーは機械の扱いに長けているのでファリスが押し付けたのも理由の一つである。

 

「ふむ、わかった。ありがとう」

「確認とれた?」

「ああ、これできっとうまくいくさ」

 

 エドガーは逃走者全員が1階の範囲で逃げているかどうかを確認していた。彼らが考えていた作戦はこうだ。リルムの証言通りハンターが2階にまだいて、かつ逃走者全員が1階にいると仮定した場合、3人が監視しているエレベーターのうち一基が動けばそれはハンターが乗っている証拠でもある。その間彼らが反対側のエレベーターに乗ればハンターのいない2階へと逃げ込める寸法になっている。

 

「あ、こっちのエレベーターにスイッチが入った」

「ファリス、頼む!」

 

 エドガーの合図で表側のエレベーターを押したファリス。3人は急いでエレベーターに乗り込む。2階についた3人は自分たちの乗ってきたエレベーターを注視する。これが動かなければ降りて行ったハンターが昇ってこない証拠にもなる。仮に反対側から改めて乗ってきたとしても、こちらには銅の砂時計が2つもあり盤石の態勢が整っていた。はたしてハンターは来るのだろうか……。

 

 学生寮にいたリディアは先ほどエドガーから連絡を受けてその時ハンターの動きの情報交換を行っていた。どうやら彼女たちも比較的安全な場所にいることがわかった。

 

「どうやらさっきここで見かけたハンターは出て行ったようでしばらくは来なそう。他のハンターも2階にいるのと図書館付近らしいからひとまずは安心ね」

 

 リディアの報告でパンネロはほっとした表情を浮かべ、アーロンも幾分か緊張を緩めたようだ。

 

「個人的にはミッション抜きでライブを見たかったのはあるかな」

 

パンネロが残念そうに呟く。

 

「まぁいずれ放送があるって言ってたからその時のお楽しみでいいんじゃないかな」

「それをのんびり待ちますか」

 

 割と気楽に待ち構える3人なのであった。

 

ゲートのあたりにいたエリアたちにもエドガーの電話は届いていた。ハンターの位置はつかめたがリディアたちとは違って事態はそう芳しくなかった。

 

「図書館方向にハンターがいて…、駐車場付近にもハンター…、これが意味するってことは…」

「最悪挟み撃ちに遭うかもしれないってことだな」

 

 ノエルが状況を推理する。

 

「このような状況では一度散開して全滅を防いだ方がいいかもしれませんね」

「確かにな…とりあえずやばいとしたら図書館側のハンターが真っ先に来ると思う、俺は一度そっちに引き返して様子を見るぜ、あんたらは入り口の方の木陰なりに隠れていてくれ。状況は後で連絡する」

 

 ノエルはイデア達と別れ偵察を行うため戻る。だがわずか数100メートル先には2階から降りてきたハンターが近づいて来ていた。ガーデンの中を覗おうとしたその瞬間ハンターと目が合ってしまった。とっさに反転し逃げようとしたが頭にあの二人の姿が浮かぶ。

 

(ここで思いっきり逃げたらあの二人が捕まってしまう…、ならここは引きつけて…)

 

 ハンターをできるだけ引きつけた後彼は獣のように横に飛びついた。一瞬ハンターの隙をついて後方へ逃げようとしたが、ハンターの瞬発力にはかなわず数秒で捕まってしまった。

 

「くそっ…ここまでか…」

 

 そのまま大の字になって空を見上げるノエル。ハンターを偵察するのは常にリスクを伴うのだ。凶報はすぐさまエリアたちに届いた。

 

「ノエル確保、逃走者残り12人…ってことは私たちのすぐ近くにハンターが!?」

 慌ててほかの場所に逃げようとするエリアを少し離れたところで隠れるイデアが制す。

「慌てずに状況をよく見て判断しましょう。ハンターは反対側からも来るかもしれないのです」

 

 ハンターの恐怖は冷静な判断をも奪うのだ。

 

 

 

 一方ライブ会場では一曲終わって演奏がいったん終わった。

 

「よーし、それじゃこれから別の会場に行って暴れるよー!」

 

セルフィが会場全体に叫ぶ。その場にいた人たちが大きな声で返事をする。

 

「べ、別の会場?」

「ええ、あなたたちは見ているだけですが」

 

 ホープのつぶやきにイリーナが答えた。

 

「それじゃイリーナ、お願い!」

 

 セルフィの掛け声とともにイリーナが魔法を放つ。エスケプの魔法だ。ここにいたメンバーはそれぞれ別々の場所に移動していった。残り時間は70分を切ろうとしていた。

 

「な、何が起こっているんだ」

 

 突然何もなかった場所から人が現れて戸惑うエドガー。

 

「制服を着た人たちが急に…」

 

 ファリスが唖然とする中各逃走者の携帯のメールの音が鳴り響く。

 

「やぁ、俺はエスタ大統領のラグナだ。これから君たちを俺たちの飛空艇ラグナロクに招待する。エレベーターが3階まで移動できるようになっているので3階のフロアに来てほしい。だけどただそれだけだと面白くないからライブ会場にいたガーデン生徒職員合わせて100人がガーデン内をうろつくことになるぞ、気を付けたまえ!…だって」

「それなら楽勝ね」

「だといいがな」

「「え――」」

 

 安心しているパンネロ、リディアにアーロンが釘を刺す。その数秒後新たにメールが入ってきた。

 

「追伸だ!なお残り時間が60分を切るまでに3階にたどり着けなかった場合はこの100人が全員ハンターとなって君たちを襲い掛かるぞ!それとハンターが3人だときつそうだから新しくこの間だけキロス君とウォード君にも手伝ってもらってハンターになってもらう。よってハンターが5体の中頑張って3階まで来てくれ。以上!……」

 

 メールを読み終わったミンウは開いた口が塞がらなかった。最も彼は口にも布を巻いているため空いていようがいまいが見分けがつかないのだが、非常にまずい状況なのは一目瞭然であった。

 

 

 

 指令室で逃走者を見守るルーファウスは手元のワイングラスを転がし口に流し込んでいた。

 

「さて、バラムガーデン最後の修羅場だ、くぐり抜けてみろ」

 

 彼の最後の一言…バラムガーデン最後の…が意味するのは一体何なのだろうか…。残り時間は70分を切り、賞金は60万ギルを突破した。

 




 新たに追加されるウォードとキロスについて、ジャンクションされているため走力はやや高めですが、50mを6秒台前半とタークスよりは遅めの設定です。服装は黒服ではなくゲーム登場時の服装(軍服ではない)とサングラスです。


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修羅場

 ハンターが追加され、また学生たちもたくさんいてますます逃走しづらくなる環境、逃走者たちは無事に3階にたどり着けるのだろうか。


「うげげ…どうしよう…」

 

 ミッションのメールを見てベッドの下で青くなるユフィ。彼女の心の中は自首するかどうかで悩んでいた。今自首すれば60万ギルは手に入る。これだけあればマテリアはたくさん購入できるくらいだ。だが、もう少し粘ればもっとお金も手に入る。幸いすぐ近くに自首用の電話があるため余計に悩ましいところだ。

 

(とりあえずここから出て考えよう…)

 

出るとそこには数人の生徒と先生らしき人物がいた。

 

「おや、あんたそんなところで何してんだい」

 

 そこにいたのは白衣を着た女性。年は中年かそこらのようである。

 

「いや、ここに隠れてて…」

 

「あんたずっとここにいるみたいだね。私はカドワキ。ここの先生さ。それより新しいミッションが発動したみたいだね。行くなら行く、自首するなら自首する、ぼやぼやしてると私があんたを捕まえるよ!」

 

「あ、はい…」

 

女性の勢いに押され保健室から出てきたユフィ。あることに気付いた。

 

「…あー!!結局自首するタイミングを逃した!」

 

 もうこうなってしまってはやけくそだと呟きながら、3階へ向かうユフィなのであった。

 

 ミッション終了まで残り9分、今の状況で一番チャンスなのはエドガー達であった。エレベーターは目の前にあり、すぐ3階に行くこともできた。だが…、

 

「エキストラが入ってきたせいでまさかエレベーター使われちゃうとは…」

 

 エドガー達はため息をつくしかなかった。下に行ったエレベーターをすぐ上に戻そうとボタンを押すが、下から誰か乗ってくるかもしれない。それがハンターならなおさらである。メンバーは銅の砂時計を2つ持ってはいるが、それでも用心に越したことはない。だがその彼らの後方には2階に現れた追加されたハンターが迫っていた。エレベーターがあと数秒でドアが開くという時に、そのハンターは3人に気付き突進してきた。

「嘘っ、ハンター!?」

「くっ、止まれ!!」

リルムの悲鳴に反応し、エドガーはためらいもなく銅の砂時計をハンターに放つ。ストップ効果によりハンターの動きは止まる。

 

「開いたぞ、乗り込め!」

 

 ファリスの一言でエレベーターに乗り込む3人。

 

「た、助かった…」

「この恐ろしい学園ともおさらばだな…」

 

肩の荷が下りたエドガーに女性陣も頷く。この3人はなんとか無事に3階にたどり着いたのだった。

 

 ミッション終了まで残り8分、逆に最も不利な状況にあったのがエリアとイデアの二人だ。アイテムもないどころか前後ハンターに挟まれていて、身動きがとれない。運よく見つからなくても数分はその場に拘束されるのは間違いなかった。

 

「自首も考えないとかな…、ここからだと駐車場の電話が近くて確実かも…だけど…」

 

 そう、駐車場に行くよりもはるかに近いエレベーターにたどり着ければこの恐怖も終了するのだ。だがハンターがガーデン方向から現れた。エリアは涙目になりながら身を小さくかがめるしかなかった。数十秒後なんとか無事にかいくぐることに成功したと気付くが、また逆方向からもハンターが接近していることに気付いた。

 

(もう…次から次へと来ないでよ…)

 

彼女は時が止まることを願いつつも、それは無常にも流れ続けるのだった。

 

 食堂にいたミンウはホールの様子をうかがっていた。

 

「だいぶ人が増えた…ハンターを見落とさないようにしなければ…」

 

 彼が学生寮側を見るとラーサーとシドの姿があった。お互いの目が合い近づいた。

 

「あなたたちは無事だったか」

「ええ、あなたも無事でよかったです」

 

 ラーサーが微笑みながら答えた。

 

「だが状況がやばいのは変わりないぜ、あれを見てみろ」

 

 シドが指を指した方向を見ると校庭方面から出てきたハンターがいた。うかつに進むことはできず物陰に隠れる3人。その少し遠くを見るとユフィが小走りに走っているのを見た。このままではハンターの視界に入ってしまう。だが声を上げるわけにもいかず、電話で連絡するわけにもいかない。呼び出し音が命取りになるかもしれないからだ。だがハンターが向きを変えて歩き出し、視界にユフィをとらえてしまった。ものすごい勢いで走っていくハンター。

 

「ん、げげっ!?」

 

素っ頓狂な声を上げてユフィは走り出した。だが彼女も忍者の末裔なのか、突如駆けだす音に反応しとっさに全力疾走でエレベーターホールに向かっていく。だが幸運にも人という障害物ができたのもあったおかげか、小柄なユフィのほうに分があった。彼女はすいすい流れるように駆け抜け、エレベーターの手前側についたが、それは3階でストップしたので、とりあえずボタンを押して素早く裏側に進む。裏にたどり着くとエレベーターは運よく1階で止まっていた。ハンターが到着した時には、すでに彼女の乗ったエレベーターは上昇していたのだった。

 

「はーっ、はーっ……ユフィさんに追いつこうなんてまだまだ早い…体力温存しといてよかったよ~…」

 

 気が抜けたようにエレベーターの床にへたり込むユフィなのであった。

 

「そうか…なんとか逃げ切ったようだな…」

「あいつもあいつで忍者の端くれらしいからな。とはいえハンターとほぼ互角なのか…」

「あいつは本当に忍者だったのか…」

 

 ミンウたちは食堂から保健室側に近づきながら今のやり取りを見ていたのだが、シドの一言にミンウが驚いた。どうやら保健室にいた時は本当に冗談だと思っていたらしい。

 

「いずれにしてもハンターがあそこに移動したのであれば、こんな目立つ場所にいては見つかってしまいます。一度保健室に退避しましょう。」

 

 ラーサーの提案に反対するものは誰もおらず、追われていないことを確認し保健室に一行は向かったのだった。

 

 ミッション終了まで残り7分、学生寮にいたリディアたちはまだその入り口付近にいた。3人の視線の先には慌ててエレベーターに駆け込むユフィの姿が見えた。ハンターの姿が見えなくなったのを確認して左手側に進む。

 

「アーロンさん、なんで左なんですか?図書館方向にハンターがいたはずですよ」

 

 パンネロは疑問に思い彼に質問した。

 

「さっき保健室の方に逃走者が3人いるのを見た。方向が被ったら見つかるリスクも増えるだろう。それを防ぐためだ」

 

アーロンはそうやって状況を読んだ。だが一行のだいぶ先、図書館からハンターが出てくるのを確認した。一行は駐車場の入り口の壁から慎重にハンターを覗う。ハンターの進路はまさかの駐車場側、自分たちが今いる場所に戻ってきている。

 

「ハンターが戻ってくる!?」

「このまま駐車場の方へ逃げるぞ」

 

 一時駐車場の中に隠れる3人。だがパンネロはどうも残り時間が気になるらしく、立ったまま質問をする。

 

「ずっと先を行ってガーデンの入り口側に向かうんじゃないのですか?」

「一旦隠れるだけだ。俺達の走力を考えて隠れながらエレベーターにはたどり着けない」

「…私、行くわ」

 

 パンネロがそのまま走っていく。彼女にとって待っているだけは辛いようだ。

 

「あ、ちょっと!…、止めなくていいんですか?」

「ああ、正解は一つとは限らない、それがあいつの物語だからな」

 

 リディアの問いにアーロンは冷静に答えた。2人は息を潜めて駐車場の入り口を見るとハンターが素通りするのが見えた。

 

「行くぞ」

 

 アーロンの指示に従ってリディアも動く。いくら人通りが増えて見つかりにくいとは言えども、ハンターに気付かれれば即終了ゆえ二人の足取りは相当重かった。残り時間を考慮しながらも、慌てることなく彼らは慎重に行動しなければならない。

 

 残りが6分になろうとしていた。この残ったメンバーの中で真っ先に動いたのはラーサー達である。

「僕には銅の砂時計があります。これで刺し違えても突破できるはずです」

「だがそれはおめえのために使うもんだぜ」

「逃走者が多く生き残ったほうがお互いのためにいいんです」

「けっ、好きにしろい」

 

 ラーサーの相変わらずのお人よしっぷりにシドも悪態を吐きながらも感心せざるをえなかった。

 

「ならば私が先頭を行こう」

 

 先ほどの行動に負い目を感じていたのだろうか、ミンウが偵察として自ら名乗り出た。彼が先に動き、その十数m後ろを2人が行く。ユフィを追いかけていたハンターはすでに移動していたようで付近に姿はなかった。彼らはためらわず階段を駆け上がる。ミンウが階段を登り切るやいなや、エレベーターは動きだし2階に移動した。

 

「裏に回るぞ!」

 

 ミンウは叫び裏のボタンを押しに行く。だがエレベーターは3階のままストップしていたので降りてくるのに10秒近くかかるだろう。エレベーターを待つ間に、表側のエレベーターから人が降りてきた。ハンターである。ハンターはそのまま裏側に回り込み彼らと向かい合い、そのまま突進してきた。

 

「ダメだ、間に合わない」

 

 ミンウの叫びにラーサーが反応した。

 

「今だ!!」

 

 彼はここぞとばかりに銅の砂時計を使った。ハンターが動きを止めている間彼らも無事エレベーターに乗り込むことができた。エレベーターが上昇し、固まったままのハンターを見下ろす3人。肩の荷が一気に下りたためか大きな息を吐き、どっかりエレベーターの床に腰掛けた。

 

「なくなっちまったな」

 

 シドが残念そうに声をかけた。

 

「ええ、でもいいんです」

 

 ラーサーはそれでも笑顔だった。シドもふっと笑みを浮かべラーサーを小突いた。

 

「全く…私も君と同じくらい勇敢であり続けたいもんだ…」

 

 一度決心がぐらついたミンウも彼を見て強くあり続けたいと願った。

 

 指令室では、戻ってきたイリーナとルーファウスが会話をしていた。

 

「あっさり突破してきましたね」

「アイテムを使った捨て身戦法でなければこれはかなり難しいからな」

「まだ残っている者たちはアイテムを持っていません」

「あぁ、残った6人は厳しいサバイバルゲームになるのは間違いないな」

 

 彼らは再び無言になりゲームを見守る。残りミッション終了まで時間は5分を切った。賞金は66万ギル。

 




 銅の砂時計の効果は1分間くらいです。ところで実際どうやって使うのでしょうか?(敵に投げつけるとか?)ちなみに被害に遭ったハンターは2回ともウォードです(笑)カドワキ先生は保健室の先生です。(特にここでは出番はありませんが)


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天国と地獄

 3階到達組とそうでない人たちの差…、勝負は一時の運、たったそれだけなのに両者の差は歴然としていた。残る逃走者は6人。彼らの運命はどうなるのか。


 シド達が3階にたどり着くと目の前には豪華なドアがあり、それを開けて中へ入り込むと、すでに逃げ込んだ逃走者たちがくつろいでいた。

 

「ここは…?」

「私の学園長室ですよ」

 

眼鏡をかけた男性が3人に優しく声をかける。

 

「私はシド・クレイマーです。皆さん方逃走者のイデアは私の妻です。そちらのシドさんにはお世話になったようで」

「ははぁ、あんたがか。本当に妙なところで縁もあったもんだな。俺もシドってんだ、シド・ハイウインドだ。よろしくな」

 

 2人のシドはがっちり握手を交わした。その間ラーサーとミンウはほかの逃走者たちに声をかけていた。

 

「皆さん無事なようで何よりです」

「とーぜーん、ユフィさんはこんなの朝飯前ってもんよー」

 

 心の中であなたはずっと隠れてただけですよねとラーサーは苦笑しつつも、よかったですと一言だけ返した。

 

「あんたも王様なの?」

「はい」

 

 リルムが彼に興味を持ったようで話しかける。

 

「あんたもホープとおんなじで小さいね…」

 

「僕は僕ですから。そのうちきっと伸びるでしょう。エドガーさんみたいに」

 

 爽やかな笑顔でリルムの毒舌を受け流す。リルムにとって男の身長は重要そうである。

 

「ふ~ん…こっちの王様と全然違うね~」

 

 ラーサーの爽やかな笑顔とエドガーを見比べながら、リルムが冷たい視線をエドガーに送る。

 

「何を言う、女性に対しては常に優しく接するのが世のマナーなのだよ、なぁユフィ」

「そうそう、アタシにこんな協力的な人はいなかったよ。それに王様ってやっぱり金持ちだしね…イヒヒ」

 

 エドガーにすり寄るユフィ。残念ながら彼女にはお金しか見えていないようだ。

 

「金で釣ったか、このロリコンが…」

 

ファリスがため息をつきそれには全会一致で採決がとられた。エドガーはただのフェミニストだと主張するが、聞くところによると10歳のリルムにもアタックをしかけたらしい。全員がそれはどうなんだろうといろいろ心の中で突っ込みつつも、ただ言えることは、逃走中のことなど忘れ終始リラックスした様子で皆が会話を楽しんでいた。

 

 

 

 だが階下ではまだ地獄を見るものは少なくなかった。パンネロは行動こそが成功すると信じトンネルを駆け抜けていた。だが彼女の正面からはハンターが迫っていた。

 

「っ!?」

 

 お互いが気付きパンネロは反転して逃げようとする。ハンターとの距離は十分あった。だが一本道の中、足の速いハンターにかなうわけもなくそのまま捕まってしまった。

 

「ふぅ…っ…ここまでか」

 

 大きなため息をつき終わりの瞬間に浸るパンネロ。だがその顔には悲壮感はなくかえって清々しささえ感じるほどだった。

 

「動いて捕まっちゃったならしょうがないや…」

 

 Rrrrr!Rrrrr!メールだ。

 

「パンネロ確保。残る逃走者は11人…まずいわ…」

 

 先ほどまでパンネロと行動していたリディアは相当焦っていた。一体何人が3階にたどり着けたのかという連絡はないのだが、5分も経過していれば何人かはきっとたどり着けているに違いない。駐車場の入り口の影からハンターの動向に細心の注意を払う。だがこの包囲網を潜り抜けてエレベーターにたどり着かなくてはいけないのだ。それも制限時間内に。残りの時間はわずか4分。

 

(アーロンさん…さっきから静かなまま…でも私が勝手に動いたらパンネロと同じように捕まってしまう…)

 

葛藤に悩まされるリディア。だが一緒に行動をしていたアーロンは冷静だった。彼はすぐ近くを過ぎ去っていったハンターの動きも確認しつつ、図書館付近にいるハンターの動きを注視した。そしてついにその時は来た。

 

「行くぞ」

「は、はい!」

 

 アーロンの一言で彼女は進みだした。3階へと通じるエレベーターは目と鼻の先まで迫っている。

 

 残り3分、イデア達はまだ茂みの中に隠れていた。まだ視界に捉えているガーデンの入り口方向に向かっていくハンターを見つめながら。だがここでエリアが茂みから出て一目散にエレベーターの方向に走っていくのが見えた。

 

(どのみち捕まるなら動いた方がよい…、そういうことですね)

 

 覚悟を決めたイデアも走り出す。エリアとの距離は30mくらい離れていた。それでもただ前を見つめて走ると、2人はゲートを超えてホールにたどり着く。目的のエレベーターまではもう目と鼻の先まで来た。だが彼女らはわき目もふらずに走ってきたためか、また人が多くいたためか近くにハンターがいたことにも気づかずにいた。その駆け抜ける音にハンターが振り返ると、エリアがちょうど駆け抜けていくところを目撃、追走した。だが別のターゲットが視界に入った。イデアだ。

 

「はぁっ…はぁっ…、ッ!?」

 

ただでさえずっと走ってきたイデアにもう躱すほどの体力すら残っておらず、ハンターは優しくその肩を触れ、彼女は確保されたのだった。ハンターは続けざまにエリアを狙いに行ったが、彼女はすでにエレベーターのボタンを押していて、イデアが確保されたことさえも気付かずそのままエレベーターで3階に向かっていたのだった。

 

「っ…はぁっ…残念です…、エリア、私の分までよろしくお願いします…」

 

 イデアはそう言い残して3階へ移動するエリアが乗るエレベーターを見つめていた。

 

 残るリディア、アーロンはこのすぐそばまで迫っていた。今イデアを捕らえたハンターがもう少し遠ざかってから一気に行く予定だったのである。そこにいるハンターがこっちに戻ってきたら2人とも隠れる場所はなく絶望的である。時間ももうわずか一分とわずかだ。

 

(お願い…あっちに行ってちょうだい…)

 

 リディアは必死に祈るが、虚しくもハンターは図書館側のほうに向かってきた。

 

「リディア、ベンチの下に隠れていろ」

「え――」

「―――」

 

 アーロンはそう言い残すと図書館方向に走り出す。ハンターはそれに気づき走り出した。ハンターはベンチ下のリディアに気付かずそのままアーロンのほうに突進していった。アーロンの足はそこまで速くはない、が幾分かの距離を稼ぐことができ、リディアはエレベーターの階段を駆け上がる。エレベーターのボタンを押し、3階から降りてくるのを待つ。ちょうど60分が経過し、ガーデンの生徒たちが一斉にサングラスを装備すると、エレベーター街のリディアに突進を仕掛けてきた。幸いにもエレベーターのすぐ近くには人はおらず、ぎりぎり間に合うタイミングでエレベーターに乗り込むリディア。

「助かったのね…」

そう呟く彼女の頭の中はほっとした気持ちよりもずっと、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「最後のアーロンのかけてくれた言葉…『これはお前の物語だ。捕まって楽になるか、逃げ延びて辛い思いをするか…それを決めるのはお前自身だ』…か」

 

 守ってくれたのはすごくうれしいことであった。だがその代わりに自分を犠牲にしてしまう…リディアには幼少期から周りにそんな人が多くおり、そのたびに悲しい思いをした。だからこそ自分がもっともっとしっかりしなければいけないと思っていた…その矢先だった。

 

「ありがとう…アーロンさん…本当に……あり、が…とう」

 

 3階に着くころにはリディアは完全に泣き崩れていた。とにもかくにもこれでイベントは終了することになった。すでにミッションクリアしていた女性陣(となぜかエドガー)が彼女をなだめさせに来た。

 

「まぁまぁ、じきに収まるさ」

 

 ファリスが彼女を撫でながら優しく言った。

 

「別にアタシは悪いこととは思わないよ。助けてもらったならそんな申し訳なさそうにしてなくてもいいんだって」

 

ユフィも彼女を励ました。

 

「そうそう、姉御もくの一もそう言ってることだし、元気出して!」

 

 リルムも彼女を元気づけようとした。

 

「「「だからエドガー(色男)は引っ込んでて!!!」」」

 

 三人の女性に口をそろえて突っ込まれたためエドガーは肩を落としながら退場していくが、リディアもこれには吹き出してしまった。

 

「うん…そうね、ここで終わりじゃないものね…」

 

 涙を拭いてリディアは立ち上がった。リディアが学園長室に入ると、男性陣が拍手で彼女を暖かく迎えた。逃げ切った逃走者全員が揃うと学園長のシドがモニターを取り出した。

 

「やぁ、俺がラグナだ。さっきのメールの通り君たちをこのラグナロクに招待しよう。またこの通信はそっちの声も聞こえるようになっているから質問をしてくれても構わないぞ」

「はい、僕たちはその飛空艇に乗ってその後どうするのでしょうか?」

 

 ラーサーからの質問にラグナは「いい質問だ」と大げさなポーズをとって答えた。

 

「この飛空艇で逃走してもらいたかったんだが、いかんせんそこまで大きな設備じゃないんだ。だが君たちが最初に神羅カンパニーの飛空艇に乗ってきただろ?それと同じような改造がこの飛空艇にもされてある。つまり、君たちを別会場に連れて行って、そこで逃走してもらう予定だ」

 

 メンバーがざわめいた。

 

「その会場はどこなのさ?」

 

 ユフィが率直な質問をラグナにぶつけた。

 

「まだ会場は秘密だ。それにまだ逃走者全員集まったわけじゃない、全員揃ったら発表するさ」

「全員ったって、3階にいる俺らで全員のはずだぜ」

 

 シドがみんな思っていることを代弁するかの如く聞き返す。

 

「とりあえずこれを見てくれ」

 

 ラグナが画面を切り替えるとそこにはすでに捕まっていた逃走者たちが映った。

 

「これから捕まった逃走者たちの延長戦だ。この中から2名復活したのち別会場に移動するぞ!」

 

 3階に逃げ切った9人が見守る中、こうして新たなる戦いが始まったのだった。

 




 次回、早々に散っていった逃走者たちが活躍する…かも?なおリルムのあだ名 ファリス→姉御 になりました。他の人のあだ名も随時出すかも。アーロンのリディアに対するセリフは今回に合わせて少しばかり改変してあります。エドガーは安定のエロガー路線です。


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購買のパンを手に入れよ

 捕まった逃走者たちの復活ミッション。早々に空気になってしまった人たちの会話を増やしていたら普段より長くなりました。それとちょっとだけギャグ回です。たぶん!


 捕まった逃走者たちはガーデンの入り口にいた。全員檻から出ると、イリーナが説明を行う。

「今からあなたたちには食堂の購買のパンを手に入れてもらいます」

「食堂のパン?」

「ええ、ここのパンはなかなか入手できないくらいおいしいらしいわ」

「そうなんだぜ、俺も毎回チャレンジするんだがいつも手に入らないんだぜ」

「うわ…」

 

 イリーナの解説に涙を流しながら納得するゼル。だがアーシュラはおろか、ほかの逃走者でさえもドン引きするくらいだった。もちろんイリーナはゼルをスルーしながら話を続けた。

 

「食堂には2つのパンがある。そしてたどり着けた者の中で先着2名にはゲームに復帰する権利を与えます」

 

 一同の目の色が変わった。前半の無念を晴らすべく挑むつもりでいるのだろう。

 

「パン…おいしそうアル」

「おれ、すき、パン」

 

 ガイとクイナはパンの魅力に取りつかれたようだ。どうやら復活するためだけにミッションに参加するものだけではないのかもしれない。

 

「そんで俺達はこっから走っていくのか?」

「それもそうですが、君たちにはこれをつけてもらいます」

 

 イリーナから手渡された防具を装備した。

 

「…!?力が吸い取られる!?」

 

 つけたと同時に虚脱感に襲われる逃走者たち。

 

「無理もない、今回のゲームのため特注で作った『ウィークバングル』だ。これを装備すると身体能力の低下はおろか、すべての属性に対しても弱くなる。先ほどガーデンに100人くらいの生徒を配置したが、彼らの攻撃をかいくぐって食堂までたどり着いてほしい」

「もし、攻撃で力尽きたらその時はどうなるんですか?」

 

 無数の魔法攻撃を躱しながら進まなくてはいけない。ホープが心配になって質問をしてみた。

 

「そんときはウチの出番や」

 

 突如現れたデブモーグリとその上に乗っかっている猫のような生物(?)が現れた。

 

「ウチはケット・シーっちゅうんや、よろしゅうな」

 

猫が名乗った。

 

「君たちのその装備にはある仕掛けが施されていて、戦闘不能になるとこの入り口まで戻され、このケット・シーに手当てされる仕組みになっています。この世界の魔法は擬似魔法と呼ばれており、本物の魔法より威力は低いです。すぐ手当もされるから心配せず行ってくるのがいいでしょう。また勝手にこの防具を取り外すと失格扱いになるので気をつけてくださいね。後のルールは前半の逃走の時と同じです」

 

 イリーナの説明が終わると、全逃走者が一列に並ぶ。数秒後、開始のブザーが鳴り、逃走者たちが食堂に向かって走っていく。先頭を走るのはアーシュラ、続いてゼル、クルルが並んでいる。

 

「来たぞ、撃てえ!」

 

彼らを見つけた生徒たちから容赦ない3属性の初歩魔法の弾幕が飛んでくる。

 

「これくらい簡単に避けれます!っ!?え…!?」

 

能力が低下し、普段と感覚が違うためか、躱しきれず被弾に驚くアーシュラ、そのまま体勢を崩すと立て続けに被弾。戦闘不能になったためか後続のゼルたちの視界から消えた。だが彼女に気を取られている暇はない。魔法は次々と放たれる。

 

「この弾幕キリがないぜ!」

「とにかく勢いつけてつっきるしかないよ!」

 

 逃走者たちは慎重に弾幕の中を駆け抜けていった。

 

「いたたた…」

 

 アーシュラは大の字になって倒れていた。

 

「お嬢さん、大丈夫でっか?」

 

 ケット・シーが彼女を見降ろしていた。

 

「ええ、このくらいは…」

 

 彼女がようやくのことで起き上がると次々戦闘不能者が飛ばされてきた。ホープ、ゴゴ、ガイの3人である。

 

「まぁあの仕掛けじゃせやろなー。それくらいこのイベントは厳しいんやでー」

 

 ケット・シーは伸びている逃走者たちにフェニックスの尾を楽しそうに使っていた。3人もゆっくり目を開け起き上がる。

 

「あなたたちはどんな攻撃をどこで受けました?」

 

アーシュラは起き上がった逃走者から情報を聞き出してみた。

 

「僕たちがやられたのはゲートに続く階段のあたりです、あのあたりはファイア、サンダー、ブリザド中心の攻撃ですね」

 

 アーシュラが倒れたのは最初の噴水の場所だった。だがホープたちはその次まで進んでいたようだが、そのあたりまで攻撃パターンは変わりなさそうだ。ありがとうと感謝しアーシュラは立ち上がった。その間にも次々に戻されてくる逃走者たち、だがその中にゼルの姿はなかった。

 

(悔しい…あの男には負けるわけにはいかないのよ…!だけど…)

 

 彼女の中でメラメラと燃える何かがあった。ただ悔しさとは違う正体不明の気持ちもまた彼女をいら立たせていた。

 

 一方先頭を走るゼルはゲートまでたどり着いていた。まさに地の利を生かしているといっても過言ではない。そこは休憩エリアになっているらしく攻撃も届かず、ハイポーションも支給される。彼がハイポーションを飲みつつ作戦を練っている中ゲートにたどり着く者がいた。次に走っていたクルルである。彼女は素早い身のこなしで魔法の弾幕攻撃もなんとか避けながらいた。

 

「あ、ハイポーションだ!」

 

 クルルが喜びながら一気に飲み干す。失われた体力が回復される。

 

「お前、なかなかやるじゃん」

「あなたもね」

 

 お互いを認め合う二人。

 

「だけど、これはまだまだ序の口みたい。鳥さんが教えてくれたのだけど、この先には相当な手練れがいるみたいよ」

「まぁそうでなきゃ張り合いがないよな、行くぜ!」

 

 クルルは自身の能力を生かし情報を収集したようだ。二人はガーデン内部へと覚悟をもって踏み込んだ。ガーデン内の両側の水上にはボートがあり、そこにはゼルの知っている顔がいた。

 

「シュウにニーダ!?」

「やぁゼル、元気みたいね!でもここでおしまいよっ!」

 

 シュウという女性はゼル達にファイラをお見舞いする。

 

「僕だって影は薄いけど、できるのを証明してみせる!」

 

 ニーダという男性も続けざまにブリザラを発動。他の十数人ばかりのシード達もラ級の魔法を次々に放ってきた。だが瀕死の状態になりながらもかろうじて2人は耐え、食堂の方へ向かう。だが保健室の脇でさっきのバンドのメンバーが集まっていた。固まるゼル達にセルフィ、キスティス、アーヴァインが立ちはだかる。

 

「まじかよ…」

「行くわよ、みんな」

「ロケットランチャーで粉々に爆破しちゃうんだから!」

「セフィ、魔法以外厳禁だよ」

 

 セルフィの本気か冗談かもわからない過激な発言に青くなるゼル。3人は冗談を交わしつつも互いに合図を送ると自分たちに魔法を放った。「「「トリプル!!」」」

 

「逃げるぞ!」

「え、あ、うん!」

 

 魔法の効果がわからないクルルはきょとんとしたままゼルに腕を引っ張られて撤退しようとする。

 

「逃がさないわ、ブリザガ!!」

「どっかーん!ファイガ!」

「走れ稲妻、サンダガ!」

 

 後方へと逃げる彼らの背中に3人は容赦なくガ級の魔法を乱発し、そこで彼らの意識は吹っ飛んだのだった。

 

 ゴゴは一度やられた後、戦闘不能になり帰還してきたクイナと一緒に行動していた。

 

「あの時に見た忍者の動き、ここでものまねをしてみよう」

 

一度目の失敗後、ゴゴは忍者のものまねをしていたためか初級魔法の回避には難なく、クイナも攻撃パターンを二度目でわかっていたためか、たくさん食べてエネルギーをここで発揮し、動きにキレがあった。

 

「お前なかなかすごい躱し方だな」

「アンタもなかなかやるアル」

 

 降りしきる弾幕を躱しきり、二人はそのままゲートにたどり着くとホープ、アーシュラ、アーロン、そしてイデアがいた。

 

「お前らここで何やっているアル?」

「この先で食堂へ行く方向から爆音がしたのでどうしたものか考えていたところです」

 

 イデアが丁寧に答えた。

 

「このまま迷っていてもしょうがないアル、ワタシはつっきるアルね!」

「お前の真似をしてそのままついていくとしよう」

「やめといたほうが…あ…」

 

 ホープが制止しようとするものの2人は飛び出ていき、四方から迫るラ級の魔法の餌食となった。爆煙が彼らのいた場所を覆った。

 

「やっぱりダメでしたか…」

 

 みんなが落胆する中アーロンはまだその先を見つめていた。

 

「まだ終わってはいない…」

 

 アーロンの言葉を聞き驚いたように皆が見つめると無事に走っている二人を見つけた。先ほど彼らが見せた回避の技はまぐれではなかったようである。だがそれも束の間、バンドの3人組にガ級の魔法の乱れ打ちを喰らいそのままジエンドとなった。すさまじい爆音はこの4人の所まで響き渡った。この能力を劣化させる防具がなくても戦闘不能になりそうだ。

 

「どうやら左に曲がるといくら最短距離と言えども強力な魔法が飛んでくるみたいですね。実力を持つシードの攻撃はたぶん耐えきれませんわ」

 

 イデアの分析に全員が頷く。

 

「今の音何だったのー?びっくりしたよ!」

 

 後方から追いついたパンネロが4人に話しかけた。

 

「この世界の魔法の中でも強力な魔法が炸裂したのですよ」

 

イデアが答えた。その直後パンネロに続いてアーシュラ、ノエル、ガイもたどり着く。

 

「よう、みんな集まってるな。作戦会議か?」

 

「ええ、最短距離の左側に行くと文字通り黒焦げにさせられるのでどうしようか考えていたのです」

 

 ノエルの質問にイデアが答えた。相談してあれこれ出た意見をホープがまとめる。

 

「僕たちの進路は右に曲がって遠回りして食堂を目指します。人海戦術で突っ切りましょう、いいですね!」

 

 一同は士気を高め迫る決戦の時に胸を高鳴らせていた。

 

 一方ゼルとクルルはトンネルを通っていた。

 

「食堂を目指すだけならわざわざあんな弾幕をかいくぐる必要はないだろ」

「ほんとね、ここは誰もいないからとっても楽ね」

 

 彼らは駐車場を経由して食堂へ行こうとしているようだ。イリーナも食堂へ行くのにこの場所を通ってはいけないとは言っていない。実際に止められもしなかった。

 

「あいつらもよく中央を突っ込んでいったもんだぜ、この勝負もらった!」

「あれ、向こうに誰かいない?」

 

 前方にはたった一人だが人がいた。微動だにしない人影にそのまま近づく。ゼルはその少女の正体がわかると固まりつく。

 

「リノ…ア……!?」

「やぁ、ゼル。こんなところで何をしてるの?年下の女の子とデート?」

 

 リノアという少女は微笑んで2人を見つめていた。彼女の冗談にもまともに返せないほど彼の頭の中は真っ白になっていた。一番考えたくない状況が起こり得るかもしれないからだ。

 

「お前…その、ここにいるってことは…」

「うん、そのまさかだよ」

 

 彼女はそう言うと大きな翼を広げ飛び立った。神々しい光が彼女を包み込む。

 

「やべえ、逃げるぞ」

「え、ちょ、ちょっと!」

 

 ゼルはクルルの腕をつかんでもとにいた方向へと走っていった。

 

 

 一方イリーナは一つ重要なことを言うのを忘れていたのを思い出した。それはゼル達がトンネルの方向に向かっているときにちょうど思い出したのだ。この世界の魔法は擬似魔法であることは言った。だがトンネル内部にいるリノアの必殺技ヴァリー…、魔女の力を発揮することができる技により、彼女の使う魔法は本物の魔法で、かつ威力は桁違いと言うのを忘れていた。

 

(まぁいっか、あの道はずる賢い人たちをはめるための罠のようなものだし、せっかくしかけたのだから引っかかってもらわないと困るからね)

 

 そう思いながら吹く風に耳を傾けた。その直後にトンネル方向から大爆発する音が聞こえたが、回復手段もあることだし放っておこうと考えたのだった。

 

「ケット・シー。重症患者が来るから後はよろしくね」

「はいなぁ!」

 

 猫の手を借りたいわけでもないが、爆発の直後の静寂に彼女は浸っていたかったのだった。

 

 

 

 

 3階にいる逃走者たちは各逃走者別々に映し出されるモニターに食いついていた。容赦ない学生たちの攻撃に「これは無理だろ」の声が多く見られた。だがそんな中でもミンウはリノアの放った魔法を食い入るように見ていた。

 

「この魔法は…!」

「アルテマですよ」

 

 学園長のシドが答えた。

 

「私の知らない間にこんなにアルテマの魔法の技術が上がっていたとは…」

 

 ミンウは感動していた。かつて驚くくらい威力の低い魔法だったのにここまでの威力を誇る魔法に成長していたことに。

 

「私たちの世界にもアルテマはあったよ、ねぇ色男?」

 

「ああ」

 

ミンウはこれも時代の流れなのかと一人呟いた。

 

「こらフェニックスの尾だけじゃあきまへんわぁ」

 

 ケット・シーの音声がモニターから聞こえてくる。そして画面はフェニックスの尾を使っても完全に伸びている2人から切り替わりゲート付近の7人を映し出した。

 

「たぶんここで奴らは決めに来るだろう」

 

 シドが呟く。他の逃走者も声は届かないけれども必死に応援していた。パンを獲得できるかどうか、勝負は佳境に入っていた。

 




リノアここで名前を出せてよかった!ところでヴァリーとは?リノアの必殺技で魔女の力と使って魔法を使うためこの世界の通常の5倍の威力で魔法を使えます。(ヴァリー+メテオがアルテマよりも最強)余裕のオーバーキルですね。また戦闘不能の時のアクションは「ファイナルアタック」と「りだつ」のマテリアの組み合わせです。(詳しくはFF7をやってみよう!)なおアルテマを使った後もトンネルは崩落していません。ゲームの地形ってある意味無敵ですよね。


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購買のパンを手に入れよその2

 最後の突入、復活者は誰になるのか…。


 逃走者たちが集まるゲート前、突入わずか数秒前の出来事である。一同に年長者のアーロンから最後の確認をしていた。

 

「一つだけ確認がある。この作戦は誰が生き残るかは運だ。失敗したら自分の運がないと思え」

 

 これに皆が同意した。そしてノエルの掛け声とともに7人がガーデン内へ突入した。

 

「今よ、放って!!」

 

 シュウの掛け声とともに魔法を放つ学生たち。だが最初の関門の弾幕で慣れたのか、ラ級の攻撃をなんとか躱していく逃走者たち。

 

「先頭を狙え!」

 

 先頭集団のアーシュラ、ノエル、パンネロ、ホープに攻撃が集中する。

 

「きゃぁっ!」

 

 サンダラが足に命中し動けなくなったパンネロに攻撃が集中した。他の逃走者も崩れるパンネロに目をやったが、皆避けることに必死で彼女のことには手が回らない。だが唯一彼女を守った人物がいた。ガイだ。先頭集団から遅れた場所にいた彼はなんとか追いつき、彼女に降りしきる魔法の雨を身を挺して守った。

 

「このくらい…おれ、びくともしない」

 

 根性で耐えきったのだろう、だが限界だったのは見て取れた。

 

「私は大丈夫、だから…」

 

 パンネロが言いかけたその瞬間ファイラが彼を直撃。彼は優しい笑みを浮かべたまま静かに崩れ、姿を消した。

 

「立て!」

 

 うつむくパンネロにすでに彼女の前方に進んでいたアーロンが言った。あまりの口調の強さに一瞬驚くものの、彼女が今すべきことは悔やむことではなく前に進むことと諭されたのだ。よろよろと立ち上がり、満足に動かない足を引きずりつつ、魔法攻撃を転がりながらも彼女は避けた。

 

(あの人のためにも…何とか行かなきゃ…!)

 

必死の思いで何とか駐車場付近の先頭集団にパンネロたちが追いつくと、そこにいた刺客と逃走者たちがにらみ合っていた。刺客はバラムガーデンの風紀委員たちだった。リーダー格の男は駐車場へ向かう通路の中央に、その両腕となる人物が水上ボートの上でにらみを利かせていた。

 

「…ママ先生」

「サイファー…」

 

 かつて魔女だったイデアとその騎士だった風紀委員のリーダー格、サイファーが向かい合っていた。お互いの動きの様子をうかがうため両者に沈黙した。ホープがにじり寄ると風紀委員の女性がエアロを牽制に放ってくる。動きをお互いが牽制し合う中、沈黙を破ったのはイデアだった。

 

「手加減は無用です。ここを突破してみせましょう」

 

 イデアの宣言にサイファーも吹っ切れたようで、「わかった」と短く答えた。逃走者たちは覚悟を決め、突進を仕掛けた。

 

「一撃で決めてやらぁ!!行くぜ!」

 

サイファーがファイガを発動、ほぼ同じタイミングで両サイドの風紀委員もサンダラ、トルネドを放ってきた。大爆発が起き、火花が周囲を飛び散り、その黒煙をトルネドの風で吹き飛ばす。幕切れはあっけもなかった。

 

「跡形無消失」

「俺達が組めば無敵ってもんよ」

 

 逃走者は跡形も無く、また悲鳴を上げることなく撃退したため二人の風紀委員は胸を張った。一人を除いて。

 

「いーや、俺達の負けさ」

 

 サイファーはあきらめたように両手を挙げた。2人が驚き振り返ると食堂には2名の逃走者が向かっていた。彼らの魔法は全部イデア中心に放たれていた。イデアに直撃し、その近辺にいた人物にも被害を与えた。だが2人の内片方はイデアに直撃する前に前進し、爆風を受け加速、一気に包囲を抜け、もう一人はとっさにイデアから離れ伏せをとったため防御姿勢をとり、トルネドが黒煙を吹き飛ばすわずかな間に走り去っていったのだ。

 

 入り口には風紀委員に迎撃されたメンバーと、ゴゴ、クイナ、ゼル、クルルがいた。ゼルとクルルに関してはまだ伸びている。

 

「けったいなもんや、フェニックスの尾を使ても失神しとるって」

 

 ケット・シーは諦めて降参するように腕を開いた。他の者たちは回復したが、もうゲームは終わったため、お互いを労ったりしていた。その中パンネロはガイに申し訳なさそうに話していた。

 

「あの場面で私を助ける余裕なんてなかったはずなのに、どうして助けてくれたの?」

 

「おれ、つよい。おんな、まもる、だいじ」

 

 片言の口調だが、彼の意志がはっきりわかった。パンネロは「あなたってば優しいのね」と言い、握手をすると彼は少年のような図体に不釣合いの笑顔を見せた。

 

 イデアはイリーナと話していた。

 

「私たちはゲームに敗れ去りました。あの者たちを回復させてあげたいので魔法を使ってもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

 許可をもらうと彼女は素早くアレイズの詠唱に入る。どんなに伸びている人でも完全回復できる優秀な魔法だ。天使の羽が舞い落ちてくるような神々しい光がゼルとクルルを包むと2人はゆっくりと目覚めた。

 

「さすが、本物の魔女は違いますね」

「元、ですわ。さぁ、あの子たちを祝福しましょう」

 

 イデアはホープに優しく言い、モニターへ注意を向けると、無事に残った2人は食堂にいた。2人が食堂の購買のおばさんに話しかけると約束のパンを受け取った。

 

「こいつはご褒美だよ、たんとお食べ」

「ありがとう」

 

 受け取るやいなや、真っ先にかぶりつく男、ノエルだ。

 

「ただのパンだが…確かにこいつはうまいな!」

 

 感動するノエルの後ろでやや冷ややかな視線を彼に送る少女、アーシュラだ。

 

「もう少し上品な食べ方を知らないのかしら…」

 

 小声でつぶやきながらちぎったパンを口に運ぶと、「あ、おいしい」と感嘆の声を上げた。とにもかくにも復活イベントは無事終了した。2人が3階へ移動しようとすると、逃走者たちが見送りに来た。真っ先に二人に声をかけたのはゼルだった。あのアレイズがなければ依然として伸びたままだったに違いない。

 

「悔しいけど、頑張ってくれ」

 

 ゼルはノエルとがっちり握手をした。アーシュラはゼルから握手を求められるがそっぽを向く。だがクルルが彼女の手をとりゼルと握手させた。

 

「っ、な、何をさせるんです!」

「意地張らなくてもいいじゃん、一緒に戦った仲間なんだし」

 

 クルルが笑顔で話しかけた。

 

「いや、いいですけど…」

 

 申し訳程度にちらっとゼルの方を見ては目をそらすアーシュラに対し、隣にいたノエルが皆を納得させる一言を放った。

 

「しょうがないさ、思春期ってのはそんなもんだ」

「そんなことはありません!」

 

 彼の一言でムキになって返したアーシュラだった。

 

「あんがとよ、楽しかったぜ」

 

 ゼルは気にしてないかのように、にかっと笑って彼女に語り掛けた。彼女は無言で顔をそらしたが、割とまんざらでもない表情だった。彼らはほかの逃走者からも祝福、激励(とわずかばかりからかい)の声をかけられ、エレベーターで3階へと向かった。

 

「私たちができなかったこと…彼らならきっとやり遂げてくれます…」

「ああ、きっとな」

 

 アーロンはイデアの呟きに同意した。。彼はこのゲームに参加しながらも終始一歩引いて若者を助けていた。もちろん彼の友人に対しては最後まで残ることができなかったため申し訳ない気持ちこそあったが、こういう役割が彼自身ここに存在する理由なのだと考えていた。

 

(死人に口無し…か…。悪いなジェクト、俺には目立つような活躍はできないさ…)

 

 彼はその後何もなかったかのように口を噤む。男はやはり背中で語るという言葉が彼にとってこそふさわしい。

 

「なんとか仲直りできてよかったですね」

「そうそう、最初はどうしようかと思った」

 

 ゼルに話しかけるホープとクルル。ゼルは自信たっぷりにこう言った。

 

「そりゃ俺がお兄さんだからな、年齢的に!」

 

 他のメンバーからどの口がそれを言うのかと突っ込まれるが、もう2人の間にわだかまりはないことは証明できた。

 

一方3階にたどり着いた2人は拍手で迎えられた。

 

「よし、これで全員揃ったな、じゃあ学園長、あれを頼む!」

 

 ラグナに促されシドは巨大なクリスタルを用意した。

 

「これはワープクリスタル…、別世界からいただいたものですが、これに触れることであなたたちはラグナロクの中へと移動することができます。それでは順番にどうぞ」

 

 シドが言うと次々に逃走者たちが触れて移動していった。全員が移動すると、ラグナロク内にはラグナ、そしてパネル越しにルーファウスが待っていた。

 

「やぁ、みんなご苦労さん、これで全員かな」

 

 ラグナが逃走者たちを労った。メールの文面でもそうだったが、大統領の割に口調がやたらフランクな感じがする。だがすでに王族の人間であったとしても性格が濃い人が多かったため誰も何も思わなかったようだ。

 

「じゃ、社長がお待ちかねだ」

 

 ラグナの掛け声のもと、ルーファウスが話し始めた。

 

「逃走者諸君、よくぞ前半のバラムガーデンで逃げ切ってくれた。次なる舞台…それは『ジドール』という街だ――」

 

 この街は上流階級の人間が多く暮らしている場所らしい。街には大きな建築物が並び、また北側には大豪邸の家もある。

 

「また君たちの逃走範囲はこれだけだと少ないのでワープクリスタルを介し、オペラ劇場にも逃げ込むことができる――」

 

 ワープクリスタルの隣に反対側の様子が見えるモニターも設置されてある。ただし触れて反対側に移動した後10秒間、その人物は逆方向へ移動できない仕組みになっている。ハンターに追いつめられた時ワープのみで逃げられないようにするためだ。最後に自首電話だが、今回は1つに限られ、チョコボ屋に設置されることになった。この2つの逃走エリアのちょうど中間地点にあるのだ。

 

 一通り説明が終わり、逃走者たちは会話をしたり休憩したりと別々の行動をとっていた。

 

「ねぇ、色男、あそこって…」

「ああ、私たちの知っている場所だ」

 

 リルムとエドガーが話していた。

 

「まぁとりあえずなるようになるしかないさ」

「さっきのトサカ頭もそうだったんだけど、同じ世界の人が何らかの形で出番があるみたいね」

「そう言われるとそうかもしれんな…」

 

 自身の仲間の顔を思い浮かべると少しだけ憂鬱になる。味方にいればとても心強いが、その分的に回れば脅威だからだ。

 

 一方復活組はそれぞれ会話をしていた。ノエルはユフィと保健室以来の再会を果たしていた。

 

「そういえばあんたずっと隠れてただけだったのによくあのミッションから助かったな」

「そりゃユフィさんの足ならハンターからも逃げられるからね、なんとか隙を見てエレベーターに駆け込んだのさ。いやー、ぎりぎりだったよ」

 

 彼女は自分の自慢話に花が咲いているようだ。その近くではアーシュラとリディアが対面していた。

 

「リディアさんも参加されていたのですね、挨拶もできずすみません」

 

 アーシュラが恭しく頭を下げるがリディアは口を開けて固まった。

 

「あの…どこかでお会いしましたか…?」

 

 彼女の一言にアーシュラは驚いたように目を見開いた。それも一瞬のことですぐに自己紹介を行った

 

「ファブール国王ヤンの娘にございます」

「ヤンの娘…?まだシーラさんの出産は…」

 

 そこまで話して二人は気付いた、時間の流れが異なっていたことに。ただ二人はそのギャップを埋めるかのように会話が弾んでいった。中でも特に二人の話題が共通したのは、リヴァイアサンに襲われた時、傍にいて助けたのがヤンであったという点である。奇妙な縁もあるもんだと二人は打ち解け、お互いの健闘を誓った。

 

 数十分後、移動し終わったラグナロクが着陸態勢に入ると、美しく立派な建物の数々が目に入った。

 

「やはり私の時代の建物とは違う、真新しい感じだ」

「私の世界とも違います、こうして旅をするのも悪くないですね」

 

 同じ白魔法の使い手であるミンウとエリアが美しい街をバックに会話をしていた。世界は違うもの同士だったが、なぜかこの二人は飛空艇の乗ってから会話のウマがあった。

 

「なんでも、あなたも私と同じように道中で命を落としたと聞きます」

「ああ、仲間を信じ、すべてを託す形でな…まさかあなたも?」

「ええ、なんだか私たち似たもの同士ですね。…このゲームが終われば離れ離れになってしまうのでしょうか…」

「…それは…」

 

 ミンウが答えを出せずにいるとエリアは笑ってみせた。

 

「ふふっ、なんでもないです。このまま頑張りましょう」

 

 わずか十数分のやり取りだったが、似た境遇の者同士は惹かれあうようだ。

 

 別室では先ほどの空気を吹き飛ばすような舌戦が繰り広げられていた。

 

「宇宙は男のロマンだからな」

「へっ、海の上だって退屈はしないさ」

 

 シドとファリス、こちらはこちらで議論が白熱していた。お互いが一歩も譲ることなくそれぞれのこだわりを主張し合っていた。

 

「お二方、間をとって空はいかがでしょう?」

 

 二人の間を割ってラーサーが入ってきた。二人の様子を見かねて仲裁しに来たようだ。

 

「「空は生憎飛空艇があるからいいや」」

 

 二人が口をそろえて言うのでラーサーは苦笑いする。どうやらその必要もなかったのだと彼は気付いた。そんなときちょうど今までなかった揺れが起こるやいなや、コックピットにいたラグナから艦内への連絡が入った。

 

「着陸完了だ、逃走者諸君、気をつけて行ってくれたまえ!」

 

 逃走第二幕が始まろうとしていた…。

 




 アーシュラは一人っ子だが、ヤンから稽古を長い間あまりつけてもらえず、また甘える相手もいなかった。セオドアという一つ年下の弟分もいたが、兄のように頼れる人はいなかった。僧兵はいたでしょうが、さすがに王の娘に近づくような輩は確実に折檻されてしまいますからね。このような私なりの思春期の反応の見解のため、彼女はツンデレキャラで落ち着きました。めでたしめでたし。
 最後に風神雷神も名前を出すタイミングを逸してしまいました。残念。


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上流階級の街、ジドール

 新しい逃走場所であるジドール。どんなミッションが待ち受けているのだろうか。また大きさのイメージは街の南端から北端を逃走者が5分くらい走ると到着する(1km前後)くらいを想定しています。範囲は1平方km弱くらいでしょうか。従来の家、建物に加え裏路地(階段下の通路)があるとイメージしてみてください。オペラ劇場はその規模の半分くらいだと思ってください。


 逃走者がジドールの街に降り立つ。実際に降り立ってみるととても広く感じる街だ。さっきのガーデンとは違い、最初から町の住人が歩き回っている。また、今回逃走者はあらかじめくじを引き、それによってスタート地点が変わるらしい。一方ハンター放出地点はすでに決まっていて、この街にあるチョコボ屋からスタートするそうだ。ハンターが出払った後、自首用の電話をする場所となる。このスタート地点はそこから半径200m以上離れているため警戒しながらいれば最初は安全だろう。そしてちょうどいま場所の抽選が終わった。逃走者がそれぞれ魔法で移動すると、ハンターがチョコボ屋から出てきた。それと同時にタイマーが再び1時間から時を刻み始め、賞金金額が増えていった。

 

「ここはどこなのかしら…」

 

 エリアが心細く呟く。だが陳列されているものには鎧や盾中心にあったため防具屋なのだろうと判断できた。ただ地図を見て確認すると、チョコボ屋のすぐ近くであることに気付いた。

 

「何とかカウンターの裏に潜り込んで…隠れてましょう…」

 

 息をひそめ潜り込んだ。ハンターが過ぎ去るまで動けない。

 

 その北側にはユフィがいた。店内に飾ってあるアクセサリーの山に見入っていた。

 

「これを換金すると一体いくらくらいになるのかなー?ふふっ」

 

 手をにぎにぎして怪しい行動をとっているのでスタッフが念を押して警告する。

 

「んなもんわかってるってー、冗談だよ冗談ー」

 

 冗談に見えないから困るのだ。

 

 ミンウは薄暗いところにいた。トンネルの内部なのだろうか。電灯の明かりでは薄暗いうえに自分の格好が白をベースにした色で、ここにいてはわずかな光が反射して格好の的になってしまう。なんとか光のある方に進もうとする。

 

「そこのターバン、そっちは危ないよ、ハンターが放出された方向だからね」

 

 振り返るとそこにはリルムがいた。

 

「ターバン…それより今どこにいるかわかるのか?」

「そりゃぁ、私たちの世界の街だからね、こっちから抜けると宿の裏側に抜けられる。そっちのほうが比較的安全だよ」

 

 リルムのあだ名に肩を落としつつも、彼女に促されてミンウは移動を始めた。だが彼女は彼にはついていかなかった。

 

「一緒に来ないのか?」

 

「うん、ここであんたと一緒だと目立っちゃうから、私は私で違う道を行くよ」

「そっか、それじゃまたな」

 

 リルムは彼と反対方向へと向かっていった。

 

 ラーサーはオペラ劇場内にいた。2階から階下を見下ろすとカウンターが見えることから入り口付近にいることが推測された。

 

「入り口で輝いているものが、ワープクリスタルですね」

 

建物の内部は立派に作られていて、彼の世界の帝国にも引けを取らないほど立派である。だがクリスタルの存在がやや浮く形となっていた。

 

「民の心の平穏を生むためにはこのような娯楽施設も増やさなければいけませんね…ん?」

 

 彼の目線の先のクリスタルがまばゆく輝くと、ハンターが現れた。彼は身をかがめハンターの動きを注視した。

 

「あれが輝くと誰かが移動する仕組みになっているみたいですね…」

 

 相変わらずの洞察力で見抜いていくラーサー。ハンターが彼から見て左手側の階段に進むのを確認するとゆっくり後退し、壁を盾にし視界に入るのを防ぐ。

 

 客席の方にはファリスとアーシュラがいた。オペラが上演されていない今は静けさがこの場を制圧していた。

 

「アーシュラ、そっちは大丈夫か?」

「ええ、こっちからはまだハンターの姿は見えません」

 

 お互いに扉を見張って警戒していた。距離は100mくらい離れているが、声のトーンを低くしてもこの設備ではよく音が聞こえるのだ。ハンターに気付かれないよう会話にも注意を払わなければならない。

 

「何か変わったことがあったらよろしくな」

「ええ、…あっ、来ました」

「よし、静かにこっちに来るんだ」

 

 ファリスはアーシュラを手招きし、静かに移動させる。先ほどまでアーシュラがいた場所を見るとハンターが通っていくのを確認。視界から消えるのを見届けると小さくハイタッチをする二人。お互いに気が強いお姫様同士うまくやっているようだ。

 

 エドガーはさっきのオペラ劇場と打って変わって賑やかな場所にいた。競売場である。ここにはすでに多くの人が詰めかけている。

 

「私も以前はこの競売に参加して魔石やアクセサリーを競り落としたものだ…おしゃべりチョコボ?河童ロボット?1200分の1飛空艇?一体何のことだ?」

 

 スタッフが何も聞いていないのに彼はかつて忌まわしき競売のことを思い出してしゃべっているようだ。

 

「しかしこの人だかりは何かこの競売場で何か競り落とされるのだろうか」

 

 彼が観客(女性のみ)に話していくが、競売の開始はあと10分少々待たないといけないらしい。

 

「何かのミッションの前触れかな?っ!?」

 

 彼が見た先に、ハンター。どうやらこの中に入ってきたらしい。何とか人ごみの中に紛れ出ようとするが、ハンターの視界に運悪く入ってしまった。全力で逃げようにしても人が多く走りづらい。

 

(それはハンターも同じはず…まだ距離は…)

 

――なかった。そのまま確保されたのだった。

 

「くっ…まだまだ女性を守り足りないのに、こんなところで終わるとは…」

 

 誰か(女性オンリー)を助けてやられるなら彼の本望だったに違いないが、単独で捕まってしまったため悔やんでも悔やみきれなかった。だが彼と違ってハンターは誰に対しても平等だ。情け容赦は一切なく逃走者に襲い掛かる。そんな彼をバックにハンターは次の獲物を探しに行った。

 

 Rrrrr!Rrrrr!メールだ。

 

「エドガー確保。残る逃走者は10人…エドガーさん…」

 

 確保情報を聞いて肩を落としたリディア。先ほど泣き崩れていた時に追い出されてはしまったが自分を心配してくれた人であったのでそれなりに気にかかっていた人物ではあった。

 

「エドガーさん…あなたのためにも頑張ります」

 

静かな決意を胸に秘め先へ進む。そんな彼女は今アウザーと言う人物の屋敷の中にいた。上流階級の人の中でもこの人は特に上流の人なのだろう、内装はとても煌びやかだ。

 

「あの階段の上には何があるのかな…?まだハンターはこっちに来てないはずだし、大丈夫だよね」

 

 彼女の好奇心で上を見に階段を駆け上がる。

 

「ひっ!?」

 

 彼女が見た先は異様な光景だった。サングラスをかけた男女が3人リディアを見下ろしていた。驚きのあまり身が硬直する。数秒遅れて後ずさりをするが、その3人はただ見下ろすだけで何もしてこない。いずれにせよハンターらしい存在がいるだけで圧迫感を感じる。

 

「なっ、なんなのよ…」

 

 彼女は静かに離れ、入り口の近くの階段を上る。こちらは先ほど確認済みなので安心だ。どうやらベッドの下に潜り込み隠れる作戦らしい。先ほどの件で緊張が一気に高まったため、一度クールダウンも行える。一石二鳥だ。

 

 ノエルは劇場の中にいた。彼がたどり着いた部屋はスイッチが並ぶ部屋だ。

 

「ここの施設の何かを操作するものなんだろう、と言っても使い方わからないしな」

 

 分からないものを下手に触るとロクなことにならない。だが彼の背後にハンター…。

 

「ここは隠れる場所もないし他の場所を――」

 

 気付かれた。だが逃げ場のない彼は無意識のうちにレバーを適当に操作し始めた。右から2つ目のレバーを操作すると彼の足場が突然消失した。

 

「うあああああああああっ!?」

 

 一気に10mくらいの高さから滑り落ち、彼はステージに放り出された。

 

「っててて…、ハンターは…うぉっ!?」

 

 ハンターも一緒に向かってきていた。彼はとっさに立って出口に向かって駆けだした。だがハンターは着地に失敗したようだ。一瞬ほど立ち上がりの動作が遅れた。その間のおかげで彼は何とかステージから脱出し入り口方向へとたどり着いた。彼の眼には建物の太い柱が目に入った。何とかこれを使って撒く作戦らしい。ハンターが出てきて辺りを見回す。

 

(ひとまず出られたけどここで終わりなのか…!?)

 

 ハンターの足音に合わせ柱の今立っている位置から少しずつハンターの死角に合わせてずれていくノエル。緊張がノエルを襲ったが、ハンターには彼の姿は捕らえることができなかった。ハンターは歩き出し違う部屋へと向かっていった。

 

「助かった…」

 

 彼がほっとして辺りを見回すと、吹き抜けからラーサーが微笑みながら覗いているのが確認できた。

 

 シドはアウザーの屋敷一帯に広がる森にいた。街の中でも比較的高い位置にあるこの場所からは街のある程度の状況を判断することができた。それは逆に言ってしまうと見つかるリスクもあるということだ。しかし仮にハンターに見つかったとしても、距離があるうえ、背後の森に潜むということも可能である。彼の視線の先には競売場付近を歩くハンターが見えた。

 

「けっ、割と近えところにいやがる。ちっと下がるか」

 

 彼が後ろへ向かう際中メールが入った。

 

「何々、女優マリアをエスコートしろ。彼女は今ジドールの街のどこかで囚われの身となっている。彼女を救出し、オペラ劇場に新たに追加される金髪のハンターに送り届けろ。マリア無しでそのハンターに遭遇した場合は他のハンターと同様確保される。…何ぃ!?」

 

ハンター追加の情報を聞きシドはそりゃねえぜとばかり肩を落とした。

 

 

 

 一方指令室ではルーファウスが各逃走者たちの表情を見てほくそ笑んでいた。

 

「またハンターを増やすとは…社長もなかなか人が悪いですね」

 

 確保した逃走者をジドールの牢獄へと移動したイリーナが指令室に戻ってきて彼に言う。

 

「なに、これはゲームだからな、楽々と突破されても面白くない。幸いにもまだ半分も逃走者がいる。もっと数を減らさないといけない、そうだろう?」

 

 彼女も「そうですね」とだけ返し腰を掛けた。残り時間55分、賞金は78万ギル。

 




 ジドール編、ゲームがスーファミの時代なのでマップを見ると結構小さいです、ゆえにイメージで膨らませるのがなかなか難しい…。なお追加ハンターはダンチョー(FF6)です。ミラクルシューズで強化されていて、50m6秒中盤くらいのスピードで走ります。(走力イメージ タークス>FF8軍人>ダンチョーと考えていてください)
 またリディアがベッドの下に潜り込むシーンがありますが、DS版の姿で考えてみると…うん、なんか非常にエロいですね(笑)やっていることはユフィと同じなのに色気が桁違いです。読者様の脳内補完でよろしくお願いします。


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マリアをエスコートせよ!

 ミッション発動しハンターが増えた。逃げるスペースが狭い中ハンターが増えるとなると、逃走者たちのとる行動は…


 とある建造物、確保された者たちはその中にあった牢獄にいた。外の様子は全く見えないが唯一モニターが各逃走者の視点で移されていた。そんな中逃走者全員に届けられたメールを見たエドガーが大声を上げる。

 

「なんだって!?あのマリアをエスコートだと!!」

「うわ…エドガー、びっくりさせないでよ!」

 

 傍にいたクルルはたまったもんではなかった。

 

「誰なんだ、そのマリアってのは?」

 

 ゼルが食いつく。彼はジドール移動中の間にさまざまな蘊蓄(主に自分の世界の自慢だが)を語っていたため、確保者の中では物知りとして有名になっていた。

 

「私たちの世界の女優さ。それもオペラのな。ちなみに彼女は私の仲間の――」

 

 エドガーにスイッチが入ってしまった。ゼルも自らの知的好奇心を満たすようで食い入るように聞き入っている。

 

「腹減ったアル…」

「腹減ったアル…」

「おれもはらへった…」

 

 一方クイナ、ゴゴ、ガイは残りもメンバーが戦っていることも、エドガーの話にも興味無さそうに自分の欲求を率直に述べる。もちろん彼らは3人のことなどほっといて話を続けていた。この奇妙な光景にホープとクルルは顔を見合わせた。

 

「相変わらず自由人が多いですね…」

「でもまともな大人が増えたはず…」

 

 二人が後ろを見ると…、

 

「……」

 

 アーロンは腰を床に卸していて、持っていた酒をそのまま呑んでいた。イデアも何かを考えているかのようでこちらのやり取りは目に入っていない様子だった。

 

「どうやら僕たち以外ツッコミはいないみたいですね…」

「えー…勘弁してよぅ…」

 

 二人とも肩を落としつつ、そしてツッコミを諦めて、今の状況のモニターを眺めるのだった。

 

 逃走者たちの中でメールを見て真っ先に動いたのはラーサーだった。ハンターがいないことを確認すると階下に素早く降り、ジドールへ向かおうとすると、先ほどハンターの追撃から何とか逃げ延びたノエルが彼に話しかけてきた。

 

「お前、行くのか?」

「もちろんです、ただ隠れているだけでは何も面白味はないですからね」

「そうか…それは俺も同じだな。俺も手伝うよ」

 

 二人は即同意した。マリアエスコート部隊の結成だ。

 

 ミンウはトンネルを通り抜け宿屋の裏側に来た。自分の位置が不鮮明なため彼は携帯電話を取り出す。

 

「とにかく周りの人たちと連絡を取らないと…」

 

 彼の時代にはない代物だったが先ほど移動してくる時に使い方を改めて教わった。情報があればハンターの位置を確かめられるかもしれない。確かにその用途は間違ってはいない。だが彼が連絡したその相手は…

 

「もしもし、エリアかい?」

「あ、ミンウさん。今どこに?」

「私は宿の裏に来ている」

「私は防具屋にいるんですが…、ハンター放出位置に近すぎて、ハンターの位置を確認することができないんです…動いたら見つかってしまいそうで…」

「ならば私が、うおっ!?」

 

 彼の見た先にハンター。気を緩めていたためか変な声を挙げてしまったが幸い気付かれていない。だがエリアにはその意図がしっかり伝わったようだ。

 

「まさか、ハンターですか!?」

「ああ、だが君の場所とは反対方向に向かっているようだ。私がこれから大丈夫かどうかそっちに向かうよ」

「助かります…、それでは」

 

 通話が終わるとミンウはハンターを注視しながら、違う女性をエスコートしに行くのだった。

 

 劇場内にはファリスとアーシュラがいた。彼女らは連係プレーによりノエルを見つけ追いかけて行ったハンターからうまく逃れることができた。客席から彼が逃げるところを見て、かつ捕獲の連絡が来ないとなると――――

 

「まだハンターはこの劇場の中にいるということになる」

「ワープクリスタルを使ってジドールのほうに移動したとは考えられませんか?」

「いや、移動した先に隠れる場所が近くにないんだ。となればノエルは一旦この下を出た後この建物の中に逃げ込んだと考えるのがもっともだろう」

 

 ファリスの名推理にアーシュラが納得した。一応断っておくが、彼女の世界に「名探偵」というジョブはもちろんない。海賊で培ってきた能力なのだろうか。二人は最初と同じ持ち場について引き続き監視を行っていた。ただ背後からは徐々に彼女らに歩みを進める影があった。そしてその人物の足跡がホール内に響く。気付かれた。

 

「っ、後ろ!!」

 

 ファリスの背後から予想もせずハンターが現れた。

 

「くっ、なんだってこんな…、喰らえっ!」

 

 彼女は銅の砂時計を使用、アーシュラとともに1階の方へと避難した。劇場内にハンターがもう一人追加されていたことをすっかり失念していたようだ。彼女たちは慌ててその場から撤退する。ノエルを追っていたハンターに出くわすことが無いよう祈りながら…。幸いにもそのハンターは逆方向に行っていたのだが、彼女たちには知る由もなかった。

 

 リルムはトンネルの出口に向かっていた。スタッフが彼女にミッションについてどうするか尋ねる。彼女は特に顔色を変えず答えた。

 

「マリア?あの色男なら何とかしようって考えるだろうけど、正直私には何もできないよ、とにかく見つからないようにするのが先決だよ」

 

 地の利を生かせるこのフィールドが彼女をより冷静にさせているのかもしれない。彼女はあたりを警戒しながら階段を上る。競売場の裏あたりに出た。

 

「ここでちょっと様子を見るよ、ミッションは他の人たちに任せよう」

 

 どうやら他力本願をするようだ。

 

 シドはアウザーの屋敷の背後に来ていた。ハンターが近くに迫ってきていたため森に入って撒く作戦である。そんなシドに突如携帯電話が鳴り始めた。相手はラーサーだった。

 

「シドさん今どこにいますか?」

「俺はでっけえ屋敷の裏側だ」

「ちょうど僕たちの反対側ですね、実は僕たちは女優のミッションをやろうとしているのですが、情報を集めたくって」

「おめえ本当にミッション好きだな、わかった、俺の方でも調べてみらあ」

「ありがとうございます、では」

 

 電話を切るとシドは一息つくと「そんじゃ探すか」と意気込む。まだまだ若いものには負けられない、そんな気持ちが彼を急き立てた。

 

 ユフィは相変わらずアクセサリー屋に隠れながらお金のことばかり考えていた。

 

「残り51分、賞金が約83万ギル…こんくらいあればもういいかなぁ」

 

 彼女の頭には自首の二文字が浮かんでいた。それまで逃げ延びるためこの店の内装はばっちり確認済みだ。2階に隠れようとしたが、埃まみれの部屋で、隠れていても跡が残ってしまい、意味がない。また窓もすべてはめごろしとなっていて開け閉めができない。結局はカウンターの下でハンターとすれ違いざまに逃亡する手段しかなかった。と言っても彼女にはそれをやってのける自信さえあった。バラムガーデンでの活躍が彼女によぎったのだ。きっともう一回それが起こる。そうやって華麗に逃げ切ったら自首をしよう。彼女はそう言う算段を立てていた。

 

「もらえないで終わりだなんて一番よくないよね。何人かは名誉だのなんだの言ってるけど、少なくともアタシはそっち側の人じゃないから、やりたいようにやるだけよ。アタシなりに見せ場を作ってね」

 

 そう言った矢先、背後からドアが開けられる音がした。

 

(う…嘘でしょ…)

 

 算段は立てたものの、いざその場面がやって来ると動揺は隠せないようだ。コトリ、コトリと足音が部屋を響かせる。彼女はもう一度冷静になり計画を再確認した。数秒で作戦が鮮明に描き出される。

 

(いける!!大丈夫!)

 

 そう自分に言い聞かせていると、足跡を出している人物がカウンターに迫ってきた。どうやら登ろうとしているようだ。足がカウンターにぶつかる音がする。その人物の靴が目の前に出てきた。ハンターが履いていた革靴だ。彼女は覚悟を決めた。

 

「はっ!」

 

 彼女は一気に跳躍、カウンターを飛び越えて店外に向けて猛進する。ハンターもすかさず反応し彼女に手を伸ばすが、体格はユフィのほうが小さいため短距離の加速スピードは強化されたハンターといえども捕らえることはできなかった。ドアを勢いよく引き、思いっきり閉める。わずかな時間だけ足止めをすることができたが、問題はどこへ逃げるかだ。いや、彼女の中ではもう決まっていた。アウザーの屋敷の森だ。

 

(やっぱり森の中しかないね、木々が鬱蒼としていればしているほど、アタシの小回りさが活きる!)

 

 一気に速度をトップギアにし、階段を駆け上がる。20段近くある階段をわずか5歩で登り切り右手に回る。目の前に見えるのは森。森に入れば彼女にとって有利なフィールドとなる。だがそこまでの直線50mほど、ハンターももう背後まで距離を詰めている。捕獲か、逃走成功か――

 

 

 わずか5秒ほど、彼女は森に突入と同時に確保された。

 

「っ、ああーーーっ!!私のお金が!!なんでこんな時にハンターに遭うの!」

 

 彼女の悲痛な叫びがジドールの街に響く。自首のご利用は計画的に行おう。ハンターは、神出鬼没だ。

 

 Rrrrr!Rrrrr!メールだ。

 

「逃走者ユフィ確保。残り9人。やばいよ…」

 

 リディアは依然アウザーの屋敷のベッドの下に隠れていた。他の仲間が動いているか不明だが、一つ言えることはハンターが多い状態で隠れていても捕まるのは時間の問題である。

 

「仕方ない…私も頑張って動いてみよう」

 

 覚悟を決め、ベッドの下から出てきた。この街のどこかに女優マリアがいるとなると、彼女は一番怪しいところへ向かう。そう、ここに来て最初ハンターらしき人物が3人立ちはだかっていた場所だ。

 

「…、やっぱり誰もいなくなっている…」

 

 慎重に伺ってみるとハンターの気配が全くなくなっている。そのまま彼女は中に入っていくと様々な絵画が並んでいることがわかる。きっと家主の趣味なのだろうと考える。そのまま進むと彼女は人を見つけた。

 

「もしもし!大丈夫ですか!?」

 

 彼女が慌てて起こしに行くと、女性はゆっくりと目を覚ました。

 

「あれ…ここは?あ、手錠が…」

 

 女性が体を動かそうとすると、手錠に拘束されていることがわかる。リディアは情報を探るため自己紹介をすることにした。

 

「私リディアっていうの。あなたの名前は?」

「マリアです」

 

 このミッションの要であるマリアをとうとう発見した。だがどうやらこのミッションは鍵を探さなくてはいけないようだ。逃走者たちで協力して彼女のエスコートができるのだろうか、残り時間48分、賞金は86万4千ギルになった。

 




 FF6原作ではセリスが鎖につながれていましたが、そのそっくりさんの女優マリアにその役を譲ることにしました。エドガーは女好きではあるが、ゼルと話が合うのはきっとマッシュと似た空気を感じたのだと個人的解釈です。


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鍵を手に入れろ!

 マリアをエスコートしなければならないが、そのマリアは鎖でつながれていた。鍵を探し出し彼女を劇場まで無事に運ばなくてはならない…。


 シドはアウザーの屋敷の近くをうろついていた。偶然にも屋敷の角を曲がろうとしたときにユフィとハンターのやり取りを目撃していた。ハンターが裏の森のほうに向かったのを見届けると、すかさず屋敷の中に潜り込んだ。ラーサー達が欲しいであろう情報を得るためである。ドアを開け中に入る。すると足音のような音が聞こえる。少し近づいてみると、その音はぱったりと止んでしまった。

 

(ハンターだとしたら…わざわざ止まる必要はねえな…ってことは)

 

 彼は音のした方向に進むと駆けだす音がした。

 

「おおい、俺はハンターじゃねえぞ、そこにいるのは誰だあ?」

 

 彼の声を聞き足音が止まる。

 

「おーし、そっち行くからそのまま待ってろー」

 

 彼が進むとリディアが立っていた。目と目が合うと彼女はほっとしたような表情を浮かべた。

 

「よう、嬢ちゃん、無事だったか」

「ええ、なんとか…怖かったわ」

 

 後ろにいる女性を見てリディアに確認した。

 

「ひょっとするとあいつがマリアか?」

「ええ、でも手錠がされていて鍵までついてるの。どこかで鍵を手に入れないといけないわね…」

 

 なるほどと呟くとシドはラーサーに連絡を入れた。

 

 時は少し遡る。そのラーサーはノエルとともにチョコボ屋にいた。最初はハンター放出してため近づくことはできなかったが、今は近くにハンターの気配はなく、捜索するにはいいタイミングだったからである。中には自首用の電話があるが彼らの目的の物はこれではない。だがこれと同様いかにも見つけてくださいとばかりのものがあった。

 

「なあ、これはいかにも怪しくないか?」

 

ノエルが手にしたのは華やかな袋。中を開けてみるとかなりの額のギルが入っていた。

 

「とにかく数えてみてください…あ、一旦隠れましょう」

 

ラーサーはワープクリスタルから移動してきたハンターを目撃、とっさに小屋の道具の影に二人は隠れた。お金を数え終わったノエルが驚きながら言った。

 

「…ッ、100万ギルだ」

 

 なるほどとラーサーは短く返す。どうやらそこまで驚いてはいないようだ。さすがは帝国アルケイディアの王子である。そんなときシドから連絡が入った。

 

「よう、ラーサー。そっちは何か見つかったか?」

「チョコボ屋で100万ギルを発見しました」

「あん?なんだって!そりゃすげえな」

「きっとミッションに使うものだと思います、そちらは?」

「こっちは女優を見つけたぜ、ただ手錠の鍵がかかっていて連れ出せねえんだ」

「そうでしたか…引き続き情報を集めましょう」

 

 ラーサーは通話を終え、今の情報からわかることがないかと考え始めた。

 

「どうやら行ったみたいだ。どうする、移動するか?…おっと」

 

 ノエルが何かを見つけたようでラーサーは彼に尋ねてみた。

 

「どうしました?」

「あれは――」

 

 彼らの視線の先に、そこにはターバンを巻いたミンウがいた。彼は見られていることに気付かず防具屋に入る。

 

「エリア、いるか?」

「ミンウさん?よかった、近くにハンターは?」

「さっき通り過ぎて行ったから大丈夫だ」

「よかった…最初ここに飛ばされた時はどうしようかと…」

「大丈夫だ、私がついている」

 

 彼は笑って見せると彼女の手を取り店の外へ向かう。

 

「どこへ行くの?」

「オペラ劇場の中だ、ここより広い、それに女優のイベントはこの街が中心、そうなると逃走者もハンターも一時的にこっちに多く集まるはずだ」

「…わかったわ、あなたについていく」

 

 2人は店を出ると辺りを警戒し、モニターの向こうにもハンターがいないことを確認しオペラ劇場へと向かった。どうやらこちらはミッションには参加しないらしい。

 

「あいつら、何か策があって向こうへ行ったのか…?」

 

 事情が見えないノエルは彼らがミッションに参加するものだと考えていた。ラーサーは捕まったパンネロのことが頭によぎっていた。

 

(僕もああやってパンネロさんをエスコートできればよかったのですが…)

 

 そこまで考えたが、気持ちを切り替え再びミッションについての思案を巡らせた。このお金が意味するもの、この街でお金を使う場所、総合的に判断して一つの答えが出た。彼らは作戦を決定するとその目的地へと駆けだしていた。

 

一方ハンターから逃げてきたファリス達は競売場でリルムと合流していた。

 

「姉御が無事でよかった」

 

 ファリスの無事を喜ぶリルム。

 

「姉御って?」

「俺は海賊やってるからな、王女は二の次だ」

「なるほど、道理で――」

 

 口調が荒いのかという言葉を飲み込んだ。

 

(それを言ったところでファリスの価値が変わるってことはないんだけど…でも言わなくてもいいよね…)

 

 変に刺激しても互いの関係が悪くなるだけだ。どうやらゼルとの会話で彼女なりに考えたようだ。ファリスもアーシュラのその部分を汲んだのだろうか、話題を変えてリルムに声をかけた。

 

「ところでリルムはどうすんだ?」

「自首しようと思う」

「えっ、まじかよ」

 

 予想外の答えにファリスは驚いた。リルムは「や、そんな予想外のことじゃないよ」と言った。

 

「私おじーちゃんに今までの恩返しがしたいの。だから144万ギルっていうそこまで大金じゃなくてもいいんだ。今の92万ギルでも十分なんだ」

 

77分を経過したことを確認したリルムが本音を打ち明けた。彼女の本音を聞くとファリスも本音で答えた。

 

「お前がそう言うならそれでいいと思うぜ、俺も子分たちに酒を振る舞えればいいくらいに思ってるからな。だがそう言うのを抜きにすると、このゲームを最後まで楽しみたい。昔に戻ったみたいで、こんな楽しいこともうできねえだろうし、な」

 

 アーシュラはそんなファリスの言葉を聞きながらハンターの警戒をしに階下に向かっていた。もし彼女らの質問に答えるなら自分はなんと答えるだろか。当初彼女は自分のはっきりとした目的を持っていた。だがこの短時間で多くの人と触れ合い、多くの考えを自分に取り込んでいた。王族の自分にとってお金を得ることも、名声を得ることも彼女にとって興味のないもので、心身を鍛えるためこのゲームに参加していたのだ。自らゲームを降りることはあり得ないものだと考えていたくらいだ。だが多くの者にとってはそんな目的で動いていること自体が希少な存在なのだろう。そんな思案にふけっているとトンネルからハンターが迫っていたのが見えた。幸い気付かれてはいないようだ。アーシュラは2人の場所に戻り逃げるように告げ、3人は南へと向かった。建物の物陰に隠れ様子を覗う。

 

「ふぅ、アーシュラのおかげで助かったぜ」

 

 ファリスが大きく息を吐いて言った。もう突然現れるハンターには懲り懲りらしい。

 

「ほんとね、私このまま自首しに行くから2人とも頑張って」

 

 リルムを見送った二人は近くの建物に入り隠れる。それは道具屋だったので、チョコボ屋は目と鼻の先にあることを彼女は知っていたのだろう。アーシュラはうつむく。まだリルムの自首に納得しかねていたのだった。ファリスは黙って隣にいるアーシュラと小さくなっていくリルムの姿を見比べていた。

 

 一方牢獄にいたはずの逃走者たちは一同競売場に集まっていた。一応確保者なので手錠をかけられているというなんとも奇妙な光景ではある。

 

「ここなんだ?」

 

 ホープに3回ほど説明をしてもらったが依然としてわかっていないガイ。

 

「競売場ですと何回言えばわかるんですか、いいですか、競売場ってのは…」

 

 ホープの口調で返すゴゴ。何度も説明しているが依然わかってもらえないらしい。

 

「で、これから何が始まるわけ~?」

 

 ユフィがぶすっとした表情で言う。まだハンターへの怒りが収まっていないようだ。

 

「イリーナさんが言うにはこれからミッションにかかわることをやるのだそうですよ。もう終わったことですし、そろそろ切り替えないと…」

「むーっ!!あいつめー!」

 

 ホープが何とか彼女をなだめつつ説明した。効果はほとんどないようだが。

 

「エドガーはここの世界の住人なんだよな、もちろんここに来たことはあるんだよな」

「ああ、あるとも」

 

 ゼルとエドガーが話していた。すっかり打ち解けているようである。

 

「王様っていうくらいなんだから買い落とせないものなんてないよな?」

 

 それを聞くとエドガーは肩を落とす。

 

「お、おい、どうしたんだ?」

「いや、私もよくわからないんだが…大きな、手を伸ばせば届きそうだったんだが大いなる意思が働いて買いたくても買えないんだ…」

 

 エドガーは何かに怯えるように突如震え始めた。

 

「……?何のことだ?」

「すまん、忘れてくれ…」

 

 何でもない、何でもないんだと繰り返し呟くエドガーを見てゼルは戦慄した。だがそれを吹き飛ばすような明るい声が会場内に響き渡った。

 

「レイディーズ、アーンドジェントルメーン、では今日のオークションを始めようとしよう!」

 

 ゼルが再びエドガーを見やると、彼の表情はもとに戻っていたので一安心した。司会はそのままの調子で続けた。

 

「さあ…今日の品物はこちらです」

 

 後ろにいた煌びやかな服装をした女性が宝箱を目の前に出す。

 

「何やら箱が出てまいりました。さて……中身は…」

 

 中に入っていたのは鍵だ。高価そうなものでもない。

 

「実はジドールのある宝の鍵を外すために作ってあるものだ。この宝は見てみるまでのお楽しみだ。まずは…1万ギルからまいりましょうか」

 

「2万ギル!」

「4万ギル!」

 

 オークションが始まり鍵の値段が徐々に高騰していく。

「へぇ、これがオークションなのね」

 

 会場の独特な雰囲気にクルルが少し興奮している。

 

「さあ、いらっしゃいませんか」

「オホホホ!私に買えないものはございませんわよ。7万ギル!」

 

 見るからにお金持ちの女性が金額を述べるとさらに競争が激しくなる。金持ち同士の応酬だ。だが値段は10万ギルを超えたところ、わずかばかり静寂が訪れた。

 

「さあ、いらっしゃいませんか」

 

 司会が観客に促す。そろそろ上げ止めか…、そう思われたころ突如背後の扉が開いた。

 

「100万ギルです!!」

「「「「ひゃ、100万ギル!?」」」」

 

 会場が騒然とした。

 

「はいっ、こちらのお客様に決定!お持ち帰りくださいませ」

 

司会はにっと笑ってその客を呼びよせた。その客は…

 

「ラーサー、ノエル!」

 

 確保された逃走者から称賛を受けた2人は鍵を受け取り、お金を支払うと手を振りながら急いで出て行った。

 

「はいっ!本日はこれでおしまいです。次回をお楽しみにー!」

 

 司会の声が競売場内に高らかに響いたのだった。

 

「これ…きょうばい」

 

ガイが静かに呟く。ようやく物を見てわかったらしい。ホープはその様子を見てほっとしていた。がそれも束の間、ゼルが慌てていた。

 

「どうしたの?」

 

 隣にいたパンネロが彼に問うと、彼は青ざめて指を指した。

 

「はっはっは、100万ギルか……、あと1ギルあれば買えるのになんで買えないのかな……」

 

 彼女が見た光景は、エドガーがあらぬ方角を見て何かを呟いていたのだ。この光景は何とも不気味だったので、確保されたメンバーはしばらくエドガーをそっとしてあげることにするのだった。残り40分、賞金96万ギル。

 




 手錠をつけたままどこかの会場にいる…一瞬大晦日のガキ○カを思い出してしまうようなシーンだと書いた後でつくづく思ってしまいます。
 最後のエドガーのシーンについて、ゲームの仕様状99万9999ギルしか貯められないので、エドガーが以前言っていた競売の商品はすべて100万ギルで買い取られるもので無理ゲなわけです。(7は1億単位まで存在、8は千万単位まで、あとは私の知らない範疇です)


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仲間同士の助け合い

 マリアのエスコート、今回は山場です。無事に女優をオペラに送り届けられるのだろうか…。ちなみに牢獄DEトーク中はゲーム中のどこかの時系列で並行して行っています。


 Rrrrr!Rrrrr!メールだ。

 

「逃走者のラーサー、ノエルの活躍により競売場で鍵を獲得した。よっしゃ、でかした!」

「これでマリアさんを助けられますね」

 

 アウザーの屋敷で待機していたシドとリディアは吉報に喜んだ。ほっとした彼女は隣にいた彼に対して思い出したように話をした。

 

「それにしても不思議…シドって名前に私は縁があるみたいなの。あの人に私はいつも助けられていて…」

「ふん、どこかで聞いたような話だな」

 

 彼は頭を掻きながらイデアとの話を思い出していた。

 

(もしかすると他の奴らも…)

 

 一瞬そんな考えがよぎるが、深く考えるとぞっとしそうなため止めることにした。そんなときギィと扉が開く音がした。

 

「ラーサー達かな、早く迎えなきゃ――」

「待て」

 

 シドが静かにリディアを制す。

 

「こりゃあ、お呼びでない奴かもしれんぜ」

 

 そう、シドの勘通り屋敷に入ってきたのはハンター。じわりじわりと恐怖の旋律が彼らを襲う。幸い彼らがいたのは絵画が並ぶ部屋の近くで、いかようにも撒くことができるだろう。運悪く見つかってしまえばそこまでではあるが。

 

 時は数分前のことだ。競売場から出たノエルとラーサーは屋敷へと向かいながら鍵の話をしていた。

 

「俺に鍵を?」

「ええ、ノエルさんなら僕より速く走れますから、その人に鍵を託しておけば安心です」

「ラーサーはだいぶ心配性だな、わざわざそんな保険をかけなくても…」

「不測の事態に備えて、ですよ。」

 

彼らはアウザーの屋敷へと続く階段を数段登ったところで足を止めた。ハンターが屋敷に入っていくのが見えたからである。

 

「この状態で突入はできません…ハンターが出てくるのを見計らって突入しかないです」

「っ、走れ!!」

 

 ノエルが後ろを見ると、武器屋付近のハンターがこちら目がけて走っていた。距離はまだ200メートル弱は離れている。

 

「屋敷の外を二手に分かれましょう。無事を祈ります」

 

 こうして二人は駆け出し互いに逆の方向を進み森に隠れる。ハンターが追いかけたのはラーサーだ。だが彼が小柄だったのが幸いしてか、茂みに入った少年をハンターにとって探すのはなかなか難しいようだ。だが一度隠れた以上彼もまた、音を立ててしまうといけないため動けないのだ。

 

(後は任せましたよ…ノエルさん)

 

 彼は忍び寄る終焉に静かに待ち受けているのだった。

 ファリス達は道具屋の中にいた。アーシュラはまだ心に靄を抱えていた。

 

「リルムが気になるか?」

「…はい、自首してゲームを終えるなんて…私には信じられないのです」

 

 ファリスは彼女の意見を行くと息を短く吐き答えた。

 

「それはきっとお前の中の目的であり常識だ。リルムのそれとはただ違っているだけなんだよ」

 

 ファリスはアーシュラをそれらしい理由で納得させようとする。それでもアーシュラは食い下がらない。

 

「で、でもせっかく残ったのなら…」

「なぁ、お前に祖父はいるか?」

 

 突如ファリスは話を変えた。

 

「い、いや…お父様からは何も聞かされていませんが…」

 

 ファリスは優しい笑みを浮かべ続ける。

 

「俺もな、記憶の中に祖父なんて人はいないんだ。いたらどんなことしたかなっていろいろ考えるけどさ、リルムには考えるだけじゃなく実行まで移さなきゃいけないってことだ。意味わかるか?」

「ええ……」

「つまり、あいつにもそう言った事情があって、それは俺達が口出しすることじゃない、わかるな?」

「はい…」

 

ファリスはなんとかアーシュラを説き伏せた。

 

「でもファリス、納得は…」

「俺らが納得しなくてもだ」

「じゃあファリスは、納得はしていないんですね?」

 

 アーシュラの予想外の反撃にファリスは顔を背けた。

 

「さあね……あいつだって悩んでるさ、きっとな」

 

 この議論には答えはない。ないからこそ彼女らのように迷うのだろう。

 

 その彼女らが案じていたリルムはチョコボ屋に来ていた。無言のまま自首用の電話と相対する。電話を一本入れればそれだけで100万ギルに近いお金を手に入れられることができる。だが彼女はそれまでに何かミッションに参加しただろうか、他の仲間を助けただろか。答えはいずれもノーだ。いざ受話器を取ろうとしても不思議な罪悪感に駆られる。一瞬受話器へ伸ばした手をためらうくらいに。

 

「いっそのこと自首なんてシステムなければよかったのにな…」

 

 彼女は皮肉にもそんなことを口に出した。きっと他の逃走者から何か言われると思うが、それを我慢さえできればたぶん問題ないだろう。それから数秒後、覚悟を決めた彼女は受話器に手を伸ばした。電話は指令室にいるイリーナの所につながる。

 

「こちらイリーナです」

「もしもし、私リルムです。自首します!」

 

 自首成立だ。メールが各逃走者に届けられる。

 

「ゲーム開始より82分36秒にて逃走者リルムは自首をした。これによって彼女は賞金99万1200ギルを得た。自首か…」

 

 オペラ劇場の客席にいたミンウがメールを読み上げた。

 

「もうそれだけ賞金がたまっているのね、私も自首しようかしら…」

 エリアも金額を考えると心が揺れる。

「私は――」

 

 彼は自首するつもりは毛頭もなかった。賞金を手に入れてアルテマを改良するため研究資金にするつもりだった。だが先ほどのリノアと名乗る少女のアルテマを目撃し、彼が努力しなくてもその魔法が発展するということがわかってしまった。こうなってしまった以上彼にとってこのゲームに参加する意義はなくなっていたのだ。ただ一つを除いて…。彼は再び言い直し、エリアに向かってはっきり言った。

 

「私は最後まで戦おう、そして全てが終わったら、伝えたいことがあるんだ」

 

 彼は知らず知らずのうちにエリアの手を握っていた。

 

 一方飛空艇に戻っていた確保された逃走者たちもリルムの自首に驚いていた。

 

(仕方あるまい…ストラゴスに何かしてあげたい、そんな幼心が彼女にはあったんだ。本当はゲームを最後までやりたかっただろうに…)

 

エドガーは彼女の祖父であるストラゴスを頭に浮かべながら、彼女の気持ちを推し量る。彼女とともに旅をしたからわかることであった。だが彼の耳にはそんな事情を知る由もない確保者たちの彼女に対する妬みが混じる言葉が聞こえてきた。

 

「僕もそれだけのお金があれば…リルムは途中で僕のことも見捨てて行ったし…」

 

 ホープの何気ない一言にお金を欲しいと思っていた人たちが次々に便乗する。

 

「ワタシだってたんまりお金あればあれこれ食べれたアル!あの娘ばかりずるいアル」

「私もお金欲しかったなぁ…ミッション参加しなくても自首すればお金は得られるものね…」

 

 クイナもパンネロもとても悔しそうに呟いた。牢獄の空気が悪くなっていく。イデアとアーロンは目を細め事態を見守っていた。そんな中エドガーは表情を変えずみんなに聞こえるように話した。

 

「お金かい、困っているなら私が相談に乗ろう。女性限定で」

「エドガーが言うとえっちぃ感じがするからヤダ」

 

 パンネロが恥ずかしそうに体を服の上から手で覆う。

 

「王様が援○発言なんて…」

「エドガーさん、失望しました…」

 

 エドガーの発言に大勢からブーイングが沸き起こった。

 

「わ、私はそんなつもりはないんだ…」

「アタシはお金がもらえるのならなんだっていいよー」

 

 エドガーを救うためか、ユフィの一言に一同が驚く。彼はその助け舟に乗り弁明する。

 

「ほら、そういった女性だっているんだ、要するに持ちつ持たれつで――」

「ってやっぱ体目的じゃん、この変態王様!」

 

だがそれはただの彼女の誘導尋問で見事に引っかかった彼だった。

 

「もうゲームは終わったから何をしてもいいんだよね?魔法剣二刀流…」

 

 クルルが構えた2つの剣に魔力が籠る。

 

「リミットブレイク!いつでもいいよね!」

 

 ユフィが巨大な手裏剣を構える。

 

「ミストナック!準備はオーケーよ!」

 

 パンネロは体からミストを放出させる。

 

「ま、待て…それは――――」

 

「「「問答無用!!!」」」

 

 

「なるほど…これがほかの世界の必殺技か、ものまねのレパートリーが…」

「言っている場合じゃないです!逃げましょう!」

 

 何とか関係のない人たちが部屋から退去すると最終的に彼は総叩きにあったようだ。中からとんでもない爆音が響いているが、今いる飛空艇に何も被害がないことを願うばかりだった。何とか事態は収束したようで他の逃走者たちが部屋に戻る。

 

「ねえ、変態はほっといて他の人たちを応援しよ?」

 

 クルルが満面の笑みで言うので誰も巻き添えは喰らいたくないので逆らいもせず、皆が賛成しモニターに食いついた。イデアは戦闘不能になっているエドガーにアレイズをかけ優しく起こした。床に倒れこんだままエドガーは呟く。

 

「はは…こんなはずでは…」

 

 すると彼女はしゃがみこみ、他の逃走者に聞こえないような小声で彼に話しかけた。

 

「あなた、流石ね」

「…なんのことです?」

 

 表情を変えない彼に対しイデアは真面目な顔で話した。

 

「とぼけなくてもいいわ、わざと道化を演じることでリルムって子を庇ったのでしょう?」

「っ!?そ、それは…」

 

 企みがばれて、ばつの悪そうな表情を浮かべるエドガー。

 

「大丈夫…黙っておいてあげるわ、あの子もあなたと一緒できっと幸せでしょうね」

 

 イデアはそう言って優しく微笑んだ。彼女がエドガーの手を取りモニター前へと連れていく。

 

「女性にその役をやらせてしまうとは…私もまだまだです。お次は私があなたをリードしますよ」

 

 エドガーはにかっと笑って見せた。もう攻撃のダメージはないようだ。彼女は「夫に怒られない程度にお願いしますわ」と彼に一言添えた。他の女性陣がエドガーの接近にぎゃーぎゃー喚く中、イデアがなんとかなだめながら、一同はモニター向こうの逃走者たちを応援するのだった。

 

 時は少し前に遡る。アウザーの屋敷の中のハンターは絵画が掛かっている部屋に入ってきていた。シドとリディアは柱の影を伝って隠れていた。だがハンターを警戒しながら、音を立てずに歩かなければいけないとなると、それは容易なことではないのだ。

 

(こいつ…だいぶ疑っているようだ…こりゃすぐ行ってくれそうにねえぞ…こいつを追いだせば、ラーサー達が何とか動いてくれるだろう…)

 

 シドは小声でリディアに伝える。

 

「リディア、ここは俺があいつを引きつける。入れ替わりでラーサー達が鍵を持ってくるだろう。後は任せたぜ」

 

 彼が振り返って入り口に行こうとすると彼女は手を握り止める。

 

「もう…私のせいで捕まってほしくはないんです…」

 

 彼女は今にも泣きそうな顔で訴える。美人の泣き落としに妻帯者のシドも心が大きく揺さぶられた。だが彼は心を落ち着けるため息を大きく吐くと、彼女の手をほどき、そして彼女の頭をくしゃくしゃに撫でた。

 

「俺は捕まりにいくわけじゃねぇ。次につなげるために行くんだ。それにこんなカワイ娘ちゃんがおじさんに泣き落としなんかしちゃだめだぜ」

 

 そう言うと彼は彼女の返事を待たずに素早く出入り口へ移動、マリアの近くに寄っていたハンターにわざと存在を認識させた。

 

「おっと、こりゃやべえ」

 

 ハンターが自分目がけて走ってくるのを確認するとシドはわざとらしいセリフを残し階段を一気に飛び降りる。

 

 屋敷外に一気に駆け出すと、ラーサーを探していたハンターとも遭遇、彼は1度に2人のハンターから追撃を受けることになった。階段をさっきと同じように一気に飛び降りる。追ってくるハンター2人は飛んで降りることがないためシドにとって階段は大きな強みにもなる。彼は宿屋を素早く右に曲がり、建物の影を利用して街の南端への移動を試みる。二人のハンターが宿の付近に到着するころ、彼の姿は捉えることができず、2手に分かれて捜索を行うが、彼はその間ワープクリスタルに駆け込みオペラ劇場へと移動した。

 

(あの嬢ちゃんに言った手前、捕まるわけにはいかねえからな)

 

 強い信念が彼を窮地から逃れさせたのだった。彼のおかげでノエルはアウザーの屋敷に突撃でき、ラーサーもハンターに捕らえられることなく逃げ延びたのだった。

 

「さすがシドさんです…、僕も頑張りましょう…!」

 

 彼は決意するとアウザーの屋敷へ入っていった。残り35分、賞金は102万ギル。

 




 初の自首が出ました。実際の番組でも自首するかしないかで迷ってると思いますが、私は自首反対派です。でも権利として存在している以上その批判はできないのですよね。皆さんはどう思っているのでしょう?よろしければお聞かせください。

他のシーンではエドガーとシドのイケメンっぷりを発揮する回でした。最近アーロンが空気になりつつあるので何とか活躍させたいのですけど、結局活躍できずでした。私の中での硬派なイメージが、ほかの逃走者との話をさせるのに足かせになっているかもです。それとミンウがエドガーに負けず劣らずのプレイボーイになっていたという、全国のミンウファンに土下座をしなければ…orz


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 鍵は無事にマリアのいるアウザーの屋敷内に届けられた。あとは彼女をオペラ劇場まで運ぶだけだ。道中での攻防の末、彼女は無事にたどり着けるのだろうか。今回でこのミッション完結します。


 ノエルは屋敷の中に入り、部屋の奥へと向かっていく。絵画が並んでいる部屋にたどり着くと、女優マリアらしき女性が鎖につながれているのを確認した。ノエルは近づくと無意識のうちに言葉を口走っていた。

 

「ふむ……このまま眺めているのもいいか…」

「ちょっと、何言ってんのよ!」

 

 陰に隠れていたリディアが突っ込む。はっと意識を取り戻した彼はしどろもどろに答えた。

 

「いや…うまく説明できないんだが、何かが俺にこう言えと…」

 

 無意識のうちに口走っていたことなので言い訳もどことなくおかしい。

 

「わけわからないことを言っていないで早く助けなきゃ!」

 

 大事な時に、また女性に向かって何を言っているのかと、彼女は憤った。彼は鍵で鎖を外すとマリアはようやく自由に動けるようになった。

 

「ありがとうございます。私、劇場に行かないと…」

「ああ、俺が連れて行こう」

「私も行くわ」

 

 見つかりやすいリスクは生まれるが、役割を分担することでマリアを送り届けやすくなる。

 

「僕も行きます!」

 

 突如背後から声がし、振り返るとラーサーが立っていた。

 

「お前、無事だったのか」

「正直もうだめかと思いましたが、シドさんのおかげで何とかなりました」

「あの人は本当に頼りになるな…次は俺達の番だ」

「シド…、本当にありがとう…」

 

 3人はシドに心から感謝しているようだ。

 

「とにかく、この人数のままでいくとハンターから狙われやすくなる。俺とラーサーで哨戒と囮をやってリディアが連れて行くというのはどうだろう」

 

 二人から異論がないのを確認すると、ノエルとラーサーは彼女らより先行しハンターの警戒を行った。ミッションクリアまで大きな一歩だ。

 

 オペラ劇場にいるミンウたちは客席に静かに潜んでいた。二人はステージから舞台袖へと移動するハンターの動きを追っていた。ミッションには参加していない2人ではあったが、ミッション達成の要素の一つに、ここにいる金髪のハンターが絡んでいるとなると、その情報を知っている自分たちは少しでも他のメンバーの役に立つのではないかと考えていた。

 

「あれが劇場限定で動くハンター…きっと他のメンバーはマリアを連れてくるころだろう。あいつがいる限り私達が捕まるリスクも増える。だからこそ…」

「これが私たちにできる最善の策なわけね」

 

 先ほど彼はこんな話をした。二人一緒にこのゲームに最後まで挑まないかと。それは彼女の自首を否定する意味を持っている。だが彼女はその提案に快諾した。旅をするためにお金が必要、それが彼女のゲームの参加意義であったのだが、ミンウ同様にその意義が変わってしまったからである。あまりミッションに乗り気でなかった二人ではあるが、彼ら自身も安全を確保するためには動くことが重要だと判断したのである。エリアは携帯電話を取り出すと、電話をかけた。相手はラーサーである。

 

「もしもし」

「あっ、エリアです。ミッションには参加していますか?」

「もちろんです、今マリアさんと屋敷を出たところです」

 

 彼女の読み通りミッションに一生懸命参加しているラーサーはきっとマリアを連れてくるだろうと考えていたのだ。

 

「大体どのくらいかかりそうですか?」

「警戒しているので少し時間はかかるかもですが、遅くても5分もあればオペラ劇場に着くでしょう」

「私たち今その劇場にいるんです。金髪のハンターも今見えています。このままですと劇場の入り口あたりに現れると思います」

「情報ありがとうございます、それでは」

「道中お気をつけて」

 

 連絡を終えたエリアにミンウは微笑む。それはさながら二人の共同作業にも見えた。そんな背後から接近していた者に気付かず…。

 

「っ!?」

 

 ミンウが驚きエリアの手を取り逃げようとする。

 

「おいおい、俺は仲間だぜ?」

 

 シドが両手を上げて肩をすくめていた。二人はほっとして肩を下ろす。

 

「街の様子はどうなっている?」

 

 ミンウは情報を集めるためシドに尋ねた。

 

「こっち専門のハンターがいるせいか、向こうにハンターが集中してるぜ」

 

 エリアはお礼とばかり今知っている情報をシドに伝えた。

 

「さっきラーサーに連絡したら、マリアさんを連れてこっちに来ているそうです、このまま無事につけばちょうど入り口でそのハンターと遭遇することでしょう」

「そんなら問題ねぇな」

 

 シドは安心して答えるとすぐ彼らに背を向けて行こうとする。

 

「あ、あの、シドさん?もう行ってしまわれるので?」

「ああ、俺がいたら二人で協力するってのが台無しだろ?」

 

 彼女はそれを聞き頬がほんのり熱くなった。どうやら二人の話をいつからか聞かれていたようだ。

 

 道具屋にいたファリス達は店を出て移動しながら話をしていた。向かっている先は道具屋に隣接する大きな屋敷だ。

 

「俺には妹がいてな、あいつはずっとお姫様をしているから俺よりも上品で、か弱いんだ。だがあいつは大事だと思うことは全部体を張ってでも守ろうとするんだ」

「強い方ですね」

 

 アーシュラはファリスの妹の話に感心していた。二人はどうやら身内話をしているようだ。

 

「そんな妹がいたから今の俺があるって感じるんだ…。お前はどうなんだ?」

 

 ファリスが尋ねると、アーシュラは少しだけ考えてから答えた。

 

「私は、きょうだいはいません。でもいるとすれば弟分の存在はいます。彼は王子なんですけど、自分に自信を持っていなかったんです。だけどある旅をしてからは、いつの間にか吹っ切れて自分の力を出し始めたように強くなったのです」

 

 私もそうなりたいとアーシュラは付け加えた。きっと彼女が自首をせず逃げ切りたいと思うのはそんな体験が背景にあるからなのかもしれない。せっかくなのでアーシュラにもう一つ質問をぶつけることにしてみた。

 

「そうか…ところでさっきクルルに聞いたんだが、その王子とゼルだとどっちがいいんだ?」

「っ!?な、何を言うんです、急に!ゼルは関係ないでしょう!?」

 

 顔を真っ赤にして動揺するアーシュラ。思いがけない単語の登場に慌てていた。

 

「なぁに、試しに聞いてみようと思っただけさ。さっき仲良くあいつとも握手したらしいじゃん?」

「な、仲良くなんか…」

 

 どんどん言葉に詰まってくるアーシュラ。

 

「あー、はいはい。よーくわかりましたー」

「――ッ!!」

 

 アーシュラが真っ赤になりながら涙目で訴えるのでファリスは追及を止めた。思春期とは本当にわかりやすいものだ。そんな彼女らの近くを歩くハンター。彼女らは近くのハンターに気付かず屋敷の扉を開け中に入る。数秒遅れてハンターもその扉の前に来たが、運よく彼女らを見逃して去っていった。アーシュラが思いっきり声に出して否定をしていたらきっと見つかっていただろう。

 

 マリアエスコート部隊の先頭を走るノエルはアクセサリー屋の先の階段を下ると、ハンターがうろついているのを確認。ばれていないことを確認すると後方を走る3人に別ルートを指示した。

 

「競売場の裏の階段から抜けよう。マリアのスピードを考えるとそっちのほうが安全だ」

「すみません…あまり足が速くないもので…」

 

 ノエルの提案にマリアが申し訳なさそうに答えた。

 

「私もそんなに速くないですし、大丈夫ですよ。ノエルってばマリアさんに失礼ね」

「すまない…俺たちの世界はほとんど身内ばかりで、女優とか目上の人っていなくて…」

 

 慌ててノエルは謝るがリディアを少しばかり怒らせてしまったようだ。先ほどの一件からどうも彼女は彼に対して少し厳しい。

 

「僕は上から回って下の情報を逐一知らせます。通話の準備を」

 

 ラーサーの作戦により、上はラーサーが単独で、下のトンネルルートがエスコートの本体にハンターの位置情報を教える作戦に出るらしい。ノエルは全力で階段を下り、あたりの様子を確認、後方の女性陣もできるだけ速いスピードでその中を走り抜ける。上にいるラーサーは手すりの影からハンターの様子をノエルに教えていた。

 

「宿のあたりに一人…それから防具屋の裏に一人います」

「よし…じゃあ俺の合図で一気にワープクリスタルに行くぞ」

 

 ノエルが女性陣に伝える。だが、ラーサーの背後にはファリス達を見逃したハンターが迫っていた。ラーサーが先に気付くも、ハンターも気付いてしまい追走される。だが彼は任務のことを忘れていなかった。ハンターから逃げながら、本隊に指示を出す。

 

「今です、一気に駆け抜けて!」

「よし、走れ!」

 

 ノエルの号令とともに女性陣がクリスタルへと向かう。ラーサーの監視していたハンターには見つかることなく潜り抜け、彼らは劇場へと移動した。劇場にたどり着くと右手側から金髪のハンターがやってきた。こちらに気付きダッシュをしてくると思いきや、ハンターはマリアを見つめているようだった。マリアはそれに気づき声をかけた。

 

「ダンチョー、ダンチョーよね?」

「ま…りあ……?…マリア!!」

 

 ダンチョーと呼ばれたハンターはサングラスを外すと正気に戻ったかのように目に輝きが戻る。

 

「すいません、私気付いたら鎖につながれていて…」

「大丈夫だ、さあさ、ゆっくり休みたまえ。それと君たち、マリアを助けてくれてありがとう」

「いやいや、とんでもない」

「どういたしまして」

 

 リディアとノエルも頭を下げた。無事ミッションが終わったかのようにみえた。Rrrrr!Rrrrr!メールだ。

 

「逃走者リディアとノエルの活躍により女優マリアは無事にエスコートが完了した。ハンターの数は3体に戻る」

「よかった…」

 

 リディアがほっとした表情を浮かべた。だが再びメールが届いた。

 

「逃走者ラーサー確保、残る逃走者は7人…、あいつ…」

 

 最も重い犠牲を出してミッションを終えたといっても過言ではないだろう。ノエルは歯ぎしりした。通話中ラーサーの足音が急にあわただしくなったような気はしていたが、ハンターに追われていたとは思わなかったからだ。

 

「あいつ、ハンターに追われながらもミッションに文字通り命を懸けたんだな…」

「ラーサー…ありがとう」

 

 二人は祈るように彼に感謝した。彼の確保の情報はシドにも衝撃を与えた。

 

「あいつがやられただと!?チッ、納得いかねえ…」

 

 彼にとっては息子同然の存在だった。またラーサーといれば間違いなく最強タッグだと自負できるくらいに。それほどまでに彼の存在はこのゲームに欠かせないものだったのだ。

 

 一方指令室もラーサーの確保が話題になっていた。

 

「この少年…ミッションの覇者とでもいうべき大車輪の活躍でした…」

「私たちの企画したミッションにこんなに参加してくれたんだ。彼に敬意を払おう」

 

 ルーファウスはそう言うと、ワイングラスを高く掲げ優雅に飲み干した。イリーナはそれを見計らって言う。

 

「社長、次のミッションですが…」

「まだ発動はしなくていい。最後のミッションは彼のような勇敢な人物がいなければ全員が詰むミッションだ。それまでほんの少しだけ泳がせてあげようではないか」

 

 彼は意味深な笑みを浮かべモニターを注視していた。残り時間は30分、賞金は108万ギル。

 




「このまま眺めているのもいいか」→セリスとロックのイベント。鎖につながれたセリスのドット絵は必見(←オイ
 アーシュラのツンデレはもはや2次創作の域に。FF4TAだと本編後半では空気扱いなのが残念なため勝手なイメージを肉付けしました。
 ラーサーは別名ポーション王子なだけあって、逃走者に恩恵をもたらし続けましたとさ。


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嵐の前の静けさ

 今回はラストミッションまで時間が一気に流れます。


 ミッションが無事終了し、ノエルはリディアと別れることにした。ジドールで2体のハンターに加えラーサーを捕らえたハンターを考えるとオペラ劇場には一人のハンターもいない計算となる。その計算通りであれば、ここは現在安全地帯だ。

 

「お互い無事に逃げ切ろう」

「あなたもね」

 

 一応誤解は解けたのだろうか、リディアも返事はして、お互い別々の方向に向かっていった。

 

 ジドールの街にいたのはファリスとアーシュラのみだった。リルムと別れてから誰とも会っていない二人は他のメンバーがどんな状況か知るすべがなかった。

 

「ちっ、あの時エドガーかリルムにこいつの使い方聞いときゃよかったぜ…」

 

 ファリスは携帯電話を恨めしそうに見つめた。

 

「メールは入ってくるだけですから、私たちも何とか通話できるようにならないと…いろいろいじってみましょうか」

 

 ここの2人は一度逃走中そっちのけで、お互い慣れない手つきで携帯電話をいじり始めた。

 

 シドはオペラのスイッチを操作する場所に来ていた。

 

「ミンウの野郎…ここに何しに来たんだか…」

 

 彼に対し憤りを覚えずにはいられないシドだった。彼とは最初のバラムガーデン脱出の際にはチームを組んだものの、仲間のために命をかけてミッションに挑んできたラーサーと色惚け青年とではどうしても比較せざるを得ないからだ。

 

「ラーサー…、お前の想い、全部俺が引き受けてやるぜ」

 

 シドは熱い思いは約30分の時間を耐えることができるのだろか。

 

 一方ミンウ達は場所を少し移動し、ステージから見て右手場所にいた。ここの位置のほうが入り口の監視をしやすく、その奥の屋根裏も道が入り組んでいてそれなりに逃げる時間も稼げると踏んだのだ。

 

「くしゅっ…」

「大丈夫ですか?」

 

 いきなりくしゃみしたミンウをエリアが気遣う。

 

「何でもない、誰かに何かを言われたような気がしただけだ」

「それだけならいいのですが…」

 

 きっと気のせいだろうと願うミンウ。彼らはそのまま何もせず客席にじっと留まり、ハンターの警戒に当たっていた。

 

 一方ラーサーは確保されて飛空艇に護送されていた。

 

「あっ、ラーサーだ!」

 

 牢獄にたどり着くと真っ先に声をかけたのはパンネロだった。

 

「素晴らしい活躍でした」

「すごい、おまえ、ほんとうに」

「素質があるな」

「次このゲームに参加するとしたらお前のものまねをしてみよう」

「ほんとすっげーぜ!」

 

 彼女の一言に皆が彼に称賛の拍手を送った。

 

「とんでもない…僕は結局捕まってしまったんです。褒められるようなことではないですよ」

 

 恥ずかしそうな笑みを浮かべてラーサーは謙遜する。

 

「やっぱ王子様ってのはこういう人のことを指すんだよねー?」

「なぜ私に言うのだ…」

 

 ユフィの発言でイデアを除く女性陣から冷たい視線が注がれるエドガー。どうやらまだ彼は年頃の乙女たちには許されてはいないらしい。だがそのラーサーは彼を援護する。

 

「エドガーさんの行動は素敵ですよ、僕も見習いたいものです」

「ふっ…君もなかなか見どころがあるな、私が直々に…」

「「「ラーサーはラーサーのままでいいの!」」」

「…はい」

 

 年頃の乙女たちのエドガー批判にエドガーは落ち込みラーサーは苦笑した。

 

「ここにはいろんな方々が揃っていますから、僕はたくさん学べます。そして、まだ頑張っている方たちからも…皆さんに感謝です」

(なるほど…、道理でアタシは捕まるわけだよ…)

 

 ラーサーは心の底からそう思っていたようだ。チームで支え合い生き残っていく、本当に優等生なんだなとユフィはつくづくそう感じた。

 

 場所は戻ってオペラ劇場へ、シドのもとに電話が入る。ファリスからだ。

 

「よう、シド。今どこにいる?」

「俺ぁオペラ劇場の中さ」

「ハンターのことはわかるか?」

「いや~、まだこっちに来てから女優のミッションの時のハンターしか見てねえなぁ」

「そっか、サンキューな」

 

 ファリスは通話を切った。彼女らはなんとかこの機械を操作することができるようになった。

 

「どうでした?」

「う~ん、やっぱりこっち側にハンターが集まっているのかな…」

 

 先ほどファリスが機械いじりをしている間上のほうに登っていたアーシュラがこの街で2人ほどハンターを確認したらしい。それをもとにシドの話を考慮した結果ハンターがジドールに集中しているという結論に落ち着いた。

 

「でもそのハンターはワープクリスタルの近くにいました」

「もしかすると向こうに一気になだれ込むかもしれんな。そうなったら俺達としちゃ好都合なんだがなぁ」

「それを考慮して私たちも移動した方がいいですね」

「街の北側…、だな」

 

 彼女たちは隙を見て移動する算段らしい。

 

 リディアはステージにいた。

 

「ここであのマリアさんがオペラをしているのね…」

 

 自分が女優になったつもりで舞ってみるリディア。様々な観客が見る中で演技をする。それは彼女の想像の範疇を超えていた。だけど間違いなくわかるのは、演技を通して心を伝えることではないかと彼女は思う。そう想像しただけで彼女はわくわくしてくる。と、同時に今は逃走しなければならないことを思い出す。

 

「あっ、こんなところにいたらどこにいても見られちゃうわね。誰も見てないかしら…」

 

 彼女は不安になり辺りを見回したが、特に人が見ていた様子ではなかった。

 

「…ふぅ、よかった」

 

 彼女は何事もなかったかのように舞台袖へと向かった。だがその彼女を見つめる2つの視線があった。

 

「リディアさん、楽しそうでしたね」

 

 エリアが呟いた。客席にいたミンウたちからはリディアの姿がばっちり確認できたのだ。

 

「ハンターがいない今だからできることだな…だが私たちは油断しない。そして最後まで一緒だ、いいな」

「はい」

 

 二人は最後まで戦い抜く決意をした。

 

 ノエルは階段を上って台本置き場に通じる部屋の手前に来ていた。壁越しにホールを覗き見る。ここからであれば入り口に誰が通るか一目瞭然であるうえ見つかりにくい。そして彼はハンターを目撃した。

 

「お、来たか…さて、どうでる?」

 

 ハンターは左手に回り、ステージの方の扉を開けた。最悪裏手に回り込まれてしまうかもしれない。

 

「ひとまず様子見だ…」

 

 息をひそめ彼は移動するチャンスを覗う。

 

「あれ、あなたここにいたのね」

 

 背後からの声に振り向くとリディアがいた。

 

「ああ、実はハンターがステージのほうに向かっていてな。隙を狙って街に戻ろうかと思う。だが俺らが来るときに向こうのクリスタルの近くに2体ハンターがいただろ?移動中に向こうから来られたら困るからな」

「そっか、じゃあ前後に気をつけながら進まないとね」

 

 結局二人で活動することになった彼らは慎重に前へと進んだ。

 

 シドはまだスイッチの部屋に隠れていた。

 

「それにしてもこのスイッチ見てるとやっぱりいじりたくなるよなぁ」

 

 なぜスイッチがあるといじりたいのだろうか、やはり答えはそこにスイッチがあったからではないだろか。彼はその答えが出る前にもうスイッチを押していた。彼が押したのは左から2番目のスイッチであった。

 

「照明が!?」

 

 突如照明が消えたことに驚くミンウとエリア。薄暗いステージ、観客席がさらに暗くなったのだ。

 

「おっと、やべえやべえ」

 

 シドは慌ててスイッチを元に戻した。照明が再び点灯し、明るくなる。

 

「一体何だったんだ…」

「さぁ…」

 

 唖然とする観客席の二人。だが今の操作で気付いてしまった人がいた。ハンターだ。彼は静かにステージから舞台袖へ向かう。どうやらそのままゆっくりシドのいる場所に向かっているようだ。だがその通り道にはノエルたちがいた場所も含まれている。だが彼らはすでに移動を終えていて、ワープクリスタルの手前にいた。

 

「この先は大丈夫そうだな」

 

 ワープクリスタルの脇のモニターを確認し、転移先が安全であることを確認したノエルはリディアとともにジドールへ移動した。彼らが無事移動を終えたためハンターはそのまま客席の方へと向かった。

 

「…!?」

 

 ミンウはハンターの姿を捉えた。だがハンターの向かう先は自分たちとは反対方向である。

 

「さっき照明をいじった人の所に向かっているのかしら…」

 

 エリアが推測する。ただ次の瞬間ステージの上で何とも間抜けな悲鳴が響いた。シドがうつ伏せになって倒れていたのだ。

 

「ってー!!どんな仕掛けなんだ…ったく…」

 

 頭を掻きながら痛がるシド。だがその様子を見てか、ハンターは素早く舞台装置の部屋へと走っていった。

 

「シド、逃げろ!」

 

 ミンウは咄嗟に叫んだ。彼はハンターに見つかるかもしれないというリスクもよぎった。エリアとももちろん逃げ切りたい。だがためらわなかった。バラムでの思いが彼をそうさせたのだろか。

 

「あ…!?わかった!」

 

 シドが走り始めると、動物の鳴き声が響き渡る。どうやらハンターもスイッチの操作になれていないようだ。それから数秒ほどすると彼が出てきた穴からハンターが滑り出てきた。ステージ下の出口にいたシド目がけて突っ込んでいく。彼はドアを開け、閉めると同時に左に曲がる。舞台袖の方向だ。ハンターは一瞬彼の姿を見失ったが、階段を駆け上って舞台袖へと行く彼の姿を見て追撃を開始した。だが彼の体力も限界だった。彼は台本の部屋をどうにかして潜り抜け舞台袖の荷物の中に身を隠す。

 

(頼むぜぇ、このまま気付かずどこか行ってくれ…)

 

 彼は必死に祈る。少しばかり遅れてハンターが部屋にたどり着き部屋を調べていく。静寂が痛いほど彼にのしかかる。だがハンターはこの部屋にいないとみたか、そのまま舞台の方へと去っていった。

 

「ふぅーーっ!終わったかと思ったぜ…それにしてもミンウの野郎…あいつに貸しを作ってしまうったぁ俺もまだまだ情けねえぜ…」

 

 極度の緊張感から解放された彼は足をもみほぐしながら大きく息を吐いた。彼の酷使し続けた足はしばし休息が必要なようだ。その一方でミンウがいなかったらどうなっていたことかと悔しさも感じているようだ。

 

 一方指令室では次のミッションが用意されていた。

 

「ここまでくると残りの逃走者たちも本当の実力者が揃っていますね。おかげで全然捕まりません」

 

 イリーナが呟く。

 

「そうだ、残り時間が20分と少しあるのに逃走者が7人も残っているからな」

 

 だがそう言うルーファウスはすごく愉快そうな表情をしている。

 

「よく言いますよ…こんなミッション、本当はたった7人しか逃走者がいないようなものじゃないですか…」

「さぁ、このゲームのフィナーレを飾るのにふさわしいこのラストミッション、耐えぬいて見せよ!!」

 

 彼はミッションを発動する。次回その恐怖のミッションが明らかになる!残り時間20分、賞金は120万ギル!

 




 次回はミッション関連でFF6の世界の住人が一気に登場します。(と言っても一部です)最終ミッションを経て生き残るのは誰か!?


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アウザー邸に潜り込め

 最後のミッション発動。前の話でルーファウスの不敵な笑みはこのミッションの恐ろしさを物語っていたのだ。その中身とは…!


(ドドドドドド……)

 

 小気味よい低音が空に響く。2機の飛空艇にはそれぞれ一人ずつ操縦士がいた。片方は銀髪の傷だらけの男で、片方は金髪の長髪の女である。プロペラの音が鳴り響く中、両者はトランシーバーで会話をしていた。

 

「まさかこんなところでお前と再びこの空を飛ぶとはな…」

「なんだい、不満なのかい?」

「俺たちのこの仕事はスピード勝負じゃないからな」

「はっ、この仕事であろうと、勝負であろうと、あんたはただ私の尻だけ見てればいいのさ」

「何を!?こんどこそぶっちぎってやる!」

 

 二人はかつて競えなかった勝負をこのゲームが終わり次第果たそうとしているようだ。

 

 アウザーの屋敷の中でも3人の男女が話し合っていた。男は1人、女は2人である。男はバンダナをし、女の片方は青髪でもう片方は金髪だった。どちらの女性も男より若く見える。後半戦開始直後はリディアを驚かせたハンターの服装をした人物たちである。

 

「不思議なことってあるんだな」

「そうね」

 

 神妙そうに話す青年の脇に立っている少女は笑顔で返した。

 

「まさか俺がこの仕事を受けた時に、俺の手伝いをしたいっていう女の子がいると聞いて、誰かと思えばお前とは…」

「いいじゃない。あの時あなたの手伝いをできなかったんだもの、ここでくらいやらせてよ。それにあの人もいいって言っているんでしょう?」

 

 青髪の少女があっけらかんとして金髪の女性の方を見て言う。

 

「あぁ…、とにかく俺達の仕事を頑張ろう、いいな」

 

 彼がそう伝えると彼女はもちろんと短く返事をした。

 

 

 

Rrrrr!Rrrrr!残り20分になり逃走者にメールが入った。

 

「これよりミッション『大空の支配者』と『アラームを解除せよ』を同時に行う。『大空の支配者』についてはこれよりジドール上空に『ファルコン』と『ブラックジャック』という2機の飛空艇が逃走者の位置情報をハンターに逐一連絡を入れる。また『発信機を解除せよ』は逃走者が身に着けているバングルが徐々にアラーム音を発生させ近くのハンターをおびき寄せる。どちらの解除もジドールの街のアウザーの屋敷の中の装置を停止させなくてはいけない。両ミッションは、一つの装置を停止させることで終わらせることができる。アウザーの屋敷の中にいる間、アラームは停止するが、屋敷の絵画が並ぶ部屋から奥は、今活動しているハンターとは別に3体のハンターが活動する。なおミッションをクリアするとハンターから100メートル以上離れた場所に自動的に転移される…。またミッション終了後は再度アウザーの屋敷に入ることはできない。説明が長いですね…」

 

 メールを読み上げていくうちにエリアは気が遠くなるような思いになった。読むのも大変なのだが、実際にこれをやるとなるともっと大変に違いない。

 

「おいおい、これはやべえんじゃねえのか、二つのミッションを同時になんてありえないぜ…」

 

 舞台袖に隠れていたシドは両手を上げて降参するようなポーズを取った。実際彼の足はもう悲鳴を上げている状態だ。しかしミッションを諦めれば捕まるリスクは高まる。何より彼は逃げるのが嫌いだ。なんだかんだ言って足を引きずってでも参加するに違いない。

 

「アウザーの屋敷…ここから北にある場所ですね」

 

 大きな屋敷に隠れていたアーシュラが地図を広げて確認する。

 

「そこに行ってミッションをさっさとしないといけないわけだが…」

 

 ファリスが空を見上げると先ほどはいなかったはずの飛空艇が2隻も居座っている。そこから人力で監視しているようだが、こちらからではどこを見ているか把握できない。行動が把握できないまま動くのはとても危険だ。

 

 ノエルたちはジドールの街に来ていた。メールを確認すると二人は素早くアクセサリー屋の屋根の影に入る。彼はハンターが近くにいないことを確認すると、一緒に行動していたリディアに話しかける。

 

「あんた、自首はしなくていいのか?」

「本当はお金欲しいから今すぐにでも自首をしたいわ。だけど私を守るためだけに犠牲になった人がいる…、そんな中で自分だけ助かることなんてできないわ」

「そっか…あんたが守られる理由がなんとなくわかるような気がする」

 

 と、二人で会話をしていると何か音を感知した。

 

「これは…ミッションのブザーかしら…」

 

 彼らの肩につけている装置からうっすらと音が出ている。

 

「これが大きくなったら隠れるどころじゃないな、この建物の壁を伝いながら、宿屋に向かうぞ!そして地下を通ってアウザーの屋敷に潜り込むぞ」

 

 彼の指示に彼女は頷き慎重に動き始めた。二人はミッションに参加するようだ。

 

 ミンウとエリアは屋根裏にいた。

 

「弱ったな…さっきより音がはっきり聞こえる…」

「それに、この場所、音を反響しているような感じがするんです…」

 

 彼女の言う通りオペラを鑑賞する場所であるためわずかな音でも簡単に響いてしまう。

 

「さっきハンターがステージを降りて行かなかったら、きっとこの音でばれていたに違いないな…」

 

 彼は考えただけでぞっとした。

 

「ねぇ、今からでもミッション参加しませんか?」

 

 彼女は訴える。

 

「確かにこのまま待っているだけでは動かずに捕まるのを待つようなことだ。だが、いいのか?」

「ええ、私が得たいものはお金じゃありませんから。ミンウさんだってそうでしょう、シドさんを助けようとして叫んだのは私と同じような理由があるはずです」

 

 彼女の笑顔に押されてか、彼も納得したようだ。かつて仲間を救うため命を懸けたあの時の自分が蘇ってくるようだった。

 

「なら善は急げだ、行くぞ」

 

 彼らが客席の方へと向かう。その先には無情にもハンターがいた。客席と客席を隔てる壁があり彼らは知らず知らずのうちにハンターに接近する、ミンウが向こう側を除いた瞬間に目が合った。「戻れ」と短くミンウが言い素早く反転するが、ハンターにそのまま見つかってしまった。悲鳴を上げる間もなく、ハンターの足にかなわずそのまま2人とも御用となった。

 

「すまない、エリア。私がミッションに参加すると決定しなければ…」

 

 申し訳なさそうにうなだれるミンウを見てエリアはそうじゃないと彼に優しく言った。

 

「ミッションに初めて私とあなたで参加したようなものです。あなたと一緒にできただけで私は満足ですわ…」

 

 薄暗い中ではあるが、彼女の瞳は潤んでいて、顔もいくらばかりか紅潮していた。

 

 (ごくり…)

 

彼女は静かに目を閉じる。彼は唾を呑んだ。そして二人の顔が少しずつ狭まる。

 

「こほん…、あなたたちを護送しに来たのですが、よろしいですか?」

 

 捕獲者を連れに来たイリーナがあまりの甘酸っぱい光景に耐え切れず話を切り出した。

 

「「!!?!?」」

 

二人は突然の登場に驚いて慌てふためく。

 

「こんなところは本番に使えませんね…」

 

 イリーナは嘆息して二人を魔法で送り飛ばした。

 

 Rrrrr!Rrrrr!メールだ。

 

「逃走者のミンウ、並びにエリア確保。残る逃走者は5名…けっ、しくじりやがって…」

 

 シドは彼らの確保情報を見て悪態を吐いた。シドにとって彼の行動はあまり好感を持ってはいなかったが、それでも彼がリスクを冒してでも自分を助けてくれたこともあって複雑な思いを感じていた。その彼は今オペラ劇場の入り口に立っていた。行き先はもちろんアウザーの屋敷である。スタッフが「足は限界なのでは?」という趣旨の質問をする。

 

「そりゃもう限界さ。だけど黙って捕まるってのは俺の性に合わねぇ。俺の生き様見せてやるよ」

 

 彼はカメラを背にし、ふらつく足を何とか動かし、片手を上げながらワープしていった。彼の行動は簡単に予想できた。だが、満身創痍の体でこなせるほど甘いミッションではない。

 

 上空にいた傷だらけの男――セッツァー――と金色の長髪の女性――ダリル――はそれぞれ飛空艇から街の監視に当たっていた。

 

「そっちに誰かいるか?」

「みんなビビって出てこれないようだな…っと女っ子2人発見、競売場から北方向に移動しているな。位置情報を送るぜ」

 

 彼女は情報をハンターに送ると彼女たちに最も近いハンターが動き出す。武器屋のそばにいたハンターは北方向へ全力で駆けだす。ファリス達は気づいてはいなかったが、もともと飛空艇の監視下にある以上ハンターに見つかるリスクを考慮してすでに全力でアウザーの屋敷に駆け込んでいた。二人は中に入り、アーシュラがドアを閉めようとすると、ハンターが後方に迫っていることに気付く。

 

「来てます、走って!」

「わかった!」

 

 二人は正面突き当りの階段を上る。ちょうどその時ハンターも家の中に侵入、ドアが勢いよく閉まる音が響き、彼女らに戦慄が走る。彼女らは足音を立てないように小走りで、絵画のかかっている部屋を慎重に探索する。すると部屋の一番奥の絵画をかけるスペースがドアに変わっていた。だが彼女たちに選択の余地はなかった。背後に迫るハンターから逃れるためドアに意を決して入る。入ると階段がありすかさず駆け下りる。だが後ろからハンターが追ってくる気配はない。

 

「…追ってこないな」

「ええ、ですが、ここから先だけでハンターが3人いるわけですから…覚悟しましょう」

 

 二人が階段を下り、その先の角を曲がる。

 

「ここも絵が飾られているんですね」

「そうだな…」

 

 二人が絵を見ると、突然後ろに飾られていた額が落下、中からハンターと思われる女性が出てきた。

 

「「っ!?」」

 

 二人は大慌てで次の部屋のドアへ向かう。ドアは二つ。選択は二つに一つだ。ファリスは左、アーシュラは右のドアを開けた。

 

「行き止まり!?」

 

アーシュラが進んだ先は奥行きが5mほどしかなく細長い道だった。天井は比較的高いくらいの部屋だ。狭いが絵画はいくらか飾れるだろう。そんな思考が一瞬頭をよぎる。とはいえハンターはもう後方に来ているはず。そんな暇はないと思いつつ、後ろを見やるが、ハンターは意外と遅かった。思ったほど距離は詰まっていないが、隣のドアを開けている暇はなさそうだった。彼女は覚悟を決めると行き止まりの部屋の奥に入る。ハンターは追い込んだとばかり突っ込んでくる。

 

(今だ!!)

 

 アーシュラは左に跳躍し、壁蹴りの要領でジグザグに飛び、あっという間にハンターの頭上を飛び越える。ハンターもとっさに反応するが、彼女には一歩届かない。彼女はドアのところまで一気に移動、ハンターも戻ってきていたその時だ。

 

(バン!!)

 

 アーシュラはついドアを閉めるため、強烈な蹴りを一発ドアに入れる。あまりに強烈な一撃だったため、ドアはものの見事に蹴破られた。ただそのドアが吹っ飛ぶ方向にちょうどハンターがおり、そのドアに巻き込まれた。

 

「……、あっ…」

 

 アーシュラがはっとしてゆっくりハンターをのぞき込む。

 

「……ロック~…私…ダメだったよ~…」

 

 目を回しながら倒れる青髪のハンター――レイチェル――がドアの下敷きになって伸びていた。

 

 この状況を見ていた指令室では彼女の処遇を考えていた。

 

「ハンターへの攻撃行動は反則行為だったはずです、彼女を失格処分にすべきかと」

「ふむ、そうだな…」

 

 イリーナの提案に返答するルーファウス。

 

「だがやられたハンターは幸いにもあの3人の中で最遅である。残った手練れの逃走者たちを追いつめるには少しばかり役不足だ…、彼女を含め他の逃走者に警告しつつ、次同様の行為があれば即失格としたい」

「だいぶ甘い判定ですね」

 

 彼女は不服そうに答えた。彼は一度ワイングラスを口に流し込んでから言った。

 

「そうでもない、あの追いつめられた中華麗な逃走を見せてくれた彼女を反則と言う形で終わらせるのは少々無粋に感じたからさ」

「そうであるなら私は社長の判断に従うだけです、メールを今すぐ転送します」

 

 彼女は逃走者全員に警告文を通知した。

 

Rrrrr!Rrrrr!メールだ。

 

「逃走者に警告。ハンターへの攻撃は本来認められていない。たとえ不慮の事故であったとしても以後失格措置をとる。か…、やっぱりあいつのあれはダメだったんだな」

 

 牢獄として機能している飛空艇にいたゼルがメールを読み上げていた。捕まった逃走者たちはモニターに集まって各視点から逃走者たちの動向を見ていたのだった。

 

「何々、アーシュラが気になるの?」

 

 隣にいたクルルが彼に話しかけた。心なしかにやけているようだったが彼は何気なく答えた。

 

「そりゃあ俺が認めた相手だからな。あいつとはいずれ決着をつけなくてはいけないと思うんだ」

 

 それを聞いた彼女はきょとんとした。

 

「へ…、アーシュラが気になるってそっち…?」

「それ以外に何があるんだ?」

「はは…、いいです…」

 

 クルルは頭を押さえて嘆息する。彼女はどうやらアーシュラがゼルに片思いをしていると思い込んでいるようだった。

 

「残り15分…頑張れよ、アーシュラ…」

 

 そんなことを気にせず彼はアーシュラの活躍を祈っていた。彼の声援は彼女に届くのだろうか…。現在の賞金は126万ギルまで膨れ上がっていた。

 




FF6の時点ですでに故人だった二人に登場してもらいました。ダリルは必ず通るイベント、レイチェルはサブイベであるにも関わらずどちらともFF6を語るには欠かせないイベントだったと思います。残念ながらレイチェルの方はハンターのため会話させた部分はわずかしかありませんが、カメラの回っていないところでもっとロックとしゃべってセリスが嫉妬してるとか、セッツァー、ダリルのゲーム後の戦いとかエピローグで書けたらいいなと思います。


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特攻

 残る逃走者はリディア、ファリス、シド、ノエル、アーシュラのたった5名。そして凶悪なミッションにより脱落者が一気に増える…!


「ごめんなさい、ハンターさん…。次からは気をつけます…」

 

 アーシュラはメールを見て警告を受けたことを確認、もうドアを蹴り飛ばすことはしないとノビているハンターに誓って慎重に進んでいく。彼女はファリスが行ったほうのドアに向かった。中に入ると人の気配がない。

 

「もう先に行ったのかしら…」

 

 何とも言えない静寂感が彼女を襲った。

 

 そのファリスはハンターが出てきたところにいた。どうやら彼女が開けたドアは最初の場所に通じていたようだ。海の上で体幹を鍛えていた彼女は正確な着地をしたが、入り口に戻ってしまった以上タイムロスは免れない。ハンターにも警戒しなければいけないが、アーシュラの行為でハンターが一名減ったことは口には出せないがラッキーだった。

 

「もういっちょ中に行ってみるか!」

 

 再び最初に通った道を進んでいった。

 

 シドはジドール側のワープクリスタルの所で様子を覗っていた。

 

「けっ、だいぶやかましくなってきたぜ」

 

 腕のアラームを見て忌々しく思う。彼の選択肢は2つ。一つは飛空艇に監視されるであろう地上ルートかアラーム音の響くトンネルを行くかである。足が言うことを聞くかどうか――。

 

「いや、足が痛いだの痒いだの言ってられねえな。あそこにたどり着けねぇようじゃどのみちお終えよ」

 

 覚悟を決めたシドは武器屋を経由して最短距離でアウザーの屋敷に向かうことにした。表情にはだいぶ険しさがはっきりとわかる。だが30過ぎたオジサンが足の疲れが抜けていないとはいえまだ速い。脚力によっぽど自信があるのだろう。彼は恐れることなく堂々と地上ルートを駆け抜けていく。だが上空から監視していた2人が彼の姿を捕捉しハンターに通知すると、競売場の下のトンネルにいたハンターが動き出した。ハンターはすさまじいスピードで階段を駆け上がり競売場脇に出る。どうやら正面からシドを確保するようだ。彼は武器屋のあたりまで来ると階段の上にはハンターがいて、すでに獲物を狙う態勢に入っていた。シドは咄嗟にどこか隠れられそうな場所を探すが、そこでノエルたちと目が合ってしまった。シドはその瞬間だけ彼らを見たがすぐ目線をそらした。ノエルは彼の瞳を見ると、こう言われたように感じた。

 

(けっ、おめえらを売ることなんて俺にはできねぇよ)

 

 ノエルたちはシドの様子を見てハンターが迫っていると判断、すぐに建物の影に避難する。ハンターがすごい勢いで彼を追っていくと、2人はその先のアウザーの屋敷へと駆けだした。

 

「シド…」

 

 リディアがシドの走り去っていった方向を振り返るが、ノエルがそれを制す。

 

「振り返るな、俺達を巻き添えにするつもりはないんだろう」

 

 彼は彼女の手を引き、そのまま目的の場所へと向かった。だが彼らの向かう建物の内部にはまだファリス達を追っていたハンターが残っていた。上空からの監視している2人も2人の行動を逃しはしなかった。そのハンターに連絡を送ると即座に通報、二人を狙い始めた。ノエルはそうとも知らずにアウザーの屋敷のドアを開ける。中に入ろうとすると、ちょうどハンターが奥の階段から降りてきた。彼はリディアに指示した。

 

「ハンター、二手に逃げるぞ!」

 

 短い指示だったが彼女も頷き彼女は屋敷を背に左側、彼はその反対へ駆けた。ハンターがドアから出てくると狙った獲物は…、

 

「ひゃぁっ!」

 

 リディアだ。彼女は声にならないような悲鳴を上げながら走る。足場の悪い森に入った彼女だったが、走る速度はハンターとは段違いに遅くそのまま御用となった。

 

「…はぁっ、はぁっ…速すぎよ…」

 

 彼女は膝を抑え肩で息をしながら呟く。彼女は今まで自分を助けてくれた人達に申し訳なく思った。自分がもし逃げ切ったせめてお礼に何かできればとも頭をよぎった。だがここはそんな優しい世界ではないのだ。自首をしない限り、もらえる賞金は全か無なのだ。

 

 一方時をほぼ同じくして、シドはまだ逃走を続けていた。彼は武器屋のトンネルの上部に一か八かジャンプしたところ、手すりの下部に手が偶然届いてしまった。それゆえハンターから一時的に距離を稼ぐことができていたのだ。だが、もう彼の足にも限界は訪れていた。ハンターが回り道をしてチョコボ屋脇の階段を昇ってくると、彼は飛び降りた。

 

「くそっ、もうだめだ、動きやしねぇ…」

 

 着地の衝撃にももう彼の足は耐えられなかった。ハンターも同様に飛び降りると、彼も御用となった。大きくため息をついたが、彼の顔には後悔は全くなく清々しい表情をしていた。

 

「あとの戦いは若えもんに任せるぜ…」

 

 彼はその場でどっかりと座り込み、限りなく広い空を眺め見ながら残る3名の逃走者に気持ちを託したのだった。この二人の確保情報は即座に伝わった。牢獄にいたユフィがメールを読み上げる。

 

「逃走者リディア、並びにシド確保。残る逃走者は3名」

 

 確保情報を聞き、残念がる声が各人から上がる。

 

「シドもリディアもすっごく頑張ってたのにねぇ、み・ん・う・さ・ん?」

「……お前には言われたくない…」

 

 ユフィはそのまま先ほど運ばれてきたミンウをなじる。

 

「そりゃもちろんアタシは何もしてないかもしれないけどさ、こんな時に私よりも年下の女の子を口説くってどうなのさ」

 

 彼女はそう問い詰めた。その場には当然エリアもいるのだが、彼女はすでに茹蛸のように顔を真っ赤にして目をそらせていた。

 

「まぁまぁ、エドガーより動機は不純じゃないんじゃない?」

「待て、そこでなんで私の名前が出てくるんだ?」

 

 パンネロがフォローになるのかならないのかわからない発言をした。

 

「エドガーは変態だからもてないのよね、ミンウさんはまだ誠実そうに見えるからあれだけど」

「……」

 

 クルルの発言にさらに肩を落とすエドガー。リルムの身代わりの代償はとてつもなく重いようだ。その彼らの脇ではゴゴとクイナがミンウ達の真似をしていた。

 

「すまない、エリア。私がミッションに参加すると決定しなければ…」

「ミッションに初めてワタシとあなたで参加したようなものアル。あなたと一緒にできただけでワタシは満足だったアル…」

「やば、似てる~」

「「……」」

 

 二人のものまねをみたユフィの呟きに同意したのか渦中の2人以外、爆笑していた。先ほどから表情をほとんど変えていなかったアーロンでさえも少しばかり口角が上がっていた。

 

「もう…、許してください…」

「すまない…」

 

エリアに至ってはすでに赤面を通り越して涙目で、ミンウも頭を下げる以外方法が見つからなかった。相変わらず自由人同士の会話がここでは成り立っていたのだった。

 

 上空のブラックジャックにてセッツァーと話していた少女がいた。逃走者のリルムだ。彼女は自首組というわけで牢獄とは違う場所へ移動されていた。この船の所有者のセッツァーのところがうってつけだったのでここに来ていたわけである。彼は外に残っていた最後の逃走者のノエルがアウザーの屋敷に潜り込むのを見届けると彼女に話しかけた。

 

「どうやら残った逃走者は全員あの屋敷の中みたいだな」

「そっか…」

 

 彼女は短く返す。どうやら元気がなく少しばかりうつむいているようだった。しばし沈黙が生まれ、この場にはプロペラ音しか響かなかった。どうやら湿っぽい感じがしたので、彼は「もう仕事納めだな」と話を切り出してみるが彼女は乗ってくる気配を見せなかった。再び静かになってしばらくすると。その音にかき消されるくらいか細い声で彼女は質問をしてきた。

 

「ねぇ、傷男。私の自首のこと、どう思う?」

「何がだ?」

 

 彼は質問の意図がわからず尋ねた。

 

「結局あのジジイのために自首はしたけど、私何も他の逃走者に協力もしてないもん」

 

 普段から彼とよく話すためか、彼の前ではストラゴスのことを普通にジジイと発言するようだ。彼は自分自身の言葉で彼女を諭した。

 

「じゃあお前はお金を失ってまで危険を冒したかったのか?」

「そ、そんなわけはないけど…」

「ならそういうことだ、勝負の世界、オリ時もうまく見つけないといけないからな」

 

 彼はそう言うと再び彼女から視線を外しジドールの街を眺め入った。彼女は何も言わずそのままデッキから下がって行った。

 

「あいつもまだまだ甘ちゃんだな。自分のやった行動に自信が持てず、誰かに肯定してもらえなければいけないとは…。純粋過ぎてこんなゲームにゃ向かないね」

 

 先ほど捕まった逃走者たちは確かに他の逃走者たちのため役立ったかもしれない。ただ結局報酬を得るのは個人である。彼は自分のいるギャンブルの世界とは程遠い世界に彼女はいるのだと改めて感じながらにいた。

 

 アウザーの屋敷の中ではアーシュラが奥に最も近かった。彼女は別の絵画が飾られている部屋に到達していた。ちょうどこの部屋に入った時に大きな段差があったが、彼女は難なく着地する。

 

(ここも絵画がたくさん…いやな予感がする…)

 

 彼女は絵画を見ながら慎重に歩みを進める。その中に一つだけ違和感を覚えたのがあった。女性がサングラスをかけた肖像画があったのだ。一瞬アーシュラが凍り付くとその絵の中からハンターが飛び出してきた。

 

「っ、やっぱり!!」

 

 彼女はバックステップでとっさに距離をとり、後方目がけて走った。建物の大きい柱をうまく使いながらハンターとの距離をとっていく。先ほどのハンターほど遅くはないが、アーシュラの走力にはかなわないようで距離が縮まることはなかった。その時ちょうどファリスもこの部屋に入ってきた。段差に気付かず、バランスを崩される。すぐさま体勢を立て直すが、その隙を見てハンターがターゲットを変更する。

 

「っ、まじかよ!」

 

 ハンターの急接近に彼女は姿勢を低くして右側に勢いよく飛び込んだ。なんとか一撃を躱すことができたが、それでもハンターはなお迫ってくる。彼女は素早く立ち上がると柱を盾に両者がにらみ合いをした。アーシュラは二人が応酬する隙を見て次の道を捜索、ドアを見つけてこの場から脱出した。そのアーシュラの姿が見えたか、ファリスはごくわずかな時間でその扉までの脱出経路を頭に描いた。彼女は意を決すると、姿勢を低くして一気に加速、ドアに手を伸ばし開けようとした。だがハンターのほうがややそのドアに近かったか、ドアを開けているファリスの隙を見て体に何とか触れ、確保されたのだった、

 

「くそっ、ここまでか…楽しかったけどな、あともうちょい粘るべきだったか…」

 

 彼女は悔しそうに頭を掻きながら言った。一瞬の判断の誤りが確保につながるのだ。ここまで残る逃走者は2人、賞金144万ギルまで残り10分だ。

 




 設定上の年齢はユフィが16、エリアが15だったと思います。ミンウさんはいくつなんでしょうね。(大体20くらい?)16歳年下のリルムを口説きかけたエドガーよりは断然セーフなんですけどね。さて、次回はミッションも大詰め。残ったノエルとアーシュラはミッションをクリアできるだろうか。


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復活したもの達の意地

 ミッション発動前まで7人いたはずが、あっという間に2人になってしまった。このミッションさえクリアすれば144万ギルはもう目の前と言っても同然の状態である。


 指令室にいるルーファウスとイリーナは残った逃走者の話をしていた。ノエル、並びにアーシュラは奇しくも復活イベントを経てきた二人だ。

 

「ところで君はどっちが生き残ると思うかい?」

 

 社長の問いかけにイリーナは戸惑った。ゲームの進行に気を取られていて、この後の段取りを考えなければならず気を取られていたのだ。彼女は答えられずにいると社長は楽しそうに自論を語った。

 

「私はアーシュラだと思う。二人とも確かに足が速い。だが前半戦は不運にもそれを活かしきることができず捕まってしまった。後半戦は彼らが運よくハンターを躱しているとはいえ、見つかったとしてもどこに隠れ、どこに逃げ込めばいいかわかっているような気がする。だが、特にアーシュラは場の状況に応じて予想もしないような動きでハンターを翻弄している。咄嗟の事態に咄嗟にどう動くかが生き残りに大きく影響を与えるわけだ」

 

 イリーナは状況を見守りながら、彼の話を聞いていた。彼は話を続けた。

 

「もちろん結果は誰にもわからない。だがその予想を立てるのもなかなかの一興なのだよ」

「はぁ…」

 

 イリーナは生返事をした。彼女には今なぜ彼がそんな話をしているのかが理解できなかった。

 

「わかってなさそうだな…、まぁいい。この勝負の決着が付いたら話をしよう」

 

 彼らは再びモニターを食い入るように見つめたのだった。

 

 牢獄は人数が相当増えて賑やかになっていた。彼らの中でも今の話題はアーシュラとノエルでもちきりだった。二人はいわば敗者復活組。牢獄にいた者にとっては共に戦った仲間であり、このゲームの最後の希望の星なのだ。エリアは前半戦のノエルとのやり取りを思い出していた。自身とイデアを守るため犠牲となった彼ではあるが、持ち前の身体能力を発揮し、復活ゲームを勝ち取った。きっと彼ならばこのミッションを突破し乗り越えられると信じていた。

 

「ノエルはきっと乗り越えられるわ」

 

 隣にいたイデアがエリアの考えていることを察し、話しかけてきた。彼女は短く「ええ」とだけ答えた。残り時間が9分をすでに切っていた今では、あれだけやかましかった牢獄もしんと静まり返り、今まだ逃げ続ける逃走者たちの成功を祈っていたのだった。

 

 その残ったうちの一人であるノエルは絵画の間に現れたドアを通って階段を下りていた最中だった。この先には同じく復活組であるアーシュラがいるのは間違いない。彼女に任せてもいいのかもしれないが、その場合万一彼女が失敗するとミッションの影響で自分も助からないだろう。彼はあたりを注意深く警戒しながら、ハンターがいないと確認すると素早い走りで移動していく。彼は道中蹴破られたドアを見かけるが、考えている暇はなかったのかそのまま過ぎ去っていった。

 

 一方もう一人の逃走者、アーシュラはこの屋敷の最深部へと来ていた。ドアを開けると薄暗い部屋の中に壁しか見えなかったが、そろりそろりと近づくと両側から2階へと伸びる階段であることがわかった。

 

(これまでに会ったハンターは2体……、きっと最後の一体はこの上の階に潜んでいるのだろう……)

 

 残り時間が8分を切る。これ以上考える猶予もない。彼女は意を決しゆっくり階段を上った。階段を上り切ると、本棚がぎっしりあたりを覆っていた。道はだいぶ入り組んでいる。この中のどこかにハンターが潜み、そしてミッションを終了させる装置が存在するのだろう。足音を消してそっと侵入する。棚を一つ一つ丁寧に確認し奥へと進む。するとわずかばかり物音がした。

 

(足音…!? それも近い!!)

 

 彼女は身を翻し速やかに棚の影に隠れる。ハンターは気付かず、そのまま歩いているようだ。

 

(っ…、慎重に、慎重に……)

 

 自分に言い聞かせつつハンターが遠のいてくのを見計らってその奥へと進む。だが彼女が進んだ先に驚く人物がいたのだ。彼女が先ほど倒してしまったあお神のハンターだ。ハンターはここで復讐とばかり勢いよく彼女へと突進した。だが彼女より遅いため、彼女は大きめにバックステップを取り、一つ後ろの本棚の通路へと移動。だが大きな足音が響いたためか、もう一体のハンターにも気づかれた。音のする方向へ素早く駆けだした。彼女はそのハンターを確認すると、その初動を見ただけで相当足が速いと判断、方向を転換し本棚で体を隠しながら逆側へと移動する。片方のハンターからは距離をとることはできたが、もう片方は距離を稼ぐこともできないほど速い。彼女はそのまま猛スピードで奥を目指すと、この建物に入って見たこともないような巨大な絵画が目の前に現れ、その下部にはミッションにかかわっていそうな機械を発見した。彼女はスピードを緩めることなくそれに接近する。ハンターもすぐ真後ろに迫っていた。

 

(お願い、届いて!!)

 

 彼女は手を思いっきり伸ばす。ハンターも飛びついていた。その軍配は…。

 

 別の場所では、ノエルがこの部屋に接近していた。彼はハンターに遭遇し危機に瀕していた。追いつめられ確保されたと思った瞬間、体の力が一気に抜け、意識が別の場所へと瞬時に移動していく。ミッションをクリアしたことで魔法「テレポ」が発動したのだ。

 

「っ!? た、助かったのか…?」

 

 彼は周囲を見渡す。ミッション終了時の条件に「テレポ時はハンターが周囲100メートルにいないことが条件」であるためすぐさま捕まるような恐れはない。だが見たことのない建物の中にいた。

 

「せめて窓を探さないとな…」

 

 彼が窓を覗くと、ジドールの街の中であり、近くにはアクセサリー屋が見えた。そして向かいには武器屋があることから宿屋であると判断できる。そして先ほどまで上空を支配していた飛空艇2隻もミッション終了を受けて姿はどこにも見られない。

 

「残り時間は…、6分か、この中で隠れて待つか…」

 

 彼は残り時間を隠れる選択肢をとるようだ。

 

 一方ミッションを無事成功させたアーシュラは薄暗い場所にいた。

 

(…鉄骨の上……?下には木製の床…?ステージかしら…)

 

 そう、彼女が飛ばされた先はオペラ劇場の屋根裏である。そして構造上建物の端に存在するので、万が一ハンターが追って来たら逃げ道はない。この細い鉄骨を走って逃げるのは彼女にとっても、追うハンターも一苦労するかもしれない。アーシュラは残り時間を見ながらゆっくり考えた。

 

(万一ここから飛び降りて移動することはできるかもしれないが、着地時の音はきっと防げない…。あくまで奥の手としてここに潜伏してましょう…)

 

 残り時間が5分を切った。ハンターも残り時間わずかとなってからか、怪しいところを念入りに調べ始めた。そのハンターたちの姿が確保された逃走者たちからは丸わかりだった。あるハンターは競売場の近辺を、他のハンターはチョコボ屋の中を、そしてもう一人はオペラ劇場の客席だ。

 

「どっちにもハンターが近い…!」

 

 クルルは逃走者が見つからないよう必死に祈った。その気持ちは他の逃走者たちも同じだった。

 

「きっと、にげる、あいつら」

 

 ガイも同じ気持ちで呟く。

 

「あの二人を信じて待つしかないです」

 

 ラーサーは共に戦った仲間を信じ呟く。

 

「黙ってあいつらの無事を信じて待つしかねぇのか、じれったいぜ」

 

 シドは決着の時が待ちきれないようだった。

 

「私のように優雅に舞いながらハンターからかいくぐれば問題ないだろう」

「あなたこっち来てから割と早く捕まってなかったっけ?」

 

 エドガーの呟きにリディアがすかさずツッコむ。彼らが祈っている間にもハンターは動き続ける。そして逃走者のうちの一人であるアーシュラはハンターとの距離を詰められた。

 

「ッ!?」

 

 見つかった。客席にいたハンターは移動し屋根裏に入るとそこにいた彼女は姿勢を低くして慎重に足場を踏みしめできるだけハンターから距離をとろうとした。彼女の体幹の力は鍛えられて、正確なステップを刻むことができるのでよっぽどのことがない限り、細い鉄骨を踏み外すことはないだろう。だが行き止まりへとたどり着いてしまった。ハンターも慎重に彼女を追いつめた。彼女は目を閉じすっと息を吐くとその場からステージへ向かって飛び降りた。

 

「「!!?」」

 

 確保された逃走者たちは彼女の意を決したダイブに度肝を抜かれた。ただ一人、ゼルだけは何も驚いてはいなかった。

 

「あいつはその場の地形なんて関係ないんだ。ガーデンの時だって、あのでっけえ屋敷の中でだって、そうだった」

 

 彼の予想通り、ハンターも一旦は躊躇し立往生をしていたが、すぐさま飛び降りる。だが彼女はすでに着地するとすぐさま駆けだしていたので、ハンターからわずかばかり距離を稼いだかのように見えた。彼女はそのまま正面の出入り口に向かって駆けだしていたのだが、不運にも街の方から別のハンターに遭遇してしまった。

 

「くっ…」

 

 彼女は短い声を出して急ブレーキをかけると右手側の客席へと向かう。だが今の急ブレーキの衝撃からか、少しばかりスピードが落ちていた。向きを変え再び駆けだすが、彼女はそのまま階段を上ったところでハンターに確保された。

 

「ここまで…ね。まだまだ力不足でした…」

 

 彼女は自分を捕らえたハンターの方へ向き直ると右手の拳を左手の掌に合わせた。彼女なりのハンターへの礼儀なのだろう。

 

 彼女が確保された瞬間、牢獄では衝撃が走っていた。この逃走者たちの中で何回もハンターから逃げ延びた彼女が捕まってしまっては逃走者に勝ち目がないものだと錯覚させてしまうからだ。そしてその連絡は唯一の逃走者――ノエル――にも届いた。

 

「あいつが捕まったか…、俺はこのまま隠れているべきか、それとも動いた方がいいのか…?」

 

 彼がそう考えている間にもハンターは競売場を出て、ノエルのいた建物へと迫っていた…。残り時間は4分。最大の賞金144万ギルはもう目の前である!

 




 出番があんまりだったレイチェルさんは復活してここで出てきましたが、このハンター自体しゃべらせることがほとんどないので結局空気になってしまいました。一応次回で逃走中のゲームは終了しますが、エピローグとしていくらか紹介していきたいと思います。


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最後に笑うのは

 逃走成功か、確保か…。最後に笑うのは誰になるのだろか。


 最後の逃走者であるノエルは隠れ続けるべきか、動くべきかで悩んでいた。だが自分のいた世界でハンターをやっていたためか耳は鋭かったので、ドアが開く音がはっきり聞こえた。今残っている逃走者はいない。必然的にハンターであることがわかる。一度じっくり探されたらもうなすすべは無い。もう一度彼は今の状況を整理してみた。ここは宿屋、ベッドなら割と多く存在している。一度逃げるタイミングさえ確保できればこの大量のベッドをかいくぐって追いかけるのは困難だ。

 

(…、そうか!いける!)

 

 彼は何を思ったか彼の部屋の枕をかき集め、部屋の奥の一か所のベッドに詰め込んだ。そして彼は入り口付近のベッドの下に潜り込んだ。ハンターが部屋に入ってくると部屋を探す中で、あるベッドが目につく。人一人分入っていそうなベッドに接近、めくろうとした瞬間だ。

 

(今だ!!)

 

 ドア付近のベッドからすかさず身を出し、ノエルは逃走を図った。ハンターもそれに気づき追いかけるが、ノエルのほうが出口に近く、また先にスタートを切っていたため、また逆に出口からは遠く、ベッドが多く並ぶ閉所ではハンターの強化されたスピードが逆に仇となりなかなか加速ができない。彼は一目散にこの宿から抜け出し、とにかく上を目指した。アウザーの屋敷に再び入ることはできないが、上のほうが街全体の状況を把握するのに都合がよく、またラーサーが屋敷周辺の木々に逃げ込んで、そのまま逃げとおせたことからそのまま隠れることで逃げおおせることが可能だと考えたからだ。彼が階段の方へと向き団の一歩目を上がるやいなや、宿屋のハンターもようやくドアを開けた。彼はなんとかそのハンターの視界からは逃れることができたが、運悪く高所に行ったことで、オペラ劇場からジドールの街に戻ってきた別のハンターに見つかってしまい追撃を受けた。

 

(残り1分30秒…ッ!)

 

 階段を急いで登り終えたノエルはちらと残り時間を確認する。彼が後ろを振り向くと、宿屋からではなく、それよりもやや遠い道具屋あたりからハンターが追いかけてきているのを確認すると、右手に曲がり茂みの中へと駆けこむ。駈け込んでからもスピードを緩めることはなく、その視界の悪さを利用しながら屋敷の裏へと逃げ込む算段だ。だが宿屋から出てきたハンターも、道具屋から競売場を経由するハンターの様子を見て逃走者が上にいるという判断を下し、猛スピードで迫ってくる。2対1という不利な状況になってしまった。彼は屋敷の裏の森の深いところにうつ伏せになる。ハンターからは一番距離を稼げる場所である。荒い呼吸を少しずつ抑え、時間を確認すると残りは1分を切っていた。

 

 牢獄では逃走者たちは静まっていた。たまに盛り上がりを見せるが、先ほどみたいに騒ぎ立てるのではなく、ハンターの行動に時たま声が上がったり、ノエルには届かないだろうが、声援を送るものもいた。その中にはつい先ほど確保されたアーシュラとファリスがいた。アーシュラが必死に祈る姿を見てファリスはふと笑った。

 

「?? 何かおかしいですか?」

 

 アーシュラは怪訝そうに言った。

 

「いや、そうじゃない。俺は今どんな気持ちだと思う?」

「う~ん…、わかりません…」

 

 ファリスはモニターを眺めながら言った。

 

「俺はな、今たまらなく悔しい。もちろんこうして笑っちゃいるけど、本当は叫びたいくらい悔しい。だけどその一方で、俺らの仲間がまだ諦めず戦っている。お前だけじゃなく、ここにいる皆がそう思っている。それがわかって今は、叫びたい自分が抑えられて少しばかりほっとしているんだ」

「……、よくわかりませんが、私の気持ちも例えるならそのような感じになるのでしょうか」

 

 アーシュラも彼女の意見に同意したようだ。彼女らの願いに呼応するかのように他の逃走者も次々に祈った。

 

「できる、にげる、おまえなら」

 

 ガイは力強く彼の逃走成功を祈る。

 

「皆心が一つにまとまってあなたを応援してる…」

 

 リディアは純粋な心で彼の逃走成功を祈る。

 

「お前の物語、見せてみろ」

 

 アーロンは彼の逃走成功を目に焼き付けようとモニターを凝視する。

 

「僕たちが成し遂げられなかったこと…、それがもう達成されるでしょう」

 

 ラーサーはノエルが自分たちの後悔を晴らしてくれると信じてやまない。

 

 彼に声援を送っていたのはここの者だけではない。街の上空から消えていたブラックジャック号は街から少し離れた場所に着陸をしていて、そこではリルムも必死に祈っていた。彼女は先ほどまで自分に自信が持てなかった。彼女の祖父ストラゴスには今までさんざん苦労をかけた。強がって、本当は嬉しくて、悲しくて泣きたいようなことも堪えてきた。ただ祖父はそんな彼女にはとやかく言わずずっと支えてきてくれた。何か形になるお返しがしたかった。だが結果として弱い自分が勝負を諦めてしまったのだ。彼女は本当の自分はどっちなのか、それでずっと悩んでいた。だがノエルの活躍や、他の逃走者を見ているうちにその曇りは少しずつ変わってきた。その心境の変化の中彼女は彼の逃走成功を願っていた。

 

「お願い、あと少しだけだから逃げ延びて…!」

 

 残り時間が20秒を切る。ノエルの近くで落ち葉や枝が踏まれ音が響く。ハンターがどうやら近づいているらしい。ここまで来ては下手に動いて回るよりじっと息を潜めている方が賢明である。とはいっても近づいてくる足音に不安は隠せない。熱くもないのに眉間から汗が流れ落ちる。たった20秒がとても長く感じられた。カウントダウンが始まる――――。

 

――

 

――――

 

―――――――

 

Rrrrr!Rrrrr!一通のメールが転送された。

 

「逃走者ノエル、無事逃走終了。賞金144万ギルを獲得!!」

 

 牢獄内は歓喜に満ち溢れた。

 

「俺…、やったのか…」

 

 いまいち実感が沸かなかったのか、静かに呟くノエル。だが時間の経過とともに達成したという実感が沸いてきた。彼は転移魔法「テレポ」で全逃走者が集まる飛空艇に飛ばされる。確保された逃走者のいる牢獄の目の前に彼が向かおうとすると、脇にはある少女が入りにくそうにしていた。途中で自首をしたリルムだ。彼に気付くと彼女は何か申し訳なさそうな表情をして言った。

 

「あんた…、すごいじゃん…、私なんて…」

 

 落ち込む彼女に彼は気を効かせて言った。

 

「途中で自首したってそれは恥ずかしいことじゃない。君の年でここまで頑張ったんだ。自信を持てばいい」

 

 彼はそう言って彼女の頭をわしゃわしゃ撫でる。

 

「ちょ…、こら、頭撫でるな~!」

 

 彼女はくすぐったそうに身を大きくよじった。彼はそれを見てくくっと笑った。

 

「ほら、ちょっとは元気出ただろ?」

「あ…」

「ほら、行くぞ」

 

 彼女が少し元気出たところで彼は彼女の手を引き一同の待つ部屋へと向かった。中で待っていた逃走者たちは意外な組み合わせで入ってきたのには驚いた。が、それも束の間、二人は祝福された。ノエルはただ謙遜するのみだった。仲間のおかげで勝てたのだと。どの場面でも彼は確かに仲間を引き連れていた。彼と行動して助けられたという逃走者も少なくなかった。そのやり取りをリルムは凝視していた。

 

「おめでとう、ノエル君、リルム君」

 

 突如声がし、一同が振り返ると神羅カンパニーの一同が立っていた。ハンターをしていたレノ、ルード、ツォンもその場に居た。社長はそのまま続けて言った。

 

「君たちは知恵を絞りぬいてこの戦場の中を見事に逃げ切った。これは約束の賞金だ。受け取るといい」

 

 イリーナがノエルには満額の144万ギル、リルムには99万1200ギルが手渡された。二人は大金を手にすると、カメラの前で満面の笑みを浮かべた。再び後方の逃走者たちからも惜しみない拍手が起こり、こうして逃走中の第一回は無事閉幕した。

 

――

 

――――

 

―――――――

 

 ロケから数日後、無事テレビ放映が各地に流れた。テレビと言う技術も世界によっては普及してない場所もあったが、これを普及ついでに放映したので、各地では逃走中に扮したゲームが盛んに行われるようになった。後々神羅カンパニーはこれを機に興行収入を大きく得て、メテオや魔晄炉による星の蝕みを徐々に復興させていった。その放送の最後に述べた社長の言葉で締めくくられた。

 

 

 

諸君、神羅カンパニー社長のルーファウスだ。これで第一回の逃走中はすべて終わった。逃走者の分だけドラマがあったこのゲームはいかがだっただろうか。普段かかわることがないであろう人物が絡むことで、予想できない展開を次々生み出された。それが筋書きのないドラマとなり、視聴者にさまざまな感情を掻き立てただろう。各世界にいる強者、勇者はまたこぞって参加してほしい。そして再び新たな逃走劇の1ページを君たちの手で書き込んでくれたまえ。

 




 ここまで読んでくださった読者のみなさん。ありがとうございました。これで本編は一旦区切り、エピローグを2回ほどいれまして締めたいと思います。やっぱり逃走中を文体だけで表すのは難しく、また狭いマップでどうキャラが動くのかとかハンターはどれくらい速いのか書くのに相当苦労しました。最後に感想や評価をしていただけると幸いです。ちなみにここでいただいた感想はエピローグの2回分のうちの1回「神羅カンパニーの反省会(仮)」にて小説のネタorコメ返しとさせていただく次第であります。仮に何も感想が無くても、個人で反省した方がいいなと思った点をネタに書いていく予定です。2月の中旬ごろまで受け付けます。


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