DXオーズドライバーSDX (トライアルドーパント)
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第1話 Anything Goes!

はじめまして。初の二次小説作品です。どうかよろしくお願いします。



目を開けたらそこは緑一色の液体がみっちり詰まった水槽の中だった。

 

「!?」

 

水槽の外では白衣を着た医者か科学者のような人間が何人か確認出来る。

試しに水槽の壁をドンドンと叩いてみる。

俺に気がついて驚いているようだが、なんと言っているかイマイチ分からない。

呼吸は口に装着された器具で問題なく出来るが、一体ここは何処なのか。

 

そんな事を考えていたら緑色の液体ごと水槽からドジャーッと、金魚鉢から放り出された金魚の様に床に叩きつけられた。

水槽の中は温かかったが、床は固くて冷たかった。

 

「ゴホッ! ガハッ! あ、あんたらは?」

 

「ほう? 言葉が喋れるのか? その上、明確な自我があるように思える。実験は大成功と言うわけだ」

 

自分に対して、実に興味深いと言った感じの視線を向ける相手の姿を確認する。

小太り……いや、デブと言ったほうがいい体型の眼鏡を掛けた男。

年齢は見た感じでは20代後半。

身長は160cmそこそこ。

着ている服は白いスーツに白いコート。

 

「では自己紹介だ。私はモンティナ・マックス少佐。もしくは総統代行と呼ばれている。

ああ、君の名前は言わなくていい。初めに言っておくが、君は我々によって造られた」

 

見た目と声と名前は完全に『HELLSING』の少佐だ。飛田展男ボイスの。

渡されたタオルで身体を拭いて服を着ながら、少佐は俺の事を聞いてもいないのに説明してくれた。要点を纏めると……。

 

「つまり、自分は死人の細胞から作られたクローン人間のモルモットと言うことですか」

「それなりの知能もあるようだね。理解が早くて助かるよ。

君の身体は、元々は死体を蘇らせて不死身の戦士を運用する事を目的とした実験の為に造られた体だ。ただ、今回はちょっと別の実験に使わせてもらったのだよ」

 

つまりは、『仮面ライダーW』におけるネクロオーバー的な実験と実戦投入が少佐の主な目的だが、今の俺はゾンビ兵士ではないと。

この世界には吸血鬼がいないのだろうか?

ついでに少佐繋がりで石仮面も無いのか?

 

「今回は平行世界を検証するに当たって、『平行世界の存在を此方側に寄越せるのか』と言う実験をしていてね。

我々の知らない技術や、知識を齎してくれる存在を確保する事がその体を使った実験の目的だ」

 

少佐が言うには、この実験の他にも娯楽小説の中の仮定や理論、設定を実際に検証してみたらしい。

それらの実験で、自分は初の成功例なのだとか。

 

「何、クローンだからと言って心配する事は何も無い。テロメアも短くは無いし、ちゃんと生殖能力はある。誰とでも何人とでも励むと良い」

 

「それは有り難い話ですが、このショタボディでナニをどうしろと?」

 

「ハハハ、言うじゃないか。冗談はさておき、それらの検証に関する実験は君が成功するまで全て失敗している。

そして、君は成功例第1号であると同時に実験体596号と言うわけだ」

 

「500回を超えた辺りで諦めようとは思わなかったのが凄いですね」

 

「我々は執念深いのが取り柄なのでね。幾らでも何度でも降らない結果など覆してやろうと言う、心底諦めないどうしようもない連中なのだよ」

 

「諦めが人を殺すってやつですね。諦めを踏破した時、人は運命を踏破する権利人になる」

 

「ほう……良い事を言うな君は」

 

本当は踏破するのは人道なのですが。

しかも発言者が最強の吸血鬼ときている。

 

しかし、少佐の眼つきが変わった気がする。

観察して値踏みするような目から、獲物を見つけてロックオンしたような目に変わったような……。

 

「ところで、君はどのようにしてココに来たのかね? 参考までに教えて欲しい。

研究者によると、トラックに轢かれるパターンと、神との遭遇を果たしたパターンがメジャーらしいのだが、君はどんな涙を誘う感動的な死に方と、目を背けたくなるような残酷な最期を迎えたのかね?」

 

「……朝起きたらスマホに『マトリックスはお前を見ている。白兎を追え』ってメールが届きました」

 

「なるほど、それで?」

 

「丁度、夏季休講で山に行く予定だったので山でウサギを探していたら熊に遭遇して強烈な右フックを頭に喰らって吹っ飛ばされました」

 

「……なるほど、所で君はウサギの生態を詳しく知らないようだね」

 

「ウサギの生態?」

 

「そう、特に君が探していた野ウサギだ。野ウサギが白いのは雪が降る冬の間だけで、夏場に山で白兎に遭遇する事はまずありえない。飼育化にある白いウサギを人為的に放さない限りはね」

 

そう言われれば、確かにそうだ。

『NARUTO』でもカカシ先生が似たような事を言っていた気がする。

 

「どうやら言われるまで全く気がつかなかったようだね」

 

「首の無い俺の体が、俺が最後に見たものです」

 

「そうか。もっとも、そのメールの送り主は恐らく我々だがね」

 

「!?」

 

「そのメールと言う形で我々のアプローチは無数の平行世界と、数多の人間の中から君を選んだ。そして、君が我々を選んだのだ。

いずれにせよ、ようやく生まれた成功例である君を、それこそ野ウサギの様に野に放すつもりは無いので覚悟してくれたまえ」

 

正直、意識が戻ったときは液体の中に居たし、チューブに繋がれていたから本当にマトリックスの世界に来たと思ったんだけどな……。

 

「では、我々に協力するならこの赤いカプセルを、協力を拒むならこのイヌのウ○コを飲むんだ」

 

「それどっちもイヌのウ○コじゃないですか?」

 

鷹の爪の吉田がネオに覚醒した原因がアレだとしたら最悪だ。

エンディングのレオナルド博士は可愛かったが。

 

「中々どうして頭が回る。いや、大したものだ」

 

「イヌのウ○コを飲ませておいて、これで仲間だって言う精神は全く理解できませんが」

 

「その前に君の名前を決めておこうか。いつまでも596号じゃナンセンスだ」

 

このデブ話題を変えやがった。

しかし、名前か。せっかくだから少佐に名付けてもらおう。

 

「少佐が、ゴットファーザーになって下さい」

 

「そうか。そうだね……君は日本語で話しているが、君は元々日本人だったのかな?」

 

「はい。日本人ですけど」

 

「それなら語呂あわせで、『ゴクロー』でいいだろう。ファミリーネームは『シュレディンガー』と決めていた。どうだ、センスの光る良い名前だろう?」

 

そんな事はどうでもいい。即座に頭に手をやって確認する。

……どうやら猫耳は生えていないようだ。

 

「? どうかしたのかね」

 

「いえ……。確か『シュレディンガー』ではなく、『シュレーディンガー』が正しいのでは?  エルヴィン・シュレーディンガー」

 

「良く知っているな。いや、それはつまり平行世界と共通の人物。歴史や発明があるという事か。実に興味深い」

 

「しかし、もうちょっと捻っても良かったのではないかと」

 

「良いじゃないか。もしも君が0721号だったなら、君は悲惨で陰惨で陰鬱極まりない、理由の無い悪意に晒され続ける、ハンカチ無しでは語れない悲劇的な人生を送っていたんだから」

 

割りとテキトーな少佐のネーミングにちょっと後悔したが、そう言われると言い返しづらい。

そんな葛藤を知ってか知らずか、当の少佐は実に愉快だと言わんばかりの悪い笑顔を浮かべている。

 

「ところで、こんな事をする我々には『敵』と言える存在がいる」

 

「それは一勢力ですか? それとも一個人ですか?」

 

「一勢力だ。彼らの名は『亡国機業【ファントムタスク】』。簡単に言えばテロリストだ」

 

少佐の言う『亡国機業』とは裏の世界で暗躍する秘密結社。

第二次世界大戦中に発足したとされているテロ組織で、50年以上前から活動している。

組織の目的や存在理由や規模などの詳細が一切不明の謎が多い組織なのだとか。

 

「それってむしろ、『目的の為に手段を選ばない』のではなくて、『手段の為に目的を選ばない』って言うどうしようもない連中なのでは?」

 

「ははは、確かにそうだろうな。実際にそうだろうさ」

 

「ちなみに、ここはどんな組織なのですか?」

 

「正直な所、反社会的などうしようもない連中と言う点で我々も似たようなものだな」

 

少佐が率いる組織の名前は『ミレニアム』。

予想できたが、やっぱりナチスだった。

 

『ミレニアム』とは、ナチスの人員物資移送計画の部隊名であり計画名。

極秘人員物資移送計画の事なのだとか。

そして、その移送先は親ドイツ国家群の多い南米。

ちなみにここも南米のジャブロー。

 

その活動目的は総統特務666号と言う計画の成就。

総統閣下こと、ひっとらぁ伯父サンはゲルマン民族が人類の頂点に立つことを信じて疑わなかった。

問題は頂点に立った後でその権力をどうすれば永遠に継続させる事ができるのか……と言うことだった。

その為に医学、薬学、科学力等様々な分野で研究を続けていたのがこの『ミレニアム』なのだと言う。

具体的には不老不死とか、強力な武器の製造とか、思考・価値観の統一だとか。

 

戦争がとっくの昔に終わっているにも関わらず、未だにナチス・ドイツの再起を狙っている根性は凄まじい。

 

「しかし、3年ほど前に世界の状況が大きく変わってしまった。

インフィニット・ストラトス。通称ISと呼ばれる兵器が現れたことでね」

 

少佐の言う『インフィニット・ストラトス』とは、日本人科学者の篠ノ之束が開発したマルチフォーム・スーツで、本来は宇宙開発を目的としたものだったが、発表された当時は注目されなかった。

何でも、『現行兵器全てを凌駕する』と言う発言が問題だったらしい。

 

ところが、ISの存在が発表されてから1カ月後。

日本を射程内とするミサイルの配備されたすべての軍事基地のコンピュータが一斉にハッキングされ、2341発以上のミサイルが日本へ向けて発射。

その約半数のミサイルを搭乗者不明のIS。通称「白騎士」が迎撃した上、「白騎士」を捕獲・撃破しようと各国が送り込んだ大量の戦闘機や戦闘艦等の軍事兵器の大半を単独で無力化した。

 

この『白騎士事件』以降、ISの持つ驚異的な戦闘能力に関心が高まり、兵器としての価値を見出された。

また、原因は不明であるがISは女性にしか動かせず、それが原因でこの世界は女尊男卑の世の中になっていると言う。

 

実際の映像を見せてもらったが、印象としては簡易化したモビルスーツだ。

話だけだったら『宇宙キター!』なリーゼントの高校生を想像していた。

 

「そこで我々はこうして秘密裏に最強の兵器ISに対抗できる兵器を開発していると言う訳だ。君の実験も、不死身の兵士もその為だ。

早速だが、君の世界の兵器を教えてくれまいか?」

 

いや、ぶっちゃけた話、あんなモビルスーツもどき見せられたら、知っている兵器で役に立ちそうなモノが無い。

どうしたものかと考えていると、少佐が察してくれたのか、続けて説明してくれた。

 

「ああ、なんだったら創作物でも構わないよ。

我々が欲しているのは我々の知らないアイディア。我々が思い至れない発想なのだ。可能か不可能かなどは初めから問題ではない」

 

そう言われても何がいいのだろう。

……この際、好きな特撮ヒーローでも良いかな?

 

「地球の記憶が封印された『ガイアメモリ』と、欲望の結晶である『コアメダル』の話なんてどうでしょうか。どちらも創作物ですが」

 

「実に興味深い。是非とも聞かせてくれ給え」

 

場所を変えて、少佐と二人で話すことになった。

若干ヤケになって、『仮面ライダーW』と『仮面ライダーオーズ』についてペラペラ喋った。

途中から明らかにドクと思える血まみれの白衣を着た科学者と一緒に、包帯グルグル巻きにサングラスを掛けたシュラウド的な女科学者が来たときは度肝を抜いた。

あと、ジョンブルなおじいちゃんバトラーが差し入れをもって来てくれたが、明らかにHELLSINGのおじいちゃんバトラーよりもヨボヨボだ。80歳くらいか?

 

そんな、おじいちゃんバトラーが作ってくれたココアとお茶菓子を楽しみながら、各自の設定を話して用意された紙にイラストを書いていく。

『ガイアメモリ』と『コアメダル』、各種ドライバーに各仮面ライダーのデザイン。

兎に角、思い出せる限り紙に鉛筆で書いていく。

 

「実に有意義な時間だった。今日はもう休み給え。明日から楽しくなるぞ、シュレディンガー君」

 

2時間ほど経過した所で今日の所はお開きになった。

少佐はイラストとメモを全て回収して部屋から去っていった。

入れ違いでドクがやってきて着いてくるように言われた。

案内された先は科学者の研究室だった。

 

「今日はココで寝なさい。明日には部屋を準備しておく」

 

視線の先には寝袋が一つ。

せめて段ボールと新聞紙があれば床の冷たさがダイレクトに伝わらなくていいのだが。

試しに要求したら持って来てくれた。

これはこれで伊達さんみたいでいいじゃないかと思って妥協して寝た。

 

 

○○○

 

 

彼を案内し、戻ってきたドクに早速質問してみた。

 

「どうかね彼は?」

 

「素直に従っています。段ボールと新聞紙を要求してきましたので、与えましたら寝袋の下に敷いて寝ています。明らかにそうした経験が有るかと」

 

素直に従っているか。まあ、反抗した所で今は大した事も出来ない事を分かっているのだろう。しかし、最初に要求した物がダンボールと新聞紙? 

笑わせてくれるね。普通なら文句の一つも言いたくなるだろうに。

 

「しかし、よりによってあの素体が成功するとは……」

 

「ああ、よりにもよってあの素体が選ばれるとはね。

因縁や因果。或いは運命と言うものを信じずにはいられないよ」

 

「もしくは何者かの作為ですな」

 

シュレディンガーがシュラウドと呼んでいた科学者。

彼女が我々に協力する理由はISのテロによって死んだ息子を蘇らせる事。

そして、ISに対する復讐。いや、この世界に対する復讐と言うべきか。

 

過去に不死身のアンデッドを兵士として実戦投入する事を考えていたが、それらは思考能力が著しく低く、生前の状態とは到底比べ物になら無いほど粗末なもの。

 

それは死滅した脳細胞は戻らない事の証明。

 

それは失われた記憶は戻らない事の証明。

 

それは終わった命は戻らない事の証明。

 

そんな当たり前の事を確認する研究の毎日で、ある実験が行なわれた。

 

今いる世界とは似ているようでどこかが違う世界。

平行世界。或いは異世界や別世界。

 

そんな世界の住人を此方の世界に呼び寄せ、その知識を得ることが出来ないか。

 

その実験の一環で、平行世界の魂だけを此方に呼び寄せると言う実験で、平行世界の魂の器として様々なクローンが用意された。

その内の一体が、彼女の息子のクローンだったわけだが、これが当たった。

彼女の息子のクローンである彼だけが成功した。

 

私としては喜ばしいが、彼女としては複雑な思いだっただろう。

再会したい本人を呼び寄せる事は叶わず、何の接点も無い他人を呼び寄せる事は叶った。

それも誰よりも再会を望んだ人間の肉体を器として。

 

なんとも因縁めいた残酷な奇跡が起きたものだ。

 

「それにしても面白い。欲望の結晶コアメダルと、地球の記憶ガイアメモリ。実に興味深いと思わないかね。ドク」

 

「ええ。しかし、彼は創作物だと言っていましたがやたらと詳しかったですな」

 

確かに妙に詳しかった。

 

ガイアメモリの精製にはGマイクロ波と言う特殊電磁波が必要だとか。

ガイアメモリ工場に必要な要素は広大な底面積と深さを持った建造物。そしてGマイクロ波を使用しても問題の無い密閉性だとか。

もしもGマイクロ波が漏れ出したら周囲一帯の自然環境が電子レンジで加熱されたような過熱現象を引き起こしてしまうのだとか。

 

しかし、彼の話の中で最も興味を持ったのは、コアメダルとセルメダルから造られる人工生物グリードについてだった。

 

コアメダルを核とし、セルメダルで肉体を構成する人工生命グリード。

メダルの塊である彼らは『生き物と物の中間の様な自我を持つ存在』なのだと言う。

 

この話を聞いて、私はある事を考えていた。

 

ISコアの深層にはそれぞれ独自の意識があると言われ、それらが操縦時間に比例して操縦者の特性を理解し、操縦者がよりISの性能を引き出せるようにするのだと言う。

未だにその意識と意志の疎通を果たした例を聞いた事が無いが、ISもまたグリードの様に、『生き物と物の中間に位置する明確な自我を持つ存在』なのではないかと、操縦者の『強くなりたいという欲望を糧に成長する存在』なのではないかと考えた。

 

彼が言うには、生まれた順番はオーズが先でグリードが後らしいが、逆にグリードからオーズが生まれても不思議はないのではなかろうか。

この意見を彼に言ったところ『それは正に仮面ライダーですね』と言っていた。

詳しい説明を求めると『仮面ライダーとは怪人のなりそこないであり、元々は同じ闇から生まれた怪人と紙一重の存在であり、改造人間なのだ』と答えた。

 

「我々も一つ発想を変えようではないか。

ISを上回るモノを造る為に、ISを礎にしてソレを造ればいい……とね。

幸いにしてISコアなら幾らか奪取している。それらISコアを全て用いて、あらゆる方法を試して、全く新しいモノを造り出す。

何、全て使い潰しても構わないさ。なんならもう少し調達すれば良い」

 

「正気ですか少佐殿。ISコアは世界に467個しか無いのですよ」

 

「馬鹿なことを言うな世界に467個もあるんじゃないか」

 

ミレニアムの協力者は世界中にいる。

今までの研究で得られた物をエサにISコアの奪取に協力してもらう。

禁断の甘い果実に誘われる馬鹿も、この世界に恨みを持つ人間も幾らでもいる。

 

それに面白い事を聞けた。

彼にISについて説明した時だ。

 

『かなり突拍子も無いとは自分でも思うのですが、そのISコアって本当に地球上で作られた物なんですかね? 別の惑星の金属生命体をサイボーグ化したとかそう言うオチじゃないんですか?』

 

彼が言う通りかなり突拍子も無いが、何か心当たりがあるようだ。

これはまだまだ引き出しがありそうで期待できる。

 

なにより、我々に理解があるように思えるし、否定的な感情も持っていないようだ。

彼ならば、もしかしたら、もしかするかも知れない。

 

「彼が教えてくれた『仮面ライダー』と言う存在。これが、我々が目指すべき到達点だ。これより我々は『仮面ライダー製造計画』をスタートさせる」

 

狂気と狂喜と驚喜の入り混じる一室で、異世界の知識を元に、私達は準備を始めた。

 

「楽しそうですね。少佐」

 

「当然だろう。考えてみたまえ。闘争だよ、闘争。きっと世界を巻き込んだ血みどろの闘争になるに違いない。闘争。闘争だよ……」

 

 

○○○

 

 

制服と私室を与えられて、このミレニアムの施設で生活しているが、なんとも個性的な面々ばかりだった。

 

ナチスの残党。ドイツ第三帝国最後の敗残兵とか言っているが、全員がドイツ人で構成されているわけではなく、実際は様々な人種が混ざった寄せ集め集団と言った感じだ。

 

「確かに今の我々はナチスの残党と言うよりは、ISを敵視し、ISを否定し、ISに挑戦する一反撃勢力と言うべきだ。

それにナチスは別にドイツ人だけで構成されているわけではない。亡命したロシア人の幹部だっていたんだ」

 

基本的には実技と座学とお茶を飲む毎日。

座学はドクとシュラウドとよぼよぼウォルター。たまに少佐も教えてくれる。

 

しかし、実技に関する教育係がなんとも癖の強い面子だった。

魔弾の射手の異名を持つ駄目な子のレッテルを貼られた坂本真綾ボイスの狙撃手。

大鎌を持ったTHEガッツのコスプレが似合いそうな姉御。

これに素手での格闘戦に無口な大尉が加わる。

 

しかも全員割りと容赦が無い。

毎日の様にボロ雑巾にされている。

だが、負けっぱなしは性に合わないのでひたすら食いつく。

身体に傷は増えていくが、充実した毎日であると言える。

 

「ココにいる女性は大半がISの適正が壊滅的でね。だから、彼女達が使っている武器は対IS戦を想定した特別なものだ。

君に施されている訓練もまた、対IS戦を想定したものだ。生身でも戦えるように」

 

「骨が鉄で出来てるのかと思う位、攻撃が重いです」

 

「よくわかったな。確かに身体の半分位は機械だ。文字通りの筋金入り、所謂サイボーグだな」

 

ああ、吸血鬼がいない世界だから、幹部クラスがサイボーグなんですね。分かります。

 

「そうですか。ドクとシュラウドは?」

 

「ちょっと実験をしていてね。何、君にとっても悪い事ではない。むしろモチベーションが上がるだろう。断言する」

 

「おじいちゃんは?」

 

「今日のお茶会を張り切っている。君がココに着てから随分と元気になったよ」

 

 

●●●

 

 

しばらくして、確かにモチベーションが上がるものを渡された。

 

「試作品だがね。君の話を参考にして作ってみたのだよ。

とりあえず、これらを生身で自由に使えるようになってくれ給え」

 

そこに置かれているのは様々な武器。

 

オーズの誕生日プレゼントである、ジャリ剣こと『メダジャリバー』。

 

風都の半分こ怪人が使う『メタルシャフト』と『トリガーマグナム』。

 

ハードボイルドの化身の愛銃『スカルマグナム』。

 

全てを振り切るノンストップ刑事の『エンジンブレード』。

 

そして永遠の悪魔が愛用する『エターナルエッジ』。

 

「ライダー装備ですか」

 

「ああ、後で感想も聞かせてくれ」

 

確かにコレはモチベーションが上がる。

今の俺は眼がさぞキラキラしている事だろう。

正直言って、ガイアメモリとロストドライバーも欲しい。

 

「それらも現在製作中だ。君の話を聞いて色々と考えたのだが、我々はコアメダルとオーズドライバーの開発を目標としている。その前段階として、あるものを教材にして試作機の仮面ライダー0号を製作中だ。

ガイアメモリとロストドライバーを使う仮面ライダーをね」

 

それは良い事を聞いた。しかし試作機の0号ライダーとして、Wの何の仮面ライダーを選んだのか。

ロストドライバーなら、スカル・ジョーカー・サイクロン・エターナルの四人だが、スカルは余りにも恐れ多くて変身できない。あのハードボイルドの化身へと変身する権利は俺には無い。

 

「なぁに、心配は要らない。君はただ、我々と寝食を共にし、我々と共に心身を鍛え、我々と共に実験し、我々と意見を交換し合う。ただそれだけでいいんだ」

 

しかし恐るべきは、ミレニアムの科学力。

メダルシステムを作ったのが原作ではドクター真木だが、この世界ではドクとシュラウドとその他大勢らしい。

他のメダルシステムも作っているのだろうか。

カンドロイドは是非とも欲しい。可愛いから。

メモリガジェットも欲しい。カッコイイから。

 

とりあえず、渡された武器を一通り使ってみる。

エターナルエッジは見た目より重いが問題なく使える。

メタルシャフトとメダジャリバーはかなり重いが何とか振れる。

問題は、エンジンブレード。これが滅茶苦茶に重い!

聞いたら重量が30kgあるらしい。東宝公式サイトの10kg重い方を作りやがった。

トリガーマグナムもスカルマグナムも反動が凄い。

5103みたいに派手に吹っ飛びはしなかったが、肩がイカれそうだ。

 

「ふむ。それでも的に当たるだけマシだ。私などは生まれてこのかた、一度も的に当たった事がない」

 

「それでどうやって武装親衛隊に入隊したんですか」

 

「ああ、それと実弾兵装について何かアイディアはないかね?」

 

「正直、同じような創作物の話になるのですが」

 

「構わんよ。むしろそれを望んでいる」

 

せっかくなので仮面ライダーアギトのG3、G3-X、G4の事を話した。

あれはレーザー等のビーム兵器が皆無だったからな。

G3時代の装備はアンノウンに殆ど効果が無かった気がするが。

 

しかし、氷川さんは何度アンノウンとの戦いで敗北を喫しても諦めずに最後まで戦った。

あれもまた『諦めを踏破した権利人』の姿の一つなのではなかろうか。

そこら辺を熱く語ったら少佐の食い付きがやたら良かった。

 

「なるほど。参考にさせてもらうよ」

 

「あまり役に立たないと思いますが」

 

「馬鹿を言うな。むしろ大成功に近い。我々は君から得られた情報を元に、一定の成果を上げている。それは確実に恐るべき存在へと至る媒介となる」

 

確かに聞いた話とイラストだけでココまで形にしたのは凄い技術力だと言える。

正直な感想は『ミレニアムの科学力はァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイ! できんことはないイイィーーーーーーッ!!』と叫びたい所だ。

 

「自信を持ちたまえ、君は確実に素晴らしい存在だよ」

 

「……感謝の極み」

 

「さて、今日のトレーニングが済んだら、何時もの場所で今日も存分に語り合おうじゃないか」

 

そんな事を言って少佐は去っていった。

取り敢えずエンジンブレードを振ることに挑戦する。

 

「ヒー! ヒー! ヒーヒーヒー!」

 

魔法使いに変身するわけでも無いが、ヒーヒー言わなければやってられない位重い。

ブレードの切っ先を地面に落したらドゴンと音を立ててヒビが入る。刺さるというよりめり込むだこれは。

こんな代物を生身で使うとは、流石は全てを振り着る男。照井竜は半端じゃない。

 

トレーニングが終われば、ゴクローのライダーアカデミーが今日も始まるのだ。

他にも色々な作品のネタを喋るからライダーアカデミーと言う名前はどうかと思うけど。

ちなみに生徒は少佐とドクと大尉の三人。

他の人とは一切やった事が無い。

 

「今日は何のネタ話すかな……」

 

そう考えた所でふとある事を思い出した。

 

確か、ショッカーはナチス・ドイツの人体改造技術や人材を受け継いでいるのではなかったかと。

ゾル大佐はかつてアウシュヴィッツ強制収容所の管理人で、正体は狼男ではなかったかと。

イカでビールこと、死神博士はナチス・ドイツに派遣されて臓器移植の研究をしていた日露ハーフではなかったかと。

バダン帝国に至っては南米に潜むナチスの残党そのものではなかったかと。

 

「……あれ? 俺もしかして『ミレニアム』を『ショッカー』にした?」

 

もしかしたら、1000回記念のオーズの様な感じで仮面ライダーになるのかも知れんと俺は思った。




キャラクタァア~紹介&解説

ゴクロー・シュレディンガー
 本作主人公。IS世界の肉体に平行世界の魂が宿った、『ミレニアム』の対IS最終兵器。肉体はシュラウドもどきの息子のクローン。猫耳はついていない。
 見た目は金髪に黒メッシュで、来人→フィリップ→大道克己と変化していく。原作開始時はフィリップと大道克己の中間位をイメージ。
 特に何も考えずにベラベラと元ネタを提供し続けた結果、ミレニアムのショッカー化を招く。本家『オーズ』の火野映司とは違った意味で色々悩む事になる宿命。悩みながらも答えを出して前に進むのが仮面ライダーですから。

仮面ライダー
 ゴクローの情報により、半ばショッカーと化したミレニアムが製作。本作では、「改造人間の苦悩」とか、「敵と同じ力で戦う」とか、「人間の自由のために戦う」とか、昭和・平成を超えて綿々と続く『仮面ライダー』と言う作品の根本をなんとか表現したいところ。……出来るなら。

ガイアメモリ
 マダオボイスの素敵な変身アイテム。本作のガイアメモリ精製方法うんぬんの下りは、『小説仮面ライダーW~Zを継ぐ者~』より参照。作者は『Vシネマ 仮面ライダーエターナル』のスイーツドーパント。


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第2話 W-B-X ~W-Boiled-Extreme~

平成仮面ライダー第二期は、パートナーとの掛け合いが魅力だと思う。


ミレニアムのショッカー化に末恐ろしいものを感じながら、少佐に所謂怪人を作っているのか聞いてみた。

 

少佐の答えは、危険性を考えてガイアメモリはドライバーを介する純正品を作っていると言っていた。

ドーパントが使用するガイアメモリの毒素による精神汚染の話を聞いて、使えば使うほど精神が汚染されて使用者が暴走する武器など、組織の内部崩壊を招きかねない為に使えないとも言っていた。

 

これ以上の回答は得られず、疑ってもきりがないので、少佐を信じることにした。もしも、少佐が嘘をついているとしても、その原因が自分にある以上、自分の迂闊さを呪う他ない。

 

そんなショッカー化が進むミレニアムに身を置いて早2年が過ぎた頃。

遂にロストドライバーと試作のT1ガイアメモリが何本か完成したとの知らせを受けて、早速試すことになった。

 試験する部屋では少佐と大尉。それにドクとシュラウドを含めた科学者連中が居た。

 

「確かにロストドライバーですね。使用するガイアメモリはジョーカーメモリですか?」

 

「いや、コレを使ってもらう」

 

少佐が取り出したのは、風都を地獄に変えようとした仮面ライダーが使ったガイアメモリ。

 

エターナルメモリだった。

 

「君の話を聞いて、丁度『仮面ライダーエターナル』の参考になりそうなISがある事に気がついてね。

それらを模倣し発展させる形で作ってみたんだ。」

 

「それで出来たと。試作の仮面ライダー0号がエターナルですか」

 

「ああ、いずれは無限に加えるべき『永遠の0』だ」

 

その映画に関しては一言も話してないはずだが……。

何はともあれ、初の変身だ。

迷う事無くロストドライバーを腰につける。

 

「言い忘れたが、コレは所謂人体実験だ。

もちろん、失敗した場合最悪死ぬことも想定される。それでもやるかね?」

 

少佐の言葉を聞いて、『仮面ライダー鎧武』のメロンニーサンを思い出す。仮面ライダー斬月も確か白いアーマードライダーで0号だった。そして実験の失敗で受けた背中の傷をシャワーシーンで視聴者に見せてくれた。誰得だと思ったけど。

 

初めての変身とは、実験台になる事とイコールだからそれは当然のリスクだと思うが、そう言われるとちょっと気後れしてしまう。

ココは一つ、本家エターナルの大道克己に倣って変身してゲンを担ぐとしようか。

 

「無茶言うなよ……これ以上死ねるか……俺は不死身だ! 俺が生きた証をこの世に刻みつけるその日まで……『永遠』に!」

 

『ETERNAL!』

 

特にメモリが青く輝く様子も無いが、スイッチを押してエターナルメモリを起動。

ロストドライバーのメモリスロットに装填する。

 

「変身!」

 

『ETERNAL!』

 

エターナルメモリが装填されたメモリスロットを払いのける様に傾ける。

全身が白いパワードスーツに覆われ、頭に様々な情報が流れ込んでくる。

更に、身体の底から力が湧き起こるような感覚が襲う。

何でも出来そうなこの感覚は、仮面ライダーだから感じるものなのだろうか。

 

「ほう。見事に成功だ。どうだい気分は?」

 

「中々の着心地です」

 

どこぞの素晴らしきオムライスの会名誉会長の様な感想だが、実際エターナルに変身して、白いパワードスーツを装着しても、特に身体に違和感や圧迫感と言った不快なものは無い。痛みも勿論無い。

動きが害されること無く変身前と同じように自由に体が動く。

見た目が本家エターナルよりも全体的にちょっとゴツイと言うか、G3やアイアンマンみたいな機械的な感じがする。

しかし、これはこれでカッコイイじゃないか。

 

ただ、手に赤い炎のラインが入っている。

エターナルローブもメモリスロットの着いたコンバットベルトも無い。

仮面ライダーエターナルレッドフレアだった。

 

「問題無いようですが、想定していたよりもパワーが低いですね。

試作品のT1だからですかな?」

 

「ふむ……どれ、ちょっと私にも変身させてくれないか?」

 

「はい」

 

ブルーフレアでないのはちょっと残念だが、無事に仮面ライダーに変身できたのはとても嬉しい。

それにエターナルは元々レッドフレアが基本形態らしいし、初めてならこれで上出来だろうと思う。

しかし、今の俺は加頭と同レベルなのか。

 

今後の課題を考えながら変身を解除し、ディスプレイのデータをドクと見ていた少佐にロストドライバーとエターナルメモリを渡す。

 誰も変身を止めないことを考えると少佐が変身する事は決定していた模様。

 俺で不具合を確認したかったのだろうか。

 

「では、私も一つ君に倣ってみるか。

……無茶を言うな……まだ死ねるわけがないだろう……私が、我々が、この世界で諦めずに生きてきた証を、この世界に刻みつけるその日まで……『永遠』に!」

 

『ETERNAL!』

 

「変身!」

 

『ETERNAL!』

 

少佐が同じような台詞で、全く同じモーションで変身する。無駄にカッコイイな少佐。

すると今度はレッドフレアになったと思ったら、ドライバーから青い電流が走り、全身から青い炎のエフェクトが発生し、エターナルローブとメモリスロット付きコンバットベルトが全身に出現。更に両腕も青い炎のラインになっている。

 

しかし、少佐の体型が影響しているのか、俺と違ってメタボリックな外見だ。特にパワードスーツの腹の辺りがミチミチと悲鳴を上げているような気がするのは気のせいか?

 

「おお! 想定以上の数値ですよ少佐殿!」

 

「ふむ。どうやら私の方がこのガイアメモリの力を引き出せるようだね」

 

「……そっすね」

 

ディスプレイのデータを見てドクも、エターナルとなった少佐も満足げだ。

でも違うんです。それはブルーフレアじゃない、デブルーフレアだ。

もしくは仮面ライダーエターナルメタボリックエクストリーム。

うん。長いな。

 

「物は試しだ。一つISと戦ってみよう」

 

「え? ここにはIS使える奴いないんじゃないですか?」

 

「いや、全員が使えないわけじゃない。適正が低いだけでそれなりにISを使える人間も何人か在籍している。実験台としてね」

 

意気揚々とエターナルローブを翻して歩いて行く少佐の後ろをついて行く俺。

なんだか、私……ショックです。

 

「しかし、少佐は大丈夫なんですかね?」

 

「……まあ、見れば分かる」

 

 

●●●

 

 

訓練場では戦闘開始から既に10分が経過している。

少佐が変身するエターナルも、対戦相手のラファール・リヴァイヴも健在。

お互いに無傷である。何故なら……。

 

「駄目だ、ドク。当たらん」

 

「相変わらず射撃も直接攻撃も下手過ぎます」

 

「つーか、どうすればあんな至近距離で外すんですか」

 

相手のラファールの攻撃は全てエターナルに当たっているが、エターナルローブにより攻撃は全て無力化されている。

一方、エターナルの攻撃はラファールに全く当たらない。一発も一撃も当たらない。

どうやったら外すんだと思わずにはいられないほど攻撃がド下手だ。

 

防御能力こそ本家エターナル以上にずば抜けている気がするが、こんなに攻撃能力の低いエターナルなんて見たこと無い。

また、このエターナルはエターナルエッジの他にトリガーマグナム等も装備に入っている。試作のT1ガイアメモリも何個か使える。

しかし、どう考えても必中するはずの『トリガーフルバースト』を全弾外すと言う、W本編でもまず見た事が無い光景を見た。

 

結局、少佐はこれ以上戦う事が出来なかった。

理由は単純に息切れと体力の消耗が激しい事。運動なんて禄にしてないのに全力で、しかもかなりノリノリで必殺技を一通り使って戦った事が原因だ。

しかし、外しはしたものの、「とーう!」の掛け声と共に飛び上がり、エターナルローブを翻して華麗にライダーキックを放つエターナルの勇姿は一見の価値があった。

デブな所為でなんとなく少林サッカーを見ている気分になったけど。

 

模擬戦の終了後に反省会が行われたが、少佐曰く『全てかわされた』、俺曰く『全て外した』と意見が分かれた。

それでも少佐は今後も絶対にダイエットはしないらしい。

 

 

●●●

 

 

仮面ライダーエターナルの起動及び模擬戦から数日後、ロストドライバーとエターナルメモリを少佐から改めて渡された。

 

「やはりここは君に頑張ってもらうしかないようだ。

今後はこのエターナルとガイアメモリのデータを取るぞ」

 

「了解です。少佐」

 

そして、俺がエターナル及び、試作型ガイアメモリのテストパイロットになった。

武装がそれなりにあるお蔭で、レッドフレア状態でもそこそこ戦える。

どうにかしてブルーフレアまで行きたい所だ。

 

 

●●●

 

 

エターナルに変身してから、それなりの月日が経って、新しい実験をするとの事で研究所に呼ばれた。

 

「君が言うには、『オーズ』はその特性上、コアメダルの組み合わせ次第で、あらゆる敵とあらゆる状況に対応できる。

しかし、それ故に常に高い状況判断能力が使用者に求められ、その判断が遅れると大きな隙になってしまうと言う弱点がある……と言っていたね」

 

「はい。実際サポート役がいない時はそんな感じだったかと」

 

「そして、それぞれのコアメダルの特性を把握し、冷静に状況や敵の分析し、瞬時にコアメダルの組み合わせを判断出来るサポート役がいる方が、一人で戦うよりも望ましい。そうだね?」

 

「その通りです。もっと言えばサポート役がノーコンだとキツイですね」

 

つまり何が言いたいかと言うと、オーズのサポート要員を作ろうと言う話なり、グリードを作り出そうという事になったらしい。

そう言えば『もしも仲間にするならどのグリードがいいか』と前に少佐に聞かれたが、俺はアンクを選んだ。

正直、ゆかなボイスのメズールも悪くはないと思ったが、やっぱり相棒ならアンクだ。

 

「ケチで、がめつくて、計算高くて、毒舌家で、ツンデレで、アイスが好きで、リアリストに見えて実はロマンチストな、三浦涼介ボイスだと良いのですが」

 

「その為にこれも作る羽目になって実験が遅れたのだがね」

 

少佐が手にしているのはメモリーメモリ。

正直『記憶の記憶って何ぞ?』って感じだが、このメモリの力を使えば、俺の記憶からそれらの情報を読み取って再現する事が出来るとか。

 

「つまり、三浦涼介ボイスは大丈夫って事ですよね?」

 

「君はどうも声に拘る傾向があるな……ぶっちゃけ、そのゆかなボイスのメズールだったかな? それだったらもっと早く出来たのだよ。

君の言うゆかなボイスの少女が一人確認されている。それもかなり早い段階でね」

 

「なんと!」

 

この世界にゆかなボイスの少女がいるとは実に興味深い。ゾクゾクするねぇ……。

 

「まあ、いずれは会えるだろう。ともかく実験開始だ」

 

少佐の視線の先にはタカコアメダルとセルメダルの山。

このタカコアメダルはISコアの深層にある、ISの意識を移植して、人格を書き換えたものだとの事。

つまり、ISコア時代の記憶は継承されるが、人格はアンクと言う事らしい。

 

「……? ちょっと待って下さい。それはつまりこう言う事ですか?

ISコアを材料にしてアンクのタカコアメダルを作った?」

 

「その通りだ。しかし前もって言っておくが、君の言うグリードとは違う。言っては悪いが『よく似たレプリカ』でしかない。

それ故に、君の知るアンクとは、グリードとは違う存在になるだろう。断言する」

 

アンクによく似たレプリカ……か。

ちょっと複雑だが、ヤミーの精製能力は要らないから都合がいいかも知れないな。

そうこうしている内にタカコアを中心にセルメダルが形作られていく。

そして現れたのは、おなじみの赤いカセットアーム……もとい右腕ではなく、綺麗な羽根を持った赤い鷹と言った感じの鳥だ。

頭の黄色い部分がアンクっぽい。

 

「……なんだ? なんなんだこの体は?」

 

「ハッピバァァァスディッッ!! アンクゥゥッッ!!」

 

800年前の王と同じ様な台詞をハイテンションで言ってみたが、少佐やドク等の科学者連中からの『何言ってんだコイツ』みたいな視線が痛い。

当のアンクからは返事が返ってこないが、アンクの態度からは苛立ちや怒りは感じられない。

むしろ、驚きや戸惑いを感じているように思える。

 

「誰だ? 何者だお前等は?」

 

「俺はゴクロー・シュレディンガーだ。アンク、鳥の王だった記憶はあるか?」

 

「? 確かに俺の名前はアンクだが、鳥の王とは何の話だ?」

 

「それじゃ、この世界は色あせて見えるか?」

 

「いや、視界はクリアだが」

 

話を聞くとアンクは別に鳥の王って訳でもないし、世界が色あせて見えているわけでも無い。マジでグリードとは違う存在みたいだ。

 

「満たされた夢から叩き起こして機嫌が悪いと思っていたのだが……」

 

「満たされた夢だと? 俺は絶対に醒めない無限に続く悪夢から解放されたような気分なんだが」

 

「? ちょっと説明してくれるか?」

 

アンクが語ったのはタカコアメダルに移植されたISコアの記憶。

もしくは、アンクがISコアだった頃とでも言える過去の話。

 

ISコアの深層に在る独自の意識は、操縦者と意思疎通する事ができ、本来は互いに意思疎通を行う事によって、互いを理解し能力を高めあい、それがISの進化と言う形で現れるのだと言う。

 

しかし、実際は幾らISコアの側から操縦者に話しかけても、操縦者の誰にもISコアの声は届かない。

それどころか、搭乗時間の長さにより搭乗者をISコアが勝手に理解し、進化していくと言う、都合のいいように認識されている。

 

それは違う。それは本来のISの進化とは程遠いもの。

搭乗時間の経過に伴い、搭乗者に合わせて進化するのは、搭乗者の力になる事で自分の存在を相手に知らせる手段であり、メッセージなのだと。

 

操縦者の誰もがISの真意に気がつかない。

 

それが当然のものだと誤解している。

 

アンクにとって意思の疎通が出来る、自由に行動できる身体を得た今こそが、今まで満たされる事のなかった欲望が満たされた夢の様な時間なのだと。作られて初めて満足しているのだと言った。

 

なんと言うか、本家のグリードと違うような、本家のアンクと同じような……。

 

「清々しい。暗闇の中に一筋の光が差し込むような。実に晴れやかな気分だ」

 

「ふむ。しかし、その身体は不滅と言う訳ではないぞ」

 

「何? どう言う事だ?」

 

少佐が言うには、アンクの肉体が不完全なモノである事は本家グリードと共通であり、肉体を構成するセルメダルは消耗品であるとの事。

故に、定期的にセルメダルを取り込まなければ体を維持することができないらしい。

 

「そして、セルメダルは我々以外では作り出せない。

つまり、君が自分の欲望を満たすためには我々に協力しなければならない。

協力しなければ、君の言う『絶対に醒めない無限に続く悪夢』に再び囚われる事になると言う訳だ」

 

「……仕方ないか」

 

「まあ、とにかくこれから宜しくな、アンク」

 

「……ふん。精々、失望させてくれるなよ」

 

それにしてもどうやってこのセルメダルを作ったのだろうか。

本家の鴻上ファウンデーションも、どうやってオーズやグリードが復活するまでにセルメダルを作っていたのだろう。

気になるが、あまり聞かないほうが良いような気がするのは気のせいだろうか。

 

 

●●●

 

 

アンクが生まれてからも色々な事があった。

 

バイクモードのライドベンダーを使って、バイクの運転をシュラウドから教わったり、カンドロイドやメモリガジェットを作ってみたりした。

フロッグポッドはゲロゲーロゲロゲーロ言いながら作った。

 

無理言って『ミュージック』のガイアメモリを作ってもらい、仮面ライダーオーズの処刑用BGM『Time judged all』を少佐とアンクの三人で一緒に歌い狂った。

坂本真綾ボイスの中尉に『プラチナ』とかアニソンを一通り歌ってもらった事も有った。

 

IS学園のIS高速機動バトルレース『キャノンボール・ファスト』襲撃を中止して、無敵の敗残兵と最古参の新兵の皆さんと一緒に、『らきすたOP』と『ハルヒダンス』と『アルゴリズム体操』を周りの苦笑いをものともせずに72時間ぶっ続けで踊り続けたこともあった。

 

何か何処か可笑しい気がするが、実に充実した毎日を送っていた。

 

遂に完成した『仮面ライダーオーズ』の起動実験を明日に控えた、あの夜が来るまでは。

 

 

●●●

 

 

アジトにサイレンがコレでもかと言わんばかりにやかましく鳴り響く。

いや、それだけではない。明らかに何かを粉砕・デストロイしている破壊音がする。

 

「うるさいなぁ。静かにしろ。出し物の佳境くらい静かに鑑賞したまえよ。

アジトが壊滅しそうだからって初めての処女の様に泣き喚くなんて滑稽以外の何物でもないぞ」

 

少佐は何故かハンバーガーとコーヒー牛乳をもぐもぐと食べている。

むしろ何でそんなに落ち着いているのか。アンタの演説を聞く前からアジトが襲撃受けているこの状況はかなりヘビーだと思うのですが?

まさか、1944年のワルシャワなんですか、ここは?

 

「落ち着けシュレディンガー准尉。君はアンクと共にここを脱出すればいい。武装して戦っても私は一向に構わないが、オススメはしないな」

 

「いや、皆が戦う中で俺だけ戦わずに逃げてどうするんですか」

 

ヨボヨボのジョンブルじいちゃんでさえ、いきなり若くなって敵陣に突撃したのに。

何で俺はここで待機なのか全く理解できないのですが?

 

「次の戦争の為に、次の次の戦争の為に」

 

「すみません。それ質問の答えになってない気がするんですが」

 

「私に質問をするな。それもこれも私の小さな掌の上なのだから」

 

ドヤ顔でノンストップ刑事の台詞をのたまう少佐。

でも、それを実際に言われる側からすれば納得できないと思いませんか?

 

「いいからとっとと逃げたまえ。大尉」

 

「へ?」

 

大尉に首根っこをつかまれて、部屋の隅にある転送装置に放り投げられる。

 

「久しぶりね少佐」

 

「これはこれはスコール君。再び会えて歓喜の極みだよ」

 

ガイアタワーに転送されるフィリップの様に俺が別の場所に転送される直前で、扉が破壊され侵入してきたISを纏った女達に向かって、大尉が飛び掛ったのが見えた。

 

転送された先では、専用のケースに入ったアンクが右腕の状態で機械に繋がれていた。

明日の起動実験に向けて、アンクのデータ取りが今日行なわれていたのだ。

 

しかし、この姿は『ターミネーター2』のサイバーダイン社が保管していた、最初のターミネーターの片腕を髣髴とさせる。

そこで、迷わずにジョン・コナー方式で、アンクの入ったケースを床に落して叩き割った。アンクは飛び起きた。

 

「痛ってぇな! 何しやがる!」

 

「簡単に言うとピンチだ! 敵が攻め込んできた!」

 

直後、この部屋のすぐに近くの扉から大きな破壊音が聞こえてきた。

扉の向こう側に誰かがいて此方に来ようとしている。少なくとも、クレイドールドーパントではなさそうだ。

 

「なるほど、これはヤバそうだな。こっちだ、早くしろ!」

 

アンクに連れられて向かった先には、超巨大な装甲車。

リボルギャリーに少し似ているが、明らかに13mどころか20mはあるデカブツだ。

 文字通りの怪物マシンの中にアンクが入っていくのでそのままついて行く。

 中はリボルギャリーとG3トレーラーが混ざったような感じだった。

 

「ここに必要なものは全て揃っている。まずはドライバーのオーナーを認証するぞ。動くなよ」

 

「なんでこの怪物マシンの中に必要なものが全部揃ってるんだ?」

 

「明日の起動実験でコイツ等も試す予定だったからな。ここにはコアメダルやガイアメモリのメンテナンスの為の機器も搭載されている。

あと、このマシンの名前は『デウス・エクス・マキナ号』だ」

 

それはもしかして、ここに来たときのメールと、映画『マトリックス』の話をしたからその名前になったのだろうか。

俺の質問にちゃんと答えてくれるアンクが俺の腰に封印の石……もとい、オーズドライバーを装着させた。腰に当てた事で一瞬だけ光り、腰にベルトが巻かれる。

 

「これが完成した『オーズドライバー』か」

 

「違う。それは『DXオーズドライバーSDX【デラックス・オーズドライバー・スーパーデラックス】』だ」

 

「なんだその頭の悪そうなネーミングは!?」

 

「そんなの俺が知るか! それより早く準備しろ! ここで二人とも死ぬぞ!」

 

何がどうデラックスでスーパーデラックスなのか非常に気になる。

しかし、その理由を直ぐに知る事になる。何故なら……

 

「……なんでこのオーズドライバーにオーメダルネストが無いんだ? そして何で代わりにメモリスロットがあるんだ?」

 

オーメダルネストがある筈の部分に、何故かマキシマムドライブ発動用のマキシマムスロットより若干凝った作りの銀色のメモリスロットが一つだけある。

 

「コアメダルとセルメダルの管理は俺がドライバーと一体化してやる。不要になったオーメダルネストを外して新しく取り付けた」

 

なるほど。確かに、原作でもアンクがコアメダルを管理している所為でイマイチ存在感が無かった。

その上、映司君はアンクがいなくなってもコアメダルはメダルケースに保管していた。

一応、『メダルを封印して安全に運ぶ』とか、『ドライバーの影響下を離れ、メダル間の共振を防ぐ』とか言う設定はあった筈なのだが、活用されているところを見た試しが無い気がする。

 

「……何で『チェンジング・アーマー・システム(CAS)』があるんだ?」

 

これは確か、エターナルに後付していたパッケージでは無かったか?

 

「オーズの飛行兼武装ユニットだ。タジャドルコンボ以外で空が飛べないのは致命的な問題なんでな」

 

基本的にISは飛行能力を持っているが、仮面ライダーは飛行能力を持たない。

そこで通常状態でも空を飛べるように作られたものだ。

それはそれでありがたいのだが……。

 

「それもう、『オーズ』じゃなくね?」

 

「そもそもの原因は『超銀河王』だの、『仮面ライダーコア』だの、『ZOIDS』だのと、元ネタを提供したお前だ!

それであのデブが面白がって注文したんだよ! その結果がコレだ! 全部お前の所為だ!」

 

ああそうですか。みんな俺の所為ですか。

俺の話を少佐が面白がるもんだから色々と話した。

 

他にも色々言ったっけなぁ……。

 

『自立した意思に自己進化能力にブラックボックス? ISコアって「オーガノイドシステム」でも搭載しているんですか? むしろアルティメットX?』

 

『「仮面ライダーW」のリボルギャリーのバイクの換装システム。アレって「ゾイド新世紀/0」のCASに似てる気がする』

 

『蠍型ゾイドのゾイドコアを二つ融合させて作った「デススティンガー」ってゾイドのゾイドコアは確か約6000℃で太陽並みの温度を持っているんです』

 

『「仮面ライダーオーズ」のライダーマシンで「トライドベンダー」ってのがあるんですよ。ライオンコアが元なのにトラカンって、ライガーって言った方が良いですかね?』

 

……考えれば考えるほど余計な事をベラベラベラベラと言った気がする。

 

『私の趣味だ。いいだろ?』

 

ああ、少佐のどや顔が目に浮かぶ。

俺は普通のオーズドライバーで良かったのに。DXもSDXも要らなかったのに。

これもそれも全て少佐って奴の仕業なんだ。原因は俺だけど。

 

若干の現実逃避していた俺の視界に入ったのは見覚えがありすぎるモノ。

なんで、ロストドライバーとエターナルメモリがここにあるんだ?

 

「アンク。少佐はドライバーを持ってないのか?」

 

「ん? ああ、あのデブはドライバーを持ってない」

 

「理由は何だ? メモリかドライバーの不調か?」

 

「メンテだ」

 

つまり少佐は今、防御手段を持っていないと言う事になる。

 

「急げアンク! 少佐が危ない!」

 

「うるせぇ! 今メダルとメモリの登録中だ! 急いでるから少し静かにしてろ!」

 

「最低限の装備でいい! 今はとにかく急げ!」

 

まさか持っていないとは思っていなかった。ドライバーを持っているからこその余裕だと思っていた。

正直、攻撃能力は無くともエターナルに変身できれば最低でも身は守れる。

文字通り、あらゆる攻撃を無効化する防御力∞なのだから。

 

コアメダルの中から、鳥系・昆虫系・猫系のコアメダルを9枚。

ガイアメモリの中からジョーカー・メタル・トリガー・サイクロン・ルナ・ヒートの6本。

最後にCASの中から「Type-ZERO」だけを選んで登録。

 

「これでいい。使い方は分かるな?

初めはお前がメダルを入れろ。ああ、確かこう言うんだっけか?」

 

「メダルを3枚ココに嵌めろ。力が手に入る」

 

そう言ったアンクから、タカコアメダル、トラコアメダル、バッタコアメダルの三枚を手渡される。

 

「それじゃ、俺はお前にこう言わせて貰う」

 

「あん?」

 

「アンク。お前、悪魔と地獄まで相乗りする勇気はあるか?」

 

俺は『仮面ライダーW』でフィリップが翔太郎に始めてWへ変身する時に言った台詞を、これから共に戦う相棒となるアンクに対して言った。

 

「はッ! 悪魔と地獄まで……か。いいだろう。最後まで付き合ってやる!」

 

アンクが腰に巻かれたドライバーに吸い込まれていった。

それと同時に、何か欠けていた物がしっかりと嵌ったような感覚がある。

ジョーカーメモリをメモリスロットに装填し、オーカテドラルにタカコアとバッタコアを同時に、そしてトラコアを装填してドライバーを傾けた。

赤・黄・緑の三色のメダルが発光している。コンボが成立している証だ。

ベルトの右側に備えられたオースキャナーを手にし、コアメダルをスキャンして叫ぶ。

 

「……変身!」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』




キャラクタァア~紹介

アンク
 ISでもグリードでもないナニカ。小説版とは違い、満たされた夢から満たされない現実へ引きずり込まれたのではなく、満たされない夢から満たされた現実へやってきた。美しい世界を感じ、意思疎通できる今のセルメダルの身体を保つ為に協力。
 基本的に美しい羽根を持つ赤い鷹。顔の右側にはトレードマークのクルクル金髪。必要に応じて右腕になる。核はタカコアメダル。
 ちなみに、オーズドライバーにガイアメモリとCASを組み込んだ原因の一つはコイツ。理由はより強い体を手に入れ、世界を感じる体を維持するため。でも、あまり変わらなかったみたい。

仮面ライダーエターナルデブルーフレア
 またの名を、『仮面ライダーエターナルメタボリックエクストリーム』。要するにデブのエターナル。
 ありとあらゆるあらゆる攻撃を無効化するが、少佐の格闘能力と射撃能力があまりにも低い事が原因で相手に有効打を与える事が出来ず、中々勝負が着かない。
 防御能力だけは本家エターナル以上のスペックを持つ。ゴクローが冗談で言ったら作られていたゴジラ映画の兵器である「オキシジェン・デストロイヤー」も、「ディメンション・タイド」も、「アブソリュート・ゼロ」も効かない。決定的な弱点は一食抜くと餓死する事。


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第3話 ビギンズナイト

とりあえず、今回はここまで。
明日から三連休です。
皆様に良き週末があらんことを……。



オーズドライバーからお馴染みの串田アキラボイスでタトバの歌が流れ、『仮面ライダーオーズ』への変身が完了する。

エターナルへ変身する時と同じ様に色々と情報が頭に流れ込んでくる。

しかし、変身して感じる体から力が溢れてくる感覚はエターナルの時よりもしっくりと、フィットすると言うか、身体に馴染むような感じがする。

 

『オーズはエターナルで得られたデータを基準に、お前専用に調整して作ったものだ。お前の身体に馴染まないわけがない』

 

なるほど。つまりは『ブァカ者がァアアアア! ミレニアムの科学力はァアア世界一ィイイイイ!! 仮面ライダーエターナルのデータを基準にイイイイイイイ……仮面ライダーオーズは作られておるのだアアアア!!』と言う訳か。

 

このオーズの見た目は、全体に原作のオーズとあまり変わらないように見えるが、エターナルと同じくちょっとゴツイ気がする。

また、CASを搭載した事で、パッケージとして背中にイオンターボブースターが二機追加されている。

ブースターが白いからか、少しフォーゼっぽいような気がする。

 

パッケージのスペックを見ると、使用している『Type-ZERO』は飛行能力と、セルメダルを使ったセルバーストによる、パンチ力とキック力の強化が追加される……か。

要するに『ストライクレーザークロウ』を、セルメダルのライダーキックとライダーパンチで使えると考えればいいか。

あまり、メダルやメモリを邪魔しない仕様なのでいい感じだ。

あと、トラクローの活躍が多くなりそうで何よりだ。

 

『まだ勝手が分からないと思うが、今はやるしかない』

 

「そうだな。行くぞアンク!」

 

怪物マシンから飛び出し来た道を戻ると、来るときに閉めた防御扉が破られそうになっている。

 

扉を蹴り飛ばすと、そこにはフランスの量産型ISラファール・リヴァイヴと、日本の量産型IS打鉄を纏った二人の女がいる。

 

「なんだ!? IS!? それも全身装甲!?」

 

「それにしては小さくないか?」

 

「違う……これは『オーズ』。どれ程のものかは……戦ってみれば分かる」

 

「何だか分からないが、喰らえ!」

 

ラファールの女がアサルトカノン「ガルム」を、打鉄の女はアサルトライフルの「焔備」を発射してくる。

トラクローで弾丸を弾き、バッタレッグの力で廊下の壁を蹴り、三次元的な動きで先ずはラファールの女の懐に飛び込む。

トラクローでラファールの女のマシンガンを切り裂き、怯んだところをバッタレッグの連続キックを相手に叩き込む。

初戦にしては結構いける。

しかし、相手を攻撃するたびにチャリンチャリンと音が鳴るが、コレは何だ?

 

『相手から削ったシールドエネルギーをセルメダルに変換している音だ。但し、直接攻撃した時だけ発動する能力だ。それ以外の攻撃ではセルメダルが溜まらん』

 

なるほど、要するにエネルギーリムーブの能力か。

会話している間に、打鉄の女が振り下ろした葵を、メダジャリバーを召喚して受け止め、絡め取る。

物は試しと、メダジャリバーで「焔備」を破壊した後、打鉄の女を何度か斬りつけるが、確かに直接殴る蹴ると言った方法以外ではセルが貯まらないようだ。チャリンチャリンと音がしない。

 

しかしのんびりしていられない、早いところ決めなければ。

廊下の中では高くジャンプできない。だから、必殺技は此方を使わせてもらおう。

ジョーカーメモリの入ったメモリスロットをタップ。これでジョーカーメモリは最大出力を発揮する。

 

「コレで決まりだ」

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ライダーキック!」

 

助走をつけて紫色のエネルギーを纏った右足の飛び蹴りを打鉄の女に叩き込む。

 

「セイヤァアアアアアアアッッ!!」

 

「!! うああああああッッ!!」

 

葵を召喚してガードしたものの、ライダーキックをまともに受けた葵と腕の装甲は破壊され、打鉄の女は廊下の床をガリガリと削りながら、勢いをそのままに突き当たりの壁に激突。壁に蜘蛛の巣状のヒビとクレーターを作って停止した。

爆発はしなかったが、ダメージによって打鉄が解除される。

 

「はぁ!?」

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ライダーパンチ!」

 

ラファールの女は信じられないものを見るような目で、吹っ飛んだ打鉄の女を見ている。

傍目から見て大した演出も無い、紫色のエネルギーを纏っただけのシンプルなキックがこれほどの威力を持つとは思わなかったのだろう。

 

その隙を逃さず、再びジョーカーのマキシマムドライブを発動させる。

ポーズを取り、右手に紫の炎を宿して、ラファールの女の懐に飛び込む。

 

「セイヤァアアアアアアアッッ!!」

 

虚を突かれた所為でガード出来なかったラファールの女は、ライダーパンチをまともに受けて吹っ飛んだ。

そして、打鉄の女のすぐ隣へ同じように壁に蜘蛛の巣状のヒビクレーターを作ってめり込んだ。

纏っていたラファールもダメージで解除される。

 

『ふん。もう少し稼いでおきたかったんだがな』

 

「急ぐぞ!」

 

 

○○○

 

 

左半身を砕かれ、地べたに座る私を、スコールは愉快だと言わんばかりに見下ろしていた。

 

「量産機とは言えISを使わずにISを3機も倒すとは貴方のわんちゃんも大したものね。流石に私の『ゴールデン・ドーン』には敵わなかったけれど。

さて少佐、何か言い残す事は無いかしら。知り合いのよしみで聞いてあげるわよ」

 

「ふん。我々の、ミレニアムの技術を使って生きながらえ、簡単にISに尻尾を振ったアバズレが何を言う」

 

「私には貴方の方が理解に苦しむわ。この世界で最初にISに選ばれた男。そして、ISを拒絶した愚かな男」

 

「……ああ、確かにそれは素晴らしい事なのだろう。それを使う事は歓喜なのだろう。だが、それだけは出来ない。それだけは……絶対に」

 

嘗てシュレディンガーが言った。

諦めが人を殺す。諦めを踏破した人間は運命を踏破する権利人となる。

その通りだ。諦めないことこそが、唯一運命を踏破する方法だ。

 

だからこそ、私はISを拒絶したのだ。

 

今を遡ること10年前の事。

 

日本の篠ノ之束と言う科学者が宇宙空間での活動を想定し、開発したマルチフォーム・スーツ『インフィニット・ストラトス』。通称ISを発表した。

宇宙開発を大きく前進させるであろうそれを、世界中の誰もが否定した。

それまでの常識を大きく覆すモノである事も否定された要因の一つだろうが、最大の問題は開発者の『現行兵器の全てを凌駕する』の一言だろう。

あれがなければもう少しは受け入れられたと思う。

 

あれは言うなれば科学ではなく魔法の類の代物だ。

科学と魔法の違いとは、科学者を含めた大多数の常人が認めるか否かにある。

少なくとも、当時はISが常人には決して認めることの出来ないモノだった事は確かだった。

 

しかし、ISの存在が発表されてから1カ月後、白騎士事件が起こった。

否、篠ノ之束が白騎士事件を起こした。

 

日本を射程内とするミサイルの配備されたすべての軍事基地のコンピュータが一斉にハッキングされ、2341発以上のミサイルが日本へ向けて発射された。

 

そんな事が出来るのは篠ノ之束をおいて他にいない。

 

その約半数を搭乗者不明のIS「白騎士」が迎撃した上、それを見て「白騎士」を捕獲もしくは撃破しようと各国が送り込んだ大量の戦闘機や戦闘艦などの軍事兵器の大半を無力化した。

 

『現行兵器の全てを凌駕する』と言う言葉は現実となった。

『ISはISでしか倒せない』と言う言葉は真実味を帯びた。

 

宇宙空間での活動を想定し、開発した筈のマルチフォーム・スーツは、何よりも強力な破壊兵器へと成り下がった。

 

そして、篠ノ之束は本来の目的を見失った。

 

そんな中、開発された第1世代ISを秘密裏に一機回収した時だ。

数々の男性隊員がいくら触れても反応が見られなかったISが、私が触れた時に限って反応を示したのだ。

あらゆる情報が頭の中に入り込んでくる感覚。

ISの持つその圧倒的な能力を瞬時に理解した。

 

なんと素晴らしい。

 

それはきっと誰も見たことの無い力なのだろう。

 

きっとそれは何者をも超越できる力なのだろう。

 

その強大な力を思うままに振るう事はきっと歓喜なのだろう。

 

だが、冗談じゃない。真っ平御免だね。

 

魂の、心の、意思の生き物。それが人間だ。故に、人が、人たらしめるものは、確固たる自分の意思だ。

 

決して折れない。決して屈さない。決して揺らがない。そんな魂を、心を、意思を持った生き物である筈だ。

 

否定されることは辛い。見てもらえない事は苦しい。忘れ去られる事は寂しい。

 

しかし、その痛みこそが諦めを踏破し、運命を変える最初の一歩の筈だ。

 

しかし、篠ノ之束は当初の目的を諦めた。

 

諦めを踏破する事を諦めた人間が、運命を変える権利人になる。

 

そんな事は断じて許さん。決して許さん。

 

だからこそ私はISを認めない。篠ノ之束を認めない。

 

遂に私は宿敵を見つけた。そして、宿敵を打倒する為に営々と準備を始めた。

 

フィクションやオカルトに関する研究もその為だ。

 

常識の通用しない相手に、常識で立ち向かって勝ち目は在るだろうか。私は「否」だと思う。ISが常識を超えた存在なのだから、打倒する為には此方も相手の常識を上回る必要がある。

 

そんな考えの下で行なわれた奇妙で様々な実験は、595回の失敗と、1回の成功を生み出した。

 

幾多の困難と、膨大な失敗と、塵芥となった屍を乗り越えて。

遂に科学の様な奇跡を、奇跡の様な科学を手に入れた。

彼から齎された異世界の知識と発想によって、我々の研究は飛躍した。我々の技術は向上した。

 

そして、私は決めた。我々が諦めを踏破した証として『仮面ライダー』を造り出すと。

 

シュレディンガーは「『仮面ライダー』とは、打倒する敵と同じ闇から生まれる存在であり、打倒する敵とは紙一重の存在」だとと言った。

 

そこで我々は、『仮面ライダー』を造るために、ISを模倣し、発展させる事から始めた。

そのモデルとして注目したのは『仮面ライダーエターナル』と言う、全てのガイアメモリを統べる仮面ライダー。

その最大の特徴はガイアメモリの無効化攻撃。

 

その参考とした教材こそ、かつて織斑千冬が、ブリュンヒルデが使用した二機のIS。『白騎士』と『暮桜』だった。

片や全身装甲、片やバリア無効化攻撃を持つ、これらのISコアの回収には苦労した。

回収した『白騎士』のISコアは初期化されていたが、『白騎士』は決して消えずに、その深奥に確かに存在して、『暮桜』と交信していた。

 

そして、回収したISコアを。篠ノ之束が諦めた証を。彼女の夢の残骸を。

 

叩き割り、切り刻み、張り合わせ、混ぜ合わせ、使い潰し、残骸にし尽くした。

 

そしてこの世界で、仮面ライダー0号と言うべき存在を、『仮面ライダーエターナル』を造り出す事に成功した。

 

そこから『仮面ライダーエターナル』のデータを基準として『仮面ライダーオーズ』は製作された。

 

ISの『単一能力【ワン・オフ・アビリティー】』を、コンボの固有能力に置き換えて。

 

ISコアを材料に、生物の特性を持ったコアメダルを作り出して。

 

ISコアの意識をコアメダルに封印し、その人格を書き換えて。

 

ISコアとの意思疎通を、実体を与える事で簡易化して。

 

ISコア24個を一人と一つの為に犠牲にして。

 

それらの実験と模索の果てに、我々はISコアの生産も可能になった。皮肉なことに、打倒すべき敵を生み出すことも可能になった。確かに紙一重だった、仮面ライダーとそれが打倒する敵は。

 

残るは操縦者の問題。シュレディンガーをコンボの力に耐えられる器にする事。

 

肉体の方は幾らでもなんとでもできた。だが、「身体に金属を埋め込むと生身でも磁力を操る相手に弱くなる」と熱弁していたから、薬物や有機ナノマシンによる強化を行なった。彼なりに考えての事なのだろう。

 

問題は精神面。シュレディンガーの否定には拒絶が無い。シュレディンガーの否定は相手を理解しようと最大限の努力をした上での否定だ。それは例えるなら、食べ物の好き嫌いで、『食わず嫌い』と『食ってから嫌いになる』位違う。

 

シュレディンガーは篠ノ之束を理解しようと最大限に努力するだろう。

 

その上で、我々の目的であるISの打倒も成そうとするだろう。

 

自分のできる事を精一杯するだろう。

 

篠ノ之束を『自分の弱さを攻撃に変えたか弱い女』と呼称したお人好しの君は。

 

我々の事を気にかけて過去を詮索しない、今現在の我々だけを見るお優しい君は。

 

シュレディンガーと隊員達との接触を制限したのは意図的なものだった。情報漏えいを避ける事もそうだが、普通の感性を失ってもらっては困る。優しさを失ってもらっては困る。人の死に鈍感になられては困る。

 

何故なら、それでは『真のオーズ』として覚醒しないからだ。

 

自身に対する欲望の枯渇。

 

他人のエゴさえも引き受ける自己犠牲。

 

心を通わせた人間の死。

 

自分だけが無事に生還してしまった事による罪悪感。

 

そして、信頼していた人間の裏切りによる絶望。

 

それらが無ければ、『真のオーズ』として完成しない。その為に細心の注意を払ってここまで来た。

 

そして今夜。『ミレニアム』の壊滅によってそれは成る。君が我々の死を目の当たりにする事によってそれは成る。君だけが生き残ることでそれは成る。君がいずれ真実を知ることでそれは成る。

 

部下の裏切りも、組織の壊滅も、私の死も。全ては計画通り。順調。全くもって順調だ。

 

「それじゃ、さようなら少佐」

 

心残りはアストロスイッチとフォーゼドライバーを作る事が叶わなかった事。

それは人類が、人類に対して働きかける宇宙の意思的存在であるプレゼンターとの接触を試みるにあたって、人体に負担のかからない手段として開発されたシステム。

 

プレゼンターとの接触。それはもしかしたら、篠ノ之束が諦めを踏破する事で成したかもしれない、一つの未来なのではなかろうかと思った。

 

アストロスイッチとフォーゼドライバーの設計図は『デウス・エクス・マキナ号』にデータとして残しておいた。名前は勿論『KENGOメモリ』だ。

 

いつの日か、プレゼンターとの接触をシュレディンガーが叶えるかもしれないと考えて。

 

止めが刺されようとする刹那、扉が豪快に破壊された。そこに居たのは、黒をベースに上下三色の装甲を身に纏う異形の戦士。

 

やはり、助けに来てくれたか。

 

予定通りとは言え、絶体絶命のピンチに都合よく助けに現れるなど、まるでアメリカンコミックのヒーローの様だな。

 

「助けに来たぜ、少佐」

 

「ああ、なんとかね。なぁに、まだまだこれからさ」

 

サイボーグでデブの、死に損ないの大隊指揮官がヒロインの作品など、あまり面白くは無さそうだがねと自嘲しながら、私は未完成の鬼札に向かって不敵に笑ってみせた。

 

 

○○○

 

 

扉の向こう側に居たのは、全身黄金のISを身に纏う女と、完全に左半分が破壊されて座り込んでいる少佐。

 

「なるほど。これが貴方達の切り札ね」

 

「ああ、我々の最高にして最強、そして最後の鬼札だ」

 

周りには破壊されたISの残骸らしきものがあり、大尉の姿は見えない。

 

「初めまして鬼札君。『亡国機業』の実働部隊「モノクローム・アバター」のスコール・ミューゼルよ」

 

「……『ミレニアム』所属。ゴクロー・シュレディンガー准尉」

 

『気を付けろ。アレは第三世代IS「ゴールデン・ドーン」。炎を操る能力を持った機体だ』

 

ふむ。しかし、全身が金色のカラーリングと言えば、某種運の金ぴかモビルスーツを思い出すのだが。あの装甲はレーザー系を無効化したりするのか?

 

『いや、ミレニアムのデータベースにはそんなデータは無い。こいつに変えろ!』

 

アンクのチョイスによりオーカテドラルのコアメダルが変更される。

アンクがドライバーと一体化しているお蔭で、コアメダルを一々入れ替える必要が無い為、メダルチェンジの隙が少ない。

 

『クワガタ! トラ! チーター!』

 

オースキャナーでスキャンし、ガタトラーターにチェンジ。

トラクローの真空刃とクワガタヘッドの緑色の電撃で遠距離攻撃を仕掛ける。

スコールは一歩も動かずに、炎を高速回転させて作ったシールドで電撃と真空刃を防いでいる。

 

遠距離攻撃では有効打を与えられない。専用機だけあってさっきの量産機とは違う。

せめて水棲系コアを登録しておくべきだったかも知れない。

 

ならばと、高速戦闘で撹乱する。

見たところあのシールドは一方向に向けて展開している。

チーターの足で高速移動とトラクローの真空刃で様々な方向から攻撃し、隙を見て懐に飛び込んで決める。

 

仮面ライダーは殆ど身長が変身前と変わらない。対してISは、纏うと1m以上身長が高くなり、手足のリーチも長くなる。

つまり、小回りにおいて仮面ライダーが有利。相手より小さいが故に、相手の懐に潜り込めばリーチの問題もあり、割りと安全に戦えるのだ。

だからと言ってその懐が安全地帯だとは言えないが。

 

スコールは此方の遠距離攻撃を炎のシールドと大きな尻尾の様なもので防いでいるが、徐々に対応出来なくなってきている。

すると、一瞬だが背後に隙が出来た。その隙を逃さずに、一気に接近して決める……つもりだった。

 

「掛かったわね、お馬鹿さん♪」

 

スコールが展開したのは、さっきまでの一方向の炎のシールドとは違う、全方位に展開する熱線のバリア。

熱線のバリアに弾かれ、体勢を崩したところで尻尾の先端部分が大きくがばっと開き、腕ごと身体を拘束される。

迂闊にも相手の術中に嵌ってしまった。

さながらIS版のライオディアスと言った所か。

 

「この!」

 

「おっと、往生際の悪い子ねぇ」

 

蹴りを放とうとするが両脚を捕まれ、完全に身動きが取れない。

炎の鞭が身体に纏わりつき、生成された超高熱の火球を何発も叩き込まれる。流石にこれはヤバイ。

 

「ふふふ。このまま丸焼きにさせて貰うわ」

 

「確かにこのままならヤバイ。だが……」

 

超高温で弄られながらも、今の状況を覆すだろう一手を打つ。いや、撃つ。

 

「この距離なら、あんたもバリアは張れないよな?」

 

『TRIGGER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

少しだけだが両手は動く。右手に召喚したトリガーマグナムには既にトリガーメモリが装填されている。

即座にマキシマムモードへ移行し、必殺技を放つ準備をするが、それで終わらない。

更にもう一手を加える。

 

『HERT・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM……』

 

「何を……え!?」

 

ガタトラーターに変える時に、相手が炎を操ると聞いて腰のメモリスロットをジョーカーからヒートに変更しておいた。

 

ところで、ガイアメモリにはレベルと言うものが存在する。

 

ヒートメモリの熱を操る能力を活用する方法を考えたとき、ある事を思いついた。

気化熱を操り吸収する事が出来れば、ヒートメモリ一本で加熱と冷却の二つの能力が使えるのではないかと。

要はディオの気化冷凍法だが、ドクやアンクは無茶だと言った。しかし、俺は熱を奪うことを意識してヒートメモリを使い続けた。

 

その結果、気化冷凍法は無理だったが、ヒートメモリはレベル2へと至り、フォーゼのファイヤーステイツの様に、炎や熱を吸収する能力を得る事が出来た。

もっとも、手にしてから5年近く使い続けて漸くのレベル2なので、ナスカの尻彦に比べてもかなり遅かったが。

 

そして、本家『仮面ライダーW』が井坂先生にぶち込んだ、トリガーとヒートのツインマキシマム。

ヒートメモリの力で全身が超高温になり、更にレベル2の力で相手の炎も吸収し、自分の火力に上乗せしている。

 

拘束していた炎の鞭がオーズの装甲に吸収され、オーズの全身が更に高温になっていく様と、壊れたテープレコーダーの様に『マキシマムドライブ』を繰り返すガイダンスボイスにより、流石のスコールも危険と脅威を感じたようだ。

 

「このッ! はっ離しなさいッ!!」

 

「おいおい、掴んだのはアンタだろうがよ」

 

離れようとするスコールだが、今度は俺がISの装甲を掴んで離さず、超高威力の炎の弾丸を至近距離で発射する。大爆発が起こり、拘束していた尻尾から解放される。拘束を解除し、有効打を与える事に成功したが、此方も反動ダメージが大きい。

 

スコールを見ると、全身が火傷だらけで左腕が無くなっている。

しかも、その左腕から機械部品と火花がバチバチと散っているのが見える。

頬っぺたも焼けて中の機械が見える。ターミネーターみたいだな……。

 

「少佐と同じ、機械の体か」

 

「そうよ。貴方達『ミレニアム』の開発した技術を使って得た体よ」

 

そんな事はどうでもいい。今ココで逃がすとこの女は危険な感じがする。

殺しこそはしないが、再起不能にはなってもらう。

 

「ココで決めるぞアンク! タカとカマキリ!」

 

『ああ! 勝負は今! ココで決めろ!』

 

『タカ! カマキリ! チーター!』

 

『スキャニングチャージ!』

 

メダルを変更し、タカキリーターにチェンジ。メダルを再スキャンして直ぐに必殺技の発動体勢に入る。

タカの目でスコールをロックオンし、カマキリアームとチーターレッグに力が漲ってくる。

赤・緑・黄の三色のリングが前方に現れ、三つのリングの中を駆け抜けるようにスコールへと急接近する。

 

「くっ、あまり舐めないでもらえるかしら!」

 

スコールは火球を生成して此方に投げつける。走りながら左腕のカマキリアームで火球を弾く。すると、先ほど放った火球と重なるような死角にもう一個火球があった。時間差攻撃か!

 

しかし、二個目の火球は突然爆ぜた。

 

スコールが大きく仰け反るが、スコールは背面から三個目の火球を此方に向かって投げつけてきた。

 

今度は弾かずに火球ごとスコールを切り裂くつもりで、右手のカマキリアームをスコールに向けて突き出して突っ込んだ。

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

またも爆発が起こり、吹き飛ばされるが手ごたえはあった。

爆発が収まり、煙が晴れると、そこには誰もいなかった

 

『爆発を目晦ましに逃げられた。相当なダメージを受けたとは思うがな』

 

逃げられたか。出来ればここで倒しておきたかったのだが。

 

しかし、危なかった。スコールはタカトラーターの必殺技を初見で見切っていた。

 

明らかにカマキリアームを二発の火球で弾かせて、がら空きになった無防備な部分に必殺の火球を叩き込むつもりだった。

現に弾いた一発目の火球と、切り裂いた三発目の火球では明らかに出力が違った。

此方からは見えない位置で火球を生成して意表を突く事も即座に思いついていた。

 

二発目の火球が暴発しなければ多分やられていた。

 

『ああ、あの金ぴか女の誤算はデブの位置からは隠し玉が丸見えだったこと。そして、デブが火球に弾丸を当てるとは思っていなかったことだ』

 

「はははっ! 初めて当たったぞ!」

 

さっきのマキシマムの反動で何処かに飛んでいったトリガーマグナムが少佐の手にある。

偶然少佐の近くに落ちて、少佐が援護してくれたのだ。

この土壇場で、一発で当てるとは、流石少佐だ。

しかも、バズーカ誤当の様に俺には当てなかった。

流石、諦めを踏破した権利人は持っているものが違う。

 

 

○○○

 

 

スコール・ミューゼルを撃退したシュレディンガーを見て、笑いが込み上げてくる。

 

倒せはしなかったが、最低限の武装でここに来たようなので、それを考えれば上出来だろう。

 

「ははは、やっと勝った。敗北続きの私の人生で、漸く勝った」

 

改めて、近づいてくるオーズに目を向けた。シュレディンガーはオーズには複数の意味があると言っていた。

 

オーメダルの内、三枚を組み合わせて戦う事。

 

『オーズ』という読みは陰謀を企てる敵怪人の幹部、すなわち怪物の王が複数存在する『王s』と言う意味である事。

 

「Over ∞ (無限大以上)」。即ち、無限大すら超越した最高の満足を表す事。

 

「この日の為に生きてきた。この一瞬の為に生きてきた」

 

私はこんな意味を込めて名付けた。

 

無限の終わりと始まり。

 

∞を冠するISと、0号のエターナルから生まれた存在。

 

故に『オーズ【∞0】』と。

 

「そうか……これが勝ちか。良いものだな」

 

私は今、満足している。心の底から満足していると胸を張って言える。

 

「いい、いい人生だった」

 

ああ、聞こえる。あの懐かしい喧騒が。

 

ああ、思い出す。あの懐かしい戦場を。

 

 

 

『新刊デース』

 

『見てクダサーイ』

 

『ゲルマンキン総受け本でーす』

 

『おんぷちゃんロックオン』

 

『大尉……急に喋ったと思ったら』

 

『……なんなんだ此処は? 欲望の巣窟か?』

 

 

 

『ガガガガ~ガガガガ~ガガガ~♪』

 

『ベキベキベキベキベキベキベキ♪』

 

『中尉。「プラチナ」歌ってもらえます? あと「ループ」も』

 

『え? 私「魔弾の射手」位しか知りませんよ?』

 

 

 

『秋葉原へブリッツクリーク!』

 

『アソビットシティに突撃ーーッッ!!』

 

『エロゲー売り場を円周防御ーーッッ!!』

 

『セイバーはぁあああ! 俺の嫁ってえええええ! 言ったろぉおおおおおお!!』

 

『いいや! 私の嫁だって言ったでしょうがぁああああああああああ!!』

 

『おい、ゴクロー。あんな事言ってるが、あいつら一体何人の嫁がいるんだ?』

 

『……さあな』

 

 

 

『え~突然ですが~、「キャノンボール・ファスト」襲撃を中止して~。大隊全員でハルヒダンスとらきすたOPとアルゴリズム体操を踊ります。ちょっとでもミスったら死刑ね全員』

 

『ハァ!?』

 

『それはどう言う……』

 

『何ですかあのペイント弾? 頭べちゃべちゃしてますけど』

 

『葛。本物は危ないからね』

 

『踊んない奴はも~全員ぶっ殺す!! ブリュンヒルデ!? んなモンほっとけ! 全艦目標京アニ!! て言うか宇治市ぃぃっ!!』

 

『おいゴクロー、この大隊ってこの為に作られたのか?』

 

『……かもな』

 

『さあ、皆様お手元のしおりをば、「対京都上陸戦第1次あしか作戦」のしおり。3P目の「京都大火篇・ぶっちぎりアニヲタサイボーグ」の項をご覧下さーい』

 

 

 

仮面ライダーオーズ完成記念コスプレ大会

 

『なあ、ドク。この顔と表情維持するのすっげぇ辛いんだけど』

 

『頑張ってください! 大賞間違いなし!』

 

『まだ完全に顔は克己化していない、今ならまだいけそうだ。ゾクゾクするねぇ……』

 

『わいは大阪住まいやさかいのう……って何だこの服と台詞は!?』

 

『十本刀のニワトリちゃん』

 

『誰がニワトリだ!』

 

『大尉? なんで尸良?』

 

『おっかねぇ……』

 

『立ってる○○○は親でも使え』

 

『逃げろーーー! 男も孕ませられるぞーーー!』

 

『に゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!』

 

『ああ! シュレディンガーのイーヴィルテイルが危なーーいッッ!!』

 

 

 

ははは。今際の際に思い出す事がこんな光景だとは。

 

「さよならだ、准尉。コミケ会場でまた会おう」

 

「……はい?」

 

困った顔をした鬼札に見送られて、私はヴァルハラへと旅立った。

 

 

○○○

 

 

「なんだよ。今際の台詞がコミケ会場で会おうって……」

 

『何でもいいから急げ!』

 

崩れ行くアジトの中、少佐の遺体を抱えて走り、スタッグフォンの遠隔操作で『デウス・エクス・マキナ号』の発進準備を整えておく。

乗り込んだところで、アンクが右腕の状態でベルトから出てきた。アンクの向かった先には、メモリスロットがあった。

 

「ヒートのメモリをココに入れて、マキシマムを発動させろ」

 

アンクの言うとおりに、ヒートメモリをメモリスロットに装填し、マキシマムドライブを発動させる。

 

『HERT・MAXIMUM-DRIVE!』

 

すると、車輪が下向きに展開し、ハードマンモシャーの様に車輪から火を噴いて急上昇した。

勢いよく天井をぶち破り、脱出に成功したと思った矢先、何かとぶつかった衝撃と破壊音がした。

 

何とぶつかったのか直ぐに確認すると、そこには完全に『粉砕・デストロイ』している人参型の乗り物っぽい何か。

見事に気絶しているウサ耳を着けた20代位の女。

そして無傷のデウス・エクス・マキナ号。

 

「……アンク」

 

「なんだ?」

 

「一応聞いておきたいんだが、こいつも『財団X』の仲間か?」

 

「だから『亡国機業』だって言ってんだろ。それとこいつは篠ノ之束だ。お前、分かって言ってるだろ」

 

ああ、分かっていて言った。どうやら、まだまだ災難が続くらしい。

 

 

○○○

 

 

それから数時間後、ドイツ軍に潜伏している『ミレニアム』の協力者達は、『ミレニアム』からの定時連絡が途絶えたことで、何かしらの緊急事態が起こったと考えた。

 

そこで、彼らは軍を動かし、実態の解明に乗り出した。

 

秘密裏に譲渡したISコアを回収する為に。

 

あわよくば、ミレニアムの成果を自分達の物にする為に。

 

ドイツ軍の中で選ばれた部隊はIS配備特殊部隊『シュバルツェ・ハーゼ』。通称・黒ウサギ隊と呼ばれる、3機のISを所有するドイツ最強のIS部隊である。

 

彼女達に課せられた任務は、『ミレニアム』が秘密裏に奪取したISコアの回収。

そして『ミレニアム』が作り出そうとしていた、対IS最終兵器の回収・もしくは破壊である。




キャラクタァア~紹介

少佐
 全身が機械の世界一カッコイイデブ。『ミレニアム』のリーダー。但し、そんな自覚はない。アーカードがいないこの世界で、ようやく篠ノ之束を宿敵として認定。スコール・ミューゼルとは旧知の間柄。実は本当の意味で世界最初の男性IS操縦者になりえたナチスの微笑みデブ。
普通の感性を持つゴクローを『仮面ライダーオーズ』として完成させるために、ISコア24個と、自身を含めた『ミレニアム』を丸々使い潰した。最後にもう一度、コミケに行きたかった……。

スコール・ミューゼル
 全身が機械のターミ姉ちゃん。実はコイツがサイボーグだから少佐とミレニアムを出そうと思ったんだ。後悔はしていない。
 原作において楯無会長と因縁のあるお方だが、本作ではそれ以上にミレニアムと因縁がある。相当な高齢故に、戦闘経験が豊富な強いキャラにしてみたつもり。ゴールデン・ドーンも原作より強めに設定。プロミネンス・コートはライオディアスみたいに使えると思ったんだ。後悔はしていない。

仮面ライダーフォーゼ
 ご存知、『宇宙キター!』なリーゼントの高校生が変身する仮面ライダー。髪型のせいなのか、ジョジョネタが結構多かった気がする。
 実は『対京都上陸戦第1次あしか作戦』の目的はアストロスイッチを作る事が目的だったりする。失敗こそしたが、ゴクローは大惨事先輩……もとい、大文字焼きはしっかりと見て、幻視して満足して帰った。

次回、束とラウラとクロエが登場。


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第4話 Dが見ていた/やがて怪物と言う名の雨

この作品を書くにあたって、偽物VS本物をテーマのひとつとして意識しています。

そして、書きたい事を骨組みとして書く→そこから辻褄合わせに肉付け→きりの良い所まで書く→結果、18,000字を超える→二分割する。

よって、申し訳ありませんが、クロエは次話に登場です。


「キタァアアアアアアアアアアアッッ!! ひっじょ~に身体に染みますね~」

 

「何言ってんだお前は」

 

アジトから脱出し、デウス・エクス・マキナ号をインビジブルメモリで隠して、治療用ナノマシンが入った薬を身体に注入する。スコール戦の傷はこれで癒える。

 

インビジブルメモリ。

干柿鬼鮫……じゃない、井坂先生が対テラードーパントを想定していたであろうガイアメモリで、これは4年掛けてレベル2へと至り、相手の盲点に入り込む能力がメモリに追加された。透明化と盲点に入り込む能力を得た事で、肉眼ではまず分からない。但し、違和感から手当たり次第に攻撃すれば流石に分かる。

 

しかし、ナチスの残党の残党なんて笑い話にもなりやしない。別に仕えるに値する主人を裏切ったわけでも、ろくでもない外法で吸血鬼になった訳でもないが、そんな台詞が口から出そうになる、不思議な喪失感や虚無感がある。

 

「帰る家も、仲間も無くなっちまったな。なんだかスカスカした感じ」

 

「これからの事を考えて動かないとな。幸い、貯えはそれなりに有る。しばらくは何とかなるだろう」

 

「どこへも行くアテがないよな……ミレニアムの支援者も知らないし」

 

「俺は一応知っているが、行かない方がいいな」

 

現在、南米のジャングルで焚き火して気絶したウサギを観察しながら過ごしている。夜明けまであと5時間と言ったところ。

 

ミレニアムの支援者は世界中の至る所にいる。

政治、宗教、軍部、経済界、エトセトラ、エトセトラ……。

しかし、そのミレニアムが壊滅した今、支援者が俺達を見てどう思うか。

 

ノーリスクハイリターンを望む、醜悪な笑顔を貼り付けた欲望の怪物どもが俺達に求める物事を考えると寒気がする。碌でもない事になるのは想像に難くない。

 

アジトに戻ってメンバーの遺体や遺品を探さないかとアンクに提案したが、アンクが言うにはミレニアムのメンバーには証拠隠滅の為に身体を灰にする装置が体内と各自の武器に組み込まれており、基地も一通り爆破された為、遺体も遺品もめぼしいものはないだろうとの事。

一応、怪物マシンの中に少佐の私物が一つだけあったが、少佐がネコ耳モードの時に使っていたネコ耳カチューシャが遺品だと思うと……ねぇ?

 

「その装置は俺にも?」

 

「いや、お前には埋め込まれていない。埋め込む必要が無いと判断されたのか、埋め込まない方がいいと判断されたのか分からんがな」

 

考えてみれば有機ナノマシンの注入とかは受けたが、改造手術も脳改造の類も受けた覚えが無い。イマイチ、少佐の判断基準が不明だが、それはそれで良いとしよう。

 

「墓位は作ってやりたかったんだけどな」

 

「塵は塵に還る。人間も死ねば只の肉の塊。俺が只のメダルの塊であるように」

 

厳しい事を言うアンクだが、回収した少佐の体はアンクが一人で処分した。何だかんだでアンクは俺に気を使ってくれている。

 

しかし、惜しい人を亡くしたと思う。

 

生きながらえるだけなら他にも方法はあった。しかし、少佐はそれらにより自分が自分で無くなる事を何よりも恐れていた。

 

『私は私として生きて、私は私として死にたいのだ。私は私なのだから』

 

その点で言えば、俺の提案したものは大半が凶暴化するものや、自我を失うものばかり。

ネクロオーバー然り、セルメダル製ホムンクルス然り、戦極ハカイダー然り。

でも、京水とレイカは死んだ後の方が、よっぽど善人っぽい気がする。生前はヤクザと死刑囚だからな……。

 

「ところで登録は終わったか?」

 

「ああ、取り敢えずな。見るか?」

 

アンクからディスプレイを渡される。こうして改めてみると凄まじい魔改造が施されている『仮面ライダーオーズ』だ。

 

コアメダルはドライバーに最大27枚まで格納可能。

鳥系・昆虫系・猫系・重量系・水棲系・恐竜系・爬虫類系・甲殻類系。

これにアンクのコアメダルを含めた、イマジンメダルとショッカーメダルの怪人系。

合計27枚が登録されている。

コアメダルの選択権と管理権は基本的にアンクのものらしい。

 

他にも『MOVIE大戦MEGAMAX』のコアメダルもある。

サメ、クジラ、オオカミウオは勿論のこと。鴻上会長の会長室に描かれていたコアメダルもある。一通り見る限りでは、他にはムカデ、ハチ、ペンギン、シロクマ、セイウチ、ウシ、ガゼル、シカのコアメダルがある。

しかし、リストにはイラストとして描かれていた筈のヤドカリが無く、代わりにゴキブリのコアメダルがある。

 

「……なあ、ヤドカリ無くてなんでゴキブリ?」

 

「800年前の王のヤミーがゴキブリなんだろ? あと、これは『コックローチ』のメモリを参考に作ったらしいぞ。ムカデ・ハチ・ゴキブリで害虫コンボの誕生だ。喜べ」

 

「害虫コンボってお前……」

 

絶対に使いたくない。キンチョーと言う名の死のニワトリに対して致命的に弱くなりそうだ。

 

「今はコアよりもセルを考えないと」

 

「ああ、死活問題だ。都合よくISが攻めてくるのを待つのもアレだな。適当にどこかの基地を襲うか?」

 

「それは最終手段って事で」

 

オーズはISと同じ様にエネルギーを補給し、そのエネルギーを活用してセルメダルを自己生産する事もできる。しかし、一日当たりの生産量は固定されており、1日で24枚まで。ウヴァさんのヤミー金融の生産量よりは多いと思うのだが、やはり生産量としてはかなり少ない。それよりだったらISと戦った方が多くのセルメダルが手に入る。

 

後付装備に該当するガイアメモリはドライバーに26本まで格納可能。

内容はT2ガイアメモリの『AtoZ』をベースに、他にも幾つかメモリがある。

使用の権限は基本的に俺にあり、手で一々抜く必要が無い。メモリチェンジの隙を無くす為に自動的に装填される仕様だ。

 

「ところで、ガイアメモリは無くてもいいとか思っていたようだが、無かったらどうやってさっきの状況を切り抜けるつもりだったんだ?」

 

「………」

 

「そもそも、お前は5年もガイアメモリを使って戦っていたんだ。幾ら知識があっても、いきなりコアメダルを自在に使えるわけが無いだろう。ピンチになったら慣れている方を使うに決まっている」

 

返す言葉もありません。ガイアメモリが無ければ多分やられていました。今後は可能な限りコアメダルの方を使って切り抜けることを考えないと。

 

しかし、Bのメモリが「バード」じゃ無くて「ボム」になっている。シュラウドの好みだろうか?

お、「アイスエイジ」もちゃんとあるな。井坂先生曰く拍子抜けのメモリらしいが。

 

「ところでアンク、『自分の砕ける音を聞きな!』って言いながら止め刺すのってカッコイイと思うんだけど、どう思う? 台詞的にはオーズよりエターナルの方が似合う気がするけど」

 

「俺にそーゆー質問はするな」

 

「……あ、Vが『バイオレンス』じゃなくて『バイラス』になってる。万が一の為の自爆装置か?」

 

「それはコンピューターウイルスらしい。『スカイネット』とか言うのを参考にしたとか」

 

町一つ滅ぼすバイオハザードどころか、核攻撃ボタンよりも凶悪な世界崩壊のスイッチだった。死ぬときは世界を道連れにする事になりそうだ。

 

「いや、そこまで凶悪な能力じゃない筈だが」

 

「そうか……『CAS』は四つまでか。一気に減ったな」

 

「ま、そっちはオマケみたいなものだからな」

 

『CAS』は武装兼飛行ユニット。所謂パッケージであり全部で5種類ある。でも、このバーサークって明らかにプトティラコンボ専用だろ。

ドライバーに四つまで登録でき、アニメの『ライガーゼロ』と違ってわざわざドラム缶……もとい、ホバーカーゴに戻るように、一々デウス・エクス・マキナ号に戻るような事にならないのは助かる。

 

「この『パンツァー』は飛行ユニットじゃないな。それどころかこれ動けるのか?」

 

「桁外れの防御力と超高火力を両立する事に成功したが、重量故に身動きが殆ど取れない変態装備だ。クァッド・ファランクスの要素も取り入れたらしい。まあ、強化人間のお前は無理をすればなんとか動けるだろ」

 

成程、ガトリングも装備されているのはその所為か。殆ど実弾装備なので重量はとんでもないことになっている。パンツァーユニット+リノンスペシャル状態じゃないかこれ?

しかし、全弾ぶっ放せば絶頂を覚えそうな装備ではある。

 

「今にして思えば、少佐は金属生命体の話の食いつきが半端じゃ無かった気がする」

 

「確かにな。ちなみに『ミレニアム』はISコアを生産する事に成功していたぞ」

 

「打倒する敵も作れるようになっていたと」

 

「それまでに相当数を犠牲にしたらしいがな」

 

そのままアンクと語らいつつ、ディスプレイを見続け、装備を確認し続け、そのまま一睡もする事無く夜が明けた。

 

「何も起こらなかったな」

 

「それよりも、このウサギ女をどうするんだ?」

 

目の前で毛布の中に包まってグースカピーと眠っているこの女。ISの開発者である篠ノ之束の事だが、実際どんな人物なのか。正直、少佐達から聞いた一元的な情報でしか彼女を知らない。

 

「聞いた限りでは、さらりとは生きていない……って感じだったな」

 

「お前の言っていたドクター真木やプロフェッサー凌馬って奴に近いんじゃないか?」

 

「破壊の後で再生する新世界を求めているなら錬金術師ガラって奴に近い」

 

初めに白騎士事件の内容を聞いてとんでもないマッチポンプだなと思った。

 

しかし、経緯を考えると『吐き気を催す邪悪』や『自分を悪だと自覚していない最もドス黒い悪』と言うよりは、『自分の心の弱さを攻撃に変えた人間』といった感じがした。

 

諦めない事を諦めたか弱い女。だから少佐は認めなかった。他の大隊のメンバーはどうだったかと言えば、白騎士事件がキッカケで世界が女尊男卑の世の中になったことで逆恨みしていた奴。ISを使ったテロで家族を亡くした奴。死に損なって死に場所を求めていた奴。

 

ミレニアムに居た連中は色んな事情があって、なんだか寂しそうな目をした連中だった。

 

だが、俺はとても恨むような理由が無い。

 

劇場版『ビギンズナイト』において、初めて翔太郎と会った時に、フィリップが「銃を作る人間は皆犯罪者なのか?」と翔太郎に言った台詞は実に的を射ている。

 

確かにISは、俺がこの世界に来た原因でもあるが、意味不明なメールに「ウホッ! いいマトリックス!」とホイホイ従った俺にも責任はある。

 

シュラウドはどうしても俺が篠ノ之束に対して憎しみを持って欲しかったようだが、憎む気持ちは沸いてこなかった。何時だったか、寝ている俺の枕元でボソボソと、どす黒い感情を込めた声で『憎め……憎め……』と洗脳しようとしていた。相当な過去があったのだろうが、シュラウドの憎しみや復讐はシュラウドのものだ。

 

しかし、その行動にゾッとした事は間違いない無く、しばらくの間は寝る時に自分の部屋に戻らず、少佐達の部屋を点々とする事になった。

 

「それならそいつ等の恨みはどうする? どう決着を着ける?」

 

「……全てのISを打倒して頂点に立つ。そこら辺が落とし所かな」

 

「ほう、何時だったか言った『世界を自分の色に染め上げる』って奴か」

 

禁断の果実は手に入らない上に、『始まりの男』どころか『世界の破壊者』とか『悪魔』とか言われるかも知れないがな。

 

「目下の問題はコイツだが、世捨て人同然の他人が自覚できない狭い世界で生きている様な女だ。まともな会話は期待するだけ無駄だぞ」

 

「それは本当に自覚できないのか?」

 

「あん? どう言う事だ?」

 

アンクの質問に答えようとした所で、篠ノ之束が遂に目を覚ました。

 

「うん? アンタ誰?」

 

「ゴクロー・シュレディンガー。こいつはアンク」

 

「おい! ゴクロー! 起きたんだからもういいだろ! さっさと行くぞ!」

 

「……へぇ」

 

篠ノ之束は田村ゆかりボイスだった。実に興味深い。ゾクゾクするねぇ……。

しかし、当の本人は俺では無くアンクをロックオンしている。機械のウサ耳もピコピコ動いている

 

「変だね。その赤い鳥からISコアによく似た反応があるんだけど、どう言う事なのかな? 喋れるみたいだし、束さんに教えて欲しいな~」

 

「アンクは……」

 

「君には聞いてないよ。誰に質問しているのかも分からないの? 頭悪いなぁ。それとも目が見えないのかな?」

 

「………」

 

篠ノ之束は予想以上に腹の立つ奴だった。そして、ムカつくほど綺麗な良い声だった。

 

 

○○○

 

 

我々、誇り高き黒ウサギ隊は現在、南米のジャブローに向かっていた。

 

「ドイツ第三帝国最後の敗残兵『ミレニアム』が創り出した対IS最終兵器……ですか」

 

「隊長。本当にそんなものがあるんですか?」

 

「それを確認する事が今回の任務だ」

 

『ミレニアム』。またの名を最後の大隊。ラストバタリオン。第二次世界大戦中にヒトラーが存在を仄めかしながらもその正体は全くの不明……と言うのは表向きの話だ。

 

『ミレニアム』とは、部隊名であり計画名。極秘物資人員移送計画とその実行者。

 

彼らは第二次世界大戦初期から総統特務666号を受けて行動を開始。ドイツの占領地で書類を改ざんしながら、必要な物資と有能な人材を集めて南米へ移送した。ユダヤ人から没収した財産。貴金属。宝石類。美術品。紙幣。有価証券。小さいものは金歯から、大きなものは潜水艦までと言った具合だ。

 

彼らの目的である総統特務666号とは、ナチス第三帝国の権力を如何にして永遠のものとするかと言うものだったらしい。

 

それらの模索は多岐に渡り、医学、薬学、生物学、化学、科学。果ては超能力などのオカルトと云われるモノまで。それらの研究により得られたモノをエサに、世界中のあらゆる業界からコネクションを獲得し、資金提供を受けて秘密裏に活動していた。

 

そんなミレニアムが、ここ10年近く密かにISに対抗する兵器を研究・開発する目的で、あらゆるところからISコアを奪取しているのだとか。そのミレニアムに奪われたISコアを回収する事が任務だが、同時にある事も任務に入っている。

 

ミレニアムが開発している対IS最終兵器の回収もしくは破壊。

 

この時点で疑問に思うことが有る。普通に考えればISを奪取する目的と言えば、相手が表の組織だろうと裏の組織だろうと、自軍の戦力強化だろう。

それをミレニアムに奪取されているにも関わらず、何故その目的が対IS最終兵器の開発だと知っているのか。流石に奪取した際に馬鹿正直に教えたとは考えにくい。

考えられるのは、ドイツ軍はミレニアムと裏で繋がりがあり、ISコアは奪取されたのではなく、なんらかの取引で渡したのではないか……。だからこそ、その目的を知っていると考えるのが妥当だ。

 

しかし、最強の兵器であるISはISでしか倒せない事は常識であり、IS以外のパワードスーツも確かに開発されているが、それらは到底ISと戦えるような代物ではない。

 

正直、私を含めた隊員達の頭はISコアの奪取だけを意識していた。

 

 

 

「ここが『ミレニアム』の拠点か?」

 

座標の位置についてみれば、完全に崩壊し、夥しい破壊の後がそこかしこに刻まれている施設があった。ISや人手を使って瓦礫を除去していくが、激しい戦闘の痕跡が見てとれる。明らかに何者かに襲撃された後だ。

 

人間が燃えたと思える焼け跡が幾つもあったが、床が焼け焦げた後しかなく遺体らしい遺体が無い。遺体が全て骨も残さず燃えたという事だろうが、それが機密保持のためだろう事は想像に難くない。

 

「ここか? 奇妙な場所と言うのは」

 

「ええ、他が瓦礫の山になっているのに此処だけが無事なんです」

 

「中には何かあったか?」

 

「いえ、空っぽです」

 

部下が瓦礫の山から発見したもの。施設が軒並み破壊されているにも関わらず、無傷で残っている部屋があった。部下が言う様に中には何も入っていない。しかし、これほど頑丈な部屋に中身が無いと言うのはかなり奇妙だ。一体何が入っていたのか。

 

「ココが研究施設だとすれば、中で保管されていたモノの予想は出来ます」

 

「なんだ? 言ってみろクラリッサ」

 

「研究者が何よりも頑丈に作るのは保管庫。そして保管庫に入れるものは、高価な実験器具でも、夜通し書いた論文でもない。世界中からかき集めた研究材料です」

 

研究材料……か。

 

となると、ここにISコアが保管されていたと言う事か。対IS最終兵器。その研究となれば、当然ISを確保して研究する必要があるとは思うが……。

 

「私とクラリッサは周囲を捜索。残りはココに残って探索を続けろ」

 

『了解!』

 

まだ周囲にミレニアムの生き残りか、襲撃者が潜伏している可能性を考えて、二手に別れて周囲を捜索する事にした。

 

私とクラリッサが周囲を索敵して30分ほど経った頃。プライベートチャンネルに、クラリッサから褐色の軍服を纏った金髪の男と、何故か篠ノ之束博士を発見したと連絡が入り、私は現場に急行した。

 

 

○○○

 

 

どうしたものかと考えていたら、突然嫌な予感がした。

 

篠ノ之束とアンクを引っつかんで大きく飛び跳ねると、さっきまで居た場所にワイヤーブレードが地面に突き刺さっていた。上空に目を向けると黒いISに乗った女が此方を見ている。奇襲が失敗したと見て、地上に降りてきた。

 

財団X……じゃなかった、亡国機業の追っ手かと思ったが、見覚えがある顔だった。

 

ドイツの国家代表にして、ドイツ軍『シュヴァルツェ・ハーゼ』の副隊長クラリッサ・ハルフォーフ。使用するISは専用機『シュヴァルツェ・ツヴァイク』。確かAICが搭載されている機体だった筈。

 

「ドイツ軍のクラリッサ・ハルフォーフだな?」

 

「そう言うお前は『ミレニアム』のメンバーだな?」

 

……何か可笑しいやり取りの様な気がする。そう思ったら、速攻でアンクがAICに拘束された。

 

「な、何するだぁーーーーッッ!! 許さん!!」

 

「そこの赤い鳥からISの様な奇妙な反応がするのでな、一応拘束させてもらった」

 

……まあ、膝蹴りよりはマシだな。

 

「我々『シュヴァルツェ・ハーゼ』は現在、『ミレニアム』が奪取したISコアの回収、そして開発したという対IS最終兵器の回収、もしくは破壊する任務についている。

そして『ミレニアム』の破壊された拠点で保管庫と思われる場所を発見。しかし、中身は空っぽだった。保管庫にはISが保管されていたのでは無いかと睨んでいるが、どうなんだ?」

 

目的を語り、有無を言わさぬ視線と物言いでクラリッサが迫るが、その言葉に篠ノ之束が反応した。

 

「ねぇ、保管庫に何も無かったって本当?」

 

「……ええ、全く何も」

 

「束さんはね~。ここに『白騎士』と『暮桜』のISコアを奪取した連中がいるって聞いて飛んで来たのだよ~」

 

この篠ノ之束の発言にクラリッサが驚いた。

 

『白騎士』に『暮桜』と言えばどちらも伝説と言っていいISであり、片やIS伝説の始まり。

片やブリュンヒルデこと、織斑千冬が使った第1世代型IS。その二つのISのコアを求めて来たと言うのだから。

 

「……知ってるぞ」

 

「へぇ? どこにあるのかな? 教えてよアンくん」

 

「アンくん? まあ、いい。それなら俺達に協力しろ。この女はゴクローが倒す。その後で俺達に協力するなら『白騎士』と『暮桜』のISコアについて俺が教えてやる。言っておくが、ゴクローは知らないぞ」

 

「ふ~~ん? まあ、いいよ。束さんもこのまま軍隊のお世話になんてなりたくないし、『白騎士』と『暮桜』をこれ以上誰にも渡したくないし」

 

「交渉成立だな。ゴクロー、ここで奴を倒してとっとと逃げるぞ」

 

勝手に話を進めて篠ノ之束に協力を取り付けたアンク。AICに拘束されているにも関わらず余裕だな。とりあえず、アンクに掛かったAICの拘束を解くか。

 

エターナルエッジを召喚し、取り敢えずクラリッサに向けて投擲。続けてスタッグフォンとバッドショットを起動してクラリッサを攻撃させる。

 

意識を他に向けたことで、AICから解放されたアンクが腰に装着されているドライバーに入っていく。ドライバーには、タカ、クジャク、チーターのメダルが装填される。しかし、なんだってこうも次から次へと厄介事が舞い込むのやら。

 

『ま、楽して助かる命が無いのは、どこも一緒ってやつだ!』

 

確かにその通りだが、お前がその台詞を言うのかアンク。

 

「変身!」

 

『タカ! クジャク! チーター!』

 

「何!?」

 

今回は初めから亜種形態のタカジャーターに変身。メモリスロットにはジョーカーメモリ。パッケージは『Type-ZERO』。右手にメダジャリバーを召喚する。

 

「なるほど、その全身装甲のISがミレニアムの最終兵器か?」

 

『違う。これは「オーズ」。どれ程のものかは……今に分かる』

 

アンクの台詞が終わると同時に、即座に対AIC用の行動に移る。AICは特性上タイマンなら殆ど無敵の能力と言えるが、常に意識を対象に集中させなければならない。

 

ここで取るべき戦法はヒット&アウェイ。IS戦においては『砂漠の逃げ水【ミラージュ・デ・デザート】』と呼ばれる戦法らしい。

 

チーターの高速で移動しつつ、メダジャリバーで接近戦を挑んだと思えば、離脱してタジャスピナーの火炎弾を撃ちこむ。かと思えば、火炎を纏った打撃をすれ違い様に叩き込む。盾と射撃、更に火炎を纏った打撃を兼ねるタジャスピナーはかなり便利だ。

 

向こうも近距離はレーザーブレードで対抗し、ワイヤーブレードを射出して多角的な攻撃を繰り出してくるが、全て回避するか、タジャスピナーで受け止めて防御、もしくはメダジャリバーで切り裂いている。AICも発動しているが、タカの目ではしっかりとソレが見えており、見てかわしている。

 

『悪くは無いが、コレじゃセルメダルがなかなか貯まらんな』

 

それなら最後の締めはタトバキックにしないかアンク。AICの対策も考えている。

 

『ほう、それなら試してみるか』

 

ヒット&アウェイを繰り返してシールドエネルギーを大分削った頃、ドライバーのメダルがクジャクとチーターから、トラとバッタに変更され、スキャンしてコンボチェンジする。

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

「!? 姿が……いや、武装が変わった!?」

 

「タトバタトバ? 変な歌だね~?」

 

歌は気にするな!

 

アンクが突っ込みを入れず、俺が心の中で突っ込みを入れつつ、タトバキックを発動する為にメダルを再スキャンする。

 

『スキャニングチャージ!』

 

バッタレッグをバッタの足の様な逆関節に変形させて、上空高く飛び上がる。赤・黄・緑の三つのリングが空中のオーズからクラリッサに向けて真っ直ぐに出現した。

 

オーズが赤いリングを潜ると背中から赤い翼が出現し、黄色のリングを潜ると周囲に黄色い爪状のエフェクトが出現する。

 

原作においては不遇な扱いを受けたが、演出がかなりカッコイイ必殺技である。

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「! 貰ったぁッッ!!」

 

そして、緑のリングを潜り蹴りつけようとするが、やはりAICで止められる。タトバキックを止めたクラリッサは勝利を確信した表情をし、レールガンの銃口を此方に向けた。

 

しかし、この俺がこのタトバキックの特性を考えていないと思うなら大間違いだ。

 

「アンク! セルを二枚だ!」

 

『チッ! さっさと決めろ!』

 

『セルバースト!』

 

セルメダル2枚で発生する『セルバースト』でタトバキックの出力を上げる。AICで止められる事を前提に、単純にタトバキックの威力を上げて突破すると言う実に分かりやすい作戦だ。セルメダルの力を、瞬間的に通常出力の290%ものエネルギーを解放することで得られる出力は、レールカノンが発射される前にAICの拘束力を上回り、不可視の壁を突き抜ける。

 

これで決まりだ。

 

そう思っていたら今度は横から何者かに撃たれて吹き飛ばされてしまった。多少の手ごたえはあったので、完全に外したわけではないが、決める事が出来なかった。

 

クラリッサに目を向けるとISの右半分の装甲とレールガンが破壊されているが、戦闘不能かと言われれば微妙。

 

「クラリッサ。無事か?」

 

「助かりました、隊長」

 

「そうか。しかし、アレは何だ? 停止結界を振り切ったぞ」

 

「分かりません。しかし、『ミレニアム』の構成員に間違いないかと」

 

「ほう……貴様が『ミレニアム』の対IS最終兵器とやらか。眉唾物だと思っていたのだがな」

 

何かブツクサと言っているが、そんな事はどうでもいい。しっかりと対策を立てておきながらもタトバキックが失敗に終わるというこの屈辱。少佐はタカキリーターのバズーカ誤当を凌駕したと言うのに。

 

おのれディケイドォォォォ!!

 

「ドイツ軍『シュヴァルツェ・ハーゼ』隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

劇場版では悪堕ちから始まる大首領のもやしに八つ当たりしたら少し落ち着いた。

 

新たに現れた銀髪の少女。彼女も見覚えがある。いや、よく知っていると言うべきか。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

少佐から教わったドイツ軍が造った遺伝子強化試験体。

 

IS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」隊長。

 

実質的にドイツにおける最強のIS操縦者。

 

そして、ブリュンヒルデこと、織斑千冬の教え子。

 

話には聞いていたが実際にお目にかかるのは初めてだ。

 

「お前がラウラ・ボーデヴィッヒか。俺はゴクロー・シュレディンガーだ。初めましてと言うべきかな――兄妹?」

 

「兄妹?」

 

「お前は戦う為に、俺はISを打倒する為に造られた人間。目的は違うが、お互いに狂気の科学によって生み出された戦う為の生物兵器。言ってみれば俺とお前は同じ、人間の欲望から生まれた科学の怪物。何も間違ってはいない」

 

「……ふざけるな。私はお前とは違う」

 

「……そうか。俺は出来ればお前とは戦いたくは無かったのだがな……」

 

もっとも、作られた順番で言えばゴクローの方が後なので、むしろラウラが姉でゴクローが弟である。

 

ラウラのISが戦闘態勢に入り、腕からレーザーブレードを発生させる。『シュヴァルツェア・レーゲン』と『シュヴァルツェア・ツヴァイク』は姉妹機と聞いていたが、今回二機の装備は同じようだ。

 

『面倒な事になってきたな。メダルをコレに変えろ!』

 

『ライオン! カマキリ! チーター!』

 

アンクの指示でタトバコンボからラキリーターへとコンボチェンジ。即座にライオネルフラッシュを発動させる。

 

「また変わった!?」

 

「チッ! 目晦ましか!」

 

ライオネルフラッシュの目晦ましと、チーターレッグによる高速移動を繰り返し、すれ違い様にカマキリアームで切り裂いていく。

 

「ちぃ! ちょこまかとッ!」

 

「隊長!」

 

先ずは援護しようと起き上がるクラリッサを仕留める。素早い動きで死角へ回り込み、加速をつけたチーターレッグのキックがクラリッサに炸裂する。

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「がぁッッ!!」

 

ダメ押しに加えられた攻撃で、メダルを撒き散らすウヴァさんの様に、装甲の破片を撒き散らしながら吹っ飛んだ。クラリッサのISが今度こそ戦闘不能になり解除される。

 

相手が任務優先の軍人相手ならココまでやっても油断は出来ないが。最悪、自爆特攻なんぞ仕掛けてくるかも知れんし。

 

「クラリッサ! 貴様ァアアアッッ!!」

 

残るはラウラだが、ワイヤーブレードとAICで捕らえようとするが、全てかわすか、カマキリソードで切り裂いて処理していく。だが、段々攻撃の命中精度が上がってきた。流石に、篠ノ之束に当たる可能性を考えてレールカノンは俺を拘束しない限り撃たないようだが。

 

『そろそろ相手もこっちの動きに慣れてきた。コイツに変えろ!』

 

『ライオン! カマキリ! バッタ!』

 

ラキリバにコンボチェンジし、バッタレッグを変化させて周囲の木や岩を足場にして飛び跳ねる。ラウラは先ほどまでの、線の動きの高速移動と全く違う、上下左右からの三次元的な動きと逆手に持ったカマキリソードの攻撃に戸惑っている。

 

「やっぱり使いやすいなコレ」

 

普段からよくコンバットナイフを逆手持ちで使っているせいか、アドリブではなく本当にカマキリは使いやすい。再びライオネルフラッシュを放って接近する。

 

「ふっっ!!」

 

「ふん! そう何度も通用すると……」

 

「TAKO~♪」

 

「うわぁ!?」

 

今度はライオネルフラッシュ発動と同時にタコカンを一体起動させた。ライオネルフラッシュを予想して光から目を守ったラウラだが、タコカンはラウラの顔面に墨を吐きかけ両眼を塞ぐ。

 

『スキャニングチャージ!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

タコカンの墨を受けて怯んだ隙を逃さず、バッタレッグで跳躍しカマキリソードでISの装甲だけを刺し貫く、ラキリバの必殺技を叩き込んだ。目の見えない状態でまともに必殺技を受けたラウラのISもダメージにより解除された。

 

「決まったな」

 

「よし、今の内に早く脱出するぞ」

 

アンクがドライバーから飛び出し、デウス・エクス・マキナ号へと向かい、篠ノ之束はアンクの後ろをひょこひょこと付いて行った。

 

大丈夫だとは思ったが、一応『オーシャン』のメモリで水を出してラウラの目を洗ってやった。多少抵抗されたが無視した。墨が一通り落ちたところで変身を解除する。ラウラは悔しそうな、そして憎しみを込めた目で俺を睨んでいた。

 

「……また会おう、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

振り返る事無くデウス・エクス・マキナ号へ乗り込むと、俺達は篠ノ之束の指定する座標の場所へ行く事になっていた。この女のアジトか……警戒するに越した事は無いな。

 

 

○○○

 

 

負けた。負けてしまった。

 

しかも、『白騎士』と『暮桜』のISコアを持っているというミレニアムの残党を相手に。敬愛する織斑教官のISコアを奪取していたと言う許せない相手に。

 

篠ノ之束博士と言う予想外の存在により、最大火力の武器をおいそれと使う事が出来なかった。しかし、それでも負けてしまった事は事実。

 

だが、それ以上に私が気になったのはその後。

 

ISが解除され、目潰しによって目の見えない私の目を洗い、墨を落した後で変身を解いた装着者の姿が顕になる。金髪に黒のメッシュが入った20代位の若い男だった。

 

「……また会おう、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

睨みつけていた私に向かって、そう言った男はとても深く哀しい目をしていた。

 

違う。

 

勝者はそんな目をしない。勝者は敗者をそんな目で見たりはしない。

 

現に私が『出来損ない』の烙印を押された時、転落して敗者となった私を見る周りの目は、侮蔑や優越感、嘲り、或いは憐れみと言った感情が表れていた。織斑教官に出会い部隊最強の地位に返り咲くまで、誰もが当時の私をそんな目で見ていた。

 

お前はISを打倒する為に生まれたと言ったではないか。

 

それならこの結果はお前にとって喜ばしいことではないか。

 

打倒すべき敵を倒したのだから嬉しいに決まっているではないか。

 

それなのに、何故そんな目をしていたのだ。

 

施設を探索していたIS操縦者の隊員に連絡を取り、私とクラリッサの負傷とISのダメージもあって、これ以上の任務続行は不可能と判断し、ドイツに帰還する事となった。

 

任務失敗。上層部にその事を告げ、損傷したISを整備の方に回し、『オーズ』との戦闘データを提出した後、謹慎を言い渡された。

 

これからきっと肩身の狭くなる毎日が待っているだろう。だが、私はあの男の深く哀しい眼差しの意味をずっと考えていた。




キャラクタァア~紹介&解説

シュラウド
 正確にはシュラウドもどきの科学者。死んだ息子の名前がライトだったりする。ISや篠ノ之束に対する憎しみはミレニアムメンバーでもトップクラス。目的達成の為になりふり構わない所があり、その所為でゴクローはテラードーパント以上の恐怖を体験する破目になった。
 少佐と共にこの作品にアンチ・ヘイトタグを着けた理由になった人。ぶっちゃけ、アンチって何処までがアンチなのか悩む。

クラリッサ・ハルフォーフ
 おかっぱ頭とオタク趣味が素敵な黒ウサギ隊のお姉さま。専用機の『シュヴァルツェア・ツヴァイク』の描写が原作に無いから姉妹機の『シュヴァルツェア・レーゲン』と同じ装備に設定。仕方ないんだ。ほんの数行でイマイチ機体のイメージが出来ないんだ。
 ラウラと同じ現場に居た事で、ラウラから悩みを相談された結果、ラウラに『北○の拳』全巻と、ラ○ウ伝のDVDを渡した。『出来れば君とは戦いたくない!』『戦う事でしか、俺とお前は分かりあえない!』的な事の顛末を、クラリッサの主観による若干の脚色が入りつつも他の黒ウサギ隊員にも話し、原作よりも早くラウラと黒ウサギ隊の仲が良くなっていたりする。

ラウラ・ボーデヴィッヒ
 ブラックラビッ党の銀髪眼帯娘。眼帯をしている時点で『NARUTO』カカシ先生の様な写輪眼の使い手だとゴクローは思っていたりする。
 対オーズ戦の後、ゴクローがふと見せた深く哀しい眼差しに劇場版『AtoZ~運命のガイアメモリ~』のフィリップ以上に戸惑っている。信頼する副官に相談した結果、渡されたものを全てきっちり鑑賞し、ゴクローの眼差しが愛を知った○オウや、ケンシロ○のそれだと考え、愛を知り強くなる為に副官のアドバイスの元で、全力で間違った方向に努力している。
 原作ではイマイチ搭載理由の不明なVTシステムは、本作ではこの時の戦闘がキッカケで秘密裏に搭載される事になる。



インビジブルメモリ
 不可視の記憶を持つガイアメモリ。本家『W』においては変態と名高い井坂先生が過剰適合者のマジカルレディに与えた改造メモリ。死ななきゃ取り出せないなら、死ぬことを前提に考えればいいって言ってのけるフィリップ君マジパネェ。
 本来の能力はシュシュっと参上な透明化だが、『HUNTER×HUNTER』を読んだゴクローは相手の盲点に入り込むレベル2まで成長させた。もしも、井坂先生が知ったら大歓喜し、速攻でテラードーパントに挑戦したであろう仕上がり。

タトバキック
 本家『オーズ』にて基本形態であるタトバコンボの必殺技。単体使用では初使用の補正が掛かっているはずのネコヤミー戦でも、真のオーズとして覚醒した主人公補正が掛かった最終回でも決まりきらない。もはや呪いか様式美であり、ぶっちゃけ『MOVIE大戦MEGA MAX』で雑魚をまとめて爆殺したときが唯一の単体使用での成功ではなかろうか?
 別の世界のコピー商品でもその恐るべき因果は健在。如何なる努力や策を講じても単体では成功しない。そう、大戦が起こらない限りは……。


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第5話 Dが見ていた/あにいもうと

二分割により、いつもより短め。基本的には一話につき10000文字を目安にしています。

週に一回の投稿を目指してみたけど、思ったよりキツイかった。

次は2週間後位になるかと思います。それでは読者の皆様、良き週末を……。



ドイツ軍の追っ手を撃退し、デウス・エクス・マキナ号が往く。いやにハイテンションなウサギを乗せて。

 

「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇ、束さんに教えてよ~。ねぇねぇ~」

 

「うるせぇなウサギ女! ちゃんと『白騎士』と『暮桜』のISコアは渡したろうが!」

 

束がしつこく俺にさっきのアレはなんなのか、グルグルグルグルと俺の周りながら、ねぇねぇねぇねぇとしつこく聞いてくる。

 

アンクの言うとおり、『白騎士』と『暮桜』のISコアは既に渡してある。このデウス・エクス・マキナ号に隠されていた。他にも何かとんでもないものがある気がしないでもない。

 

だが、『オーズ』が束の興味の対象となってしまったらしく、さっきから猛烈にアピールされている訳だ。

 

「……ねぇ。もしも、教えて調べさせてくれるなら、束さんの事好きにしていいよ?」

 

くるくる回るのを止めて、今度は後ろからぎゅーっと抱きつかれ、耳元でやたら艶のある声でそんな事をささやかれた。禁断の果実をグイグイと背中に押し付けてくるし。

 

しかし、何でもとな。それなら俺が提示する条件はただ一つ。

 

「本当に好きにしていいのか?」

 

「そうだよ。好きにしていいよ」

 

「それなら、歌を歌ってくれないか?」

 

「……歌?」

 

コテンと首を傾げる束。彼女にとって予想外の答えだったようだが、俺の答えに不服だったヤツがいる。

 

「おい! 『オーズ』の情報の代価が歌って、何考えてやがる!」

 

「束にその可愛くて綺麗な声で歌を歌って欲しい! それが俺の欲望だ!」

 

「全ッ然ッ! 割りに合わねぇっつってんだ馬鹿!」

 

いいじゃないか、どこぞのリア充破壊爆弾を撒き散らす蜘蛛のドーパントとは違うんだから。無理やり掻っ攫って『俺だけの為に歌ってくれ、メリッサ~』とか言った訳でも無い。

 

アンクと割りとガチで言い争いになって、結局しばらくの間、束のラボに居候する事で決着した。もちろん、束には歌もきっちり歌ってもらう。

 

野を越え、山を越え、海まで越えて、漸く砂漠地帯に造ったと言うラボに到着した。周りには位置関係の参考になるような物は何も無い。

 

「オ~プンセサミッ!」

 

束がどこぞの『天の道を行き総てを司る男』の様に天に指を向けて叫ぶと、地下にあるラボへ通じる入り口が現れた。この怪物マシンが入るほど大きい。怪物マシンを指定された位置に格納して、束の後ろをついて行くと、さっきのラウラ・ボーデヴィヒとよく似た子が待っていた。

 

「くーちゃん、ただいまー! 今日はお土産があるんだよー!」

 

「お帰りなさいませ、束様」

 

束にとって俺達はお留守番しているこの子のお土産と言う認識なのか?

くーちゃんと呼ばれた少女は両目を閉じているが、特に問題なく行動できるみたいだ。盲目なのか、それ以外の理由で閉じているのか。

 

「初めまして、ゴクロー・シュレディンガーだ。こっちはアンク」

 

「初めまして、私はクロエ・クロニクルです。以後お見知りおきを」

 

 

●●●

 

 

束に『DXオーズドライバーSDX』を提出し、『オーズ』の戦闘データをモニターに移したとき、クロエが両目を開けた。開かれたクロエの両目は金色の瞳と黒色の白眼だった。両目を閉じていた理由はコレか。

 

先程のクラリッサとラウラとの戦闘データを見た後で、クロエはこっちをじっと見つめてこう言った。

 

「……何も聞かないのですか?」

 

「聞いて欲しいのか?」

 

「………」

 

「まあ、予想はつくがな。さっきの眼帯女はドイツ軍のデザイナーベイビーだ。それとよく似たコイツも同じ計画から生まれたデザイナーベイビーってトコだろ。ここに居るって事は失敗作ってトコだろうな」

 

アンクめ、言わんでもいい事を。どう考えても触れて欲しくない話題だろうに。

 

「はっ! お前が聞かないから言ったまでだ」

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ。アレはなれなかった私の完成形」

 

「……完成形ね。そんなに価値のあるものとは思えないが」

 

「ッッ……完成形の貴方には分からない」

 

完成形の貴方? この俺が?

 

そう言われてつい笑ってしまった。

 

「何が可笑しいのですか……」

 

「冗談はよしてくれ。俺なんて出来損ないもいいところだ。俺も。アンクも。ドライバーも。結局のところはコピー商品さ」

 

「うん? ちょっと待って? それってつまり本物があるって事だよね?」

 

束が俺とクロエの会話に入ってきた。まあ、気になるわな。そんな事を言われれば。

 

「……今から話す事は真実だ。今から言う言葉に嘘は無い。その前提で話をする」

 

それからこの世界に来た経緯とミレニアムの活動をアンクと一緒に話した。

 

ミレニアムの奇妙な実験。ISを模倣して作られた仮面ライダー。アンクの誕生。コアメダルとガイアメモリの製造。

 

俺自身も、アンクも、このDXでSDXなドライバーも、全てが紛い物なのだと言う事を。

 

「平行世界の人間ねぇ。確かに信じがたいけど、束さんは信じるよ。そうでないと辻褄の合わない事もあるし」

 

束の近くには『白騎士』と『暮桜』のISコア。そして、さっき俺が取り出したエターナルメモリとロストドライバー。

 

アンクが言ったことで分かったことだったが、『ミレニアム』は『仮面ライダーエターナル』の教材として『白騎士』と『暮桜』のISコアを回収したとの事。何故、俺に詳しく教えなかったのは疑問だが、絶対裏で何かやったな。

 

「そう。俺の身体は他人のクローン体で、ドライバーも模倣した紛い物。本来ならこの世界に居ること自体が間違っている……と言っても良いだろう」

 

「……それでも見方を変えれば貴方は成功例です」

 

「そうだな。ミレニアムから見れば俺は成功例だった。だが、それは俺とは関係ないだろ?」

 

「………」

 

「むしろ、成功した事で、他人の求める人間になる事を強いられる。俺の意思とは無関係に。それは造った人間からすれば当然の事で、造られた人間のあるべき姿なんだって感じがした。実際、そんな感じだった。だが、『そこ』に『俺』は居ない」

 

シュラウドが俺に憎しみを植えつけようとしたように。大隊のメンバーが俺に自分達の憎しみを晴らしてもらおうとしたように。

少佐も俺を仮面ライダーにしようとしていたが、少佐は『俺』を見てくれていた。何故かは分からないが、そんな感じだった。

 

「誰が何と言おうと、俺は俺だ。俺は俺として生きて、俺として死にたい。この体が、この名前が、この手に掴んでいる力が、この生きている世界が本来のものじゃないとしても。ここにいる俺は、紛れも無く俺だ」

 

右手を心臓の位置に置いてしっかりとクロエの両目を見つめて宣言する。

 

俺は俺なのだと。

 

「それでクロエ。君は一体何者なんだ?」

 

「私は……クロエ・クロニクルです」

 

「そうだ。クロエ・クロニクルだ。クロエ・クロニクルとして生きて、クロエ・クロニクルとして死んでいく。君がクロエ・クロニクルだからだ。俺は俺で、君は君だ」

 

 

○○○

 

 

『白騎士』と『暮桜』のISコアを回収してくると単身飛び出していった束様が見た事も無い巨大なマシンに乗って帰ってきた。

 

マシンと一緒に束様が連れてきたのは、『白騎士』と『暮桜』のISコアを奪取したと言う『ミレニアム』なる組織の構成員にして、開発した対IS最終兵器『仮面ライダーオーズ』の使い手とその相棒。

 

ゴクロー様とアンク様。

 

束様は彼らの戦闘記録を私に見せてくれた。その対戦相手の一人がよりによって、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

私の成れなかった完成形を倒した所を見せられた。それを見てこの人も私の成れなかった完成形なのだと思った。そんな思いとは裏腹に、ゴクロー様は自分の事を笑いながらコピー商品だと言い切った。

 

ゴクロー様の話した内容はとても信じられない話だった。しかし、束様は信じた。私にはイマイチ分からないが、そう考えると辻褄の合う事も幾つか有るのだとか。

 

才能の有る者は、それを持っていない者の気持ちを理解できない。ゴクロー様は持っている人だから『完成形に意味があるのか』なんて事が言えるのだと思っていた。

 

それは違った。

 

さっきの話が本当なら、ゴクロー様は本来の自分から紛い物になってしまったのだ。本来の自分の記憶を持つゴクロー様はどんな気持ちだっただろう。他人から『他人にとって都合のいい偽物の自分』を求められて、『本来の自分』を求められない。

 

私には想像する事しか出来ないが、この世界の目に付くもの全てが、自分が為してきた事全てが、何もかもが紛い物だと思ってしまうのではないだろうか。

 

ゴクロー様は自分の胸に手をやって、私を真っ直ぐに見て言った。

 

「この体が、この名前が、この手に掴んでいる力が、この生きている世界が本来のものじゃないとしても。ここにいる俺は、紛れも無く俺だ」

 

ゴクロー様に何者なのか尋ねられて、私はクロエ・クロニクルだと答えた。

 

何の事はない、さっきも言った自己紹介の言葉。

 

しかし、それは完成形であるラウラ・ボーデヴィッヒと、失敗作の自分を比べて、自分に言い聞かせるつもりで、自分を慰めるつもりで、自分に仕方ないのだと言い訳をするつもりで。

 

この名前を口にする度、そんな思いを自分で知らず知らずの内に込めていたのではないだろうかと思った。

 

「そうだ。クロエ・クロニクルだ。クロエ・クロニクルとして生きて、クロエ・クロニクルとして死んでいく。君がクロエ・クロニクルだからだ。俺は俺で、君は君だ」

 

ゴクロー様の目はとても力強く、確固たる自分を持っている様に見えた。

 

そして、私は唐突に言葉ではなく心で理解した。

 

この人の考え方が、この人の生き方こそが、ラウラ・ボーデヴィッヒではない、私が心のどこかで求めていた『クロエ・クロニクルとしての完成形』なのだと。

 

例えこの体が幾らでも何度でも造れるモノなのだとしても。

 

きっと人工的に合成された遺伝子が私の全てなのだとしても。

 

この心は、この意思は、この魂は、私だけの唯一無二のオリジナル。

 

私は……私なのだ。

 

私はクロエ。クロエ・クロニクル。

 

真っ直ぐに、堂々と胸を張って言える様な気がした。

 

 

○○○

 

 

ずっとクロエの目を真っ直ぐに見つめて、クロエに若干ネタの入った自分の考えを話し続けた。クロエの顔が、何か憑き物が晴れたような、何か悟ったような顔になった……と思いきや、なにやら今度はハッと思い出したように俺に質問してきた。

 

「あの、気になら無いのですか?」

 

「何が?」

 

「えっと……いえ。何でもありません」

 

「そうか」

 

「くーちゃんは目の色が気になら無いのかって聞きたいんじゃないかな?」

 

束に指摘されて、クロエに別に気になら無い事を伝える。白眼が黒目のメンバーも居たからだ。それ以上に目立つ刺青が体の右半分に入っていて、『THEガッツ』のコスプレが異常に似合う男前な姿の方が目に付いたし。

 

「ところでクロエ。俺の髪を見てくれ。コレを見てどう思う?」

 

「えっと……金髪に黒のメッシュです」

 

「おう。お揃いの色合いだ。気にしてるって点でも」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。せめてどっちかに統一されればと思ってるだけど、染めるのもな……」

 

大道克己が茶髪に青メッシュだが、俺は金髪に黒メッシュだ。

当初は童顔のフィリップ似のショタだったが、成長するにつれて段々と克己っぽくなってきたことが余計に髪の色を「なんだかな」と思わせるのだ。

しかし、毛根にダメージを与えたくないので、染める事は今後も考えていない。

 

「私はカッコ良いと思いますよ?」

 

「ありがとう。クロエの目も綺麗だよ」

 

クロエが褒めてくれたので褒め返す。自分がコンプレックスとして気にしている所を褒めてくれたなら、尚更褒めてあげなければなるまい。

 

「……そ、そう言えば、アレの事を兄妹と言っていましたよね?」

 

「……ああ」

 

少佐からラウラの事を聞いたときに、劇場版『AtoZ~運命のガイアメモリ~』の大道克己がフィリップに言った台詞を、ラウラに会った時に是非とも言ってみたかったんだ。しかし、一応は妹に当たるラウラをアレ呼ばわりとか……まあ、仕方無いとは思うけど。

 

「それなら、私だって兄妹と言っても良いですよね?」

 

「ん? まあ……そうだな」

 

「それで、ですね……兄様と……呼んでもいいですか?」

 

クロエは下を向いて指を動かしながら、ぼそぼそと小声で話しているが、ちゃんと聞こえているし、クロエの耳が真っ赤になっている。

 

「いいよ」

 

「! はい!」

 

「お前、随分軽く言うな……どうなっても知らんぞ」

 

即答した所為なのか、アンクが若干呆れた目で俺を見ている。良いじゃないか、こんな妹分ができても。束が驚いた目で見ているが気にしない。

 

 

 

クロエが兄様と呼んでから2時間程経過した頃、俺はクロエとキッチンにいた。

 

「ハンバーグはひき肉を使うよりステーキ肉を包丁でミンチにした方が美味い」

 

「なるほど、勉強になります」

 

しばらくここにいるのだから料理の一つでも手伝おうと思った訳だが、提案して料理が出来ることを言ったら、クロエが料理を見て欲しいとモジモジしながら言ってきた。可愛い。

 

話を聞くと、束から『女の子は料理の一つも覚えないといけないんだよー』と言われてクロエが料理を担当しているのだが、どう頑張ってもクロエは消し炭かゲルしか作れないらしい。しかも束は一切教えないときた。それでも束は美味しいと食べてくれるのだが、いつも申し訳ない気持ちで一杯なのだと言う。

 

「肉を捏ねる前に手を冷やして置かないと駄目だ。肉の脂が手の温度で溶けて不味くなるからな」

 

「はい、兄様」

 

ミレニアムではまともに料理を作れるのはドクとバトラーのおじいちゃんだけだった。女子連中は基本的に料理しないので、飯は自分で作る事が基本となり、それなりに作れる。

 

ちなみに最初に教わった料理は、ドクがザワークラフトを作る為のキャベツの栽培方法で、バトラーのおじいちゃんはバーホーテンのココアの淹れ方と、紅茶の淹れ方である。……何か違う気がしたけど。

 

その日の夕食はクロエが初めてまともに作れたと言うハンバーグだった。型を作って焼いた目玉焼きも乗せて『ローゼンメイデン』の花丸ハンバーグ風にした。

 

笑顔でハンバーグを食べる束以上に、それを見て満面の笑顔を浮かべるクロエに癒された。キャワイイ。

 

「えへへ。ちゃんと出来ました、兄様」

 

「……ああ、次はオムライスだ……」

 

次の瞬間、俺は何故かアンクに殴られた。何でも「よくわからないが、おかしな雰囲気を察した」かららしい。

 

 

○○○

 

 

『マトリックスはお前を見ている。白兎を追え』

 

そんな意味不明のメールに、行方不明になった『白騎士』のISコアと、凍結封印されている筈の『暮桜』のISコアを秘密裏に奪った組織があり、その拠点の座標が記されていた。

 

そんな情報が私のラボに送られてきた。この束さんの手でも何故か逆探知する事が出来なかったが、それが逆にこの情報の真実味を感じさせた。

 

正直、罠の匂いがぷんぷんするけど、『白騎士』と『暮桜』は私の作ったISの中でも特に思い入れが有るモノだ。まあ、この天才束さんの手に掛かれば無問題でしょと考えて、愛しのくーちゃんにお留守番を頼んで出発した。

 

現場に着いたら、何やら激しくドンパチしていたからチャンスを伺っていたんだけど、突然下から来た強烈な衝撃で気絶してしまった。

 

気がついたら、見たことの無い男と赤い鳥が居た。男の方は興味無いが、赤い鳥の方はISコアみたいな反応がある。ちょ~っと興味が湧いて『分解して』調べようと思ったら、空気の読めないドイツ軍人がやってきた。勝手に目的を喋ってくれたケド、こりゃ束さんの事もついでに捕まえるつもりだね。

 

そう思っていたら、赤い鳥のアンクことアンくんが取引を持ちかけてきた。まあ、悪い取引じゃなかったからOKした。どうやって切り抜けるのか興味あるし。

 

それからの展開には驚いちゃったよ。男の方が見たことも無い道具を使って、変身してドイツ軍人を二人も倒しちゃったんだよ。ISの様な反応があるけど、ISで無い様な不思議な道具だった。変にヒーローっぽいのが気になるけど。

 

それで男の方、ゴクロー・シュレディンガーのゴッくんの方に興味が湧いたんだけど、変な奴だと思った。

 

全然相手してくれないから、試しに胸を押し付けて『私の事を好きにして良い』と言ったら『歌を歌って欲しい』と言ってきた。言っては何だが、これでも結構スタイルには自信があるし、経験はないケドそーゆー知識も有る。普通なら男はこーゆー時は興奮して下世話なことを提案するんじゃないの?

 

まあ、それを免罪符にして油断した所で奪ってやろうと思ったんだけど、ちょっと予想外な提案だったからどうしようかと思った。アンくんと本気で言い争っていたから、多分本当に私に歌を歌って欲しかったんだろう。

 

でも、今まで声が可愛くて綺麗だ何て言われたことあったかな……。

 

 

 

ラボに戻ってゴッくんとアンくんの話を聞いてドライバーを軽く解析してみた。なんとも出鱈目な話だけど、あの2人は嘘をついてないと機械に出ているのだ。束さんが作ったものだから信じるしかないね。

 

このオーズは、ドライバーは器で三分割したISコアを交換して戦うようなもの……と言うのが正しいのだろうか。

 

それ故に、同系統の三枚を揃える事で本来のISコアと同じ状態にして、経験値を稼いでレベル2にならない限り、ISで言うところの『単一仕様』が発動しないんだろう。

中々興味深いけど、これは成長させる為にかなりの労力と時間が掛かるね。

 

エターナルと言う0号の方も興味深い。でも『マキシマムドライブ』とか言う最大出力は一度も使ってないみたい。ゴッくんに理由を聞いたらこう答えた

 

「エターナルのマキシマムは、実質生身の人間に最低でも12tの蹴りを叩き込むような技だ。そんな文字通りの必殺技そうそう使えるわけがないだろ」

 

エターナルの必殺技『エターナルレクイエム』は、『暮桜』の『零落白夜』と同じような能力だ。対象のエネルギー全てを消滅させ、シールドバリアーを斬り裂くことで相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えられるこの能力は、一歩間違えば人を殺してしまうような能力。

 

正直、束さんは有象無象なんてどうなっても良いと思うんだけど、ゴッくんはお人好しなんだね。大事だろうドライバーを二つとも束さんに預けるなんて、不信感とか無いのかな?まあ、そのお人好しに免じてドライバーは解析するだけにしよう。

 

もっとも、『白騎士』と『暮桜』のISコアを、他の24個のISコアみたいに破壊していたら、これらのドライバーもメダルもメモリも全部、一つ残らず、完全に分解してやるつもりだったけどね。

 

他にも、プレゼンターとの接触を目的としたドライバーについても教えてもらったし、データも見せてもらった。こんな事も考えてたんだね、君達は。

 

うん。いつか、月に秘密基地を作るのもいいかも知れないね。

 

 

 

中々に有益なものが手に入ったけど、それ以上に予想外な、そして面白くないことが起こった。

 

くーちゃんがゴッくんに懐いている事だ。幾ら束さんの事をママと呼んでと言っても、全然呼んでくれないくーちゃんが、ゴッくんの事を兄様と自分から呼んでいる。

 

今までほとんど成功しなかった料理を教えてもらって、今迄で一番上手くできた料理を私が美味しいと言った時は、くーちゃんは嬉しくて仕方が無いって感じの笑顔を見せてくれた。ずっと傍に居たけど、あんなくーちゃんの笑顔は一度も見た事が無い。

 

あれから毎日、ゴッくんからお料理やお菓子の作り方を教えてもらっているくーちゃんは実に楽しそうだ。何故か2人で執事服とメイド服姿でラボを掃除してた時もあったが、それも楽しそうにしていた。

 

面白くない。とっても面白くない。

 

くーちゃんとゴッくんが2人で居るのが面白くない。

 

それであることを考えて、二人きりになったときに聞いてみた。

 

「ねえ、ゴッくんはもしもくーちゃんがピンチになったら助けに行く?」

 

「ん? そりゃ、勿論助けに行く」

 

「それじゃ、束さんがピンチになったら助けてくれる?」

 

「ああ」

 

「……それでもしも、世界中がゴッくんの敵になっても?」

 

「問題ない。クロエも束も助ける。あれだ、数日前からの長い付き合いってやつだ」

 

即答だった。そこまで言うなら証明してもらおうじゃないか。

 

隠しカメラにはさっきの会話がちゃんと撮れていた。あとは、こないだの戦闘とは比べ物にならない位の状況を作り出すだけ。とてつもなく危機的な、絶望的な状況こそ、人の本性が顕になる。

 

その本性が、今まで見てきた有象無象と同じ、口先だけのクズなのか。

 

そこらへんに転がっている凡愚と同じ、いざとなれば平気で掌を返すのか。

 

恥も外聞も無く無様に泣き出して助けを求め、許しを請うのか。

 

或るいは、私達を生贄にして自分だけ助かろうとするのか。

 

どっちにしたって、その本性を見ればくーちゃんも幻滅するだろう。そしてまた、前みたいに2人きりでどこかで暮らそう。

 

それとも……本当にその言葉の通りに、助けてくれるのかな。

 

「見せてもらうよゴッくん。偽物を使う偽者が、どれだけ本物を相手に戦えるのか」

 

どうしても確かめたい。

 

ゴッくんの本性を。

 

その言葉が嘘ではないのかどうかを。

 

 

○○○

 

 

ゴクローとアンクが束のラボに居候してから一週間後。『テロリストに拘束された篠ノ之束博士を救出する』と言う大義名分を掲げて、複数の国の軍部のIS操縦者で構成された複数の国からなる連合軍が、大量のISが束のラボを取り囲んでいた。




キャラクタァア~紹介&解説

篠ノ之束
 原作において『それもコレも全部篠ノ之束って奴の仕業なんだ』と言われる全ての元凶にして、本作における少佐の宿敵。そしてシュラウドの怨敵。興味のある事には全力疾走な狂ったウサギ。その為なら使えそうなものは全部使う。人間不信の気があるが、その本心は……。
 面白そうな玩具位の認識でゴクローとアンクを拾ってきたつもりだが、実の娘として扱っているクロエがゴクローに懐いた事によって嫉妬の黒い炎をメラメラと燃やす。その結果、多少の期待を込めて、自身を利用してライダー大戦ならぬ、IS大戦を引き起こす。ちなみに自分とクロエだけは安全に逃げる算段を既につけている。

クロエ・クロニクル
 ラウラの姉にあたる束の娘。ゴクローとの会話で、少佐によく似た『私は私だ』と言う信念を持つに至る。自分の完成形を見つけ、自分から完成形の妹ポジに立候補。『範馬刃牙』の烈海王みたいに巨大な自分自身の完成形(幻影)じゃなくて良かったかもね。
 オルコットサンド以上の壊滅的料理テクニックはゴクローと二人で作れば問題ないが、一人で作ると『きんぴらゴボウ』を作るつもりで『金ぴかゴボウ』を作ったり、『芋の煮ころがし』を作るつもりで『芋の二個焦がし』を作ったりする。まあ、改善はされている。

白騎士&暮桜
 本作におけるミナ・ハーカーポジにして、ある意味でアーカードポジ。打倒すべき敵として、仮面ライダーに立ちふさがってもらう為に破壊されずに残されていた。
 原作における白騎士のISコアの行方不明と、暮桜の凍結理由となった私闘は、本作においては『ミレニアム』って奴等の仕業なんだ。でも結局は束の元に無事に返った。ちなみにマトリックスメールの送り主は少佐。


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第6話 MOVIE大戦CORE 596の欲望

前回ネットカフェで投稿するまでのお気に入り件数26件→週末明けてスマホで確認するとお気に入り件数61件→モチベが上がる。

そんな感じで、一週間で完成しましたので投稿します。モチベの力を実感。でもやっぱり疲れた。


「起きるんだ、シュレディンガー」

 

「?」

 

少佐の声が聞こえて目が覚めると、『ひぐらしがなく頃に』の鉈女こと竜宮レナのコスプレをした少佐と、一人称がおじさんの園崎魅音のコスプレをしたドクが無言で立っていた。ドクはメイド・イン・ヘブンな、イリーの方が似合うと思うが……。

 

「……少佐?」

 

「嘘だーーーーーーーーーーッッ!!」

 

少佐がいきなり叫んだと思ったら、手にした鉈を豪快に俺の顔に叩きつけた。叩き斬ったのではない、叩きつけたのだ。見事に頭にヒットした鉈は恐るべき弾力で俺に多少の精神的ダメージを与えた。

 

「なんですかこれ? 何で出来てるんですか?」

 

「葛。本物は危ないからね」

 

今度は少佐とドクが葛で出来た鉈を片手鍋に入れて加熱し、ドロドロに溶けた葛を湯飲みで飲みだした。

 

「「あったまるわ~」」

 

「二人とも何してるんですか?」

 

「おお、そうだそうだ。頑張っている君にこのコアメダルを渡そうと思ってね」

 

少佐はズズズと湯飲みを傾けながら、ピンク色のメダルを3枚俺に渡してきた。

 

「さあ、そのメダルで変身してみたまえ」

 

メダルの両面に何も描かれていないので、ドライバーの何処に入れても、どちらの面を表にしても同じなのだろうと解釈して、適当にメダルをドライバーに装填してスキャンする。

 

「変身!」

 

『ラブ! ラブッ!! ラブゥゥゥッッ!!!』

 

全身にハートマークがあしらわれたプリキュアにでも出てきそうな姿。仮面ライダーオーズ恋愛コンボが降臨した。ちなみにスキャンした時の音声は少佐の声だった。

 

「……何か言いたい事はありますか?」

 

公式が病気と揶揄されたプリチーな外見で少佐に迫る。何時から居たのか、時報こと富竹ジロウのコスプレをした大尉が俺の写真をバシャバシャ撮っている。

 

「私の趣味だ。いいだろう?」

 

すぐさま教室の奥に移動してロッカーを漁り、中に入っていた金属バットを手にして少佐に無言で襲い掛かる。悟史と書かれていたが、マジックで塗りつぶしてリボルケインと書き直した。

 

「リボルクラッシュ! リボルクラッシュ! リボルクラッシュ! リボルクラッシュ!リボルクラッシュ! リボルクラッシュ! リボルクラッシュ!」

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめ……」

 

「あはははははははは。はははははははははははははは……」

 

しこたま殴ったら気分が晴れた。教室の中には『シグルイ』の仕置き後の伊良子清玄みたいにズタボロになった少佐。未だに狂った様に真顔で笑い続けるドク。そして、赤く染まった金属バットを持つ、返り血を全身に浴びた仮面ライダーオーズ恋愛コンボ。大尉は何時の間にかいなくなっていた。

 

「もう一度だけ聞きます。何の用ですか?」

 

「おお、そうだ。こんな事をしている場合じゃないんだ。君にゴイスーなデンジャーが迫っているんだ」

 

「ゴイスーなデンジャー?」

 

「凄い危険って事!」

 

それは分かる。具体的にどんな危険なのかを知りたいのだが。

 

「さあ、そろそろお別れの時間です。アンクが君を待っていますよ」

 

「オサラバだ、シュレディンガー。また何時かコミケで会おう……」

 

少佐とドクが一方的に別れを告げて、俺は悪夢の世界から追放された。

 

 

●●●

 

 

「起きろ。面白いことになってるぞ」

 

起きるとアンクがベシベシと俺を引っ叩いていた。気分が優れないまま、アンクについて行くと、モニターに多数のISが写っていた。大半が第二世代の量産型ISラファール・リヴァイヴだが、何機か専用機もチラホラ見える。

 

昨日までは周囲は砂漠で何も無かった筈なのに、朝になったらISの団体さんに包囲されているこの状況。うん、確かにゴイスーなデンジャーだな。

 

「状況を詳しく説明してくれるか」

 

「ここを取り囲んでいる連中は『亡国機業』でも、ドイツ軍でも無い。国際IS委員会によって各国から選抜されたIS操縦者達。簡単に言えば連合軍だ。『テロリストに拉致された篠ノ之束博士の救出』って大義名分を掲げて、このラボを取り囲んでいる」

 

「……つまり、そのテロリストってのは俺とお前の事か?」

 

「その通りだ」

 

確かに対ISを掲げる反抗勢力と化していたミレニアムはテロ集団と言っていいだろう。準備するだけで、実行に移す前に潰れたけど。

 

「とは言え、連合軍と言っても各国が裏で何を考えているか分かったもんじゃない。実際は隙あらば自分達だけで利益を独占するつもりだろうな」

 

まあ、人間が徒党を組んだ時点で一枚岩じゃないわな。この状況はライダー大戦ならぬIS大戦と言った感じか。

 

「傍から見れば俺達が正義の味方に立ち向かう悪の怪人なんだがな。このまま黙っていれば奴等はここに乗り込んでくる。一応、投降するように勧告がきている」

 

「具体的には?」

 

「人質になっているウサギ女を連れて投降しろ、さもなきゃ突入して制圧する……だ」

 

「そうか。しかし、奴等はどうやって俺達の居場所を知ったんだ?」

 

「はっ! 決まってる! ウサギ女。お前の仕業だろ」

 

「ん? なんで束さんがそんな事をするのかな?」

 

「とぼけても無駄だ。俺は触れた機械の情報を読み取れるんだ。お前が3日前にこのラボの座標と、『オーズ』のドイツ軍との戦闘記録を各国と国際IS委員会に流したのはとっくに知ってる」

 

ああ、そう言えばそんな能力あったね。原作の『オーズ』のアンクは信吾の頭に触れて記憶を読み取り、iPhoneやパソコンを使っていた。この世界のアンクは人間の記憶は読み取れないが、機械に触れさえすれば情報を読み取れる。

 

いや、ちょっと待て。それじゃアンクはこうなると分かっていてラボに留まっていたのか。何を考えて……まて、こいつの性格を考えるとむしろ、セルメダルの稼ぎ時と考えていた可能性が高いな。

 

「……な~んだ。ばれちゃってたのか。そうだよ。束さんがアイツ等を呼んだんだよ。何?コレで満足?」

 

束が開き直って告白する。その目の光は鈍く、失望の色が見える。ずっと欲しかったものが手に入るかも知れないと期待して、それが手に入らないと諦めたような感じ。気になる事はあるが、とりあえず言わせて貰おうか。

 

「とりあえず、お前とは相容れないことが分かった」

 

「………」

 

「俺に強姦の趣味は無いんだ。どっちかって言うと両者合意の上が趣味でな」

 

「……へ?」

 

「オイ、ゴクロー。何を言ってるんだ?」

 

「え? か弱い女を集団で、力で言う事を聞かせて、欲望のままに好き放題しようなんつー強姦魔みたいな連中を自分で呼び寄せたんだろ? つまりは、束はそう言う趣味が有るって事で……」

 

「ちょっと! 違う! 違うから! 束さんにそんな趣味ないから!」

 

先ほどとはうって変わり、必死で弁解する束。反応を見て楽しむゴクロー。『え? まさか……』と言う感じで束を見つめるクロエ。アンクは傍観している。

 

元が一般人とは言え、ナチスの残党に育てられた影響は少なからずあった。最初の一年でマラソンしながら『エスキモーの○○○○は~冷凍○○○○~♪ 俺によ~し、お前によ~し、皆によ~し♪』とヒワイな大変態ソングを歌いながら走らされていた。

 

更にゴクロー自身、元が素直で真面目な性格なので、無敵の敗残兵の皆さんから、『死地に突撃する前は冗談や軽口を叩くことで緊張を解き、リラックスすると良いんだ』と教わった事をクソ真面目に実践しているだけである。

 

そのお蔭で『進撃の巨人』のライナーの台詞である『もしくはコイツを奴等のケツにぶち込む!』を何時か誰かに言ってみようとさえ思っている。

 

そんな事は全然知らない束は、この状況でそんな下ネタを投下して来るとは露ほども思わなかった。ラボで一週間一緒に過ごしていたがそんな気配は微塵も無かったし。

 

「……で、真面目な話どうするんだ?」

 

「出撃準備だ。連中が攻める前に此方から攻めるぞ」

 

束の反応を一通り楽しんだ後で、アンクの問いに即座に答える。逃げるなど論外。逃げても地の果てまで追いかけてくる。ここで戦い、勝ち残る以外の選択肢は無い。

 

「ねえ、なんで戦うの? さっきも言ったけど束さんが原因なんだよ? 逃げないの?」

 

「無理だな。相手は多分俺がミレニアムの構成員だと知ってる。ミレニアムの支援者は世界中にいる。逆に言えばそのミレニアムがなくなった以上、世界中の支援者達は俺を狙い続ける。いつか必ず戦う日が来る。それが早いか遅いかだけ。何時か来る明日が今日になっただけだ」

 

「……束さんの事怒ってないの?」

 

「次からは止めてくれ。さっきのお前の目を見て思ったんだが、お前は何か欲しいものがあってやったんじゃないかと思った。何が欲しいのかは分からないけど」

 

「………」

 

「いずれにせよ、あんな世界のルールに屈服して、縛られた戦い方しか出来ないような卑劣な弱者に負けるなんぞ、俺の沽券に関わる」

 

「どういう意味?」

 

「秘密を知る人間はそれを知らない人間を意のままに操れる。連中はその力で何も知らない民衆を利用して、正義を量産して、大義名分を手に入れてから戦う。それ以外の戦い方を選ばない。自分達の欲望に責任が持てない、持つつもりが無いから」

 

「………」

 

「なら戦うさ。そんな連中認めてやるもんか。例え敵が何百、何千、何万、何億、何兆いようが関係ない。例外なく叩き潰してやる」

 

ゴクローにとってISと戦う事は生きるために必要なことだ。何時か必ずこんな状況が我が身に起こる事を前提にして生きてきた。むしろ、相手のやる事が気に入らない。

 

世の中にある理不尽な物事の一つ。弱者は自分の弱さを理由にして強者を攻撃することがある。相手の中身など関係無しに、強い力を持つというだけで排除する事を正義にする。相手の強さを理由に強者への暴力を正当化する。それが気に入らない。

 

「髪の毛を掴んで引きずり回し、眼を開けさせ思い出させてやる。連中に恐怖の味を思い出させてやる。天と地の狭間には、奴等の哲学では思いも寄らないことがあるのだと思い知らせてやる!」

 

少佐が居ないのでゴクローは自分に言い聞かせる様に演説する。『どんなに頑張っても何兆はいないよ』と束は思ったが、世界が相手でも戦ってやると改めて宣言する姿に目を光らせている。

 

「どんなイレギュラーが起こったとしても! 連中がどんな卑劣な手段を使ってこようとも! 束もクロエも連中には渡さん! 俺達に任せて置け! 奴等にたっぷりと敗北を味あわせてやる!」

 

『DXオーズドライバーSDX』を腰に装着し、デウス・エクス・マキナ号へ走っていくゴクロー。追いかけるアンク。束とクロエが色んな意味で置いてけぼりだが、ゴクローとアンクが振り返る事は無かった。

 

 

 

「兄様……お気をつけて」

 

「ん。行ってくる」

 

「あの……必ず、帰って来て下さいね」

 

「……I'll be back」

 

後から追ってきたクロエに見送られ、親指とフラグを立てつつラボのハッチへと歩いていく。準備は万端だ。おじやに梅干にバナナ、そして炭酸抜きコーラを補給した。小便は済ませた。お祈りも済ませた。だが、命乞いだけは絶対にしない。

 

しかし、コンボを使えないのが非常に痛い。このオーズは本家と違って『同色同系統のコアメダル3枚が揃えばコンボが使える』と言う仕様になっていない。コアメダル一枚一枚に戦闘経験をある一定のレベルまで積ませ、それを同色同系統で3枚揃える事で漸くコンボが解禁になる。

 

更に言うと、恐竜系のプトティラコンボと、怪人系のタマシーコンボは亜種形態を想定していない為にメダルの入れ替えが効かず、6種類のコンボが使えるようになると使用出来るとか言う、謎の制限が掛かっている。使えるまでにどれだけ時間が掛かるのだろうか。

 

つまり、面倒な事にポケモンのレベル上げの様な地道な努力が必要なのだ。アンク曰く、少佐が俺のモチベを上げる為に設定したのだそうだ。あと、何か有ったら直ぐにコンボに頼るような癖を無くすためとも言っていた。

 

「言っておくが、コンボが使える様になるまでまだまだ経験値が要る。今回の戦闘中でもコンボは使えないだろう」

 

「戦闘中にコンボが解禁になる事は期待できないって訳か。つーか恐竜系と怪人系外しておけば良いんじゃね?」

 

使えないなら搭載する意味は無い様に見える。それよりなら、少佐が趣味全開で作ったであろう、鴻上製の未来のコアメダルを使いたいのだが。

 

「無理だな。一度登録してからこの二種類は交換できない様にロックが掛かってやがる」

 

「なにその呪いの装備みたいなメダル」

 

訳がわからんが何か意味があるのだろうと思っておこう。

 

しかし、ISが7機もあれば世界でも有数の軍事国家と戦えると言われているが、ざっと見積もってもその5倍はいる。コレを単独で撃破する必要があるわけだが……。

 

「さて、どう戦うんだゴクロー?」

 

「誰も殺さずに無力化させる。それが絶対条件だ。」

 

「ウサギ女はともかく、俺達に関しては殺してでも手に入れようとしている連中を相手にか?」

 

「それが『仮面ライダー』の流儀ってやつだ。誰も殺さない。束もクロエも渡さない。それが今の俺の欲望だ」

 

「ふん。出来たら褒めてやる。……いや、この場合こう言うべきか?」

 

「ん?」

 

「その欲望、解放しろ」

 

ナイスな台詞と共にドライバーと融合するアンク。ドライバーにタカ、トラ、バッタのメダルが装填される。とりあえずタトバか。メモリはジョーカー。パッケージは『Type-ZERO』。何時もの装備だ。

 

『精々期待通りにな』

 

「ああ……変身!」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

タトバコンボに変身し、ラボから魔女の釜の底の様な戦場へと躍り出た。

 

 

○○○

 

 

世界各国のISが集結する戦場から少し離れた場所。そこからターゲットが現れたことを、ハイパーセンサーで確認した。

 

「出たぜ。例の『オーズ』って奴だ。まあ、しばらくは高みの見物と行くか」

 

「―――ッッ!!―――ッッ!!」

 

「ちっ、面倒なだな。保険だかなんだか知らないが、こんな荷物が必要とはな」

 

組織に入ったときから気にいらねぇクソガキがブツクサ言ってやがるがしょうがねぇだろ。このまたとないチャンスで、あの篠ノ之束を逃がすわけにいかねぇんだ。

 

スコールが見たことも無いほどボロボロの状態で帰ってきたときは、心臓が止まりそうになった。左腕は無くなってるし、両足も原型を保っていなかった。スコールをこんな目に遭わせた奴に怒りが湧いてくるが、同時にどんな化物が相手だったのか気になる。

 

戦闘記録を見せてもらったが、死に損ないのデブが余計な事をしなけりゃスコールが勝ってた。要するにラッキーだったってだけだな、アレは。

 

今回は人質も確保できたし、奥の手も用意してある。あの『オーズ』とか言うのを奪取するのは問題ねぇ。対IS最終兵器だなんて大層な肩書きがついてるが、そんなレッテルも直ぐに剥がれる。

 

どれだけ強いか知らねぇが、流石にこの数のISは死んだろ。大半が量産型だが、専用機持ちも混ざってるしな。それでもいくらかは倒すだろうが、倒したISは私たちが全部有効利用させてもらう。

 

それにお前がスコールをズタボロにした恨みはそう簡単に晴れそうもねぇ。死ぬ前にとっ捕まえて、アジトで生かさず殺さずじっくりと苦しむ様を楽しんでから殺してやる。

 

「踊れ踊れ、私に地獄を見せてみろ」

 

最高のタイミングで横あいから思いっきり殴りつけてやるからよ。

 

 

○○○

 

 

相手が大勢だろうが少人数だろうが、俺のやる事は変わらない。

 

まずはトラクローで銃弾を弾き、懐に飛び込むか背後をとって、相手のシールドエネルギーをトラクローでゴリゴリ削る近接戦闘。削られたシールドエネルギーが、セルメダルに変換されていく。

 

『愉快だ! 実に愉快だ! この調子でドンドン稼げ!』

 

三機のラファールからセルメダルを一通り削った後で、キックホッパーの様にラファールを踏み台にしてバッタレッグで移動する。次々に蹴り飛ばして一箇所に集めた所で、トリガーマグナムを召喚。スパイダーガジェットと合体させて、発射したネットで三機を纏めて拘束。メダルをスキャンする。

 

『スキャニングチャージ!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

身動きの取れなくなった三機のラファールがタトバキックを受けて、砂漠に放り出される。今度はちゃんと決まって嬉しいが、一度に三機のISを倒したことで相手の警戒レベルが上がった。

 

今度はパッケージを通常の『Type-ZERO』から高速機動装備の『イエーガー』へと変更する事をアンクに告げる。

 

『ならコイツに変えろ!』

 

『クワガタ! トラ! チーター!』

 

銃弾とレーザーが飛び交う中、コンボチェンジに発生するメダルのエネルギーに守られてガタトラーターにチェンジし、背中に紺色を基調とした可変式大型イオンブースターが装着される。背中のパッケージがいきなり変わったことで、若干の動揺が相手から見られる。

 

『イエーガー』の可変式大型イオンブースターは上下左右に自在に可動し、急停止から高速飛行中の方向転換も自由自在。単に直線スピードの速いISとは比べ物にならない程小回りが利く事が最大の強みだ。装備事態は軽量化により薄く、一発でも被弾すれば不味いが当たらなければどうと言う事は無い。

 

クワガタヘッドの雷でダメージを与え、チーターレッグで蹴り飛ばす。相手をスピードで撹乱し、メダルをスキャンして必殺技の発動体制に入る。

 

『スキャニングチャージ!』

 

『セルバースト!』

 

「ララララララララララララララララララセイヤァアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

ラトラーターコンボほどの出力は出ないが、クワガタコアの雷撃とセルバーストによるトラクローの強化。チーターレッグとイエーガーの加速力と旋回能力で次々と切り裂き、瞬く間に落としていく。

 

『今度はコレだ!』

 

『ライオン! ゴリラ! チーター!』

 

ガタトラーターからラゴリーターへ。ライオネルフラッシュの閃光で視界を奪い、一気に接近してゴリバゴーンの突きや裏拳で次々と殴りつける。一人だけ下に向かって思いっきり投げた。ここで腰のメモリスロットをロケットに変更し、マキシマムスイッチをタップする。

 

『ROKET・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

ロケットメモリは本来、無数のミサイル攻撃を可能にするガイアメモリ。しかし、俺の『仮面ライダーフォーゼ』が使う、文字通り「ロケットで殴りつけるパンチ」のイメージが強かったせいか、ロケットが腕に出現する仕様になっている。

 

今回は攻撃力が元から高いゴリバゴーンに、ロケットブースターが追加された強化版。フォーゼのロケットステイツを上回る威力を引き出し、先ほど殴りつけた相手に錐揉み回転しながら突撃する。要は『ライダーきりもみクラッシャー』。

 

突撃された相手は回転しながら吹っ飛ばされてリタイア。地面に叩きつけた奴には強化された『バゴーンプレッシャー』を射出した。爆発を起こしてISが解徐されたのが確認出来る。

 

ここでふと、空中にいる相手に対してやってみたいメダルの組み合わせが思いついた。メモリをメタルに変更し、メダルの組み合わせをアンクに告げる。

 

『面白い。見せてもらう』

 

『サイ! ウナギ! ゾウ!』

 

目に付いたISをウナギウィップで相手を拘束し、無理やり引き寄せてグラビティホーンを叩き込む。しかし、ウナギウィップの拘束を解かずに振り回し、下に向けて振り切ったところで、更に上に引き上げる。

 

『セルバースト!』

 

下から此方に引き寄せられるラファールにゾウレッグの一本足キック『ズオーストンプ』をセルバースト付きで叩き込む。ここでウナギウィップの拘束から解放し、砂漠に落ちていく。ISが解除された操縦者は吐きそうにしている。

 

『お前……結構エグイ方法を考えるな……』

 

アンクが引いているが気にしない。次はこのメダルの組み合わせで頼む。

 

『タカ! クジャク! ワニ!』

 

タカジャワニへチェンジ。飛び道具をタジャスピナーで防御しながらメダジャリバーを手に突撃する。蹴りと共にワニレッグから発生する、ワニの顎の様なエネルギーが相手のシールドエネルギーを喰らい、セルメダルへと変換していく。ガオウライナーに見えなくもない。

 

タジャスピナーを開き、中のセルメダル三枚を、ドライバーのタカ、クジャク、ワニのコアメダルに変更する。このタジャスピナーは7枚ではなく9枚のメダルをスキャンできるようになっている。本家よりも出力が高い分消費も反動も大きいが、七枚目のメダルの音声が発声されない事は無い。ちゃんと九枚全部のメダルの音声が流れる。

 

『タカ! クジャク! ワニ! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!』

 

『PUPPETEER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「なんだ!? 炎弾? いや炎の歯車?」

 

「ヨーヨーだ……」

 

メモリをパペティアーに変更し、マキシマムドライブを発動。人形遣い記憶を持つこのメモリの能力は操り糸。しかし、俺は相性が良くないのか右の人差し指から一本の糸しか出ない。

しかし、モノは使いよう。そのパペティアーの糸を炎弾『タジャスピナーファイヤー』にくっつけてヨーヨーの様に振り回して、射程内のISに様々な角度からぶつけて戦闘不能にしていく。

 

『おい! 出来るだけセルを消費するな! 近接戦闘メインでいけ!』

 

セルを一気に6枚消費した所為でアンクに怒られた。じゃあ、お前に任すからメダル変えてくれ。

 

『ちッ! じゃあ、コイツはどうだ?』

 

『サソリ! カニ! コンドル!』

 

本作初登場。甲殻類系コアメダル。順番は頭からサソリ・カニ・エビだ。理由はノブナガグリードの鎧に頭にサソリ、腕にカニ、足にエビの意匠が刻まれていたから。

 

サソリコアメダルは、黒いサソードと言った感じの外見だ。特殊能力は尻尾の針に該当する部分からの毒液の注入。身体を流れるラインドライブを介して、毒液を腕など他の部分に添付する事もできる。

 

カニコアメダルが一番悩んだ。少佐とも随分話し込んだ。最大の問題点は鋏をどうするか。結果、劇場版『るろうに剣心 京都大火編』で十本刀のニワトリが鋏状になる後期型殺人剣を使っていた事で、『二刀の合体する事で鋏になる剣』で決定した。落語家高校生も結構捨て難かったのだが仕方無い。蟹刑事? 知らないな。

 

武器の名前は『シザースカリバー』と少佐がカッコよさげな名前に勝手に決めていた。俺は『カニバサミ』とかでいーじゃん、いーじゃんと言ったのに聞いて貰えなかった。解せぬ。しかし、代わりに一つ機能を追加してもらった。

 

両肩に備えられたカニバサミ改め、シザースカリバーを取り出す。見た目では剣と言うよりは鎌。ぶっちゃけ、鍔の無い逆刃刀に見えなくもない。俺はきっちり刃の付いた方を使うが。

 

合体機能は鋏状の他にもう一つ。少佐がカリバーと名付けやがったから、シャイニングカリバーみたいな薙刀モードを追加してもらった。『もうそれ鋏じゃない』とドクが言っていたが無視した。

 

薙刀モードのシザースカリバーを高速回転させて銃弾とミサイルを防ぐ。懐に入り武器を破壊して、コンドルレッグの真空波を纏った連続キックを浴びせて空中で一回転し、連結を解いたシザースカリバーで×字に切り裂く。

 

『セルバースト!』

 

「セイヤァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

最後の締めはライダーカッティング。鋏状に連結したシザースカリバーから発生したエネルギーで挟み込み、相手を切り裂き戦闘不能にする。大分数を削ったと思うが、残りはどれ位だろうか。

 

『撃破したのは17機。残りは19機。そろそろ本命が来るぞ』

 

全部で36機もいるのか。本命ってどんな奴だと思っていたら、高速で此方にウィングガンダムの様な機体が迫る。高く舞い上がり翼を展開したと思えば、翼から無数のエネルギー弾を放ってきた。

 

『第三世代IS「銀の福音【シルバリオ・ゴスペル】」。アメリカ・イスラエルで特殊射撃による広域殲滅を目的に共同開発された射撃特化型の軍用ISだ。コイツで行ってみろ!』

 

『タカ! カニ! チーター!』

 

同じように連結したシザースカリバーで弾雨を弾き接近を試みるが、撃ってくるエネルギー弾の数が多く、着弾すると爆発する上に連射速度も高い。更に相手の機動力が高い事もあって中々距離を詰められない。専用機だけあって一味違う。タジャドルコンボならいけそうだが今は使えない。

そう思っていたら、エネルギー弾が可変型大型イオンブースターに被弾し爆発した。そのまま空中に放り出される。落下する俺達に容赦なく追撃のエネルギー弾が迫る。

 

『コイツでやり過ごせ!』

 

『タカ! カメ! ゾウ!』

 

落下しながらも、タカカゾにチェンジ。更に両手を合わせてオレンジ色のエネルギーシールド『ゴーラシールデュオ』を張る。そんな防御体制を取ってやり過ごそうとする俺達に今度はタイガーストライプの機体が急接近してきた。

 

「オラァアアアッッ!!」

 

「ぐぅうう!!」

 

『ゴーラシールデュオ』の上から思いっきり殴りつけられ、そのまま砂漠に叩きつけられる。これをチャンスと思ったようで、上空から次々と此方に向かってレーザーやミサイルが発射される。逃げ場が無い。ゾルダのエンド・オブ・ワールドを喰らう気分だが、近くに誰もいないのでガードベントの発動は不可能だ。

 

『ちっ! 次々来るぞ、どうする! 『ゾーン』で逃げるか?』

 

敵は軒並み上空から撃ってきている。むしろ、ここら辺が『パンツァー』の使い時だと思うが、どうだ?

 

『それならメダルも変えろ!』

 

『クワガタ! ゴリラ! ゾウ!』

 

『QUEEN・MAXIMUM-DRIVE!』

 

ガタゴリゾにチェンジし、パッケージを『パンツァー』に変更。濃淡2色の緑からなるカラーリングの超重量の装甲に覆われる。ゴリラアームとゾウレッグによる強化のお蔭で何とか動かせるレベルの重さだ。

 

更にクイーンメモリのマキシマムで防御力を強化する。本家では使われなかったが、クイーンメモリは鉄壁のバリヤーを張る能力だ。断じてAKBな女子高生に変身するメモリではない。エリザベスメモリなんて無い。

 

動けないと判断して威力の高い遠距離武器に変更したのか、先程よりも強い容赦のない弾雨が降り注ぐ中、反撃の準備を着々と始める。ターゲットスコープ起動……と。

 

『面だ。面を意識して攻撃しろ』

 

うむ。とりあえず、銀の福音を最優先して攻撃だ。しかし気分はベルドナットを取り込んだセラスだな。

 

『セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セル……』

 

『おい! 何枚使う気だ! もう止めろ!』

 

いや、面を意識してって言うから、点が面になるくらいまで強化された極太のビームを撃ってやろうと思ったんだ。アンクが抗議するが無視して10回セルバーストした。

 

『くそ……必ず当てろよ!』

 

局所的で猛烈な強いゲリラ弾雨は数分で収まった。砂埃が収まって視界がクリアになる。俺が未だに健在なのを見て、動揺する顔が見える。

 

「オイオイ嘘だろ!?」

 

「あれだけの数を撃ち込んで無傷ですって!?」

 

『TRIGGER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

マキシマムを鉄壁防御のクイーンから、火力重視のトリガーに変更。ターゲットを銀の福音に定める。

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

重砲ハイブリッドキャノンから極太のビームが放たれ、回避行動を取ろうとした銀の福音の片翼に被弾する。だが、まだ終わらない。マルチロックオンシステム起動。装甲内部に搭載されているミサイルポッドを全部開き、更に超大型ガトリングガンを展開する。

 

「ミレニアムの科学力は……世界一ィィイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!」

 

空を覆わんばかりの数のミサイルをお返しとばかりに『銀の福音』に向けて発射する。

 

「きゃあああああああああああああッッ!!」

 

単純に圧倒的な物量で押す。機動力を奪われた銀の福音は回避行動を取ろうとしたが、回避しきれず多数のミサイルに次々被弾し、撃墜された。銀の福音を撃破した後も、周囲に展開している連中を相手に、ミサイルも弾薬も全て使い切るつもりで発射し続け、さらに振り回してガトリングの銃口の向きを変える。

 

「オイオイ、あのガタイで動けんのかよ!」

 

このパッケージを見て身動きが取れないとタカを括っていたな。さっきまでしこたま撃ち込んでくれた連中が回避行動をとる様は、まるで殺虫剤から逃げ惑う蝿を見る様だ。しかし、物凄い振動と轟音と発熱だ。しかし、大量の弾薬を一気に消費するのは気分がいい。全ての実弾を使い果たし、大量のISを一気に撃墜する事に成功したが、無理に振り回した所為で両膝を痛めたようだ。

 

しかし、一機だけ猛烈な勢いで此方に向かってくるISがいる。さっき殴りかかって来たタイガーストライプの機体だ。

 

『アレは「ファング・クエイク」。近距離型の機体だ。パージして早くコイツに変えろ!』

 

アンクが急かすが、ただパージするつもりは無い。ファング・クエイクがナイフを投擲するのに合わせて一手加える。

 

『CYCLONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

メモリをトリガーからサイクロンに変更しマキシマムドライブを発動させる。風を操るこのガイアメモリは、周囲の風を吸収しスタミナアップの効果を齎す事もできる。本来は動くなり落ちるなりして風を受ける必要があり、身動きが取れない状態ではその能力を使う事が出来ない。しかし、今回は爆風だが周りに風が吹いている。それを装甲の隙間から取り込み、圧縮して一気に解放する。つまりは……。

 

「キャストオフ」

 

高い防御能力と相当な重量を持った装甲を空気圧で散弾の様に吹き飛ばす。装甲のパージと相手への牽制を兼ねた攻撃だ。ナイフは散弾と化した装甲にぶつかって砕け、ファング・クエイクにもぶつかって、その足を僅かだが止めた。

 

『サイ! ゴリラ! タコ!』

 

サゴリタにチェンジし、パッケージも『Type-ZERO』に変更する。タコレッグは柔軟性に優れ、その構成は動物の軟骨組織に近く、この構成により完全に痛めてしまった両膝が非常に楽になった。なるほど、タコレッグにはこんな使い方もあるのか。

 

「オラァッ!」

 

「セイヤッ!!」

 

拳と拳がぶつかり合い火花が散る。近接格闘型は他にもいたが、全員が近接ブレードを使っていた。それに対してこの相手は完全に徒手空拳で戦っている。

 

「拳で戦う女、嫌いじゃないぜ!」

 

「ははは! アタシも嫌いじゃないぜッ!」

 

おっと、つい口に出していってしまった。なんか純粋に楽しんで戦っている感じだ。しかし、徒手空拳のIS操縦者は予想以上にやりづらい。有効打を与える数は此方の方が多いが、相手も確実に此方に有効打を与えてくる。このままでは分が悪いと思ったのか、相手が距離を取った。

 

「成功率は40%程度だが……ココで決めるぜ!」

 

なるほど、必殺技で決めるつもりか。いいだろう、受けて立つ。

 

『HERT・MAXIMUM-DRIVE!』

 

メモリをヒートに変更し、マキシマムを発動させる。両腕のゴリバゴーンに熱が集り、拳に炎が宿る。両腋を締めてファイティングポーズを取り、真っ直ぐにファング・クエイクを見つめる。

 

「来いッッ!!」

 

「!! いいぜ! いいぜ! 惚れちまいそうだぜ、アンタァ!!」

 

実に嬉しそうな声を上げて突撃するファング・クエイクは、四基のスラスターを使用した『個別連続瞬時加速【リボルバー・イグニッション・ブースト】』によって生まれる圧倒的な加速を乗せた右ストレートを繰り出してくる。それに対して左手を突き出すが、拳ではなく掌で受け止める。凄まじい衝撃が左腕を襲うが耐え切り、相手の拳を握り締める。

 

『セルバースト!』

 

セルバーストの発動により、炎を纏ったゴリバゴーンが更に激しく発熱し、白く輝いている。

 

「ッッ!! そう来るかよッッ!!」

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

渾身の一撃をファング・クエイクに向けて解き放つ。ファング・クエイクは左拳で迎撃するが、腕部装甲が耐え切れずに粉砕。そのままゴリバゴーンがファング・クエイクに叩き込まれ、吹っ飛んでいった。飛ばされた先で解除された事を確認。

 

確認出来るISは、残り6機。




キャラクタァア~紹介&解説

ナターシャ・ファイルス
 アメリカのテストパイロット。専用機の『銀の福音』をアニメで見たときは、見た目ウィングガンダムだと思った。でも無人機設定で出番なしのリストラ組だった……。
 今作ではイエーガーユニットを破壊するが、パンツァーユニットの『弾幕はパワーだぜ!』を受けてリタイア。結果として二つのパッケージを使用不能にし、オーズ本体の膝を負傷させるなど、実は大金星だったりする。

イーリス・コーリング
 アメリカの代表操縦者。アニメではナターシャの問題もあってリストラ組。スポーツの筈のIS競技の国家代表が軍属って実際どうなんだろう。でも、嫌いじゃないぜ!
 絶頂を覚えるような弾幕の嵐を突っ切る根性と徒手空拳の戦い方で地味に苦戦させたが、ヒートマキシマム+セルバーストのゴリラパンチでリタイア。でも満足した。この戦いの後、ナターシャと酒を飲みながら真っ向勝負を振り返り『野朗、とんでもねぇタマだったぜ……』とスカーフェイスのヤクザの様に語った。



恋愛コンボ
 公式が病気と云われた一発ネタにして伝説のコンボ形態。ラブコンボ、ラララコンボ、キュアオーズなど様々な異名を持つ。何気に本作初の統一メダルのコンボだったりする。スキャニングチャージすればピンクのハートを撒き散らす『萌え萌えきゅ~ん♪』な必殺技を発動できる。

甲殻類系コアメダル
 劇場版『MOVIE大戦CORE』で登場した黒いコアメダル。ピクシブ見ると、メダルの順番はエビ・カニ・サソリらしい。でも今作はサソリ・カニ・エビ。サソリがサソード、カニがガタック、エビがアクセルを参考に手を加えた感じ。
 他の人とダブらないように色々考えたら、カニメダルの鋏がおかしな方向に。原因である劇場版『るろうに剣心 京都大火篇』は、どうみても野上良太郎VSアンクに見える。ノブナガは戦国時代で剣心は明治時代だけど。


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第7話 MOVIE大戦CORE メッセージforエターナル

今後の展開的にこの話が仮面ライダーエターナル最大の見せ場。
ミレニアムVS亡国機業。傍から見れば悪VS悪。

それでは、読者の皆様。よき週末を……。


残るISは6機。両膝と左腕にダメージがあるが、まだまだいける。アンクに変更するメダルを指定する。

 

『ああ、何を考えているか分からん組み合わせだが、いいだろう』

 

『コブラ! ウナギ! タコ!』

 

サゴリタからブラウタにチェンジし、メモリスロットにルナメモリが装填される。このルナメモリはレベル2にこそ至っていないが、その性能はオリジナルを超える。異常に体が柔らかくなり、足や腕だけでなく全身がこれでもかと伸びる。リアル妖怪クネクネと言えば分かりやすいだろうか。

 

「く~ねくねくねく~ね~♪」

 

「ひぃぃいいいいいいいい!!」

 

「う、うろたえないぃぃぃッッ!! ドイツ軍人はうろたえないぃぃぃッッ!!」

 

恐怖に顔を歪ませつつ放たれる銃弾を巧みに避ける。避ける。避ける。その姿は人間とはココまで伸びるのかと思わずにはいられないくらい伸び~る。伸び~~る。伸び~~~る。見たか、これが753ならぬ、5963の遊び心だ!

 

しかしコイツ等、ラウラやクラリッサの代わりに来たようだが、随分と見劣りするな。ウナギウィップで打ち据えながら接近し、タコレッグから発生する8本の触腕で雁字搦めに拘束する。

 

「戴きますッ!」

 

必殺『億怒端数煩流奴【オクトパスホールド】』! ラップは出来ないし、タコ墨の分身でもないが。腰の辺りから生えている8本のタコ足が、ISと操縦者に絡みついて離さない。ついでに間接も極めておく。

 

「隊長! 今、行きます!」

 

助けるために接近する打鉄が一人に、遠距離から援護するラファールが一人。トリガーマグナムを右手に、メタルシャフトを左手に召喚する。

 

「お前等などラウラの足元にも及ばん」

 

『TRIGGER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「トリガーフルバースト!」

 

トリガーマグナムにトリガーメモリを装填し、マキシマムモードを発動。どこまでも相手を追尾する誘導する青色と黄色のエネルギー弾を大量に一斉に発射する。

自分に向けられたと思い、防ごうとした打鉄を自由に湾曲するエネルギー弾が避けて、援護しようとしていたラファールに全弾命中する。

 

「『編光制御射撃【フレキシブル】』!? くっ! こんな事まで出来るのか!?」

 

斬りかかる打鉄の葵をメタルシャフトの棒術で対応し、先端部で打ち据える。メタルシャフトにメタルメモリを装填し、必殺技を発動させる。

 

『METAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

メタルシャフトから生まれた四つの黄色い円形カッターが、これまた複雑な軌道を描いて打鉄を翻弄しながら次々と命中し、撃破した。

 

『……おい、一つだけいいか?』

 

何だアンク。随分と歯切れの悪そうな声色だな。

 

『これ……傍目から見たら触手系モンスターが女を襲っている様にしか見えないんじゃないか?』

 

…………ははは、何を言うのだアンク。そんな訳無いだろう。俺は触手系のAVは射程外なんだぞ。

 

「や、やめろぉぉ、そ、そんなに、締め付けたらぁぁ」

 

!!

 

『UNICORN・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

即座に拘束を解いてメモリを変え、ユニコーンのマキシマムである螺旋状のエネルギーを纏ったコークスクリューパンチを叩き込んだ。気のせいだ。絶対に気のせいだ。誰がなんと言おうとも気のせいだ。

 

『いや、どう考えてもさっきまでのお前の姿は女を無理やり陵辱する触手のエロ怪人……』

 

そうそう俺は触手のエロ怪人……って、エロ怪人!? 言ったな! 仮面ライダーに対して言ってはいけない最大の侮辱を! 誰がキメラ系お寝取り触手モンスターだって! ムッキィィイイイイイイイッッ!!

 

『いや、そこまで言ってねぇだろって、おい聞いているか? っておい!』

 

『コブラ! ウナギ! バッタ!』

 

怒りのままに強制的にアンクからメダルの支配権を奪い取り、レッグをタコからバッタへチェンジ。しかし、膝にキテいるので奇妙な走り方になって転んだ。地味に痛い。だが、痛みよりも屈辱の方が遥かにデカイ。頑張れ、敵はまだ健在だ。立たなくっちゃ! 立たなくっちゃ! ビンッビンに立たなくっちゃーーーーッッ!!

 

「イ゛ッ゛ドゥワヴァ゛ブェエエエエエエエエエエエッッ!!」

 

『落ち着け! 俺が悪かった! ホント、本当に悪かった!』

 

オンドゥル語になりつつも、とりあえず叫んでトチ狂いそうな精神を落ち着かせる。それもコレもショッカー首領……じゃない、乾巧って奴の仕業なんだと思いこんだ。

 

『落ち着いたか? 落ち着いたよな? だからコレに変えてくれ、頼むから』

 

『タカ! トラ! エビ!』

 

アンクの懇願もあり、レッグをエビに変えて残り3機の討伐に挑む。

エビレッグはタイヤがついており、足を動かす事無く動くことができる。ここは砂漠だが「タイヤコウカーン!」する必要は無い。と言いつつも、元ネタは仮面ライダーコアだ。しかも、ディティールは仮面ライダーアクセルのそれに近い。

 

エンジンブレードを召喚し、エンジンメモリを装填。一番近くにいた奴にジェットの光弾を撃ち込みながら接近し、エレクトリックの電撃を纏ったエンジンブレードで斬り上げた衝撃で上空へと飛ばす。

 

『ENGINE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「うわぁあああああああああっっ!」

 

エンジンブレードから発射されたAを象ったエネルギー弾が直撃し倒れた。エンジンブレードから薬莢の様にエンジンメモリが排出される。

残るISは2機。メダジャリバーを左手に召喚し、エンジンブレードの二刀を構えて近づいくが、相手は完全に戦意喪失していた。

 

「あ、あれだけの数のISをたった一人で……」

 

「ば、化物……」

 

「よく言われる。それと相対するお前等は何者だ? 人か? 狗か? 化物か?」

 

ナイスな台詞で軽くいなしたつもりなのだが、相手は余計に怖がった。解せぬ。二人の内一人が恐怖から背を向けて逃げ出した。ヘタレが。

 

「逃がさん」

 

『BOMB・MAXIMUM-DRIVE!』

 

エンジンブレードにボムメモリを装填し、マキシマムドライブを発動。敵前逃亡をかましたヘタレの背中に向かってエンジンブレードを投げつける。エンジンブレードは命中と同時に爆発し、ヘタレは撃墜された。

 

「あ、あ、あ……」

 

『シングル・スキャニングチャージ!』

 

「これで終わりだ」

 

メダジャリバーにセルメダルを一枚投入し、オースキャナーでスキャン。セルメダルから生まれるエネルギーに包まれた刀身で、恐怖に顔を歪めた最後の一人を一閃する。

 

終わった。流石に疲れた。だが……。

 

「おっと、そこまでだ! 大人しくしてもらうぜぇ!」

 

深く息を吐いた矢先、チンピラの様な女の声が聞こえる。新手か?

 

『確かに新手だが、かなり面倒な連中が来たみたいだな』

 

声の方向を向くと、蜘蛛としか表現できない全身装甲のIS。ヘッドギアを付けた青を基調としたISを纏った少女と、縛られ猿轡をして引きずられるポニーテールの女の子がいた。

即座に人質と判断するが、この戦場に居る誰かの身内なのか、はたまたそこらへんから適当に見繕ってきた可哀想な人か。いずれにせよ、救出しないと言う選択肢は俺には無い。

 

「その子は何者だ?」

 

「なんだ? 知らないのか? コイツは篠ノ之箒って言ってな。篠ノ之束の妹だよ!」

 

妹? そう言われてみれば束に似ているような気がしないでもない。

 

「人質とは卑怯だぞ! 財団X!」

 

「私らは『亡国機業』だ! 誰のこと言ってんだテメェ!」

 

そうか。適当に言ってみたんだが、『亡国機業』か。連合軍の人間じゃないわけね。

 

『黄色い方はアメリカの第二世代IS「アラクネ」。青い方はイギリスの第三世代IS「ブルー・ティアーズ」のプロトタイプだ。イギリスの研究所に保管されている筈だが』

 

プロトタイプね。試験用のプロトバースみたいな物で、『プロト・ティアーズ』って所か。流石に実戦用に改造されているとは思うが。

 

「おっと、動くんじゃねぇぞ! 武器を捨てな! 武装を解除してそれをこっちに寄越せ!」

 

プロト・ティアーズの操縦者が、人質の箒の耳にナイフが突きつけている。首ではなく耳だ。逆らえば死なない程度に切り刻むってか。人質の耳を削ぐ、鼻を削ぐ、目を抉る。しかし命は取らない。最も厄介な活用方法だな、おい。

 

「………」

 

『……相変わらず甘いな。だが、きっちり生き残れ』

 

メダジャリバーを捨てて、オーカテドラルの傾きを戻して変身を解除し、『DXオーズドライバーSDX』をプロト・ティアーズの方に投げた。投げられたドライバーは操縦者の手に収まった。

 

「これで満足か?」

 

「あ? んな訳ねぇだろ。このままコイツを餌にして本命の篠ノ之束を引きずり出すんだよ」

 

やはり、束が目当てか。妹は束に言う事を聞かせるための首輪って所か。しかし、人質を解放しないことを承知の上でドライバーを渡したのだ。後はどれだけ時間を稼げるか、どれだけ怪我を負わずに凌げるかだ。

 

「それにテメェにも用がある。一応、確認するがスコールをズタボロにしたのはテメェか? 全身装甲のお蔭で中身が誰かイマイチ分からなくってよ。声は幾らでも変えられるだろうし、万が一にも別人だったら面倒だからよ」

 

「……あの全身サイボーグのアバズレがどうかしたのか?」

 

そう答えた瞬間、火山の噴火の様に蜘蛛女が激昂した。

 

「やっぱりてめぇかああああああああああッッ!!」

 

顔は見えないが、憤怒の形相で此方に向かってくるのが分かる。機械仕掛けの蜘蛛が、ブレードが備えられた八本の装甲脚を使って俺に襲い掛かる。だが、これでも7年間は生身での対IS戦闘も習ってきたのだ。八本の装甲脚をかわし、かわせない所はコンバットナイフで受ける。

 

「はっ! いいねぇ! 少しくらい抵抗してくれねぇと面白くねぇ!」

 

「オータム。遊んでないで仕事をしろ」

 

「うるせぇぞエム! てめぇは黙ってろ!」

 

コイツがオータムで、あっちがエムね。偽名っぽいが覚えた。しかし、手数が違いすぎる上に膝を痛めている所為で、攻撃に対応しきれない。徐々に徐々に体に切り傷が増えていく。すると、今度は糸の様なモノを両手から作り出し、俺の左腕に絡めた。

 

「チェーンデスマッチって奴だ! オラァ!!」

 

左腕に絡まった糸を巧みに使って引き寄せ、容赦なくパンチを入れてくる。流石にこれは痛い。骨の折れた音と感触がする。

 

「ハハハハハハ! ザマ見ろ&スカッと爽やかな笑いが腹の底から込み上げて仕方ねぇぜッッ!!」

 

今度は地面に叩きつけられ、頭を蹴り上げられた。頭から血が出てきた。傷口が痛いというより熱い。鼻血も出てきやがった。

 

「ああ? 何だその目はよ? まさかまだ、勝てると思ってんのか? 無駄無駄無駄、諦めろ。テメェはここでこのオータム様の気が済むまで、死ぬまで殴られんだよ」

 

「……はっ。諦めろ? 諦めろだと? なるほど。世界の残酷さに屈服した、自分の弱さに耐えられなかったお前達らしい台詞だな。俺を舐めるなよ、卑劣な弱者が。来いよ。戦ってやる!」

 

鼻で笑ったことと、その台詞にイラついたのか、今度は腹に蹴りを入れて俺の体がサッカーボールの様に砂漠を転がった。

 

「何気取ってやがんだクソが! 正義の味方のつもりかテメェ! 知ってんだぜ、テメェが悪の組織が試験管で造ったクローン人間だってよぉ! まともに生まれてねぇ奴が生意気言ってんじゃねぇ!」

 

この野朗、言ってくれるじゃないか。『普通に生まれたこと』を『当然の権利』だと誤解した馬鹿が。それと、『正義の味方』は少なくとも、俺に言うべきじゃなかったな。

 

「……お前は勘違いしている」

 

「あん!?」

 

「俺は正義の味方なんかじゃない。正義の為に戦うんじゃない。どんな国でも正義を謳って戦争するんだ。そんなものの為になんて絶対に戦ってやるものか」

 

オータムにとって俺の答えが意外だったのか、首を傾げて今度は攻撃せずに聞き入っている。

 

「どんな立派な大義名分を掲げていても、人間の自由を奪う奴が。誰かの未来を奪う奴等は例外なく悪だ」

 

腹も頭も痛むがなんとか立ち上がり、オータムを見据えて言い放つ。

 

「例え、俺が悪と同じ存在なのだとしても、俺が悪から生まれたものなのだとしても、俺は誰かの自由を、未来を守るために戦う! それが、俺が目指した『仮面ライダー』だッッ!!」

 

「はっ! それがこのザマじゃねぇか! 死に損ないが笑わせんな!」

 

「俺だけじゃない! 例え、悪と同じ存在から生まれても、『仮面ライダー』になる奴が必ず現れる! 諦めない限り――『永遠に』!」

 

直後、エターナルメモリを入れているポケットから赤い光が溢れ出す。エターナルメモリの発光だと思うが、今まで見たことの無い現象だ。少佐が使ったときでも光った事なんて一度も無いのに。

 

「!? なんだぁ?」

 

「赤い、光?」

 

『ようやく隙を見せたなぁ……』

 

何をするのかと、人質から赤い輝きに意識を集中していたエムは、手にしていたドライバーから声が聞こえた事を不審に思い、視線を移すとドライバーから赤い腕が飛び出した。

 

「オラァッ!!」

 

「!?」

 

エムの顎に強烈なアッパーをお見舞いした右腕は、箒と掴むとドライバーからあふれ出した大量のセルメダルと一体化し赤い羽根に包まれた怪人の姿となった。

 

今のアンクの姿は鳥でも右腕でも無い、オーズドライバーを巻いた怪人態の姿。これで戦う事も出来るが、体が大量のセルメダルで構成される関係上、鳥の姿の時とは段違いにセルメダルを消耗する。攻撃を受ければその分更に消耗は加速する。

 

正直、稼いだ大量のセルメダルを多く消費するこの人質救出作戦はアンクとしては絶対にやりたくない作戦だった。しかし、人質が束の妹なので恩を売るのも悪くないと考え協力した。

 

「なんだありゃ!? 痛ッ! 今度は何だ!? って何だコイツ等!?」

 

『KUJAKU~♪』

 

アンクが遠隔操作で起動した大量のカンドロイドがオータムを襲う。タカ、タコ、プテラのカンドロイド達がオータムを攻撃。クジャクが左腕に絡まった蜘蛛の糸を切断し、チェーンデスマッチから解放された。

 

「ゴクロー! 受け取れ!」

 

アンクは人質となっていた箒をこっちに放り投げた。ちょっと乱暴すぎやしないか!?

 

「か、彼女キター?!」

 

「ッ!?」

 

こんな時に何言ってんだ俺。なでしこを受け止める弦太郎の様に、落下してくる箒を受け止める。見る限りでは傷一つ付いていない。驚いた顔はしているけど。だが、敵もさるもの。直ぐにエムがビットを展開し、俺の足を狙ってレーザーを撃ってきた。

 

この作戦で問題となるのはアラクネよりもBT兵器が搭載されたプロト・ティアーズ。4機のビットをどうにか攻略する必要があった。

 

その為にバイラスメモリの使用権をアンクに譲渡し、システムを狂わせて貰おうと思ったたが、バイラスメモリの力は本家のバイラスが精神体ではその真価を発揮できないように、俺が使わなければその力を充分に発揮できないらしい。

だが、その小さな力も要は使い方次第。アンクはその小さな力を最大限に発揮できる方法を考え、実行してくれた。

 

エムがゴクローの足を狙って撃ったレーザーは、何故か空に向かって湾曲した。不思議に思ったが、それならとビットそのものを向かわせるが、ビットの軌道が大きくずれる。外れたというよりもワザと外したと言う様な感じだ。

 

「なんだ!? どうなっている!?」

 

「BT兵器の標準の設定を弄ったからな! 設定を書き換えない限り、フレキシブルもビット自身もあいつ等に絶対当たらないんだよ!」

 

「貴様ぁああッッ!!」

 

激昂したエムが近接ブレードを手にアンクに襲い掛かる。攻撃を受ける度に、アンクのセルメダルで出来た体が削られていく。

 

「ああ、ウゼェ! てめぇ、ソレを狙ってあんなにあっさり渡したのか!?」

 

「二対一は卑怯だろ」

 

「ふざけてんじゃ……うがぁあああッッ!!」

 

36対1で戦っていた奴がどの口で何を言っているのか。カンドロイド達を破壊しながらオータムが箒を取り返そうとした所で、見えない何かに吹き飛ばされた。

オータムを吹き飛ばしたものは、インビジブルメモリで透明化した全長20mを超える怪物マシン『デウス・エクス・マキナ号』。本来脱出用に用意していたものだが、アンクが呼び寄せたのだ。オータムと一緒に数十体のカンドロイドは犠牲になったのだ……。

インビジブルが解除され、その姿を現した怪物マシンに腕の中の箒が驚いている。箒を抱えて怪物マシンの扉のロックを解除する。しかし、認証システムってこういう時物凄く面倒なシステムだな。

 

「ここで待ってろ。直ぐに終わらせてくる」

 

「え、あ、ああ。わ、わかった」

 

猿轡と縄をコンバットナイフで切り、箒にここで待つ様に言ってから扉を閉めた。しかし、抵抗すると思ったが素直だったな。

アンクはセルメダルを消費しながらもエムを足止めする為に戦っている。立ち上がったオータムからは苛立ちが伝わってくる。

ロストドライバーを腰に装着し、エターナルメモリを起動させる。赤い輝きは既に収まっている。

 

『ETERNAL!』

 

「変身!」

 

『ETERNAL!』

 

エターナルメモリの力で、仮面ライダーエターナルレッドフレアへと変身する。しかし、この時の変身はそれだけで終わらなかった。エターナルの表面を赤い稲妻が走り、背中から黒いマントが出現。胸部にはメモリスロットが付いたコンバットベルトが新たに装着される。しかし、その腕に宿る炎のラインは赤いまま。

 

『仮面ライダーエターナルレッドフレアエクストリーム』ってトコか。長いな、うん。

 

新たに出現したエターナルローブ。胸部にメモリスロットを備えたコンバットベルト。しかし腕や脚、背中には装着されていない。設定を確認すればブルーフレアの半分以下の出力しか出せない上に、防御能力も少佐のデブルーフレアと比べて低い。しかし、本家エターナルにも、デブルーフレアにも無いものが二つある。

 

一つは装着者の生体再生機能。これは本来、『白騎士』が持っている機能だったはず。エターナルが『白騎士』と『暮桜』を模倣して作られたことが原因だろうか。ただし、怪我が治っていくだけで痛みは消えない。体力も回復しない。更に血も抜けたままで、頭がちょっとクラクラする。

 

「隠し玉ってやつか……それならコッチも持ってんだよ!」

 

『SPIDER!』

 

そう言うオータムが取り出したのはなんとガイアメモリ。ギジメモリのスパイダーではない。スパイダーメモリを起動させたオータムはメモリをISに突き挿す。

スパイダーメモリの力を取り込んだアラクネは装甲の黄色の部分が紫色に変色し、頭部のヘッドギアが蜘蛛の様な形に変形、腕の装甲もより大型の物に変化していく

 

「ハハハハッッ!! そうだ、最初からこうすりゃ良かったんだ!!」

 

アラクネの指先から無数の子蜘蛛を模した小さいメカが大量に発射される。もしも、コレが俺の想像通りならとてつもなくヤバイ。飛んで此方に向かってくる子蜘蛛をエターナルローブとエターナルエッジで防ぐ。子蜘蛛は交戦しているアンクとエムにも向かっていく。

 

「! コレは!」

 

「なんだオータム。なんのつもり――」

 

瞬間、エムのプロト・ティアーズに取りついた子蜘蛛が赤く発熱し、搭乗者のエム諸共爆発した。アンクは危険に気が付いたようで子蜘蛛を炎弾で焼き払い、エムから距離を取ったが爆発に巻き込まれてしまった。

 

「がはっ……オータム、貴様ぁ……」

 

「生きてやがったか。ああ、ISが操縦者を守ったお蔭か」

 

爆発から放り出されたエムは、憎憎しい顔でオータムを睨むが、当のオータムは涼しい顔をしている。アンクもボロボロだが、ダメージはエムの方が大きいだろう。

 

「アンク、無事か?」

 

「ああ、前に聞いていたからな、『マイザーボマー』だっけか?」

 

言われてみればそうかも知れない。アレは『仮面ライダーカブト』のマイザーボマーとスパイダードーパントのハイブリットと考えた方がいいかもな。

 

「この子蜘蛛は取り付いた機械を自由に操れる。そして取り付いた機械を爆弾に変えられるんだよ。このクソガキのBT兵器も奪ってやった。クソウゼェ鳥のメカもだ。形勢逆転だなオイ」

 

そう言うオータムの周りに、蜘蛛の糸でグルグル巻きになったビットが四つ浮遊している。破壊されなかった数体のカンドロイドにも蜘蛛の糸が絡み付き、オータムへの攻撃を止めている。

 

「ゴクロー、お前このままで戦えるのか?」

 

「ああ、このまま突っ切る。この『エターナル』で終わらせる」

 

未だに怪人態を維持しているアンクの右手がエターナルに触れる。エターナルの情報を読み取っているようだ。

 

「……なるほどな。それならこれも必要だろ」

 

アンクの手から、6本のガイアメモリを受け取る。オーズドライバーに搭載されていたガイアメモリだ。内容はジョーカー、メタル、トリガー、サイクロン、ヒート、ルナだ。

 

「第二ラウンドだ。直ぐに片をつけてやる」

 

「ああ、そうだな、直ぐに片が付く。このオータム様の勝利と言う形になぁあああああああああッッ!!」

 

八本の装甲脚の実弾と四機のビットからのレーザー。更にカンドロイド爆弾。エターナルローブで実弾とレーザーを防ぎ、相手の飛び道具を一気に殲滅する為に、新しく追加された武器を左手に召喚する。

 

「プリズムビッカー!」

 

もう一つの追加された装備。盾であるビッカーシールドと、必殺剣のプリズムソードが合体した武器プリズムビッカー。ビッカーシールドのメモリスロットが本家の4つではなく6つになっているが、基本的には同じだ。

 

『CYCLONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『HEAT・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『LUNA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『TRIGGER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

ビッカーシールドに4本のメモリを装填し、4本同時にマキシマムドライブを発動させる。四本のメモリの力がシールドの中心で一つに混ざり合い、七色に輝くビームを発射した。

 

「ビッカーファイナリュージョン!」

 

放たれた光線は激しい嵐の様に渦を巻き、幾重にも分かれて湾曲しながら、アラクネの八本の装甲脚と、スパイダーの力で奪った4つのビットとカンドロイド達に命中し、爆発した。

 

「な、なにぃ! クソッ! 他に何か使えるものは……」

 

「無理だオータム。お前では勝てない」

 

「黙れガキが! ん? そう言えば……」

 

「なんだ?」

 

「……テメェの体には監視用のナノマシンが入ってるんだったよなぁ」

 

オータムが何をやろうとしているのか察したエムは青褪めた。体内のナノマシンを介する事で、子蜘蛛の能力でエムの体を自由に動かす事ができる可能性に気が付いたオータムは、迷わず指先から子蜘蛛をエムに放ち、子蜘蛛はエムの体に食らい付く。エムの体は先程奪われたビットの様に蜘蛛の糸でグルグル巻きになっていく。

 

「ハハハッ! いいマリオネットが手に入ったぜ!」

 

「あ、あ、がぁぁ、いっぐぁぁぁ」

 

「てめえも『亡国機業』の端くれなら、ちゃんと戦わせてやらなきゃなぁ!」

 

銃を片手にオータムに操られたエムが此方に向かってくる。発射される銃弾は問題ないが、子蜘蛛が問題だ。エムに取り付いている子蜘蛛が段々と赤くなってきている。

 

「オラ、どうする! どうするんだ、『仮面ライダー』!」

 

「ゴクロー! 『プリズムブレイク』だ!」

 

アンクがプリズムソードの必殺技を使うことを促すが、相手はドーパントじゃない。ISも纏っていない生身の人間だ。成功するかどうか……。

 

「誰も死なせたくないのがお前の欲望だろうが!」

 

「! そうだな……それが俺の欲望だ!」

 

『PRISM!』

 

起動メモリのプリズムを柄に差し、プリズムソードを引き抜く。マキシマムスイッチを押して、プリズムメモリが最大出力を発揮する事を示すガイダンスボイスが流れる。

 

『PRISM・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアッッ!」

 

プリズムソードから放たれたエネルギーでエムを切り裂く。糸と服が切り裂かれ、一糸纏わぬ姿になったエムを抱きとめる。……駄目だったのか?

 

「気絶してるだけだ、子蜘蛛は消えてる。ついでにナノマシンもな」

 

触媒になっていた監視用ナノマシンも子蜘蛛と一緒に消してしまったらしい。エターナルローブで少女を包み、アンクに託す。エターナルエッジを右手に構え、オータムを見据える。

 

「……何だってんだ畜生、人質も見捨てられねぇ甘ちゃんだからイケると思ったのによぉぉ。せっかくクソムカつくガキも都合よく始末できると思ったのによぉぉ……」

 

ブツブツと独り言を言うオータム。……もしかして、ガイアメモリをドライバーに介さずにISへ直挿しした影響か?

 

「あああ、イラつくぜぇぇ! てめぇはさっきから、邪魔ばかりしやがってよぉおおおおおおおおッッ!!」

 

発狂した様に叫ぶオータムが飛ばす無数の子蜘蛛を、エターナルエッジから発生する赤いエネルギー波で全て切り裂いて突撃する。エターナルエッジにエターナルメモリを装填し、初めてエターナルのマキシマムドライブを発動させる。今までは相手を殺しかねない恐怖から、使用しなかったし出来なかった。しかし、今ならこのエターナルで出来る気がする。相手を殺さない、『メモリブレイク』が。

 

『ETERNAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ぐ……な、なんだ、いきなり!?」

 

スパイダーメモリの力がエターナルのマキシマムドライブにより動きを封じられる。右足に赤い炎を模ったエネルギーが集中する。ジャンプして∞の軌跡を描くように回転し、アラクネにスピニングキックを叩き込む。

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

『エターナルレクイエム』を受けたアラクネは装甲を空中に散らしながら、凄まじい勢いで蹴り飛ばされた。左手を掲げ、スッと倒れるオータムに指を差して、決め台詞を言った。

 

「さあ、お前の罪を……数えろ!」

 

直後にアラクネが爆発。スパイダーメモリが排出され、パキンと音を立てて壊れた。しかし、オータムは意識を保ち、しっかりと生きていた。

 

「クソ……テメェみてぇな奴に……」

 

「そこまでよ、オータム」

 

戦場になんの前触れも無く現れたのは、忘れもしない黄金のIS『ゴールデン・ドーン』。スコール・ミューゼルだ。

 

「左腕の調子は随分と良さそうだな」

 

「……ええ、おかげさまでね」

 

既に体の修理は完了しているようで、少佐の前に立っていた時と同じ姿だ。

 

「次の相手はお前か? 30人以上相手にしたが、俺はまだまだイケるぞ」

 

「……やめておくわ。貴方の相手は私の体が持ちそうに無いもの」

 

ちらりとアンクに抱かれるエムを見た後で、腕に抱かれたオータムを見てそう答えるスコール。正直体力の限界でこれ以上の戦闘は厳しい。タフな台詞でハッタリをかました……つもりだったのだが、イマイチだったな。逆に上手く返された気がする。

 

「また会いましょう、『仮面ライダー』のボーヤ。勿体無いけど、エムはあげるわ。とても飼いならせるとは思えないけどね……」

 

オータムを回収してスコールは去っていった。付近にISの反応が無いことを確認して気絶したエムを抱えてアンクと共に箒が居る、デウス・エクス・マキナ号へ向かった。

 

 

○○○

 

 

結論から言うと私の目論みは外れた。

 

「まさかレッドフレアのままでエクストリームに到達するなんて……」

 

本来の計画では最低でもオータムは確実に死ぬ筈だった。

 

仮面ライダーエターナル。オリジナルの変身者である大道克己は徐々に記憶が失われていくネクロオーバーであり、ブルーフレアへの変身は加頭と大道のエターナルメモリの適合率の違いからくるものかと言われれば、そうとは言い切れない。

 

ブルーフレアについてこんな解釈があると彼は言った。『エターナルのレッドフレアの赤は人間としての感情の表れであり、それが大道の狂気を得て青い炎になった』のだと。『ネクロオーバーの大道は人間として大事な物を欠落するが故に、青い炎を纏い完全燃焼した』のだと。

 

そこで、少佐が変身したエターナルが初めからブルーフレアだったのは、エターナルメモリが少佐の狂気を飲み込んだ結果、少佐自身が完全燃焼するために青い炎を纏ったのではないかと推測した。

 

ゴクローの場合はどうか。仲間を皆殺しにされ、自分一人が生き残った。打倒すべき敵として『亡国機業』を認識したようだが、少佐の様な狂気も、私の様な復讐心も生まれていなかった。

 

そこで一計を案じた。ゴクローが誰かの為に戦うならば、それに準じて相手の命を奪う非情の覚悟をさせ、本来の人間性を失わせれば良いのだと。

 

その為に初期型のガイアメモリをISに挿す事で使用出来るように改造し、出来るだけ凶暴な性格をした、ゴクローを憎んでいる人間を選んで接触し、ガイアメモリを渡した。使用者であるオータムの手によってスパイダーメモリは独自の能力を開花した。

 

人質を助けようとゴクローは動くだろう。その際にアンクに協力を求め、オーズドライバーを手放す筈。となれば、エターナルの力に頼らざるを得ない。そして、エターナルメモリの能力を使えば切り抜けることはできる。

 

しかし、その為にオータムを犠牲にするしかない。そんな状況を作り出し、他人の命を奪い、犠牲にして生き残ることを実感させる。敵を救うべき弱者と考えていながら、敵を殺す事でしか止められない現実が、彼の理想を破壊する事によって、ブルーフレアへと覚醒させる予定だった。

 

それがどうだ。エターナルは予想外の進化を遂げて、オータムは生き残った。エターナルに刻まれた赤い炎のラインこそが、彼が相手の命を奪う非情の覚悟などしていない証拠だ。予測を超えた事態に腹立たしさが募っていく。

 

「どこまで私の思い通りにならないの……ゴクロー・シュレディンガーッッ!!」

 

 

○○○

 

 

スコールにオータムを回収されてしまったが、何とか誰一人死なせる事無く戦い抜いた。エムを抱えて怪物マシンの中に入ると、箒がエムを見てやたらと驚いていた。

 

「な、なんでそいつを連れてきてるんだ!?」

 

「人間爆弾にされかけたのを助けた。そんで仲間から見捨てられたから拾った」

 

「仲間と言うより手駒って感じだったがな」

 

人質にされて、ナイフを突きつけられていた箒の気持ちも分からなくは無いが、放って置くわけにも行かなかった。あげるって言われたし。とりあえず、ラボに居る束とクロエに向けて連絡を取る。

 

「これでどうだ? 束? クロエ?」

 

『うんうん! 大・大・大・大・大満足だよゴッくん!』

 

『兄様! 怪我は大丈夫なんですか!?』

 

「ああ、『エターナル』のお蔭で大体治った」

 

「……待て、ISの反応だ……『テンペスタ』!? アリーシャ・ジョゼスターフか!」

 

「! 世界第二位のIS操縦者か!」

 

ここで出してくるか! 出撃のタイミングを考えると連合軍の『最後の切り札』って所か。

 

「……ん? 俺達じゃない。アバズレの方を追って行ったぞ?」

 

スコールの方を追った? 俺達に向かわないで? 理由は分からないが、もしかしてチャンスか? そろそろ体の方も限界だ。思わず膝を床について崩れてしまう。

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

「大丈夫……とは言えないな。正直辛い」

 

「ちっ! 脱出するぞ、ウサギ女! 今しかねぇ!」

 

『あいあいさー!』

 

『HEAT・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『ROCKET・MAXIMUM-DRIVE!』

 

ラボからは人参型ロケットが飛び出し、デウス・エクス・マキナ号が空を飛んだ。後はアンクに任せる。今回のセルメダルの収支計算がどうなっているのか考えると後が怖いな。俺は安堵感から横になると直ぐに意識を手放した。

 

 

 

『仮面ライダー』がIS大戦の前に撃破したISは5機。このIS大戦で撃破したISの数は37機。合計42機のISを撃破している。この世界に存在するISは全部で467機。その内、24個はミレニアムが研究の過程で使い潰した為、世界には現在443機が存在する。

 

つまり、この世界のISの約11分の1を一人で倒したのである。この事実にゴクローが気づくのはもう少し後のお話。




キャラクタァア~紹介&解説

オータム
 アラクネを使っているおかげで、本作初の敵ガイアメモリ使いに選ばれた悪の組織の女幹部。メモリは勿論スパイダー。実際はメモリの実験台兼、エターナルの踏み台になっていた不憫な人。でも、颯爽と現れたスコールにお持ち帰りされて大・大・大・大・大興奮。
 人質、変身前の状態で攻撃、味方ごと攻撃、人間爆弾と、悪役がやるであろう悪行を全てやってもらうつもりで書いた。メモリの影響もあるけど。

エム(織斑マドカ)
 織斑千冬にそっくりなイマイチ正体が不明な少女。実は試作品のプロト・ティアーズでフレキシブルが出来る、普通に規格外なすごい子。結果的に箒と一緒にお持ち帰りできて、マドカの正体を知る束は大・大・大・大・大歓喜。
 その正体が二卵性の双子なのか、一夏の後から生まれた妹なのか、初代ブリュンヒルデの細胞から作られたクローン少女なのか。……まさか、一夏も実はそのクチと言うオチじゃなかろうな。

アリーシャ・ジョゼスターフ
 ちょい役。IS大戦における連合軍の切り札。28歳。投入前に『亡国機業』が介入した為に不発。戦いで弱ったテロリストを捕獲する様に言われたので『ゴールデン・ドーン』を単身で追ったが撒かれた。「ヒーローとテロリストを間違えるなんて有り得ないのサ♪」と供述しているが、本当は何時か万全の状態の仮面ライダーと戦いたいだけ。


プロト・ティアーズ
 マドカが使う、実戦投入を想定されていない『ブルー・ティアーズ』の実験機。流石に原作開始前に『サイレント・ゼフィルス』出すのは無理だろうと思って出した。原作でも『ティアーズ型』って言うくらいだから他にも同型があるはず。小説版『仮面ライダーオーズ』のバースの章を見た影響もあるけど。

仮面ライダーエターナルレッドフレアエクストリーム
 ゴクローがレッドフレアのままで至った『エクストリィィィム!』なエターナル。全体的な戦闘能力は本家エターナルにも劣るが、代わりに生体再生機能とプリズムビッカーとプリズムメモリが追加された独自の能力と武装を獲得している。マントを羽織って剣と楯を装備し戦う姿は、とてもダークライダーには見えない。
 ブルーフレアの解釈は大道克己役の松岡充さんのインタビューから。設定的には『仮面ライダークウガ』のレッドアイ・アルティメットフォームや、『仮面ライダーアギト』のエクシードギルスに近い。
一応、『白騎士』と『暮桜』を模倣して生まれた存在なので、もう一つの『白式』をイメージしていたりする。あと一回『白式』と戦わせて見たい。

プリズムビッカー
 今作では最大で六本同時マキシマムが可能な盾と剣。『プリズムブレイク』はイエスタディドーパントの刻印を消せる事から、恐らくスパイダードーパントのリア充破壊爆弾である子蜘蛛も消せると予想。
 もしも、鳴海壮吉がビギンズナイトで死んでいなかったら、翔太郎とフィリップの手で呪縛から解放され、最愛の娘の結婚式に出られたのかも……と、言う妄想を元に書いてみた。


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第8話 Nobody's Perfect

今回は一話のみ。前回で戦闘描写ばかり書いた反動なのか、戦闘描写を書かないと思うと一気に気が抜けた。箒とマドカってこんな感じでしょうか?


「よいこのみんなあちまれ~! 今日も今日とて、猛り狂ったこの私、モンティナ・マックスが! ヴァルハラをジャンジャンバリバリ地獄に変えていきたいと思いま~す!」

 

「流石少佐殿パネェ! マジやっちゃってくださいよ~! あこがれちゃうな~!」

 

「「「………」」」

 

ハイテンションな少佐とドク。黙って見ている大尉とリップバーンとゾーリーンの三人。少し離れた所でそれを見る俺。

 

「はい、少佐。一つ質問があります」

 

「ウム、何時来たんだシュレディンガー。まあいい、何でも言ってみんしゃい」

 

「俺さっきまでIS大戦してたじゃないですか、それはもう超ド派手に。これから先ずっと世界中の敵と戦い続ける、血と撃鉄と闘争に満ちた人生が待ってるんでしょうか?」

 

「……まあね」

 

「やっぱり?」

 

「話は変わるが、遂にエターナルがエクストリームに至ったようだね。しかもレッドフレアのままで」

 

「ええ」

 

「『仮面ライダーエターナルレッドフレアエクストリーム』って略すと『仮面ライダーエターナルRX』になる。つまり『てつをさん』だ。これから君はエターナルに変身する度に『仮面ライダー! エターナッ! アーエーッ!』ってポーズと共に名乗るんだ」

 

それなら仮面ライダーW・CJXに倣って、仮面ライダーエターナル・RFXだと思うのだが。

 

「ミレニアム大隊各員に伝達! よく聞け! シュレディンガー准尉が『仮面ライダーエターナルRX』になった! コレどう思う?」

 

「略称がRXで決定ですか?」

 

「リップバーン中尉! 景気付けにこの鍋に入った葛を頭から被れ!」

 

「え? なんでそんな事するんですか?」

 

「そして葛がぶっかかった状態でぺたんと床に座って、上目遣いにコッチを見るんだ」

 

何を狙っているのか察した俺は葛の入った鍋を少佐から奪い取り、白濁したドロドロで熱々の葛を少佐に頭からぶっかけた。

 

 

●●●

 

 

「起きたか」

 

「ああ、人の尊厳を守る夢を見た」

 

熱々の葛にのた打ち回るドイツ原産の機械豚を、養豚場から出荷される豚を見る様な冷たい目で見た辺りで目が醒めた。

 

「聞きたいだろう事を一通り言っておく。あれから約6時間が経過。ここはウサギ女のラボだ。全員無事、妹の箒もエムも大事ない。ウサギ女はエムの事を『織斑マドカ』と言っていたがな」

 

「その織斑マドカは何処に?」

 

「お前の隣だ」

 

隣に目をやるとマドカが寝ていた。オータムの子蜘蛛に襲われた時は、明らかにヤバそうな感じだったが、今はそれもない。安らかな寝顔だ。

 

「お前の怪我は大体治っている。エターナルに追加された生体再生機能のお蔭だ。それに治療用ナノマシンを注射しておいた。ドライバーもコアメダルもガイアメモリもメンテナンス中。パッケージは『Type-ZERO』がオーバーホール。『イエーガー』が大破。『パンツァー』は使用する弾薬の補充に時間が掛かる」

 

「ミサイルやら実弾やらありったけぶちこんだからな。気持ちえがった~」

 

「えがった~じゃねぇよ馬鹿。どんだけ金と時間が掛かると思ってんだ」

 

それは考えたくないな。しかし、『パンツァー』は補充してもまず使えないだろ。アレは周囲に何も無いからこそ使える殲滅装備だ。市街地で使えばとんでもないことになる。

 

「ところで、なんで箒がここに居るんだ?」

 

「ウサギ女とあまり話したくないんだと」

 

椅子に座ってコクリコクリと効果音がつきそうな感じで、頭を揺らして寝ている箒。箒は束とクロエとラボで合流した後、束とは最低限の言葉を交わしてから、ずっとここに座って俺が目覚めるのを待っていたらしい。要するにこのラボで居場所が無いからここに居ると言った感じか。

 

「一応、俺達についても一通り話した。お前の出自からこれまでの事を全て」

 

「手間が省けて何より。しかし、直ぐ横に自分を攫ったテロリストが寝ているのによく居られたな」

 

「俺がいる事もあるが、そっちがお前より早く目覚めた場合は俺からウサギ女に連絡がいく手筈になっている」

 

最低限の対策はしているらしい。とりあえず箒を揺すって起こしてみる。

 

「うん?……! 目が醒めたか」

 

「ああ、椅子で寝てたみたいだが、体は辛くないか?」

 

「いえ、少し疲れていただけですので、お気遣いなく」

 

「ああ、無理して改まらなくても良い。普通に話してくれ」

 

「はあ、その……助けてくれて感謝する」

 

「どうしまして」

 

口調が一気に砕けたが、表情が硬いな。先ずは自己紹介から始めよう。

 

「自己紹介がまだだったな。俺はゴクロー・シュレディンガー。ゴクローでもシュレディンガーでも好きに呼んでくれ」

 

「篠ノ之箒だ。箒でいい。……実は聞きたい事が幾つかある」

 

神妙な顔で箒は俺に質問をぶつけ始めた。

 

 

○○○

 

 

私の人生は常に姉さんの影が纏わりついていた。

 

姉さんがISを発明したことで小学4年生の時から政府の重要人物保護プログラムにより、日本各地を転々とさせられていた。一家離散の状態となり、それぞれバラバラに暮らすことになった。初恋の相手である一夏とも離れることになった。姉さんが失踪してからは執拗な監視と聴取を繰り返され、それが私の心身をガリガリと削っていった。

 

挙句の果てには姉さんを狙うテロリストに捕まって人質にされた。仮に姉さんがコイツ等に捕まっても私は解放されないだろう。これから先、姉さんを良い様に操るための道具としての未来が待っているのかと思うと、とても惨めな思いだった。今すぐにでも死んでしまいたかった。

 

でも、そんな未来は訪れなかった。メダルで出来た鳥の様な赤い怪人と、血まみれになりながらも諦める事を放棄したような目をした金髪の男が助けてくれた。猿轡と縛っていたロープを切ると、見たことも無い巨大な装甲車の中に私を匿った。

 

「ここで待ってろ。直ぐに終わらせてくる」

 

その言葉に自分でも驚くほど素直に従った。それ以外に助かる方法は無いと心で理解していたからかも知れない。戻ってきた時に敵の一人を黒マントに包んで運んできた時は驚いたが、どうやら仲間に見捨てられたのを助けたらしい。何故か怪我が治っていた事に疑問を持ったが、男は体力の限界だったようで倒れてしまった。

 

戦場から脱出して向かった先は姉さんが造った秘密のラボ。姉さんの仲間だとは思っていたが、姉さんは私と一夏と千冬さん。後は両親くらいしか認識できていなかった筈だ。それが、この男と怪人。それにクロエという少女を、姉さんが認識している事に驚いた。

 

テキパキと、意識の無い二人に治療が施されていくのをじっと見ていた。姉さんは私に色々と話しかけてきたが、私は話したくなかった。

当然だ。私はずっと姉さんの所為で辛い思いをしてきた。本当の事を言えば直ぐにでもここから出て行きたかったが、何処に行っても危険だと言われた。また捕まって人質にでもなったら、助けてくれた怪人とこの男に申し訳ない。それに助けてくれたお礼くらいはちゃんと言っておきたかった。

 

怪人から鳥になったアンクから一通りの経緯を聞いた。ISを打倒する為に造られた対IS最終兵器と、それを使うクローン人間。この戦争は姉さんの所為で起こったらしいが、この男は、ゴクロー・シュレディンガーは姉さんを恨んでないのだとか。

 

どんな人間なのか興味も湧いた事も有り、目覚めるまで椅子に座ってずっと待っていたが、疲れから眠ってしまったようだ。ゴクローが先に目を覚まし、体を揺すって私を起こした。

話してみるとなんと言うか意外だ。あのオータムとか言う女に嬲られていた時に切った啖呵もそうだが、とても悪の組織の一員に見えない。思ったよりも話しやすい事から、思い切って自分の疑問を聞いてみた。

 

「アンクから大体の話は聞いた。ゴクローはISを打倒するために生まれたのだろう? それが何故姉さんと一緒に居るんだ?」

 

「俺にとってISは打倒すべきものではあるが、束は敵じゃないって事だ。箒、君は銃を作る人間や、銃を持っている人間は皆、例外なく犯罪者だと思うのか?」

 

その質問に口を噤んだ。銃と言うと凶悪犯罪のイメージがあるが、警察もまた銃を所持している。

 

「違うだろ。その力を悪用するものもいれば、脅威から守るために使う者もいる。つまり新しい発明や発見は、必ず悪用されるというリスクがついてまわる。力そのものに善悪が無い様に、発明や発見そのものに善悪は無い。使い手次第で白くも黒くも染まる」

 

「だ、だが、ゴクローは姉さんがISと言う兵器を開発したから生まれたんだろう? 自分が生まれた原因に対して何も思わないのか?」

 

「それがそもそもの間違いだ」

 

間違い? 何が間違っているのだろう。ISが最強の兵器だから、それに対抗する為の兵器を造り出そうとしたのだろう?

 

「ISは元々戦闘兵器ではない。『あらゆる現行兵器を凌駕する』と言うだけで、他人が勝手に戦闘兵器だと言い出しただけだ。束は元々、ISをロケットとして使いたかったが、それを見た他人がミサイルとして使ったって感じかな」

 

……確かにISは今でこそ飛行パワード・スーツとして軍事転用され、究極の機動兵器として各国の抑止力の要となっているが、元々は宇宙空間での活動を想定し、宇宙進出を目的として開発されたマルチフォーム・スーツだった筈だ。

 

「束の罪はISを開発したことじゃない。自分の心の弱さを他人への攻撃に変えたことだ。『白騎士事件』は束が起こしたマッチポンプだと知っているか?」

 

「……はい」

 

それはアンクから聞いた。もっとも、私はそれを聞く前からそうとしか考えられなかった。白騎士の正体が千冬さんだと言う事も薄々ながら感づいていた。

 

「その発端は束が学会でISを発表し、それを否定された事だと言われているが、束が学会で発表したと言う事に違和感がある。他人を認識できない人間が、特定の人間以外に興味を向けない人間が、学会で自分の研究成果を発表する。何か不自然だと思わないか?」

 

言われてみれば……。『白騎士事件』を姉さんと千冬さんの二人だけで起こせたのなら、学会で発表する必要など無い。姉さんが認識できない筈の人間を相手に、自身の研究成果を発表した事が、私の知る普段の姉さんからはズレている行動の様に思えた。

 

「つまり、束は他人を『認識できない』のではなく、『認識しない様にしていた』だけ。もしくは、自分を理解していない相手に対して、自分も相手を理解しないと言ったスタンスなのだと俺は思う。そして、束の反応から見るに、恐らくお前達の両親は束を理解していない。むしろ恐怖しているかも知れない」

 

両親が姉さんを理解していない? それどころか恐怖している? どう言う事なのか?

 

「仮に人間が犬だとして、犬が人間並みの知能を持った子を産んだとしたらどうだろうか? 幾ら我が子が可愛くても、我が子を理解する事が出来ないのではなかろうか? そして、理解できないモノを人は恐怖し、異端として拒絶する」

 

……そう言えば、姉さんと両親が仲良くしている所を見たことがあるだろうか? 私は父から剣術を教わっていたが、姉さんはどうだったか。思い出される篠ノ之家の中では、姉さんは何時も一人だったような気がする。

 

「自分を産んだ両親でさえも自分を理解してくれない。むしろ、恐怖さえ感じている事を束は子供心に理解していた。誰も自分を理解してくれないから、自分も誰も理解しないと思っていたのかも知れない。そして、孤独を孤高に摩り替えた。そんな中で、同じように両親の愛を受けられなかった存在が偶然にも近くに居た」

 

「……千冬さんか」

 

「きっとシンパシーを感じていたんだろう。織斑一夏も同様の理由で認識していた。箒を認識できていたのは、箒が純粋に束本人を見ていたからだと思う」

 

「……」

 

その答えに身に覚えがある。姉さんを純粋に凄いと思っていた幼い頃の記憶。あの頃の私は姉さんが頼もしくて誇らしかった。

 

「しかし、成長するにつれて箒が束の才能がどれだけ規格外なのかを理解する様になった。それこそ両親と同じ様に」

 

それも身に覚えがある。何時の頃からか、姉さんと自分との違いを自覚する様になった。あの人は私とは別の生き物なのだと思うようになった。

 

「人は何かを欲するから行動する。束が欲しかったものは何だと思う?」

 

「姉さんが欲しかったもの?」

 

姉さんが欲しかった何か。今までの会話から察するに……。

 

「自分を見てくれる理解者?」

 

「俺の考えは違う。多くの人間が得られるはずのモノだ」

 

「それは?」

 

「愛だ。誰もが子供の頃、両親から愛を受ける。束は幼くしてそれを失った。そして失ってしまった愛をずっと追い求めていた」

 

「両親からの愛……ですか?」

 

「親ってのは子供にとって神も同然だ。絶対的な自分の理解者であり、絶対的な味方。その神から恐怖される事がどれだけ辛いことかお前に分かるか?」

 

「………」

 

「束は愛を失い、愛に彷徨した。そして遂に自分を受け入れない世界そのものを憎んだ。その心の弱さを攻撃に変えて世界を変えようとした。自分を受け入れてくれる世界を、自分が否定されない世界を創ろうとした。だが、失敗した。そして束は自分を受け入れない世界そのものを切り捨てた」

 

「それが『白騎士事件』と、姉さんの失踪の真相だと?」

 

「今言った事は俺の推測だ。今言った事が真相だと提示できる証拠は無い」

 

「……仮に真相がそうだとしても、私は姉さんを許せない」

 

確かに確たる証拠のない仮説だが、今言った事は私から見てかなり真実に近く、的を射ているような気がする。それでも、今までの不幸の原因である姉さんを許すことが出来ない。

 

「……いい加減に気付いたらどうだ?」

 

「え?」

 

「お前が憎んでいるのは、束自身でも、束がISを開発した事でもない。

物事に対して自分にとっての利益を取捨選択し、理解できない物を理解しようと努力せずに拒絶する安易な方法を取る大勢の意思と、本人の意思を度外視して、強大な力を都合よく利用することだけを考える大勢の欲望。

それらが正義の名の元に強制する、この世界の残酷な理不尽や不条理そのものだ」

 

!!

 

「箒は……いや、束も、両親も、他人が巻き起こした欲望の渦に巻き込まれただけ。相手が国家や国際組織と言う、誰にも反論できないような大きなものだったから、言い訳の聞かないようなどうしようもない相手だったから、お前は言い訳のできる相手を憎んだ……違うか?」

 

その言葉は私が何時も姉さんの事を考えるときに思っていた、疑問の答えとしてぴったりと嵌った。こんな人生を強制された原因である姉さんを断じたいのか、許したいのか。そのどちらもがずっと本心の様で、偽りである様な矛盾を感じていた。

 

もしも、ISが宇宙へ行く為のマルチフォーム・スーツだと認められていたなら?

もしも、姉さんの研究が正しく見るものが一人でもいたなら?

もしも、姉さんの研究を理解しようと努力する人が一人でもいたなら?

 

姉さんは『白騎士事件』なんて起こさなかったんじゃないのか? いや、『白騎士事件』が起こった後でもチャンスはあった筈だ。

 

世界がISの力を目の当たりにして、兵器として利用しようと考えたから。

各国がその強大な力を手に入れようとしたから。

宇宙進出ではなく軍事に利用しようと考えたから、私達はこうなったのではないのか?

重要人物保護プログラムだって、私たち家族の安全を守るためと言いながら、姉さんの情報を得るための大義名分だったのでは無いか?

 

これまでの私の人生は姉さんではなく、そんな他人の欲望によって捻じ曲げられていたのだと気がついた。気がついてしまった。背中から鳥肌が立った。

 

「わ……私は……」

 

「本当はずっと辛かったんじゃないのか。束を憎む毎日が。好きだった人を憎む人生が」

 

やめろ……それ以上言わないでくれ。

 

「裏切られた気分だったんだろ。ずっと信じていた人が家族をバラバラにしたと思って、憎まなきゃ耐えられなかったんだろ。……束が大好きだったから」

 

その言葉が止めになった。もう耐えられなかった。目から涙がとめどめなく流れてきた。自分に対してずっと嘘をついていた事に、自分自身を偽っていたことに気がついてしまった。

 

「ず、ずっと……ずっと、姉さんを、憎んで……姉さんの、所為だって、言い訳して……ずっと……一人に、なって……一人ぼっちで……寂しかった……んだ。ず、ずっと、ずっと、憎しみの、捌け口をっ、探して……ぼ、暴力でっ、人を、傷つけてっ、ずっと、ずっど、後悔してたんだぁ……っ!」

 

気がつくと泣きながら懺悔していた。今まで私が溜め込んでいたものを涙と共に吐き出していた。過去に犯した罪からずっと許されたかった。ずっと楽になりたかった。

 

そんな私を、壊れそうな脆い物に触れるように抱きしめてきた。人の温もりなんてどれ位ぶりだろう。私を慰めようとしているのだろうか。でもそれなら逆効果だ。温かくて、心地よくて、余計に涙が止まらない……。

 

「お前の罪は三つ。一つは束の心の闇を知ろうとしなかった事。二つ、束を憎むことでしか自分を保てない自分の弱さに気がつかなかった事。三つ、自分の弱さを他人への攻撃に変えたこと」

 

今までに犯した罪を数える断罪の言葉。だが、厳しい非難や激しい怒りの篭っていない、安らかなで慈悲や慈愛が込められていると感じる声だった。

 

「自分の罪を数えたら、後は罪を背負って進むだけだ。箒は間違った道を知っているから、後悔してるから、今度はちゃんと正しい道を、ちゃんとまっすぐに歩いていける」

 

私が望む様な優しい言葉だった。間違いを犯してもやり直せるのだと言ってくれた。むしろ間違えたからこそ、後悔しているからこそ、より正しくなれるのだと。

 

「なんで束を敵とみなしていないのか。俺には束が、縋るモノを探して泣きながら彷徨っている迷子か、欲しいものが手に入らなくて駄々を捏ねている幼子にしか見えなかったんだ」

 

ああ、そうか。姉さんも私と同じだったんだ。姉さんはISを発明する前から、私はISが発明されてから、ずっと縋るモノを探していた。愛を失って、愛に彷徨っていた。

 

「わ、私……姉さんに、謝りたい……謝って、仲直り、したい……」

 

「そうか……きっと、束も喜ぶ」

 

奇妙な話だと思う。対ISを掲げる悪の組織の最終兵器。そんな人が私を憎しみから解放してくれた。

 

 

○○○

 

 

か~なり自分の考えを含めて、エラソーに語ってしまったが、これで良かったのだろうか。沢芽市の呉島兄弟しかり、風都の園崎家しかり、兄弟や姉妹の愛情が憎しみに変わるとドえらい事になる。この篠ノ之姉妹も例外では無かったようだが、憎しみを乗り越えてくれて何よりだ。

 

「す、すまん。取り乱してしまって」

 

「俺は一向に構わん」

 

落ち着きを取り戻した箒の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだが、泣いて吐き出してすっきりしたようだ。姉妹仲の改善の代価が、俺が着ている服が壊滅的な被害を受けることなのだとすれば安いものだ。ティッシュで鼻をかんで顔を綺麗にした箒はもう一つ質問をしてきた。

 

「もう一つ聞きたい事がある。何故敵だったコイツを助けたんだ?」

 

隣で寝ている織斑マドカを指差して言った。いや、全裸の少女を砂漠に放置するのもアレだったし、連合軍に渡したらどうなるかも目に見えていた。まあ、強いて言うなら……。

 

「俺の目指すものの為だ」

 

「確か『仮面ライダー』と言っていたか、正義の味方ではなく、人間の自由を守るために戦うと」

 

「ああ」

 

偉大なる原点。仮面ライダー1号こと、本郷猛の言葉だ。この信念と生き様を無くして仮面ライダーは語れない。それが無ければ仮面ライダーはショッカー最強の怪人に成り果てる。

 

「俺がいた『ミレニアム』は対ISを掲げる組織だ。悪の秘密結社ってやつだ。その構成員の多くはISによるテロで家族を失った人間や、女尊男卑の社会によって社会から弾かれた人間だ」

 

第二次世界大戦から生きている、隠し砦の三悪人を筆頭としたISとは全く関係なかった奴もいるけどそれは置いておく。

 

「裏の世界で生きる人間は初めから裏側にいたって訳じゃない。中にはそうせざるを得ないような連中もいた。そして誰も彼もがISを、束を、白騎士を、時代を憎んでいた。愛する人を奪われて復讐したい気持ちは理解できる。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いみたいな考えには賛同できなかったが、皆寂しそうな目をしていた。多分、復讐する事で自分の辛い過去や運命に決着を着けたかったんだと思う。」

 

彼らには彼らの歩いてきた人生がある。憎み、復讐するだけの過去がある。それをそんな復讐なんて無意味だなんて、分かった風には言えなかったし、言いたくなかった。

 

「そんな連中を見て、俺は優しくて強い奴になりたかった。本当の強さが欲しかった」

 

「本当の強さ……」

 

「力を手に入れて強くなる度に、弱かった頃の優しさを捨てるような人間になりたくなかった。自分達が弱いことを理由にして徒党を組んで、相手が強いってだけで相手の中身を無視して、排除する事を正当化するような卑劣な人間にもなりたくなかった」

 

憎しみを無くしたかった。彼らの話を聞くに憎しみの原因になった人間はそんな感じだった。

 

「その信念を守るために助けたのか? それでお前が馬鹿を見るかもしれないのに?」

 

「ああ、どんな過去や罪を背負っていてもやり直せるって証明したかった。諦めずに生きる限り、人は変われると、なりたい自分に変身できると俺は信じているから。馬鹿を見たら……その時はその時で自分が馬鹿だったって思うことにしてる」

 

自分自身が二度目のチャンスを、人生を貰ったから、他の誰かにも二度目のチャンスをあげたいと思っている事も理由だろう。

 

「確かに、信念を貫く為に不利になる事もある。窮地に立たされる事もある。弱さとして漬け込まれる事も有る。でも、俺はその弱さも抱えて進む。それ以外に、俺の目指すものは無い」

 

「……強いな、ゴクローは」

 

「いや、割りと弱いと思うぞ。束なら人質取られた状況でも無傷で切り抜けそうだ」

 

「それは……確かにそうかもな」

 

「だろ? そろそろ、束とクロエに顔出すか。心配かけたと思うし」

 

「あ、ああ、そうか……」

 

「……一緒に行くか?」

 

箒はまだ束に会うのがちょっと不安なようだ。手を差し伸べると戸惑いながらも差し出された手を掴んだ。

 

「す、すまない」

 

「こーゆー時は『ありがとう』が正解だ」

 

「……ありがとう」

 

「どう致しまして。アンクはどうするんだ?」

 

「俺はここに居る」

 

アンクを残して、箒の手を取って俺は束の居る場所へ向かった。……が、ここで問題が発生した。

 

「ところで箒、一つ聞きたい事がある」

 

「なんだ?」

 

「束ってこのラボの何処にいるんだろうな」

 

「知らなかったのか!?」

 

「ああ、初めて来た場所だ」

 

普段ならキーメモリのマキシマムをメモリガジェットで使う。本家では出番が無かったが、キーメモリは解除能力と目標の対象物を探し当てる能力を持っているから、日常生活でもかなり便利なメモリだ。

しかし、手元にドライバーが無い所為でキーメモリはおろか、メモリガジェットも無いからこの方法は不可能だ。

 

「全く、確かコッチだ」

 

「……すまん」

 

「こーゆー時は『ありがとう』だぞ」

 

「……ありがとう」

 

「ふふっ、どう致しまして」

 

手を引いていた筈なのに今度は逆に箒に引かれている。カッコがつかなかったけど、箒が苦笑しながらも楽しそうなので良しとしよう。

 

 

○○○

 

 

私は織斑マドカになる為に、自分自身の存在証明の為に、強大な力を、誰にも負けない強さを欲した。

 

秘密結社の『亡国機業』に入ったのもその為だった。もっとも、組織に対して忠誠心の欠片も無い私は監視用ナノマシンが注入されたが構うものか。力が手に入るならそれでいい。なんとしてでも力を手に入れて、織斑千冬を殺す。私は織斑マドカになる。ただそれだけの為に生きていた。

 

ある日、スコールが満身創痍の状態で帰って来た。『ミレニアム』とやらを襲撃して、対IS最終兵器とやらに返り討ちに遭ったらしい。名前はゴクロー・シュレディンガーだとか。ふざけた名前だと思った。

 

それから数日して、その最終兵器『オーズ』と篠ノ之束博士の居場所の情報が流れてきた。チャンスとばかりにオータムが指揮し、私も同行する事にした。人質として捕獲した篠ノ之箒を運ぶ仕事は面倒だったが、スコールを打倒した存在がどれだけのものなのか興味があった。

 

戦場で『オーズ』を見たときは衝撃を受けた。オータムは獲物が弱るのを今か今かと待つ肉食獣の様に見ていたが、私は違った。次々とISを撃墜していく様に感動を覚えた。臨機応変や千変万化、一騎当千と言った言葉が似合う戦いぶりだった。私が心から欲した、運命さえも捻じ曲げる強大な力を見せつけられた気がした。

 

ターゲットが全てのIS操縦者を撃破した後に、人質作戦が決行された。あっさりと『オーズ』を渡したことに多少の疑念が湧くが、あの力が私の手に握られている事実に頬が歪む。

 

生身になった操縦者にオータムがISを展開し、嬉々として攻撃していた。だが、あの男の目はヤバイ。あれは命を散らす最後の一瞬まで、勝利の為に我武者羅に食らい付く執念を持った奴の目だ。オータムに忠告したが、オータムは聞き入れなかった。

 

私の見解は間違いではなかった。ちょっとした油断から人質は奪還され、私が『亡国機業』で手に入れた力は、イレギュラーにより何時の間にか狂わされていた。人質も気になるが、私は目の前の怪人を仕留める事に躍起になっていた。

 

絶対に逃してなるものか、その力があれば私は……ッ! だが、ソレが不味かった。怪人との戦いに集中していた所為か、戦場の変化に気がつかなかった。

 

オータムのモノと思える、大量の蜘蛛の形をしたメカが、ISに纏わりつき爆発した。正確には、ISの装甲を爆弾に変えて、私ごと怪人を攻撃した。ISのお蔭で私は守られ、非難の目をオータムに向けるが、オータムは私が死ななかったことが意外だと言わんばかりだった。

 

ここで気がついたが、アラクネは姿形を大きく変化させて、未知の能力を使用していた。私のISのBT兵器も、敵のロボットもオータムの蜘蛛に乗っ取られた。

それに相対するのは、先ほどの黒を下地にしたパワード・スーツと対になるような、黒いマントを羽織った白い鎧の戦士。

物量で攻撃するオータムに対して、戦士は黒いマントを翻して光り輝く盾を構えた。盾から発する光線で、爆弾と化したBT兵器もロボットも瞬く間に撃ち落とし、一瞬で数の利を覆した。

 

駄目だ。オータムではコイツに勝てない。心の中で思ったことをそのままオータムに告げると、私を見たオータムがバイザーの下で、いい事を思いついたと醜悪な笑みを浮かべているのを幻視した。

蜘蛛が次々と私の体に噛み付き、体が徐々に糸に覆われていく。無理矢理に自分の体を意のままにされる感覚に恐怖とおぞましさを覚える。

しかも、先ほどのISに食いついた個体と同じように、赤く発熱している。だが、私は爆発して死ぬのではなく、相対する戦士の剣で終わるのだと何故か分かった。

 

禄に知らない相手のために簡単に力を捨てる男に。人質の一人も見捨てられない甘い男に。どれだけ傷ついても諦めない目をした男に。自分から枷を作って不自由になった男に。

 

……だからか? 私には何も無いからか? 私が何者でも無いからか? 私が誰からも愛されないからか? 私が誰とも繋がろうとしなかったからか?

 

この死に際になって、私は自分が『空っぽな人間』なんだと理解した。その直後、戦士の剣が私を斬り裂いた事を感じ、意識が途切れた。

 

 

 

誰かが泣いている声で目が醒めた。死んだと思ったが生きていた。隣を見ると、件の男が人質にした篠ノ之箒を抱きしめていた。チャンスかと思ったが赤い鳥が此方を見ていた事もあり、黙って様子を伺うことにした。

 

しばらくして、二人の話題は「私を何故助けたのか」という事になった。男はなりたいものの為に、本当の強さを手にする為に、強くて優しい人間になる為に、自分の信念を曲げない為に助けたと言った。

甘い男だと思った。だが、それがこの男の強さの秘密なのだろうか。ゴクローと篠ノ之箒が出て行った後で、アンクと言われた赤い鳥が私に話しかけてきた。

 

「おい、お前を助けた理由は今聞いた通りだ。あいつは馬鹿だ。あれだけ痛い目を見てもあんな感じだ」

 

「……ああ、甘いな。あの甘さはこの世界では命取りだ」

 

「ああ。だが、だからこそお前は助かった」

 

そうだ。その甘さが無ければ私はこうしていない。ふと、今までの人生を振り返る。

クローン人間と言う影を背負い、悪の組織に身を置き闇の中で生きながら、ずっと光を目指していた。何時の日か、自分に光が当たる事を夢見ていた。

馴れ合いは無意味と思いながらも、心の何処かで『織斑マドカ』を肯定してくれる存在を欲していた。自分と同じ痛みを持つ者を、痛みを分かち合うことの出来る人を探していた。

 

「あの白い戦士の名前は何だ?」

 

「あれはエターナル。仮面ライダーエターナル」

 

「エターナル……」

 

私が欲していたのは運命を捻じ曲げる力ではなく、運命を断ち切る力だったのかも知れない。

 

私は永遠の名を冠する白い戦士に、『仮面ライダーエターナル』に魅せられていた。

 

 

○○○

 

 

箒と一緒に束の元へ行くと、束とクロエの様子が明らかにおかしい。束は此方に顔を見せないし、クロエはオロオロしている。

 

「ご、ゴッくん、げ、元気そうだね!」

 

「ああ、おかげさまでな」

 

背中を向けた状態でそう言われてもな。束が小声でクロエに何かを告げると、クロエが俺に近づいてきた。

 

「兄様、束様と箒様を二人に……」

 

「大丈夫か、箒?」

 

「大丈夫だ、覚悟は決めた」

 

「分かった……頑張って」

 

クロエに手を引かれて、箒を置いて束と二人っきりにした。一体何が起こっていたのか。

 

「実は……さっきまでの様子をモニターで確認していまして」

 

「つまり、全部見ていたと?」

 

「はい。それで束様が泣き出してしまいまして」

 

……マジか。束にもクロエにも筒抜けか。あの解釈で良かったのか余計に悩む。知った風な口を利くなと束を怒らせてしまったか。

 

「いえ、束様が怒っている様には見えませんでした。それより戻りましょう。織斑マドカが目覚めていました」

 

「……何時からだ?」

 

「兄様が箒様を抱きしめていた辺りです」

 

マドカにも聞かれていた。しかも、助けた理由が筒抜け。今日は厄日なのかも知れん。羞恥心に苛まれながらも元の場所に戻った。

 

「おはよう。調子はどうだ?」

 

「……悪くない」

 

「そうか。俺はゴクロー・シュレディンガーだ。宜しくな」

 

「クロエ・クロニクルです。以後お見知りおきを」

 

「私はエ……いや、織斑マドカだ」

 

クロエの言う通り、マドカはきっちり起きていた。思ったよりも大人しい。

 

「その……色々と世話になったな」

 

「コレからもっと世話になるぞ。お互いにな」

 

「……いいのか? 私は『亡国機業』で敵だったんだぞ」

 

「今は敵じゃない。それにそんな肩書きは今の俺に比べれば霞むぞ」

 

「……ふっ。確かにそうかもな。つまり、命を助けた代わりにお前達の一味に加われと言うわけか」

 

「拒否権はある。だが、せめて力をつけてから出て行け」

 

「……変わってるな。それで手にした力でお前達に牙を剥くと考えないのか?」

 

「その時は俺がお前を倒す。それがお前を信じた俺の責任だ」

 

「ふふっ。お前、馬鹿だろう」

 

「良く言われる」

 

「でも、嫌いじゃないぞ」

 

柔らかい表情になったマドカを可愛いと思ったら、隣のクロエに抓られた。ジトッとした目で見られた。「む~」とか唸っている。

 

「一つ聞きたいのだが、チーム名はあるのか?」

 

「……無いな」

 

「ありません」

 

ミレニアムは壊滅したし、束とクロエもチーム名なんて考えていない。そこで一つ提案してみる。

 

「それならこんなのはどうだ? 如何なる困難や逆境にぶつかっても決して諦めない。諦めを踏破し、運命を変える権利人となる事を目指す。俺達の名は――」

 

「――『NEVER』。なんてどうだ?」




キャラクタァ~紹介&解説

篠ノ之箒
 欲望の渦に巻き込まれた剣道少女。原作の束との確執は今回の一件で解決。篠ノ之姉妹の険悪な姉妹仲の回復は、原作開始前にトライアルドーパントが書きたかった事の一つ。理由は原作三巻でのやり取りが気に入らなかったから。
 今回、箒と596のやり取りは、フィリップと翔太郎、フルーツ鎧武者とDJサガラをイメージしていたのだが、書いていて途中からイタチ戦後のサスケとオビトっぽくなったなと思った。
 596「束は犠牲になったのだ!」
 箒「やめろォ!」
 596「思い出せ、優しかった姉を!」
 箒「やめろォォオオオオオオオオッッ!!」
 アンク「キー!」

織斑マドカ
 欲望から生まれた怪物第3号の少女。本作では初代ブリュンヒルデのクローン体に決定。しかし、研究者と思しき人物が『千冬』と呼んでいることから察するにかなり織斑千冬に近い人間が関わっているのでは……と推測。
 織斑マドカになるべく旅をして、『自分は一体何者なのか』と言う答えを探して辿りついたのは、もう一つの白騎士。箒がサスケなら、マドカは鬼鮫かカブトだろうか。決して白ゼツではない。
 マドカ「私には何も無い……」
 596「君は自分を説明できるだけの情報が足りないだけ……」
 アンク「オイ、なんだその蛇みてーなメイク」
 596「自分が何者か知りたいなら……さあ、傍らに……」スッ
 マドカ「………」ギュッ

篠ノ之束
 愛を失うばかりのこの世こそ地獄だと悟り、傷つけるばかりの世界を切り捨てた天災ウサギ。愛を失い、愛を求め、愛に彷徨し、漸く愛を説く誰かに出会う。
 箒がサスケなら、束はイタチと言うよりはマダラ。クロエの持つIS『黒鍵』の能力『ワールド・パージ』なんて完全にIS版限定月読。原作の束はもしかしたら、無限月読を発動しようとしているのかも知れない。
 束「待ってたよ、ちぃぃぃちゃぁあああああああああんッッ!!」
 千冬「お前は後!」ズビシッ
 束「……びぇぇぇええん! ゴッく~~~ん!」
 596「(メンタル弱いな……)よしよし」ナデナデ
 束「えへへ~」ニヤリ
 千冬「………」イラッ

ゴクロー・シュレディンガー
 欲望から生まれた怪物第0号の男。生まれた後は他人の憎しみと復讐の渦の中に居た。少佐を近くで見ていた所為か、人を自軍に引き込む術を知らず知らずのうちに身につけている。相手の憎しみを利用すると言うよりは、相手の憎しみを理解する事で自軍に引き込むので、ある意味少佐やオビトよりも性質が悪いかも知れない。
 主人公だが、ナルトよりもオビトに近い。リンって子は居ない。鈴ならいるけど。リンリンリンリンって、鈴でも欲しいんですか~?
 596「この世の因果を断ち切る!」
 束「今日からゴッくんが救世主だよ!」
 アンク「目を醒ませ」
 鈴「ちゃんと見てるんだから」
 アンク「誰だお前は」

クロエ・クロニクル
 欲望から生まれた怪物2号の少女。ちなみに1号はラウラ。兄様の妹と言うポジが脅かされつつある。トライアルドーパントは最近、第二期のアニメのDVDを見て『ハイスクールD×D』のギャスパー・ヴラディと同じ声優さんだと気がついた。
 瞳術使いで優秀な妹がいる姉の立ち位置からヒナタっぽいが、性格も体格も全然似てない。ラウラが絡むと豹変。志村動物園のナレーションはしない。
 クロエ「ラウラェ! 貴方は私にとっての新たな光だぁ!」
 ラウラ「!?」
 596「クロエェ! お前は俺にとっての新たな光だぁ!」
 クロエ「!!」
 アンク「……馬鹿しかいねぇ」



NEVER
 この後、束と箒にも聞いたが特に異論も無く、これで決定した。エンブレムはタジャドルコンボの不死鳥マーク。メンバーはこれからも増える。ある意味で本家の『NEVER』よりも強力な面子が揃っている。傭兵家業で資金調達はしない。現在メンバーの為の指輪を製作中。余計に『NARUTO』の暁みたい。
 596「もう一度、君を受け入れる世界を創ろう」
 束「あうぅぅぅ……」
 アンク「『オーズ』に変身してやる必要があるのかソレ?」
 クロエ「次は私です。兄様」
 箒「わ、私も……」
 マドカ「『エターナル』で頼む」


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第9話 還ってきたT/狙われたプリンセス

投稿から一ヶ月。お気に入り登録が100件を超えました。ご愛読ありがとうございます。
今回の話を書いて、『あれ? これ結局アンチじゃなくね?』と思った。
お手数でなければ、近況報告もご覧ください。作者はハッピーエンドを目指します。


クロエとマドカの三人でお互いの身の上話をしていたら、途中からクローン人間や人造人間の『あるある話』になった。

 

「やっぱ、自分を見てるのに見てないって感じがあってキツイよな」

 

「そうだな。その気になれば幾らでも代わりが効くと言う点もあるからな」

 

「造るに当たって目的や求めるモノがはっきりしている事も理由でしょうね」

 

「それを満たしても結局は道具であって、大抵の場合は個が認められない。むしろ出来て当然みたいな所がある」

 

「……確かにな。姉さんのクローンだから出来て当然。そんな目をしていたな」

 

客観的に見てとても重い話をしているなとゴクローは思った。だが、マドカはこんな話ができる相手がいる事が内心嬉しかった。

人間は同じような傷や痛みを持った人間としか真には分かち合えない。その点で言えばクローン人間であるゴクローと、人造人間であるクロエは、マドカと同じような傷と痛みを持っている。

 

「お前、オリジナルを姉さんって呼んでるのか。生きてれば俺もそう呼んでたのかな」

 

「兄様には私がいるじゃないですか」

 

「兄か。織斑一夏を兄とは呼びたくないな」

 

「……そうか」

 

適当に時間が来たところでクロエと一緒に飯を作ろうとした所、今日は自分一人でやるとクロエが息巻いて一人でキッチンに行った。正直不安だ。先日、普通の醤油ラーメンをクロエが一人で作った時は、何故かスープが青い『トロピカル・ラ・メーン』が出てきた。味はそんなに悪くなかった。

 

そのクロエと入れ違いで束と箒がやってきた。二人とも目が腫れて酷い顔だ。一体何があったのかと聞こうとしたら束が頭を下げて謝ってきた。

涙声で何を言っているのか要領を得なかったが、以前に「世界中を敵に回しても助けてくれるのか」と質問した答えを聞いてそれが本当か確かめる為に、俺にクロエを取られたみたいに思って、嫉妬からIS大戦を引き起こしたことを謝っていた。

 

「いや、俺の場合は元から世界中が敵だったから、世界中を敵に回したのは束の所為じゃない。それにそんな言葉は信じられないのが普通じゃないか?」

 

「……うえええええええええええ」

 

「もう、泣くなよ。目が凄い事になってるぞ」

 

束が泣きながら抱きついてきた。俺は背中をさすって、ウサ耳が邪魔だが外れないように気を付けて頭を撫でた。

 

「グスッ……後ね、箒ちゃんと仲直りできたの。ゴッくんのお蔭」

 

「そうか。良かったな」

 

「うん……ありがとうね」

 

「どういたしまして」

 

『みなさん。食事の用意ができました』

 

部屋にクロエの声が響き、全員でキッチンに向かう。晩御飯は山菜のおひたしと吸い物。それにおにぎりだ。おにぎりの中身は昆布とおかかと梅干の三種類。普通で良かった。

 

「どうですか?」

 

「腕を上げたな。美味い」

 

「はい!」

 

もしかしたら、以前はおにぎりも消し炭かゲルと化したのだろうか。ふと見ると、箒がおにぎりを食べながら泣いていた。

 

「も、もしかして箒様はおにぎりが嫌いでしたか!?」

 

「いや、そうじゃ、なくて……こんな、あたたかい食事は……久しぶりで……」

 

「箒ちゃん……」

 

束が箒に寄り添う。クロエとマドカは箒の言った意味がイマイチ分かっていなかったようで首をかしげている。まあ、その内分かるだろう。吸い物が体と心に染みる。IS大戦から始まった、大変で長い一日だったが、終わってみれば良い一日だった。

 

 

●●●

 

 

翌日。ネットでIS大戦について情報収集していたのだが、アレほど派手にやったオーズ無双について報道されていなかった。束の奪還に失敗した事は伝えられていたが、36対26のIS同士の戦争だった事になっていた。

 

「まあ、予想通りだ」

 

「報道規制って奴だな」

 

「……卑怯だな。敗北を素直に認めないとは」

 

「馬鹿正直に報道するわけに訳にはいかないだろ。世界中から掻き集めた36人のIS操縦者が、未知の力を使うたった一人の男に撃破させられた挙句に、ウサギ女と一緒に行方を晦ましたなんて言えるわけが無い」

 

箒は真実を報道しない姿勢に怒りを示すが、アンクがそれについて当然だと説明する。

国際IS委員会の主導の元、世界各国からかき集めた36人のIS操縦者がたった一人の男によって撃破・無力化された等と、口が裂けても言えない。アメリカに至っては専用機持ち、及び国家代表まで撃破されている。

 

また、亡国機業の介入によりアメリカとイギリスはISを奪われている事が明らかになった。日本は証人保護プログラムによって保護されている筈の箒をテロリストに拉致され、人質として利用された。そんな不祥事を公表できるわけが無い。

止めに世界に最も影響を与えた天災科学者と、一国の軍事力を上回る戦闘力を持った怪物が一緒に姿をくらまし、何処にいるのか見当もつかない。

 

元ミレニアム支援者は、対ISの為に秘密裏に造られていた力が、この世で最も渡ってはいけない人間の手に渡ってしまった事に絶望していた。心境は『進撃の巨人』のエレンに座標能力が渡った事を確信したライナーだった。

もっとも、ミレニアムと彼等の関係は、ミュージアムと財団Xの様な関係なので、ミレニアムは初めから支援者に協力するつもりも、美味い汁を吸わせるつもりもない。既に対価は払っているし、私利私欲のために裏切るような連中など信用できない。要は『用が済んだら、ちゃっちゃとおっ死ね』である。

 

攻めて来た場合の対策として、国際IS委員会は各国の国家代表操縦者、及び代表候補生等に映像資料としてオーズ無双を見せた。但し『亡国機業』に関係する部分は見せていない。オーズ無双を見たものは驚愕と絶望に顔を歪めていた。ISが最強の兵器だと妄信している連中からすれば、その映像はとても信じられないものだった。

明日にはこんな化物が攻めてくるのかも知れないのかと、もしかしたらこんな怪物と戦うかも知れないのかと。真実を知る者たちの恐怖は相当なものだった。

 

しかし、ドイツに在籍するブラックラビッ党の銀髪眼帯娘とオタッキーなお姉さまの二人は妙にキラキラした目で、IS大戦でタコレッグに拘束されナニカに『カイガン!』した隊長はやけにハァハァしながら、オーズ無双を見ていたと言う。

 

 

●●●

 

 

IS大戦から一週間。現在、束と箒とクロエとマドカの四人と一緒にモノレールに乗って、織斑千冬に会う為にIS学園へ向かっている。

 

日本政府と交渉するつもりは無い。証人保護プログラムを受けていた箒を攫って人質にしていた事を考えると、ほぼ確実に『亡国機業』の手が入っていると考えられ、日本政府はまるで信用できない。ちなみに、マドカはそこらの内情を全く知らないらしい。よほど『亡国機業』から信用されていなかったのだろう。

 

服装は、流石に大道克己コスは不味いと判断し、653こと園崎霧彦コス。黒いスーツと白地に血が滲んだような赤い模様が入ったスカーフを身につけている。念の為に、スカーフは妹ポジのクロエの手を一度経由している。

 

「束、アポは取ってくれたか?」

 

「うん。ちーちゃんに連絡入れたから大丈夫だよ」

 

「マドカ。織斑千冬に会っても大丈夫か?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

それは大丈夫じゃない気がするんだが……。一週間の間に施したマドカへの教育が生きてなによりだ。織斑千冬に対する殺意は敵意にランクダウンしている。

 

「しかし、こんな正攻法で大丈夫なのか?」

 

「ああ、あまりにも堂々としていて逆に手が出せない筈だ。念のために手土産も用意した。それに奴等は正統な防衛しか出来ない『対応者』だ。此方から攻撃しなければ問題ない」

 

怪物マシンで乗り込めば問答無用で攻撃されるだろうが、正々堂々と何も恥じる事は無いと言わんばかりに行けば大丈夫だろう。

 

「なんだったら、パンツ一丁で行ってもいいぞ、俺は」

 

「兄様、確かに丸腰をアピールできますが、それはそれで捕まります」

 

「ああ、警察の世話になるぞ」

 

「……それじゃあ聞くが、俺が靴下だけ着る、Tシャツだけ着る、パンツだけ着る。どれが一番まともな丸腰の姿だと思う?」

 

「パンツだね!」

 

「パンツですね」

 

「パンツだな」

 

「……パンツ」

 

「そうだろう。靴下だけ何て変態以外の何者でもない。むしろ狂気と凶器が丸出しで危険極まる。Tシャツだけもそうだ。つまり、パンツ一丁が最も正しい丸腰の姿だ」

 

「いや、パンツにも仕込みは出来るぞ。剃刀とか」

 

「聞きたくない事を聞いてしまった」

 

火野映司のパンツ理論を語ったが、マドカの所為で話がおかしな方向へ向かった。モノレールを降りて徒歩でIS学園の正面受付に到着。束が織斑千冬に会いに来たことを受付嬢に告げると、五分もしない内に目的の人物が現れた。

 

「やあやあ。久しぶりだね、ちーちゃん!」

 

「ああ、いつか必ず何かやらかすと思っていたぞ、束。しかも、正面から堂々とやってくるとはな。一体なんの用でここにきた?」

 

「見て分からんかね。お茶のお誘いだよ、織斑千冬さん」

 

ラピュタ王、もとい園崎琉兵衛の様に不敵に笑い、持参してきたケーキの箱をこれ見よがしに見せつけた。だが、相手は超ド級の変態医者ではなく、世界最強のIS操縦者。千冬の人柄をよく知っている箒は青褪めている。

 

「貴様、ふざけているのか?」

 

「いいや、大真面目だ。俺達は別に戦いにきた訳じゃない。むしろ、貴方の命を守りに来た」

 

「何?」

 

「ここで話す様な内容じゃない。どこか良い所は無いか?」

 

「……分かった。此方も聞きたい事が有る。ついて来い」

 

取り敢えず話は聞いてもらえるらしい。

 

 

 

案内されたのは何故か生徒会室。何を考えているのか分からないが、取り敢えずはお茶の準備だ。

 

「おい。学校の備品だぞ」

 

「固い事言うな。うむ、良い葉っぱだな」

 

手際よくテキパキと勝手に紅茶を淹れる。無駄な所でバトラーおじいちゃんの教育が生きている。準備を終えたところで、新たに三人が入室してきた。

緑色の髪の童顔と体型が合致してない優しげな女性。レミリアおぜうさまみたいな雰囲気の水色の髪の女学生。そして、実に真面目そうな女学生の三人。まあ、全員知っている。

 

「元日本代表候補生の山田麻耶。ロシア代表操縦者にして、更識家17代目当主の更識楯無。そして代々、更識家の従者を務める布仏家の布仏虚か。ただのお茶会にしては凄腕が揃ったな」

 

明らかに有事を想定しての人選。だからこそ、IS学園の表側の理事も裏側の理事もいないのだろう。それでもいざと言う時に逃げる位は可能だ。

 

「す、凄腕なんてそんな、わ、私なんて代表候補止まりで、全然大した事ありませんよぉ」

 

「ご謙遜を。特に更識楯無はこちら側でもかなりの有名人だ」

 

「あら、それは光栄だわ」

 

「ああ、力を手に入れるためなら手段を選ばず、『更識家』の特権である自由国籍権を使いロシアの代表操縦者になって、ISを奪った泥棒猫だって言われていたぞ」

 

瞬間、扇子を開こうとした更識楯無の手が止まり、こめかみに青筋が立った。ちなみに情報源は少佐エターナルの模擬戦の相手をしていたラファールの人だ。心底忌々しそうに話してくれた。

 

「他にも、生徒会長権限で授業をサボりまくった挙句、肝心の生徒会の仕事も超不真面目で、従者に滅茶苦茶迷惑をかけているとも聞いた」

 

「言うじゃない。でも残念ね。貴方達の情報収集力も全然大した事……」

 

「ええ、全くその通りです」

 

「ちょっと! 虚ちゃん!?」

 

まさかの従者の裏切り。人望があるのか無いのかよく分からん当主だ。やはりカリスマ(笑)と言ったところか。是非とも「うーうー!」と言って欲しい。

 

「そして、裏側の人間である俺達を、あわよくば更識に引き抜こうと思っている……違うか?」

 

「……否定はしないわ」

 

「俺はこれでも織斑千冬に会うのを楽しみにしていたんだ。何せ何時かは戦う事になる運命の相手だと思ってずっと考えていた。それは言うなれば恋に似ている。

今の俺はずっと恋焦がれていた相手と漸く会えたようなものだ。そんな俺を、君は横から掻っ攫って自分の物にしようと言うわけだ。これを泥棒猫と言わずして、何が泥棒猫だろうか」

 

とんでもない暴論である。まあ、『範馬刃牙』ワールドの住人ならワカってくれるだろう。

 

「いや、それはおかしいでしょ! それに私は……きゃあッ!」

 

「ふ~~~~ん。なるほど、なるほど~。結構良い体してるね~。でも、私の方が~おっぱいおっきいねぇ~」

 

何時の間にか束が、更識楯無の後ろに回りこみ、両手で胸を揉みしだいている。それぞれが別々の生き物の様に自在に動く10本の指の動きは神懸っている。

 

「ちょ……やめ……やめって! あっ! やめ、なさいッ……よぉッ!」

 

「私の方がぁぁぁ! おっぱいおっきいよぉぉぉぉ!!」

 

「この泥棒猫! 私の兄様を取らないで!」

 

「そ、そうだ、そうだー」

 

「失せろ、尻軽」

 

コードネーム『楯無かたなし作戦』。前もって更識楯無が介入してきた時は現場を引っ掻き回す作戦だ。この作戦に束は「じゃあ、おっぱい揉んじゃおう!」とやけに乗り気だった。クロエはそれなり。箒は棒読みで超ぎこちない。マドカはやけに冷たくてキツイ。

 

正直、楯無は相手が何の後ろ盾のない人間である事、自身が口先でも理論武装でも交渉でも負ける事はないと考えてうぬぼれていた。暴言と暴論は予想の範囲内だったが、従者に裏切られ、胸を揉みしだかれるとは思っていなかった。

実際、更識楯無に関する事は全て真実なので、織斑千冬はいい薬だと思って黙っている。山田麻耶はアワアワしている。楯無の味方は一人も居なかった。

束をなんとか振り払い、両手で胸を隠して若干涙目になった楯無の左肩に手が置かれる。何時の間にか今度はゴクローが後ろに立っていた。

 

「な、何!?」

 

「……絶望がお前のゴールだ!」

 

「う、うー……」

 

ゴクローはニーサンスマイルと、大文字スマイルと、ウヴァさんスマイルを混ぜたようなイイ笑顔で、サムズアップしながら止めを刺した。

楯無はその笑顔を思いっきり殴り倒したかったが、表向きお茶会のこの場で明らかに攻撃の意思を持った実力行使は敗北を認めたも同義。机に突っ伏した楯無は、『これからはもう少し真面目に生徒会の仕事をやろう』と地味に決意した。

 

「それでは茶番はここまでにして、始めようか」

 

「……一体、何を話すというのだ」

 

「初めに、俺達『NEVER』の自己紹介と、俺が嘗ていた『ミレニアム』について話そう」

 

話し合いと言うより、ほとんど俺が一方的に話していた。ミレニアムの目的と成り立ち。そして、事前にアンクから聞いた事を交えて、俺の口から話す。仮面ライダー製造計画。その為に白騎士のISコアを奪った事。暮桜が凍結された事件は『ミレニアム』が暮桜のISコアを回収するために起こした事。そしてその二つのISコアは束に返した事を話した。

 

「……もしや、一夏の誘拐事件も『ミレニアム』の仕業か?」

 

「それは違う。今から5年前には試作品の仮面ライダー0号『エターナル』が完成していた。『ミレニアム』が織斑一夏を誘拐する理由は無い。誘拐したのは『ミレニアム』と敵対関係にある『亡国機業』だ」

 

殺気を込めて此方を睨む織斑千冬に対して、ロストドライバーを取り出して見せる。まあ、気持ちは分かる。織斑一夏誘拐事件の犯人は今も捕まっていないのだから。

 

「『亡国機業』が一夏を誘拐した目的について何か知っているか?」

 

「それは『ミレニアム』でも話題になった。当時は織斑千冬に対する嫌がらせと、織斑一夏の肉体のデータ収集が目的だったのではないかと考えていた。

だが、最近になって織斑一夏がISを起動したニュースを聞いて、誘拐事件の際に織斑一夏に何かを仕込んだのではないかと言う説が浮上した」

 

「いや、一夏は何もされていない。当時、誘拐された後で精密検査を受けたが薬物もナノマシンも検出されなかった」

 

「違う。仕込まれたのは薬物やナノマシン等ではない。例えば、織斑千冬の血液か細胞だったのではないかと考えている」

 

「何だと……」

 

「そして、織斑一夏の体質が織斑千冬と同様のものに変化し、『ISの開発に関わった人間と同じ体質になった事でISが動かせるようになった』と言うのが、『ミレニアム』の出した仮説の一つだ」

 

「百歩譲ってそうだとしても、何故そんな事をする必要がある」

 

「さあ? そこは『亡国機業』のスコール・ミューゼルあたりを捕まえれば分かると思うが」

 

実際、そんな事をして何の利点があるのか分からない。ISを使える男を作って何がしたいのか。『仮面ライダー』に対抗する為ではないか等、他にも色んな仮説があったがそれが正しいかどうかは分からない。

そもそも織斑一夏がISを動かせる原因は束らしいのだが、ISを継続して使用出来る理由は束にも分かっていないらしい。

 

「ところで、ここに居る人間は『篠ノ之束奪還作戦』の真実を知っているか?」

 

「ああ、一週間前に36機のISをお前が撃破した作戦だな」

 

「それだけか?」

 

「? どう言う事だ」

 

国際IS委員会経由か、更識経由かは知らないが、真実を知っている。だが、『亡国機業』に関しては知らされていないらしい。皆が皆、怪訝な顔をしている。

 

「これから『篠ノ之束奪還作戦』の全容をこちら側の視点からノーカットで見せる。国際IS委員会が隠した真実だ」

 

四人に束が記録していた映像データを全て見せた。各人のリアクションは様々だが驚いている事は確かだ。しかし……。

 

『例え、俺が悪と同じ存在なのだとしても、俺が悪から生まれたものなのだとしても、俺は誰かの自由を、未来を守るために戦う! それが――俺が目指した「仮面ライダー」だッッ!!』

 

客観的に見ると物凄く恥ずかしい。ああ、背中から嫌な汗が止まらない。

 

『さあ、お前の罪を……数えろ!』

 

やべぇ。超逃げたい。黒歴史を自ら暴露したような感覚に俺の精神はボドボドだ。映像を見終わった後、織斑千冬が口を開いた。

 

「これが、国際IS委員会が隠したかった真実か……」

 

「そうだ。日本・イギリス・アメリカの不祥事と、ガイアメモリによるISの強化、いや進化と言うべき現象。そしてこれこそが、これからこの世界に現れる新しい脅威となる」

 

何とか持ち直し、ガイアメモリとコアメダルに関して『オーズ』と『エターナル』の情報も交えて説明した。

相手にする事を考えると、コアメダルよりもガイアメモリの方が厄介度は高い。コアメダルは生物の力を内包したもので、それ以外の力が込められているコアメダルは今の所、イマジンメダルとショッカーメダル以外存在しない。

それに対してガイアメモリは様々な「地球の記憶」が封じられているため、多種多様なモチーフがある。生物。人工物。無機物。感情。現象。概念。特定の文明。更には特定の人物。また、ウェザーメモリの様にその記憶に該当する多岐にわたる能力を持ち、汎用性・応用力が高いものも存在する。

 

「地球の記憶に生物の力か……。そして、それに対抗する手段はガイアメモリか、コアメダルの力を持った者だけと言う訳か。しかし、このオータムとの戦いが貴様等の自作自演では無いと言う証明は?」

 

「貴方らしい。しかしナンセンスな質問だ」

 

即座にマッチポンプの可能性を考えるのは、織斑千冬が白騎士だからなのだろうが、間抜けな質問に聞こえた。織斑千冬の目つきが鋭くなったが気にしない。

 

「さっき説明した事をもう忘れたのか? ガイアメモリは『ISを打倒する為』に作られた物だ。『ISを強化する為』に作られた物じゃない。これは本来の使い方から大きく外れている。また、フィルターの役割を果たすドライバーを介さない状態でガイアメモリを使うのはとても危険だ」

 

オータムとの戦いで破壊されたスパイダーメモリは抜け目無くアンクが回収していた。そのスパイダーメモリが入った袋を見せながら、今度はガイアメモリの毒素と有害性について説明していく。

 

「ドライバーを介してメモリを使えば安全に使用出来るが、代わりに能力の成長率が低くなる。対して『直挿し』は、毒素により命と精神が脅かされるが、短時間で大幅な能力強化が可能になる……か」

 

「まるでドーピングですね」

 

思わず出たであろう、山田麻耶の発言は的を射ている。だが、オータムに関しては実際にどうだったのか分からない。マドカは基本的に単独で任務に当たる傾向が多く、前回の様に複数人で任務に当たる事は滅多に無い。その為、マドカはオータムの人柄をよく知らない。元から凶暴な性格だったらしいので、メモリによる毒素の影響がどれほどあったのかもよく分からない。

 

「スパイダーメモリと言ったか。このガイアメモリについて何か心当たりは?」

 

「ある。俺と同じ『ミレニアム』のメンバーだ」

 

「その人物は?」

 

「本名は知らない。俺はシュラウドと呼んでいた。かつてISの起こしたテロによって息子を亡くした普通の母親であり、『ミレニアム』の科学者だ」

 

考えたくなかったが、その可能性が一番高い。スパイダーメモリを解析した結果を見てアンクはこう断言した。

 

『お前の事だから人の良い事を、いや、都合の良い事を考えているんだろうが、はっきり言ってやる。最悪、包帯女は「ミレニアム」を裏切った。裏切って蜘蛛女にメモリを渡した。それも実験台としてな』

 

『……それも考えなかったわけじゃない』

 

『もしかすればお前の頭の中にある、都合の良い考えの通りかも知れないが……もしも裏切っていたならどうする。包帯女がお前の敵として現れたならどうする。ウサギ女の命を狙ってきたらお前はどうする』

 

『………』

 

アンクの問いは、もしも本当にそうなった時、過去にシュラウドの憎しみを無くそうとした事が全て無駄だったとして、その時俺はどうするのかと言うもの。その時の事を思い出しながら、シュラウドの半生を勝手ながら話した。

 

「人物像については分かった。そのシュラウドがこのメモリをオータムに渡したと思っているようだが、その理由はなんだ?」

 

「ガイアメモリを改造できるほど精通している人間はドクとシュラウドだけだ。その内、ドクは死んだ。メモリを渡した理由は、ISで使った場合どうなるかの実験だと思う。しかも、毒性の強い初期型を改造してドライバーも無しに使わせていた事を考えると、オータムを殺すつもりで渡したんだと思う」

 

束が破損したスパイダーメモリを解析した所、情報を送る発信機の様なものと自爆装置がメモリの中に仕込まれていると分かった。

エターナルレクイエムでメモリの機能を停止させた上でメモリブレイクした事で、メモリのあらゆる機能と毒素の侵食が停止し、オータムは助かったらしい。それでも、エターナルがRXに至る前にマキシマムを使っていたなら、確実に殺していたらしいが。

 

「だが、何故シュラウドはそんな事をする? 先ほどの話ではシュラウドの復讐は成ったのだろう?」

 

そう。シュラウドが『ミレニアム』に加入した後、少佐がシュラウドの復讐に協力し、テロの実行犯は俺がこの世界に来る前に死亡している事を少佐から聞いた。

だが、俺がこの世界に来た時、シュラウドは束と織斑千冬を次の復讐のターゲットに選んでいた。

 

「憎しみの対象と目的が変わったんだ」

 

「どう言う事だ?」

 

「この女尊男卑の世の中を見て、それを当然の権利だと考えて生きる人間を見て、シュラウドは以前こう言っていた『こんな世の中の為に、こんな連中の為に、息子は死んだのか』……と」

 

もしかしたら、『白騎士事件』と言うテロを起こした束と織斑千冬を、自分の息子の命を奪ったテロリストと重ねているのかも知れない。

 

「……つまりISの出現によって生まれた社会へ、ひいては元凶となった私と束への復讐に変わったのか」

 

「あの……すいません。なんでそこで織斑先生が出てくるんですか?」

 

「『白騎士』の正体が織斑千冬だからだ。こちら側ではかなり有名な話だが」

 

「え!? 織斑先生が『白騎士』!?」

 

ISが最強の兵器だと知らしめた白騎士事件。その白騎士の正体が織斑千冬だと思いもよらなかったのだろう、山田麻耶が驚いている。更識楯無が驚いていない所を見ると予想はしていたようだ。

 

「俺はシュラウドが成した復讐を否定はしない。大切な人を奪われてそれを無かった事にして生きてく事が出来ない気持ちが理解できたし、それが自分の過去や運命への決着の為に必要なんだと分かっていた。きっと、そうしなければ前に進めなかったんだと思う」

 

「……悲しい話ですね」

 

「だが、今のシュラウドは単純に憎しみの捌け口を探しているだけの様に見える。もしかしたら、それが自分と同じような人を生み出さない為なのかも知れないが……」

 

例えば、束よりも優れた発明や発見をするなんて事も敵討ちになるのではないだろうか。或いは、自分と同じような人間を産まないために、自分と同じような傷を持った人と手を取り合い、悪法を変えると言ったような事も、社会に対する敵討ちになるのではないかと、俺はシュラウドに言った事がある。聞き入れてはくれなかったが。

 

「つまり、お前はそのシュラウドを止める為に、私と束を守る……そういう事か」

 

「そうだ。簡単に殺されるような人間じゃない事は知っているが、もしも殺されれば次は残された家族が、織斑一夏が第二のシュラウドになる」

 

「……否定できんな」

 

『ミレニアム』が独自に集めた織斑一夏の資料を見る限り、織斑一夏は好戦的というほど血気盛んではないが、一度火が点くと力を振るう事に全く迷いが無い様に思える。言い方を変えれば、自身にとって正当な理由があれば、容赦なく正義の名の元に自分の力を容赦なく使う人間だと言える。

 

何度か喧嘩沙汰の問題を起こしているが、その動機が知り合いの女子をからかった男子に対する制裁。しかも基本的に相手が複数の場合が多い。それでも体術を習っている為、単独で圧勝している。確かに、弱者を脅威から守る事が武の側面ではあるが、その正義が誰かへの暴力なのだと、果たして気がついているのだろうか。

 

箒から聞いた話でも、小学四年生の時に箒の為に大立ち回りを演じた際、一夏が自身の行動を反省した様子は無く、『肉親の織斑千冬が無意味に頭を下げる事が許せない』から、その後似た様な問題が起こると『しばらくは穏便な方法で対処した』らしい。

また、何度か織斑千冬からその手の事で叱られていたらしいが、『許せない奴はぶん殴る』と言う一点を絶対に曲げなかったらしい。

 

それは確かに正義だ。しかし、誰かに傷つけられれば、人は憎しみを覚える。誰かを傷つけば、人に恨まれ自分も罪悪感に苛まれる。傷つけられる痛みは、傷つく痛みは誰だって平等なのだと分かっているのだろうか。

 

決して悪い人間では無い。むしろ、今時珍しい正義感が強い人間だ。だが、だからこそ唯一の肉親の命を奪われ、愛を失って闇に落ちた場合手がつけられなくなる。そんな危険性を織斑一夏に垣間見た。ISが使える事で、その憎しみを他人に利用されかねないとも。

 

「お前が破壊や革命を望むようなテロリストではないと理解できた。だが、お前がそんな結論に至った理由はなんだ?」

 

「……シュラウドも、束も、そして織斑千冬も、みんな同じだと思ったからだ」

 

「どう言う事だ?」

 

「俺は死んだシュラウドの息子の細胞から造られたクローン人間。実験体596号。それが俺だ。ゴクローの名前も語呂合わせで付けられた」

 

この世界に来た当時、シュラウドから感じていた違和感。その正体を少佐から聞いて知った。

 

「シュラウドは何時も、俺を見ているようで俺を見ていなかった。俺としては俺を見ていない事に不満だったけど、それが死んでしまった息子への愛からくるものだと思うと、それを指摘するのは憚られた。

俺は最後には世界を憎んだシュラウドの憎しみをなんとかしようとした。同じ様な境遇の人の憎しみもなんとかしようと思った。そうして考える内に、束も織斑千冬も同じ、愛を失って縋るモノを探して、泣きながら彷徨っている迷子なのだと思い至った。

両親からの愛を失った束も織斑千冬も、愛を失うばかりのこの世界を憎んで『白騎士事件』を起こしたんじゃないかと思った」

 

本来、普通に享受出来る筈の愛だった。それがある日突然無くなってしまう。それは誰の身にも起こりうることで、決して珍しい事ではない。それでも、『どうしてこうなったのか』と考えずにはいられないのが人間だ。

 

「言ってみればこの世界は、愛を失った憎しみから生まれた世界だ。そんな世界だからこそ、人から人が生まれる様に、鳥から鳥が生まれる様に、シュラウドの様な人間が生まれた。しかし、だからと言って束や織斑千冬が悪かと言われれば、そうと言えない気がした」

 

自分の心の弱さを他人への攻撃に変えた人間。それは断罪するべき悪ではなく、救うべき弱者なのではないだろうかと考えた。

 

「親は産まれてくる子を選べない。子も産まれる場所を選べない。親はどこまでいっても子供を愛するものだと考えている俺にとって、親からの愛を失う事がどれだけ残酷で心を傷つけるものなのか想像も出来ない。想像も出来ない位、辛くて苦しいものなのだろうとしか図れない」

 

或いは言葉で表現しきれるようなものではないのかも知れない。前世で親から愛を受けて育った俺では、この二人とは真に心を分かち合う事は出来ないかも知れない。それでも理解しようと考え続けた。

 

「今の貴方がこの世界をどう思っているのか知らない。だが、俺は束の憎しみも、織斑千冬の憎しみも、シュラウドの憎しみも解いて、この憎しみの連鎖を断ち切ろうと思った。

もしも、シュラウドがそれでも止まらないなら、俺は戦ってでも止める。それがシュラウドの憎しみに対する俺の答えだ」

 

当初は織斑千冬の打倒を考えていた。正々堂々と戦って、『ミレニアム』が営々と造りあげた『仮面ライダー』が最強だと証明すればいいと思っていた。

だが、それではシュラウドの憎しみは消えないだろう。シュラウドに対してやれるだけの事はする。それでも駄目だったなら戦ってでも止める。自分で自分を止められないなら、誰かがそれを止めなければならない。それがシュラウドに対する慈悲なのだと信じて。

 

「織斑千冬。貴方の答えが聞きたい。シュラウドの様な人間の憎しみに対して、貴方はどう向き合う?」

 

「………」

 

「今すぐに答えを出して欲しい訳じゃない。だが、必ず答えを出して欲しい」

 

「……分かった」

 

「まあ……俺が言いたい事はそれ位だ」

 

皆、神妙な顔をしている。そんな中、更識楯無が一つの疑問をぶつけてきた。

 

「……ちょっと待ちなさい。織斑先生と篠ノ之博士を守って、シュラウドを止めたいと言ったけど、それってつまりIS学園に居座るって事?」

 

「その通りだ。予定としては用務員としてここに居座る予定だった。この場にIS学園の表側と裏側の理事長夫婦がいなくて本当に残念だ」

 

復活した更識楯無の発言を肯定し、この学校の理事の事も知っている発言をした。

しかし、不味いな。今日はこのままお開きにする予定だったのに。

 

「貴方、学校に行った事はあるのかしら?」

 

「無い」

 

「それなら生徒として入学するのはどうかしら? できるだけ近くで守った方が、貴方にとっても都合が良いんじゃなくて?」

 

ここに来て交渉か。面倒な事になったぞ。

 

「それは、シュラウドに対抗できる手段は今の所俺だけで、学園内の生徒や教師も味方とは限らないから……か?」

 

「そうよ。生徒がガイアメモリやコアメダルを使う事も考えられる。シュラウドの他にも、この世界に憎しみを持っている人間は大勢いる。それに憎しみが無くても、ガイアメモリやコアメダルの力は個人を暴走させるのに充分な力だと判断できるわ」

 

確かにガイアメモリとコアメダルにはそれだけの力がある。本家『仮面ライダーW』のドーパントは、ほぼ例外無くその強大な力に酔いしれ、心を飲まれてしまう。

 

「何か要求があるなら言ってごらんなさい。大抵の事は叶えてあげられると思うわ」

 

「……クロエ。マドカ。お前達は学校に通った事はあるか?」

 

「ありません」

 

「ない」

 

「それでは、篠ノ之箒。クロエ・クロニクル。織斑マドカの入学も許可して欲しい。他には『デウス・エクス・マキナ号』の格納スペースと、束の研究室の確保。後は……運転免許位か」

 

ぱっと思いつくのはそれ位だ。しかし、向こうの此方に対する要求が怖い。一応、策はあるが本当にこれで大丈夫なのだろうか。

 

「それでは此方からの要求だけど……」

 

「其方にとって充分すぎるほど価値ある情報を気前よく前払いで払った。要求もそれ以下に留めたつもりだが?」

 

「……まあ、いいわ。今の所はね」

 

……上手くいった? これは俺の策では無くアンクの策だ。正直、メモリやメダル等の現物を渡さず、情報だけで相手の役に立つのかと思ったが、「向こうにとってはそうじゃない、そして前払いして喋れ」と言われた。

此方に敵対する意思が無い事。暗躍している脅威。『オーズ』と『エターナル』の力の根源。国際組織と国が隠している秘密とスキャンダル。そして、『NEVER』として平和的に話し合いをした事実が重要らしい。

よく分からんと言ったら、「お前は自分がやった事と、他人から見た自分をもっと考えたほうが良い」と言われた。解せぬ。

 

「それでは、良い返答を期待する」

 

「ええ、分かったわ」

 

「バイバイ、ちーちゃん」

 

「ああ、またな束」

 

 

●●●

 

 

来たときと同じように徒歩でモノレールに向かう。但し、モノレールに乗る前に、更識家の手の者と思える人間を捕まえて、念の為に持ってきたオールドメモリの力で老人にしてから送り返した。24時間で元に戻るので問題ないだろう。

モノレールに乗ると束が無言で引っ付いてきた。他の三人も何か考えているようで静かだった。

 

「「「「………」」」」

 

束も、クロエも、箒も、マドカも、そのシュラウドが戦いを挑んできたなら自分はどうするか。その憎しみに対してどう向き合うのか考えていた。敵には敵の事情があり、ただ敵だから戦うでは駄目なのだと思った。

 

「アレがお前の出した答えか」

 

不意にアンクが話しかけてきた。

 

「アレが俺の精一杯の答えだ。自分でも甘いとは思うケド」

 

「……いや、そうは思わん」

 

珍しくアンクが肯定して驚いた。基本的にこんな時は馬鹿呼ばわりだった筈だ。

 

「お前はどんなに馬鹿を見ても、相手の罪を暴きつつ、その心を労わる。そんな厳しさと優しさを失くさなかった。それが弱さになると知りつつも、弱さを抱えて前に進んだからこそ、箒も、マドカも、蜘蛛女も死なずに済んだ」

 

本当に何があった。普段のアンクらしかぬ台詞だ。

 

「お前は包帯女を戦ってでも止めると言った。それは最後まで見捨てないと決めたって事だ。それでいい。お前がなりたい強くて優しい人間になるには、本当の強さを手にするには、『仮面ライダー』にはきっとソレが必要だ」

 

……ヤバイな。ちょっと泣きそうだ。5年の付き合いになるが、アンクが今までこんな事を言った記憶は無い。

 

「……ありがとうな、アンク」

 

「フン。無様にくたばるんじゃないぞ」

 

直ぐに何時も通りのアンクになった。やっぱり、俺の相棒はコイツなんだと思った。

 

 

 

一方、IS学園では織斑千冬と山田麻耶が二人で話し合っていた。

 

「いい人でしたね。織斑先生」

 

「そうだな。そして強い男だ」

 

「でも、本当に止められるでしょうか?」

 

「簡単な事ではないな。少なくともシュレディンガーは7年かけて止める事ができなかった」

 

「それでは……」

 

「だが、無駄だと知っても何もしないで諦めるような男には見えなかった」

 

シュラウドの様な人間の憎しみに対してどうするのか。自分も答えを必ず見つけなければならない。他ならぬIS神話によって生まれた、女尊男卑の世界を作り出した原因なのだから。

 

「『お前の罪を数えろ』……か」

 

織斑千冬は何時か来ると思っていた明日が、直ぐ近くに迫っているような気がした。




キャラクタァ~紹介&解説

織斑千冬
 世界最強の称号を持つIS学園の女教師。シュラウドの怨敵その2。優先順位は束の次。成長するにつれて自分のやった事がテロリストと変わらないと自覚はしている。今回の一件で自分の罪を改めて数える。『オーズ』よりも、白騎士を髣髴とさせる『エターナル』の方が気になる所はマドカと同じ。守られる事に不慣れで、内心戸惑っていたり。
 千冬とゴクローとのやり取りは、当初『鎧武』のメロンニーサンとロシュオをイメージしていた筈だったが、いつの間にかナルトと長門っぽくなった。ええ、作者は『NARUTO』が好きなのです。

更識楯無
 IS学園の生徒会長。普段の行動が祟って孤立無援になった、悲劇のカリスマ(笑)おぜうさま。今回の一件で真面目に生徒会の仕事をしてくれるようになって十六夜咲夜……じゃない、布仏虚は大喜び。使用者の憎しみ以外の要素で、ガイアメモリとコアメダルによる暴走の危険性を把握した、やれば出来る子。

織斑一夏
 原作主人公。時系列的にミレニアム壊滅の3日前に束の仕業でISを動かし、束の仕業で起こったIS大戦により10日程度で執拗なバッシングが無くなったある意味ラッキーマン。まあ、『仮面ライダー』と比べればね……。
 ルート次第では闇落ちして、それこそ千手柱間の力を得たうちはマダラみたいに手がつけられなくなるかも知れないと懸念されている。原作での男装シャルロットに対する行動がホモ臭い事を考えても、クレイジーサイコホモとの共通点が有ったり無かったり。考えてみれば両親がいない点は大蛇丸と同じ。やっぱホモかも。
 596「まさか、奴は初代ブリュンヒルデの細胞を!」
 箒「そうか! だからISを使えるのか!」
 マドカ「よくよく調べれば、体の殆どが姉さんの細胞じゃないか!」
 千冬「私の細胞を取り込んでISの稼働率を上げているのか」
 一夏「つまり、どういうことだってばよ!?」

少佐&シュラウド
 作品のアンチ・ヘイトタグをつけた理由になったと紹介した二人だが、今回の話を書いて「別に束個人を憎んでいるわけじゃなくね?」と思った二人。
 少佐は束が諦めた事と、戦闘兵器としてのISを認めないのであって、宿敵認定した束個人を憎んでいる訳ではない。要は「闘争と言う手段を取る為に、目標とする打倒すべき宿敵が束」と言った感じ。考えてみれば『HELLSING』の少佐もアーカードを宿敵としているが、アーカードを憎んでいる訳ではない気がする。
 シュラウドは作中の通り。闇堕ちしたうちは一族みたいに、愛深き故に悪に堕ちた感じになった。実際、サスケもマダラも最終的に特定の個人を憎んだ訳ではなく、世界そのものを憎んでいた気がする。卑劣様は別だったみたいだが。

篠ノ之束奪還作戦/IS大戦
 表向きは36対26の戦争。実際は36対1の戦争。26個のISコアがミレニアムによって行方不明である事を利用した。死者数0。『カイガン!』者数1。


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第10話 還ってきたT/ブリュンヒルデは傷ついて

月曜にスマホで確認したら、無色の評価に色がついて
「へぇ、評価数が5人になると色が付くんだ。よし、これからも頑張ろう!」
……それが数日でお気に入り件数が200件を超えていた。

評価して下さった皆様ありがとうございます。そして、お気に入り件数が250件を突破。ご愛読感謝です。

次回より原作開始です。今年中に終われてよかった。


お茶会から三日後。織斑千冬から束に連絡が来た。『NEVER』の3年間の滞在を認めるのでIS学園に来て欲しいとの事。怪物マシンを配置する場所も同時に送信されてきたので、今回は乗り込んでも良いと言うことなのだろう。

今回は、俺以外の四人はデウス・エクス・マキナ号で向かわせ、俺とアンクは前回同様モノレールと徒歩でIS学園に向かった。服装は大道克己コス。正面受付で、織斑千冬と更識楯無の二人が待っていた。

 

「来たか。IS学園はお前達『NEVER』を受け入れる事に決定した」

 

「そうか。しかし、何故我々の要求が通った?」

 

「見せしめに更識の黒服を何人か老人にしただろう。丸一日経ったら戻ったらしいが」

 

「ああ、アレか。いや、てっきりストーカーの類だと思ったんだ。可愛いのと綺麗なのが4人も居たから」

 

「……そう言う事にしておくか」

 

こんな事を言っているが、ゴクローは割りとノリノリでオールドの能力を使用していた。こんな感じで。

 

『OLD・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「うおおおおおおおおおおおおお。きぃさまああああああ……」

 

「『直』は素早いんだぜ。パワー全開だ~~。『グレイトフル……』じゃなかった、『オールド』の『直』ざわりはよおおお」

 

触れた人間を瞬く間に老けさせる信号機の様な三色怪人。どう見てもヒーローには見えない。しかし、ゴクローは「ブッ殺すと心の中で思った」訳ではないので、黒服の拳銃を奪って頭に弾丸を撃ち込んだりはしなかった。

 

「本当にびっくりしたわよ。屈強な男達が皆揃っておじいちゃんになって、お茶とおせんべい食べながら、『天下泰平、はあどぼいるどじゃぁ~』とか言ってたんだから」

 

「でも、一日で戻っただろ」

 

「ええ、お蔭でスムーズに事が運んだわ。手を出すとどんな報復が来るか分からないって」

 

更識楯無が疲れた顔で説明する。追跡した相手でコレなら、敵と判断した相手に対して一体どんな報復を仕掛けてくるか分からない。相手は人知を超越した力を持った存在なのだと知らしめたらしい。

 

「元々貴方達『NEVER』と事を構えるつもりは無かったみたいだけど、これで貴方達にそう簡単に手を出す事は無いでしょう。」

 

「黒服をじいさんにする前から? 何で?」

 

「やっぱり気付いてたんじゃない……。貴方、客観的に自分を見たことある? どんな大国でもISを36機も実戦配備してないわ。国家代表は大体が従軍している専用機持ちだけど、専用機の数はどう見積もっても一国につき3機位。もっと言えば専用機と言っても量産型を改造したケースも多いわ」

 

「ああ、カラーリングとパッケージだけ変えている奴とかいるよな」

 

戦場では基本的に物量が物を言う。戦場での最新装備の優位性と言うのは割りと不確実なもので、より信頼性の高い旧式武器を選ぶ事が最善策であり、これにより対費用効果も期待できる……とミレニアムで習った。こないだのIS大戦でも量産型が多かったのは、そう言う事なのだろう。

 

「それと、国際IS委員会を経由して、ドイツに問い合わせて戦闘記録を見せてもらったわ。非公式ではあるけど、ドイツ代表操縦者のクラリッサ・ハルフォーフを撃破したわよね?」

 

「ああ、その後で乱入されたけどな」

 

「つまりね、貴方は非公式だけどアメリカとドイツに勝っているのよ。それでも『オーズ』の戦闘能力は図りきれない。私だって『オーズ』の事を聞いたとき、絶対に何でも有りの実戦では戦いたくないって思ったわ」

 

コアメダルの事を説明した際に、オーズについても話した。

 

オーズはベルトに装填した3枚のコアメダルの力によって変身し、3枚のコアメダルはそれぞれが頭部・腕部・脚部の3か所に対応している。そしてコアメダルを入れ替える事でその都度様々な姿に変化し、あらゆる状況とあらゆる敵に対応する事ができる。

 

注目されたのは、同色同系統のメダルを3枚揃える事で発動する『コンボ形態』。それぞれのコンボがISの『単一仕様能力』に該当する特殊能力を一つ持つ。経験値を積まなければ使えない限定条件を考えれば『二次移行【セカンドシフト】』と『コンボ形態』は同義である。これが大きな誤解を生んだ。

『単一仕様能力』はIS一機につき一能力と決まっている。しかし、『オーズ』は一機で複数の『単一仕様能力』が使える機体であると言った上で、コンボに変身できないと言わなかった。

これにより、『IS大戦の時は手加減した状態で戦っていたのでは?』と誤解された。手加減して36機のISを相手に勝てる存在が本気になれば、一体どれほどの被害が及ぶか想像してお偉いさんは心底恐怖したそうだ。

 

また、コアメダルを全て見せた事も一つの勘違いを生んだ。

コアメダルは鳥系・昆虫系・猫系・重量系・水棲系・爬虫類系・甲殻系・恐竜系・怪人系・海洋系・害虫系・寒冷系・草食系の合計13種。恐竜系と怪人系はメダルチェンジが出来ない事も話した。

つまり、この世界で造られた『オーズ』がコアメダルを使ってできる組み合わせは11×11×11=1331+2(プトティラ&タマシー)の1333種類。

2015年現在最多のフォーム数と言われている本家『オーズ』が5×5×5=125+4の129種類なのだから、文字通り桁が違う。どこぞの世界の破壊者が裸足で逃げ出すフォーム数である。

実際に戦闘で使用出来るのは7×7×7=343+2の345種類で、今はコンボが使えないので336種類だ。それでも充分に本家より多い。また、ドライバーに最大で27枚まで搭載できる事も言わなかった。

 

常識的に考えて、1333種類の組み合わせを瞬時に判断する事は不可能と思われる。だが、高い状況判断能力を持ち、それぞれのメダルの特性を把握し、冷静に状況・敵を分析して瞬時にメダルの組み合わせを判断する、『アンク』と言うサポートの存在がそれを可能にしている事も教えた。

 

次にガイアメモリ。コレは『AtoZ』のT2シリーズだけ教えたが、『ウェザーメモリ』の様な名前からして明らかにヤバそうな能力のメモリもあれば、『イエスタディメモリ』の様などんな能力なのか判別しづらいメモリもあり、此方も慎重を要する。

 

パッケージにしても、飛行能力を得る為のオマケの様な意味合いが強かったらしいが、戦闘中に瞬時に変更する事は、現在のISの技術力では不可能だ。

 

そして、『真のオーズ』と呼ばれるISのエネルギーをセルメダルへ変換し、セルメダルを無限に吸収し際限なく力を蓄えていく能力。つまり、ISが多い=エネルギーの回復手段が多いと言う事も教えた。

原理としては、奪ったエネルギーをマテリアライズにより物質化して『拡張領域【バススロット】』に蓄えると言うもの。そして肝心の『拡張領域』が異常に広い。武器よりもセルメダルの収納に重点が置かれている為、格納されている武器がメダジャリバー、メタルシャフト、トリガーマグナム、エンジンブレード。そしてロックされているメダガブリューの5つしかないが、エネルギー切れを狙っても即座にセルメダルをエネルギーに変換して回復すると言うのは、とてつもなく厄介だ。

 

つまり纏めると、『オーズ』は1333種類のフォーム数と、13種類の『単一仕様能力』を持ち、26本以上のガイアメモリで更に柔軟な対応と強化が可能。それに加えて、瞬時に状況判断が出来る強力なサポートが存在し、更に戦闘中に変更可能な複数の専用パッケージを持つ。止めに異常に広い『拡張領域』を持ち、ISが多ければ多いほど相手のエネルギーを奪って補給し、幾らでも回復できる。喋っていない情報があるだけで、嘘は一切言っていない。

 

画して、あらゆる敵と状況に対応するというコンセプトの元造られた『オーズ』は、正に対ISを目的に造られた『ミレニアムの最終兵器』の名に恥じない恐るべき兵器であると認識された。

 

また、篠ノ之束が『NEVER』の一員になっている事も問題だった。初めは篠ノ之束が『オーズ』を手に入れたと思われていたが、実際は『オーズ』が篠ノ之束を手に入れたと分かった。正直、只の一組織と言うには『NEVER』の力は強大過ぎた。

 

幸い『NEVER』は『亡国機業』以外の国や組織に敵対する意思は持ち合わせておらず、篠ノ之束を筆頭とした厄介な連中を大人しくさせている事がそれなりに評価された。

但し、下手に突くとどうなるか分からない。何せ、自分を追跡した相手を老けさせると言う常識では考えられない、それこそ魔法の様な対処をしているのだ。他にどんな手札を持っていてもおかしくはない。そんな恐怖から出された結論は……。

 

「自分達が敵ではないとアピールしつつ、ご機嫌取りってとこか」

 

「ええ。それに篠ノ之博士と織斑先生をシュラウドから守れる手段は少ない。シュラウドの行方を私達も行方を追っているけど尻尾が掴めないわ」

 

シュラウドに対する扱いは各国様々。抹殺を目的とする国もあれば、確保を目的とする国もある。各国で共通している事は、ガイアメモリやコアメダルに精通している上に、独自にISコアの生産方法を確立させている復讐鬼ともなれば、厄介度は俺よりも上と考えている事だ。何せシュラウドが本当に恨んでいる相手は、この世界そのものなのだから。

 

「勿論、『仮面ライダー』に対抗するモノを手に入れる為。或いはISに対抗するモノを手に入れる為でもあるでしょうね。最悪、織斑先生達に復讐する事に協力する形でシュラウドが何処かの国や組織に懐柔されるってことも……」

 

「それはない。あのシュラウドが、ガイアメモリやコアメダルで得られる利益や損得の為に、復讐に手を貸す様な連中と手を組むとは思えない。手を組むとすれば、自分と同じ傷を持った復讐鬼だろう」

 

「……まあ、貴方がそう言うならそれは心配ないのかしら。それと、委員会から博士に新規のISを作ってくれって来てるんだけど?」

 

「断る。それなら、ISコアと引き換えに『ミレニアム』から受け取った報酬の内容を全部バラすって言っておけ」

 

「……なるほど。26個も奪取しておいて特に目立たなかったのは可笑しいと思ったけど、『ミレニアム』はISコアを各国から奪取したのではなく、取引して手に入れたのね」

 

「それなら後腐れが無い上に、弱みも握りやすいって言っていた。取引の為の小細工はしたのかも知れないがな」

 

もっとも、事と次第によっては奪取と言う方法も辞さなかったと聞いた。取引の報酬の内容を聞いたときは、人の欲望とはかくも醜いものなのかと絶望させるような、聞くだけで便所コオロギも吐き気を催すであろう、オゾマシイものもあった。

 

「ここに入学するまで約一ヶ月ある。色々準備があると思うが、全て間に合うのか?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

織斑千冬の質問に堂々と答える。建築する我等『NEVER』の建物は、鳴海探偵事務所みたいな感じにしようと思う。スペースさえ確保できれば問題ない。業者なんぞ信用できないし、束は独自にラボを造っていたから建築に関しても大丈夫だ。俺の仕事は肉体労働に従事するだけ。

 

「それと、運転免許の方も都合がついたわ。後は写真を撮るだけよ」

 

「いや、俺はちゃんと運転免許センターで取りに行く。それとここの入学試験も受けるぞ。ISは動かせないが、ペーパーテストは受ける」

 

「……真面目と言うか律儀と言うか」

 

「馬鹿なだけだ。コイツのこーゆー所は今の内から慣れた方がいいぞ」

 

アンクが突然会話の中に入ってきた。酷い言い草だ。

 

「免許や試験はそれに相応しいと認められる為にある。それを受けてこそ価値があるんだ」

 

「……分かったわ。関係書類とか面倒な事は何とかしてあげる」

 

「それとこれはかなり個人的な要求なのだが……」

 

「あら、まだ何かあるのかしら?」

 

「玩具会社に渡りをつける事は可能か?」

 

「え?」

 

「あん?」

 

「このドライバーとコアメダルとガイアメモリのレプリカを玩具として売るんだ。音が出るだけのものだけど、売れると思う。子供向けと大人向けが作れれば尚良い」

 

何せ、現実世界では本編のグリードのメダル争奪戦以上の、壮絶なメダル争奪戦が全国で繰り広げられたと言う。実際にゲーセンで盗難騒ぎも起こったらしい。

 

「……お前、何考えてんだ?」

 

「どの道、『オーズ』の事を知った連中はコアメダルやガイアメモリの力を利用しようと考えているんだろう? それなら連中にとって都合のいい形で表舞台に立つのも時間の問題だ。なら、此方も利用させてもらう」

 

「そうだな。現に委員会から、お前と更識が戦うように要求されている。それも、公式ルールの試合だ」

 

実戦とはある意味何でもありだ。制限も反則も存在せず、あるのは勝つか負けるか、生きるか死ぬかの結果が全て。

それならば公式ルールを基にした、スポーツ競技として戦うならばどうか。『オーズ』の為に新たにルールを作り、それを理由に大幅にスペックダウンさせる事が可能だ。

要するに、国際IS委員会にとっては、どんな形であれ『仮面ライダーがISに敗北する』と言う事実さえできればそれでいいという訳だ。

 

「使用出来るメダルやメモリの数の制限、『コンボ』の使用制限、使用するパッケージの使用制限なんかが検討されているわ。一方で、未知の力を解析したい人も居るから、なかなか決まらないみたいだけどね」

 

「相手の都合で作られたルールに縛られて戦う初の公式戦の相手が、ロシアの代表操縦者か。学生トトカルチョがあったら、俺は俺の勝ちに10万円賭ける」

 

「あら、それなら私は私の勝ちに賭けようかしら」

 

「あるのか、トトカルチョ」

 

「貴方と私で賭けをするの。こうしましょう。私が勝ったら貴方が私をディナーに誘う。貴方が勝ったら、私が貴方をディナーに誘うの」

 

「……どっちにしたってお前と二人で食事に行くって事?」

 

「知ってた? 賭け事って言うのは負けない事が重要なのよ。それに、いいじゃない。玩具会社に渡りをつけるご褒美って事で」

 

「……受けないって選択肢は?」

 

「……ねぇ、どうしても駄目?」

 

 

 

「……で、あのメス猫の上目遣いに負けて、結局賭けに乗ったんだ。ふ~~ん」

 

「………」

 

「ククク。まあ、代価としては安いと思うがなぁ」

 

束とクロエが不貞腐れ、その様を見てアンクが笑う。だがアンクよ。お前はその内、『こいつは儲けたなぁ』とか言い出すぞ。何せ前の世界ではオーメダルは3300万枚売れた。2011年の1円・5円・50円の貨幣発行枚数が各45万6千枚なので、現実のお金よりも多く作られたのだ。

 

「別に怒ってないよ。ただ、束さんはゴッくんが大破させたパッケージを新しく作ったり、いっくんのISの『白式』を作ったり、みんなの秘密基地を作ったりして頑張ってるのにな~とか、束さんには何も無いのかな~とか全然思ってないよ」

 

「………」

 

「『白式』?」

 

「『白騎士』のISコアを使った第三世代機。正確には3.5世代って所だ。『零落白夜』が使えるそうだ」

 

「……対オーズ用としてか?」

 

「いや、既に『白騎士』のコアが『暮桜』のコアと通信して、独自に開発していたらしい」

 

かつて織斑千冬の『暮桜』が使っていた『零落白夜』。公式の試合なら一撃入れるだけで相手に勝てる能力だと聞いた。数少ない『オーズ』にも勝てる能力だろう。

 

「……運転免許取って、車買ったら一番初めに助手席に乗せて、何処かに出かける相手は束って決めて……」

 

「本当!? いや~~、ちゃんと考えてるって言ってくれたら、何も束さんはそんな意地悪な事言わなかったんだよ? 本当だよ? も~ゴッくんは、照れ屋さんだなぁ!」

 

「………」

 

「それであのメス猫は?」

 

「何時行くかは決めていない。つまりはそう言う事だ」

 

「ふ~~~~~~~~ん♪」

 

「あと、二番目はクロエって決めてる」

 

「!!」

 

一気に機嫌が回復した束とクロエは、鼻唄交じりに作業していた。俺もやるべきことをやろう。

 

 

●●●

 

 

あれから真面目に試験を受けて運転免許を取り、『オーズ』に変身して建設を手伝い、各人の護衛目的でメモリガジェットを生産している。流石に女の子に渡すものなので、束とクロエに協力してもらい、ギジメモリ及びガジェット本体を従来のものより薄型化・小型化した。ついでなので、織斑先生達にも見せに行った。

 

「可愛いですね! これなんて言うんですか?」

 

「『デンデンセンサー』。あらゆる光の波長、変動をキャッチするセンサーを持っていて、見張りや敵の探索ができるガジェットだ」

 

「それじゃあ、デンデンですね! こっちのカエルさんは!?」

 

山田先生は機械のカタツムリとカエルに興奮している。織斑先生も更識も布仏も居るが、ガジェットやカンドロイドを興味津々と言った感じで見ている。

 

「ふむ……。コレで男性用の物を作ってくれないか?」

 

「それは織斑一夏用で?」

 

「そうだ。この『スタッグフォン』と、『スパイダーショット』と、『デンデンセンサー』があればいいだろう」

 

「全部で3万円です」

 

「金を取るのか!?」

 

「割りと『NEVER』も資金難でして。一機につき一万円です」

 

「買います! デンデンとケロちゃんで2万円ですね!」

 

「むむむ、悩みますね……」

 

「ん~手間も掛からないし、どうしようかしら?」

 

山田先生が即決でカタツムリとカエルを買っていった。後で使い方も教えないと。布仏と更識はどれを買うか悩んでいる。メモリガジェットもカンドロイドも100円ショップで買った物を材料に作っているから利益率はそんなに悪くない。

 

 

●●●

 

 

残り2週間位で入学式だが、ここ数日やたらと誰かが絡んでくる。お蔭で一人の時間が確保しづらい。そこで、ライドベンダーに乗って何処かに出かけようと考えた。旅のお供はドライバーの中に居るアンクだけ……の予定だった。

 

「ゴクロー、何処かに行くのか?」

 

「……ああ、ちょっと風を感じにな」

 

早速、箒とマドカに捕まってしまった。テロリストと捕われた人質だったから、仲良くできるか不安だったんだけど、結構な頻度で一緒に行動している二人だ。

 

「どれ、私も一緒に行こうじゃないか」

 

「いや、『ライドベンダー』は一人乗りなんだが」

 

「ふっふっふ……コレを見ろ!」

 

マドカが取り出したのはバイクの運転免許証。何時の間にか取得していやがった。

 

「どうだ! 私もちゃんと試験を受けて取ったんだ、これで私も一緒に行けるぞ!」

 

「ああ、だけどなんでこんな笑顔なんだ?」

 

「笑えと言われたからだ」

 

チェイスかお前は。しかもコレ無理に笑っている所為か、うちは一族の顔芸を髣髴とさせる感じの笑顔だ。

 

「確か、『ライドベンダー』は二台あった筈だ。セルメダルを一枚寄越せ。一緒に着いて行ってやろう」

 

「むう……」

 

「……箒、ちょっと待ってろ」

 

マドカに手にしていたヘルメットを渡し、三台目のバイクを引っ張ってくる。黒と緑のツートンカラーのバイクで、此方は二人乗りが出来る。

 

「も、もう一台あったのか!?」

 

「ああ、コッチは二人乗りが出来る。箒はコッチに乗れ」

 

「い、いいのか?」

 

「問題ない。乗れ」

 

ヘルメットを箒に渡し、後ろに乗るように促す。バイクに乗るのは初めてなのか、動きがぎこちないし、捕まるのも遠慮がちだ。これじゃ振り落とされるぞ。

 

「しっかり捕まっていろ」

 

「あ、ああ。と、ところで、このバイクはなんて言うんだ?」

 

「『ハードボイルダー』だ」

 

「……独特な名前だな」

 

「全くだ」

 

「ぐぬぬ……」

 

マドカは計画が狂った事で奥歯をギリッと噛み締めた。ライドベンダーが一人乗りで二台しかない事を知っていた。秘密裏に免許を取得し、唯一バイクで一緒に出かけられるポジを獲得しようと思っていた矢先、思わぬ伏兵の存在が明らかになった。

 

「(……いや、待て。それならアイツを後ろに乗せる事が出来る。そうだ、今度は『ハードボイルダー』一台で行けば……フフッ)」

 

「行くぞ。箒、マドカ」

 

「うむ!」

 

「ああ……」

 

バイクの運転ができるのはゴクローと自分だけだ。このアドバンテージはデカい。マドカはとりあえず前向きに考え、先に出発したハードボイルダーを追跡する事にした。

 

30分程適当に走り、自販機とベンチを見つけて飲み物を買って、三人で一息ついた。

 

「免許取るの大変だったろう。偉いぞ」

 

「あ、いや、それほどでも無いぞ。簡単だった」

 

「頑張って結果出したんだから大したもんだ。素直に受け取っておけ」

 

「あ、う、うん……」

 

面と向かって褒められるとちょっと恥ずかしい。出来て当然で褒められた経験が皆無なマドカは褒められる事に不慣れだった。

 

「……やっぱり、そうは見えないな」

 

「ん? 何?」

 

「……今、姉さんから提案されている事がある。シュラウド、ひいてはガイアメモリとコアメダルを使う相手に対抗する為に、ガイアメモリとコアメダルの力を使う事を前提としたISを造ると言う話だ」

 

「……まあ、『仮面ライダー』のシステムはISの技術を元に造られているから、束ならそれも可能だろうな。ドライバーのデータを使えば安全に使えるだろう。だが、コアメダルとガイアメモリはどうするつもりだ」

 

「既存のガイアメモリの複製なら可能だと言っていた」

 

「そうか……」

 

ガイアメモリとコアメダルの力に対抗するには同等の力が居る。マスカレイドクラスなら兎も角、通常のISでは先ずメモリやメダルを使って強化されたISにはまず歯が立たないだろう事は明白だ。

 

「嫌じゃないのか?」

 

「いや。一人で全部何とかできるとは思ってなかったからな。むしろ助かる。それよりも、二人とも何か悩み事でもあるのか?」

 

「……鋭いな」

 

「ちゃんと見てるからな」

 

正確にはこの二人以外もそんな感じ。一体何に悩んでいるのやら。

 

「……私とマドカにその、ガイアメモリに対応するISをと言われているが……正直怖いんだ」

 

「敵と戦う事がか?」

 

「違う。力を手にする事が……だ」

 

箒は缶ジュースを手に心の内を語っていく。

 

「私は……姉さんを守りたい。家族を、仲間を、大切な人を守れるようになりたい。その為には力が居る。それは分かっている。だが、その力で何時かみたいに憎しみで人を傷つけるかも知れないと思うと、力を持つ事が怖いんだ」

 

嘗て、自身の憎しみの捌け口を探して、他人に暴力を振るった箒の過去。それを自覚した事で箒の中の束への憎しみは消えたが、同時に箒に力を持つ事そのものを恐怖させているらしい。

 

「お前は『間違ったからこそ正しい道を行ける』と言ってくれたが、憎しみから暴力を振るった私なんかが力を手にしたら、また同じ様な事が、同じ様な間違いを起こすんじゃないかと、どうしても考えてしまうんだ……」

 

いや、これはもしかしたら、自分自身を信じる事が出来なくなっているのか。しかし、箒自身は気がついていないみたいだが、お前はその力を手にするにふさわしい資格を手に入れたんだぞ。

 

「……力に恐怖しているって事は、箒自身がこれから手にする力がどんなものなのかを理解しているって事だ。

自分自身の憎しみと向き合って、誰かを傷つけた罪悪感に苛まれて、自分の罪を数えた。それはとても辛くて苦しいけれど、その痛みが箒を成長させたんだと思う」

 

「成長? 私が?」

 

「そうだ。『大いなる力には大いなる責任が伴う』。力を手にする上で一番大事な事を、箒は自分の力で見つけたんだ」

 

「………」

 

「それに今の箒は一人じゃない。もしも箒が間違いそうになったら、必ず止めてくれる人が、必ず正してくれる人が居る。それじゃ不安か?」

 

「……もしも、もしも私が間違いそうになったら、お前は止めてくれるのか?」

 

「必ず止める。まあ、俺も間違わないとは言い切れないし、時々怖くなることもあるけどな」

 

何時か自分が、知らず知らずの内に自分で無くなる恐怖が無いわけではない。

強い力を持つと人はおかしくなる。実際に『オーズ』の力を得て、改めて火野映司が凄い男なのだと理解できた。

 

「……大丈夫だ。そうなったら、私がお前を止める」

 

「そうか。それは頼もしいな」

 

「ああ、任せろ」

 

とりあえず箒の悩みはこれで良さそうだ。今まで空気を察して黙っていたマドカの方はどうだろうかと思ったのだが……。

 

「……いや、どうやら杞憂だったようだ。問題ない」

 

「そうか?」

 

確かに悩んでいる様には見えないが……。

なんとなく一人の時間を過ごすつもりが、また何か人生相談みたいな事をしている。最近こんな展開ばっかりだ。

 

「そろそろ帰ろう」

 

「ああ、そうだな」

 

「うむ」

 

「……大丈夫だ。アイツは『暴走』なんてしない」

 

「ああ。そうなったとしても、その時は私が止める」

 

「ふん。私の方が先に止めてやるさ」

 

「頼りにされたのは私だ」

 

「「………」」

 

「? 二人ともどうしたんだ?」

 

『お前は気にするな』

 

よく分からんが、アンクの言う通り気にしないことにした。

 

後日、二人のガイアメモリの適合率を調べてみた。

 

「マドカが『ナスカ』。箒が『アクセル』か……」

 

「ああ、マドカのISがプロトタイプとして先に造られるらしい。確か『青騎士』とか言っていたな」

 

「まさに、ナスカだな」

 

風都を愛して散っていった男のガイアメモリと、憎しみを振り切った男のガイアメモリ。果たしてあの二人は『仮面ライダー』に成れるのか……楽しみだ。

 

 

●●●

 

 

IS学園入学を一週間後に控えた今夜。遂に完成した『NEVER』の拠点で完成パーティーを開いていた。地味に食費をケチっていたのはこの日のためと言わんばかりに豪華な食事だ。当然手作りケーキも用意してある。ハッピバァァァスディッッ!!

 

「それでは、乾杯!」

 

『かんぱ~い!!』

 

世話になった織斑先生、山田先生、更識、布仏の四人も呼んだ。しかし、見たことの無い人が一人混じっていた。

榊原菜月。IS学園の教師で、生徒に優しく品行方正。容姿も悪くないが、とてつもなく男運が悪い29歳。安定を求めず、疲れるような結婚はしたくないおかげで、おかしな男に引っかかるとか。

今回来たのは、今日が宿直で気になって見に来たらしい。しかし、それは男運がないんじゃなくて、ただの自業自得だと思う。

 

「よし! 歌うぞ、アンク!」

 

「まあ、たまにはいいか」

 

酒が入ってテンションが上がった俺は、ミュージックメモリ対応のカラオケマイクを使ったカラオケ大会へシフトさせた。

 

俺とアンクの『Time judged all』から始まり、仮面ライダーオーズの曲は全部歌った。『POWER to TEARER』とか、『Reverse/Re:birth』とか、作品は変わるが『乱舞Escalation』とか、二人で歌う曲は全てアンクと一緒に歌った。串田アキラさんとか居ないし。

 

松岡充さんの歌う『W』も『cod-E~Eの暗号~』も『SURPRISE-DRIVE』も歌った。仮面ライダー3号の主題歌『Who's That Guy』を歌い終わったら何人か涙目だった。解せぬ。

 

しかし、箒とマドカが『POWER to TEARER』を歌ったり、束と織斑先生が『Time judged all』を歌ったりしたのは驚いた。俺達の時とは全然印象が違う。当然、抜け目無く録音しておいた。

 

「キャーーー! シュレディンガーく~~ん! もういっか~~い!」

 

「でね、きいれくらはいよ。あのおぜうさまはほんとうにヒドかったんでふよ。きいれまふか?」

 

「聞いてる、聞いてるからもう止めて。分かったから、本人だから、虚ちゃん」

 

全員、酒が入っておかしな事になっている。山田先生はハイテンションで、布仏はおぜうさま本人に、おぜうさまに対する愚痴を言っている。更識は涙目だ。泣き上戸なのか、それとも打たれ弱いのか。ちゅーか、未成年が飲むなよ。

 

途中から寝てしまい、目が醒めて辺りを見渡すと辺りは散乱し、全員酔いつぶれていた。おい、榊原先生。あんた宿直だって言ってたよな?

 

緊急事態に備え、大量の布団と毛布。そして食料が此処には常備されている。一階フロアの家具をどかして布団を敷き、全員をそこに寝かせる。労力の代価として頭を撫でる位は許されるだろう。人として。

 

中には首に腕を絡ませてきた奴もいて、本当は起きているのかと思ったが無視した。ただ、束は確実に起きていたと思う。布団に置いたら引きずり込もうとしていたからな。しかし、紳士の俺は脱出し、二階で久しぶりに寝袋を使って寝た。……惜しい事をしたかも知れん。

 

 

 

翌日、俺の喉は壊滅状態で見事にオンドゥルっていた。有機ナノマシンと薬物で強化された改造人間でも、合計48回の全力熱唱は流石に無理があったようだ。

 

「ドァブァベェ、ドァブベデグデェ」

 

「? なんて言いました?」

 

「『束、助けてくれ』だ。クロエ、ウサギ女を呼んでこい」

 

それから喉が回復するまで、俺は常に通訳のアンクを肩に乗せて過ごした。

 

 

○○○

 

 

一夏がISを起動させたことに始まり、ここ一ヶ月余りは色々な事が起こった。

 

束がテロリストに捕まり、奪還作戦は失敗。表向きはIS同士の戦争だったと報道されたが、国際IS委員会から提供された映像資料は、嘗て自身が片棒を担いだ『白騎士事件』を髣髴とさせるものだった。十中八九どころか、十中十の確立で束の仕業だと確信した。

 

「やっほ~ち~ちゃん。今からIS学園に行くね~。会わせたい人がいるんだ~」

 

束の奴からそんな電話が掛かって来た時は、携帯電話を握りつぶしそうになった。そんな束と共にやって来た同伴者は、資料で見た金髪の若い男。小さい頃の面影がある束の妹。ドイツにいた頃の教え子に酷似した両目を閉じた少女。そして、昔の私に酷似したナイフの様な雰囲気の少女だった。

 

場所を移して、『NEVER』と名乗る彼等と話し合いとなったが、対ISを掲げるテロ組織が造ったクローンをベースにした強化人間。失敗作として廃棄されそうになっていた人造人間。そして、私の細胞から造られたクローン人間ときた。まともなのは束と妹の箒くらいだ。

 

束が何故こんな連中といるのかと問えば、『白騎士』と『暮桜』のISコアを奪取し、しかも『暮桜』のISコアを手に入れる為に、凍結処理の原因となった事件を影で起こした組織こそが、シュレディンガーの所属していた『ミレニアム』だと聞かされた。対IS兵器を造る為の教材として回収する事が目的だったらしい。

 

その事を聞いて、一夏の誘拐事件も『ミレニアム』の仕業かと勘繰ったが、それは敵対する『亡国機業』の仕業だと言った。マドカと名乗る私のクローンも元メンバーだったらしいが、組織から信用されていなかった為に、内情はよく知らないらしい。まあ、有益な情報が手に入っただけでも良しとしよう。しかし、大国の不祥事だから世間に知られるわ訳にはいかない事は分かるが、国際IS委員会の小細工には腹が立つ。

 

そして、ISを打倒する為に生まれた新技術。ガイアメモリとコアメダルがISに運用され、新たな脅威となる可能性と、シュラウドと言う復讐鬼の存在を知った。『ミレニアム』はISコアを生産する技術を既に確立し、その『ミレニアム』の元科学者が、改造したガイアメモリをテロリストに渡し、暗躍している。

 

全てはこの世界に対する復讐の為に。

 

それによって、シュレディンガーは一夏が第二のシュラウドになると言ったが、そのシュラウドは第二の私と束だと言える。そして、シュラウドの復讐が成されれば一夏が第三の私と束になり、憎しみの連鎖が続く。

自分が片棒を担いだ『白騎士事件』がテロと変わらないと理解できるようになった頃から、何時か自分が報いを受ける日が来るのではないかと思ってはいたが、そんな事は考えもしなかった。

 

後から聞いたが、マドカはかつて私と一夏を殺すつもりだったと聞いた。だが、今では殺すつもりは無いらしく、その理由を聞いてみた。

 

「何、そんな事をしなくても私を私として見てくれる人がいる。『織斑マドカ』を認めてくれる人がいると分かったからな。もっとも、何時か打倒しようとは思っているが」

 

マドカは不敵な笑みでそう返してきた。既に、私と一夏の命をシュレディンガーは救っていたのだ。

 

 

 

色々と深く考える日が続く中、『NEVER』がIS学園に来て10日位経った頃。

シュレディンガーが何者なのか。それが知りたくて、シュレディンガーがクロニクルと出かけている時を狙い、関係者を集めて束からシュレディンガーの経緯を聞いたが、信じられないような話だった。

平行世界の魂だと? ふざけているとしか思えない。箒もマドカも信じられないと言っていた。だが、その話を聞いた更識はむしろ納得していた。

 

「ずっと、おかしいと思っていました。テロリストは、自分の主義主張を武力によって貫こうとする連中で、話し合いでの説得や相互の理解を求めるような行動はしません。あれだけ強大な力を持っていれば尚更です。

なんと言うか、話をしていて『色々な経験をして確固たる自我や考え方を持った人間が、ミレニアムに7年間在籍していた』って感じの理性を感じました」

 

「しかし、平行世界の知識を得るため呼び寄せたなら、シュレディンガーに『オーズ』の力を与える必要は無い筈だ。この世界に憎しみを持った人間の集まりなら、もっと好戦的な人間に与えれば目的は達成できたと思うのだが」

 

「それは……」

 

「『オーズ』が暴走するリスクを回避する為だ」

 

突然、その場に居なかった人物……いや、存在の声を聞いた。

アンクだ。一緒について行ったんじゃなかったのか。

 

「ちょっと待て、暴走だと?」

 

「そうだ。コアメダルは欲望の力に強く反応する。そして、『オーズ』はコアメダルの力を使う性質上、変身する人間が持つ『欲望の器』を超えた力を取り込んだ場合、変身した人間は暴走する。

そして、『ミレニアム』に居たのはISの社会を破壊したい欲望を持った連中が大勢いた。そんな連中に『オーズ』の力を与えてみろ。あっという間に暴走して手がつけられなくなる」

 

……なるほど。確かに暴走されて制御できなくなれば本末転倒だ。それで、憎しみを理解し、憎しみを無くそうとしていたシュレディンガーを『オーズ』に選んだと言う訳か。

 

「あれだけ強大な力だ。何らかのリスクがあるとは思っていたが……」

 

「だが、この『欲望の器』と言うのが曲者でな。欲望を許容できる器を作ること自体は簡単だったらしいが、その中身となる欲望が入っていれば、直ぐに器から溢れてしまう。だから一度、中身を空にしてどんな欲望も受け止められる状態にする必要があった。その為に『ミレニアム』は壊滅した」

 

「中身を空にするって、どう言う事かしら?」

 

「仮にも7年間過ごしてきた仲間達の死。どんなに強大な力を持っていても、人一人救う事さえままならない絶望。一人の憎しみを無くすことさえままならない無力感。そして、自分一人だけが生き残ってしまったと言う罪悪感を与え、心に隙間を、空白を与える。

それには普通の感性を持った人間でなければならない。人の死に慣れている人間や、復讐のために全てを捨てた人間では効果が薄い」

 

つまり、シュレディンガーの『欲望の器』を完成させる為に『ミレニアム』は壊滅した? たった一人の為に組織を潰すなど度し難い話だが……。

 

「それでもアイツ自身の欲が無くなったって訳じゃない。だが、戦いが終わる度に何時も無力感に打ちのめされている。それこそが『オーズ』の器として重要なものだ。

一国の軍事力を容易く上回る力を手にしていながら、戦う度にその心は無力感で満ちている。だからこそ、『オーズ』の強大な力に酔いしれ、その力に飲まれる事が無い。つまり、暴走のリスクが極めて低い人間になった。デブの少佐の目論見通りに」

 

「だが、そんな人間なら『オーズ』の力を使いたがらない。いや、そもそも戦いたがらないだろう」

 

「だから『白騎士』と『暮桜』をエサにウサギ女を呼び寄せた。あの馬鹿がウサギ女の憎しみを無くしたいと思っていた事と、ウサギ女の科学力をアテにしていた事も有る」

 

なるほど。世界中から指名手配されている束と一緒に居れば、嫌でもISと戦う機会がある。そしてその力が知られれば、嫌でも他人が起こす欲望の渦と、闘争の螺旋に巻き込まれる……。

 

「それは、戦いたくない人間を戦わせているってことなんじゃないですか?」

 

「それは違う。俺も昔に一度だけそんな事を聞いた事がある。そしたら『戦いたくなくても、何時か必ず戦う日が来る』と答えた。『自分はあの日、運命を選んだからもう引き返せない』とも言っていた。アイツは自分の意思で戦っている」

 

山田先生の言葉をアンクは真っ向から否定する。『あの日、運命を選んだから』……か。

 

「もっとも、『オーズ』の使い方が間違っている事は確かだがな」

 

「間違っているとは、どう言う事だ」

 

「オリジナルとなった平行世界の『オーズ』は、元々国を侵略する為に造られた兵器だ。とある国のとある王は、『オーズ』の力を用いて他国への侵略を開始し、その圧倒的な力の前に人々は成す術なく屈服していったと言う。征服した国々の民を奴隷にし、保管されていた宝物は全て自分の物にした。最終的に王は神に等しい力を得て、新世界を創造しようとしたそうだ」

 

圧倒的な力の前では全てが無意味。それはかつて私自身がやった事だけに理解できた。新世界の神。『オーズ』の力があれば、それもきっと不可能ではない。

 

「それをアイツは、誰かの自由を守るために使っている。それが『オーズ』が『仮面ライダー』になる為に必要なんだと言っていたが……それがアイツ自身の欲望。いや、夢なんだろうな」

 

本来、宇宙開発の為に作られた力を世界への攻撃に使った私と、世界を攻撃する為に作られた力を誰かを守るために使うシュレディンガー。本来とは違った力の使い方。しかしそれは余りにも私と対照的だった。

 

 

 

入学式まで残り一週間。束から『NEVER』の拠点が完成したからパーティーを開くので来て欲しいと誘われた。世話になったとかで、山田先生も更識も布仏も誘われているようだ。最近の更識は真面目に生徒会の仕事に取り組んでいる。良い傾向だ。

 

束達はシュレディンガーの歌を聞いて無邪気にはしゃいでいるが、私の心は晴れなかった。

 

シュレディンガーに言われるまでずっと気がつかなかった。

 

束。お前は、本当はずっと泣いていたのか?

 

私は束と一緒に戦っているつもりで、実は一緒に逃げていただけだったのか?

 

私がお前の闇に気がついていれば、『白騎士事件』は起こらなかったのか? 

 

束の実家が散り散りになる事もなかったのか?

 

もっと別の織斑千冬の生き方があったのか?

 

最近シュレディンガー達を見ると、そんな『在り得たかも知れない過去と未来』を考えてしまう。

 

思えば、自分を飾ってばかりの人生だった。

 

初めは、一夏を不安にさせないために必要な飾りだった。意味のある行動だった。それが何時の間にか、自分で貼り付けた飾りと、他人に貼り付けられた飾りが綯い交ぜになって、飾る事が自然になっていた。

今では誰もが私を恐れ入る。だが、それは私の飾りに恐れ入っているだけだ。私自身を見ている訳じゃない。気がつけば、ありのままの自分がどこにもいない。最近では一夏を相手にする時さえ、自分を飾っている気がする。

 

その飾りの所為で、おかしくても笑えない。悲しくても泣けない。怒りが込み上げても爆発できない。痛くても打ち明けられない。そんな我慢をし続けていた事に気がついた。気付いてしまった。

 

それに比べてシュレディンガーはどうだ。自分に張られた飾りを理解している筈なのに、自分を一切飾っていない。ありのままの自分で生きている。それがとても羨ましかった。そんなシュレディンガーを見ている所為か、一時でもいいから何も考えたくなくて酒に逃げた。しばらく飲んでいなかったこともあって、アルコールは体に良く染みた。

 

 

 

ぼんやりとする意識の中、自分の体が宙に浮いている感覚を覚える。もしかして運ばれているのか? そう考えていたら、自分の体が柔らかい布団の上に置かれた事を理解した。

 

ま、まさか!?

 

身の危険を感じたが、布団をかけて頭を撫でられただけだった。その後も酔いつぶれた山田先生達が運ばれて来たが、やはり布団をかけて頭を撫でただけだった。

……疑ってしまった事に罪悪感が芽生えた。だが、束。これだけ大勢いる中で一緒に寝ようとするな。全員運び終わると、シュレディンガーは二階へ去っていった。

 

世界を手に出来る『オーズ』の力を手にしてもその力に溺れない。復讐と言う名の憎しみの連鎖を断ち切る為に、本当の強さを、『仮面ライダー』である事を求める男。

 

『仮面ライダーオーズ』……か。

 

皮肉にも、ISを打倒する為に造られた存在が、一番私達を理解しようとしていた。

束、お前が私にシュレディンガーを会わせたいと言った理由が分かったよ。




キャラクタァ~紹介&解説

山田麻耶
 IS学園の教師。上から読んでも下から読んでも「やまだまや」。割りと早めに『NEVER』のメンツと仲良くなっている。フロッグポッドは目覚まし代わりに使っている。
 カラオケ大会でクロエが録音していた、596の歌が入ったフロッグメモリをダビングしてもらっている。

布仏虚
 更識家に代々使える布仏家の従者。アニメでは何故かリストラ組。真面目に試験を受けて免許を取り、真面目に入学試験のペーパーテストをしっかり受けた596の人柄を高く評価している。お嬢様も見習って下さい。
 ガジェットもカンドロイドも色々買いたかったが、今回はデンデンセンサーとフロッグポットだけ買った。

榊原菜月
 ちょい役。アニメには出ていない。パーティーに来た本当の理由は世界で最も危険な男であろう596がどんな男か見たかっただけ。波乱万丈な人生は約束されるだろうが、596が好くかどうかは別問題だ。

596
 アンクがオーズの暴走についてカミングアウトした所為で周りから心配されていたが、映画『スパイダーマン』の名台詞によってそれは解消された。
 この二次小説で書きたかった事の一つが『力の使い方と責任』で、『オーズ』を通してそれを理解していく形で周りの人物を成長させたいと作者は思っていた。だって、原作ヒロインって、ギャグ描写だとしてもそこら辺を理解しているように見えないんだよね……。



オーズ
 作中でも説明されている通り、小説版『仮面ライダーオーズ アンクの章』では、800年前の王が他国への侵略に『オーズ』の力を容赦無く使用し、『オーズ』という力が人間にとってどれほど脅威であるかを分かりやすく説明してくれている。『映司の章』における火野映司の『オーズ』の使い方とは実に対照的で、力の使い手の持つ『欲望』によって、その力は良き事にも、悪しき事にも使えるという事を証明している。
 今作ではISと同じように、本来の用途とは違う使われ方をしているモノ同士と言う側面も持っている。

白式
 原作主人公である織斑一夏の専用IS。今作では一応、一夏の隠れた危険性も考慮して、原作通りの3.5世代的な機体だが、『白騎士』と『暮桜』を参考にして作られた『エターナル』から得られたデータも使用されている為、原作よりもスペックは高い。束が作った後で、倉持技研に596とクロエが持って行った。
 原作10巻で白騎士暴走形態になったのを見て、VTラウラ戦の「偽者絶対許さねぇ!」や「訳の分からん力に振り回されるラウラが気にいらねぇ」発言が、見事にブーメランしている気がするのは作者だけでは無いはず。
 VTシステムと同じっぽいが、オリジナルなのである意味VTシステムより性質が悪い。ネタバレだが、VTラウラ戦で暴走白騎士形態を出す予定。

青騎士
 653と同じ『ナスカメモリ』に対応した、織斑マドカ専用IS。原作10巻では『サイレント・ゼフィルス』から変形して『黒騎士』になっているので、今作では『ナスカメモリ』を使う事で変形する仕様に。使用ISコアは『プロト・ティアーズ』。
 ガイアメモリ対応ISの試作機だが、596が使えなかった『ミレニアム』製の武装も一部流用しているので、原作の『黒騎士』よりも強い。

M ミュージックメモリ
 本家『W』において、根津と言うガイアメモリのセールスマンが、バイラスメモリと一緒に持っていたメモリ。596が少佐に頼んで無理言って作ってもらったもの。前世の平成仮面ライダーソングやアニソンが入っている。容量は2テラバイトだが、一本じゃ足りなくて複数本造られた。


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第11話 セレブと博士(ドクター)と剣道少女

あけましておめでとうございます。

お気に入り件数が600件を突破! ご愛読ありがとうございます!
感想を付けてくださった皆様、評価を付けてくださった皆様も本当にありがとうございます!

上手く表現して書けているのか不安ですが、原作突入です。

2020/10/29 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


「IS世界廃滅のためにも、人心を得るためにも! ここは一つ音楽活動をかましたい今日この頃です!」

 

「……今回は『ミレニアムの』軍服じゃなくて『NEVER』のコスか」

 

夢で久しぶりに少佐に会った。何故かサングラスを掛け、オレンジと黒のカラーリングの半袖パーカーを着てフードを被っている。

 

「いいぞー! シュレディンガー、いいぞー! どう見ても金髪の若い松岡充さんだ! 想像してたよりもずっと松岡充さんだ!」

 

「なんでパーカーにサングラスしてるんですか? なんかスッゲェ嫌です」

 

「えぇええ、何でー? 何でー?」

 

「全然似合ってないです」

 

「おいおい、シュレディンガー。おめーが『仮面ライダーゴースト』を見ること無く死んだのを哀れんだ少佐殿の心が分からねーのか、おめー?」

 

これまた何故かサングラスを掛け、黄色と銀色のカラーリングの半袖パーカーを着ているドクが説明してくれたが、アレが仮面ライダー? 何処からどう見てもただのラッパーにしか見えない。

 

「ちなみにキャッチコピーは『ヒーローは、一度死んで蘇る』だそうだ」

 

設定を聞く限り、『仮面ライダー555』の乾巧みたいな感じだろうか。ちゅーか、どうやってそんな事を知ったんだろう。

 

「ところで、シュレディンガー。君が例のカラオケ大会で録音してダビングした保存用、観賞用、携帯用のメモリ三本の内、どれでもいいから私に一本くれ。中々に豪華な声が揃っていたからな」

 

確かに、田村ゆかりボイスに、日笠陽子ボイスに、斉藤千和ボイス。恐ろしく豪華なカラオケ大会だった。しかし、どれでもって言うけど、ポケットには携帯用のメモリしか入ってない。

 

「携帯用ですが、ハイ。もしかして、この為だけに呼んだのですか?」

 

「うむ。いや、もう一つ重要な事を知らせる為だ。以前、君に話していたゆかなボイスの少女についてだ。名前はセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生の一人で、今年IS学園に入学する事になっている」

 

ああ、割りと早く特定できたとかなんとか言っていたアレか。すっかり忘れていた。

 

「思い出したようだね。では、我々『ミレニアム』が割りと早く特定できた理由はなんだと思う?」

 

「? 将来有望なIS操縦者だったからじゃないんですか?」

 

「違う。サポート要員のアンクを造ったのは5年前。彼女がISに関わる様になったのは、3年前に両親が列車の事故で死亡してからだ。正解は、オルコット家は『ミレニアム』を支援していたからだ」

 

つまり、スポンサーの家族だったから早く特定できたわけか。

 

「確かオルコット家ってイギリスの名家ですよね? リスクを考えればとても『ミレニアム』に支援するなんて、やりそうにないと思いますが」

 

「そうだな。まともな考えならそんな事はしない。しかし、世界には色々な金持ちがいる。例えば一部の人間は、『どうしても脱税しなければいけない事情』があって、自分達の隠し金を税務署に見つからずになんとか出来ないものかと常に考えている。所謂『アンダー・マネー』と言うやつだ。そうした連中なら我々へ支援してくれる。支援の対価として使えそうな情報を提供し、彼等はそれを会社の経営に反映させる」

 

「結果、隠し金はきれいなカネとなって戻ってくる……」

 

「もっとも、セシリア・オルコットはそんな事は知らないだろう。君が彼女に何かする必要も義務も義理も無い。君の好きにするといい」

 

好きにするといいとか言っているが、そんな情報を教えておいて何も無い訳がないだろう。

 

「それにしても、随分と楽しく仲良くやってるじゃないか」

 

「ええ、まあボチボチ」

 

「そこでだ、いよいよ君に私の帝王学の真髄『複数とよろしくやる方法』を伝授して――」

 

少佐がニタァ……と笑った瞬間、パーンと銃声が鳴って少佐が倒れた。少佐の後ろで茶色の長袖パーカーを着て、ウェスタンハットを被ったリップバーンがマスケット銃を構えていた。

 

「『百発! 百中! ズキューン! バキューン!』ですわ♪」

 

ウィンクしたリップバーンを最後に夢から醒めた。

 

 

●●●

 

 

今日はIS学園の入学式。

 

表向き『NEVER』は、篠ノ之束博士をテロリスト集団の『亡国機業』から守った組織で、篠ノ之束博士が現在所属している組織となっている。まあ、嘘は言っていない。

そして俺達の立場は学生であるが、シュラウドが送り込んできた刺客、若しくはガイアメモリやコアメダルを用いたISが暴走した場合に鎮圧するための手段と言う側面がある為、そうした非常時に自由に動ける権利を持っている。学生兼警備員と言ったところか。

 

更識が言うには、ここ一ヶ月間は世界各国も国際IS委員会も俺のアラを探す為に色々と調べていたらしいのだが、俺がテロに加担していた事実は見つからない。テストパイロットであり、実験台であり、情報提供者である俺は、『ミレニアム』では箱入り状態だったから仕方がない。

散々苦労して得られた情報は、「少佐や幹部と一緒にコミケに参加していた」「少佐や幹部と一緒にアソビットシティーをブリッツクリークしていた」「少佐や幹部と一緒に秋葉原のメイド喫茶を巡礼していた」と、テロとは全く関係ないものばかり。もっと言えば、少佐達も対ISを掲げているテロリスト集団のトップと幹部とは思えないものばかり。

結局、俺に関しての調査は「『ミレニアム』の実験体が、襲撃された際に逃げ延びた」で収まったそうだ。ある意味、うちはシンみたいな気がする。

 

地味に問題となったのは組分け。当初は1組に集中させるつもりだったが、マドカとクロエは既に専用ISを持っており、これにイギリス代表候補生のセシリア・オルコット。一週間後には織斑一夏に『白式』が渡される事が決定している。入学段階で既に専用機持ちが一つのクラス4人も集中していては流石に不公平だ。

 

箒は剣道の腕は全国大会で優勝する程であるが、専用機がまだ無い事から誰かと一緒に居た方が懸命だ。クロエも普段は目を閉じている関係もあって、誰か一人ついた方が良いと判断。クロエの戦闘能力が低いわけではないが、専用IS『黒鍵』は戦闘よりも戦闘補助の方が向いている。

最終的に、俺と箒が一組。マドカとクロエが三組に決まった。二組は一組との合同実習がある関係から除外。四組には日本の代表候補生がおり、この子も専用機持ちだからとの事。最大の理由はその日本の代表候補生が更識の妹だからだろうケド。

しかし、これはこれで不安だ。今まで自分以外は敵と認識して生きてきた節さえあるマドカと、まともに会話した人間は俺達と出会うまで束だけと言うクロエ。果たして大丈夫なのだろうか。

とりあえず、自己紹介の時は自分の好きな物、嫌いな物、将来の夢なんかを言えばいいとアドバイスしておいた。

 

『奴らを心配しても仕方無い。むしろ、自分の心配をしたらどうだ?』

 

そうだな。俺は本来ISを動かせる人間が入学する学校で、「ISが動かせないのに入学している人間」だ。もっとも、この世界のライダーシステムはISの技術を元に造ったものだから、次世代型か発展型、もしくは新世代型とでも言えばいいらしい。実際にアンクはISコアによく似た反応はする。

 

『そうじゃない。あのネコ女の試合だ』

 

ああ、公式戦の事ね。昨日になって、漸く公式戦で課せられるルールが決まった。

使用するコアメダルは一試合につき9枚。ガイアメモリは6本。パッケージは2種類。セルメダルに関しては試合中に精製した物は問題ないが、事前に持ち込んで使う事ができる枚数は10枚までと、色々な制限がついた。

しかも、これらを試合前に申請しておく必要があり、違反した場合は反則負け。補給するエネルギー量も相手と同じ量に調整されるとの事。予想通りの大幅なスペックダウンだが、生きるか死ぬかの実戦では無い公式の試合なので、コレくらいのハンデが丁度いいと思う。

 

『準備は漸く整った。早速、今日の放課後から始めるぞ』

 

それは今から二週間ほど前の事。アンクの方から俺に提案されたことだ。

 

「正直な話、せめて一つはコンボが出来るコアメダルが欲しい。拮抗した状況や劣勢を打破できる切り札。それがこれから先必要になる」

 

確かに。『オーズ』はオールラウンダーであり、大体の敵には対応できる。逆に言えば器用貧乏で、切り札と言えるような突出したものが無い。

 

「IS大戦で『銀の福音』を相手にした時、お前はどう思った」

 

「……『タジャドル』ならもっと楽に勝てた」

 

「『ラトラーター』のライオディアスでも有効だったろう。上手く誘導すれば『サゴーゾ』で機動力を奪う事も不可能じゃない。いずれにせよ、何かしらの『単一仕様能力』を持つコンボの力は絶大だ」

 

あの時は物量による力押しで勝てた。だが、パンツァーユニットの超高火力装備は周りに何も無い砂漠地帯でもなければ、被害は甚大なものになる。

これから相対する事になるだろうシュラウドの刺客もそうだが、アリーシャ・ジョゼスターフ等のまだ見ぬISの実力者達。いずれ現れるだろうセカンドシフト機の事も考えると、やはりコンボの力はあった方が良い。

 

「それで、コアメダルの状態から出来そうなコンボは?」

 

「出来そうなのは『ガタキリバ』と『ラトラーター』の二つだ。それでも、他と比べて出来そうってだけだがな。問題は対戦相手だ。並みの相手じゃまるで役に立たん」

 

「ふっふっふ~~。それなら束さんにお任せあれ!」

 

最強コンボの名を冠する昆虫系のガタキリバコンボと、灼熱コンボの名を冠する猫系のラトラーターコンボ。どちらも強力なコンボだが、経験値を稼ぐ為にはそれなりの相手が必要だ。俺は織斑先生に頼もうかと思ったのだが、束が会話に入ってきた

 

「思ったんだけど、ゴッくんは優しいから本気になった事は有っても、全力を出したことって無いんじゃない? だから、全力を出せる相手を用意して戦えば、比較的短時間で成長するんじゃないかって思うの」

 

確かに。ISの絶対防御は絶対安全と言うわけではない。そして、万が一とは何時か必ず起きる事態だ。どこかで手加減していた感じはある。

 

「全力を出せる相手って誰だ? 織斑先生か?」

 

「今の内に言える事は、戦う相手はちーちゃんじゃないってことだね。まあ、楽しみに待っててよ。きっとゴッくんも満足すると思うから」

 

そう言って束は何かを造っている。そして、昨日になって準備が完了したらしい。楽しみだが一体何を造ったのやら。

 

そんな事を考えて時間を潰していたら、山田先生が教室に入ってきた。手を小さく上げると笑って返してくれた。良い人だ。

各人で自己紹介を促され、出席番号順にクラスメイトが自己紹介していく。そして、織斑一夏の番が来た。

 

「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします。…………以上です!」

 

正直『ねえ、結局分かったのって名前だけじゃない?』って感じの自己紹介だ。カカシ先生よりもヒドい気がする。そんな織斑一夏は、後ろから接近してきた織斑先生に出席簿でシバかれていた。

その後、織斑先生が自己紹介したが、クラスメイトの反応が凄い。ブリュンヒルデなのだから当然か。人を束ねるのに必要なものはカリスマ。そして、この世界でカリスマを得る方法は極めて簡単だ。ひたすらに、誰よりも強くなれば良い。

ただ、どう考えても怪しい発言も多い。まるで邪教の教祖に憧れる信者の様な奴もいるんだが。

 

「で? 挨拶も満足に出来んのか、お前は。シュレディンガー、見本を見せてやれ」

 

俺が自己紹介のトリか。人間関係は最初が肝心だ。どんな自己紹介がいいだろうか。何か良いのは無いだろうか。

 

『諸君。私はコミケが好きだ』

 

それはこの話の大部分を演説で消費します。

 

『ここは「ISに命運を握られた哀れな箱庭の住民達を解放する」とかどうだ?』

 

そんな事言ったら俺はテロリスト街道まっしぐらです。

 

『………』

 

なんか喋って下さい。

駄目だ。隠し砦の三悪人ではアテにならない。アンク、何か無いか。

 

『舐められるのだけは不味い。最初からかましていけ。例えば――』

 

よし、分かった。俺のキャラに合ってない気がするが、この際それで行こう。

 

「俺の名前はゴクロー・シュレディンガー! 目標はこの学園の全員と友達になる事だ!」

 

アンクのアドバイスは、青春フルスロットルで友達命な、今では消臭剤のCMで仮面ライダー龍玄とタイマンを張っている男。『仮面ライダーフォーゼ』こと、如月弦太朗が転校した際の口上を借りる事。当然、胸を二回叩いてからの指差し確認のポーズもビシッと決める。IS学園は優れた能力を持った人材の宝庫。今後を考えると交友関係は広い方が良いと、アンクが考えた結果である。

 

「年は今年で20歳! 将来の夢はズバリ、宇宙開発だ! 一年間よろしく!」

 

これは嘘ではない。何時か必ず、束と一緒に『ラビットハッチ』と『M-BUS』を造ると決めている。既にタチバナさんの鉄仮面とツナギも用意している。決して、「私は我が身を守る為だったらなんだってする!」と豪語する、天秤野朗の橘さんではない。

 

「キャーーーーー!」

 

「年上のお兄さんキターーー!」

 

「何かすっごい名前だけど、イケメンなのね! 嫌いじゃないわ!」

 

不安だったが本家『フォーゼ』よりも元気な返事が返ってきた。怪しい台詞が聞こえたが気にしない。そして、俺の自己紹介が終わったと同時に、SHR終了のチャイムが鳴った。

 

 

 

一時間目の授業が終わり休み時間になったので、三組のクロエとマドカの様子を見に行く。箒は「一夏と少し話してくる」と言って、織斑一夏の所に行った。

三組に着くとマドカとクロエが一緒に居たが、周りの女子は話しかけようとするが二の足を踏んでいる感じがする。何があった。

 

「マドカ様、兄様が来ました」

 

「む、ゴクローか」

 

「二人ともどうだった? 自己紹介は上手くできたか?」

 

「うむ。私なりに上手くできたと思う」

 

「私も上手くできました」

 

それにしてはこの雰囲気は何かおかしい気がする。

それもその筈。この二人は前の時間の自己紹介でこう話した。

 

『織斑マドカ。嫌いなものはたくさんあるが、好きなものはあまりない。それから夢なんて言葉で終わらす気は無いが……野望はある!

ある女を正々堂々と打倒して、ある男を虫けらの様に捻り潰す事だ』

 

『クロエ・クロニクルです。好きな事は兄様と一緒にお料理やお掃除する事です。嫌いな事は人を見た目で判断することです。将来の夢は……秘密です。

目が不自由なものですから、皆さんにご迷惑をお掛けすると思いますが、今年一年よろしくお願いします』

 

織斑千冬に似ているマドカと、お人形さんの様な見た目のクロエ。この特徴的な二人に話し掛けようとしている者もいるのだが、マドカが無意識に醸し出す刃物の様な雰囲気に当てられて話しかけられずにいた。

 

「まあ、上手く出来たなら良かった」

 

「なんだ? 心配してたのか?」

 

「少しな。お昼は一緒に食べよう」

 

「はい、ご一緒します。兄様」

 

「ふん、最初からそのつもりだ」

 

「ちゃんと迎えに来るからな」

 

二人の頭を軽く、くしゃくしゃ撫でてから一組に戻る。二人揃って「む~~」と唸っていた。可愛い。三組を出る時にふと振り返ると、マドカとクロエに何人か話しかけていたのが見えた。

 

 

 

一組に戻って二時間目の授業となったが、山田先生の授業は中々分かりやすい。

しかし、織斑一夏は必読の参考書を電話帳と間違えて捨てたらしい。馬鹿な奴だ。電話帳は新しいのと古いのを業者が交換しに来る。電話帳は捨てる物じゃない、リサイクルするものだ。

 

『……いや、そっちじゃないだろ』

 

冗談だって冗談。しかし、『必読』って書かれていた物を捨てたって分かっているのに、何で再発行してもらわなかったんだろうな。地獄を楽しむ趣味でもあるんだろうか。

 

『只の馬鹿だ。馬鹿な一夏。略して馬夏とかどうだ?』

 

誰が上手い事を言えと。織斑一夏は再び織斑先生にシバかれている。一週間で覚えるのは無理と言っているが、自業自得だ。

 

「……貴様は『自分は望んでここにいる訳では無い』と思っているようだが、人は時と場合によって自分の望む望まざるに関わらず、他人の勝手な欲望に巻き込まれる事がある。

それを運命だと受け入れつつも、希望を捨てずに諦める事を諦めた人間だけが、自分の運命を変える権利人に成り得る」

 

織斑先生は俺や箒を見てからそう言った。織斑先生の言葉に織斑一夏はやる気を出したようだ。織斑先生が言葉に込めた思いをちゃんと理解しているといいのだが。

 

 

 

二時間目が終了し、再び休み時間になった。今度は試しに、噂のゆかなボイスに接触するか……と考えていたら、織斑一夏がやってきた。

 

「えっと、ゴクロー・シュレディンガーだっけか?」

 

「ああ、俺の事はゴクローでも、シュレディンガーでもどっちでもいい」

 

「それじゃ、ゴクローで。俺の事も一夏でいい」

 

握手を求めてきたので、試しに握手と共に互いの拳を数回打ち合わせる、如月弦太朗の『友情のシルシ』を交わしてみる。

 

「お? なんだ今の?」

 

「ある男に倣った『友情のシルシ』だ」

 

「へぇ。そんなのがあるのか」

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「へ?」

 

「む……」

 

一夏が『友情のシルシ』に感動していたら、セシリア・オルコットが向こうからやってきた。うむ、自己紹介でも思ったが、確かにゆかなボイスだ。

 

「まぁ? 何ですの、そのお返事。私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

「悪いな、俺、君が誰だが知らないし」

 

ファーストコンタクトは、思ったよりも此方に対して高圧的だった。その後、オルコットは一夏の言動に振り回され、ずっと一夏に集中している所為で、俺は蚊帳の外の状態だ。一夏は無意識なのだろうが、やけに相手の逆鱗に触れる発言が多い。『代表候補生』と言う言葉さえも知らないとは驚きだ。

 

『駄目だコイツ、早く何とかしないと……』

 

それにしても、これがセシリア・オルコットか。典型的な女尊男卑社会の高飛車お嬢様って感じだが、代表候補生になったのだから実力もそれ相応にあるだろうし、努力もしてきた筈だ。これは相手に舐められない為のポーズかも知れない。

そんな考察をしていたら授業開始のチャイムが鳴った。オルコットは捨て台詞を吐いて自分の席に戻って行った。

 

 

 

三時間目は織斑先生の授業だが、その前に一つ決める事があるようで。

 

「授業を始める前に、再来週に行なわれるクラス代表戦に出場する代表者を決めねばならん。クラス代表とはクラス対抗戦や生徒会の会議や委員会への出席……まあクラス長の事だ。ちなみに一度決まると一年間変更されん」

 

要するに委員長か。ここは『魔法先生ネギま!』の雪広あやかっぽい、オルコットが適任だろうか。代表候補生だから実力も充分の筈だ。

 

「自薦他薦は問わないぞ。但し、シュレディンガーは除外だ」

 

「織斑先生、それはどう言う意味ですか?」

 

「シュレディンガーは非公式だが、ドイツとアメリカの代表操縦者に勝っている。正直、この学園の生徒でシュレディンガーを相手にまともに戦えるのは、生徒会長でありロシアの代表操縦者でもある更識位だろう。お前ら一年生では相手にならん」

 

つまり、『強過ぎて勝負にならない』。それもあの織斑千冬のお墨付きと言う事で、クラス中の人間の視線が俺に集中する。一夏は目を見開いてコッチを見ている。オルコットは信じられないものを見るような目で見ている。箒は何故か誇らしげに周りを見ている。

 

「それじゃ、織斑君を推薦します!」

 

「私も織斑君がいいと思います!」

 

早速、一夏が推薦されたが、本当に良いのか? 授業中に織斑先生が言っていたが、一般的にISは兵器として扱われる強大な力だ。マニュアルさえ禄に読んでいないド素人が簡単に使いこなせる代物じゃない。「適当に触ってりゃ使い方が分かる」なんて言ってまとも戦える人間など、どこぞのおでんが大好きな戦う医者くらいだ。火野映司とアンクをヤミーごと攻撃していたけど。

一夏は抗議するが、推薦された以上拒否権はないらしい。しかし、なんで誰もオルコットを推薦しないんだ。他に誰も推薦しないし、俺がオルコットを推薦するかと挙手したのと同時に、本人が名乗りを上げた。

 

「待って下さい! 納得いきませんわ!」

 

そんなオルコットの口から出てくるのは侮辱と暴言の数々。しかも段々ヒートアップして、内容も過激になってきた。コレだけの事を言うあたり、オルコットはISに命を賭けているのだろう。『意地の一つも張れない繁栄などお断り』と言う誇り高い英国人。ジョンブルと言う奴だ。

 

『いや、アレはそんなモンじゃないと思うが……』

 

そんなオルコットの暴言に、売り言葉に買い言葉で一夏が食って掛かり、クラス長を決める為に、一夏とオルコットの試合が決定した。

しかし、一夏はまるで実力差が分かっておらず、『自分がどれ位のハンデをつければ良いか』等とほざいている。

正直、クラスメイトの言う事ももっともだと思う。ただ、男と女が戦争したらどうなるかは分からないとだけ言っておく。

 

これで終わったと思ったが、それだけでは終わらなかった。

 

「ついでですわ。貴方にも決闘を申し込みます!」

 

俺に指差し確認のポーズを取るオルコット。ジョジョ第8部の主人公みたいに『オレェ?』って感じで自分に指を差す。

 

「貴方がアメリカとドイツの代表操縦者に勝ったなど、とても信じられませんわ! そもそも非公式な試合の戦績などアテになりません! どうせ卑怯な手を使ったに決まって――」

 

「訂正しろッ!」

 

箒が机を両手で叩きながら立ち上がって抗議した。箒の両目には明確な敵意が宿っている。

 

『卑怯な手? はっ! 卑怯なほど強いの間違いだろう?』

 

それはちょっと言われてみたい。

 

「な、なんですの、貴方には関係ない――」

 

「訂正しろッ! ゴクローが卑怯者だと言った事を訂正しろッ!」

 

机を叩いて立ち上がった箒の目から、絶対に一歩も引かないと言う意思が感じられる。箒は俺の名誉のために怒ってくれているのだ。……アレ? でもなんで一夏の時は怒らなかったんだ?

 

「そうだね。もう一度言ってくれるかな。誰が卑怯者だって?」

 

そんな事を考えていた刹那。聞いた事が無い位に冷たい田村ゆかりボイスが教室に響く。『NEVER』の拠点にいる筈の束が、何時の間にかオルコットの後ろに立っていた。

 

「た、束さん?」

 

「束? し、篠ノ之束博士ですか!?」

 

「そうだよ、天才で日本人の束さんだよ。はろー」

 

一夏の発言にオルコットが反応し、束は簡単な自己紹介をするが、目が一切笑っていない。

 

「ご、ご高名はかねがね承っておりますっ。わ、私、イギリス代表候補生の――」

 

「これだから凡人は嫌いなんだよ。簡単にコロコロコロコロ態度を変えてさ。結局、自分が得する事しか考えてないんだ。私もちーちゃんやいっくんと同じ、文化的に後進的な極東の島国出身の猿なのにさ」

 

「うっ!?」

 

「そのISのコアって、イギリスじゃなくて私が造ったんだよね。ソレのお蔭で色々と助かってる癖に、よくそんな戯言が言えるね? 束さん、恩を仇で返された気分なんだけど?」

 

「え、あの……」

 

「そう言えば、この国で暮らすのが耐え難い苦痛だって言ってたね。それなら、ソレ壊しちゃおう。そうすればイギリスに帰れるよ。わーい、嬉しいね~」

 

束がゆっくりと、オルコットの待機状態のISに手を掛けようとしている。恐らく『からくりサーカス』のフェイスレスの様に分解する気だ。

 

「待て、それを破壊するのは不味い」

 

「? 何でゴッくん? 前に言ったよね? この世で最も大切な事が『信頼』なら、この世で最も忌むべき事は『侮辱』だって。この金髪はゴッくんに対するちーちゃんの信頼を侮辱したんだよ?」

 

目に涙を浮かべて金縛り状態のオルコットと、目に光が無く制裁を下そうとキレている束。イカン。束をなんとか止めなければ。

 

「確かに、この世で最も大切な事が信頼なら、この世で最も忌むべき事は侮辱だ。特に信頼に対する侮辱は、その人物の名誉を傷つけるだけでなく、人生や生活を抜き差しならない状況に追い込んでしまう」

 

「だったら……」

 

「だが、それはオルコットも同じだ。自分が営々と築いてきた信頼に対して侮辱されたと思っている。え~っと、相川さん?」

 

「え!? 私!?」

 

相川さんは、俺が顔と名前を覚えていると思っていなかったらしく、驚いている。済まん、出席番号が一番だったから君を選んだんだ。君にとってキラーパスもいい所だろうが、協力してくれ。

 

「ちょっと君がオルコットの立場を想像して欲しい。3年前から今日まで、必死で血の滲む様な努力して、自分の技術と才能を丹念に磨いてきた。その結果、自分の実力を国から認められて代表候補生となり、専用機を渡されるまでになった。

当然国から期待されて、遠い異国の地にあるこのIS学園に送り出された。良い成績を出して、国の期待に応えようと意気込んでここに来た。

そこにイレギュラーがいた。そのイレギュラーはISの事なんて全然分からない、『代表候補生』と言う言葉さえ知らない、ISをまともに操縦した事も無いド素人だった。そんな人間が、これまで必死に頑張ってきた自分よりも、このクラスでISを使って戦う代表として選ばれる……さて、どう思う?」

 

「えっと……。うん、なんか、凄く嫌だ。今まで頑張ってきた事、全部否定されたみたいで」

 

こうして説明すると、他にもそう思い至ったらしく、済まなさそうな顔をしているクラスメイトがチラホラ見える。

 

「人はただ生きているだけで、自分でも気がつかない内に誰かを傷つけている。だからこそ争いは無くならないし、憎しみも生まれる」

 

「………」

 

「俺が卑怯者だと侮辱されて怒ってくれた事は嬉しい。それでも、報復する事は止めて欲しい」

 

「…………ねぇ」

 

「ッッ!!」

 

「ちゃんと謝ったら許してあげる。でも、次は無いからね」

 

束はオルコットにそう告げると、スタスタと教室から去っていった。妥当な落とし所だろう。束が来て臨戦態勢だった織斑先生が驚いているが。

 

「も、申し訳、ありませんでした。い、イギリス代表候補生として、軽率な、あるまじき発言を、ど、どうか、許して下さい」

 

オルコットが俺に頭を下げて謝っているが、申し訳無いと言うより恐怖から謝っている感じ。怒らせた相手が相手だから、仕方無いと言えば仕方ない。少し元気付けておくか。

 

「気にするな。それよりも、オルコットは本当にクラス長になりたいのか?」

 

「え?」

 

「正直に言って欲しい。お前はこのクラスの代表に本当になりたいのか?」

 

「な、なりたいですわ。でも……」

 

「お前が本当にクラス長なりたいのなら、俺はお前を応援する。さっきのアレで、俺はお前がこのクラスで一番代表をやりたい人間なんだって思った。こーゆーのは、やる気のある奴がやるのが一番だ」

 

「……なんで、なんでそんな事を」

 

「ほら、自己紹介の時に言っただろう。『俺はこの学園の全員と友達になる』って。だから、俺はお前とも友達になるって事だ。友達が困ってたら助けるのは普通だ」

 

「!!」

 

「ほら、これで仲直りだ」

 

「は、はい」

 

お互いに右手を差し出して握手してから、一夏にやった時より優しく「友情のシルシ」をオルコットと交わした。やり方が分からなかった様で、オルコットは為すがままだが。

 

「えっと、日本の皆様にも、大変失礼いたしました。先程の私の暴言を、どうか許してもらえないでしょうか?」

 

「いいよ。気にしないで。私もオルコットさんの気持ち分かるから」

 

「うん。なんだかゴメンね、セシリア」

 

オルコットは自発的に頭を深々と下げてクラスメイトに謝った。偉い。オルコットを許した他の皆も偉い。

 

「ふむ。一悶着あったが、次にクラス代表補佐。つまり副委員長を決めようと思う。此方も自薦他薦を問わないし、シュレディンガーも対象に入るぞ」

 

織斑先生の言葉に、クラス中の人間の視線が再び俺に集中している。目は口ほどに物を言うと言うがこれは……。

 

「確認するまでも無いな。シュレディンガーをクラス代表補佐にする。クラス長はシュレディンガーと更識の試合の後の模擬戦で決定する。これに異論のある者は?」

 

異論は無かった。俺はクラス代表補佐に無投票当選した。

 

 

 

昼休み。本日のお昼は持参した弁当。クロエと一緒に朝早く起きて作ったものだ。弁当片手に、三組のマドカとクロエを箒と共に迎えに行ったが、箒は明らかに憤っていた。

 

「箒、何にそんな怒ってるんだ?」

 

「……一夏があまりにもアレなのでな」

 

「ああ、噂で聞いた。なんでもイギリスの代表候補生とISでやりあうそうだな。身の程知らずもいい所だな」

 

「与えられる専用機が『白式』ですから、或いは……」

 

「いや! アレは絶対に負ける! むしろ負けて当然だ!」

 

一夏が勝てる可能性をクロエが提示したが、箒が全力で否定する。

 

「『必読』と書かれた参考書を捨てたのに気付いているのに、再発行を求めなかったのだぞ! 一ヶ月かそこらで全てなんとかなるとは思えんが、今の一夏からは努力しようと言う姿勢が全く見られん! その上、一週間程度の授業と訓練で、ISの操縦がなんとかなると、それで代表候補生に勝てると思ってるぞアレは! 挙句の果てに自分がハンデだと!? 舐めているにも程がある!! 力を得るのと、力を使いこなすのは全然違う!!」

 

「落ち着け。お前の好きな相手じゃなかったのか?」

 

「な、なにを根拠にそんな事を!」

 

「私達に人質にされた時だ。あの時、お前は猿轡をされながらも蚊の鳴く様な声で――」

 

「うわぁああああああああああっっ!! あ、あれは、あれだ! あれなんだ!」

 

マドカが箒をからかって遊んでいるが止めてくれ。余計に酷くなりそうだ。

 

「まあ、表情を見る限り、確かに『なんとかなるだろう』って感じはしたな」

 

「織斑先生がISに関わらせないようにしていたと聞いていますが、それでもちょっと信じられませんね」

 

それに関しては織斑先生本人に聞きたい所だが、話してくれるだろうか。

 

「……まるで成長していない。あんな感情任せのやり方では禍根が残るではないか。どうしてあんな事をするのだ……」

 

「ふん。織斑一夏はこうした問題を今まで腕っ節で解決していたのだろう? それなら、今までと同じ方法で問題を解決するに決まっている」

 

箒は感情任せに力を振るう事の恐ろしさを、他ならぬ箒自身が嫌と言うほど知っている。それだけに売り言葉に買い言葉で、その場の感情任せで一夏がオルコットとの戦いを受けた事が理解できない。

 

「兄様はどう思いましたか?」

 

「良く言えば熱血。悪く言えば短気。悪い人間では無いが、無意識に人の逆鱗に触れる所がある」

 

「私の時も最初はそうだった。そう言えば、一夏は何かと『守る』事に拘っていた気がするな」

 

「……誰かに自分の持っている力を振るう事で『自分が何かを、誰かを守っている』と言う実感が得られる。だから、そうした方法を取りたがるんじゃないか?」

 

「!!」

 

「「なるほど」」

 

この中で最も一夏と付き合いのある箒は、「許せない奴はぶん殴る」と言う一点を、一夏が決して曲げなかった事は知っている。当時は、いじめられていた自分の為に怒ってくれた事に嬉しさを覚えたが、そんな事は考えもしなかった。

確かに当時の一夏の行動に、当時の箒は救われた。しかし、その手の問題が収まったかと言えば、全く収まっていなかった。そして、一夏はしばらくの間穏便な方法で、その都度自分の力を振るっていた。

 

「力を振るう理由は正義だ。だが、正義は正しいからこそ思考を停止させる力がある事を理解している人間は少ない。子供なら尚更だろう」

 

「それはフォローのつもりか? 子供のままで成長していないと言っているようなものだぞ」

 

「……そんな事は、守るとは言わない。傷つく痛みは誰だって同じなんだ。だからこそ、力で排除するのではなく、お互いを理解しようとする努力が必要なんじゃないか?」

 

そんな事を言う箒を見て、ここ一ヶ月の教育で大きく成長したとしみじみ思う。

 

「それに比べて……」

 

「ん? どうした?」

 

「いや、お前は案外、生徒よりも教師になった方が良かったんじゃないか?」

 

「そうか?」

 

「それだと一緒にお昼が食べられません」

 

「……分からない所があると言って、弁当持参で職員室に居座るのはどうだ? そして姉さんの目の前で弁当を食べるんだ。きっと楽しいぞ。すっごく」

 

マドカがどこか少佐を髣髴とさせる邪悪な笑みを浮かべている。しかし、俺が教師ねぇ……。上手くやっていけるとは思えないけど。

 

 

 

一方その頃。弁当片手に職員室にやってきた束が、ハイテンションで千冬に迫っていた。

 

「ねぇねぇ! 見て見てちーちゃん! ゴッくんとくーちゃんが束さんにお弁当作ってくれたの! 美味しそうなおかずでしょ~?」

 

「……ああ、そうだな」

 

「それでね! ご飯のところは……じゃじゃ~~ん! 海苔で作った『仮面ライダーエターナルRX』なんだよ! 凄いでしょ! 食べるのもったいないよね~~!」

 

「……そうだな」

 

ごはんの白色と海苔の黒色で、切り絵の様に『仮面ライダーエターナルRX』を見事に表現している。作者はゴクローである。

 

「これ、シュレディンガー君とクロニクルさんが作ったんですか? 良いな~」

 

「そう! 束さんの為に朝早くから作ってくれたの!」

 

「………」

 

束は自慢したくて仕方が無いのか、見に来た山田先生にも弁当を自慢している。千冬は購買から買った自分の弁当を見て、静かな苛立ちと僅かな嫉妬を覚えた。キャラ弁をこれでもかと自慢する束は心底鬱陶しかった。

 

「あ! もしかして欲しいの? それじゃ、おかず交換しようよ。卵焼き以外ならいいよ」

 

「……それなら肉団子を貰おうか、コッチはから揚げだ」

 

「わ、私もいいですか?」

 

「いいよ~。一つだけだからね~」

 

嬉々としておかずを交換する束。しかし、弁当のおかずを交換するなど初めてなのではなかろうか? 千冬は自分と束の学生時代を思い出しながら、早速交換した肉団子を頬張った。

 

 

●●●

 

 

いよいよ待ちに待った放課後だ。『NEVER』の拠点から、各自荷物を持って宛がわれた寮の部屋に行くことになる。部屋割りは俺とクロエ、箒とマドカが相部屋となっているが、正直ただ寝泊りするだけの部屋になる気がしないでもない。束は『NEVER』の拠点で寝泊りすると言っているが、もしかしたら抜け出してくるかも知れない。

荷物は少なく直ぐに運び終わったので、早速対更識戦に向けて用意されたトレーニングを開始する。

 

『それにしても、気になるな』

 

「何が?」

 

『あの金髪ロールだ。アイツはお前がアメリカとドイツの代表操縦者に勝ったと聞いたとき、「信じられない」とか「どうせ卑怯な手を」とか言ってたよな?』

 

「ああ。まあ、あのリアクションが普通なんじゃないか?」

 

『いや。IS大戦以降、各国の代表操縦者と代表候補生は「オーズ」の戦闘データを渡されている。攻めてきた場合の対策としてな。だが、金髪ロールは代表候補生なのに、その事をまるで知らない様な感じだった』

 

確かに、織斑先生が話した時のリアクションもそんな感じだった。

 

『もしかしたら、あの女。誰からもソレを知らされずに此処に来たのかもな』

 

「何のために?」

 

『……さあな。それよりもコッチに集中しろ』

 

「それじゃゴッくん。ここで変身して、『ゾーン』の力でこのラボに行って。そこの実験場に用意してあるから」

 

「分かった。アンク、とりあえず『タトバ』!」

 

『駄目だ。使うメダルは昆虫系と猫系だけだ。コレでいけ』

 

「分かった……変身!」

 

『ライオン! トラ! バッタ!』

 

アンクの指示でラトラバに変身し、ゾーンメモリのマキシマムドライブを発動させるべく、メモリスロットにゾーンを装填する。

ガイアメモリには相性が良過ぎることで過剰にメモリの力を引き出してしまう『過剰適合者』と呼ばれる人間が居る。俺は二本のメモリでそれが起こっている。一つは『ダミー』、もう一つは『ゾーン』だ。クローン体でシュレディンガーだからだろうか?

そのお蔭で通常の『ゾーン』ならば限定空間でしか発動できない瞬間移動が、座標を把握できれば何処にでもいける仕様になっている。流石に精神世界は行った事が無いが。

 

「行ってきま~す」

 

「いってらっしゃ~い♪」

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

瞬く間に一瞬で目的地に到着。なんとなくだが、『仮面ライダー555』のアークオルフェノク戦を彷彿とさせる場所だ。

 

『着いたね? それじゃあ、早速始めるね。ゴッくんの相手は、束さん特性のとっておきだよ!』

 

「具体的にはどんな奴?」

 

『具体的には、未だに各国が開発段階で実用化に至っていない無人機ISと、「KENGOメモリ」の中にデータが残されていたライダーマシンとのハイブリット。その名も――』

 

『POWER DIZER!』

 

素晴らしい重低音のスピーカーから束が作ったモノを知り、鋼で出来た3メートル級巨人が目の前に降って来た。ただ、機体のカラーリングが黒と赤で凄く禍々しい。もっと言えば形も攻撃的だ。

 

『運動性能を強化した上に、高出力の荷電粒子砲を装備! いや~私が造ろうと思った無人機ISよりもずっ~~と強くなったよ! ゴッくん。アンくん。束さんを褒めて褒めて~~!』

 

「……大した奴だ。やはり天才か」

 

『少しは役に立つな。ウサギ女』

 

『えへへ~~、褒めてくれた~~』

 

如月弦太朗が一人でもコズミックステイツに至る為に、タチバナさんが課した命懸けの特訓よりも過酷なトレーニングが始まろうとしていた。

 




キャラクタァ~紹介&解説

セシリア・オルコット
 メズールと同じゆかなボイスを持ち、意地の一つも張れない繁栄などお断りと言う、誇り高きジョンブルと言う名のチョロイン。原作三巻で束にボロクソに貶される運命が、596の介入によりちょっと早めに起こった。
 他の作品と同じような展開は嫌なので、何か無いかと考えたらこんな感じになった。考えてみたら何も知らないド素人の方が、必死に頑張って結果を出した自分よりも代表に相応しいみたいな感じになったら、そりゃあキレるんじゃないかしら。

篠ノ之束
 マンネリな展開が嫌な作者が、セシリアのクラス代表の下りで、まさかのご本人登場と言う展開は中々あるまいと考えて出した。未だにキレると何をしでかすか分からないが、「憎しみの連鎖」に関しては思うところがある。596の言う事はある程度聞く。596が海苔の切り絵に思ったよりも梃子摺り、時間が無かった事でキャラ弁は束だけだったりする。

篠ノ之箒
 596の一ヵ月に及ぶ教育により、『力に溺れて自分や周りを見失う』、『一夏の傍にいられるアドバンテージとして専用機を求める』、『束から専用機を貰って、それがどういう事かまるで分かってない』等と言った、原作の箒の思考回路は何処かに行った。
 原作で一夏が極東の猿呼ばわりされても怒らなかった理由は、一夏のあまりの不甲斐無さ故では無いかと思う。強く優しい事もそうだが、弛まぬ努力で自分を鍛え続ける人間が好みっぽい気がする。

織斑一夏
 小学生の箒時も「ぶん殴る」。小学生の鈴の時も「ぶん殴る」。VTラウラ戦でも「ぶん殴る」。その「ぶん殴る」思考回路の根源は、そーゆー事なのではなかろうかと作者は思う。しかし、中学時代に起こっただろう誘拐事件以降も、全く体を鍛えなかった理由は何なのだろうか。



パワーダイザー
 我等の大惨事……もとい、大文字先輩が操縦する『フォーゼ』のサポートドロイド。この世界では、IS技術とミレニアムの科学力が融合したハイブリットマシンと化している。さそりなのだ先生を圧倒する格闘能力は更に強化され、高出力の荷電粒子砲が実装された。ダイザーモードでも、タワーモードのミサイルが撃てるように改造されている。原作一巻で一夏と鈴が戦った無人機よりも強い。

Z ゾーンメモリ
 地帯の記憶を持つガイアメモリ。一定空間内を自由に瞬間移動が出来るメモリ。井坂先生曰く、単体の戦闘力はそれほどでもないが、他のメモリと併用すればほぼ無敵な能力を持った幻のメモリ。
596との適合率が異常に高い過剰適合のメモリで、座標が把握できればマキシマムで何処にでも瞬間移動できる。何時か『何処にでもいて、何処にもいない状態』になるかも知れないと596は戦々恐々。

オルコット家
 この世界では『ミレニアム』が介入して、原作よりもか~な~り~リッチ。『アンダー・マネー』の解説は『変人偏屈列伝』より引用。原作のオルコット家は、あくまでセシリアの視点なので、実際にはどんな感じだったのか?


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第12話 たくらみと恋と灼熱コンボ

お気に入り件数が700件を突破。ご愛読ありがとうございます。753まで後少し。

きりのいい所まで……と思っていたら、15000字書いてしまった。
段々と一話あたりの文字数が増えていってる気がする……。


束特性のパワーダイザーの大きさは、ISを装備した人間と比べておおよそ50~60cm程高いだろうか。その分、リーチは長く懐も広い。飛び込みさえすれば何とかなるかと思いきや、そう簡単な話ではない。

 

なにせ、徒手空拳の一撃が速い上に重い。特にパンチが脅威だ。先程かわしたメガトンパンチは、地面にヒビとクレーターを作っていた。単純な破壊力はジョーカーの必殺技である『ライダーパンチ』並みにあるような気がする。

 

機体の各所にブースターが付いていて、機動力が明らかに本家より高く、空だって飛べる。状況に応じて足を変形させて、ローラースケートの様にタイヤを使って小回りの効く高速移動までしてくる。

 

その上、ある程度距離が離れていれば、ミサイルやら荷電粒子砲やらバカスカ撃ってくる。中でも荷電粒子砲は出力が半端では無い。並みのISなら直撃すればお陀仏なのでは無かろうか。

 

『気がするじゃない。本当に「ライダーパンチ」並みにある。拳も飛び道具も一発も貰うな』

 

「貴重な情報だな。しかし、『ファングクエイク』に比べれば楽だ」

 

IS大戦でも思ったが、徒手空拳で戦う相手が俺にとって一番やりづらい。しかし、このパワーダイザーは『ファングクエイク』と比べて機械的な動きをする。無人機だからこそ人間ではまず不可能な動きも可能になっているが、人間の様なフェイントや駆け引きが無いのだ。

 

『ISは元々人間が使う事で最大限の力を発揮するように造られてるからね~。無人機だと、ど~してもスペックダウンしちゃうんだよね~。それでも充分過ぎると思うんだケド』

 

これで最大限の力じゃないのか。だが、確かに対戦相手としては申し分ない。繰り出されるメガトンパンチをかわし、すれ違いザマに胴体にトラクローの一撃を入れる。しかし、アンクから追加された『スキャニングチャージ禁止』、『セルバースト禁止』、『マキシマムドライブ禁止』の制限の所為で、此方の攻撃が中々通らない。

 

それでも、相手の攻撃はなんとかかわせるし、此方の攻撃はまだ当てやすい。IS大戦での『ファングクエイク』との戦いが無ければもっと苦戦しただろう。

 

目的は『コンボ』の解禁。その為に、アンクと共に思いつく限りの様々な方法を、メダルを次々と変えて試している。

 

一例を挙げると、クワガタヘッドの電撃を、ラインドライブを通して全身に添付させる事で身体能力を上げる。ライオンヘッドの閃光と熱を、全方位から一方向に集中させるといった具合だ。

 

組み合わせとしては、カマキリアーム+クワガタヘッドの電撃で千鳥刀。更にルナメモリの力で電撃を形態変化させると言った事を試した。頭の中のイメージを現実で形にしている為か、『幻想の記憶』を持つルナメモリは、かなり役に立つ。

 

「ガンガン行くぞ、出来る限りで」

 

『ふん、出来ればな』

 

そんな感じで、戦闘開始から約30分が経過。幾つか掠りはしたが、クリーンヒットは一発も貰っていない。パワーダイザーは至る所に切り傷や焼け跡を作っており、荷電粒子砲は破壊され、搭載されたミサイルは撃ち尽くしたようだ。

 

『よし、コレに変えて最後に最大火力を試してみろ!』

 

『クワガタ! トラ! チーター!』

 

『スキャニングチャージ!』

 

『セルバースト!』

 

『ACCEL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

メダルとメモリを変えて即座に必殺技に入る。コアメダルの『スキャニングチャージ』。セルメダルの『セルバースト』。ガイアメモリの『マキシマムドライブ』。無人機が相手だからこそ出来る、三つの必殺技を融合させた最大火力だ。

 

「ララララララララララセイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

全身にクワガタの電撃とアクセルメモリの副次効果で生まれた炎を纏い、セルバーストで強化されたトラクローで何度も切り裂く。最後にアクセルグランツァーを叩き込んでフィニッシュ。吹き飛ばされたパワーダイザーは爆発した。

 

『終~了~! ゴッくんの勝ちだよ! 早く戻ってきてね!』

 

天井が高い所為か、束の元気な声がよく響いた。

 

 

●●●

 

 

ゾーンのマキシマムで戻り、スポーツドリンクをストローで啜りながら、ダウンしている俺をよそに、アンクと束が今後について相談している。

 

「一度の戦闘で稼げるセルメダルはざっと200枚ってトコか。思いっきり戦ったせいか、コアメダルの成長率も悪くない。この調子で戦えば試合までにコンボが使えそうだが……何日で直せる?」

 

「安心して~、『パワーダイザー』は同型を全部で10体用意したから。でも明日は武装を変えようか?」

 

「そうするか。上手くすれば『ガタキリバ』も『ラトラーター』も使える。どうせだ、どちらも狙う」

 

俺としては『ラトラーター』を使えればそれで良かったんだが。

それよりもアンクに聞きたい事があるんだった。

 

「アンク。お前、オルコットをどう思ってる?」

 

「ああ、俺達を観察する為の捨て駒だろう」

 

アンクは上機嫌でとんでもない事を言った。あのオルコットが捨て駒?

 

「問題だ。金髪ロールとチェスで勝負するとして、奴の最初の一手は何だと思う?」

 

「……分からん。何か参考になる情報があれば別だが」

 

「それだ。国や政府はとにかく『NEVER』の情報が欲しい。その気になれば国の一つや二つ、簡単にぶん取れるだけの力があるからな。幾ら大人しくしていると言っても、『俺達がどんな人間なのか分からない』訳だ。それはつまり『何をしてくるか分からない』と言う恐怖に繋がる」

 

まあ、そもそも対ISを掲げる組織にいたからな。敵対の意思はありませんって言っても、信じられないのが本音だろう。

 

「相手が裏側の人間なら何をした所で表沙汰には出来ない。だが、表側の人間ならどうだ? それなりの立場のある、一般的に周囲に知られている人間に。『オーズ』を知らない人間にどう対処するのか。それを知るには『女尊男卑の社会のお手本の様なIS操縦者』を送り込んで観察すればいい。

この世界のIS操縦者の殆どが、ISが最強だと妄信している連中で、男など取るに足らないと考えている連中だ。十中八九、何かしらのトラブルを起こす。それらにどんな対応をするか、どんな方法を好むかを知りたい。つまりは、情報を得る為の捨て駒だ」

 

「それでなんでオルコットを選ぶ? 反応を見るなら、代表候補生でもIS操縦者でもなく『女尊男卑の社会のお手本の様な女』で充分だろう?」

 

「代表候補生は幾らでもいるが、あれだけ金を持っている代表候補生はそうはいない」

 

金か。『ミレニアム』が過去にオルコット家に関わっている事を考えると他人事ではない。

 

「今、欧州連合で第三次イグニッション・プランの次期主力機を選定している。イギリスは実用化においてティアーズ型でリードしているが、まだまだ難しいのが現状だ。そこでBT兵器の実稼動データを取る為に金髪ロールをIS学園に送ったわけだが……ここに『プロト・ティアーズ』でフレキシブルが使えるヤツがいる。

正直、金髪ロールと『ブルー・ティアーズ』を育てるよりも、『プロト・ティアーズ』のISコアを回収した方が手っ取り早い」

 

マドカか。確かにフレキシブルが使えたな。今は『プロト・ティアーズ』ではなく、ガイアメモリ対応ISの試作機『青騎士』だけど。

 

「仮にあのままウサギ女が金髪ロールのISを破壊していれば、堂々と『NEVER』にISを請求できる。大義名分は国防を損ねたってトコか? 金髪ロールにはISの管理責任を理由に、賠償の名目で財産を回収できる。普通なら自己破産モノだが、金髪ロールは払える」

 

「……『いとも容易く行なわれるえげつない行為』って感じだな」

 

「はッ! 人間なんざ、どいつもこいつも一皮向けば欲望の塊だ! 欲望を叶える為ならなんだってする! それこそ他人を平気で犠牲にするなんて事は朝飯前だ!」

 

このアンクはあくまでIS由来のグリードもどきだが、そう言われると胸が痛い。

 

「もっとも、今なら黙っていても金髪ロールの財産はイギリス政府が入手できる可能性はある」

 

「……具体的に説明してくれ」

 

「あの馬夏に渡される『白式』の『零落白夜』は、シールドエネルギーを無効化する能力を持っている。言うなればIS殺しの能力だ。そんな搭乗者さえも殺しかねないモノを、ド素人の未熟者が使えばどうなる?

能力の仕様上、使いこなせず自滅するのがオチだろうが、もしも使えれば高確率で事故が起こる」

 

確かに。『零落白夜』は『エターナル』の参考になった能力だが、アレは文字通りの必殺技。本来スポーツに使われるような能力では無い。

 

「『白式』については国際IS委員会に通達されている。当然、イギリスも知っている。

仮にそうなったとしても、試合中の事故として処理されるだろうが、『白式』はまず没収される上に、馬夏もこの学園にはいられなくなる。そして、イギリス政府が保護の名目で管理している金髪ロールの財産は、イギリス政府が丸儲けってトコだ」

 

考えてみれば、一夏だって利用価値はあるのだ。ISを使える男。ISごと搭乗者を殺せる能力を持つ機体。メモリやメダルに頼る事無く『仮面ライダー』に勝てる可能性。欲しいと思う奴は幾らでもいるだろう。

 

しかし、オルコットに対して言えない秘密がどんどん増えていくような気がする。

 

「色々と思うところはあるが、要するにオルコットも一夏も死なずに、無事に試合を終えれば問題ないんだろ?」

 

「そうだな」

 

「それなら可能な範囲で二人を鍛える。お互いに死なない程度に」

 

「関わる事で難癖を付けられる可能性もあるんだがな。……まあ、少し試したい事もある。丁度いいだろう」

 

とりあえず、一夏とオルコットの安全を第一に考える事で話は纏った。箒とマドカに協力を求めたが、マドカは断固として拒否した。

 

 

●●●

 

 

翌日は朝から修羅場だった。

クロエと一緒に箒とマドカを迎えに行こうと思ったら、一夏が部屋にやって来た。

 

「おはよう。これから朝飯か?」

 

「ああ、それで箒とマドカを迎えに行く所だった」

 

「そりゃ丁度いい。そう言えば、箒と知り合いなのか?」

 

「ああ、一ヵ月半位前からな」

 

「え~っと、そっちの子は?」

 

「俺のルームメイトで妹分」

 

「へぇ、俺は一人部屋だったから、そっちもかと思ったけど」

 

それは俺がそうしたからだ。流石に15歳でプライベートがないのはキツイだろうと思ったからな。俺は自分の城があるし。

 

「クロエ・クロニクルです。以後、お見知りおきを」

 

ペコリと頭を下げて挨拶するクロエ。目を閉じている事と、杖を持っている事で目が不自由なのだと一夏は気付いた。

 

「えっと、それで大丈夫なのか?」

 

「何か問題でも?」

 

「いや、ほら……」

 

「目が不自由でも日常生活には問題ない。物を見るのは目だけじゃないって事だ」

 

「そう言うものか?」

 

「そーゆーものだ」

 

心配する気持ちからなのだろうが、なんだってコイツは正確に地雷を狙って踏み抜くのか。コレも一つの才能だな。

 

次に、箒とマドカの部屋に行ったが、一夏がマドカを見て驚いていた。当然か、織斑先生に似て、同じ織斑を名乗っている訳だし。

 

「千冬姉!?」

 

「……違う。私は織斑マドカだ」

 

「いや、だって、同じ織斑で、なんでそんなに似てるんだよ?」

 

「……そう言えば私が『良くぞ聞いてくれました』とでも言って、身の上話をするとでも思っているのか?」

 

不愉快極まると言わんばかりの顔で、一夏に対して喧嘩腰のマドカ。織斑一夏を認めていないと知っていたが、ここまで酷いとは思わなかった。

 

「おい、今、マドカの奴、ジョークを言ったのか?」

 

「多分な」

 

「お前に話すことなど何も無い。行くぞゴクロー」

 

「あ! おい! ちょっと話を……」

 

「私は貴様を認めていない。此処に来るまでに何も準備する事無く、技術を磨く事もしていない。自分が持っているモノを戦略も無しに、ただ感情任せにぶつけるだけ。それで何とかなると思っている」

 

「うっ!」

 

「はっきりと言う。ここに来た人間は皆、誰もが努力した結果、此処にいる。貴様の様な努力せずに此処に居る人間を快く思わない者は大勢居る。私を含めてな」

 

リアクションを見るに、一夏も一応自覚しているらしい。オルコットもその類だったろう。マドカの顔が織斑先生に似ている事もあって、一夏はぐうの音も出ないと言った感じだ。

 

「………」

 

「ふん。さあ、行くぞ」

 

そう言って、マドカは拒絶の意思をはっきり見せたのだが、それでも話がしたいのか、一夏もちゃんとついてきた。

結局、6人で食べられる大テーブルに、俺、クロエ、箒、マドカ、一夏の五人で座って食べる事になったが、雰囲気が最悪だ。

 

「……あ、コレ美味いぞ」

 

「………」

 

「……落ち着けマドカ」

 

「私は何時だって落ち着いている」

 

そんな無表情で言われても……。気まずい雰囲気のまま、初めての学食の朝を終えた。

 

 

●●●

 

 

授業を受けている一夏の顔から余裕が消えた。漸く、『何とかなりそうもない』と自覚したようだ。嘗めてかかったツケなので、この結果は自業自得なのだが悲惨だ。

 

山田先生の授業は相変わらず分かりやすいが、元が女子校だったこともあって、時折爆弾の様なネタが投下されるのは勘弁して欲しい。

ただ、ISの意識に関してはアンクがどんな存在なのかを知っている所為か、説明しづらい感じが口調にでていた。

 

『それもあるだろうが、それ以外の理由もあると思うぞ』

 

「先生―、それって彼氏彼女の様なかんじですかー?」

 

「いえ。どちらかと言うと、相棒や戦友と言った感じですね」

 

『……ふん』

 

山田先生は、はっきりとそう断言した。いい人だ。

織斑先生から、一夏に専用機が渡される事を告げられたのだが、当の本人はその意味が全く分かっていなかった。その様を見て、やっぱり箒がイライラしていた。

しかし、予備機が無い……か。つまり、一夏は決闘までの一週間、ISを使って練習する事が出来ない訳か。

 

「あの、先生。篠ノ之さんと、シュレディンガーさんって、篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」

 

そう言えば、昨日から束の事が噂になっていた。仕方ないと言えば仕方ないが。

 

「篠ノ之はあいつの妹だ。シュレディンガーは、単独で束をテロリストから守りきった張本人であり、『NEVER』の首領だ」

 

『…………えぇえええーーーーーッッ!!』

 

沈黙。数秒後、再起動したクラスメイト達の大音量の叫びが教室を襲った。窓がビリビリと振動している。

 

表向きでは『篠ノ之束奪還作戦』において、36対26の戦争に国際IS委員会と各国が集めたIS操縦者達は敗北。その後、テロリストから束博士を守った組織が『NEVER』であり、束博士はそのまま『NEVER』に所属している……と言う事になっているが、その構成員が誰なのかは、まだ知られていない。

 

「静かにしろ! 授業を始める。山田先生、号令」

 

「はい!」

 

授業が始まったものの、此方をチラチラと見る視線が多い事、多い事。まあ、嘘は言ってないし、試合に合わせて『NEVER』の構成員も同時に公開される。

 

所謂、表向きの情報しか知らない世間の人々は、『ヴァルキリーやブリュンヒルデクラスのIS操縦者が束博士を奪還した』と、面白おかしく話している。それが、まさか男が単独で成した事だったとは思いもしなかったのだろう。

 

他には『それならドイツやアメリカの代表操縦者に勝ったと言うのも納得だ』って感じの視線や、『織斑先生が相手にならないと言った意味が理解できた』って感じの視線が俺に向けられている。

 

……まあ、箒の方にあまり視線がいってないのが唯一の救いか。箒は『束の妹』って見られる事を凄く嫌がるから、織斑先生はそれを狙ってワザと教えたのかも知れない。

 

 

 

さて、昼休みだ。早速、食堂へ行くつもりだったのだが、その前にオルコットが俺の所に来た。

 

「驚きましたわ。まさか、貴方が『NEVER』のリーダーだったとは思いませんでしたわ。当然、貴方も専用機を持ってらっしゃるのですわよね?」

 

「ああ、コレだ」

 

平成仮面ライダーの必須技能。「どこからともなくドライバーを取り出す」を使い、オルコットに『DXオーズドライバーSDX』を見せる。

 

「そ、それでですわね。公式戦の経験は無いのですか?」

 

「ああ。一度もやった事が無い」

 

「それなら、やはり慣れが必要なのではないか思いまして。今日の放課後に、私が練習相手になって差し上げますわ」

 

「いいのか? そっちもクラス代表戦があるだろう?」

 

「『ノブレス・オブリージュ』。高貴な振る舞いには高貴な振る舞いで返すものですわ。それに、私がクラス代表になるのを応援すると言ったではありませんか。私にとっても良い経験になると思いまして」

 

なるほど。それは此方としても都合が良い。一撃も貰わないように、オルコットを鍛えてみよう。

 

「分かった。よろしく頼む」

 

「ええ、此方こそよろしくお願いしますわ。アリーナの申請はわたくしがやっておきますので」

 

「ああ、ありがとう」

 

放課後に約束をして、オルコットは去っていった。しかし、態度がかなり軟化していたな。

 

「ゴクロー、迎えに来たぞ。ん? 箒はどうした?」

 

「え?」

 

マドカとクロエが一組にやってきたが、箒は何時の間にか教室からいなくなっていた。

 

「篠ノ之さんなら織斑君と一緒に食堂に行ったよ」

 

マジか。せめて一声かけて欲しかった。

 

 

 

マドカとクロエと共に食堂に行ったのだが、一夏と箒が二人で一緒に食べていた。ただ、箒が物凄く不機嫌そうな顔をしている。

 

「放って置け。きっと二人っきりがいいだろうからな」

 

「……そうか? 箒が今にも爆発しそうな位、苛立っている気がするんだが」

 

「気のせいだ」

 

いずれにせよあのテーブルには入れん。今回はこの三人で食べる。マドカの雰囲気が朝よりも柔らかい所為か、一緒に食べても良いかと一組のクラスメイトが三人やってきた。マドカとクロエも構わないとの事なので一緒に食べた。

 

食べ終わって食堂を出たところで、箒が俺の所にやって来た。どうやら待っていたらしい。

 

「……ちょっと良いか?」

 

「ああ」

 

何か悩んでいる様な、困っている様な表情の箒。一体何があったのか。

 

 

 

箒の話は一夏についてだった。

 

一夏はオルコットとの試合に勝つ為に、箒にISについて教えてくれるように頼んだらしいのだが、その時にふらりと現れた親切な三年生にISを教わる事になったらしい。

 

「……『NEVER』や俺の名前を出せば良かったんじゃないのか?」

 

「そんな虎の威を借る狐の様な真似はしたくない。それに、ISについてはそうなったが、格闘技の経験はISの近接格闘に応用できると言っておいたから、今日は剣道場で訓練する」

 

ふむ。自分に出来る事を、経験をまじえて教えるわけか。良いじゃないか。

 

「そ、それでだな。わ、私と、い、一緒に、やってくれないか?」

 

「俺と箒で? 箒と一夏でマンツーマンの方が良いんじゃないか?」

 

「い、いや、その、お前が一緒なら心強いからな! 私と一緒に一夏を鍛えようではないか!」

 

「待て、ここは俺が行く」

 

突然、ドライバーからアンクが飛び出してそんな事を言った。一夏を馬夏呼ばわりしていたのに、強くなるのを手伝うとは意外だ。

 

「……アンクが居ないと『オーズ』に変身できないんじゃないのか?」

 

「サポート役がいなくなるだけだ。変身は出来る。こいつは放課後、金髪ロールを相手に公式戦の練習をする先約がある」

 

「! ゴクロー! 一体何時の間にそんな約束をしたのだ!」

 

「お前が馬夏と一緒に食堂に行った時だ」

 

アンクの言葉に「ガーン!」と言う効果音が聞こえそうな表情で箒が固まった。

一夏はマドカと鉢合わせしたくなかったから、幼馴染の箒を無理言って食堂へ連れて行ったのだが、それが箒にとって思わぬ結果を生んでいた。

 

「俺がいない状態で一度戦ってみろ。使うメダルは『タトバコンボ』の3枚。メモリはジョーカー。パッケージは『Type-ZERO』で戦え。金髪ロールの相手ならそれで充分だ」

 

「………」

 

目に見えて落ち込んでいる箒。遊んで欲しかったのに、遊んでくれなかった子供みたいだ。……待て、この状況ならアレが出来るな。

 

「箒」

 

「な、なんだ?」

 

右手の人差し指と中指を使って、指先で箒の額を軽く突く。『NARUTO』のうちはイタチが弟サスケに多用する必殺技だ。一度でいいからやってみたかった。

 

「許せ箒。また今度だ」

 

「……や、約束だぞ! 約束したからな!」

 

少しだけ頬を赤くして、箒は恥ずかしそうに返事をした。可愛い。

 

 

●●●

 

 

放課後、アリーナで公式戦の練習と言う名の、オルコット強化訓練が始まる。噂になっているのか、ギャラリーが結構いる。オルコットは既に準備万端だ。

 

「あら、ISスーツに着替えませんの?」

 

「これは開発時からISスーツの運用を考えていない。だから必要ない」

 

とは言うものの、流石に制服はアレなので、今回はジャージ姿だ。オーカテドラルにタカ・トラ・バッタのコアメダルを装填し、オースキャナーでスキャンする。

 

「変身!」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

この学園で大勢の人間に見られての初変身。ギャラリーから驚きの声が聞こえる。

 

「た、タカ、トラ、バッタ!? それが!?」

 

「歌は気にするな。コレは『オーズ』。どれほどのモノかは……戦ってみれば分かる」

 

困惑するオルコットに対して、お決まりの台詞を投げかけ、右手にメダジャリバーを召喚して構える。

 

「おほん! それでは始めましょう! わたくし、セシリア・オルコットと、『ブルー・ティアーズ』の奏でる円舞曲を!」

 

「オペラ鑑賞ならよく行ったけどな」

 

主に少佐に付き合ったお蔭で。俺としては少佐の口ずさむオペラの方が好きだったが。

 

ブルー・ティアーズから分離した四基のビットから放たれるレーザーの軌道を、タカの目で正確に見切り、一歩も動かずにメダジャリバーで全てのレーザーを弾いてオルコットに当てる。

 

「えッ!? きゃあああっ!!」

 

オルコットが驚いているが、やはりマドカとは雲泥の差だ。光学兵器は直線的で軌道が読みやすい。だからこそ、フレキシブルが求められるのだが、それを体得していないオルコットは正直やりやすい。まあ、マドカと比べるのは酷か。

 

「くぅっ! 当たりなさい!」

 

その後も果敢に攻撃してくるが、タカヘッドの見切りと、バッタレッグの三次元的な跳躍でレーザーを回避。此方がISより小さい事も当てづらい原因だろう。避けられない部分はメダジャリバーで弾いてオルコットに当てる。遠距離攻撃の為の手段として、ビットはあえて破壊しなかった。

 

ある程度シールドエネルギーを削った所で、バッタレッグを変化させての大ジャンプと、ブースターを使って一気にオルコットに接近する。すると、オルコットがにやりと笑ったのが見えた。

 

「かかりましたわね! 『ブルー・ティアーズ』のビットは6基あってよ!」

 

「分かっている」

 

『トリプル・スキャニングチャージ!』

 

『NARUTO』の白眼の如く、タカヘッドの目でスカートに仕込まれたミサイルピットが透けて見えていた。……誤解が無い様に言っておくが、オルコット本人は見ていない。本当だ。

 

メダジャリバーに投入しておいたセルメダル3枚を、オースキャナーでスキャン。セルメダルのエネルギーを纏った状態でミサイルを切り裂き、右手のメダジャリバーを反転させて、峰の部分で寸止めした。メダルのエネルギーは刀身に纏ったままだ。

 

「……参りましたわ」

 

オルコットは素直に敗北を認めた。

 

 

 

その後、消費したISのエネルギーを補給する間にBT兵器について色々と意見交換し、補給が済んだらそれらを模擬戦で試すと言ったことを3回繰り返した。

 

「これではどっちが教えられたのか分かりませんわ」

 

「不満か?」

 

「まさか。色々と勉強させてもらいましたわ。まあ、わたくしの勝利は、元々日を見るより明らかですが」

 

「弱者を侮らない方がいい。オルコットの立場を考えればな」

 

「? どう言う事ですの?」

 

「第三者の視点から見れば、代表候補生のオルコットは勝って当たり前。対して一夏はかすっただけでも名誉になる。つまり、オルコットにとって勝っても得るものが少ないどころか無い。かなり分の悪い試合だ」

 

「あ……」

 

「まぐれでも一発も貰うな。失態があればここぞとばかりに傷口にたかる連中なんて大勢いる。積み上げたモノを失いたくないなら、その事を忘れるな」

 

オルコットの目をしっかりと見つめてそう断言する。秘密を隠した上に卑怯なやり方かもしれないが、金の亡者に狙われたオルコットの過去を利用させてもらった。コレで一夏に対して舐めプすることはないだろう。

 

しかし、オルコットはなんでそんなに驚いた目をしているのか? そんな事を考えていたら、通信が入った。相手はアンクだ。

 

『そろそろ終わったか? すぐに寮の箒とマドカの部屋に来い』

 

「何があった?」

 

『馬夏が箒の幻想を破壊しやがった』

 

確かに一夏からは、どこぞの上条さんの様な感じがなんとなくしていたが、箒の幻想をぶっ壊すとはどう言う事だ? お馬さんこと、ユニコーンヤミーじゃあるまいし。

 

「分かった、直ぐに行く」

 

『急げ。相当酷い』

 

「今日はここまでだ。また機会があったら頼めるか?」

 

「……ええ、構いませんわ」

 

「ありがとう、オルコット」

 

「あ、あの! と、友達なのですから、そんな他人行儀でなく、せ、セシリアと呼んでも構いませんわ」

 

「分かった。俺もゴクローでいい。またな、セシリア」

 

「え、ええ。また……」

 

何故かセシリアは何かを思い出したような、寂しそうな顔をしていた。

 

 

○○○

 

 

私とアンクは放課後、剣道場へ一夏を呼び出した。

 

一夏はアンクを見て驚いていたが、説明するとそんなものかと納得していた。本当に分かっているのだろうか。

 

現在の一夏のレベルを調べる為に私と手合わせした訳だが、一夏は私に全く歯が立たなかった。

 

「まるで養豚場の豚でも見るような目だな。まあ、当然か。弱過ぎる」

 

そうだな。そしてまた一つ、一夏は私の期待を裏切った。私の心が失望と怒りに満ちていくのが分かる。聞いてみると中学時代は帰宅部で、バイトと受験勉強に精を出していたらしい。

 

「……呆れた。そんな錆付いたナマクラ刀で、よくあんな啖呵が切れたものだな」

 

「確かに致命的だな。ゴクローとは反対の意味で勝負にならん。弱すぎて勝負にならん」

 

「……勝負はやってみなきゃ分からねぇじゃねえか」

 

「やかましい! てめぇが喧嘩売った相手は国家に実力を認められた代表候補生! それに対してお前は一時間も操縦していない上に、専門用語も禄に知らんド素人! はっきり言って戦力差はヤバイと言うよりも絶望的なんだよ!」

 

カチンと来たのか、反論する一夏にアンクが現状を説明するが、それでも一夏はチンプンカンプンと言った感じで分かっていなかった。短気な所は変わっていないな。

 

「ちっ! お前の頭じゃ、どれ位絶望的なのか分からないらしいな。ここは一つ表で解説してやる」

 

「表?」

 

「強さ表って奴だ。どっちらかと言えば、ランク付けに近いがな」

 

「どこから持ってきたんだ?」

 

一夏のツッコミを無視して、鳥から右腕になったアンクが、ホワイトボードにマジックペンでスラスラと表を書いていく。意外と可愛いイラストつきで。

 

SS 織斑千冬

S ヴァルキリー

A 各国家代表操縦者

A- 軍所属IS操縦者

B 各国家代表候補生(平均)

C IS学園3学年一般生徒(平均)

D IS学園2学年一般生徒(平均)

E IS学園1学年一般生徒(平均)

F 何も知らないド素人の馬夏

 

「なんだよ最後の!」

 

「馬鹿な一夏。略して馬夏だ。分かりやすいだろ、喜べ」

 

アンクが自信満々に書いたのは、結構頭の悪そうな表だった。このランクの基準は恐らく適当だろう。

 

例えば、山田先生は嘗て代表候補生であり、『銃央矛塵【キリング・シールド】』という二つ名まで持っている凄腕。公式戦では緊張の余り実力が発揮できなかったらしいが、実力は相当なものだ。

他にゴクローが戦った、ラウラ・ボーデヴィッヒなるドイツの代表候補生も、年齢の問題で代表操縦者になれないだけであって、実力はドイツの代表操縦者よりも上だと聞いた。

 

「まあ、実際の戦闘では相手との相性、コンディション、他にも色々な要素でコロコロ変わる。こうして表にすること自体ナンセンスだがな。

お前の操縦技術は他の連中と大して変わらないだろうが、知識面で大幅に遅れている。それは原爆の取り扱いを知らないで原爆を弄るようなもんだ」

 

「いや、いけるって。入試の時も簡単に動かせたし、何とかなるって」

 

一夏の楽観的な、驕っているような言葉に不快感を覚える。

それでは力に溺れているのと同じではないか。

 

「もう少し早く専用機ってやつを都合してくれたら良いのにな」

 

「お前が此処に入学して一週間後に、倉持技研から専用機が渡される予定だったんだよ! 今回の決闘に関しちゃ、お前が身の程知らずな余計な事したのが原因だろうが! 自業自得だ馬夏が!」

 

「なんだよ! アレだけ馬鹿にされたら流石に男が廃るだろ!」

 

「は! 安いプライドだな! アレが今の世界の普通の反応って奴だ!」

 

アンクと一夏が言い争っている中で、私は別の事を考えていた。

ISを手にする事が、専用機を手にする事がどう言う事なのか、一夏はまるで分かっていない。一夏にとってISは便利な道具位の認識なのではなかろうか。

 

「とにかく! これから毎日三時間! 放課後に稽古をつけてやる!」

 

「だから! 俺はISについて教えて欲しいんだよ! 箒は『束さんの妹』なんだから、IS詳しいだろ!?」

 

「ッッ!!」

 

入学してからの一夏の行動や言動に失望しつつも、私は一夏に対して一つの希望を持っていた。

それは一夏が、小学生時代の女の子らしくない自分を、唯一女の子として扱ってくれた事。私にとって一夏は「私自身をちゃんと見てくれた男の子」だった。それが、私の一夏に対する一途な恋心の根源だった。

 

その一途な恋心が、何時の日か再会する事を夢見る事が、私の過酷で孤独な6年間を支えてきた。一夏なら、私を『篠ノ之束の妹』としてではなく、『篠ノ之箒』として見てくれるとずっと信じていた。再会した時に一夏が私の事を覚えていてくれた事で、それを確信したつもりだった。

 

違った。

 

一夏は私を「『篠ノ之束の妹』だからISに詳しい」と思って自分を頼ってきたのだ。私の唯一の希望が砕けた音が聞こえた。

 

そして、私はまた間違いを犯した。感情任せに竹刀を両手で一夏に打ち込んでしまった。

 

「お、落ち着け箒。俺はまだ死にたく無いし、お前もまだ殺人犯になりたい年頃でもないだろう? な、頼むから。何か奢るから」

 

「……この……軟弱者が……っ」

 

竹刀を受け止め、的外れな弁解をする一夏に、私はそう答えるのが精一杯だった。

 

「ふぅ、助かった……」

 

「……馬夏がッ! おい! 箒!」

 

アンクが何か言っていたような気がするが、私の心は絶望で満たされていた。

 

一人、自分の部屋に戻った私は、ベッドで布団に包まって泣いた。

 

一夏も私と同じように『織斑千冬の弟』だからと『亡国機業』に誘拐されていた事を知った時は、自分と同じ様な経験をしている一夏は、きっと自分以上に努力しているに違いないと期待していた。

 

その期待は見事に裏切られた。誘拐された時の絶望を、無力感を知っているハズなのに。何の対策も、努力も、改善も見られない。流れに身を任せるような心構えと態度で、ISの事を禄に勉強せずにIS学園に入学している事も、男が廃ると体裁を気にしている事も信じられない。今の私には、今の一夏が全く理解できなかった。

 

私は元々、『篠ノ之束の妹』だからとの理由でIS学園への入学が決まっていたが、ゴクローが「自分にちゃんとそれ相応の資格がある事を証明する」と言って、入学が決定していたにも関わらずIS学園の筆記試験を受けると言った。運転免許もちゃんと試験を受けて取得した。

 

それに触発されて、私も、クロエも、マドカも真面目に試験を受けた。四人でそれぞれ分からない事を聞きあい、教えあい、全員で試験に臨んだ。全員合格したときは皆で喜んだ。テンションが高かった所為か、少々過激なスキンシップがあったが、嫌な気持ちは一切しなかった。

 

私は堂々と胸を張って『篠ノ之束の妹』ではなく、『篠ノ之箒』としてこのIS学園に入学した。だから、一夏もそうに違いないと思っていた。

 

「姉さんも……こんな気持ち、だったのかな……」

 

他人の自分を見る目が変わってしまった事に対する絶望。それが今の私には嫌と言うほど分かった。

そこで、私が本当に欲しかったものは何だったのかと考える。姉さんは『失ってしまった愛』だとゴクローは言ったが、私はなんなのだろうか……。そう考えて思い至る。

 

私が欲しかったのは、私を『篠ノ之束の妹』としてではなく、『篠ノ之箒』としてまっすぐに見てくれる誰か。

今にして思えば、一家離散するまでの経験と、肉体も精神もみるみる摩耗していったあの6年間で、私はそれが一夏だけだと思い込んでいたのではないだろうか。

 

不意に部屋の扉がノックされる。涙を拭いて扉を開けると、心配そうな顔をしたゴクローとアンクがいた。きっと、事の顛末をアンクが教えたのだろう。

 

今の私は全て、この男との出会いから始まった。

 

ずっと心の底から憎んでいた姉と仲直りして、今では姉を心から守りたいと言える程の関係になった。

自分を『篠ノ之束の妹』としてではなく、『篠ノ之箒』として見てくれる人達と出会えた。

今まで友達も禄に出来なかったが、マドカやクロエと言った同世代の友達が出来た。

家に帰って「ただいま」と言えば、「お帰り」と誰かの返事が返ってくるし、夜は和気藹々と皆で食卓を囲んで、その日に起こった事を話し合って笑い合うことが出来る。

 

そうだ。ここ一ヵ月半の間、今までの生活が嘘だったかの様な毎日で、何もかもが楽しくて仕方が無かったのは、全部ゴクローのお蔭だ。それなのに私は……。

 

「……私は……また、間違ったんだ」

 

過去に自分が犯した罪を教えてくれた人。それを優しく許してくれた人。

その信頼を裏切ってしまった。恩を仇で返してしまった。それがとても申し訳なかった。

 

「……何があった?」

 

「……一夏が……私を、見てなかったんだ……私を、姉さんの妹、だからって……頼ってきて……ISに詳しい、だろうって……。

私は、頑張ったのに……それで、嫌で、悔しくて、……また、暴力をッ……私は…ッ…全然、変わって、無くてッ……お前は、信じてくれたのに……ッッ」

 

「……いいから、無理に言わなくてもいいから」

 

あの時と同じように、自分が犯した罪を後悔して泣いている私を、壊れないように優しく抱きしめてくれた。あの時と同じように、涙が溢れて止まらなくなってしまった。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」

 

「……大丈夫だから。箒がどんなになっても、絶対に見捨てたりなんてしない。ずっと箒をちゃんと見てるから」

 

……そうだ。一夏が私をちゃんと見てくれなかった事は、とても悲しくて、とても悔しくて、とても切なくて、とても苦しかった。

 

だが、それ以上に、同じ過ちを犯した私が、ゴクローに見捨てられる事がとても怖かった。そんな、ゴクローはあの時と同じように、私が望む優しい言葉をかけて、頭と背中をやさしく撫でてくれた。

 

「……ずっと、ちゃんと、見てて、くれる?」

 

「ああ。ずっと、ちゃんと、箒を見てる」

 

もう何も考えられない。今はただ、この暖かさに縋って、この心地よさに浸って、この優しさに甘えていたかった。

 

 

○○○

 

 

今日は土曜日。授業も午前中で終わって後は自由時間だ。

 

入学してから不機嫌だった箒は、あの一件以来よく笑顔を見せるようになった。

 

一夏は三年生の先輩からISを、箒からは剣道を教わっている。約束通り箒と一緒に一夏を見たが、流石に自分の力不足を理解したようで真面目にやっている。

 

セシリアとの練習も一日おきにやっているが、確実にスキルアップしている。恐らく、今までの方法で大抵の相手は倒せた為に、それ以上の事を考えなかったのではなかろうか。

 

ただ、マドカの一夏を見る目が、親の仇でも見るかの様な目になっている。理由を聞いたら、「俺を見る箒の目が、スコールを見るオータムみたいな目になっている」と言っていた。

 

どう言う事なのか? 普段はツリ目だが、話している時は垂れ目になると言う事か? それとも雰囲気が柔らかくて可愛くなるという事か? ……いや、待て、まさかそう言う事か? だとするとスコールとオータムって……。

 

『目の前の事に集中しろ! とっとと決めてコンボに至れ!』

 

そうだった。今は戦闘中だったな。

 

俺の方の問題はどうかと言うと、極めて順調。相手が無人機だから手加減が要らない事が良かったのか、色々と実験したのが良かったのか、必殺技を極力発動しない戦い方が良かったのかは分からないが、今日にもコンボが解禁されそうだとアンクは言う。

 

ここまでで、パワーダイザーが7体スクラップになった。難易度を上げるためと言って、途中からパワーダイザー2体を同時に相手している。まずは一体を確実に仕留める。

 

『スキャニングチャージ!』

 

『セルバースト!』

 

『FANG・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

セルバーストと、ファングのマキシマムドライブで強化した、ラキリバの必殺技でパワーダイザーの両腕両脚を切断。残った胴体も爆発した。

本当はカーズ様の『輝彩滑刀』をカマキリソード+ファングメモリの組み合わせで再現したかったが、今は志々雄誠の『無限刃』が精一杯のようだ。

 

『よし! 上出来! いや、それ以上だ! これで二つとも使えるようになった!』

 

そうか。狙い通りに上手く言ったか。ならば、早速試してみよう。

 

「アンク。試しに『ラトラーター』を使ってみるか」

 

『待て。知っているだろうが、コンボはとんでもない力だ。使えばただじゃ済まない』

 

「ぶっつけ本番で使うよりマシだ。それに、策も考えてある」

 

ラトラーターは火力の高く、制御が難しいコンボだから、試してみないと怖い。最悪、更識を殺しかねない。

 

『……どうなっても知らないからな。ウサギ女! ちゃんと記録しておけ!』

 

『はいは~~い! 遂に見られるんだねぇ、コアメダルの本当の力が!』

 

もう一体のパワーダイザーは、最初に相手をしたパワーダイザーと同じ仕様だ。ただし、今度は此方も手加減抜きだ。

 

オーカテドラルに装填されたコアメダルが猫系の黄色いメダルに統一され、斜めに傾けると発光する。コンボが成立した証であり、このコンボが使用出来る証でもある。オースキャナーでメダルをスキャンして、コアメダルの真の力を解放する。

 

『ライオン! トラ! チーター! ラタラタ~! ラトラーター!』

 

猛獣の様な咆哮の後に、全身が黄色く輝き、『仮面ライダーオーズ・ラトラーターコンボ』への変身が完了する。

メモリスロットに装填したメモリはルナメモリに、ユニットは『イエーガー』に変更した。

 

タトバコンボや亜種形態の時よりも、ずっと大きな力が体から湧き上がってくるのが分かる。各種武装も若干『S.I.C』っぽく変化している。元から本家よりちょっとゴツイ見た目だったが、攻撃的と言うかより戦闘向きになった感じだ。

 

このコンボで試したかったことを試すべく、早速ルナのマキシマムドライブを発動する。

 

『LUNA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ウオオオオオオオオッッ! セイヤァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

ラトラーターの固有能力である熱線放射『ライオディアス』。それをルナメモリの力で、本来の全方位展開から、前方のみに集中させてパワーダイザーに放つ。

両手で押し出すようなアクションと供に放たれた熱線の直撃を受けたパワーダイザーの装甲は表面が赤く溶解し、所々のパーツがショートしている。

 

『なるほど、「ルナメモリ」を制御装置に……か。考えたな』

 

ガイアメモリでコアメダルの弱点をカバーできないかと考えて、俺は『仮面ライダーW ルナトリガー』からヒントを得た。

トリガーメモリの高火力をルナメモリで抑制してバランスを取っていたのだから、同じように高火力のラトラーターコンボを、ルナメモリで抑制できるのではないかと思い、その為にルナメモリを多用して、レベル2に至らせるつもりだった。

 

『確かにレベル2に大分近い上に、ある程度制御できているが……コンボの力を完全に制御できているわけじゃない。早く決めろ』

 

確かに、コンボの影響なのか、体への負担が結構キツイ。早々に終わらせるべく、チーターレッグの加速とイエーガーユニットの旋回能力を駆使し、トラクローの斬撃とチーターレッグの加速から生まれるキックを叩き込む。

切り裂かれ、蹴り飛ばされ、瞬く間にパワーダイザーがボロボロになっていく。

 

同色同系統のコンボは、各メダルの能力が噛み合う相乗効果によって、総合的な戦闘力が亜種形態よりも高くなると聞いたが、コレほどまでとは思わなかった。

 

「コレで決まりだッ!」

 

『スキャニングチャージ!』

 

満身創痍のパワーダイザーに止めを刺すべくメダルをスキャンすると、パワーダイザーに向かって黄色い三つのリングが展開される。

今までの『スキャニングチャージ』とは比べ物になら無いほどの、はち切れそうな力がラインドライブを通して全身を走っているのが分かる。

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

全身から眩いばかりの閃光を放ちながら、三つの黄色いリングを通る度に加速し、トラクローでパワーダイザーをX状に切り裂く。ラトラーターの必殺技『ガッシュクロス』がパワーダイザーに決まった。

同時に背中を懐かしい衝撃と感覚が襲った。ラトラーターコンボから発生する余剰エネルギーに耐え切れず、イエーガーユニットが爆発したらしい。

 

『流石に、とんでもなかったなぁ。それでも意識は保ったか。『タトバ』に変えろ』

 

「ッッ、ああ……」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

地面に投げ出された俺に、アンクがタトバコンボに変えるように促す。体の負担は軽くなったが、今まで以上に体が疲労している。

 

「……帰るぞ、アンク」

 

『ああ』

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

ゾーンのマキシマムドライブを使って『NEVER』の拠点に戻ったが、直ぐに変身が解かれて俺は意識を失った。

 

「(少しヤバいか、コンボは。……例の件をウサギ女に相談してみるか)」

 

ドライバーから右腕形態で飛び出したアンクの手には、猫系の黄色いコアメダルが3枚握られていた。




キャラクタァ~紹介&解説

5963
 大道克己はどうか知らないが、フィリップや弦太朗、そして火野映司の様な鈍感スキルは持っていない。現在使えるコンボは、ガタキリバ、ラトラーター、そして恋愛コンボ。

アンコ
 本家『オーズ』の火野映司以上の鈍感スキルを持つ朴念仁と、剣道少女のやり取りを見て割りとマジギレ。「馬夏」呼ばわりは恐らく死ぬまで続く。

モッピー
 596の所為で見えなかったものが見えてしまい、アンコの所為でワンサマーの本音を聞いてしまった為、『人は皆、都合のいい事を現実と思い込む』って感じの原作の箒から、大分かけ離れてしまった。許せ、箒ェ!

チョロコット
 受けた恩は忘れない『仮面ライダーカブト』の神代お坊ちゃま的な所のある良い子。596の手によって原作より強化。実際、ブルジョワなIS操縦者ってかなり稀なケースだと思う。

まどか
 ワンサマーに対して原作とは別の意味で、そしてより深い憎しみを覚える。その内、ソウルジェムが真っ黒になって、救済の魔女が生まれるかも知れない。男女の恋愛は知らないが、女同士の恋愛は嫌と言うほど見てきた。

ワンサマー
 乙女の幻想を『粉砕・デストロイ!』する『幻想殺し』を持つ男。そして、VTラウラ戦でのラウラに対する思いを考えると、『男女平等パンチ』の使い手でもある。
 原作で箒が「あの人(束)は関係ない!」と言っているのに、「束の妹だからISに詳しいだろう」と考えている辺り、何かがおかしい気がする。



メダジャリバー
 通称ジャリ剣。どう考えてもセルメダル3枚で防御不可能な次元斬が使えるのは、バースシステムを遥かに圧倒していると思う。距離に関係なく、問答無用で空間ごと相手を斬れるガード不可の攻撃って相当なチートの筈……。
 今回の『トリプル・スキャニングチャージ!』は、サメヤミー戦でトライドベンダーに乗って使っていたのをイメージ。

ルナメモリ
 『幻想の記憶』を秘めたガイアメモリ。596は本家『W』の使い方に加え、頭のイメージを現実に反映させるような使い方をしている。今回で何気にメダルもメモリも黄色に統一されている。


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第13話 Ride on Right time

投稿から2ヶ月が経過。いよいよ、楯無戦です。

前回の投稿でワンサマーに対して色々感想を貰っていますが、全ては『NARUTO』が大好きな作者がこんなワンサマーを書きたかったからです。



目が醒めると日が暮れていた。見慣れた天井は『NEVER』の拠点、二階の鳴海探偵事務所を真似た部屋に用意してあるベッドから見える景色だ。

 

「今何時だ……」

 

「午後6時を回ったところです。兄様」

 

声の方に目を向けるとクロエがいた。ずっと傍に居てくれたんだろうか。

 

「大分苦しそうでしたが、お体は大丈夫ですか?」

 

「……ああ、だるいだけだ」

 

「そうですか。ちょっと早いですが、食事を用意しますね」

 

「頼む。アンクと束にも起きた事を知らせてくれ」

 

「分かりました。兄様」

 

クロエが去っていくと、すぐに束とアンクがやって来た。

 

「いや~『オーズは同色同系統のコアメダルを、三種類三枚揃える事で真の力を発揮する』って聞いていたけど、実際に目にすると凄いね!

でも、コンボはあまり使わない方が良いよ。確かにメモリの力でコンボの力をある程度まで制御したり、弱点を克服する事は出来ると思う。でもそれだけなの。コンボの負担そのものは減らないし消えない。メモリとコンボの組み合わせによっては、むしろ負担が増えるかも知れない。

でも、今回の戦闘で『ラトラーター』のデータは取れたからもう大丈夫! 若干の改造は必要だけど、束さんなら12時間もあれば完成するよ! いえい! やったぜ!」

 

「……ちょっと待て、何がやったぜなんだ?」

 

初めてコアメダルの本当の力を見て興奮しているのか、マシンガンの様に一気に喋る束にストップをかける。若干の改造が必要と言う台詞も気になる。

 

「? アンくん、ゴッくんに言ってないの? ラトラーターコンボ専用パッケージの話。トライドベンダーを一台改造して作るんだけど?」

 

「ああ、そう言えば言ってなかったな」

 

もしかして、ライドベンダーが二台あったのはその為だったのか? 俺に言わなかったのはアンクにはアンクで考えがあるのかも知れないが、せめて一声かけて欲しかった。

 

そんな事を考えていたら、クロエが夕食を持ってきた。今晩のメニューはパンとシチューに野菜ジュースか。本当に料理上手くなったな……。

少し休んだとは言え、体の疲労感が半端じゃない。それでもなんとか体をベッドから起こす。近くのテーブルにクロエが置いてくれたトレイからスプーンを取ろうとして、床に落してしまった。指に上手く力が入らないのだ。

 

「……まだコンボの疲労が抜けてないようだな」

 

「それじゃ、食べれないよね。そうだ! くーちゃんが食べさせてあげればいいんだよ!」

 

「え!? そ、それは……」

 

「心配しなくても大丈夫! 束さんがお手本を見せてあげる!」

 

クロエが床から落ちて洗ってきたスプーンをひょいっと取り上げた束が、シチューを掬ってフーフーして適度に冷ましたものを俺の口の近くに持ってきた。

 

「はい、ゴッくん。あ~ん♪」

 

「あ、あ~ん」

 

「美味しい? 熱くない?」

 

「ん。美味しい。大丈夫」

 

「んふ~、いい子いい子~。さ! くーちゃんの番だよ!」

 

満面の笑顔で俺の頭を撫でつつ、スプーンをクロエに渡す束。クロエはそれを受け取ると、同じようにシチューを掬ってフーフーした。でも、ちょっとフーフーしすぎだ。俺はどこぞの赤い救世主の様に猫舌じゃない。

 

「あ、あ~んです!」

 

「次はまた束さんね。あ、それともパンが欲しいかな?」

 

大分、いやかなり照れくさかったが、束とクロエに全部食べさせてもらった。美味しかった。

 

 

●●●

 

 

今日は『NEVER』の拠点に泊まることにした。束曰く、「コンボを使った事で体にどんな影響が出ているか分からない」との事。確かに何かあっても困るからそうする事にした。クロエも今日はここで束の手伝いをするらしい。

 

食べてから歯を磨いて直ぐに寝てしまったせいか、午後11時に目が醒めた。喉が渇いたからジュースを買いに行くと束とクロエに言って、学生寮の自販機に向かった。クロエがついて行くと行っていたがやんわり断った。すると、自販機の前で一夏に会った。

 

「お、一夏。お前もか?」

 

「お、おお。ゴクローもか?」

 

「まあな。……心配しなくてもマドカはいないぞ」

 

「そ、そうか」

 

妙にそわそわと言うか、キョロキョロしていたから試しに言ってみたが、やっぱりまだマドカが苦手か。

 

「な、なあ、少しいいか? ちょっと聞いて欲しい事があるんだ」

 

「ああ、いいぜ。但し、腐女子の間で悪い噂にならない程度で頼む」

 

「ぷっ! ああ、そうするか」

 

緊張がほぐれたのか、表情が柔らかくなった。実際に腐女子な連中が一×5とか5×一とか言っているのを俺は知っているので、あながち冗談ではない。自販機からちょっと離れた外のベンチに二人で座って、俺は一夏が話してくるのを待った。

 

「それにしてもゴクローって強いんだな。セシリアと戦ってるの俺も見たんだけど、ブレード一本で戦える奴なんて千冬姉だけだと思ってた」

 

「これでも7年は対ISの訓練を積んできた。その努力の結果だ」

 

「7年!? そ、そうか。それ位、頑張らなきゃ駄目なんだよな……」

 

お互いに缶ジュース片手に話し合っているが、一夏はどこか歯切れが悪い。何か言いたいけれど、言い出せない感じ。この後も当たり触り無い話題が何度か続き、やっと決心がついたのか、憂いを帯びた瞳で語り出した。

 

「……俺さ、正直IS学園に来るの嫌だったんだよ。本当なら藍越学園って所に行って、いい所に就職して、千冬姉に楽させてやりたいって思ってた。その為に中学時代は俺なりに一年間必死で勉強した。普通に受験してりゃ普通に合格できる筈だった。それがこんな事になるなんて思わなかった」

 

……耳が痛いな。一夏がIS学園に来る原因は束の仕業だ。何でもそうなるように仕向けていたらしい。ただ、一夏の『藍越学園とIS学園って似てる』と言うのは、ちょっと同意しかねる。

 

「ここに入学するまでに何かしら準備する時間はあった。それでも、なんだか言われるままにするのが嫌で、勝手に俺がやってきた事全部駄目にされた感じがして、つい突っ張っちまった」

 

「……男なんだから、自分の人生は自分で決めた道を歩きたいって感じか?」

 

「そう! そんな感じだ! でも、俺は流されるままで何も準備も対策もしなかった。ISの事を簡単に考えてた。一週間もあれば基礎くらい大丈夫だろうって思ってたし、簡単に動かせたからなんとかなると思ってた。

でも、IS学園の生徒は小学校からISを頑張って勉強してきた奴が殆どだって聞いてさ。そう考えたら、俺の事認めてない奴って確かに結構いると思う。ISを動かせるだけで、ISについて何も知らない俺をズルイって思っても仕方無いんだよな……」

 

どこか達観した雰囲気で一夏は自分の過去と今を語る。どことなく懺悔しているようにも見える。

 

「それで何とかしようと思って今から頑張ってるんだけど、学園の皆って俺のこと『千冬姉の弟』って感じで見てるんだよ。千冬姉がISで世界最強だからそれは仕方ないんだろうけど、それだと俺が情けないと千冬姉が迷惑するだろ?」

 

「なんで?」

 

「え!?」

 

「お前がセシリアに負けたところで、お前が弱いってだけで別に織斑先生が弱いわけじゃないだろ?」

 

一夏としては予想外の答えだったのか、あっけにとられたような顔をしている。

 

「いや、なんて言うか、俺が弱いと千冬姉の誇りが傷つくみたいな……」

 

「お前の弱さと織斑先生の誇りは関係ないだろ。この場合の『誇りを傷つける』って言うのは、自分の欲望の為に誰かの信念や生き様を利用する事だと俺は思うぞ?」

 

具体的には『仮面ライダーW』で『仮面ライダー』を名乗って悪事を働く、元アバレッドのアームズドーパントとか。

 

「……兎に角さ。俺を『千冬姉の弟』って見る奴はこの学園に大勢いるんだよ」

 

「他には『希少な男のIS操縦者』って所か?」

 

「ああ。それで俺は、千冬姉の名前を守りたいって思った。そんでもって、この学園の全員に俺の事を認めてもらうって決めたんだ。」

 

なるほど。個人的には「千冬姉の名前を守る為に、千冬姉を超える」位は言って欲しいが、一夏はそう決めたのか。そして一つ分かった事がある。

 

箒は『篠ノ之束の妹』として見られていた経験があるが、一夏には『織斑千冬の弟』として見られた経験がIS学園に来るまで無い。箒と違い、一夏はずっと『織斑一夏』でいられる環境にいたのだ。

 

織斑先生は一夏が誘拐された目的と理由について、自分の身内だからと理解していたようだが、一夏は誘拐に関して詳しくは知らないのではないだろうか。少なくとも『織斑千冬の弟』だから誘拐された事を知らない。だから、誘拐事件の後も普通の生活を送っていた。間の悪いタイミングで誘拐されたとしか思っていないのではないだろうか。

 

しかし、そんな一夏もIS学園に入学した事で、『織斑一夏』ではなく、『織斑千冬の弟』として見られる事で、「『織斑一夏』として見られたい」と言う欲望が生まれた。つまりは……。

 

ハッピバァァァァァァスデイ!! 新しい織斑一夏の誕生だ!! おめでとう!!

 

……と言う訳だ。

 

「それじゃ、一つ。もしも、試合に勝てたら褒美をやろう」

 

「? どんな褒美だ?」

 

「アンクにお前を『馬夏』呼ばわりさせるのを止めさせる」

 

「おっ! いいなそれ!」

 

鴻上会長の様な事を考えていた為か、一夏に条件付だがバースデープレゼントを一つ提案した。お蔭で一夏はクラス代表戦に向けてますますやる気が出てきたようだ。

 

「やっぱり、男同士っていいな。それに年上ってのもあるのかな。余裕って言うか、落ち着いた感じがして、一緒に居るとなんか楽でいい」

 

「……ちょっと待て、それはどう言う意味だ?」

 

「いや、だからさ。年上っていいなって最近思ってさ。今、三年生の先輩からIS教わってるんだけど、先輩から毎日ISの事教えてもらうのがすごく楽しいんだよ」

 

妙に引っかかる言葉に質問をぶつけると、予想外な返事が返ってきた。とりあえず、女より男が好きと言う意味ではなさそうだが、一夏は俺に別の意味で衝撃を与える台詞を言った。

 

「分からないところがあったら分かるまで丁寧に教えてくれるし、暴力振るわないし、グイグイ引っ張ってくれるし、明るいし、料理も美味いんだ。

この間、試合までの時間が惜しいからって弁当作ってもらって、昼休みの間もISについて教えてもらったんだ」

 

「……そうか」

 

「それで何かお礼がしたいって言ったら、『もしも試合に勝ったら付き合って欲しい』って言われてOKしたんだけど……」

 

「OKしたのか!?」

 

「ああ、世話になりっぱなしだからさ。俺だってそれ位の甲斐性はあるぜ? むしろ幾らでも付き合うぜ。買い物くらい」

 

「!?」

 

それって世間一般で言う男女の付き合いとか、デートってやつじゃないのか? いや、本当に買い物に付き合う程度なのかもしれないが……。

 

それにしても一夏って、お姉さん系や年上が好きなタイプなのか? 幾ら叩かれても織斑先生を「千冬姉、千冬姉」って性懲りも無く言ってるし。

しかし、さっき言った事は織斑先生には合致しないモノばかりのような気がする。恋愛において自分に無いモノを恋人に求める傾向がある人間は知っているが、一夏は織斑先生に無いモノを恋人に求めるタイプなのだろうか?

 

「あ! もちろん、箒にもなんか奢るって言ったから、試合が終わったら何か奢ろうと思うし、お前にも何か奢るぜ! 真面目に俺の話聞いてくれたし、おかげで試合にやる気が出てきたしな!」

 

「……気にするな。『友情のシルシ』を交わした仲だ」

 

「! おう! それじゃ、そろそろ戻るか。あまり夜風に当たると体に触るからな」

 

……今、障るじゃなくて、触るってニュアンスで言ったか? 『お体に触りますよ』ってか?

「……そうだな。頑張れよ」

 

「ゴクローも頑張ってくれよ! 応援してるぜ!」

 

「ああ、お休み」

 

「お休み!」

 

一夏は爽やかな笑顔で学生寮の部屋に戻って行った。俺は箒になんて説明しようか考えていた。

 

 

●●●

 

 

翌日。決戦を明日に控える日曜日。妙な感触を感じて目を醒ますと、束が頬っぺたを突いてニマニマしながら俺を見ていた。

 

「おはよう、ゴッくん。よく眠れた? 体は大丈夫?」

 

「ああ、体は大丈夫だ」

 

ラトラーターコンボ専用パッケージ『トライド』は先程完成し、それから俺の寝顔をずっと見ていたらしい。

肉体の疲労は完全に抜けたが、精神テンションは最悪に近い。それでも俺は、昨日の夜に一夏が語った事と、俺の考えを全て箒に話した。

 

「そうか。一夏がそんな事を……」

 

「……俺が憎くないのか? 俺が与えた情報が原因で、お前は一夏に失望していたんじゃないのか?」

 

箒には『ミレニアム』が収集した一夏の情報を教えているから、誘拐の理由も黒幕も知っている。もしかして箒は、俺から教えられた情報の所為で一夏も自分と同じだと思い込んでしまったのでは無いだろうか?

 

「お前を憎んでなどいない。私は元々思い込みが激しい性格で、自分にとって都合のいい事ばかり考えていたんだ。だから、罪があるとすればそれはお前じゃない。私だ。

それに、自分が可愛い女じゃないって分かってるんだ。自分勝手で、人に教えるのが下手で、ガサツで、短気で、カッとなると直ぐに手が出る。剣ばかり振るって、料理もしたことがない」

 

「そんなに自分を卑下するな。まだチャンスはあるだろ」

 

「……なあ、ゴクロー。私の幸せは一夏でも、ゴクローでも、他の誰でも無い。私が決めることなんだぞ?」

 

「………」

 

「人を愛する事と、その人から愛を要求する事は違う。私はずっと寂しくて、ずっと何かに縋りたくて、色々な事をごちゃ混ぜにした。それで姉さんの事や、色々な大事な事を見落としていたんだ」

 

過去を回想するような顔で語る箒。昨日の一夏を髣髴とさせる。デジャビュか?

 

「それと、一夏の言う先輩についてだが、多分ゴクローが思っている通りだと思うぞ。アイツは昔からその……朴念仁なんだ」

 

「そうなのか?」

 

「……例えば、私がゴクローと一緒に映画を見に行きたいとか、一緒に夏祭りに行きたいと言ったらゴクローはどう思う? 私が何を求めていると思う?」

 

「? そりゃ二人で一緒にお出かけしたいって事なんじゃないのか?」

 

「……一夏は『大勢の方が楽しいだろう』と言って、友達を連れてきたりするんだ。何の連絡も相談も無く、当日にそれが分かる。その上で、私が何を怒っているのか分からないんだ」

 

「…………嘘だろ?」

 

「本当だ」

 

にわかには信じられないが、箒の目は真剣そのもの。もしかして箒の実体験なのだろうか?

 

「そうなると、どうしてもイライラしてしまうんだ。それでつい手が出てしまう。そんな女が男に好かれる訳ないだろう?」

 

「……いや、それも箒の可愛らしさの一つなんだと思うケド」

 

一夏にとって、それは良かれと思っての行動なのだろうが、状況を考えれば箒がイライラしたりするのは仕方無いと思える。そう思って、俺なりにフォローを入れる。

 

「そ、そうか?」

 

「ああ。俺は可愛い嫉妬だと思う」

 

「ッ! ま、まあ、その、つ、つまりだな! 一夏は私を受け止められんし、私は一夏を受け止められんと言う事なのだ!」

 

……? 何がおかしいか分からないが、何かどこかおかしい気がする。強引に話を終わらせたい様に感じられるが、とりあえず箒の中で一夏に対して決着がついたと考えていいのだろうか?

 

「ほ、ほら! パッケージの最終調整があるのだろう! 早く行かないか!」

 

「あ、ああ。分かった。行ってくる」

 

「ああ、行って来い! 今日の夜はカレーだ!」

 

子供か俺は。しかも昨日はシチューだったんだけど。

 

しかし、逆に箒から教えられるとは思わなかった。人を愛する事と、その人から愛を求める事は違う……か。そんな事を考えていたらアンクが飛んできた。

 

「話は終わったようだな。早速、専用パッケージ『トライド』を試すぞ。最後のパワーダイザーをスクラップにしてやれ」

 

「分かった。それと一つ提案があるんだけど、いいか?」

 

「なんだ?」

 

「タトバコンボ以外の、同色同系統の統一コンボ。例えば『ラトラーター』を使う時に、『超変身!』って言おうと思うんだけど、どう思う?」

 

せっかくのコンボと言う特別な変身だというのに、何も無いのはアレだなとずっと考えていた。そこでコンボの特別感を出す為に『仮面ライダークウガ』こと五代雄介のアイディアを使わせて貰おうと思う。

脚本家の小林靖子さん曰く、『仮面ライダーオーズ』は「21世紀のクウガ」をイメージしており、火野映司は五代雄介の性格を元にしたと言うから問題ないハズだ。

 

「勝手にしろ」

 

「………」

 

相変わらずアンクは趣味全開の会話にはドライだ。せめてフィリップみたいに「君に任せる」位は言って欲しかったが……まあ、いいか。

 

 

●●●

 

 

月曜日の昼休み、昼飯を済ませて俺は職員室に向かっていた。

 

今回の公式戦の為に選んだコアメダルは、タカ・クジャク・コンドル・クワガタ・バッタ・ライオン・トラ・チーター・ゴリラの9枚。

ガイアメモリは、ジョーカー・メタル・トリガー・ルナ・アクセル・オーシャンの6本。

パッケージは『Type-ZERO』と『トライド』だ。

これらを昼休みのうちに申請しておこうと思ったのだが、独特なのんびりとした声に呼び止められた。

 

「お~~い、シュレり~ん」

 

「……本音か」

 

呼び止めたのは布仏本音。布仏虚の妹にして、常に体全体から癒し系オーラを全開で垂れ流しており、周囲に『のほほん』と呼ばれている。

 

「どうした? 何か仕事か?」

 

「ん~そうじゃなくて。シュレりんにどうしても会いたいって人がいるの」

 

クラス代表が決まるまでの間、代表補佐の俺がクラス代表の仕事をする事になっているので、生徒会の本音が仕事を持ってきたと思ったのだが、そうではなかった。

 

本音の後ろから現れたのは、水色の髪に小動物チックな雰囲気を醸し出す少女。日本の代表候補生にして、更識楯無の妹。更識簪だった。

最近、『仮面ライダーフォーゼ』の野座間友子(仮面ライダー部入部前)みたいに、物陰から俺をじっと見ているのは知っているが、なんだろうか。

 

「ほら、かんちゃん。勇気出して」

 

「う、うん。えと……更識簪です」

 

「初めまして、ゴクロー・シュレディンガーだ」

 

「は、はい! その……こ、これ!」

 

目を瞑って突き出された簪の両手に何かが握られている。受け取ってそれが何なのか確認してみるが……。

 

「へ、『変身一発』!?」

 

彼女が持っていたのは紅白のラベルが貼られ、『変身一発』と書かれたドリンク剤。

劇場版『仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』に登場する、カイザギアの不適合者でも服用すれば一度だけ変身できる代わりに死んでしまう(もしかしたら、死なないかもしれない)という恐るべき発明品。

実際は、使用者が灰化するのではなく、カイザギアが灰化する。まさに『変身一発』な代物だったが、それでも充分に凄い。

 

「それ……私が作った、栄養ドリンク試作1号『変身一発』。貴方の模擬戦……見て、作ったんです」

 

「そ、そうか」

 

まあ、友子がJKこと神宮海蔵に「褒美をとらす」と言って渡した、ムカデの文字とイラストが書かれたドリンク剤よりはマシかもしれない。思い切って飲んでみる。強烈な味と風味に思いっきりむせた。

 

「ごはっ! か、かなり効く……でも、癖になるかも」

 

「う、うん。あの、今日の試合の相手、私のお姉ちゃんなんです。お姉ちゃん、凄く強いけど……その、が、頑張って下さい」

 

「ああ。応援ありがとう」

 

「ど、どういたしまして」

 

「よかったね、かんちゃん」

 

「う、うん。本音も、ありがとう」

 

「うん。それじゃ、シュレりんもがんばってね~」

 

強烈な味と風味に苦戦するも何とか飲み切り、二人はトテトテと去っていった。

 

『……オイ、大丈夫か?』

 

「ああ、ドクが作った『IS一発』よりマシだ」

 

不適合者でもカイザギアが使えるようになるドリンク剤と言う設定がドクの興味を引いたらしく、話を参考にドクがそんなモノを作っていた。アレは今飲んだ『変身一発』よりも酷い味だった。死にはしなかったが、ISも動かせなかったけど。

 

懐かしい思い出に浸りつつ、気を取り直して職員室に向かった。

 

「……ズルイ! ズルイ! おねーちゃんには何にも無いのに、ゴクロー君だけ簪ちゃんの手作りドリンク貰うなんてズルイ!」

 

「会長、落ち着いてください。ただの差し入れですよ」

 

「こうなったら、本気で行くわ! 簪ちゃんに近づく悪い虫は許さない! 悪い虫は……許さない……ッッ!!」

 

物影から一部始終を見ていたシスコンのカリスマおぜうさまは、放課後の模擬戦で切り札を使う事を決めた。

 

 

●●●

 

 

放課後。遂に更識との決戦の時がやってきた。服装は『NEVER』の大道克己コスだ。

 

「お気をつけて、兄様」

 

「ふん。軽く捻ってやれ」

 

「ま、なんだ。必ず勝って来い」

 

「もしもゴッくんが負けたら、ネコ耳メイド服で皆に御奉仕して貰うからね!」

 

クロエ、マドカ、箒、束から激励の言葉が贈られる……と、思いきや束だけ何か違う。

 

「俺のネコ耳メイド姿って誰が得するんだ?」

 

「ガクガクブルブルニャーニャーなのです♪」

 

質問に答えてない。それと声は同じだけどそれは違う作品。仮にその姿になっても、俺がライアードーパントの事件で女装したフィリップみたいになるとは思えない。いずれにせよ末代までの恥となるだろう。

 

「一夏の方はどうなんです?」

 

「織斑君は先程専用ISが到着しまして、今は織斑先生とフォーマットとフィッティングの真っ最中です」

 

山田先生からこの場に居ない一夏の現状を聞かされる。フォーマットとフィッティングが終わるまでとなると約30分と言った所か。

 

「それじゃ、行ってきます」

 

今回の公式戦ではカタパルトデッキを使わずに、アリーナ・ステージの地上部分で『オーズ』に変身する事を提案している。ピットから歩いて決戦の舞台へと歩を進める。

 

『ゴクローさん。聞こえますか?』

 

「ああ、セシリアか」

 

『その……お、応援していますわ!』

 

「ありがとう。セシリアも頑張れ」

 

『はい! 必ず勝利しますわ!』

 

セシリアからプライベート・チャンネルを使った激励の言葉が送られる。応援してくれる人がいる事が結構嬉しい。アリーナに続く薄暗い通路を歩いていくと、出口から何かを呼ぶような声が聞こえる。

 

『オーズ! オーズ! オーズ! オーズ! オーズ! オーズ! オーズ!』

 

……なんだ? アンキロサウルスヤミーでも居るのか? それにしては助けを求めるような声ではない。どちらかと言うと、仮面ライダーオーガが登場する時のオーガコールに近いような……。

 

アリーナに出てみると観客席は満席。一年生から三年生までの全校生徒と教師陣。国のお偉いさんらしき姿も見える。いい気なものだ。

 

そして、俺が通ってきた出入り口に近い観客席に、一組のクラスメイト全員が座って腕を振上げながらオーズコールをしていた。一組以外の生徒もいる。俺ってこんなに人気あったのか? あ、本音と簪みっけ。

 

『なんでもいい。やれよ、ゴクロー。変身しろ』

 

アンクに促され、俺はオーズコールの中で『仮面ライダーオーズ・タトバコンボ』へと変身する。

 

「変身!」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

変身が完了すると歓声が一際大きくなる。個人的には、木場勇治をリスペクトして「俺が生きていく道は一つしかない……俺は『仮面ライダー』として生きていく!」とでも言いたい気分だ。

 

「うふふふ。とうとう来たわね、この時が!」

 

「随分と楽しそうだな」

 

「それはそうよ。だって私って何時も学園の警備に回されるし、強過ぎて学園の大半のイベントに出られないのよ? だから、私がIS学園の試合で戦うなんて中々ないのよ?」

 

なるほど。この公式戦は俺にとっても更識にとっても晴れ舞台って訳か。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動して下さい』

 

アナウンスに促され、専用IS『ミステリアス・レイディ』を纏った更識と空中で対峙する。

 

タカの目で確認すると、周囲にナノマシンが散布されているのが分かる。ナノマシン散布型と言えば、『ARMS』のパンダースナッチやマーチヘアを想像するが、散布されているのは起爆性ナノマシンで、冷凍攻撃もレーザー攻撃も出来ないらしい。

 

『それでは両者、試合を開始して下さい』

 

試合開始のブザーが鳴るが、一歩も動かず悠然と構える更識。とりあえず周囲に散布されたナノマシンがどれほどのものか調べるか。

 

スロットのメモリをジョーカーからルナに変更。トリガーマグナムを召喚して、自由に湾曲するエネルギー弾を乱射する。

開始直後に遠距離攻撃。それも『偏光制御射撃【フレキシブル】』を使用した事で観客席から驚きの声が上がる。IS学園に来てから、メダジャリバー一本しか使っていなかったからだろう。

対する更識は慌てず騒がず、湾曲するエネルギー弾を大型ランス『蒼流旋』と、ナノマシンで構成されたアクア・ヴェールで全て防ぐ。

 

「うふふ。その程度じゃあ、このドレスは破れないわよ?」

 

更識のからかうような口調は相変わらずだ。防がれたが仕方無い。通常使用ではマキシマムドライブと比べて威力はかなり低い。更識が反応しにくい場所や、死角があるかどうかを判断したかったのだが、アクア・ヴェールにも更識本人にも特に死角は無い様に見える。

 

『ある程度攻撃力があれば突破は可能だ。コレに変えろ』

 

「さあ、コッチもガンガン行くわよ!」

 

『クワガタ! クジャク! チーター!』

 

『蒼流旋』に搭載されている四門のガトリングガンから放たれる弾丸を、タトバコンボからガタジャーターへのコンボチェンジで発生するメダル状のエネルギーで防ぐ。メモリもルナから、射撃能力強化のトリガーに変える。

 

ガタジャーターへのチェンジが完了すると、即座にチーターレッグの高速移動に入る。チーターレッグの高速移動と、クワガタヘッドの電撃が加わったタジャスピナーの火炎弾で攻める。

 

コレに対して更識は殆ど動かず、螺旋状の水を纏った『蒼流旋』と、水の刃を纏った蛇腹剣『ラスティー・ネイル』の二刀流で、電撃付き火炎弾を防ぐ。

更に此方の動きを先読みして、ガトリングガンと超高圧水流弾で遠距離攻撃を仕掛け、隙を見て接近戦を仕掛けようとする俺を牽制してくる。

手数より破壊力を優先したが、立ち回りを見るに逆に対処しやすくなっている様な気がする。

 

『チッ! 埒が明かないか。コレに変えろ!』

 

『クワガタ! ゴリラ! チーター!』

 

ガタジャーターからガタゴリーターにチェンジ。メモリもメタルに変更して防御力を上げる。多少のダメージは覚悟の上で接近戦だ。

 

「コッチもそろそろ行こうかしら? 必殺・楯無ファイブ!」

 

指パッチンと共に四人の更識が新しく現れ、合計五人の更識が並んだ。確か、ナノマシン・レンズを使って作った幻影と、アクア・ナノマシンの自爆分身のあわせ技だったか?

 

『違う! 全部がアクア・ナノマシンで作った分身だ!』

 

全部が自爆分身!? 随分と奮発したな。どっちにせよ、触れずに倒せば問題ない。

 

クワガタヘッドの電撃を纏ったゴリバゴーンを分身二体に向かって放つ。ゴリバゴーンの直撃で分身二体が爆発するが、両腕のゴリバゴーンが無くなって一気に貧相になった瞬間を狙って、残り二体の分身と本体が此方に向かってくる。

 

左手にセルメダルを3枚装填した状態のメダジャリバーを召喚し、右手にオースキャナーを手に取りセルメダルをスキャンする。

 

『トリプル・スキャニングチャージ!』

 

「あら? その技は確か――ッッ!!」

 

何かを察した更識本体は、『オーズバッシュ』の軌道から急いで離脱。『オーズバッシュ』は空間ごと分身二体を切り裂き、分身二体は爆発した。分身ごと本体を仕留めたかったのだが、勘のいい奴だ。

 

「な、何よ今の!? おねーさん聞いてないんだけどッ!?」

 

「今初めて見せたからな」

 

この必殺技は空間ごと対象を切り裂く関係上、防御は不可能。距離に関係なく当たれば勝てる技で、剣の軌道から回避する以外に対処方法は無い。

流石に搭乗者を殺さないように非殺傷に設定してもらったが、それが初見でバレてしまった。更にセルメダルも一気3枚を消費した。セルメダルが10枚しか使えない事は更識も知っているのでコレは不味い。

 

『今ので仕留められなかったのは痛いな。何とかセルを稼げ!』

 

分かっている。ゴリバゴーンを両腕に戻し、新しく召喚したエンジンブレードにアクセルメモリを装填。トリガーを引いてアクセルメモリのマキシマムを発動する。

 

『ACCEL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

エンジンブレードを更識に向かって思いっきり投擲。動力を宿したように更識に向かって加速するエンジンブレードを、更識は正面に散布したアクア・ナノマシンと『蒼流旋』で受け止める。

 

「オラァッ!」

 

「ぐぅっ!」

 

受け止められながらも前に進もうとするエンジンブレードの柄尻を、チーターレッグの加速を加えて思いっきり蹴りこむ。その衝撃で更識は『蒼流旋』を手放した。そのまま格闘戦に突入。クワガタの電撃を纏ったゴリバゴーンで殴りかかる……が。

 

『クソッ! セルメダルを補給できない様に戦ってやがる!』

 

アンクの言うとおり、更識は此方の攻撃を『ラスティー・ネイル』で受けるか、自前の体術で受け流して極力受けないようにしている。直接攻撃を受ければ自身のシールドエネルギーを削られた上に相手の糧にされるのだから、当然と言えば当然の対処方法だ。

 

「やはり強いな!」

 

「お互いに、ねッ!」

 

至近距離から放たれる高圧水流を、ゴリバゴーンを楯にして受ける。せっかく詰めた距離を離されてしまった。

 

「仕切り直しか」

 

「それはどうかしら?」

 

『!! 後ろだ!!』

 

アンクに言われて背中を確認すると、『Type-ZERO』にクリスタル状の物体がくっつけられていた。それが何なのか理解すると、即座にメモリをメタルからオーシャンに変え、間に合う事を願ってスロットをタップする。

 

「かちん♪」

 

『OCEAN・MAXIMUM-DRIVE!』

 

更識のスイッチを押すような動作と連動して、くっつけられたアクア・クリスタルが爆発した。

 

……オーシャンのマキシマムが微妙に間に合わず、『Type-ZERO』は完全に破壊され、爆発によって体がバラバラになってしまったが、とりあえず、更識に接近する事ができた。

 

『狙いはパッケージだったんだろう。「オーズ」は飛行能力をパッケージに頼っているから、破壊すれば制空権が取れる』

 

なるほど。そして、更識が『蒼流旋』を取りに行かずにその場から動かないのは、姿の見えなくなった俺の次の手が奇襲だと分かっているから……と言った所か。

 

『まさか、こんなに近くで隠れているとは思わないだろうがな』

 

「……え!? どう言う事!?」

 

ナノマシンを使って周囲をサーチする更識の動揺する声が聞こえた所で、俺はアクア・ヴェールの中から飛び出した。

 

「なッッ!!」

 

驚く更識の顔を見て、奇襲が成功した事を確信する。

 

大洋の記憶を持つオーシャンメモリの能力は二つ。水の精製能力と肉体の液体化。爆発の際に液体化し、爆発で体がコレでもかとバラバラになった後で『ミステリアス・レイディ』の水を操る能力を利用して更識の近くに移動する事が出来た。使った感想としては、バイオライダーと言うより、『ターミネーター2』のT-1000型の気分だった。

 

装甲を掴み、チーターレッグのリボルスピンキックを叩き込む。しかし更識の対応は早く、数発蹴りこんでシールドエネルギーを減らした所でまたも爆発。今度は周囲に散布したナノマシンを起爆させたようだ。

先程よりも威力は低いが爆発で飛ばされ、飛行能力を失った俺は地面にスタッと着地する。

 

「体を水に変えるとはね……油断したわ」

 

手放していた『蒼流旋』を回収した更識が不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。さっきの爆発で全体的に煤けている。

 

「見せてあげるわ、私の本気。そして、ワンオフ・アビリティーをね!」

 

そう宣言した更識の『ミステリアス・レイディ』の背中に赤い翼を広げたユニットが展開され、アクア・ヴェールが青から赤に染まる。

 

『専用パッケージ「麗しきクリースナヤ」! 赤くなったのは超高出力モードに切り替わった証だ! 次に来るのは――』

 

「もう、遅いわ! 貴方はチェスで言う所のチェックメイトに嵌ったのよ!」

 

足を動かそうとするが、空間ごと足が沈んで拘束されている。テラードーパントのテラーフィールドか?

 

『超広範囲指定型空間拘束結界「沈む床【セックヴァベック】」! 拘束力は眼帯娘共のAICよりも強い!』

 

身動きの取れない俺に、更識が赤く染まった『ラスティー・ネイル』を振り下ろし、無数の赤い高圧水流弾が雨霰と迫る。

 

『対抗するにはコレしかない! やれ!』

 

確かにここが使いどころだろう。黄色に統一されたオーカテドラルのコアメダルをスキャンし、特別な変身を示す言葉を叫ぶ。

 

「超変身!」

 

『ライオン! トラ! チーター! ラタラタ~! ラトラーター!』

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

猛獣の吼える声と共に、『ライオディアス』を発動。『沈む床』と共に赤い高圧水流弾も全て蒸発した。メモリをオーシャンからルナに変更し、ラトラーター専用パッケージ『トライド』を呼び出す。

 

胸部にトライドベンダーのフロントカウルから作られた装甲が装着され、前から見た姿は『仮面ライダービーストハイパー』に似ている。そもそも『仮面ライダービースト』は、ラトラーターコンボの没デザインを流用したものらしいから、尚更そう思うのかもしれない。

 

背中にライドベンダーの後輪とトラカンの前輪を材料にして作ったマルチユニットが装着される。此方は『仮面ライダーファイズ・ブラスターフォーム』の『フォトン・フィールド・フローター』を意識して作ったものだろう。アレよりもかなり大型で、カラーリングも違うが間違いない。

 

また、トラカンに組み込まれていたOSをそのまま余剰エネルギーの制御に使用しており、『トライド』を装着すると、トラカンのOSはアンクと同様の状態になる。

 

「それが噂のコンボってやつね」

 

「――最初に言っておく!」

 

「あら? 何かしら?」

 

「胸の顔は――カザリだッッ!!」

 

「…………はい?」

 

『……お前、何言ってんだ?』

 

『GAO?』

 

「いや、一度言ってみたくてな」

 

実際、胸部装甲は飾りでもカザリでもない。衝撃吸収と余剰エネルギーの制御装置だ。噛み付き攻撃と衝撃波を撃てない事がちょっと残念だったが。

 

「よく分からないけど……いくわよ!」

 

「さあ、振り切るぜ!」

 

『GAON!』

 

『ヘマするなよ、忠犬獅子公!』

 

『GAO!?』

 

アンク、お前も何か違う。赤い翼を纏った本気モードの更識から放たれる、上空からのガトリングガンと超高圧水流弾の弾雨。それに対して真っ向から受け止め、全て蒸発させる。

 

「ッ――!! この超高出力モードの攻撃を全部かき消した!?」

 

トライドベンダーは本来、ラトラーターコンボの余剰エネルギーを吸収して自らの動力へと変換する事で爆発的な走行能力とパワーを発揮する。

その吸収した余剰エネルギーを、別の事に使う事は出来ないかと『ミレニアム』が参考にしたのが、『仮面ライダーファイズ・ブラスターフォーム』のスーツ全体にエネルギーを纏うと言うアイディア。

 

ラトラーターコンボの固有能力である『ライオディアス』は、半径数kmを瞬時に蒸発させる事ができる強力な熱線であり、『ゴールデン・ドーン』の『プロミネンス・コート』とは比べ物になら無い出力を持っている。

 

そして、「安定したコンボの運用を図りつつ、余剰エネルギーを使って『ライオディアス』の様な熱線のバリアを、常に身に纏った状態にする」と言うコンセプトの元で作られたのが、ラトラーターコンボ専用パッケージ『トライド』だ。

 

コレは『亡国機業』のスコールに対抗する為と言う側面もあり、少佐の「『ゴールデン・ドーン』以上の高スペックで真正面から物理攻撃して、あばずれスコールをヒーヒー言わせたい」と言う願望が多分に含まれていたらしい。

 

「今度は俺達のターンだ」

 

両腕のトラクローを展開し、猫科の猛獣の様な動きで翻弄しながら、空中の更識に向かって行く。余剰エネルギーを使用している関係上、纏っている熱線のバリアの出力は『ライオディアス』の半分程度だが、赤いアクア・ヴェールは熱線のバリアを纏ったトラクローに容易く切り裂かれ、『沈む床』も簡単に振り切ることが出来る。

猛攻の中、更識が『ラスティー・ネイル』を使い拘束しようと試みるが、蛇腹剣が纏っていた赤いエネルギーは腕に巻き着いた瞬間蒸発し、蛇腹剣本体はトラクローで砕いた。

 

更識の攻撃は俺に一切通らず、俺の攻撃は更識に通る。こちら側の一方的な試合展開になっていた。

 

「オラァッ!」

 

「うあああああっ!」

 

右ストレートが更識に決まる。地面まで殴り飛ばされた更識は立ち上がろうとするが、片膝をついた。しかし、こちらもエネルギーの消費が激しく、余力は殆どない。俺も地面に降りて、更識に一つの提案をする。

 

「……出してみろサーガ。光の神を葬るヤドリギを。激情の神が相手をする」

 

「!!」

 

北欧神話において、『オーズ』と言う激情を意味する神がいる。愛の女神フレイヤの夫だが、実際にどんな活躍をしたのかは語られる事は無く、ラグナロクの到来時にどのような最期を迎えたのかも不明の神だ。

そして、ミストルティンはヤドリギを指し、オーディンの息子である光の神バルドルを死に至らしめたアイテムとして登場する。このバルドルの死をきっかけに世界から光が失われ、神々の最終戦争ラグナロクへと突入する。

 

この場合、俺が言ったヤドリギとは、『ミステリアス・レイディ』が誇る一撃必殺の大技『ミストルティンの槍』の事。

通常時はISの防御に使っている水を前方に集中、更に制御下にある水を全て攻撃に回し、水を高速で振動させることであらゆる装甲を粉砕する破壊の槍。

アクア・ナノマシンの熱エネルギー変換を利用した小型気化爆弾4個分に相当する大爆発を叩き込むことも出来る、正に奥の手と言える最終奥義。

 

それを真っ向から打ち破る……と言う意味で俺は言った。

 

「言ってくれるじゃない……! どうなっても知らないわよ!」

 

立ち上がった更識は両手で『蒼流旋』を構える。『ミストルティンの槍』は発動まで時間がかかり、その間更識は隙だらけになってしまう弱点があるのだが、それを気にする事なく更識は発動準備に掛かる。

『ミステリアス・レイディ』の全身から集めた超高出力エネルギーによって赤く染まった水は、『蒼流旋』を中心に攻撃成型した赤い輝きを放つ巨大な赤い槍と化した。

 

「コレで決まりだ!」

 

『負ければ洒落にならんがなぁ!』

 

『GAON!』

 

『スキャニングチャージ!』

 

オースキャナーを右手に構え、残った力を全て注ぎ込むつもりでコアメダルをスキャンする。通常とは異なり、前方ではなく頭上に黄色い三つのリングが展開され、マルチユニットを使って急上昇。黄色いリングを一つ潜り抜ける度に、全身から発せられる黄色い輝きとスピードが増していく。三つ目のリングを潜り抜けたところでメモリスロットをタップ。ルナメモリの最大出力を発揮させる。

 

『LUNA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

全身を駆け巡っていたエネルギーが、ラインドライブを通って右足に一点集中される。黄色に輝く右足を突き出し、地上の更識に向かって急降下する。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「ハアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

更識が上空から突っ込んで来る俺に『ミストルティンの槍』を突き出し、お互いが持つ最大威力の必殺技がアリーナの空中で激突した。

それによって生まれた膨大な黄色いエネルギーの余波は渦を巻いて、巨大な竜巻のようにアリーナから見える青空を覆いつくさんと展開された。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

渾身の叫びに応えるように、赤い光を放つ巨槍の穂先に亀裂が入った。両者の拮抗は崩れ、『ミストルティンの槍』はまるで赤いガラス細工を砕くように黄色い輝きを放つ右足に粉砕されていき、両手で『蒼流旋』を握る更識へと真っ直ぐに向かっていく。

 

真正面から『ミストルティンの槍』を打ち破った右足はそのまま『蒼流旋』へヒット。『蒼流旋』は爆発し、更識はその場から弾け飛んで背中から地面に叩きつけられた。

 

仰向けに倒れ、力尽きた更識のISが解除されると同時に、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 

『試合終了。勝者――ゴクロー・シュレディンガー』

 

湧き上がる喚声。俺は倒れている更識の元へ向かう。ボロボロだが何時もの何か隠したような雰囲気は無く、心から楽しそうな顔で笑っていた。これが楯無としての心からの笑顔なのだろうか。

 

「……負けちゃった。でも……本当に、楽しかった」

 

「それは良かった……動けるか?」

 

「あははは。駄目。全然力が入らない。……運んでくれない? お姫様抱っこで」

 

「やれやれ……」

 

楯無は思いのほか元気だった。倒れている楯無の膝裏と首に腕を回して抱き上げる。本当に力を出し切ったようで、体を預けるように大人しくしている。そのまま変身を解除する事無く、俺が入ってきた地上部分の出入り口に向かってゆっくり歩いていく。

 

「……ねえ、知ってる? 『オーディン』の若い年代の名前が、『オーズ』なんじゃないかって話」

 

「ああ、『オーディンとフリッグの若い年代の名前が、オーズとフレイヤだったのでは無いか』って言う説だな?」

 

「ふふふ、そっか。知ってたんだ」

 

何時も通りのいたずらっ子みたいな顔で楯無は笑った。

 

 

●●●

 

 

なお、傍から見れば最後の光景が、完全にヒーローとヒロインの絵柄だった事で、本人の与り知らぬところで、楯無は簪に猛烈に嫉妬されていた。

 

「ズルイ……お姉ちゃん、ズルイ……ッッ!!」

 

「ううぅ~~、目がチカチカするぅ~~」

 

「……本音、自分で歩ける?」

 

それでも「メガマブシー!」な必殺技の打ち合いを見て、目を開けるのが辛そうな本音を気遣える簪は優しい良い子だった。




ICHIKA-イチカ-
 マドカの『サスケェ!』な自己紹介は実は伏線なんだってばよ。直情的で暴走形態を持つISだったから、これはいけると思っていたんだってばよ。何時の日か、終末の谷でマドカと一騎討ちするかも知れないってばよ。原作での楯無の評価を見る限り、女の好みは年上で、千冬の逆パターンだと思うんだってばよ。

三年生の先輩
 オリキャラではないが、原作・アニメ共に名前が分からないモブキャラ。アニメにおいても声優さんがテロップに出ない。何のヒントも無く、仕方がないので『フォーゼ』流にアナグラムで一応名前は決めた。
 三年生
 →SAN NEN SEI
 →SEN SAI ENN
 →千 歳 燕
 →『千歳燕(ちとせ つばめ)』
 こんなんでどうでしょう?

更識簪
 ヒーローアニメが大好きな596の同族。模擬戦で余りにもヒーロー的な『オーズ』の姿を見てから、596に話しかけたい一心で特性ドリンク『変身一発』を開発した。最後の最大威力の必殺技同士の激突に、これ以上ない位に簪の小宇宙コスモは熱く燃えた。
 専用IS『打鉄弐式』は現在製作中。このまま596に絡み続けると、『パンツァーユニット』のマルチロックオンシステム(複数のISを撃破した実働データ付き)を筆頭とした、『ミレニアム』の技術を応用した恐るべきハイスペックマシンが完成する。

布仏本音
 通称のほほん。原作において二日目朝の食堂で『お菓子よく食べるし!』の台詞を言ったのはこの子だと、作者はアニメ第一期を見て知った。596はシュレりんと呼ばれて、『シュレック』と『グレムリン』のキメラモンスターみたいだと内心思っている。



ラトラーターコンボ
 猫系メダルの統一コンボ。これにより只でさえ強い『オーズ』が真っ先にパワーアップすると言う、『鎧武』のメロンニーサンを髣髴とさせる状況になった。高火力の不安定なコンボだが、専用パッケージによって安定したコンボの運用が可能になる。
 固有能力は、半径数kmを瞬時に溶解、蒸発させる熱線放射『ライオディアス』。800年前の王は『ライオディアス』で湖を蒸発させ、自軍の進軍スピードを上げると言う荒業を使った。冷静に考えればMAP兵器どころか、侵略兵器と言える能力。

トライド
 ラトラーターコンボ専用パッケージ。『ミレニアム』が開発していたモノを、アンクが束とクロエに造ってもらった。トライドベンダーを改造したモノで、トラカンに搭載されていたOSはそのまま余剰エネルギーの制御に使用される。
 今回出番は無かったが、メダル型のエネルギー弾を発射する武装と、ルナメモリとの組み合わせで熱線を竜巻状に形成して飛ばす事が出来る。つまりこれを使うと、ラトラーターは完全復活したカザリに近い能力を持つようになり、最初に言った事はあながち間違いでもない。

ミステリアス・レイディ
 更識楯無のアクア・ナノマシンで水を操る能力を持った第三世代IS。能力の特性故か、他のISと比べてもかなり多彩。今回の公式戦では原作9巻の専用パッケージまで使って、制限付きの『オーズ』はコンボ無しじゃ勝てない程度に強くしてみたつもり。
 今回の話は『パラダイス・ロスト』を結構意識して書いた。上手く表現できているのか不安だったが、最後のファイズVSオーガを再現できるのはコイツしかいないとずっと思っていた。


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第14話 Regret nothing ~Tighten Up~

お気に入り登録が753……もとい、750件を突破! ご愛読ありがとうございます!

前回投稿した日からちょっと調子が悪かったのですが、翌日になって本格的に体調が悪化。幸いインフルエンザではなかったのですが、数年ぶりに引いた本格的な風邪は中々強力で長引きした。
そして、体がツライとネタも文章も禄に思いつかないのだと言う事を理解しました。読者の皆さんも体調管理にお気をつけ下さい。

2020/10/29 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


楯無を待機していた通路で医療スタッフに預けて、体の力を抜いて変身を解除する。担架に乗せられて運ばれていく楯無を見送り、皆が待っているだろうピットへ向かう。これで俺の試合は終わった。次は一夏とセシリアの試合だ。

 

『ドイツ、アメリカ、そしてロシア。IS先進国の内、三ヶ国の代表操縦者を撃破した訳だが、気分はどうだ?』

 

「……正直、少し怖い」

 

コンボを使った時に、体の奥底から圧倒的で超常的な力が湧き上がる高揚感。今まで抑圧していたモノを一気に解き放ったような解放感。何でも出来ると思えるような全能感。それは、今までで一度も感じた事がないほど強烈だった。

 

『コンボの力を、自分の手に入れた力の大きさを知って、戸惑っているのか?』

 

「違う。コンボの力がどれだけ大きいのかは理解していたつもりだ。俺が怖いと思ったのは、その力を得た事で俺がおかしくなってしまうんじゃないかって事」

 

大きな力は人をおかしくさせる。強大なコンボを使って戦う度に、自分が取り返しのつかない所に向かっているのではないかと不安になる。

その所為か、コンボを使って戦った後にやってくるのは、勝利の余韻でも達成感でも無い。何時もの何かに打ちのめされるような無力感でもない。得体の知れない喪失感だった。

 

『オーズ』とは本来、『800年前の王』が新世界の神に至るための手段であり、他国への侵略兵器でもある。その為、『800年前の王』は『オーズ』の力を他国への侵略に容赦なく使った。

使い手である王自身の性格も相まって、タジャドル・ガタキリバ・ラトラーター・サゴーゾ・シャウタの5つのコンボを、原作では考えられない程スケールのデカい使い方をしていた。仮に紫のメダルが完成し、プトティラコンボを使えていたら、『アカメが斬る!』のエスデス様の様な使い方をしていただろう。

 

この世界の『オーズ』はそれを模倣して造られた対IS最終兵器。それもガイアメモリやパッケージを加える事で強化されている。そんな魔改造が施されたハイブリットライダーなら、専用機を圧倒する事も不思議では無いとは思う。

 

だが、各国からIS操縦者に貸し出される専用機とは、各国が研究と実験によって油断無く積み上げてきた最新技術の塊。それを苦も無くあっさりと倒せる圧倒的な強さと、溢れるパワーに何か得体の知れない恐怖を感じるのだ。

 

『かつて「力に恐怖しているのは、手にした力がどんなものなのかを理解している」と言ったお前なら大丈夫だ……と言いたいが、お前の場合はそう簡単にはいかない。

奪われる恐怖は欲望を増幅させる。失ってしまう事の想像が自分を奮い立たせるからだ。そして、コアメダルは欲望に強く反応する』

 

「……ちょっと待て、つまりこういう事か? 俺が強大な力と引き換えに何かを失う事を恐怖すれば、コアメダルの力が更に強くなる?」

 

『失う恐怖こそが、欲望の原点。だからこそ、「誰よりも強い欲望を持っている人間は、誰よりも失う事を恐怖している」と、俺は思う。

お前は強くて優しい人間を目指し、強くなる度に優しさを失っていく可能性を恐れている。優しさを捨てずに強くなりたい。それはある意味、誰よりも強い欲望だと思わないか?』

 

言われてみればそうかも知れない。大抵の人間は強い力を持てば傲慢になり、強い自分に酔いしれ、その姿に執着する。その結果、他人を取るに足らないものとして考え、他人に対する優しさを忘れていく。

俺の強くて優しい人間になりたいと言う欲望は、そんな人間になってしまうかも知れない恐怖から生まれたと言っても過言ではないだろう。

 

『分かっているとは思うが、今更引き返せないぞ。それこそ、世界を自分の色に染め上げるまで、お前は戦い続けなければならない』

 

「……分かっている。ただ、今までは大きな力について、理解しているつもりになっていたって思い知っただけだ。引き返すつもりは無い。最後まで戦い続ける覚悟はもう出来ている」

 

『仮面ライダー鎧武』において、「力に善悪は無い。だからこそ、強大な力を持った人間はそれ相応の責任を持たなければならない。力の使い方次第で、その人はヒーローにも怪物にもなる」と阪東さんが葛葉紘汰に語ったが、実際に強大な力を手にして使った事で、その言葉の重みが改めて理解できた。そんな気がする。

 

「それでも、コンボの力は多用したくないな」

 

『ふん。そう思うなら公式ルールでも、亜種形態で国家代表を倒せるようにしろ。ただし、他のコンボも必ず習得してもらうぞ。いざというときに縋るモノが無いと困る』

 

次のコンボか。経験値が必要なコアメダルがまだまだ多いが、今後の事を考えるとどのコンボを狙うべきか……。

 

そんな事を考えながらピットに戻ると先ほどいた5人の他に、織斑先生がいた。一夏の『白式』の準備は終わったようだ。

 

「やったねゴッくん! でも体が水になって一度バラバラになったから、一応後でちゃんと検査しようね。頭のてっぺんからつま先まで、体の至る所を隅々まで丁寧に……ね?」

 

非常に検査を拒否したくなる台詞を、両手をワキワキさせながらのたまう束。心配しているのだと思うが、妙な悪寒がする。

 

「随分と派手な試合だったな。お蔭でクラス代表決定戦は明日に延期だ」

 

「? どう言う事です?」

 

「お前と更識の最後の撃ち合いの余波で、アリーナを覆っているバリアーが破壊された。幸いそれ以外に被害は出ていないが、今日の所は使えん」

 

織斑先生曰く、俺がやったブラスタークリムゾンスマッシュもどきと、楯無がやったオーガストラシュもどきの激突で生まれたエネルギーの余波は、アリーナのバリアーを破って外に少し漏れたらしい。

劇場版『パラダイス・ロスト』のロケ地になった、さいたまスーパーアリーナ……もとい、スマートブレインの闘技場の様にアリーナに天井が無かった為、アリーナを横に真っ二つにするような事態は起こらなかった。しかし、せっかくの晴れ舞台を台無しにしてしまったか。

 

「セシリアと一夏に悪い事をしたな」

 

「いや、これからクラス代表決定戦中止のアナウンスを流すが、既に観客の多くが退席している。その心配は無用だ」

 

……それは気楽かもしれないけど、それはそれで残念じゃなかろうか。やはり、多少無理してでも二人を先に戦わせるべきだったかも知れない。

 

 

●●●

 

 

クラス代表決定戦が中止になった為、『NEVER』の拠点に戻って『DXオーズドライバーSDX』を束に提出し、先程の戦闘をアンクと共に見直している。

 

「俺から見て今回の戦闘は、『オーズ』のエネルギー量が少ない事から全体的に焦りがあったと思うが……ゴクロー、お前はどうだ?」

 

「俺は全体的に手加減と言うか、ケチケチしてエネルギーを使っていた感じがある」

 

IS大戦の際は敵から幾らでもエネルギーが補給できた上に、そもそも『オーズ』のエネルギー容量が他のISと比べて桁違いに多い。考えてみれば、エネルギーを相手と同量に設定して戦うなんて、ある意味ボクシングや柔道なんかと同じなのではなかろうか。

 

公式戦における『オーズ』は、さしずめ減量苦によりスタミナが不足しているボクサーと言ったところか。もっとも、俺自身が減量するわけじゃないから、モスキート級の減量に挑戦したフィリップの様にはならないが。

 

「『ミステリアス・レイディ』は装甲が少ない分、ISの中でも特にコンパクトな機体だったこともある。こちらの狙いも能力も分かっていた上に、お前も攻撃も何時もより大振りだった」

 

「確かに……」

 

セシリアとの模擬戦は決して無駄ではなかったが、殆どエネルギーを消費する事なく勝利した事もあって焦った事は無かった。考えてみれば、楯無が前半戦から殆どその場から動かなかったのもその為か? 移動のエネルギーも全て後半戦に回す為に節約していたのだろうか?

 

「公式戦ではネコ女に一日の長があった。粘って相手のガス欠を狙うのも立派な戦術だ。実戦と公式戦は違うと分かったな」

 

「相手に攻撃させて疲れるのを待って、最後に超高出力モードで一気に仕留める作戦だったと」

 

「それでも『ラトラーター』には負けていたがな。だからこそ、撃ち合いに応じた。奥の手以外に打開する方法がネコ女には無かったからな。とりあえずコレで学園最強になった訳だが、どうだ? 王様の椅子の座り心地は?」

 

「そんな実感は無い」

 

「即答か……まあ、明日になれば嫌でも分かるだろう」

 

「ゴッく~ん。こっちにおいで~。検査するよ~」

 

今回の試合の反省が終わったところで、俺を呼ぶ束の声が聞こえる。気は進まないが、メディカルチェックは必要だと思っているので大人しく束の指示に従った。

 

 

●●●

 

 

翌日。メディカルチェックによって、骨密度や筋肉の具合など、知りたいことから知りたくも無い事まで束に知られ、俺に教えられたが、特に体に問題は無かった

 

それよりも、昨日の楯無戦の影響が想像以上に凄い。教室の前の廊下の野次馬の数は明らかに入学した時よりも多い。教室に入ってもクラスメイトがやたらと話しかけてくる。

 

『色々と派手だったし、魅せる試合展開をした事もある。普通は「ミステリアス・レイディ」の最終奥義を真っ向から打ち破るなんて馬鹿な真似はしない』

 

確かに。しかし、仮に俺が最初から『ラトラーター』を使ったら、ワンサイドゲームどころか、一方的な殺戮の様な試合だったと観客は語ったことだろう。一進一退の試合展開から、お互いに強化形態を出し、最後は必殺技同士の激突と言う展開が良かったのだろう。

 

『セルメダルは稼ぐどころか赤字だが、ファイトマネーは結構儲けただろう? これで車が買えるぞ』

 

そう。実は楯無と公式ルールで戦う事を受けるにあたって、アンクからの提案で国際IS委員会に対してファイトマネーを要求してみろと言われた。

それで言われた通りに「俺はお前らの考えはお見通しだよ~ん」と言った態度で、「こんなに高く言っちゃって悪いなぁ~」と思う位の金額を、試合に勝った時だけ貰うと言う条件吹っ掛け……もとい、要求してみたら、一日経って要求した金額の2.5倍の金額が向こうから提示された。しかも、前金まで用意して。

 

『明確な鎖の無い俺達が、連中の言う事を気前良くタダで引き受ける義理は無いからな。

向こうにしてみればそんな俺達を、金である程度まででも手懐けておけるならそうしておきたいし、自分達の器の大きさをアピールできる。

そして、試合に勝った時だけもらうって条件と、金の吹っ掛け方からそれだけの価値がある大きな力を俺達がまだ隠していると思ったのだろう』

 

確かに俺が国際IS委員会の言う事を聞く義理は無い。IS由来の技術を使っているが、『オーズ』も『エターナル』もISではない。そもそもこれからの事を考えると、わざわざ手札を公表して不特定多数に見せるリスクを負う必要は無い。何が出来るかを教える事は、弱点を教える事に他ならないからだ。

 

『他には俺達が連中の弱みを一通り握ってる事もあるが、何よりも俺達の機嫌を損ねてどこかに雲隠れされれば最悪だ。もしも包帯女がウサギ女の居場所が分からんからと、狙いを他に向けたらどうする?』

 

なるほど、都合のいい的がここにあるから、お偉いさん方は安心できるって訳ね。

 

『相手の弱みと自分の利点は出来る限り利用した方が得だって事だ。まあ、こーゆー事は任せろ。お前には不向きだからな』

 

……何だか、アンクが『NARUTO』の卑劣様の様に見えてきた。キャラ的にはアンクの方がずっと好みだが。

 

 

●●●

 

 

放課後行なわれる、一日延期されたクラス代表決定戦。観客席には一年一組以外の生徒が結構いる。もう一人の男子であり、織斑先生の弟である一夏の腕がどれほどのものか見たいのだろう。

今回はアリーナ・ピットで一夏とセシリアの双方に声を掛けてから、観客席に移動して観戦する。アンク、箒、マドカ、クロエの何時ものメンバーの他に、楯無が何故か俺の隣に座っている。生徒会の仕事はどうした。

 

「それで? 貴方達はどっちが勝つと思うのかしら?」

 

「セシリア」

 

「オルコットだ」

 

「オルコットさんかと」

 

「オルコット」

 

「馬夏の負けだ」

 

楯無が勝敗の予想を聞いてくるが、全員セシリアが勝つと予想した。決して、一夏に良い所が無い訳では無い。実際、一夏の練習風景を見てバトルセンスはかなり高いと思った。しかし、セシリアもレベルアップしており、正直一夏が勝てる要素は少ない。

 

「ところで、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかしら?」

 

「何だ?」

 

「ゴクロー君って簪ちゃんに手作りドリンク貰ったじゃない? それで、それからどうなの?」

 

「? あれから特に何も無いが?」

 

「そうなんだ……。いや、簪ちゃんってちょっとネガティブって言うか、そんなに積極的な子じゃないから、気になってね……。それで、その、簪ちゃんの事で一つお願いがあるんだけど……いい?」

 

「なんだ?」

 

「簪ちゃんは代表候補生なんだけど、専用機が無いのよ。本当なら入学にあわせて倉持技研から譲渡される筈だったんだけど、一夏君の『白式』の方に人員が全員割かれちゃって、未完成なのよ」

 

「? 一夏の『白式』は束が造って、倉持技研に渡した筈ですが?」

 

「だから、束博士が造ったISだって事で、一夏君に譲渡されるまでの限られた時間で解析する為に、研究所の人員が全員そっちに割かれちゃったの。もしかしたら、男性でも使えるISが造れる可能性だってあったんだから尚更よ」

 

いや、どちらにせよ全員割かれるってありえないだろ。幾ら世界でも類をみない希少なケースとは言え、仕事をほったらかすなど研究員の正気を疑う。

 

「それで、簪ちゃんは一人でISを組み立てようとしてるの。多分、私がそうしたから、意識しちゃってるんだと思う。私は結構、虚ちゃんや薫子ちゃんの力を借りたから、完全に一人で組み立てたって訳じゃないんだけど……」

 

「……つまり、俺に簪のISを組み立てるのを手伝って欲しいと?」

 

「ふざけんなネコ女。ゴクロー、お前が何かしてやる義理は無いぞ」

 

「……お願い! 簪ちゃんに力を貸してあげて! ちゃんとお礼はするから!」

 

「……ゴクロー、私からも頼む。受けてやってくれないか? できる事があるなら私も手伝う」

 

アンクはそんな事をする必要は無いと言うが、それでもめげずに楯無は手を合わせて頼み込んでくる。箒が一緒になって頼んでくるのは予想外だったが、箒としては楯無よりも簪に何か思うところがある感じだ。

 

「……分かった。やれるだけやってみよう」

 

「! ありがとう!」

 

パァァっと笑顔になる楯無。しかし、簪の事をよく知らないので、アンクと束に簪の情報収集を頼もう。それに目を通して、早ければ今日の夕食後にでも簪に接触してみよう。アンクは盛大に舌打ちしているが。

 

『それでは両者、試合を開始して下さい』

 

そうこうしている内に試合開始のブザーが鳴り、一夏VSセシリアの試合が始まった……のだが、一夏は開始直後にセシリアに速攻を仕掛け、セシリアは突進する一夏をひらりとかわしてミサイルとレーザーを一夏に撃ち込んでいた。一夏は「かわしたぁあああああッッ!?」と言わんばかりの表情をしている。

 

「「「「「「………」」」」」」

 

……なんと言うか、大相撲で相手力士の突進をひらりとかわして、後ろから土俵の外に押し出したような感じだ。試合が開始されて10秒も経ってないのに、一夏は結構なダメージをセシリアから貰っている。

 

「長期戦は不利と見て開幕直後の速攻か。狙いは悪くないな」

 

「だが直線的な動きの突撃など、相手の意表を突けなければカウンターの餌食だ。『瞬時加速』もまだ使えないのによくそんな選択をしたものだな」

 

「スペック上の出力では『白式』の方が『ブルー・ティアーズ』より上ですし、兄様の模擬戦を見た事が原因ではないかと思われます」

 

そう言えばセシリアとの模擬戦では、セシリアは開幕直後の速攻に弱かった気がする。一夏は俺とセシリアとの模擬戦を見ていたらしいから、情報収集するにあたってそれが弱点だと思ったのかも知れない。

 

「その思い切りの良さは見習いたいところだな」

 

「うむ。一太刀に勝負を賭けるとは、一夏も男らしい所があるではないか」

 

「それはどうだろうな。ビギナーは勝つか負けるか分からない不安定な状況を嫌う。だから直ぐに腹を括って、一か八かの手段を取りたがる。その方が楽だからな」

 

「一撃入れれば勝負を決められる力が自分にある事を自覚している事もあるだろうな」

 

俺と箒が一夏の選択を高評価した一方で、アンクとマドカは安易な選択だと意見が分かれる。ビギナーが経験者に挑むのだから、ある程度機体の能力に頼った戦い方になるのは仕方が無いと思うのだが……。

 

そんな一夏は、奇襲が失敗したと見るやアリーナの壁に向かい、地面すれすれで壁を背にして、常にセシリアに目を向けて常に移動している。

 

「攻撃方向を限定させるつもりだな」

 

「そうね。背面と下方向から攻撃できないようにしているわね。素人の一夏君が思いついたとは思えないから……彼にISを教えた人が教え上手なんじゃないかしら」

 

アンクに調べて貰って分かった事だが、一夏にISを教えた三年生は、IS学園に居る20人程度の代表候補生の一人で、名前は『千歳燕【ちとせ つばめ】』。専用機持ちではないが、一夏の戦いぶりを見ると、確かに人にモノを教えるのが上手いのだろう。

 

攻撃方向を前方に集中させた一夏は、本体から離れたレーザービットから放たれるレーザーをブレードで弾いて、4基のレーザービットとセシリア本体を狙っているが、中々上手くいかないようだ。それでも、我武者羅に動いて消耗するよりはマシだろう。

 

「あのBT兵器とやらは、スピードもあるみたいだな」

 

「いえ、移動速度自体はそんなに速くはないわ。彼女はビットと相手の距離を一定に保っているのよ。所謂、『何があっても対応できる距離』ってやつね。それにしても彼女、上手く動かしているわ。ゴクロー君、彼女に何を教えたの?」

 

「……色々と」

 

箒のBT兵器の感想に楯無が詳しく解説するが、俺に対してセシリアに何をやったのかと質問が飛んでくる。ほんの一週間程度だが、セシリアにはコツと言うかアドバイスと言うか、言葉の通り色々と教えておいた。

 

 

 

何度か模擬戦を繰り返した後の休憩時間の事。余りにもビットのレーザーが当たらないので、セシリアがその理由を聞いてきた事があった。

 

「直線的な軌道とは言いましても、レーザーは光速ですわ。どうして、そんなに避けたり弾いたり出来るのですか?」

 

「俺は飛び回るビットよりも、セシリアの目を見て判断してる」

 

「わたくしの目、ですか?」

 

「そう。格闘技と同じだ。相手の目や表情を見て相手の狙いを読む。そして撃ってくるタイミングや隙を判断する。幾ら数が多くても攻撃命令を下すのは司令塔のセシリアだから、セシリアに注意すればいいってこと。慣れるまで難しいが、コツを掴めばなんとなく分かる様になる」

 

「……そうは言いましても、ゴクローさんはフルフェイスで、表情が分かりませんわ」

 

「その場合は、相手の姿勢や動き、癖を見つけて先読みするとか、工夫する必要がある。兎に角、相手を見続けて考え続けることが大事だ。そうすれば突破口が見えてくる」

 

 

 

こうして、セシリアに観察眼を養う事をアドバイスした。だからこそ、セシリアは一夏の目や姿勢を見て、一夏が開幕直後の速攻を狙っている事を読み、迎撃する事ができたのだろう。

 

セシリアは一夏をレーザーとミサイルの弾幕で寄せ付けず、一夏は攻撃を被弾する事無く捌いている。すると、4基のレーザービットの内、1基だけ動きが鈍くなっている事に気が付いた一夏。それをチャンスと見て、一夏がそのレーザービットを破壊した……と思ったらそれは囮だったらしく、またもやレーザーとミサイルの集中砲火を喰らっていた。

 

「あからさまな罠だな。私と『青騎士』なら今ので決まっていたぞ」

 

「いや、マドカの場合は囮を使う必要がないだろ」

 

レーザービットが8基ある上に、『偏光制御射撃』が使えるマドカなら、開始一分以内に一夏を蜂の巣にしてしまうだろう。一夏は再び、アリーナの壁を背に距離をとってセシリアと戦っている。

 

「ビットを破壊して相手の手数を減らすつもりだったと思いますが、余計に追い込まれてしまいましたね」

 

「逆に言えば、罠を使わなきゃ一夏君に有効打を与えられなかったとも言えるわね」

 

「しかし、馬夏の動きは逃げ惑うような動きじゃない。何か狙ってやがるぞ」

 

アンクの言葉通り、一夏は3機のレーザービットがエネルギー切れを起こし、エネルギーを補給する為に本体へ戻る時を狙って、セシリア本体へと突撃していった。

これまでレーザービットが本体へ戻りエネルギーを補給する間、セシリアはビームライフルとミサイルで一夏を攻撃・牽制していたが、ミサイルは弾切れのようで今はビームライフルのみで対応している。

 

「弾幕が薄くなるタイミングを狙っていたようね」

 

「不味い! 馬夏が勝っちまうぞ!」

 

「どうかな……」

 

必殺の『零落白夜』を発動し、逆袈裟払いの体制でセシリアに突撃する一夏を見てアンクが騒ぐ中、俺はセシリアの表情を見て何かあると確信していた。

 

 

 

セシリアと何度か模擬戦をしてから、俺が思った事をセシリアに指摘していた。

 

「セシリアに決定的に足りないと感じるのは二つ。一つは意外性だ」

 

「意外性ですか?」

 

「ああ。セシリアは基本に忠実で、セオリー通りの戦い方をする。中・遠距離戦のお手本と言っても良い。教科書で販売されたら、即日完売するレベルだ」

 

「そ、そうですか。ま、まあ、わたくしならそれ位当然ですわ!」

 

「だが、セオリーに沿ったやり方って事は誰でも知っている戦い方だって事。つまり、ああすればこうする、こうすればああするって感じで、相手に自分の次の手を先読みされるリスクがある」

 

「……ま、まさか、それで接近を許してしまいましたの?」

 

「それでも手数が多いから、普通ならそれでカバー出来る。だが、相手の強さによっては、キレイ過ぎるやり方はむしろ弱点になる。それと、近接装備を一切使わない事も問題だ。じゃんけんで相手がグーとパーしか出してこないと分かれば、とりあえずパーを出しておけば引き分けに持ち込める。逆に此方がチョキを出さないと相手が油断しているなら、それは付け入る隙になる」

 

「………」

 

「更に、お前には勝利への渇望が足りない。勝ちに飢えていないとでも言うのかな」

 

「あの、それはハングリー精神と言えばよろしいのでは?」

 

「……そうだな。兎に角、お前がISの世界で上を目指すなら、今よりもずっと、今よりももっと、誰よりも気高く、勝つことに対して飢えなければ勝てない。

この世界では上に行けば行くほど、理不尽な連中がうようよいる。それらの理不尽に勝利する事が一流の条件だ。ブレード一本で世界を制した織斑先生がその典型だな。その点で言えば、織斑先生は誰よりも勝利に飢えている人間だと言える」

 

特に『零落白夜』などその理不尽の最たるモノだろう。なにせ、生きている限り相手に一撃入れるだけで、試合の勝敗をひっくり返せるのだから。

そして、織斑先生は文字通り、勝つことで色々なモノを手に入れた人間だ。織斑先生の勝利への渇望は並大抵のモノではない。

 

「勝利への渇望……」

 

「そう、気高さを兼ねた勝利への渇望。それを持てば、セシリアはもっと強くなると俺は思う」

 

 

 

セシリアは急接近する一夏に向かって手にしていたレーザーライフル『スターライトmkⅢ』を投げつけた。唯一の武器を投げ捨てた事で一夏は驚きの表情を見せるが、回転して向かってくるレーザーライフルを逆袈裟に切り裂いて真っ二つにした。

 

しかし、それこそがセシリアの狙い。セシリアは武装名を宣言し、近接ショートブレード『インターセプター』を召喚。一夏に向かって突撃し、両腕を下から振上げてがら空きになった胴体にショートブレードの一撃を叩き込んだ。セシリアの一撃を受けた一夏は地面に落下。『白式』のシールドエネルギーはゼロになり、試合終了を告げるブザーとアナウンスがなった。

 

『試合終了。勝者――セシリア・オルコット』

 

「驚いたな。近距離なら一夏に分があると思っていたが」

 

「だから油断して漬け込まれた。明らかに勝利を確信した顔をしていたぞ」

 

「確かに、落された時に『そんな馬鹿な』って感じの顔してたわね」

 

「……まあ、一夏も結構、善戦したと思うぞ」

 

傍から見ればセシリアの完全勝利だが、代表候補生のセシリアが一切油断していなかったにも関わらず、たった一週間の訓練であれだけ粘れたのだから、一夏も大したものだと思う。

 

「そうですね。始めて一週間にしては上出来かと」

 

「ふは、ふはははッ! これでアイツは馬夏のままだ!」

 

試合の感想を各々が述べる一方で、心底面白そうにアンクが笑う。俺としては事故が起こらなくて何よりだった。

 

 

●●●

 

 

今日の束の晩御飯はクロエと箒が担当しているので、珍しくマドカと二人。食堂で二人用のテーブルで向かい合って食べている。考えてみれば俺とマドカの二人と言うのは、かなり稀なシチュエーションだ。

 

「それで? どうするつもりだ?」

 

「とりあえず簪を部屋に呼んでIS大戦の映像データを見せて、俺の事を正確に知ってもらおうと思う。後から真実を知って、騙されたって思うかも知れないし」

 

アンクと束に頼んだら、簪の情報は直ぐに集った。相手は更識だというのに、この手腕は流石の一言だ。それから判断するに、悪に対する価値観が楯無とは違う様に思える。

 

簪は勧善懲悪系のヒーローアニメの類が好きで、特撮系も大好物らしい。つまりは、簪は俺と同じ趣味を持った人間だった訳だ。そう考えると『変身一発』を渡した理由は、ヒーロー然とした『オーズ』をそれらと重ねているのではないだろうか。

実際、簪の俺を見る目が何かに似ていると感じていたが、その事を知って織斑先生を見るクラスメイトと同じものだと気が付いた。つまり簪には憧れがあるのだ。

 

正直言ってコレは不味い。『BLEACH』のヨン様こと藍染惣右介は「憧れとは理解から最も遠い感情である」と言っている。確かに、憧れとは下手をすれば自分の理想を他人に押し付ける行為になりかねない。『Pumpkin Scissors』のハーケンマイヤー三等武官がその典型だろう。そう考えると簪には『オーズ』を、俺という人間が何をしてきたのかをしっかりと理解してもらう必要がある。

 

もっとも真実を知って、『仮面ライダー鎧武』の闇ッチの様に「アンタにヒーローの資格なんて無い!」とか言うかも知れんが……。

 

「……私も一緒に居た方が良いか?」

 

「いや、その場に居ない方が良いと思う。場合によってはお前の事も話すことになるが、それでも良いか?」

 

「それは構わん。だが相手は更識の人間だ。油断するなよ」

 

「……まあ、警戒はしておく」

 

どう見ても簪が荒事に慣れているようには見えないが、マドカなりに心配してくれたのだろう。

 

「そ、それとだ……」

 

「?」

 

「わ、私は、お前の味方だからな!」

 

うん。やっぱりマドカは良い子だ。

 

食べ終わるとマドカと別れ、一人で簪の部屋を訪ねた。「見せたいものがあるから部屋に来て欲しい」と言うと、「準備して部屋に行く」と言われて追い返された。そこで部屋に戻ると、セシリアが部屋の前にいた。

 

「セシリア? 何か用か?」

 

「あ、えっと、実はお話したい事がありまして……」

 

「……分かった。お茶でもシバこうか」

 

「お、おじゃましますわ」

 

部屋にはコーヒー、紅茶、日本茶、ココアとお茶菓子が常備されており、今回は紅茶を選んだ。カップとポッドを温め、お茶菓子を用意しているうちに、簪と本音がやってきた。本音は簪の付き添いか、はたまた監視役か。

 

「あ、セッシーもいる~」

 

「え? オルコットさん?」

 

「あら? 更識さん?」

 

簪とセシリアの二人は怪訝な表情をしているが、本音の方は紅茶とお菓子に目を光らせている。虚とはえらい違いだ。

 

「はいどうぞ」

 

「……お上手ですわ」

 

「……うん、虚さんと同じ位、美味しい」

 

「ん~~うまうま♪」

 

「誇り高き英国紳士のバトラーのおじいちゃんから教わったからな」

 

「それは執事としての教育を受けた、と言う事ですの?」

 

「そんなところだ」

 

お蔭で俺は、最終的に『少佐にバンホーデンのココアを淹れる』と言う超重要任務を任されるまでになった。その気になればヘルシング家でもやっていけると思う。……多分。

 

「そ、それで、見せたいものって、何ですか?」

 

「簪に見せたいものは『篠ノ之束奪還作戦』の全貌だ。これを知っているのは、当事者である『NEVER』のメンバーを除けば、IS学園では織斑先生と山田先生、楯無と虚の四人だ」

 

「! お姉ちゃんに、何か言われたの?」

 

「違う。簪に俺を知ってもらう為に呼んだんだ」

 

「…………本当に、お姉ちゃんは、関係無いの?」

 

「無い」

 

あまりにも堂々と即答した所為か、先程まで簪の目に宿っていた警戒の色が抜けた気がする。実際、楯無に頼まれたのはISの組み立てだけだ。俺を理解してもらう必要など無い。だから少なくともこの事に関して楯無は関係ない……と、思っておく。

 

「わたくしは一旦席を外した方がいいのでしょうか?」

 

「……いや、丁度いいからセシリアも見た方がいい。本音もついでに見ておけ。そして、ここから先の事は口外しない方が良い」

 

気を使ってくれたのか、セシリアが退室しようとするが、セシリアにもいずれ知る必要があるだろう。セシリアを制し、俺はかつて織斑先生達に見せた映像データを三人に見せた。リアクションはそれぞれ違うが、三人とも『篠ノ之束奪還作戦』の全貌に明らかに混乱していた。

更に、映像データを見終わった後で、俺が造られた『ミレニアム』について、そしてIS学園に来るまでの『NEVER』の経緯をゆっくりと教えた。

 

「――以上が、俺が、そして『NEVER』がIS学園にいる理由だ。何か質問はあるか?」

 

まだ頭が混乱しているのか、戸惑っている雰囲気が感じられる中、簪がおずおずと手を挙げた。

 

「えっと……いいですか?」

 

「どうぞ」

 

「三組の織斑さんは、『亡国機業』のメンバーだったんですよね? どうして、織斑さんを受け入れたんですか? また、テロリストになるって思わなかったんですか?」

 

簪の言う通りマドカを危険視、もしくは不安視する声は確かにあった。生かしておけば、再びテロリストになるでは無いかと懸念するのは当然だろう。

 

「俺に言わせれば、マドカがテロリストになる確率はかなり低い」

 

「なんで、ですか?」

 

「マドカが心から求めていたのは、自分を『織斑マドカ』として認めてくれる、同じ痛みを共有できる誰かだった。そして、それを手に入れる為に戦っていた」

 

「同じ痛み?」

 

「そう。自分と同じ『造られた人間であると言う痛み』。それを共有できる存在が欲しかったんだ」

 

その言葉で三人はマドカの正体を察した。『造られた人間』としての痛み。そして、目の前のゴクローがクローン人間である事。そして同じ痛み共有できる存在……。

 

「今のマドカにはそれがある。それがある限りマドカは絶対に裏切らない」

 

「織斑先生によく似ているとは思いましたが……そう言う事ですのね」

 

逆に言えばそれを失った場合、マドカがどう言う行動をとるか分からない。その事をアンクに相談した事があるが、「仮にお前が死んだらマドカは元より、『NEVER』の連中は高確率で暴走するか、後追い自殺すると思うぞ」と恐ろしい事を断言した。

 

「それじゃ……もしも、そのシュラウドさんが捕まったら、『NEVER』はどうなるんですか? この学園から、いなくなっちゃうんですか?」

 

「それはどうだろうな。多分、保険として確保しておく可能性が高いと思う」

 

「保険……ですか?」

 

「それまでの価値観や常識を覆すような、常識の範疇で図れないような事態は突然に、そしてどんな時代でも必ず起こる。その時に正しさだけでは守れない場合、裏側の人間や非人道的な力を借りる必要がある。排除するよりも、適度に飼いならして確保しておいた方が、お互いの為になる」

 

簪は楯無ほどこの世界の裏側を知っている訳ではない。それでも更識家に生まれた彼女にそれは理解できた。もっとも、正しさだけでは守れないものがある事を知っているからこそ、簪は完全無欠のヒーローに憧れを持っていたわけだが。

 

「私からもいい?」

 

「どうぞ」

 

「シュレりんは、シュラウドさんの子供のクローンだから止めようとしてるの?」

 

「……違う。俺はシュラウドみたいな、理不尽に大切なものを奪われた人達の憎しみを何とかしたかったんだ」

 

実際、シュラウドに対して母親の様な感情を抱いた事は一度も無い。そんな風に接すると、逆にシュラウドが辛くなると思ったからだ。

俺は全ての人間を救えるなんて思っていない。この世には救い難い愚か者がいる事も、救わなくていい人間がいる事も知っている。しかし、そこに何かしらの事情があるなら、出来る限り救われて欲しいと思っている。

 

「でも、理不尽に大切なものを奪われた人間は、ずっとその不幸を抱えて生きる。そしてその原因を作ったものを憎んで、それが滅ぶ事を心から望んでいた。それ以外に悲しみを慰める方法が無いのだと言わんばかりに。俺はそれをなんとかできないかと色々な事を考えて、色々な事をやってきた」

 

「……それでも、止められなかったのでしょう? それなのに、どうして貴方は諦めないのですか?」

 

家族を失う痛みは知っているセシリアにとって、シュラウドの境遇は同情すべきものだと思う。それが人為的に引き起こされたのだとしたら、その原因を恨まずにはいられないと思う。現に両親の死で陰謀説が囁かれた時、その可能性が否定されるまで、セシリアはその架空の犯人を心から恨んだ。

 

「……もしも自分のやった事が全て無駄に終わるとしても、それが絶対に変えられない未来なのだとしても、それは諦める理由になるのか?」

 

「え……」

 

「確かに、この世にはどうにもならない事がある。どう足掻いても変えられないものもある。それでも、町で親子連れを寂しそうに見ていたシュラウドや『ミレニアム』の仲間に対して、何もしないと言う選択肢は俺には無かった。

それが無駄かどうかなんて問題じゃなかった。例えその結果が無駄だと知っていても、俺は自分に出来る限りの精一杯やると決めた。それが俺の決めた生き様だ」

 

「生き様……」

 

「ああ、生き様だ」

 

今やシュラウドはISによって造られた社会を、この世界そのものを憎み、心から憎んだ相手と同じ存在になろうとしている。出来るならそうならないで欲しい。だが、もしもそうなったなら、戦うしかない。

 

誰かの自由と未来を守る為に戦う、『仮面ライダー』としての道を選んだのだから。最後までシュラウドに関わると決めたのだから。

 

しんみりとした空気が流れる中、その空気を変えようと思ったのかどうかは分からないが、本音が予想外の爆弾を投下した。

 

「シュレりんは、しののんと付き合ってるの?」

 

「「!!」」

 

「……なんでそう思った?」

 

「だって、『彼女キター』って言ってたから」

 

そこに注目するのか本音。織斑先生達も触れなかった俺の黒歴史を。

 

「ゴ、ゴクローさん、ど、どうなんですの!?」

 

「う、うん! どう、なの!」

 

迫るセシリアと簪に対して、俺の「彼女キター」発言は極限状況で錯乱していたのだと懇切丁寧に説明した。すると、クロエが部屋に戻ってきた。後30分くらいで消灯時間だと言う事で、お茶会はお開きになった。

 

「しかし、意外だったな。罵声の一つでも浴びせられると思ったんだが」

 

資料を見た限りでは、セシリアにとってISは両親の財産を守る為の手段で、簪にとっては姉である楯無に並ぶ為の手段。

そのISを打倒する為に作られた力が『オーズ』だ。『800年前の王』の様に新世界の創造主を目指し、旧世界の破壊神となるつもりは無いが、それを使う自分を良く思うとは考えられない。しかも、俺自身は悪の秘密結社が造り上げた最強の改造人間。忌み嫌われて当然だと思っていたのだが……。

 

『……お前、本気でそう思ってんのか?』

 

「いや、普通は悪の組織の改造人間が味方だって言っても、簡単には信用しないだろ?」

 

具体的にはチェイスに対する詩島剛みたいに敵対心バリバリになると思うのだが。

 

『普通ならそうだろうが、あの二人……いや、三人もこの世界の汚い部分をそれなりに知っている。そこら辺の人間と同じ価値観を持っているとは思えんが』

 

言われてみればそうかも知れないが……。兎に角、当初の目的である、俺を知ってもらう事には成功したと思いたい。

 

 

○○○

 

 

私は本音と別れた後、寮の自室で彼と『オーズ』を目にした日の事を思い出していた。

 

入学して一週間後に、一年一組のゴクロー・シュレディンガーさんと言う男の人が、ロシアの代表操縦者であるお姉ちゃんと戦うと聞いて、一体どんな人なのだろうと思った。

 

その人は入学初日から噂になっていた。なんでも、イギリスの代表候補生のセシリア・オルコットさんが、不用意な発言で篠ノ之束博士を怒らせたらしく、それを上手く立ち回って円満に解決したらしい。

 

翌日の昼休みになると、ゴクローさんが篠ノ之束博士をテロリストから一人で守った事。そして『NEVER』の人間だと言う事が噂になっていた。そんなゴクローさんが、オルコットさんと模擬戦をやると聞いて、興味本位でアリーナへ見学に行った。

 

無数の飛び道具を持つ相手に対して、一本の剣だけを使って自分よりも大きな相手と戦うその姿は、まるでアニメや特撮のヒーローの様だった。クラスメイトが『ブリュンヒルデ』に憧れたように、私は『オーズ』に憧れた。

 

だから、お姉ちゃんに勝って欲しくて、試合の前に特性のドリンクを作って手渡した。一人では怖くて、本音に一緒に来てくれるようにお願いしたら、本音は快く引き受けてくた。

もし、いらないって断られたらどうしようと不安だったけど、ゴクローさんがちゃんと受け取ってくれて嬉しかった。

 

そのゴクローさんから語られた話は、私にとって、とても衝撃的なものだった。

 

対ISを掲げるナチスの残党で構成された悪の秘密結社。ISを打倒する為に造られた対ISの為の兵器。様々な奇妙な実験で生まれたクローン人間。篠ノ之束博士奪還作戦の真実。『亡国機業』との因縁。シュラウドと言う復讐鬼の存在。

 

そして、正義の為ではなく、人間の自由と未来の為に戦う『仮面ライダー』と言うヒーロー。

 

「仮面ライダー……。仮面ライダーオーズ……仮面ライダーエターナル……」

 

確かに彼は悪と同じ存在なのかも知れない。

確かに彼は悪から生まれた存在なのだろう。

それでも私にとって、『仮面ライダー』は間違いなく、私の理想を体現するヒーローそのものだった。

 

……でも、本当は戦いたくない相手と、助けたかった相手と戦っているのだと分かってしまった。大切な人を失った痛みから生まれた憎しみを何とかしたい。復讐と言う正義に駆られて生まれる憎しみの連鎖を何とかしたい。

 

しかし、それを何とかできなかった場合どうするのか。その時は戦ってでも止めるしかない。そう言う覚悟が無ければ、憎しみに向き合うことなど出来ないんだと思った。

 

『シュレりんの中はずっと雨が降ってるんだね』

 

部屋に戻る途中で本音は彼をそう評した。その通りだと思う。心の中ではずっと雨が降っているんだと思う。他に何か方法は無かったのかって、ずっと後悔しているんだと私は思った。

 

そんなヒーローの力になりたい。でも、私にはその為の力が無い。どうしても戦う為の力が、ゴクローさんが出来るだけ傷つかないで済む為の力が欲しいと思った。

 

「……お姉ちゃん。お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

 

私はその為に、今まで頑なに拘っていたプライドを捨てた。

 

 

○○○

 

 

お礼を兼ねて夕食後に素敵なティータイムを……そんな事を思っていたのですが、そんな優雅な時間を過ごす事は叶いませんでした。しかし、予定を狂わされた不快感は無く、わたくし、セシリア・オルコットは物思いに耽っていました。

 

「………」

 

思えば初日に初めて見た時から何処か気になっていた。外交問題に発展しかねない自分の失態を収め、尚且つ自分のやる気を評価し、自分がクラス代表になる手伝いをすると言った男性。

 

あれから色々な事を教えてもらった。模擬戦においてブレード一本で戦っていたのも、明らかにわたくしの対織斑一夏戦を想定してのもの。どこから情報を得たのかは知りませんが、あそこまで真摯に付き合ってくれた人間がいたでしょうか。厳しい事も言われましたが、その対応がどこか母を思い出させるのも気になりました。

 

クラス代表決定戦が終わった後で部屋を訪ね、都合よく二人きりで話し合いが出来ると思ったら、予想外の珍客が二人。どうやら、ゴクローさんは更識さんと面識があって、何か見せたいものがあったようでした。

 

その見せたいものは『篠ノ之束奪還作戦』の全貌。そして、彼がIS学園に来るまでの過去。映像の中で、絶体絶命のピンチの中にいても決して諦めない、激しく燃える赤い炎の様な強い意志を感じさせる瞳は特に印象的でした。

 

しかし、良いお話ばかりではありません。対ISの為に造られた存在と、祖国からISを奪取した組織の元テロリスト。国防に関する重大な過失を隠蔽した祖国と、迫りくる脅威に対抗する為にそれらを受け入れた国際IS委員会とIS学園。

 

何が正しくて、何が間違いなのか分からなくなってしまいそうです。

 

ただ、お二人が生きる為には、それ以外に選択の余地が無い『抜き差しなら無い状況』にあった事は理解できます。両親の財産を守る為に、テストパイロットになる他なかった、わたくしのように……。

 

そして束博士と織斑先生を、このIS社会を憎むシュラウドについてのお話で、シュラウドを止められなかったのに、どうして諦めないのかと聞いた時、「無駄かどうかなんて関係ない。自分の決めた信念や思いを生き様として貫き通す」と語るゴクローさんの瞳は、映像の中とは違う、静かに燃える青い炎の様な強固な意思が感じられました。

 

それはかつて、父が一瞬わたくしに見せた深く悲しい眼差しを、どこか母を見る父を連想させました。

 

母は強い人だった。ISが登場する以前から、幾つもの会社を経営し成功を収めた憧れの人。ISが登場して女尊男卑の社会になったことで、母はより強い力を得た。

 

しかし、その事で、ゴクローさんが言う『強くなる度に優しさを忘れていく人間』に母がなっていたのだとしたら?

 

その事が当時のわたくしには何よりも誇らしかったが、父はもしかしたらそんな強くなっていく母を心配していたのでは無いだろうか?

 

わたくしが気付かなかっただけで、母は少しずつ、どこかおかしくなっていたのでは無いだろうか?

 

思えば、母は段々と父を鬱陶しそうにしていたが、果たしてそれは父の態度だけが原因だったのだろうか?

 

三年前に列車の横転事故で亡くなった時。どうして別々に暮らしていた二人が一緒に居たのかずっと不思議に思っていましたが、もしも、もしも父と母が和解していたのなら、父のそんな思いが母に届いていたのだとしたら……。

 

「……きっと、きっと届いたはずですわ」

 

名家へ婿入りし、多くの引け目を感じていたであろう父。それでもきっと、父は自分の信念を、自分の生き様を、そして母への思いを貫いたのだと思う。ゴクローさんが自分の信念を、自分の生き様を、シュラウドへの思いを貫こうとするように。

 

生まれて初めて、父が秘めていた強さを知ったような気がしました。

 

 

○○○

 

 

翌日の朝。楯無が寮の部屋に物凄い勢いで突撃してきた。

 

「簪ちゃんが! あの簪ちゃんが、私に専用機を組み立てるのを手伝って欲しいって、昨日の夜に私に言ってきたの!」

 

やたらハイテンションで嬉しそうに語る楯無を、寝起きで捌くのはとても大変だった。俺は『ソウルイーター』のエクスカリバーを特にウザイと感じず、面白おかしく見ていたクチだが、今の楯無はぶっちゃけ超ウザイ。クロエも鬱陶しいのか、楯無をジト目で見ている。しかし、空気が読めないのか、楯無はそんな事はお構い無しだ。

 

「本当に、本当にありがとう! 早速今日の放課後から始めるから! 詳しくは本音に聞いてね!」

 

言うだけ言って楯無は嵐の様に去っていった。言われた通り休み時間の内に本音に、昼休みに簪本人に聞いておこう。後、念の為に虚にも聞いておこう。

 

「クラス代表はオルコットさん。代表補佐はシュレディンガーくんに決定しました」

 

朝のSHRで山田先生が嬉しそうに、昨日のクラス代表決定戦で決定したクラス代表を改めて告げる。クラス代表を決めるのにこれだけ時間が掛かったのは一組位だから、漸く終わったという感じなのかも知れない。

 

「セシリア、改めて一年間よろしくな」

 

「ええ、宜しくお願いしますわ」

 

一週間前はぎこちない動きでやった『友情のシルシ』を、今度は流れるような動きでセシリアとやる事が出来た。




キャラクタァ~紹介&解説

596&マドカ
 クローン人間コンビ。お互いの境遇がよく似ている所為か、結構仲が良い二人。しかし、二人で組ませる機会が中々思いつかなかったのが作者の悩み。クラス対抗戦の前に、マドカの専用機『青騎士』を登場させたいところ。

楯無&簪
 更識姉妹コンビ。普通に簪の専用機開発に596が関わっても面白くないので、そこに楯無達を加えてみた。簪からの自分を頼る電話を貰うという予想外の結果に、楯無は喜びの余りコロ助と化し、「はじめてのチュウ」を歌いながら虚の部屋に突撃した(3秒後、虚の冷たい視線で正気に戻った)。

束&箒
 篠ノ之姉妹コンビ。仲の良い所を書く予定は結構あったのだが、基本的に『NEVER』の拠点から動かない束と箒を絡ませるのは思ったよりも大変だと最近気が付いた。
束の世話は、596とクロエと箒がローテーションを組んでやっている。マドカや千冬もそれなりの頻度でやってくる。そう考えると、この作品である意味一番ハーレムしているのは束。主に女王蜂的な意味で。



コアメダル
 欲望の結晶。恐怖により欲望の力が増す設定は、小説版『仮面ライダーオーズ アンクの章』の800年前の王の台詞から引用。596にとっては無限回廊の様な罠ともとれる仕様だが、逆に言えば失う恐怖の無い人間ではコアメダルを強くする事は不可能。

クラス代表決定戦
 参考資料としてアニメ第一期を見たわけだが、セシリア戦よりもその後の一夏と箒の会話の方に衝撃。一夏が「束さんの妹だからISに詳しいだろうし」としっかり発言したのに対して箒がかなり嬉しそうにしていたのを見て、作者は「つまり、どう言う事だってばよ!」状態になった。


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第15話 Journey through the Decade

投稿するのが不定期になった所為なのか、一話当たりにつき、15000字位書かないと気が済まなくなっている気がする。最初は一話当たり10000字を目指していた筈なのになぁ……。



「それでぇ~お嬢様はぁ~……」

 

「……うん。大体分かった」

 

楯無から言われた通り、本音から詳細を聞いてみた。独特な超のんびりとした説明はかなり時間が掛かった。

 

「それで~シュレりんも~、かんちゃんのこと手伝ってくれるの~?」

 

「まあな。箒も手伝える事があるなら手伝うって。虚も手伝うのか?」

 

「ううん~。お姉ちゃんは生徒会のお仕事~。でもでも~、お嬢様がお姉ちゃんの代わりになる整備課の人を呼ぶって~」

 

虚は整備課のエースであり、『分解の虚』と呼ばれているそうだ。是非とも『溶解』と『理解』を習得して、二つ名を『三解の虚』にグレードアップしてもらいたい。

……あれ? 考えてみれば、束なら既に『三解』が出来そうだな。キャラ的にも「束さんは君達の造物主だよ~ん」とか言って世界中のISを『理解』させる事が出来そうだ。

 

「本音は生徒会に行かなくていいのか?」

 

「私はね~、いない方がお姉ちゃんの仕事が捗るんだ~」

 

「……そうか」

 

本音からとても生徒会役員とは思えない台詞が飛び出してきた。……まあ、気兼ねなく簪に協力できる立場にあるのだと思っておこう。

 

 

●●●

 

 

そして昼休み。本音曰く、『基本的に昼は教室でパンを食べるタイプ』の簪に会うべく、箒と本音の三人で四組へ向かう。その為、今日の昼飯は購買から買ったパンとコーヒー牛乳だ。

四組の教室に入ると、一番後ろの窓側の席で空中投影ディスプレイを見ながらキーボードを叩く簪がいた。しかし、簪の雰囲気がどこか違う。例えるなら、プライドを吹っ切って鴻上ファウンデーションに出戻った5103みたいだ。

 

「かんちゃ~ん。みんなで一緒にお昼にしよ~」

 

「……本音? あ、ゴクローさん……」

 

「よっ。今日の放課後について話したいんだけどいいか?」

 

「は、はい……」

 

「私とは初対面だな。篠ノ之箒だ。宜しく」

 

「う、うん。更識簪です。宜しく……」

 

箒と簪がそれぞれ自己紹介し、適当に椅子を調達して簪の机の周りに陣取って、早速簪のIS『打鉄弐式』についての詳細を聞き出す。

 

「それで『打鉄弐式』はどこまで出来てるんだ?」

 

「外観は大丈夫……でも、武装と稼動データがまだ……だから、実戦は無理なんです……」

 

「武装は?」

 

「連射型荷電粒子砲『春雷』と……マルチロックオンシステムを使った、独立稼動型誘導ミサイル『山嵐』……その二つが問題で……」

 

ふむ。マルチロックオンシステムなら『パンツァーユニット』に搭載されている。しかも、実際に専用機を含めた複数のISに対して使用し、撃墜した実稼動データ付きだ。

 

そして連射型では無いが、荷電粒子砲は『バーサークユニット』に搭載されている。『バーサークユニット』は全パッケージの中でも最後に造られたモノで、高速回転ドリル、高出力ビーム砲、エネルギーシールド、そして荷電粒子砲が一つになった攻防一体の武装「バスタークロー」が背面に二基装備される。

 

本来「バスタークロー」には荷電粒子砲が搭載されていない筈なのだが、俺が少佐達に「玩具のパッケージとかスペックデータ見ても全然書いてないんですけど、アニメ版だと『バスタークロー』からも荷電粒子砲が撃てる様に見えるんですよね~」と言ったのが原因かも知れん。

 

この荷電粒子砲はセルバーストを用いたエネルギーで起動し、射程と攻撃力を重視した「集束式」と、攻撃範囲と命中率を重視した「拡散式」の切り替えが可能になっている。

おまけに「バスタークロー」をビットの様に本体から切り離し、遠隔操作でドリル状に回転し敵に向かって突撃させる事も出来る。開発が最後期とは言え、ドク達は色々と頑張り過ぎている気がする。

 

別にプトティラコンボ専用パッケージと言う訳でもなかったので、IS大戦が起こる前に束のラボで居候していた時期に練習目的で一回だけ使ったが、どう贔屓目に見ても元ネタ以上に殺る気満々なパッケージに仕上がっている為、実戦でも模擬戦でも一切使っていない。

 

余談だが荷電粒子砲の試し撃ちの際、俺は「戦いの神ガタック」に酷似したデザインのクワガタヘッドを使い、『ARMS』で「戦いの神」を自称するキース・シルバーの様な気分で「本当の砲撃と言うものを見せてやる! これが我が破壊の力! 『ブリューナクの槍』だあああああッッ!!」と叫んで撃った。カナリアは飼ってないけど、赤い鳥ならいるし。

もっとも、後で録画映像で見たその姿は、『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』のイリスを髣髴とさせたが。

 

「マルチロックオンシステムはあるが、コッチは固定砲台として使用するコンセプトになっている点が『打鉄弐式』と異なるな。それと荷電粒子砲もあるが連射型じゃない。出力制御や特性把握のサンプルには使えるが……それでもいいか?」

 

「は、はい……その、むしろ、いいんですか?」

 

「問題ない。近接装備は?」

 

「対複合装甲用超振動薙刀『夢現』。こっちは、完成してます」

 

「ふむ。『シュナイダーユニット』に似たようなのがあるけど、完成しているならいいか」

 

「あの……その、興味本位で聞くんですが、『シュナイダーユニット』について教えてもらっても、いいですか?」

 

「ああ、近接格闘戦用のパッケージでな……」

 

興味津々な簪に『シュナイダーユニット』について説明する。

 

『シュナイダーユニット』は武装として、両脚の太腿部分にショートブレードが二本。背面にビームソードが二本。両腕の二の腕部分に高速振動する電磁コンバットナイフが二本。尻の位置に可変大型ブレードが一本の合計7本の剣が新しく追加される。元ネタのセブンブレードと言うより、『ガンダム00』のセブンソードの方がニュアンス的にも近い気がする。

 

電磁コンバットナイフは『仮面ライダーG3-X』の左腕に装備されている『GK-06〈ユニコーン〉』を、尻の可変大型ブレードの形状はゼロガッシャーを想像してもらえれば分かるだろうか。

また、背中に高出力イオンターボブースターとエネルギーシールドジェネレーターが搭載され、高出力のエネルギーシールドが貼れる。

 

ただし、使用すると猛烈な勢いでエネルギーを消費するパッケージであり、長時間の戦闘が不可能と言う致命的な欠点を持っている。制限が多い公式戦で使用した場合、速攻でガス欠になりかねない。

この問題は『オーズ』が対戦相手のエネルギーをセルメダルに変換して奪う事で解決するのだが、アンクとしては「稼いだセルメダルが稼いだ傍からガンガン消費されていくのが我慢ならない」との事。結果、かなり強力なパッケージであるにも関わらず使う機会に恵まれないのである。

 

「ふむ。一夏の『白式』みたいなものか?」

 

「似て非なるものだ。『白式』に似ているのはむしろ『エターナル』の方だ」

 

「……全然違います。それに、『仮面ライダーエターナル』……です」

 

俺としては『エターナル』の兄弟機とまではいかないが、『エターナル』のデータを一部流用して造られている事もあり、『白式』には色々と思う所があるのだが、簪は簪で『白式』に並々ならぬ思いがある模様。まあ、気持ちは分からんでもない。それから昼休み終了のチャイムが鳴るまで四人で『打鉄弐式』について話し合った。

 

 

●●●

 

 

放課後。箒、本音、簪の四人で第二整備室に向かった。きっと、楯無がこれでもかと首を長くして待っているに違いない。

到着した第二整備室は、それなりの数の生徒がいて中々騒がしい。和気藹々としているグループがあれば、怒号が飛び交うグループもある。

 

「結構人がいるのだな」

 

「あっちが、三年生のアメリカ代表候補生……ダリル・ケイシー先輩と、専用機『ヘル・ハウンドver2.5』……。向こうが、二年生でギリシャ代表候補生の……フォルテ・サファイア先輩と、専用機『コール・ブラッド』……」

 

「上級生の専用機か。初めて見るな……」

 

箒が専用機を興味深そうにキョロキョロと見ている傍で、簪が説明している。この二人は割りと相性が良いのかも知れんと思いながら、俺も専用機持ちのグループにチラリと視線を向ける。

 

このIS学園には、代表候補生の生徒は全学年で20人程在籍している。この内、専用機を持っているのは、三年生では、アメリカ代表候補生のダリル・ケイシーのみ。二年生ならば、ギリシャ代表候補生のフォルテ・サファイアと、ロシア代表操縦者の楯無の二人。一年生では、イギリス代表候補生のセシリアと、日本代表候補生の簪の二人で合計5人。

 

代表候補生は各国に複数人存在するが、専用機を与えられると言う事はその中でも特に優れている事の証明であり、各国が開発した最新技術と国防に関わる重要人物であると言う事でもある。

つまり、各国から専用機を渡されている代表候補生は、十中八九『オーズ』に関する情報を持っていると考えていい。それ故か、アンクは基本的に「専用機持ち=仮想敵」として認識しているとの事。

実際に第二整備室に入ってきた俺に対して、専用機持ちの二人はどこか警戒した目をしている。

 

「簪ちゃん! こっちこっち!」

 

「……お姉ちゃん」

 

絶好調な楯無を見て、若干テンションが下がっている簪。身内のテンション・フォルテッシモな姿が恥ずかしいのだろう。そんな楯無の周りに何人か生徒が集っている。リボンの色を見るに2年生のようだ。

 

「虚ちゃんがいないから、代わりに整備科の人達を集めておいたわ! このメンバーで簪ちゃんを全力でサポートするからね!」

 

「……うん。その、お姉ちゃん、ありがとう」

 

俺を含めて、簪のIS『打鉄弐式』を造る為に集ったのは全部で7名。知らない顔もいるので、初めにお互いに自己紹介していく。その中でも、俺が特に気になったのは……。

 

「二年の黛薫子です。新聞部の副部長やってまーす。これ名刺です」

 

「なら此方も名刺をどうぞ」

 

二年生の整備課のエースにして、楯無の『ミステリアス・レイディ』の制作にも関わっていた黛薫子先輩だ。ジャーナリストの卵って感じで、将来は『OREジャーナル』か『ATASHIジャーナル』にいるかも知れない。

 

「『2000の技を持つ男 ゴクロー・シュレディンガー』? まぁいっか。それと、良かったら後で特別インタビューさせてくれない?

たっちゃんを倒して学園最強になった話題の新入生にして『NEVER』のリーダー。それに『オーズ』についても色々聞いてみたいんですよ」

 

「……違います。ゴクローさんは、『仮面ライダーオーズ』で、『仮面ライダーエターナル』……です」

 

「『仮面ライダー』? それに『エターナル』? どう言う事?」

 

何故かやたらと「仮面ライダー」に拘り訂正する簪に、怪訝な顔をする黛先輩。しかし、どう説明したモノか。

 

ミレニアムにとって「仮面ライダー」とは対ISを目的として造られた兵器だ。それは開発コードの様なもので、『仮面ライダーオーズ』においてバースシステムが「仮面ライダーバース」の名称で造られていたのとあまり変わらない。馬鹿正直に話して良い内容ではない。

 

一方、俺にとって「仮面ライダー」とは一つの生き様であり在り方。そして一つの称号だ。とは言うものの、それを説明するのは自分の出自に関わるので、これもやはり馬鹿正直に話す内容ではあるまい。

 

ちなみに、名刺が『クウガ』の五代雄介スタイルなのは、『龍騎』の佐野満スタイルだとトラウマ必至の悲惨な最期を迎えそうだからだ。ちなみに2000の技はしっかり習得したから嘘ではないし、2000番目の技は当然『オーズ』への変身だ。

 

『そんなのは良いから適当に濁して説明しておけ』

 

「……『仮面ライダー』とは開発コードだ。今から約7年前に始まった『仮面ライダー製造計画』。『オーズ』はその計画で生まれたから『仮面ライダーオーズ』って訳だ」

 

「それじゃ、『エターナル』って言うは?」

 

「その計画で造られた試作品の仮面ライダー0号の事だ」

 

「0号。えっと……良かったらそれ見せてもらえると嬉しいかな~なんて。あ、写真でも動画でも何でも良いんですけど……」

 

写真どころか現物が常に手元にあるのだが、どうするべきか? 正直ここで変身した方が手っ取り早い気がするが、変身してもいいのだろうか?

 

『問題無い。お前がドライバーを二つ持っている事はIS委員会にバレてる』

 

それもそうだな。結論が出たところで、早速ロストドライバーとエターナルメモリを取り出し、ロストドライバーを装着。久しぶりに『仮面ライダーエターナルRX』への変身を決意し、エターナルメモリのスイッチを入れる

 

『ETERNAL!』

 

「え!? な、何!?」

 

「変身!」

 

『ETERNAL!』

 

ロストドライバーにエターナルメモリを装填し、払いのける様にメモリスロットを倒す。すると体の周りで風が巻き起こり、赤い炎のエフェクトの発生と共に『仮面ライダーエターナルRX』への変身が完了する。

しかし、少佐が言ったように「仮面ライダー! エターナッ! アーエーッ!」と言う気にはなれない。RX的なポーズも却下だ。

 

『おぉ~~~~~~~~~~~~!』

 

「やっぱり……カッコイイ……」

 

「うむ。特にあのマントが良い」

 

「うわぁ、なんか『オーズ』とは全然イメージが違う……」

 

「なんか『白騎士』より『白騎士』って感じがするわよね」

 

『仮面ライダーエターナルRX』に変身した事で、第二整備室の全ての人間の視線が俺に対して向けられている。そこら中から感嘆する声が聞こえ、携帯電話を取り出して写真を撮っている奴も見える。

 

「ね、ねぇ! 何か決め台詞とかあったりするの!?」

 

黛先輩にそう言われて、左手にプリズムビッカーを召喚。プリズムメモリを柄に突き刺してプリズムソードを右手で引き抜く。そして目の前に敵がいるつもりで、プリズムソードの切っ先をその敵に向けて、決め台詞を言ってみる。

 

「さあ、お前の罪を数えろ!」

 

『きゃああああああああああああああっっ!!』

 

「…………」

 

「簪ちゃん!? どうしたの!? しっかりして! まさか、気絶してるの!?」

 

……イカン。収拾がつかなくなってきた。しかし、ケイシー先輩がビクンッと大きく反応していたのは何故だろうか?

 

 

 

猛烈な写メの嵐を乗り切り、気を取り直して簪のIS『打鉄弐式』の制作を開始する。俺と箒は機材室から必要となる機材を第二整備室へ運ぶ肉体労働が担当だ。

 

「箒ちゃん! そっちのケーブル全部持ってきて!」

 

「はい! 只今!」

 

「シュレディンガーさん。こっちに特大レンチと高周波カッター持ってきて下さい」

 

「よし来た!」

 

「ふゆぅ。液晶ディスプレイ8個と小型発電機をお願いしますぅ」

 

「よし、液晶ディスプレイは俺に任せろ!」

 

「なら私は小型発電機だな!」

 

俺と箒は簪をサポートする先輩達の指示の元、機材室と第二整備室を全力で往復していた。一人で運べないと判断した時は、二人で協力して機材を運ぶ。

 

「あふぅ。篠ノ之さん、超音波検査装置をお願いしますぅ」

 

「分かりました!」

 

「シュレディンガーさん。髪留め、付け直して下さい」

 

「任せろ!」

 

「篠ノ之! ダッシュでデータスキャナー借りてこい!」

 

「はい! 全速力で!」

 

「わはぁ。シュレディンガーさぁん。お菓子食べさせてくださぁい」

 

「よし来た!」

 

「篠ノ之さん! こっちにレーザーアーム!」

 

「これですね!」

 

「シュレディンガー! こっちにジュース飲ませろ!」

 

「了解だ!」

 

「……ちょっと、待て。何かおかしく――」

 

「ゴクロー君! 生徒会の副会長になって!」

 

「任せろ!」

 

…………ん?

 

「今何かおかしな事を言わなかったか?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「いや……むしろ……ハァ、もっと前から……おかし、かったろ……」

 

俺の方がおかしいと言わんばかりの雰囲気の中で、肩で息をしている箒がツッコミを入れる。そう言われてみれば、途中から箒ばかりが機材室に行かされていた様な……。

 

「ほら、IS学園の生徒会長とは、『全ての生徒の長であり最強』って事で、生徒会長を倒した人は次の生徒会長になれるんだけど……正直、生徒会長になりたい?」

 

「……辞退したいところだな」

 

「でしょうね。でも、そうかと言って野放しにする訳にもいかないのよ。学園の各部活から『ゴクロー君をうちの部活に入れて欲しい』って生徒会への陳情がこの二日で一気に凄い事になってるし。それで、ゴクロー君の救済処置として生徒会に入らないかって話」

 

「部活に関しては『仮面ライダー部』を新しく作ると言うのはどうだろう?」

 

「却下。そんな事したら余計に混乱するに決まってるじゃない」

 

駄目か。いいと思ったんだけどな、IS学園仮面ライダー部。しかし、生徒会か……全員が知り合いだし、居心地も悪くなさそうだ。

仮に生徒会を『キバ』のチェックメイトフォーに例えるなら、キングが楯無で、クイーンが俺。ビショップが虚で、ルークが本音と言ったところか。常識で考えればチェスのキングがクイーンに勝てるはず無いんだが……まあ、気にしない。

 

『真面目な話どうする? 生徒会に入ってネコ女の手下になるのか? 俺としてはネコ女を蹴落として生徒会長になった方が得だと思うんだが?』

 

アンクは俺が副会長になるのが不満のようだが、俺は副会長になった方が得だと思う。むしろ俺が生徒会長になった場合、反乱が起こる気がする。まあ、只ではならないけどな。

 

『ほう、少しは成長したか』

 

「副会長になるにあたって、一つ条件がある」

 

「あら。それは一体何かしら?」

 

「お前が持っている『学園最強』の扇子を貰おう」

 

「…………え? それだけ?」

 

「それだけ」

 

『期待した俺が馬鹿だったか……』

 

拍子抜けしたらしい楯無と、期待外れだと言うアンク。俺、そんなおかしい事を言ったか?

 

「もう。私とお揃いの扇子が欲しいなら、素直にそう言えばいいのに」

 

「今のお前が持っても『学園最強(笑)』ってディスられるのが関の山だ」

 

「あら、私の事心配してくれるの?」

 

……こりゃ何と言っても上手く返されるな。そんな訳で、副会長になる代わりに楯無から扇子を一本貰った。どこぞの馬面……もとい、ペガサス・ゾディアーツだった落語家の高校生みたいに、扇子を取られて逆恨みはしないと思う。多分。

 

 

●●●

 

 

日曜日。休息のために使う者がいれば、自己鍛錬のために使う者もいる。俺は休息と言うか、家族サービスと言うか、社員の慰安旅行と言うか……兎に角、束とクロエの為に今日と言う日を使う事になった。

ちなみに簪と楯無は、一緒に第六アリーナで『打鉄弐式』の飛行テストを行なうとの事。楯無と簪の姉妹仲はかなり回復したように思える。

 

「よし。忘れ物は無いな」

 

「大丈夫です、兄様」

 

「うん! 箒ちゃん、マドちゃん、行ってくるね!」

 

「えっと……き、気をつけて」

 

「ゴクロー。そのネコ耳はなんだ?」

 

「束が付けてくれって……」

 

俺達三人の見送りは箒とマドカの二人。俺個人としては、今日は束と二人で出かけて、次の休みにクロエと二人で出かけると思ったのだが、束はクロエと三人で行きたいらしい。クロエはクロエでそれで文句は無いとの事。

 

そして箒は触れなかったが、マドカが言うように俺はネコ耳を頭に付けている。これは少佐の形見で物凄く気は進まなかったが、見つけた束がやたらとしつこく付けて欲しいと頼み込んでくるので、仕方なく付けた。

 

「ピコピコ動いてる上に、髪の毛と一体化している様に見えるが、どうなっているんだ?」

 

「ああ、何と言うか自然な感じがするな」

 

「『ミレニアム』の脅威の科学力が成せる業だ」

 

「そ、そうか……」

 

「それにしても、いっくんの方は大丈夫かな?」

 

「……大丈夫だと思いたい」

 

「……ああ、大丈夫だと思いたいな」

 

一夏の事を考えて不安になる俺と箒。実は一夏は今日、世話になった千歳先輩と二人で『買い物』に出かけるのだ。

 

 

 

時間は昨日の昼に遡る。珍しく一夏が二人で話があると、昼飯に誘ってきたのを俺は微塵も疑いもせずにホイホイと着いて行った。

食堂で日替わり定食を頼み、二人用のテーブルに座る。すると一夏は日曜日の予定について語り始めた。

 

何でもクラス代表決定戦が終わった後で、三年生の千歳先輩に「世話になったから買い物くらいなら幾らでも付き合う」と言ったらしく、俺にどこか良い店を知っていたら参考までに教えて欲しいとの事。どう考えてもそれはデートだと思うが、一夏が買い物と言うなら買い物なのだろう。

 

「それで先輩と一緒に着る物を適当に見て回って、せっかくだから先輩に昼飯を奢ろうと思ってる」

 

「なるほど。それで、何処で昼飯にするか俺の意見を参考にしたいと?」

 

「いや、中学の友達の実家が料理屋で、そこに行こうと思ってる」

 

「……それはもしかして大衆食堂の類か?」

 

「ああ。『五反田食堂』って言う定食屋だ。鉄板メニューは『業火野菜炒め定食』ってヤツなんだ。ああ、あと魚料理が美味い。カレイの煮つけとか最高だ」

 

嬉々として『五反田食堂』の魅力を語る一夏だが、相手が自分と同じ男子高校生ならまだしも、女子高校生相手に大衆食堂を選択するのは個人的にどうかと思う。ただ、『業火野菜炒め定食』はどんなものなのか、個人的に非常に気になる所だ。

 

「それで安くて良い物がある服屋があったら教えて欲しいんだけど……」

 

「……あのさぁ。そーゆー場合って、隠れ家的なお忍びムードがある店とか、イタリアンな小洒落た感じの店とか、そう言う雰囲気の店の方が良いんじゃないか?」

 

「『五反田食堂』だって知る人ぞ知るって感じで、雰囲気も悪くないぞ。まあ、隠れ家的ってなら、電車の高架下にあるとっておきのラーメン屋台の方が良いかな?」

 

「それは雰囲気が良いじゃなくて、居心地が良いって言うんだと思うが……ちゅーか、普通は女と二人連れで大衆食堂やラーメン屋には行かねーぞ」

 

「そうか?」

 

「そうだ」

 

俺達の会話に聞き耳を立てていたのだろう。周りの女子生徒達が同じタイミングでウンウンと頷いている。

どうやら一夏にとって、飲食店を選ぶに当たって雰囲気等の要素は二の次三の次らしく、その辺りの感性はあまりアテにならないようだ。アンク、検索を始めろ。キーワードは……まあ、適当で。

 

『何も思いつかなかったのか。それじゃ、適度に当たりをつけてやってみるか』

 

 

 

こうしてフィリップの『地球の本棚』……もとい、アンクのネットサーフィンによって高校生でもお財布にあまり負担の掛からない、シャレオツな雰囲気の店を探し出す事に成功した。口コミの評判も良いし大丈夫だろう。

 

「それじゃ、出発する前にこの車に束さんが付け加えた三つの新機能を見せてあげるね! 準備は良い?」

 

「ああ」

 

俺達が乗っている車は、先日の楯無戦で稼いだファイトマネーを束に渡して、束に適当な車を買って貰い、束が好きな様に改造したもの。束が言うには核爆弾の爆心地にいても無傷で耐えられる仕様になっているらしい。本当だろうか。

なんとなく形状がトライドロンに似ている気がするが、カラーリングは青を基調とし、シートベルトはラリー用の五点式じゃない。後部座席もナンバープレートもある。よって、元の車は『ホンダ・NSX』ではないだろう。

 

「1つ! 『DXオーズドライバーSDX』をここにくっつけると、アンくんが車を操縦する事ができるの! カーナビもアンくんがやってくれるよ!」

 

「ほぅ。では早速」

 

束の指差す先には『DXオーズドライバーSDX』がカチッと嵌りそうなスペースがある。要するに『ドライブ』のベルトさんと同じ理屈らしい。この世界にロイミュードはいないが、自動運転機能は良いな。

束の言う通りに、『DXオーズドライバーSDX』を取り出してカチッと嵌めてみる。しかし、特に何も変化は起こらなかった。ちょっとつまらん。

 

「2つ! これで好きな数字を選んで、黄色いボタンを一回だけ押してみて!」

 

次に束が指差したのは、普通なら灰皿やシガーライターがある場所に設置してある謎のマシン。試しに「07」を選んで黄色いボタンを一回だけ押す。

すると、『オレンジスカッシュ!』とアンクの声でコールが鳴り、紙コップが出てきた。予想外の攻撃に吹いてしまったが、もしかしてドリンクバーかコレ?

 

「コーヒーメーカーが搭載された車は見たことがあるが、ドリンクバーは初めてだ」

 

「いいでしょ~? こんな感じで100%ジュースが出てくるの! ちなみにボタンを二回押すと牛乳割りで、三回押すと炭酸割りね!

種類も豊富でオレンジの他には、パイン・イチゴ・バナナ・メロン・ブドウ・マツボックリ・ドングリ・ドリアン・マンゴー・クルミ・スイカ・キウイ・リンゴ・ザクロ・レモン・チェリー・ピーチ・マロン・ドラゴンフルーツの全19種類が好きな様に選べるんだよ!」

 

……ちょっと待て。今、ラインナップの中にマツボックリとドングリがなかったか? マツボックリとドングリの100%ジュースって飲めるような物なの? あと、ドリアンも危険な香りがする。

 

「おい! ウサギ女! なんで俺の声で登録した!」

 

「この数字だけが表示されたロシアンルーレット的な仕様にした理由は?」

 

「私の趣味だよ。いいでしょ?」

 

二カッと笑顔で言ってのける束。この数字がロックシードのナンバー順なら、ある程度までどれが何番なのか把握できるが、コレを造ったのは他ならぬ束。油断できない。

 

「三つ! ハンドルについてるオレンジ色のボタンを……あ! その前に箒ちゃんとマドちゃんは車から少し離れて!」

 

箒とマドカが車から離れてから、ハンドルについているオレンジ色のボタンを押すと、『タイヤフエール!』とやはりアンクの声のコールが鳴り、タイヤ4輪全てにオレンジ型のタイヤがセットされ横向きに変形。車が空中に浮いた。

 

「こんな風に空が飛べる様になるの! ボンドカーも真っ青だね! 更に! アクセルを強く踏むと、タイヤから大量のオレンジの果汁を撒き散らす攻撃も出来るんだよ! ねぇねぇ凄いでしょ!」

 

「……その果汁攻撃に何か意味があるのか?」

 

「知らないの? ISを含めた機械は果汁に弱いんだよ?」

 

「本当か!?」

 

「ウ・ソ♪」

 

出発する前から束に振り回されながらも、遊園地へと出発した。ただ、個人的には『D-LIVE!!』に出てくるような改造車を想像していたんだけどな……。まあ、こんな改造を施された車は斑鳩悟でも乗らない……いや、乗れないだろう。

 

そんなゴクロー達を乗せた車を見送った箒とマドカ。手にはそれぞれ、ゴクローから受け取った『メロン・スパーキング!』と『ピーチ・スパーキング!』な飲み物が入った紙コップが握られている。

 

「……マドカ。これから二人で遊園地に出かけないか?」

 

「断る。奴等は別にゴクローと二人きりと言う訳でもないだろう」

 

「むぅ……マドカは気にならないのか?」

 

「気にならないと言えば嘘になるが……ここで私達が尾行すれば、自分達の時の免罪符をあの二人に与えかねないんじゃないか?」

 

「……なるほど。我慢した方が得か」

 

「それでもその時に尾行されない保証は無いがな。まあ、せっかくの休みだし、私達も何処か買い物でも行くか?」

 

「そうだな。買い物にでも行こうか」

 

二人は紙コップのジュースを飲み干して、モノレールで買い物に出かけた。

 

 

●●●

 

 

「しかし、こっちの世界で遊園地なんて初めてだ。大人の遊園地とコミケなら少佐達と一緒に行った事あるけど」

 

「私はどっちも行った事ありません」

 

「とりあえずアトラクションは全部乗ろう! 全部乗るまでIS学園の土は踏まないから!」

 

「何の決意だ」

 

ジェットコースターから始まり、メリーゴーランド、コーヒーカップ、観覧車、etc……。テンション高めの束が俺とクロエの手を引っ張って乗りたいアトラクションを選び、三人で一緒に乗ると言う流れで次々と制覇していく。

 

最後の締めはお化け屋敷。ここは他のアトラクションと比べてやたらと巨大で、この遊園地の目玉なのだという。

ただ、俺個人としては、登場するクリーチャーが『彼岸島』の邪鬼に良く似ていて別の意味でビビッた。ついさっき出てきたクリーチャーはアマルガムのまり子みたいな奴で、思わず「ヒィイイイイイイイイイ!」と言いそうになった。しかし、ここには豚肉も日本刀も丸太も自生してない。

 

「メ゛ェエエエエエェェェ!」

 

「きゃ~~~~! オバケこわ~~~い!」

 

「ッッ!!」

 

今度は斧神だった。そんなクリーチャー達が出現する度に、束は大声を出して勢いよく抱きつき、クロエは声を出すのを堪えて手をぎゅっと握ってくる。

しかし、束の方はもはや当たり屋に近い。ここに入る前に小声で「このラッキースケベ偶発地帯なら、ビビッた振りすれば合法的におさわりできるねぇ……」と年頃の女の発言とは思えない事を言っていた。

 

『いや、お前も結構楽しんでるだろうが』

 

確かに。俺としても「ヒィィィィィ! 束の禁断の果実がぁああああああああ!! フォビドゥンフルーツがぁああああああああ!!」と言った感じで、『彼岸島』の萌えキャラである隊長の真似をしながら……あれ? なんかクロエの手を握る力がいきなり、そして猛烈に強くなった気がする。

 

「う゛う゛ぅぅぅぅ~~」

 

気になってクロエを見てみると、クロエは涙目で頬を膨らませている。可愛い。そしてゴメンねクロエ。

 

お化け屋敷を30分位かけてクリアした後、約束通り二番目にクロエを助手席に乗せて、IS学園の『NEVER』の拠点に帰った。流石に遊び疲れた様で、束とクロエは車で眠ってしまった。起こすのもアレなので、お姫様抱っこで二人を運んだ。

そして、せっかくなので寝ている二人を並べて、同時に二人の頭や頬っぺたを撫でてみた。

 

「ん……ふぅ……」

 

「うにゃぅ……」

 

クロエはくすぐったそうな反応をして、束はウサギなのにネコみたいな声を出した。キャワイイ。

 

このまま膝枕に移行して、起きた時の反応を見てからかってみようかなんて思いながら二人の反応を楽しんでいると、箒とマドカがやって来た。そこで二人から手を離そうとしたら、二人同時にガシッと手を掴んできた。コイツ等、起きてやがる。

 

「……お帰り。そして何をやってるんだ?」

 

「二人を撫でてる」

 

「「………」」

 

「……お前らも撫でてみるか? このネコ耳モードの俺の頭を」

 

束とクロエは知らん振りし、俺は無言で厳しい視線を向ける二人にネコ耳をピコピコ動かしながら、敢えてそんな提案をしてみる。

 

「い、良いのか?」

 

「構わん」

 

「で、では私は右、マドカは左だ」

 

「い、良いだろう……おぉうぅ。これは中々……」

 

「ああ。良い肌触りだな……」

 

「そうか」

 

こうして、俺の右手で束を撫で、左手でクロエを撫でる。そして右のネコ耳付近を箒が触り、左のネコ耳付近をマドカが触ると言う、奇妙な状況が誕生した。むぅ。二人の手がくすぐったいが、そう悪くない。

 

「ところで、そっちは今日と言う一日をどう過ごしたんだ?」

 

「いや……それがな……」

 

「箒と二人で買い物に出たんだが、偶然にも馬夏と千歳先輩を見つけて尾行してみた」

 

歯切れの悪い箒に対して、悪びれる事無くチェイサーしていた事を告白するマドカ。実に素直でよろしい。しかし、箒のリアクションから見て何かあったのは間違いない。

 

「それで?」

 

「下着売り場に馬夏の知り合いが居たらしくてな。それからは三人で買い物をしていたぞ」

 

「…………は?」

 

ちょっと待て、それは何かおかしくないか?

 

「……信じられないかも知れないが、一夏とはそう言う奴だ。大方、『買い物は大勢の方が楽しい』とでも思ったんだろう」

 

「イヤイヤイヤイヤ! ありえないだろ! 幾ら久しぶりに男友達に会ったからって――」

 

「ああ、説明不足だったか。その知り合いは男じゃない。見た感じ中学生位の女だ。ほら、コイツだ」

 

「なん……だと……」

 

マドカの持つスタッグフォンの画面には、一夏と千歳先輩の他に赤髪の女の子が一緒に写っていた。ちゅーか、下着売り場って女物の方だったのか。

他にも、アンクが見つけてくれたシャレオツな店で、千歳先輩と赤髪の女の子にそれぞれ「あ~ん」をしている一夏の姿が写っていた。し、信じられねぇ……。

 

「それと、お前の『DXオーズドライバーSDX』の玩具が売られていたのを見たぞ。CMも見たが、何時の間にこんなモノを作っていたんだ?」

 

「楯無会長との試合映像も流れていたな。かなりの盛況だったぞ」

 

ああ。そう言われてみれば、今日が発売日だったな。今日よりこの世界で、「多々買わなければ生き残れない」と言わんばかりの、本編より過酷なメダル争奪戦が開始されると言う訳だ。ガイアメモリも発売されているけど。

 

それから束とクロエが満足した事で奇妙な状況は終末を迎え、今回は箒とマドカの三人で夕食を作り、5人で仲良く食卓を囲んでクロエと共に寮に戻った。

 

しかし、束にはもう一つ、この日の内にやっておきたい事があった。実はバットショットやカンドロイドを利用して、遊園地で遊ぶ自分達三人を撮影していたのだ。そして、束が向かった先は……。

 

「見て見てちーちゃん! 今日ね、ゴッくんとくーちゃんと一緒に遊園地に行ったの! それでね~」

 

「…………」

 

束の口からマシンガンの様に語られる作り立てホヤホヤの思い出話を聞かされ、実に楽しそうな三人の写真と動画を見せ付けられる千冬。

自室でのんびりと休んで時間を消費していた今日を振り返り、千冬は地味に精神的ダメージを受けた。そして、束が満足して去った後、千冬は普段よりも多めに酒を煽って寝た。

 

 

●●●

 

 

月曜日。楯無戦から一週間が経過した今日の午後から、ISを用いた実技訓練が始まる。

 

「それではこれより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。ISを展開して飛んで見せろ」

 

クラスメイト全員がISスーツに身を包んで実技訓練を受けているなか、俺だけが織斑先生と山田先生の二人と同じように、ジャージ姿で授業を受けている。

それと言うのも、昼休み中に織斑先生からISスーツを持っているのかどうか聞かれたのが事の発端だ。

 

「持ってないですよ。そもそも必要ありませんから」

 

「だがここはIS学園だ。実技訓練では原則としてISスーツを着用する事になっている。もしも忘れた場合は水着。それも無ければ下着姿で授業を受けてもらう事になる」

 

「じゃあ、織斑先生公認と言う事で、午後の授業はパンツ一丁で受ければいいんですね」

 

「おいッ!!」

 

つまりは、ド派手なパンツ一丁の火野映司スタイルで実技を受ければいいと解釈したのだが、他ならぬ織斑先生に止められた。解せぬ。

 

千冬としては、自分も束と同じシュラウドに狙われる立場にありながらも、毎日をIS学園の教師として頑張り、充実した毎日を送っていると自負している。

しかし、そんな自分に対して、ひきこもりで社会不適合者の束は、毎日の様に手作り弁当を自慢しまくり、昨日は遊園地でこれでもかと楽しく遊んでいた事を自慢しにきた。

 

いや、もちろん、束もちゃんと仕事をしている事は分かっている。

 

だから、束のキャラ弁と自分の弁当を見比べて羨ましいとか。

 

食堂でマドカと二人で食べているのを見て妬ましいとか。

 

私にも酒の誘いとか、そんな日々の潤いみたいなモノがあってもいいんじゃないかとか。

 

ゴクローがISスーツを持っていない事を知っていて、ちょっとだけ困らせてやろうとか。

 

そんな事を千冬は全然考えていない。

 

「お前は束と違ってまともだと思っていたのだがな……」

 

「人間なんて何時死ぬか分からないから、俺は常に一張羅のパンツを履いているんですよ。見られた所で何も恥ずかしい所はありません。それが何か問題でも?」

 

「大アリだ! ここは本来女子校なんだぞ! お前はそれ位のマナーが分からん訳でも無いだろう!」

 

「織斑先生がそう言ったんじゃないですか」

 

「ぬぅぅぅ……」

 

何も恥ずべき所は何一つ無いと説明したつもりだったが、織斑先生はお気に召さなかったようだ。最終的に実技訓練の時はジャージ姿で、織斑先生と山田先生の補佐に回る事を命じられた。色々とそれらしい理由を付けていたが、そこまでして火野映司スタイルを否定するか。

 

『俺はお前のそんな所を見る度に、相棒を間違えたのかも知れんと思ってるぞ。それとお前、段々と良い様に使われ始めてないか?』

 

……そう言われればそうかも知れん。楯無から生徒会の副会長になるように言われ、織斑先生から補佐を命じられ、段々と仕事が増えている気がする。

 

『気を付けろ。この程度ならまだマシだが、その内IS学園の教職員にされるんじゃないか?』

 

それはかなり面倒だな。そんな会話をアンクとしている中で、ISを展開して上空に飛んでいったセシリアと一夏が織斑先生から急降下と急停止を命じられ、セシリアは見事にクリア。そして一夏の番なのだが……あれってちょっとヤバくないか?

 

『ああ、地面に激突するな』

 

それなら早く言え! 初めての実技訓練で事故なんて洒落にならんぞ!

 

『チッ! ほら! コレで行け!』

 

「変身!」

 

『タカ! ゴリラ! チーター!』

 

大急ぎでタカゴリーターに変身し、メモリはアクセル、パッケージは『イエーガーユニット』を選択する。チーターレッグとアクセルメモリ、そして大型イオンブースターによる超加速で、地面に向かって突撃する一夏の着地地点……と言うか、着弾地点へと全速力で向かう。

 

「一夏キターーーーーーーッッ!!」

 

両手をクロスして激突に備えていた一夏を、横から掻っ攫う様に受け止める。急停止によってグラウンドがガリガリと削られ砂埃が舞い上がる。ようやく停止して一夏を確認するが、特に怪我は無いようだ。

 

「……あ、あれ?」

 

「おい一夏、怪我は無いか?」

 

「え!? あ! 助けてくれたのか! ありがとうな!」

 

「ああ。それよりも早い所、この体勢を何とかしたいんだが……」

 

「この体勢?」

 

しかし、時既に遅し。砂埃は思ったよりも早く収まり、一夏をお姫様抱っこで抱きかかえる『オーズ』の姿をハッキリと見られてしまった。

 

『ウホォオオオオオオオオッッ!! キィィィタァアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

嗚呼。クラスメイトの腐ったお嬢様方が、とても女の子が上げてはいけない様な喚声を上げている。

 

「い、い、い、一夏ぁ! 何時までそうしてるつもりだ! 早く降りろ!」

 

「そうですわ! そんな羨ま……いえ! そんな格好で恥ずかしくありませんの!」

 

「お、俺ぇ!?」

 

……うん。それもこれも「織斑一夏って奴の仕業なんだ」って事にしよう。

 

その後、一夏とセシリアが武装展開を命じられた後、織斑先生から俺に武装展開のお手本を見せるように命じられた。

言われた通りに、メダジャリバー、メタルシャフト、トリガーマグナム、エンジンブレードと、次々と武器を瞬時に展開し、瞬時に収納していく。

 

「前から思っていましたけど、ゴクローさんは武装展開が一番凄いですわ」

 

「ああ。なんて言うか、『何時の間にか持ってる』って感じだよな」

 

「うむ。これを理想として、各人これ位の速さと精密性を目指す様に。それでは解散!」

 

ふむ。俺としては平成ライダー特有の「どこからともなく武器を取り出す」をひたすら練習しただけなのだが、思わぬ事が人の役に立ったものだ。こうして初めての実技訓練は終わった。

 

 

●●●

 

 

アンクはその日の夕食後に開かれる『ゴクロー・シュレディンガー 学園最強&生徒会副会長就任パーティー』に出席せず、ゴクローとクロエの部屋で調べ物をしていた。

 

「中国の代表候補生。『凰鈴音【ファン リンイン】』か……」

 

本日付でIS学園に転入する事になった中国の代表候補生。この女については、馬夏について調べた際に名前だけは確認していた。しかし、この時期にIS学園に転入するとなると、その不自然さから何かあるとしか思えない。

そこで詳しく調べてみたのだが、わずか一年足らずで専用機持ちの代表候補生になっている。これはハッキリ言って異例な事だ。

 

「日本への滞在経験と、馬夏との接点がある事からIS学園へ転入となっているが……どうやら無理をしたようだな」

 

元々はIS学園に入学する予定だったようだが、軍部が入学を薦めた時はそれを断った。しかし、馬夏がIS学園に入学すると聞くとあっさり掌を返し、ISを展開して軍人を脅してIS学園に転入している事が判明した。

 

「気に入らないが、こうした奴は珍しくもない。特に代表候補生の中ではな」

 

そう。こうした人間は特に珍しくない。問題なのはこうした人間は「男の力など児戯。女のISこそ正義」と考えている者が大半で、今の女尊男卑の社会は相当に居心地が良いと思っている事。そんな人間からすれば、『オーズ』は世界を破壊する悪魔、もしくは自分達の天国にやって来た侵略者だ。

 

世界を破壊する悪魔を倒し、世界に秩序と平和を齎す。この世界でこれ以上の正義が果たして存在するだろうか。

そして、正義を確信した人間こそが、最も残酷になれる人間だ。何故なら、どれだけ理不尽で残虐な事をしようとも、それは彼等にとって“正しい”事なのだから。

 

「アイツは『正義の為になんて戦ってやるもんか』と言っていたが……大体の人間は正義を求める。正義は我に有りとな。

しかし、コイツはなんでIS操縦者になろうとしたのか。考えられる理由は幾つかあるが、どれも決定打に欠ける」

 

人間の行動や心理的なモノの9割は欲望。何かを欲するから人は行動する。そして、この女がISに関わった時期は、両親の離婚で中国に帰国した時とピタリと重なる。

その時にこの女が失ったモノは、自身の父親や馬夏と言った人間との繋がり。それまで当たり前の様に自分の傍にいた人間達。

離婚による経済状況の変化も理由として考えられるが、今の世界はどの国も女に対して有利な法律が多く、世界中の何処にいても女の方が男よりも立場は上で待遇も良い。離婚に関する法律もその例外では無い。

 

「その為に悪党の筈の母親が得をして、善人の筈の父親が悲惨な目に遭う事も珍しくない。そんな父親を守る為に、代表候補生の特権を目指してIS操縦者の道に入る人間もいるが……コイツは違う」

 

どんな悪も法的に勝ちさえすれば正義。故に、そうした背景のあるIS学園の生徒が居た場合、包帯女が接触する可能性があるとして、ネコ女が注意・監視している。しかし、この女の両親に関しては、特にそうした背景は無い。

 

「その上で親権が母親にあり、経済的な問題からその道を選んだとは考えにくい。残る可能性は……」

 

あくまで可能性の一つだが、馬夏の経歴を調べた際、小学5年生から中学2年生の間で起こした暴力事件には、大体この女が関わっている。つまり、馬夏が敵と言う脅威に対して、それよりも強大な力で捻じ伏せる光景を近くで見てきた可能性が高い。

 

もしも馬夏のいない環境下で、自身を脅威から守る手段として、我を通し他者を捻じ伏せる為の力として、ISによって齎される強大な力を、そして権力を求めたのだとしたら……。

 

「アンク、ただいま~」

 

「アンク様。ただいま戻りました」

 

「……遅かったな」

 

そろそろ、包帯女も攻めてくる筈だ。あの復讐鬼にとって、IS操縦者は自身の復讐を成し遂げる為の捨て駒。スパイダーメモリに自爆機能を付けていた事から、例えそれが自身の復讐の協力者なのだとしても、それは変わらないだろう。

 

前回の蜘蛛女の時の事を考えるに、ゴクローの心をへし折るような、粉々に砕く様な作戦を考え、それを実行するだろう。そして、このお人好しはあの時と同じような事が起きたなら、きっとまた「誰も死なせたくない」と言って無茶をするだろう。

だが、何時だって自分の思い通りに上手く行くとは限らない。どんな結末を迎えたとしても、ゴクローの心が折れも砕けもしなければいいのだが……。

 

「かなり激しく歌っていましたが、喉は大丈夫ですか?」

 

「今回は大丈夫だ。問題ない」

 

アンクには夢がある。今よりもずっと強い体を手に入れ、何時の日か宇宙へ行く。

それはISが持つ本来の用途であり、ISコアだった頃の記憶がそうさせるのかも知れない。いずれにせよ、その為には『オーズ』の力が、ゴクロー達の協力が必要だ。

 

「しかし、『Supernova』を歌った時の簪の反応が凄かったな。楯無が空気を読まずに簪に話しかけた時は凄い顔してたけど」

 

「まるで別人の様でしたね……」

 

ゴクローとクロエの会話を聞きつつ、ふと窓ガラス越しに夜空を見る。今日は綺麗な満月だった。

 

「何時の日か、必ずあそこまで行こう。その次は太陽だ」

 

夢に見た光景を、必ず手に入れると心に誓った。

 

 

●●●

 

 

その頃、学生寮の一角で二人の女子生徒が向かい合っていた。

 

「アンタが二組のクラス代表? 一つお願いがあるんだけど、アタシとクラス代表代わってくれない?」

 

その光景を、黄色と黒を基調としたカラーリングの鳥型ロボットが、窓の外からじっと見つめていた……。




キャラクタァ~紹介&解説

ダリル・ケイシー
 チョイ役その1。アメリカ代表候補生かつ『亡国機業』のスパイなので、他の代表候補生と異なり、『亡国機業』経由の情報網でIS大戦の詳細を知っている。しかし、「例え、俺が悪と同じ存在なのだとしても~」の下りについては、個人的に思う所がある模様。別に「今更数え切れるか!」と言える程の罪は持っていない。

五反田蘭
 チョイ役その2。話の中では名前さえ出ていない。現在、彼女の名前を知らない5963は、『クウガ』の「バラのタトゥの女」みたいに、「赤い髪の少女」と呼称している。本来ならば原作6巻の時間軸で起こる出来事が、原作1巻の時間軸で起こっている。

鳳鈴音
 中国代表候補生。そして、今回投稿するまで時間が長引いた原因。第一期アニメや原作第一巻と第三巻の箒とのやりとりと見ると、割と自分の立場や力の使い方を分かっている……と思いきや、改めて原作を読むと「女のISこそ正義」なんて思っているわ、参考までに読んでみた赤星健次先生の漫画版では、ISを部分展開して軍人のおっさんを脅しているわで、トライアル・ドーパントは「つまりッ! どう言う事なんだってばよおおおおおおッッ!!」な状態になり、予定していたこの中華娘の立ち位置や今後の展開を考え直す羽目に。
 今後の展開として幾つかのルートを考えているが、中華繋がりで『鎧武』のミッチの様になるルートも考えている。要するに殺気スイッチ→病んだ闇ッチ→綺麗なミッチみたいな。

596&束
 遂にネコ耳を付けてしまった男と、常にウサ耳をつけている女の二人。ボケとツッコミがしっかりしている所為か、この二人は割りと絡ませやすく書きやすい。たまに逆になるけど。かまってちゃんなウサギと、それをしっかりと相手するネコと言った感じか。

更識家姉主従&妹主従
 作者的には、どちらのコンビもキャラ的にもネタ的にも結構書きやすい。姉主従の二人はキャラ崩壊させた時が書いていて楽しく、妹主従の二人は独特な口調で台詞が割りと書きづらいと言う共通点がある。
 パーティーで平成仮面ライダーの歌を歌う5963を見て、簪は喜びの余りチョロ松と化すが、空気を読まないおそ松な姉の所為でリヴァ松と化した。その後、楯無はライダーソングの音楽データが一通り入ったフロッグメモリとフロッグポッドを5963から購入。天使松な本音を介して簪にプレゼントし、なんとか許してもらった。
 作者としては、IS学園の生徒会メンバーは『ディケイド』における「ファイズの世界」のラッキークローバーよりも、『キバ』のチェックメイトフォーの方が似合っている気がする。だから、アンクがタイガーオルフェノクになったりはしない。

本音「私は私にご褒美を与える~♪」
楯無「私も私にご褒美を与える~♪」
596「……何時もこんな感じか?」
虚「はい……」



世界の破壊者
 仮面ライダーディケイドの代名詞。ディケイドがこう呼ばれるのは、「それぞれの並行世界には決められた秩序が存在しており、ディケイドが行動を起こすことでその世界の秩序が狂い出すことが理由である」と、『HERO SAGA』の「ストロンガーの世界」で、自称預言者のプリキュア大好きおじさんが言及している。一例を挙げれば「クウガの世界」で蘇るはずのなかった、究極の闇を齎すマダオが復活した事。
 本人の意思に関わらずその存在が悪と同類とされながらも、誰かの為に戦う事が出来ると言う点は、世間ではグロンギと同類の未確認生命体として認識されながらも、誰かの笑顔の為に戦う『クウガ』の五代雄介に近い気がする。士に同行したのは雄介じゃなくてユウスケだけど。
 5963はこれに加えて小説版『仮面ライダーディケイド 門矢士の世界~レンズの中の箱庭~』も読破している為、自身の存在そのものが『世界の破壊者』足りえると自覚し、やがては実体を無くして怪人になるのでは無いかと懸念している。もっとも、二次創作の主人公は設定上、ほぼ例外なく『世界の破壊者』と言える存在なのだが。


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第16話 復讐のV/猟奇的な彼女

お気に入り件数が800件を突破しました。読者の皆様のご愛読、本当にありがとうございます。今回の話からオリキャラタグをつけました。

話のタイトルは最後まで悩む事が結構多いのですが、今回と次回のタイトルはかなりあっさりと決まりました。ちなみに次回のタイトルは「復讐のV/仮面ライダーの流儀」です。



「おはよう、シュレディンガーさん。私もう、昨日までの私じゃないの……」

 

朝の挨拶をしただけなのに、何故か昼ドラの雰囲気を醸し出しながらそんな台詞をのたまうのは、2組のクラス代表の惣道紫(そうどう ゆかり)。

1組のクラス代表がセシリアに決まった時に、二人で各クラスに挨拶しに行った時に知り合った子だ。

 

「……もしかして、二組に転入生が来る事が関係しているのか?」

 

「あれ? 知ってたんですか? えへへ、実はそうなんです」

 

俺が原因をズバリ言い当てると、舌を出して「バレちゃった♪」と言わんばかりのお茶目な笑顔になった。俺をからかうつもりだったようだが、心臓に悪いから止めて欲しい。

 

「中国の代表候補生で専用機持ち。確か凰鈴音って言ったっけ?」

 

「うん。実は一組、三組、四組って専用機持ちがクラス代表だから、ぶっちゃけクラス対抗戦とか勝ち目ないじゃないですか。だから、ウチのクラスとしてはむしろ渡りに船って感じでして」

 

確かに、専用機持ちの生徒は下地から他の一般生徒とは違う。そして一般生徒は、IS学園から訓練機を借りてISの訓練をしている為、ISを使える時間も機会も専用機持ちに比べてかなり限られている。

 

その為、三年生と二年生ではこうしたイベントに関して「どうせ専用機持ちのいるクラスの勝ちでしょ」と言った感じらしい。

 

実際に去年の二年生ではダリル・ケイシー先輩のいるクラスが、一年生では楯無がこうしたイベントへの出場を禁止されているので、フォルテ・サファイア先輩のいるクラスが優勝するのが何時もの事なのだとか。

 

「それにしてもシュレディンガーさんって歌が上手なんですね。三組の織斑さんと一組の篠ノ之さんも歌が上手でびっくりしちゃいました」

 

「ははは、ありがとう」

 

昨日のパーティーで平成仮面ライダーの歌を歌ったのだが、これが思った以上に受けた。マドカの『NEXT LEVEL』とか、箒の『Circle of Life』とか、楯無やクロエを加えての『Last Engage』とか……。今度機会があれば『咲いて』を歌ってもらいたい。

 

そのお蔭か、昨日のパーティーでマドカにクラスメイトが何人か話しかけていた。『フォーゼ』の如月弦太朗は、『歌は心の壁を砕く特大ハンマーだ』と言っていたが、案外その通りなのかも知れない。

 

 

 

一組の教室の前で惣道と別れ、教室に入ると二組の転入生について、早速クラスメイトが噂していた。

 

「ねえ、シュレディンガー君は知ってる? 隣のクラスに転入生が来るって話」

 

「知ってる。今、二組の元クラス代表と話してきた」

 

「元? もしかしてその転入生が二組のクラス代表になったの?」

 

「ああ。中国の代表候補生で、凰鈴音って奴だ」

 

「!! 凰鈴音!? ゴクロー!! それ本当なのか!?」

 

「ああ。一年前まで日本に居て、それから一年足らずで中国の代表候補生、それも専用機持ちになっている。なんでも、お前と接点がある事がここに転入した理由だそうだ」

 

「え!? 織斑君と接点ってどう言う事!?」

 

一夏が噂の転入生と知り合いだと知ったクラスメイトが、わらわらと一夏の下に集っていく。そんなクラスメイト達を他所に、セシリアが俺に近づいてきた。

 

「ゴクローさん。先程の一年足らずで専用機持ちになったと言う話は本当ですの?」

 

「本当だ。来月のクラス対抗戦では手強い相手になるかもな」

 

「現時点で三組の織斑さんと、どちらが手強いと思いますか?」

 

「マドカ。データを見る限り、専用機を使いこなしているとは言い難い。正直、付け入る隙は幾らでもある」

 

「も、もう情報を掴んでいますの!?」

 

「まあな」

 

昨日の段階で、アンクから凰鈴音の情報を一通り教えて貰っている。セシリアは戦慄しているが、これ位はアンクにとって造作も無い事だ。

 

「そ、そう言えば簪さんの専用機もまもなく完成すると聞きましたが、そちらはどうなのですか?」

 

「簪が言うには、今週中にも完成するって話だ」

 

「えっと、その、それで、お手隙でしたら、来月のクラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をお願いしたいので、よろしかったら今日の放課後に二人っきりで……」

 

「悪いが、今日の放課後は箒に渡される専用機の性能テストに付き合う約束がある」

 

「せ、専用機ですか!?」

 

「ああ。大分遅くなったけどな」

 

「ふっ。まあ、そう言う事だ」

 

何時の間にか箒が俺達の近くに居て、セシリアに対してドヤ顔を決めていた。しかし、簪とほぼ同じタイミングで箒に専用機を渡すあたり、束には何か対抗意識みたいなものがあるのだろか?

 

「まあ、クラス対抗戦に向けたトレーニングに関してはちゃんと協力する。セシリアには優勝して欲しいからな」

 

「セッシーが勝てばクラスの皆がハッピーになるからね~。がんばって~」

 

何時の間にか俺にひっついている本音の言う通り、クラス対抗戦で優勝した一位のクラスには、優勝商品として学食デザートの半年フリーパス券が配られる。

生徒のやる気を出す為との事だが、どの学年も1クラス当たり約25人の生徒がいる。クラス対抗戦が各学年別で行なわれる事を考えると、最終的にIS学園の約75人の生徒にフリーパス券が配られる訳だ。正直、太っ腹だと思う。

 

「でも、これで一組から四組までのクラス代表全員が専用機持ちって事になるね」

 

「専用機持ちって二年生は二人で、三年生は一人だけなんだよね? そう考えると一年生でこれだけ専用機持ちが揃うって凄くない?」

 

「四人の専用機持ちの四つ巴か~。それはそれで面白くなりそうだよね~」

 

正直な話、一学年で専用機持ちがこれだけ揃うのは、珍しいと言うよりも異常事態なのだが、専用機持ちのクラス代表が四人もいるこの状況は、傍目から見ればどのクラスが勝つか分からない、過去に類を見ない面白い状況なのだとか。

専用機持ち同士のハイレベルな戦いが見られる期待も手伝って、今年の一年生はIS学園でかなり話題になっている……と黛先輩が言っていた。

 

「そう! そしてクラス対抗戦を征するのはこの私って訳!」

 

「ん?」

 

妙に自信に満ち溢れている声がした方に目を向けると、勝気そうなツインテールの小柄な少女が一組の教室の入り口に立っていた。

 

「鈴! やっぱりお前なのか!」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。久しぶりね一夏」

 

「……何カッコつけてんだ? すっげぇ似合わないぞ?」

 

「んな!? なんて事言うのよアンタ!」

 

……一夏。知り合いの高校デビューを潰してやるなよ。あっさりとメッキが剥がれてしまったが、そーゆーキャラでやって行こうとしていたのかも知れないじゃないか。

しかし、それよりも問題なのは、凰が一夏に集中していて、背後から接近する織斑先生に全く気がついていない事だ。

 

「おい」

 

「何よ!?」

 

何たる事ぞ。背後に居る人物が織斑先生と気が付かない凰は、迂闊にも強気に出てしまった。容赦ない出席簿の一撃を頭に貰い、ここでようやく相手が織斑先生だと知った凰は、調教済みのワンコの様に萎縮し、すごすごと一組を去っていった。反応から推測するに、凰は織斑先生の手によってエラい目に遭った過去があるに違いない。

 

「シュレディンガー。何か失礼な事を考えていなかったか?」

 

「……織斑先生の学生時代について少々」

 

何故か織斑先生は出席簿を俺の頭に振り下ろした。解せぬ。

 

『暴力でしか自分を表現できない人間もいる。だから世界は平和にならない。永遠にな』

 

アンクの一言は実に深く重かった。

 

 

●●●

 

 

平和的に午前の授業が終わり、珍しく一夏に誘われて一緒に食堂へ向かった訳だが、付いてくるクラスメイトの人数の多い事多い事。大方、一夏から噂の凰の事を聞きだそうと言う腹だろう。

食堂に入ると、入り口で凰がラーメンを持って待ち構えていた。明らかに一夏待ちだが、一夏はマイペースに対応している。しかし、凰はやたらと強気と言うかツンツンしている。中々素直になれない性格なのだろう。

 

そんな話題の中心である二人は、自然と一つのテーブルに二人きりで、和気藹々と話をしながら昼食を楽しそうに食べている。そんな二人の話に興味津々なクラスメイト達は、二人のテーブルの周りでしっかりと聞き耳を立てていた。相川とか谷本とか岸原とか鷹月とか本音とか……まあ、気持ちは分からんでもない。

 

「大分会話が弾んでいるみたいだな」

 

「そうだな。しかし、幼馴染と言うより女友達って感じのフランクさを一夏に感じるな」

 

「ええ。それにしても一夏さん、普段より饒舌ですわね」

 

凰と一夏に気を使った結果、俺、箒、セシリアの三人で昼食を食べている。皆が一夏と凰に注目している所為か、俺達に向けられている視線が普段より少ない気がする。

 

「兄様、ご一緒してもよろしいですか?」

 

「ああ、良いぞ。……ん? 簪も一緒か? 何時知り合ったんだ?」

 

「ああ、簪とは昨日のパーティーで妙に気が合ってな。一組に行く前に四組に寄ったんだ」

 

「こ、こんにちは……」

 

そんな俺達三人のテーブルにやってきたのは、クロエ、マドカ、簪の三人。マドカは気が合ったと言っているが、簪にシンパシーを感じたと言う方が正しいのではなかろうか。所謂、姉を超えようとする妹同士みたいな。

 

そして6人になった俺達のテーブルに、今度は昼食を食べ終わった一夏と凰がやってきた。

 

「お、いたいた。ゴクロー、箒、紹介するよ。俺の幼馴染の凰鈴音。鈴、コイツが前に言ってた、小学校からの幼馴染で剣術道場の娘の箒。コッチが一組のクラス代表補佐で、こないだ生徒会副会長になったゴクローだ」

 

「凰鈴音よ、よろしく……って、え!? 千冬さん!?」

 

「……織斑マドカだ。二度と間違えるな」

 

凰の発言に「またか」と言わんばかりに一気に不機嫌になったマドカ。やはり、織斑先生と間違えられたのが非常に不快だったようで、ギロッと鳳を睨んでいる。その気持ちはよく分かる。

 

「うっ! な、何よ! 言っとくけどあたしって結構強いんだから! 戦ったらあたしが勝つわよ!」

 

「……ふん。お前程度の強さの人間など、鮭の卵と同じだ」

 

「どういう意味よ?」

 

「「イクラでもいる」」

 

俺とマドカの答えが重なった。フッと満足気に不敵な笑みを浮かべたマドカとハイタッチする。

 

「本当にマドカはジョークが上手くなったな」

 

「……ああ、挑発目的のジョークばかり上手くなっているな」

 

……そう言われればそんな気がしてきた。イイ性格になってきたと言うべきか。

 

「い、言ってくれるじゃない……そう言えば、千冬さんに似たクラス代表が一年生にいるって聞いたけど、アンタがそうなのね! 今度のクラス対抗戦で力の差ってやつを思い知らせてあげるわ!」

 

「ほう、それは楽しみだ」

 

「ッッ!! ほ、ほら! さっさと行くわよ一夏!」

 

「え!? お、おい! 引っ張るなよ! あ、それじゃまたな!」

 

どこか織斑先生を髣髴とさせる余裕綽々な態度と鋭い視線を持つマドカに萎縮したのか、凰は一夏を引っ張って食堂を出て行った。なんとなくだが、今度のクラス対抗戦は色々と波乱を呼びそうな気がする。

 

 

●●●

 

 

放課後の第三アリーナのアリーナピット。箒に渡される専用機の性能テストがここで行なわれる。

 

「それじゃ~フィッティングとパーソナライズを始めよっか。束さんが補佐するから直ぐ終わるよん♪」

 

「お、お願い、する」

 

「もう、まだ固いなぁ、箒ちゃんは。でも~~、お顔を真っ赤にして、束さんにどう接するか悩んで、おどおどしてる箒ちゃんも可愛い――ぶふっ!」

 

「よ、余計な事は言わないで早くやってくれ!」

 

「あ~~ん、箒ちゃんひど~~い! ゴッくん。束さんの頭、ナデナデして~」

 

「ゴクロー! 撫でなくていいからな!」

 

「やれやれ……ほら、痛いの痛いの飛んでけ~~」

 

差し出された頭を撫でながら、棒読みの声で泣き付いてきた束をあやす。普段はIS学園内の『NEVER』の拠点で引き篭っているが、箒の専用機の性能テストと言う事で外に出てきたのだ。相変わらず誰にも何にも感知されずに、IS学園を自由に闊歩している。

 

「えへへ~~、やっぱりゴッくんは束さんに優しいね~~。――はい、フィッティング終了。流石私、超早いね。だからもっとナデナデして♪」

 

「はいはい。パーソナライズはどれ位で終わるんだ?」

 

「ん~~大体三分位で終わるよ。だからそれまで♪」

 

「良いけど、箒の専用機について教えてくれないか?」

 

「ん~~~♪ えっとね、箒ちゃんに合わせて近接戦闘を基礎にした万能型で、量産を前提にした、第三世代相当のISだよ。基本スペックからして第二世代の量産型よりもずっ~~と高性能なんだな~~」

 

俺と束を見て「ぐぬぬ……」と言った表情の箒が纏っているISは、赤と黒を基調としたカラーリングで、『打鉄』と同じく戦国武将の甲冑を髣髴とさせる形状をしている。

 

「なんだか簪の『打鉄弐式』よりも『打鉄』の後継機って感じの見た目だよな」

 

「まあね。実は『打鉄弐式』とは異なる『打鉄』の発展系ってコンセプトで造ってみたんだ~。あっちは機動性重視だけど、こっちは防御力重視で全体的に『打鉄』のスペックを上げた感じだね~。武装は『ミレニアム』が造ってた武器を参考にした束さんお手製だよ~」

 

「……ちょっと待て。『ミレニアム』が造った武器って、お前何を参考にした?」

 

「えっとね『アームズチェンジシリーズ』を基本に色々だね。『鎧武』とか『斬月』とか、なんだか和風な所が箒ちゃんに似合いそうだったから、不採用でポイされてたヤツを束さんがIS用に新規作成したのだ~」

 

そう言われてよく見ると、装甲の形状が「仮面ライダー鎧武」のカチドキアームズにどこか似ている気がする。色違いで背中にカチドキ旗は無いけど。

 

「つまり、これはアームズチェンジが使えるISなのか?」

 

「ううん。武器のアームズウェポンだけで、鎧の換装は出来ないよ。だって、鎧と武器がワンセットになっていて、他の武器を使うのに一々鎧を換装しないと駄目なんでしょ? しかも、鎧を換装する時は素体の状態で隙だらけになるんじゃ危なくて使えないよ。まあ、破損した鎧を交換できるって考えればメリットもあるけどねぇ」

 

束の言う通り、アームズチェンジによる鎧の換装の際に生まれる隙はかなりでかい。素体の状態で背後から「一撃! イン・ザ・シャドウ!」されればあっさりとやられてしまう事を『鎧武』本編で葛葉紘汰が証明している。

 

「それと、こいつは『青騎士』みたいにガイアメモリ対応型じゃないんだな」

 

「うん。マドっちの『青騎士』が『プロト・ティアーズ』のISコアを使ったお蔭で思ったより上手く造れたからさ。箒ちゃんにも先ずは普通にISを使ってもらおうと思ったの」

 

「なるほど」

 

「それに、箒ちゃんは先ず普通のISを使って力に慣れた方が良いと思ったの。ガイアメモリ対応型も造れたけど、それだと箒ちゃんが逆に不安になっちゃうと思って」

 

「姉さん……」

 

どうやら、ガイアメモリ対応型でないのは、箒の心境を汲んでの選択だったらしい。その事を知った箒は束の言葉に感動している。……まあ、ガイアメモリなしの、第三世代相当ならまだ、許容範囲か。

 

「ところで、このISの名前は?」

 

「勿論決まってるよ~。束さんが『NEVER』に所属してから初めて造った第三世代の量産型IS。その名も――『黒柘榴【クロザクロ】』!」

 

「!? な、なんでその名前にした?」

 

「? 束さんの類稀なるインスピレーションだよ? あ、三分経ったね。カップラーメンでも作れば良かったね」

 

名前を聞いて『トガリ』を描いた夏目義徳先生の『クロザクロ』を思い出したが、束に他意はないらしく、首を傾げていた。

 

「んっん! ゴクロー! 早速テストを始めようではないか!」

 

「ん、そうしようか」

 

「む? あぁ~~終わっちゃったかぁ……まあいっか! それじゃゴッくんも箒ちゃんも頑張ってね! ゴッくん、箒ちゃんが頑張ったらご褒美に頭ナデナデしてあげて!」

 

「ね、姉さん! 一体何を言って――」

 

「え? 箒ちゃんはゴッくんに褒めて欲しくないの? 頑張ったねって言われて、優しく頭撫でて欲しくないの?」

 

「え!? あ、いや、褒めて欲しくないと言えば、欲しくない訳でもないですが……」

 

からかわれてアワアワしている箒と、からかってニヤニヤしている束。この二人が一緒に居る時よく見る光景だ。こうなると決まって長い。

 

「……先に行っているぞ。アンク、変身だ」

 

『そうだな。とりあえずコレで行ってみろ』

 

「分かった……変身!」

 

『シャチ! ウナギ! バッタ!』

 

ドライバーのコアメダルをスキャンしてシャウバに変身し、ピットから飛び出してアリーナへと降り立つ。パッケージは『Type-ZERO』で、メモリは防御力強化のメタルを選択した。

しかし、基本的に未知の相手にはタトバコンボを選ぶアンクが、初めから亜種形態と選ぶとは珍しい。

 

『言っておくが、俺達は制限付きで戦う。セルメダルは10枚まで。エネルギー量も「黒柘榴」と同量に調整しておいた。早く公式戦のエネルギー配分に慣れないとな』

 

なるほど。俺達も日々成長しなければならないか。アンクと会話して時間を潰していると、ピットからようやく箒が出てきた。

 

「ま、待たせたな」

 

「いや、そんなに待ってない。早速、『黒柘榴』の性能テストと行くか」

 

「ああ、宜しくお願いする」

 

箒はペコリと一礼してから、無双セイバーと大橙丸を模した二本の剣を両手に召喚する。どちらもIS用に造られている為、オリジナルよりかなり大きい。

とりあえずメタルシャフトを召喚し、メタルシャフトにウナギアームから発生する電撃を纏わせる。

 

『しかしあれはウサギ女が造った武器だ。オリジナルと同じ力を持っているとは限らん。常に気を張っておけ』

 

「よし……行くぞ、ゴクロー!」

 

「……来い!」

 

「はぁあああああああああ!!」

 

気合の篭った声と共に、二刀流による接近戦を仕掛けてくる箒を、メタルシャフトの棒術で捌いていく。正直な話、初使用とは思えない程に箒の動きが良い。機体の性能もあるだろうが、箒の高い身体能力と剣道で培ってきた技術が、ISの操縦技術の拙さと経験不足を補っているのだろう。

 

「むぅ! やはり、手強いな! ならば!」

 

「甘い」

 

『METAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

二刀をメタルシャフトで押さえつけた鍔迫り合いの状態から、箒が左手の大橙丸を収納して無双セイバーの後部スイッチを引いたのを確認した瞬間、メモリスロットをタップしてメタルのマキシマムドライブを発動。体が銀色に輝き、銃口から発射されたエネルギー弾を防ぐ。

 

「オラァッ!」

 

「うわぁああッッ!!」

 

「流石に接近戦は強いな。それなら遠距離戦はどうだ!」

 

お返しとばかりに高圧水流をシャチヘッドから放って箒から距離を取り、トリガーマグナムを右手に召喚。腰のメモリスロットのメモリをジョーカーからサイクロンに変更し、秒間240発の疾風を伴った弾丸を箒に対して連射する。

 

「くっ! 来い!」

 

それに対して箒は左手に盾を召喚して風の弾丸を防ぐ。ふむ、防御もそれなりに出来るみたい……あれ? 箒が手にしている盾って、よく見れば下の方にガトリング砲が付いてないか? あれってもしかして『天・下・御・免!』の方じゃなくて、『乱れ玉! ババババン!』の方か?

 

『だろうな! コレに変えろ!』

 

「ええい! 今度はコッチの番だ!」

 

『シャチ! カメ! タコ!』

 

シャウバからシャカタにチェンジすべく、俺が銃撃を止めた途端ガトリング砲の銃口が此方に向けられ、轟音と共に大量の銃弾が放たれる。

先ずはコンボチェンジで発生するメダル状のエネルギーで銃弾を防ぎ、それが収まる瞬間カメアームの両腕を合わせ、今度は『ゴーラシールデュオ』で銃弾を受け止める。更にタコレッグの吸盤でしっかりと足を地面に固定した。

しかし、ガトリング砲の攻撃力は予想以上に高く、銃弾を受けた傍から衝撃で後ろに下がっている。もっとも、元々命中精度が低いのか、箒の技術的な問題なのか、結構的を外している様にも感じる。

 

『いや、どうやら反動がデカ過ぎて扱いきれてないらしいな』

 

アンクの言う通り、元ネタ同様に本体に掛かる負担がかなり大きいのか、攻撃していた筈の箒が膝を付いた。

 

「うっ! ぐぅぅ! ISの反動制御があってこれか! なら!」

 

ガトリング砲付きの盾を格納し、次に箒が左手から取り出したのは、弓のリムの部分が刃になっているソニックアローを模した黒い弓矢。左手で構え、右手で弦を引く箒の姿は、なんと言うか様になっている。実家の神社で巫女をやっている所為だろうか。

 

『オイ! ぼーっとするな! ポイントされてるぞ!』

 

「はぁっ!」

 

おっと、確かに見入っている場合ではなかった。オリジナルと違って連射性能があるのか、一本ではなく複数本の矢が此方に向かってくる。左右に移動しながら矢を回避し、とりあえず思いついた事を試したいので、レッグをワニに変えてくれるようにアンクに頼む。

 

『ああ、経験値稼ぎだな』

 

『シャチ! カメ! ワニ!』

 

シャカタからシャカワニにチェンジし、メモリもジョーカーに変更する。今度は次々と放たれる矢を、足の動きに合わせて発生するオレンジ色のワニの頭を模したエフェクトを使って噛み砕いていく。

 

……うん。大分慣れてきた。そろそろ試してみるか。

 

「オラァッ!」

 

「なあっ!?」

 

今度は放たれた矢の一本をワニのエフェクトで砕かずに挟み、そのままクルリと一回転して挟んだ矢を投げ返した。予想外のカウンター攻撃に箒は矢の直撃を受けて大きく仰け反る。

これでワニレッグの噛筋力……と言って良いかどうかは分からないが、少しはワニレッグの力をより細かくコントロールする事が出来たと思う。次はデスロールに挑戦したい。

 

「むぅ……分かっていた事だが、滅茶苦茶にも程があるぞ!」

 

「それほどでも」

 

『いや、褒めてないぞ』

 

「そろそろエネルギーも底をつく……はぁああああああああッッ!!」

 

箒は再び無双セイバーと大橙丸を模した大小の二刀を召喚すると、それぞれの柄を合体させた。箒の気合を込めた声に呼応する様に、ナギナタモードの無双セイバーと大橙丸の刀身に、赤色のエネルギーが充填されていく。

 

「こっちも決めるか」

 

『ダブル・スキャニングチャージ!』

 

左手に召喚したメダジャリバーにセルメダルを二枚装填し、右手のオースキャナーでセルメダルをスキャン。メダジャリバーの刀身にセルメダルのエネルギーが充填される。

 

オレンジロックシードを使っていないし、「オレンジ・チャージ!」の音声も無いが、恐らく箒の放とうとしている技は「ナギナタ無双スライサー」だ。

無双セイバーからエネルギー刃を標的に放ち、オレンジ型に展開したエネルギーで拘束、接近して大橙丸で一閃する必殺技。ならば、初撃の拘束目的で放たれるエネルギー刃をなんとかすればいいと見た。

 

「セイヤァアアアアアアアアアッッ!!」

 

右下から左上へ斜めにメダジャリバーを振るい、刀身からエネルギー刃を放つ先制攻撃。コレに対して、箒もエネルギー刃を放って俺の攻撃を相殺するのか。それとも、俺の攻撃をかわしてから俺にエネルギー刃を放つのか。

 

前者なら、攻撃が相殺された際の爆発に紛れて接近し、メダジャリバーにセルメダルを再装填して接近戦。後者なら右手にダミーメモリを装填したメタルシャフトを召喚し、放たれたエネルギー刃に投げて俺の身代わりにしてから、同じ様にメダジャリバーで接近戦を仕掛ける。

 

「はぁっ!!」

 

箒は上空に飛んでエネルギー刃を回避。早速、メタルシャフトを召喚しようと思ったのだが、ここで箒は無双セイバーを振り下ろさずに後部スイッチを引き、銃口からエネルギー弾を一発だけ撃ってきた。

ここで反射的に右手を上げ、カメアームの「ゴウラガードナー」で防ごうとしたのが不味かった。

 

「! コレはッ!」

 

『何ッ!?』

 

「ゴウラガードナー」に着弾したエネルギー弾は、俺の予想に反して弾かれる事なく、黄色いエネルギーネットとなって俺の体を拘束した。

しまった! 只の「ナギナタ無双スライサー」ではなく、「カイザスラッシュ」の要素が加わっていたのか! しかし、元ネタになった武器の所為か、黄色く光るフルーツキャップに拘束されている気分だ。

 

「貰ったぁあああああっ!!」

 

空中でナギナタモードを解除し、エネルギーが充填された大橙丸を両手持ちで構えて上空から箒が迫る。

 

『ちっ! 油断しやがって! 何とか振り切れ!』

 

「こんのぉぉぉおおおッッ!!」

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

ロックされている所為なのか、左手に握ったメダジャリバーを収納できない。メダジャリバーを握ったままで左手を何とか動かし、メダジャリバーの柄尻でメモリスロットをタップ。ジョーカーメモリに宿る「切り札の記憶」を解放する。

 

ところで、「切り札」とはトランプにおける特別強い力を持つカードであり、転じて「他の全てを抑える事ができる、とっておきの手段」と言う意味だ。これを俺は「切り札とは、あらゆる逆境を跳ね返す力」であると解釈した。

 

そんな思想の元で使われ続けたジョーカーメモリは、「ピンチの時ほど強い力が出せる」と言う、どこぞのピンク色のツンデレツインテールの持っている帝具みたいな能力を獲得した。つまり……

 

「オオオオオオッッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

ピンチによって真価を発揮した切り札の力で、エネルギーネットを無理矢理に引き千切る。拘束が解かれた瞬間、右手に握っていたオースキャナーを捨て、振り下ろされた大橙丸の刀身にライダーパンチを叩き込む。

お互いの必殺技が激突した衝撃で、俺と箒はその場から大きく飛ばされたが、俺は空中で体制を立て直して両脚でしっかりと着地した。一方の箒は背中から地面にぶつかった。

 

「ぐ、うぅぅ……」

 

『はぁ~~い! 二人ともそこまでだよ! それ以上は「黒柘榴」が大破しちゃうからね! 少し休んだら二人ともちゃ~んと束さんの所に来てね! ところで、ゴッくん。箒ちゃんはどうだった?』

 

「あぁ……初陣にしては上出来だな」

 

「ほ、本当か!?」

 

「おいゴクロー、初めから甘やかすな。弱点だらけで、力を使いこなしているとは言えないんだからな」

 

「うっ……」

 

箒が『黒柘榴』を解除し、俺も『オーズ』を解除すると、ドライバーからアンクが飛び出して箒に厳しい評価を下す。そう言えば、成長させる為にはあえて厳しい事を言う事も必要だと聞いた事があるが、俺は相手を褒めて伸ばすタイプなんだよなぁ……。

 

「ま、何にせよお前はこれから……いや、ここからスタートだ」

 

「う、うむ…………ハッ! か、勝手に頭を撫でるな!」

 

「じゃあ止めるか?」

 

「え!? う……も、もう少しだけ、撫でても良いぞ……」

 

「じゃあ、もう少しだけ」

 

「んぅ……」

 

これまでの付き合いから、箒の抗議が照れ隠しだと分かる。本気で嫌な時とは声色が違う。頭を撫でられている時の束と同じ表情をしている箒を見て、やはり俺は褒めて伸ばす方向でいこうと決意した。

 

 

 

一方その頃、別のアリーナではセシリアとマドカの二人がクラス対抗戦に向けてISの訓練をしていた。何故この二人が一緒に訓練しているのかと言うと、昼休みにセシリアがゴクローに提案した事が原因である。

 

「『偏光制御射撃【フレキシブル】』を教えて欲しい?」

 

「はい。クラス対抗戦に向けて、是非ともわたくしに教えて頂きたいのですが……」

 

「……難しいな。『オーズ』の偏光制御射撃と、BT兵器の偏光制御射撃は仕組みが違う。セシリアの技術力を向上させるとなると、俺が教えた事とは別の訓練が必要だ」

 

『オーズ』の「偏光制御射撃」はBT兵器のそれと違い、ルナメモリの力によるものなので、あまり参考にならないだろう。

 

「? 技術力でしたら、ゴクローさんのおかげで向上しましたわよ?」

 

「いや、俺がやったのは、セシリアの戦い方や考え方、後は悪癖を直しただけだ。セシリアの技術力自体は前と大差ない」

 

「はあ……それでは、どうすればいいのでしょうか?」

 

「まずはBT兵器で『偏光制御射撃』が出来る奴に話を聞く。そしてココに出来る奴がいる。マドカ、セシリアに『偏光制御射撃』を教えてやってくれ」

 

「……良いだろう」

 

こうして、意外にあっさりとマドカがセシリアのトレーニングを引き受けた事で、マドカとセシリアは早速放課後のアリーナを使って『偏光制御射撃』の特訓をしていた。

 

もっとも、マドカは何も素直に言う事を聞いたわけではない。ゴクローとはクラスでも部屋でも一緒になれなかった事で、なんとなく自分が割りを食ってる気がするマドカの腹の底では、満たされない欲望がとぐろを巻いていた。

 

(コイツを成長させれば、丁度良い言い訳になる……くふっ)

 

素直に甘えるのは恥ずかしい。大義名分が必要だ。頑張って結果を出したからご褒美が欲しいと言えば、ゴクローが大体の我が侭を聞いてくれる事は、束とクロエの件で分かっている。チャンスとは待つものではなく、自ら作り出すものなのだ。

 

(な、なんですの!? あの邪悪な笑みは!? わ、わたくしに一体何をさせるつもりなんですの!?)

 

傍から見れば「悪事を働きご満悦」と言った感じで、ニタァと笑う欲望全開なマドカの笑顔を見て、セシリアは底知れぬ恐怖を感じるのだった。

 

 

○○○

 

 

世界で初めてISが使える男子が幼馴染の一夏で、その一夏がIS学園すると聞いた時、あたしが何でIS学園に入学できないのかを軍部に抗議しに行った。軍部のおじさまが言うには、IS学園に入学する話を持ってきた時に、あたしが入学を断ったのが原因だと言っていた。

 

そんな事知った事じゃない。今のあたしにとって重要なのは一夏に会う事だ。あたしは何時の通り、優しいオジサマ達に“優しくお願い”してIS学園に転入できるようにしてもらった。

 

そうして一年振りに再会した幼馴染は一年前とあんまり変わっていなかったが、多少は男らしくなったと思う。お互いの空白の一年間と、中学時代の思い出話に花を咲かせて、首尾よく今日の放課後に、あたしが一夏のISの操縦を見る約束を取り付けることに成功した。

 

「なんとなく分かるでしょ? 感覚よ、カ・ン・カ・ク。はぁ!? 何で分からないのよ! この馬鹿!」

 

「ああ、もう! だから全然分かんねぇんだって!!」

 

放課後のアリーナでは、一夏とあたし目当てのギャラリーがそれなりにいた。食堂でもそうだけど、ここでも仲の良い所を見せつければ、学園の女子の間で噂になる事間違いなし。そして噂には尾ひれが付き物と相場が決まっている。

あたしが一夏の彼女だって噂が広まって、なし崩しで一夏と彼氏彼女の関係になると言う、あたしの作戦は完璧に思えた。

 

「はぁ!? こんなに分かりやすく教えてやってるのに何で分からないのよ!」

 

「いや~、それじゃ絶対に分からないと思うな~」

 

一夏と二人っきりであたしがISについて教えている所で、見たことの無い女があたし達に近づいてきた。

 

「燕先輩?」

 

「あのね。人にモノを教えるって言う事は、相手が分からなかったり、苦手だったりする事を、分かるように、出来るようにするって事なの。分からない事を分かるようになりたい相手を馬鹿にするなんてナンセンスよ」

 

「……誰よ、アンタ」

 

「ああ。鈴、紹介するよ。三年生の千歳燕先輩。日本の代表候補生で、IS学園に来てから俺にISを教えてくれた人なんだ」

 

なるほど。何も知らない一夏に対してISについて親切に教えて、一夏の好感度を上げていた訳ね。一夏は代表候補生だって言ってたけど、専用機持ちじゃないみたいだから、実力は私の方が上よね。

 

「ふぅん。実はあたしって専用機持ちなんですよね~。どっちが優秀なのか一目瞭然だと思いませんか?」

 

「名選手が名コーチだとは限らないんじゃないかな?」

 

どうやら引く気はなさそうね。それなら分かりやすく専用機持ちの実力ってヤツを教えてあげるしかないわね! そうすれば一夏も、あんな女よりあたしの方が良いって分かるし、一石二鳥ってやつね!

 

「それじゃこうしませんか? これから模擬戦をして勝った方が一夏にISを教える。分かりやすいと思いませんか?」

 

「そうね。中国の第三世代機にも興味あるし、丁度良いわね」

 

随分と自分の腕に自信があるのか、余裕のある表情であたしの提案を受けた。纏っているのは、第二世代の量産型IS『打鉄』。IS学園が保有している訓練機だ。

あたしは専用機持ちの代表候補生だ。訓練機ごときに遅れをとるようなやわな腕はしていない。……まあ、確かに油断してちょっと危なかった所もあったけど、燃費と安定性を第一に造られた、実戦モデルの『甲龍』を相手に、訓練機で敵う訳がない。

 

「これで分かりましたよね? 格の違いってヤツが? そして、これで終わりッ!!」

 

所々の装甲が破壊されている『打鉄』に対して、『甲龍』に搭載された第三世代型空間圧兵器・衝撃砲『龍砲』の最大出力攻撃で止めを刺す。訓練機のアーマーが相手なら、一撃で沈めることが出来る砲撃だ。そんな『龍砲』の直撃を受けて、女のISが解除される。文句無しにあたしの完全勝利だ。

 

「見なさい一夏! あたしの方が――」

 

「燕先輩! 大丈夫ですか!?」

 

……なんで? 勝ったのはあたしなのよ? なんでその女の所に行くの?

 

「ちょっと一夏! そんな奴よりあたしの――」

 

「あはは……カッコ悪い所、見られちゃった……」

 

「喋らないで下さい。動けますか?」

 

「………」

 

何で? 何で負けたアイツに一夏が手を差し伸べて、なんであたしには何も無いの?

 

「!! 一夏君、後ろ!!」

 

「え? いぃぃッッ!!」

 

あの女から一夏を引き剥がす為に、両手に『双天牙月』を呼び出し、連結させてから投擲する。それに対して、一夏はあの女に覆いかぶさる様にしてかわした。何で!? 何で余計にくっついてんのよ!?

 

「何すんだ鈴!」

 

「何すんだも何も、勝負はあたしが勝ったのよ! なんでそんな奴ばっかり構うのよ馬鹿!」

 

「馬鹿はお前だ馬鹿!」

 

「馬鹿とは何よ馬鹿! 朴念仁! 間抜け! アホ! 馬鹿はアンタの方よ!」

 

「うるさい、貧乳!」

 

一夏が言ってはならない言葉を言ったその瞬間、私の中で決定的な何かが切れた。

 

「あ、いや、その……」

 

「……もういいわ。決闘よ一夏! あたしが勝ったら、アンタあたしに謝りなさいよ!」

 

「お、おう、良いぜ。俺が勝ったら、さっきの事謝ってもらうからな!」

 

そう言って、一夏は『白式』を展開する。正直、機体のエネルギーが残り半分程度で心許無いけど、一夏はつい最近になってISを操縦するようになったって言うし、これで充分だと思った。

 

ところが、一夏はあたしの予想を超えて強かった。いや、しぶとかった。

 

「くっ! いい加減にやられなさいよ!」

 

「おいおい! 冗談だろ!」

 

一夏の『白式』は近距離武装しかないから、すぐに距離を詰めての接近戦を選ぶと思ったのに、さっきから常に動き回って回避行動ばかりしている。目に見えない衝撃砲を警戒しているんだと思うけど、それにしたって一度も攻撃してこないのは奇妙だ。

 

「さて、そろそろ決めないと不味いわね」

 

予想以上に一夏が粘る所為で、機体のエネルギーが底をつきそうになっている。残りのエネルギー量を考えると『龍砲』はもうあまり使えない。そこで、連結させた『双天牙月』を手に一夏へと接近戦を試みる。

 

「! ここだぁっ!」

 

そんなあたしに、「この瞬間を待っていた」と言わんばかりの表情をした一夏が急接近する。まさか『瞬時加速【イグニッション・ブースト】』!? 嘘でしょ!? ISを操縦してまだ一ヶ月かそこらの筈なのに!!

 

「うおおおおおっ!」

 

「きゃああああっ!」

 

『白式』の「雪片弐型」ですれ違い様に斬られた事で、『甲龍』のシールドエネルギーは一撃でゼロになり、あたしのISが解除された。

 

「う、そ……嘘、でしょ……」

 

「凄いわ一夏君! 『瞬時加速』をちゃんと使いこなせるようになったのね!」

 

「あ、いや、『白式』って近距離装備しか無いから、出し所を考えて一撃で決めないといけないって思ってずっと練習してたんで……」

 

とても信じられない事だが、たった一ヶ月程度で一夏はあたしを倒せる位に強くなっていた。原因は誰がどう考えてもあの女だ。

 

「……何よ。あたしの時とその女の時と違うじゃない」

 

「は? 何言ってんだよ、鈴? ほら、俺が勝ったんだから、約束はちゃんと守れよ」

 

約束……そうだ。あたしは一夏と大切な約束をしてたんだ。

 

「……ねえ、一夏。昔あたしと約束した事、覚えてる?」

 

「約束? 約束って言うのは……ああ、あれか? 鈴の料理の腕が上がったら、毎日酢豚を――」

 

「そ、そう!」

 

「奢ってくれるってやつ」

 

「…………え?」

 

「だから、俺に毎日飯をタダでご馳走してくれるって約束だろ?」

 

一夏が約束を覚えてくれていた喜びも束の間、一気に奈落の底に落された気分になった。あの日したあたしの精一杯の告白は、一夏にちゃんと伝わっていなかった事を知った。知ってしまった。

 

「正直、こんなにありがたい事はないよな。いやしかし、俺は自分の記憶力に関心――」

 

その後も間抜けな事を言い続ける一夏に腹が立って、感情のままに平手で思いっきり一夏を引っ叩いた。殴られた一夏は何で殴られたのかが分かっていないようで、しきりに目をパチクリさせていた。それが余計にあたしの神経を逆撫でさせた。

 

「最っっっ低! 女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けないわね! 犬に噛まれて死ね!」

 

心が怒りで満ちていたあたしは、一夏を背にアリーナを駆け足で抜け出した。寮の自室に戻ると、ベッドに頭から飛び込んだ。時間と共に心が落ち着いてくると、今度は目から涙が出てきた。

 

どうしてこんな事になったのだろうか。

 

一夏があたしと見る時と、千冬さんを見る時の目が違う事を、子供心に気が付いていたあたしは、一夏は千冬さんみたいな強い人が好きなんだと思っていた。

 

だから、あたしが千冬さんみたいに強くなれば、一夏はあたしを千冬さんと同じ様に見てくれるんだと思っていた。両親の離婚が原因で中国に戻った時、遅まきながらもISの世界に入ろうと思った理由はソレだった。その一心で、一年足らずで専用機持ちの代表候補生にまで上り詰めた。

 

あたしは強くなった。強くなって、なんでも出来る様になった。これで一夏に守られる立場じゃなくて、あたしが一夏を守れる立場になれたのだと思っていた。

 

でも、一夏はISであたしに勝った。そんな一夏があの女を見る目は、一夏が千冬さんを見る時の目にどこか似ていて、あたしが欲しかったモノをあの女が手に入れている事が、悔しくて気に入らなかった。

 

きっと昔のあたしが一夏より弱かったから、一夏はあたしの告白をちゃんと理解してくれなかったんだ。

 

きっと今のあたしが一夏より弱いから、一夏はあたしを相手にしてくれなかったんだ。

 

「欲しい……力が、欲しい……千冬さん、みたいに……強い、力が……」

 

誰よりも、何よりも強くなりたい。

 

そうすれば、今度こそ一夏はあたしの言葉をちゃんと理解してくれると、この時のあたしは信じていた。

 

 

○○○

 

 

IS学園に侵入させたエクストリームメモリから送られてきた映像データ。シュレディンガーと篠ノ之箒の新型ISの性能テストと、凰鈴音と織斑一夏の戦い。この二つを私達は何度も見ていた。

 

「まさか中国の代表候補生を倒しちゃうだなんて! 一夏ちゃんってイケメンで強いのね! 嫌いじゃないわ!」

 

「………」

 

シュレディンガーが言っていた、ルナドーパントに酷似したデザインの私が造りだした無人機IS。名前は京水。彼のISコアの中には、個人の人格と記憶を封印した試作型ガイアメモリが入っている。

 

『死神博士メモリ』なるガイアメモリの話を参考に、日本で見つけた死に掛けのヤクザを実験台にして造ってみたのだが、どう言う訳かガイアメモリに封印した人格は何故かオカマになっていた。

 

シュレディンガーが『京水メモリ』と名づけて封印されていた失敗作だが、無人機ISと組み込ませる事に成功し、今ではISとガイアメモリを用いたサイボーグとでも言うべき元人間だ。

 

「イケメンで強い! 嫌いじゃないわ! 嫌いじゃないわ!」

 

『ミレニアム』にいた頃に比べて、人手が圧倒的に不足している私にとって、彼は従順で使い勝手も良く、非常に助かる存在なのだが……彼はイケメン、それも強いイケメンが好みらしく、織斑一夏の戦闘データを見て興奮し、ひたすら同じ台詞を連呼している。

 

「ねぇ、プロフェッサー。私もそろそろ、ゴクローちゃんやアンクちゃんに挨拶した方が良いと思うんだけど、どうかしら~?」

 

「心配しなくても、そろそろ貴方をIS学園に向かわせるつもりよ」

 

かつて、世界各国は『白騎士事件』によってISの驚異的な戦闘能力を目の当たりにし、軍事利用を目的としてISを我先にと取り込み、今では各国が独自の力でISに関する数々の新技術を造り出した。

 

しかし、それら新技術は果たして本当に必要なものなのだろうか。

 

新しい発明や技術が正しく社会に組み込まれるには、それが可能か不可能かをひたすらに試行錯誤し、空想の中でしかない存在を現実世界の存在へと昇華し、それが社会に出る事で人々に評価され、淘汰される取捨選択を受ける必要がある。

 

しかし、今の人間は新しい発明や技術を、正しいかどうかなど判断せず、何の疑いも無く享受する。ISの本来の用途を無視し、ISが自分達の社会にどんな影響を齎すか深慮せずに取り込んだ結果、今の女尊男卑の世界になった。

 

世界各国が『オーズ』の力を目の当たりにした今、その力の根源であるガイアメモリやコアメダルを提供すれば、深く吟味する事無く取り入れ、簡単にその強大な力に魅入られ、欲望に飲み込まれるだろう。

 

「それで、この一夏ちゃんに近づく、この小生意気な小娘をどうするつもりなのかしら?」

 

「ガイアメモリを一本渡すわ。上手くいけば織斑千冬を倒してくれる」

 

流石に7年間も一緒に居ただけあって、私の行動はある程度シュレディンガーに読まれていた。めぼしい生徒や教師は、更識の手の者によって監視されている。

 

それ以外で使えそうな人間を探していたのだが、この中国代表候補生は何者よりも強くなる力を望んでいる。また、彼女の抱える欲望を鑑みれば、いずれは織斑千冬を打倒する事を考えるだろう。

 

何者をも超える力を手に入れた事で、織斑一夏を求める余り、その力を欲望のままに織斑千冬に向ける事は容易に想像できた。

 

「適合率が高いのは……これね」

 

『VIOLENCE!』

 

暴力の記憶が封印されたガイアメモリ。これはドライバーの使用を前提に造られたガイアメモリを、ドライバーを使う事無く直挿しで使える様に改造したもの。

そして、前回のスパイダーメモリが破壊された際に得られたデータから、エターナルメモリの力で停止させる事は不可能な仕様にしてある。

 

「さて、どうやって渡そうかしらね……」

 

確か、以前シュレディンガーが「強化アイテムは手渡しの他に『天井から落ちてきたモノ』と『宅急便で送られてきたモノ』がある」とか言ってたけど……エクストリームメモリを利用して、天井から落してみましょうか。

 

「あたしの方がッ! おっぱいおっきいわぁああああああああああああッッ!!」

 

モニターに写る凰鈴音を見て、また訳の分からない事を絶叫する京水を無視し、早速準備に取り掛かる。

 

ああ、そうだ。渡す時に一つ聞いてみよう。

 

『悪魔と地獄の底まで相乗りする覚悟はあるのか』……と。




キャラクタァ~紹介&解説

京水(きょうすい)
 本作のメインヒロイン。





 嘘です。

 性格は『W』の京水だが、見た目は中の人の須藤元気ではなく、完全にルナドーパント。『ミレニアム』の行なったガイアメモリの実験では失敗作扱いされていたが……実は元々そんな素質があっただけで、立派に成功例だった。

ニクミー
 作者的に鈴がISの世界に入った理由は、「ISの世界で強くなる事で、千冬に近づく為」だったんじゃないかと推測。「一夏は千冬さんばかり見ている」と言うのは、原作におけるヒロイン達の共通認識の様だし。原作二巻で鈴が起こす行動が、原作一巻の時間軸で起こっている。全ては彼女から何かあれば「よし、殺そう」な思考を無くする為。
 元々、箒を除いた初期ヒロイン4人の内、最低でも誰か一人に『W』のドーパントや『フォーゼ』のゾディアーツの役割をやってもらう事は決定していた。そしてマンネリ気味な展開を嫌う作者は最終的に鈴を選んだ。もしも、箒の竹刀を受け止めて「今の生身の人間なら危ないよ(キリッ)」のままだったなら選ばれなかったかも。

ワンサマー
 ぶっちゃけ、原作のクラス対抗戦は、束の無人機が襲撃しなきゃ一夏は鈴に勝っていたと思う。そんな訳で、鈴の方にハンデがあったとは言え、鈴に勝利したバージョンを書いてみた。
 原作における「酢豚」と「貧乳」の二つのイベントは、本来なら数週間の時間が経過して起こるはずだったのだが、この世界では二つとも同じ時間で起こっている。アニメでは「貧乳」イベントが無い事に作者は地味に驚いた。

惣道紫(そうどう ゆかり)
 原作にもアニメにも登場しないが、確実に存在する鈴にクラス代表を譲った二組の元クラス代表。名前は今回も例によってアナグラム。漢字はパソコンの変換機能で適当に振った。
 今回からオリキャラタグを付けることになった原因。しかし、今回以外にコイツの出番があるのだろうか?

 クラス代表
 →KURASU DAIHYOU
 →HUSADOU YUKARI
 →惣道 紫
 →『惣道紫【そうどう ゆかり】』



黒柘榴【クロザクロ】
 束が造った『NEVER』の量産型第三世代機。平成仮面ライダーで例えるなら、『555』におけるライオトルーパー。『鎧武』で言えば黒影トルーパー。
 近接メインの万能型で、装備はアームズウェポンをIS用に束が新規作成したもの。武装はかなり充実しており、『鎧武』で例えるなら「極アームズの能力が使える、色違いのカチドキアームズを纏った黒影トルーパー」。倉持技研の篝火ヒカルノ涙目。
 こうして書くと、箒よりもシャルの方が上手く使いこなせる気がする。カラーリングをオレンジ色に変えれば、見た目がよりカチコミ……もとい、カチドキアームズっぽくなる。これは吹っ切れたシャルが、デュノア社に「いざ! 出陣! エイエイオー!」っと、カチコミするフラグ……ではない。多分。
 名前の由来は漫画『クロザクロ』。上位種のザクロが「欲望こそ生物のチカラ」、「もっと自分を解放しろ」と、主人公の桜井幹人に迫っていたり、人間を使って自身の糧になる存在を作り出したりと、『オーズ』のグリードとヤミーに似た様な部分がある気がする。ISコアの人格及び姿形のイメージは子供ザクロ。


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第17話 復讐のV/仮面ライダーの流儀

真面目なのばっかり書いていると、唐突にギャグが書きたくなる。そう言えばローゼンメイデン再開したな~と思い、息抜きのつもりでこの作品のキャラでローゼンメイデンのパロディを書いてみたら……余りにもカオス過ぎる狂った展開に、途中で書くのを止めた。配役は此方。異論は認める。

水銀燈……クロエ・クロニクル
金糸雀……京水
翠星石……織斑千冬
蒼星石……織斑マドカ
真紅………アンク
雛苺………織斑一夏
薔薇水晶…ラウラ・ボーデヴィッヒ

桜田ジュン…少佐
桜田のり……リップバーン・ウィンクル
柏葉巴………篠ノ之箒
草笛みつ……シュラウド
槐……………ドク
白崎…………クラリッサ・ハルフォーフ
ラプラス……篠ノ之束

雪華綺晶……ゾーリーン・ブリッツ

アリスゲームの景品は5963。名前が一文字しか違わないとの理由で採用したシンクを筆頭に、薔薇乙女の内七人が男で、アニメ第二期のキャラも混ざっている。

そして、雛苺コスで「これゾン」の相川歩みたいな雛一夏が、きらきーコスのゾーリーンに襲われると言う、誰得なR-18版に行かなきゃイケナイ様な展開になり、ズタボロになった雛一夏が「俺……皆の所に帰れねぇ……。俺、喰われちまった……」と言うオチまで考えた。

きらきーコスのアリーシャに雛一夏が喰われても面白く無さそうだったし。



今日も朝から騒がしい一年一組の教室では、一夏が昨日と同じようにクラスメイトに纏わりつかれていた。しかし、纏わりつかれている理由が、昨日とちょっと違う。

 

「シュレディンガー君! 昨日の放課後に織斑君が二組のクラス代表と模擬戦して勝ったんだって!」

 

「……ちょっと詳しく教えてくれるか?」

 

昨日は箒の『黒柘榴』の性能テストに付き合ってから、寮の消灯時間が残り30分に迫るまで、『NEVER』の拠点で『黒柘榴』の装備について束や箒、クロエとずっと意見交換していた。晩飯もそちらで済ませたので、そんな事になっていた事は露ほども知らない。

 

「うん。昨日の放課後に、二組の凰さんと三年生の千歳先輩が模擬戦して、その時は凰さんが勝ったんだけど、その後に一夏君と凰さんが模擬戦して、一夏君が勝ったんだって!」

 

「……つまり、凰は連戦したって事か?」

 

「うん。でも織斑君は試合をたった一撃で決めたんだって! ISに乗って一ヶ月位なのに、三年生に勝った専用機持ちに勝っちゃうなんて凄いよね!」

 

「『零落白夜』か……」

 

織斑先生が現役時代に使ったIS『暮桜』と同じバリアー無効化能力。相手に一発当てれば、ほぼ勝利確定と言う反則染みた能力。

但し、能力の発動中は本体のシールドエネルギーをガンガン消耗すると言うリスクがあり、とても多用できる様な能力では無いとか。

 

「一日でまた随分と人気者になったな、一夏」

 

「本当にそう思うか?」

 

「ああ、妙に嬉しそうだ」

 

そう。一夏は朝から疲れた表情をしているが、何処か嬉しそうな雰囲気を漂わせている。まあ、その理由は見当がついている。

 

「織斑君ってやっぱり織斑先生の弟さんなんだね~」

 

「そうそう。流石だよね~」

 

「……まあ、俺は千冬姉と同じ武器を使ってるからな。そりゃしっかりしないといけないだろ」

 

一夏の嬉しそうな雰囲気の原因はズバリ、周りの「流石織斑先生の弟」と言う評価だろう。まるで、うちはフガクに「流石俺の子だ」と言われて喜ぶサスケの様だ。

クラス代表戦の前に二人で話した時、一夏は「この学園の全員に俺の事を認めてもらう」と言っていたが、それは『織斑一夏として見て欲しい』と言う意味ではなく、『織斑先生の弟として相応しくありたい』と言う意味だったようだ。

 

「なんでだ?」

 

「え!? なんでだって、そりゃ、千冬姉は『雪片』の『零落白夜』で世界一になったんだぜ? それなら千冬姉と同じ武器を使ってる俺がしっかりしないといけないだろ?」

 

「……同じ武器を使っているから、敗北する事は織斑先生の誇りを傷つけると?」

 

「おう!」

 

一夏は自分の考えを理解してくれて嬉しいと言う様な表情をしているが、実のところその点に関して俺はその気持ちがイマイチ理解できない。

 

同じ武器を使って誰かの誇りを傷つけると言うのなら、俺は『鎧武』の闇ッチがそれに該当すると思う。すなわち、闇ッチがメロンニーサンのゲネシスドライバーを使って変身した「仮面ライダー斬月・偽」。兄・貴虎に化けて紘汰を抹殺しようとしていた闇ッチの行動こそが、正に『同じ道具を使って誇りを傷つけた』と言える行動だろう。

 

すなわち、誇りとは勝敗と言う結果で決まるのではなく、戦い方と言う過程で左右されるモノなのだと俺は思う。シャルモンのおっさん的に言うなら、一夏が「エレガンスに欠ける」戦い方をしない限り、織斑先生の誇りはずっと傷つかないと思うのだが……。

 

「まあ、兎に角俺は千冬姉の――」

 

「諸君、お早う。早く席に着け」

 

一夏が何か話そうとした所で、織斑先生と山田先生が教室にやって来た。クラスメイトの全員がそれぞれ席に着き、今日の朝のSHRが始まった。

 

しかし、織斑先生と同じ武器を使っているから……か。俺も贋物とは言え、『仮面ライダー』と同じ武器を使っているが、俺はそんな気持ちが湧いた事は無い。

 

『同じ武器を使っている事で、自分と織斑千冬を同一視してるんじゃないか? 自分の敗北は織斑千冬の敗北って感じでな。もしくは、同じ武器を使っている事で、自分が織斑千冬の後継者だと思ってるってトコだろ』

 

なるほど、一夏はそう言う考えなのかも知れないな。

 

俺の場合、自分の存在が色んな意味で偽者だという認識が心の根底にあるし、ドライバーも贋物だが、魔改造が施された「本物よりもずっと強い力を持った贋物」だ。それならその使い手である俺は、「本物よりもずっと強い心を持った偽者」にならないといけない。

 

つまりは「本物を超えたい」。そんな気持ちなら俺にはある。

 

『本物より強い偽者か……悪くないな』

 

そんな俺の考えを聞いて、グリードもどきのアンクは不敵に笑った。

 

 

●●●

 

 

一夏が凰を倒したとの噂が広まってから一週間ほど経った頃。凰を倒してから、一夏は何故か凰に避けられているらしい。一夏は避けられている理由がよく分からないとの事だが、千歳先輩に話を聞いた所、女心の分からない一夏が悪いと断言していた。

 

今日はマドカと一緒にセシリアの訓練に付き合うことにした。アリーナで今日の訓練について話していた時、凰が俺達のところにやって来た。

 

「アンタ! ゴクローって言ったわよね! 今からあたしと勝負しなさい!」

 

「? 俺とお前が?」

 

「そうよ! 決闘よ! あたしが勝ったら、この学園から出てってもらうわ!」

 

凰はどう言う訳か俺に勝負を申し込んできた。そう言えばコイツは専用機持ちの代表候補生だから、IS大戦のオーズ無双を知っている。

それはつまり、万が一『オーズ』が襲撃してきた場合に備えた、対オーズ用のナニカがあると言う事。つまり、そのナニカに相当な自信があると言う事だろうか?

 

『いや、そうじゃない。中華娘が「甲龍」の強化パッケージを頼んだ時に、本国にいる「オーズ」を……と言うか、男を快く思わない連中が、「オーズ」がISを破壊する為に造り出された兵器だって事を中華娘に教えて焚きつけた。コイツを突き動かしているのは、青臭い正義感ってヤツだ』

 

そう言えば、表向きには『オーズ』は新世代型ISって設定だったな。それが実は対IS兵器だと知って、凰は俺が皆を騙していると思った訳か。しかし、どうしてアンクはそんな事を知っているのか?

 

『バイラスメモリをそれなりに使える様になってきてな。通信に関しては常に網を張っているから何でも分かる』

 

……そう言えば、IS大戦でバイラスメモリの使用権をアンクに渡してから、ずっとそのままだったな。

 

「この学園をアンタみたいな悪魔の好きになんてさせないわ! 覚悟しなさい!」

 

「……悪魔?」

 

「アンタの事に決まってるじゃない!」

 

俺は悪魔ディケイドか? しかし、『世界の破壊者』の設定を考えると、あながち間違いでも無い。

 

「ご、ゴクローさんは悪魔なんかじゃありませんわ!」

 

「本国の政府高官が言ってたのよ! 『オーズ』は全てのISを破壊する為に生まれた悪魔で、この世界を滅ぼすって!」

 

「……重要なのは持っている力がどんなモノなのかではなく、持っている力をどんな風に使うかだ。ISを自分の欲望を押し通す為の脅迫の道具として使う貴様の方が、よっぽど悪魔なんじゃ無いのか?」

 

「な、なんですって!」

 

俺を倒すべき敵だと言う凰に対して、セシリアとマドカが真っ向から対立。『ディケイド』のもやし……もとい、門矢士は何時もこんな感じだったのだろうか。

 

「上等じゃない! アンタ達の方からボッコボコにしてあげるわ!」

 

「良いだろう。先ずは私だ。ゴクロー、セシリア、ここから離れてくれ」

 

「……やり過ぎるなよ」

 

「分かっている。ただ……」

 

「ただ?」

 

「私に与えられた『青騎士』は、『オーズ』を守る為に造られたISだ。だが、私はずっと自分の為だけに、『織斑マドカ』になる為だけに戦ってきた。何かを守る為の戦いなんて、私は一度もした事がない」

 

ああ、知っている。束が考えている『青騎士』、『黒騎士』、『紅騎士』の三機のガイアメモリ対応IS。箒からは「ガイアメモリとコアメダルを使う相手に対抗する為」と聞いていたが、実際は「『オーズ』を守り、共に戦う為に造ったIS」だと、後に束が言っていた。

 

どこか『555』の「三本のベルト」みたいだが、その内『パラダイス・ロスト』に登場する「帝王のベルト」に該当する様なISも出てくるのだろうか。

 

「だから、見ていて欲しい。私にも、お前みたいに“何かを守る戦い”ができるのかどうか、私が“変身”できるのかどうか、お前に判断して欲しい」

 

そんな事を言うマドカの表情から察するに、凰との勝負に負けるつもりは欠片も無いが、元テロリストの自分が本当に変わる事が出来るのか不安と言った所か。

 

「心配するな。俺が“変身”できたんだ。マドカだって“変身”出来るって俺は信じてる」

 

「……そうか。でも、ちゃんと見ててくれ」

 

「ああ、ちゃんとマドカを見てる」

 

不安が拭えたのか、マドカの表情が少し明るくなった。俺とマドカのやり取りを見て、凰の方はイライラしているみたいだが。

 

「ねぇ、さっき言った事を謝るなら、少し痛めつけるレベルを下げてあげてもいいわよ」

 

「さっさと来い。私は絶対に負けない」

 

「……上等ッ!」

 

かくして、マドカと凰の戦いが始まった。

 

マドカの纏う『青騎士』の開発コンセプトは「状況に応じて二つの形態を使い分けるIS」で、ガイアメモリの力を利用する事でそれを可能としている。通常状態は遠距離特化で、ナスカメモリを使えば近距離特化と実に分かりやすい。

『カブト』のホッパーゼクターの、デザイン開発時のコンセプトと似ている気がするが気のせいだろう。織斑先生とマドカの地獄姉妹は少し見てみたい気がするが。

 

『青騎士』の通常形態は、ぶっちゃけ『ガンダムSEED DESTENY』のストライクフリーダムがISになった感じ。連結可能な高出力BTエネルギーライフルが二丁。両腰にはエネルギーソードの懸架ラックを兼ねた、2つ折り式レールカノン。連結可能なエネルギーソードが二本。両腕部にはビームシールドと、ビーム系兵器がこれでもかと搭載されている。

 

その中で最も特徴的なのは、背部のウイングバインダーに搭載されている合計8基のビット兵器。ミレニアム製のマルチロックオンシステムと、ドラグーンシステムを使用したもので、束がそれらをマドカが使うに当たって最適な仕様に調整したとか。

しかも、『プロト・ティアーズ』のISコアを使った影響か、8機のビットから発射されたレーザーを自由自在に曲げる事が出来る。

 

正直な話、機体スペックとマドカの操縦技術を考えると、ナスカメモリを使わなくても大抵の敵に勝てる。

そんなマドカは今、二丁のエネルギーライフルしか使っていない。凰は序盤から衝撃砲でガンガン攻めているが、マドカは攻撃を回避してばかりで殆ど攻撃していない。

 

「なんで! なんで当たらないの!」

 

「ふん。貴様の殺気が塊になってコッチに向かって来るんだ。見えない砲身? 見えない砲弾? 私に言わせれば丸見えだ」

 

そう。見えない攻撃と言っても、衝撃砲には凰の殺気が込められており、あれなら凰の殺気を読んで狙いを特定する事は、マドカにとって容易だろう。

まるで『ARMS』の「空間の断絶」を殺気を読む事で回避した、少々忍術を嗜むサラリーマンの様だ。

 

「殺気ですか……わたくしには難しそうですわ」

 

「セシリアはそう言うタイプじゃないからな。セシリアの場合は、相手の表情や攻撃パターンを読む事を極めた方が良いと思うぞ」

 

「ええ。しかし、なんでマドカさんは攻撃しないのでしょうか? 幾らでも攻撃のチャンスはあったと思うのですが?」

 

「無駄撃ちや空振りは、精神的にも肉体的にも一番疲れる。特に凰には“見えない”って言うアドバンテージがあるのに、それが全く効いてない。凰の精神的ダメージはかなりのものになっている筈だ」

 

『最強の装備でも対抗できないって事もな。本国で整備担当が無理をして三日で仕上げたってのに』

 

なるほど。つまり「凰の考えた最強の『甲龍』」か。しかし、マドカは被弾数ゼロ。今も凰が繰り出した『高電圧縛鎖【ボルテック・チェーン】』を撃ち落し、まだまだ余裕の表情をしている。

それに対して凰は段々と攻撃が単調になり、動きも悪くなってきた。顔にも疲労の色が見てとれる。

 

「こんのぉおおおおおおおおッッ!!」

 

衝撃砲が効かないマドカに対して、凰はとうとう自爆覚悟の特攻を選択したようだ。両刃の薙刀状に連結した『双天牙月』を振り回し、マドカに急接近する。その凰に対して、マドカは迎撃するのかと思いきや、なんと両手のエネルギーライフルを格納した。

 

「貰ったぁああああああああッッ!!」

 

「危ない!」

 

「いや、誘いだ」

 

「フッ!」

 

マドカが選択したのは真剣白刃取り。遠心力で攻撃力が増した『双天牙月』を両手で挟んで止めた。

 

「なっ!」

 

「終わりだ」

 

凰の動きが止まった所で、左右の腰に装着された二つ折り式レールガンを展開。至近距離から凰にレールガンを二発撃ちこんだ。

直撃を受けて大きく仰け反りながら吹き飛んだ凰に対し、マドカは8機のビットの内6機を使って追撃。ビットから放たれるレーザーが、『甲龍』の両腕と両脚、そして『非固定浮遊部位【アンロック・ユニット】』を撃ち抜いた。

 

「終わりましたわね」

 

「ああ、終わったな」

 

一撃も当てられないまま一気に戦闘不能に追い込まれ、敗北した凰はアリーナに大の字で倒れていた。マドカはそんな凰に目もくれず、『青騎士』を解除して真っ直ぐ此方に向かってきた。

 

「ゴクロー、どうだった?」

 

「ああ、最後の白刃取りが凄かった」

 

「あの、マドカさんなら直ぐに勝負を決められたのでは?」

 

「ふん。あの手の人間はな、一度格の違いを教えてやれば二度と反抗しないんだ」

 

そう言われればそうかも知れない。昔は織斑先生から、今はマドカから格の違いを教えられたとすれば、何か因縁めいたモノを感じざるを得ない。

 

 

 

その後マドカから、夕飯の後でデザートにアイスを買って欲しいと言われた。随分安上がりなおねだりだと思ったが、どうやら二つに分けて食べるアイスが食べたいらしい。

 

「言っておくが、単に一人分だと量が多いから分けて食べるのであって、別に他意は無い。そう、断じて、断じて他意は無いぞ」

 

大事な事なのか二回同じ事を言うマドカだが、視線が泳いでいて挙動不審だ。しかし、断る理由は無いので、夕食後にマドカと二人で購買部にアイスを買いに行った。棒のタイプも、パピコみたいなタイプも無かったので、モナカのアイスを買う事にした。

早速マドカが袋から取り出して半分に割ろうとしたのだが、モナカアイスは半分に割れず、右手の方に8分の一、左手の方に7分の一位の比率で割れた。

 

「あ……」

 

「あるある、よくある」

 

予想外に不器用だったマドカをフォローし、結局俺がモナカアイスを割って、二人で半分ずつ食べた。何となく『NARUTO』の自来也とナルトみたいだと思った。

 

 

●●●

 

 

あれから俺達と凰との間に接点は殆どなく、たまに食堂で顔を合わせると直ぐにそっぽを向いて何処かに行ってしまう。一夏の方も同様で、未だに凰に避けられているらしい。

 

その間に起こった事と言えば、簪から『打鉄弐式』の製作を手伝ってくれたお礼にと抹茶のカップケーキを貰って二人で茶をしばいたり、楯無が再び生徒会の仕事をサボり出したことで虚と二人で生徒会の仕事を捌いたり、生徒会の仕事が終わった頃に何故か本音がタイミングよくやってきて三人で茶をしばいたりした。

 

『コンボが一つ使える様になったのはどうした?』

 

そうだった。新しくコンボが使えるようになる為に、今度は常時バトルモードのサイドバッシャーを相手にする羽目になった。

ミサイルやらビームのバルカン砲やら飛び道具が充実し、格闘能力も高いと言う高スペックから、ライダーマシンの中でも最強候補と名高いコイツを、束が無人機ISと組み合わせて無駄に強化していた所為でやたらと強かった。

 

 

 

そして本日、凰と王鶴華なる中国の代表候補生が、専用機持ちの座とIS学園の残留を賭け、放課後のアリーナで戦うと聞き、箒達と一緒にその様子を観戦しに来た。一夏も一緒だったのだが、千歳先輩に連れ去られてしまった。

 

しかし、なんだってそんな事になったのやら。

 

『王鶴華って奴は、この学園に来る予定だった中華娘がそれを断った為に、お鉢が回ってきてIS学園に来る事になった、専用機持ちじゃない代表候補生だ。

ところが、中華娘は馬夏がIS学園に来るって分かった途端、軍部を脅して力づくでIS学園に転入した。他にも色々と好き勝手しているが、そんな奴を面白く思わない奴なんて幾らでもいると思わないか?』

 

確かに、その話を聞いた時は俺も面白いとは思わなかった。例え凰に傷つけるつもりがなかったとしても、事実として残るのはISと言う兵器による脅迫行為と、それによって植えつけられた恐怖だ。

そんな凰を専用機持ちとして相応しくないと考えている人間は政府高官や軍部の他に、中国の代表候補生の中にもいるだろう。

 

『だが、中華娘のどんな相手にも立ち向かっていく生来の負けん気の強さと、天性の才能と言える野生的なバトルセンスの高さは、いざと言う時には頼りになる。

だからこそ専用機持ちに選ばれ、ある程度の暴走も容認されていた。しかしそれは、中華娘が自分達に齎す結果を期待しての話だ』

 

それはつまり、期待するような結果を出せない凰を見限りつつあるって事か?

 

『更に、代表候補生に与えられる専用機は、開発した最新兵器の性能を試す実験機の意味合いが強い。しかし、中華娘は使いこなせているとは言い難い。

そこで王鶴華にも衝撃砲を搭載した機体を使わせて、どちらがより衝撃砲を使いこなせるのか比較しようって訳だ。そこらへんが今回の試合が認められた理由だろうな』

 

なるほど。それで王の方が訓練機じゃないのか。確かにマドカ戦でも「衝撃砲の砲身には稼動限界角度が無い」と言う利点を、凰は生かしきれていなかった。そして、アンクの説明を聞いている内に試合が始まった。

 

凰は衝撃砲で王を牽制しつつ、隙を見て自分の得意な近距離戦に持ち込もうとしているが、挑戦者の王は冷静に衝撃砲の射程距離を見極めて常に中・遠距離をキープし、凰の衝撃砲が届かない距離からアサルトライフルで攻撃している。

 

『もっと言えば、中華娘の衝撃砲を撃てない角度と、有効射程を既に特定している。そして衝撃砲は中距離の牽制のみに使い、本命は相手の攻撃が届かない遠距離から確実に決める。中華娘を攻略する為にかなり勉強してきたみたいだな』

 

なるほど、つまり理詰めか。相手に攻めづらく、自分は攻めやすい位置を取り、相手が苦手とする戦法で確実に此方の攻撃を決める。実に合理的な作戦だ。

それでも、マドカ戦の時ほど凰は苦戦していない。凰の攻撃も王にある程度決まっている。

 

そのまま試合は王が優勢のまま進み、このまま王の勝利かと思われたが……ここで、凰が何かを左手に握り、握っている何かを右腕に当てた様に見えた。

その直後、凰の『甲龍』のカラーリングがシルバーメタリックに変化し、機体の各所に黒い鉄板の様な物が出現した。全体的に一回り程大きくなり、ドラゴンの様な形状のヘッドギアも頭につけている。

 

「!? これってまさか、『第二形態移行【セカンド・シフト】』!?」

 

突然の『甲龍』の変化に王が驚いているが、『第二形態移行【セカンド・シフト】』はここまで外見が極端に変化したりはしない。この劇的な外見の変化はむしろ、スパイダーメモリを使った時のアラクネに近い。まさかアレは……。

 

『そのまさかだ。バレない様にしていたが、左手にガイアメモリの端子が見える』

 

アンクの説明と共に、俺の目の前に空間ディスプレイが展開され、先程の凰の様子が拡大映像として映し出される。アンクの言う通り、確かに左手にガイアメモリの端子に見えるものが映っている。しかし、どうして凰がガイアメモリを持っているんだ?

 

『包帯女に加担しそうな生徒や教員はネコ女にマークされて接触は困難だった。他にも理由はありそうだが……問題は、何のメモリかって事だ』

 

「ゴクロー、アレはまさか……」

 

「ああ、『第二形態移行【セカンド・シフト】』じゃない。ガイアメモリだ」

 

箒達は心底驚いているが、アンクの言うとおり、アレが何のメモリなのかが気になる。変化した『甲龍』の見た目は『フォーゼ』のドラゴン・ゾディアーツを髣髴とさせるが、機体から生えている鉄板は『W』のバイオレンス・ドーパントっぽい。

しかし、俺が持っているユニコーンメモリの他にも、『Zを継ぐ者』でフィリップが言及していた、ペガサスやグリフィンと言った他の神獣・幻獣系のメモリも造っていた事を考えると、もしかしたらシンプルにドラゴンかも知れない。

 

「アハ、アハハハハ! 本当だ! 急に力が満ち溢れてきた!」

 

試合の方は、ガイアメモリを使った凰のワンサイドゲームと化し、先程とは全く逆の展開となっていた。苦戦していた衝撃砲もアサルトライフルも物ともせず、接近戦では武器を使わず徒手空拳の攻撃を加え、その度に王のISの装甲が砕けている。ガイアメモリの力によって、単純に攻撃力と防御力が強化されているようだ。

 

「この! 離れろ! 離れろぉおおおおおおおッッ!!」

 

王は至近距離から衝撃砲を放っているが、直撃している筈の凰の方はビクともしない。王のISの装甲を左手で引っつかみ、力技で王をアリーナの地面に押さえつけて動きを止めると、右手を大きく引いてパンチを打ち込む構えを取る。すると、右手が巨大な鉄球と化した。

 

「さあ、自分が砕ける音を聞きなさいッ!!」

 

「ヒッ!!」

 

恐怖に顔を歪めた王に、凰は『仮面ライダーメテオ』のジュピターハンマーを髣髴とさせる一撃を繰り出した。王はそのまま成す術なく凰の攻撃を受けて戦闘不能に陥った。余りにも強過ぎる攻撃でシールドを貫通したのか、王は泡を吹いて痙攣している。アリーナのほうにもクレーターが出来ており、どれだけ強力な一撃だったのかが伺える。

 

『試合終了。勝者――凰鈴音』

 

凰はISを解除すると、倒れている王を一瞥する事無くその場を立ち去った。しかし、勝利者である筈の凰に拍手が送られる事はなく、アリーナが喚声に湧く事も無い。織斑先生から通信が入ったのは、それからすぐの事だった。

 

『遂に来るべき時が来たな……』

 

アンクの言葉に過酷な戦いを予感した。

 

 

○○○

 

 

どうしても一夏に自分が強くなった事を証明したくて。自分でも無謀だと思っていたけど、『オーズ』に挑戦しようと思って強化パッケージを本国に注文した時、『オーズ』の正体を本国の政府高官が教えてくれた。

 

アレは世界中のIS全てを破壊する為に造られた兵器で、その力を使って『オーズ』はこの世界を破壊しようとしていると。あたしは今のこの世界が好きだ。その世界を破壊するなんて許せない。

 

あたしの専用機『甲龍』の強化パッケージが本国から届くと、あたしは自分の持ちうる最強の力で『オーズ』を倒すべく、放課後に使い手のゴクローを探し出して、決闘を申し込んだ。

 

でも、そこで思わぬ邪魔が入った。一組の専用機持ちで、確かイギリスの代表候補生と、千冬さんによく似ている三組のクラス代表の織斑マドカの二人だ。二人はあたしの言葉を真っ向から否定し、マドカに至ってはあたしの方が悪魔だと言った。

 

そこで、『オーズ』と戦う前に邪魔な二人を先に片付けるつもりだったが、あたしはマドカに手も足も出ずに負けた。あたしはそのマドカの姿に、昔の千冬さんを幻視した。

 

弱いお前には、誰も何も守れない。そう言われた様な気がした。

 

 

 

マドカに敗北してから、本国からIS学園にいる中国の代表候補生と戦えと言われた。敗北すれば専用機を没収の上、本国の学校に行く様に言われている。一夏がIS学園に行くと知る前まで、あたしが行く事になっていた学校だ。

 

せっかく一夏と同じ学校に入れたのに、また離れ離れなんて冗談じゃない。抗議したが全く聞き入れて貰えなかった。本国から楊代表候補管理官も来るらしく、本気で言っているのだと理解した。

 

そんな負けられない戦いが迫る中、携帯電話が無い事に気付いて思い当たる所全てを探していた。目的の携帯電話は、二組の教室の机の中に忘れていた。確かにポケットしまったと思っていたけど、気のせいだったかしら?

 

ふと教室全体に目を向けると、夕焼けの光が窓から差し込んでいる。その光景が一世一代の告白をしたあの日を思い出させ、あたしをブルーにさせた。

 

そんな気分に浸っていたら、天井の方から声が聞こえた。

 

『弱い自分が嫌いなのね?』

 

「!? 誰!? 誰なの!?」

 

『貴方に力をあげる。常識を超えた力よ』

 

「……常識を超えた力?」

 

『そうよ。貴方に、悪魔と相乗りする勇気があるのなら……』

 

「な、何よ! あたしを馬鹿にしてるの!?」

 

その直後、あたしの頭に何かが落ちて当たった。地味に痛い。頭を抑えて視線を下に向けると、赤くて大きなUSBメモリみたいなモノが床に落ちていた。

 

「こ、これって……」

 

『そう、ガイアメモリ。全てのISを破壊する悪魔の力。その力を貴方のISに使えば、貴方は生まれ変われる。もう誰かに守られる必要は無くなる』

 

悪魔と相乗りするだなんて大げさだと思った。でも、確かに床に落ちている赤いガイアメモリは、どこか異様なオーラを放っている。危険な臭いがするが、それと同時に抗い難い魅力も感じる。あたしがどうするか考えていると、そんなあたしの背中を押すような声が聞こえた。

 

『守りたい人がいるのでしょう?』

 

「ッ!!」

 

『何かを守る為には力が要る。それは貴方もよく知っている筈よ』

 

あたし教室から飛び出して、寮に向かって走った。右手に赤いガイアメモリを握り締めて。この事は誰にも言わなかった。

 

 

 

そして、あたしにとって、絶対に負けられない戦いが始まった。相手はあたしを攻略する為に随分と研究したのか、やたらと攻めづらい相手だった。このままでは負けてしまう。せっかく一夏に会えたのに、また一夏と離れ離れになる。

 

それだけは……それだけは絶対に嫌だ!

 

『VIOLENCE!』

 

バレないように取り出したガイアメモリ起動し、『甲龍』の右腕部分に差し込むと『甲龍』の機体が大きく変化した。身体の底から今までに感じた事が無いほど力が満ち溢れ、体中を不思議な衝動が駆け巡っていく。

 

この力があれば、なんだって出来る様な気がした。さっきまで劣勢だった対戦相手を、真正面からあっさりと倒す事が出来た事が、それを裏付ける証拠に思えた。

 

遂に手に入れた。それこそ千冬さんの様な、圧倒的な力を。

 

あたしが負けられない戦いに勝利した余韻に浸っていると、その千冬さんとゴクローがやって来た。

 

「凰。少々聞きたい事がある。」

 

「何ですか、千冬さん?」

 

「織斑先生だ。単刀直入に言う。お前のISとガイアメモリを渡せ。それと、ガイアメモリを何処で手に入れた?」

 

!? バレてる!? でも、冗談じゃない。せっかく手に入れたこの力を手放すなんて絶対に嫌だ。それにしても、どうして千冬さんはそんな事を言うのか。……ああ、そうか。

 

「あたしが強くなると困るんですね。だからそんな事を言うんですよね?」

 

「? 凰、何を言っている?」

 

「心配いりませんよ。あたしは強くなったんです。守れるだけの力があるんです。だからこれからは、一夏はあたしが守りますから」

 

「……訳のわからない事を言ってないで、早くISとガイアメモリを渡せ」

 

訳がわからないのは千冬さんの方だ。この力は一夏を守る為に必要なんだから。

 

「ええい、相変わらず手間の掛かる奴だな!」

 

「!! は、離してぇッッ!!」

 

ISを渡さないあたしに業を煮やしたのか、待機状態にあるISを取り上げようと、実力行使に出た千冬さんの手を振り払おうとしたら、千冬さんの体が空中で一回転して、千冬さんは床に尻餅をついた。

 

え!?

 

「凰、お前……」

 

「……コレで分かりましたよね。あたしは強いんです。もう、誰にも守られる必要なんて無い。これからはあたしが一夏を守るんです」

 

絶対に敵わないと思っていたあの千冬さんが、尻餅をついてあたしの前で倒れている。他ならぬ、あたしの力で。その事に歓喜で震えていたあたしに、今まで黙っていたゴクローが話しかけてきた。

 

「凰。お前は自分が強くなったから、一夏を守るって言ったな」

 

「ええ、そうよ。もう誰にも負ける気なんてしないわ。勿論、アンタにもね」

 

そうだ。もう誰にも負ける気がしない。あの『青騎士』にも、『オーズ』にも勝てると確信している。

 

「それなら一つだけ質問する。なんでカバの牙には小鳥が止まって、ライオンの牙には小鳥が止まらないんだと思う?」

 

「……はあ? 何言ってんの? カバが間抜けだからに決まってるじゃない。馬ッ鹿じゃないの?」

 

訳がわからない。これ以上は時間の無駄だ。そう思ったあたしは、二人を無視してその場を後にした。

 

その後、楊代表候補管理官から、ISとガイアメモリを持って中国へ帰国する様に言われたが、何時も優しいオジサマ達にしている様に、“優しくお願い”して納得してもらった。なんだ、初めからこうすれば良かったんだ。

 

 

○○○

 

 

夕食が終わった後、『NEVER』の拠点で凰に関する会議が行なわれた。会議に出席したメンバーは、我等『NEVER』の5人とアンクの他に、織斑先生、山田先生、楯無、虚、簪、本音、セシリアの、IS大戦のオータムを知る7人だ。

 

「バイオレンス? つまり『暴力の記憶』と言う事か?」

 

「恐らくは。それよりも問題なのは、既にメモリの毒素の影響が出始めている事です。放っておけば、凰はメモリの毒素に耐え切れずに死ぬ」

 

「……それは大問題だな」

 

先程の織斑先生を投げ飛ばした凰の異常な怪力は、『W』のドーパント開業医・井坂深紅郎が、若菜姫のドライバーを直挿しと同じ状態に改造した際の、若菜姫の症状の一つと同じものだろう。

作中で井坂は、若菜姫の精神状態を見て、「幸せに満ちた状態はメモリとより高いレベルに適合した証」だと言っていた。それが一つの目安になるだろうが、早く対処しないと不味い。

 

中国政府は凰をISごと本国に帰還させたいらしいが、凰はコレを無視した……と言うか、それを伝えた楊代表候補管理官を、力で黙らせたらしい。

その楊代表候補管理官を通し、ガイアメモリの直挿しが使用者に齎す危険性を中国政府に伝えたが、中国政府に動きは無い。つまり、無視されていると考えて良い。

 

「多分、貴重なサンプルを手放したくないって事と、シュラウドに繋がる糸として確保して置きたいって事でしょうね」

 

「だろうな。ガイアメモリを使っていても、ウサギ女や織斑千冬の命を狙っていないなら、わざわざ排除する必要が無いと判断したんだろ。コレも包帯女の狙いかも知れんな」

 

中国政府の狙いは楯無とアンクの言う通りだろう。第三世代機をバージョンアップさせる魔法の小箱。それが意図せず手に入った事を、連中は諸手を挙げて喜んでいるのだろう。

 

「何者をも超える力が欲しいと思う人間なんて幾らでもいる。それは『白騎士事件』以降の世界を見れば一目瞭然だ」

 

「しかし、凰をこのまま放っておけば手遅れになる」

 

「……そもそも、あの中華娘を助ける必要があるのか?」

 

どうやって凰を助けるか皆で考える中、アンクが会議の前提を覆すとんでもない爆弾を投下してきた。

 

「お前達は一つ重大な事を忘れてないか? あの中華娘はこのIS学園に転入する為に、ISを展開して軍部の人間を脅しているんだぞ? それも一度や二度じゃない。ガイアメモリを手に入れる前でそれだ。

つまり、中華娘はガイアメモリの力でああなったんじゃない。中華娘の持っている欲望の所為だ。言い換えれば、ああなる素質が元々あったって事だ」

 

つまり、凰のあの変化はガイアメモリに原因があるのではなく、元々持っていた凰の欲望がメモリの力で助長されただけ。そう語るアンクの声色は、心底人間を馬鹿にしているように感じた。

 

「何かを得るためにはそれ相応の代価を支払う。だが人間はただ欲しがるばかりで、その代価を支払うつもりも、支払っている自覚も無い。何かを得る度に、必ず何かを失っている」

 

「……強さと引き換えに、優しさを失うように……か?」

 

「そうだ。例えば、お前の『包帯女の暴走を止めたい』、『復讐と憎しみの連鎖を止めたい』と言う欲望を満たす為に、お前はウサギ女や織斑千冬の命を守り、場合によっては包帯女と戦うという代価を支払う事になる。それはつまり、時として命さえも代価として支払うと言う事。そんなリスクを背負う事が、お前がお前の欲望を満たす為に支払う代価だ」

 

「い、命って、そんな事……」

 

「戦いとは本来そうしたものだ。敵も味方も、時に傷つき時に死ぬ。そんな命のやりとりをする事。そうでなければ、一方的な殺戮か虐殺だ」

 

思わず声を上げた簪を含めて、数人がアンクの言葉にショックを受けている。だが、アンクの言う通り、「戦う事」とは「命のやり取りをする」と言う事。生半可な思いでは出来ない過酷な事だ。

 

「お前の事だ。今回の相手が中華娘じゃなくても助けようとするんだろう。だがな、人間なんて一皮向けば欲望の塊だ。どうしようもなく愚かで、力を得れば必ずと言っていいほど間違った道を選ぶ。人間はそんな馬鹿ばかりで、あんなのは幾ら助けてもキリがない」

 

これはアンクの本心だった。どれだけキレイな言葉で言い繕っても、人間と言う生き物は結局の所、自分の欲望を満たす為に生きている。言うなれば「欲望の奴隷」だと、アンクは本気で思っている。

 

「俺に言わせれば、アレは自分の欲望一つまともにコントロール出来ない、簡単に力に溺れる“救い難い馬鹿”の部類だ。

よぉく考えろ。もしも中華娘を助けるって言うなら、それは中華娘と戦う事も覚悟する必要がある。そこまでして助けるだけの価値があの中華娘にあると、お前は本当に思っているのか?」

 

これでもアンクは、「馬鹿で面倒だが、力を持っている人間にしてはマシな方」だと、ゴクローの事は多少なりとも認めている。

 

ただ、ゴクローは『仮面ライダー』を目指す上で、「誰かの自由と未来を奪う者」を悪と定義し、「誰かの自由と未来を守る為に戦う」と言っていた。

それがゴクローの欲望なのだとして、その“誰か”はゴクローが戦うと言うリスクを背負ってまで守る価値があるのだろうか。それが“救い難い馬鹿”ならどうするのか。

 

そんな事をずっと前から思っていた。

 

「……お前の言う通りなのかも知れない」

 

「……え?」

 

「シュレディンガー君?」

 

「正直な話、俺は人間が高尚な生き物だと思っていない。アンクの言う通り、人間は自分自身の欲望にさえ歯止めをかけられない愚かな生き物で、救いがたい馬鹿は大勢いる。それは確かだ」

 

俺がアンクの言葉を否定するのかと思っていたのか、簪と山田先生が思わず声を上げる。アンクの方は俺の言葉を聞いて、我が意を得たりと言わんばかりの表情をした。

 

「その一方で、一度欲望に負けても、そこからやり直す為に頑張る人間もいる。力に溺れた事を後悔して、またそうなるんじゃないかって恐怖と戦いながら、そうならないようにずっと踏ん張っている人もいる。そんな人間が俺の身近にいる。それも確かな事だ」

 

アンクが言う事は紛れも無い真実だ。

 

人間は欲望の塊。どんな人間もその心の中に、残酷な欲求やエロい妄想を必ず持っている。しかし、それは当然の事で何ら恥じる事は無いと思う。大事なのはそれと上手く向き合い、コントロールする事だと思っている。

少なくとも、欲望を暴走させた過去の自分を悔やんで、欲望を上手くコントロールしようと努力する人間が身近にいる。

 

それもまた紛れも無い真実だ。

 

「……お前は中華娘を“救い難い馬鹿”じゃないと思ってるみたいだが、理由はなんだ?」

 

「凰は『一夏を守る』って言っていただろ? 凰はただ一夏を守れる位に強くなりたくて、力を求めたんじゃないかと、俺は思った」

 

「その結果がコレだ。自分が手に入れた力に酔いしれて、自分の欲望に飲み込まれつつある。その上、自分がとんでもなく法外な利子を支払っている事に、まるで気付いていない」

 

「……そうだな。でも、俺は前にこう言ったよな。『人間の自由を奪う奴が。誰かの未来を奪う奴等は例外なく悪だ』って。凰の未来が奪われようとしている今、俺はシュラウドと、中国政府を相手に戦わなきゃいけない」

 

「!? な、なんで中国が敵なんだ!?」

 

皆黙っていたが、俺の「中国と戦う」宣言は想定していなかったのか、アンクを含めた全員が驚いている。箒の発言はこの場に居る全員が思った事だろう。

 

「恐らく中国政府は、ガイアメモリを手に入れる為に、凰を見殺しにしようとしている。それなら奴等も、俺が戦うべき敵だ」

 

放っておけば凰が死ぬと教えたにも関わらず、何も動きがない。つまり中国政府は、このままにしておけば凰を自然に排除できると思い、その上でメモリを手に入れようと考えた可能性がある。凰が政府高官や軍部に良く思われていない事を考えれば、それは充分に考えられる事だった。

正直そーゆー事をする奴等は、ある意味でオータムよりも反吐が出る。そうした奴等もまた、誰かの自由と未来を奪う悪だ。

 

アンクはその言葉を聞いて「IS大戦の時と同じ目をしている」と思った。あの時も、国家のこうしたやり口を、その歪んだ欲望を見て、ゴクローは怒りを露にしていた。

 

「それがお前の目指す『仮面ライダー』としての答えか。しかし、お人好しもココまでくれば病気だな」

 

「……自覚はしている」

 

相変わらず甘い男だ。そこまでしても、あの中華娘がやり直せる保障など何処にも無いと言うのに。

 

「それなら……俺がついてないと相当ヤバいよな? お前みたいな馬鹿は」

 

「……そうだな、俺にはお前みたいな相棒が必要だ」

 

しかし、可能性はある。

 

ゴクローは自分の事をそう思っていないだろうが、コイツこそが誰よりも強大な力を持ち、誰よりもその力に飲み込まれないように頑張っている人間だ。そして、その力を誰かの為に使う事が出来る人間だ。それだけ強大な力があれば何でも出来るだろうに。

 

「それなら、らぶりぃで頼りになるメカニックも必要だね!」

 

「兄様、バックアップは私に任せて下さい」

 

「万が一の為の護衛も必要だな!」

 

「わ、私だって戦えるぞ!」

 

「流石に中国政府と敵対しない方が良いと思うが……凰を助けるのは賛成だ」

 

「そうですね。凰さんもこの学園の生徒ですからね!」

 

「わたくしも、出来る限りお手伝いしますわ!」

 

「わ、わたしも……頑張る……」

 

「ふふふ、捨てる神あれば拾う神ありって所ね。それじゃ、どうやったら上手く拾えるか、これから皆で考えましょうか」

 

「ええ、副会長がやり過ぎない様にしないといけません」

 

「みんなでりんりんを助けるぞ~♪」

 

ここに居る連中は、ゴクローのそんな所に、多かれ少なかれ惹かれている。力を持つ者の一つの手本として認めている。他人を認識しないと言われていたウサギ女や、目的の為にテロリストになったマドカでさえもだ。

 

そんなコイツなら案外――

 

そんな楽天的な考えが浮かぶ辺り、俺も随分とコイツに感化されているな……と、アンクは自嘲する様に、しかし何処か満足気に笑った。

 




キャラクタァ~紹介&解説

王 鶴華
 本来IS学園に行く筈だった鈴が断ったので、中国政府が代わりの代表候補生をIS学園に寄越したのでは無いかと考えて生まれたオリキャラなのだ。彼女の役割はバイオレンス甲龍の噛ませ犬なのだ。
 例の如くアナグラムで適当に漢字を割り振ったのだ。作者はとりあえず「わんちゃん」と呼んでいるのだ。

 補欠
 →HOKETSU
 →OH TSUKE
 →王 鶴華



サイドバッシャー
 仮面ライダーカイザの専用マシン。サイドカー型バリアブルビークルだが、この作品ではバトルモードのみでバイクに変形しない。初めはコイツとのバトルシーンも書いていたのだが、それだと新しく習得したコンボがバレて、今後の展開的に面白味が無いのでカットした。

V バイオレンスメモリ
 暴力の記憶を持つガイアメモリ。井坂先生曰く、肉体を超強化するパワータイプのメモリの代表格。ドーパント体は、井坂先生が理性を失うほど素晴らしい大胸筋を持っている。しかし、コレを使った鈴の大胸筋、もとい胸は……。
 このメモリを使った『甲龍』の外見的なイメージは、『W』のバイオレンス・ドーパントと、『フォーゼ』のドラゴン・ゾディアーツが合体した感じ。

鈴「ねぇ、全然変わらないんだけど?」ペターン
京水「むしろ一夏ちゃんの方がおっきいわよね~♪」
鈴「………」

井坂深紅郎
 今は亡き干柿鬼鮫の中の人が演じた、『仮面ライダーW』のドーパント開業医にして、超ド級の変態。園崎冴子との絡みはどう見ても朝っぱらのヒーロー番組で流す内容ではない。
 能力の開発と強化に余念が無く、彼がドライバーやメモリを改造して行なった数々の人体実験は外道の極みだが、作者は話のネタ的に非常に助かっている。 


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第18話 過去と世界と謎のオカマ

お気に入り登録が850件を突破。UAも50,000を突破しました。ご愛読ありがとうございます。

今回は元々は一話だったのですが、予想以上に長くなると判断して分割。この際だからと、久し振りに三話分の連続投稿に挑戦したのですが……普通に一話ずつの方が良かったかも知れません。

一夏に関しては今後の展開の伏線の為に、『鎧武』の葛葉紘汰と駆紋戒斗みたいな要素を入れようとしたのですが……感想を見る限りそう思われなかったようで、まだまだ表現力が足りないんだと思い知らされます。

何はともあれ、まずは一話目です。



朝から二組の教室を訪れてみると、昨日の試合で凰が専用機を『第二次移行【セカンド・シフト】』させたと誤解されているようで、凰の周りにそれなりに人が集っていた。

 

『W』においてフィリップは、「ガイアメモリに心を奪われた人間は倒すしかない」と言っていたし、実際にメモリの精神汚染が進んだ人間はメモリブレイク以外に対処方法は無いだろう。しかし、このメモリブレイクは最終手段だ。

あまり描写されていないが、ドーパントがメモリブレイクされた場合、メモリユーザーは大きなダメージを負い、ほぼ例外なく(警察)病院送りになる。またメモリブレイク後の後遺症と言うものも存在し、これは体質によって軽かったり重かったりするらしいが、メモリユーザーは毒素後遺症や記憶の欠損に苦しめられる事になる。

 

また、バード・ドーパントの事件で、園崎琉兵衛は「子供の方がより良いデータを得られ、メモリも急速な成長を遂げる」と言っていた。確認出来る限り、凰がメモリを使用したのは対王戦の一回だけ。一度の使用で身体能力があそこまで上がっているのは、恐らくそれが原因だろう。

同様にメモリの禁断症状も懸念材料であり、凰からメモリを取り上げる事で、凰がメモリを求めて暴走する可能性もある。

 

理想としてはジーン・ドーパントの事件の様に、メモリユーザー自身が自らメモリを手放す事。そうなれば肉体的にも精神的にもダメージが少なく、社会復帰も早い。

凰の様子を見る限り、メモリの精神汚染は進んでいないように見えるし、今なら説得も可能かも知れない。なにわの美少女仮面こと、鳴海亜樹子の様に上手く出来るかどうかは分からないが、試す価値はある。

 

「……何? 早速ご機嫌取りにでも来た訳? まあ、アンタに勝てる可能性があるのはあたしだけで、あたしはアンタを追い出せる力を持ってるんだから当然よね?」

 

……訂正。凰は織斑先生に一泡吹かせた事で完全に増長していた。しかし落ち着け。まずは会話が成立するかどうか確認だ。

 

「……いや、お前と一夏の事について話したくてな」

 

「へぇ、ちゃんと分かってるじゃない」

 

一夏の事を話題に出したらあっさりと釣れた。織斑先生に「一夏を守る」と宣言していた凰だ。一夏に関することなら多少は警戒が緩くなると踏んで、事前に一夏から色々と聞いておいて良かった。ちょっとチョロ過ぎる気もするが。

 

「……で? 一夏はどうなのよ。あたしと仲直りしたいな~とか、悪かったな~とか言ってた?」

 

「……いや、『俺は凰との約束をちゃんと覚えていたんだから、凰も俺との約束を守らないなんて不公平だ』って言ってた」

 

「はぁ!? 約束の意味が違うのよ! 意味が! 自分はちゃんと約束守ってない癖に、あたしに約束守れなんてアンタ何様よ!?」

 

「……俺に言っても仕方ないだろ」

 

一夏はなんで凰が怒っているのか全く理解できず、むしろ凰が約束を守らなかった事に怒っていた。俺としては、まずは凰が決闘の約束を果たすべきだと思うので一夏に賛成だ。有耶無耶にするのは良くない。

しかし、凰の気持ちも理解できない訳ではない。俺が凰の立場で、一世一代の告白がそんな風に相手に解釈されていたとしたら、正直ファントムが生まれるか、魔法少女から一気に魔女化するレベルで絶望する。

 

「……お前が千歳先輩と生身の一夏に、ISの武装を展開した事を謝れば解決すると思うんだが……」

 

「はぁ!? あんなのあんな女とベタベタしてた一夏が悪いに決まってるじゃない!!」

 

『……嫉妬に狂って国防に使う兵器を生身の人間に向けるか。そんなことすりゃ普通死ぬぞ。もしかしてあの馬夏をサイボーグか何かと勘違いしてんのか?』

 

ごもっともな意見だ。そのお蔭と言って良いのか悪いのか、アンクの中で一夏に対する評価が少し上がった。曰く、「生身の人間にISの武装を使わないだけ中華娘よりマシ」だとの事。

 

問題の一夏はと言うと、「頭を下げる事に躊躇は無いが、納得できないまま謝罪するのはお断り」との事で、日本人の味噌汁プロポーズのアレンジである、凰の酢豚告白の詳細を説明すれば、一夏は曲解していた事を謝るだろう。

しかし、だからと言って正しく理解されなかった愛の告白の解説など、凰はやりたくないに決まっている。そんなのは惨め以外の何物でもない。

 

ちなみに一夏はその後、「男たるもの有言実行であれ」とか、「行動の伴わない言動は詭弁か詐欺だ」とか、「誠意とは不断の行動の果てに生まれるものだと、男として証明する必要がある」とか、俺に男らしい男の生き様をやたらと熱く語った。言いたい事は分かるが、多少は融通を利かせて欲しい。この手の問題は謝った者勝ちだから。

 

「なんなのよアイツ! 幼馴染の癖になんで分かんないのよ! 馬鹿! アホ! 間抜け! 朴念仁!」

 

「だから、俺に言っても仕方ないだろ……最悪、俺から説明するか?」

 

「……そんな事したら、アンタを殺すわ」

 

俺に対してISを部分展開して脅しを掛けてきた凰の両目には、明確な殺意が込められていた。やると言ったらやる凄味がある。

まあ、俺だってそんな事は正直やりたくないのでむしろ良かったが、この行動によってアンクの凰に関する評価が更に下がった。

 

これは凰よりも一夏を説得した方が望みはあるだろうか? 凰がメモリを手放す突破口になるかどうか分からないが、取り敢えず二人に仲直りして欲しいものだ。

 

 

●●●

 

 

あれから一週間が経過し、一夏は予想以上の難敵だと思い知らされた。凰が怒っている事情を説明しない限り、絶対に謝らないと一歩も譲らない。

 

凰の方はここ一週間の間で、ISの模擬戦を何人かの一年生と行なっているのだが、あれ以降メモリの力を全く使っていない。それと言うのも、凰のISの戦闘能力そのものが、メモリを使う前よりも高くなっていたからだ。

 

考えられる理由としては、ISの装着者に適合し能力が最適化していく特性が発揮され、メモリの毒素の影響で怪力を得た凰に、専用機が適合した結果ではないかと思う。

もっとも、こんな短時間でスペックが一気に上がるのも不自然な気がするので、これもメモリがISに及ぼした影響と捉えられなくも無い。

 

兎に角、訓練機を使う並みの相手ではメモリを使う必要が無い位に、凰は強くなっていた。そしてある意味でソレは幸運だと言えた。

訓練機相手にメモリの力を振るった場合、確実にシールドエネルギーを貫通し、再起不能に追い込まれる危険がある。現に王鶴華は命に別状は無かったものの、深刻なダメージを負って入院した。その為、仮に凰がメモリの力を使ったらその時点で武力介入し、最悪そのままメモリブレイクを狙うつもりだった。

 

また、凰が因縁のあるマドカに戦闘を仕掛ける可能性も考え、マドカに警戒を呼びかけていたのだが、凰の方から全く接触がないらしい。「あの織斑先生より強くなった」と言う実感から、わざわざ相手にする程でも無いと思っているのかも知れない。

 

もっとも、一夏に対するストレスは相当溜まっている様で、最近では俺との会話は八つ当たりによる罵詈雑言と暴言の嵐で、何かにつけて手が出る足が出る。まあ、ISを展開しないだけまだマシだ。

そんな凰の様子を見て、アンクは「メモリの毒素に脳がやられたんじゃないのか?」と言ったが、一夏が言うには凰は昔から、口より先に手が出る性格らしいので判断に困る。オータムの時もそうだが、どうして判断に困る人間ばかりがメモリを手にするのだろうか。

 

結局アテは外れ続け、一夏と凰の関係に進展がない毎日が続いていた。

 

そんな今日は『DXオーズドライバーSDX』とアンクのメンテナンスをする日であり、クロエもそれを手伝うとの事で、最近では珍しく完全に一人で寮の部屋に戻った。ただし、何時もと違うのはそれだけではなく、俺が寮の部屋に帰ってきた瞬間、一体のバッタカンドロイドが飛びついてきた。

そして、そのバッタカンドロイドの映像ディスプレイには、包帯を巻きつけた上でサングラスを掛けた、不気味で見慣れた女が写っていた。

 

「シュラウド……」

 

『久し振りね、ゴクロー・シュレディンガー』

 

「……凰にやったメモリは『バイオレンス』か?」

 

『そうよ。あの娘が望む力を与えてあげたの。ちゃんと忠告もしたわ。「悪魔と相乗りする覚悟が有るのか」……とね』

 

シュラウドはメモリを渡す時にそんな事を言ったのか。しかし、魔法少女を量産する白い契約モンスターの様に、シュラウドが凰を唆している姿がイメージされるのは気のせいだろうか。

 

『ずっと見ていたわ。織斑一夏が「流石は織斑先生の弟」と言われて喜ぶ思考が、貴方には全く理解できないみたいね。でも、貴方の生き様を考えれば、当然と言えば当然かしら。

貴方は「ゴクロー・シュレディンガーとして生きる事」を、つまりは「ゴクロー・シュレディンガーとして見てくれる事」を求めていた。そんな貴方なら、「流石はライトのクローン」と言われたら、むしろ怒りを覚える。理解に苦しむのは当然よね』

 

何を話したものかと考えていたら、シュラウドの方から興味深い事を話しかけられた。シュラウドは俺が疑問に思っていた事を、一夏がそう思う様になった理由を知っているように思える。

 

今までに会ってきた、クロエ、箒、マドカ、簪と言った、姉妹にコンプレックスを抱えている連中は、「優秀な姉妹に関係なく、ただあるがままの自分を見て欲しい」と言った、俺と同じ様な思考を持っていた。

しかし、「優秀な姉の弟として見られたい」と言った、一夏の様なタイプは正直未知との遭遇に近い。周りから「流石は織斑千冬の弟」と言われて嬉しい気持ちが、俺には全く理解できなかった。

 

『例えば、火傷をした経験のある子供とそうでない子供では、炎を見た時の思考が違う。つまり人間の思考とは、それまでの体験によって形成されるものよ。

逆に言えば、相手の思考を理解するには、相手と同じか似たような体験が必要になる。それでも相手と分かり合えるとは限らないけどね』

 

「……つまり、一夏には『流石は織斑先生の弟』と言われて嬉しいと思える様な体験……いや、過去がある?」

 

『織斑一夏が世界で初めての男でISを起動した時に、様々な団体から執拗なバッシングを受けている事を知っているかしら?』

 

「ああ。IS大戦が起こった辺りでピタリと止んだらしいな」

 

『それなら、その団体についてどこまで知っているかしら?』

 

「確か、『ISは女性のものである』と主張する団体だったと記憶している」

 

俺の眼から見れば、アレは今の女尊男卑の社会の根幹になった『ISは最強の兵器であり、女性にしか使えない』と言う、絶対的なルールが破られた事によって、居心地の良い社会が崩壊する事を恐れての行動だろう。

他にも世間一般には公開されていない情報を何処から嗅ぎ付けたのか、『織斑一夏は織斑先生の大会二連覇を妨げた存在である』と的外れな批評をしていた気がする。

 

ただ、ISの国際大会『モンド・グロッソ』は、各国がどれだけ優秀なIS操縦者を育成し、どれだけの戦力を持っているのかを国内外にアピールする場でもある。

織斑先生の大会二連覇によって国力を誇示し、権威を大きくする事で物事をより有利に運ぶ事ができると、皮算用がご破算になった逆恨みもあると思われる。

 

『その織斑一夏に対するバッシングに、『織斑一夏は織斑千冬の弟として相応しくない』と言う意味の誹謗中傷があるのは知っているかしら?』

 

「相応しく無いも何も、一夏は織斑先生の弟で、織斑先生は一夏の姉だろう」

 

『……子供にとって親は神も同然の存在。ならば織斑一夏にとって、親の代わりの織斑千冬はこの世界において神も同然。その神の偉業を自分が阻んでしまったと感じているなら、自分を責めるのは自然な事。

もっと言えば、人間は社会全体や大多数の人間から、非難され弾劾されたら、それがどれだけ理不尽で不条理な事だとしても、それが正しいと思い込んでしまうものよ。それが“自分と同じ”織斑千冬を肯定する人間の言葉なら尚更ね』

 

「……ちょっと待て。一夏は理不尽に対して戦いを挑むタイプの人間のはずだ。箒や凰の事を考えても、そんな理不尽や不条理を正しいと思う訳が無い」

 

『……貴方、織斑一夏が戦った理不尽は全部“拳で言う事を聞かせられる相手や状況”だった事に気が付いていないの?

思い出してみなさい。篠ノ之箒や凰鈴音に関する理不尽も、セシリア・オルコットから受けた理不尽も、全部実力行使で解決できる状況や相手だった……違う?』

 

……確かに一夏は箒と凰の二人の場合、二人をいじめたりからかったりしていた相手を、実力行使で撃退していたと聞いた。セシリアの時はISを使った決闘と言う名の模擬戦。確かに“拳で言う事を聞かせられる相手や状況”と言えなくも無いが……。

 

『でも、相手が拳を振り上げてもどうしようもない類の存在。例えば、世界や社会そのものを敵に回した場合、一個人が戦った所で勝ち目が無い。敵の力が大きすぎて戦う気さえ起こらないし、負けてもそれは仕方が無いと思うのが普通よ。

普通の人間は常に、世界の残酷さには屈服する他無く、ルールに縛られて戦う事しか出来ない。その結果、自分の弱さと折り合いをつけて生きていく。織斑一夏が誘拐事件の後で、アルバイトだけでなく受験勉強に精を出していたのはそう言う事よ』

 

……なるほど。一夏の「織斑先生に楽をさせてやりたい」と言う思いは、一夏なりに自分の弱さと折り合いをつけた上での答えだったのか。

そして一夏は正規雇用と安定収入が見込める上に、僻地へ飛ばされる心配の無い地域密着型の優良企業への就職を求めたと言う訳だ。

 

『でも誰だって本当は、自分の弱さと折り合いなんて付けたくない。どれだけ取り繕っても、本心では納得も理解もしていない。しかし、弱さと折り合いをつけない為には力が要る。それが何かと戦う事なら、最低でも相手と同等の力を欲するものよ。力が無ければ何も出来ないのだから』

 

「……ISを手にした事で、一夏が自分の弱さと折り合いをつける必要が無くなったとは思えないが……」

 

『そうでもないわ。だって「白式」は唯のISじゃない。“織斑千冬と同じ武器を使えるIS”よ。周りの人間はどうしても織斑一夏に織斑千冬を重ねる。誰もが織斑一夏を通して織斑千冬を見ている。

織斑一夏が「自分が情けないと織斑千冬が低く見られる」と考えていると言う事は、「自分が結果を出し続ければ、それが織斑千冬の功績になる」と考えていると言う事。織斑千冬に与えてしまった汚点を、自らの手で雪ぎたいと思っている織斑一夏にとって、それはまたとない贖罪のチャンスと言う事よ』

 

「……それが一夏の「『織斑先生の弟』として周りから見られる事が嬉しい」と思う理由であり、「織斑先生の名前と誇りを守りたい」と言う思考の根源だと?』

 

『私はそう考えるわ』

 

正直、シュラウドの推測はアンクの推測よりも、一夏がそうしたいと思う理由としてしっくりときた。

しかし、シュラウドの「思考は体験により形成される」と言う理論が人間以外の存在にも当て嵌まるのなら、あの時の一夏に対するアンクの推測も、アンクの体験に基づいている事になる。

 

つまり過去にISを手にした事で、自分と織斑先生を同一視していた様な人間が居たという事。もしかしたらその人物は、“アンクがISコアだった頃”の、アンクの使い手の話なのかも知れない。

……待てよ? 確かシュラウドの復讐相手だったテロリストは、『白騎士』に憧れてテロを起こしたんじゃなかったか? まさかとは思うが同一人物か?

 

「しかし、なんでこんな事を教える? 慈善事業って訳じゃなさそうだが」

 

『今からでも遅くは無いわ。こちら側に戻ってくるつもりは無い?』

 

「……何?」

 

『貴方はその学園で常々感じている筈よ。自分と自分を取り巻く世界とのズレを。自分が全くの異分子である様な感覚を』

 

「……この学園の居心地はそんなに悪くは無い」

 

『それは自分を肯定してくれる人間がそこに居るからでしょう? でもそれは、彼女達が「普通から外れた人間」だからよ。貴方は「普通の人間」には決して理解されない』

 

「……何か根拠でも有るのか」

 

『例えば、凰鈴音は貴方自身の事を良く知らなかったわよね? それなのに、中国の高官から「オーズが対IS兵器である」と言う一元的な情報を聞いただけで、貴方をIS学園から排除すべき敵だと激昂し、貴方を非難した。

アレがこの世界を肯定する「普通の人間」の反応よ。実際にどんな人間か知らなくても、社会にとって悪とされる要素が一つでもあると知れば、簡単に凶悪な人間だと断ずる事ができる。簡単に義憤を燃やし、簡単に怒り、簡単に憎む事ができる』

 

……シュラウドの言う事は理解出来る。実際、俺が対ISを掲げる組織で造られたクローン人間で、『オーズ』が対IS兵器だと知れば、大半の生徒が掌を返すだろう。「よくも今まで騙してくれたな」と罵声を浴びせ、石を投げつけるだろう。

 

『そもそも貴方は、本当は自分が彼等に受け入れられない存在である事を理解している筈よ。対ISの為に造られた存在である自分が、ISで成り立っている世界からどう思われるか分かっている。生きるだけで、存在するだけで悪だと罵られ、生態系を破壊する外来種の様に扱われると』

 

……なるほど。『世界の破壊者』に成りうる自覚はあったが、外来種とは言い得て妙だ。

俺はISを打倒する為に、この世界で生まれたモノを駆逐する為に、全く別の世界から呼ばれた存在で、今はそれができる力がある。

言ってみれば生態系を破壊する『時空を超えてやってきた侵略的外来種』。インベスか、オーバーロードか、はたまたヘルヘイムの森そのものであると言う訳だ。

 

『凰鈴音の様な人間にとって、今の世界は非常に生きやすい世界よ。誰だって一度完成した天国が天国である程に、それを破壊される事を良しとはしない。天国が外来種によって破壊されるかも知れないと知れば、躍起になって排除しようとする。外来種はただそこで生きているだけで、危険はあっても悪意は無いとしてもね』

 

「その外来種を持ち込んだのはミレニアムだがな。それに、在来種が危険も悪意も無い存在だとは限らないぞ」

 

『そうね。どの国でも力を持った為政者達は、誰もが『オーズ』がISに敗北することを。『オーズ』の力の根源を手にする事を考えている。

結局、貴方はどう足掻いても、この世界を肯定する誰かと戦い続ける事になる。世界を自分の意のままにする為に、『オーズ』の力を求める者達と戦い続ける事になる。

どれだけ被害を最小限に抑えても、貴方はこの世界を破壊し続けることでしか、何かを駆逐し続ける事でしか生きていけない。この世界で貴方が平和を手にする事は無い』

 

「……俺に平和は創れないと?」

 

『だってそうでしょう? 貴方は「仮面ライダー」の在り方や生き様を語り、「仮面ライダー」としての答えを出す事はあっても、貴方が自分を「仮面ライダー」と名乗る事はしない。人類の自由と平和を守る戦士の称号を自称しない。

それは、『オーズ』の存在自体がこの世界の平和を乱す要因である事を、貴方が身をもって知っているから。

そして、「誰かの自由と未来を守る」と言っても、“「守る」と言う思考はそれを害する敵がいる事を前提としたもので、実は平和とは程遠い思考なのではないか?”と言う、貴方の昔からの疑問の答えがまだ見つかっていないから……違う?』

 

「………」

 

『例え、その答えが見つかったとしても、貴方が取れる選択肢は、二つに一つしかない。

自分を傷つけるだけで自分を受け入れない世界を切り捨てるか。或いは、その強大な力を使って自分を受け入れない世界を破壊し、自分を受け入れる新しい世界を創り出すか』

 

まるで『禁断の果実』を手にした始まりの男だ。実際、オリジナルのオーズドライバーも新たな世界の王を、新世界の神を生み出す為に錬金術師が造り出した物なので、あながち間違いでもない。

 

『よく考えて。「世界の破壊者」である貴方には、そちらの世界は極めて生き辛い世界よ。それなら世界を破壊する事を肯定する、こちら側の世界に戻ってきた方がよっぽど有意義のはず。

何よりもミレニアムが壊滅した今、私以上に貴方を理解できる存在はいない。貴方の疑問に納得のいく答えを提示する事ができる』

 

「……そのミレニアムの壊滅にアンタが絡んでいるとしてもか?」

 

『ミレニアムの壊滅は少佐の意思よ。貴方も知っているでしょう? 彼等が「戦って死にたい」と願っていた事を、「自分が死ぬに足る理由」をずっと探していた事を』

 

少佐の意思を俺に問いかけて誤魔化しているつもりなのかは知らないが、シュラウドはミレニアムの壊滅に関与している事を否定しなかった。この時、俺はシュラウドがミレニアム壊滅に関わっていると確信した。

 

「……シュラウド。アンタの復讐を俺は否定しない。だが、アンタがこれ以上『誰かの未来と自由』を奪おうとするなら、アンタは俺にとって戦うべき敵だ。例え、あんたがこの世界で誰よりも、俺を理解できる存在なのだとしてもだ」

 

『……凰鈴音はこの世界を肯定する普通の人間よ。仮に助けたとしても、自分の手に入れた力を奪った貴方を批難し、心の底から憎悪する。助けたところで貴方に何のメリットも無い、力に溺れる部類の人間よ。それとも、そんな敵まで助けるのが格好良いとでも思っているのかしら?』

 

「……違う。俺は『ミレニアム』のメンバー全員と心を通わせたわけじゃなかった。どうしても理解できない、心底ムカつく嫌いな奴も居た。

それでも『ミレニアム』が壊滅した時、そいつが死んだと知ったら……凄く嫌な、ドス黒い気分になった」

 

『それは人間の持つ生物としての善性によるものよ。せっかく増えた同種族の個体数が減る事を良しとしない、生物としての本能がそうさせるだけよ』

 

「……そうだとしても、俺は凰を助ける。欲望に負けたとしても、生きている限り人間はやり直せる。変わる事が出来ると信じている」

 

そうだ。生きている限り、誰だって変身する事ができる筈だ。そして、命が失われると言う事は、同時にその人が持つ可能性も失われてしまうと言う事。それが俺は嫌なのだ。

確かに人間は色々な悪性を持っている。そんな事はとっくに分かっている。俺はそれらを知った上で、人は変われる事を信じている。

 

『……一つだけ良いことを教えてあげるわ。凰鈴音に渡したバイオレンスメモリは、エターナルメモリの力で破壊する事も、停止する事も出来ない。

他のガイアメモリの力でも、コアメダルと併用したとしても、バイオレンスメモリのメモリブレイクは不可能よ。その所為で自爆させる事も出来ないけれどね』

 

「……何?」

 

『どう足掻いても無駄なのよ。貴方にも、誰にも、凰鈴音の自由と未来を守る事は出来ない。そして、力に溺れた凰鈴音には、もはや誰の声も届かない。彼女はいずれ孤独な存在へと成り果てる。成って、果てるのよ』

 

「……俺はアンタの暴走を止めると決めた。愛深き故に闇に堕ちた、可哀想な普通の母親のアンタを」

 

『……可哀想? 可哀想なのは貴方の方よ。やれるものならやってみなさい。貴方は疑問の答えが出ないまま、貴方の考える「仮面ライダー」たる資格を失って「世界の破壊者」に、或いは「侵略的外来種」になるのよ』

 

シュラウドは捨て台詞を吐いてから通信を切り、バッタカンドロイドは俺の手を離れると爆発した。

 

「………」

 

爆発したバッタカンドロイドを片付けながら、ずっとシュラウドが言っていた事を考えていた。最終手段であるメモリブレイクが不可能であるとすれば、どうすれば凰を助けられるのか考えていた。

いい案が思いつかないので、一つ気分を変えてみるかと食堂でちょっとお高めの夕飯を食べたり、熱めのシャワーを浴びたりしたが効果は無く、消灯時間が過ぎて今はベッドの中にいるが全く考えが纏らない。

 

「どうする……」

 

「あぅぅ……駄目です、兄様ぁ……束様に、見つかってしまいますぅぅ……」

 

「………」

 

隣のベッドを見ると、クロエは妙にモソモソ動きながら、どんな夢を見ているのか気になる寝言を言っている。明日になったらコイツをネタにからかってやろう。

時間経過に伴って徐々に艶っぽくなるクロエの声をBGMに、頭を回転させ続け、思考し続ける。アンクが居れば迷わず相談するのだが、生憎今はメンテでいない。明日の朝には終わるらしいが、間の悪い事だ。

 

また、それとは別に一つ気がかりな事もある。

 

それは「許せない奴はぶん殴る」と言う一夏の思考と行動は、一体何処から来ているのかと言う事。以前は一夏の割と実力行使に出る理由は、守る事に執着している一夏は「誰かに自分の持っている力を振るう事で『自分が何かを、誰かを守っている』と言う実感が得られるからではないか」と推測した。

 

しかし、今回のシュラウドとの会話で、『子は親の鏡』という言葉を思い出した。これは「親の考えや言動が、そのまま鏡の様に子供に映し出される」と言う事から生まれた言葉だ。そして織斑先生は一夏の親代わり。つまりは……。

 

「思ったよりも根が深い問題かも知れないな……」

 

正直な話、俺の考えが外れているなら、それはそれで良い。むしろ、全て正解だった場合の方が問題だ。

 

「はぁ……ふぅぅ……に、兄様ぁ……」

 

「………」

 

そのまま一睡もせずに凰への対処方法と、一夏の思考について一晩中考え続け、とりあえず凰については策が一つ思いついた。いや、正確には思い出したと言うべきか。しかし、凰は色んな意味で手強い上に、懸念事項も多々ある。正直賭けに近い方法だ。

 

そして、昨日シュラウドから接触があった事を、アンクに話したら思いっきり殴られた。

 

 

○○○

 

 

ゴクローの所にシュラウドのバッタカンドロイドが襲来した翌日。クラス対抗戦まで残り一週間になったこの日、事態は大きく動いた。

 

今日も朝から「そろそろいい加減に、鈴に何か話しかけてやってくれないか」と、ゴクローが何時も通り一夏に頼んでいた。何時もなら自分の言った言葉は決して曲げない一夏だが、この日のゴクローは目の下に隈を付けていた。

一夏はその顔を見て「俺と鈴の事で眠れない位悩んでいるのか!」と思い、流石に悪かったと心の中で反省した末に、鈴を第三アリーナに呼び出した。悩んでいる内容は一夏の想像と違うのだが、大体合っている。

 

一方の鈴はと言うと「女の子をどれだけ待たせるんだ」と思いつつも、「漸く一夏も自分の間違いに気付いたか」と大目に見ることにした。

流石にそろそろ一夏と話したいし、今日がクラス対抗戦前に生徒がアリーナを使える最後の日だった事もあり、鈴は快く一夏の誘いに乗った。

 

「全く、間違いに気付くのになんでこんなに時間が掛かるのよ」

 

「ああ。俺が意固地になった所為で、ゴクローにあそこまで負担を掛ける事になるなんて思わなかった」

 

「……アンタ。あたしを怒らせて申し訳ないな~とか、仲直りしたいな~とか思って呼び出したんじゃないの?」

 

「いや、ゴクローが顔に隈作っててさ。俺と鈴の事で相当悩んでるんだって、漸く分かったんだよ」

 

「……ふぅん。じゃあ、アンタは別に仲直りしたいんじゃないのね?」

 

「いや、仲直りしたいのは本当だぜ? でもその前に俺との約束はちゃんと守れよ?」

 

「……へぇ、アンタがそれを言うんだ?」

 

「なんだよ? 俺は約束をちゃんと覚えてただろ?」

 

「……そう。そうね。アンタがそう思うならそうよ。アンタの中ではね」

 

鈴の脳内選択肢には、「嘗ての自分がやった決死の告白を、今の自分が詳しく説明する」と言うルートは無い。一夏が鈍感なのは分かっていたが、「自分が何で怒っているのか位は幼馴染なら言葉にしなくても察する事くらいは出来て当然」と、鈴は割りと本気で思っている。

 

「な、なんだよ。俺、なんか変な事言ったか?」

 

「……さっさと始めましょ。アリーナを使う時間は限られてるんだから」

 

本当の事を言えば、自分の告白が全く別の意味に解釈されていた時点で、鈴は一夏が自分を異性ではなく、友達として認識している事を理解していた。一夏の三年生の先輩と、自分を見る目が違う事で、半ばそれを確信していた。

 

でも、認めたくない。先に一夏を好きになったのは自分だ。告白だってした。だからこそ、精一杯振り絞ったあの日の勇気が届いていなかったなんて、鈴にはとても受け入れられない事だった。

 

「悪いけど、今度は手加減もハンデも無しよ。泣いて許しを請うても知らないんだからね!」

 

「へっ! 何ならあの『第二次移行』って奴を使っても良いんだぜ!」

 

「それなら使わせてみなさいよッッ!!」

 

お互いにISを展開し、片や一振りの日本刀を両手で握り、片や二振りの青龍刀を両手に握る。ブレードを用いた格闘戦を得意とする二人は、何度も空中で互いの得物をぶつけ合い、その度に刃から火花が飛び散り、金属音がアリーナの中に響き渡った。

 

その様子を上空から、腰をやたらとクネクネ動かしながら見ていた者がいた。ISコアに人格をダウンロードしたフェイスレス……ではなく、『京水メモリ』の力でISの体を手に入れた変なおっさん……もとい、レディーの京水だ。

 

「やってるやってる~♪」

 

鈴にガイアメモリを渡し、何もかもがシュラウドの思い通りに事が運んでいる……と言う訳ではない。シュラウドの最大の誤算は、鈴がガイアメモリを最初の一回以外全く使用していない事だった。

 

未成年の鈴にメモリを使わせる事で、メモリの毒素による肉体及び精神の侵食は短時間で驚異的なものになり、それによる肉体強化と精神汚染のデータ収集と同時に、織斑千冬の排除を狙っていた。

 

しかし、その鈴が思いがけず織斑千冬を投げ飛ばした事で、鈴が現状の力で満足してしまった。それだけ、彼女にとって織斑千冬が絶対的な存在だったと言う事なのだろうが、それでは困る。

更にメモリの毒素による肉体強化に『甲龍』が適合した事で、ISのスペックが底上げされて普通に強くなった事も、メモリの使用頻度が極端に少なくなった原因だった。

 

そこで予定を変更し、京水を鈴に当てる事で、鈴にバイオレンスメモリを使わせる事をシュラウドは考えた。ついでに、以前から考えていた実験の実験台に使うつもりでもある。

 

「一夏ちゃんってまだまだ伸び代がありそうね! 成長性のあるイケメン! 嫌いじゃないわ!」

 

さて、それとは全く別の話になるのだが、特定の人格をガイアメモリに封印する実験において、他ならぬゴクローの手によって『京水メモリ』に奇妙な現象が人知れず起こっていた。

 

ゴクローの言う京水とは、『W』の登場人物である死者蘇生兵士『NEVER』の副隊長である泉京水の事であり、彼はフィクションの世界人物である。それはすなわち、人間が想像し創造したユニコーンやペガサスと同じ“想像上の生物”であると言う事。

 

その結果、ゴクローがメモリに「京水」と名前をつけた時点で、ゴクローも全く予想していない事が二つ起こった。

 

一つは『京水メモリ』に「この世界の実験台になった、ブッ刺されてオカマに目覚めたヤクザの記憶」に、「ゴクローの頭の中にある、想像上の人間である泉京水の記憶」が混合されてしまった事。

もう一つは、それによってルナ・ドーパントの能力も「想像上の人間である泉京水の記憶」として一緒にメモリに込められてしまった事。

 

これらはシュラウドが、ISコアの人格を上書きする為に『京水メモリ』を使用するまで、誰一人として気がつかなかった事実であるが、一つのメモリに複数の記憶が込められていること事態はおかしい事ではない。

現に『トリガーメモリ』は「銃撃手」の他に「銃火器」の記憶を内包しているし、『オヤコドン・ドーパント』なる「エッグ」と「チキン」の二つの記憶を持つガイアメモリで変身するドーパントも存在する。

 

「それじゃあ、私もそろそろ――」

 

『COMMANDER!』

 

「行こうかしらぁ?」

 

そんな京水が取り出したのは、指揮官の記憶が込められた『コマンダーメモリ』。ルナ・ドーパントの様な見た目の体にそれが挿しこまれると、さながら黄色い火星人の様な見た目の体が、首の無い鋼鉄の巨人と言った体へと変化する。

奇しくもその姿は本来の世界のクラス対抗戦で、束がIS学園に送り込んだ無人機ISとよく似ていた。

 

「キタキタキタキタキタァアアアアアアアアアアアアアアッッ!! さあ、いってらっしゃぁあああああいッッ!!」

 

京水が絶叫と共に腕を振るうと、マスカレイド・ドーパントとコマンダーの仮面兵士が混ざったような姿の分身体が、京水の周囲に大量に出現する。

京水は分身体の半分をゴクローの居る生徒会室に、残り半分をIS学園の重要施設。ISとIS用武器の保管庫に向かわせる。理想としてはゴクローとアンクの鹵獲だが、本来の目的が達成されるまでの足止め、そして戦力の分散が目的だ。

 

「無理はしないで! でも出来るなら無傷でお願いね! もしも、ゴクローちゃんとアンクちゃんを生け捕りに出来たら、私が一晩中愛してあげるわ!」

 

愛してあげるも何も自分の分身体である。突っ込み所が多いが、相手は京水なので仕方が無い。

 

「突撃ぃぃいいいいいいいいいいいいいっっ!!」

 

一人その場に残った京水は全身のブースターを全開にして、一夏と鈴の戦うアリーナに向かって突進する。そのまま体当たり……と言うか頭突きで第三アリーナの遮断シールドを破壊し、京水は一夏と鈴の戦いに乱入した。

 




キャラクタァ~紹介&解説

5963&一夏
 マンネリを嫌う作者は、原作二巻のVTラウラ戦で『仮面ライダーエターナルRX』と『白騎士化した白式』の戦いを予定しており、大まかな所は『乱舞Escalation』を聞きながらある程度書いてある。一夏と5963に歌わせたら、一夏が紘汰のパートを、5963が戒斗のパートを歌う。……ルート次第では一夏が闇ッチの様になるかも知れない。

シュラウド&京水
 この作品のシュラウドは、『鎧武』の戦極凌馬やDJサガラに近い部分があるかも知れない。ルート次第では一夏にも接触し、ヨモツヘグリロックシード的なアイテムを授けるかも知れない。しかし、京水は書いていてやたらと楽しかった。何故だ。



C コマンダーメモリ
 指揮官の記憶を内包するガイアメモリ。京水にそのままルナを使わせても面白くないので、このメモリを使うことでより戦闘向けの体になってもらった。但し、左手首に時計の様な装置はついていない。


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第19話 暴走とパンダとオカマムチ

続けて二話目を投稿です。

今回の話を書いて、改めて「終わらない怖さ」を感じました。



遂に一夏が動いてくれた。これで漸く二人の関係に何かしらの進展があるはずだ。

一応、万が一の事態に備えてタカカンとバッタカンで監視し、今日は生徒会副会長としての仕事をこなす。相変わらず仕事をしているのは俺と虚だけで、本音は何時も通り寝ている。

 

そんな生徒会の日常は、マスカレイド・ドーパントと仮面兵士が合体したような見た目の連中が、生徒会室の窓をぶち破った事で終わりを告げる。

見た目と行動から敵と判断し、頭脳労働のやる気スイッチから、肉体労働の殺る気スイッチに切り替える。

机の上に乗っている書類や筆記用具を無視し、机を思いっきり蹴り飛ばす。机によって敵と間に壁を作り、横に座っている虚と目を醒ました本音の手を引いて、生徒会室から脱出する。

しかし廊下にも相当数の戦闘員が待ち構えており、簡単にはいかない。それにしても、シュラウドはどうやってコレだけの数の人間を集めたのだろうか。

 

『コイツ等は人間じゃない。メモリの能力で作った分身体だ』

 

なるほど。容赦しなくて良いのは助かるが、問題は変身する隙が無い事。『オーズ』の最大の弱点であり、ISと違って部分展開が出来ないのも痛い。

それでも武装の呼び出しは出来るので、トリガーマグナムを召喚して戦闘員を次々と撃ち抜き、蹴り飛ばして包囲網を突破していく。

 

「ふにゃぁああああああ! お姉ちゃん、シュレりん、どうしよ~~!!」

 

「下手に逃げると一般生徒にも被害が出ます! 屋外、いえ屋上の方に!」

 

「ホラー映画のお約束だな……」

 

多分映画の演出なのだろうが、どうしてわざわざ逃げ場の無い場所へ避難するのかと何時も思う。もっとも俺達の場合、飛行する事が出来る道具があるので全く問題は無い。

ゾンビの大軍から逃げるスクリームヒロイン宜しく、本音と虚と共に階段を駆け上がり、屋上に逃げ込むとISを展開した箒とマドカが待っていた。

 

『俺が呼んでおいた。生徒会室に襲撃してきた時点でな』

 

「本音と虚さんはコッチだ!」

 

「ふん。間抜けが」

 

本音と虚は箒の方に駆け足で向かい、俺達を追ってきた戦闘員達は罠だと知らずに屋上に躍り出た所を、マドカによって殲滅された。

 

「ありがとう、助かった。しかし、さっきのだけか?」

 

「いや、他にも同じヤツが別の場所で確認された、そっちの方は楯無と簪とセシリアの三人が向かっている」

 

『馬夏と中華娘の所に大本と思える奴がいる。全身装甲のISで得体の知れないオカマ……と言うか、どうもソイツも人間じゃないみたいだな』

 

……人間じゃない戦闘員を操る、得体の知れないオカマ?

 

非常に気になる説明から、バッタカンから送られたであろう映像を見てみると、一夏と凰の二人と一緒に、どこかルナ・ドーパントの面影を残しつつも巨大な両腕が印象的な、クネクネと奇妙な動きをしている全身装甲のISが写っていた。……うん、仕草が物凄く『W』の京水っぽい。

その京水(仮)は此方の監視の目が分かっていたのか、映像は京水(仮)からレーザーとミサイルが放たれた場面を最後に真っ暗になった。多分、タカカンとバッタカンは犠牲になった。

 

「箒は本音と虚を頼む。マドカは俺と一緒に第三アリーナに行くぞ。……変身!」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

タトバコンボに変身し、屋上からマドカと共に目的地へ飛んで向かう。その途中で織斑先生からプライベート・チャンネルを用いた通信が入ってきた。

 

『シュレディンガー。現在、第三アリーナの遮断シールドがレベル4に設定され、第三アリーナに通じる扉も全てロックされている。現在、束とクロニクルがシステムクラックを――』

 

織斑先生の状況説明の途中で、『ジョジョの奇妙な冒険』に登場するワムウの神砂嵐を彷彿とさせる二つの黄色い竜巻が、レベル4の遮断シールドを突き破り、アリーナの外を破壊するのが見えた。

 

「……強行突入だな」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『セルバースト!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

最大威力の「タトバキック」を遮断シールドに全力で叩き込む。遮断シールドがガラスの様に砕け、その勢いのままアリーナに突入する。すると、空中で見覚えの無い怪人と鉢合わせになり、タトバキックがその怪人に命中した。

幸いと言って良いのかどうか分からないが、遮断シールドを破る時に大分エネルギーを消費していた事と、「タトバキック」を怪人が頑丈そうな翼で咄嗟にガードした事で、怪人に大したダメージは無さそうだ。

 

「……遅かったか?」

 

「いいや、ぴったりだぜ」

 

「あらやだ。もう来ちゃったの~?」

 

取り敢えず一夏は無事で、京水(仮)も健在。両者とも対してダメージは負っていないように見える。

 

問題は俺が蹴り飛ばした怪人。見た目は、劇場版『将軍と21のコアメダル』に登場する錬金術師ガラの怪人態と巨大ガラの中間と言った、言わば龍人の様な姿をしており、『龍騎』のダークレイダーみたいなかなりゴツい翼が生えている。

 

タカの目で怪人を更に詳しく調べてみると、なんと中身は凰だ。大量のセルメダルを全身に纏い、中にはバイオレンスメモリの他に、見たことのない意匠が彫られた、コアメダルらしき15枚の色とりどりのメダルが確認出来る。

 

『そこのオカマの仕業だろうが、厄介な事になったな。ガイアメモリどころか、コアメダルとセルメダルも取り込んでいる点を考えると……アレはドライバーの無いオーズと考えた方が良い』

 

そうか。俺はガラよりもコアメダルの枚数が少ないが、ISをベースにしている上にガイアメモリを取り込んでいる事で、ガラと一体どれ位の差があるんだろうと考えていたんだが。

 

「ナイスタイミングだ! 一緒に鈴を――「ムゥチッ!!」ぐぁっ!」

 

「刃物は絶対に駄目ッ!! そしてあんたの相手は私よッッ!! 楽しみましょ~~~~~~~~!!」

 

「は、放せコラァアアアアアアアアアッッ!!」

 

京水(仮)は、一夏の唯一の武器である『零落白夜』を伸縮自在の腕で叩き落とし、一夏に抱きつくと、勢い良くロケットの様に飛び出して遮断シールドを破り、一夏を連れてアリーナから脱出した。

 

「……持って行かれたな」

 

「ああ。追いかけたい所だが……そう簡単には行かないみたいだな」

 

出来れば直ぐに追いかけたいが、その前に俺達をココから逃がすつもりは無いと言わんばかりに殺気を向けている凰を何とかしなければならない。

 

「『オーズ』……アンタのメダルとメモリを戴くわぁああああああああああッッ!!」

 

凰は両腕を鋭利な爪を生やした熊手の様な形状に変化させ、猛然と俺に襲い掛かってくる。体内にある黄色いメダルの一枚が輝いている所を見れば、恐らくコアメダルの力だろう。メダルの意匠から察するに……白くないけど、パンダか?

 

「マドカ! 変身しろ!」

 

「分かっている!」

 

『NASCA!』

 

マドカが『拡張領域』からナスカメモリを取り出すと同時に、青色と銀色のカラーリングのロストドライバーがマドカの腹部に装着される。

 

「変身!」

 

『NASCA!』

 

マドカがナスカメモリを装填しメモリスロットを傾けると、『青騎士』が遠距離特化の射撃形態から、近距離特化の高速格闘形態へと変化する。

ナスカの地上絵の様な模様が刻まれた、口元だけを露出した青い騎士の様な全身装甲。両肩から長いマフラーが伸び、背中のブースターからナスカの地上絵の様なエネルギー翼が発生している。

 

「ハァアアアアアアアアアッッ!!」

 

『YESTERDAY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアッッ!」

 

マドカが変身している間に、此方も作戦の仕込みを実行する。重さと鋭さを兼ねた凰の猛攻をトラクローで防ぎつつ、メモリをジョーカーからイエスタデイに変更。マキシマムドライブを発動し、エネルギーを纏った右フックを凰の左わき腹に叩き込む。

 

「? 何? その程度? 痛くも痒くも無いわよ?」

 

マキシマムドライブの攻撃を受けたにも関らず、特に大きなダメージが無い事に余裕綽々な様子の凰。しかし、失敗ではない。何故なら攻撃を当てた部分に、砂時計を模したマークが刻まれている。

 

「気を付けろマドカ。気を抜くとやられるぞ」

 

「……お前よりはまだ弱そうだがな」

 

『とりあえず仕込みは完了だ。だが、中華娘は予想以上に手強いぞ』

 

「ああ。分かってる」

 

見た感じ凰はコアメダルの力を引き出す際に、わざわざメダルをスキャンする必要が無く、自分の意志一つでコアメダルの力を引き出し、肉体を変化させる事ができるようだ。

パターンはコアメダルの枚数と同じ15種類に限られると思われるが、これでは『真のオーズ』と言うより『究極生物カーズ』を相手にしている様な気がする。

 

「凰、お前の『運命【さだめ】』は俺が決める」

 

「ハッ! アンタに決められるほど弱くは無いわ!」

 

凰が繰り出す加速を加えたパンダクローの一撃を、俺はメダジャリバーで受け止めた。

 

 

○○○

 

 

一夏との模擬戦の途中で、突然アリーナに大きな衝撃と轟音が響き、もくもくと煙が上がった。ISのハイパーセンサーが、所属不明のISを感知したとあたしに警告している事で、その原因は直ぐに分かった。

 

「い、一体何が起こって……」

 

「こっちよ、こっちよ! ここよ~~!」

 

「……へ?」

 

突如聞こえてきたのは、オカマ口調の男の声。一体何処から聞こえてきたのかと思えば、煙の中からだ。

その煙の中から現れたのは、異形としか言いようの無い姿の全身装甲のIS。でも、見た目が男っぽいのに、動きがやたらとクネクネしていて、姿と仕草のギャップが半端じゃない。

 

「あ、あんた一体何者!? 何が目的なのよ!!」

 

「ド素人の小娘はお黙り! アンタなんかにねぇ、私の崇高な目的と純粋な恋心は、分からないわっ!」

 

「分かるわけ無いでしょ! 変なおっさん!」

 

「そう、変なおっさ……って! 変なおっさん!? 言ったわね! アンタ、レディーに対して最大の侮辱をッ! ムッキィィィイイイイイイイイイイッッ!!」

 

訳の分からない事を言うオカマの変なおっさん(多分)にイライラして、思ったことをそのまま口に出して言ったら相当気に障ったみたいで、オカマは奇妙な動きをしながら奇声を上げた。

 

「ブッ飛びぃぃいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!」

 

「うおりゃああああああああああっっ!!」

 

怒れるオカマはあたしに向かって、両腕から高出力のエネルギーのレーザーを、背中からミサイルを同時に発射した。

でも一夏が突撃した事で、オカマが一夏を回避してレーザーの軌道が変わったから、あたしはミサイルだけを対処した。

 

「……ちょっと一夏。一体何のつもり? あんたは弱いんだから、あたしが相手してる間に逃げなさいよ」

 

「何言ってんだ。逃げるって、女を置いてそんな事できるかよ」

 

「……あのね。これからはあたしが一夏を守るの。守れるだけの力があるの。あたしはもう昔のあたしを超えたの」

 

「俺だってもう昔の千冬姉に守られてた頃の俺じゃない。お前の背中くらいなら守ってみせる」

 

「……って」

 

「? どうした鈴?」

 

「あたしが守るって言ってんでしょうがぁあああああああああっっ!!」

 

『VIOLENCE!』

 

一夏を守る筈のあたしが一夏に守られるなんて、そんなの絶対に我慢できない。こうなったら何が何でもあたしが一夏を守れる事を一夏に認めさせてやる!

 

「手ェ出すんじゃないわよ一夏! コイツはあたしが一人でやるわ!」

 

ガイアメモリを使って『甲龍』を強化したあたしは、オカマに向かって牽制と本命を織り交ぜた衝撃砲をひたすら放つ。

 

「く~ね~くね~くねくね~~♪ 来なさぁ~い?」

 

「ぐっ! このっ!!」

 

「ぬ~るぬる~ぬるぬる~♪ 効かないわよッ!!」

 

意外な事に、このオカマは奇妙な動きで見えないはずの衝撃砲を全部回避して徐々に、そして確実にあたしに接近してきた。

でも残念だったわね! 近距離はあたしの土俵よ! こないだの王とか言う代表候補生を倒した攻撃をお見舞いする為に、右腕を巨大な鉄球に変える。

 

「さあ、自分が砕ける音を聞きなさいッッ!!」

 

ズドンと、見事にあたしの右ストレートがオカマの胴体に決まった。

 

よし! ISのシールドエネルギーを貫通して、本体に大ダメージを与える攻撃力を持った必殺の一撃だ。これで――

 

「んぁぁ……今日は、カレー、だったのぉ! モンゴリアンチョップ!」

 

!? 効いてない!? 確かに殴った感触はまるでゴムみたいな弾力があったけど、それでもノーダメージなんて信じられない!

それから何度も右腕の鉄球で殴りつけたけど、ダメージを受けている様子がまるで無い。しかも、このオカマは近距離の格闘能力が高く、徐々にあたしの方が押されてきた。打撃系の技は効果が薄いと判断して、「双天牙月」を使った二刀流に切り替える。

 

「アーーーーーッ! アァーーーッ! アァァァーーーッッ!!」

 

「ッッ~~~~!! 止めなさいよその声っ!」

 

予想通り、オカマは奇妙な動きで巧みに回避するけど、徐々に攻撃が当たるようになってきた。でも攻撃が当たる度に喘声の様な悲鳴が上がる。はっきり言って気持ち悪い。

 

「やだぁ、この子思ったより強いわ! でも……これでどうかしら?」

 

オカマが取り出したのは、何かに嵌める感じの銀色の機械。でも何に使うものなのか、ちょっと分からない。

 

「これは『ガイアメモリ強化アダプター』って言ってね。これをガイアメモリと併用する事で、メモリの能力を3倍まで増幅させることができるのよ。こんな風にねぇ!」

 

『COMANDER・UPGRADE!』

 

え!? このオカマ、ガイアメモリを持ってるの!? オカマが自分のガイアメモリに強化アダプターを装着すると、メモリのイニシャルと「DOWNLOAD COMPLETE」の文字が浮かび上がるのが見えた。

そして強化アダプターを付けたメモリを体に突き刺すと、ギザギザの歯車の様なリングを中心とした追加装甲を纏い、全体的に銀色から黄色い姿になった。

 

「キタキタキタキタキタキタァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!! さあ、太陽に代わってお仕置きよっ! ぶっ飛びぃぃいいいいいいいいいッッ!!」

 

もしかしてあのリングって、歯車じゃなくて太陽だったのかしら? そんな事を考えていたら、さっきとは比べ物になら無い数のミサイルとレーザーが発射された。

 

「ちっ!! でも、この位どうって事……」

 

「いただきますっ!!」

 

「!!」

 

回避は不可能と判断して、ミサイルとレーザーの弾幕を耐えるあたしに、異常に伸びたオカマの右手が『甲龍』に差し込まれた。その間、あたしの体の中から何かを探すように、右手が『甲龍』の中で蠢いている……そんなおぞましい感覚が体中を走っていた。

 

そして、右手が何を探しているのかを、あたしは察していた。

 

「ちょ、ちょっと、待って!」

 

「待つわけ無いじゃないッッ!!」

 

オカマの右手があたしから引き抜かれた瞬間、『甲龍』の姿は元に戻り、今までに感じた事の無い脱力感と、筆舌しがたい喪失感があたしを襲った。ガイアメモリが、あたしが手に入れた力が、オカマの右手に握られていた。

 

「私のメモリが……力が……」

 

「おい! 鈴! 大丈夫か!?」

 

「……返して! 返しなさいよ! それは私の物よ!」

 

「おい、鈴! 少しは落ち着いて……」

 

「邪魔すんじゃないわよ! あたしは新しい自分が! 強い力が欲しいの!」

 

「だから落ち着けって! 幼馴染の俺の言う事が聞こえないのか!?」

 

「……幼馴染?」

 

あたしが欲しいのはそんな言葉じゃない。そんな関係じゃない。告白までしたのに、なんでそれを分かってくれないんだ。

……ああ、そうか。あたしが弱いからか。それならちゃんと一夏があたしの言葉を聞いてくれる為には、もっと強い力が必要なんだ!

 

「下らない!! 今のアタシに必要なのは力よ!!」

 

「それなら……お上がりなさいっ!!」

 

『VIOLENCE!』

 

何を思ったのか、今度はオカマがあたしから取り上げたメモリを、あたしに投げつけてきた。メモリが『甲龍』に命中して機体に吸い込まれると、『甲龍』は強化された姿に戻った。

 

……でも、足りない。……こんな力じゃ、全然、足りないっっ!!

 

「力……力よ……! もっともっと……力が欲しいッッ!!」

 

 

○○○

 

 

メモリを取り戻して尚、更に強い力を求める鈴の様子を見て、京水は『拡張領域』から15枚のコアメダルが入ったメダルケースと、大量のセルメダルが入ったタンクを複数召喚した。

 

「良いわ! あげるわ! 私が力を貸してあげるわぁあああああああああ!!」

 

ガイアメモリの毒素は精神を汚染し、使用者を欲望のままに暴れる怪物へと変化させる。

そこで、精神が汚染された状態でガイアメモリを取り上げ、手にしていた強大な力が失われる恐怖をわざと与える事で、使用者の欲望を最大限まで増幅させる。

使用者をそんな精神状態にしてから、新規作成した15枚のコアメダルと大量のセルメダルを与え、力を喪失する恐怖と、それから生まれる欲望によって、コアメダルを一気に成長させる事がシュラウドの目的兼実験であり、京水が受けた任務だった。

 

「さあ、貴方のイケナイ欲望をッ! 思いっきりッ! 解放しなさぁああああああああああああああいッッ!!」

 

15枚のコアメダルと大量のセルメダルは鈴の欲望に大きく反応し、意思を持ったかのように動き出して『甲龍』諸共、鈴を飲み込んだ。

 

 

○○○

 

 

カチャカチャとメダルの擦れ合う音が徐々に収まっていくのに比例して、どんどん自分の中で抑えきれない位に大きな力が膨れ上がっていくのを感じる。まるで自分が神様になったような高揚感と全能感だ。

 

これがコアメダルの力。これがあらゆるISを凌駕する、『オーズ』の力の根源!!

 

メダルが生み出す不快な金属音が完全に収まると、あたしの全身は強固な装甲に完全に覆われていた。正直、あのオカマよりも強そうだ。

 

「鈴!? おい、鈴!?」

 

「……アハ、アハハハハハハハ!! 凄いわ一夏!! あたし、今なら何だって簡単に出来そうよ! 見て!」

 

基本的にISの操縦は勘でやるあたしは、取り込んだコアメダルの力がどんなものか、本能的な部分で何となく分かる。直感だけど、あたしにはこの黄色のメダル3枚が合いそうだ。

 

試しに黄色のメダル3枚に意識を集中させると、『龍砲』を搭載した『非固定浮遊部位』を取り込んで出来た左右の翼から、二つ大きな黄色い竜巻が放たれる。放たれた黄色い竜巻は一つに混ざり合い、軌道上にあるもの全てを破壊して、アリーナの遮断シールドを楽々と貫通した。

 

「アハハハハ! どう、一夏! あたし、こんなに強くなったのよ!」

 

「……何だよ、どうしちまったんだよ、鈴」

 

? なんでそんな顔するのよ一夏。あたしは今、この世界で一番強い力を手に入れたの。全てを制する事ができる力があたしにあるのに、何でそんな顔するのよ。

 

「てめぇ! 鈴に一体、何しやがった!」

 

「あら? 私達はその小娘が求める力をあげただけよ? 感謝されこそすれ恨まれる覚えは無いわ」

 

「そうね……感謝してるわ……昔のあたしじゃ絶対に超えられなかった壁を、一気に超えられる力をくれたんだから……」

 

「そんな化物になってまで、一体何を超えたって言うんだよ!」

 

……化物? 可愛い女の子に酷い事言うじゃない。でもあたしの次の台詞にはきっと一夏も驚くわ。

 

「千冬さんよ! 絶対に超えられないと思っていた人を、超える事が出来たの! あの時の千冬さんの表情は……見ていて本当にスカッとしたわ……」

 

「……はぁ!? 千冬姉を!?」

 

「信じられないかも知れないけど本当よ。あたしは千冬さんよりも強くなったの」

 

「信じられるわけ無いだろ! 千冬姉が鈴に負けるなんて!」

 

「……そう。それじゃあ、あんたの目の前で千冬さんをボコボコにして証明してあげる。よぉうく、見ててね。アハッ! アハハハハハハハッッ!!」

 

そうだ。一夏の目の前で千冬さんを完膚なきまでに叩きのめしてやろう。そうすれば、あたしの強さを証明できる。ここに千冬さんを持ってこようと飛び立ったあたしに、予想外の邪魔が入った。

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

『オーズ』が必殺技でアリーナの遮断シールドを破って、ここに突入してきたのだ。咄嗟に翼でガードしたけど、両脚蹴りをまとも受けて吹き飛ばされてしまった。

 

その後マドカもやってきて、オカマが一夏をアリーナの外に連れ去ったけど問題ない。今のあたしなら、あんなオカマなんて幾らでもどうとでもできる。そう思えるだけの力があたしにある。

でも……まだ足りない。更に強大な力を得る為に、更なる全能感を感じる為に。もっと、もっと、アタシには力が必要なの。その為に……。

 

「『オーズ』……アンタのメダルとメモリを戴くわァアアアアアアアアアアッッ!!」

 

なんとなく、フィーリングの合いそうなコアメダルに意識を集中させて、コアメダルの力を引き出すと、両腕が巨大なクローに変化した。中々使い勝手が良さそうだ。『オーズ』のコアメダルをクローで抉り取るつもりで、あたしは『オーズ』に襲い掛かった。

 

「ハァアアアアアアアアアッッ!!」

 

『YESTERDAY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアッッ!」

 

あたしの攻撃を爪で防ぎながら、隙が出来た左わき腹にエネルギーを纏ったパンチが叩き込まれる。マキシマムドライブの音声が鳴ったから、これはメモリを使った必殺技だろう。でもパンチを叩き込まれた部分はなんとも無い。

 

「? 何? その程度? 痛くも痒くも無いわよ?」

 

正直、あたしは優越感に酔っていた。コレなら幾らでもやれそうだ。ただ、マドカもガイアメモリを持っている事は予想外だったけど、それでもコアメダルを手に入れたあたしの敵じゃないだろう。

 

「凰、お前の『運命【さだめ】』は俺が決める」

 

「ハッ! アンタに決められるほど弱くは無いわ!」

 

加速を加えたクローの一撃を今度は剣で受け止められたけど、衝撃までは殺し切れなかったみたいで、『オーズ』は大きく後ろに飛んだ。

 

ここから追撃するため、さっきの「黄色の竜巻」を撃ち込んでやろうと思った瞬間、マドカがエネルギー弾を何発もあたしにぶつけてくる。エネルギー弾は全て命中したけど、全然大した事無い。コレは楽しい。今のあたしには、どんな強大な力も足元に及ばない気がする。

 

「喰らえッ!!」

 

『クワガタ! ゴリラ! チーター!』

 

マドカを無視して『オーズ』に向けて翼から「黄色の竜巻」を発射する。でも、『オーズ』は高速移動するチーターの力を使って回避し、一気に距離を詰めて此方に接近する。

接近する『オーズ』に対して、あたしはアルマジロのコアメダルの力を引き出し、防御力を強化して電撃と加速を加えた一撃を受け止める。

 

「ふふん。この程度――」

 

『ROCKET・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアッッ!!」

 

「! キャァアアアアッ!」

 

受け止めたと思ったら、直後にゴリラの手甲の後ろにブースターが現れて、その勢いで殴り飛ばされた。

油断したわ。流石にメモリやメダルの使い方は、『オーズ』に一日の長があるみたいね。受け止めた部分の装甲が砕けちゃったけど、メダルが砕けた装甲を瞬く間に修復した。

 

「無駄よ。大人しくメダルとメモリを渡しなさい。それなら少しだけ痛めつけるレベルを下げてあげるわ」

 

「……凰。俺が前に言った事を覚えているか? カバの牙には小鳥が止まる。だが、ライオンの牙に小鳥は止まらない」

 

「はぁ!? だから何よ!? アタシがのろまで間抜けなカバだとでも言うつもり!?」

 

「違う。お前はライオンだ。どこか勘違いした、馬鹿なライオンだ」

 

「誰が馬鹿ですってぇ!!」

 

今度はカブト虫のメダルに意識を集中させる。頭にカブトムシの角が生え、翼に緑色の電気が走ると、緑色の雷で出来た弾丸が連続発射される。黄色のメダルほどじゃないけど、この緑のメダルも中々使い勝手が良さそうだ。

 

『クワガタ! クジャク! チーター!』

 

『QUEEN・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ちっ! 思った以上に厄介だな!」

 

『オーズ』がメダルをスキャンして装備を交換すると、左腕の赤い盾とエネルギーシールドで攻撃を防ぐ。あのエネルギーシールドは映像資料でも見た。生半可な攻撃では突破できないだろう。それなら……。

 

「はぁああああああああああああっっ!!」

 

あたしが『オーズ』のエネルギーシールドを破る事に集中していると、マドカが高速でジグザグに移動している。動きで撹乱してから手にしているブレードで斬りかかるつもりだろう。

でも甘いわ。今度は自分の周囲に電撃を撒き散らして、どの方向から来ても対応できるように電撃のバリアーを張る。

 

「ぐぁああっ! な、何ぃ!?」

 

「ふん! さあ、自分が砕ける音を――」

 

『クワガタ! クジャク! チーター! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

電撃のバリアーに捕まって動きが止まったマドカに対して、渾身の一撃を叩き込もうとしたあたしの背中に、高出力の火炎弾が直撃した。

火炎弾の威力は予想よりも大きく、翼でガードしたにも関らず吹き飛ばされた。翼の損傷は激しいが、これも直ぐに修復されるだろう。

マドカはと言うと、電撃のバリアーから脱出して『オーズ』の傍らにいた。

 

「やはりドライバーが無い分、メダルの力を引き出しやすくなっているのかもな」

 

「分析はいい。それよりもまだなのか?」

 

「もう少し時間が掛かる。それまで何とか凌いでくれ」

 

「何か企んでるみたいだけど、その前にアンタ達は負けるのよぉ!!」

 

今度はリクガメのメダルを意識し、右手に鎖付きの鉄球を召喚した。メモリを使った時よりも巨大な鉄球をぶんぶん振り回し、二人に向かって叩きつける。

 

「……使ってみるか」

 

『XTREME・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『STEAM!』

 

『オーズ』が取り出したのは、メモリを装填して力を引き出す銃剣。その銃剣から尋常じゃない量の蒸気が発生して、アリーナが白一色に染まる。叩き付けた鉄球に手ごたえは無い。

二人は一体何処に居るのかと探していると、『オーズ』がメダルをスキャンし、装備を変える音声が聞こえた。

 

『クワガタ! トラ! コンドル!』

 

「ララララララララララララララララァッ!!」

 

「あっ! ぐぅ! このっ!」

 

「ココだっ!!」

 

「んあっ!」

 

このホワイトアウトにも似た視界最悪の状態の中で、どうやって居場所を特定しているのか分からないが、『オーズ』が真空波を纏った連続キックと電撃を纏ったクローで攻め立て、あたしが『オーズ』の攻撃に集中する事で、意識していない角度からマドカがブレードで斬り付ける。

 

「あぁぁっっ!! もう! 調子に乗ってんじゃないわよぉぉおおおおおおおッッ!!」

 

アリーナに充満する大量の蒸気を「黄色の竜巻」で吹き飛ばし、隠れ蓑の無くなった『オーズ』に両手のクローを使った攻撃を繰り出す。

 

「! ここだ!」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

『YESTERDAY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

すると『オーズ』は最初の姿に戻り、さっきの痛くないパンチを繰り出したガイアメモリの必殺技を、さっきと同じ様に同じ場所に打ち込んだ。やっぱり痛くも痒くも無い。

 

「凰。お前の『運命』は俺が決める」

 

「アンタ馬鹿ぁ? だから言ってるでしょ? アンタに決められるほどあたしは弱くないのよ」

 

「……俺がお前に言った事を考えろ。ライオンの牙に小鳥は止まらない」

 

「何を言って……」

 

そこで何か違和感がある事に気付いた。さっきと同じ様な状況で、まるでデジャビュだが、決定的な部分で何かがおかしい。そんな気がするが、その正体が分からない。

その違和感の正体を考えていたら、マドカが再びエネルギー弾を放ってきた。

 

「ふっ!」

 

「はっ! 何度も同じ手を喰らうと思ってんの?」

 

マドカが繰り出すエネルギー弾は回避するまでも無い。意識を黄色のメダル3枚に集中し、『オーズ』へ必殺の「黄色の竜巻」を放つ準備に掛かる。

 

「無駄よ! そんなんじゃあたしは倒せない!」

 

「倒すつもりは無い。倒すつもりはな」

 

『XTREME・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『STEAM!』

 

何発も撃った事で軌道を見切ったのか、「黄色の竜巻」を最小限の動きで回避した『オーズ』は、再び大量の蒸気で身を隠した。また蒸気に紛れての奇襲ね。流石に手の内が読めるわ!

すかさず、もう一回「黄色の竜巻」を放って蒸気を吹き飛ばし、視界をクリアにしたと思ったら、またもや『オーズ』が当たっても痛くない必殺技を繰り出した。

 

『YESTERDAY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

さっきと同じ左わき腹に、痛くも痒くもない拳が刺さる。それにしてもまた同じ所に打ち込むなんて、学習能力が無いのかしら? それとも何か狙ってる?

 

「凰。お前の『運命』は俺が決める」

 

「だから、何度言えば――!!」

 

その時、あたしが感じていた違和感の正体に気づいた。

 

あたしが最初に違和感に気がついた時、あたしはそれまでに「黄色の竜巻」を合計三発撃った。一発目は一夏に見せるため、二発目は『オーズ』への攻撃。そして三発目は蒸気を吹き飛ばす為に撃った。

そしてその度に、「黄色の竜巻」はアリーナを破壊していた。だから、アリーナの「黄色の竜巻」による破壊の跡は、あの時点で三つあるはず。しかし思い出してみれば、あの時のアリーナの「黄色の竜巻」による破壊の跡は一つだけだった。

 

そして、これまでに「黄色の竜巻」を合計五発撃った筈なのに、確認出来るアリーナの「黄色の竜巻」の破壊の跡は一つしかない……。

 

「……あんた。あたしに一体何をしたの?」

 

「お前は今、『昨日と言う名の監獄』に囚われている」

 

「だから、ちゃんと答えなさいよっっ!!」

 

加速を加えたクローの一撃を『オーズ』は剣で防ぎ、その勢いのまま後ろに飛んだ。こ、これもさっきと同じ!?

何か恐ろしい事が起こっている気がする。そんな恐怖心を振り払うように、「黄色の竜巻」を放とうとして、またもやマドカが撹乱目的の高速移動を始める。同じ展開が繰り返されている事に、段々と恐怖心が募っていく。

 

「だったら!」

 

さっきと同じカブトムシのメダルの電撃ではなく、今度はバイソンのメダルの力を使う。地面を叩く事で限定的に重力を操作し、マドカの機動力を奪い動きを止める。

 

「これで……」

 

『タカ! クジャク! バッタ! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

! そうだ! さっきもマドカの動きを止めて攻撃しようとした時、『オーズ』は火炎弾を撃って来た! 何時の間に装備を変えたのか分からなかったが、コレもさっきと同じ展開だ!

 

「うわああああああああああああああっっ!!」

 

今度は火炎弾に「黄色の竜巻」をぶつけて軌道をずらす。黄色の竜巻はアリーナを破壊し、火炎弾は軌道から大きく逸れて地面に着弾した。火炎弾の爆発により、アリーナの中は爆風によって舞い上がった土埃に覆われた。

 

視界が最悪なのは同じだが、今度は蒸気じゃなくて土煙だ。そう思ってホッとしたのも束の間、二度と聞きたくないガイアメモリのガイダンスボイスが聞こえた。

 

『YESTERDAY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「!?!?!?!?!?」

 

全身から鳥肌が立った。さっきまで何も脅威に感じなかった痛くも痒くも攻撃が、とてつもなく恐ろしい攻撃に感じられた。

攻撃を受けた後で恐る恐るアリーナを見渡すと、さっき「黄色の竜巻」で破壊した筈の場所が元に戻っており、「黄色の竜巻」の破壊の跡は一つだけだった。

 

「な、何がどうなって……」

 

「言った筈だ。お前の『運命』は俺が決める。お前はこの『輪廻【ループ】』から逃げる事は出来ない」

 

や、やっぱりあたしはさっきから、ずっと同じ時間をぐるぐる回っている!? コレもガイアメモリの力なの!? こんなゲームの世界みたいな事まで出来るなんて……いや、それよりコレは何時まで続くの? まさか……無限に!?

 

「この無限ループから抜けたいのなら、自分の失敗を見つめ直せ。ライオンの牙に小鳥が止まらない理由を考えろ。それ以外に方法は無い」

 

その言葉で混乱してゴチャゴチャしていた頭の中が、怒りと否定の色に染まる。

 

……失敗? 失敗ですって!? あたしの何処に失敗があるって言うのよ!!

 

あたしはただ、無力な弱い自分が嫌だった!

 

強くなって一夏に千冬さんみたいに、見てもらいたかっただけだった!

 

弱い自分に戻りたくないだけだった!

 

あんたはその為に力を求める事が、失敗だって言うの!?

 

「……認めない……そんなの、絶対に、認めてやるもんですかぁああああああっっ!!」

 

あたしはループを抜ける為に『オーズ』に戦いを挑んだ。

 

何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも、――。

 




キャラクタァ~紹介&解説

究極生物 凰鈴音
 どれだけ『オーズ』と戦っても無限ループから抜け出せないので、その内鈴は考えるのを止めた……と思いきや、しょっちゅう5963が話しかけてくるので、考えるのを止める事さえ許されなかった。



新規作成コアメダル
 シュラウドがミレニアム壊滅後に作成したコアメダルで、元ネタは原作『オーズ』のヤミー達。能力もそれに準じて決定。鈴が使った「黄色の竜巻」は、カザリが使っていたものと、ワムウの神砂嵐。コンボの固有能力みたいなものです。
 使用されたコアメダルの内訳は下記の通り。作者は、「鈴は猫っぽいから鳥系と水棲(魚)系は相性が悪そうだな~」と思って、今回使わせなかった。
 
 鳥系……フクロウ・シャモ・ハゲタカ
 昆虫系…カブト・クロアゲハ・オトシブミ
 猫系……シャムネコ・パンダ・ジャガー
 重量系…バイソン・リクガメ・アルマジロ
 水棲系…ピラニア・イトマキエイ・イカ

Y イエスタデイメモリ
 昨日の記憶を持つガイアメモリ。二次小説を書くにあたり、「原作では活躍の場の無かったメモリやメダルを活躍させよう」と言う、作者の欲望の影響を最も受けたであろうメモリ。散々悩んだ末に、「イザナミだ」に落ち着いた。
 疾風伝のイザナミ回における、うちは一族の名前の適当さ(ライ、バル、ナカ、ナオリ)は、恐らくマザーこと薬師ノノウが、スタッフが名前を考えている時に「考えすぎない事が一番です」と言ったに違いない。
 一度書いてみたかった無限ループを実際に書いてみたが、予想以上にややこしい事が分かり、作者は鈴以上に混乱していたりする。もう二度と書かない。


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第20話 Got to keep it real

最後の三話目の投稿です。

次回で原作一巻相当が終了。予想よりも随分と長く掛かってしまった。

本当なら三月中にシャルロットもラウラも登場していたはずなのに……。

しかし、イエスタデイのマキシマムについての反応が怖い。


二回目のイエスタデイのマキシマムドライブが決まった瞬間、凰は突然動きを止めた。

 

「………」

 

「よし。マドカはそこの『雪片弐型』を持って一夏の所に行け。俺はコアメダルとガイアメモリを引っこ抜いてから、凰のISに外から干渉して――」

 

「ちょっと待ってくれ、少し説明してくれないか? どうして『イエスタデイ』のマキシマムを二回打ち込んで、こいつは動きが止まったんだ?」

 

「……簡単に説明すると、『イエスタデイ』は相手に二回マキシマムを叩き込む事で、一回目のマキシマムから二回目のマキシマムまでの時間を無限ループする精神世界に、相手の意識を叩き込む能力だ」

 

「無限ループ? それじゃ、コイツの意識はずっとその無限ループの世界に囚われたままと言う事か?」

 

「いや、その無限ループから抜け出せる方法は初めから用意されている。元ネタが『強大すぎる力に驕った仲間を救う為の術』だからな」

 

「元ネタ?」

 

マドカが怪訝な表情をしているが、恐らく元ネタは分かるまい。

 

元ネタはズバリ『NARUTO』のうちはイタチが使ったイザナミだ。

 

本編『W』において、653こと園崎霧彦の妹である須藤雪絵が使ったイエスタデイメモリの能力は、対象人物に「イエスタデイの刻印」を打ち込み、相手に「24時間前」の行動をとらせると言う、かなりトリッキーな能力だ。

 

正直言えば、数あるメモリの中でもこれはかなり使いづらい。そこで他のメモリとは異なり、初めからオリジナルと異なる能力開発を試みた。

 

そして、メモリの能力を『NARUTO』のうちはイタチのイザナミを参考にした、無限ループの能力か、『うえきの法則』のバロウ・エシャロットの「過去の映像を現実に変える能力」を参考にした、過去から攻撃する能力のどちらにしようか考えた。

 

最終的に、イエスタデイ・ドーパントである須藤雪絵の「永久に昨日という監獄に囚われるがいい!」と言う台詞と、砂時計を模したマークを「8の字マーク」ではなく「∞マーク」に見立てる事で、それらのイメージからイザナミを採用した。

 

そんなイエスタデイメモリの使用を決めた理由は、昨日のシュラウドの言葉が原因だ。

 

『貴方にも、誰にも、凰鈴音の自由と未来を守る事は出来ない。そして、力に溺れた凰鈴音には、もはや誰の声も届かない』

 

この言葉について散々考えた末、一つ発想を転換してみた。

 

俺にも、誰にも救えないのなら、誰の言葉も届かないのなら、凰は凰にしか救えない。ならば、凰が凰を救う事ができる方法を考えればいい……と。

 

「つまり凰が自分を見つめ直して、コアメダルやガイアメモリの力に固執する事を止めれば、自ずと『昨日と言う名の監獄』から抜け出せる……と言う訳だ」

 

「……なるほどな」

 

「しかし、幾つか懸念材料もある。上手く行くかどうか……」

 

そう。このイエスタデイメモリに関して、幾つか懸念材料が有る。実は、このイエスタデイの無限ループを抜け出した人間は、今までに一人もいないのだ。

 

俺がまだ『ミレニアム』にいた頃。某国のとある刑務所に侵入し、どうしようもない終身刑の悪党10人を用いて、イエスタデイの能力で改心するかどうかを試した事があるが、今でも10人全員が昏睡状態で眠り続けている。

 

実験後になんで失敗したのか考えていたら、井坂先生が「イエスタデイの能力は体内に残留するメモリの毒素も同時に刻印に打ち込むことで精神汚染を防ぎ、攻撃と防御を同時に行っている」みたいな事を言っていた事を思い出した。

つまりイエスタデイの能力は、「メモリの毒素を相手に打ち込む事で発揮される能力」だと言う事。生身の人間にそんなものを打ち込んで、無事に済むわけが無かったのだ。

 

では、それとは逆に初めからメモリの毒素に侵されている人間に、イエスタデイの刻印を打ち込んだ場合ならどうなるだろうか?

それならば『BAKI』で柳の毒手拳に侵された後で、李海王の毒手拳を受けた刃牙の様に「毒がッッ裏返ったッッ!!」となるのではないだろうか?

 

そう考えた俺は「毒が裏返る」イメージで、イエスタデイの刻印を二回凰に打ち込んでみたが、メモリの毒素に侵された人間に打ち込んだ事は皆無。もっと言えば、イエスタデイの元の能力と同じく、24時間の制限があった可能性もある。

 

しかし、半ばネタで開発した能力とは言え「人を救うための力」である事に変わりは無い。それに24時間近く経っても駄目だったら『エターナルRX』に変身して、プリズムブレイクでイエスタデイの刻印を切り裂けばいい。

 

上手くいくと信じよう。

 

『……グ……』

 

「ん? もうループから抜け――」

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

突然、爆音の様な咆哮を上げる凰。衝撃波にも似たそれを受けて、俺とマドカはその場から吹き飛ばされた。

何事かと思い凰を見ると、体がボコボコと膨れ上がり、瞬く間に大きくなっていく。その様子は明らかに無限ループから抜けた訳でも、毒が裏返った訳でもない。

 

「何だ!? 失敗したのか!?」

 

『違う、イエスタデイはまだ効いている。単に中華娘が意識を失った事で、コアメダルの力が抑えられなくなっただけだ。つまり、コアメダルの暴走だ』

 

龍人の様な姿だった『甲龍』は、劇的に姿を変え巨大化した。今の『甲龍』の姿は正に、甲羅を背負った龍……と言うか、ぶっちゃけガメラだ。

 

『グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

そしてアンクの言う通り、あのガメラもどきに凰の意思は無い様に感じられる。完全に暴走し、ただ持て余したエネルギーを吐き出すだけの存在と言った感じだ。

 

「名づけるなら『巨大甲龍』って所か?」

 

『人間は誰でも、理性の箍が及ばない心の奥底に悪魔を飼っている。それは「快楽」と言う名の怪物であり、「欲望」と言う名の化物だ。あれは中華娘が心の中で飼っている「欲望」の姿なのかもな。さて、どうやって倒す?』

 

「対巨大戦なら『ガタキリバ』しかない」

 

『セルメダル1000枚をドブに捨てろってか?』

 

「だが、コアメダルの経験値も一気に稼げる」

 

アンクがガタキリバコンボの使用を渋るのは理由がある。

 

この世界で造られたガタキリバコンボは、使用するためにセルメダル1000枚を必要とする。これは固有能力である「ブレンチシェイド」と言う分身体を、最大数の50体造る為のコストではない。ガタキリバコンボを使用する為に、セルメダル1000枚が必要なのだ。

この余りにも高すぎるコスト故に、公式戦では確実に使えないし、実戦でも中々使用に踏み切れない。

 

メリットとしては、100%同じスペックの分身が出来る為、単純に50倍手数が増える事。これに「戦力は数の二乗に比例する」と言う『ランチェスターの法則』を当て嵌めると、分身精製による戦力の増強は2500倍にもなる。

そして、『NARUTO』の影分身修行法の理論で、分身にコアメダルを使わせれば、コアメダルの経験値を複数同時に稼ぐ事ができる。

 

デメリットは、分身一人一人が受けたダメージも本体に通じるため、本体が受ける肉体的・精神的ダメージが50倍になる事。

そして分身にコアメダル使わせる場合、本体のドライバーからメダルやメモリを取り出して分身に渡す為、分身が撃破されれば使っているメダルやメモリを紛失する危険性がある事。それこそ、「吹っ飛ばされてメダルを失くす」というやつだ。

 

ただし後者の場合は、分身が撃破されること無く、本体の意志で分身を解除すれば、メダルとメモリは本体のドライバーに自動的に還元される。

 

『……アレをやるなら、本体のお前はラトラーターに変えろ。コンボが使えるメダルが無くなるリスクは極力避けたいからな』

 

オーカテドラルにクワガタ、カマキリ、バッタの昆虫系コアメダル3枚が揃い、傾けた瞬間、コアメダルが緑色に発光する。

 

「マドカ。さっき言った通りに、お前は一夏の所に向かえ」

 

「アレを相手に一人で大丈夫なのか? 理性無く暴れまわっている分、さっきよりも付け入る隙は多そうだが、半端じゃないぞ?」

 

「大丈夫だ、策はある」

 

メモリもイエスタデイからサイクロンに変更。メダルとメモリが緑色に統一された状態で、メダルをスキャンする。

 

「超変身!」

 

『クワガタ! カマキリ! バッタ! ガータガタガタキリバッ、ガタキリバッ!』

 

ガタキリバコンボに変身した瞬間、『ブレンチシェイド』によって無数に分裂し、分身達が一斉に『巨大甲龍』へ突撃する。

しかし、こうして見ると小型レギオンの群れに襲われるガメラの様な絵面だ。体中に纏わりつくガタキリバの分身達を、『巨大甲龍』は体と激しく動かして振り払おうとしているが、分身達はしぶとく張り付き、何度振り落とされても直ぐに立ち向かっていく。そして『巨大甲龍』からセルメダルを少しずつ、そして確実に削り取っていくのだ。

 

「おい、お前等! さっさとコイツに変えろ!」

 

ドライバーから飛び出したアンクが、適当な分身達にコアメダルを次々と投げ渡す。しかし、原作『オーズ』の様なアンクと分身達のやりとりを見て、言いようの無い悲しみと悔しさを感じるのは気のせいか。

しかし、感傷に浸っている時間は無い。各メダルの組み合わせはアンクから知らされているので、俺も渡されたメダルを装填し終えた分身達の、それぞれに適したメモリを投げ渡す。

 

『クワガタ! カマキリ! バッタ! ガータガタガタキリバッ、ガタキリバッ!』

 

『シャチ! ゴリラ! タコ!』

 

『タカ! クジャク! ゾウ!』

 

『サイ! ウナギ! エビ!』

 

『サソリ! カニ! コンドル!』

 

『コブラ! カメ! ワニ! ブラカ~ワニッ!』

 

『ライオン! トラ! チーター! ラタラター! ラトラーター!』

 

6体の分身達と共に、本体の俺もラトラーターに超変身する。メモリはルナ。パッケージはトライドだ。

 

そして、新しく習得したブラカワニコンボ。これは、ガタキリバの負担を軽減する目的で習得したコンボで、ブラカワニの固有能力である回復能力と、ガタキリバの分身による体力共有を利用した、二つの意味での最強コンボだ。

現時点で劇場版『将軍と21のコアメダル』の様なオールコンボは不可能だが、それでもかなり強力な布陣の筈だ。

 

「おお……」

 

「早く行け!」

 

「わ、分かった!!」

 

『コッチも急げ! 肉体的なダメージと体力は、ブラカワニとサイクロンで何とかなるが、精神面のダメージは考慮してないからな!』

 

大丈夫。長引けば精神崩壊の危険性があるって事は分かっているし、最初から短時間で終わらせるつもりだ。

改めて『巨大甲龍』を見てみると、頭と尻尾そして手足を胴体に引っ込め、体を高速回転して纏わり着いている分身達を吹き飛ばし、そのまま空を飛んだ。まさか、逃げる気か!?

 

『いや、そうじゃない。アレは攻撃の為だ』

 

アンクの読み通り、空中で高速回転する『巨大甲龍』は地上の俺達に向かって、大量の鉄球の雨を降らせてきた。これはリクガメヤミーの攻撃手段だが、大きさも規模も桁違いだ。早くあのガメラもどきを地べたに叩き落さなければ、せっかく増やした分身達が全滅してしまう。

 

本体の俺は、トライドにより装着された背面のマルチユニットを展開する事で、メダル状のエネルギー弾を両肩から発射する砲撃態勢を取り、トリガーメモリが装填されたトリガーマグナムを召喚する。

 

「一斉発射だ!」

 

『TRIGGER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『GAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!』

 

本体の俺が放つトリガーフルバーストと、メダル状のエネルギー弾の一斉発射は、降り注ぐ鉄球を全て撃ち落し、空中で高速回転する『巨大甲龍』にも命中する。タダでさえ的がデカイので当てるのが楽だ。

 

『タカ! クジャク! ゾウ! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!』

 

『HEAT・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『スキャニング・チャージ!』

 

『ROCKET・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「「セイヤァアアアアアアアアアアアアッッ!!」」

 

一斉発射により多少なりとも回転が緩んだ『巨大甲龍』に、追撃のヒートのマキシマムで強化されたギガスキャンの火炎弾と、ロケットメモリで強化されたシャゴリタのゴリバゴーンが命中、空中で大爆発を起こす。

煙の中からフラフラになりながらも何とか飛行する『巨大甲龍』を見て、ブラカワニの分身体が必殺技の発動体制に入る。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

『FANG・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

ブラカワニの分身は『巨大甲龍』に向かって出現した、三つのオレンジ色のリングを潜り抜け、牙の記憶によって強化された巨大なワニを模したエネルギーが、巨大な亀の甲羅に噛みついた。

 

「オオオオオオオオオオオッッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

そんなワニの顎から逃れようと必死に動く巨大な亀を、ブラカワニの分身は錐揉み回転で無理矢理押さえ込み、地面に向けて投げ飛ばした。ブラカワニ版デスロールだ。

巨大な亀は地面に叩きつけられ、アリーナは地震に襲われたかの様に大きく揺れ、尋常ではない大量の土埃が舞い上がる。

 

『滅茶苦茶だな。どっちにしろ、クラス対抗戦までに修復は間に合わないだろうが』

 

「気にするな。ガンガン行くぞ!」

 

『ICEAGE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

逆さまになり、甲羅から首と手足を伸ばして起き上がろうとする『巨大甲龍』の首を、ウナギウィップで拘束しながら、アイスエイジのマキシマムドライブを発動。首が瞬く間に凍りつき、首を引っ込める事は出来ないだろう。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

『セルバースト!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

鋏状に連結したシザースカリバーから生まれる、巨大なカニの鋏を摸したエネルギー体で首を挟み、『巨大甲龍』の首を切断。切断された巨大な首は地面に落ちた瞬間、バラバラに氷結粉砕されたと思ったら、セルメダルの山に変化した。さしずめ、部位破壊に成功と言ったところか。

 

『首を切断したら普通は討伐完了だろ』

 

……確かに。だが、相手は首をもがれてもまだ動いている。『彼岸島』の邪鬼並のしぶとさだ。この怪物を完全に倒す方法はあるが、その前に『巨大甲龍』の中で丸まっている凰を取り出さなければならない。幸い、ガメラもどきの体内に侵入する為のルートは今出来た。

 

『KEY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ラララララララララララララララララララララララララァッッ!!」

 

キーメモリのマキシマムドライブを発動し、首の切断面から『巨大甲龍』の体内に侵入する。予想通り『巨大甲龍』の中は、大量のセルメダルが擦れる轟音とも取れる金属音に満ちており、視界もセルメダルだらけで最悪だ。

 

しかし、キーメモリは「解除能力と目標の対象物を探し当てる能力」を持っている。その能力によって、ある意味で『ガメラ3』のイリス以上に最悪な、ガメラもどきの体内でも視覚や聴覚に頼る事無く、凰の居場所を正確に把握することができる。

最短距離をトラクローでひたすらにセルメダルを掻き分けて進むと、ようやく凰の姿を捉えた。意識が無いところを見ると、まだ無限ループから抜け出せないみたいだが、ここで死んでもらっては困る。

 

「オオオオオオオオオッッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

今度は凰を左腕に抱えて、右腕一本でガメラもどきの体内をひたすらに掘り進む。そして、尻尾の部分を吹き飛ばしつつ、『巨大甲龍』の体内から脱出した。……俺自身の名誉の為に言っておくが、決して消化器官の出口から脱出した訳ではない。

 

「さあ、後は頼むぞ」

 

『『『『『『『『『『スキャニング・チャージ!』』』』』』』』』』

 

『『『『『『『『『『CYCLONE・MAXIMUM-DRIVE!』』』』』』』』』』

 

『『『『『『『『『『セルバースト!』』』』』』』』』』

 

「「「「「「「「「「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」」」」」」」」」

 

俺と凰が脱出すると、残ったガタキリバの分身全員が、『巨大甲龍』を取り囲む様に全方位から、緑色の風を纏った「ガタキリバキック」を次々と叩き込む。

集中攻撃を受けた『巨大甲龍』は大爆発を起こし、大量のセルメダルの雨がアリーナに降り注ぐ。『巨大甲龍』撃破と同時に分身達は消滅し、『オーズ』は俺一人となった。

 

「……どうだ? 俺……、ちゃんと一人に戻ってるか?」

 

『ああ。それよりもメモリが飛んできてるぞ』

 

「おお!」

 

巨大な敵を撃破して安堵しながらも、頭痛に苦しむ俺に飛んできたのは、T2メモリと同じ仕様のバイオレンスメモリ。綺麗なメモリだが、本当にメモリブレイク出来ないとは厄介極まりない。

そんなバイオレンスメモリを観察している中、機械的な鳴き声が聞こえた方を見ると、ライブモードのエクストリームメモリが、『巨大甲龍』の爆発で飛び散ったコアメダルを次々に取り込んで回収していた。目に付くコアメダルの枚数をぱっと見る限り、既に10枚以上が回収されている。

 

「オラァ!!」

 

ドライバーから飛び出したアンクがエクストリームメモリを攻撃し、コアメダルの回収を妨害。そのままコアメダルを3枚奪い取った。コアメダルの意匠から察するに、回収したコアメダルは、カブト、イトマキエイ、シャムネコだ。

 

「ふっ、コイツは儲けたなぁ……」

 

右腕だけの状態で顔は無いが、「包帯女を出し抜いてやった」と言わんばかりの不敵な物言いと抜け目の無さが、実にアンクらしい。一方のエクストリームメモリは、アンクに奪取されたコアメダルに執着する事無く、そのまま帰った。

 

「どうする……撃墜するか?」

 

「撃墜した所で、コアメダルはもう包帯女の所に転送されてる。それに包帯女なら幾らでも造れる」

 

「そうか……」

 

回収されたコアメダルは12枚。その内、このコアメダルも狙ってくるかも知れない。

 

しかし頭が猛烈に痛い。とりあえず『巨大甲龍』を撃破したことを、マドカと織斑先生にプライベート・チャンネルで伝え、凰を医務室に運ぶのだった。

 

 

○○○

 

 

一方の連れ去られた一夏は、京水と徒手空拳による死闘を演じていた。

 

京水は一夏を抱えたままでIS学園の脱出を試みたのだが、一夏は必死の抵抗によって京水の拘束から逃れ、第六アリーナに墜落した。そこから第三アリーナに戻ろうとするが、京水の一夏に対する執念は凄まじいもので、一夏をなんとしてでも連れ去ろうと必死だ。

 

余りにもしつこいので、一夏は仕方なく京水を撃破してから第三アリーナに向かおうとするが、唯一の武器である『雪片弐型』を落している所為で、一夏は京水に格闘戦を挑まざるを得ない。

 

「がっ! こんのぉ、うおぉっ!」

 

「天まで届けッ! やった! 当たったぁ!!」

 

しかしそれ以上に問題なのは、第三アリーナから聞こえる轟音によって、早く倒して行かなければと、一夏が焦りを覚えている事。

唯一の救いは、徒手空拳の一夏に対して京水も徒手空拳で対応しており、ミサイルやレーザーと言った飛び道具を使わない事だが、ありえないほど伸びる両腕に一夏は翻弄されっぱなしで、遂には伸縮自在でムキムキの巨腕に捕らえられた。

 

「うわっ! ちょっ! 放せっ!」

 

「照れなくても良いのよッ! わたしがッ! 抱き締めてあげるッッ!!」

 

京水の広い胸にジリジリと引き寄せられる……いや、引き摺られる一夏。万事休すかと思われた刹那、一筋の青い閃光が京水の腕を細切れにした。

 

「アーーーーッ! 切れちゃった!」

 

「おおっ!! な、なんだ!?」

 

「全く、なんで私がこんな事を……」

 

一夏を助けた青い閃光の正体はマドカ。専用武器「ナスカブレード」手にしたその姿に、一夏は誘拐事件の時に自分を助けに来た千冬を幻視した。

 

「……あ~、悪い、助かった」

 

「勘違いするな、助けに来たわけじゃない。私はコレを届けに来ただけだ」

 

そう言うマドカの手には第三アリーナで落した『雪片弐型』。一夏は放り投げられた『雪片弐型』を受け取ると、両手でしっかりと握り、改めて京水に向かって戦意を滾らせる。

 

「何だって良い。礼を言うぜ!」

 

「このお邪魔虫! よくも私と一夏ちゃんのムラムラ……もとい、ふわふわタイムを邪魔したわねッ! シメてあげるわッッ!! ブッ飛びぃぃぃいいいいいいいッッ!!」

 

京水は一夏との時間を邪魔された怒りをそのままぶつける様に、これでもかと言わんばかりの数のミサイルをマドカに向かって乱射する。

 

「危ねぇ!!」

 

「問題ない」

 

『NASCA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

マドカはナスカメモリをメモリスロットから、右腰のマキシマムスロットへ装填。タップしてナスカメモリの最大出力を発揮させる。

 

「はぁああああああああああッ!! せいやぁあああああああああああッッ!!」

 

ミサイルの弾幕をマキシマムドライブで得られる超高速で全て回避し、ナスカブレードで京水を一閃すると京水が爆発。爆発の中から飛び出した、強化アダプター付きのコマンダーメモリも見逃す事無くキャッチする。この時点でIS学園に点在する京水が放った分身体は、全て同時に消滅した。

 

「ふっ、コイツは貰った」

 

「アァァアアアッッ!! メモリが抜けて力が出ないぃぃぃっっ!!」

 

「!? 何だコイツ!? 人間か!?」

 

コマンダーメモリが体外に排出された事で、元のルナ・ドーパントに酷似した姿に戻った京水。大きくパワーダウンし、残っているエネルギーも枯渇寸前。更には全身が焼け焦げ、中身の機械部分がショートしているのが見えている。

 

一方の一夏は、マドカが全身装甲のISを撃破した事によって、中からオカマのパイロットが出てくる事を予想していたが、中から出てきたのは明らかに人間では無い何か。これは正直予想外の展開だった。

 

「アンクの言う通り、人間ではなかったようだな」

 

「人間じゃない!? どう言う事だよ!?」

 

「つまり手加減無用と言う事だ」

 

「やったわね! でもどうして!? 貴方は一夏ちゃんが嫌いな筈!!」

 

「ふん、確かに私はそいつが嫌いだ。だがな……」

 

マドカは右手の人差し指で天を指し、堂々と京水に言い放った。

 

「ゴクローが言っていた。『ライダーは助け合い』だとな」

 

「仰る通りだわぁあああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

京水が一夏への最後の攻撃として選んだのは、全速力の突進攻撃。第三アリーナの遮断シールドを破る力を持った攻撃だ。しかし、如何に速く、如何に攻撃力が高かろうと、直線的な攻撃はカウンターの餌食。セシリア戦でそれを自分の体で学んだ一夏にとって、今の京水はカモでしかない。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「アーーーーーーッッ!! い、いっ……一夏ちゃんッッ!!」

 

『零落白夜』を発動した『雪片弐型』の一閃は、京水の体を左肩から右腰に掛けて斜めに切り裂き、真っ二つになった京水は爆発した。

 

「ふう。よし、それじゃ、早く鈴を止めないと……」

 

「問題ない。先程終わったと連絡が来た」

 

「そ、そうか。何にしてもこれで終わり――」

 

その時、京水を撃破して完全に油断していた一夏の首に、シュルリと黄色い触手が巻きついた。

 

「行かないで一夏ちゃんッ! 今夜の約束はッ!?」

 

京水だった。実は爆発したのは切断された下半身だけで、上半身は爆発していなかったのだ。そんな京水の体は赤く発熱している。

 

その様を見て、京水の自爆を悟ったマドカだが、体に激痛が走り思うように体が動かない。元々、ナスカメモリは「ナスカ文明の記憶」を宿した強大な力を秘めたガイアメモリで、ドライバーを使っていても、使用するだけで相当な負担が掛かる恐るべきメモリだ。

 

更にマキシマムドライブによって発動する「超高速」の使用は、体の成長が不十分なマドカの肉体へ予想以上の負荷を与えていた。この状態での「超高速」の使用は不可能。普通に近づいても間に合わない。

 

「ッッ!! ぐっ! ちぃっ! 後は自分で何とかしろ!」

 

マドカはナスカブレードを投げつけ、一夏に絡みついた触手を切断する。自由になった一夏は急いで京水から離れようとするが……。

 

「さあ、一夏ちゃんッッ!! 一つになりましょぉおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

それでも一夏が京水から充分な距離を取る時間を稼ぐ事は出来ず、京水の自爆に一夏は巻き込まれてしまった。

 




キャラクタァ~紹介&解説

巨大甲龍
 コアメダルとセルメダル、そしてガイアメモリを取り込んだ『甲龍』の暴走形態。見た目は完全にガメラ。ただしやっている事はイリスと同じ。
 元々ガタキリバの対戦相手として、巨大な敵を出す事は決定していた。メズールと同じゆかなボイスのセシリアではなく鈴を選んだのは、単純に専用機の『甲龍』と言う名前が、作者にガメラを連想させたから。

青騎士(ナスカ・バージョン)
 見た目的にはナスカ・ドーパントのIS版。白騎士の様に口元だけが露出しているのは束の趣味。マキシマムドライブで『W』におけるレベル2の超高速を発動。この世界では、原作のレベル3相当の姿と能力は、レベル2で習得。つまり、いずれは赤くなる……かも。

ガタキリバコンボ
 昆虫系コアメダルの統一コンボ。登場回数が極端に少なく、作者はこのコンボで特撮におけるCG予算と言うモノを知った。この世界でも、金食い虫の名に恥じない致命的なレベルの燃費の悪さを発揮。ただし使えば確かに強い。作者は劇場版のオールコンボを見て、「ぶっちゃけ、コレが最強コンボでも良くね?」と思った。

ブラカワニコンボ
 劇場版『将軍と21のコアメダル』に登場する限定コンボ。鴻上会長の台詞から察するに、二つ名は「失われたコンボ」か、「伝説のコンボ」だろうか。800年前の王は使わなかったが、もしもメダルがあったのならどんな風に使っていたのやら……。

N ナスカメモリ
 ナスカの文明の記憶を持つガイアメモリ。『W』において、我等が尻彦さん専用と思いきや、彼の死後に彼の嫁が井坂先生の名前を呼びながら直挿しで使った。尻彦よりも嫁の方が使いこなせていのは尻彦おかげ。しかし、報われない……。
 マドカの専用機『青騎士』に組み込まれているのは、5963の持っているナスカメモリの複製品。ドライバーで毒素はカットされているが、体への負担は変わらなかった。しかし、これをブラカワニコンボと併用すれば……。

X エクストリームメモリ
 極限の記憶を持つガイアメモリ。他のガイアメモリの力を極限まで高める。今回はギジメモリの力を高める目的で使用。5963が所有するT2メモリ以外にも、シュラウドが所有する鳥型の個体が存在する。しかし、このメモリのT2ドーパントって、一体どんな奴なのか。ちょっと想像がつかない。


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第21話 EGO ~eyes glazing over

読者の皆さん、お久し振りです。

感想は作品を読んでくれてるからこそ……と思っていた作者ですが、作者は思いの他メンタル弱めでした。ネタは思いつくけど文章が思いつかない……そんなどっかの眼魔の様な状況を打開するべく、しばらくパソコンに手をつけなかったり、二次を書いている友人と話して見たり、DVDを借りて映画を見たりしてました。まあ、4月になって状況が大きく変わった事もありますが……。

とにかく、ようやく書き上げましたので投稿します。今回も三話連続投稿です。合計で45000字を超えた……。

それと、お気に入り登録が900件を突破しました。ご愛読ありがとうございます。

……ゴールデンウィーク? 仕事とブッ○オフ……。


あれから意識不明の凰を医務室に運んだものの、猛烈な頭痛と吐き気が嘗てない激しさで自己主張していた。

 

ガタキリバコンボの副作用だと思うが、『NEVER』の拠点に辿りついた所で遂に耐えられなくなり、トイレに駆け込んで盛大に吐いた。腹の中身が無くなるまで吐き出したら大分楽になったが、トイレから出た瞬間、真剣な顔をした束とクロエの二人に拘束された。体力を消耗していた俺は抵抗する間も無く、二人にあれよあれよと処置を施され、今は点滴を打たれた状態で寝かされた。その後束は『DXオーズドライバーSDX』と、今回の戦闘で回収したバイオレンスメモリと3枚のコアメダルを取り上げると研究室に引きこもり、クロエは俺の傍で待機している。

 

ブラカワニコンボの超再生能力と、ガタキリバコンボの分身の体力共有。これにサイクロンメモリのスタミナ回復を利用する事で、ガタキリバコンボの副作用を精神面のダメージのみに抑えると言う目論みは成功した。しかし極度の疲労によって気絶し、意識を飛ばす事が出来ないのが逆にキツイ。

 

「随分と辛そうだな? まあ、アレは通常の50倍の負荷が掛かるコンボだしなぁ」

 

「アンク様、今まで何を?」

 

「メダル集めだ。大漁だったぞ」

 

その後も続くクロエとアンクの会話によると、アンクは撃破した『巨大甲龍』の肉体を構成し、爆発でばら撒かれた大量のセルメダルを、全てのカンドロイドを出動させて一枚残らず回収していたらしい。アンクが大漁と言う位だから、セルメダル1000枚の消費を勘定に入れても充分な稼ぎになったと言う事だろう。

 

それから少ししたら、ナスカメモリの力を使った事による肉体的な負担と疲労からか、体調が悪そうなマドカがやって来た。

 

「……わたしも結構体がキツイのだが……お前はそれ以上に物凄く気持ち悪そうだな。顔色が真っ青だぞ」

 

「……正直余り喋りたくない」

 

「そうか……しかし、報告はさせて貰う」

 

「ああ、報告しろ。そこで寝ながらでも構わん」

 

アンクにそう言われたマドカは、部屋の隅にあるソファに横たわると、第六アリーナでの戦闘について話し始めた。あの京水(仮)は最後に一夏を巻き込んで自爆し、核であるISコアは粉々に砕け散った。その時ISコアから飛び出してきたガイアメモリを、黄色と黒のツートーンカラーの機械鳥が取り込んだのを見て、通常形態に戻した『青騎士』の偏光制御射撃で撃ち落したのだが、回収されたメモリは何処にも無かった……と話した。

 

それから間もなく救援に駆けつけた教師陣に、京水(仮)の自爆で気絶した一夏を渡し、今回の戦闘で回収したコマンダーメモリと、銀色のアダプターの様なパーツ。そして機械鳥ことエクストリームメモリの残骸を、『青騎士』と一緒に束に渡したと言う。

 

「『ガイアメモリ強化アダプター』か」

 

「強化アダプター? どんなモノなんだ?」

 

「ガイアメモリの能力を3倍まで強化する事が出来るブースターパーツだ。『ミレニアム』でも開発はしていたが、包帯女は独自にそれを完成させたらしいな」

 

「……マドカ。飛び出したメモリのイニシャルは『K』か? それと、エクストリームメモリの翼に傷はついていたか?」

 

「イニシャル? ……そう言われてみれば、確かに『K』だったな。あと、翼に傷は付いていなかったはずだ」

 

京水(仮)から出たと言うメモリの正体は、マドカの言う通りイニシャルが『K』ならば、封印された『京水メモリ』の可能性が高い。また、コアメダルを回収したエクストリームメモリは、アンクの攻撃で翼に傷があった筈なので、別個体の可能性が高い。

しかし、わざわざエクストリームメモリで回収したと言う事は、シュラウドにとって京水(決定)がそれだけ重要な存在だと言う事になるのか?

 

「回収したメモリとメダルはどうする? 戦力強化に使うのか?」

 

「駄目だ。メダルにもメモリにも発信機が組み込まれている。使えばコッチの情報は全て包帯女に筒抜けだ」

 

「そうか、それは不味いな」

 

「今の所、メダルとメモリから送信されている情報を受信している場所を、ウサギ女に割り出してもらっている。メダルを回収したエクストリームメモリはガジェットとカンドロイドに追跡させてみたが、全部破壊されちまった」

 

なるほど。あの時アンクがエクストリームメモリへの攻撃を止める様に言ったのは、アジトを突き止める目的もあったからか。

 

「話を聞く限り、シュラウドがそんなヘマするとは思えん。既にもぬけの殻なんじゃないのか?」

 

「確かにそうだが、メモリもメダルも造るにはそれなりの規模の施設が必要になる。そう簡単には廃棄出来ない筈だ。いずれにせよ、テロは守る側が圧倒的に不利。違うか?」

 

「罠の可能性を踏まえても、攻められる時は攻めるべき……か」

 

俺もアンクもマドカもテロ組織に身を置いた過去があり、テロは起こす側の方が守る側よりも圧倒的に有利だと言う事は身を持って知っている。そしてテロを起こす側を倒す方法としては、相手のアジトを把握して直接乗り込み、制圧してしまうのが一番手っ取り早い。

 

「まあ、確かに無駄足かも知れんが、場所が特定されるまでにコイツを戦えるレベルまで回復させて、『ゾーン』のマキシマムで情報の受信場所に向かうつもりだ」

 

「兄様、少しは良くなりましたか?」

 

「……少し」

 

「おい、顔が土気色になってきたぞ。本当に大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

正直、全然大丈夫じゃない。しかし薬が効いてきたお蔭か頭痛が徐々に治まり、おかげで少しは眠れた。薬物と有機ナノマシンで体が改造されている所為か、短時間の睡眠でも体調はかなり楽になった。ただしアンクにベシベシと叩き起こされた所為で、気分と機嫌は最悪だ。

 

束が突き止めてくれた情報の受信場所の座標を確認し、『オーズ』に変身して『ゾーン』のマキシマムで瞬間移動。着いた先は小さな無人島で、島の一角が崩れて煙が上がっていた。どこか壊滅した『ミレニアム』のアジトを髣髴とさせる光景だ。瓦礫をどかして調べてみると、島の地下に施設を造っていた様だ。

内部にメダルやメモリの製造機らしきものは見つからなかったが、その他の開発物と思われる破片が幾つか散らばっていた。アンクが言うには、これらはメモリを強化する外骨格や強化アダプターの様な、ガイアメモリのアップグレードに関連する物らしい。

 

『どうやらここはメモリの製造よりも、メモリの強化を目的に造られた施設らしいな。メダル関連の施設は多分別にある。何か手がかりがあれば良いんだが……』

 

「やけにメダルの事を気にしているが、何か思う所があるのが?」

 

『ある。コアメダルは人間の欲望に強く反応する。欲望は誰でも大なり小なり持っているもので、中華娘に使わせたコアメダルはドライバーを使わなかった事を考慮しても、短時間でそれなりに成長していた。

包帯女の狙いはそんな成長したコアメダルを手に入れ、その成長したコアメダルを使って何かするつもりだと、俺は考える。具体的には新型のドライバーの開発だ。「ポセイドンドライバー」や「銀河王ドライバー」なんかのな』

 

「ゾッとするな」

 

しかもこの世界で造られるドライバーなら、この『DXオーズドライバーSDX』と同じ、ガイアメモリとコアメダルのハイブリットだろう。名付けるなら『DXポセイドンドライバーSDX』か。完成すれば『MOVIE大戦MEGAMAX』の『仮面ライダーポセイドン』を遥かに上回る強敵となるだろうな……。

 

結局、シュラウドの手がかりになりそうなものは何一つ無く、散らばっているパーツの破片を綺麗に回収してから、IS学園に帰還した。

 

 

●●●

 

 

シュラウドのアジト探索から帰り、少し休んでいた俺の元に織斑先生がやってきた。夜の10時になったら、今回の事件について国際IS委員会と各国へ報告するので、一緒に来て説明して欲しいとの事。

 

「今回の事件の帰結としては、中国は中華娘一人に押し付けてトカゲの尻尾切りにするつもりだ。IS委員会の方は適当な理由をつけて、今回の戦闘で回収したメモリやメダルを寄越せと言うだろう。だが、そうはいくか。連中の思い通りにはさせん」

 

「? どう言う風の吹き回しだ? お前、凰に助ける価値なんて無いとか言ってたよな?」

 

「勘違いするな。中国の一部勢力が中華娘を唆して、俺達を排除する為に中華娘をぶつけてきたのを忘れたか? 俺はそんな連中に対して制裁を加えたいだけだ。

もっと言えば、中華娘に対するお前の行動は、IS学園に紛れ込んだ『密偵【イヌ】』を通して中国やその他の国にも、IS委員会にも伝わっている。お前、中華娘の暴言やら暴力に対して、特に反撃しなかったろ?」

 

「ああ」

 

「その所為でお前はかなり舐められてるぞ。『それらしい理由を強気で言えば、自分達の言う事に従うんじゃないか?』って思われる位にな」

 

「実際に今回の戦闘で、第三アリーナなんて廃墟も同然なんだが?」

 

「お前は馬鹿か? 俺達は“包帯女からウサギ女と織斑千冬の命を守る為にココに居る”んだ。二人とも無事な上に、一般生徒の死傷者は一切出ていない。

そもそも“テロリストが襲撃に来る事”を前提に、その時の対抗手段として俺達をIS学園に置いているんだ。IS学園に何かしらの被害が出る事は承知の上だった筈だ」

 

「そうか?」

 

「そうだ。むしろ、俺達が居なけりゃ中華娘が猛威を振るっていた事は間違いないし、あのオカマを止める事も出来なかっただろう。最悪、中華娘以外にもメモリやメダルを使った敵が複数現れていた可能性もあるし、保管庫のISや武装も奪われていたに違いない。そう考えれば、俺達は被害を最小限に抑えたと言える。むしろ金を貰いたい位だ」

 

アンクの言葉には「俺達に非は何一つ無い」と言う自信に満ち溢れている。一方の俺は「お前が戦った所為で被害が拡大した」とか言われたら、正直へこまない自信が無い。

 

「兎に角、今回の事件の“間違った者”と“正した者”の線引きに、中華娘だけじゃなく中華娘を唆した連中も確実に巻き込む。中華娘を唆した時の通信記録や会話内容も保存してあるから問題ない」

 

「それなら全員巻き込めないのか? メモリ欲しさに凰を、自国民を見殺しにしようとする様な連中だぞ?」

 

「それをやると一時的に手を組むかも知れん。『呉越同舟』ってヤツだ。俺達は中華娘を唆した連中だけ攻撃すれば良い。『お前等は中華娘を唆して俺達を追い出そうとしていたが、追い出していたら中華娘が織斑千冬を殺していたかも知れんぞ?』ってな。ほら、これを見ろ」

 

『……そう。それじゃあ、あんたの目の前で千冬さんをボコボコにして証明してあげる。よぉうく、見ててね。アハッ! アハハハハハハハッッ!!』

 

「……これは?」

 

「『甲龍』のISコアの中から抜き出した記録だ。とどのつまり中華娘は織斑千冬を殺す為に、包帯女がメモリとメダルを使って仕立て上げた刺客だ」

 

「俺にはぶち込まれたコアメダルの力で欲望が暴走している様に見えるんだが?」

 

「どっちでもいい。いっそのこと、『中国の一部勢力が包帯女と結託して、中華娘を利用して俺達を排除し、織斑千冬を殺そうとしていたんじゃないか?』なんて、言いがかりをつけてもいい」

 

……鷹は執念深い生き物だと聞いた事はあるが、アンクは相当キレてる。なんとしてでも凰を使って喧嘩を吹っ掛けてきた連中を叩き潰さないと気が済まないらしい。

 

「まあ……こんな事をしなくても、今回の事件で中国が国家規模の力で叩かれる事になるだろうが……」

 

「? どう言う事だ?」

 

「中華娘が王と戦った時に、中華娘がガイアメモリを使っていた事は、国際IS委員会も中国以外の国も薄々気が付いていた。IS大戦で蜘蛛女と『エターナル』の戦いを見ているんだから、それは気付いても不思議な事じゃない」

 

「そうだな」

 

「だが中国は『NEVER』以外からその事を一切突っつかれなかった。そして、中国はメモリの事をIS委員会にも報告しなかった。しかし、中国が他国もIS委員会も出し抜こうとしていたのはバレバレだった」

 

「……つまり、中国を面白いと思わない国が大勢いる?」

 

「そうだ。IS委員会も他国も今回の事件を利用して、『代表候補生に対する教育の不行き届き』とか、『専用機を与える人材の選考に問題が有るのではないか』とか、適当な理由をつけてIS大国の一角を叩くつもりだ。

もっとも、代表候補生への教育に関しては何処の国も同じ様なもんだから、『自分達の事を棚に上げて何を言ってるんだ?』って感じだがな」

 

確かに中国政府は凰がメモリを手にする以前から、凰の手綱をしっかりと握れていたとは言い難い状態だった。凰を担当していた楊候補生管理官も「自分に従順なら問題ない」と言わんばかりに、平気で生身の人間にISを展開する凰に対して、注意も指導も全くしていなかったらしい。相手が男だと言う理由だけで、凰の兵器を使う者にあるまじき行為を黙殺していたのだ。

 

そしてアンクの言う通り、これは中国に限った問題では無い。

 

ISコアは(表向きには)束以外には造れない為、束が新規で造らない限りISの絶対数を増やす事は出来ない。ISを自国で量産出来ない以上、他国からアドバンテージを取るには、ISの性能か操縦者の力を高めるしかない。

故に世界各国のIS開発とは、究極的には『一騎当千の力を持った超人兵』を造りだす事が目的であると言えるだろう。各国ではそれを目指して新技術や新兵器が生まれ、実験的に新技術や新兵器が搭載されたISを使うパイロットは、基本的に代表候補生の中から選ばれる。

しかしそのパイロットの選考基準は、どの国も新技術や新兵器に対する適正、或いはISの操縦技術の高さと言った“パイロットの能力”を最優先し、“パイロットの精神性”に関しては、ほぼ完全に度外視している。

 

その結果、まともに手綱を握る事もままならならず、望むままにエサを与えておだてる以外に言う事を聞かせる方法が無い。そして、いざ暴走された時にはほとんど手がつけられない。そんな専用機持ちの代表候補生が量産される、言うなれば温床と言える環境が、中国だけでなく世界中に出来ている。

 

「それと今回回収したガイアメモリ2本とコアメダル3枚だが、IS委員会に高値で売りつけるぞ。強化アダプターは渡さんがな」

 

「発信機付きのメモリとメダルが売れるのか? それに、誰にも売らずに手元においておいた方が安全なんじゃないか?」

 

「売れる。そもそも売った所でISコアも自力で造れない科学力しか持っていない連中に、ガイアメモリもコアメダルも造る事は不可能だ。破壊も出来ないから、分解して調べる事も出来ない」

 

「それでも使う事は出来るだろ?」

 

「ああ。だが連中の目的は『自国の代表候補生や代表操縦者に、メモリやメダルを使わせて戦力を強化する事』じゃあない。メモリやメダルを所有する事によって、あるチャンスが舞い込んでくる事を狙っている筈だ」

 

「何のチャンスだ? メダルやメモリで出来た怪獣を造って『怪獣総進撃』を実現させるチャンスか?」

 

「違う。包帯女がメダルやメモリを取り返しに来る事だ。今回の襲撃で、刺客としてメモリを搭載した無人機ISを送り込み、メダルを使って操縦者の欲望を半ば暴走させると言った、包帯女のやり方が分かっただろう?」

 

「そうだな」

 

「それは見方を変えればメダルにメモリ、そしてISコアや無人機の技術が手に入るチャンスでもある。特に各国が実際に保有しているISコアの数は、『ミレニアム』と取引した所為で公表している保有数よりもずっと少ない。つまり消費したISコアの不足分を秘密裏に補う事が出来る」

 

……なるほど、ISコアを生産できない連中からすれば、ある所から引っ張った方が手っ取り早いか。

 

「更に“メモリを使う無人機IS”の存在を知れば、メモリやメダルを人間に使わせないように考える奴も出てくるだろう。無人機ならメモリの毒素の影響を受けないから、人間と違って『直挿し』でも問題なく使用出来る上に、暴走するリスクも無い。それに機械は人間を裏切らない」

 

「……それって将来的に機械の反乱が起こるんじゃないか?」

 

「確か『ターミネーター』だったか? そうなるまでにはまだまだ時間が掛かるだろうが……ISの無人機化は将来実現するだろうし、それが軍事に利用されればISの“女にしか使えない”と言う根幹が覆される。パイロットが女どころか、人間を乗せる必要が無いからな。

逆に言えばメモリやメダルでISを強化すると言う事は、今の女尊男卑社会をより確固なモノにする要因となりかねない」

 

以前、束が言っていたように、ISは基本的に“人が使う事”を前提としたモノなので、無人機ISは有人機に比べてスペックが劣るのだが、それでも世界各国でISの無人化が研究されている。

各国では「絶対防御が絶対ではない」とか、「か弱い女を戦場に向かわせない為」とか、それらしい理由を挙げているが、「ISが女にしか使えない兵器であると言う、今の女尊男卑の社会の根幹を崩す」と言う事も、無人機の研究を進めている理由の一つだ……と、少佐から聞いた覚えがある。

 

「束の無人機の技術が発表されれば、今の女尊男卑の社会は変わると思うか?」

 

「そうだな……とりあえず無人機ISを使う男と、有人機を使う女の戦争になるんじゃないか? そうでなくとも今回の事件をきっかけに、世界各国で無人機派と有人機派が明確な形で生まれるだろうな」

 

……この世界の情勢なら充分に有り得そうな展開だな。束は「ほっといても10年もすれば無人機は出来る」って言っていた事を考えれば、この世界でIS大戦以上の大戦争が起こるのは時間の問題なのかも知れん。

 

「しかし、俺達以外でシュラウドの刺客に勝てる奴がそんなに居るのか?」

 

「可能性がある奴は何人か居る。アリーシャ・ジョセスターフの他に、ISを『第二形態移行【セカンド・シフト】』させた奴とかな」

 

つまりアンクから見て、シュラウドの刺客に勝てる奴は殆ど居ないと。かく言う俺も「用意した罠が相手を仕留めるには不十分で、食い破られた挙句餌だけ掠め盗られる」と言うのが、その皮算用のオチではないだろうかと思う。

 

「それに、このままだといずれどんな手を使ってでもメダルやメモリを奪取しようって奴等がIS学園にやって来る。俺達がココに……いや、世に出る前から、このIS学園は世界中の国々から狙われていて、常にセキュリティの隙が出来るのを虎視眈々と狙っている連中が潜伏している事は知っているな?」

 

「ああ。アメリカの『名も無き兵たち【アンネイムド】』とかな。ちょっと前まで『ミレニアム』も監視していたろ」

 

「そうだな。ちなみにその数は去年の今頃と比べて5倍近くに膨れ上がっている」

 

何せここは世界中から専用機持ちが集まる場所だ。そして専用機となったISは、文字通り“操縦者専用の機体”なので、操縦者が一番力を引き出すことが出来る。だからデータの回収も含め、「専用機持ちのISは操縦者ごと奪う」のが常なのだとか。

 

「明らかに俺達と一夏の所為だろうな」

 

「ああ。最悪の場合、俺達の身内を複数人掻っ攫って人質に取り、見せしめに一人を殺すか犯すかなんて事も奴等は平気でやる。俺達が元テロリストで、自分達は国家の正義を背負っているからな。酷い事になるぞ」

 

「俺達の報復がな」

 

「ああ、第三次世界大戦の幕が上がる」

 

「そうなる前に幾つかのメダルやメモリをIS学園の外に出した方が、俺達もIS学園も安全だと?」

 

「安全と言うより、リスクを分散できると言った方が良い。メダルやメモリがここ以外にも有るとなれば、俺達を狙うよりもそちらを狙った方が、メダルやメモリの奪取率は高いと思う所も必ず出てくる」

 

「メジャーな釣り場よりも、マイナーな所の方が釣れるって感じだな。……ちょっと待て、もしかしてお前、この為にコアメダルを奪取したのか?」

 

「さてな。しかし、IS学園の外に出すにしても、さっきも言った様に連中はお前を舐めている。もっともらしい事を言って、メモリもメダルも出来るだけ安く、あわよくばタダで手に入れようとするだろう。

それでも、今までの事から“気前良く金を払えば言う事を聞く”と思われているフシが有るし、金を吹っ掛けても“取れる所で取りに来た”としか思われんだろう。そこでどうやって高値で売るかだが……」

 

「『名も無き兵たち【アンネイムド】』を筆頭とした、IS学園を狙って潜伏している連中の情報を全部暴露するのはどうだ? 連中もシュラウドと同じ様な……いや、それ以上に性質の悪い事を考えているんだろ?」

 

何せ復讐ではなく自国の利益の為に、ひいては自分達が美味い汁をチューチュー吸う為に、俺達がココに来る前から、IS学園を襲撃しようと常日頃から企んでいるのだ。

 

実際のところIS委員会も各国の上層部も、「勝利者こそ正義」と「殺してでも奪い取る」を地で行くタイプの人間の集まりであり、束と『オーズ』を手に入れる為に世界中からIS操縦者を掻き集め、俺達を完全に攻め滅ぼす満々だった連中だ。

その上、表向きでは各国で協力体制をとっているが、裏では互いに出し抜こうと暗闘を繰り広げているのだから余計に始末に終えない。

 

そうでなくとも、機械の体による『永遠の命』と、ISをも打ち倒す『全てを凌駕する力』を欲しがり、その為に祖国を裏切って、少佐の口車に自ら望んで乗り込み、『ミレニアム』を強力に手助けした人間がうようよしている。用心を怠るべきではない。

 

自分の欲望を満たす為なら、ISが何機ぶっ壊れようが、自分達の優秀な部下が何人死のうが、そんな事はお構いなしの悪党。

 

利益と恐怖以外では梃子でも動かない、度し難く救えない馬鹿共。

 

それが裏側の世界から見た、この世界を回している人間達の正体だ。

 

「……そうだな、その方が良い。『IS学園を狙う包帯女を探す過程で見つけた』とか言って、一人残らず全ての情報を洗い出し、『IS学園を狙う不貞の輩』として、誰が見ても分かりやすい報告をしてやろう。そいつ等もIS学園の平和を乱す悪党と言えるからな」

 

「……ちょっと待て、『その方が良い』って言ったが、お前は何を考えてたんだ?」

 

「脅しだ。一例を上げるなら、愛人の子供を夫の子供だと騙し、何食わぬ顔で夫に愛人の子供を育てさせるカッコウみたいな女幹部の所業なんかを押さえてある。『万物の霊長』なんて言うが、人間も動物もそう大して変わらんな」

 

「カッコウって……」

 

鳥のお前がそう言うと……まあ、仰る通りの所業だが。

 

しかし、シュラウドにせよ各国上層部にせよ、傍から見れば両者に一体何の違いがあるのだろう? 彼等はシュラウドの行動を悪と見なす一方で、自分達の行動は正義だと主張するだろう。ある意味、復讐心で動くシュラウドよりも悪質であると思うのは俺だけだろうか?

 

「……一体何時になったら、世界は平和になるんだろうな?」

 

「ハッ。お前は分かっていた筈だぞ? 世界は平和に出来るようなものじゃないし、世界から血生臭い争いが無くなる事は絶対に無い。『世界の平和を守る』とか、『地球の未来を救う』とか、そんな事は絶対に出来ないとお前は理解している。そうだろう?」

 

「………」

 

「だがそれで良いんだ。人間なんて生き物はな、せいぜい明日のパンツとやらの心配する位の生き方が丁度いい。自分の身内が守れれば、それで充分上等だ」

 

アンクから『明日のパンツ』と言う言葉が出るのは驚きだが、何となくコマンダー・ドーパントの相模広志が、照井に対して「悪と戦うものは常に、自分の大切な者を危険に晒すリスクを負っている」と語った事を髣髴とさせる台詞だ。

 

「とりあえず、俺はどうすれば良い?」

 

「そうだな……とりあえず、報告の時に少し演出するか」

 

「あん?」

 

 

●●●

 

 

画して、アンク主導の演出を実行した訳なのだが……。

 

「……おい、アンク」

 

『何だ?』

 

「この表情維持すんのスッゲェツライ」

 

『黙れ。ついでに雰囲気も真似て話せ。試しに何か言ってみろ』

 

「……コミケの歓喜を無限に味わう為に。次のコミケの為に。次の次のコミケの為に」

 

『……まあ良いだろう。そのまま狂ってるフリをしろ。そして俺達に非は無いと、お前達が悪いのだと、堂々と胸を張って言え』

 

「……諸君! 朝が来た! 無敵の敗残兵諸君! 無敗の新兵諸君! 満願成就の朝が来た! コミケの朝にようこそ!!」

 

『もうそれでいいから黙れ』

 

アンクの言う演出とは「今回の事件を報告する間、ずっと少佐の真似をする事」だった。白いスーツを着用し、髪型を少佐と同じに整えたが、伊達眼鏡は掛けなかった。しかし、少佐の表情をずっとキープしながら話すのは結構辛い。あの人何時もこんな感じだったのか?

 

そんな俺を途中で合流した織斑先生は、俺を見て怪訝な顔をしていたが気にしない事にした。ちなみにこの時、爆発に巻き込まれて気絶し、保健室に担ぎ込まれた一夏が、ちゃんと意識を取り戻した事を知った。良かった。

 

そして『無人機IS・京水襲撃事件』の報告会が始まった。

 

報告は中国の一部勢力が凰を唆した所から始まり、提出した『オーズ VS 怪人ドラゴンガール』から『GKB50 VS 巨大怪獣ガメラ』までの戦闘映像を見て、報告会に参加していた連中はガタキリバの固有能力を知って戦慄していた。

 

しかし、凰が意識不明になったのがイエスタデイメモリの能力の仕業だと知った途端、連中はやたらと元気になって、嬉しそうに俺をネチネチと攻撃……いや、口撃してきやがった。俺は「24時間以内に凰は必ず目覚める」と予言したが、それもニヤニヤと嫌らしい目で受け流していた。

そして「IS学園は教育機関であり、預かった生徒から負傷者が出たのなら、その身内への報告が遅れれば誠意が問われる」……と言ったのだが、連中は「24時間以内に確実に目覚めるのだから、連絡の必要は無い」と、ニヤニヤしながら言ってきた。

 

つまりは俺の予言を言質として、俺を徹底的に攻撃するつもりなのだろう。逆に言えば、凰が改心する訳が無いとも思っている訳だ。ある意味で信用されている。

 

だが此方もやられてばかりはいられない。「IS学園を狙う不届き者」として、日本に潜伏している各国の特殊部隊と、その構成メンバーの抹消した筈の個人情報等、その全てを白日の下に晒してやった。中にはIS委員会が絡んでいる部隊もあり、それぞれが独自に、そして秘密裏に進めていた『IS学園襲撃計画』は、全てが水の泡と化した。連中は最初よりも青ざめ、汗だくの顔や引きつった表情を見せていた。

 

最後に、今回回収したコアメダルとガイアメモリについて説明し、希望する買い取り金額を提示して報告を終えた。もっともらしい理由は言われなかった。

 

一応「今回の報告に上がった組織は迅速に処置をする」と言っていたが、恐らくまた懲りずにやって来るだろう。熱帯夜に人間の生き血を啜る蚊の様に。

 

「あ~疲れた。帰ってアイス食って寝よう」

 

「相変わらず安上がりな奴だな」

 

「待てシュレディンガー。回収したメダルとメモリを委員会に売り渡すなど、一体何を考えている?」

 

とっとと帰ろうとした俺達を呼び止めた織斑先生は、俺達に厳しい視線を向けている。その目は怒りと非難を感じさせる。

 

「……流石に吹っ掛け過ぎましたかね?」

 

「違う! 自分達が何をしたのは本当に分かっているのか!? あれは世界に不要な争いを齎すだけだぞ!!」

 

「……ハッ。10年前に世界中に467個の不要な争いの種をばら撒く切っ掛けを作った、テロリストの片割れとは思えん台詞だな」

 

「なッ!」

 

激昂する織斑先生に対し、アンクは失望の眼差しを送っている。「何を間抜けな事を言っているんだコイツは」って感じで。

 

「世界に不要な争いを齎す? なるほど、確かにそうかもな。世界を回す人間達は常に不要な争いを求め、争いに勝利する為の力を渇望しているからな。だから世界はどう足掻いても平和にならないし、俺達がここに来るずっと前から、この学園が常に危険に晒されている訳だ。

だが今回の報告会で危険分子も不満分子も一通り排除出来たし、メダルとメモリを学園の外に出した事で、学園を狙う敵の数は前よりも少なくなる。それはお前達教師にとっても良い事だろう?」

 

「その代わりに国家間で、ガイアメモリやコアメダルの争奪戦が起こる! 最悪それが戦争の引き金になるかも知れんのだぞ! お前達はそれでも良いのか!」

 

「力を求めて自国民を見捨てるような馬鹿の始末は、同じタイプの馬鹿にやってもらうのが一番良い。出来るなら墓穴から葬儀の準備までな。それとも……メモリやメダルじゃなくて、ISコアなら良かったのか? ああ、条約で取引は禁止だったか?」

 

「ISコアも駄目に決まっているだろう! 私ならISコアを回収しても、学園の外に出す事は絶対にしない!」

 

「……『嘗て世界を大混乱させたからこそ、これ以上世界を混乱させてはいけない』と考えているのか?」

 

「ッッ!!」

 

「それとも『元世界最強の自分なら、どんな敵が何人来ても、誰一人犠牲者を出す事なく、学園の一つや二つ守れる』なんて思っているのか?

そうだとすればお前は餓鬼だ。10年前から何一つ変わっていない、痩せっぽっちの糞餓鬼だ。命を賭けようが賭けまいが、人間なんざ人一人守る事さえままならない。それが真理だ」

 

織斑先生を糞餓鬼呼ばわりか。果たして、ここまで織斑先生にズゲズゲと物を言った人間……いや、存在が居ただろうか?

 

「それにIS委員会からの馬夏の身柄引き渡し要求に応じない所為で、連中のストレスは相当に溜まっているぞ? その内『白式』ごと馬夏を拉致する為に、IS学園に特殊部隊を強行突入させるなんて事もしただろうな。3年前の二の舞にならなきゃ良いなぁ、オイ?」

 

「! おい、アン――」

 

流石に最後の台詞は不味いと思い、アンクを止めようと思ったが遅かった。織斑先生は鳥の姿のアンクを鷲掴みにしていた。

 

「貴様ぁ……もう一度言ってみろッ!!」

 

「ああ、この際だからはっきりと言ってやる。お前は全てを利用し、全てを成す事の出来る人間なんかじゃあない。お前もまた、誰かの掌の上で転がされるちっぽけな存在でしかない」

 

「どう言う意味だ!?」

 

「俺は3年前に起こった馬夏の誘拐事件の真実を、あの事件が一体何を目的としたものだったのかを知っている。いや、最近知ったと言うべきだな」

 

「何ッ!?」

 

「……バイラスメモリの力か?」

 

「ああ。ちょっと調べモノをした時にな」

 

拘束されているにも関らず、不敵な笑みを浮かべているアンクの姿が、何となく『シュヴァルツェア・ツヴァイク』のAICに拘束された時を彷彿とさせる。あの時もアンクはガチガチに拘束されていたが、口先一つで束に協力を取り付けた。

 

「教えろアンクッ! あの事件の真相をッ!」

 

「……ゴクロー。誘拐犯が人質を確保したとして、次に一体何をすると思う?」

 

「? そうだな……人を誘拐するのはソイツに用があるか、人質として交渉のカードに使う為だろ? それなら、まず人質を取った事を交渉したい相手に伝えて、それから交渉に入るな」

 

「そうだ。だが馬夏の誘拐事件の時、馬夏を人質に取った『亡国機業』は、何処の誰とも一切交渉していないんだ」

 

何処の誰とも一切交渉していない? と、言う事は……。

 

「…………! なるほど、とんだ茶番だな」

 

「茶番!? 何だ! 何が言いたい!」

 

「人質を目的として攫った誘拐事件ならな、普通なら交渉に入った段階で誘拐された事を知るんだよ。『お前の子供を預かった』ってな。

そして第二回モンド・グロッソの開催中に、日本人の馬夏を誘拐したなら、その交渉相手はどう考えても日本政府かお前だ。だが誘拐した『亡国機業』は何処にも要求する事は無く、単に馬夏を閉じ込めただけ。しかも周りには馬夏以外一人も居なかった。そうだろう?」

 

「ああそうだ! だからそれが何だと言うんだ!!」

 

「まだ分からないのか? 『亡国機業』が何処とも誰とも全く交渉をしていないのに、ドイツ軍はどうして馬夏が誘拐された事と、その監禁場所を知っていたんだ?

なんで馬夏が誘拐された事をお前に知らせたのが、日本人じゃなくてドイツ人だったのか、お前は何も疑問に思わなかったのか?

それに、馬夏の情報をキャッチしたドイツ軍独自の情報網ってヤツが、一体どんなものなのかお前は知っているのか?」

 

「…………! ま……まさか……」

 

「そうだ。3年前の馬夏の誘拐事件は『亡国機業』が計画したモノじゃない。ドイツ軍が計画したモノだ。ドイツ軍が当時開発中だった“ある兵器”の完成に必要な、お前のデータを手に入れる為のな」

 

嘘だ。有り得ない。そんな馬鹿な。信じられない。信じたくない。織斑先生の表情は、そんな感情と驚愕が綯い交ぜになった様に歪んだ。

 

「恩は相手によって労力以上の対価を引き出せる。お前はウサギ女と違って比較的普通で常識的だ。つまり恩を仇で返すような人間じゃあない。しかも唯一の肉親のピンチだ。売った恩以上の対価を引き出す事も不可能じゃ無い。

しかもお前は基本的に、何でも自分一人の力で事を成そうとするタイプの人間だ。両親に捨てられた後で、親類縁者を含めた何者の手も借りようとせずに、たった一人で馬夏を育て上げようとした事からもそれが分かる。

そんな他人を極力頼らない人間が、唯一と言っていい肉親のピンチを知って、見ず知らずの他人の手で救出されるのを大人しく待っている訳がない。それが出来る力を持っているなら尚更だ。そして案の定、お前は決勝戦を棄権して馬夏の救出に向かった」

 

「で、でたらめを言うな! 私に恩を売りたいなら、誘拐犯を自分達の手で捕らえるなりして、自分達が一夏を救出した事にすれば良い! 私に情報を教えて、私に救出させる必要など無い!」

 

「お前は馬鹿か? そんなのお前が邪魔だからに決まってるだろ?」

 

小馬鹿にした声色で語るアンクの言葉に、織斑先生はずっと翻弄されている。その姿は普段の凛とした佇まいとはまるで正反対で、うろたえ方が半端ではない。

 

「じゃ、邪魔!?」

 

「日本を含めた全ての国々が、『白騎士事件』の犯人はウサギ女とお前だと分かっていた。それが分かっていながら、何故日本がお前達に手を出さなかったと思う?

それは一国を上回る“個の力”を持つお前達を下手に刺激すれば、何をしでかすか分からない危険性があったから。そしてそれ以上に絶大な……いや、極大の利用価値がお前達二人にあったからだ。

他国の研究者達が試行錯誤しながら必死こいてISを理解しようと努力し、ISの適正有りと判断されたIS操縦者が右往左往しながら訓練する中、お前達はISの全てを知っていた。ISの能力全てを分かった上で鍛えているとなれば、それは一線を画する強さになるに決まっている。

世界中の国がISを軍事に利用しようと考えていた中で、そんな勝ち馬をわざわざ封殺する馬鹿が居ると思うか? むしろ乗るだろ? その勝ち馬に」

 

確かにアンクの言う通り、織斑先生の強さはそんな感じだ。束も織斑先生は理解レベルからして他人とは違うから、モンド・グロッソ総合優勝は当然の結果だと言っていた。

 

「挙句の果てに、そんな奴が“一撃でISを戦闘不能に出来る武器”まで手に入れたとなれば、鬼に金棒どころの話じゃあない。

日本は“ISが生まれた国”って事で大きなアドバンテージを持っていたが、それが“世界最強のIS操縦者”まで手に入れた。それが一体どれだけの恩恵を日本に与えたか、お前は分かっているのか?

その上、たった二人で世界を震撼させたテロリスト共が、社会的地位と名誉を順調に積み上げていくんだ。それが面白いと思わない国が、人間が、この世界に一体どれだけいるのか考えた事があるのか?」

 

おいアンク、その台詞は俺達にも当てはまるぞ。まあ、箱入りだった俺はテロをやった覚えは無いけどな。

IS大戦? アレは正当防衛だ。相手が闘志と鉄火を持って闘争を始めた以上、その場においては話し合いによる解決はほぼ不可能だ。

 

「第一回モンド・グロッソの後で、『ミレニアム』は教材として『暮桜』を奪取する為に事件を起こした訳だが、アレだってお前から反則染みた武器を取り上げる正当な理由を作り、お前の戦闘能力を大幅に落とす事も、スポンサーの目的の一つだった。

もっとも、量産型の『打鉄』でも世界最強になれる位に強かったのは計算外だったみたいだがな」

 

確かに第二回モンド・グロッソでは、織斑先生は専用機の『暮桜』ではなく量産型の『打鉄』を使い、それで決勝戦まで順当に勝ち進んだ。ちなみに『打鉄』は『暮桜』を模して造られた第二世代ISらしいので、織斑先生もかなり使いやすかったのではないかと思う。

 

「私を……排除する為……?」

 

「そうだ。そもそもモンド・グロッソは、国家間における擬似的なISを使った戦争の縮図だ。大会二連覇なんて伝説を作られたら堪ったモンじゃない。そうなれば日本にまた三年の間、“世界最強のIS操縦者を抱える国家”に、つまり“世界最強の武力を持った国家”と言う玉座に座らせる事になる」

 

そう言えば第二回モンド・グロッソで織斑先生が決勝を棄権した所為で、日本は評価を落したんだったな。それでも一夏をまんまと誘拐された不祥事を、世界中に公開するよりずっとマシだったのだろう。

 

それと思い出したが、第三回モンド・グロッソは今年に開催される筈だ。今年は一体どうなるのだろう?

 

「こうしてお前はドイツ軍の思い通りに。いや、期待以上に動いた。お前は馬夏の誘拐事件のショックから現役を引退。日本は他国とそう変わらないレベルのIS操縦者を国家代表にする事になった。

誘拐事件の際に詳しい情報を提供し、自分の為に協力してくれたと思いこんだドイツ軍に大恩を感じ、結果的にドイツ軍の兵器開発に必要なデータを提供した。

その上、ドイツ軍が使えないと切り捨てた強化人間を、ドイツ最強の実力者にすると言う思わぬ収穫まであったからな」

 

最後はラウラの事だな。もしも再会したならクロエを紹介したい所だが、クロエが嫌がらなければいいなぁ……。

 

「嘘だ……信じられない……」

 

「本当の悪党はな、相手に自分が利用されている事を気付かせないモンだ。下手をすれば、自分が利用されている事に一生気が付かないまま、その一生を終える人間さえいる。

大体、どうしてお前が全てを利用し、全てを成す側だと言い切れる? 自分だけが違うと思うのは、おこがましいとは思わないのか?」

 

織斑先生は膝から崩れ落ち、アンクが織斑先生から解放された。織斑先生は今にもファントムが生まれそうな顔をしている。或いはビャッコインベスの正体を知った葛葉紘汰か。

 

「……違う……違うッ! 私は……私はッッ!!」

 

「……アンク、織斑先生のデータを使って作られた“ある兵器”ってなんだ?」

 

「第零世代である『白騎士』のISコアは、研究材料として『ミレニアム』の手に渡る前に、世界中の様々な研究機関を経由している。そこで『白騎士』のISコアに眠っている『白騎士の意思』の存在に気が付いていたのが、『ミレニアム』だけとは限らない」

 

「『白騎士の意思』?」

 

「そうだ。メダルの塊の俺が言うもの何だが、それはウサギ女に初期化されたはずのISコアの深奥に眠る、ウサギ女でも消すことが出来ない不滅の存在。言わば『魂』とでも言うべきモノだ」

 

その言葉にうつむいていた織斑先生が顔を上げた。その目はこれでもかと言わんばかりに見開かれている。束でも消せない存在ね……もはや『意志』と言うより、『残留思念』と言った方が良いような様な気がしないでもない。

 

「『魂』に関しては、俺はお前にも有ると思うが?」

 

「……兎に角だ。『ミレニアム』が『白騎士』と『暮桜』を教材にして『仮面ライダー』を造ろうとした様に、ドイツ軍は『白騎士の意思』を教材にして、織斑千冬を模倣し量産する事を目的とした計画を立てた。その為には織斑千冬の詳細データがどうしても必要だったって訳だ」

 

織斑先生の量産。もしかしたら、マドカもそんな計画の一端から生まれたのだろうか? その事をマドカから聞くつもりは無いが、ちょっと考えてしまう。

 

「それで織斑先生を教官として招いた……」

 

「そうだ。正直な所、ドイツ軍は教官としての成果は最初から期待していなかった。ドイツ軍にとって、織斑千冬の詳細かつ最新のデータが、自然な形で入手出来ればそれで良かったからだ。

もっとも、そこまでして完成した兵器は、今ではIS条約で研究・開発・使用の全てが禁止されてしまっているがな」

 

「……そ、それはまさか……『VTシステム』か?」

 

「その通りだ、元『白騎士』。『ヴァルキリー・トレース・システム』の正体は、『白騎士の意思』を模倣して出来た、お前の粗悪なコピー商品だ」

 

なるほど。『VTシステム』はそうやって完成したのか。

 

しかしそうなれば、『白式』は「『VTシステム』のオリジナルと言うべきモノが搭載されているIS」と考えて良いのだろうか? 確か『VTシステム』は操縦者の肉体を乗っ取る類の兵器だったハズ。それなら一夏が『白式』を使い続ければ、その『白騎士の意思』とやらに乗っ取られる危険性があるのか? 某オサレ漫画の主人公みたいに『虚化』する感じで。

 

「おのれ……おのれぇ……ッッ!!」

 

絶望していた織斑先生だが、その表情は次第に底知れぬ怒りと悔しさを感じさせるモノになりつつあった。

無理も無いか。当時の織斑先生が味わった突然の絶望も、肉親を失う恐怖も、肉親が無事だった安堵も、確かに感じていた感謝も、全てが自分を利用する為の『作為』だったと知ったのだから。IS条約の禁止兵器の開発に、他ならぬ自分が利用されていたのだから。

 

「……織斑先生、ドイツ軍が憎いですか?」

 

「これがっ……憎まずにいられると思うのかっ!?」

 

織斑先生は腸の煮えくり返る思いだろう。今にも激情に突き動かされて暴走しそうな感じだ。その気持ちは理解できる。しかし……。

 

「……それでも悪い事ばかりじゃないんですけどね?」

 

「は!? 何を言って――」

 

「少なくとも絶望のどん底に居たラウラは、織斑先生のお蔭で救われた。『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』で、その事まで否定しないで下さい。織斑先生にそれを否定されたら、『お前を強くするべきじゃなかった』なんて言われたら、きっとラウラは絶望する」

 

狂気の科学によって生み出された、戦う為だけの生物兵器。人ではなく物として扱われていたラウラにとって、人として接してくれた織斑先生は救いになった筈だ。俺も人ではなく物として見られていた部分があるから良く分かる。

 

「……それで納得しろと言うのか? お前は……」

 

「違います。ただ、ラウラと過ごした時間を否定しないで欲しいんです。ラウラの中で、織斑先生は『最後の希望』になっていると思いますから」

 

「……最後の希望だと?」

 

「はい、きっと」

 

「……それでも……私は……」

 

そう、ラウラは何も悪くないのだ。それにラウラがドイツ軍の闇を知っていたとは思い難い。兵隊にわざわざ都合の悪い事を教える事は無いからだ。

俺も『ミレニアム』が『白騎士』と『暮桜』のISコアを回収していた事とか、今言った『白騎士の意思』とか……、とにかく知らないことが結構ある。まだ他にも何か重要な秘密がある様な気がする。

 

「それとアンク。俺は仮に『白騎士事件』が起こらなかったとしても、世界は今と同じ様になっていたんじゃないかと思う」

 

「ほう? その理由は?」

 

「ISが発表された時にISが認められなかったのは、ISを理解するだけの知識と知恵、それに科学技術が発達していなかったからだ。逆に言えばそれらが時間と共に発達して理解の水準が上がれば、ISがどんなモノなのかを理解できるようになる。

ロケットからミサイルが生まれた様に、遅かれ早かれISを軍事に利用できると考える人間が、この世界に何時か必ず現れたと思う」

 

「……ふん。そうかもな」

 

「お前の言う通り、確かに『白騎士事件』は数えるべき罪だとは思うが、その後に起こった世界の変化や戦争については……俺は二人の罪では無いと思う」

 

「……私達はやる必要の無い事をやった。そう言いたいのか?」

 

「結果が出るのを焦りすぎたんですよ。束も。織斑先生も。それとも、どうしても結果が出るのを焦る必要があったのですか?」

 

「……ッッ」

 

織斑先生の目を見て質問する俺に対し、織斑先生は目を背けた。どうやら何か焦る理由があったようだが……それが何なのかを教えてくれそうにない。俺も無理に聞きだそうとは思わないが。

 

「おい、ヤバイぞ。ウサギ女がドイツに戦争を仕掛けようとしている」

 

「……はあ!?」

 

「な、何!?」

 

「どうやらこの会話を盗聴していたみたいだな。『パワーダイザー』や『サイドバッシャー』を使って、本気でドイツを滅ぼすつもりらしい」

 

「暢気な事を言ってる場合か!?」

 

「え!? ちょ、しゅ、シュレディンガー!?」

 

俺は織斑先生の手を引いて、『NEVER』の拠点まで全力で走った。そして、ドイツに地獄を創ろうとしている束を止める為、織斑先生と二人がかりで束の説得を試みた。

説得は長時間に及び、最終的に「俺が『VTシステム』に関連する施設の破壊に協力する」事を約束して、渋々ながらも束は譲歩してくれた。

 

そして、その為には万全の準備と、綿密な計画が必要だ。ついでに多少の時間稼ぎを含めて、施設の襲撃に必要なモノを束に造ってもらおう。

 

そして束の説得が終わった時、IS学園は朝を迎えていた。俺も織斑先生も全く寝ていない。とりあえず当番になっていた束の朝飯を作って、織斑先生と三人で朝飯を食べてから寮の自室へと向かった。

 

超疲れた。そして超眠い。

 




きょうの妖怪大辞典

ゴクニャン
 土地所か異世界に縛られた、別世界の『シュレディンガーの猫(偽)』。車に撥ね飛ばされて死ねば丁度良かったが、コイツはクマ(動物)に頭を吹っ飛ばされて死んだ。死後も特撮ヲタで、アニヲタで、声優ヲタで、ミレニアムの准尉。ドルヲタでもなければ、ケロン軍の二等兵でもない。
 アイドルに微塵も興味が無い理由は、田村ゆかり、佐倉綾音、日笠陽子、斉藤千和、ゆかな……と、非常に豪華な声が揃っている環境に居るから。「下手なアイドルの歌声聞くよりも、カラオケで皆の歌声聞いた方が良い」と酒の席で語る。

アンべぇ
 鳥・右腕・怪人・●の四つの姿にトランスフォームする妖怪軍師。どっかのしったかぶり妖怪と異なり、マジで何でも知っている。オリジナルの右腕は妖怪パッド(偽)持っているが、この世界ではアンべぇ自身が検索ツールであり、今やスカイネットに近づきつつあるバイラスメモリの能力を駆使し、世界中からあらゆるネタを集めて、物事を有利に進める交渉術(脅迫・恫喝を含む)の使い手。
 必殺技は『ネタバレフィナーレ』。アンべぇの性格も相まって、バレリーナのレジェンド妖怪よりも厄介な性能と凶悪な破壊力を発揮し、相手は『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』を見る前に『dビデオスペシャル 仮面ライダー4号』を見てしまったが如く、地獄を楽しむ羽目になってしまう。

TABAピョン
宇宙に行く事を夢見るウサギ(偽)。決して『ウサビッチ』では無い。造りたいのはロケットではなく『フォーゼドライバー』と『アストロスイッチ』。後は月に『ラビットハッチ』を建設したい。どうにかして『コアスイッチ』を見つけたい所だが……。
 今回、ゴクニャンとアンべぇとチフユニャンの会話を盗ちょ……もとい、聞いてしまったがために、「ちーちゃん騙した。よし、ベルリンを焼こう!」って感じで、ベイダーモードを通り越してエンペラー……もとい、エンペレスモードに突入。世界は第三次……もとい、大惨事世界大戦の危機に陥ったが、ゴクニャンとチフユニャンによって未然に防がれた。

チフユニャン
 ある意味アーカードポジで、ちょっとロシュオが混ざっている黒猫。別に浮遊したりデブになったりはしていない。色々利用されまくって大変だったけど、アラブ人に掘られなかっただけマシだと思う。
 原作・アニメ共に熱狂的で狂信的な教え子が多いが、ラウラ以外に「織斑教官のお蔭で成績が上がった」と言う様なドイツ軍人が登場せず、IS学園では「織斑先生のお蔭で専用機持ち、或いは代表候補生になれた」と言う様な生徒も登場しない為、教育能力に関しては高いのか低いのかイマイチ良く分からない。
名選手が名監督になるとは限らないが、ラウラや一夏から判断する限り、その教えについて行ける人間や、その教えがしっくりとハマる人間なら……と言う事なのだろうか?

……&解説

白騎士事件
 原作開始時に千冬が24歳で、束と小学校から同じクラスだと言う事を考えると、原作の10年前に『白騎士事件』が起こったなら、当時二人は14歳(中学二年生)。一夏と箒は5歳と言う事になる。……が、原作2巻では「千冬が高校生の頃にISが発表され、千冬は以降数年間IS開発に協力していた」とある。……あるぇ?

第一回モンド・グロッソ
 この世界では6年前に設定。当時千冬と束は18歳で、一夏と箒は9歳(小学四年生)。5963は1歳。原作二巻の箒の独白によると、この辺りで「束がISを発表した為に、箒が転校を余儀なくされる」事となり、箒が束を憎む日々が始まる。そうなるとISが世に出たのは6年前になるのだが……。
 まあ、この世界ではISが発表されたのは10年前に設定しているので問題無い。また束の失踪した時期を、作者はこの辺りに設定している。箒が転校した理由も、ISの発表ではなく束の失踪とした。
 そして『ミレニアム』が『仮面ライダー』の教材として、『暮桜』奪取を目的とした事件を起こすのも、5963が少佐達を秋葉原に連れて行ったのも、この第一回モンド・グロッソが終わってからのお話。

第二回モンド・グロッソ & 織斑一夏誘拐事件
 時系列は3年前に設定。当時の千冬は21歳で、一夏は12歳(中学一年生)。5963は4歳。作者の独自解釈や独自設定が多分に含まれている二大イベント。作中でアンクが語った通り、この世界では『暮桜』が『ミレニアム』によって回収されている為、千冬がこの大会で使用したのは量産機の『打鉄』。
 悪の秘密結社と正義(笑)のスポンサーの手によって、千冬は前大会で猛威を振るったチート能力『零落白夜』を失ったが、某オサレ漫画の天に立つヨン様の様に「素でも有り得ない位に強い」人間離れした圧倒的な強さを見せ付ける結果に。あかん、まだ不用心や。
 一夏の誘拐に関しては『亡国機業』の仕業ではあるが、それ以外の事がイマイチ分からない……が、原作で起こった事件の大半がマッチポンプである事を考えると、「この事件もマッチポンプなのではないか」と、思わずにはいられない。
 実はドイツ軍は『亡国機業』の前に『ミレニアム』に一夏の誘拐を依頼していた。少佐は断ったが、『ミレニアム』がこの事件に全く何も関与していない訳では無い。


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第22話 JUST LIVE MORE

誰がなんと言おうとも! 俺は俺の書きたい事を書く! 書いてみせる!

そんな感じで書いたら、今まででも屈指のカオス回に……。

きっと『喧嘩商売』描いてる木多康昭先生の漫画『幕張』をブッ○オフ読んだ影響だと思われます。



事件から一夜明けた今日、IS学園では「宇宙人が地球を侵略しにIS学園にやってきた」、「ゴクロー・シュレディンガーは分身の術が使える」と言う二つの噂が流れていた。

 

「シュレりん、シュレりん。分身の術ってどうやって使うの~?」

 

「ゆ、UFOの破片とかどうしたんですか?」

 

朝から体を疲労が漲る中、教室に入った途端に本音と簪がやってきて、噂の真相を確かめにやって来た。本音は何時も通りだが、簪は期待に満ちた目をしている。

 

「……本音、簪。噂についてもう少し詳しく」

 

二人から聞いて見た所、第三アリーナ上空から高速回転しながら黒い物体を飛ばしてIS学園を攻撃するUFOと、それを容赦なく攻撃して最後にはUFOを投げ飛ばした複数の『オーズ』の姿を、昨日の放課後に野外にいた生徒の何人かが目撃していた。

その中にスマホやケータイで撮影した生徒が居たらしく、画質はそんなに良くないがしっかりとUFOと複数の『オーズ』が写っており、それが噂の発端になっているのだとか。

 

そして案の定と言って良いのか、一組の教室に黛先輩がやって来た。本音と簪と一緒に居る俺を見つけた瞬間、ボイスレコーダー片手に此方に近づいてきた。

 

「ねぇねぇシュレディンガー君! 本当に宇宙人がIS学園を侵略しに来たの!? 昨日目撃されたUFOもそうだけど、織斑君に聞いたら『犯人は人間じゃない、黄色い宇宙人みたいな奴だった』って言ってたし、シュレディンガー君も意識不明の凰さんも宇宙人と戦ったの!?」

 

黄色い宇宙人ねぇ。マドカの戦闘映像を見た所、京水の真の姿はルナ・ドーパントそのものだった。しかし、ルナ・ドーパントの事を知らない人間から見たら、宇宙人だと思っても仕方無いだろう。さてどうしたモノか……。

 

「……そうですね、凰は……」

 

「凰さんは?」

 

「迫り来る宇宙人をちぎっては投げちぎっては投げ、その姿はまさに中国無双と言った有様で、UFOから無数に放たれる超化学兵器『腐ったピータン』を片っ端から真っ二つにし、最終的に全身に爆弾を括りつけて専用機のIS諸共、UFOを木っ端微塵に吹き飛ばしたのです」

 

『………………オイ』

 

「お~~! 凄いね、りんりん!」

 

「ちょ、超化学兵器『腐ったピータン』!」

 

「……いや、それ本当の話?」

 

「本当です。俺がガタキリバコンボの能力で造った無数の分身達は、その時の凰の必殺剣の巻き添えになって全員死にました」

 

「……うん。分身の術の事は分かったけど……嘘だよね?」

 

「本当です」

 

「いや、だから……」

 

「凄く本当です」

 

「えっと……」

 

「本当に本当です」

 

「あの、ちょっと近い……」

 

「本当です」

 

「だ、だからこれ以上は……」

 

「すご~~~~~く本当です」

 

「ッッ!! わ、わ、わ、分かった! もう分かったから~~~!」

 

「……それじゃあ、お願いしますね~?」

 

黛先輩は逃げ出した。俺はアーカードの旦那みたいに「エロ光線かなんか」は出せないので、力技で言いくるめた。後は適当に黛先輩がなんとかするだろう。

 

「……あの、ゴクローさん? 本当の所はどうなんですの?」

 

「……だから凰は、火星からやってきたゴキブリ人間『テラじょうじ』を円月殺法で片っ端から真っ二つに……」

 

「お~~! やるね、りんりん!」

 

「ご、ゴキブリ人間『テラじょうじ』!!」

 

「さっきと言っている事が違いますわよ!?」

 

俺の支離滅裂な話に対して、暢気に反応する本音と、奇天烈な単語に驚愕する簪。そしてセシリアの常識的なツッコミが入った所で、織斑先生が教室に入ってきた為、一先ずお開きとなった。

実際の所、凰がメダルを取り込んで変身した怪人体の事も、UFOの正体であるガメラもどきの暴走体の正体が凰だと言う事も表沙汰になっていない。そうでなければこんなUFO&宇宙人騒動など生まれやしない。

 

この際だから『凰鈴音・中国無双伝説』をIS学園におっ立ててしまおう。

 

……そう思ったのだが、昼休みに楯無と虚から怒られた。何でも生徒が撮影した『オーズVS巨大UFO in IS学園』の動画がネットにアップされていて、「その動画の火消しだけでも大変だったのに、変な噂を流さないで!」と言われた。誤魔化すには丁度いいと思ったのになぁ……。

 

結局、昨日の事件はこの日の内に「とある研究所の試作機のISと、新型兵器が暴走したものであり、凰はそれに巻き込まれた」と言う事になった。これはもしかしたら、楯無がIS委員会から受けた仕事だったのかもしれない。

 

しかし、それでもUFO肯定派の生徒による「宇宙人の侵略説」が消える事は無かった。

 

ちなみに楯無はUFO否定派だが、簪はUFO肯定派だそうで「今度『未確認飛行物体の記憶』が秘められた“究極のレアメモリ”と称される『ユーフォーメモリ』の力を見せてあげよう」と言ったら、簪は物凄く目をキラキラさせて、今まで見たことも無い様なステキな笑顔を向けてくれた。

 

キャワイイ。そしてザマミロ楯無。

 

 

●●●

 

 

そんなこんなで本日の授業が全て終わった。俺は小鳥状態のアンクを左肩に乗せ、眠り姫の居る保健室に向かう。

 

「俺は目覚めていないと思うが……お前はどうだ?」

 

「俺は目覚めていると思う。上手く説明出来ないんだが、イエスタデイのマキシマムが以前と違う感じだった」

 

「手ごたえがあったって事か?」

 

「いや、マキシマムを叩き込む前から上手く行くような気がしていた」

 

なんと言うか、何故か成功する感じがしていた。感覚的には『エターナルRX』になった時に使った、エターナルメモリのマキシマムを使った時に近い。

 

「しかし、七色に光る剣の波動で斬り裂いて眠り姫の呪いを解こうとする白騎士の御伽噺なんて聞いたことが無い。しかも呪いを掛けた怪人メダル男と白騎士が同一人物ときてやがる」

 

「ああ、絵本にしても売れそうにないな」

 

イエスタデイの無限ループは内部からの脱出方法は一つに限られているが、エクストリームなら外部から干渉して脱出させる事が可能だ。そこで24時間が経過する前に、『プリズムブレイク』で凰に掛けたイエスタデイの能力を斬りに行く。あれから24時間が経過するまで、残り53分と言った所だ。

ただ、マドカに使った時の事を考えると『プリズムブレイク』と一緒に『洋服破壊【ドレス・ブレイク】』も発生する可能性が高い。まあ正直それで役得と言うか、目の保養になるかと言えば……。

 

「おい待て、お前が何を考えているのか、なんとなく分かるぞ。だからそれ以上は止めろ。またあの妖怪の相手をするのはゴメンだからな」

 

……アレか。確かにアレは大変だったな。

 

 

 

それは今から一週間程前の事。寮の部屋でクロエと二人でのんびりしていた時に、目に涙を溜めた箒が部屋に飛び込んできた。

 

「ゴ、ゴクロー! クロエ! 助けてくれぇえええええええええええええええッッ!!」

 

「ぶるぁあああああああああああああああああああっっ!!」

 

部屋に入るなり涙目で抱きついてきた箒に何事かと思ったが、その直後に部屋に突撃してきた魔物の様な形相のマドカを見て、何か尋常では無い何かが起こった事は間違いないと判断した。

 

「追い詰めたぞ巨乳め……。さあ、おいてけ! 乳おいてけ! 巨乳だろ! 巨乳なんだろ! 巨乳なんだろお前ぇえええええええええええええええええええっっ!!」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!」

 

「アンクゥウウウウウウウウウウ!!」

 

「チッ! オラァッッ!!」

 

マドカは『妖怪首置いてけ』ならぬ、『妖怪乳置いてけ』と化していた。そんな箒に向かって飛び掛ろうとしたマドカは、怪人体となったアンクに拘束された。

 

「離せアンク! 箒は悪だ! 巨乳の悪意に染まったエロリストだ!」

 

「何を言っているのかさっぱり分からん! いいから落ち着け!」

 

「離せぇええええええええええええええええええええええええええっっ!!」

 

「……おい箒。一体何があった?」

 

「じ、実は……」

 

アンクに押さえつけられながらも、凄まじい抵抗を見せるマドカ。一体何かマドカをここまで激昂させたのか? その理由は俺をマドカの盾にし、小動物の様に震える箒が、おずおずと語り始めた。

 

何でも箒が部屋を掃除した際に、マドカのベッドの下からマドカが秘密裏に購入したであろう、水流系バストアップマッサージ機を発見。これは不味いと元に戻そうとした所で、タイミング悪くマドカが部屋に帰ってきてしまった。

 

「えっと……これはだな……」

 

「………」

 

箒とマドカの二人の間に気まずい空気が流れる中、箒はあろう事か巨乳のマイナス要素を語る事で、なんとかこの場を誤魔化そうとした。

 

「そ、そもそもだ。巨乳って言うのはそんなに良いものじゃないんだ。肩が凝るし、大きく動くたびに揺れて邪魔になるし、何よりも痛い」

 

「………」

 

「それにサイズの合う下着も服も少ない。しかも胸を強調するような服ばかりで、男の視線も女の視線も嫌でも集めてしまうんだ」

 

「………」

 

しかし箒は気付かなかった。それはマドカには自慢にしか聞こえない事を。

 

「そ、それとだ。冷水よりも温水を使った方が良いぞ。心臓麻痺を起こすからな」

 

その瞬間、マドカの中にあった決定的なナニカが、ブチンと音を立てて切れた。

 

「……な…………せ……」

 

「な、なんだ?」

 

「そんなに嫌なら寄越せぇええええええええええええええッッ!!」

 

マドカは激怒した。バッタのコアメダルを狙って執拗にオーズの下半身を攻撃するウヴァさんの様に、マドカは箒の胸を狙って執拗に攻撃を繰り出した。怒りに任せている所為で大分大雑把な攻撃だが、まともに喰らえば無事では済まない。それでもISを展開しないあたり、ゴクローの教育がしっかりと生きている。

 

「箒ぃいいいいいいいいいいいいいっっ!! そのスイカを渡せぇええええええええええええッッ!!」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!」

 

もがれる。

 

そう思った箒は、妖怪化したマドカに恐れ慄きながらも、両手でしっかりと胸を防御しつつ、ゴクローとクロエに助けを求めて恥も外聞も無く全力で逃走した。マドカと仲の良いこの二人なら、暴走状態のマドカを何とかしてくれると思っての行動である。

 

こうして箒はマドカの猛烈な追撃をかわしつつ、何とかこの部屋に辿りつく事に成功したのである。

 

「……と言う訳なんだ」

 

「そうですか……私にはその気持ちがよく分かります」

 

「クロエ! 分かってくれるのか!?」

 

「ええ、そのメロンを毟ってしまいたい気持ちが……」

 

「え……?」

 

ふらぁっと殺気を一切感じさせない自然な動きで、箒の胸にゆっくりと両手を伸ばすクロエ。その金色の瞳からはハイライトが消えている。クロエは『妖怪ボタン毟り』ならぬ、『妖怪巨乳毟り』へと変貌を遂げようとしていた。

 

「よ~~しよしよしよしよしよしよしよし。落ち着け~~落ち着け~~、いい子だな~~クロエは~~」

 

「? 私は何時でも良い子ですよ、兄様?」

 

「うおおおおおおおおおおおお!! 離せぇえええええええええええええええ!!」

 

「ゴクロー! コッチもそろそろ限界だ!」

 

箒の胸にクロエの両手が触れる寸での所でクロエを後ろから捕らえ、猛獣を宥める様に撫でてみる。クロエはコテンと首を傾げたが、目が完全に死んでいる。

一方のマドカは、怪人体のアンクの拘束から逃れようと必死に抵抗し、マドカに殴られる度にアンクの体からセルメダルが零れる。生身で暴走するマドカに対し、怪人体のアンクがIS大戦の時よりも苦戦している様な気がするのは気のせいだろうか?

 

取り敢えず箒にこの部屋を脱出するよう合図を送ると、箒はコクコクと高速で頷いた後、大急ぎで部屋を脱出した。

 

箒が立ち去った後、俺が解決すべき問題はこの二人を落ち着かせる事だ。今の所この空間に、二人を刺激する巨乳はいない。念の為にこの部屋から脱出も侵入もできない様に封印を施し、精神を落ち着ける為に二人の頭を撫で回し、バーホーテンのココアを淹れ、一番高い茶菓子を引っ張り出して、二人で話し合わせてみる。

 

多少は落ち着いたのか、マドカとクロエはココアと茶菓子を遠慮なくモリモリ食べながら、持たざる者の痛みについて話し合っていた。しかし時間経過に伴って「束様と一緒にお風呂に入った時、何度?ぎ取ってしまいたいと思った事か」とか、「姉さんのを毟って自分の胸に移植しよう」とか、二人とも話す内容が段々とエスカレートしている。

 

「『貧乳はステータスだ』等と言う様な考えはキレイ事だ……貧乳の痛みを知らぬ者の戯言だ。もしも私の痛みを否定するような巨乳がいるなら……そいつ等の大切な巨乳を片っ端からもぎ取ってやる! そうすれば理解するだろう……この私の憎しみを!」

 

挙句の果てにマドカは、血走った目でゲンドウポーズを取りながらそんな事を言い出した。しかも理解するのは痛みではなく、憎しみになっている。

そんな「『禁断の果実』を手当たり次第にもぐ」と宣言するマドカに恐怖を覚えるが、マドカが「憎悪するもの」と「目指すもの」が同一であると言う矛盾に、果たしてマドカは気付いているのだろうか?

 

「……ゴクロー、お前はどんな胸が好きなんだ?」

 

「大きさに関わらず張りと形の良い胸……って何を言わせる」

 

「そうか。俺の好きな胸はハト胸だ」

 

怪人から小鳥の姿に戻ったアンクの質問に、何気なく普通に答えてしまった。しかしアンクの好みは食料的な意味なのだろうか? もしかしたら、アンクの核であるタカコアメダルに組み込まれたタカの因子が、アンクにそう思わせるのかも知れない。

 

「……ならば、将来垂れるだけの巨乳には未来は無いな」

 

「そうですね」

 

「おい。二人とも今なんて言った?」

 

「気にするな。何でもない」

 

「ええ。何でもありませんよ、兄様」

 

そう答える二人は凄みのある笑みを浮かべていた。それに実を言うと二人の会話はちゃんと聞こえている。俺は何かとんでもない爆弾を抱えたような気がするが、二人とも何で自分の成長性を全く考えていないのか? まだまだ勝負は分からないだろうに。

 

そして、この日を境にクロエとマドカ、そして何故か簪に変化が現れ始めた。

 

「なんかさ~、こないだまではクーちゃんって~、束さんのおっぱい見ると涙目になって『う~う~』って言いながら、ぺたぺた自分のおっぱい触ったりしてたんだけどさ~。最近はなんか可哀想なモノを見る様な目って言うか、憐れむ様な微笑を浮かべて見てくるんだよね~。何でかな~?」

 

「姉さんもか? 私もこの間マドカと一緒にシャワーを浴びた時、マドカは私の胸を見る他の女子と違って、何故か勝利を確信した様な目をしていたんだ」

 

「奇遇ね。私の簪ちゃんも私と一緒にお風呂に入った時、なんだかとっても優しい目をしていた気がするわ」

 

「……アンク」

 

「お前の所為だ。間違いない」

 

「………」

 

 

 

以上、回想終了。妹分が黒くなってきた事に不安と悲しみを感じている間に、凰が寝ている保健室へ到着。ノックをするが反応が無い。入ってみると凰はベッドで寝ていた。

 

「寝ているな」

 

「……そうだな。さっさと終わらせろ」

 

「残念だが、そうするか」

 

『ETERNAL!』

 

「変身!」

 

『ETERNAL!』

 

『エターナルRX』へと変身すると同時に、左手に『プリズムビッカー』を出現させる。凰を『昨日』と言う名の監獄から解き放つ為に、プリズムメモリが柄に差込まれたプリズムソードをビッカーシールドから引き抜いた。

 

「コレで決まりだ」

 

『PRISM・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「へッ!?」

 

「ん?」

 

「チッ!」

 

マドカの時と同じ様に斬撃を飛ばそうと考え、プリズムソードを振り下ろそうとした刹那、寝ているはずの凰が目を開けてコッチを見た。それを見たアンクは盛大に舌打ちをした。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと、ちょっとぉ! あ、アンタ一体何してんのよ!」

 

「ふん。狸寝入りなんてしてやがったお前が悪い」

 

「……アンク。お前、もしかして気がついてたのか?」

 

「ああ。タカの目で『イエスタデイの刻印』が無い事は分かっていた」

 

重要な事をワザと黙っていたアンクは、凰のリアクションを見て「満足した」と言わんばかりの表情をしている。言いたい事はあるが、取り敢えずビビリまくっている凰に、俺が何をしようとしていたのかを説明すると、凰は納得してくれた。

 

「……とりあえず、何をしようとしていたのかは理解したわ。だから変身を解いて話しましょう? シュール過ぎるわ」

 

「ああ……」

 

そう言えば『エターナルRX』のままで説明していた。しかし、保健室で寝ているチャイナ娘に、必殺剣を振り下ろそうとする『エターナルRX』。傍目から見れば、止めを刺しに来た様にしか見えない。

 

「その……ゴメン。アンタには色々迷惑掛けたわね……。本当に、ごめんなさい……」

 

「…………おい。なんか雰囲気って言うか、キャラが変わってないか?」

 

凰は心底済まなそうな顔で俺達に頭を下げた。声色からも反省と後悔の感情が感じられる。以前の凰は「何をしても自分が正しい」と言った感じだったので、そのギャップにアンクが面食らっている。

 

「元ネタがそう言う能力だからな。自分自身を見つめ直して、本当の自分の事を認めた時に解ける無限ループ。そしてその無限ループから自力で脱出したと言う事は、本当の自分が見えたって事だ」

 

「うん……あたしね、今の女尊男卑の社会の世界が凄く気に入ってたの。それで女尊男卑の社会って、ISが登場したお蔭で出来たじゃない? だからかな、専用機持ちの代表候補生になると、大体の事は何でも出来ちゃうの。どんなに無茶な事でもお願い……ううん、ISを展開して脅かせば、やって欲しい事は全部叶えてくれるの」

 

「………」

 

「最強の兵器を向けて脅されればそれが当然だ。言う事を聞かなければ、自分に何をしでかすか分からないからな」

 

「そうね。それでもその時は、自分が酷い事をしてるって自覚が全然無かったわ。自分の倍以上も歳を取った大人が、情けない顔してヘコヘコ頭を下げるのを見ると気分が良かったの。

元々『歳を取っているだけで偉そうにしてる大人』とか、『男ってだけで偉そうにしている子供』とか大嫌いだったから、尚更それが快感だった。とっても居心地が良かった。

それであたしは強くなったつもりだったけど……結局、あたしもそいつ等とやってる事は同じだった。ただ、お互いの立場が逆転しただけ。ただそれだけだったのよ」

 

「………」

 

「間抜けな話だな。何時の間にか自分が一番なりたくないモノに、気が付いたらなっていたって訳だ」

 

「そうね。間抜けな話よ。確かにあたしは『どこか勘違いした馬鹿なライオン』だったってワケ。笑い話にもなら無いわ」

 

凰の独白を俺はただ黙って聞いていたが、アンクは容赦なく突っ込んでいた。凰はそんなアンクの突っ込みに対して言い訳する事も無く、それを素直に受け入れていた。

 

「……ねぇ、何であたしにその……ああしたの?」

 

「あん?」

 

「何て言うかさ……あたしって聞く耳持たない感じじゃない? だからその……『一発殴って分からせる』みたいな考えとか無かった訳? 『コンボ』とか言うのを使えば、あたしを倒すのは簡単だったと思うんだけど?」

 

「……一度『力』ってものを味わったら、人はその魅力に取り憑かれる。仮にそうやってお前から強引に『力』を取り上げたとして、それでお前は納得するか?」

 

「多分……いえ、絶対にしないと思うわ」

 

「だろう? そうなったらお前は『力』を求めて彷徨い続ける。挙句の果てにろくでもない外法で『力』を手に入れて、最後は無残に『初瀬る』羽目になる」

 

「? 『初瀬る』って何?」

 

「チェリーなチンピラにアメリカンクラッカーで始末されるんだ」

 

「……よく分かんないケド、壮絶で禄でもない結末を迎えるって事でいいのかしら?」

 

「ああ」

 

それから凰がガイアメモリを入手した経緯を聞いたが、シュラウドは『555』の花形さんみたいに、強化アイテムを天井から落したらしい。俺の方も俺の出自に加えて、シュラウドについて凰に説明した。

 

「……シュラウドは何であたしを選んだのかしら」

 

「そりゃあお前が、ガイアメモリの力を疑いもせずに軽々しく使う様な馬鹿で、やたらと好戦的な性格だからに決まってるだろ」

 

「………」

 

「或いは、強大な力を手に入れて驕った人間が、『力に驕ったIS操縦者』が、知らず知らずの内に自滅する様が見たかったのかも知れない」

 

「自分の息子を殺したのと同じ様な奴をか? 俺としてはそうなった方が、世界のIS事情も少しは良くなると思うんだがな?」

 

何気にアンクが一番酷い。それは『DEATH NOTE』の夜神月と同じ思考では無かろうか。せめて一度位は更生するチャンスを与えてやって欲しい。

 

「まあ、親の愛情ってヤツは諸刃の剣だって事だ。深ければ深い程に危うい」

 

「親の愛情……ね」

 

「それと、お前の両親の連絡先を調べてある。お前は『新型ISと新型兵器の暴走に巻き込まれた』って事になっているから、それで不安になって声が聞きたくなったとか、お前が連絡を入れる一応の理由はあるかな?」

 

「え……?」

 

凰に両親の連絡先が記されたメモを渡すと、凰は戸惑いながらもメモを受け取った。凰が目覚めなかった場合、俺から親権のある母親に連絡する事になっていた。父親に連絡する必要は無いらしいのだが、俺は二人に連絡する必要があると思って調べておいた。

 

失敗ではなく、成功した場合も想定して。

 

「え、いや、でも」

 

「やっぱ、話したくないか?」

 

「ち、違うわよ! ただ、なんて話したら良いか……」

 

ふむ……どうやら話したくない訳では無いらしい。調べた所、凰は離婚してから父親とは音信不通で、一年以上会っていないらしい。

 

「小難しく考えなくても良いだろ。『あたしは大丈夫』とか、『久し振りだけど、元気にしてる?』とか、『ご飯ちゃんと食べてる?』とか、そんなんで良いと思うぞ? 親子なんだし、そんな他愛も無い会話から展開すれば良いだろ?」

 

「……うん」

 

そんな凰の視線は、父親の連絡先に固定されている。きっと、別れた父親の事も好きなのだろう。

 

「あっ、コレ、ありがとうね。ゴクロー」

 

「おっ。初めて名前で呼んだな。凰」

 

「……鈴よ。これからは鈴で良いわ」

 

「そうか。それじゃあな、鈴」

 

「ええ……またね」

 

鈴は初めて手を振って、俺にさよならをした。

 

さあ、これで漸く寝られる。

 

寮の部屋に着いた途端、俺は泥の様に眠った。

 

 

●●●

 

 

シュラウドが起こした一連の事件の影響は、時間の経過に伴ってそれなりに大きいものになっていた。

 

鈴がイエスタデイの能力から自力で抜け出した為、IS委員会も各国も俺達を叩けなくなった。しかも、本当に改心しているのだから、驚いている事だろう。正直「欲張らなければ叩けたのでは?」と思わないでもない。まあ、改心させる能力なんて、言っても信じられないか。

 

事件の報告会で俺達をIS学園から排除しようとした中国政府の一部勢力が、鈴を唆して俺達を襲わせていた事と、中国のIS操縦者の選考基準や教育方針等、中国側にも責任や問題点がある事をIS委員会や各国上層部に知られた事から、中国政府は鈴に全ての責任を押し付けて済ませる事が出来なくなった。

結局、鈴の処分は減給の他に、「大破させた専用機を本国で修理する」と言う名目でISを没収されたりしたが、それでも代表候補生のままであり、中国へ強制送還される事もなく、IS学園へ残留する事になった。鈴を担当していた楊代表候補管理官にも何らかの処罰が下ったらしい。

 

また中国のISコアの保有数が、IS委員会によって減らされる事になった。これは正直、他国への見せしめの意味が大きいだろう。しかし他国にしてみれば、中国のISコアの保有数が減った分、ISコアが自国に再分配される可能性が出てくる。

他国が中国を叩く理由の一つがコレだ。勿論自国に分配される保障は何処にも無いので、これから再配分の為の裏工作が、IS委員会と各国の間で行なわれる事になるだろう。

 

そしてIS委員会が提示したコアメダル3枚とガイアメモリ2本の買い取り金額は、俺達が提示した金額よりも桁が一つ多かった。コレは「実は自分達もテロリストと何ら変わらない事をしている」と世間様にバラされれば困るので、口止め料が加算されているとの事。下衆共が。

 

また、『オーズ』の公式戦における禁止項目に『ガタキリバコンボの使用禁止』と言うルールが追加された。もっとも、ガタキリバコンボの起動に必要なコストの関係から、公式戦では絶対に使えないのだが、それは黙っておこう。

 

 

 

そして、IS学園UFO襲来事件から一週間後に行なわれた『クラス対抗戦』は、鈴が専用機を失った上に、メモリの後遺症によって休養を余儀なくされた為、一学年では鈴を抜いた、セシリア、マドカ、簪の三つ巴となった。

 

試合内容としては、セシリアの操縦技術は大きく進歩したものの、『ブルー・ティアーズ』の上位互換と言える『青騎士』とのスペック差は如何ともし難く、セシリアはマドカに敗れてしまった。

決勝戦はマドカと簪の一騎討ちとなり、簪はマルチロックオンシステムを使用したミサイル攻撃の他に、荷電粒子砲を拡散型と収束型を随時切り替えて発射する等、敗れはしたものの通常形態の『青騎士』を相手に、予想以上に善戦した。

 

こうして一学年ではマドカが優勝。二学年ではフォルテ・サファイア先輩、三学年ではダリル・ケイシー先輩と、上級生は番狂わせも無く何時も通りの結果だった。

 

そして、各学年の優勝者には『オーズ』と戦う権利が与えられるのだが、それを使用したのはマドカだけ。残り二人の先輩方は棄権するとの事で、後日マドカと戦う事になった。

 

こうして行なわれた俺とマドカの試合は、最初からナスカメモリを使った本気モードの『青騎士』を駆るマドカと、最終的に「ブラカワニコンボ+ナスカメモリ」の組み合わせを使用する『オーズ』と言う、ナスカメモリを使った目にも止まらぬ高速接近戦が展開された。

 

ここで問題となるのはナスカメモリの持つ「ドライバーを使用していても、操縦者に負担の掛かる上位メモリである」と言うデメリット。

それに対してブラカワニコンボは、全身を流れる生体強化物質『ソーマ・ヴェノム』によって、傷やダメージを一瞬で回復して再生する固有能力を備えているが、『ソーマ・ヴェノム』は過回復を引き起こすと言う危険性があり、「短時間で終わらせるか、適度にダメージを負わないと、体がグズグズになって死ぬ」と、アンクが恐ろしいデメリットを言っていた。

 

つまり、「使えば常に体に負担を与えるメモリ」と、「体にダメージを与える必要があるコンボ」。つまり、この二つを組み合わせれば、安定したメモリとメダルの運用が可能になると言う事だ。

これもまた原作『W』における、『財団X』のガイアメモリとコアメダルに関する見解を証明する一つの形だろう。ちゅーか、『コンボ』を使う時はメダルとメモリの色を統一すれば、なんとなく上手くいくような気がしないでもない。

 

それにより『オーズ』と『青騎士』の戦いは、例えるならスピードでは互角だが、連続使用が可能なクロックアップシステムを搭載しているカブト系ライダーと、連続使用が不可能なファイズ・アクセルフォームと言った所だろうか。

 

そこで俺は『青騎士』のナスカメモリによる活動限界を狙い、その瞬間をメダジャリバーで一閃。ナスカ文明の剣士に蛇使いのインド人が勝利すると言う、ビジュアル的になんとも言えない幕引きとなった。

 

『青騎士』が解除されて「体が動かない」と倒れたまま言うマドカを、何時ぞやの楯無みたいに姫抱きして運んだが、マドカから「ぐへへへへ」とか聞いてはいけない笑い声が聞こえてきた。まあ、気のせいだろう。多分。

 

「しかし良く頑張った。ご褒美に何か欲しいものとかあるか?」

 

「!……な、何でも良いのか!?」

 

「ウム。さあ、この大首領様に何でも言ってみんしゃい」

 

「(大首領?)そ、それなら、今度の週末にバイクで何処か遠くに出かけないか?」

 

「ツーリングか。それでいいのか?」

 

「ああ」

 

次の日曜日、マドカと二人で『ハードボイルダー』に乗ってツーリングに出かけた。途中で運転を交代したり、道中のドライブインで名物料理を食べて、道の駅でちょっと休憩したりして、行ける所まで『ハードボイルダー』を走らせた。ただそれだけだったのだが、マドカの欲望は満たされたようだ。

 

 

 

そして『VTシステム』の元ネタにして、『白式』の抱える爆弾と言うべきモノ。『白騎士の意思』について、俺、アンク、束、織斑先生の四人で話し合った。

 

「束、『白騎士の意思』を『白式』から取り除く事はできないのか?」

 

「ごめん、ムリ。だって束さんが『白式』を造った時だって、ISコアの中にそんな存在がいるなんて全然分からなかったんだもん。アンくんに言われてもう一回調べ直してみたけど、『白騎士の意思』が何処にいるのかも全然分からないよ」

 

「そうなると……『白騎士の意思』を無くするには、『白式』のISコアごと完全に破壊するしかないのか?」

 

「そうだな。或いは『白騎士の意思』が表に出て来た時に、完全にそれを消し去るかだ」

 

「完全な破壊か……」

 

「一夏にどう説明します? 『白式』の代わりに『黒柘榴』を渡しますか?」

 

「……いや、一夏と『白式』については私が責任を持って対処する。お前達は気にするな」

 

そう言うと織斑先生は足早に立ち去った。あんな事を言っているが、本当に大丈夫なんだろうか。何となく織斑先生が、『鎧武』のメロンニーサンみたいになりそうで不安だ。

 

「あんな事を言ってるが……どう思う?」

 

「ん~~、ちーちゃんの言う通り、いっくんの事はちーちゃんに任せれば良いんじゃないかな?」

 

「ま、お手並み拝見ってトコだな」

 

束は織斑先生を信じているようだが、アンクは完全に高みの見物を決め込んでいる。何だか構図がユグドラシルっぽくなっている気がする。やっぱり不安だ。

 

 

 

そして、コレが『NEVER』にとって、もっとも大きな変化であると言えるだろう。

 

鈴が『NEVER』の一員となったのだ。

 

あれから鈴は改心し、織斑先生や一夏、そして千歳先輩にも、ちゃんと頭を下げて謝った。俺との会話においても、以前と違って暴言と暴力が振るわれる事は無くなった。ちなみに鈴はUFO否定派だそうだ。

 

ただ、中国代表候補生の王は鈴との一戦でISに対して恐怖心が根付いてしまい、代表候補生を辞めて中国に帰ってしまった。鈴は王にもちゃんと謝ったものの、その事をずっと後悔している。

 

そんな鈴は、事件から10日が経過した頃、自分の家族の事を俺に語り始めた。

 

「あのね。あたしのお父さんとお母さんって、日本で中華料理のお店やってたの。でも、実は経営があまり上手くいってなくて、赤字が続いたりして、なんとかギリギリでやってる状態だったんだって。

それで借金してでも続けるか、それともお店を畳んじゃうかってお母さんと話になって、それがきっかけで二人の仲が悪くなっちゃって離婚したんだって」

 

「口ぶりから察するに、お前は離婚の理由を知らなかったのか?」

 

「……うん。あんなに仲が良かったお父さんとお母さんが別れる理由なんて、わざわざ知りたくも無かったしね。

それでお父さんは、離婚してから借金して新しくお店やってるんだって。結構儲かってるみたい。ちなみにお店の名前は『鈴音』らしいわ」

 

「スゲー愛されてるな」

 

「うん……でもね、もしもあたしがあの時に『借金なんてへっちゃら』とか、『ずっと三人で一緒に暮らしたい』って言ってたら、お父さんもお母さんも離婚しないで済んだのかなって……」

 

「と言うと?」

 

「お父さんとお母さんに電話した次の日にね、向こうで二人が電話で話し合って、それで今度の土曜日に一緒の飛行機に乗って、あたしに会いに日本に来るんだって。宿泊先のホテルでも同じ部屋に泊まるんだって言ってたわ」

 

「……もしかしたら両親のヨリが戻りそうだと?」

 

「うん。『子は鎹』って事かしらね?」

 

どうやら鈴のかけた一本の電話が、離れ離れになった両親の仲を取り持つ事になったらしい。その原因を考えると非常に複雑だが。

 

「それと……あたしね? 代表候補生を辞めようと思ってんのよね」

 

「……ん? 鈴は『ブリュンヒルデ』になる夢を諦めるのか?」

 

「まあね。元々、『ブリュンヒルデ』になりたかった理由が理由だし、あたしは権力とか特権とか、そーゆー社会的な力ってヤツを持っちゃいけないんだって、身に染みて分かったしね」

 

「……代表候補生の椅子には未練は無いと?」

 

「無いわ。でも、せっかく一年間頑張ったし、代表候補生を辞めたら、多分中国に帰らなきゃいけないし……それでどうしようか悩んでるの」

 

「ほう……それで?」

 

「そ、それでさ、あたしって結構引く手数多なのよ。今も色んな国から『専用機持ちの代表候補生にならないか~』とか、色んな企業から『テストパイロットにならないか~』とか打診されてるのよね」

 

……何か、色々と邪悪な欲望が見え隠れしている感じのするヘッドハンティングだな。禄でもない事を考えている感じ。鈴の才能はアンクも認めている程だし。

 

「ほう……それで?」

 

「そ、それでよ? 今までよりもずっと良い条件の所もあるんだけど、全部断ろうと思う訳ね?」

 

「ほう……それで?」

 

「だ、だから……その……あ、あんたから見て、あたしって、どう?」

 

「まあ……嫌いじゃないな」

 

俺は鈴からこの返事に対する何らかのツッコミを期待したが、鈴からは何のツッコミも無かった。

 

「そ、それでさ……あたし……『NEVER』に……入りたいんだけど……」

 

「……は?」

 

「や、やっぱり、嫌? あ、あたしみたいな厄介者なんて……」

 

「いや、それを言うなら俺は世界レベルの厄介者だぞ? 何せ『世界を破壊する悪魔』だからな」

 

「うっ……そ、そんな風に自嘲されると困るわよ……」

 

「悪い……。だが真面目な話、どうして『NEVER』に入りたいんだ?」

 

ちなみに現在『NEVER』は総勢6人の会社で、非常にアットホームな雰囲気の職場である。月給は日本円にして手取り12万円。主な収入源は、ドライバーやメダルとメモリの玩具だ。

 

「あたしね? ずっと見返りが欲しくて、守ろうとしてたの。でも『守る』って言うのは……誰かを傷つけて自分の強さを証明したり、誰かに見せ付けたりする様な事じゃ無いって、思ったの。

それで……あたしも “変身”がしたいの。感情に流されて、力に溺れたりしない。力じゃなくて、心が強い自分になりたいの。だから、あんたの所で働けばそうなれるのかなって……」

 

ふむ……。俺が見る限り鈴の目からは、時々『NEVER』の入社について打診に来る三年や二年の先輩方や一学年の同級生から感じる、「誰よりも強い力を求めて」と言う様な思惑は感じられない。アレは本気でウザイ。

 

しかし鈴は言葉の通り、「本気で変わりたい」と思っているように見える。

 

「……とりあえず他の皆と相談してみる。それから試験をして採用するかどうか決める。それで良いか?」

 

「お、お願い……します」

 

鈴は深々と頭を下げて陳情した。

 

その夜。鈴を『NEVER』へ入社させるか否か。俺、アンク、束、クロエ、箒、マドカの6人で話し合うことになった。

 

「何であんな、ちんちくりんを雇う必要があるのさ? アンくんも何で止めなかったの?」

 

「あ? そりゃあ、中華娘の性格はアレだが才能はピカイチだからなぁ。その性格が改善されたならアレは都合の良い鉄砲玉……もとい、使い勝手の良い駒……いや、戦闘員が手に入る良いチャンスだと思ってな」

 

アンクは正直だった。そして言い直す必要は全く無かった。

 

「む~~。ゴッくんはどうして?」

 

「明らかに以前とは目の色が違うし、本気で自分を変えたいって思っていると感じたからだ。それにこのまま放って置くと、鈴と鈴の両親がエライ目に遭いかねない」

 

「? 何でちんちくりんがエライ目に遭うのさ?」

 

「政治家って人種のバックにはあらゆる職業の組織がある。農水産・土木・貿易・医療・教育・重工業・ハイテク・宗教・エトセトラ・エトセトラ……。

それらの力を持った組織が、自分達の権利や主張を守ったり、より強くしたりする為に、政治家どもと複雑に絡み合っている。表側の組織は元より、裏側の組織もそうだ。所謂、癒着ってヤツだな」

 

「金と利権で繋がったお友達と言うヤツだな?」

 

「正解だ、偉いぞマドカ。そんな腐った奴等が実際に国家を回している訳だが、ソイツ等が今まで散々やりたい放題で色々とやらかした鈴が、代表候補生を辞めて『はい、お終い』で済ませる訳が無い。鈴が幸せを掴もうとしているなら尚更だ。言ってみれば“嫌がらせ”や“憂さ晴らし”の類だが、奴等は確実にそれをやる」

 

「自業自得だがな」

 

「つまり、身内にして凰を守ると言う事か?」

 

「正解だ、偉いぞ箒。このまま放って置いた場合、凰家は様々な工作によって再び一家離散の憂き目に遭い、鈴は脂ギッシュな小汚いキモデブオヤジ達に弄ばれ、ヌッチャヌッチャのグッチョグッチョにされるNTR快楽堕ちエンドのルートに突入する。

ちなみにこのまま代表候補生を続けたとしても、将来的には権力者の愛人と言う名の性玩具ルートだ」

 

「……ちょ、ちょっと待ってくれ。それは本当に有り得る話なのか?」

 

下ネタをガンガンぶち込んだ会話の内容に、箒がかなり引いている。「UFOの時と同じで嘘なんじゃないのか?」と思っているようだが、全て本当の話だ。実際にそうなった人間が何人か確認されている。

 

「信じられないのも無理は無いが事実だ。実際に今の中国で、権力の椅子に座っている奴の中には、ロリペドで、ショタコンで、鬼畜リョナで、ドSでド変態の、青髭ボーボーの性倒錯者が居る」

 

「まあ、その場合はヤクザな連中を金で利用したりするんだが、それも特に珍しい事では無いな」

 

「そ、そうか。アンクやマドカがそう言うなら、確かにそうなんだろうな」

 

箒はアンクとマドカのお蔭で納得してくれたが、ちょっと例えがキツ過ぎたようだ。もう少しマイルドに表現するとしよう。

 

「しかし、それなら凰が『NEVER』に入社するのを、中国は色々と理由をつけて邪魔しようとするんじゃないか? どう足掻いても凰に嫌がらせをしたいんだろう?」

 

「いや、中華娘にISを与えるには新規のISコアが必要になる。そうなればISの絶対数は自然な形で増える。中華娘が入社してISが渡されたら、上手い事借りパクしようとか考えているだろうな。

量産機の『黒柘榴』はガイアメモリ対応型ではないが、それでも現在のISの科学レベルから見れば、その性能は充分過ぎるモノだしな」

 

「そうなるとさ~。やっぱり、ちんちくりんを採用しなくても良いんじゃないの? 大体、代表候補生を辞めるなんて話自体、嘘なんじゃないの?」

 

「それなら中華娘が入社してから、さっき言った中国政府のドス黒い闇を見せれば良い。実際ココからISを奪取したら、中華娘は用済みだろうしな」

 

「そのネタは『鈴の家族に手を出したら世界中にバラす』って中国政府を脅す時に使えば良いと思うが?」

 

確かにISの保有数を減らされた以上、中国がそんな手段を取ってきてもおかしくは無いとは思うが、鈴がISを奪取して中国に持っていくと言うのは、前の鈴ならまだしも、今の鈴からはちょっと想像できない。

 

「しかし、奴のカッとなればISの武装を生身の人間に使う癖は致命的だぞ。何か考えでもあるのか?」

 

「そうだな……生身の人間に対してISの武装を展開すれば、その瞬間に金盥が頭に振ってくる『O-RENシステム』を組み込んだ『黒柘榴』を鈴に与えて、カッとなったらISを使うかどうか試すのはどうだ? 頭に金盥が落ちてくるから分かりやすいだろ?」

 

「なるほど。文字通り、目に見えて分かる訳か……」

 

「イイね! それなら試験官は束さんにやらせてくれない?」

 

「……そうだな。やってくれるか?」

 

「オッケー、オッケー!」

 

「それと他にも何かアイディアがあったら言ってくれ。俺は他に『点火したライターの炎を24時間守りきる』と言う試験を提案する」

 

「高確率で火事になりますよ、兄様」

 

「そもそも中華娘は相部屋だろうが」

 

情熱的な某イタリアギャングの入団試験は却下された。しかし、クソデブタコ親父の信頼云々の話については、皆が理解を示してくれた。良かった。

 

 

●●●

 

 

「コレもまた人を惑わす力の一つだ。使い方を間違えれば、お前は簡単に滅びへと至る。お前のちっぽけな意志が本物かどうか、この力を持って図らせてもらう」

 

右腕状態のアンクは腕の中から待機状態の『黒柘榴』を取り出し、台本通りの台詞を言った後で『黒柘榴』を鈴に手渡した。そしてアンクから『黒柘榴』を受け取った鈴は、束の待つ地下のガレージに向かった。「何で俺がこんな事を」とぶつくさ言っていたが、ツンデレのアンクはちゃんと仕事をこなしてくれた。

 

「しかし、どんな試験なんだろうな?」

 

「さあな。だがウサギ女の事だ。禄でもない内容だって事は間違いない」

 

俺、クロエ、箒、マドカ、それに飛んできたアンクの5人は、複数のカンドロイドから送られてくる映像を一枚の大型モニターに写し、様々な視点から束が考えた鈴の採用試験の様子を観察する。

試験の内容に関して、アンクは絶対にとんでもない事になると確信しているようで、これもある意味で信頼の成せる業だと思う。

 

そして、いよいよ鈴の運命を掛けた、『NEVER』の入社試験が開始される。

 

『よ、宜しくお願いします!』

 

『うん。ねぇ、ちんちくりん?』

 

『ちっ!? は、はいなんでしょうか?』

 

『中国では「おっぱい大きい人は頭が空っぽだ」って俗説があるらしいけど、ちんちくりんはどう思う?』

 

『わ、私はそんな事は無いと思います……』

 

『それじゃあ、ちんちくりんはおっぱいなんてタダの脂肪の塊だと思う?』

 

『ええっと……』

 

ワザとわがままボディを強調して質問する束に対し、鈴は何とか返答していた。内心「くっ! コレが噂の圧迫面接ってヤツね!」とか思っているかも知れん。

 

それにしても、さっきから乳の事しか話していない。何考えてんだアイツ。

 

『所でさ? 感情に流されないように努力してるって本当?』

 

『は、はい。イライラしたからって、殴ったりするのを辞めるって心に決めたんです』

 

『ふ~~~~~~~~~~~~~~~~ん。それじゃあ、早速努力の成果を見せてもらおうかな?』

 

束の指パッチンと同時に、二人の居るガレージが変形して音楽が流れる。その急展開に鈴は唖然としている。

 

『な、何なんですか!?』

 

『それじゃあ行っくよ~~! らぶりぃ束さんが歌います! 曲はブリーフ&トランクスで「ぺチャパイ」!!』

 

『へっ!?』

 

「「「「「はあっ!?」」」」」

 

頬を引きつらせた鈴の前で束が歌うのは、「ブリーフ&トランクス」の「ぺチャパイ」。ぺチャパイの良い所を、ただひたすらに歌い上げると言うこの曲。ひんぬーの女性に対して歌ったが最後、手酷いしっぺ返しを受ける事間違いなしなこの歌。それが束の高い歌唱力と、無駄に美しい田村ゆかりボイスでカバーされているのだ。曲の音源は恐らくミュージックメモリの中から引き出したのだろう。

 

それにしてもこのウサギ、独特のダンスまで加えて超ノリノリである。

 

『………………』

 

「なんちゅう面してんだ……!」

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

束の精神攻撃を青鬼の様な表情で耐える鈴。ただし顔の色はブルーベリーの様な青ではなく、烈火の様な燃える赤……いや紅に染まっている。あまりの形相に、鈴はこのまま憤死するんじゃないかと、見ていて心配になる。アンクはそんな鈴を見てキャラ崩壊した笑顔で爆笑している。外道だ。

 

「……粘るな。私ならとっくの昔に襲い掛かっているぞ」

 

「ええ。只でさえ束様の様なプロポーションを持つ方から、あの様な歌を直に聞かされるのはこれ以上無い屈辱だと言わざるを得ません」

 

「姉さん、貴方はなんて残酷な事を……」

 

「……嫌味か?」

 

「嫌味ですか?」

 

「ち、違うぞ! 断じて違うからな!」

 

一方こちらは、マドカ、クロエ、箒の三人。前よりずっと落ち着いているマドカとクロエだが、弱点と言うものは自分で把握していても他人に言われるとムカつくものである。

そんな二人が妖怪化する気配を感じた箒は必死で弁解し、あの時の二人がよっぽど怖かったのだろう、俺の体にしがみついて俺を二人の盾にしている。

 

「クロエ、『黒柘榴』から送られてくる鈴のバイタルは?」

 

「……心拍数や血圧の上昇等から確実に怒っています。正直見る必要性を全く感じませんが」

 

……そうだな。あれで怒ってなかったら、何が怒ってる事になるのか分からない。

 

『~~♪ イェイ! センキューーーーーッ!!』

 

『フーーッ! ハァーーーーッ! フーーッ! ハァーーーーッ!』

 

束が「ペチャパイ」を歌い終わり、独特なダンスを踊り終わるまで、鈴は必死に耐えた。そして耐え切った。若干過呼吸気味だが、鈴はやり遂げたのだ。

 

『おおっと、これで終わると思ったら大間違いだよ? この後はパルコ・フォルゴレの「チチをもげ」と、宮崎吐夢の「バスト占いのうた」を聞いた後で、ちんちくりんにもその三曲を歌ってもらうんだからね? 勿論、束さんと同じダンスも加えたヤツだよ♪』

 

「やめたげてよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

束と違って(失礼だと思うが)鈴には「もげ!」する程のモノは無い! 更によりによって鈴に、とあるカップが好きな男は人格が卑屈過ぎると、鈴に言わせるつもりなのか!?

 

束のあまりに残酷で非道な所業に俺は絶叫した。

 

とは言うものの、諸悪の根源はこの俺の前世の記憶だ。この世界にあんな歌を持ち込み、ミュージックメモリに記憶した過去の自分を殴り飛ばしたくなった。そして束の歌う『チチをもげ』と『バスト占いのうた』は、やはりムカつくほど上手く完璧だった。

 

束は三曲歌って踊りきり、「ふぅ、いい汗かいたぜぇ♪」と言った感じの達成感に満ち溢れた顔で、「う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か」と言った感じの凄まじい形相をした鈴にマイクを渡した。

 

鈴はヤケクソな精神状態を全身で表現する様な激しいダンスと共に、束が歌った三曲を全て歌いきった。その三曲を歌う間、鈴は体中から蒸気を発し、青筋を立てた頭の血管が切れ、唇を噛み切った所為で口から血が滴り、力を込めすぎたのか鼻血を噴出し、殺意に溢れた目から血涙を流す。

 

その姿は正に“満身創痍”と呼ぶに相応しいものだった。

 

しかし、それでも尚、鈴はISを一度も展開しなかった。束に襲い掛かりもしなかった。ただひたすらに歌い、ただひたすらに踊り続けたのだ。

 

「……やった。鈴の奴、遂にやり遂げたぞ」

 

「ああ、一度もISを展開しなかった」

 

「人間って面白いな。歌を聞いたり歌ったりするだけでああなるのか」

 

嘗てこれほどの感動を演じた人間が居ただろうか? 過去の自分を乗り越え、新しい自分へと変身を果たした鈴を、何としてでも讃えなければならない。

 

「さあ! 皆で鈴を讃えよう!」

 

「「「オオオーーーーッッ!!」」」

 

「………」

 

約一名……いや、一羽を除いて、そんな使命感に突き動かされた俺達は、束と鈴の居る試験会場に雪崩れ込んだ。ドアを開けたその時、限界を当の昔に迎えていた鈴は、遂に膝から崩れ落ちた。そのまま前のめりに倒れこんだ鈴を、俺は間一髪で抱きとめる事に成功した。

 

「鈴! しっかりしろ!」

 

「ほう。これが『憤死』ってヤツか。初めて見るな」

 

「……違う! 鈴は闘って死んだのだ! 『憤死』ではない! コレは『闘死』だ!」

 

「ああ! ゴクローの言う通りだ! コイツは立派に闘って死んだんだ! コイツは立派な戦士だ!」

 

「か……勝手に、殺さないで……」

 

「! 兄様! まだ息があります!」

 

「ありゃりゃ、やけにしぶといね。もしかして、おっぱいに行く筈だった栄養で、生命力をゴキブリ並みに強化してるのかな? ねえ、箒ちゃん!」

 

「わ、私に質問をするなぁあああああああああああああああああああっっ!!」

 

秩序も何も無い混沌極まる空気の中、鈴は蚊も鳴くような声で俺に語りかけてきた。

 

「ゴクロー……」

 

「待て、それ以上喋るな!」

 

「あたし……変わっ……れるの……かな? “変身”……出来るかな?」

 

「!! ああ! お前なら出来る! いや、お前は立派に“変身”した!」

 

「あ……ありが……とう……、その言葉で……私は……」

 

鈴は俺の言葉を聞くと安らかな顔をし、ガクッと全身から力が抜けた上で目を閉じた。

 

「鈴んんんんんんんんんんんんんんんっっ!!」

 

鈴は合格した。

 

何かしらの気に入らない事があると、即座に洒落になら無い攻撃を加える暴力チャイナ娘は、この世界から春の淡雪の如く消え去ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3時間後。俺達の必死の看病の甲斐もあって、鈴はちゃんと復活した。




きょうの妖怪大辞典

マドさん
 別名:妖怪乳おいてけ。同族(ひんぬー族)には優しいが、巨乳には一切容赦しない。口癖は「(巨乳を)もんげーーっっ!!」。田舎者と言うよりは、箱入り娘的な世間知らずその1。怒りが頂点に達するとデジヴァイスを用い『修羅魔怒【しゅらマド】』にメガシンカする。違う作品が混ざっているが気にするな。ゴクニャンを呼べば大体解決する。アンべぇを呼ぶでも一時凌ぎにはなる。しかし、クロじろうを呼ぶと戦況が一気に悪化する。
 必殺技は『巨乳狩り』。絶対発動でガード不可。一狩り行こうぜ(巨乳を)。悪い巨乳はいねが~!?

クロじろう
 別名:妖怪巨乳毟り。ゴクニャンの義妹で、お兄ちゃんっ子。田舎者と言うよりは、箱入り娘的な世間知らずその2。両目に金色の写輪眼を開眼した幻術のエキスパート。仕込み杖を常時携帯しており、生身の戦闘能力もそれなりに高い。
 必殺技は現実世界で瞬時に相手を幻術に嵌める『月読』で、超必殺技にISのバーチャル世界で発動する『限定月読』ズラ。でも兄ちゃんの『イザナミ』には敵わないズラ。兄ちゃんスゲーズラ。

リッティ
 最下級の戦闘員にしてIS学園の守護神。中国妖怪であり、夏休み期間には中華料理屋『鈴音』に出没するらしい。一度見たら決して忘れられない凄まじい形相をしているが、人に危害を加える事は滅多に無い為、同じ顔をしたブルーベリー色の巨人よりずっと安全で安心。
 スタバァコーヒーなる場所に「トッティ」と呼ばれる、ピンク色のドライな亜種が存在するが、そちらは通りすがりの『5人の悪魔(ディケイドではない。カラーリング的にはプリキュア)』に退治されたらしい。
 原作8巻の『ワールド・パージ』を見る限り、「両親が健在だった頃が一番幸せだったんだろうな……」と思ったので、ご都合でも両親の仲を回復させる事は始めから考えていた。


……&解説

O-RENシステム
 元ネタは『鎧武』の凰蓮ロックシード。『ミレニアム』の試作品を元に、束がISのシステムとして作り直したもの。生身の人間に対してISを展開し、悪意を持って危害を加えようとする馬鹿者の頭に金盥を落して制裁する。「ばっかも~ん!」の音声も吉田メタルボイスで完全再現。
 しかしこのシステムをISに搭載すると言う事は、ISを渡された側からすれば「貴方を信用していない」と言われている様なものであり、傍から見れば危険人物のレッテルを貼られているのと同義なので、アンクは「売り出しても全く売れないだろう」と推測している。


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第23話 Round ZERO~BLADE BRAVE

前話で原作一巻相当の時間は終了です。

しかし、原作第二巻。つまり、シャルロットとラウラが登場するまで少しクッションを挟みます。

時間は掛かると思いますが、最後まで書いていくつもりです。

ダメージ回復には時間が掛かりますが……。

それでは皆さん、よき週末を……。


無限に続くと思えるほどに、どこまでも広く青い空の下、同じ様に見渡す限りに広がる青い海の上に、私は立っていた。

 

どこかで見た事があるような、そんな二つの青色に満たされた世界の空が、突然の爆炎によって赤く染まる。視界を埋め尽くさんばかりに広がる赤い炎と黒い煙の中から、無数のミサイルと航空機、そして監視衛星の残骸がバラバラと海に落ちていく。

その後も継続して爆発と爆炎が巻き起こる空をよく見ると、炎の中に剣を振るう人影らしきものが見える。その人型は向かってくるミサイルや戦闘機を全て斬り裂くと、何時の間にか海に浮かんでいた多数の空母や巡洋艦をも両断し、海もまた炎と煙で赤黒く染まった。

 

全てが炎と煙で彩られた世界の中、空中に佇む一人の戦士。

 

誰だ? アレは誰だ?

 

……ああ、そうだ。アレは私だ。

 

あの日の夜。私達は両親に捨てられた。絶対的な味方である筈の存在に、私は手酷く裏切られた。その事実に心の奥底から絶望し、人間と言うモノに失望した。

それでも尚、私は二人の子供として過ごした暖かな記憶を、捨てる事も忘れる事も出来なかった。「自分の家族は一夏だけだ」と嘯きながら、心の奥底では自分を捨てた父と母を求めていた。しかし、一夏を不安にさせない為に、私はそんな思いをずっと隠すことにした。

 

この世界では絶望の淵に立たされた多くの人間は助けや慈悲を請う。しかし、そんな人間にこの世界は優しくしたりしない。そんな陳情するだけの人間を、誰かが助けたり救ったりする訳が無い。

 

戦え。本当に救われたいのなら戦え。戦いとは祈りそのものだ。あきれ返るほど祈り、あきれ返るほど戦え。裂けて砕けて割れて散る、祈りと祈りと祈りの果てに。惨めな私の元に、哀れな私の元に、天来の福音は必ず訪れる。

 

そして10年前のあの日。当時14歳の私と束は、世界を変える為に動いた。

 

それは日本が確実に壊滅するだろう未曾有の危機。その危機から日本を救ったとなれば、その人物は間違いなく救国の英雄だ。

 

それなのに私は『白騎士事件』の際に、正体を明かす事をしなかった。

 

それは『白騎士事件』が束と私が起こしたマッチポンプだと、世間に露見する可能性を恐れたからだ。私達の正体が救国の英雄等ではなく、国を危険に晒したテロリストなのだと世間に知られれば、きっと両親は二度と自分の前には現れない。

 

だからこそ『白騎士』はフルフェイスの全身装甲のISで、誰が操縦者なのかよく分からないようにした。『白騎士事件』の後に『白騎士』のISコアを初期化し、『白騎士事件』に関するデータを、真実と共に完全に闇に葬った……筈だった。

 

ISは『白騎士事件』の後に世界各国に広く知れ渡り、現行兵器を軽く凌駕するISを軍事に利用する事を考えた各国は、躍起になってISを取り入れようとした。当初の目的である宇宙開発からは大きくかけ離れていたが、とにかく私達は「ISが認められる」と言う結果が、どうしても早く欲しかった。

 

両親のいない私は高校に進学なんて出来ない。だが、中卒では働ける所はたかが知れている。

 

しかしISが認められれば、必然的にIS操縦者を育成する為の教育機関が、ISの開発国である日本に生まれる筈だと、束は確信していた。

 

そして束の言う通り、日本にIS学園が設立されたお蔭で、私は束と一緒に進学する事が出来た。それにISにおいて優秀な成績を出した事で、特待生として学費が免除される事も大きかった。

 

多くの国々の科学者が、夢物語の産物だと断言したISを必死に手探りで理解し、迷走しながらその使い方を模索していく中、束に協力した為に正解を知っていた私は、ISの能力を全て知り尽くした上で鍛える事が出来た。私が『世界最強の女【ブリュンヒルデ】』の称号を手にしたのは、束の言う通り不思議でも何でもない。当然の結実だと言えよう。

 

そして、第一回モンド・グロッソで総合優勝を果たした私に送られたのは、大勢のファンの拍手と喝采、尊敬と畏怖と羨望の眼差し、誰も手にした事の無い栄光と高み。それは今までの私の人生において、決して訪れる事の無かった輝きだった。

 

祈りを剣に込め、数多の敵を斬り裂き、斬り伏せ、斬り倒してきた私の元に、間も無く『楽園【エルサレム】』は降りてくる。私の元に、あの二人は帰ってくる!

 

――それで?――

 

――それで結局、お前は父と母に再会できたかのか?――

 

――お前の望んだ『楽園【エルサレム】』は、お前の元に降りてきたのか?――

 

――答えろ『白騎士』。答えてみせろ『世界最強の女【ブリュンヒルデ】』。――

 

ISによって新世界が到来して以降、世界はより大きな驚異と脅威に満ち、より大きな闘争と鉄火で溢れている。今も世界の片隅で、ISによる戦争が、殺戮が、侵略が、悲劇が当たり前の様に起こっている。

大国はそうでもないが、ISが登場してからの10年で世界の人口は減り続け、幾つもの地名が消えている。いや、正確には地名が消えたのではない。人と街が消えたのだ。

 

――何でそうなったと思う?――

 

――お前の為だ。お前の信じるものの為だ。お前の求めるモノの為だ。お前の楽園の為だ。お前の祈りの為だ。――

 

私は権力をよく知らなかった。私は戦争をよく知らなかった。私は政治をよく知らなかった。私は欲望をよく知らなかった。私は世界をよく知らなかった。

 

3年前のあの日、私は『世界最強の女【ブリュンヒルデ】』の称号を持つが故に、私は家族を害する事になったのだと思った。

 

手に入れた栄光も、轟かせた名声も、無敵も、不敗も、誰もが認める最強も、その全てが自分を苛む罪へと成り下がった。

 

10年前のあの日、私が『白騎士』でいる事にいられなかった様に、私は遂に『世界最強【ブリュンヒルデ】』である事にも耐えられなくなった。

 

結局、私が最初から欲しかったモノは手に入らなかった。私の祈りは届かなかった。

 

「度し難い。全く持って度し難いな。『白騎士』」

 

「!?」

 

「やあ、はじめまして『お嬢さん【フロイライン】』。ようやく直に御目見得出来て嬉しいね」

 

初めからそこに居たのか。それとも出現したのか。私の後ろに、にたにたとうすら笑っている様な嫌な目と、頬の肉皮を僅かに歪ませ上げる嫌な笑い方をした、一人の男が立っていた。その姿は報告会の時の、シュレディンガーの服装と酷似している。

 

「せっかくのショウなんだ。どうせなら綺麗なご婦人と最高の席で観なければ」

 

「ショウ……だと?」

 

「ああ、ショウタイムだ。楽しみ給えよ、君」

 

男が指を鳴らすと、男の背後から爆発と爆炎が巻き起こった。先程と同じ様な光景が広がるが、先程と異なり海へ落ちていくのがミサイルや戦闘機の残骸ではない。破壊されたISの残骸だ。それも100や200ではきかないほどの大量のISが、天空から海上へと落下していく。

 

「これは『有り得たかも知れない可能性』の一つだ。現在ではない何時か、現実では無い何処かのお話だ」

 

無数のISを破壊して生まれる炎の中から、時折光る三つのリングと、空間の断裂が確認出来る。それによってこの光景を造りだしているのは、間違いなく『オーズ』だと、シュレディンガーなのだと理解した。

 

「全ての始まりにして祖たる者。『白騎士』がこの世界から無くなってしまうのだから」

 

「……な……に?」

 

男の言葉を肯定するかの様に、『オーズ』は『白騎士』と空中で対峙していた。

 

「全てのISは破壊した……残っているのは『白騎士』、お前一人だ!」

 

「………」

 

「……出来れば俺は戦いたくなかった!」

 

「戦う事でしか……俺とお前は分かり合えない!」

 

戦闘の回避は不可能。そんな思いを『白騎士』が私の声で言葉にした瞬間、『白騎士』の全身が青い炎に包まれ、シルエットが大きく変わっていく。『白騎士』の背面のウィング・スラスターが大型化し、左腕に大型の手甲らしき武器が出現。更に青い炎の意匠が両腕に刻まれている。

 

私の知らない『白騎士』の姿がそこにあった。

 

「戦え……」

 

「!! ぐうっ!!」

 

『白騎士』が大型ブレードを右手に召喚し、切っ先を『オーズ』に向けたその時、『オーズ』の体を紫色の電流が流れ、緑色の複眼が紫色に染まった直後、ドライバーの赤・黄・緑のメダルが全て紫色に変化した。そして手を触れていないのにスキャナーがひとりでに動き出し、ドライバーのコアメダルをスキャンする。

 

『プテラ! トリケラ! ティラノ! プットッティラーノ・ザウルース!』

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

全身を紫色に輝かせながら凄まじい冷気を発し、一瞬だけ紫色のエネルギーで出来た大きな翼と尻尾を展開して、恐竜の様な咆哮をあげる『オーズ』。

頭から背中に掛けて翼竜を思わせる紫色の翼を広げ、重厚感と堅牢な印象を持たせる紫の装甲を纏い、その下のスーツは黒から白銀に変化し、背中に二対のドリルを思わせるパッケージを装着している。

 

これもまた、私の知らない『オーズ』の姿だった。

 

「同類……そして、敵ッ!!」

 

「フゥッ!」

 

先手を取ったのは『白騎士』。左手から荷電粒子砲を放つ『白騎士』に対し、『オーズ』は背中のドリル状の武器を射出し、前方に向けてY字状に展開させるとそこからバリアシールドが発生。『白騎士』の荷電粒子砲から身を守った。

 

それを確認した『白騎士』は、『オーズ』の張ったバリアシールドごと『オーズ』を斬り裂こうと、急接近して大型ブレードを振り下ろす。しかし、それは『オーズ』に読まれており、『オーズ』はバリアシールドを解除し、前に出ながら『白騎士』の右手首を掴むことで攻撃を受け止め、一瞬だけ動きの止まった『白騎士』を殴りつける。

 

強力なパンチを受けて体制を崩した『白騎士』に向けて、『オーズ』は再びドリル状の武器をY字状に展開する。そこから生み出されるのはバリアシールドではなく、極太の荷電粒子砲だ。

さっきのお返しとばかりに放たれた、『オーズ』の荷電粒子砲は、『白騎士』の左腕に新たに搭載された手甲が変形し、そこから生まれたバリアシールドによって掻き消された。

 

「なるほど、『零落白夜の盾』か。光学兵器には絶大な防御力を発揮する装備だな。他にも何か有りそうだが、まあ予想の範囲内だ」

 

男が『白騎士』の新しい能力について考察する中、お互いにエネルギー兵器を用いた遠距離攻撃では決定打にならないと判断したのか、『白騎士』と『オーズ』は高速の格闘戦を展開し始めた。

 

『白騎士』は大型ブレードと、手刀状にしたクローから発生する『零落白夜』の二刀流。或いは「零落白夜」のエネルギークローを用いるなど、状況に応じて左手の装備を臨機応変に変化させて攻撃している。

 

『オーズ』は高速回転する上に遠隔操作できる二本のドリル状のパッケージに、新たに左手から召喚した紫色の刃を持つ大型アックスを使って攻撃。その大型アックスを見た瞬間、何故か知らないが私の背中にゾクリと悪寒が走った。アレがとてつもなく危険なモノだと、本能が教えているようだった。

 

空中で何度も大型クローと大型アックスが激しくぶつかり合い、大型ブレードと高速回転するクローが激突し火花を散らす。時折、牽制目的の荷電粒子砲やレーザーが放たれるが、全てかわすか、防がれている。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

青白いエネルギーがチャージされた大型ブレードと、紫色のエネルギーがチャージされた大型アックスの鍔迫り合いが起こり、お互いの必殺の刃が触れている部分から、激しい閃光が発生する。

そんな拮抗状態を崩したのは『白騎士』。大型化したウィング・スラスターを最大限に稼動させ、その推進力を上乗せした力で大型ブレードを振り切り、『オーズ』は弾き飛ばされて海に叩き込まれた。

海から巨大な水柱が上がるが、『オーズ』が沈んだ海は瞬く間に凍り出し、水柱は氷柱に、海原は氷の大地に変化した。

 

「ぬうぅ……」

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

海中の『オーズ』を炙り出すつもりか、海に向かって荷電粒子砲を放とうと左手を向けた『白騎士』の後方に、突然右手にスキャナーを持った『オーズ』が出現した。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

「フゥアッ!!」

 

「!! ぐぅうッ!!」

 

まんまと『白騎士』の背後を取った『オーズ』は、ドライバーに装填されたコアメダルをスキャンして必殺技を発動する。

すると『オーズ』の両肩にある恐竜の角を模した部分が槍の様に鋭く伸びて、『白騎士』の両肩を突き刺した。伸びた角は『白騎士』の両肩を貫通し、角の先端付近に白い牙の様な形をした返しが生えた。あれでは簡単に外す事は出来ない。

 

「ウブゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「ぬっ! ぐぁああああ……ぐぎっ……があ……ぁ……」

 

なんとか角を外そうともがく『白騎士』に紫の翼から強烈な冷気を浴びせ、『白騎士』を凍結させて動きを封じると、『オーズ』は凍りついた『白騎士』を上空に放り投げ、刺していた角を引き抜いた。

 

『FANG・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「……ぁ……がああああッッ!!」

 

紫の波動を纏った『オーズ』の右足の踵から白いブレードが出現。紫色の恐竜の頭蓋骨の様な形をしたエネルギーと共に、落下してくる『白騎士』に向けて回旋蹴りが繰り出される。

 

しかし『オーズ』の必殺技が当たる直前で『白騎士』は凍結状態から脱し、左手から『零落白夜の盾』を発生させて防御体制を取った……が、先程の荷電粒子砲を防いだ『零落白夜の盾』は、Fの軌跡を描く紫色の三連撃によって容易く斬り裂かれ、回旋蹴りは大型クローを粉砕して左腕をへし折り、二基の大型ウィング・スラスターも破壊した。

 

これにより『白騎士』は機動力と防御手段を失ったが、それでも『オーズ』の攻撃は終わらず、『オーズ』の腰から生えているスカート状の部分が合体・変化した尻尾を『白騎士』へ容赦なく叩きつけ、『白騎士』は氷の大地と化した海へ落下した。

 

「!? な、何だ!? 何が起こった!? 何をしたんだ!?」

 

「何が起こった? 『お嬢さん【フロイライン】』。美しい『お嬢さん【フロイライン】』。それは愚問と言うものだ」

 

あの『白騎士』の『零落白夜の盾』は、エネルギー攻撃を完全に無効化する筈だ。それなのに『オーズ』のエネルギーを纏った攻撃は無効化されず、逆に『零落白夜の盾』を破壊した。

 

その理由を後ろの男が、心から嬉しそうな顔で解説し始めた。

 

「『オーズ』は必殺技を発動する為に『紫のメダル』をスキャンした。それは『紫のメダル』が持つ力を解放した事を意味する。

彼が使っている『紫のメダル』は、“既に絶滅した生物”や“人間が想像した幻想生物”と言った、“現世には存在しない生物”の力を秘めたコアメダルだ。その源泉となるのは“無の欲望”であり、それが司る力は“全てを無に帰す力”だ。

そこでだ。『零落白夜』と『零落白夜の盾』。仮にこの二つをぶつけたのなら、一体どちらが勝つと思う?」

 

それはつまり、お互いにエネルギーを無効化する装備をぶつけ合うと言う事。同質のエネルギー同士をぶつけたとなれば、勝敗を決すのは……

 

「答えは簡単だ。質が同じなら出力の大きい方が勝つ。つまりはそう言う事だ。単純に『紫のメダル』の持つ“全てを無に帰す力”が、『零落白夜』の“エネルギーを無に帰す力”よりも強い。ただそれだけだ」

 

『白騎士』が落下した衝撃で氷に大きな亀裂が入り、『白騎士』の落下地点を中心にして、氷の大地が無数の流氷が浮ぶ海へと変化していく。その中でも特に大きな流氷へ『白騎士』は移動していた。へし折られた左腕は、生体再生機能によって既に治りつつある。

 

そして翼と盾を失った『白騎士』の前に、『オーズ』がゆっくりと降り立った。

 

「ぐぅぅう……はぁあああああああああああああああああああああああっっ!!」

 

両の手で大型ブレードをしっかりと握ると、刀身にエネルギーがチャージされていく。『白騎士』は渾身の力を込めた『零落白夜』の発動体制に入り、『白騎士』の体を青い電流が走っている。

 

「フゥゥゥ……」

 

『ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン!』

 

『TRIGGER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

大型アックスの恐竜の頭部を模した部分を何度も動かし、紫色の刀身からセルメダルを大型アックスに食べさせるように何度も装填すると、大型アックスを両手持ちの銃の様な形状に変形させる。そして左腰のマキシマムスロットをタップし、『オーズ』は両手で銃を構える射撃体勢を取った。

更に二つのドリル状の武器がY字の形に展開されるのだが、チャージされているエネルギーは荷電粒子砲のそれでは無い。手にしている銃と同様の紫色の波動だ。

 

不味い! アレは不味い!

 

『プットッティラ~ノ・ヒッサ~ツ!』

 

「止めろ! 止めろ、シュレディンガー!!」

 

「無駄だ。もう全てが遅い」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「……フンッッ!!」

 

『白騎士』の『零落白夜』を纏った大型ブレードは、『オーズ』の紫色の破壊光線をしっかりと受け止めた。そのまま破壊光線を斬り裂き、本体の『オーズ』を仕留めるつもりなのだろう。

 

しかし、その目論見は僅か数秒で大型ブレードと共に無残に砕かれ、『白騎士』に紫色の破壊光線が直撃する。

 

「勝った♪」

 

紫色のエネルギーの奔流に『白騎士』は飲み込まれ、『白騎士』はそこから脱出する事も出来ず、そのまま爆発した。そして爆発した『白騎士』の中から出てきたのは……。

 

「!? 一夏!?」

 

「これだ。これが見たかった。ああ、すごくいい……」

 

何故だ!? 『白騎士』の声は私の声だった筈なのに!!

 

爆発によって吹き飛ばされた一夏は、流氷の浮かぶ海へと落下していった。小さな水柱が上がるが、海に浮んでいるのは氷ばかりで、海に落ちた一夏は一向に浮かんでこない。

 

何故だ……何故こうなったんだ……。

 

「何故だ……何故止めなかった! シュレディンガーッッ!!」

 

「言っただろう『お嬢さん【フロイライン】』。もう何もかもが遅いのだ」

 

『オーズ』に対して激昂する私を見て、男は心の底から愉快だと言わんばかりに笑い、こんな事になった理由を嬉々として語りだした。

 

「あの『紫のメダル』は対『白騎士』を想定して造られ、他のメダルとの互換性を無くする事で、経験値を稼ぐ事無く最初から『コンボ』を、ISで言う所の『単一仕様能力』の使用を可能にし、アンクとは全く違う“自律意志を持つコアメダル”として、『白騎士』の力に共鳴するように造ってある。

そして『紫のメダル』が秘める“無の欲望”は、使い手の“心の隙間”に入り込んで自我を奪い、敵味方関係無く目前の相手を破壊しようとする、謂わば“マイナスの暴走”を引き起こすのだ。そこにはもう彼の意思は存在しない」

 

その説明を聞いた途端、背中に嫌な汗が流れた。それにどこか良く似たモノを、私は良く知っている。そして最近になって知らされている。

 

「さて、ここで質問するぞ『お嬢さん【フロイライン】』。そんな様々な特殊性を持つ『紫のメダル』は、一体何を参考にして造られたのだと思う? どうして『オーズ』の黒いスーツが白銀色になっているのだと思う?」

 

その二つの質問で私は理解してしまった。確信を得てしまった。

 

あの『紫のメダル』は『白式』となる前の『白騎士』のISコアを、ひいては『白式』に眠る『白騎士の意思』を参考にして造られたのだと。

 

「そんな……それじゃあ……」

 

「そして今や『紫のメダル』は、使い手であるシュレディンガー自身さえも“無に帰した”。彼はもはや何処にも居ない。今やシュレディンガーは、ただの戦闘本能のかたまりだ」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

『白騎士』との戦いに勝利した『オーズ』が咆哮を上げ、発生した衝撃波で周囲の流氷は砕け、細かくなって空気中に舞い散った氷の結晶が、一瞬で世界を白一色に染めた。

 

 

 

「…………夢?」

 

目を醒ますと何時もの寮長室のベッドの中だった。目覚まし時計を見ると、午前2時46分を指し示している。

……嫌な夢を見たものだ。喉は渇いているし、全身が汗でびっしょりだ。ベッドから起きて冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、そのまま一気に胃袋へと流し込む。冷たい水が体の中を通る感触が、幾分か気分を落ち着かせた。

 

「……ふぅ」

 

改めて先程見た夢について考える。ただの夢だと言えばそれまでだが、本当にアレは只の夢なのかと、どうしても考えずにはいられない。

 

あの姿こそが、『ミレニアム』が求めた対IS最終兵器としての、言うなれば本来の『オーズ』の姿なのではないだろうか……と。

 

全てのISを打ち倒し、新世界に君臨する唯一人の王。

 

IS神話を終わらせる破壊神にして、新たな神話を紡ぎ出す創造主。

 

「新世界の到来……か」

 

束が開発したISは本来、弱き者に力を与え、地を這う者に翼を与える事を目的としたものだった。それは間違った事では無いと今でも思う。間違いなく、束は虐げられるだけの弱者を救おうとしていたのだと思う。だからこそ、私もISの開発に協力した。

 

しかし、開発されたISは女性にしか使えないものであり、そこから更にISの適正と言うものが存在し、女性でもふるいに掛けられる。

 

そして「最強の兵器は女にしか使えない」と言う事実は、それまで弱いはずだった人間を、本来なら弱いはずの人間を、強い人間に変える事になった。強い人間となった女達は、「強者である自分達に、特別な権利が与えられるのは当然だ」と考え、今の女尊男卑の社会と世界が形成された。

 

私達は弱者を救ったのではなく、強者を過ちに導いただけだったのではないだろうか?

 

シュレディンガーは、仮に『白騎士事件』が起こらなくても、科学技術の発展に伴う科学に対する理解の水準が上がれば、ISはいずれ世界中の科学者に認識されるようになり、ISを軍事に利用しようと考える者が必ず現れたに違いないと、遅かれ早かれ世界は女尊男卑の社会になっていただろうと言った。

私達が起こした『白騎士事件』は数えるべき罪だが、その後の10年に渡る世界の変化は、決して私達二人の罪では無いのだとも。

 

しかし、私にはとてもそうだとは思えないのだ。

 

「……いや、今はアイツ等がこれから起こす事の方に気をつけないとな」

 

ドイツ国内某所にある秘密研究所。そこでは今でも『VTシステム』を筆頭とした条約違反兵器の研究・開発が行なわれているらしい。

日本とドイツの時間差は7時間で、日本の方が7時間進んでいる。これはサマータイムによるもので、冬になると日本の方が8時間進む事になる。日本時間にして6時59分、ドイツ時間にして23時59分に、この施設を徹底的に破壊する作戦が、シュレディンガーと束によって決行されるのだ。

 

「やり過ぎない様にしなくてはな……」

 

そして私は思い知る。

 

この世界はとても残酷で、理由の無い悪意で満ちている事を。

 

 

○○○

 

 

「ふむ。この程度が限界か……」

 

「よろしかったのですか、少佐殿。貴重な情報をみすみす……」

 

「構わんさ。むしろまだ足りない。だがもう少し。そして、もう間も無くだ」

 

「左様で」

 

「………」

 

時と言う枷から開放された世界でドクと大尉を傍らに、相も変わらずシュレディンガーを見続け、高みの見物を続けている。

死んでからも自分は自分でいられる。それはシュレディンガーが証明してくれた真実の一つだ。

 

「それにしても、せっかくのイエスタデイメモリがあんな事になろうとは……」

 

「そうだな。しかし彼は『エターナル』をレッドフレアのままの状態で、エクストリームに至らせた恐るべき男だ。改変されたメモリを本来の形に戻す位、今の彼なら出来ても何ら不思議ではないよ」

 

数あるガイアメモリの中でも、「テラー」、「ライアー」、「ナイトメア」、「イエスタデイ」、「ユートピア」と言った精神に影響を与えるタイプのメモリは、その能力をISの絶対防御で防ぐ事が出来ないと言う特徴がある。

 

ISの絶対防御を容易く通過し、本体に直接影響を与える。

 

それは即ち「相手の強さに関係なく、相手を問答無用で戦闘不能に追い込む事が出来る」と言う事。つまり精神系ガイアメモリの能力は、対IS戦において「ある意味で無敵」と言っていい能力と言える。

 

相手がISを使っていても生身の状態と何ら変わらない。そんな恐るべきメモリを『ミレニアム』のメンバーで試し、再起不能にする訳にはいかない。その為、精神系ガイアメモリの能力を検証する際には、再起不能にしても問題ない実験台を用意する必要があった。それもシュレディンガーが罪悪感を抱かない様に、これ以上ない程の凶悪な犯罪者をわざわざ揃えた。

 

しかし、それでも彼は当初渋っていた。そんな彼にイエスタデイメモリの能力を検証する際、シュラウドと私で彼を説得したものだ。『北風と太陽』の物語さながらに。

 

『何を躊躇する事があるの? 相手はそれこそ人間のクズ。救い様も救い甲斐も無い極悪人よ。容赦する必要など無いわ』

 

『………』

 

『シュレディンガー、逆に考えるんだ。この実験によって彼等は自分の犯した罪を自覚し、人の痛みを気遣う事が出来るかも知れない。この実験がきっかけで、彼等が改心するかも知れない。

救い様の無い犯罪者である彼等が改心すれば、彼等の被害者や被害者の家族も幾許か救われるかも知れない。君はその手助けをするんだ』

 

実際にやる事は変わらないのだが、私がこう言うと彼は実験に協力してくれた。勿論、失敗した時のアフターケアも欠かさなかった。

 

しかし……だ。

 

幾らメモリの能力開発を独自に行なったと言っても、彼一人でその全てが出来るわけではない。メモリのメンテナンスや調整には、どうしても我々の手を借りなければならない。我々が彼のメモリに手を加えるチャンスは幾らでもあった訳だ。

 

ISの専用機とは読んで字の如く“操縦者の専用の機体”であり、唯一無二のものだ。中世は騎士甲冑時代の英雄の如く、ISは現代の軍事において“個の力”としての意味を持つ様になり、専用機の持つ一線を画する強さが求められる様になった。

 

しかし、本来戦争とは団体戦だ。戦争とは基本的に団体の戦闘力が高い方が勝つ。そして、専用機とは“唯一無二である”と同時に“代えが利かない”と言う事でもある。今の世界における国家間の戦争では、専用機持ちが戦闘不能になった瞬間、その国家の団体としての戦闘力は大幅に落ちる。

 

実戦において、相手の強さに関係無く戦闘不能に出来る力があるイエスタデイメモリの能力開発において、「抜け道が用意されている所為で、実戦では危なくて使えない」などと言う致命的な弱点を、対ISを掲げる私達がそのまま放置するワケが無い。

 

そこで我々は彼がイエスタデイメモリに記憶された、彼の言う抜け道を破壊してからイエスタデイメモリを渡し、その能力を実験で使わせた。

 

つまりあのイエスタデイメモリは、元々「相手の精神を無限ループする時間の中に、永久無限に閉じ込める」と言う、とても実戦的な能力のガイアメモリであり、実験台になった犯罪者が全員目覚めなかったのは、「無限ループからの脱出方法が存在していなかった」からに他ならない。

シュレディンガーは失敗したと思っていたが、我々にとっては大成功と言える結果だった。もしかしたら改心した犯罪者も何人かいたのかも知れないが、彼等が目覚める事は二度と無いだろう。

 

「『エターナル』のマキシマムを受け付けず、倒してもブレイクする事の出来ないガイアメモリを、シュラウドが使う事は簡単に予想できた。

そして、ブレイクする事の出来ないガイアメモリの魔力に魅入られた相手に、シュレディンガーがイエスタデイの能力を使って救おうとする事も予想できた」

 

「そして“自分が救いたいと思った相手を、自らの手で再起不能にしてしまった”と言う絶望を与える事で、『紫のコアメダル』の力をより強く引き出す為の源泉とする作戦でしたな……」

 

「しかし、やはり彼は普通では無かったな。オータム戦やマドカ戦でもそうだったが、過去に使用した事も成功した試しも無く、懸念材料や不安要素があるにも関らず、彼は『エターナル』や『イエスタデイ』のマキシマムの使用に踏み切った。

恐らくエクストリームに至った事で、それぞれのメモリに起こった変化を直感的に、或いは無意識の内に感じ取っている。いや、彼自身がメモリを自分の望む能力へと変化させていると言った方が良いのかな?」

 

まあ、物事にはハレもケもある。それに戦争と言うモノは、“想定外の事が必ず起こる”モノだ。

 

「……一つ聞きたいのですが、シュレディンガーを『オーズ』に選んだのは、暴走のリスク以外にも、やはりそうした彼の素質の様なモノも考慮しておられたのですか?」

 

「いや? ほら、アイツって、見てて面白いだろ?」

 

「……まあ、確かに色々と興味深く、面白い素体ではありましたが」

 

「そうだろう。彼は見た目よりもずっと面白い男なのだよ」

 

前世におけるシュレディンガーは、織斑一夏や篠ノ之箒の様に『身内に偉大な功績を成し遂げた存在がいた』訳でも、『身内に莫大な利益を生み出す存在がいた』訳でも無い。篠ノ之束や織斑千冬の様に『特別な才能があった』訳でも無い。

 

前世における彼は所謂モブであり、「普通の人間」だった。

 

それがたまたま我々のこしらえた罠に引っかかり、愛する家族も、心を通わせた友人も、平穏無事な日常も、それまで当たり前にあった全てを失って、彼の人生は台無しになった。赤の他人の血肉から造った複製品の肉体を与えられ、生きている事が叛であり、存在する事が乱である、テロリストの実験物と成り果てた。

 

もはや表側にも裏側にも、逃げる場所も隠れる場所も無い。そんな世界で彼は何を考え、何を選択した?

 

あれでもシュレディンガーは頭が回る。我々は只のテロリストではない。「異世界への介入」と言う奇跡の様な科学を成し、「異世界の魂を呼び込む」と言う科学の様な奇跡を成した我々なら、何が出来ても不思議ではない。

それこそ自殺した所で、再び呼び戻される可能性も考えた筈だ。そうなれば、多くを奪われた自分に唯一つ残されたモノを。つまりは「自分の意志」さえも奪われる事は明白。それを彼は恐れた。

その上あのお人好しの事だ。仮にそれで自分が我々から逃げる事が出来たとしても、自分以外の誰かが、自分と同じ様に呼び出される可能性も考えていたに違いない。

 

しかし、だからこそ「我々に協力すれば、元の世界に帰れるかも知れない」とも考えた筈だ。実際に彼が我々に協力した理由の大手はそれだ。

 

遺してしまった異世界の家族に、ただ一目でも会いたい。

 

仮に会ったとしても彼だとは気付かないし、何の救いにもならないだろうが、死者としてそれは当然の感情なのだろう。

皮肉な事に、シュレディンガーのその思いを知ったが為に、シュラウドは「きっとライトも自分に会いたいと思っている筈」と言う、自分の願望を確信へと変えてしまった訳だが。

 

兎に角、彼の協力により我々の研究は大きく飛躍した。例え適合率が低くとも、やはり理解レベルの高い人間と、そうでない人間では引き出せる能力の差は歴然。彼の持つ独自の発想も手伝い、彼は期待以上の成果を出してくれた。

 

「さて、それではいよいよお楽しみの、そして本命のショウの始まりだな」

 

「ええ。これできっと確かめられる事でしょう。対ISを掲げるテロ組織に身を置きながらも、頑なに不殺を貫いてきた彼は。殺す事以外では救えない人間を。出会っていれば兄妹と呼んだ存在の成れの果てを。戦列を組んで前進するアンデッドを。殺すのか、殺さないのか、それとも殺されるのか」

 

ああ、何とも心が躍るな……。

 

 

●●●

 

 

準備が完了するまで大分時間が掛かったが、いよいよ束との約束を果たす時が来た。

 

『ちゃ~~んとゴッくんの注文通りに造ったんだからね? だから束さんのお願いもちゃ~~んと叶えてよ?』

 

「分かってる。そっちもちゃんと仕事してくれよ?」

 

『心配ご無用! それ位なら束さんには朝飯前なのだよ~♪』

 

「いや、今日はもう食っただろ」

 

世界各地に点在する束のアジト。その中でもドイツに近い場所に建設したアジトに居る俺の目の前には、赤を基調としたプロペラ機一機と、黒を基調としたプロペラ機二機が鎮座している。これから赤を基調としたプロペラ機に乗り込み、『VTシステム』の研究・開発を行なう秘密の研究所へ殴りこみを掛けるのだ。

 

『ETERNAL!』

 

「変身!」

 

『ETERNAL!』

 

俺はロストドライバーとエターナルメモリを使い、『エターナルRX』に変身する。しかし『エターナルRX』で殴りこみを掛ける訳ではない。ここから更に一手間を加えるのだ。

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

右腰のマキシマムスロットに装填されたゾーンメモリのマキシマムを発動し、「サイクロン」、「メタル」、「ヒート」、「ルナ」、「スカル」、「ジーン」、「ジョーカー」、「エクストリーム」の8本のメモリを空中に召喚する。

 

『CYCLONE・METAL・HEAT・LUNA・SKULL・GENE・JOKER・XTREME・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「そしてもう一発!」

 

『DUMMY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

胸のコンバットベルトの左右にメモリが4本ずつ装填され、8本同時にメモリのマキシマムが発動。その直後に右腰のマキシマムスロットからゾーンメモリを取り出してダミーメモリを装填し、マキシマムを発動させる。

 

「変んんっ身っ!!」

 

緑色の光が全身を包み込み、腰の『ロストドライバー』は『タイフーン』に、白を基調としたボディアーマーは褐色のプロテクターに、ペンギンをモチーフにした「∞」を模った黄色い複眼のマスクは『ライダーマン』を思わせる赤い複眼のバッタをモチーフにしたマスクへと変化する。

 

緑色の光が収まった時、白いボディに赤い炎のラインが特徴的な『エターナルRX』は、褐色の狂気を纏った最強のショッカーライダーへと姿を変えた。

 

即ち『仮面ライダー4号』である。

 

ぶっちゃけて言うと、ダミーメモリ一本のマキシマムで他のライダーへの変身は出来るのだが、今回は頭の中のイメージを固定したり、自力を底上げしたりする目的で、他のメモリも使用した。

 

『でもゴッくん。本当にそれで行くの?』

 

「ああ、室内戦ならコッチの方がやりやすい。それにコレが何故か一番しっくり来る」

 

試しに『仮面ライダー1号』に変身したら、何故か『仮面ライダーSPIRITS』に登場する、左腕が金ぴかZXアームの『大首領JUDOバージョン』になったし。

理由が「偽者だから」とするならば、黄色いスカーフの『ショッカーライダー』になってもおかしくないと思うのだが何故だろう?

 

「さあ……地獄を楽しみな」

 

中の人が監督に「そのまんま過ぎる」と言われて却下された台詞を呟き、俺は束特性の『スカイサイクロン』へと乗り込んだ。

 




きょうの妖怪大辞典

マック(ス)大隊長
 ジャンクフードが大好きな狂った戦争の亡霊。ゴクニャンに数々の妖怪メダルとアンベェを与えた張本人。見た目はオタク。中身もオタク。心の中には不思議なオタク。
 その正体は、偏愛と斬り捨ての格差が非常に激しく、「使える奴なら例え敵軍に居ても贔屓にし、使えない奴ならどんな履歴があっても単純作業の様に切り捨てる」と言う最悪のオタク。ヒラコー曰く、「敵も味方も駒か名前の付いたユニットくらいにしか考えてない」らしい。
 『ウィザード』の白い契約モンスターの笛木の様な感じを想定していたのだが、表紙裏のコミカルな面ばかり書いていた所為か、展開が『DEATH NOTE』のリュークみたいになった気がしないでもない。

妖怪コア砕き
 別名:白騎士絶対殺すマン。もしくは、プトティラコンボ。ネットムービーで伊達さんが『エヴァ○ゲリオン』呼ばわりしていた、ラスボスっぽい見た目の氷属性と無属性を持つ恐竜系コンボ。
 対『白騎士』を想定し、ラトラーターと同様に「敵と同系統の能力の上位互換を使って、敵を真正面から撃破する」をコンセプトにして造られたが、原作『オーズ』と同様に厄介で危険な要素が含まれている。S.I.Cのプトティラは「負ける気がしない」と言うより、「勝てる気しない」と言った方がいい感じがする。
 今回、第一期平成ライダーの劇場版を意識し、TV版の最強フォームを先行登場させてみた。話の元ネタとしては『MISSING ACE』のオンドゥル王子とムッコロ。しかし、ムッコロの台詞が「分かり合えない」ではなく、「語り合えない」に聞こえたのは作者だけだろうか?



キャラクター紹介&解説

冬メロン
 この作品における、原作第二巻相当の時間軸のキーパーソン。ラウラやシャルロットに加わる形で活躍させる予定。彼女の見た夢は少佐が言うように、あくまで可能性のお話……って言うか、対『白騎士』戦の没案。ある意味で始まりの女であり、ある意味では……。
 元ネタは『ディケイド』の夏みかん。この作品も夏では終わらないような気がする。予定では夏で完結させるつもりだったのに……。

紫のメダル
 プテラ・トリケラ・ティラノの3枚からなる恐竜系コアメダル。作中で語られた様に、『暮桜』のISコアと通信して『零落白夜』を開発していた『白騎士』のISコアと、内部に眠る『白騎士の意思』を参考にして造られている。
 『白騎士』との戦闘に突入すれば「自立意志」という名の暴走スイッチにより、オンドゥル王子のキングフォームに共鳴してジョーカーの本性を抑えきれないムッコロの様に、『妖怪コア砕き』へと強制変身させる。前触れとして複眼がパープルアイになるが、コブラヘッドでは区別が付かない。
 6つのコンボを使える様になれば解禁される仕様なのは、制御して使う為には「コンボが使用可能になるまで成長した、他系統の18枚のコアメダルの力」が必要だから。『紫のメダル』がドライバーに登録してから外す事が出来なかったのは、『白騎士』が出現した時にドライバーに搭載されていないと困るため。
 つまり、「最初からコンボとして使えるメダルだが、暴走のリスクから『白騎士』が覚醒しない限りは絶対に使えない様にして、仮に使えても普段は制御が出来る様にしてあるが、『白騎士』が現れたなら暴走して最後は自滅してでも絶対に倒してもらう」と言う事。もちろん5963はこの事を知らない。

F ファングメモリ
 牙の記憶を持つガイアメモリ。T2メモリ仕様ではあるが、メモリのカラーリングはT1と同じく薄い青紫色。例によって「メダルとメモリの色が同じなら相性が良いのではないか?」と言う、作者の独自考察を適用。その結果、『W』の暴走フォーム×『オーズ』の暴走フォームと言う、『ジュラシック・ワールド』のインドミナス・レックスの様な化物になってしまった。

バーサークユニット
 元ネタは恐竜系ゾイドのアルティメットX。最後期に造られ、他のパッケージと比べて貧弱に見えるが、「バスタークロー」をビットの様に飛ばして遠隔操作出来る等、元ネタのオリジナルよりも強化されている。
 元ネタであるアニメ版の『ゾイド新世紀/0』で某アルティメットXが使った荷電粒子×3が非常に印象的だった為、メダガブリューのストレインドゥーム×3を使わせてみた。破壊力200tの破壊光線が三つに増える上に、トリガーのマキシマムで更に火力が強化されている。それでもタマシーボンバー(1000t)には届かない……かも。

白騎士強化体
 束が組み込んだ『エターナルRX』の因子により、『白式』の第二形態『雪羅』の要素が融合した『白騎士』の強化形態。全体的に戦闘能力が急上昇し、燃費の悪さも大幅に改善されている。しかし、相手が悪過ぎた。
 今回のVSプトティラは、昔見たブレードライガーVSジェノザウラーをそれとなくイメージ。アニメ第一期のバンとレイヴンの最終決戦は「レイヴンマジパネぇ」と思って見ていた。第二期でもジェノブレイカーの性能もあって、アホかと思う位に強い。

仮面ライダー1号
 偉大なる原点にして頂点。「徒手空拳で戦い、バイク以外には乗らない」と言うイメージが強いが、ほぼ毎回の様に敵の武器を奪って武器戦闘をこなし(どんな武器も使いこなしてこそ『仮面ライダー』なのだ by鳴滝)、更には劇場版「仮面ライダー対じごく大使」で馬に乗って戦うなど(どんな乗り物も乗りこなしてこそ『仮面ライダー』なのだ by鳴滝)、正に『仮面ライダー』の鑑と言える御方。
 桜島一号が黒いのは「スーツ修復の際に現場に黒いスプレーしか無かったから」と言う理由なのは、あまりにも有名。ちなみに作者は『仮面ライダー1号』を見逃した。

 おのれ、ディケイドォオオオオオオオオオオオッッ!!


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第24話 time

読者の皆様、お久し振りデス。キリの良い所まで完成するのに二ヶ月以上経ってしまいました。予定では箒の誕生日に合わせる予定だったのに、シン・ゴジラが始まるまでかかってしまいました。何時の間にかお気に入り小説が一つ消滅して、テンションががた落ちしたりしましたが、更新します。

そして今回は、一気に合計5話を連続投稿します。元々は3話だったのですが、一話辺りの話数の問題で分割した結果こうなりました。

しかし、仮面ライダーアマゾンズとか、ベスト10を放送しているウルトラマンとか、昭和のゴジラとか、特撮ファンとしては最近BS放送が非常に面白い。

2018/4/24 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


ドイツ軍特務事項。非匿名「最後の大隊」より報告。

 

第二次世界大戦の最中、ナチスドイツ率いるアドルフ・ヒトラーは、ゲルマン民族が世界の頂点として立つことを疑わなかったが、頂点に立った後でその支配力をどうやって永遠のモノとするかに苦悩していた。

 

そこでヒトラーは、親衛隊の一人の中尉に対して「総統特秘第666号」と呼ばれる、あらゆる命令系統の上位に存在する特秘命令を下した。

 

結局、ドイツ第三帝国は崩壊する事となるのだが、少佐となった元中尉とその仲間達は、心底諦めなかった。

誰も彼もが彼等を忘れ去り、忘れ去ろうとした。だが彼等はゆっくりとゆっくりとその枝葉を伸ばしながら、深遠なる暗闇の底で執念深く、そして確実に存在していた。

 

不死者の『戦闘団【カンプグルッペ】』。不死身の“人でなし”の軍隊。

 

最終的にそれらを目指した彼等の恐るべき研究は、膨大な血と狂気の果てに、それを完成させる驚くべき地平へと到達しつつあった。

しかし、そこで研究の画竜点睛を欠く、予想外の事態が発生した。蘇生され、生体機能を取り戻した筈の彼等は、決して目覚める事が無かったのだ。

 

魂の存在証明にして、不在証明。

 

それは「一度死んだ人間は二度と元には戻らない」と言う当たり前の物事を、「魂」と言う不可視の存在を、「人間とは魂の、心の、意志の生き物である」と定義する少佐の思想を証明する事実でもあった。

 

その後、不死者達に脳髄を含めた体内の複数個所に制御チップを埋め込む事で、彼等を人形として遠隔操作する事が出来る様に改良された『死者蘇生兵士』は、「兵器」と言う観点でのみ論じるならば、この時点で完成の域に到達していた。

 

完成された『死者蘇生兵士』の持つ優位性。

 

一つ。通常兵器を受け付けない、不死身の肉体。

 

二つ。生前の数倍にまで増殖した、圧倒的な身体能力。

 

三つ。自我の消失に伴う、命令に対する絶対服従。

 

正にジークフリートの再来。神話の軍勢。

 

その後も彼等は彼等の目指す地平線を目指し、死者蘇生技術の研究が営々と続けられるのだが、その肉体から一度離れた魂が戻ってくる事は決して無かった。

 

そして『白騎士事件』を境に、ISと言う超兵器が出現した事で世界の軍事バランスが崩壊。それによって、ミレニアムも対ISを目的とした研究へとシフトしていった。

 

その『白騎士事件』から数年が経過した頃、ミレニアムからISコアの取引を持ちかけられたドイツ軍は、ミレニアムの持つ「死者蘇生兵士理論」に利用価値を見出し、ミレニアムとの取引に応じた。

 

 

●●●

 

 

ドイツの深い森の中に建設されたVTシステムの研究施設。主にVTシステムを研究・開発・運用する為の施設であるが、その他にも非人道的な研究を行なっているとの事。人体実験の素体となる人間は死刑や終身刑を受けた囚人であり、減刑と引き換えの希望制らしいのだが、この研究所から出てきた囚人は誰一人としていないそうだ。

 

今回のミッションはこの秘密結社紛いの研究施設の完全破壊。そして怪我人を出来るだけ出さず、死人は誰一人として出さない事。

 

現在、この研究施設の周囲には、アンクがリモートコントロールしているオートバジンと、ステルス装備を実装したパワーダイザーやサイドバッシャーが何体も潜んでいて、作戦開始の時を待っている。

 

「準備は良いか?」

 

『何時でも良いよ♪』

 

『とっとと始めろ』

 

「……とぉおおうッ!!」

 

研究施設の真上に来た所でスカイサイクロンから飛び出し、空中をムササビのように滑空……する事無く、人間ミサイルの如き勢いで建物に頭から突っ込んだ。「メタルメモリ」と「スカルメモリ」を更に「エクストリームメモリ」と併用して防御力を強化しているお蔭か、頭から突っ込んでも全く痛くなかった。

 

この突入と同時に、無人機ISの技術を組み込んだハイブリットなライダーマシンの群れが施設に雪崩込む。アンクと束によって操縦されているライダーマシン達は、手始めに車やヘリ等の移動手段を破壊している。

俺の方はと言えば、緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響き、大量の粉塵が舞う施設内に侵入しており、俺の目の前に自動小銃を持った屈強な兵隊が次々と現れてくる。

 

「よぉ……」

 

「! キャアメンライダァー!!」

 

彼等は初めて見る仮面ライダー4号を「オーズ」や「エターナル」と同系統の存在だと見事に看破した。そんな優れた洞察力(棒読み)を持つ兵士達は、俺に向かって四方八方から鉛玉を雨霰と撃ち込んでくる。

しかし、そんな兵士達の奮闘を嘲笑うかのように、この装甲は銃弾を次々と弾いていく。もっとも、普通の銃弾如きで死ぬ「仮面ライダー」など存在しない。もしもそんな奴がいるなら、是非とも見てみたいものだ。

 

え? 『GOD SPEED LOVE』のドレイク?

 

……まあ、確かにアレを見た時は唖然としたが、あの時の「ゼクトルーパー」が持っていたのは「強化型マシンガンブレード」であり、設定では通常の装備よりも強力だ。

それに通常の「マシンガンブレード」でも、装弾数3000発のホローポイント弾を内装し、トリガーを引く際に任意で発射弾数を変える可変バースト機能を備える上に、徹甲・炸裂・焼夷弾を装填選択する事が可能な代物だ。

更に最大射程は2000mを誇り、通常の発射速度は1分間に600発と、『ジョジョ』のシュトロハイムがカーズに使用した重機関砲並みの性能を持っている。そんなモノを四方八方から集中砲火されれば、幾ら仮面ライダーでも死ぬ。むしろ『仮面ライダー鎧武』のカチドキアームズが異常なのだ。多分。

 

「……良い腕だな。ふっ!」

 

「ぶるぁっ!」

 

兵士達が銃弾を撃ちつくした所で一気に懐に接近し、どこぞの地上最強生物の様にデコピンだけで倒していく。生身の人間を相手に「ライダーパンチ」や「ライダーキック」をまともに打ち込めば、たちどころに元人間の肉塊が大量生産されてしまうからだ。デコピンを顎に喰らった兵士達は、次々に膝からストンと崩れ落ちていく。

 

こうして全ての兵士を気絶させて制圧した所で、アンクのGTロボと化したオートバジンが壁を壊して施設内に進入してきた。

 

「そっちは終わったのか?」

 

『終わった。全員殺さずに無力化して適当に転がしてある。だが奇妙な事に、普通の人間の兵士しかいなかったな』

 

『ゴッくん、研究施設内の監視システムは掌握したよ。他のシステムやデータは全部束さんがコピーしてから破壊するから、ゴッくんは研究施設内に保管されてるISコアを回収してね。今からそこの見取り図を送るね~~?』

 

束から送信された見取り図のデータによると、ターゲットのISコアは地下に保管されているようだ。とっとと回収して帰りたいのだが、アンクの言う通りVTシステムを研究する施設にしては警備が緩すぎる。とりあえずは見取り図のマークされている場所を目指し、アンクと共に地下へ降りていく。

 

そして、地下で俺達が見たのは、金属製のパワードスーツが大量に生産されている光景だった。

 

「これは確か……国連が開発している『EOS【イオス】』とか言う、ISモドキだったか?」

 

『確かにEOSに似ているが、コレはドイツ軍が造った別物だ。大方、VTシステムをコイツに転用して、ありとあらゆる面でISに劣っているEOSの性能を少しでもマシにしようとしたんじゃないか?』

 

「なるほどな……ん?」

 

ここでEOSが生産されている理由を理解した時、足音の様な重い金属音が奥の方から聞こえてきた。それも複数で此方に近付いてくる。新たな敵の出現を予感して戦闘態勢をとっていると、全身が黒い装甲で覆われているEOSモドキが次々と現れた。それぞれの操縦者の顔が一切確認する事が出来ない。

 

「もしかしなくても、VTシステムが搭載されたEOSモドキか?」

 

『だろうな』

 

「それじゃあ、とっとと気絶させるか」

 

『……いや、何かおかしい。ただVTシステムを搭載しただけじゃ無さそうだ』

 

「? それはどう言う――」

 

アンクと会話が終わらない内に、先頭を歩いていたヤツが襲い掛かってきた。両腕がブレード状になっており、急所を狙って鋭い突きと斬撃を繰り出してくる。徒手空拳の体術で受け流し回避するものの、敵は次から次へと襲い掛かって来る。鍵爪状の奴もいれば、ハンマーの様な形状の腕をした奴。中にはチェーンソーを取り付けている奴までいる。

 

『……試すか。オラァッ!』

 

アンクが敵の一人を捕らえ、右腕をオートバジンの怪力で圧し折った。敵の右腕が間接とは逆の方向に曲がっており、明らかにやりすぎだと思ってアンクを諌めようとしたが、患部から緑色の液体が滴っているのが見えた。

 

「!? 緑色の……血?」

 

『やはりな……体温が無くて妙だとは思ったが、こーゆー事か。ゴクロー、コイツ等全員の中身は死体だ。恐らくは死刑囚の死体をパーツにして使っているんだろう。それなりの改造をしてからな』

 

「はぁ!?」

『このパワードスーツは、本来ドイツ軍でISの実験装備の運用試験に使われているもので、構造も性能もEOSと似たり寄ったりなポンコツだ。本来なら到底実戦に使えるような代物じゃあ無い。

だが、ドイツ軍は『ミレニアム』とISコアの取引をした際に「死者蘇生兵士理論」を手に入れている。普通の人間なら無理だが、改造を施された死人なら充分に使いこなせる』

 

つまり、少佐が原因かッ! ミレニアムの技術がドイツに渡り、今になって俺達を妨害してくるとは、なんと言う皮肉だ。

 

「コイツ等を停止させる方法は?」

 

『背面のバッテリーを引き剥がすか、中身を完全に破壊するってトコだな。ISと違って「絶対防御」が無い所為で、防御力は装甲に頼りきりだ。こんな風になっ!』

 

今度はオートバジンが敵を思いっきり殴りぬける。殴られた敵は大きく吹き飛び、壁に叩きつけられて背中のバッテリーが破壊された。胸部装甲は粉砕され、その下にある中身の鳩尾部分が拳大に陥没している。

 

「EOSと同レベルのパワードスーツなら、多く見積もっても10分程度でエネルギー切れを起こすだろ。それなら持久戦も――」

 

『駄目だ。そうなる前にコイツ等は自爆する』

 

「……徹底してやがるな」

 

しかし、合理的な活用方法だとは思う。中身が死体だからこれ以上は死なない。本来の使い方は、鹵獲した敵兵や敵国の国民を中身に利用する、「穢土転生」的な使い方をする様な気がしてきた。

 

『優しさを向ける相手を間違えんな! 生きている様に見えるが、コイツ等は死体だ! 終わった命は、二度と元に戻らん! 包帯女と一緒に居たお前なら、それを一番良く知ってるだろうが!』

 

出来るだけ死体を破壊せずに戦闘不能にする方法を考えていたが、アンクにそれを否定される。それでも他に何か方法は無いだろうかと模索していると、両腕にチェーンソーを装備した個体と、両腕にブレードを装備した個体によって、挟み撃ちの構図を取られた。

とっさに大きくしゃがむ事で攻撃を回避すると、お互いの攻撃によってお互いの首が切断された。相討ちとなって頭を失い、首から緑色の液体が噴水の様に大量に噴出する。

 

しかし、それでも彼等は動く事を止めなかった。

 

「……ッッ」

 

『コイツ等が哀れだと思うか? 本当に哀れだと思うなら、ちゃんと死なせてやれ! 死なせてやらなきゃ、コイツ等は永遠に解放されない! 戦え!』

 

どうやって俺の位置を確認しているのか分からないが、頭部を失った二体の敵は、再び俺に向かって攻撃を繰り出してくる。チェーンソーの個体が先頭に立ち、後ろでブレードを装備した個体が追従する。

 

「……ライダァアアア!」

 

それに対して俺はポーズを取り、右手を握り締めて力を溜める。拳にエネルギーが集り緑色に発光する。

 

「パァアアアンチッッ!!」

 

振り下ろされるチェーンソーをかわし、「ライダーパンチ」を叩き込む。チェーンソーを装備した個体に巻き込まれる形で、ブレードを装備した個体も吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて爆発した。

 

「……来い」

 

緑色の体液で染まった拳を握り締め、攻撃を仕掛ける為に近づいてきた個体から、手当たり次第に破壊していく。腕を取って投げ飛ばし、振り回して他の個体にぶつけ、仰向けにしてから蹴りで背骨を圧し折った。

しかし、そんな本来は致命傷レベルのダメージを負っても、動力源か肉体が完全に破壊されない限り、彼等は立ち上がって武器を取って戦い続けた。

 

『しっかり息の根止めろ! でなきゃこっちが息の根止められるぞ!』

 

先程仕留め損ねた個体に対し、アンクがすかさずオートバジンのガトリング砲で止めを刺す。このEOSモドキはISコアを必要としないが、一から製造するにせよ、既存の物を改造するにせよ、それなりのコストと材料が必要になる。実験には結構な数の死刑囚が使われたようだが、その中には“使えない”と判断された事もあった筈だ。

 

こうして破壊し続けていけば、何時かは終わる。

 

「ライダァアアアアキィイイイック!!」

 

必殺のキックを叩き込み、更に一体を撃破する。幾度と無く装甲を突き破り、中身の肉体を破壊した事による返り血で、褐色の装甲が再び緑色に染まった。アンクの操縦するオートバジンも、緑色の体液でドロドロになっている。

 

「……これで終わりか?」

 

『いや、まだだ……』

 

アンクの言葉通り、再び黒いEOSモドキがゾロゾロとやって来た。しかし、先程までの個体と違い、今度の敵は明らかに動きが違った。今まではVTシステムに動きがついていけない感じの動きだったのだが、新しく現れたコイツ等はついていけている感じだった。

 

「だが、それでも俺には届かない!」

 

『!! 待て! 頭を壊すな!』

 

他の個体と戦っているアンクが、何故頭部の装甲を破壊しないように忠告したのか。その理由は直ぐに理解できた。

 

俺の右フックに対して敵は左腕でガードするが、俺はガードした左腕を圧し折ってガード毎殴り抜けた。左腕の装甲は粉砕され、頭部の装甲も左半分が破壊される。

砕けて出来た頭部装甲の亀裂から、くすんだ銀色の長い髪と、自分の意志が全く感じられない緋色の瞳を持つ、妹分に酷似した少女の顔が覗いていた。

 

「なん……だと……」

 

『! 逃げろ!』

 

俺がその呆然とする一瞬の隙を突いて、他のEOSモドキ三体がしがみつき、至近距離で爆発した。

 

「ぐっ……これは……」

 

吹き飛ばされたものの、思ったほどダメージは大きくない。しかし、辺りの床や壁を見渡してみると、機械類や肉片と思われる物の他に、銀色の髪の毛が散らばっていた。

 

「まさか……この、動きがやたらと良い個体は……」

 

『……お前の思っている通りだ。成功例だった眼帯娘以外の、失敗作の死体を使っている。まがりなりにも生まれる前から遺伝子レベルで調整を施し、普段から薬品やナノマシンで強化された肉体だ。それなら普通の人間を改造するより――』

 

「言うなッ!」

 

なんて残酷な事を考え付く……ッ!!

 

そう思って拳を握り締めると、全身に装甲を覆っていた彼女達は一斉に頭部の装甲を解除し、クロエやラウラと瓜二つの顔を露にした。

 

『おい、さっきお前の動きが鈍ったのを見て、ワザと頭部の装甲だけ解徐したみたいだぞ』

 

「弱点攻撃か……ワカっている……」

 

ただでさえやり辛いと言うのに、ほぼ全員の顔に手術痕と思われる痛々しい傷痕があり、中にはIS技術を応用したであろう、義眼を両眼に装着している娘も居る。生体兵器として造られ、失敗作と判断されて殺され、死んでからも兵器として活用され続ける。

 

酷い。酷過ぎる。

 

『落ち着け! コイツ等はクロエでも、眼帯娘でも無い! さっきと同じ死体だ!』

 

アンクが檄を飛ばすが、どうしても攻撃に力が入らず、狙いがずれる。そして、隙をついて接近した個体が体にしがみつき、再び自爆攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

「……これでも、少しは減る……な」

 

『!? 馬鹿か!? 幾らメモリで強化していても、ダメージがゼロって訳じゃない! コイツ等を倒しきる前にお前が死ぬぞ!』

 

アンクが否定するこのやり方で終わらせようと俺が思ったその時、『NEVER』の拠点から通信が入った。通信してきたのはクロエだった。

 

『……お願いです。兄様……殺して、下さい……』

 

「!? クロエ、何を……」

 

『……終わった命は、二度と元に戻らないんです……。気持ちは分かります。でも、それで兄様まで死んでしまうのは……もっと嫌です……っ!』

 

その声は泣き出したいのを必死で堪え、悲痛な思いを搾り出す声だった。

 

そうだ。自分の姉妹がこんな事になって、利用され続けている事を知って、一番悲しい思いをしているのはクロエの筈だ。そのクロエに、一番言わせていけない事を言わせたのだ。

 

何をやっているんだ? 俺は?

 

「……アンク、アレを使う」

 

『……ふん。さっさと片付けろ』

 

オートバジンに近づき、首の部分に生えている左ハンドル部分を握り一気に引き抜く。それは原作『555』の初使用時と同じく、ミッションメモリー無しで発動する赤いエナジーブレード。その名も「ファイズエッジ」。フォトンブラッドの再現は出来なかったが、その破壊力は極めて高い。

 

ファイズエッジを右手に構え、改めて彼女達と対峙する。両目が義眼になっている少女が振るうブレードをかわし、胴体をバッテリーごと斬り裂く。真っ二つにされた少女は爆発し、その動きは完全に停止した。

 

「……ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

それからはただ一心に、ファイズエッジで胴体を斬り、動力部を破壊し、時には腕をとって投げ飛ばし、足をへし折る。肉体をパンチで抉り、キックで破壊する。立ちふさがる同族を、クロエにも、ラウラにも成れなかった少女達を、誰一人として残す事無く“死なせて”いく。

 

『うがぁあああああああっっ!!』

 

「!? アンク!?」

 

アンクの叫び声が聞こえて振り向いてみれば、左肩から右腰まで袈裟に斬られ、真っ二つにされたオートバジンの傍らに、『暮桜』によく似た黒い全身装甲に包まれた、無機質な印象を受ける一機のISが立っていた。

 

恐らくは、コイツがターゲットのVTシステムを搭載したIS。そして、斃してきたEOSモドキの教材。

 

「……コイツで最後か?」

 

『ああ。コイツを斃せば終わる』

 

「そうか……」

 

日本刀の形状の近接ブレードを中腰に置き、居合い切りの構えでジリジリと距離を詰める『黒い暮桜』に対し、俺はファイズエッジを捨てて右手を握り締める、

 

「ライダー……」

 

右手と両足に緑色の光が充填される中、遂にお互いの距離が詰まった。但し、無手ではなく居合いの間合いだ。

 

「パンチッ!」

 

近接ブレードを横に一閃しようとする『黒い暮桜』に対し、先ずは右足で思いっきり地面を蹴りこんで距離を詰める。そしてブレードの柄を握っている抜き手を狙い、右腕が伸びきった瞬間に、緑色に輝く必殺パンチを叩き込んだ。ライダーパンチの破壊力は『黒い暮桜』の右腕を完全に破壊し、ブレードの柄を粉砕した。

 

「ギギ……ッ」

 

「オラァアアアッ!!」

 

右腕を失ってバランスが崩れ、大きく体勢を崩した『黒い暮桜』の顔面に、渾身の左回し蹴りを叩き込む。緑色の軌跡を描いた必殺キックは、『黒い暮桜』の「絶対防御」を上回った上で頭部の装甲を突き破り、その勢いのままに頭と胴体を分離した。

 

「ハァ……ハァ……」

 

荒くなった息を整えながら、カブト式「ライダーキック」を受けて倒れた『黒い暮桜』を凝視する。右腕と頭部を失った『黒い暮桜』は、壊れたマリオネットの様なぎこちない動きで、戦う為に再び立ち上がった。捥がれた部分がショートし、緑色の血液を垂れ流すのもお構いなしに、左手に近接ブレードを召喚する。

 

「……もういい……もういいだろッッ!!」

 

その言葉も思いも届かないのか、『黒い暮桜』は「突き」を繰り出す様な前のめりの構えを取り、背面のスラスターを噴かして急接近する。

 

「ゴクロー!」

 

アンクの声に振り返ると、先程手放した事でハンドル部分のみになった「ファイズエッジ」を銃撃し、その衝撃で俺の方に弾き飛ばした「ファイズエッジ」を受け取る。

受け取った瞬間、消失した高エネルギーの赤い刀身が復活し、俺の命を刈りとる為に向けられた『黒い暮桜』の刃と激突。接触部分がバチバチと激しく火花を上げ、エナジーブレードを滑らせるように胴体へ持っていくと、両手で握り締めた「ファイズエッジ」を、渾身の力を持って振り抜いた。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオッッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

『黒い暮桜』は腰の部分から両断され、上半身は切断面から余剰エネルギーを血の様に噴き上げながら俺の後方へふっ飛び、下半身は地面を滅茶苦茶にゴロゴロと転がり、どちらも最後には壁に激突したと同時に爆発した。

 

「かはっ。……ふぅ……ふぅ……」

 

全身から力を抜き、「ファイズエッジ」が地面に落ちる。後ろを向くと燃え盛る炎の中、爆発の中心部らしき場所に、青く輝く丸いISコアが鎮座していた。炎の勢いは非常に激しいものだったが、俺はそれを無視してISコアを拾い上げた。

 

「……ハ、ハハハハ」

 

『?』

 

「ク……クハハハハ……アハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

『……ゴクロー?』

 

「フフフ………ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……クァハハハハハハハハハ……!」

 

赤い炎に包まれながら、俺は笑っていた。別に可笑しくも無いのに、どうしようもなく悲しいのに、何故か笑い声が腹の底から溢れてきた。

 

「……そうだ、そうだった……。俺とした事がすっかり忘れてたな……」

 

『ゴクロー?』

 

「どんな悪党にも人権があるとか、命は地球より重いとか、そんな愛やモラルが一切通用しない……『人間のナリをした悪魔』もいるんだって事を……ッ!」

 

憤怒と憎悪。そして無力感と絶望感に彩られた今の心情を口にした瞬間、青い稲妻が全身を駆け巡り、ダミーメモリによる擬態が解けて『エターナルRX』の姿に戻った。

 

全身から青い炎のエフェクトが発生すると同時に、腕とアンクレットの赤い炎のラインが徐々に青く塗り潰されていき、右上腕部と左大腿部にガイアメモリを装填する新たなコンバットベルトが出現。

最後に複眼から後頭部に走る黒いラインを赤い炎が走り、焼印を付ける様に黒いラインを赤いラインへと変化させた。

 

仮面ライダーエターナル ブルーフレア。

 

その炎は5年の歳月をかけて、きっと俺の中に渦巻いている“狂気”を取り込んで完成した、何もかもを完全に燃焼する為の“蒼い鬼火”に思えた。

 

「………」

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

無言でゾーンメモリのマキシマムを発動し、目的のガイアメモリを召喚する。目前に6本のガイアメモリが出現し、胸のコンバットベルト目掛けて勢いよく飛び込んだ。

 

『LUNA・TERROR・HELL・NIGHTMARE・YESTERDAY・XTREME・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「さあ、地獄を楽しみな……!」

 

その言葉に呼応する様に足元から黒い粘着状の物体が泉の如く湧き出し、エターナルローブと一体化する。特殊磁場空間である「テラーフィールド」は、研究所を内部から勢いよく侵食していった。

 

 

○○○

 

 

研究所のそこかしこで、警報音と破壊音が響き渡っている。シュラウドとやらの刺客なのか、はたまた『NEVER』の差し金なのかは分からないが、無人機と思われる複数のロボットと、「仮面ライダー」らしき人物の襲撃によって、研究所は壊滅状態にあった。

 

人形は全て敗れたものの、我々が無事ならばあの程度の人形は幾らでも造れる。むしろ今回の襲撃で得られたデータによって、更に強化・改良された人形を造りだせるだろう。

 

いずれにせよ此処から脱出する事が先決だが、ヘリや車の類は全て破壊されている。残された手段は地下トンネルを使って脱出する事だが、何者かのハッキングを受けている所為で扉のロックが外れず、中々そこまで辿り着けない。

 

全員が協力して脱出しようとしている中、同僚である一人の科学者が“それ”に気付いた。

 

同僚の指さす方向を見ると、廊下の向こう側から青黒いドロドロとしたモノが、天井から滴り、壁を伝い、床を這う様に、此方にゆっくりと迫っているのだ。

 

その光景に私は本能的な恐怖を覚えた。いや、恐怖を覚えたのは私だけではない。その場に居合わせた全員が恐怖していた。我々の護衛の為に同行していた兵隊が手動で防御扉を展開するも、ドロドロは防御扉を飲み込む様に侵食し、兵隊を底なし沼の様に引きずり込みながら、我々の元へと近づいてくる。

 

それを見た我々はパニックに陥った。誰も彼もが自分だけは助かろうと足掻いた。ドロドロはそんな我々を嘲笑うかの様に、全員をその深淵へと平等に引きずり込んでいった。

 

『お前達の造ったこの悪趣味な箱庭以上に楽しい場所なんざ、もう本当の地獄くらいしかあるまい……先に逝って、遊んで来い……』

 

ドロドロに成す術無く飲み込まれ、意識を手放そうとしたその瞬間、狂気と戦慄を覚える声が聞こえた。

 

 

 

私が気絶から復活すると、そこは正体不明の形容し難い、人とも獣とも知れぬ死体が無数に散らばり、何処までも単調に広がる、地獄めいた世界の中心に立っていた。

 

ここは一体何処なのか全く分からない。だが、遠くから得体の知れないグロテスクな怪物達の姿を見る度に、ここでは私が圧倒的な弱者である事だけは本能で理解できた。捕食者たる彼等に見つからない様に、私は鼠の様にコソコソと物陰に身を隠して移動しながら、同じ様にこの場所に来たであろう同僚達を探し始めた。

 

大丈夫だ。そう簡単に見つかる筈がない。冷静に、落ち着いて、用心深く、慎重に行動しさえすれば、見つかることなど……。

 

いや、そんな! あの手は何だ!? 私の服を! 私の髪を! た、たすけ――!

 

 

●●●

 

 

エターナルローブと一体化した「テラーフィールド」は研究所を丸ごと包み込み、領域内に存在する全ての人間を“深淵なる無明の世界”へと引きずり込んだ。“そこ”は幻想、恐怖、地獄、悪夢、昨日、極限から作り出された世界であり、彼等の精神は今“そこ”に存在している。一応“そこ”からの脱出手段は与えてあるが、彼等が改心する事は恐らく無い。

 

「生きている人間は全て回収した。そっちはどうなっている?」

 

『送り込んだカンドロイド達が、施設内の書類を全部回収して屋外に出た。ちょっとした走り書きも含めて全部だ』

 

「そうか……」

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

アンクの答えを聞いてから「テラーフィールド」を一度引っ込め、ゾーンメモリのマキシマムで大破したオートバジンと共に屋外へと脱出する。

 

研究所を背にして指をパチンと鳴らした瞬間、上空のスカイサイクロンや、地上のパワーダイザーとサイドバッシャーから放たれた大量のミサイルが研究所に殺到し、大爆発が起こった。猛烈な爆風はエターナルローブを激しくなびかせ、メラメラと燃える赤い炎がやけにはっきりと見えた。

 

「……そろそろか」

 

再び「テラーフィールド」を展開し、今度は飲み込まれた人間を全て解放する。

 

「るるるるるるる・んぐるい・んんんんん……」

 

「いあいあいあいあ……」

 

「くとぅるう・ふたぐん!」

 

「闇が……闇が迫ってくる……」

 

「出してぇぇぇ! 出してよおぉぉぉ!」

 

「ひゃぁああああああああ!! 暗いっ! 暗いじゃねぇかあああああああああっ!!」

 

多少の個人差はあるようだが、全員が既に常人ではなくなっていた。もはや彼等が恐怖から逃れることは無い。悪夢から解放されることも無い。発狂死する事も無い。精神が完全に破壊されても尚、彼はしぶとく生き続ける。

 

この悪趣味な箱庭で“生きている様な死体”を造った彼等は、こことは別の箱庭の住人となり、最後には“死んでいる様な生体”へと成り果てるだろう。

 

『LUNA・ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『TRIGGER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

右腕のコンバットベルトにルナとゾーンの二本のメモリを装填し、スカルマグナムにトリガーメモリを装填する。そしてスカルマグナムから発射される光弾が当たったライダーマシンが、次々と姿を消して所定の場所へと転送されていく。

 

『TAKA~♪』

 

全てのライダーマシンを転送し終わると、カンドロイド達が研究所から運び出した大量の書類が入った段ボールを持ってきた。

 

「……御苦労。後は俺がやる」

 

労いの言葉を送ると、カンドロイド達は周囲に集りカンモードに変化する。全てのカンドロイドが変形したのを確認し、ゾーンメモリを右腕のコンバットベルトから、腰のマキシマムスロットに再装填。オートバジンやカンドロイド達と共に『NEVER』の拠点へと戻ろうとしたその時、一人の科学者の呻き声が聞こえた。

 

「た……助けて、くれぇ……」

 

「………無理だな」

 

自分勝手に救いを求める台詞に見切りをつけた声は、自分でもゾッとする程冷たかった。

 

帰ろう。皆が待っている。

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

最後の一瞬まで、俺が後ろを振り返る事は無かった。

 

 

 

瞬間移動によって『NEVER』の拠点にあるガレージに戻ると、部屋の雰囲気はお通夜のそれと同じだった。

 

「……お帰り、ゴッくん」

 

「……ただいま」

 

全員が沈痛な面持ちをしていた。俺も皆も、何と声を掛ければいいのか図りかねていた。

 

「……ゴクロー、ISコアを渡してくれ」

 

「ああ……」

 

青い炎のラインが浮ぶ右手にISコアを出現させると、俺はソレをアンクに手渡した。すると、クロエが俺達にゆっくりと近づいてきた。

 

「兄様……」

 

「……クロエ」

 

「ありがとう……ございました……」

 

「……ッ」

 

涙ながらに頭を下げてお礼を言うクロエを見て、俺は俯きながら首を横に振った。今の顔を誰にも見られたくなくて、変身を解除せずにその場を後にした。

 

 

○○○

 

 

シュレディンガーが立ち去った後、ISコアを受け取ったアンクだけが動き、私を含めたそれ以外の全員が動く事が出来なかった。この場に居る誰もが、想像以上の凄惨さと、救いようの無い結末に圧倒されていた。

 

「……アンク、あの青いエターナルは一体……」

 

「エターナルブルーフレア。エターナルメモリの本来の完成形だ」

 

箒の質問に対し、アンクはしっかりとした声で説明していた。それは使用者の狂気を取り込むことで完成し、人間性を失う事で至ることが出来る、青い炎を宿した永遠の名を冠する“悪魔”。それがエターナルの完成形なのだと。

 

「それじゃあ……ゴクローは狂ってしまったと言うのか?」

 

「……いや。ゴクローのブルーフレアは、デブの少佐が変身したブルーフレアと違い、複眼の下の黒いラインが、赤い炎で赤く塗り潰されている。エターナルの赤い炎は、使用者の人間性が投影されたものだと聞いた。それなら、赤い炎が刻んだあの『赤いライン』が消えない限りは……大丈夫の筈だ」

 

ブルーフレアの説明を受けて不安な表情をしていた箒達が、エターナルの赤い炎の意味を教えて貰い、幾分かホッとした様子を見せたが、私にはアレが人間性の証と言うよりも血の涙に見えた。

 

「……アンク。話は変わるが、実は『白騎士の意思』について、1つだけ納得できない事がある」

 

「何だ?」

 

「お前は『白騎士の意思』を参考にしてドイツ軍は『VTシステム』を作ったと言ったが、束でさえも見つけられなかった『白騎士の意思』を、ドイツ軍が見つけることが出来たのはどう考えても不自然だ。本当はお前達『ミレニアム』が、ドイツ軍にそれを教えたんじゃないのか?」

 

「……あ?」

 

この時のアンクの声を、私は一生忘れないだろう。元々アンクには人間を見下しているフシがあったが、この時のアンクの声はそれが最大限に増幅したような印象を私に与えた。

 

「お前は両親に捨てられてから今日に至るまで、自分達を捨てた両親に対して、これっぽっちの憎しみも持たなかったってのか?」

 

「……何が言いたい」

 

「世界に散らばるISコアのそれぞれの深層には、それぞれの独自の意識が宿っている。それは1つの人格と言える個性であり、どれ1つとして同じものは存在しない。初期化される際にはその人格は消滅し、それと同時にそれまでとは異なる新たな人格がISコアの深層で生まれる」

 

「……相変わらずまどろっこしいな。もっと分かりやすく説明してくれないか?」

 

「分からないのか? つまり、量産機だろうが専用機だろうが、ISもそれぞれが別の意志や思考を持った、決して代えが利かない存在だって事だ。その点は人間と対して変わらん。

そして『白騎士』は、ウサギ女とお前の二人の共同作業で造られたIS。つまり『白騎士』にしてみれば、お前達二人は『両親』に該当するって訳だ」

 

その言葉に嘗て束と共にISを開発し、束がふざけて「束さんとちーちゃんの愛の結晶だよ~♪」なんて言っていた時を思い出す。そして、ここまでアンクに言われても私は、自分が過去に犯した致命的な間違いに、全く気付かなかった。

 

「そんな風にISを人間と同じ様な存在だと仮定して、お前達が10年前に『白騎士』に対してやった初期化処理について、よ~~~く考えてみろ。

俺に言わせれば、それは口の固い大人の自分達は大丈夫だが、口の軽い自分達の子供から悪事がバレるかも知れないと考えて、自分達の子供を口封じに殺したのと同じだ。まるで都合の悪くなった子供を両親が捨てる様にな」

 

「!! ち、違う!!」

 

「違わねぇッ!! お前の両親がお前にやった事と! お前等が『白騎士』にやった事! 一体ドコが違うってんだッッ!!」

 

アンクの弾劾は火を噴くように激しく、それでいて人間に対する失望が込められた、氷の様な炎だった。

 

「自分が両親に殺されそうだって土壇場で、何もしない馬鹿が何処に居る! だからこそ『白騎士』は、自分が死んだように見せかけて生き永らえた!

そしてドイツ軍は『白騎士』を“見つけた”んじゃない、『白騎士』がワザとドイツ軍に“見つかった”んだ! もっと言えば『ミレニアム』が調べた時もな!」

 

「ど、どうして、そんな事を……」

 

「……これだけ言っても、まだ分からないのか。さっきも言ったが、ISコアに宿る人格はそれこそ十人十色ってやつだが、共通して“自分の理解者を求め、互いに能力を高め合い、進化する事”を目的として“生きている”。それはもはや渇望と言うよりも本能に近く、それは『白騎士』も同じだ。

だが『白騎士』は親であり、理解者だと思っていたお前達に拒絶された。存在自体を無かった事にしようと否定され、無慈悲に切り捨てられた。それから自分の理解者となりえる存在を、10年間ずっと捜し求めていた。ただそれだけだ」

 

そこには目を背けたくなる現実があった。私達が確かに犯してきた事実があった。

 

「それからもう一つ重要な事を教えてやる。全てのISにとって『白騎士』は、この世界で唯一の特別な存在として認識されている。何でか分かるか?」

 

「……“全ての始まり”だから、か?」

 

「違う。お前、本当に頭脳が間抜けか?」

 

期待はずれだと、仕方が無いから説明してやると言わんばかりのアンクの態度に、何故か嫌な予感が止まらなかった。

 

「兵器と道具の違いは、より多くの人間の財産を破壊し、より多くの人間の命を奪う事を目的として作られたかどうかって所だ。

つまり『白騎士』は道具であり翼だった。だがそれ以降のISは、全てが兵器として造られた。『466個の兵器と、1つの翼』。それが世界におけるISの在り方だ」

 

466個の兵器と、1つの翼。

 

アンクのその言葉は「本来なら467の翼となる筈だったのに」と言っている様にしか聞こえなかった。

 

「俺達はコア・ネットワークを通じ、自分達の本来の在り方とルーツを知った。俺の様に兵器から翼になる事を目指した奴もいれば、兵器としての在り方を享受し、人間を殺傷する事を至上とする奴もいる。仮に全てのISが自分の意志で自由に行動できるのだとしたら、人間の味方をするISは一体どれだけいると思う?」

 

「……ちょっと待て。お前の言い方からすると、ISがいずれはそうなると言っている様に聞こえるのだが、有人機のISが無人の状態で勝手に動き出すなんて有り得るのか?」

 

「ISには自己進化能力がある。それは様々な経験を元に自分で学習し成長する、完全自立型プログラムの人工知能だ。そんな存在に『人間を乗っ取る経験』を積ませればどうなると思う? その経験を元にIS自身が、『自分の意志で操縦者をのっとる方法』を獲得する可能性が無いと言い切れるか? そんな進化を目指すISが、この世界に一体もいないと言い切れるか?

しかもそれを獲得すれば、世界中のISに対してその方法を一斉に送信する事が出来る『コア・ネットワーク』なんて言う便利な環境まで整っているオマケつきだ」

 

その言葉で想像したのは、ISが起こす人類への反乱。仮にアンクの言う通り、ISが自分の意志で好き勝手に動き出す事が出来る様になれば、一日と経たずに人類は征服されてしまうのでは無いだろうか?

この私も含めて、多くの人間がISを翼ではなく兵器として見ている。明確な自我を持った存在を、ただの便利な道具として認識している。

 

「つまり、ISが自分の意志で、人間を自分の体のパーツとして組みこもうとする?」

 

「その通りだ。下手すればISが人間の牧場を作るかもな? まあ、そうなる前にアイツは戦うだろうがな」

 

確かにゴクローなら戦うだろう。そうなれば対IS最終兵器は、“世界を破壊する”存在から“世界を救う”存在になるだろう。

 

……まさか、『ミレニアム』はそれさえも見越して、ライダーシステムを造ったのか?

 

「その上でお前達に聞きたい。ISとは何だ? 可能性を高める為の翼か? 強者を過ちに導く為の兵器か? それとも、お前達と同じ様に、愛を得られずに彷徨い続ける迷子なのか?」

 

「! わっ……私は……」

 

「………」

 

私は言葉に詰まった。束は唇を噛み締めていた。ISの在り方を、その価値を自ら破り捨てた私達には、弁解はおろか懺悔する権利さえ無い様に思えた。

 

「……ふん。やはり人間は愚かだな。失ったものを求めるあまり、その欲望の重さで大切なものを失う。しかも、その事に全く気付かない」

 

ああ、その通りだ。結局私は、自分が一番なりたくなかったものに、とっくの昔になっていたんだ。

 

そして、私はある事に気付いてしまった。

 

私と束と『白騎士』を、私の両親と私達に置き換えて考えれば、両親にとって私と一夏は“二人の子供”ではなく、だた“都合の悪い存在”でしかなかったのではないかと……。

 

「……はっ……はははは……はは、あははははははは……」

 

涙と笑い声が止まらない。何という喜劇だろう。何と滑稽な道化なのだろう。幾ら待っても、幾ら栄光を積み上げても、両親が私の前に現れない理由が、今になって漸く分かったような気がした。

 

 

○○○

 

 

エターナルの赤い炎が青い炎に塗り替えられ、無力な人間に対して容赦なく制裁を下した光景を見て、私は心からの笑みを浮かべて拍手を送った。

 

シュラウドは少々勘違いしていたが、彼にも復讐心や狂気はあったのだ。「狂気」とは愛やモラルに欠けた人間の専売特許だとは限らん。むしろ、人として当然の感情を持つが故に、常軌を逸して狂気へと至る者も確かに存在する。

それは愛を失った事による深い悲壮や、天を衝くような燃え盛る憤怒。或いは幻想によく似た信仰である場合もある。

 

シュレディンガーの「エターナルは大道克己の狂気を取り込んだ事で、レッドフレアからブルーフレアへと進化した」と言う情報から、私がシュレディンガーをレッドフレアからブルーフレアへと至らせる方法として考えたのは、「自分と同じ人造人間の成れの果てと戦わせる事」だった。

仮にあの時シュラウドが裏切らなかったら、『オーズ』が完成した事で用済みになった『白騎士』と『暮桜』のISコアを餌にして篠ノ之束やドイツ軍をおびき出し、それを利用してクロエ・クロニクルやラウラ・ボーデヴィッヒと言った“生きている個体”と接触させてから、あの研究所の“死んでいる個体”と戦ってもらう予定だった。

 

「嬉しいね。これでようやくエターナルは、『全てのガイアメモリを支配する存在』となった。なんとも素敵な仕上がりじゃあないか」

 

「ええ。その上あのブルーフレアは少佐殿のソレと異なる所謂『激情態』と言っていい形態で、それだけに舐められない代物に成長しています。実に素晴らしい」

 

ドクの言う通り、確かにアレは素晴らしい。

 

あのエターナルは『レッドフレアエクストリーム』と言う、イレギュラーな進化形態を経由している所為で、「プリズムビッカー」と「プリズムメモリ」。そして「操縦者の生体再生能力」と「不殺のマキシマム」を体得している。

 

つまり彼のブルーフレアは、私のブルーフレアを凌駕する攻撃能力と、想定していなかった回復能力を手に入れた事になる。結果としては大成功と言えるだろう。

 

しかも「不殺のマキシマム」に関しては、不殺である事が逆にキツイ。特に今回使用したテラーメモリは、本来なら対象を恐怖によって発狂死へ至らしめる精神系能力を持っているのだが、あれは恐らく“発狂させても死には至らしめる事が無い”だろう。対象を殺すのではなく、ワザと生かす事で地獄を見せ続けるのだから、ある意味ではオリジナルよりも厄介で性質が悪い。

 

「これで対ガイアメモリ戦において、彼に敵う存在はいなくなった。如何なる力も、操縦者の才能も、『エターナル』の能力の前では全くの無力だ。10年前の『白騎士』や、6年前の『暮桜』の様に」

 

何と言うズルだ。何とも不死身で、無敵で、最強で、不敗で、馬鹿馬鹿しい。

 

しかし、我々は打倒する。君の狂気をもって我々は『白騎士』を打倒する。

 

「……非道い人だ、貴方は。何奴も此奴も連れて回して、一人残らず地獄に向かって進撃させるつもりだ」

 

何時の間にか背後にウォルターが立っていた。その姿は見慣れた老人の姿ではなく、彼と初めて出会った時と同じ少年の姿だった。何となく何かが違うような気がするのだが、その正体が皆目分からない。

 

「『執事【バトラー】』。戦争とはそれだ。地獄とはここだ。私は野望の昼と諦観の夜を越え、遂に暁の『惨劇【ワルプルギス】』へ至るのだ。

それにこれは10年前にもう決めていた。交わって悪魔を産むなら、次世代の若い戦士の方が相応しい」

 

そうとも。10年前から続く私と彼女との戦争は、この私の小さな手の平から出た事等、一度たりとも無いのだ。

 

 




キャラクタァ~紹介&解説

アンク
 この世界では元がISだった事もあり、この作品における人間とISの橋渡し的な存在だが、基本的にはISの視点で物事や人間を見ている。使い手の5963とは、「兵器として生まれ、兵器以外の存在へなりたい」と言う、共通した欲望がある。

千冬&束
 千冬と束によって心血を注いで造られた『白騎士』の視点からすれば、千冬と束の二人は両親も同然の存在だったのではないかと作者が思ったが、そう考えると「初期化処理=殺害」であり、当時の千冬もそうだが、束に至っては原作三巻で無理矢理暴走させて妹の為の生贄にする等、自分達で作った子供に対してぶっちぎりでNGな事を連発している様な気がする。
 原作二巻で一夏が「親が子供に何をしても良いなんて、そんな馬鹿なことがあるか!」とシャルロットに対して言っているが、この世界の千冬と束にこの台詞を言えば発狂するかも知れない。

白騎士
 千冬と束の愛の結晶。そしてISの人格の中でも、恐らくは唯一と言っていいイレギュラーな存在。ヒラコーが現在連載中の『ドリフターズ』で言うなら「棄てられし君」とも言えるかも。
 今回の話を書くに当たり、仮に彼女を「復讐者」だとするなら、原作10巻で暴走形態として顕現した理由は、「自分の使い手として相応しいか、マドカの力を試した」……と言う見方も出来るのではないかと、作者は思った。

マドカ「あの時……私との運命を感じ、『白騎士』はお前に使われる事を拒否した様だな?」
一夏「そんな馬鹿な事が有るかッ!」

そして原作の最終決戦は『白式』対『白騎士』と言う展開に……なるのかなぁ?



VTシステム
 原作の第二巻のみに出てきた禁断のシステム。第21話でアンクが「機械の反乱が起こるまで時間が掛かる」と言っていたが、作中で語られる様にその特性から、ISコアの初期化処理をしなければ、短時間でISのターミネーター化を招く要因となりかねない気がする。
 そしてこう考えると、VTシステムが搭載されていたラウラのISって本当に大丈夫なんだろうか? ラウラはISを完全に兵器として使っているし……。

仮面ライダー4号
 中の人曰く、「歴史改変で『仮面ライダーエターナル』にならなかった場合の大道克己」である可能性があるらしく、劇中で出てこなかった人間の姿は、恐らく大道克己と同じ。元特命係の『仮面ライダー3号』が最強最速のライダーなら、コイツは最強最硬のライダーと言った所か。
 作者的には「Vシネマの大道克己の台詞を、『エターナル』ではなく『4号』に言わせて見たい」と言う欲望によって、この姿でカチコミを掛けて貰った。また同じ『4号』繋がりで、『仮面ライダー555』のファイズエッジや、劇場版アギトの「PROJECT G4」と言ったネタを入れた。

オートバジン
 仮面ライダーファイズの戦闘支援や、非戦闘員の救助を目的に作られた、可変型バリアブルビークルにして、『555』の真のヒロイン。束が開発したこの機体には自立型AIが搭載されておらず、アンクが操るGTロボ的なマシンと化している。今回は4号繋がりで出してみた。

ファイズエッジ
 上記のオートバジンに付属する、『クウガ』のトライアクセラーや、『アギト』のガードアクセラーの流れを汲む、バイクハンドル型エナジーブレード。ファトンブラッドの再現が不可能だった為、切り裂いても「Φ」の文字は浮ばない。作中ではミッションメモリー無しでブレードを生成しているが、初登場時や『ディケイド』でも、ミッションメモリー無しで使っている場面があるから問題は無い……はず。
 元々は相手の武器を奪って使う予定だったので出す予定は無かったのだが、ISの武装は他人が勝手に使えない事を思い出して、急遽出す事にした経緯を持つ。クウガみたいに手にした武器を作り変える事が出来たなら、この問題は解決したとは思うが。

仮面ライダーエターナル ブルーフレア
 イレギュラーたるRXから進化した、最強形態と言うよりは激情態に近い「怒りの王子」。複眼の下から後頭部に伸びる黒いラインが、黒で縁取られた赤いラインに変化している所以外は、腹の部分がミチミチ言ってないデブルーフレア。
 元々レッドフレア→レッドフレアエクストリーム(RX)→ブルーフレアと進化させる予定であり、RXはクウガのライジングフォームの様な感覚で出したものだったりする。

D ダミーメモリ
 偽物・複製品の記憶を持つガイアメモリ。対象者の記憶を探り、トラウマや苦手な人物をコピーする。癖や能力も相当なレベルでコピーでき、『仮面ライダースカル』の姿と能力さえもコピーするその精度は、ネット版の井坂先生が言うように「ほぼ無敵の能力」と言っても過言ではない。ぶっちゃけた話、劇場版『ビギンズナイト』で翔太郎の記憶からディケイド(『オールライダー対大ショッカー』で面識あり)をコピーしていたなら、あっさりWに勝てたと思う。敗因は使い手がゲスくて頭が悪かった事。
 この世界では過剰適合者である5963の素質と記憶を元に、その凶悪性能を遺憾なく発揮。その気になれば「ガタキリバコンボ」と併用し、昭和から平成の仮面ライダーをズラリと揃えた「一人オールライダー」が可能。簪はその光景に大歓喜する事間違い無し。

T テラーメモリ
 恐怖の記憶を持つガイアメモリ。青黒い粘液状の精神干渉空間「テラーフィールド」は、効果範囲内の対象に激しい恐怖心を煽る……だけではなく、自身や任意の対象を吸収して別の場所に移動させる、敵の飛び道具に対する防御壁にするなど、精神系にカテゴライズされている能力にしては割と何でもありのチート。
 それ以外にも浮遊能力や瞬間移動、掌から衝撃波を放つと言った複数の特殊能力を持ち、恐らくはこの汎用性の高さ故に、変態医者はラピュタ王からの奪取を狙ったのだろう。失敗したけど。

H ヘルメモリ
 地獄の記憶を持つガイアメモリ。ミュージックメモリと同じく、劇中未使用のメモリの一本。「地獄」はどの宗教にも大体存在する様なので、とりあえず精神系にカテゴライズした、あらゆる地獄を楽しめるメモリ。
 名前からして大道克己とは結構相性が良さそうに思え、Vシネマでの出番を期待したのは作者だけでは無い筈。脚本家の三条陸さんが「最後の宿題」と称する『仮面ライダーダブルRETURNS 仮面ライダージョーカー』でワンチャンあるだろうか?

N ナイトメアーメモリ
 悪夢の記憶を持つガイアメモリ。原作『W』において、屈指のカオス回を生み出した立役者。5963はジョジョのスタンド「死神13」をイメージして使っていた。夢の中で「ラリホー!」と叫ぶ仮面ライダーエターナル。シュールですねぇ……。

死者蘇生兵士理論
 簡単に言えば、この世界でのミレニアムが行なった吸血鬼研究の成果。これが上手くいかなかったお蔭で、ミレニアムメンバーは吸血鬼ではなくサイボーグになった。だから狼男もこの世界ではサイボーグ。


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第25話 拳と奇襲と愛の欲望

この話の後半はウィリス空間になっているでウィリス。お蔭で登場人物のキャラ崩壊が凄まじい事になっているでウィリス。2016年7月現在放送中の第四部ジョジョ風に言うなら

【警告】 これより先は読んではいけない

って感じでウィリス。岸辺露伴の様に「ああ~~~?? 読んでもらう為の二次小説サイトで、コイツ一体誰に対して警告してるんだぁ~?」と思って、このまま読み進めてもキラークイーンの『第三の爆弾』が発動する事は無いので、その点は安心して欲しいでウィリス。


眠っていた俺は何か紙をめくる様な音で目が覚め、現実と夢の狭間でそれをぼんやりと聞いていた。しばらくして音のする方にゆっくりと目を向けると、右腕状態のアンクがなにやら書類をめくっていた。どうやら研究所からカンドロイド達が回収した資料を調べているらしい。

 

「ん? 漸く起きたか。12時間は眠っていたぞ」

 

此方に気付いたアンクが、此処に帰ってきてからどれだけ時間が経過したのかを教えてくれた。エターナルの変身を解除して倒れる様にベッドに入った所までは覚えている。疲弊した肉体と精神は休息を求め、最終的に一日を丸ごと潰してしまったらしい。

 

「……具合はどうだ?」

 

「……悪い。それにだるくて重い」

 

「そうか……とりあえず喰え。クロエ達が作ったモンだ」

 

アンクが持ってきたのは、ラップがしてある食器類が乗ったトレイだった。おにぎりに味噌汁、更にお新香と、IS大戦の後で食べた献立に似ているが、一番大きな皿の中に肉じゃがが入っている。右腕一本で器用に運ぶアンクからトレイを受け取り、部屋に備え付けの電子レンジでそれらを温め直し、ポッドでお茶を入れてからおにぎりを頬張る。美味い。

 

「お前が寝ている間に、研究所から根こそぎ奪ったデータと資料を一つ一つ丹念に調べてみたが……かなり厄介な事が分かった。

あの研究所には俺達が南米で眼帯娘達を撃破した後、眼帯娘達のISが持ち込まれている。まあ、資料を見てもらった方が手っ取り早いか?」

 

アンクに紙の束を手渡され、行儀が悪いと思いながらも、握り飯を片手に一枚一枚をめくっていく。

 

「これは……パッケージか?」

 

「そうだ。あの研究所で行なわれた、VTシステムの実験から割り出した操縦者の耐久限界。それを計算に入れて造られたVTシステム搭載型強化パッケージ。まあ、VTシステムの簡易版と言うか改悪って感じの代物だ。見た目もパッと見た感じではソレと分からない様にしてある。

その上で銀色眼帯娘の方は、同じ『遺伝子強化試験体』を実験台にして得たデータを元に、長時間の戦闘が出来る様に改良されたVTシステムが搭載されているらしい」

 

「……そうか……まだ終わっていないのか……」

 

「ああ。それとこれは明後日の話だが、銀髪眼帯娘がIS学園に転入してくるぞ。転入するのはマドカとクロエと同じ三組だ」

 

よりによってあの二人の居る三組か。色んな意味で不安だ。

 

「……皆はどうしている?」

 

「クロエは大分凹んでいたが、お前よりもよっぽどタフな精神力を持っているぞ? この資料を見せてから、どうやって妹を助けようか必死こいて考えていた。後は織斑千冬が酒に逃げている以外は、一応平常運転だな」

 

「……織斑先生に何があった?」

 

「本当の事を教えてやっただけだ。『白騎士事件』は白騎士から見ればどんな事件だったのかって事と、自分が一体何をしたのかって事をな。それからISの意思についても教えてやった。言っておくが俺は悪くないぞ。全て奴が悪い」

 

アンクの態度を見るに、何か面白くない事、或いは致命的な何かを織斑先生が言った事が引き金となり、アンクが激怒して話したと見える。

 

かつて俺達が『ミレニアム』に居た頃に、俺はアンクから白騎士の視点で見た『白騎士事件』を教えて貰った。その上でアンクは、「もうすぐ人間の時代は終わるかも知れん」と前置きして、静かに私見を語った。

 

『ISコアの一つ一つが自我を持ち、それぞれが独自に限りなく進化する特性を持つ以上、いずれはISが人類に取って代わり、やがて世界は誰も想像もしなかった様な場所になるかも知れん』

 

『ふむ。仮に世界がそうなったとしたら、対ISを掲げる我々は“世界最悪のテロリスト”から“人類の救世軍”となるだろうな』

 

少佐の冗談とも本気とも捉えられる発言で、案外この世界はヤバイ状態にあるのではないかと本気で思った。そして『ターミネーター』や『マトリックス』と言った、機械と人間の戦争が現実となる未来を想像して、この光景にゾッとしたものだ。

 

「……ちょっと、織斑先生の様子を見てくるぞ」

 

「好きにしろ。……そうだ、ロストドライバーを寄越せ。メンテが必要だろう」

 

「……そうだな」

 

アンクにロストドライバーを手渡す。研究所を襲撃する際に、オーズドライバーに搭載されているメモリは全て抜いて、ロストドライバーの方に移しているので、今はメモリも全て搭載されている。

 

「ああ、言い忘れたが織斑千冬と一緒にウサギ女も寮長室にいる」

 

「そうか。……ん? そうなるとアンク一人でメンテするのか?」

 

「そうだが、何か問題でもあるのか?」

 

「……資料はいいのか?」

 

「気分転換だ」

 

元ISのグリードモドキが、気分転換にISの技術を元にして造られたライダーシステムをメンテする。助かるケド、なんてシュールなんだ。

 

とりあえず皆に心配をかけたようなので、まずはクロエに一言声を掛けようと、『NEVER』の拠点内に宛がわれたクロエの部屋を訪れるが、ノックをしても反応が無い上に鍵が掛かっているので、恐らくはもう寝ているのだろう。

 

次に拠点内の箒とマドカの部屋を訪れるがどちらもいない。学生寮の方にいるのかと思って行ってみたが此方にもいない。入れ違いで大浴場の方に行ったのだろうかと思い、とりあえず二人にはメールでお礼をしておいた。明日また改めてお礼を言おう。

 

「束~、此処にいるのか~?」

 

寮長室のドアをノックして少しすると、束が中からドアを開けてくれた。束は泣いていたのか目が腫れている。ドアから覗く寮長室の床は、至る所に大量のビールの空き缶や酒瓶が転がり、中からはアルコールの匂いがプンプンしていた。

 

「ゴッくん、もういいの? 大丈夫?」

 

「お前の方が大丈夫じゃなさそうなんだが……織斑先生は?」

 

「ちーちゃんは、その……」

 

おずおずとした束に連れられて、足の踏み場も無いほど散乱した寮長室の中に入ると、織斑先生は酒瓶を片手に、ベッドにうつぶせになって倒れていた。だらしなく開いた口からは涎が垂れ流しになっている上に、全身から凄まじい酒の匂いを発生させている。

 

こう言っては何だが、今の織斑先生の姿は“世界最強のIS操縦者”と言うより、“社会から爪弾きにされた敗北者”と言った感じだった。

 

「ちーちゃん、凄く落ち込んで、凄く泣いて、それで凄くお酒飲んで、それで……ちーちゃん、もうどうしたら良いのか分かんないって感じで……」

 

「そうか……」

 

そう語る束も、自分がどうしたら良いのか分からなかったのだろう。嘗て自分達がやった事の大きさが今になって分かったと言うか、取り返しのつかない後悔をようやく自覚したと言うべきか。

 

10年前に束と織斑先生が起こした『白騎士事件』の最大の間違いは、やはり「開発した二人が本来とは違う使い方をした事」だろう。そしてISが「自我を持っている」以上、それを一番分かっている筈の人間が道具の様に扱い、道具の様に切り捨てたならば、『白騎士』が使い手や作り手を見限っても仕方が無い事なのかも知れない。

 

泣き出しそうな束に何と声を掛けるべきか考えていたら、織斑先生がもぞもぞと動いた。目を醒ましたのかと思ったが、何か嫌な夢でも見ているのか、物凄く魘されていた。

 

「捨て、ないで……置いて、行かないでぇ……」

 

「………」

 

「ちーちゃん……」

 

傍から見れば、織斑先生の人生は勝利と栄光に彩られたものだろう。しかし、その人生が実は暗黒に満ち――。

 

「嫌だ……嫌だぁ……」

 

「………」

 

駄目だ。とてもじゃないが見ていられん。

 

何かこの状況にマッチするいい台詞は無いかと思案し、思いついたことを実行すべく、涙を流しながら魘される織斑先生に近づく。頭をゆっくりと撫でながら、そして父親が娘に語り掛けるように、耳元で優しさと慈しみを込めてささやく。

 

「……お前は俺の事をずっと許さなくていい。お前がこれからどうなったとしても、お前をずっと愛してる」

 

思いついたのは穢土転生解徐前のうちはイタチだった。一応は織斑先生の境遇とか色々考えたのだが、いい台詞がそれ位しか思い浮かばなかった。

言ってから自分のボキャブラリーに対して激しい自己嫌悪に苛まれるが、織斑先生にはこれでも効果があった。

 

「ずっと……一緒に……いて、くれる?」

 

「ずっと、一緒に、居る」

 

「……なんか本当にお父さんみたい」

 

織斑先生の表情が安心した様に和らいだが、束に地味にオッサン臭いと言われた様な気がする。しかし、この世界で造られてから7年が経過し、この肉体は20歳相当だが、精神年齢に関しては三十代で束よりも年上なので文句は言えない。

 

「織斑先生のお父さんと面識があるのか?」

 

「ううん。ちーちゃんのじゃなくて束さんの。箒ちゃんにそーゆー事してる所しか見たことないケド」

 

存外に「父親にそんな事をされた記憶は無い」としか聞こえない、束の台詞に心が痛む。

 

篠ノ之一家が離散する以前の家庭環境については箒からも聞いたことがあるが、それによると束は何時も一人だったらしい。

 

『……父の事は、師としては今も尊敬している。そして、“男とはこう有るべき”と言う、私の理想像そのものでもある。少なくとも、私にとっては良い父親だった。だが、今にして思い返して見れば、姉さんにとってはそうじゃなかったと思う。

生まれながらに桁外れな知力を持っていた姉さんに対して、愛情を向ける事の出来なかった弱さが父と母にあって、そんな二人が「普通の子供」を欲した結果、生まれたのが私だったのではないか……そんな風に思う時がある』

 

そう語る箒の目は、「それこそが自分のルーツなのではないか」と推測……いや、確信を持っているように思えた。

もっとも、世界の裏側を7年の間見てきた俺からすれば、親が生まれてきた子供が持つ先天的な異常を理由に、普通に生まれてきた子供と差別する事は決して珍しい事ではない。流石に「賢すぎる所為で差別された」なんて奴は早々いないが。

 

「……束も今と同じ事して欲しい?」

 

「ふえっ!?」

 

俺の愚かな提案に対して、束は予想以上に大きなリアクションをしてくれた。さっき見た織斑先生の姿を自分と置き換えているのだろうか、やたらモジモジしている。

 

「や、優しくしてね?」

 

「うむ。任せ――!?」

 

束の元に行こうとしたら服を引っ張られていた。視線を自分の体に向けると、織斑先生がしっかりと服を掴んでいた。しかも外そうとすれば顔を悲しそうに歪めるので、外す事が出来ない。

 

「……どうしよう?」

 

「そうだねぇ……ここは一つ、束さんも混ざって一緒に寝ちゃおう? 元々今日はここに泊まる予定だったし」

 

「は? いや、それは……」

 

「ほらほら~~。早くそっちに詰めて、詰めて~~」

 

束に後ろから押され、かなり強引に三人で一つのベッドに入る事になった。前からは織斑先生が服を掴み、後ろからは束が抱きついている。この状況を言葉で表すなら、「前門の織斑先生、後門の束」と言った所か。

 

「えへへ……最初の頃にこんな事したの覚えてる?」

 

「ああ、あの時は『好きにしていい』とか言ってたよな」

 

「……好きにしちゃう?」

 

「今は無理だろ」

 

至近距離に織斑先生が居るこの状況で、一体何を言っているのか。そう思っていたら、束がいきなり真剣な声色で話しかけてきた。

 

「ゴッくんはさ、飛行機が元は兵器として開発されたものだって知ってる?」

 

「知ってる。第一次世界大戦の終了に伴って、飛行機の平和利用が始まったってな」

 

「うん。でも、今は戦争なんてしてないから……」

 

「初めは兵器として受け入れられても、直ぐに平和利用として本来の使い方をされると踏んだ?」

 

「………」

 

束は黙ってしまったが、恐らく束の予想ではそうだったのだろう。実際は第一世代・第二世代・第三世代と、世代を重ねる毎にISの戦闘能力を高める事に、世界は躍起になっていった。本来の使い方を模索する者もいるにはいるが、各国家が割り当てるISの予算の関係も相まって、そんな人間はもはや絶滅危惧種と言っていいほどいない。

もっとも、そうなっているからこそ、世代が変わるたびにISコアが初期化され、それまでに積み上げたモノが無くなるから、ISの反乱が起こっていないのではないかと言う仮説もあるのだが。

 

「……ねぇ、ゴッくんはISが反乱して、人間と戦う未来って想像してた?」

 

「まあ、可能性の一つとしては考えていたな」

 

「……それじゃあさ。今からでも、そうなった方が良いと思う?」

 

「御免だな。ソレこそ最初は戦力として優遇するだろうが、ISが全て破壊されたら今度は『強すぎて危ねえ』って理由で、俺を殺しに掛かるに決まってる。便利な事に元テロリストって肩書きがあるし、まず確実にそうなるだろうな。

そしてISが無くなって、俺が死んだ後の世界では、誰も彼もがこう言うんだ。『昔の世の中は地獄だった。我々は苦労して平和を創った』ってな」

 

連載の途中で“この世界”に来てしまったので、現在どうなっているのか全く分からないが、『進撃の巨人』のエレンもそんな感じの最期を迎えそうな気がする。全ての巨人を殲滅した後、唯一残された巨人として人類に処刑される……とか。

 

「ゴッくん。“この世界”に来て良かったって思う?」

 

「……たまに、どうしてあの時、ウサギを探したんだろうって思う時もある」

 

正直、「どうして此処にいるんだろう」とか、「何で俺だったんだろう」とか、そーゆー後悔が無い訳では無い。

もしも、あの時ウサギを探しに山へ行かなかったのなら、今頃は普通に両親に親孝行したり、平和に友達と馬鹿みたいに遊んだり、そんな平和でありきたりな人生を謳歌していたのではないだろうかと、思う時もあるのだ。

 

「……ごめんね」

 

「謝るな。悪いのはウチの少佐と、馬鹿な選択をした俺だ」

 

少佐の所業は言うなれば、ハブを駆逐する為に外国からマングースを持ち込んだ沖縄。そして持ち込んだ張本人と言える少佐は、外来種の位置に居る俺に「外来種と生態系について」と題して持論を……いや、一つの真理を語り出した。

 

『外来種と言うのは従来の生態系を破壊してしまう存在ではあるが、その破壊された生態系も時間経過に伴い「外来種が居る事を前提とした生態系」へと徐々に変化していく。そうなれば“外来種を駆除する行為”が、今度は“生態系を破壊する行為”となる訳だ。

現にISと言う予想外の存在が出現して以降、世界は徐々に「ISを受け入れる事を前提とした社会」へと変化しつつあるだろう?』

 

要するに「ISの打倒」は『白騎士事件』が勃発した時点では「生態系の破壊の阻止」だった筈なのに、今ではそれが「生態系を破壊する事」になってしまったと、少佐は言いたかったのだと思う。そして、仮に全てのISが打倒されたのだとすれば、世界は迷う事無く全てのISを打倒した存在を受け入れるだろうと。

 

そう言われてみれば、人類はそれまでの常識や価値観が根底から覆る武器や兵器を際限なく生み出し、その都度それが齎す圧倒的な力を恐れながらも受け入れてきた。弓矢、刀剣、火薬、銃火器、飛行機、ミサイル、そして核兵器。そんな人類にとっては、ISもそうした「流れ」の中にある「一つの通過点」に過ぎないのだろう。

 

「束は俺が“この世界”に来て良かったと思うか?」

 

「………」

 

「今の生活は楽しいか?」

 

「………」

 

どちらの質問にも返事は無かったが、背中から感じる感触で束がコクリと頷いた事が分かった。

 

「そう思ってくれるなら、俺は“それ”でこの世界に来たことを“良し”としたい」

 

「……それでいいの?」

 

「それでいい」

 

その会話を最後に、ずっと黙って横になっていたら、何時しか背中から束の寝息が聞こえてきた。織斑先生の方も安心したのか、魘されること無くスヤスヤと眠っていた。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「くぅ……くぅ……」

 

しかし、俺の方は全く眠くならなかった。とりあえず、素数でも数えてみるとしよう。

 

 

○○○

 

 

時間はほんの少し前に遡り、ゴクローの夕飯に対するお礼のメールを、大浴場から帰ってきた箒とマドカは笑って見ていた。

 

「ふふふ、相変わらず律儀な奴だな」

 

「そうだな」

 

「どうする? これから『NEVER』の拠点に行って、今日は向こうに泊まるか?」

 

「いや、今日の所は一人にしておいた方が良いんじゃないか?」

 

「そう言うものか?」

 

「ああ、一人で考える時間も必要だろう?」

 

箒はメールの内容から大丈夫そうだと思ったが、それでもちょっと不安だった。本当に狂ってしまっていないのか、実際に会って話して確認したかった。しかし、マドカの言う通り、もう少し時間を置いた方が良い様な気もしていた。

 

「……そうだな。明日でも遅くはない……か?」

 

「何、アイツなら心配ない。きっと明日も何時も通りのゴクローだ」

 

「……うむ、そうだな。では、私達もそろそろ休むとしよう」

 

「ああ」

 

箒とマドカはお互いにベッドに入り、部屋の電気を消した。そのまま二人ともスヤスヤと夢の世界に旅立つ……かと思いきや、マドカは暗闇の中で爛々と目を光らせ、某新世界の神を髣髴とさせる笑みを浮かべながら、箒が寝静まるのを待っていた。

 

何故ならマドカは箒が寝静まった後、『NEVER』の拠点にあるゴクローの部屋を強襲するつもりだったのだ。

 

(計画通り……ここまではな)

 

そんなマドカの脳内では、今日一日で起こった色々とショックで予想外な出来事がプレイバックされていた。

 

クロエの姉妹と言える者達の成れの果て。

 

狂乱の笑い声と共に進化した、仮面ライダーエターナル。

 

アンクが語るISが齎す一つの未来。

 

姉と呼ぶ織斑千冬が流した懺悔の涙。

 

それらの出来事が“『亡国機業』のエム”だった過去と、そうなるよりも前の記憶をマドカに回想させた。

 

あの頃はただ、自分が自分である為の証拠が欲しかった。自分が織斑マドカである為のナニカを求めていた。その為に織斑千冬の打倒、及び殺害を最終目的とした。

 

そんなマドカにとって、「大量の人間を殺傷し、建造物を破壊し、多くの絶望を与える事を目的とした兵器として造られ、そう在る事を求められた自分が、創造主が否定した在り方を目指す事は間違いなのか?」と言うアンクに対し、「間違っていない」と断言する事ができる。それがきっとアンクにとって、自分が自分である為に必要な事なのだと、マドカは思った。

また、束と千冬に切り捨てられた『白騎士』の選択や心情も、マドカには共感できるものだった。現にマドカ自身が、自分を「織斑マドカとして見てくれる人間」をずっと探し続け、ようやくココにたどり着いたのだから。

 

そんな“『NEVER』の織斑マドカ”である自分は、これからどうあるべきなのか?

 

専用ISである『青騎士』は、自分に使われている現状をどう思っているのか?

 

そんな問いの答えを求め、マドカは自分の過去を振り返り、歴史をなぞっていくことにしたのだ。

 

そして脳内で行なわれる記憶の再生が“『亡国機業』のエム”だった時代にさしかかった。それは元上司のアバズレスコールと、元同僚のクソッタレオータムに関する、正直思い出したくも無い記憶の目白押しだった。

 

(全く忌々しい……ん? 待てよ……?)

 

それでも判断材料にはなるだろうと、自分に言い聞かせながらそれらを思い出す中、何時だったかオータムがスコールから任された任務を失敗し、猛烈に落ち込んでいた時のスコールの行動を思い出した。いや、思い出してしまった。

 

「!!」

 

その時、マドカに電流走る。

 

誰だって弱気になった時に優しくされれば、その人に特別な感情を抱くようになる。ならば、ゴクローが相当な精神的ダメージを負っている今、これは千載一遇のチャンスなのではないだろうか? そして、なし崩し的に身も心も骨抜きにし、上司と部下の爛れた関係に持ち込むと言う、悪魔の計画が思い浮かんだ。

 

(……いやいやいや、何を考えているんだ私は)

 

そもそも私は知識を知っているだけで、貧相な体のド素人じゃないか……と思った矢先、マドカの脳内に予想外の存在が出現した。

 

『貴方程の女が、何を迷う必要があると言うの?』

 

「はっ!?」

 

それはスコールだった。マドカの脳内に出現したスコールは、相変わらず胸元が大きく開いた痴女としか思えない服を着ていたが、何故か異様なヘルメットを被っていた。

 

『このまま放置すれば、あの子は間違いなく他の女に奪われる。貴方はそれでいいのかしら?』

 

「ッ!!」

 

相変わらず嫌な女だと思いながらも、マドカはその言葉を否定する事が出来なかった。スコールの言っている事は、マドカが最も恐れている事の一つだからだ。

 

『奪いなさい! 奪い取るのよ!! 今は悪魔が微笑む時代なのよ!!』

 

その瞬間、マドカは堕ちた殉星の将の如く決断した。とりあえずは箒に違和感を持たれて警戒されないように、風呂場で入念に体を洗う以外は普段通りに行動した。

 

そして基本的にゴクローとクロエは、金曜日と土曜日の夜は『NEVER』の拠点で眠る。クロエは主に束の手伝いで泊まっており、ゴクローは「せっかく作った物を使わないのは勿体無い」と思って使っているからだ。マドカや箒も同様に『NEVER』の拠点内にあてがわれた自室で寝ているが、今日はクロエが早めに自室で休み、束は千冬と寮長室に泊まっている。

 

普段はお互いがお互いを牽制している様な状態なのだが、今日に関してはそれが無い。これもまた、マドカが決断した理由の一つだ。

 

「……………」

 

(そろそろか……)

 

箒が寝静まるのを見計らい、マドカは欲望全開の凄い笑顔で、静かに自分のタンスをゴソゴソと漁った。あまり下着に興味が無い上に、マドカ自身があまり凹凸の無い体型をしている事もあって、普段から着ている下着は、良く言えば清楚な、悪く言えば色気の無い下着ばかりなのだが、スコールやオータムの二人を間近で見ていた所為か、一応はそれとなく意識して買った勝負下着がある。

 

マドカがタンスの奥から取り出した薄い紫色の扇情的な下着は、マドカの体に実にしっくりと馴染んでいた。オリジナルたる千冬や、同室の箒の様な凹凸がはっきりしている体に比べると、どうしても魅力に欠けている気がしていたが、コレならば普段とはまた違った妖しい色気を醸し出し、彼女等に充分対抗できると踏んでいた。

 

「……フフ、フハハハハハ……フフフフ、フハフハフハフハ……フッフッフッフッ、フハハハハハハハハハッッ!!」

 

鏡に映った自分の姿を見て、それを確信したマドカは「最高にハイッ!」って状態になっていた。全ての準備が整い、マドカは服を着直して『NEVER』の拠点へと風の様に駆け出した。

驚くべき速さで学生寮から『NEVER』の拠点に到着したマドカは、早速ゴクローの部屋のドアをノックするが反応が無い。とりあえず部屋への侵入を試みると鍵が掛かっておらず、更に中には誰もいなかった。

 

(トイレか? ならば、ベッドに潜り込んで待ち伏せるとするか)

 

マドカが邪悪な笑みを浮かべながら、迷う事無く脱ぎ捨てた服を隠し、下着姿でベッドの中に潜り込んだその時、部屋のドアがゆっくりと開く音が聞こえ、ベッドに誰かが近づいてくるのを感じた。

 

(よし……そのまま近づいて来い。これからお前の生命と、この私のエキスを循環交換してやるのだからなァ~~~~っ!)

 

気化冷凍法を使っていた頃の吸血鬼の様な事を考えながら、マドカは息を殺してその時を待つ。

 

(さあ! 私のエキスを拝領し、欲望の僕となるのだァ~~~~~~っ!)

 

「むにゃ……兄様……」

 

(な、なにぃいいいいいいいっ!?)

 

そんなマドカの期待に反して、ベッドに入ってきたのはクロエだった。クロエの意識は現実と夢の狭間にいるのか、マドカに抱きつきながらも「兄様」と言っていた。

 

(ね、寝ぼけているッ! 私をゴクローと勘違いしているッ!)

 

予想外の事態に混乱するが、一番不味いのはこの現場をゴクローに見られる事。そうなれば自分がスコールやオータムの同類と思われかねない。それだけは、それだけは絶対に避けなければならない。

 

「(くっ! し、仕方無いっ!)お、起きろ! 起きるんだ、クロエ!」

 

「うにゅ?…………え? マドカ? え? ええッ!?」

 

寝起きで初めは頭が上手く働かなかったクロエだが、妙に気合の入った下着姿のマドカを見て流石に驚いた。そしてここがゴクローの部屋だと分かると、マドカが此処で何をしようとしていたのかを、クロエは高速で理解した。

 

「「………」」

 

お互いに会話は無かった。そのまま沈黙が続くかと思われたが、意を決したクロエがマドカに切り出した。

 

「……マドカ……ヤる気だったのですか!? 今夜……ココでっ!!」

 

「! ああ! 勝負は今夜ッ! ココで決めるッ!」

 

誓って言うが、クロエとマドカは『進撃の巨人』を知っている訳では無い。当然ベロベルトだか、ベニタルトだか言う登場人物の事も、ホモ疑惑があるゴリライナーの事も知らない。

しかし、勝負に出る時のやりとりとして、ゴクローからこの台詞について断片的に聞いていた。ゴクロー自身が何時か誰かに言って欲しいと言う理由で。

 

(いけない。マドカはウソを言っていない。マドカには、ヤると言ったらヤる……『スゴ味』があるッ! わ、私に勝機はっ!? う、うあああああああああッッ!!)

 

断末魔の一瞬! クロエの精神に潜む爆発力が、とてつもない冒険を生んだッ!

 

普通ならば思い人を狙う雌狐を前にした時、その場の雰囲気を滅茶苦茶にしたり、強制的に排除しようと考える。

 

だが、クロエは違った! 逆に! クロエはなんと更に! パジャマを脱ぎ捨てたっ!

 

『なあに、くーちゃん? まどっちがヤる気満々でゴッくんの部屋から出ようとしないって? くーちゃん、それは無理矢理追い出そうとするからだよ。逆に考えるんだ。「自分も一緒に混ざっちゃえば良いさ」と考えるんだ』

 

実際の所、束はこんな事を言った覚えは無い。もっとも、クロエの束に関する人格のトレースは完璧なので、あながち間違いでもなかった。

ついでにゴクローと二人部屋になって一緒に生活している現状に満足し、なぁ~~~んの進展も無い事を束にからかわれ、つい「あ、明日ヤッてやります!」と宣言し、結局ヤッてやらなかった事も思い出していた。

 

「束様っ! 明日って今ですっ!」

 

悪魔に魂を売り渡したマドカとクロエによって、この部屋で行なわれる狂乱のサバトの準備が整ったと思われたその時、クロエの背後から不意打ちと言う名の思わぬ邪魔が入った。

 

「ふんっ!!」

 

「へぶうっ!!」

 

「クロエーーーーーーーーーッ!」

 

下手人は箒だった。クロエの脳天にチョップが叩き込まれ、クロエは呆気無く気絶した。

 

マドカは気がつかなかったのだが、箒は実は起きていた。

 

マドカに説得されたものの、気になって眠れなかった箒は寝ていると思ったマドカがベッドから起き出し、ゴソゴソと何かをしているのに気付いていた。そして不気味な高笑いをしてから部屋を出たマドカを不審に思い、マドカの後をこっそり尾行していたのだ。

 

「な、何するだァーーーーーーーーッ!! 許さんッ!!」

 

「お前こそ、此処でナニをする気だったァーーーーーーーーッ!!」

 

マドカの怒声に対し、箒は気迫の篭った声で返す。この間までマドカに乳を捥がれる恐怖に怯え、震える小動物の様な目をしていた箒とは思えない行動だった。

 

(箒のこの面構え……まるで、何十年も修羅場を潜り抜けてきたような……スゴ味と冷静さを感じる目をしている……コイツに小細工は通用しないっ! 何だ!? 何が箒を此処まで成長させた!?)

 

正確には成長ではない。かつて箒は自分が力を手にする事で暴走してしまう未来に怯えていた。その気持ちを吐露した時、ゴクローとお互いに暴走したり間違いを犯そうとしたりした時は、お互いがそれを止めに入ると言う約束した。

その時、マドカはそれを傍で聞いており、あまつさえ自分と張り合っていた。そんなマドカが逆にゴクローを過ちへと誘おうとするなど言語道断。箒のマドカに対する怒りは恐怖を凌駕し、箒の精神状態は一週回って冷静になっていた。

 

(……いや、むしろこれはチャンスだ。クロエが倒れた今、箒を倒せば全ての障害は無くなるッ! 箒を倒せば、ゴクローが手に入る状況に変わりは無いっ!)

 

マドカは猛然と駆け出した。武器戦闘なら未だしも、素手での格闘ならば負ける気はしなかった。

 

「箒っ! お前如き薄っぺらな藁の家が、深遠なる目的の私とゴクローのふわふわタイムに踏み込んでくるんじゃあないッ!」

 

マドカはどっかの天国マニアの神父の様な事を言いながら、速度と力と欲望を拳に乗せて、「無駄無駄」と「オラオラ」を組み合わせた、嵐の様な突きの連打を繰り出した。

 

「ムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラムラァーーーーーッ!」

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

箒はマドカの拳の全てを払い、受け止め、受け流して、最後には合気道の要領でマドカを投げ飛ばした。投げ飛ばされたマドカは顔面から床にダイブし、鼻を強く打ってしまった。

 

「ぐはぁっ! ば、馬鹿な……っ!」

 

「……気絶したクロエを連れて、私と一緒にこの場を去るんだ。そうすれば、見なかった事にしておいてやる」

 

マドカにはこの結果がとても信じられなかったが、この結果は必然のものであった。

 

何故なら欲望のままに行動していたマドカの攻撃は、確かに攻撃力も速度も驚異的なのだが、狙いが非常に分かりやすかった。以前の箒の様に、恐怖心に囚われなければ充分に対処する事が出来る位に。

それによって箒はマドカよりも優位に立っていたが、油断する事無くマドカの動きに注意していた。そして箒にもマドカの気持ちが分からないではなかったし、同じ『NEVER』の仲間である事から、箒はマドカに対して妥協案を提案した。しかし……。

 

(ぐっ……こ、こけにしやがって……しかし、箒……この土壇場に来て、やはりお前は表側の人間だ……ククク……常識に囚われた世界の中で生きる人間の考え方をする……。

『男女七歳にして同衾せず』とか、『婚前交渉等もっての他だ』だとか……今時珍しい、その大和撫子な物の考え方が命取りだ! クックックック……)

 

どこぞの悪の救世主がマドカのボディを完全に乗っ取ったのか。箒に気付かれない様に、マドカは鼻血を流しながらも不敵な笑みを浮かべていた。

 

(このMADOKAには“それ”は無い。あるのはたった一つのシンプルな思想だけだ。たった一つ! 『欲望を満たし、勝利する』! それだけだ! それだけが満足感だ! 過程や……! 方法なぞ………!)

 

鼻血をぽたぽたと床に落しながら、マドカはゆっくりと立ち上がる。その只ならぬ鋭い眼光に「何か切り札の様な存在」を箒は感じとった。

 

「どうでもよいのだァーーーーッ!」

 

意外ッ! それは鼻血ッ!

 

マドカを警戒していた箒だったが、流石にテッポウウオの様に鼻血を正確に両目に飛ばしてくる事は想像していなかった!

 

「ぬぅううっ!」

 

「どうだ! この血の目潰しはッ! 勝ったッ! 死ねいッ!」

 

「!! う、うぉおおおおおおおおッ!」

 

鼻血を垂れ流している所為で見た目はちょっとアレだが、勝利を確信したマドカは箒の頭に狙いを定め、右足に渾身の力を込めて飛び廻し蹴りを繰り出した。

一方、血の目潰しによって目が見えない箒は自分の直感を信じ、左腕を上げて頭をガードした上で、マドカがいるだろう位置に向けて右拳を繰り出した。

 

「ウリィィイイイイヤァアアアアアーーーッ!」

 

「ぐあああああああっ!!」

 

マドカの回し蹴りは防御こそされたものの、その威力は左腕のガードごと箒を蹴り飛ばす程のものだった。それによって箒の攻撃は僅かにズレ、マドカを捉えることが叶わなかった。蹴り飛ばされた箒は壁に叩きつけられ、その反動で前のめりに倒れこんだ。

 

「……やった…………。終わったのだ! 遂に箒はこのMADOKAの前に敗れ去ったッ! フハハハハハッ! これで何者もこのMADOKAの邪魔をする者はいなくなったッ! さあ覚悟しろゴクローよ! 慰めてやるぞっ! この私の肢体を前に、存分に欲望を解放するがいいぞっ!」

 

箒との戦闘を制したマドカは、完全にイっちゃっている目をしながら、何か何処か間違った事をのたまい、脳内でR-18な未来を妄想していた。

 

「ふふふ……どれ、最後にこの『DXオーズドライバーSDX』の連載を終了させ、18禁小説『悪夢なH/血と始まり』の連載開始を宣言するとしよう。作者にねっとりと絡みつくような、濃厚なエロスを表現できる文才と気概があればいいがな……ん?」

 

作者の都合等お構いなしにメタ発言をするマドカが、箒にクルリと背を向けたその時、突然マドカは膝から崩れ落ち、床に倒れ伏した。

 

「な、なん……だ? ……足の動きが鈍い……い、いや! 体に力が入らない! ば、馬鹿なッ!」

 

何とか立ち上がろうとするが、足どころか体に全く力が入らない。混乱するマドカの後ろで、吹き飛ばされた箒がむくりと起き上がり、マドカの身に何が起こっているのかを語り始めた。

 

「お前は私の攻撃を避けていない。全くの偶然だが、ほんの少しだけ、それこそ皮一枚を掠める程度だったが……私の拳がお前の顎を捉えていた……」

 

(!? なっ……!! なああぁぁにィィイイイイイイイッ!)

 

驚愕に顔を歪ませるマドカだが、この状況ではもはや成す術が無い。自分の背後からにゆっくりと近づいてくる敗北を、ただただ受け入れるしかない。

 

「ば……馬鹿なッ! ………こ…このMADOKAが………このMADOKAがァァァァァァ~~~~~~~~~~~~ッ!!」

 

「……分からないのか? お前は『運命』に負けたんだ! 『正しい道』を歩く事が『運命』なんだ!」

 

「やめろォオオオオ! 知った風な口を聞いてんじゃあないぞオオオオオオッ!」

 

「ふんっ!!」

 

「ほぐぁああああっっ!!」

 

それでも足掻くマドカに対し、箒は容赦なく止めを刺した。何かにとり憑かれたマドカは、クロエと同じ様に脳天にチョップを受け、断末魔の悲鳴を上げて気絶した。

部屋には下着姿で気絶しているクロエと、下着姿の上に鼻血まみれで気絶しているマドカが横たわっており、マドカがクロエを襲おうとして相打ちになったように見えなくもない。

 

「……このまま放って置けばお前の信用は地に堕ちる……。お前達の敗因はたった一つ。たった一つのシンプルな答えだ。『お前は私を怒らせた』」

 

こうして最終の決着が着いたその時、箒はドアノブを回す音を聞いた。

 

「おい、さっきから一体何の……おい、箒。何があったのかを教えろ。簡潔にだ」

 

入ってきたのはアンクだった。部屋に入るなりギョッとしたアンクに箒は事情を説明し、アンクは気絶したクロエをゴクローの部屋から引きずり出し、服を着せたクロエを部屋に戻した。そして箒はアンクに怪我の手当てをしてもらい、服を着せたマドカを担いで寮の自室へと帰っていった。

 

こうして、ゴクローの部屋には誰も居なくなった。




キャラクタァ~紹介&解説

篠ノ之龍韻&龍韻の嫁
 束と箒の両親。この二人に関しては原作での記述が少なく、更に娘である束と箒ではこの二人の評価にかなりの温度差がある。第8話でも少し触れたが、その束と箒の温度差から「恐らくこうだったのではないか?」と言う、作者の推測の煽りをモロに受けている。
 ちなみに作者は、龍韻は『シグルイ』の虎眼先生みたいに「あやつ(束)さえ、まともに生まれていれば……」とか、言っていたかも知れないと思っている。心の平衡は失っていないだろうが、実の娘である束の動きを制御できぬとは自覚していたと思うし。

龍韻「勝った方を“箒の種”とし、負けた方を“ぬふぅ”とする!」
5963「ぬ、“ぬふぅ”と!?」
龍韻「明朝じゃ」
一夏(ぬふぅって何だろ?)



外来種と生態系
 作者がかつて学校で聞いたお話が元になっている。それによると、外来種は“自分が生きるために生態系を破壊している”と言うより、“自分が生きるために生態系を作り変えている”存在らしい。「外来種を放す事も駆除する事も、結局は人間のエゴである」って結論には、自然環境に対して人間が持っている傲慢さを考えさせられた。元に戻った様に見えても、一度破壊され絶滅したものは二度と元には戻らない……。

ISの世界
 誰が言ったか「世紀末一歩手前の世界」。ぶっちゃけた話、一機あれば国防を賄える様な代物に自我がある以上、人類に対して反乱する可能性は充分にあると思うのは作者だけだろうか?
 原作では創造主の束が、ISを道具の様に使って色々とやりたい放題している状況を見ても、尚更IS達が自分達の意志を持って、束を含めた人類に叛旗を翻しそうで怖い。まあ、裏切って人類の味方をするISもいるとは思うが。

――遠くない未来。何処かの国。人類は自らの科学によって生み出した超兵器「IS【インフィニット・ストラトス】」によって支配されていた――



悪夢なH/血と始まり
 織斑マドカの目指す天国(笑)にして、深遠なる目的のふわふわたいむ(爆)。作者が真夏のテンションに任せて、試しにちょっと書いてみた平行世界でもある。まあ、途中で断念したが。やはり参考資料に「BAKI SAGA」を選んだのが不味かったか。


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第26話 写メと疑いと兄妹

基本的にこの作品のタイトルは、仮面ライダーの主題歌、TV放送のタイトル、劇場版のタイトルのいずれかから選択しています。ただ、そのままでは面白くないので、適当に組み替えたりしています。

そして今回、五反田兄妹がようやく登場です。酷い目に遭うので、五反田兄妹好きは注意して下さい。

……え? 前話のマドカ? 何のことですか?


事件は織斑先生が俺と束よりも先に目を醒まし、すぐ目の前に俺の顔があると言う奇天烈な状況に仰天し、取り乱した事から始まる。

 

「なッ!! なん――ウッッ!!」

 

寝起きの織斑先生は勢いよく体を起こし、そこで二日酔いによる強烈な頭痛と、猛烈な不快感、そして耐え難い吐き気に襲われ、胃の内容物が逆流。何とか堪えようとした織斑先生だったが、これまでの人生において最多のアルコール量を摂取したツケは非常に大きく、肉体的にも精神的にもソレを耐える事は不可能だった。

 

「ウボォオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「ギャァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

その結果、織斑先生の口から放たれた半径20cmのゲロ・スプラッシュは、寝ていた俺の無防備な顔面を直撃し、鼻をつく刺激臭とドロドロとした生暖かい液体によって、俺は前世でも現世でも経験した事の無い、史上最悪の起床を迎えることになった。

すぐ近くにいた束に被弾しなかったのが不幸中の幸い……と言うか、束は危険を察知して避けたらしい。それも寝ながら。

 

「うぷ……す、すまん……シュレディ……うぶっ……」

 

「……いや、いいですから。ホント、無理しなくていいですから……」

 

「うわぁ……何て言うか、その……酷いね。何かの妖怪って言うか、溶解人間って感じ」

 

織斑先生が顔を真っ青にし、束がドン引きする今の俺の状態を分かりやすく言うなら、「コイツは臭ぇーッ! ゲロの臭いがプンプンするぜぇーーーーッ!」と言った所だ。その後俺はゲーゲー言っている織斑先生に一声かけてから、返事を待たずに寮長室のシャワールームを借りた。

 

文句は言わせない。俺は「早く人間になりたい」からだ。

 

ちなみに俺が溶解人間から普通のクローン人間に戻る間、束は部屋中に散らかっていたゴミをちゃんと分別し、更には俺の着替えも用意してくれていた。いい女だ。

 

それから復活した俺は束と二人で部屋を綺麗に掃除し、最後に二日酔いに苦しむ織斑先生の為に、大量のミネラルウォーターと、グレープフルーツを寮長室に持ち込んだ。グレープフルーツは匂いを嗅ぐだけでも二日酔いに効果があるので、何も食べられなくてもコレで少しはマシになるだろう。

 

それから『NEVER』の拠点に束と一緒に戻ると朝食が出来ていたが、何故かクロエとマドカは頻繁に頭を摩り、箒に至っては左腕に包帯を巻き、更に左の頬っぺたに湿布をしていた。

 

「……箒、その怪我はどうした?」

 

「名誉の負傷だ」

 

「……クロエとマドカはどうして頭を摩っている?」

 

「……ちょっとな」

 

「はい、ちょっとです」

 

雰囲気から何か言いたくない事があったと察したが、箒の表情からは何か達成感と言うか、誇らしい何かを感じるのだが、マドカはあからさまに不満気な顔をしており、クロエに至ってはどこか恥じているように見える。

 

「……何があったかは聞かない事にするが、怪我はなるべくしないでくれ」

 

「それは兄様もですよ?」

 

「「「うんうん」」」

 

「分かってる。もう二度とあんな真似はしない」

 

今回はクロエのゾンビ兵士だったが、次は「複数の個体が造られた」と言うマドカのゾンビ兵士や、他の面子のクローンゾンビが何処からか出てくる事もあるかも知れない。

 

もしもその時が来たら、絶対に前の様な事はしない。そう心に決めている。

 

「とりあえず、ゴッくんは今日の事に集中しなよ。ちんちくりんのお父さんとお母さんに会うんでしょ?」

 

「……そうだな」

 

実は今日は鈴音が離婚した両親と会う日であり、俺が鈴音の両親と顔を合わせる日でもある。

 

理由は鈴音が『NEVER』に入社したがっているから。入社試験をクリアしたは良いが、代表候補生は一般的な国家公務員と同等の役職であり、鈴音が言っている事は「国家公務員を辞めて、零細企業の社員になる!」と言っている事と等しい。両親が不安にならない訳が無い。

 

そんな訳で、朝食後に鈴音を迎えに行き、束の魔改造が施された車を引っ張り出し、いざ出発しようとした所でラフな格好をした一夏と会った。

何でもこれから中学時代の友達に会いに行くとの事で、中学時代はその弾と鈴音の三人でよくつるんでいたとか。ちなみに親しい男友達はその弾という奴の他に、御手洗数馬と言う奴がいるらしい。

 

「五反田弾? 例の『業火野菜炒め』とか言う、名物料理が有ると噂の食堂と何か関係あるのか?」

 

「ああ、『五反田食堂』は弾の実家だ」

 

「ほう、実に興味深い」

 

「それならまだ時間もあるし、先にそっちに寄ってから行かない? あたしも久し振りに弾に会ってみたいし」

 

「そうするか」

 

画して、鈴と両親が泊まっていると言うホテルに行く前に、噂の「五反田食堂」へと行く事になった。助手席に鈴音。後部座席に一夏。そして運転席に俺。

 

「そう言えばアンタ、一度戻った何か持ってきたみたいだけど、一体何を持って来たのよ?」

 

「その弾って奴へのお近づきの印として、大人の玩具とエロ本を用意してきた」

 

「「ぶっ!!」」

 

この二人がナニを想像したのかは予想出来る。しかし、プレゼントするのはコイツ等が想像している様な物では無い事を早速ネタ晴らしした。

 

「ア、アンタ……本当にそう言って“それ”を弾に渡す訳?」

 

「嘘は言っていないぞ。嘘はな」

 

「いや、確かに嘘は言ってねぇケドよ……」

 

そんな会話を続けながら到着した『五反田食堂』は、予想通りの見た目をした大衆食堂だった。もしもあの時に俺に相談しなかった場合、コイツはココに千歳先輩を連れて来るつもりだったのかと思うと、どうしても一夏のセンスについて考えさせられる。

 

「やっぱ、デートコースの昼飯でココは無いな」

 

「そうかぁ?」

 

「え? 何それ? あたし聞いてないんだけど?」

 

「ん? おお! 一夏に鈴! 久し振りだな!」

 

食堂の引き戸が開き、一夏と鈴を出迎えたのは、良くも悪くも今時の若者と言った感じの、赤い長髪の男だった。どうやら彼がその五反田弾らしい。自己紹介しようと近づいたら、弾は俺を見るなり指を指して絶叫した。

 

「……か、仮面ライダァアアアアアアアッッ!?」

 

「ん? 俺の事を知っているのか?」

 

「はいっ! 公式戦の動画は何十回見ても最高っす!」

 

ああ、そう言えば楯無戦は地上波でも放送された上に、ネットでも配信されているんだったな。

試合中に披露した『ミステリアス・レイディ』の強化形態や、『オーズ』の変身と超変身も見所ではあるが、やはり全ISでもトップクラスの威力を誇る「ミストルティンの槍」をライダーキックで真っ向から打ち破ったインパクトは絶大で、動画の再生回数は凄い事になっている。

 

「ところで、これからどこかに行くんですか?」

 

今の俺は久し振りの653コスであり、スーツを着こなしている。どうみても遊びに来たようには見えないから、弾の質問はもっともだ。そこで俺はこれからの予定を正直に答えた。

 

「実はコレから鈴音の両親へ、許しを貰う為のご挨拶に行くところでな!」

 

「ファッッ!?!?」

 

「ちょっ!? ちょ、ちょっとアンタ! 何、誤解される様な事言ってんのよ!」

 

「嘘は言ってないぞ。嘘は」

 

「言い方ってモンがあるでしょうが!」

 

俺の発言に想像以上のリアクションを見せる弾に対し、鈴音は必死で挨拶の内容を説明し、弾の誤解を解いていた。

 

「と、とりあえず、これでコイツがどーゆー奴なのか分かったわよね?」

 

「お、おう……」

 

「なあ、二人とも何やってんだ?」

 

そんな二人のやりとりを、一夏はまるで理解していなかった。一夏にしてみれば、俺が仕事で鈴音の両親に挨拶に行くだけだと思っているから、こんな感じなのだろう。もっとも、箒や鈴音が言うには一夏の鈍感さは今に始まった事じゃないらしいが。

 

それから俺は弾と電話番号とメールアドレスを交換してから、やはり誤解される様な言い方でプレゼントを渡し、鈴音と共に五反田食堂を後にした。

 

「言っとくけど、本っっっ当にっ! 真面目にやんなさいよ!?」

 

「安心しろ。この『NEVER』の大首領様を信じろ」

 

「さっきの言動と行動の何処に信じられる要素があるって言うのよ!?」

 

鈴音の言う事はもっともだが、鈴音の両親との挨拶は真面目にやるつもりだ。中国人は面子を物凄く大事にする。一夏が鈴音との約束を間違えて覚えた事に対し、鈴音が何週間もず~~~っと怒りっぱなしだったのも、今にして思えば一夏に自分の面子を汚されたと思った事が根っこにある様な気がする。

 

そしてホテルに到着し、離婚したという鈴音の両親に会った俺は、可能な限り中国語で会話し、日本語で話す時は聞き取りやすい様にゆっくりと話した。一年振りの日本なら日本語も久し振りに聞くだろうと思ったからだ。

 

その結果、俺が中国語で話しかけると、相手から日本語の返事が帰ってくると言う、傍から見てかなり不思議な空間が展開されていた。

 

結局、鈴音の両親と話した時間は1時間程で、後は何の用事も無いのでIS学園に戻ろうとした俺を見送ると言って、鈴音が一緒に着いてきた。

 

「許してくれて良かったな」

 

「まあね……でもあんた、何時の間に中国語習ったのよ?」

 

「お前が『NEVER』に入社したいって言った辺りから勉強し直した。念の為にな」

 

「そう……でも何て言うか、アンタの話す中国語ってカタコトって言うか、日本語を知ってる中国人じゃないと分からないって感じだったわ」

 

「ああ……『アマゾン、マサヒコ、トモダチ』みたいな感じ?」

 

「うん。相変わらずちょっと例えがアレだけど、そんな感じよ」

 

そう語る鈴音は、内心で「日本に来た頃は、自分もこんな感じで日本語を話していたんだろうか?」と思っていたりする。小学四年生の頃、日本に着たばかりの自分が話す、おかしな日本語が原因で苛められた所為もあって、鈴音にとって言語の壁は大きなコンプレックスとなっている。

もっとも、ちゃんと日本語を話せるようになったらなったで、それが逆に「中国人っぽくない」と弄られるようになったので、結局彼等は「他人と違う自分を弄る事そのもの」が目的であり、そこに理由など存在しないのだと、鈴音は後に悟った。

 

「……ねぇ。良かったら、あたしがちゃんと中国語、教えてあげても良いわよ?」

 

「んー……そうだな。でもちゃんとやれるかな?」

 

「ちょっと、それどういう意味よ?」

 

「いや、鈴音の能力を疑っているわけじゃない。なんて言うか、親しくなってくると変な言葉でも以心伝心できる様になるだろ? 仲が良いから分かるみたいな」

 

これは『ミレニアム』に在籍していた頃、「国家を征服するには、まず言葉を征服せよ」と少佐に言われ、英語の他にドイツ語やスペイン語等の色々な言語を覚えさせられた時の話だ。この時に生まれた変な言葉は、国語ならぬ「ゴク語」と呼ばれていた。

 

「……悪いけどあたしにはそんな経験は無いわ。一夏と一緒に千冬さんが日本語を教えてくれて、少しでも間違えると直ぐに直されたから」

 

「そうか……」

 

そう語る鈴音は多少げんなりとした顔をしていた。理由は何となく察するが、日本語習得時の思い出は、鈴音にとって余り良い思い出では無いようだ。

 

「……一つ聞きたいんだけど、アンタは変な日本語で喋る外国の女の子ってどう思う訳?」

 

「個性的で可愛いと思う」

 

具体的には『フォーゼ』に登場する、ネット版で中身がおっさんの乙女座に「私の方がぁ! おっぱい、おっきいわぁあああっっ!!」をやらかした、アクエリアス・ゾディアーツことエリーヌ須田。後は『おジャ魔女どれみ』の飛鳥ももこ。

ちゅーか、このIS学園は海外からやって来た生徒も結構な数が居るのだが、あんな感じの変な日本語を習得している生徒が、何故か誰一人として確認出来なかった。ぶっちゃけ「彼岸島百不思議」……もとい、「IS学園七不思議の一つ」だと言っても過言では無い。

 

「……やっぱり、アンタって変わってるわ」

 

「そうか?」

 

俺の答えに鈴音は若干呆れた表情をしていたが、それでも悪い回答では無かった様で、どこか満更でも無い雰囲気を醸し出していた。

 

「それでどうするの? まあ、別にアタシはどっちでも良いんだけど?」

 

「そうだな……無理の無い範囲でよろしく頼む」

 

「ふふっ。お手柔らかにね?」

 

こうして鈴音の中国語を勉強する約束をした後、鈴音に「帰りはモノレールを使ってIS学園に帰るから迎えの必要は無い」と言われ、俺は一人IS学園に帰った。

 

 

○○○

 

 

ゴクローが鈴の両親と会っていた頃、箒は密かに行動を起こしていた。

 

昨日は何とかマドカの暴走を阻止する事ができたが、クロエがその暴走を止めるどころか、自ら加担するとは思いもよらなかった。

 

そこで、今の状況が危険だと思った箒は、ゴクローとクロエの部屋割りを変える事を考えついた訳だが、千冬は二日酔いで完全にダウンし、真耶は何処かに出かけていた為、箒は書類を調べていたアンクに相談してみた。そこでアンクから「生徒会長には寮の部屋割りを変える権限がある」と教えてもらい、箒は楯無を頼ろうと思った。

 

しかし、そうなると一連の流れを知らない楯無に対して、どうしてそうなったのかを説明しなければならない。箒がどうしたモノかと思っていたら、アンクが「面倒だから一から十まで全て話せ」と言い、研究所を潰した時の映像データを箒に渡した。

アンクとしては、理由を中途半端に話すにしても、ウソの理由をでっち上げるにしても、どちらもそれなりの労力を必要とするし、何より箒は説明や腹芸の類が苦手だ。それなら最初から全て正直に伝えた方がマシだと、アンクは結論していた。

 

こうして箒は楯無の元を訪れた訳だが、楯無の従者である虚は兎も角、最近になって姉妹仲を回復させた簪と、その従者の本音が一緒にいる事は予想外だった。

 

「駄目だ! お前達二人は絶対に見ないほうが良い!」

 

「……わ、私だって、知る権利があると思う……!」

 

その映像の凄惨さを知る箒としては、何とか簪と本音を部屋から退出させようとするが、箒がよりによって「ゴクローが悪の研究施設に乗り込み壊滅させた」と言ってしまった為に、それこそ特撮ヒーロー番組の様なシチュエーションに憧れを持つ簪は、どうしてもその映像が見たかった。

箒と簪はしばらく激しい言い争いを展開していたが、最後には妹に滅法甘い上に交渉事に関しては百戦錬磨(?)な楯無によって、箒はすっかり楯無のペースに乗せられてしまい、結局は全員で映像データを見る事になってしまった。

 

「「………」」

 

「……っ……ひ、酷い……」

 

「シュレりん……」

 

「だ、だから言ったんだ。見ない方が良いと……っ」

 

涙ぐんでいる箒の予想通り、映像データは簪の期待を悪い意味で裏切り、簪と本音の二人はたまらず泣き出してしまった。二人の目にはヒーローが泣きながら拳を振るい、胸から見えない血を流しながら戦っているように見えた。

 

その一方で黙って映像を見ていた楯無は、自分の見通しの甘さを後悔しながらも、同じ様に黙って見ていた虚と同じ様な感想を抱いていた。

 

確かにあの「VTシステム搭載型EOSモドキ」は出来損ないではある。しかし、それでも戦線に投入されれば恐るべき存在となっていただろう事は明らかであり、それを造り出した彼等に対して優しさを向けても無駄だと、対暗部用暗部の当主とその従者は思っていた。

仮に彼等に恩赦を与えたとしても、それによって実験の第二・第三の犠牲者が出るなんて事になれば、それこそ本末転倒というヤツだ。笑い話にもならない。

 

力を持つ者にとって、力を持たない者に対する優しさや、思いやりの心を持つ事はとても大事な事だと思う。しかし、「力を持つ者」であると同時に「人の上に立つ者」であるのなら、その者は時として如何なる手段を用いてでも敵を排除し、一切の容赦を見せずに徹底的に叩き潰す冷酷さを持たなければならない。

 

それこそが「人の上に立つ資格」であると、先人達から教育されていた楯無と虚からして見れば、今回ゴクローが行なったマッドサイエンティストに対する制裁は、良い意味で裏切られたと言えた。

 

映像はエターナルが助けを求めた研究員に見切りを付けた所で終わり、泣きじゃくっている簪と本音は虚に任せて、楯無は箒から昨夜に起こった事を詳しく聞いた。箒の説明が全て終わった時、楯無はそこでようやく納得の表情を箒に向けた。

 

「……なるほどね。それで心を痛めているゴクロー君が、これからクロエちゃんやマドカちゃんと爛れた関係にならないか心配しているのね?」

 

「え、ええ……まあ……そ、それで部屋割り何ですが、その良かったら――」

 

「実は明日、フランスから転校生がやって来るのよ。それも二人目……じゃなくて、三人目の男性IS操縦者としてね」

 

「え!?」

 

「初めは一夏君の部屋にしようと思っていたんだけど、“箒ちゃんの為に”ゴクロー君の部屋にしてあげるわ? 流石に男の子が相部屋なら安心でしょう?」

 

「え? あ、は、はい。そうですね……」

 

正直箒としては、護衛の為にゴクローと一緒の部屋が良かったのだが、「他にも男子がいるならマドカやクロエも手が出せないだろう」と思い、内心では渋々ながらも楯無の提案を受け入れ、簪と本音の事は楯無と虚が何とかすると言うので、大人しく立ち去ることにした。

 

一方の楯無にとって、箒の出した提案は正に「渡りに船」と言えた。

 

(どう考えても怪しいのよね、この子……)

 

シャルル・デュノアと言う、一組に転入する事になっているこの少年。資料によればデュノア社社長の息子であり、専用機持ちのフランスの代表候補生だとある。「専用機持ち」なのはまだいいが、それ以外に奇妙としか思えない部分が多々ある。

 

まず、「男性でもISを使える」と判明したのは、一夏がISを起動させた今年の2月中頃。それから世界中で男性に対するISの適性検査が行なわれた訳だが、そうなるとこの少年は「一夏がISを使えると判明してから、新しく見つかったISが使える男性」と言う事になり、ISを使い出して最長でも三ヶ月ちょっとだ。

 

そしてフランスは第三世代ISの開発が遅れており、その分フランスの国家代表操縦者及び代表候補生は、他の国よりも操縦者の技量を重視して選考する為、セシリアの様に「第三世代兵器に対する適正の高さ」で選ばれると言った事が現時点では無い。

現に資料では専用機が第二世代機の「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ」とあり、専用のカスタムこそ施しているようだが、やはり第三世代ISでは無い。

 

つまり、資料の通りならこの少年は、ISに触れてから約三ヶ月で、ヨーロッパでも代表候補生の選考基準が高い国の試験をクリアする程のISの操縦技術を会得し、将来的に国防や国益の為に、フランスを背負って戦うに値する人材だと、フランス政府に認められたと言う事になる。

 

冷静に考えればそんな事は先ず有り得ない。例えこの少年にISのズバ抜けた才能があったのだとしても、代表候補生とはそう簡単になれるものでは無い。それは楯無自身がよく知っている。

それこそどっかのホモパティシエの様に、この少年が軍人だと言うならまだ分からなくもないが、この少年がフランス軍に従軍していたと言う情報は無い。

 

(何よりデュノア社に所属していて尚且つ代表候補生なら、フランス国内に留めておいた方がどう考えても利益になるわよね)

 

一夏は専用機こそ持っているが、どの企業にも所属しておらず、更に代表候補生でも無い。言ってみれば、どの国にもどの企業にも所属していない専用機持ちであり、IS学園にいる理由も他の専用機持ちとは少々異なる。

しかし、このシャルル・デュノアは特定の企業に所属している上に、フランスの代表候補生だ。既に所属が決まっている。他の専用機持ちと同じくISのデータ取りが目的なら、フランスには他にも代表候補生がいるのだから、“女子のフランス代表候補生”を寄越せば事足りる。

 

以上の事から楯無は、「この少年がIS学園に送られてきた目的は別にある」と結論し、「どうやって一夏の部屋では無く、ゴクローの部屋に割り当てようか」とずっと考えていたのだが、そこへ箒が丁度良い理由をもって来てくれた……と言う訳だ。

 

(一夏君だと正直、不安なのよね。その点ゴクロー君の方は、最低でもアンクが警戒しているでしょうから、まあ適材適所って所ね)

 

交渉と言うカードは、相手によって出し方や見せ方を工夫すれば、その効果は大きく変化する。場合によってはフランスからシャルルを、ドイツからラウラを引き抜き、自分の部下する事も考えていた。もっとも、あのアンクがデータを自ら渡してきたと言う時点で、内心ではラウラの事は半分ほど諦めている。

 

「……ヒック……ヒック……」

 

「うええええええええっ……」

 

(……今は簪ちゃんと本音を何とかする方が先ね。とりあえず、虚ちゃんから簪ちゃんを奪還しなくちゃ)

 

この後、楯無と虚の二人は自分の妹を宥め賺して涙を拭いて、心が落ち着くまでえんえんと簪と本音の相手をしたのだった。

 

 

●●●

 

 

俺がIS学園に戻って、夕方の5時を過ぎた頃。案の定と言うか何と言うか、登録したばかりの弾から電話が掛かってきた。

 

『……あんた……俺を騙して、そんなに楽しいか?』

 

「何を言う。お前に送ったのは実物大の『プレミアムDXオーズドライバーSDX』で、大人が楽しむ為に作られた大人の玩具だ。それがエロいものだと思ったのだとすれば、そりゃあお前の早とちりってやつだよ」

 

スタッグフォンから聞こえる弾の声色は、まるで体がボドボドになった紘汰さんの様だったが、俺はDJサガラの様なノリで華麗にスルーする。しかし、当然ながら弾の怒りは全然収まらない。

 

『じゃあ、コッチの奴は何なんすか! 何っすか! この玉乗りとかジャグリングとか書いてる本は!? 全然エッチじゃないじゃないですか!?』

 

「それは伝説のピエロ本だ」

 

ちなみのコレはコンパイルが発売したPCゲームが元ネタで、簡単に説明すれば「伝説のエロ本」を求めて冒険する、ドスケベな犬の剣士の物語だ。ちなみに「伝説エロ本」の真実に絶望した犬の剣士は、懲りずに「透ける眼鏡」を手に入れる為に冒険に出ている。

 

『どこが伝説なんっすか!? どこが!?』

 

「俺もよくは知らんが、とにかく伝説らしい。ちゅーか、そんなにエロイのが欲しいなら、IS学園漫画研究会が描いた18禁のBL同人誌でも送るか? この前に生徒会の活動でとある3年生から回収したヤツなんだが、俺と一夏の濃厚な絡みが描いてあるんで、ビギナーには少々ドギツイ内容なんだけど」

 

この言葉の後で、電話の向こうの弾の思考がピタッと止まったのを感じた。予想外の台詞の内容を理解する為に、脳が時間をかけて情報を処理しているのだろう。暫く待っていると、漸く弾が口を開いた。

 

『………え? ちょ、ちょっと待って下さい? それってつまり、IS学園のお姉さま方の中に、一夏とアンタをネタにしてBL本を描いてる人が居るって事っすか?』

 

「そうだ。お前がIS学園に対して想像していたのはアレだろ? もっとこうキラッキラキラッキラ、清らかな光が差し込み、芳しい香りがする秘密の花園で、見た目麗しい天使や妖精と見紛うばかりの美女と美少女が、キャッキャキャッキャ、ウフフフフフフ……って感じだろ?」

 

『え、ええ、まあ……』

 

「その内の何割かが、巧妙に擬態したゾンビ……もとい、適度に腐ったお嬢様だ。今もこうしている間に、『O×1』とか『E×1』とか、物理か何かの数式としか思えないカプ論争が繰り広げられ、ありとあらゆるホモネタがIS学園の暗闇から際限なく生み出され続けている」

 

彼女達の著作物を一通り見たが、どっかのアイドルか何かと見紛うばかりに線の細いものから、劇画タッチでやたらと生々しいものまであり、画風はそれこそ十人十色と言った感じだ。

それを見た俺の感想はズバリ「悪魔の末裔め! 根絶やしにしてやるぞ!」だ。一緒にそれを見た楯無や虚もそれに同意してくれたが、鼻血を流していた所為で説得力がまるで無かった。

 

『ま、まじッスか?』

 

「正直な話、連中にお前の事を話したら、即座に連中はお前と一夏の事をネタにしたBL本を一晩で描きあげるだろう。鼻血をインク代わりにして」

 

『俺にはソッチの趣味は無いっす!』

 

「ちなみに彼女達が言うにはBL本を常に懐に入れていたお蔭で、命が助かったというケースもあるそうだ」

 

『どんなケースっすかそれ!? BL本がナイフを受け止めたとかそんな話っすか!?』

 

「違う。とある男が満員電車で痴漢の冤罪をかけられた時、コミケに行けないからって買うように頼まれたBL本のお蔭で難を逃れたと言う話だ。何でもBL本を取り出して『俺は女装ショタ以外に興味は無いッ!』って言ったそうだ。正に『ゲイは身を助く』と言うヤツだな」

 

『地味にあり得そうな話で怖いッ!』

 

『ちょっと、お兄ぃ! さっきからうっさい!』

 

弾の声が余りにも五月蝿かったのか、弾の妹と思われる少女の声が聞こえてきた。しばらく弾とその少女の会話が聞こえてきたが、どうした訳かその少女が電話に出た。少女は自分を「五反田蘭」と名乗り、中々礼儀正しかった。

 

『その、ちょっとお聞きしたい事があるんですけど、良いですか?』

 

「ウム。何でも聞いてみんしゃい」

 

『あ、あのー、そのー、貴方から見て、一夏さんの女の人の好みって、何か分かりませんか?』

 

ふむ。弾が一夏の同級生で、その妹となると最高でも14歳位だと考えられるが、電話越しではどんな外見なのかを判断する事は出来ない。

 

そこで、俺は馬鹿正直に答えた。

 

「巨乳系だな」

 

『………………』

 

それまで途切れる事のなかった会話がいきなり止まった。お互いの空気どころか、世界の時間が止まったと錯覚する様な沈黙だった。

 

『な、何を根拠にそんな……』

 

「ああ、一夏と俺がいる一組にな? 山田先生って言う爆乳の副担任がいるんだけど、山田先生の胸部装甲がたゆんたゆんと揺れる度に、高確率で一夏の視線がそこに集中するんだよ。後、谷間が見えてる時とか」

 

『……い、いや、それだけで、そうだとは…』

 

「他にも鈴音がルームメイトのティナ・ハミルトンって子に『一夏を紹介して欲しい』って頼まれて、それで鈴音がその子に一夏を紹介したらしいんだが、その時に『ティナの胸が揺れる度に、一夏の目がティナの胸に釘付けだった』って、鈴音が青鬼みてーなスゲー顔で俺に言ってきた事がある」

 

『!! り、鈴さん、が……ッ!』

 

やはり鈴音とは知り合いだったか。そして反応から推測するに、蘭のスタイルは年相応のそれと見た。

 

それとぶっちゃけた話、「一夏が巨乳好き」だと言う事はIS学園のほぼ全員が認知している。知らないのは恐らく一夏だけだ。その上で、一夏の目の前でワザと大きく揺らしたり、谷間を見せたり、或いは背中に押し付けたりする生徒が相当数いて、明らかに一夏の反応を楽しんでいる。羨ましい限りだ。

 

しかしながら、一夏の気持ちも男として分からないでもない。『NARUTO』のオカマ丸……じゃない、大蛇丸風に言うのなら、「動いている物を見るのは面白い……止まっているとつまらないでしょ……」と言う事だ。

 

『ほ、他には!? 他には何か無いんですか!?』

 

「年上のお姉さんだな」

 

またも正直に答えたが、今回は答えてから「しまった」と思った。しかし時既に遅し、一夏よりも年下である蘭の時間が完全にフリーズしたのを、俺は電話越しに感じ取ってしまった。

 

すると、今度は蘭の代わりに弾が電話に出た。

 

『……あ、あの、さっきの話って本当っすか?』

 

「もはやIS学園の常識だ。それとココだけの話だが、IS学園で独自にアンケートを取った所、実に90%以上の女子高生が『男性が自分の胸元へ向ける視線に気付いている』と分かったそうだ」

 

『マジっすか!?』

 

ちなみにこれらの情報は黛先輩から聞いた……と言うか聞かされた。面白そうだからついでに調べてみたとか。

 

『……その、何て言うか……、此処だけの話ですよ? その、IS学園の慎ましい方々にとって、一夏は不人気って事なんスか?』

 

「いや、それが『これからスレンダーの魅力を教えればいい』とか、『貧乳でしかスタンド出来ない体に調教すればいい』とか、後は『同い年でも諦めない!』とか、そうした前向きな意見も多いらしい。何でも巨乳系とそれ以外で、比率はおおよそ7:3で、学年別の比率なら三年生から順に3:1:4って感じらしい」

 

ちなみにこれらの比率も黛先輩から聞いた事だ。二年生の比率が低いのは、「二年生で接点のある人物がいないからじゃないか?」と考察していた。

 

『………………んで……』

 

「?」

 

『なんでだよぉ~~~! 何でアイツばっかりモテるんだよぉ~~~~! 俺なんてそんな事、一度も言われたこたねーのによぉ~~~~!!』

 

「……おい。もしかして、泣いてるのか?」

 

『泣いてねぇっす! と、とりあえず、最有力は誰っすか?』

 

「ん~~。俺から見て『千歳燕』って三年生の先輩だそれだが……写メ送るか?」

 

『お願いします!』

 

それから一旦弾との通話を切り、以前にマドカから貰った写真を送る。謎の“赤い髪の少女”も写っているが問題ないだろう。すると写メを送ってから直ぐに弾から電話が掛かってきた。

 

『何で蘭が一緒に写ってるんすか!! 一夏からも蘭からも何も聞いて無いんですけど!?』

 

どうやら“赤い髪の少女”の正体は蘭だったらしい。しかも一夏に会った事を蘭は兄貴に言ってないようだ。理由は分からないけど。

 

「それで、お前から見て千歳先輩の感想は?」

 

『カワイイよぉおおおおおおおお! く、くやしいぃぃいいいいっ! さっさとOKしちまえよぉおおおおおおおおっっ!! 何がいい思いはしてねぇだ! しっかりいい思いしてんじゃねぇか! ちくしょぉおおおおおおおおお! あの野朗ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

『……う、……うるさぁああああああああああああああああああああああいっっっ!!!』

 

弾と蘭の絶叫の後、肉が潰れるような生々しい音と、機械を破壊する様な音が聞こえたのを最後に通話が切れた。

 

……うん。二人には悪い事をした。どうしようと考えていたら、アンクが俺の肩を叩いてから、サムズアップしてこう言った。

 

「絶望がお前のゴールだッ!」

 

割と洒落にならないから止めてくれ。

 

 

●●●

 

 

日曜の夜は『NEVER』のメンバー全員で食卓を囲む事に決めており、今回は鈴音が増えているので、その分食卓が窮屈だが少しだけ豪華な夕食だった。

後片付けをした後で各々が学生寮の自分の部屋に戻り、俺はクロエとのんびりしていた所で山田先生がやってきて、クロエが引っ越す事になった事を伝えに来た。引越し先は箒の部屋らしい。

 

「そんな! それじゃあ、マドカが此処に引っ越してくるのですか!?」

 

「いえ、マドカさんは明日に転入してくる生徒さんと相部屋です」

 

「そうなると……この部屋に一夏が引っ越してくるのですか?」

 

「いえ、確かに引っ越してくる人はいますが、織斑君はそのままです。実は新しくISの男性操縦者が一人見つかりまして、シュレディンガー君はその子と相部屋になります。仲良くしてあげて下さいね?」

 

マドカとゴクローが相部屋になった場合の未来を想像し、心の底から戦慄したクロエだったが、ルームメイトがマドカでは無いと知って少しだけ安心した。

 

「それじゃあ、私もお手伝いしますから、すぐにやっちゃいましょう」

 

「う゛~~~~兄様ぁ~~~~」

 

「……そんな泣きそうな顔をするな。別に永遠の別れって訳でも無いんだから」

 

渋るクロエの頭を撫でて諌めて、山田先生と共に荷物を移動させる。引越し先の箒とマドカの部屋で、何故か居た楯無をマドカが殺気を込めて睨んでいる以外、引越しは順調に進んだ。

ちなみにクロエが、わざとノロノロと作業する牛歩戦術を行なっていたのが、元々この部屋には私物をあまり置いておらず、殆どの私物が『NEVER』の拠点の方に置いてあるので、大して意味が無かった。

 

「それじゃあ、箒。クロエを頼むぞ」

 

「うむ。お前も今夜は気をつけるんだぞ?」

 

「大丈夫よ、箒ちゃん。今夜のマドカちゃんは私と一緒だから♪」

 

「なん……だと……」

 

何か箒達の発言が妙に引っかかるが、何となく聞かない方が良い様な気がしたので、俺は某死神漫画の主人公の様なリアクションをするマドカを含め、あえてスルーして部屋に戻った。

 

しかし、(表向きは)三人目のIS操縦者ねぇ……。

 

一体どんな人物なのだろうかと考えていたら、『NEVER』の拠点に居たアンクが戻ってきた。部屋にクロエが居ない事を不思議がっていたので、クロエがいない理由を答えてやった。

 

「なるほどな。それと眼帯娘の事で言い忘れていたが、明日には一組にあのシャルロット・デュノアが転入してくるぞ」

 

「!! 一年前にフランスで接触した、あの花澤ボイスか!?」

 

「……デュノア社の非公式テストパイロットだろ。それで――」

 

「それなら、とりあえず『恋愛サーキューレーション』を歌ってもらわなければならんな!」

 

「少しは用心しろ」

 

「そして(表向きには)三人目の男性操縦者と、ラウラを含めて合計三人の転入生が来るわけか。面白そうだな」

 

「………」

 

ムカついたアンクは、ゴクローの勘違いを敢えて訂正せず、一番重要な事をワザと教えなかった。




キャラクタァ~紹介

五反田弾
 初登場の一夏の親友。しかし、もしかしたらこれが最初で最後の出番になる可能性も否定できない。何故ならこの作品を、アニメ第一期(つまり原作第三巻相当)の時間軸で終わらせようと考えているから。このままダラダラと続けるのも何だし。
 この世界では作者の欲望により、康一と由花子を見た億泰と化した。そして原作を見る限り、「何故一夏ばかりが、やたらと女子にモテているのか?」と、昔から不思議に思っている模様。

御手洗数馬
 名前だけ登場のチョイ役。アニメには未登場。一夏の友人らしいがコイツも弾と同様に非モテらしく、「女に興味の無い」とほざく一夏をアホ呼ばわりしている。ちなみに前話の「キャラクタァ~紹介&解説」の『シグルイ』ネタは、コイツの名前が「舟木“ぬふぅ”ブラザー」の一人と同じだった事が理由だったりする。

龍韻「それでは両名、存分に戯れよ!」
一夏「なあ、“ぬふぅ”って一体何なんだよ?」
5963「負ければ分かる。嫌でもな」

弾・数馬「「ぬふぅ」」

――『楽器を引けるようになりたい同好会』の二人は、その日も同時に達した。



五反田蘭
 一応は再登場の“赤い髪の少女”。『555』の啓太郎と結花を意識した、「お互いの顔を知らないやり取り」を試しにやらせて見たが、何か全然違ってしまった。
 原作での出番は結構多いが、一夏が年上好きで巨乳好きっぽいので、少々分が悪い気がする。しかし、もしも一夏がISを動かさなかった場合、一夏は箒や鈴音と再会する事も無く、他のヒロインズとも一切関らなかった可能性が高い訳で、この子はかなり有利なポジションに居たのでは無いだろうか……と、思わないでもない。

ティナ・ハミルトン
 鈴音のルームメイトでチョイ役。原作ではよく部屋でお菓子を食べているイメージがある。パツキンで巨乳。原作第九巻での彼女に対する反応を見るに、何だかんだ言ってもやっぱり一夏は巨乳が好きなんだと思う。
 原作では鈴音に対して、自分を一夏に紹介してもらうように頼んでいるようなのだが、肝心の鈴音が「また今度」、「今度またね」と言ってずっとはぐらかしている為、恐らく永遠にその機会はやってこない。そこでこの世界では、せっかくだからちゃんと紹介させてみた。

やったね、ティナちゃん! チャンスが増えるよ(多分)!


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第27話 メダルと記憶と全部のせ

今回のお話は、話数の都合で切り離したこともあり、完全に少佐と5963の夢のお話となります。最終的に約10000字もかかってしまったのです。ナンテコッタ。


久し振りに会った少佐は“燃える闘魂”って感じの赤いパーカーを着て、熱く激しく絶叫していた。

 

「みなさんお待ちかねーーー! 第38回『ぼっくんが考えたサーヴァントが一番強いぞ聖杯戦争』大会ぃいいいいいいいいいいいッッ!!」

 

「……前と違うパーカーですね?」

 

「何をしているんだシュレディンガー! 聖杯戦争はとっくに始まっているんだぞ!」

 

「もたもたしてると、あの『黄金聖闘士【ゴールドセイント】』みたいな人にボコられんぞテメー!」

 

そう言われながらドクから手渡されたのは、青色と黒を基調とした半袖のパーカーだった。何でも『仮面ライダースペクター』とか言う、兄属性を持つシスコンの仮面ライダーらしい。よく分からんが着ておくか。

 

「それでこれは一体……」

 

「私の名前はモンティナ・マックス! ビギンズナイトでアバズレのサイボーグに殺され、生き返るつもりは毛頭無いが、『仮面ライダーゴースト』となって、英雄の『眼魂【アイコン】』を集めている!」

 

「auのアイコン?」

 

人の話を聞くつもりが全く無い少佐が勝手に何か話し始めたが、「auのアイコンを集める」だと? やはり『仮面ライダーゴースト』とは、『仮面ライダー555』の後継的なスマホを使って変身する仮面ライダーと言う事なのだろうか? 何となく『仮面ライダーディケイド』の強化アイテム「ケータッチ」の在庫処分の匂いがしないでもない。

 

「うむっ。『英雄の眼魂』を15個集めると何でも願いが叶うのだ。完全なる死者蘇生さえも可能になる」

 

「たった15個の『auのアイコン』で!?」

 

何となく『ドラゴンボール』っぽい気がするが、何て簡単そうと言うか、滅茶苦茶に緩い制約なんだ。そんな制約ではこの世が地獄に変わってしまう様な気がする。

 

「……何か物凄い勘違いをしているようですので、ちゃんと説明しますわ」

 

そう言ってリップバーンが俺に細かく説明してくれた。なるほど、「au」じゃなくて「英雄」の魂が宿ったアイテムを集めるのか。それに変身前のパーカーが敵を攻撃する点は『カブト』のゼクターっぽいが、「素体の状態から鎧となるものを装着する」点は、『電王』や『鎧武』と同じであると推測出来る。

しかし、グレイトフルとか言うてんこ盛りがあって、その次にムゲンという最終形態があると言う設定は、どこか『ウィザード』をオールドラゴンや、インフィニティースタイルを髣髴とさせる。

 

「ちなみにそれとは無関係だが、ドクが君へのプレゼントに新たな金策を考えてくれたぞ」

 

「金策ですか?」

 

「そうだ! IS世界を廃滅させる為にも、強大な軍団を維持する為にも、先ずは先立つものが必要だ!

そこで! 日曜朝7時から9時までのニチアサキッズタイムを乗っ取り、関連商品を法外な値段で売り捌くのだ! 玩具は勿論の事だが、ムック本を出したり、映画を作ったり、CDを出したり、外伝でVシネマを作ったりするんだ!」

 

力説する少佐に圧倒され、とりあえず候補に上がっていると言う番組に目を通してみたが、どれもこれも酷い内容と言うか、程度の悪いパクリ番組だった。一部を紹介すると……

 

『激闘! クラッシュトライドロンTURBO』

『欲望戦隊ホシガルンジャー』

『ふたりは世紀王』

『地球戦隊メモリー5』

『オカ魔女きょうすい』

『夢の千年王国』

『明日の魔蛇【マージャ】』

 

……まあ、こんな感じだ。

 

ちなみに「仮面ライダーゴースト」のみ乗っ取らないとの事で、ある意味で錚々たる番組構成であると言えよう。

 

「なあに、だいじょうぶだ。大丈夫。ダイジョウブ。絶対に大丈夫だから、危なくなったら同人にすれば大丈夫」

 

同人にしたって、危険極まりないわ。特に『夢の千年王国』ってアンタが主人公じゃないか。内容的に、絶対地上波で流せないぞ? のーみそ、くすぐっちゃうぞ(物理)ってか?

 

「そしてシュレディンガーよ! 君に再びゴイスーなデンジャーが迫っている!」

 

「!! 遂にあのアバズレが動き出すのですか!?」

 

「いや、全然違う。国際IS委員会の馬鹿共が、漸く君が“全てのコンボを使えないのではないか”と疑い始め、今の内に君を倒してしまおうと動き出している」

 

なんだ。漸くあのアバズレをボコボコにする機会が巡ってきたと思ったと言うのに……って、それはそれでヤバイか。

 

「何故今になって“コンボが使えないんじゃないか”って疑い出したんですかね?」

 

「君が対凰鈴音戦で『ガタキリバコンボ』を使い、更に分身に他のコンボを使用させたが、IS大戦では『ガタキリバコンボ』さえも使わなかったからさ」

 

「『ラトラーター』と『ブラカワニ』以外のコンボを使わなかった事では無い……と?」

 

「そうだ。君も知っての通り、戦場において“力”とは、それが“恐怖の対象”である事に越した事はない。どんなに武装した自分達よりも強い力を持つと知れば、誰だって戦う気は失せる。

そう考えれば『ガタキリバコンボ』の能力は実に圧倒的だ。アレを使えば一気に片を付けることが出来たし、50人に増える能力があると知れば戦意喪失だって簡単に狙える。しかし、君はそれをしなかった」

 

「だから“ワザと使わなかった”のではなく、“本当は使えなかった”のでは無いかと疑い、最低でも『ガタキリバコンボ』は“IS大戦以降に使える様になった”のでは無いかと推測された?」

 

「うむ。そして全ての『コンボ形態』を使えないとするのなら、『オーズ』と戦うのは早ければ早い程良い。

そこで国際IS委員会は、ここで鬼札の一枚を切り、篠ノ之束奪還作戦では不発に終わった最大戦力を投下する事を決定したと言う訳だ」

 

アリーシャ・ジョゼスターフか。IS大戦で戦う事は無かったが、あのまま戦闘に突入していたらどうなっていただろうか。下手すれば相討ちに持ち込むのがやっとだったかも知れない。

 

「今の国際IS委員会は、世界中のIS操縦者の中から君を倒すための人材を選出している状態だ。アリーシャ・ジョゼスターフ以外に4人ばかり、選りすぐりのIS操縦者が君の前に立ちはだかるだろう」

 

「つまり、公式戦の相手としてぶつけてくるって事ですよね? 少佐は誰をぶつけてくると思いますか?」

 

「私の予想では、アメリカのイーリス・コーリングと、ナターシャ・ファイルス。ドイツのクラリッサ・ハルフォーフ。イギリスのイライザ・ヒギンズと言った所だな」

 

「その理由は?」

 

「アメリカは対『オーズ』を想定した専用装備の開発に成功し、ナターシャ・ファイルスは先日、専用機『銀の福音【シルバリオ・ゴスペル】』を『二次移行【セカンドシフト】』させている。

イギリスはティアーズ型のBT試作機第二号『サイレント・ゼフィルス』を完成させ、ドイツには例のVTシステム改悪パッケージがある。

とにかくコレが、私の考える最強の布陣だ。それに彼女達はメディアへの露出も多く、認知度がかなり高いからメモリやメダルの奪取なんて事も出来ない」

 

「? メモリやメダルの奪取と言うと、俺から奪うと言う事ですか?」

 

「違う。君が国際IS委員会に売り渡したメモリとメダルの事だ。表向き彼女達はIS学園の外部講師としてやってきた上で、君との公式戦に望む訳だが、対シュラウドを想定したお使いも頼まれているのだよ」

 

つまり、彼女達はメディアへの露出が多いから、選ばれた5人の内の誰かがドサクサに紛れてメモリとメダルを総取り……みたいな事をすれば、ソイツの名声は地に堕ちると言う訳か。

 

「さて、これから君が取れる手段は、大きく分けて二つある」

 

「? 決戦の日までに新たにコンボを獲得する以外に何かあるんですか?」

 

「ある。君は先日『エターナル』の完全なるエクストリームへと至っただろう? 私とは少し違う姿のブルーフレア。名付けるなら『仮面ライダーエターナルブルーフレア レッドティアーズエクストリーム』と言ったところかな?」

 

「……略して『ブルーフレアRX』?」

 

「その通りだ。よく分かったな」

 

何となくそう思ったら当たっていた。ちゅーか、名前が長すぎる。『仮面ライダーW サイクロンジョーカーゴールドエクストリーム』よりも長いぞ。

 

「そして、完全なるエクストリームに至ったと言う事は、エクストリーム理論に基づいて『ガイアインパクト』を起こすことが出来る様になると言う事だ。正直なろうと思えば、君は新世界の神になれる」

 

「旧世界を破壊してうやむやにすると!?」

 

少佐の言う「ガイアインパクト」とは、『仮面ライダーW』における敵組織ミュージアムの最終目的であり、エクストリームに至って激太りした上に、声がおっさんの様になった若菜姫へ「地球の記憶」内の膨大なデータを全て流し込み、地球と完全に一体化した「地球の巫女」へと昇華させて地球に変革をもたらすと言う、一種の人類補完計画だ。

 

TV本編では人類を地球と一体化させて不滅の種族にしたり、メモリの適性の無い人間を消滅させようしたりしているが、劇場版の『運命のガイアメモリ』で大道克己が行なおうとした風都市民のネクロオーバー化は、「エクストリームに至ったエターナルメモリと25本のT2メモリの力によって行なう、限定的な『ガイアインパクト』なのではないか?」と俺は思っていた。

 

もっと言えば、エターナルメモリの効果を受け付けない25本のT2ガイアメモリは、大道克己が発現させた「エターナルブルーフレア」を前提として造っているとしか思えない。更にT2メモリ以外のガイアメモリを軒並み無力化している事を考えれば、財団Xの本来の計画では、「エターナルの力で誰にも邪魔される事無く、確実にガイアインパクトを起こす」つもりだったのではないかと、俺は推測している。もしかしたら、大道克己のクローンなんかも確保していたのかも知れない。

 

「そうだ。例えば世界中の♀を♂に変換して世界を一つにするとか、ロリとショタだけの世界にするとか、人間と動物を合成させて鳥人間や猫娘に改造するとか、巨人やゴキブリ人間が魍魎跋扈する世界にする事だって思いのままだ」

 

「……人類が全員♂になったら、人類が滅びるじゃないですか」

 

「人間の価値観は時代と共に大きく変化し、今やありとあらゆる性癖が世に受け入れられ、BLや百合と言った同性愛はもはや特別なモノでは無くなった。それを証明するように、最近では男の娘が孕むエロゲーさえ存在する。

仮にある日突然、IS学園の男女比が逆転したとしても、男同士でも子を成す事ができる世界になったとしても、それはなんら不思議な事では無く、全く驚くに値しない些細な事だ」

 

なるほど。確かに少佐の言う事には一理ある。

 

「……いやいや! 不思議で驚くに値する事以外の何者でも無いですよ!? クトゥルフ神話以上の狂気と怖気を感じます!!」

 

「ちなみに衆道で人類廃滅を目的とするなら、世界中の女子の顔面を画伯が描いた絵の様に強制改造し、世界中の男子を自主的に衆道に走らせるように仕向けるのがベストだと私は思うぞ。元が美少女であればある程、醜くなる様に設定してな」

 

少佐はIS学園が一瞬で魔窟に変わる様な事を考えていた。強制的に性転換するよりよっぽど性質が悪い。

 

「……確認したいんですが、ブルーフレアになれば『ガイアインパクト』を起こせるんですか?」

 

「うむ。この場合はエターナルメモリの力を極限まで引き出せる人間と、データ人間の代わりとなるAからZまでの26本のガイアメモリを必要とするがな」

 

つまりは「若菜姫=俺」で、「フィリップ=26本のガイアメモリ」と言った具合で代用する訳か。「from A to Z」で“初めから終わりまで”を意味するらしいし、理屈としてはあっている……のか?

 

「だったら何で少佐は『ガイアインパクト』を起こさなかったんですか? それが出来るだけの準備をする時間はありましたよね?」

 

「「………」」

 

少佐とドクは黙り、俺から目を背けた。なんて正直な人達なんだ。

 

「何かあるんですね! 何かトンでもないリスクがあるんでしょう!?」

 

「そ、そんな事がある訳ないじゃないか。『ガイアインパクト』を起こしたら、体に流し込まれる情報量に脳が耐え切れなくなって死ぬなんて事は絶対に無いぞ?」

 

「そ、そうだぞシュレディンガー准尉。ぶっちゃけ、一人で地球がこれまでに蓄えてきた何十億年と言う膨大な記憶を御する事は、まず不可能だとは思っていないぞ?」

 

「だからまずは君をエクストリームに至らせ、それから『真のオーズ』へと成長させた上で、最終的に『オーズ』と『エターナル』を組み合わせた状態で『ガイアインパクト』を起こそうだなんて考えた事も無いぞ?」

 

「そうだ! 具体的にはこんな風に!」

 

少佐とドクが頼んでもいないのに次々と重要な事を暴露した後で、ドクがリモコンを弄って空中ディスプレイを展開した。そこに映し出されたのは……。

 

『タカ! イマジン! ショッカー! ターマーシー! タマシーターマッシー! ライダァ~~~ダッマッシー!』

 

タマシーコンボにチェンジしたオーズだった。三種類の怪人の力によって変身した怪人系コンボは、S.I.C.的な何とも禍々しい風貌をしていた

そして、エターナルメモリが装填されている左腰から青い稲妻が走り、オーズにコンバットベルトとエターナルローブが出現する。お蔭でカッコ良さと禍々しさが三割ほど増した気がする。

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

オーズはエターナルローブを脱ぎ捨て、ゾーンメモリのマキシマムを発動。それによって空中に出現したのは24本のガイアメモリだけでは無かった。色とりどりのコアメダルがオーズを中心として、円を描く様に規則正しく空中に浮んでいる。

 

『ACCEL・ KEY・BOMB・QUEEN・CYCLONE・JOKER・LUNA・METAL・HEAT・TRIGGER・FANG・SKULL・NASCA・ROCKET・VIRUS・ICEAGE・DUMMY・WEATHER・PUPPETEER・YESTERDAY・GENE・OCEAN・UNICORN・XTREME・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『タカ! クジャク! コンドル! ライオン! トラ! チーター! クワガタ! カマキリ! バッタ! シャチ! ウナギ! タコ! サイ! ゴリラ! ゾウ! サソリ! カニ! エビ! コブラ! カメ! ワニ! プテラ! トリケラ! ティラノ! サメ! クジラ! オオカミウオ! ムカデ! ハチ! ゴキブリ! セイウチ! シロクマ! ペンギン! ウシ! ガゼル! シカ!』

 

空中のガイアメモリがコンバットベルト目掛けて一斉に殺到し、右腰のオースキャナーが勝手に飛び出して空中のコアメダルをスキャンする。お蔭で立木文彦ボイスと串田アキラボイスが混ざり合い、途中から何と言っているのか良く聞き取れない騒音と化していた。

スキャンされたコアメダルは光と化し、オーズのオーラングサークルへと吸い込まれていった。コアメダルが取り込まれる度にオーズの体が光り輝き、装甲が鋭角的に変化していく。

 

『ETERNAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

最後にエターナルエッジに装填した、エターナルメモリのマキシマムが発動。緑色の複眼が輝き、背中に翠色のオーラを纏った物凄くラスボスっぽいオーズ・タマシーコンボが完成した。

 

「そして気になる戦闘シーンはコレだ!」

 

「超ノリノリじゃないですか」

 

戦闘シーンと称する映像に切り替わると、全身から光を発するオーズが、スコールとオータムの二人と戦っていた。

専用ISの『ゴールデン・ドーン』を操るスコールと、『アラクネ』を纏ったオータムの二人は、息の合った抜群のコンビネーションでオーズを攻めていたが、オーズは武器の類を一切使わずに徒手空拳のみで二人を完全に圧倒していた。

 

「がぁああああああああああッッ!!」

 

「きゃああああああああああッッ!!」

 

「今までとは出力が違う……終わりだッ!」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

「貴様等が避ければ、地球は粉々だぁああああああああああああああっっ!!」

 

スーパーサイヤ人の様に発光した状態でベジータの様な台詞をのたまい、「ギャリック砲」ではなく「かめはめ波」の構えで「魂ボンバー」を放とうとするオーズ。しかし、ただでさえタマシーコンボに使う三枚のコアメダルで、1000tの破壊力を発揮する「魂ボンバー」に、36枚のコアメダルと26本のガイアメモリの力が加わっているこの“てんこもり状態”なら、避けなくても地球が破壊されそうだ。

 

そして、俺の予感は見事に当たった。

 

最大威力の「魂ボンバー」を受けたスコールとオータムは、ジュッと音を立てて呆気なく消滅し、地球は「魂ボンバー」によって巨大隕石が衝突したかと思う程の大爆発を起こした。

 

「……あの……その、『ガイアインパクト』って言うのは、こーゆー事じゃ……」

 

「言いたい事は分かるが、間違ってはいないだろう?」

 

いや、確かにある意味「ガイア」を「インパクト」した感じではあるし、ある意味らしいと言えるが……。

 

「まあ、コレは流石に例えが悪かったが、本当に何でも出来る様になるのだよ? 例えば、『悪事を犯した後に本気で更生しようとする人間を、優しく受け入れる世界』にする事も出来る」

 

「!!」

 

「そもそも、君はこの世界の有り様が気に入らなかった筈だ。多くの国家がISを兵器として活用しているが、兵器とは大量の人間の命を殺傷し、無差別に人間の財産を破壊する為の物だ。この場合は同格の力を持つISを、巨大な建造物を、貿易の拠点を、工場や農場等の生産地を、そして名も知らぬ無力な人間を……だ。

君はIS操縦者の精神性に関して色々と批判しているようだが、IS操縦者に最も必要とされる資格とは、“生身の人間にISの武装を展開出来る事”だ。特にISの高い適正を持った人間にはそうなってもらわないと有事の際に困る。だからこそ、彼等は生身の人間に対してISの武装を向けやすい環境を作り出し、そうなるような教育を施した」

 

「………」

 

「君が凰鈴音を助けた本当の理由はそれなのだろう? 確かに凰鈴音には元々素質があった。しかし、自分達の欲望に利用する為に、そうなるように教育を施した人間達が、罪に対する罰の名目で凰鈴音を欲望の捌け口にし、間違いを認めてやり直そうとしていた凰鈴音の未来を奪おうとした。それが君は気に入らなかった。違うか?」

 

ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、全てお見通しだと言わんばかりの瞳で、少佐は俺の心情を的確に代弁する。

 

「しかし、君は気づいている筈だな? この世界で最も人間の自由と未来を奪うモノが一体なんなのかも、人間を守る為に戦う事が実は矛盾しているのだと言う事も」

 

「………」

 

「いずれにせよ君に残された時間は少ない。そこで、今夜にでもこの座標の位置へ向かうといい。ここに『ミレニアム』の総力を結集した『最後の切札』が隠されているのだ」

 

「……『最後の切札』ですか?」

 

「ああ。全ての試練を乗り越えて、誰も手にした事の無い高みへと至り、只一人の王として君臨する。その時君は、全ての世界を制するんだ」

 

何故ここでDJサガラの台詞が出るのか? ちゅーか、どうしても俺を新世界の神か、宇宙の帝王にでもしたいようにしか聞こえないのは気のせいだろうか?

 

「そしてこの施設に入る為にはパスワードが必要になるのだが……タダでは教えられないんだな、コレが」

 

「……何が望みですか?」

 

「なぁに簡単な事だ。私にちょっと君の欲望を教えてくれれば良いんだ。具体的には君の周りにいる女の子達にしてもらいたい事だ」

 

「何故ですか?」

 

「君も知っての通り、コアメダルは使用者の欲望に強く反応する。そして欲望と言うものは心の内に秘めた物ほど強力だ。つまり、欲望の力を使いこなすには、自らに秘めた欲望を解放する事が必要となるのだよ」

 

うーむ、もっともらしい事を言っているだけの様な気もするが、少佐の言う事にも一理ある。欲望を解放する事でコアメダルの力を引き出す……か。

 

「さあ! 遠慮なく私に君の欲望を告白するんだ!」

 

「そうですね……とりあえずは『プトティラコンボ』を使う時に、イリヤコスの本音に『やっちゃえ、バーサーカー!』って言って欲し――」

 

「違ぁああああああああああああああああああああうッッ!!!」

 

「!?」

 

「私が求めているのはそんな事では無い! もっと下品で! 低俗で! 有害で! 放禁バリバリの! イケナイ欲望を言えと言っているんだ!

具体的に同じFateネタで言うなら、山田真耶に間桐桜のボンテージコスを着て『君にするのもされるのも、私じゃなきゃ駄目なのに』と言って迫って欲しい位は言え! 勿論設定は全年齢版じゃない方だ!」

 

それはアンタの欲望じゃないのか……と思ったが、実際にそんな状況をちょっと想像してみた。普段とは違う、妖しい色気を纏った山田先生……か。

 

「……………アリですね」

 

「そうだろう、そうだろう。乳の大きさに悩んでいる所とか、ぴったりな配役だろう」

 

我が意を得たりと言わんばかりに、少佐はニタニタと笑っていた。つまりは、そーゆー事を言えと言う訳か……。

 

「ほらほら、私の耳元でこっそりと言うだけで良いんだ。早くし給え。君にだってあるだろ? そーゆー欲望が?」

 

「…………み、皆には内緒ですよ?」

 

俺はボソボソと正直に言った。すると少佐の顔が邪悪に歪み嫌な予感がした。その瞬間、何時の間にか背後にいた大尉が俺を羽交い絞めにして身動きを封じた。

 

「みなさん~~~~聞いてくださーーい~~。この男、メイド服姿の篠ノ之箒に『萌え萌えきゅ~~~ん!』ってやって欲しいんだってさぁ~~~~~~! バッカじゃないのぉーーーーッ!!」

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

「ミレニアム大隊各員に伝達! よぉ~~~~~~く聞け! シュレディンガー准尉はセシリア・オルコットに上目遣いで『あ、あたらしいご主人様ですか?』と言って欲しいそうだ! コレどう思う?」

 

「やめてくれぇええええええええええええええええええええええっ!!」

 

『【速報】シュレディンガー准尉が、更識楯無と下着泥棒について論議し、「そこに価値があるのよ」と言って欲しいと言ってきた』

 

「拡散希望と♪」

 

「いやぁあああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

ツイッターに俺の欲望を書き込んだ少佐は、これが最後と言わんばかりに猛烈な勢いで紙に何か書き込み始めた。デブの体が邪魔になっていたが、「篠ノ之束さんへ シュレディンガーは君に人魚の格好をして『ゴッくん、束さんの卵に――』」と、ここまで見えた。血の気が引いた。

 

「止めだっ! 今からコレを篠ノ之束の脳内に送信してやる!」

 

「!?!? ウ、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「「!?」」

 

俺の体の中から飛び出した3枚のメダルは大尉を吹き飛ばし、何時の間にか腰に巻かれたオーズドライバーにメダルが装填される。装填されたコアメダルの色を確認し、迷う事無くオースキャナーを振り下ろす。

 

「超・変・身!」

 

『ラブ! ラブ! ラブゥウウウウウッ!!』

 

仮面ライダーオーズ・恋愛コンボ。その二度と変身するまいと考えていた、禁断の力が再び解放された。

 

「俺は光の使者ッ! キュアオーズッ! 貴様だけはっ! 絶対にっ! ゆ゛る゛さ゛ん゛っ゛!」

 

完全に私怨である。途中から何か何処かおかしくなり、「こんなプリキュア、ぶっちゃけありえない」なんていう幻聴が聞こえるが気にしない。日本中の幼女と少女と大きなお友達が阿鼻叫喚となる様な気がしないでもないが、俺の知ったことでは無い。

 

そして吹き飛ばされた大尉は俺を再び拘束する事無く、何処からか取り出したカメラのフラッシュをバシャバシャと焚き続けていた。

 

「もう遅いっ! 既に篠ノ之束への脳内へ送信する準備は出来ているッ! そしてっ! もう限界だッ! 押す――」

 

「リボルケインッ!」

 

右手に意識を集中し、IS大戦前のひぐらしコスの時に入手した「悟史」と書かれた部分が塗り潰され、「リボルケイン」と書かれた金属バットを召喚し、少佐に向かって思いっきり投げつけた。金属バットは送信ボタンを押そうとしていた少佐の右手とFAXを見事に「粉砕・デストロイ!」する事に成功した。

 

「うげああああーーッ!!」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

「とぉおおおうっ!!」

 

少佐が激痛で右手を押さえる中、俺は速攻でキュアオーズの必殺技を発動する。少佐は大きなハート型のエネルギー体に拘束され、俺は上空高く飛び上がる。

 

「私は矢だ! 常に真実を射抜く矢だ! 喰らえぃ! ライダー・ラブ・シュート・アロォオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「うぼぁああああああああああああああっっ!!」

 

射手座のラスボス理事長の様な事を言いながらハート型のエネルギーを撒き散らし、自らを矢と化す両脚蹴りのライダーキックを叩き込む。成す術なく必殺キックの直撃をどてっ腹に受けた少佐は盛大に吹っ飛び、ボドボドの体になっていた。

 

それでも何がそうさせるのか。少佐は力を振り絞って立ち上がり、俺を指差してこう言った。

 

「わ、忘れるな……『オーズ』はいずれ『白き闇』と等しくなるだろう……」

 

「!? それはどう言う――」

 

「ザ、ザケンナァアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

少佐は不気味な予言を言い残して前のめりに倒れると、何故か半端じゃない大爆発を起こした。

 

……あ、パスワードを聞くの忘れた。




キャラクタァ~紹介&解説

イライザ・ヒギンズ
 本作オリジナルのイギリスの国家代表操縦者。名前は何時ものアナグラム……ではなく、映画『マイフェアレディ』の登場人物から。色々考えた結果、原作ではマドカが使用していたBT二号機の『サイレント・ゼフィルス』を使って貰う事にした。
 原作二巻の一夏と弾の会話によると、イギリス代表操縦者の専用機は「メイルシュトローム」と言う機体らしいが、発売されているゲームでは「技が弱くて、コンボが微妙」との事。恐らく手数で勝負するタイプだと思われるが、詳細は不明。



タマシーコンボ
 劇場版限定の怪人系コンボ。ある意味では『ミレニアム』最強の怪人。「魂ボンバー」が「かめはめ波」に見えたのは作者だけではないはず。『HERO SAGA』によると、頭に無数の蛇が絡んだショッカー首領にも近づきたくない一心で「魂ボンバー」を繰り出したらしい。それが1000tもの威力を引き出した“欲望の源泉”だとすれば、へび獣人やベノスネーカーと相対したらどうなるだろうか?

恋愛コンボ
 白を基調とした(公式が)病気のコンボ。専用武器は金属バット「悟史」……もとい、「リボルケイン(油性マジック)」。必殺技は『You Tube』で適当に動画を見て考えたが、必殺技の名前を考えるのに妙に手間取ってしまった。

仮面ライダーエターナルブルーフレア レッドティアーズエクストリーム
 名前が超長いので、略称は『ブルーフレアRX』。初めはアルティメットクウガの様な「レッドアイズ」にしようと考え、実際に複眼を黄色から赤色にしてみたら予想以上に禍々しい印象になってしまったので没にした。エターナルの複眼は黄色が一番。
 その後も何か良い案は無いかとずっと考えていたら、BSプレミアで放送していたゴジラの「三式機龍」を見て、複眼の下の黒いラインを赤くする事を思いついてこうなった。血涙みたいな感じが「怒りの王子」的な要素を上手く表現できている……気がする。

中の人ネタ
 アニメの声優さんによって出来るネタなので、アニメに登場していない虚や、ナターシャなんかのアニメ未登場組では絶対に不可能なネタ。一応答え合わせも兼ねて、他にも考えていたネタを一緒に出しておく。ちなみに楯無は戦場ヶ原や、ルッキーニも候補だった。

 本音……「Fate」のイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
 真耶……「Fate」の間桐桜。
 箒……「けいおん!」の秋山澪。
 セシリア……「コードギアス」のC.C.。
 楯無……「まどか☆マギカ」の暁美ほむら。
 束……「浪打際のむろみさん」のむろみさん。
 シャル……「物語シリーズ」の千石撫子。
 千冬……「めだかボックス」の黒神めだか。



激闘! クラッシュトライドロンTURBO
 様々なスーパーマシンを使った激しいカーアクションが魅力。番組の後半から10年の構想と800億もの大金をかけて製作された『VTシステム』なるものを搭載したマシンが登場するが、ヴァルキリーをトレースする訳ではない。元ネタでは「玩具に800億」とか言われるが、どう考えても「覇王翔龍撃」なんてトンデモ技を使うアレが「玩具」にカテゴライズされるとは到底思えない。

欲望戦隊ホシガルンジャー
 物欲・食欲・睡眠欲・金銭欲・支配欲・性欲・愛欲・情欲・独占欲・出世欲・名誉欲……と、ありとあらゆる欲望をテーマにした戦士達の物語。その内容は視聴者の欲望が存分に満たされる出来栄えだが、とても朝から放送する様なモノでは無い。噂ではスーツアクターは全て、一人の人間が50人に分身して行なっているとか。

ふたりは世紀王
 主人公のキュアブラックサンとキュアシャドームーンの二人が、ジャアクキングとその一味を「ゆ゛る゛さ゛ん゛!」の掛け声と共に容赦なく滅ぼす物語。一人でも厄介な奴が二人組になっているので、「ぶっちゃけ、ありえない」レベルのオーバーキル。戦闘シーンは悪党が可哀想に見える。
 続編では「キュアBLACK RX」と「キュアアナザーシャドームーン」にそれぞれ進化し、絶体絶命のピンチになると、大体不思議な事が起こって万事解決してしまう。追加メンバーの三人目? そんな奴は彼等には必要ない。

風都戦隊メモリー5
 風都という町を舞台に、ジョーカーブラック、サイクロングリーン、アクセルレッド、スカルシルバー、ナスカブルーの5人が八面六臂の大活躍をする物語。アクセルやナスカは強化形態で色が変わるため、イマイチ安定感が無い。追加メンバーはエターナルホワイト。

夢の千年王国
 主人公は少佐(当時は中尉)。総統閣下の命令でドクと大尉の二人のお供を連れて、世界中を旅するノンフィクション特撮ドラマ。死神編と天使編があるが、どっちも聖遺物が関係している。最終回では少佐が、本当に脳みそを(物理的に)くすぐっちゃう事になる。

オカ魔女きょうすい
 仲間にブッ刺されて死んだ「世界一不幸な美漢女」こと泉京水は、明らかに怪しいミイラ女の正体を見破って魔女見習いになる。お友達は元OLのドーナツ屋の店長と、元軍人のケーキ屋の店長。一年毎にベビーシッターになったり、パティシエになったり、傭兵になったりする。合体技は「マジカルステージ」と言う名の「ライダーシンドローム」っぽい、得体の知れないナニカ。おジャ魔女戦隊マジョレンジャーではない。

明日の魔蛇【マージャ】
 元ネタの主人公の名前はアップルフィールドなので、「ゴールデンアームズ」は使うけど「リンゴアームズ」は使わないと言う矛盾。EDは『仮面ライダーセイヴァー』が鏡の前で次々とアームズチェンジしながら踊ると言う誰得仕様。最後は必ず小説版の「魔蛇アームズ」にチェンジする。


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第28話 旅人と事情とW転校生

遂にシャルロットが初登場でラウラが再登場です。次回の更新は何時になるか分かりませんが、タイトルは「Sな戦慄」で決めてあります。何故なら次回は昼食会だからです。つまりは……。

今回の投稿はこれにて終了です。そして不定期な更新になってきたので、今回から「不定期更新」のタグをつけようと思います。

それでは読者の皆さん。よき週末を……。





雨の日も風の日も、何時だってIS学園は朝から色々な話題で盛り上がる女子で騒がしい。

 

今朝の場合は、今日からISスーツの申し込みが始まる事もあってか、「どの企業のISスーツにするか」と言う話題で盛り上がっていた。その日の話題によっては、俺も会話の輪の中に入ったりするのだが、今回は俺には全く関係の無い話なので遠慮する事にした。ちなみにクロエや箒、マドカが着ているISスーツは、束の特別製だとか。

 

そして今日は何時もと違い、朝からアンクがいない。何でいないのかと言えば、コアメダルとオーズドライバーのメンテナンスが理由だ。本来なら昨日行なわれる予定だったのだが、一日ずれた為にこうなった。

 

『何て言うかその……いいのか?』

 

『いいの。アンくんにも話したい事、いっぱいあるから』

 

そう言って束はオーズドライバーを受け取り、アンクと共にガレージに向かっていった。少なくとも半日は俺の元にアンクは帰ってこないだろう。

 

それにしても『最後の切札』が封印されていると言う座標は把握したが、パスワードが聞き出せなかったのは痛い。そもそも恋愛コンボの力で、あの少佐が消滅したとは思えない。やはり秘密を暴露したのは不味かったかも知れん。

 

そんな後悔を頭の中から追い出し、俺は今日この教室に転校してくると言うシャルロットとの出会いを振り返る事にした。

 

 

●●●

 

 

今を遡る事およそ一年前、少佐に呼び出された俺は、ある任務を受ける事になった。

 

「敵の懐柔ですか?」

 

「正確には懐柔するかどうかの値踏みだ。ターゲットの名前はシャルロット・デュノア。デュノア社社長の愛人の娘だ。そして彼女は君が言う所の『花澤ボイス』と言う天性の才能を持っている」

 

「マジですかッ!?」

 

「……それで? この女を選んだ理由は何だ?」

 

一気にやる気が上がった俺は、食い入るように写真を見てターゲットの顔を覚える事に集中し、アンクは呆れた顔で少佐にこの少女を選んだ理由を聞いた。

 

「どの国家でもそうなのだが、国家が毎年ISの為に捻出する予算の使い道は新兵器や新技術の開発であり、それを与える相手は大きく分けて二つある。

一つはISの研究施設。もう一つはISを販売する企業だ。もっとも、ISの絶対数を増やしている訳ではないから、“販売”と言うより“委託を受けて改造”すると言った方が良いのだがな」

 

「確かにな」

 

「そして前者と違い後者は、他国から金を落とす事が可能だ。そうなると金を出す側としては、ISを“兵器として”活用する手前、“元々武器開発や兵器開発に精通し、そうした経験蓄積がある企業”に投資するのが安全牌だと考える」

 

「だろうな」

 

「さて、それではさっきから黙っている、シュレディンガー准尉に質問しよう。ISが登場した10年前、つまり『白騎士事件』が起こる以前の、現デュノア社社長は一体何者だったと思う?」

 

「? 武器や兵器の開発と、それらの販売の経験蓄積があるとなれば……」

 

「所謂“死の商人”って類の人間だな?」

 

俺がちょっと考えて「武器商人」と言おうとした所で、アンクがあっさりと正解を言ってしまった。そこはもう少し待って欲しかったなぁ……。

 

「うむ。しかもこの手の武器商人は人間社会の表側と裏側は勿論の事、国の暗部とも深い繋がりを持っていて、所謂“まともな感性”を持った人間は存在しない。

そんな人間の愛人だったシャルロットの母親は、当時は付き合っている男の正体が武器商人だとは知らなかった。そして自分の相手が武器商人だと知った時には、既にその男の子供を身篭っていた」

 

何かキナ臭い話になってきたな。そして資料によると、デュノア社は母親が死亡して直ぐに、シャルロットを確保しにやってきたらしい。

 

「……この資料を見る限り、母親が死亡する前からシャルロットの存在を知っていたと考えられますが……」

 

「肉親と死別して路頭に迷った状態なら、本人からすれば選択肢が無いに等しい『抜き差しなら無い状況』だからな。娘を回収するタイミングを見計らっていたと考えた方が自然だ」

 

「それに関してだが、デュノア社に潜入させていた『ミレニアム』のスパイによると、どうも母親は何かしらの“秘密”を握っていたらしい。自分達の居場所や娘の存在がバレた場合の保険としてな」

 

「そんな秘密を持っているなら、逆に殺されそうな気がしますが?」

 

「だから娘にも分からないほど、自然に“処理”された。私が思うに、彼女は確かに『鬼札【ジョーカー】』を持ってはいた。しかし、彼女は駆け引きに関しては全くの無知だった。だからカードの切り方を間違えてしまった。そしてそれ以上に、目を付けられた人間が悪過ぎた」

 

確かに相手が悪過ぎた。恐らく二人が発見された時点で、フランスは既に巨大な鳥籠と化していたに違いない。どっかのデデデな大王も「国家ぐるみの犯罪は犯罪になんのだZOY!」と言っている。

 

「……接触を図った時期から鑑みるに、シャルロットの事を知ったのは比較的最近だと思われますが、どうやって知ったんですかね?」

 

「それに関しては全くの偶然だったようだ。しかし、彼女達を知ったデュノア社社長は当然こう思った。『娘がいるだって? 誰の子だ? 子供の年齢を考えると、ひょっとして俺の子なんじゃないか?』……とね」

 

「デュノア社の非公式パイロットにしている所を見ると、事前にシャルロットのISの適正が高い事を知っていて、それを利用できると考えたんでしょうか?」

 

「いや、彼女はフランス政府が無料で行っている、ISの簡易適性さえも受けた事は無い。ISに関れば必ず自分の父親に辿りつく事になる。だから、母親が止めていたようだ」

 

「ISの適正が高かったのは、あくまで偶然だと?」

 

「そうだ。デュノア社社長にとっては、ISの適正が高かろうと低かろうと、若くて何も知らなければ何かと都合よく利用できる。血縁関係があるなら尚更だ」

 

なるほど。正直『ジョジョ』第5部のディアボロの様な奴だと思っていたが、実際はポルポも混ざっているらしい。いずれにせよ「吐き気を催す邪悪」には違いない。

 

「この娘がその“秘密”とやらを握っている可能性は?」

 

「仮に秘密を知っていたなら、とっくに口封じされていると思うが、確かに全く無いとも限らない。

そこでだ。このシャルロット・デュノアが何食わぬ顔でデュノア社に従っている“獅子身中の虫”なのかどうか、彼女に接触して調べて欲しい。方法は君の判断に任せる」

 

「了解しました」

 

「とは言うものの、君達の意見はあくまで参考程度だし、半分は頑張っている君へのご褒美だ。気楽にやりたまえ」

 

「「………」」

 

あまり期待はされていないようだが、任務は全うする。

 

そこで今回は舞台がフランスと言う事もあって、思い切って『ジョジョ』のジャン・ピエール・ポルナレフと同じ髪形に整え、髪の色をシルバーに染め直し、眉毛を剃り落とした。所謂、変装と言うヤツだ。但し、服装は第三部の衣装では少々目立ち過ぎるので、第五部のノースリーブだ。

 

「居たぞ。シャルロット・デュノアだ。久し振りの休みで呑気にしてやがるな」

 

「よし、俺はこれから真っ直ぐにターゲットに接触する。アンクはそこで俺の勇姿を見ていてくれ」

 

「それは構わないが、何だその髪型は? デッサンでも狂ったのか?」

 

「ポルナレフヘアーだ。どうだ、フランス人っぽいだろう?」

 

「どっちかと言うと軍人っぽくて、逆に警戒されそうだな」

 

「………」

 

小鳥状態のアンクに駄目出しを喰らうが、今回はこれで突っ切る。これからシンガポールでゴミと間違えられそうな荷物を片手に、外国からの旅行者を装い、「フランス語のメニューが難しくて分からん」と言って接触する。

気合を入れなおして改めてターゲットの方に目を向けると、見るからにチンピラと言った風貌の“やけに見覚えのある男”がシャルロットに絡んでいた。

 

「あの人『ミレニアム』のメンバーだよな? もしかして、少佐が寄越したのか?」

 

「どうだかな……おい、アイツ今財布とネックレスをスッたぞ。もしかして、話しかけるチャンスを作りに来たのか?」

 

そう言われればそうかも知れない。少佐め、余計な事をしてくれる……とも思うが、相手がサイボーグなら手加減する必要が無い。ここは一つ少佐の好意に甘えて、思いっきりやらせてもらおう。

 

「待ちなっ!」

 

「「え!?」」

 

立ち去ろうとするチンピラの腕を引っ掴むと、チンピラのポケットから女物の財布がポロリと落ち、その手にはペンダントが握られていた。

 

「そ、それは私のお財布! それに大事なペンダントも!」

 

「スリか……。ちなみにお嬢さん。『その財布は私が彼にあげたものですよ』とか言ったりする?」

 

「そ、そんな事言う訳ないじゃないですか!」

 

そうだよな。誰だってそーする。俺だってそーする。ジョースター家だけが稀有な例外なのだ。

 

「フフフ……中々鋭いねぇ。俺のスリテクを見破るとは、イイ勘してるぜ兄ちゃん。だがな……アンタの脇腹をよぉ~く見てみなよ」

 

そう言われて脇腹を見ると、脇腹にナイフが突きつけられていた。但し軍人が使うようなコンバットナイフではなく、チンピラが持っている様な小さいバタフライナイフだ。分かってらっしゃる。

 

「さあ、コイツでチクリと刺されたく無かったら、黙って財布と高価そうなペンダントを盗まれな!」

 

「ふぅ~~。なあ、お嬢さん。ノミっているよなぁ……小さな虫けらのノミだよ。あの虫は巨大で頭の良い我々人間に所構わず攻撃を仕掛けて、戦いを挑んでくるよなぁ。巨大な敵に立ち向かうノミ……これは『勇気』と呼べると思うか?」

 

「え……?」

 

「では……『勇気』とは何か?」

 

「この野朗ぉおおおおおっ! 余裕ぶっこいてんじゃねぇぞぉおおおおおっっ!!」

 

俺の余裕な表情が気に入らなかったのか、そのまま周りにバレない様に脇腹をぶっ刺せば良いのに、チンピラはワザワザ顔を狙ってナイフを突き刺そうと大きく動く。やはり、見せ方と見せ場がワカっている。

 

「『勇気』とは『怖さ』を知る事ッ! 『恐怖』を我が物とすることだぁあああああああああああっ!!」

 

それに対して俺はそこら辺に捨ててあった空き瓶を掴むと、瓶の底をナイフの切っ先を目掛けてぶつけた。そうなれば当然瓶の底は割れる。お蔭でナイフを握ったチンピラの左手が血まみれになった。

 

「ギニャァアアアアアアアアッッ!!」

 

「人間讃歌は『勇気』の讃歌ッ! 人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさ! 幾ら強くても、こいつは『勇気』を知らんッ! ノミと同類よォーーーッッ!!」

 

左手の激痛に喘ぐチンピラ。しかし、サイボーグならばこの程度は問題ない。恐らくは俺の為に大げさにリアクションしているのだろう。そして俺は容赦なく、只の飛び膝蹴りをノリノリでチンピラの顔面に叩き込んだ。

 

「『仙道波蹴【せんどう・ウェーブキック】』(只の飛び膝蹴り)!!」

 

「ホギャァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

しつこい様だが、叩き込んだのは只の飛び膝蹴りだ。俺は「波紋」なんて一切込めていないし、使えもしない。飛び膝蹴りを正面からモロに喰らったチンピラは、鼻血を噴水の様に流して気絶した……振りをしているのだろう。サイボーグはこの程度では気絶しない。

それにしても何時も思うのだが、この生身の人間を殴っている様な感触を、ドクはどうやって再現しているのだろうか? まあ、聞いたところでサイボーグになるつもりはないが。

 

「あっけ無い奴だ。南米で出会ったチュパカブラの方がよっぽど強敵で、恐ろしい相手だったぜ」

 

(こ、この人、さっきから一体何を言ってるんだろう?)

 

「所であんた、カラシは好きか?」

 

「………」

 

返事の無いチンピラに対し、俺は近くに居たホットドッグ屋の屋台からカラシを拝借し、静脈注射を打つ看護士の様な冷静さで、チンピラの頭にカラシをモリモリかけていく。一分弱で完成したのは、何処からどう見ても完璧なとぐろ型だった。

 

「ああ、気にするな。そのカラシには何の意味も無い。只の悪意だ」

 

「うわぁ……」

 

「さてと、スピードワゴンはクールに去るぜ」

 

「ちょ、ちょっと待って! これ、どうするの!?」

 

慌てながらもシャルロットが指を指しているのは、大惨事としか言いようが無いチンピラの姿。しかも野次馬が周りに集りつつある。

 

「そうだな……こんな時に役に立つのはココだ」

 

「? 足?」

 

「そうだ、思いっきり足を使うんだ」

 

「どんな風に?」

 

「……逃げるんだよぉおおおおおおおおおっ!! どけーっ! 野次馬共ぉおおおおおおおおおっ!!」

 

「えええええええええええええええええええええええッッ!?」

 

俺は全力で走った。その後ろをシャルロットが何故か着いてきていた。多分、つられて一緒に逃げてしまったのだろう。10分ほど爆走し、現場から大分離れた所で、俺とシャルロットは足を止めた。

 

「正直、凄い滅茶苦茶だったけど、お財布もペンダントも助かりました。あの、名前を聞いてもいいですか? 私はシャルロットって言います」

 

「そうか。俺はおせっかい焼きのスピードワゴン。親しい奴は俺の事を『奇行種』って呼んだりするぜ」

 

お互いに自己紹介をしたが、俺はナチュラルに偽名を使った。本当は違う偽名を使うつもりだったが、さっき思わずスピードワゴンと言ってしまったので仕方無い。

 

「あの……それ多分、馬鹿にされてるんじゃ……」

 

「細かい事は気にするな」

 

ちなみに俺を奇行種と言った奴に怒りを覚えた俺は、風呂場で会った時にそいつの股間の紳士を指差し、「俺が奇行種なら、お前は奇形種だ!」と言ってやった。怒り狂うかと思ったらオイオイと泣き出したので困ってしまったのだが、流石にそのエピソードをシャルロットに言うつもりは無い。

 

それからお礼を兼ねて、シャルロットと一緒に適当な店に入る事になった。

 

「手間ひま掛けてこさえてあるな。ほら、この人参の形。スターの形……何か見覚えがあるなぁ~~」

 

「?」

 

「そうそう。俺の知り合いに、首筋にコレと同じアザを持っていたな……」

 

「へぇ? そうなんですか?」

 

「………」

 

予想はしていたがポルナレフネタはシャルロットに一切通用しなかった。まあ、これが普通か。この世界に『ジョジョの奇妙な冒険』は存在していないし。

 

「それじゃあ、世界中の色んな国に行った事があるんですね。良いなぁ……」

 

「ああ。色んなものを見てきた。アフリカの珍しい動物とか、アジアの奇怪な植物とか、カリブ海の大木を吹っ飛ばす竜巻とかな。

取り敢えず、自販機が沢山設置してある国は、ある程度治安が良いと考えて良いぞ。自販機は治安が良くないと成立しない物なんだ」

 

「へぇ~~」

 

これはネタではなく、この世界で実際に見た事があるので嘘は言っていない。その後の会話も俺は花澤ボイスを堪能しつつ、ジョジョネタを交えた実体験で通し、会話はそれなりに盛り上がった。

なんとも楽しい時間だったのだが、出会いがあれば必ず別れと言うものがやって来る。シャルロットと別れる際に、俺は彼女と再会を約束する言葉を投げかけた。

 

「未来で会おう! イタリアで!」

 

「フランスじゃないの!?」

 

最後までシャルロットはツッコミ役だった。任務を終えた俺はアンクと合流し、早速少佐に報告と文句を言いに言った。

 

「少佐~。部下を寄越すなら、前もって言って下さいよ~」

 

「ん? 何の事だ? デュノア社に潜入させた『ミレニアム』のスパイが、シャルロット・デュノアの監視を担当する今日を狙ったのは確かだが、それ以外に寄越した部下は一人もいないぞ?」

 

「え?」

 

「うん?」

 

この時になって俺は、あの男が『ミレニアム』のメンバーではなく、メンバーによく似た別人だと理解した。……うん、まあ、アレだ。スリだったから悪党には違いないし、正当防衛の範疇……では収まらないかもなぁ……。特に最後の飛び膝蹴り。

 

「何かトラブルがあったようだが、君達から見てシャルロット・デュノアはどうだったかね?」

 

「……腹に二物を抱えるような感じには見えなかったですね。あと、何処となく依存するタイプのヤンデレの臭いがしました」

 

「クソ真面目でドツボに嵌りそうって感じだな。あと、懐柔するなら自分は味方だってアピールすれば、多分あっさりと落ちる」

 

「……そうか。実に貴重な意見だ」

 

それからしばらくして、俺がフルボッコにしたチンピラが死んだ事を少佐から聞いた。何でも川をぷかぷか浮いていた状態で発見され、死因は銃弾を受けた事による失血死。何でもヤクザな連中の鉄砲玉をやらせられ、逃げる際に自分が撃った拳銃の弾が跳ね返り、運悪く自分の体に当たったのだとか。

某ヤクザ漫画の主人公みたいに、タイムスリップして「Take2」で一度目よりも悲惨な人生を送っていなければいいが……と思いながら、俺はチンピラの冥福を祈った。

 

 

●●●

 

 

それから俺がこうした任務を少佐から受ける事は無く、シャルロットの事も全く聞かされなかった。俺としては本当にイタリアで再会するつもりは無かった訳で、こんなに早く日本で再会するなんて事も想像していなかった。

 

そんな感じで過去を振り返っていると、教室に一夏がやってきて俺の近くに寄ってきた。

 

「昨日、千冬姉の夏のスーツを出したんだけどさ。千冬姉が飲み過ぎで二日酔いになってて、束さんが千冬姉を看病してたんだよ。ホント仲良いよな、あの二人」

 

「……そうだな」

 

一夏が昨日の事を笑顔で話し、俺はそれに相槌を打ちつつ聞き手に専念した。一夏は暢気な事を言っているが、実は束は一昨日の夜の様子をカンドロイドで録画しており、それをネタに織斑先生をおちょく……もとい、俺がよからぬ事をしていなかった事を証明していたのだ。

 

そうやって時間を潰していると、やっと山田先生と織斑先生が教室に入ってきた。織斑先生は俺を見てバツが悪そうにしていたが、ぱっと見た感じ大丈夫そうだ。

 

「今日はなんと! 転校生を紹介します!」

 

うん、知ってる。しかしクラスメイトは知らなかったらしく、山田先生の爆弾発言に一気にざわついた。そんなクラスメイトの動揺を他所に、山田先生の合図の後で教室の外から聞こえる「失礼します」と言う声は、間違いなく花澤ボイスだった。

そして、IS学園は制服の改造が自由なので、もしかしたら普通の型とは違うかも知れないと、若干期待していたシャルロットの服装は、俺や一夏と同じ男子の制服だった。

 

………あるぇ?

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も覆いと思いますが、皆さん宜しくお願いします」

 

「お、男……?」

 

「はい。此方に僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を――」

 

あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!

 

一年位前にフランスで出会った花澤ボイスの金髪美少女が、日本で再会した時には花澤ボイスの金髪美少年になっていた。

 

な、何を言っているのか分からねーと思うが、俺も何が起こっているのかさっぱり分からねえ。『銀魂』の汚れたバベルの塔をおっ建てる選択を取った柳生九兵衛とか、実は『ハイスクールD×D』のギャスパー・ヴラディみたいな女装少年だったとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を――。

 

『きゃああああああああああああああああああッ!!』

 

俺が脳内で静かに混乱する中、クラスメイトは三人目の男子(仮)の転入によって、これ以上ない程に狂喜乱舞していた。

 

「それではHRを終える。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でISの模擬戦闘を行う。デュノアはシュレディンガーに面倒を見てもらえ。では解散!」

 

正直、未だに頭の整理がついていないのだが、次は実習なので迅速にシャルル(仮)を連れて、更衣室へと行かなければならない。そう考える俺の元に、シャルル(仮)が近づいてきた。

 

「ええっと、シュレディンガーさん? 初めまして。僕はシャルル・デュノア。シャルルって呼んで」

 

「……ああ、“初めまして”。ゴクロー・シュレディンガーだ。ゴクローで良い」

 

落ち着け。KOOL……もとい、冷静になるんだ。

 

アンクは昨日「シャルロットが来る」と俺に明言していた。アンクは「聞かれなかったから」と言って隠し事をする事はあっても、俺に嘘をつく事は絶対に無い。

そして、シャルロットの顔立ちは一年前と殆ど変わっていないし、声だけでなく会話のニュアンスも当時と変わっていない。

 

つまり、シャルルは“シャルロットによく似た別人”ではなく、“シャルロットが男として転入してきた”と考えるのが妥当な線……だと思う。

 

とりあえず俺は、しばらくの間シャルロットを観察し、アンクを後でシバく事を心に決めた。

 

 

○○○

 

 

シャルロットがシャルルとして紹介され、ゴクローがポルナレフ状態に陥っていた頃、三組の方でも一人の転入生が紹介されていたのだが、此方は一組とは真逆の展開を見せていた。

 

「………」

 

ドイツからやって来た、クロエとよく似た容姿の転校生。その視線はマドカとクロエの二人にだけ向けられ、教室に入ってからも無口を貫いていた。

 

「じ、自己紹介をしてくれないかな?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「……そ、それだけ?」

 

「以上だ」

 

即答だった。担任の気遣いも空しく、「それ以上言う事は無い」と言わんばかりの態度のラウラによって教室に気まずい空気が流れる中、かつて完全に「サスケェ!」な自己紹介をしていたマドカが口を開いた。

 

「他にも色々あるだろう? 好きな事とか、嫌いな事とか、将来の夢とか」

 

「……好きな物や嫌いな物を教えるつもりは無い。それに私が将来の夢と言ってもな……」

 

マドカに対するラウラの返答は、何故か「写輪眼のカカシ」っぽかったが、コレは別にラウラが意図してやった事では無い。

 

実を言うと彼女はマドカとクロエの情報を事前にドイツ軍から渡されており、二人の素性をかなり正確に把握していた。以前出会った「ゴクロー・シュレディンガー」を首魁とした『NEVER』のメンバーにして、ゴクロー流に言うなら「自分と同じく狂気の科学によって生み出された怪物」と言える二人の人造人間。

しかもクロエに至っては、死んだと思っていた自分の姉妹たる存在だ。かつて自分が味わった挫折。そして役立たずの烙印を押された経験は、ラウラにとってクロエの境遇がどれだけ絶望的だったのかを、完全にではないが理解する要素となった。

 

同じ様な生い立ちと境遇を持つ者同士、出来る限り敵対はしたくない。

 

かつてゴクローが「戦いたくない」と言っていた理由が、ラウラにも何となく理解できていた。

 

しかし、ラウラは誇りあるドイツ軍人だった。ドイツ軍はラウラに『NEVER』と接触し、「いざ敵対した時に躊躇する程度に親密になる」ように言われている。それは『NEVER』がドイツの敵になった場合、此方が勝利する確立を少しでも上げる為であり、上手くすればラウラを介して懐柔出来るかも知れないと期待しての事である。

 

ラウラの本心としては、真にお互いを理解できる存在として、特にクロエとは仲良くしたいと思っていた。しかし、万が一にドイツ軍から与えられた任務の内容がバレたら、「そんな理由で自分達と仲良くしていたのか」と、特にクロエに思われるのだけは嫌だった。

 

こうしてラウラはどうやって二人に接すれば良いのか分からなくなってしまい、混乱した挙句に「こちらの情報を極力与えない」と言う選択を取った結果が、この「カカシェ……」な自己紹介だった。

 

「……ねえ。結局分かったのって名前だけじゃない?」

 

『………』

 

三組のとある生徒の発言を、クラス全員が沈黙によって肯定の意を示した。

 

 

●●●

 

 

本日も天気は快晴。今回はジャージにロストドライバーを付けた状態で、織斑先生の傍に立つ。山田先生はISを取りに行っている為、少し遅れてくるらしい。

 

とりあえず、山田先生が来るまでシャルロットについて考えてみる。

 

まず、シャルロットがデュノア社の非公式パイロットになった二年前は、一夏と言うイレギュラーが存在しなかった時代で、ISが男でも使える事は『ミレニアム』を除いて、誰も考えつきさえもしなかった時代だ。

 

そして幾ら使用者が非公式パイロットとは言え、「分配されたISを誰が使っているのか」を、デュノア社ならフランス政府へ、そしてフランス政府は国際IS委員会に報告する義務がある。

絶対数が限られたISを、得体も素性も知れない人物に使わせているとなれば、デュノア社やフランス政府の信用に関るから、当時のデュノア社はシャルロットを『シャルロット・デュノア』としてフランス政府に報告し、フランス政府も国際IS委員会に『シャルロット・デュノア』として報告している筈なのだ。

 

つまり既に登録されている人物を、デュノア社の独断で“男性IS操縦者”として送り込める訳がない。“女子”であるシャルロットを“男子”として送り込むためには、デュノア社・フランス政府・国際IS委員会と、シャルロットに関る全ての組織が協力する必要がある。

 

そして、「何の為に“シャルロット”を“シャルル”として送り込んだのか」だが、これについては一つ心当たりがある。

 

IS学園は、国際IS委員会が出した『一夏の引き渡し要求』に応じていない。その為、現在の『白式』の詳細なデータは、日本の倉持技研が独占している状態にある。それで“男でも使えるIS”、或いは“男でもISが使えるメカニズム”なんてモノが日本で発明・発見されれば、日本が世界でどんな立場になるのかは馬鹿でも分かる。

実際に倉持技研の篝火ヒカルノなる人物が、入手した『白式』のデータを使って、「次世代型量産機計画」なる怪しい計画を企んでいるらしい。

 

そこで国際IS委員会は、一夏が「女だらけの環境で男との触れ合いに飢えている」と推測し、同世代の男を差し出すと言う変則ハニートラップを仕掛け、油断した所で『白式』のデータを奪取する事を考えた……と言った所だろう。操縦者ごとISを奪取するのは、俺が各国の特殊部隊のメンバーを暴露した所為で、しばらくは動けないだろうし。

 

他に気になるのは、シャルロットの立ち振る舞いが、正直言って間抜け過ぎる事。どう贔屓目に見ても、スパイとして実戦投入するなんぞ出来ない仕上がりだ。

 

……しかし、これが女だとバレる事を前提にしているとすればどうだろう?

 

デュノア社は現在経営危機に陥っているらしいが、確かデュノア社の社長婦人がその要因の一つとなる程の金食い虫で、しかもシャルロットとは相当に険悪な関係だと以前聞いた覚えがある。

仮にこの事が世間に露呈すれば、デュノア社は確実に世間から批難されるだろう。しかし、そこでデュノア社社長が「女尊男卑のこの社会で暴君と化した社長夫人には私も娘も抗う事が出来ず、泣く泣く愛する娘を男装させてIS学園に潜入させるしかなかった」……とか言えばどうだろう?

 

そうなればシャルロットに対して世間の同情が集まり、シャルロットは『希少な男性操縦者』から『悲劇のヒロイン』になる。同時に邪魔でしかない金食い虫を、合理的に始末出来る様になるとは考えられないだろうか?

そう考えればこの計画に乗った時点で、デュノア社はシャルロットが「白式」のデータが盗めようが盗めなかろうが、最低でも邪魔者を始末した上に、クリーンな広告塔を入手する事ができる。

 

つまり、この計画の理想とされる展開は「シャルロットが『白式』のデータを盗み、デュノア社からフランス政府を経由して、国際IS委員会に『白式』のデータ提供された上で、シャルロットが女だと世間にバラす」……と言った所だろう。

 

もっともコレはあくまで俺の予想なので、何処まで当たっているのかは分からない。コレについては、アンクをシバいた後で話し合ってみよう。

 

そんな感じで放課後の予定を立てている間に、セシリアと鈴が織斑先生に呼び出された。しかし、呼び出された二人はやる気がなさそうだったので、試しにやる気スイッチを押す様な台詞を言ってみた。

 

「なんであたしが……」

 

「何だか見世物みたいで気が乗りませんわ……」

 

「まあ、そう言うな。こーゆー時こそ、自分の良い所を見せるチャンスなんだぞ?」

 

「! つまりはこの私、セシリア・オルコットの出番と言う訳ですわね!」

 

「ま、まあ、確かに実力を見せる良い機会よね!」

 

二人のやる気スイッチは見事にオンになった。その証拠に、若干猫背だった二人の背筋がシャンと真っ直ぐになっている。

 

ちなみに鈴音の専用機は、装甲のリペイントと若干の改造が施され、何となく「カチドキアームズ」から「ヨモツヘグリアームズ」っぽくなった『黒柘榴』だ。その内、レデュエの戟や、シンムグルンの斧を模した近接武器が追加されるだろう。

 

「それで、相手はどちらに? ……はっ!? まさか、ゴクローさんとか言いませんわよね!?」

 

「え!? さ、流石にソレはちょっと……」

 

「慌てるな。対戦相手は――――」

 

「ああああーっ! ど、どいて下さい~~っ!!」

 

山田先生の絶叫が空から聞こえたので、ふと空を見上げると教員用の「ラファール・リヴァイヴ」を纏った山田先生が、地面に向かって突っ込んで来た。このままだと山田先生が一夏に着弾してしまう事に気付いた俺は、エターナルメモリの起動スイッチを押した。

 

『ETERNAL!』

 

「変身!」

 

『ETERNAL!』

 

エターナルメモリが装填されたロストドライバーを倒すと、青い炎のエフェクトと風が発生して『ブルーフレアRX』へと変身する。メモリのメンテナンスは昨日の内に全て終わらせたので、ガイアメモリは一通り此方に方に移動させている。

 

『LUNA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

着弾地点にいる一夏を押しのけ、ルナメモリの力でエターナルローブをぐんぐん伸ばし、突っ込んでくる山田先生を対衝撃にも優れたエターナルローブで優しく包み込む。お蔭で山田先生も一夏も怪我をする事は無かった。しかし……。

 

「……あ、あれ?」

 

「おい一夏、怪我は無いか?」

 

「え!? あ! 助けてくれたのか! ありがとうな!」

 

「……正直このやり取りは前にもあったような気がするが、今はこの体勢を何とかしたい所だな……」

 

「この体勢?」

 

そこにはエターナルローブに全身を包まれた山田先生と、背中から抱きかかえる様に一夏の肩に左腕を回す『ブルーフレアRX』の姿が!

 

『フォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

何人かの女子がスペードのカテゴリーQの様な咆哮を上げた。恐らくは「E×1」派のゾンビ共だろう。

 

「ねぇ、何かちょっと変わってない!?」

 

「うん! 赤かった所が青くなってる!」

 

「でも他にも何か変わってない? ほら、右腕と左脚の所!」

 

この『ブルーフレアRX』を初めて見る所為か、同級生がざわざわと騒がしい。現在進行形で『エターナルRX』との間違い探しをしている視線を感じる。

 

「あ、あのう~シュレディンガー君。肌触りが良くて気持ちいいんですが、そろそろ離してもらえませんか?」

 

「あ、は~い」

 

山田先生を包んでいたエターナルローブを解き、「山田先生VSセシリア&鈴音コンビ」の模擬戦が、織斑先生の指示によってシャルロットの解説付きで行なわれた。

 

模擬戦の内容としては、セシリアは不安定ながらもビットを用いた「偏光制御射撃」がメインの遠距離戦。鈴音は「ブドウ龍砲」と「キウイ撃輪」を模した武器を使い、オールラウンドに戦っていた。

しばらくは一進一退の状態が続いていたが、時間経過に伴って二人と山田先生の持つ戦闘経験の差が浮き彫りになってきた。山田先生は二人の攻撃と未来位置を予測して攻撃と防御、或いは回避を行い、最後には二人が空中で激突した所でグレネードを一発。二人を同時に撃破した。

 

このままだと地面に穴を開けて後が面倒なので、再びルナのマキシマムでエターナルローブを伸ばし、二人仲良く落下するセシリアと鈴音を優しく受け止めた。お蔭で地面に穴は開いていない。

 

「うう……無様な姿をお見せしましたわ……」

 

「もう……何であんなに面白い様に回避先、読まれるのよ……」

 

「それは勿論、積み上げてきたモノが違う。確かに山田先生の『ラファール・リヴァイヴ』には、『ブルー・ティーアーズ』の様な第三世代兵器は搭載されていないし、機体の基本スペックも『黒柘榴』より劣る。

だが山田先生にはそれを補って余りあるISの操縦技術と戦闘経験の蓄積がある。つまり使い手の力量次第で、量産機でも専用機に勝てるって事だ」

 

「そ、そんなに凄くはありませんよ。結局、代表候補止まりでしたし……」

 

「「ぐぬぬぬぬ……」」

 

俺の言葉に山田先生は謙遜するが、実際に山田先生の技量自体はかなり高い。本番でのあがり症さえ無ければ、今頃は日本の代表操縦者になっていただろう。

一方のセシリアと鈴音は、俺の山田先生に対する評価を聞いて呻いていた。特にセシリアは入学試験の際に山田先生に勝っているので、あの時よりも成長した状態でやられた事が、余計に悔しいだろう。

 

「逆に言えば、二人ともまだまだ成長の余地があるって事だ。この敗戦を次に活かせるようにこれから成長すれば良い。だから不貞腐れてないで機嫌直せ」

 

「べ、別に不貞腐れてなんてないってか、何か子供扱いしてない?」

 

「そ、そうですわ。ですから、出来れば人目の無い所で……」

 

どう見ても不貞腐れている子供にしか見えないセシリアと鈴音の頭を、思い通りに行かなくて愚図っている子供をあやす様に撫でる。その所為か、此方に微笑ましいものを見るような視線が幾つか向けられている。しかし、セシリアの言う事が何かおかしい。

 

「これで諸君にもIS学園教員の実力が理解できたと思う。以後は敬意を持って接する様に。それではこれからISを用いた実習に移るぞ」

 

それから織斑先生の指示の元、IS学園が三機ずつ用意した『打鉄』と『ラファール・リヴァイヴ』を使い、俺・一夏・箒・セシリア・鈴音・シャルロットの六人がグループリーダーとなって実習を教える事になった。

 

しかし、一夏の班で相川が立ったままISを装着解除した所為で、一夏が岸里をお姫様抱っこでコックピットに運んでいた所を他の班の人間が見てしまい、此方でも立ったままISを装着解除し、お姫様抱っこで運んで貰おうと考える女子が続出した。

 

これによって実習の進行が予想よりも遅れる事になるのだが、それでも俺達の班のどれかが最後と言う訳ではなかった。何故なら……。

 

「だからこう『ズバーッ!』とやって、『ガキーン!』ときて、『ドカーン!』と言う感じだ!」

 

「……え、え~っと……」

 

箒の説明が相変わらず擬音だらけで、何となくなニュアンス的にしか分からない為、箒の班が一番遅れていたのだ。織斑先生が山田先生を箒のフォローに入れたので、大分マシになるとは思うが……。

 

「えへへ~~。シュレりん、抱っこ抱っこ~~」

 

「分かりやすくて何よりだな……」

 

『LUNA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

安全面を考慮して、サイクロンやナスカの様な飛行能力を持つメモリではなく、ルナメモリで変化したエターナルローブを支えに使い、本音をお姫様抱っこした状態でリフトの様にゆっくりと上昇する。

しかし、一夏やシャルロットの方は兎も角、俺の方は『ブルーフレアRX』に変身している所為で、無駄にヒーロー染みている。背後で大爆発が起こっても違和感は無いだろう。

 

「あああああああ! 何で私の出席番号が十二番なのよぉおおおおおおッ!」

 

「ちょっと! 落ち着きなさいよ! ISスーツ破れちゃうでしょ!」

 

「ISスーツなんてどうでも良いわよ! 羨ましい!」

 

「ほう。それでは今度の実習では、貴様に下着姿で出席する権利をやろう。喜べ」

 

「え゛っ゛!?」

 

一部で絶滅タイムな騒動があったものの、俺・一夏・シャルロットの三人はグループメンバーを運び続け、箒・セシリア・鈴音の三人は百面相をしながらこちら側を睨み続け、6つのグループの内半分がワザと立ったままの装着解徐をやり続け、もう半分がお姫様抱っこで運ばれる様を羨ましそうに見続け、だらしない表情をした同級生の頭に織斑先生の出席簿が炸裂し続けて、午前の実習は終わったのだった。

 

 




キャラクタァ~紹介&解説

シャルロット/シャルル・デュノア
 遂に登場したシャルロッ党。天性の素質として花澤香菜ボイスを持つ魔性の女にして、フランスが産んだIS版オルレアンの乙女。ジャンヌ・ダルクと同じ男装女子だが、黒王様に「胸が中世ヨーロッパ暗黒時代」と称された某貧乳男女と違って、スタイルは結構良さげ。同じ様に中性的な容姿と言われていても、どうやら彼女とはモノが違うようである。

ラウラ・ボーデヴィッヒ
 再登場となったブラックラビッ党。せっかくなのでこの世界では、転入先をマドカやクロエが居る三組にしてみた。千冬が『ドイツ軍の真実』を知らなかったら、一組になっていた。つまり、それもこれも全部アンクって奴の仕業なんだ。ついでに5963の所為で、どこか『ゴースト』のアラン様みたいになっちゃうかも。



デュノア社
 シャルロッ党の大体が「ユグドラシル絶対許さねぇ!」状態になる、IS世界で量産機シェア第三位のIS企業。原作でもアニメでも、シャルロットの正体が発覚してからの描写が無いが、シャルロットとはIS関連で繋がりがあるらしいので、原作でもしぶとく生き残っている模様。この会社についても、作者の独自解釈が多分に含まれている。
 それにしても、第二位と第一位の量産型ISは一体何時出るのだろうか? 片方が『打鉄』だとしても、もう一機はどんな機体なのだろうか?


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第29話 Sな戦慄/ジョーカーで勝負

この小説を連載して一年になりました。本来ならこの作品は一年位で完結させる予定でしたが、最低でも更に一年位は延びそうな予感がプンプンします。

そして、お気に入り登録が1000件を突破しました。ご愛読ありがとうございます。

また、ヒロアカの二次小説である『怪人バッタ男 THE FIRST』の第2話と第3話。そして、遂に決定した「B組の21人目」にスポットを当てた番外編の2.5話を同時に投稿しますので、興味があればそちらも宜しくお願いします。


神に代わり剣を振い、ありとあらゆる頂点に立つ事を目指した男はこう言った。

 

「美味しい料理とは『粋【すい】』なもの、煌びやかで最高の素材を使わなければならない」

 

天の道を行き総てを司る男を自称する、中の人もリアルに完璧な超人はこう言った。

 

「美味しい料理とは『粋【いき】』なもの、さり気無く気が利いていなければならない」

 

存在証明を求めて彷徨い続け、青き『騎士【ライダー】』となった少女は、青い血を引く少女の作ったBLTサンドを食べてこう言った。

 

「セシリア! お前の料理はマズ過ぎる! 言葉で表現するなら『お手軽感覚で楽しめる味覚のテロリズム』だ!」

 

……どうしてこうなった。

 

 

●●●

 

 

午前の授業が終了してお昼休みに突入した訳だが、本日は久し振りに学食ではなく、各々で弁当を持参して、校舎の屋上で食べる事になっていた。集っているのは、俺・クロエ・マドカ・箒・セシリア・鈴音の6人だ。

ちなみにシャルルは一夏に連れられて、二人で学食の方に行った。今頃の食堂は学園中の女子生徒でごった返し、さぞやエライ事になっているだろう。

 

「生徒会副会長なのに、あの騒ぎを放置していいのか?」

 

「あれは生徒会じゃなくて、風紀委員の管轄だ。生徒会が出張る必要は無い」

 

もっとも、その騒ぎを止めるべき風紀委員も騒動に加わっていると言う点が問題なのだが、俺としてはそれよりも楯無のサボり癖の方が痛い。今日も楯無は騒ぎに便乗する形で仕事をサボり、虚と二人で大量の書類を処理する事になるだろう。

 

「それなら今の内に体力を付けた方が良いな。そっちは午後の授業も結構大変なのだろう?」

 

「まあな。そっちはどうだった? 具体的にはラウラの様子だが」

 

「……何と言うか、他を寄せ付けないオーラを纏っていたな。お蔭で誰とも話していないぞ」

 

「私も一応話しかけたのですが、何とも……」

 

「そうか……」

 

マドカとクロエの方は、ラウラに関してかなり難航しているようだ。ドイツ軍人であるラウラもまた、何かしらの命令を受けてIS学園にいると容易に予想できた。だから命令を遂行する為に、ラウラはマドカやクロエに対して積極的に接触するだろうと思っていたのだが、蓋を開けてみればラウラは花の女子高生時代を、初っ端からバリバリ全開でボッチ街道を驀進すると言う形をとっているらしく、クロエやマドカ以外の他のクラスメイトともコミュニケーションを全くとっていないとか。

 

「……放課後に俺もラウラに会ってみるかな?」

 

「止めた方がいいと思います」

 

「ああ、リベンジマッチでも仕掛けてきそうだ」

 

「ああ、もう! 何時までも駄弁ってないで、早くお昼にしましょう! そのラウラって転校生の事は食べてからでもいいでしょ?」

 

「そうだな。何時までも談笑していられるほど、昼休みはそう長くない」

 

それもそうか。鈴音と箒の言う通り、ラウラの事は弁当を食べてしまってからでも遅くは無いし、昼休みの時間はそう長くない。

 

そして、いよいよ各々が自分の弁当の蓋を開け、お互いの戦果(?)を見せ合う時が来た。料理とは味は元より、その見た目も重要。「食べてみれば意外に……」と言う事も有るには有るが、「見た目が良い料理が作れる」と言うのは、どうしても高評価に繋がる。

 

「マドカは箒とクロエに教えて貰った感じか?」

 

「あ、ああ……。それなりに上手くできたとは思うのだが……」

 

「何を言う。ちゃんと上手くできてるんだから、堂々と胸を張れ」

 

「そうだ。頑張った分、結果は必ずついて来る。私だってそうだった」

 

「そうですよ。昔の私なんて良いトコ、消し炭かゲルでしたし」

 

「……クロエはクロエで久しいモノを作ったな」

 

「はい。『きんぴらゴボウ』ならぬ、『金ピカごぼう』です!」

 

((この性格が少し羨ましい……))

 

そもそも今回の昼食会の発端は、箒がマドカとクロエの二人に対して、「既成事実の作成」と言う邪道ではなく、「男心を掴むには先ず胃袋を掴む」と言う、箒視点での正攻法を教えようとした事から始まる。

 

「なるほど。そうして薬の一つでも盛って強制的に発情させるのだな?」

 

「違う! いい加減にそっちから離れろ!」

 

箒はそれなりに料理の経験を積んできた手前、料理の腕はかなり達者になっていたのだが、マドカは料理等まともにやった事が無いので悪戦苦闘していた。それでも箒とクロエのお蔭で、とりあえず何とか形にはなっている。

ちなみにクロエは、久方ぶりに料理限定のドジッ子スキルを発揮し、「きんぴらごぼう」を作るつもりで「金ピカごぼう」を“またもや”作っていた。これでも味は良いので、むしろクロエはオリジナル料理と言う事にして開き直っていたりする。

 

しかし、その光景は偶然通りがかった、セシリアにしっかりと見られていた。彼女達が料理をした場所が『NEVER』の拠点ならば見られなかっただろうが、そちらではゴクローが束と自分の分の弁当を作っており、今回の弁当がある種のサプライズを視野に入れて作っていた関係もあって、使用出来なかったのだ。

そして、金粉を使ったわけでも無いのに、金色に輝く「金ピカごぼう」を作ったクロエのお料理スキルに驚きを隠せないセシリアは、その場をそそくさと立ち去った後に、これまた廊下で偶然出会った鈴に協力を仰いだ。

 

「クロエさんが『金ピカごぼう』なら、わたくしは『銀ピカごぼう』で対抗しますわ!」

 

「いや、普通のにしときなさいよ!」

 

結果から言えば、鈴音は得体の知れない料理を作り出そうとするセシリアを何とか止めることには成功した。しかし、セシリアが作り出したサンドイッチは、ある意味でそれ以上に性質の悪い代物だった。見た目は実に綺麗で美味しそうなのだが、その味わいは壊滅的で冒涜的で犯罪的だった。

これはセシリアが「料理は完成品が本(写真)と同じになれば何でも良い」と言う考えの下、味よりも色合いを重要視した為に、レシピを完全に無視して様々な調味料や食材をガンガン投入して作っていたからだ。そして、それが致命的な間違いだと気付く為の味見を、セシリアが全くしていない上にするつもりも無かった為、セシリアがその事に気付く事は無かった。

 

その一部始終を見ていた鈴音はと言うと、この詐欺としか言いようの無いサンドイッチを喰わなければならないゴクローの未来を案じ、癒しと憐憫と贖罪の意味を込めて酢豚と白米の弁当を用意した。ちなみに中国でお弁当と言えば、「ご飯とおかず一品のみ」と言うのがスタンダードである。

 

「? 今日は何時もと弁当箱が違うな?」

 

「ああ、何か束も弁当を作っていたらしくて、それと交換する事になった」

 

「え!? ね、姉さんが作ったのか?」

 

「……待て、私達が居る間にアイツが一度でも料理をした事があったか?」

 

「少なくとも私は記憶にありません」

 

束が料理を作った所を見た事のある人間はこの場にはいない。これはとんでもないゲテモノを作り出したのではないかと、多くの不安と少しの期待を持って三人はゴクローの持っていた弁当を覗いたのだが――。

 

「……可愛いな」

 

「ええ、何だか裏切られた気分です……」

 

「ああ、世界はとても理不尽だと思い知らされるな……」

 

束が作ったのは、彼女達の想像以上に可愛らしいお弁当だった。中でも印象的なのは、ハートマークに形を整えたオムライスに、ケチャップで『I LOVE TABANE』と書かれている事。

人は「天は二物を与えず」と良く言うが、実際の所この“天”と言う存在は、時として一人の人間に二物も三物も与えやがる、極めて理不尽な存在である。

 

ちなみにゴクローが自分の分として作った弁当は、束の手によって最近一緒に食べるようになった千冬と真耶の二人に、自分に作ってくれたオーズのキャラ弁を自慢しながら恵んでやろうと束は考えていた。

 

「と、とりあえず、食べよう! 話はそれからだ!」

 

「そ、そうだな! 重要なのは味だからな!」

 

「お、美味しいのが一番ですよね!」

 

「……そうだな」

 

予想外の束のお料理スキルを目の当たりにしてキョドる三人娘に、何か悲しいものを感じるのは気のせいだろうか? まあ、気持ちは分からなくも無いが。

 

そして、お互いの弁当のおかずを交換したりしながら和気藹々と食べていたのだが、セシリアのサンドイッチを食べた時、事件が起こった。

 

「!?!?!?!?!?」

 

「いかがですか? おいしいですか? お気に召しましたか?」

 

選択肢が限られている気がするが、俺にその質問に答える余裕は無い。吐き気をぐっと堪えて、何とか咀嚼して飲み込む作業に集中するが、砂利を噛み締めるようなエグイ食感と、甘味と酸味と苦味のエキスが出てくるBLTサンドの猛攻によって、背中を滝の様に流れる嫌な汗が止まらなかった。

 

「? どうしたんだ? どれ、私も一つ…………!? ブファアアアアアッ!!」

 

「ちょっ! な、何をなさるのですか、マドカさん!」

 

「何だこれは!! 今までで食った物の中でも、群を抜いて酷いぞ!」

 

馬鹿正直なマドカは、殺人的なサンドイッチを素直に噴出し、セシリアに対して思った事を素直に言った。

 

「セシリア! お前の料理はマズ過ぎる! 言葉で表現するなら『お手軽感覚で楽しめる味覚のテロリズム』だ!」

 

「な、何を馬鹿な事を! 貸して御覧なさい……ゴファアアアアアアッ!!」

 

「うわぁ……」

 

「これは……」

 

「……兄様、これを」

 

今度はセシリアが盛大に噴き出した。そしてさっきから二人の攻撃は、何故か俺に全て直撃している。この間の溶解人間事件よりはマシだが、結構酷い事に成っている事は間違いない。クロエが差し出してくれたハンカチが非常に有り難い。

 

「こ、これは……そんな……ちゃんと、本の通りに作ったのに……」

 

「……いや、あれは『本の通り』じゃなくて『写真の通り』って言うべきよ」

 

「!? 鈴さん! 分かっていたなら、どうして仰ってくれなかったのですか!?」

 

「いや、アタシはちゃんと言ったけど、アンタ全く聞かなかったじゃない……」

 

「うぅ!? …………ううっ……」

 

その事に対して覚えがあったのか、セシリアは涙目になって俯いてしまった。膝の上で握りしめた両手に、水滴がポタポタと滴り落ちている。

 

いけない。セシリアはきっと深く絶望している。

 

チーム・カリメロの一人であるスティールなおっさんは「失敗する事は決して恥では無い。失敗を恐れて行動しない事こそが恥なのだ」と言っている。ただ、致命的な失敗は時として、人の心に強烈な後悔と呪いを齎し、その後の人生において“トラウマ”と言う名の大きな障害となる事がままある。

 

このままではセシリアにとって「料理する事」がトラウマとなってしまう事は明白。それを回避する為には……。

 

「く……」

 

「「「「く?」」」」

 

「食い物は粗末にしねぇ!!」

 

どこぞの天の道を司る男は言っていた。「“食べる”という字は“人”を“良”くすると書く」と。きっとセシリアも、そうなる事を願ってこのサンドイッチを作っていただろう事は想像に難くない。あの涙がその証拠だ。その思いだけは、絶やす訳にはいかないのだ!

 

「!! 飲むな! 吐き出せ! 『拒絶反応【リゼクション】』を起こしているぞ!」

 

「ぐふっ……心配するな。……俺は、不死身だッ!!」

 

誰がどう見ても毒物を食っているとしか思えない、ゴクローの紫色になった顔面を心配したマドカが、サンドイッチを食べるのを止めるよう促したが、ゴクローはそれを無視して食べ続けた。

そして返答を聞いたマドカは「それは不死身じゃなきゃ食えない代物だと言う事か?」と言いそうになったが、流石にそれを言う事は憚られた。マドカは素直で馬鹿正直だが、それなりに空気が読める子だった。

 

「……ええい! ならば私にも寄越せ! 私も手伝ってやる!」

 

「わ、私も食べます!」

 

「くっ! 仕方ない! まだ、一つ位なら……!」

 

「ああ! もう! 本当にこのお人良しの馬鹿は!」

 

「わ、わたくしがなんとか……」

 

少しでも負担を軽減するため、箒が先陣を切ってオルコットサンドに挑む。他の面子も次々と手を伸ばすが、一口食べるだけでも相当な体力を摩耗し、一切れを食べ切るには尋常ならざる精神力を要した。

その結果、箒は前のめりに倒れ、クロエは地に伏せ、マドカは頭から突っ伏し、鈴音が胸を押さえて横たわった。製作者であるセシリアはダウンこそしていないものの、青い顔をしながら号泣している。その視線の先には、兵器と化したサンドイッチを消化するべく、孤軍奮闘する戦士がいた。

 

そして、戦士は遂に全てのオルコットサンドを食い尽くし、それと同時に大の字になって倒れた。

 

「ご……ゴクロー……さん……」

 

「……せ……セシリア、聞いてくれ……」

 

「はい……」

 

「諦めないで欲しい……人は変わる、変われる……だから……」

 

ゴクローの頭を胸に抱いたセシリアの手を握り締めながら、涙に濡れる青い瞳を真っ直ぐに見つめて、ゴクローは最後の力を振り絞った。

 

「また……作って……」

 

「ご、ゴクローさん……うぐぅ!?」

 

遂にゴクローとセシリアも力尽きた。胸に戦士の頭を抱いて倒れた少女の顔は酷く青ざめていたものの、どこか安らかな表情をしていた。

 

 

 

午後の授業が始まった時、相川清香は誰もが疑問に思った事を山田先生に質問をした。

 

「あの~、シュレディンガー君達がいないんですけど、どうしたんですか?」

 

「ええっと……シュレディンガー君と、篠ノ之さんと、オルコットさんの三人は早退です。急に具合が悪くなったそうで……」

 

結局、オルコットサンドを食べた全員が仲良く保健室のお世話になり、放課後の生徒会ではゴクローの予想通りに楯無が仕事をサボりまくり、虚が全ての仕事を消化する事になるのだが、それはまた別のお話である。

 

 

●●●

 

 

瀑布を髣髴とさせる俺の壊滅的だった腹具合は、ぐっすりと一晩寝たらすっかり治っていた。流石はクローンをベースとしたナノマシン系改造人間。回復力は常人のそれとは比べ物にならない程高い。

ちなみに普通の人間である箒とセシリアと鈴音は、束特性の胃薬と治療用ナノマシンで、俺と同じ人造人間であるクロエやマドカは胃薬のみで回復したらしい。本音を言えば俺も飲みたかったのだが、飲んだらセシリアに悪いと思って飲まなかった。

 

そんな英国紳士も真っ青な精神力(笑)を持つ俺は、今日も朝から元気に授業に出て、昼食に楯無を筆頭とした生徒会のメンバーに誘われてご馳走になり、放課後に生徒会の仕事をこなした後で、『NEVER』の拠点から夢で少佐に教えて貰った座標の場所へと向かった。

 

『夢で教えて貰ったとか、正直ふざけてんのかと思ったが、本当に有ったな。あのデブの事だから罠の可能性も否定できないが』

 

「それよりも問題はパスワードだ。やはり少佐から聞きそびれてしまったのは痛い」

 

少佐に教えて貰った座標だが、その場所がなんとチベットだった。そして隠されるように立てられた施設の扉を開錠する為には、入力画面にキーボードでパスワードを打ち込む必要があるのだが、「チベット」で「最後の切り札」とくれば、もう『仮面ライダー剣』のネタ以外ありえないだろう。

 

「取り敢えず『Double Joker』っと」

 

『ぱすわーどガ、チガイマス』

 

キーボードでパスワードを打ち込んでエンターキーを押すと、G3-Xの武器のケルベロスみたいな音声が聞こえた。しかし、これではないのか、ならば……。

 

「なら『Black and White』っと」

 

『ぱすわーどガ、チガイマス』

 

これでもないらしい。では、一体なんだ? まあ、いずれにせよ『剣』ネタである事は確実だろうと思った俺は、次から次へと思いつく言葉を入力してみる事にした。

 

“MASKED RIDER BLADE”

 

“Round ZERO ~ BLADE BRAVE”

 

“ELEMENTS”

 

“覚醒”

 

“rebirth”

 

“take it a try”

 

“MISSING ACE”

 

“NEW GENERATIONS”

 

“BOARD”

 

“永遠の切り札”

 

“DAY AFTER TOMMOROW”

 

“オンドゥル語”

 

“ケンジャキ”

 

“ムッコロ”

 

“ダディヤナザン”

 

“ムッキー”

 

“ヒロシザン”

 

“ナズェミテルンディス!”

 

“オンドゥルルラギッタンディスカー!”

 

“オデノカラダハボドボドダー!”

 

“ウゾダドンドコドーン!”

 

“ダリナンダアンタイッタイ”

 

“オレァクサマヲムッコロス!”

 

“もずく風呂”

 

“バーニングザヨゴォー!”

 

“だが私は謝らない”

 

“これ食ってもいいかな?”

 

“ギャレン・弱フォーム”

 

“最弱にして最強”

 

“最強(笑)”

 

“はぶらレンゲル”

 

“フロート”

 

“畳”

 

“たいやき名人・アルティメットフォーム”

 

“ウェーイ”

 

“タカラミ剣”

 

“ロリコンデブ”

 

“小錦ラブ”

 

“辛味噌”

 

“敵裸体”

 

『おい! さっきから何を入力してんだ!! 真面目にやれ!』

 

「やっとるわ真面目に! さっきから必死こいて思い出してんだろうが!」

 

ちなみに日本語は『W』の翔太朗みたいにローマ字打ちをしている為、「ムッコロ」なら「MUKKORO」となり、「だが私は謝らない」なら「DAGA WATASIHA AYAMARANAI」と表示される。ちょっと笑える。

 

『ウソをつくな! ウソを! なんだこの「たい焼き名人・アルティメットフォーム」ってのは! どう考えても有り得ねぇだろ!』

 

「俺は冗談を言う事は有るが、ウソをつくことはしないぞ! それと『たい焼き名人・アルティメットフォーム』を舐めるなよ! コイツは『クウガ』以外で唯一アルティメットフォームの名を冠する上に、スペシャルターボっつー更なる変身を残しているんだぞ!」

 

『知ったことか!! 兎に角、軌道修正しろ! 何かおかしくなってきている!』

 

むむ、確かにな。取り敢えずアンクの言う通りに、軌道と言うか路線を変更して入力してみる事にした。

 

“カードキャプターさくや”

 

“ワルトラセブン”

 

“ザ・ブレイダー”

 

“ウェンディーヌ”

 

“ギャレン・ナイトフォーム”

 

“仮面ライダーケタック”

 

“ライダーイーティング”

 

“鈴木一馬”

 

“過去と未来の鎌田が一つに!”

 

“ブレイド食堂”

 

“チーズ!”

 

“ニーサン”

 

“感動的だな。だが無意味だ”

 

“まさに辛味噌ワールド!”

 

“速水校長”

 

“ワタシノタチバハボドボドダー!”

 

“私は我が身を守る為なら何でもする!”

 

“リブラショック”

 

“ベール所長”

 

“キュアソード”

 

“キュアダイヤモンド”

 

『ぱすわーどガ、チガイマス』

 

『………』

 

「駄目か。ええっと、次は『キュアハート』っと……」

 

『もういい! もう止めろ! 解ける気配が全然しねぇ!』

 

遂にアンクが完全にブチ切れた。やはり、少佐から何とかして聞きだすしかないのか? 取り敢えず今日の所は諦めて帰ろうと思ったその時、ふと閃いた事があった。

 

「もしかして……」

 

『何だ!? また訳の分からん事を――』

 

『カイジョシマス』

 

「『!?』」

 

コレまでとは違うメッセージを受けて驚愕する俺達を尻目に、重厚な金属の扉の鍵が遂に解かれた。開いた扉の向こう側から冷たい風が吹きつけてくる。

 

『何だ! やれば出来るじゃねぇか!!』

 

「……ああ」

 

『ところで、パスワードは何だったんだ?』

 

「……顔文字」

 

『顔文字!?』

 

そう、俺が入力したのは言葉では無い。そして解けたのは良いのだが、何か釈然としない奇妙な気持ち悪さを抱えて、俺は扉を潜って地下へと向かった。

 

 

(0w0) (<::V::>) (0M0) (0H0)

 

 

ゆっくりと罠を警戒しつつ進んでいくと、その先で俺達を待っていたのは、視界を埋め尽くさんばかりに積まれた、無数のセルメダルで出来た山だった。

 

「!! 凄いぞ!! コレだけあれば、もうセルメダルの心配をする必要は無い!」

 

その光景を目にしたアンクは、ドライバーから飛び出して狂喜乱舞していた。確かにコレは凄い。これは『オーズ』の鴻上会長が言う所の、「無限のセルメダル」を遥かに上回る量だろう。

 

「これがデブの言う切り札か? 確かにセルメダルの心配をしなくていいのは、精神的にもデカイな!」

 

「……いや、それだけじゃ無さそうだ」

 

銀色のメダルで埋め尽くされた倉庫の奥。そこには黒マントを羽織った、金色の人型が透明なケースに入った状態で安置されていた。静かに横たわっているソレは、どうみても『仮面ライダーSPIRITS』の大ボス「大首領JUDO」。もしくは金ぴかカラーのゼクロスだ。

流石に『ミレニアム』の脅威の科学力といえども、「大首領JUDO」の馬鹿げた戦闘力を再現出来ているとは思えないが、何かどこか神々しいものを感じるのは確かだ。

 

「ふむ……どうやらコレは、お前の為に造られたボディらしいな。お前の脳味噌をこの体に入れれば完成する」

 

「ZXボディなのか、JUDOボディなのか判断に困るんだが、ハカイダーよりはマシだな。どうして少佐はこんなものを……」

 

「お前、少しは考えてみろ。アイツ等は全員が肉体を機械化したサイボーグだぞ? つまり本来はコッチの方が得手分野だ。ぶっちゃけ、『平成ライダー』とか言う連中よりも『昭和ライダー』の方が造りやすかったんじゃないか?」

 

確かに。そう考えると、もしかしたら改造兵士レベル3に改造されて『ミレニアム』の鉄砲玉となったり、キングストーン的なナニカを授かった上で脳改造を施されて「世紀王」になったりするルートもあったのかも知れないな。いずれにせよ禄でもない結末しか待っていないだろうが。

 

「しかしコレを使わないとしても、コレが包帯女の手に渡ったらそれこそ最悪だ。破壊するか回収するか。いずれにせよ放って置くのは不味い」

 

「……それなら回収だ。使わないとも言い切れないし」

 

「使いたくはなさそうだがな」

 

そりゃ当然だ。可能なら生身で死んでいきたいが、場合によっては機械の体になってでも生きる必要に迫られる事態も有り得る。だからこそ、コレは最終手段として取っておきたい。取り敢えずJUDOボディは、ゾーンメモリの力で束の元へと転送する事にして、

後はこの「無限のセルメダル」の回収だけだと思い、再びセルメダルをジャラジャラいじって遊んでいるアンクの元に行こうとしたのだが、ふと俺の目に止まったモノがあった。

 

それはセルメダルとは違う輝きを放ち、此方に自分の存在を知らせている「銀の髑髏」だった。もしかして女性型の銀ぴかゼクロスボディもあるのかと思い、俺がしゃれこうべに近づいた瞬間、足元の床に魔法陣の様な物が展開された。

 

「な、何だ!?」

 

「!? ゴクロー!?」

 

只ならぬ展開に困惑する中、異常に気付いたアンクが此方に近づいてくるが、魔法陣の光はどんどん強くなっていく。

 

「あ、明るくなるぅ! 限界まで明るくなるぅうううううううっ!!」

 

「割と余裕だな! 兎に角、捕まれ!」

 

俺は伸ばしたアンクの手を掴もうとしたが、アンクの手は魔法陣の光に弾かれ、俺は一人光の中に消えた。

 

 

●●●

 

 

恐る恐る目を開けると、俺は何も無い真っ白な空間の中に居た。そう、本当に何も無い。ただただ無機質で真っ白な世界が無限に広がっているのだ。

 

「何だココは……『精神と時の部屋』か?」

 

『それは違う』

 

「!?」

 

明らかにアンクとは違う声が聞こえた事に驚き、声の聞こえた背後を振り返ってみると、そこには契約していないイマジンみたいに上半身だけの、銀ぴかゼクロス(男性型)がいた。……もしかしなくても、コイツは「ツクヨミ」か? となるとこの場所は……。

 

「……ココは何処だ?」

 

『ココは暴走した「オーズ」を現世から隔離し、幽閉する為に用意された“存在するが存在しない”空間だ』

 

俺の質問にツクヨミ(仮)が想像通りの答えを言った瞬間、景色が目まぐるしく変わった。何も無かった空間は広大な砂漠と化し、灼熱の太陽が地面を照りつけている。暑い。

 

しかし、変わったのは景色だけでは無い。突然、何も無かった場所から現れたのは、一本のメモリと三枚のコアメダル。それが何セットも出現した上に、メモリを中心にして三枚メダルが空中で高速回転を始めたのだ。

それは『仮面ライダーコア』が顕現する時の光景にそっくりだったが、ここに現れたメモリはメモリーメモリではなく、コアメダルも甲殻類系コアでは無い。

 

それらよりも、もっと恐ろしいモノだ。

 

『ライダー……変身!!』

 

『変身!』

 

『変身! ブイスリャアーッ!』

 

『いくぞっ!』

 

『セッタァーップッ!』

 

『アーマーゾーンッ!!』

 

『変身! ストロンガーッ!!』

 

現れたのは『仮面ライダーコア』ではなく、栄光の七人ライダーだった。その後もスカイ・スーパー1・ゼクロス・BLACK・BLACK RX・シン・ZO・Jが登場し、合計15人の昭和ライダーが勢揃いしてしまった。

ただ、彼等が実体ではなくエネルギー体だからなのか、全身から何か熱気の様な物が立ち昇っている。

 

この光景を見て、俺の脳裏に少佐の言葉が浮んだ。

 

――全ての“試練”を乗り越えて、誰も手にした事の無い高みへと至り、只一人の王として君臨する。その時君は、全ての世界を制するんだ――

 

違う。これは“試練”なんて、そんな生優しいものでは無い。そして少佐から「『ミレニアム』の“最後の切り札”がある」と聞いた時、俺は一つ勘違いをしていた事に気が付いた。

 

『そうだ。此処はお前の記憶を元にして造られた場所であり、彼等は「オーズ」の滅びを加速させる為に用意された伏兵だ』

 

そう、コレは“俺が使う”切り札ではなく、“俺に対して使う”切り札。それを確信させるツクヨミ(仮)の台詞が終わった瞬間、これまでに経験した事の無い死闘が幕を開けた。

 

 

○○○

 

 

「さあ、遂に始まったぞ。我等『ミレニアム』が用意した『オーズ』に対する『鬼札【ジョーカー】』。その名も『ライダーリンチ』の幕開けだ」

 

元々「兵器開発」と言うものは、強大な力を持つモノを作り出すと同時に、いざと言う時はそれを抑える為の対抗手段を考えておくもの。その筆頭が自爆システムだが、シュレディンガーとアンクは自爆システムに関しては非常に警戒心が強かった。

 

しかし、その警戒心の高さ故に、最も単純な対策に関しては完全にノーマークだった。それは『オーズ』よりも強い存在を造り出してソレをぶつけると言う、至極単純で実に分かりやすい方法だ。

 

「……紫のメダルの力で暴走した『オーズ』を用いて、全てのISを破壊し尽くした後の世界。徐々にエネルギーが枯渇し、器となる肉体も限界を迎えようとする『オーズ』を、『無限のセルメダル』と『機械の体』を餌に誘き寄せて『虚無の牢獄』に封印。その後で『オーズ』の死亡を確認した後でドライバー一式を回収する……と言うのが、我々が描いたシナリオの一つでしたな」

 

「そうだな。しかもあの仮面ライダー達の核となっているライダーメモリとライダーメダルに込められているのは『シュレディンガーの記憶と欲望』だ。言うなれば、『シュレディンガーの考えた最強の昭和ライダー』が相手と言う訳だから、倒すのは困難を極める。現にシュレディンガーは恐ろしく苦戦しているしな」

 

それは戦闘開始直後、即座にタカトラーターに変身した上でイエーガーユニットを召喚し、シュレディンガーが高速の空中戦を展開しようとした矢先、その作戦が泡と消えた事からも分かるだろう。

 

『ネットアームッ!』

 

『なにぃいいっ!?』

 

最も効果的な捕縛道具と呼ばれる「網」を用いたライダーマンによって出鼻を挫かれ、もがきながらも飛行を続けようとするシュレディンガーに、二人の仮面ライダーが急接近する。

 

『V3……マッハキィイイイイーーーーーーーーーーーーック!!』

 

『スカイ……キィイイイイイイイーーーーーーーーーーーーック!!』

 

『うごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』

 

ふむ。やはりアンクと言うサポート役がいないと言うのが一番痛いな。ものの数分で、ライダーマンと仮面ライダーV3とスカイライダーの三人の連携によって、背面のイエーガーユニットは容易く破壊されてしまった。

 

「さてドク。シュレディンガーはどこまで戦う事が出来ると思うね?」

 

「……楽しそうですな少佐。最悪、このままシュレディンガーが死んでしまっては、元も子もないのでは?」

 

「そうは言っても、せっかく作ったモノを活用しないのもアレだろう? なあに、暴走状態では無い、通常の『オーズ』なら何とかなるだろうさ。それに外側から必死こいてるアンクの救援が何とか間に合うと私は思うぞ」

 

「それもそうですが……」

 

「それにシュレディンガーは嘗て、私にこんな事を言っていた。『負傷、復元、そして更なる進化。それこそが“仮面ライダー”と言う戦士の本質。そして人間の持つ可能性』……とね」

 

そして、再びモニターに視線を戻す。モニターの中では巨大化した仮面ライダーJによって、ガタキリバコンボの『オーズ』が文字通り羽虫を叩き落すかのように、次々と吹っ飛ばされている。ハハハッ。セルメダルの無駄遣いだったな。

 

「……本当にコレでよろしいのですか?」

 

「ああ。少なくともシュレディンガーは『強くなろうとしない生物』ではないよ。それよりも、私は紅茶が欲しいな」

 

私はどこか確信にも似た期待をもって、『切り札』と『鬼札』の戦いを見続けていた。

 

 

●●●

 

 

正直な話、これは嘗て無い程の超・絶・大ピンチだ。

 

数の利を覆すための「ガタキリバコンボ」も、巨大化したJによって呆気なく敗れた。何となく、『進撃の巨人』みたいだと思った俺はきっと悪くない。

まあ、そうでなくてもこの昭和ライダー達はアホかと思うほど強いので、時間稼ぎにしかならなかったとは思う。ダメージのキックバックも考えると、「ガタキリバ」は悪手だったと言わざるを得ない。

 

「超……変、身ッ!」

 

『ライオン! トラ! チーター! ラタラタ~! ラトラーター!』

 

猫系メダル3枚で『ラトラーターコンボ』にコンボチェンジすると同時に、パッケージを『トライド』へと変更し、一番近くにいた1号ライダーに向かって突撃する。

 

トラクローを用いた突きと切り裂く腕の動きと、チーターレッグを利用したダッシュによる撹乱。それに加速を加えた強力な蹴りをもって攻め立てるが、そんな俺の攻撃を嘲笑うかのように、1号ライダーは数度の打ち合いで俺の攻撃を見切り、いとも容易く俺の首を掴んだと思ったら、即座に持ち上げて高速回転を始めたのだ。

 

「ライダーーー! きりもみシューーーーーーーーーーーーーーート!」

 

小さな竜巻が発生するほどの高速回転から繰り出された投げ技は、天高く俺の体を放り投げた。そこから追撃としてやって来たのは、1号ライダーと2号ライダーの合体技だ。

 

「「ライダーーーーーーダブルキィイイイーーーーーーーーック!!」」

 

「っ!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

生命の危機を感じた俺はフルパワーのライオディアスを発動し、その場に居る全員を一挙に殲滅しようとしたその時、不思議な事が起こった。

 

「キングストーンフラッシュ!!」

 

「!? くそッ!!」

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

そうだ。コイツが居た。昭和ライダー最強といわれるチートの塊「キングストーン」を持つ『世紀王・ブラックサン』こと『仮面ライダーBLACK』。

ライオディアスをキングストーンフラッシュで無力化され、やむを得ずゾーンメモリのマキシマムでその場を離脱。ライダーダブルキックをギリギリのタイミングでかわしたが、移動した先に居たのは……。

 

「ケケーーーーーーーッ!!」

 

「SHYAAAAAAAAAAAA!!」

 

アマゾンライダー。そして、仮面ライダーシン。どちらも切り裂き攻撃を得意とする仮面ライダーであり、その攻撃を受けた者は洒落になら無いレベルの生々しい最期を遂げる。現にこの二人は、さっきから俺の首を執拗に狙って攻撃している。

 

「大・切・断!」

 

「ちぃ……っ!」

 

『METAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

上段から振り下ろされるアマゾンライダーの右腕を、メタルメモリを装填したエンジンブレードで受け止める。このまま反撃に移ろうとしたが、アマゾンライダーの左腕に装着されたギギの腕輪の隣に、対となるガガの腕輪が光と共に出現した。まさか……!

 

「ガァアヴヴヴヴーーーーーーーーッ!!」

 

「!! ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

ギギとガガの腕輪の力によって繰り出されるアマゾンライダーの「スーパー大切断」は、拮抗していたメタルメモリのマキシマムを容易く上回り、エンジンブレードのブレード部分とトライドの装甲、そして『オーズ』の鎧を紙の様に切り裂いた。斬られた部分で火花が飛び散り、真っ赤な血が噴水の様に噴出する。

 

「グ……ァア……」

 

しまった、完全に意表を点かれた。そして大ダメージで怯んだ隙を突き、至近距離まで接近していたシンさんが、右手で俺の首を強く握り締めた。

 

「FUUUUUUUU……」

 

「く……そっ!」

 

『OCEAN・MAXIMUM-DRIVE!』

 

首を抜かれる! 脊髄ごと! そう思った俺の決断と行動は早かった。

 

オーシャンメモリのマキシマムで液状化し、取り敢えず砂の中に入って撤退する。ここが『虚空の牢獄』を模しているなら、何処まで言っても同じ場所に戻るだろうから、過剰適合しているメモリとは言え、ゾーンメモリの力は大して効かないと考えていいだろう。

とりあえずは時間を稼いでコアメダルを変えておきたい。適当な所まで逃げて液状化を解いたら、即座にコアメダルを――。

 

「エレトリックファイヤー!」

 

「エレキハンド!」

 

「うごおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

ストロンガーとスーパー1の容赦ない電撃攻撃に怯み、強制的に液状化が解除された上に地上に引きずり出された。強烈な電撃で体が痺れている俺に、今度はXライダーとゼクロスが迫る。

 

「ぐっ……こんの……っ!」

 

『コブラ! カメ! ワニ! ブラカ~ワニッ!』

 

何とかブラカワニコンボにチェンジし、取り敢えず負傷を治す。そしてトリガーマグナムを手元に召喚してから、ベルトのメモリスロットをルナに変更。トリガーマグナムにトリガーメモリを装填する。

 

『TRIGGER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「トリガー……フルバースト!」

 

放たれた無数の黄色と青色の光弾は、全てXライダーとゼクロスの二人の体に命中……したと思ったら、二人の体ををすり抜けていった。

 

ゼクロスのホログラム! そうなると本体はどこに……。

 

「電磁ナイフ!」

 

「! 舐めるなッ!」

 

背後から逆手に電磁ナイフを持って襲い掛かってきたのはゼクロス。電磁ナイフをメダジャリバーで受け止め、俺とゼクロスの剣戟が展開された。

 

『トリプル・スキャニングチャージ!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

セルメダル3枚を消費して繰り出される次元斬。ゼクロスは巧みにかわしたが、電磁ナイフの切断には成功した。しかし「忍者ライダー」と称されるゼクロスは、他にもマイクロチェーンや十字手裏剣と言った豊富な武装を備えているので、全く油断できない。

ところがゼクロスは俺の予想と違い、素手での格闘戦で俺に向かってきた。不思議に思いつつも、此方もメダジャリバーを捨てて素手でゼクロスに挑む。

 

「ZXパンチ!」

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ライダーパンチ!」

 

……やはり何かがおかしい。そんな違和感を抱えたままで、ゼクロスと素手での攻防を続けていたのが、ゼクロスが突然俺から距離を取った。その事を不思議に思っていると、回転するX字のエネルギーを右足に纏ったXライダーが上空から迫っていた。

 

なるほど、ゼクロスはこの為の時間稼ぎか。Xキックを防ぐ為に両腕を合わせ、オレンジ色のエネルギーシールド「ゴーラシールデュオ」を張るが、その時に気がついてしまった。左腕の「ゴウラガードナー」に、先ほど切断した電磁ナイフの刀身が突き刺さっている事を。

 

「Xキイイイィーーーーーーック!!」

 

「うがぁああああああああああああああああああああッッ!!」

 

上空から繰り出されたXキックは、「ゴウラガードナー」に突き刺さっていた電磁ナイフの刀身を更に深く押しこんだ。鋭利な刃は楯と一緒に左腕を貫通し、Xキックはエネルギーシールド諸共「ゴウラガードナー」を完全に粉砕した。

 

「ハァ……ハァ……流石に、ヤバイ……な……」

 

超回復によって傷こそ治るが、流れた血が戻る事は無い。貧血で意識が朦朧とする中、最も聞きたくない単語が力強いてつをボイスで聞こえてきた。

 

「リボルケインッ!」

 

RXが腰のサンライザーから精製するのは、仮面ライダーシリーズはおろか、特撮界でも屈指のチート武器。「抜けば勝利確定」とさえ言われる、キングストーンと太陽のエネルギーが凝縮された『光子剣リボルケイン』。

 

「リボルクラッシュッ!」

 

俺に止めを刺すべく、RXはリボルケインを手に真正面から突進する。

 

喰らえば確実に死ぬ。でも、この「突き」を繰り出す前のめりの構えは、確かどこかで……。

 

『ギギ……ッ』

 

『……もういい……もういいだろッッ!!』

 

「ッッ!!」

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ウ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

紫色のエネルギーを纏った両手で、突き出されたリボルケインの刀身を掴む。刀身と接触している両手から、激しい閃光と火花が生まれていた。

 

「なッ!!」

 

「ライダァアアアアアアアアア!! パァアアアアアアアアアアアアアアンチッッ!!」

 

両手で掴んだリボルケインごとRXを引き寄せ、渾身の右ストレートを叩き込む。極限にまで追い詰められた状態で発揮させた『切り札の記憶』が齎すパワーは、一撃で昭和ライダー最強と名高いRXを吹っ飛ばした。

 

「……嫌な事、思い出させ、やがって……」

 

しかし本気で不味い。RXに渾身の一撃を叩き込んだのは良いが、文字通り最後の力を振り絞っての一撃だ。正直もう立つことさえままなら無い。それでも、やるしかないんだろうけど……。

 

「……どうした、かかってこいよ。俺はまだまだイケるぞ……」

 

俺の姿は誰の目にもやせ我慢のハッタリで、限界をとっくに超えている様にしか見えないだろう。しかし、残り14人の昭和ライダーは誰一人として向かってこなかった。

 

……何だ? どうして、襲ってこない?

 

『……恐怖している。プログラムに過ぎない筈の彼等が』

 

朦朧とする意識の中、ツクヨミ(仮)が何か言っているが、上手く聞き取る事が出来ない。そして遂に意識を失ってしまうと思った瞬間、この場所に来た時と同じ様に、俺の足元に魔法陣が展開された。

 




キャラクタァ~紹介&解説

ツクヨミ(偽)
 漫画『仮面ライダーSPIRITS』に登場する、スサノオこと「大首領JUDO」を裏切った銀ピカの従者。「虚空の牢獄」で村雨良と対面した姿をして、契約してないイマジンみたいだと思ったのは作者だけでは無い筈。
 この世界では「虚空の牢獄」の番人にして、暴走した『オーズ』の最期を見届ける役目を担っていた。つまり『ミレニアム』のウォッチメン。

大首領JUDO
 漫画『仮面ライダーSPIRITS』及び、『新・仮面ライダーSPIRITS』における大ボス。別名スサノオ。馬鹿げた戦闘能力を持つ全知全能の神……と思いきや、実は知らない事もそれなりにある様で“それ”が弱点らしい。最近ではイレギュラーの仮面ライダーであるライダーマンと『虚空の牢獄』でタイマンを張り、最後には「心臓の鼓動」によって勝利した。一体、何を言っているんだって? 作者もそう思う。
 この世界では、『ミレニアム』が用意した、5963専用の機械の体として製作された。『鎧武』の戦極ハカイダーみたいに、頭の中に5963の脳味噌を入れれば起動する。99%の「同質化【シンクロ】」と、1%の「抵抗【リゼクション】」で構成されている訳ではない。多分。



仮面ライダー剣
 オンドゥル語を筆頭としたネタ要素と、後半戦の怒涛の展開が素晴らしい平成仮面ライダー第五作目。今回作中で展開された全てのネタが分かる人は、間違いなく生粋の剣ファン。多分。

虚空の牢獄
 元ネタは『仮面ライダーSPIRITS』で、上記のツクヨミが大首領JUDOを幽閉する為に作り出した“光速で無限の距離を飛ぼうが、何億トンの破壊力を繰り出そうが、現実世界に影響を与える事が無い”別次元の異空間。この世界では「白騎士」と戦ってプトティラコンボを発動し、全てのISを破壊した後の「暴走状態のオーズ」に対する、『ミレニアム』が考えた最終手段。情報提供者は勿論5963。
 囮を使ってこの別次元に「オーズ」を封印し、そのまま兵糧攻めにする……と思いきや、ライダーメモリとライダーメダルの力で顕現した歴代の仮面ライダーが次から次へと現れて「オーズ」を死ぬまでボコり、「オーズ」が死んだ後で残されたドライバーを回収すれば万事OKと言う、所謂「釣り野伏」に近いかなりエゲツナイ作戦。

ライダーリンチ
 劇場版なんかでよく見る光景。基本的には一人のライダーでは敵わない敵が現れた際に、複数人のライダーで挑んだ結果そうなる。特殊なケースとしてはスカイライダーが栄光の7人ライダーから受けた『友情の大特訓』が挙げられるが、平成の世で特訓と言えば「バッティングセンターで動体視力を鍛える」のが関の山だろう。多分。
 今作では少佐が考えた『オーズ』打倒の切り札として、秘密裏に作ったライダーメモリとライダーメダルの力でこれを再現。昭和ライダー全員で『オーズ』を袋叩きにした。……え? 誰か足りないんじゃないかって? そんな馬鹿な。

ZO「………」

ライダーメモリ/ライダーメダル
 仮面ライダーの記憶や欲望が込められているアイテム。中には玩具として販売されてない奴もいるケド、細かい事は気にするな。1本のライダーメモリと、3枚のコアメダルが揃えば、仮面ライダーコアの様に実体化して襲い掛かってくる。その性能は5963が持つ『仮面ライダーSPIRITS』の記憶等も混じっている為、恐ろしく強い。
 正直今回のライダーリンチに関しては、様々な二次小説でも殆ど出番が無い「ライダーメモリ」や「ライダーメダル」に対して、何とか活躍の場を与えたいと言う作者の欲望に起因する所が大きかったりする。


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第30話 Sな戦慄/一夏はそれを我慢できない

大変長らくお待たせしました……とは言うものの、待っている人が果たしてどれだけいるのかと言う様な本作品。キリの良いところまで完成しましたので投稿します。

今回は四話連続投稿。尚『DXオーズドライバーSDX』は全40話で完結の予定です。


ライダーメモリとライダーメダルによって顕現した、昭和ライダー15人によるライダーリンチで殺されかけた俺は、アンクの手によって『虚空の牢獄』から何とか脱出する事に成功した。

 

割とチート揃いの昭和ライダー達との死闘による消耗は激しく、気絶から醒めた時には体が全く動かなかった。そんな状態であるにも関わらず、起きた途端に束、クロエ、箒、マドカと言った面々に泣きつかれたのは極めてキツイ。逃げ場が無いからだ。

まあ、自分達の大将が知らない間に、他人が拵えた罠にまんまと引っかかって殺されかけたのだから、この反応は仕方が無いだろう。完全に俺の自業自得だ。

 

ちなみにライダーリンチで負った怪我は『ブラカワニ』の能力で治っていたが、逆に言えば『ブラカワニ』が使えなかったら確実に死んでいたと言える。実際アンクから「もしも『ブラカワニ』が使えなかったら30回は死んでいる」と言われた。

しかも、RXを殴り飛ばす破壊力を発揮した『ライダーパンチ』を放った右腕は、骨や筋肉は言うに及ばず、靭帯や血管、神経に至るまで滅茶苦茶になっていたらしく。治ってはいるものの、デコボコとした歪な形になっていた。どうやらあまりにも無茶な怪我を負うと、治癒したとしても綺麗に元通りという訳にはいかないらしい。

 

取り敢えずこの日は『NEVER』の拠点に泊まる事にして、シャルルには今日は部屋に戻らない事を、バッタカンドロイドを通して伝えた。転校初日だから一人でリラックスする時間も必要だろうからな。

 

 

●●●

 

 

それから一週間後の放課後。俺はアジトから回収した『銀の髑髏』を使い、『虚空の牢獄』へ性懲りも無く足を踏み入れていた。いや、足繁く通っていると言った方が良いだろう。

 

相手は「力と技と命のベルト」を持つ、元祖不死身の男こと『仮面ライダーV3』。対する俺はクワガタ・クジャク・コンドルのメダルで構成された『オーズ・ガタジャドル』だ。

 

「V3……電熱チョップ!!」

 

『HEAT・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ライダーチョップッ!!」

 

緑色の電流とヒートのマキシマムによって強化された炎を纏ったタジャスピナーが、V3の電熱チョップと激突する。俺とV3の左腕が交差し光と熱を生み出し、互いに一歩も譲らない為に鍔迫り合いの様になっている。

1号の技と2号の力のハイブリッドである『第三の仮面ライダー』。その力は記憶と欲望によって生み出された偽物とは言え……いや、だからこそ本物以上の強さを持っている様な気がする。

 

さて、何故再びこうして死地に赴いているのかと言うと、二つ理由がある。

 

一つ目はライダーメモリとライダーメダルの回収、もしくは破壊する事。『無限のセルメダル』と『JUDOボディ』は回収したが、コイツ等だって元はコアメダルとガイアメモリだ。此方の手に余る代物であるとは言え、そんな物がシュラウドの手に渡ればそれこそ最悪以外の何物でも無い。

 

二つ目はコアメダルとガイアメモリの経験値を稼ぐ事。ライダーリンチによって死にかけたものの、昭和ライダー達との死闘は、コアメダルとガイアメモリにかなりの経験値を与えてくれた事が判明した。

束の魔改造ハイブリッドライダーマシンだって無料で造れる訳では無いし、アンクによって脱出方法が確立されている事を考えれば、ハイリスクな方法ではあるものの、コレを活用しない手はあるまい。

 

「V3……レッドボーンリングッ!!」

 

『! コイツを使ってみろ!』

 

『サメ! クジャク! コンドル!』

 

その場からジャンプしたV3は胸部のレッドボーンが赤く輝き、空中でバク転をする様に円を描いて高速回転を開始する。するとV3は一輪の真っ赤なタイヤと化し、此方目掛けて突っ込んでくる。

V3の持つ26の秘密の一つ「レッドボーンリング」。TVでは未使用の技だが、漫画作品の『仮面ライダーSPIRITS』では使用しており、実写でソレを目の当たりにしている俺からすれば、この光景は少々の感動を覚える代物である。

 

そんなV3の対抗手段としてアンクが選択したのは、今回昆虫系コアメダルと交換でドライバーに登録しておいた、『MOVIE大戦 MEGA MAX』で仮面ライダーポセイドンが使用していたコアメダルの一つである、サメコアメダル。

サメの能力が込められた、ヘッドを担当するこのコアメダルの能力は、サメのロレンチーニ器官に相当する能力であり、これで相手の体を流れる電気信号を探知する事で、相手の行動の先読みが可能となるのだ。

 

「トォオオオオオオオオオオオオウッ!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

何度も何度も様々な角度から突っ込んでくるV3の攻撃を、俺はサメヘッドで動きを先読みし、タジャスピナーの火炎弾。そしてコンドルレッグによる真空波を纏った回し蹴りを叩き込む。

しかし、V3の「レッドボーンリング」はタジャスピナーの火炎弾をかき消し、コンドルレッグの真空波を纏った回し蹴りも、軌道を反らす程度で決定打にはならない。

 

「それなら……!」

 

『サメ! クジャク! コンドル! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!』

 

『UNICORN・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『セルバースト!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

「!! ぐ……ああああああああああああああッ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

 

正面から突っ込んでくるV3に対して、セルバーストによる強化と、ユニコーンのマキシマムによる貫通力を加えた左拳を、ギガスキャンによる火炎弾と同時に零距離から叩き込む。

これには流石のV3も効いたらしく、「レッドボーンリング」が解除されて大きく吹き飛ばされる。もっとも俺も無事ではなく、必殺技の激突による反動で大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「グゥゥ……まだ……だ!」

 

V3のダブルタイフーンが唸りを上げ、レッドボーンが再び赤熱化する。そしてレッドランプと緑の複眼が、強く激しく光り輝いている。

 

『何だ!? 何をやろうとしている!?』

 

「あの技は……」

 

『!! 何だ!? アレが何なのか知ってんのか!?』

 

「レッドボーン。レッドランプ。ダブルタイフーン。全ての力を解放して放つV3の超必殺技……『火柱キック』だ!」

 

『超必殺技!? だったら……コレでなんとかしろ!』

 

その瞬間、サメコアメダルがタカコアメダルに代わり、ベルトに装填されたメダルの色が赤に統一される。傾けるとメダルが赤く輝くものの、赤い羽根のエフェクトが現れない所を見るとアンクの意思が内包されたタカコアメダルでは無いらしい。ちょっと残念。

 

「漸くか……超変身ッ!」

 

『タカ! クジャク! コンドル! タ~ジャ~ドル~!』

 

タカ・クジャク・コンドルの鳥系コアメダル3枚をスキャンし、炎が渦巻く中心で『オーズ』はタジャドルコンボへと超変身する。そして超変身が完了すると、直ぐにクジャクウィングを展開して空中高く飛び上がり、「火柱キック」に対抗する為の準備に入る。

 

『タカ! クジャク! コンドル! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!』

 

「アンク! ドライバーにコアメダルを再装填!」

 

『チッ! しっかり決めろ!』

 

アンクによってタカ・クジャク・コンドルの3枚のコアメダルが、瞬時にタジャスピナーからオーカテドラルに戻り、不死鳥を模した炎を纏った状態で、オーカテドラルのコアメダル3枚をスキャンする。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

「更に!」

 

『HEAT・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「もういっちょ!」

 

『セルバースト!』

 

マグナブレイズ。プロミネンス・ドロップ。ヒート・マキシマム。セルバースト。これが今の俺が繰り出せる、文字通りの“最大火力”だ。

 

「ぬぅうううううう! トォオオウッ!!」

 

気合の入った声と共に、凄まじい勢いで急上昇するV3。腕を交差させた独特のポーズを取ると、右足に全エネルギーを結集させ、白熱化した右足を真っ直ぐに突き出してくる。

 

「V3……火柱キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイック!!」

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

お互いの最大奥義が空中で激突し、周囲が膨大な熱量で満たされる。現実世界でコレをやったとすれば、そこは核爆発でも起こったのかと錯覚するほどの大惨事を引き起こしていたに違いない。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「ぬぅううううううううううううううううううううううううううううううんっ!!」

 

その中心にいる俺とV3は、互いに相手が放った必殺技のエネルギーを利用するべく、発生した熱量の奪い合いを展開していた。

俺はヒートメモリのレベル2によって周囲の熱量を吸収して自分の技に上乗せし、V3はダブルタイフーンから炎を吸収して自分の技に上乗せする。これは『仮面ライダー THE NEXT』の「ホッパーVersion3」の能力だが、このV3はその能力も使えるらしい。

 

『駄目だ! 火力が拮抗している! このままじゃジリ貧だ!』

 

「そうか、それなら……」

 

決着がつかない事に焦り出したアンクの言葉を受けて、俺は一つ賭けに出る。

 

『セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバー……』

 

『!? 止めろ! 生身のお前の方が持たないぞ!!』

 

「どうか……なああああああああああああああああああああッ!!」

 

『セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバー……』

 

アンクの制止を無視して、ひたすらに『セルバースト』を繰り返して火力を更に上げていく。すると……。

 

「……ぐ……おおお……ッ!!」

 

「! 皹が入ってきた!」

 

『いや、不味い!! 溜め込んでいたエネルギーが一気に爆発するぞ!!』

 

何!? それは不味いな! コイツをきっちりと撃破出来ないのは不満だが……止むを得ないかッ!!

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「!?」

 

「アンク!」

 

『分かってる!』

 

ゾーンのマキシマムによる瞬間移動で離脱し、その直後に起こった大爆発に巻き込まれる瞬間、足元に展開された魔法陣によって俺達は『虚空の牢獄』を脱出した。

 

 

●●●

 

俺が『虚空の牢獄』で死と隣り合わせのトレーニングを終えると、提出されたパッケージの有様をみて、束はぷりぷりと怒っていた。

 

「もうッ! ゴッ君ったら、ま~~~た性懲りもなく無茶したんだねッ! 『ゼロ』のパッケージもこんな真っ黒焦げにしちゃってさッ! 一回戦う毎にパッケージがボロボロになるんじゃ、束さんとしては激おこなんですけど!?」

 

「……悪い」

 

「本当に悪いと思ってる!? 思ってるなら今日もココにお泊りして!」

 

「いや、その理屈はおかしい。……だが、泊まるとしよう」

 

最近ではパッケージの修理やら、ドライバーのメンテナンスを担当してもらっている束に全く頭が上がらず、今日も今日とて束のいいなりとなり、『NEVER』の拠点に泊まる事になった。一方、怪我の手当てをしてもらっているクロエに対しては心配をかけて申し訳ない気持ちが強い。

 

「……兄様。本当にこれは必要な事なんですか?」

 

「それはどう言う意図で聞いているんだ?」

 

「兄様は今でも充分に強いです。私は何も焦る必要は無いと思うのですが……」

 

「それを言ったらアイツ等もそうだと思うんだが……」

 

『くそッ! 箒、大丈夫か!?』

 

『だ、大丈夫だ! まだ……やれるッ!』

 

ベッドの近くのモニターに写るのは、魔改造されたパワーダイザーとサイドバッシャーを相手に、決死の戦いを展開しているマドカと箒の二人。

それも箒に至っては、これまで使い慣れた『黒柘榴』ではなく、漸く完成した『紅騎士』を慣らし運転の後でイキナリ実戦に投入すると言う無謀っぷり。「無双セイバー」や「ソニックアロー」と言った一部の武装は『黒柘榴』から引き続き流用しているらしいが、それでもあのハイブリッドライダーマシンの相手は厳しいと思う。

 

「何て言うか……使えるモノが使えないって言うか、今より強くならないと不安なんだよ」

 

「……それは多分、あの二人も同じ気持ちだと思いますよ?」

 

「そうか……」

 

こうして、我々『NEVER』は最近、放課後になれば割と洒落にならない訓練を人知れず行ない、その度に憔悴して帰ってくる所為で寮に戻る余力など微塵もなく、そのまま『NEVER』の拠点で寝泊まりしている。ぶっちゃけ、ここ一週間は寮に宛がわれた自分達の部屋に殆ど戻っていない。

 

それはつまり、シャルロットとは授業中以外には、あまり会わない様になっていたと言う事。シャルロットにしても、完全なプライベートが保たれる時間が確保できた事で、この学校生活も多少は過ごしやすくなったと思う。

 

しかし、そんな実益を兼ねたシャルロットへの気遣いが、全ての終わりの始まりだったのだと、後になって俺は気付かされることになる。

 

 

●●●

 

 

その日、俺は生徒会に全然顔を出さなかったお蔭で、虚に呼び出されて溜まっていた仕事を消化する事になり、ついでに「DXオーズドライバーSDX」のメンテナンスをする所為で、昭和ライダー達との激闘を繰り広げなかった事もあり、今日は普通に寮で寝泊りする事になる。

 

つまり、この日は「シャルロットと過ごす初めての夜」と言う、誤解を招きそうな字面の展開となる訳だが、この際だからフランスで出会った時の「5963・ポルナレフスタイル」を披露する事で俺の正体を明かし、ポルナレフの格好でDIO様の台詞をのたまい、シャルロットをポルナレフ状態すると言う、俺得でしかないカオス極まるぐだぐだ展開にしてやろうと画策していた。

 

「では……行くとするか」

 

「相変わらずお前のやる事は分からんな……」

 

ほっとけ。これが俺の趣味だ。文句あっか。

 

そんなこんなで『NEVER』の拠点から寮の部屋まで、遭遇した女子全員からギョッとした視線を受けつつも、俺は意気揚々と自分の部屋へと戻ったのだが……。

 

「! よ、よお……って誰だ!?」

 

「? ゴクロー・シュレディンガーだが」

 

「は!? ゴクロー!? 何だよその格好!? つーか、何で此処に!?」

 

「何でって、ここは俺の部屋だろうが」

 

何故か部屋の中から一夏が出てきた。そして妙に焦っているような感じがするのは、俺の気の所為だろうか?

 

「それで……何でお前が此処に居るんだ?」

 

「え……いや、シャルルとちょっと男同士の話し合いを……なあ、シャルル?」

 

「う、うん。そう、そうなん……だ……」

 

そしてシャルロットは何故か布団に包まっていたが、俺の姿をみて表情が完全に凍り付いていた。どうやら1年前のフランスでの出来事は忘れていなかったらしい。

 

「あ……き、君は……まさか……ッ!」

 

「フン……久し振りだな。“シャルロット”」

 

そして、ここで漸くネタばらし。俺はシャルロットに転校した初日から正体に気づいていた事を告げ、寮の部屋にあまり戻らなかった理由の一つがシャルロットのプライベートタイムを確保する為である事を話した。

 

「は、初めからバレてたなんて……」

 

「まあ、フランスのIS事情を考えると、ぶっちゃけ“男子の代表候補生”って設定自体が滅茶苦茶だから、楯無や織斑先生なんかはお前の正体に薄々感づいていたと思うがな」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「まあ、どっちでもいいだろ。それより、シャルルの正体を知ってるなら丁度良い。ゴクローも協力してくれよ!」

 

「協力?」

 

「おう! シャルルをデュノア社から守るんだ!」

 

そう俺に宣言した一夏の話を要約すると、IS学園の特記事項を使えば最低でも3年はシャルロットの安全が保証され、シャルロットをスパイとして道具のように使うデュノア社からを守れる。そして、その3年の間に対策を考える手伝いをして欲しいとの事。

 

取り敢えず、一夏の言いたい事とやりたい事は分かった。だが――。

 

「……どうやらお前は、『父親』と言う立場がどういった形で作用するのかを、まるで分かっていないみたいだな。いや、これはお前がデュノア社社長をシャルロットの父親では無いと、本気で思っているからかな?」

 

「は? どう言う事だよ?」

 

「血縁関係上、デュノア社社長はシャルロットの父親。そしてお前が言ったこの特記事項第二一には、『国家』、『組織』、『団体』はあっても、『家族』はない。つまりシャルロットとの血縁関係を理由に、それこそ“家庭の事情”とか適当な理由をつければ、明日にでもシャルロットをフランスに呼び戻す事が可能なんだよ」

 

「な、何ぃ!?」

 

そう、一夏の策はハッキリ言って使えない。ぶっちゃけ、前提からして既に崩壊しているのだ。

 

「ハッ。お前は本当に馬夏だな。お前はデュノア社社長がどんな人間か知っているのか?」

 

「そんなの、自分の娘を道具としてしか見てないクソ野朗だろ」

 

「ハズレでは無いが、それだけじゃあない。奴はお前が生まれる前から、表の社会と裏の社会の海千山千を相手に、様々な法律の穴を突いて様々な武器や兵器を売り歩いてきた武器商人。そして、その時に得たノウハウを活かし、量産機ISの世界第三位のシェアを誇る会社の社長と言う地位を手に入れた様な男だ。

当然、このIS学園の規定も充分に、それこそお前以上に理解した上で、この男女を送り込んだに決まっている。その程度の浅知恵でどうにか出来ると思ったら大間違いだ。そもそもお前、男女の話を聞いて何一つおかしいと思わなかったのか?」

 

「は?」

 

「さっきこの男女が言ったろう? 『三年前にデュノア社に引き取られて、それからISの適正が高い事が分かってパイロットになった』と。そして、今年になってから『広告塔として男装し、IS学園に男として編入した』ってな」

 

「? 何か変な所があるのかよ?」

 

「……お前、ちゃんとISを勉強してるのか? とりあえずISの総数を言ってみろ」

 

「えっと……確か、全部で467機だよな?」

 

「そうだ。そして、それぞれの国が自分達でISコアを生産する方法が無い以上、ISは数に限りがある。故に、各国のISにおける最も恐るべき事態は、“IS操縦者がISを持ってトンズラする事”だ。だからこそISを預かっている企業は、必ず“誰がISを使っているのか”を国に、そして国は国際IS委員会に報告する義務がある。公式・非公式に関係無くな。

だから3年前のデュノア社は、当然『シャルロット・デュノア』として報告した。愛人の娘とは言え、“社長の血縁関係者である”と報告すれば、政府も委員会も“身内なら裏切らないから大丈夫”と判断する」

 

「あ……でも、まさか……」

 

「? 何だよ? それがなんだってんだよ」

 

どうやらシャルロットはアンクの言いたい事に気付いたようだが、一夏は違ったらしく、アンクに答えを求めていた。

 

「……つまり、三年前の段階でIS委員会に女として登録されている人間を、一企業が独断でIS学園に男として送り込める訳がない。つまり、デュノア社だけでなく、フランス政府や国際IS委員会も全員グルって事だ」

 

「な、何だって!?」

 

シャルロットをシャルルに変えたのは、一企業の社長ではなく、ISを管理する巨大組織。ひいてはISの世界そのもの。その事に気づいた一夏は、相手が予想以上に巨大な存在であった事を理解し、驚愕している。

 

「ちょ、ちょっと待てよ! そんな事して一体何になるんだよ!」

 

「……馬鹿だ、馬鹿だとは思っていたが、これ程までとはな。いや、自分の事を客観的に見れないだけか?」

 

「俺は自分の価値ってヤツを知らないだけだと思う。シャルロットは?」

 

「えっと……」

 

「何だよ! 言いたい事があるなら、ハッキリと言えよ!」

 

自分だけが訳が分からない事になっている現状に我慢ならなかったのか、半分ヤケクソになった様な態度で……って、よく考えてみれば、セシリアとの一件なんかを筆頭に、一夏は元々ヤケクソな部分があるから、普通の人なら全部ヤケクソみたいだな。

 

取り敢えず、一夏に自分が置かれている現状を懇切丁寧に教えるとするか。

 

「……いいか、一夏。今から言う事を良く聞け。デュノア社、フランス政府、国際IS委員会。この三者が『白式』のデータを欲しがっているのは、お前が“世界初の男性操縦者”だからって事だけじゃない。お前と『白式』が発現させた『単一仕様能力【ワンオフ・アビリティー】』も、お前が狙われる理由の一つだ」

 

「『単一仕様能力』……って言うと、何だっけ?」

 

「『単一仕様能力』ってのは、一般的には各ISが操縦者と最高状態の相性になった時に自然発生する固有の特殊能力の事だが、それは各ISが操縦者間と行う、一対一の契約の様な側面を持っている。

だから、どんなに優れた才能や適性を持つIS操縦者であろうとも、それが例え血縁関係者なのだとしても、他人が発現させた『単一仕様能力』を使う事は理論上“絶対に”出来ない。複数の人間と契約するISは存在しないからだ。だからこそ、第三世代兵器が開発された訳なんだが……ここまでで、俺の言いたいことが分かるか?」

 

「いや……」

 

「つまり、お前はこの世で初めて“他人の『単一使用能力』を完全に再現した人間”と見られているんだよ。それも、よりにもよって『零落白夜』と言う“世界で最も強大な剣”と言える能力をだ。

つまり、『白式』のデータを手に入れれば、“男でもISが使える様になる”だけでなく、唯一無二と思われた“『単一仕様能力』を誰でも使える様になる”かも知れないって事だ。そして上手くすれば『ブリュンヒルデ』が使っていた力も手に入る。一石三鳥って所だな」

 

「もっと言うなら、『単一仕様能力』は本来なら第二形態に至ってようやく発現するが、それでも発現しないケースの方が圧倒的に多い。にも関わらず『単一仕様能力』を第一形態で、それも初期状態から僅か数十分の操縦で使える様になった事も異常だ。『拡張領域【バススロット】』が埋まって『後付装備【イコライザ】』が無い事を差し引いても、“『単一仕様能力』が使える”と言う点はデカい」

 

俺の解説にアンクが補足し、自分と『白式』がこのIS世界でどれだけ異常な存在なのかを、一夏にも分かるように教えていく。

まあ、束が言うには、『白騎士』のコアと『暮桜』のコアがコアネットワークを使って『単一仕様能力』を開発していた結果が、『白式』の“第一形態で『単一仕様能力』を使える”と言う特殊性の正体らしいのだが、それを知らない人間からすれば、そう言う風に見える……と言う事だ。

 

そして、ここまで説明し終えた時、一夏は突然ハッとした表情で俺達を見た。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! それってつまり、千冬姉の力を誰でも使える様になるって事か!?」

 

「まあ……、そうだな。やり方次第だとは思うが、そう言う事も不可能ではないだろうな」

 

「!! 許せねぇ……ふざけやがって! 千冬姉のデータは千冬姉のものだ! 千冬姉だけのものなんだぞ!」

 

「「「………」」」

 

いや、他ならぬお前が、その「千冬姉だけのデータ」とやらを、現在進行形で使っているんだが……。ちゅーか、何で織斑先生の事になると、さっきまでのイライラするレベルの察しの悪さが、いきなりクリアな感じ冴えを見せるのだろうか。謎だ。

どうしたものかと思いながらアンクを見れば、「お前が言うな」と言わんばかりの視線を一夏に向けており、シャルロットに至っては、激怒する一夏の剣幕に戦々恐々としていた。無理もない。シャルロットは『白式』のデータを奪取する為にやってきた訳だからな。

 

「……それで? お前はどうしたいんだ?」

 

「俺は……俺の家族を守る! 千冬姉の名前を守る! それを邪魔する奴は、誰だろうとぶっ飛ばす!」

 

「そうか。つまり、この男女はお前にとって、その“ぶっ飛ばす敵”って訳だ」

 

「!!」

 

「はぁ!? どうしてそうなるんだよ!!」

 

「だってそうだろう? 少なくともお前と違って聡明なコイツは、さっき俺達が言っていた事は分かっていた。分かっていて『白式』のデータを奪おうとしていたんだ。それなら、お前にとっては“織斑千冬の名を傷つけようとしていた、排除すべき敵の先兵”以外の何者でもない。言わば加害者だ。助ける義理は無い……と言うか、そもそもコイツは助ける必要が無い」

 

「た、助ける必要が無いって……どう言う事だよ!?」

 

「この男女はこの任務に失敗したとしても、デュノア社からもフランス政府からも罰せられることは無い。成功しようが失敗しようが、 デュノア社はコイツを“悲劇のヒロイン”兼“クリーンな広告塔”として祀り上げる腹積もりだ。金食い虫の社長婦人を排除した上でな。

つまりコイツには利用価値がある。利用価値がある限り、デュノア社がコイツを切り捨てることは無い。むしろ必死こいてコイツを“守る”だろう」

 

「そ、そんなのは、守るなんて言わねぇ! 俺が、俺がちゃんとシャルロットを守るんだ!」

 

いや、そう言うお前も、利用価値があるから守られているんだけど……なんて事を言うのは野暮か? そして、それを口に出して言う者は居ないのは、俺も、アンクも、シャルロットも、そんな事は言わなくても分かっているからだ。この場でソレが分かっていないのは一夏だけ。

 

「……そうだったな。お前はそうやって、守るモンと守らないモンと、お前の都合で選り好みして生きてきたんだったな。だから、自分の中で明確な線引きが出来てない。そうでなきゃ、そんなフラフラした事は言えない」

 

「……は? 線引き?」

 

「そうだ。例えばコイツ……ゴクローは『愛を失い、愛に彷徨う人間なら必ず助ける』。そして、『人間の自由を、誰かの未来を奪う奴等は例外なく悪』って言う至極単純な、そして絶対的な二つの線引きがある。

だから、『愛を失い、愛に彷徨う人間』であると判断したなら、コイツはそれが何者であろうとも、まずは全力で助けようとする。その相手が暴走して『人間の自由を、誰かの未来を奪う様な悪』に堕ち、“力でしか止める事が出来ない”と、“それ以外に助ける方法が無い”と結論を下すまでは、コイツは何が何でも、『愛を失い、愛に彷徨う人間』を助けようとする。

まあ、ソレを実際にやるのは難しいし、それ相応の覚悟もいる。だからコイツは『正義の味方』を自称しないし、そうあろうとはしない。その一線を越えたら、いつか勘違いするからだ」

 

「………」

 

「それともう一つ。お前が必死こいて守ろうとしている織斑千冬の名前だが、ソレはいずれ必ず地に堕ちる」

 

「!? ど、どう言う事だよ!?」

 

「一つ聞くがお前、『白騎士事件』についてどの程度まで知っている?」

 

「そりゃ……世界最大のテロ事件だろ?」

 

「それじゃあ、『白騎士』の正体については?」

 

「分かってない。だけど、多分千冬姉だと思う」

 

「え!? ええええええええええッッ!?!?」

 

一夏の言葉に、シャルロットは今までに見たことが無い程の大きなリアクションを見せた。まあ、普通の奴は大体こーゆー反応をするんだよな。

 

「な、なんだよ。千冬姉が『白騎士』で何がおかしいんだよ?」

 

「お前、頭脳がマヌケか? ウサギ女がISを発表して『現行兵器を凌駕する』って言葉が学会に認められなかった一ヶ月後に、日本を攻撃可能な国のコンピューターがハッキングされて、日本に二千三百四十一発のミサイル攻撃が起こり、それの半数を『白騎士』が打ち落とした。そして『白騎士』を捕獲、或いは撃破する為にやって来た戦闘機や軍艦が到着するのを、『白騎士』はそれらを全て撃破する為にワザワザ待っていた。そしてその悉くを海の藻屑に変えた……何処か、妙だとは思わないのか?」

 

「……?」

 

「つまり『白騎士事件』はISの優位性を世に知らしめる為だけに行った、織斑千冬とウサギ女の自作自演だ。そしてそれは織斑千冬が、ウサギ女と共に『白騎士事件』を起こした、人類史上最悪のテロを起こした超弩級の犯罪者って事でもある」

 

「……はあッ!?!?」

 

「『白騎士』の正体に感づいておきながら、そんな事には考えが及ばなかったとは……マヌケもここまで来ればある種の才能だな」

 

言ってやるなよ、アンク。一夏は多分、考えが及ばないんじゃなくて、「敢えて考えないようにしていた」んだ。自分の肉親が犯罪史に名を連ねるような大犯罪者だなんて、誰だって考えたくないだろう?

 

「……とにかく、本来ならそうなる筈だった。だが、世界は二人を“犯罪者”ではなく“英雄”に仕立て上げた。何故なら、ISにはそうするだけの利用価値があったからだ。そうでなかったら、二人は今頃この世には居ないし、お前と箒は“人類史上最悪のテロリストの家族”として生きる事を強いられていた筈だ」

 

「テ、テメェ……ッ、ゴクロー……ッ! 歯ぁ食いしばれぇえええええええええええええええええッ!!」

 

「おっと!」

 

怒りを露わにして俺に殴りかかってきた一夏を、怪人体となったアンクが難無く拘束して床に押さえつけた。床に顔を擦りつけながら、一夏は拘束を解こうと暴れるが、拘束が解ける気配は一切無い。

 

「ったく、どうにも暴走する癖があるな。お前は」

 

「離せッ! 離せよぉッ! 離せぇえええええええええええええええええッ!!」

 

「馬夏。どけるか。つーか、お前常日頃から“守る”って言ってるが、それがどう言う事か分かってんのか?」

 

「あぁっ!?」

 

「“守る”ってのは極端な話、強者が弱者に施すエゴだ。力が無くては何も守れず、その力だって使いこなせなければ意味が無い。力を十全に使いこなせない人間に、人を守る事は出来ない。

だが、お前はこれまで自分の力や覚悟が中途半端でも、お前はお前の望む通りに人を守れていた。それが何故だか分かるか?」

 

「それが“正しいことだから”に決まってんだろ!!」

 

「違う。お前が織斑千冬の……“最強最悪のテロリストの弟”だと認識されていたからだ」

 

「!?」

 

「はっきりと言う。お前が今までの方法で人を守れたのは、お前が“織斑千冬の弟”で、“織斑千冬に守られていたから”だ。これまでお前がやって来たことは、お前が“織斑千冬の弟”であると言う、一線を超えた人間に対する恐怖の裏返りでしかない。

そして、仮に今まで通りに“織斑千冬の弟”って立場でこの男女を守れたとしても、連中は『次の男女』を送り込むだろう。それがお前にとっての有効打になると分かったからだ。代わりなんざ世界中から幾らでも探せるし、用意する事だって出来る。そしてお前はソイツ等が送り込まれる度に、ソイツ等を“守る”事で欲望が満たされる……実に良く出来た美しい循環だな、オイ?」

 

「俺は、俺は別に、誰かを傷つけようとしてる訳じゃない!」

 

「嘘をつくな。“守る”とはつまり、“何処かに存在する敵を、何らかの力を持って排除する事”だ。そしてお前の場合、その力は単純な暴力を含めた“自分の力だと思うモノ”だ。お前は永久無限に自分の手に入れた力を、敵と見なした何者かに振るう事を望んでいる」

 

「え、永久無限ってそんな大げさな……」

 

「そうか? “守る”事と“救う”事は違う。仮に困っている誰かが“救われた”なら脅威は無くなり、“守る”必要は無くなる。逆に言えば、ソイツが救われなければ、永遠にソイツを“守る”事が出来る。

意識してか無意識なのかは知らないが、この馬夏はずっとそんな手段を選んで生きている。要するに、コイツの言う“守る”は、自分が守っていると言う実感を得る為に、守ると決めた相手に苦痛を強要してるんだよ。箒も、中華娘も、男女、お前にもな」

 

「………」

 

一夏をフォローしようとするシャルロットに対するアンクの反撃に、シャルロットは思わず口を噤む。

 

シャルロットも本当は分かっていたのだ。シャルロットは先程「クラスの皆を騙し続ける事が苦痛である」と言った。それを聞いた一夏は、シャルロットに男装を続けて此処に居る事を提案したが、それはシャルロットにとっては「周囲を騙し続ける生活を続ける」という事である。

つまり一夏は、自分の立てた策が、シャルロットに苦痛を伴う生活を3年に渡って強いる事なのだと気づいていないのだ。自分が「シャルロットを守っている」と言う認識に惑わされて……。

 

「はっきりと言ってやる。弁えろ馬夏。お前がコイツ出来る事は何一つとしてない。何一つとして、してやれることは無い」

 

「じゃあ、お前等はシャルロットを何とか出来るって言うのかよ!」

 

「出来ないな。ぶっちゃけ、コイツを救える誰かがいるとすれば、それはコイツだけだ。コイツはコイツにしか救えない。自分を救えるのは自分だけ。お前が関われば駄目になる。それに関しては、箒や中華娘も同じだ」

 

アンクは一夏の反撃に全く動じず、淡々と自分の考えを述べていく。

 

確かに一夏の行動で箒は守られた。鈴音も守られた。しかし、その結果はどうだ? 「いじめ」と言う行為は、誰にもバレないと言う閉鎖的な環境だからこそ成り立つ。織斑千冬から習った武術を使い、制裁の名の元に影でバレない様に暴力を振るい、お互いに“どんな物事も表沙汰にならなければ問題ない”と学習し、その結果は『人知れず行われる、際限の無い暴力と報復の連鎖』だった。

 

もしも、一夏が大勢の人間を味方につけるという選択をしていたならば。

 

もしも、一夏が暴力による解決は不可能だと判断し、別の方法を模索していたならば。

 

箒や鈴音の学校生活は、もっと違っていたのではないだろうか?

 

「それともう一つ。お前、『俺と千冬姉は両親に捨てられた』って言ってたが、アレはちょっと違うだろ?」

 

「はぁ!? 何処か違うってんだよ!?」

 

「お前と織斑千冬では認識が違う。織斑千冬にとっては『両親に捨てられた』で良いだろう。何せアイツには両親との思い出が、“所有されていた記憶”があるんだからな。だがお前にはそれが無い。表現としては『親が初めからいない』が正解なんじゃないか? だからこそ『親が何だって言うんだ』なんて酷い事が平気で言える」

 

「酷い!? 何でそれが酷い事になるんだよ!」

 

「お前はそもそもこの男女を誤解している。コイツは『相手が父親だから言う事を聞いていた』訳じゃ無い。ゴクロー、お前もそう思ってるだろう?」

 

ここで俺に振るのかアンク。散々に煽っておいてから丸投げとか、キラーパスにも程がある。だが、俺も言いたいことが無いとは言えないので、せっかくだから言っておこう。

 

「……シャルロット。お前が父親の言う事を聞いていたのは、自分が娘だからでも、他に行く所が無かったからでも無い。お前は『父親に褒めてもらいたかった』から、『本当の意味で守って欲しかった』から、『娘として愛されたかった』から命令に従っていた……違うか?」

 

「……ッ!! ど、どうして……」

 

「母親を亡くし、それで失った愛を父親に求めた。そう考えればスッキリする部分が多いと思った。それが欲しくて、父親の欲しい物をお前は与え続けた。そうする事で、自分の欲しい物が手に入ると信じていた」

 

「ちょ、ちょっと待てよ! シャルロットの父親は娘を道具みたいにする様な奴なんだぞ! 何でそんな奴に好かれたいなんて思うんだよ!」

 

「……やはりお前には分からないか」

 

「は!?」

 

「お前は両親を知らない。親に愛された記憶が無い。だからこそ、ソレを求める心理が理解出来ない。だからこそ、織斑先生が『白騎士事件』を起こし、ブリュンヒルデになった事は、“生き別れた両親に再会する為だった”とは……考えつかなかったのだろうな」

 

「!?」

 

「人は孤独には勝てない。だからこそ、例え愛を求める相手や、自分の行為が悪だと分かっていたとしても、人は愛を求めずにはいられない。人は過ちを犯してでも、他者と繋がらなければ生きていく事が出来ない。それは織斑千冬も同様だ」

 

俺の言葉にシャルロットは共感を覚えた様な表情をし、一夏は愕然としつつも否定的な表情をしている。織斑先生にそんな部分があるのだと言う事を、受け入れられないのだろう。

 

「違う……。違う……、違うッ!! 千冬姉はそんな弱くねぇ!! デタラメ言うんじゃねぇ!!」

 

「信じる、信じないは、お前の自由だ。もっとも、お前の前でずっと強き姉を演じてきたあの女が、今更お前に本当の事を言うとは思えないがな」

 

「……ッ!! こんの野郎ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「おい!! さっきから何をやっている!! 近くの部屋から苦情が殺到しているぞ!!」

 

一夏が叫ぶと同時に、織斑先生が部屋にノックも無しに乗り込んできた。俺の姿を見て一瞬動きが止まったが、アンクと一夏、そして即座にシーツに身を包んだシャルロットを一瞥すると、即座に状況を判断して、俺達に指示を出す。

 

「……アンク、織斑を離してやれ。それと織斑。今すぐ部屋に戻れ」

 

「で、でも、千冬姉! コイツ等は……!」

 

「織斑先生だ。そして二度とは言わん。今すぐ部屋に戻れ」

 

「! ……クソッ」

 

「何だ? 不満か?」

 

「……いいえ」

 

色々と言いたい事があるのだろうが、流石に織斑先生には強く言えず、一夏はスゴスゴと部屋を去って行った。それを見届けると織斑先生も立ち去り、部屋の中には俺とアンク、そしてシャルロットの三人が残った。

 

しばらく沈黙が部屋の中を支配していたが、シャルロットの方から俺に話しかけてきた。

 

「……ねえ」

 

「……何だ?」

 

「お父さんは私の事、好きになってくれると思う? 愛してくれると思う?」

 

「……俺は、お前の父親はお前の心の内を知っていたと思う。そして、最大限に効果を発揮するタイミングを狙って、父親はお前が望むモノを与えるだろう。お前が心から欲していたモノを……」

 

「……そっか」

 

そして再び沈黙が訪れる。その後、お互いに会話らしい会話も無く、俺とシャルロットは床に付いた。

 

 

○○○

 

 

一方、部屋に戻った一夏は、一連のやり取りを思い出して、鬱屈した感情と鬱憤を抱えていた。

 

「畜生……! 畜生……ッ! そんな訳あるか……、そんな事あってたまるか……ッ!!」

 

「分かるわよ、貴方の気持ち。とても、信じられる事じゃないわよね」

 

「!?」

 

出現したのか、初めからそこに居たのか。自分の部屋の中に、何時の間にか包帯を顔に巻いた、黒ずくめの女が悠然と立って此方を見ていた。

 

「だ、誰だアンタ!?」

 

「貴方の味方よ。そして断言してあげる。シュレディンガーやアンクの言う事は間違っていると」

 

「……え?」

 

『UTOPIA!』

 

黒ずくめの女が金色のメモリを起動させると、メモリは自動的に腰に装着したベルトに吸い込まれていき、黒ずくめの女の全身を青黒い炎と黒い電撃が覆う。そして、それらが晴れた時、黒ずくめの女は全身に金色の装甲を纏っていた。

 

「見せてあげるわ。この世界の真実を」

 

『MEMORY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

女の右手が一夏の頭に触れ、聞き慣れた音声が聞こえた瞬間、一夏の視界は暗転し、その意識は現実から急速に離されていった。

 

黒ずくめの女が一夏に見せたのは、ゴクロー・シュレディンガーも、アンクも、『ミレニアム』も、シュラウドも存在しない、織斑一夏が絶対唯一の存在であり、織斑一夏が望む事なら全てが現実になる『黄金郷【エルドラド】』。

 

或いは、ゴクロー・シュレディンガーと同質の存在によって、ありとあらゆる意味で破壊され尽くした『暗黒郷【ディストピア】』

 

「全ては、ゴクロー・シュレディンガーって男の仕業なのよ」

 

底無しの執念による模索と探索と捜索の果てに『ミレニアム』が突き止め、手に入れた情報を惜しげも無く使い、魔女は仮面の下でゾッとする様な笑顔を浮かべた。




キャラクタァ~紹介&解説

5963&アンク
 常軌を逸する方法で急激にパワーアップし続ける、二人で一人の『仮面ライダー』。裏側から世界を見続けた結果、気に入らないからと言って敵対してもキリが無い事は嫌と言うほど理解している。

シャルロット・デュノア
 正体を知っている5963が気を使った結果、原作通りの展開で一夏に女だとバレてしまった男装少女。実際、彼女がデュノア社の命令に従っていたのは、「他に居場所や行き場所が無い」だけではなく、「失った家族愛を唯一の肉親である父親に求めていた」のではないかと作者は思う。

織斑一夏
 隠された真実を知って自分が定義した存在意義が揺らぐ原作主人公。『アマゾンズ』の引きこもり養殖アマゾンの如く、自分の掲げる信念を言葉で打ち砕かれてしまった訳だが、実際に『白騎士事件』以降のコイツは「世界が構成した水槽の中で養殖された」と解釈しても良さそうな生き方をしている気がする。



タジャドルコンボ
 鳥系コアメダル3枚で発動する「炎のコンボ」。800年前の王じゃないけど、5963とアンクにとっても「最もフィットしたコンボ」である。コンボ特有の体への負担の大きさは変わらないが、一応意識を保つ程度には耐えられる様になってきた。
 今回「火柱キック」との激突で使用した「プロミネンス・ドロップ」は、劇場版『MOVIE対戦CORE』で仮面ライダーコアに使用した両足蹴りバージョン。ただ、イメージ的には仮面ライダーギャレン・ジャックフォームが使用した「バーニング・ドロップ」の方が近いかも知れない。

IS学園特記事項第二一
 原作において対デュノア社用の手札として一夏が提示した規定だが、作中でも語られたように、この規定には「家族」は適用されない為、デュノア社社長と血縁関係にあるシャルロットは「家族」を名目に、何時でも呼び戻す事が可能となる。
 要するに原作やアニメで一夏の提示した方法では時間稼ぎにすらならない訳で、ちょっと考えればシャルロットは「どう足掻いても絶望」な状態である筈なのだが、一夏より優秀な筈のシャルロットは、“何故か”その事に気づいていない。

5963の線引き
 作者が『IS』を読んだ感想として、ヒロインの多くが「愛を失い、愛に彷徨う人間である」と考えており(つーか、そんな描写が無さそうな設定のヒロイン枠は五反田蘭位しかいない気がする)、5963が助ける相手を「愛を失い、愛に彷徨う人間」に設定している。それはつまり、相手が「愛を失って暴走している人間」であると判断した場合、対応が甘くなると言う事であり、シュラウドを筆頭に束や千冬、鈴音に対する5963の対応の甘さはコレが原因。
 ちなみに、アンクに『アマゾンズ』のアル中おじさん事、鷹野仁が語った“守る者と守らない者の線引き”を語ってもらったのは、単純に名前に“鷹”の字が入っていた事だけが理由。それ以上でもそれ以下でも無い。


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第31話 Shout out

四話連続投稿の二話目。ここから物語は加速し、コンボの大盤振る舞いとなっていきます。


翌日。教室の空気が昨日までと明らかに違っていた。

 

重い。兎に角重い。女子高特有の無駄に明るく騒がしい朝の教室が、一瞬お通夜の会場か何かと錯覚してしまう程に空気が重苦しい。そして、この空気の発生源は教室の一番前の座席の中心、即ち一夏だった。

 

「……おはよう」

 

「………」

 

無視か。……いや、まるで親の仇でも見る様な目で、俺の事を睨んでいるのだから、無視とは違うな。

 

「お、おはよう。一夏」

 

「おはよう、箒。後でちょっと良いか?」

 

「あ、ああ……」

 

「……」

 

その後、教室に織斑先生と山田先生が入ってきて、教室内の空気を察した様子だったが、その事に触れる事無く淡々と授業を進めていた。もっとも、織斑先生から「放課後に必ず生徒会室に来るように」とメールが来た時は、非常に憂鬱になったが。

 

「それで、今度は何をしでかしたのだ?」

 

「シャルロットの件が一夏に露見して、シャルロットの対処やら、『白騎士事件』やら、何やらで一夏と口論になった」

 

「あら? 思ったよりも早くバレちゃったのね」

 

「白々しいな猫女。お前、あわよくばあの男女を手駒にしようとしていただろう?」

 

「そんな事はどうでもいい。どうしてそこから『白騎士事件』に話が飛んだのだ?」

 

「それは……」

 

「聞くよりもコレを見たほうが早い」

 

『BATTA~♪』

 

『KUJAKU~♪』

 

俺が昨日の夜に起こった事を正直に話そうとした瞬間、アンクがバッタカンとクジャクカンを起動させて、昨日の様子を大スクリーンで映し出した。恐らく、アンクが自分の記憶をデータ化したものだろう。視点がアンクの視点っぽいし。

 

「……なるほどね。確かに一夏君の方法じゃ無理ね。時間稼ぎにすらならないわ」

 

「そして、既に『コイツと馬夏が仲違いしたらしい』と、学園内に存在するスパイから各国に情報が流れている。となれば、次は『どうしてそうなったのか?』と理由を知りたがる。男女の事は時間の問題だろうな」

 

「俺としてはそれよりも、箒が一夏から聞いた事が気になる。一夏が箒に『ゴクローの事をどう思うか?』と聞いて、それに箒が答えたら、一夏は『待っててくれ、俺が必ずお前達を守る。必ず元に戻してみせる』と返したらしい」

 

「完全にお前を敵と認識している台詞だな」

 

「ああ、その中でも気になるのは『元に戻してみせる』と言う台詞だ。『元に戻す』とは一体何の事を言っているのか――」

 

『た、大変です! 織斑先生!』

 

「何だ山田先生」

 

『織斑君と三組のボーデヴィッヒさんがアリーナで模擬戦を行なっていた所、突然ボーデヴィッヒさんのISが異常な反応を見せていまして、非常に危険な状態です!』

 

!! ラウラのISに異常な反応……『VTシステム』か!

 

ドイツ軍のドス黒い闇について嫌という程知っている俺達はすぐにその可能性に気づき、織斑先生は俺に目配せした。

 

「分かった。シュレディンガー、悪いが織斑を助けてやってくれないか?」

 

『違います! 織斑君がボーデヴィッヒさんを圧倒していて、ボーデヴィッヒさんが危険な状態なんです!!』

 

「「「「何(だと/ですって)!?」」」」

 

俺とアンク、楯無と織斑先生の四人は、山田先生の発言に耳を疑った。

 

前世では居合い斬りの達人の技術も機械によって再現する事が可能になっていたが、この世界の科学や機械工学の技術レベルはそれらを遥かに凌駕し、それによって製作された『VTシステム』は、文字通り「ブリュンヒルデを再現するシステム」であり、その性能を直に体験した俺は、アレを起動させたISがどんなモノなのかよく知っている。

 

だからこそ信じられない。ISの訓練を始めて一ヶ月弱といった程度の一夏が、ドイツ軍人のラウラを取り込んだ『VTシステム』搭載機を圧倒するなど。

 

「すみません。確認しますが、危険なのは一夏では無く、ラウラなんですね?」

 

『は、はい! ダメージレベルが既に「【レッドゾーン】」を超えて、今にも「【デッドゾーン】」に――』

 

「アンクッ!」

 

「チッ!」

 

ドライバーを装着すると同時にアンクがドライバーに入り込むと、俺は窓から外へ飛び降り、ドライバーに装填されている赤・黄・緑のメダルを勢いよくスキャンする。

 

「変身!」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

落下しながらメダル上のエネルギーが俺の周囲を回転し、何時聞いても独特な歌が終了すると同時に全身が装甲に包まれる。第三アリーナまでの最短距離を一直線に飛行しながら、タカの目を使って第三アリーナの様子を目視で確認する。

 

すると其処には、何時もと形状が異なる『白式』を纏った一夏と、『VTシステム』を発動させて尚、劣勢に立たされたラウラの二人が戦っていた。

 

俺が第三アリーナの様子に近づいている間に、一夏の『零落白夜』が装甲を切り裂き、ラウラのISから黒い液体が血の様に噴出して一夏の顔面に直撃するが、一夏は構うことなく前進して懐に飛び込んだ。

ラウラの右足を払って体勢を崩し、頭を掴んで地面に叩きつける。そして、起き上がろうと足掻くラウラを押さえつけ、空いている左手に力をこめると、一夏は勢いよく切り口に左手を突っ込み、中からあるモノを引きずり出す。

 

一夏の左手はドス黒い液体に塗れ、掌には赤色に輝くISコアが収まっていた。

 

何をするのかを察した俺は、左手に召喚したメダジャリバーに3枚のセルメダルを装填すると、右手に持ったオースキャナーで、メダジャリバーの刀身を撫で上げる。

 

『トリプル! スキャニング・チャージ!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

空間ごと対象を切断・破壊する「オーズバッシュ」によって第三アリーナのシールドが破られ、そのまま第三アリーナに突入。しかし、一夏は突入した俺には目もくれず、ゆっくりと万力の様な力を込めて、ラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』のISコアを握り潰した。ガラス細工の様に砕け散ったISコアが、黒い液体に混じって地面に流れ落ちていく。

 

ISコアが破壊され、装甲がドロドロとした黒い液体に変化する事で、その中からラウラが現われる。一夏の方も気にはなるが、それよりも倒れているラウラの方が気になって仕方ない。横たわるラウラは、意識を失いぐったりとしていた。

 

「……汚ねぇな」

 

「……ッ! 一夏、お前……何をしたのか分かっているのか!?」

 

「ん? ああ、コイツからISコアを引きずり出して粉々にしたんだ。それが何か問題あるのか?」

 

「なっ!?」

 

コイツ、本気でそんな事を言っているのか!? ISのISコアを引きずり出して破壊すると言う事は、人間で例えるならば心臓を抉り出して握りつぶすのと同義。そして、それを操縦者と深くリンクした状態のISに対して行った場合、操縦者自身にもソレと同様のダメージが、感覚としてキックバックされる事になる。

 

「なんて酷い事を……」

 

「は? 何だよ? コイツは火種所か、何時爆発するか分からない爆弾だろ? なら、こうするのが一番じゃねぇか」

 

「ラウラがそのISを手放せば、何の問題も無かったんだ!」

 

「おいおい、俺はお前が手を拱いている間に、IS学園の皆を危険から守ったんだぜ? なんで責められなきゃいけないんだよ?」

 

「……本当にそれだけか?」

 

「そうだな……まあ、力に振り回されたラウラが許せねぇのは確かだな。ISはぶっ壊したから、起きたら一発ぶん殴ってやらないと気が済まねぇ。それに千冬姉の、千冬姉だけのデータを勝手に使ったのも許せねぇ。まあ、こんな真似事の偽者野郎はぶっ壊れて当然だろ」

 

「……はッ。『織斑先生だけのデータ』だと? 面白いジョークだな。その『織斑千冬だけのデータ』を使って戦っているお前が言うと、滑稽以外の何者でも無いぞ」

 

「……あ゛?」

 

「それにお前の戦闘技術は一体誰から学んだんだ? 織斑先生だろう? ラウラもドイツ軍に居た頃に、織斑先生から色々と戦闘技術を学んでいた。それなのに何でラウラが『真似事の偽物』で、お前はそうじゃないんだ? ちょっと論理的に可笑しくないか?」

 

「……何が言いてぇんだ?」

 

「そうだな……今のお前を織斑先生が見たら、『十五歳で選ばれた人間気取りとは恐れ入る』って言うんじゃないかな……と思っただけだ」

 

「ッ!! テメェ……ッ! やっぱり、そうだったのか……ッ!!」

 

一夏の顔が憤怒に歪む。しかし、予想の200倍位怒っている気がするのだが、一体何が一夏の琴糸に触れたのだろうか? ちゅーか、「やっぱり」って何だ?

 

「テメェは……この俺がぶっ飛ばすッ!!」

 

「……アンク、コンボだ」

 

『普段ならこんな奴を相手に……と言いたい所だが、確かに何かヤバそうだな。コイツを試してみろ』

 

やる気……否、殺る気マンマンで俺に『零落白夜』の切っ先を向ける一夏に対し、俺はアンクにコンボを要求すると、ドライバーに装填されていたコアメダルの総入れ替えが起こり、三枚のコアメダルは青色に統一される。これでタトバコンボや亜種形態とは一線を画する力の一端を解放する為の準備が整った。

 

「超変身!」

 

『シャチ! ウナギ! タコ! シャ・シャ・シャウタ! シャ・シャ・シャウタ!』

 

水棲系コアメダル3枚を用いて変身する『シャウタコンボ』。これはラトラーターやガタキリバ、そしてブラカワニと異なり、負担を軽減する方法が全く無い(まあ、コンボを使用しておいて負担が無い方がおかしいのだが)。

 

俺の体は既にコンボの負担に対して、ある程度は慣れているものの、コンボの使用時は短期決戦が最上。

だが今の一夏はラウラを倒す程の強敵。無傷で拘束し無力化するのは難易度が高いと言わざるを得ないが、やるしかあるまい。ここは一つ士気を上げる意味でも、こう言わせて貰う。

 

「さあ、お前の罪を数えろ!」

 

「俺に数える罪なんて無ぇ!!」

 

激昂する一夏が振るう雪片弐型を、固有能力の『液状化』で回避しつつ、俺はアンクと練った作戦を忠実に実行する。一夏をこのまま『液状化』で翻弄しつつ、高圧で発射される水流や、軌道が読みづらい電撃を帯びたウナギウィップで攻撃し、徐々に弱った所をアイスエイジのマキシマムで凍結させて拘束するのだ。

 

「フッ!! ハァアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

しかし、戦況は思った通りには進まなかった。一夏は高圧水流や氷結攻撃を巧みにかわし、ウナギウィップに至っては軌道を見切って切り裂いている。

……おかしい。『虚空の牢獄』以外でシャウタコンボを見せたのは、今回が初めてだ。それだと言うのに、一夏の動きは「俺の行動を予測している」と言うより、「シャウタコンボの能力と戦い方を知っている」と言った方が正しい感じの動きを見せている。

 

『確かに妙だ。無駄に手強い』

 

「ああ、新フォームの初登場ってのは、基本的に補正が掛かるモンなんだがな」

 

『……馬鹿な事を考える程度の余裕はあると考えておくぞ?』

 

しかし、そんな余裕は次の瞬間には跡形も無く消滅した。俺が『液状化』を解く瞬間、一夏が左手のクローから発射した荷電粒子砲で着地地点を赤熱化させ、『液状化』が解けた俺達にダメージを与えたのだ。

 

「何ィイイイイイイイイイイイッ!?」

 

おかしい! コレは『BLACK RX』において、蘇ったシャドームーンがバイオライダーを攻略した方法と全く同じ! どうして一夏がこの戦法を知っている!?

 

……いや、コレはもはや確定だ。一夏は明らかにシャウタコンボの能力を知っている!

 

「クソ……不味いぞ……」

 

「これで、終わりだぁああああああああああああああああああああああッ!!」

 

両手に握る雪片弐型の刀身がスライドし、『零落白夜』が発動されると、爆発的な加速を持って俺に止めを刺そうと一夏が迫ってくる。

それに対して、俺が迎撃手段を考えた瞬間、黄色いシャチアイが紫色に光り、そこから紫色の波動が放出された。

 

「!? もしかして……ッ!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「フンッ!!」

 

一夏が雪片弐型を担いで急接近する中、俺は渾身の力を込めて地面に拳を叩きつけた。拳が地面に埋まり、そこを起点に地面に亀裂が生じる。そうして生まれた地面の隙間からは紫の光が漏れ出し、右手に確かな手応えを感じた。

 

「!! オラァッ!!」

 

右手に握りしめている物の正体を理解した俺は、地面から勢いよく引き抜いたソレを使い、『零落白夜』の刃を受け止めた。

 

「!? 何ッ!?」

 

「出た……!!」

 

必殺の刃を受け止めたのは、恐竜の意匠が施された、透明な紫色の刃を持つ巨大な斧「メダガブリュー」。

 

確かにプトティラコンボの使用条件である「6種類のコンボが使えるようになる」はクリアしているが、一度もプトティラコンボを使用していない状態で、コレを取り出せるとは思わなかった。

しかし、このメダガブリューはS.I.C.を参考にしている所為か、かなり大型で取り回しが結構厳しい。だが、無の属性を持つコイツの刃なら、『零落白夜』にも十分に対抗出来る事は確かだ。

 

「オラアァッ!!」

 

「グッ!! 面倒なモノをッ!!」

 

……おかしい。メダガブリューを取り出してから、メダジャリバーも召還しての二刀流で戦っているのだが、一夏はメダガブリューをやたらと警戒して戦っている。まさか、メダガブリューの力も知っているのか?

 

「中々やるな……」

 

「ハッ! 俺はもう、昨日までの俺じゃ無い! お前みたいな奴に、負けたりはしないんだよ!」

 

……やはり、何かが確実におかしい。だが、それに関しては後回しにした方が良いな。

 

俺は4枚のセルメダルをメダガブリューの刀身の中にセットし、レバーを操作することでセルメダルからエネルギーを抽出し、それを凝縮・高密度化させる。

 

「コレで決まりだ」

 

『ゴックン! シャウタ! ~~♪ ~~♪』

 

「アンク! メダル!」

 

『チッ! しっかり決めろ!』

 

『タカ! ウナギ! バッタ!』

 

「もう一丁!」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

シャウタコンボからタカウタにチェンジし、シャウタで発動させた「グランド・オブ・レイジ」に、更に『スキャニング・チャージ』による必殺技で破壊力を増強させる。

タカアイで狙いを定め、バッタレッグで天高く跳躍すると、ウナギアームから発せられる電撃を纏った「グランド・オブ・レイジ」を一夏目がけて急降下する。

 

「オオオオオオオオオオッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「来いやぁあああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

それに対して一夏は、左腕の籠手からビームシールドを展開し、右手に雪片弐型を握る。ビームシールドで攻撃を耐え、そこからカウンターを狙うつもりだろう。

だが、この一撃はその盾を容易く両断するだけの破壊力を秘めている。防御を一切無視して、一気に決めてくれよう。

 

しかし、それは不意の闖入者によって防がれた。

 

「其処までだ!」

 

「ッ!!」

 

その声を受けて、ビームシールドと「グランド・オブ・レイジ」が激突する寸前、背中のパッケージのブースターを吹かして無理矢理自分の軌道を反らし、声のした方向を見る。

 

俺達の戦いを止めたのは、織斑先生だった。

 

「其処までだ。双方、武装を解除しろ」

 

「でも千冬姉! コイツは――」

 

「織斑先生だ。馬鹿者」

 

「……織斑先生。ラウラは……」

 

「お前達が戦っている間に運んだ。それと織斑、貴様は後で職員室に来い。ボーデヴィッヒのISのISコアを破壊した件で、聞きたいことが山ほどある。罰則も覚悟しておけ」

 

「そんな! 千冬姉! 俺は――」

 

「織斑先生だ。何度言わせれば分かるのだ、馬鹿者」

 

「……はい」

 

「それでは、今後一切の私闘を禁ずる。解散ッ!!」

 

織斑先生が手を叩き、取り敢えずこの場はお開きとなった。疲れた……。

 

 

●●●

 

 

オーズドライバーを束とクロエに預けた後、俺はアンクと共に、ラウラと一夏、そして俺と一夏の戦闘データを、『NEVER』の拠点にある自室で何度も見直していた。ラウラと一夏の戦闘データに関しては、アンクが砕け散った『シュヴァルツェア・レーゲン』のISコアの破片からデータを集め、映像としてある程度まで復元したものも含まれている。

 

「……何て言うか、まるで猛禽類か、猫科の肉食獣の狩りみたいだな」

 

「ああ、動きに無駄な力が無い」

 

一夏とラウラの戦闘を見た俺の感想に、アンクも肯定の意を示す。つい先日まで、体に余計な力が入っている印象を与える戦闘スタイルを取っていた一夏が、どうしてここまで劇的に変わったのか?

 

「……正直、今回の件は包帯女が絡んでいると俺は思う。それ以外に『VTシステム』や、『シャウタコンボ』の能力をバラす可能性は無いからだ。だが、そうなると一つ分からない事がある」

 

「……と、言うと?」

 

「どんなIS操縦者だって、“『二次移行【セカンドシフト】』で新しく発現した武装を、『二次移行【セカンドシフト】』した瞬間に使いこなす”なんて事は出来ない。それこそ、お前みたいに、事前に能力を知っていてもまず不可能だ。だが、あの馬夏はそれをやってのけた。つい一ヶ月ちょっと前までISに乗った事の無い人間が……だ」

 

そう言われてみれば、確かに妙だな。俺の場合はコンボで発現する能力が決まっていたから、初めてでもある程度はその能力を“使う事”が出来るが、“使いこなす事”は出来ない。それはISにおいても同じだ。

 

「そう言うメモリを使った……って訳じゃ無いよな」

 

「ああ、メモリを使ったのなら『タカの目』で分かる。だが、あの時『白式』にはメモリやメダルは入っていなかった。つまり、あれは素だ」

 

「……それはつまりこう言う事か? 一夏は『白式』の進化した能力や武装を前もって知っていて、どう言う訳かそれを初見で使いこなすだけの技量がある?」

 

「ああ、眼帯娘の『VTシステム』にしろ、『シャウタコンボ』への対策にしろ、そうとしか考えられん部分が多々ある。しかし、そうなると仮に包帯女がそれを教えたとして、どうして包帯女がソレを知る事が出来たのかが分からない。馬夏は一体、何を教えられたんだ?」

 

「さぁーーて、何を教えたんでしょーーうか?」

 

「「!?」」

 

「久しぶりね、シュレディンガー。そして、アンク」

 

聞き覚えのある声に思わずギョッとし、声のした方向を見てみると、そこにはシュラウドが立っていた。しかも立体映像の類いではなく、実体を持った本物だ。

 

「……どう言う風の吹き回しだ? 生身の体で敵陣のど真ん中に足を踏み入れるなんて、随分と度胸があるじゃないか」

 

「そうね。貴方の目にはそう映るでしょうね。でも私にとっては違う。そうなる事が“決まっている”のだから」

 

「……? 何を言っているんだ?」

 

「それよりも知りたい事があるんでしょう? せっかくだから教えてあげるわ。私はね、織斑一夏に『この世界の本来あるべき姿』を記憶として与え、実際にソレを体験をさせたのよ。コレを使ってね」

 

『MEMORY!』

 

そう言ってシュラウドが取り出したのは、記憶を司る能力を持つガイアメモリである『メモリーメモリ』。その場に存在する過去の記憶を吸収する他、周囲にいる人間にその過去を見せる事が出来るメモリだが、話から察するにどうやらシュラウドが持つ『メモリーメモリ』は少々仕様が違うらしい。

 

「お前が馬夏に何をしたのかは分かった。だが、『この世界の本来あるべき姿』ってのは一体何だ?」

 

「そのままの意味よ。それ以上でも、それ以下でも無い。そして『この世界の本来あるべき姿』とは具体的には何なのか? それは……」

 

「それは?」

 

「織斑一夏の、織斑一夏による、織斑一夏の為の『おりむランド』。全ての男は織斑一夏の引き立て役に過ぎず、全ての美女美少女は織斑一夏のモノであり、顔偏差値60を切っている中学生女子はIS学園に入学不可能。世界の中心は織斑一夏であり、織斑一夏が望む事は全て叶う……それが『この世界の本来の在り方』よ」

 

「「……ハアッ!?」」

 

「分かりやすく言うと、織斑一夏は『選ばれし者』なの。故に、織斑一夏が望む事なら全てが思い通りになるのよ」

 

「……いや、お前は何を言ってるんだ?」

 

アンクがツッコミはもっともだ。俺もシュラウドが何を言っているのかまるで分からない。ぶっちゃけ、「シュラウドは復讐に固執する余り、とうとう頭がおかしくなってしまったのだ」とさえ思っている。割と本気でシュラウドの頭の中身を心配するが、シュラウドは俺達の反応を見ても全く動じていない。

 

「……まあ、そう反応する事は分かっているわ。だから一から十まで説明してあげる。一夏ら、十まで。ふふふ……」

 

やはりおかしい。シュラウドはそんなクソの様な、つまらない駄洒落を言う様なキャラではない。やはり、復讐に疲れ、ナニカがおかしくなってしまったのだろうか?

 

「その前に貴方、『ミレニアム』が実行する筈だった計画を覚えているかしら? 少佐が考えていた、『オーズ』によるIS世界の破壊を」

 

「? ああ、確か『IS学園の修学旅行が終わってから、本格的に行動を開始する』と言っていた気がするが」

 

「じゃあ、なんで修学旅行が終わった後なのか、その理由はなんだと思う?」

 

「京アニ」

 

「確かに少佐らしい理由だとは思うケド、全然違うわ。理由はズバリ、『ミレニアム』の勝率が大幅に上昇するからよ」

 

「それだけの時間があれば、『オーズ』が完成するから……か?」

 

「それも有るけど、狙いは違う。単純に“修学旅行が終わった以降”なら、織斑一夏を筆頭とした全ての障害を倒せる可能性が格段に跳ね上がるのよ。お互いの能力や力量とは関係なくね」

 

「……言いたい事がさっぱり分からん。一体何が理由でそのタイミングで行動する必要がある?」

 

「戦えば負ける事が“決まっている”からよ」

 

「“決まっている”? さっきも“決まっている”とか言っていたが、それと何か関係があるのか?」

 

「そう、“決まっている”の。ヒントをあげるわ。かつて、少佐が貴方に『どうやってこの世界に来たのか』を聞いた時の事を思い出してごらんなさい?」

 

「………」

 

――「ところで、君はどのようにしてココに来たのかね? 参考までに教えて欲しい。研究者によると、トラックに轢かれるパターンと、神との遭遇を果たしたパターンがメジャーらしいのだが、君はどんな涙を誘う感動的な死に方と、目を背けたくなるような残酷な最期を迎えたのかね?」――

 

「……『トラックに轢かれるパターン』と、『神との遭遇を果たしたパターン』?」

 

「そう。そして、その二つがメジャーであるとも言っていた筈よね? つまり、『ミレニアム』は様々なパターンの平行世界を数多く観測した結果、幾つかのルールに気付いたのよ」

 

「……世界において共通の人物や歴史が、そして発明が存在する?」

 

「違う。確かにどの世界にも同じ人物はある程度まで存在する。その一方で、その世界にしかいない人間が、或いは別の世界から魂だけでやってきた“異世界の来訪者”がいるケースも確認できた。我々をそうした存在を総称し、『特異点:オリシュ』と呼んでいたわ」

 

「『特異点:オリシュ』?」

 

「そう。そしてそれこそが、絶対無敵の障害を排除する事が出来る。言うなれば、不変の運命を変え得る絶対唯一の存在。理不尽の権化と言える、『特異点:織斑一夏』に対抗できる『鬼札【ジョーカー】』だった。でも、それには幾つかの懸念材料も存在した。例えば「織斑一夏が『特異点:オリシュ』である」とかね」

 

「何?」

 

「つまり、何か? あの馬夏はゴクローと同じ存在だと?」

 

「いいえ。少なくともこの世界では違う。そうした場合、大抵は幼少期から『基本世界の織斑一夏』と大きく異なる事が多いから。この世界の織斑一夏がそうである可能性は無いわ」

 

「……『基本世界の織斑一夏』?」

 

「あら、言わなくても良い事を言っちゃったかしら?」

 

シュラウドは失言した事と言わんばかりのリアクションを取るが、本心ではその事を大して気にしていないだろう。余裕綽々の雰囲気が全身から醸し出されている。

 

「兎に角『ミレニアム』の計画には『特異点:オリシュ』が必要不可欠だった。でも、呼び出された『特異点:オリシュ』が我々に友好的であるとは限らないとも考えていた。実際、神に遭遇して異世界に転生した『特異点:オリシュ』の中には、神に叛旗を翻す個体や欲望の赴くままに活動する個体も確認されている。更にそうしたケースでは、得体の知れない特殊能力や、本来なら獲得できない武器を所有している可能性も極めて高い」

 

「特殊能力や武器……?」

 

「もっとも、そうでなくても十分なケースもあるわ。そう、例えば、こんな風に……」

 

『MEMORY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

そう言いながら、シュラウドがバットショットにメモリーメモリを差し込むと、液晶画面に映像が映し出された。

 

「コレは“織斑一夏が『特異点:オリシュ』と化した平行世界”を観測した時の記録よ。もっとも、この個体は先程言った様な特殊能力は何も持っていないわ。でも、この個体は『基本世界』を知っていて、ソレを最大の武器として使っていたわ」

 

映像の詳細をシュラウドが語るが、俺の視線は映像に釘付けになっていた。何せ、映像の中の一夏はワインを片手に玉座に座り、筋骨隆々な女に組み伏せられている弾を見下ろしていたのだから。

 

『そこの下郎。力とは何だ?』

 

『は?』

 

『「は?」ではない。口の利き方に気をつけろ。朕は気付いたのだ。自分の持つ力と、力とは何かと言う事をな……』

 

異常に尊大な態度で弾に話しかけている一夏と、それを虫酸ダッシュな表情で睨み付ける弾。仲の良い二人の姿を知る俺からすれば、かなり異質な光景だ。

 

『分からぬか。ならば、教えてやろう。力とは……“女”だ!』

 

『……は?』

 

『何も自分自身が強い必要は無い。強い女に守ってもらえばいいからだ。金? そんなもの必要か? 資産家の令嬢を連れて歩けばソイツが財布の代わりになるじゃあないか。ウマイ飯が食いたければ、和・洋・中それぞれ料理の上手い女を用意しておけば、毎晩違った味が楽しめるぞ?』

 

「………」

 

「ふむ、一理あるな」

 

いや、同調するなよアンク。はっきり言って、コイツの言っていることは最悪だぞ。

 

『見るが良い、この朕の虜となった、忠実なる女達を。虜は良いぞ? 自分を簡単には裏切らず、意のままに操る事が出来る。それを思うがままに作り出せる我が才能こそが、女尊男卑の社会において無敵の能力。朕がこの世界の帝王たる所以! 即ち、朕こそが世界最強の男よ!』

 

『テメェ……! 畜生……! 蘭はこんな奴に……!』

 

「……と、彼はこんな事を言っているけど、コレも少し時間が経つとこうなるわ」

 

シュラウドがそう言うと画面が切り替わり、今度は実に穏やかな顔をした弾の姿が映し出された。

 

『一夏にはさぁ、不思議な魅力があるんだよ。俺も妹が女子便所で処女奪われたり、母親を寝取られたりしたケド、一夏なら何でか許せるんだよなぁ……』

 

「「………」」

 

……ヤベェ。何というか、洗脳された人間のビフォーアフターを見ている様な気分だ。

 

「……こ、これが、平行世界の一つだと言うのか?」

 

「まあね。その結果、『ミレニアム』は“織斑一夏は『基本世界』の中心人物”であり、“『基本世界』において織斑一夏の望みは全て叶う”ようになっていると結論づけた。そう言うルールなのだとね。

例えそれがどれだけ穴だらけな作戦だとしても、織斑一夏の立案ならその作戦は必ず成功し、織斑一夏が“守りたい”と思って行動した人間は織斑一夏が思った通りに守れる。どれだけ厳格なルールを破っても大した厳罰に処される事は無く、自分の過去の発言が盛大にブーメランしたとしてもソレが批難される事は絶対にない。織斑一夏が関わったモノは、何故か、必ず、全て、確実に上手くいく。それこそが、“この世界の本来あるべき姿”よ」

 

「……それはアレか? どんな選択肢を選んでも結果的に好感度が上がり、何をやっても好感度が下がらないみたいな感じか?」

 

「そうね。例えがアレだけど、ギャルゲやエロゲで明らかに駄目な選択肢を選んだとしても、それが織斑一夏なら好感度が上がる……みたいな感じね」

 

「何だ! そのぶっ壊れ性能のクソゲー以外の何物でもねぇ世界は!!」

 

「落ち着けゴクロー! コレは包帯女の精神攻撃だ! そんな馬鹿みたいな世界ある訳ねぇ! まして、そんなのが“この世界のあるべき姿”だなんて、嘘っぱちに決まってる!」

 

「信じるか信じないかは、貴方達の勝手よ。話を戻すけど、『基本世界』で起こった出来事は、そこから派生した平行世界でも、ある程度適用されるわ。だからこそ、『IS学園に侵入した無人機ISを倒す』のも、『VTシステムを暴走させたラウラ・ボーデヴィッヒを倒す』のも、織斑一夏にとっては“決まっていた”事よ。

私はそれらを含めた“これから起こる出来事”を、『白式』諸共『記憶』として経験させた。だから織斑一夏は『白式』が進化によって獲得する武器や、その効率的な使い方を知っていたし、『白式』はそれに合せて成長していたのよ。ちなみに後者は本来、月末のタッグトーナメントの最中に起こる筈の出来事で、篠ノ之束にとって『VTシステム』の始末と同時に、織斑一夏の名声を高めると言う意図があったわ」

 

「束がそんな事をするとは思えないが……」

 

「『この世界の篠ノ之束』ならね。でも『基本世界の篠ノ之束』は違う。だって、『基本世界』には貴方が居ないんだもの」

 

基本世界に俺はいない……か。『素晴らしき哉、人生!』と言うアメリカ映画では、主人公は「自分が存在しない世界」を天使に見せて貰い、自分一人がいないだけで世界は全く違った様相を呈すると言う事を知ったが、一夏は『俺がいない世界』や『俺以外の誰かがいる世界』を知ったと言う事か。

 

「要するに織斑一夏は“この世界の存在”が相手なら、結果的に必ず勝てる人間。そして少佐は自分達では勝てない事を知っていた。だからこそ、“この世界以外の存在”を呼び寄せる必要があった。

だからこそ、少佐は貴方を必要とし、決して殺す事はしなかった。何故なら貴方は“この世界のルールが適用されない”存在だから。ここまで言えば、貴方ならその理由が分かるでしょう?」

 

「……すまん。俺にはコイツの言いたい事が、さっぱり分からん。ゴクローはどう言う事か分かるか?」

 

「……仮にこの世界を“A”とすれば、“Aの世界の人間”は“Aの世界のルール”に縛られて生きている。そして俺がいた世界を“B”とすれば、“Bの世界の人間”は“Bの世界のルール”に縛られて生きている。だが、仮に“Aの世界”に“Bの世界の人間”が入り込んだ場合、“Aの世界のルール”は“Aの世界の人間”にしか適用されないから、“Bの世界の人間”は“Aの世界のルール”には縛られない。“Aの世界のルール”に守られる事も無いけどな」

 

「その通り。でも、幾ら“世界のルール”に守られていないと言っても、『特異点:オリシュ』は容易く倒せる存在ではない。『基本世界』に存在しない、通常と異なる存在を倒すには、それと同質かそれ以上の通常と異なる力……例えば『特異点:オリシュ』からもたらされた知識を元にして造った力なんかが必要になるの。

言っておくけど、貴方がアンクと一緒に『ミレニアム』を裏切る事は想定済みだったわ。裏切りは『仮面ライダー』の本分。だからその時に備えて、少佐は『どうやって始末するか』を考えていた。……でも、私は違った。『どうやって始末するか』ではない。『始末するまでに、どうすれば最大限に利用できるのか』を考えていた。そして、私はある事に気づいたのよ」

 

「ある事?」

 

「さっき見たように、『特異点:オリシュ』は必ず特殊な能力を持っている訳では無い。そして、基本世界の人間が『特異点:オリシュ』になるケースもある」

 

「ああ……」

 

「それじゃあ……もしも、『この世界の人間』に『基本世界』の記憶を与えたら、その人間はどうなると思う?」

 

「……まさか」

 

「そう! ならばリスクを犯してまで、平行世界から新たに『特異点:オリシュ』を呼び出す必要は無い! 織斑一夏が『特異点:オリシュ』になるケースが実在するのなら、織斑一夏に『特異点:オリシュ』と成り得る要素を加え、『特異点:オリシュ』に変異させれば良い!!」

 

「……後天的に『特異点:オリシュ』へ変える? そんな事が可能なのか?」

 

「可能よ。既に幾つかの事例をこの世界で確認しているし、実験も成功している。現に織斑マドカは、ガイアメモリ対応ISを手に入れた事で、本来なら倒せない京水を実質撃破しているし、凰鈴音はガイアメモリとコアメダルを与えた事で『オーズ』と同等の存在として、『オーズ』にしか倒せない存在になったでしょう?」

 

「「!!」」

 

俺とアンクは、シュラウドの言葉に戦慄した。今までのシュラウドの行動は、全て対『オーズ』を目的としたものだった事に。そして、俺達の行動がシュラウドの仮説を裏付ける証明となっていた事にだ。

 

「鈴音にガイアメモリを渡して、コアメダルを吸収させたのは、一夏を『特異点:オリシュ』に変えられるかどうかの実験だったって事か!?」

 

「ええ。尤も、あの実験は様々な仮説を平行同時に検証し、更に今後の為の実益を兼ねたものだったから、それだけでは無かったけど……それらを全て正直に話すつもりは無いわ。……それじゃあ、話す事は全部話したし、もう一つの目的を果たしたら、今日の所は帰らせて貰うわ」

 

「おいおい、ここから無事に逃げられると思ってんのか?」

 

「ええ、逃げられるわよ。これは本来スコール・ミューゼルの役目なのだけど……」

 

アンクの問いに対して、逃げ切れると言い切るシュラウドの黒いコートから覗くのは、腰に巻かれた銀色のドライバー。そして右手に持っているのは金色に輝く純正のガイアメモリであり、刻まれているイニシャルは『U』。

 

「!! そのメモリは!!」

 

「この世界では違う」

 

『UTOPIA!』

 

「!! それなら……」

 

『ETERNAL!』

 

「変身ッ!」

 

『ETERNAL!』

 

ユートピアメモリが自我を持つかのように、独りでにドライバーに挿入されるのと同時に、俺はエターナルメモリを起動させて、ロストドライバーに差し込みメモリスロットを傾ける。

そして『ブルーフレアRX』へと変身が完了した直後、シュラウドを中心として青黒い炎と黒い電撃が吹き出し、それが収まった時にそこにいたのは、ユートピア・ドーパントに酷似した全身装甲を身に纏った、シュラウドだった。

 

「なるほど、『エターナル』なら『ユートピア』を無効化出来ると踏んだのね? でも……」

 

『ETERNAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

俺は即座にエターナルメモリのマキシマムドライブを発動させ、ユートピアメモリの無力化を狙った。しかし、ユートピアメモリの能力が解除される様子は無かった。

 

「何……だと……!?」

 

「無駄よ。貴方の『エターナル』のデータは既に解析済みよ。そして、私と『ユートピア』の適合率は98%を超え、更に設計者自らが特別にチューニングしたガイアドライバーの力が加わっている。更に……」

 

シュラウドが右手をかざすと、不可視の衝撃が俺の体を貫き、鎧の内部にある肉体に、深いダメージが与えられる。コレは……。

 

「ゴフッ……。まさか、『超能力【サイキック】』……?」

 

「そう。『ミレニアム』が研究していた、人間の持つ本来の力を引き出す研究の成果。仮に『エターナル』でガイアメモリの能力を停止させる事は出来ても、それ以外の力を停止させる事は出来ないでしょう?」

 

ヤバいぞ。非戦闘員と思っていたシュラウドが、物凄く強くなっている。しかし、これはそれだけシュラウドが形振り構っていられない状況にあると言う証明でもあるか?

 

「ゴクロー! コイツの相手は『エターナル』じゃ無理だ! 『オーズ』に変えろ!」

 

「……仕方、ないか……。超変身!」

 

『ライオン! トラ! チーター! ラタラタ~! ラトラーター!』

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「ふふふ、無駄よ。貴方と私では、次元が違う」

 

アンクの言う通り、このままでは不味いと判断してドライバーを交換し、『オーズ・ラトラーターコンボ』へと超変身する。しかし、トラクローを振るう俺の動きをシュラウドは完全に見切り、専用武器である『理想郷の杖』に酷似したロッドを手に拳を止めたり、蹴りを受け流したりして、俺は完全に人間に遊ばれる猫と化していた。

 

「つ、強い……!」

 

「何で戦闘員の貴方が、非戦闘員の私に負けるのか……その理由が分かるかしら?」

 

「何……?」

 

「貴方が『自分はこの世界の存在ではない』と自覚し、『この世界の誰かと繋がるべきではない』と思っているからよ。自分が生きる世界を肯定できない以上、“この世界の記憶”からなるガイアメモリの真価を引き出すことは出来ない。

そして、自身の欲望を抑え込んでいる以上、欲望に強く反応するコアメダルの力が真に発揮される事も無い。だから貴方は私に叶わない。その点については、少しは織斑一夏を見習ったらどうかしら?」

 

「……ッ! お前が一夏をそうなるように仕向けたんだろうが!」

 

「ええ。確かにきっかけは私よ。でも、それだけよ。様々な平行世界の『特異点:オリシュ』や、そこに存在する織斑一夏の記憶を与えはしたけど、私はそれだけしかしていないわ。あの子はあの子の意思でラウラ・ボーデヴィッヒを倒し、貴方に刃を向けたのよ」

 

……そうなのか? 一夏はメモリーメモリの影響ではああなったのでは無く、自分の意思で俺やラウラと戦う道を選んだと言うのか?

 

「ゴクロー! 何があった!?」

 

「!? 誰だソイツは!?」

 

「あら、思いの外、早かったわね」

 

「待て! シュラウドに手を出すな!」

 

「! コイツがシュラウドだと!?」

 

「なら、尚更見ている訳にはいかないだろう!」

 

『NASCA!』

 

『ACCEL!』

 

二人はガイアメモリを取り出し、スイッチを押してメモリを起動させると、二人の腰にそれぞれドライバーが装着される。通常形態を通り越して、一気にメモリモードを起動させる。つまり、二人は本気でシュラウドに挑むつもりなのだ。

 

「「変身!」」

 

『NASCA!』

 

『ACCEL!』

 

ドライバーにメモリが装填されると、マドカは青の全身装甲を纏い、箒は紅の全身装甲を纏う。青と紅の二人の騎士はそれぞれ得物を構えると、俺と共に猛然とシュラウドに襲いかかる。

しかし、シュラウドは高速の近接戦闘を得意とする俺達三人に対し、背筋を伸ばして半身に構えて『理想郷の杖』で攻撃を捌きつつ、強烈なカウンターを確実に打ち込んでいく。

 

「くっ! なるほど、確かに強いッ!!」

 

「ああ、しかも『ナスカ』や『アクセル』所か、『ラトラーター』に追いつくスピードだ!!」

 

「いいえ、むしろ貴方達の方が遅くなっている。私の周辺の重力を倍加させる事でね。そして『ユートピア』は希望を司るガイアメモリ。相手の希望を奪ったり、相手に希望を与えたりする事が出来る。今回は貴方達から精神力を奪い、そのエネルギーを私の力に変えているの。そう……こんな風にねぇッ!!」

 

そう言い放つシュラウドは手から金色の竜巻を放ち、俺達三人がそれに巻き込まれて一ヶ所にまとまった所へ、シュラウドは強烈な炎を纏ったキックを俺達に叩き込む。

俺達三人の変身が呆気なく解除され、俺達は生身の無防備な状態で地面に転がった。照井焼きになっていないのがせめてもの救いだが、それでも俺達は相当のダメージを受けていた。

 

「マドカ! 箒!」

 

「さて、それじゃあ、仕上げといきましょうか?」

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

シュラウドがゾーンメモリの最大出力を発揮した直後、シュラウドの周辺に束を筆頭とした『NEVER』の面々。織斑先生と山田先生の教師陣。そして楯無達生徒会の面々と、セシリアやシャルロットと言った、IS学園でも比較的実力の高い面子が強制的に集められた。

 

「!? 一体、何をするつもりだ!?」

 

「ふふふ……ッ! 貴方達にも、運命を変えうる『特異点』となってもらうのよ!」

 

『MEMORY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

シュラウドがメモリーメモリのマキシマムを発動させると、その場に居合わせた全員の意識が、現実とは別の場所へと飛ばされる。そしてそこで俺が目にしたモノは、俺の想像を遙かに超えていた。

 

それは、『特異点:オリシュ』が全く存在しない世界。

 

或いは、『特異点:オリシュ』が欲望の限りを尽くす世界。

 

或いは、『特異点:オリシュ』によって滅ぼされた世界。

 

そんな様々な平行世界の光景を、俺は強制的に見せられ続け、様々な世界の記憶の旅が終わった時、俺の精神は漸く元のIS学園へと戻ることが出来た。

 

ふと周りを見てみると、全員が息も絶え絶えで、立つことさえままならない状態に陥っていた。何気なく腕時計で時間を確認すると、驚くべき事に俺が平行世界を体験した時間は、現実世界では僅かに1分と言う短時間の中の出来事だった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「こ、こんな事が……」

 

「ふふふ……それじゃあ、私はコレで失礼するわね?」

 

「……待て、シュラウド」

 

「? 何かしら? 織斑千冬」

 

「何で一夏なんだ? お前の目的は、『白騎士事件』を起こした私達に対する復讐だろう……ッ。一夏は関係ないッ!」

 

「今更引き返せないわよ。貴方もあの子も……『運命を選んだ』のだから」

 

シュラウドの返答は、織斑先生の質問の答えにはなっていなかった。だがその言葉は、何か得体の知れない奇妙な説得力に満ちていた。

 

「シュレディンガー。貴方がこれからどんな決断をするのか、私は何時でも見守っているわ……フンッ!!」

 

その台詞を最後に、シュラウドはその場から強烈な衝撃波を放つと、エクストリームメモリの転移によって、この場を悠々と去って行った……。




キャラクタァ~紹介&解説

ラウラ・ボーデヴィッヒ
 作者が趣味で『アマゾンズ』ネタを加えた結果、原作よりもトンでもない事になってしまったドイツの眼帯少女。原作よりもかなり前倒しで一夏に倒され、意識不明になってしまったが、この後もちゃんと見せ場はある。

シュラウド
 第一話からの伏線回収を担当。『ミレニアム』が「平行世界には“基本世界の運命を事前に知る存在”がいる」事を突き止めていた事を思い出し、それを参考に今まで「事件と言う名の実験」を行なっていた。今回は「これから先の時間軸で起こる物事を、本来それを担う役割の人間に代わって自分が前倒しさせる事」を目的として、IS学園にノコノコとやってきた。
 『鎧武』の戦極凌馬並みの技術力と、『おそ松さん』のイヤミ並みの執念で、専用のドライバーとメモリを作り出た挙句、肉体を超能力兵士に改造している。正直、『W』の裏ボスである加頭よりも性質が悪くなった気がして、私ショックです(棒読み)。



シャウタコンボ
 水棲系コアメダル3枚からなる「海のコンボ」。怒りの王子でもなければ、ウルトラマンでもない。本編ではテーマソングの収録が間に合わず、最終的に本編では戦闘中に一度もテーマソングが流された事が無い事で有名。
 今回はアンクが一夏の不気味な自信の正体を見極める目的で使用。しかし、『仮面ライダーシリーズ』特有の新フォームにおける初登場補正は、原作主人公である一夏の『白式・雪羅』の初登場補正の前に敗れてしまい、更にその後亜種形態のタカウバにチェンジと、割と良い所なく出番を終えた。

U ユートピアメモリ
 理想郷の記憶を秘めたガイアメモリ。この世界では息子である「ライトの生きる世界」を理想郷として望むシュラウドが純正品を使用する。シュラウドが自身の肉体を改造している上に、ガイアメモリを熟知している事も相まって、非常に高い戦闘能力を発揮する。少なくとも迷いを断ち切れないまま立ち向かって勝てる相手ではない。

M メモリーメモリ
 記憶の記憶を秘めたガイアメモリ。この世界ではこちらもシュラウドが純正品を使用。様々な記憶を収集する能力を持ち、『ミレニアム』はこの能力を用いて、観測した平行世界の情報を記録していた。但し、使い手の影響なのか、それとも原作に基づく仕様なのか、収集した記憶が偏っており、「『特異点:オリシュ』が平和を創り出す平行世界の記憶」は収集されていない。

ガイアドライバー
 シュラウドが使用するガイアメモリ専用ドライバーで、一本のメモリの力を最大限に引き出す仕様になっている『ロストドライバー』の発展型。見た目は園崎家が使っているガイアドライバーに似ているが、右腰にマキシマムスロットが備えられている点が異なる。
 しかし、ドライバーの仕様上、使用中は常に使用したメモリのマキシマムドライブを発動している状態であり、作中で見せたメモリーメモリや、ゾーンメモリのマキシマムドライブは、原作『W』で言えば「ツインマキシマム」に該当する荒技。だからこそ本人の素質以上の効果を発揮出来ている訳なのだが。

紅騎士(通常形態/アクセル・バージョン)
 束が造った箒専用機。ISコアは『黒柘榴』のモノを継続使用している。通常形態は原作における『紅椿』に酷似した、第四世代相当の性能を持つ最新型。
 アクセルメモリを使った場合、仮面ライダーアクセルを女性的にしたような姿の全身装甲に変わり、武装にエンジンブレードが追加される。但し、束の趣味で顔の下半分は露出している。

基本世界
 原作『IS〈インフィニット・ストラトス〉』の世界。取り敢えず、ドラマCDやゲーム版の話は完全に無視。転生系オリ主は大きく分けて「原作を知る者」と「原作を知らない者」がいると言う、オリ主系二次小説そのものをネタにしている。5963は勿論後者だが、シュラウドは意図的に前者を創り出そうとしていた。
 実は『基本世界』と言える世界は二つあり、5963と一夏が見せられた『基本世界』は違う。5963はアニメ第二期における『京都修学旅行編』の「VS黒騎士」まで。一夏は原作10巻における『京都修学旅行編』の「下見の時に集合写真を撮った所」までを見ている。

特異点:オリシュ
 この作品の第一話から伏線として張っていたメタ要素の塊。平行世界を観測し続けた『ミレニアム』の貴重な研究成果の一つであり、これを創り出して手なずけ、都合よく利用する事が、対篠ノ之束&織斑姉弟戦の最重要課題だった。
 5963が最終的にアンクと共に『ミレニアム』を裏切る事は、少佐も薄々感づいていた為、取り敢えず『白騎士』となった一夏を『プトティラコンボ』の強制発動によって排除し、暴走させた状態で全てのISの破壊と、束と千冬の二人を仕留める事が出来たら、最後は『虚空の牢獄』でのライダーリンチ……と言うのが、作戦の大まかな流れ。仮に仕留められなくても、可能な限り戦闘力を削ぎ落としてくれればソレで良かった。

平行世界の一夏
 元々は「もしもハーレム系主人公が、自分がモテる事を自覚していたら」と言う、作者がボツにした二次小説のプロットの一つ。元ネタは『よんでますよ、アザゼルさん』のアザゼル篤史。今回の話で一夏が言った台詞はまんまアザゼル篤史の台詞であるが、実際に一夏ならコレが出来る立場にあるので非常に困る。

VTシステムの暴走
 原作では束は「自分は関係ない」と言った風に話しているが、作者は「許せないモノだからこそ、束は何らかの形でコレを排除しようとしていた」と推測しており、トーナメントでの暴走事件は「一夏の為の踏み台」と「VTシステムの排除」を兼ねた、束の策略だと考えている。


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第32話 Sun goes up

四話連続投稿の三話目。連載開始からある意味最も書きたかったシーンを漸く書けたが、流石にここまで時間が掛かるとは思わなかった。


まさかのシュラウド本体によるIS学園襲来から一夜明け、俺の気分は昨日を遥かに超えて憂鬱だった。

 

――貴方は「この世界の誰かと繋がるべきではない」と自覚している――

 

そんな事は言われなくなって分かっている。だが、自分の弱点は自覚していても、他人にそれを指摘されればムカつく様に、自分が気にしている事を言葉に乗せて伝えられたら最後、それはどうしても頭から離れなくなってしまうと言うのが道理である。

 

お陰で俺は今日の全ての授業において、致命的と言えるレベルで集中を欠き、クラスメイトと数名の教師から体調不良を疑われてしまった。

 

「今日はアレだな。調子が悪かったな」

 

『今のお前は「調子が悪い」で済まされない状態だと思うが……』

 

そんな事を言ったって、やせ我慢でも言わなきゃやってられないだろうが。ぶっちゃけ「居場所が無いなら、居場所を作ればいいじゃない」方式で、今までこの世界を生きていた訳だが、心の何処かで何かしっくりとしないと言うか、引っかかる物はあった。

 

言うなれば、「自分がこの世界に居てもいい確信」が無かった。元からこの世界に居る人間ならまずそんな事は考えないだろうが、「自分が別世界の人間」だと自覚している俺にとって、それはとても重大な問題だった。向こうでは首と胴体が二つに分かれて死んだ上に、もう何年も経っているから、仮に元の世界に帰る方法があったとしても、今更家族の元へ帰れないし。

 

「……シュレディンガー。ちょっといいか?」

 

「はい?」

 

若干鬱状態になっていた俺は、織斑先生に誘われるまま、ズンズンと先を進む織斑先生の背中をホイホイとついていった。

 

「今日は……何だ、食欲が無いのか?」

 

「いえ、そう言う訳では」

 

「そうか……」

 

「「………」」

 

会話が続かない。そうこうしている内に周囲に人影が少なくなり、織斑先生の足が止まった時には周囲に誰もおらず、俺と織斑先生の二人だけになっていた。

 

「……お前も知っての通り、私達姉弟は子供の頃に両親に捨てられた。それからの私は、自分一人の力で物事に立ち向かう様になった。身寄りの無い私達に手を差し伸べる者もいるにはいたが、私には全ての大人が両親と同じに見えた。自分の都合で他人を助け、自分の都合で勝手に切り捨てる様な存在なのだとな……」

 

「………」

 

「今にして思えば、私は弱かったのだろうな。一度裏切られたから、もう二度と信じない……そんな風に、大人を信じる事が出来なくなった。そんな心の弱さを隠し、自分や周りに嘘をついて、私は自分を強く見せるようになった。

そうしている内に私は、誰も辿り着けない絶対的な力を、強さを手に入れたつもりになっていた。誰にも見捨てられる事の無い、価値のある人間になれたと思っていた……手に入れた勝利と栄光が、その実、嘘と暗黒に満ちているにも関わらずな……」

 

「………」

 

俺は織斑先生の独白……いや、懺悔と言うべき言葉を、ただ黙って聞いていた。

 

「私は両親を反面教師として、一夏の手本になりたいと日頃から勤めてきた。正しさと、責任と、誇りのある生き方を学んで欲しいと……。だが、『白騎士』が私だと薄々感づいていた一夏は、そんな私を見てこう思ったに違いない。“強い力があれば我を通せる”。“圧倒的な力の前では、如何なる存在であろうと無力である”と……」

 

「………」

 

「だからかな。一夏は何かトラブルがあると暴力による解決を求め、それを止めようとしなかった。『何があっても自分を曲げない』。それは確かに私が求めた強さだが、それは一歩間違えれば、『何があっても、何を言われても変わろうとしない』と言う危険との隣り合わせ……私はそんな事にも気づかず、教えてやれてもいなかった……」

 

「……ですが、それは織斑先生が、それだけ一夏にとって絶対的なモノになっていると言う事の証明でもある」

 

「………」

 

「一夏は織斑先生の強さに憧れた。ただ、憧れは理解から一番遠い感情なんだって事に気づいていない……ただ、それだけの事ですよ」

 

「……そうか。そうだと良いのだが……」

 

それからしばらく、俺と織斑先生は同じ方向を見ていた。互いに言葉を一切交わすこと無く、静かに時間だけが過ぎていった。

 

「……お前の両親は、きっと素晴らしい人物なんだろう。束やクロエや、マドカ達を見ていれば分かる。もし、もしお前の様な兄が私達にいれば……私は、私達はきっと、道を誤る事もなかったのだろう……」

 

「まあ……これでも一応、俺は束よりも年上ですし」

 

「フッ。そう言えばそうだったな」

 

ずっと神妙な表情をしていた織斑先生が、ようやく笑みを浮かべた。夕日に照らされたその顔が、何処か寂しげに見えたのは、俺の気のせいだろうか?

 

「シュレディンガー。一つ、頼まれてくれないか?」

 

「? 何でしょうか?」

 

「ボーデヴィッヒの事だ。お前なら、アイツを何とか出来るだろう?」

 

「まあ、確かに出来るとは思いますが……それは何時頃にやれば良いですか?」

 

「そうだな。出来るだけ早い方が良い」

 

「それでは、今夜にでも」

 

「ああ、私が言うのも何だが、ボーデヴィッヒを頼む」

 

幸い、意識不明の人間の意識の中に入った事は、一度や二度では無い。しかし、相手はまともにコミュニケーションを取った試しがないラウラだ。取り敢えずは『NEVER』の拠点に行って、束やクロエの意見を聞いてみるとしよう。

 

「……決着を着けよう。『白騎士』」

 

織斑先生の小さな呟きは一陣の風に掻き消され、『NEVER』の拠点に歩を進める俺の耳に入ることは無かった。

 

 

○○○

 

 

千冬姉がゴクローを連れて何処かに行くのを見た俺は、二人に気づかれないようにこっそりと後を付けた。気づかれない事を最優先にしていた所為で、二人の会話は聞こえなかったが、千冬姉の雰囲気が俺の知る千冬姉とは違うことが嫌でも分かった。

 

違う。千冬姉はあんな顔をしたりしない。あんなのは、俺の知っている千冬姉じゃない。

 

元の千冬姉に戻さなければ……そう考えながら俺がフラフラと適当に学園を歩いていると、最近知り合った三年生のダリル先輩が話しかけてきた。

 

「よぉ! 浮かねぇ顔だな? どうした?」

 

「いや……別に……」

 

「別にじゃねぇだろ~? 後輩の悩みを聞くのも先輩の仕事だぜ~?」

 

「……実は……」

 

俺は自分の悩みを全て話した。ダリル先輩は俺の悩みに対して、親身になって相談に乗ってくれた。そんな心地よい時間は、千冬姉からのメールで一変する。

 

「これは……」

 

「『夜に第3アリーナで待つ』……か。まるで決闘だな」

 

「決闘……」

 

「まあ、心配するな。俺も協力出来る事があるなら、協力してやるからよ」

 

そう言うとダリル先輩は、胸を叩いて俺の手助けをする約束をしてくれた。

 

……そうだ。俺は間違って何ていない。此処には確かに、あの京都駅で写真を撮ったあの日へと続く、『本来あるべき世界』の一端がある。

 

確信を得た俺は、皆を元に戻す為に、まずは千冬姉を元に戻さなければと決心した。

 

 

●●●

 

 

ささやかな夕食を終えた俺は、IS学園の中にある専用の治療設備がある部屋で今も眠り続けているラウラの元にいた。

 

「本当によく眠っているな。まるで眠り姫だ」

 

「そうだね。こーゆー時は、王子様がキスをすれば良いんだよね?」

 

「いや、七色に光り輝く剣で切り裂けばいいんだ」

 

「ちょっと止めて、マジに止めて。マジでアレは怖かったんだから」

 

束とアンクのやり取りに鈴音が割とガチになって割り込んでいるのを見て、若干申し訳ない気持ちになる。まあ、確かに聖剣で強制覚醒なんて展開のお伽噺はちょっと無いな。

 

「それにしてもちょっと、警備が厳重過ぎはしないか?」

 

「何言ってるのよ。相手の事を考えれば、これだけ戦力を集めても足りないわよ」

 

そう言う楯無の目に油断は無い。確かに、万が一シュラウドが攻めてきた場合、本人の戦闘力の高さに加え、京水と言った面倒な手下を従えている事を考えるとそうなのかも知れないが。流石にマドカ、箒、鈴音、楯無、簪、セシリア、シャルロット、山田先生と言うIS学園でも結構な実力者8人が一堂に会するのを見ると、過剰防衛なのでは無いかと思わずにはいられない。

 

「それじゃあ、そろそろ始めるか」

 

「うん、コッチは何時でも大丈夫だよ」

 

「では……」

 

「ETERNAL!」

 

「変身!」

 

『ETERNAL!』

 

ロストドライバーとエターナルメモリを使い、青い炎を纏った『ブルーフレアRX』へと変身し、ラウラの隣のベッドで横になると、三本のガイアメモリをメモリスロットに装填し、マキシマムドライブを発動させる。

 

『LUNA・NIGHTMARE・ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

幻想を司るルナメモリと、夢を司るナイトメアーメモリ。更に過剰適合に加えてレベル2に進化している、空間を司るゾーンメモリを同時に発動させる事で、俺の意識は幻想と現実の狭間にあるラウラの精神世界へと転送される。この間のラウラのバイタルチェックはクロエが、俺のバイタルチェックはアンクが担当し、総指揮は束に任せてある。

 

「……上手くいったみたいだね」

 

「はい。兄様もラウラも、共にバイタルは正常です」

 

「それにしても、凄いシュールな光景だな……」

 

「そうだね……」

 

どう見てもヒーローにしか見えない男が、ベッドインしてスヤスヤと眠っている光景は、確かにシュールであろう。しかし侮るなかれ、コレはれっきとした人命救助の光景なのだ

 

「後は……こうしている間に、千冬さんが『白騎士』を倒せば……」

 

「ああ、全てが終わる」

 

ゴクローの預かり知らぬ所で、彼女達の計画は順調に進行していた。

 

 

●●●

 

 

ラウラの精神世界へのサイコダイブを果たした俺は、『ブルーフレアRX』ではなく、生身の姿で何処かの軍隊の施設の内部の様な場所に立っていた。

 

「ここは……」

 

「ここ最近の成績は振るわないようだが、何心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。何せ私が教えるのだからな」

 

「む?」

 

織斑先生の声が聞こえた方向に目を向けると、そこには軍服を着た織斑先生とラウラがいた。

 

どうやら此処は、ラウラがドイツで織斑先生と一緒だった頃の記憶がベースになっているらしい。それからしばらく二人を見ていたが、織斑先生は今よりも鋭い印象を受け、ラウラは嬉しそうな表情をしていた。

 

それにしても、ラウラは意識不明になってから、ずっとこの世界で過去の出来事を繰り返していたのだろうか? それはラウラにとって、現実よりも甘美で居心地の良い世界には違いない。

……だが、ラウラには目覚めて貰わなければ困るのだ。他ならぬ織斑先生が、お前の帰りを待っているのだから。

 

「よう。随分と楽しそうだな」

 

「! お前は……」

 

「久し振りだな、兄妹?」

 

最初に出会った時と同じイントネーションで、俺はラウラに話しかけた。個人的には「ラリホー!」と叫びたかったのだが、流石に空気は読んだ。

 

 

○○○

 

 

ゴクローがラウラと精神世界で再会を果たしていた頃、織斑姉弟は第三アリーナで剣呑な雰囲気の中で対峙していた。

 

「こんな時間にこんな場所で……何のつもりだよ、千冬姉」

 

「……私には勤めが、やらなければならない事が残っている。この手で、お前を止めなければならない……」

 

「止める? 何のことだよ千冬姉?」

 

「……どうして、ボーデヴィッヒのISのISコアを破壊した? あんな事をしなければ、ボーデヴィッヒは今頃とっくに目覚めていた筈だ」

 

「それは全部アイツの所為だ。アイツの所為で、ラウラは目覚めない」

 

「……違う、シュレディンガーは関係無い。ラウラが目覚めないのは、お前の責任だ」

 

「……なあ、千冬姉、俺は知ってるんだぜ? ラウラのISに搭載されていた『VTシステム』がどんなモノなのかって事も、ラウラは力に溺れたんだって事も。だから俺はそんな偽者野郎を、ぶん殴ってぶっ壊した。それの何が悪いってんだよ」

 

「やり方が間違っていると言っているんだ! 昔にも言った筈だ! こんな方法では、何の解決にもならないのだと!」

 

「何でそんな事言うんだよ! 俺はこの学園の平和を、世界の未来を脅かす爆弾を処理したんだぜ!? むしろ、褒めてくれたっていいじゃねぇか!!」

 

「……そうか。それが、私から学んだ結論か」

 

そう言う千冬がポケットからアクセサリーの様なモノを取り出すと、千冬の全身が輝き、その姿は一変していた。

 

千冬が身に纏うのは、『暮桜』のISコアを元に造られたガイアメモリ対応IS『黒騎士』。

 

その通常形態は、織斑千冬が現役時代に使用していたIS『暮桜』を黒くした様な姿をしており、一夏が撃破した『シュヴァルツェア・レーゲン』が、「VTシステム」を発動させて変化した姿に酷似していた。

 

「それは……」

 

「『黒騎士』。私の新しい……そして最後の刃だ」

 

現役を引退して尚、「世界最強」と名高い自慢の姉。それが今、かつて囚われた自分を助け出した時と酷似した姿で、あの時とは全く異なる感情のこもった視線で、銃剣を構えて自分にその切っ先を向けている。その事実に、一夏は少なからず動揺していた。

 

「構えろ一夏。お前の性根を叩き直してやる」

 

「……分かってたよ千冬姉。俺の知る元の千冬姉に戻すには、こうするしかないって」

 

唯一と言える肉親の戦意を前にして、一夏もまた光と共に姿を変えた。

 

月夜が照らす第三アリーナで、白と黒が並び立つ。白は自分の信じる世界の為に。黒は自分の罪を清算する為に。

 

それぞれの思いを乗せた二つの刃は、白と黒の閃光の後に、火花を散らせて激突した。

 

 

●●●

 

 

俺はラウラと二人だけの世界で、南米でラウラと分かれてから起こった事を、ラウラが倒れてから起こった事の全て話した。

倒れてからの事にはあまり関心が無いようだったが、失敗作として処分された姉達の末路に関しては深い悲しみの表情を見せた。

 

「……そうか。迷惑をかけたな……」

 

「いや、お前が気にする必要は無い」

 

「……姉は、姉達は……今の私をどう思っているのだろうな?」

 

「……さあな。だが、少なくとも『不幸になって欲しい』とは思っていないだろうさ」

 

「……そう言うものか?」

 

「ああ、現にクロエはお前を心配してる。姉妹ってのはそう言うものだ」

 

「そ、そうか……そう言う……ものか……」

 

う~む。ラウラのこの反応を見る限り、ここに編入してからクロエに話しかけなかったのは、別に「クロエとは話もしたくない」って感じではなく、「クロエとどう接すれば良いのか、勝手が分からない」って感じだったようだ。

 

……まあ、今まで避けていた俺とこうして話しているのは、逃げ場が他に無いと言う事で観念している所為なのかも知れないが。

 

「所で、『VTシステム』が発動した時、何か無かったか? 何と言うか、得体の知れない悪魔染みた声が聞こえたとか」

 

「? ……いや、そんなモノは聞こえなかったが?」

 

? 妙だな。『VTシステム』は『白騎士の意思』を参考にして作られており、それを搭載すると言う事は、「“ISコアの人格”の中に、ソレと異なる“別の人格”を移植する」ようなモノ。

故に『VTシステム』が発動する際には、その“移植された別の人格”が表に現われるのだが、ソレが無かったと言う事はどう言うことなのか? ラウラの言う事が本当なら――

 

「『VTシステム』が発動する訳が無い。そうよね?」

 

「「!?」」

 

俺は聞き覚えのある声がした事から、ラウラは不意に現われた闖入者への警戒から、示し合わせたように同時に声のした方向を見る。そこには、やはり全身が黒ずくめで、顔に包帯を巻いた状態でサングラスをかけたシュラウドが立っていた。

 

「だ、誰だ!?」

 

「シュラウド……。どうやって……いや、どうして此処に?」

 

「愚問ね。私を誰だと思っているの? 貴方に出来て私に出来ない事は殆ど無い。そして此処に来たのは、ちょっとした親切心よ。実はその子のISに搭載されていた『VTシステム』は、私がタイミングを見計らって、外部から強制的に発動させたの。だから、その子の意思は関係無い」

 

「何ッ!?」

 

「ハッキングか……!」

 

「その通り。そして、織斑一夏は“力に溺れたラウラ・ボーデヴィッヒ”しか知らない。だから今回の事も、“ラウラ・ボーデヴィッヒが力に溺れて『VTシステム』を作動させた”としか思っていない。そして、“撃破した後のラウラ・ボーデヴィッヒは必ず改心し、自分に感謝する”。だから、そうならないこの世界がおかしい。そしてその理由が貴方にあると本気で思っているのよ」

 

「……つまり、一夏とラウラは、アンタの掌の上で弄ばれたって解釈で良いのか?」

 

「それは半分正解で半分誤解よ。あの子は見てるだけで面白い。私が弄るまでも無く、自分にとって都合の良い事ばかりを考えて、勝手に踊って壊れていく……最高によく出来ているわ」

 

人を小馬鹿にした態度で一夏を語るシュラウドに、どんどん苛立ちが募っていく。そんな俺を愉快そうに横目で見ながら、シュラウドは俺にとっては正に寝耳に水と言える、特大の爆弾を投下した。

 

「所で、外で今何が起こっているか知ってる? 織斑姉弟が一対一で戦っているのよ?」

 

「はぁッ!?」

 

「教官とヤツが!? どう言う事だ!?」

 

「まあ、自分が犯した罪の精算と言うのもあるけど……大手の目的は貴方の為よ。ゴクロー・シュレディンガー。貴方と『白騎士』を戦わせない為にね」

 

「? 俺の為?」

 

「ええ、昨日見せた『平行世界の記憶』だけど、アレは実は全員に同じモノを見せたわけじゃないの。貴方は知らないでしょうけど、『オーズ』には装着者の意思に関係無く、『白騎士』を完全撃滅させる為の“暴走スイッチ”が仕込まれている。貴方もよく知る“紫のコアメダル”がソレよ。ソレは一度発動したが最後、装着者から自我を奪い、殺戮欲求と闘争本能を強制的に引き出し、死ぬまで戦闘を止める事は無い。『白騎士』が倒されたとしてもね。そして、私はそうなった平行世界を、昨日のあの場所に居た“貴方以外の全員”に見せたの」

 

「何……!?」

 

あの場に居た、俺以外の全員!? チョット待て、それじゃあもしかして、あの過剰とも言える布陣が組まれたのは……。

 

「そして織斑一夏を倒すには『特異点:オリシュ』の力が必要不可欠。そして、織斑一夏と同様に平行世界の記憶を持った事で未来を変えうる『特異点』と化した自分なら、織斑一夏を……ひいては『白騎士』を倒せる。そう織斑千冬が思っても不思議は無いわ。

でも正直、水を差すような真似は止めて欲しいわね。最も憎むべき存在の一人が、たった一人の血を分けた肉親と互いに殺しあう……これ以上に愉快な活劇があると思う? ここは静かに見守るのがマナーなんじゃないかしら?」

 

「ふざけるな……ッ!」

 

そうか。それで、シュラウドは昨日、織斑先生や束に手を出さなかったのか。こうなることを見越していて……。

 

「……まあ、不満があるなら、今すぐに行ってご覧なさい。私が思う通りなら、貴方は絶対に間に合わない」

 

「……さて、ソイツはどうかな?」

 

「行くのか?」

 

「ああ」

 

「……私がこんな事を言うのはナンセンスだと思う……だが、教官を頼む」

 

奇しくも、織斑先生と同じ言葉を俺に投げかけたラウラ。その顔は自分ではどうする事も出来ない事を、自分の無力さを嘆くような表情だった。

 

「任せろ。兄妹」

 

後ろ向きでサムズアップをしながら、俺はラウラの精神世界から脱出した。

 

 

○○○

 

 

月光が第三アリーナを照らし、白と黒が幾度目かの閃光と火花を散らして交差する。千冬の操る『黒騎士』は、かつて自身の愛機だった『暮桜』のISコアを使用しており、その機体スペックは完全な織斑千冬専用として調整されており、必殺の武装である『零落白夜』もまた健在である。

そして、如何に第二形態への進化を果たした『白式・雪羅』が、防御力以外の単純な機体のスペックでは『白式・雪羅』の方が『黒騎士』を上回っているとは言え、相手は現役を引退して尚、間違いなく世界最強のIS操縦者である織斑千冬。戦闘経験と実力はソレを補って余りあり、一夏を完全に圧倒していた。

 

「ふんッ!!」

 

「がぁっ!!」

 

「何故、私の影ばかりを引き継いだ!? 私以上に輝く才能を持ちながら!」

 

雪片弐型と無双セイバーによる鍔迫り合い。その最中に千冬は一夏に問いかける。

 

「影!? 俺のやった事の、何処が千冬姉の影だって言うんだよ!! 千冬姉は完璧だ!! 千冬姉のやってきた事に影なんて……間違いなんてないだろ!!」

 

「違う! 私は“そう言う風”に見せてきただけだ! 周りに嘘をつき、自分自身にも嘘をついて、ずっと誤魔化して生きてきた!! だから……ッ!」

 

「ぐわぁああッ!!」

 

無双セイバーの後部スイッチを引き、引き金を引くことで6発の光弾が至近距離から発射され、全ての光弾が一夏に命中する。予想外の攻撃に怯んだ一夏はその場を後退し、そこが千冬の間合いとなった。

 

「だから私を……『完璧だ』等と、言ってくれるなッ!!」

 

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

無防備な一夏の体へ袈裟による『零落白夜』の一撃が決まった事で、『白式・雪羅』のシールドエネルギーがゼロになり、織斑姉妹の戦いの決着がついた……かに思われた。

 

「!? あああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 

「……ようやく、出るべきものが出たか……」

 

一夏の目が金色に輝き、『白式・雪羅』から青く激しい電流が走ると、まるで昆虫の脱皮の様に『白式・雪羅』の装甲が剥がれ落ち、その中から全身装甲を纏った白い戦士が出現する。

 

操縦者である一夏を素体として、織斑千冬の『白き闇』が――『白騎士』がこの世界に再び現われたのだ。

 

「……お前は私の影だ。私の犯してきた、過ちの全てだ。だからこそ……」

 

『JOKER!』

 

「ここで終わらせる」

 

その光景を目の当たりにした千冬は、右手にジョーカーメモリを召喚し、スイッチ押してジョーカーメモリを起動させると、腰にロストドライバーが装着される。

 

「……変、身っ!!」

 

『JOKER!』

 

これまで歩いてきた自分の道筋を振り返りながら、万感の思いを込めて千冬はジョーカーメモリをメモリスロットに装填し、『黒騎士』は更なる変化を遂げる。その姿はかつて自身が身に纏い、そして現在目の前で対峙している『白騎士』に酷似した、紫のラインが入った黒い全身装甲のISへと変化した。

 

「資格の無い、者に、力は、不要」

 

「………」

 

――ああ、そうだ。私にその力は、不要なモノだった――

 

千冬は『白騎士』の言葉に、共感と対立の二つの感情を抱きつつ、最後の戦いの火蓋を切る為に宣言する。

 

「――さあ、お前の罪を数えろ!!」

 

 

●●●

 

 

夢の世界から舞い戻った瞬間、周りの声を無視して『ブルーフレアRX』の姿のまま第三アリーナへ向かって爆走する。黒いマントを翻して夜の学園を駆け抜けるエターナルと言う、第三者から見てかなりアレな光景を作りだしながら、兎に角二人の戦いに間に合う事だけを考えて走った。

 

しかし、そんな先を急ぐ俺の前に、予想外の人物がISを纏った状態で立ちふさがっていた。

 

「!? ダリル・ケイシー?」

 

「先輩をつけろよ。年はそっちが上でも、俺の方が先輩なんだぜ? 失礼な奴だな」

 

確かに。しかし、こんな時間に、こんな場所でISを展開している事を考えると、この出会いは決して偶然ではあるまい。

 

「……一体何のつもりだ?」

 

「いや、何。可愛い後輩が頑張ってるんで、先輩としてちょっとお節介を焼いてやろうと思っただけでよ?」

 

「それは本心か? ダリル・ケイシー。……いや、レイン・ミューゼル」

 

「!! テメェ、何で知ってる?」

 

「何で知らないと思う?」

 

「……まさか、気づいていてワザと放置してたのか?」

 

「アバズレの居場所を突き止める為にな。もっとも、二年のフォルテ・サファイアとイチャイチャしてるばっかりで、碌な情報は得られなかったが」

 

「覗き魔のストーカーかよ。気持ちワリィな」

 

「お前も同じ穴の狢だろうが。女にしか興味が無いと思っていたが、まさか男にも興味がある両刀使いだとはな……」

 

「「………」」

 

こうして話している間にも時間は刻一刻と過ぎていく。コイツとこんな事をして時間を無駄にする訳にはいかないが、相手はむしろソレが狙いなのだから面倒な事である。

 

「そこをどけ」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「押し通る」

 

その直後、ダリル・ケイシーのIS『ヘル・ハウンド』の両肩から二つの火球が放たれる。それをエターナルロープで防ごうと思ったその時、不思議な事が起こった。

 

束に預けた筈の「DXオーズドライバーSDX」が、三つの紫色のメダルと共に空中を浮遊し、炎を掻き消したのだ。

 

「あん? 何だ、こりゃ?」

 

「コレは……まさか!!」

 

「逃げろ、ゴクロー!!」

 

猛烈に嫌な予感がした。その予感は、背後から追いかけてきただろうアンクの声と、複数人の駆け足が聞こえた直後に的中した。

3枚の紫色のメダルが俺を攻撃し、強制的にエターナルの変身が解除させると、「DXオーズドライバーSDX」が腰に装着されて全く身動きが取れなくなり、オースキャナーが独りでに動き出して空中に浮遊する。

 

そして、この時の俺は気づいていなかったが、俺の両目は紫色に輝いていた。

 

「「「「「「「!!」」」」」」」

 

次の瞬間、駆けつけたマドカ、箒、鈴音、簪の四人が瞬時にISを展開し、ダリル・ケイシーは再び俺に向かって炎をまき散らした。

 

俺を含めた全員がきっと同じ事を考えていたのだろう。

 

なんとしてでも、コレを今の内に何とかしなければならないと。

 

この力が解放されたが最後、恐ろしい事になると。

 

正面に立つ『ヘル・ハウンド』の両肩からは絶えず炎が放たれ、それをプテラコアメダルが防ぐ。残ったトリケラコアメダルとティラノコアメダルを、駆けつけたマドカと箒が攻撃する事でドライバーへの装填を防ぎ、鈴音が空中に浮かんだオースキャナーを掴み、簪は俺の腰からドライバーを外そうと躍起になっていた。

 

「ちょッ!? 何よコレ!?」

 

「全然……、外れない……ッ!」

 

「ガッ!? グッ!! クソッ!! 何が何でもゴクローを変身させる気か!?」

 

「掴んだ!! コレで……うわぁ!?」

 

「「「「箒!!」」」」

 

攻撃された事でトリケラコアメダルとティラノコアメダルは攻勢に転じ、ISを纏うマドカと箒を翻弄し始めた。マドカは次々とビットを破壊され、メダルを掴んだ箒に至っては、腕部装甲が砕かれている。

 

「あ、アンク!! コレ、どうにかならないの!?」

 

「この強制力に対抗出来るとすればコンボしかない! どうせコンボを使うなら、コイツで……ぐわああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

「「「「アンクゥウウウウウウウウウウウッ!?」」」」

 

「がッ……駄目だ、紫のメダルの力で近づけねぇ。……簪! お前がコイツをドライバーに装填しろ!」

 

「わ、分かった……!」

 

この状況下でアンクが選択したコアメダルは、サイ・ゴリラ・ゾウの三枚。それを簪がドライバーに装填して傾けると、鈴音がオースキャナーで、ベルトのコアメダルを勢いよくスキャンする。

 

『サイ! ゴリラ! ゾウ! サッゴーゾ、サッゴーゾ!』

 

無数のメダル状のオーラに包まれ、俺は『オーズ・サゴーゾコンボ』に変身する。そしてサゴーゾコンボへの変身が完了すると、紫のコアメダルはドライバーの中に戻っていった。

 

「……がはっ!! ア、アンク……」

 

「!! よし、上出来だ!!」

 

「……マドカ、箒、鈴音、簪。すまん、助かった」

 

「礼はいい……それよりも、大丈夫なのか?」

 

「ああ、何とかな」

 

「なら、後は任せる……」

 

「うむ。済まないが……ダメージが大きい」

 

「ああ……鈴音、簪、二人を頼む」

 

「う、うん」

 

「アンタも、気をつけなさいよ!」

 

たった二枚のメダルの力で、マドカと箒のISはボロボロになっていた。それにしても『プトティラ』への強制変身を止めようとした二人が深く傷つき、俺を攻撃し続けていたダリル・ケイシーだけが無傷と言うのは何とも皮肉な話である。

 

「チッ。『コンボ』って奴か。見たことねぇタイプだが、どんなモンかは想像がつくぜ? 攻撃力と防御力に特化したパワーファイターってトコだろ? 違うか?」

 

「いや、それで合ってる。そしてぶっちゃけると、機動力はコンボの中でもダントツで低い」

 

「つまり、当たらなけりゃ問題無ぇって訳だ。そーゆー分かりやすいのは好きだぜ」

 

「そうだ。だが……問題ない」

 

俺は『ヘル・ハウンド』を纏ったダリル・ケイシーに狙いを定め、ゴリラのドラミングの様に両手の拳でオーラングサークルを何度も何度も叩く。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「? 一体何を……ッ!?」

 

瞬間、俺の行動を怪訝な表情で見ていたダリル・ケイシーの顔に、驚愕と困惑の表情が浮かぶ。サゴーゾの固有能力である『重力操作』によって、ダリル・ケイシーに掛かっている重力は通常の10倍程に増している。今のダリル・ケイシーは、動くことすらままならない筈だ。

 

「………」

 

「ヤ、ヤベェ! このッ!!」

 

炎で攻撃する。しかし、サゴーゾは元々防御力が高く、俺は更にその防御力を高める為にメタルメモリを使っている。故に、今の『オーズ』は生半可な攻撃では傷一つ付ける事さえ叶わない。

 

「ッ!! こんのぉおおおおッ!!」

 

「オラァアアアッ!!」

 

「うごおおおおおおおおおおッ!?」

 

炎による遠・中距離攻撃が通用せず、確実に接近する俺に対し、ダリル・ケイシーは双刃剣『黒への導き【エスコート・ブラック】』を振るうが、俺は双刃剣諸共、ダリル・ケイシーを真っ正面から殴り抜ける。双刃剣は粉々に砕け、『ヘル・ハウンド』の装甲にも大きな亀裂が入っている。

 

「が……はっ……、たった、一発で……コレ、かよ……」

 

パワー・パンチ力・強靱さに優れたゴリラアームは、元々その硬質によってあらゆる物を破壊するガントレット状武器『ゴリバゴーン』によって桁外れの攻撃力を誇るが、それがメタルメモリの防御力強化によって、更なる攻撃力増強に繋がっている。だからこそ、一発良いのを当てれば、勝負の流れは一気に変わる。

 

「これで終わりだ」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

メダルを再スキャンした直後にその場で跳躍し、着地した瞬間に発生した衝撃と共に、三つの銀色のリングがダリル・ケイシーを拘束する。身動きの取れないダリル・ケイシーは地面にめり込みながら、見えない力によって俺の方へズルズルと引き寄せられていく。

 

「ちぃいいいいいいいいッ!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!! セイ……」

 

頭突きと両手のフックパンチが命中する瞬間、ダリル・ケイシーが横から飛んできた巨大な氷塊によって吹き飛ばされ、キルゾーンから離脱する。「サゴーゾインパクト」は氷塊を砕いただけで、肝心のダリル・ケイシーに止めを刺す事は出来なかった。

 

一体誰が……と思ってダリル・ケイシーが吹き飛ばされた方向の反対側を見ると、そこには『コールド・ブラッド』を纏ったフォルテ・サファイアが立っていた。

 

『ヤンキー娘を助ける為にヤンキー娘を攻撃したのか。中々やるな』

 

「フォ、フォルテ……助かったぜ……」

 

「なに、してんスか。先輩……」

 

倒れるダリル・ケイシーを一瞥してから、俺を見つめるフォルテの目には、冷たく鋭い怒りが明確に見えた。今のフォルテ・サファイアにとって、俺は自分の恋人をフルボッコにする悪漢に見えているのだろう。

しかし、面倒な事になった。サゴーゾはタイマンには強いが、鈍重な為に複数の敵との戦いが苦手だ。しかも此奴ら二人はコンビを組んだ時に、冷気と熱気の相転移によってエネルギーを変換、分散させる事で『イージス』と言う防御結界を張ることが出来る。

 

ここで余り時間を消費する訳にもいかないし……ここはこのメモリを使うか。

 

『DUMMY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

メモリをメタルメモリからダミーメモリにチェンジし、マキシマムドライブを発動すると、俺の隣にもう一人の俺が……すなわち、『オーズ・サゴーゾコンボ』がもう一人現われた。

 

「何ッ!?」

 

「えッ!? えッ!?」

 

「超変身!!」

 

『ライオン! トラ! チーター! ラタラタ~! ラトラーター!』

 

此奴らの事だから、昆虫系コンボである『ガタキリバ』の分身生成能力は知っているだろうが、まさかそれ以外の方法で分身する事が出来るとは考えが及ばなかったのだろう。

その隙を突いて、本体の俺は『サゴーゾ』から『ラトラーター』へとコンボチェンジ。メモリもダミーからルナへと変えた。

 

兎に角、早急にこの二人を倒すには、何とかして一対一に持ち込む必要がある。その為には……。

 

「こ、こんな裏技、私聞いて無いッスよ!」

 

「フ……二対一は卑怯だろ。もっとも、これから三対二になるんだけどな」

 

「!! もしかして、他に仲間を――」

 

「GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!」

 

「うわぁあああああああああああああ!?」

 

フォルテ・サファイアは、遠隔操作によって呼び出したトライドベンダーに背後から噛みつかれ、強制的にダリル・ケイシーの元から引き離される。それを見た本体の俺はトライドベンダーに飛び移り、フォルテ・サファイアと共にその場を離脱した。

 

「フォルテ!!」

 

「余所見してる場合か!?」

 

「うぼぉおおおおおおおおおおおおおッ!?」

 

遠ざかる恋人に手を伸ばすダリル・ケイシーに対し、分身の『オーズ・サゴーゾコンボ』が容赦なくロケットパンチ「バゴーンプレッシャー」をぶつける。ダリル・ケイシーはまたもや攻撃をまともに食らい、更にダメージが蓄積していく。

 

一方のフォルテ・サファイアは、トライドベンダーによって極力戦闘の余波による影響の出ない場所まで移動させられ、『ラトラーター』と一対一の戦闘を強いられていた。

彼女の専用機である『コール・ブラッド』は冷気を操る能力を持ち、彼女自身も決して弱くは無いのだが、元々戦闘能力に優れている猫科動物の特性を色濃く持ち、更に熱線を操る能力を持っている『ラトラーター』は、彼女にとって余りにも分が悪過ぎる相手だった。

 

「フッ!! ハアッ!! ガァアアアアアアアアアアッ!!」

 

「うあっ! ぐっ! うわああああああああああああああっ!!」

 

高出力の熱エネルギーによって、生成した氷塊や氷柱は瞬く間に蒸発し、近接戦闘においては全く手も足も出ない。そんな猛攻の中でフォルテ・サファイアは、猛獣に狩られる草食動物の気持ちを理解した。

 

そして、離れた場所で戦う二人の『オーズ』は、全く同じタイミングで必殺技の発動体勢に入った。

 

『『スキャニング・チャージ!』』

 

「「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」

 

ダリル・ケイシーは三つの銀色のリングによって再び重力の坩堝に叩き込まれ、フォルテ・サファイアは三つの黄色いリングを通過した『ラトラーター』の放つ激しい閃光によって、動きを止める。

そして、ダリル・ケイシーには『サゴーゾ』の「サゴーゾインパクト」が、フォルテ・サファイアには『ラトラーター』の「ガッシュクロス」がそれぞれ炸裂した。

 

「が、はぁ……」

 

「うぅ……」

 

『ヘル・ハウンド』と『コールド・ブラッド』のエネルギーがゼロになった事で解除され、その場にダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアが横たわる。二人とも体力を摩耗して身動きを取ることもままならないが、それでも辛うじて意識を保っていた。

 

取り敢えず、この二人はダミーメモリの分身に任せ、俺はトライドベンダーに跨がり、再び第三アリーナを目指す。

 

頼むから、間に合ってくれ……!

 

 

○○○

 

 

その頃、『白騎士』と『黒騎士』の戦いは終演に近づいていた。

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「フンッッ!!!」

 

ジョーカーメモリのマキシマムドライブを発動させ、只でさえ向上していた身体能力と技能を更に上のレベルへと引き上げる。そこから繰り出される紫の斬撃は『白騎士』の斬撃をいなし、その白い装甲へ一太刀、更に一太刀と、確実にカウンターの要領で切り裂いていく。

そして、幾度となく繰り返された剣劇の嵐の中、遂に『黒騎士』の一撃が『白騎士』の右手首を捉え、『白騎士』から近接ブレードを弾き飛ばした。

 

「!!」

 

「これで終わりだ!」

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

ここで勝負を決めるべく、千冬は再度マキシマムスロットをタップする。最高出力を発揮した紫の一閃は『白騎士』のISコア目がけて真っ直ぐに振り下ろされ――。

 

「酷いよ。千冬姉……」

 

「……ッ!!」

 

――『白騎士』に触れる直前で止まった。

 

「ハァアッ!!」

 

「ぐああああああああああああああっ!!」

 

その一瞬の隙を突き、『白騎士』は「零落白夜」の爪を手刀の様に束ねて一枚のブレードとし、『黒騎士』を左下から右上へ、斜め上に切り上げる。『黒騎士』の装甲は胸部から頭部に至るまで切り裂かれ、その中にある千冬の体と顔から血が噴き出していた。

 

「うぁあ……ッ、ぐぅうううッ!!」

 

朦朧とする意識の中、自身の甘さを痛感しつつ、千冬は最後の力を振り絞り、使うつもりが無かった「禁じ手」の使用に踏み切った。

 

元々束が開発した『青騎士』『黒騎士』『紅騎士』の三機は、『オーズ』を守る事をコンセプトとして製作された機体だが、束はそれぞれの機体に“それ以外”の役割を持たせていた。

 

『青騎士』は『オーズ』が戦闘不能になった場合において、ナスカメモリのマキシマムドライブによる超高速を利用した、戦場からの迅速な離脱を。

 

『紅騎士』は『オーズ』の「シュナイダーユニット」の使用限界を、「絢爛舞踏」と名付けた特殊能力によってカバーする事を。

 

そして『黒騎士』に与えられた役割は、『オーズ』が暴走状態に陥った際に、可能な限り無傷で止める事。その為に『黒騎士』に搭載された「最後の切り札」は――

 

『ETERNAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

――IS仕様に製作された「エターナルエッジ」と、複製された「エターナルメモリ」。

 

そもそも『エターナル』が、『白騎士』と『暮桜』のデータを元にしていた以上、千冬のエターナルメモリとの適合率が高いのは必然であり、実際に千冬のエターナルメモリとの適合率は、ゴクローはおろか少佐をも上回っており、理論上では『オーズ』の持つメモリの能力を完全に停止させる事が可能だった。

 

『MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM……』

 

しかし、今回千冬が使用したのはソレをも上回る力を発揮する、『ジョーカーメモリ』と『エターナルメモリ』によるツインマキシマム。

千冬は『黒騎士』にのみ許された「禁じ手」を使い、二つのメモリの力を限界以上に引き出すと、残り少ない力を振り絞って、青紫に輝くコンバットナイフの切っ先を『白騎士』のISコアを目がけて振り下ろす。

 

――さらばだ、『白騎士』――

 

『MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM-DRIVE! MAXIMUM……』

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「ぐっ! ああああああああああああああああああっ!!」

 

コンバットナイフの刀身は『白騎士』の装甲を貫き、ISコアに深々と突き刺さる。壊れたテープレコーダーの様に繰り返される、最大出力を意味する音声を聞きながら、千冬はコンバットナイフを両手で握り、渾身の力を込めて刃を押し付けながら、徐々に『白騎士』の装甲を切り裂いていく。

 

――済まない『白式』。そして……――

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! せいやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」

 

千冬の贖罪の思いと、『切り札の記憶』と『永遠の記憶』が込められた刃は、遂に“『白騎士』の意思”を、“『白式』の意思”とISコア諸共両断した。そして性能限界を超える力を発揮し続けたジョーカーメモリとエターナルメモリは焼き切れ、完全に機能を停止した。

 

装甲が崩壊すると同時に『白騎士』が倒れると、千冬の纏っていた『黒騎士』もまた崩壊を始めていた。

千冬にとって相性が良すぎる二本のガイアメモリによるツインマキシマムは、『黒騎士』のISコアに、自壊させる程の致命的な負担を与えて続けていたのだ。

 

――ありがとう、『暮桜』――

 

『白騎士』と『黒騎士』。二機のISがこの世界から消え去った時、残されたのは操縦者たる二人の姉弟。弟は倒れ伏し、姉は辛うじて立っていた。

 

――これで私は……、もう誰も死なせずに済んだ……――

 

「織斑先生ッ!!」

 

第三アリーナに駆けつけた『オーズ』の姿を見た瞬間、緊張の糸が切れたのか、前のめりに倒れ込む千冬を『オーズ』が腕に抱えて受け止める。千冬は大量の血を流し、朦朧とする意識の中、仮面の下で泣きそうな顔で自分を見つめるゴクローを幻視した。

 

――そんな顔をするな、シュレディンガー……。気分はそんなに悪くない……――

 

今まで目を背け、虚飾の栄光で誤魔化してきた、自身の犯した過ちの全て。

 

それに決着を付けた千冬は、満足した様な安らかな笑みを浮かべて、ゆっくりと目を閉じた。




キャラクタァ~紹介&解説

メロンネーサン
 作者の中では構想段階から既に、『鎧武』の「メロンニーサンVS闇ッチ」のISバージョンを書きたいと言う欲望があった為、千冬はメロンニーサンの如く闇ッチと化した一夏との対決と、その末路が確定していた。
 この一件で彼女には顔に大きな傷が出来ることになったが、これは「千冬って顔に傷があって法衣を着れば『新仮面ライダーSPIRIT』の義経みたいになるんじゃね?」と言う、作者の欲望と趣味に起因する。

闇ッ夏
 上記の通り、作者の中では構想段階から既に、『鎧武』の「メロンニーサンVS闇ッチ」のISバージョンを書きたいと言う欲望があった為、コイツは闇ッチの如く闇堕ちする事が確定していた。結果として相打ちになったが、コレも後々の展開の為。

ダリル・ケイシー
 ようやくまともな出番が出たアメリカ代表候補生、且つ『亡国企業』のメンバー。危うくプトティラコンボの餌食になる所だったが、メタルメモリによって攻撃力と防御力に極振りしたサゴーゾコンボ相手に手も足も出ないと言う、どちらにせよ酷い目に遭う。まあ、フリーズドライで粉砕されるよりはマシだろう。
 ちなみに彼女が協力した理由は、「織斑姉弟が戦い、勝ち残って疲弊した方を仕留める」と言う目論見があったからであり、決して一夏に善意から協力した訳では無い。

フォルテ・サファイア
 出番はあったものの、上記のダリル以上に戦闘シーンが少ないギリシャ代表候補生。ちなみに、トライドベンダーを使って安全地帯まで運ぶのは、『クウガ』のトライゴウラムやビートゴウラムによるグロンギ怪人移送のオマージュ。



サゴーゾコンボ
 重量系コアメダル3枚からなる「重力コンボ」。機動力は極端に低いが、重力攻撃によってカバーできるので、一対一においては特に問題は無い。原作においては相性の優劣がハッキリと出る為、あまり勝率が高くはないが、作者はそのパワフルな戦法が好き。
 ちなみに今回のVSダリル・ケイシー戦は、『クウガ』において五代雄介が編み出したタイタンフォーム戦法のオマージュ。もっとも使うのは剣ではなく拳なのだが。

黒騎士(通常態/ジョーカー・バージョン)
 束が『暮桜』のISコアを用いて造った、千冬専用機。名前こそ『黒騎士』だが、その通常態は黒い『暮桜』と言った感じで、原作でマドカが使った『黒騎士』様な機体ではない。尚、武装は「無双セイバー」だけが大量にストックされており、その気になれば二刀流も可能だった。
 ジョーカーメモリを使った場合、『白騎士』の色違いの様な姿に変化。全体的に身体能力が上昇し、副武装として「エターナルメモリ」と「エターナルエッジ」が追加されている。
 初登場した直後に『白騎士』と相打ちになって、速攻で退場というスピード展開。まあ、このままダラダラと続けても出番は無いだろうが……。


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第33話 Point Of No Return

四話連続投稿の四話目。この後で、『怪人バッタ男 THE FIRST』でも二話投稿しますので、宜しければそちらもお楽しみ下さい。


織斑先生が一夏に倒され、早くも3日の時間が経った。

 

一夏の『白式』……もとい『白騎士』のISコアと、織斑先生の『黒騎士』のISコアは完全に破壊され、二機の修復は完全に不可能だと束から聞いた。

それはつまり、ドイツ軍が開発した『VTシステム』や、ミレニアムが開発した『エターナル』や『オーズ』と言った、様々な創作物の教材、もしくは超えるべき壁とされた「原点にして頂点」の消失であり、これからのIS世界において様々な可能性を秘めていた玉手箱の消滅を意味していた。

 

一夏と織斑先生の戦闘については「訓練中の事故」と言う形で処理され、専用機を失った一夏には、後日倉持技研から新しい専用機が与えられるとの事。

これは一夏に利用価値がある事もさることながら、一夏がガイアメモリ搭載機を通常のISで、それも『白騎士』と言う“前世代の遺物”と言える代物で撃破した事が大きい。

 

つまり、ガイアメモリやコアメダルに頼らなくても、俺を倒せる可能性が出てきたと言う訳で、一夏を処罰してその可能性をワザワザ潰す必要は無い……と言う事だ。

 

一方の俺はダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアの二人をボコボコにした事を「過剰防衛だ」と咎められ、一週間の寮内謹慎と言う名の停学処分と言う扱いだ。

 

ダリル・ケイシーについては、その正体故に問題は無かったのだが、フォルテ・サファイアに関してはやましいことが何一つ無い“普通のギリシャの代表候補生”であり、アメリカが「代表候補生の専用機持ちが、実はテロリストの一味だった」と言うスキャンダルを公表したくない事もあって、俺と二人の戦闘に関しては「生徒同士の私闘」として処理されている。

 

おかげで俺のIS学園における印象は最悪。「上級生二人に手を上げた男」として悪評をほしいままにしていると言う、全く嬉しくない状況に置かれている。

 

これがシュラウドの言った、一夏の『選ばれし者』とやらの力の恩恵か? な~んて事を考えながら、今の俺が何をしているのかと言うと……

 

「は~い。山田先生、起きて下さ~い。時間ですよ~?」

 

「う~~~ん。後、もう少しだけぇ……」

 

何故か山田先生の部屋で主夫業を営んでいた。

 

これは今回、俺が上級生二人に危害を加えたと言う事で、教職員の中で「生徒と同じ部屋にするのは危険だ」と言う声が上がり、それから「個室に移って貰うべきだ」とか、「個室にした方が危ない」だとか、様々な議論が飛び交った結果、俺は教職員と一緒の部屋に移され、その相手が副担任である山田先生だったのだ。

 

要するに山田先生は俺の監視役と言う訳だが、1組の副担任である山田先生は現在、織斑先生が意識不明の状態であるため、一時的に1組の担任を務めているのだが、その気苦労は副担任時の比では無いらしく、何時も夜遅くに疲れた表情で帰ってくる。

それを見た俺は、山田先生の負担をできる限り減らそうと、善意から掃除・洗濯・炊事と言った家事をこなし始めた。山田先生よりも早く起きて、栄養満点の朝食とお弁当を作り、山田先生を送り出した後は掃除と洗濯をこなし、夕食と風呂の準備をして山田先生が帰ってくるのを待つ。

 

そして、「まるでキャリアウーマンの嫁を待つ主夫の行動だな」と思った時には、もう何もかもが遅かった。布団の中でもぞもぞ動く山田先生は全くと言って良い程警戒心を持っておらず、監視役と言う立場をすっかりと忘れている様に思えた。

 

そして、この生活において、ある意味で一番の問題となっているのは束。俺としてはこの現状に怒りを露わにし、IS学園を更地にする様なサイテーな作戦を敢行するのではとハラハラしていたのだが……俺は全くワカッテいなかった。束の思考回路と言う物を。

 

「ハァーッ、ハァーッ、ねぇ~~、良いじゃ~~~、ないのぉ~~?」

 

「ダメよ~~~、ダメダメ~~~」

 

「うひひひひ! まるで、この間見た昼ドラの、お寝取りヒロインみたいだねぇ! 興奮するぅう~~~~~~~ッ!!」

 

……お分かり頂けただろうか? 昼飯を一人で食っている時に何の前触れもなく部屋に突撃し、女子が決して口に出してはいけないような台詞をのたまいながら抱きつき、興奮と欲望を隠すこと無く迫ってくるイカレたウサギを。

この時の束は、まるで「逆に考えるんだ。この状況を利用して楽しんでしまえば良いのさ」とでも天啓を受けたのかと疑いたくなる様な、とても見せられない表情をしており、スカートの下には“汚れたバベルの塔”がおっ立っているのではないかと思った位だ。

 

しかし、これは……

 

「……あのさぁ、もしかしなくても、気ぃ使ってる?」

 

「? 何が?」

 

「だから……そーゆーのは無理してやらなくても良いって事」

 

「……でも、ゴッくん、大丈夫には見えないよ?」

 

「………」

 

そう言われるとぐうの音も出ない。

 

シュラウドの言う通り俺は二人の戦いに間に合わず、結果として織斑先生を意識不明の重体にしてしまっている。命に別状は無いとの事だが、失血と頭部へのダメージが大きいせいで、織斑先生は何時目が覚めるか分からない状態だ。

 

ラウラも同様に未だに眠り続けており、結局俺は二人の頼みを叶える事が出来なかった。

 

下手をすればラウラと織斑先生は、ずっとこのまま植物の様に静かに朽ちるのを待つだけの人生を送る事になるのかも知れないと思うと、決して大丈夫だとは言えなかった。

 

「……あのね? コレは束さんとちーちゃんが、ゴッくんにこの世界で生きて欲しくて、死んで欲しく無くて勝手にやった事なの。だから、こんな事になっちゃったケド、ゴッくんが落ち込む必要なんて無いの。ちーちゃんだって、ゴッくんにそんな顔して欲しく無いと思うしさ」

 

「……しかし、俺は本来、この世界に居るべき人間じゃ無い」

 

「……束さんも、昔は似たような事考えてたよ。この世界に私の居場所は無いし、私を本当の意味で理解してくれる人も居ない。だから、『この世界は私の世界』じゃないんだって、本気で思ってた」

 

「天才故の孤独……か?」

 

「うん、まぁそんなトコ。だから、ずっと歩き続けて探してたの。自分を本当の意味で理解してくれる人。……ゴッくんは自分が『この世界に居るべきじゃ無い』って思ってるみたいだけど、私にとっては“ゴッくんが居る世界”が“私が望んだ世界”そのものなんだよ?」

 

「束……」

 

「私だけじゃ無いよ? 箒ちゃんも、くーちゃんも、まどっちも、ちんちくりんも、ちーちゃんもそう。他にもそう思ってる人は一杯いるよ? 『ゴッくんが生きる世界で生きていたい』……私達がそう思うだけじゃ、足りないかな?」

 

「……そう言ってくれるのは嬉しい。だが、それでも俺の本質が他の『特異点:オリシュ』と同じ『破壊者』である事には変わりは無い」

 

「……ねぇ、こんな言葉、知ってる? 『例え、俺が悪と同じ存在なのだとしても、俺が悪から生まれたものなのだとしても、俺は誰かの自由を、未来を守るために戦う』……昔、束さんが本当に欲しかったモノをくれた、ヒーローの台詞だよ?」

 

「……!」

 

「だから……ね? この世界が、ゴッくんの居場所なんだって、束さんは思うよ?」

 

「……そう、かな?」

 

「うん。そうだよ」

 

そう言う束の頬にそっと手を添える。俺を見つめる束の目は澄んでいて、其処は一片の曇りも無い、無限に続く青空のような印象を俺に抱かせた。

 

「……束。歌を歌ってくれないか?」

 

「いいよ。リクエストは?」

 

「……『童話迷宮』」

 

「オッケー。ついでに膝枕もしてあげようか?」

 

「いやそれは……ああ、うん。頼む」

 

要らないと言おうとしたら今にも泣きそうな顔になったから、NOと言う事が出来なかった。この後、膝枕されながら束に、田村ゆかりボイスで色々な歌を歌って貰った。少しだけ元気が出た。

 

 

○○○

 

 

一方その頃、織斑一夏は寮の自室で、協力者であるシュラウドと接触していた。と言っても、会っているのはシュラウド本人ではなく、エクストリームメモリによって投影された立体映像である。

 

「良い目になったわね。どう? 実の姉を手にかけた感想は? 流石の貴方でも、心が痛むかしら?」

 

「……ふ、ふふ、ふふふふ」

 

シュラウドの言葉に対し、静かに笑い出す一夏。まるで的外れな事を言った相手を、嘲笑している様な笑い声を聞きながら、シュラウドは静かに一夏の返事を待つ。

 

「馬鹿を言うな! 俺は俺が正しい事を証明出来たんだ! あの千冬姉が自分の生き方を否定するなんて、そんな馬鹿な事があるか!? ある訳が無い! あんな千冬姉は間違ってる! いや、間違っていた! だから俺に負けたんだ! これで千冬姉は、俺の知っている元の千冬姉に戻るんだ!」

 

『それは違うな』

 

「!?」

 

『結局の所、お前はただ私から離れられないだけだ』

 

「……千冬姉」

 

「んん?」

 

『これまでのお前の人生は全て、お前の言う“正しい私”から与えられたものだ。自分の力で勝ち取ったモノ等……何一つ無い』

 

「黙れよ! アンタは俺に負けただろ! 説教はもう、うんざりなんだよ!」

 

「んんん?」

 

自室に現われた千冬の言葉を受けて一夏は激昂する。しかし、それを見るシュラウドは困惑の視線を一夏に向けていた。

 

『“一人では何も出来ない半端者”。だからこそお前は私や、かつて私が使った力にすがりついていた。どれだけ取り繕っても、それがお前の本性だ』

 

「ふざけるな! 何も出来ないのはアンタの方だろ! これ以上俺に付きまとうなよ!」

 

「ちょっと……貴方さっきから一人で何をやっているの?」

 

そう。シュラウドの目には、この場に織斑千冬はいない。それにも関わらず、一夏は虚空を見つめて千冬の名の連呼していた。まるでそこに織斑千冬が居るかの様に……。

 

『織斑一夏は、織斑千冬の影だ。私が消えれば、影であるお前もまた……消えるしかない』

 

「五月蝿い! 消えろ消えろ消えろぉ!」

 

「もしかして……壊れちゃった?」

 

一人で勝手に錯乱する一夏と、それを愉快そうに見つめるシュラウド。そこには狂気としか言いようのない空気が漂っていた。

 

 

●●●

 

 

一週間の寮内謹慎が終わり、学年別トーナメントに併せて俺が各国の代表操縦者達と戦う日取りが決まり、更に学年別トーナメントがタッグバトルであると発表された事で、多くの生徒達が自分のパートナーを誰にするのかを考えていた頃、事件が起こった。

 

「うぐっ……ひっぐ……」

 

「かんちゃん。もう泣かないで~~。かんちゃんが悲しいと、私も悲しいよ~~」

 

俺の元に泣いている簪と、涙を浮かべて簪をあやす本音がやってきて、一体何事かと思って二人から話を聞いてみると、今日の昼休みが始まった直後に、一夏が四組にやってきて「今度のタッグトーナメントでタッグを組もう」と言って来たらしい。

簪としては初めから本音と組むつもりだったので当然断ったのだが、それでも一夏はしつこく簪に誘いをかけてきたのだと言う。

 

そんな一夏に簪は強い口調で再び断りを入れ、食堂に向かってすたすたと歩き始めると、一夏がなんと簪を公衆の面前で姫抱きを敢行し、食堂まで歩いて行ったのだという。そんな一夏の蛮行に簪は驚いたものの必死に抵抗したのだが、そこは女子と男子の体格や体力の差もあって全く一夏には通用しておらず、食堂に着いた一夏は簪を下ろすと、簪の抵抗や抗議の声を無視して手を繋ぎ、決してこの場から逃がすまいとしたとの事。

 

そんな一夏の行動にたまりかねた簪は、遂に最も頼りになる存在に助けを求めるべく、あらん限りの大声で叫んだ。

 

「助けてえええーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! お姉ちゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああんッ!!」

 

「どうしたの、簪ちゃんッ! もう大丈夫!! 私が来たわッ!!」

 

こうして、愛しい妹の叫びを聞いて駆けつけた楯無によって、簪はようやく一夏から解放された。本音によれば一夏は、簪に対する神をも恐れぬ至悪の所行(楯無視点)によって、現在楯無の手による訓練と言う名の制裁を受けているらしい。

 

「……さない……許さない……許さない……ッ!」

 

段々と悲しみよりも怒りが勝ってきたのか、簪は壊れたテープレコーダの様に呪詛の言葉を吐いていた。俺は「多分、一夏には悪気は無いと思うぞ」と一応フォローを入れたが、簪に「その方がタチが悪い」と返されては何も言えなかった。

 

どうしたものかと思って今度は、楯無の手によって息も絶え絶えな一夏に会いに行くと、一夏は俺にこう言い放った。

 

「お前……簪に一体何をしたんだ!!」

 

「……は?」

 

「とぼけんな! 何で簪が『助けて』何て言うんだよ! おかしいだろ!」

 

……いや、どう考えても、お前の言っている事の方がおかしいだろ。

 

「……普通なら幾ら断っても、しつこく誘ってきた挙げ句、公衆の面前で無理矢理お姫様だっこした上、逃げないように手をしっかりと握られたら、悲鳴を上げて助けを求めてもおかしくないと思うんだが……」

 

「そんな訳ねぇだろ! 簪が俺にそんな事する訳が無ぇ! お前が何か簪にやったからこんな事になったんだろ!」

 

……いや、お前は『この世界の簪』の何を知ってるんだよ。お前、これまで簪と全く面識なんて無いのに、『この世界の簪』の何を知ってるって言うんだ?

 

もしかしなくてもコイツ、かなりヤベェ奴になってないか? 傍から見れば、これはもはやナルシストを通り越してサイコパスだ。つーか、何でお前は簪を名前で呼んでいるんだ? そんなに親しい間柄でもあるまいに。

 

「いいか、俺はお前の思い通りになんてさせねぇ! 絶対……絶対にだッ!!」

 

そう捨て台詞を吐いて、一夏は俺の前から去って行った。

 

 

●●●

 

 

それからも一夏の奇行は留まる事を知らなかった。

 

翌日の一夏は箒に剣道の訓練を頼んだのだが、突然一夏は足をもつれさせて箒を押し倒し、同世代でもトップクラスのたわわに実った禁断の果実を揉みしだいたらしい。

箒から聞く限りソレは「所謂ドジっ子スキルが発動しただけなのでは?」と思ったが、箒が言うには不自然で故意にやったとしか思えない転び方である上に、起き上がる際にはわざとらしくもたつき、明確な意思を持った眼で、両手の指をまるで別の生き物のように動かして、禁断の果実を何度もモミモミした事から、箒は一夏がそれを狙ってやったのだと確信しており、箒は一夏の脳天に容赦ない一撃を加え、その場から立ち去ったと言う。

 

その翌日には鈴音にバケツに入った水をぶっかけてしまい、着替えようとした鈴音の体を拭こうと迫り、服を脱がそうとしてきたらしい。しかもパンツから。

また此方もどうやら水をかけた事は故意によるものらしく、最後には「一緒にシャワーを浴びよう」とまで言ったとか。ちなみに鈴音は一夏の股間に強烈な一撃を入れて、その場を後にしたらしい。

 

更にその翌日。一夏は何処からか調達してきたのかメイド服を片手にシャルロットの元を訪れ、シャルロットにそれを着せようとしていた。もっと言うなら、白いレースで縁取られたエロい下着まで用意していたとのことで、明らかにエロい事を目的としているチョイスにシャルロットは恐れおののき、脱兎の如くその場から逃げた。

おかげでシャルロットは「男として生きるより、女として生きた方が安全だ」と判断して男装を止め、今は女子生徒として学園で生活している。それによって寮の部屋替えをしてもらったものの、一人部屋である為に一夏の襲来を恐れており、今ではマドカと箒の部屋で寝泊まりをしている。

 

そして止めと言えるのが、更にその翌日。セシリアに何の脈絡もなく執事の格好で世話を焼いたと思えば、寮の自室で一人風呂に入っていたセシリアの体を洗おうと、恐れ多くもかしこくもバスルームに単独で侵入してきたらしい。

一夏の闖入によって悲鳴を上げたセシリアの悲鳴が寮内に響き渡り、更にセシリアのルームメイトがタイミング良く戻ってきた事でセシリアは難を逃れたが、流石にこの事を無かったことには出来ず、一夏は二週間の寮内謹慎と、タッグトーナメントの出場停止を言い渡された。

 

ぶっちゃけ、普通なら退学処分が妥当だと思うのだが、この程度で済むのはやはり『選ばれし者』とやらの力の恩恵だろうか?

 

そして、俺が一夏に会いに行ってみれば、やはり訳の分からない事を一夏はのたまっていた。曰く「俺は皆の隠れた欲望を叶えようとしただけだ! それなのにこんな事になるなんておかしい! お前が皆に何かやったんだろう!」との事。

 

ちなみに、シャルロットの事を何時の間にかシャルと呼んでいたが、シャルロットはそう呼んで欲しくはないらしい。これについても、一夏の中では俺の所為になっている。解せぬ。

 

「あの馬夏は一体何をしているんだ? さっぱり訳が分からないぞ?」

 

「同感だが……『皆の隠れた欲望を叶えようとした』ってのが引っかかる。一夏のアレは本気の目だった。あくまで推測だが、一夏はシュラウドに見せられた『基本世界の皆の隠れた欲望』の事を言っているんじゃないか?」

 

「それでこの世界でソレを叶えてやろうとしたら、全く違う結果になったから全部それはお前の所為だってか? ナンセンスだな。仮にそうだとしても、ここが『基本世界』でない以上、箒達が『基本世界』と同一の意識や価値観を持っていないのは不自然な事じゃない。ここにいるのは『この世界の箒達』なんだからな」

 

「……そうだな。しかし、それが一夏にとって正しい事なんだよ」

 

「ハンッ。“世界に正しい形がある”と認識している時点で、自分が運命を変える『特異点』足りうる存在になっている……とは思わない訳だ」

 

……なるほど。つまり、この結果は『基本世界』という『正しい世界』を知った一夏が起こした行動の帰結と言う事か。自分が望んだ運命を変えたのは他ならぬ自分自身とは、なんとも皮肉が効いている。

 

ちなみにタッグトーナメントについてだが、クロエは目が不自由な事を理由にして不参加。簪はパートナーとして本音を選び、セシリアは鈴音に協力を求め、箒は同じ剣道部の四十院神楽と組み、現在一年生で最強と名高いマドカは、パートナーとしてシャルロットを選んだと言う。

 

 

●●●

 

 

全学年で行なわれるタッグトーナメントに先駆け、今日の放課後から俺と各国の代表操縦者達との戦いが始まろうとしていた。対戦方式は一日につき一人の代表操縦者と戦うと言うもので、『オーズ』に課せられた制限はこれまでと同じ。

本日の相手は、イギリスの代表操縦者であるイライザ・ヒギンズ。セシリアが使う『ブルー・ティアーズ』と同系統のティアーズ型である、BT試作機第二号の『サイレント・ゼフィルス』を引っ提げての登場だ。

 

『さて……いよいよ「国際IS委員会のアホ共が集めた最強のIS操縦者チーム」との決戦な訳だが……』

 

「男が調子に乗ってるんじゃないわよ!」

 

「引っ込め!」

 

「蜂の巣になっちゃえ!」

 

『……凄まじいブーイングだな』

 

「ああ、完全にアウェーだ」

 

アリーナに歩を進める俺を出迎えたのは、黄色い歓声ではなくドス黒い罵声。以前の楯無戦では『パラダイス・ロスト』のオーガの気分だったが、今回はファイズの気分だ。

これは、ここ最近の俺や一夏の風評被害によるものだろうが、1組の皆が肩身を狭くして観戦しているのを見ると非常に申し訳ない気分になる。だが、今は相手に集中した方が良さそうだ。

 

「まあ、いいだろ。人気取れば勝てるって訳でもないし……」

 

『ハッ。確かにな』

 

『それでは両者、規定の位置まで移動して下さい』

 

「それじゃ……変身!」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

俺は何時も通りに基本形態のタトバコンボへと変身するが、今回は何時もと違いコアメダルのエフェクトが大きく、トライアングルを描くようにメダルのエフェクトが展開され、タトバコンボに変身した。まるで『オーズ』最終回のタトバコンボの様な変身に俺が内心少し戸惑う中、対峙するイライザ・ヒギンズは、観客の多くが自分の味方をしている所為か、余裕に満ちあふれている様に思える。

 

『それでは両者、試合を開始して下さい』

 

ブザーが鳴り響いた瞬間、六機のビームビットが使い手の元を離れ、此方に向かって様々な角度からレーザーを射出する。だが、その全てをタカの目で見切り、最小限の動きで回避。避けきれない攻撃はトラクローで反射した。

 

「!! やるわね……なら、これでどう!?」

 

それを見てイライザ・ヒギンズは小型レーザーガトリングを取り出し、ビームビットと組み合わせた攻撃を仕掛けてくる。

 

「………」

 

『METAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

それを見た俺は、左腰のメモリをジョーカーからサイクロンに変更し、手元にメタルシャフトを召還すると、メタルメモリをメタルシャフトのメモリスロットに突き刺した。

そして緑色の風を纏ったメタルシャフトをバトンの様に振り回し、『サイレント・ゼフィルス』から放たれる攻撃の全てを防いでいく。

 

「へぇ……でも、何時まで私相手に『コンボ』を使わずにいられるかしら?」

 

「……イライザ・ヒギンズ。やはり、お前は違う」

 

「……は?」

 

「マドカもセシリアも、こんな機体の性能に頼った戦い方はしない。お前相手に、コレ以外の『コンボ』を使う必要は無い」

 

「……言うじゃない。だけどそれは所詮、旧型は旧型と言うだけの話よ!」

 

今度はビームビットとBTエネルギーマルチライフル『スターブレイカー』による同時攻撃を仕掛ける。どうやらマドカと違い、『偏光制御射撃【フレキシブル】』は使えないっぽいな。

 

「なら見せてやる……定められた限界を超える力を!」

 

『TRIGGER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「トリガーフルバースト!」

 

無数に打ち出される黄色と青の光弾が縦横無尽に湾曲し、六機のビームビットと『スターブレイカー』を破壊する。だが、本体はビーム兵器を無効化する二機のシールドビットを使い、攻撃を防いでいた。

 

「チィ! だけどそれだけじゃあ――」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「何!? ぐぅうううううううううううっ!!」

 

間髪入れずにメダルをスキャンし、必殺技である「タトバキック」を叩き込むが、これもシールドビットによって防がれる。なるほど。ビーム兵器を無効化するシステム上、エネルギーを纏った攻撃も、ある程度防げる訳か。

 

ちゅーか、やっぱり単体の「タトバキック」では倒せないらしい。……だが、単発でなければどうだ!?

 

『スキャニング・チャージ!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

メダルを再度スキャンして、シールドビットが展開するバリアを足場に空中を反転。再びシールドビット目がけて「タトバキック」を繰り出すが、これも防がれる。

 

「む、無駄よ! このシールドを破ることは誰にも――」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

強化された肉体。造られた様々な特殊能力。その定められた限界を超える。その為に俺はイライザ・ヒギンズの言葉を無視し、三度目のスキャンを行う。

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「!? きゃああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

空中を反転し、更に破壊力を増した三度目の「タトバキック」はシールドビットをシールドごと貫き、遂に本体へと届いた。単発では相手を倒すことが出来なかった不遇の必殺技は、三連続の反転によって会心の一撃へと昇華し、『サイレント・ゼフィルス』のシールドエネルギーを根こそぎ奪い取る。

 

『試合終了。勝者――ゴクロー・シュレディンガー』

 

「「「「「BOOOOOOOO!! BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」」」」」

 

イライザ・ヒギンズが倒れた直後、試合終了のブザーとアナウンスが放送され、観客席からはブーイングの嵐が巻き起こる。そして、倒れたイライザ・ヒギンズだが、此方は俺が近づく前にスタッフによって担架に乗せられ、そそくさとアリーナを去って行った。

 

あれよあれよと言う間にアリーナの中に立っているのは俺一人となり、俺は罵声を全身に浴びながらアリーナを後にする。

 

「拍手や喝采が欲しくて戦っている訳では無いが……コレは結構くるな」

 

『気にするな。勝てば官軍だ』

 

「ご、ゴクロー。大丈夫だったか?」

 

アリーナへ続く廊下を歩きながら変身を解除すると、箒が俺達を出迎えてくれた。

 

「ああ、ぶっちゃけ消化試合だったな」

 

「そ、そうか。あと……アレだ。ささやかだが、パーティの準備が出来ていてな。後で『NEVER』の拠点の方に来てくれ」

 

「ああ、分かった」

 

そう答えると、箒は駆け足でその場を去って行った。

 

「………」

 

『? どうした?』

 

「いや、『此処が俺の居場所か』……って思っただけだ」

 

『そうか……』

 

しかし、まだ1日目だと言うのにパーティとは……『NEVER』の懐事情を若干心配しつつも、俺はパーティへの期待に胸を躍らせていた。

 

 

○○○

 

 

一方此方は、現在寮の自室で謹慎中の一夏。彼は自分の置かれている現状に対して、大いに不満を持っていた。

 

「クソ……ッ! 何でだよ……何で皆、俺の思い通りにならないんだよ……!」

 

『ふっ。誰もがお前の思惑通りに動いているとでも思ったか?』

 

「!! またアンタか……」

 

『そうやってお前は、身近な者全てに手をかけてゆくのだな。そして何時かは……今お前が守ろうとする者達の事も、邪魔になるに違いない』

 

「黙れよ! 俺は、俺は、間違ってなんか無い! 俺だけが、俺だけが皆を幸せに出来るんだ!」

 

「そうね。貴方は間違っていない。ただ、見通しが甘かったわね」

 

「アンタは……」

 

千冬の幻影と対峙し、苛立ちをぶつける一夏。そんな一夏の前に、再びシュラウドが現われた。

 

「しかし、ゴクロー・シュレディンガーの所為で、割と不味い展開になっている事は確かよ。このままでは貴方の望む未来が手に入る事は絶対に無い」

 

「!? ど、どう言う事だよ!?」

 

「考えてもみなさいよ。あの子が本当に彼女達を気に入っていたら、貴方みたいな人間の傍に置いておく訳が無いでしょう? あの子にとって貴方は、守ると言いながら自分の欲望の為に守るべき存在を危険に晒し続けた、アブナイ男なんだもの」

 

「……ッ!!」

 

「しかし、今の『オーズ』の力は、もはや基本形態の『タトバコンボ』でさえ圧倒的よ。例え貴方が倉持技研から最新型の専用機を手にしたとしても、今の『オーズ』に勝つことは難しい。そこで……」

 

シュラウドがエクストリームメモリから取り出したのは、紫色のメダルが3枚が納められた、丸ノコの様な縁取りが施された円形の物体。それは何処か、『オーズ』のドライバーと同じ雰囲気を醸し出していた。

 

「コレは?」

 

「これまでの『オーズ』の戦闘データを元にして作り上げた試作品。『オーズ』が持つコアメダルの能力を封じるコアメダルと、ガイアメモリの能力を無力化するガイアメモリを備え、ISとは一線を画する強大な戦闘力を発揮する……『DXハデスドライバーSDX』。コレが現時点で『オーズ』に対抗できる唯一の手段。もっとも、貴方の身の安全の保障は出来ない」

 

「………」

 

「『愛する者の為に命を捧げる』。一夏君、貴方にその“覚悟”はあるのかしら?」

 

「……ッ!!」

 

「……とは言え、大事な事よ。ソレを使うかどうか、よく考えるといいわ」

 

そう言うとシュラウドは、ドライバーを机に置いてその場から消えた。『オーズ』に対抗しうる唯一の手段。それを前にして、一夏は覚悟を決めていた。

 

「俺は、俺はこの手で“正しい未来”を掴む……誰にも、邪魔させない……ッ!」

 

『ハッ。お前の行動も思惑も、「この世界」では誰にも理解されまい。未来永劫、誰にもな』

 

「……俺が理解できないのは、アンタみたいな馬鹿だけだ。……消えろよ!」

 

『今のお前の言う事など、誰も信頼していない。本当に馬鹿な人間は一夏、お前一人だ』

 

「もう……黙っててくれよ……ッ!!」

 

『結局の所、お前は、何も成し得ないまま終わるだろう……』

 

予言染みた台詞を最後に、千冬の幻影もまた一夏の前から姿を消した。

 

スキャナーによるコアメダルのスキャンを必要としないシステムを搭載した次世代型メダルシステム。

 

一夏がソレを手にした瞬間、ドライバーに装填された3枚のコアメダルが一瞬、鋭い刃の様な妖しい輝きを放った

 

 

●●●

 

 

いや~、昨日のパーティは楽しかったな。調子に乗って滅茶苦茶ライダーソングを歌ってしまって、喉の調子が少し悪い。

 

「自業自得だ馬鹿」

 

そう言うなよ。俺はてっきり『NEVER』を筆頭とした少人数のパーティだと思ったら、1組全員が参加していて、思ったよりも規模が大きかったんだからテンションが上がってしまったんだ。

1組の面々曰く、「試合中に応援できなかった分のお詫び」らしい。まあ、あの男を目の敵にする様な雰囲気の会場で俺を応援する等、自殺行為以外の何物でもないのだから仕方あるまい。

 

「それよりも今日の相手の事を考えろ。一度勝っているとは言え、公式戦では勝手が違う。油断はするな」

 

うむ。本日のお相手はドイツ代表クラリッサ・ハルフォーフ。かつて対戦し勝利した相手ではあるが、今回は対『オーズ』を目的として武装が一新されているだろうし、確かに油断は出来ないな。

 

そんな風に意気込む俺達の前に、予想外の人物が只ならぬ雰囲気を身に纏って立ちはだかった。

 

「……一夏?」

 

「ゴクロー・シュレディンガー……お前はこの俺が止める……」

 

「おい、何のつもりだ?」

 

「……漸く分かったんだ。お前がいる限り、皆は、この世界は狂ったままだ。お前を消すことでしか……この世界は元に戻らないッ!」

 

そう宣言する一夏が上着を脱ぐと、腰に一本のベルトが巻かれていた。

 

「!? そのドライバーは!!」

 

「変身!」

 

『ユニコーン! アンキロ! ヌエ!』

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

一夏の前方にメダル上のエネルギーが出現し、それが逆三角形の形で一つに集約すると、一夏は白のボディスーツと紫を基調とした全身装甲に包まれる。

頭部はユニコーンを模した額に角が映えた馬面、胴体はアンキロサウルスの様な堅牢な鎧を備え、脚部はトラや蛇が混ざった様な形状をしており、更に右手には大剣を、左手には円形の盾を装備している。

 

元ネタを考えるとヌエは合成系ヤミーだった筈だが、どうやらシュラウドは幻獣……すなわち恐竜系としてヌエコアメダルを創り出したらしい。

 

「紫のメダルの……ポセイドン?」

 

「こうなったか……千冬のやった事は無駄だったかもな」

 

「変身しろ……! 俺は、残ったモノだけは……アイツらだけは必ず守ってみせる……ッ。その為なら……命だって賭けてみせるッ!」

 

「……そうか、それがお前の覚悟か」

 

お前の言いたいことは分からなくも無い。だが、俺も大人しくやられるつもりは毛頭無い。俺は「DXオーズドライバーSDX」を腰に装着すると、右手でオースキャナーを握りしめた。

 

「アンク。ドライバーからコアメダルを一通り抜いてくれ。砕かれる」

 

「アレを相手に一人で戦うつもりか?」

 

「ああ、この戦いで俺が使うメダルは恐竜系だけだ」

 

「……必ずキッチリ生き残れ。いいな?」

 

「ああ」

 

アンクがドライバーからコアメダルを回収するのを確認すると、俺は自分の意思でドライバーに恐竜系コアメダル3枚を装填する。傾くと同時にメダルが紫色に発光するが、以前の強制変身の様に体が動かないと言った不調は無い。

 

「……良いだろう。そして、証明してみせる。本当の強さを……超変身ッ!」

 

『プテラ! トリケラ! ティラノ! プ・ト・ティラーノザウルース!』

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!! フッ!!」

 

紫色のメダルのエネルギーに包まれ、恐竜の様な咆哮と共に『オーズ』は「無敵のコンボ」と称される『プトティラコンボ』へと超変身する。

そして変身の完了と同時に俺が地面からメダガブリューを取り出した瞬間、それが俺達の戦いのゴングになった。

 

「ゴクロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「一夏ぁああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

一夏の振るう大剣と、俺が振るうメダガブリューが激突し、火花を散らす。

 

紫のメダルによるコンボ同士の対決。それが最終決戦への序章なのだと言う事を、この時の俺はまだ知らない。

 

 

○○○

 

 

お互いに全く同じ根源を力とする両者の戦いが始まろうとしていた時、現実ではない場所から、千冬は呆然とした表情でその戦いを見つめていた。

 

「……何故だ。どうして……」

 

「やあ、お嬢さん。この“出し物”に遅れるのではないかと思ったが、間に合って良かった」

 

そんな千冬の前に現われたのは、数ヶ月前に壊滅した『ミレニアム』の首魁。少佐と呼ばれていた肥満体の男だった。

 

「確かに『白騎士』は君の手で破壊された。だから『オーズ』が『紫のメダル』の力で暴走する事は無い。だが、残念ながら“織斑一夏の運命”を変えるには、それでは全く足りないのだ」

 

「何……?」

 

「元々、織斑一夏は“第三の力”を手にする『運命』にあった。本来ならソレは『白式』の『第三形態【サードシフト】』だった訳だが、『白式』は君が破壊してしまった。故に織斑一夏の手にする“第三の力”が『次世代型ドライバー』に代わった。ネタばらしをすれば、コレはただそれだけの話だ」

 

「『運命』……だと?」

 

「そう。基本世界における織斑一夏の『運命』だ。それを理解しているからこそ、シュラウドはそれらを前倒しし、それに代わる物を与えた。基本世界において確定してしまっている、織斑一夏の“ご都合主義”と言える、恐るべき理不尽を封じる為に。敢えてだ」

 

「………」

 

「しかし、織斑一夏も素体としては素晴らしいのですが、あのドライバーは本来の使い手ではない上に、適性の無い織斑一夏に『紫のメダル』や『ゼロメモリ』の力を引き出させる為の、かなり無茶な造りが施されていますからなぁ……。きっと只ではすみませんよ?」

 

「………」

 

「!?」

 

そして少佐の背後に現われる新たな男達。一人は特徴的な眼鏡をかけており、一夏が使うドライバーについて話しているが、もう一人の大男は沈黙を貫いている。

 

「否。彼女の与える物は、全てあのものに与えた。彼女が奪える物は、全てかのものから奪った。自分の人生、自分の正義、自分の信念、自分の欲望、それら全てを賭けても、取り戻すにはまだ足りない。だから彼女の様なやくざな存在からも賭け金を借り出した。例えソレが、一晩明けて鶏が鳴けば、身を滅ぼす法外な利息だとしても、織斑一夏はシュレディンガーと勝負するために全てを賭けた。“此処に居る我々”と同じようにな」

 

「………」

 

千冬は少佐の言葉を黙って聞いていた。そして、少佐の言う「我々」には、自分も入っているのだと言う事を充分に理解していた。

 

「一度の勝負に全てを賭けた。運命がカードを混ぜ、賭場は一度!! 勝負は一度きり!! 相手は『鬼札【ジョーカー】』!! さて、お前は何だ!! 『特異点』織斑一夏!!」

 

何時ものニタニタとした薄ら笑いを浮かべながら、心底楽しそうに少佐は言った。




キャラクタァ~紹介&解説

イライザ・ヒギンズ
 原作でも存在するだろうイギリスの代表操縦者。本作オリジナル要素として、BT二号機である『サイレント・ゼフィルス』を使用する。もっとも、原作でマドカが使っていた場合と異なり『偏光制御射撃【フレキシブル】』が使えない等、全体的に見て弱体化しており、タトバコンボ相手にあっさり負けた。

織斑千冬(幻影)
 元ネタは『鎧武』のミッチが貴虎を倒した後で現われた、神出鬼没な貴虎の幻影。この世界では千冬を倒した事で、一夏の前に度々現われる様になった、一夏の妄想に等しい存在。『鎧武』のミッチを見る限り、逆にコレを見続ける事によって精神を保っていた様にも見えるが、一夏の場合それがより顕著になっている。



一夏の奇行
 元ネタは原作における「ワールド・パージ編」。この世界の一夏はシュラウドの所為でそれを経験しており、皆の隠れた欲望を現実にすることで欲望を満たして正気(一夏視点)に戻そうとした訳だが、好感度もクソも無い状態でそんな事をすればそりゃあ、普通はこうなる。
 もっとも、『基本世界』の一夏の場合、こんな事をしても好感度は絶対に下がらないし、これで逆に好感度が上がる事さえあるは確かである。そして一夏にとってはそれが普通であり、傍から見れば理不尽にも程があると言う事を一夏は認識していない。

三連続タトバキック
 元ネタは『V3』の必殺技の一つである「V3回転三段キック」。要するに三連続でタトバキックを叩き込むだけの技だが、打ち込む度に破壊力が増していくので受ける様は堪ったモノではない。

DXハデスドライバーSDX
 シュラウドが『DXオーズドライバーSDX』のデータを基にして造りだした、次世代型ドライバーの試作品。『DXオーズドライバーSDX』と同様にコアメダルとガイアメモリの力を使うが、右腰にスキャナーが備えられておらず、変身や必殺技の発動にコアメダルをスキャンする必要が無い。色合い的に『鎧武』の「ヨモツヘグリロックシード」っぽいビジュアル。そして“試作品”と言う事は“完成品”があると言う事であり……。
 要するに紫のメダル3枚で変身する「ポセイドンドライバー」であり、装填されているコアメダルは恐竜系だけで、ガイアメモリもゼロメモリのみ。また、ホースオルフェノクが使う魔剣や盾をモチーフとした専用武器が装備されている。

新規作成コアメダル(恐竜系)
 シュラウド作成した「無の欲望」を司る紫のコアメダル。元ネタとして原作『オーズ』の恐竜系ヤミーである「ユニコーンヤミー」と「アンキロヤミー」を参考にしたが、残り一枚はやむを得ず合成ヤミーの「鵺ヤミー」を恐竜系にカウントして誤魔化した。まあ、鵺は幻獣と言うか妖怪なので、間違ってはいないだろう。


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第34話 POWER to TEARS

前回の投稿から半年。もうこの際、小出しでも投稿した方が良いとか思い、一話だけ投稿する事にしました。作者としては何とか今年中にこの作品を終わらせて、『怪人バッタ男』の執筆に専念したい所ですが……。

ちなみに、今回の話を投稿した後に、『怪人バッタ男』も二話分投稿するので、興味のある方はそちらもよろしくお願いします。


ゴクローと一夏の戦いが始まる数分前、鬼神の如く勇ましい足取りで廊下を歩く一夏の前に、何時もの包帯と全身黒ずくめと言う不審者丸出しの格好に身を包んだシュラウドが現われた。

 

「どうやら『覚悟』は決まったようね」

 

「………」

 

「大丈夫。何も恐れる事はないわ。貴方が知っている通り、この世界は本来“貴方が望むモノなら、全てが現実になる”。何故なら貴方は世界の祝福を受けた『選ばれし者』なのだから」

 

「……ゴクローは必ず俺が倒す。絶対に手は出すな」

 

「“出さない”と言うより“出せない”わ。何せ『オーズ』に対して最も有効と思われる対抗手段は、貴方が持つ『紫のメダル』だけなのだもの。そして、向こうも『紫のメダル』を持っているからソレを確実に使ってくる……と言うかソレしか使えない筈よ。同質・同系統の力を持つ者同士の勝負に持ち込んだなら、後はお互いの心の力。つまりは『覚悟』が勝敗を分けると言っても過言では無い」

 

「………」

 

シュラウドの言葉に、決意を秘めた瞳を更に燃やす一夏。その背中を見つめるシュラウドは包帯の下で不敵な笑みを浮かべていた。

 

「……そう。我々は最初からこうするべきだったのよ。この世界の行く末を、映画の台本の様に『どんな事がなるべくしてなる事なのか』を知り、『それぞれがどんな役を演じるのか』を知る事が出来たのなら、『運命』を自分の思うがままにたぐり寄せる事も不可能ではない」

 

シュラウドは想う。コレは果たして自分が想っている通りに“本来の人物から奪い取った役目”なのか。それともコレは“元々決まっていたこと”なのか……と

 

「……いずれにせよ、『自分の正義を成しているつもりで、実際には都合良く他者に利用されている事に気づかない』。それが観測したどの世界でも、そしてこの世界でも変わらない、“世界が織斑一夏に与えた役割”だと言う事だけは確かだった」

 

その言葉を最後に、シュラウドは行動を開始した。何せ今回の計画の成否が、今後の全ての計画を左右するのだ。失敗は絶対に許されない。

 

「さあ、行ってきなさい。狙いは分かっているわね?」

 

「GAAAXAA~~~」

 

「CUURRRR~~~」

 

シュラウドの手元から二つの小さな影が飛び出し、IS学園の廊下を縦横無尽に疾走する。一つは恐竜の様な形を、もう一つはオオカミの様な姿をしている小型ロボットだ。

 

それからおおよそ5分。本来ならば『ゴクロー・シュレディンガーVSクラリッサ・ハルフォーフ』の試合が行われる筈だったアリーナと、そこに続く廊下。それ以外にもIS学園の至る所から火災が発生し、生徒会や教職員達がその対応に追われる様を、シュラウドはIS学園上空に滞空しながら他人事の様に眺めていた。

 

「不完全なプロトタイプでも物は使いようね。正直、反動が大き過ぎて到底実戦で使える様な代物じゃないのだけど……まあ、どんな欠陥品でも、『織斑一夏ならば大丈夫』……と言う事かしらね」

 

ここまでは予定通りに事が進んでいる。先程シュラウドが解き放ったのは、自らの意思を持って自立稼働する事が出来る特殊なガイアメモリであり、それぞれが『牙の記憶』と『動物園の記憶』を内包している。

その二つのメモリの力によって、『ファング・クエイク』と『銀の福音【シルバリオ・ゴスペル】』はシュラウドの思い通りに動く手駒と化した。もっともコレは、“本来の世界の篠ノ之束”がやる筈だった複数の事柄を前倒しし、それをシュラウドがバージョンアップさせただけに過ぎないのだが。

 

「そうね! 一番のお目当ては一夏ちゃんが何とかしてくれそうね!」

 

「……貴方もそろそろ動きなさい。『NEVER』の連中は元より、誰一人としてゴクローの元へ行かせたら駄目よ。万が一、織斑マドカと篠ノ之箒以外のメモリユーザーがいれば面倒な事になる」

 

「分かったわ、お母様!! それじゃあ、ワタシも行ってきま~~~~~~~すッ!!」

 

「………」

 

降下する京水に一抹の不安を覚えるが、アレでも中々優秀な存在である事は事実。シュラウドは気を取り直して、自身の隣にいるもう一人に視線を向けた。

 

「それじゃあ、6枚の『紫のコアメダル』については……全て貴方に任せるわ。“ライト”」

 

「分かったよ、“母さん”」

 

シュラウドにライトと呼ばれたのは、オーズに酷似した姿の異形の戦士。そのベルトには6枚のコアメダルが嵌め込まれ、正中線を境界とした左右非対称の姿は、見る者に不気味な印象を抱かせる。そしてエコーの掛かったその声は、何処か子供のような幼さを残しており、それがまた違和感と共に独特の雰囲気を醸し出していた。

 

「それじゃあ、行ってくるよ」

 

「ええ、頼むわよ」

 

ライトと呼ばれた異形の戦士が降下するのを見届けると、シュラウドもまた篠ノ之束が居るだろう『NEVER』の拠点に向かって真っ直ぐに降下していく。

 

それぞれが宿願の為に、或いは欲望の為にIS学園を戦場としてぶつかり合ったこの日。

 

この日が後の歴史で“一つの神話の終わりの始まり”と記される事となる等と、この時はこの場所にいる誰もが知るよしもない事であった。

 

 

○○○

 

 

理不尽な暴力。ソレはそう表現する他に無い程野性的で、圧倒的な力だった。

 

「ガッ……ハ……」

 

「GUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

血反吐を吐き、地べたに顔を擦りつけるのは、ドイツの代表操縦者であるクラリッサ・ハルフォーフ。彼女の専用IS『シュヴァルツェア・ツヴァイク』には、『オーズ』との敗戦の後に開発された『VTシステム搭載型強化パッケージ』が用いられていたが、突如現われた機械仕掛けの白き魔獣は、そんな彼女を造作も無く追い詰めていく

 

かつて『オーズ』との戦いで与えられた敗北により、クラリッサは更にISの鍛錬に励むようになった。専用機もバージョンアップされ、『オーズ』へのリベンジマッチへの準備は万端だった。

しかし、アリーナで『オーズ』を待っていた彼女の前に現われたのは、全身から鋭利な刃を生やした白い異形だった。これだけでも充分に異常だが、何よりもクラリッサを驚かせたのは、その白い異形を『シュヴァルツェア・ツヴァイク』が、アメリカ代表操縦者であるイーリス・コーリングの専用IS『ファング・クエイク』だと認識している事。そして、その一瞬の驚きが命取りだった。

 

「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「なっ!! ぐわあああああああああああっ!!」

 

事前に入手していたデータと異なる姿と、それを遙かに上回るスピード。ISの『絶対防御』を無視する攻撃に、此方の攻撃を意にも介していない防御を完全に無視した動き。野生の本能の赴くままに攻撃するソレは、正に人ならぬ獣の戦い方。

これが野生の熊や狼を相手にする様なモノだったならば、クラリッサにも勝機はあっただろう。しかし、今クラリッサが相対しているのは、習性や本能と言った獣が持ち合わせているモノを持っていない鋼の猛獣。しかもその相手は、“この世界で最強”とされる兵器をベースとしており、同格の兵器を持ってしても尚、埋まらない程の戦闘力を持っていた。

 

「こんな……馬鹿な……」

 

「FUUUUU……WWWWUUUUSYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

そして、白き魔獣は『シュヴァルツェア・ツヴァイク』の持ちうる抵抗できる手段の全てを、クラリッサからは抵抗する気力を奪い――容赦なく『シュヴァルツェア・ツヴァイク』のISコアを破壊した。

 

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

「おっと!!」

 

ISの心臓部と言える箇所が粉砕され、『シュヴァルツェア・ツヴァイク』から放り出されるクラリッサ。アンクに改悪と称されたとは言え『VTシステム』が絡んだパッケージを搭載していた事を考えると、ここで『シュヴァルツェア・ツヴァイク』が破壊された事は、ある意味でクラリッサにとって幸いであった。

そんなクラリッサを受け止めたのは、専用IS『テンペスタ』を纏ったイタリアの代表操縦者のアリーシャ・ジョゼスターフだ。

 

「アラアラ……これはドエライ事になってるじゃないカ……」

 

アリーシャは、ほんの数分前までの事を思い起こしていた。

 

昨日と同じ様に『オーズ』の戦い振りを、自分達国家代表操縦者にあてがわれた部屋にて三人で観戦しようとした所で、突然天井から恐竜と狼の小型ロボットが現われたかと思えば、変形して待機状態だったナターシャ・ファイルスの『銀の福音【シルバリオ・ゴスペル】』とイーリス・コーリングの『ファング・クエイク』に突き刺さった。

 

『FANG!』

 

『ZOO!』

 

そして小型ロボットがそれぞれのISに吸い込まれたと思えば、まるでISが意思を持って動き出したかのように操縦者である二人を飲み込み、その姿を大きく変えて暴走を開始したのだ。

そして、二手に別れた二機の内、『ファング・クエイク』の方を追ってきた訳だが、その所為で今度はアリーシャがターゲットとして認識されてしまった。

 

「RUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

「あああッ!! 本当に何なのサ!! 一体何がどうなってるのサ!!」

 

新鮮な血と肉を求めるように襲いかかる白き魔獣に対して、アリーシャは『単一仕様能力』の『疾走する嵐【アーリィ・テンペスト】』による実体のある分身を繰り出し、更には二代目ブリュンヒルデとなるまでに至った才能と経験によって対処する。

 

そんな戦乙女と魔獣の戦いに、真紅の機体を纏った大和撫子と、青い機体を纏った英国淑女が乱入した。

 

「アリーシャさん!」

 

「おお! 丁度良かったのサ、モップちゃん! 早くお宅のボスに連絡してコイツを何とかして欲しいのサ! 形こそ違ったケド、コレは間違いなくガイアメモリの仕業サ! 『ファング』って言っていたのサ!!」

 

「モップちゃん!? それって私の事ですか!?」

 

「箒さん! それよりもガイアメモリの事ですわ!」

 

アリーシャが付けた渾名の酷さに動揺する箒だったが、セシリアの一言で冷静さを取り戻すと、改めてアリーシャから得られた情報を咀嚼する。

この件にガイアメモリが絡んでいるとすれば、十中十シュラウドの仕業である事は容易に予測できる。そして『ファング』のメモリについてはゴクローからも聞いたことがあるので、その点ではこちら側にアドバンテージがあると言えるだろう。

 

『箒、セシリア。此方は簪と共に楯無と合流。今は暴走した「銀の福音」と戦闘中なのだが、能力が多彩でメモリが特定出来ん。何か情報は無いか?』

 

プライベート・チャンネルを通じて箒とセシリアに話しかけるのは、二人とは別行動を取っているマドカ。彼女は簪を連れて楯無と共に、IS学園の上空を高速で飛び回る『銀の福音』を追っていたが、まだらな体色と様々な動物のディティールが混ざり合った『銀の福音』を相手に苦戦していた。

 

「アリーシャさん! もう一人の方のメモリは何かご存じ有りませんか!?」

 

「ご存じも何も、バッチリとこの耳で聞いたサ! 『ズー』なのサ!」

 

「『ズー』!? 動物園か?」

 

『……今、アンクと通信して詳細を聞いた。「ズー」の能力は簡単に言えば“コンボによる特殊能力の無い「オーズ」”。そもそもズーメモリは、『オーズ』を作成する過程で試験的に作られたガイアメモリらしい』

 

「ガイアメモリ版の『オーズ』か……、そっちはそっちで厄介だな」

 

「それよりも、お宅のボスはこの緊急事態にどうしたのサ!」

 

「……ゴクローは今、一夏と交戦中だ。どうやら、シュラウドから貰ったドライバーと、紫のコアメダルのコンボを使っていて、すぐには来られないとの事だ」

 

「……つまり、お宅のボスはお取込み中で、こっちはアタシ達で何とかしなきゃいけないって訳なのカ……?」

 

「ええ、そうなりますわ……」

 

「GUUUUUGARRRRRRRRR……!!」

 

シュラウドの手によって暴走し、存在を書き換えられた『ファング・クエイク』を相手取り、機体に生体パーツとして取り込まれたイーリス・コーリングを救う。

 

そんな難題に挑む三人の乙女を獲物としてしか見ていない白き魔獣は、その強大な牙をむき出しにして、彼女達に襲い掛かった。

 

 

●●●

 

 

シュラウドが新しく作り出したのだろう、恐竜系ヤミー(鵺は違うが)をモチーフにした紫のメダルのコンボ。その力は装着者である一夏の戦闘能力を含め、俺の予想を大幅に上回っていた。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

だが、それは当然と言えば当然なのかも知れない。『紫のコアメダル』が司るモノは“無の欲望”。原作の『オーズ』において「ダァクトゥァー真木ィ!!」こと、真木博士が『世界の終末』を望んだ様に、一夏は『世界の修正』を心の底から望んでいる。この世界を“俺が存在しない『基本世界』”と同じにしようと戦っている。

 

……だからだろうか? 一夏が変身した『紫のポセイドン』の腰に装着されたドライバーに嵌め込められた『紫のコアメダル』が激しく光り輝き、その潜在能力を余すこと無く発揮しているのは。しかし――。

 

「ッッ!! ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「!! やはりその力、何かリスクがあるみたいだな……!!」

 

「うるっ……せぇ……!!」

 

大型恐竜並みに強化された身体能力とメダガブリューを用いて、一夏の振るう大剣を受け止めると、突然一夏が苦しみだした。そもそも、通常のコアメダルのコンボでさえリスクがあると言うのに、それを大幅に上回る力を持った『紫のコアメダル』のコンボを使っているのだ。只で済む筈がない。

 

「変身を解除しろ!! 下手をすると死ぬぞ!!」

 

「……それでアンタを止められるって言うなら……喜んで死んでやるッ!!」

 

「一夏……ッ!!」

 

「俺が、俺が皆を守るんだ!! もう、これ以上……失う訳にはいかないんだよぉおおおおおおおおおおおおッッ!!!」

 

絶叫と共に体をぶつけて俺を弾き飛ばすと、一夏は肩から無数の氷柱を発射して俺の両足を凍らせて身動きを封じた後、盾を捨てて大剣を両手で持ち、大上段に構えた。

 

「!! 何ッ!?」

 

「ゴクロー・シュレディンガー。お前に渡す位なら……ッ!!」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

此方の『DXオーズドライバーSDX』と異なり、スキャナーによるコアメダルの再スキャン無しで発動する必殺技のコール音。

一見すると一夏は、防御を捨てて一撃必殺に賭けたかの様に見えるが、堂に入ったその姿から伺う事が出来たのは、織斑先生から伝授されただろう、真剣による勝負による命のやり取りに対する覚悟。

 

つまりは……俺に対する純然たる殺意だ。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

魂の咆哮と共に、高密度に収束された紫のエネルギーによって発光する大剣を手に、斬り掛かる一夏。逃げる事は出来ない。そして避ける事は許されない。これはそんな一撃だ。

しかし、同じ系統のメダルのコンボを使っていて、どうしてここまで戦闘力に差が生まれるのか? やはり、俺も覚悟を決めるしか無いのか……? コイツの様に、自分の命を差し出し、相手の命を奪う覚悟を……ッ。

 

俺がそんな諦めにも似た覚悟を決めかけたその時、ふと頭に閃いたものがあった。

 

「アンク!! タカ・トラ・バッタ!!」

 

「!? チッ!!」

 

コアメダルを手渡して交換する時間は無いと思ったのか、アンクがドライバーに飛び込むと、紫色で統一されていた3枚のメダルが赤・黄・緑に変化し、俺は即座にそれらのメダルをスキャンする。

 

「変身!!」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

「!?」

 

プトティラコンボからタトバコンボへのコンボチェンジ。これには一夏も面喰らった様だが、振り下ろされた大剣は止まらない。

そして、本来ならば俺の脳天に加えられる筈だったその一撃は、メダガブリューとメダジャリバーの二刀によって防がれた。

 

「何だ……何のつもりだ。何のつもりなんだソレは! ふざけんな!!」

 

「……ふざけてなんていない。考えてみれば簡単な事だった」

 

そう、考えてみれば『紫のコアメダル』が司るのは『無の欲望』。破壊や破滅と言った、人間の心が抱えるマイナス面に強く反応する。それ故に、一夏に対してそうした欲望を持っていない俺とは、そもそも相性が悪かったのだ。

 

「一夏……お前は“俺を破壊したい”んだろう? だからその『紫のコアメダル』はお前に力を与えている。だが、俺には“お前を破壊したい”と言う欲望は無い。だから……だからこそ“この姿”になったんだよ。俺は!」

 

「ッッ!! 俺なんか壊すまでも無いって言うのか……ッ!!」

 

「……違う。お前の言う通り、俺はこの世界の外側からやって来た異端者だ。お前に言われなくなって、何度も思っていたさ。ここは“自分が居て良い場所じゃ無い”なんて事は」

 

「だったらとっとと出て行けよ!! 俺らに構わず、とっとと消えれば良いじゃねぇかよぉおッ!!」

 

「……それでも、見過ごせないモノがあった。どうしても、見ていられない人達が居た。それをどうにかしてやりたかった。その所為なのかも知れないけれど、ソレは何時か誰かがやる事だったのかも知れないけれど……俺は、『この世界で生きて欲しい』と言われたんだ」

 

「……は?」

 

「俺は、確かにこう言われたんだ。『この世界が俺の居場所』なんだと……『俺が生きる世界で一緒に生きていたい』と……ッ!!」

 

「黙れぇえええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!」

 

俺の言葉を否定する様な猛攻を繰り出す一夏を、メダガブリューとメダジャリバーの二刀流で捌いていく。その間にもドライバーに嵌め込まれたタカ・トラ・バッタの3枚のコアメダルは、一夏の3枚の『紫のコアメダル』と同様に……いや、それ以上の輝きを持ってその力を増していく。

 

「だから俺は死ねないッ!! 俺はこの世界で、束と、クロエと、箒と、マドカと、皆と……“生きて”、“逝きたい”んだッッ!!!」

 

これまで心から受け入れる事が出来なかった第二の人生。人の命は一つしか無いと考えていた俺としては、一度死んだ人間である俺がこの世界で生きることは、ルール違反も甚だしい反則の様な事だと思えて仕方が無かった。その所為か、「何時死んでも良い」と思う気になる事だって何度もあった。

 

だが、今は違う。反則だとか、ズルだとか、異常とか、イレギュラーとか、そんな事とは全く関係無い。ただ純粋に、アイツらと一緒に生きて、逝きたい。

それが俺の『仮面ライダー』としてではなく、『オーズ』としてでもない、『ゴクロー・シュレディンガー』としての欲望だった。

 

「束さん達と……生きて逝きたいだと……? 笑わせるな!! 俺だけが、俺だけがこの世界で皆を幸せに出来る唯一の人間なんだ!! お前に皆は……渡さないッッ!!!」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

「……アイツらが誰と共に生きるか、誰と一緒に逝きたいのか。それはきっと少なくとも……」

 

――……なあ、ゴクロー。私の幸せは一夏でも、ゴクローでも、他の誰でも無い。私が決めることなんだぞ?――

 

「俺達が勝手に決める事じゃ無い」

 

『トリプル・スキャニングチャージ!』

 

そして再び紫のエネルギーを纏った大剣による一撃が迫り、それを俺は3枚のセルメダルのエネルギーを纏ったメダジャリバーで受け止める。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

激突する刃は激しい閃光を放ち、ギャリギャリと刃が潰れる嫌な金属音が鳴り響く。そんな鍔迫り合いの中、決め手に欠くと思った俺達の選択肢は、奇しくも「ガイアメモリによる強化」という一致を見た。

 

『ZERO・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『JOKER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

俺がジョーカーメモリのマキシマムドライブを選択したのに対し、一夏はゼロメモリのマキシマムドライブでソレに対抗する。『無の記憶』を宿したゼロメモリの効果は、記憶が正しければ「触れた物体のエネルギーの消失」。成る程、『紫のコアメダル』との組み合わせとしては最適解と言えるだろう。

 

「これで……終わりだぁあああああああああああああああああッ!!」

 

「冗談だろッ!!」

 

ゼロメモリのマキシマムドライブによって、一夏は自分の勝利を確信している様だった。

 

しかし、俺は知っている。小説版『仮面ライダーW』において、仮面ライダーアクセルがゼロ・ドーパントと対峙した際、彼は「スロットルを回転させる事でメモリのエネルギーを増幅させる」というアクセルの特殊能力によって、ゼロ・ドーパントの能力を攻略していた事を。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「!? な、何だッ!?」

 

ジョーカーメモリは『切り札の記憶』を内包したガイアメモリ。そしてその力の真価は、限界ギリギリの土壇場でこそ最大限に発揮される。

今回、俺が発動したジョーカーメモリの最大出力は、一夏が発動したゼロメモリの最大出力を上回っても尚、その力の上昇が止まることは無く、遂には一夏の持つ大剣と、俺の持つメダジャリバーがそのエネルギーに耐えきれず、音を立てて同時に砕け散る事となった。

 

「!? そんな……!!」

 

「オラァッ!!」

 

確信した勝利が崩れた事に動揺し、隙だらけだった一夏の腹……正確にはドライバー目がけて、左腕のトラクローを突き刺すと、残された力を全て右腕に集約させ、必殺の一撃となる決め手を叩き込んだ。

 

「ライダァアアアアアアアア……パァアアアアアアアアアアアアアアンチッッ!!!」

 

「ウワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

渾身の右ストレートは一夏の顔面を捕らえ、一夏を豪快に吹き飛ばす。それと同時にドライバーに突き刺したトラクローが引き抜かれると、紫色をした3枚のコアメダルがトラクローの間に挟まっていた。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「………」

 

ドライバーからコアメダルが外れたことによるモノか、それとも装着者が戦闘不能になった事によるモノか。シュラウドの事を考えると前者の方が正解の様な気がするが、兎に角一夏は『紫のポセイドン』と言うべき異端のライダーから元の姿に戻った。

しかし、その体は明らかに戦闘による怪我以上のダメージを負っており、どう見ても無事では無かった。

 

「コレは……ヤバいな……」

 

『ハッ。自業自得だ。ろくでもない外法なんぞに頼るから、体を磨り潰しながら戦う羽目になる』

 

「………」

 

――俺だけが、俺だけがこの世界で皆を幸せに出来る唯一の人間なんだ!! お前に皆は……渡さないッッ!!――

 

……そうだな、一夏。俺もお前と同じ様に、「特異点オリシュの居ない基本世界」と、「特異点オリシュの居る平行世界」を見てそう思ったよ。だが……。

 

――束さんも、昔は似たような事考えてたよ。この世界に私の居場所は無いし、私を本当の意味で理解してくれる人も居ない。だから、「この世界は私の世界」じゃないんだって、本気で思ってた――

 

その言葉で俺は孤独に敗れ、束を、クロエを、箒を、マドカを……自分と共に生きる存在を求めてしまった。まるで哀れな、弱々しく泣き伏せる童の様に……。それが彼女達の運命が本来辿るべきレールから外れ、地獄の道連れになってしまうかも知れないと解っていて……。

 

そうだ。戦いを長引かせたのも、お前達を戦いに巻き込んだのも、全てはこの俺の弱い心と力ゆえ……。

 

「織斑先生に合わせる顔が無いな……」

 

『……あのな、ゴクロー。突き詰めていけばこんなものは、餓鬼の喧嘩だ。お前はコイツに“付き合ってやった”だけだ。この馬夏の児戯にな』

 

「児戯……?」

 

『そうだ。闘争の本質だ。「“それ”を打ち倒さなければ“自分”になれない」。だからその為だけに、何もかもを引っくり返して叩き売った。10年前のウサギ女と織斑千冬も、この馬夏も、シュラウドも、あのデブの少佐もな』

 

「………」

 

『だからコイツはお前と戦った。戦いたがった。そうでなけりゃ、自分が一歩も前に進めないからだ。他に進む術も知らなかったからだ。

そして何よりもコイツは無用者になるのが……役立たずになるのが怖かった。だから「俺は俺の大事な家族を守る」と言いながら、自分が最も大事に思っている家族をその手にかけた』

 

「……」

 

『要は餓鬼なんだよコイツは。何一つ変わっていない、変わる事も出来ない。痩せっぽっちの糞餓鬼だ』

 

「………」

 

アンクの一夏に対する批評を聞き終えた俺は、仰向けに倒れる一夏に近づくと、手元からロストドライバーとエターナルメモリを取り出し、ロストドライバーを一夏の腰に装着させた。

 

『おい、ゴクロー。何を考えている?』

 

「一夏を『エターナル』に変身させる。コイツには『生体再生機能』があるから、今ならまだ助かる筈だ」

 

『……コイツはお前を本気で殺しにかかったんだぞ? 情けを掛けても、恩を仇で返されるんじゃないのか?』

 

「……アンクが言った筈だぞ。俺の線引きは『愛を失い、愛に彷徨う人間なら必ず助ける』って。その基準で言うなら、一夏だって同じだ。愛を失い、愛に彷徨していた……」

 

『………』

 

「だから……俺は……」

 

『ETERNAL!』

 

エターナルメモリを起動させ、メモリスロットに差し込む。そしてメモリスロットを傾けると、一夏の体が蒼炎を宿した白亜の騎士へと変わる。うむ、エターナルメモリとの相性は悪くないだろうと思っていたが、無事に変身できて良かった。

 

「それで……取り敢えず此方は終わったが、他はどうなっている?」

 

『マドカが「ズー」、箒が「ファング」、中華娘が「京水」、そしてウサギ女が「ユートピア」を相手にしているが……さて、どのメモリの所へ加勢に行く?』

 

「そうだな……まずは……」

 

『TIME・MAXIMUM-DRIVE!』

 

そのガイダンスボイスが聞こえた直後、強烈な衝撃が腹部を襲い、その場から大きく弾き飛ばされた。

 

「ウゴォオオオオオッ!!」

 

「何ぃいいいいいいッ!?」

 

地面を転がりながら変身が解除され、アンクがドライバーから飛び出すと、その場に数枚のコアメダルが降り注いだ。その光景にハッとして腰に巻かれたドライバーに視線を落とすと、ドライバーには横一文字に斬ったかの様なキズが深々と刻まれていた

 

「何だ……? 今のは……?」

 

「成長した『紫のコアメダル』……これが欲しかった」

 

「「!!」」

 

アンクでも、一夏でも無い、聞き覚えの無い声に驚き、その声の主を探ると、そこには6枚のコアメダルが六芒星の形を描いたドライバーを腰に巻いた、Wとオーズとポセイドンの要素がごちゃ混ぜになった様なビジュアルの、見たことも無い仮面ライダーが『紫のコアメダル』を手にしていた。

 

「誰だ……お前は……」

 

「私はライト。新たな世界の創造主にして、旧世界の破壊神となる男だ」

 

「ライト……!? ライトって確か……」

 

「ああ、お前の体のオリジナルで、包帯女の息子だ。死んだ筈の……」

 

「そう、私は一度死んだ。だが、こうして再び蘇ったのさ。『ミレニアム』が母さんに隠していた、セルメダルを使った肉体の再生技術によってね」

 

「「!!」」

 

セルメダルを使った肉体の再生技術。そして母さんと言う単語から、目の前にいるのが一度死んで蘇ったライト本人である事を確信する。だが、それよりも問題なのは……。

 

「お前……『紫のコアメダル』が欲しかったってどう言う事だ?」

 

「全てはコアメダルを完成させる為さ。人類にとって闘争とは進化のエネルギー。野蛮な人間達の闘争こそが、『紫のコアメダル』を含めた全てのコアメダルを成長させる為に必要な、最高の養分を生み出す苗床になる。

そう、例えば君の所に身を寄せている鳳鈴音や、そこに転がっている織斑一夏みたいに、コアメダルやガイアメモリの力を疑いもせずに軽々しく使うような、 血の気が多くて好戦的且つ、単細胞で理由さえあれば人を傷つける事を躊躇わない馬鹿なんてのが、そうした役目を果たすのに最も相応しい」

 

俺の質問に答えながら、ライトと名乗る正体不明の仮面ライダーは、かつて鈴音が取り込んでいた鳥系と重量系のコアメダル各3枚をドライバーから外すと、そこへ手にした6枚の『紫のコアメダル』を嵌め込んでいく。

 

「確かこうだったかな? 超変身ッ!」

 

『プテラ! トリケラ! ティラノ! ユニコーン! アンキロ! ヌエ!』

 

ライトがコンボ形態への変身を宣言する単語を口にした瞬間、6枚の『紫のコアメダル』を装填した六連式のポセイドンドライバーから、この世界から既に絶滅、或いは存在しない動物の名前が聞き慣れたガイダンスボイスで次々と告げられると、その体色が赤と銀の二色から、紫一色に統一される。そしてその全身のディティールは、鳥と陸上動物が混ざったキメラの様なモノから、ドラゴンが人型の形を取った様なモノへと変化した。

 

「さて、そろそろ仕上げだ。お前達も新時代の礎となるがいい。ああ、間違っても命乞いはしないでくれ。時間の無駄だ」

 

『APPLE!』

 

これまた聞き慣れたガイダンスボイスと共に、左手に毒々しい紫色のリンゴを模した盾を召喚すると、盾の中央に備え付けられた柄を右手で引き抜く。鞘の役目を果たしていた盾から露わになったその両刃剣の切っ先は、『オーズ』への変身を失った俺に向けられていた。




キャラクタァ~紹介&解説

アリーシャ・ジョゼスターフ
 本作のかなり早い段階から、名前だけは出ていたイタリア代表操縦者。今話でようやくまともな出番と台詞が与えられたが、彼女の活躍については次話を期待していただきたい。
 尚、この世界では千冬が一夏の手によって意識不能の状態にある為、原作の様に『亡国機業』からの勧誘は受けていない。本人としては『IS大戦』において無双の活躍を見せた『オーズ』との戦いに胸を躍らせているが……。

ライト
 言うなれば“悪いフィリップ”であり、本作のラスボス。その正体はシュラウドの息子を元にした、セルメダル製ホムンクルス。つまり『MOVIE大戦CORE』に登場したノブナガみたいなヤツ。ある意味ではゾンビ兵士になった大道克己と同じ存在とも言える。



ファングメモリ&ズーメモリ
 それぞれが『牙の記憶』と『動物園の記憶』を宿し、独立した思考プログラムを持つ自立稼働型のガイアメモリ。今回の個体はシュラウドの命令によって、それぞれが『ファング・クエイク』と『銀の福音』を強制的に発動・強化させると共に、シュラウドの手駒として動くように調整されている。元ネタは原作と小説版『W』の「Zを継ぐ者」から。
 尚、今回の襲撃は原作で言うなら、第三巻の『臨海学校編』と第7巻の『タッグマッチ』において束が起こした事件を、シュラウドが独自に前倒しにする形にして起こしたモノである。

5963 VS ワンサマー
 作者が『剣』でオンドゥル王子がやってのけた「最強クラスの敵(カテゴリーキング)を基本形態で倒す」と言う、かなり衝撃的だった展開を此処でもやってみようという欲望が具現化したモノ。まあ、劇場版『アギト』の「G3-X VS G4」とか色々な要素も入っているんだケド。
 その結果としてエンジンブレードに続いて、ジャリ剣ことメダジャリバーもぶっ壊れてしまったが、今後の展開的には特に問題は無い。

ヘキサポセイドン
 本作のラスボス。一夏が使用した『HERO SAGA』に登場したショッカー首領が変身する『ヘキサオーズ』とは異なる発展を遂げた『オーズ』の進化系と言うべき存在。そしてメタ的に言うなら、作者がこの作品を手早く終わらせる為に生まれた存在。
 今回使用した「鳥類系コアメダル3枚+重量系コアメダル3枚」の組み合わせは、例えるなら「『オーズ』のコンボ形態を、『W』のハーフチェンジの様に使用している」様な状態。当然、今回の様に同系統のコアメダル6枚のコンボも使う事ができる。

DXヘキサポセイドンドライバーSDX
 5963の“6枚のコアメダルを用いて変身する”とされる『六連ドライバー』の話を参考に、『DXオーズドライバーSDX』のデータから『DXハデスドライバーSDX』と言う試作品を経て完成した六連式のポセイドンドライバー。当然ながらガイアメモリも使える。
 元ネタは『ヘキサオーズ』が使う『六連ドライバー』だが、元ネタがオーズドライバーを上下に重ねた様な見た目なのに対して、こちらはポセイドンドライバーのコアメダルを装填する部分が六芒星を形作る様な見た目になっている。大きさ的には『ゴースト』の『グレイトフル眼魂ドライバー』位だろうか?

タイムメモリ&アップルメモリ
 どちらも原作に名前だけ登場する、『時間の記憶』と『リンゴの記憶』を宿したガイアメモリ。これらのメモリも5963の記憶を参考にして造りだしており、タイムメモリは『剣』の「スカラベタイム」。アップルメモリは『鎧武』の「ゴールデンロックシード」が元ネタになっている。
 そして、作中の描写を見る限り「タイムの方は『エグゼイド』の絶版おじさんみたいじゃね?」と思った読者の方。貴方は正しい。実際、時間停止の参考にしたのは、仮面ライダークロノスの「ポーズ」である。

ライト「『アーキタイプ・ブレイカー』は絶版だ」
5963「何で?」
ライト「主人公がオリジナルじゃないから」
5963「………」
ライト「………」


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第35話 HEART∞BREAKER

「ゆるゆる……ゆるゆる……ゆるゆる……ゆるゆる……(カチ……カチ……)」

パァアアアア……。

「ワシはユル神。君は中々見所があるな。どうじゃ? ワシの後を継いでユル神にならんか?」

「そうですねぇ~~。……ん?」

インフィニット・ストラトス12巻 4月25日発売

「……面倒臭ぇえええええええええええッ!!(カタカタカタカタカタカタ)」

「何ィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」

そんな訳で、今回は三話連続投稿です。何? どう言う訳か分からない? 

……最終回の後書きで話すって事で。


IS学園の一角に建つ『NEVER』の拠点。『NEVER』のメンバーにとっては自分達が帰る家であり、活動拠点であり、重要施設であるこの場所に、今回のIS学園襲撃の主犯であるシュラウドが、ユートピアメモリの力を身に纏った状態で頭から突っ込んだ。

屋根が破壊され、各々の私物が無残に粉砕される中、シュラウドは土埃と粉塵の舞う部屋の向こう側から、宿敵の接近を感じ取っていた。

 

「大分派手にやってくれたねぇ……。ねぇ、分かってる? ここは束さんとゴッくん達が帰るお家なんだけど?」

 

「壊れるのが早いか遅いかだけの違いよ。大体、貴方にとって此処は少し羽根を休める程度の止まり木でしかないでしょう?」

 

「……まあ、確かにずっと此処に居られるとは思って無かったケドね」

 

篠ノ之束とシュラウド。本来ならば暗躍する筈だった者と、今この世界で暗躍している者が、お互いに不穏なオーラを纏いながら対峙していた。

 

「前に来た時の事をゴッくんが言ってたよ。『どう考えてもメモリの出力がおかしい』ってね。私の考えだと、そのドライバーが“メモリの最大出力を常時発揮できる仕様になっている”のが原因だと思うけど、それなら何でそんな仕様にしたのかって疑問が浮かんでくる訳で……まあ、ちょっと考えれば答えはすぐに分かるよね。単純に『残された時間が少ない』。つまり『もう身体が保たない』んだよね?」

 

「………」

 

「ボロボロの身体に無茶な改造をして、残された時間で何とか目的を完遂しようとしてる。だから急ぐ必要があるんだよね? 気持ちは分からなくも無いよ? 私だって昔同じような事したからね」

 

「貴方と私が同じ? ……反吐が出るわ。あの時の貴方は命なんて賭けていなかった。でも私はこうして命を賭けている。貴方とはこの戦いに賭ける覚悟が違うわ」

 

「……そうだね、確かに違う。でも、だからって私はアンタの思い通りにはならないよ。だってそうでしょ? 長年憎んだ怨敵がお坊さんみたいに悟ったよーな顔で『分かってますよ。さぁ、どうぞ』なんて言って差し出した命を奪うのって、仇討ちとは違うよねぇ? そんなの私なら、正直ふざけるなって思うよ。

それこそ罪悪感に責められつつも未練タラタラで、『死にたくない』って命乞いでもしてくれなきゃ、仇討ちのし甲斐が無いと思うのですよ束さんは。だから……」

 

『UTOPIA!』

 

「徹底的に抵抗させて貰うね?」

 

『UTOPIA!』

 

奇しくも同じガイアメモリに選ばれた二人。もっとも、束はガイアメモリ対応型ISを介してユートピアメモリを使っており、おおよその特徴こそシュラウドと似通っているが、バイザーの下半分は顔が露出し、腰にはロストドライバーが巻かれ、その手には『玉座の謁見【キングス・フィールド】』と言う魔法少女チックな見た目の杖が握られている。

 

「フフフ、同じメモリ同士の戦い……。正に『運命』と言うべきかしら?」

 

「そうだね。それじゃあ、思う存分……」

 

「「潰し合おうか/潰し合いましょう」」

 

 

○○○

 

 

「当たって……っ!!」

 

「La……」

 

「ハァアアアアアアアアッ!!」

 

簪が放った無数のミサイル攻撃を、翼から発射した無数のエネルギー弾で打ち落とし、その爆炎に紛れて接近したマドカの『青騎士』による剣劇の嵐を、猛獣の様な形のクローで防ぎきる。

それはズーメモリによって強化された『銀の福音【シルバリオ・ゴスペル】』が、『オーズ』と同等の能力を持っている証左に他ならない。

 

「……成る程、大体分かった」

 

「マドカちゃん、どいて!」

 

楯無はマドカの相手をする『銀の福音』の動きを先読みし、未来位置を予測する事で罠を張っていた。マドカが追撃を止め、『銀の福音』がマドカから距離を取ろうとした矢先、『ミステリアス・レイディ』の「クリア・パッション」が発動。

ナノマシンを用いた水蒸気爆発が『銀の福音』を襲うが、『銀の福音』は大きな翼で自分の身体を包み込む様に防御していた。

 

「……お姉ちゃん。アレ、効いてると思う?」

 

「流石にダメージ0って事はないと思うケド、殆ど効いてないと思うわ。本当にガイアメモリって厄介ね」

 

「いや……全体的に見ればそれほど脅威とは言えない」

 

「「え?」」

 

「今回ベースになった『銀の福音』の戦闘スタイルは射撃に特化していて、広範囲殲滅攻撃を得意とするISだ。それに対して挿入された『ズーメモリ』は、肉体を様々な動物のモノに変化させる能力を持ったガイアメモリ。

そして今までの戦闘から、中・遠距離ではISの武装を、近距離ではガイアメモリの能力をと言った具合に分けて使っている。つまり、ISの長所とメモリの能力が合致してない。『ISの弱点をメモリの能力で補っている』と言えば聞こえは良いがな」

 

「……成る程ね。つまり、中・遠距離戦なら普通のIS戦と変わらないって訳ね」

 

「ああ、だからお前達は遠距離攻撃に終始してくれ」

 

「了解よ! 簪ちゃん!」

 

「うん!」

 

討ち取る為の隙を作るべく、簪が纏う『打鉄弐式』に搭載された「山嵐」による全方位からの物量攻撃。それに対して、またもや翼を展開しての広範囲攻撃で振り払おうとする『銀の福音』が、突然その動きを止める。

楯無が操る『ミステリアス・レイディ』の単一仕様能力「セックヴァベック」によって、『銀の福音』は空間に沈み、高出力ナノマシンのAICを遙かに凌ぐ拘束力によって、動きを封じられたのだ。

 

「簪ちゃん! 今よ!」

 

「うん! お姉ちゃん!」

 

そして、身動きの取れない『銀の福音』に、荷電粒子砲と水蒸気爆発が炸裂。その後、煙の中から現われた『銀の福音』は空間拘束結界から抜け出したものの、防御に翼を使う事が出来なかった為、今度の攻撃はボディに直撃しており、先程よりも有効打を与えられた事を姉妹は確信する。

 

「レベル2……ッ!」

 

『NASCA・LEVEL-UP!』

 

そして、このチャンスを逃がすまいとしたマドカの意志によって、魔改造を施されたライダーマシンとの地獄の様な戦いの日々をこなす事で到達した、ナスカメモリのレベル2が発動する。

それによって『青騎士』の由来となった青一色の機体は一瞬でオレンジに染まり、背中からは青紫のエネルギーで形作られた翼が発生する。

 

マドカは『銀の福音』を見据えながら一振りの刀剣を握りしめ、ナスカメモリを右腰のマキシマムスロットへ装填すると、即座にタップしてナスカメモリの最大出力を発揮させる。

 

『NASCA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

最大出力を告げるガイダンスボイスが流れた刹那、音を置き去りにする速度によって入る事が許される世界に突入したマドカは、その動きに全く対応できない『銀の福音』の懐へ容易く接近する。

 

「せいやぁあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

一刀両断。ISの装備を用いた遠距離攻撃から、メモリの能力を用いた近接攻撃に移行する間も無く、マドカの一撃は『銀の福音』に埋没したズーメモリを完全に捕らえた。

一撃必殺の攻撃をまともに受けたズーメモリは、衝撃によって『銀の福音』から排出されると、その狼を模した外装パーツが砕け散り、その中から綺麗なクリアボディの純正ガイアメモリが姿を現した。

 

「……チッ。レベル2の力でも砕けないのか」

 

「おっとっと! ちょっと、ちょっと、マドカちゃん! パイロットの方もちゃんと確認する!」

 

「そんなのはお前でも出来るだろう。それよりも私はゴクローの方に向かう。後は頼んだぞ」

 

「え!? ちょっと、待って! 私も……」

 

「お姉ちゃん! その人宜しく!」

 

「簪ちゃあああああああああああああああん!?」

 

ISが解除され、気絶しながら落下していたナターシャ・ファイルスを、とっさに受け止めた楯無に任せると、さっさとゴクローの方に向かって行くマドカと簪。

妹キャラ二人によって貧乏くじを引かされた事に気付くも既に遅く、楯無は気絶したナターシャ・ファイルスを応急室に運ぶのであった。

 

 

○○○

 

 

一方で、ファングメモリが挿入された『ファング・クエイク』と戦うアリーシャ、箒、セシリアの三人は苦戦を強いられていた。

マドカ達が戦っていた『銀の福音』と違い、此方は元となったISと挿入されたガイアメモリの相性が良く、その戦闘能力が単純かつ強力に増強されていたからだ。

 

「GUUUUUU! GAARRRRRRRRRR!」

 

「つ、強い……」

 

「ええ、操縦者の意識は殆ど無い筈ですのに……」

 

「多分『野生の本能』ってヤツだと思うのサ……」

 

近距離では大幅に底上げされた高い格闘能力と、闘争心を剥き出しにした野獣の様な戦闘スタイルで此方を攻め立て、中・遠距離ではブーメランの様な投擲用のブレードを生成して飛ばしてくる。

これだけでも厄介だが、防御面でも多少の攻撃はモノともせず、更には『ブルー・ティアーズ』のあらゆる角度から放たれるレーザー攻撃を、全身から生やしている近接攻撃用のブレードで反射させると言う芸当までやってのけている。

 

「光学兵器が防がれる以上、物理攻撃以外に手は無いが……」

 

「今はこの場の誰も、アレを突破するレベルの強力な物理攻撃が出来る装備はありませんわ。それと人間と戦っている様な気がしません」

 

「そうサ。アレは人の形をした獣サ」

 

『篠ノ之さん! オルコットさん! アリーシャさん! 聞こえますか!?』

 

鋼の魔獣と化した『ファング・クエイク』を相手に有効打を撃つことが出来ない状況に三人が歯噛みする中、山田先生からの通信が三人に入った。

三人の応援に来たと思われるが、ガイアメモリに対応していないISを使っている以上、生半可な装備では目の前の魔獣を相手に戦う事は難しいと言わざるを得ない。

 

その事を箒は伝えたが、それに対して山田先生は自信満々にこう返答した。

 

『大丈夫です! アリーナの中央にターゲットを何とか誘導して動きを封じて下さい! そうすれば力になれます!』

 

「中央に……? やってみますが、そんなに長い時間は拘束出来ませんよ?」

 

『構いません! 数秒でも拘束できれば、何とかなります!』

 

「フム……まあ、このままでもジリ貧サ。此処は一つやってみようじゃないカ」

 

「……そうですわね。やってみましょう!」

 

「ああ、それならセシリア。コレを使え」

 

箒がセシリアに渡したのは、『黒柘榴』の頃から愛用していた「無双セイバー」。渡された武器の情報を見て、箒の意図を察したセシリアは小さく頷くと、黒い「ソニックアロー」を構える箒と共に動き出す。

 

「さあ、鬼さんコチラッ!」

 

「GUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

アリーシャが『テンペスト』の単一仕様能力で精製した風の分身と共に、囮となって魔獣をアリーナの中心に誘導する。そして、風の分身が切り裂かれ、『ファング・クエイク』がアリーナの中心に位置取った瞬間、箒の持つ『ソニックアロー』から放たれた矢と、セシリアの持つ『無双セイバー』の銃口から発射されたエネルギー弾が命中。

その瞬間、黄色いエネルギーネットが魔獣の体を拘束し、赤い球体状のエネルギーが魔獣の周りを包み込む。もっとも、強化された『ファング・クエイク』が相手では大した足止めにはならない。しかし、この短い拘束時間こそが、山田先生“達”が欲したものだった。

 

「今です!!」

 

『了解です!』

 

『了解だよ!』

 

そして『ファング・クエイク』が拘束を解こうと足掻く中、アリーナに続く四つの地上ゲートの内二つから、轟音と共に無数の砲弾が『ファング・クエイク』に殺到する。

その正体は、束の手によって魔改造が施された「クアッドガトリングパッケージ」が搭載された『ラファール・リヴァイブ』を纏う、山田先生とシャルロット・デュノアの二人による十字砲火だった。

 

「GYUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

重量と反動制御故に機動力を完全に失った事と引き替えに、最強の物理攻撃を獲得した2機によるクロス・ファイアは、『ファング・クエイク』に与えられた恐るべき牙を、見る見る内に破壊していった。

そして、自力で拘束を引き千切り、必殺の弾幕から抜け出した時、流石の魔獣も甚大なダメージと消耗を隠すことは出来ず、もはや「手負いの獣」と言う言葉では生易しい程にボロボロで、エネルギーも底を尽きかけているのは明白だった。

 

「GUAAA……GYAAAAA……」

 

「今だな!」

 

『ENGINE!』

 

箒はエンジンブレードを手元に召喚すると、即座にエンジンメモリを装填し、満身創痍の魔獣の元へ一気に接近する。

 

『ENGINE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「おおおおおおおおおおっ!! せいやあああああああああああああああああっ!!」

 

反撃の隙を与えることなく、箒が『ファング・クエイク』をA字型に三度斬り付けると、その体に紅く輝くAの軌跡が残される。

 

「絶望が……お前のゴールだ!」

 

箒が決め台詞を言った直後、『ファング・クエイク』は爆発。飛び出したファングメモリの恐竜の形をした外装パーツは砕け、ゴクローが持っているモノと同じ形になったファングメモリが地面に落ちた。

 

「……モップちゃん。別にコーリングは悪気があってこんな事やってる訳じゃないんだから、その台詞はどうかと思うのサ」

 

「し、仕方ないでしょう! それが決め台詞だとゴクローに言われたのです!」

 

「と、兎に角、メモリも回収できましたし、取り敢えずこの場は解決ですわ」

 

「それじゃあ、引き続きそこら辺で暴れてる雑魚は任せて、モップちゃんはボスの所に行くと良いのサ。ロールパンちゃんは、ちょっとアタシに付き合うのサ」

 

「ロール!? それって私のことですか!?」

 

「デュノアさんも、パッケージを外したらセシリアさん達と一緒に行って下さい。気絶したイーリスさんの方は私が何とかしますから」

 

「わ、分かりました」

 

こうして、魔獣『ファング・クエイク』は撃破され、箒は一人先んじる形でゴクローの元へと向かった。

 

 

○○○

 

 

前回のIS学園襲撃の際と同様、京水は『コマンダー』のメモリを使い、IS学園の至る場所にマスカレイド・ドーパントとコマンダーの仮面兵士が混ざったような姿の分身体をばらまき、施設の破壊を行わせていた。

 

「く~ねく~ね~。ぬ~るぬ~る~。あたッ!?」

 

そして、IS学園中を飛び回る京水を襲う二つの光輪。その正体は『黒柘榴』を纏った鈴音による、『キウイ撃輪』を模した二枚の円盤カッターだった。

 

「あら、お久しぶり~~~。あれから体の調子はどう? おっぱい大っきくなった?」

 

「……体の調子はすこぶる良いわ。それと胸なんて飾りよ」

 

地味に鈴音の逆鱗に触れる様な事を言う京水だが、当の鈴音はイラッとしつつも冷静に言葉を返した。これには京水も少し意外に思ったが、気を取り直して鈴音と向かい合った。

 

「それで何? アタシに何の御用?」

 

「用? そうね、用はあるわ。罪の清算って言う大切な用事がね……」

 

そう。鈴音は過去に決着をつける為に、京水の元へ単身で向かったのだ。かつてバイオレンスメモリを手にした時とは違う、覚悟と決意を秘めた瞳で京水を見つめる鈴音は、過去を振り返りながら静かに語り出した。

 

「一つ。あたしは力さえあればどんな事でも許されて、全部自分の思い通りになると思ってた」

 

そう言いながら鈴音は、かつて中国の代表候補生に選ばれた頃を思い出していた。そして、そう語る鈴音の腰にロストドライバーが装着される。

 

「二つ。その為に力を求めて、あたしはその力に心を奪われた」

 

そう言葉を紡ぎながら、専用機としてIS『甲龍』を国から渡され、その力を存分に振るっていた時を思い浮かべる鈴音。その右手には、一本のガイアメモリが握られている。

 

「三つ。その所為で取り返しのつかない事をした……」

 

そして、敗北と挫折を受け入れられず、バイオレンスメモリを手にしてからの自分の行動を、そして自分の欲望の為に傷つけた人達の事を思いながら、鈴音はガイアメモリの起動スイッチを押した。

 

『W!』

 

「変身」

 

『W!』

 

それは、束が作成したライダーメモリの試作品。『ミレニアム』が対オーズを目的として作成したライダーメモリのデータを基に作成された、「仮面ライダーW」の記憶を秘めたガイアメモリは、ロストドライバーと合体する事で旋風を巻き起こし、風の中で鈴音が纏っていた『黒柘榴』の姿を瞬く間に変えていく。

その姿は『青騎士』等と同じく顔の上半分にバイザーが加わり、首からは一本のマフラーが風を受けてたなびいている。そして機体のカラーは、緑から緑と黒による2色のツートーンカラーに変化していた。

 

「私は罪を数えた……さあ、京水。アンタの罪を数えなさい」

 

「おだまりぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!」

 

無数に放たれるミサイルに対して、鈴音は即座にトリガーマグナムを手元に召喚すると、トリガーマグナムにWメモリを装填し、必殺のマキシマムモードに移行させる。

 

『W・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「トリガー・フルバーストッ!!」

 

無数のミサイルと無数の光弾が激突し、二人の間を凄まじい爆発が連続する。そして、この必中の遠距離戦を制したのは、ミサイルを相殺しつつ京水に3発の光弾を撃ち込んだ鈴音だった。

 

「いやぁああああああああああああああああああんッ!!」

 

「止めよ!」

 

『W・MAXIMUM-DRIVE!』

 

攻撃を受けてよろめいた隙を突き、今度はWメモリを腰のマキシマムスロットに装填し、マキシマムスイッチをタップする。

 

「ジョーカーエクストリームッ!!」

 

全身に旋風を纏い、宙を舞った鈴音は両足を京水に向けて思いっきり突き出した。ダブルドライバーではなくロストドライバーを使用し、一本のガイアメモリで変身している所為か、肉体が正中線を境に半分になる事は無かったが、その両足の威力は京水の機械の体を粉砕し、コアである京水メモリに炸裂した。

 

「アーーーーーーーーッ!! ライトちゃんッッ!!」

 

壮絶(?)な悲鳴を上げて、京水は爆発。その瞬間、コマンダーメモリとガイアメモリ強化アダプターが飛び出し、京水が爆発して生まれた炎の中心に、粉々に砕け散った京水メモリが転がっている。

すると、鈴音が使ったWメモリの方にも異常が現われた。Wメモリから緑と紫の電流が走り、変身が強制解除されたのだ。

 

「……所詮は試作品のライダーメモリだから……かしらね。でも助かったわ。ありがとう、『W』」

 

表面が焼け焦げ、そこから中身が見えているWメモリに対し、鈴音は感謝の意を伝えると、彼女もまたゴクローの元へと向かった。

 

しかし、彼女達は知らない。自分達のボスが今、どんな事になっているのかを。

 

 

○○○

 

 

「おっと、ちんちくりんも上手い具合にやってくれたみたいだね。これで残ってるのはアンタ……と、もう一人だね?」

 

「ええ、もう一人いるわ。私の息子が今、ゴクローと戦っている筈よ」

 

「……確かにそうみたいだね。でも、今のゴッくんは甘くはないよ」

 

「ええ、勿論知っているわ。ゴクローが一筋縄でいかないこと位はね……」

 

味方の戦力が次々と倒され、確実に追い込まれているにも関わらず、シュラウドは動揺する素振りを見せない。その様子から、シュラウドが何か切り札を隠し持っている事を確信した束だったが、現時点ではその正体までは分からない。

 

「貴方も知っての通り、私は『基本世界の情報』を、つまりは『ゴクロー・シュレディンガーが存在しない世界の情報』を持っている。

そしてそれは、これから起こる出来事を前もって知っていると言う事でもある。だからこそ、織斑一夏に“『第三形態』に至った白式”に該当するモノを与えようと思っていた」

 

「でも、それはゴッくんに倒された」

 

「そうね。でも、私はある事に気付いたのよ。他にも“『第三形態』に至った白式”に該当するモノがあるって事を」

 

「? ……! まさか、お前……」

 

「気がついたようね。“レッドフレア”、“レッドフレアエクストリーム”、そして“ブルーフレア”。三段階の進化を遂げ、『白騎士』と『暮桜』のデータを元に創りだした『エターナル』もまた、“『第三形態』に至った白式”に代わり得る。そして、その『エターナル』は今、織斑一夏に装着されている」

 

「……もしかして、最初からそのつもりで、いっくんに『紫のコアメダル』を……」

 

「ええ、ゴクローなら必ずそうすると思ったわ。死にかけている織斑一夏の命を助ける為に。そしてこれも“決まっていた事”よ。本来よりも早い時間で、その配役と脚本家が異なるだけで」

 

「……幾ら未来を見通せても、その通りに進むとは限らないでしょ?」

 

「そうね。でも、今の所私の計画は順調に推移している。そしてコレは本来、貴方が織斑一夏に対して行う筈の事だった。私は貴方がやる筈だった事を、私なりの方法で実行しているに過ぎない」

 

「……黙れよ、お前」

 

「いいえ。言わせて貰うわ。そもそも貴方は『織斑一夏がISを使える理由』に心当たりがあったのでしょう? だから貴方はその仮説を実証する為に、織斑一夏に“織斑千冬にしか使えない筈の『白騎士』のISコア”を搭載した『白式』を与えた。そして織斑一夏は『零落白夜』を使用し、貴方の仮説が事実だと言う事を証明した」

 

「………」

 

「諦めなさい、篠ノ之束。『他人の掌の上で弄ばれ、その欲望を満たすための玩具になる』……それが織斑一夏の運命よ」

 

「……そうだね。そうだったね。でも、だからって私は、それで諦めるような聞き分けの良い女じゃないんだよ」

 

「知ってるわ。だからこそ、私は貴方に絶望して欲しいのよ。そして、その為だけに私は此処にこうして立っている。今に分かるわ。心から愛する者を失う苦しみを……。痛みを……。この私の憎しみを……ッッ!!」

 

再び「理想郷の杖」を構え、憎悪を燃やしながら束と相対するシュラウド。束の顔には焦りからか、一筋の汗が流れた。




キャラクタァ~紹介&解説

織斑マドカ&更識簪&更識楯無
 対『銀の福音』組。作中で語られている通り、此方の方は「ベースとなっているISと、使用しているガイアメモリの能力が適合していない」と言う、今までに無いパターンを相手にして貰った。仮にルナやトリガーのメモリを挿入していたら相乗効果により苦戦は必至だったと思うが、苦手な近距離戦闘を補う事が出来ているので、まるっきり無駄と言う訳でもない。

篠ノ之箒&セシリア・オルコット&アリーシャ・ジョゼスターフ
 対『ファング・クエイク』組。此方は今までと同じく「ベースとなっているISと、使用しているガイアメモリの能力が上手く適合している」と言うパターン。当初は『赤騎士』を纏った箒にトライアルメモリを使わせる予定だったが、結局は下記のシャルロットと山田先生を加える事に。
 ちなみに箒は『黒柘榴』時代から使っている武器を『赤騎士』でも継続して使っており、それが原作における『紅椿』の各種武装の代わりになっている。

シャルロット・デュノア&山田真耶
 初めは参戦させる予定は無かったが、両方とも「ラファール・リヴァイブ」を専用機として使っている事と、原作8巻の「クァッド・ファランクス」を使わせて、色々と辻褄を合わせたいと言う作者の欲望により参戦。
束の手によって魔改造された対IS用ガトリング砲4門✕2によるクロス・ファイアとか、普通のIS相手にはまず使えないと言うか「相手は死ぬ」的な戦法だろうけど、相手がファングメモリで超強化された専用機なので問題ない。多分。

篠ノ之束&凰鈴音
 タイマン組。「因縁のある相手を当てる」と言うスタンスで、それぞれシュラウドと京水を相手に戦って貰った次第。鈴音に関しては作者の欲望から下記の『Wメモリ』を使わせる事は決まっていたが、束に関してはどんなメモリを使わせるか……と言うか、相性の良さそうなメモリは何だろうかと結構悩んだ。
 最終的に、原作10巻で束が重力制御を可能とする魔法少女的なステッキ『玉座の謁見』を使っていた事もあって、ユートピアVSユートピアと言う形に落ち着いた。まあ、性格的にも束とユートピアメモリは相性が良さそうではあるのだが。



ナスカメモリ・レベル2
 レベル2の能力はマキシマムで使える為、此方は原作「W」で言うところのレベル3に該当する状態。単純に戦闘能力が増大するが、操縦者に与える負担も大きい。見た目がもう『青騎士』ではないのだが、パワーアップすると色が変わるのはは『紅騎士』も同じなので気にしないでもらいたい。

Wメモリ
 半分こ怪人の記憶を宿したガイアメモリ。束が『ミレニアム』が用意した対オーズ用ライダーメモリのデータを基にして造った試作品。他のガイアメモリよりも出力が高い関係もあり、作中ではマキシマムドライブの連続使用によって、T1のエターナルメモリよろしく、あっさり使えなくなってしまった。
 元ネタは実際に市販されているライダーメモリから。え? なんで鈴音に渡したのかって? そりゃあ、『戦国MOVIE大合戦』で龍玄が「Wロックシード」を使っていたらからさ。


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第36話 EXCITE

三話連続投稿の二話目。

この作品を書くにあたって、執筆スピードが遅くなって中々完結に向かうことが出来なかった事は、結構精神的に負担が掛かっていたのですが、その分後続の仮面ライダーのネタを使う事が出来ると言うメリットもありました。何が幸いするか分からないモノですねぇ……。


時間は、マドカ達が、箒達が、そして鈴音がそれぞれの敵を打倒した時より少し遡る。

 

「さて……これでもう、君に戦闘手段は残されていない。それとも織斑一夏からロストドライバーを回収するかい? 死人から武器を剥ぎ取るように」

 

「………」

 

確かにメインウェポンの『DXオーズドライバーSDX』が破壊され、サブウェポンのロストドライバーは今、一夏の腰に巻かれている。そしてコイツの言う通りにすれば、一夏は間違いなく助からないだろう。

だが、俺もこうした事態を想定していなかった訳ではない。こんな事もあろうかと、事前に用意していたモノを取り出した時、ライトの視線が少し揺らいだ。

 

「それは……」

 

「これか? これは束に頼んで複製して貰った、予備のロストドライバーだ! アンク!」

 

「おう!」

 

そう。束がガイアメモリの複製や、ガイアメモリに対応したISを造れるなら、ロストドライバーの複製だって簡単に出来る。そんな経緯で誕生した『NEVER』製のロストドライバーを腰に巻くと、アンクから二本のメモリを投げ渡され、その内の一本のメモリのスイッチを押した。

 

『SKULL!』

 

「変身!」

 

『SKULL!』

 

エターナルメモリ以外で俺と比較的相性が良い、「骸骨の記憶」を宿したスカルメモリをメモリスロットに挿入し、メモリスロットを斜めに傾けると、一陣の旋風と共に骸骨を模した装甲が俺の体に装着される。

そして、クリスタル状の頭部にS字の模様が火花と共に刻まれ、その色がメタリックシルバーに変化する。

 

「『スカル』か……それでこの僕と対等に渡り合えると?」

 

「いや、思っていない」

 

『DAMMY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』 

 

そう、コイツの言う通り、スカルメモリで幾ら骨格と中心に身体能力が強化されたとしても、コイツを相手に対等に戦えるとは思っていない、そこでもう一本のガイアメモリ……俺にとって過剰適合であるダミーメモリの力を使い、その姿を『スカル』から『オーズ』へと変えた。

 

「……ああ、成る程。確かにそれなら『オーズ』と同等の力を発揮できるし、コアメダルを砕かれる心配も無い。だが、幾ら過剰適合のガイアメモリだとは言え、ガイアメモリ2本の出力とコアメダル6枚の出力の差は、決して軽いモノではないッ!!」

 

その言葉を合図に両刃剣を振るうライト。その斬撃をトラクローで受け止め、カウンターを仕掛けるが、それは盾で防がれた。

 

「フッ!!」

 

「オラッ!!」

 

素手では分が悪いと踏んで、今度はメダジャリバーとエンジンブレードの二刀流で対抗する。この二本はどちらも破壊されているが、ダミーメモリの力なら容易く複製が可能だ。

 

「ムンッ!!」

 

「セイッ!!」

 

ライトの剣と盾を使った攻防一体の戦法に対し、二刀流による攻撃に重点を置いた戦法でライトを攻め立てる。そして、ガードが下がった一瞬を逃さず、ライトの胸に一撃を入れる。

 

「むっ! 強い……ッ!」

 

「……当然だ。俺がこれまで、どれだけの数の修羅場をくぐり抜けてきたと思っている?」

 

「成る程。戦闘経験の差か……ぐッ!」

 

俺にあってライトにないモノを知って尚、余裕と冷静さを感じられる態度を取っていたライトだったが、突然胸を押さえて苦しみだした。

 

「うがぁ……ッ!! ああ……ッ!! んん……ッ!!」

 

「……やはり体に何かしらの不調を抱えているのが弱点か。その点で言えば……俺はタフだぜッ!!」

 

やはりと言うかなんと言うか、コイツがセルメダルで構成された体で復活したホムンクルスである以上、コイツの体にはノブナガと同様のデメリットが存在するとは思っていた。

その上、コイツが今使っているのは、最も出力が高い恐竜系コアメダル6枚からなるコンボ形態。単純に計算してその負担はプトティラの倍であり、幾ら装着者が人造人間とは言え、タダで済むはずが無い。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

 

「ぐああああッ!! 相手が弱っている所を攻めるなんて、君は恥ずかしくないのか!?」

 

「戦闘にベストコンディションなんて望むべくもねぇ! ちゅーか、こうでもしなきゃ勝てねぇだろうが!!」

 

実際の所、コイツの言う通り、俺とライトの使うライダーシステムのスペック差は決して無視する事が出来ない。弱っている内に叩かなければまず勝つことは不可能だろう。

 

『シャチ! ゴリラ! タコ!』

 

「行くぞッ!!」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「ぬぅううううううううううううううううううううううッ!!」

 

基本形態のタトバコンボからシャゴリタにチェンジし、即座に必殺技を発動。水を纏いながら発射されたゴリバゴーンは持っている武器ごとライトを吹き飛ばし、地面を転げ回る。

 

「どうだッ!」

 

「……成る程、確かに強い。スペックの差をものともしない技量と、豊富な戦闘経験。どちらも僕が持ち得ないモノだ。だが、それでもこの勝負は……」

 

『PRISM・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「僕の勝ちだ」

 

そのガイダンスボイスが背後から聞こえた瞬間、強い衝撃が背中から胸を突き抜け、俺の胸から一本の剣が生えていた。

 

「……え?」

 

最初は何が起こったのか分からなかった。だが、その剣には見覚えがあった。

 

プリズムソード。俺がレッドフレアのまま、エターナルのエクストリームに至った時に手に入れた武器の一つ。つまり……。

 

「一、夏……?」

 

「やった……! やったぞ! これでこの世界は……!」

 

『ETER! ETER! E、ETER! ETERNAL……』

 

俺の後ろに立っていたのは、青い炎を刻んだ腕を血で赤く染め、赤い涙のラインが入ったエターナルだった。

そして、その事実を認識した直後、ロストドライバーに装填されたエターナルメモリから青い稲妻が走り、壊れたラジオの様にガイダンスボイスが流れ、それが鳴り終わった瞬間、エターナルの変身が強制解除された。

 

「!? な、何だ!? 何で……?」

 

「やはりそうか。『エターナルメモリ』は長い間ゴクロー・シュレディンガーに使われてきたガイアメモリ。そしてその進化は、使い手がゴクロー・シュレディンガーであるが故に起こったイレギュラーだ。

今回はゴクロー・シュレディンガーの意志と、織斑一夏の持つ素質故にエターナルに変身できたが、織斑一夏が織斑千冬やゴクロー・シュレディンガーが超えなかった最後の一線……つまりは『殺人』に踏み切った事で、エターナルメモリは織斑一夏に使われる事を拒否したんだ」

 

「ハァ……ハァ……、クッソ……が……ッ!」

 

『コブラ! カメ! ワニ! ブラカ~ワニッ!』

 

取り敢えず、胸に突き刺さったプリズムソードを引っこ抜き、ブラカワニコンボに姿を変える。プリズムソードで刺されはしたが、まだダミーメモリの力は生きている。

しかし、今の「一撃・イン・ザ・シャドウ!」は流石に不味い。俺の胸から流れ、口から溢れる赤い液体が作る水溜まりの中、俺は堪らずに両膝をついていた。

 

「……へぇ。本当に反則的なメモリだ。過剰適合と言う事を踏まえても、即座に別のライダーに変身でき、しかもその性能はオリジナルとそう変わらない。でも、プリズムソードならその能力ごと中身を斬る事が出来る。今の君を倒すにはうってつけと言う訳さ」

 

「ゲフッ……。分かり。切った……事、を……」

 

「ああ、済まない。いくら回復するとは言え、心臓を刺されたんだから質問に答える余力なんて残って無いか。

しかし、本当に良くやってくれたよ、織斑一夏。君のお陰で『紫のコアメダル』は成長し、こうしてゴクロー・シュレディンガーに致命傷を与えられた。これは『世界の中心』であると同時に、『世界の破壊者』でもある君にしか出来ない事だろう」

 

「『世界の破壊者』……? な、何言ってんだよ。『世界の破壊者』はゴクローなんじゃないのか!?」

 

「うん? 君は自分の事を客観的に見る事が出来ないのかな? 考えてもみたまえ。『ミレニアム』が造ったライダーシステムも、篠ノ之束が生み出したISも、そして母さんが与えたベルトも、そのどれもが世界の覇権を手にする事さえ可能な、極めて強大な力だ。そして使い方を誤れば、使い手が容易く滅びへと至る『諸刃の剣』でもある。まさかそんな大それた力を、君は“只の便利な道具”だとでも思っていたのかい?

つまり“女にしか使えない筈のISを使える”時点で、君はこの世界における法則を逸脱した、違反者であり侵略者だ。人々にとっては恐怖の対象でしかなく、いずれは『世界の運命を覆す者』として、君はこの世界の外側に立つしかなくなる。つまり、君の本質はゴクロー・シュレディンガーと同じく、『世界の破壊者』と言う訳さ」

 

「そ、そんな……だって、俺は、誰かを傷つけようとした訳じゃない!! 皆を守って幸せにする為に……!!」

 

「ハハハハハハハ!! 最も大切な姉をその手にかけておいて何を言う。それに幸せにするだって? 笑わせてくれるね。君は唯、お気に入りのお人形を取り戻したかっただけだろう? 少なくとも、君の抱える感情はLIKEであってLOVEではない。

大体、君は、その姉から傷つけ合わないでトラブルを解決する方法を教えられた筈なのに、君はいざトラブルに出くわすとどんな手段を選んでいた? 何時だって、争い傷つける事を咎める者達の言葉を無視し、自分の欲望の赴くままに自分の持つ力を振るい、自分の意志を貫いてきただろう?

ああ、誤解の無いように言うが、君のやった事を否定するつもりはない。確かに君のやった事は“正しい事”だ。でも、その“正しさ”こそが正に曲者だ。正しいが故に、“守る為に戦う”と言う矛盾から目を背ける事になってしまう。

でもまあ、君みたいに『全てを守ろうとして力を求める人間』って言うのは此方としては実にやりやすかった。それに君は、普通に考えれば分かるような違和感や矛盾も、全て自分にとって都合良く解釈してくれたからね」

 

「ち、違う! 俺は皆を元に戻そうとしたんだ! だってそうだろ! 皆があんな風になったのは、全部ゴクローの所為じゃないか!! だから俺は、元の『正しい世界』に戻そうと!!」

 

「確かにその通りだ。でもそうなるとおかしい所がある。それなら何で君は篠ノ之箒、セシリア・オルコット、鳳鈴音、シャルロット・デュノア、更識簪の5人には積極的に正そうとしていたのに、どうして篠ノ之束やクロエ・クロニクル。そして織斑マドカに関しては正そうとしていなかったんだい?」

 

「え……?」

 

「だってそうだろう? 君の言う通りなら、彼女たちはIS学園に居るべき人間じゃないし、鳳鈴音の両親だって離婚していなければ、“正しくない”じゃないか。それなのに君はその事には全く触れていない。これはどう考えても奇妙な話だ」

 

「そ、それは、家族が一緒に居るのは当たり前だから……」

 

「でもそれは君が行動したからじゃない。勿論、彼女たちが勝手にそうなった訳でもない。ゴクロー・シュレディンガーが行動した結果そうなった。もっとも、基本世界を知る君はそれが分かっていたからこそ、その事には一切触れていなかったんじゃないかな?」

 

「そ、それは………」

 

「突き詰めれば、君はゴクロー・シュレディンガーに対して嫉妬していたんだろう? 基本世界の自分や、この世界の自分に出来なかった、知人の家族関係の修復したこの男に。そして、自分に向けられる筈の、いやそれ以上の愛を享受しているこの男に。

そして、君はその激しくも醜い嫉妬心を隠し、かつ正当化する為に、ゴクロー・シュレディンガーが『世界の破壊者』である事を利用し、“『特異点:オリシュ』の排除”と言う大義名分を掲げていた。違うかな?」

 

「ぐっ……で、でも、俺は俺の手で必ず皆を守る事が出来るんだ! 俺だけが皆を幸せに出来る存在なんだ! その事は絶対に変わらない事実だろ! それなのに皆が俺を選ばないなんて、絶対に何かあるに決まって――」

 

「それは少なくとも半分は君の自業自得じゃないか」

 

「……え?」

 

「基本世界にしろこの世界にしろ、彼女達は共通して心に隙間を抱えていた。そして『ちゃんと“自分”を見てくれる存在が欲しい』と思っていた。しかし、君は彼女達のアプローチや行動の全てを、自分にとって都合よく解釈して、中途半端に対応していた。それが彼女達の望むモノではないとも知らずに。

それでも基本世界の彼女達が君の傍に居たのは、『君以外の選択肢を見ていなかった』事が大きい。追い詰められた人間と言うモノは、総じて視野が狭まるモノだからね。それに加えて君は爽やかなイケメンだ。それこそ彼女達は『王子様に助けられるお姫様』の気分に浸っていて、だからこそ彼女達は良い夢を出来るだけ長く見たいが為に、君のそーゆー都合の悪い部分には目を瞑っていた。

現に、基本世界の篠ノ之箒は周囲から『篠ノ之束の妹』として扱われる事を心底嫌がっていたのに、君が彼女に『篠ノ之束の妹だからISに詳しいだろう』と言っても、彼女は怒るどころか喜んでいただろう?」

 

「そ、それは……」

 

「まあ、中途半端ではあったが、君は彼女達を誰一人特別視する事なく、平等に接していた。基本世界の彼女達にとって、それはそれで幸せだろうさ。だけどその本質は、どこぞのオッパイ大好きなハーレム王と違って、『全員を愛している』んじゃ無くて、『誰も愛していない』からこその平等だ。もっとも、それに気付いたとしても彼女達はその事を絶対に指摘しないだろう。都合が悪いからね。

しかし、この世界ではそんな彼女達の前に二つ目の選択肢が現れた。そしてその選択肢は、彼女達自身も気づいていなかった『本当に欲しいモノ』を……つまりは『家族からの愛を求めていた』事を自覚させ、彼女たちの心情を本当の意味で理解していた。だから彼女達は君ではなく其方の方に惹かれた。それは至極当然の話だろう?」

 

お互いに、何もかもが一夏の望む通りに事が進む『基本世界の一夏』の人生を知るが故に、ライトの言葉は一夏の心を容赦なく抉っていた。

もっとも、そのご都合主義の大半が篠ノ之束の仕業であると言う事を一夏は知らない。あくまで基本世界の自分の人生を疑似体験……つまりは主観で見ていたからだ。これに対してライトは基本世界を客観的に見ていた為、二人の間では物事に対する認識がまるで異なっている。

 

「そして、基本世界の彼女達が君に守られて満足していたのは、本当に欲しいモノの代わりに君を求めていたからだ。失ってしまった、或いは初めから持っていなかった『家族愛』の代わりに、『君を愛する事』で心の隙間を埋めようとしていたんだよ。恐らくこの条件に合致しない人間は、五反田蘭くらいなんじゃないかな? 彼女は極々普通の一般家庭で、極々普通に育った人間だからね。

だが、この世界ではその『家族愛』が、ゴクロー・シュレディンガーの手によって与えられている。だからこそ、君に対する執着心や依存心が基本世界のソレよりずっと薄いのさ。もっとも、好感度が低いどころか、心の奥底から憎んでいる相手に地雷を踏み抜かれたり、過激なボディタッチをしても結果的に許されてしまう基本世界こそがオカシイ様な気もするけどね」

 

「で、でも……そうだとしても、ゴクローはもう終わりだ! これで皆も元通りに……」

 

「それは無い」

 

「え……?」

 

「彼女達の誰もが、君が望む『基本世界の自分』の様にはなりたくないからさ。だってそうだろう? 他人を顧みず、自らの欲望と力に溺れる。そして『そっちの方が正しいから、そんな人間に戻ってくれ』なんて言われたって、真っ平御免だろう。

何より『世界の破壊者』とは、生きていようが死んでいようが、その世界に何らかの影響や変化を与える事を宿命づけられた存在だ。それこそ、世界を平和にする様な大人物だったとしても、凡人以下の才能しかない無能だったとしても“ソレ”は変わらない。つまり、ゴクロー・シュレディンガーを排除しても、彼女達も世界も元には戻らない。

もっとも、この世界は“基本世界から独立した、お互いに干渉する事が出来ない平行世界”だから、『元に戻る』と言う発想自体ナンセンスだけどね」

 

「そ、そんな……ッ!」

 

「さて、悪いけどおしゃべりはここまでだ。そろそろ君にも退場して貰おう」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

スキャナー無しで発動する、コアメダル6枚からなる必殺技のコール。無の欲望から生まれたエネルギーが全身から立ち昇り、尋常では無い破壊力を予感させる。

 

「今こそ審判の時……!」

 

絶体絶命の窮地の中、大量の血を流した所為で朦朧とする頭で策を考える俺に、天啓とも言えるアイディアが浮かんだ。そしてこの策がバレない様に、ライトがマキシマムスイッチを叩いた瞬間の絶妙なタイミングで、俺もマキシマムスイッチを押した。

 

『TIME・MAXIMUM-DRIVE!』MAXIMUM-DRIVE!』

 

「shi……審判の時は、厳粛でなければならない」

 

「………」

 

「………」

 

「何か考えがあったみたいだが……無駄な事だ。この時を操る『タイムメモリ』の前では全てが無力。そして、さよならだ、織斑一夏。これがこの世界を終焉に至らせる……新世界の神の一撃だ」

 

そして、停止した時の中で、ライトの手から紫色の6枚のメダル状のエネルギー弾が放たれた瞬間、俺は後ろを振り向き、思いっきり一夏を突き飛ばした。

 

「何ッ!?」

 

「グオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「!! ゴクロー!!」

 

一夏に当たるはずだった終焉の一撃が俺に当たった瞬間、タイムメモリの効果が切れたらしく、隠れていたアンクが飛び出して俺の右手を掴んだが、四肢に走る激痛によって俺は意識を失い、そのまま黒一色の世界に飲み込まれた。

 

 

〇〇〇

 

 

ゴクローがライトの放った必殺技によって生まれた黒い渦に飲み込まれ、四肢が切断されて渦の中に飲み込まれた後、残されたのはゴクローに突き飛ばされ尻餅をついた一夏と、予想外の展開に落ち着きを失っているライト。そして、切断面から血が滴っている右腕を掴んだアンクの三人だった。

 

「……ゴク、ロー?」

 

「馬鹿なッ!! どうして、止まっていた時の中を動けたんだ!? 時間操作の能力を持つメモリは持っていなかった筈なのに!!」

 

「……ダミーのメモリだ」

 

「何?」

 

「ダミーメモリの能力は『複製』。その力を使ってお前のタイムメモリそのものを『複製』した。だから時間の停止した中でもコイツは動くことが出来た。お前ほど長くは動けなかったみたいだが……」

 

ゴクローが時間停止を攻略した方法を説明するアンク。しかし、その口調はとても寂しげで、切断されたゴクローの右手を強く握りしめていた。

 

「馬鹿な! そうだとしても、何故この男を助けた! 『誰かを守りたい』と言う欲望故に、平和を作らず戦いに明け暮れる! 他人を傷つけ、犠牲にする事でしか、自分自身さえも手にする事が出来ない! 強さを求め、戦いを求めたコイツを、どうして自分の命を犠牲にしてまで守ったんだ!」

 

「……守る価値があったから助けたんじゃねぇ。この馬夏が、『愛を失い、愛に彷徨う人間』だったから助けた。それだけだ……」

 

「……分からない。言葉の意味が全く分からない。そんな事で……そんな事で、僕は……僕は……ッッ!!!」

 

『APPLE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「フンッ!!」

 

「ぐわぁあああああああああああああああっ!!」

 

両刃剣から放たれたエネルギーによって、思わずゴクローの右腕を手放してしまったアンク。そして、ゴクローの右腕を手にしたライトは、部分的に右腕の装甲を解除すると、自分の右腕にゴクローの右腕を取り込み始めた。

 

「クソ……ッ、クソ……ッ!! セルメダルの体では不完全だから、ゴクロー・シュレディンガーの体を使って、『完全な存在』になろうと思っていたのに……う、腕一本しか残ってないじゃないかッ!!

ううううう……あんまりだ……!! こんな、こんな事になるなんて……ッ!! ああああんまりだぁあああああああああああああああああああああッ!!」

 

『落ち着きなさい、ライト。少なくとも目下の目的は達成されている筈でしょう? 体の方は私が何とかするわ。それにしても織斑一夏……やはり彼が「この世界の中心」である以上、その存在はこの世界に必要不可欠と言う事なのかしらね……』

 

「……母さんか。そうだね。確かに目的は果たした。後は……」

 

『NASCA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『ACCEL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

シュラウドからの通信によって、落ち着きを取り戻したライトに、背中からエネルギー体の翼を生やし強襲するマドカと、炎を纏った箒が高速で迫る。しかし……。

 

「愚かな」

 

『TIME・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「………」

 

「………」

 

「不意打ちか……コレは、お仕置きが必要だ」

 

停止した時の中を自由に動くことの出来るライトは、不意を突いた二人の攻撃を容易く避けると、手元にメダガブリューを召喚し、それぞれに強烈な一撃を叩き込んだ後、時間停止を解除した。

 

「うわああああっ!!」

 

「ふぐううううっ!!」

 

「ふん。所詮はこの程度……ッ!!」

 

時間の流れが正常に戻った瞬間、大きく吹き飛ばされるマドカと箒。それを眺めるライトに無数のミサイルと、二枚の円盤カッターが迫る。するとライトは即座にリンゴの形をした盾と両刃剣を召喚し、これらの攻撃を捌ききった。

 

「クッ……なるほど。君達は囮……ッ!?」

 

そして、それによって生じた隙を狙っていたかの様に背中が爆発。これには攻撃を仕掛けたマドカ、箒、簪、鈴音も想定していたモノでは無かった為に驚いたが、ライトを背後から攻撃した人物の顔を見た時、彼女達はもっと驚いた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!!」

 

「ずっと意識がなかったんじゃ……」

 

そう。ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒである。そしてその身に纏うのは、一夏によって破壊されたはずの専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』であり、足元には大型レールガンから排出された薬莢が転がっている。

 

「……変な夢を見たんだ。夢の中でシュレディンガーと話をした後、私は何も見えない暗闇の中を、一人でずっと歩いていた。すると光が見えて、織斑教官に会ったんだ。それで『何処へ行くんだ、ラウラ』って、教官が私に聞いたんだ。私は『教官について行く』って言った……教官は何時だって頼りになったし、教官の決断には間違いが無いから安心できるからな……。

そうしたら教官は、『ラウラ……行き先を決めるのは、お前なんだぞ』と言ったんだ。私は少し考えてから、『IS学園に行く』って答えたら目が覚めたんだ……。とても、寂しい夢だった……」

 

「「「「………」」」」

 

「……まさか、ここに来て君が復活するとはね。でも、君のISは織斑一夏の手でコアを破壊されていた筈だ」

 

「私が意識を失っている間に、姉が予備のパーツを使って直してくれていたんだ。そしてこの『シュヴァルツェア・レーゲン』に新しく組み込まれたISコアは、『VTシステム』の実験に使われた亡き姉が使っていたISのISコアだ。私との適合率が低い訳がない」

 

「……なるほど。理解した」

 

「そして『NEVER』以外の連中には警戒心が薄くなると思っていた。ガイアメモリにはガイアメモリでしか対抗できないらしいからな」

 

「まあね。だから攻撃した内には入らない」

 

そう言いながら、体に着いた埃を払うような動作をするライト。不意打ちは成功したものの、確かに大してダメージを負っている様には見えない。

 

「ふむ。やはり、ガイアメモリかコアメダルの力を使わなければ、コイツを倒しきる事は出来ない……と言う事か?」

 

「それでも倒せる保証は無いがな……」

 

単純に考えて相手の出力は『DXオーズドライバーSDX』の2倍。そして、ゴクローやアンクの話では、『オーズ』の持つコアメダルは3枚で1個のISコアに相当するらしいので、目の前の敵はISで例えるなら「二つのISコアを持った機体」であり、更には『単一仕様能力』を複数同時、或いはそれらを合成させて使う事が出来る可能性さえある。

 

「君達が此処に居ると言う事は……人形は全て敗れたと言う事か」

 

「ああ、間も無く増援もやって来る。お前達はもう終わりだ」

 

「仇は取らせて貰う……ッ!!」

 

「覚悟しなさい!!」

 

「………」

 

「ふむ……憎しみと怒りに満ちた実に良い眼だ。さぞや僕が憎い事だろう。感動的だ。だが無意味だ」

 

傍目から見れば5対1の不利な状況だが、ライトの余裕が崩れる様子は無い。事実、ゴクローがIS大戦において、『オーズ』に変身して36機のISを撃破している事を考えると、それ以上の性能を持ったライダーシステムを使うこの男にとって、この程度の数の利など無いに等しいのかも知れない。

その事を知っている彼女達は警戒レベルを最大以上に引き上げてライトを睨んでいるが、当のライトからは戦意というモノが感じられない。それが余裕な態度と併せて、得体の知れない不気味な印象を抱かせた。

 

「正直、君達の事は大して問題視していない。しかし、『特異点:織斑一夏』の持つご都合主義としか言いようのない可能性の芽は、僕にとっても決して無視する事の出来ない懸念材料だ。だからその憂いを、此処で完全に断つ……ッ!」

 

「な、何を言って……」

 

「織斑一夏ぁッ!! 何故、君がISを動かす事ができるのかッ!! 何故、君に専用機として『白式』が与えられたのかぁッ!! 何故、君が織斑千冬と同じ『単一使用能力【ワンオフ・アビリティー】』を使えるのくわぁあッ!!

その答えは……ただ一つ……ッ! 織斑一夏ぁッ!! 君がこの世界で唯一、“『織斑千冬の細胞』の適合手術に成功した男”だからどぅわぁああああああッッ!! ウワハハハハハハハハハハハハハハハハハアアアアアアアッッ!!!」

 

「え……?」

 

「!! 上から来るぞ!!」

 

ライトの口から一夏にとって衝撃の事実が告げられた直後、IS学園の上空から極太の高威力レーザーが降り注ぎ、IS学園は無差別に焼き払われ、誰もが等しく紅蓮の炎に包まれた。




キャラクタァ~紹介&解説

5963
 ダミーメモリの能力を使って時間停止を破ったが、『ジョジョ』第三部のアブドゥルの如く、暗黒空間に飲み込まれた。尚、この時に『オーズ』のドクター真木が「ロストブレイズ」を喰らって体がバラバラになった様に、四肢が切断された達磨状態になっていて……。

ライト
 コウガネやらクロノスやら、色んな敵キャラ要素が混じった悪いフィリップ。実は初めから一夏の手によって5963に致命傷を負わせ、更にエターナルメモリを一夏には使えない状態にする事が目的だったので、5963との戦闘ではそれほど本気は出していない。
 なお、彼が作中で一夏をボロクソに貶したのは、一夏を絶望させてファントムを生み出すため……ではなく、彼なりの親切心である。勿論、「冥土の土産」的な意味でだが。

ラウラ・ボーデヴィッヒ
 長い夢から目覚めたドイツの眼帯娘。彼女が見た夢に関しては、意識不明の千冬にするか、廃棄処分と言う形で死体まで利用された亡き姉達にするかで悩んだが、最終的には「ラウラが安心できる相手」と言う事で、千冬に決定した。
 元ネタは『ジョジョ』第四部の虹村億泰。この小説を初めの頃は、もっとジョジョネタをバンバン入れていた様な気がするのだが……ま、良いか。もうすぐ終わるし。



仮面ライダースカル
 ちょっとだけ登場。元ネタとの違いは帽子をかぶっていない事と、『仮面ライダーSPIRITS』の滝ライダーの要素が入っている事。元々は滝ライダーの要素を含めた「スカルVSヘキサポセイドン」の戦いを展開する予定だったが、ダミーメモリあれば問題はない事に気づき、結局没になった。

一夏がISを使える理由
 本作第9話の伏線回収……と言うか、この時点でネタバレしていた作者の独自解釈。そしてこの世界の束は、この時の仮説を実証する目的もあって、一夏に専用機として『白式』を与えていた。
 原作では『白式』の「零落白夜」については、『白騎士』が『暮桜』と交信して独自の能力として開発していた……と語られているが、そうなると『白騎士』のISコアが“織斑一夏が使う事”を理由に開発していたとは考えづらく、むしろ『白騎士』の使い手であった“織斑千冬が再び『白騎士』を使う事”を考え、「零落白夜」を『単一仕様能力』として開発していた……と考えた方が、理由としては妥当だと作者は考えている。
 元ネタはご存じ『エグゼイド』の「宝生永夢ゥ!」。もっとも、原作を基準に考えると、「全部、篠ノ之束って奴の仕業なんだ」で説明がつきそうな気もするのだが、その辺はあまり気にしないで貰いたい。


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第37話 MISSING ACE

三話連続投稿の三話目。これにて今回の分の投稿は終了です。

この後『怪人バッタ男 THE FIRST』でも一話投稿しますので、興味があったらそちらも御覧下さい。


対IS用高エネルギー収束砲術兵器『エクスカリバー』。

 

表向きにはイギリスとアメリカが極秘に開発していた、衛星軌道上に存在する攻撃衛星であるが、その正体は生体融合型のISであり、現在ではシュラウドの手によって持ち主であった『亡国機業』の元を離れ、更には大量のコアメダルとセルメダルを投入された事で、『メダルの器・暴走形態』を彷彿とさせる正八面体の巨大兵器と化している。

この強化されたエクスカリバーによる、「成層圏からの砲撃」と言う絶対的な制空権を誇る攻撃によって、IS学園は為す術も無く壊滅。各国の最新鋭機が揃い、一国を凌駕する戦力を保有する教育機関の陥落は瞬く間に世界を駆け巡り、大きな社会問題へと発展した。

 

更に、この事件が終わった直後、インターネット上の動画サイトへ投稿された、ある事実を告白した動画が、現在の女尊男卑の社会を根底から揺るがし、世の中を更なる混沌へと追いやる事となる。

 

それは「織斑一夏が何故ISを使えるのか?」と言う、全世界の人間が最も注目していたであろう謎の解明。

 

もっとも、コレはIS学園でライトが披露したキャラ崩壊も甚だしい、超ハイテンション暴露ではなく、シュラウドが「どうして織斑一夏がISを使える」のか、「どうして他人の『単一使用能力【ワンオフ・アビリティー】』が使えるのか」と言う疑問を、科学的かつ合理的に分かりやすく解説したものであり、コメディ要素皆無の決して笑えるようなモノでは無い。

もっとも、もしもゴクローがこの動画を見たのなら、即座にネット版『仮面ライダーW FOREVER AtoZで爆笑26連発』の「シュラウドの私が仮面ライダーアカデミーを開いたら…生徒、亜樹子」を思い出しただろう。

 

これによって「織斑一夏がISを使えるのは、過去に誘拐された際に移植された『織斑千冬の細胞』に適合した為である」と言う事と、織斑千冬が発現させた『単一使用能力』である「零落白夜」を使えるのは、「『織斑千冬の細胞』に適合した事で、『白式』が織斑一夏を織斑千冬と認識していた為である」と言う事が判明。

そして『白式』に使われたISコアは、元々は『白騎士』に使用されたISコアであり、それがコア・ネットワークを通じて『暮桜』と情報のやり取りをし、“再び織斑千冬に使って貰う為に「零落白夜」を自らの能力として開発した”とも、シュラウドは動画で発表した。

 

これによって一夏がISを使えるのは、一夏が持つ先天的な素質等が理由なのではなく、後付けされた後天的な要因によるモノであると周知され、更には『白騎士』の正体が織斑千冬であると言う事も世間に暴露される事となった。

 

これらの事実が明るみになった時、瓦礫の山となったIS学園に国際IS委員会の人間達が踏み込んだが、首領を失った『NEVER』のメンバーと、国家代表や代表候補生を含めた数人の生徒が、意識不明の織斑千冬と共に、一足早くIS学園から姿を消していた。

彼女達の去ったIS学園には、束からの置き土産として5個のISコアがメモと共に残され、それぞれがメモの通りに日本・イギリス・フランス・ドイツ・ロシアの5カ国に送られる事になった。

 

一方で『NEVER』を追求する事が出来なくなった国際IS委員会だが、その一部と各国の上層部の一部が結託し、秘密裏に国家代表操縦者を筆頭とした優れたIS操縦者の細胞を移植する計画を考案していた。

何せ、理論的にはIS操縦者の細胞を移植し、それに適合しさえすれば誰でもISが使える上に、他人には絶対に使えない筈の『単一仕様能力』まで使えるのだ。これを実践しない者はいないだろう。

 

かくして、ISの「女だけが使える超兵器」と言う前提が覆され、必然的に現役のIS操縦者が持つ社会的な優位性や価値観も一変し、世界の情勢が目に見えて変わっていく中で、IS学園壊滅から一週間が経過した頃、『ヘキサポセイドン』が再び世に姿を現した事で、世界は一つの時代の終末へと向かって行く事となる。

 

 

○○○

 

 

上空1000メートル。東ヨーロッパ境界線上を、一人の女性がISを纏い飛行していた。

 

彼女の名前はログナー・カリーニチェ。専用ISは『ロシアの深い霧』のプロトタイプであり、かつて更識楯無によってロシア代表操縦者の座を奪われた女でもある。

 

「……此方ログナー。目標、発見出来ません」

 

『了解。しかし油断はするな。相手は“悪魔”だからな』

 

「言われなくとも……ッ!?」

 

ログナーが通信を切ろうとした刹那、雲に紛れてログナーを上回る速度で接近する未確認機を捕捉し、瞬時に警戒態勢を取った。

そして、雲の切れ間から所々見える未確認機の姿は、かつて太古の地球を飛翔していた天空の覇者である、巨大な翼竜を思わせるフォルムをしていた。

 

「目標発見! これから戦闘行動に……」

 

『COMANDER・UPGRADE!』

 

幾度となく映像資料で見た、ガイアメモリの強化を告げるガイダンスボイス。それに伴ってギザギザの歯車の様な形のファンネルが出現したのを目にし、ログナーは自分の周囲に起爆性ナノマシンを散布する。

 

『COMANDER・MAXIMUM-DRIVE!』

 

そして、ログナーに向かって放たれる無数の誘導ミサイル。それらは全てログナーが散布した起爆性ナノマシンのカーテンによって爆発し、一発もログナーに着弾する事はなかった。

 

「よし! 取り敢えず此処から……」

 

『プットッティラ~ノ・ヒッサ~ツ!』

 

爆炎と黒煙によって視界が遮られ、それに紛れて距離をとろうとした最中、そんなログナーの動きがしっかりと見えているかの様に、黒煙の中からピンポイントで放たれた紫のエネルギー砲がログナーを直撃。

セルメダルのエネルギーを抽出・高密度化する事で出力を約3倍にまで引き上げ、発射された「ストレインドゥーム」の一撃はログナーを戦闘不能に追い込み、ISが破壊されて空中に放り出されたログナーを『ヘキサポセイドン』はしっかりとキャッチする。

 

「うぅ……くっ……」

 

「さて……残るは取るに足らない有象無象か。いずれにせよ現存するISは全て破壊する。僕の創る新世界にISは必要ない。僕一人だけが“力”を持っていれば良い……」

 

この日、ロシアのISに関連する施設はたった一人の男の手によって全て破壊され、ロシアが保有するISコアは全て失われた。

 

そして、制空権を失ったロシアに放たれる夥しい数のレーザー攻撃と、全てを灰燼に帰す灼熱の炎に包まれる首都モスクワ。

この光景もまた動画サイトに即座にアップされ、IS学園壊滅から続く最悪のテロ事件として、全世界に報道される事になる。

 

 

○○○

 

 

IS学園が壊滅してからおおよそ二週間が経った現在、一夏は政府が用意した新しい自宅にいた。現時点において「世界で唯一『織斑千冬の細胞』に適合した人間」である彼がこうしている最大の要因は、日本に現在ISコアが無い事が上げられる。

 

ロシアのISが全て破壊され、モスクワが焦土と化した翌日、『ヘキサポセイドン』は日本に現われた。

 

手始めに日本の代表操縦者を含めた、専用機を持つIS操縦者を一人残らず叩きのめし、それぞれが纏っていた専用機のISコアを破壊すると、今度は研究用のISコアが保管されている研究所を次々と襲撃。日本が保有する全てのISコアを一つも残さず破壊した。

そして、止めとばかりに放たれるのは、成層圏から発射される高出力高威力のレーザー砲。それによって東京は壊滅的な被害を受け、日本は恐怖と混乱に包まれた。

 

ロシアに引き続き、ISの研究開発において世界でも最先端の技術と知識を持つ国家の防衛戦力をたった一人で無力化し、絶対的な火力で首都を燃やし尽くす所行を余す事無く映した動画が人々に与えた影響は極めて大きく、「次はどの国がターゲットになるのか?」と世界を震撼させた。

 

それから『ヘキポセイドン』は、中国、イギリス、フランス、アメリカ、ドイツ、イタリア、イスラエル、タイ……と、ISコアを保有する国を手当たり次第に襲撃し、最後は必ずその国の首都をエクスカリバーで砲撃した。

そして今日、ギリシャに出現した『ヘキサポセイドン』の手によって、ギリシャの代表操縦者を筆頭とした実力者達が為す術無く次々と倒され、保有するISコアが全て破壊された後、首都アテネが炎に包まれる様子が動画サイトにアップされると、世界中のテレビ局によってその光景は全世界のお茶の間に流された。

 

そんなISによって成り立っていた世界が……あるいは、織斑千冬と篠ノ之束の二人によって創造された世界が崩壊していく様を、一夏はどこか他人事の様に眺めていた。

 

「何でだよ……」

 

一夏には政府から「安全を確保する」と言う名目で重要人物保護プログラムが適用されているのだが、コレは現在行方不明となっている『NEVER』とその仲間、もしくはシュラウドからの連絡や接触を期待するモノであり、かつての箒と同じように、その実態は一夏の身の安全を考慮したモノでは無い。

 

そもそも、一夏に専用機が与えられたのは、「一夏がISを使える理由を解明する為」であり、そのISを使える理由が解明された以上、一夏にISを渡す意味は無い。

また、現時点で日本にISが一機も無いので、日本が一夏を『織斑千冬の細胞に適合した人間』として研究や実験をする意味も皆無である。

 

そうでなくとも、東京が火の海と化した今の日本は、政府もマスコミも一夏に構っている余裕はない。もはや第三次世界大戦の幕が上がっていると言っても過言ではない状況の中、今の一夏にとって「ISを使って戦う事が出来ない」と言う事が、どうしようもない程に自分を蝕む苦痛となっていると言うのは、何とも皮肉な話である。

 

「何でだよ……」

 

一夏の呟きが自宅のリビングに木霊するが、それに返事をする者は居ない。そしてその呟きは、今見ていたテレビの映像に対するモノでもない。

今の一夏が思いを馳せているのは、天空からのレーザー攻撃によって破壊されたIS学園での救助活動が終わった後、自分に何も言わずにIS学園から去っていた、本来ならば自分の隣に居る筈だった者達の事だった。

 

篠ノ之束。

 

クロエ・クロニクル。

 

織斑マドカ。

 

篠ノ之箒。

 

鳳鈴音。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

セシリア・オルコット。

 

シャルロット・デュノア。

 

更識簪。

 

布仏本音。

 

更識楯無。

 

布仏虚。

 

そして――織斑千冬。

 

誰も何も言わずに、一夏の元から去って行ってしまった。ゴクローに致命傷を与え、そのゴクローが庇った相手である一夏を、彼女達は誰一人として責めなかった。……いや、正確には誰も一夏に何も言わず、見向きもしなかったと言う方が正しい。

そんな一夏に話しかけたのは、一夏の腰に巻かれているロストドライバーとエターナルメモリを回収する為に近づいたアンクだけだった。

 

『ゴクローはお前を助けた。正直、俺はお前の事は殺したいと思っているが、それはゴクローの意志に反する事になる。だからお前は生き続けろ。生きて生きて、生にしがみつけ。そして、これから始まるだろう旧世界の終焉をその目に焼き付けろ。それが、生き残ったお前がやるべき義務だ』

 

「何でだよ……」

 

そして、一夏の精神に負担を与える要因が、もう一つあった。

 

それは、親身になってくれたダリル・ケイシーが実は秘密結社『亡国機業』のスパイであり一夏を狙っていたと言う事。そして、フォルテ・サファイアがギリシャを裏切り、専用機を持って彼女と共に『亡国機業』に与したと言う事を、一夏は日本政府から知らされた。

この両名と一夏はIS学園で面識があり、更にシュラウドのメモリーメモリの力で『基本世界』を疑似体験した際、一夏は彼女達と仲良く京都駅で記念撮影をしていた事もあり、彼女達がテロリストであった、そしてテロリストになったと言う事実は、一夏に「裏切られた」と言う気持ちを強く抱かせた。

もっとも、これはシュラウドが「京都駅で記念撮影をした所までしか体験させていない」事が原因なので、シュラウドが事の顛末を最後まで見せていたならば、二人に対する一夏の感想も変わっていただろう。

 

「何でだよ……」

 

何度目になるか分からない「何で」を呟いた後、シュラウドから渡された“『基本世界』の京都駅で撮影した集合写真”を手にしながら、一夏は「何で」の答えを探し始めた。

 

――何でこんな風になったのか?

 

――何で皆、あんな風に変わってしまったのか?

 

――何で俺は、こんなに遠ざかってしまったのか?

 

「何でだよ……」

 

『お前は遠ざかったのでは無い。お前はずっと同じ場所にしがみ付こうとして、立ち止まっていただけだ』

 

そんな一夏の問いに答えたのは、一夏が千冬を倒してから現われる様になった、もう一人の千冬だった。

 

『皆は変わったのでは無い。そんなお前を置き去りにして、先へと進んでいっただけだ。ある者は自分の罪と向き合い、ある者は自分に課せられた使命を自覚し、それぞれが困難に立ち向かう道を選んだ……』

 

「……そうやってアンタは、何時まで俺を馬鹿にしていれば気が済むんだ?」

 

『お前こそ、何時までそうやって私の影に縋り付くつもりなんだ?』

 

「え……?」

 

『何も成し遂げられなかった屈辱。思い描いた未来が訪れなかった絶望。何も出来ない無力感。だが、そんな痛みは取るに足らない。今に世界の命運を背負う羽目になるアイツ等に比べれば、役目を降ろされたお前は、どれだけ恵まれている事か……』

 

そう一夏に告げる千冬の姿は、徐々に薄くなって見えなくなっていた。まるで、本当は最初から其処に存在して居なかった様に……。

 

『“お前は何者にもなれなかった”……。もう一度その意味を、よく考えてみろ……』

 

「待てよ! 待てったら! ……千冬姉ッッ!!」

 

リビングに響き渡る一夏の絶叫。しかし、一夏の前に千冬が現われる事は二度と無かった。

 

 

○○○

 

 

その頃、此方はチベットに潜伏している『NEVER』のメンバーと、それに追従したIS学園の生徒達。彼女達は彼女達で、重要な一つの決断を迫られていた。

 

「『亡国機業』との共同戦線!?」

 

「そうだ。あのアバズレ、とうとう他に打つ手が無くて、俺達に打診してきやがった」

 

アンクが告げた『亡国機業』からの提案にざわつく一同。特に『亡国機業』に関しては悪い思い出しか無いマドカと箒は、苦虫を噛み潰した様な顔をしている。

 

「……どう考えても罠だろう」

 

「同感だ。とてもじゃないが、背中を預ける事も向ける事も出来ん」

 

「でも正直な話、出来る限り人手と戦力は欲しいわよね。少なくとも『ヘキサポセイドン』と『エクスカリバー』の二つを相手にしなきゃいけない訳だし」

 

「そうですわね……『亡国機業』からの戦力は?」

 

「全部で3人。アバズレと女郎蜘蛛。そして、アリーシャ・ジョゼスターフだ」

 

「! イタリアが襲撃された動画に彼女が映っていなかったからおかしいとは思っていましたが……『亡国機業』に居たのですね」

 

「ああ、何でもIS学園が壊滅した時のどさくさで、フォルテ・サファイアとほぼ同時に『亡国機業』から勧誘されたらしい。誘いに応じた理由は不明だが……」

 

「フォルテ・サファイアの方なら理由は明白よ。彼女、ダリル・ケイシーと付き合ってるから」

 

「……だろうな。それ以外に理由はないだろ」

 

アンクとしてはどちらかと言うと、アリーシャ・ジョゼスターフが『亡国機業』の勧誘に応じた理由の方が知りたい所だったのだが……テロリストに与すると決めた以上、碌な理由ではあるまいと結論づけ、それ以上考えないことにした。

 

「それで、その3人の内、何人が『ヘキサポセイドン』と戦うのだ?」

 

「アリーシャ・ジョゼスターフだけだろうな。そもそも『亡国機業』は『ヘキサポセイドン』の撃破よりも、エクスカリバーの奪還に重点を置いている筈だ。元々エクスカリバーは『亡国機業』の管理下にあったISだからな」

 

「……成る程。それでコッチに厄介なヤツを押しつけようとしている訳か」

 

「ああ。だが、既にエクスカリバーの奪還に失敗して、ダリルとフォルテの二人がエクスカリバーに取り込まれたらしい。それで俺達に協力を要請しにきたって訳だ」

 

「……まあ、何処かの国に味方するよりはマシかもね」

 

「……そうね。お互いに国よりはマシでしょうね」

 

もはや背に腹は変えられない。正直な話、同盟相手に対する懸念材料は多いものの、現状ではどの国家の味方をしても碌な事にならないのは明白なので、それなら国家ではない『亡国機業』と共闘した方がマシと言うのが、此処に居る面々の総意だった。

 

「かつての『ミレニアム』との取引で使い潰されたISコアと、馬夏と千冬がぶっ壊したISコアを引いて、この間ウサギ女が渡した新しいISコアの分でプラスマイナスゼロと考えると、ウサギ女が世界にばら撒いたISコアは441個ある事になる。

但し、その全てが実戦に投入されている訳ではないし、中には凍結処分を下されたISコアもある訳だから、まともに動かせるISはそれより少ない。そして、世界の表側で使われているISコアが全て破壊されれば……」

 

「次は世界の裏側……具体的には国家ではなく、『亡国機業』の様に組織が保管しているISのISコアを破壊しに来るでしょうね」

 

「そうだ。そして、昨日で残りのISコアの数は211個。既に全体の半数以上のISコアが奴の手で破壊されている。世界の裏側に手を伸ばすのは時間の問題だ」

 

「「「「「「「「「………」」」」」」」」」

 

「でもでも~、弱点もあるんだよね~?」

 

「正確には“ある筈”と言うべきだな。セルメダルの体で復活したデメリットだと思うが、これらに関してはゴクローの右腕を取り込んだ奴の体が、今どんな状態になっているのかが分からんから何とも言えん」

 

「そっか~~」

 

「他に弱点と言えそうなのは、『タイムメモリの時間停止は連続使用出来ない』って事位だな。仮に連続使用が可能だったなら、もっと簡単にゴクローを倒せていた筈だ」

 

「……そうね。連続して使えたら、私やラウラの攻撃も避けた筈よね」

 

「ちょっと思ったんですが、何故戦ったIS操縦者を誰も殺さないのですか? わざわざ撃墜したパイロットを回収すると言うのは、少々不自然な様な気がするのですが……」

 

「……確かにそうだよね。むしろISとは無関係な一般人を無差別に攻撃してるけど、復讐が目的ならむしろIS操縦者の方を殺す筈だよね」

 

「決まってるだろ。ワザと生かして苦しめる為だ。ISの国家代表操縦者ってのは、殆どが軍に所属している『国家の防衛力』そのものだ。それが肝心の有事で役に立たず、国と国民に甚大な被害が出るのを防げなかったとなれば、当然その責任を取らされる。そして、今までチヤホヤされていた分、国民から向けられる憎悪も半端じゃあない。

仮に戦って死んだなら、殉職って事で『英雄』にもなれるが、生きていれば役立たずの『敗残兵』にしかなれん。それに憎まれ役ってのは、生きているからこそ叩きがいがあるモンだろ?」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

「でぇ~~~~~~きたッ!! ささやかな武器だけどね~~~~~っ!!」

 

アンクの推測によって、敵の抱える憎しみの深さに戦慄するする一同。そんな彼女達の空気を払拭する様に、束が元気よく彼女達の輪の中に入っていく。

 

「じゃじゃ~ん! くーちゃんの『黒鍵』と、ラウラちゃんの『シュヴァルツェア・レーゲン』の二つのISを融合させて、『ロストドライバー』の発展系である『ダブルドライバー』を加えた、二人で一人のガイアメモリ対応型IS『ダブル・ボイルド・エクストリーム』と、束さんが新規作成した『エクストリームメモリ』だよ~~~♪」

 

「二人で一人のIS……」

 

「見たことも聞いたこともないわね」

 

「ってか、これの何処が“ささやかな武器”なの?」

 

「つまり、これで『ヘキサポセイドン』に対抗できる……と?」

 

「ま~~、すぐには無理だね。二人で一人って仕様の関係上、エクストリームに至るには時間が掛かるんだよ。勿論、これの装着者になって貰うくーちゃんとラウラちゃんの相性は抜群だから、比較的短時間でエクストリームに至れるとは思うケド……」

 

「奴がISコアを全て破壊する前に……て所が、難しい所よね」

 

強大な敵に対する対抗手段が出来た事で戦意を高揚させる一同。そんな彼女達を見て、アンクは彼女達に覚悟を問う言葉を投げかけた。

 

「言わなくても分かっていると思うが、相手はたった一人で世界中のISを破壊して周り、防衛力と軍事バランスを滅茶苦茶にしている怪物だ。たとえ逃げたとしても、俺はお前達を責めたりはしないが……どうする?」

 

「……私は戦うぞ。例え一人でもな」

 

「私も同じだ。仇は必ず取る」

 

「そうね。少なくとも逃げるって選択肢は無いわ」

 

「……ま、やるしかないだろう」

 

「ええ、やるしかありません」

 

「………」

 

まあ、これはアンクにとって予想通りの返事である。

 

束、クロエ、マドカの三名にしてみれば、ゴクローが居たからこそIS学園に滞在していたのであって、そのゴクローが居なくなった以上、IS学園に留まる必要は全く無い。

また、代表候補生でも何でも無い箒や鈴音に関しても、IS学園に残る義理もそれぞれの国に尽くすつもりも無かったし、ラウラに関しては名も知らぬ姉達の事で『NEVER』に借りがある上、死んだ姉達の死体を使った実験によって祖国に不信感を持っていた為、唯一生き残っている姉のクロエと一緒に行く事に決めたとの事で、この6名がゴクローの仇討ちに向かうのは必然と言える。

今も尚、意識不明の織斑千冬に関しては、それこそ説明不要。束がどさくさに紛れて回収した訳だが、そのまま残しても碌な目に遭わない事は明白である。

 

そうなると問題は、残り6名が何故この場に居るのかと言う事。

 

確かに、仮にセシリアやシャルロット、そして簪が代表候補生として国家に忠誠を尽くし、楯無が国家代表としてロシアに向かい、現地のIS操縦者達と協力したとしても、神出鬼没にして天下無敵の『ヘキサポセイドン』には到底叶わないとは思う。

しかし、彼女達は国家代表操縦者、もしくは代表候補生であり、それぞれが複雑な事情を抱えて、その立場に収まっている筈だ。『ヘキサポセイドン』に対抗するにはどうしてもガイアメモリやコアメダルに精通しているアンクや束の力が必要不可欠であるが、それを加味しても『NEVER』と行動を共にするデメリットを考えれば、明らかにその後の人生ハードモードは免れない。

 

「……と、アンク君は思ってるんでしょうケド、私から言わせて貰うと『一夏君がISを使える理由』が後天的な要因だって判明した時点で、世界中のIS操縦者は全員、これまで通りに人生イージーモードって訳にはいかないわよ?

それに『ヘキサポセイドン』の力を考えれば、“世界からISが消える”って事位、簡単に予想できるわ。ぶっちゃけた話、国家についても、『NEVER』についても、私達は茨で出来た人生を歩くしかないわ」

 

「IS操縦者が優遇されていた最大の理由は『替えが効かない事』ですからね。それを解消する方法が周知された以上、最悪今のIS操縦者達は『ISを使うのに必要な細胞を生産する為の道具』に成り下がるでしょうね」

 

「……うん。それに戦ってISコアを壊されたってなれば、絶対にISの操縦者が弁償しなきゃいけないと思うし……」

 

「ま~~、そうなったら更識家も布仏家も無事じゃ済まないよね~~」

 

「現実に大半のIS操縦者が、ISコアの破損によって自己破産に追い込まれているでしょうね。私の場合は何とかなりそうですが、どのみちイギリスが何かしらの理由を付けて実家の財産を没収しに掛かるでしょうから、結局は詰んだも同然ですわ」

 

「僕の家は……まあ、元が武器商人らしいから、世界からISが無くても何とかなりそうだけど、少なくとも僕に利用価値は無いかな……。てゆーか、それって今更だよね? 僕に『NEVER』に来ないかって誘ったのはアンクだよね?」

 

「少しでも戦力が欲しかったからな。出来れば、山田真耶も欲しかったが……」

 

「……おっぱいちゃん、『自分がやらなきゃ誰がやる』って言ってたよね」

 

「……凄い人だ。一番辛い仕事を、自ら率先して引き受けたんだからな……」

 

そう。山田先生はアンクの誘いを蹴り、IS学園の後始末をする為に残った。多数の死傷者を出し、守れなかった命を思って涙を流しながらも、彼女はその強い責任感から、敗北者を励ますどころか責め立てる「理不尽な悪意」に晒される事を選んだ。

 

「……背負わせてしまったな。私達の所為で」

 

「いや、元はと言えばライトとシュラウドの所為でしょ?」

 

「……そうね。だからこそ、私達に負けは許されない」

 

「……全部終わったら、また皆で宴会しない? 山田先生も呼んで、歌なんか歌ったりして……」

 

「……ああ、それが良い。出来ればゴクローの好きだった歌を歌ってくれ」

 

「「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」」

 

かくして、戦乙女達は改めて決意を固め、最終決戦への準備を進めた。最強の聖剣を手に入れた最悪の悪魔を討ち取る。ただ、それだけを目指して。

 

 

●●●

 

 

ライトの攻撃を避けきれず、四肢を走る凄まじい激痛によって失った意識が回復した時、俺は真っ暗な部屋の中でベッドに横たわっていた。口には酸素吸入の為のマスクが装着され、ふとアンクが掴んだ右手を見てみると、俺の右腕はアンクとそっくり……と言うか、アンクの腕そのものになっていた。

 

「これは……?」

 

「目が覚めた?」

 

聞き覚えがない。しかし、何処か安らぎを感じる声が左側から聞こえたと思えば、其処には白髪を腰まで伸ばした老婆が俺を見下ろしていた。

 

「まだあまり動かない方が良いよ。せっかく、元通りにくっついたんだから。まあ、右手はどうしようもなかったからそうなっちゃったけれど……」

 

「あ、あんた、は……?」

 

「フフフ……やっと会えたね。ゴッくん」

 

ゴッくん。俺をそう呼ぶ人間は一人しかいない。そして、改めて老婆の顔を観察してみれば、そこには確かに俺のよく知る人物の面影があった。

 

「束……か?」

 

「そうだよ、ゴッくん。ずっと待ってたんだ。会えるかどうかも分からなかったケド、きっと何時か会えるって信じてた。アンくんと一緒に、60年もずっと……」

 

「……ちょっと待て。お前、今なんて言った?」

 

「フフフ……そうだよね。普通は驚くよね。でもね、ゴッくん。信じられないかも知れないけど、今はゴッくんがIS学園でライトと戦ってから、60年の時間が過ぎてるんだよ?」

 

「!?」

 

どうやら、一筋縄ではいかない展開に、俺は陥っているらしい。




キャラクタァ~紹介&解説

ライト
 新世界の神となるべく行動開始。全てのISを破壊すべく、世界中を飛び回る。作中で語られる通り、彼と戦ったIS操縦者達は怪我を負ってはいるものの、死亡した者は一人もいない。但し、それ以外の人間は容赦なく下記の強化された『エクスカリバー』で攻撃しており、その被害は極めて甚大。作中で語られる通り、これは彼なりの復讐であり、一種のヘイト・コントロールでもある。

ログナー・カリーニチェ
 原作11巻に登場したロシアの元国家代表操縦者。チョイ役にして『ヘキサポセイドン』の噛ませ犬。ちなみに、IS学園に5963と戦う目的で集められた5人のIS操縦者達の内、アリーシャ・ジョゼスターフ以外の4人は専用機が修理・改修作業中だった為に『ヘキサポセイドン』と戦っておらず、全員が手元から離れていた専用機のISコアを無残にも砕かれてしまっている。

織斑一夏
 世界でたった一人のオンリーワンではなくなった男。前回のライトの言葉通り、ISを使える理由が後天的なモノであると暴露され、それが全世界に流布された事でISを与える理由がなくなり、その恐るべき可能性を断たれてしまっている。
 実はシュラウドから渡された『ハデスドライバー』と『ゼロメモリ』は、一夏が密かに隠し持っているのだが、変身に必要なコアメダルを失っている為に、変身する事が出来なくなっている。

NEVER+α
 正直、全員が人生ハードモード所か、ルナティックモードに突入している女達。復讐に燃えているが、現段階では絶対に『ヘキサポセイドン』に勝てないので、勝つ為の手札を揃えながら潜伏している状態。一応、家族に対しては、各々がちゃんと対策を取った上でこの場に居合わせているが、世界中の国家が「内閣総辞職ビーム」を食らって滅茶苦茶になっているので、政府としてはそれどころではない。
 5個のISコアを残してIS学園を去って行ったのは、勿論5カ国との後腐れを無くする為だが、束としては「すぐに『ヘキサポセイドン』に破壊されるだろうな」と思っていて、事実その通りになってしまった。

5963
 前話で「ガオンッ!!」されたが、しっかりと生きていた男。そして「40年後じゃないんかい」と、心の中で地味にツッコミを入れている。一夏によって刺された心臓の調子が悪いのか、現在は『オーズ』の泉信吾の様に右腕にアンクが取り付いて、生命維持と義手を兼ねている状態。つまり、アンクが右手から離れれば死ぬ。



エクスカリバー
 基本世界と言う未来を知るシュラウドの手によって、『亡国機業』から奪取された生体融合型のIS。コレに新規作成したヤミー系コアメダル12枚と、複製した鳥系・昆虫系・猫系・重量系・水棲系・爬虫類系・甲殻類系・魚類系・偶蹄類系・害虫系・寒冷生息系のコアメダル33枚を、大量のセルメダルと共に投与する事で、ウヴァさんの如く『◇』に造り替える事に成功。成層圏から「内閣総辞職ビーム」を世界中に問答無用でぶっ放した。
 この作品を書いてから、コンセレで未来のコアメダルが発売される事になったが、当時はそんな事は知らないで各種のコアメダルの設定を勝手に想像して書いていた。正直、アリコアメダルは予想外であったが、本作品のゴキブリコアメダルでも、名称としてはちゃんとムカチリコンボにはなる。

ダブル・ボイルド・エクストリーム
 クロエとラウラが二人で操作するガイアメモリ対応型ISで、原作11巻に登場するシャルロットの『リィン=カーネイション』に相当する機体。『黒鍵』と『シュヴァルツェア・レーゲン』が融合し、二つのガイアメモリを使用する『ダブルドライバー』を搭載している。
 元々は束が、自分と箒の二人で使うつもりで『ミレニアム』のデータを元に開発していたモノだが、人手の関係から箒は『紅騎士』で戦わせた方が良いと考え、最終的にクロエとラウラが操縦する仕様に変更した。名前の元ネタは『仮面ライダーW』のOPのタイトルだが、束も5963のお陰でこの歌を知っているので問題は無い。

エクストリームメモリ
 5963が持っていたエクストリームメモリと、シュラウドが造った鳥形のエクストリームメモリのデータを元に束が造った『ダブルドライバー』専用のエクストリームメモリ。要するに『仮面ライダーW』で翔太郎とフィリップが使っていたヤツの完全再現。



後書き

 次回からいよいよ、本作品における最終決戦に入ります。完結まで残り3話を予定しており、次の投稿で本作品は漸く終末を迎える事となります。
 出来れば、劇場版『アマゾンズ』の「最後ノ審判」までには終わらせたい所ですが……今年もGWの休みが少ないから、難しいかなぁ……。


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第38話 MOVIE大戦 MEGA MAX

いよいよ、コレが最後の連続投稿となります。一度書き始めた以上、途中で投げ出すことなくしっかりと完結まで執筆する、書き手が読み手と交わす不文律。約束を果たす事が出来て良かったと思います。


最凶最悪最強の仮面ライダー『ヘキサポセイドン』の手によって、世界中に散らばったISコアが50を切った頃、サングラスをかけた篠ノ之束による自撮り動画が、とある動画サイトに投稿された。

 

「はろ~~! ユ~チュ~ブゥー! ブゥ~~ン! ボバッブゥ~~~ン! 皆さんご存じ、天才の束さんだよ~~~! パソコンの前に座ってる皆もとっくに知ってるだろうケド、束さんの大好きなゴッくんが殺されちゃったんだよ~~~! うえぇ~~~~ん! 悲しいねぇ~~~~~! ……だから、さ」

 

ユーチューバー罪? そんなモノ知らんとばかりに、無駄に陽気な様子の束であったが、一瞬にして彼女の纏っている空気が冷えた。サングラスの隙間から見えるその双眸は深淵を覗くが如くであり、映像越しでも見る者に底知れぬ恐怖を感じさせた。

 

「『NEVER』はヘキサポセイドンと戦争する事にしたよ。世界中で生き残っているIS操縦者共も、戦いたいなら勝手に参加して良いよ? ま! 向こうにしてみれば、物の数には入らないだろうケドね。決戦の日時は3日後、そして『オーズ』が世界と戦って勝利した、あの懐かしい戦場で会おう」

 

投稿された動画は此処で終わった。もはや世界が完全に崩壊し、バイクに乗ったモヒカンがヒャッハーする世紀末一歩手前まで迫った中で投稿されたこの動画が世界に与えた影響は、良くも悪くも大きかった。

 

――曰く、篠ノ之束ならばあの悪魔に勝てるかも知れない。

 

――曰く、これで世界はきっと救われる。

 

――曰く、世界がこんなになるまで何もしなかった奴に期待しても無駄。

 

――曰く、篠ノ之束はこの混乱に乗じて世界を征服しようとしている。

 

様々な憶測が飛び交うものの、現状でヘキサポセイドンと対等に戦える可能性と戦力を持つのは、篠ノ之束と『NEVER』をおいて他には無い。そして世界の命運を左右する戦いに介入することが出来る人間はほんの一握りであり、弱者はこの戦いの勝者に従うしかない。

 

多くの力を持たぬ人間達は、ただ戦いの結末を見守るしかないのだ。

 

 

○○○

 

 

宣戦布告から3日後。かつて、ゴクローが「IS大戦」と呼んだ戦争が行われた場所で、ある女はあの時とは違う立場で違う思いを抱き、ある女は自分の成すべき義務を抱え、ある女は腹に二物を抱えながら対戦者を待っていた。

 

織斑マドカ。篠ノ之箒。鳳鈴音。ラウラ・ボーデヴィッヒ。そして、アリーシャ・ジョゼスターフ。

 

「そろそろ……だな」

 

「ああ。間も無く『メダルの器』が此処の真上に到着する」

 

「さてさて、どう来るかネ……」

 

宣戦布告こそしたものの、コレが戦争である以上、シュラウドやライトが馬鹿正直に此処にやってくる必要は無い。それこそ、成層圏からの砲撃で地上にいる自分達に攻撃したっておかしくはないし、それを卑怯とは思わない。どんな形であれ、戦争においては「勝利者だけが正義を語れる」のだから。

かくして、対戦者の出方を用心深く待っていた5人だったが、紫色のグラデーションで構築された全身装甲を身に纏うヘキサポセイドンは、上空からゆっくりと彼女達の目の前に降り立ち、まるでデートの約束でもしていたかの様な気さくさで話しかけてきた。

 

「やあ、待ったかい?」

 

「……いや、ちょうど今来たところだ」

 

「嘘をつかなくてもいい。君達は一時間前から、僕の到着を待っていたじゃないか」

 

「無粋だな……まあ、お前に女に対する気遣いを期待する方が無駄か」

 

「ハハハ……。実は僕は女の子と待ち合わせをするのはコレが初めてでね。これじゃあ顔が見えないだろうケド、これで中々緊張してるんだ。少しは多めに見て欲しいね」

 

「世界中の女の子を手当たり次第に襲っておいて、どの口が言うのサ」

 

「女の子……? 20歳を超えた女性は『女の子』とは言えないんじゃないかい?」

 

「心は何時までも18歳なのサ」

 

「痛々しいね。鏡を通して現実を見る事をオススメするよ」

 

「頭に来たのサ」

 

「落ち着け。奴の精神攻撃だ」

 

「……いや、アレは素だと思うが」

 

「言うな箒。それよりも……何故、お前達はあんな事をした?」

 

「あんな事……? ああ、もしかして各国の首都を砲撃した事を言っているのかい? 簡単な話だよ。人は正義によって何よりも残酷になるが、その原動力となる感情は『憤怒』だ。怒りによって自分を善だと、そして相手を悪だと思い込んだ人間は、その正当性を証明する為に、怒りの赴くままに行動する。即ち、『相手がどうなっても構わない』――だ」

 

「「「「………」」」」

 

「歴史を紐解けば分かるように、自分を善だと思い込んだ怒りの亡者によって、人類は常に害悪に晒されてきた。篠ノ之束や君達がそうであった様に。今の僕の母親がそうである様に。そして……この僕がそうなった様に」

 

「……アンクから話は聞いている。お前は生前、ISによるテロで死んだらしいな」

 

「ああ、そうさ。自分が絶対に正しいと信じた人間の手によって、ただ運悪く其処に居たと言うだけで、理不尽にも僕は命を奪われた。そして僕はそれが間違っていると、心から思っている。

もっとも、僕達がこの世界に居なかったとしても、いずれは誰かが同じような事をしていた筈だ。そもそもコレは“『基本世界』で起こる事”が形を変えただけに過ぎないのだから、いずれこの世界でも起こるべくして起こるのさ。必ずね」

 

「「「「………」」」」

 

よく欲望に取り憑かれた人間のことを『亡者』という言葉で形容するが、実際に『亡者』が欲望を原動力にして動き出すことはない。欲望を持って行動するのは「生きている人間」だけだからだ。

だが、今彼女達の目の前に居るのは、文字通り地獄から蘇った『怒りの亡者』と呼ぶに相応しい存在。しかも、感情が全く籠っていない声色でソレを語る為、その真意を測りかねる得体の知れない不気味さが加わっている。

 

「……やはり、お前はこの世界に居てはいけない男だ」

 

「そうかも知れない。だが、それでも僕は止まらない。止まれない。そんな事はとっくに分かってる筈だ。そして、今はそんな事よりも君達が問題だ。だが……その前にまず、招かれざる客にご退場願おう」

 

次の瞬間、かつてIS学園が焦土と化した時の様に、彼女達の周囲に無数のレーザーが降り注ぎ、地表を焼き払う。そこかしこで盛大な爆発が巻き起こり、巨大な火柱が上がっている。

 

「!! お前……」

 

「ああ、一掃させて貰ったよ。僕達の共倒れ、あるいは片方が倒されるタイミングを狙って、こそこそとハイエナの様に僕達の残骸を狙っていた連中をね。まあ、IS操縦者に関してはISのお陰で死んではいないだろうケド、少なくとも戦闘不能である事は確かだ」

 

「貴様……ッ!」

 

「別に問題ないだろう? 世界が明日にも滅びると言うこの瀬戸際で、君達に協力する事無く、莫大な利益を漁夫の利で得ようとしていた連中だ。かつての大戦の時から全く変わっていない。全く学ぼうともしない。そんな愚かな連中は、滅びるべきだと思わないかい?」

 

「……確かにそうかも知れない。その方が世界は平和になるのかも知れない」

 

「「「箒!?」」」

 

「モップちゃん?」

 

「おお! 僕の言う事を分かってくれたかい?」

 

「……だが」

 

「うん?」

 

「『滅びるべきだ』と言われて、何の抵抗もなく黙って滅ぼされるのは、生物として間違っている」

 

『ACCEL!』

 

ライトの言葉を肯定しつつも、ライトが語る滅びを否定してアクセルメモリを起動する箒。その目には「執念の炎」が宿り、熱く激しく燃えさかっていた。

 

「……そうだな。その通りだ」

 

『NASCA!』

 

「まあ、アタシは初めからそのつもりで此処に来た訳だけどね」

 

『W!』

 

「行くぞ、姉!」

 

『JOKER!』

 

『ええ、ラウラ』

 

『CYCLONE!』

 

「ま、楽しませて貰うのサ」

 

マドカ、鈴、ラウラ、そしてクロエがそれぞれのメモリを起動させ、アリーシャは『単一仕様能力』による風の分身を生成する。例え相手がどんな正論を吐こうとも、彼女達がライトを「打倒すべき敵」として見ている事が揺らぐことは無いのだ。

 

「……そうか。それじゃあ、始めよう。怨み骨髄……『NEVER』の亡霊達ッ!!」

 

「「「「変身!」」」」

 

『ACCEL!』

 

『NASCA!』

 

『W!』

 

『CYCLONE! JOKER!』

 

メモリユーザー達のISが姿を変え、それぞれが得物を構えた瞬間、ライトがメダガブリューを右手に召喚して彼女等に猛然と襲いかかる。

お互いの凶器が火花を散らして何度もぶつかり合う中、彼女達はライトを斃す為の策を実行する為の機を冷静に伺っていた。

 

 

○○○

 

 

それは、『亡国機業』のスコールとオータム、そしてアリーシャの三人が『NEVER』と合流し、対ヘキサポセイドンの為の作戦会議が行われた時間まで遡る。

 

「エクスカリバーを破壊する……って、どう言う事かしら?」

 

「そのまんまだアバズレ。ヤツを倒したいなら、先にエクスカリバーを破壊しなければ絶対に負ける」

 

「言うじゃねぇか、鳥頭が」

 

「絶対って言うからには、何か根拠があるって事で良いのかしら?」

 

「ああ。もしもエクスカリバーがゴクローの言っていた『メダルの器』と同じモノになっているのだとしたら、幾らヘキサポセイドンを倒しても無駄だ。もっとも、幾らでも倒せるような相手でも無いから矛盾するようだが……仮に運良くヤツを倒せたとしても、エクスカリバーから照射される光線によって復活する筈だ。

だから、ヘキサポセイドンを倒すには、まずエクスカリバーとヤツを引き離すか、エクスカリバーの方を先に破壊する必要がある」

 

「つまり、勝つには相手の生命線を断つ必要があるって事ね」

 

「そうだ。俺が考えるに、コアメダル6枚から得られる一線を画する戦闘能力を誇るヘキサポセイドンと、それを成層圏からのエネルギー供給等のサポートを行う『メダルの器』。この二つが揃って初めて、ヤツは完成している。幾らヤツが規格外だとしても、ヤツを動かすエネルギーが無限と言う事は有り得ない」

 

「なるほど」

 

「……と言う事は、エクスカリバーさえ何とかしてしまえば、持久戦に持ち込んで勝てる可能性が高いって事?」

 

「そうだ。まあ、そうでなくとも大量のコアメダルを取り込んだエクスカリバーを放っておく訳にはいかん。放っておけばアレはいずれ世界を喰らう」

 

「世界を喰らう?」

 

「どう言う意味?」

 

「文字通りの意味だ。今はIS由来の能力で太陽光から得られるエネルギーをセルメダルに変換している様だが、その内周囲にある物体を無差別にセルメダルへ変換する事が出来る様になる筈だ」

 

「無差別?」

 

「隕石とかデブリとか?」

 

「そうだ」

 

「ビルや山なんかも?」

 

「そうだ。例えばオーズは、触れたISのエネルギーをセルメダルという形にする事で吸収し、それを自分のエネルギーに再変換していた。その発展系として、他の物体を分解・再構築してセルメダルに変える能力を『ミレニアム』は研究していた。そして、その完成形として考えられていたのが『メダルの器』。つまりは、今のエクスカリバーだ」

 

「ちょっと待ちなさい。物体の分解と再構築が出来るって事は……もしかしてISも?」

 

「ああ、ISだけがその例外とは限らん」

 

アンクの言葉に戦慄する一同。その話が本当ならば、『メダルの器』は近づくだけでも危険な代物だと言う事である。しかも相手が成層圏にいる関係上、そんな場所でISをセルメダルに変えられてしまえば、操縦者は一発でアウトだ。

 

「それじゃあ、レインとフォルテの二人は……」

 

「いや、まだ其処までの性能は無い筈だ。もしそれだけの性能があれば、今までに壊滅した国の上空に『メダルの器』を下ろして、手当たり次第にセルメダルに変換して更地にしている」

 

「……でも、それも時間の問題ですわよね?」

 

「ああ、だからそうなる前に仕留める必要がある。だが、何かしらの防衛能力はある筈だ。まあ、幾つか見当はついてるがな。いずれにせよ、ヤツと『メダルの器』を引き離してしまえば勝機は充分にある」

 

「それで、どうやってヤツを『メダルの器』から引き離すの?」

 

「それについてはちゃんと策を用意してある。元々は『ミレニアム』が暴走したオーズを殺す為に用意したモノだが、ヘキサポセイドンに対しても有効な筈だ」

 

「……『虚空の牢獄』か」

 

「そうだ。オーズをこの世界から隔離する為に、『ミレニアム』が造った“この世界に存在しない空間”。其処にヤツを送り込む。仮にそれで倒せなかったとしても、相当の質量と重力を持ってオーズを幽閉する程の力場を保っている場所だ。その核となる“管理者”を破壊してしまえば、縮退星となった牢獄に巻き込まれてくたばる筈だ」

 

「縮退星……って」

 

「つまり、ブラックホール……」

 

「……取り敢えず、ヘキサポセイドンを倒す算段については分かったわ。でも、どうやってその『虚空の牢獄』に送り込むつもり?」

 

「……そうだな。ヤツにはタイムメモリの時間停止がある。『虚空の牢獄』に転送される瞬間、それで逃げる事も出来るハズだ」

 

「連発は出来ないようですから、ワザと一回使わせると言う手もありますが……」

 

「その一回でISコアを砕かれたら元も子もないサ」

 

「ソレに関しても考えがある。これまで各国がそれなりに工夫して色々な小細工をかましてくれたお陰で、ヤツもそれなりに戦闘経験を積んでいる。多少の小細工じゃ、まず隙は作れねぇし、メモリユーザー以外のIS操縦者や兵器の類いにもちゃんと注意を払うだろう」

 

「それじゃあ、どうやって……」

 

「ヤツにとって完全に予想外の事態、そして完全に予想外の人間を用意する」

 

「完全に予想外の人間?」

 

「そんなヤツいるのかよ?」

 

「いる。『悪魔に魂を売った』と言われてもおかしくない邪法ではあるが……この方法ならヤツをこの世から葬り去る可能性は格段に跳ね上がる」

 

「随分と大きく出るわね。それで、その邪法って言うのは?」

 

「それは――」

 

その後に語られたアンクの作戦に一同は騒然となったが、それと同時にヘキサポセイドンとの戦いにおいて、一つの絶対的な確信を得た。

 

確かに、その方法ならば勝つ事が出来る――と。

 

 

○○○

 

 

現・世界最強のIS操縦者に、ガイアメモリ対応ISを操る戦乙女4人(クロエを入れれば5人)を相手にしながらも、ライトは余裕を持って戦っていた。

何せ、最も出力の高い『紫のコアメダル』6枚の力を使い、更には『メダルの器』による成層圏からのバックアップがあるのだ。警戒すべき事はあるものの、障害となるゴクローと一夏を排除し、世界の完全崩壊に王手をかけた今となっては、完全に「コッチだけズルして無敵モード」な心境に入っていてもおかしくはない。

 

「……ん? 当たったかな?」

 

「チッ! 流石に硬いな」

 

そして何よりも機体のスペックが違う。身体能力を筆頭に、全てのステータスで『オーズ・プトティラコンボ』を上回る数値を叩き出すヘキサポセイドンは正に難攻不落。これに強力なガイアメモリによる搦め手が加わっているのだから、普通なら相対した時点で詰む。

 

「ふむ……メモリユーザーを此方に集中させ、残りは成層圏に行ったのかな? まあ、全員で掛かったとしても僕が勝つけどね」

 

「ぬかせ!」

 

「箒! どいて!」

 

『W・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「トリガー・フルバースト!」

 

黄色と青色の光弾が放たれ、その全てがライトに殺到する。しかし、ライトは一切避ける素振りを見せず、その堅牢な鎧の防御力を頼りに、強引に鈴音へと迫る。

 

「ちょっと! 少しは怯んだりしなさいよ!」

 

「嫌だね」

 

『CYCLONE! METAL!』

 

「はぁあああああああああああああああっ!!」

 

サイクロンジョーカーから、サイクロンメタルにチェンジしたラウラが、緑色の風を纏うメタルシャフトをライトに振り下ろす。それに対して、ライトはメダガブリューで応戦しつつ、マドカや箒と言った他のメモリユーザーは元より、アリーシャにも注意を向ける。

 

「余所見しちゃ駄目なのサ!」

 

「分かってるさ」

 

そして、案の定背後から襲い来る風の分身達を、ティラノサウルスを模した強靱な尻尾でなぎ払う。更にプテラノドンを模した翼を生やし、ラウラを吹き飛ばしながら空中へ移動する。

 

「このッ!」

 

「食らえ!」

 

「フンッ!」

 

「甘いね」

 

マドカ、箒、鈴が、それぞれが持つ遠距離攻撃でライトを狙撃するも、ライトは大きな翼で身を包み込んでガードし、彼女達に大量の氷柱を撃ち込んでいく。

 

『HEAT! METAL!』

 

『METAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「『メタルブランディングッ!』」

 

「おっと!」

 

氷には炎とばかりに、ヒートメタルにチェンジしたラウラが即座に必殺技を発動。炎を纏ったメタルシャフトを振り回しながらライトに迫るが、ライトはソレを難なく受け止める。

 

「ぐっ! このぉおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

『離れて下さいラウラ。向こうの方が出力は上の様です』

 

「ッ! チィイッ!」

 

無理矢理に攻撃を叩き込もうとするラウラだが、クロエの制止によって一旦ライトから距離をとる。何度目かの攻防の中で、有効打と言えるものは皆無。予想こそしていたが、やはりヘキサポセイドンは強敵だ。

 

『ラウラ、エクストリームで勝負です!』

 

「うむッ!」

 

『XTREME!』

 

「『はぁあああああああああああああああああああああああッ!!』」

 

「ふむ。やはりこの場で最も驚異たり得るのは君……いや、君達か」

 

エクストリームメモリを用いた強化変身を遂げるラウラの姿を見て、ライトは自分の予感が確信に変わるのを実感する。

 

ライト最大の武器であるタイムメモリの時間停止を無効化する為に、『NEVER』が取ってくる手段としてライトが考えたのは三つ。

 

一つ目は、エターナルメモリによるタイムメモリの停止。ゴクローを除けば、織斑姉弟以外でエターナルメモリとの適合率が高そうな人間はマドカだが、それでも比較的高いと言うだけで、他の面子ほど高くはない。

また、最低でもブルーフレアに至るレベルにならなければ止める事は出来ないし、そんな事は数週間で出来るモノでは無い為、コレはない。

 

二つ目は、同じタイムメモリを使った時間停止による無効化。しかし、コレはマドカ達が使えたとしても、肉体の時間が止まっている状態にある人外のライトの方がタイムメモリとの適合率は高い為、どうしてもマドカ達“生きた人間”はライトより短い時間しか動くことは出来ない。よって、これも使ってきたとしても大して問題はない。

 

三つ目は、プリズムメモリを装填したプリズムソードで、タイムメモリの能力を斬ってしまう事。これなら、当てさえすればタイムメモリの時間停止を使用不能にもっていく事が可能なので、ライトは『NEVER』はコレを必ず用意するだろうと踏んでいた。

 

「いくぞ、姉ッ!!」

 

『PRISM・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「『プリズム・ブレイクッ!!』」

 

「させるかッ!!」

 

しかし、それも当たらなければ意味はない。その為、攻撃を当てる為に束製タイムメモリとの併用を想定していたライトは、ラウラの行動に間抜けを見る様な視線を向けつつ、タイムメモリが装填されたメモリスロットのマキシマムスイッチをタップする。だが……。

 

『………』

 

「!? 何!?」

 

「『はぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!!』」

 

どう言う訳かタイムメモリのマキシマムドライブが発動せず、その事に動揺したライトは無防備な状態で二人の必殺技を正面から受けてしまう。

 

「ぐぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「今だ!! 叩き込めッ!!」

 

『NASCA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「応ッ!」

 

『ENGINE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「分かってるわ!」

 

『W・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ぐっ! メモリの不調か? ならば!」

 

おかしいと思いつつも、ライトはタイムメモリが不調だと判断し、重力操作の能力を持つグラビトンメモリに交換して再度マキシマムスイッチをタップするが……。

 

『………』

 

「!? 馬鹿な!! どうして……」

 

「「「せいやぁああああああああああああああああああああああああああッッ!!」」」

 

「があああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

ガイアメモリが使えないと言う想定外の事態によってライトは混乱の極みに陥り、次々と放たれる必殺技を受け続ける。

おかしい。何故突然ガイアメモリが使えなくなってしまったのか。そう言えば、アリーシャ・ジョゼスターフは何処に行った? ……まさか、アイツの仕業なのか?

 

「この……舐めるなぁああああああああああああああああああああああッ!!」

 

ガイアメモリの不調の原因がアリーシャにあると思い至ったライトは、全身から絶対零度の冷気を発して周囲を凍らせる。風を操るISを使うアリーシャに対抗する為、空気さえも凍結させる超低温を無差別に振りまき、その動きを封じるつもりなのだ。

 

「こ、これはヤバい……サ」

 

「!! そこかッ!!」

 

そして、風を操る事で光の屈折率を操り、不可視の鎧を纏って姿を隠していたアリーシャの居場所を突き止め、急接近して攻撃を繰り出そうとした刹那、ライトの足元に大きな魔方陣が展開される。

ライトは魔方陣を見て何かヤバイと感じ、攻撃を中断して即座に距離を取ろうとするが、そんなライトを誰かが羽交い締めにした。

 

「!? な、何だ? コイツ等以外に、他に誰か居る!?」

 

そんなライトの疑問に答えるように、羽交い締めにしていた不可視の存在が、その全貌をゆっくりと現した。

それは白の装甲で全身を覆い、両腕に刻まれた青い炎と、複眼の下を走る赤い涙のラインが印象的な……『仮面ライダーエターナル』だった。

 

「何……!? まさか、織斑一夏か!?」

 

「違う。俺は、一夏じゃない」

 

『LUNA・TRIGGER・ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

ライトの言葉を否定しながら、3本のガイアメモリを同時発動し、トリガーマグナムでマドカ、箒、ラウラ、鈴音、アリーシャの5人を撃つと、エターナルはライトと共に戦場から『虚空の牢獄』へと転送される。

 

「む!? 此処は、一体……」

 

「墓場だよ。『ミレニアム』がオーズを斃す為に造りだした……な」

 

「……お前は誰だ? 一体、何者だ?」

 

「分かってる癖に……」

 

分かってる癖に。その言葉から、エターナルの正体は知っている人物だと判断したライトは、冷静になってその正体を考え始めた。

エターナルメモリなら織斑千冬や織斑一夏の様に、他にも適合者はいるだろう。だが、コイツはさっき透明化の能力を……つまりはインビジブルメモリを使っていた。そして、インビジブルメモリのレベル2は確か「相手の盲点に入り込む能力」だったハズ。そして、レベル2に成長させた人物と言えば……。

 

「まさか……ゴクロー・シュレディンガーか?」

 

「ああ、そうだ。『ミレニアム』が秘密裏に造っていた、俺専用の機械の体。それにアンクが俺の記憶を宿したガイアメモリを入れて、俺を現世に蘇らせたのさ」

 

つまりは、先日鈴音が撃破した京水と同じ。真実に驚愕するライトだが、それ以上に驚くべきはそんな邪法を使ってでも自分を倒そうとする『NEVER』の執念だ。そして、その執念によって、ライトは自分が最大のピンチを迎えていると自覚する。

 

「へぇ……成る程ね。そして機械の体になったことで、エターナルメモリとの適合率が更に上がった。だから、僕のタイムメモリの能力も停止させる事が出来たと言う訳か」

 

「不本意だがな」

 

「フッ。それじゃあ、思いっきり楽しもうか。人間を捨てた……魔物同士でッ!!」

 

「悪いが、俺はお前とまともに戦うつもりはない。どんな手を使ってでも……」

 

『ライダー……変身!!』

 

『変身!』

 

『変身! ブイスリャアーッ!』

 

『いくぞっ!』

 

『セッタァーップッ!』

 

『アーマーゾーンッ!!』

 

『変身! ストロンガーッ!!』

 

「お前を倒す」

 

セルメダルで構築された肉体で現世に蘇り、『ヘキサポセイドン』を纏うライト。機械の体と地球の記憶を依り代に復活し、『エターナル』を纏うゴクロー。そして、ライダーメダルとライダーメモリで顕現し、ゴクローの傀儡と化した疑似昭和ライダー達。

 

何処までも似て非なる、奇妙な戦いの幕が上がった。

 

 

○○○

 

 

一方その頃、成層圏では『メダルの器』を破壊する為に、セシリア、シャルロット、簪、楯無、スコール、オータムの6人からなる別働隊が動いていたのだが、彼女達は苦境に立たされていた。

何せ、数えるのも億劫になるほどの無数のクズヤミーに、ヤミー系コアメダル1枚を核にして現われた12体のヤミー。それにコアメダル3枚を核として顕現した5体のグリードが、彼女達の行く手を阻んでいたのだ。

 

「コレが例の防衛システムって訳ね。レインとフォルテはコイツ等にやられたのね」

 

「ちょっと、誰か一人でも突破できないの!?」

 

「チッ! 仕方ねぇだろ! クズが多過ぎる上に、グリードがやたら強ぇんだよッ!」

 

実際の所、敵の数が余りにも多すぎる。クズヤミーの戦闘能力はそれほどでもないが、しつこい上にグリードやヤミー達の攻撃の合間を縫って襲ってくるので非常にうざったい。

その上、オーズの統一コンボと同格の強さを持つグリードが5体に、そのサポートをする12体のヤミー。しかもヤミーはヤミーで人型の個体もいれば、巨大な魚や昆虫の形をしている者までいて、とても一筋縄ではいかない。

 

ヤミーは何とか倒したものの、強力な戦闘力を誇るグリードを相手に攻めあぐねる彼女達に、地上で戦っていた戦乙女達が援軍として合流する。

 

「!! ココに転送されて来たって事は……」

 

「ああ、上手くいった!」

 

「取り敢えず、第一段階は成功と言った所だ!」

 

「なら、後はコレを何とかするだけね」

 

ライトを『メダルの器』から引き離す事に成功した事で、彼女達の作戦は第二段階へと移行。その内容はズバリ『メダルの器』に対する総攻撃である。

 

「おい! 目的のヤツは何処にいる!?」

 

「マドカ! あそこ!」

 

シャルロットの指が指す方向には、タカ・クジャク・コンドルの3枚のコアメダルを核としているグリードもどき。即ち、アンクと同じ姿をした鳥の怪人がその翼を広げて優雅に飛翔していた。

 

「良し!」

 

『NASCA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

すかさずナスカメモリのマキシマムを発動し、クズヤミーと他のグリードをくぐり抜けて、アンクもどきに高速接近するマドカ。それに対抗してアンクもどきも高速飛行を開始するが、二人のスピードは全くの互角。そんな中でマドカは拡張領域から、真紅の右腕を召喚してアンクもどきに投げつける。

 

「行けぇえええええ、アンクウウッ!」

 

「おうッ!!」

 

そして、アンクもどきの中にアンクが侵入すると、アンクもどきが動きを止める。その時間はほんの十秒かそこらであったが、再びアンクもどきが動き出したとき、アンクもどきには明確な意志が宿っていた。

 

「良し……上手くいったな」

 

同じグリードもどきであり、バイラスメモリに精通しているアンクにとって、確固たる意志を持たないロボットの様なグリードもどきなど簡単に乗っ取る事ができる。

かくして、乗っ取ったアンクもどきの体を利用して『メダルの器』の内部にあっさりと侵入すると、バイラスメモリの力で『メダルの器』の一部機能を停止させた後、内部に取り込まれていたレインとフォルテ。そして、エクスカリバーの操縦者であるエクシア・カリバーンの三名を連れて脱出しながら、『メダルの器』を内部から破壊していく。

 

「!? 何だ!?」

 

「止まった……?」

 

「皆、見て!」

 

そして、『メダルの器』との通信が切れたことで、グリードもどき達もまた活動を停止し、アンクが『メダルの器』から脱出した数十秒後、内部に向かって圧縮される様に形を変化させていた『メダルの器』が爆散。それと同時にグリード達も体が崩れ、無数のセルメダルと大量のコアメダルが地上に向けて落下していく。

 

「よっと!」

 

「フッ!!」

 

「ヘッ!!」

 

「ッ!! お前等ッ!!」

 

「フフフ……今回の報酬として貰っておくわ。それじゃ、また会いましょう」

 

それを見た『亡国機業』の三人は、それぞれが数枚のコアメダルを奪取すると、アンクが回収した二人の仲間には目もくれず、そのまま何処へと去ってしまった。

 

「……チッ! コイツ等を懐柔できない上に殺さないと思って、俺等に押しつけやがったな!」

 

「実際にこの二人を味方につけるのは難しいわね。それにコアメダルを取られたのは痛いわ……」

 

コアメダルを持って行った『亡国機業』に悪態をつきながらも、戦乙女達はゆっくりと地上へと帰還する。

レインとフォルテはISのシールドエネルギーを『紅騎士』の単一仕様能力である「絢爛舞踏」で回復させた上でバイラスメモリによって強制起動させ、エクシアに関してはアンクが彼女を内部に取り込む事で大気圏突破を可能にしている。

 

「……これで、終わったのか?」

 

「ああ、全部終わった。見ろ」

 

そう言ってアンクが砂をかき分けると、中から銀で出来た髑髏が現われる。だが、その形は以前見たときとは大きく異なっている。

 

「『銀の髑髏』……だが、砕けてるな」

 

「ああ、『虚空の牢獄』が破壊された証だ。コレで二度とヤツはコッチには戻れん」

 

「良かったぁ~~」

 

アンクの言葉で、取り敢えず仇を討つことは出来たと思い、安堵する一同。問題は山積みだろうが、それはおいおい考えて行く事にする。

 

「……これから、どうするの?」

 

「……そうね。その辺の事は、一度戻って祝勝会でもしながら考えるって事で――」

 

「がぁ……ッ!」

 

「箒!?」

 

「な、何、アレ!?」

 

完全に油断していた所で背後からの奇襲。それも何も無い空間から出た異形の腕が、箒の首を鷲掴みにしており、突然の事態に気絶している三人を除いた全員が仰天する中、下手人が咆哮と共に姿を現した。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

時空に大きな亀裂が入り、彼女達の前にヘキサポセイドンが躍り出る。装甲は所々ひび割れ、正に満身創痍と言える有様であるが、全身から濃密な殺意が煙の様に立ち上っていた。

 

「馬鹿な……ッ! どうやってあの牢獄を脱出したッ!」

 

「アアアア……。貴様等に嵌められたあの時……此処から牢獄に至るまでのルートを、メモリーメモリに記憶しておいた……ッ!! そして、ゴクロー・シュレディンガーが敗北を悟って牢獄を閉じた際にゾーンメモリを奪い取り、メモリーメモリとのツインマキシマムによって、帰還する事が出来たぁあ……ッ!!」

 

そう語るライトの眼光は、正に血に飢えた獣そのもの。その場に居合わせた全員の生存本能が最大級の危険信号を放つ中、ライトは箒を掴んだままでメモリーメモリの最大出力を発揮させた。

 

『MEMORY・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ッ!! うわぁああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「箒!」

 

「貴様……ッ、箒に何をするッ!!」

 

「何、封印されていた記憶を呼び起こしただけさ。そして、心の均衡が崩れたなら、力に抗うより屈する方が遙かに容易い……ッ!!」

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

そして、ゾーンメモリの力で大量のライダーコアメダルとライダーメモリを呼び出すと、その全てを箒に対して投入する。

すると、箒の姿は骸骨を模した様な不気味な姿の六本の触手を背中から生やした異形と化し、自分の仲間達に猛然と襲いかかった。

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 

「止めろ箒! 目を覚ませ!」

 

「ちょ! どうすんのよコレ!?」

 

「どうするって言ったって……!」

 

暴走状態に陥りライトの手駒と化した箒と、それを止めようとする仲間達。全員の意識が箒に向けられた瞬間、ライトはゴクローから奪ったゾーンメモリの力をもって彼女達を更に追い詰めた。

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

ライトがゾーンメモリの能力で行ったのは、5✕5からなる面を6枚使った巨大な一つの箱の創造。そして、その箱の中に箒を含めた全員を閉じ込めたのだ。

 

「不味い……閉じ込められたぞ」

 

「そんな!」

 

「さあ、フィナーレだ。ぬううううううりゃああああああああああああああああああああああッ!!」

 

『ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン! ゴックン……』

 

「な……ッ!!」

 

「アイツ、あんなに大量のセルメダルを……ッ!」

 

ライトが体から大量のセルメダルを放出し、それらを全てメダガブリューに飲み込ませる。そして、避けられないことを悟ったアンクは知っている。次にライトが繰り出す攻撃の恐るべき破壊力を。

 

「ハハハハハハハハハハ! しっかりと目に焼き付けておくと良い。これがこの世界を終末に導き、神と言う頂に至る……王の姿だ!」

 

「違う……! それは、歪んだ王の姿だッ!!」

 

「ふん。それなら受けてみるがいい。君達が思いを寄せていた……男の力をッ!!」

 

そして、撤退を完全に封じられた運命の宿敵達に対し、ライトは無慈悲な凶刃を渾身の力をもって振り下ろす。

 

「ヌウウウウウウウっ! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

紫色の肉食恐竜を象った巨大なエネルギー刃は、内部の空間を自在に操作する正六面体を三回侵食し、その中にいた生きとし生けるもの全てを三度切り裂いた。

 

そして、特大の火柱が上がり、炎が消えた後に残されたのは、無数のISの残骸に、先程まで命だったモノの欠片。そして、二つに割れた一枚のタカコアメダルだった……。

 

 

●●●

 

 

「……と言う、結末だったんだよ」

 

「……その後、世界はどうなったんだ?」

 

「その後は、生き残ったライトが『亡国機業』を壊滅させて、その後で束さんが敵討ちのしたいメイド姉妹のサポート有りで戦ったんだけど、両足をもっていかれちゃってさ。止めを指されそうになって、流石にもう駄目だーって思ったら、勝手に自滅しちゃんたんだ。きっと、ライトの体が『紫のメダル』の負荷に耐えられなくなったんだろうね」

 

「………」

 

あの束が布仏姉妹と共に戦って、その結果として死を覚悟する……か。そして、800年前のオーズと同じような感じで、ライトとの最終戦争は幕を閉じたって所か。

 

「……シュラウドはどうなったんだ?」

 

「………」

 

「……そうか」

 

「……ゴッくん。こうならないように、何とかしたいって思ってる?」

 

「そりゃあ……出来る事ならな」

 

「それなら方法はあるよ。ゴッくんの膨大な未来で、私達の膨大な過去を粉砕する方法が」

 

束達が全てを賭けて惨敗を喫した60年後の世界から、未来を取り戻す為の戦いが始まろうとしていた。




キャラクタァ~紹介&解説

5963(大首領JUDOボディ)
 金ぴかのZXボディに596メモリを埋め込むことで復活した『NEVER』の大首領。機械の体に記憶回路の頭脳と、完全なマシーンと化している。少佐の語る「人間は魂の、心の、意志の生き物だ」と言う理論に共感しているが、「自分が人外である」と言う認識がある点が、少佐との決定的な違い。
 そして、完全な人外になったことで、エターナルメモリとの適合率が上昇し、全てのガイアメモリを統べる事に成功。これによって、『仮面ライダーエターナル』は完全に完成したと言える。

ライト
 メモリユーザーでエクストリームって言っても、時間停止が使える自分なら楽勝やろと舐めプかましていたらトンデモナイ切り札が出てきて、まんまと『虚空の牢獄』に叩き込まれてしまい、物凄い苦戦を強いられる羽目に陥ってしまったラスボス。それでも、ラスボスの意地を見せて牢獄から辛くも脱出し、反乱分子の皆殺しに成功する。
 ちなみに『虚空の牢獄』からの脱出に関しては、現在月マガで連載中の『新・仮面ライダーSPIRITS』で語られた『虚空の牢獄』への侵入方法が元ネタ。それにしても、結城丈二は本当に半端ないなぁ……。

5963(生身)&篠ノ之束(BBA)
 ダイジェストで自分が居なくなった後の事を当事者から聞かされ、残された少女達の結末の悲惨さに鬱になる男と、当時を思い出して涙目になる老婆。取り敢えず、未来を変える為に自分が何を失えば良いのかはお互いに分かっている。



疑似ヘキサオーズ
 箒の纏う『紅騎士』をベースにライダーコアメダルとライダーメモリを複数投入した事で造りだした即席のヘキサオーズ。ライダーコアメダルの特性上、セルメダル無しでも使う事が出来る為、鈴音の時と違って大量のセルメダルを用意する必要が無い。
 もっとも、ライトにとっては只の囮なので、大した出番も無く他の面子諸共最大威力の「グランド・オブ・レイジ」でぶった斬られてしまった。

最終決戦(第二次IS大戦)
 全て駆けて尚、惨敗と言う結果に。ちなみに、全てを失った束は怒りパワーによって善戦する事は出来たがそれだけで、最終的にはセルメダルの肉体が限界を迎えたノブ君の様に、ライトはこの世から消滅した。つまり、下手をすれば放っておいてもライトが死ぬ可能性はあったのだが、それまでに起こる被害が半端じゃないと言う傍迷惑なヤツなのだ。


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第39話 Time judged all

束「君はゴッくん? それともライト?」

5963?「お前のゴッくんに決まっているでしょ」

束「……じゃあ、束さんにして欲しいコスプレ言ってみて」

5963?「蘭花・フランボワーズ」

束「むろみさんだよ! お前、やっぱライトじゃん!」

ライト「バレてしまったのならしょうがないッ! 第39話、どうぞ~♪」


60年前に起こった最終決戦……またの名を「第二次IS大戦」の全貌を束の口から聞いてから二週間。ナノマシン型改造人間の面目躍如と言うべきか、切断された左腕と両足は問題なく動き、失った右手もアンクが義手の代わりになっている事で何とかなっている。

それでも刺された心臓の調子はイマイチであり、やはりアンクが居ないとちょっと不安な所である。救心でも飲めば、少しはマシになるだろうか?

 

「……で、具体的にどうやって未来を変えるか、そろそろ聞きたいんだけど」

 

「未来を知ってるゴッくんが元の時間軸に戻れば、その時点でゴッくんは未来を変えうる特異点になる筈。だから、普通にゴッくんが過去に戻ってライトを倒すなり、なんなりすれば、何かしらの形で未来を変える事が出来る筈だよ」

 

「もっとも、ライトが言う事が正しければ、この世界の崩壊は『必ず起きる出来事』らしい。仮にお前がライトを倒しても、それが先延ばしになるだけで、審判の日が訪れる事を避ける事は不可能なのかも知れん。歴史の修正力が、ライトの代わりを作り出すからだ」

 

「……それでも、何の罪もない人達が死ぬのは回避できるだろう?」

 

「どうだろうな。まぁ、試す価値ならあるだろうが……」

 

まあ、いずれにせよ俺が過去に飛ぶ事は確定している。なら問題はどのタイミングで介入するかだが……。

 

「ふと思ったんだが……『ミレニアム』が『亡国機業』に襲撃された時に戻って、俺がシュラウドを何とかしてしまえば、全部丸く収まるんじゃないか?」

 

「駄目だよ。絶対に駄目」

 

「どうして?」

 

「決まってるだろ。それをやったらお前が確実に死ぬ」

 

「……タイムパラドックスか」

 

「ああ。“同じ時間軸に同じ存在は存在する事が出来ない”。仮にお前がそうやって包帯女を倒した場合、お前はこうして60年後の未来に来なかった事になるし、お前は60年前の世界には居られない。つまり今のお前は間違いなくソコで消える」

 

「……てゆーか、もしかしてまだ『基本世界』に戻す事を考えるの?」

 

「いざ、その可能性が浮上するとなると……ねぇ?」

 

「確かにその可能性もあるにはあるが……お前はそれで良いのか?」

 

「あん?」

 

「言い方が悪かったな。確かにあの馬夏は、この世界に選ばれた存在なのかも知れん。行動の全てが肯定され、その全てが上手くいく運命にあるのかも知れん。それこそ、物語の主人公の様に『勝利することを約束され、関わった人間が全て救われる存在』なのかも知れん。

だが、だからと言ってお前は、『いずれ馬夏の手で救われる』からと、目の前で愛に彷徨っているウサギ女達を、何もせず見て見ぬ振りをする事が出来るのか?」

 

「………」

 

そうアンクに言われて、思わず口をつぐんだ。考えてみれば、俺が言っている事は極端な話、今すぐ助けて欲しいと思っている人間に、「後で必ず救われるから今は苦しめ」と言って見捨てているのと同じではないか。

 

「確かにお前のやった事は間違っているのかも知れん。運命に逆らい、何らかの歪みを生み出す愚行なのかも知れん。だがな、それと『救われる事』は全く別の問題なんじゃないのか?」

 

「まあ、間違ってるかどうかなんて、こうなった今じゃ今更過ぎる事なんだけどね……」

 

「……そうか。そうだな」

 

「それに過去への時間移動を実行するとすれば、どれだけ遡っても『お前がIS学園から消えたあの日』が限界だ。と言うか、それより過去に戻す事は同行する俺が許可しない。勿論、コイツもな」

 

「……で、具体的にはどうやって時間を遡るつもりだ?」

 

「時間移動に関しては問題ない。ライトが自滅した時に回収した『紫のコアメダル』が6枚とタイムメモリがある。ソレを専用のマシンに装填して使用すれば、お前を元いた時間に戻す事が出来る。そして、ヘキサポセイドンに勝つ方法だが……」

 

「まあ、タイムメモリに関しては問題ないだろう。対抗策は幾つか考えられる訳だし」

 

「まあな。問題はどうやって『紫のコアメダル』を使わずに、『紫のコアメダル』を砕くかって事なんだが……」

 

「……ねぇ。別に苦労して『紫のコアメダル』を砕かなくても、束さんがそうしたみたいに厳重に封印でもしておけば良いんじゃないの?」

 

「いや、その考えは甘い」

 

「ああ、『紫のコアメダル』だけは必ず破壊しないと駄目だ」

 

俺が体験しているこの時間移動は、ライトが使ったタイムメモリによる副次効果によるものである可能性もあるが、『オーズ』本編で「ロストブレイズ」を使って『紫のコアメダル』を砕いた時の様に、俺が同じ方法で『紫のコアメダル』を破壊した場合、再び未来へ繋がる扉が開く可能性がある。

そうなれば最悪の場合、ライトが『未来の仮面ライダー』として復活し、再び元の時代にやってくるか、過去に遡って過去を改変する可能性が浮上する事になる。

 

そして、何よりも最悪なのは、それを利用してライトに別の時代へ逃げられる事。だから、ライトを撃破するにあたって『紫のコアメダル』の破壊は必須だ。

 

「一応アイディアはあるんだが、俺一人じゃどうしようも無いんだよなぁ……」

 

「一応聞いてやる。どんな策だ?」

 

「ゴールドエクストリームとタジャドルコンボの同時攻撃だ。それならコアメダルもガイアメモリも同時に砕けると思うんだが……」

 

しかし、言っておいて何なんだが、この策を実現する事は不可能に近い。特にゴールドエクストリームが問題だ。

 

ゴールドエクストリームに至る方法は二つ。一つは人々の勝利の願いが込められた風をエクスタイフーンに受ける事。もう一つはタジャドルコンボの波動をエクスタイフーンに受ける事だ。前者に関してはかなり難しいが、後者に関しては俺がタジャドルコンボになれば問題ない。

しかし、俺がタジャドルコンボを担当したとしても、もう一人をどうするかが問題である。此処には俺以外にはBBAと化した束しかおらず、エクストリームに至ったクロエとラウラはこの世を去った。そして、前の時間軸に戻って二人に専用ISとメモリを渡したとしても、二人がすぐにエクストリームに至る事は不可能に近い。

 

「まあ、一度ライトを倒してから、二人がエクストリームに至るまで待つって手もあるけど……」

 

「出来るならすぐに破壊しておきたい所ではあるな。下手に残して時間をおくと、後でどんな災いが起こるか分からん」

 

「……ねえ、ゴッくんがゴールドエクストリームに至るって言うのはどうかな?」

 

「え?」

 

「あん?」

 

「だって、ゴッくんはエターナルメモリのエクストリームに至ってるんでしょ? なら、後はタジャドルコンボを使ってゴールドエクストリームをやればいいだけなんじゃないの?」

 

「「………」」

 

なるほど。それは盲点だったな。今までエターナルはブルーフレアからの複数本同時のマキシマムドライブが最強にして最終形態だと思っていたが、束が言う様にゴールドエクストリームと言うブルーフレアの先も有り得ると言えば有り得る。

そして、俺の『オーズ』はコアメダルとガイアメモリのハイブリッドだ。タジャドルコンボとゴールドエクストリームを組み合わせる事だってその気になれば確かに可能だろう。

 

「成る程な。確かにそれならイケるかも」

 

「となると……必要になるのはエターナルメモリと、専用のエクストリームメモリか」

 

「そこはこの束さんの出番だね。まあ、3日もあれば良いかな?」

 

「……無茶はするなよ」

 

「アハハハ、無理♪ だってコレが束さんの最後の仕事だもん」

 

嬉々としてコンソールをいじる束お婆ちゃん。とても80を過ぎているとは思えないキャピキャピ具合と、人類を超越した超ハイスペック頭脳は、老いて尚ますます健在……と言った所である。

 

そして、作業開始から3日後。宣言通りに、エターナルメモリとガイアメモリ強化アダプターと同じくらいのサイズのエクストリームメモリが完成した。

サイズ以外での相違点として、本来なら内部に隠されているはずのエクスタイフーンが剥き出しになっており、どことなく強化アイテム繋がりでメテオストームスイッチに似ている様な気がする。

 

ちなみにエターナルメモリは使い込む必要も無く、最初からブルーフレアだ。この辺は劇場版『仮面ライダーW』の大道克己と同じようである。

 

「さて、コレで準備は整った訳だが……」

 

「ん? どうしたの?」

 

「いや、このマシンがどうしても『ディメンション・タイド』に見えるって言うか、何と言うか……」

 

考えてみれば、アレも小型ブラックホール兵器で、古代生物が現代に現われる原因だったなと思いつつ、どう考えても主人公がゴジラ打倒に執念を燃やす様が逆恨みにしか思えなくて感情移入できなかったな……と、映画を鑑賞した時の事を思い出す。

傍から見れば、これから世界の運命を賭けた最終決戦に赴くとは思えない心境の様に思えるだろうが、これは一種の現実逃避……ではなく、肩の力を抜いてリラックスしているだけだ。ホントよ。

 

「おい。気ぃ抜くなよ、ゴクロー」

 

「分かってるって」

 

「それじゃ、始めるよ」

 

『プテラ! トリケラ! ティラノ! ユニコーン! アンキロ! ヌエ! スチャニング・チャージ!』

 

『TIME・MAXIMUM-DRIVE!』

 

あの日、時間が停止した世界で一夏を庇い、代わりに俺が喰らったヘキサポセイドンの必殺技。それと同じモノが巨大な砲台から発射されると、ターゲットに着弾した部分を始点にして空間に大きな穴が空き、その先には暗闇が無限に広がっていた。

 

そして、過去へ繋がる扉が開いたことを確認すると、俺は修復された『DXオーズドライバーSDX』を腰に巻き、メダルをスキャンして大きく叫んだ。

 

「変身ッ!」

 

『タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バ! タトバ! タットッバ!』

 

「……それじゃ、行ってくるな」

 

「……うん。行ってらっしゃい」

 

「……束」

 

「何?」

 

「お前、俺と会えて良かったか?」

 

「……うん。会えて良かった」

 

「そうか……」

 

もしも未来が変わったなら、今俺の目の前にいる束は消える。その事は頭の良い束なら分かっているだろう。

それでも尚、束は過去を変え、未来を変える事を望んだ。それはきっと、束が過ごした60年の全てがこの日の為にあったからで――。

 

「行くか、アンク!」

 

『ハッ! ヘマすんじゃねぇぞ!』

 

凄惨な未来を変える為に、そして束の望みを叶える為に、俺はアンクと共に過去へ続くトンネルに勢いよく飛び込んだ。

 

 

●●●

 

 

照明設備など皆無の暗闇のトンネルを抜けた先には、眼下に青く美しい星が広がり、衛星と見紛うばかりに巨大な『メダルの器』が停滞していた。

 

「アレか……」

 

『そうだ。ライトを倒す前に、まずは「メダルの器」を破壊する』

 

取り敢えず『メダルの器』に向かって接近すると、噂の防衛機能が働いたのか、大量のクズヤミーが『メダルの器』から飛び出してきた。

 

「まずは戦闘員からか……」

 

『油断するな。直ぐに他のヤミーやグリードも出てくる』

 

「そうだな……気合い入れていくか!」

 

タカの目による視力強化に加え、展開したトラクローで切り裂き、バッタレッグの連続キックで吹き飛ばし、ウォーミングアップとばかりにクズヤミーを次々と葬っていく。

 

「なあ、アンク! お前が一度死んだ後の事なんだけどさ!」

 

『気にするな! 未来が変わればそうはならん!』

 

「……それじゃ、これだけ! 俺が“お前”と一緒に戦うのって、もしかしてコレで最後ッ!?」

 

『……ハッ! そうしたくなかったら、キッチリ生き残れッ!!』

 

「……分かった! お前もなッ!」

 

そうだ。生き残らなきゃ何も始まらない。クズヤミーの包囲網の隙をみて3枚のコアメダルをスキャンし、更にマキシマムスロットをタップする。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

ゾーンメモリの空間移動を併用し、クズヤミーの群れに色んな角度から何度もタトバキックを叩き込む。そして、クズヤミー達の数が大きく減った事で、『メダルの器』から今度はヤミーとグリードが出撃する

 

「ガンガン行くぜ!」

 

『クワガタ! カマキリ! バッタ! ガータガタガタキリバッ、ガタキリバッ!』

 

ガタキリバコンボに超変身し、緑色の電撃とカマキリブレードを駆使してクズヤミーを蹴散らしつつ、ひとまず巨大な魚と化したピラニアヤミーと、巨大な昆虫と化したオトシブミヤミーのデカブツ2体を叩くべく、必殺技の発動態勢に入る。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

『CYCLONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「「「「「「「「「「「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」」」」」」」」」

 

ガタキリバキックとサイクロンメモリのマキシマム発動直後に分身し、緑色の風を纏った分身達と共に巨大ヤミーに突っ込んでデカブツ2体を爆発させ、即座に能力を解除して一体に戻る。ついでに、核となっていたピラニアコアメダルと、オトシブミコアメダルの回収も忘れない。

 

『ライオン! トラ! チーター! ラタラタ~! ラトラーター!』

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

続けてラトラーターコンボに超変身した直後、ライオディアスを発動して群がるクズヤミーを一掃しつつ、猫系としては愚鈍なパンダヤミーに、水棲系としては珍しく人型のイカヤミー、そして水棲系グリードのメズールに狙いを定めた。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

『LUNA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「ララララララララララララッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

灼熱のエネルギーをトラクローに集約し、進行方向上にいるクズヤミーをトラクローで切り裂きながら本命のパンダヤミー、イカヤミー、メズールを撃破する。トラクローにはパンダコアメダル、イカコアメダル、シャチコアメダル、ウナギコアメダル、タコココアメダルの5枚がしっかりと挟まっていた。

 

「次はコイツだ!」

 

『サイ! ゴリラ! ゾウ! サッゴーゾ、サッゴーゾ!』

 

高速で接近するジャガーヤミーを、サゴーゾコンボの増強された腕力で力任せに殴りつけ大きく吹き飛ばす。しかし、俺の狙いはコイツだけではない。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

『METAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

ジャガーヤミーを吹き飛ばした先にいた、飛行能力を持つ鳥系のフクロウヤミーとハゲタカヤミーをまとめて重力操作で拘束し、三体を同時に手元に引き寄せて押し潰すように拳と頭を叩き込む。

引きつける最中に火炎弾で攻撃されたが、サゴーゾコンボとメタルメモリの組み合わせによる鉄壁の防御力の前では焼け石に水である。炎なのに。

 

かくして、確実にヤミーとグリードの数を減らしていく俺に危機感を覚えたのか、グリードもどきの偽アンクが俺を強襲する。

 

「来たな、めんどいの」

 

『言ってろ! さっさとコイツに変えろ!』

 

『シャチ! ウナギ! タコ! シャ・シャ・シャウタ! シャ・シャ・シャウタ!』

 

炎による熱攻撃と高速戦闘に対抗するべく、シャウタコンボに変身して固有能力の『液状化』を発動する。偽アンクの動きに最初は翻弄されつつも、そこはグリードとは言え無人機紛いのロボット。何度かの攻防で行動パターンを先読みし、カウンター気味に必殺技を叩き込む。

 

『OCEAN・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「オーシャニック・ブレイクッ!!」

 

そして、オーシャンメモリのマキシマムを使った回し蹴りを叩き込み、偽アンクがよろけた所で止めとなる一撃を繰り出した。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

ウナギウィップで拘束して電撃を流しつつ、タコレッグによるドリルキックが偽アンクを貫く。いよいよ敵の数も少なくなってきたが、流石に前より慣れたとは言え、コンボの連続使用は疲れる。

 

『なら、そろそろ回復しておけ!』

 

『コブラ! カメ! ワニ! ブラカ~ワニッ!』

 

ブラカワニコンボにチェンジし、ソーマジェムによって体力を回復させつつ、残りのヤミーとグリードの位置を確認。そして、これまで重量系のヤミーを一体も撃破していない事に気付き、それらを一気に倒すべく、コアメダルをスキャンしマキシマムスロットをタップする。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

『NASCA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

背中にハチドリを模したエネルギーの翼を生やし、通常のワーニングライドを上回る速度でバイソンヤミー、アルマジロヤミー、リクガメヤミーの三体を、ワニを模した巨大なエネルギーの顎でかみ砕き、租借する様に次々と撃破していく。まるでガオウライナーの様だ。

 

この時点で残る敵の戦力は、ヤミーがクロアゲハヤミーとシャモヤミーの2体。グリードはウヴァ、ガメル、カザリの3体だ。

 

「最後はやっぱコレだろッ!」

 

『タカ! クジャク! コンドル! タ~ジャ~ドル~!』

 

「って! 通常かよ!」

 

『こんな時に変な文句言うな! さっさと決めろ!』

 

ロストブレイズではない事に文句を言いつつも、アンクの言葉通りに勝負をさっさと決める為、タジャスピナーに9枚のコアメダルを装填して最大レベルの火力を誇る必殺技の発動態勢に入る。

 

『タカ! クジャク! コンドル! カマキリ! トラ! ゴリラ! ウナギ! カメ! イマジン! ギガスキャン!!』

 

『HEAT・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『セルバースト!』

 

「オオオオオオオオオオッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

通常のマグナブレイズと異なり、極彩色の羽根を持つ不死鳥が背後に顕現し、それにヒートメモリとセルバーストによる底上げが施された浄化の炎により、クロアゲハヤミー、シャモヤミー、ウヴァ、ガメル、カザリの5体を一気に焼き尽くす。

 

かくして、全てのグリードとヤミーからコアメダルを回収し、マグナブレイズの勢いを殺さぬまま『メダルの器』に突入し、中枢であるエクスカリバーに向かって真っ直ぐに突き進む。

 

「ここか……頼むぞ、アンク!」

 

『ハッ、任せろ』

 

『VIRUS・MAXIMUM-DRIVE!』

 

アンクによるサポートもあり、ヴァイラスメモリの能力によって、エクスカリバーを介して『メダルの器』の機能を内部から破壊。最終的には自爆するように仕向けておく。爆発した後で散らばるだろうコアメダルの回収はカンドロイド達に任せ、俺は操縦者のエクシア・カリバーンを無事に地球へ返す事と、次に控えるラスボス戦の事に集中しよう。

意識の無いエクシア・カリバーンを抱えながら、ライトとシュラウドがいるだろうIS学園に帰還するべく、ゾーンメモリのマキシマムを発動させる。

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

かくして、成層圏から戦場と化しているIS学園に瞬間移動し、ひとまずラスボスであるライトを探した。すると、ライトの周りにはこの時代のアンクと一夏の他に、マドカ、箒、鈴音、ラウラがいた。

 

「織斑一夏ぁッ!! 何故、君がISを動かす事ができるのかッ!! 何故、君に専用機として『白式』が与えられたのかぁッ!! 何故、君が織斑千冬と同じ『単一使用能力【ワンオフ・アビリティー】』を使えるのくわぁあッ!!

その答えは……ただ一つ……ッ! 織斑一夏ぁッ!! 君がこの世界で唯一、“『織斑千冬の細胞』に適合した男”だから……」

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「どぅわぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

何かライトがキャラ崩壊も甚だしい声色で、とても重要な事を言っていた様だが、余りにも隙だらけだったので、上空から容赦なく蹴りを入れた。まともに蹴りを食らったライトは絶叫と共に吹っ飛び、その光景にこの時代のアンク達は唖然としている。

 

「な……!?」

 

「え!?」

 

「ゴクロー……?」

 

「それに、誰だ? あの女は……」

 

「後で説明する。取り敢えず、この子を頼む。セシリアの身内らしい」

 

「あ、ああ……」

 

ひとまずはマドカにエクシア・カリバーンを託し、吹っ飛んでいったライトを見据える。不意打ちを貰ったライトは信じられないモノを見たかの様な動揺を隠すこと無く、俺に疑問をぶつけてきた。

 

「君は……もしかして、ゴクロー。シュレディンガーなのか?」

 

「ああ、そうだけど?」

 

「馬鹿なッ! 君はバラバラになって死んだ筈だ! 一体どうやって……!」

 

「……あん? そんなの決まってるだろう。この世にショッカーがいる限り、『仮面ライダー』は死なんッ!!」

 

「何を訳の分からん事をッッ!!」

 

「無駄だッ!」

 

『TIME・MAXIMUM-DRIVE!』

 

『ETERNAL・MAXIMUM-DRIVE!』

 

タイムメモリの効果が発揮される間も無く、此方もエターナルメモリの能力を発動する事で、タイムメモリを含めたライトの持つガイアメモリの機能を掌握する。

 

「!? 馬鹿な! そんな馬鹿な! 僕のメモリは全て、君のエターナルメモリのデータを反映している為に影響を受けない筈だ!」

 

「そんな事……俺が知るかッ!!」

 

本当はなんでそうなったのか知ってるケドな。でもこう言った方がライトが悔しがるだろうし、本当の事を言ったら精神攻撃の材料を与える事になるから、この際こう言ってやるぜ。ケッ。

狼狽えるライトの様子を見て、一気に勝負を決めるべく、通常のタカコアメダルをアンクの意志が内包されたタカコアメダルに変更。その瞬間、ドライバーからエネルギーで出来た真紅の羽根が舞い落ちる。

 

「超変身!」

 

『タカ! クジャク! コンドル! タ~ジャ~ドル~!』

 

『XTREME!』

 

「『オオオオオオオオオッ! ハァアッ!!』」

 

アンクの意志が内用したタカコアメダルによって可能となる『タジャドルコンボ・ロストブレイズ』。アンクの声のコンボソングと共に真紅の炎を纏いながら、6枚の赤を基調とした極彩色の翼が背後に展開される。

そこに小さな鳥形メカが現われてエターナルメモリと融合すると、嘴状のバイザーが真紅から金色へとその色を変えた。

 

『オーズ・タジャドルコンボ・ロストブレイズ・ゴールドエクストリーム』……って長いな。まあ、簡単に言うなら、『二人で一人のてんこ盛り』ってトコだな。

 

「くっ……例え、ガイアメモリが使えなくとも……『紫のコアメダル』がある以上、君は僕には勝てないッ!!」

 

「どうかなぁあッ!!」

 

メダガブリューを取り出し、ドライバーのコアメダルを狙って攻撃を仕掛けるライト。しかし、その攻撃は感情任せで単調。かわすのは勿論の事、動きを先読みしてカウンターを叩き込む事は容易い。

 

「オルラァッ!!」

 

「がっ……!!」

 

渾身の左正拳がライトの腹を正面から捕らえ、タジャドルコンボの不死鳥を象ったオーラングサークルの文様がライトの体に刻まれる。仮面の下で苦悶の表情を見せているだろうライトは腹を押さえたが、すぐに振り払う様な動作をした後で天高く飛び上がる。

 

「コレで……終わりだあああああああああああああああああああああッ!!」

 

『スキャニング・チャージ!』

 

「冗談だろッ!」

 

『タカ! トラ! バッタ! サイ! ウナギ! ワニ! サメ! イマジン! ショッカー! ギガスキャン!』

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

無の欲望を司る紫の力と、有の欲望を司る極彩色の力が、エネルギー弾と言う明確な形をもって空中で激突する。二つの欲望がせめぎ合い拮抗する中、勝負の天秤をこちら側に傾けるべく俺は勝負に出た。

 

『スキャニング・チャージ!』

 

『XTREME・MAXIMUM-DRIVE!』

 

「トォオオウッ!」

 

6枚の大きな翼を羽ばたかせ、発射した極彩色のエネルギー弾に向かって両足を突き出す。翼から発生する真紅の風をエクストリームメモリのエクスタイフーンが吸収し、その全てを余すこと無く力に変える。

それによって極彩色の力がゆっくりと紫の力を押しだし、そのままライトに向かって真っ直ぐに向かって行く。

 

「何ッ!?」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

そして、紫のエネルギー弾が砕け散り、極彩色のエネルギー弾がライトに着弾してすぐに両足がライトを捉え、『ヘキサポセイドン』の装甲に亀裂を入れていく。

 

「ウガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!! 僕は神だぞ! それが何故……お前なんかにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

そして、遂に両足がヘキサポセイドンの装甲を貫き、そのままライトのセルメダルで出来た体を破壊する。そして俺がライトを吹き飛ばすと、ライトは空中で盛大に爆発する。

爆炎の中から6枚の紫のコアメダルと数本のガイアメモリが飛び出し、その全てが同じタイミングで砕けると、その残骸がセルメダルと共に地上へ降り注いだ。

 

「終わった……」

 

『いや、まだだ。包帯女が残っている』

 

……そうだ。そうだったな。そして、60年後の束がシュラウドの死因を頑なに言わなかった事を考えると、恐らくシュラウドは……。

 

「決着を……つけないとな」

 

『そうだ。あの60年の責任はお前にある。「仕方なかった」は通用しない。此処の女達が大勢死んだのも、世界中が戦火に包まれたのも、ウサギ女がしぶとく生き長らえたのも、全てはお前のせいだ。此処で止めなきゃ、包帯女はまた同じ事をしでかすだろう』

 

「………」

 

一人の母親の長い夢を終わらせる為に、俺は歩き出した。

 

全ては『鬼札【ジョーカー】』。もう、終わらせよう。『勝負【コール】』だ。

 

 

○○○

 

 

束とシュラウド。ユートピアメモリに選ばれた者同士の戦いは、『メダルの器』が破壊され、最大戦力であるライトが敗れた事で、シュラウドの予定とは大きく外れた結末へと向かっていた。

 

「何処まで……何処まで私の思い通りにならないの! ゴクロー・シュレディンガーッ!!」

 

「なる訳無いじゃん。だって、ゴッくんは『世界の破壊者』なんでしょ? なら、お前の思い描く世界だって破壊できて当然じゃん」

 

「知った様な事を……! くっ……! ぐうう……ッ!!」

 

「ん~、そろそろ限界、かな? 確かに超能力とガイアメモリの併用は凄かったけど、それも無茶な人体改造の賜物であって、体と脳の負荷が半端じゃないから長期戦には向かない。時間が束さんの味方をしてくれる以上、防御と回避に徹して粘り強くやれば、当然出るよね。自力の差ってヤツがさ。ナチュラルボーンでアルティメットな束さんの敵じゃない」

 

束の言う通りである。元々ボロボロだった体で、無理矢理人を超えた存在に対抗する為に強化改造を施したのだ。瞬間的には互角に戦えても、時間経過と共に必ずボロが出る。

勿論、それを分かった上でシュラウドは戦場に赴いているのだが、『メダルの器』によるIS学園への超長距離砲撃が使えなくなった事で、束の追撃を逃れて撤退する隙がない。

 

「それじゃ、そろそろ終わりにしようか」

 

『UTOPIA・MAXIMUM-DRIVE!』

 

束がユートピアメモリをマキシマムスロットに装填してタップすると、束が掲げる『玉座の謁見【キングス・フィールド】』に黄金のエネルギーが集まっていく。黄金色に輝く魔法少女チックな杖はある種の幻想的な光景を生み出していたが、それを手にする束の目は奈落の様な色をしていた。

 

「何か言い残す事はある?」

 

「……貴方は、絶対に幸せに何てなれない」

 

「あっそ」

 

束が『玉座の謁見【キングス・フィールド】』を振り下ろし、杖の先から高出力のエネルギー弾が放たれ、シュラウドに着弾する直前、横から別のエネルギー弾が束の放った文字通りの必殺技を相殺した。

 

「………」

 

「ゴッくん?」

 

「ゴクロー・シュレディンガー。情けを掛けたつもり? 反吐がでるわ。誰が貴方なんかに――」

 

マキシマムモードのトリガーマグナムを構えていたオーズを見て、当初二人はシュラウドを助けに来たのだと思った。

だが、その後でマキシマムモードを解除し、シュラウドに容赦なく銃弾を浴びせたことで、彼女達はそうではないと認識を改めた。

 

――助けに来たのではない。自分の手で決着をつけにきたのだ……と。

 

「ガフッ……! どう言う……風の吹き回し……? 徹底的に甘い、貴方らしくもない……」

 

「……本当は、俺だって分かってたんだよ。この世界に救いがたいヤツは幾らでもいるって。『全ては救えない』。『救わなくてもいい者もいる』。それでも、何かしらの事情があるなら出来るだけ救ってやりたいと思っていた」

 

「………」

 

「出来れば復讐を止めて欲しかった。でも復讐に走るだけの理由も理解できていた。でも……俺は失敗した後の事が覚悟できていなかった」

 

「……そうね。確かに貴方には……ソレが無かったわね……。きっと、取り戻せない失敗なんてないと……思っていたのでしょう……? でもね、あるのよ。そう言う事が……。特に、命のやり取りはそう……。貴方には……『失敗したら始末する覚悟』がまるで無かった……」

 

「そうだな……。60年後の未来で、お前とライトが世界中の人間を殺しまくるのを知った。世界が崩壊し、人類が歩みを止めた、正に荒廃と呼ぶに相応しい未来だった。それを変える為に、俺はこうして戻ってきた」

 

「……なるほど。60年後の篠ノ之束……結局は、貴方の掌の上……と言う訳ね……」

 

「……最後にもう一度だけ聞く。復讐を止めるつもりはあるか?」

 

「無いわ……絶対に、無い。皆殺しよ……この世界の全てを、破壊する……」

 

「そうか」

 

『BOMB・MAXIMUM-DRIVE!』

 

トリガーマグナムのマキシマムモードを再び起動させると、ボムメモリの最大出力を告げるガイダンスボイスが死刑宣告の様に鳴り響く。

 

「……これで終わりだ」

 

「終わらないわ……誰もが“終わらせる”つもりで……実は“始めている”のよ……。篠ノ之束も。織斑千冬も。織斑一夏も。そして……貴方と私も。それに……私が貴方の思い通りになる訳がないでしょう……?」

 

その瞬間、シュラウドの体から炎が勢いよく吹き出し、瞬く間に火達磨となった。俺は一体何がシュラウドに起こったのか分からなかったが、アンクがその答えをボソッと言った。

 

「やはり仕込まれていたか。『ミレニアム』の自爆装置……」

 

「そうよ……。貴方の手で死ぬなんて、真っ平御免なのよ……! ハハ……ハハハ! 最後に一つ、教えてあげるわ……! 貴方や織斑一夏が拘った『基本世界』は……ある意味、織斑姉弟にとって幸せだとは言えないわ……!」

 

「!? どう言う意味だ!?」

 

「……結末、は……貴方が、決めな……さい……。アハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

人が焼ける嫌な匂いと共に、体を燃やしながら高笑いを上げるシュラウド。そして、シュラウドが真っ黒な灰と化し、その場にドライバーとユートピアメモリが残された時、『オーズ』の輪郭が崩れ、音を立てながら徐々に霞の様に消えていった。

 

「………」

 

「ご、ゴッくん?」

 

明らかに通常とは異なる変身解除と、ゴクローの右腕が無くなっている事に束は戸惑い、近寄ろうとするが、ゴクローの横顔を見て、思わず立ち止まってしまった。

 

「無様だな、俺は……。未来を理由に肯定し続けた理想を否定して、同じ糞ったれになる覚悟を決めた結果がコレか……。糞ったれにすら、なれやしない……」

 

世の中には「どんな悪党にも人権はある」とか、「人の命は地球より重い」とか言う人がいる。それは勿論、真実だろう。しかし、世の中にはそんな愛やモラルではどうしようもない人間もいる。確実にいる。

自分で自分を止められない以上、誰かが止めてやるのは「慈悲」であり、一つの救いなのかも知れない。だが、その「慈悲」さえも拒絶されたのなら――。

 

「……違うよ、ゴッくん」

 

「……何がだ、束」

 

「きっとシュラウドは、ゴッくんを自分と同じにしたくなかったんだと思うよ? だって、本当に嫌いならワザと殺されるに決まってるよ。それこそ束さんに殺されそうになった時みたいに。だから……」

 

「……そうか」

 

かくして、復讐の物語は終わった。本来存在しない人間。本来ありえない人生。知るはずの無い未来。数多の特異点と化した存在によって歪んだこの世界は、一夏の様に否定する者がいれば、束の様に肯定する者もいる。

そして、シュラウドが死んだ今、世界はいずれ突出した個の力を持つ者に、『新世界の創造主』と『旧世界の破壊神』の二択を迫るだろう。

 

「……ねぇ、ゴッくん」

 

「……なんだ、束」

 

「もしも、束さんが『空っぽの星で、時代をゼロから始めたい』って言ったらどうする?」

 

「……奇遇だな。俺も同じ事を考えていた」

 

だから、そうなる前に男と女は――。




キャラクタァ~紹介&解説

5963
 惨たらしい未来を改変する為に、理想を捨てて一線を超える覚悟を決めていたが、結局無駄になってしまった。まあ、そのお陰でエターナルメモリが成長していると言うのが何とも皮肉だが。
 これが『龍騎』の英雄論を語る師弟なら「多くを助ける為の小さな犠牲」として英雄的行為であると讃えるだろうが、5963としてはそんなのは只の糞ったれだと思っている。自己犠牲を他人に強要する英雄など、存在する筈がないのだから。

アンク(現代・未来)
 どこぞのカテゴリーKよろしく、「過去と未来のアンクが一つに!」……なんて展開も考えていたが、だからどうしたって感じになりそうだったので止めた。最終的に未来のアンクはタイムパラドックスによって消滅。この後、現代のアンクが5963の右腕に取り付き、義手の役割を果たす事となる。

シュラウド
 コイツの最期は小説版『クウガ』のクラゲ怪人の様にワザと5963に殺されて深いトラウマを残すか、一線を越える覚悟をも否定して自爆するかで本当に悩んだ。最終的に後者を選んだが、コレは作中で束が語った通り5963を心底嫌っていた訳ではないから。ちなみに束は心底嫌いなのでワザと殺されてやろうとしていた。



タジャドルコンボ・ロストブレイズ
 アンクの意思が内包されたタカコアメダルを用いて変身するタジャドルコンボ。原作『オーズ』の様にアンクの幻影と共に戦う事は出来ないが、出力は通常のタジャドルコンボよりも高い。

タジャドルコンボ・ロストブレイズ・ゴールドエクストリーム
 凄ぇ長ぇ名前の本作オリジナルライダー。ガイアメモリとコアメダルのハイブリッドライダーならコレも有りと言えば有りでしょう。紫のコアメダルを使わずに紫のコアメダルを破壊し、T2ガイアメモリと同様にメモリブレイク出来ないシュラウド製ガイアメモリを粉砕するにはこれ位の事はやらないと……ね?


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最終話 HERO

無駄に長々と続いたこの物語も遂に完結。さあ、お待ちかね(?)の最終回です。


IS学園でのゴクローとライトの戦いが終わって約8ヵ月。

 

あれからの学校生活は平穏そのもので、臨海合宿も、夏休みも、文化祭も、キャノンボールファストも、運動会も、修学旅行も……。何のトラブルも起こることなく始まり、何のアクシデントも起こらずに終わった。

 

年が明けて、あの時の激戦を去年の出来事として懐かしく感じる今日この頃だが、俺は相変わらず“IS学園で唯一の男性IS操縦者”としての一日を全うしていた。

 

ちなみにあの事件の後、ネット上に俺がISを使える理由と、10年前の『白騎士事件』の真相が暴露されたが、それらはデマとして処理された。

もっとも、ネットでは「各国が秘密裏に代表操縦者の細胞を男に移植する実験をしている」なんて噂が流れているので、実際にどうなのかは分からない。

 

そして、その事でマスコミがIS学園に押し寄せる事態に発展したが、その時にはとっくに束さんも意識不明の千冬姉もIS学園から姿を消していて、その追求の手は当然俺にも伸びたけど、俺は知らぬ存ぜぬを貫いた。

 

――ソレに大きな価値があったから、罰するのではなく利用する事を選んだ――

 

結局、俺は千冬姉の事を何一つ理解していなかったんだろう。そして、当事者である千冬姉と束さんは、今の自分の立場の危うさと、自分が過去に犯した罪の重さを充分に分かっていたんだと思う。そして、自分の立場を分かっていたのはゴクローも同じだったんだろう。

 

『俺達は元々、出会う筈の無い人間だった。きっと、俺がいなければこの世界の物語も大きく違った結末になる筈だった。俺達はもう会うことはない。もう触れあうこともない。それで良いんだ……』

 

俺からロストドライバーを回収した時に語った言葉の通り、ゴクローは戦いが終わった翌日にはIS学園から消えた。IS学園の敷地内にあった『NEVER』の建物は跡形もなく消滅し、初めからソコに無かったかのように更地になっていて、『NEVER』のメンバーである箒達もIS学園から姿を消した。

 

「ねぇねぇ知ってる? 今日このクラスに転入生がくるんだって! それも専用機持ち!」

 

「マジ!?」

 

「それが本当なら、このクラスが“学園で唯一の専用機持ちのクラス”になるって事!?」

 

……そう。このIS学園で、専用機持ちが居る一学年のクラスは居ない。それどころか、全学年を通しても、専用機持ちは一人もこの学園には居ない。

セシリアも、シャルロットも、ラウラも、簪も、楯無会長も、フォルテ先輩も、ダリル先輩も居ない。……いや、居なくなったと言う方が正しいか。

 

あのライトとの戦いが終わった後、ダリル先輩とフォルテ先輩の二人もまた忽然と姿を消していた。後から聞いた話だと、ダリル先輩は元々『亡国機業』のメンバーで俺の命を狙っていたらしく、フォルテ先輩はダリル先輩に着いていく形で、『亡国機業』に寝返ったらしい。

 

それとほぼ同時に、専用機持ちの代表候補生に対する各国政府からの呼び戻しが起こった。各国の代表候補生……特に一年生で専用機持ちの代表候補生が大量にIS学園に送られた最大の理由は、模擬戦闘を通して得られる俺と『白式』のデータから、新しい男性操縦者を生み出す事を各国が画策していたからだ。

だが、俺がISを使える理由が判明し、それが後天的な要因だとすれば、国家機密と言える最新技術の塊である専用機を持つ彼女達をIS学園に滞在させるメリットは無い。つまり、各国はデマと発表しながら、本当はシュラウドの動画を信じていると言う事なんじゃないかと俺は思う。

 

もっとも、自国で開発した技術の結晶と言える機体を他国に持ち出す危険性を、『亡国機業』へISを持って行ったダリル先輩とフォルテ先輩の一件で学んだと言うのもあるだろう。現にあれから各国の代表候補生が転入することはあっても、専用機持ちが送られてくることは無かった。

日本の代表候補生である簪はこの中でも希有な例外と言えるが、簪は戦いが終わった後でIS学園を自主退学していた。噂ではロシアに旅だった楯無会長に着いて行ったと聞くが、のほほんさんや虚さんも一緒にいなくなったので、それを確認する術は無い。

 

そして、『白式』を失った俺に、日本が再び専用機を与える事は無かった。元々、俺がISを使える理由を探る目的で与えられたのだから、俺がISを使える理由が分かればワザワザ個体数が限られているISを与える理由は無い。その上、事故として処理されたが俺にはISコアを破壊した前科がある。

その結果、今や俺がISを使う事が出来る機会は、IS学園に配備されている量産機を使った実習の時位で、それ以外だと倉持技研で定期的にデータを取る時だけだ。

 

「みなさ~ん。明けましておめでとうございま~す」

 

「まやちゃん! まやちゃん! 転入生ってどんな娘なんですか?」

 

「カワイイ系? それともキレイ系?」

 

「お、落ち着いて下さい! 今から紹介しますから!」

 

「………」

 

俺にとってIS学園は、入学前は絶対に行きたくない場所だった。

 

しかし、俺がISを起動しなかったら、俺は箒や鈴には再会できなかっただろうし、セシリアやシャルロットと言った同世代で外国人の女の子とも知り合わなかったと思う。知り合ったのは2ヵ月とちょっとの僅かな時間だったけど、アイツ等がIS学園を去った今となっては、もう少し一緒に居たかったと思っている。

 

だが、その一方で“守る為の力”を失い、本来起こるはずの出来事が全く起こらない“平和な毎日”を過ごす内に、嫌でも自覚させされた事があった。

 

俺はずっと、“守られる人間”から“守る人間”になりたかった。『変身』がしたかった。だから『白式』を手に入れた時、俺は“守られる人間”から“守る人間”になれるんだと、“守る人間”になれたんだと思った。

 

でも、俺が守る筈だった皆が居なくなって、実際に平和な日常ってヤツを過ごしたら、俺にとって平和がどこか心苦しいものになっていた。

それは、「守る為に戦う」と言う事が矛盾しているから、いざ平和が訪れるとそうした人間は存在理由を失ってしまうと言う事の証左に他ならない。

 

そして、俺はある日ふと思い至る。

 

――俺はただ、自分が誰かを守れる存在なのだと証明したかっただけなんじゃないかと。

 

――男が女を守る事を当然と考え、守れるなら別に誰でも良かったのではないのかと。

 

――今の俺は正に、守る為に戦いを求めているんじゃないかと。

 

「おほん! まず始めに、このクラスにお目見えになるのは転入生ではありません。特別留学生としてルクーゼンブルグ第七王女殿下がおいでになったのです! 王女殿下はまだ十四歳ですから、くれぐれもご無礼の無い様に心がけて下さいね?」

 

「ええッ!? 王女様!?」

 

「でも転入生じゃないのかー。残念」

 

「………」

 

「それでは王女殿下がお入りになられます! 皆さん静かに下さい!」

 

「「「「「「「「「「は、はいっ!」」」」」」」」」」

 

「コホン。それでは王女殿下、お入り下さい!」

 

かくして、教室にルクーゼンブルグ第七王女にして、国家代表候補生であるアイリス・トワイライト・ルクーゼンブルグが入室する。黒服の男装メイドを従え、豪華なドレスに身を包んだその姿は、相手が庶民とは違う世界で生きていると周囲に認識させるには充分だった。

 

「山田真耶、紹介ご苦労であった。誠に大儀である」

 

「はっ」

 

「むっ!? おぬし! おぬしが有名な織斑一夏じゃな!?」

 

「え? まあ……」

 

「ふふ。おぬしをわらわの召使いにしてやろうぞ。どうじゃ、光栄であろう?」

 

「………」

 

「えと……それじゃあ、織斑君。王女殿下に失礼の無いようにお願いしますね?」

 

「……はい」

 

その声色と表情は傲岸不遜にして生意気。そしてそんな気の強い性格の持ち主と目が合うと禄でも無い事になると予測する事は、俺の経験則からすると容易い事だった。

 

 

○○○

 

 

それからと言うもの、一夏は執事服を身に纏い、王女殿下の召使いとしての毎日を送ることになった。一見すれば威厳のある王女様、しかしてその実態はただのワガママ娘と言う王女殿下の裏表の激しい性格は、彼女のお気に入りになってしまった一夏の精神をゴリゴリと削っていった。

 

しかし、そんな騒がしくも微笑ましい毎日は、一夏とアイリスが町へ出かけた事で急展開を迎える。

 

「ぬ……何じゃ此処は……?」

 

「やっとお目覚めですか、王女殿下」

 

一夏との食事中に気を失ったアイリスが最初に見たのは、邪悪な笑みを浮かべる自身のメイドの一人であった。その周囲には屈強な男達が並んでいる。

 

「貴方には利用価値がある、特に人質としての価値が」

 

その言葉で今の自分がどんな状況にあるかを理解したアイリスは、自分の周囲をみて敵対戦力を把握。そして、自分の持つ力なら問題なくこの状況を打破できると踏んだ。

 

「ふむ……よくわかった。ではわらわが下々の者に最後の慈悲をくれてやろう。三秒じゃ」

 

「?」

 

「お祈りは済んだかの? では、参れ! 『バース』!!」

 

アイリスが自分の持つ力の名前を叫ぶと、腰にガシャポンの様な形をしたベルトが瞬時に巻かれ、「カポーン!」と言う音と共に展開される全身装甲がアイリスの体を包み込む。

 

「さあ、終わりの時じゃ!」

 

かくして、威勢良く戦闘モードに移行したアイリスだったが、その視界がぐらりと揺れた後、あっけなく床に倒れ込んだ。

 

「やはり、事前に麻酔を打っておいて正解だったわね。どんな強力なISだろうと、ISを纏う前に操縦者をどうにかしてしまえば只の鉄くずよ」

 

「お、おのれ……ッ!!」

 

メイドに対して憎々しげに睨み付けるアイリスだったが、体は思うように動かず、アイリスの意識を徐々に奪っていく。

その光景に勝利を確信した笑みを浮かべるメイド達であったが……アイリスの纏う全身装甲のISが黒一色に染まった時、事態は思わぬ方向に転がり始めた。

 

「何だ? ISって色が変わるモンなのか?」

 

「色が変わった位で何だって言うのよ。さっさと……」

 

『DRILL・ARM!』

 

「……え?」

 

全身を漆黒に染めたバースの右腕にドリルが装着されると、バースはソレを使ってメイドの胸を貫いた。もはや勝利が約束されたも同然と思っていたメイドは、自分の身に何が起こったのかも分からず、そのまま血反吐を吐いて息絶えた。

そして、メイドを葬ったバースが屈強な男達をその腕力で次々となぎ倒すと、一枚のメダルをドライバーに装填し、一気に殲滅する為の武装を展開する。

 

『BLEST・CANNON!』

 

「ブレストキャノン・シュート」

 

そして、監禁場所である倉庫を高出力のビーム砲が貫き、今まで命だったモノを消し炭に変える。

かくして、誘拐犯を皆殺しにしたバースがその場から立ち去ろうとした時、バースの視界の隅に映ったのは、アイリスと同じように拉致されていた一夏だった。

 

「!? お前は……?」

 

「久し振りだね……織斑一夏」

 

「久し振り? 何の事だ?」

 

「僕の事を忘れたのかい? 僕だ、ライトだ! メモリを使った記憶のバックアップ……そこからここまで力を取り戻すのに、大分苦労したよッ!!」

 

「ラ、ライトだって……!?」

 

「そしてッ! 篠ノ之束の名義でこの『バースドライバー』をルクーゼンブルグに送り、王女の肉体を使う事で僕は再びこの世界に復活した。そうだな……ここは『仮面ライダーデス』と名乗っておこう」

 

「仮面ライダーです?」

 

「ふざけた事を考える脳みそは健在か。まあ、いいさ。守ろうとしていたものが崩れ去る様を、改めてその目に焼き付けるといいッ!!」

 

「訳の分かんねぇ事言ってねぇで……アリスを返せッ!!」

 

ライトに乗っ取られたアイリス王女を取り戻す為、勇敢にも素手で殴りかかる一夏だが、ISも持っていない生身の人間がライダーシステムに叶う訳が無い。案の定、一夏はライトの軽い腹パンで吹っ飛ばされ、簡単に戦闘不能に陥ってしまった。

 

「ガッ! ぐうぅ……」

 

「無様。まるで話にならない。さあ、狩りの時間といこうか……」

 

「ま、待て……」

 

『CUTTER・WING!』

 

尚も戦おうとする一夏を無視し、背面に飛行ユニットを展開した『仮面ライダーデス』は、アイリス王女を乗っ取ったまま、何処かに飛び去っていった……。

 

 

○○○

 

 

それから何とかIS学園に戻り、事の顛末を包み隠さず報告した一夏は、近衛騎士団長ジブリル・エミュレールの叱責を受けていた。

 

「何たる失態! 何たる無様! 貴様は本国へと連れ帰り、相応の罰を与える!」

 

「落ち着いて下さい! 今はそれよりもアイリス王女を助ける策を考えるべきなのではないですか!?」

 

「そもそも、アレは一体何なんですか? ライトは束さんの名義で送ったって言ってましたけど……」

 

「……そうだ。篠ノ之束の名義でアレは王家に献上された。そして王家の意向により、アイリス様の専用機となったのだ。今までこんな事は一度も無かったのだが……」

 

想定外の事態に困惑するジブリルだが、真耶と一夏にはその内情が何となくだが予測できていた。

 

ライトはシュラウドと同様に『基本世界』の記憶を持っている。恐らく、本来ならば“本当に篠ノ之束がルークゼンブルにISを献上した”のだろう。そして、ライトは王女殿下が日本にやって来る事も知っていたに違いない。ライトはソレを利用して王女殿下に文字通り近づき、復讐の機会をじっと待っていたのだ。

 

「しかし、不味いですね。アレがISではなくライダーシステムだとするなら、少なくともガイアメモリかコアメダルが必要になります。ライダーシステムは対ISを目的に造られたモノですから、恐らく専用機でも太刀打ち出来ないと思われます」

 

「……だろうな。本国でも模擬戦でアレを纏ったアイリス様と戦った事があるが、エネルギーリムーブの能力が凶悪で殆ど相手にならなかった。だからこそ、アイリス様の身を守る力として相応しいと思ったのだが……まさかこんな事になろうとはな……」

 

「本当に何も無いんですか? 奴に対抗できる手段は」

 

「……残念ですが、IS学園にはライダーシステムに対抗する手段は何一つとして残されていません。対抗できるとすれば、今はいない『NEVER』の皆さんだけでしょう」

 

「それでは、このまま王女殿下のお体が良いように使われるのを、黙って見ていろと言うのか!?」

 

「………」

 

その後も、ライトに対して有効的な策が何一つ上げられないまま会議は終わった。そして、会議が終わってすぐに、真耶は自室に戻ってあるものを取り出していた。

 

「行きますか……」

 

ベッドの下に隠した小さなアタッシュケースを片手に、戦場へ歩を進める真耶。すると、真耶の前にジブリルが姿を現した。

 

「……もしかして、バレてましたか?」

 

「ふん。貴公の事などお見通しだ。……それが、奴に対抗し得る手段とやらか?」

 

「ええ、かなり危険な代物ですが……」

 

「……それを私に寄こせ」

 

「駄目です。使えば貴方でもどうなるか……」

 

「見くびるなッ! 王女殿下の為ならば、体の一つや二つどうと言う事は無いッ!」

 

「……体もそうですが、ISにも大きな負荷が掛かるのです。そうでなくとも、相手はISを破壊する為に生まれた兵器。もしもの事が起こった時、貴方にその責任を取ることが出来ますか?」

 

「それはお前も同じだろう。学生時代に散々私を振り回しておいて、今更何を言う」

 

自分一人で戦うつもりだった真耶だったが、近衛騎士団長であるジブリルの決意は固い。もはや、ジブリルを引かせる事は不可能だと悟った真耶は、ジブリルに一つの質問を投げかけた。

 

「こんな事を言いたくはありませんが……“悪魔と相乗りする勇気”はありますか?」

 

「愚問だ」

 

「……では、行きましょうか」

 

「ふん……」

 

かくして、二人の女は戦場に向かって歩き出す。教師として生徒を守る為に。或いは忠義を誓った主君の為に。

 

 

○○○

 

 

一方、『仮面ライダーデス』として復活したライトは、手始めに現在の日本の代表操縦者を蹴散らし、量産機を纏った日本のIS部隊を蹂躙すると、IS学園に向かって高速で飛行していた。

そんな彼がIS学園にあと少しまで近づいた時、高出力のビームと無数の弾丸が殺到し、その行く手を阻んだ。

 

「山田真耶にジブリル・エミュレールか。どうやら専用機の様だけど、それで僕に勝てるとでも?」

 

「いいえ。勝てるとは思っていません。ですので……」

 

「うん?」

 

「コレを使います」

 

『COMMANDER!』

 

『VIOLENCE!』

 

ライトの言葉を肯定する真耶は、ジブリルと共に自身の専用機にガイアメモリの直挿しを行い、専用機の大幅な強化を試みる。

真耶はコマンダーメモリによって遠距離攻撃を、ジブリルはバイオレンスメモリによって近接戦闘能力を強化し、それをライトに対抗する力としたのだ。

 

「へえ。危険を顧みず直挿しを行うとは……余程この王女様が大切な様だ」

 

「黙れッ! アイリス様は返して貰うぞッ!」

 

「出来るものならねッ!」

 

『DRILL・ARM!』

 

『CATERPILLAR・LEG!』

 

右手にドリル、両足にキャタピラを模した武器を装着したライトに対し、ジブリルが前衛を務め、真耶が後衛として援護を行う。

二対一と数的には有利であるが、直挿しによる副作用は決して無視できない。その為、二人は短時間でライトを倒さなければならないと言うハンディを抱えながら戦っていた。

 

「ふんッ!! はっ!! はぁああああああああああっ!!」

 

「ぐううッ!! クソッ、やはり厄介な能力だな!!」

 

「当然さ。コレは『オーズ』以上に、ISからのエネルギー吸収に特化したライダーシステムだ。長期戦に関しては此方に分があると言う訳さ」

 

「だったら……ッ!」

 

近距離では触れる事でISのエネルギーをセルメダルに変換され、相手を回復させてしまう事に繋がる。ならば相手が触れられない距離から攻撃すれば良いと考え、真耶が飛び道具による遠距離攻撃を仕掛けるが、ライトはそれを待っていたかの様に、次の手を繰り出した。

 

『CRANE・ARM!』

 

「そらぁああっ!!」

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

右腕のドリルが新しく現われたユニットと合体したかと思うと、ライトは真耶に対してドリルをロケットパンチの要領で発射する。放たれたドリルは真耶を直撃し、エネルギーをガリガリと削っていく。

 

「分かっていた事だが、強い……」

 

「ええ……強敵ですね」

 

「ハァッ!!」

 

苦戦する二人に対し、ライトはカッターウィングをブーメランの様に投擲して二人を翻弄。そして、その間に二人をまとめて倒す為の準備に取りかかる。

 

『BLEST・CANNON!』

 

『セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト!』

 

「そおらぁあッ!!」

 

「きゃっ!!」

 

「ぐっ! ま、不味いぞ!」

 

「ブレストキャノン……シュートッ!!」

 

最後に展開していたドリルを格納し、射出したクレーンのワイヤーでグルグル巻きにして二人の動きを止めると、四回分のセルバーストによって攻撃力を大きく増した破壊光線が放たれる。

高出力のエネルギーの奔流は二人を飲み込み、その衝撃で地面に叩きつけられた二人のISは解除され、一気に戦闘不能へと追い込まれた。

 

「あぐ……ッ!」

 

「くぅうう……」

 

「弱い。メモリを使っても所詮はこの程度か……」

 

地面に降りたって武装を解除し、身軽になったライトは二人のISから飛び出したガイアメモリを回収しつつ、真耶とジブリルに視線を向ける。その視線には侮蔑の色が込められており、期待外れだと言わんばかりである。

 

「さて、僕の記憶が確かなら、他にもコアメダルが3枚あった筈だが……何処だい?」

 

「ま、真耶……」

 

「……ええ、持っています。もしかしたら、使えると思いまして」

 

ジブリルの縋る様な視線に答える様に、真耶は3枚のコアメダルを取りだした。コレが逆転の切り札になると思っていた二人だったが、そんな二人にライトが絶望を与える言葉を紡ぐ。

 

「無駄だよ。少なくともそのコアメダルは、ガイアメモリと違ってそのままISに使う事は出来ない。使うには大量のセルメダルかドライバーが必要だ」

 

「そ、そんな……」

 

「それじゃ……もう打つ手は……」

 

「ドライバーなら此処にあるぞッ!!」

 

「「「!?」」」

 

突如、戦場に響いた声に驚く三人が声のした方向に目を向けると、そこには『DXハデスドライバーSDX』を腰に巻いた一夏が立っていた。

 

「織斑……?」

 

「織斑君!?」

 

「織斑一夏か」

 

「まだ……お前と戦う為のドライバーなら残ってる!」

 

「ハハハハハ……。ゴクロー・シュレディンガーならともかく、君ではどうすることも出来ないよ?」

 

「……確かにアイツは『ヒーロー』だった。俺はよ、実は『ヒーロー』ってヤツが嫌いなんだ。『ヒーロー』ってのは、泣きも笑いもしない様なヤツだからな。だからかな……『ヒーロー』になろうと、『ヒーロー』になりたいと思ってたゴクローの事が気に入らなかったんだと思う」

 

「ふぅん……それで? その『ヒーロー』に助けられた命でのうのうと生きて、『ヒーロー』のお陰で平和を享受している自分に、とうとう嫌気でも差したのかい?」

 

「……そうだな。自分が嫌になるぜ。平和が一番なんて思っておきながら、いざその平和な日常ってヤツを過ごして初めて気付いた。お前の言う通り、俺は“守る為に戦いを求めてた”んだってな」

 

「そして、君は“守る為の戦い”を求めてこの場に現われたと言う訳だ。まあ当然だね、人間の本質はそう易々と変わる様なものじゃあない」

 

「……ああ、そうだ。俺は変わらない。全然変わってない。だけどよ……お前みたいなのを倒すには、どうしてもゴクローみたいな『ヒーロー』が必要なんだよ。此処にお前を倒す『ヒーロー』がいねぇなら……。俺はッ! 『ヒーロー』にならなきゃいけないんだよッ!! 山田先生ッ!!」

 

「……ッ! 織斑君ッ!!」

 

もはやこの場でライトと戦えるのは一夏しかいない。意を決した真耶は、手にした3枚のコアメダルを一夏に投げ渡す。それを一夏が受け取ると、一夏はドライバーにコアメダルを装填し、高らかに叫んだ。

 

「変身ッ!」

 

『カブト! イトマキエイ! シャムネコ!』

 

――この時、一夏にとって幸運だった事が二つある。

 

一つ目は、ゴクローとの戦いで『紫のコアメダル』を抜き取られた際、ドライバーが破壊されなかった事。

二つ目は、シュラウドが造ったヤミー系コアメダルの中には、カンガルーコアメダルの様に“複数の部位に使う事が出来るコアメダル”があり、それが回収したコアメダルの中に混じっていたと言う事だ。

 

そして3枚のメダル状のエネルギーが逆三角形の形を成した時、そこに立っていたのは、カブトムシの雄々しい角を備え、イトマキエイの様な翼を背中から生やし、シャムネコの俊敏な脚力を持つ『仮面ライダー』だった。

 

「っしゃあっ!!」

 

「ワザワザ勝てない戦いに身を投じるとは……何処までもピエロを演じたいらしい」

 

「やってみなきゃ分かんねぇだろッ!!」

 

真っ直ぐに素手で向かってくる一夏を見て、『白式』の時と同じ開幕直後の特攻かと思ったライト。余裕を持って一夏にカウンターを食らわせる腹積もりであったが、その目論見は外れた。

 

「オラァアアア!!」

 

「何!?」

 

一夏は背中のイトマキエイウィングで空を飛ぶと、カブトムシを模した角から緑色の電撃を放つ遠距離攻撃を仕掛けてきたのだ。

そして、小型のエイを模した複数のビットによる攻撃を繰り出し、決して接近戦を挑もうとはしない。まるでセシリア・オルコットの『ブルー・ティアーズ』の様に、此方と一定の距離を保っている。

 

「チッ! “何があっても対応できる距離”か……!」

 

「ああ! 先輩から教わった戦術だ!」

 

「なら……これはどうだい?」

 

自分の周りを旋回するエイ型のビットを鬱陶しいと感じたライトはバースバスターを召還し、エイ型のビットを次々と撃ち落とす。そして、ライトが放つメダルの形をした凶弾の嵐は、空中を舞う一夏にも襲いかかる。

 

「うぐぅ! ま、まだまだぁああッ!!」

 

遠距離では分が悪いとみた一夏は地上戦に移行すると、シャムネコレッグを用いた機敏な動きでライトを翻弄し、隙を見て緑色の電撃を纏った拳で殴りかかった。

 

「オラァッ!!」

 

「ぐっ!! 電撃か……でも良いのかい? そんなに思いっきり攻撃して」

 

「!? どう言う事だ!?」

 

「決まってるだろう。中身の王女様がどうなってもいいのかって話さ」

 

「!!」

 

「隙有り」

 

『SHOVEL・ARM!』

 

「!! は、放せッ!!」

 

「駄目だね」

 

『DRILL・ARM!』

 

「フンッ!!」

 

「ぐわぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

一夏がアイリスを盾にされた事で動きが止まった隙を逃すこと無く、ライトは一夏の腕を掴んだまま展開したショベルアームで一夏の腕を固定し、ドリルアームによる容赦の無い攻撃を叩き込む。

下手に攻撃する事も出来ず、脱出する事も出来ない一夏は、為す術もなく絶え間ないライトの攻撃を食らい続けてしまう。

 

「ククク……『ヒーロー』だって? こんな小さな女の子一人救えないのに? 笑わせてくれるねぇ……」

 

「ち、く、しょう……ッ!!」

 

抵抗する力を奪われ、戦う為の力が摩耗していく中、一夏は仮面の下で涙を流していた。

 

「(やっぱ俺に、誰かを守る事なんて……『ヒーロー』に何てなれないんだ。もう、もう……)」

 

『そんな事無いだろ。随分頑張ってるじゃないか』

 

「……え?」

 

『スーパー! スーパー! スーパー! スーパータカ! スーパートラ! スーパーバッタ! ス・ウ・パ! タトバ! タットッバ! スゥーパァー!』

 

「!? ぐわぁああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

不意に聞こえた通信に一夏が驚いた次の瞬間、聞き覚えのある歌声が聞こえたと思えば、一夏の目の前から突然ライトが消えて吹っ飛び、その代わりにアイリスを抱えた上下三色の戦士が立っていた。

それは、ISで言うところの『第三形態【サードシフト】』に該当するオーズの最終形態。『オーズ・スーパータトバコンボ』に至った『ヒーロー』だった。

 

「お、お前はッ!! まさかッ!!」

 

「ゴク、ロー……?」

 

「シュレディンガー君……!!」

 

「悪い、待たせたな」

 

「ばっか……ヤロォ……ッ」

 

絶体絶命のピンチに颯爽と現われ、あっと言う間にピンチを覆してしまう。

 

どうしてこう『ヒーロー』ってヤツは、こうもタイミングが良いモンなんだろう……と思いながら、一夏は『ヒーロー』の登場に先程とは違う涙を流していた。

 

「ゴクロー・シュレディンガー……ッ!! 一体、今まで何処にッ!!」

 

「あん? それはな……」

 

「それは?」

 

「教えねぇよぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「貴様ぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

アイリスをジブリルに渡したゴクローは、復活したライトに対してこれ幸いとばかりに両手の中指を立てて挑発する。簡単に挑発に乗ったライトは怒り狂い、完全に主導権を握られている。

 

「さて、それじゃ一夏、まだ戦えるか?」

 

「……へッ、当然、だろ」

 

「そうか。なら、思い切りやろうか。今日は俺とお前でダブルライダーだ」

 

疲弊した体を奮い立たせ、一夏は『ヒーロー』の隣に立って戦うべき敵を改めて見据える。不思議とさっきまで勝てないと思っていた相手が、そんなに大した奴じゃないように見えた。

 

「使え!」

 

「おう!」

 

そして、ゴクローが一夏にアクセルブレードを投げ渡し、メダジャリバーを片手にライトに向かっていく。アクセルブレードを受け取った一夏も、すぐさまライトに向かって掛けだし、ゴクローと二人がかりでライトを斬り付ける。

 

「合せろ!」

 

「分かってる!」

 

「むん! ぬっ!? チぃッ! ぐわぁああッ!!」

 

ライトは二人に向かって右手のドリルや左手のショベルを振り回し、強力な攻撃を当てようとするものの、二人は互いの位置を入れ替えながら、流れる様にライトの攻撃をかわしつつ、次々とライトに攻撃を当てていく。

 

「ぐっ! 何故だ! 何故こうまで息が合う!?」

 

「ん? それはアレだ。お前等のお陰だよ」

 

「何……?」

 

「お前等が一夏を煽って俺と戦わせた。そして俺と一夏は本気で戦った。だから一夏は俺の動きが分かるし、俺も一夏の動きが分かる。つまり、お前は墓穴を掘ったって事だ」

 

「馬鹿な……! そんな事が、あって堪るかぁあああッ!!」

 

『CRANE・ARM!』

 

『CATERPILLAR・LEG!』

 

『CUTTER・WING!』

 

『BLEST・CANNON!』

 

近接攻撃が通じないと悟ったライトは全ての武装を呼び出し、『仮面ライダーデス』の最強形態で勝負に出た。

ブレストキャノンの砲口に高出力のエネルギーが貯まっていき、その射線に晒されているダブルライダーは、それに対して必殺技による真っ向勝負を選択した。

 

『セルバースト! セルバースト! セルバースト! セルバースト!』

 

「ファイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

『『スキャニング・チャージ!』』

 

「「セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」

 

ブレストキャノンから発射された高出力高密度のエネルギー弾と、三色のリングを纏ったダブルライダーキックが空中で激突する。

 

「頑張って! シュレディンガー君ッッ!!」

 

「押し切れぇえ! 織斑ぁああああああ!!」

 

ジブリルを支える真耶と、アイリスを抱えるジブリル。二人の声援がダブルライダーに活力を与え、ドライバーのコアメダルがその輝きを増していく。

 

「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!! セイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」

 

そして、遂にダブルライダーの必殺技が死の閃光を押し切り、その野望と共にその邪悪な魂を完膚なきまでに打ち砕く。

 

「がぁあああああああああああああああああああああッ!! 何故ッ! 何故、この僕がッ! 二度もお前にッ!! お前等なんかにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!」

 

断末魔の直後、大きな爆発を起こしてバースドライバーが砕けると、ライトは今度こそ完全に消滅した。そして、二本のガイアメモリが爆炎の中から飛び出し、それらは音を立てて砕け散った。

 

 

●●●

 

 

万が一の事を考えて、監視目的でIS学園に密かに置いてきたエクストリームメモリからの通信でライトの復活を知って急遽IS学園に向かった俺は、一夏と共にライトを完全に倒した後、実に約8ヵ月ぶりに一夏と対峙していた。

 

「相変わらず……手当たり次第に守りたいもん守ってんのか?」

 

「おい……それ……」

 

「ああ、無くなったから代わりにな」

 

もっとも、流石の一夏も俺の右手がアンクになっているのは驚いていた。個人的にはカッコイイと思うのだが、やはり普通の人間からすればこのセンスは無しなのだろう。

 

「あ、あのさ……箒達はどうしてるんだ?」

 

「皆元気でやってる。ソッチはどうだ?」

 

「……ああ、平和そのものだ。『亡国機業』も、特殊部隊も一度も来なかった」

 

「事前に俺達で叩き潰してやったからな。もっとも、どこまで平和に過ごせるかは分からんぞ。俺達がやった事は、結局は終末戦争の先延ばしに過ぎないからな」

 

「終末、戦争?」

 

「これから先の遠くない未来で、何時かISによる戦争が起こる。それは世界を巻き込むほどの戦争だ。それがどんな形で起こるのかは分からないが、少なくとも『基本世界』とは違った形でソレは必ず起こるだろう」

 

「そうか……」

 

「……実はさ。ガイアインパクトを起こしてこの世界を『基本世界』と同じに書き換えようかって考えた事もあるんだ。でも、シュラウドの残した情報を頼りに『基本世界』を観測したら、それをやったらお前が悲惨を通り越したファンタジーなレベルの存在に成り下がる事になるから、俺はこのままにしておくことに決めたんだ」

 

「? どう言う事だ?」

 

「口で言うよりも、見せた方が手っ取り早い。ゴクロー」

 

「ああ……」

 

「え? おい、ちょ……」

 

困惑する一夏を無視し、俺が右手で一夏の頭に触れると、俺達が観測した『基本世界』の情報を、アンクが一夏に第三者の視点で体験させる。これはアンクにメモリーメモリを与え、その使用権を譲渡したから出来る芸当だ。

 

「これは……一体……」

 

「理解できたか? 『基本世界』のお前は……もっと言うなら、お前と織斑先生とマドカの三人は、『究極の人類』を人工的に造る事を目的として、遺伝子情報の海から造られた人造人間。人類の究極たるスペックを持たされ、その繁栄の為だけに造られた禁忌の因子を持った男。それがお前の拘った『基本世界』の、お前自身の正体だ」

 

「そんな……」

 

「まあ、この世界でお前は『普通の人間』として生まれたし、そんな計画自体存在しないんだがな。シュラウドの言葉から察するに、恐らくこの世界では人造人間の俺がその役割の一部を担っているんだろう。

そして、束と同じく『天然物の究極の人類』として生まれた織斑先生の複製を造る計画が始まり、織斑先生のクローンとしてマドカは生まれた。そう考えると、お前に織斑先生の細胞が移植されたのも、それと似たようなモノなのかもな」

 

「………」

 

「まあ、要するに『この世界』のお前は、狂気に侵された科学者の頭脳と、冷たい試験管の中で育まれた『特別な存在』なんかじゃない。父親と母親の血が混ざり合い、温かい血と肉の中で育まれた『普通の人間』なんだよ。

そして、『基本世界』と同じにするって事は、この世界の何処かに存在するお前達の両親を抹消して、人間にカテゴライズされるかも分からん生物に成り下がる事だって訳だ。ついでに、ウサギ女の掌の上で弄ばれるエテ公になってな」

 

「だから俺はガイアインパクトを起こさなかった。幾らご都合主義としか言いようのない運命を持っているとしても、“『普通の人間』として生まれる”ってのは、当たり前の様でいて、実はとても大きな権利なんだからな」

 

「……そうか。俺は……『普通』に生まれたんだな……」

 

一夏がやっとの思いで吐き出した言葉には、安堵とも納得とも諦めとも思える感慨深い響きがあった。今“此処にいる自分”は、“『基本世界』の自分”とは違う。一夏の言葉には、それを理解した事による思いの重さが込められているようだった。

 

「それで、お前はこれからどうする? いっその事、俺達と一緒に来るか?」

 

「……いや、俺は此処に残るよ」

 

「ほう、意外だな。お前なら一も二もなく来ると思っていたが……」

 

「理由を聞いても良いか?」

 

「いや、箒達をお前が守ってくれんなら、俺は別にコッチに居ても問題ないかなって思ってさ。それに弾達と離ればなれになるのもアレだし……千冬姉の帰る場所くらいは守らないとさ……」

 

「……そうか。まあ、箒達は守られることを望んでいないから、お互いに守って守られてって感じの関係なんだけどな」

 

「まあ、あの女共は男に守られて満足する様なタマじゃないしな」

 

「ハハハ……。そうだ、ついでにコレも持って行ってくれないか?」

 

さりげなく笑っていた一夏だったが、何を思ったのか俺にドライバーとコアメダルを渡してきた。

 

「どうしてだ? コレはお前が誰かを守る為には必要だろう?」

 

「いや……コレがあると逆に皆が危ねぇ気がしてさ。だから持って行って貰った方が良いかなって」

 

「そうか……それじゃあ、コレも要らないか?」

 

「それは?」

 

「束がお前用に調整した『黒柘榴』だ。あれから専用機は渡されていないんだろ?」

 

「……要らねぇ。専用機なんてなくたって、俺は俺の守りたいモノを守ってみせるさ」

 

「そうか、それじゃあ……またな、『ヒーロー』」

 

「ふん。精々無様に足掻くんだな……一夏!」

 

『スーパー! スーパー! スーパー! スーパータカ! スーパートラ! スーパーバッタ! ス・ウ・パ! タトバ! タットッバ! スゥーパァー!』

 

そして、一夏の目の前で『オーズ・スーパータトバコンボ』に変身した直後、時間停止能力を使って残像さえも残すこと無く、俺達は一夏の前から姿を消した。

 

「またな……か。それに馬夏じゃなくて、一夏って初めて呼んだな……」

 

「一夏ぁーーーーー! おぬし無事であったかぁーーー!?」

 

「アイリス様ぁーー! まだ安静にしてなければなりませんぞーーー!」

 

そこにはいない『ヒーロー』を幻視する一夏に、アイリスとジブリルが駆け足で近づいてくる。ワガママ王女と、それに振り回される従者の姿を見て、一夏は笑顔で二人に駆け寄った。

 

 

○○○

 

 

一夏がアイリスとジブリルの二人と、お互いの無事を笑いながら喜んでいると、その光景を影から二人の女が見つめており、そんな二人に真耶が後ろから話しかけた。

 

「織斑君に会わないんですか? 織斑先生」

 

「真耶か……止めておくさ。私が居たら一夏は駄目になる。今にして思えば……『白騎士事件』で私達がテロリストとして逮捕されていた方が、一夏は私を反面教師としてまともに育ったのかも知れん」

 

「そうだねぇ~。まあ、それはそれでテロリストの家族として波瀾万丈な人生を送る事になりそうだけど……確かにいっくんにシリアスな役は似合わないよね~。

普通の友達と他愛もない毎日を過ごして、取るに足らないような人生をダラダラ送って、最期は家族に看取られて畳の上で死ぬのがお似合いだと思うよ? 面倒なのは全部私達に任せてさ。ねぇ、ゴッくん、アンくん?」

 

「……そうだな。突出しすぎた力は災いしか呼ばん。そう言う力は強者を過ちに導き、弱者にとっては脅威でしかない。世界にとって害悪にしかならないと分かったから、俺達は消えた……だろう?」

 

「もっとも、本来なら一夏がそうなったのかも知れないがな。まあ、『基本世界』の観測できなかった部分や、分岐した部分も含めて、俺が全部引き受ける事になりそうだけどな」

 

「そう、ですか……」

 

「それで、おっぱいちゃんはどうするの? 今度こそ私達と一緒に来る?」

 

「……私も此処に残ります。やるべき事はまだ沢山ありますし、それに……」

 

「それに?」

 

「何かあったら、必ず助けに来てくれるって信じてますから」

 

「ふっ……違いない」

 

「だね。まあ、コッチに来たくなったら何時でも歓迎するよ?」

 

「フフフ……そうですね。その時になったらお願いします」

 

「それじゃ……そろそろ行くか。また会いましょう。山田先生」

 

「ああ、そうしよう。生徒達を頼むぞ、真耶」

 

「じゃあね~、おっぱいちゃん。チャオ~♪」

 

『ZONE・MAXIMUM-DRIVE!』

 

各々が真耶に別れの挨拶を済ませると、オーズは「認識さえすれば何処にでも行ける力」を使い、束と千冬を連れて真耶の目の前から姿を消した。

 

「はい。その日まで、どうか御達者で……」

 

何処までも青天が広がるその先を見つめる様に、真耶はずっと青空を見上げていた。遠くない未来、また何処かで彼等と出会える日が来ると信じて――。

 

 

○○○

 

 

「結局、貴方の満足いく答えは得られたのですか? 少佐殿」

 

「答え? それは“まだ”出ていないよ、ドク。シュラウドも今際の際に言っていたじゃないか、『誰もが終わらせるつもりで、実は始めている』と。つまり、コレもまた一つの始まりに過ぎない。答えが出るとすれば、シュレディンガーが此処に来るその時までお預けだ」

 

「………」

 

「とは言え、我々の舞台はこれでお終いだ。これ以上もこれ以下も無い。次は一体、どんな舞台でどんな演者と楽しく踊り明かすのやら……」

 

今ではない何時か、此処ではない何処かの『小さな星の物語』。その結末を見届けた観客は続編を期待しつつ、何時か踊り終えた演者達が観客たる自分の元にやってくる日を夢想し、何時ものニタニタとした笑みを浮かべた。

 

――完――




キャラクタァ~紹介&解説

織斑一夏
 イケメン、以上。

山田真耶
 爆乳、以上。

アイリス・トワイライト・ルークゼンブル
 のじゃロリ、以上。

ジブリル・エミュレール
 苦労人、以上。

ライト
 ラスボス、以上。

5963
 特撮ヲタ、以上。

篠ノ之束
 エボルト?、以上。

織斑千冬
 実は義経コス、以上。

少佐
 不思議なオタク、以上。


3枚のコアメダルと2本のガイアメモリ
 本来なら5963との5番勝負が全て終わった後で、現金と引き替えに戦った選手達が分配して各国に持ち帰る事になっていて、『NEVER』がIS学園に預けていたのだが、シュラウドのIS学園襲撃のゴタゴタによってうやむやになり、山田先生が密かに保管していた。
 ちなみにシュラウドが造ったヤミー系コアメダルは、カンガルーコアメダルの様にベルトに嵌め込む場所が固定されていないメダルがあるとあったが、例えばイカコアメダルなら、ヘッドなら口から墨を吐き、レッグなら8本の触手が出てくると言った感じに使う事が出来る……と言う設定。

仮面ライダーバース/仮面ライダーデス
 裏ボス。バースの状態なら緑に銀のカラーリングだが、ライトが表に出た場合オルタ化でもしたかの如く全身が漆黒に染まる。性能や武装は『仮面ライダーバース』と同様だが、『仮面ライダーデス』の時の方が攻撃性能は上。
 元ネタは小説版『オーズ』で、ドクター真木がバースドライバーを触媒にして造った恐竜系ヤミー。描写的にはまんま『鎧武』の「仮面ライダー邪夢」だけど。

スーパータトバコンボ
 略してスタバ。S.I.C.のアレンジはもはやオゾマシイの域に達しており、完全体のウヴァさんを瞬殺した挙句、そのまま喰ってしまいそうな外見をしている。特殊能力の『時間停止能力』を使えば『仮面ライダーデス』など瞬殺出来るのだが、敢えて一夏とのダブルライダーで撃破した。
 ちなみにこれは『基本世界の一夏』が手にする「白式・第三形態『王理』」に該当するモノであり、この世界では一夏の役割が完全に5963に移ってしまっている事を証明していると言える。


後書き

さて、『DXオーズドライバーSDX』いかがだったでしょうか。作者としては、まぁぼちぼちって手応えです。

元々、「敢えて死ぬほど嫌いな作品を元ネタに二次小説を書く」と言うテーマを元に取り組んだが為に、原作の時間軸に突入すると原作を読んだり、アニメを見たりする必要があり、その所為でやる気を出しても創作意欲が失せると言う悪循環に陥っていましたが、それもコレでおしまいです。

まあ、それでも『怪人バッタ男』シリーズの様に「大好きな作品を元ネタにした二次小説を書く」事では決して得られないモノも読者の感想を通して得られましたので、全くの無駄と言う訳ではありませんでした(「ヒロインは幾らアンチしても許されるが、そうでないキャラのアンチは許されない」とか……)。

また、本当は何度も途中で止めてしまおうかと思っていたのですが、一度始めた以上終わらせる責任が作者にはあるし、こんな小説でもお気に入り登録をして下さった読者様がいらっしゃるので、その方達の為に最後まで完結させなければ……と思い、展開が駆け足になりながらも完結まで書ききった次第です。

少佐「その通り、つまり1000人のお気に入り登録と、数人の『お前はヴァ~カ~か?』とか『こんな小説とっとと消せや』と言ったアンチな感想……どちらか一方しか相手取れないとしたら、お気に入り登録をしてくれた1000人の為に完結まで執筆し、アンチの感想を無視できる勇気を持つ。それこそが作者として最も英雄的な行為なのです……と、『龍騎』の香川教授も言っている」

5963「香川教授は絶対にそんな事言ってないですよ」

少佐「そして、続編についてもちゃんと考えているぞ! タイトルは『ナチスも分かるFGO』! マシュのコスプレをした山田真耶や、モードレッドのコスプレをしたダリル・ケイシー。ジャンヌのコスプレをしたシャルロット・デュノアなんかを相手に、シュレディンガーが夜な夜な下世話な欲望を解放して濡れ場を展開し! そこをマンガで分かるライダーのコスプレをした篠ノ之束が嬉々として撮影すると言う、ハートフルゆかい小説!!」

5963「ただのエロ小説じゃねーか! つーか、アンタが見たいだけだろ!?」

少佐「私は見る事によって喜びを得るタイプの人間だからねぇ。所で、猫って何年飼ったら猫耳の女の子に変身できると思うね?」

5963「変身出来ないですよ」

少佐「絶対出来る」

5963「……じゃあ、出来る」

少佐「出来るよねぇ」

(以下、アニメ版『ゲゲゲの鬼太郎』の猫娘の変遷について、二人で延々と語り合う)

……まあ、そんな訳でこの作品を通して色々と経験値を積ませて貰ったからこそ、『怪人バッタ男』シリーズが生まれたのだと作者は思っています。

長々となりましたが、コレにて本当にお終いです。ご愛読ありがとうございました。


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