ゴッドイーター ベテラン新型さん (chaosraven)
しおりを挟む

序章
ゴッドイーター 新型のベテラン神機使い 設定集 ★


登場人物の中でオリジナルのキャラクターと、所謂うちの子をこちらへ書いております。

嫌な方は直ちにブラウザバックを、
読んでいただける方はどうぞお進みください。



オリジナルキャラクター

 

 

【挿絵表示】

 

 

 アークレイン・レグナゲート

 2041年5月8日生まれ

 出身地はフィンランド

 

 2056年フェンリル本部に入隊

 2062年新型神機開発に伴う試作機適合者として

神機をスナイパー型から新型試作機へ更新

 2063年フェンリル極東支部へ転属

 

 以降 2071年現在で年齢は30歳になるが、未だに投与された偏食因子との適合率に大きな変動もないまま安定し続けているため、現在も引き続き神機使いとして活躍している。

 なお神機使いの最長就役年数を更新中である。

 階級は大尉。

 

 詳細は次話の本文にあるが、ヨハネス支部長の所謂引き抜きによって半ば無理矢理極東支部に連れて来られたという過去があるため、当時は日本語を全く喋れず通訳が必須という状況が続いていた。

 その通訳を雨宮ツバキ少尉(当時)が引き受け同時に日本語の教練も受けた事により、現在では日本語での意志疎通にはなんの問題もない。

 またそうした経緯から、雨宮大尉と弟の雨宮リンドウ少尉とは非常に仲が良い。

 

 

 戦闘力という観点『だけ』で見れば間違いなく極東最強の神機使いであると言われるが、整備班の者たちからは別名『神機殺し』と言われる程の凄まじい神機の扱い方をする事でも有名。

 

 特に支部長が発行する特務に於いて接触する禁忌種との戦闘では、必ず何処かしらのパーツが大きく破損した状態でアナグラに戻ってくると言われる程である。

 

 このため、かつてより極東支部の名エンジニアである楠父娘にしかメンテナンスが出来ないとされる為、彼の神機には楠父娘が専属メンテナンス師として登録されている。

 楠リッカとはこの縁を通じて親密な関係を気付いている。

 彼女はアークレインに対し只の兵士と整備士という関係に収まりたくはないようだが、本人はその感情を敢えてスルーしている節がある。

 

 

 飄々とした性格で結構フランク。

 仕事上の上司部下の関係もあまり意識させない立ち振舞いをするので、形式ばった振る舞いの苦手な人間も自然に空気に溶け込める様である。

 

 一応の立場は大尉という階級があるものの本人は所謂叩き上げの人間であるせいか彼自身もフランクな接し方を望んでいる様子がある。

 

 

 ちなみに第一部隊の隊長であるが、蒼皇隊員が入隊した時点で相当数の特務を任される立場になっているため、第一部隊隊長の座をリンドウに譲る事を本気で考えているようである。

 

 

 使用する神機はロング・スナイパー・バックラーの三種類。

 ただし彼の神機は、第2世代型の試作型神機をそのまま実戦仕様に改造、流用した物である。

 そのため、神機本体の柄の部分やアーティフィシャルCNSを内蔵したパーツから伸びる各武装パーツのサイズが、現在開発されている第2世代の量産型と比較して小さい。

 

 また、試作型ゆえに搭載された機能も数多くあり、今日に至るまで蓄積された新型神機の戦闘データが、数ある機能の中から要・不要の取捨選択に貢献したのは言うまでもない。

 

 

 うちの子

 

 

【挿絵表示】

 

 

 蒼皇 飛鳥(あおがみ あすか)

 2053年8月6日生まれ

 出身地は日本

 

 2071年に同期の藤木コウタと共に極東支部へ入隊した、極東初の『初めから新型』の神機使い。

 年齢は18歳。

 

 セミロングの若干色素の抜けた金髪に澄んだ碧眼、色素の薄い日本人離れした肌と日系の顔が特徴。

 

 能天気な性格で基本細かいことはあまり気にしない主義だが、頭の回転を含め身体能力は全体的に(偏食因子に適合する以前から)高く、運動神経も抜群に良いためか任務中よく無茶な行動をする(そのくせ本人はケロっとしているため、端から見るとなお心臓に悪い)ので、雨宮ツバキ大尉からマークされている。

 

 

【挿絵表示】

 

 ※訓練中の様子 雨宮ツバキ大尉にしっかりマークされているのが分かると思う

 

 アナグラに来てからというもの、時たま同じ部隊の隊員に対しちょっとしたイタズラを敢行することが多々あるが、イタズラの目標から逃走する際にその高い身体能力をフル活用して逃げるせいか、今のところはアークレインを除いて捕らえられたことはない。=才能の無駄遣いであることに何時本人は気付くのかは誰にも分からない。

 

 一方で仲間の精神の機微には非常に敏感で、落ち込んでいる者を見かけると持ち前の明るさで励ますといった風に隊員とのコミュニケーションは良好である。

 前述のイタズラについても越えてはいけないラインであったり、しても良い雰囲気ではない場合の状況を読んだ上で行うため、イタズラが原因で何かしらのトラブルを起こしたことは今の所ない。

 

 

 戦闘センスについては目を見張るものがあり、訓練だけでなく実戦においても素晴らしい戦果を上げるだろうとリンドウ達は読んでいる。

 

 現時点で使用する神機はロング・スナイパー・ショットガンの三種類である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴッドイーター 新型のベテラン神機使い 序章

補足を最初にしておきますと、リンドウさんの入隊は2061年ということなので
アークレインさんの5年後輩ということになりますね。
しかしそんな事はフランクな性格の彼には関係ないでしょう?と思ったので
リンドウさんとオリキャラであるアークレインさんを互いに絡ませております。

時間軸は2070年の後半、極東初の『最初から新型神機使い』の彼女が
入隊する少し前の時期から物語は始まります。

では、どうぞ


「一つ聞きたいんだが、お前はなんで此処に来たんだ?」

 

 唐突にリンドウからそんなことを聞かれる。んなこと言われたって俺の意思に関係なく極東へ連れて来られたのだから、此処に俺が来た理由を問われても答えようがない。

 

「その理由はヨハネス支部長にでも聞いてくれよ。極東に来た理由に俺の意思は入ってないからな」

 

「え?強制的に連れて来られたってのか?」

 

「ああ?そうだよ」

 

 

 へー!と驚いた様に言うリンドウ。普段は飄々としてある程度の余裕を持っている彼が珍しく、心底から驚いたという表情を浮かべている。

 

 

「俺の意思に関係なく極東へ来たのがそんなに意外だったのか?」

 

「ん?ああいや、お前は元々本部からこっちに来ただろ?支部長からはエイジス計画の為に尽力してくれる素晴らしい神機使いだって聞いてたもんだからよ、てっきり自分の意思で来たもんだとばかり」

 

「エイジス計画ねぇ...。まあ仕事だからそれに貢献しなきゃなんねえ立場なのは覆しようがないんだが。にしても支部長のヤツはンなこと言ってやがったのか。後で文句の一つ言ってやらにゃぁな」

 

「おー怖い怖い」

 

 

 おどけて言うリンドウは同時に肩を竦めてみせる。その様子を見て溜め息を吐く。昔は溜め息した分だけ幸せが逃げるとか言ったらしいが、そんなことを言ったら今の溜め息一つでどれ程俺の幸せが逃げるというのだ。

 

 なんてどうでも良いことを考えながら今自分が乗っているエレベーターのゲートに目を向ける。向かう先は神機保管庫。目的は自分の神機を取りに行くこと。

 ガクンと揺れたのちブザー音と共にゲートが開く。各々の神機が収納されている台座へ歩み寄りながら、今日の仕事について考える。

 

 今日はリンドウと二人で仲良くダブル『デート』である。お相手は非常にじゃじゃ馬で我が儘な彼女、しかも『デート』は支部長直々の頼みである訳だが、あの人の無茶苦茶な『デート』の割り振りには毎度毎度本当に気が滅入る。

 いっぺん自分で行ってこいと支部長にかましたくなる位には中々面倒なお相手なのだ。

 

 

「リンドウ、今日のお相手も相当のアレだぞ?この前みたいに間一髪を間違えてたら頭をガブリ!なんていうふざけた無茶は止めてくれよ?あん時は咄嗟に投げたグレネードが効いてくれたから良かったが...」

 

「あぁ...もう流石にあんなヒヤリとしたことは御免だしやらねえよ。カミングアウトすると、あの瞬間俺はチビってたしな」

 

 

 せっかく真剣な表情で反省してるのかと思えば、そのあとの台詞をヘラヘラしながら言うもんだから雰囲気台無しである。しかし、過去を引き摺らない性格は生きてく上でマイナスになることはあまりない。ここでネガティブになられて『デート』の最中にミスでもされればそれこそ大問題なので、そんなことになるよかポジティブに考えた方が絶対良い。

 

 

「まぁまぁそんな過去の事は良いんだよ。また同じ失敗を繰り返さなけりゃな」

 

「次同じミスをしようもんなら今度こそお前は死ぬだろうけどな」

 

「ハハ、違いねえ」

 

 

 頭をガシガシ掻きながら笑うリンドウ。こんな適当な性格をしている奴だが、戦場では既にベテランクラスの神機使いであり、他の人間を連れていけない『デート』へ出向く時のとても頼れる戦友でもあるのだ。

 ただ、その際の報告書やら何やらは殆ど全部俺に回してくるなど、デスクワークに関してはポンコツなのが玉にキズだが..

 

なんにせよ、これから共に戦いなれた戦友と共に無茶苦茶な内容の『デート』へと出向くのだ。

 

 

「リンドウ、"彼女"を喜ばせる準備は出来たか?」

 

「おうよ。お前も準備万端か?レイン」

 

「ああ」

 

 今間違いなく俺はニヤリと笑っているだろう。

 

 

 一つの些細なミスがすぐに死へと直結するようなこのクソッタレな職場だが、俺は恐らく元来からの武人気質なんだろう。強い相手と出会うとある種の心地よい高揚感を覚える。終わった後はストレッチが必須だったりと内容は非常にハードな『デート』だが、俺はある意味『デート』を楽しみにしているのかもしれない。

 

 

「お前も相変わらず趣味悪いニヤケ方すんなぁ。女の子が見りゃ一瞬で逃げるぞ」

 

「やかましい、自覚はあるがお前だけには言われると何故か腹立つ」

 

「やれやれ、ひっでえ奴だなぁ」

 

 

 互いに言葉を掛け合いながら、台座から出した相棒たる神機を持って、出撃用の通路へと歩く。

 

 そしてアナグラから外部居住区のさらに『外』へと繋がる最後の隔壁が開いたのを待って、戦友へと言葉を掛ける。

 

 

「んじゃあ、まだちーっと早いがリンドウ」

 

「ん?」

 

「何時もの事だが、背中は預けたからな?」

 

「おう!任せとけ」

 

 

 その言葉を聞いて安心した。隔壁の外に秘密裏に用意されたオフロードへと、俺達は静かに向かった...

 

 

 

-----

 

 

 

「んぁーっと、今日も『デート』は辛かったなぁ。今日だけでいつもの3倍は動いた感覚があるぞ?」

 

「あぁ...。もう手続きとか全部ほっ放り投げて今すぐベッドにダイブしてぇよ」

 

 

 ここは神機保管庫。『デート』を終わらせて帰ってきた俺とリンドウは、オフロードを所定の場所に隠すように置いてきた上でここに戻ってきた。

 

 今日の『デート』もまた実にふざけた面倒臭さだったのは、リンドウの『いつもの3倍は動いた』という台詞から察して頂けるだろう。外界と保管庫を繋ぐ通路に設けられた複数ある内の最後の隔壁を開けると、ターミナルをタカタカと操作している女子高生がいた。

 

 

 黒松高校とかいう学校の黒のブレザーに緑を基調としたチェックのフレアスカートを履いたその女子高生は、何故か制服に普段仕事をするときに着用するゴーグルと分厚い手袋も着用しながらターミナルを操作している。

 

 隔壁が開く事自体は年がら年中起きているので特に気にも止めていないようだが、一瞬チラリと見た神機使いが俺達二人であるのを認識した彼女は作業を止めて此方へ振り返る。

 

 

「お帰りなさい、リンドウさん。それとお帰り、レイン兄」

 

 

 『お帰り』

 この言葉を聞くことは一見すると当たり前のようだが、神機使いを含む神機使い達に関わる全ての人間にとっては、当たり前の事という要素は消える。

 

 制服を着たままターミナルを操作している彼女・・・楠リッカはそれを自身の父親のKIA(作戦行動中死亡)によって嫌という程思い知らされた内の一人だ。

 かく言う俺達だって、次の『デート』の時にどちらか...或いは両方死んでしまうかもしれない。戦場に出ず、ただ待つしかない者にとってはとても辛い事だろう? だから俺は、いや、俺達神機使い達は精一杯の感謝を以てこの言葉を相手に掛けるべきだろう。

 

 

「「ああ、『ただいま』」」

 

 

 それを聞いた彼女・・・リッカは安心した様な表情を浮かべたかと思うとすぐに真剣な表情になって俺達を見る。

 いや、正確には俺達の『相棒』へ慈愛の眼差しを向ける。フムフムと時おり一人頷きながら神機の様子を確認し終えると、目の笑っていない飛びっきりの良い笑顔を浮かべ、

 

 

「それで?今度は一体どんな無茶をしたらこんな傷が神機に付くのかな?」

 

 

 リッカ嬢はこめかみに青筋を立てながら何処からか取り出したバールを片手に質問なされた。

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

「まったく...。神機をもっと大事に使って欲しいな。仮にも自分の命を預ける大切な相棒だよ?リンドウさんはまだマシな方だけどレイン兄は本当に毎度酷いよ。神機がホントに可哀想で可哀想で...、そこんとこ分かってる?」

 

 

 数十分に渡るお説教の末、半ば諦めも込もった呆れの表情を浮かべるリッカ嬢。

 

 正直な所、リンドウの神機は装甲展開用のパーツは比較的マトモな動作をするなど、損傷の状態は酷いの中でもまだマシなレベルに収まっている。が、俺の神機の場合は『第二世代型』であるために、旧型のそれよりもより複雑な機構を用いているわけであり..。

 

 

 ちなみに損傷の状態を大まかに述べるとまず、近接・遠距離の武器の切り換えを行うときに明らかに異常だと分かる『ギチィッ!』という金属の擦れる音がする。これはリッカも「なんでこんな音がするの!?」と驚くようなもの=激しい損傷の可能性あり・・・ほどで、普通に戦えばまずこんなことにはなり得ない。

 普段使ってる時にはこんな物騒な音は鳴らないから、まあ言わなくとも分かる事だよな。

 

 

 次に装甲パーツの展開が不可能。これによりアラガミの攻撃からガードして身を守れない。原因は『デート』のお相手からの熱の込もったピンタだったのだが、それにしたって見て分かる程壊れ方が酷い。素人目に見たって分かるのだから、専門の人間からすれば言葉も出ないと思う。

 

 

 そして1番致命的なのが、捕食や切り換えを行う為のスイッチがある取っ手の部分が本体から3分の2ほどを残してその先がポッキリ逝ってること。

 神機使いはよく、神機から腕輪へと伸びているオラクル細胞の触手を媒介して神機を操る全ての命令を出しているのだと思われがちだが、それは違う。あくまで神機から伸びる触手はいわゆる『使用者の認証』の為にのみ使われているようなもの。

 

 では捕食であったり武器の遠近切り替えにはどのように動かすのかというと、先ほど述べたスイッチを押すことでそうした制御を行うのである。今回はその制御システムが損傷することで捕食が出来ず、バーストも出来ず、結果として今日の『デート』が長引く原因となった。

 

 神機の場合、この取っ手の部分が逝っちゃうと後々かなり整備が面倒臭い。

 神機の中枢であるコアに直接指示を出す媒介パーツを兼ねている為、ここがやられると一部のアクションが出来なくなってしまう。下手をすれば銃を撃つことや装甲の展開も出来なくなる(俺の神機がまさに今その状態)のでかなり致命傷であると言える。

 

 

「レイン兄がハチャメチャに無双するのは構わないんだけどさ、せめて神機が耐えられる範囲で無双してほしいんだけど。お父さんが亡くなってからというものの、レイン兄の神機をマトモに直せるのは私しかいないんだから、私の仕事を増やさないで欲しい事を分かってくれないかな?」

 

 

 ふたたび目の笑っていない飛びっきりの笑顔を向けるリッカ嬢。そうは言われてもな...

 

 

「あぁなんだ? 俺もさ、出来うる限り抑えてはいるわけでさ? 任務の内容は機密だから言えないが、それでもコイツが在るから俺はこうして帰ってこれてるわけだ。なるべく壊したくないのは俺も同じだけど、状況がそれを許してくれないっていうか...さ?」

 

 

 最後にちょっと爽やかなスマイル(になってる筈)を浮かべて問い掛けるが、リッカは一瞬顔を赤くするも直ぐに表情を戻して。

 

 

「それでもだよ、お願い...。こんな凄まじい壊れ方をして戻ってくる度に、私は本当に心配になるの...神機もそうだけど、レイン兄の事が凄く心配になるの...」

 

 

 言葉を紡ぐ毎に段々弱々しくなっていく声色は最後にはか細いものになる。そしてリッカは俺の胸に顔を埋める。胸の辺りが湿ってくるのを感じて、申し訳なさが込み上げてくるが...

 

 

「リッカ、ありがとう。俺のやってることは仕事だからなぁ、拒否は出来ねえんだけど、一つ必ず約束してやる。どんなに神機がぶっ壊れたとしても、俺は必ずアナグラに戻ってくるから。俺の神機が俺を生かしてくれてるのは単にリッカのメンテナンスのおかげだし、リッカも俺の神機をメンテナンスする機会が無くなるのは嫌だろ? これからも多分無茶はしちまうけど、必ずアナグラに戻ってくる、これじゃダメか? リッカ」

 

 

 帰ってきた返事はポカポカと胸を叩く猫パンチだったが、これ以上の約束は出来ないのでこれで勘弁してもらうしかない。

 

 

「...もう!レイン兄のバカっ!」

 

 

 と捨て台詞を吐くと、エレベーターへトテテーと走り去っていく。

 

 

「ちょっとからかい過ぎたかね?」

 

「ふぃー、モテる男は辛いね~」

 

「けっ」

 

 

 とは言え、リッカの言うこともまたその通りなので、なるべく神機の扱いには気を付けようと思った。もっとも、その意思がどこまで行動に反映できるかは戦況次第だが...

 

 

 

-----

 

 

 

 『アークレイン・レグナゲート』

 それが俺の名前だ。

 

 冒頭で述べた通り、本部からこの極東に支部長の引き抜きで連れて来られた俺は、突然の異動ということもあって最初は日本語を全く話せなかった。

 

 そもそも異動するという事実を把握したのもなんと当日の異動数分前という、普通社会としてどう考えてもフザケてるとしか思えない”トンデモスケジュール”の組み方をされて、あちらの本部統括長に何故か飛行場へ呼び出された途端にあれよあれよという間に連れて来られたのだ。

 

 何の備えもしていない俺は当然極東の共通言語である日本語なんて話せる訳もなく、転属初期の頃はコミュニケーションが出来ずとても苦労した。

 

 

 そんな俺を救ってくれたのが、リンドウとその姉であるツバキちゃんである。

 彼女はこの極東支部の中で数少ない英語を話せる人物で、俺とコミュニケーション可能な貴重な人物であったのだ。

 当時部屋に戻る度に意思疎通ができない事への精神的疲労でぶっ倒れてた俺にとっては、まさに救いの天使みたいに感じられたのは言うまでもない。

 リンドウとは姉弟繋がりで知り合い、彼からはいわゆるスラングに分類されるような軽口等を教わったり酒を飲んだり、と交流を続けていくうちに、気が付けば親友という間柄になっていた。

 

 何だかんだ適当な性格をしているものの友達想いの良い奴なのだ。

 

 

 そんなリンドウだが、今は俺の自室にあるテーブルを挟む形で対面しつつ『デート』の書類を片づけている最中、しかし本人は机に突っ伏してうだーっとしている。

 

 根っからの現場主義であるコイツは神機使いの隊長格としては致命的欠点と呼ぶべき要素を抱えている。先程述べた通り、デスクワークに関しては本当にポンコツなのである。

 

 

「リンドウ、今日こそは手伝わねえぞ?俺は俺の分だけやるからな」

 

「勘弁してくれよぅ..。俺はこんなにも死にそうになってるのに...」

 

「...ハァ」

 

 

 思わずこめかみに手を当て溜め息を溢す。

 

 普段のリンドウならばこうしたデスクワークはコイツの彼女であるサクヤにでも放り投げるのだが、今回は『デート』=『特務』のためにその手は使えない。特務と言うだけあって任務そのものの機密レベルも高く、限られた者以外には見せられないのでツバキちゃんに頼る手も使えない。

 

 

 

 結論:頼れるのは俺だけ

 

 

 

 もちろんリンドウに割り振った仕事の量もそれなりにあるので、自分の分に加えてコイツの分までもやりたくはない。何としてでも避けたい。何しろあれだけ神機をぶっ壊す程の激戦を繰り広げたのだ、さっさとベッドにダイブして意識を手放したい。

 

 

「なぁ頼むよレイン、俺このあとサクヤとの約束があるんだよ。今回も悪いけどちょっと頼まれてくんねえか?」

 

「俺はお前よりも動き回ったのにこうやって書類を始末出来てるんだ。俺にできて何故お前に同じことが出来ないのかを具体的かつ理屈の通った説明を出来た場合にのみ頼まれてやろう」

 

「なぁ、今回は本当に時間がヤバイんだっt」

 

「やかましい」

 

 

 尚も引き下がらない往生際の悪さを見せるリンドウだが、もしサクヤとの約束が本当だとしても(過去にそうした理由付け=逃げる口実の『ウソ』を吐かれ、騙されて仕事を肩代わりしたことがある)今日だけは絶対に逃がさん。何としてでも自分の仕事を終えるまではここから出さん。

 

 

「なぁ...」

 

「やかましい!遅れると一言連絡を入れればそれで済むことだろうがっ!恨むんなら自分の過去の行いとデスクワークのポンコツぶりを恨むんだな。このバーカ!ポンコツ!」

 

「チキショーッ!!」

 

 

俺は()()()()()()()()()()()()

 

 それを漸く理解したリンドウは頭を抱えて悲痛な思いを叫ぶ。一応言っておくが、こんな結果になっているのはリンドウの自業自得である。

 

 

 頭を抱えながらも自分の分の書類の山を見てゲンナリするリンドウ。しかし突っ伏していてはいつまで経っても終わらない事を頭では理解している為、なんとかノロノロとペンを取り書類へサインを始める。

 が、1枚書いて始末済みのボックスへ書類を動かしさあ2枚目というところで再び机に突っ伏す。今度はうだーという効果音すら流れない程に疲弊しているらしい。

 

 

「たった100枚の紙に自分の名前を書けば良いだけだろうが!グダグダしてねえでさっさとやっちまえッ!!!」

 

 

 雨宮リンドウ、実戦では頼れる戦友だがデスクワークでは糞みたいなポンコツ野郎。このペースだと今日は俺の部屋に泊まり込みか...

 

 

 結局リンドウは深夜3時過ぎにようやく書類へのサインを完了し、部屋を貸していた俺もリンドウも共に寝不足になったのは言うまでもない。




今回の『デート』の内容については各自のご想像にお任せしますが、
とにもかくにも凄まじく倒すのが面倒臭いアラガミのオンパレードであった
ということだけははっきりと宣言しておきますね(笑)

ちなみに神機の扱いに関するシステムについては
アニメ版のレンカ君が扱う新型神機での描写を元に描いています。
これで神機の柄の部分にあったオレンジ色のパーツが何の為にあるのかを
ようやく理解することができたシーンでもありました。

一応は公式が出した描写なので当方が出していくGEは
アニメ版の設定も幾らか加味しながら物語を進めていきたいと思います。

新型の神機使いちゃんとコウタ君が入隊するのは
まだ先になりますが、もうしばらくお待ち下さい・・・


P.S.2018/08/02 一部文章の修正及び、より細かな段落わけを実施。多少は見やすくなったかと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴッドイーター 新型のベテラン神機使い 中章

お待たせしました、第2話です。
うちの子のボイスは女性18番を想定しております。


「そういやお前、今度の適合試験は目玉の新人が来るって話聞いたか?」

 

「人を目玉商品のように扱うなよ。それとそんな話は俺は聞いてねえけど、どんな新人が来るってんだ?」

 

 

 ロビー2階にあるソファーで炭酸飲料を片手に、俺ことアークレインとリンドウはつかの間の休息を楽しんでいた。

 

 

「それがよ、何でも適合審査の段階でのデータベースの照合の最中に『新型』と適合する候補者が見つかったんだと」

 

「へぇ?あの恐ろしく適合しにくい『新型』にとうとう型の合う奴が現れたってか...」

 

 

 新型神機、正式には第二世代型神機と呼ばれるそれは、現状主流となっている第一世代型とは異なり遠近両用型の汎用性の高い神機である。

 ただしその複雑な機構を制御する上で神機使いに投与するP53偏食因子になにやら少々特殊な培養を施さなければならないらしく、その影響で適合できる候補者が一気に絞られてしまう。

 

 

 俺はその記念すべき第一例として現在も相棒片手に戦っているわけだが、本部にいた頃から研究者たちに口を酸っぱくして『絶対死ぬなよ(貴重な研究対象だから)』と言われていたものだ。

 要するに、俺が初めてこの第二世代型に適合して以降、新たに量産型の新型に適合できたのは本当に指で数えられる程しかいないのである。それがここにきてまさかの極東で適合者発見だというので少々驚く。

 

 だが、俺の元にそんな情報は届いていない。果たしてリンドウはどっからこの情報を仕入れたんだ?

 

 

「(しかもこの話、あんまり大きな声で言えねえけど、ヒバリちゃんから直で聞いたネタだからな)」

 

 

 ...士官として破ってはいけない守秘義務を堂々と無視して話していることが判明。しかもオペレーターまで、一体何をしていやがるんだお前たち。

 

 

「(...お前ら二人とも後で支部長室送りにしてやらなきゃならんようだな)」

 

「「なんでだ(ですかっ)!?」」

 

 

 息もぴったりのタイミングでリンドウとヒバリが同時に声を上げる。というか、ヒバリは地獄耳なのか?幾ら俺たちのくつろぐソファーのすぐ真下に受付があるとはいえ、1フロア上での小声の会話の内容をバッチリ掴むとは。

 

 

「当たり前だ!」

 

「そんな!横暴です!!」

 

「そうだそうだ!」

 

「...軽度とはいえ情報漏洩は問題だと思うが?特にヒバリ、お前の行動は尚更だぞ」

 

「うっ...」

 

 

 竹田ヒバリ、極東支部のオペレーターを務める17歳の若き戦友の一人。例え直接戦わなくたってサポートをしてくれるのだから俺にとっては戦友なのだ。

 彼女は普段の仕事ぶりは文句なしのキッチリした物で、たまにミスこそあれどそれを部隊員がフォローに回る様子を見せるなど、周りや実働隊員との信頼関係も築けている。

 

 が、どうも時たまノリが良すぎることがある。その結果が例えば今のような情報漏洩だったりする。ましてや、この3人の中では最も階級が高い俺にその情報が回ってきていない(ヒバリは適合候補者のデータベースと支部が管理する神機のデータを閲覧・照合する権限があるため例外だが)所を見るに、おそらく漏洩してはダメな情報ではと思う。

 

 

「とりあえずこのことは支部長に報告な・・・っと、電話?誰からだ?」

 

 

 二人に刑罰を加えることを宣言したと同時に俺の携帯端末が着信を告げる。発信者を見ると画面には支部長(クソ野郎)の文字が出ている。

 

 

「喜べお前ら、ちょうど支部長からお呼び出しがかかったぞ。はいもしもし?」

 

『突然ですまないね。実は今から行われる適合試験に、君にも参加してもらいたい。なに、いつもの神機への適合失敗の際の介錯を頼みたいんだ』

 

「あー了解いたしました。それと支部長、それが終わったらご報告したい事があるので少しで構いませんからお時間をください」

 

『分かった、手短に頼むよ。では、第三訓練場に至急神機を持って来てくれたまえ』

 

 

 そういうと支部長の方からブツッと一方的に通話を切られる。相変わらず事務的で可愛げのない野郎だと思いながら端末をポケットにしまうと、リンドウの方を向いてニヤリとしてやる。

 

「つうわけでお前らの行動の報告決定な。そんな重い処分じゃねえだろうが・・・まぁ覚悟しとけ」

 

「「ガァーーーーーン」」

 

「...お前ら何か打ち合わせでもしてるのか?」

 

 

 再び息の揃った絶望のリアクションをとる二人を尻目にエレベーターヘ向かう。神機保管庫へ行き先を指定し、しばらく待っていると扉が開く。

 入れ替わりにツバキちゃんとすれ違うが、特に話す事もないので目線だけで挨拶をして乗り込む。他にエレベーターへ乗る者もおらず、俺一人を乗せて神機保管庫へと下っていく。

 

 

(ったく、支部長も適合試験をやるのに人手が要るってんなら前もって連絡くらい寄越せっての。こちとら、テメエが次から次へと発注かける『デート』のせいでクタクタになった体を休めてたってのに...)

 

 

 バレると実にいい笑顔でさらに仕事を増やされるのは目に見えているので、決して口には出さないが。

 

 

-----

 

 

 ヴィーンとエレベーターのゲートが開き、神機格納庫へと到着する。誰もいない無人の格納庫に備え付けられたターミナル端末をタカタカと操作をして、対アラガミ装甲に使われる素材でコーティングされた神機収納ケースを取り出す。

 

 

「にしても、神機使いの介錯ってのも嫌な役回りだな。適合に失敗した場合、取り込んだ神機固有の偏食因子を体に適合される前に”絶命”させる...。俺って絶対に呪われてるんじゃねぇのか?」

 

 

 なんて一人愚痴りながら格納庫の出撃ゲートへ歩みを進める。

 

 

 ところで神機使いが扱う相棒ともよべる神機。実はこれ、誰もが扱えるわけではない。

 ”武器が”装備する人間を選ぶなんていうような、まるでアラガミが発生する前にそこら中の先進国で流行ったファンタジーみたいな要素がある。

 もちろん魔法や呪いといったようなオカルティックな要因ではなく、現在のオラクル技術できちんと説明できる科学的な根拠によるものだ。

 

 

 というのも、神機使いは自らの体にオラクル細胞から抽出した”偏食因子”という一種のアラガミを構成する素となる細胞を投与している。

 さっき言ったP53偏食因子というのも、数ある偏食因子の中から比較的人体への投与を行った際にも危険性が少ないとされる偏食因子であり、現在の神機使いは一部の例外を除いたほぼ全てがコレを体に有している。

 

 

 で、この偏食因子というのがどんな役割を果たすのかというと。

 

 大雑把に言えば『人為的に調整されたアラガミ』である神機が、装備者であるパートナーの神機使いを喰わない様にするための誘導装置だ。なに?なに言ってるのか全く訳わからんって?

 

 

 そもそもアラガミを構成するオラクル細胞というのは、考え捕食する、それを実行していく一個の”単細胞生物”である。

 単細胞なのになんであんなデカイ生き物がそこら中を闊歩してるのかというと、単細胞が他の単細胞と強固かつしなやかに結合しあってあの形を生み出している。つまり、オラクル細胞という生き物自体は”単細胞”だが、オウガテイルやザイゴートといった俺たちが目にするあのアラガミは”単細胞が集った”多細胞生物”と言える。

 厳密には多細胞生物とは全く異なるんだが、とりあえずはそういうことで理解してくれ。いわゆる似て非なる者ってやつで、その辺の説明はややこしくなる。

 

 

 でだ、全てのオラクル細胞に共通する要素があり、それが俺たち神機使いが『ゴッドイーター』と呼ばれる所以でもある”捕食本能”というやつだ。それは人間に作られたアラガミである神機も全てに例外なく有している本能であり、もちろん、外を闊歩している野生?のアラガミたちも全てが有する本能である。

 

 だが捕食本能とは別にもう一つ、オラクル細胞が持つ性質がある。それが『偏食』という性質、つまりは食わず嫌いの特性だ。

 全アラガミに共通する要素として、自分と姿や形質が似ている存在はよほど自分の空腹が酷く他に食べられる様なものもない状況でない限り、基本的に捕食しないというなんとも変な性質を持っている。

 

 

 

 ここで最初の話が繋がってくる訳だが、P53偏食因子を始めとする人体へ投与されている偏食因子というのは、これまた大雑把に言うと装備する人間を獲物として食いたくなくなるよう神機に思わせる因子である。というか、偏食の傾向をコントロールしてそうなるように調整したのが偏食因子という細胞なのである。

 

 そしてここが最も厄介なポイントなのだが、”神機は人を選ぶ”というのはつまり、神機一つ一つによってわずかに”偏食”の傾向が異なっているということ。おかげさまで、偏食因子もその神機に合うように培養や調整の仕方を変化させなければならない。

 ようするに、神機の数だけ神機を扱うのに必要な偏食因子の調整パターンは増える。

 

 だが、偏食因子というのは先も言った通り謂わば細胞の一種であるため、人間それぞれの個体全てに適応できうるかといったら決してそんなことはない。

 

 偏食因子を投与しても体がそれを拒絶するか、あるいは偏食因子自体が投与された新たな依り代を受け付けず捕食するか。

 人間が偏食因子に適応できなかった場合、そのどちらかのプロセスを経て最終的には人体を依り代としたアラガミと化してしまう。

 

 ゆえに、偏食因子に適応できる人間は限られているし、その性質から神機もまた基本的に一人につき一本しか使えないのだ。先ほどの呪われているのか? という独り言も、このことが理由である。

 

 人体を依り代としたオラクル細胞は、原因は分からないが非常に多種多様な変異を遂げる傾向がある。

 これもまたややこしくなる話なのだが、またまた大雑把に言うと、人体をベースとしたアラガミはオラクル細胞の強固な細胞結合が他の自然発生したアラガミと比較して、『より硬く、よりしなやか』になると思えばいい。

 

 

 つまり、他の神機やアラガミによる『オラクルが食い裂く』という過程を経た攻撃は、人間を依り代としたアラガミに対しほとんど意味のないものになってしまう。まさに『無敵のアラガミ』の誕生となるわけだ。

 

 そしてそれは、神機の適合に失敗した人間に起こりうる現象であり、その場合、既存の神機で倒せなくなる...。

 つまり、オラクルが特異な変異を遂げる前に迅速かつ確実にアラガミを抹殺する必要性がある。適合失敗から抹殺までの一連の流れのことを、フェンリルでは『介錯』と呼ぶ。

 

 

 そんなお仕事を俺は支部長から任されたのだ。

 もっとも、昔と違って現在はコンピューターによる適合候補者の選定精度はとても高い基準を維持しているため、適合失敗が起こる可能性は非常に稀だ。

 しかし万が一適合に失敗した場合、ぐずぐずしているとあっという間に誰も勝てない無敵のアラガミへと変貌してしまうので、適合試験の際はかならず裏で神機使いがいつでも飛び出せるように待機するのだ。

 

 

 さて、神機も取り出せたし、訓練場へと向かうとしようか。訓練場と格納庫はエレベーターではなく通路で直接歩いていける。自分の相棒の入ったケースを片手に持ちながら、少々早歩きで第三訓練場へと向かう。

 

 

 訓練場の扉へ近づくと共に、支部長の何を考えてんのかを読ませない”不敵な”とでもいうか、俺にとっては聞いてて実に不愉快な声が聞こえてくる。

 

 

『少しリラックスしたまえ。その方が良い結果が出やすいからね』

 

 

 どうやら今回適合試験を受ける新入り君はもう既に訓練場へ入ったようだ。というか、まだ俺の準備が出来てない段階で新入りを入れるなよと言いたい。

 介錯をさせるにしても実行するのは俺なわけで、準備が整っていなければ出来るもんも出来ない。急いでケースから神機を取り出し接続を行う。うむ、この間は柄の部分がポッキリ逝ってたのにも関わらず相棒はご機嫌な様子。さすが楠家のメンテナンス能力は頼りになるなと感心する。

 

 

 

 ポケットから携帯端末を取り出して支部長の番号をコールする。するとすぐに訓練場の中から『すまない、業務連絡というやつだ。くれぐれも『そのまま待機』してくれたまえ』という支部長の声が聞こえるとほぼ同時に通信がつながる。

 

 

「あー支部長、お待たせしました。現場配置完了『arkraine(アークレイン)』何時でもいけます」

 

『うむ。そのまま神機を構えたまま待機、必要な際にはすぐにコールをかけるよ』

 

「了解いたしましたよー」

 

 

 ブツッと通話が切れると同時に「このクソ野郎」と忘れずに付け足しておく。

 

 

「さぁーって、それじゃ俺も適合失敗が起きねえように祈っておいてやるかね」

 

 

 あくまで直ぐに飛び出せる体制を崩さずに、そんな不幸な事故が起きないように神頼み位はしてやろう。としようとしていた所で...

 

 

「おっかしーなぁ、第三訓練場って多分この辺なんじゃないかと思うんだけど...あっ、ここの関係者さん見っけたから聞いてみよう! おーい、そこの神機持ってる金髪のお兄さーん!!」

 

「ああん??」

 

 

 能天気そうな可愛げのある声に、いかにも能天気そうな喋り方、あんまりにも訓練場という場所に似合わない、無邪気という印象がぴったりな女の声が後ろから聞こえた。

しかも神機を持った金髪のお兄さんというのは、どう見たって俺しか有り得ない。

 

 

 声のした方に振り向くとフェンリル支給の制服を着た少女がタッタッターとこちらに駆けてくる。

 若干色素の抜けた金髪のセミロング、日系の顔つきに白人のように色白な肌に綺麗な碧眼を持つ少女。右腕に赤い腕輪が装着されていないので、今日適合試験を受ける新入りの一人なのだろう。しっかし、まだ正式にフェンリル(うち)のメンバーになったわけではない彼女の案内役はどこへ行ってしまったのだ?

 とりあえずまずは彼女の相手をしてみよう。

 

 

 

「よう、神機持った金髪のお兄さんってのはもしかしなくても俺のことだな。さて新入り、ここフェンリル極東支部へ来るにあたり案内を務めていた関係者はどこに行ったんだ?」

 

「えーっとですねー、途中でなんか緊急の招集が掛かったみたいでして。代わりを寄越すって言われたので待ってても全然こない内に適合試験の時間になっちゃって、それで仕方がないので自力で適合試験を行う第三訓練場を探してた所なのでーす」

 

 

やっぱりマズかったですかね? てへっ☆という感じで話す新入り。

 

 

(コイツの案内役を任された奴には説教だなこりゃ)

 

 ちなみに案内役本人がこの瞬間、体をブルリと震わせたのはここだけの話である。

 

 

「ああ、本来ならお前は銃で射殺されても文句は言えねえことをやってるんだが...。今回のはお前の言い分を聞いた限り明らかにこちらの不手際だから、特に気にするこたぁない。さてと、お前が目的地としていた第三訓練場ってのは、この扉の奥だ。この奥で、ゴッドイーターになるための試験が行われる手筈になっている、そうだな?」

 

「あ、は、はい!私は事前の説明でそう伝えられました!」

 

「ふむ...」

 

 

 

 とその時中にいる新入りのものであろう激痛に叫ぶ少年の声が響き始める。

 

 

 

『うあぁぁぁぁぁぁぁァァッッッッッあああアァァァァッッッッ!?!?!?!?!?』

 

「ひっ...」

 

「始まったか...」

 

 

 少年の悲痛な声を聞いて思わず怯えた様子を見せる少女。それも無理はない。

 

 現状世界で唯一放送されている公共放送網において、神機への適合試験というものはあくまで『アルコールパッチテスト』と同じくらい簡単なものだと表現されているが、実際は中にいる新入りの少年がこんな叫びをあげているように、そんな生易しいもんではない。

 

 

 何しろ自分の体に”異物”である偏食因子を『腕輪の接続と同時に無理やり』押し付けて固定するのだ。新入りが叫びをあげるのは、異物であるはずの偏食因子が体に無理やり文字通り”侵食している”から。それがどれほどの激痛を生み出すのか、それは経験した者にしか分からないが壮絶な痛みなのは確かだ。

 もちろん、そんなことを大々的にオープンしてしまっては、志願して神機使いになろうという存在が減少してしまうことが多いに予想できるため、適合試験の実態は公には伏せられているのである。

 

 

 目の前で怯える少女は今、その現実を知ったというわけだ。

 

 本来ならば、この叫び声が聞こえない控え室に隔離して待機させておくことで、こうした現象による不安や苦痛、また、それによって生じる適合率の低下からの神機による捕食を防ぐためのタイムテーブルが組まれているはずなのだが...。

 その予定が狂ってしまったことにより、少女に要らん不安要素を植え付けてしまったようだ。

 

 

 

「新入り、怖いか?」

 

「は、はい...怖い、です...」

 

「そうか。まあ普通こんな状況になったら誰だって怖い。ただ、もちろんそりゃ最初は悶えたくなる程には無茶苦茶痛いが、それに耐えられれば神機使いになれる。一番まずいのはここで心を不安一色に染め切っちまうこと。自分は必ず試験をパスするって思ってれば大丈夫、きっと神機使いになれるさ。っておっと、お前さんは神機使いになりたくなかったってことはないか?」

 

「い、いえ、これも仕方の無いことだって分かってますし納得もしてますよー?」

 

「ふっ、そいつは結構。では、多分これが終わったら次はお前さんの番だ。新入り、頑張ってこいよ」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 

 

 どうやら多少は緊張を解せたようだと少女の顔を見てホッとする。

 

 さきほど何故神機使いになりたくなかったのでは?と聞いたのか。答えはこの世界の現状の権力の縮図にある。

 

 アラガミが出現した時以来、当時はただのフィンランド発祥の穀物産業資本であったフェンリルは、アラガミを構成するオラクル細胞の研究に文字通り全身全霊を懸けて尽力してきた。その結果として、今俺が持っている神機であったり、地球上の資源がほとんど壊滅した現状を支えるオラクルを利用した技術であったりを生み出し、現在の世界を支えている。

 

 ターミナルからアクセスできる電子資料にも(思わず自分で書くなよとツッコンだが)『フェンリルは事実上の世界の盟主である』と表記しており、そしてそれはまぎれも無い事実である。

 

 外部居住区で日々アラガミに怯えながら暮らす人々への無償の配給であったり、電力の供給であったり、フェンリルがいなければある基準以上の生活自体がもはや成り立た無い。

 しかし一方で、配給の生産が需要に対してどうしても追いつききれていないという点も問題としてあり、ときどき外部居住区住民による配給の増量や質の向上を訴えるデモが起きたりもしている。

 

 

 そんな彼らからしてみれば、命をかけてアラガミと戦っているとはいえ、その見返りにある程度の資材や食料を優先的に受け取れる神機使い達はいわば『特権階級』と呼べる。

 ゆえに神機使いのことを快く思わない人も現実として存在するのだが、ここで思い出してほしいのは、フェンリルは無償での配給を行っているということ。それ自体はこのご時世に当然だと思うだろうが、それは裏を返せば世間では”フェンリルによって管理されることを承諾した”という風に取られる。

 

 つまり、フェンリルによって配給はもちろんながら、自分のパーソナルデータも全てフェンリルに提供し、フェンリルから何らかの招集があった場合には従わなければならない。『配給をして助けてやっているんだから、お前が必要な時には必ず役に立ってもらう。拒否権は無い』という大前提が、フェンリルの庇護下に入る全ての人物に当てはまるわけだ。

 

 

 

 その招集の最も一般的な例がこの”神機への適合試験”である。これが来た場合、よほどの代わりとなる何かをフェンリルに『税』として納めない限りは拒否出来ない。たとえその者が、フェンリルに対して良くない感情を抱いていたとしても関係はないのだ。

 

 

 以上のような背景があることから、上官としてはこうした精神的・内面的な要素もしっかり配慮をしてやらなければならない義務があるので、彼女に先ほどの問いをしたのだ。彼女自身はパッと見て話してみたところ、この手の話題について特に気にしている様子はなさそうだ。

 

 

 

 と、しばらくしていると少年の叫び声が聞こえなくなり、同時に、

 

 

『おめでとう、君もこれで晴れてゴッドイーターの仲間入りだ。用意が整うまで、控え室で待っていてくれたまえ。気分が悪いなどの症状がある場合はすぐに申し出るように。君には期待している、頑張ってくれたまえ』

 

 

 支部長の声が聞こえた。

 

「お前の同期はどうやら無事に試験をパスしたみたいだぞ」

 

「そうみたいです..ね」

 

 

 訓練場の扉が開き、先ほど適合試験を終えたであろう赤みがかった茶髪の少年が訓練場から出てくる。

 

 

「よう新入り、適合試験お疲れさん。所でさっき待ってろと言われた控え室の場所をお前さんはわかってるか? 分からないならすまんが俺と一緒にここで待機だ。もう一人のこの新入りの試験が無事にパスしたら一緒に案内するが」

 

「あ、はい!いえ問題ないです、ちゃんと場所は伺ってまいりましたので!」

 

「お、そうか。んじゃあ頑張ってくれよ新入り。さっきも言われたと思うが、気分が悪くなったら遠慮をせずにすぐに周りの人間を呼べ。これは大事なことだからな? 分かったか?」

 

「了解です!そ、それじゃ俺、し、失礼します!」

 

「おー迷うなよー」

 

 

 一瞬少年の肩がピクンと跳ねたが気にせずそのまま歩き去って行った。事前に地図は渡してあるはずだし、気にしなくても問題ないだろうと結論付けて、目の前に立つもう一人の新入りを訓練場へと誘導する。

 

 

 

「大丈夫だ、自分を信じろ。そうすればちゃんと試験はパス出来るはずだ。俺はここでお前を待つことしかできねいが、ここでちゃんと待っててやるから、行って来い」

 

「そうですよね...ここで止まっててもダメですよね!」

 

「おう、その心意気で試験も乗り越えてみせてくれよ」

 

「はい!それじゃ先輩、行ってきまーす!骨は拾ってくださいねー」

 

「おーう頑張れよー」

 

 

 『骨は拾ってください』ねぇ...。もし彼女が適合に失敗した場合、本当にそういう事態になりかねないので洒落になっていない。が、そこにツッコンでまた不安にさせるのは愚の骨頂なので適当に手をフリフリしながら返す。

 

 

 

 そういえば、リンドウ達から聞いた極東初の『初めから新型神機使い』というのは、あの二人のうちのどちらなのだろうか?情報ソースが全適合候補者リストを閲覧できる権限を持つヒバリであるからには、情報そのものの信憑性はかなり高い。

 

 なんにせよ、後で支部長に二人の立ち振る舞いの報告がてら問いただせばいいだけの話だ。

 

 支部長の二言三言の言葉の後に響く激痛に苦しむ彼女の悲鳴を聞きながら、呑気なことにぼんやりとそんなことを考えていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴッドイーター 新型のベテラン神機使い 終章

お待たせいたしました、書き直しを再掲載します。

結局本編第一幕はまだ完成していないのですが
なんとか今週末には掲載したいところですね...

それではリライト版プロローグ終章をお楽しみください!


 結論を言おう、彼女の適合試験は無事に終了した。わざわざ俺が神機を持ち出したのが無駄になって良かったと思う。支部長にリンドウ達の悪事の報告がてらどちらが新型なのかを聞くと、後に適合試験を行った彼女が極東初の『初めから新型の神機使い』なのだそう。

 

 いずれにしたって、新兵はほぼ必ずと言っていいほど俺が指揮する第一部隊へ回ってくるのである。理由はうちの隊だけ、部隊員の生還率が90%オーバーしているというありがたーい数字の記録を持っていることによる。

 

 が、他にも理由があるのだ。

 第三部隊にいる守銭奴コンビ(バカふたり)の元へやっちまったら新入りは多分新人イジメを受けて本気で泣いちまうだろうし、かといって第二部隊には、極東どころか世界中のフェンリル支部や本部で最高の誤射率を誇る(大尉の権限で調べたから間違いない)砲姫(キャノンガール)がいるので、おそらく実戦で虐められる結果になるだけ守銭奴コンビ(バカふたり)よりもある種(たち)が悪いかもしれない。

 

 一方第一部隊は一部ぶっきらぼうな奴(ソーマのばかやろー)がいたりもするが基本はなんだかんだ仲間思いの奴が多い。それに加えて生存率の高さも相まって、新兵の初の実地訓練にはうってつけの部隊なわけだ。後輩を育てるという面においても、ぶっきらぼうな奴(ソーマのばかやろー)はさておきとして、リンドウやその彼女で幼馴染みである橘サクヤにはリーダーシップも期待できる。

 

 

 

 と、先に適合試験を終えた彼と彼女のこれからの展開を軽く見据えた上で、先ほど出会った時とは違いデカイ赤の腕輪を装着して目の前に立つ少女に話しかける。

 

 

「お前さんもとりあえずは適合試験の無事通過おめでとさん。さてこっからいよいよお前と、先に行ったあの少年は新人の神機使いとして仕事をしてく訳だ。

 がまずは、新人の教練担当との顔合わせやらメディカルチェックやら・・・。要は今日のうちにやらなきゃならん事が山積みになってるんでサクッと済ませるぞ。とりあえずは俺がここから教練担当との顔合わせ場所(必ずエントランス受付前のロビーである)にお前を案内してやる。そっから先は教練担当にお前の先導をバトンタッチ、以降は担当者の指示に従うように。良いな?」

 

「はい!よろしくお願いしまーす」

 

「んじゃ、行くぞ」

 

 

 少女を先導しながら神機保管庫への道を進んでいく。金属で出来た硬い床を踏むたびにコンコンと音が鳴り、周囲に反響する。しばらく歩き神機保管庫にたどり着くと、神機がぞろっと並んでいる光景が珍しいのだろう。付いてきた少女があちらこちらと目を向けるのがわかる。

 

 

「ふふ、生きていればそのうちこの光景も慣れてくるよ。新入りクン」

 

「おーリッカ。仕事ついでに悪いんだが俺の相棒を仕舞っといてくれないか?」

 

 

 今回は普段の作業時の服装をしているリッカ。相変わらず油の付いた手袋でそのまま頰を拭う癖が取れていないのか、可愛らしいほっぺが油で汚れている。あのほっぺはプニプニしていて柔らかく、触り心地は最高なんだがなぁ。ん?ちょっと待てよ?

 

 

「リッカ、お前ってもう高校は卒業してるよな。前に俺の神機の柄がポッキリ逝ったあんとき、なんでお前制服着てたんだ?」

 

「うっ!?」

 

「しかも格好は手袋つけてゴーグルつけて。正直言うとあのジャンルの違う服装とアイテムを、いくら仕事中だからといって混ぜるのはちょっとガサツ過ぎると思うぞ?」

 

「べ、別にいいじゃない!レイン兄に見て欲しかったなんて、これっっっっぽっちも思ってないんだから!!」

 

「へぇ〜?そうなのかぁ」

 

「ニヤケ顏でからかうんじゃないよ!」

 

 

 顔を真っ赤にして腕をブンブン回しながらうろたえるリッカ。ちなみに今自爆した事を彼女はおそらく気付いていないだろうが、俺にはこの後ろにいる新人を教練担当まで引き継ぐという仕事があるので、この場はこれにて失礼させてもらうとする。

 

「んまぁいいや。とにかくリッカ、相棒の収納を任せるわ。俺はこれから新人を連れてかなきゃならんから、また後でな〜」

 

「んもぅ...」

 

 

 頰をプクーっと膨らませて抗議の視線を向けてくるが、お前がそれをやっても嗜虐欲を煽るだけである事に彼女は気づく日が来るだろうか?

 

 

「行くぞ〜新人」

 

「あっ、は〜い。では失礼しま〜す」

 

 

 新人もリッカに一礼した後テクテクと俺の後ろにつく。神機格納庫にあるエレベーターのコンソールを操作して行き先をエントランスに指定する。扉が開くとエレベーターには誰も乗っておらず、そのまま新人と二人で乗り込み扉を閉じる。しばらくしてガコンと揺れるとエレベーターが止まり扉が開く。フェンリル極東支部、通称アナグラのエントランスへの到着だ。

 

 

 エントランスで駄弁っていた何人かの神機使いが新人に目を向け、ヒソヒソと話をし始めるがスルーする。

 新人をヒバリがいるエントランスの一階にあるソファーに座らせる。既にここへ来ていた赤みがかった茶髪の少年も、足をブラブラさせながら暇そうに座っていた。

 

 

「さてお前たち、女の方にはさっき話したが改めて説明をザクッとするぞ。これからお前らには、腕輪との適合率やら体の調子を測定するメディカルチェックを受けてもらう。

 それが終わったら今度は訓練場にて、実際に神機を適合させた状態での実働訓練だ。その次の基礎知識を叩き込む講習を経たら訓練と座学を繰り返し、その後は教官の判断によっていよいよ実戦配備...だ。ここまででお前ら、何か質問はあるか?」

 

「特にありませーん」

 

「俺も、今のところは...」

 

 

 少年の方は俺を前にして若干緊張している様子だが、少女の方は少し慣れてきたのかね。だいぶ間延びした能天気っぽい話し方に口調が戻りかけている。

 

 

「じゃあお前らはここで待機してるんだ。何かあったらそこのカウンターにいるあの女の子に指示を仰ぐように。

 ちなみにお前ら新人の教練担当者は既に引退した神機使いだが、自他ともに甘さを許さない鬼教官だ。腑抜けた態度を取ってると本気でシバかれるから、その辺は十二分に気に留めておくこったな。つうわけで、俺は仕事があるんでこれで失礼するぞ。頑張れよ?」

 

「「はい!!」」

 

「よぅし、いい返事だ」

 

 

 新入りの威勢の良い声に死ななければ良い神機使いになりそうだと感心しつつ、カウンターにいるヒバリへミッションの受注をする。

 ヒバリから提示されたのは俺には少々難易度の低い任務であったが、わけを聞くと守銭奴コンビ(バカふたり)の一角である『小川シュン』が、身の丈オーバーな任務を受注して案の定というかなんというか、救援要請を出しているのだそう。

 しかも、報酬をケチったのか同行人数は一人だけのようだ。報酬は人数に応じて山分け分配される方式のため、多い人数で任務を受注すれば手取り分の報酬金額は減るというわけである。だがな...

 

 

「...あのバカは一遍本気でシバき倒してやらねえと分かんねえか?」

 

「えーっと、私からはコメントは差し控えさせていただきますね...」

 

 

 そういって乾いた声でアハハハハ...と苦笑するヒバリを見て思わずため息をつく。どうやらお互い苦労をしているようである。

 

 

「ヒバリ、今度またあいつが身の丈に合わねえ任務を受注しようとしたら問答無用で拒否してくれて構わん。グチグチ文句いって引き下がらねえ場合は俺の名前を出していい。そこまでやってもまだ引き下がらない場合は、ツバキちゃん召喚だ、できるな?」

 

「了解しました!」

 

「うし、じゃあ頼んだぞ。ヘリの手配を回しといてくれ」

 

「はい!」

 

 

 オペレーターとしてのヒバリに要件とシュンへの対策案を伝えた上で、再びエントランスのエレベーターに乗りこむ。10分も経たない内に神機保管庫へ現れた俺を見たリッカは、先の件のことが原因なのか少々ふくれっ面をしているが、気にせず要件を伝える。

 

 

「悪いな、急の簡単な任務が入っちまったんで相棒が入り用になった。さっき一応取り出した時に軽くチェックはしたが、メンテは万全だよな? リッカ」

 

「...ふふっ、もっちろん♪ どれだけレイン兄の神機を診てきたと思ってるのさ!」

 

「そうだな、悪い悪い。じゃあ神機を取り出したらちょっくら行ってくるわ。いつもの礼といっちゃあれだが、冷やしカレーあとで奢ってやるよ」

 

「約束だかんね?」

 

「おう」

 

 

 話しながらも保管庫の機器を制御する機械をリッカはタカタカ操作する。あっという間に丁度俺の真横に来る位置に俺の相棒が収納されたケースが展開される。展開されたケースから神機を取り出して腕輪と接続、軽く一降り二振りして神機そのもののコンディションを確認するがどうやらバッチリなようだ。

 刀身パーツの反りの部分(俺の神機の刀身はロングの刀シリーズだ)を肩にかけながら、神機保管庫とアナグラの外へ通じる通路を隔てる隔壁へと進む。

 

 

「レイン兄、行ってらっしゃい」

 

「おう」

 

 

 後ろを振り返ると、満面の笑顔を浮かべたリッカの姿があった。こちらも笑顔で返しつつ背を向けてからのサムズアップで答える。

 

 

 さあて、あのシュン(クソバカ)をどうやってシバき倒してやるか...

 

 

 

----

 

 

 

「チックショウ...こんな任務は俺一人でも出来る筈だったってのに...!」

 

 

 ここは贖罪の街と呼ばれる場所。

 アラガミたちの『食べ残し』である現代の世界においても比較的過去の建造物を残しているエリアである。周りにはまーるく抉られた穴の空いた高層ビルなどが乱立するなど、過去の人間が思い浮かべる自分たちの未来とは到底信じられないような無茶苦茶な光景も含まれてはいるが。

 

 

 そんな場所にアナグラから派遣されてきた神機使いが二人いた。一人は第一世代の遠距離型スナイパー使いのジーナ・ディキンソン、一人は第一世代の近接型ロング使いである小川シュンである。

 

 この任務を受注したのは彼・・・小川シュンなのだが、もともと彼はこの任務を一人でこなすつもりであった。なぜか? 答えは参加人数が増えれば増えるだけ自分の報酬の取り分が減るからである。だがオペレーターのヒバリが言う分には、この任務には最低でも二人以上四人以下であたれという規定が設けられているとのことで、シュン一人での任務報酬の独り占めは出来ないというわけであった。

 

 なら別の任務にすれば良いと思うだろうが、実はこの任務、討伐対象の難易度の割に報酬の額が破格レベルで高い。

 

 具体的に言うと、オウガテイル・コクーンメイデン・ザイゴートの所謂小型アラガミを一定数討伐し、コアを回収してくるというもの。

 中型種であるコンゴウやシユウなどがそこに加わると少々状況は変わってくるが、現時点で小型アラガミしか確認されていないという事であるならば、それは神機使いとしてそれなりのキャリア(ただし時間だけ)を積んだシュンにとっては楽チンな任務であるように感じられる。つまりは楽して荒稼ぎができる美味しい仕事という訳だ。

 

 彼が任務概要に書かれている”ある一文”をきっちり見逃していたから、そういう結論に至ってしまったとも言えるのだが...

 

 

 

 彼が受注した任務の概要欄には以下のように記述されている。

 

 ”贖罪の街に出現した無数の小型アラガミ群を撃破しコアを回収せよ。討伐対象はオウガテイル・コクーンメイデン・ザイゴートの三種類である。

 ただし対象は地中に無限とも呼べるべき膨大な反応が確認されている。討伐者は『一定数の目標の撃破とコア回収を終えた時点で帰投せよ』”

 

 

 ようするにエンドレスよろしくアラガミが次から次へと出てくるぞ〜という訳である。

 

 なので、討伐任務に出向くものはいつ囲まれても良いように対策をすべしと言外に概要欄に書いてあったのだが、報酬の額に目が眩んだ彼は当然この最も大事なポイントをスルーした状態で任務を受注。

 それなりに付き合いのあるスナイパー使いのジーナを連れて二人で現場に出向いたところにいきなりアラガミの軍団に囲まれた挙句、対策を怠ったために反撃もままならなくなり止むを得ず救援要請を送ったのである。

 

 

「シュンッ、よそ見するんじゃないの!この数は幾ら何でもキツ...い!!」

 

「分かってるってのっ!クソッ邪魔だこの固定砲台(メイデン)!!」

 

 

 目の前にただ動きもせずその場で攻撃をするアラガミ、コクーンメイデンをぶった斬る。ブレード型の神機がコクーンの体を袈裟懸けに深く切りつけ鮮血が飛び散ってゆく。

 おそらくコアまで斬ってしまったかもしれないが、今の彼らに一体ごとのアラガミのコアをいちいち回収している余裕も時間もありはしなかった。

 

 

「シュンッ、伏せなさい!!」

 

「うぉっ!?」

 

 

 突然の言葉に慌ててかがむと同時に自身の背中を硬いものが掠った感覚が走る。ほぼ同時にオウガテイルの断末魔が聞こえ、声のした方へと振り向くとオウガテイルが今まさに命を終えようとしている姿があった。というよりも...

 

 

「危ねえじゃねえか!?俺のいたところをブチ抜くとか正気かよ!」

 

「ゴチャゴチャ喧しいのよッッ! いいから少しでも数を減らしなさいよ!!」

 

「あぁッ!?」

 

 

 口喧嘩に発展しそうになるところで視界に、ジーナに飛びかからんとするザイゴートの姿を捉える。ジーナの死角になる位置にいるザイゴートに彼女は気付く訳もない。

 

 

「くそっ...」

 

 

 舌打ちをしながらジーナの後ろにいるザイゴートに向かって全速力で駆け出す。

 

 

「ジーナ!しゃがめ!!」

 

「はぁ!?何を言って---

 

「いいからしゃがめってんだ!」

 

 

 ジーナは思いっきり怪訝そうな表情を浮かべながらもとりあえずは屈み始める。真後ろにいるザイゴートを一直線上で再び視界に捉える。ザイゴートは既に飛び掛かりを始めており、普段滞空する高さよりも高い場所にいた。

 

 

 (まずいっ!!)

 ジーナを踏み台にしてザイゴートのいる高さまで跳躍する。同時に後ろに構えていた神機を、目の前の敵を薙ぎ払う勢いで全力で振り抜く。

 

 

 神機はザイゴートの卵の殻のような本体を真っ二つに切断し、ジーナを喰らわんと飛びかかっていたその体は落ちる勢いこそそのままに、しかしジーナの体を食らうことはなく彼女に降りかかる。

 しかしそこはそれなりのキャリアを(こちらは経験も含めて)積んだ神機使い、シュンに踏み台にされたことを感じさせない華麗な動きで前転をして降りかかる血しぶきを躱す。

 

 

「ふぅ...まさかこの私が踏み台にされるだなんて...ねっ!」

 

 

 前転をしたあとすぐに態勢を整え直したジーナは、そのままバシュンとさらに一体を撃ち抜く。

 

 

「しっかたねぇだろ!? 四の五の言ってる余裕はなかったんだから...な!」

 

 

 シュンも負けじと近づいてきた一体を斬り伏せる。撃ち抜いては斬り伏せ、撃ち抜いては斬り伏せを繰り返し、やがて二人は互いに背中を預ける格好になる。

 

 

「...ねぇ?もしかしたら私たちって...」

 

「...意外とお似合いってか? 冗談じゃねえっての!」

 

「あら?ツレないのね..」

 

 

 フフフと微笑を浮かべながらもこちらに飛んでくるザイゴートを撃ち落とす。続いて他のアラガミに照準を合わせ引き金を引くが、なんの反応もない。

 

 

「シュン、弾が切れちゃったわ。サポートお願い...ね?」

 

「お、おう!リロード中のサポートは俺に任せとけよ!」

 

 

 そう言うとシュンは少しジーナから離れて神機を構え直す。

 

 自分から積極的に突っ込んで良い状況でないこと位はさすがにわかる。今の自分がやらなければならないことはジーナにアラガミを近付けさせないこと、ジーナに近寄ろうとするアラガミを優先的にぶった斬れば良い。

 

 

「...へっ、結構簡単なことじゃねぇか」

 

 

 シュンの言葉を合図にアラガミの何体かがジーナに突っ込む。アラガミたちの動きを冷静に見ると、自然と奴らがどう動いてジーナの元へ行こうとするか、何故だか頭に鮮明に思い描ける。思考演算の結果得られた、最もジーナに危険を与える可能性の高い個体の元へ神機を構える。

 

 

(へっ、こうなったらやってやろうじゃん?)

 

 

 最も重要度の高いアラガミが自分の間合いに入った瞬間、シュンはステップで一瞬にして距離を詰め、その勢いのままに神機を横殴りに振り払う。断末魔の叫びをあげながらアラガミが倒れるのを確認しつつ、残る数体のアラガミにも気を張り巡らせる。

 状況整理からの再度の危険性と敵アラガミ討伐の優先度の再確認を瞬間的に行うと、シュンはバックステップでジーナのそばに詰めて神機を構える。そして自分の間合いにアラガミが踏み入れると同時に距離を詰めてからの一瞬での攻撃を当てる。撃破を確認次第、状況と危険性の再把握を行いジーナの元へと戻り、次の対象が間合いに入った瞬間命を刈り取るべく攻撃を仕掛け、着実に一体一体を殺しジーナに危険が及ばないように戦う。

 

 シュンの性格を知っている人間からして見れば普段の彼なら決して取らないであろう行動、しっかりと自分の頭脳で状況を把握し戦況を読み、確実に敵を滅し効率的に戦いを進める姿に驚くだろう。

 

 

 

 しかし、今回の任務ではシチュエーションが悪かった。最初にジーナを狙わんと仕掛けてきたアラガミたちこそ数体であれど、それがここに残る全てのアラガミというわけではない。ましてや、”地面に無数とも取れる反応が存在しているという状況(シチュエーション)”の中で、一人で誰かを守り続けるというのにはどうやったって限界がある。

 

 

 刹那、ボコッと無数のアラガミたちが一斉に地表に姿を現した。

 

 

「なっ...」

 

「くっ、リロードがまだ終わってないのに...!」

 

 

 しかも今まで減らしてきた数をそっくり補充するどころかさらに上回りそうな勢いである。

 これはどう考えてもまずい、マズすぎる状況だ。新たに出現したアラガミたちはジーナの元へと一斉に襲い掛からんと突撃を始める。

 

 

「さっせるかよぉぉぉぉォォッッッッッッッッ!!!!」

 

 

 がむしゃらでも何だって良い。とにかくジーナの元へ突っ込もうとするアラガミたちを、少しでも減らさんと神機で薙ぎ払う。

 リロード中でありかつ装甲を持たない遠距離型神機のジーナは本当に無防備である。しかし先ほどとは変わって四方八方からやってくるアラガミに対して、思考がいくら働いてもそれに対抗しうる手段を己の体が実行できない。

 

 

(クソっ、クソッ!クソッ!クソッ!クソッッ!!!!)

 

 

 自分の実力不足によって、いやそもそも自分がこの任務をよく確認しなかったせいでこのような状態に陥っているのだと再認識して悔しさがこみ上げる。

 この任務、自分のミスで自分が死ぬのならまだ納得出来る。それは言い方は悪いが『自業自得』というやつであるからだ。

 だが、それに巻き込まれて道連れなんてのは、巻き込まれた方は堪ったもんではない。せめてジーナだけでも絶対に生かしてやらなきゃならない...!

 

 今のシュンに普段の子供っぽい内面は一切なく、その瞳は決死の覚悟を決めた『男』のものだった。だからシュンは、迷いなく自分の覚悟を口にした。

 

 

「俺がここで死ぬのは別に構わねえけどよぉ...」

 

 

 そこで息を大きく吸い、

 

 

「俺のせいでジーナが死ぬことだけは絶対にあっちゃいけねぇんだよっっ!!!」

 

 

 

 シュンはがむしゃらに振っていた神機を再度構え直す。その表情は不敵な笑みを浮かべているが、凛々しい覚悟も感じられるものだった。

 

 

「ダメよっ、シュン! 私のことは良いからアンタだけでも・・・!」

 

「へっ、そいつは聞けねえ願いってやつだぜ?ジーナ。まあカレルに言っといてくれよ、借金借りパクして悪いってよ」

 

「ふざけんじゃないわッ!自分で言いなさいよ!!」

 

「おいおい、そりゃ冷てーんじゃねぇか?」

 

「ッ!? シュン!避けて---」

 

 

 ジーナの方に振り向いていた彼は再度顔を正面に戻すと、自分に飛びかかってくるオウガテイルがまさに(あぎと)を開けて食らいつかんとしていた。

 

 

(へヘッ、なんか呆気ない死に方だなぁ...俺)

 

 

 シュンは来る衝撃や痛みを覚悟し、静かに目を閉じて自分の命が絶たれる瞬間を待っていたが、その瞬間自分の真後ろからバシュンという狙撃の音が聞こえると同時に、生暖かいドロリとした液体らしき何かが顔に飛沫となって付着するのを感じた。驚いて目を開けると、狙撃によって体をぶち抜かれ肉片と化したオウガテイルの姿があった。

 

 

「...えっ?」

 

 

 周囲を見やると、ジーナよりさらに後ろに見覚えのある姿を見つける。銃形態から近接形態へと神機の姿を切り替え、自分たちに襲いかかるアラガミをまとめて斬り払ってゆく金髪に黒いコートをまとった自分たちの上官...アークレインの姿に、シュンたちは思わず泣きそうになる。

 

 

「なにボーッとしてやがんだッ、さっさとブッ殺しちまえ!!」

 

 

レインからの言葉にハッとする。そうだ、自分達はアラガミに囲まれながら戦闘している真っ最中なのだ。せっかく拾って貰えた命を再びぶん投げるなんて事は絶対にしたくない。

 

 

「シュン、ジーナからあまり離れすぎるな! お前が斬り漏らしたアラガミは俺がフォローしてやる! 今はジーナのリロードが済むまでの時間を稼げれば良い!リロード完了次第遊撃をしつつヘリまで後退っ、良いな!?」

 

「りょ、了解!!」

 

「了解です!」

 

 

 元々旧型スナイパー型神機使いだったのもあってか、瞬時にジーナがどういう状態にあるのかを判断したレイン。

 

 レインの指示を受けてシュンは前衛に、レインは少し後ろに離れた所で神機を構え、シュンが倒しきれなかったアラガミを倒す用意を整える。ジーナはさらに後ろで神機のリロードを続ける。シュンが目前のアラガミへ斬りかかるのを合図としたアラガミの群れが、一斉にシュンは勿論その後ろに構えるレインやジーナへ向けても突撃する。

 

 シュンは一匹でも多く狩らんと、神機を力強く薙ぐように振るう。数こそ多くとも、個体ごとの強さはアラガミの中では最弱に位置付く種族である。冷静な思考で常に戦い続けていれば決してどうにもならない相手ではない、だからこそ油断をすることなく一体一体を確実に倒していく、そんな意志がシュンの瞳には宿っていた。

 

 

(絶対にこんなとこでジーナを死なせてやるもんかよ!)

 

 

 ただその意志だけで感情を奮い立たせ、けれども思考は冷静に。余計な思考を一切削ぎ落とした故の動きは機敏で鋭く、しかし柔らかさも兼ね備え、一切の無駄なく流れるように綺麗にアラガミの命を狩ってゆく。

 

 

「うらっしゃあッッ!!」

 

 

 シュンが神機を振るう。刃に薙ぎ払われたアラガミ達は断末魔ともとれる叫びを上げながら倒れてゆく。シュンの薙ぎを運良く避けられたアラガミはジーナ達のもとへ行かんとするが、これもまた彼の後方に控えるレインの刃の餌食となってゆく。

 

 

 一方、シュンの動きを後ろから見ていたレインは、シュンに起こった変化に気を向けていた。この任務へ来る前と今とでは、明らかに内面的な部分に変化が生じている。それもとても良い方向に。

 

 

(後ろに控える無防備なジーナを守ろうと全力で神機を振るっている...。それ自体はおかしい事じゃないが、ただ闇雲に正面から突っ込むのではなく一体一体を着実に倒す為に動いている。

 しかも、周囲の状況も知覚しながら最優先で排除すべき脅威を常に把握し、かつ俺の援護射撃が来たときにも射線を妨げない位置を認識しながら戦闘をする...。明らかに今までには無かった行動だ。この任務のピンチを切り抜けなきゃならん状況下で、精神的に大きく成長を遂げたということか?)

 

 

 なんにせよ、歓迎すべき変化であることには違いない。今までは『守銭奴の可愛くねえガキ』という感想をシュンに抱いていたレインは、目の前で起こっているシュンの大活躍劇にその認識を改めていた。

 そしてシュンの元々の意識へ変革をもたらした|女性(ジーナ)を見やると、顔にニヤリとした、リンドウ曰くの気持ち悪い笑みを浮かべ叫ぶ。

 

 

「シュンっ、前衛と中堅を交代だ!」

 

「なんでだッ、まだ俺はやれる!!」

 

 

 シュンの反応を見て益々笑みを(気持ち悪い方向で)深めたレインは、シュンの防衛線を突破したアラガミを両断しながらシュンの元へ近付き一言。

 

 

「お姫様の近衛はお前の仕事だろう?」

 

 

 ようはジーナの近くで守ってやれ、という意味を理解したシュンは瞬時に顔を真っ赤にするが、凛々しくも意気のこもった表情に変わる。

 

 

「そういうこった!騎士様の役目は任せるぞ!」

 

「了解!!やってやる!」

 

 

 シュンに近付くために前へ出ていたレインはポジションをそのままに、シュンはまさに騎士様の様にお姫様を守らんとジーナの元へと駆ける。レインはシュンがジーナを守りきれる位置についたのを確認すると、今度は怒りを含めた真剣な表情を浮かべアラガミ達と相対する。

 

 

「シュン! 絶対に斬り漏らすなよ!!」

 

「分かってる!!」

 

 

 互いの掛け合いを皮切りとして三度一斉にアラガミが突撃を掛ける。そのなかで最もシュン達に近いアラガミに狙いを定め、数歩のステップで一気に距離を詰める。

 

 

「遅えんだって」

 

 

 アラガミが気付く間もなく、振るわれた神機はその首を切り落とす。シュンとは違い、長年に渡る経験からくる破壊的な一撃は、アラガミの首に見事な切断面を残している。

 

 

「次はお前だッ!」

 

 

 ロング型神機使いの基本、ゼロスタンスの構えをとり、なお無数に存在する周囲のアラガミに相対する。

 直後、神機の下部にある遠距離型の銃口から大量のオラクル弾が発射される。ロング型と遠距離型の二つを持つ新型神機のみが使える攻撃法『インパルスエッジ』を用いて、周りのアラガミ達を爆発で吹き飛ばす。

 近辺のアラガミをざっと倒したところで神機を変形し、遠距離型のスナイパーを構え直す。

 

 

 本来であればスナイパー=狙撃手である神機使いは前線で遠距離型神機を構えるのは愚策とも呼べるべき行為だが、レインという男においてはその常識は当てはまらない。

 当たれば確実に大ダメージを与える代わりに、消費するオラクル量も大きいスナイパー型神機だが、レインは神機を構えたまま四方八方に走りながら銃撃を始める。

 走り回る事でグラグラと揺れ動く銃身から射出された狙撃用の弾は、まるで吸い込まれるの如く一切の擦りすらなく確実にアラガミたちの体を射抜くばかりか、複数並んでいたアラガミをも一直線上にまとめて串刺しにしてしまうようなものであった。

 

 

 

「すげぇ...あんな芸当まで出来んのかよ...っとオラァッ!」

 

 

 前衛で起こるレインの蹂躙劇を前にして思わず感嘆の声を漏らすシュンだが、次の瞬間、自身の間合いにアラガミが入ったのを察知した瞬間、神機を袈裟懸けに振るい迎撃をする。続いて間合いに侵入してきた別のアラガミも同様に斬り伏せ、再度いつでも飛び出せるよう構える。

 

 

 

 とその直後、

 

 

「リロード完了っ!戦闘に加わります!!」

 

 

 というジーナの声が戦場に響いた。

 

 近距離型に神機を変形させ、アラガミを斬り伏せながらレインが叫ぶ。

 

 

「よしっ、さっきも言った通りこっからは撤退戦だ! 無茶をするなよ。とにかく全速力でヘリのいるA地点まで後退する!! 行くぞッッ!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 最後尾のジーナに寄り添う形でシュンが布陣し、レインがその先を先陣を切る形で行動を始める。突如ボコッと、またもやアラガミの増援が大量に地中から湧き出てくるが、レインは自身の道を妨げる少数のアラガミだけを斬り伏せるとこう命令する。

 

 

「大方気付いているだろうが、この地中には無数とも呼べるアラガミの反応がある。こいつらと戦えば戦うだけどんどんジリ貧になってく以上、必要最低限、倒さなきゃこっちが危ねえ状況になる個体だけを倒せ!全部狩ってる暇も体力も無いんだ!」

 

「分かった!」

 

 

 とにかく全部のアラガミを相手にしていられない。今はまず自分たちの避難が最優先である。レインはシュン達の返事に一度頷くと、袈裟懸けからの横薙ぎで道を邪魔するアラガミ達を一掃しながら前進する。

 

 

「うざってえんだよッッ!!」

 

 

 シュンも負けじと自分の間合いに入ってきたアラガミ達を捌きつつ、目標地点へと歩みを進める。そのすぐ隣でバシュンバシュンと着実にトドメを刺していくジーナ。ふと視線をやると目が合う。彼女は普段は見せない本当に純真な笑みを浮かべ一言、

 

 

「私をお城まで導いて下さいませ、騎士様?」

 

 

 ジーナからもたらされた謂わば殺し文句(ラブコール)に、シュンは顔をまたまた真っ赤に染めながらも

 

 

「お任せください、お姫様?」

 

 

 と負けじと殺し文句(ラブコール)を返す。返された側のジーナは、色白の頰をほんのり赤く染めつつもどこか嬉しそうに笑顔で頷く。普段のクールかつ戦闘狂ともよべる彼女のイメージしかないシュンは思わず見とれてしまう。

 が、前からバシュンという音が聞こえると同時に、自分の腹部に何かが突き刺さる痛みを受けた。

 

 

「痛ってぇッ!?」

 

「ラブロマンスはアナグラに戻ってからにしやがれってんだこのクソガキども!! 爆撃するぞ!?」

 

 

 今は戦闘の真っ最中だということを忘れるな、そう言わんばかりに道を切り開いていくレインの姿を見て再度気を引き締め直す二人。お互いがお互いを支え、守る。二人の表情からはそんな思いが感じられた。

 

 

「ジーナっ、行こう!」

 

「ええっ!」

 

 

 レインが作ってくれた通り道を妨げようとするアラガミに向けて斬りかかるシュン。オウガテイルが顎を大きく広げて食らいつこうとするが、それが果たされることもなく体を横薙ぎに両断され息絶える。宙に浮かぶザイゴートもまたシュンに食らいつこうと飛びかかる。しかしどこかから放たれた狙撃弾によって体が丸々はじけとぶ。

 

 

「シュン!」

 

「おう!サンキュ!」

 

 

 今までは必要以上には関係を築かなかった二人が、即席とは思えないコンビネーションでアラガミを着実に一体一体倒して行く。

 

 

(こいつら、本当に綺麗なコンビネーションを発揮してやがるな...。いくら状況が吊り橋効果染みたものだったとしても、普通ここまで顕著に表に出るか?)

 

 

 クイック捕食と呼ばれる、近接武器での攻撃の最中に瞬間的に捕食用の形態を具現化することで自身のステータスのバースト化やオラクルバレットの獲得が出来る捕食形態(プレデタースタイル)を用い、オウガテイルにトドメを刺すと同時に頭からかぶり付きつつコアを回収する。

 捕食が終わるとすぐさま次のアラガミに向かって神機を振り下ろしながら目の前を見やる。自分たちの目標であるA地点はもうすぐそこまで来ていた。ここまできたらもう戦う必要はない。全力疾走でスタコラサッサとおさらばするだけだ。

 

 

「お前ら、一気にスパートかけるぞ!! 1、2の3で猛ダッシュだ!」

 

「「了解!」」

 

「それ、1、2の、3だ!走れッッ!!」

 

 

 言うか早いかレイン達は本気で駆け抜ける。無論、途中で攻撃を仕掛けてくるものには容赦なく銃撃を浴びせながら。

 崖を勢いつけてなんとか登りきり無事にA地点へとたどり着いた3人は、肩で息をしながらもホッと一息ついていた。

 

 

 だが、そんな中に憤怒のオーラを発する男がいた。戦いが終わった今、彼には上官としてやらなきゃならないことがある。

 

 上官としての責務と役目を背負いながら、彼は静かに拳を握りしめた...。

 

 

 

-----

 

 

 

 なんとかシュン達を救出し、無事にヘリの待機地点すぐ近くまで逃げることができた。シュンを目視で捉えた時、頭からオウガテイルにがぶりと食われる直前で本当に肝が冷えたが、なんとか狙撃によるフォローが間に合い、しぶとく生き残ることが出来て良かった。

 

 だが、この非常事態はそもそもシュンの軽率な行為による結果。

 その事実を俺は奴に突きつけ、学ばせるという責務がある。なにしろ同行者であるジーナを死の淵に立たせる愚を犯した、それは立派な罪であり、シュンにはその責任を取りつつ償ってもらわなければならん。内から滾る怒りを隠すことなく表に出しながら、シュンに然るべき対応をする為に近づく。

 

 

「さて、シュン。言いたいことは山ほどあるがとりあえず...歯ぁ食いしばれよ!!」

 

 

 拳を強く握りシュンの顔を思いっきり殴る。

 

 

「ぐほぁっっ!」

 

 

 踏み込みの効いた強力な右ストレートが決まり壁に飛ばされるシュン。突然のことにジーナが対応できない中でシュンが口を開こうとした時、

 

 

「お前は一体何をしたか分かってるのか!?」

 

 

 その言葉とともに胸ぐらを掴んで引き寄せながら叫ぶ。

 

 

「お前の軽率な行動のせいで、自分の同僚が死にかねない状況に巻き込まれた! もしここで彼女が命を落としていたら、どう責任を取るつもりなんだ!?」

 

 

 その言葉に対し、過去に自分のとった行動を心から悔いながら自責の表情を浮かべるシュン。

 彼の表情にはただただ自身の軽率さ、それによって起こりかけた自分の死や危険に巻き込んでしまった自身の同僚へ対する申し訳なさ。それらが合わさった複雑なものとなっている。

 

 今までとは明らかに違う、精神的に成長を遂げたシュンは今日の自分の行いを振り返っているかもしれない。

 今までならば適当にハイハイと言うだけで同じことを繰り返していただろうが、今のシュンならちゃんと理解してくれる、そう思えるだけの感情をシュンから感じられた。

 

 

「小川シュン上等兵、上官としてお前に一週間の懲罰房での謹慎を命じる。また罰則として、許可があるまで任務には如何なる理由があろうと、受注は勿論、他の部隊の応援要員としての参加も許さん。

 ・・・一度自分のことをよく見つめなおせ。今日ここまで成長できたんだ、まずはよく考え、反省し、そして学ぶんだ。以上だが、何か質問は?」

 

「・・・ありません。謹慎命令、了解しました。謹んでお受けします」

 

「シュン...」

 

 

 ジーナがシュンを切なそうな表情で見つめるが、シュンは彼女に対して申し訳なさがあるのか、顔を俯かせたままで目を合わせようとはしない。

 

 

「じゃあ帰るぞ。ジーナ、暫くシュンのことは放っておいてやれ。時には考える時間も必要だ」

 

「...了解です。すみません...」

 

 

 

 とにかく、多少の怪我こそあれど無事で良かった。

 

 神機を肩に担ぎながらヘリに向かう中で、俺は心から思った。可愛い後輩たちが自分より先に死ぬのはやはり辛い。アラガミが出始めた当初から散々人が死ぬのを間近で経験してきたが、人として感情がある以上はどうしても慣れることはない、いや出来ない。彼ら二人が餌食にならなくて本当に良かった。

 

 本当に、良かった...

 

 

 

 無情にも人が生きていくのが困難な環境となってしまったこの地球、神はなぜ我らにこれほどの試練を与えるのか?

 その答えを求めても、返してくれる存在はいない...。ただ俺にできることは一つ、神が与えたもうた試練(アラガミ)を倒し乗り越え、生き残ること。

 

 さぁ、アナグラへ帰ろう。無事だった可愛い後輩たちと一緒にな。

 

 

 

 Prologue... end.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Phase [01] <act:01~03> 『途中から新型』と新入り1号2号の出会い
act:01 『最強連射銃使いの後継』と『途中から新型』


結局2週間近く経ってしまいましたが
お待たせいたしました、本編第1話です。

今回は原作を始めてプレイするプレイヤーが体験したであろう
訓練の内容をコウタsideのレインさん視点でお送りいたします。

原作は厳密に何月何日とかっていうのは特に表されないので
時系列がなんとも大雑把にしかまとめられないのですが、
当方はとりあえず1ミッションで1日経過と仮定しながら執筆しています。

原作ではチュートリアルが2つ前後しかありませんでしたが、
いくらなんでもたった二日で新兵を戦場には出せないだろうと思いまして...

このあとも何話か挟んだあと実戦に物語がシフトしていく予定ですが
それまでもうしばらく長い目で見ながら物語をお楽しみください...



 シュンの馬鹿による救援要請騒ぎから数日明けた今日、俺はツバキちゃんとリンドウの間に挟まれながら第二訓練場で神機を振り回している『新型』の少女の訓練を見ていた。

 

 適合試験の時点で神機に接続されているパーツのサイズはショート・アサルト・シールドの三種類だと聞いていたが、彼女の神機に今接続されているのはロング・ショットガン・バックラーの三種類である。

 

 

 神機の取り回し、遠近の切り替えや射撃の反動制動力といった点を訓練場の監督室から細かく見てみるが、特に欠点と呼べる箇所は見当たらない。

 

 ...本当に新入りの神機使いなのかも疑わしい程にその動きにはブレがない。いや、初っ端こそ多少動作にもたつくところはあった。だがものの数分で慣れたのかどうなのかは分からんが動作はスッキリして、流れるように上手く事を進められるようになっている。

 

 

「なぁツバキちゃん、・・・あの新入りの素質は一体どうなってるんだ?」

 

「・・・私に聞かないでほしい質問だな」

 

 

 ツバキちゃんから帰ってきた答えは、要するに私にも訳分からんとのことらしい。

 入隊(この場合の入隊は適合試験を意味する)してからまだ数日しか経っていないのにも関わらず、下手すりゃ入隊1ヶ月2ヶ月の新人を追い抜くレベルの運動能力を持っている。

 おそらく本人の元々の身体能力が非常に高かった事に加えて、非常に器用でもあるのかもしれない。それに偏食因子の投与による副次効果として得られる身体機能の大幅強化...、これが今訓練場で起こっている新人とは思えない動きをする彼女に起こった現象の原因だろう。

 

 

「いやぁそれにしてもレインに姉上、今回の新人はまさしく大型新人(スーパールーキー)でってイテェ!」

 

「リンドウ、ここで姉上と呼ぶなと何度言わせるんだ」

 

大型新人(スーパールーキー)であるのは俺も同意見だけどな」

 

 

 もはや何度目かも分からないやり取りで頭をポカッと(但し予備動作にフルスイングのオマケ付き)叩かれるリンドウ。

 ちなみにツバキが普段携行しているファイルの角で脳天を叩かれたためか、若干リンドウの目尻には涙が浮かんでいるように見えなくもない。

 ・・・硬いファイルの角でフルスイングで叩かれたら、そりゃ泣きたくなるくらい痛いよなぁ。しつこく言っても一向に直そうとしないリンドウの自業自得であるとも言えるのだが。

 

 

「イテテ...なあレイン、いくらなんでもこれは過剰な暴力ってやつだと俺ぁ思うんだが、どうよ?」

 

「ふん、自業自得であることをお前は何時になったら理解できるんだ、ん?」

 

 

 ツバキちゃんに鋭い視線を投げかけられながらそう言われちゃ、もうリンドウに打つ手はない。何時の世になっても、兄弟関係は基本は上の方が力関係が強いようである。

 

 

「ところで、もう一人の新人の方は訓練の進み具合はどうなんだ?」

 

 

 もう一人の新人とは、今訓練場で神機を振り回している少女の同期である、あの赤みがかった茶髪を持つ少年のことだ。

 少女の方は新型適合者だが少年の方は旧式遠距離型に適合したらしい。しかも、型の合った神機はなんとツバキちゃんの相棒であるというのだから驚いたものだが、この話を振った瞬間何故だかツバキちゃんの表情が険しくなる。何かあったのか?

 

 

「いや、すまない...。レインの考えている程深刻な問題ではないんだ。そこは信じてほしい、ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「・・・なんというか、少々私の相棒を任せるには不安なんだが・・・」

 

「はぁ? そりゃまたなんで?」

 

「...いや、なんだかあの少年は座学の成績がどうも芳しくなくてな、後方バックアップという、戦局を常に見ていないとならない役割を任せるのはどうにも不安で...」

 

「あー、その辺は慣れればなんとか上手く立ち回れるように育ってくれると思うぜ。見たところ、周りのアドバイスはきちんと聞き入れる素直なタイプだろうし」

 

「レインがそう言うのなら...。とにもかくにも、まずは使える人材に育てなければ分からない、か...」

 

「そーゆーこった」

 

 

 ツバキちゃんは再度不安そうな表情を浮かべるが、すぐにキリッとした真面目な顔付きに戻り、眼下の訓練場で起こっている大型新人(スーパールーキー)のハチャメチャな動きへと視線を戻す。

 

 

「んで、ツバキちゃん。今回入ってきた新人達は、大体どんくらいで実戦配備になるんだ?」

 

「その件についてだが...」

 

 

 少し考え込む様な顔をするツバキちゃん。新人の実戦配備までのスケジュールに対し彼らの訓練が追い付いてないのか?

 

 

「今この訓練場で訓練をしている彼女は、座学と訓練の双方において素晴らしい成績を残している。だがもう一人の方はさっきも言った通り、訓練はともかく座学の方がどうにも苦手な様でな...。今の時点で二人の間での訓練の進行具合はかなり差が開いている。

 こちらの都合で進めるのであれば彼女をいち早く実戦に向かわせるべきだと思うが、そうするとあの少年に要らぬ感情を植え付ける結果になるのでは、と思案している所だ。正直な所、貴重な戦力を早期に失う訳にはいかない以上、できる限り...特に感情面などの内面から来る問題は可能な限り排除した上で実戦に向かわせたいと思っている」

 

「な〜るほど、あの能天気な新人は本当に文字通り大型新人(スーパールーキー)って訳だ。こんな事で教官を悩ませるなんて、滅多にねえんじゃねえか? いずれにしてもここまでの期待の新人ってなると大尉殿は勿論、実戦配備になったらレインも責任重大だぞ?」

 

「フッ、確かにな...」

 

 

 ツバキちゃんもリンドウも揃って苦笑を浮かべる。

 

 今回に限らず、前にも言った通りこの極東支部においては新人神機使いは俺が指揮を執る第一部隊へと配属される事が多い。

 リンドウやサクヤといった指揮能力のある実力者が揃っていることもあり、同行する神機使いの生存率がかなり高いのだ。なので基本的には新人の面倒はほとんど俺か隊長次席の位置に就くリンドウが見ることになるのだが、今回の大型新人(スーパールーキー)の場合は少々話が変わってくる点もある。

 

 

 数少ない貴重な新型神機の適合候補者を初戦で死なせたなんて事になったら本当に目も当てられない大惨事だ。もしそうでなくても神機使いを続行不可能な重傷を負った場合にも同様の大惨事、部隊長である俺に全責任が回ってくるのだ。

 おまけにこの大型新人(スーパールーキー)は本当に動きが新人とは思えないほど機敏であり、死なずに生き残る事ができれば間違いなく”最強”に化けるだけのポテンシャルがあると思われる。

 

 まさに目の前の雨宮姉弟は二重の意味で俺にプレッシャーを掛けてきてくれているのだ。

 

 

「はぁ、まーた面倒な懸念事項が増えたような気がするぞ...。まあいい。んじゃ俺はもう一人の新人のとこに行ってくるわ。彼女の訓練が終わったらデータを俺の部屋のターミナルに回しておいてくれ」

 

「分かった、では後でな」

 

「じゃあなー」

 

 

 二人に適当に手を振りながら訓練場の管制室を後にする。

 

 確かもうそろそろ新人の訓練の交代時間に差し掛かるはずで、迅速に訓練が開始できるように新人は保管庫で待機しているはずだ。ならば話は早い、俺も自分の神機を取りに保管庫へとダッシュで駆ける。

 

 

 先ほどツバキちゃんとの話で出てきたもう一人の新人、座学がどうやら苦手であるらしい。

 ちなみに座学といっても算数や国語の勉強をするという訳ではなく、これから実戦で戦う事になるであろう数々のアラガミの種類や弱点となる部位や属性、少年の場合は遠距離型だから使用するオラクルバレットも、勉強するカリキュラムの内容に含まれているだろう。

 

 だが勉強が苦手で運動はその分得意というタイプには、内容をどれだけ解りやすく教えても気力が続かないものだ。

 苦手であり、基本的につまらないと感じることを延々と繰り返されてもそりゃ気が滅入るのが人間である。ではどうすればいいかというと、その人の得意なことや興味を持てるものに織り交ぜながら教えるのが手っ取り早い。

 

 今回のケースだと聞いた限りでは『極端に言えば運動である訓練』では優秀な成績を収めているらしい。

 

 ならば座学で分からなかったところを訓練の最中に体験を通して覚えさせるのが一番都合がいいのではないか? 運動しか出来ない奴というのは一部の”脳筋”を除いて基本的に頭の回転自体は悪くないのだ。座学で成績が芳しくないのは頭の回転云々ではなく単純に知識が頭に入っていないからというだけのことだから。

 

 

 という個人の感想でしかない理屈を思い浮かべつつ神機保管庫へとたどり着くと、案の定赤みがかった茶髪の少年がツバキちゃんの神機を持って待機していた。

 

 

「よう新入り、これから訓練だな?」

 

「はい!これから射撃の訓練です!」

 

「じゃあ早速だが、これからの訓練の打ち合わせといこうか。ツバキ教官から聞いたところによると、お前さんは勉強が苦手だそうだな?

 だが、遠距離から前衛をサポートする立場にあるお前には最低限、撃った弾がどの様に敵に向かっていくのか、あるいは援護をするときに求められる精密射撃の座標の出し方とか、そういった射撃屋の知識は身につけてもらわないと困る」

 

「うっ...」

 

「でもな、勉強が苦手な人間に延々と教えたって頭に入るわけがないのは俺も分かってるつもりだ。てなわけで、射撃訓練の最中にちょくちょくウンチクを挟むような感覚で少しずつ教えていってやる。つまんねえお勉強よか、楽しく運動しながらの方が良いだろ?」

 

「お、お気遣い感謝します」

 

「うし! んじゃあ今から神機取り出すんでちょっとそこで待ってろ」

 

 

 保管庫備え付けのターミナル端末をタカタカ弄り相棒の入った収納ケースを取り出し場に露出させる。相棒をケースから取り出し接続を行うと、再度端末を操作して収納ケースを奥の保管スペースに入れ直す。

 

 神機の取り出し作業が終わった俺は少年に向き直る。

 

「じゃ、行くか」

 

「よろしくお願いします!」

 

 

 

 保管庫から訓練場へ向かう途中、例の大型新人(スーパールーキー)こと少女とすれ違う。

 

 

「おっつかれさまー! な私でーす! にゃはは〜」

 

「お、おう、お疲れ。蒼皇(あおがみ)さん」

 

「も〜コウタ君、私のことは飛鳥で良いって言ったじゃーん」

 

「ご、ごめん! 飛鳥...さん」

 

「敬語も要らない〜」

 

「うっ...」

 

 

 何やらもう一人の同期に対してタジタジな少年こと『藤木コウタ』隊員。ここは助け舟を出してやるべきかどうか思案する...が、

 

 (別にコミュニケーションが苦手な性格ではないようだし、見てるか)

 という結論を瞬時に導き出し、傍観することに決める。

 

 

「ってか、コウタ君これから訓練だっけ?頑張ってねー」

 

「あははは...ありがとう、飛鳥」

 

「じゃねー」

 

 

 にゃははーという笑いを上げながらピョーンと陽気に神機片手に走り去っていく少女こと『蒼皇(あおがみ)飛鳥』隊員。

 仮にも鬼教官で通っているツバキちゃんのしごき訓練を受けて尚あそこまで元気に動ける辺り、いよいよとんでもねえ当たりくじを極東は引き当てたのかもしれないと本気で思えてくる。

 それを隣でポカーンとして見ているコウタ、彼も同様なことを思っているのかもしれない。

 

 

「なんでツバキ教官のしごきを受けてあんなにケロッとしてられるんだってか?」

 

「あ、はい。なんかすげえなぁって...」

 

「とりあえず、新入り一号」

 

「それって俺のことですか?」

 

「いえす。というか、あれを神機使いの基準とは考えないで良いぞ。

 新入り二号は俺たち先輩でもビックリするほどだし、下手すりゃ入隊から1ヶ月2ヶ月の先輩なんか屁じゃねえレベルだ。あんな素質を持ってる奴は世界にそうはいねえってな。持ってる奴は持ってる、持ってねえ奴は努力でそれを補わなきゃならねえっつうこった。じゃあ、行くぞ?」

 

「はい!」

 

 

 

 訓練場に入るとすぐさまツバキちゃんの声が響き渡る。

 

 

『うむ、予定時刻より5分早い。5分前行動は社会人としての基本だな。ところでレイン、なぜお前がそこにいる』

 

「射撃とかの座学でやることの知識の補填を運動がてらしてやろうかと思ってな」

 

『...まあいいか。ではレイン、今回の訓練はお前に一任するとしよう』

 

「どーも、じゃあ早速始めっぞ」

 

「は、はい!」

 

 

 俺は神機をデフォルトの近接攻撃モードから遠距離攻撃モードに切り替える。コウタも神機を改めて射撃をする際の体勢に構え直す。彼の表情は緊張しているせいか少し硬い。

 

 

「別に取って食おうって訳じゃない、あまり気を張らなくていい。緊張し過ぎるのもダメ、緩すぎてもダメ、まずは自分の中で丁度良い緊張感を持てるようになるこった」

 

「あ、はい」

 

 

 人と接するのは苦手ではない性格の彼は若干緊張を解いたような表情に戻る。うむ、やはりこちらの方が少年である彼らしい顔つきだ。

 

 

「さて、まずは射撃のフォームからおさらいするとしよう。最初の頃は全然体に入っていかねえもんの内の一つ、だけどここを疎かにすると後々の仕事にかなり影響する重要な所でもある。

 なーに、分からない所があったら聞き直せば良い。心配しなくても確実に体が覚えるまで教えてやるから、お前は覚えることに集中するんだ」

 

「よろしくお願いします!」

 

「じゃあ早速、教わった通りに射撃のフォームをとってみろ」

 

 

 ぎこちない動きながら、コウタは遠距離型の基本となる射撃姿勢をとる。が、基本の中の基本は踏襲しているものの、やはりまだ体が完全に覚えている訳ではなさそうだ。ところどころ僅かな点で基本フォームとズレている部分が見受けられた。

 

 

 余談だが、人によっては型に嵌ったやり方より自己流の才能を開花させた方が良いと言う神機使いもいる。しかし俺から言わせてみればそれは基本がしっかりしているから出来る事であり、いきなり自分のやり方、自分のやりたいようにやれと言われたって、上手く動けるはずが無いのだ。

 そうやって教えてきた教官に配属された新人たちは、一部の才能が突出したやつを除いてみんな揃って神機使いなりたての頃に喰われて死んじまっている。

 

 なので、自己流のやり方を開花させるにしてもまずは基本を押さえてから。幸いツバキちゃんはその辺をよーく理解してくれている優秀な教官さんなので、コウタたちを始めとする最近の新人育成はあまり心配していない。

 

 

「ふむ、本当にベースとなる形だけは理解してるようだが...まだ一部余計な力の入ってる所も多々あるな。ちょいとそのまま神機持ってろ。力抜く場所と入れる場所を教えてやる」

 

 

 俺は神機を訓練場の床にぶっ刺し『レインッッ!!!』た所、ツバキちゃんに怒られてしまったが気にせず、そのままコウタの元へ歩み寄り後ろから抱きつくような(本気で抱きついてはいないが)格好になる。

 実際文章で書くとボーイズラブのような展開に見えるかもしれんが、ようは後ろから回り込むような感じで教えているような格好をしているだけである。あと、俺は『ノーマル』だ。

 

 

「あ、あの...近いっす...」

 

「心配しなくても俺はノーマルだから気にするな、まずこの右腕の肘の所は力むな。もう少し力を抜かないと射撃の反動を上手く吸収できなくて腕が疲れる原因になる」

 

「あ、はい!」

 

「それと、足を広げる幅は肩幅と同じくらいでいい。広げすぎても狭めすぎてもバランスが悪くなる。あとあまり膝も曲げすぎちゃダメだ。バネの様に衝撃を吸収するために少しだけ曲げる、それを肘と膝の両方で意識するんだ」

 

 

 言葉を交えつつフォームの直すポイントを実際に手で矯正しながら説明していく。言われた通りにフォームを修正していくコウタ。ある程度フォームの修正ができた所で上の管制室にいるツバキちゃんに合図を出し、訓練場のフィールドに模擬標的を一体だけ出してもらう。

 

 

「よし、そのフォームを維持しながら目の前の模擬標的(ダミーアラガミ)を撃ち殺してみろ。コイツはただその場にいるだけで何もしない様設定されているから、焦らず落ち着いて、今のフォームが崩れないように注意を払いながら弾を当てていけ」

 

「はい!」

 

 

 上手く当てる事よりもフォームの方が重要だぞと再度言いながら後退し、コウタの実際の射撃の姿を観察する。

 バシュンバシュンと、オラクル細胞で構成された弾丸がオウガテイルを模した模擬標的(ダミーアラガミ)に飛んで行く。コウタは実際の射撃となるとまた少し緊張気味の表情になってしまっているが、先ほど矯正を加えた射撃のフォームはほぼ崩れる事なく引き金を引いている。

 なるほど、やはり体に叩き込んだ方が彼には分かりやすいのかもしれないな。

 

 フォームが崩れない事を意識しながら撃ったためか、模擬標的(ダミーアラガミ)の討伐にはかなりの時間(普通なら1分掛かるか掛からないかの所を数分ほど掛けて)を掛けたが、なんとか無事に倒せたようでコウタは俺に向き直る。

 

 

「教官!終わりました!」

 

「おう。矯正したフォームで撃ってみてどうだ?と言ってもまだ分かんねえか。今のフォームをまずは忘れないように徹底的に体に叩き込むぞ。次は今のと同じ模擬標的(ダミーアラガミ)が三体出てくるから、それを撃ち殺せ。先ほどと同じように、最優先はフォームを崩さないことだ。やってみろ」

 

「はい!!」

 

 

 再びツバキちゃんに合図を出し、今度は三体のオウガテイルを模した模擬標的(ダミーアラガミ)を出してもらう。それを見てコウタは一番右端のやつから攻撃を始めていく。フォームを崩してはならないという緊張のせいか、だんだんと腕に力みが生じているのが分かる。

 

 

「コウタ、右腕が力み始めてるぞ。力を適度に抜くんだ。落ち着いて確実に身につけていくんだ、そこまで緊張することはないぞ」

 

「はい!」

 

 

 腕の力みを取った上で再び射撃を開始する。すると今度は、足の膝の柔軟が小さくなってきているのでここも指摘する。

 

 

「膝も力みすぎるな。あくまでバネのように柔らかく、だ」

 

「は、はい!」

 

 

 そうして何度か崩れかけては指摘するというのを繰り返し、模擬標的(ダミーアラガミ)を何体か倒し終えたところでツバキちゃんから声がかかった。

 

 

『ご苦労だった、コウタ。すまないが時間だ、続きの訓練は明日にしよう。どうだ、射撃フォームには慣れたか?』

 

「いえ、まだ体がついて行ってない感じがします...。けど、早くマスターして次のステップに進めるように頑張ります!」

 

「新入り、その意気だ。じゃあシャワー浴びたらエントランスの出撃ゲート前に一九◯◯までに来てくれ。お前ともう一人の新入りに何か俺が飯をおごってやる。ああ、遠慮はするなよ?」

 

「あ、ありがとうございます!!飛鳥にも伝えておきます!」

 

 

 勢いよくお辞儀をするコウタ。うむうむ、最初のあたりは遠慮せずに上官に頼って良いんだぞ。

 

 

「うし、ツバキちゃんもありがとな。それじゃ、解散!」

 

『レイン、お前は食事が終わった後で良いから私の部屋に来い。この訓練場の床に”故意に”神機をぶっ刺したのは問題だからな。良いな?』

 

「あー... やっぱり見逃しては貰えない?ダメ?ダメか...分かったよ」

 

『まったく...』

 

 

 思わずこめかみに手を当ててため息をこぼしてしまうが、これに関しては完全に自分の行動の結果であるので諦める。

 ツバキちゃんは自分でも鬼教官と言うだけあって、怒るとかなりおっかない。もっとも、歳も近く気心が知れてる仲であるせいか別に怒られても怖いとは感じないが、とにかく迫力が凄まじいので俺としては出来れば避けたいシチュエーションでもある。

 

 

 そんなこんなでコウタの基礎のおさらい訓練は無事に終了した。ツバキちゃんが抱える不安要素の一つでも取り除ければ良いが、結果を焦って戦場に出した為に初陣で死んでしまったら元も子もないので、実戦の前にやれる備えは全てやっておかなければならない。

 

 幸い、訓練を見た所やはりコウタも十分神機使いとしてやっていけるレベルの才能はある。あとはこの才能を訓練の段階で『芽から蕾、蕾から花まで』咲かせられるかが鍵となる。

 最低でも『芽から蕾』までは育ててやったほうが後々コウタの為になるだろうから、コウタの初陣の日程がズレてでも訓練は続けた方がもしかすると良いかもしれない。

 

 

「じゃあコウタ、あとでな」

 

「ありがとうございました!」

 

 

 コウタに背を向けながら手を振って保管庫へと歩く。

 

 ちなみに、帰る際に床にぶっ刺した神機を引っこ抜くのに一汗かく羽目になってしまい、神機を刺した過去の自分の行いを恨んだのは俺だけの秘密である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

act:02 『最強連射銃使いの後継』と『途中から新型』と『最初から新型』

大変長らくお待たせしました。
本編の第2話となります。


コウタとの基礎のおさらい訓練から数日空けた今日、俺は管制室から訓練場に神機を持って立つコウタを見下ろしていた。

 

「さて、だいぶ神機の扱いには慣れてきたと思う。今回からは出てくる模擬標的(ダミーアラガミ)は、実物と同様に動きもすれば攻撃もする。本当に危なくなった時には訓練を中止するが、そうでない限りはお前がソイツを倒し終えるまでこの訓練は終わらない。攻撃の頻度は少なく設定している、まずは目標の観察に努めろ。盾を持たない遠距離型として、決して敵のキルゾーンには近付かない、自分に近づけさせないということを意識して振舞うように」

『はい!』

 

訓練場に仕掛けられたマイクが拾ったコウタの音声が管制室のスピーカー越しに響く。訓練を担当する管制室のオペレーターに合図を出し、模擬標的(ダミーアラガミ)一体を訓練場に出現させる。

 

「良いか?目の前のアラガミを、今まで教えた事を生かしながらぶっ殺せ。始めろ」

『っ!?』

 

言うか早いか早速オウガテイルを模した模擬標的(ダミーアラガミ)はコウタへ攻撃を掛ける。尾の先から複数本の針を離れた敵に向かって撃ち飛ばす。コウタはそれを冷静に観察し、バックステップをして避ける。

 

その動きを見た模擬標的(ダミーアラガミ)はコウタを攻撃せんと歩き始める。

 

『まずは喰らえっ!』

 

ツバキちゃんが現役時代に強化しまくった神機、『モウスィブロウ』から放たれる複数の弾丸が、模擬標的(ダミーアラガミ)に向かって飛んで行く。アラガミの中では最弱の個体であるオウガテイルを模したそれが、迫り来る攻撃を避けられる訳もなく、放たれた弾丸は一つも外れる事なく模擬標的(ダミーアラガミ)の体に着弾した。

 

『うしっ』

 

コウタは初めての動く敵への攻撃が通った事に対して嬉しさの籠った声を発する。だが直ぐにハッとしたような顔をすると、表情を引き締め直すのが分かった。いくらオウガテイル種とはいえ、アサルト型の攻撃一撃でくたばる程ヤワな存在ではない。現に模擬標的(ダミーアラガミ)は、自身へ危害を加えたコウタに向けて敵意をむき出しにしている。

 

模擬標的(ダミーアラガミ)は、威嚇とも取れる叫びをあげると尾から針を打ち出す。横方向へのローリングをして回避行動をとるコウタだが、タイミングが遅かったのか、針の一部が左腕を掠る。

 

『いってぇっ! やったな!?』

 

神機を構えなおし射撃を続行するコウタ。何回か連射を繰り返し、銃から打ち出されたバレットは殆ど全てが模擬標的(ダミーアラガミ)に当たってゆく。時折模擬標的(ダミーアラガミ)による反撃はあれど、掠ったアレを除いて特に危なげもなく攻撃を回避していく。

 

そして何回かの攻撃の末、模擬標的(ダミーアラガミ)が遂にダウンする。

 

『よーし!これで決めてやる!』

 

ひたすら引き金を引いて模擬標的(ダミーアラガミ)への攻撃をしていくコウタ。だがある程度撃ち終わると同時に、銃身からバレットが射出されなくなる。

 

『あ、あれ?もしかして弾切れ!?って、うわっ!』

 

そうこうしている間に体勢を整えなおした模擬標的(ダミーアラガミ)が、コウタに向けてドシドシと歩き始める。そして自分の尾っぽを、体ごと回転させて振り回してコウタを吹っ飛ばそうとするが、間一髪のところでコウタは慌ててバックステップを取り回避する。

 

『確か、弾が切れた時はOアンプルってのを飲むんだよな...』

 

ガサゴソと携帯用のポーチから自分の求めているアイテムを取り出そうと探すが、そうしている間にも模擬標的(ダミーアラガミ)は確実に獲物の元へと近づいてゆく。

 

『あった、これだ...ぐわぁッッ!?』

 

周囲への注意を散漫にした結果、コウタは必要なものを見つける事は出来たようだが、その代わりに模擬標的(ダミーアラガミ)からの手痛い攻撃をもらってしまう。訓練用の、それもオウガテイル種を模したものとは言っても、設計自体は正真正銘本物のアラガミである。

当然だが、人っ子ひとりを弾き飛ばすなんて事も簡単にできてしまう。結果、コウタは訓練場の壁まで吹き飛ばされてしまった。

 

 

「あーあー...。こりゃ周囲の状況を常に把握するってのが出来てねえなぁ。にしても、随分と派手に吹っ飛ばされちまったもんだが...」

 

一般的な神機使いなら、既に戦闘不能になってもいいほどのダメージであるはずだ。が、コウタの様子を見た所、どうもまだやれそうな感じがする。

 

「へぇ...?」

 

今この訓練を止めるよりも続けさせたほうが良さそうな気がした俺は、そのまま訓練を続行させて様子を見る事に決めた。管制用のデスクトップ機器にある非常ボタン・・・、万一の際に模擬標的(ダミーアラガミ)を緊急消滅させるボタンに右手を掛けながら。

 

 

『...へへっ、こん位でへばってちゃダメだよな...。俺は世界を守るっ、神機使い(ゴッドイーター)だもんな!!』

 

自身を奮い立たせるようにそう叫ぶと同時に、Oアンプルを神機のコアにぶっ差す。オラクルの補充をすませると容器を投げ捨て、神機を構えなおす。

 

『今度こそ決めてやるぜ!』

 

模擬標的(ダミーアラガミ)の間合いに入らないように周囲への注意を払いつつ、射撃に最適な距離を維持しながら模擬標的(ダミーアラガミ)と対峙する。先に行動したのは模擬標的(ダミーアラガミ)の方だった。

 

のっしのっしと近付いていくが、その迫力に負けじと引き金を引くコウタ。ある程度模擬標的(ダミーアラガミ)が接近すればステップをとって距離を開ける。そして再び引き金を引いてゆく。

 

突進、飛び掛かる、体ごと振り回してしっぽで攻撃、しっぽの針を飛ばす以外の攻撃法を持たないオウガテイルとの戦い。こうなればもうコウタの勝利は決まったようなものである。やがて模擬標的(ダミーアラガミ)はダウンする事もなく、そのまま断末魔の叫びをあげながら霧散していった。

 

それを見て気が緩んだのか、コウタはその場で尻餅をついて倒れこむ。

 

『ふぃ〜...。なんとか終わったけど、こんなんじゃまだまだダメだよな...』

「分かってるじゃないか。あと、戦場でそうやって気を散らしてたらあっという間に死ぬぞ」

『うわぁ!?』

 

慌てて立ち上がり姿勢を直し神機を構えるコウタ。

 

「ふむ、まずは初めての実戦形式での訓練お疲れさん。結果は上々のものだ。と言いたい所だが、訓練で妥協しても良い事は何も無い。辛口評価でお前の行動を振り返るとしよう。要点をまとめると2つ、一つは注意力の不足。もう一つは油断だ。アイテムを取り出す際にも周りの警戒を怠ってはならない、ツバキちゃんから言われただろう?それと、敵を倒し終えたからと言って近くにアラガミがいない保証はどこにも無い。さっきのように、へたり込んだ所を飛び掛かってきたアラガミに喰われて死んだ、なんて話は五万とある。くれぐれもアナグラに帰投するまで絶対に気は抜かない。その練習をしっかりしておくんだな」

『は、はいっ!』

「ではご苦労さん。今日の訓練はこれで終わり、ゆっくり休め」

『ありがとうございました!』

 

 

 

コウタが訓練場の扉へと消えてゆくのを確認し、俺は椅子に座ったまま呟く。

 

「さて、この少年のポテンシャルはどう化けるかな?」

 

誰に対してでもなく問いかけたのであった。

 

 

 

-----

 

 

 

「ふいーっ、疲れた〜」

 

今日初めて実戦さながらの訓練をして疲れたのか、コウタはエントランスのソファーに腰掛けると、大きく息をついて背もたれにもたれかかる。両腕をソファーの裏に回して、本当に大きくグテーっとなる。

 

「しっかし俺もまだまだだなぁ。さっきレインさんにも怒られたけど、本当の戦いじゃ一瞬の気の緩みが命取りだって言うし...。俺ここで上手くやっていけんのかなぁ」

 

その言葉からはコウタの内に宿る確かな不安を表していた。

 

神機使い・・・またの名をゴッドイーターとも呼ぶ彼らは、生体兵器の一種である神機を用いて、あらゆるものを捕食するアラガミと戦える唯一の存在である。しかし、いかに神機使いの特権で身体能力を強化されている(偏食因子の影響により、非投与の人体と比べて数割ほどの身体能力の向上が見受けられる)とはいえ、神機を使って戦う者のベースは人間であり、ときに油断もすれば注意が散漫になりもする。そうして命を落とした神機使いは数知れず。定年まで生きていられることが非常に珍しいとまで言われる。

 

アラガミという存在はどこまでも人に対して無慈悲であり、彼らはただただ己の本能に従い捕食を繰り返す。それを食い止めるために神機使いは命をかけてアラガミを狩って征く。

 

しかしそれを分かっていても、いざ自分がその立場になるとなかなか上手くいかないものである。「言うは易く行うは難し」という言葉がまさにぴったりの表現だ。こんな言葉を生み出した人って、本当にすごく頭良いんだな、という事をぼんやりと考えながらコウタはソファーにもたれかかっていた。

 

するとそこに背後から忍び寄る人影が。コウタの真後ろに来ると目をギラリと光らせ、コウタの(わき)目掛けてズボッと手を差し込む。

 

「うおわっ!?ってあはは!止めろっくすぐったいって!!あっはははは!」

 

謎の人物(ここではXと呼称しよう)Xは、コウタの腋だけでなく脇腹にも手を動かしくすぐり続ける。コウタはあまりのくすぐったさに身悶え、涙まで流す。しかも笑い声まで大きく響くものだから、エントランスにいる者全員がソファーに視線を向ける。

 

X「うりうり〜ここがエエんのか?ここがエエんじゃろ!?」

「や、やめって、もう保たなっあはははは!!」

「あのぉ〜、一応ここはエントランスなのでそろそろお静かにお願いします...」

 

あまりの大声による騒ぎが迷惑だと判断したヒバリが止めに入る事で、コウタへのくすぐり攻撃は終わりを迎えた。

 

「はぁ、はぁ、ありがとう、ございます、ヒバリさん」

「い、いえいえ...。ツバキさんが来る前にお止めした方が良いかと思いまして」

 

そういうとヒバリはコウタとXに向けて苦笑を見せる。確かに、アナグラの中では鬼教官で通っているツバキが現場に鉢合わせようもんなら、コウタたちは間違いなくお仕置きされてしまうだろう。主に体力トレーニングとか、反省文とかで。

 

「ありがとうございます!お陰で命拾いしました!」

「ありがと〜ヒバリちゃーん」

「元はと言えば貴方のせいですからね!?飛鳥さん!」

 

一転してツッコミの表情を浮かべたヒバリは、謎の人物Xこと飛鳥にツッコむ。

 

「にゃっはははは〜」

「「全然反省してないし!」」

 

くすぐられたことによって余計に体力を消耗したコウタはガクッと項垂れる。

 

「とにかく、エントランスではなるべくお静かにお願いしますね!」

「は〜い、にゃはっ」

「なんかすみません...」

 

ヒバリはそう言って一階にある受付へと戻る。それを見てコウタは口を開く。

 

「で、なんで俺をくすぐったんだよ?飛鳥」

「うーん?」

 

飛鳥はんーっと考える素振りを見せるとすぐに、コウタに向き直り言った。

 

「だって、コウタ君は悩んでるよりハキハキしてる方がコウタ君らしいもんね!」

「お、おう。ありがと」

 

満面の可愛らしい笑顔で言われたものだから思わず気恥ずかしさを感じるコウタ。無意識に彼女への返事も、少しだけ素っ気ないものになってしまったが。照れ隠しも含め少し俯きながらも、コウタは口を開く。

 

「まあなんていうかさ、俺今日初めて実戦形式での訓練をしたんだけど上手くいかなくてさ...。それなりに訓練には真剣に向き合ってやってきたつもりだけど、やっぱり訓練とはいえ、実際に動いたり攻撃をするアラガミってのは全然違うんだなぁって。戦ってみて改めて、自分の実力がまだまだだってことを思い知らされちゃったよ」

 

あははははと頭を掻きながら苦笑いを浮かべるコウタ。すると飛鳥はさっきと一転して少し真面目な顔を浮かべて考えこむ。顎に手を当てて考える素振りはどこぞの探偵御用達?のポーズだが、やはり顔の作りが良い人がやると格好良くて様になるなぁ、と思いながら飛鳥の言葉を待つ。

 

「いいんじゃない?だって私たちは入りたての1年生なんだし。最初から上手くいかないのは当たり前だよ。だからコウタ君はコウタ君の、私は私のペースで着実に力をつけていけば良いと思うよ。変に焦っちゃったら、それこそ簡単にすぐ死んじゃえる職場だもん...」

 

一瞬だけ哀しげな表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔を浮かべながらコウタへと向き直る飛鳥。そんな彼女の表情の移り変わりに気付いたものの、触れるべきではないと判断し、コウタは励ましてくれたことに対する礼を述べる。

 

「ありがとう飛鳥!ようし、俺ももういっぺん諦めずに頑張ってやらぁっ」

「その意気だよコウタ君」

 

 

そうはいっても、今日行われる予定のコウタの訓練はすでに終わっているため、この心意気を訓練で発揮するのは明日である。なのでコウタは飛鳥に再度礼を言うと、自分の部屋に向かうためエレベーターのスイッチを押して乗り込む。

 

コウタがエレベーターに乗り込むのを見届けると同時に、入れ違いでエントランスに出てきた人がソファーへ歩いてくるのがわかる。茶色いコートを着た自身の上官であることを確認すると、その人物に飛鳥は挨拶をする。

 

「こんにちはーリンドウさーん」

「うっす。今日も訓練は順調か?って、お前に関しちゃ聞くまでもねえか」

 

わりぃわりぃと頭をポリポリと掻きながら詫びるリンドウ。この人も自分の上司なので、どうやら自分の訓練の推移は知っているらしい。

 

「一応言えば、訓練は順調でっすよ〜」

「おうそうか。でも、油断はすんなよ?気抜いたら直ぐにおっ死んじまう。レインも結構お前達には期待してるみたいだから、頑張れよ?新入り2号」

「了解でありますリンドウさん」

「おう。じゃな」

 

リンドウは飛鳥とのやり取りを終えると満足そうな笑顔を浮かべ、一階の受付まで階段を降りていく。リンドウを見送った飛鳥は、んーっと伸びをしてからソファーへと掛ける。実は、コウタが先ほどまで訓練をしていたように、飛鳥もまた訓練から上がってそのままエントランスに向かい、たまたま居合わせたコウタへ悪戯をしたという経緯がある。

 

従って彼女自身ももうクタクタというほどでは無いものの、精神的にはそれなりに疲労している。

 

「私も部屋に戻って休もうかなぁ〜...ふぁーあ」

 

あくびをしながらも区画移動用エレベーターへと向かい部屋へ戻る。関係者以外は入れないエントランスの二階部分は、また何時ものような静寂に包まれた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

act:03 『途中から新型』と『最初から新型』

お待たせいたしました。
本編の最新話でございます。

この話をもって本編第1章にあたるPhase [01]は完結、
次の第2章にあたるPhase [02]へと移行します。

[02]ではいよいよ新人二人の実戦であったり
あのロシアン下乳ちゃんが異動してきたりという風に
原作で一波乱起こる前の前半部分のキモを描いていきます。

それでは、[01]最終話をごらんください。


新型神機を扱う新入り2号・・・蒼皇飛鳥こと私は、上官であるアークレインさんを目の前に訓練場で神機を持ち立っていた。

 

「あー新入り2号クン。改めて説明するが、実戦前の訓練はこれが最後だ。この訓練で実戦に出しても問題無いと判断した段階で、翌日よりいよいよ実戦への初参加ということになる。ここまでで何か質問は?」

「ないでーす」

「んじゃあ早速...」

 

レインさんが言いかけると同時に獣の咆哮が訓練場に響いた。驚いて咆哮が聞こえた方へ向くと、昔に存在していた”トラ”とかいう生き物に似た姿のアラガミがいた。いや、一瞬の内にオラクル細胞を構成して作られたんだよ?今の今まで本当に後ろにこのトラちゃんは居なかったんだから。

 

思わず唖然とした表情を浮かべながらもレインさんを見やると、レインさんは(リンドウさん曰く趣味の悪い)ニヤケ顏を浮かべながら私に対して爆弾を投下してくれた。

 

 

「今日の訓練はこいつをぶっ殺すことだが...どうした?」

「幾ら何でもハチャメチャ過ぎますよ〜!?これを倒せって言われてもさすがに無茶苦茶ですってー!」

「別にこれを一人でぶっ殺せというわけじゃない。今回の訓練は他の神機使いとのペアでの演習というやつだ。そして今回の演習のペアを務めるのは他でもない俺だ」

「えぇぇーーーーーーーーーーーー!?!?!?」

「...そんなに驚くことか?」

 

 

苦笑を浮かべるレインさんが言うには、なんでも本来ならもう少しちっちゃいサイズのダミーを出した上で最終訓練とするらしいけど、私の実力がちょっと想像以上にヤバイ(どういう意味でだろ?)という事なので、急遽この大型のアラガミを模したダミー相手にペアで戦うということらしい。

 

いやいやいや、いくら何でも無茶振り過ぎるも良いとこですよ?レインさん。だって私このトラちゃんみたいなアラガミって、ここに召集受ける前にテレビで放送してたドキュメンタリー番組でしか見たことないよ。しかもその番組のなかでこのトラちゃんなんて言われてたと思う?『一人前のゴッドイーターになるための登竜門』って言われてたんだよ!?当たり前だけど、実戦未経験の新人に戦わせる相手じゃない訳だよ!!

 

 

「やっぱり無茶です!私もう帰りたいです!」

「そんなことを上官である俺が許すと思うか?ウン?」

 

もうヤダこの人。

 

実戦を経験したことのない素人神機使いに対してダミーとはいえ、一人前と認められるだけの登竜門級アラガミを倒せと平気で言うなんて。しかもリンドウさん曰く趣味の悪いニヤケ顏がますます醜悪な表情になってるし、こんな怖い嗤い顏を浮かべる人初めてだよぅ...。あ、笑い顔じゃなくて嗤い顏ね。ここ重要な所だよ?

 

 

「嫌です嫌です!私実戦を経験する前にアラガミに食べられたくないです!」

「ゴチャゴチャ五月蝿えと虎の口ん中に丸ごと突っ込むぞ」

「ひゃぁぁぁっっっっっ!?!?!?」

 

 

ついに本性を現しましたよレインさん。

 

この人、私が極東に入隊してから色々話してて気付いたんだけど、やってることのレベルが色んな意味でぶっ飛びすぎてる。極東支部周辺は他の支部から『アラガミ動物園』とか揶揄されたりする位のアラガミの頻出地帯。そのせいで神機使いの中で生き残っていける人たちは必然的に高いレベルになるのは分かる。そんな環境の中でレインさんは10年近く生き残ってきた人なワケで、レベルもそんじょそこらの神機使いとはワケが違うのも分かる。

 

なにしろ神機殺しと呼ばれるくらい神機の扱いがハチャメチャだったり、絶体絶命のピンチとんでもないアラガミ(接触禁忌種のオンパレード)が突然襲ってきた状況でも”全部の個体のコア”を引っこ抜いてきたり、もはや他の支部でも生ける伝説『Legend of G.E.』と呼ばれてたりするような人だもの。

 

でもさ、その人の考える”簡単”と私たちが考える”簡単”は意味が全然違うのだと思う。というかそうなのだと、今この瞬間声を大にして目の前のレインさん(頭おかしい人)に叫びたい。だけど私のそんな願いがこの人に通じるワケもなく...

 

 

「何をボサッとしてる。このネコ科アラガミを一匹ぶっ殺せばお前の訓練は終了なんだ。俺はこのあと出撃も控えてるから出来ればチャッチャと訓練を終わらせたいんだがなぁ」

 

聞いた?今聞きました?

 

この人トラちゃんアラガミこと『ヴァジュラ』を”ネコ科アラガミ”と言いましたよ!?いや確かにトラはネコ科だって、昔外部居住区で拾った古い図鑑に書いてあったような気がするけども!このいかにも獰猛そうなトラを、何をどうすれば”ネコ科アラガミ”だなんて可愛らしい括り方が出来んの?にゃ〜んだなんて絶対鳴かないよ? ガオォッ!!ってスッゴイ雄叫びあげる怖い獣さんだよ?

 

ネコ科って括ればイメージ的には可愛げのある感じに思えるけどさ。イメージと実際の姿は異なる場合がありますという表記、まさにこういう状況にピッタリだと飛鳥さん思うんだ。

 

おまけにネコ科アラガミの話はスルーするとしても、もう明らかにこの仕事さっさと終わらせて自分の時間が欲しいんだけどオーラを出すこの人。場慣れというか経験からくるものというか、とりあえずレインさんからみればこのすぐに飛びかかってきそうなトラも可愛くじゃれてくるネコちゃんに見えるのかもしれないけど!私にとっては対面するだけでも結構勇気が要る相手なんですけどぉっっ!実際、雄叫びが聞こえた瞬間思わずチビっちゃってて正直さっさと部屋に戻って着替えたい位なんだけど!!

 

あ、変な妄想したら膝パァンからの目潰しキメるからね?

 

 

「ゴチャゴチャ考えてねえでさっさと始めっぞ。んな気にしなくても、お前じゃ勝てねえと判断したアラガミはたとえダミーでも出さねえ。先輩神機使いとの演習であれば十分に勝てると判断したからこそ、このヴァジュラはここにいる。神機そのもののスペックもあるからどんだけ討伐に時間が掛かるかは計りかねるが...、まあ30分ありゃほとんどお前だけの実力でもどうにか倒せんだろ」

 

そういうとレインさんは私の隣にツカツカと歩み寄り、私の援護ができる間合いで正面のヴァジュラと向き合いながら神機を構える。

 

「んじゃあ早速訓練開始といこう。ツバキちゃん、始めてくれ」

 

直後、再びヴァジュラが大きな咆哮をあげる。どうやら本気で私(とレインさん)をコイツにぶつけるつもりで考えてるらしい。本音を言うなら逃げたくてしょうがないけど、殺らなきゃ訓練は終わらないのは、今この瞬間ダミーを起動させられたことによってハッキリとわかった。

 

だったら、出せる限りの全力でこのトラ(ヴァジュラ)をぶっ殺してやるんだから!

 

 

「来るぞっ、構えろ!」

 

ヴァジュラと私たちの戦いが始まった。

 

 

-----

 

-3 person view-

 

 

ヴァジュラは飛鳥が神機を構えた直後、真っ先にレインに向かって飛びかかった。防御をしなければ一瞬で強靭な顎に体を丸ごと噛み砕かれてしまうだろう。しかしレインはそれを予期していたように流れるようにバックステップで回避する。続いてロングと遠距離型の二つを持つ神機のみの特殊攻撃法であるインパルスエッジを使い、近接形態のため小さく折りたたまれた銃身からオラクルの弾丸をヴァジュラに撃ち出す。だが本人はあくまでダメージを与えるのではなく牽制のつもりで放ったらしく、放たれた弾丸はヴァジュラの直前の地面に着弾する。

 

自分の目の前に着弾、炸裂した弾丸に思わずひるんだヴァジュラは一瞬行動を止める。

 

その隙にレインは、先ほどまでの趣味の悪いニヤケ顏は(なり)を潜め、歴戦の神機使いらしい真剣な表情を浮かべながら飛鳥に向かって叫ぶ。

 

「どうした!これはお前が突破しなきゃならない壁だ!お前がダメージを与え、お前がトドメを刺すんだ!俺は”あくまで”サポート、戦力として期待するんじゃねえ!!やれっ!これを倒せなきゃいつまでたっても実戦には出れねえぞッ!」

「くっ...」

 

本当に神機使いに向かって殺す気で飛びかかってきた目の前のヴァジュラを見て、自身の内からドクドクと湧き出てくる恐怖を実感する。先輩でありベテランであるレインが自分に叱咤してきたが、今この時はっきりと自分に理解できたことがある。

 

このアラガミはたとえダミーであっても、本物と同様に強い。さっきも本人に直接言ったが、新人である私なんかが戦っていい相手じゃない。実戦の現場でコイツに遭遇すれば間違いなく私は死んでしまえる。能天気な性格である飛鳥がそう思えるほどに、この訓練場の”空気”は相手に圧倒的なまでに支配されていた。

 

だがレインは言った。

 

『先輩とペアで組んだ状態であるならば、お前の実力でも勝てる』と。それはすなわち、私でも勝てる程度まで実力はセーブされている?いや、そんなことをしてはわざわざこんな大型のアラガミを用意する意味がない。もっと弱いステータスの中型アラガミのダミーを出せばそれで事足りる。

 

では何故、レインはそう言ったのだ?

 

 

「ボーッとしてんじゃねぇ!考え事は後回しだ!さもなきゃ死ぬぞ!!」

 

再びのレインの怒声にハッとする。見ればヴァジュラは自身の目の前に5つの電気で作られた球を生み出していた。

 

「まず...っ!?」

 

気付いたときには電気の球は一直線上に向かって放たれていた。打ち出された球の内の一つ、その射線上に飛鳥は立っていた。咄嗟に防御のために装甲を展開するも、十分に展開しきらない内に球が着弾し破裂する。破裂した球からは高圧の電気が放出され、生身の人間であれば一瞬で死に至らしめる程の電流が飛鳥の全身を激痛と皮膚を焼く熱と共に駆け巡る。

 

「うああぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!」

「ちっ...!」

 

レインは神機を遠距離形態へと切り替えると緑色の光線を飛鳥に向けて放つ。状態異常も含めたバイタル回復専用のレーザーバレットは、着弾した神機使いの体を少しだけではあるものの確実に癒す。

 

レインの支援射撃によりなんとか意識を失わずに済んだ飛鳥は、一瞬でボロボロの状態になりながらもキッとヴァジュラを睨みつける。状況的には体力の全体値を100とするなら20を下回っているほどに消耗しているが、瞳から感じられる気迫は、普段のおちゃらけた姿からは想像できない程に強い。

 

 

「ちッくしョう...よくもワタシをこんな目に遭わせてくれて...。こっちはボロボロだけんど、ぜッてェ許さねえかんな?」

 

キレた。

その場でサポート体制に入っているレインも、管制室で緊急霧散用のスイッチに手をかけ続けているツバキも、同時にそう感じた。

 

神機を構えなおした飛鳥はヴァジュラと対面する。互いに間合いを計りながら、いつでも攻撃・迎撃が取れるように油断なく。

 

先に動いたのは飛鳥の方だった。ロングブレードならではの長過ぎず短過ぎずのリーチを以って

ヴァジュラの前足に一撃を見舞う。しかしヴァジュラも負けることはなく、前足に僅かな傷を負いながらも敵の頭を噛み砕こうと口を開く。

 

そこに飛鳥はつい先ほどレインが行ったインパルスエッジを見様見真似で実行し、引き金となるスイッチを押した。神機の中に貯められていたオラクルを消費し、飛鳥の神機に付いた新型銃身のショットガンパーツより強力な弾丸が発射される。

 

口を開けたところにオラクルの、しかも刀身の性質上、着弾すれば爆発する弾丸を撃ち込まれたヴァジュラはたまらず体を大きく仰け反らせる。

 

 

「喰らッちまえッ!」

 

叫ぶ飛鳥に呼応するかのように神機が大きな顎を発現させ、ヴァジュラにかぶり付く。ある程度まで細胞を喰らった顎が神機に戻り、飛鳥はバースト状態へとなる。普段かかっている身体能力のリミッターを、捕食で取り込んだアラガミの強大なパワーを使って一部開放し、よりアラガミ討伐を効率化させる状態。それによりオラクル所以の少しだけ黒いオーラを纏った飛鳥は次の瞬間、目にも留まらぬ速さでヴァジュラへの攻撃を始めた。

 

「「ッッ!?」」

 

あまりの突然の出来事にレインもツバキも驚愕する。一応は捕食を含む様々な訓練を経た上で今回の訓練を行っているが、今までの訓練の中で捕食をした後もここまで機敏な動きをした瞬間を見たことがない。

 

もちろん、今までの訓練は今行っているこれと比べればまったくのお遊びのようなものともいえる訳だが、しかしそれにしてもバースト状態になった途端にこれほどまでの身体能力を発揮するとは、さすがのレインたちも予想し得なかった展開である。

 

とうの本人は、ただ無言でヴァジュラの攻撃を避けては斬りつけ、避けては斬りつけをひたすら繰り返している。時折自身のバースト状態が切れそうになったら隙を見て捕食し、バースト状態を維持しながらまた避けては斬ってを繰り返す。

 

飛鳥自身も言っているが、本来ヴァジュラは実戦未経験の新人は絶対に戦わせてはならないレベルの強さを持つアラガミだ。しかし今目の前で起こっている状況はどうか。

 

ヴァジュラは目にも留まらぬ速さで動き回る飛鳥の動きに追いつけていない。若干レベルを落としてあるとはいえ、ほぼ野生の個体と同程度の強さを持つダミーに対し、先ほどとは逆転して”彼女が”ヴァジュラを圧倒しているのだ。文字通りの蹂躙劇に近い現象が起こっていた。

 

 

「まァだ生きてんのォ?しぶてェやつは嫌いなんだよねェッ!!」

 

飛鳥がトドメと言わんばかりに巨大な顎を発現させ、ヴァジュラにかぶりつかせる。食いつかれた瞬間からヴァジュラは己が感じている激痛により大きな叫びをあげ続ける。だが、ある一瞬を境に突然糸が切れたように倒れこみ動かなくなった。それでも変わらずカミカミし続ける飛鳥の神機。やがて捕食が終わると同時に神機を肩にかけてレインの元へと近づいてきた。

 

 

-----

 

-arkraine view-

 

 

 

「はいどォぞ」

 

そう言って飛鳥が渡してきたのは、先ほどのダミーを構成していたコアだった。

 

「お、おう、お疲れさん」

 

先ほどの飛鳥の動きを見た後で思わず動揺した返事を返してしまったが、戦果そのものとしては大変上出来、上々なものであるといえよう。なにしろ瀕死寸前まで追い込まれはしたものの、死なずにほとんど一人でヴァジュラを本当に倒してしまえたのだ。

 

とはいえ、ここで過剰に自信付かせて天狗にさせるつもりは毛頭ない。そろそろここで、なぜこんな無茶苦茶な訓練を実戦前最後の訓練としたのか。その理由をきちんと彼女に説明するとしよう。

 

 

「本当にお疲れさん。さて、お前も気になっただろう?なんでこんな無茶苦茶な訓練を自分に課したのか。その訳をこれから説明するが、とりあえず楽な体勢で座りながら聞いてくれ」

「本当のことを言ッてくれんでしョうね?」

「お、おう」

 

まずその前に、新入り2号は現在非常にご機嫌が斜めであるようだ。そうなっても当たり前なことをしたんだから当然なんだが...

 

「とりあえず話を続けるな。まず結論から言うと、メディカルチェックの際に判明したお前さんのポテンシャルの高さ、それがどのくらいのものであるか?どこまで危険な状況でも耐えられるか?それを早急に知りたいという上層部からの要望を、んまぁ手っ取り早く実現した結果だということ」

 

 

実は彼女の入隊後に行われたメディカルチェックの際、俺は彼女がチェックを受けている最中なのにも拘わらずサカキ博士に呼び出しを受けた。内容は想像の通り、この新人が内に秘める驚異的なポテンシャルの高さについて。しかしその内容は俺ですらも今まで見たことのない驚異的な値であり、同時になるだけ早く一人前に育て上げなければならないと思った。

 

なにしろ検査の結果叩き出された値は、『神機使い最強』とされる俺を『はるかに上回る』ものだったから。

 

「生き残り続ければお前さんは間違いなく化ける。それはメディカルチェックの際に叩き出された値が証明している。だからこそ、お前さんの本気の底力を見たかったのが今回に至る経緯さ。とはいえ、瀕死寸前の大けがをさせるのはどう考えてもやり過ぎた。普通はもう少しサポートも積極的にやるもんだが、今回ばかしはあまり手を出すなと上から命令されちゃあ、本当にヤバイ時にしか助けを出せないという状況になっちまってたっつう訳だ...が」

 

そういうと俺は飛鳥に頭をさげる。

 

「今回の件は本当に悪かった。新人にさせる無茶じゃないことは分かってる」

「別にいいですよォ?ご飯奢ッてくれるんならァ」

「喜んで共をさせてもらおうか。な?」

「覚悟してくださいねェ?」

 

飛鳥はにっこりと笑った。いや、字を間違えた。嗤った。

 

 

 

その日の夜、午後から発注されていた任務を片付けた後、どうせならと思い一緒の飯に呼び出したコウタが飛鳥の煤まみれの髪という外見を見て本気でびっくりするのと同時に、俺に対してなぜそんなことをさせたのかと怒ってきた。

 

俺は事情を説明したが、コウタが納得いかないと感じるのも当然であるため、改めて飛鳥に対し謝罪をして、コウタにも現状の理解をしてもらった。ちなみにその時、飛鳥のいつもの間延びした口調がどこか狂気を含むものであったためか「なに!?どうしたの飛鳥!!」とコウタが本気で慌てたのはいい思い出だ。

 

ついでに言うならば、バースト状態を連発したことによって飛鳥の胃袋は尋常じゃない程食べ物を欲していたようで...。途中でスッカラカンになった財布へ補充するためにクレジットを口座から落としに店を出なきゃならない程飛鳥に食われちまったのもいい思い出だな...

 

 

これからも期待してるぞ。

新入り1号2号?

 

 

<Phase 01> end...

       next...<Phase 02>

To be continued...




ということで、無茶苦茶な訓練の裏には
マッド要素もチョッピリ備えるサカキさんと上層部の
思惑が絡んでいたのが理由でした。

それとは別に飛鳥さん、あんだけ怖がってたヴァジュラに
キレちゃいました(笑)
とはいえ一瞬のうちにヤバイところまで追い詰められたので
火事場の馬鹿力のような感じでしょうか...
キレた飛鳥さん、いずれイラストを描いて
ここに挿絵として追加できれば良いですね。

ここで補足を、当方がイメージしているアナグラでの
実戦前の最終訓練、実際にはもうちょっと優しいのだと仮定しております。
実際に初めての実戦に出る際にはベテラン神機使いと組む訳ですし、
そうなるとチームワークならぬコンビワークはしっかりと確認する必要があるでしょう。

ところが今回の飛鳥さんに限っては、ぶっちゃけメディカルチェックの値をそのまま
鵜呑みにして考えるなら『ヴァジュラなんか簡単に蹴散らせちまうぜベイベー』
という風にサカキ博士を始めとする研究者たちは考えたようです。
実際に無茶苦茶な動きで翻弄した挙句、生きてる状態でコアを引っこ抜くということもしたし、
結果としてサカキ博士たちの目は狂ってはいなかったが、それでもやはり
腑に落ちないなぁと考えている自分がいたりします。

なにしろ、サカキ博士のあの憎めないキャラが個人的に大好きなものでして...w
今回の出来事の裏現場・・・サカキを始めとする研究者サイド側も
いずれ時間のあるときに番外編か何かで書いてみようかと思います。

では、また(おそらく1ヶ月後ですね)にまたお会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Phase [02] <act:04 ~> 新人として、頑張ります!
act:04 アークレインとリッカちゃん


今回は戦闘シーンは無しです。
当方が描くリッカさんはレインさんとは
何かと縁のある人物だったりします。

その辺はまたいずれ書きますが
本編の最新話をお楽しみください。


飛鳥の実戦前に無茶苦茶な内容の訓練の達成を要求した日より2日後。ついに飛鳥の初実戦の日がやってきた。

とはいうものの、初めての実戦を引率するのは実は俺ことレインではなくリンドウだったりする。ん?なんで同じ新型なのに一緒に行かないのかって?俺は未明から『デート』があったんでものすごく疲れているんだよ。

 

というわけで今はエントランス2階にあるソファーに思いっきりグダーっとしている。もう腰があと少し前に出れば椅子からずり落ちるというくらいにはグダーっとしてるが、この体勢は背もたれが丁度頭の下にくるので中々気持ちが良い。

 

それにどうせこの〇八〇〇なんて朝早い時間からソファーに座ってグダろうなんて輩は、俺のように『デート』帰りの奴でもない限りはいやしない。というか、ツバキちゃんに見つかると色々とエライことになるのでやらないのだ。今は後輩を率いてる奴ですらもツバキちゃんには頭が上がらない位だし、つまりはそれだけ鬼教官としての印象が強く持たれてたりもするのだが。ちなみにツバキちゃんに見つかると結構な量の反省文を書かされるらしい。

 

 

新入り2号こと新型神機使いの蒼皇飛鳥は、エントランス受付の前にあるソファーに座りながら引率する教官を待っている。

疲れた体を伸ばすつもりも含め、ソファーの背もたれから頭を逆さまに垂らして彼女の様子を伺ってみるが、なんだかちょっとだけ楽しそうな雰囲気を醸し出している。

 

(ダミーとはいえ、ヴァジュラを時間こそかかっても殆ど一人で片付けちまうような奴だしな...さっすが大型新人(スーパールーキー)つったところか)

 

頭をふたたび背もたれの上に乗せると同時に、区画移動用のエレベーターが開く。中から出てきた茶色のコートを着た男は、俺を見ると途端に破顔しながら近づいてくる。

 

「ようレイン、朝っぱらから随分とお疲れみたいじゃねえか。ここまで伸びきってるお前の姿を見んのもひっさびさだなぁ」

 

少しだけ・・・いや、かなり癪にさわる言い方だ。今回の相手がどれだけ滅茶苦茶だったと思ってるんだ。

 

「うるせえな。バカにしに来たんなら俺のために’レジェンドサイダー’でも差し入れろ」

「おう。新人の教育が終わったらな」

「今よこせ」

「や・だ・ね」

「今度の『デート』の書類はどうすると言ったら?」

「ごめんなさい。それは本当に冗談抜きで勘弁してください」

 

デスクワークの苦手なお前を手伝わないぞ、という脅し(切り札)をチラつかせると途端にこのザマのリンドウ。すぐさま俺のためにレジェンドサイダーという炭酸飲料を買いに自販機へと急ぐ。少しして戻ってきたリンドウの手には、レジェンドサイダーが4本握られていた。

 

「ほらよ、昔この辺で売られてた三つ矢ブランド継承のレジェンドサイダーだ。おめえに一本だけくれてやるよ」

「おーう、俺の手に手渡してくれや。もう体が動きたくないと駄々を捏ねるぐらいには動けねえ」

「ったく、ほら」

 

手渡しで受け取ったレジェンドサイダーを早速プルタブを開けて口に含む。今は殆ど失われてしまった自然の清涼な水を使い、ほんのりと香り付けをしたこのサイダーはやっぱり格別な美味さを持つ飲み物だ。

 

俺が子供の頃、まだアラガミなんざいなかった頃には親が日本から態々取り寄せてたのを、一日1本だけという条件で飲んでいたりもしたものだ。今はアナグラ付近にたまたま人も飲める水の流れる場所があるために、このサイダーもレジェンドサイダーと名を変えて存続してはいるものの、なにせオラクル技術ではない純粋な水を利用して作られている製品のため、350mlのプルタブ缶のクセして新兵にはとても手が出せない高級飲料でもある。

 

しかも、その採取ポイントがいつアラガミがやってきて汚染されてもおかしくはない。ということで、希少性と採取をするチームの危険性を加味した二つの理由で、これ一本だけでなんと1万フェンリルクレジットも取られる。新人が受けられる初任務の報酬が数百フェンリルクレジットであることからも、このサイダーがどれだけボッタクリ級のお値段なのか分かると思う。

 

 

「レイン、わかってると思うがコレ一本でクソ高いんだからな。次の『デート』の時も頼むから助けてくれよ?」

「この借りは後日お前に現金で返してやるから。それでチャラな」

「なぁっ!?オメェ汚ねえぞ!!金払ってお終い、俺を助けないってか!」

「別に俺は、お前の報告書の始末を助けることを条件に買ってこいと契約したことはねえぞ?あくまで『次のデートの報告書はどうするんだ?』と聞いただけだ。詳細な内容まで詰めたわけじゃなし」

「ぐっ!ちっくしょぉぉぉぉぉぉ」

 

リンドウは頭を抱え、数分前の自分に対し「このバカ!ど阿呆!」と喚いている。26になる男がこうやって若い頃の黒歴史をほじくり返されたみたいに一人で勝手に騒いでいるのも中々シュールな光景だ。

 

「いいからさっさと残りのもん持って新入りとヒバリに挨拶してこいや。俺はもう少しここで静かにダラっとしてるから」

「へいへい..ったく、んじゃあ行ってくるわ」

「死なすなよー」

「初っ端からフラグ建てるの止めてやれよ!?」

 

もう応える気力も無くなった俺はサイダーを口に含みながら、階段を下りていくリンドウに対し腕をフリフリと振る。程なくして受付の方から聞こえて来る声を聞きながら、またさっきと同じように首から上だけ背もたれを超えて逆さまに彼らの方を見やる。

 

 

「ほら、レインのやつに頼まれたお使いついでにお前らにも買ってきたやったぞ〜。新人時代は飲みたくても飲めない超高級飲料、その名もレジェンドサイダーだ。350mlしかねえから、味わって飲めよ?」

「あ、ありがとうございます!リンドウさん!」

「おぉ〜、これがあの噂に名高い伝説のサイダーってやつですかぁ」

 

リンドウから貰ったサイダーを味わうヒバリと飛鳥のなんとも嬉しそうな顔を見て、なんだかリンドウをパシリに行かせたのが少しだけ罪の意識が湧いてきた。しかし、自分の意思で彼女らの分まで自腹を切って差し入れたのだ。なんだかんだ言いつつも後輩の心を掴むのは上手いやつだ。

 

と思いながら見てるとふとリンドウがこちらに顔を向ける。そしてニヤリと笑いながら唇だけ動かしてメッセージを放った。

 

 

 

 

”あとで後輩二人の分の代金はしっかり請求しますんで”

 

 

 

 

このやろう。

帰ってきたときに俺がここに居合わせたら一発シメてやろうか。

 

俺がその意思を表情に出して伝えると途端にリンドウはくるりと俺に背を向ける。

 

「どうしたんですかー?リンドウさん」「いんや、なんでもねえよ?」

 

と楽しげに談笑を始めた。あの野郎、逃げたな。

 

 

首を再び背もたれの上まで戻すと再びエレベーターの扉が開き、中からものっそい露出面積の大きい衛生狙撃兵こと『橘サクヤ』が姿を現した。

 

「あら?もう仕事は終わったの?」

「あぁ、なんとか今日も五体満足で無事に帰投しましたよー。おかげさんで体とメンタルの方は疲れでボロッボロだけんど」

「本当にいつもお疲れ様ねぇ。ただでさえこれなのに、リンドウがくっついてくるときはリンドウの分のデスクワークも肩代わりしたり、本当にご苦労様...」

「第三者が労ってくれるだけでも全然違うんだなぁと今、物凄く実感できた」

「でしょ?人間ってそういうものよ」

 

ちなみにリンドウの幼馴染みであり、リンドウといずれ結婚も視野に入れた男女の付き合いをしているサクヤだが、その実年齢は俺よりも9つも下である。俺が今年30になったので彼女は俺の歳マイナス9の21歳。だが何かと頼れるお姉さんオーラを出し、適合できる神機が見つかる前はオペレーター、つまりヒバリの前任として仕事をしていただけあって事務を始め処理能力も高い。何かと仕事のサポートに頼ったりという有能な人材なわけだ。

 

まあそのなんでもソツなくこなす能力の高さが、リンドウというデスクワークのポンコツ野郎を生み出したとも言えるのだが。というか、この会話だけを聞いていたら俺の方が年下にも見えてしまうくらい頼れるお姉さんモードが炸裂している辺り、一種の貫禄も感じられる。

 

 

「んで、これから用事があったんじゃないのか?」

「あっそうだったわ。それじゃあレイン、今日はゆっくり休んでね!」

「おーう。Thank you」

 

最後は日本語ではなく英語で感謝を言いながら、いつもと変わらないアナグラの天井を見上げる。

シミの数が増えているわけでもない。特に変化が起こったということもあるわけじゃない。

 

未明の朝っぱらにハードな仕事を終わらせたとはいえ、このあとは明日までに提出する報告書だけ纏めておけばそれ以外は自由。だが、変な時間に寝てしまうと自身の生活習慣を大きく乱すことに繋がるのでできる限り眠気には抗い寝ないようにしなくては。しかしそうなると娯楽の少ないこのご時世、特にやることも無いのだ。

 

「あー...どうすっかなぁ...」

 

階段を上って来る音が聞こえる。リンドウと飛鳥の二人の声がするので、いよいよこれから実戦に出向くのだろう。しかしあれだ、朝の2時に出撃できるように動いたせいか物凄く眠い。20時に寝て1時頃にアラームがなって飛び起き、2時にヘリで飛び立ち、その後は朝8時10分前にここに辿り着くまで実に5時間近くも『デート』で相手とランデブーしてたことになる。

 

いや、要するに並の神機使いには任せられない超弩級であったり、接触すること自体が ”厳禁を通り越して禁忌”とされているトンデモアラガミ達とガチの殺し合いをしていたんだが...。

 

正直自分がこんだけ疲れてる程度で済んでるのが奇跡と思えるくらいには、敵さんの戦力は中々えげつないものだった。明らかに一人の神機使いに対して配分する戦力量を間違えてるとしか思えない。

 

 

あの、失礼ですけど人数間違えてません?

いや?これで合ってるぞ。んじゃ早速者共かかれ〜。

え、いや、ちょっ!待てこら!

 

 

こんな感じだ。

 

実際には何の予備動作もなくいきなり攻撃仕掛けてきたりと、もうモラルもクソもねえことばっか敵がやってきたりするもんだから、こっちは何度ヒヤリとさせられたか分かったもんじゃない。

 

おかげさまで、整備部で働く俺の神機の専属エンジニアたるリッカは今頃、俺の神機の状態を見て悲鳴をあげた後憤怒に体を震わせるのだろうが...。神機殺しと呼ばれる俺の異名よろしく、本日も相棒の状態は悲惨の一言に尽きる。

 

あぁ、考え事をしたら益々眠気が酷くなってきた。もうここで寝ちまおうか。寝てたって誰にも文句を言われる筋合いはねえし、相手の言い分を論破する自身もある。と思いながらも、なんだかんだここで寝てしまうと迷惑を掛けることには変わりないので、首を背もたれから上げて自分の体勢を整え自室に向かおうとするが...

 

 

「ちょっとレイン兄ッッ!!あの神機は何をどうしたらああなるのッッ!?」

 

エレベーターが開き、案の定リッカが俺の元へとすっ飛んできたがダメだもう、俺には彼女の問いに対して答える気力が無い。

 

「あぁダメだ...リッカ、眠い...」

「えっ?ちょ、ちょっとレイン兄!?」

 

部屋へ向かおうと姿勢を正したのが悪かったらしく、気がつけば俺は目の前のテーブルに頭突きしそうになっていた。が、ぶつける直前で見覚えのあるオイルまみれの灰色の布の生地が受け止めてくれた。

 

「悪い...もう、ダメ...」

「あ...」

 

その瞬間を最後に、俺は意識を手放した。

 

 

-----

 

 

 

今日の未明からついさっきまで特務(本人は『デート』と呼んでるけど)に出撃していたレイン兄が戻ってきたのを聞いたのは、私が目を覚まして顔を洗っている時だった。

 

実は私の部屋は、昔お父さんがサカキ博士に無理を言って整備室に部屋を作ってもらったのを、そのままお下がりで作業場兼自室という形で使わせてもらっている。だから、部屋の防音レベルを(アナグラのどの部屋も、壁と壁の間にある空間の空気を抜くことで、音を遮断するという機能がある)通常にしている間は、整備機器が立ち並ぶファクトリー区画の騒音であったり部屋の近くで仕事をする作業員たちの談笑も聞こえてくる。

 

中でもレイン兄は特務の帰りだと毎度毎度とんでもない壊れ方をした神機を持ってアナグラに帰還してくる(当の本人は擦り傷程度でケロっとしてる)からか、アナグラ所属の整備員の間で『神機殺し』などという不名誉な呼び名で呼ばれてたりもする。そしてそんな悪名とも呼べる伝説を持ってる事もあって、特務帰りのレイン兄が戻ってくるといっつもこの整備部のファクトリー区画はちょっとした騒ぎになる。

 

「ふぁーあ、なに?どうしたの...?」

 

寝ぼけ眼をこすりながら、作業場の窓の外に映る光景をなんとなく眺める。すると、神機を運ぶための専用の担架(神機も人工のアラガミなので、基本的に素手で触れるのは厳禁)を使って運ばれる『凄惨な壊れ方をした』神機が目に入る。途端に眠気など吹き飛んだ私はすぐさま担架の元へとすっ飛んでいく。

 

 

「ちょっと!?これって誰の神機!...って、聞くまでもないね?コレ。だってつい1週間前にも私すごい壊れ方した、コレとよく似た神機見たもの」

「あっはははは...ご想像の通りですよ、リッカさん。ちなみに、その神機の相棒さんからの伝言なんですけど『やっちまったもんは仕方ないってことで、いつものように頼むわ。期待してるぜ』だそうです」

「あの野郎ッ! アタシを舐めてんのかぁぁぁぁぁッッッ!!?」

 

毎度毎度反省の兆しが見られないどころか機会を経るに従って、だんだんと壊れ方が過激になっていくレインの神機。いつも丁寧に扱えと片手にバールを持ちながらあれほど口すっぱく言ってるというのに。これはなにか?神機整備士たる私に対する挑戦なの?私を舐めてんの?

 

もう頭にキた。

心配ばかり掛けさせるあのバカな大人にいっぺん一言物申さなければ気が済まない。

それと、もう本当に何回かバールでぶん殴ってやろうかな。再三にわたるお説教を無視してるわけだし、口で言って聞かないならもう実力行使に出るしかないよね?そうだよね?

 

とにかく、まさか寝巻きのままエントランスに出るわけにもいかないから、(特務からの朝帰りの場合、レイン兄は大抵の場合自分の部屋に戻らないでエントランス二階のソファーに座ってるのは、割とアナグラで有名だったりする)さっさと普段の作業服に着替えてレイン兄を問い詰めてやらなきゃ。

 

 

と思って、着替えてすぐにエントランスに向かったのは良いのだけれど...

 

「ちょっとレイン兄ッッ!!あの神機は何をどうしたらああなるのッッ!?」

 

自分でも滅多に出さない凄い剣幕で怒りながらレイン兄に歩いてくが、立ち上がったレイン兄の体がふらつき、テーブルへ頭をぶつけそうになるのを見て咄嗟にテーブルの上に飛び乗り、頭を受け止める。

なんとかレイン兄の頭がテーブルへぶつけるのを阻止することはできたものの(そのかわり私のお腹にちょっと鈍い衝撃が走ったけど...)、「悪い...もう、ダメ...」という言葉を最後になんと眠ってしまったのだ。それはもう、死んだように寝てると言って良いくらい。

 

「あ...」

 

どうしようか、レイン兄の部屋は機密情報をやり取りしても問題ないように、普通の部屋とセキュリティーのシステムが異なっている。本人の意識がある状態じゃないとロックが解除できない仕様になっていて、私一人では部屋の前までは運べても部屋の中までは運べない。

 

じゃあ私の作業場に寝かせる?ムリムリムリムリムリムリ!!そんなの考えただけでも恥ずかしくて出来ないよぅ...。だって、レイン兄を...自分の生活してる空間に寝かせるなんて...

 

(アカンアカンアカーン!!)

 

頭を一生懸命横に振って雑念を振り払う。今自分のお腹のあたりで寝息を立てている12歳も年上の男のせいで、今日は朝っぱらから心をかき乱されっぱなしだ。最初は壊れた神機の姿をみて憤怒の感情に、現在はちょっとピンクな感情に。

 

18にもなればそれなりの青春というかまぁ、こういう色恋沙汰ってのも経験するんだろうけどさ。それにしたってなんで自分はこんな男に心を撃墜(おと)されてしまったのだろう。

 

ってなんてこと考えてる場合じゃない。私にもこれから仕事があるんだから、こんなところでジッとしてられない。でも...。

 

もしこのまま一緒にいれば、レイン兄を膝枕しても良いよね?と思った。いや、一瞬そういう考えが浮かんでしまった。もうこうなっては恋する乙女、自分の惚れた男を膝枕している図を妄想してしまう。

 

「...ゴクリ」

 

(ごめん、今日はレイン兄が目を覚ますまでお仕事はお休みします!)

 

 

レイン兄の体を一旦ソファーに横にした後、眠るレイン兄の頭の隣に腰を下ろす。そして、自分の太ももの上にレインの頭を乗せる...。

 

「...はぁっ」

 

なんだろう、すごく幸せな気分に包まれるのが分かった。ふとした瞬間、無意識にレイン兄の髪に触る。立場上上層部の人間とも顔を合わすことが多いせいか、意外にきちんと身だしなみや人の目につく点は女性並みに気を配っているかもしれない。まるで抵抗を受けることもなく、本当にサラサラとした髪質なのだ。もしかすると白人であり日本人よりも髪が細いことも関係あるのかも。

 

(下手すると私よりもサラサラかも...?)

 

しかしそんなことは今はどうでも良いのだと言わんばかりにまた髪を梳きはじめる。

 

(好きな人を膝枕して、頭を撫でて髪を梳いて...どうしようっ!今たぶん私ものすごく変な顔してるかも!?)

 

けれどもその考えはすぐにまたどっかへ消えてしまった。今は目の前にある幸せを感じていればいい。だって、普段彼は神機を壊しては私に迷惑を掛けてるのだから(私が好きでやってるから別にいいんだけど。というか他の人には任せたくないのもあるんだけど...)たまにはこんな幸せを受け取ってもバチは当たらないと思う。いや、そうなのだ。

 

(もういいや、幸せだから...)

 

 

 

ちなみに外から見たリッカの表情は本当に幸せそうな顔をしていたそうな。

頑張ったために少しの眠りにつく兄と、それを膝枕しながら優しく見つめる妹、

まるでそんな家族のようなほんわかとした光景に、見た者たちは心がホッコリしたそうだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

act:05 極東のトランペット吹きと新入り一号の最終試験 ★

お待たせいたしました最新話でございます。
今回は某ジOリの映画に出てくるシーンを一部丸パクリした様子が出てきます。
そのシーンに合わせて挿絵も描いてみたのですが、当方はプロの絵師さんではないため
絵心があまりなく、その結果映画のワンシーンをトレースからの少年をレインさんに
差し替えるというなんとも言えない手法を使ってなんとか絵にしてみました。

これって製作者さんとかに怒られないですか...ね?


朝、日が昇る頃の時間。アラガミが文明を破壊し、地球上の食物連鎖のもとに成り立っていた自然のバランス崩壊に止めを差し、季節なんて概念が消えてしまったこの世界。それでも地球は回り続けてる。だから昼が来れば夜も来る。

 

俺は極東支部に来てからは、特務明けの時を除いて必ず毎朝の日の出には支部の屋上へ登る。当時突然の異動で周りの殆どの隊員とコミュニケーションが図れなかった俺は、子供の頃からずっと続けていたトランペットを持って屋上に登り、日が昇るのと同時に昔日本で公開されたアニメ映画の曲の「ハトと少年」を外部居住区の住民の目覚まし代わりに吹いていた。

 

地球の自転があり、以前は冬と呼ばれていた時期は日の出が遅くなるせいで冬だけは毎朝6時丁度に吹いているが、それ以外の季節の頃は日の出に合わせて吹く。

 

実はアラガミが出る以前は、世界中で取り沙汰されるくらいのトランペットの腕を持ってたんだ。自分で言うのもなんだがな?このまま成長すれば、世界を代表するトランペット奏者になるんじゃないかとか、天才トランペット少年とか。それも今は過去の話で、トランペットなんてアラガミに対して何の役にも立たない金属の塊になっちまったが、それでも心のどこかで音楽を辞めたくないって気持ちもあって、それが結果として神機使いになって暫く経った現在までトランペットを持ってる理由だったりする。

 

外部居住区の住民にとってはいい目覚ましになっているようで、時々外部居住区へと出向く度にトランペットの音色についてあれこれと言われたりもする。特にアラガミが出る以前音楽をやっていた人だと、その日の音色でそのときの俺の感情も分かってしまうようで、負の感情が音色に出てた時は心配されたりもする。

 

 

「さて、今日も良い天気になるといいな...」

 

マウスピースを口に当てブーっと音を何度か出す。その間楽器を抱き抱える様に持ちながら暖める。人間の体が周りの温度が下がれば下がるだけ筋肉の動きが鈍くなるのと同じように、トランペットを始めとする金管楽器も、フルートを始めとする木管楽器も、本体の温度が低い状態だと良い音は出せない。人がストレッチをして体を暖めるのと同じく、楽器も暖めてやらなきゃダメなんだ。自分の息を管に通して暖めるなんてのは厳禁。周りから徐々に暖めるのが大切なのさ。

 

自分の口もトランペット演奏にならしたところで、マウスピースを楽器に嵌めて音出しをする。もちろんだが楽器はちゃんと暖まってる。

 

どーれみふぁそらしどー

どーしらそふぁみれどー

 

何回か複数の音域に分けて音出しをして、今日のトランペットの音色も問題ないことを確認。楽器を真っ直ぐに構えて、外部居住区に向けてメロディーを吹く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

映画で流れたフレーズの通りに吹き終わると、マウスピースを取り管に溜まった自分の唾を抜く。楽器の手入れをしてからケースに戻すと同時に、後ろから拍手をされる。振り向くとそこには明治期の和と洋が混ざったような服を着た狐目の博士ことペイラー・榊が立っていた。

 

 

「いやいや、何度聴いてもレイン君の奏でるトランペットの音色は美しいと感じるよ。こんな世の中になっていなければ、君は今頃素晴らしい音楽家になっていただろうに..」

「お褒めに預り光栄です、榊博士。確かにそんな事を考えた事もありますが..でも今俺たちが生きているのはこの世界で、現実です。アラガミと戦うことが役目の神機使いとしては間違ってるのかもしれないけれど、それでも俺は止めたくないから吹き続けてるんです。この音色を維持できているのは、こうやって毎日吹き続けてもそれを受け入れてくれる人がいるからです」

「そうか...君はアラガミが発生する前から、子供ながらにとても素晴らしい演奏をしていた。音楽家になる、その夢を叶える事が出来なくとも、君は音楽を通して我々に確かに何かを与えてくれる。君の演奏を聴いているといつもそう思うんだ」

「...」

 

目を閉じ、榊博士の言葉を考える。音楽、アラガミが出る前は数多の音楽家が世に名曲と呼ばれる音楽を遺していったものだ。しかしアラガミがあらゆる物を喰らい文明が崩壊して以降は、音楽というものの存在自体が薄れてしまっているのは否めない。当たり前だ、何故ならオラクル以外の何もかもを受け付けないアラガミから、逃げて生き延びるのに必死なのだから。ゆったりと音楽を聴いている余裕はどこにも無い。

 

だが、音楽というのは現象的にはただの空気の震えでしかないが、確かに人に対して訴えるものがあったり心を震わせる事が出来る力がある。俺はそれを自分の人生を通して何度も実感しているし、アラガミが生まれる何年も前から生きている榊博士ももちろんそれは知っているだろう。

 

音楽、確かに人に何かを与える力を持つもの。

 

俺はもしかしたら、音楽がこの世界で存在を薄れさせていることに無意識に危機感を抱いていたのかもしれない。

 

 

「何にせよ、外部居住区の人たちは君の演奏を聴いて目覚める事に変わりはない。これからも毎朝『ハトと少年』のフレーズを鳴り響かせられる様に、生き残り続けて欲しいね」

「もちろん、天寿を全うする以外で死ぬ気はありませんよ。神機を手放すのは引退する時と決めてますので」

「ふむ、それは結構。ではまた会おう。若き音楽家よ」

 

榊博士はそう言うと羽織った上衣を風にはためかせながら屋上を後にする。博士を見送りながら、眼下に広がる外部居住区の光景を見下ろす。

 

10万人単位の”神機使いになれる素質を持つ”一般人とその親族が各々で家を建て暮らす居住区。このエリアは、アラガミが出る前のいわゆるスラム街に似たような光景だ。フェンリルの職員が時たま巡回を行っていることもあって、スラム街ほど治安は悪くはないが、支部のプラントで生成される物資のリソースはどうしても内部居住区やエイジス島への分配が優先されるために、外部居住区の家一軒一軒を改修することは出来ていない。衛生環境も決して良くはなく、住民はフェンリルに対して時々デモを行うこともある。

 

「音楽は確かな力がある。でも、それを受け入れることが出来る者もいれば出来ない者もいる、それもまた事実...か」

 

昔に比べれば大分減ったが、今でもトランペットを毎朝吹いている俺に対して外部居住区の者が暴言を浴びせかけることがある。こんな一日を生き延びるので精一杯なご時世で、音楽なんてものにうつつを抜かしてられるほど神機使いは裕福な人間なんだなと。ひどい時は物をぶん投げられたり、殺すつもりで突っ込んでくる人もいる。

 

 

「映画の音楽を一曲吹いただけでここまでバッシングされなきゃならんとは、まったく世知辛い世の中になっちまったもんだ」

 

 

トランペットをケースにしまい、さきほど榊博士が帰った道を通り極東支部の屋上を後にする。

 

「若き音楽家...そうなれたら俺の人生はどれだけ充実していたんだろうな?」

 

どれだけ問い詰めても決して答えの出ない問いを自分に掛ける。

 

 

 

------

 

 

 

「あ、リンドウさん!こんちはっす」

「おーう新入り。どうした?」

 

リンドウがエントランスに来ると、一足早く来ていたコウタが挨拶をした。今日はコウタの実戦前最終訓練の日。教官はリンドウが務めることになっている。

 

「あの、今日はよろしくお願いします!」

「おう。あんま気負い過ぎると上手くいかねえからな。適度にリラックスしながらやろうや。な?」

「はい!」

 

ヒバリに訓練の手続きをしてからコウタとともにエレベーターに乗り込み、訓練場のあるフロアーを行き先に指定する。扉が閉まり、ガクンと移動を始めたエレベーターの中でふとコウタがこんなことを聞いてきた。

 

 

「そういえば、リンドウさんは日の出の時間に外部居住区で響くラッパって知ってます?」

「ん?ああ。あの『ぱ、ぱーんぱんぱーんぱーんぱんぱーんぱんぱーーん』ってフレーズの?」

「はい!俺、あの曲大好きで!神機使いの人が吹いてるのは分かるんですけど、

 誰が吹いてるのかってのも神機使いになった今なら分かるかなって」

 

そうかと答えてリンドウは考える。リンドウはあの映画の曲、確か『ハトと少年』とかいう名前だったと思うあの曲をほとんどの毎朝誰が吹いているのかを知っている。特に本人から口止めをされているわけではないが、でもせっかくコウタがずっと探してきた謎の一つであるということだ。自分で見つけるほうが良いだろう。

 

「んまあそれは自分で見つけりゃ良いんじゃないか?」

「あ、リンドウさん。その顔は誰が吹いてるのか知ってますね?

 でも分かりました!俺、自分で答えにたどり着いてみせます!」

「おう。それじゃあっと」

 

再びエレベーターがガクンと揺れ停止する。目的の階に到達したようだ。

 

二人はそれぞれの神機を取り出すためターミナルに腕輪を差し込み、コンソールを操作する。保管用のドッグから出てきたパッケージングされた己の神機を取り出し、訓練場へと向かう。今回訓練が行われるのは第3訓練場で、そこにはもうツバキが管制室で待機しているはずだ。自分たちが時間に遅刻するということは絶対ないが、あまり待たされるのは好きではない彼女を定刻5分前まで待たせるよりはさっさと訓練を始めちゃったほうが良い。別に訓練の予定が早まることで支障が出る事案も特には聞いていないので問題はないだろう。

 

「んじゃあ訓練場に入るぞ。最初におさらいしとくが、順調に進めば今回がお前の実戦前最後の訓練になる。お前さんの場合は遠距離型に必要な知識がしっかり入っているかどうかと、近接攻撃型との連携がしっかり取れるかどうかを実際にペアで戦って確認する。その性質上今回出てくるのは中型アラガミと言われる、お前が今まで戦ってきたちっちゃいやつよりもひと回りデカさもタフさも上のダミーになる」

「えっ...?」

 

リンドウの言葉に不安そうな表情になるコウタ。そんな顔を見て、普段とは少しだけ違う頼れる男の表情を浮かべながらコウタの緊張をほぐすべく言葉を重ねる。

 

「なぁに、大丈夫さ。お前が今まで訓練で学んできたことを全て活かせれば決して倒せない相手じゃない。それに、俺がいるんだ。頼れるパートナーがいるんだから、お前はお前の役割を見失わずに戦えば良いさ」

「は、はい!!」

「うし、行くぞ新入り」

 

神機を構えると同時に、訓練場への扉が開く。リンドウとコウタが入り、扉が閉まるとツバキの声が響く。

 

『二人とも、準備は良いか?』

「ばっちしです。雨宮大尉」

「お願いします!」

『そうか...では』

 

中央の地点にどす黒い霧のようなものが群がり、突如琥珀色の光を放ちながら形を作る。やがて光が収まると、そこには猿のような姿をしたアラガミがいた。

 

『今回の訓練は、目の前にいるコンゴウを倒すことだ。始めろ』

 

開始の合図と共にコンゴウが大きな雄叫びをあげる。即座にリンドウたちは戦闘態勢になり、それぞれのフォーメーションを組む。直後背中にあるパイプのような器官から空気の塊をコウタめがけて発射してくる。

 

ローリングで回避したコウタは銃口をコンゴウに向けながらステップをして敵との距離を取る。遠距離型は基本的には、近接型のバックアップと周囲の状況を見渡しつつその場に応じて的確な行動を取れる距離を維持しながら敵と交戦する。この場合は、前衛であるリンドウをサポートできる位置をキープしながら、自身も攻撃を回避しやすい位置を常時維持していくことが大切となるのだ。

 

「まずは敵の動きを観察しないとな...」

 

前で相対しているリンドウとコンゴウの動きに着目する。目の前で剣を振るうリンドウに一発当てようと横殴りのパンチを振るうコンゴウだが、その動きを予期していたリンドウは危なげなくバックステップをとって避ける。

 

「新入り!こいつはパワーはでかいが一回一回の攻撃の隙が大きい!よーく観察して、敵が隙を見せたときに合わせて援護を頼む!」

「はい!」

 

リンドウから受けたアドバイスをもとに改めて観察を続ける。確かに動きをよく見てみると、攻撃の予備動作が大ぶりでその分隙が生じやすいようだ。リンドウが攻撃を盾で防いだところで何発かオラクル弾を撃ち込む。

 

「そうだ新入り!その調子で続けてくぞぉ!!」

「は、はい!!」

 

再び斬りかかるリンドウ、それを太い腕で受け止めるコンゴウ。チェーンソウを模した刀身の神機は腕の奥深くまで食い込む。コンゴウの肉に深く食い込んだ神機を引き抜こうとするが、思う以上に神機が食い込んでいたようで抜き出せずにいる。

 

その間に空いたもう片方の腕がリンドウへの攻撃態勢に入るのを見て、牽制も含めてコンゴウの顔に何発も撃ち込んでやる。意識が完全にリンドウの方へと向いていたようで、意識に入れていなかったコウタからの攻撃に面食らったコンゴウは思わずのけぞる。その隙にリンドウはチェーンソウを回転させ、なんと神機の食い込んだ腕を丸ごとそのまま切り落としてしまう。

 

「リンドウさん!?」

「今の射撃もベストタイミングだったぞコウタ。それよか、もう少しでこいつもぶっ殺せる。最後まで気を抜かずに片付けるぞ!」

「はいっ!」

 

腕が切り落とされた所からはボタボタと血が流れている。確かにこの状態じゃアラガミでも長くは保たないかもしれない。だが、レインとの訓練の度に最後まで気を抜くなと言われ続けてきたコウタは、弱った状態のアラガミを見ても気を緩めることなく神機を構える。

 

「食らえ!」

 

コンゴウの傷へ照準を向けて引き金を引く。痛みにあえぐ叫びを訓練場へ響き渡らせると、頭に血が上ったのかか、今まで相手取っていたリンドウではなくコウタに敵意をむき出しにする。

 

「! あっぶねっ!」

 

瞬間予備動作もなくいきなりこちらにゴロゴロと回転してくるコンゴウ。済んでの所で前転をして受け身を取り、なんとか攻撃をかわす。こんなもの食らえばベテランでもタダじゃ済まない一撃である。

 

コンゴウの動きを見ながらコウタは即座に立ち上がり射撃フォームを作る。だが撃たせはしないとコンゴウは大きく前へ繰り出しながら殴りかかる。

 

「くっ...」

 

こちらもバックステップで回避に成功したが、これでは遠距離型の戦闘能力を完全に出せない所までコンゴウに近づかれてしまった。再度殴り掛ってくるコンゴウを即座に避けながら、なんとか距離を取ろうとするが、相手の方が体格が大きくなかなか距離を引き離せない。

 

懐近くに入り込まれてはいないがこのままでは防戦一方だが...

 

「リンドウさん!これってどうすれば!」

「そうだ。俺とお前はペアだからな!相方がヤバイときは助けないと...な!!」

 

リンドウがコンゴウに斬りかかり牽制をする。その隙にコウタは急いで敵との距離を確保し、照準を再度向け直す。

 

「いっけえぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

リンドウの突然の乱入によりのけぞったコンゴウに、止めと言わんばかりにオラクル弾をひたすら撃ち込む。やがてグオォォォォという断末魔の叫びをあげると同時にコンゴウが地に倒れ伏す。

 

「やった...のか?」

 

コウタの問いに対して、リンドウは自身の神機を捕食形態にしてダミーコンゴウのコアを捕食し取り出す。その様子を見て、コウタはホッと胸をなでおろす。しかしそれも一瞬、すぐに神機を構えなおしいつでも撃てるように待機する。

 

 

「ごくろうさん、コウタ。最後まで気を抜かずにいたのはレインの教育の賜物かね?まあなんにせよ、実際の現場で戦ってる人間としては十分だと思うぞ。雨宮大尉はこの訓練をご覧になってどう思われました?」

『ふむ、あげればまだまだ甘い所もあるが...実戦には出しても問題ないだろう。よくやったな、コウタ。試験は合格だ』

「あ、ありがとうございます!!」

 

リンドウと、管制室で見守っていたツバキにそれぞれお辞儀をして感謝を伝えるコウタ。

 

「うむ、きちんと感謝を言えるやつは得をするぞ。これをもって今日の訓練は終わりだ。おつかれさん」

『ゆっくり休め、明日の任務に支障をきたさないようにな』

「はい!お疲れさまでした!」

 

コウタは再度礼をして、先に訓練場を退出する。

 

 

「早いとこ背中を預けられるようになってくれれば良いんだがなぁ...」

『そのためにサポートをするのがお前や私の役割だろう?リンドウ』

「あー、おっしゃる通りでございます。雨宮大尉」

 

後頭部をポリポリと掻きながら続いて訓練場をあとにするリンドウ。

 

(どうか生き残り続けてくれよ?新入り1号くん)

 

 

そんなことを考えながら、神機保管庫へと向かうのであった。




戦闘描写が難しいという言葉、
他のこうした二次創作のなかでもGEのようにアクションの多いジャンルでは
特によく聞くメッセージですよね。
私もこの作品書くたびにそう思います。
頭の中でアクションは浮かんでいてもいざそれを文に起こすとなると
あら不思議、頭の中でキャラクターやアラガミの動きばかりがどんどん勝手に先行して
文字に起こすのがあっという間に追いつかなくなるんですね。
その結果何が何だかワケがわからなくなるし、せっかく思いついたアクションも
記憶しきれずに忘れてしまって永遠の闇に葬られるわ...

しかしこのお話は神機使いのオンオフ両方の物語を描く内容ですので
戦闘描写は決して避けて通ることはできないのです。
しかしそれにしても、自分が書くとなぜこんなにも淡白なバトルになるのだろう..w


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

act:06 コウタの初実戦

遅くなりましたが act:06 でございます。
相変わらず文章の書き方が下手くそで読みにくい点もあるかもしれませんが、どうぞお楽しみください。


俺、藤木コウタはいよいよ今日、神機使いとして初めての実戦を経験する!

 

昨日行われた実戦前最後の訓練、言ってしまえば実戦に出せるかどうかを判断するための試験みたいなものを無事にパスできた俺は、今日同行する先輩の神機使いと一緒に初実戦に臨むことになる。同期の飛鳥には先に実戦デビューされちゃったし、早いとこ俺も追いついてノゾミや母さんに自慢できるようになりたいからな。

 

さっきエントランスで待ってろってツバキ教官にメールで言われた俺は、今ヒバリさんの立つカウンター近くのソファーで暇を潰していた。

 

「コウタさん。いよいよ初の実戦ですね!頑張ってくださいね!」

「あ、ありがとうございます。ヒバリさん!」

 

応援の言葉を掛けてくれた上にニッコリとかわいい笑顔を浮かべてくれる。これがたとえ営業スマイルだとしても、俺を応援してくれたのだから嬉しい。ヒバリさん、たしかにこの人は受付嬢に向いてるのかも。

 

 

「あっ、レインさん。支部長が顔を見せに来いと...

「見なかった事にしてくれ」

「あっはい」

 

2階から今までの訓練でお世話になったレインさんが降りてくる。あれ?ってことは今日の俺とペアを組む先輩神機使いっていうのは...

 

 

「ようコウタ。つうわけでお前の初めてのパートナーは俺ことアークレインだ。一応形式ってもんをかるーくお話するぞ」

「は、はい」

「改めて俺の名前はアークレイン・レグナゲート、いつものようにレインと呼べ。ツバキ教官と同じく階級は大尉、お前がこれから所属する第一部隊の隊長でもある。普段はあまり気にする事はないが、支部長や他の上層部の面々と話をするときはこういう形式ばった振る舞いをしっかりしないとならんから、一応覚えておいてくれ」

「分かりました!そのー、レイン隊長?」

「普段はレイン”さん”でいいぞ」

 

俺が隊長とつけて名前を呼ぶと、ちょっぴり恥ずかしそうに苦笑しながら言う。レインさんはフランクなところがあるし、あんまり硬い呼び方は慣れてないのかな。

 

「早速だが、今回の任務には俺が同行する。目標は今までお前が訓練で散々的にしてきたオウガテイル一体、こいつをぶっ倒すのが今回の任務だ。ただし今までの訓練とは違い、想定外のアラガミが現場に乱入する事があるかもしれない。訓練でも口酸っぱくして言ってきたが倒し終わっても絶対に気を抜くな。警戒を解いていいのは目標を討伐したときでもなく帰りのヘリに乗ったときでもなく、アナグラに戻ってから、だ」

「はい!あの、精一杯頑張ります!!」

「オーケイ。んじゃあ現場へ行くぞ、コウタ」

「はいっ!」

 

 

レインさんに連れられて一緒に神機保管庫へと向かう。さあ、いよいよ初めての実戦だぜ!

 

 

 

-----

 

 

 

 

「来るたびに思うが、ここは昔の面影の『お』の字もねえなぁ...」

 

贖罪の街と呼ばれる場所

移動手段のヘリから降りてしばらく歩いたところでふとレインさんが口をこぼす。少し進むと急に崖になっており、ここがヘリの中で聞いた

この現場の『A地点』と呼ばれるポイントらしい。特に何か現場で起こっているような状態でない限り、基本的にこの現場での仕事はこの地点からスタートすることになるそうだ。

 

「昔の面影?」

「ん、ああ。お前は物心ついたときには既にアラガミがいた世代だからよく分かんねえか。俺はガキの頃家族と一緒にこの街に来たことが何度かあるのさ。そんときは高いビルが群れるように建ってて、まさにThe 都会という感じだったよ。ターミナルで昔のアーカイブ映像を見れば分かると思うが、この辺は綺麗な街だった」

「へぇ...」

 

そう言われて辺りを見渡してみるが、どこもかしこも荒廃した景色しか目に入らない。目線を上げると何やらデカイ穴の開いた建物が何個か建ってるけど...

 

「そう、そこにある建物一つ一つがかつては綺麗な都会の街を作ってたのさ。今じゃこんな状態になっちまってて、見る影もないけどな」

 

少しだけ寂しそうな顔を浮かべるが、すぐに訓練のときに見た、上官としての厳しい表情に直り俺に向かって話し始める。

 

 

「そんじゃあ最終確認といこう。

 アナグラを出る前にブリーフィングは済ませてあるはずだが、実際に戦闘を始める前にここでチームメイトやオペレーターとの作戦目標や注意事項などの認識を共通化しておくこと。つまり、互いの理解した内容が食い違わないように確認し合うことを忘れるな。これが戦闘前に必ずやってほしいこと。ここまではいいな?」

「はい!」

「次に、お前に4つの命令を出す。絶対何としてでも守り抜け。我武者羅になって守れ。『死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ、運が良ければ不意をついてぶっ殺せ』の4つだ」

 

レインさんは人差し指から小指を順番に立てながら俺に命令を与える。でもこれって、案外簡単なことなんじゃと思ったり...

 

「言っとくがコウタ、この職場は生きるより死ぬ方がずっと簡単なところだ。でも絶対に俺の許可なく死ぬことは許さん。そしてそんな許可を出す日は金輪際来ない。だから絶対に死なないことを考えろ。何が何でも生き抜く根性で任務に臨め。んまぁもっとも、根性だけじゃなく頭もきちんと使わなきゃすぐに死ねちまうけどな」

「最後の最後で俺にプレッシャーかけるの止めてくださいよ...」

 

頭を使うのがあんまり得意じゃない俺に対してはちょっと辛辣な言葉だなぁ。

 

「とにかく、ヤバくなったら俺を頼れ。俺じゃなくても先輩がいたらそいつを頼れ。新人であるうちは先輩を頼って技術を盗んで自分の成長の糧にしろ。というわけで以上で俺から言うことは終わりだが、何か質問はあるか?」

「いえ、特にはないっす」

「んじゃあ今回の作戦前最後の確認に入ろう。俺たちがこれからやるのはオウガテイルだ。いいか?」

「はい、間違いないです」

「目標の個体数は一体である、また付近にアラガミの反応もない。ブリーフィングの時に確認された段階ではそうだったな?」

「ヒバリさんはそう言ってたっスね」

「よし、認識のズレはない。これで何か異常が起こらなければおそらく問題はないだろう。絶対に”死ぬな”よ?じゃ、狩りに行くぞ」

「はい!よろしくお願いします!」

 

レインさんは神機を肩に掛けながら崖を飛び降りる。ちょっと高さがあって怖かったけど、勇気を出して飛び降りる。着地してもそんなに痛みを感じないことに気付き、体が完全に神機使いの体になっちゃったんだなぁと思いつつ後を追いかけた。

 

 

 

 

 

「いたぞ、今回のターゲットだ」

「えっ」

 

先行していたレインさんが突然物陰に隠れて静かに言う。向こう側には確かに一体のオウガテイルがその場で周りをキョロキョロと見渡している。白い顎を持つ小型のアラガミ、オウガテイル。俺は今までこれと同型のダミーはたくさん倒してきたけど、本物を倒すのは初めてだ。戦う上での基本であったり、オウガテイルという種はどのような行動パターンを持ってるのかは、今までの訓練で散々叩き込まれてきたとはいっても、やはり目の前に出てくると緊張する。神機を握る俺の手が汗ばむ。

 

するとレインさんは俺の緊張を感じたのか、普段のような柔らかい笑みを浮かべると俺に言った。

 

「大丈夫だ。今までやってきたことを油断なくこなせれば決して倒せない相手じゃない。お前は神機使いになった、ならコイツは倒さなきゃならねえよな?さっきも言ったようにマズイ展開になれば俺がフォローする。だからお前はアラガミを狩ることに集中して、けど周りの警戒も怠らずに仕事を果たせばいい。お前なら出来る。な?」

「は、はい」

「よぅし、それじゃあ俺がやつに突っ込んで一発攻撃を食らわせる。お前は俺の援護射撃。出来るな?」

「は、はい。やります!」

「うん、良いツラだ。それじゃ、行くぞ」

 

 

そういうとレインさんはキリッとした真剣な表情になったかと思うと、いきなり目にも留まらぬ速さでオウガテイルに斬りかかった。

 

いきなり攻撃されたことに驚いたのと、単純に斬られたことによる痛みで叫びをあげるオウガテイル。生まれた隙を逃すのはよくない、そう思った俺はオウガテイルに照準を合わせて引き金を引く。一発一発の威力は低いけど、中距離までのそれなりに長い射程でかつ連射が利くアサルト型。レインさんが剣で攻撃をするポジションに弾が行かないよう、時々自分の位置を変えながら少しずつダメージを積み重ねていく。

 

「もうすぐ終わるぞ!止めの用意は良いかッ?」

「はい!いつでもいけます!」

「よしっ、今だ!行けぇ!!」

 

レインさんの叫びに合わせてもう一度引き金を引く。オウガテイルの体に吸い込まれるように向かった弾丸は確実に止めを刺し、断末魔の叫びを上げながらオウガテイルは地面に横たわった。

 

 

遠距離型の俺の神機では出来ない為、代わりにコアを捕食しながらレインさんは口を開く。

 

「どうだ?初めての実戦は」

「なんというか、呆気なく終わっちゃったなぁっていうのが正直な感想っす」

 

思ったままの事を言うと、どこかが可笑しかったのかレインさんは吹き出す。怪訝に思いつつもレインさんを見ていると、やがて笑いが収まったのか苦笑いといった表情で口を開く。

 

「呆気なく終わっちゃったなぁってのはそりゃ当たり前の事だわな。何しろ『オウガテイル』ってのはこの程度の強さだからオウガテイルなのであって、コイツが新人殺しみたいな強さを持ってるなら、そもそもお前さんを連れてこないさ」

 

それでもレインさん曰く例外はあるらしく、たまたま生存競争の中で生き残り続けて他のアラガミを喰いまくった結果、普通のオウガテイルよりも数倍強い『強化型個体』という形で出没することもあるのだそう。だが、それだけの強さを持つアラガミの場合にはキチンとアナグラのレーダーにも普通のとは違う反応が出るそうなので、ミッション中にいきなり乱入してきたりという事態にならない限りは新人と鉢合わせる事は無いとの事。

 

うん、解りやすく説明してくれたのはすごく嬉しいけど、俺の頭の中でキチンと理解するにはもう少し勉強しないとダメっぽい。レインさんはイマイチ内容にピンときてない事を直ぐに顔を見て察したらしく、苦笑いを浮かべながら俺の肩に手を置いた。

 

 

「んまぁ新入りの内は何もかんも理解しろってのは難しい話だ。とりあえず、『見た目は雑魚キャラ・中身はバケモン』っていうアラガミはちゃんとオペレーターが区別を付けてくれるから、お前が戦う羽目になる事はほぼ無い。一部の非常事態を除いてだが、その可能性は限りなくゼロだから心配は要らん。という事だけ覚えてくれりゃOK」

「そういう事っすか。了解です、気を付けます!」

 

 

要点を纏めて更に解りやすく説明してくれたレインさん。やがてコアの捕食が終わり、神機を肩に掛けるように持って歩き始める。

 

「そんな感じで、本日のお仕事ノルマは達成したって訳だ。でもまだ気を抜くんじゃねえぞ?安心して良いのは『アナグラ』に着いてから、だ」

「周りに意識を向け続けろって事ですよね?」

「そう言うこった。特に遠距離型は装甲が無い。いきなり奇襲受けてからの直撃を貰えば、簡単にすぐに死ねる」

「うっ...」

「ああ、ほんの一瞬の油断、そこを突かれて死んじまった奴を何回も見てきた」

「...」

 

レインさんの口から出た過去の神機使いの死はきっと事実なんだ。ここはお遊びで来る場所じゃない、一歩間違えれば直ぐに死んでしまえる様なところなんだっていうプレッシャーを感じる。

 

 

「少し昔話をしようか」

「昔話?レインさんの?」

 

俺が尋ねると、レインさんは真剣な顔で一回だけ頷いた。

 

「俺は元々第一世代の遠距離型として適合したんだが、今のお前のように入隊したての時には、そりゃ俺の心は浮かれてた。何しろ神機使いになった、それは俺が適合した当時においては『アラガミに抵抗出来うる唯一無二の英雄』みたいな扱いでな。『英雄』という言葉に浮かれた結果、俺自身が死にかけたり、仲間の犠牲を増やす原因になってしまった事が何度もあった」

「えっ?レインさん...が?」

 

俺はレインさんの過去の話に、それは本当なのかと思わずにはいられない。レインさんは自分も昔はたくさん失敗したという経験を話してくれているんだろうけど、この短い期間でも俺が訓練とかで見てきたのは凄く頼れる先輩という一面だったからか、どうにも信じられない。だけどレインさんは、そんな俺の感情を知ってか知らずか話を続ける。

 

「今とはオラクルの技術レベルが全然違う時代だったからな。俺の様に『今の第一世代の神機』に適合したやつってのは、周りには殆どいなかった。あの当時は、あの時の時点で『第一世代』と呼ばれてたピストル型神機を使ってた神機使いが殆どだった。スナイパーライフルを模して作られたこの神機だが、何しろ俺自身がこの型の神機に適合した所謂第1期生ってやつで、周りにまともに同じ型の神機を扱える先輩って人はいなかった。だからかな、最初の頃の実戦の時にはそれは失敗に失敗を重ねたさ。オラクルの供給方法から射撃の仕方まで、何においても先輩たちが使ってるピストル型とは勝手が違う。コイツを作った技術者もあくまで設計と制作を担当しただけで、実際の使い心地ってのは完全に専門外。文字通り手探りでコツを掴んでいかなきゃならなかった」

「そ、それで?」

「結果として、俺は死なずに今日まで生き残り続けてる。だけど、俺が新人の時に犯した数多くのミスのせいで、少なくとも30人は命を落とす結果になっちまった。遺族は状況を分かってたからか、俺を責める様なことをする人は殆どいなかったよ。でも、だからといって自分の罪悪感と後悔と、死んじまった同僚に対する申し訳なさってのは消える訳じゃない。同じ現場で仲間が死ぬっていうのは、そう、こうした負の感情を背負うって事でもあるわけだしな」

 

レインさんは、仲間を目の前で失った事がある人にしか出せないであろう哀しげな表情を浮かべる。でもそれはほんの一瞬で、すぐに頼れる先輩の表情に戻る。

 

「何を言いたいかっていうとだな、この先お前が仲間を一人も失う事なくずっと生き残り続けられる可能性ってのは、万に一つあるかないかだ。だから...」

 

そう言うとレインさんは俺の胸を拳で小突いて、優しい笑みを浮かべ、

 

「だから、『覚悟』はしっかりと持っとけって話だ」

「っ!」

 

俺もいつか、仲間を目の前で失う日が来るんだろうか。いや、大事な人たちを失いたくなんかない。失ってたまるかよ!

 

「そのツラを浮かべられる限り、お前は油断さえしなければ生き残れると思う。いいツラ構えだぜ。さぁ帰ろう」

「はい!」

 

 

レインさんは踵を返して、ヘリの待機してるポイントへと歩き始める。俺はその後ろから周りの警戒をしつつ付いていく。

 

 

初めての実戦、戦闘自体はすぐに終わっちゃったけど、神機使いとしての最優先でやるべき事がなんとなくわかった気がする。『生き残る』ってことが何よりも大切なんだってことは、レインさんに教わった最も大事なこと。当分はこれを破らないように戦っていこう。




本当に戦闘描写が淡白な感じになってしまいましたが、原作をプレイされた方なら何となく分かるかもしれません。本当に何をするわけでもなく、あっという間にオウガテイルって死んじゃうんですよね(笑)。だからといって、いくらなんでもこれは少々内容が薄すぎると言われても仕方ないですが...


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

act:07 出撃前夜 ★

お待たせいたしました、最新話です。
今回はレインさんに命じられる特務への出撃の前日ということになります。


「急に呼び出してしまってすまない。時間も惜しい、早速本題に入らせてもらおう」

「...」

 

質の良い絵画や陶器が、来室した者に嫌味な感情を与えない程度に飾られた部屋。そこには白いコートを纏い、笑みを浮かべながら机の上で手を組んでいる男と、その前に綺麗な姿勢で直立する黒いコートを着た男がいた。

 

白のコートを着た男の名は、ヨハネス・フォン・シックザール。エイジス島と呼ばれる、人類を守る最後の『(Aegis)』を建造するために設立された、フェンリル極東支部の支部長。常に柔和な笑みを浮かべ、一見すると優しげな印象を与える紳士的な人物に見える。しかし彼は、そんな見た目通りの人間ではない。利権や名誉が絡めば当然それを欲するのが人間。そんな欲望を内に秘めた者達が大勢集うフェンリルの本部の役員を相手に、エイジス計画という巨大プロジェクトを提唱し、完成の暁にはそんな彼らへの見返りも十二分に用意してるという。欲にまみれ、欲を満たす為なら何も省みる事なく一手を打ってくる者を相手取る、それは彼の見た目通りの人間性では恐らく出来ないだろう。相手の手の内にあるカードを予測し、時には周りからの情報をもとに相手のカードを覗き見て、自分が常に優位に立てるように己もカードを切る。そんな頭脳戦を繰り広げられるのは、己の中に一物も二物も抱えている者にしか出来やしない。

 

「今回君に『お相手』を依頼したいのはこちらの『彼女』だ。よく目を通してくれたまえ」

 

そう言って支部長が手渡した書類の内容を見て、黒のコートを着た男、アークレインは露骨に嫌そうな表情を浮かべる。そこに書いてあったのは、接触禁忌種とされる危険なアラガミの討伐指令であるから。しかもそこに書いてある目標欄には『アマテラス』と言うとんでもないアラガミの名前が入っているではないか。

 

『アマテラス』

超弩級サイズのアラガミの一種だが、攻撃力も個体そのものの耐久値も"凶悪"の一言に尽きるというまさにバケモノの中のバケモノ。攻撃方法も多彩で、特にやつの突進に巻き込まれようものなら即座にぐちゃぐちゃの人間ミンチの完成である。その上かなりのタフで、相手にすると考えるだけでもストライキしたくなる位戦いたくないアラガミというわけだ。

 

 

「支部長が俺を、常日頃どうしたいと考えてるのかよく分かるオーダーですね。俺に死ねと?」

「謙遜は止めてくれたまえよ。君の実力ならば時間は掛かっても確実にこなせる、そう判断したからこそ、この依頼を君に出しているんだ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

苦笑を浮かべて応対する支部長に、さらにシワを寄せ、嫌そうな表情をキツくするレイン。しかし、大人ともなれば嫌だ嫌だと言っても仕事は仕事。やらなければならないのなら殺らねばならぬ。ならぬのだ。もっとも、相手が相手なだけに神機使いなら誰もが他に丸投げしたくなる難易度であるため、それをこれから捌く事になる彼は相当のストレスを抱えることになるだろう。

 

自分の実力を認めて讃えてくれるのは嬉しいが、それを言っているのが自身の苦手とする人物であるのに加え、どうも支部長に都合の良い様に使われている感覚を受け、認められたことへの嬉しさよりも相手に対する不快感の方が上回る。

 

 

「一応聞きますが、うちのメンツの同伴は...」

「当然だが、これは特務であるゆえ許可しかねる。申し訳ないが単独での討伐をお願いしたい」

「やっぱりダメですか。というか、俺を便利屋か何かと勘違いしてらっしゃらないでしょうな?」

「決して便利屋ではないよ。ただ君が『素晴らしく優秀』だから、頼める任務の幅も広いだけさ」

「世間一般ではそれを『強引な理屈』と呼ぶことも出来ますね。というか、聞かされてるこっちの身分としてはそのようにしか聞こえないのですが?」

「私は単に『事実』を述べているに過ぎないだろう?君が優秀な神機使いであるということも、強力なアラガミの討伐任務を任せられるほどに私の信頼に足る神機使いであるということも、すべてこの極東支部におけるれっきとした事実だ」

 

支部長の返事に、表情に半ば諦めの感情も混じる。

 

「アンタには言葉で何を言っても無駄だということを改めて理解しましたわ。んで?こんな面倒どころか危なっかし過ぎる任務をわざわざご指名なさる以上は、当然それだけの危険性に見合った報酬ってモンを用意されているんでしょうね?」

「もちろん、私は君の実力を安く買い叩くつもりは毛頭ない。その辺に関する話も、君が今その手に持っている書類の中にはっきりと明記してある。私の署名と実印に掛けて、決して報酬を踏み倒さないことを約束するが、その書類は誰にも見られないように細心の配慮を要求する」

 

 

レインは支部長に言われて書類をペラペラとめくる。するとある1ページの中に、今回の特務を成功させた場合に支払われる報酬の内容が表記されていた。支部長直筆の署名と実印とともに。決してあらかじめ印刷されたものではなく、書類が出来上がってからサインと押印したことも伺えるあたり、報酬の面については心配することは無いだろう。支部長はその辺のことはしっかりと管理できる人間ではあるが、やはり腹に一物二物抱えている人間ゆえに油断は出来無いと感じたレインだった。

 

 

「報酬の内容については了解しました。しかしですよ、確かに魅力的ではありますけど、その代わりにこんなデカブツを狩って来いっていうのも中々ムチャクチャなお話だと思いません?」

「君の言いたいことも分かってはいるつもりだよ。かのアラガミは、君の同僚のリンドウ君でも単独での戦いでは苦戦する『ウロヴォロス神属』とよく似た個体。それも、オリジナルよりも格段に戦闘能力の高い謂わば上位種とも言える。しかし今、”あの”計画がいよいよ最終段階に入ろうとしている状況であり、ゆえにより多くの、かつ強力なアラガミのコアを始めとする素材が必要となるんだ。そして、現状『アマテラス』を始めとする所謂”接触禁忌種”と遭遇してまともにソロで戦闘を行えるのは、極東支部では君だけなのだよ。君を除いては任せられる人材は現時点において存在しない。リンドウ君には別件の仕事を頼んでいて、今回の状況ではサポートとして入ってもらう事は出来ない。君だけが頼りなんだ。君の活躍次第で、計画の進行具合は大きく変動してしまう。情けない限りだが、どうかもう少しだけ協力してはくれないだろうか?」

「...」

 

支部長の言っていることには嘘は一切無い。接触禁忌種というアラガミは本当にバケモンみたいな強さを持っている個体ばかり。そんなのとまともにソロでタイマン張れる神機使いなんて、世界中を探して一体何人いると言うのだろうか。攻撃のパターンこそ自らのベースであるオリジナルのとほとんど共通していることが多いが、そうした動きから生み出される破壊力は、はっきり言って文字通り天と地ほどの差がある。一瞬でアラガミ装甲壁を木っ端微塵にぶち壊してしまえるほどの強力な力を持つ個体である禁忌種たちは、当然並みの神機使いでは戦っても無駄死にするのがオチなのだ。

 

そのため、防衛班が出動する目安となる(防衛班はアラガミが居住区に侵入した際の住民の避難誘導と侵入アラガミの駆逐以外にも、手が空いているときは、居住区までの防衛ラインに近い位置にいるアラガミ駆逐も仕事の一つなのだ)防衛ラインを超えた接触禁忌種が現れたとき、やつらとソロでまともにタイマン張れるレインが出張るしかない。

 

だが今回の場合は、あくまで『禁忌種のコアと素材が欲しいから狩って来い』という、つまり止むを得ずではなく自分から出向くという形であり、レインにやる気が起きないのも実はこれが理由だったりする。

 

 

「参考までに聞きますけど、外部居住区までの防衛ラインに近い接触禁忌種は現状確認されていないんですよね?俺がここを空けても問題ない状況なんですね?」

「もちろん、その辺のこともしっかり調査済みだ。今の所禁忌種クラスのアラガミが出現するほどのオラクルの集まりは確認されていない。それに、万一アナグラ近辺に禁忌種が現れたとしても、アナグラに残った第一部隊の面々は君が戻ってくるまでの時間稼ぎくらいは出来ると思っているのだが?」

 

支部長の方がやはり口は上手く回る、自分はこの男に口では勝てない。自身のポリシーには背くと分かっていても、それでもやりたくない仕事のため、言い訳をグダグダと連ねて諦めてもらおうと考えたレインだが、結局支部長に言い負かされてしまう。ダメだ、勝てねえ。今日この部屋に入ってから同じことを実に二度も実感したレインは、観念したという意思を見せると同時に 大きくはぁーっとため息を吐く。

 

 

「分かりましたよ、やりゃ良いんでしょやりゃ」

「フッ、君ならそう言ってくれると思っていたよ。頼むよ、レイン君」

 

『何が君ならそう言ってくれると思っていたよだ、このクソボケ。テメェが現場に行って来い』と思うが、立場もあり決して口には出さないレイン。そんな彼の心情を知ってか知らずか、支部長は立ち上がりレインへ背を向ける。

 

 

「では、作戦の決行は明日の◯七◯◯(マルナナマルマル)だ。よろしく頼むよ」

「了解いたしました。ハァ...」

 

 

よほど今回の特務が憂鬱なのか、ため息を吐きながら支部長に背を向け、部屋を退出するアークレイン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残された支部長は、部屋の中で静かにつぶやく。

 

「もうすぐ...もうすぐなんだ。計画が成就するまで、あともう少しなのだ...! それまでは、彼には頑張ってもらわなければ...」

 

彼は静かに、口元を狂気も含んだ笑みの形に歪めた。

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

支部長室を後にした俺は、役員区画の自販機のある休憩エリアに腰掛けると頭を抱える。何をトチ狂えば、アマテラスなどというデカブツを単独で相手取ることが可能という結論になるのか。相変わらず支部長の考えていることが全く読めない、自分にこんな無茶苦茶な任務を平気で押し付けられるその神経を疑う。

 

「討伐に一体何時間掛かるのか、まったく分かんねぇな...」

 

それ以外にも心配はある。自分で言うのもなんだが、この極東において俺は『神機殺し』なる不名誉な異名を持つことで有名だ。その由来は、数々の接触禁忌種を始めとするバケモンアラガミと交戦した際、凄まじい破壊力の攻撃を食らって神機を木っ端微塵の一歩手前までの破損をして帰投するからなのだが、俺だって決して神機を壊したくてそんな振る舞いをしているわけではない。というのも、俺の神機は第二世代型のオリジナル機、言い方を変えると新型神機の試作型である。そのせいかパーツ同士を接続するジョイント部分などの、オラクルではなく金属で構成されているパーツのほとんどが、現行の新型と違って耐久性に少々難がある。そのため、高い攻撃力を持つ個体との長期戦は基本的に想定していない以上、今回のように攻撃力だけでなく個体そのものの耐久力も高いアラガミを相手取るというのは、俺にとって普段の特務以上に気を張る任務となる。状況次第では敵に一切の攻撃をすることはおろか、下手すれば全ての機能が使用不能になって、神機がただの錘になる可能性だって十分にあり得る。

 

ちなみにパーツの強化申請は前から何度も出しているのだが、パーツの換装をするには本部でなければならないだの何だのと、フェンリル本部のお役人達が反発してくれてるせいで強化が出来ていない。俺が死んだらどうしてくれるんだと問いたい所だが、現場の神機使い一人が死んだところでどうとも思わない上層部であるのは、前にそこで働いていた経験から身を以て分かっているので半分諦めている。

 

オマケに、試作型をそのまま実戦仕様に流用したためか、俺の神機は他の神機よりもパーツのサイズが小さい。近接形態は勿論、狙撃型の遠距離武器も装甲も、なにもかも。つまり、リーチが短い=普通サイズの神機使いよりも敵に短い分だけ近付く必要がある=危険度が増す。基本的に俺は近接形態でバッサバッサと斬って倒していくタイプだ。遠距離形態で狙撃するにも弾が無きゃ話にならない。嫌でもいつかは相手に斬りかかる必要が出てくる。どのみち根本的な解決には繋がらない。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁ.......」

 

抱えた頭が痛くなってくる。今まではなんとか禁忌種を倒す特務を一人で捌けてきたが、このデカブツに関しては話は別だ。こんなのに轢かれたらあっという間にお陀仏だし、攻撃の威力も桁違い。アレを、現行の神機よりもリーチの短い俺の神機でブッ殺せだと?戯言をほざくのも大概にしていただきたい。頼れる戦友も一切の同行は認められないと言われちゃ、俺の生存率は大幅にダウンしたも同然。7対3の割合で死ねる。ちなみに死ねる確率が7だ。

 

 

「お、おい?レイン、どうしたんだ?そんなに悩んで」

「ツバキちゃーん」

 

呼ばれて顔を上げた瞬間、恐らく支部長に用があって通りかかったのだろうツバキちゃんが本気で驚いた表情を浮かべた。俺のツラは今泣いてるか、或いは怒りのあまり気持ち悪い事になってるかのどっちかだな。

 

「ど、どうしたんだ?お前が涙目になるなんて、転属してきた時以来じゃないか」

「俺は今泣きそうな表情をしてるんだな。ウン、それは確かに俺の今の心情をちゃんと表している証だ」

「話せるなら話してみたらどうだ?少しは気が楽になるかもしれんぞ。それに、お前の助けになれるなら、その...私も嬉しい」

 

若干顔を赤らめつつ、俺に救いの手を差し伸べてくれるツバキちゃん。これじゃ本当にあの時の、俺がここに転属させられた直後の頃の、言葉の違いの関係で意志疎通がまるで出来ず、本気で泣いていた時に俺を助けてくれたあの時のようじゃないか。

 

どこか懐かしい感覚を覚えて苦笑を溢すが、これは特務であり、機密事項であることからツバキちゃんにも内容は話せない。俺の悩みもそれに関する事で、それゆえに相談することは出来ないな。

 

 

「その気持ちだけで本当に嬉しい。んでも、特務が原因で起きた悩み事なんでな。申し訳ないがツバキちゃんにも話せねえんだ」

「そうか...。今度のはそんなに厳しいのか?」

「ぶっちゃけ、この任務での生存率は決して高くねえだろうな。戦ってる最中、神機が機能停止する位に壊れる可能性も正直否定できん」

「くっ...。いくらレインが優れた神機使いだからと言って、それほどの難易度の任務を任せるとは...。おい、勿論リンドウも連れて行くんだよな?」

「その辺の話についてはノーコメントだな。任務の概要に一応は接触する話題である以上、その辺の事は話せない」

「...そうか」

「ああ、悪いな」

 

 

ツバキちゃんの表情が曇る。かくいう俺の顔もおそらく絶望を感じた表情になってるんだろう。これが特務なんてモンではなく、ただの臨時の緊急任務とかであるなら遠慮なく愚痴を聞いてもらう所なんだが、重大機密に分類される特務である以上はいくらツバキちゃんにも話してはいけない。守秘義務というのを遵守しなければならないからだ。しかしまぁ、自分の不安を気の許せる仲間に話せないというのは少々効くものがある。せっかく相談相手になってくれようとしてくれた相手に対しても申し訳ないし、自分のメンタルに掛かる重荷を少しでも減らしたいと思っても出来ない。

 

 

「...じゃあ、今日はもう休むよ。ごめんな、引き留めて。支部長に呼ばれてたんだろ?」

「あぁ...そう言えばそうだったな。いつ任務を実行するのかは分からないが、武運を祈ってる」

「ありがとう。その気持ちだけでも救われるよ。じゃあな..」

「...生きて、帰ってこいよ...」

 

 

ツバキちゃんの言葉を背に受け、手を振りながら答える。本当に、こうして励ましてくれる人間が身近に居るだけでもありがたいと思う。それにしても、自分の元々の用事を思わず忘れる程に、俺が今置かれた状況が衝撃的だったのか。いや、長い間一緒に戦ってきた仲間が、ふとした時に弱音を吐けばそうなってしまうのは当然なのか?そう考えてみると、今まで周りに弱音を吐いたことは殆どねえ...な。

 

 

「もう少し、周りを頼れっていうメッセージなのかね」

 

その結論に至ると、なんだか無性に気恥ずかしくてムズ痒い感覚に襲われる。リンドウに頼る?なんかヤダな。ツバキちゃんは?なんつうかちょっぴり恥ずかしいな。サクヤには?んーむ...なんか頼るってイメージが湧かねえな。年が離れてるせいか、妹のような感覚がある。ソーマは?いやアイツはガキだから頼るも糞もねえな。むしろ俺がサポートしてやんねえと。

 

乗り込んだエレベーターの中で、ガシガシと頭を掻きつつそんな事を考えているが、とりあえずこれから徐々に頼っていけば良いかと結論付ける。なんにしても、明日の特務を生き残らなければ頼るも何もない。今までのソロでの出撃任務の中では恐らく、一番面倒かつ厄介な仕事だとは思うが、どのみち避けられない道ならば通っていくしかない。

 

 

ブーというブザーと共にエレベーターの扉が開く。このまま真正面に進み、この階層の一番奥にある自室へと歩いて行く。

 

 

「うしっ!何事もポジティブに考えてかねえとやってらんねえ。とりあえず今日は明日に備えて、休息をしっかり取るとしよう!」

 

流れで部屋のベッド代わりに使っているソファーにダイブするが、直後腹の虫が飯を寄越せと声を上げる。

 

 

「...先ずは腹ごしらえしてからか」

 

アナグラのカフェに向かう。どうせまともな料理なんざ食えねえこのご時世だが、食わなきゃ何も始まらん。ただ、贅沢を言うなら『ジャイアントトウモロコシ』だけは勘弁願いたいところだな...。




次回、レインさんがアマテラスへと挑みます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

act:08 ”禁忌”との戦い 前編

大変遅くなりましたが、最新話です。
前編とありますが今回はバトりません笑


コケコッコーと鶏が鳴き、気持ち良い朝の目覚めを迎える...なんて事はなく、セットしておいたアラームのけたたましい電子音によって叩き起こされた俺は、ノソリノソリとベッドから出て支度をする。現在の時刻は○四三○(マルヨンサンマル)。周りの部屋の住人達はまだ眠っている頃の時間だが、早朝から特務を控えているからには、そろそろ起きないと余裕を持って行動できない。

 

しかしまあ、実に眠たい。またベッドに寝っ転がりたい気分だ。実は一つ上の階層、俺の部屋の真上にある部屋で生活している奴が一晩中パートナーと営みを続けていたせいで、ゆったり眠れず眠気がスッキリと取れていない。体の関節を準備運動をしながらポキポキと鳴らし、無理矢理意識を100%覚醒状態へ持ってく。

 

 

「ふぁーあ...。あんのやろう、よりにもよって特務の前夜に思いっきりハッスルしやがって。これで眠気のせいで死んだら呪うぞチクショウ...」

 

キッチリ充実した生活(意味深)を送っている同僚(リンドウ)に恨みを込めて独り愚痴るが、本人は今頃夢の中にいることだろう。そう思って上の部屋から聞こえてくる音に耳をすませてみる。

 

 

誰なのかはこの際敢えて言わないが、女の声がまだ響いているようだった。

 

「...」

 

こんな時間になってもまだハッスルしてやがる。どこまで体力が有り余っているのだ。というか、同僚の情事を壁越し(天井越し?)に聞かされてる身にもなって欲しい。あだるてぃーな映像アーカイブなら多少は興奮(意味深)出来るだろうが(俺だって男だ)、しかし同僚の情事にまで興奮出来るかどうかっていったらNOだ。何が悲しくて友人の営みを想像しなきゃならないのか。気持ち悪くて仕方ない。何が悲しゅうてこの朝っぱらからゲンナリした気持ちにならなきゃいけないのか。はぁ、溜め息が溢れる。

 

 

もういい。あんにゃろうの事なんざに構ってる暇は無いのだ。さっさと着替えて支度して、出立しなければならない。というか、昨日支部長がリンドウにも別の任務を頼んであるとか言ってた気がするが、一晩中ヤることヤってて、果たして体調のコンディションは整えられるのか?リンドウに任された任務の詳細は知らないが、もしかすると別の隊の人間も動く作戦かもしれない。そうであった場合、やつが周りの人間に迷惑を掛けないか心配になってしまう。歳としては4年程しか離れてないんだが、どうにも手の掛かる弟というような感覚がしてならない。いや、4つしか離れていないからこその弟という感覚なのか?

 

 

「...どうだっていいか。とにかく飯を食わねえと始まんねえな。カフェ開いてたっけか..?」

 

 

普段カフェを朝に利用する際はいつも早朝6時頃が多い。比較的空いていて、ゆったりと朝食を頂ける時間なのだ。しかしこんな朝早くの時間に開いてたかは分からない。開いてたらいいが、開いてない場合はよろず屋の店主から嗜好品として食料を調達せねばならない。

 

ともかく、飯を食わねば何もかんも始まらない。洗顔と最低限の身だしなみの確認だけして、カフェへと向かう。仕事の前には朝飯、これは重要だぞ。

 

 

 

-----

 

 

 

 

幸いにも、俺たち神機使いの食事処であるカフェは開いていた。現在の時刻は○五一○(マルゴーヒトマル)、どうやらカフェは朝の5時から開くようで、早朝から出立する神機使いの為に朝食を用意してくれるそうだ。ちなみに俺が何故今までカフェの営業時間を知らなかったかと言うと、単純に深夜と未明及び明け方の時間は閉まってるもんだと勝手に思い込んでいたからだ。ちくしょう、この時間からやってるならもっと早くその事実を知りたかった。

 

 

「レインさんも大変ですねぇ。こんな朝から、支部長に特務を命じられるだなんて」

 

カフェの管理人である女性マスター『霧崎マナミ』から、本日の朝食とともに一杯のモーニングコーヒーならぬココアを頂く。朝は苦味のあるブラックコーヒーではなく、甘めのミルクココアを飲むのが俺のスタイル。うむ、カカオの良い香りが絶妙に鼻をくすぐる。今日も美味しそうなココアのようだ。

 

「ごめんなさいね。本当なら、ココアに合う朝食のメニューという物を用意して差し上げたい所なのだけど...」

 

そう言って申し訳ないという表情を浮かべるマナミ。というのも、俺の目の前に置かれた銀の配膳用プレートの上には『ジャイアントトウモロコシ』と、少量の緑黄色野菜モドキ、それに申し訳程度の和風ドレッシングが掛けられただけのメニューが載っている。一昔前のアラガミが出る以前の先進国であれば、このような朝食の組み合わせ方は到底信じられないだろう。だが、アラガミが世界の文明のほとんどを喰らい尽くしてしまった現在、まともな食事にありつける人間の方が圧倒的に少ないのだ。メニューは確かにかなり珍妙な組み合わせではあるが、それ以外に用意のしようがないのだからどうしようもない。無い袖は振れない。

 

「いや、貴方のせいじゃない。こんなご時世に、こうしてまともに食事を出来るだけでも感謝しないとならないのに、これ以上に上を望むのは愚かというものだろう?」

「ええ。それでも、普段から頑張っているレインさんにまでこんな質素な食事を提供するというのは、やっぱり私としてはちょっと..ね。相応の仕事をしている人には、相応の対価を支払うべきだわ」

「その『対価』は金銭や支給品といった形でちゃんと貰ってる。たった350ml缶一本で1万クレジットも取られるレジェンドサイダーも含めてね。貴方が気にするようなことは何一つ無い、心配は要らないさ」

「...そう」

 

食事をしている俺を見つめながら、しかしどこか哀しげな顔をするカフェのマスターに、自分はこの職場で大切にされている人間であることを改めて実感する。だって、嫌いだったりどうでもいい奴に対してはこんなツラをわざわざ浮かべる必要なんてない。弱肉強食なんていう文明ができる以前の無秩序な世界と成りかけているこの時代、要らねえ奴はさっさと死んじまえってな。自分と家族を守るだけで精一杯な世の中に、他人のことを気にするってのはその『他人』がよほど周りに貢献しているか好かれているかのどちらかだ。俺は...どっちなんだろうな?

 

 

 

『ピピピ、ピピピ、ピピピ...』

 

俺の右腕に着けた腕時計が設定した時刻をアラームで教えてくれる。時間は◯六◯◯(マルロクサンマル)、そろそろ出撃ゲートに出向かないと、予定の作戦決行時刻までに現場に着くことができないな。

 

トレーに載っている朝食を全て平らげ、マスターの立つカウンターの上に載せる。

 

 

「いつもありがとう、今日もとても美味しかった」

「いつもいつも言わせてもらうけど、必ず...必ず、帰ってきてね?」

「いつも言ってるでしょう?神機使いを辞めるのは引退したときだけだって。そんなに心配しなくとも、出来の悪い弟分みたいな部下たちを置いてどっかフラッと逝っちまったりしないさ」

 

思わず泣きそうになっているマスターに微笑んでやる。すると少しだけ安心してくれたみたいで、目尻に涙は溜まったままではあるが可愛らしい笑顔を浮かべてくれた。

 

「ん、やっぱりマスターはその顔が一番良いよ。じゃ、行ってくるな」

「うん...いってらっしゃい!」

 

 

マスター...いや、マナミの見送りに応えつつカフェを後にする。

さーって、いよいよラスボス級の相手との『おデート』か...。手は抜かねえぜ?本気でやってやる。

 

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

 

 

『無事に現場へは辿り着けたようだね。では改めて、今回の作戦の内容を簡潔に説明しよう』

 

秘密裏に用意されていた”存在しないはず”のオフロードに乗って、今回の討伐目標であるアマテラスとの接触予定地点へとたどり着いた俺は、そのままオフロードに備え付けの機密無線機を使って支部長と連絡を取っていた。もともと、この一件とは別件でアラガミの大群(便宜的にAユニットと呼ぶ)が外部居住区の最終防衛ラインに向かって行軍していて、ここから比較的近いエリアで防衛班による迎撃が行われる事になっている。しかし、いくらなんでも『アマテラス』なんて接触禁忌種と鉢合うような事になると、防衛班である若手神機使い(決して素人ではないが)の命が冗談抜きで危険に晒されてしまう。そこで、あらかじめ支部長の手の内にある偵察兵が仕掛けた誘引トラップによってこの地点、便宜的に『ポイントβ』と呼ぶ地点にて俺と接触、交戦したのちに撃破をする。それ以外のAユニットを構成する大量のアラガミたちは、本来の予測進路の通りに進み、その先にある『ポイントα』にて防衛班の面々と交戦、できる限りの個体数撃破と強力なアラガミの間引きをするのが今回の向こうの作戦らしい。

 

ちなみに昨日支部長が言っていたリンドウは俺とのコンビを組めないという件だが、これは俺の任務が特務であること、討伐対象が接触禁忌種であることを考慮した結果、近距離で戦う俺のもとへAユニットのアラガミの何体かが行かないように間引くのが仕事らしい。特にザイゴートのような、感覚器官が優れていてかつ周りに仲間を呼ぶような奴にアマテラスとバトってる真っ最中に来られようもんなら、その先の未来は悲惨なことになるのが目に見えている。そのため、アマテラスに感知されないギリギリの地点『ポイントγ』にて『ポイントβ』近づこうとするアラガミを討伐するのがリンドウの役目らしい。補足だが、リンドウの任務の方は準特務扱いということで、任務を遂行することでどういった利益があるのかという詳細な情報を教えることはできないが。リンドウが『ポイントγ』でアラガミと戦闘を行うという任務の内容そのものは防衛班の面々も知っているらしい。バレると一気に士気の低下に繋がりかねない凶悪なアラガミを相手にする俺とは違い、今回は事情を知らない者がリンドウの存在に気付いても特に問題はないという訳だ。

 

 

「ちなみに支部長、アイツは昨日から今日の朝にかけて一晩中サクヤとヤることヤってたみたいですけど、あいつの体調面等を考えると非常に不安で仕方がありません。もう一人”使える”応援を寄越して頂けると、背中を預ける立場になるワタクシとしては大変嬉しいのですが、如何でしょうか?」

『・・・・・・・・・・・・』

 

リンドウくん...という呟きと共に吐き出された深い溜め息が通信機のスピーカー越しに聞こえる。普段は個人的に大嫌いな人間だが、今回ばかりは支部長にも同情する。あぁ、アンタもそう思うよな。危険度が桁違いの特務前日から当日に掛けて、一晩中寝ずにズッコンバッコンするという一連の行為がどこまで馬鹿なのかと。

 

『仕方がないな...本来のプランには無かったが、帰投中の偵察班の人員をそちらに寄越そう。彼女ならリンドウくんのサポートも問題なくできるだろう。ミストくんを君のもとに応援として派遣する、君はそのまま待機していてくれたまえ。彼女が予定ポイントに到達するまではくれぐれも交戦しないように』

「了解で...っと、支部長。目標が予定接触地点に現れました。もし目標がイレギュラーな行動に発展した場合はどう対処しましょう?」

『Aユニットに目標が合流するルートへ進入した場合は直ちに交戦を開始してくれ。合流されることが、現状最も憂慮すべき事だからね』

「了解いたしました。それでは、緊急の事態に発展しない限りは現状を維持します」

『どうか、よろしく頼むよ』

 

それだけ言って支部長の方から通信を切られる。

 

 

「はぁーあ...こんな面倒くさくておっかねえ仕事を、こんな朝っぱらから片付けなきゃなんねえとはなぁ」

 

アマテラスの感知範囲外に止めたオフロードのハンドルに、両足を組んで乗っけながらこの任務のことに頭を巡らす。なにせ耐久力も攻撃力も桁違いなバケモン級。そのうえサイズまで山のようにデカいとか一体何をどう食ってきたらこんな体になれるのだろうか。進化の過程をすっ飛ばしたとか、食べたものの形質を取り込んだ結果こうなったとか、そんなオラクル学の学術的に考察できる常識の範囲を超越した奴を一人で相手にしなきゃならない。これのオリジナルというか、ベースとなっているウロヴォロスというアラガミなら過去にリンドウと二人で倒した事もあったが、そのオリジナルを倒すときでさえ死にかけた。なのにそれより数段上の相手を、しかも『初見』でぶっ殺せと。一体どんな無茶苦茶無理難題なのだろうと、いくら普段温厚な俺でも頭に来て愚痴の一つや二つを零したくもなる。

 

それはさておき、急遽寄越される事になった偵察班の人員、ミスト。

フルネームはミスト・ルイン、今年18歳の若い少女だがこれでも入隊6年目のベテラン神機使いだ。彼女は俺が極東で1人でもまともに戦果を上げられる様になった頃に入隊してきたのだが、その際に俺が彼女の引率教官役を任された事がきっかけで、使える人材にするべく妥協無しでとにかく鍛え上げた。適合したのは遠距離型スナイパー式第一世代型神機、つまり、新型になる以前の俺と同じ種類の神機に適合したのだ。最初の頃はそりゃ誤射は酷いわ狙いは甘いわで何度も本当に大丈夫なのかと思ったが、人間慣れるとなんだかんだ出来るようになっていくみたいで、ある時コツを掴んでからの成長は著しいものだった。その経験と努力が実を結んで、今では神機使いの戦果を測る世界ランキング遠距離型部門においてトップ20に入る活躍を上げている。ちなみに1位はツバキちゃん、そこから2人跨いで4位に俺がいる。なお、あくまで旧式遠距離型として上げた戦果をまとめたスコアなので、新型神機に適合した俺はもうただ後輩に抜かれるのを待つのみである。

 

スナイパー型という神機の性質上、真正面からぶつかり合うのではなく隠れた所から遠距離狙撃をする方が専門なので、彼女は俺からの教導が終わると同時に自らの相棒の利点を最大限に活かせる偵察班に志願したのである。そっからの戦果も成長も伸びが凄く、おかげで現在では18歳でありながら偵察班副班長兼、班長代理という立場に就く程の実力者になった。実際背中を預ける身としてはリンドウと同じくらい心強い。

 

 

「師匠、遅くなりました」

「おう、悪いな」

「師匠には文句は言いません。しかし、あんな化けモンをおびき寄せる為のトラップを設置しろとか、支部長も人使いが荒くて困ります。しかも、気の張った任務から解放されると思った矢先に師匠の応援に出向けだなんて。次会ったらリンドウさんをとっちめてやります」

「おう良いぞ。俺が許可するから一発はたいてやれ。俺の名前使って良いから」

「Yes、では後ほど実行させていただきます」

 

アルト音域の女性としてほんの少し低めな声と共に、神機を構えながらトテトテとオフロードに小走りで来るミスト。デフォルトでジト目な為に初対面の人間は少し近寄りがたい印象を与えるのだが、決して感情表現が苦手なわけではなく、小柄な体格も相俟って慣れた人間から見るとどこか可愛らしい小動物に思えてしまう。これが戦闘に入ると、途端にアラガミを狩りまくる鬼と化すのだからギャップが凄い。

彼女の話を聞く限りどうも、彼女率いる偵察班がアマテラスをポイントβに誘い込む為の誘引トラップを設置する役目を担っていたようだ。そりゃ誰も相手にしたくない化けモンと鬼ごっこするだけでも気疲れするだろう。俺も今こうしてる中で心は既に疲れてる。あのデカブツとこれからやり合わなきゃならないのかと考えるだけでウンザリする。そんな疲れる仕事一足先に片付けたと思った矢先、俺の戦闘への邪魔者の露払い役に急遽駆り出されるなんて甚だ迷惑だろう。俺が彼女の立場なら無線機を握り潰す自信がある。

 

「師匠、これからどうするのです?」

「ん?」

 

さて、応援が来たところでどうするか。少し離れたところにいるアマテラスはまだアクションを起こしていない。感知範囲外であると予測される距離に俺たちはいる為、当たり前といえば当たり前だが、アマテラスがこっちに気づいた様子もない。

今回彼女はあくまで体調面(特に腰とか)に不安を抱えるリンドウと共に、俺とアマテラスとの戦いを邪魔する不届き者の露払いをするのが仕事だ。一応、リンドウが現着する予定の時間まではあと10分程あるのだが、機密通信用の無線機にリンドウから連絡はまだ来ていない。仕事の時は現着10分前待機が常識だと習わなかったのか?もうそろそろポイントγに着いてて欲しい所なんだが、連絡が来ないことを考えるとやはり遅刻していると考えて良いかもしれない。

 

「アイツがここに来ねえとそもそも話にならねえからな。知っての通り、この後この近くで防衛班の連中がアラガミの大群を狩ってくわけだが、アイツは状況に応じてこっちへ来る敵の間引きと、少しヤバくなった時の向こうの軽めのヘルプをするのが今回の仕事らしいんだ。防衛班にもそういう事で話がいってるっつうんで、リンドウが来てくれないと困るんだが...」

「Yes、肝心の奴が遅れてちゃ先に進まないって訳ですね」

「そういうこと。ったくあの野郎、なんで特務ある日にサクヤと一戦交えやがるんだか...」

「いっ、一戦!?」

「夜戦とも言うな」

「あわわわわわわ.....」

 

途端にミストが耳まで真っ赤にして爆発した。もう18歳なんだからそれなりのあだるてぃーな知識も頭に入ってるんだろうが、なんだかんだ結構純粋というか初心な女の子でもある。或いは、ムッツリ?

 

 

『悪い!遅くなった!もうすぐ現着する!』

 

無線機からリンドウの声が聞こえて間もなく、ここまで走ってきたせいかゼェゼェと大きく息を吐きながらこちらにリンドウが合流する。

 

「おっせえよボケ。後で覚えてろ」

「ゼェ、悪い、あとでレジェンド奢っから、勘弁してくれ、ゼェ、ゼェ」

「ったく」

「リンドウさん、あとで覚悟しやがれです」

「み、ミストか、ごめんな、呼び戻しちまって、ゼェ、ゼェ」

「とりあえず、呼吸を落ち着けて下さい」

「お、おう、ゼェ、ゼェ」

 

後輩に気を使われるほど見ていて虚しい先輩というのはアレだ、無いな。自分はあゝはなるまいと、心に誓う。何回か深呼吸して呼吸を落ち着けたリンドウが、作戦前の確認を取り始める。

 

 

「改めて、遅れて悪い。俺のせいで時間も無いという事で最後の確認なんだが、俺とミストがポイントγで露払い、ポイントβでレインがアマテラスをぶっ殺すってーことで良いんだよな?」

「その通りだな。ただし、今回の目標アラガミが、同時展開されている討伐作戦の目標である大群に合流するルートに入った場合は直ちに各ポイントβ及びγで展開する全フォーメーションを破棄、大群への目標の合流阻止を最優先に動く。いつでもそうした事態に対応出来るように構えとく事、そこが変更点だ。お分かりかな?お寝坊さん」

「お、おう」

「んじゃ、お前らはポイントγに向かって行ってくれ。背中は預けたかん・・・な?」

 

ふとどこかから視線を感じ、その主を探すと途端に『アマテラス』と目が合った。たまたま目が合った、という訳ではないらしい。俺と目が合った後もじっと此方を見続けている。あの巨体の首の辺りに鎮座する女神像が、ジーッと此方を見ている。それが意味する事は・・・。

 

なんて考える間もなく、アマテラスは巨体であることを感じさせない程の勢いで『ピョンと』ジャンプした。着地点は・・・

 

「「「あ?」」」

 

赤い巨体は見る見る内に俺たちの真上へと迫って来て・・・

 

「「「ッッ!?」」」

 

刹那、3人とも咄嗟にオフロードから飛び降りる。そして巨体のリーチから一刻も早く退避するべく全力疾走する。

 

「うぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!」

「ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!」

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!」

(全員の声がハモる)

 

死に物狂いの猛ダッシュでペシャンコになる範囲外へ脱出した直後、跳んできた巨体がオフロードをちょっとした地震並みの揺れと共に丸々ペシャンコにした。危ねえどころの話じゃない。少しでも気付くのが遅れてたらお釈迦様のもとに旅立っていただろう。直後エンジンが壊れたのやらガソリンに引火したのやらでアマテラスの足元で大きく爆発が起こるが、オラクル以外の攻撃を受け付けないアラガミというのは伊達じゃなく、足元の数百度の熱を気に留めた様子もない。

 

 

(((あっぶねぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!!!!!!!!)))

 

命からがら脱出できたは良いが、久しぶりに本気で焦った瞬間だった。冷や汗がダラダラ流れるのが分かる。2人を見ても同じ事を思ったようで、額から汗が幾つも筋を作りながら垂れていく。てか、なんでアマテラスはここに俺たちがいる事に気付いたんだ?ここはアマテラスの感知範囲外のはず…ん?リンドウが走ってきた辺りの方角から、何かフヨフヨと白いものがゆっくりと飛んでくる...

 

リンドウ(オメェ)のせいじゃねぇかッッ!!!!」

「すまんッッ!!!!!!!!!!!」

「すまんで済むなら警察いらねえです!!頭にキました!帰ったらリンドウさんを"ぶち殺し"てやります!!」

「ちょっ!?待て!!ミストの"ぶち殺し"はシャレにならな-----ーー」

「んな事良いから、二人とも神機持って戦えっっ!!!!!!!!!!!」

 

事態の経緯を簡単に述べるとこうだ。

リンドウがアナグラを出発→オフロードに乗る→アラガミに遭遇→アラガミにオフロードを壊される→撃退した後急いで集合場所に行く(無線機は携帯式の物を持っていたようだ)→ザイゴートに遭遇→撃退するも途中で飯食いに逃げられる→時間がないので討伐を諦めて集合場所に→集合場所に現着→ザイゴートは最低限必要な補給を終えてリンドウの追跡開始→リンドウの姿を遠目で発見→『アマテラスへと報告』→アマテラスが攻撃を開始→リンドウ達に追いつく←イマココ!!new!!

 

リンドウがたった一体のアラガミを倒し損ねた事でこんな事になった訳だ。流石、一晩かけて体力を使いまくった男の翌朝は中々絶不調のようだが...。

 

「ちっくしょう、先手を取られた挙句のはキツイな…。リンドウ!ミスト!打ち合わせ通りに露払いをしつつ、手が空いた時には援護を頼む!ミストは後方支援、リンドウは前衛、俺は前衛と遊撃を兼ねつつ戦う!始めるぞッッ!!!」

「「了解ッッ!!!!」」

 

 

さてと、初めてのお相手とのデートを始めるとしますかね。




今回でオリジナルのキャラクターが二人登場しましたね。
まずは霧崎マナミさん。外見のイメージとしては「このすば」のウィズを、少しだけシュッと(というかスレンダー方向に)させた体格の女性です。
ゴッドイーターのアナグラには、2074年だとちゃんとラウンジに専属調理師もいますが、残念ながら無印時代はラウンジという施設はまだ出来ていない訳です。資料集によるとその代わりとして「カフェ」がみんなの食事処として運営されているそうで、だったらマスターがいなきゃおかしいよね?という事で現時点でまだ6歳のムツミちゃんを出すのは流石にアレですから、カフェのマスター役としてオリキャラを出しました。

もう一人、ミスト・ルインちゃん。年齢は18歳ですがこの時点で6年目のベテランの域に足を突っ込み始めた神機使いです。なお、ソーマとは同期・同学年の入隊にあたります。(のはず)
後々設定集にイラストごと載っけるつもりでいますが、銀髪に近い金髪をボブカットにした、デフォルトジト目表情の少し小柄な女の子というイメージです。こちらは「最弱無敗のバハムート」に登場するノクトというキャラクターの目と髪型をイメージすると分かりやすいかと思います。第一世代の遠距離スナイパー型として、日々偵察班としての仕事に打ち込んでいる彼女ですが、実は入隊直後にレインに徹底的に鍛えられた事がキッカケで、後輩を指導する立場も経験する様になった現在はスパルタ教官として恐れられるという裏設定があったり...笑

次回はアマテラスvsアナグラエースチーム本番です。
戦闘描写の方は....まぁ期待しないで(精一杯の努力はしますが)待っていてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

act:09 ”禁忌”との戦い 後編

お待たせいたしました。
就活中なのに夜更かししてこんなもんをチマチマ少しづつ書き連ねてました。


ゼロスタンスの型を取り、目の前に対峙するアマテラスと向き合う。オリジナル種では無数の瞳が光っていた顔のところには、紅く染まった女神像が不気味に鎮座し、俺達を睨むように見ている。

 

「っ!」

 

先に動いたのはアマテラスだった。巨大な触手をこちらに向かって伸ばす。質量スピード共に殺人的な威力を持つ攻撃。だがまだ小手調べと言った所か、気を張り詰めて動きに注視していれば、装甲を展開せずともステップだけで回避出来る程度の動きだ。

 

アマテラスによる戦闘開始の合図と共に、俺の一歩後ろで控えていたリンドウ達も行動を開始する。リンドウは前衛として触手に切りかからんと立ち向かい、ミストは後方より狙撃弾を用いて牽制と攻撃を兼ねた射撃を行う。俺もリンドウの補佐に回るべく、敵に向かって突進しながら一気に捕食をする。

 

「食らったらぁっ!!」

 

プレデターフォームを解除すると同時に体に湧き出すパワーを感じる。が、バースト状態になった瞬間にバックステップで後ろに下がる。前衛として斬りかかっていたリンドウも、危険を察知して後ろに下がった直後、俺達の立っていた場所を敵の足が踏みつけていた。

 

気を取り直して、再度アプローチを掛ける。あまり懐に入りすぎない位置をキープしつつ、オリジナル種の弱点である触手に斬撃を加える。

 

触手への攻撃の合間に捕食をする。バースト状態を維持する為のエネルギーを補充すると共に、アマテラスの力の一部であるアラガミバレットも獲得する。

 

「ミスト!渡すぞ!」

「はいっ!」

 

 

敵から少し間合いを取ってから、神機を変形させて獲得したバレットをミストに受け渡す。旧式遠距離型はこうしなければバースト状態になれないため、より的確なサポートがしやすいように補助を入れてやらなければならない。

 

「リンドウ!」

「おう!頼む!」

 

同じようにリンドウにもバレットを手渡す。旧式近距離型は、捕食は出来ても獲得したバレットを他者に受け渡せない。全部で3段階ある身体能力のリミット解除機能たるバースト状態は、ただ捕食するだけでは第一段階までしかリミットを解放出来ないのだ。複数発のバレットを受けとることによって、受け渡されたバレットが融合、濃縮されると同時にリミッターも第二段階、第三段階という形で解除されていく。

 

どちらか片方の武器だけではこの補助は出来ない。食らって溜め込んだ物を吐き出せる、その機構を持つ新型だからこそ成せる、味方への素晴らしいサポートの仕方なのだ。

 

 

 

「っ!リンドウさん!付近に小型のアラガミが接近してくるのが見えました!」

「おぉっとぉ?ここに来てお出ましかっ!一丁狩ってくっかぁ!」

「了解です!師匠っ、少し離れます!」

「二人とも、雑魚の露払いはよろしく頼む!」

「「了解!!」」

 

 

リンドウとミストが、一時的に戦線を離れようと行動を開始する。それを許さんと、敵が攻撃を放とうと構えるが、相棒のスナイパー型の銃身から狙撃弾を何発か頭の女神像に放って妨害する。すると、今まで触手に攻撃していた時と比べて明らかにオーバーな仰け反りを見せる。これはもしかしてと思い、敵から絶えず放たれる攻撃をステップやローリングでかわしながら、頭部の女神像に向けての銃撃を当ててみる。

 

するとやはり大きく仰け反り、あからさまに狼狽したような動きを見せる。どうやらオリジナルと違って、狙うべきは触手よりも女神像らしい。

 

「弱点みーっけ、てか?」

 

アマテラスの弱点を見つけた所で攻勢を強めようとするが、射撃用のオラクルはもう残り少なくなっている。何発か撃っただけでもあっという間に弾が減ってしまう。高威力高貫通力を誇るだけに、どうしても克服しきれない欠点だ。

 

バースト状態もそろそろ効果が失われるといった所。近接形態に切り換え、それなりに手応えを感じる触手への攻撃を再開する。弾の補給をしながら斬りつけていく。

 

「だらぁっっ!!」

 

ズシャ!ズシャ!と、気持ちの良い音が切る度に聞こえる。だが、やはり女神像ほどダメージが蓄積する訳ではないらしい。攻撃が通っていないという訳ではないが、イマイチ決定打に欠けるといったところか。

 

「?!」

と、突然後ろから何かが飛来する気配を感じ、すかさず横方向へ回避する。飛んできたものはそのまま俺の目の前にいるアマテラスへと当たったようだが、弾らしき物は見当たらない。つまり、目で視認できる類いの攻撃ではない。となると...。

 

「やーっぱり、テメエか」

 

チラリと瞬間的に飛来物の発射元に目を見やると、恐らくはリンドウにメッタ斬りにされた事で体のそこらじゅうに付いた傷が目を引く、傷付いたザイゴートであった。普通の個体は結合崩壊なんてせずにぶっ倒れて霧散しちまうのだが、コイツは至るところに青い筋が見てとれる。まるで結合崩壊した中型アラガミのような出で立ちだ。アラガミの結合崩壊を起こさない小型の種類は、実は幾ら斬ってもダメージが表に出ることはない。見えない内に蓄積されて、というか、斬った所にまた別のオラクルが結合しようと集まってくるため、表面的には瞬間的に傷は出来ても直ぐに癒える様に見える。だが、喰い裂かれたオラクルは確実に数を減らし、細胞の数が一定数を下回ることによって結合崩壊が起こるという仕組みだが、小型のアラガミにとってのその一定数というのはすなわち、自身の生命維持の限界ラインを意味する。故にザイゴートを始めとした小型アラガミは、オラクル同士の細胞結合を維持できない数まで細胞が喰われた途端に霧散して死ぬ。

 

このザイゴートはそうした意味で"異質"だった。

 

本来なら決して表れることの無い傷跡が、ありありと自らの体に刻みつけられているのだから。直ちに修復される筈の傷が残ったままで、これだけの傷を受けてもまだフヨフヨと浮いておられるばかりか援護射撃までする。今までに無い貴重なケースとして鹵獲する事が一番だろうが...。

 

 

「間が悪いんだよったく。お前をチマチマ取っ捕まえてる暇はねえんでな、サッサと片を付けさせてもらう」

 

 

兎にも角にも早く片付けないと、放ったらかしにしているアマテラスから追撃される。脅威度はアマテラスの方が高いが、戦闘中に後ろから狙われ続けるんじゃ危なくて仕方が無い。敵と一対一で向き合わなきゃ直ぐに死ねてしまう極限の戦場、少しでも自分に有利な条件を作らなければならなかった。

 

一気に片を付ける気でザイゴートに突っ込む。地面を思いっきり蹴りつけ、高速のステップをしながら本来の仕方とは逆さ向きに袈裟切りをする。それなりに力の込めた、しかも長年に渡って使われ、強化され続けた俺の神機の喰い裂きに耐えられずザイゴートは悲鳴をあげて怯む。手負いの相手だが油断はしない。逆さ袈裟切りの勢いで空中に飛び上がったまま捕食形態の顎を展開し、ザイゴートの卵みたいな体を丸々飲み込んで捕らえる。ドス黒い顎の中でザイゴートが必死に逃れようと暴れるがもう遅い。顎がブシュッと何かを牙でブチ抜いた瞬間、ザイゴートの動きが止まる。そのまま少しだけカミカミした後、体だけ吐き出してコアを取得する。

 

捕食の全行程が終わる、わざわざ待っててくれていたアマテラスに再度向き合う。

 

 

「お待たせして悪いなぁお嬢様。いや、女神様って言った方がいいか?」

 

返事は『ヴォォォォォォッッッッッ!!!!』という凄まじい咆哮だった。叫びだけで空気が一瞬でヤツに呑まれるかのごとく迫力。心なしか、ど(アタマ)に鎮座する女神の表情に、俺に向けた怒りの感情が現れている様な気がする。まだまだヤツとの戦いは始まったばかりだが、今までヤツが相対した相手に俺ほど長く生き残った奴はいなかったということか。まるで『弱いクセに生意気な』とでも言いたそうなツラ。そう思うと段々とムカついてきた。

 

「てめぇは俺の事を生意気な奴だと思ってんだろうが、その台詞はそっくりそのままお前に返すってな。化け物の分際で、人間サマを見くびってんじゃねえぞ?」

 

弾が充分に溜まったのを確認して、神機を再び銃形態に変形して構える。この状態では神機の装甲を展開できない。こやつの一撃一撃が、食らえば即ミンチ確定のクラッシャー級破壊力があるため、確実に回避が行える状況を常に作りながら戦っていく必要がある。

 

バシュンっ!

 

先ずは一発目を先ほど判明した弱点の女神像に当てる。あんな図体の頭にくっ付いた女神像、弾速の遅いバレットなら身をよじって避けられるだろうが、スナイパー型はそうはいかない。高い消費量のオラクルに見合った分の威力とスピードがある。二発目を撃つ。またも先と同じように大きなリアクションをするアマテラス。そんなにオーバーなリアクションを取れば、そこが弱点だっていうのバレバレだぜ?

 

三発目を当てると同時に、ヤツが大きな悲鳴のような叫びを上げる。次の瞬間、ヤツは俺の方に向かって体ごと倒れこんできた。

 

「うぉっ!?」

 

そのまま体で押しつぶすつもりでいたのか、奴の体がのし掛かるリーチからステップで退避する。ペシャンコにされる所だったと思わず息を吐くが、その直後側方に向けてとっさに受け身を取る。倒れこむと同時に俺の位置からは死角になっていた奴の体の直上から、奴が生み出した光り輝く巨大な球がまっすぐ俺の方へと迫ってきたからだ。それなりのデカさと質量が込もったエネルギー弾を貰えば、恐らく確実に即死するだけの威力を持ってるだろう事は容易に想像がつく。装甲でガードをするのも大事だが、即死級のダメージを受け止められる自信は正直言って無い。確実に躱せるのなら出来る限り躱した方が体力の消耗を抑えられるメリットもある。

 

「ちっ...おおっと!?」

 

仕留められなかった事にまた一つ堪忍袋を弾けさせたのか、追撃のエネルギー弾を再び放ってくる。今度は数が多く、受け身だけでは攻撃をやり過ごしきれない。止むを得ず神機を変形しながら装甲を展開して衝撃に備えるが、着弾と同時にエネルギー弾が周囲に膨大なパワーを撒き散らす。

 

「なんつぅ質量だよチクショウ...。こんなモン直に食らったらとんでもねえぞ...!」

 

一発一発が着弾してエネルギーを撒き散らす。その度に装甲を支える腕に強烈な力が加わる。数発もらっただけでも腕がしびれる程に強力な攻撃である事を実感し、このまま長期戦に持ち込まれれば益々自身が不利になる事を悟る。

 

アマテラスの攻撃が止む。装甲を通常形態へ戻して遠距離型に神機を再度変形する。だが、ヤツからの攻撃はまたもひっきりなしに行われ始める。二度目の攻撃よりかは球の数は少ないが、それでも先ほど防御した感覚から食らえば命は無い。もう目の前まで球が迫っている状況で再び神機を変形して防御する余裕などあるはずもなく、受け身やローリングを繰り返してなんとかヤツからの攻撃を躱していく。全神経をヤツとヤツが放った攻撃に集中させて。リンドウとミストが捌いているであろう周りの雑魚などに気をやる余裕はありはしない。本気で取り掛からなければ本当に死ぬ。だから目の前の仕事(メガミサマ)にさっさと始末をつけてやる。

 

 

「別名”Legend of GE(不死身の神機使い)"なんてフザケた名前を貰ったゴッドイーターを相手にしてんだ!こっからは少しばかしお楽しみも加えてやんねえとっ、お客も見てて退屈だもんなぁ!!」

 

初期の第一世代遠距離スナイパー型の生き残りは伊達じゃない。こちとら動き回ってグラグラ揺れる銃身からも正確に目標の一点を撃ち抜ける技術を持ってんだ。いつどこで生まれたのかは知らねえが、少なくとも10年も生きてねえこのデカブツに負けてやるつもりはない。銃口がヤツの女神像に向くように動きを計算しながら受け身を取りつつ、銃口が目標へ向いた >>> 『撃てるチャンス』が来た瞬間にトリガーを引いて狙撃弾をぶっ放す。経験と練習を何千も何万も積めや出来るだろうが、少なくとも後輩に簡単に真似できるような技じゃない射撃法。もちろんマニュアルに載るわけもない状況次第では危険極まりない撃ち方だが、ことやれる事が限られた時の悪あがきには案外使える役立つ攻撃の仕方だ。アマテラスからすれば、少しづつ着実に追いつめていると思っていた人間がただ攻撃を避けてるように見えている筈なのに、その追いつめている筈の人間から何故か攻撃を食らっているのだからさぞや怒り狂うだろう。

 

 

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

さっきのとは比較にならない程の凄まじい咆哮を上げたアマテラス。いよいよ全ての堪忍袋がブチ切れたようで、本気で俺を惨殺してやるくらいに怒り狂ってるようだ。だが、怒り狂っているという事は其れだけ頭の理性を感情が振り切ってるという事。さっきの様に頭を使った戦い方をされると厄介きわまりないが、これで馬鹿正直に突っ込んできてくれれば対処も楽になる。俺にとっても戦いやすい。あとは、攻撃を避けるタイミングさえ間違えなければ、ミンチになる事はないはずだ。

 

ヤツが咆哮を上げている間に、俺はこっそりと銃身に装填しているバレットを6つある装填口から『1つだけ』入れ替える。本来は旧式遠距離型が減ったオラクルの弾の補充をするために使う物のため、新型である俺は使う機会はないはずの物だが、このバレットに組まれている物は市販されている物とは『モノ』が違う。

 

リッカをはじめとする技術班のメンツに協力を仰ぎ製作した、俺と技術班特製のスナイパー専用超強力バレット。名付けて『クラスタースナイプ』と言う。高速で撃ち出した物理弾(これはレーザー及び狙撃弾のバレットではない)が目標に着弾した瞬間、コアの統制による強力なオラクル結合体に向かって数百発の高威力の狙撃弾が散弾の様にビュンビュン飛んでいくという超強力な自家製作バレットだ。これを実現するために専用の制御チップと専用の回路ユニットが必要になったせいで何十万も資金を吹っ飛ばす事になったものの、そのかわり威力としては非常に凶悪と言っていいほどの破壊力がある。小型のアラガミであるなら群れていれば群れるだけ数十体もの目標を一瞬にして沈められるし、大型のアラガミもオラクルがより他の部位より強力な結合をしている箇所、すなわち結合崩壊が起こる部位に対して集中的にホーミングして数十発の狙撃弾が着弾することになるため大ダメージを与えられるわけだ。

 

弱点というか欠点は、クラスター爆弾のごとく弾がばら撒かれるのは完全に俺の制御下から離れた後であるため、目標のすぐ近くに神機使いがいると神機のコアを敵アラガミとバレットが誤認してホーミングするという点(つまり凄まじい数の弾が味方に襲いかかる。状況次第ではギャグのようなシーンも作れるだろうが)と、オラクル消費量がバカみたいに高いこと。そのため、試作型である俺の神機にのみ搭載され、現行の新型量産型には搭載されていない『バレットキャプチャリング』とよばれる機能を使ってこの問題をカバーしている。これは簡単に言えば、一つだけ装填された『発射するバレット』以外の全てのバレットからもオラクルを消費するかわりに、本来ならば射撃不可能の超高燃費バレットの使用を可能にする機能。

 

ブラスト型に備わったオラクルリザーブ機能と似たようなもので、あちらは徐々に回収できたオラクルを『銃本体に内蔵された』空のタンクに補充したオラクルを貯めるもの。こちらはもともと満タンになっている『バレット』から一気にオラクルを取り込んで撃ち出すという違いがある。ちなみに、キャプチャリング機能でオラクルを取り込まれた後の空バレットは一度メンテナンスに出して修理しないと使えない、戦場ではリサイクルの効かない品だったりする。それだけ無理やりオラクルを吸い出し、空になったバレットに対し相当な負荷を掛ける機能でもあるため、事実上一度『クラスター』を撃てば敵がダウンしてバレットを使用可能なものに交換する時間が稼げない限り、遠距離型での射撃はほぼ不可能になる。バレットを一度に6発全てを交換するには慣れていても時間が掛かる。ある種、諸刃の剣とも言えるかもしれない。

 

 

「だけんど、やってみる価値はあるよなぁ?」

 

神機を近接形態に変形し、奴へ切り掛かるべく構えを取る。アマテラスは体を支える触手をうまく一本腕のように纏めて俺に振り下ろす。先ほどのように手数で押し切る方法とは違うため、一度回避してしまえば僅かな隙を突くことができる。受け身で躱した後、奴の触手に数回袈裟懸けに斬りつける。少しだけのダメージしか与えられずに元ある位置へ触手は戻ってしまうがそれでいい。今は先ほど消費したオラクルを貯める段階なのだから。先とは違って、斬りつけることそのもののダメージ率は重要ではないのだ。

 

「悪い!ちっとだけ手間取った!加勢するぜ!」

「こっちにもいるんです...よ!」

 

 

さきほど露払いのために一時戦線離脱したリンドウたちも再び助太刀に加わる。これを見てさらにブチ切れたのか、大きく体を震わせながら俺を轢き殺そうと体当たりしてくるアマテラス。しかしこちらは経験積んだベテランの神機使い、単調な攻撃に殺られるほど腐っちゃいない!

 

捕食形態の顎を女神像の真上あたりにまで伸ばし、奴が突っ込んでくるのを真正面からすれ違う形で伸びきった神機の顎を元に戻す。忍者がかぎ爪のついた縄を高所の屋根にくっ付けて、自動で縄を巻き取りながらスムーズに引っ張られていくようなイメージだ。元に戻ろうと縮む神機の顎の動きに従って、俺は奴の向いている方向と正反対の場所に飛んで行く。体当たりを上手く躱すと同時に縮みきった顎で一噛み食らわせて捕食する。自分の体がバースト状態になるのを感じるとともに、大量のオラクルが残り少なかったタンクへと充填されていく。

 

神機に付けられた残弾数を示す簡易液晶が、『クラスター』以外の全てのバレットにオラクルがフル充填されたことを示した。

 

 

「リンドウは下がってミストのサポートっ、ミストは攻撃が分散するように援護射撃!奴に今から『クラスター』を一発食らわせる。バレットによる集中攻撃が終了次第、一気に奴に仕掛けて終わらせる!リンドウは斬りかかる用意も整えとけ!」

「おうよ!」

「了解です!」

 

神機を銃形態に変形し、狙撃の体制に入る。言い忘れていたがこの『クラスター』というバレット、他のバレットからオラクルを取り込むという性質上発射までのチャージに3秒掛かる。たった3秒、されど3秒。その3秒の間にどれだけ自体が動くのか、この戦場ではコンマ何秒で物事が動く世界だ。油断せずに奴に照準を付け続けなきゃならない。狙うはもちろん、女神像へ。

 

 

 

 

 

『3second』

 

”Oracle Charge 5%”

「こっちにも敵は居ますからね!目を向けなさい!」

「レディーに触手で相手しようとは失礼な奴だな!」

 

ミストは適度な間隔で射撃し、リンドウはミストに襲いかかる触手から彼女を守っている。

 

 

『2second』

 

”Oracle Charge 39%”

リンドウたちはなんとか自分たちに奴の注意が向くように攻撃を仕掛ける。

 

 

『1second』

 

”Oracle Charge 72%”

刹那、アマテラスがこちらを向き、触手をもの凄いスピードで伸ばしてきた!

 

 

『0second』

 

”Oracle Charge 100%”

目の前には俺の体を串刺しにしようと迫ってくる触手。俺はとっさに真横へ受け身を取りながら、銃口を奴の女神像から外さぬままトリガーを引いた!!

 

 

「「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」」」

 

リンドウとミストと声をそろえて叫ぶ。『クラスター』の起点となる初弾が奴の女神像にぶち当たった瞬間、一気に数百発のオラクル弾が一斉に女神像から解き放たれたかと思うと、再びホーミングされて女神像へと向かって堕ちてゆく。まるで流星群のように細く輝き、しかし一つ一つがアラガミにとっては殺人的な威力を持つレーザーの雨がアマテラスの女神像へと降り注ぐ。その激痛に耐えられないのか、断末魔のような叫びを上げると自身の直前へと倒れ伏す。

 

「今だ!リンドウ!」

「おう!」

 

リンドウと共に飛び上がり、倒れ伏すアマテラスの女神像へと神機の剣を突き立てる。リンドウはちゃっかりチェーンソウをぶん回してダメージを更に増やす。俺は神機を女神像にぶっ刺したまま捕食形態にして、そのままアマテラスのコアを女神像ごとガブりと喰らってやる。しばらく女神像は最後の悪あがきのように顎の中でか弱く抵抗をしたようだが、やがて抵抗が収まると共に神機の顎が格納されて元の近接形態へと戻る。神機のコアが埋まっている所には光り輝く別のコアが一つ。

 

 

「...レアもんだな。フゥ、なんとか任務完了ってわけか」

「おう、お疲れさん。今日もよく働いたもんだ。あんな危なくハラハラしたシーン見せられたおかげでビールが恋しいぜ」

「...私はリンドウさんのせいで今労働時間外にも関わらず仕事をしているんですけど」

「・・・・・・・・・スマン」

「後でミストの”ぶち殺し(処刑)”を覚悟しておくこったな」

「それは本気で勘弁願いたい!!」

 

 

 

-----

 

 

 

『任務中、機密無線用の通信機を積んでいたオフロードが目標の攻撃によって破壊されたため連絡は取れませんでしたが、つい先ほど目標の討伐及びコアの回収が完了いたしました』

「ご苦労だった。さて、早く帰投してゆっくり休んでくれと言いたい所だが、防衛班による敵の大群との防衛戦の状況が正直芳しくない。リンドウ君とレイン君は申し訳ないが、このままポイントAに向かい、防衛班の面々と合流して戦闘に当たって欲しい。ミスト君には帰投を許可しよう。本来はなかった緊急の依頼にもよく的確に対応してくれた。この件の報酬は別に上乗せさせてもらおう」

『ミストにはそのように伝えます。それで、現状はどういった戦況で?』

「幸い神機使いたち自身に大した怪我は無いようだが、いかんせん敵の数が多すぎて処理の手が追いついていないそうだ。仲間を強力なバースト状態へ移行させたり、自分自身で弾の補給が効かないため、現状非効率な戦闘となって苦戦しているものと思われる。新型でかつ経験豊富な君が出向くだけでも、おそらく若い彼らの士気に与える影響は非常に大きなものだと思う。本気の命のやり取りをした直後で申し訳ないが、なるべく早く休息を切り上げ、彼らの救援に向かって欲しい。その分の働きに見合う対応を必ず行うことを約束する。防衛班の面々をここで失うわけにもいかない。すまないがよろしく頼むよ」

『...了解。できる限り早く現場に急行します』

 

 

ブツっという音と共に、レイン君とやり取りをしていた通信が途絶える。彼がミスト君とリンドウ君と合流した直後にオフロードについていた通信機の反応が途絶えた時は焦ったが、考えてみれば彼が不意打ちで倒れるような不覚を起こすことはないだろうと思い、念のために彼らの腕輪のビーコンを追跡してみれば案の定生き残っていた。

 

「しかし、彼にも少々負担を掛け過ぎてしまっているのは紛れもない事実だ。だがだからといって、彼以外にこれほどの難度の任務を任せられる神機使いは極東にはいない。リンドウ君だけのソロミッションではおそらく、レイン君のこなしているだけの特務はこなしきれないだろう」

 

我が極東支部が誇る最強の神機使い、アークレイン・レグナゲート。ゴッドイーター最初期に編成された当時の新型、現在の第一世代型適合者の生き残りにして、世界初の第二世代型神機の適合者。非常に適合が難しい新型への適合権を掴んだ運はもちろん、彼自身の神機使いとしての能力の高さも誰もが目を置くほどのものだ。その功績から周りから”Legend of GE(不死身の神機使い)"などと呼ばれているそうだが、確かにその異名は彼の実力を端的に表した的確な言葉であるといえよう。本人は自分を伝説とされることにあまりいい感情は持っていないようだが、伝説にされるだけの功績をすでに幾つも出しているのだから素直に受け取っても良いのではとも思うが。

 

しかし、伝説に祭り上げるほどの功績を挙げていても彼は『神』ではない。その使いである『天使』でもない。ただの人間なのだ。昨日アマテラスの討伐を依頼した際のあの表情、彼は”生まれが生まれなだけ”に、実は腹芸は嫌いなだけで淡々とこなせる人間だ。だからこそあの時見せた非常に嫌そうな表情、あれはそもそも隠そうとしていなかったから見れたものであり、言外に私に対しオーバーワークであるという警告を伝えるものだったのだろう。彼は表情に出してはマズイ時にはきっちりポーカーフェイスを保てる。普段は内の想いを隠し通すのにその時だけ敢えてそれを見せる、つまりはそういうことであるとしか思えない。

 

 

「”初めから新型”の彼女を始め、期待の新人達や他の神機使いの早急な育成と生じる問題点への対策が必要だな...。このままでは本当にレイン君という強力なカードを失うことに繋がりかねない」

 

 

私は席を立つと、少しの休息のために支部長室を後にする。とりあえずは、カフェで一杯コーヒーを飲んでから考えることにしよう。私だって人間だ。




相変わらずアッサリしすぎている戦闘描写。
もっと身のある内容のバトルを描きたい所ですが、イメージに表現力が追いついていないです(涙)。

さていきなり登場したオリジナルバレットですが、当たり前ですがあれはゲームでは再現不能です笑。大前提として、複数のモジュールが交差すると消滅するというバレットの特性があるのですが、この『クラスター』はリッカ達技術班が徹夜を何日も繰り返してやっとの事で生み出した専用の制御パーツを用い、見事に交差消滅する超ギリギリの際どい所で数百発ものレーザー弾を一つも消さずに全弾当てきる事を実現したバレットとなります。ちなみに本来ならばモジュールは8つまでしか作れないのですが、『クラスター』のバレットはそもそもそのモジュール設置限界をなくすため、『一般構造組成の神機と互換性を持たせつつ』『設計をゼロから見直して』『根本から作りを変えてしまおう』という狂気じみた展開によって生まれた凶悪バレットです。なので接続されているモジュールは合計すると600弱のレーザー弾モジュールが連なっているため、メンテナンスをする方も改良を加える方も扱いが非常に面倒臭い!という意外な欠陥がこんなところにあったり...w

それと、バトル開始早々離脱していたミストとリンドウですが、彼らも彼らで相当な数の雑魚アラガミと必死に戦っておりました。ここまで書くと、文章量がどエラい長さになるので端折りましたが(書けないのも大きな要因)。


さて、次話に投稿する予定の設定集ではミストの挿絵をご紹介したいと思います。あ、設定集はネタバレを防ぐためある一定の話が進むたびにその都度お話の間に挟む形で書いていきますのでご了承ください。

それと、著者が就活中のためなかなか厳しい状況に陥っているのですが、なんとか頑張って仕事見つけたいと思っております。余裕ができ次第こちらも更新しますので、数少ないながらもお気に入り登録してくださっている方々、どうか暖かく見守っていただけたらと思います。


追伸、当話本編の最後に出てきた『私』が誰なのか、書かなくてもみなさん分かりますよね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

act:09.5 brake time

大変お待たせしてすみません。就活生故の二ヶ月遅れての更新となりました。今回は、act:09の特務から終わった後のアナグラでのお話となります。


「だぁもうっ、疲れたぞチクsyんゴフ」

 

支部のエントランスに戻って開口一番叫んだ直後、真後ろから突如降り下ろされた会心の一撃により、俺の体は沈められた。

 

「二階は関係者以外立ち入り禁止とは言え、下の受付と繋がっている事を忘れるなバカモノ。いい歳した大人が公共の区画で叫ぶんじゃない」

 

会心の一撃を繰り出した張本人、雨宮ツバキ大尉からお叱りの言葉。確かに、色んな人間が出入りする所でいきなり声高らかに叫ぶのはマナー違反だが、自分に極端なストレスを与え続ける特務から解放され、その解放感をつい口に出してしまったという事は理解してもらいたいもんだ。ちっとミスすりゃその瞬間ミンチ確定。たまたま無茶苦茶攻撃が効く弱点を見つけられたから良かったものの、もし弱点を見つけられなかったら今頃どうなってたか。

 

しかもそんな極限の戦闘を終えて報告をすりゃ、すぐに防衛班の救援に出向けと言われて戦闘続行が確定。一体一体は大した強さじゃないが如何(いかん)せん数が半端じゃない。ごちゃごちゃに群れるアラガミの隙間や死角から不意に訪れる予想外の攻撃を警戒しながら戦うのも、中々に精神を消耗するもんである。

 

幸いだったのは、この前の一件以来周りに意識を向ける様になった小川シュンと、そのパートナーのような立ち位置にいるジーナのコンビが上手いこと機能してくれていた所だ。以前までの自分勝手なやり口だったり、命をぶん投げる位に危なっかしい行動は鳴りを潜め、効率的にアラガミを駆逐しつつ味方のサポートに入るなど、目覚ましい変化を遂げてくれている。お陰で俺とリンドウも思ったよりかは戦いやすくて助かった。

 

 

が、それはそれ。これはこれだ。

 

いずれにしても心身共に疲弊してることに変わりはなく、まあその結果として少し恥ずかしい行為をしてしまった訳だ。解放感のあまり叫ぶってなんだ。まるで露出狂の様な言い訳だ。うむ、今考えるととてもとても恥ずかしい。

 

そして地味に、ツバキちゃんのタブレットフルスイングはクソ痛い。角で叩いてるから当たり前だが、元神機使いの腕力でフルスイングして頭頂部に当てるとなりゃその威力は桁が違う。痛い。痛いぞ。一直線上に筋になったたんこぶが出来てるんじゃないか?これ。

 

・・・。

 

こんな調子でぶつぶつと考えてる時点で、どうやら俺はメンタル面でかなり疲れているようだ。普段の精神状態なら、まるでギャグを狙う(ギャグになってないが)ようなノリで思考しない。もう少し冷静に思考してる筈だ。

 

 

「イテテテ...。あーその、悪いツバキちゃん。それじゃあ、俺は改めて支部長に報告することがあるんで、防衛班のメンツの後始末は任せる。お前らも、出来る限りゆっくり休むんだぞ。それとリンドウ、お前は後で覚えとけ」

「ンなにぃ!?」

 

最後の一言で表情を驚愕に染めるリンドウを尻目に、ピラピラと手を振りながらエレベーターへ乗り込む。本来の任務なら、下の受付にいるヒバリへ任務報酬の会計と任務中の一連の流れの報告を済ませりゃ終わりなのだが、特務は支部長から直接発注された任務の為に、わざわざ報告と会計をするために支部長室へ出向かなきゃならない。顔を合わせたくない人間の、しかもこの支部のトップと面会しなきゃならない事もあって、特務の報告という行程は面倒臭さ倍増である。

 

はぁ...。

 

 

 

-----

 

 

 

 

疲れた。本当に疲れた。

 

俺ことアークレインはつい先ほど、やっと支部長への特務の報告から解放されて部屋に戻ってきたところだ。長々と報告する気は全く無く、淡々と簡潔に必要事項だけ述べてオサラバする気でいたのだが、今日はなぜだか支部長がやたらと質問というか疑問点をグイグイ聞いてくるために、予定では10分も掛からず報告を終えるはずが30分も掛かってしまった。当初の3倍の時間を要している。疲れてる中でのこの焦らしプレイは止めていただきたい。さっさと帰らせろという思いが『早く帰らせないとブッコロすぞコンニャロウ』的なオーラを纏っていたんじゃないかと思う。顔に出ないように気を付けてたのだが、多分確実に支部長を威圧していたと思う。話しているときの支部長は若干目元がヒクついていたから。

 

さて、何かと多趣味な者なら、残る1日の時間を有意義に過ごすこともできるのだろうが、生憎体力とメンタル面の疲労が酷くて外に出歩く気にならない。いつもの俺ならトランペット持って屋上に出て演奏したりもするもんだが、今日は吹いてと頼まれても勘弁してほしい。

 

 

「あー...ったく、だりぃなぁ」

 

結局、何に対しても無気力な感じで、なんにもやる気が起きない。でもこのまま寝ちまうのは時間をドブに捨てる様に思えて嫌だ。じゃあ何かしろよと自分でも思うが、そうするとなんにもやる気が起きなくなる。じゃあ寝るか?いやそれはダメだ。こんな思考をさっきから延々と繰り返している。

 

グダグダとハッキリしないまま時間を無駄にしていると、インターホンの呼び出し音が鳴った。応答と書かれたスイッチを押しながら応対すると、インターホンに設置されたカメラはミストの姿を映していた。

 

「鍵は開いてる。とりあえず入りな」

『はい。お邪魔します』

 

プシューと空気が抜ける音と共に開いた扉から、後輩で偵察班のミストが入室する。

 

「あの、師匠...」

「ん、適当にくつろげばいいさ」

「ありがとう、ございます」

 

ミストはそう言うと俺の前に寝転び、頭を俺の膝の上に乗っける。これこそまさに『THE 膝枕』というもの。俺がミストと同年代の青年なら、今頃間近に感じる異性に興奮していたかもしれないが、彼女は歳にして12年も離れている。親子とまではいかないが、兄妹とすれば十分通じるほどの年齢差。無論、彼女が俺にいきなり膝枕を要求するのには、彼女が歩んだ辛い人生の経験からくる確かな理由がある。

 

 

ミスト・ハーモニー・ルイン、彼女の両親が彼女に与えた名前。日本人にはミドルネームという概念が無いゆえ、感覚的に少し理解しにくいかもしれないが、ミストというのはご存じの通り「霧」を、ミドルネームのハーモニーは「調和」を表す単語だ。彼女の両親は、霧を『皆を柔らかく包むもの』というイメージを持っていたそうで、霧の様に柔らかくみんなを包んで、調和させる様な子に育って欲しいという願いが名前には込められているという。親がきちんとこの行く末を想い、素敵な名前を付けたというわけだ。

 

 

ところでこのミストという人物、実は極東支部がある旧神奈川県近郊で生まれた訳ではない。

 

彼女が生まれた頃というのは、各国の軍事組織がフェンリルから提供されたオラクル技術によって、かろうじて抵抗が出来ていた時代である。元々彼女の両親はフェンリル本部に属する研究者であり、彼女が生まれる数週間前に両親が自衛隊の要請で大阪に派遣され、その地で生を受けた、という事だ。

 

研究者として日々忙しなく人類のために働く両親の姿を見て、当時は彼女も研究者になろうと夢見ていたそうだ。難しいなりに懸命に勉強し、オラクル細胞が持つあらゆる可能性やそれを用いた技術の進歩の為に、自身も貢献できるようになりたいと。

 

 

 

ーーーそう思っていた彼女を一瞬で絶望させる出来事が起こった。

 

出張のため、極東支部より少し離れた場所に作られた研究施設にいたルイン一家と研究者達の一団は、現在と比べて不十分だったアラガミ防壁を突破したアラガミにより、壊滅したのだ。ただ一人、アラガミの脅威から必死に身を潜め命からがら助かった彼女が目にしたものは、無惨に食い散らかされた研究者達の亡骸。ただ喰らうという本能のままに捕食するアラガミに、慈悲などあるはずもない。彼女は両親の凄惨な状態を見て、大きな絶望を感じずにはいられなかっただろう。

 

間もなく駆け付けた神機使いと自衛隊の対アラガミ部隊により、彼女は唯一の生存者として救出された。齢12歳、まだ親と共に生き、愛情を受ける年頃であるのは言うまでもなく、そんな当時の彼女にとってこの事件は非常に大きなトラウマとして、現在も心に深い傷を残している。

 

 

ミストはその後、両親の友人知人の伝を辿って極東支部へと来た。両親がフェンリルに所属する研究者であったこと、彼女自身に神機使いの適正があったことから、彼女は神機使いとしてフェンリルに所属することになった。

 

しかし、先の事件で受けた傷が癒えることはなく、実戦でアラガミの姿を見るたびに事件の光景がフラッシュバックすることもあってか、入隊当初の成績ははっきり言って悲惨なものであった。それこそ、いつ死んでもおかしくないほど。そんな彼女の教練担当として渇を入れ続けたのが、実はツバキちゃんではなく俺だった。

 

失敗がそのまま死に直結する極限の戦場。直せるミスはとにかく指摘し、覚えが悪ければ何度も訓練をして徹底的に覚えさせた。正直スパルタ方式でも行き過ぎも良いところまでやったのだが、とにかくつまらないミスで命を落とすことが無いように、徹底的に発破を掛けてやったのだ。時には、素晴らしい功績を残した彼女の両親を敢えて侮辱するような事もしたり。発破を掛けるためとはいっても心は痛んだが、それも彼女を本気にさせるためだと思って本気でやった。

 

そうしたお互いの努力が実り、トラウマをほぼ完全に克服した事もあって、今や彼女は間違いなく最強クラスの神機使いとしての実力を持つに至ったのだが、ふとした瞬間に言い様の無い恐怖に駈られる事があるようだ。自分一人を残して、みんな何処かへ逝ってしまうのではないか?頭ではそんなことが起こり得ないと分かっていても、過去に自身の心に刻まれた恐怖が消える事はない。一度その恐怖が再燃すると、中々落ち着けられないのだ。

 

 

 

だから俺は、時にミストの先輩として、時に師匠として、そして時には『少し年の離れた兄』として、こうして接しているのだ。ここに恋愛感情なんてものは無い。あるのは、信頼感と仲間としての絆、それと『妹に対する親愛』か。

 

無論、この姿は俺以外に知ってるものはいない。普段がクールなジト目スナイパーで通っているだけに、これを知られれば彼女は羞恥の余り大暴れするやもしれん。

 

 

あと、これも俺しか知らないことだが...

 

 

「師匠...完全に崩して良いですか?」

「おう。気の済むままにしな」

「なら...。おおきに、師匠」

 

 

体の遺伝子こそ白人とはいえ、彼女は大阪生まれの大阪育ち。元々研究者であった親の手伝いをしていた事から、共通語もペラペラと話せる彼女。しかし本来の素の彼女は関西人であり、当たり前だが関西弁を話すのだ。これも周りに知られると恥ずかしいという理由で、バレないように隠してるそう。別にさらけ出しても良いと思うのだが、その辺はミストの気持ちに折り合いがついたら、といったところか。

 

「悪いなぁ師匠。本来なら早よ眠って休みたいとこ、急にウチが押し掛けてしもうて...」

「あの特務で疲れきってるのはお互い様だろ。気にしないでお前は休め。『家族』みたいなもんなんだから」

「うん...ありがと、師匠。ウチは師匠が指導者に就いてくれて良かったと思っとる。ホンマやで?」

「分かってるよ」

「せや。ウチの事を理解してくれて、兄貴として接してくれとる。ホンマに嬉しいねん...」

「ああ。兄貴だからな」

「おおきに、師匠...。ウチは幸せや...」

「...」

 

段々と言葉が少なくなったかと思うと、スースーと静かな寝息が聞こえ始めた。

 

本当に安心すると、彼女はこうして眠りにつく。こうしてみると本当に妹みたいで、可愛らしく思う。ふとサラサラの髪を撫でると、くすぐったいのか身じろぎをするが、また直ぐに寝息をたて始める。

 

(まったく、世話のかかる妹だな)

 

思わず苦笑を浮かべてしまう。

 

 

ブーブーっと、ポケットに入れていた携帯端末がバイブを鳴らす。片方の手で髪を撫でながら、もう片方の手で携帯を取り出すと、リンドウから『お前に用があるんだがインターホン押しても反応が無い。今どこにいるんだ?』というメッセージを受信していた。直ぐに『部屋にいるが、くれぐれも静かに入ってくれ。鍵は開いている』と返事をしてから10秒経たぬ内に『了解』と返ってくる。

 

ふたたび扉がシューっと空気の抜ける音を出して開く。来客は先程メールを送ってきたリンドウと、その姉のツバキちゃん。俺がメールで指示した『静かに入れ』という意味をイマイチ理解しきれず、怪訝そうな表情を浮かべながら入室する二人であったが、俺の膝の上に乗ってる彼女の姿を見て、初めは驚きつつも直ぐに納得したという表情をした。

 

「しっかしレイン、あのミストをこんな状態にするなんて、一体どんなトリックを決めたんだ?」

「勘違いされる前に言っておくが、別に懐柔しようと思って動いた結果こうなった訳じゃない。ミストにとって最も素の自分をさらけ出せる、心から信頼出来る人間が偶々俺だってだけさ。教練担当の時からずっと近くで見てきたんだ、血は繋がってなくてもこんな時くらい兄妹になっても良いだろ?」

「ああ...そういやミストも、中々辛い人生を歩んできたんだったなぁ」

「まだ親の愛が必要な時期に突然引き裂かれた...。家族という繋がりを、心のどこかで求めている、か...」

「そういう事だ。今日の事もそうだが、ミストは本当によく頑張ってると思う。こんくらいのご褒美はあって然るべき、だろ?ツバキちゃん」

「もちろんだ。お前がミストに邪な感情を抱かなければ、の話だがな?」

「んなことは天地がひっくり返ってもねえよ...」

「フッ、冗談だ」

 

 

 

結局、リンドウの用件というのは大した事ではなく、ツバキちゃんは特務帰りの俺を労う為にこの部屋へ来たところを偶然バッタリと会い、目的が同じなら一緒に行こうという事で姉弟揃ってお邪魔した次第である。

 

本来なら今この場でリンドウをしばき倒したい所だが、ミストが安眠してるので次回出会ったときに持ち越すとしよう。

 

なお、目を覚ましたミストがリンドウとツバキちゃんの姿を認識した直後、「にゃぁぁぁぁぁぁぁ△○×□#*∥♪~※〇@!!!!??」と意味不明な叫びと共に顔を真っ赤にしたのは当然の流れだったり。

 

 

 

今日は本当に疲れた。明日の仕事に向けてゆっくりと癒されよう。可愛い妹の慌てる姿を見てな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ベテラン新型さん 設定集 ★

すみませんでしたぁぁ!!!
筆が進まず...。


アークレイン・レグナゲート

 

年齢:30 性別:男 出身:フィンランド

 

フィンランド・ユヴァスキュラ市出身

2041年5月8日生まれ

2056年 フェンリル本部に入隊

2062年 新型神機開発に伴う試作機適合者として、神機を第一世代型(スナイパー)から新型試作機(ロング・スナイパー・バックラー)へ更新。2063年 フェンリル極東支部へ転属

 

身長:188cm 体重:85kg

アラガミが現れる前は天才的なトランペットの才能を持つ少年として度々世界中で取り上げられ、将来を有望視されていた過去がある。

 

その後2050年 当時9歳の頃にアラガミの被害が本格的に出始めることで、トランペット奏者としての未来はほぼ完全に途絶えてしまったものの、極東支部へ赴任してきた際に毎朝の配給1時間前に『ハトと少年』を吹き続けることで演奏の技術を少しでも劣化させまいと維持している。と同時に、原曲が映画の中で演奏されていたシーンのように外部居住区に住む者たちの目覚ましにもなっている。

 

階級は大尉、飛鳥とコウタが入隊した時点では極東支部第一部隊隊長の任に就いている。リンドウと並び極東のエースとして日々アラガミ討伐に出向く。

 

神機使いとして、2つの『初』の肩書きを持つ。一つはピストル型神機が現役の時代に、現在の第一世代型に『初めて』適合した第1期生としてフェンリルに入隊したこと。もう一つは、その数年後に開発された第2世代型の神機に『世界で初めて』適合し、神機を更新したこと。

 

後述の雨宮リンドウが色々と充実(意味深)した生活を日々送っている事が原因で、リンドウの部屋の真下にある部屋で生活している彼は時たま寝不足になる事がある。

 

 

 

 

 

雨宮ツバキ

 

年齢:29歳 性別:女 出身:日本

 

日本出身

2042年8月18日生まれ

2059年 フェンリル極東支部入隊、第一世代型(アサルト)に適合

2069年 神機使いを退役。第一〜第三部隊の現場指揮官兼、新米神機使い共練担当官

 

身長:167cm 体重:特秘事項

アラガミが闊歩するようになった初期の時代から近代にいたるまで、遠距離型神機使い最強の名を誇っていた元神機使い。高い作戦遂行能力と頭脳を持ち、現役時代は隊長格として引退するまでの長年の間、後輩たちを引っ張ってきた。兵役として求められる規定年数を超え、また体内の偏食因子との適合率も低下したことから神機との媒介機器である腕輪を封印し、神機使いとしての役目を終えた。

現在では極東支部に配属される新人神機使いの教練を担当しており、今では古株のうちに入る若手の神機使いも現役時代の彼女に育てられた影響か、なかなか頭の上がらない様子が伺える。また鬼教官として名前が通っていることで有名で、ある情報筋によると不真面目な隊員は彼女の履くヒールの音だけで震え上がるとも。

 

極東支部に無理やりの引き抜きで連れてこられ、当時日本語による意志疎通が不可能だったレインの通訳をしていた。

 

 

鬼教官としての印象を強く植え付け、若手の新入らに自身へ盾突く気を無くさせるために、あえて露出の多い服装に厚化粧を施している。

しかし本来の彼女は肌を極端に露出することを好まず、化粧などもあまりしない性格であるため、現役時代の露出控えめナチュラルメイクで戦う姿を知っているレインからは(引退から数年経った現在でも)違和感を拭えないらしい。

 

 

 

 

雨宮リンドウ

 

年齢:26歳 性別:男 出身:日本

 

日本出身

2045年10月12日生まれ

2061年 フェンリル極東支部入隊

 

身長182cm 体重78kg

2061年にフェンリル極東支部に入隊した、旧式ロングブレード型神機使い。極東最強の遠距離型神機使いである雨宮ツバキの実の弟であり、こちらは近接攻撃において極東最強クラスの実力を持つ。アークレインが極東に赴任してから、姉のツバキと共に何かと彼の世話を焼いてきた面倒見の良い人物。頼れる兄貴分のようなその人柄の良さから、後輩の神機使いだけでなく、支部のスタッフ皆から慕われている。極東支部第一部隊副隊長、階級は少尉。

 

基本的に物事に対してはあまり深く考えないタイプの人間で、あまり自分が大事だと思えず、かつ面倒な事案については可能な限り丸投げするスタンスを取っている。特に自身が苦手としているデスクワークにおいては何から何までレインや幼馴染みのサクヤ、はたまた上司であるはずの姉のツバキにまで丸投げしようとするため、特にレインとツバキからはデスクワークの度に丸投げを拒否されては仕事に渋々取り組む様子がよく見られる。

 

しかし一方で、人の感情の機微であったり物事の裏に潜む現実、それらに対する自分の中の考え方にははっきりとした筋が通っている事もあってか、時に今の世の現実を見た後輩の神機使いにドライに接する事もある。

 

レインとは上記の付き合いから、互いに信頼し高め合い、時には呑んでバカ騒ぎをするような良い関係を築いている。だが一方で、リアルで充実した生活(意味深)を送っているせいか、自身の部屋の真下に居を構えるレインの寝不足の原因にもなっている。

 

 

 

 

 

蒼皇飛鳥

 

年齢:18歳 性別:女 出身:日本

 

 

2053年8月6日生まれ 日本出身

2071年 フェンリル極東支部入隊、第二世代遠近切替型(ロング・ショットガン・バックラー)に適合

 

身長168cm 体重58kg(若干痩せてるけど、十分健康的な範囲の重さなのだ!v(^_^v)ブイッ♪)

アラガミ防衛の最前線である極東支部に2071年に配属となった、極東初の『最初から新型』の神機使い。同じ新型神機を扱うレインとは異なり、彼女の場合は適合当初から第二世代型の神機を扱う。

 

欧州人と東洋人の血が混ざった家系であるらしく、顔立ちは東洋人に近いが皮膚の色や瞳の色は白人のそれにかなり近い。また体格も平均的な日本人女性のそれよりも少々大きめで、身長は168cmほどある(現在も成長中)。なお、同期入隊のコウタは彼女に対して身長でコンプレックスを抱いている模様(年が3つほど離れているため、身長に差が生じるのは仕方ないとも言えるのだが)。

 

普段はおちゃらけた能天気なマイペース少女なのだが、一度本気でキレると凄まじいオーラを発する。同時に言葉遣いも何処か相手に恐怖感を抱かせるものに変化し、笑えば普段以上にグンニャリと口を曲げるために、その姿を見たレインもおっかないと評している。アラガミが怒りで活性化するように、彼女の戦闘能力と戦い方も非常に残虐かつ超効率的(設計上想定していない無茶も行う)に変化するため、絶対に怒らせてはならないという認識がその瞬間を見ていたレインによって、密かに極東支部中に広まりつつある。

 

 

 

 

 

ミスト・ルイン 『オリジナルキャラクター』

Mist "Harmony" Luin

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

2053年4月30日 旧日本国大阪府の生まれ

2065年 フェンリル極東支部に入隊、第一世代遠距離型(スナイパー)に適合

 

身長157cm 体重「知った人間は"ぶち殺し"ます」

純粋な北欧発祥のコーカソイド系白人種だが、まだアラガミに対し各国の軍がかろうじて抵抗できていた時代、フェンリル所属の技術者である両親が本部から大阪近辺にあるフェンリルの防衛軍支援基地に赴任、その時点で彼女の母親が臨月に入っており、赴任から数週間後その地で生を受けた。両親は彼女が極東支部に入隊する数年前に、同地域に設立されたフェンリル研究施設へのアラガミの襲撃によって戦死。両親が生前懇意にしていたフェンリル関係者の伝手を辿ってなんとか極東支部まで辿り着き、その流れでそのまま入隊を果たす。

 

入隊後は、神機使い設立当時の旧式スナイパー型の先駆けであるアークレインの下で、徹底的に神機の扱い方や戦い方のノウハウをたたきこまれた。その経験からか、遠距離型神機使いとしての戦績は世界の全遠距離型の神機使い中トップ20に入る程の実力を有している。現在は若くして極東支部の偵察班副班長兼、班長代理の立場に就き、日々戦場で戦う神機使いの為に先陣を切って偵察任務を遂行している。

 

色素の抜けたプラチナブロンドのボブカットヘアが特徴。基本的にあまり感情が顔に出るタイプではないが、目はほぼ常にジト目に近い状態になっている。彼女曰くこれがデフォルトの状態である様だが、白人としては少々小柄な体格も相まってむしろ怖さというよりも少々の可愛らしさを感じられる佇まいである。

 

ちなみに決して感情の揺れ幅が小さい訳ではなく、人並みに喜怒哀楽の感情を持ち合わせている。ジト目になりがちなデフォルトの表情のおかげで、初対面の新人神機使いからは何かと避けられがちなのが彼女の地味に心の中で気にしているポイントらしいが、コミュニケーションが苦手という訳では無いため、なるべく早いうちに新人と打ち解けようと努力をしているシーンをよく見かける。ただしその際、おでんイチゴミルクなる珍妙な飲み物(味はお察し)を相手に勧めるため、新人イジメ的な何かなんじゃないかと益々避けられる事もしばしば。本人に悪気はないものの、味覚の嗜好が少々他人とズレている自覚はない。

 

なお、自身を本気で怒らせた者に対しては凄まじい威圧感を伴う覇気を纏いながら、"ぶち殺し"なる制裁を課す。実際に食らった者によると、割とシャレにならない技を掛けられるらしく、その技の中身もあまりの恐ろしさに被害者が教えてくれないため謎に包まれている。

 

 

 

 

 

霧崎マナミ

 

年齢:26歳 性別:女 出身:日本

 

2045年6月8日生まれ 日本出身

2060年フェンリル極東支部に入隊。

 

身長172cm 体重「えっ...言わないとダメ...なんですか?(静かな威圧)」

神機使い候補としてデータベース上に登録されてはいるものの、現時点で安全に適合できる神機が存在しないため、カフェの店員(いわゆる厚生部門担当)として15歳の時に極東支部に入隊する。

 

元々は外部居住区の”外”で生活していたが、拠点にしていたキャンプ地がアラガミの襲撃によって全滅。たまたま近くを通りかかったツバキたちの部隊によって救出され、その後外部居住区受け入れの条件である『神機への適合性』を持っていたことから無事に受け入れられ、志願による入隊を果たす。

 

レインとは(職務上必要があったとはいえ)彼と言葉による意思疎通が取れる以前から、なんとなくの身振り手振りのジェスチャーで積極的にコミュニケーションを図っていた。その縁もあり、レインとかなり親しい間柄にいる人物の一人でもある。その際、彼に自分の目の前でアラガミに家族を食い殺されたという凄惨なトラウマ(この時代に生きる者にとっては決して珍しくない境遇ではあるが)を曝け出す機会があり、それを真摯に聞いてくれ優しく受け止めてくれた事から、レインに対しては同僚として以上の感情を抱いている。

 

 

 

 

 

 

楠リッカ

 

年齢:18歳 性別:女

 

日本出身

2053年7月22日生まれ

2069年 フェンリル極東支部入隊

                           ↓バールorスパナ的なモノ持ってる

身長150cm 体重「スパナかバールどっちがいい?(・∀ ・)ノシ ブンブン」

正式にフェンリルに入隊数年前から整備クルーとして、それ以前も整備士である父の手伝いとして神機使いに貢献してきた少女。神機の事を大切に思いやり、神機を大切に扱わない神機使いには厳しく叱責するなど、整備エンジニアとして高いプライドと実力を若くして持ち合わせている。

 

レインの事は手伝いの整備士見習いだった頃から知っているが、当時は毎度特務を終えて帰ってくるたびに神機を凄惨にぶっ壊して帰ってくるレインの事を、『神機を大切にしないヒドいヤツだ!』としてものすごく嫌っていた。しかし、父に整備士としての仕事を教えられる中で、レインは決して雑に扱おうとして神機を壊しているわけではない事を少しづつ理解し、そこから彼に対する触れ合い方は少しづつ軟化していった。

 

レインと出会ってからの付き合いもそれなりに長く、また彼自身の人柄であったり『絶対に仲間を生きて返す』という強い信念と共に誇りを持って仕事をしている彼に強く惹かれている。が、それを素直に打ち明けるのはとても恥ずかしいようで、いざ気持ちを伝えようとすると途端にテンパってつっけんどんな態度になってしまう。

 

 

 

 




キャラクターについては色々とこれから掘り下げていくつもりです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

act:10 ”華麗なる”神機使いと一匹狼

一年以上経っちゃってますね...。
原作ではエリック先輩がうわぁされちゃう所の一歩手前で、この小説は1年以上も時が止まっていたのですね...。

楽しみにされていた方がいらっしゃいましたら、誠に申し訳有りません。

という事で、エリック先輩との初の戦い編です。


 私はいま、何度目かになる実戦に向けての移動真っ最中。今日ヘリコに乗ってるメンバーは、私こと蒼皇飛鳥と、フードを目深にかぶったソーマさん、それと派手なタトゥーと朱色の髪が目を引くエリックさんの3人。あと、現場に遅れて来る予定のレインさんを含め、合計4人で今日の任務に当たるらしい。

 

 

「ソーマ、今日の僕も華麗に戦ってみせよう。いつもは君に華麗なる戦舞の美しさで敵わない僕だが、今日こそは君よりも華麗に舞いながら、アラガミとの戦いに勝利してみせよう!」

 

「...フン。勝手にしろ」

 

「その言葉は僕からの挑戦を受けたと判断するよ?君も僕に負けないよう、全力で戦って欲しい」

 

「俺はお前の”華麗だの何だのという遊び”に付き合うつもりはない!俺を巻き込むな!そして俺に関わるな!」

 

「そんなに恥ずかしがらずとも、君は十分華麗な神機使いだよ?」

 

「コ、コイツ...」

 

 

 邪険に扱ってもなお話しかけ続けるエリックさんを、ソーマさんは鬱陶しそうに応対している。

 

 でも私には分かる。ソーマさん、本当に少しだけど口角が釣り上がってるからね。本当はエリックさんに絡まれて嬉しいんでしょ?しかもエリックさんは、自分の言う通り”華麗な”スルーテクニックを以って、ある種拒絶とも取れるソーマさんの悪口を躱している。普段からこう言われるのには慣れているんだろうなぁ。

 

 それでもなお『友人』としてソーマさんに接しようと、一生懸命寄り添おうとしているように感じる。エリックさん、見た目は自称”華麗”の現実は残念な派手派手ファッションだけど、きっと中身の人間性は見た目通りの人じゃないんだ。そうでなきゃ、ここまで相手に拒絶されたら普通はもう相手にしなくなるよね...。

 

 

「おい新入り!黙って見てないでなんとかしろ!」

 

「ソーマさん、それは先輩としてのパシリでしょうか?でしたらホットココア一本で手を打ちましょうぞ」

 

「クソ!ドイツもコイツもウザえ奴ばかりだァっ!!」

 

 

 エリックさんの振る舞いを見習って、私もソーマさんを弄ってみる。

 

 ホットココアで手を打つってのも安いモノだけど、エリックさんのソーマさん弄りは見ていて楽しい。エリックさんと私によるソーマさんいじりは、ヘリコが現場に着くまで...否、ヘリコから降りたあとも続くのは言うまでもない。

 

 

 

-----

 

 

 

 

「さて新入り君、現場に着いたところで改めて自己紹介をしようじゃないか。僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。この相棒と共にアラガミを倒す、華麗な神機使いさ」

 

 

 そう言ってエリックさん、腕輪に接続された自分の神機を軽く持ち上げてみせる。フムフムなるほど、火力の大きいブラスト型か~。

 

 

「蒼皇飛鳥で~す。極東初の新型神機使いとして、このたびアナグラに配属となりました!どうぞよろしくお願いしまーす!」

 

「...ソーマだ。別に覚えなくていい」

 

「んまぁ、彼はこのようにシャイなんだ。僕共々、是非仲良くしてくれ」

 

「ぅオイ!?」

 

「君が変に格好つけるからさ?ハッハッハ」

 

「テメェ...」

 

 

 ソーマさんが言いようのない怒りに身を震わせる。エリックさんのこの様子を見るに。ソーマさんいじりはかなり手慣れているとみた。

見た目と纏っている雰囲気は怖いの一言に尽きるソーマさんだけど、こうやってイジイジしてたらそのうち仲良くなれるかな?

 

 

「では新入りの新型クン。僕はキミを何と呼べば良いかな?」

 

「飛鳥で良いですよー。エリック先輩」

 

「では飛鳥クン。ソーマも、お互い死なないよう華麗に戦おうじゃないか!」

 

「了解です!」

 

「フン...」

 

 

 お互いの自己紹介も終わり、残るメンバーであるレインさんの到着を待つ私たち。

 

 今回の任務は、コクーンメイデン2体とオウガテイル2体の計4体。新入りが先輩と協力して挑む任務としては、実戦投入の時期から考えると少し難易度が高めな任務なんだって。

 

 と言っても、ツバキさんは私の実力なら恐らくあまり心配はないだろうが...と言ってた辺り、なんだか私の力量は平均的な神機使いを上回るものらしい。全然実感は湧いてないし、そもそも実感し始めたとしてもそれに驕ってちゃ、あっという間に死んじゃえるこの環境。普段から調子に乗らない様に気を付けなきゃと思いながら、常に神機を持ってる。

 

 それでも、この難度の任務に4人で挑むのは異例な事らしい。貴重な新型神機使いを失わない為の保険っていうのが理由なんだって。

 そのためにわざわざ、極東のエースたるレインさんまで参加するっていうんだから、私に対する対応はちょっと過保護じゃないかなぁー...なんて思っちゃったり。

 

 とはいっても、私が死んじゃったら監督役のエリックさんやソーマさんに迷惑が掛かっちゃう。何時も通りに、気を抜かないでアラガミ討伐に向き合わなきゃ!

 

 

 

 そう思ってエリックさんを見ると、エリックさんの真後ろの、穴の開いた工場の設備からオウガテイルが顎を開けて飛び掛かってきた。

 

 

「っ!?」

「っ!エリック!上だ!!」

「へ?う、うわぁっ!」

 

 

 咄嗟に私は後ろにステップして距離を取ったが、瞬く間にエリックさんに跨がったオウガテイルは、そのままエリックさんの頭にかぶり付こうとした。うそ..そんな!エリックさんがっ!

 

 刹那、バシュンという音と共にオウガテイルの顔が割れた水風船の様に弾けとんだ。

 

 

「「...へ?」」

 

「...ふん」

 

 

 音の発信源へ振り向くと、スナイパー型の神機を構えながらレインさんがこっちへ向かってきていた。私は咄嗟の事で、アラガミから自分の身を守る事はできても、エリックさんを助ける余裕なんて無かったから...。

 

 

 そんな私の思いなど知らず、ツカツカとエリックさんに歩み寄ったレインさんは、エリックさんの体にダメージが無いことを確認した後、デコピンを食らわせた。凄いダメージだったみたい。

 たかがデコピン、されどデコピン。痛みのあまり、大袈裟な動きで悶絶してる。

 

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「周囲だけじゃなく頭上にも気を張れと一体何度同じ事を言わせりゃ理解するんだ。俺がこのタイミングで来てなかったら今度こそ確実に死んでたぞ? 家族を路頭に迷わせる気か?」

 

「イテテテテ...。その、すみません。助かりました」

 

「ど阿呆! いい加減学べこの大馬鹿野郎!!」

 

「ひぃぃぃ!? ハイ! すいませんでしたぁ!!」

 

「はぁ...」

 

 

 ため息を一つ吐くと、今度は私に向き直る。

 

 

「新入り。今の咄嗟の回避は、神機使いとして正しい行動だ。日頃の訓練の成果をきちっと出せてるじゃないか」

 

 

 私はこの言葉を聞いて思わず頭に血が昇ってしまった。

 エリックさんが死にかけたのに助けようとしなかった私を、なんで怒らないのかって。仲間が危機に陥った時は助けなきゃいけないのに、私はその役目を果たせなかったから。なのになんで、レインさんは私を怒らないの?

 

 

「...なんで私を叱らないんですか?」

 

「ん?なんでお前を叱る必要があるんだ?」

 

「だって私は...私はっ! エリック先輩がアラガミにやられそうになった時、まともに動けなかったです! もしレインさんが来なかったら今頃...」

 

 

 段々と尻萎みになっていく私の言葉を聞いて、レインさんは肩をポンと叩くと優しい笑みを浮かべた。

 

 

「人が目の前で食われるって状況は最初は誰だって硬直する。大体、お前は実戦に出始めて今回で何回目だ? 悪いが、経験も踏んだ場数も圧倒的に足りてないお前に、仲間のフォローを要求する方が間違ってる」

 

「でも...」

 

「でもも何もない。今回の出来事はエリックの不注意で起こったこと。お前には何一つ責任なんて無いんだ」

 

「そうそう。今回は僕が、実に華麗ではない振る舞いをしてしまったことがそもそもの原因なんだから。飛鳥クンは全く気にすることはないんだイテテテテテテ!!」

 

「オメェはその『実に華麗ではない振る舞い』を何度実戦で繰り返しとんじゃボケ」

 

「イタイイタイイタイイタイイタイ!!!!」

 

「痛いと言えるならまだ余裕があるってことだな。クラ」

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

 エリックさんのほっぺを思いっきりつねりながら、さっきと変わって激おこフェイスでお説教するレインさん。流石に命が掛かってる状況ではかなり厳しく接する人なんだなぁっと、改めて実感した。

 

 その時、アラガミの咆哮が廃工場に響き渡る。それを聞いたレインさんは勿論、他の二人の表情もキッと引き締まったものに変わる。いよいよこの現場での実戦が始まるって事かな...。

 

 

「おふざけはこの辺にしておこう。今回の目標はオウガテイルとコクーンメイデンがそれぞれ2体ずつ。油断しなけりゃ新入りでも十分勝てる相手だが、近距離戦を得意とするオウガと、遠距離がメインのコクーン、双方の連携には常に気を配ること。

 目の前の敵ばかりに集中してると、変なところから攻撃を受ける可能性もある。正直ソーマについては全く心配してないが、新入りと、さっきヤラかしたエリックは少し心配だ。お前ら、平気か?」

 

「えーっとぉ...」

 

「アハハハハハ、さっきあんな事があった手前、大丈夫とは言えないですね! 情けなく、そして僕の求める華麗さも無いのですが...」

 

 

 エリックさんの正直な言葉に、おでこに手を当てながらため息をつくレインさん。

 

 

「...ったく。ソーマ、お前はエリックと組め。新入りは俺と。ツーマンセルで各アラガミの討伐を実行する。

 新入りは遠近切り替えるタイミングを間違えるな。防御か回避を確実にできるポジションを常に取りつつ、味方との連携も意識しつつ戦う事。

 エリックは言うまでもないがソーマのサポートを。今度こそ油断はするなよ。理想は各ユニットでオウガとコクーンそれぞれ一体ずつの討伐だ」

 

「りょ、了解!」

 

「今度こそは華麗に決めてやりましょう!」

 

「...チっ。りょーかい」

 

 

私たちの了解の意を確認すると、レインさんは一つ頷き戦場へと振り向く。

 

 

「始めるぞ。いつもの通りの命令4つ、必ず守り抜けよ。行くぞっ」

 

「「ラジャー!!」」

 

「ああ!」

 

 

 

 開始一番、レインさんが近接形態に変型した神機を持ってコクーンに突っ込む。その後に続いて、私も神機を遠距離型に切り替えて攻撃する。

 

 見る人を思わず見惚れさせてしまう程の綺麗な太刀筋。アラガミの中では弱者に入るコクーンは為す術もなく、強力な一振りによって体を裂かれる。

 

 

「新入り!今だ!」

 

「はい!!」

 

 

 レインさんの指示を受けて、私は一気にコクーンに近付き一発の散弾をお見舞いする。

 

 この散弾というバレットは特性上、遠くから撃つよりも近くで撃った方が威力が高い。できる限り近付いて、大きく傷を負ったコクーンにトドメを刺すくらいの気持ちで引き金を引いた。

 

 やっぱり相当のダメージがあったようで、コクーンはよろける様な動きを見せた。もう一発当てれば倒せるかも。

 そう思った直後、何かがこちらに来る気配を感じて咄嗟に後方に回避する。さっきまで私のいたところに、訓練で幾度も見覚えのある白い針が何本も刺さっていた。

 

 

(ひゃあぁ。あっぶなー)

 

 

 飛んできた元を見れば、大きく口を開けて咆哮をあげるオウガテイル。私に攻撃が当たらなかったことが不服なのか、また尻尾の先より数本の針を生み出す。

 

 再びそれは私に向かって打ち出されたけど、神機を変形、装甲を展開する事で難なく防御に成功する。

 そこを遠距離形態に神機を変形したレインさんがバシュンと撃ち抜く。オウガテイルは大量の血飛沫を飛ばし、あまりに大きいダメージに思わずダウンしてしまう。

 

 

「悪い。俺の神機だとちと威力が強力すぎたらしい」

 

「そんな事よりも、蒼皇隊員捕食を開始します!」

 

「そんな事ときたか」

 

 

 後ろでレインさんが苦笑を浮かべているのがわかったけど、気にせずダウンしているオウガテイルに向かって展開した神機の顎をガブリと食いつかせる。

 

 その瞬間、これがトドメのダメージとなったらしい。オウガテイルは断末魔の叫びを上げて完全に戦闘不能となってしまう。

 

 

 ホントに手応えないなぁ...。

 

 

「......うぅん?」

 

「何つったってんだ! まだ戦闘は終わってねえぞ!」

 

「っ!」

 

 

 直後、私の直上からエネルギー弾が一発降ってくる。

 完全に油断してた、避ける間もなくまともに喰らっちゃう。

 

 

「うぁっ!?」

 

「オイオイオイ!」

 

 

 幸いにも私の頭蓋骨がどうにかなるほどの威力はなかったみたいなんだけど、衝撃のせいでどうにも頭がクラクラする...。

 

 

 

「こりゃダメか...。止むを得ねえな」

 

 

 おぼろげながらに視界に入ってくる情報からは、レインさんが担当分のコクーンにトドメを刺したのが見えた。

 あぁ、本当に綺麗な太刀筋だなぁ...。

 

 

「飛鳥、大丈夫か?」

 

「うぅ、ちょっと頭がクラクラしますぅ」

 

「レーザー弾をまともに喰らった衝撃で脳震盪を起こしてるのか...? ソーマ! エリック! 急いで終わらせるぞ!」

 

 

 レインさんが少し離れたところで戦ってる先輩二人に声を掛けたけど、あれ...意識が薄れてく...。

 

 

「おい? 飛鳥? しっかりしろ! 聞こえるか!?」

 

 

 本当に心配そうなレインさんの顔がだんだんと真っ暗になっていって、私は意識を失った...。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「ん、うぅん...。あ、あれ??」

 

 目が覚めると、私はベッドに寝かされてた。

 薬の匂いがするってことは、ここはラボラトリの医務室かな?

 

 

「...ん? ああ、目が覚めたか」

 

 

 横から聞こえた声に顔を向けると、椅子に座るレインさんがいる。いつも着てるコートに若干シワが見える所を思うと、ここに座ってからそれなりに時間が経ってるのかも。

 

「あの、なんで私ここにいるんでしたっけ」

 

「覚えてないのか?」

 

 

 焦りの表情を浮かべるレインさん。

 そんな顔されても、現実に覚えてないというか曖昧というかって感じだし...。

 

 

「お前は俺とソーマとエリックと、四人で廃工場跡でオウガとコクーンを倒す任務に行ってた。そこで

 

「あっ、ハイハイハイ! 今思い出しました! 頭に攻撃もらっちゃいました...」

 

「とりあえず、記憶障害は特になさそうだな」

 

 

 あっ、レインさんが一瞬焦ったのってそういうことだったんだ。

 

 頭に攻撃もらったんだもん、そりゃ普通はそういう事にも考えが向くよね。まだまだだなぁ、私。

 

 

「お前が意識を失ったあと、3人で任務を片付けたのちに緊急でアナグラに帰還してお前を医務室にぶち込んだ。そんで診察結果だが、特に脳にダメージを負ったとかっていうのは見受けられなくて、意識が戻れば部屋に戻しても問題ないそうだ」

 

 と、ここで一息溜めたレインさん。

 

「戦場では気を抜くな、全てが終わるのはアナグラに帰ってから。口酸っぱくして言ってきたが、なんで今回の様な事になったか、あとでお前さんなりに自己分析をすることだな」

 

「自己分析...ですか?」

 

「そう。アラガミが歩き回る世界で一切の油断はするな、気を抜くのはアナグラに帰ってから。今回の任務のあの出来事を通して、俺が訓練の時にそう言い続けてきた訳が実感出来たと思う。

 もしあのレーザー弾が、口を開けたオウガテイルだったらって想像してみろ? お前は食われてたかもしれない」

 

「っ!?」

 

「自分の行動がどう繋がっていくのか、あれをどうしたらこうなりそうとか、逆にこうした方が良かったかとか、一つ一つの任務が終わったら自分の行動を振り返るんだ。その場ではコレが最善だと思っても、後から思い返して本当にコレがベストの選択だったのか?って感じでな。

 こういう自己分析ってのは意外と大事でな。特に今回みたいな死にそうになったりした時の行動を振り返るのは、これから先お前がつまらない事で死なない為の大きな礎になる。

 そうして着々と自分の中で自分のあり方を研いていくんだ。お前はそれが出来る人間だ」

 

 

 レインさんの言葉には、私が物心つく頃にはもうアラガミと戦ってた『歴戦の神機使い』としての重みを感じた。

 

 油断はしちゃいけない、常に周囲に気を配ってっていうのを意識してたつもりだけど、私のそれは本当に『つもり』でしかなかったんだな。でなきゃ私は病院送りにはなってないもんね。

 

 うーん、どこで知らずに気を抜いてたんだっけかな?

 

 

「まあ、どっちにしてもお前はまだまだ新人なんだから。そう気に病む程の事でもないよ」

 

「あっ...その、ありがとうございます...」

 

「遅かれ早かれ人間いつかは誰でも死ぬしな」

 

「冗談にしても笑えませんよぅ!」

 

 

 ハッハッハと大きな笑いを上げながらレインさんは立ち上がる。

 

 

「特に問題なさそうだが、体調が落ち着いたら自分の部屋に戻るといい。ドクターか看護師にしっかり声掛けしてから行くんだぞ? ホウレンソウを怠ると後々エライ事になるからな」

 

「ホウレンソウ? 葉っぱですか?」

 

「確かに昔は日本発祥の野菜にそんな名前のもあったが...。この場合は『報告・連絡・相談』の最初の二文字を合わせた言葉だ。職場で仕事をするにあたり、欠かしてはいけない大事な3大要素ってな」

 

「あっ、なーる...」

 

 

 医務室のスタッフに声掛け忘れんなよーと言って、レインさんは医務室を出ていった。

 さて、私も特に体調に変わりはないし。お部屋に戻って反省会をしようかなぁっと!

 

 

 直後医務室の扉が開き、コウタ君が入ってきた。

 

 

「あっ飛鳥! 死にかけたって聞いたけど、大丈夫!?」

 

「...ふぇ?」

 

 

 え? 死にかけた...??

 

 聞いた感じ、私が思った以上にコウタ君は焦ってたみたいで、大したことは無いんだと言って信じてもらえる迄にはちょっと時間が掛かりました。

 

 でも...、こうやって私の事を仲間として大切に思ってくれる人がいるって、なんだか嬉しいなぁ...




余談ですが、エリック先輩はちゃんと生きてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。