やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 (部屋長)
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序章 そして、比企谷八幡は決意する……?

 冬休みも残りわずかになり、ベッドでゴロゴロしながら憂鬱になっていると、ふと思ったことがある。いや、ふと思ったってのはおかしいな。昨日からずっと悩んでいることだし。

 

 最近暇つぶしに小町から少女漫画を借りたら、予想以上に面白くて1日で全部読み終えたのだ。それであることを思ってしまった。

 

 

 ……彼女が欲しい……

 

 

 まさか少女漫画に影響されてそんなことを思うとは思わなかったけど……。まぁ俺も捻くれてはいても一応高校生だしな。

 

 彼女が欲しいと思ってからの俺の行動力は凄まじかった。それはもう自分でもびっくりするくらいには。小町から他の少女漫画を借りたり、恋愛ドラマ、映画に雑誌、それはもう手当り次第に漁りまくった。あとは暇つぶし機能付き目覚まし時計を目覚まし以外で久々に使い、女子にモテる方法やら、女子が胸キュンする男の仕草とかを、内心うへぇ……と思いながら見てた。とりあえず理解はできないが無理やり理解した(矛盾)

 

 もちろん小町は俺の変化に大喜びしてくれた。「あのごみいちゃんが彼女を欲しがるなんて……。なにがあったかしんないけど早くお義姉ちゃんを連れてきてね!」って言われた。俺が彼女を欲しいとか言ったら全米が鼻で笑うレベルだと思ってたけど、さすがは我が妹。いつも俺の味方をしてくれるのは、八幡的にポイント高いぞ。

 

 とりあえず学校が始まったら身につけたスキルを試してみよう。まず身についてるかも分からないしな。 もちろん見た目を変えるのはなしだ。ぼっちは目立ってはいけないからな。俺がワックスつけたり、眼鏡かけたりなんてしたら悪目立ちしそうだし。というか確実にするな。

 

 あとは誰にそのスキルを試すかだな。まぁそれは誰かと2人きりになったときでいいか。

 

 久々に学校が楽しみだ。これで彼女ができたら一気に勝ち組だろ。悪いな材木座、俺はお前の隣にはもう立てないようだ……。ここは1つ気合を入れて叫ぶか。

 

「ぅおっしゃー! やるぞー!」

 

「お兄ちゃんうっさい!」

 

「あ、はい。すみません」

 

 忘れてた。小町ちゃん勉強してたのね……。今度プリンでも買ってあげるか。優しい小町ならプリンで許してくれるよね!

 

 今の俺は中学時代の二の舞にはならんぞ……。いや、一歩間違えたら確実に黒歴史が増えるな。まぁ今さら黒歴史が増えてもなんとも思わないけどな。でもこれでダメだったら二度とメディアは信じられないけど……。

 

 なら絶対に落として彼女持ちになってやるぜ……!

 

 




 はじめまして!こんな感じでやっていこうと思ってます!

今回は八幡の心情の変化のみなので次回からはヒロイン達とイチャイチャさせていこうと思います。

八幡は彼女が欲しくなっていて積極的なので、いつもと違う八幡を楽しんでくれたらなによりです。

というわけでこれからよろしくおねがいします!



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いろはす√ あざとかわいい後輩と……。【前編】

 

 冬休みが終わり、学校が始まってから1週間がたった。

 未だに女子と2人きりにはなれていない。今さらだけど俺が女子と2人きりになることなんてなくね? クラスで女子と話すことなんてないし、奉仕部でだって由比ヶ浜が三浦とかと遊びに行くときくらいしか雪ノ下と2人きりにはならないし。

 あ、平塚先生とは2人きりになるときがあるな。いや、あの人は女子って年齢じゃ……これ以上考えるのはやめよう。

 

 今は奉仕部でいつも通り読書をしている。この1週間は特に依頼もなかったから平和だった。あったとしても何度か生徒会の仕事を(俺だけが)手伝わされたくらいだ。なんであの子は毎回俺だけ連れてくの? そんなに俺のこと好きなの? 俺的には大歓迎だよ?

 

 噂をすればなんとやら、扉が叩かれた。多分、というか間違いなくあいつしかいないだろう。

 

「どうぞ」

 

 柔らかい声音で雪ノ下が扉の方を見て声をかけた。雪ノ下も誰が来たのか分かっているのだろう。

 

「失礼しまーす……」

 

 扉が開くと、予想通り一色がいた。

 一色は泣きそうな顔をしながら俺の近くまで歩いてきて、俺の制服の袖をきゅっとつかんだ。ちょっ、急にそういうことするのやめろよ! この頃動悸がどーきどきってなっちゃうだろ! あ、それはちょっと違うな。たしかにどきどきはしてるけど。

 

「せんぱーい、やばいですやばいです……」

 

 今の一色を見てるとクリスマスイベント前に依頼をしにきたときを思い出すな。

 

 クリスマスイベント……。グランドデザイン……。うっ、頭が……

 

「いろはちゃん、どうしたの?」

 

 俺が謎の頭痛に襲われていたせいで、先に由比ヶ浜に聞かれてしまった。一色が泣きそうな顔をしているからか、由比ヶ浜は心配そうな顔をしている。由比ヶ浜いいやつだなー。でもこれって絶対俺が生徒会室連れてかれるだけなんだよねー……。

 

「えっと、先輩……、今日も生徒会の手伝い頼んでもいいですか?ちょっと色々と大変でして……」

 

「なにが大変なんだ?」

 

「今日生徒会の仕事があるのを他の役員の人に伝え忘れてて、わたしだけで仕事するしかないんです……」

 

 それ自分のミスじゃん。今日は2人だけかよ……。

 

 ……ん?2人だけ……?

 

「それって今日は俺とお前だけってことか?」

 

「そうなりますね」

 

 ……時は満ちた。やっとだ……やっと女子と2人きりになれるぞ……!

 

「よしっ、じゃあ行くか」

 

「……先輩どうしたんですか?いつもならもっと嫌がるのに」

 

 一色は俺のことを不思議そうにじっと見てきた。雪ノ下と由比ヶ浜も不思議そうに見てくる。そ、そんなに見つめられると照れちゃうんだからねっ……。ちょっと今のは気持ち悪すぎたな。

 

「あなたが自ら仕事をしようとするなんて……。明日は雪でも降るのかしら」

 

「ほんとだね。ヒッキー変なものでも食べたの?」

 

「いや、平気だけど?それに一色が困ってるんだから手伝うのは当たり前だろ。あと千葉はそんな簡単に雪は降らん」

 

 俺が仕事を進んでやるのはそんなに珍しいことなのん?うん、そうとう珍しいな。てか初めてかもしれん。

 というかなんで一色は顔赤くしてるの?

 

「と、とりあえず行きましょうかっ」

 

 そう言い、一色は俺の手をぎゅっと握って歩き出した。

 な、なんで手握ってきたの?雪ノ下と由比ヶ浜の視線が超怖いんですけど……。

 一色は小さな声で「あざとすぎですよ……」って言ってるけど、俺別に難聴系じゃないから普通に聞こえてますからね?

 

 ……手柔らかくて温かいな。なんかもう俺が落とされそうなんですけど……。

 

 絶対にお前のほうがあざといだろ……。

 

 

××××××

 

 

 特別棟から生徒会室まではかなり距離がある。今もまだ歩いているわけだが、なんでか一色とは手を繋いだまんまだ。一色はずっと下を見て歩いてるからどんな表情をしてるかは分からない。俺? もちろん俺はだらしない顔をしてるよ? だってやっと女子と2人きりになれるんだもん! これでテンション上がらずにいられるわけないだろ!

 

「……今日はなにやればいいんだ?」

 

 俺が「最高にハイッてやつだぜぇぇぇ!」ってなってるのをバレないように、いつも通り仕事の内容を聞くと、一色はびくっと肩を震わせゆっくり顔を上げて俺を見た。……そんな顔真っ赤にしてるなら手なんか繋がなくてもいいじゃん。

 

「え、えっとですね、最近たまってきた書類の整理ですね」

 

 要は片付けってことか。まぁいつもより楽ではあるけど、一色からしたら力仕事だしな。そりゃ1人じゃ辛いか。

 

「分かった。てかひとつ聞いていいか?」

 

「はい? なんですか?」

 

「なんで俺ら手繋いでんの?」

 

 一色は立ち止まり、あごに手を当てて考える仕草をしてから首を傾げた。

 

「……なんででしょうね?」

 

「質問を質問で返すなよ……」

 

 冬休みである程度そういうのに耐性がついたからよかったものの、今までの俺ならヒキガエルよろしく、粘液(手汗)で大変なことになってたぞ。うわ、自分で過去のトラウマを掘り返しちゃった……。

 なんかもう仕事も一色を落とすのもやる気失せてきちゃったよ……。

 

「でもこんな可愛い後輩と手を繋げてるんですよー?もちろん嬉しいですよね?」

 

 うーむ……いつもならあざといの一言で終わらせちゃうけど、ちょっと試してみるか。

 

 行くぜ、メディアの力を信じて......!

 

「まぁそうだな。お前可愛いし嬉しくないこともないぞ?」

 

 ……ちょっと最後は恥ずかしくて濁しちゃったけど、けっこうすんなり言えたな。

 実際一色が可愛いのは嘘ではないし、俺だってある程度は好意のあるやつじゃなきゃこんなことできないしな。それに名前も知らない女子になんてやったら犯罪者扱いされちゃうしね!

 

「ななな、なんで急に可愛いなんて言うんですか口説いてるんですか初めて可愛いって言ってくれたのはものすごく嬉しいですけどもうちょっと場所とタイミングを考えてからにしてくださいごめんなさい」

 

 一色は顔を真っ赤にして早口でまくし立てた。これは成功ってことでいいのか……? 早口すぎてなに言ってたか分からなかったけど、あわあわしながら腕をブンブンしてるし。

 しかも俺の手を握ってるから、俺も一緒にブンブン、ブンブン。腕が痛い……

 

 というかもう生徒会室通り過ぎちゃってるじゃん……。一色がずっと真っ直ぐ歩いてくから気づかなかったわ。それにさっきからずっと「可愛い……可愛い……えへへ」って繰り返してるし。

 あれだな、正直めっちゃ可愛いです。男に可愛いって言われるのは慣れてると思ってたけど、意外とウブなんだな。

 

「おい、もう生徒会室通り過ぎてるから。どこまで歩いてくつもりなんだよ」

 

「ふぇ?あ……本当だ」

 

 今の「ふぇ?」は確実に素だよな……。素でもあざといのかお前は……。

 

 生徒会室の前まで戻り、一色は慣れた手つきで扉の鍵を開けた。生徒会室の中へ入ると、繋いでいた俺の手を離して、にこっと微笑んだ。

 

「じゃあ頑張ってくださいね!」

 

「いや、お前も頑張れよ……」

 

 最初から他力本願すぎるだろ……と思いながら気付いたら一色の頭を撫でてしまった。最近そういう類のものを見すぎたからだな。流れるようにやっちゃったし。

 

 “頭を撫でる”という行為は、好きな相手にされるとドキッとするらしいが、好きでもない相手にされると嫌悪感しかないらしい。元から頭を撫でられるのを嫌いな人もいるらしいから、女心って難しいんだなって思いました(小並感)

 

 まぁこの情報が正しいなら俺は確実に一色に罵られるけどな。だって一色って葉山のこと好きじゃん? 好きでもない相手(俺)にされたりなんてしたら嫌悪感しかないんだろ? これもう終わりじゃん……。

 

「は、はい……あ、あの、が、頑張ります……」

 

 俺がまだ頭を撫でるのを続けていたからか、一色はうつむいてもじもじしながら答えた。

 

 あんれー? これってもしかしてそういうことなの?でも一色は葉山のことが好きなんだし……。

 

 とりあえず頭を撫でるのをやめて手を離すと、一瞬、本当に一瞬だけ一色が寂しそうな顔をした。

 

 はぁ……そんな顔されたらなぁ……。これはさすがに勘違いじゃないと思うしな。

 

「仕事」

 

「はい? 仕事がなんですか?」

 

「仕事終わったら、また頭撫でてもいいか?」

 

「え、えっと、しょ、しょうがないですね! べ、別に撫でても構いませんよ?」

 

 ……なぜか上から目線で言われてしまった。でも一色さん? 頬が緩んじゃってるのは隠せてないですよ?

 

「はいはい。じゃあとっとと終わらせますかね……」

 

 仕事が終わった後をほんの少しだけ楽しみにしつつ、俺と一色は仕事を始めた──。

 




 中途半端に終わってしまってすみませんm(__)m
次回はもっとイチャイチャさせようと思います!


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あざとかわいい後輩と……。【中編】

 

 仕事を始めて、30分ほど経っただろうか。

 さっきまで会話もなく黙々と仕事を続けていた一色は、暇になったのか俺のことをちらちらと見てくる。その目は「早く話しかけろよ」と言いたげで、思いっきり不満が滲み出ている。え、何? 俺から話しかけなきゃダメなの?

 

「……なぁ」

 

「はい? なんですかー?」

 

 一色は待ってましたと言わんばかりに表情を明るくした。どうしよ……なんも面白い話なんてないんだけど……。

 

「えーっと、お前ってその、まだ葉山のことが好きなのか?」

 

 ……俺何言ってんだろ……。でもまあ、聞いておいて損はないだろ。一色が今も葉山のこと好きなら俺が落とすのなんて不可能だしな。

 

「もちろんそうですけど?」

 

「……だよな」

 

 あぁ……やっと女子と2人きりになれたのになぁ……。

 俺が落胆して肩を落としていると、一色は何かを思いついたのか意地の悪い笑みを浮かべた。うわぁ、良い笑顔だなぁ……。

 

「あれー? もしかして先輩嫉妬してるんですかー?」

 

「……してる、かもな」

 

 これぞ必殺、『お前のこと意識してますよ』アピールだ。こうやってあざとく答えれば大抵のやつは「あれ? これ俺のこと好きなんじゃね?」と勘違いする。後、大事なのは濁して答えることだ。そうしないと明確な好意があると思われるし、相手が自分に好意がなければ、都合の良いやつとして弄ばれてるだけだしな。ソースはもちろん一色。こいつのあざとさに一体何人の男が騙されたんだろうか。騙されなかったのって俺と戸部と葉山くらいじゃないか?

 まあ普段一色がしてることを本人にしても無意味だろうけど、今後の為にも軽い練習はしておこう。

 

 ……それに嫉妬してるってのはあながち嘘でもないしな。俺って独占欲強すぎ?

 

「ふぇ? え、ほ、ほんとに嫉妬してくれてるんですか?」

 

 んん? な、何この反応。なんでちょっと頬を赤らめてるのん?

 ……もうちょっとだけ押してみるか?

 

「さあな、どっちだろうなー」

 

 あ、さらに濁しちゃった。全然押してないじゃん。むしろ引いてるまである。

 一色は俺の言葉が気に入らなかったのか、俺の制服の袖をくいくいと引いた。

 

「せんぱーい、どっちなんですかー?」

 

 ふぅ……落ち着け、落ち着いて押してみよう。もしかしたらこれで一色が俺のことをどう思ってるのか分かるかもしれないし。

 

「……してるぞ」

 

 あ、断言しちゃった。ううむ、こういうのって意外と難しいもんだな。

 さて、一色の反応は?

 

「ななな、なんですかそれ口説いてるんですか急に嫉妬してるなんて言われたらなんかもう嬉しいですし恥ずかしいですし心の準備がまだ……」

 

 一色の顔はみるみる赤くなり、視線を泳がせてから俯いてしまった。

 ……これはあれだな、落とせるかもしれん。というか既に攻略済み? だっていつもみたいに振られてないし、心の準備って何なの? 俺別に告白とかはしてないからね? それに君葉山のことが好きなんじゃないの? 

 

「とりあえず落ち着けって、な?」

 

 そう言い、俺は一色の頭を撫でた。仕事が終わった後に撫でる約束だったけど、一色を落ち着かせるためだからしょうがないよな。

 ……俺ってこんな簡単に女子に触れるようなやつだったっけ? 気にしたら負けだな、うん。これは一色を落とすためだ。そう、落とすためだから。

 

 俺が一色をひたすらナデナデしていると、耳まで真っ赤にした一色が顔を上げて急に立ち上がった。……びっくりするからやめてくれよ……。

 

「そ、そうだ! 先輩ってアイス食べますよねー?」

 

「は?」

 

 ……まじで話がぶっ飛びすぎて何言ってるか理解できなかった。こいつはいつも突拍子もないことを言うからほんとに困る。

 一色は完全に私物である冷蔵庫からアイスを取り出してきて、トトロのカンタばりに「ん!」と言い俺に押しつけてきた。あれカンタが将来良い男になるって分かった名シーンだよな。

 

「お、おう。ありがとな」

 

 勢いに負けて普通に受け取っちゃったけどこの季節にアイスって……。一色さんちょっと悪意がない?

 

 とりあえず一口食べた。うん、冷たい。知覚過敏じゃないと信じたい。てか一つ気になることが。

 

「お前のはないのか?」

 

「あ、わたしは大丈夫ですよ? それは日頃のお礼ってことで受け取ってください」

 

 そのお礼の気持ちは嬉しいんだけど俺だけ食ってるのもな……。あ、ここであれを試してみるか。

 

「いや、俺だけ食うのもあれだろ。ほれ、あーん」

 

「え!? ほ、ほんとにですか?」

 

「いいから早くしろよ。溶けちゃうだろ」

 

 まあ溶けるわけがないんだけど、正直これは恥ずかしいから早くしてもらいたい。まず間接キスだし。今日は気にしたら負けなことが多くて困るぜ。

 

 一色の口元にスプーンを差し出すと、「間接キスがぁ……」「先輩が積極的すぎるよぉ……」とかうんうん唸っている。そんなこと分かってるから早くして欲しいんだけど……。この体勢結構キツいから腕がプルプルし始めた……。

 

 決心がついたのか、一色はすーはーと深呼吸をしてから勢い良くパクリと食べた。

 

「美味しいか?」

 

「はい……、甘すぎです……」

 

 一色のそれは味の感想だけなのか、はたまた別の物なのか。

 ……ま、これも気にしたら負けだな。何も今日一日で落とそうとしてるわけじゃないんだし。

 

 とりあえず俺もまた一口食べた。うん、やっぱ美味しいけど冷たい。一色は「なんで先輩平気そうにしてるのぉ……」って言ってるけど、家に帰ったら発狂するから心配すんな。

 

「まだ食うか?」

 

「え、えっと……た、食べます」

 

「ん、あーん」

 

 さっきと同様、一色は深呼吸をしてからパクりと食べた。

 なんだか今の一色は、普段のあざとさがなくて小さい子どもみたいだな。口元にちょっとアイスついてるし。うん、今の一色をロリはすと名付けよう。これはロリエたんに並ぶ革命だな……。

 

「ちょっと動くなよ」

 

 今の一色を見てると小さい頃の小町を見てるような感覚がして、何を血迷ったのか俺は一色の唇にちょこんとついたアイスを人差し指で取り、そしてそのまま食べてしまった。

 ……やばい、ここまでやるつもりは……。

 

「なななななにしてるんですか!? 今日の先輩いつもより変ですよ!?」

 

 一色の顔はこれでもかってくらい真っ赤になってぷんすか怒りだしてしまった。

 というかいつもより変ってひどくない? 俺っていつも変だと思われてんのかよ……。

 

「す、すまん。さすがに嫌だったよな」

 

「い、いえ、嫌ってわけじゃ……せ、先輩になら別に……」

 

 一色さんちょっとデレすぎじゃないですかね……。俺がちょっと変わるだけでこうなるのか。

 

「……まだ食べるか?」

 

「た、食べます……」

 

 一色は俯きながら小さな声でもにょもにょと答えた。

 

 ……あれだ、もう正直言おう。めっちゃ可愛いんですけど! 何この子! あざとくないとこんな可愛くなるなんて聞いてないんですけど! いや、最近はあざとくても可愛いと思ったこともよくあったんだけどな。

 俺が心の中で一色を褒めまくってると、一色は待ちきれなかったのか目をうるうるさせながら俺の手をぎゅっと握ってきた。

 

「せ、先輩……早く食べさせてくださいよぉ……」

 

 ぐはぁっ! え、今の破壊力は何? 手握ってきた意味なくない? なんであなたこんなに可愛いの? ははっ、もうこれ俺が落ちそうなんですけど……。

 

「お、おう。あーん」

 

「あーん、……ん、美味しいですね」

 

 ……いや、これはもう無理だろ。一色さんロリはすじゃなくてエロはすに進化しちゃった? さっきと違って口の開け方といい妙に色っぽかったんですけど……。 

 

 結局この後、俺は食べずに一色にひたすらあーんをした。だってしょうがないだろ! 一色が頬染めながら色っぽくアイス食うのを目の前で見ちゃったらそりゃ何度でも食わせたくなるだろ! 

 

 結論:冬でもアイスは最高でした☆

 




次回でいろは√ラストです!ラストにできるかな……?

とりあえず今回もお読みいただきありがとうございました!



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あざとかわいい後輩と……。【中編②】

 

 アイスを食べ終わって(結局俺はほとんど食べてない)から再び仕事を始めたが、一色はさっきの事もあって落ち着かないのか、全然集中出来ていない。もちろん俺も仕事に集中出来るほどのメンタルはなかった。さっきの一色の艶っぽい表情を思い出すだけで顔が熱くなる。 

 はぁ……俺が落とそうとしてるのに、逆に落とされそうになるとは思わなかったわ……。

 

「先輩どうしたんですか? さっきからわたしのことずっと見てますよね?」

 

「ばっ、べ、別にお前のことなんか見てないんだからね!」

 

 俺の唐突なツンデレ発言(気持ち悪い)に一色は心底蔑んだ目で見てきた。そっちの趣味はないからパスでお願いします。

 

「今のは本当にドン引きなんですけど……。先輩にツンデレは似合いませんよ」

 

「そんなん自分でも分かってるわ。てかお前だって俺のこと見てきてんだろ……」

 

 さっきから一色が俺のことを見てくる回数は、はっきり言って異常だった。それはもう俺もドン引きするレベル。三秒に一回は見てきた……と思う。自意識過剰じゃないよね? 勘違いじゃないと信じたい。

 俺も一色のことが気になってチラチラ見てしまうから、ほとんど見つめ合っている状態だ。ぼっちは人と視線を合わせるのが苦手だからドキがムネムネしてしまう。まあ視線が合う前からずっとムネムネしてるんだけど。

 

「わたしは先輩のことなんか見てないですよ?」

 

 どうやら自意識過剰だったようだ……とは言えないな。そこでしらばくれるか普通……。

 

 ちょっとイラッとしたから、また意識してますよアピールでもしてみるか。

 

「はいはい、そうですか。俺は普段から割と一色のこと見てるんだけどなー。一色は俺のことを見てくれないのかー。残念だなー」

 

 ……超適当だな。自分でも信じられないくらいの棒読みになってしまった。さっきからムネムネしすぎてこんな甘ったるいこと言えるほど余裕がないわ……。これじゃいつも通りドン引きされるなぁ……。

 

「え、えっと、さっきのは冗談でそ、その、わたしも先輩のこといつも見てるというかなんというか……って何言わせるんですか、先輩のえっち……」

 

 俺の予想に反して、一色は指をもじもじと絡めながら、下を見つめて、ぼそりと呟いた。いや、この子何言ってるの? いつも見てるって何? ちょっと嬉しいんですけど……。でも最後のえっちってなに? じとっとした目でえっちなんて言われたら、ちょっと興奮しちゃうからやめてね?

 

「いや、それは理不尽だろ……」

 

「先輩がいつも見てるって言うのが悪いんですよ!」

 

「俺はいつもとは言ってないんだけど……。いつもって言ったのはお前だけだから」

 

「うっ……も、もう! 先輩のバカ!」

 

 ……うん、さっきからちょっと理不尽すぎる。一色のが俺よりムネムネしてると思うから勝負はここから俺のターンだ。というかいい加減ムネムネから離れよう。

 俺は隣に座っている一色の方に椅子ごと体を向けた。

 

「一色もこっちに椅子ごと体を向けてくれないか?」

 

 一色はなんで? と少し眉をひそめたが、素直にこっちを向いた。ううむ、素直すぎて将来変な男に引っかかりそうで怖い。だから俺が一色を貰おう。

 

 ……うん、今のはなし。

 

 気を取り直して、俺は一色の膝の上にちょこんと置いてある小さな右手を、両手で包み込むようにぎゅっと握った。

 

「いつも見てくれてるってのは嬉しかったぞ。ありがとな、一色」

 

「え? あ、あう、はうう……」

 

 言葉が出てこないか一色は唸りながら俯いてしまった。

 ポケモンなら「こうかはばつぐんだ!」ってなってるな。ならさらに追い込むか……。

 俺は両手で握っていた一色の手を離して(この時一色がめっちゃ寂しそうな顔をしたので、左手はまた握った)、右手で一色の頭を撫でた。

 

 なでなでわしゃわしゃ

 

「はう……せ、先輩」

 

「んー? どうしたー?」

 

 なでなでわしゃわしゃ

 

「あうう……え、えっと、今日の先輩っていつもより変ですよね?」

 

「それさっきも言われたんだけど俺っていつも変なの?」

 

 なでなでわしゃわしゃ

 

「ううう……だ、だって昨日までと全然違うじゃないですか。わたしがいくらアピールしても

、あざといとしか言わなかったのに」

 

 この子さっきから喋る度に唸り声違くて可愛いんですけど……。

 

「そりゃそうだな。周りに人がいる時にはこんなこと出来ないし」

 

 撫でられている間、俯いていた一色が顔を上げて、ちょっとだけ潤んだ瞳で俺のことを見てきた。

 

「じゃ、じゃあわたしも我慢しなくていいんですか?」

 

「? 別にいいんじゃないの?」

 

 我慢って何のことだ? てかがまんって技は不便だよな。がまんしてる間に倒されてしまうのが序盤のポケモンの鉄則だ。中盤頃にはがまんを使う相手もいなくなってるな。

 

「ほんとにいいんですね!?」

 

 え、何? さっきまで調子こいてた俺に制裁でも加えるの? 

 

「ん、いいぞ」

 

 一色は握っていた俺の手を離して胸の前でよしっとガッツポーズを作った。なにそれめっちゃ可愛いんですけど……。

 

「じゃ、じゃあ、お、お邪魔します……」

 

 お邪魔します? どこにお邪魔するのん? 隣の家の晩御飯に突撃するの? と思っていたら、椅子から立ち上がった一色は、座っている俺の上を跨って抱きついてきた。うん、これは対面座位と言うやつですね。

 

…………。

 

は!?

 

「ちょ、い、一色さん!?」

 

 やばい近い近いいい匂い柔らかいいい匂い柔らかい……じゃなくて、いや、なんでこんな柔らかいの? じゃなくて! 柔らかいのはもう分かったから!

 

「先輩が我慢しなくていいって言ったのが悪いんですからね?」

 

 そう言い、一色は俺の胸におでこをこすり付けてきた。

 

 ……うわああああ!!!! がまんが解き放たれたら強いのがたった今よく分かりましたよ! 次のシリーズからがまん愛用するからもうやめて!

 

「さ、さすがにこれはまずいって……」

 

 主に俺の理性とかが。下校時間も近いのに理性が崩壊なんてしたら、本当に大変なことになりそう。下校時間が近くなくても、学校で理性が崩壊した時点で終わってるけど。

 

「え、ダメなんですかぁ?」

 

 上目遣いと涙目のコンボで、八幡はたおれた。やばい、目の前が真っ暗になりそう。というかなった。さっきからなんでポケモンネタがこんなに出てくるのか謎なんだけど……。

 

「いや、ダメではないけど……」

 

 ここで断って泣かれたりなんてしたら、俺の人生が終わりそう。それに断ったら色々ともったいない夢シチュエーションでもあるし……。

 

「えへへえ……せんぱぁい」

 

 ……顔あっつ……。いや、もう恥ずかしすぎて死にそうなんだけど。とりあえず左手は一色が椅子から落ちないように背中に回すか……。

 

「んっ、くすぐったいですよぉ……」

 

 だ、誰かティッシュください……。今なら鼻血出せる。なんでそんな甘ったるい声出せるんだよ……。

 

「お前可愛すぎだろ……」

 

 今のは意図的に言ったんじゃなくて、素で言ってしまった。うはぁ……狙ってやってない分、俺もめっちゃ恥ずかしい……。

 

「え、ほ、ほんとですか?」

 

 一色は顔を上げて、嬉しそうな、それでいて泣いてしまいそうな顔をして俺を見た。

 

「……あぁ、ほんとだよ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「おう。というか顔近いから……」

 

 さっき一色が顔を上げてから、吐息がかかるくらいの距離になっている。なんでこんな甘い匂いすんの? 同じ人間なんですか?

 

「あれー? 先輩もしかして緊張しちゃってます?」

 

 そう言って、あざと可愛い後輩はいつも通りの小悪魔的な笑みを浮かべた──。




勝負はここからいろはのターン!

今回もお読みいただきありがとうございました!


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あざとかわいい後輩と……。【後編】

いろは√ラストです!


 

 顔を近づけてきた一色との距離は、鼻先が触れてしまうのではないかというくらいには、近い。さらさらと揺れる亜麻色の髪の匂い、甘い吐息、女の子特有のふにっとした柔らかさが、もてあますことなく俺の心をもぞもぞとくすぐってくる。

 正直、そういうものに慣れていない俺としては、気がおかしくなりそうだ。

 

「この状況で緊張しないわけないだろ……」

 

 身じろぎながらも言うと、一色はふむふむと頷く。

 

「先輩ってほんとに女の子に対する免疫がないんですねー。他の男の子に同じことしたときは、そんなに慌ててなかったですよ?」

 

「そりゃこんな経験今までになかったからな……って、え?」 

 

 ……今なんて言った? 他の男の子? 同じことをした? え、嘘だろ……? 

 俺が錯乱状態に陥ってると、一色はイタズラが成功した子どものような表情でくすりと微笑んだ。

 

「もちろんわたしもこんな経験初めてですよ? もしかしてさっきの信じちゃいましたかー?」 

 

「はあ……もうなにも信じられないわ……」

 

 なんで俺はこんな簡単なことなのに騙されたんだろうか……。さっきの言葉を聞いたときは視界がぐにゃりと歪んだレベル。これはあれだな、今日一日で完全に惚れちゃってるわ……。

 一色は俺の肩に添えていた両手を、俺の首に回してさらに密着してきた。

 

「ちょっ、さすがに近すぎるんだけど……」

 

「……先輩、聞こえますか?わたし今すごくドキドキしてるんです。これでさっきのが嘘だって……わかりましたよね?」

 

「わ、分かったから離れてくれ。さすがにやばいから……」

 

「もー、なんですかその反応は。そこは「嘘で本当によかった。俺もドキドキしてるよ、いろは」って言ってくれなきゃだめじゃないですか」

 

 俺がそんなこと言ったら吐き気しかしないと思うんだけど……。でもまあ、これくらいなら言ってあげてもいいか。

 

「俺もドキドキしてるぞ……い、いりょは……」

 

 ……か、かっこわりぃ。やっぱりやらなきゃよかったわ。つーか、女の子を名前で呼ぶとか、俺にはやっぱ無理だな、うん。いや、まあ、必要があれば慣れなきゃいけないんだろうけども……。

 俺のキョドりっぷりに、はあと一色がため息をこぼす。思わず顔を逸らしてしまう。……ていうか、一色の息ってなんでこんなに甘い匂いすんの? 何食べたらこうなるんだよ。わたあめ? あまりにいい匂いすぎて、商品化したらすげぇ売れそう。むしろ買い占めるまである。

 

「やり直し」

 

「あ、はい」

 

 一色の鋭く低い声に、反射的にそう返してしまった。ふぇぇ……なさけないよぉ……。

 

「……もう。さっきまでのかっこいい先輩はどこいっちゃったんですかね」

 

 後輩に敬語を使っちゃうような情けない俺(呼称が長い)を見た一色が、耳元でいじけたような声振りで呟く。

 

「それ、普段はかっこ悪いってことになるんだけど……」

 

「そうですね。先輩はかっこ悪いです」

 

 心がへし折れそう……。この距離で面と向かってかっこ悪いって……。

 一色は目を閉じてから、ふぅと息を吐いて「しかも」と付け足した。

 

「先輩は葉山先輩みたいに運動も勉強もできないですし、人気者でもないし、むしろぼっちですし、いつも気持ち悪いこと言いますし」

 

「ひどい言われようだな……」

 

 否定できないからなおさら辛い……。

 メンタルブレイクしてがくりと肩を落とすと、どうやらまだ続きがあるらしく、一色が俺の頬を何度も軽くぺちぺちと叩いてきた。あの、痛くはないけどくすぐったいんですけど……。

 

「まだ続きがありますってば。先輩は素のわたしを見せてもちゃんと見てくれます。文句をいいつつも、いつも助けてもくれます。ちょっと捻くれてるけど、本当は優しいのも知ってます。そんな先輩と一緒にいると心がぽかぽかするんです。この気持ちは本物なんです」

 

「一色……」

 

 ……まさかここまで言われるとは思わなかった。さっきまでめっちゃ罵倒されてたのに、急にそんなこと言われたら恥ずかしすぎてやばいんだけど……。

 

「さっきやり直しって言いましたよね?」

 

 え、やり直しって名前で呼ぶやつ? このタイミングで名前で呼べと? 俺の心臓爆発させるつもりですか? これ字面にしたら疑問符ばっかりだな……。

 

 はあ……もう覚悟を決めるしかないか……。元々は俺が一色にアプローチしてこうなったんだしな。

 

「い、いろは……」

 

「ふふっ、合格です。先輩……大好きですよ」

 

 くすりと微笑み、一色はゆっくりと目を閉じて唇を重ねてきた。

 ……いきなりすぎて目を閉じることさえ出来なくなり、一色のことをまじまじと見つめてしまった。

 うわ……まつ毛なっが、肌白っ……。こいつこんな可愛かったっけ……。いや、ていうかなんかもう超可愛く見えてきた。というか俺、今日一日で可愛いって思いすぎだろ……。

 唇を離すと、一色は指で自分の唇をなぞり、うっとりとした表情で俺のことを見つめてきた。

 

「えへへ、キス……しちゃいましたね」

 

「……そうだな」

 

 これ以外返答の仕様がないだろ……。

 

「わたし、初めてだったんですよ?」

 

「そ、そうか」

 

 そう言われ、一色の口元につい目がいってしまった。視線に気付いた一色は、一度くすくすと笑った後、ずいっと顔を寄せてくる。

 

「はい。ですから……」

 

 一旦そこで区切ると、頬を赤く染め、瞳を潤ませ──。

 

「……責任、とってくださいね」

 

 あの日の帰り道と同じ言葉だ。あの時も一色は同じ意味合いで言ったのだろうか。まあなんにせよ、俺の答えは決まってるんだけどな。

 

「……わかった、責任はちゃんと取る」

 

 そして、今度は俺から一色の唇を重ねた。また一色のことを見たら本当に心臓が爆発すると思ったから、今回はちゃんと目を閉じた。まあ、もう既に一色の唇が柔らかすぎて心臓爆発しちゃってるんだけどね!

 

「んっ……ふ、ふふ、せ、先輩にしては上出来ですね!」 

 

 ここに来て上から目線ってなんなんだよ……。

 

「はあ……少しは先輩を敬うとかないのかよ……」

 

「あっ、そうだ」

 

 見事にガン無視された。なんのことだ? と疑問に思っていると、一色は「ちょっと痛いですよー」と言い、俺の首筋をちゅうっと吸ってきた。

 

「な、なにしてんの?」

 

「これで先輩はわたしのものです!」

 

 えへんと胸を張りながら、制服のポケットからコンパクトミラーを取り出し、俺の首筋を映し出した。

 まさかと思いつつ鏡を覗いてみると、くっきりと、彼女が吸い付いた箇所に赤い印ができている。

 ……マジかよ。こいつこんな目立つとこにつけたの。真正面とか、っべーわ。いろはすマジぱないわー。思わず戸部になってしまった。

 

「まあそんなのがなくても、もう俺はお前のものなんだけどな」

 

 一色の頭を撫でると可愛らしく「あう」と唸った。

 

「今のはずるすぎですよ……。やっぱりあざとすぎです……」

 

 なんで毎回俺があざといって言われるのかよく分からんな。というか一色が我慢するのをやめた後からは、いつも通りあざとかったし。まあそれも今じゃ可愛いと思ってしまうわけで……。

 あ、そうだ。

 

「一色、ちょっと我慢しろよ」

 

「ふぇ?」

 

 きょとんとして首を傾げる一色の白く細い首筋に、俺も吸い付く。

 

「ひぁっ! ちょ、せ、先輩、だめぇ……」

 

 跡をつけたことを確認して顔を離すと、一色はうっとりとした恍惚の表情を浮かべていた。え、なんでそんな表情してるのん? これ痛いだけじゃないの?

 

「えへへ……これでわたしも先輩のものですね」

 

 自分の首をさすり、照れながら微笑んだ。うん、めっちゃ可愛い。

 ここで一つ気づいたことがある。一色は自分で攻めるときはいつも通りあざといんだけど、俺から攻めると途端にデレデレになると言うことだ。

 ふむ、なら試して見るかと思い、一色を力いっぱい抱きしめて耳元で囁いた。

 

「いろは……」

 

 吐息混じりの俺の声に一色は「ひうっ」と言い、びくびくと震えた。お前どんだけ敏感なんだよ……。

 

「は、はぁい……な、なんですかぁ?」

 

 ううむ、なんて言うべきか。あ、そういやまだ言ってないことがあったな。

 ……言うの恥ずかしいな……。

 でも俺だけ言わないのもおかしいし、どうせすぐに言えって騒ぎ出すと思うしな……。

 

「愛してる……」

 

 いつもより声を低くして、それでいて優しい声音で囁けた……と思いたい。くっそ恥ずかしい……。

 一色は今までで一番顔を真っ赤にして、とてもか細い声で「私もです」と頷いてもう一度俺に唇を重ねてきた。

 

「えへへ……これからもずっと一緒ですよ、せーんぱいっ!」

 

 満面の笑みを咲かせる一色を見て、自然と口元が緩む。

 柄にもなく、あざとい後輩となら、あざと可愛い恋人となら──。

 不思議と、そう思えた。




お久しぶりです!これでいろは√は終わりです!あれ?タイトル回収してなくね?気にしたら負けです!(白目)

いろは√は何人か別ヒロインを挟んでからアフターやりたいと思います!

多分次のヒロインはポニテが可愛いあの子です。他の方の作品を見てもいろはが人気なのは明確なので、是非別ヒロインのも見てもらえたら嬉しいです!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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昼休みにただイチャイチャするだけ〜いろはす〜

いろはすアフターです!


 一色と付き合い始めて3日が経ったある日の昼休み、俺は一色にメールで呼び出されて生徒会室へ向かっていた。昼に呼ばれるのは初めてだからちょっとだけ楽しみです。

 ちなみにメアドと電話番号は付き合ったその日に交換した。それでその日の夜に一色から電話がかかってきて『 えへへ……初めての電話ですね』と電話越しに恥ずかしそうな声音で言われた時はベッドの上で悶えまくった。

 あまりに悶えすぎて、たまたま部屋に入って来た小町にゴミを見るような目で見られた。年下にゴミを見るような目で見られるのが得意などうも俺です。

 

 あの日の一色可愛かったなぁと考えているうちに生徒会室へ着いていた。やばいな、一色のことを考えるとキンクリしてしまう。

 ……すれ違った女子生徒(可愛い)が小さな悲鳴を上げてたとか知らない。絶対一色のこと考えてたからニヤけてたよなぁ……。ごめんね見知らぬ女子生徒さん(可愛い)……。

 生徒会室の扉をノックすると、どーぞーと間延びした声が聞こえてきた。扉を開けると椅子に座っていた一色が振り返り、ぱぁっと明るい表情を見せる。

 

「先輩おっそーい!」

 

 椅子から立ち上がり、ぱたぱたと駆け寄ってくる。走り方があざとい。

 

「悪い、購買に寄っててな」

 

 右手に握っていた袋を見せる。本日もパンです。あとマッ缶。

 

「それでも可愛い彼女を待たせるとかありえないんですけどー」

 

 さっきまでの明るい表情とは一変、怒ってる表情を作りぷくーっと頬を膨らませて、俺の制服の袖をきゅっと握ってくる。

 今まで──多分付き合う前までなら「あざとい」の一言で終わってたと思う。

 だが、最近の一色はここからの反応が違うのだ。

 

「えへへ……先輩の手あったかいです」

 

 一色は袖から手を離して俺の手をぎゅっと握る。そして、握っている手を見ながら照れたようにはにかむ。

 もうね、あれなんですよ。可愛すぎて辛い。

 

「……とりあえず座ろうぜ」

 

 つい恥ずかしくて素っ気ない態度になってしまう。ちなみに俺はこの三日間で前までのヘタレな八幡に戻っている。

 精神的に疲れて力が出ない〜ってなってる。

 早くバタコさん俺に新しい顔投げて! 出来れば目が腐ってないやつをお願いします。

 

「ちょっ、先輩その反応はひどくないですかー? 可愛い彼女が手を握ってきたんですよー?」

 

「はいはい、あざといあざとい。あと可愛い彼女って部分強調しすぎだから」

 

 それにあなたさっきのは確実に素ですよね? 

 最近の一色はあざといのかあざとくないのかよく分からん。

 ぶーぶー文句を言う一色に手を握られたまま椅子の方へ歩く。お互い隣同士で座ると、机の上に弁当箱が2つあることに気付いた。

 

「え、これなに?」

 

 疑問に思って聞いてみると、一色はふふんっとドヤ顔をする(可愛い)。

 

「先輩のためにお弁当を作ってきました!」

 

 いやいやそんなこと聞いてないんですけど。購買でパン買ってきちゃったよ?

 ……でも、まぁ、なんだ。結構嬉しい……かも。

 うん、ちゃんと礼くらい言わなきゃな。

 

「その、なに、ありがとな……」

 

 もうちょっとはっきり言えないのかね……。照れくさくて頬をぽりぽりと掻いてしまう。なんなら掻き毟るまである。文字にすると狂気を感じるな。

 

「どいたまですっ! じゃあ早く食べてください!」

 

 どいたまって……。ちょっと古くない? 

 一色にはかしこまっ☆とか言って欲しい。

 

「おう」

 

 パンは今日の夜にでも食うか。ごめんね購買のおばちゃん……。

 弁当の蓋を開けると、彩りの良い弁当に思わず感嘆の息が漏れてしまった。

 

「おぉ……お前料理できたんだな……」

 

 今の発言はちょっと失礼だな。反省。

 俺の言葉がお気に召さなかったのかむすっと頬を膨らませて(あざとい)、ぷんぷん怒り出した(あざとい)。一文で2回もあざといって思ってしまった。

 

「むっ……わたしお菓子づくりだってできるんですからね! 今度先輩に作ってきてあげますから!」

 

 怒ってるけど内容はめっちゃ俺得なんだよな。お菓子作ってくれるらしい。なにそれ嬉しいんですけど。

 

「悪かったって。じゃあいただきます」

 

 正直、本当に美味しそうでどれから食べるか悩んでいると、一色が俺のことをじーっと見ていることに気付く。

 

「あの……そんなに見られると食いづらいんだけど……」

 

「じーっ……」

 

 そう言っても、一色は俺を見ることをやめない。というか、自分で「じーっ」とか言うやつ初めて見たぞ……。

 とりあえず一番手作り感のある形のいい卵焼きを一口。

 

 んー、結構甘いな。俺が普段からマッ缶ばっか飲んでるから甘党だと思ったのか?

 甘党かと思った? 残念! 甘党でした!(矛盾)

 まぁつまりあれだ。

 

「ん、美味いぞ」

 

 本当に美味しい。この卵焼きを毎朝食えるんだったら、社畜になってもいいかもって思えてしまうくらいには美味い。

 

「はぁぁぁぁ……よかったぁ……」

 

 一色は長いため息を吐いてから安堵の表情を浮かべる。そんなに不安だったのか……。

 けれど、すぐさまにやりと微笑んだ一色は箸で唐揚げを挟んだ。それを俺の口元へ差し出してくる。

 

「じゃあ先輩。あーん」

 

「へ?」

 

「先輩のために頑張って作ったんです。食べて……くれますよね?」

 

 必殺あざと流奥義「上目遣い」「涙目」「甘ったるい声」のフルコンボを発動されてしまった。

 うん、可愛い彼女のためだからな。それに今更あーんくらいで恥ずかしがるような俺じゃない。

 

「……あーん」

 

 俺に向けられた唐揚げを頬張る。

 美味い……けどなんか恥ずかしいな……。結局恥ずかしいのかよ。

 

「美味いぞ」

 

「えへへっ、それならよかったです! じゃあどんどんいきますよー!」

 

 さっきまでとは一変、明るい声でタコさんウインナーを俺の方に向けてくる。

 

「え、まじで?」

 

「もちろんですよっ。はいっ先輩、あーんっ!」

 

 わぁ……楽しそうだなぁ……。

 

 

「……ごちそうさま」

 

 結果から言うと、全部あーんされました。なんか飯食っただけなのに疲れたわ……。

 

「はいっ、お粗末さまです!」

 

 にこぱーっと満足そうに微笑む。うん、こいつが笑顔ならいっか……。

 

「てかお前はいいの? 全然食ってないだろ」

 

 まだ弁当の蓋すら開けていないし。俺しか食べてないとなんだか申し訳ない気分になってしまう。

 

「あっ、私はもう食べてますよ?」

 

「は?」

 

 一色は「ほら」と言いながら弁当の蓋を開けて中身を見せてきた。

 半分くらい食べてるな。いつの間に食ったんだ?

 

「お前いつ食ったの?」

 

「えっとですね、先輩にはご飯を食べたあとにやって欲しいことがあったんですよ。だからわたしは先に食べさせてもらいました」

 

 まぁ購買寄ってたし、俺のより弁当箱のサイズも小さいからな。そのくらい食う時間はあったってことか。

 

「そうか。んで、何して欲しいんだ?」

 

 弁当作ってくれたんだし今なら何でもお願い聞いちゃう。多分弁当作ってなくても聞いてたと思うけど。

 

「むふふー。じゃあ先輩は椅子ごとこっちに向けてください!」

 

「? 分かった」

 

 言われた通りに動くと、一色は「お邪魔しまーす」と言いながら俺の上を跨ってきた。告白の時と同様、対面座位ですねはい。えぇ……いきなりすぎるんですけど……。

 とりあえず落ちてしまうと危ないので背中に両腕を回す。相変わらずやわらけぇな……。

 俺の肩に手を置いた一色はだらしなく頬を緩ませる。流石にこの顔はダメなんじゃないだろうか……。

 や、別に可愛いからいいんだけど。でも注意くらいはしておいた方がいいだろう。

 

「お前頬緩みすぎ……。ちょっとだらしないぞ」

 

「えへへぇ……三日ぶりに先輩に抱きつけたよぉ……」

 

 更ににへらぁっと頬を緩ませる。やだ、全然俺の話聞いてない。

 

「はぁ……お前俺の前以外でそんな顔すんなよ?」

 

 普段のきゃぴるん生徒会長☆の一色のイメージ崩れそうだしな。

 

「……はっ、なんですかそれ口説いてるんですか先輩に口説かれるのは……先輩に口説かれる……先輩に口説かれてるのかぁ……。ふへへぇ……最高ですねぇ……」

 

 更にだらしなく頬を緩ませる。頬の筋肉仕事しろよ。

 それになにその新しいパターン。振られないのかよ。

 

「はぁ……お前普段どうしてんだ? いつも通りやれてんの?」

 

 まぁ多分平気だろうけど。頬がゆるっゆるになったのは俺に抱きついてきてからだし。一応確認ってことで。

 

「んー、多分平気だと思いますよ?」

 

「そうか」

 

 だよな。なら安心だ。何より彼女はそれなりの強化外骨格は兼ね備えてるんだし。

 しかし、んーっと考える素振りをしてから一色は「でも」と付け足す。

 

「授業中に先輩のこと考えちゃったりすると、自然と笑顔になっちゃいますね」

 

「は?」

 

 え、その情報は聞きたくなったんですが……。それ言う必要ないだろ……。

 あと、自分で言って頬染めんな。こっちまで恥ずかしくなるだろ。

 

「そのせいでなんかまたわたしの人気が急上昇しちゃってー。色々と勘違いした男の子に呼び出されちゃったりもしましたよー」

 

「え、なにそれ聞いてない。そいつら全員呼べ。今すぐ駆除するから」

 

 おいおいどうすんだよ。小町に寄り付く毒虫もまだ駆逐できてないのに、これ以上害虫を増やされたくないんですけど。

 

「大丈夫ですってばー。ちゃんと彼氏がいるって言いましたから。それに、わたしは先輩だけのものですからぁ……」

 

 そしてまたにへらっとする。そのゆるっゆるのだらしない顔もちょっと可愛く見えてきた。

 

「……そうですか」

 

 色々と呆れてしまい俺も破顔してしまった。

 だが、俺の態度が不満だったのか一色は顔をむすっとさせる。

 

「ていうか先輩、なんでわたしのこと名前で呼んでくれないんですかー!? それにキスだってあれから1回もしてくれないですし!」

 

 なに、急にどうしたの? 

 さっきからにやけたり怒ったりして情緒不安定かよ。

 

「それはあれだ。雰囲気とかなきゃ無理だろ」

 

 あの日以来俺は一色のことを名前で呼んでいない。

 あの日で俺のメンタルポイントは全部消費しちゃったからな。うん、しょうがないってことで。

 回復方法は戸塚の笑顔を見ること。もしくは小町。

 ……あとは一色も。

 うん、自爆。無駄なこと考えたな。自分で考えてて恥ずかしくなった……。

 

「なんでいまさらへたれるんですか……。あーあ、あの日の先輩はかっこよかったのになー」

 

 ちらっ、ちらちらちらっと一色が煽るように俺に視線を向けてくる。

 その視線に俺はイラッ☆としてしまいました。

 しょうがない。可愛い彼女のお願いだ。三日ぶりに恥ずかしい思いに合わせてやろう。

 

「いろは」

 

「ふえっ? え、どうしたんですか急に……」

 

 名前で呼ぶと、一色は困惑の表情を見せる。

 俺の活動限界時間3分だからな。このまま勢いでいってしまおう。

 

「名前で呼んでほしいって言ったのはいろはだろ?」

 

 急な展開に驚いているのだろうか。

 わちゃわちゃする一色をこっちへ引き寄せる。

 そして、強引に、一色の小さな唇を奪った。やっぱ唇やわらけぇな……。

 

「っ……!? んふう……」

 

 一色は最初こそ驚いていたが、次第に体の力は抜けていき、そのまま俺に体を預けてくる。

 

「……満足か?」

 

 数秒のキスを終えて唇を離すと、耳まで真っ赤にした一色がジトっとした目を向けてくる。

 

「先輩のけだもの……。いきなり名前で呼んでキスするとかありえないです」

 

「うぐっ……、でも言い出したのはいろはの方だろ」

 

「普通は心の準備とかあるじゃないですか!」

 

 煽ってきたのお前だろ……。しょうがない。事実を告げてやるとするか。

 

「体は正直なくせになー」

 

 ふっ、これでどうだ。ニヤリと意地悪く微笑むと(多分気持ち悪い)、一色はゴミを見るような目で俺を見た。

 あんれー? やっぱ気持ち悪かった?

 

「うわぁ……今のはドン引きです」

 

「……うるせ」

 

 そんな声のトーン落として言わないでください……。普通に怖いから。二秒で土下座するレベル。

 はぁ……彼女といると本当に調子が狂う。こんなことを言いつつも一色の顔は真っ赤だし、多分俺も同じくらい真っ赤だと思う。

 きっと、キョドらずにいられたのは少女漫画とかのおかげだろう。まじで感謝。

 ここで昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。なんか昼休みなのに休めた気がしないんですが……。

 

「じゃあ戻りましょうか」

 

「だな」

 

「あっ、その前に……、……んっ……」

 

 流れるように俺の首に両手を回してきた一色に唇を重ねられた。ちょっと行動早すぎて目も閉じれなかったんですけど……。

 はぁ……幸せそうな顔しやがって。

 

 たっぷり十数秒の長い口づけが終わり(ちょっと長くて呼吸困難)、一色の唇が離れる。

 

「お前なぁ……」

 

 恥ずかしくてそっぽを向きながら言うと、一色は俺の上から降りて、とててっと数歩下がる。そして、口元に手を当ててにやりと微笑む。

 

「んふふー、もちろんさっきのお返しですよっ!」

 

 悪戯に成功した子どものように、にぱーっと小悪魔スマイルを見せた一色はそのまま生徒会室を立ち去った。あざと可愛い……。

 

 はぁ……でもね一色さん? 顔が真っ赤だったのは隠せてなかったですからね?

 それに弁当持ってくの忘れてるし、生徒会室の鍵も閉めてないし。

 どんだけテンパってんだよ……。

 やっぱり彼女といると色々と騒がしいけど、それもまた楽しいなと思いつつ、俺は生徒会室を出ていった一色を追いかけた。




あけおめですっ!

やっぱ最初はいろはすを書きたかったです……。新ヒロインは次回から書きます!

ではでは今年もこの作品をよろしくです!


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勘違いは時としていい結果をもたらす。

あざとかわいい彼女のアフター第二弾ですっ!


 

 冬のある日、今日も今日とて一色に呼び出された俺は、いつも通り生徒会の手伝いをしている。

 もちろん奉仕部に顔は出している。でも30分も経たないうちに一色が来たから紅茶を飲んでたら終わってしまった。別に依頼がある訳じゃないからいいんだけどな。

 というか、今日の仕事の内容からして俺必要ないと思うんですよね……。まぁ彼女といれる時間が増えるのは嬉しいっちゃ嬉しいんだけど。

 ちなみに例のごとく生徒会室で二人きりだ。他の奴らどこだよまじで。ほんとは今日生徒会ない日じゃないのこれ?

 絶対副会長と書記ちゃんデートしてるだろ。副会長許すまじ。

 

「先輩手が動いてないですよー。ちゃんと働いてくださーい」

 

 一色が紙に視線を落としたまま言ってくる。む、少し考えすぎたな。

 

「はいはい」

 

「はいは1回って習わなかったんですかー?」

 

 ぷーくすくすとバカにする感じで言われた。ムッキー!

 

「うっせ。お前も手止まってるぞ。働け」

 

「はーい」

 

「はいは伸ばさないって教わらなかったのか?」

 

 ぷーくすくすとバカにするように言ってやったぜ!

 

「は?」

 

「……何でもないです」

 

 怖い! 同じことしただけなのにいろはす怖いよ! 

 なんで俺は後輩の彼女に主導権を握られているのでしょうかね……。

 

「あっ、先輩今日デートしませんか?」

 

「は? デート?」

 

 いつも通り話がぶっ飛んでるな。この子は急に突拍子なこと言うからなぁ……。

 

「もちろん放課後デートですよっ!」

 

 仕事は飽きてしまったのか。紙から視線を俺に向けて、ぱぁっと明るい表情で言う。眩しい。

 てか一色さん、放課後デートするためだけに今日俺をここに呼んだよね……。っべー、まじいろはす策士だわー

 

「えー……」

 

 ほら、もうお外真っ暗じゃん?

 

「仕事もそろそろ終わりそうですしいいじゃないですかー」

 

 制服の裾を握ってぶんぶん揺らしながら駄々をこねてくる。

 

「でもなぁ……。愛しの小町が待ってるからな……」

 

 受験近いしなるべく家にいてやりたいんだよな……。まぁ小町からしたらありがた迷惑かもしれないけど。

 

「小町? お米?」

 

 一色はきょとんとした顔で小首を傾げる。

 

「お米じゃねぇよ」

 

「え……、じゃあ女の人……。しかも愛しのって……」

 

 何を勘違いしたのか一色の表情にはどんどん陰りが見え、目尻には涙が浮かぶ。

 

「えっ、いや違っ」

 

「っ……! 今日はもう帰ります……!」

 

 俺の制止も聞かずに走って生徒会室を出ようとする。

それを慌てて追いかけて一色の手首を掴む。

 

「ちょっ、話聞け! 小町は妹だ!」

 

「……ふぇ?」

 

 なんだそれ可愛いな……じゃなくて。

 あー……畜生。なんで俺は彼女のこと泣かせてんだよ。

 

「妹いるってのは前に言ったよな?」

 

 多分一色が生徒会長になったばかりの時に言った記憶がある。あと理不尽に振られた記憶もあるな。

 

「はい……」

 

「その妹がそろそろ受験なんだよ。だからなるべく家にいてやりたくてな」

 

「そうなんですか……。ひっく……よ、よかったです……。せん……ぱい、まぎらわしすぎですよ……」

 

 ぐすっと嗚咽を漏らしながら、一色が呆れるように笑う。

 

「ほんとに悪かった……」

 

「……別にいいですよ。妹さんのためですもんね」

 

 一色は涙を流しながらくすっと微笑む。いや、そこはもうちょっと怒ったほうがいいんじゃないの? 一色優しすぎるだろ……。

 

「……ちょっと顔あげろ」

 

「? は、はい」

 

 顔をあげた一色を抱きしめて唇をそっと重ねた。俺が今一色にできるのはこれくらいしかないしな。

 

「んんっ……」

 

 数秒間の触れるだけのキスをして唇を離すと、うーと唸りながら俺の胸元に顔をこすりつける。

 まぁ制服濡れちゃったけどしょうがないか。俺が悪いんだし。

 

「はぁ……早とちりしすぎなんだよ」  

 

 優しく一色の頭を撫でながら言うと、

 

「……先輩にはわたしを泣かせた責任をとってもらいます」

 

 小悪魔のような笑みを浮かべて一色が言った。わぁ……さっきまで泣いてたのに切り替え早い。

 

「……まぁ俺ができることなら」

 

「じゃあ今からわたしのこと、だ、抱きしめてください」

 

 恥ずかしそうに言う。可愛い。

 

「……おう」

 

「あとはいっぱいあ、愛の言葉をさ、囁いてください」

 

 照れながら言う。可愛い。

 

「……おう」

 

「もちろんキスもいっぱいしてくださいね?」

 

 楽しそうに言う。えっと、いっぱいって流石にそれは、その……。

 

「…………」

 

「先輩。返事は?」

 

 じとっとした目で言う。どうやら拒否権はないらしい。

 

「……はい」

 

 最初こそ言葉を詰まらせていて可愛かったのに、途中から容赦ない要望をされまくってるんですけど……。

 とりあえず一色の背中に両腕を回して優しく抱きしめる。

 

「ん……もっと」

 

「……はいよ」

 

 少し力を入れると胸の中で一色が甘い吐息を漏らす。あごのすぐ下に一色の頭があるので、さらさらとした亜麻色の髪からはシャンプーのいい匂いがする。

 

「先輩、愛の言葉も囁いてください」

 

 遠慮ないねあなた……。これでも俺らキスまでしか関係進んでないんだからね? そうぽんぽんと愛の言葉囁けるほどメンタルないわ。

 でも頑張る。俺が一色を泣かせた罪は重いからな。今日の俺は一色が満足してくれるまで何でもしちゃう。

 

「いろは」

 

 顔を一色の耳元まで下げて、とりあえず名前で呼んでみる。

 

「えへへ……どうしました先輩?」

 

 どんな顔してるかは分からないが、名前で呼ばれたからか、その声はとても嬉しそうだ。

 と、ここで思ったことがある。や、正確には今まで何度か耳元で囁いたことあるから毎回思ってることなんだけどな。

 一色の耳たぶってめっちゃ柔らかそうだよな……。

 

「はむっ」

 

「ひゃあっ!?」

 

 耳たぶを唇で挟むと一色が悲鳴のような声をあげる。この距離でその声の大きさだと流石に耳が痛くなる。

 だがそんなことも気にならないくらいめっちゃ柔らかい。止められないわこれ。

 

 はむはむはむはむ……。

 

「〜〜~〜! せ、先輩っ、だ、だめですってばぁ……」

 

 一色が体をぷるぷると震わせながら、ふにゃふにゃな甘い声を出す。

 ……うん、これはダメだわ。学校で理性崩壊なんてしたら大変だし。

 あ、そうだ。あとは愛の言葉囁くんだっけな。

 

「いろは、大好きだよ……」

 

 耳たぶに唇を付けたまま吐息混じりの、俺ができる最高の甘い声で囁いてみた。

 

「はにゃぁ……」

 

 なんかよく分からない声を上げて(可愛い)、俺の胸元に顔を埋めておでこをこすりつける。

 

「……キスするから顔上げろ」

 

 言うと、しゅぱっと顔を上げて、目を閉じてからんっと唇を差し出してくる。

 ……ちょっと行動が早すぎない? どんだけキスしたいんだよ……。 

 

「…………」

 

 唇を突き出して今か今かとキスを待ちわびている一色を見て思う。

 超可愛いんですけど! え、なにこの子。天使?

 

「んっ……はやく、……んっ」

 

 俺がキスをしてこないからだろうか、目を閉じたまま唇を更に差し出してくる。

 なんで唇突き出すたびに「んっ……」て甘い声出すんでしょうかね。可愛いですからもっとお願いします。

 まぁもう俺も我慢できないので、一色のことを抱きしめる力を強め、顔を傾げ、ゆっくりと唇を重ねた。

 

「んふう……」

 

 

××××××

 

 

 結果から言ってしまえばあれだ。あれからめっちゃキスした。ただそれだけ。それ以外の説明の使用がない。

 一色が満足するまで数え切れないくらいしたんだけどね。ちょっとお腹いっぱいです。

 今は学校を後にして、一色を駅まで送っている最中だ。

 一色は自転車を押しながら歩いている俺の腕に抱きつきながら、楽しそうに鼻歌を歌っている。

 

「……今週の休みってなにかあんのか?」

 

「はい? んー、特に何もありませんよ?」

 

「なら、あれだ。……で、デート、い、行かねぇか?」

 

 ふぇぇ……キョドりすぎて気持ち悪いよぉ……。もう学校でメンタル使い切った。1週間は動ける自信がないわ。

 

「…………」

 

 一色は立ち止まり、ぽかんとした表情で俺をを見てくる。え、なんで無言?

 

「……もしかして嫌だったか?」 

 

 今日の放課後デートもなしになったからもしかしてぷんぷん丸? 実は怒ってたパターンですか?

 

「い、いえ! そんなことないです! 絶対に行きます!」

 

 一色は腕をわちゃわちゃぶんぶんと振りながら断言してきた。

 せめて腕に抱きつくのやめて少し離れてから腕振ってね? 何発か脇腹とかにヒットしてるから。

 

「お、おう」

 

「えへへ……デート、楽しみにしてますね?」

 

「……俺もだよ」

 

 満面の笑みを浮かべて「先輩とデートっ♪」と楽しそうに言っている一色を見て自然と顔が綻んでしまう。

 

 まぁ今日でよく分かったことは、勘違いには注意したほうがいいなってことだ。今回は結果的によかったかもしれないけど一歩間違えたら大変なことになってたしな。勘違いって本当に怖い。

 

 今日のこともあって一色が更にベタベタしてくるようになったのはまた別の話だ。日に日に可愛くなっていく彼女にドギマギしている俺の気持ちも考えて欲しいものだ。

 




ゆきのん√後編にて、今回初めて日間ランキング1位になれました。圧倒的感謝です!今後ともよろしくおねがいします!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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のんびりイチャイチャしてみた〜いろはす〜

 

 カシャッと無機質な音が生徒会室の静かな空間に鳴り響く。音の鳴る方向、というか隣に座っている彼女に視線を向ける。

 

「……何してんの」

 

「えへへー、真面目に仕事してる先輩の写真を撮っちゃいました!」

 

 にこぱーっと笑いながら俺に撮った写真を見せてくる。や、自分の顔なんて見たくないから。

 

「ほらほら、早く仕事してくださいよー」

 

 えぇ……写真撮ってきたのお前なのにそれは理不尽じゃないですかね……。

 はぁとため息を吐きながらパソコンに視線を戻して仕事を再開する。

 

「…………」

 

 カシャカシャ。

 

「むふふー」

 

「…………」

 

 カシャカシャ。

 

「えへへー」

 

「…………」

 

 カシャカシャ。

 

「ふふっ、いいですねー、いいですなー」

 

 ……ナニコレ。今の間に20回くらいカシャカシャ言ってたんだけど。いくらなんでも写真撮りすぎだろ。

 

「……さっきから何してんの」

 

「ほぇ? 先輩の写真を撮ってるんですけど?」

 

 いや、そんなにきょとんとされても困るんですけど……。

 え、なに? 俺が悪いの?

 

「はぁ……仕事終わった。お前も自分の分早くやっちまえ」

 

「はーい」

 

 一色を見ると、普段はあまり見ない真面目な表情をしていた。いつものあざといけどあどけない彼女とはまた違って、それがとても可愛らしい。

 ほむん、俺もいろはすの写真でも撮ってみることにするか。

 こっそりとスマホを構えてからパシャッと音を立てて写真を撮る。音が鳴るならこっそりする意味ないな。完全にアホですねはい。

 

「え、な、なんで撮ってるんですか?」

 

「や、お前だって俺のこと撮ったんだし別にいいだろ?」

 

「うっ、それはそうですけど……」

 

「それに、ほら」

 

 いい表情してんじゃんと言いながら一色に撮った写真を見せる。

 

「うぅ……褒められるのは嬉しいですけど恥ずかしいです……」

 

 頬をほんのりと朱に染める一色。恥ずかしかったのか書類に目線を戻してすぐに仕事を再開してしまった。

 ほんと可愛いな。うん、これはもっと写真撮るしかないよね!

 

 パシャパシャ。

 

「あぅ……」

 

 パシャパシャ

 

「あうぅ……」

 

 パシャパシャ

 

「はうぅ……」

 

 うーうー唸りながら一色は完全に机に突っ伏してしまった。そんなに恥ずかしかったのか……。

 

「ふむ……」

 

 どんな感じか気になったので撮った写真を確認してみる。

 ……うん、これは可愛すぎてヤバい。毎日寝る前に見たら熟睡間違いなしだわ。

 

「ふぅ……わたしも終わりましたよ」

 

 ぐへへへ……と写真を眺めてるうちに(気持ち悪い)、一色は仕事を終わらせていたようだ。

 

「お、早かったな」

 

「ふふん、わたしだって成長してるんですよっ!」

 

 ふんすっと息を吐いた一色は薄い胸を張りながらふふんとドヤ顔をする(可愛い)。

 

「あうぅ……先輩」

 

 一色の声ではっとする。気づいたら一色の頭をくしゃくしゃと撫でていたようだ。

 ……うん、一色が可愛いのが悪いなこれは。

 

「これならもう俺なしでも大丈夫なんじゃねぇの?」

 

 ついさっきの自分の行動が恥ずかしくて思ってもないことを言ってしまう。

 

「先輩はわたしと一緒にいるのが嫌なんですか……?」

 

 一色の顔を見ると、明らかにしょんぼりとしていた。目尻にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 やってしまったと、瞬時にそう思った。

 

「……そんなことねぇよ。さっきのはちょっと恥ずかしくて言っちまっただけだから。それにお前が成長してるのってのが本当に嬉しくてな」

 

 言って、さっきと同様もう一度頭をくしゃりと撫でる。

 うーむ……俺、一色と付き合ってから落ち込ませてることが多いような気がするな。

 この前は小町の件で思いっきり泣かせちまったし。

 

「えへへ……しょうがないから許してあげますよ」

 

 頭を撫でられているのが気持ちいいのか、一色は目を細めながら嬉しそうに微笑む。

 

「あっ、そうだ! 先輩一緒に写真撮りましょうよ!」

 

「おう、いいぞ」

 

「せ、先輩が素直だ……。ほんとに先輩ですか……?」

 

 え、そんなに驚く? 目ぱちくりしすぎだろ。

 

「そんなこと言うなら撮らないぞ?」 

 

「いや、撮ります! 絶対撮りますから!」

 

 ぶんぶんと腕を振りながらあわあわと慌てる一色を見て顔が綻んでしまう。本当に俺にはもったいないくらい可愛い彼女だ。

 

「んで、どうやって撮んの?」

 

「んふふー、それならもう考えてますよ。じゃあ先輩はこっちに椅子ごと向けてください」

 

 言われた通りに椅子を向けると、一色はにんまりと小悪魔スマイルを浮かべながら俺の太ももあたりにちょこんと座ってきた。

 まぁこんなことだろうと思ってたから別にテンパったりはしない。普段は対面で俺の上に座ってくるからいつもとは感覚が違うなぁとか柔らかいなぁとか全然思ってないです。

 

「先輩はわたしの首に両手を回して……そうそう……あとは肩に頭を乗せてください」

 

 言われた指示に従ってその通りに動くと自然と彼女との顔の距離が近くなる。すぐに一色は俺に頬をくっつけて来てすりすりし始めた。

 

「ふへへぇ……先輩すべすべだぁ……」

 

顔はよく見えないけど多分だらしないくらいに頬を緩ませているんだろう。絶対可愛い超見たい。

 

「……写真は?」

 

「はっ! いけないいけない。今は写真でしたね」   

 

 今はってことは写真撮り終わったら頬をひたすらすりすりしてくるんですかね。

 

「じゃあ撮りますね!」

 

「おう」

 

「はいっ、チーズ!」

 

 一色は首に回された俺の手にそっと触れながらいつも通りの満面のあざと可愛い笑みを浮かべる。

 そして、カシャッと無機質な音が生徒会室の穏やかな空間に鳴り響いた──。

 

「いい写真ですね」  

 

「そうだな」

 

 スマホの画面を見ながらにまにましてる一色さんです。既にホーム画面に設定したらしい。早い。

 

「これからもいっぱい撮れますよね?」

 

「……おう、もちろんだ」

 

 言うと、俺の頬に自分の頬をぴとっと当ててきた。そしてそのまますりすりしてきた。

 

「えへへ……」 

 

「どうした?」

 

「わたし、やっぱり超幸せです」

 

 一色は本当に幸せそうに言葉を紡ぐ。それがたまらないくらい愛おしくて可愛らしい。

 

「……俺もだよ」

 

 本当にそうだ。俺にはこの一ヶ月はもったいないくらい楽しい毎日だった。

 だからまぁ、これからもこの幸せを噛み締めることにしよう。

 そんな思いを胸に、俺は一色を優しく抱きしめた。

 




たまにはほっこりのんびりのんのんと。「昼休みにただイチャイチャするだけ〜」と同じように別ヒロインでものんびり書こうと思います。

次回は誕生日が近いみんな大好きなあの子のです。その日までに間に合うように頑張ります!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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こうして、俺と彼女の関係はさらに深まっていく。

いろはす誕生日おめでとう!ていうわけで誕生日ネタではないですけどいろは√です!
今回はいつもより文字数が多めです。もちろんいつもよりイチャイチャします!


 

 ある日の放課後。今日もいつも通り俺と一色は生徒会の仕事をして……いませんね。今日は生徒会の仕事がナッシングなのに生徒会室に連れ込まれてしまいました。

 一色いわく「ふふんっ、これが生徒会長特権ですよ!」って感じでドヤ顔してたけど、言ってることが酷すぎて全然可愛く見えなかった。ごめん嘘超可愛かったですはい。

 

 もうそろそろ俺と一色が付き合い始めて二ヶ月が経過する。俺と彼女の関係は現在も極めて良好だ。それどころか一色のデレはとどまることを知らず、そろそろ彼女の周りにハートマークが見えるんじゃないかってくらいにはデレてる。毎日可愛いすぎて悶え死にそうになってます。

 

 でだ。彼女が俺にここまでデレてくれているのに、俺はまだ彼女に対してやっていないことがあるのだ。

 いや、まぁ、うん。イチャイチャしている最中とか、もっとデレさせたいと思ったりした時は呼んだりもしたことはあるんだけど。

 

 一色はどっちかといったらいつも呼んで欲しいらしくて、この前そのことで少しだけ揉めてしまったのだ。

 俺としても彼女の要望には答えられるなら答えたい。それができないのはただ自分が恥ずかしいからって理由なだけだし。

 だから今日は生徒会の仕事もなくてゆっくりできるから覚悟を決めました。

 

 ──これからは一色をちゃんと名前で呼ぼうと思う。

 

 というわけで、一色……いや、いろはか。これからはちゃんといろはって名前で呼ぼうと思う。今までは名前で呼んだ時も地の文は一色のまんまだったからな。地の文って言っちゃったよ。

 いや、まぁ結局恥ずかしいのは変わらないんだけどね。変わらないんだけどね! 別に大して大事なことではないけど一応2回言っときました。

 

「……あー、けぷこんけぷこん」

 

「は? いきなりなんですかそれ……」

 

「いや、すまん。今のは何でもない」

 

 一色はほぇ? と言わんばかりに可愛らしくくりんと首を傾げる。

 

「変な先輩ですね? まぁ先輩が変なのはいつものことですけど」

 

「ねぇいろはちゃん? 今のはちょっと辛辣すぎない? 八幡泣いちゃうよ?」

 

 俺っていつも変だったんだ……。まぁそれはもちろん知ってたけど、俺と付き合ってるいろはもちょっと変わってると思うんだよね。言ったらぷんすか怒られそうだな。何それちょっと見たい。

 や、そうじゃなくて。ていうか意外とすんなり名前言えたな。

 

「せ、先輩……さすがにいろはちゃんはちょっと気持ち悪いんで呼び捨てでお願いしていいですか?」

 

 せめて照れるのかドン引きするのかどっちかにしろよ……。

 

「……いろは」

 

 名前で呼びながら右手でいろはの頭をくしゃりと撫でると、

 

「ふぁ……えへへ」

 

 目を少しとろんとさせながら俺の左手をきゅっと握ってきた。可愛いすぎて死にそう。

 

「あー、その、なに。これからはちゃんと名前で呼ぶことにするから」

 

「……やっぱりこの前こと気にしちゃってますか?」

 

 いろははくぅんと鳴きそうなくらい眉をくにゃっと曲げて落ち込んだ表情をする。自然と握られている手の力は弱々しくなっていた。

 ……変に誤解される前に本音をはっきり言った方がいいなこれは。今さら恥ずかしいからとか言うつもりは流石にない。

 

「……いや、それは違うぞ。純粋に俺がいろはのことを名前で呼びたいからだ」 

 

 言うと、いろははぽかんとした表情をする。だが、すぐにみるみるうちに耳まで顔を真っ赤にして、腕を前に突き出しながらぶんぶんと振り始めた。危ない危ない。

 

「もももも、もしかして今のって口説いてますか急にそんな嬉しいこと言われたらもう先輩なしじゃだめな子になっちゃいますしもっともっと先輩のことが好きになっちゃって……あれ? もっと先輩のこと好きになれるんなら別に……でもこれ以上先輩のこと好きになっちゃったら色々と抑えられなくなっちゃうし……ううむ」

 

 この子何言ってるのかしら。自分で言って自分で考え始めちゃったし……。てか久々にこれ見たけど振られないのかよ。

 まぁ好きって言われるのは嬉しいけどやっぱり超恥ずかしいな……。心がぽかぽかというかぴょんぴょんしちゃうよね!

 

 ていうか、今のいろはの言葉にちょっと気になるところあったわ。いろはがこれ以上俺のことを好きになったらどうなるのだろうか。何か色々と抑えられなくなるとか言ってたよな。

 ほむん、これは超気になるし久々に積極的になってみるとするか……。今日は名前で呼ぶこともできたから多分いい感じにできる気もするし。

 

 これから先のことを考えると、俺は緩んでしまう頬を元に戻すことはできなかった。

 

 

××××××

 

 

「なぁいろは」

 

 内心ひゃっはー!(怖い)ってなっているテンションを気づかれないように、落ち着いて話しかけるといろははこてんと首を傾げる。

 

「えへへっ、どうしました先輩?」

 

 え、えぇ……何この子。名前呼ばれただけでそんな笑顔になるなんて反則だと思います。

 

「これから俺、ちょっとだけ頑張るわ」

 

 ここからが本番だ。久しぶりに積極的になるからちょっとだけルンルンです。

 

「え? なにをですか?」

 

 聞かれたので、いろはの耳に顔を寄せる。ちゅっと耳に口づけをしてからいつもよりワントーン低く、それでいて優しい声で囁く。

 

「……いろはをもっと好きにさせることを、だよ」

 

 言って、もう一度耳にキスをしてから顔を離すと、いろははリンゴのように顔を真っ赤にしていた。

 

「はわ、はわわわ……そ、そんな直球で言われたら……。しかも今のなんか色々とえ、えっちでしたし……」

 

 緩みそうになる頬を両手で包んでむにむに動かすいろはは、内股を擦り合わせながら少しだけ身悶えする。な、何かエロい……!

 いかん。煩悩退散。

 

「そうか? 耳にキスして囁いただけなんだけどな」

 

「それがえっちなんですよ!」

 

「うおっ、わ、悪い」

 

 ずいっと顔を寄せてむーっとちょっとだけ怒った表情をする。ううむ、やっぱりいきなりは駄目だったか……。

 

「い、いや、べべべ別にいいんですよ? むしろもっ……こほんこほん」

 

 あ、結局許しちゃうのか。いろはすちょっとチョロすぎじゃないですかね……。まぁいろはの許可も貰えたことだしそろそろ本格的にやるとするか。

 

「いろは、ちょっとこっち来てもらっていいか?」

 

 俺が歩いて行った場所は生徒会室の奥の方の壁際。ここなら外からも覗かれないだろうし安心だ。あ、鍵はもうここに来た時点でいろはが閉めてました。なんででしょうね。

 あと、いろはは名前呼ばれるたびに頬が緩みそうになるのをバレないように無駄にキリッとした表情するのやめてください。超可愛いけどちょっと面白くて笑いそうになっちゃうから。

 

「ど、どうするんですか?」

 

 気づいたら俺の後ろをてくてく付いてきたいろはが(可愛い)、少しだけ不安そうに聞いてくる(可愛い)。ぐへへ、別に悪いようにはしないんで安心してくだせぇ……(気持ち悪い)。

 

「もっとして欲しいって言ういろはの願望を叶えようと思ってな。ま、ちょっと恥ずかしいかもしれんけど」

 

「え、そ、それってもしかして壁ドン……? きゃー!」

 

 何か知らんけど両手で頬を包みながらきゃーきゃー言い始めちゃったんだけど。俺まだ何もしてないよね?

 

「こほん……じゃ、いくぞ」

 

「は、はい……っ」

 

 いろはがぶるりと身体を震わせながらこくっと頷く。その姿を確認してから一度、大きく息を吐く。……よし。

 右手をいろはの頭のやや上の壁に付けて、肘は顔の真横に付ける。こうすることによって自然と顔の距離は近くなるからいろはの羞恥を煽れる。もちろん俺も恥ずかしいけどね!

 

「……どうだ?」

 

「しょ、正直言うとですね……」

 

「お、おう……」

 

 気持ち悪いって言われたらどうしようって別の意味でもドキドキし始めちゃった……。

 

「ドキドキしすぎて死んじゃいそうです……」

 

 いろははちろっと上目遣いで見つめてくるが、恥ずかしいのかすぐにぷいっと顔を逸らしてしまう。亜麻色の髪がはらりと揺れて、彼女の動揺をそのまま表してるようにも見えた。

 ……なら、もっといろはのことをとろけさせてしまおう。

 

「……いろは、手出してもらえるか」

 

「ふぇ? こ、こうですか?」

 

 おずおずと両手を前に出してくるいろは。壁ドンはやめて差し出された両手をぎゅっと握る。もちろん恋人繋ぎだ。

 握った手に少しだけ力を込めてそのまま一色を壁に押しつける。腕を上げているから多少は疲れるが、こうすると多分、俺もいろはもどんどん気持ちが高ぶると思っての行動だ。

 

「ひぅぅ……」

 

 身体を捩りながら絡められた指にぎゅうっと力が入る。

 

「いろは……」

 

「せん……ぱい」

 

 彼女の不安げに揺れる瞳に吸い寄せられるように、互いの顔の距離が近くなっていく。

 やがて、俺といろはの距離が零になり、そして──。

 

「んっ……」

 

 数秒の間、唇を重ねているといろはの舌先がつんっと当たる。一度唇を離すと、いろはが頬を真っ赤に染めながら懇願するような上目遣いで見つめてくる。

 

「もっと……もっと先輩といっぱいちゅーしたいです……」

 

「……おう」

 

 恋人繋ぎはやめて、いろはの背中に両腕を回して優しく抱きしめる。いろはは俺の首に両手を回して、つま先立ちになってそのまま唇を重ねてきた。

 

「ん……ちゅっ、んん……んっ……」

 

 舌を控えめながらもちろちろと絡め合う。愛情を確かめ合うこの行為に幸福感を覚えると同時に、この子をもっと俺のものにしたいという征服感も溢れてくる。

 

「ぷはっ……先輩、もっと、もっといっぱい先輩のこと好きにさせてください……。それで、もっと、もっと……わたしのこと、好きになってください」

 

 口元を綻ばせて上目遣いで見つめてきながら、自分の想いを吐露するいろは。その言葉にどくんと心臓が跳ね上がる。

 

「……おう、もちろんだ」

 

「えへへっ、んっ……」

 

 嬉しそうに満面の笑みを咲かせるいろはに、今度は俺から唇を重ねていった。

 そういや、気持ちを抑えられなくなったのはいろはじゃなくて俺の方だったな……。

 ……いや、まぁそれに関してはどっちでもいいか。今はこの時間を楽しむとしよう。

 

 

××××××

 

 

「先輩、さすがにちょっと夢中になりすぎじゃないですか……」

 

「わ、悪い……」

 

 もうそろそろ完全下校時刻になるぞこれ。どんだけイチャついてたんだ俺ら……。や、まぁ今回は確実に俺が悪いんだけどね! ちょっとがっつきすぎちゃった☆

 

「ま、まぁ、先輩がそれだけ、その、わたしを求めてくれたのは嬉しいことなんですけど……」

 

 指をもじもじと胸の前で絡ませながらぽしょりと呟くいろは。そんな反応されたらこっちまで嬉しくなっちゃうじゃねぇかよ……。

 

「でもあれだよな。途中からいろはの方が夢中になってたよな」

 

「うっ……だ、だって普段捻デレな先輩がただのデレになっちゃうとか反則すぎじゃないですか!」

 

「じゃあもうこういうのはなしでいいか?」

 

 絶対俺今にやけてて気持ち悪いんだろうなぁ……。いろはも一瞬ぴくっと身体震わせたし。どうやら俺の笑顔は全米を震撼させるレベルらしいです。何それ全然嬉しくない。

 

「だ……です」

 

「え? なんだって?」

 

 今のは本当に小さい声だったから聞き取れなかった。僕は難聴ではありません(断言)。

 

「むーっ! そんなのだめに決まってるじゃないですか!」

 

 いろはは頬をぱんぱんに膨らませながら睨めつけてくる。全然怖くないしむしろ超可愛いです。

 

「お前ほんと可愛いな」

 

「えへへ……はっ! も、もう! おだてても何も出しませんからね!」

 

 頬緩みすぎだろ。せめてもうちょっと隠す努力してくださいよ……。

 それに別におだててるわけでもないし。

 

「別に何もいらねーよ。俺はお前がそばにいてくれるだけで十分だしな」

 

 言うと、いろははあわあわ慌てながらバックからスマホを取り出す。すぐに、ものすごい勢いでスマホを操作し始める。

 

「せ、先輩! い、今の録音したいのでもう一回言ってもらっていいですか!?」

 

「え、何でそんなに興奮しちゃってんの? そろそろ時間も時間だしもう帰ろうぜ」

 

「お願いですよぉ! 今のは絶対に永久保存しなきゃだめなんですよ!」

 

 や、まぁそこまで言うんならやってあげてもいいんだけど。えーと、俺なんつったんだっけ俺。

 ……うわ、思い出すとそうとうくさいセリフ言ってたな。いやまあ、今日はもう色々限界突破してるからこれくらいの羞恥プレイなら余裕だけど。

 どうやらもう録画は開始しているらしく、いろはは目をきらっきら輝かせながらとろけるような笑みを浮かべている。ていうか声だけじゃなくて俺まで撮るのね。ほんとに羞恥プレイじゃねーか。

 …………はぁ。

 

「お、俺は、その……お前が、そ、そばにいてくれるだけで十分だしな……」

 

 うん、絶対こうなると思ってたわ。こんなの改めて言ったらキョドるに決まってんだろ……。

 いろははそんな俺を見て、にんまりと意地悪な小悪魔スマイルを浮かべる。そして、流れるようにスマホを操作し始める。

 ま、まさか……。

 

『お、俺は、その……お前が、そ、そばにいてくれるだけで十分だしな……』

 

 ……あぁ、やっぱり。発狂していいですかね? 顔死にそうなくらいめっちゃ熱いんだけど……。

 

「むふーっ、満足です!」

 

「そりゃ良かったですよ……。んじゃ、帰ろうぜ」

 

「はいっ!」

 

 生徒会室を出ると、俺たちはどちらかともなく手を繋ぐ。握られた手を見てほんのりと頬を朱に染めて微笑む彼女は、やっぱり俺にはもったいなくらいとても魅力的だった。

 彼女とこの関係になってあっという間に過ぎた二ヶ月。これからもずっと、こんな楽しい日々が続けばいいなと。

 柄にもなく、そう思えた。

 




お久しぶりです!キャプションに書いていた次の更新は3週間後になるっていうのを見て「あ、次の更新絶対いろはの誕生日になるな」って思った人もいたんじゃないでしょうか。私自身スマホが破滅した時にそうなるなぁと察していました。

まぁそれは置いといて。とりあえずこの一言を。いろは誕生日おめでとう!

もうそろそろUAが30万いきそうです。いつも読んでくださっている皆様には圧倒的感謝です。ありがとうございます!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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ぬくぬくいろはす。

五ヶ月ぶりのいろは√です!タイトル通りぬくぬくするだけのお話です。


 ある日の放課後。今日も可愛い後輩兼彼女に呼び出された俺は生徒会室へ向かっていた。

 で、中に入ってみたわけだが。

 

「ふひゃぁ……ファンヒーターあったかぁい……」

 

 もうそろそろ2月も終わりに近いのだが全然暖かくならない。だから彼女が頬をふにゃふにゃに緩ませながらヒーターの前でしゃがんでぬくぬくしてる気持ちも分かるのだが……。

 

「…………」

 

 周りを見渡してもやっぱり他の生徒会のメンバーはいなかった。昨日仕事してたって時点で今日はないってことは分かってたけど……。

 

「あっ、先輩!」

 

 ドアの前でぬくぬくしてるいろはすを見てると、俺に気づいたいろはがとてとてと小走りでやってくる。そして流れるように生徒会室の鍵を閉めてから俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。

 この子が鍵を閉める日は仕事する気はゼロって合図だ。多分今のいろははイチャイチャすることしか頭にないのだろう。

 

「よう、ジャージってことは6限目体育だったのか?」

 

「そうなんですよー。しかもわたしだけ最後の片付けやらされちゃって着替える時間なかったんですよねー。……ちっ」

 

「生徒会長も大変だな」

 

 リアルな舌打ち怖いんですけど……。完全にマジなやつじゃないですかやだー。

 

「そうなんですよー。なので大変だったわたしは先輩成分を補給しなきゃいけないのです」

 

 ぽへっとした表情でそんなことを平然と言ってくるいろは。まぁ片付け我慢して頑張ったんだろうしな……。

 

「……何すりゃいいの」

 

「ぎゅーってしてください」

 

「……はいよ」

 

 いろはの背中に右手を回すとんっと甘い吐息を漏らす。左手で髪を撫でると頬を朱に染めながら上目遣いで見つめてきた。

 その表情がたまらなく愛おしくなりぎゅっと抱きしめて胸の中に埋めさせる。体育で少し汗をかいたのか、髪からはいつもよりも甘ったるい匂いがした。

 

「……どうだ?」

 

「えへへぇ……先輩に抱きしめられるの大好きです……」

 

 ふにゃふにゃのとろけた声で言いながら、いろはも俺の背中に両手を回して抱きついてくる。めっちゃあったかい……。

 いろはがうりうりと頭を押しつけてくると、いつもとは違うあることに気づく。

 

「髪型違うのな。体育あったからか」

 

「もー、やっと気づきました? ていうか頭撫でてきたときに気づくのが普通だと思うんですけど」

 

 今のいろはの髪型はスポーツ女子がよくするポニーテールだ。セミロングの髪をまとめてアップしているので、いつもは見えないうなじが見えて少しだけドキドキしてしまう。

 いろはが「どうですか? どうですか?」とアピールするように頭を動かすたびに、短めのポニテの髪がぴょこぴょこと揺れた。

 

「あー、うん、似合ってると思うぞ」

 

「あ、似合ってるのは知ってますから。もっと他に言い方がありますよね?」

 

「……はぁ、お前ならどんな髪型にしても可愛いに決まってんだろ」

 

 言うと、いろはは頬を赤く染めながらぽかぽかと俺の胸を叩いてきた。何それ可愛いんですが。

 

「……自分で言わせといて何その反応」

 

「い、いえ、わたしの予想よりいっぱい嬉しいこと言われちゃったので……」

 

 嬉しそうにぽしょぽしょと呟く。何か恥ずかしいし話題変えよう……。

 

「今日は仕事ないんだろ?」

 

「ないですね。先輩といっぱい一緒にいるために昨日のうちに頑張っちゃいました!」

 

「……お疲れ。じゃあ何すんだ?」

 

 やはり何度聞いてもこういうのは気恥ずかしい。自然と頬をぽりぽりと掻きながら視線を逸らしてしまう。

 

「今日は寒いし疲れたのでぬくぬくしたいです。座布団持ってるんで座ってください」

 

「ん、分かった」

 

 何で座布団持ってんだよって質問は意味ないよな……。どうせ今日のために持ってきましたとか言ってくるんだろうし。

 ファンヒーターより少し離れた場所に座布団を置き、膝を立てて足を少し広げながら座っていろはのぶんのスペースを取る。

 

「で、では、おじゃまします……」

 

 いろはは少し緊張した面持ちで俺の足の間に座ってくる。そのまま寄りかかるように俺に身体を預けてきた。

 

「えへへぇ……あったかいです」

 

「……そうだな」

 

 とりあえずいろはをぎゅっと抱きしめると「いやんっ」と変な声を上げながら楽しそうにキャッキャと騒ぐ。テンション高いなこいつ。

 ……ファンヒーターの前で座ってぬくぬくか。うーん、最高なんだけどやっぱりこういうのは家でやりたいよな……。

 でも、今の時間は会話はないがすごく心地よい時間だ。本当にぽかぽかするしいろはの抱き心地もいいしで寝れそう。

 このまま動かないと寝て色々と大変なことになりそうなのでいろはの髪を梳くように撫でる。

 

「んふふー、もっともっとー」

 

 少し後ろを振り返って俺の顔を見てくすりと微笑むいろは。同意を得たのでふさふさわしゃわしゃとポニテ髪をいじりまくる。

 

「ふぁ……せ、先輩ってポニーテール好きだったんですか?」

 

「多分そうだろうし当たってるな」

 

「でも先輩はわたしのこと好きすぎてどんな髪型でも可愛いって言ってくれそうですよね」

 

 むふふーと笑いながら、いろはが冗談めかして言ってくる。うん、まぁあながち間違っていないから困るんだけど。

 

「……ん、それも当たり」

 

「ふぇ……?」

 

 いろはは前を向いているのに首を傾げるが、すぐに耳まで真っ赤にしながら俯いてしまった。

 

「も、もうっ……今日の先輩は口説いてきすぎです……」

 

「……事実だし」

 

「え、えへへ……はっ、だ、だめです! 先輩は今からおしゃべり禁止ですっ!」

 

 えぇ……いつもは喜ぶのに何で今日は駄目なんだ?

 

「…………」

 

 喋ったら本当にぷんぷん怒られそうなのでいろはの頭を撫でてみる。どうやらそれはOKらしいので右手で頭を撫でながら左手は頬を撫で続けた。

 しばらくそれを続けていると、いろはは時折ふわぁっと欠伸をする回数が増えてきた。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 と思ったらすぐに寝ちゃったよこの子……。まぁ、何だかんだで最近は俺にあまり頼らないで生徒会の仕事頑張ってんだよな。

 ……しかし、仕事は嫌だがそれを少し寂しく思っている自分もいるわけで。そのぶん仕事が終わった次の日は必ずこうやって2人きりになってるんだけど。

 

「……お疲れさま」

 

 そう言いながらいろはの頭をくしゃくしゃと撫でると、んぅっと小さな吐息を漏らしながら頬を緩めた──。

 




身体を密着させたりしてるのに特に何もしないでのんびりイチャイチャしてるのとか大好きです。同じ気持ちの人がいたら嬉しいですね……。

久しぶりの投稿ですが多分今年の間はかなり投稿滞ると思います。予定では次回の更新は11月です。来年になって余裕ができたら前みたいに週1ペースで投稿できるように頑張りたいと思います!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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サキサキ√ 意外にも川なんとかさんは乙女である。【前編】

タイトル通り川なんとかさん√スタートです!


 

 冬のある日、四限目の数学の授業を机に突っ伏して寝ながら、あることを考えていた。もちろん女子と二人きりになる方法だ。もう冬休みが終わってから一週間も経つのに、二人きりになったのが小町と戸塚と平塚先生だけって……。うん、対象が全部おかしい。それに戸塚の性別は女じゃなくて戸塚だし。やっぱり戸塚は可愛いなぁ……。

 

 戸塚の可愛さについて考えていると、一つ名案が思いついた。「受動的に二人きりになれないなら、能動的に動いて二人きりになっちゃえばいいんじゃね?」作戦だ。っべー、ヒキタニ君マジ冴えてるわー。心の中の戸部も大絶賛してくれてる。でも戸部だから嬉しくない。

 

 んで、一番の問題は誰と二人きりになるかだ。俺の周りに普段から一人でいるようなやつっているっけ? 最近じゃゆきのんもガハマちゃんって友達ができたから、部室内でもぼっちのどうも俺です。結局一人なのは俺だけか……。まぁ今に始まったことじゃないから気にしないけど。

 

 ここでふと、俺に向けられてる視線に気づく。机に突っ伏していても視線に気づけるとは思わなかった……。いよいよ俺も闇の力が解き放たれたか……。これじゃ完全に中二病再発してるじゃねーか。

 体を起こして視線を向けられている(はずの)方を見てみると、俺と目が合った彼女はびくっと肩を揺らして、すぐに首をぶんっと回して前を見た。そんな勢いよくやって首は大丈夫なのん? で、誰だっけあれ。

 えーっと、名前は川……川、川越だ。イメージカラーはブラック。なんでかって? そりゃもちろん黒のレースだからです!

 というか、川内ならいつも一人でいるはずだし、二人きりになれる可能性も高いよな? 

 ……よし、川谷に接触してみることにするか。

 

 ここで授業終了を告げるチャイムが鳴った。はぁ……学年末の数学は、また由比ヶ浜と戸部とワースト争いを楽しむしかないのか……。

 

 さて、川崎沙希(実は最初から分かってました)は、昼休みはどこへ行くのだろうか。

 川崎の席を見ると、既にそこにはいなかった。ううむ、動くの早いな……。川崎が行きそうなところっていったら、屋上くらいしか思いつかないな……。初めて会ったのもそこだし、とりあえず行ってみるか。

 

 さぁ、俺の手に入れた力を使って川崎沙希を落とすとしますかね……。やばい、何がやばいかって、さっきからめっちゃ中二病が再発してる。今なら材木座とも仲良くなれそう。

 

 ……それはやっぱ無理だな、うん。

 

 

××××××

 

 

 購買へ寄ってから、屋上へと続く踊り場を歩く。人一人通るのがやっとのような場所だ。もうちょっと綺麗にしてもらいたい。扉の前にくると、予想通り南京錠が外されていてぷらぷらと揺れていた。その扉を開けて周りを見渡すと、川崎は梯子を上った先にある給水塔に寄りかかっていた。高いところ好きなの? バカと煙はなんちゃらというが、川崎は別にバカではないんだよな。スカラシップ取ってる時点で有能だろ。将来養ってくれねぇかな……。

 

「川崎」

 

 下から声をかけると、川崎は俺がいることにびっくりしたのかのけぞった。でも給水塔に寄りかかってたから、思いっきり頭をぶつけた。……大丈夫?

 

「ななななな、なんであんたがここにいんのさ!?」

 

 んー、そう言われると困るな。というか、頭の痛みより俺がいることについての方が優先順位高いのね……。

 ──そのとき。

 風が吹いた。前は梯子を降りている最中だったから後ろ向いてる状態だったが、今回はあれだ、その、下からだけど前向いてる状態から拝めてしまった。まぁ、要するにあれだ。

 

「……黒のレース……か」

 

 パンツが見れたってことですね! 風ナイス! あ、黒のレースさん、お久しぶりです! めっちゃガン見しちゃったけど大丈夫だよな……? でも川崎って見られても気にしないやつだったっけ。それだとただの変態みたいで失礼か。でも、もうちょっと可愛らしい反応して欲しいものだ。

 

「ば、ばっかじゃないの!?」

 

 川崎は耳まで真っ赤にしてスカートを手で押さながら、キッと睨んできた。

 そうそう、こんな感じで可愛らしい反応……を? 川崎ってこんな反応するやつだったっけ……。でも睨むのはやめてね?

 文化祭が終わった頃から、川崎の俺を見る目が変わってるのは気づいてるんだけど、俺何したか覚えてないんだよな……。

 

「あー、なんか悪いな。その、見ちまって……」

 

「い、いや、べ、別に……」

 

 なにか呟いた気もしたけど、位置的に聞こえんな。俺下から話しかけてるんだし。とりあえず俺も上に行くか。

 

「そっち行ってもいいか?」

 

 俺の言葉に川崎はあわあわしながら、右見たり左向いたり、てんやわんやした後にこくんと首を縦に振って頷いてくれた。

 了承をもらったから梯子を使い、上に上るとまた一段と高い景色を見れた。うわ、意外と怖いわ……。

 幅は狭いが、座れないわけではないし、とりあえず座ると川崎も俺につられて座った。

 

「……それで、なんの用?」

 

 さっき見られたのが恥ずかしかったのか、川崎は俺の隣でもじもじしながら聞いてきた。そんな反応されたら普段と印象が違くてこっちも困るんだけど……。

 しかし、何の用かって言われてもなんて言えばいいものか。「君のこと落としにきたんだ!」とか言ったら確実に殺されそう。というか、今二人きりなんだよな? なら試してみるか……。

 

「あー、その、何。ここならお前いるんじゃないかって思ってよ。そんで一緒に飯でも食おうかと思ってな」

 

 俺は何を試したかったんだろうか……。言ってることめちゃくちゃだな。ただのクラスメイトがいきなり一緒に飯食いたいとか言ってきたら怖いだけだろ……。

 

「……そ」

 

 川崎は素っ気なく返事をしたが、その顔はどこか嬉しそうだ。あれかな? やっぱサキサキもぼっちだし、飯のお誘いは嬉しいものなのかな?

 とりあえずここに来る前に購買で買ったパンを食べ始めると、川崎もバックから弁当を取り出して食べ始めた。てか、バックごと持ってくるとか警戒心強すぎない? クラスに天敵でもいるの?

 

 黙々と咀嚼しているが、俺も川崎も喋らない部類だし会話が全くない。別に気まずくはないんだけど、これで俺が川崎を落とせるかって言ったら否なんだよな……。

 なんか話題ねーかなーと、考えていると川崎の弁当に目がいった。

 

「それ、自分で作ったのか?」

 

「そ、そうだけど……」

 

 ほー、すげぇもんだな。しかもめっちゃ美味そうだし。別に恥ずかしがるようなことじゃないだろ。

 結局これ以降、会話も続かず黙々と飯を食い続けてしまった。やばい、さっきまで中二病再発させるくらい自信あったのに何もできてない……。

 飯を食べ終わり、これからどうするかと考えていると、一つだけ気になることがあったから聞いてみた。

 

「昼休み終わるまでずっとここにいんのか?」

 

「そうだけど?」

 

「……寒くね?」

 

 ここベストプレイスより普通に寒いんだけど……。そりゃ屋上だし当たり前か。

 

「そう? あたしは別にそんなことくちゅんっ」

 

 ……えー、何その可愛いくしゃみ。くちゅんなんて言うやつ初めて見たぞ……。

 川崎はよほど恥ずかしかったのか、下を見て俯きながらぷるぷると震えていた。これ恥ずかしくて震えてるの? それとも寒くて震えてるの?

 

 はぁ……まぁどっちでもいいや。自分の着ているブレザーを脱いで、それを川崎の肩にかけた。うはぁ……めっちゃ寒い。

 

「い、いや、大丈夫だから! それじゃあんたが風邪ひいちゃうでしょ!」

 

「ん、まぁ気にすんなよ。どうせ昼休みもあと少しだし」

 

「で、でも……そ、その……あり、ありがと……」

 

 そんなもじもじされながら礼なんて言われたらこそばゆいんだけど……。でも、かっこつけたのはいいけどまじで寒いな。俺が風邪引いて小町に移すわけにはいかないしどうするか……。やっぱ川崎と一緒に戻った方がいいような気がしてきた……。

 川崎は俺が寒そうにしているのに気づいたのか、立ち上がって俺の後ろに座ると、俺の腰に手を回して、ぎゅっと抱きついてきた。

 

 …………は!? 

 

「え、ちょっ……なにしてんの?」

 

 やばいやばい近い近い柔らかい耳に当たる吐息がくすぐったいし近いし柔らかい! え、ほんとになんでこんなに柔らかいの? 川崎は冬でもリボンはしないで胸元が開いているから、なおさら、その、発育のいいあれがむにゅむにゅと押しつけられてやばい。何がやばいかって? そりゃもちろん俺の理性とかね!

 

「こここここ、これならあんたも……さ、寒くないでしょ?」

 

 後ろを見ると、川崎も俺と同じくらい動揺していた。アニメとかなら目がぐるぐる回ってるな。なら最初からやらないでくださいよ……。確かに寒くはないよ? むしろ暑くなってるまである。

 

「寒くはないけど、誰か来たらやばいだろ……」

 

「そ、それなら大丈夫。昼はあたしがいること分かってるから、誰も近寄らないし」

 

 サキサキさんマジぱないっすわ……。見た目がヤンキーっぽいだけで、中身は普通にいいやつなんだけどな。人は見かけによらないって川崎のために作られた言葉なんじゃね? って思うレベル。今だって俺のために抱きついてくれてんだし。でも、耳元でぽしょぽしょと喋られるとくすぐったいからやめて欲しいんだけど……。

 

 ……人が来ないならもうちょっとくらい積極的になってもいいよな?

 

「……ならちょっと離してくるか?」

 

「?……うん」

 

 俺から離れた川崎は、また隣に座ってきた。そのお顔は真っ赤っかです。多分俺も同じ感じなんだろうけど。というか、なんでちょっと残念そうな顔してるのん? 

 

 まぁそれはいいか。んじゃ、今度こそ俺の身につけた(はずの)スキルを試してみますかね……。




サキサキ√スタートです!えー、今回の話を見ても分かるようにヒロインにつきひとつひとつ独立した別次元なので、前編の最初らへんの下りは毎回同じ感じになるかもしれません。そこはまぁあれです。許してください!(白目)

それでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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意外にも川なんとかさんは乙女である。【中編】

 

 川崎を落とすのに行動する前に、とりあえず現状を整理しよう。

 ・川崎にブレザーを貸して俺はワイシャツのみ。

 ・さっきまで背中に当たっていた感触が柔らかすぎて、思い出すだけで死にそう。

 ・隣でもじもじしている川崎がめっちゃ可愛い。普段の気だるそうな雰囲気とのギャップがやばい。

 ・そして何より、誰も来ない屋上で二人きり。

 ……。

 …………。

 ……………………ちょっと理性がギリギリ。あとさっきまで暑かったけど、もう寒くなってきて思考能力も低下中。

 それに俺が特に何もしなくても、川崎さんの様子おかしいんだもん……。もう何すればいいか分からなくなってきた。とりあえずなんかしなきゃ昼休み終わっちまう……。

 俺は立ち上がって川崎の後ろで膝立ちになり、後ろから首に手を回して覆いかぶさるようにして抱きついた。

 

「ひゃうっ!? ななななな、あんたなにしてんの!?」

 

 川崎は俺の行動にびっくりしたのか、顔を真っ赤にしたまま固まってしまった。うん、俺もびっくり。寒さのせいで気づいたらやってた。今日のヒキタニ君はいつもの八万倍大胆だよ!

 ふぅ……まだ抱きしめられるよりは緊張しないな……。自分でも予想外の展開だけど、これなら好都合かもしれん。

 

「……嫌か?」

 

 川崎の耳元に顔を近づけて囁くように言うと、ぷるぷると川崎が震えた。耳元に顔を近づけたからシャンプーのほのかな香りが鼻腔をくすぐった。

 

「え、えっと……ううぅ……」

 

 なんか唸り出したんだけど……。これに関してはちゃんと返事をしてもらいたい。これが怖くて何も言えなくなってるんだったら、速攻でやめなきゃ通報されちゃうし。

 

「ほら……どっちなんだよ。嫌なのか?」 

 

「い、嫌……じゃない」

 

 よし、とりあえず通報は免れた。川崎って俺のこと好きなんじゃねって勘違いしちゃいそう。というか、なんか勘違いじゃないような気も……。さすがに自意識過剰か。

 なら、ここからは言葉攻めだな。普段から海老名さんには「ヒキタニくんはもちろん誘い受けだよね! ぐ腐腐腐……」って言われてるけど(怖い)、俺だって攻めることができるって証明してやる。

 だいたい俺が受け前提で話を進められてるのに納得できない。これからは「はちはや」って言ってもらおう。それならいいや(全然よくない)

 

「川崎ってさ、好きなやついるのか?」

 

「な……なんで急にそんなこと……」

 

 川崎は首を俺の方に向けて、涙目で俺のことを見てきた。

 ……やばい、めっちゃいじめたい。よし、ちょっとだけいじめよう。どうでもいいけど、ちょっとだけと先っちょだけは似てると思いました。

 川崎が押しに弱いことは前から知っているから、ここは少しだけ強めの口調で言ってみるか。

 

「いいから、どっちなんだよ」

 

「うぅ……い、いる……」

 

 恥ずかしそうに小さな声でぽしょりと呟いた。え、まじで? いるのにこんなことしてて平気なのん?

 

「へぇ……それは誰なん……あ」

 

 ここで昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。なんだよタイミング悪いな。こんなラブコメ展開いらねーから……。

 抱きつくのをやめて離れると川崎は勢いよく立ち上がり、自分のバックを持って梯子を使い下に降りて、全力ダッシュで屋上から出ていった。そんなに恥ずかしかったのね……。

 

 ……というか、俺のブレザー持ってかれたんですけど……。

 

 

××××××

 

 

 翌日。

 昨日はあの後から特に何もなく終わった。何かあったかといわれたら、俺がブレザー着てなかったから教室に戻った時めっちゃ変な目で見られたくらいだ。でも戸塚だけは心配そうに見てくれた。ほんと戸塚とゴールインさせて欲しい。ちなみにブレザーは机の上に置いてあった。川崎許すまじ。まぁ元凶は俺なんだけど。

 

 今日は昨日のこともあって早く目が覚めた。だって俺自身が女子に抱きつくのも抱きつかれるのも初めてなんだぞ? そりゃあ健全な男子高校生なんだし悶々とだってしちゃいますよ。

 たまには学校に早く行くのもいいかなと思い、いつもより1時間くらい早く家を出てしまった。はい、完全にアホですね。 

 教室に誰かいるかなー、どうせいたとしても会話なんてしないんだよなーと、思いながら中へ入ると、川崎は気だるそうに窓の外を見ていた。なんだ、川崎も早起きしちゃったのか。

 教室には他に誰もいないから、とりあえず話しかけてみることにした。

 

「よう」

 

「ひっ!」

 

 川崎はびっくりしたのか、さっきまでの気だるそうな雰囲気とは一変、椅子から立ち上がり数歩後ずさりした。その目には驚きと怯えが入り交じっている。いや、その反応はさすがに傷つきますよ? 普通に挨拶しただけじゃん……。

 教室内で俺が川崎にアプローチしてる時に他のやつらが来たら大変だし、今は特に話すことはないから自分の席に座って寝ようとしたら、川崎は俺の方に近づいてきた。俺の席の横まで来ると、何か言いたそうに俺を見ながらもじもじしている。これ絶対俺から聞いた方が早いよな。

 

「……どうした?」

 

「あ、あのさ……こ、これ、お弁当作ってきたから」

 

 そう言い、俺に弁当箱を渡してきた。な、なんで……? 俺弁当作ってくれなんて頼んでないんだけど……。

 でもまあ、ここで「なんで作ってきたんだ?」なんて言うのも野暮だよな。

 

「おう、ありがとな」

 

「別に……。あたしがやりたくてやったんだし……」

 

「んじゃ、昼休みどこで食う? また屋上行くか?」

 

「へ?」

 

 川崎は素っ頓狂な声をあげた。俺今変なこと言ったか……?

 

「え、一緒に食わねぇの?」

 

「だ、だって……」

 

「は?」

 

「お、怒らないでよ……」

 

 だめだ。全然噛み合ってない。川崎さんテンパりすぎじゃないですかね……。

 

「別に怒ってねーから……。で、なんか一緒に食いたくない理由でもあんの?」

 

 聞くと、川崎は頬を赤らめて、もじもじしながらぽしょりと呟いた。

 

「だ、だって……い、一緒に食べたら、あんた味の感想とか言うんでしょ……? は、恥ずかしいじゃん……」

 

 ……吐血した。え、何この子。めっちゃ乙女じゃん。口下手な川崎のことだし、これ素でやってるんだよな……。どこぞのあざとい後輩や妹にも見習ってもらいたいものだ。

 

 このままだと川崎が一緒に食ってくれそうにないから、ここは強硬手段に出よう。

 俺は椅子から立ち上がり、川崎を抱き寄せて耳元に口を寄せて囁いた。

 

「俺は沙希と一緒に食べたいよ」

 

 ……なんだろ。うまく言えないけど、やりきった感が半端ない。自分から抱きしめて名前呼びまでしちゃったよ……。それに攻めると楽しくなって饒舌になっちゃうな。

 

「うぅ……わ、わかったよぉ……」

 

 川崎はうわずった声で了承してくれた。もうあれだな、川崎は押せば何でも許してくれそう。

 

「おう、楽しみにしてるから……」

 

 吐息混じりの声で囁き、抱きしめる力を強めると、川崎はびくーんと背筋を伸ばした。

 

「ももももも、もう無理!」

 

 川崎は俺を腕で押し返して、走って教室から出ていってしまった。なんかごめんね……? ちょっとやりすぎたな。

 

 はぁ……さっきまでのことを思い出すと恥ずかしくて死んじゃいそうだし、昼休みどうするか考えながら寝るとするか……。

 




このサキサキ√の八幡がただのすけこましにしか見えない……。まぁやっとタイトル通りの展開にできた気もしますけど……w

閑話休題。今年の冬はいつもより寒くない気がします。それで調子に乗ってパンツのみで1日過ごしたら余裕で風邪ひきました……w皆様は体調にお気を付けてください!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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意外にも川なんとかさんは乙女である。【後編】

川なんとかさん√ラストです!


 

 という訳で、まだ四限目の最中だけど授業はカット。

 いや、どういう訳だよって言われたら終わりなんだけど、それといって特筆することはなかったしな。

 ……川崎からの視線がやばかったとかそんなことはなかった。俺と目が合ったらちょっとだけ頬を染めて、指をもじもじさせてたとかありえないから。

 ……はい、もうあれです。超可愛かったです。周りに誰もいなかったら絶対に悶えまくってた。というか、少しだけ悶えてしまったら隣の席の女子(可愛い)に、青ざめた表情で見られた。見られた俺はちょっぴり赤面。ますます青ざめられるというカオスな状況になった。ははっ、辛い……。

 

 ここで授業終了を告げるチャイムが鳴った。

 授業中に川崎を確実に落とす手段は考えたから後は実行するだけだ。ちょっとというか、かなり恥ずかしいことをする予定だから緊張するな……。

 そろそろ移動するかと思うと、川崎がこっちへ眠たそうによろよろと歩いてきた。さっきの授業はずっと寝てたからな。やっぱり俺と同じで寝不足だったのか。

 ここでふと気づいたことがある。俺、川崎のこと見すぎじゃね……? 今日目が合った時は毎回俺が見てた時だし。

 ……なんかもう、俺が落ちかけてる気がしなくもないんだけど。

 

「ふぁ……で、どこで食べるの?」

 

 欠伸を噛み殺すようにして、んーっと大きく伸びをした川崎を見て戦慄した。それだけで君のメロンは揺れるのん……?

 ふぅ……落ち着け。落ち着いて川崎の眠気を覚まそう(混乱)

 

「一応沙希と二人きりになれる場所に当てはあるぞ」

 

 もう既に大混乱してますね……。別に眠気覚まさせる理由もないし、名前呼びをして恥ずかしい思いしただけだわ……。

 

「……そっか。じゃあ行こっか」

 

「お、おう」

 

 あんれー? 川崎さん反応薄すぎない? やばい、既に心がへし折れそう。

 

「ん、あれ……? は、はぁ!? なんであんた今名前で呼んだの!?」

 

 時間差ありすぎだろ……。それにちょっと声のボリュームが大きいです。ほら、その……クラスの視線が全部こっちに集まってるし。

 

「はぁ……とりあえず行くぞ」

 

 川崎の腕を引いて歩き出すと小さな声で唸り出した。お前昨日から唸りすぎだろ……。怪獣サキサキと名付けよう。多分本人に言ったら本気で殺られそう。

 

 はぁ……なんで俺はこんなに緊張してるんだよ……。朝は抱きついても平気だったのに、今は手を繋ぐだけで心臓が痛いほどに高鳴っている。

 

 川崎のことを見てると胸がとくんとくん言うの……。これって……恋?

 

 俺がこんなこと言うと吐き気するだけだな……。

 

 

××××××

 

 

 周りの視線から逃れるように教室から出て、昨日と同様、屋上へ来た。ベストプレイスでもよかったんだけど、あそこはたまに人が通るからな。川崎にアプローチしてる間に来られたら大変なことになるし。主に俺が。もちろん犯罪的な意味で。

 

 川崎から先に給水塔の梯子を上り始めたけど、この子気づいてないのかな? また黒のレースさんとご対面しちゃったんですけども……。

 知らぬが仏って素晴らしい言葉もあるしここは言わないでおくか。眼福眼福。

 川崎が給水塔の梯子を上りきったのを見届け、俺もそれに続いて梯子を上る。そうして川崎の隣に腰かけてから、今朝方受け取った弁当の包みを解く。

 

「じゃあ食おうぜ」

 

 そう声をかけ、弁当の蓋を開いた。

 直後、視界に飛び込んできたあまりの彩りの良さに思わず感嘆の息が漏れた。

 

「おお、すげぇな……」

 

「そ、そう? 別に普通だと思うんだけど……」

 

「これで普通って謙遜しすぎだろ。……じゃ、いただきます」

 

 何から食べようか悩んでいると、川崎が俺のことをじっと見ていることに気づいた。そんなに見られると食べづらいんですけど……。

 とりあえず、卵焼きから食べてみた。

 

「……毎朝、俺の味噌汁を作ってくれ」

 

「は?」

 

 あまりにも美味すぎて戸塚専用のコマンドを使ってしまった。これじゃプロポーズしてるようなもんじゃん……。

 川崎は最初は理解できずにきょとんとしていたが、俺の言ったことを理解したのか、みるみるうちに顔を赤くしてうつむいてしまった。

 

「あ、あんたがそうして欲しいなら……」

 

「は?」

 

「な、なんでもない!」

 

 声が小さすぎて聞こえなかったな。まあ、俺が変なこと言ったんだししょうがないか。

 結局この後は、お互い無言でひたすら食べ続けてしまった。あーんとかやろうと思ってたけど恥ずかしすぎてそんな余裕がなかった……。

 

 

「ごちそうさま。まじで美味かったわ」

 

「……そ、ならよかった」

 

 素っ気なく返事をしたが、その顔は少し嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

「おう。美味すぎて毎日食べたいと思ったくらいだ」

 

「じゃ、じゃあさ」

 

「ん、なんだ?」

 

 聞くと、体をこっちへ向けてぺたりと女の子座りをしたので俺も川崎の方へ体を向ける。川崎はさっきまで胡坐だったので、そのギャップがまたなんとも言えないくらい可愛らしく見える。これがギャップ萌えってやつなのか……。

 

「あ、明日からもお弁当作ってくるからさ……その、あ、頭撫でてくれない……?」

 

「はい、もうぜひ喜んで」

 

 懇願するような、それでいて恥ずかしそうに上目遣いで見てくる川崎にノックアウトされて、関節のパニックもびっくりなスピードで川崎の頭を撫でてしまった。もちろん早かったのは返事の早さだけで、頭はちゃんと優しく撫でてますよ?

 

「ん……いい感じ」

 

「……そりゃよかった」

 

 頭を撫で続けながらこれからのことを考える。元々、頭を撫でるのは予定に入れてたけど、まさか川崎からリクエストしてくるとは思わなかった。でもまあ、予定が狂ったわけではないし別にいいか。

 じゃ、そろそろ俺からも仕掛けるか……。

 

「なぁ川崎」

 

「ん……なぁに?」

 

 よほど頭を撫でられるのが気持ちいいのだろうか、目が少しとろんとしている。

 

「昨日聞きそびれたやつ覚えてるか?」

 

「そ、それってあたしの好きな人が誰ってやつ?」

 

 ご名答。これこそ俺が川崎を落とすために一番必須な話題なのだ。

 

「そうだ。で、誰なの?」

 

「……その前に一つ聞いてもいい?」

 

「ん、なんだ?」

 

 川崎は俺に胡乱げな視線を向けて、俺の期待通りのことを聞いてきた。

 

「なんであたしの好きな人を知りたいわけ?」

 

「……それくらい察してくれよ」

 

 いや、もうこれ完璧だろ。意識してますよアピールの頂点に君臨する言葉だな。

 ……それに、別に嘘をついている訳ではない。川崎にアプローチしていくうちに、逆に俺が川崎に惹かれているわけでもありますし……。

 

「え、そそそそ、それって……」

 

 川崎の顔はこれでもかというくらいに真っ赤になり、遠慮がちに俺のことをちらちらと見てくる。

 

「……まあ、つまりはこういうことだ」

 

 そういい、川崎の方へ体を近づけ、頬に触れるだけの軽いキスをした。

 うん、ま、まあ外国だと挨拶代わりに普通にやっちゃうもんだし平気だよね! ……平気だよね? 

 

 はぁ……くっそ恥ずかしい……。いやー、とりあえずやりきった。もしかしたら人生で一番頑張ったかもしれんと思ったその直後――背中に鈍い痛みが走った。

 

「いって……なにすん……っ!?」

 

 俺の声は途中までしか音にならなかった。なにか柔らかいものが、俺の唇を塞いでいる。

 ……なんで俺川崎に押し倒されてキスされてるんだ? え、一周回って落ち着いちゃったんだけど……。

 川崎は俺の胸元のあたりをぎゅっと掴み、眉を寄せて顔をぷるぷると震わせている。しかし、状況判断ができるくらいに冷静になったところで結局対処ができないまま、静かに時間だけが流れていく。

 そのわずか五、六秒という短い時間は、何分も時間が停止していたような──そんな感覚に陥ってしまうくらいに長く感じた。

 

「ぷはっ……な、なんで急にんむっ……!?」

 

 間髪入れずにもう一度唇を重ねてきた。まさかの二連続です。

 俺が頬にキスしたせいで理性のタガが外れたのか……? というか、唇柔らかすぎだろ……。

 一周回って落ち着いたのか、それとも開き直ったのかは分からないが、今度は幸せそうな顔で川崎が目を閉じている。

 改めて思う。こいつ本当に可愛いな……。あと、俺の胸にたわわな実りが押し付けられててやばい。めっちゃむにゅむにゅされてる。やめて! 八幡のハチマンが大変なことになるから!

 でも色々とまちがっているような気もする。キスってもっとムードのある時にするものじゃないのん? や、今までこんな経験ないから分からないだけなんだけど。

 やっぱりいくら少女漫画やドラマを見ても、フィクションはフィクションなんだなーと的外れなことを考えてしまった。

 川崎の唇が離れると、またキスされそうな予感がしたから(いや、全然いいんだよ? でもこのままいくと確実に俺の理性が飛ぶ)、川崎の肩に手を乗せ少し距離を置いた。

 

「か、川崎……ちょ、ちょっと落ち着け……」

 

「好き……」

 

「え……?」

 

 川崎は吹っ切れてしまったのか、呆れたように俺のことを見た。

 

「聞こえなかったの? ……あたしはあんたのことが好き」

 

 平静を装っているが川崎は肩を震わせ、今にも泣きそうに目尻に涙を浮かべている。

 あぁ……もうだめだ。こんなの我慢できるわけがない。

 川崎の背中に腕を回して抱き寄せて、今度は俺から唇を重ねた。

 

「……俺も川崎のことが好きだ」

 

「……そっか。嬉しい」

 

 幸せいっぱいの表情で微笑む川崎ともう一度唇を重ねた。

 

 はぁ……本当に信じられない。ムードもへったくれもない展開になってしまったが、それでも彼女ができてしまった。

 嬉しそうに微笑んでいる川崎を見て、心が満たされる。

 彼女とならこれからの日々が割と楽しくなるんじゃないかと。

 不思議と、そう思えた。

 

 

 結局この後、五限目は参加せずにずっとイチャイチャしてました☆

 ……平塚先生からラストブリットを喰らったのはまた別の話ってことで、今はこの幸せを噛み締めることにしよう。

 




これにて川なんとかさん√完結です!
この作品を読んでサキサキのことが少しでも好きになってくれたら光栄でございますw
サキサキSSがもっと増えることを祈りつつ……。

……次回のヒロインは未定です!一応ほぼ全ヒロインのネタは思い浮かんでますけど、次を誰にするか秘密にしておいた方が楽しみですよね!ね!ね……?(ただ書けてないだけ)

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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昼休みにただイチャイチャするだけ〜サキサキ〜

サキサキアフターです!


 

 川崎と付き合って2週間が経ったある日。今は昼休みで川崎と一緒に屋上で飯を食べている。

 あ、ちなみに2日に1回はテニスをする戸塚を慈しむためにベストプレイスで食っている。これだけは譲れなかった。川崎には白い目で見られたけど気にしない。

 食事中は基本的に俺も川崎も喋らないので近頃聞く噂について考えてみることにした。

 最近、総武高では変な噂が立っている。屋上に現れるヤンキーとゾンビについてだ。ぼっちの俺でも耳に入ったくらいだ。その会話の一部がこれだ。

 

『なぁ知ってるか? 最近屋上にヤンキーとゾンビがいるらしいぞ』

 

『あぁ……それ俺も聞いたわ。なんでもヤンキーの後ろにゾンビが犬のように付いて行ってるらしいぞ』

 

『ゾンビで犬……? それって……』

 

『『太郎丸だよな……?』』

 

 みたいな会話が聞こえてきた。まぁ考えなくとも俺と川崎のことなんだよな……。

 川崎は見た目不良っぽいからしょうがないとしてもなんで俺はゾンビなんだよ。まぁ絶対この目のせいだと思うけど。

 しかもヤンキーの後ろを付いて行く犬扱いだぞ! 泣きそう。

 というか太郎丸アニメだと重宝されすぎだろ。思わず号泣しちゃったじゃねーか。

 帰ったらもう1回見ようかな……と悩んでいるうちに飯を食べ終えてしまった。嫌なこと思い出してたけど今日も弁当は美味しかったです。

 

「ごちそうさま。今日も美味しかったわ」

 

「そっか、お粗末さまでした」

 

 川崎は俺が美味しそうに食べていたからか、嬉しそうに微笑む。

 まぁ俺は基本的にはポーカーフェイス(自称)だからな。顔の表情はほとんど変わらないんだけど川崎はそれでも喜んでくれる。

 

「あたしも食べ終わったよ」

 

「んじゃ、今日もやるか?」

 

「ん、よろしく」

 

 今はもう飯を食べたあとの恒例行事になっている頭を撫でる時間でございます。

 一昨日なんて川崎の頭をひたすら撫でてたら昼休み終わってたし。それくらい川崎の頭は撫で心地がいい。なんでこんなにサラサラなんだろうか。

 川崎はあの告白の日以来、だいぶ慣れてきたようで俺と一緒にいてもほとんどテンパらなくなった。

 あの慌てようも可愛かったけど俺と一緒にいるだけで常に顔赤くされると、それはそれで気恥ずかしいし。まぁそれも可愛かったんだけどな。

 

「ねぇ比企谷」

 

「ん、どした」

 

 頭を撫で続けると目を細めながら川崎が話しかけてくる。そういや呼び方が「あんた」からたまにだけど「比企谷」に変わったんだよな。最近まで気付かなかったけど俺って川崎に名前で呼ばれたことがなかったっぽい。

 ちなみに1回だけ八幡って呼ぼうとした時は本当に可愛かった。

 

『は、はち……はち……ううぅ……』

 

『ぐはっ!』

 

『え!? だ、だいじょうぶ!?』

 

 って感じだった。顔を真っ赤にしながら頑張って名前で呼ぼうとする川崎が可愛すぎて死にそうになった。というか1回死にました。その日はもう頭の中でそれがひたすらリピートされ続けて何もできなかった。

 でもあれだ。俺が沙希って呼んだ時はもっと可愛かった。

 

『なぁ沙希』

 

『え!? なななな、きゅきゅ急に名前で呼ばないでよ!』

 

『……嫌か?』

 

『嫌じゃないしむしろ……、ううぅ……比企谷のすけこましぃ』

 

 涙目になりながら俺に抱きついて顔を胸にこすりつけてきたんだっけな。

 あの時は鼻血出そうになるくらい興奮したんだけど、俺別にすけこましではないんだよなぁ……。

 

「比企谷? 聞いてるの?」

 

 川崎に肩を揺すられた。あ、そうだ。俺川崎に呼ばれてたんだっけ。

 ふむ、ぼーっとはしてたけど頭を撫でるのはやめてないとかやっぱり俺ってすけこまし?

 

「悪い。ちょっと考え事をな。で、なに?」

 

「はぁ……あんたってたまにぼーっとしてるときあるよね。授業中も集中してるのかしてないのかあんまり分かんないし」

 

 胡乱げな視線を向けられ呆れるように言われてしまった。そうだ、いいこと思いついた。

 

「へぇ、授業中も俺のこと見てんのか」

 

「えっ、あっ、その、違……うわけじゃないけど……その、気づいたらあんたのこと見ちゃってる……かも」

 

 胸の前で指をもじもじと絡ませながらぽしょぽしょと呟く。

 いやいやいや。そこは否定してくださいよ……。

 

「……んで、なんだ?」

 

 気付いたら話が逸れてた。完全に俺のせいですねはい。

 

「えっと、そ、その……」

 

 川崎はさっきより頬を赤く染めてちらちらと流し目を送ってくる。いや、なにがしたいのこの子?

 

「なんだ? キスでもして欲しいのか?」

 

 ついアホみたいなことを言ってしまった。まぁ実際は付き合った日以来1回もキスしてないんだけどな。

 いや、したいんだよ? でもあんまりがっつきすぎると嫌われたりしないかなーって怖いじゃん? 今日もいつも通りただのチキンの八幡君でした(自己完結)。

 

「……うん」

 

「そうかそうか……え?」

 

 え、用ってそのことなの? てかまじで? 川崎もキスしたいの?

 

「だってさ……あたしたちあの日から、その、1回もしてないじゃん?」

 

「……まぁそうだな」

 

「だから……その、……しよ?」

 

 胸の前で手をぎゅっと握りながら、上目遣いで俺を見てくる。

 あー……そんな顔されたら俺だって我慢できなくなんだろ……。

 

「……おう」

 

 川崎の背中に両腕を回して、そっと優しく唇を重ねた。

 

「んっ……」

 

 うっすらと目を開けてみると、川崎はうっとりとした表情で幸せそうに甘い吐息を漏らす。相変わらず唇柔らけぇな……。

 

「……その、なんだ。別にしたかったらいつでも言ってくれていいんだからな?」

 

 恥ずかしくて頬をぽりぽりと掻いてしまう。まぁ川崎の幸せそうな表情から見て分かるように、多分ずっと我慢をしていたんだと思うしな。

 キスが大好きの川崎とか最高じゃないか……!

 

「ありがと。じゃあ……ん」

 

 俺の首に両手を回して目を閉じて唇を差し出してくる。

 そして、もう一度ゆっくりと唇を重ねる。ほんとに幸せそうな顔してんのな。思わず俺の頬も緩んでしまった。

 

「ふふっ、今日は5限目サボっちゃおっか」

 

 唇を離すとくすりと微笑みながら川崎が言う。

 

「え、まじで?」

 

 確か次って現国だった気が……。俺死んじゃうんだけど。主に物理的な意味で。

 

「2週間もあんたがあたしに何もしないのが悪いんだよ?」

 

 少しだけ頬を膨らませながらいじけたような声振りで呟く。川崎の頬を膨らませるのなんて初めて見るから、思わずその表情に見惚れてしまった。

 

「……今日だけだからな?」

 

 まぁ断れるわけないよね。川崎ほんとに可愛すぎるし。

 

「ならその代わり、これからは毎日ちゃんとキスしてくれる?」

 

「……おう」

 

「ふふっ、ならいいよ」

 

 柔和な笑みを浮かべてから川崎から唇を重ねてきた。彼女は俺が今まで知らない表情を見せてくるからどんどん惹かれていってしまう。それがまた愛おしくて川崎を抱きしめる力が思わず強くなってしまう。

 でも、結構強く抱きしめてしまったからたわわな実りがむにゅむにゅとされてですね……。川崎も俺にくっつくために抱きしめる力を強めるからどんどんむにゅむにゅとされる。うん、柔らかいのでもっと押し付けてくださいお願いします。

 

 この後結局5限目をサボってしまった俺たちは、平塚先生に放課後呼び出されてめっちゃお説教されました。主に俺は物理的にも殺られました。

 川崎はそんな俺を見て呆れるように笑ったけど、お前がサボろうって言ったのが悪いんだからな?

 と、まぁこんな感じで毎日楽しくやらせてもらってます。

 ……誰に言ってんだこれ。

 




お気に入り1500、感想100、UA13万突破しました!ありがとうございます!
あと昨日のいろはアフターも昼頃は日間ランキング1位でした!ほんと感謝です!

感想やお気に入り、評価などもこれからもどんどんよろしくです!
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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川崎沙希との放課後デートは思いのほか楽しい。

サキサキアフター第二弾です!


 

 ある日の放課後。川崎の席へ向かうと俺が来たことを不思議に思ったのか川崎が首を傾げる。

 まぁ普段なら部活へ行く前に軽く挨拶をするくらいだからな。俺にしか見えないように小さく手を振ってくる川崎が本当に可愛くてなぁ……。

 うん、話が逸れた。ていうか逸れすぎてる。

 

「ん? どうしたの?」 

 

「えっと、あのな。その、この後俺と遊……デート行かねぇか?」

 

「え……?」

 

 羞恥を煽るために敢えてデートと言ったら川崎の動きがぴたりと止まった。本当に面白いくらいにぴたりと止まってる。瞬きをすることさえ忘れちゃってるよこの子。

 

「は、はぁぁぁぁ!?」

 

「いや、ちょっと声のボリューム大きいから」

 

 ほら、周りの視線が全部こっちに……。

 

「いや、だ、だってあんたから、デデデ、デートなんて……」

 

 顔を真っ赤にした川崎がわちゃわちゃと慌てながらしどろもどろに言う。そのたびにポニーテールがせわしなく揺れていて、思わず撫でたいなぁと思ってしまった。

 まぁ流石にここで撫でるわけにはいかないけど。TPOって大切!

 

「なんでそんなに慌てるんだよ。この前の休みも行ったじゃねーか」

 

「そ、それはあたしから誘ったやつだし……」

 

「はぁ……行かねぇなら部活の方行くけど?」

 

 今日は休むって言ってあるからそんなつもりは一切ないけど。

 

「い、行くから! 絶対行く!」

 

 そう言い、川崎はバタバタと荷物を整理し始めた。

 ふぇぇ、周りがザワザワしてるよぉ……。こんなことになるなら昼休みに言っときゃよかったな。

 

「じゃ、行こうぜ」

 

「う、うん」 

 

 周りからの好奇の視線に晒されながら教室を後にした。

 はぁ……明日学校行きたくねぇなぁ……。

 

 

××××××

 

 

 自転車を押しながら川崎とのんびりと歩く。もちろん俺が車道側だ。ジェントルマンとして当然の所作だよな。ただ小町に仕込まれてるだけですねはい。 

 今のこの時間は俺からしたらとても心地よい時間だ。特に会話はないけど安心するというか心がぽかぽかするというか。

 隣で歩く川崎に視線を向けるとパチリと目が合い優しく微笑んでくる。

 心地よい時間とか言ったけどあれ嘘だわ。心臓が痛い。なに今の可愛すぎでしょ……。

 

「部活はよかったの?」

 

「ん? あぁ、昨日のうちに休み取っといたからな」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜に言ったら少し不機嫌になってたけど。あと、何故かいた一色もぷりぷりしてた。

 俺のが先に恋人持ちになったのがそんなに不満だったのかしら……。

 

「そっか。それでどこ行くの?」

 

「どうすっかな……」

 

「なんで誘ってきたのに決めてないのさ……」

 

 呆れるようにため息を吐かれる。ご、ごめんなサキサキ? 誘うことだけで頭いっぱいだったんだ。

 

「じゃあ無難にカラオケとかゲーセンにするか?」

 

「……あたしとあんたでカラオケって想像できる?」

 

「……ゲーセンにすっか」

 

「うん、そうだね」

 

 想像することさえ放棄した。俺と川崎でカラオケは流石に無理があるわ。

 適当に話をしているうちにムー大に着いた。結構前に戸塚と一緒に来た場所だ。

 材木座? あいつは最初からそこにいたから一緒に来たわけじゃない。

 駐輪場に自転車を止めてから川崎に手を差し出す。

 

「ほれ、行こうぜ」

 

 言うと、川崎はきょとんと首を傾げて何してんのお前? みたいな視線を向けてくる。この鈍感さんめ……。

 

「……手」

 

「え? ……い、いいの?」

 

「今さら何を遠慮することがあんだよ」 

 

「ふふっ、そうだよね」

 

 柔らかい表情で微笑みながら手を握ってくる。そのまましゅるしゅると細い指を動かして気づいたら恋人つなぎってやつになってしまった。

 これはちょっと予想外です。手汗かかないようにしなきゃ……。

 

 ゲーセンの中に足を進めと川崎は店内をキョロキョロと見回す。繋がれてある手は自然と強く握られていた。

 

「あたし、こういうところ来るの初めてだから……」

 

「……お前って見た目の割にビビりだよな」

 

 言うと、川崎にじとっとした目で見られる。というかちょっと睨まれてますね。怖い。

 

「……なんか文句ある?」

 

「別にねーよ。そういう所も可愛らしくて素敵ですからね」

 

 冗談半分のふざけた感じで言ったが、川崎は頬を真っ赤に染めてしまった。

 

「そ、そっか……」

 

「……ん、そうだ」

 

 ……なんだろ。唐突に死にたくなったわ。

 ピンク色の雰囲気をぶっ壊すためにけぷこんけぷこんとわざとらしく咳払いをする。技を借りるぜ、材木座!

 案の定川崎には白い目で見られた。くっそ、材木座絶対許さねぇわ。

 

「クレーンゲームやるか?」

 

「どうせあれ取れないでしょ? お金もったいないじゃん」

 

「おいおい、夢のないことを言うなよ。取れない時は店員に言うんだ。そうすれば取ってもらえるぞ」

 

「あんたのほうが夢のないこと言ってるじゃん……」

 

 そして互いにふっと笑い合う。ただの下らないやり取り、でもそれがすごく楽しいと思えた。

 

「じゃあ何にすっか。プリクラでも撮るか?」

 

 格ゲーやらシューティングゲームなんて川崎は興味ないだろうしな。

 

「へ? でもあたし撮ったことないし……」

 

 あぁ、分かるぞその気持ち。誰かと何かをやる時にそれが初めてのことだとなんかやりたくないって思う時とかあるよな。あるよね? 俺だけかな?

 

「俺も一回しかないから大丈夫だ。行こうぜ」

 

「それの何が大丈夫なんだか……」

 

 呆れるように川崎が笑った。言った俺も何が大丈夫なんだろうと疑問に思っちゃったからな。

 

 ビデオゲームコーナーはガン無視してプリクラコーナーへ向かう。なんか途中で材木座っぽいのがいたけど気にしない。

 プリクラコーナー前のカウンターに差しかかると店員さんに声をかけられる。

 え、俺らカップルに見えなかった? 川崎の彼氏が俺だと役不足だって? 泣くぞ。

 

「あ、お兄さん久しぶりっすねー」

 

 ん……? どこか見覚えがあるなこの人。

 あ、あの時の店員さんか。ていうか何で俺のこと覚えてんだよ。

 とりあえず軽く会釈をするとくいくいと手招きをされる。

 

「前の彼女さんとは別れちゃったんっすか?」

 

「は? 彼女?」

 

「ほら、あの天使みたいに可愛かった子っすよ」

 

 ほう。戸塚を天使と理解してるとはやるな。俺のことを覚えてたのって戸塚の印象が強かったからってことか。ついでに言えば材木座さんが暴走したから尚更印象深いのだろう。

 でもこの人ヒソヒソ声で言ったつもりなんだろうけど川崎の表情からして絶対聞こえてるんだよなぁ……。

 

「あっ、時間取らせちゃいましたね。通っていいっすよ」

 

 店員さんはグッとサムズアップをしてきた。あんたは戸部かよ。

 

「……さっきのは?」

 

「あれは戸塚のこと言ってたんだよ。前に一緒に撮ったことがあってな」

 

「でもここって男子だけじゃだめなんじゃ……あぁ、うん」

 

 どうやら言っているうちに気づいたようだ。うん、戸塚の性別は戸塚だからしょうがない。

 

「んじゃ、前撮ったやつでいいよな?」

 

「うん。こんなにいっぱいあると正直違いなんて分からないよね」

 

「だな。逆に把握してる奴がいたら怖いわ」

 

 適当に話しつつ筐体の中へ入る。説明書きを読んでいると、川崎に声をかけられる。

 

「ねぇ」

 

「なんだ?」

 

「キ、キスプリってやつ、と、撮ってみたい……」

 

 川崎は頬を朱に染めながら恥ずかしそうにぽしょりと呟いた。

 

「へ? ま、まじで?」

 

「……だめ?」

 

 その上目遣いは反則だと思うんですけど……。

 

「いいぞ。じゃあラスト一枚はそれでいくか」

 

 もう一度説明書きを読んで適当に準備をする。

 

「多分すぐ始まるぞ」

 

「え、も、もう? ひゃっ!」

 

 うん、初見だとびっくりするよな。でも「ひゃっ!」は可愛いすぎてヤバいからやめて欲しいわ。心臓がバクバクしちゃってる。

 

『もういっかいいくよ〜』

 

 間の抜けた合成音声の後、フラッシュが数回焚かれる。ポーズとかは取ってはいないが手はしっかり繋いでいる。

 正直、これだけでも恥ずかしすぎるのにキスプリとか死んじゃうかもしれん。

 

『次でラストだよ〜』

 

 合成音声ちゃん(多分可愛い)が教えてくれたので川崎に声をかける。

 

「ほれ、川崎こっち向け」

 

「う、うん」

 

 時間がないから急いでぐいっと背中に両腕を回して抱き寄せると川崎から甘い吐息が漏れる。な、なんかエロい……。

 

「……ん」

 

 頬を桜色に染めた川崎が目を閉じて唇を差し出してくる。その表情に見惚れながらゆっくりと唇を重ねると同時に、眩しいフラッシュが焚かれた。

 

 

 カーテンをめくって落書き用のブースへ移動する。画面を開いて写真を確認すると隣にいる川崎が顔を真っ赤にした。

 

「何でそんなに顔真っ赤にしてんだよ……」

 

「な、なんかこうやって見ると恥ずかしいじゃん……」

 

 うん、確かにその気持ちは分かるわ。キスしてる自分の写真を見るとか超ヤバい。何がヤバいかって意外と様になってるから尚更気持ち悪い。

 

「……それに、あんただって顔真っ赤だよ?」

 

「うっせ。ていうか早く書かなきゃ時間なくなるぞ?」

 

「あ、そうだね」

 

 時間がそんなにないので川崎は急ぎ目で色々と書き始めた。意外とノリノリだなお前……。まぁそんな所も女の子っぽくて可愛いんだけど。

 

 数分してからプリントされたプリクラを見て二人揃って唖然とする。

 

「相変わらずすげぇな……」

 

「うん……これは人には見せられないね」

 

 キスしてある一枚には「はちまん さき」と書かれていた。

 川崎がこれ書いたって思うだけで悶えられるわ。ほんと川崎って乙女だよなぁ……。

 

「はい、あんたのぶん」

 

「おう」

 

 これは小町には見られないようにしないとな……。こんなん見られたら恥ずかしくて顔合わせられなくなるぞ。

 

「じゃあそろそろ帰ろっか」

 

「だな」

 

 気がついたらそれなりの時間になっていたので、俺たちはゲーセンを後にした。

 

 

××××××  

 

 

 ゲーセンを後にしてから川崎を家まで送る。学区こそ違えど川崎の家は俺の家からそんなに遠くはない。自転車なら20分くらいで着くような距離だ。

 だからデートする時は毎回家まで送っている。川崎は最初の頃は遠慮してたけど「お前と少しでも一緒にいたい」ってめっちゃくさいセリフを言ったら顔を真っ赤にして了承してくれた。

 

「送ってくれてありがとね」

 

「おう」

 

「……あ、あと、その……今日も楽しかったよ」

 

 川崎は目線を下に向けながらぽしょりと呟いた。そんなにしおらしい態度をとられたらこっちまで恥ずかしいんですけど……。

 

「……ならよかった」

 

 んじゃ、そろそろ帰りますかね……と思うと川崎に制服の袖を掴まれる。

 見ると、川崎はくぅんと鳴きそうなくらい眉をくにゃっと曲げて、俺のことをじっと見てきた。何この子、超可愛いんですけど。   

 

「はぁ……」

 

 少し呆れつつも、川崎をぎゅっと抱きしめる。

 

「なんでそんな顔してんだよ……」

 

「だ、だって……」

 

「はぁ……一回だけだからな?」

 

「……うん」

 

 川崎は嬉しそうに呟き、目を閉じた。ゆっくりと唇を重ねようとしたその時、

 

「あらあら」

 

 横から声が聞こえてくる。そういやここ外だったな……。

 ていうかどちら様でしょうか?

 

「お、お母さん!?」

 

 顔を真っ赤にしてバッと俺から離れる。え、この人川崎のお母さんなの? 

 じゃあ心の中では川崎ママと呼ぶことにしよう。うん、超適当だわ。

 

「えっーと、あなたが沙希の彼氏の……はーちゃん?」

 

「あ、はい。比企谷八幡です」

 

 ぺこりと会釈すると川崎ママは柔らかく微笑んでくる。

 ……ていうか、何で俺ははーちゃんって呼ばれてるのん?

 川崎はキスしようとしてたのを見られたからかさっきから動きが固まってる。顔なんてリンゴみたいに真っ赤になってるし。

 そんな川崎のことを見て川崎ママは「悪いことをしたわね」と呟いた。いや、道の真ん中でキスしようとしてた俺らのがどう考えても悪いんで気にしなくていいですよ。

 

「今度うちに遊びにおいで。けーちゃんもあなたに会いたいって言ってたから」

 

「あ、はい。じゃあ今度行かせてもらいます」

 

「ええ、待ってるわ」

 

 穏やかに微笑みながら川崎ママは家の中へ入って行った。うーん……俺相手に最初からあんなにいい反応してくれるとは……。こんなことは今までで初めてかもしれない。

 

「じゃあ、俺はもう帰るな」

 

 隣にいる川崎に告げるとさっきと同様、制服の袖をぐいっと引っ張られる。

 

「キス……」

 

 川崎がいじけたような声振りで呟く。

 

「……分かったよ」

 

 涙目で見てくる川崎をぎゅっと抱きしめて、ゆっくりと唇を重ねた。

 

「んっ……」

 

 唇が離れると、川崎は嬉しそうに微笑んだ。満足してもらえたようで何よりだ。

 

「……じゃあまた明日な」

 

「うん、また明日ね」

 

 可愛らしく胸の前で手を振る川崎に俺も軽く手を振ってから自転車を漕ぎだした。

 

 うん、まぁあれだ。キスしてた時に玄関でこっそりと川崎ママが見てたってことは内緒にしておこう。

 




サキサキSSの少なさに錯乱した部屋長は自分で自給自足をし始めたのであった(自己完結)。
川崎ママを出したのは今後のアフターでサキサキの家と交流を持たせるような話を書きたいなーと思ったからです。

ちょっと私用がありまして新ヒロイン書くのは遅れそうです。なので次回もアフターかもしれません。いろはすとかサキサキとかいろはすとかサキサキとか。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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不機嫌で心配性な彼女へは、めいっぱいのご奉仕を。

サキサキアフター第三弾です!


 冬のある日。悲しいことにこんな寒い中でも学生の皆は、将来社畜になったときの予行練習のように毎日毎日学校へ行くしかないのだ。もちろん現在進行形で社畜をやってる社会人は当たり前のように出社してるんだろうけど。お疲れ、親父。フォーエバー親父。

 専業主夫志望の俺でさえこのルールには逆らえず、朝っぱらから自転車を漕いで死地へ向かうしかないのが世の常なのだ。ほんと理不尽!(逆ギレ)

 しかし、今日は珍しく天敵の眠気がほとんどなく気持ちのいい朝を迎え……てはないな。むしろ迎えすぎて通りすぎちゃってるまである。

 ……今やってしまった俺の行為は、世間一般では寝坊と言うんだろうか。すっとぼけもいいとこだなこれ。

 ここまで長ったらしく言いましたが、要するに遅刻ですねはい。

 というわけで、平塚先生の鬼の形相を拝んでから教室へ向かう。教室の前で恐怖のあまり漏れていないかを一度確認。

 ドアをガラッと開けると、クラス中の視線が俺に一気に集まる。しかし、俺が重役出勤をするのはよくあることだし、そもそも誰も俺には興味がないのでその視線もすぐになくなる。

 うんうん、今日もいい感じにぼっちしてるな俺。今のは謎発言すぎるな。

 そんなクラスの中で、青みがかった黒髪の女子だけが唯一あわあわしながらせわしなくポニーテールを揺らしていた。何してんだあいつ……と疑問に思っていると、バックからスマホを取り出していた。

 それを横目にしながら俺も席に着く。……一応メール来てるか確認するか。

 

『何かあったの?』

 

 ……これを送るためにあんなに慌ててたのかと思うと何かムズムズするな。隣の席の女子(可愛い)がびくんっと怯えるように身体を跳ねさせたのでどうやら頬が緩んでいたようですごめんなさい。

 

『布団が俺を離してくれなかった』

 

『何馬鹿なこと言ってんのさ。あんた遅刻の回数多いんだから気をつけなよ』

 

『いや、お前だって人のこと言えないだろ。バイトしてた頃は重役出勤めっちゃしてたし。あんときは店名からして朝までいかがわしいことして働いてるのかと思ってたわ』

 

 川崎の羞恥を煽るように送ったが、これはヤバいと即座に気づく。川崎の方を見てみると、案の定顔を真っ赤にして俺をキッと睨めつけてきた。

 こ、怖い……! そ、そんなに睨まなくたっていいじゃん……。……とりあえず。

 

『ごめんなさい』

 

 よし、完璧。ていうことで、今日も一日頑張るぞい!(逃避)

 

××××××

 

 特にこれといったことはなくあっという間に昼休みを迎える。今日はベストプレイスではなく屋上へ行く日なので、川崎と一緒に屋上へ行き給水塔に上って隣同士で座る。

 

「……ん、今日のお弁当」

 

「お、おう、いつも悪いな」

 

「……別に悪くない」

 

 どうやら今日の川崎はいつもより機嫌がよろしくないようである。理由は考えるまでもなく朝の俺のメールのせいですね。

 

「さっきは悪い。ちょっとふざけすぎたわ」

 

「……ん、いいよ別に」

 

 言葉ではそう言うが、その表情はまだ少しだけむすっとしてる。怖いけどちょっと可愛く見えてきたな……。

 付き合い始めてからは前よりもどんどん色んな表情を見せてくるから、俺はそういう彼女にどんどん惹かれてるんだろうな……。いや、今はそうじゃなくて。

 

「あんときはお前も家族に迷惑かけないように必死だったんだもんな。それなのに変なこと言ってほんと悪かった」

 

「……うん、許してあげる」

 

 言って、川崎はすぐに「そもそも」と付け足してくる。

 

「あんたさ、仮にもあたしはあんたの、か、彼女……なんだし、そういうこと言うのはさ……」

 

 川崎は彼女と言うだけで恥ずかしかったのか、頬を朱に染めながら視線を逸らす。

 

「そ、そうだよな。あれは言いすぎたわ」

 

「そ、それとも本当に、その、今までそんなことしてるって思ってたの……?」

 

 不安そうな声音で言いながら、そのまま俯いてしまう。手はぎゅっとスカートの上で握られていて、見えなくても川崎が今どんな表情をしているのか容易に想像できてしまった。

 ざ、罪悪感がやべぇ……! まさかあのメールがここまで悪影響を及ぼすとは思わなかった……。

 

「いや、それだけはねぇよ。さっきのはちょっとした冗談のつもりだったんだ。本当に悪い」

 

「……そ」

 

 短くそう言うと、川崎はぷいっと顔を逸らしてしまう。さすがに今回の件は言葉だけでは駄目か……。

 

「なぁ、その……とりあえず飯食い終わったらいいか?」

 

「……うん」

 

××××××

 

「ごちそうさま。今日も美味かった」

 

「……ん、ならよかった。それで、なに?」

 

 川崎が言う何とは、食べ始める前に俺が言っていた用事のことだろう。いざこんなことを言うと思うと、何だか気恥ずかしくてつい頭をがしがし掻いてしまう。

 

「あー、その、なんだ。……さっきお前のこと嫌な気持ちにさせちまったからさ……」

 

 言いよどんでしまうが、川崎は俺をじっと見ながら黙って聞いてくれている。

 ふぅ……と一息吐く。

 

「もう俺川崎の下僕でも奴隷でも何にでもなりますしめいっぱいの奉仕もしますんでどうか機嫌を直してください……」

 

「……は?」

 

 川崎は何言ってんだこいつみたいな困惑の表情で頭の上に大量のクエスチョンマークを浮かべる。だが、すぐにその顔は真っ赤に染まっていく。

 

「は、はぁ!? あ、あんた何言ってんの!?」

 

「いや、だってもう機嫌直してくれるにはそれくらいしかねーかなって」

 

「だ、だからって下僕とか奴隷なんて馬鹿なこと……」

 

 いや、まぁ俺も言ってみてこれはどうかと思ったけどね。空気も重いしちょっとギャグ的な意味も含めたんだけどマジだと思われちゃいましたねこれ。

 

「……ほ、ほんとに?」

 

「へ?」

 

「だ、だから……ほんとにめいっぱい、ほ、奉仕してくれるの……?」

 

 言って、恥ずかしそうに頬を朱に染めながら川崎が視線を逸らす。胸の前で指をもじもじとさせながら俺の返答を待っている。

 ……うーん、本当にマジな方で捉えられちゃったな。それに今さら断るわけにもいかないしな……。

 

「……川崎がそれを望むなら」

 

「じゃ、じゃあ……あ、頭」

 

 いやいや、こういうときの川崎さん語彙力なさすぎでしょ……。何で頭しか言わないんだ。いや、何が言いたいかは分かるけど。

 

「それっていつも飯食った後にやってるじゃねぇか。それでいいのか?」

 

「い、いいから……はやく……っ」

 

 震える声音で言いながら、川崎がこちらに少し近づいてくる。川崎がそれでいいなら……と、そっと川崎の頭の上に手を乗せる。ぴくりと川崎の肩が跳ねたが、撫で始めるとすぐに猫のように目を細める。

 

「ん……っ」

 

「他にはあるか?」

 

 聞くと、川崎が頭を撫でている手に自分の手を重ねてくる。そして、ちろりと上目遣いで見つめながら、甘えるような声音で。

 

「……抱きしめて」

 

 そう、伝えてきた。川崎はこういうことでそこまでストレートに言葉を伝えるタイプではないので正直驚いた。

 ……そこまで俺の冗談で川崎を不安にさせてたと思うと、俺自身も反省と共にそんな川崎をどうしようもないくらい愛おしく感じてしまう。

 ──ぎゅっ、と川崎の腰に手を回して抱きしめる。んっと吐息を漏らしながら川崎も控えめに俺の腰に手を回してくる。

 

「ばか……ほんとばか……」

 

「悪い……」

 

「な、なら、その、……こ、行動で……」

 

 恥ずかしそうに、それでいてどこか期待を孕んだ声音で川崎がぽしょぽしょと呟く。具体的なことなんて一つも言われていないが、それだけで川崎が言わんとすることが分かってしまう。

 俺を見つめていた潤んだ瞳が閉じて、こちらに唇を差し出してくる。

 それに答えるように俺は彼女の頬に手を添えて、彼女とは逆に首を傾げる。

 そして──。

 

「んっ……」

 

 唇を離すと、川崎が甘い吐息を漏らし、今日初めて頬を緩ませながら甘えるように首に手を回してきて。

 

「も、もっと……」

 

 ……しばらくは心配性なお姫様へのご奉仕になりそうです。

 




お久しぶりです!約三ヶ月ぶりの投稿になりますね。サキサキ√に関しては10ヵ月ぶりです。時間の流れが早すぎて怖いものです……。

今回はいつもデレが多めなのでちょっぴり不機嫌なヒロインも書きたいと思ってのサキサキでした。最後は結局デレデレですけど気にしません、はい(逃避)。

実はこのシリーズを投稿し始めてから一年が経ちました。いつも読んでくれてる皆さんには本当に感謝しかありません。これからもよろしくお願いします!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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ガハマさん√ やはりガハマさんも積極的になるのはまちがっている。【前編】

ガハマさん√スタートです!


 

 金曜日の夜、比企谷家にて俺は炬燵とフュージョンして、コタツムリと化していた。

 気分は激萎えぷんぷん丸だ。これじゃ怒ってるのか落ちこんでるのか分からないな。まあ、怒ってもいるし落ちこんでもいる。

 理由はもちろん、学校が始まったこの一週間誰とも二人きりになれなかったからだ。なれそうなタイミングは確かにあったんだ。でもことごとく邪魔ばかり入った……。

 由比ヶ浜が三浦達と遊びに行った日は、材木座がプロットを持ってきて「八幡が読んでくれるまで帰らないんだからね!」と謎のツンデレみたいな発言をして雪ノ下と二人きりになれず。

 由比ヶ浜がなんでか知らんがベストプレイスに来たときは材木座が「はちえもーん! 一緒に飯食おうぜ!」とのび太と中島が混ざった感じの言葉を発しながらやって来て二人きりになれず。

 部活終わりの戸塚とたまたま会い、一緒にサイゼに行ったらまた材木座がいて二人きりになれず。

 

 ……うん、材木座まじで許さん。あいつなんなの? 俺のこと好きすぎじゃね? 

 

 はぁ……でもいいんだ! 俺には小町がいるから! 妹さえいればいいんだ! と半ば頭がおかしくなっていると、リビングのドアがガチャリと開き、世界一可愛い妹がやって来た。

 

「ふいー、休憩休憩」

 

 部屋で勉強していたのが一目で分かるくらいに疲れた顔をしている。

 やだ、ちょっと目が腐りかけてて全然可愛くない。いや、やっぱり小町だから目が腐ってても可愛いな。もう小町相手に積極的になってもいいですかね? 千葉の兄妹は何でもありだからな。

 

「お疲れ。コーヒー飲むか?」

 

「うん、飲むー……」

 

 小町と入れ替わりに炬燵とのフュージョンを解除し、コーヒーを淹れるためにキッチンへ向かった。

 

 

「ほれ」

 

「ありがと」

 

 コーヒーをふーふーしてから(可愛い)、一口飲んだ小町は俺のことをさっきまでの腐りかけた目ではなく、爛々と目を光らせながら話しかけてきた。

 

「ねぇお兄ちゃん!」

 

「ん、どしたー」

 

「誰かと二人きりになれたのー?」

 

「……いや、なれてない」

 

「はぁ……これだからごみいちゃんは……」

 

 あ、また目が腐りかけた。だめなお兄ちゃんでごめんね……? 

 コーヒーをもう一口飲み、ふいーと息を吐いた小町が、ずびしっと俺に指を突き立てる。

 

「お兄ちゃんはさ、誰と二人きりになりたいの?」

 

「……」

 

 もちろん黙秘である。

 

「ははーん、結衣さんでしょー」

 

「……」

 

 ……黙秘である。

 

「そういうことなら小町にお任せ!」

 

 妹が本格的におかしくなってしまったようだ。この子勝手に自己完結させちゃったよ……。

 

「じゃ、小町もう部屋に戻るから! 明日楽しみにしててね!」

 

 ばちこーんとウインクをした小町は、コーヒーを持って部屋に戻っていった。あざと可愛い……。

 

 

××××××

 

 

 明くる日の朝、というかもう昼だな。時計の針は真ん中を少し超えたくらいだ。スーパーヒーロータイムがない土曜に早起きをする意味はないから爆睡してた。

 洗面所へ行き、顔を洗い歯を磨く。いくら家から出なくてもこれくらいはちゃんとしなきゃな。まあ、スウェットは着替える気にはならんけど。

 中二の冬のある日、家で私服でいたら母ちゃんに「あんた遊ぶ友達もいないのになんで着替えてんの?」と球速170キロのジャイロボールが飛んできてからは冬場に着替えることはほとんどなくなった。辛い。

 リビングへ行くと小町はいなかったが、その代わりにテーブルに女子特有の折り方をされた紙が置いてあった。

 その紙を開いてみると修学旅行のお土産リストと同じように、ピンクと黄色で書かれた丸文字がスターバーストストリームしてた。

 

『お早うお兄ちゃん! 今日はお友達とお勉強するから帰ってくるのは夜になるから! お兄ちゃん次第ではお泊りすることになるかもね! じゃあ頑張ってね☆』

 

 …………なんだこれ。

 

 お兄ちゃん昨日から小町のことがとっても心配。受験勉強のリフレッシュの方法調べといてあげるか……。

 しかしこれは非常にまずい。昨日の小町の発言からして、これから大変なことになりそうな気がする。というか絶対、現在進行系で大変なことになってるぞコレ……。

 

 小町の手紙を大事にポケットに入れていると(気持ち悪い)、インターホンが鳴った。

 アマゾンかな? アマゾンだよね? ガハマちゃんじゃないよね?

 玄関口でアマゾンだと信じて印鑑を震えながら握りしめる。ようこそアマゾン! 待ってたよ!(何も注文してない)、と扉を開けるとそこにはアマゾンではなく予想通りの人物がいた。もうあれですわ、いくら小町でも許さん。今度プリン買ってあげよ(矛盾)

 

「や、やっはろー」

 

 ベージュのコートに細身のジーンズを身にまとった由比ヶ浜が現れた! その手には買い物袋が握られている。さて、八幡はどうする?

 

「や、やっはろー……」

 

 やっはろーと返すくらいしか思いつかなかった……。今さらだけど初めて使ったかもしれん。

 誰が来るかは大方予想がついていたからそこまで動揺はしていない。やっはろーしてる時点で動揺してますねはい。この言い方だとやっはろーが動詞になってるな。

 

「なんか用か」

 

 なるべく平静を装って声をかけると、由比ヶ浜はお団子髪をくしゃりといじりながらぽしょりと呟いた。

 

「えっとね、小町ちゃんがね。ひ、ヒッキーがあたしとふ、二人きりになりたいって言ってたって……、だから来ちゃった」

 

 こ、小町ぃぃぃぃぃぃ!! え、まじで何してくれてんの!? 俺そんなこと一言も言ってないんだけど! ちょ、やめて由比ヶ浜さん! 恥ずかしそうに上目遣いでこっち見てこないで!

 

「とととと、とりあえず上がれよ」

 

 もう平静を装えなくなり、キョドりまくってしまった。これじゃドン引きされるなーと思っていると。

 

「う、うん……」

 

 由比ヶ浜は恥ずかしさのが上回っているのか、俺のキョドりっぷりも気にせずにうつむきながらもじもじとしていた。

 

 ……なんかもうあれだな、のっけからぐたぐだである。

 

 というか「だから来ちゃった」ってどういうことだ? 小町に呼ばれたから来たとは言ってないし、自発的に来たってことだよな?

 それに小町の捏造で俺が会いたいって言ったことになっている。普通なら急にクラスメイトがそんなこと言ってたって知ったら気持ち悪いだけだよな。

 それなのに由比ヶ浜が俺の家に来たってことは……。

 

 ……いかん、これ以上考えたら色々とまずい気がする。仮に今から由比ヶ浜にアプローチをするとしても、それを一度意識してしまったらそんな余裕もなくなっちゃうしな……。

 

 

××××××

 

 

 ずっと玄関にいても寒いだけなので、由比ヶ浜をリビングへ案内し、とりあえずコタツムリ化させた。

 

「ほぇー、相変わらず本ばっかりだね。前より増えたんじゃない?」

 

「そりゃ前にお前が来たのは夏だからな。ほれ、コーヒー」

 

「あ、ありがと」

 

「じゃ、ちょっと着替えてくるわ」

 

 さすがに由比ヶ浜がいるのにスウェットのまんまってわけにはいかないしな。母ちゃんいないからバカにもされないし。

 

「いや、そのままでも平気だよ? なんか今のヒッキーいつもと違って新鮮でそれはそれで……」

 

「そ、そうか」

 

 小さな声で言ったって家の中静かなんだから聞こえてますからね? それともなに? 家だと普段より生き生きとしてるって意味の新鮮? 

 まあ、お言葉に甘えてスウェットのまんまでいいか。小町にバレたら怒られそうだけど、俺はファッションセンス皆無だからしょうがないってことで。

 

「それでどうする、帰る?」

 

「だからなんでそんな自然に帰宅提案できるの!?」

 

「いや、だってな? 俺んち今誰もいないんだぞ? 少しは考えてみろよ」

 

 両親は今日もいつも通りに社畜ってるし、小町は絶対に帰ってこないからな。カマクラはどこだろうか。多分小町のベッドにでも寝てるんだろ(羨ましい)。まあ由比ヶ浜は猫苦手だしちょうどいいか。

 

「そ、そっか。二人きりかぁ……」

 

 ふむふむと頷きながらぽしょりと呟く。頬は少し赤らんでいて、いかにも恋する乙女って感じだ。

 ……今の言い方だと由比ヶ浜が俺に惚れてるみたいな言い方になるな。やだ、俺って自意識過剰すぎ?

 

「ね、ヒッキーお腹すいてるでしょ? まだ何も食べてないんでしょ?」

 

「ん、そうだな」

 

 なんでこいつ俺が食べでないこと知ってんだ? あれか、休日に予定なんてないんだから、昼まで寝てる引きこもり野郎だと思われてるのか。なにそれ辛い。

 まあ、どうせこれも小町の仕業だろうけど。俺の家での過ごし方について教えたんだと思う。

 

「じゃ、じゃあさ、ヒッキーこれ食べよ?」

 

 そう言い、由比ヶ浜が買い物袋を漁って中から出したものを見た俺は唖然としてしまった。

 ちょっと由比ヶ浜さん? それは攻めすぎだと思うよ? まずそれ飯じゃなくてお菓子だし。

 ……まじで小町のやつ、由比ヶ浜に何を吹き込んだのん?

 

 これからお互いが積極的になってしまったらどうなるのだろうか。考えただけで胸が高鳴ってしまった──。

 




3人目のヒロインにして初めて八幡の家へ突入……。学校よりやりたい放題やでぇ……。タイトルを見てわかると思いますがいつもと少しだけ違う感じでいこうと思います。

閑話休題。言い遅れましたが、お気に入り1000、感想50、UA55000突破。というかそろそろ60000いきそうですね。圧倒的感謝です!早いもので投稿して一ヶ月が経ちました。これからもよろしくお願いします!

感想や評価も待ってます!分かってはいましたけどいろは√に比べてサキサキ√は感想や評価が少なかったです。それでも感想や評価くれた人は感謝です!
もちろんいろは√に感想や評価くれた人も感謝です!

いつも感想くれてる人も本当に感謝です!ちゃんと名前は把握してます!もっと仲良くなれたら嬉しいものですwこれからもオナシャス!
もちろんたまたま見てくれた通りすがりの人も感想待ってます!常連さんがいっぱいになることが私の夢です☆

なんだか感謝続きの後書きになってしまいましたが本当に感謝していますので……。

それでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはりガハマさんも積極的になるのはまちがっている。【中編】

 

 隣に座っている由比ヶ浜が買い物袋から取り出したもの――それはポッキーである。

 もう一度言おう。ポッキーである。

 ……や、なんでだよ。まずそれ飯じゃなくてお菓子だし。しかもポッキーの日なんてとっくに過ぎてるんですけど。

 八幡そんな不純なことは絶対にしませんよ!(フラグ)

 ……ほ、本当にポッキーゲームなんてしないんだからね!(死亡フラグ)

 

「……これはなにかしら由比ヶ浜さん」

 

 とりあえず雪ノ下の真似でもして由比ヶ浜を落ち着かせよう。呆れさせて場の空気を変えられれば、そんなことする雰囲気もぶっ壊せるはずだ。

 

「へ? ヒッキーってポッキー知らないの? てかゆきのんの真似また上手くなってるし……」

 

 そりゃまぁ、俺もあの部活に入って半年以上経つからな。なんなら由比ヶ浜の真似もできるぞ。

 というか、ポッキー知らないとか現代人じゃないだろ……。こいつ俺を何時代の人間だと思ってんだ。

 

「いや、知ってるけど……」

 

 呆れながら言うと、由比ヶ浜の顔がぱぁっと明るくなる。

 

「じゃあさじゃあさ! ポッキーゲームやろうよ!」

 

 おうふ……。球速298キロのストレートが計測されました。しかもデッドボールでございます。

 さて、どうしたものか。場の空気は変えられなかったから、ここで拒否したら絶対気まずくなるよな……。あまりにも気まずくなりすぎて土下座しちゃうまである。

 ならここは大人しく流れに乗っとくか……(フラグ回収)

 

「おう。じゃあやるか」

 

「あ……ほんとにやってくれるんだ」

 

 ぽけーっとした表情で俺のことを見て言う。え、なに、拒否した方がよかったパターンだった?

 

「……嫌ならやめるけど」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

「お、おう」

 

 慌てた様子で手をぶんぶん振りながら否定してくる由比ヶ浜を見て、思わず空返事で答えてしまう。

 え、やっぱりやりたいの? というか、これもう答え出てますよね? 自意識過剰とか言えないレベル……だよな?

 

「じゃあソファに移動しよっか」

 

「え、なんで? 寒いじゃん」

 

「炬燵だとなんかあれじゃない? ほら、ムード? とか?」

 

 何一つ具体性のない言葉だが少し納得してしまった。俺もなんか違うなぁと思ってしまった辺り、冬休みでずいぶん恋愛脳になってるんだなと改めて自覚した。いや、高校生なんだから別にそれが悪いことではないんだけど。

 

「そうだな。んじゃ、移動するか」

 

 

 その後ソファへ移動して、由比ヶ浜の隣に並んで座る。

 ……落ち着かないな。やばい、緊張しすぎてリバースしちゃいそう。

 由比ヶ浜も緊張しているのか隣でそわそわしている。

 

「じゃじゃじゃあやろっか!」

 

 なんでか知らんけど、じぇじぇじぇって聞こえてしまった。お前は岩手県民かよ。あれ実際は誰にでも通じるわけではないらしい。これ豆知識な。無理に使っても「は? お前何言ってるの?」ってなるだけだからよく覚えておくように。

 話が逸れた。というか、由比ヶ浜さんテンパりすぎじゃないですかね……。まぁ俺も内心、きゃー! ポッキーゲーム、っべー! ってなってるんだけど。

 

「別に無理しなくてもいいんだぞ?」

 

「そ、そんなことないもん!」

 

 由比ヶ浜はぷんぷん怒ってから(全然怖くない)、ポッキーの袋を開封した。

 

「じゃ、じゃあやろっか。……んっ」

 

 ポッキーを咥えて、ほんのりと頬を赤らめながら眉を力いっぱい寄せ、んっと唇を差し出してくる。

 鼓動が早くなるのを感じた。それを黙らせるためにひとつ息を呑む。

 

「い、いくぞ……」

 

 由比ヶ浜の両肩に手を置いて、由比ヶ浜の咥えたポッキーのもう片方の端を咥える。

 由比ヶ浜が目をぎゅっと瞑っているってことは、俺から動くしかないんだよな……?

 というか、この子キスする気満々じゃね? と、とりあえず食べ進めるか……。

 

 少しずつ食べ進めて行くと、ポッキーが3分の1程度になった頃だろうか(それまでの記憶がない)。ここで一度食べ進めるのをやめる。いや、まぁ、あれだよ? 心の準備とかあるだろ?

 

「ん……んぁ……」

 

 うわ……息遣いやっば。なんというか、超エロいです……!

 いかん。煩悩退散。

 由比ヶ浜のことを見て改めて思う。やっぱこいつ可愛すぎだろ……。まるで俺にキスされるのを待っているかのように、唇をんっと突き出している由比ヶ浜を見て、すごく愛くるしいと思ってしま……これ以上考えるのはやめよう。

 由比ヶ浜はいつの間にか俺の背中に手を回していて、顔が近くなったこともあって吐息が顔にかかって少しこそばゆい。なんでこんなに甘い匂いするの? お前普段何食ってんだよ。女の子って不思議!

 しかもポッキーが短くなって距離も近くなり、背中に手を回されたことによってさっきからむにゅむにゅしたものが俺の胸に当たっている。

 ……正直、理性がぎりぎり。

 ここでキスして押し倒してしまうのもアリかもしれないけど、それはなんか違う気がするんだよな……。

 なんというかそれは由比ヶ浜に失礼な気がする。や、軽いノリでポッキーゲームなんてしてる時点で失礼かもしれないけど。

 どうするべきか悩んでいると、俺の動きが止まったことに気付いたのか、由比ヶ浜がうっすらと目を開けた。

 その目があまりにも色っぽすぎて体がびくんっと跳ねてしまい、ポッキーが折れてしまった。

 

「あっ……」

 

 由比ヶ浜がものすごく寂しそうな表情をしてから、残念そうに俺を見る。

 

「あ、あははー……折れちゃったね……」

 

「……まぁ折れてよかったんじゃないか? 仮に折れてなかったら、その、……あれだろ?」

 

 心にもないことを言ってしまう。ついさっきまで押し倒してキスしちゃえばいいんじゃね? って考えてた奴の言葉じゃないな……。

 でも、今日の行動で由比ヶ浜が俺に好意があるのは分かっちゃったしな。今までも何度か勘違いしそうになったことはあったけど、今回のは流石に勘違いじゃ済まないだろ。

 ……そろそろ彼女の好意から逃げるのはやめて俺も素直になるとするか。小町にもここまでお膳立てされたんだしな。

 

 一つ息を吐いて覚悟を決める。

 そして、由比ヶ浜をソファに優しく押し倒す。床ドンってやつだな。

 さぁ、勝負はここから俺のターンだ。

 

「ふぇ……?」

 

 由比ヶ浜は現状を理解できていないのか、素っ頓狂な声を出す。

 んじゃ、恥ずかしさが限界を迎える前にとっとと済ませちゃいますかね。

 

「キス……、したかったのか?」

 

 少しだけ体重をかけて、耳元に顔を寄せて吐息混じりの声で囁くと、由比ヶ浜の体がぶるっと震える。

 

「え、えっと……、ううぅ、ヒッキーがヒッキーじゃないよぉ……」

 

 ……そんなん自分でも分かってるわ。でもやめるつもりはない。

 

「ほら……、どっちなんだよ。素直にしたいって言ったらしてやってもいいぞ……」

 

 うわっ、これ誰? どこの俺様系男子だよ……。

 さすがに自分の行動に恥ずかしくなって、耳元から顔を離すと、由比ヶ浜の顔は耳まで真っ赤になっていて、瞳は潤んで口元は微かに震えていた。

 

「……し、したい……です。ひ、ヒッキーと、キス……、したい……です」

 

 由比ヶ浜は震える声で懇願するように言葉を紡ぐ。

 なんで敬語を使っているのかはこの際置いておこう。まぁ多分、由比ヶ浜は恋愛物とか好きそうだから空気読んでそうしてくれたんだろうけど。

 ……頼むからもう少しだけ持ってくれよ。あ、オラの体じゃなくてメンタルのことな。界王拳のことではない。

 うん、超どうでもいい。

 ほら、俺が無駄なこと考えてて、由比ヶ浜を放置してるせいでちょっと涙目になってるじゃん。お前もさっきの恥ずかしかったんだな……。

 

「……よし、じゃあするか」

 

「……うん!」

 

 頭をくしゃりと撫でると、由比ヶ浜は目を細めて嬉しそうに微笑む。

 

「……目閉じてくれ」

 

 こくりと頷き、幸せそうに目を閉じて、んっと唇を差し出してくる。手は俺の腰に添えていて、その全ての行動が早く俺とするのを待ち望んでいるかのように見えた。

 それがたまらないくらい嬉しくて、ゆっくりと顔を近付ける。

 顔を傾げ、目を閉じ、そして、慈しむように、ゆっくりと唇を重ねた──。

 

「……んっ……」

 

 唇を離すと、由比ヶ浜から甘い声が漏れ、うっとりとした表情で自分の唇を指でなぞる。

 時間にするとほんの数秒、互いの唇を少し重ねただけで終わった。

 ……超柔らかかった。キスってこんなにも気持ちが満たされるものなのか……。

 

「えへへ……ヒッキー、大好きだよ!」

 

「……俺もだよ」

 

 満面の笑みを咲かせる彼女を見て、幸福感に満たされながら、もう一度唇を重ねた。

 

 これじゃ飯じゃなくてデザートだな……と場違いなことを考えてしまったのは内緒だ。

 

 




こんばんは!皆さんクリスマスはどうお過ごしでしたか?私?私は……私は、その、聞かないでください(泣)

はい、というわけで(どういうわけだ)、ガハマさん√まだ終了ではありません。今までだとキスして終わりでしたが、そろそろキスした後も書いてみたいなーと思いました。もう少しだけガハマさん√をお付き合いください!
実はクリスマスネタも書こうと思ったんですけど、このSSって冬休み終了後の物語でした☆
はひ、泣きたい。
次何かのイベントがあったらいろはすアフターとして書きたいと思います!というか何もなくてもそろそろいろはす書こうかと考えています。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはりガハマさんも積極的になるのはまちがっている。【後編】

ガハマさん√ラストです!


 

 あれから由比ヶ浜との一戦を終えて一時間ほど経った(言い方がおかしい)。今はソファでくつろいでる。

 俺の腕に抱きついている由比ヶ浜を見て、この子が俺の彼女なのかと半ば信じられない気分になる。

 というか、俺の腕がメロンに挟まれててやばい。でかすぎでしょ。ぜひぱふぱふしてもらいたい。

 

「えへへぇ……ヒッキー……ヒッキー」

 

 俺の腕に頬を当ててころころと甘えてくる。可愛すぎて持ち帰りたい。

 と、ここで疑問に思ったことがあったので聞いてみることにした。

 

「なぁ由比ヶ浜」

 

「んー? どうしたのヒッキー」

 

「お前さ、何か今日積極的じゃなかったか? 小町に何か言われたんだろ?」

 

 あの由比ヶ浜がこんなに積極的になったんだもんな。由比ヶ浜はおバカでも空気を読むおバカだ(失礼)。自分から積極的に何かをすることは基本的にはないから疑問に思ってしまう。小町ちゃん一体何て言って由比ヶ浜をこんなにしたんだよ……。鏡花水月なんですか? 妹が完全催眠使えるとか怖すぎだな。

 まぁ、最近はちゃんと自分の意見も言えるようになってるとは思うんだけど。

 俺何様なのん?

 

「うーんとね、……えへへ」

 

 やだ、やっぱりこの子ただのおバカだわ。頬が緩みきっててちょっとだらしないです。

 まぁ今はそれも可愛らしく見えちゃうんだけど。恋は盲目ってのは言い得て妙だな。

 

「……で、なんなんだよ」

 

「えっとね、小町ちゃんが昨日の夜に教えてくれたんだ。ヒッキーがあたしと二人きりになりたいって言ってたって」

 

「それは今日来た時に聞いたな。それで?」

 

「あとは今のヒッキーならどんなお願いでも聞いてくれるって言ってたよ」

 

 おうふ。小町ちゃんさすがに言い過ぎだよ……。

 由比ヶ浜はお団子髪をくしくしいじりながら、更に爆弾発言をぽしょりと呟く。

 

「それを聞いたら我慢できなくなっちゃって……えへへ、ほんとにヒッキーとキスできちゃった」

 

「そ、そうか」

 

 顔あっつ……。え、まじで? 由比ヶ浜さんちょっとデレすぎじゃない?

 というかその言い方だと、由比ヶ浜俺にキスしてってお願いするつもりだったの?

 俺が謎の俺様系を発動してなかったら「ヒッキー、あたしとキス、……して?(裏声)」とか言われてたのかな。なにそれ最高なんですけど。でも俺の裏声だから気持ち悪い。

 

「ヒッキーはさ、嬉しかった? その、あたしとキスできて」

 

 上目遣いで瞳を潤ませて聞いてくる。これで普段から雪ノ下を落としてるのか……。

 今度俺も試してみよ。完全に放送事故になりますねはい。

 

「……言わせんなバカ」

 

 ここで素直に「結衣とキスできて俺も嬉しいよ!」なんて言えないわ。まず俺はそんなこと言うようなキャラじゃないし。

 

「むー! そこは嬉しいって言ってよー!」

 

 駄々をこねながら俺の肩を揺する。ぐらんぐらんする。

 腕はメロンに挟まれたままだから、揺らすたびに形を変えてむにゅむにゅされてる。

 うん、今はこの感触を楽しもう。まじ天国。

 

「あー、はいはい。嬉しい嬉しい超嬉しい」

 

「言い方が雑すぎだし!?」

 

 案外、付き合ってみてもいつも通りなんだな。付き合ったら目線も合わせられないくらい恥ずかしい! 的なことにならなかったぶんましか。

 変わったのは体の距離くらいだな。この一時間腕にずっと抱きつかれてるし。

 

「ねぇねぇヒッキー!」

 

 お前さっきからテンション高いな……。ずっとニコニコしてるし。八幡今日はもう疲れたよ。

 

「ん、なんだ?」

 

「ぎゅってして!」

 

「は?」

 

「だから、ぎゅってして!」

 

「え、なんで?」

 

「……だめ?」

 

 その上目遣いずるいんですけど……。それすれば何でもできると思うんじゃないぞ!

 

「はぁ……ん」

 

 由比ヶ浜には勝てなかったよ……。フラグ回収速度の速さにびっくり。

 由比ヶ浜の目の前で手を広げる。はい、いつでも飛び込んで来てください。

 

「えへへ!」

 

 満面の笑みを浮かべ、由比ヶ浜は俺の腿の上に乗り首に手を回して抱きついてきた。

 顔が近いし吐息が甘くてくすぐったい……。

 

「……お前恥ずかしくねぇの?」

 

 率直な質問をすると、由比ヶ浜はにひっと微笑む。なんかそれ小町っぽいな。

 

「恥ずかしいけどヒッキーとぎゅってするほうがいいもんね!」

 

「……そうですか」

 

「うん! そうですよーだ!」

 

 なんでそんな小っ恥ずかしいことを言うんですかね……。

 今のって恥ずかしさより嬉しさのが上回ってるってことだろ?

 それ、言われたこっちは恥ずかしいだけわ。

 いや、まぁ、嬉しくないこともないんだけど……。

 

「だからさ……、ヒッキーもあたしにぎゅってして?」

 

 さすがに恥ずかしくなったのか頬を朱に染めた。多分俺は真っ赤になってる。

 ……まぁ、可愛い彼女のお願いだしな。

 

「……はいよ」

 

 背中に手を回して抱きしめると甘い吐息が漏れる。

 

「んっ……ありがと」

 

「……ま、このくらいならいつでもしてやるよ」

 

「ふふっ、なんかヒッキーらしくないね」

 

「うっせ」

 

 俺だってそんなこと分かってるわ……。

 

「えへへー、ヒッキーっ」

 

 由比ヶ浜は抱きしめる力を強めて、耳元で楽しそうに俺の名前を呼ぶ。

 

「ん、今度はなんだ」

 

「あはは、呼んでみただけだよー」

 

 ……んー、ちょっと可愛すぎる。

 なんというか、幸せってこういうことなんだなって思ってしまった。気持ちが満たされるというかなんというか……。

 

「てかあたし重くない? お正月食べすぎちゃったからなぁ……」

 

「いや、全然重くないぞ。むしろ柔らかい」

 

 女の子に重いなんて言ったら小町に殺されるしな。

 というか、本当に重くないし。心地よい重量感って表現の仕方が正しい気がする。抱き枕にしたい。

 

「や、柔らかいって……。ヒッキーのえっち……」

 

 恥ずかしそうに目を伏せる彼女を見て、ちょっと意地の悪いことを思いついてしまった。

 さっきから色々とやられっぱなしだからな。もっと恥ずかしがってもらうとするか。

 

「えっちなのはお前の体だろ? それとも今押しつけてるのも俺を誘惑するためか?」

 

 右手で頭を撫でて左手は抱きしめる力を強める。

 そして、耳元で吐息混じりの声で囁くと、由比ヶ浜は面白いほどぷるぷる震えた。

 というか、全然俺っぽくないな。この人誰ってレベル。

 

「あうぅ……そ、そんなこと……」

 

 身体をよじりながらも、俺に抱きつく力を強めてくる。

 え、なに、やっぱり誘惑してるの?

 

「結衣……可愛いよ……」

 

 よし、これでチェックメイトだ。うん、完全に自爆してますね。

 くっそ恥ずかしい……。名前で呼ぶのはもう少し先になりそうだな。

 

「……う、嬉しい! ヒッキーが初めて可愛いって言ってくれた!」

 

 顔から湯気が出るんじゃないかというくらいに恥ずかしがるだろうと思っていたが、由比ヶ浜は俺の予想の斜め上の反応をした。

 あんれー? なんで恥ずかしがんないの?

 これだと俺が恥ずかしい思いしただけなんですけど……。

 

「ヒッキー大好きっ!」

 

 嬉しそうに笑みを浮かべて、唇を重ねてきた。ほんと唇柔らけぇな……。

 はぁ……やっぱり由比ヶ浜には敵わないわ……。

 

「ん……お前なぁ……。不意打ちはずるいぞ」

 

 恥ずかしくて彼女の顔を見れないからそっぽを向いて言うと、俺の言うことなど意に介さずに幸せそうに笑う。

 

「あはは、またヒッキーとキスできたー」

 

 なに、この子酔ってるの? って思うくらいにバカ面してるわ。そんなに可愛いって言われるのが嬉しかったのか。

 じゃあもっかい試してみるか。

 

「由比ヶ浜ー、可愛いぞー」

 

 うん、超適当。また「言い方が雑すぎだし!(裏声)」とか言われそう。似てないからもう真似すんのやめよ。

 

「えへへ……、ヒッキーもかっこいいよ!」

 

「そ、そうか」

 

 もうこの子だめなんじゃないだろうか……。

 学校で同じテンションで来られたらちょっとやばいな。主に周りの視線とか。

 

「ね、ヒッキー」

 

 今度はなんなんですかね……。さっきから無茶振りばっかりだからつい身構えてしまう。

 

「ん、なんだ」

 

「今日お泊まりしていい?」

 

「へ? まじで?」

 

 えぇー……。それは色々と心の準備が……。

 確かに小町も結果次第じゃ帰ってこないって手紙に書いてあったけど。

 しかもご都合主義で親はどっちも仕事。しかも帰ってこないんだよな。

 ……これなんてエロゲ?

 

「……今日はヒッキーと一緒にいたいな……、だめ……かな」

 

 少し困ったように眉尻を下げ、瞳を潤ませながら上目遣いでこちらを見てくる彼女に。

 

「……喜んで」

 

 結局俺は、そう答えるしかなかった。

 だからその上目遣いずるいんだよ。それされたら何でもお願い聞いてあげたくなっちゃうだろ……。だからむやみやたらに連発しないで欲しい。

 や、可愛いから別にいいんですけどね。完全に由比ヶ浜の虜にされてるな俺……。

 さすがビッチだわ。これ言ったら本気で怒られそうだな。

 

「やったー! ヒッキー大好き!」

 

 はぁ……彼女と一緒にいると色々と騒がしくなりそうだし、色んなとこに連れ回されたりして大変なんだろうなーと思ってしまう。

 それでも、彼女とならそれもいいんじゃないかと。

 不思議と、そう思えた。

 

 ……ま、今はこれからのことより今日の夜について考えなきゃな。

 理性が崩壊しないことを祈りつつ、満面の笑みを咲かせる彼女を、俺は優しく抱きしめた。

 




初めての連日投稿です。これにてガハマさん√終了ですがいかがでしたか?
アフターを匂わせる終わらせ方ですがもちろん書く予定です!更に甘いお泊まりデートにできるよう頑張ります。そのアフターがいつになるかは分かりませんが……。

次回のヒロインは未定です!なるべく週一更新はできるように頑張ります!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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色々と、ガハマさんとのイチャイチャお泊まりデートはまちがっている。【前編】

ガハマさん好きの方は長いことお待たせしました。初ガハマさんアフターですっ!


 由比ヶ浜とのお泊まりが決まってから数時間が経った。

 もう既に夜飯は食べたから料理シーンはカットだ。ていうかカットせざるを得ない。

 まぁ一つ言っておくとしたら、ダークマターが完成したということだけだ。とっても美味しかったです(白目)。

 今はソファーで由比ヶ浜とぐでーっとだらけている。俺は既に瀕死。早くポケモンセンターに行きたいです。

 

「ご、ごめんねヒッキー?」

 

 こちらはしょぼんと落ち込んだ表情をしているダークマターを完成させたガハマさんでございます。

 

「……や、別にいいよ。これから練習すればいいんだしな」

 

 由比ヶ浜は基本に忠実に料理をすれば普通に作れると思うんだよな、多分。

 でもなぁ……何でちゃんと教えたのにあんなにミスっちゃったのかなぁ……。

 途中から何作ってたのかも分からなくなっちゃってたし。桃缶って単語が聞こえた辺りから記憶がないです。

 

「うん、そうだね! 頑張る!」

 

 ふんすと息巻く由比ヶ浜を見ると、ふっと顔が綻んでしまう。今は彼女のころころと変わる表情の全てが可愛く見えてしまう。

 

「おう。んじゃ、先風呂入ってきていいぞ」

 

「お、お風呂!?」

 

「え、何でそんな驚いてんの? 男が女に風呂勧めるとセクハラになるもんなの?」

 

「えっと、そういうことじゃなくて……。あ、あのねヒッキー……」

 

 ま、まさか一緒に入ろうとか言ってこないよな……。今日はガハマさん積極的だから何言ってくるか分からないから超怖い。

 

「あたし、パジャマとか持ってくるの忘れてきちゃった……」

 

 顔を真っ赤にしながらぽしょりと呟く由比ヶ浜。ちろりと上目遣いで見つめてくる。

 

「……マジで?」

 

「……うん」

 

 この子今日泊まる気満々で来たんじゃなかったっけ……。アホの子の真髄を見た瞬間である。

 いや、落ち着け。由比ヶ浜はパジャマを忘れただけだ。もっと大事な物はちゃんと持ってきてる……はずだ。

 はぁ……一応聞いておくか……。

 

「パジャマ忘れたってことはもしかして下着も……?」

 

「……うん、忘れちゃった」

 

 由比ヶ浜はうううと唸りながら抱きついてきた。や、恥ずかしいからって抱きついてくるのはずるいと思います。

 ううむ。しかしどうしたものか。小町のだとサイズ的に合わないだろうし……。ほら、妹のはちょっと小さいし逆にガハマさんはメガロポリスだし。

 

「……まぁそれはお前の責任だ。下着は我慢するんだな」

 

 頭をぽふぽふと撫でながら言うと、由比ヶ浜は恥ずかしそうに目を伏せる。

 

「うぅ……ヒッキーのえっち……」

 

 うん、原因は由比ヶ浜だけど何かもう可愛いからどうでもいいや……。

 ていうか今の反応見ただけで超いじめたくなったわ。うん、ちょっとだけ、ちょっとだけ。

 

「……もしかして、誘ってんのか?」

 

 聞きながら由比ヶ浜をソファーに押し倒す。本日2度目の床ドンでございます。

 

「はわ、はわわわ……」

 

「ほら……どっちなんだ?」

 

「さ、誘って……ます」

 

 ちろりと流し目を送りながら小さな声でぽしょりと言う由比ヶ浜。いや、それはちょっとマズいんだけど……。

 

「……ん、そうか。んじゃ、悪いけど俺から入らせてもらうわ」

 

「う、うん? わかった」

 

 床ドンをやめ、由比ヶ浜から離れてリビングを後にする。

 誘ってるとかバカじゃないのマジで……。こっちが先に恥ずかしさの限界来ちゃったじゃねぇかよ。

 ううむ、下着やらパジャマ云々のことは風呂入りながら考えるとするか……。

 

 

××××××

 

 

 というわけで俺の風呂はカットだ。俺の風呂とか誰得になると思ってんだよマジで。

 

「上がったぞー」

 

 リビングに戻ると、由比ヶ浜はぽかんと惚けた目で見つめてくる。

 

「ん? どうした?」

 

「あ、ちょっと今のヒッキー新鮮で……」

 

 え、何それ。風呂から出たばっかだから鮮度抜群的な? 普段そんな腐ってるように見えんのかな……。

 

「服は俺のスウェットでいいだろ?」

 

「うん……えへへ、ヒッキーのスウェット……」

 

 この子ちょっと変態性が増してきてませんかね……。いや、まぁ別に可愛いからいいんだけど。

 

「……ま、下着は我慢しろ」

 

「……うん、がんばる」

 

 別に頑張ることではないんだよなぁ……。ある意味頑張るしかないのは俺のほうだな。理性ぶっ壊れないようにしないと……。  

 

「んじゃ、案内するから」

 

「うん」

 

 

××××××

 

 

「の、のぞかないでね?」

 

「のぞくわけないだろ……」

 

 頬を朱に染めてもじもじしながらちらっと見つめてくる由比ヶ浜にドキッとしてしまう。

 

「や、やっぱりちょっとだけならのぞいてもいいよ……?」

 

「はぁ……アホなこと言ってんじゃねぇよ。んじゃ、入ってていいぞ。その間にタオルとか持ってくるから」

 

 そんなこと言われたら本当にのぞいちゃうからね? この子普段は身持ち堅いはずなのに俺の前だとガード緩すぎるでしょ……。

 うん、まぁ、何。それだけ信用されてるってのは嬉しいことだけど。

 

 

 タオルやらスウェットを用意してから洗面所へ戻る。一応ノックはしておいた方がいいよな。

 こんこんとノックをするが、由比ヶ浜の返事はなくシャワーの音も聞こえない。もしかしてもう湯につかってんのか……?

 

「入るぞー。え……」

 

「あ……」

 

 刹那──どちらの動きもぴたっと止まった。いや、刹那どころではない。それは永劫のような時間の果てへ……。

 いや、ちょっと落ち着け俺。何言ってんのマジで。

 ていうか何でガハマちゃんまだ風呂入ってないの……? しかもぜ、全裸だし……。

 

「あ、え、えっと、あうう……」

 

「わ、悪い!」

 

 とりあえず謝ってから急いでドアを閉める。変に力が抜けてしまいぺたんと床に座り込んでしまう。

 ……俺の見間違いかもしれんけどあいつ俺のパンツ持ってた気がしたんだけど……。

 や、まさかそんなことはないよな。由比ヶ浜がそんなことするはず……いや、今の積極的になっちゃった由比ヶ浜ならありえるかも……。

 

「……ここにタオルとか置いとくからな」

 

「う、うん。ごめんね?」

 

 由比ヶ浜は申し訳なさそうにしょぼんと落ち込んだ声で言う。ドア越しだけど由比ヶ浜今裸なんだよなぁ……。

 いかん。煩悩退散。

 

「や、謝るのは俺の方だろ。んじゃ、俺リビングにいっから」

 

「わ、わかった」

 

 タオルやらスウェットをドアの横に置いてからリビングに戻る。そのままソファにドサっと倒れる。

 

 ふぅ……それではみなさんお聞きください。

 

 うおあぁあぁぁああああぁぁぁあああああ!!!!

 

 マジでやっちまったよ! 俺ガハマちゃんの裸見ちゃったよ! 

 ヤバい、テンションがおかしいことになってる。あいつ本当にスタイル良いんだな……。や、違くて。ダメだ、頭の中でさっきの由比ヶ浜の裸しか思い出せなく……。

 はぁ……俺本当に理性崩壊せずにすむのかな……。

 

 何か今日は色々ありすぎてちょっと疲れたな。それにさっきのでもっと疲れたし……。

 うん、由比ヶ浜が戻ってくるまでちょっとだけ仮眠しよ……。

 




お気に入り2000突破しましたありがとうございます!これからもこの積極的シリーズをよろしくお願いします!ガハマちゃんアフター後編は超激甘予定です。だってノーパンノーブラだしね!(直球)。

閑話休題。今回は久しぶりに色々と宣伝をしようと思います。長くなりますので先に感想や評価等をよろしくお願いします。

では、お話します。

・ツイッターやってます。

@qZqlIQCHmc3Bmsi

こちらも最近フォロワーが100人超えました。他の書き手さんと話したりSSのことやアニメのことなど呟いたりしてます。よろしければフォローお願いします。話しかけてくれたらよりテンション上がります。

・活動報告でリクエストを取っています。最近は全く来てないのでもし何か案があったらよろしくお願いします。

・pixivで本格的にSSを書き始めました。もしも八幡といろはが同級生だったらというSSを書いてます。いつも通りの八色イチャイチャSSです。同級生いろはす超新鮮です……。よろしければぜひ見てください!

長くなりましたが以上です。ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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色々と、ガハマさんとのイチャイチャお泊まりデートはまちがっている。【後編】

 

 目が覚めると、ほんのりと温かく柔らかい感触が左頬に伝わる。起きたばかりでぼーっとしている頭。半開きの瞼では今自分が何に頭を乗せているのかも分からない。

 霞んだ視界からうっすらと見える、頭一つ分くらいのサイズの隙間。眩しい電気の光を遮るように、俺はその隙間に顔を埋めた。

 

「んん……まぶしい……」

 

「ひゃんっ! ひ、ヒッキー……」

 

 その隙間に顔をむぎゅーっと思いっきり埋めると、可愛らしく大きな声が頭上から響く。

 

 …………ひゃん? 

 

 大きな声に意識が覚醒し、重い瞼をゆっくりと開くと、見慣れたスウェットが眼前いっぱいに広がる。

 うん、ちょっと状況を理解しよう。

 ……俺、今由比ヶ浜の股に顔埋めてね……?

 

「はわ、はわわわ……」

 

「お、おはようございます……」

 

 とりあえずこの状況でも挨拶をする俺マジクール。や、ごめん。完全にアホですねはい。

 

「お、おはよ。と、とりあえず……ね?」

 

 それに普通に挨拶し返す由比ヶ浜もどうかと思うんだけど……。

 股の間から顔を離して顔を上げるがメガロポリスがあって彼女の顔が見えない。随分ご立派な物で……。

 ……ていうかそれ以前に何で俺は由比ヶ浜に膝枕されてるのん? 

 

「わ、悪い。俺寝相悪かったか?」

 

「う、ううん。さっきまでほとんど動かなくて死んじゃってるのかなーとか思ってたけど急に動いて……うぅ……」

 

 や、死んじゃってるってのは流石に酷いんじゃないかと……。泣くぞ。

 そういや由比ヶ浜さんは下着なしなんですよね。ていうことは俺スウェット一枚越しで……。

 ……やば、改めて状況理解したら恥ずかしすぎて死にそうなんだけど……。

 

「……悪かったな。暇だったろ」

 

「ううん、全然そんなことないよ。ヒッキーの寝顔見たり頭撫でたりしてるの楽しかったし」 

 

「……さいですか」

 

 出来ればそれは聞きたくなかった……。さっきから顔が熱すぎてヤバい。

 

「……そろそろ寝るか?」

 

 言いながら身体を起こして彼女の横に座る。時計を見るともうそろそろ短い針がてっぺんになりそうになっていた。俺何時間寝てたんだよ……。

 

「ね、寝る……」

 

 隣で由比ヶ浜が小さな声で何かをぽしょりと呟いた。

 そして、頬を朱に染めた由比ヶ浜は俺の手をきゅっと優しく握りしめながら、上目遣いでちろりと見つめてくる。

 

「……や、優しく、して……ね?」

 

「い、いや、俺そういうつもりで言ったんじゃ……」

 

 この子何て勘違いしてんのマジで……。危うく目の前で「だっああああああああ!!!!」って叫びながら悶え転がって軽蔑の目で見られるところだったわ。ちょっと具体的すぎた。

 

「も、もう……ヒッキーのバカ……」

 

「悪いな……」

 

 まさか俺もそんな勘違いされるとは思わなかったわ……。

 

「ていうかあたしってそんなに魅力ないのかな……?」

 

「別にそんなことねーよ。でも今はまだ……な。そんな急ぐこともないだろ。これからもずっと一緒なんだし」

 

 あー、マジで恥ずかしい。どんだけくさいセリフ言ってんだよ俺……。

 

「ずっと……」

 

「ん、ずっと」

 

「えへへ……そうだよね。これからもずっと一緒なんだもんね」

 

 向日葵のように明るい笑顔を咲かせる由比ヶ浜。ちょっと眩しすぎて見えない。

 

「ま、その代わり一緒には寝てあげよう。あ、寝る……(意味深)の方じゃないぞ」

 

「もうそれ引っ張らなくていいから……。それに何で上から目線なんだし」

 

「ははっ、感謝せい」

 

 何でか知らんけどテンションおかしなことになってるわ。顔in股事件があったからですねはい。

 

「でも意外。ヒッキーなら『じゃあ俺リビングで寝るからお前はベッド使っていいぞ』みたいなこと言うと思ってた」

 

 え、何それ俺の真似? 死ぬほど似てないんだけど。まだ小町のが似てたぞ……。

 

「あー、うん。もう何でもいいから俺の部屋行こうぜ」

 

「あっ、待ってよー」

 

 

××××××

 

 

「はー、ここがヒッキーの部屋……ほおおー……」

 

 部屋に入るなりきょろきょろと見回し始める由比ヶ浜さんです。

 

「や、別に普通の部屋だろ」

 

「ほぇええ……へえええ……」

 

「そんな見られると流石に恥ずかしいんですけど……」

 

 どう見ても犬にしか見えないです。名付けて犬比ヶ浜さん。尻尾とかあったら絶対ぶんぶんしてそう。

 

「んじゃ、寝るか」

 

「う、うん! そそそうだね!」

 

「……何でそんなテンパってんの?」

 

「だ、だって……その、え、えっ……ちなことしなくても一緒に寝るとか恥ずかしいし……」

 

 由比ヶ浜は胸の前で指をもじもじさせながら、恥ずかしそうに俯いてぽしょりと呟く。そんな反応されたら本当にしたくなっちゃうから……。

 

「あー、ならあれだ。俺のことを抱き枕だと思えばいい」

 

「抱き枕?」

 

「ん、そうだ。それならそんな緊張もしないはずだ。……多分」

 

「何で最後自信なさそうなの……。でもヒッキーが抱き枕かぁ……抱き枕がヒッキー……えへへ」

 

 抱き枕にするのでも想像でもしたのだろうか。頬が蕩けちゃうんじゃないかってくらいにでろっでろに緩んでるんだけど(可愛い)。

 両手で頬を包んできゃーきゃー言ってるお花畑状態のガハマさんを無視して布団に潜る。

 

「んじゃ、来い……」

 

 ぽんぽんとベッドを叩くと、由比ヶ浜は不安げにおずおずと近づいてくる。

 

「お、おじゃまします……」

 

 その表現はおかしいんじゃないかしら……と思っていると、由比ヶ浜はぎゅっと抱きつきながら胸元に顔を埋めてくる。

 

「ヒッキーの匂いでいっぱい……」

 

「まぁそりゃそうだろ。じゃ、電気消すぞ」

 

「う、うん」

 

 上擦った声で返事をする由比ヶ浜の声を聞いてから電気を消す。誰かと寝るのなんて小学校以来だから緊張するな……。

 それにあれだ。さっきから俺のお腹辺りに柔らかいのがずっと当たっててマジ天国。

 

「ヒッキーの胸、とくんとくんいってるね」

 

 由比ヶ浜は俺の胸に顔を埋めながらくすりと笑う。暗くてよく見えないけど絶対楽しそうな顔してんだろうな……。

 

「そりゃ俺だって生きてるからな。いや、やっぱり心臓バクバクしすぎて死にそうだわ」

 

「あはは、ヒッキーも恥ずかしいんだ」

 

「そりゃお前みたいな可愛いやつに抱きしめられたらな」

 

「可愛い……えへへ」

 

 嬉しそうに笑いながら由比ヶ浜は更にむぎゅーっと抱きついてくる。そんな押し付けられると八幡の八幡がやっはろーしちゃうから……。これ由比ヶ浜に言ったら本気で怒られそうだな。

 

「はぁ……お前ほんと可愛すぎ」

 

 本当にこんな子が俺の彼女だと思うと、考えるだけで愛おしくなってしまいつい頭をくしゃくしゃと撫でてしまう。

 撫でて気づいたけどいつものお団子がないことに今さら気づいた。さっきは色々ありすぎて気づかなかったから明日の朝ちゃんと見ることにしよう。

 絶対可愛いんだろうなぁ……。うん、恥ずかしいくらいに俺由比ヶ浜にベタ惚れだな……。

 

「ヒッキー」

 

「ん?」

 

「お前、じゃないよ?」

 

 子供をあやすように大人びていて、それでいてからかうような声。何を言えと言われているのかはすぐに分かった。

 

「……結衣」

 

「ふふっ、素直でよろしい」

 

「何で上から目線なんだよ……」

 

「ヒッキーだってさっき上から目線だったじゃん」

 

「まぁそうだな」

 

 そして、お互いくすりと笑い合う。彼女といると本当に心が満たされて幸せになれる。

 

「……ね、ヒッキー」

 

「ん」

 

「ありがと」

 

「……ん」

 

 由比ヶ浜……いや、もう結衣か。ちゃんと名前で呼ばなきゃまた言われそうだしな。

 今の結衣の言葉は何のことをどんな意味で言ったのだろうか。何となくでしかその意味が分からなくても、今の俺に取ってその言葉は十二分に心に響く嬉しい言葉だった。

 気づけば、俺も結衣のことを抱きしめていた。

 

「ん……えへへ……大好きだよ、ヒッキー」

 

「……おう、俺も大好きだぞ」

 

「あうう……そんなストレートに言われたら恥ずかしいよ……」

 

 相当恥ずかしかったのだろう。結衣はあうあう唸りながらおでこをぐりぐりと擦りつけてくる。本当に可愛いやつめ……。

 

「ていうかそろそろ寝るか。布団入ってから結構時間経ったしな」

 

「そうだね。でもその前にお願いがあるんだけど……」

 

「ん、何だ?」

 

 聞くと、結衣はもぞもぞと身体を動かして俺の目の前にひょっこりと顔を出す。

 部屋が暗くても分かるくらいに顔を真っ赤にした結衣が、俺の頬に手を添えながら小さな声で、

 

「キス……して?」

 

 と、今にも消えてしまいそうな儚げな声でぽしょりと呟いた。

 

「……おう」

 

 すっと目を閉じた結衣に促されて、俺はゆっくりと顔を近づける。

 微かに震える手を彼女に頬に添え、彼女とは反対に顔を傾げる。

 そして──。

 

「んっ……」

 

 甘い吐息を漏らしながら唇を離した結衣は、満面の笑みを浮かべながら再び俺の胸元に顔を埋める。

 

「おやすみ、ヒッキー」

 

「ん、おやすみ、……結衣」

 

 こうして、昼から色々あった俺と彼女のお泊まりデートはひとまず幕を閉じた。一つ言えるとしたらあれだ。

 やっぱり付き合ってすぐに一緒に寝るとか俺には無理ですわ……。名前呼びやらキスとか頑張った分の恥ずかしさが今になってやってきて大変なことになってる。

 いや、でもまぁ俺も結衣も幸せってことだし別に今日くらいは寝れなくても良い……かな。

 




ガハマさんアフターいかがでしたでしょうか?初めてヒロインを地の文でも名前呼びさせましたけどあれですね。何か甘さが倍増した気がする……。
何度もアフターやってるいろはすはそろそろ名前呼びにしようかなと考え中です。

次回は誰になるかまだ未定です。最近ネタが思いつかない病を本格的に患ってしまったので活動報告などで協力してくれたら幸いです。割と重症です。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり泊まり明けの朝からイチャイチャするのはまちがっていない。

ガハマちゃんアフター第二弾ですっ!


 

 目が覚めると、心地よく柔らかい温もりが身体を包んでいた。

 くあっと欠伸をしながら視線を下に向けると、明らかに自分一人分ではない布団の膨らみがある。

 布団を少しめくると、明るめの茶髪の女の子が可愛らしくすうすうと寝息を立てながら俺に抱きついていた。

 ……そういや俺、結衣と一緒に寝てたんだっけな。本当に昨日一日でずいぶん関係性変わったな……。

 昨日のことが夢じゃなくてよかったと思いながら、彼女の頭をそっと優しく撫でる。

 

「へへっ、ひっきぃ……」

 

 え、何この子? 起きてるのかしら? それとも夢の中でも俺とイチャイチャしてるのん?

 ていうか寝顔くらい見せてもらっていいですよね? 俺の胸に顔埋めてるせいでほとんど見えないんだけど。

 彼女を起こさないように身体をもぞもぞと動かし、顔の位置を彼女と同じ場所にする。

 

「ん……」

 

 元々童顔の方だとは思ってたけど、寝てるといつもより更にあどけなくて子どもっぽく見える。それにいつものお団子がないのも結構いいな。何か新鮮だ。

 やっぱ予想通り本当に可愛い寝顔してんな。うん、こんな可愛い生き物が目の前で寝てたら触りたくなっちゃうよね!

 ということで。

 

 ぷにっ。

 

「んんっ……」

 

 頬を軽くつつくと、結衣はくすぐったそうに身をよじりながら吐息を漏らす。

 もっと反応が見たくなり、今度はあごの下をくすぐるように撫でてみる。

 

「ん、ふぁっ、んんっ……」

 

 あ、これ駄目なやつだ。可愛いしエロいしで意味分かんないわ。

 

「ん……ひっきぃ?」

 

「ん、悪い。起こしちゃったか。おはよう」

 

 ぷにぷにとほっぺたを触り続けてたら起こしてしまったようだ。

 結衣はうっすらと開いた目をくしくしとこすってから、俺のことを見て何度かぱちぱちと瞬きをする。

 

「ほんとにヒッキー……?」

 

「や、そうじゃなかったら俺は誰になるんだよ」

 

「……よかったぁ」

 

 ほっと息を吐いて安堵の表情を浮かべる結衣。何について言っているか俺にはまったく理解できないんだけど。

 

「何のこと言ってんだ?」

 

「昨日のことが全部夢じゃなかったなぁって。もし起きてヒッキーがいなかったらって思ったらすごく怖かった……」

 

 少しだけ震える声で言いながら、結衣はぎゅっと俺の手を握ってきた。

 

「……あはは。なんかごめんね? 変なこと言っちゃってるね」

 

 ……まぁ、あれだ。彼女の不安要素を取り除くのも彼氏の役目だよな。

 呆れるようにため息を吐いた俺は、結衣のおでこに自分のでこをこつんと当てる。

 

「……お前は心配しすぎなんだよ。別に俺はどこにも行かねぇから安心しろ」

 

「な、なんかヒッキーがそんな優しいこと言うとちょっとキモいね」

 

「うわ、このタイミングでそういうこと言っちゃう? 俺だって超恥ずかしいんだからね?」

 

「でも今のってあたしを安心させるために言ってくれたんでしょ? それでも嬉しいよ」

 

 はぁ……何をアホな勘違いしてんだこいつは……。

 

「別に安心させるためじゃねーよ。……本音に決まってんだろ馬鹿」

 

「むっ、バカじゃないし! ほんとに不安だったんだからね!?」

 

「はいはいそうですか」

 

「急に扱いが雑に!?」

 

 朝からうるさいくらい元気だな。まぁ、いつも通りになってくれたんだしいいか。

 

「……ね、ねぇ、ヒッキー」

 

 結衣はさっきまでの雰囲気とは違く、俺の手に指を絡ませてきた。頬はほんのりと朱に染まっていて瞳を潤ませながら上目遣いで見つめてくる。

 

「……ん、どした」

 

「あたし、まだちょっとだけ不安だからさ、そ、その……おはようのキス……して?」

 

 顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうにぽしょりと呟く。はぁ……俺には難易度高すぎだけどしょうがない。まぁ可愛い彼女のお願いだしな。

 結衣の言葉に無言で頷き、彼女の頬に手を添える。そのまま彼女に触れるだけのキスをした。

 

「……満足か?」

 

「……もっと」

 

 とろけてしまいそうなほどの甘い声音で言いながら、結衣が唇をんっと差し出してくる。

 そんな結衣を愛おしく思いながら、俺はもう一度彼女に唇を重ねた。

 

「んっ……えへへ」

 

 唇を離すと、結衣は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

 

「ヒッキーの胸、すごいドキドキしてるね」

 

「お前だって同じだろうが……。ていうか押しつけすぎ。また誘ってんの?」

 

 言うと、結衣は頬を真っ赤にして俺から身体を離す。離れる際にちょっとだけ名残惜しそうにしてたから勢いで抱きしめそうになっちゃいました。

 

「今回は誘ってないもん……。も、もうっ、ヒッキーのえっち」

 

「男はみんなそういうもんなんだよ」

 

 俺の言葉に結衣は少し呆れた表情をしながらはぁとため息を吐く。

 

「そうなんだよねー……。よく他の男子にも見られたりもするし……」

 

 ……いや、うん、まぁ、そりゃ分かってはいましたよ? 確かに男なら誰でも見ちゃう。その気持ちはよく分かる。

 でも、やっぱり気分は良くないな……。他の奴には見せたくないというか。

 あれ? もしかしなくても俺って独占欲強すぎ?

 

「ヒッキー? 怖い顔してどうしたの?」

 

 まさかの顔に出ちゃうレベルかよ……。これバレたら恥ずかしくて死んじゃうパターンだわ。

 

「い、いや、別に何でもない」

 

 結衣はあっと何かに気づいた表情をしてから、少しだけ頬をほにゃっと緩ませる。

 

「もしかしてヒッキー……嫉妬してるの?」

 

 何で変なとこで鋭いんですかねほんと……。

 ええ、そうですよ! そりゃ自分の彼女を他の男に変な目でなんか見せたくないに決まってんだろ!(逆ギレ)

 多分もう恥ずかしさで顔真っ赤になってるだうろし認めた方が絶対楽になれるよな……。

 

「……まぁ、そうなんじゃねーの」

 

「えへへ、そっかー、そうなのかー」

 

「……何だよ」

 

「ヒッキーがそれだけあたしのこと思ってくれてるのが嬉しくてさ。それに嫉妬してるヒッキーちょっと可愛いかも」

 

「なっ……」

 

 この子どんだけ威力強い爆弾ぶん投げてくんだよ……。そんなこと言われたらこっちまでちょっと嬉しくなっちまうだろうが。

 急な爆弾に俺が動けずにいると、頬を上気させながら結衣は身体を密着させてくる。そのままうっとりとした表情で、唇が触れそうなくらいにまで顔を近づけてくる。

 

「ね、ヒッキー……。あたしはヒッキーのことだけが……」

 

 俺がごくりと生唾を飲むと同時に、きゅうっと今の状況に相応しくない音が鳴る。

 ……ガハマさん。このタイミングでそれをやらかすってほんと流石なんですけど……。 

 

「……そろそろ飯でも食うか?」

 

「そ、そこはスルーしてよ!」

 

 恥ずかしさで涙目になった結衣があうあう言いながら抱きついてくる。やめてそんな強く抱きしめられたら柔らかくて死んじゃうから。

 ぽふぽふと結衣の頭を軽く撫でてから、身体を起こしてベッドから降りる。

 ……あ、そういや言い忘れてたことあったな。

 

「あー、その、なに」

 

 俺が言い淀むと結衣は不思議そうにくりんと首を傾げる。

 ……よし。頑張る。

 

「……髪、下ろしてんのも似合ってんな」

 

 俺の言葉に結衣は少し驚いた表情をするが、その表情はすぐに嬉しそうで優しい笑みに変わった。

 

「あ、ありがと……えへへ」

 

 あー、顔あっつ……。昨日はもっと恥ずかしいことしてたはずなのに何でこんなに顔熱くなってるんだろマジで。

 ……でもまぁ、結衣が嬉しそうだし別にいいか。その笑顔が見れるだけで俺は満足だしな。

 はぁ……とりあえずあれだ。結衣に料理のやり方でもちゃんと教えてやるか……。

 




たまたまこの前書いたガハマちゃんお泊まりアフターを読み返してたら、寝起きでのイチャイチャも書きたいなぁと思ってしまった部屋長君でした(自己完結)。
最近ガハマちゃんが前より大好きになっちゃったので少ししたらまたガハマちゃん√を書くかもしれません!ガハマちゃん好きの皆さんは今後も楽しみにしててください!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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ゆきのん√ やはりどこまでいっても、雪ノ下雪乃には敵わない。【前編】

ゆきのん√スタートです!


 

 今日も今日とていつも通りの授業を終えて、いつも通り部活へ行く天使を眺めてから、いつも通り俺も部活へ向かおうとすると、いつも通り……ではないな。珍しく教室内で由比ヶ浜に声を掛けられた。

 

「ヒッキー」

 

「ん、なんだ」

 

「ゆきのんには昨日言ったけど、あたし今日優美子たちと遊びに行くから部活休むね」

 

 こんなクソ寒いのに遊びに行くとか……。リア充には寒さを無効にするアビリティでもあるのだろうか。俺もそのアビリティ欲しいけどぼっちだから無理らしい。

 というか、なんで俺には昨日のうちに教えなかったんですかね……。

 

「おう、分かった。楽しんでこいよ」

 

「うん! じゃあまた明日ねっ」

 

 にこっと微笑んでから三浦たちの方へぱたぱたと走りながら戻って行った。教室で走るんじゃない。パンツ見えちゃうでしょ!

 ふむ、白か……。んじゃ、俺も部室に向かいますかね……。

 

 

 部室への道をだらだらと歩いているとあることに気付いた。

 俺、今日雪ノ下と二人きりになれるんじゃね……? ほんと今さらだな。

 ううむ、俺はあの雪ノ下相手に積極的になるしかないのか……。友達になるのさえ拒否られたのに(辛い)、どうすればいいものか。

 まぁ正直なところ、誰と一番二人きりになれる確率があるか考えたら断トツで雪ノ下がトップなのは分かっていたから考えはあるんだけどな。

 あの負けず嫌いさんの特性を上手く利用するだけだけど。

 

 どうその話題に持ち込むかウンウン考えていると、いつの間にか部室の前に着いていた。

 や、やっぱりやるしかないのかなぁ……。通報されないよね?  

 自分のチキンさにため息を吐きながら部室の扉を開くと、雪ノ下もこっちを見てからため息を吐いた。

 

「はぁ……こんにちは」

 

「お、おう……」

 

 こいつ由比ヶ浜が来ないからってその反応かよ。ちょっと酷すぎない?

 お前ら最近ゆるゆりしすぎなんだよ。眼福ですからもっとお願いします。

 若干不機嫌そうにも見えるが(絶対不機嫌)、それでも雪ノ下は紅茶を注いでくれる。自分のも注いでるってことは俺が来るの待ってたってことか。意外と律儀だな……。

 

「……どうぞ」

 

「おう、サンキューな」

 

 紅茶は冷めるまで放置しとくとして。舌が焼けるし。

 さて、さっきは思いつかなかったからどうやってその話題に切り出すか考えよう。

 ううむ、ダメだ、全く思いつかない。もう直球勝負で聞くか? 聞くしかないのか? 別に聞くだけなら楽だもんな。でも一度聞いたらその後大変なんだよな。

 ふぇぇ……どうすればいいのぉ……。お家帰って小町のことを撫で回したいよぉ……。

 

「さっきから動きが挙動不審で気持ち悪いのだけれど……」

 

「お、おう。すまん」

 

 ゴミを見るような目で言われてしまった。俺にそっちの趣味がないのをそろそろ分かってもらいたい。目覚めたら困るし。

 ……もう埒が明かないから直球勝負で行こう。

 

「……お前さ、壁ドンって知ってるか?」

 

 そう。俺がさっきから言うのを悩んでいたのは『壁ドン』だ。雪ノ下は世間一般の女子校生とはずれている。まぁ人のことは言えないけどな。

 だからそれを生かす。雪ノ下が壁ドンを知っていたら元も子もないが、あの負けず嫌いさんのことだ。「比企谷くんが知っているのに私が知らないのは解せないわね。早く教えなさい(裏声)」とか言われそうだし。そっから壁ドンをするまで話を持ち込む。で、壁ドンする。それで落とす。

 ……壁ドン一つで落ちたらチョロインすぎるけどな。

 

「な? か? かべ? ……え? ごめんなさい。何を言ってるか全然わからなかったわ……」

 

「あぁ、やっぱり……」

 

 流石に俺でも壁ドンは少女漫画とか読む前から知ってたぞ……。雪ノ下さん大丈夫なの?

 

「……比企谷くんが知っているのに私が知らないのは解せないわね。早く教えなさい」

 

 まさかの一字一句も違わずに言いやがった。

 

「ん、これだ」

 

 椅子から立ち上がって雪ノ下の方へ歩いて行き、全知全能のグーグル大先生からの教え(画像)を雪ノ下に見せる。

 

「……これがかべどん?」

 

 スマホを見ながらくりんと首を傾げる。そういうの可愛いからやめろよ。

 あと、壁ドンの発音の仕方が違う。ついでに文字にしたら絶対平仮名だと思う。

 

「ん、そうだ」

 

「……これになんの意味があるのかしら? 男性が女性を襲っているようにしか見えないのだけれど?」

 

 雪ノ下は不思議そうにさらに首を傾げる。画像見てもダメなのか……。まぁそっちのが好都合だけど。

 

「……試してみるか?」

 

「そうね。ではやってみましょうか」

 

 椅子から立ち上がり雪ノ下が壁の前まで歩くのに付いていく。

 壁の前に立った雪ノ下に、深呼吸をしてから問う。

 

「じゃあいくぞ? あ、あと通報だけは勘弁な」

 

「? え、ええ」

 

 あー、こいつ壁ドンの意味を分かってないから通報とか言った理由も分からないのか。

 

「じゃ、じゃあ行くぞ」

 

 こくりと雪ノ下が頷くのを確認してから右手を壁に付ける。

 自然と顔が近くなるけど、俺がやってもムードの欠片もねぇな……。

 

「……どうだ?」

 

「そ、その……近いわ」

 

 やっと壁ドンの意味を理解していただけたか。

 この状態だと自然と上目遣いになってしまうので、頬を朱に染めて上目遣いをしてくる雪ノ下を見て、緊張で頭真っ白になってしまう。

 で、でも、もう少しだけ頑張る。家に帰ったらきっと小町が褒めてくれるから頑張る(混乱)。

 

「雪乃……」

 

 雪ノ下の右耳に顔を寄せて、吐息混じりに囁く。これ以上恥をかくことはないので名前呼びで。

 

「ひゃうっ!」

 

 可愛らしい声をあげて体がびくっと跳ねる。や、本当に可愛いからやめろって。

 

「き、急に名前でなんて呼んでどうしたの?」

 

 耳もとに顔を寄せているのでどんな表情してるか分からないが、多分顔は真っ赤になっていると思う。耳赤くなってるし。

 

「可愛いよ……」

 

 ……これが限界。顔を離すと雪ノ下は顔を真っ赤にしてぷるぷると震えていた。

 

「あ……あうう……」

 

 え、なにその可愛い唸り声。

 

「……ま、こんな感じだ。どうだった?」

 

 壁から手を離して雪ノ下に聞いてみる。

 

「……」

 

「あ、あのー……雪ノ下さん?」

 

「……」

 

「……聞いてる?」

 

「……」

 

 機能停止ですねはい。顔真っ赤にしたままずっとぷるぷる震えてるんだけど。スマホのバイブレーションかよ。

 暫くぽけーっと待っていると、雪ノ下が顔を上げてようやく口を開いた。多分10分くらい待った。長いですねはい。

 

「も……ちど」

 

「え? なんだって?」

 

 難聴ではない。ほんとに声が小さくて聞き取れなかった。もう一度言う。俺は難聴ではない。

 俺の返答が気に入らなかったのか、真っ赤な顔をした雪ノ下がキッ! と睨みつけてくる。怖い。

 

「だ、だから……も、もう一度……やりなさい」

 

「え? なんだって?」

 

 完全にわざとである。え、なんでもう一回? ワッツ?

 

「殺されたいの?」

 

「は、はい! ぜひやらせてもらいます!」

 

 こんなに直接的に言われたのは初めてかもしれん。切れ味が抜群すぎて超怖かった。チビってないか一回確認したレベル。

 

「じゃ、じゃあいくぞ?」

 

 雪ノ下が頷いたのを確認して右手を壁に付けようとしたその直後――雪ノ下に右手を引っ張られ、そのまま回転させられる。状況が理解できないまま、気づいたら雪ノ下に壁ドンされてた。

 しかも両手で。両手ドンですねわかります。いや、やっぱ分からないわ。 

 

「あ、あのー、雪ノ下……さん?」

 

 超ビビりながら恐る恐る聞くと、雪ノ下はくすりと微笑む。わぁ……いい笑顔。

 

「あなたも私と同じ目にあいなさい」

 

 そう言い、少し背伸びをしてから顔を耳元に近づけてくる。しかし、俺より身長の低い雪ノ下が同じことをすると自然と体まで密着してしまう。

 やばいやばい近い近いいい匂い柔らかい。……まじで何でこんなにいい匂いするの?

 

「は、はち、はち……、はち……まん」

 

 俺のテンパり具合など露知らず、雪ノ下は震える声で俺の名前を呼ぶ。いやいやそんなにテンパるなら最初からやらないでくださいよ。

 このままやられっぱなしだとちょっと死んじゃうから、俺も一矢報いることにした。

 さっきまで所在なさげにしていた両手を雪ノ下の背中に回して、ぎゅっと抱きしめる。

 ……そのせいで更に体が密着するけど気にしない。

 

「あっ……」

 

 雪ノ下は俺に抱きしめられると甘い吐息を漏らす。そして壁に付けていた両手を俺の首に回してきた。

 や、ちょっと何が起きてるのか分からない。あれ、今回のメインイベントは壁ドンだったはずじゃ……。

 

「はちまん……」

 

 背伸びすることをやめて俺の胸元に顔を埋めながら、恥ずかしそうな、それでいて甘い声で雪ノ下が俺の名前を呼ぶ。

 

「ももも、もう無理!」

 

 抱きしめるのをやめてするりと抜け出し、そのまま全力ダッシュ。部室を出てトイレに駆け込み個室に入って座る。ここまで僅か12秒フラット。

 

「はぁっ、はぁっ……まじかよ……」

 

 大きく肩で息をしながら呆然としてしまう。なんだよあの破壊力。危うく理性が崩壊するとこだったわ……。絶対雪ノ下のがスイッチ入ってたじゃん……。

 それにしても、あいつの身体柔らかかったな。それにぺったんこだと思ってたのに意外と……(失礼)。いかん、息子が起床した。

 ……。

 …………。

 ……………………。

 ………………………………。

 

「ふぅ……」

 

 どうして世の中から争いはなくならないのだろうか。世界が百人の戸塚ならやっぱり戦争なんて起きないと思うんだ。

 賢者になって(賢者にはなっていない。タイムに入っただけです)落ち着いた俺はしっかりと手を洗ってから部室へと戻った。

 




えー、なんか汚い表現が多かったですね☆ま、まぁ男子高校生だししょうがないよね!
……不快に思ったらごめんなさい。そのぶん次回はゆきのん更に可愛く書けるよう頑張ります。

ひっそりとピクシブでも短編を上げ始めました。もし良ければぜひ。名前は部屋長で今回はいろはすを書いてみました。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはりどこまでいっても、雪ノ下雪乃には敵わない。【中編】

 

 時刻は飛んで夜の10時である。や、飛びすぎだな。まぁちょっと色々あったしな……。

 あの後、部室に戻ったら雪ノ下が机に突っ伏してぷるぷる震えていた。超可愛かった。

 で、俺に見られたのが恥ずかしかったのか今度は軽く泣きそうになったのですぐに土下座した。どれだけの罵倒雑言を浴びせられたことか……。

 流石の俺もメンタルがブロークンハートしてしまった。

 

 と、ここでリビングのドアがガチャリと開き、マイスウィートハニーの小町ちゃんがやって来た。なので今日の報告をしようと思う。

 

「なぁ小町」

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

 

 炬燵にもぞもぞと入って来てから話しかけると、小町はくりんと首を傾げる(可愛い)。

 

「俺な、今日雪ノ下に壁ドンしたわ」

 

 ふふんとドヤ顔で言ってやると、小町は眼をぱちぱちと二、三度しばたたせた。

 

「え、本当に?」

 

「おう。本当にだ」

 

 言うと、小町の目がキラキラと輝く。ふむ、兄妹なのに何が違うんだろうか。俺ももうちょっとキラキラさせたい。

 

「きゃー! お兄ちゃんが壁ドン! きゃー!」

 

 うるさいうるさい。近所迷惑になっちゃうから。

 

「ふぅ……それでそのあとはどうしたの?」

 

 一通り騒ぎ終えてから(長い。絶対に怒られる。俺が)、小町が聞いてくる。

 

「壁ドンしただけだ。それが限界だったわ」

 

 色々と悟って冷静になってしまったからな。賢者の力ってすげー! ……いい加減汚いからやめよう。

 まぁ雪ノ下に逆に壁ドンされてから、勢いで抱きしめたことは内緒でいいや。恥ずかしいし。

 

「ぶぇー。やっぱお兄ちゃんはダメダメだなー」

 

 あからさまにがっかりした表情になるが、小町はんーっと考える仕草をしてから何か閃いたのか、アホ毛をぴこーん! と動かした。なにそれ怖い。

 

「じゃあさ! 明日土曜日なんだしデート行ってきなよ! どうせ壁ドンしたら雪乃さんデレデレになったんでしょ? だから大丈夫だよ!」

 

「お、おう」

 

 勢いよくまくし立てられてしまい了承してしまった。えぇー……デートって。……まじで?

 

「というわけで、雪乃さんに今から電話かけるから。途中でお兄ちゃんに代わるからからちゃんとデートに誘うんだよ」

 

「は、はい」

 

「あっ、あとちゃんとデートって言うんだからね。デートって。女の子はそう言われたほうがポイント高いんだからね」

 

 大事なことだから二回も言われてしまった。ハードル上がったんですけど……とげんなりしている間に、小町は雪ノ下に電話をかけていた。

 

「あっ、もしもし雪乃さんですか? あ、どーもどーも、いつも兄がお世話になっております」

 

 相変わらずサラリーマンみたいな話し方してんな。ま、電話中に話しかけると怒られるから黙っとこう。

 

 ある程度話し終え、むふーと満足げに息を漏らした小町が俺に視線を向けてくる。

 ……何か、来る……! や、かっこよく言ったけど俺が電話代わるだけなんだけどね。

 

「そうだ! ちょっとお兄ちゃんが用あるらしいんで代わりますね!」

 

 ポイっとケータイを投げてくる。そしてグッと親指を立ててばちこーんとウインクする。お前は戸部かよ鬱陶しいな。

 

「あ、あー、……もしもし」

 

 ふぇぇ……電話すること自体ほとんどないから緊張するよぉ……。

 

『こ、こんばんは比企谷くん』

 

「……おう」

 

 わずかな沈黙の後、電話口の向こうからため息を吐かれる。

 ご、ごめんね? 頭真っ白になっちゃって……。

 

『……それでどういう用件かしら?』

 

「あー、その、なに……」

 

 ヘタレるなー、ヘタレちゃダメだー。……小町ちゃん睨まないで怖いから。

 一つ、大きく息を吐く。そして、覚悟を決める。

 

「……明日、俺とデートしないか?」

 

 よし、言ってやったぞ。俺超頑張った。顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

 やめろ小町! ニヤニヤするな余計恥ずかしくなるだろ!

 

『え、ええ。場所はどこにするのかしら?』

 

 え、なに。そんなすんなりOKしてくれるの?

 その後、場所やら時間を決めて軽く話をしてから電話を切った。

 

「はぁ……疲れた」

 

 ぐったりとしてしまう。今日でもう体力使い切ったのに明日はデートって……。

 

「じゃあ明日頑張ってね! 役目を果たした小町は勉強に戻ります! おやすみお兄ちゃん!」

 

「お、おう。おやすみ」

 

 あざとく敬礼をしてから小町は「お義姉ちゃん♪ お義姉ちゃん♪」と楽しそうに歌いながらリビングから出ていった。何言ってるのこの子……。

 

 

××××××

 

 

 時刻は現在1時30分です。集合時間は2時だけど小町に早く行けと言われたもので……。

 急遽決めたってことで、場所は以前クリスマスパーティーの買い出しに訪れたショッピングモールだ。雪ノ下と話し合ってここなら適当にぶらぶら回れるし無難だろうという結論に達した。

 ちなみに俺の服装はいつも通り小町が全部決めた。何が違うのかは知らんが「バッチリだよ!」って言われたからいつもとは違うんだろう。

 あとはあれだ。今日はたまたま休みだった親父に対して小町が「今日はお兄ちゃん女の子とデートするの! だからお金ちょうだい!」って言ったら親父がめっちゃ金くれた。

 振られても自暴自棄になるなよって言われた。もうちょっと息子を信じろよ。まず告白するとも言っていない。

 家にいた時のことを思い出して若干うんざりとしていると入り口に雪ノ下がいることに気づく。向こうも俺がいるのに気づいたようで、胸の前で軽く手を振る。

 

「ごめんなさい。待ったかしら?」

 

 小走りで俺の方に走ってきた雪ノ下の服装は白のコート、チェックのミニスカートから覗く脚は黒タイツだ。

 俺がじっと見てしまったから恥ずかしいのか、もふっとしたマフラーに顔を埋めている。

 

「いや、別に今来たとこだから気にすんな。それにまだ集合時間より全然早いしな」

 

「そう。では行きましょうか」

 

 そう言い、雪ノ下は俺に右手を差し出してくる。

 

「え、なにその手」

 

「あ、あなたがで、デートと言ったのでしょう? だから、その、手くらい繋ぐのが常識じゃなくて?」

 

 雪ノ下は恥じらうように頬を染めてぷいっと顔を背ける。

 ……まぁデートだしな。

 

「……ほれ」

 

 雪ノ下の手をぎゅっと握る。え、めっちゃすべすべしてるんですけど。本当に同じ人間なのこれ? 

 

「ふふ、今日はエスコートを任せてもいいのかしら?」

 

 繋いだ手を見て微笑を浮かべる雪ノ下に思わず見惚れてしまう。 

 

「……俺にそれを期待するのは無理だろ。ま、適当に回ろうぜ」  

 

 照れくさくなって顔を逸らしながら言うと、

 

「そうね。あなたにそんなものを期待できるわけないものね」

 

 明らかにバカにするように言われた。イラッ☆としたけど言い返せないです。

 あ、そうだ。

 

「……あー、その、なに。服、似合ってるぞ」

 

 小町の躾によって叩き込まれたからな。これだけは言っておかなきゃいけない。それにほんとに似合ってるし。

 

「そ、そう、……ありがとう」

 

 ほんのりと頬を染めた雪ノ下はぽしょりと呟きながら嬉しそうに微笑む。

 そんなに嬉しいのか……と思っていると雪ノ下は俺の肩をちょんちょんと叩く。どうやらしゃがめということらしい。

 軽く頭を下げると、雪ノ下が俺の耳元に顔を近づける。

 

「あなたも似合ってるわ……」

 

 耳元でそっと囁くように言われてしまい、自分の顔が熱くなるのを感じる。

 耳元から顔を離した雪ノ下は、口元に手を当ててくすりと微笑む。おちょくりやがって……。

 

「……そりゃどーも。……行くか」

 

「ふふっ、そうね。行きましょうか」

 

 そんなこんなで、俺と雪ノ下、二人の今後が決まるであろうデートのスタートである。

 ……大げさか? うん、大げさだな。




早く書けちゃったので連日投稿です。
書いてて「あれ?こいつらもう付き合ってるんだっけ?」と錯乱しました。ゆきのん凄い。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはりどこまでいっても、雪ノ下雪乃には敵わない。【後編】

ゆきのん√ラストです!


 

 特に目的もないので何か目に付いたらそこへ行くという方針が決まった。なので適当にぶらぶらと歩いているけどさっきからもの凄く居心地が悪い。

 なんでかって? そりゃもちろん視線がめっちゃ痛いからです。

 なんというか、あれだ。雪ノ下の雰囲気がいつもと全然違うのだ。

 柔らかい雰囲気というかなんというか。まぁ手も柔らかいんだけど。それによって雪ノ下が人目を集めている。

 そんな感じで通りすがる人らにめっちゃ見られる。特に男。

 雪ノ下に見惚れてから俺のことを見て「なんでお前みたいな奴がそんな美人とデートしてんだよ!」的な視線がやばい。

 怖い。死んじゃう。

 

「お前すげぇな……」

 

「なにがかしら?」

 

「や……別に何でもない」

 

 俺の辛さなど知らないかのように、ぽけっとした表情で首を傾げられた。

 そういうのやめろよ。ちょっと普段より幼い感じに見えて可愛いから。

 

「比企谷くん、あそこ」

 

「え、なんで服?」

 

 雪ノ下が指さす場所はメンズファッションが人気なブランド店だった。別にファッションとか興味無いから人気かは知らんけど(矛盾)。

 

「比企谷くんに似合う服を見繕ってあげるわ」

 

 ふむ。今までデートとかしたことないから分からんけど、人のを選ぶのも楽しいものなのか。

 ぽぽちゃんの服を着替えさせる的な感じだな。それは違うか。まずあれ知育人形だし。

 

「…………」

 

 雪ノ下はむむむっと悩みながら服を選んでいる。

 でも手は繋ぎっぱなしです。片手で頑張ってるけど手に持っている服はぷらんぷらん揺れている。

 

「手、離すか? それじゃ服持ちづらいだろ」

 

「……でも」

 

 ちらっと繋いである手を見ながら何かを迷ったように口をもにゅもにゅと動かす。

 

「はぁ……別にまた繋げばいいだけだろ」

 

「……そうね」

 

 雪ノ下は手を離して服選びを再開した。その顔はどこか嬉しそうで思わず見惚れてしまった。

 ……ひとつひとつの行動の全部が可愛すぎる。なんでそんな嬉しそうなんですかね……。萌え死んじゃうよ?

 

「これなんかあなたに似合うんじゃないかしら?」

 

「ええ……そんなん葉山が着るようなやつだろ」

 

「デート中に他の男の名前を挙げないでくれるかしら」

 

「え」

 

 それ普通女の名前のときだけだろ……。

 

「いいから。とりあえず試着しなさい」

 

 まさかの命令形です。拒否権はないらしい。

 試着室に入りぱぱっと着替える。多分暖房ついてなかったら寒さで死んでた。

 

「……どうだ?」

 

 調子に乗ってくるっとターンしてみました。

 

「……やっぱりいつも通りのがいいわ」

 

 どうやらダメだったようです。うん、知ってた。

 だって葉山レベルのイケメンじゃなきゃ似合いそうにないもんこれ。

 多分、分かってて雪ノ下はこれを選んだと思う。だって肩震わせて笑うの堪えてるし。

 げんなりしつつも自分の服に着替え直してから店内を後にする。

 ……あ、自分で言ってたのに忘れてた。

 

「ん」

 

「……ふふっ」

 

 手を差し出すと顔を綻ばせながら雪ノ下が手を握ってくる。

 本当に可愛すぎて辛いんですけど。

 周りからの視線を浴びながら(怖い)、いい店ないかなーと歩き続ける。

 

「なぁ雪ノ下」

 

「なにかしら?」

 

「お前何か欲しいものあるか? せっかくのデートだしなんか好きなものがあれば言ってくれ」

 

 自分で選ぶのも有りだろうけど俺センスないからなぁ……。それにこっそり一人で買ってサプライズは不可能だろうし。だって雪ノ下さん手離してくれないと思うしね。

 ……それに俺もあんまり手離したくないしな。

 

「あなたにしては気が利きすぎて怖いわね」

 

「まぁ普段から小町にしつけられてるからな」

 

 小町が言わなきゃまず今日のデートもなかったしな。 

 

「……なら欲しいものはデートの最後に言うわ」

 

 神妙な面持ちで雪ノ下が言った。そんなに欲しいものがあるのか。

 ……雪ノ下が欲しいものってなんだろうか。考えてもパンさんくらいしか出てこないな。あとは猫。

 

 その後も。

 

「これ何に使うんだ?」

 

 雑貨屋でよく分からないものを手に取って二人で悩む。

 

「……分からないわ。あなたみたいね」

 

「なんでだ?」

 

「あなたもこれも使い道がなさそうだもの」

 

「人をガラクタ扱いするのやめてね?」

 

 雪ノ下に楽しそうにいじられたり。

 

「猫……」

 

 ペットショップにて猫に夢中の猫ノ下さんです。

 

「可愛いな」

 

「ええ」

 

「……雪ノ下のが可愛いぞ」

 

「猫のが可愛いに決まっているわ」 

 

 勇気を出したのに予想の斜め上の反応をされたり。

 

「眼鏡?」

 

「かけてみて」

 

「……ん」

 

 手近にあった黒縁の眼鏡をかけてみると雪ノ下はぽかんとした表情になる。

 

「……誰?」

 

「え、そんな変わる?」

 

「え、ええ。見違えるほどに変わっているわ」

 

 試しに近くにある鏡を覗いてみた。

 

「お、おお……」

 

 なんか目の濁り具合が隠されてて気持ち悪い。誰これってレベル。

 

「やっぱりあなたはいつも通りの方がいいわ」

 

「え、なんで?」

 

「……見てくれだけで他の女性があなたに寄ってきたら困るもの」

 

「……そうか」

 

「ええ、そうよ」

 

 恥ずかしい思いをしたりしているうちに時間はあっという間にすぎていった。

 

 時間もいい頃合になったので、あと一つくらいどっか寄ってから帰ることにしようという話になった。どこにするかと周りを見渡すとゲームセンターが目に入る。

 と、ここで雪ノ下の足がぴたっと止まる。なんか既視感があるぞコレ……。

 雪ノ下はその中のクレーンゲームに視線が釘付けになっている。

 あぁ……そういうことね。

 

「……行くか?」

 

「……ええ」 

 

 おお、燃えていらっしゃる。前はクレーンゲーム失敗してたしな。負けず嫌いさんのことだし今回はやる気満々ってことか。

 千円札を両替機に入れてきてからクレーンゲームの前に立つ。

 

「……今回の私は一味違うわ」

 

 クレーンゲームにそれ言っても返事ないからね? どんだけ闘争心むき出しなんだよ。

 百円玉を入れると「ふええ……」と間抜けな機械音がする。なに? パンさんの奴は全部間抜けな声がすんの? 

 もうちょっと「キュインキュイン」みたいな音出せよ(どうでもいい)。

 

「…………」

 

 今回は以前とは違くやり方は分かっているので俺は雪ノ下に後ろでぼーっとしてることにした。邪魔なんてしたら殺されそうだし。

 クレーンを右方向へ移動させて、今度は奥へと動かす。相変わらず上手いな。こいつ何でもセンスあんじゃねぇの?

 そしてクレーンは「ふええ……」と言いながらパンさんを掴みあげようとした。

 うん、クレーンあざとい。

 

「…………」

 

 雪ノ下さんは動かずにクレーンを無言で見ていらっしゃる。後ろにいるから表情は見えないけど「勝った……!」って感じでドヤ顔になってるんだろうな……。

 まぁ例のごとくクレーンは「ふええ……」と言って、パンさんをぽろっと取り落とすと、そのまま所定の位置へと戻る。

 この後、何度も繰り返したが、結局両替した千円全てがクレーンちゃんに飲み込まれてしまった。

 止めればよかったと思うけど雪ノ下やる気満々だったしな。

 

「比企谷くん」

 

 こっちを向かずに声だけで呼ばれたので雪ノ下に横へ行く。

 

「ん、なんだ」

 

「……とれない」

 

 俺の服の袖をぎゅっと掴みながら上目遣いの涙目で見つめてくる。可愛いすぎて死ぬ。

 まぁ実際のところ、パンさんの位置はあと何回か繰り返せば落ちそうなんだけど、10回も連続で失敗したからだろうか。雪ノ下はもう冷静な判断ができなくなってるっぽい。

 クレーンちゃん(あざとい)恐るべし。雪ノ下に勝ちやがった。

 

「よし、任せろ」

 

 両替機に千円札をぶっ込んでから速攻で戻ってくる。

 今回は『代わりに取ってくれるサービス』は使いたくない。なんかさっきの「……とれない(裏声)」でやる気出ちゃったし。俺が言っても気持ち悪いだけだな。

 百円玉を投入して、クレーンを動かす。

 クレーンを動かしていい位置に持っていくと、クレーンはパンさんを掴みあげようとするがほんの少ししか動かない。

 

「……もう一回」

 

 2回目も見事に失敗する。5回やって無理なら店員に頼もう。やっぱ無理だよこれ……。よく雪ノ下こんなに動かせたな。これがパンさんに対する愛か。

 雪ノ下は俺の隣で固唾を呑んで見守っている。

 3回目の投入。クレーンを動かす。クレーンが「ふええ……」と言いながらパンさんを掴みあげる。

 もっと気合い入れろ! その鳴き声そろそろイラッとしてきたから!

 俺の願いが届いたのかクレーンがパンさんの首にいい感じに引っかかり、そのままごとっと落ちる音がした。

 うん、二度とクレーンゲームはやらない。「ふええ……」がイラッとした。

 

「ほれ」

 

 雪ノ下にパンさんを渡すとほんの少しだけ困った顔をする。

 

「……いいの?」

 

「そりゃな。お前があそこまで動かさなきゃ取れてなかったんだし」

 

 多分俺の場合は何回か繰り返せば誰でも取れたしな。

 

「……ありがと」

 

 顔半分をパンさんに埋めながらぽしょりと嬉しそうに呟いた。

 うん、いい仕事した。

 

 

××××××

 

 

 時間もいい頃合だったのでパンさんを取ってからそのまま帰宅することになった。

 なので今は雪ノ下を送って帰っている最中だ。雪ノ下は平気だって言ったけど外は暗いしな。これで送ってないとか言ったら小町に何て言われることか……。

 今はお互い無言で歩いている。なんかパンさん取った後からお互い気恥ずかしくて顔を合わせられなくなってしまった。

 もちろん手はずっと繋いでいる。なんなら電車内でも繋いでたまである。周りの視線はもう気にするのはやめた。

 ……あえて言及はしなかったけどデートの序盤から恋人つなぎになってたんですよね。雪ノ下が乙女すぎて辛い。

 と、ここで雪ノ下の住んでいるマンションに着く。相変わらずでかいな……。

 どちらも名残惜しいのか手を離せないでいると雪ノ下がこっちを見る。

 

「比企谷くん」

 

「ん、なんだ」

 

「……手、離してもらえるかしら」

 

「す、すまん」

 

 どうやら名残惜しかったのは俺だけだったようです。やだ、自意識過剰すぎて顔が熱いわ。

 急いで手をぱっと離すと雪ノ下は呆れるようにため息を吐く。

 

「別に嫌というわけではないのよ? ただもう家に着いたから」

 

「お、おう」

 

 ふー、よかった。うっかり死んじゃうとこだったぜ。

 

「……そういえばあなた、私に欲しいものがあるかと聞いてきたわよね?」

 

「そうだな」

 

 完全に忘れてたけど。結局親父にもらった金ほとんど使ってねぇな。

 

「……私、欲しいものがあるの」

 

「なにが欲しいんだ?」

 

 聞くと、雪ノ下が俺に近づいてきて両手を首に回してきて、そのまま唇を重ねてきた。

 …………は? え、どういう状況?

 

「んっ……」

 

 唇を重ねながら雪ノ下が甘い吐息を漏らす。

 やばいやばい近い近いいい匂い柔らかい!

 いきなりのことすぎて思考が定まらなくなる。ただ分かっているのは雪ノ下の唇が柔らかいってことだけだ。

 

「私が欲しいもの。比企谷くんをいただくわ」

 

 唇が離れると、雪ノ下は俺に抱きついたまま頬を桜色に染めた。

 そして、目を細めて、いたずらっぽく笑いながらとんでもないことを言ってきた。

 ええ……まじで? ここに来てそれってあり?

 俺が言葉を詰まらせていると雪ノ下は気まずそうに目を泳がせる。

 

「なにか言ってくれないと恥ずかしいのだけれど……」

 

「……ぜひよろしくお願いします」 

 

 この返事の仕方が正しいのか分からないけど、雪ノ下は満足したのか嬉しそうに微笑みながらもう一度唇を重ねてきた。いや、ここ外だからね?

 はぁ……完全にやられた……。結局最後の最後で思いっきり心を持ってかれたのは俺だな……。

 

「もちろん今日は私に家に泊まっていくわよね?」

 

 抱きつくのをやめ、俺から離れた雪ノ下が言う。

 

「え、まさかのお持ち帰りですか?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

 どうやら今日で俺は食べられてしまうそうです。

 ……まぁ雪ノ下が嬉しそうだしいいか。

 温かな微笑を浮かべた雪ノ下と、どちらかともなく手を握って俺たちは歩き始めた。




UA11万、お気に入り1300突破です!いつもありがとうございます!ゆきのん√いかがでしたか?もちろんアフターもありです。

と、ここで2つほど宣伝です。長くなるので今回の内容忘れる前に先に感想や評価お願いします!

では、お話します。

・活動報告でリクエストを取ることにしました。内容は「どのヒロインで〜をやって欲しい」みたいな感じです。自分ネタを思いつくまでめっちゃ時間がかかるので参考にしたいので是非お願いします。書けるかは分からないですけど書けたら書きたいです(多分)。
皆さんの意見が多ければ多いほど更新頻度も早くなるかと思います。

・ツイッターやってます。

@qZqlIQCHmc3Bmsi

こちらでもリクエストを取りたいと思います。DM待ってます。今は他の書き手さんとそれなりにお話したりと仲良くさせてもらってます。
それにほら。活動報告だとあれじゃないですか?味気?とかないですよね!なので皆さんとお話もしたいなと思いまして。ある程度仲良くなれたらちゃんとフォロバします!

長くなりましたが以上です。ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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可愛い彼女に猫耳を渡してみたらどうなるか。

書き手になったら1度は書いて見たいとずっと思ってた猫のんネタですっ!


 

 冬のある日。今日も今日とて俺は奉仕部で放課後ティータイムをしながらのんびりとしている。いつもと違うのは由比ヶ浜が三浦たちと遊びに行っていないことと俺のバッグに入っているある物だけである。

 

「…………」

 

 紅茶を飲みながらチラりとバッグに視線を向ける。バッグから覗くある物とは、猫耳である。もう一度言おう。猫耳である。あ、色は黒です。

 何でこんな物が入っているのかというと、簡単に言ってしまえば小町が原因である。「雪乃お義姉ちゃんにこれつけてもらって猫耳プレイを楽しんでね!」と、訳分からないし恥ずかしいことを言われながら押し付けられてしまった。

 うん、ほんと恥ずかしかった。お義姉ちゃんってなんだよお義姉ちゃんって。気が早すぎるっつーの……。

 ……まぁ猫耳プレイがしたいわけじゃないけど何か落ち着かないしとっとと渡しちまうか。うん、ほんとそういうつもりじゃないんだよ? 

 ハチマンウソツカナイ。

 

「……お前、これいるか」

 

 ぽんと長机の上に猫耳を置くと、猫耳を見た雪ノ下はくりんと首を傾げる。

 

「……それはなにかしら?」

 

 興味なさげに聞いてくるけどちょっと目がきらきらしてる雪ノ下さんです。分かりやすいなぁ……。

 

「猫耳だな。何か小町がお前に渡せって言ってきてな」

 

「そ、そう。小町さんから私にというなら貰わないわけにはいかないわよね」

 

 めっちゃ目がきらきら輝いてる雪ノ下さんです(可愛い)。

 

「ほれ」

 

 ぽいっと猫耳を投げると雪ノ下はそれを見事にキャッチしてまじまじと見つめる。その目には少しだけ困惑の色が混じっている。

 まぁそりゃいきなり猫耳なんて渡されたらそうなるわな。

 

「で、でもこれを私にどうしろと言うの?」

 

「さぁな。まぁとりあえず貰っとけよ」

 

「……そうね。じゃあ家に帰ったら小町さんにお礼を言っておいてもらえるかしら」

 

「おう。喜んでたって言っておくわ」

 

 言うと、雪ノ下はぷいっと横を向く。夕映えのせいか、それとも照れているのかその頬には朱が差している。

 

「……ちょっとマッ缶買ってくるわ」

 

 俺がいたらその猫耳を鑑賞するのも躊躇うだろうしな。空気読める俺マジクールだわぁとちょっとドヤ顔の八幡君です(気持ち悪い)。

 

 

××××××

 

 

 マッ缶は買わずに10分ほど適当にぶらぶらしてから部室へ戻る。まぁ紅茶あるしわざわざ買う必要もないしな。

 部室の前まで来て扉に手をかけると、中から微かに声が聞こえることに気づく。俺がいない間に誰か来たのか……? とも思ったが中からは雪ノ下の声しか聞こえてこない。

 何か怖いから少しだけ開いていた扉から中を覗いて見ると信じられない光景が目に入った。

 

「……にゃー」

 

 ん? んんん?

 

「……にゃあ」

 

 何それ可愛い……じゃなくてあいつ何してんの?

 うん、ちょっと状況を整理しよう。

 

 ……何であいつ猫耳鑑賞せずに頭に装着してるのん?

 

 え? え? え? あの雪ノ下さんだよ? 俺が戻ってくる確率だってあるのに何で普通につけちゃってるの?

 

「ふふっ、比企谷くんが今の私を見たらどう思うのかしら」

 

 ご、ごめんねゆきのん。もう俺見ちゃってるんだ……。うん、大変可愛らしいと思いますよはい。

 

「……もしかしたら今の私に見とれて発情でもしちゃうのかしらね」

 

 頭につけた猫耳を両手でもふもふしながらくすりと笑う雪ノ下は超可愛いよ? でも何かめっちゃ不吉なこと言ってるんですけど……。

 いや、まぁでも? 実際可愛いですし? そりゃ彼女さんの可愛い猫耳姿なんて見ちゃったら誰だって発情だってしちゃうよね!

 何か吹っ切れちゃったしもうちょっとだけよく見えないかなぁ……と、少しだけ顔を乗り出したら見事に頭を扉にぶつけてしまった。あまりにも情けなすぎて超恥ずかしいんだけど……。

 

「ひ、比企谷くん……?」

 

「お、おう……」

 

「み、見た?」

 

「はい……」

 

 今も猫耳装着してるのにその質問は無意味だと思うんだ……。

 何かもう色々と諦めて部室の中に入ると雪ノ下がくいくいと手招きをしてくる。猫耳つけながら手招きすると何かそれっぽくて可愛いと思いましたまる。

 

「……そこに座りなさい」

 

 ……可愛いと思ってた猫のんの言葉は厳しかった。雪ノ下の視線の先は普段雪ノ下が座っている椅子の後ろ。つまり窓際の床です。

 そこで縮こまってろとでも言うのだろうか。やだ、辛い。

 

「お、おう」

 

 とりあえずチキンでヘタレな八幡君はその言葉に逆らえずに壁に背を預けて床に座ってしまいました。既に尻に敷かれてる感が凄いことになってる。

 俺が座ると猫のんこと雪ノ下はつかつかと歩いてきて俺の目の前で仁王立ちをする。

 

「……私は今、猫なのよ」

 

「……へ?」

 

「……猫なのよ」

 

「……はい」

 

 雪ノ下の無言の圧力に負けて頷いちゃったけど、猫って言ってるのに人間の言葉話してるんですがそれはどういうことなんでしょうかね……。

 

「だから、その、……私のことを撫でなさい」

 

 いや、まぁ、うん。凄く魅力的な提案だと思うよ? 猫耳つけて上目遣いで見てくる猫ノ下さんだよ? そりゃ最高ですよ。

 

「……分かったよ。来い」

 

 言うと、雪ノ下は頬をほんのりと朱に染めながら俺の腿の上に跨って来る。所謂対面座位というやつだ。

 とりあえず左手は雪ノ下の腰に回して床に落ちないように支え、右手は彼女の頭の上に置く。そして、ゆっくりと慈しむようにそっと撫でてみる。

 

「ふぁ……ふふ」

 

 頭を撫でられて気持ちいいのか目が少しとろんとしている。ていうか髪さらさらだな。俺なんかが触っていいんだろうか。や、まぁ前にお持ち帰りされた時は髪とかその他もろもろもめっちゃ触っちゃったんだけどね。

 あの時はほんと恥ずかしかったなぁと考えつつ、彼女の髪を梳くように優しく撫で続ける。

 

「ふふっ、やっぱり手馴れているわねすけこまし谷くん」

 

「語呂悪いんたから無理やり名前変える必要ないだろ……。ていうか猫はどうした」

 

「……にゃあ」

 

 うわ、ちょっとこの子無理やりすぎない……? と呆れていると、首にざらりとした何かが触れて全身がぶるっと痺れるような感覚に陥る。

 ……猫のん自由すぎない? 流石に舐めてくるのは反則だと思うんだけど……。八幡ほんとに発情しちゃうよ?

 

「っ……何やってんの」

 

「……にゃー」

 

 その猫設定超ずるい。都合悪い時だけ人の言葉は話せないってか。

 ていうか本当に可愛いすぎて辛いんですが。普段真面目な子ほど裏では大胆らしいからやっぱり雪ノ下もそれに含まれるのだろうか。

 でも、何か俺も反撃しなきゃ気がすまないな。このままやられっぱなしなのも何か癪だ。

 すると、雪ノ下が俺の肩に頭を預けたことによってある物が俺の目に入る。

 ……ふむ。耳ですか。

 

 はむっ。

 

「ひゃあっ!」

 

 耳たぶを咥えると、雪ノ下は可愛らしい悲鳴をあげてぷるぷると震える。うおお、超柔らけぇ……。それに髪のいい匂いもするし頭くらくらしてきた……。

 

 はむはむはむ……。

 

「んんっ……ひ、比企谷くん……っ」

 

「んー、どうした」

 

 平常心平常心……。

 

「そっ、そこ、弱いから、……ね?」

 

 悩ましげな声でこれ以上は無理と言ってくる雪ノ下。可愛いすぎて死にそう。

 

「ほんと可愛いよお前は……」

 

 思わず口から零れてしまったその言葉に、彼女は顔をこれでもかというくらいに真っ赤にする。そして、ぎゅっと目を瞑りながら唇を奪ってきた。

 

「んっ……」

 

 甘い吐息を漏らしながら唇を離した雪ノ下は、何か言いたそうにじっと俺のことを睨めつけてくる。だが、威圧感もなく拗ねてるようにしか見えない彼女の顔に思わず笑みが浮かんでしまう。

 

「どうしてあなたはいつもいつも……」

 

「いつも?」

 

「……ずるいのよ」

 

 ほむん。ずるいとは何なのかしら。俺には理解できないな。

 

「……何だかよく分からんけど悪かったな。じゃあ俺のこと好きにしていいぞ」

 

「……本当にいいのかしら?」

 

「あぁ、俺はお前の彼氏だからな。どんとこい」

 

「ええ、そうね」

 

 そう言い、彼女は嬉しそうに微笑む。この関係になってから彼女はよく笑うようになった。

 俺にとって魅力的すぎる彼女のその笑顔を。これからもずっと見ていけたらと。

 柄にもなくそう思えた。

 

 まぁつまり何が言いたいのかといいますと。

 

 この後めちゃくちゃご奉仕した。 

 




お久しぶりのゆきのんでした。ゆきのんのお泊まりアフターはネタが思いついてからで。とりあえず猫のん書きたかったのん……。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり俺が彼女にお持ち帰りされるのはまちがっていない。【前編】

雪ノ下√本編のアフターです。久しぶりなので内容を忘れた方はぜひ本編も読んでくれたら嬉しいです。ちなみに猫耳ゆきのんより前の話なので注意してください。


「どうだった?」

 

「……ほんと美味しかった。ごちそうさまでした」

 

「ふふっ、それはよかったわ」

 

 俺は今、雪ノ下の家で夕食を食べ終えた。何でこんな状況かって? 一言で言ってしまえばあれだ。

 

 お持ち帰りされたからです、はい。

 

 デートに誘った俺が言うことではないけど、まさかここまで関係が一気に進展してしまうとは思わなかった。まぁデート中の雪ノ下意外とルンルンだったもんね。超可愛かった。

 ……それに最後の最後まで「欲しいもの」を取っといて言ってきたのがこの言葉だし。

 

『私が欲しいもの。比企谷くんをいただくわ』

 

 あんな可愛い顔でこんなこと言われたら落ちるに決まってるだろ……。欲しいものが俺とかもうほんと反則だと思うんですよね……。

 でもここからが問題だ。だ、だってお持ち帰りですよ? ここから先の展開って、そりゃもちろん……ねぇ?

 ……自分で言ってて気持ち悪くなってきた。

 煩悩まみれの頭で色々考えていると、食器の片付けを終えた雪ノ下がエプロンを着けたまま戻ってくる。ちなみに俺はソファーで寝そべってた。自堕落の極みである。

 

「そういやそのエプロンまだ使ってるんだな」

 

「ええ、もちろんよ。大事な物だもの」

 

 雪ノ下はエプロンを見て柔らかく微笑み、たたんだそれを大事そうにぎゅっと抱きしめた。

 

「へぇ、そんなにお気に入りなのか。あ、猫のマークあるからか」

 

「あなた、覚えていないの?」

 

「は? 何が?」

 

 俺の間抜け面に呆れるようにため息を吐く雪ノ下。そして、小さな声でぽしょりと──。

 

「……似合ってるって言ってくれたのに」

 

 呟く声があまりに小さくて聞き取れなかった。だが、雪ノ下の表情は少しだけ曇っていて、明らかに拗ねているのがよく分かった。

 何か悪いことをしてしまった気分だ。と、とりあえず何か言わなくては……。

 

「つーかほんと美味かったわ。まだまだ食える」

 

「今の比企谷くんは素直すぎて気持ち悪いわね。何を企んでいるのかしら?」

 

「いや、何も企んでないし本当に美味かったから言っただけだ。こんな美味い飯作れんならいつでも嫁に出れると思うぞ」

 

 嫁という単語に雪ノ下の動きがぴたりと固まり、顔を真っ赤にしたまま俯いてしまう。多分俺も真っ赤。

 うん、流れるようにやらかしちゃいました☆

 

「よ、嫁って……それは気が早いわよ比企谷くん。ま、まずはご両親への挨拶をしてからじゃなきゃ……」

 

「いや、さっきのはそういうことじゃなくてだな……。つーか話飛躍しすぎだろ」

 

 そういう関係になったばっかなのに何話してんだ俺ら……。これも全部雪ノ下がいつもとテンション違うからだ。まぁ可愛いからいいんだけど。

 そのテンションおかしめの雪ノ下はほっぺたをうにうにと動かしていた。何してんのこの子と思ったけどニヤけそうなの我慢してるのね。

 ……雪ノ下がデレデレすぎて辛いです、いやマジで。

 

「……ばか」

 

「いや、ほんとすみません……」

 

「……あなたは婿のがいいの?」

 

「だからそういうことでもなくてだな……」

 

 すごい、雪ノ下さんが浮かれてるよ……。こんな雪ノ下見たことないから可愛すぎるんだけど……。

 その雪ノ下はといえば、

 

「比企谷くんはもうお腹いっぱいよね?」

 

 唐突にそんなことを聞いてきた。

 

「そうだな。かなり食ったし」

 

「苦しいわよね?」

 

「ま、まぁ少しだけな」

 

 何が言いたいんだろうか。あれ? これもしかしなくても誘導されてない?

 

「……ひざまくら」

 

「はい?」

 

「ここで横になってもいいのよ?」

 

 頬をほんのりと朱に染めながら、俺の隣に座ってぽんぽんと自分の太ももを叩く。ちなみに雪ノ下はまだ着替えていないので下の服装はミニスカの黒タイツのまんまです。

 うん、こんなの断れるわけないよね!

 

「……お邪魔します」

 

 言って、俺は雪ノ下の太ももに仰向けで頭を乗せる。

 

「ん……」

 

 くすぐったかったのか、雪ノ下は小さな吐息を漏らした。

 

「ふふっ」

 

 何が楽しいのか雪ノ下は穏やかな微笑を浮かべながら俺の頬をゆっくりと撫で始める。

 ……何か恥ずかしいんだけど。

 

「……この後はどうすんだ?」

 

「お風呂はもう少しで大丈夫だけれど先に入る?」

 

 言いながら雪ノ下は小首を傾げる。下からのアングルだとまた別の可愛さが……。

 ていうかいつまで俺の頬撫でてるんだよ。やめろむにむにさせないで恥ずかしいから。

 

「あー、俺が先でもいいのか? その、気持ち悪くないか?」

 

「今さら何を言うのよあなたは……。私が先に入ったらあなたがそのお湯で何をするか分からないからそっちの方が気持ち悪いわ」

 

「そこまでイカれた性癖は持ってません……」

 

 この子俺のことなんだと思ってんの……。あ、あれ? 俺って雪ノ下の彼氏になったんじゃないの……?

 

「へぇ、比企谷くんはそこまでじゃないにしても特殊な性癖を持っているのかしら?」

 

 くすくすといたずらめいた表情で微笑み、そのまま俺のほっぺたをうにうにぐにぐにと動かす。

 な、何か悔しいので反撃しなくては……。

 

「……ま、まぁ強いて言うなら雪ノ下フェチ……とか?」

 

 ……自分で言ってて吐き気がしてきた。今なら材木座と同じくらい気持ち悪い自信がある。

 

「あ、そ、そう。ずいぶん変な性癖を持っているのね……」

 

 悪態をつく雪ノ下だが、その頬は真っ赤になりながら緩んでいて。

 やっぱりそんな彼女が心底可愛いと思えてしまう自分がいた。

 あー、つーかほんと恥ずかしいわ……。雪ノ下の顔見ると俺まで顔赤くなりそう。

 仰向けの状態の俺はぐるんと半回転してうつ伏せの状態になる。……膝枕されてるの忘れてた。

 

「ひゃっ!」

 

 急に動かれたことにくすぐったかったのか雪ノ下が可愛らしい声を上げる。

 

「急に動かないでもらえるかしら。そ、それにあなたは足フェチの気もあるの……?」

 

 頭上から聞こえてくる雪ノ下の声音は少しだけ不安そうに震えていて、それでいて期待も入り混じっていた。

 

「……どうだろうな」

 

 その期待に答えるように俺は雪ノ下の太ももに顔を埋めながらつつーっとその太ももを指で撫でた。

 

「んんっ……」

 

 甘い吐息を漏らす雪ノ下。顔は見えないがきっと頬を真っ赤にさせながら震えているのだろう。

 その姿を想像しながら俺は少しずつゆっくり、ゆっくりとその指を少しずつ上に這わせていく。

 

「んっ、んふぅ……あっ、だっ、だめ……」

 

 吐息混じりの甘ったるい声が少しずつ大きくなり、そろそろヤバいと思ったところで雪ノ下が手をぎゅっと握って止めてくる。もう片方の手は俺の頭を撫でてきた。

 ……危なかった。正直興奮しすぎて止めるタイミングが分からなくなってた。

 

「今はまだ……ね?」

 

「……ん、分かった」

 

 むくりと身体を起こすと、頬を上気させて息を荒らげた雪ノ下がいた。顔を合わせるのが恥ずかしいのかすぐにぷいっと顔を逸らさせる。

 

「……そろそろお風呂も大丈夫かしら。タオルは後で持っていくから先に行ってていいわよ」

 

「でも俺こんなことになるとは思ってなかったから下着とかないぞ?」

 

「それは大丈夫よ。男性用の物は昨日のうちに揃えておいたから」

 

 雪ノ下のその言葉に違和感を覚える。昨日のうちに揃えておいた……?

 

「……なぁ雪ノ下」

 

「なにかしら?」

 

「何で昨日のうちに男性用の下着を買ってるんだ?」

 

「あ……」

 

 赤みが引いてきた頬が再び真っ赤に染まる。墓穴を掘ったようです。

 デート中はさんざんドキドキさせられたからな。今こそ攻めるチャンスだ……!

 右手は雪ノ下の頭の裏に回し、左手は腰に回してそのままドサッとソファーに押し倒す。

 

「あ……っ」

 

 押し倒された雪ノ下は恥ずかしそうに顔半分を手で覆う。覆っていない瞳からは何かを期待するような熱の篭った視線を送ってくる。ドキドキしすぎて死にそうだけど今は俺の番だ。

 

「なぁ、どうして買ってたんだ? 最初からずっと俺のこと連れて帰ろうとしてたのか?」

 

「あ、や、そ、そんなこと……」

 

 覆っている手をどかして、まっすぐと雪ノ下を見つめる。

 

「どっちなんだ?」

 

「……言えないわ」

 

「何でだ?」

 

「だ、だって、恥ずかしいもの……っ」

 

 雪ノ下は顔を真っ赤にして羞恥に泣きそうな表情を浮かべながら小さな声でぽしょりと呟く。

 ……駄目だ。雪ノ下相手に攻めようとすると俺が恥ずかしくて死にそうになる。

 

「そ、そうか……」

 

 そんな空返事をして身体を起こそうとすると、雪ノ下は俺の首に両手を回してきて──。

 

「んっ……」

 

 唇が触れると、甘い吐息が漏れて唇にとろけるような甘さが染み込んでいく。帰り道にした時よりも熱のある唇が俺の唇が、もっともっとと言わんばかりに何度も、何度も唇を重ねてくる。

 積極的な雪ノ下の行動に頭が焼かれるような感覚に陥りながら、俺はただそれを受け入れるしかなかった。

 

「ぷはっ……ゆ、雪ノ下……」

 

「……もう。あなたがあんなに言ってくるのが悪いのよ?」

 

「や、だって雪ノ下の反応があまりに可愛いすぎてな……」

 

「そ、そう……それなら、その……許してあげなくもないわ」

 

 雪ノ下は嬉しそうに笑みを浮かべ、頬を朱に染めた。

 あまりに可愛いすぎて何で上から目線なのかはもう気にすることもできなかった。

 

「じゃあそろそろ風呂入るわ」

 

「ひ、比企谷くん」

 

 立ち上がると、雪ノ下に服の袖をきゅっと掴まれる。振り返ると雪ノ下は何か言いたそうに口元をもにゅもにゅと動かしていた。

 

「どうした?」

 

「そ、その……」

 

 珍しく歯切れが悪い雪ノ下だが、その恥ずかしさを我慢したように顔を真っ赤にしながらまっすぐ見つめてきて──。

 

「……お風呂、一緒に入らないかしら……?」

 

「へ……?」

 

 今この子、何て言った……?

 




次回、ドキドキです。あ、話の順番を変えてみましたがどうでしょうか……?

このゆきのん√アフターと同じタイミングに「この素晴らしい世界に祝福を!」のssを投稿しました。作者のページからならすぐに読めると思います!
このすば好きな方でも知らない方でも見てくれたら嬉しいです!

pixivのほうでは同級生いろはすを書いてます。こっちのイチャイチャよりちょっとだけ過激に書いたりしてます。こちらもよろしければぜひ!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり俺が彼女にお持ち帰りされるのはまちがっていない。【後編】

久しぶりの投稿なので話を思い出せない方は前編からどうぞ!もしくはアフター前の本編から読んだらより楽しめると思います!


 目の前にいる雪ノ下のことを見て、思わず身体が硬直してしまう。朱に染まった頬、どことなく期待と不安が含まれている潤んだ瞳、きゅっと胸の前で握っている手は断らないでと切に伝えてきていて。その振る舞いの全てが雪ノ下という少女の魅力を最大限に引き出していた。

 え、えっと……理性が軽くぶっ飛びそうになったけど、一回落ち着いて雪ノ下が言っていたことを思い出してみよう。

 

『……お風呂、一緒に入らないかしら……?』

 

 うん、ヤバいですねこれは。いや、えぇ……マジで……?

 今俺の目の前にいるのが本当に雪ノ下なのか疑っちまうような言葉だなほんと。それだけ今日のことが嬉しかったのかって思うと、まぁ、悪い気はしないな……。

 いや、それでも風呂はちょっとな……。今日の俺と雪ノ下だったらどうなるかなんて考えなくても分かっちまうし。

 

「い、いや、それはちょっと……」

 

「え……い、嫌、なの……?」

 

 俺の曖昧な反応に、雪ノ下は寂しそうに眉をくにゃりと下げる。ちょっと泣きそうな表情を見ると思わず抱きしめそうになってしまうが、それをしたら本当に歯止めが利かなくなるからな……。

 

「あー……そのだな。一緒に風呂なんて入ったら何しちまうか分からないし、そういうのはもっと時間をかけてだな……」

 

「……そう。優しいのね」

 

「ま、まぁな。俺ほど人畜無害の優しさで溢れた人間なんていないからな」

 

「ごめんなさい。やっぱりへたれの間違いだったわ」

 

 ……っべーわ。あっという間にいつもの雪ノ下さんに戻っちゃいましたよ。さすがですわ。

 まぁそっちのが俺の精神衛生上助かるんだけど。

 

「……じゃ、風呂場まで案内してくれ」

 

「ええ」

 

 言って、俺は彼女の後を自分の焦りを気づかれないように大人しく付いていく。雪ノ下が恥ずかしそうに部屋から男用の下着を持ってきたのに更に変な気持ちになったり。

 ……それとやっぱりどことなく残念そうな表情をしてたのは、まぁ、ちょっと後ろめたさはあるけど今は気にしないって方向で。

 

××××××

 

 というわけで、俺の風呂なんて誰得なんですかって話だしもちろんカット。雪ノ下が先に用意してくれていた下着とスウェットを着て、リビングのソファでだらだらしながら待機している状況だ。雪ノ下は俺と入れ替わりですぐに風呂場に行ったから時間はそれなりに経っていると思う。

 ……そういや風呂から出た直後の俺を見た雪ノ下が、俺の頬をぺたぺた触ってきて「生きてる……」って言ってきたのは不服の極みだったな。どんだけゾンビ扱いするの好きなんだよ。

 というか、ほんとにスキンシップが激しくなったというか何というか……。昼間の俺が積極的だったから雪ノ下も同じことしてきてるんだろうけど心臓が持たないですね。

 ため息を漏らしつつ、これからの自分の言動や行動その他もろもろに不安を募らせていると、リビングのドアが開いた。考えていたら思ったより時間が経っていたらしい。

 

「……ま、待たせた?」

 

「ん、いや、別にそんな……っ!?」

 

 思わず呼吸が止まってしまった。いや、冗談抜きで。

 ついでに瞬きすら忘れてガン見もしてると思います。完全にヤバい人ですね。

 

「な、何でそんな格好をしているんでしょうか……?」

 

「へ、へん……?」

 

「いや、そういう問題じゃなくてだな……」

 

 風呂から戻ってきた雪ノ下の服装は、端的に言ってしまうとあれだ。裸ワイシャツに類似しているような格好……だと思う。

 まるでこの時のためだけに用意したかのようなワンサイズ大きめのワイシャツ、そのワイシャツからうっすら透けて見える淡い水色の下着。少し屈んだりしたら下の方は完全に見えてしまうんじゃないだろうか。

 その格好で俺の隣に座ってくるんだから俺の頭はワニワニパニック。うん、これはさすがにセーフとは言えないですよね……。

 

「お前どこでそんなの覚えてきたんだ……」

 

「そ、その、姉さんに聞いたら男の人はこういうのが好きだって……」

 

 もじもじしながらそう答える雪ノ下さんを見て、興奮とか呆れとか色んな感情が混ざりすぎてちょっとおかしくなりそうです。そっかぁ、俺のために苦手なお姉ちゃんにまで聞いてまで調べちゃったのかぁ……。

 ……いや、まぁ、俺を喜ばせるためにしてくれたって思うと、正直嬉しいっちゃ嬉しいんだが。それでも年頃の女の子にしては危機感がなさすぎじゃないですかね……。

 

「ひ、比企谷くんはこういうの、嫌だった……?」

 

「……嫌じゃないけど」

 

「そう……やっぱり変態ね」

 

「あー、うんそうだね。俺は変態です」

 

 いくら陽乃さんにそう言われからってその格好を本当にしちゃうお前のが……なんて思うのは無粋ということで。多分本当に俺のことを喜ばせるためだけにしてくれたんだろうし。

 ……もうハッキリと言わせてもらいます。可愛すぎて辛いです、はい。だって大した褒め言葉も言ってないのに嬉しそうにしてるんだもんこの子。

 

「……まぁ、俺は十分喜んだからもう着替えてこいよ」

 

「その必要はないわ」

 

「は? そりゃ今は風呂出たばっかだから暑いだろうけど、すぐに冷えちまうぞ」

 

「い、いえ、そうではなくて……」

 

 どこか恥ずかしそうに視線を俯かせた雪ノ下は、俺のスウェットの袖を遠慮がちにきゅっと握ってくる。そこから伺える彼女の顔は、おそらく湯上りだから火照っているだけではなくて。

 そして多分、風呂から出てしばらく経っている俺も似たように赤くなっているんだろう。……だって近いし。

 

「今日は私専用の湯たんぽがあるもの……」

 

「……むしろ熱すぎると思うけどな」

 

 恥ずかしくなって勢いでつい髪をわしゃわしゃ撫でると、雪ノ下は不満そうに眉をひそめたがそれでも撫でるのを止めるようには言ってこなかった。つーか、その湯たんぽって謎チョイスは何なんだよ可愛いなお前。

 それ以前に俺って雪ノ下と寝るのはもう確定なのん……?

 

「じゃあ、行く?」

 

「お、おう……」

 

 ……まだ十時にもなってないことに気づいてないのかなこの子は。そのことに呆れつつも俺を連れていくために優しく握られた手を見て、頬が緩んでしまっている自分を今日ばかりは気持ち悪いとは思えなかった。だってしょうがないもんね。

 

××××××

 

「ど、どうぞ」

 

「お、おう……」

 

 歯磨きなどのやることを済ませ、めちゃくちゃ緊張をしながら雪ノ下の寝室に入る。人の寝室に入るってのはどうも気が引けてしまうものだ。いやそんな経験全くないんだけどね。

 部屋の中は雪ノ下らしくシンプルなシングルベッドのみ……と思ったのだが。パンさんがちらほらと視界に……。

 うん、何か言ったら怒涛の勢いで罵詈雑言を浴びせられそうだから黙っておこう。

 

「2人だと少し狭いかもしれないけれど……」

 

「ん、分かった」

 

 そう言い、雪ノ下はベッドに座り、俺をその隣に座るようにぽんぽんと叩いて促す。それに素直に従って座ると、ベッドが沈むと同時に肩がぴたりと触れ合った。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ……何これものすごく気まずいんですけど。そもそも雪ノ下の格好が結局ワイシャツ姿のままだから、座ってると色々見えそうというか若干見えてて尚更緊張するし……。

 

「緊張してる?」

 

「そりゃするだろ。お前は?」

 

「……どうかしらね」

 

「顔赤いぞ」

 

 恨みがましい視線を向けてきて、無言で頬をつねられました。素直に痛いです。

 

「はぁ……あなたはどうしてそんなにデリカシーがないのかしら」

 

「俺にそれを求める方がおかしいだろ」

 

「あら、少なくとも昼間のあなたは今よりまともだったと思うのだけれど」

 

「あれは、まぁ、……お前に楽しんでもらいたかったからな」

 

「……そう」

 

 そして、また気まずい沈黙が訪れる。ああもう何言ってんだ俺は恥ずかしすぎるわ……。

 

「……今日はもう寝ましょうか」

 

「早くないか?」

 

「あなたの事だから、色々考えた結果どうせ眠れなくなるでしょう?」

 

「まぁ、……多分」

 

「なら少しでも横になって楽になりなさい」

 

 雪ノ下さんマジ優しい……って思ったけど何で命令系なんですかね。既に上下関係が明らかになってますねこれ。元々だろとかそういうのはもちろんなしで。

 げんなりとしていると雪ノ下は俺の肩に頭をこてんと乗せてきて、小さな声でぽしょりと。

 

「……それに、私も寝れる気なんてしないから」

 

 ……ああ、それ言うのと頭乗せてくるのが恥ずかしかったからあんな命令口調になってたのね。可愛すぎませんかねほんと。

 

「……んじゃ、とりあえず横になっとくか」

 

「え、ええ……ひゃっ!」

 

 返事をしたと同時に雪ノ下が可愛らしい声を上げた理由は、俺が横になるのと同時に雪ノ下も一緒にベッドに押し倒したからだ。あ、もちろん雪ノ下に覆いかぶさった訳ではなく、お互いただ横になっただけです。ついでに毛布もちゃんと掛けました。

 ただやらかしたのが顔が向き合うように横になってしまったので、お互いを見つめ合う状態になってしまった。熱っぽい吐息を漏らす雪ノ下から歯磨き粉の香りがほんのりと伝わってくる。

 

「……変態」

 

「も、申し訳ございません……」

 

「…………」

 

 謝る俺を見て雪ノ下は赤くなった頬を隠そうともせず、返事もせずにぎゅっと抱きついてきた。

 

「う、お……っ」

 

 思わず気持ち悪い声が漏れてしまうくらい、雪ノ下の柔らかい感触が直に伝わってくる。加えて顔の距離も一気に近くなったので、彼女の大きな瞳や透き通った肌から目が逸らせなくなる。

 

「あたたかい……」

 

「……それはよかった」

 

 緊張から震える手でくしゃりと髪を撫でると、雪ノ下は目を細めて抱きしめる力を強めてくる。ほんの少しだけ頬が緩んだのが分かっただけで、俺の心臓は何かもう爆発しそうです。

 

「不思議ね……」

 

「あ? 何がだ?」

 

「……あなたとこうして一緒に寝るだなんて思ってもいなかったから」

 

「……それなら何で俺用のスウェットとか下着の用意を痛い痛い」

 

 それについてはどうやらこれ以上触れてはいけないようですね。

 

「……もう」

 

「す、すまん……」

 

「反省しているなら誠意を見せなさい」

 

「……どうすればいいのでしょうか」

 

 聞くと、雪ノ下は何をさせるか最初から考えていたかのように即答してくる。

 

「腕をかしなさい」

 

「は?」

 

「……う、腕枕よ」

 

「……ほれ」

 

 大人しく従って左腕を伸ばすと、雪ノ下はゆっくりと頭を乗せてくる。それに合わせて、右手は彼女の背中に回して抱き寄せる。

 すると、背中に手が触れただけなのに雪ノ下は甘ったるく熱っぽい吐息を漏らした。身体はぷるぷると震えて、目をきゅっと瞑ったまま俺の胸をぽかぽかと叩いてくる。

 

「……不満か?」

 

「ん……そ、その、……よく分からないわ……」

 

 目を開いた雪ノ下の瞳は、とろんとして焦点が合わなくなっていて。

 

「ん……っ」

 

 だから、おそらく無意識に重ねてきた唇は今までで一番熱くて湿っていて。熱っぽい吐息と共にとろけてしまうんじゃないかと思えるくらい柔らかかった。

 ……ちょっと抱きしめただけでこんなことになるんだから、やっぱり風呂は一緒に入らなくて正解だったな。

 

「ん……比企谷、くん……」

 

「……どした」

 

「も、もっと……」

 

「……おう」

 

 俺のぶっきらぼうな返事にくすりと優しく微笑む彼女を見て、やっぱり今日はしばらく寝れるわけがないなと思いつつ。

 それが全く嫌じゃない自分と、これから彼女と送る日々に思いを馳せながら。

 

 この後、やっぱりめちゃくちゃ睡眠した。

 




まさかの一年ぶりの投稿となりました。久しぶりに積極的シリーズで書くゆきのんとても楽しかったです。というか一年経つの早いですね……。

https://touch.pixiv.net/novel/show.php?id=7590534

宣伝です。pixivで今回の話に似た感じで八幡が色んなヒロインに抱き枕にされちゃう話を書いてます。近いうちに最新話を投稿する予定なので宜しければぜひぜひ。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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小町√ やはり俺の妹はお兄ちゃん思いである。【前編】

小町√スタートです!


 

 今日で冬休みは最終日だ。最後の日くらい少女漫画とか恋愛ドラマを見るのはやめてのんびりしようと思う。正直お腹いっぱい。なんなのあいつらリアル充実しすぎだろ。お、俺だって絶対リア充になってやるんだからね! やだ、今のちょっとツンデレっぽい。

 今はソファで寝転がりながらゲームをしている。久々にやるから感覚が掴めないな。

 と、ここでガチャリとリビングのドアが開く音が聞こえる。見ると、世界一可愛い妹の小町がいた。

 小町は俺のことを見てにっこりと笑ってから、俺の方に走り込んで来てそのまま腹の上にダイブしてきたぁぁぁぁ!?

 

「ぐはっ……!」

 

 字面だとかっこいい感じだけど、実際は白目剥いてびくんびくんしてます。いくら小町が軽くても流石に痛い。

 

「むふふー、お兄ちゃん!」

 

 俺の胸におでこを擦りつけてくる。え、急にそんなことされても困るんだけど。まぁ可愛いからいいや。

 

「はぁ……どうした?」

 

「今日は勉強しないでお兄ちゃんと遊ぼうかなーって思ってさ!」

 

 体を起こした小町は俺の上で馬乗りの状態で、にひっと笑う。あのですね、早く降りて欲しいんですが。

 

「んじゃなにする? ゲームでもやるか?」

 

 小町ちゃんのためにお兄ちゃんいっぱい接待プレイしますよ? もう負けに負けまくってやるぜ。

 

「んーとね、お兄ちゃんのために小町が一肌脱いであげます!」

 

「は?」

 

 え、なに、お兄ちゃんの目の前で脱ぐの? 勉強の疲労でおかしくなっちゃったか?

 

「お兄ちゃん明日から彼女作るために頑張るんでしょ?」

 

「ん、まぁそうだな」

 

 妹にそう言われると何か恥ずかしいな……。

 

「それで小町は重大なことに気づいちゃったのですよ」

 

「何をだ?」

 

「お兄ちゃんのことだからどうせ未来のお義姉ちゃんと二人きりになったら絶対キョドっちゃうってことにね!」

 

 小町はずびしっと俺に指を突き立てて、まるで謎はすべて解けたと言わんばかりに断言してきた。

 やだ、何も言い返せない。

 

「そうだな。お兄ちゃんへたれだからなー」

 

「だから小町と一緒に練習するの!」

 

 あぁ、一肌脱ぐってそういうことか。

 いつも通りお節介というかなんというか……。まぁ俺のことに関してこんなに考えてくれることは嬉しいんだけどな。お兄ちゃん思いな部分は八幡的に超ポイント高いぞ。

 

「んで、なにすんの?」

 

 言うと、小町の目はキランと光る。

 

「も・ち・ろ・ん! お兄ちゃんが最近見た少女漫画とかでやってたことだよ!」

 

「まじで?」

 

 それってあれか? 妹相手に壁ドンとかやれと? 地獄絵図になりそう。

 

「もちろんまじですよ! じゃあまずは壁ドンからやってみよー!」

 

 言うと、壁の方までダダダッと走っていく。なんか今日はいつもよりテンション高いですね……。

 まぁせっかく小町が手伝ってくれんだし俺も頑張ってみるか。

 

 

「じゃあどうぞ!」

 

 うきうきルンルンな小町の前に立つと、もういつでも来てくださいって感じでウェルカム状態になっている。よし、やるからには本気でいこう。

 右手を小町の頭のやや上の壁に付けて、肘は顔の真横に付ける。これによって必然的に顔の距離が近くなる。肘ドンってやつだな。まぁ俺は壁ドンの上位互換だと思っている。

 ついでに左手も壁に付けて完全に逃げ場のないようにする。うん、我ながら完璧。

 

「……どうだ?」

 

「はわ、はわわわ」

 

 小町は頬を朱に染めながら体をよじる。まぁ俺が完全に包囲してるから動けないんだけどなフハハハ!(謎のテンション)。

 というか「はわわわ」って可愛いなお前。ちょっとあざといけど。

 てかこの子はなんでこんなに顔真っ赤にしてるのん?

 あ、何かテンション高いなーとは思ってたけどもしかして熱でもあるのか?

 

「……熱はないな。平気か?」

 

 手は壁ドンしてる状態だからどうしよもないので、とりあえずおでこ同士をぴとっとくっつける。恥ずかしいのか小町は顔を真っ赤にしながら口をぱくぱくとさせてる。

 

「へ、平気だけどぉ……。お兄ちゃん、ち、近いってばぁ」

 

「あ、悪いな」

 

 おでこを離して頭をぽふぽふと撫でる。流石に俺も少し恥ずかしかった。

 壁ドンした後はどうするんだっけな。耳つぶか顎クイか?

 ……よし、顎クイでいこう。まぁ流石にその後にキスはしないけど。

 左手を壁から離して小町の顎に添える。顎って漢字だとあれだな。なんか怖いわ。これからは小町のあごって言うことにしよう。

 添えた手で小町のあごをクイッと上げる。

 

「ふぇ?」

 

 何をされたか理解できていないのか小町は素っ頓狂な声を出す。 

 

「どうだ?」

 

「お、お兄ちゃん……」

 

 上ずった声で俺を呼んでから小町はすっと目を閉じる。

 …………は? え、なんでこの子目閉じたの?

 

「こ、小町?」

 

「ん……」

 

 艶っぽい声を出しながら小町は唇を差し出してくる。頬を上気させてうっとりとした顔で俺からキスされるのを待っているかのような表情だ。

 その表情を見て思わず、心臓が早鐘を打つ。俺小町のこんな表情知らないんだけど……。

 

 …………よし。

 

「んっ」

 

 小町の頬に少し音を立ててキスをする。おぉ……ほっぺた柔らけぇな……。

 

「……ふふっ、お兄ちゃん顔真っ赤だよ?」

 

 うっすらと目を開けた小町がくすりと微笑む。

 

「や、お前のが真っ赤だからね?」

 

 ほんと真っ赤。何お前りんご? ってくらい真っ赤なんだけど。

 

「お兄ちゃんのが真っ赤だもん!」

 

 なんでそこで張り合うんだよ……。さっきの大人っぽい表情も相俟ってちょっと子どもっぽくて可愛いじゃねーか。

 

「てかなんでさっき目閉じたんだ? あれじゃまるでキスしてくれって言ってるようなもんじゃん」

 

「えっ、そ、それは……」

 

 小町は言葉を詰まらせながら顔を俯かせてしまう。

 わー……超いじめたい。嗜虐心にそそられるってこんな感覚なのか。

 

「もしかして本当に俺とキスしたかったのか?」

 

 にやりと口角を上げながら言うと(絶対気持ち悪い)、顔を上げた小町が涙目で俺を見てくる。

 

「そ、そんなことないもん!」

 

「んっ」

 

 ちょっと小町が可愛すぎたから調子に乗ってもう一度頬にキスをすると、小町は頬をだらしくなく緩ませる。

 

「ふへへぇ……ハッ! なななな、なにしてんのお兄ちゃん!」

 

 ノリツッコミかよ。器用だな。

 

「や、なんか小町が可愛いすぎてな。ちょっとキスしたくなった」

 

「そ、そっか……」

 

 ……んー、ちょっと本当に可愛すぎるんだけど。なんでそんなに嬉しそうな顔してんの? 相手はお兄ちゃんだぞ?

 まぁさっきから可愛い可愛い思ってる俺も大概なんだけどな。やっぱり千葉の兄妹ってすごいと思いました(小並感)。

 

「んで、壁ドンはよくできてたろ? 次はなにすんだ?」

 

「……こほん。次は──」

 

 おうふ。まじですか……。っべー、流石にそれは恥ずかしいな……。

 小町と俺の練習はまだまだ続く。




なんか前編で普通にキスさせられる勢いに……。まぁ頬にはもうキスしちゃいましたけどね!これから更に甘くできるように頑張ります!

あ、あと投票者数50人突破しました!ありがとうございます!今後ともよろしくです!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり俺の妹はお兄ちゃん思いである。【中編】

 

 場所はリビングから移って小町の部屋のベッドの上だ。何をするのかはさっき小町に言われて分かっているので結構ドキドキしてしまう。

 あ、あんれー? 俺ら兄妹だよね? な、なんで俺は妹相手にこんなに緊張してるんだ……? 

 うん、これは小町が可愛すぎるのが悪い。いや、やっぱり小町は可愛いから悪くないな。ほんと小町は可愛いから困るわー。まじ可愛すぎる。

 うん、話が逸れすぎてる。

 

「お兄ちゃんどうしたの? さっきからオドオドしたりニヤけたりしてて気持ち悪いよ?」

 

「や、小町って可愛いよなーって考えてたら自然とな」

 

 言うと、驚くように目をまん丸とさせてから頬を朱に染めた。

 

「そ、そっか……」

 

「……頬緩みすぎだから」

 

 ほんとに蕩けちゃうんじゃね? ってくらい頬がでろっでろに緩んでる。

 

「……こほんこほん。じゃあまずはここにやって!」

 

 わざとらしく咳払いをして小町が右手の手の甲を差し出してくる。一つ大きく息を吐き、その手を取ってちゅっと口づけをした。

 今回の練習は小町の体の色んな所にキスをする練習らしい。最初は恥ずかしくて断ったけど小町に「女の子の体に慣れるためだよっ!」という一点張りで押し切られてしまった。

 

「んっ……くすぐったいね」

 

 小町は俺がキスをした手の甲を見てにへっと頬を緩ませる。ちょっとこの子ブラコンすぎやしないですかね……。

 

「なぁ小町」

 

「ん? どしたの?」

 

「……その、今更だけど俺がこんなことして嫌悪感とかないのか?」

 

 小町も思春期真っ盛りの女の子なんだし、兄にキスなんてされたら普通は気持ち悪いだけなんじゃないのだろうか。

 

「そんなのあるわけないじゃん」

 

 まるで俺が聞いたことを「何言ってるのお前? バカなの?」みたいな視線を向けてくる。俺にそっちの趣味はないからやめてくださいお願いします。

 

「……まぁそれならいいけどよ」

 

「? うん?」

 

 うーん、小町からしたら俺にキスされるのは普通なことなのか。

 

「じゃあ次はここにやって?」

 

 ぺろっと服をめくって細くて綺麗なお腹を見せてくる。なんか前に見たときより女性らしくなってるような気もするな。や、そんなに普段から見てないけどね? ほんとだよ?

 

「え、どこにやんの?」

 

「んー、お腹らへんならどこでもいいよ?」

 

 説明が雑すぎるわ。まぁ適当なとこにやるか。頭を下げて小町のお腹に顔を近づけると頭に両手を置かれる。そしてすりすりと頭を撫でられた。

 

「え、ちょっ、なにしてんの?」

 

「んー、いつもお兄ちゃんに撫でられてるからたまには小町が撫でてあげようかなーって思ったの!」

 

 頭の上から楽しそうな声音が聞こえてくる。

 

「そ、そうか」

 

「ふふっ、今のお兄ちゃんちょっと可愛いかも」

 

 ちらっと少しだけ視線を向けると小町が大人っぽい雰囲気を醸し出しながら微笑む。いつもの快活で無邪気な笑顔とは違うその笑顔に思わず見惚れてしまった。

 

「ん? どうしたのお兄ちゃん?」

 

「い、いや、なんでもない……」

 

 はぁ……ちょっと小町が可愛いすぎて死にそう。てかキスするために頭下げたの忘れてた。おへその横辺りに唇を押し付けると小町が艶っぽい声を上げる。すべすべしてて柔らかいな。病み付きになりそう。

 

「んっ、やっ、お兄ちゃん、くすぐったいてばぁ……」

 

 俺の頭をすりすりと撫で続けながら体をもじもじとよじる。ちゅっともう一度キスをしてから顔を離す。

 

「へへっ、お兄ちゃん、変態さんだぁ……」

 

「自分からやらせておいて何言ってるんだよ……」

 

 今度は俺から頭をくしゃりと撫でてやると目を細めてころころと甘えてくる。や、やめて! 急に抱きついてこないで!

 

「こ、小町?」

 

「ん、ちょっと休憩。もっと撫でて?」

 

「……はいよ」

 

 んー、なんか小町のデレ具合がヤバい。あと可愛いすぎて辛い。

 

 10分ほどひたすら頭を撫でて愛でていると小町がガバッと顔を上げる。び、びっくりした……。

 

「じゃあ続きしよっか!」

 

「おう。で、次はどこにするんだ?」

 

「むふふー、次は首にキスマークをつける練習だよっ!」

 

 まぁもうここまでやっちゃったし断る意味もないよな。

 

「……分かった、ちょっと我慢しろよ?」

 

 こくりと頷くのを確認してから小町の白く細い首筋に吸い付く。

 

「あっ、お、お兄ちゃん……」

 

 首筋に吸い付いていると小町にまた頭を撫でられる。なに、お前俺の頭撫でるのそんなに好きなの? 割と俺もハマりそうで怖い。

 

「ん、できた」

 

 跡をつけたことを確認して顔を離すと、小町が頬を紅潮させて息を荒らげていることに気付く。

 

「はぁっ、はぁっ、お兄ちゃん……お兄ちゃん……」

 

 飛び込むように抱きつかれて押し倒される。勢いがあったからいくら小町が軽くても結構痛い。

 

「こ、小町?」

 

「……ね、お兄ちゃん。次はここにして?」

 

 甘い声でぽしょりと呟きながらぷるぷるとした唇を指さす。え、は? まじで?

 

「や、流石にそれは……」

 

「大丈夫。大丈夫だから……。お願い……お兄ちゃん」

 

 小町が涙目になりながら懇願するような瞳で俺を見つめてくる。そんな顔したら断れないだろ……。

 

「……目、閉じろ」 

 

「……うん」

 

 ゆっくりと目をとじた小町が、んっと唇を差し出してくる。

 これを一度でもしてしまったらもう今まで通りの仲の良い兄妹でいられなくなってしまうんじゃないかと思ってしまう。だが、その恐怖心より小町との関係を更に進めたいという好奇心が勝ってしまった。

 小町の頬に手を添え、顔を傾けて、ゆっくりと小町に唇を重ねた。

 

「んふう……」

 

 唇が触れ合うと小町から甘い吐息が漏れる。うっすらと目を開けて小町の顔を見ると、幸せそうにうっとりとした表情をしている。

 

「ぷはっ。……えへへぇ」

 

 たっぷりと十数秒の口づけを終えると、小町がだらしなく頬を緩ませる。

 

「…………」

 

 ううむ、何て話しかければいいんだろうか。顔の距離は未だに目の前にあって近くて恥ずかしいし。

 よし、ほっぺたをゆるっゆるにしている小町の鑑賞でもしてよう。そうしよう。

 

「ねぇお兄ちゃん?」

 

「ん、なんだ?」

 

「小町がそ、その、……こ、恋人になってあげようか?」

 

 ほんのりと頬を赤らめた小町が恥ずかしそうにぽしょぽしょと呟く。

 

「へ? 本気で言ってんのか?」

 

「……鈍感」

 

 ほっぺたをむーっと膨らませてじとっとした目で見られる。うん、まぁ途中から薄々気づいてはいたんだけどね。

 ……それに小町の唇にキスをした時点で俺の返答は決まってるしな。

 

「まぁ小町がいいって言うなら俺は大歓迎だぞ」

 

「やったぁ!」

 

 嬉しそうに無邪気に微笑んだ小町に唇を重ねてきた。唇柔らかいし甘い匂いもするから頭がクラクラしてくる。

 

「えへへー、小町がお兄ちゃんの彼女さんだぁ……」

 

 や、それを口に出す必要はないだろ……。まぁ嬉しそうに微笑んでる小町が可愛すぎるから別にいいんだけど。

 てか恋人になるんなら一回くらい愛の言葉ってやつを言っておいたほうがいいよな。よし、八幡頑張る。

 

「小町……」

 

 小町の頬を指先でつつーっとなぞりながら普段とは違う声音で名前を呼ぶと「ひゃ、ひゃいっ!」と言い、体をびくーんと跳ねさせた。なんだそれ可愛いなお前。

 

「ど、どうしたの?」

 

「愛してるよ……」

 

「ふぇ……? ふ、ふにゃあ……」

 

 吐息混じりの声で囁き、耳にちゅっと口づけをすると、だらりと小町の体から力が抜けて俺に覆いかぶさってくる。小町の顔を見ると興奮しすぎてしまったのか気を失ってしまっている。

 俺の発言が気持ち悪すぎて気を失ったって訳じゃない……よな? それだったらむせび泣くわ。

 

 ふぅ……俺もこの短時間に色々ありすぎて疲れたし昼寝することにするか……。どこか幸せそうな顔をしながら眠る小町の頭を優しく撫でながら俺も眠りにつくことにした。 

 




1日遅れですがめぐりん誕生日おめでとう!はい、全然関係なく普通に小町中編でした。めぐりんもいつか書きたいですね(遠い目)。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり俺の妹はお兄ちゃん思いである。【後編】

小町√ラストです!


 

 目が覚めた。しかし、どうにも身体に違和感がある。別に気だるさや痛みとかではないが、のしかかられている様な重みを感じる。

 閉ざしていた視界を開いてみると、肌色の何かが映った。同時に、唇にはしっとりとした柔らかさや生ぬるい液体のような感触が伝っていて──。

 

「んっ、はぷっ、んん……」

 

 寝ぼけている頭をフル回転させて考えてみる。

 

 俺、小町とキスしてね……?

 

 小町はうっとりとした表情で目を細めながら何度も唇を啄むように重ねてくる。

 あ、う、え? 何このイベント。俺起きたばっかだよ?

 

「んっ……ちょっ、なにしてんの?」

 

「えへへ、起きたらお兄ちゃんの顔が目の前にあったからさ。それでそのまま……ね?」

 

 いや、「……ね?」じゃねぇよ。可愛いすぎて死んじゃうから。

 

「だからってんむっ?」

 

 俺の言葉を遮るように小町が唇を重ねてくる。この子最初からちょっと飛ばしすぎじゃない? 

 

「んっ……いいじゃん、小町とお兄ちゃんはこ、恋人なんだからさ……」

 

 恋人と言うのが恥ずかしかったのか、頬を赤らめながらごろんと反対側に寝返った。

 え、えー……この子本当に小町? ってくらい可愛いんだけど。や、小町は可愛いんだよ? でも今までの百倍くらい可愛くて頭おかしくなりそうなんだけど。

 とりあえず小町のお腹に手を通して抱きしめてみる。

 

「ふふっ、お兄ちゃんは甘えん坊さんだなぁ」

 

 すぐにごろんと寝返った小町は俺の胸元に顔を埋めながら「えへへ」と嬉しそうに声を漏らす。いや、どう考えてもお前のが甘えん坊だろ。

 

「まぁ俺がこんなに甘えるのは小町だけなんだけどな。お、今の八幡的にポイント高いよな?」

 

 ふふん、どうだ? と得意気に言ってみたが、小町はうへぇ……とした感じで顔を歪ませた。辛い。

 

「はぁ……ほーんとお兄ちゃんってバカだよね」

 

「は? なにが?」

 

 聞くと、小町がもぞもぞと動いて俺と顔の位置が同じになる。そして、おでこ同士をぴとっとくっつけてきた。

 

「色んなフラグへし折っちゃって妹の小町を選んじゃったことだよ」

 

「はっ、ばっかお前。俺にフラグなんて立ってるわけないだろ」

 

 本来なら明日から彼女作ろうと頑張ってたはずだったんだしな。

 ていうかなんでこの子はおでこくっつけてきたの? さっきから吐息が顔にかかってくすぐったいし甘い匂いするしで死にそうなんだけど。

 

「はぁ……これだからごみいちゃんは……」

 

 なんかさっきからため息つかれてばっかな気がするんだけど……。

 

「まぁあれだ。仮にフラグが立ってようが立ってまいが俺が選んだのは小町なんだよ」

 

 あ、今のも八幡的にポイント高いよな? とドヤ顔で言おうとしたが、小町に唇を塞がれてしまった。

 ……小町はキス魔かなんかなの? 起きてからめっちゃキスされまくってるんだけど。や、別に全然いいしむしろ大歓迎なんだけどね。

 

「んっ……うぅ、そんなこと言うなんてずるすぎるよ……。もうお兄ちゃんのことしか見れなくなっちゃうじゃん……」

 

 小町は頬を朱に染めながら恥ずかしそうにぽしょりと呟いた。いやいやいや。なんでそんな顔真っ赤にしてんの? 

 ていうか結構恥ずかしいこと言われた気が……。多分俺の顔も真っ赤になってんだろうなぁ……。

 とりあえず可愛かったので小町の頭に手を乗せてゆっくりと撫でてみた。

 

「あう……」

 

 可愛らしい唸り声を上げながら小町も俺の頭を撫でてきた。

 ……なんで?

 

「……なぁ小町」

 

「ん、なぁに?」

 

「なんで俺の頭撫でてんの?」

 

「んー、なんでだろうね?」

 

 自分でも分かっていないのか小町はくりんと首を傾げた(可愛い)。

 ていうかお互いわしゃわしゃと撫であってるからどっちも気持ちよくなってそのまま寝ちゃいそう。

 

「んにゃぁ……」 

 

 5分ほど撫で続けると、小町は本当に気持ち良さそうに目を細めながらくぁっと小さく欠伸をした。俺も撫でられ続けてたから少し眠くなってきた。

 

「もっかい寝るか?」

 

「ううん。まだ最後の練習してないもん」

 

「は? え、あれまだやんの?」

 

「まだ一つだけやり残してることがあるからね!」

 

 さっきまでの眠たそうな顔をどこえやら、小町は楽しそうな声音で言いながら体をぴょんっと起こしてベッドの上に立ち上がった。

 何をするかは分からないがとりあえず俺も立ち上がる。

 

「んで、なんの練習だ?」

 

「次は好きって言う練習だよ!」

 

「……なにそれ」

 

 呆れるように言うと、小町はむすっと頬を膨らませた。

 

「だって小町、お兄ちゃんにまだ好きって言ってもらってないんだもん……」

 

 小町はいじけたような声振りで呟き、俺の胸元にぽすっと頭を乗せてきた。

 あぁ、そういや確かに言ってなかったっけな。寝る前に愛してるって言った気がするけど、好きと愛してるは小町にとって別物なのか。

 ううむ、謎だ。でもまぁ小町の要望だからちゃんと言ってやるか。

 

「……ならそれは練習じゃなくて本番だろ?」

 

「え……?」

 

 素っ頓狂な声を上げる小町の背中に両腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。そして一つ、大きく息を吐いて心の準備をする。

 

「……好きだぞ、小町」

 

「ちょ、ちょっとポイント高すぎてなに言ってるかわからないかなぁ……」

 

 何言ってんだこいつ……。テンパりすぎておかしくなっちゃったの?

 はぁ……しょうがねぇな。

 

「大好きだよ……」

 

 今度はちゃんと分かってもらえるように小町の耳元に顔を近づけ、しっかりと思いを込めて優しい声音で囁いた。

 ……うん、超恥ずかしい。

 

「はうう……」

 

 顔を真っ赤にして可愛らしく唸る小町に、慈しむようにそっと唇を重ねた。

 

「んっ……えへへ、小町もお兄ちゃんのこと大好きだよ!」

 

 そう言い、小町らしい快活で無邪気なとても可愛らしい笑顔を見せてくる。

 そんなストレートに言われたら結構恥ずかしいな……。

 

「あ、今の小町的に超ポイント高い!」

 

「はぁ……台無しだよアホ」

 

「あははっ!」

 

 ほーんとアホ。それがなかったら八幡ポイントカンストしてたぞ?

 ……まぁそれも照れ隠しで言ってるのは分かってるから、結局八幡ポイントはカンストしちゃってるんだけどな。

 

 うん、とりあえず小町が幸せそうだしいっか。小町が笑顔でいられることが俺にとって一番の幸せだしな。

 なんだかんだでこれからの日々を楽しみに思いつつ、目の前で満面の笑みを咲かせる小町を俺は優しく抱きしめた。




小町√いかがでしたでしょうか!小町かわいいよ小町。小町アフターもいつかやりたいものですね。

次回ヒロインは完全に未定です。誰にしようかしら……。まだ書いてないガハマちゃんとゆきのんのアフターも書きたいですし悩みますね(๑´ω`๑)

あ、あと活動報告のほうのリクエストに答えてもらえると助かります!もう何個かはやってみようかなーっと思える意見もありました。とりあえず皆さんの意見待ってます!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり誕生日でも比企谷兄妹はいつも通り仲良しである。

小町誕生日おめでとう!ということで誕生日記念SSです!


 

 3月3日、時刻は現在午前0時0分。

 つまり今日は世界一可愛い妹兼俺の彼女の小町の誕生日だ。

 俺の誕生日の時はメールでお祝いされたし小町にも同じで平気だよなと思いながらメールを打つ。

 

『誕生日おめっとさん』

 

 これでよしっと。小町のことだから俺みたいに時間差返信はないだろうし寝ることにするか。

 ちゃんと送信したかを確認してから電気を消すと、廊下からバタバタと足音が聞こえ部屋のドアがガチャりと開く。

 見ると、小町がふんすっと仁王立ちしていた。何してんのこの子……と思っていると、小町は俺に向かって全力で走ってきて見事なタックルを決めてきたぁぁぁぁぁ!?

 何かこの下り前にもやった気がするな……。

 

「いってぇ……」

 

 とりあえず電気をつけると小町は頬をぱんぱんに膨らませてむーっと怒ったような表情をしていた。

 

「……どうした?」

 

「お兄ちゃん、小町は悲しいです。誕生日なのにメールで済ませちゃうなんて小町は本当に悲しいです」

 

 よよよと泣く振りをする小町はそりゃもう可愛いですよ。なんなら今すぐ愛でたい。

 でもちょっと理不尽じゃないですか? 小町だってメールだったじゃん!

 

「や、お前も俺の時メールだったじゃん」

 

「それとこれとは別だよ!」

 

「やだ、超理不尽……」

 

 ふぇぇ……小町ちゃんがジャイアニズムだよぉ……。

 でもまぁそうだよな。せっかく可愛い妹の誕生日なんだからちゃんとお祝いの言葉くらい言わなきゃな。

 

「まぁ、その、なんだ。……おめでと」

 

「う、うん。ありがと……」

 

 小町は頬を朱に染めながらにへっと微笑む。ほんと可愛いやっちゃなぁ……。

 

「それでお兄ちゃん。誕生日プレゼントは?」

 

 聞きたくない単語が聞こえたのでうっと唸りながらそっと目を逸らす。なんなら首も90度回転させてます。

 

「ごみいちゃん……?」

 

「や、だってなぁ……」

 

 みんな話を聞いてくれ。みんなって誰だか分からないけどとりあえず話を聞いてくれ。

 冬休みの最終日に俺と小町は付き合うことになったが、小町は絶対俺と同じ高校に行きたいから受験が終わるまではお兄ちゃんに甘えるのは我慢すると言ったのだ。

 んで、色々あって受験が終わって自由になった小町は今まで我慢してた何かが爆発してしまったかのように、毎日お兄ちゃんお兄ちゃんと言いながら俺の傍にずっといるようになったのだ。

 平日は学校から帰って来たら満面の笑みで俺に抱きついてきて、「小町にする? 小町にする? それともこ・ま・ち?」とか小町以外選択できないこと言ってくるし。

 休日なんて朝起きたら俺の布団に何故かいるんだぜ? 理由を聞いたら「お兄ちゃんの寝顔見てたら気づいたら一緒に寝ちゃってた……えへへ」みたいな超恥ずかしいこと言ってくるし。

 しかも毎週な。最近なんて平日も同じことしちゃって朝の学校兄妹仲良く遅刻しちゃったまである。

 まぁここまで長くなったけど要はあれだ。小町が俺にデレデレのべったりになってしまったせいで小町の誕生日プレゼントを買いに行く時間がありませんでした……。

 だから今日の昼にでも小町連れてどっか行こうと思ってたんだけどまさか今言われるとは思わなかった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「おわっ」

 

 小町に頬をぺちぺちされてハッと現実に戻る。少し考えすぎてたな。

 まぁみんなには小町の可愛さが伝わっただろうし良いか。みんなって誰だか未だに分からないけど。

 実際は言い訳する予定だったけど最初から最後まで小町の可愛さしか伝えてなかったような気が……。うん、気にしたら負けだな。

 

「なに考えてたの?」

 

「まぁちょっと色々な。ていうか何か欲しいものでもあったのか?」

 

「小町は別に物が欲しいんじゃないよ。お兄ちゃんと一緒にいられればそれだけで充分だもん。あ、今の小町的に超ポイントたか……い?」

 

 何で最後疑問形なんだ? と思っていると、小町は目をきらきらと輝かせながら俺のことを見てきた(可愛い)。

 

「お兄ちゃん、小町やっぱり欲しい物あったよ」

 

「おぉ、そうか。何が欲しいんだ?」

 

 スカラシップの錬金術師で有名な俺(別に有名じゃない)だから今回はそれなりに高い物も平気なはずだ。

 夏は財布に四百円しかなかったからな……。あれはお兄ちゃん超情けなかった。

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「だからお兄ちゃんだってば」

 

 ……この子何言ってるの? 八幡ちょっと難しすぎて理解出来ない。

 

「ええっと……小町ちゃん? それはどういう意味かな?」

 

「小町はお兄ちゃんが欲しいの」

 

 けろりとした顔で小町が当たり前のように言う。え、何。もしかして俺がおかしいの? 

 

「じゃ、じゃあどうぞ?」

 

「うん!」

 

 とりあえずよく分からないけど了承すると、小町は嬉しそうに頷いて俺にガバッと抱きついてきた。

 おうふ……いきなりは心臓に悪いぞこれ……。

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」

 

 むぎゅーっと抱きついてきたきた小町は楽しそうに何度も俺の名前を呟く。

 とりあえず頭を撫でると小町は気持ち良さそうに目を細めてさらにぎゅーっと抱きついてきた。

 

「あのー、小町ちゃん……?」

 

「お兄ちゃんは今小町の物なのです。なのでお兄ちゃん、シャラップ」

 

 小町の白くて細い人さし指がぴとっと唇に触れる。どうやら喋る権利はないようだ。

 え、何。俺今「人」じゃなくて「物」として扱われてるの?  

 何それ辛い。

 

「えへへー、お兄ちゃんっ」

 

 にこっと微笑んだ小町は小さくてぷるぷるとした唇を重ねてくる。

 もしかしなくても誕生日だからテンション上がってんのかな。

 

「んっ……んむっ、はぷっ……」

 

 唇が重なると小町は唇を啄むように何度も重ねてきた。目はとろんとしていてとても幸せそうな表情をしている。

 

「ぷはっ……えへへ」

 

 唇が離れると頬を朱に染めながら満面の笑みを浮かべる。

 うん、まぁせっかくの誕生日だし俺もちょっと積極的になるか。

 八幡頑張って小町にご奉仕しちゃうぜ! どうでもいいけどご奉仕って何かエロいよね(本当にどうでもいい)。

 

「ふぇ?」

 

 俺の胸元でころころ甘えている小町をベッドに押し倒す。所謂床ドンというやつだ。

 まぁベッドだから床ではないんだけどね。細かいことは気にしない。

 

「……一緒に寝るか?」

 

 唇が触れそうなくらい近くの距離で言うと、小町は顔を真っ赤にする。

 

「あ、あうぅ……」

 

「ほら、どうすんだ? んっ」

 

 うーうー唸っている小町に唇を重ねると背中に両手を回してきて、そのまますりすりと撫で回してくる。

 

「んっ……一緒に寝たいけどお兄ちゃんなんでこんなに積極的なのぉ……」

 

「まぁ小町の誕生日だからな。お兄ちゃんちょっと頑張っちゃいました」

 

 てへぺろ☆と下卑た笑いを浮かべると小町はうへぇ……と顔を歪ませた。泣きそう。

 

「それはポイント高いけどお兄ちゃんの今の顔はポイント低いよ……」

 

「そりゃ悪かったですね……。んじゃ寝ようぜ」

 

「うん!」

 

 電気を消してから頭から布団を被る。そしてそのまま小町をぎゅっと抱きしめる。

 

「はわわわ……お兄ちゃんの匂いでいっぱいだよぉ……」

 

「嫌なのか?」

 

「むしろ最高すぎて死んじゃいそうだよ……」

 

「そりゃよかった」

 

 死ぬのは良くないけど小町が満足してるなら本当に良かった。俺もドキドキしちゃってるし寝れるかなこれ……。

 

 きっと、これからも俺と小町は誕生日を祝い祝われを繰り返すのだろう。

 そんな日々がいつまでも続くのを祈りつつ、俺は小町を優しく抱きしめた──。

 




誕生日SSなのに誕生日らしいことはあんまりしてないのは気にしないでください(懇願)。

とりあえずこの一言を。小町誕生日おめでとう!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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はるのん√ 実は大魔王が超絶ぴゅあぴゅあ天使なのはまちがっていない。【前編】

はるのん√スタートです!


 学校からの帰り道、俺は千葉に来ていた。今日は久々に書店にでも行って新刊のチェックをしようと思ったからだ。

 最近は家に引きこもって少女漫画やら恋愛ドラマばっか見ててそんな暇なかったしな。

 

 今は書店で新刊をぼーっと眺めている。欲しいものを探しつつ、暇つぶしに今週のことを振り返ってみることにした。

 …………うん、考えてみたは良いけど特に何もなかったわ。誰とも二人きりになれず、奉仕部への依頼もなくただただ平和な毎日を過ごしていた。

 これって嵐の前の静けさなんじゃね? とか思うけど、こんなことを考えてるとフラグが立ってあんまり会いたくない人に会っちゃったりしちゃうから考えるのはやめておくことにする(フラグ)。

 

「およ? 比企谷くん?」  

 

 後ろから聞こえてくるその声に思わずため息が漏れてしまった。

 余りのフラグ回収の速度にびっくりだぜ……。

 

「あ、やっぱり比企谷くんだ」

 

 振り返ると陽乃さんが俺に手を振ってきた。

 ……よりによって一番エンカウントしたくない人と遭遇してしまった。っべー、マジ俺の人生終わったっしょー。

 うん、これはあれだ。逃げるが勝ちだ。

 ワタシ、アナタ、シラナイ、と視線を逸らしながら陽乃さんの前を横切るとゾクッとした寒気が背筋を走る。死んだ。

 

「お姉さんを無視するとはいけない子だなー」

 

「……こんにちは、陽……雪ノ下さん」

 

 やべ、動揺しすぎて心の中と呼び方が混じってしまった。絶対この人なら今のこと反応するだろうな……。

 

「テンション低いなー。それに陽乃さんって呼んでもいいんだよ? なんなら呼び捨てでもいいし。むしろ推奨」

 

 陽乃さんは「あ、お義姉ちゃんでもいいぞー」と付け足した。絶対そう言ってくると思ってた。

 ううむ、でもあれだ。学校が始まってから女子と二人きりになった時に名前を呼ぶことだってあるだろう。

 それなら陽乃さん相手に練習をするっていうのもありなのかもしれない。呼んだ後が怖いけど。

 よし、八幡頑張る!

 

「……陽乃、……さん」

 

 ちょっと調子に乗って呼び捨てで呼んでみようと思ったけど無理だった。何この中途半端な呼び方。恥ずかしくて死にそう。

 陽乃さんを見ると、きょとんとした顔をしながら眼をぱちぱちと二、三度瞬かせる。しかし、すぐにいつもの調子に戻って訝しげな視線を向けてくる。

 

「……ふーん。どういう心境の変化かな?」

 

「……名前で呼んでって言ってきたのは陽乃さんの方じゃないですか。俺はただそれに乗っただけですよ」

 

「……へぇ」

 

 ぞっと底冷えするような声に思わず身体が強張ってしまう。

 俺は単純にこの人が怖いんだろう。完璧な外面はもちろんのこと、見抜かれても隠そうともしない苛烈な内面も。

 うん、本当に怖い。怖いからもうお家帰る!

 

「……じゃ、俺はもう帰りますね」

 

 名前で呼ぶだけ頑張ったしもう退散するとしよう。この人を落とすとか絶対無理だし。ギャルゲーだったら絶対攻略不可能なキャラだな。

 歩き出そうとすると陽乃さんに腕をがっちりと掴まれてしまった。どうやら逃がしてはくれないらしい。

 

「え? もう帰っちゃうの? せっかく会ったんだしお茶でもどう?」

 

「えぇ……」

 

 ため息混じりの声が口から漏れてしまうと、陽乃さんは腰に手をやりふくれっ面を作る。

 

「こんな美人なお姉さんが誘ってるのに断るなんてありえないぞー」

 

「……分かりましたよ」

 

 降参とばかりに軽く両手を上げると陽乃さんはくすりと笑った。

 折角のことだし言い方は悪いだろうけど陽乃さん相手に練習をすることにしよう。

 

「よしっ、じゃあ行こっか」

 

 楽しそうな声音で言いながら陽乃さんが俺の腕に抱きついてきた。

 うん、やっぱりこの人相手とか絶対無理。腕に柔らかいたわわな実りが当たってて天国……じゃなくて死にそう。

 

 

××××××

 

 

 陽乃さんと一緒に近くの喫茶店に入る。ついさっきまで陽乃さんが俺の腕に抱きついたまんまだったから歩きづらいし周りの視線が怖いしで本当に大変だった。

 強引に引き離そうとしたら耳元で「だーめ」って言われるし。めちゃめちゃゾクゾクしちゃいました。正直もうお腹いっぱいです。

 

「あれから雪乃ちゃんとはどう?」

 

 俺の隣に座った陽乃さんがコーヒーに口をつけてから話しかけてくる。

 

「いや、特に何もないですけど」

 

「つまんないなー。そんなに雪乃ちゃんって魅力ないの?」

 

 何でこの人は毎回俺と雪ノ下をくっつけようとするんだろうか。正直謎だな。

 ……よし、ちょっと試してみるか。練習開始だ。

 

「まぁそうですかね」

 

 何食わぬ顔で言ってやると、陽乃さんの雰囲気がガラリと変わった。形の見えない重圧が俺の両肩にのしかかるような錯覚に陥る。

 マジで大魔王にしか見えないぞ……。

 

「へー……これは雪乃ちゃんに報告かな」

 

 うーむ、完全に地雷踏んだな。まぁ分かりきってたけど。

 だってこの人俺と同じくらいシスコンだしな。

 

「いや、別にそういうわけじゃないですって」

 

 選択肢間違えたら終わるなこれ……。やっぱやめときゃ良かったかも……。

 

「じゃあ、どういうこと?」

 

 試すような視線を陽乃さんが向けてくる。

 

「さっきのは言い方が悪かったです。確かに雪ノ下にも魅力はあると思います」

 

「ふーん、そっか。それで?」

 

 陽乃さんが冷たい声で言ってくる。その目は続けろと言っているような気がした。

 大きく一つ、息を吐いてから覚悟を決める。

 

「ただ、俺は彼女より陽乃さんの方が魅力があると思っているんですよ」

 

「え?」

 

 はっきりとした口調で言うと、陽乃さんからは意外そうな声が漏れる。

 

「? どうしました?」

 

「う、ううん。なんでもないよ?」

 

 それきし、陽乃さんは口を閉ざしてしまった。

 ……もしかして怒らせちゃったか?

 でも俺、陽乃さんの方が魅力あるって言っただけだしな……。

 

「……比企谷くんって年上好きなの?」

 

 どうするべきかうんうんと悩んでいると、陽乃さんらしくもない突拍子もないことを言ってくる。

 

「……まぁ嫌いじゃないですね。むしろ好き、ですかね」

 

 好きという部分に重みを掛けて言うと、陽乃さんの目にほんの少しだけ動揺の色が見えたような気がした。

 え、どうしたの、この人?

 

「へ、へぇ……そ、そっか、そうなのかー……」

 

 小さな声でぽしょりと何かを呟いているが、本当に小さい声なので聞き取れない。

 ……もしかして熱でもあんのか?

 

「ちょっとすみません」

 

 断りを入れてから陽乃さんのおでこに手を当てる。

 ほむん、熱はな……あれ? どんどん熱くなってるんだけど。

 陽乃さんの顔を見ると、頬はほんのりと朱色に染まっていて口はぽかんと開いていた。

 

「ひ、比企谷くんってそんなに大胆な子だったっけ?」

 

「や、大胆も何もこれくらい普通じゃないっすか?」

 

 だって熱あるか確認しただけだし。どうでもいいけどお互いのおでこをこつんって当てて熱を測るあれはありえないと思います。 

 あんなの結局ドキドキして熱上がるだけだろ。アホじゃねぇの。

 それに比べれば今のなんて大したことじゃない。単に俺の感覚が麻痺してるだけなのかもだけど。

 

「普段から他の子にもこんなことするの?」

 

「……俺だって相手くらい選びますよ」

 

 うへぇ……めっちゃくさいセリフ言ったなぁ。

 

「そ、そっか……」

 

 陽乃さんは指をもじもじと絡ませながら今まで全く見たことのない柔らかい微笑を浮かべていた。その笑顔に心臓がどくんと跳ね上がる。

 え、この人陽乃さん?

 素直に疑問に思ってしまった。

 ちょっとというかめっちゃ可愛く見えるんですけど……。

 

「そ、そろそろ帰りましょうか」

 

「う、うん。そうだね」

 

 ちょっとだけ気まずい雰囲気のまま陽乃さんと店を後にした。

 

 

「……送っていきますか?」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

「そうですか」

 

「うん」

 

 さっきのこともあって会話が全然続かない。少しだけ見せた陽乃さんの笑顔を思い出すだけで顔が熱くなる。そのくらい魅力的な笑顔だった。

 ……本当はこんなことをしようとするつもりはなかった。

 ただ、ほんの少し。ほんの少しだけ。俺が陽乃さんに対して見る目を変えたらどうなってしまうのか気になってしまった。

 俺のことをちらっと見てきた陽乃さんをぐいっと抱き寄せる。

 

「あっ……」

 

 陽乃さんの背中に両腕を回してぎゅっと抱きしめると、陽乃さんから小さく甘い吐息が漏れる。 

 

「また今度、会いましょうね」

 

 陽乃さんの耳元に顔を寄せて吐息混じりの声で囁くと、陽乃さんも俺の背中に両手をゆっくりと回してきた。

 

「……うん、そうだね。また、今度ね」

 

 陽乃さんも俺の耳元でぽしょりと囁いた。耳にかかる吐息が熱くてくすぐったい。

 途端に恥ずかしくなって抱きしめるのやめて離れると、瞬時に陽乃さんが距離を縮めて来る。そして、ちゅっと音を立てながら俺の頬にキスをしてきた。

 

「な、ななな」

 

「ふふっ、これはお姉さんを楽しませてくれたご褒美だよ」 

 

 陽乃さんは蠱惑的な笑みを浮かべてパチっと可愛らしくウインクをしてから、まるで何もなかったかのように駅の方へ歩いて行ってしまった。

 

 これはちょっとヤバいかもしれん。何がヤバいかって俺が既に陽乃さんの虜にされてる気がする……。

 

 ……よし、決めた。俺は絶対に陽乃さんを落としてメロメロにする。じゃないと俺が先に虜にされて陽乃さんに手玉に取られちゃうからな。

 

 でも、俺って陽乃さんと会えることってほとんどないんじゃね? 

 うん、やっぱり色々と不安しかないわ……。その辺も色々と考えとかなきゃな。

 




他の書き手さんが色々な陽乃さんを書いているので私は超絶ぴゅあぴゅあな陽乃さんを書きたいと思います。
年上のお姉さんなのに年下みたいに甘えてくるとか最高ですよね!そんな感じで書いていく予定です!

バレンタインSSはもしかしたら書く?かもです。間に合わなかったらはるのん中編です!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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実は大魔王が超絶ぴゅあぴゅあ天使なのはまちがっていない。【中編】

 

 陽乃さんとエンカウントしてから数日。あの日からは特に何もなく今は部室でのんびり放課後ティータイムをしている。

 てっきり陽乃さんから仕掛けてくると思ってけど俺の考えが甘かった。今更だけどあの時って俺が勝手に陽乃さんのこと抱きしめて、「また今度」とか勝手に言っただけなんだし陽乃さんから来るはずがないよな。

 うん、ほんと今更だわ。通報されないよね? 

 小町置いて捕まるわけにはいかないし今度会ったらまず土下座した方がいいのかな……。

 

「比企谷くん」  

 

 どうするべきかうんうん悩んでいると、雪ノ下が話しかけてくる。いつもは由比ヶ浜とゆるゆりしてるだけなのに珍しいな。

 

「ん、なんだ」

 

「動きが挙動不審で気持ち悪いわ」

 

「あ、そう……」

 

 珍しいのは俺の行動の方だったようです。そんなに挙動不審になってるつもりはなかったんだけどな……。 

 まったく雪ノ下さんったら酷いんだから。もうちょっとオブラートに包んでくれてもいいじゃないですか。ガハマちゃんも苦笑いしてないで助けてくださいよ。

 

「比企谷くん」

 

「……今度は何ですか」

 

「最近姉さんの機嫌が良いのだけれど何か知っているかしら?」

 

 陽乃さん機嫌良いのか。そりゃ良いことじゃないですか。問題なのは何故それを雪ノ下が知っているかだ。

 もしもあの日のことをこいつらが知っちゃったら俺死んじゃうわ。もちろん物理的にも社会的にもね!

 

「……いや、知らねぇな」

 

「何かしら今の間は……」

 

 じとっとした胡乱げな視線を向けてくる。ご、ごめんね? 今の間は色々と考えてたら返事遅れちゃっただけだから。八幡何も知らないよ? 

 

「そういえばヒッキーも最近明るいよね」

 

「そうね」

 

 何なのあなた達。俺のこと見すぎでしょ……。怖い。

 多分雪ノ下は感づいてるから根掘り葉掘り聞かれる前にこの際材木座でもいいから今すぐ来て欲しいわ。マジで助けて。

 やっぱ材木座は嫌だな、やっぱり戸塚に来て欲しい! それ以外ありえない! と戸塚に思いを馳せているとガラガラと音を立てながら扉が開かれる。確かノーノックで入ってくるのは平塚先生だけだよな。

 ……そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

 

「ひゃっはろー比企谷くん。それに雪乃ちゃんとガハマちゃんも」 

 

 わぁ……今ちょうど話題に上がってた張本人来ちゃいましたよ……。

 

「姉さん……」

 

「や、やっはろーです」

 

 雪ノ下は警戒しまくってるし由比ヶ浜はちょっと気まずそうだし空気がすごーく重い……。辛い。

 うん、俺は大人しく空気とフュージョンして存在を消しておくことにしよう。

 

「……それで、何の用かしら」

 

「あ、今日は雪乃ちゃんじゃなくて比企谷くんに用事があって来たの」

 

「え、ヒッキーにですか?」

 

「うん、そうそう。この前色々あったからね」 

 

 何であなたは自分からそれを言おうとしてるんですか……。

 え、何? 今日はそれを自慢しにでも来たの? 

 

「何があったのかしら?」

 

「んー、この前ね、わたし比企谷くんにぎゅーって力強く抱きしめられながら愛の言葉を囁かれちゃったんだ」

 

 少しだけ照れくさそうに笑いながら陽乃さんが言う。恥ずかしいなら最初から言わないでくださいよ……。

 

「比企谷くんが力強く抱きしめてくる……」

 

「しかも愛の言葉……」

 

 小さな声でぽしょりと何かを呟いた二人はもの凄い速度で顔を真っ赤にする。そして二人仲良くキッと睨みつけてくる。怖い。

 

「ヒッキーのバカ! アホ! ロリコン! え、ええとバカ!」

 

「……通報するわ」

 

 ガハマちゃんの語彙力ェ……。ていうか相手が陽乃さんなんだからロリコンではないだろ。

 雪ノ下はマジで通報する準備するなよ。携帯しまえ。死んじゃうから。

 陽乃さんは何が楽しいのか俺たちを見ながらくすくすと笑う。

 

「……何で言っちゃうんですか」

 

「んー、面白そうだったから?」

 

「はぁ……」

 

 うん、まぁそんなことだろうとは思ってたわ。ていうかこの人ならそれ以外ありえないわ。

 

「じゃあ行こっか」

 

「……行くってどこに」

 

「いいからいいから」

 

 陽乃さんに問答無用で手をぎゅっと握られてそのまま引っ張られてしまう。ちょっ、抵抗できないくらい力強いんだけど……。

 

「比企谷くん……」

 

「うう……ヒッキー」

 

 未だに顔を真っ赤にした二人からの恨めしそうな視線を背中に浴びながら俺と陽乃さんは部室を後にした。

 

 

「んで、どこ行くんですか」

 

 陽乃さんは雪ノ下が言ったように本当に機嫌が良いようで、握っている俺の手をぶんぶんと振り回す。脱臼しそう。

 

「静ちゃんに空き教室の鍵借りてきたからそこに行こっか」

 

「……そこで何すんですか?」 

 

 そこで一体ナニするんですか! わたし、気になります!

 

「あ、比企谷くんえっちだなぁ。ナニするとこ想像しちゃったの?」  

 

 陽乃さんは目を細めながらにやにやと笑う。エスパーかよ。

 

「発音おかしいですから。何も想像してませんよ」

 

「ちぇー。つまんないのー」

 

 ……この人はマジで何がしたいんだ? この前はでこに手を当てただけなのに大胆って言ってきた人なのに、今は普通に手握ってきてるし。

 もしかして自分が主導権握っていると平気ってことなのか? ふむ、なら試してみるか。

 俺の予想が合ってるならこの前みたいな普段と全く違う陽乃さんが見れるかもしれないし。ぶっちゃけあの時の陽乃さんは超可愛かったからまた見たいっていう気持ちが大きい。

 

「ちょっとすみません」

 

 断りを入れてから力を入れてなかった手にぎゅっと力を入れて陽乃さんの手を優しく握りしめる。そして、しゅるしゅると指を動かして陽乃さんの細くて長い指に絡ませた。

 所謂恋人つなぎってやつだ。恥ずかしいけど今は我慢だ。

 

「ひ、比企谷くん?」

 

「……手、繋いできたのは陽乃さんなんですから別にいいですよね?」

 

「う、うん……」

 

 頬をほんのりと朱に染めながら陽乃さんは俯いてしまった。

 ううむ、これは予想的中ってことでいいのか?

 

 

 それからずっと陽乃さんは俯いたままで、気づいたら空き教室に着いていた。

 繋いでいた手を離すと陽乃さんはいつも通りの表情に戻っていた。早いな……。

 何か後ろで鍵を閉めた音が聞こえたような気もしたけど知らなかったことにしよう。

 

「椅子持ってきます?」

 

「うん、よろしく。あ、椅子は一脚でいいよ」

 

「? はい」

 

 言われた通りに椅子を一脚だけ持ってくると陽乃さんがそれを指さす。

 

「はい、比企谷くん。お座り」

 

「え? 陽乃さんは? ていうか何で俺犬みたいな扱いされてんの……」

 

「えへ、まぁとりあえず座って?」

 

 さっきから本当に全く理解できない。この人はマジで何がしたいんだ?

 

「お邪魔しまーす」

 

 とりあえず椅子に座ると陽乃さんがケロッとした顔で俺の上を跨って首に両手を回して抱きついてきた。

 ……や、何で?

 

「ちょっ、いきなり何してんすか……」

 

「この前のお返し、かな?」

 

 陽乃さんは唇に指を当ててんーと考える素振りをしながら言う。

 

「……あれはその、すいませんでした」

 

「全然謝ることじゃないよ。お姉さんもちょっと嬉しかったしね」

 

 陽乃さんは楽しげな声で言うが俺にそんな余裕はないです。鼻先が触れそうなくらい顔が近いとかほんと無理なんだけど……。

 これ陽乃さんに心臓の音聞こえてんじゃねーか? やだ、超恥ずかしい。

 

「ねぇ、比企谷くん」

 

「……何ですか」

 

 聞くと、陽乃さんが唇が触れそうになるくらいまで顔を近づけてくる。

 

「……今、2人きりだよ?」

 

「っ……」

 

 蠱惑的な笑みで誘惑をしてくる陽乃さんに声が詰まってしまう。

 

「……性欲の塊のような男子高校生にそんなこと言っていいんすか?」

 

 俺の苦し紛れの反論に陽乃さんはにやぁと意地の悪い笑みを浮かべる。この人自分が主導権握ってるとめっちゃ楽しそうだな……。

 

「ふふっ、比企谷くんは理性の化物なんだからそんなことありえないって」

 

 かっちーん。この人超余裕ぶっこいてるな。ならそろそろ俺が主導権を握らせてもらいますかね……。

 

「ひゃうっ!?」

 

 陽乃さんの背中に両腕を回してぎゅっと力いっぱい抱きしめると、陽乃さんは可愛らしい声を上げた。

 え、何それ本当に超可愛いんだけど。まさか陽乃さんからそんな声が出るとは思わなかった。

 

「……陽乃さんが悪いんですからね?」

 

「や、やぁっ……」

 

 耳元で囁いてはぁっと吐息を吹きかけると、陽乃さんの身体がぶるっと震えた──。

 




お久しぶりです!UA200000突破しました!ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!

陽乃さん√は久しぶりに中編②の出番が来ます。もしかしたら中編③の出番も……。そのくらい陽乃さん√は書きたいことが山盛りです(๑•̀ㅁ•́ฅ✧

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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実は大魔王が超絶ぴゅあぴゅあ天使なのはまちがっていない。【後編】

はるのん√ラストです!


 

 お互いの鼻先が触れそうなくらい近くに陽乃さんがいる。

 きめ細かく透き通るような白い肌は真っ赤に紅潮し、陽乃さんの目には不安と期待が入り混じっていて唇は微かに震えている。

 普段の陽乃さんからは想像ができないその表情が凄く可愛らしくて愛おしい。つい最近まで怖いとしか思ってなかった人なのにここまで印象が変わるとは自分でも思わなかった。

 俺と目がぱっちりと合うと、陽乃さんは顔を逸らす。それに合わせて艶やかな黒髪が不安げに揺れた。

 

「ご、ごめんね? すぐ降りるから」

 

 完全に主導権を握られて慌てているのだろうか。陽乃さんは俺の首に回していた両手を離して降りようとする。

 でも、今だけは俺のターンだ。陽乃さんには悪いけど俺の好きなようにやらせてもらうことにしよう。

 陽乃さんの背中に回していた両腕の力を強めておでこ同士をぴとっとくっつける。

 

「あ、や、うぅ……」

 

 陽乃さんは可愛らしくあうあう唸りながら俺の胸をぽかぽかと叩いてくる。ヤバい、年上の陽乃さんがこんなことするとかギャップが凄くて可愛いすぎて死にそうなんだけど。

 ふ、ふー、お、おちちゅけ俺! 今だけは俺が主導権を完全に握って陽乃さんを落とすって先代のじっちゃんにも約束しただろ!

 ……全然落ち着けてなかった。先代のじっちゃんって誰だよ。まぁある意味落ち着いたし先代のじっちゃんに感謝だな。

 

「どうしたんです? 顔、真っ赤になってますよ?」

 

「や、やぁ……そんなことっ、い、言わないでぇ……」

 

 よほど恥ずかしかったのか、陽乃さんは両手を顔で覆いながら俺の胸に頭をぽすりと乗せた。そしてそのまま俺の胸に頭をぐりぐりとこすりつけてくる。

 うわ。うわ。うわ。マジでこんなに可愛くなるのか。

 ……もっと、陽乃さんの可愛い姿を見たい。

 その衝動に駆られて、俺は陽乃さんの背中をゆっくりと撫で回した。

 

「あ、あふぁぁぁ……」

 

 俺の胸に身体を預けながら陽乃さんが身体をびくびくと震わせながら艶っぽい声を上げる。

 多幸感に打ち震えながらそのまま陽乃さんの身体を撫で回し続けた。

 

 

××××××

 

 

「はぁっ、はぁっ……も、もうだめ……」

 

 しばらく続けていると、陽乃さんが顔を上げた。暖房もついていない教室なのに陽乃さんの頬は上気していてしっとりと汗ばんでいた。

 何重もの服越しなのに陽乃さんの身体からは熱が伝わってきて、密着しているだけで気分がおかしくなりそうになる。

 

「何がだめなんですか?」

 

「が、我慢、できなくなっちゃ、う、からっ……。だから、もう、……ね?」  

 

 途切れ途切れの言葉を紡ぐ陽乃さんが涙目で上目遣いで見つめてくる。その表情があまりにも可愛く、そしていじらしくて、さっきまで何とか抑えていた気持ちが爆発してしまった。

 

「……我慢なんてしなくて良いんですよ」  

 

 そう言い、俺はゆっくりとできるだけ優しく、そして慈しむように陽乃さんに唇を重ねた。

 

「〜〜〜〜!?」

 

 陽乃さんは突然のことに目をぱちぱちと瞬かせる。身体はがちがちに固まっていたので、陽乃さんの頭を優しく撫で続ける。

 次第にリラックスしてきたのか、陽乃さんはゆっくりと身体を預けてきた。

 

「ぷはっ……んっ……」

 

 長い口づけを終えて唇を離すと、陽乃さんはすぐさま唇を重ねてくる。

 陽乃さんは頬を朱に染めて目をとろんとさせながら、何度も嬉しそうに唇を重ねてくる。それがたまらないくらい愛おしくて抱きしめる力がつい強くなってしまう。

 それでも陽乃さんは文句も言わずにそれを受け入れてくれて逆に俺より力いっぱい抱きしめてきた。

 ちょっとだけ痛いです。

 

「ん……えへへ」

 

 満足したのかキスをやめた陽乃さんが蕩けるような笑みを浮かべながらころころと甘えてくる。

 幼い子どものような無邪気な笑顔を浮かべる陽乃さんが可愛いすぎて心臓が痛いくらいに高鳴る。

 や、本当に可愛いすぎて死にそう。死因が萌えってある意味本望かもしれん。

 

「ふふっ、まさか本当にこんなことになっちゃうなんてね」

 

「……陽乃さんだってこうなるの分かってて今日学校来たんですよね?」

 

 ぷいっと顔を背ける陽乃さん。ほっぺたぷにぷにしたい。

 よし、しよう。

 

 ぷにーーーっ。

 

「んっ……な、なにひへるの?」

 

「や、陽乃さんが可愛くてつい」

 

「そ、そう……」

 

 陽乃さんは頬を真っ赤に染めてしまった。あぁ、そういや可愛いって言ったの初めてだったっけ。心の中じゃ可愛いって言いすぎてある意味ゲシュタルト崩壊してたんだけどね。

 

「……ねぇ、比企谷くん」  

 

 一通り陽乃さんをぷにぷにし終えるとこっちを向いた陽乃さんが話しかけてくる。

 

「何ですか?」

 

 聞くと、陽乃さんは身体をもじもじと動かしながら小さな声でぽしょりと呟く。

 

「も、もう1回……」

 

「へ……?」

 

「もう1回……して?」

 

 頬を赤らめながら陽乃さんが上目遣いで見てくる。てっきり陽乃さんのことだから自分からしてくると思ってたけどそんなことはなかった。

 ……甘えん坊さんなのかな? だとしたら可愛いすぎてそろそろマジで八幡死んじゃうよ?

 うん、陽乃さんは大魔王なんかじゃなくて天使だった。今まで陽乃さんのことを怖がってた自分を殴りたいぜ!

 

「……本当に可愛いっす」

 

「も、もうっ……比企谷くんのくせにナマイキだぞぉ?」

 

 こんなことを言いつつも陽乃さんは嬉しそうに愛らしい笑顔を浮かべている。

 

「……目、閉じてください」

 

「……うん」

 

 まぁ、とりあえず今はこの時間を楽しむことにしよう。

 

××××××

 

 

 まぁあれから色々としましたねはい。陽乃さんが可愛いすぎてちょっと調子に乗って色々としちゃった……。

 えっちなことなんてしてないよ? ほんとだよ? 学校でそんなことする勇気ないしね! ほんとだよ?(しつこい)

 今は陽乃さんを駅まで送って行っている最中だ。当たり前のように陽乃さんは俺の腕に抱きついている。自転車押しづらいけど腕に柔らかい感触が伝わってきてるからそんなの気にしない。八幡の八幡が元気百倍になってるよ! 完全に変態ですねはい。

 うん、何か俺変にテンション高くて気持ち悪いわ。反省。

 

「寒いね」

 

「そうですね」

 

「もー、そこはさりげなく手を繋いでくるところだよ?」

 

 ぷくーっと頬を膨らませる陽乃さん。年上だけどその表情は少しだけあどけなくてとても可愛らしい。ちょっとというかかなりあざといけど。

 

「や、だってもう俺の腕に抱きついてるじゃないですか」

 

 言うと、陽乃さんはにやりと目を細める。わぁ……いい笑顔してるなぁ。

 でも純粋な笑顔が陽乃さんには一番似合うって思うんだ。その新しい玩具を見つけたような笑顔は八幡まだちょっと苦手かなぁ……。

 

「比企谷くんは暖かそうでいいよね。わたしのがむにゅーって当たってて気持ちいい?」

 

「なっ……」

 

 顔がかぁっと熱くなるのが自分でも分かった。えげつないこと言うなこの人……。

 俺の顔が真っ赤なのを気づいたのか陽乃さんがずいっと顔を近づけてくる。ちょっ、ここ外なんですけど……。

 や、やべぇ、完全に陽乃さんのペースに……。

 

「ふふっ、比企谷くんはえっちだなぁ」

 

「思春期男子なんですからそこは勘弁してください……」

 

「じゃあお姉さんのこと、めちゃくちゃにしたい……?」

 

 唇が触れそうな距離で陽乃さんが蠱惑的な表情でとんでもないことを言ってくる。

 

「……確かにしたいですけど今はいいです」

 

「ふーん……どうして?」

 

「……今はこれだけで十分だからですよ」

 

 そう言い、陽乃さんに唇を重ねた。触れるだけの子どもっぽいキス。でも今はそれだけで十分だ。

 唇を離すと陽乃さんは甘い吐息を漏らす。そして照れくさそうに頬を朱に染めた。

 

「あはは……これじゃ完全にわたしの完敗だよ」

 

 完敗ってこの人は俺に何を勝とうとしてたんだ……。うん、考えるのはやめておこう。

 

「あ、もう着いたね」

 

 気づいたらもう駅に着いていたようだ。ていうか駅の近くでキスしちゃったのか。絶対誰かに見られてたよな。うわぁ、恥ずかしいわ……。

 内心悶えていると陽乃さんはそんなのお構い無しに唇を重ねてきた。……マジですか。ここもう駅前なんですけど……。

 うん、周りからの視線、特に野郎どもの視線がヤバい。

 

「んっ……じゃあばいばい比企谷くん! また今度ね!」

 

「はい、また今度」

 

 満面の笑みを浮かべた陽乃さんはぶんぶんと手を振ってきた。それに苦笑しつつも俺も手を振り返す。

 

 ここ数日、特に今日は陽乃さんの色々な新しい顔を見れた。多分これからはもっと可愛らしい表情を見せてくれるんだろう。

 そのことを楽しみに思いつつ、俺は周りの野郎どもの嫉妬の視線から逃げるように自転車を漕ぎ出した。

 




はるのん√はひとまず終わりです。ぴゅあぴゅあはるのんはいかがでしたか?もちろんアフターも書きます。更に天使なはるのんを書く予定です!

次回から二、三ヶ月ほどアフターを連続でやろうと思います。まだ1度もアフターを書いてないガハマちゃん、ゆきのん、小町を連続で書く予定です。もちろんいろはすとサキサキも書く予定です。
もしかしたらルミルミかそれあるー!ちゃんは書き始めるかもしれません。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり大魔王(ぴゅあぴゅあ天使)が甘えん坊なのはまちがっていない。【前編】

陽乃さんアフターですっ!


 

 陽乃さんと付き合うようになって一週間が経ったある日。あれから俺と陽乃さんは色々と都合が合わずに一度も会えていない。

 まぁ何故か俺の電話番号とメアド知ってたからそれなりにやり取りとかはしてるんだけどな。ていうか何で知ってんのマジで。

 多分小町が教えたんだろうけど。俺の個人情報がダダ漏れすぎて辛い。

 

 今日は生徒会からの正式な依頼で、進路相談会の会場設営の手伝いをしている。もう会場設営は終わっているので、今は一色がチューター役の人を呼びに行ったのを待っている最中だ。

 そういや昨日陽乃さんから、『明日は楽しみにしててね♡』と文面だけは可愛らしいメールが来てたんだよな。可愛いけど何かちょっと怖かった。

 

 もしかしなくてもチューター役に陽乃さん絶対いるよなぁ……とか考えているうちに、廊下からがやがやとした話し声が聞こえてくる。

 その中には聞き覚えのある声が混じっていて、身体が少しだけ強張ってしまう。な、何か改めて会うと思うと緊張すんな……。

 声の主の陽乃さんは一色とめぐり先輩と一緒に会議室に入ってくる。俺を見つけると陽乃さんはぶんぶんと手を振ってくる。

 

「お、比企谷くん。ひゃっはろー!」

 

「ど、どうも……って、危ないじゃないっすか……」

 

 挨拶をしながら満面の笑みでガバッと飛び込んできた。久しぶりだからってこの人テンション高すぎない?

 や、まぁ内心俺もちょっとだけテンション高くなってるんだけどな。具体的には頬が緩みそうになるのを我慢しきれてない程度には。我慢できてないのかよ。

 

「てへっ、ごめんごめん」

 

 ぺろっと可愛らしく舌を出す。や、まぁ超可愛いけどさ! 周りからの視線が痛いくらいに突き刺さりまくってるんですけど……。

 特に雪ノ下と由比ヶ浜からの視線が超怖い。この二人は前に陽乃さんが学校に襲撃してきた時に俺と陽乃さんの関係性を知っているから尚更ヤバい。

 雪ノ下と由比ヶ浜は後で覚えとけよみたいな感じの視線を俺に向けて無言で部室に戻って行った。うん、部室戻ったら確実にリンチされるなこれは。バックだけ取ったら全力で逃げようそうしよう。

 ……あ、まだ特に問題な二人が残ってた。めぐり先輩は俺と陽乃さんを見て顔を真っ赤にしながら「はわわわ……」とか超可愛いこと言ってる。やっぱ全然問題なかった。ほんわかぱっぱめぐりっしゅされました。

 もう一人の問題の一色は、未だに俺に抱きついたまんまの陽乃さんを見て目をまん丸と開いて驚いた表情をしている。

 

「え、えっと、先輩とはるさん先輩ってもしかしてつ、付き合ってるんですか?」

 

「……あー、まぁ、そうだな」

 

 言うと、一色は呆れた表情をしながら大きくため息を吐いた。

 

「ほんと先輩の周りって強敵多すぎませんかね……。雪ノ下先輩のお姉さんとかいつ虜にする時間あったんですか……」

 

「は? 何の話してんのお前」

 

「むーっ! 何でもないですよ! もういいです! 今度わたしの√で先輩にいっぱい愛してもらうんですから!」

 

 頬をぱんぱんに脹らませてぷんぷん怒りながら、一色は俺と陽乃さんから離れて生徒会メンバーの方へ行ってしまった。何かものっそいメタい話してきた気がしたんですけど気のせいですよね?

 まぁ、やっぱり一番の問題はこの人だよな……。

 

「……いい加減離れてくれませんか?」

 

 俺の呆れ顔に陽乃さんはぷくっと頬を片方だけ脹らませる。

 

「もー、何か比企谷くんつめたーい」

 

「はいはい、今はぶーたれないでくださいよ。あとでいくらでも甘えてきていいですから」

 

「いーやーだー。あっ、比企谷くんは進路相談していかないの? お姉さん何でも聞いちゃうよ?」

 

 駄々っ子かよ。しかも話の内容思いっきり変えてきやがった……。

 

「俺は一応決まってるんで大丈夫ですかね。まぁ困ったら今度陽乃さんに聞きますから」

 

「ん、分かった」

 

 満足げに頷く陽乃さん。分かってくれたようで何より。

 

「なのでさすがにもう離してくれないっすか? みんな陽乃さん待ちですよ」

 

「……分かった。あとでいっぱい甘えさせてね?」

 

 納得いかない表情の陽乃さんはむーと少し唸りながらやっと離れてくれる。

 

「もちろん分かってますよ。あ、陽乃さん」

 

 呼びながらくいくいと手招きをして、周りになるべくバレないように陽乃さんの頬に軽くキスをする。

 

「……んっ、進路相談頑張ってくださいね」

 

「はぁ……これじゃ集中できなくなっちゃうじゃない。……ばか」

 

 陽乃さんは俺の身体をとんっと出口に向かって押しながら恥ずかしそうにぽしょりと呟く。やっぱ攻められると弱いとことか超可愛いわ。

 緩みそうになる頬を軽く押さえながら足早にこの場を後にしようとすると、まだ一人だけこっちに視線を向けている人がいた。

 ……ていうかめぐり先輩だった。

 

「はわ、はわわわ……」

 

 やべぇ、これ絶対キスしてるとこ見られてたわ……。

 

 

××××××

 

 

 会議室を後にしてから部室に戻ったら、雪ノ下と由比ヶ浜がめっちゃ満面の笑みで待っていた。うん、天国(陽乃さんからの抱擁)から地獄(お説教)へ叩き落とされましたねはい。

 まぁなんやかんやで部活も終わり(ほとんど記憶がない)、今は進路相談が終わった陽乃さんを校門で待っている。

 陽乃さんからの『今から行くね』というメールを確認してから少し待つと、陽乃さんがぱたぱたと走ってくる。

 

「ごめん、待った?」

 

 軽く息を切らせながら陽乃さんが少し申し訳なさそうにする。何かこれデートの待ち合わせみたいだな……。

 

「いえ、俺もさっき部活終わったばっかなのでそんなには待ってないですよ」

 

「比企谷くんは素直だねぇ。そこは普通全然待ってないって言うところだよ?」

 

「はは……すみません。じゃあ行きましょうか」

 

 自転車を押して歩き出すと、隣を歩く陽乃さんが不満そうにぽしょりと呟く。

 

「むー、自転車邪魔だなぁ……。今は手を繋ぎたい気分なのに」

 

「……壊すとか言わないでくださいね」

 

「比企谷くんはわたしのこと何だと思ってるの……」

 

 そりゃもちろん大魔王兼ぴゅあぴゅあ天使に決まってるじゃないですか。

 というか、この人は常に身体を触れ合わせてなきゃ満足できない病気か何かなのかな?

 

「はぁ……」

 

 ため息を吐きつつ陽乃さんの手をぎゅっと握り、しゅるしゅると動かして指を絡めた。

 

「……これで満足ですか?」

 

「満足だけどその言い方だと何か仕方なくみたいでちょっと嫌だなー」

 

 陽乃さんは頬を少し赤らませながら不満げな表情を浮かべる。

 

「……俺だって嬉しいに決まってるじゃないですか。言わせないでくださいよ……」

 

「そ、そう……」

 

 恥ずかしくなり、お互い少し俯きながら無言で歩き始める。冬の冷たい外気に晒されているというのに、やけに顔が熱い。

 ていうか片手で自転車押すの意外としんどい……。でも、もう片方の手が天国だから気にしない。

 

「ねぇ、比企谷くん」

 

 しばらく歩き続けていると不意に、手を繋いでいた陽乃さんの動きがぴたりと止まる。俺もそれに合わせて立ち止まった。

 

「どうしました?」

 

 聞くと、陽乃さんは上目遣いでこちらを見つめてくる。

 

「進路相談会始まる前に言ったこと覚えてる?」

 

 ……。

 …………。

 ……………………。

 うん、まったく思い出せない。だって陽乃さんに抱きつかれたり部室で二人にお説教とかで割と濃密すぎる時間だったからね……。

 

「えーと、すみません。陽乃さんが可愛かったことくらいしか覚えてないです」

 

「そ、そういうことじゃなくてさ……。その、わたしのこと甘えさせてくれるんじゃないの?」

 

 そこでデレちゃうのね。ちょっと陽乃さんチョロすぎない?

 うん、そういえば確かにそう言ってたな……。それで公園で立ち止まったわけか。まぁここなら人目につきづらいし大丈夫か。

 

「……ちょっと寄り道していきませんか?」

 

「……うん」

 

 陽乃さんは俺を見つめながら繋いでいた手の力を強めてくる。

 その瞳はしっとりと濡れていて、切実な感情を纏っていた──。

 




陽乃さんとのラブコメ感がすごかったです。久々に書くぴゅあぴゅあはるのんめっちゃ楽しかったです(๑´ω`๑)
後編はもっと甘々にしていこうと思います!

もうそろそろお気に入りが2500いきそうでテンション上がってます。あと感想もそろそろ200いきそうです。さらに評価人数ももう少しで100人いきそうで色んなことにwktkしてます。
いつも楽しみにしてくれてる方はもしよければ感想や評価してくれたら嬉しいです!その分私のモチベにも繋がって更新頻度も上がるからウィンウィンですよね!もしよければよろしくお願いします!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり大魔王(ぴゅあぴゅあ天使)が甘えん坊なのはまちがっていない。【後編】

 

 陽乃さんと公園の前で立ち止まる。

 既に日はとっぷりと暮れていて、真冬の寒々しい宵闇が辺りを包んでいる。当然の如くその公園に人影はなかった。

 陽乃さんは熱に浮かされたような表情で俺を見つめながら、ぎゅっと手を握る力を強めてくる。

 

「……行きましょうか」

 

「……うん」

 

 公園に歩を進める。今からのことを考え、自転車は人目になるべくつかない所に止めた。

 陽乃さんが甘えたいって言ったのだから、つまりそういうことをしたいって合図なはずだ。

 それに通りかかった人にバレると色々とめんどくさいからな……。リスクは最大限まで抑えた方がいいに決まっている。

 まぁ最初からそんなことをするわけではないので、とりあえず陽乃さんと一緒にベンチに座る。

 

「はーっ、寒いね」

 

「そうですね」

 

 確かに寒いけど陽乃さんの手めっちゃ熱いんだよな……。これからのことを考えて緊張でもしてるのか。俺も同じだけど。

 

「学校来たときびっくりした?」

 

「いや、だいたい予想はできてましたからそこまでは」

 

「つまんないなー。……じゃあ嬉しかった?」

 

 言いながら控えめにちろりと覗きこんでくる。だが、聞くのが恥ずかしかったのか俺と目が合うとすぐにぷいっと顔を前に向けてしまう。

 

「……そりゃもちろん」

 

「……ん、それならよし」

 

 満足そうにくすりと微笑む陽乃さん。嬉しそうで何よりです。

 

「でもあんまり久しぶりって感覚はなかったですけどね」

 

「まぁわたしたち毎日電話とかしてるしね。でも比企谷くんから全然してくれないのはお姉さん的にポイント低いなー」

 

 足をぱたぱたさせながらぷくっとあざとく頬を脹らませる。やってることが子どもにしか見えない。ていうか小町の真似しないでくださいよ……。

 

「そりゃ俺からとか恥ずかしいじゃないですか……。それにもし陽乃さんが忙しい時だったら迷惑になりま──」

 

 言いかけた途中で、陽乃さんが唇にぴとっと人さし指をくっつけてくる。見ると、少しだけ怒ったような表情をしていた。

 魔王オーラ出てますやん……。怖い、漏らしそう。

 

「迷惑なんて言っちゃだめ。……分かった?」

 

「……すみません」

 

「もー、この前は比企谷くんすごい積極的だったのになー。何かいつもの比企谷くんに戻っちゃったみたい」

 

「逆に聞きますけどずっとあんなんでいいんですか?」

 

 聞くと、あごに手を当てて「んー」と言いながら考える素振りをする。

 

「けっこうあり、かな?」

 

 ありなのか……。え、なに? 陽乃さんは俺が積極的になって好き好きアピールしてくるのを望んでる感じなの? それできゅんきゅんしたい感じなの?

 いや、まぁそういう陽乃さんも普通に可愛いし見てみたいな……でも恥ずかしいな……とか色々考えていると、ふいに──繋がれている手に熱がこもる。

 

「だからさ、その……」

 

 陽乃さんはくにゃっと眉根を寄せながら潤んだ瞳で見つめてくる。恥ずかしいからこれ以上は言わせないでと訴えているようにも見えた。

 ……まぁ多分だけど、この人も一週間会えなくて寂しかったんだろうな。ならそのご要望に答えるのが俺の役目だ。

 

「……ちょっと来てください」

 

 陽乃さんの手を引いて連れてきたのは、公園の奥の方で木や遊具により周囲から死角になっている場所だ。ここなら多分気づかれない……はず。うん、細かいことは気にしない。

 

「比企谷くん……?」

 

 不安げに俺の名前を呼ぶ陽乃さんの背中に腕を回して、こちらに抱き寄せる。

 

「ふあっ……」

 

 俺の胸にぽすりと顔が埋まると、陽乃さんから可愛らしい吐息が漏れる。

 俺はさらになるべく優しく、それでいて力強く陽乃さんをぎゅうっと抱きしめる。

 

「んうう……っ。ひ、比企谷くん……ちょっと力強すぎるよぉ……」

 

「……このくらいのがいいですよね?」

 

「そ、そうだけどぉ……」

 

 少しだけ力を緩めると、胸に顔を埋めていた陽乃さんが顔を上げる。その頬は暗くても分かるくらい真っ赤に染まっていた。

 

「この一週間、会えなくて寂しかったんですか?」

 

「……別にそんなことないよ」

 

 ここで素直じゃなくなるのか……。

 

「……俺は陽乃さんに会えなくてめっちゃ寂しかったです」

 

「……ふーん。そっか」

 

 興味なさそうに呟くが、陽乃さんは緩みそうになっている頬をバレないように頑張って我慢していて。

 多分、いざ甘えられる状況になったら恥ずかしくなってしまったのだろう。

 そう思うとやっぱり陽乃さんも普通の女の子なんだと改めて実感する。

 

「キス……してもいいですか?」

 

「……ん、いいよ」

 

 ぽしょりと呟くと、陽乃さんは瞳を閉じて唇を寄せてくる。

 彼女とは逆の方向に首を傾げ、ゆっくりと彼女に唇を重ねた。

 

「んっ……」

 

 唇が重なると、陽乃さんも背中に手を回してきて、より身体が密着がする。ここが外だということもあって、唇からは陽乃さんの緊張と興奮が直に伝わってくる。

 唇も胸も柔らかすぎてちょっと色々とヤバいんだけど……。

 

「ぷはっ……はぁっ、はぁっ……んっ……」

 

 唇が離れると、うっとりと目を細めた陽乃さんから白い吐息が弾む。

 だが、呼吸が整う暇もなく陽乃さんはすぐに唇を奪ってくる。

 

「んふう……比企谷くん……んんっ、ちゅっ……んむう、んっ……」

 

 身体を悩ましげに動かしながら陽乃さんと舌を絡ませ合う。

 とろんと目尻を下げた陽乃さんは、もっともっとと言わんばかりに身体をくねらせ、唇を重ね、舌を絡ませてくる。

 それがどうしよもないくらい愛おしくて、彼女の頭をキスしながらくしゃくしゃと撫でる。

 

「んんっ……っ!? ぷはっ、あ、や、うぅ……きゅ、急にそんな優しく頭撫でてくるなんてナマイキ……」

 

 慌てて唇を離した陽乃さんが甘い吐息を漏らしながら頭に乗っている手を掴んでくる。

 あ、あれ……? 頭撫でるの駄目な感じ? めっちゃさらさらしてて撫で心地最高なのに……。

 

「駄目なんですか?」

 

「……んーん、いいよ。だから、……もっとしよ?」

 

 陽乃さんは俺の頬に手を当てながら、上目遣いの潤んだ瞳で見つめてくる。

 

「……もちろんですよ」

 

「ふふっ……」

 

 嬉しそうにくすりと微笑む陽乃さんに釣られて、俺もふっと頬が緩んでしまう。

 今度こそ彼女の頭を優しく撫でながら、愛情を確かめ合うように、陽乃さんと唇を重ねた──。

 

 

××××××

 

 

 あれからかなりの時間陽乃さんとイチャイチャして、今は陽乃さんを駅まで送っている最中だ。

 陽乃さんは楽しそうに鼻歌を歌いながら俺の腕に抱きついている。しかも肩に頬ずりまでしてくるくらいルンルンだからかなり満足してもらえたのだろう(でも自転車押して歩いてるから色んな意味で辛い)。

 外が暗くて人が少ないのが本当に幸いだった……。こんなん知り合いに見られたら恥ずかしくて死んじゃう。

 

「やっぱりわたし、もっと落ち着けるところで比企谷くんと二人きりになりたいなー」

 

「……そうですね」

 

「もー、反応薄いよ? それに比企谷くん顔真っ赤だよ? どうしたの?」

 

 にやにやと目を細めながら陽乃さんが腕を揺すってくる。メロンがむにゅむにゅ当たってちょっと柔らかすぎて意味が分からない。

 はぁ……この人絶対分かって言ってんだろ……。ていうかブーメラン投げてることには気づいてないのかしら?

 

「いや、陽乃さんだって真っ赤じゃないですか……」

 

「ふふっ、もちろんそうだよ。比企谷くんがあんなにエッチなことしてくるから身体が火照っちゃって……んっ、どうしてくれるの?」

 

 蠱惑的な笑みを浮かべながら陽乃さんが恥ずかしいことを平然と言いながら、俺の頬にちゅっと音を立てながらキスをしてくる。うん、絶対さっきより俺の顔真っ赤になってるわこれ……。

 

「はぁ……まぁ、そこは一人で何とかしてください……」

 

「それはさすがにドン引きだよ……」

 

 いや、自分でも分かってるから言わないでほんと……。冷静な判断なんて今日の俺にはもうできないから。

 

「んー……あっ、わたし一人暮らししよっかなー」

 

「は? 何で一人暮らし?」

 

 いやそんな「コンビニ行ってこようかなー」みたいなノリで言うようなことじゃないでしょそれ。

 

「そうすれば比企谷くんと二人きりになれる機会がいっぱい増えるでしょ?」

 

「や、まぁそうですけど……。でも平気なんですか? 親の承諾だってありますよね?」

 

「多分平気だと思うよ。仮にだめって言われても何とかするし。比企谷くん知ってる? 恋する乙女は強いんだよ?」

 

「自分でそれ言っちゃうんですか……」

 

 ぱちっと可愛らしくウインクをする陽乃さんはすごく可愛いけど、この人何するんだろって不安の方が大きくて複雑な気分になりました。

 

「あ、もうここで大丈夫だよ」

 

 ぱっと腕から離れてた陽乃さんは俺の目の前に来ると、目を閉じてからんっと唇を差し出してくる。

 周囲に人がいないのを確認してから陽乃さんと唇を重ねる。瑞々しいフローラル系の香りがふわっと漂い、柔らかい吐息が唇越しに伝わってくる。

 

「んっ……へへっ、また今度ね」

 

「はい。帰ったらちゃんと俺から電話しますから」

 

「……ん、わかった。じゃあばいばい比企谷くん!」

 

 頬をまた朱に染めながら嬉しそうに微笑んだ陽乃さんは駅の方へ歩いて行った。

 はぁ……一週間ぶりに会ったけどやっぱあの人ってほんと自由だな。甘えん坊でキスも大好きとか普段のイメージと違いすぎてほんと可愛すぎるんだけど……。

 あの大魔王兼ぴゅあびゅあ天使が自分の城を手に入れたら色々と大変なことになりそうだな……。や、まぁそれもちょっとというかかなり楽しみだけど。

 ……うん、俺ほんと陽乃さんのこと好きすぎだな。

 




はるのんアフターいかがでしたか?久々に書くぴゅあぴゅあはるのん楽しかったです(๑´ω`๑)
次のはるのんアフターへのバレバレな伏線的なのも書いときましたし次はもっとイチャイチャできる予感……( *´艸`)

次回の更新はちょっと私用が色々とあるので6月になる予定です。5月中に投稿するとしても1回だけになる予定です。多分今年はそういうことが多くなる予感……。把握しといてくれたら助かります。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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折本√ 何故か、俺は中学の同級生と再び関わり始めることになる。【前編】

折本√スタートです!


 

 冬休みが終わり、学校が始まってからもう一ヶ月が経過しました……。こ、こんなのあんまりじゃないか! あ、唐突なブチ切れすみません。

 

 俺だってこんなことになるとは思わなんだ。進路相談にマラソン大会、奉仕部への依頼をこなしていたらあっという間に一ヶ月が経過してしまった。

 正直、一ヶ月という期間は俺には長すぎた。冬休み中の「絶対彼女作るぜ! ヒャッフー!」みたいなテンションはどこへやら。もうそんな気持ちは一欠片も残っていません。

 

 そう考えると中学時代の俺ってマジぱねぇっすわ……。いくつ黒歴史を抱えても気にせずレッツパーリィして惨敗しまくってたからなぁ……。

 それに関しては完全にトラウマを植え付けてくれた彼女には感謝……はしねぇな。あれ結局俺の自業自得だし。

 

 今日は雪ノ下と由比ヶ浜が用事があって部活に出れないということで、手持ち無沙汰な俺は暇つぶしがてら千葉に来ていた。俺一人で依頼人待つとか絶対無理だしな。もし初見の依頼人だったら確実にキョドって死んでた。だから平塚先生に残される前に逃げてきちゃったぜ☆

 

 書店で何冊か新刊の本を購入し、スタバは相変わらず俺には無理くさいので、以前にも訪れたことのあるドーナツショップへと行くことにした。

 店内に入って、適当に注文をしてから二階席へと上がる。カウンター席を目指そうとすると、視界の端で、俺のほうを見ている二人組の女子高生がいることに気づく。

 正確に言えば俺のことを見てるのは一人だけ。もう一人は俺がいることに気づいてない。

 

 ん、んん……? ていうか俺、なーんかあの子見たことある気がするぞ……。海浜総合の制服着てるし。

 つーか、俺に気づいてないほうの女子って折本じゃね……? 

 

「ね、ねぇかおり」

 

「ん? 千佳どうし……あれ? 比企谷?」

 

「お、おう……」

 

 ふぇぇ……苗字も名前の漢字も分からないからチカちゃんって呼ぶしかないよぉ……(ごめんなさい)。そのチカちゃんは俺と目が合うと、気まずそうにふいっと顔を逸らす。

 ……ま、そりゃそうだろうな。葉山のいらん気遣いのせいであっちは俺の印象良くないだろうし。何ならそれがなくても印象良くないまである。

 

「比企谷ひとり?」

 

「ん、ああ。つーか前も言ったけど俺はだいたい一人だ」

 

「うん知ってた。マジウケる」

 

 折本はけたけたと楽しそうに笑う。うん、いい笑顔だとは思うけど笑ってるのはあなただけですよ……。チカちゃんずっと気まずそうじゃん! 早く気づいて!

 ここはチカちゃんのためにとっとと俺が立ち去ろうとしたが、俺より先にチカちゃんが椅子から立ち上がってしまった。

 

「ご、ごめんかおり。今日はもう帰るね?」

 

「え? 千佳?」

 

 折本が何か言う前にチカちゃんはすたこらさっさと立ち去ってしまった。や、やっちまったぜ……。あとずっと名前で呼んじゃってごめんなさい。

 ど、どうしようこの状況……と困惑しながら立ち尽くしていると、それを見かねた折本が口を開く。

 

「とりあえず座れば?」

 

「お、おう」

 

 言われるままに折本の隣に座ってしまった。ほんとにどうしようこの状況……。

 

「……何か悪いことしたな」

 

「なにが?」

 

「や、お前とはまぁあれだけど、あの子と俺は気まずいままだろ」

 

 言うと、折本はあーと声を出しながらやっと気づいた表情をする。

 

「そだったね。忘れてた」

 

「……そうだろうと思ってた」

 

 ぶっちゃけ折本とも気まずいっちゃ気まずいんだけどな。前に友達ならありとか言われたけど、今の情緒不安定な俺からしたら「こ、恋人じゃ駄目なんですか……?」って感じる程度には気まずい。

 うん、これは完全に俺が悪いですねはい。

 

「ていうか比企谷が気遣いできるとかマジウケる」

 

「ばっかお前、俺が普段どれだけ周りに気ぃ使って生きてると思ってんだ。何なら呼吸することさえ躊躇っちゃうまである」

 

「さすがにそれはウケないんだけど……」

 

「そこはウケてくれよ……」

 

 何で意味の分からんことではウケんのに俺の自虐ネタはウケてくれないんだよ……。それより何で俺は折本と普通に会話してるのん?

 これじゃせっかく買った本ものんびり読めんしやっぱり退散しようか悩んでいると、折本がコーヒーに口をつけて、ふいーと一息ついてから視線を向けてくる。

 

「比企谷さ」

 

「あ?」

 

「少しは自分に自信持ったら?」

 

「は、はぁ」

 

 唐突にそんなこと言われても正直困るんだけど……。

 

「んー、じゃああたしが比企谷に自信つけたげる」

 

「いやいや何言い出してんの急に……」

 

 言うと、折本は以前にも見たことのあるつまらなそうな顔をする。

 

「前にも言ったじゃん。人がつまんないのって、結構見る側が悪いのかもって」

 

「そういやそんなこと言ってたな。……それで?」

 

「比企谷ってウケるしもっと自分に自信持ってもいいんじゃないかなーって」

 

 言いながら折本は、何かを思い出したようにぷっと吹き出す。……別に俺は自分に自信がないわけではない。や、まぁ実際そんなあるわけじゃないけど勝手に決めつけられるのもごめんだ。

 

「……例えそれがそうだとしてもお前に頼むようなことでもないだろ。ていうか何でお前が俺に気使ってそんなこと言うんだよ」

 

 俺の言葉に折本は笑いを収めて、視線をコーヒーカップに移す。それに手を伸ばし、指先で縁を撫でながら小さなため息を吐く。

 

「……まぁあたしにも思うとこはあるわけ」

 

「……そうか」

 

 多分彼女にも何かしら心情の変化があったのだろう。だが、俺の一方的な理想の押しつけで告白してしまったのに責任を感じてもらう必要はない。まぁ周りに言いふらされたあの頃は正直キツかったし腹も立ったけどな。

 それでも、彼女はそういう性格だ。そのサバサバした性格からも分かるように、友達間でのネタにしようとしただけで悪意があったわけではないはずだ。

 だからこそ、昔とは少しだけ変わった俺と彼女の関係性をわざわざ変える必要もないだろう。今さら過去のわだかまりをどうこうするつもりもないし。

 

「……まぁ、なに。俺のことは別に気にすんな」

 

「大丈夫。正直そこまで気にしてないし」

 

「だろうな」

 

 折本の正直すぎる発言に思わず苦笑が漏れてしまう。なら最初から言わなくてもいいじゃねーか……。

 

「でもあたし結構暇だしさ。やっぱ比企谷に自信つけるの手伝ってあげる」

 

「や、まず俺そんなこと頼んでないんだけど……」

 

「だよね。ウケる」

 

「今の何にウケたんだよ……」

 

 まぁ俺が原因でチカちゃんも帰らせちゃったわけだし、折本の暇つぶしに付き合うのも俺の義務ではあるか。

 

「……具体的には何すんだ?」

 

「うーん、まずは見た目から?」

 

「俺の存在全否定かよ」

 

「だって比企谷髪とかそれっぽくはなってるけどそれ寝癖でしょ?」

 

 折本は俺の顔というか髪を見ながら言う。そんなにじっと見られると結構居心地が悪くなるんだけど……。

 

「……まぁ、そうだけど」

 

「じゃあもうちょっと手入れしないと」  

 

「えぇ……」

 

 何で俺がそんなことしなきゃあかんのだ……。なおも折本は俺を上から下まで眺め続ける。再び視線を顔に向けて俺と目が合うと、折本はハッと何か閃いた顔をする。

 

「目!」

 

「ちょっと折本さん? 確かに目がヤバいのは自覚あるけど流石にちょっとストレートすぎない?」

 

 この子ちょっと遠慮なさすぎでしょ……。そんな球速170キロのジャイロボール並の威力で「目!」とか言われたら前より自信なくなっちゃうよ! ちょっと辛くなってきた……。

 俺が髪のセットより先にカラコンでも付けようか本格的に悩んでいると、折本が自分のバックをがさこそと漁りながら何かを取り出す。

 

「はいこれ」

 

「……何で眼鏡」

 

「あー、これ伊達メガネだから。とりあえずかけてみて」

 

 まぁこれも折本の暇つぶしだろうし、彼女に流されるままに渡された赤縁の眼鏡をかけてみる。眼鏡八幡君を見た折本は意外そうに目をぱちくりとさせる。

 

「おー、すごい。結構イメージ変わるね。似合ってると思うよ」

 

「そうか」

 

「じゃあそれあげるよ。あたしあんまり使わないし」

 

「いや、いらんけど」

 

「いいからいいから」

 

 ぐいっと無理やり押しつけられてしまう。えぇ……これ本当に明日学校の時かけてくの……? 

 

「……と、とりあえず今日はもう帰っていいですかね?」

 

「そだね。あたしもそろそろ帰ろっかな」

 

 もう精神的余裕がなくなりつつあったから本当によかった……。折本がこのままめんどくさい絡みを続けるような奴じゃなくて本当によかった……。

 ヤバい、そろそろ本格的に折本が聖母に見えてきた(錯乱)。

 

「あ、その前に比企谷ライン教えてよ」

 

「あー、俺ラインやってないから適当にやっといてくれ」

 

「今どきラインやってないってヤバくない?」

 

 手渡したスマホを手慣れた手付きで操作しながら折本が爆弾を落としてきた。と、友達いなくてごめんなさい……。

 ていうか俺、今日はゆっくりしようと思ってただけなのに何でこんなことになってるのん……? なにこれ新手のいじめですか?

 

「よし、できた。じゃ、明日の朝写真送ってね」

 

「は? 何の?」

 

「ちゃんと髪セットして眼鏡かけた比企谷の。じゃあ楽しみにしてるねー!」

 

 言うだけ言って、折本は快活な笑みを浮かべながら立ち去ってしまった。折本さんちょっと自由すぎないですかね……。

 

「はぁ……」

 

 流石にこの状況は否が応でもため息が漏れてしまう。確かに女の子と二人きりになるのは望んでいたことだけど、まさかその相手が昔振られた相手とはな。これどう考えても積極的になりようがないじゃないですかー……。

 ていうか折本が言ってた自分に自信つける云々の話全くしてねーな。結局見た目変えろとしか言われてないんだけど……。

 

「はぁ……」

 

 これからどうなっていくか不安になり、俺はもう一度大きくため息を吐いた。

 




二ヶ月ぶりの新ヒロインなのでたまには変化球ストーリでいこうかと思いました。毎回毎回イノシシみたいに全力で積極的に突っ込む(意味深)のもあれかと思いまして。
折本√は今までとは違って八幡が積極的になって折本と付き合うまでの過程が割と長くなりそうです。折本が恋する乙女になるのはもうしばらく先に……。

ツイッターやってます。

@qZqlIQCHmc3Bmsi

最近更新が不安定なので私が生存してるかの確認がてらフォローお願いします。80%はアニメや漫画について呟いてます。もし趣味の合う方がいたらリプくれたりしたら嬉しいです!

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何故か、俺は中学の同級生と再び関わり始めることになる。【中編】

 

 翌日の朝。いつもより早く起きた俺は折本に言われた通りに髪のセットを試してみようと思い、とりあえず全力でいじくり回していた。

 ある程度いじって多分いい感じにできたはずなので、折本から不本意ながらもらった伊達眼鏡をかけてみる。

 

「お、おお……」

 

 鏡に映った自分を見て思うことは一つ。

 

 こ、この人誰……? え、ほ、本当に私なの……? これが私なんて嘘みたい! キャー!

 

 いやまぁ、実際そこまでではないにしても正直結構変わっていると思う。俺ってやればできる子なんだ! やったね! 

 ……はぁ。学校行きたくねぇ……。

 半ば現実逃避をしながら洗面所から出てリビングへ向かう。まずは小町の反応がどうなるかだよな……。

 

「おはよう小町」

 

「あ、お兄ちゃんおは……よ……う?」

 

 俺の顔を見た小町は目をぱちくりぱちくりぱちくりぱちくりさせる。

 いや、長すぎだろ。ぱちくりがゲシュタルト崩壊してる。

 

「え、ええっと、どちら様ですん……?」

 

 え、何で小町ちゃんれんちょんみたいになってるのん?

 

「そこまで変わってるか?」

 

「いやいやお兄ちゃん変わりすぎたよ! 急にどうしたの!?」

 

「や、なんだろうねほんと……」

 

 俺も本当にそう思うよ、うん。

 

「だってお兄ちゃん彼女作りたいとは言ってたけど、見た目は変えるつもりないって言ってたじゃん」

 

「や、まぁこれはちょっと色々あってだな……」

 

 俺の中途半端な反応に小町の目が妖しくきらんっと光る。うへぇ……絶対面倒くさいやつだこれ。

 

「……ほーん?」

 

「何そのムカつく反応」

 

「ふっふっふ。小町はわかってしまいました」

 

 人さし指をふりふりしながら俺の周りをぐるぐる回り始める小町。めっちゃ鬱陶しいんだけど……。

 

「……何を」

 

「普段からお兄ちゃんと関わってるお義姉ちゃん候補のみなさんは見た目を変えようなんてことは言わないはずです」

 

「…………」

 

 まずお義姉ちゃん候補ってなんたよ。恥ずかしいからやめてくれ……。

 

「だから小町の予想としては普段あまり関わりのない人。ていうことは他の学校の人かな?」

 

「はぁ……何でわかっちゃうんだよ……」

 

 これで小町が「小町はお兄ちゃんのことなら何でもわかっちゃうんだよ! あ、今の小町的にポイント高い!」とか言い出したら絶対許さない。

 

「小町はお兄ちゃんのことなら何でもわかっちゃうんだよ! あ、今の小町的にいひゃいひゃい!」

 

 こ、こいつ、俺が考えてたことそのまま言おうとしやがった……! むしろ俺の方が小町のこと知ってるな。うん、これは八幡的に超ポイント高い。

 

「それで、その新しいお義姉ちゃん候補って誰なの?」

 

「勝手にお義姉ちゃん候補にするんじゃねぇよ……。別にそんなんじゃないしただの中学の時の同級生だ」

 

「へ……?」

 

 まぁそりゃそんくらいは驚くとは思ってたけど。俺の中学時代を知ってる小町からしたら……そりゃ、ねぇ?

 何か自分で言って泣きそうになってきた……。

 

「……もしかして地雷?」

 

「多分一番の地雷」

 

 言うと、小町はくりんと首を傾げながら可愛らしく顎に手を当てる。

 

「何でその人とまた関わり始めたの?」

 

「この前クリスマスイベントあったろ? そん時に会ってな。それでまぁなんやかんやあったんだが昨日また会った」

 

「そーなんだ。……平気?」

 

 小町の不安げに揺れる瞳が、本気で俺を心配してくれてるのだと自覚させる。これじゃお兄ちゃん失格だな……。

 

「まぁ関係自体は悪くはないから平気だぞ。……ありがとな」

 

「ならよかった」

 

 何となく気恥ずかしくなったからわしゃわしゃと小町の頭を撫でると、小町は「きゃー!」と楽しそうな声を上げる。ほんといい妹持ったな俺……。

 

「それにしてもお兄ちゃんさ」

 

「ん?」

 

「昔の地雷さえもフラグに変えちゃおうとしてるとかちょっとヤバくない? お兄ちゃんはギャルゲの主人公なの?」

 

 小町はにやにやとした表情で意地の悪いことを聞いてくる。

 むぅ。何かムカつくし軽く反撃してみるか。だいたい俺まだ誰にも積極的になったことないから軽い練習ということで。

 

「……別にフラグに変えるつもりはねぇよ。それに俺がギャルゲの主人公だったら真っ先に攻略するのはもちろん小町に決まってんだろ」

 

 俺のいたずらめいた言葉に反応した小町の頬がかぁっと真っ赤に染まる。

 

「はわ、はわわ……ちょ、ちょっとそれは反則だよ……」

 

 いや、そんな反応されたらこっちまで恥ずかしくなるんだけど……。

 

「あ、そうだ小町。写真撮ってくんねぇか。髪セットしたら送れって言われててな」

 

「あ、じゃあ小町も今のお兄ちゃんと一緒に写真撮りたい!」

 

「おう。ほれ、スマホ」

 

 スマホを渡すと小町はカメラのアプリを起動し、左手を俺の右腕に絡めてぎゅっと腕に抱きついてくる。そのまま右手をふんすっと可愛らしく息を吐きながら頑張って極力前へ伸ばそうとする。

 

「はいっ、ちーず!」

 

 小町の掛け声と共にパシャッとカメラの無機質な音が鳴る。

 

「ん、いい感じかな。あとで小町にも送っといてね」

 

「おう」

 

 小町にスマホを返されたのでそのままラインを起動して、折本のトーク画面へ移動する。昨日の夜少しだけ折本とラインしたからある程度は覚えた。

 

『写真送っといた。妹も混じってるけどそれは気にすんな』

 

 画像と一緒に送ると一秒もせずに画面に既読の文字が浮かぶ。早いな……。こいつもしかして待ってたのか?

 

『どっから画像拾ってきたの?』

 

 お前もその反応かよ……。

 

『いや、拾うも何もどう見ても俺がかけてるのお前からもらった眼鏡だろ』

 

『ほんとイメージ変わるもんだねー。マジウケる』

 

『うっせ。じゃ、もう俺学校行くから』

 

『じゃあクラスの人の反応どんな感じか連絡してねー!』

 

『覚えてたらな』

 

 どうやら折本は顔文字とかスタンプを使わないタイプらしい。や、多分相手が俺だからだろうけど。なにそれ悲しい。

 

「小町、自転車乗ってくか?」

 

「おお、お兄ちゃんが自分から言うなんて珍しい」

 

「今の俺の格好のが珍しいんだけどな……」

 

 本当に珍しい。これ学校で珍獣扱いされるの確定だな……。

 

 

――――

 

 

 小町を学校まで送ってから、時間に余裕もあったのでのんびり自転車を漕いで学校まで来た。現在俺は教室前で立ち止まってます。

 ……。

 …………。

 ……………………。

 うおああああああああ!!!!! こわいよおおおお!!!!!

 

 え? え? え? これほんとに教室入るしかないの? や、まぁずっとここにいた方が違和感あるしな。うん、入るしかないよね。

 

 よ、よしっ、行くぜっ!(謎のハイテンション)

 

 意を決して教室の扉を開ける。いつもなら俺をチラッと見てから「なんだあいつか……」みたいな視線を向けてくるはずのクラスメイトだが、今日は全然違った。

 今教室にいる全員が面白いくらいぽかんとした顔をしている。一番面白い顔してんのは相模。ほんとに珍獣見たような顔してる。何か腹立つ。

 う、うん。無視だ無視。じゃなきゃ心がへし折れる。

 必殺のポーカーフェイスを発動しながら席に座る。隣の席の女子(可愛い)がぽけっとした表情で俺をずっと見てくるからなおさら居心地が悪すぎる。

 

「…………」

 

 …………。

 

「…………」

 

 え、ええっと……。

 

「…………」

 

 と、とりあえず折本に連絡しなきゃ……!(錯乱)

 

 バックからスマホを取り出し電源をつけると、既に彼女からの通知が来ていた。

 

『どうだった?』

 

『クラスの反応がヤバい。助けて』

 

 今は折本の「どうだった?」って言葉が天使にしか見えない。心配してくれて(してない)ありがとう!

 

『マジウケる!』

 

 うわ、一瞬で悪魔に変わったよこの子……。え、もしかして折本さんそれで終わりですか?

 

『や、ほんとに全然ウケないからね?』

 

『あたしはウケてるから平気平気!』

 

 何が平気なのか分からないけど折本が楽しそうに笑ってる姿は容易に想像できますよ……。

 イメチェンしたの本当に無意味なんじゃね……? と脱力感に陥っていると、俺のアホ毛がピクりと反応した。

 こ、この感覚は……!

 

「八幡おはよっ」

 

「おう、おはよう戸塚」

 

 うん、戸塚の挨拶でもう元気でたわ。脱力感とかどっかに消え去ったわ。

 戸塚は俺をじっと見ながら不思議そうに首を傾げる。

 

「八幡イメチェンしたの?」

 

「ま、まぁ少しな」

 

「そっか。いつもの八幡もかっこいいけど今の八幡もかっこいいね!」

 

「おうっ。ありがとな」

 

「じゃあそろそろHR始まるしもう行くね」

 

 結婚しよ。歩きながら胸の前で小さく手を振ってくる俺の嫁(戸塚)に俺も軽く振り返す。

 あ、そうだ。スマホを起動しさっき返事をし忘れていた彼女にメッセージを送る。

 

『良いことがありました。本当にありがとうございました』

 

『なにそれウケる』

 

 や、まぁ戸塚については良いんだけど他の奴らはウケないんだよなぁ……。

 はっきり言おう。さっきから視線が超怖い!

 

 




今回の話は折本がメールでしか登場できなかったので小町√と戸塚√、更には隣の席の女の子(可愛い)√の三つが開拓できそうな勢いでした(゜∀。)
次回は折本さんいっぱい登場させる予定です!折本が好きな皆さんはそれあるー!して待っていてください!(意味不明)

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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何故か、俺は中学の同級生と再び関わり始めることになる。【中編②】

 

 四限目の授業終了のチャイムが鳴り、昼休みになった瞬間に俺は逃げるように教室を抜け出した。そのまま購買でパンを買ってから足早にベストプレイスに向かう。

 

「はぁ……疲れた」

 

 ベストプレイスに着き腰を下ろすと、ため息と共に愚痴のように言葉が漏れてしまう。だって本当に疲れたしな……。

 まぁ何が言いたいかというとあれだ。朝からクラスで俺と関わりのある奴ら全員に話しかけられ続けた。

 やったね俺! 今日からクラスの人気者だよ! やだ、全然嬉しくない。

 

 話しかけてきた奴らの共通点はただ一つ。どうやら全員俺の見た目についてより、見た目を変えた理由についてのが気になっていたようだ。

 もちろん見た目についても聞かれたんだけど。そこら辺はとりあえず適当に濁しといた。

 

 他の名前も知らないモブ共はとりあえず視線が面倒くさいし気に食わなかったです。あ、むしろクラスで一番のモブは僕でしたねごめんなさい。

 隣の席の女子(可愛い)の視線が熱視線すぎたのが一番疲れた……。小さい頃初めて遊園地行った時の小町みたいに目がキラキラ輝いてた。

 普段はクラスでも目立たずに大人しい部類の子(多分)だからその分さらに可愛く見えましたまる。まぁ視線に悪意がなかっただけマシか……。

 

 戸塚に褒められたり隣の席の女子の可愛い一面を見れたのは良かった。だけど、やっぱり見た目変えるのは精神的にも疲れるし間違いだったかなぁ……。

 そんなこと考えながらパンをもぐもぐごくりんこしていると、ポケットからスマホの着信音が鳴り響く。正直誰だか見るまでもないけどまさか電話してくるとは思わなかった。

 ため息を吐きながら着信を押し、多少警戒しつつ電話に向かって声を発した。

 

「……もしもし」

 

『おいっすー』

 

 何故か少し腹立たしい、それでいて明るい挨拶が飛んできた。

 

「……何の用だ」

 

『あははっ、疲れた顔してそうだねー』

 

 問うと、質問とは全然関係ない質問が返ってきた。やだ、この子全然話聞いてくれない……。

 

「お前は楽しそうな顔してそーだな……」  

 

 皮肉混じりに言うと、折本は電話口で笑い声をあげた。

 

「うん、マジウケてたよ。だって比企谷めっちゃラインしてくるんだもん」

 

「や、だってしょうがないだろ。周りからの視線怖すぎて寝るフリもできないから仕方なくお前にラインするしかなかったんだよ……」

 

 俺の言葉に折本の返事はなく、わずかな沈黙の後小さくため息を吐かれる。

 

『仕方なく、ね。……それでどうだった?』

 

「……とりあえず視線がすごかった。これ見た目変える必要なかったんじゃねぇの?」

 

 ていうかこれ自信云々について全く関係ないよね! や、まぁ確かに自分の見た目結構イケイケなんじゃね? とは思えたけどそんなの別に嬉しくないしな。

 

『まあまあそこは気にしないで。あ、そうだ比企谷』

 

「なんだ?」

 

『今日の放課後って空いてる? ちょっと頼みたいことあってさ』

 

「や、俺普通に部活あるんだけど」

 

 部活という単語を聞いた折本はぷっと吹き出す。ああ、そういや変にツボ入ってたんだっけ。

 

『奉仕部だっけ? マジウケる』

 

「どこがウケんだよ。……まぁ部活の後でいいなら話くらいは聞くぞ」

 

『うん、じゃあ部活終わったら連絡して。それじゃねー』

 

「分かっ……切るのはえーよ……」

 

 ううむ、何か俺、昨日から折本に振り回されてばっかな気がするぞ……。

 いや、別に退屈はしないから良いんだけど。でも流石にちょっと疲れたわ……。や、マジで。

 

 

××××××

 

 

 部活を終えてから、俺は昨日彼女と再会したドーナツショップへと向かっていた。折本はもう既に着いているらしい。

 部活でも俺への質問を止むことはなく、雪ノ下と由比ヶ浜から色々と質問されまくった。何故かいた一色にはお化けを見たような顔された。目を見開いたまま「せ、先輩が整形しちゃった……」とか言い出しちゃったし。流石に失礼だった。

 その後もずっと三人からの視線はすごかったし、終いには写真まで撮られ始めるし。俺は見せ物じゃないんだぞ!

 部活でのことを少し呆れながら思い出しつつ自転車を漕ぎ続けると、彼女との集合場所である目的地が見えてきた。自転車を止めてから、店内に入って適当に注文する。二階へ上がると昨日と同じ場所に折本はいた。

 

「おう」

 

「よっ、昨日ぶり。ほんとに見た目変わってるね。結構いい感じじゃん」

 

 彼女の言う「昨日ぶり」という言葉に少し違和感を感じた。一日中ラインしてたせいで感覚狂ってんのかね。まぁどっちにしろ中学の頃の俺が知ったら多分色んな意味で死ぬな。

 ドーナツを美味しそうに頬張る彼女の隣に座り、コーヒーに口をつけてから本題に入る。見た目の話はスルーの方向で。今日の質問攻めのせいで半分トラウマになりかけてる。

 

「……そりゃどーも。それで、用ってなんだ?」

 

「明日あたしらと遊び行かない?」

 

「はい?」

 

 ん、んん……? な、何か聞き慣れない単語が聞こえてきたんだけど……。今折本なんて言った?

 

 遊び? あそび? アソビ? ASOBI……?

 

 ほむん。どれも知らない単語ばかりだな。俺には理解できない異世界の言語のようだ。これはもうゼロから始める異世界言語講座とか開かないと駄目だよね!

 うん、冗談はさておき。とりあえず話だけは聞いてみるか。

 

「……なんで俺? ていうかあたしらってことは他にもいるってことか?」

 

「うん、そゆこと。あたしと千佳と千佳の他の学校の友達二人とで遊ぶはずだったんだけどさ。あっちがクラスの男子何人か連れてくって言い出しちゃってさー」

 

「……で?」

 

 めっちゃ嫌な予感しかしないんですがそれは……。ていうかまたチカちゃんいるの? それだけはマジっべーわ(錯乱)。

 

「それでこっちも呼んできてって言われたんだけどやっぱり急じゃん? だから比企谷にお願いした」

 

「いやいや折本さん? 俺も今言われたばっかで超急なんですけど……」

 

 言うと、折本は少し身を乗り出して俺の顔をじーっと見つめてくる。その視線に耐えきれず思わず目を逸らしてしまった。いかん、何かちょっと恥ずかしいんだけど……。

 

「うん、やっぱ今の比企谷結構イケてるから大丈夫だって」

 

「何が大丈夫なのか教えて欲しいんだけど……。……はぁ。しょうがねーな」

 

 俺の言葉に折本は驚いた顔をしながら目を何度もぱちぱちと瞬かせる。いやまぁ、俺も何で引き受けちゃったか自分でも謎だしな……。折本の気持ちも分からんではない。

 

「え、ほんとに来てくれるの?」

 

「……仮にあっちの男がヤバいのばっかで何かあったりしたら困るからな」

 

 高校生男子とかマジで性欲の塊だし。ソースはもちろん俺。

 それにあっちの男子の目的なんてどうせ折本とチカちゃんと仲良くなることだろうしな。絶対俺みたいなぼっちとは違って女遊びしまくってるチャラ男だろ(偏見)。

 

「やっぱ比企谷ってそういうとこ気遣えるんだ。ウケる」

 

「まぁ一応な。でも俺がいたって役に立つかは分からんけど」

 

「ううん、そんなことないよ。ありがと」

 

 折本は明るいけど柔らかさを含んだ笑みを浮かべる。裏表のないその笑顔にどくんと心臓が跳ね、少しだけ動揺してしまった。

 

「お、おう、おう……」

 

 ……全然少しじゃなかった。オットセイみたいになってる。超恥ずかしい。

 

「なにキョドってんの? マジウケるんだけど」

 

 前言撤回。一瞬で冷静になったわ。

 

「じゃあ明日、よろしくね?」

 

「……おう」

 

 まぁこれも何かの縁だしな。折本と遊ぶのも悪くはないだろう。

 それよりもあれだ。と、とりあえずはチカちゃんとの和解の方法考えなきゃ……!

 

 

 




いろはす√ぶりの中編②でした。次回はやっと折本ちゃんとイチャイチャできるかも……?

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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何故か、俺は中学の同級生と再び関わり始めることになる。【後編】

折本√ラストです!


 

 翌日の昼。仲町さん(そろそろチカちゃん呼びはヤバいって気づいた。あ、名前は折本から聞いた)の友達とは現地集合らしく、初めは俺と折本と仲町さんでとりあえず集まるらしい。

 集合場所に行くと、折本はまだいないようで仲町さんだけがいた。……うん、気まずいな。

 

「あ、ど、どうも」

 

「お、おう」

 

「えっと、比企谷くんですよね?」

 

「あ、はい。そうです」

 

 仲町さんに釣られて俺まで敬語になっちゃったよ。マジで気まずいんですが……。

 

「あ、今日は急になのに来てくれてありがとうございます」

 

 ぺこりと頭を下げてくる仲町さん。やだ、超いい子じゃん。

 

「あー、何か折本に無理やりな。仲町さんは気にする必要ないから。あとできれば敬語もやめてくれ」

 

「う、うん。わかった。あ、そういえば見た目結構変わったね」

 

「あぁ、これも折本に無理やりな」

 

 あれ? そういや俺って全部折本に無理やり何かされてるよね? 

 

「昨日写真見たときはびっくりしたよ。あのときと同じ人だとは思わなかった」  

 

「俺もまさかこういう状況になるとは思わなかったわ」

 

「なにそれ」

  

 仲町さんはおかしそうにくすりと笑う。お、おお……結構いい感じに話せてるな。

 

「最近……っていっても冬休みが終わったあとからかな? 何かかおりがよく比企谷くんの話するようになったんだよね」

 

「え? なんで?」

 

「クリスマスイベントだっけ? そのとき比企谷くんもいたんでしょ?」

 

「いたな」

 

 妖怪ろくろ回しの記憶でいっぱいな俺のトラウマイベントですね。もう二度とあいつらとは会議したくない。

 

「そのとき比企谷くんがマジウケたーとか色々言ってたんだよね」

 

「そうか」

 

「それで昨日もかおりめっちゃ楽しそうでさ。写真送られてきたの見てお腹抱えながら笑ったり、昼休みは電話してくるとか言ってどっか行っちゃうし」

 

「そうか……」

 

 俺が精神的疲労で死にかけてる間ずっと楽しんでたのかよ……。楽しんでもらえて何よりです(白目)。

 

「私思うんだけどさ。もしかしてかおりって無意識に比企谷くんのこと意識しちゃってるんじゃないかなーって」

 

「いや、それはねぇだろ……。俺中学の時振られてるの知ってるだろ?」

 

 前に告白もしてないのに俺が彼氏とかやっぱ無理って言われてるしな。

 

「……うん、そうだね。比企谷くんサイゼ選ぶとかセンスないもんね」

 

「なんだよサイゼいいだろ。今度行ってみろよ」  

 

「ふふっ、やっぱりかおりが言ってた通りだね」

 

「は?」

 

「人がつまんないのって、結構見る側が悪いのかもって。かおりが言ってたの」

 

 言い終えて、仲町さんは少し陰りのある笑みを浮かべる。

 

「……それで?」

 

「それ聞いてあのときのこと思い出したらやっぱ悪いことしちゃってたなーって思ったの。私の勝手な決めつけで比企谷くんのことバカにしちゃってたからね。だから、ごめんなさい」

 

 ……うん、まぁ一言でいうとあれだ。仲町さん超いい人だわ……。過去に俺に黒歴史を植え付けた奴ら全員にこの素直さを見せたい。

 

「……別に仲町さんが気にすることじゃねぇよ。ていうか急にそんな優しくされたらうっかり惚れそうになるからやめてくれ」

 

「ふふっ、そうだね。比企谷くんにはかおりがいるもんね」

 

「や、俺とあいつはそういう関係じゃないから……」

 

 やだ、この子全然話聞いてないじゃないですか……。もう俺振られてるって言いましたよね?

 

「あ、あれかおりじゃない?」

 

「ん? ああ、多分そうだな」

 

 ていうかあいつ来るのおせーよ。こんなに話してたら仲町さんと仲良くなってほんとに惚れちゃうじゃねーか。

 折本は俺たちに気づくと、大きく手をぶんぶん振りながらぱたぱたと此方に走ってくる。

 

「千佳ー! 比企谷ー!」

 

 いや、うるせぇよ。周りから注目集めちゃうから勘弁してください……。

 

「おいっすー」

 

「よっ、かおり」

 

「……おう」

 

 挨拶をし終えると、折本は不思議そうに俺と仲町さんを交互に見る。

 

「何か千佳も比企谷もすっきりした顔してんね。何話してたの?」

 

「や、まぁ別に、な?」

 

「うん、別に、ね」

 

 色々話して気まずい部分はとりあえずなくなったからな。そういうことなら確かにすっきりはした。ただ今からのことを考えるとやっぱり憂鬱になるけど。

 

「ふーん……まぁいっか」

 

 なんだよその意味深な「ふーん」は……。ちょっと気になっちゃうだろうが。

 

「……んじゃ、とりあえず行こうぜ。カラオケだろ?」

 

「うん、そだね」

 

 そのまま適当に話しながら俺たちは歩いて行く。何故か折本と仲町さんに挟まれながらだけど。いや、ほんとなんで……?

 ていうか周りから見たら俺って今超リア充じゃね? 周りからの視線が結構怖いんだけど。マジっべーわ。

 

 

××××××

 

 

 一言だけ言わせて欲しい。どうしてこうなった……。

 相手の方は男三人と女二人の計五人。チャラいけど優しそうな人は仲町さんと楽しく談笑中。何かもうチャラすぎて一周回って戸部よりウザく見える二人は折本を挟んで談笑……というかナンパみたいになってるな。

 んで、一番の問題は俺。な、何で俺が女子二人に挟まれてるの……? 君たちと俺って初対面だよね?

 

 うん、やっぱり伊達眼鏡ってマジっべーわ。

 

「ねぇ八幡くん聞いてるー?」

 

「は、はひっ。き、聞いてるけど」

 

「はひってなにー! 超可愛いんですけど」

 

 なん……だと……。ていうか八幡くんってなに……。

 これじゃカラオケじゃなくて合コンみたいになってるな……。いや、歌うのはもっと嫌なんだけど。

 まぁ自分で言うのもなんだけど、折本が言っていた通り、やっぱり今の俺は結構イケてるらしい。それにこの子たちはクラスで俺がぼっちの嫌われ者っても知らないからな。だからこそ今の状況になっているのだろう。

 ……うん、まぁいい。ここは無心だ。無心無心!

 

「あ、そうだ八幡くん」

 

「な、なに?」

 

「私らと一緒に歌わない?」

 

「へ……?」

 

 ねぇ折本さん! こんな状況になるなんて聞いてないんですけど!

 恨みがましい視線を折本に向けると、折本も困ったような笑みを浮かべた。あぁ……そっちもそっちで大変なのね……。

 

「折本ちゃんって彼氏いる感じ?」

 

「俺最近別れちゃってさー。でもその彼女より折本ちゃんのが可愛いなー」

 

「ちょっ、何お前折本ちゃんに可愛いとか言っちゃってんの?」

 

「いや、別にお前のでもねぇだろ」

 

 いや、君のでもないと思うんですけどね。ていうかコミュ力高いなこいつら。はひっとか言ってる俺超恥ずかしい。

 チャラ男君二人の猛烈なアピールに困ってる折本と再び目が合う。いやまあ、俺も困ってるっちゃ困ってるんだけどね……。

 仲町さんと優しそうなチャラ男君のとこは仲睦まじくて羨ましいです……。俺もそっちに行きたい。

 

「あ、そうだ。二次会的なやつ? 俺ら二人と遊び行かない?」

 

「もちろん俺らが奢るからさ」

 

「え、えーっと、あはは……」

 

 ……はぁ。まぁ、あれだよな。やっぱり知ってる女の子が目の前で困ってるなら助けるしかないよな。わだかまりがあろうがなかろうがそこは関係ない。

 それに前に似たような状況あったけど、あの時の三浦のが怖かったしね! うん、余裕余裕!

 もちろん、ちゃんとこの状況を切り抜ける方法もある。思いついたのは一つだけだけどな。

 

「なぁ」

 

「ん? 比企谷君だっけ? どうしたの?」

 

 今、俺にできる一番の方法は──。

 

「悪いけど、そいつ俺の彼女だからそこらへんでもう勘弁してくれねぇか?」

 

 うへぇ……言ってみたはいいけど超恥ずかしいなこれ。いったいいつから俺はこんな恋愛脳になってしまったんだ……。どう考えても少女漫画とかの読みすぎですねはい。

 ベタすぎるけど今の俺の見た目ならいける! いけると信じたい! イケてるって言われてるしいける! いけるがゲシュタルト崩壊してんなこれ。

 

「あ、そうだったの? それならそうと最初から言ってくれればよかったのに」

 

「いや、すまんな。俺も言い出せなくて」

 

「つーかよく考えたらそりゃそうだよなー。比企谷君イケメンだし俺らが適う相手じゃないわ」

 

「ははは……」

 

 ちょっと不機嫌そうな顔もされたけど話の分かる人らで本当によかった。それよりも隣の女子二人の反応がヤバい。どっちからも「んだよ彼女持ちなら最初から言えよハゲ」みたいな視線がめっちゃ飛んできてる。死にそう。ていうか死んだ。

 

「ちょ、ちょっと席外すわ……」

 

 軽く挨拶をしてからそそくさと部屋から出る。少し歩くと肩の力が抜けると同時に大きなため息が漏れてしまった。

 ……も、もう戻るの怖いしこのまま帰ってもいいかな? あとは折本も適当にやってくれるだろうし。

 それに家に帰ったら多分小町が頑張った俺を褒めてくれるはずだしね! うん、早く帰る理由が増えてしまった。

 善は急げ的なノリで俺は偉大なる一歩(お家へ帰るための一歩)を踏み出そうとすると、後ろからとんっと肩を叩かれる。振り向くと少しだけ疲れた顔をした折本がいた。

 

「よっ、比企谷」

 

「お、おう。お前も便所か」

 

「女子に普通そんなこと言わないでしょ。ウケる」

 

 折本はさっきの困った笑いとは違う、いつも通りの明るく楽しそうな表情で笑う。

 

「じゃあ何しに来たんだよ」

 

「お礼言いにきた。さっきはありがと」

 

「……ん、どういたしまして」

 

 まぁここは素直に受け取っとくか……。実際は女子二人から俺への興味をなくさせるためにあの方法でいったのもあるんだけど。ちょっとだけ自分の為だったってことは内緒の方向で。

 

「やっぱ比企谷ってウケるよね。それにあたしが何か言う必要もないくらい自分に自信あったし」

 

「そりゃあれだ。俺は自分に自信ないとか一言も言ってないからな」

 

 見た目変えるってのも勝手に折本が言い出したんだし。そのせいで割と大変なことになったんだけど。

 ……まぁそれでも、彼女にも俺に対して何か思うところはあったんだろう。だからこそ、やっぱり俺は彼女に負担はかけたくない。

 

「……ただまああれだ。お前からもらったコレがあったから俺はいつもよりちょっとだけ勇気出せた。ありがとな」

 

 眼鏡の縁を軽く指で触れながら、いつもより柔らかい声音で言えた……と思う。ま、これが俺のできる一番のフォローだな。

 

「……はぁ。やっぱ比企谷変わったよね」

 

「そりゃ見た目とか超変わってるし」  

 

「ううん、そういう意味じゃなくてさ。やっぱり比企谷って友達としてはありかな。ウケるし」

 

 話の繋がり方がめちゃくちゃすぎんだろ……。何をどうしたらそうなるんだよ。

 ……友達、か。これから彼女との関係を深めていくとするなら一番ベストな形なんだろうな。

 

「……まぁ、別にいいんじゃねーの。じゃあ、その、……友達として一つ頼みがある」

 

「ん? なに?」

 

「もうあそこ戻んの嫌だし俺と一緒に帰らねーか?」

 

 俺の言葉に折本はぷっと吹き出し、お腹を抱えて笑い出した。え、そんな面白いこと言った?

 

「あはははっ! 友達としての最初のお願いがそれってほんとにウケるんだけど!」

 

「や、だって今それ以外思いつかないし」

 

 ていうかうるせぇよ。どんだけ笑うんだよ。

 

「はー、お腹痛いっ……。うん、いいよ。帰っちゃおっか」

 

「おう」

 

 出口へ歩き出した折本の後ろをついてくと、急に折本がくるりと後ろを振り返る。そんなことをされれば当然そのまま彼女にぶつかってしまうわけで。

 

「わっ、ちょ、急に止まるなよ……」

 

 俺とぶつかった彼女をそのまま床に押し倒さないように抱き寄せる形になってしまった。左手は彼女の頭に優しめに、右手は背中に回してがっちりと。

 ……な、何かやっちまったかも。折本動かないで固まっちゃってるし。

 

「あの、折本さん? そろそろ離れてくれない?」

 

「あっ、そ、そうだね」

 

 俺から離れた折本は頬を真っ赤に染めて少しだけ照れたように微笑んだ。意外と初心なんだな……。

 

「……つーか何で急に振り返ったんだ? 危ないだろうが」

 

「ごめんごめん。ちょっと言い忘れてたことあってさ」

 

「は? 何が?」

 

 俺が聞くと、折本は今日一番の明るい表情でにこっと微笑む。

 

「比企谷がさっき助けてくれたときさ、ちょっとだけかっこいいって思ったよ」

 

 言って、彼女は少しだけ頬を朱に染めながら、ぱちっと可愛らしくウインクをした。

 

「はぁ……そりゃどうも」

 

 彼女との関係が少しだけ変わり、これからは色々と騒がしくなることを不安に思いつつ。まぁそれをちょっとだけ楽しみにしてる自分もいるんけど。

 ……あとはあれだ。最後のは少しだけ可愛く見えてしまったのは彼女には内緒だ。

 

 




とりあえず折本√のパート1は終了です。やっぱり折本は他のヒロインとは違って友達からのスタートですよね。
折本√はアフターではなく続編ということでいつになるかは分かりませんが投稿することになります。
次の折本√ではお互いのことを少しずつ意識させてイチャイチャさせられればいいなと思いつつ……。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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オリキャラ√ やはり俺と恥ずかしがり屋な女の子のテンプレ青春ラブコメはまちがっていない。⑴

お久しぶりです!というわけで初めてのオリキャラ√です!


 

 冬休みが終わり、学校が始まって一週間が経ったある日の放課後。いつも通り部室に行こうと思ったが、平塚先生に急遽呼び出された俺は現在職員室の応接スペースにいる。

 平塚先生と二人きりだよやったね! とも思ったが、煙草を吸っている先生の表情はいつもより険しいのでそんなことはすぐに考えられなくなりました。超怖い。

 

「……で、何の用ですか」

 

「ふむ、比企谷。単刀直入に聞くが、君は委員会に所属しているよな?」

 

「あー、はい。確か図書委員に」

 

 一度も参加したことないけど。呼び出されたこともない。なんなら何で俺が図書委員なのかさえ分からない。気づいたらなってたし。とっても不思議!

 うん、ただ単に委員会決めの時に寝てたからですねはい。余ってた図書委員に余り物の俺がぶち込まれてた記憶がある。

 

「参加したことはあるのかね?」

 

「いえ、呼び出されたこともないんで一度も」

 

「やはりか……」

 

 眉間に手を当てる平塚先生から大きなため息がこぼれる。

 

「は、はぁ。それが何ですか?」

 

 聞くと、吸っていた煙草をもみ消してから平塚先生が呆れたように言葉を漏らす。

 

「君はクラスの女子に今まで任せきりにしていたのだよ……」

 

「え?」

 

 てっきり全くお仕事ないじゃないですかやったー! みたいなノリだと思ってたんだけど。

 え、ていうことはヤバくない? もうそろそろ2月だよ? 俺今まで一度も働いたことないよ?

 

「ちなみに今日は丁度君のクラスが仕事らしいぞ」

 

「マジっすか……」

 

 だから今日呼び出されたってことか。納得した。

 

「まぁそういうことだ。頑張りたまえ」

 

「……うす」

 

 新しい煙草に火をつけながらニカッと笑う先生に見送られながら職員室を後にする。部活は行けそうにないし由比ヶ浜にメールでもしとくか。

 うん、とりあえずあれだ。図書室に行くの超怖い。マジっべーわ……。

 

 

××××××

 

 

 もうそろそろ図書室の前で立ち止まってから5分ほど経っただろうか。未だに俺は図書室へ入るのを躊躇っている。

 いや、だってね? 絶対気まずいですよねこれ。まずどうすればいいの? 謝る? 土下座? 土下座なの?(混乱)

 それに今はほとんど忘れられてるけど、俺って文化祭やらの悪評がヤバいからな。元の印象が最悪なんだからどうしよもないよねほんと……。やっぱ土下座しかないか……。

 

「はぁ……」

 

 よし、覚悟を決めよう。ちゃんと謝ってしっかり仕事しよう。こうやって自分に言い聞かせなきゃ現実逃避から帰ってこれなくなる。

 なるべく音を立てずに静かに図書室に入る。放課後の図書室は閑散としていて、しんと静まり返っていた。

 誰もいないのかと疑問に思ったが、入口からは見えない少し奥の方から物音が聞こえる。音のする方に向かうと本棚の整理をしている女の子がいた。

 彼女は俺が入って来たことに気づいていないのか、黙々と本棚の整理をしている。ちょこちょこと動くたびに短めの黒髪がはらりと揺れる。

 もう一人の図書委員ってこの子のことだよな……? ていうか何か見覚えあるような気が。や、同じクラスだし当たり前か。

 

「んー……」

 

 彼女は一番上にある棚に手を伸ばしているが、いかんせん身長が小さいので全然届いていない。

 背伸びして頑張ってるけど足がぷるぷる震えているだけで結局届いてはいない。

 

「あ、あのー」

 

「んっ!」

 

 俺が話しかけると同時に彼女はぴょんっと大きくジャンプをした。

 

「へっ? わひゃあっ!?」

 

 ……うん、これは話しかけたタイミングが悪かった。彼女は指に本をひっかけたまま振り返ったので、そのまま本がずり落ちてしまい見事に頭に本をぶつけてしまった。

 何かデジャヴあると思ったら俺も似たようなことしてたな……。まぁ俺の場合はその後もアホみたいに本落ちてきたけど。

 

「……大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です……」

 

 彼女はよほど恥ずかしかったのか、少したれ目の大きな瞳に涙を浮かべながら、顔を真っ赤にしていた。うん、本って割と鈍器になるし痛い気持ちはよく分かるよ……。

 ……とりあえず落ちた本でも拾うか。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「いや、別に気にすんな」

 

 床に落とした本を拾ってから立ち上がると、未だに顔を真っ赤にしたまま彼女がちらっと見つめてくる。だが、俺と目が合うと恥ずかしいのかすぐに目を逸らしてしまう。そしてまたちらっと見てくる無限ループが続く。

 知り合いの女子よりさらに小柄な彼女が下から見つめてくるので、背の高さの関係上必然的に上目遣いになる。なんつーかこっちまで恥ずかしくなるんだけど……。

 

「え、えっと、な、ななな、何かご用でしょうか?」

 

 いや、さすがにテンパりすぎだろ……。ていうか何で俺ら同級生なのに敬語なの……?

 

「あー、えっと、図書委員の仕事? その、今日俺らのクラスって聞いたから」

 

「あ、そ、そうですか……」

 

 小さな声でぽしょりと呟くと、彼女はもじもじしながら俯いてしまう。

 

「…………」

 

「…………」

 

 沈☆黙! ふええ、会話が全然続かないよぉ……。

 あ、そういやまだ俺この子に謝ってないじゃん。一番の目的忘れてるとかやっぱり俺もテンパってるのか……。

 いくら恋愛に積極的になるっていっても初めて会話する女子相手にとか絶対に無理だわ……。それに不謹慎すぎるし。

 うん、無駄な思考はとりあえずカット。まずは謝らなくては……。

 

「今まで一回も参加してなくてすまん……。結構仕事あったんだろ?」

 

 言うと、彼女は首をぶんぶんぶんぶんと横に振る。え、えっと、それは平気だって合図なのか? ちょっとぶんぶんしすぎじゃない?

 

「そ、そんなことないでしゅ……ないです。き、気にしないでください……」

 

 噛んだことが恥ずかしいのか彼女はまた顔を真っ赤にしてしまった。

 うーむ、さっきから話してるけどあれだ。何か近いものを感じるぞこの子。

 ……あー、分かった。このキョドり方どっかで見たことあると思ったら中学の頃の俺だわ。この子男子と話慣れてない感じのタイプか。

 つまり男子苦手で言えなかったと。ていうことは俺最悪すぎじゃね……?

 

「や、マジで本当に悪かった……」

 

「い、いえ、本当に大丈夫ですので頭を……」

 

 この子ちょっと良い子すぎませんかね……。彼女も謝られるのは嫌なんだろうしやっぱりここは礼のがいいよな。

 

「……ありがとな。今まで俺の分まで仕事してくれて」

 

「は、はひっ……」

 

 はひって何だそれ超可愛いんですけど。まぁ男子苦手なんだろうしあとは仕事だけして戻るか。

 

「仕事って何やればいいんだ?」

 

「えっと、今日は本の整理をちょっとするだけです」

 

「ん、分かった。じゃあ俺あっちからやるわ」

 

 ここから一番離れた場所へ行こうとすると、何故か彼女も俺の後ろをついてきた。いや、ほんと何で?

 何か言うわけにもいかないし本棚の整理を始めると、驚くことに彼女から話しかけてきた。

 

「ひ、比企谷君は何で今日委員会があることを?」

 

「あー、先生に言われてな。それで今日委員会あること初めて知った。つーか何で今まで呼ばれなかったのかほんと謎なんだけど」

 

「他の人は放送とかで呼び出されたりしてたんですけど比企谷君だけ呼ばれなくて……」

 

 うわ、さすがに存在感なさすぎでしょ俺……。

 

「まぁ何にせよ悪いことしちまったな」

 

「それはさっきから何度も聞いてるので謝らないでください……」

 

「ん、分かった」

 

 さっきはテンパりまくってたけど落ち着けば意外と普通に話せるんだな。というか一つだけ気になることが。

 

「ちょっと聞いていいか?」

 

「はい? 何でしょうか?」

 

「何で俺の名前知ってんの?」

 

 聞くと、彼女は「ふぇ?」と言わんばかりにこてんと首を傾げる。まさかの天然性ですかこの子……。

 

「え、えっと、それは同じクラスですので……」

 

「あー、まぁそうだよな。変なこと聞いたわ。悪い」

 

 クラスの奴らは俺のことヒキタニって呼ぶからな。それなのに話したこともない彼女が何で俺の名前を覚えてるのかは少しだけ気になってしまう。

 

「……ずっと席が隣なので覚えてます」

 

「え、マジで?」

 

 言いながら、俺が困惑の表情をすると。

 

「え、知らなかったんですか……?」

 

 彼女も困惑の表情を見せた。よほどショックだったのか目尻には少しだけ涙を浮かべている。

 

「俺そういうのほんと無頓着だから……」

 

「じゃ、じゃあもしかして名前も……?」

 

「……すまん」

 

「い、いえ……」

 

 そのまま、お互い俯いてしまう。ヤバい、一気に気まずくなってしまった……。

 名前、か……。ほぼ一年間隣だったのに覚えてないってさすがに酷すぎるな。

 

「……名前、聞いてもいいか?」

 

「……葉月 双葉です」

 

 少しだけ不機嫌そうに頬を膨らませながら、彼女はぽしょりと呟いた。

 




というわけで、隣の席の女の子(可愛い)としてたまに登場していたモブ子ちゃんだった女の子に名前をつけてみました。
初めてのオリキャラの葉月 双葉ちゃんです。読み方は「はづき ふたば」です。話を進めるごとに彼女がどんな子かを表現できていけたら良いなと思ってます。

これから少しずつ八幡と関係を深めていってはやくイチャイチャさせたいですね。八幡が双葉ちゃんに積極的になるのはもう少し先になりそうです……(๑´ω`๑)

あ、よろしければ感想をお願いします。初めてのオリキャラですので皆さんの感想を聞きたいです。よろしければお願いします!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり俺と恥ずかしがり屋な女の子のテンプレ青春ラブコメはまちがっていない。⑵

今回は後書きに大事な話(アンケート)があります!ぜひ協力してください!


 目の前にいる少女──葉月 双葉という女の子はただただ可愛らしかった。

 さらさらとした艶のあるショートヘアの黒髪に、少したれ目な大きな瞳。すっと整った鼻に小さな口が、身体の小さな彼女により小動物を連想させている。

 そんな彼女は今、俺に名前を覚えられていなかったのがショックだったのか、目尻に涙を浮かべている。先ほどまではずっとおどおどしていた彼女だが、今は少しだけ怒った表情をしながら頬を膨らませている。

 

「葉月さんな。ちゃんと覚えた」

 

「さんは付けなくても……。同級生なんですし」

 

「ん、分かった。それなら葉月だって俺に敬語使う必要なんてないぞ?」

 

 言うと、葉月は頬を真っ赤に染める。

 

「そ、そそそ、それは無理です……」

 

「無理なのか」

 

「む、無理です……」

 

 持っていた本で顔の半分を隠しながら目だけをこちらに覗かせる。まぁ俺と目が合うとすぐに逸らしちゃうんだけど。

 何というかあれだな。俺に対してここまで恥ずかしがる女子が今までいなかったから新鮮な気持ちだ。

 

「葉月は男子苦手なのか?」

 

「は、はい。今まで男の子とはほとんど関わったことがなくて……」

 

「え、マジで? 普通に可愛い顔してんのに……あ」

 

 ……っべーわ。ちゃんと話したの今日が初めてなのに何言ってんの俺……。いや、ほんとマジっべーわ。

 やだよぉ……冬休みの間に変な方向に特化しすぎちゃったよぉ……。これじゃただの女たらしのチャラ男じゃねーか。

 見た目地味目なのに中身だけチャラいって……。うん、怖すぎるな。

 やっちまたなぁと反省しつつ彼女を見ると、葉月はこれでもかというくらいに顔を真っ赤にしながら目を泳がせていた。口はぱくぱくと開いたり閉じたりしてせわしない。

 

「そ、そそそそ、そんなことないですっ! 私なんて全然可愛くにゃんか……」

 

 ……うん、今のもかなり危なかった。反射的に「その反応が既に可愛いんですが」って言いそうになった。

 

「……あー、何か悪い。いきなりこんなこと言われても気持ち悪いだけだよな」

 

「い、いえ、そんなことは……。ちょ、ちょっと驚いただけです」

 

「や、だって俺ぼっちだし。同じクラスなんだから色々悪い噂だって知ってるだろ?」

 

 今の状況だって一緒にいるのを見られたら割とヤバいかもしれないのに。まぁもうクラスの奴らが俺の存在を認識してるかさえ危ういんだけど。人の噂も七十五日ってほんとなんだな……。辛い。

 

「えっと、その……わ、私は、人を噂で決めつけるのは良くないと思ってます……」

 

 葉月は本をぎゅっと胸に抱きしめながら言葉を漏らす。この言葉でさえ彼女は勇気が必要だったのか、その声は少しだけ震えていた。

 

「いや、実際その噂通りなんだけどな……」

 

「え? そ、そうなんですか?」

 

 聞き返してくる彼女に俺は苦笑いしかできない。そんな俺を見て彼女も少し困ったように苦笑いを浮かべた。

 な、何かごめんね? また俺空気悪くしちゃったよ……。

 

「で、でも、えっと、そのことは別に私は気にしませんから……」

 

「へ? いや、何で? それなら普通俺となんて関わりたくなくなるだろ?」

 

 この子ほんとに大丈夫なんだろうか……。良い人すぎるのか天然なのか鈍感なのか分からなくなってきた。

 

「だって比企谷君のしたことってその……小学生でもよくあることじゃないですか」

 

「や、俺一応高校生なんだけど……」

 

「あ、ご、ごめんなさい。それはちょっとした例えなので……。わ、私は相手にハッキリ物事を言うのは悪くないと思いますよ?」

 

 おどおどあわあわと言いながら彼女は「あ、でも」と付け足す。

 

「女の子を泣かせるのはある意味関心しちゃいますけどね……」

 

「や、まぁそりゃそうだけど……。それにしたってついさっき関わり始めたばっかなのに俺の評価高すぎないか?」

 

 聞くと、葉月は顔を赤らめながらちらりと上目遣いで見つめてくる。

 

「だ、だって比企谷君は良い人ですから。いっぱい謝ってくれてちゃんと仕事も手伝ってくれてますし……」

 

 やだ、この子ちょっとチョロインすぎない? まぁもう良い人認定(死刑宣告)されちゃったけどね! 

 ふええ、ぜんぜん脈がないよぉ……(当たり前)。

 

「あ、な、何かごめんなさい……。色々変なこと言っちゃって」

 

「いや、気にしなくていいぞ。こっちもその、なんだ。……ありがとな」

 

 何となく口から漏れてしまったその言葉に、葉月はまた顔を真っ赤にしてしまう。そろそろそんなに顔真っ赤にして大丈夫なのか不安になってきた。

 

「は、はひっ。どういひゃひまして……」

 

「そこで噛むのか……」

 

「うぅ……」

 

 恥ずかしそうに唸りながら俯いてしまう彼女を少しだけ可愛いと思いつつ。俯いている彼女が手に持っている本を見て本来の目的を思い出す。

 

「そろそろ整理の続きやるか」

 

「そ、そうですね」

 

 つーか何で俺たち図書室の奥の方で立ちながらこんな話してたんだろ……。うん、俺が葉月の名前覚えてないのと急に可愛いとか言い出したのが悪いんですね。

 

「つっても特に整理するとこねーよなこれ」

 

「は、はい。あんまり利用する人も少ないですしね」

 

「まぁそりゃそうだろうな」

 

 それでも少しは整理するとこはでるわけで。他の本より出っ張ってたりする本や、順番が間違っている本を直したりと割と簡単だった。

 そんな作業を繰り返しているとふいに、隣で整理をする彼女が動きを止めた。

 

「ん……っ」

 

 葉月は背伸びをしながらぷるぷる震えながら二段目の棚に手を伸ばしていた。一段目の時とは違く何とか本に指は引っかかっている。そんくらい俺がやってもいいのにな……。

 

「これか?」

 

「んー……」

 

 俺が手を伸ばすと同時にもう一度頑張って背伸びをした葉月の指が少しずれる。ぴとりと──彼女の白くて細い指が俺の指に触れた。

 

「ひゃわっ!」

 

 慌てて指を離した葉月は身体ごと後ろに向けてしまう。

 

「わ、悪い……」

 

「い、いえ、こちらこそ……」

 

 ううむ、ちょっと指を触れただけでこの反応ってさすがにマズいんじゃないだろうか……。この子将来悪い男に引っかかってしまうんじゃ……。

 ……ほぼ一年間この子に図書書委員任せっきりだったもんな。お礼ということで一つ聞いてみるか。

 

「なぁ葉月。ちょっといいか?」

 

「……は、はい?」

 

 ぷるぷると震えながら振り返って俺を見つめる葉月。だが、毎度同じことで俺と目が合うとぷいっと目を逸らしてしまう。その顔はぷしゅーと湯気が昇るんじゃないかというくらい顔を真っ赤にしてしまっている。

 さっき指が触れたから恥ずかしさが倍増してるんだろうか。や、まぁ俺もちょっとだけ恥ずかしいんだけどな。

 俺のおせっかいかもしれないが、そんな恥ずかしがり屋な彼女の役に立ちたい。俺は一つ、覚悟を決めて大きく息を吐く。

 

「……男子に慣れる練習をしないか?」

 

「へ……?」

 

 葉月は大きな目をぱちくりさせながらこてんと首を傾げた。

 




やっぱり0からの関わりなので他のキャラよりかなりのんびりゆったりしてますね。これからものんびりやっていこうと思います(๑´ω`๑)

というわけで前書きに書いた大事な話(アンケート)をしたいと思います。長くなるので先に感想や評価、お気に入り等々よろしければお願いします!

では、お話します。以前メッセージで見づらいのでキャラごとに話をまとめてほしいというメッセージが何件か来ました。
話数ももうすぐ40話ということなので、今まで通りこのまま順番に投稿し続けるか、いろはす√、ゆきのん√みたいな感じでヒロインごとにまとめるかどっちがいいかというアンケートを活動報告で取りたいと思います。
とりあえず、詳しい話は活動報告に書きますのでぜひアンケートにご協力ください!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり俺と恥ずかしがり屋な女の子のテンプレ青春ラブコメはまちがっていない。⑶

今回も大事な話があるので後書きまで読んでください!色々投稿スタイルが変わります!というわけで、オリキャラ√3話目です!


『……男子に慣れる練習をしないか?』

 

 俺のこの言葉を聞いた葉月は、何のことを言っているか理解できていないのかくりんと首を傾げたままだ。

 

「男の子に慣れる練習、ですか?」

 

「ん、そう」

 

 まだ分からないのか、首を傾げたままううむと唸る葉月。

 

「男の子に慣れる……」

 

「そう」

 

「あっ」

 

 葉月はやっと俺の言ったことを理解したのか傾げていた首を戻す。だが、なぜか葉月の頬はみるみるうちに赤くなっていき、

 

「つ、つまり比企谷君とあんなことやこんなことをするってことですか……?」

 

「え?」

 

 顔を真っ赤にしながらもじもじし始めてしまった。な、何かエロい……!

 や、そうじゃなくて。この子今何て言った? あんなことやこんなこと?

 

「え、えええ、えっちなことはだめです……!」

 

「いや、そういうことじゃないから……」

 

 わちゃわちゃ慌てながらぶんぶんと首を横に振る葉月。そのたび艶のある短めの黒髪がふわふわと揺れて甘い匂いが鼻腔をくすぐる。何でこんな甘い匂いするの? 女の子って不思議!

 つーかこの子ほんとに大丈夫なのだろうか……。いや、俺の言い方が悪かったのか。ちゃんと弁解しないと完全に変態になってしまう。

 

「あー、言い方が悪かったな。俺が言いたいのはそういうことじゃないから安心してくれ」

 

「そ、そうですよね。よかった……」

 

 ほっと安堵の息を漏らして落ち着く葉月。何かそれはそれでちょっと辛いけど当たり前のことだから気にしない。うん、ほんと気にしない。

 

「え、えっと、じゃ、じゃあどういうことですか?」

 

「……葉月は男子苦手なんだよな?」

 

 こくこくと頷く葉月。やっぱり小動物っぽいよな。なんというか動きが小さいというか。

 まぁ今はそのことはどうでもいいな。とりあえず説明しなくては。

 

「簡単に言っちまえばあれだ。これから先、いくら苦手とはいえ男子と関わる機会は必ずくるはずなんだよ」

 

「そ、そうですね」

 

「その時に今みたいに苦手なまんまだとどうなる?」

 

「う……た、大変ですね……」

 

 葉月は知らない男子と一緒にいる自分でも想像したのだろうか、その表情は一瞬にして青ざめてしまった。ほんとにどんだけ苦手なんだよ……。

 

「だから俺が葉月の話し相手とかになって少しでも男子に慣れるようになろうって話だ」

 

「あ、そういう意味で男の子に慣れる練習ってことですか」

 

「ん、そういうこと」

 

 大まかに一通りは説明はしたが、葉月は少しだけ渋い表情をしている。

 ……まぁそうだよな。今日初めて話すようなクラスのぼっちにこんなこと言われてもな。やだ、もしかしなくても俺恥ずかしいことしちゃった……?

 

「あー、あれだぞ? ただの俺のおせっかいだし断ってもいいんだからな?」

 

「い、いえ、そんなことは……。ただ、少しだけ気になったので」

 

「何をだ?」

 

「……何で比企谷君はここまで私に気をかけてくれるんですか?」

 

 目が合ったらすぐに逸らしていた彼女が、今は頬を少し朱に染めながら頑張って見つめてくる。彼女もここは目を逸らしちゃいけないと思ったのだろうか。

 あ、と思ったら逸らした。頑張れたの三秒くらいだった。

 

「委員会の仕事ずっと一人でやらせちまってたからな。その礼ができればなって」

 

 そ、それだけなんだから勘違いしないでよねっ! とか付け足そうとしたけどやめた。マジで変人になってしまう。俺がツンデレとか誰得だよ。

 俺の言葉に葉月は目をぱちくりさせるが、しだいに穏やかな表情になって──。

 

「やっぱり比企谷君は良い人ですね」

 

 そう言って、葉月は嬉しそうにくすりと微笑んだ。初めて見る彼女の笑顔が妙に気恥ずかしくて、今度は俺から目を逸らしてしまう。

 

「……ただのおせっかいだよ」

 

「そんなことないですよ。嬉しいです」

 

「……さいですか」

 

 はぁ……普通にちゃんと話せてるじゃねーか。今は嬉しいって感情のが羞恥より上ってことか。

 むしろ今は俺のが恥ずかしいんですけど……。

 

「じゃ、じゃあこれからよろしくお願いします」

 

「お、おう、こちらこそ」

 

 ぺこりと頭を下げる葉月につられて俺まで頭を下げてしまう。何だこの状況。

 つーか今さらだけど気づいてしまった。それも最重要案件。

 

「なぁ葉月」

 

「はい? 何ですか?」

 

 こてんと首を傾げる葉月。お前それ好きだな。大丈夫? 首痛めない?

 

「自分で言ったはいいんだけど、男子に慣れるって例えば何すればいいんだ……?」

 

「それ、比企谷君が言っちゃうんですか……?」

 

 さすがにこれには葉月も呆れ顔になってしまう。多分俺は死にかけた顔してると思う。

 

「いや、だって俺が相手だぞ? あんまし変なことしたくないだろ?」

 

「へ、変なことって……。え、えっちなのはだめって言ったじゃないですか……」

 

 小さな声でぽしょぽしょと呟く葉月。人差し指同士をもじもじと絡めているその姿は子どもっぽくてで少し可愛く見えた。

 でも、あれだ。それ以前に何でこの子は毎回そっち方面に持ってくのだろうか。

 

「だからそっち方面のことじゃねぇって……。なに? もしかして葉月ってむっつりなの?」

 

「い、いや、そ、そそそ、そんなことないです! ち、違いますから!」

 

 声を荒らげながら耳まで顔を真っ赤にした葉月が否定してくる。初めて聞く彼女の大きな声に少しだけ驚いてしまった。

 ていうかさっきの完全にセクハラだな。八幡反省します。

 

「つーか普通に喋れてんな」

 

「あ、そ、そういえばそうですね。な、何ででしょうか?」

 

「いや、それを俺に聞くなよ……」

 

 何ていうか、もう既にグダグダである俺と葉月のよく分からない関係。自分で言うのもなんだけどほんとに何だこの関係。

 これから俺と彼女がどうなっていくのか不安しかなかった。うん、ほんと不安。いや、マジで。

 




前回アンケートを取った結果、ヒロインごとにまとめて欲しいという票が多かったのでこれからはそうしていこうと思います!

2日後の7月13日の0:00〜2:00の間に完全非公開にしてヒロインごとにまとめる作業をしたいと思います。どんな感じになったか気になったら出来終わったあとにぜひ見に来てください!

これからは活動報告にも書いたように、連続で同じヒロインを書かずに途中で別ヒロインを書くことも可能になりました。せっかくなので、次回の投稿はオリキャラちゃんではなく最近登場していないあの子とのいちゃいちゃssを投稿したいと思います。

長くなりましたが以上です。投稿スタイルが変わっても今まで通りの甘々ssをひたすら書いていきますのでこれからもよろしくお願いします。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり俺と恥ずかしがり屋な女の子のテンプレ青春ラブコメはまちがっていない。⑷

あけましておめでとうございます!(遅い
という訳で、久しぶりのオリキャラ√です。本当に久しぶりなので1話目から読み返すことをオススメします……。


 葉月双葉、彼女と色々あって男子に慣れる練習(意味深)をしようと約束した翌日。

 いや、別に色々あったわけじゃないけどね。ただ俺が図書委員をほぼ一年サボり続けたのを謝っただけだし。原因が酷すぎる。

 あの後、仕事を終えた俺と葉月はすぐに解散した。葉月が「が、頑張ります……!」と妙に意気込んでいたのが気になりはしたが、恥ずかしがり屋な彼女のことだしそこまで心配することもないだろう。

 そんな感じで昨日のことを適当に振り返りながら教室へ入る。葉月は既に席についていて、歩いてくる俺をそわそわしながらちらちらと見てくる。

 ……大丈夫だろうか、この子。というか本当に隣の席だったんだな。今まで気づかなかったって俺の目腐りすぎてて笑えない。

 とりあえず、なるべく自然に席に座ろうとすると、ガタッと音を立てて葉月が立ち上がった。

 

「お、お、おはっ、おひゃようございます……っ!」

 

「お、おう……おはよう……」

 

 は、葉月さん……これはちょっとマズいんじゃないでしょうか……。ほ、ほら、周りの視線とか特にヤバい……ヤバいンゴ。ンゴ……。

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「…………す、座んねーの?」

 

「あ、そ、そうですね……」

 

 顔を真っ赤にした葉月はそそくさと席に座る。それに合わせて俺も静かに座った。

 うん、これはヤバいですね。何がヤバいかって顔真っ赤にした葉月があうあう言いながら恥ずかしがってるせいで、俺が彼女に何か悪いことしたみたいな雰囲気がすごい。

 

「はぁ……」

 

 まぁ、うん、葉月が挨拶してくれたのは素直に嬉しいとは思う。彼女自身も男子に慣れる練習をしようと頑張ってくれている訳だし。

 でも例の件については話したんだから、教室では話しかけないようにした方が良いのは確かなんだよな。このままだと教室でまた何かありそうだし先に伝えとくか……。

 

『改めておはよう。突然で悪いが、教室で俺に話しかけるのはなるべくやめてくれないか?』

 

 切り取った紙にメモをして、ぺいっと彼女の机の上に紙を投げる。よし、乗った。

 しばらく待っていると、ぺしっと音を立てて机の上に紙が飛んできた。

 

『やっぱり噂のことを気にしてるんですか?』

 

『葉月が気にしないって言ってくれたのは素直に嬉しいが、お前に迷惑かけることになっちまうからな』

 

『比企谷君がそこまで言うなら分かりました。でも、多分この手紙のやり取りもみんなにばれてる気もしますけどね』

 

 こんな感じで何度か手紙でやり取りを繰り返す。まぁ、葉月の言う通り、そろそろやめといたほうが良さそうだな。

 ……この紙ってどうすりゃいいんだろ。隣にいるのにぐしゃぐしゃにするのもあれだし、かと言ってどっかにしまうのも気持ち悪いし。

 つーか何でこの子はこんなそわそわしてるんだ。え、なに? 俺が返事するの待ってるのん……?

 

『んじゃ、これでこのやり取りは終わりでいいから。紙は適当に処分しといてくれ』

 

 うん、多分これが無難だろう。読んだであろう彼女は俺に見えるように小さく頷いてから、紙を丁寧に折って筆箱にしまった。捨ててもいいのに律儀だな。

 

 まぁ結局の所、俺と彼女の関係はこんなものなのだ。お互い話下手の時点でこうなるのは正直分かっていたし。そもそも片方が俺の時点で何しても基本駄目だってのはお察しだしな。

 だから今回関わったのも何かの縁だし、今後はお互い迷惑にならない程度で無難に関わっていけばいいんだ。だ、だって関わったばかりの女子相手に積極的になるとか恥ずかしいし……(気持ち悪い)。

 

××××××

 

 ……と、思っていたわけなのだが。

 

「あ、あの、比企谷君?」

 

「……ん、なんだ」

 

「い、いえ、何だか暗い顔をしていたので……」

 

「元々こんな顔なんですが」

 

「あ、ご、ごめんなさい……」

 

 そこで謝られたら何か本当にショックなんだけど……。八幡完全に心へし折れちゃいましたよ。

 まぁ葉月の言う通り、今の俺は普段以上に浮かない顔をしているんだろう。目もいつもの倍は腐ってそう。

 何で俺がこうなったかと言うと、朝の手紙のやり取りから彼女とは全く話していなかったのに、昼休みになった途端驚くことに葉月から話しかけてきたからだ。

 

『あ、あの、比企谷君……っ!』

 

『ど、どうした?』

 

『よ、よければ私と、その、一緒にお昼どうですか?』

 

『……よ、喜んで?』

 

『あ、ありがとうございます……』

 

 きっと彼女なりに勇気を出して言ってくれたんだろう。顔めっちゃ赤かったし。

 それに、何か彼女が俺に対して用があったから昼の誘いをしてきたと思ったから俺もそれに乗ったわけなのだが。

 

「……おいしい」

 

 何でこの子は美味しそうに弁当を食べてるんですかね……。

 

「なぁ、葉月」

 

「は、はい、何ですか?」

 

「何か俺に用事でもあんのか?」

 

「へ?」

 

 聞くと、葉月はきょとんとした表情で首を傾げる。え、何か俺変なこと言った?

 

「いや、昼誘ってきたのだって何か話あったからじゃなかったのか?」

 

「え、えっと、比企谷君は忘れちゃったんですか? 男の子に慣れる練習をするって話」

 

「ああ、なるほど……」

 

 こ、この子本当に大丈夫なのかな……。何か律儀すぎて一周回ってチョロさしか感じないんだけど……。

 

「その練習って意味で、今日は昼誘ってくれたのか?」

 

「そ、そうです。頑張りましたっ」

 

 小動物を連想させる小柄な彼女がやってやったぜみたいな感じでちょっとだけドヤ顔をすると、見てるだけで何だか和んでしまう。

 

「頑張ってくれたのはよく分かるんだけど、教室で誘うのはちょっとな……」

 

「あ、わ、忘れてました……ごめんなさい……」

 

「い、いや、そんな落ち込まなくても……」

 

 ……うん、話変えるか。葉月なりに頑張ってくれたんだしそこは責めちゃいけないしな。

 

「その、なんだ。葉月が昼誘ってくれたのは素直に嬉しかった。ただあれだぞ? そんな簡単に男を誘うのは減点だな」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「そうそう。男なんてあれだぞ? ちょっと優しくしてもらっただけで、あれ? これ俺のこと好きなんじゃね? って勘違いする生き物だからな」

 

「へ……?」

 

 珍しく俺が饒舌気味に語ると、葉月の身体がぴたりと固まる。しかし、すぐにみるみるうちに顔を真っ赤にして、短めの黒髪を揺らしてわちゃわちゃと慌て始める。

 

「ど、どうした?」

 

「そ、その、わ、私はまだ比企谷君のこと、そ、そんなふうには見れていなくて……え、えっと、い、今はまだ……その、もっとお互いを知り合う時期じゃないかと……」

 

 もじもじと指を合わせながら葉月が小さな声でぽしょぽしょと呟く。恥ずかしそうに俯いた彼女はううっと小さく唸りながら両手で顔を覆ってしまった。

 

「……まぁ、うん。とりあえずあれだ。あんまし簡単に男を誘ったり逆にほいほい付いてくのはやめたほうがいいな」

 

「わ、分かりました」

 

 うん、とりあえず男子に慣れる関連の話はおしまいだな。何か聞いちゃいけないようなことも聞いちまったし。

 ……本当に勘違いさせるような発言は気をつけてもらいたい。今後の可能性を匂わせる発言とか高度なテクニックすぎませんかね……。

 

「普段食ってるやつとはよかったのか? 多分だけど急に断っちまったんだろ?」

 

「は、はい。ちょっと別の人と食べるって言ったら、よく分からないですけど応援されちゃいまして……」

 

「そうなのか。謎だな」

 

「なぞですね」

 

 いやいや、葉月さん? あなた鈍感系主人公なんですか? それ確実にからかわれてますよ。

 

「比企谷君こそよかったんですか?」

 

「や、俺は普段からここで一人で食ってるから平気だ。何なら昼以外もずっと一人まである」

 

「そ、そうですか……」

 

 あ、な、何かごめんね? まだ自虐ネタするには関わりが浅すぎたよね……。

 しかし、葉月は引いてると言うよりは少し眉根を寄せて難しい顔をしていた。ふぅ……と一息吐くと、意を決したようにこちらをじっと見つめてくる。

 

「……じゃあ、毎日は難しいですけど、たまにでいいので私と一緒に食べませんか?」

 

「は? マジで? つーかさっきも言ったけどあんまり勘違いされるような発言はな……」

 

「でも、比企谷君は勘違いしませんよね?」

 

「……そうだけど」

 

 言うと、葉月はほんのりと頬を朱に染めながら見慣れてきた恥ずかしそうな表情で聞いてきて。

 

「ならやっぱり、たまにでいいんで私と一緒に食べませんか? その方がきっと楽しいですよ」

 

「お、おう……」

 

「じゃあ決まりですね」

 

 少しだけ嬉しそうにくすりと微笑む葉月に、俺は顔を逸らして頷くしかなかった。

 や、やだ……昨日もそうだけど葉月さんって急にイケメンになるからほんと困る……。

 このままだと葉月の男子に慣れる練習というか、俺が葉月に落とされないようにする苦行に変わりそうな気がするんだけど……。

 




お久しぶりです!そして久しぶりのオリキャラ√でした。葉月ちゃんに関しては自分もまだ書くのに不安定なものがあるのでぜひ感想とかいただけたら嬉しいです。

https://novel.syosetu.org/108198/

年末からこのすばssの2作目を書き始めました。内容はこの積極的シリーズと似たような感じなので、このシリーズが好きな方はぜひぜひ。読んでくれたら嬉しいです……!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり俺と恥ずかしがり屋な女の子のテンプレ青春ラブコメはまちがっていない。⑸

 葉月と初めて昼食を一緒にしてから、三日が経って再びの昼休み。ベストプレイスにて、本来であれば心が一番癒される時間なはずなのに俺はパンを咀嚼しながら頭を抱えていた。

 ……隣にいる葉月が不思議そうに俺を見てるから馬鹿っぽいことをするのはやめよう。いやまぁ、俺が頭抱えてる理由は一応あなたが原因なんですけどね……。

 

「……なぁ」

 

「ふぁい? ふぁんふぇふあ?」

 

「いや、やっぱ食べ終わってからでいいわ……」

 

 何て言ってるか全く分かんねーぞ。……葉月が食い終わるまでにとりあえず状況を整理しよう。

 俺が頭を抱える程度には悩んでいる原因。それは、初めて昼休みを一緒に過ごしたあの日から、なぜか俺と葉月が毎日一緒に飯を食べていることについてだ。あの時に葉月はたまにって言ってたはずなんだけどな……。

 今までは隣の席でも俺の関心がなかったこともあって、葉月のことは全く知らなかった。しかし、ここ数日の間を見る限りでは葉月には俺と違って普通に友達はいる。

 それなのに何で俺とたまにではなく毎日一緒に昼食を取っているのだろうか。うん、謎ですね。

 

「んくっ……ご、ごめんなさい。食べ物を口に入れたまま喋るなんて汚かったですよね……」

 

「急に話しかけた俺も悪いし気にすんな。……で、葉月に聞きたいことがあるんだが」

 

「な、何でしょうか」

 

 俺の重苦しい雰囲気のせいか、葉月は少しの緊張が混じった目でこちらを見てくる。しかし俺と目が合うと恥ずかしそうにササッと視線を横に逸らしてしまった。

 そんな怖いこと聞くつもりはないから安心してくれ。ただ純粋な疑問を聞くだけだから……。

 

「えーっと、その、あれだ、……何で俺らって毎日一緒に飯食ってんだ……?」

 

 言うと、葉月も俺と同じように不思議そうな顔をして。

 

「……な、何ででしょうか?」

 

「や、質問を質問で返されても……」

 

 葉月さんってちょっぴり抜けてるとこありますよね。それが悪いわけじゃないけど、何も考えずに毎日一緒に食ってたっていうならさすがに問題ありだと思う。

 

「友達とは食わなくて平気なのか? 毎日こっちばかり来てたらさすがに違和感あるだろ」

 

「い、いえ、……その、なぜかは分からないんですけど、その友達に『うふふ、楽しんできてね。いてらいてら!』と言われまして……」

 

 友達の真似をしたからか、ほんのりと頬を朱に染める葉月。何その友達ちょっとノリ軽すぎません?

 

「……いや、まぁそれならいいんだけど」

 

「は、はい」

 

 ここでぴたりと会話が止まり一時沈黙。今までなら会話をしない時間も居心地が悪いわけではなかったが、今は少しばかり気まずさがある。

 いや、だって葉月さんそれ絶対からかわれてますよ? 気づいてないの?

 その友達もまさか相手が俺だとは思ってないだろうしな……。いかん、色々と不安になってきた。

 

「……俺と一緒に食ってても楽しいか?」

 

「え? きゅ、急にどうしたんですか?」

 

「や、大して面白いこと話せるわけじゃないし。それに昼休みだけじゃ男子に慣れる練習だってできてないからちょっと気になってな」

 

 そう、これも俺が頭を悩ます要因の一つだ。葉月自身も多少慣れてはきたのか、初めて話したときよりは幾分かは会話もスムーズになっている。

 しかし、同じ相手と繰り返し話していたら慣れるのは至極当然の話であって。だからこそこれが男子に慣れる練習になっているのか不安なのである。そもそも会話だけで本当に慣れるのかも疑問になってきたし。

 そんな俺の疑問に葉月は、ぽつりと言葉を紡ぐ。

 

「……そ、そんなことないです。ちゃんと男の子に慣れる練習、できてます」

 

「そ、そうか?」

 

「は、はい、私にとってはすごい進歩ですよ。そもそも男の子とこんなに話すのだって久しぶりでしたし」

 

 まだ話せるのは比企谷君限定ですけど……とぽしょりと付け足して、彼女は少し恥ずかしそうに微笑む。

 

「……そうか、それなら何よりだ」

 

 そういや葉月のことですっかり忘れてたけど、俺も女子に積極的になろうとか考えてたんだよな。冬休みの俺の行動はある意味女慣れする練習に近いところはあったし、何か役に立つことでもあったらいいのだが……。

 ……いや、葉月には絶対積極的に何かするとかはないけどね? 慣れるどころか男性恐怖症になってとんでもないことになるわ。

 そんな馬鹿なことを考えていると、顔を真っ赤にした葉月が口元をもにゅもにゅさせていた。

 え、なに。どうしたの。

 

「そ、それに、も、もちろん比企谷君と話すのもっ、えと、楽しいれしゅ……っ」

 

「……最後まで言えてればもうちょっと決まってたかもな」

 

「あぅ……やっぱりまだ恥ずかしいです……」

 

 そのまま葉月はあうあう言いながら両手で顔を隠してうつむいてしまった。……あんな小っ恥ずかしいこと言われても困るし、噛んでもらえて助かったわ。

 しばらくして、復活した葉月が赤くした顔を上げてこちらを見てくる。

 

「あ、あの、私からも一ついいですか?」

 

「ん、いいぞ。何だ?」

 

 聞くと、葉月は短く切り揃えられた前髪の毛先をいじってから一呼吸する。そして、今日一番の真っ赤な顔をしてぷるぷる震えながら一言。

 

「一般的な男の子から見たら、私ってどう見えていると思いますか?」

 

「……はい?」

 

 ど、どうしんだ突然。そもそも俺は一般的な男の子ではないってことが真っ先に思いついてる時点で俺もだいぶテンパってるな。

 

「え、えっと、私が男の子が苦手な理由の一つが、し、視線? ですから。どう見られているのかが気になってしまって……」

 

「あぁ、なるほど」

 

「そ、それと、たまにですけど、視線が少しだけ怖い人もいますから……」

 

「あー……」

 

 葉月の言う怖い視線っていうのは、おそらく悪意のあるものではないだろう。多分だが、男への苦手意識から悪意のある視線だと感じてしまっているだけだ。

 トップカーストにいるような目立つ印象はないが、葉月の見た目は普通に可愛い部類に入ると思う。おっとりとした印象を与える少し垂れた大きな目、すっと整った鼻に艶のある小さな唇。低めの身長は人によっては庇護欲を掻き立てられるだろう。

 だから、その視線はどちらかと言えば好意的なものなはずだ。まぁ高校生男子なんて考えることろくでもないし視線がギラついててもしょうがないっていうか……。

 だからこそ、このことを言っていいのか悩みどころだ。変に意識しちゃったら大変だろうし。

 ……まぁ、葉月が男への苦手意識を克服しようと努力してるんだし、俺も多少は身を粉にしよう。多少だけど。

 

「……変なこと言うけど大丈夫か?」

 

「へ? あ、そ、そんなに私の印象って変なんですか……?」

 

「や、そういうことではないからそんな顔すんなって……」

 

 そんな一瞬で涙目にならなくても……。何か本当に泣きそうだしもうこのままサラッと言っちまうか……。

 

「一般的な男子からしたら、葉月のことは普通に可愛い女子だって思う……はず、だ」

 

 うわ、何これ恥ずかしい……と思ったのは俺だけではなかったようだ。涙目のまま湯気でも出るんじゃないかと言うくらい顔を真っ赤にした葉月がわちゃわちゃと慌て始める。

 

「あわ、あわわわ……そそ、そんなことないです……!」

 

「……だから変なこと言うって言ったろ。悪かったな」

 

「い、いえ……聞いたのは私ですから大丈夫です……」

 

 まぁ嫌な方に捉えられなかっただけ良かったか。お互いかなり恥ずかしい思いはしたけど……。

 ……ほっぺた真っ赤にした葉月がまだ何か聞きたそうにもじもじしてるんだけど。葉月相手に初めて嫌な予感が……。

 

「そ、その、さっきのは一般的な男の子の考えなんですよね……?」

 

「……まぁ、そうだな」

 

「……じゃ、じゃあ、その」

 

 こちらを見ずに視線を少し下に向け、胸の前で指をもじもじさせながら葉月が恥ずかしそうにぽしょりと。

 

「ひ、比企谷君には、わ、私はどんな女の子に見えますか……?」

 

「えっ」

 

「あ、そ、そのですね……! 毎日こうやって私のためにお付き合いしてもらってるのに、変な印象を持たれていたらどうしようと今さらながら……あ、あわわ、な、何言ってるんだろ私……」

 

 言い終えて、葉月は限界だったのか顔を隠すように丸くうずくまってしまった。綺麗な黒髪から覗く真っ赤になった耳は隠せていないが。

 えぇ……言うしかないの、これ? 言うしかないんだよな、これ……。

 

「……まぁ、さっき言った一般的な男子のアレと同じだ。よく分からんけど」

 

「え、そ、それって……」

 

「そ、それ以上は何も言わんでくれ……」

 

「ひゃ、ひゃい……っ」

 

 何だその噛み方可愛いな……じゃなくて。いや、今回ばかりは本当に焦った。まさか葉月が意外なとこで女子らしい発言をしてくるなんて……。

 

 い、意外と天然小悪魔、なのか……?

 




葉月ちゃん、書いててとても楽しいです。初めてのオリヒロなのでいつもワクワクで書いてます。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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やはり俺と恥ずかしがり屋な女の子のテンプレ青春ラブコメはまちがっていない。⑹

 

 何だかめちゃくちゃ恥ずかしい思いをしてしまったが、昼休みはまだたんまりと時間が残っている。つまり葉月とのこの何とも言えない時間はまだまだ続くというわけで。

 ……まさか恥ずかしがり屋な葉月があんな女子らしい質問をしてくるとは思わなかった。顔赤くなってるのバレなきゃいいけど……。

 まぁ、当の本人が一番顔真っ赤にしてるから大丈夫だろうけど。

 

「か、可愛い……か、かかか……比企谷君が私に、か、かか、可愛いって……」

 

 両頬に手を当てて、あわあわ慌てながら何度も可愛いを連呼する葉月。綺麗な黒髪から覗く耳は今までで見た中で一番真っ赤になっている気がした。

 

「は、葉月?」

 

「ひゃ、ひゃいっ!? な、なな、何でございましょうか!?」

 

「い、いや、大丈夫かって聞こうと思ったんだが……」

 

 何だその言葉遣い可愛いな。ていうか、どんだけテンパってるんですか葉月さん……。

 さっきの発言ってもしかしなくても葉月にとって逆効果だったのでは……? 葉月の男子への苦手意識がまた強くなったら完全に俺が原因になるだろうな。

 

「だ、大丈夫です……。で、でも、恥ずかしくて、比企谷君の顔が見れないです……」

 

「……恥ずかしいなら無理に見る必要はないからな?」

 

 それでも頑張って目を合わせようとする葉月だったが、俺を見るなり顔を俯かせてぷるぷると震えてしまった。

 ……ま、まぁ、とりあえず嫌悪感はなかったようで良かった。ということは、これは使えるのではないだろうか。

 

「葉月、ちょっといいか?」

 

「は、はい?」

 

 ようやく落ち着いたのか、俺の方を見ても平気になった葉月がこてんと首を傾げる。ちょっと涙目になっている大きな瞳は俺の話をしっかり聞こうとじっと見つめてきている。

 ……恥ずかしいけど、これも葉月が男子に慣れるためと思えば大丈夫だ。でもそんなにじっと見られるとめっちゃ緊張してきますね。

 ……よし。

 

「……やっぱお前、可愛いわ」

 

「……へ?」

 

「んぐ……」

 

 何これ恥ずかしい! 恥ずかしすぎる! 自分でも変な声出ちゃったけど顔には出さず冷静に冷静に……。

 俺が思いついたのは至極簡単な方法だった。葉月が俺に可愛いと言われても嫌悪感がないのなら、俺が何度も彼女に可愛いと言って言われ慣れてしまえばいいと思ったのだ。

 冬休みの間、女子相手に積極的になろうと思った俺の努力がまさかこんな形で役に立つとは思わなかった。前までの俺ならこんな簡単に言えるわけがなかったしな……。

 

「ど、どどど、どうしたんですか急に……」

 

「いや、恥ずかしがる葉月が可愛いなと思って」

 

「あぅぅ……そ、そんなことないです……」

 

 頬を真っ赤に染めて困ったように唇をもにゅもにゅさせる葉月。少しして、「あっ」と何かに気づいたような声を上げて、困ったように眉をくにゃりと曲げながら聞いてくる。

 

「こ、これも男の子に慣れる練習なんですか?」

 

「……まぁ、そうとも言えるな」

 

「あ、や、やっぱりそうですよね。お、お世辞でもそう言ってもらえて嬉しいです……」

 

 言って、戸惑いつつも葉月はぺこぺことお礼をしてくる。しかし、その瞳にほんの少し寂しさが混じっていたのを感じ取れてしまって。

 やっちまったな……。いくら練習とはいえ、こんなこと軽々しく言っていいもんじゃないのなんて分かってるはずだったのに。

 ……葉月だって男子が苦手なのに俺と話すのを頑張っているんだ。彼女としっかり向き合うためには、やっぱり俺も本音で話した方がいいんだろうな。

 

「……いや、さっきの言葉はお世辞なんかじゃないからな?」

 

「え……?」

 

「……葉月のことは、その、なんだ……。……本当に可愛い、と思ってる」

 

 まだ数日しか関わってない葉月だが、男子に慣れようと頑張ってる彼女に自然と俺は見惚れてしまっていたのだ。だから今の言葉は、嘘偽りのない俺の本当の気持ちであって。

 ただ素で言うにしても、もうちょっと格好良く言えないもんなのかね……。今回ばかりは俺も葉月並に顔真っ赤になってるぞこれ……。

 

「あ、うぅ……」

 

「は、葉月……? す、すまん、やっぱ嫌だったか?」

 

「い、いえ……その、初めてだったので……」

 

 何が、と聞き返すことはできなかった。今の葉月の顔を見てしまった俺は、その一挙一動に目を離せなくなってしまっていた。

 

「男の子に、こんなふうに可愛いって言われたの、初めてで……」

 

「……っ」

 

 ぎゅっとひざを抱えて、こちらを見つめてぽしょりと呟く葉月。ほんのりと嬉しさが滲み出た淡い微笑を浮かべる彼女は、やっぱり見惚れるくらいに本当に可愛くて。

 

「それに、こんなに優しくしてもらえたのも……」

 

 ぽしょぽしょとよく聞こえないような声で言って、何かに迷ったように視線をあちこちに向ける。俺が首を傾げると、葉月は「え、えいっ」と言うかけ声と一緒にぎゅっと俺の手を握ってきた。

 

「……ほ、ほら、大丈夫です。比企谷君になら、触っても」

 

「……無理しなくてもいいんだぞ?」

 

「し、してないですよ?」

 

 そうは言ってもめっちゃ手震えてるんだけど葉月さん……。つーか、握られた俺も緊張でちょっと震えてるから手が揺れまくってますね。

 

「な、何だか恥ずかしいですね」

 

「……そりゃ手、繋いでるんだしな。葉月はあとで恥ずかしくなって後悔しそうだな」

 

「えっと、い、今は平気ですから……」

 

 そう言われるとちょっとくらいイタズラしてみたくなるのが人間の本能なわけで。すまん葉月、あとで謝るから許してくれ……。

 とりあえず、繋がれた手をにぎにぎしてみました。

 

「ひゃっ……」

 

「……」

 

「んっ……あの、ひ、比企谷君……?」

 

「……」

 

「く、くすぐったいですよぅ……」

 

 葉月は俺が手を動かすたびにひざを擦り合わせて、声が漏れないように唇を必死で引き結ぶ。それでも漏れる熱っぽい吐息と、微かな甘さの混じった声に心臓が痛いくらい高鳴ってしまう。

 な、何だかイケないことをしてしまった気分だ……。間違いなくやりすぎましたねこれ。

 

「あ、あの、今のは……」

 

「いや、何というか、つい……すまん」

 

 反省の意味を込めて繋いだ手を離そうとしたのだが、なぜか葉月にもう一度ぎゅうっと握られてしまう。自分より小さな手の柔らかな感触は、まだ俺から離れてくれそうにはなかった。

 

「あ、あの、葉月さん……?」

 

「え、えっと、手はこのままで大丈夫です……。でも、いたずらするのはまだ、だ、だめです……」

 

「お、おう……」

 

 むぅっと困ったように少し頬を膨らませ、上目遣いで見つめてくる。……頑張ってくれるのはいいことだが、俺と手を繋ぐことに抵抗がないのはどういうことなのだろうか。

 というか、今はまだってどういう意味なんですかね。勘違いしそうになる発言は勘弁してもらいたいんですが……。

 

「あの、ですね……ひ、比企谷君」

 

「何だ?」

 

「こ、これからはもっと、男の子に慣れる練習がしたいです」

 

「……ん、分かった。俺も何か考えとくわ」

 

 今回は思いつきで可愛いなんて言って、色々と恥ずかしい思いしちまったしな。次からはもうちょっと計画性のあるものを考えることにしよう。

 

「あ、そ、それと、今日は図書委員会の仕事が放課後にあってですね」

 

「げ……マジか」

 

「はい。で、ですからその時にですね……」

 

 そこまで言って葉月は何か言いづらそうに唇をもにゅもにゅさせるが、繋いだ手を見るとどこか安心したように淡い微笑を浮かべる。すぅはぁと何度か深呼吸をすると、恥ずかしそうに俺を上目遣いで見つめながらぽしょりと。

 

「イ、イチャイチャしましょう……?」

 

「……はい?」

 

 ……今回の件で、葉月さんは変な方向にぶっ飛んでしまったのかもしれません。いや、ほんとどういうことなのそれ……。

 




久々の葉月ちゃん√でした。これからはイチャイチャ回が増えていくかもしれないので、葉月ちゃん好きな皆さんはご期待ください!

たまにはご報告を。お気に入りがついに4000件を超えました。いつも本当にありがとうございます!
それと、このssを投稿し始めてあと2日で2年が経ちます。いつも読んでくれている読者さんには本当に感謝でいっぱいです。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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いろはす√part2 もう一度、あざとかわいい後輩と……。(1)

いろはす誕生日おめでとう!(誕生日ssではないです)

というわけで、ずっとやりたかったいろはす√のPart2です。

プロローグの次にあるいろはす√とは全く別世界のお話です。ですので、関係はリセットで付き合ってない状態からスタートします。


 冬休みが明け、学校が始まってから数日が経ったある日。新学期といえど特に変わったこともなく、今日も一日何事もなく過ごしていた。

 いや、一応変わったこともあるか。まぁあれだ。変わったことといえば、俺が恋愛に積極的になろうと考えたことくらいなのだが。

 しかし、これが面白いくらいに上手くいかないのだ。だって全然女子と二人きりなんてなれないし。

 

 うん、悲しい(自己完結)。

 

 そんなこんなで多少の悲壮感を覚えながら部活を終えて、ゆきのんとゆいゆいが百合百合しながら鍵を返しに行くのを見届ける。よし、元気出た。

 んじゃ、俺は先に帰らせてもらおうかしらね……と下駄箱へ向かう途中のことだった。

 

「あ、せんぱーいっ!」

 

「……ん、どした」

 

 その聞き慣れた声で振り返ると、我が校の生徒会長兼ゆるふわあざとビッチこと、一色いろは様がいた。今日初めての対面である。

 んで、その一色さんは何でかぽかんと間の抜けた表情でこちらを見ていた。

 

 え、なに。どしたの。

 

「え、なに、どしたの」

 

 思わず心の声が漏れてしまった。呼ばれて返事したのにそんな顔されてもこっちも困るっていうか……。

 あ、もしかして先輩って俺のことじゃなかったってパターン? 何それ恥ずかしいじゃないですかーやだー。

 

「い、いえ……先輩ならこんなところで話しかけても反応とか絶対してくれないと思っていたので」

 

「あー……」

 

 確かに完全下校時間が近いとはいえ、廊下であんな大きな声で先輩なんて呼ばれたら目立つしな。この前までだったら絶対に振り向いてなかったと思う。

 や、やだ、もしかしなくても俺って女に飢えすぎ……?

 

「……」

 

「……?」

 

 こうして考えると、ようやく女子と二人きりになったんだよな(廊下だからもちろん他に人もいるけど)。それはいいのだが、いざ二人きりになってみるとどうすれば良いか分からないし、その相手が一色ってのもなぁ……。

 ……どう考えても振られる未来しか見えないんだけど。最近はどうか知らんけど、普段から男子を手玉に取ってたやつ相手に俺のにわか仕込みの技術が通用する気がしない。

 俺がどうするべきかうんうんと思案していると、一色は恥ずかしそうに身をよじりながら自分の身体を両腕で隠すように抱いた。

 

「み、見すぎなんですけど……」

 

「おお、悪い。それじゃあな」

 

 よし、やっぱ無理だ帰ろう。というわけで、颯爽と戦略的撤退をしようと思ったのだが。

 

「……なに」

 

「むふふー」

 

 一歩目を踏み出す前にがっしりと腕を掴まれてしまいました。めっちゃニコニコしてる。超怖い。

 

「俺もう帰るんだけど……」

 

「えー、いいじゃないですかー。今日は先輩のお手伝いなしで頑張ったんですし、少しだけ話しましょうよ、ね?」

 

 掴んだ俺の腕をぶんぶんと揺らしながら、そんな呆れるようなことを言ってくる。そもそも俺に仕事手伝ってもらうのが当たり前って考えをそろそろやめようね……。

 ……まぁ、一つも頼られないってのもあれだが。あ、あれ? 俺にも本格的に社畜魂が染みついてきたのかな……?

 

「はぁ……で、なに。何か用でもあんのか?」

 

「えっとですねー、もう外も真っ暗で夜遅いじゃないですかー?」

 

「そうだな」

 

「女の子ひとりで帰るなんて危ないじゃないですかー?」

 

 あ、これ八幡知ってる。絶対に面倒くさいことになるやつだって知ってる!

 

「あ、そこに戸部が」

 

「あ、それはいいですから」

 

「ああ、そう……」

 

 と、戸部……お前はなんて使えないやつなんだ……。後輩に舐められると大変だよな……分かるぞその気持ち……。

 

「ということで、今日はわたし頑張ったんですし、ご褒美として駅前まで送ってもらえないかなーと思いまして」

 

「えぇ……」

 

 何で俺がご褒美するしかないのかはこの際置いとくことにしよう。しかしこれは悪い案ではない。

 一色相手に積極的になるってのはある意味危険かもしれないが、このチャンスを逃したらいつ二人きりになれるかなんて分からないしな。

 

 ……よし、やってみるか。

 

「まぁ……そんくらいならいいぞ。……俺に頼らずよく頑張ったな」

 

「……ふぇ」

 

 え、な、なに。積極的になるってこういう感じじゃないの? もしかしてドン引きしちゃったやつ?

 当の本人は、ぴたりと一つも動かずに固まっていたのだが、すぐに顔を真っ赤にしながらわちゃわちゃぶんぶんと腕を振り始めた。

 

「な、ななな、何ですかそれ口説いてるんですか急に優しく褒めてくるなんてどういうことなんですかそういうのはもうちょっと心の準備が必要なのでもっと落ち着いたときにお願いしますごめんなさい」

 

 言い終えて、肩で息をして頬を真っ赤にした一色はぷいっと視線を逸らしてしまった。

 つーか俺はこいつに何回振られればいいのかね。まだちょっとしか積極的になってないのにもう振られちゃったよ……。

 

「……ほれ、行くぞ」

 

「は、はい」

 

××××××

 

 ということで、積極的になってみることも兼ねつつ一色を駅前まで送ることになった。一色の歩調に合わせてゆっくりと歩いていくこの時間に、本人には絶対に言えないが俺は少しばかり心地良さを覚えて……はいなかった。それっぽく言ったはいいがそんなことは一つもなかった。

 いや、違うんだ。別に居心地が悪いわけじゃないんだが、積極的になるって決めたからとりあえず出来ることを色々としたりしてたからな。

 カバンは俺から言って自転車のカゴに入れてやったし、気の利いた話をしてみようと頑張ってみたり等々。何というか、その、この行動をしている自分を想像したら気持ち悪くてですね……。

 一色も最初は俺の顔を見て嬉しそうに笑ってくれていたのだが、次第にその顔には疑問の色がどんどん膨らんでいった。そ、そろそろマズい気がしてきたぞ……。

 

「んー……?」

 

 って感じでもう明らかに疑問を口にしちゃってるし。やっぱり何か間違えていたのだろうか。出来る限りのことはやってみたんだけどな……。

 あ、単に俺のこの行動が気持ち悪かったってことか。そう言われたら涙で前が見えなくなるな。

 

「先輩先輩」

 

「んー」

 

「先輩ってもしかして彼女欲しかったりするんですか?」

 

「は?」

 

 え、なに。こいつエスパーなの?

 

「んなことねぇよ……。つーか何でそう思ったんだよ」

 

 聞くと、一色はんーとあごに手を当てて考えるような仕草をする。少しすると「あっ」と何かを思い出したように一色が口を開く。

 

「今日の先輩って、すぐにでも彼女が欲しいっていうのがすごい伝わってくる男の子って感じでしたから」

 

「……例えばどういうところがだ?」

 

「んー、色々としてくれたじゃないですか。かばん受け取ってくれたり気の利いた話をしようと空回りしてたりとか」

 

 あ、やっぱり空回りしてたのね……。そこも含めて彼女が欲しい系男子ってカテゴライズされてるのがなおさら辛いな。

 

「あとはそうですねー、いつもより優しかったりとかですかねー」

 

「は? ばっかお前、俺が優しいのはいつものことだろ?」

 

「そうですね、先輩はちょー優しいです」

 

 俺が冗談混じりに言った言葉に、一色はそんなことを何食わぬ顔で言ってくる。

 え、な、なに。突然どうしたのこいつ。

 

「だ、誰なんですか」

 

「何がだ?」

 

「その、ですね……」

 

 そこで一色はふと足を止めて、きゅっと自分の胸の前で手を握って。

 

「先輩の、好きな人って……その、……だれ、なんですか……?」

 

 少しだけ震える声音で、一色はそう伝えてきた。赤らんだ頬、恥ずかしそうにしながらも真っ直ぐに見てくる視線、潤んだ瞳の中に混じっている微量の緊張の色。

 その全てが一色いろはという少女の魅力を最大限まで引き出していた。

 

「い、いない、けど……」

 

「ぶっぶー、だめだめです」

 

「え?」

 

 え? 今何て言ったこいつ? さっきまでの切なげな表情はどこへ言ったのん……?

 

「今日の先輩っていつもよりわたしに優しくしてくれてましたよね?」

 

「……まぁ、多少は」

 

 ここまで来たらもう嘘は付けないよな。一色にはもうバレちまったようだし。

 

「ですよね。なんとなくですけど彼女が欲しい男子って感じも伝わってきましたし」

 

「……で、さっき駄目って言ったのは何なんだよ」

 

「ああ、それはあれですよ。普段より露骨に優しくしてきてアピールしてるのに、いざこっちから好きな人を聞いたらいないって言ってくることについて言ったんですよ」

 

「……ごめんなさい」

 

 もう何も言い返せないですねこれ。完全に論破されて、しかも手玉にまで取られてしまいました。さすがっすいろはすぱねぇっす……。

 あまりの恥ずかしさに一色がいる逆の方へ顔を逸らしていると、小さな声でぽしょりと。

 

「普段の先輩だからこそ、いいんですよ」

 

「は? どういう意味だよ」

 

「……にぶちんさんの先輩には分かりませんよーっだ」

 

 言って、ぷいっとわざとらしく顔を逸らしてしまった。

 

「……まぁ、なに。変なことして悪かった」

 

「別にいいですよ、さっきの先輩もそれはそれで……あ」

 

 そこで、一色は何か面白いことでも思いついたのか、にやぁっと意地の悪い笑みを浮かべる。

 ……嫌な予感しかしないんですが。

 

「わたしが教えてあげましょうか?」

 

「……何をだ?」

 

「ふふっ、女の子を落とす方法、です。知りたくないですか?」

 

「……まぁ、多少は」

 

「ふふ、素直な先輩も悪くないですね。じゃあ普段のお礼ということで、わたしが教えてあげますよ」

 

 ここは大人しく従っとくか。そもそも完全にバレてしまったこの状況で今さら隠す意味もないしな。

 それに言いふらされたら怖いし……。これからそれで弄ばれる未来しか見えない。

 

「ではではさっそくですけど、一ついいですか?」

 

「もう何でもどーぞ……」

 

 言うと、一色は少しだけ緊張した表情で「えいっ」とよく分からん掛け声と共に俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。

 …………え?

 

「なっ、お、おい、歩きづらいし離してくれませんかね……」

 

「せ、先輩こそ、その反応はひどくないですか? 女の子が勇気を出してしてきた行為を、そんなふうに拒んだらだめなんですよ?」

 

 ……女の子ってずるいな。

 

「はぁ……さいですか」

 

「えへへ、さいですよーだ」

 

 その楽しそうな笑みを浮かべる横顔を見て、かなりの不安を覚えつつ。

 まぁ、あれだ。意図せずとも女子と二人きりになる機会は作れたんだもんな。そこは少しだけ感謝だな。

 こうして、俺と一色の今までより更に不思議な関係が始まった。

 




いろはす√をもう一度1から書きたかったので今回は書かせてもらいました。誕生日ネタでも書きたかったんですけどそれはまた来年ということで……。

初めていろはす√を書いてから早いもので一年半ほど経ちました。今までのいろはす√とはまた違う感じで書いていけたらなと思います。これからもよろしくお願いします!

ということで、しばらくはオリキャラ√と交互で書くことにする予定です。二月三月はほとんど更新できてなかったのでこれからは更新頻度も上げていこうと思います。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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もう一度、あざとかわいい後輩と……。⑵

 

 一色に色々やらかしてから一日が経った翌日の放課後。さっそく一色の玩具にされてしまった俺は、生徒会室にてふんすと仁王立ちする一色を目の前に椅子に座らされていた。

 そのとても可愛らしい(本当は悪魔にしか見えない)一色の後ろにあるホワイトボードには『先輩の愛しの後輩による愛のレッスン』と書かれている。何あのクソ薄っぺらい寒気のするタイトル……。

 もう既に色々とげんなりしていると、一色がこほんこほんとわざとらしい咳払いをする。あざとい。

 

「第一回、女の子にモテるにはどうしたらいいのでしょうか講座ー! いえーい!」

 

「え、何その謎なテンション……」

 

 急に駆け抜けるように一人で始めて俺のこと置いてかないでくれませんかね……。さすがにちょっと引くぞ。

 

「もー、ノリが悪いですよ先輩。せっかくわたしが盛り上げようとしてるんですから先輩も、ほら」

 

「……い、いえーい」

 

「もっとですよ!」

 

「いやだから何なのそのテンションは……」

 

「むー……」

 

 一色はお気に召さないのかぷんぷんとご機嫌斜めな様子だ。謎なテンションも相まって、生徒会室に来てから心なしか顔もちょっと赤い気がするし。どうしたんだこいつ。

 

「……まぁいいです。で、女の子にモテたい非モテ系男子の先輩」

 

「その呼び方は辛いからやめてくれませんかね……」

 

「先輩はどうして女の子と付き合いたいって思ったんですか?」

 

 改めて考えてみると何でだっけな……。いや、まぁ冬休みに恋愛関連の物にどっぷりハマって彼女欲しくなったって単純な理由なだけか。

 今までの俺を知っている奴らならこの理由なだけでも驚く発言なんだろうな。でも理由なんてそれしかないんだしそうやって言うしかないのか……? 恥ずかしすぎない?

 

「……まぁ、あれだ。普通の高校生男子が考えるようなことと同じだ」

 

「うわぁ……」

 

「いや、そっちじゃねえぞ。俺の考えは至って健全だから」

 

 そ、そうだよな。普通の高校生男子がって言い方だと完全にそっち方向に取られるよな……。

 俺から少しだけ距離を取った一色は、ドン引きの蔑んだ表情から一転。今度は少しそわそわした様子でちらりとこちらを見つめてくる。

 

「そ、それじゃ今の先輩は、女の子といちゃいちゃしたいって気持ちがあるんですか?」

 

「改めてそう言われると答えづらいが……まぁ、そういうことになるな」

 

「なるほどなるほど。こ、このチャンスを逃すわけには……そ、そうしたら先輩と……えへ、えへへへ……」

 

 距離を取られたこともあって何かを言っている一色の声は聞こえないが、先ほどよりもその頬は赤らんでいた。つーかちょっとニヤけてるけど大丈夫かあいつ。

 

「……で、俺の意思は示した訳だが。この後どうするんだ?」

 

「え、えへへ……え?」

 

「いや、え? じゃねぇよ。俺の話聞いてた? ……つーか何もしないからもうちょっとこっち来いよ」

 

「あ、はい」

 

 一色はさっきの場所まで戻って来たかと思うと、なぜか近くにあった椅子を俺の横に持ってきてそのまま座った。な、何か近くない……?

 

「ず、ずっと立ってると疲れちゃいますね……」

 

「お、おお、そうか。……で、どうすんだ?」

 

「んー……まず先輩にはとても悲しいお知らせがあります」

 

「え、何?」

 

 聞くと、一色は真剣な眼差しでこちらを真っ直ぐに見つめて一言。

 

「イケメンがモテます」

 

「いけめん」

 

「つまり顔です」

 

「かお」

 

 ……改めてそんな誰でも知っている事実を言われても全く辛くなんてないからな。八幡涙目じゃないからな。本当だぞ。

 俺が目元にハンカチを当てていると、一色はまだ何か言おうとしてるのか「んー」と唸りながら考えるような素振りをしていた。こいつ容赦ねぇな。

 

「あ、じゃあ例えばですよ? 定番で言えば、壁ドンとか頭撫でられたりするとかあるじゃないですか?」

 

「ああ、あるな」

 

 そこら辺に対する耐性は冬休みの間に付けたから、今さら馬鹿にするつもりはない。つーか既に心がへし折られそうな今の状況だとその言葉聞くだけでちょっと辛いくらいだ。

 

「それをもしも知らない男の人に急にされたらドン引きですよね? 普通になしです」

 

「確かにそうだな」

 

「もちろんイケメンなら別です」

 

「イケメン絶対許さない」

 

 なに、何なのいろはす。モテる方法じゃなくて俺に現実を教えてくる講座なの?

 色々と悲しくなって自然と深いため息が漏れてしまう。そんなことは露知らず、俺にダメージを与えた一色は落ち着かない様子で前髪の毛先をくりくりと指でいじっていた。

 

「で、でも先輩はわたしにとって知ってる男の人じゃないですかー?」

 

「え? ……そ、そうだな?」

 

「先輩はちょーっとですよ? ちょーっとだけですけどね?」

 

「いや、何が言いたいかさっぱりなんだが……」

 

 いつにも増しておかしな発言に俺が困惑していると、顔を真っ赤にした一色が胸の前で指をもじもじさせながらぽしょりと。

 

「せ、先輩ははちょーっとだけ……あ、あり、の部類に入ります、です……」

 

 語尾が変な感じになっているのは気にしないとして。な、なるほど? いや、全くなるほど出来そうになくて更に困惑するんだけど……。

 

「そ、それってどういう……」

 

「つ、つまりですよ! そこまでイケメンじゃなくてもちゃんと親密になれれば女の子も許容できるってことです!」

 

「ああ、そういうこと」

 

 なら最初からそう言えば良かったんじゃないですかね……。回りくどいし何かこっちまでちょっと恥ずかしくなったわ。

 

「で、ですから実践ですよ実践!」

 

「え、何が?」

 

「色々やってみるんですよ! わたしが……じゃなくて女の子がされたら嬉しいことをです」

 

「お、おお……」

 

 何か今日の一色はいつもよりテンション高いな。テンパってるって見方もできるが。

 ……しかし実践か。口で説明されるとまた深い傷を負いそうだしここは乗っとくか。

 

「で、何やんだ?」

 

「え、えっとですね、……その」

 

 言いづらそうに口元をもにょもにょさせた一色は椅子ごとこちらにすすっと近づいてきて、制服の袖を控えめにちょこんと掴んでくる。

 

「あ、あたま、……撫でて欲しいです」

 

 言って、恥ずかしそうに、それでいて蠱惑的な上目遣いでこちらを見つめてくる。その表情に合わないくらい真っ赤に染まった頬とのアンバランスさに思わず心臓が跳ねてしまう。

 

「お、おお……じゃあ、い、いくぞ?」

 

「ど、どど、どうぞ……」

 

 了承を得たので、恐る恐る一色の頭の上にそっと手を重ねる。それだけで「んっ……」と吐息を漏らす一色から視線を逸らして、そのまま出来る限りゆっくりと撫で始めた。

 ……女子の髪ってすげぇな。さらさらしてて柔らかいしずっと撫でてられるぞこれ。いや、それは一色に断られそうだけど。

 

「ど、どうだ?」

 

「ふぁ……い、いい感じです……」

 

 それなら良かったとほっと一息。やっぱりやめてくださいとか言われてたら俺の心は完全にへし折られてましたね。

 

「あぅ……んぅ、えへ、えへへ……」

 

 普段全く見たこともないくらいだらしなく頬を緩ませる一色。髪を梳くように撫でたり間違えて耳に手が触れてしまったりしたときに、ぎゅっと目を瞑りながら漏らす悩ましげな吐息にドギマギしつつ。

 そんな一色に思わず見とれてしまい、本来の目的を忘れてしばらく撫で続けてしまったことをここに記しとく。……まぁこの実践方式だと目的なんて達成できそうにもないと思うんだけどな。

 




いろはす可愛いよいろはす。でも最近は八色が絶滅危惧種なのではと思うくらい少ない気がします……。ですので八色成分が足りなかったって方に少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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もう一度、あざとかわいい後輩と……。⑶

 

 一色に実践と言われて頭を撫で始めてからしばらくの時間が経つ。それでも俺は隣に座っている一色の頭を撫でて……撫でて……ひたすら撫で続けていた。いや、これいつまで撫で続ければいいの……。

 当の本人はどれだけ経っても終わりとは言わないし、もう目はとろんとして口元も緩みきってるし。ゆるっゆるになってますね。

 

「……一色」

 

「ふぁぃ? なんれすかー? えへへぇ……」

 

 しかも酔ってるのこの子は? って思うくらい舌っ足らずで上機嫌になっちゃってますし。だからあんまり言いたくはなかったが、そろそろ俺が恥ずかしくなってきたしな。

 

「このまま俺が撫で続けるだけで本当に意味あるのか?」

 

「……もちろんあるに決まってるじゃないですかー。あ、撫でるのやめないでください」

 

「おい、何でちょっと間があったんだ今」

 

 と言いつつ、言われた通りに普通に撫でてしまう俺も悪いのかもしれないが。

 

「……先輩は嫌ですか?」

 

「え?」

 

 一色はうるうると瞳を潤ませながら、縋るようにちょこんと制服の袖を握ってくる。いい加減これが計算された行動だっていうのが分かっていても、思わずドキリと心臓が跳ねてしまう。

 

「わたしに好かれるのは、嫌、なんですか……?」

 

「そ、そんなことはねぇけど……」

 

 ただそれだと趣旨が思いっきり変わってくると言いますかね……。モテる方法を教えてもらうみたいな話だったのに、ひたすら一色の頭を撫でてるだけってどういうことなの。

 ……うん、俺も積極的になるってことは冬休みの間に決めたしな。全てを一色に任せるわけじゃなくて、ここは俺自身の自主性も大事にしていくべきじゃないだろうか。

 我ながら都合の良い解釈をしたなと呆れつつ、一色の頭を撫でるのを継続する。まぁここからは少しパターンを変えていくけどな。

 

「……一色」

 

「えへへ、そうですそうです。分かればいいんで……す、よ……?」

 

 頭を撫でていた右手をするりと頬に移動して、さわさわと優しく撫でるようにする。それに合わせて一色はかぁっと頬を真っ赤にして、話していた言葉も最後は聞こえないくらい小さくなっていた。

 おお、めっちゃ柔らかいしスベスベしてる……。と思ったら少しだけしっとりしてきたか……? 一色も相当緊張しているってことか。

 

「……一色」

 

「……っ、ど、どうしたんですか……?」

 

 どことなく不安と期待が入り混じった視線を向けてくる一色。その期待に答えられるかは分からないが、頬に添えていた手を一色のあごに滑らせる。

 

「……一色」

 

「せ、先輩……」

 

 つーかさっきから俺ずっと、「……一色」ってしか言ってねーな。緊張しすぎて何て言えばいいか全く分かってません。

 しかし、思わず勢いであごクイまでしてしまった訳だが。これからどうしようかと考えようとする暇もなく、一色は俺の予想もしない行動に出た。

 

「ん……っ」

 

「……え」

 

 思わず素で声が漏れてしまったが、どうやら一色には聞こえていなかったようだ。

 え、えっと……この子は何で目を瞑っちゃったんでしょうか。え、な、何を待ってるの……?

 

「……」

 

「ん……」

 

「…………」

 

「ん……っ、んっ……」

 

 唇をもにゅもにゅさせて、しまいには早く早くと言わんばかりに、こちらに唇を差し出してくる一色。艶のある柔らかそうな唇に視線が釘付けになってしまうが、首をぶんぶん振って無理やり視界から外す。

 いや、いやいやいや。いかんでしょこれ。ど、どうしてこうなった……?

 ……俺が変に積極的になったからですね。いや、それにしては一色も簡単に乗りすぎだろ……。

 

「じ、じらさないでくださいよぉ……」

 

「い、いや、そこまでやらんから……。ただの練習だからな?」

 

「へっ?」

 

 その声に合わせてぱちっと目を開いた一色は、そのままおめめをぱちくりぱちくりさせる。そして、俺の表情を見て察したのか、残念そうにため息を漏らす。

 

「あ、あー……そういうことでしたか……」

 

「ん、そういうこと。お前相手に通用するなら他の奴らにしても大丈夫ってことだよな?」

 

「え? あ、だっ、だめですよ! わたし以外にこんなことしたら!」

 

「……え、何で?」

 

 素直に疑問に思ったので聞くと、一色は視線をきょろきょろさせながらあわあわと慌て始める。え、どうしたのこいつ。

 

「え、えっと、こっ、こんなこと先輩がしても気持ち悪いだけですよ! みんなトラウマ抱えて頭おかしくなっちゃいますからね!」

 

「えぇ……基準が分からんのだが。つーかそれなら何でお前はすぐにやめさせなかったんだよ」

 

「そ、それは、そのぉ……」

 

 胸の前で指をもじもじさせながら、上目遣いで俺のことを見ながらぽしょりと。

 

「と、とにかくだめですからね?」

 

「……分かったよ」

 

「分かったならいいですよ。……あんなのされちゃったらみんなイチコロに決まってますし」

 

 最後の方はごにょごにょ言っていて聞こえなかったが、何か色々とゴリ押しされてしまった気がする。本当に一色に弱すぎるな俺。

 つーか俺は一色相手にしか積極的になれないってことなの? いや、別に悪いことではないが本人はそれを理解しているのだろうか?

 そのこれから更に俺の悩みの原因になりそうな一色は、また何かを思いついたのかこほんこほんと余りにもわざとらしい咳払いをする。あざとい。

 

「先輩の自主性を尊重しようと思います」

 

「……つまりどういうこと?」

 

「もう一度さっきと同じことしてください」

 

「えぇ……」

 

 そんな簡単に言うけど、あれかなり恥ずかしいんだけどな……。今日はもう十分練習的なことはしたしどうにか断れないものか。

 

「そもそも俺がそれやると気持ち悪いって言ったのはお前だしもうやる意味なくない? お前以外にもしちゃ駄目って言われたし」

 

「うっ……変なとこでいらないことを気にして……あ、そうだ。気持ち悪く感じないようにする練習に決まってるじゃないですかー」

 

 手をぱんっと叩いて、さも当たり前のように言ってくる一色。いや、お前今「あ、そうだ」って言ったよな。言葉と動きが合ってねーぞ。

 ……まぁここまで来たら最後まで付き合ってやるか。何なら俺の気持ち悪さですぐに終わりそう。

 

「……分かったよ。また同じことすればいいのか?」

 

「はいっ。でも今度は立ちながらやってみましょうか」

 

 そう言って、一色が視線を向けたのは生徒会室の奥の方だった。あそこならもしも誰かが急に来てもまだギリギリ対応可能かもしれない。

 いや、まぁ鍵閉まってるの知ってるんだけどね。生徒会室に俺が来た瞬間に一色が速攻で閉めてたの見たし。

 それでも用意周到な彼女にある意味感心しながら、彼女の後に続いて奥の方へ移動する。俺と向かい合った一色は高さの関係上、上目遣いで恥ずかしそうに俺を見つめてくる。

 

「ど、どうぞ……」

 

「お、おう……」

 

 そのどこか色っぽさを感じる表情から視線を少し逸らしつつ、先ほど同様に一色の頭の上にぽすりと手を乗せる。そうすると、緊張しているのか彼女はきゅっと目を閉じてぷるぷる震え始める。

 ……しかし、こうされると疑問に思うことが一つ。

 

「……なぁ」

 

「ん……っ、え、あ、な、何ですか?」

 

「目、閉じてたら俺がどんな風なのか分からねーだろ」

 

「で、でも……」

 

 そこで言い淀んだ一色は、かぁっと頬を染めて視線を下に向ける。

 

「は、恥ずかしいじゃないですか……」

 

「……そういう練習なんだろ」

 

 はぁ……急にしおらしい態度になるなよ……。こっちまで恥ずかしくなるじゃねーか。

 

「うー……わ、分かりました。やってやるですよ! 何でも来てくださいっ!」

 

「おい、何かテンションおかしくなってんぞ」

 

 大丈夫かこいつとちょっとばかり呆れながら、一色の頭を撫でるのを再開する。一色は今度は目は閉じないで、熱の篭った瞳で照れながらも見つめてくる。

 

「はぅ……せんふぁい……せんふぁい……っ」

 

「う……」

 

 な、何これ恥ずかしい……。ずっと見つめ合ってるようなもんだし。つーかこいつ、撫で始めると舌っ足らずになるのは本当に何なの? 可愛すぎない?

 

「せ、先輩? 手、止まってますよ……?」

 

「え、あ、お、おう」

 

 今度はもう少し積極的にと思い、右手はそのまま頭を撫で続けて、左手は頬に添えて撫でるようにふにふにと動かす。

 

「んっ……ぁ、ふぁっ、んぅ……っ」

 

「……目、また閉じてんぞ」

 

「あ、だ、だって、先輩にだらしない顔、見られたくないですし……」

 

 それはさっきから十分見てんだけど気づいてなかったのか……。しかし、こんな反応を何度もされてしまうとつい嗜虐心というか、そういう感情が芽生えてしまう。

 少しだけな、少しだけ。……後で怒られそうだけど今は気にしない。

 

「……目、そのまま開けとけよ?」

 

「え?」

 

「開けとけよ」

 

「ひゃ、ひゃい……っ」

 

 俺の雰囲気の変化に気づいたのか、口をぱくぱくさせながら一色の頬はどんどん真っ赤に染まっていく。髪を梳くように撫でると、にへっと頬を緩ませた。

 ……やっぱ恥ずかしいなこれ。変なこと言わなきゃよかった。

 

「……で、どうだった?」

 

「え、何が……ですか?」

 

「いや、だから練習だろ。どうすれば気持ち悪くなくなるかっていう。趣旨忘れたのか?」

 

「え、えと、あの……」

 

 どこか気まずそうにする一色は、何をどう思ったわけか頭の上に置いていた俺の手をぎゅっと握ってくる。そのまま自分の胸の前に持ってきて、ぷにぷにと押したりさわさわと撫でたりひたすらいじくってくる。地味に恥ずかしいんだけど。

 

「わ、分かんないです……」

 

「は?」

 

「あたま、真っ白になっちゃって……」

 

 ……今のは素直に可愛いと思ってしまった。意外とこういうこと慣れてないんだな。

 そう思ってしまうと、今度は俺が我慢出来なくなってしまうわけで。未だにふにふにと触られていた手を、再び頭の上に乗せる。

 

「ふぁ……せ、先輩……」

 

「……じゃ、落ち着くまでは今のまま、な」

 

「は、はい……っ」

 

 もう薄々気づき始めているのだが、今やっているこれは「モテるための練習」って名目を利用しただけの別の何かだ。そう思っているのはおそらく俺だけじゃなくて、先に仕掛けてきた一色もそうであるはずだろう。

 彼女が昨日から今日にかけて、何をどう思って二人きりの生徒会室でこのような事をさせようと思ったのか。その理由を知ってしまったら、俺と彼女の関係が変わってしまうことだけはハッキリと分かるのだが。

 色々と考えていると気づけば、一色が漏らす熱っぽい吐息は荒くなっていて。うっすらと涙を浮かべた瞳と目が合うと、唇が微かに震えていた。

 

「も、無理です……」

 

「え?」

 

 何をと聞き返す暇もなく、カチッ──と何かが少しだけぶつかった感触がすると同時に、唇に柔らかい物が押しつけられる。すぐに離れていったそれを全く理解できず、自分の唇につい指を触れてしまう。

 え、えっと、今のは……? 最初に少し歯が当たったのと、次は一色の唇……?

 

「んっ……えへへ、もらっちゃいました」

 

「え、あ、おま、お前……」

 

 全くと言っていいほど言葉が出てこない。絶対にそこまではいかないと思っていたので、こんな不意打ちをされてしまったら当たり前だ。

 

「……これも練習ですから、その、今度は先輩から、ね?」

「っ……」

 

 どこまでも蠱惑的な表情で、それでいて懇願するように腰に手を回されて密着される。そんな彼女の魅力的な誘惑を、今の俺に断れるわけもなく。

 俺からも彼女の背中に手を回すと、艶のある笑みを浮かべた一色が、んっとこちらに唇を差し出してくる。

 そのうっとりとした表情に吸い込まれるように、今度はこちらから唇を重ねた──。

 

 




次回でおそらくラストになると思いますが、今回のは第一章的な感じなので第ニ章、第三章と今後も続いていく予定です。付き合ってはいないけど、付き合っているかのようにイチャイチャする展開がとても好きです。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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もう一度、あざとかわいい後輩と……。⑷

 

 最初に一色にキスをされて、その誘惑に負けて俺からも彼女に唇を重ねてから、どれくらいの時間が経っただろうか。

 初めは立ちながら抱きしめ合っていたはずなのに、気づけば胡座をかいた俺の股座の上に一色が座っていて。彼女は俺の背中に足を絡めるように回して、身体の全てをくっつけるようにしてきた。

 そんな状態で一時間以上唇を重ね合っていたら、互いの身体の境界線なんて全く分からなくなってしまう。力加減なんて出来るわけもなく、どれだけ強く抱きしめても彼女は喜んでそれを受け入れてくるだけだった。

 ……何でこんなことになってんだろうな、ほんと。本来の目的とは全然違うし、そもそも時間だってそろそろヤバい頃合いだし。

 はむはむと俺の唇を咥えてくる彼女から一旦離れて、一呼吸する。……ぶっ続けでキスしてたせいで、いざするのをやめると口元が少し寂しく感じるな。

 

「……一色」

 

「へぁ……?」

 

 俺が抱きしめる力を緩めて顔も離したからか、くりんと首を傾げる一色。それだけなのにとろんとした目が寂しそうに揺れて、俺の首に手を回して再び唇を重ねてくる。

 

「んっ……んぁ、せんぱい……っ、あむ、せんふぁい……せんふぁい……っ」

 

 甘えるような声音で何度も俺を呼んで、嬉しそうに唇に吸い付いてくる。キスはソフトで優しめなのに、手と足はぎちぎちに俺を抱きしめてきて一つも離すつもりがないことを伝えてくる。

 

「ぷはっ……い、一色……ちょっとストップ……」

 

「え……な、何でぇ……」

 

 再び一色から離れようとすると、今度はうっすらと目に涙を浮かべる。というか、普通にちょっと泣いちゃってるんだけど。

 一色さんどんだけキスハマっちゃってるの……。

 

「い、いや、そろそろ時間がヤバいからな。もし見つかってバレたりしたら大変だろ?」

 

「で、でもぉ……」

 

 頭を撫でたときもそうだったが、どうやら彼女は身体的接触を行うとだいぶ甘えん坊になってしまうらしい。……いや、まぁ、何というか可愛いなそれ。

 うん、仕方ない。ならそれに合わせたやり方でここは彼女に落ち着いてもらうことにしよう。

 

「……一色」

 

「んぅ……っ」

 

 彼女のことを抱き寄せて、ちょっと無理やり胸に顔を埋めさせる。何か一色が俺のワイシャツではすはすしてる気がするけどそこは気にしない。

 加えて、この状態で頭を優しく撫でながら、俺は出来るだけ穏やかな声音で呟く。

 

「……今日我慢できたら、明日はもっと色々してやるからな」

 

 ……いや、本当に恥ずかしいなこれ。まぁこうでも言わなきゃ一色が納得してくれないだろうししょうがないってことで。

 

「はい……いっぱいしてくださいね?」

 

「……ん、分かった」

 

「えへへ……嬉しいです……」

 

 言って、一色は本当に嬉しそうに頬を緩ませながら、もう一度唇を重ねてきた。それを拒めるはずもなく、しばらく彼女と胸焼けしてしまうんじゃないかと錯覚するくらい口付けをし合った。

 ……本来の目的って何だったっけな。いやマジで。

 

××××××

 

 あれから少し時間が経ってからの帰り道。昨日と同様、俺は彼女を駅前まで送ることになった。

 それだけなら普段と大して変わらないのだが、生徒会室を出てから一色の様子がどこかおかしくて。しかし、真っ赤になった耳や頬がその原因を簡単に分からせてくれた。

 

「あ、あの……」

 

「ん、どうした」

 

「さっきのは、その……わ、忘れてください……」

 

 ……要は冷静になったら恥ずかしくなったってことね。一色的には俺にあんな姿をずっと見られてたのが黒歴史になりかけているらしい。

 ……そのくせ俺の腕には抱きついたままってのがどこか愛らしくも感じてしまうのだが。まぁ、昨日から散々弄ばれてる反撃ってことで。

 

「……それは無理だな。可愛かったし」

 

「か、かわっ……えへへ」

 

 頬をとろけるんじゃないかってくらい緩めて、にへへうへへとくねくねする一色。お前はそれでいいのか……。

 ……もうちょっとだけいじってみるか。

 

「……ま、お前相手にここまで出来たんだしやっぱ実践していくしかねーよな」

 

「ふぇ……?」

 

「いや、今日のはモテるための練習ってやつだろ? さっきお前以外とは駄目とか言われたけど、やっぱり試さないと今日のことが無意味になっちまうしな」

 

「な、ななな……」

 

 目に見えてどうしようどうしようとあたふた慌てる一色。こうも分かりやすい反応されると、本当に可愛く見えてしまう。

 

「え、えっと、先輩、あの、えっと、えっと……えっと、あぅぅ……」

 

「はぁ……悪かったよ。あんなことすんのはお前だけだよ」

 

「え、今のってもしかして、く、口説いてるんですか?」

 

「……そうだったらどうすんだ」

 

 彼女がどんな意図で今回ここまで俺とこんな事をしてきたのか、ただそれを知りたくて。

 だから、俺も少しだけ踏み出してみることにした。

 

「んー……やっぱり無理ですね」

 

「ですよねー」

 

「だ、だって今の先輩めっちゃ調子に乗ってますもん! 先輩はわたしの尻に敷かれなきゃだめなんですよ!」

 

 ぷくーっと不機嫌そうに頬を膨らませた一色が、どこかわざとらしく睨めつけてくる。結局、一色が俺をどう思っているかはあんまり分からなかったな。

 そう思っていたのだが、一色は計算されているのか素なのか分からない言葉をぽしょりと。

 

「ずっと先輩のペースであんなことされたりなんてしたら、おかしくなっちゃいますし……」

 

 ……そういうのは普通聞こえないように言うもんだろ、馬鹿。

 顔の熱が引かないまま、しばらく無言で歩いていると気づけば駅前に着いていた。このまま別れたら若干後味が悪い気もするが、今日はもう気の利いたことは言えそうにもないな……。

 

「……じゃ、また明日な」

 

「先輩っ」

 

 呼ばれて振り返ると、唇に未だに慣れない温かくて柔らかい感触が伝わってくる。すぐにそれが離れると、くすりと蠱惑的な笑みを浮かべた彼女があざとく敬礼をしてくる。

 ……この野郎。

 

「ではでは、明日からもよろしわぷっ……」

 

 最後まで言わせる前に自転車を止めて、彼女のことをぐいっと抱き寄せる。そのまま今度はこちらから唇を強引に重ねた。

 最後の最後で調子に乗らせたら明日からマズいからな。しばらくは俺が先手のままってことで。

 

「……ん、また明日な」

 

「は、はいっ、また明日ですっ。えへ、えへへへ……やっぱりもう先輩ペースでもいいかも……」

 

 やだ、この子完全に脳内お花畑になっちゃったかも……。ちゃんと帰れるか不安になってきたぞ。

 

「はぁぁぁ……」

 

 一色が見えなくなるまで見送っててから、大きなため息が漏れてしまう。

 ……やってしまった。もう言い逃れなんてできないよな。

 いや、積極的になるって決めた時点でいずれこうなることは分かってたんだけど。いざこうなると色んな感情がごちゃ混ぜになってるというか……。

 そもそも俺と一色ってまだ付き合ってはいないんだよな……。うん、また色々と口実を作られて面倒くさいことになる気しかしないな。

 ……でもまぁ、それが全く嫌だと思えなくなってる辺り、今日の時点で俺が一色に落とされちまったってことなのかね……。

 




今回でいろはす√part2は一旦お終いです。暫くしたら、この後の甘々な話も書こうと思います。いろはす可愛いよいろはす。

次に別次元という形でpart2を書くとしたら、ポニテが特徴のあの子を書く予定です。初期に書いたヒロインはどうしてももう1回書きたくなってしまいますね……。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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NEW②やはり後輩以上恋人未満な後輩との恋人以上の甘い関係はまちがっていない。⑴

いろはす√part2の続編です。前話からの続きなので読んでない方はまず先にそちらからどうぞ!


 一色との女子にモテるための練習という名目であれやこれやがあった翌日の朝。昨日のことがどうしても頭から離れてくれなかったせいでだいぶ寝不足になってしまった。

 だってそりゃ……恋愛に積極的になろうと決めていたのに、予想外すぎる展開であんなことしちまったんだしな。気づいたらお互いあんなに……これ以上考えるとまた頭ん中がピンクになるからやめておこう。

 いつもより若干遅めで学校に着き駐輪場へ向かうと、見覚えのある少女が心ここにあらずという感じでぽつんと暇そうにスマホをいじっていた。彼女は自分の前を人が通るたびに、顔を上げてはしゅんとうつむくのを繰り返していて。

 それでも相当ぼんやりしているのか俺には気づかなかったようなので、自転車から降りて俺から彼女の元へと向かう。これで待ち人が俺じゃなかったら恥ずかしすぎて悶え苦しむことになりますね。

 

「……一色?」

 

「へぁ……? あっ、お、おはようございます……」

 

「お、おう……」

 

 俺の顔を見た途端、ぱぁっと明るい表情を見せるが、すぐに恥ずかしそうに頬を真っ赤に染める一色。ちらっと俺の顔を見て頬を緩めてはぐにぐにと自分の手で戻したりとかなりテンパっているようだった。

 何だそれ可愛いなお前……じゃなくて、こいつは俺のことをどれだけ待っていたのだろうか。赤くなった鼻の頭や耳たぶを見てしまうと、ちょっと不安になってしまう。

 

「……寒くなかったか?」

 

「寒かったです……」

 

「そりゃそうだろ。風邪ひくだろうが……」

 

 昼休みでも放課後でも会う時間なんていくらでもあったろうに。もし俺が遅刻したり休んだりしたらそれこそ時間の無駄になってしまうだろう。

 俺のため息混じりの呆れた表情を見た一色は、ちょこんと冷たくなった両手で俺の手を包み込むようにぎゅっと握ってきて。

 

「だって……先輩に、会いたくて……」

 

「……そうか」

 

「その、先輩は……?」

 

 一色はか細い声で言って、眉をくにゃりと曲げ不安げな瞳で見つめてくる。……こいつは自分が迷惑なことをしたから、俺が怒っているとでも勘違いしているのだろうか。

 俺が思ったのはもうちょっと自分の身体を大切にして欲しいってことだけなんだけどな。言いたいことはそれなりにあるが今は置いといて、握られていないもう片方の手で彼女の頬をそっと撫でる。

 

「……お前と同じだよ」

 

「……っ! 先輩……っ!」

 

「うぉ……っと」

 

 もう堪えきれないという様子で一色が、俺の胸に飛び込むようにして抱きついてくる。まさか一日空けただけなのに一色がここまで甘えてくるとは思わなかったな……。

 ……いつもより遅めに来たとはいえ、駐輪場の時点で人が全くいないわけじゃないんだよな。人のことは全く言えないが、一色の方が頭の中ピンクに染まっちまってるし俺がしっかりしないとな……。

 

「……ここじゃ人がいるから、さすがにな?」

 

「先輩……先輩……っ」

 

「聞いてないし……」

 

 むぎゅうって擬音が似合うくらい力いっぱい抱きついて、幸せそうに胸に顔をぐりぐりしてくる一色。仕方なく少し強引にぐいっと引き離すと、それだけのことなのに小さな嗚咽を漏らし涙目で懇願するように見つめてくる。

 ……それはちょっとずるくないですかね。

 

「……ほれ、もう行かなきゃ遅刻になんぞ」

 

「うぅ……じゃ、じゃあ……お昼に生徒会室に来てください……」

 

「職権乱用だなそれ……分かったよ」

 

 ……まぁ、さすがに不満を持たせたまま午前中を過ごさせるのは可哀想だよな。昨日よりも素直に感情をぶつけてくれるのは、正直言って嬉しいことでもあるんだし。

 

「じゃ、行こうぜ」

 

「ふぁっ……あぅ……えへへ……」

 

 控えめにだが頭をくしゃくしゃと撫でてやると、一色は頬をゆるっゆるにしてとろんととろけるような笑みを浮かべる。また抱きついたら止まれないと自分でも気づいているのか、俺のもう片方の手をぎゅっと握ってむむむっと我慢していた。

 ……もうこのまま俺から抱きしめてやりたいとすら思えてしまうのは、やっぱり昨日の時点で俺が彼女に落とされてしまっているからなのだろうか。

 いや、まぁもちろんそんなこと出来ないんだけどね? 今さら一色に積極的になるなんて、その、恥ずかしいし……(気持ち悪い)。

 

××××××

 

 朝のちょっとした一件から時間が経ち、あっという間に昼休みを迎えた。……というのには、さすがにちょっとばかり語弊があるな。

 うん、今までで一番授業を受けるのがしんどかったですねこれ……。そう思えてしまうのは、やっぱり一色に早く会いたいという感情が多少なりともあったからであって。

 隣の席の女の子(可愛い)が俺がソワソワするたびにビクビクしてたから本当に申し訳なかったですね……。傍から見たら相当気持ち悪い自信がありました。

 午前中のことを振り返りつつさっさと購買で昼食を購入し、おそらくもう一色がいるであろう生徒会室へ向かう。自然と早くなる足取りには、思わず自分でも呆れて笑いが漏れそうになってしまった。

 少しして生徒会室に着いたので、ドアを一応ノックするが返事がない。普段から他のメンバーがいたとしても必ずあいつが返事するんだけどな……と、疑問に思いつつドアを開けると──。

 

「わっ!」

 

「……何してんの」

 

「えへへー、ちょっと驚かそうと思って。どうでした?」

 

「あー、うん、驚いた驚いた」

 

 俺が驚いてんのはその真っ赤っかになったほっぺたの方なんですけどね……。何なのいろはす? 万年発情期なの?(失礼)

 生徒会室の中に入ると、とててとドアに向かった一色がガチャりと音を立てて鍵を閉めた。俺が呆れた表情を向けると、一色はそれも気にせずきゅっと制服の袖を摘んできて。

 

「せ、先輩……その……」

 

「あー……その、なに。とりあえず飯食おうな?」

 

「むぅ……」

 

 俺の言葉に一色は不満げに頬を膨らませて、ちょっとした反抗なのか掴んだ袖をぶらぶらと揺らし始める。俺の手も一緒に揺れちゃうしちょこちょこ手が触れちゃってるしで恥ずかしいですね。

 うん、ヘタレでごめんね……? 俺も一色の顔見ただけで心臓がちょっとヤバいから落ち着く時間が欲しいんですよ……。

 

「はぁ……分かりました。じゃあ先に食べちゃいましょうか」

 

「おう」

 

 一色としては生徒会室に俺が来た時点で、すぐにでも昨日と同様のことを始めようと思ってたんだろうか。まぁ、多分というか絶対そうなんだろうなぁ……。

 気づけば一色は先に椅子に座っていて、ぺちぺちと隣の椅子を叩いていた。どうやら座れと言うことらしいので大人しくお座りする。まるで犬ですね。

 各々で準備をして先に俺がパンを食べ始めると、弁当の用意をしていた一色がこてんと首を傾げる。

 

「先輩っていつも購買で買ってるんですか?」

 

「そうだけど」

 

「へー、たまにはお弁当とか食べたくならないんですか?」

 

「……何、何なの。いくら取るつもりなのお前……」

 

「いや、まだわたし何も言ってないんですけど……」

 

 これにはさすがのいろはすもドン引きである。いやだって今のこいつなら「じゃあわたしがお弁当作ってきてあげましょうか?」みたいなこと絶対言ってくるだろうし……。

 

「……じゃあ何が言いたいわけ」

 

「んー、食事の彩りが寂しい先輩にわたしがお弁当作ってあげてもいいかなと思いまして」

 

「言うと思った……」

 

 嬉しいやら恥ずかしいやらでついつっけんどんな態度になってしまうが、それでも一色は心底楽しそうな笑みを浮かべて話を続ける。

 

「もー、何で嫌そうにするんですか。本当は今日も作ってこようと思ってたんですよ?」

 

「……じゃあ何で作ってこなかったんだ?」

 

「その、家に帰ってから余裕がなくて……昨日、色々ありましたし……」

 

 ぽしょぽしょと恥ずかしそうに呟き、蠱惑的な笑みを浮べながら上目遣いで見つめてくる。あえて俺の劣情を煽ってくるような彼女の甘い言葉に、思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。

 

「そ、そうか……」

 

「声裏返ってますよ?」

 

「うっせぇよ……」

 

 朝はあんだけ先輩先輩言ってたくせに、昼になったらけろっとしやがって……。まぁ、まだほっぺた真っ赤だからそこまで余裕はなさそうなんだけど。

 

「しょうがないので、少し食べさせてあげてもいいんですよ?」

 

「いらない」

 

「えー、食べてくださいよー!」

 

「理不尽すぎるでしょちょっと……」

 

 なぜかぷんすか状態の一色がぶーぶー文句を言いながら箸で卵焼きを挟んだ。それを問答無用で俺の口元へ差し出してくる。

 

「はい、あーん」

 

「あ、あー……」

 

 羞恥に耐えつつ卵焼きを口に含むと、じんわりとした甘さが口内に染み渡る。まぁ、ここまでされて食わないわけにもいかないしな……。

 ……つーか何これめっちゃ美味いんだけど。一色も食った俺を見て嬉しそう笑ってるし、言わなくても結果は分かっていたんだろう。

 ……胃袋までつかんでくる作戦なんでしょうか。即堕ちさせられそうなんですけど。

 

「……美味いな」

 

「えへへ……ありがとうございます」

 

 褒められて嬉しかったのか、一色はにへらっと頬を緩めながら俺の手元のパンをじっと見てくる。

 

「先輩のパンも美味しそうですね」

 

「ん、どれかいるか?」

 

 3つほど適当に買ってきたのがあるし、1つくらいなら別にあげても大丈夫だろう。そもそもこの調子じゃ昼休みの間に3つも食ってる時間なさそうだし。

 

「そんなに食べたら太っちゃうので、先輩の今食べてるそれをひと口だけください」

 

「……ん、ほれ」

 

「はむっ……」

 

 もうこれも今さらだよな……と思ったので一色の口元にパンを持っていく。俺が口をつけたところと全く同じところに口を合わせて食べると、一色はほんのりと頬を朱に染め照れたようにはにかむ。

 

「えへへ……間接キス、ですね……」

 

「……今さらだろそれ」

 

「でも先輩、顔真っ赤になってますよ?」

 

「お前は初めからずっと赤いけどな」

 

 言うと、一色はむすっと頬を膨らませるが少し寂しそうに表情を歪ませる。ちょこんと今日何度目かの袖を握ってくる行為が、今回ばかりは重みが違うことは自然と理解できた。

 

「……ね、先輩。まだ焦らすんですか?」

 

「……っ」

 

 一色から伝わってくる雰囲気が変わったのがハッキリと分かってしまった。彼女が小さく漏らす甘ったるい吐息や熱っぽい視線、もじもじしながら俺の反応を待つ愛らしさに心臓が痛いくらいに高鳴ってしまう。

 

「あの、一度だけでもいいので……その……」

 

「いや、でもな……」

 

 今はまだ昼休みで、昨日の放課後の状況とは全く違うのだ。廊下にだって人が通る気配はあるし、鍵は閉めてあるとはいえ誰かが来てしまう可能性だってある。

 だから、一色の要望には少なくとも放課後にでもならなきゃ応えてあげられそうにはないんだよな。

 

「昨日、いっぱいしてくれるって言ったじゃないですか……」

 

「……分かったよ」

 

 いろはすには勝てなかったよ……。完全に堕とされましたね……。

 ……まぁ、昨日よりは控えめにしとくって自分に言い聞かせれば何とかなるだろう。

 

「……ほれ、頭こっち寄せろ」

 

「は、はい……」

 

 震える声音で返事をした一色が、椅子を動かし頭をこちら側に寄せてくる。くしゃくしゃと頭を撫でると、一色はふぁっと控えめな吐息を漏らす。

 

「えへ、えへへ……」

 

 すぐにとろけるんじゃないかというくらい頬を緩めて、気持ちよさそうに目を細める一色。頭を撫でている俺の手に自分の手を重ねてきて、さわさわとくすぐるように触ってくる。

 

「……なぁ、一色」

 

「ふぇ……どうしたんですかぁ?」

 

「……抱きしめてもいいか」

 

 そんな表情を見せられてしまったら、散々一色の行動を抑えてきた俺も我慢できなくなってしまうわけで。昨日の一色とのやり取りで、自制心がなくなりかけてるのは俺も同じだった。

 

「えー、どうしましょうかねー」

 

「そこで渋るのかよ……」

 

「これも女の子にモテる練習、ですよ? ちなみにわたしはちょっと強引なくらいが好きですよ!」

 

 一色はわざとらしく期待するような言葉を投げかけてきて、ちらっちらちらっとちょっとウザい視線を向けてくる。

 つーか、まだそのモテる練習って口実使うのかよ……。まぁ、そう言わなきゃ俺からは動けないってのを一色も分かっているからなんだろうけど。

 

「……じゃ、立ってくれるか」

 

「はーい」

 

 明るい口調で返事をし、一色が俺の手を引っ張りながら立ち上がる。そのまま彼女の前に立つと、その身体は期待から少し震えてるのが見て取れた。

 熱っぽい吐息を漏らしながら、潤んだ瞳で見つめてくる一色を見たらもう我慢できるわけがなく。右手は頭に、左手は腰に回してぎゅっと彼女を抱きしめる。

 

「はわ……」

 

 そんな声にもならないような吐息を漏らした一色を抱きしめると、女子特有の柔らかで熱っぽい感触が身体に伝わってくる。密着すればするほど甘い香りが鼻腔をくすぐり、自然と彼女の頭を撫でながら腰に回す手にも力が入ってしまう。

 

「あっ……はぁっ……はっ……」

 

「……一色?」

 

「こ、これ、だめです……」

 

 俺の胸に手を置いて大人しくしていた一色だったが、唐突にぎゅーっと背中に手を回して抱きついてきた。俺の首元に顔を埋めて、ぐりぐりとおでこをこすりつけてくる。

 

「先輩の手つき、優しくて……触られてるだけなのに……いっぱい幸せで……」

 

 吐息混じりの甘ったるい言葉の数々を漏らす一色に、俺からは何か言えるわけもなく。それでもできる限り彼女を抱きしめると、それだけでも彼女は嬉しそうにぎゅうぎゅうと身体を絡めるようにくっつけてきた。

 

「……ん、じゃあしばらくこのままな」

 

「あぅぅ……」

 

 まさか一色がここまで極端に甘えん坊になってしまうとは思わなかったな。それを断れないどころか、本心では嬉しく思っている俺もだいぶ駄目になってるんだろうけど。

 これからの彼女との生活は、予想もできないくらいだいぶ爛れたものになりそうだった。

 




投稿2年日記念ssに選ばれたのはいろはすでした。この続編√ではタイトル通り、ただただ八幡といろはすがイチャイチャする甘い話を書き続けていく予定です。

昨日でこのssを投稿してからちょうど2年が経ちました。いつも読んでくれている読者の皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。2年前からずっと読んでくれている読者の方とかもいるのかも気になりますね……。

もちろんまだまだたくさん書いていく予定なので、これからもぜひよろしくお願いします!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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NEW①やはり後輩以上恋人未満な後輩との恋人以上の甘い関係はまちがっていない。(2)   

 これから更に一色との関係が爛れたものになりそうなのを不安に思いながらも、結局彼女を抱きしめ続けて十分程が経った。一色はなるべく俺の身体に密着するようにぎゅうぎゅうと身体を押し付けてきたり、頭をぐりぐりと俺の胸にくっつけてくる。

 まるで俺に自分の匂いを残すかのようにするその行為に、自然と身体が熱くなってしまう。触れている彼女の全てが柔らかくて、一色が一人の女子だと改めて認識させられる。

 つーか、こいつは本来の目的を忘れているんじゃないだろうか。今日は朝からずっと発情してるようにしか見えないんだけど。本人に言ったら怒られそう。

 

「はあああ……幸せぇ……」

 

「……一応聞くが、今俺達がしていることは?」

 

「ふぇ……? 先輩とわたしはラブラブハグをしています……?」

 

「何で疑問形なんだよ。……モテるための練習」

 

「あ……や、やだなー、覚えてるに決まってるじゃないですかー」

 

 やっぱりそうですよね。その建前すら忘れてやがったこいつ。

 まぁあんだけやることをやっちまった身として、今さら一色を放置して他の女子に積極的になろうなんて考えられる訳ないんだよな。一色がどうして俺にこうして甘えてきてるのかなんて、今の俺なら聞かなくても分かるし。違ったらほんと恥ずかしいしいろはすマジビッチってなるんだけどね!

 ……それに、昨日の時点で俺の気持ちはもうとっくにこいつに傾いていて。冬休み中に俺が予想していた展開とは大きく違いはあるが、こうして誰かに積極的になろうと思っていたのは事実だしな。

 ただ、朝からのこいつの暴走具合を考えると不安に思うことが多々あるわけで。もし公衆の面前でもこの甘えっぷりだったらと思うとさすがにちょっとな……。

 

「今は二人だからまだ良いが、これからは少し加減をだな」

 

「え、や、やだ……」

 

「え、ちょ」

 

 え、いろはすマジ泣きしそうってマジ? テンパって語彙力の低下がマジヤバたんなんだけど。

 俺が慌てていると一色はぎゅうっと抱きしめる力を強めてきて、寂しそうな瞳で俺を見つめながら首を傾げぽしょりと。

 

「先輩は、いやですか……?」

 

「うぐ……」

 

 そう言われると非常に弱い。……半分落とされちまってるからかもしれんが、めっちゃ可愛く見えてずるいわこいつ。本人も俺の心情なんか理解した上でやってるからなおさらタチが悪い。

 

「……ああもう、あざといんだよお前は」

 

「えへへ……こういうの、お嫌いですか?」

 

「……聞かなくても分かってるだろ」

 

 わしゃわしゃと頭を撫でてやると、一色はふふんとよく分からん声を漏らしながらドヤ顔をする。さっきのはやっぱり泣きそうになるフリかよ畜生……。

 

「先輩はチョロいですねー」

 

「チョロいのはどっちだよ。昨日から先輩先輩言って甘えまくってきてるのはどっちだ」

 

「満更でもないくせにー」

 

 いや、満更でもないのはどっちだよ……。今自分がどんな顔してんのか見せてやりたいわ。ほっぺたゆるゆるの幸せそうな顔しやがって。

 

「先輩成分が不足しそうになったら、またこうやって抱きついたりしてもいいですか? あ、もちろん抱きしめるだけじゃなくて他にも色々してもらいます」

 

「……ちなみに不足したらどうなるんだそれ」

 

「先輩の前で大泣きします。周りに人がいっぱいいてもお構い無しです」

 

「やりたい放題するな本当に……」

 

 結局モテるための練習という建前すらなしのやりたい放題さに思わずため息が漏れてしまう。しかもいざ本人に頼まれたら絶対に断れないのが容易に想像できるし。

 つーか、色々っていうのが何やらされるか分からなくて怖すぎる。……このまま一色のペースのままなのは何だか癪だし、俺も少しは積極的になってみるか。

 

「……俺からしたいって言ったら」

 

「ふぇ? ……ええっ!?」

 

 ただでさえ抱きついてて至近距離だからめっちゃうるさい。驚いて口をぽかーんと開けたままの間抜けな顔につい笑みがこぼれてしまう。

 

「マ、マジですか? せ、先輩からわたしに?」

 

「あー、今のやっぱなし。聞かなかったことにしてくれ」

 

「いやいやいや、そんなことできませんよ! おっけーですよおっけー! いつでも抱きしめてください!」

 

 うん、うるさい。よくそんな恥ずかしいこと大きな声で言えんなこいつは。

 

「あ、で、でも、あんまり人前ではだめですよ?」

 

「……一応理由を聞いとくが」

 

「そ、その、我慢できなくなっちゃうので……色々と」

 

 言って、一色はもじもじと身体をよじりながら頬を朱に染めて上目遣いで見つめてくる。その瞳はさっきまでと違って明らかに熱がこもり、漏らす吐息も荒くなっていて──。

 

「ん……っ」

 

 気づけば、柔らかな感触が唇に伝わっていて。背伸びをした一色に抱き寄せられながら、今日初めてのキスをしていた。

 柔らかくて温かい感触と、甘ったるい吐息に頭がくらくらしてしまう。すぐに一色は離れると、恥ずかしそうに視線を逸らしながらぽしょぽしょと呟く。

 

「こ、こんな感じで我慢できなくなっちゃいます……」

 

「……今はまだ何も言ってないはずなんだが」

 

「嬉しいこと言われちゃったので、つい」

 

 へにゃりと頬を嬉しそうに緩め、再び俺の胸に身体を預けてくる。その言葉も行動も全てが魅力的に感じてしまって、自分でも驚くくらい自然と彼女の頭を撫でてしまう。

 

「……ほんと可愛いなお前」

 

「えへへ……またして欲しいんですか?」

 

「……どうだろうな」

 

 答えなんか分かりきっているのに、ここで濁してしまうのは本当に情けないなと思いつつ。タイミングが悪いことに昼休み終了五分前の予鈴が鳴った。

 

「解散だな」

 

「むぅ……」

 

 言うと、一色は不満そうに頬を膨らませて俺の胸に顔を埋めて動かなくなってしまう。あざといし可愛いし時間ないしで色々と大変。

 

「離れてくれませんかね……」

 

「……もっと一緒にいたいです」

 

「……っ」

 

 不満そうに、それでいて甘ったるい声音で漏らすその言葉はどこまでも魅力的で。ただ、彼女の立場を考えたら授業をサボるようなことはあってならない。

 ……こいつは方法もやり方も大胆な上ちょっと変で、それなのにどこまでも健気に俺にアピールしてきてくれてんだ。いつまでも俺が受け身のままなのは駄目だよな……。

 

「あー、その、……放課後暇か?」

 

「え、あ、はい、特に何もないです」

 

 きょとんと本当に何も分かっていないように言う一色に少し呆れてしまう。こいつは俺からアピールされることはないと本気で思ってそうだしな。

 まぁ、普段の俺の態度からしてそれが当たり前なんだろうけど。だからこそ、今から言うことが恥ずかしくてついがしがしと頭を搔いてしまう。

 

「……また放課後、練習するか」

 

「っ……! そ、そうですね。先輩はまだまだ女の子の心が分かっていないのでそうしましょう」

 

「はいはい、そうだな」

 

 俺の気持ちを汲んでくれたのか、話を合わせてくれた一色に彼女なりの優しさを少し感じたり。……いや、こいつも恥ずかしくて話合わせたなこりゃ。

 一色はぎゅうっと最後に力いっぱい抱きついてきて、満足そうな吐息を漏らして俺から離れる。上目遣いで俺を見つめ、真っ赤に染まった頬を隠しもせずにくすりと微笑んで──。

 

「えへへ……嬉しいです」

 

「……ん」

 

 お互いモテるための練習なんて建前がもう意味がないなんて分かっている。それでも、この状況をまだ少しだけ楽しんでいるのは俺だけじゃないと容易に分かってしまっていて。

 ……告白、か。先にやることやったせいで逆にハードル上がってんじゃねぇかこれ……。

 まぁ、一色が喜んでくれるなら少しは頑張ってみますかね……。

 




お久しぶりです。最近半年ぶりくらいにssを書くのを再開しました。直近では五等分の花嫁のssを二作品書きました。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10452228
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10458559

興味のある方はぜひ読んでください。ハーメルンの方の投稿も再開したのでこれからも読んでもらえたら嬉しいです。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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ルミルミ√ 俺とルミルミ、時々ママンと。(1)

ルミルミ√スタートです!


 冬休みも残り僅かとなったある日。あと数日もすれば学校が始まるという現実がやってくるのだが、今年は気構えが多少違うからかそう嫌な気もしなかった。

 だってね、学校が始まったらそりゃもうぐふふな展開が待ってますもんね。ぐふふになれる気なんてしないけどなれるだけの努力はしようと決めているのだ。心機一転リニューアル八幡に全米が涙を流さずにいられないねこれは!

 なんてことを内心ぐふふぐふふと考えながら、今日の俺は千葉に来ていた。もちろん一人で。

 学校が始まる前にある程度欲しい物を集めとかんといつ買いに来れるか分からんしな……。最近じゃ部活だけじゃなく生徒会まで駆り出されるし。

 はーほんま人気者は辛いぜと言わんばかりのため息を漏らしながら、休憩用のベンチが置いてあるスペースへ行く。人混みに揉まれて頭ん中もピンクになりかけてたからちょうど良い。

 帰りに小町に何か買ってってやろうかと考えをシフトチェンジしつつ、空いているベンチに座る。目の前の老若男女が歩いていく賑やかな光景に、何故俺だけが一人きりなのか軽く涙が出そうになっていたその時。

 

「あ……」

 

「んぁ?」

 

 そんな、雑踏の中じゃ聴き逃して当然のような声をキャッチする自分が恐ろしい。仕方なくその声のする方へ視線を向けると、つい最近のクリスマスイベントで顔を合わせたばかりの子がぽかんと俺を見つめていた。

 

「八幡?」

 

「……おお、ルミルミじゃねぇか」

 

「ルミルミって呼ばないで。やめて、きもい」

 

 そう、この俺に対する当たりの強さ! 雪ノ下とはまた違う小学生らしい直球な言葉、すっごいゾクゾクしちゃうよね!

 ……ではなく、何故この子がこんなとこで一人で? いや、まぁ小学六年生にもなれば一人で来れなくもないだろうが、わざわざ一人で来るところでもないだろう。

 ということは、だ。

 

「……ルミルミ、もしかして迷子なの? 迷子センター行くか?」

 

「行かない、あっちにお母さんいるし。あとルミルミやめて」

 

 ああ、やっぱりお母さんと一緒ってことね。ほんと母親の買い物の長さは異常。付き合うとその日全てが潰れるまである。

 おそらく留美もそれに疲弊したか何かで、一人でほっつき歩いてたのだろう。で、そこで疲れ果てた目の腐ったお兄さんを見つけたと。

 うん、なるほど。このどこを見ても人がいっぱいな状況で幼女と一緒にいたら非常にマズいですね! 兄弟とか親戚のお兄さんと言うには余りに顔が似てなさすぎる。

 よし、帰ろう。俺だってまだ捕まりたくないんだ……。

 

「そうか、んじゃ達者でぐぇっ……」

 

「うわ……」

 

 ベンチから立ち上がって歩き出そうとしたら秒で首根っこを掴まれました。振り返ると、背伸びして俺を捕まえるルミルミ。その表情はドン引きそのものである。

 お前が引っ張ったからカエルみたいな声出ちまったんじゃねぇか……。何で俺が変なことしたみたいな雰囲気になってるのん?

 

「何てことすんだよ……思わず死んじゃうかと思ったぞ」

 

「別に」

 

 むぅ、と唇を尖らせる。どうやらご機嫌斜めな様子だ。

 ……まぁ、久々とまでは言えないが、たまたま会えたのも何かの縁だしな。そう自分で言った通り、本当に何かの縁なのだろう。

 今回のように、今後俺と彼女が会える機会があるのかなんて分からないのだから。もしかしたら最後になってしまうかもしれない。

 ……だから、まぁ、暇潰しの相手くらいなってやれないこともない。もし職質を受けたら留美本人に弁明してもらえばいいだけだ。

 

「……母ちゃん来るまでの話し相手くらいはしてやれるけど」

 

「ん、面白い話してね?」

 

「ちょっと留美ちゃん? まだそういう無茶ぶり覚える歳じゃないでしょう?」

 

 将来どれだけの男を誑かしてしまうか不安を覚えつつ、留美と一緒にベンチに座る。

 ……もう少しだけ離れて貰えると精神衛生上助かるんだけどな。このままじゃ八幡ほんとに捕まっちゃうよ!

 

「……しかしルミルミママンは大丈夫なのか? 娘が知らん歳上の男と一緒にいたらパニックになるだろ」

 

「それは大丈夫。お母さん、八幡のこと知ってるし」

 

「え? 何で?」

 

「私が教えたから」

 

「いや、だから何で……?」

 

 俺が首を傾げると、留美は当たり前のことを言ってくる。

 

「親に何があったか話すのかは当然でしょ」

 

「確かにそうだが。……ぐ、具体的には」

 

「目が死んでる、口が悪い、ロリコン」

 

「いや待ってちょっとほんとに警察沙汰になっちゃうから」

 

 俺のげんなりした顔を見て留美はくすりと笑う。

 

「うそ。でも八幡のことを知ってるのは本当」

 

「そうですか……。でも言っていい嘘と悪い嘘があることを覚えような……」

 

 しかし、いくら留美の母親が俺のことを知っていたとしても現状に変わりはない。突然歳上の男と一緒にいたらやはりびっくりしてしまうだろう。

 ちゃ、ちゃんと挨拶考えとかないと……。何でも第一印象って大事!

 そんなことを考えていると、留美にじっと見られていることに気づく。

 

「どうした?」

 

「八幡、難しい顔してる」

 

「そうか?」

 

 大したことを考えていた訳じゃなかったけれど、留美にはそう見えてしまったらしい。

 

「うん。……そんなにうそ、嫌だった?」

 

 言って、留美は眉をくにゃりと下げて少し寂しそうな表情を浮かべる。あんな冗談のやり取りでさえ気にしてしまうこの子はやっぱり優しいのだろう。

 ……こういう時こそ、女の子を気遣えなきゃ駄目だと言うのは冬休みの間に学んだからな。

 

「気にすんな。ルミルミに面白い話してやろうと悩んでたんだよ」

 

「ルミルミやめて。あと頭も撫でないで」

 

「ひぇっ……ごめんなさい……」

 

 あれれー? 頭撫でるの駄目だったのん……? まだ留美の俺に対する好感度が足りなかったのか……。思考が完全にギャルゲーになってるな。

 つーか普通に年下に拒絶されるの辛いんだけど……。

 

「子ども扱いはやだ」

 

「そう思っちゃうってことはまだまだ子どもの証だな」

 

「……ばか」

 

 頬をむぅ、と膨らませて拗ねられてしまう。自分よりかなり歳下相手にこんなんじゃ、学校始まって女子を落とすのなんて夢のまた夢なんじゃないだろうか……?

 つん、と顔を逸らしてしまった留美をどう宥めようか考えていると、こちらに誰かが近づいてくるのを感じた。視線を向けると、買い物袋を持った若くて綺麗な女性が立っていた。

 

「あ、お母さん」

 

「え、お母さん?」

 

 ず、ずいぶんお若いことで……。まぁ同級生の母ちゃんって訳でもないし、当然と言えば当然か。うちの母ちゃんも年取ったな……と涙ちょちょ切れです。

 ということは、将来ルミルミもこうなるのか。そしたらもうルミルミじゃなくてルミルミさんだな。

 

「留美、そちらは?」

 

「八幡」

 

「その珍しいもの見つけたみたいに指さすのやめてね? ……ど、どうも」

 

 いったいどんな反応をされてしまうか恐る恐る顔を伺うと、留美の母親はぽかんとしたあどけない表情を浮かべていた。

 

「え、あなたが八幡君なの? え? え?」

 

「え、あ、はい、そうです。え? え?」

 

 留美の母親、これからは略してルミルミママンと呼ぶことにしよう。全然略せてないけどまぁいい。

 そのルミルミママンが驚いたように何度も「え?」と言うものだから、釣られて俺も同じことを何度も言ってしまった。しかし、落ち着いたと思ったら今度は目をキラキラと輝かせ始めた。

 ……ほんと若いなこの人。留美のお姉さんだって言われてもマジで信じるレベルだぞ。

 

「あなたが八幡君なのね!? きゃー!」

 

 あ、一応言っとくと今のきゃーは悲鳴じゃなくて黄色い声です。いや、どっちにしろ何でそんな反応なんですか……?

 俺が明らかに困り顔を浮かべていると、ルミルミママンはそれを気にせず俺の隣に座ってくる。ルミルミ、俺、ルミルミママンの順だ。

 ……いや、おかしいでしょこの座り方は。八幡予想外すぎる展開にちょっとついてけないよ……。

 

「あ、あの、留美さんからは何とお聞きで……?」

 

「んー、いっぱい聞かされるから何て言えばいいのかしら。とりあえずあなたの話をするときの留美の顔が可愛くて可愛くて」

 

「ちょ、お母さん……」

 

「……ルミルミ」

 

「その呼び方やめて。あとその目もやだ、キモい」

 

 顔を真っ赤にして俺とルミルミママンを睨めつける留美に自然と頬が緩んでしまう。その頬をむぎゅっと掴まれた。

 

「怒るよ?」

 

「ご、ごめんなひゃい……」

 

 むにむにと俺のほっぺたで遊ぶ留美を引っペがし、ルミルミママンへ視線を向ける。まだちゃんとした挨拶もしてないしな。

 

「えと、比企谷八幡です。留美さんとはさっきここでたまたま会いました」

 

「いいのよ畏まらないでも。あなたには留美が色々お世話になったみたいだし」

 

「……いや、別に俺は何もしてないですよ」

 

 クリスマスイベントの時はともかく夏休みのことに関しては、人によってはお節介とも大迷惑とも取れることをしてしまった。

 その点に置いては何もしてない訳ではないが、留美が母親にどう伝えていようと何一つとして誇っていいことではない。なので、ここではやはり何もしてないと言っておいた方がいいのだろう。

 

「……んじゃ、俺はもう帰ります。留美もまたな」

 

「え、もう帰るの?」

 

「母ちゃんが来るまでって言ったろ?」

 

「そうだけど……」

 

 言って、留美が立ち上がった俺を残念そうな顔で見上げる。そんな風に見られると帰るに帰れないんだが……。

 すると、何か思いついたのかルミルミママンが留美にこしょこしょと耳打ちをする。それを聞いた留美は少しだが、ぱぁっと表情を明るくさせる。

 

「ほら、留美」

 

「う、うん……は、八幡」

 

「ん、どうした?」

 

 聞くと、留美は頬を桃色に染め、口元をもにゅもにゅさせる。そして、掠れたような小さな声でぽしょりと。

 

「れ、連絡先……」

 

「ん、いいぞ。んじゃ、よく分からんからやっといてくれ」

 

 スマホを手渡すと驚いた表情を浮かべるが、すぐにぽちぽちとタップし始める。すると、何だかとても悲しそうな表情で俺を見てきた。

 

「……八幡」

 

「皆まで言うな」

 

 小学生にガチで心配される高校生ですこんにちは。情けなすぎてマジで泣きそう。

 すぐに連絡先の交換が終わったのか、留美は満足そうに吐息を漏らす。スマホを返すとちょちょいと手招いてくるので、仕方なくもう一度ベンチに座る。  

 

「メールしていい?」

 

「あの惨状を見たろ? 大歓迎だよ」

 

 俺の言葉に留美は嬉しそうに息を吐き、ちょこんと服の袖をつまんでくる。

 

「……電話もしていい?」

 

「……まぁ、たまになら。毎度毎度面白い話なんてできないしな」

 

 言うと、留美はふるふると首を横に振る。そして、俺を見て恥ずかしそうにしながらも笑みを浮かべた。

 

「八幡の声が聞けるだけでいい」

 

「……そうか」

 

 あ、危ねぇ……何で今ちょっとドキッとしたの俺? ルミルミさんテクニシャンすぎるわすげぇよ……。

 最近のロリの進み具合(意味深)に恐怖を覚えていると、ルミルミママンがにゅいっと身体を乗り出してくる。

 

「はいはーい! じゃあせっかくだしお母さんも交換しちゃおうかしら!」

 

「は、はい? ……なぁ留美、この人ほんとにお前のお母さんなの? テンション高すぎない?」

 

「多分……」

 

「えー、ひどーい」

 

 ぷくーっと頬を膨らませ(可愛い)、明るい表情で振る舞っていたが、ルミルミママンは不意に耳元に顔を寄せてぽしょりと。

 

「色々と話したいこともあるし、何よりお礼もしたいから」

 

「……さっきも言いましたけど、別に俺は何もしてませんよ」

 

「そうかしら? うちの娘にこうして懐かれてる時点で、十二分に何かしている気もするけどね」

 

「ひぇっ……」

 

 ルミルミママンの脅しが割とマジにマジでヤバたん。俺の語彙力が完全に死んだンゴ……。

 遠回しにお前娘に本当は何したんだって言ってきてるよねこれ? 何もしてない訳じゃないけど変なことだけはしてませんよ?

 うん、気づいたらスマホを渡していました。恐怖故の無意識でしたね。

 

「よしっ、登録完了。私ともメールしてくれたら嬉しいな」

 

「……八幡とは私が話すからお母さんはいい」

 

「えー、お母さんも八幡君と話したいもの」

 

 その親子のやり取りを微笑ましく思いながら、ため息とも取れない吐息を漏らす。内心は冷や汗ダラダラですからね。

 残り数日の冬休みに再び出会ってしまった俺と彼女と、彼女の母親と。これからどうなってしまうのか、不安を覚えつつ。

 それでも、隣で楽しそうにする留美を見て、悪いことではないのだろうと。

 不思議と、それだけは確信できた。

 




一年と三ヶ月ぶりの新ヒロインでした。この√は甘々というよりはほんわかした雰囲気を楽しんでくれると何よりです。

他にはほんわかぱっぱめぐりっしゅなあの子やポニテが似合うあの子の二周目√の話も思いついたりしてます。12巻を読んで再熱したんで更新頻度も上げてこうと思ってます。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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俺とルミルミ、時々ママンと。(2)

 

 留美との久々の再会とルミルミママンとの衝撃の出会いから数日経ち、冬休みも最終日を迎えたある日。俺はとある一軒家の前で、恥ずかしそうに頬を赤らめた小さな女の子に出迎えられていた。

 

「いらっしゃい、八幡」

 

「……おう」

 

 ……いや、ほんとにどうしてこうなった。

 

×××××× 

 

 遡ること数日前。事の発端は留美とルミルミママンと会ったその日の夜のことだった。

 

「げ……」

 

 思わず声を漏らしてしまった俺の目線の先には、スマホの画面に映る「お義母さん」の文字。あの人何でこんな名前で登録してんだよ……。

 

『あ、もしもし、八幡君? お昼ぶりー』

 

「いやそんな友達みたいなノリで言われても。ど、どうも……」

 

 人当たりのいい声で話すもんだから、そのまま世間話でも始める……って訳ではないんだよな。まぁ分かってはいるが一応聞くだけ聞いてみるか。

 

「……で、要件は何ですか」

 

『えー、八幡君も分かってるでしょ? 真面目な話』

 

「だから昼にも言いましたけど俺は何も……」

 

『それでもよ』

 

 言葉を遮られ、つい声が詰まってしまう。今はルミルミママンって呼び方は封印しといた方がいいな。

 ……彼女からしたら大事な娘の話だし。俺と留美の関係性についての説明もするしかないのだろう。

 

「……分かりました。言っときますけど、この話は今回だけですからね。重苦しいのは苦手なんです」

 

「うん、ありがとう」

 

 電話越しからでも分かる、心地のよい柔らかな声音で彼女は返事をする。彼女からしたら俺もまだまだ子どもなんだし、気負わせないように配慮してくれているのだろう。

 それから俺と彼女は留美についてたくさんのことを話した。内容の大部分は夏の林間学校の時期の話が中心だった。

 留美が辛い思いをしている事に気づけず、無理をさせてしまっていたこと。それでも留美は家族には心配をかけまいと笑顔を見せて林間学校へ行ったらしい。

 そんな時に留美はあなたに会えたと。詳しいことは教えてくれなかったけど、あなたのおかげで救われた。それだけは確かだと教えてくれたらしい。

 だから、俺は本当の事情を彼女に説明した。何も事情を知らない彼女へ曖昧なままに「そうだったんですか」で済ましていいわけがない。

 俺が取った行為は本当に危ない橋だったし、一歩間違えたらもっと酷い事になっていただろう。もしかしたら留美の周りの環境を更に悪化させ、更に傷つけていたかもしれないのだから。

 詳しい事情を説明して謝罪をしても、それでも彼女は俺に礼を言ってきた。あなたが否定しても、これだけは言わせて欲しいと。

 このまま受け入れないといつまで経っても平行線だ。それに、自分より年上の人に何度も礼を言わせるのは何だかこっちが申し訳なくなる。

 だからこのことはこれで終わりでいいと、俺は甘んじて彼女の礼を受け入れることにした。

 

『じゃあ、この話はおしまいってことで。それじゃ八幡君、今度うちにいらっしゃい』

 

「いや、話変わりましたかそれ? 礼はもう大丈夫ですから……」

 

『あ、もう本当にさっきの話じゃなくてね? もう一つの問題があるからよ』

 

「もう一つ?」

 

 はて、何のことやらと俺が電話だってのに意味もなく首を傾げていると。

 

『結果として留美があなたに懐いちゃったでしょ? 私的にはそこが一番の問題なのよ』

 

「いや、まぁ……それは何て言えばいいのか……」

 

『あの時のことが余程嬉しかったのか、あの子いつもあなたの話ばかりで……』

 

「……そうですか」

 

 そう聞かされると、いつもつっけんどんな態度を取られてるぶん可愛く思えてしまう。まぁ親御さんからしたら複雑なのは間違いないだろうけど。

 何なら俺も複雑まである。あんまり懐かれちゃうと事案になっちゃうからね!

 

『というか、あれはもう大好きってレベルね。あなたの話をする留美を見てお父さんが死にそうな顔してたもの』

 

「……何も聞こえなかったことにしてください」

 

『現実から目を逸らさないで』

 

「ひぇっ……」

 

 いや、ルミルミパパンの気持ちを考えたら逃避の一つや二つしたくもなりますよ……。もし小町が好きな男子の話を楽しそうに喋ってたら、俺と親父はギャン泣きして一ヶ月は家に引き篭もることになるね。

 

『あなたとあの子じゃ歳の問題もあるでしょ? まぁ八幡君がロリコンだったら話は変わるけど。そもそもロリコンだったら留美に近づけないけど』

 

「正常なんで勘弁してください……」

 

『ふふ、冗談よ。大人になれば五つくらいの歳の差は気にすることもあんまりなくなるしね』

 

 言って、ルミルミママンは楽しそうにくすくすと笑った。さっきまで真面目な話をしていた人は全く別の人なんじゃないかと錯覚してしまうが、あれは彼女の留美の母親としての一面なのだろう。

 だとしたら何で留美の恋愛に対してはこんなに軽いのだろうか。いや、留美が俺に恋愛感情を持っているのかは全く分からんけど。

 

「……大人になるまでに色んな出会いもあると思いますけど」

 

『それもそうだけど、やっぱり初めてが悲惨だと可哀想でしょ?』

 

『……まぁ、そうですね』

 

 その気持ちは過去の俺が痛いほど知っているので何とも言えなくなってしまう。ただ、留美の気持ちがハッキリと分からない現状じゃ俺もどう対応すればいいかなんて分からないのだ。

 

『今日も八幡君に会えて本当に嬉しそうだったの。だから八幡君さえよければ、これからも適度に付き合っていって欲しいの』

 

「適度、ですか」

 

「そう、適度にね」

 

 ルミルミママンの言う適度の度合いはよく分からないが、留美とこれからもしばらくは関われるという事実に多少喜びを覚える自分がいるのは確かだ。何だかんだ言っても可愛いもんだしな。

 

『まぁもし数年してから、留美があなたを押し倒したりしたら私は止めないから存分に楽しんでね?』

 

「はは……」

 

 何か今外堀埋められてる感じがめっちゃして全く笑えなかったんだけど……。

 

『じゃ、とりあえず冬休みの間に一回うちに来るってことでいい?』

 

「えっと、冬休みあと四日しかないんですけど……」

 

『でも学校が始まってからだと色々あるだろうしそっちのが都合いいでしょ?』

 

「……まぁ、了解です」

 

 友達がいないので特に何もないですなんて言えるわけもなく。まんまと娘思いの優しい母親の策にハメられてしまっている気がしないでもないのはどういうことなのだろうか。

 だって既に俺に対しての扱いが雑になりだしたしね。押せばなんとでもなると思ってるのだろうか。当たりだよ畜生。

 

『それじゃ、今日はこれで。これからも留美をよろしくね?』

 

「……はい、分かりました。それじゃあ失礼します」

 

 言って、彼女との通話を切ってベッドに倒れ込む。ルミルミママンが俺と留美をどうしたいのかはよく分からんが、どのみち全ては留美次第と言うことだろう。

 俺のこれからの命運が全て小学生に委ねられてると思うと何だかとってもドキドキしちゃうね! いやほんと色んな意味でドキドキしちゃう。

 ……と思ったらもうお姫様からの電話か。タイミング的にルミルミママンの差し金だろう。

 

『も、もしもし……』

 

「……おう」

 

 ……まぁ、今は難しいことは考えずにルミルミと楽しく話すことにするか!(逃避)

 

××××××

 

 てな感じで、冒頭に戻るわけだ。うーん、逃避が長いし回想でも逃避してたしもう逃避しかしてないな俺。

 玄関で俺を出迎えてくれた留美は、服装も気合を入れていて表情も少し嬉しそうに見える。あの時ルミルミママンの話を聞いたこともあって、この何とも言えない健気さが可愛くてしょうがなく見える。

 

「元気してたか?」

 

「この前会ったばっかりじゃん。八幡、おじいちゃんみたい」

 

「早く本当のおじいちゃんになって隠居生活をエンジョイしたいけどな……」

 

「だめ、もっと若くして」

 

 不満そうに言って、留美は猫背になった俺の背中をぐいぐいと押して家の中に押し込んでいく。この歳でもう若作りしなきゃいけないって早すぎないかな俺……。

 リビングへ連れていかれると、ルミルミママンが笑顔で迎えてくれた。わぁ、良い笑顔なのにどこか含みがあってこれから先のことが怖いよ……。

 

「いらっしゃい、八幡君」

 

「ども……」

 

「じゃあ、八幡のこと部屋に連れてくから」

 

「はーい、いってらっしゃい」

 

「え、ちょ、え?」

 

 いや、ほんとに何この流れの早さ。八幡びっくりしすぎてガチでテンパっちゃったよ?

 

「あ、そうだ留美。お母さん夜ご飯のお買い物行ってくるから、二時間くらい留守番よろしくね」

 

「うん、分かった」

 

 ルミルミママンが一瞬で家からいなくなり、それを見送ってから留美の部屋の前まで連れていかれる。怒涛の展開に俺の頭は完全にフリーズ状態でした。

 

「ここでちょっと待ってて」

 

「ん、分かった」

 

 留美が部屋に入ったのを確認し、大きなため息を漏らす。ほんとどうしてこうなった……。

 ……ルミルミママンは俺のこと信用しすぎじゃないですかね。いや、これは逆に俺が本当に何もしないのか試されてるのだろうか。

 考えても結論が出るわけもなく、手持ち無沙汰になりかけた所で部屋のドアが開く。すると、部屋から顔を覗かせた留美がちょいちょいと可愛らしい仕草で手招きをした。

 

「お邪魔します」

 

 多少の緊張の中、留美の部屋の中に入る。綺麗に整っているシンプルな部屋に関心していると、部屋の鍵がガチャリと音を立て閉められた音がした。

 

「何で鍵閉めたのお前……」

 

「何となく。それで部屋の感想は?」

 

「ん? あー、女の子らしくていいんじゃないか。可愛い可愛い」

 

「何その適当な感想」

 

 むぅ、と頬を膨らませた留美はテーブルの近くにあるクッションを指さす。どうやら座れということらしい。

 大人しく指示に従ってクッションの上に胡座をかくと、その上に留美がちょこんと座ってきた。

 ……いや、何で?

 

「……何してんの」

 

「八幡は今日、私の椅子」

 

 頬をほんのりと赤らめた留美の謎発言に、今日という日は一筋縄ではいかないなと大きなため息が漏れた。

 




今回で色んな問題は終わらしたということで、次回から本格的にルミルミとのイチャイチャをスタートすることになります。ほんわかしてもらえれば嬉しいです。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!


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