ベル・クラネルが魔術師なのは間違っているだろうか(凍結中) (ヤママ)
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プロローグ1

駄文です。息抜きのつもりなのでまぁ適当に流し読んで頂けると幸いです。


これはある村のあくる日の話。

 

 

突然たった一人の家族である祖父を無くしてしまった少年は失意に沈み、やがて祖父の語っていた英雄談を思い出すわけでもなく、祖父が残してくれた羊たちと家を守っていかなければと自分に言い聞かせ、仮初の笑顔とから元気で日々を送っていた。

 

いくら村の人に助けられても、いくら雄大な土地でほのぼのと、ゆっくりとした時間を過ごしても、少年の心が癒えることはなく、祖父が、家族がいないという現実を、広くなった家で一人感じる毎日。

 

 

 

深い谷に落ちたらしい

 

 

 

人づてに聞いた話では納得がいかない。

誰か死体を見つけたっていうのか?違うだろ?まだどこか生きているかもしれない。おじいちゃんはまだ死んでいない!死んでいないんだ!

 

 

呪いの様に少年は自分にいい聞かせる。

 

 

 

 

 

頭ではわかっている。

 

 

 

 

 

おじいちゃんのことだ、どうせひょっこり戻ってくるだろう。自分に言い聞かせつつもやはり探しに行かなくてはと思い立った少年は谷へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

―――無理だ

 

 

 

 

見下ろせば、底の見えない深く深い闇。足を踏みいれれば、決して這い上がってくることは叶わないと誰でも分かる。

 

 

 

 

―――――生きているはずがない

 

 

 

 

だがもしかしたら、万に一つの可能性があるのなら。おじいちゃんは今もあの谷の底で痛みにもがいているかもしれない。少年は祖父がよく聞かせてくれた英雄談を思い出し、足を踏み入れんとする。

 

 

 

 

―――――――死ぬぞ

 

 

 

 

しかし一歩が踏み出せない。当たり前だ。馬鹿でもわかる。あそこに飲まれた者が生きているはずがない。あの谷はそういう場所だ。

 

飛び込まなければ祖父を取り戻すことは出来ない。だが足は意志とは逆に村の方角へと後ずさる。

 

 

 

 

 

「おーい!!ベルーーー!いるかーーー!!いたら返事しろーーー!!」

 

 

 

 

っっっっ!!

 

自分を呼ぶ声に一瞬驚くものの、少年は声のする方向へと必死に走った。

 

 

まるで人を見つけた遭難者の様に。戦闘から逃れる無力な市民の様に。

 

 

 

 

 

 

声の主は村の大人達だった。少年がどこにもいないので、村総出で探しに来たようだった。

心配したんだぞ。なぜ一人で出歩いたんだ。安堵と叱咤のこもった声で話しかけられる。

 

 

そんな中、一人が少年に心配するように声をかけた。

 

 

 

「大丈夫かベル?足が震えっぱなしだぞ?」

 

 

 

少年自身も気付いていなかった震えに他の大人達が同じように心配をし始める。

 

 

ベル、何か怖い思いをしたんだな。もう大丈夫だ。家に帰って、あったかいスープを飲んでお休み。

 

 

 

 

だが少年に大人達の声は聞こえない。

 

 

少年は気付いてしまった。自分が先程、逃げ出してきたことに。

 

 

 

 

「―――――――あっ」

 

 

 

 

――――――――あんなところに落ちて、生きていられるはずがない。

 

 

 

 

「――――ああああっ」

 

 

 

 

そんな印象をもってしまった自分が、

 

祖父を助けるためにと意気込んでいた自分が、

 

恐怖することで祖父の死を認めてしまった。

 

 

 

 

「――あああああああああっ」

 

 

 

 

それは少年にとって、大好きな祖父を、たった一人の家族を自ら殺してしまったのと同義であった。

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさいおじいちゃん

 

僕は――――

 

ベル・クラネルは――――

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――英雄にはなれない

 



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プロローグ2

導入部分だけは筆が軽くて本当に書いてて楽しいです。

ちょい付け足しました。


ある村のあくる日の話の続きをしよう。

 

 

少年の祖父が死んだであろう谷の付近で発見されてからというもの、少年は一度も笑顔を見せない。まるで能面を被ったかのように表情は固まったままだ。

 

 

朝起きて、羊たちの世話をみて、夜になったら寝る。

 

 

なんてことはない、文字にすればいつも通りの少年の一日であるが、問題があるとすれば、少年は笑わなくなったが故、人と話す機会がなくなっていった。

初めは村の人々も、元々人当たりがよく、笑顔を振りまく少年に昔の様に笑ってほしいと様々なアプローチを試みた。

しかし、少年が特にこれといった反応を示すことはなく、なついていた年下の子供たちでさえ、気味悪がって近づこうとしなくなっていった。それが皮切りであったのだろう。村の大半の者は少年と接することを極力避けるようになった。

 

 

 

だがそれでも、少年の元へ足を運ぶものがいなくなったわけではなかった。とりわけ、よく少年の祖父と酒を酌み交わしていた青年は頻繁に少年の家を訪れていた。

 

 

酒の勢いにあてられて祖父がおちょくり、青年が挑発に乗って軽く取っ組み合いをするのも一種の村の光景となっていたがそれを見られなくなってしまっては村の奴らもベルも元気がなくなるだろうと言い、少年の家に訪れては少年が眠りにつくまで馬鹿騒ぎを続ける青年。

 

 

 

村の人間からは、よく仏頂面決め込んでる子供相手にどんちゃん騒ぎ出来るなとある意味感心され、少年からは、僕に気を遣う必要はないですよ、とこれまた無表情で話しかけられる。

 

 

 

青年はアルコールでほんのりと頬を赤く染めながら果実酒の入った木のグラスを手の中で回し、ぼんやりと見つめがら少年に話しかける。

 

「なぁベル。お前、爺さんのものはぜーんぶ捨てちまったのにそれだけは捨てねぇのな。」

 

青年の言葉にベルの肩がピクッと上下する。

少年の手の中には一冊の本があった。本のタイトルは「ダンジョンオラトリア」

一人の少年が精霊に導かれ、様々な出会いを通じ、やがて英雄になる物語である。

 

少年は祖父からこの本を貰い、常々「男ならダンジョンに出会いを求めないとな!」と言われていた。

 

 

祖父が死んだという谷へ行き、祖父の死を認めてからというもの、罪悪感に苛まれ、祖父の死と真っ直ぐに向き合うことが出来なくなっていたため、少年は祖父に関するもののすべてを捨ててしまおうと決心した。

 

しかしこれだけは、この本だけはどうしても捨てることは出来なかった。

 

 

「・・・おかしな話ですよね。」

 

少年はポツリと呟く。

 

 

「一番目を背けたいことなのに、一番大切な思い出が詰まっていて、でもその思い出を、おじいちゃんの思いを台無しにしたのは、僕自身の夢を諦めたのはほかでもない僕だっていうのに。」

 

少年は自嘲するように笑う。

 

 

アルゴノートのような英雄になるという夢を、ダンジョンで出会いを求めよという祖父の教えを諦めた。

冒険者になることをやめた。

そしてなにより、おじいちゃんの死を肯定してしまった。

―――――――――僕がおじいちゃんを殺した。

 

 

 

 

決して口には出せない。

いくら祖父と仲の良かった人であっても、自らの罪を明かすことは出来ない。

 

 

このまま後悔と懺悔を抱えながらベル・クラネルという人間は沈むべきなのだ。

 

 

少年は自分に言い聞かせ、胸の内を決して吐露しない。

 

 

 

少年の独白するような声を受け、青年は思うところがあるのだろう。目線をグラスから少年へと移した。

 

 

「ベル。俺はな、冒険者になりたかったんだ。」

 

いままで聞いたことのない青年の言葉にベルは下げていた目線を上げる。その様子を見た青年は優しく笑みを浮かべ、話を続ける。

 

「俺もその本の話好きでな。ガキの頃はしょっちゅう読んでた。アルゴノートが段々強くなって英雄になっていく姿なんてもう憧れそのものでさ、俺もこうなりたいなーって思ったもんさ。まぁ、若気の至りなのかさ、俺も頑張れば本気でなれると思っていたもんで、馬鹿みたいに木刀降ってた。そんで父ちゃんと母ちゃんを説得してやっとオラリオに行けるってとこまで行ったんだよ。」

「いかなかったんですか?」

「あぁ、途中で逃げ出してきた。ゴブリンを2匹見つけてよ。オラリオに行く景気づけに狩ってやろうって思ったもんで、ナマクラの剣片手に突っ込んだのさ。」

「それでやられた」

「あぁそりゃあもう為す術も無くな。途中でちょうど冒険者の一行が通ったもんで助かったが、あのままだったら確実に死んでたな。」

「なんでそのまま冒険者についていかなかったんですか?ついていけば確実にオラリオに着いたのに。」

 

 

聞かれた青年は頭の後ろを掻きながら恥ずかしそうに俯いて言った。

 

「ゴブリン如きで音をあげた様じゃ冒険者なんてやってけねぇなって思ったのもあるが、一番の理由は、死ぬのが怖くなったからだな。」

 

 

「―――――――死ぬのが―――――――怖く」

 

 

「あぁ、俺もおとぎ話みてぇにいくら傷ついても絶対に這い上がって強くなろうと思ってたんだけどよ、あんなに怖い思いはもう二度としたくねぇ、って思っちまった。そう思ったら、オラリオに行く気力なんて失せちまった。」

 

まぁ俺なんかが冒険者になったところで大成するわきゃねぇんだけどなー

 

そういうと青年は新たに果実酒をグラスに次いでチビチビと飲み始める。

 

 

 

「―――――あぁでも」

 

青年は思い出したかのように少年に語り掛ける。

 

「俺、ベルは才能あると思う。冒険者になるべきだよ、お前。」

 

 

少年は青年の言葉に思わず苦笑をうかべて返そうとするが、青年はそれを遮るように言葉を重ねる。

 

「ベルが今抱えている悩みなんて爺さんのことであたりだろうけどさ、どんな風に悩んでいるなんて俺は分からない。でもさ、分からなかったかもしれないけどお前が入った谷は雰囲気が尋常じゃないって地元はおろか、よそ者だって通ろうとは決して思わない。お前はお前が気付いていないだけでめちゃくちゃ勇気があるんだぜ?」

 

 

僕に勇気があるだと?そんな馬鹿な。僕はおじいちゃんの無事を信じることが出来なかった臆病者だ。そんなはずがない。僕は冒険者にすら程遠い。

 

 

「あり得ませんよ。」

少年は静かに、風に揺れる柳の様に答える。

 

 

 

「いいや。お前は冒険者どころか、英雄になれる逸材さ。のんべぇのお墨付きで悪いけどな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後

 

村がいつも通り、皆がそれぞれの仕事に精を出していると、村の男の一人が全速力で走り、村に戻ってきた。その顔面は蒼白でこの世の終わりだと言わんばかりの顔をしている。男は口の前に手を添えると大声で叫んだ。

 

「ゴブリンだ!!ゴブリンの群れが村に来てるぞ!!」

 



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プロローグ3 そして少年は一歩を踏み出す

とりあえず書き切った感が満載です


ゴブリンの群れが村に近づいていることを知った住民は混乱していた。

 

「どうするんだよ村長!このままじゃゴブリンが村に着いちまう!そうなったらここにいるみんな殺されちまうぞ!」

「・・・土地を捨てるしかあるまいて。皆に支度をさせなさい。」

「そんな!それじゃあ連れていける羊の数も限られる!明日からどう生きていけばいい!」

「明日のことより今生きることを優先せんか!馬鹿者か!」

 

突然のゴブリンの襲撃に村人は混乱し、どうすればよいか分からない状態だった。

 

今家を離れたとして次はどこで暮らせばよい?

自分たちはかえって来ることができるのだろうか?

 

誰しも不安に煽られ、まともではいられない状況だった。そんな中、

 

 

「誰か、うちの子供を見ませんでした!?」

「あいつなら確か、森の方へ遊びに行くって・・・」

「そんな!?今ゴブリンがたむろしているところじゃないか!?」

 

母親は自分の子供が危険にさらされているかもしれないと知るや否や、避難のための集まりから抜け、一人森へ行こうとする。が、他の村人に止められてしまう。

 

「まって止めないで!行かせて!あの子が!あの子が!」

「待て!今行ったら二人とも殺されちまう!無事に帰ってくることを祈るしかない!」

「いやぁ!離して!アンリ!アンリィィ!!!!」

 

母親は制止を振り切ろうとするが、夫に脇を押さえつけられ身動きが取れない。目に涙を浮かべ、必死に子供の名前を叫ぶ姿は痛々しい。

誰もがこの母親の涙を、激情を、止めてやれるのであれば止めてあげたいものだ。

 

だが出来ない。

 

ここにいる誰も、ゴブリン一匹倒す力を持ち合わせていない。ましてそのゴブリンが群れでくるのだ。

子供は死んだものと考えて避難を進める村長。一人の為に全員の命を危険にさらすことは出来ない。

 

 

 

 

母親は遂に暴れることをやめ、地面にうずくまるようにして涙を流す。

 

母親を助けたのが村人であるのなら、母親の子供を殺したのもまた村人。

 

誰も声をかけることなどできはしない。誰も母親を失意の中から引っ張り出すことなどできはしない。

 

 

 

 

 

 

「僕が行きます。」

 

 

 

 

 

 

声の先には少年がいた。その目は決意と恐怖に揺れている。

村人はみな、何を言い出すのだと口を開こうとする。

 

お前が行って何になる。犠牲が増えるだけだ、と

 

だがそれより早く母親が涙ながらに少年に懇願する。この世のすべてを託すかのように。嗚咽交じりに、この世で最も大事な我が子の無事を願って。

 

 

 

「お願いベル・・・!!あの子を・・・アンリを助けて・・・・!!」

 

 

 

少年は頷くと一言、母親にお願いするように、自分へのまじないの様に一言

 

 

「信じて」

 

 

そういうと少年はかなぐり捨てるように勢いよく森の方へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

少年が自ら死地に飛び込むような真似をしたのは、母親の姿に自分を重ねてみたからだ。

 

少年は、谷の魔的なものにあてられて祖父の死を肯定してしまった。

 

 

 

僕にはおじいちゃんの無事を信じる「勇気」がなかった。

だから自分の中でおじいちゃんを殺してしまった。

でもアンリのお母さんはまだ信じている。アンリの無事を。

この絶望的な状況の中で。

 

 

――――――その「勇気」を決して絶やしてはならない。ベル・クラネルの二の舞をさせてはならない。

 

 

 

 

決心を決めた少年は一言村人と母親に伝えると、全速力で森へと駆けだした。

 

今も子供の無事を祈り続ける母親の「勇気」を本物だと証明するために。

 

あの涙で濡れた顔が、これ以上絶望で塗られないように。

 

 

 

森へと入り、子供を見つけるまではたいして時間がかかることもなかった。

子供は茂みの陰で目をつむり、耳を塞いでプルプルと縮こまっていた。

少年が肩をたたくと、「ヒッ!」と声をあげたが、少年の顔を見るなり今までこらえていた分の涙を一気に流すようにわんわん泣き始めた。

その姿をみて少年は安心する。

 

よかった。無事で。さぁ、早くお母さんのところへ帰ろう?

 

そう子供に言い聞かせ、立ち上がった矢先、近くでゴブリンの鳴き声が聞こえた。

 

そして、草木の隙間に視線を動かすと

 

 

 

―――――目が合った。

 

 

 

ゴブリンの鳴き声が先ほどよりも一際大きくなり、棍棒を片手にこちらへ向かってくるのが分かる。

 

 

少年の脚は恐怖ですくんでいた。

 

自分では勝てない圧倒的な強者

絶対に覆せないであろう死の運命

 

 

――――やっぱり無理だ。僕には――――勇気なんて―――――

 

 

 

 

 

「ベルおにいちゃん・・・」

 

 

 

 

 

――――――――!!!!

 

子供の声に少年は意識を引き戻される。

子供は不安そうな表情を浮かべ、弱弱しく、そしてすがるように少年のシャツの裾をつかむ。

 

その姿に少年は自分の目的を、使命を思い出す。

 

 

―――――そうだ。僕がすべきことはアンリを無事にアンリのお母さんの許へ届けること

 

―――――勇気を絶望へ変えないこと

 

―――――――ベル・クラネルの二の舞をさせないこと!!

 

 

 

 

頭を入れ替えた少年は子供の手を引き、走る。

一刻も早く、この危険地帯から逃げ出し、母親と子供の笑顔を取り戻すため。

 

 

走る。走る。走る。

 

 

しかし、子供が木の根に足をとられつまずいてしまい、そのすきにゴブリンに距離をつめられてしまう。

少年は子供を何とか立たせようとするが、足を擦りむいたらしく、走れる様子ではない。

子供は近づいてくるゴブリンの群れに目に涙を浮かべながら後ずさりをしている。

抱えようと試みるが、少年の腕では子供を抱えることは出来るが、今までの速さで走ることは出来ず、ゴブリンに追いつかれてしまう。

そんなことをしている間にゴブリンは二人に追いつき、棍棒を振り上げる。

 

少年は覚悟を決める。

子供を覆う様に抱きしめ、その身でゴブリンの攻撃を受ける。

 

鈍い痛みが体を走る。

殴打の頻度が一度、また一度と、下品なゴブリンの鳴き声と共に増えていく。

 

腕の骨が折れた感覚

足はおかしな方向へと曲がっている

背中は今あざだらけだろう

 

 

 

―――――あぁ、自分は死んでしまうのだろうか

 

 

 

当然の結果だ。

戦えもしない、剣を持ったことすらない、ましてや子供がモンスターに捕まって生きられるわけがない。

 

 

 

既に理解していたことだろう。分かり切ったことだろう。

ベル・クラネルはたかがゴブリンに恐怖する弱者だ。このまま殺されて終了するだけだ。

 

 

――――やはりお前には無理だ

 

 

どこからともなく、声が聞こえる

 

 

――――お前には他人どころか自分すら救うことが出来ない

 

 

ねちっこく、いやらしい声

 

 

――――ベル・クラネルは英雄にはなれない

 

 

よく聞かなくても分かる。その声は自分自身の声だ。

祖父の死を認めた自分が、語り掛けてくる。

 

 

 

 

 

 

―――――あぁ、その通りだ。僕は英雄にはなれない。

 

―――――臆病で、弱くて、「信じて」ってしか言えなくて、

 

―――――でもそれでも、だからこそ、やっぱり

 

―――――英雄になれなくたっていい

 

―――――誰かの「勇気」を守りたい

     自分が守れなかった想いを託したい――――――

 

―――――それが、今の僕(ベル・クラネル)

 

 

―――――だからこそ信じられなかった僕(ベル・クラネル)

 

 

 

 

「黙ってろ」

 

 

 

 

自分自身に言い聞かせる決意。誓い。声はもう聞こえない。体に鞭打って無理やり力を入れる。刺さる様に体全体に痛みが走るが無視する。

 

 

少年のドスの効いた言葉にゴブリンたちは一瞬ひるんだ。そのスキを見逃さず、少年はそれまで自分が守っていた子供を立ち上がらせ、背中を押し、力強く叫んだ。

 

「早く行け!走れ!勇気を出せ!お母さんを泣かせるな!」

 

少年の想いのこもった瞳を感じ取ったのか、子供は村の方へと走っていく。振り返ることなく、求めるように、つかむように。

 

ゴブリンが子供を追わんとするが、少年は曲がった足を無理やり動かしてゴブリンの前に立ちはだかる。

その姿は尋常ではない。

左足は曲がってはいけない方向に曲がり、右腕をダランと垂らし、頭からは血を流し、背中はあざだらけ。

 

 

ゴブリンは恐怖する。

さっきまでいたぶっていた相手がとてつもなく強大な、かなうはずのない存在だと感じた。

何より目だ。

意識を固め、揺るぐことのない精神を持つものしか出来ない目を少年はしていた。

 

その本質を知能の低いゴブリンが捉えることはできないが、呑まれるような雰囲気を感じていた。

 

だが、さっきまでいたぶっていたことがあるからだろうか、何匹かが少年に再度攻撃を加えようとする。

殺すなら今しかない、と。

 

少年を殺さんと振り上げられる棍棒。

 

 

 

だが来るはずの一撃は突如、銀色の斬撃によってゴブリンの腕ごと吹き飛ばされた。

 

 

 

少年とゴブリンたちは唖然とする。

一体何が起きたのだ?誰がやったことなのだ?

 

答えは腕を飛ばされ、痛みに声を上げているゴブリンの首が新たな斬撃で飛ぶことによって明らかとなる。

 

 

 

「あーあ、こんなところにゴブリンだなんて。ついてないなぁ。」

 

男は、頭の後ろを掻きながら現れた。自らの周囲を嬉しそうに踊る水銀を従わせて。

 

ゴブリンは群れの一匹が瞬く間にやられたことで自然と足を後ずさりさせる。

しかし男はそれを見逃さない。何やら一言呟くと、水銀が刃となり、ゴブリンの体を両断する。

男自身も、水銀の一部も槍に変形させ、薙ぎ、払い、突く。

 

その姿は凛々しくも猛々しい強者。台風の目。全てを吹き飛ばす暴風。

 

少年は男の戦いに魅せられた。

それは「ダンジョン・オラトリア」で読んできたアルゴノートの英雄談よりも惹かれる、初めて間近に見る戦闘。

先ほどまで、自分の信念に立ちはだかっていたものが次々に狩られていく光景。

 

 

そして少年は確信する。

自分の欲するものはこの力だと。

誰かの「勇気」を紡ぐには、脆弱な自分では役者不足も甚だしい。

 

 

――――力が欲しい。

「勇気」を紡ぐために。

「信じる」ことを止めないために。

そしてなにより、これ以上弱い自分に負けないために――――

 

 

ゴブリンが全て血だまりの中の魔石と化した頃に、男は少年に声をかけてきた。

 

「君、大丈夫かい?災難だったねぇ。」

「・・・にして下さい。」

「え?何って言ったの?」

「弟子にして下さい!」

「はい?」

「力が欲しいんです!勇気を!信じることを!負けないことを!」

「あー、君何言ってるか訳わかめだよ。まぁその目を見れば覚悟というか信念というか、なんとんくのフィーリングは感じ取れるが。よしいいだろう!よく分からないが知りたいことを教えてあげよう。そうするとまずは自己紹介だね。さて少年、名乗りたまえ。弟子になりたいんだろぅ?」

「・・・・ベル。ベル・クラネルです。」

「おぉ君が!そうかそうか!君がベル・クラネルか!外見から何となく察しはついていたがやはりそうだったか!いやぁ嬉しいねぇ!だが残念でもある。私は君がこれから紡いでいくであろう物語は好きだが英雄になりたいなんて精神は実に気に食わない。よって君に授けるものは知識含めて一文たりともありはしない。」

「・・・・あなたが僕の何を知っているかは知りませんが、僕は英雄にはなれない。」

「・・・ほぅ!!」

「それよりも僕は力が欲しい。ゆう「OKOK!採用だよクラネル君!弟子にしてあげよう!」

「・・・え?」

 

男はそれまでのふざけような、しかし芯は冷めているような声を一転させ、ノリの良い兄ちゃんの様に弟子入りを承諾する。本当に、心の底から楽しんでいるように。

 

「どうやら君は私の知っている君とは少々違うようだ。素晴らしい!そうでなくてはな!!」

「あの、なぜ僕のことを?」

「そんなことはどうでもいい!知っているから知っている!ただそれだけだよクラネル君!あぁ、そういえば私の自己紹介を忘れていたね!私の名は――――――」

 

 

 

 

 

これが少年「ベル・クラネル」と彼がのちに「師匠」と呼ぶ男の邂逅。

 

そしてベル・クラネルが迷宮都市「オラリオ」において、絆を紡ぐもの(冒険者)となり、成長していく物語の始まりである。

 




師匠は転生者さんで、ベル君のことを知ってます。ずっと山奥で転生特典の型月知識魔術の研究と武術に没頭してきたのであまり人と接してません。さすがに人恋しくなって山から下りてきました。

「英雄とは成ろうと思った時点で英雄ではない」という言葉を知っているが故、ベル君に会っても関わる気はありませんでしたが、原作ベル君と微妙に違うようだったというのと、久しぶりの人間に歓喜、ベル君自身の頼みもあったため、色々教えてあげることにしました。

師匠のつかえる魔術は宝石魔術に月霊髄液、固有時制御とシエルの黒剣投げ(メルブラ アークドライブ)などなど、色々だと思っていただければ幸いです。


ベル君はそれなりなオールマイティにさせたいと思っています。


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そして少年は剣姫と出会う

型月好きだから筆が軽い軽い


ベル・クラネルはミノタウロスと対峙していた。

 

本来lv2相当のモンスターであるミノタウロスが、lv1冒険者向けの7階層にいる異常事態にベルは冷静に対応する。

 

この際なぜ7階層(ここ)にミノタウロスがいるのかは考えない。

切り替えろ。今大事なことは目の前の敵に集中することだ。

 

ベルは手に持ったナイフを再度力を込めて握ると、ミノタウロスをおびき寄せる。 

猪突猛進に向かって来るミノタウロスにベルは姿勢を低くし、すれ違いざま腱を狙って素早く切りつけた。

が、ナイフがミノタウロスを傷つけることはなく、逆に粉々に砕けてしまう。

それもそのはず。そのナイフはギルドから支給された駆け出し冒険者向けの貧弱ナイフだからだ。

 

 

ベル自身は自分のナイフ(というより短剣?)を既に持っていたため受け取りを拒否したが、「(駆け出しとして)分相応の装備で挑まないと自分の実力を見誤っちゃわよ」とギルドの受け取り嬢であるエイナに無理やり持たされた。というより買わされた。

ベルとしてはファミリアへの入団の際にすべてのファミリアから「ガキが来るとろじゃない」と門前払いを散々喰らっていたため、自分の実力を低く見られることは慣れたものだった。しかし既に事足りてる装備を買わされてはたまったものではない。うちは零細ファミリアなんだぞ。万年金欠に無駄な出費させないで下さい、とついつい「こんな駄ナイフいらないよ・・・」と心の声が漏れてしまう。

 

「な に か い っ た ? ベ ル く ん ?」

 

黒い覇気を従わせて「ゴゴゴ」と効果音を言わせんばかりの笑顔をベルに向ける。

女性を怒らせると怖い。それを身をもって知ったベルはその後長々と続いたエイナによる「ダンジョンなめんな」講義とナイフ代を勉強料と自分を納得させて黙って聞き、購入したわけだが・・・

 

 

(うわっ!早速壊れたよ!しかも砕けるって!)

 

さすがにいくらレベル的に格上の相手とはいえ、一振りで壊れるとは予想していなかったため、不満よりもむしろ清々しさすら感じた。

 

足を攻撃されたことに気がついたミノタウロスは、思い切り蹴りあげる。しかしベルは既にミノタウロスの横を通過した後だ。当たることはなく、空気を切る音がするのみ。

 

「グウゥゥゥゥゥウオォォォォォ!!!!」

 

蹴りがはいらなかったのが余程気に入らないのだろうか、ミノタウロスは雄叫びをあげながらベルの方を向くと姿勢を低く、角を突きだして突進してくる。

 

ベルは腰に携えた短剣をとると右腕と背中にある魔術回路(ライン)に魔力を通す。

 

Hervir el stand,mi sangre(沸き立て、我が血潮)

Peso ligero, salto(軽量、跳躍)

 

魔力回路を鈍くエメラルド色に光らせながら詠唱すると、ミノタウロスの突進をlv1冒険者の脚力では考えられない跳躍で縦に半回転しながら避ける。跳躍した勢いで天井に足をつけ、膝を曲げ、速度をもってミノタウロスの首もと、延髄部めがけて短剣を突きつけた。だが、

 

「――――――!?!?ガアァァァァァァ!!!」

(浅い!?)

 

人型のモンスターであるミノタウロスであるなら今の一撃で沈む予定だったが、延髄には到達せず、仕留めるには至らない。痛みに苦悶しつつもミノタウロスは腕を振り回し、空中のベルを追い払おうとする。

 

(クソッ!避けられない!?)

判断したベルは両腕をクロスさせて防御姿勢をとる。

 

「ガハッッ!!!」

 

ベルは吹き飛ばされ、地面を二回ほどバウンドしてからダンジョンを壁部分を構成する石に突っ込んだ。

腕はミノタウロスの攻撃を受けたため、痛みつつも何とか動かせるのは右腕のみ。頭からは血を流し、並の冒険者であれば撤退を選ぶのが定石。まぁ、lv1でありながらミノタウロスに挑む時点で普通ではないが。

 

しかしベルの目から闘志は消えていない。右腕を支えに立ち上がり、ミノタウロスを見据えながら現状(・・)可能な倒す方法を考える。

 

 

手持ちの武装はゼロ。普段持ち歩いている魔術礼装は調整中で根城(ホーム)に置いてきた。運の悪い!

残された攻撃手段は、あまり得意ではないがルーン魔術のガンドと魔石を使用した急ごしらえの宝石魔術。まだましなのは肉体を強化して殴ること。

・・・どうする。ガンドと宝石魔術はまともに練習したことが無く、暴発を考えるとリスキーだ。(ベル・クラネル)の将に合っているのは肉体強化だが、片腕が使えない今では十全には生かせないだろう。

 

思考するベルをよそにミノタウロスは再び突進の体勢をとる。

「グッガアァァァ――――」

 

今度こそとどめを刺してやる。俺に傷をつけた代償は払ってもらうぞ、と言わんばかりの眼光でベルを捉えるミノタウロス。それでもベルは恐怖することなく、次の一手を探るためにまずは呼吸を整える。そしてまだミノタウロスに刺さっている短剣が目に入った。

 

(・・・あれだ)

 

その短剣はアゾット剣と呼ばれるもので、ベルが魔術の師匠に「もう私が教えることは何もない!あとはテキトーに自分でやってくれ。」と言われ、去り際にもらったものだ。本来は剣として使用するのではなく、魔術礼装や儀式のために使用する形式的なものらしいが、そんじょそこらのナイフと比べればよっぽど頑丈でマシなのでベルは使用していた。重要なことは、対象を刺した後、柄の部分の玉に魔力を流せば剣に貯まっていた魔力を解放できることだ。

 

(今確実に倒せる方法はあれしかない)

 

手段は決まった。後は実行するのみ。

 

しかし体の状態から考えて可能だろうか。一目見れば誰もがボロボロだと言うだろう。そんな状態でミノタウロスの突進をいなし、首元に手を伸ばそうというのだ。lv1はおろか、lv2冒険者にさえ出来るものはそういないだろう。失敗すれば確実に死ぬ状況。危険な賭け。だがベルの頭にあるのはこれより前にミノタウロスに遭遇した人と、もし自分が倒れた際にミノタウロスに遭遇するであろう人のこと。

 

(こんな階層までミノタウロスが来たってことは僕の前にも誰かがミノタウロスに遭遇してるってことだ。きっとその人たちはミノタウロスに立ち向かったのかもしれないし、逃げたのかもしれない。

僕はその人の「勇気」を忘れない。

強者に立ち向かう「勇気」を。自分の命を守り、明日へ繋げる「勇気」を。

もし今ここで僕がミノタウロスを食い止めなかったら、誰かがまた襲われてしまうだろう。そうならないように、いや、その人に見せてやりたい。

 

立ち向かう「勇気」を!限界を超える「勇気」を!)

 

意気込みを整えると何故だか分からないが、身体の奥から力が湧いてくる。ベルにもはや失敗する恐れやミノタウロスへの恐怖はない。あるのは、自らの「勇気」を示す決意のみ。

 

ミノタウロスに刺さるアゾット剣を捉え、再度「スーハー」と呼吸を整える。

 

 

 

「・・・いくぞ。」

「ーーーーーーーグウゥゥゥゥゥオォォォォォ!!!!」

 

ミノタウロスが雄叫びをあげ、ついに突進してくる。ベルも魔術回路をフル稼働させ、ミノタウロスを迎えうつ。

 

 

Hervir el stand,mi sangre!!(沸き立て、我が血潮)

 

 

あと15メートル

 

 

「ーーーーーーーオォォォォォォォォォ!!!!」

 

 

あと8メートル

 

 

Peso, endureciéndose!!(重量、硬化)

 

 

あと3メートル

 

 

「ーーーーーーーオォォォォォォォォォ!!!!

 

 

あと1メートル

 

 

( いなす!)

 

 

接触する両者。だが描かれるはずの攻防は、一陣の風によってミノタウロスが両断されることによって終わった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・えっ?」

 

ベルは来るはずのミノタウロスが目のまえで真っ二つになり、その血が自分を濡らしたことでいったい何が起きたのか理解出来ない。

 

 

「大丈夫?」

 

声のする方を向くと、金髪の少女がいた。少女が持っている剣には血が少し付着している。

 

「あの・・・」

 

少女は返答のないベルに話し掛けてくる。

 

恐らく彼女がミノタウロスを撃退したのだろう。僕がめちゃくちゃのりにのってテンションマックスでこれから倒そうとしてたときに・・・・

 

 

 

 

「ないわー。」

 

 

ベルはそう呟くと、今までの疲れがどっと出たのだろう。倒れるように寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「何が・・・・ないの・・・・?」




ベル君スペックはのちのち詳細に考えます。

今はとりあえず、
原作通りナイフを使う。
魔術回路持ちでもっぱら身体強化に使う。
今回は調整中で出ませんでしたが、劣化月随零液を好んで使う

ってとこでしょうか

のちのち、英雄への憧れからくるオリジナル魔術を英雄願望とあわせて作っていきたいと思っています。


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そして少年は実力を隠す

自動保存の方にずっと書いててそれも保存されるんだろうなって思ってたら全部消えてました。泣きたい。


タグ編集しました。
ベル君は何でも出来る魔術師じゃなくて魔術師(物理)にすることにしました。
モデルは知らない間にバゼットさんになってました。ただしナイフを使う。


――――――――数年前

 

「さぁて、クラネル君。はっきりいって君の魔術の才はちんぷんかんぷんなところが多すぎる。訳がわからないよ。ルーン魔術の基本たるガンドはすかしっぺみたいな威力しかないし、物質の再構成に至っては魔力を込めすぎて更に壊す始末だ。あぁ、壊したガラスはきちんと掃除しておくように。私の靴の底にガラスが詰まったらどうする気だね君は?

おんやぁ?なんだいその「こいつうぜぇ」と言わんばかりの表情は?師匠たる私にそんな態度をとってもいいのかいクラネルくぅん?

フッフッフッ、よろしい。では話を戻そう。私がいいたいのはだね、君は基本がからっきし出来ない癖に自分の部を超えた魔術をコロッとやってのけてしまうところだ。固有結界を体内展開して自身の体内時間を操作する固有時制御(タイムアルター)二倍速(ダブルアクセル)までの使用可能。身体強化魔術の詠唱から効果発揮までのタイムラグの短さ、そして私がそれなりに心血注いで造ったお気に入りの礼装月髄霊液(ヴォ―ルメン・ハイドログラム)、通称水銀ちゃんには性能は幾分か劣るものの亜種の作成。

まったくなーんで君は基本のきの字すらまともにこなせないというのに変な方向への成長は早いんですかねぇ・・・。

え?何?ガンドは放出系だし物質の再構成は操作系、自分でないものを操ったり自分の体から離れた魔力を扱うのはなぜだか出来ない??その代わり自分の体の中で魔力を流す分にはスムーズにいく?

ふーん・・・つまり脳みそ筋肉ってことかじゃないか!(名推理)

ってコラコラ待ちたまえクラネル君。ファイティングポーズをとるんじゃない。殴り合いじゃ私は君にかないっこないから。まぁ私は天才肌で基本的に何でも出来たから君の気持ちが分かるわけじゃないけどね!ふぁっふぁっ「ガシッ」ファッ!?ゴメンゴメンクラネル君!謝るから襟を掴んだその手を離して!!

ハァハァ、鍛えるようになってからちょいと野蛮になったんじゃないかい?師匠たる私に向かって何たる態度!こりゃあ脳みそ筋肉に拍車がかかるねぇ。

ん?だとそんな君がなぜ水銀ちゃんの亜種を作ろうと思ったんだい?それに中々の出来だよ、君が造ったあれ。水銀の代わりに砕いた魔石を入れた水に月の光を浴びせて魔力をため込み、水銀ちゃんと違って質量ではなく魔力で機能の大部分を補うとは。燃費は悪いけど何も知らずに創作で見たまんまの再現は出来てるし、初めてにしては上出来だよ。80点位あげようじゃないか。

・・・どうしたのかな?目を点にして?・・・師匠に褒められたのは初めて?

そうだっけ?よく覚えてないけど。ま、これからも精進したまえ!はっはっは!

え、クラネル君がめっちゃいい返事した。キモチワルッ。お前誰だ?ってうぉ!ああ!この容赦ない右ストレートはクラネル君だね!間違いない!疑いが晴れたにも関わらずなぜまだ私を殴ろうとする!?止めないかクラネル君!そう人を殴るものではゴハ――――――!!!」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「・・・・最悪な夢だ。」

 

オラリオに来てから最も目覚めの悪い夢を見たベルは思わず口に出してしまう。なぜあのクソ師匠(変人)の夢なんか見なきゃらないんだ。心の中で悪態をつきつつ、自分が今、知らない部屋のベッドで寝ていることに気が付いた。

 

(どこだここ?)

 

「よかった。気が付いた?」

 

声の方に向くと、長い金髪の少女と褐色のアマゾネスの少女が2人、ベルの顔を覗きこんでいた。

 

「うぉっ!」

 

突然目の前に耐性のない女の子の顔があったことでベルは思わず体を起こして女の子がいる方向とは逆の方へと逃げる。

 

「ああああああ、あの!あああああなた達はいったい!?というか、ここどこですか!?」

 

「あっはははは!何この子!いきなり起き上がったと思ったら今度は恥ずかしがっちゃって!カワイイーー!」

「やめなさいティオナ。混乱しているんだから。」

「あの、覚えてない?」

 

一気に3人もの女の子に話しかけられ、ベルはいっぱいいっぱいである。

アババババ!早く、誰でもいいから状況を説明してくれっ!

 

 

「ハッ!おおかたミノタウロスに頭のどこかをやられちまったんじゃねぇのか?」

「ちょっとベ―ト!なんであんたはそう嫌味しか言えないのよ!?」

 

壁に寄りかかっている狼人の発した「ミノタウロス」のワードにベルの記憶が徐々によみがえってくる。

(そうだ。確か7階層なのになぜかミノタウロスが出てきて、倒そうと思って算段もついたところであの人に・・・)

 

ベルは目の前の自分を見つめる少女の顔を見る。

金色の長髪に整った顔立ち。どっかで見たことあるような・・・

 

「おいこらテメェ!なにアイズのことジロジロ見てる!」

「はーい。ちょっっと黙ってようねー」

「ぐはぁ!おまっ、鳩尾・・・っ」

 

ベルの視線に少女は「何かあった?」といった感じに首をかしげる。可愛い。

 

「大丈夫?」

 

その声は、ダンジョンでミノタウロスを倒したあの少女と同じ声で・・・

 

「ああ、横取りした人。」

 

ベルはポン、と手のひらでグーを受け止めてから少女を指さし、そういった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「テメェ吠えるじゃねぇか!!lv1の分際で!!」

 

狼人はベルの発言が気に食わなかったのか、ベルに大声で威圧してくる。面倒くさいことになると何となく分かったベルは他の3人に目でエマージェンシーを送る。

 

『この人何とかして下さい』

 

しかし当の3人は、少女が目を点にし、アマゾネス2人にいたっては「こいつ何言ってんの?」と言わんばかりの視線をベルに投げかけ、聞いてきた。

 

「私も気になるな~。どうしてlv1の君がミノタウロスを、しかも一人で倒せるなんて思ったのか。」

「そうね。そこら辺をキッチリ説明してもらわないと、アイズが助けたのが横取りになっちゃうもの。それとも、レベル差をひっくり返すスキルでも持っているの?」

 

(ヤバイ。根掘り葉掘り探られるパターンだ。)

 

たとえスキルではなく、自前の魔術回路であったとしても他者に無い有利な点を露呈させることは冒険者の間ではあまり好ましいものではない。手札は伏せておくものだ。ベルは一旦話をそらすことにした。

 

「あ、あの!!とりあえず、ここは一体・・・それと、あなた達誰ですか?」

 

 

「「「話をそらすな」」」

 

 

明らかに格上らしき冒険者3人(うち一人は知らぬ間に回復していた。普段から殴られなれているのだろうか?)の圧力にベルは言葉を詰まらせる。とんでもないファミリアだな。身体強化して無理にでも逃げ出そうか、と考えていたところで救いがやってきた。

部屋のドアが開き、品のある緑髪のエルフが入ってきて、ベルを取り囲む3人に面食らったような様子だ。

 

 

「客人に何をしている?」

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

「いやすまないクラネル君。ファミリアの者が無礼をはたらいたようで。」

 

「いえ!無礼だなんてそんな!僕の方こそ、助けてもらった上に治療までしてもらって、本当にありがとうございます。」

 

途中で入室してきたリヴェリアは3人を黙らせると、ベルがミノタウロスを倒したアイズに対して一言いうと倒れてしまったため、ファミリアのホームに運んだという経緯を説明した。そういえばミノタウロスに左腕をやられていたことを思い出したベルは、治っていることに気づき、リヴェリアに聞くとどうやらポーションと魔法で治してくれたとのこと。見知らぬ冒険者である自分にそこまでしてくれたとなれば、ベルも感謝せずにはいられなかった。

 

「それにロキファミリアの方々と話しをしたなんて、僕みたいな零細ファミリアの駆け出しにとってはとんでる雲を掴むような話ですし。すごく光栄です!」

 

目をキラキラさせて見上げるようにリヴェリアを見る背の低い赤眼の少年。兎を連想させる姿にリヴェリアの母性本能がくすぐられる。

 

「そ、そうか?まぁ私たちもまだまだだ。君も精進すればいつか追いつく。頑張ってくれ。」

 

「はいっ!!」

 

白い歯を見せ、笑顔で答えるベル。守ってあげたくなるオーラを発するベルにリヴェリアは一旦目をそらす。これ以上は体に毒だ。

 

「ところで!ベ―ト、ティオナ、ティオネ。お前たちはベル君に何をそんなに問い詰めていた!客人にそんな態度とは、ことと次第によっては罰を与えるぞ!」

 

「おいリヴェリア!完全に私念入ってるだろ!それに呼び方がかわって「フンッ!」グハッ!また・・・鳩尾・・・ッ」

 

「あーあ、ベ―トったら、余計なこと言うから・・・」

 

「あとはお前たちだ。ティオナ、ティオネ。さぁ!キリキリ喋る!」

 

「あれ?いつもとだいぶ違う・・・?」

 

リヴェリアの指示にはティオネが答えた。駆け出しであるベルがミノタウロスを撃破したアイズを「横取り」と呼んだことを。

 

「それは・・・」

 

リヴェリアとしては判断に困る話だった。本来ならモンスターに襲われそうになっていた冒険者を助けたとなれば良い話だろう。しかしミノタウロスを逃したのはロキファミリアの失態。マッチポンプも甚だしい。

加えて今回は状況がやや複雑だ。駆け出しがミノタウロスに挑むなど明らかに自殺行為。いくら強くなりたいとはいえ、そこまでしては殺されても文句は言えまい。しかしアイズがミノタウロスを倒したときベルはまだ()る気まんまんだったのだ。ベルの立場からは腹立たしいことだろうが、万人から見ればアイズは命の危機を救った英雄(ヒーロー)だ。

 

これは命知らずの駆け出し冒険者に説法しなければ。

 

リヴェリアは椅子の座り、ベルと目線を合わせると優しく、母親の様に語り掛ける。

 

「クラネル君。君は冒険者だ。だがまだ駆け出し。自分の実力も正しく測れないような時期だ。今はまだ、命の駆け引きをすべき段階ではない。」

 

「は、はぁ。」

 

実のところベルは魔術を行使するうえで何度も死線を体験してきた。

魔術回路の生成、身体強化の暴発による筋組織の断裂、固有時制御(タイムアルター)の使い過ぎによる心臓の不規則な拍動。

「魔術とは神秘を行使し、深淵を覗くもの。油断してりゃあコロッとイっちゃうから精々キバって行きな!」

と師匠に言われてもいたため、用心して取り組んでいた。そういう意味では、ベルは並の冒険者より命の管理がうまいほうだと自覚している。リヴェリアの話に一応同意はするものの、内心反抗的な態度をとっていた。

 

「君はアイズを横取り呼ばわりしたそうだが、はたしてミノタウロスを倒すことができたのか?」

 

「それは・・・」

 

正直に言ってしまえば出来ただろう。確実に自分の布石はミノタウロスに刻まれていた。延髄部に浅く刺さったアゾット剣に魔力を流し込めば確実に仕留められた。だが今それを言えば自分の能力を露呈させることになる。それは避けたい。ベルは二言目をいうのを止める。

 

「強くなりたいその気持ちは分かるが、そう急ぐことはない。ゆっくりでも確実に強くなればいい。」

 

「・・・・はい」

 

ベルはうつむき、言えない悔しさに拳を握りしめる。

 

 

 

(言いたい・・・!!ヴァレンシュタインさんがこなければ確実に狩れたってすごく言いたい・・・!!)

 

 

 

 

ベルの様子を、自分の弱さに不甲斐無さを感じる冒険者の姿であると思ったリヴェリアは微笑を浮かべるとアイズに声をかける。

 

「アイズ。お前から何か言う事は?」

 

「・・・手を出してゴメンね。あとこれ、ミノタウロスに刺さってたんだけど、君の?」

 

アイズはベルに申し訳なさそうに謝ると、布に包まれた短剣をベルに渡す。柄頭には球体があり、ベルは一目でアゾット剣だと理解する。

 

「あぁこれ!ありがとうございます!はぁー、よかったー。」

 

一応内包されている魔力量も確認しておく。変化はないようだ。よかった。

 

「随分華奢な短剣だね。」

 

「えぇ、元々は儀式とかの時に使うものだったらしいので。」

 

「そんなものでよくダンジョンに潜っていたな。」

 

「意外と丈夫なんですよ?因みにギルド支給の駆け出し冒険者向けのナイフはミノタウロスにかすっただけで砕けました。」

 

「だろうな。ミノタウロスを相手にするのだったら大体2万ヴァリス位装備で戦わなくては」

 

「2万ヴァリス・・・ハハハ。とりあえずお金を貯めることから始めなくちゃならないみたいですね・・・」

 

「それも修行。頑張って。」

 

「ハハハ・・・。ありがとうございました。それじゃあ僕はそろそろ。帰りが遅いと神様が心配するので。」

 

「あぁ、こちらも引き留めて悪かった。また遊びに来るといい。」

 

「じゃあね。」

 

「はい、さようなら。縁があればまた。」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

「まさに駆け出し、といった感じだな。」

 

「ケッ!駆け出しの分際でアイズを盗人呼ばわりすたぁ、これだから雑魚は気に食わねぇ。」

 

「アレアレ~?ベ―トもしかしてアイズのために怒ってたのぉ~?」

 

「バッ!馬鹿野郎!何言ってんだ!少し黙ってろナイチチ!」

 

「んだとこの犬コロォ!!!!!」

 

「でもあの子、駆け出しとはいえミノタウロスに一撃加えたんでしょう。」

 

「うん。それも背中側の首元あたり。」

 

「延髄のあたりか。うわえっぐ。」

 

「だが駆け出しでありながらそれほどの技量を持っているということになる。」

 

「どうせまぐれだろ?話題にするほどのやつでもねぇだろ。」

 

「さてな。意外とそうでもないかもしれんぞ?もしかすると・・・」

 

「何々?みんな揃ってなんの話してんの?」

 

「ロキか。いやなに。アイズがあった駆け出し冒険者の話だ。」

 

「へぇ~。んで?どこの子なん?うちのお気に入りのアイズたんとコミュ二ケーションとった阿呆は・・・!!」

 

「ロキ。本当にやめてください。斬りますよ。」

 

「あぁん、アイズたんが冷たい~。」

 

「ロキやめろ。子供じゃあるまいし。」

 

「かんにん、オカン。」

 

「誰がオカンだ!」

 

「いやいや、ホンマ堪忍やでリヴェリア。それで?どこのファミリアの子供なん?」

 

「ヘスティアファミリア。名をベル・クラネル。」

 

 

 

 

 

 

「へぇ・・・。ヘスティアかぁ・・・。」

 

 

ロキは悪神に相応しい、ピエロの様な笑顔を浮かべた。




最後の方は正直さぼりました。情景とか仕草の説明書くのって結構難しいですよね。

次回はステイタス更新、エイナに砕けたナイフについて文句を言う、豊穣の女主人での一幕の3本でお送りしまーす(サ○エさん風)


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そして少年は女神を泣かす

あれ、おかしいな・・・

本当はもっと進むはずだったのに・・・

今回はステイタス更新の前のみです。
次回エイナと豊穣の女主人やります。


迷宮都市オラリオの街はずれ。

 

かつては街の拠点だったのだろうか、神殿の名残を残す列柱が崩壊した状態で放置されている区画。その区画の中にある、廃墟の様な教会が一つ。本来教会を彩るであろうステンドグラスは割れ、信者のために用意された長椅子は埃を被り、中には壁に立掛けているものもある。

そんな寂れた教会にベル・クラネルは何の抵抗もなく入り、腐りかけた木の教壇を通ると、地下室への階段を下りていく。

 

「神様、ただいま帰りました。」

 

「うんにゃーー!!お帰りベル君!今日は随分遅かったじゃないか!心配したよ!」

 

ベルにダイブするように抱き着く少女?女性?が一人。

ベルを迎えたのは彼の所属するファミリアの主神『ヘスティア』

 

家の炉を司り、家庭生活の守護神とされる彼女は、容姿だけ見れば美人なロリ巨乳であり、引くて数多(あまた)と思われるのだが、いかんせん性格が台無し過ぎた。お世辞にも落ち着きのある女性とは言い難く、言ってしまえばフィーリングに頼りすぎの、あまり考えることをしない、要するにアホの神だった。

又、天界にいた当時、悪神として「暇だから戦争しようや!」とやんちゃしていた道化師(トリックスター) ロキにロリ巨乳(・・・・)ということで目を付けられ、割と一緒にいる時間が多くなり、ロキと同種の神だという誤解を招いてしまい、近づく男は全くいなかった。

 

そんな彼女が娯楽を求めて下界へと降りてきた訳だが、しばらくは友人である鍛冶を司る神『ヘファイストス』のファミリアに厄介になっていた。

しかしファミリアを作ることもせず、ただただ日々を浪費していくヘスティアに業を煮やしたヘファイストスが彼女を追いだしたのだ。遂に一文無し、宿無しになった神は明日の生活も見えないホームレスになってしまった。

本格的に眷属探しを始めなくてはいけなくなったヘスティアだが、そう簡単に冒険者志望の者が見つかる訳でもなく、途方に暮れていた時に現れたのが、同じくファミリア加入のために途方に暮れていたベルだった。

 

 

お互いがお互いを救いの手としてwinwinな関係で結成された『ヘスティアファミリア』

 

それに一人しか眷属がいないので、自然と接する機会も多く、お互いに今日あった出来事を話し合ったりを毎日している。2人はまさに家族(ファミリア)であった。

 

 

「はい。実は・・・・・」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「えーーーーーー!!!ミノタウロスに立ち向かった挙句気絶してロキのところで世話になっただってーーー!!!」

 

「ま、まぁ要点をまとめればそうですけど・・・」

 

ベルの話にヘスティアはかなり頭痛がしていた。

ミノタウロスを7階層まで運んだのはロキファミリアの失態であり、もしベルが撤退を選んだうえでミノタウロスに襲われてしまい、ロキファミリアの治療を受けたということであったなら、その気はなかったとしてもlv1冒険者に怪物進呈(パス・パレード)したということでロキファミリアを糾弾することが出来るだろう。まぁヘスティアはその事実をギルドに伝えるというよりもロキへのカードとして用意するだろうが。

だが今回は、レベル差のあるモンスターに対してベルが望んで戦いを挑み、経緯はどうあれロキファミリアで治療を受けたとのこと。ヘスティアとしてはたった一人の眷属が世話になったので、感謝してもしきれないが、いかんせん相手が因縁のあるロキでは話は別だ。

ロキのことだろう、確実に次会った時に何か言ってくる・・・!

 

(まぁそれは僕の問題だ。何とか対処するとして、問題は・・・)

 

目の前でまだ言い訳しようとしているベル君だ!!

 

「でも神様?僕、後少しのところで倒せたんですよ?テンションマックスで覚悟完了して『さぁ!迎えうつぞ!』ってところで剣姫の横取りですよ!?信じられます!?」

 

「僕はlv1の君がミノタウロスを倒せると思ったベル君の神経が信じられないよ・・・」

 

「そんな!?でも魔術もあるし勝てるかな、と。」

 

「それは驕りというものだよ。ベル君。」

 

 

ベルはファミリアに加入するにあたって、ヘスティアに何故冒険者になりたいのか、なって何を成し遂げたいのかを聞かれたため、ベルは語ったことがあった。

祖父の死を認めた自分の弱さのこと、もう繰り返さんとコブリンの群れに飛び出したこと、自分に魔術を伝授したクソ師匠に不本意ながら憧れ、近づきたいと思っていること、そして信じる勇気を力の無い人達に、信じることが出来なかった昔の自分を克服するために教え伝えたいこと。

 

その際、魔法とも違う、オラリオの魔術師(メイジ)とも違う、魔術師(メイガス)の魔術について説明を受けていたため、ベルの魔術についてはある程度の理解はあった。

 

「確かに君の持っている能力は他の人には無いものだ。万能なレアスキルみたいなものだと思う。でもだからって無茶していいことにはならないよ。」

 

「・・・神様。でも僕は!」

 

「でももへったくれもあるか!!!」

 

ベルの「でも」が引き金となり、ヘスティアは大声でベルを怒鳴った。その目は微かに揺れている。

 

「ベル君、君が強くなりたい理由も分かる。二度と自分と同じ思いをさせたくないという君の思いは確かに尊いだろう。でもね、」

 

諭すように、子守唄を歌うように

 

「君は僕の唯一の眷属だ。ベル君がいなくなったら僕は寂しいよ。お願いだベル君。僕を置いていかないで。僕を、一人にしないでおくれ。」

 

息子に語る母のように、母に甘える子供のように、愛を思う恋人のようにヘスティアはベルに伝える。その目に涙を微かに流しながら。

 

 

 

 

だがそれでも・・・

 

「ごめんなさい。神様。」

 

彼にも譲れないものがある。

 

「それでも僕は、強くなりたいんです。」

 

かつての自分のために。自分と同じ思いをしているかもしれない誰かのために。

 

それが(ベル・クラネル)のあり方。不器用で頑固で、てこでも動かないであろう生き方。

 

「強くなるために無茶もします。危険な目に遭うと思います。でも、」

 

きっと僕が目指すものは、無茶とか危険をおかさないとたどり着けないものだから

 

おじいちゃんの話を思い出す。どんな理由があろうと女の子を泣かせちゃいかん。

 

神様の顔を見る。涙を浮かべ、目元は赤く震えている。あぁ、僕今すごく悪いことしてるんだろうな

 

「安心して下さい、神様。僕は神様を残してどこかにいったりなんかしません。」

 

神様にこんな表情させているのは僕だけど

 

「信じて下さい。僕のことを。神様に信じてもらえているって思うだけで、僕は強くなれますから。」

 

神様にはいつも笑顔でいてほしいから

 

「だから泣かないで。ヘスティア。」

 

 

ベルはあやすようにヘスティアの頭を撫で、人差し指の背で涙を拭った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「全く、ひどいやつだなベル君は。」

 

「すみません・・・」

 

ヘスティアはベルの撫でをしばらく受けると、泣き止んだようで、顔をあげる。その目は充血し、目の周りは腫れていた。

女の子を泣かせてしまった事実にベルは罪悪感にさいなまれる。

 

(こんなのおじいちゃんの教えじゃなくたって悪いことって分かるよ・・・!)

 

だがヘスティアがベルに向けた表情は笑顔だった。それもこれまで見たことない程のとびっきりの笑顔。後ろで光が見えた気もしたくらいだ。

 

(あれ?僕神様が喜ぶようなことしたっけ?むしろ最低なことしか言ってない気がするんだけど?)

 

「ベル君。確かに君には何を言っても無理そうだね。そこは諦めるよ。」

 

「えっ?」

 

ベルとしては、意外どころではない反応だった。なんなら自分を止めんとヘスティアが神の力(アルカナム)を使ってでもくるものかと思っていたためだ。

 

「なんで・・・」

 

「君の言ってることは正直バカとしか言いようがないよ。要するに無茶はするけど気合いでなんとかするってことだろう?」

 

「そりぁ、まぁ・・・」

 

まさにその通りだが、もっと言い方があってもいいのではないだろうか。

 

「でも『あなたが信じてくれれば』なんて言われちゃ、僕も主神冥利に尽きるってものさ。」

 

「神様・・・」

 

自分の話を無茶で馬鹿と知った上で『信じる』と言ってくれた。ベルは自然と胸から熱いものが流れるのを感じた。

 

「ヘスティア」

 

「えっ?」

 

「さっきはヘスティアって名前で呼んでくれた。」

 

枕を抱きしめ、体育座りでベルを上目遣いに見るヘスティア。その姿は神ではなく、一人の恋する乙女である。

 

「あ、あの、ええっと、それはその、思わずノリでっていうか、自分でも自然と出ちゃったっていうか・・・」

 

ヘスティアの突然の変貌にベルは戸惑った。

 

目の前の神様は一体だれだ?僕の知ってる神様じゃない。それになんでこんなに見ててドキドキするんだ・・・?

 

「次からも名前で呼んで。」

 

「え!?え!?えーーー!?!?!?」

 

「・・・ダメ?」

 

 

▼ヘスティアの小首を傾げながらのおねだり攻撃!

 

▼普段とのギャップにベルはいっぱいいっぱいだ!

 

「ハ、ハイ。ヘスティアサマ。」

 

「『様』はいらないんだげど、まあいいか!さぁベル君!今日はバイト先からもらってきたじゃが丸でパーティしよう!今夜は君を寝かさないぜ!」

 

「オ、オテヤワラカニ」

 

 

 

 

 

 

この後普通にステータス更新して寝た。




ステイタスの詳細に関しては次回前書きにでもつけときます。正直よく考えてない。

でも一応考えているのは

魔力EX(いまがlv1だから)
スキル 憧憬一途(憧れているのは、師匠の魔術使う姿全般。特に月随霊液)

魔術回路とかは自前のものなのでスキルとか恩恵には含まれません。今のところは。


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そして少年は受付嬢を憤慨させる

ごめんなさい。まだ豊穣の女主人いけませんでした。

今回はオリジナル展開、というより蛇足回のようなものです。

次回こそ・・・!必ず・・・!


農村での放牧生活を過ごしていたベルの起床時間は早い。

どんな時間に寝たとしても必ず5時には起きるように体が覚えていた。

昨日の夜は夕食を済ませ、ステイタスの更新を終えたベルはいつものようにベッドをヘスティアに明け渡すとソファーで寝ていたはずなのだが、朝起きると仰向けに寝る自分の上に柔らかい重みを感じていた。

 

重みの詳細はヘスティアだった。顔をベルの胸板にのせ、心地良さそうに寝ている。頬をほころばせながら「ベルく~ん…」と寝言を呟いていた。

自分の名前が呼ばれたことと、密着するような形でいることで、ベルは不意に昨晩のヘスティアの豹変ぶりを思い出す。

 

ベルが流れで呼び捨てで呼んだことを怒ることもせず、むしろこれからも呼び捨てで呼べ、と言った愛らしいヘスティアの姿を。

 

『・・・ダメ?』

 

「っ!?」

 

目の前には可愛い顔立ちのロリ巨乳がそのたわわな胸をベルの腹に押しつけ、顔を胸板にうずめて「ん、んぅ…」と呟きながら小さく動いている。そして女性特有の甘い香り・・・。

 

(これ以上はいけない!青少年の何かが危ない!)

 

ベルは状況的にも心理的にもヘスティアを抱きしめたい欲求を魔術師特有の冷静さで抑えてヘスティアを起こさないようにソファーから抜け出す。

音をなるべくたてないように防具、腰にアゾット剣を装備すると、ベルは革で出来た持ち運び出来る箱型の手持ちバックを棚の中から取り出す。それに右手を置き、魔術回路を起動させると

No. 4 , No. 6 desbloqueo(4番、6番 開錠)

と呟く。

するとバックについた留め金が勝手に外れ、誰も触っていないのにふたが開けられた。まるで持ち主たるベルを歓迎しているかのように。

 

バックの中には魔石やら赤い布やらビーカー、試験管など様々なものが整理され、敷き詰められている。ベルはその中から一つの液体の入った試験管を取り出すと、服の内ポケットへ入れ、バックを閉めた。そして再度、バックに手を置き右腕の一部をエメラルドに光らせて詠唱する。

No se ve , no se escucha , la respuesta no(見ず、聞かず、答えず) Usted confinar el secreto(汝は秘密を閉じ込める)

留め金が勝手に閉じ、それを手で開けようとしてもびくとも動かないことを確認すると、ベルはもとあった場所にバックを戻し、外へと急ぐ。

 

「っと、その前に。」

 

ベルは階段の前で振り向く。ヘスティアはまだ眠っていた。

 

「行ってきます。ヘスティア様。」

 

ヘスティアを起こさないようにと、小さい声で言うとベルはダンジョンへと向かった。

 

 

 

 

 

「・・・・・ベル君のいくじなし。」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

(いやー朝からびっくりしたな。ヘスティア様、寝ぼけてたのかな?)

 

ベルはダンジョンへと向かう道のりで朝のどっきりを思い返していた。女性特有の柔らかみ、肢体、感触そして何より・・・

 

(いい匂いだったな~)

 

ベルがいくら神秘を探求する魔術師の端くれで、危険を省みず強さや勇気を求める駆け出し冒険者だとしても、14歳の思春期真っ只中の男の子であることには変わりない。朝からあんなアグレッシブな体験をしてしまっては悶々としてしまう。

 

(っていけない!何を考えているんだ僕はゎぁぁ!!!

今からダンジョン潜るんだぞ!死と隣り合わせなんだぞ!こんな状態じゃあ魔術暴発させるぞ!

そうだ!ミノタウロスのことを思い出そう!あの突進、勢いがあったし、図体でかかったなぁ)

 

ふと「でかい」でヘスティアの胸が頭をよぎるベル。

 

(・・・でかい・・・柔らかい・・・いい匂い・・・ってだからいい加減にしろぉ!!煩悩退散!煩悩退散んnnnn!)

 

ベルは切り替えろと言わんばかりに自分で自分の頭を何度も小突く。思春期の煩悩とは誠に悩ましいものである。

 

「・・・!?」

 

だがベルは、そんな煩悩をすぐに捨てざる負えなくなる。

誰かの視線を感じたのだ。値踏みするような視線だ。

正直今のベルは自分の頭を何度も小突くという非常におかしな行動をとっているため、見られるのは当たり前だろう。実際、朝早く人通りがまばらとはいえ、人は通っているのだから。問題は・・・

 

(礼装ごしに見ているのか?嫌に魔力を感じる・・・)

 

ベルは自分にのみ向けられる魔力の指向性を感じた。自分が魔術に使用する小源(オド)よりももっと大きく、且つ神秘の塊のような魔力。ベルがその魔力の流れを感じ取った方向を見ると、そこにあったのは一際大きい建造物。自分の向かおうとしているダンジョンからモンスターが溢れてこないよう、『蓋』をしているバベルの塔。

 

(・・・一体何者だ?それにこの魔力の神秘性、人間じゃない・・・精霊?いや神か?)

 

思考しながらバベルを睨み付けるベル。

神に許されているのは神の血(イコル)によって眷属に恩恵を与えることのみ。神がもしそれ以外に力を使えば天界に返されたはずだ。なら今感じるこの視線はなんなんだ・・・?

 

 

――――――――――――――――――

 

『あらあら、嫌われちゃったかしら?』

 

――――――――――――――――――

 

視線は深く考えないうちに失せ、ベルは一人道の真ん中でほっ、と溜息をつく。

(とりあえず疑問は山ほどあるけど、今日はダンジョンに潜ることに専念しよう。エイナさんにナイフの文句言わなきゃならないし。)

 

「あの・・・」

 

「はい?」

 

声に振り向くと緑色のジャンバースカートに白のエプロン、団子からポニーテールが飛び出したような髪型の銀髪の少女が話しかけてきた。

 

「あのこれ、落しましたよ?」

 

そういうと少女は紺色の魔石のかけらをベルに渡した。

 

「ありがとうございます。あれ?巾着から落ちちゃったのかな?」

 

そう言って巾着に魔石を入れるベル。昨日は換金に行っていないため、魔石がまだじゃらじゃらと音を鳴らしていた。その音につられるようにベルの腹がなった。少女にも聞かれたことに思わず苦笑するベル。

すると少女は店の奥へ行き、戻ってくると「もしよかったら」と弁当をベルに渡した。

 

「そんな悪いですよ!それにこれ、あなたの朝ごはんじゃ・・・」

 

「私が仕事が始まれば賄いが出ますから。その代わり!夕食は是非当店で!」

 

笑顔でそう言う少女にベルは内心感心する。

お客確保のために自分の朝ごはんを生贄に出すなんて、かなり仕事が好きなのか、それとも朝ごはんで客をつる店の方針なのか、どちらにしても商売上手だなぁ。

 

「分かりました。『豊穣の女主人』ですね。覚えました。じゃあ夕飯の頃合いになったら伺いますね。」

 

「はい!是非!」

 

それじゃ、と言うとベルは走ってダンジョンへと向かう。後ろで少女が「沢山稼いできてくださいねー!」と大声で言ったのは、結構ツボにはいった。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

「シッ!」

 

「――――――――!!!」

 

ベルは7階層でキラーアントの群れを狩り終わったところだった。

lv1冒険者がソロで7階層まで行くのはかなり危険な行為である。しかも冒険者になってからまだ半月もならない者であれば、自殺しに行くようなものである。

しかしベルは冒険者であるのと同時に魔術師である。それも主に身体強化を得意とした。彼の師匠からは

 

『フィジカルマジカル 魔術少年ベル・クラネル! ・・・始まったな』

 

と言われ、その名に恥じぬ打撃力っぷりで10m位ふっ飛ばしたのはいい思い出である。最も、その後

 

『再教育の時間だ、ク・ラ・ネ・ルくぅ~ん!!How do you like me ヌァーウ!!』

 

とキレられ、水銀ちゃんと散々追いかけっこさせられたが。本人曰く、『あの程度遊び』と言われた時には、人間やめてるな(他人に求めるハードルが)、と純粋にベルは思った。

 

そんなこともあり、ベルは素の状態でもそれなりに強く、立ち回りの仕方も散々水銀ちゃんで鍛えられていたため、難なく階層を進んでいた。

 

「うーん・・・こりぁアクアちゃん使わなくても大丈夫だな」

 

ベルはそう言って胸ポケットの試験管を確認した。

ベルが『アクアちゃん』と言ったのは、彼の師匠の愛用する魔術礼装『月髄霊液(ヴォ―ルメン・ハイドログラム)』を真似て、彼自身が作成した『水月霊液(アグミス・ローグラム)』の愛称である。水に砕いた魔石を入れ、月の光を浴びせて魔力を充電させて使う。オラリオに来てからは、質の良い魔石も簡単に手に入るようになったため、溜めて置ける魔力の量も増え、稼働時間が増えた。

水銀ちゃんが水銀の質量をもって攻撃するのに対して、アクアちゃんはため込んだ魔力を基点に攻撃するものである。そのため、霊体相手にはアクアちゃんが、身体を持つ相手には水銀ちゃんが強いという特性を持っている。

もっとも、製作者たるベルは自分の身体以外の魔術行使は毛ほども出来なかったので、師匠からは

 

『宝の持ち腐れってレベルじゃないよね。なんで作ったの?脳みそ筋肉もそこまで行くと分からないものなの?』

 

と散々に言われてしまった。流石にこれにはベルもぐうの音も出ず、頭を下げて使い方を教えてもらい、何とか刃の形を固定するまでは出来るようになった。

その時の師匠は『改めて私がハイパーなんでも出来る系スーパー魔術師だということが分かった』と言われ、その時だけは力なく頷いたベルだった。

 

因みに、ベルは最初『アクアちゃん』のことを『お水ちゃん』と呼んでおり、師匠がお水に関して知識を教えたことにより、『アクアちゃん』という名前になった。その時師匠は

 

『お水とか!!いやらしい且つだっせぇネーミングセンスしてるねぇクラネル君!!酪農の家畜についてる名前の方がよっぽどましだぜ!魔術といいネーミングセンスといい全く才能が壊滅的だねぇ君は!!アッハハハハハ(無言の右ストレート)グハァ!』

 

いつものようにからかい過ぎてベルにパンチをもらっていた。

 

ベルは9階層まで潜ったが、特にこれと言った危険にも遭遇せず、身体強化なしで大体のモンスターを片付けていた。

 

「・・・やっぱり物足りないな」

 

ベルは昨日のミノタウロス戦を思い出していた。

あの攻防、一度道を踏み外せば死に繋がる綱渡り。決死の覚悟で望む殺し合い。あれこそ冒険!

 

やはり強くなるためにはもっと命をかけなければ。

 

ベルは一人、モンスターの死骸を周囲に撒き散らせながらそう思った。

 

 

「あ、そいえばご飯貰ってたんだった。食べるか。」

 

あらかたモンスターが片付いたところで思い出したベルは可愛らしい袋を広げて弁当箱を開く。

 

「サンドイッチか。頂きます。」

 

口に運ぶとサンドイッチなのに煎餅のように固くバリバリし、中身の具はクリーム状になっていた。そして味は、しょっぱいような苦いような辛いような甘いような・・・摩訶不思議な味だった。

 

「・・・食べられない程じゃないけど、不味いな。」

 

豊穣の女主人へ行く気が早くも失せそうなベルであった。

 

――――――――――――――――

 

 

 

「エイナさん、話があります。」

 

「待ってベル君。そんな真剣な表情で見ないで。みんな見てるじゃない。緊張しちゃうわ。」

 

「す、すみませんエイナさん。気が回らなくって。」

 

「いいのよ。さぁベル君?一体話って何?」

 

「はい、実はミノタウロスと戦ってギルドで買ったナイフがくだけちゃったんですけど、補償ってあります?」

 

「・・・・・・・はい?」

 

 

――――――――――――――――

 

 

エイナ・チュールにとってベル・クラネルは癒しであり、疫病神でもあった。

 

オラリオに初めて訪れ、冒険者になりたいという人は何人も案内してきたエイナだったが、若干14歳の子供を案内するのは初めてだった。その少年は白髪に赤眼で、見るもの全てに驚いてピョンピョンと動き回り、兎を思わせる子供だった。

最初少年は「ダンジョンに潜れば冒険者なんですよね!」と言って恩恵なしに飛び込もうとしたので頭を抱えたものだった。ダンジョンがどれほど恐ろしいところなのかをみっちりと少年に説教すると、少年はしゅん、と顔を俯かせた。その姿もまたもや可愛く、いつまでも見ていたかったエイナであるが、受付として話を進める。

 

「ごめんねクラネル君。でも冒険者になる前から死んじゃったりしたら笑いごとじゃないから。だからほら!そんなに落ち込まないで!」

 

「はい・・・ごめんなさいエイナさん。」

 

「ごめんなさいじゃなくて、ありがとうって言ってほしいな。」

 

エイナの言葉に少年の目に涙が浮かんだ。話をよく聞いていない同僚や冒険者からはエイナが少年を泣かしたように見え、自然と非難の視線が浴びせられる。

 

「ええぇぇぇ!!ク、クラネル君そんな!!こんなことで泣いてたら冒険者になんてなれないわよ!?ていうか、私そんなにひどい事言った!?」

 

エイナとしては早く少年に泣き止んでほしいし、誤解を解きたいしで手を左右に動かしててんわやんわな状態だった。少年は泣きながらも嗚咽交じりにエイナに話す。

 

「違うんです・・・。僕、オラリオに来るまで、僕の師匠と一緒に旅してきたんですけど、その師匠ってのがこれ以上ないって位の意地の悪い変人で・・・。」

 

「え?え?」

 

突然の告白に戸惑うエイナ。ギルドの職員とその場にいた冒険者の何人かも耳を傾けていた。

 

「お金の管理も出来ないくせに僕が稼いだお金を取り上げるし、事あるごとに『脳みそ筋肉』ってからかってくるし、『才能無いな』って馬鹿にしてくるし・・・そういうのが2年位普通になってたんで久しぶりに人の優しさに触れられて嬉しかったんです・・・」

 

「そうなの・・・大変だったわね」

 

エイナは14歳の頃からギルドで働き始め、現在19歳になる。いじめはなかったが、度重なる時間外労働は経験してきたため、仕事や上司への不満というところで共有するところがあり、相づちをうつ。話を聞いていた何人かも少年を哀れみの目でみていた。

 

「それにエイナさん、怒ってくれたじゃないですか。」

 

「えぇ、そりゃそうよ。恩恵もなしにダンジョンに飛び込むなんて、そんな自殺行為させられないわ。」

 

「僕は師匠に今までそういうことさせられてきたんで。装備もなしにゴブリンの群れに突っ込まさせられたり。」

 

「よく生きてこられたわね。」

 

「常に後ろで師匠がハイポーションを薄めたのが入ったバケツ抱えているんです。僕が死にそうになるとそれをぶっかけてきてほんの少しだけ回復させてまた突っ込ませるんですよ。うまいことあと一歩で死ぬ状態を維持させられ続けるんです。それで挙句の果てに

『人の不幸で飯がうまい!特にクラネル君の不幸は極上の味だねぇ!でももう飽きたから後は討伐任せたよ』

って言ってナイフ一本渡すといなくなるんですよ。

逃げようにも何故かゴブリンが追ってくる。後で気づいたんですけどぶっかけられた薄めたハイポーションの中にゴブリンに効くフェロモン成分が入ってたんですよね。

何とか必死こいて倒すんですけど一向に数が減らないんですよ。んで先に進むと

『実はすべて私が調教(テイム)したゴブリンだったのさ!君のゴブリンが減らないことへの絶望の表情は実によかったよ!!いやぁ滑稽滑稽!!ふっひひひーー!』

って師匠がマント広げて悪役のそれっぽく言ってるんですよ。

不幸なことに二人旅だったんで師匠を咎めてくれる人はおろか止めてくれる人もいませんからね。いるのは僕の死にそうな姿を僕の作ったご飯食べながら笑顔で観戦してる人だけなんですよ。」

 

少年の目からはハイライトが消え、壊れた人形のようにハハハと笑っていた。

 

エイナは勿論のこと、ギルド職員や冒険者も声を失い、少年を哀れみどころではない目で見る。

 

(こいつどんだけ不幸なんだよ)

(てかその師匠ってとんでもないクズやろうじゃねーか)

(かわいそう・・・!ひたすらにかわいそう!!)

(こいつ恩恵もなしにゴブリンを倒したのか・・・もしかして実力あるのか?)

 

 

「なので嬉しかったんです。危ない行為をちゃんと止めてくれる人と久しぶりに会えて。傷つくことはよくない事って言ってくれる人と出会えて本当に嬉しいんです。エイナさん、本当にありがとうございます!」

 

少年の壮絶な体験から導き出されたエイナへの感謝。それを受けエイナは少年の担当になろうと決意する。

 

この子が触れられなかった人と人との暖かみを、思いやる心を教えてあげよう。この子が、ベル・クラネルが過去に辛かった分だけ喜びを、幸せをあげよう。

 

 

 

 

そして彼がファミリアを見つけ、冒険者となってから数日後

 

・装備なしでダンジョンに潜り素手で3階層のコボルトを撃退。

・エイナの忠告を受け、装備をつけて5階層まで行き、ゴブリンとコボルトの群れを撃退。 ただし武器なし。

・エイナの忠告を受け、嫌々ながらもギルド指定のナイフを購入。その時の発言にエイナ、激おこプンプンまるとなる。

 

 

―――――――そして今日

 

「なんで7階層なんて行ってるの!?しかも何故かミノタウロスがいたから戦ったぁ!?」

 

「アハハハハ・・・冒険するなら今しかない!って思っちゃって。」

 

「ベル君。私の『冒険者は冒険するべからず』っていうありがた~い言葉はどこへやったの?」

 

「あぁ、そいえばそんなこともありましたね。忘れました!」

 

「こんの、脳みそ筋肉馬鹿ベルがあぁぁ!!!!!」

 

「い、痛い!痛いですエイナさん!頭を拳でグリグリしないでぇぇぇーーーー!?!?!?」

 

 

 

 

―――――――あぁ、またやってるよ。もはや名物だな。

 

―――――――エイナにも男が出来たと思ったけど、ありゃ違うわね。弟だわ。

 

 

 

「と、ところでエイナさん!ナイフに補償ってあるんですか?」

 

「んなもんあるかあぁぁぁ!!!命を大事に!!!ダンジョンに潜れええぇぇぇ!!!」

 

「ひ、ひいぃぃぃ!痛い痛い痛い!!痛いですよ!!ごめんなさいエイナさぁーーん!!!」

 

 

 

 

 




「待ってベル君(また厄介事じゃないでしょうね)、
 そんな真剣な表情で見ないで(あなたがその顔で来る時ろくな報告受けないのよ)、
 みんな見てるじゃない(「お前の監督不行届きだ」って毎回睨まれてるのよ!余計な仕事を増やすな!)、
 緊張しちゃうわ(胃薬用意しなくちゃ)」

エイナはベル君の容姿もふと出る可愛さやドキッとさせる一言が大好きです(今回は書いてないけど)。
でもそれ以上にベルに苦労させられている人です。

これからもベル・クラネル被害者の会は増えていくよ♪


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そして少年は酒に呑まれる・・・?

中々話が進まない・・・


更新頻度少なくなると思います。すまぬ。てへぺろ。


ベルは魔石の換金を済ませると、エイナに拳でグリグリされた頭を痛そうにしながらギルドを出ていった。その際、「やりすぎちゃったかしら・・・」と心配そうにベルが出ていくのを見送ったエイナ。それと同時にベルが魔石を換金する量に違和感を覚えていた。

普通冒険者は取った魔石のほとんどを換金し、残った少しを魔石を動力として動く機具に使用する。そう考えるとベルが手元に残しておく魔石はあまりにも多すぎる。ヘスティアファミリアの眷属はベル一人のみだ。規模から考えても精々小さい魔石が2、3個あれば十分だろう。だが彼はとってきた魔石の半分、金額にして8000ヴァリス相当を自分の手に残している。あまりにも必要過多な量。お金に変えてしまった方が良いのは明白。

 

では一体何故?

 

換金以外の用途といえば、魔石を利用したアイテムや武器の作成のみだろう。

しかしベルがそのようなアイテムや武器を使用している様子はない。ギルドで買ったナイフを買ったその日のうちに壊し、彼が現在もつ獲物は自前の華奢な短剣のみ。

鍛冶師のところへ持っていっていくのだろうか?、とも考えたが、ベルからそのような話も聞いていない。

 

「もしやベル君自らアイテムや武器の作成を!?なんてことはあるはずないわよねー。」

 

物好きな冒険者ならするだろうがそこまでの物好きは大体ダンジョンに相当な期間潜り続けている古参の者か、冒険者を辞めたファミリアの者と相場が決まっている。ベルはどれにも当てはまらいのだ。

 

今度ベル君になんで魔石を全部換金しないのかきなきゃね

 

ベルの背中を目で追いながら思うエイナであった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

ベルが根城(ホーム)に戻ると、ヘスティアは居らず、

 

「何日か部屋を留守にします。夕食は一人で済ませて下さい。 ヘスティア」

 

と書かれたメモがテーブルの上にあるのみだった。

ベルはせっかくなのでヘスティアと共に豊穣の女主人へ行こうと思っていたが、いないのでは仕方ないと一人で行くことにした。

 

 

豊穣の女主人へ行くと、そこは酒場特有の賑やかさと騒がしさで満ちていた。夜の町に魔石の電灯が周りと比べると騒がしさも相まってか、ベルには一層明るく感じられた。

 

「冒険者さん!来てくれたんですね!」

 

「どうも。朝はお弁当ありがとうございました。」

 

店に入ると、朝に弁当をくれた銀髪の店員がベルを迎えた。弁当が包まれていた布を返すとベルはカウンター席へと座る。その時に店員に「シル・フローヴァです。ようこそ、豊穣の女主人へ!」と自己紹介を受けたため、ベルも自分の自己紹介を済ませた。ダンジョンで食べた摩訶不思議サンドイッチの味を思い出し、量の多いものは頼まないようにと、カウンターのガタイのいい女主人に小皿料理と水を頼もうとおもっていたベル。しかし席に座った瞬間に山盛りのナポリタンと醸造酒、魚の姿揚げがドン!と勢いよく置かれる。美味しそうな匂いにひとまずサンドイッチの再来が来なかったことにベルは安堵した。

 

「あんたが顔に似合わず大食漢だっていうシルの客かい!冒険者にしてはかわいい顔じゃないか!」

 

「・・・かわいいは余計なお世話です。それに大食漢って何の話?」

 

シルを見ると、ベルの顔からスッと視線を逸らす。

あぁこの人の仕業か。

 

「ごめんなさいベルさん。今夜の私のお給金も期待できそうです!」

 

「・・・よかったですね。」

 

ジト目でシルを見ながら食事を進めるベル。おぉ!このナポリタンうまい!

その様子にシルはクスリと笑い「気に入ってくれたみたいですね」とベルを笑顔で見る。

 

「この店、色んな人が集まって、沢山の発見があって面白いでしょう?私つい目を輝かせてしまって、心がうずいてしまうんです。」

 

「結構すごいこと言うんですンね。でも分かります。刺激って大切ですからね。」

 

「ベルさん?なんで遠い目をしているんです?」

 

 

 

ベルは初めて魔術回路を生成する際、魔法陣の描かれた洞窟に閉じ込められ、結局3日間閉じ込められた。食糧はなく、あるのは湧き水のみ。空腹ですぐに動けなくなり、ベルは考えた。ベル・クラネルとは何か。神秘とは何か。魔術とは何か。とにかく考えた。何も考えられなくなるのが怖かったから。そして考え続ける内になんやかんやあって明鏡止水したベルは見事魔術回路を取得した。

だがその後が問題、取得したものだから開けてくれるものだと思っていたら開かない。一向に開く気配がない。しかも外で雨か洪水でもあったのだろうか、湧き水の量が急にまし、洞窟全てが水に満たされるのではないかという勢いで増え始めた。死んでたまるかとその日に生成した調整も済ませていない魔術回路をフル活用して洞窟をぶち破って何とか外へでた。

そして彼が目にしたものは優雅に紅茶を飲む師匠の姿。

 

『あぁクラネル君、魔術回路生成おめでとう。いやぁ、突然雨がかなり降ってきたもんだから助けにいかなくちゃなぁと思いつつも突然お茶のみたくなっちゃってさぁ。お茶葉選んだりお湯の最適温度見てたら無理っぽくなったから諦めてゆっくりお茶呑んでたんだけど、まさか生きているとは!!それにしても出来たとはいえお粗末な魔術回路だねぇ。腕の感覚ある?それに君の今の姿、泥だらけですげぇ汚いよ。悪いけど近づかないでくれるかい?ってクラネル君?だから近づかないでって!ってあれ?何でそんな無表情なの?そして何で魔術回路発動させてんの?ま、待て!待つんだクラネル君!待ってプリーズ!話せば分か『ボコォ』グハァ!』

 

これが彼の記念すべき師匠を殴り始めた日となった。

 

(まぁ今思えばあれも刺激だよな。いい思い出、いや、思い出したら殴りたくなってきたな・・・)

 

「ベルさん?大丈夫ですか?なんだかこれ以上ないってくらい顔が歪んでますけど・・・」

 

「へ?あぁいや。何でもないですよ。何でも。」

 

「ご予約のお客様、ご来店にゃ!」

 

猫人の店員の大きな声に目を向けると、大人数の団体がぞろぞろと入ってきた。先頭の細身で目の細い神が小人族やエルフ、ドワーフに獣人と様々な種族を従えている。そのなかに知った顔が3、4人いるのを見つけてベルは思わず口を開けてしまう。

 

(げっ、ロキファミリア。それに剣姫もいる。)

 

「ロキファミリアさんはうちの常連なんです。主神のロキ様がいたくここを気に入られたみたいで。ってベルさん?」

 

(リヴェリアさんがいるのはいいとして、あの狼人とアマゾネス2人もいる。まぁここはカウンターの奥の席だし向こうからは見えない。あの人達がいなくなるまで待つか。)

 

「ベルさん!私の話聞いてます?」

 

それまでうつむいてロキファミリアとの非接触方法を考えていたベル。声に顔をあげると頬っぺを膨らませてベルを軽く睨むシルの姿。

 

「あぁ、すみませんシルさん。ちょっとボーッとしてました。」

 

「もうベルさんったら!もう酔ったんですか?」

 

「いえ、さすがに醸造酒一杯では・・・というか僕まだ14なんであまり酒は・・・」

 

「そう言いなさんな!14でそれだけ飲めれば立派さ!さぁ飲んで食って金を落としていきな!」

 

ベルの言葉にカウンターの女主人が空になったグラスにさげ、醸造酒とソーセージを置く。

 

「いやおかみさん!頼んでないですよ!」

 

「遠慮しなさんな!それと私の事は『ミア母さん』って呼びな。そう言われているからね。」

 

ベルは苦笑いで返すとソーセージをつまみに醸造酒を飲む。強引ではあるけど酒場の雰囲気が嫌いではなかったベル。それに何より美味しかったので、食欲が進み、グラスは空となりほろ酔い状態だった。

ロキファミリアいつ帰るかなー。ミア母さん、サラダと醸造酒お願いします。

なんだいよく飲んでよく食うね!本当に大食漢じゃないか!気に入った!一杯はサービスしてやるよ!

 

 

「そういえばアイズ!あの話皆にしてやれよ!」

 

ロキファミリアの面子も酔いがまわったのだろうか、あの狼人が全員に聞こえるようにか、酔いのせいか、大声で語り始めた。

話を聞く限り、17階層で仕留め損ねたミノタウロスを7階層で見つけた際、ある駆け出しが棒立ちでミノタウロスと対峙していたとのこと。アイズがミノタウロスから助けたものの、その冒険者はミノタウロスの血を浴びて真っ赤なトマトの様になったそうだ。

 

ーーー考えても僕のことだな。

 

「しかもそのガキ、気絶したくせに自分で仕留められたとか抜かしやがってよぉ!雑魚でもあそこまでいくと笑えるぜ!」

 

ロキファミリアの一団からどっと笑いが溢れる。

・・・ベルの持ったグラスの取手部分がミシリと音をたてて壊れそうになっていた。

 

「なんやそういう話やったんか?わてはてっきりヘスティアんとこのガキがアイズたんにちょっかい出したもんかと。」

 

んなわけあるかぁ!逆にそっちの剣姫が僕の獲物を横取りしたんだろうが!

 

ベルは喉まできていた言葉を飲み込んで醸造酒を一気に飲み干す。

ミア母さん!おかわり!

あんまり飲み過ぎるんじゃないよ。

 

「例えばだアイズ、もしあのガキに言い寄られたらどうする?俺とあのガキ、どっちをとる!?」

 

「ベート、何言ってるかわかるかい?相当酔ってるね」

 

「うるせぇ黙ってろ」

 

おや?なんだか話が可笑しな方向に流れてるぞ?

ベルはバカにされた不満を一旦おいて集中して聞き耳をたてた。

 

「お前は雌としてどっちに尻尾ふってめちゃくちゃにされてんだ?」

 

見ると狼人の方はかなり真剣な表情で剣姫を見て問いかけている。

真面目な顔でゲスい告白をしている狼人の姿がツボに入ったベルは口を抑えて笑いを我慢している。

 

「そんなこと言うベートさんだけはごめんです。」

 

「クッ、フフッフハ、アーハッハッハッハハッハ!!ヒーヒー!フラれてる!フラれてやんの!人の事だしに使っておいて!ダッセェなおい!アッハッハッハッハ!!!」

 

「うるせぇぞ!外野が口出しするんじゃねぇ!っててめぇは」

 

ベートの視線の先には、奥のカウンター席で自分を指差ししてゲラゲラ笑っているほんのり頬の赤い白髪の少年が。

 

「ハッ、トマト野郎じゃねぇか。雑魚が吠えるんじゃねぇよ!」




ベル君の口調が変わったのは14歳なのに4杯も飲んで酔っぱらったから。

次回
酒に酔ったベル君とベ―トでも戦わせるかな。どうしよう・・・


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そして少年は認められる

ちょい長くなっちゃいました。

次のネタ思いつかないよぉ!(泣)


(あーあ、あのガキ死んだな)

ベルがベ―トを笑ってから、酒場に居合わせた誰もがベルを憐れんでいた。

接する者を強者と弱者に分ける力に固執したロキファミリアの一級冒険者「凶狼(ヴァナルガンド)」として有名なベ―ト。その性格上、因縁を付けられる彼だったが、返り討ちになった者は数知れず。今となってはLv5にもなった彼に喧嘩をしかけるのはよそ者か何も知らない新入りか。この場合後者だろう。

 

「ハッ、トマト野郎じゃねぇか。雑魚が吠えるんじゃねぇよ!」

 

「そういうお前は吠えることしか脳のない犬だな。雑魚だなんだとキャンキャンうるせぇんだよ。」

 

「ゴミをゴミと言って何が悪い!」

 

「いい加減にしろベート!」

 

ベルとベートが立ち上がり、お互いに近づいて睨みを効かせていたところでリヴェリアの一喝が入る。

 

「そもそもミノタウロスを取り逃がしたのは我々の責任だ。それも助けた冒険者を笑い話にして酒の肴にするとは、恥を知れ!」

 

リヴェリアの怒張の篭った言葉はベートだけではなく、ベルを笑ったロキファミリアの面子にも突き刺さり、店は一瞬にして静まり返る。

 

「済まなかったクラネル君。ベートの事は私から謝罪しよう。今回はそれで許して貰えないだろうか?」

 

「なっ!リヴェリア!こんな雑魚に頭を下げるな!」

 

「あんたは黙ってなさい!誰のせいでこうなったと思ってんの!」

 

リヴェリアは椅子に座ったままだが、ベルの方を向くと頭を下げた。その姿に周りの冒険者達が静かに騒ぎ出す。

ハイエルフの王族且つ一握りのlv6冒険者である彼女の頭はそう易々と下がるものではない。喧嘩など日常茶飯事な冒険者ならばあのまま何も言わずに暴れさせても良かっただろうに、それを放って置かないのが彼女の性格なのだろうか。それとも、ベルを傷つけたくない理由でもあるのだろうか。

 

「別に僕は怒っている訳じゃありませんよ。あなた方ロキファミリアが自らの不手際を棚にあげて他人を笑い者にするような集団だとしても命の恩人です。失礼をするつもりはありませんよ。」

 

「今さまに失礼してるんとちゃうか?ヘスティアんとこのガキ。」

 

カウンター席からロキがグラスを口につけながらベルに少々睨みをきかせる。神に目をつけられたとなれば普通は萎縮するものだが、ベルは鼻で笑って返した。

 

「ハッ、まさか。私はロキファミリアじゃなくてそこの狼人個人を笑ったんですよ。」

 

ベルは心底失望したような冷えた瞳でベートを見つける。

 

「あんたは人の事を雑魚だのなんだと力が全てみたいなスタンスでいるくせして剣姫に告白したとき僕を引き合いに出しただろ?いくら酒に酔っているとはいえあんたは自分より弱いと思っている存在を馬鹿にしなくちゃ自分の想いも伝えられない。本当の雑魚はあんたじゃないのか?」

 

ベルの発言に酒場の空気が凍った。

 

ベート・ローガは強者だ。彼が強者となり得たのはロキファミリアの3支柱の一人であるドワーフ ガレス・ランドロック の血へどを吐くような訓練に耐え、何度でも立ち上がったからだ。強くなる為に命令を無視してボロボロの体でダンジョンに潜ったこともある。自分には不相応なモンスターに闘いを挑んだこともある。彼の強者足る所以はそれ相応の経験と精神に基づくものだ。

だからベートは弱者を嫌う。形だけの度胸のない冒険者を。這い上がる覚悟もない冒険者を。覚悟のないものが戦場(ここ)にくるな、と。

そんな彼がベル(弱者)に雑魚と言われたのだ。

 

目の前の身の程知らずにしっかりと自分が強者であると教えてやる必要がある。

 

もはやベートを止められる者は誰もいないだろう。

 

「・・・おい雑魚。表でろ。」

 

「口じゃ敵わないから拳で、か?いいぜ。付き合ってやるよ。」

 

そういうとベルは一旦カウンターへ戻り、先に勘定を済ませる。

 

「ミア母さん、先にお勘定お願いします。」

 

「4200ヴァリスだよ。それと悪いことは言わない。謝っときな。相手はlv5の冒険者だよ。」

 

「あら、そうだったんですか?まあいいや、それならそれで。どこまで通用するか試すだけです。」

 

ベルとベートが店内から出ていく。それを見送った客の大半が見物が出来たと言わんばかりに店から出ていく。皆ミアに「食い逃げしたら承知しないからね!」と釘を刺されていたが。ベルのことが心配なのか、シルも外へと飛び出す。

 

冒険者達が出ていき、寂しくなる店内。アマゾネスのティオナが警告するように声を低くして口を開く。

 

「いいの団長?あのままにしたら相手の子死んじゃうよ?」

 

「ベートだってそこら辺は弁えているだろうさ。それより彼がアイズが助けた冒険者だったか。報告で聞いていたより随分血気盛んな性格じゃないか。」

 

「酒は人を変えるっちゅうことやな。」

 

「でも言ってる場合じゃないね。ティオナ、ティオナ様子を見に行ってくれないか?」

 

「分かりました団長。いざってときは、」

 

「力ずくで止めればいいのね!」

 

よく分かっているじゃないかと言わんばかりにフッ、と笑うフィン。するとアイズが立ち上がり「私も行く。」と一言言うと、ずんずんと先に外へと歩く。

 

「待ってよアイズ!」

 

「あ、アイズさんが行くなら私も!」

 

アイズを追ってティオナ、ティオネ、レフィーヤが出ていく。その姿を見送るフィン。だがその表情は芳しくない。リヴェリアも似たような表情をしている。

 

「どうしたんじゃ2人ともそんな顔しおって。あの程度のトラブル、昔はよくあったじゃろ。」

 

「いや、そうじゃないんだ。どうも悪い予感がしてね。」

 

「私もだ。あの少年からは口では説明出来ないが何か特別なものを感じる。」

 

リヴェリアはベルを治療していたときのことを思い出していた。部屋へと運び、ポーションと魔法で治療を始めた際に彼の右腕と背中が鈍くエメラルド色に光り、魔法が無効化(レジスト)されかけたのを。最も無効化(レジスト)されたのは、たった一瞬だったのでリヴェリア自身気のせいだろうと報告はしなかったが。

リヴェリアは考える。

もしあの無効化(レジスト)がスキルからくるものであれば、彼はレアスキル保有者ということになる。

だがあのときのエメラルド色の光はどう説明する?あれもレアスキル?だが一人で、しかもlv1の冒険者が2つもレアスキルを持っているとは考えられない。

 

「何やリヴェリアもフィンも、そんな渋い顔して。大丈夫やって。ベートだってダンジョン遠征で疲れとる。後で変に面倒くさいことにはならへんやろ。」

 

ドチビと会ったときのいじりネタが出来てわいはおもろいけどなー、と続けるロキ。

 

それですめばいいのだが。そう思うフィンの危険を知らせる親指は微かに震えていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

豊穣の女主人の前には多くの人がたむろしていた。冒険者だけではなく、通りかかった一般ピープルもなんだなんだと群れに突っ込む。

「いいぞー凶狼(ヴァナルガンド)!!ガキをなぶっちまえ!」

「坊主!お前が一発でも入れれば大勝なんだ!頼むぜ!」

どうやらベルがベートに一発でも攻撃を決めるかどうか、賭け事をしているようだ。

様々なヤジが飛び交う中、その中心にベルとベートが約8m程離れて立っている。

 

「覚悟はいいか身の程知らず。俺を雑魚呼ばわりしたことを後悔させてやる!」

 

「ギャンギャンうるせぇって言っただろ。折角あんた好みのやり方に付き合ってやるんだ。能書き垂れてないでさっさとかかってこい。」

 

「lv1の分際でぇぇぇ!!!」

 

売り言葉に買い言葉。

ベートは一瞬にして距離を縮め、その推進力を利用して左フックをくり出す。彼の主装備のメタルブーツで攻撃してこなかったのは手加減か、酔っているとはいえそれくらいの理性は残っているからか。

普通であれば当たり、一撃でつくはずの決着。決して越えられないレベル差。

しかしベートの拳は、ベルの左腕によって防がれ、しかもベルは吹っ飛ぶことはおろか、地面をめくらせつつも足をしっかりと地面とつけて踏ん張っている。

 

「なっ!」

 

ベートは驚愕する。いくら無意識下で手加減していたとはいえ、自分の一撃は確実にlv1冒険者など簡単に装備ごとほふるものだ。それをベルは腕一本で防いだのだ。

 

一体なぜ!?どんな手品を使いやがった!!

 

混乱するベ―トをよそにベルの空いている右手でストレートを繰り出す。しかしそこは第一級冒険者。即座に対応し、バックステップで避ける。よく見るとベルの右腕と背中が鈍く光っている事に気付くベ―ト。恐らくあれが自分の攻撃に耐えた手品の種なのだろうと推測する。しかしどんな効果があるのか?しばらくは様子見に徹するか。

 

「おいテメェ、どんな手品を使いやがった?」

 

「・・・何のことだよ?」

 

「しらばっくれんな。4レベル分の差の拳を受けて平気でいられるわけねぇだろ。その右腕と背中が手品のタネか?」

 

「もしそうだとしてどうすんだ?怖気づいたか?告白がクッソ下手くそなチキン野郎。」

 

「・・・決めた。テメェはぶち殺す。精々命乞いするんだなぁ!!!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ねぇあれヤバくない?そろそろ止めるべきかな?」

 

攻防を見ていたティオナは驚愕と心配の入り混じった表情で横にいるティオネとアイズに話しかける。

 

「まだ大丈夫でしょ。それに相手の冒険者もまだやる気みたいだし。」

 

「あの光る腕、気になるね。レアスキルかな?」

 

ティオネは腕を組み、見定めるように勝負を監視する。アイズはアイズで強くなるための資料集めと言わんばかりに白髪の少年の右腕と背中を真剣に見つめる。

 

「アイズはぶれないねー。でも本当に何だろうね?体が光るスキルなんて聞いたことがない。魔法かな?ってレフィーヤ?どしたの?」

 

ティオナの声にティオネとアイズがレフィーヤを見る。少年を見てブツブツと何やら呟いている。アイズが肩を叩くと「うひゃあ!」とすっとんきょんな声をあげて顔を上げた。

 

「大丈夫?」

 

「あ、アイズさん!?はい!大丈夫です!?」

 

「どうかしたレフィーヤ?何だか考えてたみたいだけれど。あの子について何か分かった?」

 

「え、ええ、まぁ。上手くは言えませんけど・・・。あの子のあれ、多分魔法なんですけど魔法じゃないです。」

 

レフィーヤの含んだ言い方に3人は耳を傾ける。

 

「どういうこと?」

 

「私もよく説明出来ないんですけど、あの子のは私たちの魔法と比べてもっと繊細っていうか小さいっていうか・・・」

 

「あーも!分からないよ!分かるように説明して!」

 

「ティオナ、落ち着いて。レフィーヤ、ゆっくりでいいから。」

 

ティオナが我慢の限界、というよりも頭が沸騰しそうになっているようだ。そんなティオナをアイズが抑え、レフィーヤを促す。

 

「は、はい。感じる魔力の波が違うんです。いつもより工夫している感じ。」

 

「うーん。それでもよく分からないわね。大体私達はその魔力の波ってのを感じないし。アイズは?」

 

「・・・何となく分かるかな。レフィーヤみたいに波は感じないけど。」

 

「本当ですか!アイズさんと一緒ですね!」

 

喜ぶレフィーヤを見て小さく微笑むアイズ。

だがレフィーヤは同時に魔法使いとして、一抹の興味を抱かずにはいられなかった。少年から感じられる魔力は自分が経験してきた魔力とは明らかに違った。エルフのレフィーヤやハイエルフのリヴェリアが先天的に会得、血族から伝授されてきた先天的な魔法とも、冒険者となってから覚える後天的な魔法とも違う。ならば少年の使用したのは何なのか。どちらにも属さないとなると自分達の知らない第3の魔法になるのか。

結論を決めるには早計だが、その可能性は高いだろう。何せ大きなレベル差を補うだけの術があの右腕と背中には詰め込まれているのであろうから。

レフィーヤはアイズと同じように少年の動きに集中する。腕、足、胴、口そのすべてを捉えんとして。もはや危なくなったら止めに入るという役割など頭にはなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ベルとベートの攻防が再開した。

ベートは先程と同じように瞬発力を駆使してフックをくり出す。それを見通していたベルだが、予測可能回避不可能であると割りきり、先程と同じく防御に徹する。

 

Hervir el stand,mi sangre(沸き立て、我が血潮)

Peso, endureciéndose(重量、硬化)

 

魔術回路が再び鈍く光り、ベルの体を強化させる。その耐久は第2級冒険者の防具に迫る。しかしベートはlv5 の第1級冒険者。加えて彼は肉弾戦を好む。さらに狼人の持つ鋭い爪が確実にベルの体を傷つけていく。

打撃による打撲、爪による擦過傷。腕を振り抜くだけで摩擦熱が起きそうな程のラッシュ。ベルの体力は削られていく。

観戦していた者達ももはやいいようになぶられるベルを見物にしているのみだ。

しかしベルの目から闘志は消えていない。足をしっかりと地につけ立ち、頭部を守るように両腕を構えている。

 

「おいおいどうした!守っているだけじゃつまらねぇぞ!」

 

ベルの腹部に重い一撃がきた。続けて二撃、三撃。ベートのフックが鳩尾に入った。

 

「ーーーーーガバッ!!」

 

いくら強化しているとはいえ、人である以上格上相手に急所を殴られては耐えられるものではない。ベルは思わず膝をついて胃液を吐き出す。

 

「あーあぁ、あれだけたんか切っておいてその程度かよ。みっともねぇなぁおい。」

 

崩れるベルを見てベートが吐き捨てた。

ベルはまだ吐きそうな不快感をなんとか抑え、顔をあげてベートを見上げる。

その表情はいつも通りの弱者を嫌う、酒場で自分を雑魚と罵ったときと同じだった。

 

ーーーふざけるなよ。

 

ベートが背を向けて去っていく。彼の先にはロキファミリアのメンバーが何人かいた。

 

ーーーーーまだ戦える。戦わなくちゃならない。

 

シルが人をかき分けてベルの側へと駆けつける。しかしベルに彼女の声は届かない。

 

ーーーーーーーベル・クラネルは強くなくちゃいけない。勇気を紡ぐために。捨てた思いに報いるために

 

まだ強化されている肢体。気合いをいれるために右腕で胸を思いきり叩くと、太鼓のように音が響き、ベート達も振り向く。

 

ーーーーーーーまずは僕を雑魚と呼んだお前を

 

ベルはしっかりと二本の足で立ち上がる。その目にベートだけを捉えて。

 

ーーーーーーー認めさせる!!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方ベルを見ていたロキファミリアのメンバーは驚愕していた。

冒険者とは元来危険に挑む職業であるが、必ずしも全ての者が絶対的に敵わない相手にも物怖じせずに向かっていく訳ではない。

それもそうかもしれない。命がかかっているとなればそれ相応の準備をし、無理をせずに帰ってくるものなのだろう。敵わない相手からは大人しく逃げることが利口である。

しかしそれでは成長は出来ない。どんなに惨めだろうと、泥まみれだろうと、歯を食いしばって立ち上がって来たものにこそ恩恵はlvやステイタスの上昇などを授けるものだ。例に漏れず、今ベルの姿を目に写しているベート、ティオネ、ティオナ、アイズ、レフィーヤもそれを体験している。

だからこそ、5人は直感的にベルを見て理解することが出来た。

 

こいつは必ず自分達に追い付く

 

ベルのアイズへの「横取り発言」を思い出したティオナは確信する。この子は強い。ミノタウロスを狩ろうとしたのも頷ける、と。

ベルの視線がベートだけに注がれているのに気がついたティオネはベートに話しかける。

 

「ご指名みたいね。あの子まだやるつもりよ?どうするの?」

 

「・・・・それ相応に迎えるまでだ。」

 

さっきまでの見下す態度から一転、ベートは獲物を狩る目をしていた。そう、ベルを一人の敵として認めたのだ。

数歩進み、頭から血を流し、そこらじゅう傷だらけのベルとの距離がある程度になるとベートは立ち止まる。

 

「おいテメエ。名前は?」

 

「・・・ベル。ベル・クラネル。」

 

「そうか。俺はベート・ローガだ。覚えておけ。」

 

あの凶狼(ヴァナルガンド)が自分から名乗ったぞ!

 

観戦していた冒険者や一般ピープルはどよめくが、一部の腕の立つ者や観戦していたロキファミリア勢から言わせればそれは当たり前の流れ。

 

ベートは一瞬でベルの左に移動し、右足を大きく振り回し、彼の主装備たるアイアンブーツをベルに振りかざさんとする。

 

(この時を待っていた!)

 

回し蹴りのような隙の大きい攻撃は一瞬ではあるが相手を視界に捉えられない時間がある。ベルはベ―トのアイアンブーツを見てから大技は踵落しか回り蹴りか目星をつけていた。どちらも予備動作に時間を要する技だ。

そのうちの一つが今自分にかけられんとしている。この好機を逃がす手はない!

 

時間自制御(タイムアルター) 二倍速(ダブルアクセル)!!」

 

瞬間、ベルの周りの世界は遅れる。

すぐさまベ―トの懐に潜りこむとまずはお返しとばかりに左腕でボディに突き刺すようにフック。ベ―トは予想外のベルの動きに対応できず、もろに鳩尾に拳を食らい、苦悶する表情となる。そのまま右ストレートを決めようとするが時間自制御(タイムアルター)お決まりの世界の修正による体へのフィードバックを受け、心臓へのダメージで意識を失いかけるベル。

ベ―トはその隙を見逃さず今度は左足で回し蹴りをし、ベルを高く空中へと浮かせる。

幸か不幸か、ベ―トの蹴りのおかげで意識を引き戻されたベルは自分が今空中にいて、下にはベ―トが体勢を低くして構えているのが分かった。

 

「認めてやるよベル・クラネル。お前は雑魚じゃねえ。引導を渡してやる。」

 

そういうとベ―トの周囲には彼の脚を中心に炎が渦巻く。気高く、力を求め、諦めを知らない魔力の炎。その炎はベルを飲み込まんと意志を持ってベルを睨み付ける。

 

「その程度の炎じゃ僕の信念は燃やせない。」

 

Hervir el stand,mi sangre(沸き立て、我が血潮)

Encuentro mágico , preparación de liberación(魔力集結、解放準備)

 

ベルは右腕を後ろに引き、左腕を伸ばして自身の下にいるベ―トに狙いを定める。右腕に自信に流れる魔力の全てを集結させ、魔術回路もフル稼働である。バチバチと筋組織の神経に漏電し、針を通したような痛みを感じるが、そんなものはこの一騎打ちにおいてはまったくの問題ではない。無視してさらに魔力を流す。

 

 

落下するベルめがけてベ―トが炎を従わせて跳ぶ。

地面を蹴った瞬発力に任せて右足を突き出し、ベルを蹴り穿つつもりだ。

一方ベルは最も自身の拳が最大威力で当たる距離まで来るようにベ―トを迎え撃つ。

2人の距離が4m、2mと近づいていく。そして残り一メートル、お互いに勝負を決めんと気合の入った声が響く。

 

「ハティ!!!!」

lanzamiento(解放)!!!!」

 

瞬間、ベルの腕は魔力解放による加速度の上昇を得た右ストレートを、ベ―トは炎を纏わせたアイアンブーツによる加速の増した蹴りを互いにぶつけ合う。

響く衝撃波、伝わる炎の熱、肌をピリピリと刺す魔力の波。

二人の力のぶつけ合いは一瞬では終わらない。魔力、精神力の続く限り、その一撃で互いをつぶさんとしている。

 

「オラアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!」

「バンカアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

響く雄たけび。男の意地。冒険者としての矜持。一歩も譲らぬ信念。

 

衝撃波、炎の熱、魔力の波を次第に強くなり、周囲の建物に被害を出しそうになったところでティオナとティオネが止めに入ろうとするが、突如全てが止み、ベルとベ―トの攻防が爆発で終わる。

 

 

立ちこむ煙。誰もが煙を払って結果を待ち望む。

 

 

 

 

そして煙が晴れ、立っていたのは目立った外傷の無い銀髪の狼人、lv5冒険者、凶狼ベ―トローガ。

その横で、うずくまるように傷だらけのlv1冒険者ベル・クラネルが特に右腕を、皮が剥がれ血まみれの状態で倒れていた。




Q.魔術って秘匿すべきものじゃないの?

A.ベル君酔ってたし使ったの身体強化だけだしギリOKかな?って(汗)

Q.色んな人に見られたら神秘性が下がって威力とか効果下がるんじゃ?

A.神様が横歩いている世界だがら神秘性についてはノーコメントで。
  メンゴ!よく考えてない!

次回
またベル君はロキファミリアでお世話になるよ!

因みにヘスティアはヘファイストスにナイフ造って!って頼んでるとこです。主神が頭下げてる時に喧嘩やらかすベル君。ほんと畜生ですわ


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そして少年は窮地に立たされる

話進まねぇ・・・!

どうしよっかなフフフのフーン♪


「終わったみたいだね。」

 

立つベートと倒れるベルを見てアイズが言った。lv1とlv5の攻防、この結末は分かりきっていたことだが、そこに至るまでの過程があまりにも予想外の連続だった。

lv5の拳を受け止めたlv1冒険者、駆け出しとは思えない程の不屈の根性、周囲を物理的にも精神的にも震撼させる炎、魔力、爆風。ベルのレベル偽装を疑う程の、いや、そう言わないと説明がつかない戦闘の余波。

 

ベ―トが観戦していたロキファミリア面子のところへ向かう。周囲ではベルが一発入れたことにより賭けに勝った少数の冒険者が負けた者から金を巻き上げているところだ。

 

「お疲れ様ベ―ト。随分白熱してたじゃない?」

 

「うるせぇ。」

 

「あの子、あのままにしていいの?」

 

ベ―トに言ったティオネはベルに視線を向ける。

ただ殴られて伸びているだけならば街角の喧嘩として放置安定なのだが、いかんせん最後の最後に魔法まで使った喧嘩の一言では済まないものとなっており、実際ベ―トのアイアンブーツと討ち合ったベルの右腕は皮は剥がれ、血まみれの状態である。ファミリア間の問題を荒事で片づける戦争遊戯(ウォーゲーム)と誤解されてもおかしくはないだろう。ほおっておくわけにもいかない。のだが・・・

 

「さぁな。知るか。」

 

ベートはベルを決して振り返って見ようとも、まして助けようとも思っていない。確かにベートは自らに向かってくるベルの姿にベルが形だけの冒険者ではなく、困難に立ち向かう真の冒険者であることは認めた。しかし勝負については話は別だ。

勝者が敗者を気遣っては敗者に対して失礼にあたる。まして自分が認めた相手なら尚更。

(ベート・ローガ)がすべきはこいつ(ベル・クラネル)が這い上がって来るのを待ち、再び立ち合うことだ、と。

だからベートは今日はこれ以上ベルに干渉しないと誓っていた。

 

「そういう訳にも行かないよ、ベート。彼重症じゃないか。」

 

フィンの声に目を向けるとフィン、リヴェリア、ガレス、ロキなどの観戦せずに豊穣の女主人で飲んでいたメンバーがいた。

ベートはフィンの発言を訝しげに受け取りつつ、舌打ちをすると「勝手にしろ」と言い、一人ダンジョンの方角へと消えていった。

 

「あてられたみたいやね。ありぁ帰ってくんの朝どころか次の日にもなりかねんなぁ。」

 

「いいではないか。若いうちは血気盛んなのが一番じゃて。」

 

「そうは言ってもこれはやり過ぎだがな。」

 

リヴェリアがガレスをたしなめるように言う。言ってる間にもベルの血だまりはどんどん広がっている。レフィーヤとリヴェリアが止血をし、魔法による治療が施そうとするが、ベルの背中と右腕がエメラルド色に光り、無効化(レジスト)されてしまった。リヴェリア以外のロキファミリア団員達はその光景を見て驚愕する。

何しろ魔法を無効化(レジスト)するためには通常同等以上の魔法でかき消すものである。そのため、無効化(レジスト)は攻撃系魔法にのみ可能なものとされ、まして回復魔法を無効にするなど、その様なデメリットな魔法、もしくはスキルなど聞いたことがない。

 

「やはりな。」

 

「やはりって、気付いていたんですか?リヴェリア様」

 

「いや、気のせいかと思っていたのだが、全員で見たとなれば話は別だな。」

 

「それじゃあこの子は本当に魔法の無効化(レジスト)を・・・ってひゃあぁぁ!?何これ!?」

 

「どうしたレフィーヤ!?」

 

レフィーヤの突然の悲鳴に全員が身構える。

よくみるとベルのジャケットの内ポケットからキラキラと光る液体がスライムのようにウネウネと出てきており、そのままベルの血だらけの右腕を包み込むような形をとると、少しずつではあるが治癒が開始された。

 

「何やこれ?何かのマジックアイテムか?」

 

「生憎僕の記憶にはないな。こんなスライムみたいな代物は。」

 

フィンはガレス、ティオネ、ティオナ、アイズに心当たりがあるか聞くが、そんなものはないと言われた。皆スライムのようなマジックアイテムなど見たことも聞いたこともないらしい。だがレフィーヤとリヴェリアだけは難しい顔をして考えに耽っている。

 

「どうかしたのかい?リヴェリア、レフィーヤ。」

 

「・・・いや、憶測の域を出ないからまだ何とも言えないが・・・」

 

「えっと私も、詳しくは説明出来ないんですけど・・・」

 

「レフィーヤ、それってさっき言ってたこと?」

 

「はい。恐らくは・・・」

 

リヴェリアとレフィーヤがお互いに自分の考察を論争しあっている。魔法使い、エルフどうしの専門用語などもあり、周りにとっては少々理解しにくい会話であったため誰も会話には入りこめなかった。

 

「・・・まぁええ。とにかく今はこのガキの治療が優先や。はよぉ黄昏の館(ホーム)まで運ぶで。リヴェリア、レフィーヤ、ガキの話は後でゆっくり聞く。それまでに考えまとめとき。」

 

ロキは久しぶりに主神たる威厳を見せると、それに呼応してフィンが的確に指示を出してベルを搬送する準備を整えていく。流石は巨人殺しのファミリア、さっきまで酒を飲んでいた輩共とは思えない程統率のとれた動きである。

 

「ところでロキ、なんで彼を助けようと思った?いつもの悪神たる君ならファミリアに喧嘩を売った相手を助けるとは思えないが?」

 

「理由は3つ。

 ひとつはあのガキはヘスティアのガキや。次会ったときに弄れる。

 二つ目はあのガキの魔法ともスキルともとれん能力の正体。神の力(アルカナム)をつこうてるかもしれへんからな。

 3つ目は、後片付けせぇへんと二度と店に入れへんってミア母さんに釘刺されたからや。」

 

「成る程、最後に関しては死活問題だね。」

 

ロキファミリア程の大人数を受け入れ、しかも早く旨い料理を用意してくれる店はそうそうない。というか豊穣の女主人以外絶対にないと言っても過言ではない。冒険者という危険家業である以上、ある意味遠征帰りの飲み会のために生きていると考えているものも少ないし、それに救われている者もいる。ようやく行き着いた常連の店に入れなくなるのは団員のモチベーション的になるべく避けたいものである。

 

「それにしても、なぜミアが一人の冒険者のためにそんなことを言ったのか?酒場の喧嘩位日常茶飯事じゃろうに。」

 

「・・・ガレス、ミア母さんのとこで喧嘩騒動起こしたら二度と店に入れてもらえへんのは常識や。用心せぇよ、っちゅうことやろ。」

 

「 まったくあの馬鹿力はそういうとこだけは変わらんから困ったものだ。」

 

「ミア母さんにそんな口を利けるのは君くらいだよ、ガレス。」

 

ドワーフ同士として昔馴染みであるガレスとミアであるが、冒険者であった頃のミアと今も酒場の主として調子に乗った冒険者達にお灸を据えているミアの姿を知っているフィンにとっては、ガレスの発言は命知らずもいいところだ。フィンは素直にミアに物怖じしないガレスを感心しながら黄昏の館(ホーム)へと急いだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

・・・夢を見ている

 

とても過酷で、それ以上の悲しみ、苦しみ、それを覆しえるかもしれないし、そうじゃないかもしれない喜び。

 

命を酷使する12の試練

 

橋に自らの死に体をくくりつけ、死ぬまで闘う槍使い

 

恋する相手を救えず、その手にかけた山の翁

 

自らの信念に殺された正義の味方を志した世界の奴隷

 

本来傍観者として見ている話が突如、自分に降りかかる。

いま挙げた4つ以外にも様々な「英雄」と称される者達の体験が自分に降りかかる。

 

それはとても、ただの一人の人間である自分の身にはあまりにも重く、受け入れることなぞ出来はしない。

しかし目をとじることも、耳を紡ぐことも、音をあげることも許されず、許容出来ないものを無理矢理詰め込まれる。

風速100mを越える鋼の風。打ち付けられ、すぐに塵とかすであろう身体。

このままでは自分は存在ごとこの世から消されてしまう不安に、声もあげられないのに絶叫をあげようと体が言うことを聞かなくなるが

 

『あーあ、まただめだったねクラネル君。自分の起源に呑まれてどうするんだい?』

 

風の向こう側から憎たらしい声の主が手を伸ばし、風をものともせずに、いや、風など吹いていないと言わんばかりに何ともない自然な動きで自分は風から救い出された。

 

ーーーーあぁ、また助けられた。また乗り越えられなかった。"自分自身"すら克服できないなんて

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・2日続けて最悪な夢だ。」

 

ベルは思わず口に出す。あのクソ師匠(変人)よりも嫌いな夢。いまだ克服出来ていないベル・クラネル(自分自身)

 

「へぇ、どんな夢やったか詳しく聞かせてくれるか?」

 

声に顔を向けると豊穣の女主人で声をかけてきた神がそこにいた。ということは、

 

「ロキ様?」

 

「へぇ。自己紹介もしてへんのにワイの名前知ってるんちゅうわなかなか殊勝なやつやな。」

 

ロキは細い目を更に細めて笑った。ロキの後ろには酒場にいたベート以外の主要メンバーが勢揃いでいる。ベルは自分がベットの上にいることを認識すると少しずつ自分の酒場での発言やベートと起こした喧嘩を思い出し、顔を青くさせる。

 

「うわぁぁぁぁ!?あ、あの!?リヴェリア様やロキファミリアの方々への失礼な発言、酔っていたとはいえ、誠に申し訳ありませんでした!!!」

 

ベルはバッ!と勢いよく飛び起きると、ベットの上で綺麗に正座を決め、部屋にいる全員に土下座をきめる。一連の動きと流れ、感服する程美しい土下座だ。

 

「いや、気にしなくていいよ。うちのファミリアにとってもいい刺激になった。それに君もいい経験になっただろ?酒は人を狂わせる。」

 

そういうフィンにベルは平謝りを続ける。周りは苦笑いしつつもベルの謝罪を受け入れる。折角なのでと一人一人自己紹介をベルに済ませるロキファミリア。特にティオナとアイズは興味津々と言わんばかりにベルの顔を覗きこみ、

ベルは一瞬で顔を真っ赤にさせながらあたふたする。

 

「あの!?ち、近いですヴァレンシュタインさん、ティオナさん!?」

 

「アイズでいい。」

 

「ええっ!?」

 

「アハハッ!コロコロ表情変わって本当にかわいいね、不思議魔法使い君!」

 

「!?」

 

「君がベートさんと闘ったときに使ってたあれは何?」

 

ティオナとアイズの発言にベルは思わず腰を浮かせた。だが周囲には一級冒険者が6人、二級冒険者が1人。逃げられる訳がない。

警戒したベルにガレス、フィン、ロキは含み笑いを浮かべる。ベルはまさに悪神だな、と舌打ちをしたくなる。ティオナ、ティオネ、アイズは興味津々という視線で見つめてくる。しかしリヴェリアとレフィーヤだけは不信感を露にしている。

 

(確かあの二人の二つ名は九魔姫(ナイン・ヘル)千の妖精(サウザンド・エルフ)とか言ったっけ。)

 

明らかに魔法使いに贈られる二つ名だ。ベルに嫌な予感が走る。

 

「クラネル君、君がベートとやりあった後、君の身体はボロボロだったよ。特に右腕は酷かった。指は折れ、皮は剥がれ血まみれだった。そこで私はレフィーヤと治癒魔法を施そうとしたが無効化(レジスト)されてしまった。」

 

「それだけじゃない。あなたの胸ポケットから液体がてできてあなたの右腕を包んで治療を始めた。それがこの液体。」

 

レフィーヤは自分の手にある封のされた試験管をベルに見せる。

魔術回路には保有者が気絶したり命の危機に陥った際、緊急的ではあるが蘇生を行う機能がある。ベルの持っていた水月霊液(アグミス・ローグラム)は魔術礼装の分類としては使用者の魔術を使用して活動させるものでもあり、魔力タンクとしても使えるものである。恐らく魔術回路に反応して近くにあったベルお手製の月霊随液(ヴォールメン・ハイドログラム)の亜種、水月霊液(アグミス・ローグラム)、通称アクアちゃんを使用したのだろうと予想する。問題はその治療を他の冒険者に見られ、あまつさえ水月霊液(アグミス・ローグラム)がその冒険者の手の中にあるということ。

 

「そんな警戒せんでも後でちゃんと返したるわ。その代わり質問に答えてもらうけどな。」

 

「・・・何ですか?」

 

「あんたの摩訶不思議な力についてや。あぁ、探るのはルール違反なんて言うなや?こっちは2回も命助けてるんやからな。ヘスティアファミリアのベル・クラネル?」




リヴェリアとレフィーヤは一度は魔法無効化されましたが続けて魔法とハイポのコンビでキチンと治療してます。

無効化するのは一度目だけ。魔術回路のファイアウォールで防御しますが、それが身体に害を及ぼすものじゃなきゃ2度目は通してあげる仕様だと思ってください。


あとベル君が見た夢はいずれ英雄願望と関係を持つと思います。詳しい設定は書きつつ考えます。


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そして少年は開示してしまう

最後の方ちょいさぼりました。

ロキファミリアのベルに対する対応がちょいガバガバな気がしないでもない・・・

12/18 最後の方少し変えました


ロキファミリアホーム 黄昏の館の一室にて

 

ヘスティアファミリアの駆け出し冒険者、ベル・クラネルはロキファミリアの主要メンバーと主人ロキに包囲されていた。

ベルのレベル差を覆す手品の種を暴いてやろうと意気込むロキ。本来、冒険者間で互いの能力を探り合うのはタブーだが、ロキはあくまで神。下界で慎ましやかに過ごす人間を愛してはいるが同時に面白おかしく引っ掻き回したいとも思っている娯楽の亡者。気になるんだったらファミリアの団員が獲物の横取りしたことやボコボコにしたことなど一旦おいて悪神らしく吐くまで粘る(神相手だったら殴って吐かせる)。

一方周囲のロキファミリアメンバーはロキを止めることはなく、含み笑いだったり興味津々だったり不信感露だったりしてベルの返答を待つ。

本来団員がロキのような行為をしたら止めるのだが、

 

『我らが主神様が申されているのであれば何も言うまい。私達も聞きたいし。』

 

皆が一級ファミリア特有の団結力で口にせずとも思いを読みとっている。まったく困ったものである。

 

結果として悪神と一級冒険者達が駆け出し冒険者を取り囲む図の完成である。

 

まさに四面楚歌。弱いもの苛め。

 

圧迫面接のはじまりはじまり

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・なぜあなた方に言わなくてはならないんですか?」

 

ベルは取り敢えず逃げの一手。

この状況では遅かれ早かれ魔術について多かれ少なかれ吐かなければならないだろう。しかしだからと言って抵抗しない理屈にはならない。出来るだけ時間を引き延ばしてはかざるを得ない情報量も少なく済ませなければ。何よりこの悪神の物の言い様は酷く気に食わない。

ベルは軽く睨みを聞かせてロキを威嚇する。

 

「おぉ怖!まぁそんな構えんで楽にし。それにあんたのその力、神達(あたしら)の間でのルール破ってるかもしれへんしな。」

 

ロキはずん、とベルに顔を近づけると細い目を少々開いてベルを見つめる。突然近づいたロキにベルは混乱しそうになるがロキの目に言い様のない不快と安心を感じた。

全てを見透かされている様な、否、見透かしている瞳。下界の者(子供達)の嘘を見抜く()の顕現。

隠し事が出来ないからこそ、本当の事を常に言わざるを得ない。だからこそありのままをさらけ出せる安心感、開放感。

目を離そうと思うが、心とは別に目はロキを見つめて離そうとしない。

 

(まずい!このままじゃロキに呑まれる!しっかりしろベル・クラネル!視線程度で思考を止めるな!)

 

「ベル・クラネル。ヘスティアはあんたに神の力(アルカナム)使ったたんとちゃうやろな?」

 

「違う!!!!」

 

「!?いひゃあ!?」

 

質問に突然大声で答えたベルにロキは一瞬驚くが問題はそのあとだった。

ベルは止まりかけた頭で腕を何とか動かして近くにあったロキの体を突き飛ばしたのだ。そして突き飛ばした際に触った部分が胸だったのだ。

いくら絶壁、まな板、RJ、中身はエロオヤジ、暇潰しで戦争起こすキチガイたるロキと言っても一応女性。自分の大事な部分を、しかも男に触られてはたまったものじゃない。

 

「な、何すんねん!人の事突き飛ばしてその上胸触るなんて!自分、どうなるか分かってるやろな!?」

 

「うぅぅうるさいです!顔が近いんですよ顔が!それに胸って!男のくせに胸触られたくらいでどうこう言わないで下さい!」

 

瞬間、ロキの顔が凍った。

周囲のロキファミリアメンバーは「あ~あ、言っちゃった」と言わんばかりにベルを憐れみの目で見ている。その目の理由は分からんが放置していたあなた方がする目じゃないだろ!とロキファミリアメンバーを睨むベル。

するとゾワリ!と背後から強烈な寒気を感じた。恐る恐る振り返るとそこには幽鬼のように佇むロキの姿が。うわ言のようにブツブツとベルに何かを呟いていた。ベルの全身に鳥肌が走る。

 

「・・・・やない。」

 

「・・・え?え?な、何ですか?」

 

「男やない!!ちゃんとあるわボケェ!!!!」

 

「え?嘘?だって感触なんてこれっぽちも・・・ってうぉ!?物を投げないで下さい!」

 

「うっさいわアホォ!!気にしてることさらっと貶しよってからに!これでもあるんじゃボケェ!死ね!死にさらせぇ!!!」

 

「痛っ!ちょっと落ち着いて下さい!待ってロキ様!椅子はイケナイ!冷静になって!?」

 

「知るかぁあああああ!!!野郎ぶっ殺したるうぅぅぅ!!!」

 

「ちょっとロキ様暴走しすぎ。ティオナ!」

 

「はいはーい!」

 

今まさに怒りに任せて座っていた椅子をベルに振り下ろさんとしているロキをティオナ、ティオネのアマゾネスコンビが取り押さえ、部屋から追い出そうとする。主神に対する扱いがあまりにもぞんざいではないかと目を疑うベルだが、周囲のメンバーは特に変わった様子もなくいつもの光景として処理している。まぁあんな癇癪起こす相手なら当然か、とベルも何となく納得した。

 

「離さんかい二人とも!!あのガキにはSEKKYOが必要なんや!!」

 

「今のロキは何をしでかすか分からないもん。私たちと一緒に別室待機ね。」

 

「黙れド貧乳!!」

 

「・・・屋上行こうか・・・久しぶりにキレちまったよ。」

 

ロキとティオナがお互いに肩を組んで首を絞めあいながら部屋を出ていく。ゴリゴリと骨がこすれるような音が聞こえた気がするがベルはあくまで気のせいだろうと自分に言い聞かせる。女怖い。

 

「争いは同レベルの間でしか起きないって言うけど、まさにその通りね。」

 

ティオネが出ていった二人に続いて呆れた溜息をついてからその後を追う。騒がしさの原因たるロキがいなくなったことで部屋は一時的にではあるが、静寂が訪れた。

 

「さてクラネル君。ロキもいなくなったことだし、ここは冒険者同士水入らずで会話でもどうかな?」

 

「・・・会話って、どうせ話題はロキ様と変わらないんでしょ?」

 

「そう白状すれば君は教えてくれるのかな?」

 

「・・・経緯はどうあれ、治療してもらった恩があります。ある程度はお教えします。」

 

「ある程度か・・・妥当だね。そういうしたたかなところ、冒険者にはある意味最も必要なものだ。よく覚えておくといいよ。」

 

フィンの言葉に流石に抑えきれずにあからさまに舌打ちをした。

 

(主神の暴走を放置して、今も言わせるような空気を作っている奴が言いやがる)

 

外見は兎の様に愛らしく、優しさと心の強さを兼ね備えるベル・クラネルがロキファミリアのおかげで口が悪く、舌打ちしちゃうダークサイドベル・クラネルが誕生しそうな勢いである。

 

「それじゃあまずあなた方の考察を聞かせてもらえますか?僕の何が不思議で、その不思議の正体は一体何なのか。」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

フィンはロキが部屋から退場させたことを失態だと内心唇を噛む思いでいた。

あのままロキを放置させていたら話が進むことは恐らくなかっただろうが、その代わり『神は嘘を見抜ける』というカードをみすみす捨ててしまった。しかしそれは問題ないだろうとフィンは考えていた。

部屋にいる団員は皆一級冒険者だ。いつものメンバーで集まったら結果として駆け出し冒険者の一人と言わず100人単位でも威圧しかねない形で取り囲む形となってしまった。だがこの場においては適切だ。見たことも聞いたこともないスキルとも魔法ともつかない能力を使う者が相手なのだ。やりすぎ位が丁度いい。それにどれだけ何と言おうと駆け出し冒険者。これだけの冒険者に囲まれればゲロってくれると思っていた。しかし返答は

 

『まずあなた方の考察を聞かせてもらえますか?』

 

ここで誰かの考察にイエスと答えればそれですんでしまう。つまりベルはてきとうな情報を自分から用意しなくともロキファミリア側が用意してくれる状況を作ったのだ。

ここにロキがいれば嘘を見抜けたのだが、生憎ロキはティオナと身体的な醜い争い、団栗の背比べの最中である。

まったく我らが主神は情けない、と人知れず溜息をつきたくなるフィンであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ではまず私から。」

 

そう言ってまず名乗りを挙げたのはリヴェリア。

 

「クラネル君の能力を整理すると

 ・魔法の一時的なレジスト

 ・レベルに見合わない並外れた身体能力

 ・能力かどうかは分からないが、スライムのようなアイテムによる治癒

の3つになる。ここまではいいか?」

 

ロキファミリアメンバーは頷くが、ベルはあくまで返さず、表情を固めてリヴェリアの出方を待つ。顔に似合わず可愛いだけではないようだ、とリヴェリアの中でのベルの評価が上がった。

 

「・・・沈黙は同意とさせてもらおう。私の予想は君が魔法の無効化(レジスト)のスキルとアイテム作成のスキルの保有していること、身体強化系の魔法を使える、といったところか。」

 

「リヴェリア、こやつはlv1じゃぞ。スキルは愚か魔法の保有なぞ考えられんわなぁ。」

 

「あくまで予想だ。それにこの子はベートに魔法まで使わせた。そうでも考えないと説明がつかない。」

 

リヴェリアはベルのその表情、眉や目、口元などの動きを注視する。エルフの女王としても一級冒険者としても人の感情を読み取るのが上手かった。もし今言った中に正解があれば何らかの形で表情にでるはずだ。しかしベルにその兆候は見られない。先程と同じ、能面の様に表情を動かさず、話す気など欠片もない様子だ。

 

「私もいいですか?」

 

そう声を発したのはレフィーヤ。ベルの真っ正面に来るように移動するとベルの目を真っ直ぐに見つめ、推理を開始した。

 

「あなたが使っているのは正確には魔法じゃない。そうでしょ?」

 

ベルの瞳が微かに揺れた。レフィーヤはそれを見逃さない。

 

「恐らくエルフのように先天的に教え伝えられてきた魔法の様なものだとは思うけれどあなたは人間(ヒューマン)。たまに勘違いしているエセ魔法は聞くけれどそんなものじゃない。よく言えないけれどもっと理論的で体系化されているもの。もっと別な、恩恵で授けられたものじゃない。私達冒険者が『魔法』としているものの理を外れたもの。違う?」

 

レフィーヤの確信を持った発言。実際にベルの不思議な力を使った戦闘を見たからこそ言える魔法使いの直感。それをあらかじめ聞いていなかったアイズ以外の3人は目を見開き、驚きを隠せない。

一方ベルもほとんど正解に近い答えを出され、感心するとともに観念したかのように溜め息をつくと説明をし始めた。

 

「・・・まぁ大体合っていますよ。」

 

「まさか!じゃあ君のそれはスキルでも魔法でもないという事か?」

 

「待てフィン!もしそうだとしたら、この坊主はどこでそんな力を手に入れた?」

 

「・・・教えてくれるかい?クラネル君。」

 

「・・・僕は師匠に教えてもらいました。冒険者になる前、大体4年前くらいから。」

 

「師匠・・・?君のその力は君だけのものではないという事か。」

 

「ええ。でも師匠以外に使っている人なんて見たことないですし、僕以外に師匠には弟子はいませんでした。」

 

「その師匠がいまどこにいるか分かるかい?」

 

「さぁ、オラリオに到着する少し前に別れたので分かりません。本人も特に行先も告げずにどこかへ行ってしまいましたから。」

 

ベルはしっかりとロキファミリアメンバーを、特に魔術の特異性に気がついたレフィーヤを見据えてはっきりとした口調で話す。

その姿にどうやら嘘ではないようだ、と全員が確信する。

 

「・・・もういいですか?情報も提示しました。そろそろお暇させていただきます。」

 

そう言うとベルはベットから立ち上がり、レフィーヤの目の前に立ち手の平を出す。アクアちゃんの入った試験管を返すように意思表示する。だがレフィーヤはベルに渡そうとはしない。まだその手の中に試験管が握られている。

 

「最後に一つ。あなたのその能力、何て呼ばれているの?」

 

「・・・魔術。師匠はそう呼んでいました。」

 

さっさと返せと言わんばかりに手の平を再度レフィーヤの前で広げるベル。レフィーヤはフィンをみて、頷かれるとアクアちゃんの入った試験管をべるに帰した。

受け取ったベルはもう用はないと言わんばかりに黄昏の館を後にするため部屋から出ていこうとする。

 

「クラネル君!」

 

フィンの大きい声にベルの脚が止まる。

 

「すまなかった。根ほり葉ほり聞くような真似をしてしまって。だが用心しておいたほうがいい。君のその魔術という力も、光る腕と背中もここではあまりにも特異で珍しい。娯楽に飢えた神だけではなく冒険者からも狙われかねない。注意しておいてくれ。いざというときは僕たちも力になろう。」

 

「・・・ご忠告感謝します。」

 

本来ベルは『あんたらが言う様に仕向けたんだろ!』と文句の一つでも言いたかったが、相手は1級ファミリアの中核戦力である。下手な事言って波風立てるより、とりあえず『困ったら頼れ』という言質はとったため、いつか使わせてもらおうと胸にしまっておくことで今は我慢した。

そして今度こそベルは部屋からの脱出がかなった。

ベルはついにロキファミリアによる圧迫面接から逃れることが出来たのだ。少しの情報を犠牲にして。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ヘスティアファミリア根城(ホーム)にて

 

ベルが帰る頃には空はもう夕暮れ色に染まっており、自分がどれだけ黄昏の館で寝ていたのかを自覚した。あんな根ほり葉ほり聞いてくる連中に面倒見てもらったのは不覚であったと反省するベル。

 

今度からは相手ファミリアの事も考えて喧嘩売ろう。

 

・・・そうじゃないでしょ。

 

「ただいま帰りましたー、ってヘスティア様おかえりなさい。帰られてたんですか?」

 

ベルが教会の地下室に入るとソファに座ったヘスティアがいた。足をテーブルの上に置き、何だかやさぐれている感じだ。何かあったのだろうか?

 

「ああ、ついさっきね。友人への頼みごとがあってね、実はその帰りに面白い話を聞いたんだ。」

 

「へぇー。どんな話ですか?」

 

「実はある酒場で喧嘩があったそうなんだ。」

 

「(ビクッ!)へ、ヘェ~。物騒な話ですね~。」

 

・・・ベルの体が跳ね、嫌な予感が走る。

 

「まったくだよ。しかもその喧嘩、駆け出しの冒険者とロキのところの一級冒険者が戦ったらしいんだ。」

 

「(ビクビクッ!!)そ、それはまた命知らずがいたもんですね~。」

 

(いや待て!まだ大丈夫!他の連中が喧嘩起こしたのかも知れないし!)

 

・・・さっきより大きく跳ね、ベルの憐れな現実逃避は加速する。

 

「本当だよね~。そいえばその駆け出し、白い髪に赤い眼をしていたんだって。」

 

「ず、随分特徴的な外見をしているんですね~。」

 

(まだ、まだ行ける!僕の他にもいるだろ多分!髪の白い、目の赤い冒険者なんて!)

 

・・・そうそういるものではない。それに一晩に二度も一級冒険者を相手にした馬鹿野郎が現れる訳がない。

 

「兎みたいだったらしいよ~。それでね、その冒険者、ベル・クラネルって名乗ったそうだよ。」

 

「へ、ヘェ~。ソれはドこのベル・クラネルなンでショーねェ~。」

 

(はい終った!確定!僕しかいないよねそりぁ!)

 

ここで素直に謝ってしまえばいいものを、ベルは自分の背後から発せられるプレッシャーに振り返ることが出来ない。重い。物理的にも精神的にも重い!

ベルは今ヘスティアを見たら多分死ぬ気がした。スイーツ。

 

「完全にベル君しかいないよねぇ?ベ~ルく~ん?なんで僕を見ないんだい?」

 

「そ、ソンナコトナイデスヨヤダナ~ヘスティアサマ~ハッハッハ。」

 

ロキファミリアのプレッシャーなんて目じゃない!あれが可愛く思えてくるレベルだ!

 

 

 

「・・・ベル君、こっち向きなさい。」

 

「イエスマム!!」

 

低い声で発せられた言葉に本能は逆らう事を止め、ベルはすぐさまヘスティアに向き直る。

・・・振り返ったベルが見たものは、髪が逆立ち、怒りをあらわにせず、微笑を浮かべるヘスティアの姿。

いつもならとてもかわいらしい、ベルにダイビングおかえりなさいを繰り出すヘスティアだが、今はそんなもの微塵も感じられない。

 

ベルは思う。

般若だ。般若がいる・・・。

 

「ベル君、今失礼なことを考えたね(ピキピキ)」

 

「め、めっそうもない!ヘスティア様はいつも通り美人できれいだなと思っていました!」

 

「・・・嘘、ついたね?」

 

「あ、」

 

 

 

 

 

 

 

「ベル君、正座。」

 

 

 

 

 

 

 

 

この後朝になるまで説教食らった。




何だかヘスティアがしっかりものになりつつある・・・どうにかせねば・・・

次回は怪物祭やります。神の宴は多分カットします。すまない・・・カットしてしまってすまない・・・


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そして少年に試練が降りかかる

更新おくれました。ごめんちゃい。
話はあまり進まない。ごめんちゃい。

今年は多分これで終わり。皆さんよいお年を。


「ベル君、反省した?」

 

「はいそれはもう。二度と酔って喧嘩なんてしません。」

 

ソファで座るヘスティアに、ベルは正座で痺れてしまった足をかばうように四つん這いになりながら顔をあげ、真面目な口調で答える。まったくもって様にさらない。

ヘスティアはその姿に溜め息をつく。手間のかかる子ほど可愛いとは言うが、せめて自分と仲の悪いロキとは問題を起こさないでくれ、と思うヘスティア。

 

「ヘスティア様・・・ご心配おかけしました。」

 

「まったくだよ!ダンジョンで無茶するならまだしも、いや、あまり無茶してほしくはないけど。酒場の喧嘩で血まみれになったって聞いた時の僕の気持ちが分かるかい!?」

 

ヘスティアの終わったと思っていた説教が再開しそうになり、ベルは諦めるように項垂れる。今回に関しては自分の浅はかさが招いたこと。煮るなり焼くなりお気の召すままにどうぞ、といったところか。

 

「あぁもう!そんなに気を落とさないでおくれ。何はともあれベル君が無事でよかったよ。」

 

そう言ってベルに笑顔を向けるヘスティア。何だかんだベルの事が大好きな主神様である。

その姿にベルは見惚れている。この人(?)なら何があっても自分をきちんと叱り、そして受け入れてくれるだろうと。ヘスティア様マジ天使。神様だけど。

 

「それで?ロキのとこで変な事されなかったかい?」

 

「えっと・・・非常に言いにくいんですけど・・・魔術のこと、少しだけですけど喋っちゃいました。」

 

瞬間、ヘスティアは頭に鈍い痛みを覚えベットへとフラフラとおぼつかない足取りで歩き、そのままうつ伏せにベットへと自由落下の如く倒れこんだ。

 

「ヘスティア様!?大丈夫ですか!?気をしっかりもって!ヘスティア!!ヘスティア!!」

 

「気をしっかり持てとか・・・だいたいベル君のせいなんだけど・・・」

 

ベルの呼び捨てにも反応出来ないくらいヘスティアの精神は疲れきっていた。彼女はそのまま気を失うように眠ってしまった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「だから!おみゃーはシルのおっちょこちょいにこれを届けるにゃ!」

 

「すみません。話が見えないんですけど。」

 

豊穣の女主人の前でベルと猫人が話し合っていた。

 

先日喧嘩を起こしたことを詫びに豊穣の女主人へと訪れたベル。ミアに頭を下げると

 

『店の外に出たから許してやるよ。今度やったら承知しないけどね!』

 

と豪快な笑いと背中への平手打ちで事は収まった。あとはベルはよく食べる方なので、今後も店に金を落とすように言われた。何だかんだいい人だなぁ、と思い、店を出たベル。しかしすぐに店員の猫人が財布片手に出てきて、ベルにそれを渡すと説明を始めたのだ。最も、その猫人は断片的に伝えているのだろうか、ベルは自分に何をしてほしいのか、全く分からなかった。

 

「なんで分からにゃいにゃ!やっぱりおみゃーは噂通り脳みそ筋肉にゃ!」

 

「おい待てそのネタどこから拾ってきた!」

 

「そこらじゅうに広まってるにゃ。命知らずの駆け出しがギルドの受付嬢にシめられてる噂。」

 

「マジかよ・・・エイナさんのバカ・・・」

 

そのまま膝をついて四つん這いになり項垂れるベル。その姿を見て猫人は呆れた声で「にゃに喧嘩沙汰起こしておいて今頃落ち込んでるだか・・・」とベルを見下ろすような形になっている。

 

「・・・何をやっているんですか?アーニャ」

 

なんやかんやしていたら店の陰から金髪のエルフが出てきた。こっちもこっちで四つん這いのベル見て不信感MAXといったところか。

 

「この脳みそ筋肉が自分が脳みそ筋肉って呼ばれてるのに絶望してるだけにゃ。」

 

「やめて・・・もう脳みそ筋肉って言わないで・・・」

 

涙目でかつ嗚咽混じりに訴えるベル。とてもじゃないがベートと喧嘩したとは思えないほどの弱虫ぶりだ。

 

「ところでアーニャ、シルの財布のことは伝えたのですか?怪物祭(モンスターフィリア)に行ったシルに忘れた財布を届けるってことを。」

 

「リューはアホにゃ。そんなこと、一々説明しなくても分かるにゃ。」

 

「いや、分かりませんよ・・・言ってくださいよ・・・」

 

回り道になったもののシルに財布を届けるということが分かったベルは立ち上がり、自分の手にある渡された財布をポケットにしまうと祭りをやっている闘技場辺りへと向かうことにした。

 

「っとその前に、ところで怪物祭(モンスターフィリア)って何ですか?」

 

「毎年やっているガネーシャファミリア主催のお祭りですよ。ダンジョンから連れてきたモンスターを調教(テイム)する姿をみんなにみせるんです。あと突然行こうとしないでください。一瞬盗んだかと思いました。」

 

「要するに、えらくハードなお祭りってわけにゃ。仕事さぼってまで行ったっていうのにやっぱりシルはあほにゃ。それとシルの言う通り一言『分かりました』って言ってほしいニャ脳みそ筋肉。」

 

「ベル!僕にはベル・クラネルっていう名前があるんです!脳筋って呼ばないで!」

 

「ちなみにシルはちゃんとお休みをもらっています。クラネルさん、お願いできますか?」

 

「フー!フー!・・・まぁそういう事でしたら了解しました。配達、任せてください!」

 

ベルは金髪のエルフに笑顔で答え、猫人には不満たらたらな視線を向けるとグーで自分の胸を軽く叩き、風でもおきそうな勢いで闘技場方面へと向かっていった。

 

「それにしても、脳みそ筋肉におつかいにゃんてできるのかにゃあ?」

 

「そんなこと言ってはいけませんアーニャ。せっかくのシルの想い人なのですから。」

 

アーニャのベルへの熱い脳みそ筋肉風評被害をリューがたしなめる。アーニャはオーダーを間違えたり報告連絡相談(ほうれんそう)において主語がよく抜けているなど結構アホの子なのだが自分以上のアホっぽい、というより命知らずな馬鹿のベルを見つけて安心しているのだろうか下に見ているのだろうか、ベルに対する評価が低い。この猫人、たいがいである。そんな不安にかけらながら同意しつつも仕事仲間の想い人であるならばとフォローをいれるエルフ特有の律義さで対処するリュー。だが・・・

 

 

「おじさん!綿あめ一つ!」

 

 

元lv4冒険者の視力で見た先には、凄い勢いで出発した割には露店の列で足が止まっているベルの姿が。

 

・・・まぁ仕方ないよね!いくら冒険者っていってもベル君14歳だし!遊びたい年頃だし!田舎から出てきた右と左は分かるけど上下斜めはまだいまいち分からない少年だし!

 

「・・・これはアーニャの言う通り、ダメかもしれませんね。」

 

一人誰にも聞こえないように呟くと仕事を続けようと店内に戻るリューだった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

あるカフェの一角、大通りに面するテラス席でロキとフレイヤが向かい合って席に座り、ロキの傍らにはアイズが控えている。

ロキは面白そうに、しかし少々睨みを効かせてフレイヤを見つめる。そんなロキに、フレイヤはただ小さく微笑み返すのみ。

 

「またどこぞのファミリアの子供にちょっかいだそうとしとるんか?そんで?どないなやつなんや?美の神の御眼鏡にかかったんは。」

 

「人の話を聞かないで突っ込んで行ってしまう、見てるこっちがハラハラしてしまうような子。」

 

「なんやそれ。そんなんどの眷属(ファミリア)にも言えるこっちゃろ。」

 

そう言ってロキは横に控えているアイズをニヤニヤと見つめる。思い当たる節が多すぎる、というより日常茶飯事的に身の丈を超える危険に突っ込んでいくアイズとしては、申し訳なく思うところでもあり、思わず視線をずらしてしまう。そんな姿をフレイヤも可愛らしいと思ったがロキは何かを感じ取ったのか、睨みがきつくなったので少々肩をすくめてから本題へと戻る。

 

「ええその通りね。でも綺麗だった。透き通っていた。今まで見たことの無い色をしていた。ちょっとまぶしすぎるきらいはあるけれど。見つけたのは本当に偶然。たまたま視界に入っただけ。」

 

初恋の相手のように大事そうに語るフレイヤ。黒のベールで包まれた顔から赤く染めた頬を覗かせている。その姿は、口元だけだというのに男女関係なくすべての生き物を魅了させる。

 

「ごめんなさい。急用を思い出したわ。ごめんなさいロキ、また今度。」

 

「っておい!・・・なんやあいつ。しかも勘定もこっちもちかいな・・・。」

 

突然席を立ち、有無を言わさずに出ていったフレイヤ。ロキはいきなりのことに呆然としているが、一方アイズは表情の出にくい顔にわずかに眉間にしわを寄せ、難しい顔をしていた。

 

「どないしたんやアイズ?」

 

「いえ・・・何でも」

 

そういうアイズの視線の先には、先ほどロキとフレイヤの会話の際にベルがカフェの前を通りかかった大通りがあった。

 

(そういえばベル、色々持ってたな。綿あめとか焼きそばとか)

 

祭りということもあり、ベルも露店の商品を食べ歩きしているのだろうか?と推測するアイズ。彼女にとって露店といったら愛してやまないじゃが丸君。知らない相手だろうが、見知った相手だろうが、美味しそうに食べ物を頬張っている姿を見せられては自分も食べたくなるというもの。

 

「ロキ、じゃが丸君食べに行こう。」

 

「なんや!アイズも祭り楽しみたかったんか!アイズたん萌え~~!!よっしゃ!おごったるでぇ!!」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

「・・・すごい人だな。こりゃシルさん見つけるのは苦労しそうだ。」

 

露店と露天の間で小休止するベル。

田舎では見られなかった列をなす露店につい心踊らされて1500ヴァリスほど食べ物に散在してしまった。魔術師的に資産管理は重要なステータスであるが、今買った食べ物の原価を考えれば考える程気分は沈む一方である。

腰を下ろし、うなだれるベル。しかしその両手には綿あめと焼きそば。はたから見れば結構楽しんでいるように見える。

 

「あ、いた!ベル君!」

 

聞きなれた声に顔を上げるとヘスティアがいた。いつも通りの白のワンピースに加えて今日はメッセンジャーバックのような背負い方で何かを持っているようだ。自然とたわわな胸の谷間を強調するように風呂敷がヘスティアの谷間に食い込んでいる。ベルは思わず青少年らしく目を奪われてしまう。

 

「・・・・・・・・・・・(胸ガン見)」

 

「ベル君?一体どこ見て・・・うひゃああああ!?!?」

 

ベルの視線に気が付いたヘスティア。処女神であり、天界において欠片として男っ気のなかった彼女にとって男の、しかも意中の相手からのそういう視線にどう対応すればいいか分からず、とりあえず本能的に声を上げて胸元を両腕で隠した。しかしその後はどうすればいいか分からず、頭を混乱させながら目をグルグルさせている。

 

「ベベベ、ベル君のスケベ!!!」

 

「――スケ!?と、とりあえず場所を移しましょうヘスティア様。ここではどうにも・・・」

 

「な!?場所を変えるって、いったい何するつもりだい!?僕としては君が望むっていうのなら(やぶさ)かではないけれど順序というものがだね―――」

 

「な、何言ってるんですか!?周り見てください!」

 

ベルにそう言われてヘスティアが勢いにまかせて周囲に目を走らせると面白い見ものが出来たと言わんばかりに自分たちを見る民衆の群れが。老若男女問わず、嬉々とした目で次はどんな口喧嘩をしてくれるのかと楽しみだと言わんばかりだ。

 

「どうした嬢ちゃん!もっと爆弾発言頼むぜ!」

 

「浮気なら男の玉を蹴ってやんな!そうすりゃどんな男でも簡単に手なずけられる!」

 

四方八方から歓声のオンパレードだ。場所と状況を一旦落ち着いてようやく飲み込めたヘスティアは顔を真っ赤にして俯き、固まってしまった。その姿を見てベルはチャンスとばかりにヘスティアの手を引き、自分達を見物にしていた群衆の中へのまぎれるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ヘスティア様、落ち着きましたか?」

 

「・・・うん。ごめんねベル君、取り乱しちゃって。」

 

「いえ、もとはと言えば僕がその・・・ヘスティア様のその・・・む、胸を見なければよかっただけの話ですから・・・。」

 

人混みの激しい中から一転、ベルに手を引かれてヘスティアが来たのは闘技場前の広場。芝生が敷いてあり、どの人もある程度の間隔でプライベート領域が形成されていたため、落ち着いて話をするにはよい場所だった。

互いに顔を真っ赤にさせながら謝罪するベルとヘスティア。こうなった原因がお互いに疎い性的な事柄であるため、どう切り返しすればよいか分からず、固まっていた。

 

「と、ところでヘスティア様はなんで祭りに?」

 

最初に動いたのはベル。

 

「あ、あぁ。君へプレゼントがあってね。それにせっかくのお祭りだろ。だから、その・・・デートしようぜ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ガネーシャファミリアの闘技場、地下倉庫では見張り役の団員達が全員涎をたらし、だらしなく惚けて地面に突っ伏していた。

ダンジョンより運ばれてきたモンスターがもし抜け出すようなことがあったらすぐに始末出来るようにするために、見張りに割り振りされるものは腕利きである。

そんな彼らを無力化した女神が彼らには目もくれずモンスターが入れられた檻へと足を進める。それまで檻の中で暴れていたモンスター達はたちまち静まり返り、目の黒い部分を縦に細くして魔性を感じさせている。そんなモンスター達の中、女神は一匹の白毛の巨大なゴリラのようなモンスターの前で立ち止まる。

 

「そうね。あなたがいいわ。」

 

女神が檻の間にから手を伸ばし、モンスターの頬に触れる。モンスターが暴れる様子はなく、ただ女神の手を受け入れるのみ。

 

「あぁだめね。しばらくは見守っていようと思ったのだけれど、つい手を出してしまいたくなる。」

 

その言葉一つ一つをモンスターが理解することは出来ないにも関わらず、声色だけでも本能を魅了されてしまう妖艶さ。その妖艶さを持って女神はモンスターにお願い(・・・)をした。

 

「さぁ、小さな私を捕まえて。」

 

女神やモンスター達は気付いていないが、僅かに銀色の液体が天井を這いながら両名を捉えていた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

オラリオの街が一望出来そうなほど時計台、大きな鐘がある塔の頂上で一人の男がきれいに整えられたコートをたなびかせて闘技場を見下ろしている。よくみるとコートから若干覗かせる左腕や指先がエメラルド色に光っているようにも見える。

 

「ふーん。やっぱりフレイヤはシルバーバックをクラネル君に当てさせるか。でも今のクラネル君なら簡単に倒せるだろうからなぁ。いやーどうしたものかなぁ。そろそろオラリオでも死ぬ位の思いしてほしいねぇ。」

 

男は指先で額を何回か小突くと目を大きく見開き、思いついたような様子だ。

 

「そういえば地下で拾ったヤバそうな植物があったな。アレを当てさせてみるか!アレならクラネル君でもベリーハード位だろうから大丈夫だろ。いやー、ルナティックな相手を当てないなんて、私ってなんて優しいんだろ!ほんとこんなに素晴らしい師匠がいるなんてクラネル君は恵まれてるなぁ!果報者だなぁ!!」

 

男は一人で勝手にテンションをあげると懐から試験管をとりだし、その中身を地上へと落とすと同時にボソボソ何かを呟いた。地上に落ちた銀色の液体はまるで意志があるかのように動きだし、やがて地下へと向かっていった。その姿を確認できた(・・・・・)男は、満足そうに笑みを浮かべるとどこからかワインとグラスを取り出すと優雅っぽい動きで時計台の頂上に座った。

 

「さぁて、前と同じように私のいい酒の肴となってくれよ?クラネル君?」




師匠登場!

ソードオラトリア編することあったらロキファミリアと師匠絡ませます。


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そして少女たちの絶望と希望

あけましておめでとうございます。

友人宅で新年迎えたら風邪を貰ってしまってずっと寝てました。
バイト先に「風邪ひいたんで出れません。」って電話で言ったらめっちゃキレまれました。なんでぇなん?


今回はちょい長くなってしまいました。楽しんでいただけると幸いです。


「ふーん、つまりベル君は女の子に会うためにお祭りに来たと。抜け目ないね。」

 

「いや色々端折ってますよねその言い方だと。財布を届けに来ただけですから。それ以外目的なんてありませんでしたから!一体何をそんなに怒っているんです?」

 

「知るもんか!」

 

ヘスティアはベルがシルに財布を届けるために怪物祭(モンスターフィリア)に来た事を知ると急に態度を変えて疑わしい目でベルを見つめる。

「デートしよう!」と誘われ、女が関連する話題を出したら相手の機嫌が悪くなる。相当鈍感な奴でない限り、やきもちをやいていることなど気づきそうだが、不幸なことにベルは鈍感な奴だった。ヘスティアの様子を見ても「僕何か悪いことしました?」と言わんばかりに頭に疑問符を浮かべている。そんなベルを見てヘスティアは思わず溜息をつく。自分はどうしてこんな鈍感に恋してしまったのか、と。

 

「ヘスティア様?何ですその溜息?」

 

「ほっといてくれ・・・」

 

肩を落とすヘスティアの様子に大体の原因は自分であると察したベルは何が悪かったのか聞こうとした。が、話しかけようと出かけた声は、闘技場から聞こえる悲鳴に塗りつぶされた。

女性の声らしき甲高い悲鳴に目を向けるベルとヘスティア。そこには白い体毛で包まれた4mはありそうな巨大モンスター『シルバーバック』が闘技場の入口のアーチにぶら下がっていた。ガネーシャファミリアによって万全の体制で隔離されているはずのモンスターが出てきたことにより周囲は阿鼻叫喚な混乱に陥っていた。そんな中、シルバーバックは目にエスティアを捉えると、歓喜に鼻と上唇を上下させた。

 

『小さな私を捕まえて』

 

自分にそう命じた美の化身の命に報いることが出来る。そうすれば更なる魅了に、寵愛に預かることが出来るだろうと。いざ捕まえんと景気づけにシルバーバックは咆哮をあげる。

 

「グゴォオオオオオオ!!」

 

「・・・ねぇベル君、あのモンスター僕を見ていないかい?」

 

「ヘスティア様、こっちへ!」

 

シルバーバックが地上に降りて一歩踏み出すより前にベルはヘスティアの手を引いて逃げる。逃げる二人をシルバーバックは跳び跳ねるようにして追いかける。ベルだけであれば優にシルバーバックを撒くことが出来たであろうが、隣にはヘスティアがいる。加えてシルバーバックがヘスティアを狙っているとすれば逃げるのは得策ではない。戦闘能力のないヘスティアを守るためにはこの場でシルバーバックを倒すしかない。

 

「ベル君、どうしたんだい!?早く逃げないと!」

 

広場の中央辺り、皆が逃げて無人となった場所で立ち止まるとシルバーバックと向き合うように振り返り、守るようにヘスティアの前に立つベル。

 

「ヘスティア様は下がっていてください。ここであのデカ物を倒します。」

 

「ベル君・・・お願いだ。無事で帰ってきてくれよ。」

 

「もちろんです。」

 

ベルはヘスティアを後ろへと逃がすと、跳躍を繰り返して目の前に飛び降りてきたシルバーバックを睨み付ける。シルバーバックが跳び跳ねた後の地面は芝生が大きく捲れており、その巨体の重量から生み出される破壊力を思い知らされる。

シルバーバックには自分に敵意を向けているのが見るからに矮小で弱々しく思えた。そんな存在が自分の歩みを妨げんとしているのは堪らなく気に食わなかった。

 

「グゴォオオオオオオ!!!」

 

どけ。退いても殺す。退かなくても殺す。

シルバーバックはベル個人に、自分達よりも脆弱なたった一人の人間に殺意を向ける。顔を近づけ、咆哮をあげての威嚇。しかしベルが怯むことはない。それどころかシルバーバックを殺さんとする敵意が更に増す。その敵意にシルバーバックの中に恐れが生まれた。

自分が、劣っていると判断した相手にたった数秒で恐れを抱いてしまった。その事実を否定せんとしてシルバーバックはベル目掛けて左腕を降り下ろした。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

ベルの行動は早かった。

シルバーバックの拳をバックステップで避ける。その後すぐにシルバーバックの腕についた鎖が、腕が降り下ろされた勢いに任せてベルを傷つけんと襲いかかる。シルバーバックが意図したかは分からないが、結果としてステップした後の僅かな硬直を狙われる形となり、今度は避けることが出来ない。

 

「ベル君!」

 

ヘスティアはベルを案じて思わず声をあげる。小さな体のけん属にあの巨体の攻撃を受け止めきれるのだろうか。ヘスティアの脳裏にベルが打ち付けられる姿が浮かんでしまう。

しかしそんな不安は、すぐに払拭されることとなる。

 

「ふんっ!!」

 

魔術回路を発動させたベルはなんと鎖を受け止めたのだ。あまりの予想外な事態にシルバーバックはもちろん、ヘスティアも固まってしまった。

しかしこれで終わりではない。

 

「でえぇぇぇりゃぁぁぁぁ!!!!」

 

ベルは続けて鎖をその手に持ち、なんと繋がれたシルバーバックを半円を描くようにして振り回し、地面に打ち付けた。

 

「もういっちょぉぉぉ!!!!」

 

しかも一回では終わらず、二回三回と続けて体格差が4倍近くあるシルバーバックを叩きつける。

シルバーバックは白目を剥き、気絶している。もはや戦闘能力はないだろう。後はそのうちやって来るであろうガネーシャファミリアの者に任せればいいかと思い、ベルはヘスティアの元へと戻る。ヘスティアは先程のベルの行動がかなり荒唐無稽であったからだろうか、驚愕と言うより放心状態に近い苦笑いでベルを迎える。

 

「ヘスティア様、終わりました。」

 

「ベル君、ステイタスの更新をしている僕が言うのもなんだけど君は本当にlv1なのかい?」

 

「何言ってるんですか?」

 

ヘスティアの純粋な疑問にベルも疑問で返す。何かおかしいことしただろうか?、と首をかしげるベル。

一方ヘスティアはベルの実力への無自覚さ、魔術の強力さに危険を感じていた。

人間の倍あるモンスターを投げ飛ばすなど、レベルのある冒険者であろうとなかなか出来ることではない。ましてやベルはlv1の冒険者。もしステイタスの『力』がSに届いていたとしても、出来るとは考えにくい。実際ベルのステイタスで現在Sを上回っているのは『魔力』EXのみである。これは恐らく魔術によるところが大きいだろう。そうすると、自然とベルには疑いの目が向けられるだろう。

レベルに見合わぬ能力を持つということは嫉妬と偏見の対象になりかねない。事によってはベルへの嫌がらせや闇討ち、他ファミリアによる引き抜きが起こるであろう。

しかしベルにそんな事を気にする様子は無いようにヘスティアには見える。ベル自身、魔術は秘匿するものである、とヘスティアに説明しているにも関わらず、シルバーバック撃退については緊急事態なので仕方ないが、ロキファミリアとの喧嘩の際には酔った勢いとはいえ使っていた。自分から厄介事を運んできているようにしか思えない。

 

『・・・結局のところベル君は脳みそ筋肉なんだろうな、僕がしっかりしなきゃ。』

 

決意を新たにしたヘスティアであった。

 

「それよりベル君、せっかくだからあのモンスターの魔石貰ってしまおうよ。ベル君がやっつけたんだからさ。」

 

「それもそうですね。それじゃ、サクッとヤってきます。」

 

腰のアゾット剣を取り出し、気絶したシルバーバックの頭に突き刺そうとするベル。しかし振り下ろされるはずの剣は、突如その場で発生した大きな地震によって中断される。そして大きな何か、恐らく揺れの原因が地下を這いずり回り、今自分のいる辺り、シルバーバックの真下で止まったことを感じると魔術回路をフルに活動させ、大きく後退する。

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!」

 

 

それと同時に大きく地面を割り、声ならぬ絶叫をあげ、蛇のように茎の長い植物型モンスターが毒々しい花と花の中央部に捕食のための獰猛な口を大きく開かせて登場した。

 

「グゴ!?グ、ゴ、ガァァァァァ!?!?!?」

 

植物型モンスターはその大きな口で生きたままシルバーバックを丸のみした。茎の部分をシルバーバックが通っていく姿が盛り上がっていて分かったが、数秒しないうちにみるみる内にその盛り上がりが小さくなっていく。ベルは植物の口から垂れているよだれが土や芝生を溶かしているのを見て思わず構えを整える。

 

『あんな溶解液に触れたら一たまりもないぞ!?』

 

ベルは口に注意してアゾット剣を構える。念のため内ポケットにしまった水月霊液(アグミス・ローグラム)を取り出そうとしたその時だった。

 

「! ベル君! 横!」

 

ヘスティアの警告に反応して防御の体勢をとろうとするベルだが間に合わず、植物の何本もある触手の一本が強くベルの脇腹を叩きつけた。その衝撃にベルの意識と体は大きく飛ばされ、地面を2回ほどバウンドした。

 

「っベル君!起きろ!起きるんだ!寝ている場合じゃないぞ!」

 

ヘスティアは植物の攻撃を受けてから起き上がらないベルの体に呼びかけながら走って向かう。しかしその間にも植物はゆっくりと、しかしヘスティアより速く触手をベルへと伸ばす。ヘスティアの脚では触手より先にベルにたどり着くことは叶わない。たどり着いたとしても触手からベルを守る術も無い。

ヘスティアの心にベルを失ってしまうので、という不安がよぎる。ベルがいない根城(ホーム)、一人きりでソファーに座る自分の姿。

 

『嫌だ嫌だ嫌だ!!僕には彼が必要だ!失いたくない!!ずっと一緒にいてほしい!!』

 

しかしいくら心で叫んでもヘスティアに出来ることは呼びかけること、祈ることのみだ。超越存在(デウスギア)でありながら、祈ることしかできないとは何たる皮肉であろうか。

 

「ベル君お願いだ起きて!!言ったじゃないか!僕をひとりにしないって!!目を覚ませーーー!!!」

 

だがベルが目を覚ますことはない。

その代わり、一級冒険者の吹かせた風が触手を細切れにして歩みを退けた。

 

「大丈夫?」

 

ロキファミリア団員、アイズ・ヴァレンシュタイン以下四名がベルとヘスティアを守るように登場した。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!』

 

「この鳴き声って、さっきのモンスター!?」

 

「まだいたんかいな・・・っ」

 

ベルとは別の場所で植物型モンスターを討伐したアイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤの4人。レフィーヤは脇腹に触手の一撃を喰らい、その状態で精神力を通常よりも消費する召喚魔法を使用した。ティオナ、ティオネは武器を所持しておらず、アイズはロキから渡された拾い物の剣を装備している。とてもじゃないがもう一度あの植物型モンスターを倒せるとは言い難い状態だ。加えて討伐のために必要なのはレフィーヤの召喚魔法であるが、そのレフィーヤは脇腹を抑え、治療が必要な状態である。

本来ならば他の冒険者などに討伐を任せればよいが、一級冒険者である彼女らが手こずった相手を他の冒険者が処理出来るとは考えにくい。それに一級冒険者などホイホイいるわけはなく、黄昏の館へ戻り、フィンやリヴェリアに救援を要請する時間もない。

ロキは無理をさせることを承知で彼女らに苦渋の選択を下した。

 

「・・・みんないけるか?」

 

「うん。大丈夫。」

 

「あの糞花くらい何匹来たって倒せるわ!」

 

「い、いけます!」

 

悪条件であるにも関わらず、物怖じせずに立ち向かう気満々の眷属にロキは頼もしさを感じて小さく笑う。

 

「ありがとうな。でも無理はせえへんように。特にレフィーヤ。」

 

「は、はい!」

 

「うちはガネーシャんとこの子供ら連れて来るさかい、それまで頼むわ。」

 

「分かりました。でもガネーシャファミリアが来る前に倒しちゃってもいいんですよね?」

 

「・・・・ブ、ハッハッハッハ!!!!ええで!かましてき!んでもってガネーシャから色々と迷惑料もらうとしようか!!」

 

ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて聞いてきたティオネにロキは一瞬目を見開きつつも大爆笑して言葉を返す。言葉を受けた4人は頷くと植物型モンスターの鳴き声の方向へと飛んで行った。

 

「みんな・・・怪我だけはせえへんようにな・・・」

 

見送るロキの表情は悪神らしからぬ子供の無事を祈る母親のようであった。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

「レフィーヤ、さっきと同じように私たちであれの気を引く。その間に魔法の詠唱、いける?」

 

「はい、いけます。」

 

レフィーヤはイエスと答えるが、先程別の植物にもろに受けた攻撃は治療を必要とするものだった。無理はさせられない。加えて後ろにはベルとヘスティアの護衛を必要とする状態でいる。短期決戦で終わらせるしかない。

 

「ティオナ、アイズいくよ!」

 

「「了解!!」」

 

ティオネの合図で植物に攻撃を開始するティオネ、ティオナ、アイズの3人。それと同時にレフィーヤは詠唱を始める。

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!」

 

魔法に反応して植物は触手をレフィーヤに向けるがそれを阻む3人の一級冒険者の打撃、剣撃。何人たりとその撃を止めることは叶わないだろう。もちろん、現にレフィーヤへと向かおうとする触手全てが3人によって断ち切られている。

 

[吹雪け、三度の厳冬 我が名はアールヴ]!!!

 

レフィーヤの召喚魔法の詠唱が終わったことを確認した3人はそれぞれ退避を始める。

4人は先程倒した植物型モンスターと同種の個体であると思っていた。そのためレフィーヤの詠唱さえ終われば勝利したも同然だった。しかし、

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『そうは問屋は卸さないんだよねぇこれが。私の為のクラネル君弄りなんだから。部外者にどうこうさせないよ。』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その油断が仇となった。

植物は中心の大きな花の口を大きく開けると叫び声と共に魔力を集中させた。そこにはエネルギー体が出現した。

 

「何あれ!聞いてないわよ!」

 

「魔法を使うモンスター!?」

 

「レフィーヤ!」

 

もう既に離脱態勢に入っていた3人には植物を止めることもレフィーヤの守りに入ることも出来ない。レフィーヤの魔法が植物の魔法を打ち破ることを祈るしかない。

 

[ウィン・フィンブルヴェトル]!!!

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!」

 

レフィーヤの魔法発射と同時に植物のエネルギー体も発射され、両者が激突した。

起こる突風、魔力の波、肌を震わせる衝撃波

このままでは押し負ける。そう思ったレフィーヤはこれが最後とばかりに残りの精神力を全て使いきる勢いで魔法に力を込める。

 

「こなくそぉぉぉぉ!!!!」

 

普段の彼女なら絶対に言わないであろう汚い言葉遣い。それほどこの一撃にかけていて、又余裕がないことが(うかが)い知れる。強大な魔力のぶつかり合いは、爆発する形で収束した。

爆風により土ぼこりが舞い、視界がぼやける。4人全員が構え、視界が晴れるのを待つ。そして見えてきた植物型モンスターは、

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!」

 

「そ、そんな・・・!!!」

 

レフィーヤの精神力のほとんどを使った魔法を受けたにも関わらず無傷でその巨体を存在させていた。

レフィーヤの魔法が通用せず、決定的一打を封じられたアイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤの4人。頼みの綱が切れた以上、後ろで倒れているベルと寄り添っているヘスティアを護衛しつつ撤退するしかない。

 

「ティオナは魔術使いと女神さまを運んでレフィーヤと撤退!私とアイズは殿(しんがり)!いいわね!」

 

ティオネは素早く指示を下す。

聞いた3人はそれぞれの役割をこなそうと動こうとするが植物が伸ばしていた触手の全てを突然地中に刺し始めたことにより、全員の目は触手に集中させられた。今度は何だ、下から攻撃を仕掛けてくるのか、と全員が身構えるが、触手が攻撃を加えることはなかった。代わりに、4人とベル、ヘスティア、そして植物を取り囲むようにして触手によってドームが造られる。

 

「逃げ道を封じられた!?」

 

目覚めよ(テンペスト)

 

アイズが剣に風を纏わせて触手の壁を切り裂かんとする。しかし触手は先ほどと同じ物とは思えないほど固く強固なものとなっており、逆にアイズの剣は折れてしまった。

 

「アイズさんの剣が・・・」

 

「・・・逃がさないつもりみたいねあの糞花。」

 

4人の中で最も強いアイズは剣を折られてしまい、ティオナ、ティオネは武器がない。魔法使いであるレフィーヤは魔法発射に必要な精神力をほとんど使い果たしてしまった。そして逃げ道は封じられ、恐らく外からの救援も触手に阻まれ来ないだろう。圧倒的に絶望的な状況である。打開するためには植物型モンスターの本体と思われる中央の一際大きい花を倒すしかないだろうが、この状態では出来ないと言えよう。4人の頬を汗がつたう。

 

そんな絶望的な状況に圧倒されてか、レフィーヤは背後から自分へと迫る触手の群れに気づくことが出来なかった。

 

「! レフィーヤ! 後ろ!」

 

アイズの声を聞き、後ろを向いた時にはもう遅く、レフィーヤは体中をしめつけられ、触手は例に及ばず、首もしめつけていった。

 

「ガ、ガ・・ア・・ァ・・・ァ」

 

「レフィーヤ!今助ける!持ちこたえなさいよ!」

 

レフィーヤがしめつけから逃れようとするほどしめつけは強くなっていくばかり。アイズ、ティオナ、ティオネが助けに行こうとするが、3人も触手が迫り、それぞれ処理するので手一杯だ。

ティオナとティオネは自慢の馬鹿力で地面に次々とクレーターを作る勢いで、アイズは剣が折れたというのに魔法だけで迫りくる触手を次々と切断しレフィーヤの元へと急ぐ。しかし触手の猛攻は止まることなく、むしろ数は増えていくばかり。道のりは激しく遠くなっていく。

やがてレフィーヤにも限界が来た。首から離さんとして触手を掴んでいた両手の力が抜け、ダランと下ろされる。その姿を見て3人の目は見開かれ、手は震え始めた。

 

「こんの・・・!邪魔くさいのよ糞花ぁ!!どけぇ!!!」

 

「くそ!!なかなか減らない!!」

 

「レフィーヤ!あきらめちゃダメ!レフィーヤ!!!」

 

 

まだ間に合う!今助ければまだ間に合う!!

3人はさらにギアを上げるが、あと一歩、あと一歩のところで触手の波を防ぎきれない。せめてもう一人、もう一人いてくれれば・・・!

 

 

 

 

 

Hervir el stand,mi sangre(沸き立て、我が血潮)

Slice()

 

 

 

 

呪文と共に、魔石の輝きを持った液体が3人歩みを妨げる触手とレフィーヤをしめつける触手を跡形もなく細切れにした。

突然のことに驚きつつも背後の声に振り向くと、背中と右腕、そして右手に持つ黒いナイフをエメラルド色に鈍く光らせた魔術師、ベル・クラネルが周囲に踊る水を従わせて悠然と立っていた。

 

「ご迷惑おかけしました。お手伝いします。」




次回は

植物撃破
ベル君の魔術に関してロキがヘスティアに突っ込む
フレイヤと師匠の対面←これだけ本当に書くかちょい考え中

の予定です。

因みに植物は師匠によってちょい強化されてます。だからエネルギー体の発射(破壊光線)も出来ます。


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そして少年は半身を与えられる

ようやく一巻分おわり。次回からたぶんリリ回。


『・・ル君!・・きて!・・・べ・・ん!起きて!!!』

 

自分を呼んでいると思われる必死さのうかがえる声にベルは意識を覚醒させた。

 

「ん・・・んあ・・?」

 

「ベル君!起きたんだね!」

 

「ヘスティア様・・・あの植物は・・・っつ!」

 

ベルは起き上がろうとするが突如胸の脇の方に鋭い痛みを感じて手で押さえる。肋骨をやられたのだろうか?ヘスティアも心配そうにベルの手を持ち、ベルを支える。回りを見回すと先ほど自分を打ち飛ばした植物とそれに対峙するように構えているロキファミリアの4人、それに触手の壁で自分達が囲まれていることが理解できた。

 

「どうしてロキファミリアが?」

 

「気絶したベル君が襲われそうになっていたところを助けてくれたのさ。あのアマゾネス君が僕たちを逃がそうとしてくれた時に触手が壁を作ってね。」

 

そういってヘスティアは植物の本体を忌々しそうに眺める。ベルとは違いアイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤの4人と植物の戦闘を見ていたヘスティアは何となく4人に後がないことを理解していた。だからと言って状況を好転させられる術を持ち合わせている訳でもない。なす術なしか、と絶望していたところでレフィーヤが触手に捉えられ、首を締めあげられ、振り払わんと必死にもがいていた。

 

「ったく!世話の焼ける!!」

 

締め上げられるレフィーヤの姿を見たベルは肋骨に走る痛みを気合で無視し、アゾット剣を強く握ると飛び出さんとする。が、ヘスティアがベルの足を掴んでそれを阻む。

 

「どうして止めるんですか!?」

 

「待ってベル君!あのモンスターは君じゃ倒せない!今度こそ死んじゃうよ!あれは雪崩だ!災害に突っ込むのは愚か者がやることだよ!!」

 

「だからって見捨てられるわけないだろ!!!」

 

「最後まで話を聞け!この脳みそ筋肉!!」

 

「!?」

 

ヘスティアには似合わないあまりの怒張のこもった叫び声と主神にまで『脳みそ筋肉』と言われたショックからか、ベルの動きは固まった。その様子を確認した彼女は背負っていた風呂敷を広げ、中に入っていた鞘に収まったナイフをベルに渡した。ベルはナイフを鞘から取り出してみる。刀身には神聖文字(ヒエログリフ)が刻まれ、鞘にはヘファイストスの刻印がある。

 

「ヘスティア様、これは一体・・・」

 

「プレゼントさ。僕とベル君だけの特殊武器(スペリオルズ)。名付けて神の刃(ヘスティアナイフ)!」

 

神の刃(ヘスティアナイフ)・・・」

 

「ベル君それ貸して?後、背中見せてくれるかい?ほら早く!」

 

突然のプレゼントに喜びたいベルだが、状況が状況だけにどう反応すればよいか分からない。ヘスティアはそんなベルからナイフをひったくり、ナイフに自分の血を垂らすと、そのままベルの背中への神の血(イコル)を垂らした。

その瞬間、ベルは魔術回路が外部の何かと接触したような感触を味わい、思わず目を見開いた。

本来魔術回路というものはいわば内臓のようなものである。他者の魔力が介入することはあっても回路自体が接続しあうことなどそうそうない。それこそ、魔術師間での性交でもなければ。

 

「ヘスティア様、何をしたんですか?」

 

「ベル君とナイフをつないだのさ。このナイフは生きている。使い手の、君自身の成長に呼応してナイフも強くなるんだよ。」

 

そういうとヘスティアは、ベルを自分と向き合わせるように回転させた。その目はベルを真っ直ぐに見据えて、離さない。

 

「ベル君言ったよね?僕が君の事を信じていれば、それだけで強くなれるって。

 でもそれだけじゃダメなんだ。僕だけが信じるなんて納得出来るもんか!僕たちは家族(ファミリア)なんだから、ベル君にも僕のことを信じてもらわないとね!」

 

ヘスティアはナイフの柄の部分を逆手で持ってベルの胸をこつんと叩いた。

ベルはナイフの握られたヘスティアの手を優しく両手で包むとそのままナイフを受け取った。瞬間、体中の全魔術回路がナイフへと接続を開始した。

 

「これは・・・!!」

 

エメラルド色に光る黒いナイフとベルの背中と右腕。ベルは感覚として、それまで32本あった回路が2倍の64本になっている事を自覚する。成程、生きている、呼応するとはよく言ったものだとベルは感心した。

 

「どうしたんだいベル君?いきなり魔術を発動させて。」

 

「・・・いえ。どうやら魔術回路がナイフに出現して僕のと接続したみたいです。」

 

「えっと・・・つまりどういうこと?」

 

「パワーアップしたってことです!!」

 

今なら出来るかもしれない、いや確実出来る、魔術回路が倍になった今ならば!!!

 

ベルは内ポケットから水月霊液(アグミス・ローグラム)を取り出し、難なく自分の周囲に従わせる。その姿は、ベルが初めて師匠に助けられた、村のゴブリンを駆逐した師匠そのものだった。

 

「ヘスティア様、行ってきます。」

 

「うん。必ず生きて帰ってくるんだよ。」

 

ベルはヘスティアに少し笑うと、アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤを取り囲む触手の群へと突っ込んだ。

 

とりあえず威力的にも生理的にもその触手は目障りだ。全部切り刻んでやる・・・!!!

 

Hervir el stand,mi sangre(沸き立て、我が血潮)

Slice()

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ご迷惑おかけしました。お手伝いします。」

 

突然、自分達が苦戦していた触手の大軍が一瞬にして細切れにされたことにより、3人は言葉を失った。いくら武器が無いとはいえ、3人は一級冒険者である。その3人が苦戦していた相手を目の前の駆け出し冒険者は一瞬にして撃退してしまった。なんと底の知れない冒険者だろうか。これが神の恩恵に頼らない『魔術』の力とでもいうのか。

だが思考するのは後だ。まずは解放されたレフィーヤの元にティオネが行き、アイズとティオナが植物を警戒する。植物の方も、触手が一瞬で細切れにされたことで、鋭い口のついた獰猛な花を展開させて警戒しているようだ。

 

「レフィーヤ!お願い!!目を覚ましてレフィーヤ!!!」

 

ティオネがレフィーヤを起こそうと大きく肩を揺らして呼びかける。が、ティオネの肌は冷たくなっていくレフィーヤの体温を感じていた。アイズとティオナも植物への警戒のため、振り返りはしないものの悔しさを顔ににじませている。

 

「ティオネさん、これを飲ませてください。」

 

その様子を見ていたベルは綺麗なオレンジ色の液体が入った試験管を取り出すと、ティオネに投げつけた。

 

「何よこれ。」

 

「エリクサー、みたいなものです。自作なので効能は補償できませんけど、無いよりましでしょ。」

 

「へんな術使ってる奴が作ったものなんかあんまり使いたくないけど・・・これでレフィーヤが死んだら承知しないわよ。」

 

ティオネはベルを一睨みしてから試験管の蓋をとり、レフィーヤに飲ませる。するとレフィーヤの体に熱が戻り始め、小さかった息も整い始めた。その様子に3人だけでなく、ベルも安堵の表情を浮かべた。最もベルのはティオナにボコられる心配がなくなったことと自作の回復薬が機能したことへのものだったが。

ティオネはレフィーヤを後ろへと移動させて横に寝かせると、アイズとティオナ、そしてベルと同じように植物に対して横一列になるように並んだ。

 

「ありがとう魔術使い。助かったわ。」

 

「いえ、大丈夫ですよ。こっちも助けてもらいましたし。それと、呼ぶなら魔術師って呼んでもらえません?」

 

「えー!魔術師じゃメイジと被るじゃん!私には用のない人たちだけどさ。」

 

「それじゃメイガスでお願いします。」

 

「来るよ!」

 

ティオナとティオネとベルの会話に割り込むようにアイズの警告が疾る。触手は復活し、先程と同じように襲いかかる。

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!」

 

花は咆哮をあげ、中央の本体に付随する小さな花はエネルギーを集中させて破壊光線っぽいのを撃たんとしている。危険を察知したアイズ、ティオナ、ティオネは横へと跳び、触手を蹴散らして回避しようとするが、ベルだけがその場から動かず、ただ静かにヘスティアナイフ片手に突っ立っていた。

 

「あのバカ!何してんのよ!早く避けなさい!!」

 

ティオネが叫ぶが、ベルに聞いている様子はなく、むしろ届いていすらいないのでは、と思えるほどだ。ベルはナイフを前に突きだし、破壊光線を撃たんとしている花をその目に捉える。

 

Hervir el stand,mi sangre(沸き立て、我が血潮)

Defensa Autónoma(自律防御)

 

ベルが詠唱すると、魔力の波を関知してそれまでアイズ達に襲いかかっていた触手の全てがベルへと進み、又花も破壊光線が当たる角度をベルへと定めた。

 

「マズった!あの花、魔力に反応するんだった!」

 

「メイガス君!今すぐ魔術を中断して!」

 

ティオネとティオナがしまったと言わんばかりにベルに向かう触手を撃退しようとするが、時既に遅し。触手と花の破壊光線は同時にベルに降りかかる。

 

(お願い!間に合って!)

 

「リル・ラファーガ!!」

 

アイズはベルを助けようと神速をもって突っ込む。全てを防ぐことは出来なくとも、ベルを守るくらいは剣を失った彼女でも可能だ。触手を減らしつつベルの背後に着地したアイズはそのまま振り返って風を付与(エンチャント)とした折れた剣を構えようとした。しかし、彼女は振り返った瞬間に目に入った光景に思わず目を開かせた。

なんとベルは自分の周囲の魔石の輝きを持つ水を自由自在に操り、触手を斬るだけでなく、花から発射された破壊光線のその全てを自分の周囲にドーム状に水を展開させることによって防御していたのだ。

いくら接したことの無い力とはいえ、自分が冒険者となり、数年かけて得た実力に手の届きそうな位置にある駆け出し冒険者のベルの魔術は、アイズを羨ましがらせるには十分であった。

 

「アイズさん、来るなら来るで一言言ってくれません?これの操作も楽じゃないんですよ?」

 

「・・・すごい。それが魔術なの?」

 

「ええ、そうですよっと!」

 

ベルが指揮をするようにナイフを振るとベルを覆っていた水が刃となり、中央の本体以外の小さな花を茎ごと刈り取っていく。花は汚い断末魔をあげ、周囲に体液を撒き散らすと、本体から切り離され栄養がいかなくなったからであろうか、みるみるうちに枯れていく。その様子を感じとったのだろうか、本体の巨大な花が悲しげに小さな金切り声をあげたと思うと、ベルに対して激しく咆哮し、花弁と牙の目立つ口を目一杯開かせ、破壊光線を撃たんとエネルギーを溜め始めた。

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!」

 

(参ったな・・・あれは防げそうにない。)

 

魔術師として魔力量に関しては敏感に反応できたベル。先程は小さな花による破壊光線だったので水月霊液(アグミス・ローグラム)による防御が可能だったが、あれほどの魔力量を一点集中にされては防ぎようがない。避けられればいいのだが、触手によってドーム状に壁が形成されているため空中には逃避けずらく、加えて後ろにはレフィーヤとヘスティアの護衛対象がいる。戦闘組が避けられたとしても、確実に背後の二人に被害が及ぶ。撃たせてはならない。となれば、撃たれる前に殺すのみ。

 

「アイズさん、さっきこっちに突っ込んできたやつ、もう一回出来ますか?」

 

「出来るよ。でもどうするの?私は剣が折れてるからあの魔法を斬れないし。」

 

「いつもなら魔法斬ってるんですか?規格外ですね。」

 

「君に言われたくない。」

 

お互いをジト目で見る二人。

ベルから言わせれば、魔法だろうと構わず斬るやからなどそれこそ化け物染みていると考えている。「剣姫の姫は鬼だろ」とは決して口にはしない。

一方アイズにしてみればlv1なのにファミリアの同僚である一級冒険者のベートに挑んで、攻撃を何回も受けても持ちこたえ、しかも一発ボディブローを入れたタフネスだ。それに魔術という未知数の力も兼ね備えているとなれば規格外もいいとこであろう。

 

「まぁいいです。僕がとどめを刺します。手伝ってもらえますか?」

 

「分かった。私の装備じゃ無理そうだし、託すよ。で、何すればいい?」

 

「合図したらさっきのやつお願いします。風をあの花目掛けて放って下さい。」

 

「花に放つ・・・ダジャレ?」

 

「ちげーよ。」

 

それだけ言うとアイズとベルは本体の花目掛けて走り出した。アイズのlv5の俊敏な足にベルは魔術回路をフル活動させてついていく。神の刃(ヘスティアナイフ)による回路の増設で出力は上がったが、それでも着いていくのがやっととは。ベルは改めてレベルの差というものを感じずにはいられない。が、今はそれどころではない、と気持ちを入れ換える。

花は狂暴な口を大きく開け、叫び声をあげながらエネルギーを溜めている。触手によって閉じ込めたことがあるのだろう、これ以上ないほどの一撃を喰らわさんとエネルギーの量がレフィーヤに撃った比ではないほどに集中させている。エネルギーに集中して、花の視界にはベルとアイズは入っていないようにも見えるが、突如横から触手が出てきてベルを襲わんとする。

 

「チッ!構っている暇なんて無いのに!」

 

ベルは速度を上げて避けようとするが、触手はその動きすら読んだように降り下ろす角度を変え、襲いかかる。しかし、当たるはずの触手は、殴打によって倒された。

 

「邪魔するな!!糞花ァ!!」

 

「私たちを忘れてんじゃないわよ!!アイズ、魔術使い頼むわよ!!」

 

ティオネとティオナの援護によって触手は撃退される。一級冒険者の援護とはなんと心強い。対応能力といい、チームワークといい、さすがは一級ファミリアである。

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!」

 

エネルギーの臨界を迎えた花は、今にも破壊光線を撃たんと叫び声をあげる。大きく開かれた口を更に大きく開かせた時だった。

 

(今だ!)

 

「アイズさん!」

 

吹き荒れろ(テンペスト)

 

ベルの合図にそれまでとてつもないスピードで走っていたアイズは踵で地面をめくりあげつつ無理矢理踏ん張って止まると、一瞬にして暴風を身に纏わせ、その全てを花へと放つ。それを待ってましたとばかりにベルは用意していた詠唱を右手に神の刃(ヘスティアナイフ)、左手にアゾット剣を持って唱えた。

 

Hervir el stand,mi sangre(沸き立て、我が血潮)

Peso ligero, salto(軽量、跳躍)

 

瞬間、ベルの身体は羽のように軽くなり、アイズの放った風に向かって跳んだかと思うと、なんと風を足場に空中を走ったのだ。

あまりの無茶苦茶さにもはやアイズ、ティオナ、ティオネの3人は驚く事すらやめている。

どんな方法でもいい。託した。あのデカブツを倒してくれ。それだけを思っていた。

 

アイズの風に乗ったベルはそれまでの自分の速度とプラスした速度で花へと突っ込む。ベルの頭にあるのは正面突破、花の前で展開されるエネルギー体ごと花本体を殺すことのみである。となれば、尋常でない速度を生み出している今とるべき攻撃は、

 

(一点突破!貫くのみ!!)

 

Hervir el stand,mi sangre(滾れ、我が血潮)

 

ベルの右手の神の刃(ヘスティアナイフ)を中心に水月霊液(アグミス・ローグラム)が大きく鋭い(スピア)の形となり、それをエネルギー体を貫く勢いで突撃を開始する。

 

「■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!」

 

「らあああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

エネルギー体と水月霊液(アグミス・ローグラム)、異なる魔力の接触により火花や電撃が発生し、触手の壁を焼かせる。花はベルの突貫に対し、生意気なと言わんばかりにさらに叫び声をあげてエネルギーを増やしていく。しかしこの場において重要なのは魔力の量ではなく点攻撃に対する強力な防御力だ。いくら今頃魔力を溜めようともはや遅い。エネルギー体はベルの刺突によって切り裂かれ、それによって露わになった花の口の奥には一際大きい魔石が見えた。ベルは花の口が閉じられる前に素早く左手に持ったアゾット剣を魔石に突き立てた。

 

「■■■■■■ーーーーー!?!?!?」

 

「おまけだ!とっとけぇ!!!」

 

ベルは右腕、背中、神の刃(ヘスティアナイフ)の魔術回路全てを活動させ、残り全ての魔力を叩き込む勢いで、ナイフを持った右手の拳で思い切りアゾット剣の柄の球体を殴った。

 

läßt(レスト)おおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

「-------ー!?!?!?」

 

解放された魔力は、叫び声をあげる時間も与えぬまま花を爆ぜさせ、魔石のみならず植物が根まで焼き払う勢いで直径10mのクレーターを作った。ベルたちを覆っていた触手の壁は、枯れるようにしてボロボロと崩壊し、たった数分閉ざされていただけであるのに、やけに眩しい太陽の光がベルたちを迎えた。

 

「倒したみたいね。」

 

「あーあ、最後ほとんどメイガス君のひとり勝ちだったね。私いらなかったんじゃない?」

 

「そんなこともないわよ。ね?魔術使い?」

 

ティオナはベルに一言何か言って欲しいのだろうか、話しかけるがベルが返答することはなく、ただ突っ立っているのみ。不信に思ったティオナがベルの側に向かおうとした時に、ベルの体が崩れそうになる。だが地面に倒れるはずの体はアイズによって抱き支えられた。

 

「メイガス君どうしちゃったの?」

 

「・・・寝てるみたいね。疲れちゃったのかしら。」

 

3人がベルの顔を覗きこむ。魔力を使いすぎたからであろう、ベルは脱力したような表情で眠っていた。

 

「・・・お疲れさま。」

 

アイズは、化け物を退治した英雄に薄く笑みを浮かべた。

 

 

 

 

ちなみに、ちょうど植物が倒された頃に目を覚ましたレフィーヤと、外で触手の壁が崩れていくのを見ていたガネーシャファミリアの冒険者と自身のファミリアの団員を連れたロキ。彼女らの目に入ったのはお気に入りのアイズが他ファミリアのベルを抱き支える光景で・・・

 

 

「「ーーーーーーーーーーー」」

 

 

暫く気を失ったそうな。

 

 

なおヘスティアは

 

「おい剣姫くん!そこは僕の役割だ!退け!退くんだぁ!」

 

理不尽に怒っていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あひゃひゃひゃひゃ!!さすがクラネル君!私の弟子!!助けてもらったとはいえ自分より格上のモンスターをいとも簡単に!!素晴らしいねぇ!!めでたいねぇ!!今日は飲むぞぅ!!!あひゃひゃひゃひゃ!!」

 

「なら、せっかくだから私も頂こうかしら。」

 

「あん?」

 

鐘のある塔で1人何がそんなに面白いのだろうか、ご機嫌にワインを飲んでいた男の横に何処からかローブに包まれた女神が現れた。女神は男の横に座るといかにも年代物のボトルを開け、男の空いたグラスにつぐ。男も女神からボトルを渡されると、ワインの豊潤な香りに気分をよくして女神のグラスにつぐ。

 

「素晴らしいワインに乾杯。」

 

「あら?私との出会いには乾杯してくれないのかしら?」

 

「ハッ!冗談やめてくれるかい?色気ふりまいて股の緩いビッチ野郎との出会いなぞ不利益でしかないよ。酒だけ置いてとっとと失せてくれるかい?」

 

心底嫌そうな顔をして自分を拒否する男に女神は苛立ちつつも興味がつかない。自分の魅了が通じず、自分が今最も気になっている子どもの何かを知っている。そして何より、色が見えない(・・・・・・)。下界の子どもたちの心を色として見ることの出来る女神にとって、色が見えないことなど今までに無かった。そして実際に会ってみて言えることは、むしろこちらが見透かされているのでは、と思えてしまうほどの、生まれてくる得体の知れない感情。

 

「あなた、一体何者?」

 

「さぁて、誰だろうねぇ?ただ聞くんじゃなくて自分で考えろよ神様さん!いひひひひひ!!」

 

男は人を最も苛立たせると思わせる笑いと仕草で女神を挑発すると、立ち上がり、グラスのワインを一気飲みする。

 

「プハー!たまんねぇなぁおい!酒!飲まずにはいられない!あ、そうだ。今後クラネル君にちょっかいかけるときは是非頼ってくれていいよ!君たちのは生ぬるいからねえ!!では、アディオース!!!」

 

男はそれだけ言うと、ワインの残ったボトルを抱え、時計台から飛び降りる。女神はそのあとを目で追おうとするが、一瞬目を離したときにはいなくなっていた。

 

「・・・まぁいいわ。癪に触る男ではあるけれど、あの子の輝きをもっと見せてくれるというのであれば。」

 

女神は少年の勇姿を思いだし、口に涎を溜まらせて、舌なめずりをした。




ヘスティアナイフの性能

ステイタスに合わせて成長
装備すれば魔術回路2倍


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金額に愕然とする少年と変人に捕まった小人

お久しぶりです。色々一段落して更新できました。

銀英伝見てたらハマっちゃいました。めっちゃおもろい。
今考えているのはベルが18階層に行ったときのタイトルを「魔術師、帰らず」にすること。不謹慎かしら?でも郷田ほづみさんのヤンなら死にそうにないし(ネタバレ)

今回はベルとヘスティアのいちゃいちゃとリリの冒頭部分。


「どないや?魔術師殿の容態は?」

 

「ただ疲れて寝てしまっただけみたいだ。助かったよロキ、ありがとう。」

 

「なんや、ドチビに礼を言われるなんて、天界でも降ってくるんちゃうか?」

 

「折角礼を言ったってのになんだいその返しは!」

 

ニヤニヤとからかってくるロキに対してヘスティアはツインテールを立たせて「グググ!」と唸って怒っている。

 

植物型モンスターの撃退後、ヘスティアはロキに頼んでベルを黄昏の館で治療してもらうことにした。魔術という不確定要素を孕んでいるベルが別ファミリアで治療を受けると、背中や右腕の魔術刻印から探られかねない。加えてアイズたち一級冒険者たちが苦戦したモンスターを倒したことが広まれば、すかさず別ファミリアからのスカウトがなりやまぬことは必死である。ヘスティアはアイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤに、植物型モンスターを倒したのはベルではなく、4人であることにしておくように頼んだ。そして、事情を知るロキにベルの治療を頼んだのだ。

 

「それにしても、何だったやろなあのモンスター?ガネーシャ曰く知らんそうやし。うちんとこの子供たちも知らん言うてたわ。」

 

「でもあんな土に根を張るようなやつがモンスターを入れる檻に紛れ込めるかい?」

 

「まさか。ガネーシャファミリアは毎年怪物祭(モンスターフリィア)を開いてるんやで?警備だって厳重なはずや。モンスターが紛れ込むなんてあり得へん。逃げ出すなんて事態もな。」

 

「詳しいじゃないか。犯人の目星もついているのかい?」

 

ロキは今回の事件を起こしたのはフレイヤであると睨んでいた。というのも、あの植物型モンスターはともかく、ガネーシャファミリアから逃げ出したモンスター達は人を襲うことはなく、何かに従われるように行動していたそうだ。特にシルバーバックに関しては、ヘスティアを狙っていた。加えてモンスターの見張りをしていた者は涎を垂らして惚けるように伸びていたそうだ。

状況から考えて両方を可能なのは魅了だ。魅了といえば美の神であるフレイヤだ。問題はなぜそんなことをしたか、ではあるが。

 

「・・さぁな。そこまでは分からへん。」

 

だがロキはヘスティアにその考察を伝えることを止めた。単純にそれの推理が大方当りだとしても証拠がなく、フレイヤがやったということを立証できないためであることと、何よりロキから言わせれば頭スッカラカンのヘスティアがいたずらに事を荒立てることをおそれてのことだった。

 

「まぁゆっくり休ませとき。あの気持ち悪い植物はあんたの子供が倒したんやから。」

 

「うん、悪いね。そうさせてもらうよ。」

 

ロキの言葉を受け、ヘスティアはベッドで横になるベルの手を握り、優しく髪を撫でていた。その姿は、家庭生活の神に相応しく、子供をあやす母のようであり、恋人に甘える娘のようでもあった。それを見ていたロキは、当初の予定ではベルが寝ている間にヘスティアから根掘り葉掘り魔術について聞き出す予定であったが、ずかずかと突っ込んだ話を出来る雰囲気ではなかったので、今回は諦めて部屋をあとにした。

ちなみに、ヘスティアは眷属といい感じになっている(?)ような雰囲気をかもし出していたのに対し、ロキは眷属にセクハラは出来ても内にも外にもイイ感じな関係になっている者が1人もいない。

 

(ドチビに先越されてしまうなんてなぁ・・・)

 

一人敗北感にうちひしがれる悪神であった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ん、うぅ・・・ここは・・・」

 

目を覚ましたベルは自分がベットの上で横になっている事に気が付いた。自身の左手を包む柔らかい感触に目を向けると、眠っているヘスティアが上半身をベットに傾け、両手でベルの手を握っているのが分かった。ベルはヘスティアの姿と左手の感触に安心感を覚え、上体を起こし小さく微笑みながら右手でヘスティアの頭を撫でる。

 

『よかった・・・今度は守れた・・・』

 

ベルは無意識のうちにヘスティアを祖父を重ねていた。

唯一の家族の死を認めてしまった過去とは違い、今の彼には過去の自分を払拭するために、自身の二の舞を生み出さんと決心して手に入れた力があった。今回のシルバーバック、植物型モンスター撃退において、ベルは確かに家族となったヘスティアを守ることが出来た。その証拠が今彼の目の前で寝息をたてている主神である。その姿にベルは自然と心が温まる感覚を覚えていた。その感覚の正体が彼にとってヘスティアが一体どのような存在であることからきているのか、家族(ファミリア)として見ていることからか女性として見ていることからなのかはともかく、ベルは左手にある柔らかいヘスティアの手と右手のさらさらとしたヘスティアの髪の感触と大切だと思える存在を守ることが出来た達成感に浸っていた。

 

「んーーー。くすぐったいなぁ・・・」

 

あまりにベルが握ったり撫でたりを繰り返していたためか、少々鬱陶(うっとう)しそうに、だがなぜか心地よさそうにヘスティアが顔をあげる。ベルはヘスティアの顔が完全に上がる前に両手をひっこめた。なんだか急に自身の行動を卑しく思った、いや気付いてしまったためだ。

 

(女性の、しかも主神に、それも本人が寝ている間に体を触るなんて!僕は一体なんてことをしている!自分を正せベル・クラネル!煩悩退散煩悩たいさんnnnn!!)

 

手を握ることも頭を撫でることも大したことでは無いように思えるが、女性経験は当然ながら無いし思春期真っ盛りなお年頃。どこまでが失礼にあたるか、なんて分かるはずもなく。というよりベルの性格上女性に何をしようにも緊張感と罪悪感を覚えてしまうのは目にみえているが。

 

「だ、大丈夫かいベル君!?頭を抱えて唸っているけど、どこか打ったのかい!?まさかあの植物の毒が!?」

 

「い、いえ何でも。ヘスティア様は無事みたいですね。よかったです、本当に。」

 

「ああ!ああ!!ベル君!ベル君!!ベル君!!!」

 

「っつ・・・はい、ヘスティア様。ベルです。」

 

ヘスティアはあふれ出る感情を言葉にすることが出来ず、目頭に涙の粒を浮かべてベットの上のベルに飛びついた。ベルはまだ癒えていない傷に触れられ、鋭い痛みを感じたが、顔には出さず、ヘスティアの抱擁を受け入れた。ヘスティアはそのままベルの胸に顔を埋め、そのまましばらくぐりぐりと潜っていた。ベルは自分の無茶がヘスティアの心配を招き、ベルがいなくなってしまうのではないかという不安から今の状況が出来上がったと思った。

ベルは、ベット脇の小さなテーブルに置いてある神の刃(ヘスティアナイフ)に目を向ける。ヘスティアがベルの助けになりたいといい作ったナイフ。鞘にはヘファイストスの文字があり、駆け出し冒険者のベルには分不相応な代物であることは明白。弱小ファミリアの自分達では決して買えないものをヘスティアは与えてくれた。そしてそのナイフは、魔術回路の増設という本来ならば不可能なことを可能にさせた。それが神の起こした奇跡であったとしても、ヘスティアが自分の無茶を許容し、必ず生き残るという根拠のない誓いを『信じて』くれた結果だと思うと、ベルの内にはヘスティアには親愛に似た何か別の感情、いずれにしても好意的な想いが湧き上がっていた。

 

「ありがとうございますヘスティア様。信じてくれて。」

 

ベルはあやすようにヘスティアの背中をポンポンと優しく叩き、残ったもう一方の手で先ほどと同じように優しく髪を撫でていた。その行動から自然とヘスティアの頭を包み込むような体勢をとっていたベルだが、何故か普段なら感じるはずの緊張や羞恥心を感じることはなく、寧ろこの時がずっと続けばいいのに、と思うほどだった。

 

(そうか。僕にとってヘスティア様はそれくらい安心できる存在だったんだ。)

 

ベルは改めてヘスティアをファミリアの主神としてはもちろん、家族として大事にしていきたい存在として認識した。

 

一方抱き抱えられたヘスティアはというと

 

(うわあああああ!!!ベル君に撫でられてる!背中ポンポンされてる!!いやっふうぅぅぅ!!我が世の春が来たとはまさにこの事だね!!僕からアプローチすることはあってもベル君から何かしてくるなんてことはなかった。でも今!今この瞬間!!僕はベル君から抱き締められている!!!!もう最っ高だね!頭沸騰しそうだよぉぉ!!今日からベル君とおはようするときは芋けんぴを髪につけよう!角から食パンでもいいね!毎日が出会いの場さ!!僕とベル君だけのね!!想像しただけで・・・グへ!グヘヘヘヘ!!あ、やべ。鼻血でそう。)

 

頭から湯気をだし、興奮で顔を真っ赤にさせていた。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「あ、ところでヘスティア様。」

 

「グヘヘ、っとなんだいベル君?」

 

「グヘ!?ってああ!ヘスティア様鼻血が!今拭きますね!」

 

ヘスティアが普段ださない汚い声に驚いたベルだが、鼻血を見て急いでハンカチを取り出すベル。鼻にハンカチをあてるとさっきよりも勢いよく鼻血が溢れてきた。心なしかヘスティアの表情は恍惚さが増した気がする。

 

「ああ、わるいねベルぐん。」

 

「いえ全然。それで話は変わるんですけど、このナイフいくらしたんですか?」

 

「!? え~と、それは~・・・」

 

その質問にヘスティアの表情と鼻血は固まった。それもそうだ。ヘスティアファミリアは新設して一か月もたたない弱小も弱小。一級品の装備を揃えるヘファイストスファミリアの武器を買える金なぞあるはずもなく。いくらヘスティアとヘファイストスの仲が良く、仮に友人価格であったとしても払えるわけはない。だがはあくまで神の刃(ヘスティアナイフ)はヘスティアのベルに対するプレゼント。ヘスティアのプライド的にベルに払わせるなんてことはさせないつもりであったが・・・

 

「いえ、ただ僕たちはその・・・そんなにお金ないじゃないですか。ですから幾らであろうとローンになろうと僕も払います。」

 

ベルとしてはヘスティアが『信じて』くれていることが何より嬉しく、それだけで十分であった。それにこれから使っていく装備の支払いを主神に全て任せるというのはベル自身が許さなかった。

 

「それにいくらであろうと手放すつもりなんてこれっぽっちもありません。大好きな神様から貰ったものですもの。」

 

大胆な告白は冒険者の特権、と言わんばかりにヘスティアに大胆発言をくりだしたベル。当然のことながらその一撃は重くヘスティアにクリーンヒットし・・・

 

「ぐほぉ!!」

 

「ヘスティア様!?また鼻血が!ていうか血の量多すぎません!?ちょ、上向いて!ヘスティア様上向いてください!!」

 

噴水がごとくヘスティアの鼻血は綺麗な放物線を描いて噴出されていた。

 

 

 

 

 

しばらくしてヘスティアが落ち着いてから

 

「で、いくらなんですか?これ」

 

「え~と、これだけ・・・」

 

指を二本出すヘスティア。

 

「20万?」

 

「まっさかー。」

 

まぁそんなわけない。ヘファイストスファミリアの武器は良質なもので大体千万単位である。ベルはその位は覚悟していた。だがまずは希望的観測として低い金額から・・・

 

「ですよねー。200万?」

 

「うーん・・・もう一声!なんちゃって・・・」

 

「2000万ですか?」

 

(そんなもんだよな・・・魔術の研究用に貯めてる魔石売り払うか・・・)

 

だが彼の予想はヘスティアの次の発言で無残にも否定される。

 

「あともうちょっと~~~、なんて・・・」

 

(もうちょっと?もうちょっとってどういうこと・・・?)

 

「・・・2200?」

 

「・・・・・・」

 

(いやいや、待って!待ってくださいヘスティア様!お願い!頷いて!まさか・・・!嘘!うそでしょ!ウソダトイッテ!)

 

ベルの背中に嫌に冷や汗が流れる。それはヘスティアも同様であるようで、白いワンピースが汗で透けて少々肌が見えている。エロい。だがベルの心境は穏やかではなく、そんなことにも気付けない。そして震える声でベルはヘスティアに聞いた。

 

「2億?」

 

「(コクリ)」

 

「Oh・・・」

 

こんなことになるなら師匠(クソ変人)と別れる前に宝石の一つや二つくすねておくべきだった、後悔しながら支払い金額に呆然としたベル。だが臓器と同じで元々魔術回路の本数は個々人で決まっているものであり、その本数を2倍に増やせることを考慮すれば、さほど高い買い物でもないのではないのだろうか?

 

「べ、ベル君。僕もアルバイトで頑張るからさ、二人でこつこつ返していこう。ね?」

 

「hahaha・・・はい・・・そうですね・・・」

 

しかし今の彼にはそこまで働かせる頭はなく、意気消沈していた。次の日、回復した時には「そこまで高い買い物じゃないですね!」とヘスティアに笑顔で言い、金銭感覚のズレに戦慄させたそうな。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

ここはダンジョン10階層。オークなどの大型モンスターが出現しはじめる階層である。そこでオークの集団から必死に逃げる犬人とそれを心底楽しそうに観戦する男の光景がひとつあった。

 

「ひいぃぃぃぃ!!冒険者さま!リリが一体何をしたっていうんですか!!なんでこんな逃げなくちゃならないんですかあぁぁぁぁ!!!」

 

「えー。だって君私の宝石盗もうとしたじゃん。ちょーっとちらつかせたらホイホイついてきたくせに、油断したすきにひったくろうなんて、甘い甘い!ハイパーミラクルマジカル魔術師の私がそんなのを見抜けない訳ないでしょう?あ、それと私冒険者じゃないから。」

 

「はぁ!?嘘言わないでください!恩恵なしにそんなよく分からない術を使えるわけが「グオォォォォ!!!」ひいぃぃぃぃ!?!?!?死ぬ!?今度こそ死んじゃいます!!」

 

「いやいや、よく避けてるよ?これで俊敏だったっけ?のパラメーターカンスト必至じゃないか!あぁ、礼はいらないよ。ほんの親切心さ。ま、せいぜい私に感謝することだね!!」

 

「こんな怪物進呈(パスパレード)されて誰がありがたく思うかあぁぁぁ!!!!」

 

「う~ん。全部君の窃盗未遂が原因なんだけどねぇ・・・」

 

「グオォォォォォォォ!!!」

 

(あ、避けられない。死んだ)

 

「ま、こんなものだろうねぇ。Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)

 

犬人にあたるはずのオークが振りかざさんとした棍棒による一撃は、男が操作したのであろう水銀の斬撃によってオークの腕ごと吹き飛ばすことによって阻まれた。そのほかのオークも、水銀によって瞬く間に魔石に変わってしまった。周囲にモンスターがいなくなったことにより、犬人は安堵からその場に腰が崩れ落ちたように座った。だが彼女を害した根源はまだピンピンしているわけで・・・。

 

「あのー、そんな座り込んで大丈夫?モンスターがいなくなってほっとしてる顔されるとモンスターおかわりさせたくなっちゃうんだけど。」

 

「ひ、ひいいぃぃぃ!?!?ごめんなさいごめんなさい!!リリが悪かったです!!どうぞご容赦を!!!」

 

「えー・・・そこは『この鬼畜!外道!鬼!悪魔!人でなし!』とか言ってほしいんだけど・・・。あーあ、やっぱりクラネル君じゃないと張り合いないなぁ・・・。」

 

男は犬人の反応にかなり落胆している様子だ。天を仰ぎながら(といってもダンジョンの中だが)ブツブツと「クラネル君いじりてぇー。死んじゃう一歩手前にさせてぇー。」などとかなり危険な事を口走っている。その隙に犬人は逃亡をはかろうとするが水銀の塊が彼女を包囲し、逃げることは叶わなかった。

 

「あらあら、逃げちゃだめだよリリルカ・アーデ君?君と交わしたダンジョンを出るまでの荷物持ちの契約はまだ終わっていないだろう?」

 

「な、なぜ名前を・・・あなたに伝えたのは偽名のはずです・・・」

 

「なぁに、別に難しい話じゃない。知っていた。ただそれだけのことさ。まぁそんなことより、君は僕から物を盗もうとしただけではなく契約を放棄して一人で地上に帰ろうとした。こいつはなかなかにヤバイ状況だねよねぇ?」

 

男の声は美声でありながらネットリとした口調でリリルカの精神を追い込んでいく。実際リリルカは先ほどのオークの群れとそれを一瞬で消滅させた男の実力から、逆らえば殺されると思い、その足はガクガク震えていた。その様子を見た男はうれしそうにだが少々物足りなさそうにリリルカに話しかける。

 

「あぁ、別に君をどうこうしようとは思っていないさ。ま、ただケジメはつけてもらわないとね?」

 

「・・・ギルドに出頭しろ、ということですか?」

 

「まさか!それじゃ面白くない!!キミにはある拳法を覚えてもらうことにするよ。死に物狂いでね。あぁ、報酬の方は心配しないで。当初の倍、4万ヴァリスあげよう!」

 

男がなぜ自分の名を知っているのか、いったい自分をどうしたいのか、そんなことを考えることは今のリリルカには出来ず、ただただ男の『どうこうするつもりはない』という言葉を信じて男に従う他なかった。ただ今の彼女でもはっきりと言えることは

 

「さてさて、物語はどう変わっていくのか、そんなことはだいぶどうでもいいけど人が苦労したり苦しんでたりする姿はほんといい酒の肴だよ!ふふふ、愉悦!!メガッサ美味!!」

 

とんでもないクソ変人に捕まってしまったということだ。

 

(あぁ、神様。リリの人生って、一体何なんでしょう・・・)

 

放心しつつ、言われたとおりに拳法の構えをとるリリルカであった。




師匠によって改造されていくリリ。

次回
リリ「八極とは大爆発のことです。」

※この通りに行くかは補償しかねます。


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動きだす不憫な者達 痛い目に遭うのは目に見えている

ちょいと難産でした。
そのうちリリの八極をお披露目します。標的ソーマファミリア。嘘言ってメンゴ☆

※ベル君や師匠など型月世界観の魔術を使うのは魔術師(メイガス)
 ダンまちの世界観で魔導士が持っている杖の先についている魔法の威力を増幅させる魔法石とかを作っているのが魔術師(メイジ)

ややこしくてごめんなさい。


銀英伝タクティクスやってるんですが、所有ネームド3隻のみ。建造で1時間以上こないかなー。ユリシーズとレダⅡはよ。アッテンボロー実装はよ。


迷宮都市『オラリオ』の細道を入った所にある、看板も出さないで、地下で隠れ家のような営む小さな商店が一つ。商店の名は『魔女の隠れ家』、魔導士専門店である。

ランタンの明かりで照らされている薄暗い黒魔術的な店内に、店の雰囲気には似合わない美形のエルフが二人いた。ロキファミリアの魔導士のリヴェリアとレフィーヤである。

 

「まったく、遠征だか何だか知らないが魔法石を4つもダメにするとはね。魔導士の杖の要になる魔法石は私らメイジしか作れない希少品なんだよ。もっと大事に扱ってほしいもんさね。」

 

「分かっている。無下に扱ってはいないさ。」

 

リヴェリアが大きく垂れ下がった鼻と長すぎる爪を持つ魔女帽子をかぶった魔術師(メイジ)の女亭主と会話をする横でレフィーヤは店内の魔道具(マジックアイテム)に目を輝かせてきょろきょろしていた。数ある魔道具(マジックアイテム)の中で、ショーケースの中に入れられた古めかしい分厚い本が一冊。

 

「え!あ、あれって魔導書(グリモア)ですか!?」

 

「まさか亭主、お前が作ったのか?」

 

「いっひっひ、まさか。魔法王国(アルテナ)の知人に分けてもらったのさ。今競売中でね・・・ひひっ、いい具合の値段になってるだろう?」

 

亭主の笑いも当然だろう。魔導書(グリモア)の金額は一千万を超えている。原価がいくらなのかは分からないが、確実に大金が入ってくることは明白である。加えて言えば、魔導書(グリモア)とは一回限りの魔法の強制発現書であり、読めばどんな者でも魔法を使えるようになるが、読んだその瞬間にただの紙の束と化してしまう。市場に出回ることさえ稀であり、殺してでも奪い取ろうとする(やから)も山のようにいるだろう。

 

「当然だな。魔法王国(アルテナ)のものならば魔法スロットを増やすことだって出来るだろう。」

 

「それも上限の3つまでって話さ。魔法を4つ以上使える奴には無用の長物だろ?お前達、魔法王国(アルテナ)の連中に目の敵にされているよ。特にそっちの小娘は(サウザンド)なんて大層な二つ名だ。いっひっひ、夜道に気をつけておくんだね。」

 

亭主にしてみれば挨拶代わりのような脅し文句のつもりであろうが、まだアイズやベートなどと違って闇討ちに遭ったことのないレフィーヤにとってそれは震え上がらせるには十分だったようで、一気に顔を青くさせ、手に持った杖をより一層強く握りしめる。その様子を見て最早脅し文句など慣れっこのリヴェリアは一言文句を言おうとするが、その前に亭主の発した言葉に興味を引かれることとなった。

 

「ま、お前達より注目されている輩がオラリオに来ているそうだから暫くは警戒することもないだろうけどね。」

 

「何?オラリオに?どんな奴なんだ?」

 

(おご)りではないが、リヴェリアは自身が魔導士として如何に特異な存在であるかを理解していた。詠唱を組み合わせ、実質九種類の魔法を使えるのはリヴェリアのみ。だからこその九魔姫(ナインへル)の二つ名である。これまで他のファミリアの魔導士は勿論、メイジからの襲撃も受けてきた。そんな自分より襲われる危険のある者が一体どんなものか、強者の張り合いというわけではないが、単純な興味であった。レフィーヤもまだ少し怖がりつつも、話が気になるようで自然と足を前に進めていた。

 

「ひひっ、小娘も気になるかい?何でも荒唐無稽な奴らしいよ。一度口を開けば相手をうんざりさせるからかい口の嵐。敵であれば身ぐるみ剥いでモンスターの群れの中へ放り出す。だが決して殺しはしない。死んだほうがマシだと思えるほどのことはするらしいがね。」

 

「とんでもない人ですね・・・」

 

「だがそのくらいならオラリオにも山程いるだろう?」

 

「さぁね。私は話で聞いただけだからね。それに注目される理由はそんな人となりじゃない。そいつはね、何でも詠唱なしで魔法を使えるらしいのさ。」

 

「「!!」」

 

冒険者達が使う魔法は、どんなものでも詠唱を必要とする。たった一節のみだとしても、撃つ魔法の名を唱えなければならない。それすらないというのは、現在一般とされている魔法の定義を逸脱したものである。話を聞いたリヴェリアとレフィーヤはまさに開いた口が塞がらないといった具合に言葉をなくしている。

 

「しかもその魔法の威力もすごいらしくてね、軽々と城壁に大きな穴を空けるそうだよ。魔法王国(アルテナ)は勿論、噂じゃラキア王国もそいつを捕まえて陣営に加えるなり魔法を教えて貰うなりしようと躍起になったそうだが、そいつが銀色の液体を変幻自在に操ってあっという間に倒されちまったらしいがね。」

 

「液体を変幻自在に・・・?」

 

そのワードにリヴェリアとレフィーヤの頭に同じ人物の名前が浮かぶ。

 

『ベル・クラネル』

 

二人とも自分で見ることは出来なかったが、アイズたちから聞いた先日の怪物祭で暴れまわった植物型モンスターを退治したという彼が操っていた変幻自在の水。銀色ではなく透明な水の中にキラキラと魔石の輝きを持ったものだったらしいので話とは食い違う。それにベ―トに倒されたことのあるベルの実力からいって城壁を壊すような一撃を軽々と繰り出せるとも思えない。加えてベルが『魔術』を使っていた時、詠唱をしていたことをレフィーヤはしっかりと覚えていた。だが全くの無関係ということはないだろう。現にベルは定義されている『魔法』から逸脱した『魔術』を行使しているのだから。

 

「その人の容姿って分かりますか?白髪で赤い瞳をしているとか。」

 

「やけに具体的だね。目星でもついているのかい?ただ私が聞いたのとはちがうね。私が聞いたのは金髪で長髪らしいよ。」

 

亭主の言葉を受けてリヴェリアとレフィーヤは互いに顔を近づけて小さな声で内緒話を始める。

 

「あの子じゃないみたいですね・・・じゃあ誰なんでしょう・・・?」

 

「もしかするとクラネル君の言っていた師匠でないか?」

 

「! それなら辻褄が合いますね!」

 

ベルではない魔術師(メイガス)といえば可能性としては彼の師匠であることが高い。仮にベルが言ったことは違い、魔術師(メイガス)が彼と彼の師匠以外にいたとしてもベルがオラリオにいる時点で彼の師匠以外の人物であることは考えにくい。

 

「なんだい、こそこそして?まぁいいさ。噂じゃ今も魔法王国(アルテナ)もラキア王国も血眼でそいつを捕まえようとしているそうだ。恐らくオラリオにも来ているだろうね。お前達は目をつけられていない訳ではないのだから用心しておきな。」

 

「あぁ、情報感謝する。」

 

そう言うとリヴェリアは魔法石の代金に多少の色をつけて支払い、レフィーヤと一緒に店内から出ていった。有用な情報には正当な報酬を。このような気を利かせないとギルドや大手ファミリア以外との売買はなかなか成り立たないものである。外の新鮮な空気を肺に入れたリヴェリアは警戒するにこしたことはないと考え、黄昏の館(ホーム)に帰ってフィン達と情報を共有することにした。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

早い朝のオラリオの街は少々肌寒く霧が立ち込めている。冒険者達が皆ダンジョンへと向かう中、ベルは広場の噴水の近くのベンチに腰かけていた。大股で座り、肘を膝においてうなだれている姿は、束の間の昼休憩を公園のベンチで過ごす木曜日のサラリーマンが如くである。普段の彼なら冒険者たちの列が出来る前にダンジョンに入るのだが、今日はサポーターの確保を目的としていたため、まだダンジョンには潜っていなかった。あまりにも階層を進んで行くペースが早いベルにエイナが足かせの意味も込めてサポーターをつけることをベルに提案したためだった。ベル自身もモンスターを倒したはいいがいちいち魔石の回収をするのを面倒くさく思っていた部分があったため、エイナの提案にのることにした。

サポーターならダンジョンの入口付近で冒険者に自身の売り込みをしているものだとエイナから聞いていたため、何人かに声をかけたのだが、ベルの年齢と冒険者になってまだ一か月たっていないことを知られると『No』を返されてしまった。クソ師匠(変人)にモンスターの群れに突撃させられたなどの経験を持つことから言えばベルはlv1冒険者として良物件なのだが、いかんせん判断する相手はそれを知らないし、ベルもただ「僕のサポーターになってください!」と言葉足らずに突撃していくため、イエスを返してくれる者はいなかった。

 

「見つからないなぁ・・・サポーター・・・」

 

思わず口に出してしまうが、言ったからといって出てくるものでもない。自分のつぶやきがダンジョンへと向かう冒険者の群れの中に無残に消えてゆくさまを見るのみであり、自然とベルは溜息をこぼした。

 

「はぁーーー・・・」

 

「はぁーーー・・・」

 

ベルの溜息につられようにどこからか吐き出された溜息がベルの耳に入ってきた。その溜息に顔を上げると、さほど離れていない別のベンチに、身体の3倍はありそうなリュックを横に置き、ベルと同じような体勢でうなだれているフードを被った小人(バルゥム)が一人。ベルはその姿に親近感が湧き、自然と足が向いてしまった。

 

「あの・・・どうかされたんですか?」

 

「・・・え?」

 

「(うわ・・・ひどいなこりゃ・・・)もしよかったら、朝ご飯一緒に食べませんか?」

 

ベルの声に顔を上げた小人(バルゥム)。目には深い隈があり、唇はカサカサ。顔も若干青く、倦怠感MAXと言わんばかりの表情である。ベルは小人(バルゥム)の状態を気の毒に思い、朝食に誘うことにした。

 

 ・

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「それであのクソ変人、何したと思います!?リリのことをモンスターの中にもう一度突っ込ませた挙句、自分は微々たるポーションをそこら辺に『飽きたから帰る。君に使ったポーション代は報酬から引いておいた』って手紙と一緒に残していなくなったんですよ!!信じられますか!てめぇがリリを突っ込ませたんだからポーション代はテメェが持てって話ですよ!!おかげでリリの報酬は皆無。文句を言おうにも相手はどこの誰とも分からない変人。居場所だって分からずじまい。もうやってやられませんよ!!ウワァァ━━━━━━ン!!!!」

 

「分かる・・・分かるよ・・・!変人でクソ野郎な奴ほど手に負えないものはないよね・・・泣いていい・・・今君は泣いていいんだ!!!」

 

リリルカは自分を食事に誘う駆け出しオーラ満載の少年冒険者を不審に思いつつも、おごってくれるということで着いていった。普段の彼女ならば自分が秘密で溜めているお金を狙った冒険者ではなかろうかと警戒するところなのだが、先日怪物進呈(パスパレード)まがいのフルコースと半分真面目な八極拳なる訳の分からない拳法を叩き込まされたことからの疲労からそれが叶わなかった。あるいは、少年の本気で心配する眼差しにあてられたのかもしれない。リリルカは少年に促されるまま、なぜ疲れ切っているのかを一つ一つ説明していった。本来ならサポーターであるリリルカがモンスターに追いかけられ続けたのに生きていたり、モンスターを拳のみで狩れるまで特訓をさせられたなど、信じがたい話ではあるが、少年は一つ一つ頷き、まるで自分も体験したことがあるような、今リリルカが一番欲している返しをしてくれたため、思わず愚痴が弾んでしまい、最終敵に泣き叫ぶにまで至ってしまった。少年の優しい言葉に促され、リリルカはクソ変人自称魔術師への鬱憤を吐き出した。

 

「グズ・・・ずみまぜん、迷惑がげじゃって・・・」

 

「いえ、迷惑なんてそんな。僕から誘ったことですから。それより、気分は落ち着きました?」

 

「はい・・・ありがとうございます。あの、私リリルカ・アーデと言います。どうぞリリとお呼びください。」

 

「僕はベル・クラネルです。こちらこそよろしく。」

 

ベルとリリルカは互いに顔を見て自己紹介をした。リリルカの表情は、目元が涙で濡れ、赤くなってはいるが、隈は薄くなり、血の気を取り戻した顔色となっている。ベルはその様子に自然と笑みがこぼれた。

 

「ところで、ベル様は広場で何をなさっていたんですか?今日はダンジョンに潜らないつもりだったとか?」

 

「ベル様って・・・ベルでいいよリリ。実を言うとサポーターを探してたんだ。でも誰も相手にしてくれなくてね・・・」

 

「ベル様は冒険者になってどのくらい経つんですか?」

 

「ベル様って呼び方は直すつもりないのね・・・えーっと、まだ一か月経たないよ。」

 

ああ、成程とリルルカは納得した。パーティも組まずに潜る駆け出しなど、精々潜れて4階層位だ。本人ですらまともに稼げるか怪しいのに、サポーターへの賃金を支払えるはずもない。リリルカも普段であれば適当にあしらう。冒険者などいつでも見限ることの出来るクズの集まりだと思っている彼女だが、ダウナーだった自分を良心で引き戻してくれた相手ならばと、普段はさほど働かない恩返しの精神が働いた。

 

「・・・もしよかったらリリがベル様のサポーターになって差し上げますか?」

 

「え!いいの!!是非よろしくお願いするよ!ありがとうリリ!」

 

数多くの冒険者から弱者(サポーター)としての扱いをされてきて、幾人も見限り、盗人をしてきたリリルカだが、目の前のお人よしな駆け出し冒険者とは健全な関係を保っていけそうな予感がしていた。

 

 

 

 

ところで、なぜ二人がこれほどまでに過酷な体験をした、というよりさせられたことに親近感を湧いたのか。それはクソ師匠(同一人物)によって仕掛けられたためであるが、そのことを二人が知るのはもう少し先の話である。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

「あの男はまだ見つからんのか!遠路はるばるオラリオまで来たというのに尻尾すら掴めんとは!」

 

「そうは言いますが隊長殿、オラリオはいかんせん人が多すぎます。似たような人間など山ほどいるのでは?」

 

「あんなクソ野郎が何人もいてたまるものか!奴にどれほどの辛酸を舐めさせられたと思っている!今度こそ捕まえて、本国に送る間に痛い目に遭わせてやる!!グギギギギギ!!」

 

「(これはしばらく放っておいたほうがよさそうだな・・・)」

 

騒ぐ男のそばには、そっぽを向いている男が2人いる。この男たちは、ベルの師匠を捕まえて陣営に取り込まんとラキア王国から派遣されたlv3冒険者一人とlv2冒険者2人の精鋭部隊だ。初めに人攫いまがいをしろと命令された時は不満を感じていた男たちだったが、捕まえる相手の性格が悪過ぎて何度も手玉に取られたことと、いくら追跡しても煙にまかれて捕まえられないことから、躍起になってしまっていた。

 

「キヒ、ヒヒヒヒヒ。どうやら上手くことは運んでいないようだねぇラキアの。」

 

「誰だ!」

 

「お、お前らは魔法王国(アルテナ)魔術師(メイジ)ども!」

 

どこからともなく霧と共に現れたのはフードを深く被った黒装束で杖を持った3人。あまりにも怪しい外見は一目で魔術師(メイジ)と分かる。しかし魔術師(メイジ)とは基本的に魔術師(メイジ)同士か魔導士としか交流のない生き物である。それがなぜラキア王国の兵士を知っているのかというと、ベルの師匠を捕まえるという共通の目的の上でまとめて反撃に遭い、モンスターの群れに放り投げられるなり、貴重品を全て奪われるなり、共に痛い目を見てきたため、互いに顔を見る機会が多かったからである。

 

「はっ!俺たちにそんな言葉をかけるとは、お前らもあの男を捕まえることは叶わなかったようだな!」

 

「ぐ、ぐぅ!!お前らに言われる筋合いはないよ!それよりも、今日は提案を持ってきたんだ。どうだい?私らと手を組んで奴を捕まえないかい?」

 

「そんなもの無理に決まっているだろう!貴様らだっていつも失敗するくせに!」

 

「まぁ話は最後まで聞きな。奴自身を捕まえるんじゃない。奴の弟子を餌におびき寄せるのさ。」

 

「はぁ!?あのクソ野郎の弟子って、確かあの白髪のガキか?」

 

「そうさ。偶然そいつを見つけてね、あのガキは奴のお気に入りだ。捕まえれば必ず奴も現れる。そこで捕まえるのさ。」

 

「成程・・・一理あるな。」

 

「隊長殿、自分の記憶が正しければあの子供は我々以上にひどいことをされていた気がするのですが・・・」

 

ラキア王国の兵士の発言は正しく、彼らが防具なし、ただし剣は持っている状態でゴブリンの群れに突っ込まされた横でベルは、装備が一切ない状態でギリギリ死なない程度にポーションをかけられて師匠お手製の強化ゴブリンの群れに突っ込まされていた。横で見ていた者としては自分達よりひどい目に遭っていた子供をさらうというのは心苦しい話ではあるのだが・・・

 

「ええいうるさい!我々は目的のためには手段を選んでいられんのだ!マキャベリズム万歳!魔術師(メイジ)ども、その話にのろうではないか!わっはっはっは!!」

 

「キ、キヒヒヒヒ。いいねぇ、そうこなくちゃ。キヒヒヒヒヒヒ!!」

 

「うわぁ・・・これっぽっちも上手くいく気がしねぇ・・・」

 

「何を弱音を吐いている!いざとなったら貴様の魔剣が頼りなのだぞ、クロッゾ!しっかりせんか!」

 

「はぁ・・・善処します。」

 

クロッゾと呼ばれた赤毛のラキア王国兵士は溜め息混じりに隊長の檄をあしらった。

 

 

 

「・・・まぁいいか。俺も、魔剣がどのくらいあの人に追い付けたか、見てもらいたいしな。」





New改変キャラ

ヴェルフ・クロッゾ
ラキア王国兵士 アレス・ファミリア
現在lv2
魔剣は作っているけど・・・?

次回、ヴェルフが改変したきっかけから始まります。勿論、師匠が原因



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