遠山潤は楽しみたい (ゆっくりいんⅡ)
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キャラ紹介

 各キャラクターの能力・武器に関する資料です。参考は作者大好きF〇teです。
 内容にはある程度のネタバレや裏設定も含まれていますが、特に本編での関連性はありませんので読まなくても大丈夫です。

 能力の基準はE~A+となっており、詳細は以下になります。 
A+:測定外。同じクラスでも個人差が大きく、Aに近いクラスから人外のクラスまで様々。
A:一流クラス。武偵のSランクなら大抵一つは持っている。
B:武偵上位ランクのクラス。
C:武偵における平均クラス。
D:武偵において平均以下のクラス。
E:一般人と同等かそれ以下のクラス。超能力ならおまけ程度。




6/20 第五部までの内容を含みます。

 

項目補足

適性学科

 所属しているもの以外に適している学科。本編や原作での活動を鑑みた作者の独断と偏見で決まる。

 現在所属している学科と同じ場合、その学科に特化していることを指す。

 

 

○遠山潤

髪の色:黒 瞳の色:黒 身長:168cm

所属:2年A組探偵科(インケスタ) ランク:C 戦姉妹:なし

能力

筋力:D 耐久:C 敏捷:D 魔力:D- 体力:B+ 知力:A 幸運:B

適性学科:情報科(インフォルマ) 

趣味・特技:武器改造・製造(違法含む)、他人のフォロー、上位殺し(ジャイアント気リング)

好きなもの:甘味全般

愛車:SV1000

技能

高速・並列思考:A+

 思考を八つに分け、高速化する。戦闘・情報収集を問わず対象の情報を高速・大量に入手し、応用で姿勢制御や読心に用いることも可能。

 

専科百般:A

 ジャンルを問わぬ技能の習得。D-~C+までのランクで一時的に技能の習得を可能。情報・後衛系統のスキルなら更に上方修正が掛かる。

 

未来予測:A

 収集した情報からの予測。起こりうる『可能性』全てに優先順位を付けて予測・回避する。精度はシャーロックの『条理予知(コグニス)』に劣る。

 

超能力(ステルス):D

 炎と風を媒体とし、普段は治癒力の増加に用いている。威力は本人曰く『おまけ程度』。

 

HSS ヴェノム:C

 潤が使用する『ヒステリアモード』。思考力等の強化はノルマーレと同等。

 思考が攻撃一辺倒になり撤退が不可能になる、口調が荒くなる、持続時間五分未満、効力が切れると『病弱:A+』相当の反動を受けるなど、デメリットが非常に多い。

 本作でのHSSは、金一のようなHSSに適した肉体を持つか、人外の領域でないと反動が増す設定となっている。

 

主武装

・USP tactical×6

 ドイツ製拳銃、基本二挺持ち。銃器全般はドイツ製のものを好んで使う。銃身の強化が施されている。

・サクソニア セミ・ポンプ×2

 ドイツ製ショットガン。その気になれば二挺同時に扱うことも可能らしい。

・斬鋼線・結鋼線

 別名鋼糸・軟糸。前者が切断、後者が捕縛に用いられる。

 

キャラ紹介

 本作主人公、遠山家の養子で金一の義弟。どことなく外見は兄に似ており、結構なイケメン。爆発しろ。

 普段はテンション高くバカをやっているが、戦闘では(ふざけなければ)冷静に状況を俯瞰し、味方のサポートを行う後衛役。しかし前線に出たがりのバカ。

 社交的で誰とも臆すことなく接し、学科や学年、学内外を問わず知人・友人は多い。

 経緯は不明だが三年前、カナ(金一)に誘われて彼の家族となった。

 その後神奈川武偵中学に編入、中学時代のパートナーとなる菊代と眞巳に出会い、色々やらかしたらしく『死体量産(デッド・メーカー)』という別称を付けられた。

 高校は菊代達がおらず、他の者達から怖がられていたことで東京武偵高に進学。この際カナ経由で出会っていた白雪と再会、更に後のバカ仲間である峰理子と試験で戦い、互角の勝負を見せたことから二人揃ってSランク武偵に格付けされる。

 一年時は半年間強襲科にいた後、車輌科(ロジ)に転化。二年からは探偵科(インケスタ)に所属している。一年時車輌科にいたのは、免許が欲しかったため。

 無差別に依頼を受けまくっているため、単位はどの学科でもすぐ卒業できる(流石にSSR、CVRは無理だが)。

 戦闘では支援型だが、一対一や前線での戦いも好きな若干戦闘狂。能力は『あるとは言えないが無いとも言い切れないレベル』、要するに凡人クラス。それを補うため様々な技能を用いて上位陣と渡り合う、武偵には珍しい万能型。知識も豊富で、法律から武装の製造、料理など多岐に渡る技能に活かされており、仲間達曰く『出来ないほうが少ない』、本人曰く『二流の範囲なら習得できる器用貧乏』。

 非公式だが『9条破り』の実行者。本人は特に気にしていないし、証拠も残っていない。

 恋愛に関して、理解は出来るがその感覚がよく分からない。要するに知識だけはある小学生レベル。……だったが、最近襲われたり抑えていた本能を解放されたため、思うところが出来てきた模様。

 何故か女装させられまくる、しかも似合うという謎。やる際は身長や体格を弄ったり真面目にやるが、好きな訳ではない(本人談)。

 

本人より一言:「イメージCVが杉田さんになると、シュールさが増します」

作者コメント

 弱い(確信)。それでもアリア達と渡り合えるのは彼の師匠と過去が影響していますが、展開次第かおまけで語られる可能性が……シリアスだからあるかなあ。

 

 

○神崎・ホームズ・アリア

能力

筋力:A+ 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:B+ 体力:A 知力:C 幸運:D

適性学科:強襲科(アサルト)

趣味・特技:ももまん、ツッコミ、恋愛相談(不本意)

好きなもの:ももまん、ネコ

技能

直感:A+

 ホームズ家特有の第六感。異常と言えるレベルで研ぎ澄まされ、物事の本質・回答に最短距離で辿り着く。限定的だが未来予知・読心も可能。

 

緋々色金:A+

 体内に埋め込まれた『超常世界の核物質』。相性はシャーロック以上で、感情の昂ぶりだけで『法結び』が可能。

 現在は未発達だが、使いこなせば空間転移・時間移動以外の能力も使える。

 

見稽古:A+

 戦闘技術限定で見たものを模倣し、自身に適した形へと昇華する技能。このクラスなら一度見ただけで形に出来る。

 現実にある技だけでなく、アニメなどのネタ技も再現可能。

 

ツッコミ気質:A+

 周囲がボケるとツッコミを入れずにはいられなくなる、一種の呪い。

 ホームズ家の人間はボケ体質の人間が大半の中、彼女は突然変異のレアケースである。

武装:コルト・ガバメント×2、小太刀×2

キャラ紹介

 原作メインヒロインにして本作筆頭のツッコミ役兼苦労人。周囲のボケどもに振り回され、ツインテールが逆立たない日はない。

 ツンデレ具合は鳴りを潜め、思ったことは好悪関係なくはっきりと言う(仲間内では)。物言いに棘があるのはご愛嬌。キレすぎて若干血圧が心配で、ツッコミからのストレスによるももまん過食で血糖値も上がり気味。でも太りはしない不思議。

 天性のツッコミ体質。敵味方関係なくボケがいる状況が多く、日本に来る前は妹と親族相手にひたすらツッコミを入れていたという。そのためか苦労人である曾祖父の相棒の家系とは良好な仲だとか。

 潤・理子の三人でパートナーを組み、母親の冤罪を晴らすために戦い、見事母親を取り返した。見返りなしに戦ってくれる二人に凄く感謝しているが、普段振り回されているのとバカをやらかしまくるので、口にすることは無い。母親が戻ってきてから、大分落ち着いた模様。

 シャーロックを超える直感を持ち、状況看破から未来予知、読心、果ては技の模倣まで最早万能と言っていいほどの精度。戦闘センスは抜群で、第一章時点では潤や理子に対して遅れを取っていたが、現在は『少なくとも』互角以上の域に達しており、今なお成長中である。

 戦闘力だけなら最強。アニメから覚えたネタ技も充分すぎる殺傷圏内に達し、最近ではカボチャを片手で握りつぶす握力と忍者も愕然とする脚力まで育った。

 潤との関係は『親友にしてパートナー』。恋心はないが、他の仲間共々大切な友人と思っており、相談を持ちかけることもある。最近、GⅢが微妙に気になる存在な模様。

本人から一言:「お願いだからツッコミ役増えて、アタシの胃がぶっ壊れる前に」

作者コメント

 色々な意味で最終兵器。でも彼女(候補)ではないです、今のところは。成長具合と戦闘の才能なら間違いなく現段階で最強かと。

 

 

峰理子

能力

筋力:C+ 耐久:A+ 敏捷:A 魔力:C 体力:A+ 知力:A+ 幸運:C

適性学科:諜報科(レザド)

趣味・特技:製作・改造(ゲーム・爆弾など)、甘味巡り、ゲーセン、アリアを弄る

好きなもの:甘味、辛いもの(特にマーボー)

愛車:ベスパ(200kmまで出せる)

技能

変装・変声:A+

 道具と技術を用いての変装。老若男女問わずどんなものでも化けているのに気付かれず、他人に施すことも可能。

 

逃走:A+

 本人は好まないが、逃走体勢に専念すれば誰も捕まえられない。

 

瑠々色金(超能力):C

 ロザリオに仕込まれた微量の色金を用いた超能力(ステルス)。主に髪の操作に使用し、そのほかに念動力・浮遊にも使用可能。

 

狂化(バトルジャンキー):D

 『裏理子』モードの際、稀に発動。痛みに強くなるが、逃げることが出来なくなる。

 

収集家:A

 欲しくなったものを集めまくる性質。捨てるのも下手なため部屋は一部を除いてもはや倉庫となっており、人が住める状態とは言いがたい。

 

気配遮断:A+

 気配を殺して周囲に溶け込む。ただしバカをやるかセクハラをすると解除されるので、あまり役には立っていない。

 

高速・並列思考:A

 潤に教えられた思考の高速化。六つまで分割が可能。未だ成長途中。

 

主武装:ワルサーP99×8、タクティカルナイフ×8、デリンジャー、ウィンチェスターM1887×2

 

爆発物

 ダイナマイト・センサー爆弾・C4など個人で携帯できるものなら大抵揃っている。

 

キャラ紹介

 本作最大の問題児にしてトラブルメーカー。トラブルの原因は大体こいつのせい、そして反省はしても後悔はしない、楽しけりゃオッケーなのである。

 危機的状況でもシリアスでもボケ倒す、潤がいると更にボケが加速する性質の悪さを持つ。両刀で美少年と美老人、何より美少女を愛してやまない。性癖的にはSもMもいけるド変態、今日もアリアへの愛ある(と本人はのたまう)セクハラは止まらない。

 『裏理子モード』になるのは稀、もしかしたらブラド戦で最後かもしれない。それくらい真剣に楽しくふざけている。しかし『力』への執心は人一倍で、潤やアリアとの模擬戦は日常と化しており、超能力(ステルス)の研鑽も余念がない。

 潤以上の交友関係を持ち、彼曰く『地球上に知り合いがいない場所ないんじゃないか』と言わしめるレベル。

 入学試験で潤と戦い、互角の勝負を演じる。入学後強襲科(アサルト)にSランクとして所属し、馬が合って一緒にバカをやらかすようになった。武偵高の一部教師陣が頭を痛める原因の一つ。

 両親が死亡したことで親戚と偽ったブラドに監禁されるが、『ある人物』――ヒルダの助けでごくごく短期間に終わり、その後はイ・ウーに身を寄せている。彼女の感情が恐怖よりも憎悪が大きい原因の一端。

 戦闘能力は高く、単独で潤の援護付きのアリアともやりあえる。ただし大抵ふざけるので最後にぶっ飛ばされるまでがパターン。

 遺伝的に『無能』の烙印を押されていたが、潤が助言しつつ『怪盗』としての技能も身に付けていき、今では潤やメヌエットを出し抜いて盗みを働くことも可能。

 両親は大好きで尊敬しているが、蔑称として呼ばれていた『リュパン四世』の名を嫌い、名乗ることはほとんどなく武偵高の名簿にも載っていない。

 潤と同じく『9条破り』。こちらも詳細は不明で、イ・ウーが絡んでいるかどうかも分かっていない。

 恋愛に関しては積極的と見せかけた超ヘタレ。多分潤にやり返されたら全く動けないし脳内でパニくる。アリアに良く恋愛相談を持ちかけているが、結果はお察し。……が、周りに感化されてか、大胆に動くことも増えてきた。

 潤との関係は『深い仲を求める悪友』。とりあえず、告白をドッキリイベントに変えなければワンチャンあるとは思う。

 

本人から一言:「とりあえず『四世』呼びした奴は死ぬまでぶっ飛ばすZE☆」

作者からのコメント

 愛すべきバカであり変態。裏理子のギャップ差で好きになったキャラですね。

 

 

○星伽白雪

能力 ※( )は超能力補正分

筋力:B(A) 耐久:C(B) 敏捷:C(A) 魔力:A+ 体力:B 知力:C 幸運:A

適性学科:探偵科

趣味・特技:家事全般、子供の世話、将棋、麻雀

好きなもの:ようかん、混ぜ込みご飯、カステラ

技能

超能力(ステルス):A+

 分類は『巫術(ふじゅつ)』。炎を媒体として顕現させ、刀や護符、変り種で羽子板も用いる。

 

気配遮断:B+

 気配を殺して周囲に溶け込む。白雪の場合特定の人物相手なら、戦闘体勢に入らない限り気付かれることはない、

 

ヤンデレ:E

 恋敵相手に発動。潤が色々構ったり諭しているため(+ギャグ補正)大幅にランクダウンし、精々喧嘩の時痛み知らずになる程度。

 

武装:色金殺女、護符、羽子板

三段式短槍

 潤お手製で全長七尺(約二メートル)の短槍。警防の伸縮が可能で、最短で懐に仕舞えるコンパクトサイズにもなる。

 

キャラ紹介

 常識人枠、と言いたいが、女装の潤もいけるので若干両刀の気が出始めた大和撫子。まあ妹からして……ねえ?

 潤の宥めやアリアに構うことでヤンデレ部分は鳴りを潜め、面倒見が良く恋敵にも優しく出来るようになったお姉さんポジション。特にアリアには甘い、具体的には二つ下の妹が見たら危機感を覚える程度には。誰だこの女神、と一番思ったのは書いてる作者。

 潤とは三年前、カナ(金一)に連れられて出会い、それまで外界のことを知らずに育った彼女に色々なことを教え、姉妹全員を外に連れ出して祭を見せてくれた彼に憧憬の感情を持ち、やがて恋に変わった。

 武偵高にはカナ(金一)から聞いて彼を追いかける形で再会、以降暇を見ては彼に色々な場所へ連れていってもらっている(余計な泥棒ネコが付いてくることも多いが)。

 超能力(ステルス)なしでも鉄を斬れる剣術の使い手であり、組み合わせれば斬れないものはあんまりないし、焼けないものもほとんどない。他に日本式の古武術も修得しており、理子と対等に殴り合えるレベル。

 恋愛に関しては奥手で潤から来るのを待っていたが、理子の告白を聞いて『積極的に、だけど無理矢理でなく』と方針を転換している。最近、キッスくらいは積極でもいいよね!? と考えを改めた模様。

 潤との関係は『深い仲を求める友人』。ネックはSSRの関係で度々合宿に行っていることか。

本人から一言:「最近『一夫多妻去勢拳』を覚えようと頑張ってます!」(←よく分かっていない)

作者からのコメント

 ヤンデレ成分を抜いたら女神になった、正直一番のどうしてこうなったキャラです。多分無自覚だけどかなりモテるのではないかと、潤以外に興味あるか微妙ですけど。

 

 

○レキ

筋力:D 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:C 体力:A+ 知力:D+ 幸運:C+

適性学科:諜報科(レザド)

趣味・特技:イラスト(プロ級)、ハイマキとの散歩、取立て

好きなもの:カロリー〇イト全般、犬(オオカミ)

技能

気配遮断:A+

 気配を殺して周囲に溶け込む。遠距離なら狙撃後にも対象から気付かれることはなく、気付いたら目の前にいたというのも日常茶飯事。

 

千里眼:A+

 視力6.0。遠方のものを見るだけでなく、周囲のものを俯瞰して感知する『空間認識』も可能。

 

璃々色金:D

 無自覚な超能力(ステルス)。風を媒体とし、身体能力の強化や弾丸を加速させることが可能。自覚すれば成長の余地あり。

 

鳥獣使役:A+

 言動のみで動物を従える。このクラスなら道具なしでアニマルパラダイスを作ることが可能。

 

音使い:B

 歌による対象の幻惑・魅了。成長の余地あり。

主武装:ドラグノフ狙撃銃(SVD)、銃剣

キャラ紹介

 食神にして武偵高の神イラストレーター。風景画から萌えイラスト、何でも受け付けます。ただしお代を踏み倒すと取り立て(物理)が迫る。

 無表情だが無口ではなく、狙撃にしろイラストにしろ自身がやることは完璧な領域まで昇華させる。『アナログこそ至高』と思っていたが、最近潤から専用PCを貰ったことで、認識を改めた。

 表情の代わりに動作で気分を表現することが多く、稀に周囲を煽る。

 潤とは任務の関係で一年からの知り合い。バカやったり恋の修羅場を繰り広げる彼等を、一歩引いた位置からいつも見ている(もしくはイラスト描いている)。

 元は『ロボット・レキ』とあだ名されていたが、本編で語られた陰謀によりイラストレーターとなってからは男女問わず『神絵師レキ様』と崇められ、発言がやや天然気味で面白いことから、クラスの女子にマスコット扱いで可愛がられている。

 狙撃の腕は距離を問わず狙った箇所に必ず命中させ、スライディングや走りながらでも可能。ただし『未来予測』を持つ潤とは相性が悪い。

 近接戦は銃剣に限ればかなりの腕で、アリアや理子ともある程度なら渡り合える。

 潤との関係は『友人』。深い関係ではないが、恩に思うことはある。

本人から一言:「イラストの依頼は一口五万から、現在三ヶ月待ちです」

作者からのコメント

 原作にあるスキルと特性を拡大解釈したらトンデモキャラになった一例。多分動物園か公園に放り込むと凄いことになります。

 

 

○メヌエット・ホームズ

能力

筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:- 体力:D 知力:A+ 幸運:A

所属:2年A組探偵科(インケスタ) ランク:S

適性学科:情報化(インフォルマ)

趣味・特技:ゲーム(主にPC系)、TRPG、アリア弄り、口撃

好きなもの:美味しいもの全般(味にはうるさい)

技能

小舞曲(メヌエット)のステップ:A+

 ホームズ家特有の推理力。思考を十三に分割・高速で運用することで、物事の真実を一から十まで理解し、瞬時に到達可能。読心・未来予知にも使用可能。

 

人間観察:A+

 言動・所有物によって対象の性質、本質を見破る。このクラスなら生身で見れば一瞬で、PCなどの通信機越しでも僅かな情報から確信に等しい予測が可能。

 

収集家:B

 欲しいものはどれだけ無価値でも集めたくなる。メヌエットの場合収集物は物だけとは限らず、実家の一部は彼女のコレクション部屋と化している。

 

愉悦主義:C

 対象を弄って自身の愉悦の糧とする。メヌエットの場合気に入った相手に限られる。

 

主武装:リー・エンフィールド(空気銃)、電動武装椅子

 

キャラ紹介

 姉に手を出そうとする変態の話を聞いて、遠くイギリスから飛んできた愉悦部員候補。多分S。

 口調は丁寧だが他人を弄り倒すことに余念がなく、楽しければオッケーな思考は理子に近い。たまに修羅場を煽ることも。

 本編ではまだ抑えている方で、親密度が上がるにつれて本性が浮き彫りになる。具体的にはSな面が。

 生粋のネット&ゲーム廃人。中学を自主休校するようになってからPCゲームとTRPGにはまり、ネット内の友人と連徹で行うことも。本編中に記述はないが、暇な時は大抵潤達、もしくは一人でゲームをやっている。

 戦闘能力は低いが、推理力と口撃だけで相手の精神をズタボロにするのが得意。アリアとの直感を合わせれば、某名探偵よろしく『二人ならシャーロックを超えられる』が実現可能かもしれない。

 バリツも扱え、主にセクハラ犯(理子)への折檻に用いる。

 車椅子は何らかのアニメに影響を受けて改造しており、銃火器や剣、果ては小型ミサイルまで搭載した魔改造仕様。最近、潤との共同で新しいものを用意しているとか。

 『何者か』によって足は治療され、完治しているため歩くのに何の支障も無い……が、『車椅子キャラを維持するため』今も乗っている。

 潤との関係は『面白い玩具で友人』。恋愛感情は無いが、アリア同様受け入れてくれた仲間を大切に思っている。……が、最近思うところがある模様。

本人から一言:「とりあえず、お姉様と潤の持っているものは、本人含めて欲しいですね」

作者からのコメント

 原作読み返すとコレジャナイと感じる人。最早完全に愉悦部員である。

 

○リサ・アヴェ・デュ・アンク

能力

筋力:D 耐久:D 敏捷:E 魔力:- 体力:C 知力:C 幸運:A+(自己申告)

適正学科:救護科

趣味・特技:家事全般、ゲーム、ご主人様のことを考える・褒める、値切り交渉

好きなもの:アイスクリーム、日本の柔らかいパン 

技能

調和の者:A+

 相手を立てることで敵を作らないスキル。他人同士の不和を諌めることもできる。これによって今まで生き延びてきた。

 

家事:A+

 およそ家事において万能、同じメイドなら尊敬せざるを得ないレベル。

 

高速再生:C

 『ジェヴォーダンの獣』としての能力。重症でも時間は掛かるが、自力で復活が可能。

 

値切り:A+

 交渉スキル。大抵のものは最低6割、最大8割まで値切ることが可能。

 

ジェヴォーダンの獣:D

 『百獣の王』。彼女自身は戦うものでないため、使うことはまず無い。精々油断したり興奮すると耳と尻尾が出てくるくらいである。

 

主武装:ルガーLC9s(潤が選んだ)

キャラ紹介

 シャーロックに推薦された『ご主人様』に運命を感じ、夏休み前に主人公の押しかけメイドとなったメイド系ヒロイン。懐柔と交渉と家事担当にして廃人ゲーマー。

 面子の中では常識人かつ緩衝材となっているが、ご主人様至上主義かつ(エロ的な意味で)積極的。怒らせると飯の生命線が絶たれるため、誰も頭が上がらない。

 自覚は無いが、家事において一番の権限を持っている。同格の白雪が学科の関係で空けることが多く、信頼されているため。

 『ご主人様が幸せならリサも幸せ』思考の持ち主。実は水面下でハーレム計画のための下準備をしている……との噂があるが,真偽は不明。

 関係性は『全てを捧げるに足るご主人様』。

本人から一言

「ご主人様が守ってくださるこの状況、リサは幸せ者です……あ、ゲームの挑戦はいつでも受け付けています!」

作者から一言

 最高のメイド(作者の私見)。早く出たこととゲーマー設定については……うん、何考えてたんでしょうね(白目) 

 

○遠山かなめ(GⅣ)

筋力:B 耐久:C 敏捷:A 魔力:B 体力:A 知力:A 幸運:B

適性学科:探偵科(インケスタ)、車輌科(ロジ)、情報科(インフォルマ)

趣味・特技:お兄ちゃん観察、ゲーム、M○の武器製造、刀剣収集、お兄ちゃんの『もの』収集

好きなもの:お兄ちゃんが作ってくれるキャラメルお菓子(激甘)

武装:ビーム・実弾兵器全般

技能 

高速・並列思考:A

 六つに分割・高速で展開される思考による未来予測、情報収集能力。

 

武装作成:B

 先端科学の影響で既存の兵器、好きなガンダ○作品の武装を製作することが可能。彼女のフル装備は全て自作である。

 

女人望(偽):A

 間宮あかりと同等の女性限定カリスマスキル。武偵校の同学年、他に個人的な付き合いのあるものは彼女の影響下にある。

 

超能力:C

 属性は風・土。主に武装作成の際、科学技術と併用している。

 

お兄ちゃんセンサー:A+

 対遠山潤専用スキル。お兄ちゃんが自分の話をしていたり、危機に陥っていたらすぐに察知する。副次効果で物理法則を越えることもある、らしい。

キャラ紹介

 ヤンデレ成分控えめ、妹力(自称)とヤベー発想に全力を注いだ結果出来上がった『理想の妹』(自称)。

 楽しさとお兄ちゃんを至上とする行動派。兄の周りが中々に修羅場っており、定期的に煽るのが楽しい模様(そして便乗する)。

 GⅢと同じ『Gの血族』だが、彼女は遠山金叉が、潤の『血縁上の父親』、母親の三つの血筋を引いており、本当の意味で潤の『妹』。

 人工人間としてのコンセプトは『全てに秀でた万能型』。実質潤の上位互換であり、一人で軍事基地を崩壊させることも可能。ただしアホばっかやっているため、戦果も知名度も低い。

 親しい年上の女性はお姉ちゃん呼びすることもあるが(ジーサードリーグのメンバーは別)、男で『お兄ちゃん』と呼ぶのは潤だけ。

 潤との関係は『理想のお兄ちゃんと出来た妹』。

 星伽風雪は絶対の天敵、決して相容れることはない。

本人から一言

「唯一絶対なお兄ちゃんの妹です! 新しい妹? 義理の妹狙いの不届き者? 知らん、私だけが妹であればいいのだ!」

作者から一言

 原作のかなめちゃんに潤の成分を足したらこうなりました(?)。最近、理子成分も混じってる気はしますね……

 

 

○星伽風雪

※()は超能力使用時のもの

筋力:D(C) 耐久:C(B) 敏捷:B(A) 魔力:A 体力:C 知力:B 幸運:B

適性学科:SSR

趣味・特技:お土産集め、交渉、義兄様のお世話、将棋

好きなもの:あんこ

武装:和弓

技能

超能力:A

 属性は風。弓と矢に魔力を乗せることで、威力と速度の増加、隠蔽などがある。弓そのものに魔力を乗せることで、近接戦も可能。

 

交渉:B

 主に超能力関係での交渉スキル。星伽としての立場を活かし、政府や外国とも繋がりを持つ。

 

千里眼:C

 遠方を見渡すスキル。彼女の場合超能力込みならレキに匹敵する距離からの狙撃が可能。

 

妹属性:B

 これと見定めた相手に『妹』として接し、認めさせるスキル。何の役に立つのか? 知らん(真顔)

キャラ紹介

 白雪の妹であり、自称潤の『妹』。潤を義兄様と慕い、姉と一緒に色々狙っているクールビューティー(?)

 誰に対しても丁寧な言動で接する。姉と同じく普段はおしとやかだが、潤相手だと定期的にぶっ飛んだ発言を真顔で言う。

 潤が始めて星伽神社に訪れた際、箱入りの姉妹達に対し多少なりとも外を知っていた彼女が一番最初に接し、彼の楽しそうな姿を見て惚れこんだ。以来仕事の合間を縫って、兄と姉へ会いに行くことが習慣となっている。

 潤との関係は『姉様と一緒に愛して欲しい義兄様』。兄と読んで慕うのは、はいと区間があって興奮するから……という噂も。

 和弓を用いた近・遠双方の戦術が可能なオールラウンダー。実は白雪に匹敵する能力の持ち主。

 遠山かなめは絶対の怨敵。ぽっと出の妹など決して認めぬ。

本人から一言

「潤義兄様、姉様と一緒に私もいかがでしょうか? あ、自称妹は帰ってください」

作者から一言

 ちょろっと出ただけのをよくここまで膨らませたな、と思う妹ちゃん。クールな時と潤が一緒の時の落差は、多分姉以上。

 

 

○ジャンヌ・ダルク

能力 ※( )は超能力補正分

筋力:C(B) 耐久:B(A) 敏捷:C(B) 魔力:A+ 体力:C 知力:B+ 幸運:E

適性学科:SSR

趣味・特技:可愛い服集め、読書(少女漫画)、イラスト(画伯クラス)

好きなもの:マカロン

技能

超能力(ステルス):A+

 氷を媒体とし、武器に纏わせるのが得意。本来は白雪と互角に戦えるレベル。

 

高速・並列思考:B

 思考の高速・分割。三つに分けた思考を高速で運用する。主に情報収集で使用。

 

コント被害(バッドラック):A+

 デメリット技能。登場する度に扱いが不遇になる。幸運ランクが大幅に減少。

 

主武装:デュランダル、CZ100

キャラ紹介

 本作一番の不遇キャラ、最早出番すら拒むレベルである。こんなジャンヌに誰がした!(作者です)

 性格は原作とほぼ同じ――なのだが、トラブルの元となる潤や理子、アリアとの接触は極力避けている(白雪はまだ大丈夫らしい)。

 逮捕後は情報科(インフォルマ)に属しているが、潤が自力で情報を集めているため今後の出番は減る一方。というか前書きで拒むレベル。

 デュランダルは折られていないため、今も西洋剣の状態で使用する。扱いこそ酷いが実力は本物で、封じ布を解いた白雪でも戦える。

 潤との関係は……『出来れば無しにしたい』とのこと。そりゃそうだ。

本人から一言:「もう私に関わらないでくれぇ!」

作者からのコメント

 ジャンヌファンの読者様と友人には怒られないといけないでしょうね……でもそういうのしか思いつかないんですよね(白目)

 

 

○須彌山眞巳(すみやままみ)

髪の色:黒 瞳の色:黒 出身:日本 身長:160cm

所属:イ・ウー主戦派(イグナティス)装備科(アムド)(中学時代) ランク:B(中学時代)

能力

筋力:A+ 耐久:A 敏捷:A+ 魔力:A+ 体力:B 知力:B 幸運:D

趣味・特技:人間観察、日向ぼっこ、花札、呪いの人形集め(洋の東西問わず)

好きなもの:アイス、クレープ(両方菊代の影響)

技能

超能力(ステルス):A+

 分類は『妖術』。祖先達より受け継いだ妖の術を操り、複数の同時行使も可能。

 

変化:A

 身体の変化。妖の姿を一部、もしくは全身顕現することが可能。

 

自己修復:B

 妖の特性による肉体の修復。致命傷の傷でも死なない限り肉体が再生し、一時間以内に全快する。

 

殺害衝動:B

 定期的に発生する衝動。種族を問わず誰かを殺したくなる。抑えることは可能だが、しばらくの間調子が悪くなる。

 魔力・幸運を除いた能力を1ランクアップさせるが、対象のみを見るので視野が極端に狭くなる。

主武装:トーラスPT92

刃物全般

 ナイフから短刀、ダガー、日本刀、大剣など『刃の付いたもの』なら何でも持っている。特に扱いやすいのが『手にフィットする』もの。

キャラ紹介

 遠山潤、鏡高菊代の中学時代のクラスメイトでパートナー。中学卒業と同時にイ・ウーへと戻る。長い髪をゆるく結った、白雪とは異なるタイプの大和撫子。私服のほとんどは和服。

 誰にでも丁寧語で喋り物腰も丁寧。人の話を真に受けやすく、パートナー達の軽い冗談も本気で信じることが多い。戦闘では基本容赦が無く、果敢に攻めていく。

 日本の妖達と代々交じり合った家系に生まれ、血筋的には人間というよりほぼ化生の類。様々な妖と交わってきたため、具体的な種族は不明。

 潤や菊代といる時は、稀に起こる殺害衝動を常に抑えることで気分が悪くなり、菊代に面倒を見てもらうことも多かった。

 中学在学時は眼鏡装着。本人曰く『あまり好きでない』とのことで、変装用に付けていただけらしい。

 元々は潤の監視と社会勉強を兼ねてイ・ウーから派遣されたが、菊代をいじめた女子グループ+αを叩きのめす潤に加勢し、共闘したのがきっかけで仲良くなり、パートナーとなった。

 イ・ウー襲撃時に数年ぶりの再会を果たし、潤と一対一の本気の殺し合いを望む。もし勝利していたら、本能のままに彼を殺害していたかもしれない。

 現在はイ・ウーを脱退した後、菊代専属のボディーガードとなりながらヤクザ業界の勉強中。なお所属当初、その美貌から野郎共は歓喜の声を上げたとか何とか。

 潤との関係は『元パートナーで友人』。殺そうとしたりと中々危険な目に会っているが、それでも笑って許す彼に少し甘えている自覚はある。

イメージCV:未定

本人から一言:「菊代と一緒に出させていただきました。また機会があれば、よろしくお願いします」

作者からのコメント

 作者の趣味を詰め込んだオリキャラです。血塗れの和装美人っていいと思いませんか?(知らん)

 

 




 追加して欲しいキャラや抜けている項目がありましたら、感想でお願いします(露骨なコメ稼ぎ)。

2019/6/23 
 修正と以下のキャラを追加しました。
・リサ・アヴェ・デュ・アンク
・遠山かなめ
・星伽風雪


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リサ誕生日記念 幸福は日常というレア枠の発想

 誕生日記念ということで、急遽書いてみました。
 特に山もオチも時系列もないですが、お暇でしたら読んでやってください。間に合ってるといいネ!(他人事)


「ヘルモーイ! ここは素晴らしい場所ですねご主人様!」

「たしかにすげえ数だけど、持ってないのあったんだなお前」

「やはり通販や人伝だと限界がありまして……イ・ウー時代では諦めてましたが、日本ならコンプリートも夢ではないかもしれません!」

「その間に幾ら金が飛んでいくんだろう」

「大丈夫です、値切りはリサの十八番です!」

 店が潰れるからやめなさい、あとイ・ウーって下手に言わない方がいいんじゃねえの? もう滅んだけどさ(←滅ぼした一因)

 というわけでどうも、遠山潤です。本日はリサの誕生日なのだが、現在アリア達によってパーティーの準備中である。俺? アリアに「サプライズにしたいから、アンタはリサとデートでもしてきなさい」って炎天下の中放り出されたでござる。まあ思いっきりリサに聞かれてて、影で微笑ましそうに見られてたけど。お前ホントに隠し事できないな。

 というわけで、リサの希望により久々のアキバなう。何でもまだ持ってないクラシックゲームが欲しいとのことで、俺が知ってる店を周ってるんだが……いやあ、目の輝きが凄いこと。ゲームソフト両手で抱えるやつ久々に見たぞ。

「あ、あの、ご主人様、これ……」

「ああ、全部いいぞ。折角の誕生日だしな、欲しいものくらい買ってこうや」

「! ご主人様、リサは、リサは幸せ者です……!」

 いや、そんな本気で感動するほど? ちなみにリサの格好はワンピース風メイド服(理子作)なので、周囲(店員含む)から『え、そういうプレイなの……?』みたいな視線を感じる。残念プレイじゃなくてガチなのです。

 ホクホク顔のリサと手を繋ぎながら(ゲームは部屋に送った、三十本以上は流石に洒落にならん)、手近な喫茶店(メイドに非ず、リサの目が厳しくなるんで)に入って一息入れる。俺はともかくリサにこの炎天下はキツイしな。

「やはり日本の方々が作るものは繊細でありながら素晴らしい味ですね……ココナッツミルクのしつこくない甘さ、リサももっともっと精進しないといけません」

「これ以上精進すると白雪の立つ瀬がなくなりそうなんだが」

「大丈夫です、リサは人の立て方を熟知していますので!」

 違う、そうじゃない。ただでさえ危機感を感じてる白雪をこれ以上(無意識に)煽るんじゃない。俺とかなめ? 腕前の差程度で凹んでたら遠山兄妹は生きてらんねーよ(真顔)

 シュークリームをむぐむぐしながら対面でニコニコしているリサを何とはなしにジッと見る

「……」

「……」

 何でお見合い状態になっているんだろう。リサも頬杖突いて見返してくるだけだし。こーら、その体勢は胸が強調されるからやめなさい。可愛いけどあざといから。

「なあリサ」

「何でしょう? ご主人様」

 小首を傾げながら返してくる姿、あざとい。これを天然でやっているから倍あざとい。でもリサだから許される(確信)

「いや、折角の誕生日なのにいつもと一緒だからな。お前がいいならいいんだが……」

 対面のリサが、現状に十分なほど満足しているのは分かるんだが。誕生日って何か特別なことをするもんじゃないのかね。個人によるだろうけど、

 リサは言われてキョトンとした顔になるが、

「ご主人様のお心遣い、リサは本当に嬉しく思います。でも――」

 リサは少し身を乗り出し、こちらの手を握ってくる。理子達とは違う、柔らかな手の感触が伝わってくる。鍛えてないとこうなるのかね(違)

「 ……イ・ウーにいた頃、リサは求めていたご主人様に出会えず、お世辞にも良い扱いとは言えませんでした。リサは弱かったですから。

 だからリサは、ご主人様に出会えて、『いつも』と言えるほどのものを十分頂いているんです。本当に、本当に毎日が幸せで一杯ですから」

 そう言い切るリサの顔は、本心から幸福に満ちたものだった。そっか、それならいいんだ、いいんだけど。

「いやいやリサ、これで幸せの頂点みたいに言われても困るんだが? 先は長いんだ、もっと楽しくおかしくしてくれ、俺のメイドならさ」

「……ふふ、ご主人様は欲張りなのですね」

「欲張りなくらいが人生は丁度いいのさ」

 遠慮してると足りなくなってきちまうからな、具体的には夕飯のおかずとか。

「じゃあ……欲張りということで、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「答えられる範囲なら構わんぞ」

 俺が答えると、リサは一つ頷いて真剣な顔になる。え、ここで真面目な空気になるのか。

「ご主人様は、リサを受け入れて――後悔、していますか?」

「……」

 主義主張を曲げてまで、彼女と主従の契約を交わした。リサは内心、気にしていたのだろう。

「んー、そうだな。あの時はとんでもねえ約束しちまったと頭を抱えたもんだが」

 その言葉に、リサは悲しそうに目を伏せるが、

 

 

 今は、お前が居てくれて良かったよ

 

 

 最後にそう告げると、リサは驚いてから顔を伏せ、

「~~~~ご主人様!!」

 感極まった表情で抱きついてきた。あの、ここ店内ですけど

「Ik zie u graag(心より愛しています)、ご主人様……」

 リサの豊満な部分が顔に押し付けられ、甘いメープルシロップのような香りが不思議と落ち着かせる。あっちこっちから視線を感じるが、もう慣れてきたよこれ(真顔)

 結局、リサの気が済むまで抱きしめられてた。正気に戻った彼女が羞恥で真っ赤になり、「はしたないメイドに罰を与えてくださいませ……」と言っちゃうもんだから、余計に好奇と嫉妬の視線が強まったのは言うまでもない。

 

 

おまけ

「「「「「「Happy Birthday、リサ!」」」」」」

「皆様……ありがとうございます! リサは本当に、幸せ者です……!」グスッ

「ううん、私達もお世話になってるから。みんなリサちゃんを祝ってあげたかったからやったんだよ」

「白雪様……!」

「おーおーユーくん、リサのいい匂いがしますな~」

「お? お兄ちゃんついに一線越えちゃったの? 詳細をプリーズプリーズ」

「おう違うの分かってて聞くのやめーや」

「ご、ご主人様が望むなら、リサはいつでも……」

「ひ、昼間っから何ピンクな妄想語ってんのよバカジュン!!」

「え、俺が悪いの?」

 その後、俺とかなめの合作である『戦略シミュレーションSF』(別名リアルGジェネ)をプレゼントしたら、ひたすら「ヘルモーイ!!」と連呼して暇な時間ずっと遊んでた。喜んでもらえたなら何より。

 

 

おまけ2

「あ、あの、ご主人様……まだ起きてますか?」

「……ん? どうした、リサ」

「あの、ご主人様が良ければなんですが……同衾を、お許しいただけますでしょうか?」

「……いつも勝手に入ってきてるくせして、何故改まって言うのか。

 ……まあいいか、ほら来な」

「! し、失礼します……」ゴソゴソ

「……」

「……」

「リサ」

「は、はい! なんでしょ」

 ギュ

「――え、ええ?」

「ん。じゃあ、お休み」

「………………っ!!」

(ご、ご主人様から抱きしめてくださって……ああダメ、興奮して尻尾も耳も出ちゃいます……)ピンッ

(ね、寝れる気がしません……)

(チッ、あのマイブラザー、先手を打って一線越えるのを防いだぜ!)

(わざわざ焚き付けて何がしたいんだよマイシスター)

 

 

 




あとがき
 はい、短いですがここまでです。まあ、リサの可愛さを少しでも感じていただければ。
 感想・評価・誤字報告などいただければ幸いです。
 では読んでくださり、ありがとうございました。改めてリサ、誕生日おめでとう!




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リサ誕生日記念2 キンジの甲斐性?

 リサのバースデー記念二つ目です。この話は『もしもキンジのルームメイトが潤だったら』というIFの世界観で書いています。
 なお、これ書き始めてる時点で今日が終わる五分前です。間に合う訳ねえ()
 それでも良ければ、読んでやってくださーい。
 
 



「ったく理子の奴、何が「デートと言えば待ち合わせが基本デスヨキーくん!」だ、一緒に行けば手間も省けるだろうに……」

 あーどうも、遠山キンジだ。……誰に言ってるんだ、俺? やめよう、これ以上考えると余計疲れそうだ。

 今日はリサの誕生日、ということで、折角だからデートでもしてこいとバカ二人(潤・理子)に追い出された。アイツ等が何してるかは知らん、多分ろくでもないことだろうが。

 了承したのは「偶には世話になってる礼でもしてやれ、じゃねえとクズ人間認定されるぞ」なんて言われたからではない。女と二人っきりとか気は重いが、まあ確かに……リサには世話になりっぱなしだしな。

 ちなみに金がないと言われたら、潤から金一封をポンと渡されて引っくり返りそうになった。どんだけ準備いい上に躊躇ないんだよ、余ったのは好きにしていいって言われたし。一緒に渡された『サルでも分かる恋愛術(初級編)』に関しては、桜花(ツッコミ)を入れてやったが。余計なお世話だっつうのっ。

 待ち合わせに関してはアリアで懲りているため、新宿にある公園の一角で三十分前に立っている。多少おめかしさせられたので、見られる服装ではある、と思う。クロメーテル衣装を用意された時は、思わず理子も桜花(ツッコミ)デコピン決めてやったが。どんだけやらせたいんだアイツ、やらねーよ。

「ご主人様、お待たせしましたっ」

「いや、リサも早いくら――」

 後ろから声が聞こえて振り向き、リサの姿を見て思わず言葉が止まってしまう。

 肌に合わせ純白のワンピース、肩に夏用の薄手のカーディガンをはおい、ドレッサーを外して手に日傘を持っている姿は、普段のメイド姿とは違う、清楚な印象を与える。いつぞやのように髪を後ろで軽く纏めているのも、その印象を強めている。

「……ご主人様、如何なされました? も、もしかして服装におかしいところがあったでしょうか? 理子様に用意していただいたのですが……」

「い、いや、大丈夫だ。……あー、良く似合ってるぞ、うん」

 ぶっきらぼう、かつ目を逸らしながらの言葉だったが、それでもリサは嬉しそうな顔で笑い、腕にくっついてくる。ああもう、合わせだと来るんだよ勘弁してくれ。暑いし。

 ……あのバカ二人が『耐ヒステリア訓練』と称して、色々やらされたのが功を現してるな。前だったら甘ヒスくらいなってたかもしれん。内容は思い出したくもないが……何が「モッテモテのキーくんだもん、これくらい慣れとかないとね!」だ、思い出したら腹立ってきた。

 とにかく、驚きはしたがヒス性の血流はまだまだ余裕だ。女子と接するのはプラスだと思う、心臓には悪いが。

「よし、じゃあ行くか。予定より早いし、今からなら昼食まで時間あるな。リサ、行きたい場所とかあるか?」

「ご主人様と一緒なら、リサはどのような場所でも構いません」

「あー……いや、折角の誕生日なんだし、リサが行きたい場所ものでいいぞ」

 資金もあるしな、潤からのだけど。……そう考えると情けなくなってきた、もう少し金になる依頼増やすかなあ。

「えっと、良いのですか? それでは――」

 

 

「モーイ! 日本の皆様の技術力は素晴らしいですね、ご主人様!」

「へえ……確かに綺麗だな」

 リサの希望で、俺達はショッピングモールの一角にある和風の雑貨屋に来ていた。扇子や巾着袋の他、変わったところで和風の金属アクセサリーや装飾品も売られている。和紙で出来たマトリョーシカとか触るの怖いんだが、出来はいいけどさ。

 リサはキラキラした瞳で、アクセサリーの類を見て回っている。こういうところはメイドというより女の子だな、新しい一面が見れ……

 いかんいかん、あまり見てると何が爆弾になるか分からんからな。ただでさえ腕を引かれてリサの甘いメープルシロップのような匂いと、マシュマロのような柔らかいものを押し付けられているし。店員さんからも微笑ましい目で――あ違う、これ営業スマイルで固定してるだけだ、青筋見えるし。

「ご主人様、お許しいただけるならリサに似合うものを選んでいただけないでしょうか?」

「……俺はそういうセンスないぞ?」

 金がないのもあるが、服なんて機能性を重視したもんばっかだしな。アクセサリーとか動く時の邪魔にならないよう、必要な時以外付けることないし。

「大丈夫です、ご主人様が選んでくださるものはきっと良いものですから!」

「その根拠のない自信はどこから来るんだよ……」

 無垢の信頼が胃に悪い、どっかのバカどもが騒ぐよりいいけど。今日はアリアに抑えてもらってるが、果たしてアイツの胃は無事だろうか。

「そうだな……お」

 適当に見回してみると、一つの髪飾りが目に付いた。白桔梗の柄が施されたそれは、リサのイメージにピッタリだと思う。

「リサ、これなんかどうだ?」

「……モーイ、これは良いものですね! 流石ご主人様です!」

「たまたま見つけただけだよ、いいから付けてみろって」

 これ以上ご主人様呼びされて、周囲の女性から白い目を向けられるのはキツイ。違う俺は犯罪者じゃない、寧ろ逮捕する側だから。

「ご主人様、ど、どうでしょうか?」

「……」

 髪飾りを付けて恥ずかしそうにこちらを見るリサは――うん、良く似合っているな。リサの髪に良く映える。

「じゃあこれにするか」

「あ……」

 髪飾りを外してやると、リサは驚いたような声を上げた。何だよ、何かおかしいことでもしたか?

「いえ、ご主人様からこんなに近付いてもらえるとは、思ってもいなくて」

「……」

 言われてみると、自分から女子に近付くことは珍しいことだ。……改めて言われると、恥ずかしくなってきた。

「い、いいからこれ、買ってくるぞ。いいんだよな?」

「は、はい。よろしいのですか?」

 お互い赤い顔になるも、リサは嬉しそうに聞いてくる。なんだこの変な感覚、ムズムズする。

 「いいよ、これくらい」と言ってから、レジに持っていく。値段は結構したが、潤から貰った資金で十分だった。ホントなんでこんな大金ポンと渡せるんだよ、アイツ。

「……ほら、誕生日プレゼントだ。大したものじゃなくて悪いな」

 店を出て、目を逸らしながら紙袋を渡してやる。我ながらとんだ渡し方だなと思うが、

「――はい、はい、ありがとうございます、ご主人様……リサは果報者です、一生大事にします」

「……大袈裟だな」

 まあ、リサのこんな顔が見れるなら――偶には悪くない、かもな。

 

 

 なお、帰ってから白雪に何か言われたリサが、偉く感動した顔で、

「ご主人様、ご主人様……! リサは、一生ご主人様のお傍で仕えます!」

 などと言われて、なんだなんだとされるがままになっていた。白雪には「キンちゃん、メイドはお妾さんにカウントしないけど、最初は私だよ?」といい笑顔で言われ、アリアからは白い目を向けられた。なんだよ、せめて何か言えよ。

 ……後で聞いたのだが、桔梗の花言葉は『永遠の愛』、『深い愛情』らしい。気付いて悶えていると、「いやあ流石キーくんですなあ」、「これは責任取るしかないな」などとバカ二人が煽ってきたので、それぞれ桜花のデコピン、頭突きを喰らわせてやった。

「俺だけ容赦なさすぎじゃね?」

「うるせえ殴り飛ばすぞ」

 

 

 




あとがき
 耐性は出来ても天然タラシなのは変わらないキンジ君でした。なお、彼とアリアはバカ二人のツッコミ役で胃痛枠です。代わりにHSSなしでも桜花が使えるくらいのパワーアップは果たしてますが。
 もう遅い? 寝てないからセーフということでお願いします(真顔)
 それでは今回はここまで。感想・評価・誤字訂正など、良ければ書いてやってください。凄い喜びます。
 それでは読んでくださり、ありがとうございました。
 
 


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コラボ 二人の魔術師 第一話 二人のやり方

作者(以下( ゚д゚))「という訳で、以前言っていた通り蒼沙様とのコラボ小説、開始でございます」
潤「その話いつ頃に上がったよ」
( ゚д゚)「……半年以上前ですかね?」
潤「よし、埋めるか。墓には『BAKA』って書いておくわ」
(; ゚д゚)「どこの鬼神様が来てたTシャツだよ!? 
 というかまず埋めるな、書けなくなるわ!」
潤「じゃあこのコラボ終わったら埋めるか」
(; ゚д゚)「とりあえず埋めるのヤメレ!?」

( ゚д゚)「……えー、コラボは四話+おまけの一話で構成する予定です。
 あと、潤は今回武偵ではなく、イ・ウーの所属です」
潤「正直、普通に武偵やってる方が違和感ありまくる」
( ゚д゚)「本編完全否定やん。
 まあ私も否定はしませんが。どう考えても悪属性ですし、こいつ」
潤「それな。あ、ところで作者」
( ゚д゚)「はい? なんです?」
潤「今回こっち側だし、『やっちまって』いいんだよな?」
(; ゚д゚)「……武偵法九条は守ってくださいね?」
潤「善処するわ」
(; ゚д゚)(アカンかもしれん)

蒼沙様の作品はこちら
作品名:緋弾のアリア -瑠璃神に愛されし武偵-
URL:https://syosetu.org/novel/147165/





Side:水無瀬凪優

秘密結社『イ・ウー』が所有する潜水艦、ボストーク号。リーダーである『教授』に頼まれごとをされた私の気分は、憂鬱である。

何故なら私、水無瀬凪優は。呼ぶのを頼まれた相手、遠山潤という男が苦手だからだ。

 正確には私でなく、私の相棒がだが。

 

「はい終わりっと」

「ユーくんユーくん! 次なの〇のメドレー弾いてよ~」

「お前Black Fat〇のメドレーさせた後にそれリクエストする?」

「理子が自由なのはいつものことじゃろ。それよりトオヤマジュン。妾はお前のピアノの腕だけは見込んでいるので、アイマ〇を所望する!」

「意外とミーハーなの選ぶのな、パトラ」

「潤、そこはニーベルンゲン行進曲だろ!」

「この流れでブレずにナチス入党の曲を選ぶのは流石だと思うわ、カツェ。

 じゃあ間を取って、シンフォギ〇メドレーで」

「フー!」

「いやどこが間を取ってるの」

 

 全く関係のない選曲に、談話室(という名のバー)の入口で話を聞いていた私は思わずツッコミを入れてしまう。本人が流れをぶった切ってるでしょ、これ。

 

「お? おおーなゆなゆ、ここではおひさー! どしたのどしたの、理子に会いに来てくれたのー」

「……」

「パトラが無言で引いてるんだが」

「ボコられたのがトラウマになってるんじゃねえの?」

「ちち、違うわ! 妾はいずれ世界を統べるファラオじゃぞ!? あんなことされたくらいで脅えたりはーー」

「ーーへえ?」

「ぴぃ!?」

 

 飛びついてくる理子を適当にあしらいながらパトラに流し目を送ると、変な悲鳴を上げて爆笑しているカツェの後ろに隠れてしまった。冗談のつもりだったんだけど。

 

「いや氷漬けの状態からかき氷よろしく足から削られていったら、誰だってトラウマになるだろうよ」

「そんなことしてないし、する気もないけど!?」

「お主そんなことするつもりだったのか、ジュン!?」

 

 私でもドン引くような所業を平然と騙る彼に思わず二人で叫ぶも、当人は笑いながら「冗談だよ、冗談」と言っている。笑えねーよ(真顔)

 

「で、主戦派(イグナティス)の俺に何の用よ? イ・ウー研鑽派(ダイオ)の水無瀬さん」

「理子もいるけど?」

「こいつはどこにでもいるだろ」

「それは確かに」

「理子は理子の行きたいところに行くのだー」

 

 それ気紛れってだけでしょ。

 

教授(プロフェシオン)が呼んでる。潤、一緒に……何、その顔」

「いやめんどくせえなって」

 

 そんな気はしたけど、口に出さなくていいから。

 

「いや、お互い言うことが推理と予測で分かってるんだし、様式美以上の意味がないなーって「下半身凍らせて無理矢理連れて行こうか?」

へい行きます」

 

 両手を上げてピアノから離れる潤。うん、素直でよろしい。

 

「えーユーくーん。言ったんだからシンフォメドレー弾いてよ~」

「自動演奏用の魔術式ピアノに入れたから、それで聴いて「逝ってヨシ!」お前覚えてろよマジで」

 

 いい笑顔で告げる理子に、三流悪役みたいなセリフを吐きつつ部屋を後にする潤。出る際に両手で中指立ててるのが、よりアホっぽいかな。

 

(……キンジとは別の意味で、変なやつだなあ)

 

 小さく溜息を吐きながら、私はその後を追う。自由すぎるだろ、こいつ。

 

 遠山潤。私、水無瀬凪優のルームメイトである遠山キンジの義理の弟であり、世界中への侵略行為を是とするイ・ウー主戦派の参謀と呼ばれている少年。

イ・ウーには私と入れ替わりで入学しているおり、高校もキンジと違い神奈川武偵校へ進学したため、面識はほぼない。名前で呼んでいるのは、苗字だとややこしいからだ。

 

「やあ潤君。君が凪優君にゴネた時間も含めて、僕の推理通りだね」

「ゴネるの分かってるなら呼ばなきゃいいでしょうに。

 というかしょうもねえこと推理してるあたり、暇なんですか教授?」

「なんでも推理してしまうのは、僕の悪い癖でね」

「それ別の探偵ですらない警部のセリフでしょ」

 

 艦長室に入るなり嫌味を飛ばす潤に対し、笑顔であっさりと受け流す教授ーー武偵の始祖と呼ばれる名探偵、シャーロック・ホームズ。

 

「凪優君、連れてきてくれてありがとう。僕が呼んでも潤君はサボタージュするからね」

「……」

「そんな子供か、みたいな目で見られても」

「子供か」

「口に出したよ。いや、顔合わせるとめんどくせえんだもん教授」

「子供か」

「二回言ったよ」

 

 合理的と言ってくれ。そう言って肩を竦める潤だが、無視して相手に労力を割かせる時点で合理的とは言えないだろう

 

「うん、仲が良いのはいいことだ。

 さて、本題に入ろうか。

僕の曾孫、アリア君と『緋色の研究』についてだがーー」

「大っぴらな干渉はしませんよ、俺は。アンベリールの一件で、表向きは死亡したことになってますし、消極的で行きますわ」

 

 シャーロックの言葉に被せて潤が自分の立場を告げ、懐から煙草を取り出す。これ以上言うことはない、というポーズだろうが。

 

「……今、潜航中なんだけど? あと潤、キンジと同い年なんだから未成年でしょ」

「煙草じゃなくて自作の魔導具だから、環境的にも年齢的にも問題ねえよ」

 

指から魔力の炎を出して火を点け、咥えたまま壁に背を預ける。吐き出される紫煙は確かに無味無臭だが、そういう問題ではないでしょうに。

 

「ふむ、まあ潤君はそうだろうね。

 では凪優君、君はどうだい?」

 

 教授は特に気にした様子もなく、視線を私に向けてくる。いや止めてくださいよ。

 

「……私は、『武偵として』関わっていきます。『緋弾の研究』を引き継ぐ以上、ウチの誰かとは関わるでしょうし、彼女一人では無茶でしかありませんから」

 

 もちろん、誰がどう来るのか事前に分かっていれば対策の立てようもあるがーー名探偵から情報を引き出すのは、探偵科(インケスタ)を専攻している訳でもない私には不可能だろう。

 

(まあ……)

 

横にいる参謀と呼ばれるこの男なら、別かもしれないが。

当の本人は視線を向けられても、上を向いて煙草モドキをふかしていた。絶対気付いてて無視してるな、これ。

 

 笑顔の教授を背に私達は艦長室を出て、艦内の廊下を横並びに歩いていく。部屋から出た瞬間潤はタバコモドキの火を消していた。多分話早く終わらねーかなーとか思ってたのだろう。

 

「……」

「なによ? 野郎の顔なんか見ても仕方ないだろうに」

「男でも、美形なら別なんじゃない?」

 

 嫌味のような言い方になってしまったが、事実としてこの男は美少年と呼べる類だ。

 端正と呼べる整った顔立ちに、細身だが引き締まった肉体。

服装はあちこちにアクセサリーと装飾が施された、黒と赤を基調としたいわゆるビジュアル系と呼ばれる派手なものだが、違和感なく着こなしている。

そして何よりの特徴は、肩口まで伸ばした癖のない髪と、やや鋭いが涼しげな印象を与える、切れ長の瞳。この二つが『血を連想させる暗赤色』であり、派手目の服装によく合っている。

 

 もっとも、当人は自覚がないのか興味がないのか、

 

「ふうん。じゃあ俺は対象外だな」

 

 視線を前に向けたまま、どうでも良さそうな口ぶりである。武藤が聞いたら、泣きながらキレそうね。

 

「そういや水無瀬さん、キンジは元気? また女引っ掛けてる?」

「義理の兄を何だと思ってるの」

「金一の兄貴共々、無自覚でも自覚してても女難の相が取れない半永久モテ期」

「……何も間違ってない、とは言わないでおくかな。

 まあ、元気と言えば元気。「アイツが死んだことで凹んでたら、生きてようが死んでようが指差されて笑われる姿が想像できて腹立つ」っていうよく分からない理由で、依頼も訓練もこなしてるよ」

「流石キンジ、よく分かってる」

「性格悪いって言われるでしょ」

「鏡いる?」

「どういう意味だコラ」

 

 殺気と冷気を合わせて纏い睨み付けてやると、大袈裟な動きで下がってから両手を上げて、降参のポーズ。

 

 

「冗談だっての。イ・ウー最弱の名を欲しいままにしている奴を、そんなに脅すなよ」

「……それ、あなたが同期に技術を教えてるからでしょ?」

「お陰で全員にごぼう抜きされたわ」

「自業自得じゃん」

「違いねえ」

 

 かははと笑う潤。超えられたことを気にした様子はないが、それはそれでどうなのだろう。

 この男、教えるのは凄い上手いけど、本人の力量は微妙(教えられたジャンヌ曰く、「武芸も超能力も一流と呼ぶには程遠いな」とのこと)らしいので、育てた相手が簡単に自分より強くなる、という状態になっているらしい。

 理子曰く、「ユーくんは何でも惜しまず気にせず教えてくれるんだぜー」らしいし。

 

(……まあ、こうやって話してると)

 

 感じる印象は肩肘を張らず、気楽に話せる相手という感じだ。ちょっと軽薄な感じはするけど。

 少なくとも、必要以上に警戒する相手ではない、と思う。そういう演技なのもかしれないのは、否定しきれないけど。

 

「〈……〉」

 

 だというのに、私の中にいる相棒、瑠璃ーー色金の末っ子、瑠璃色金は、顔を合わせた時からずっと、彼を睨んでいる気配を感じる。

 

「(……何をそんなに警戒してるの、瑠璃?)」

 

 潤には聞こえないよう、自分の内側に潜む瑠璃に語り掛ける。極度の人見知りだが、超々能力(ハイパーステルス)を操れる色金である彼女は、必要以上に身構えることはないはずなのだが。

 

「〈……別に、警戒してないよ。ただ〉」

「(ただ?)」

「〈こいつが、気に入らないってだけ〉」

「(……なにそれ)」

 

 あまりにも子供っぽい理由に、肩の力が抜けてしまう。

 生理的に無理とか、そういうのだろうか。感覚を共有しているはずなのに、どうもよく分からない。

 

「〈ずっと視られてるような、知っていて無視されるような……とにかく、見られてるようで嫌になる。凪優も感じないの?〉」

「(……まあ、視られてるのは間違いないだろうけど)」

 

 そんなに気にするほどだろうか。私が内心首を傾げていると、潤はこちらに視線を向け、オーバーリアクション気味に肩を竦める。

 

「随分嫌われたもんだなあ。まあ二人一緒ってわけじゃないし、中の人から無条件に襲われないのは幸運かね?」

「……人の心を読むのはどうかと思うんだけど?」

「読んでねえよ、『予測』しただけさ。死ぬのは勘弁だしな」

「私は今、武偵なんだが?」

「治外法権のイ・ウー(ここ)で、遵法精神を持ち合わせる必要はないだろうよ。

 あんた達がその気になれば、俺なんか一捻りで海の藻屑にクラスチェンジしちまう」

「人を殺人狂(サイコパス)みたいに言わないでくれる? 私は普通の感性だよ」

「ふむ。普通、普通ねえ」

「……何?」

 

『普通』という言葉の何が面白かったのか、含み笑いをする潤を胡乱げな目で見つめていたが、

 

「いや何、どこかの『最悪』が言ってたんだがな? 普通ってのは『常人の平均より劣っている状態』、らしいぞ?

 つまりだ、水無瀬さん。俺みたいな凡百の輩ならともかく、あんたは人格面において他人より劣っていると自称してるようなもんだがーー

 そこんところ、どうなんだ?」

「ーー何? 喧嘩売ってるのアンタ?」

「いやいや、ちょっとしたアドバーーげぺ!?」

 

 ーーいけない、脅しのつもりが凍てつく氷柩(ゲリドゥスカプルス)を発動させてしまった。お陰で間抜け面の氷のオブジェが出来ちゃったけどーー

 

「(まあ、いいか。自業自得だし。

 瑠璃が気に入らないって理由、分かった気がする)」

「〈いや、こういうのじゃないんだけど……〉」

 

 瑠璃が何か言ってるけど、凍り付かせて少しスッキリしたので、そのままにしておくことにした。

 

(……まあ、普通って言い方はやめておくかな)

 

 次からは、真っ当な性格とでも言えばいいだろう。それはそれで、凍らせたこいつにからかわれる気がするけど。

 

 余談だが、放置していた潤は通りがかった仲の良い同期に助けられたらしい。帰る前に寄った予算会議で、普通に進行役としてメイドのリサと一緒に喋ってたからね。

 

 その際、限界まで値段を削られて魂が抜けていたココに、何やら個人的な『補填』をしてやたら感謝されていたけどーー好物のお菓子とかあげれば復活するでしょうに。

 

「……短気は損気、って言葉があるんだけどなあ。まあ、俺がどうこう言うことじゃねえか」

 

Side:遠山潤

「ーー動いたなあ」

 

 水無瀬凪優と邂逅して、約一月後。俺は現在、イ・ウーから東京に一人で移動していた。

 

 銀髪にワインレッドアイの美人さんが武偵校の制服着てるからすげえ目立つし、監視する側としては楽だね。

 

「人数は……二人、いや二人か? まあ人型だし、二人でいいか」

 

 狙撃用のスコープ越しに相手ーー水無瀬凪優とその相棒、実体化した瑠璃神を観察する。

 トヨタFT86 GT Limitedーー随分いい車で二人が向かうのは、羽田空港。爆弾魔の『武偵殺し』、犯人の目処がついているからこそ、先に潜入してホームズの曾孫とパートナーであるキンジを、サポートするつもりなのだろう。

 

「でも、それじゃあ困るんだよ」

 

 先のバスジャックも合わせて、過度の干渉は成長の妨げになる。それに、

 

「順調に進むだけじゃ、面白くねえしなあ?」

 

 口の端が吊り上がっているのを感じながら、HK417の照準を前輪に向け、鉛弾が吐き出される。

 殺傷圏内(キリングレンジ)である1200mなら、動的対象でも狙うのは難しくない。

 だが、狙撃銃としては威力不足の7.62mm弾では、防弾性のタイヤを貫通するのは至難だろう。

 普通の弾種であれば、だが。

 

 着弾した瞬間、派手な爆発音と衝撃が発生し、車体を軽く浮かび上がらせる。やっぱ引くくらい爆発するな、炸裂弾(グレネード)

 

「おし、停止っと」

 

 炸薬量は減らしたので、防弾製である車の内部までダメージは及んでないが、タイヤは吹き飛んだし、運転するのは無理だろう。

 

『いたた……なんなの、もう。凪優、大丈夫?』

『つう……大丈夫、エアバッグ起動したから。

 ああもう、やってくれるよね遠山潤。干渉は消極的で最小限、って言ってた癖に』

『それは『緋色の研究』の継承者である神崎・H・アリアに対してであって、あなた達は範疇外です、っと』

『……ご丁寧に、刺客まで用意してるってわけ』

 

 爆風で歪んだドアをこじ開けて出てきた水無瀬凪優は、信号機から飛び降りてきた、白髪碧眼の女性を睨み付ける。おっかないねえ、殺意増し増しじゃん。

 白の女性に付けてもらったマイク越しに三人の会話を聞きながら、俺は再び狙撃の体勢に入る。

 

『初めまして、水無瀬凪優さんと瑠璃神様。

 ……ああ、研鑽派の『魔術師』殿と呼ぶべきでしょうか?』

『……今の私は武偵よ、その名前で呼ばないで欲しいね。

 それで、あなたは誰? 『魔術師』の名前を知ってるってことは、イ・ウーの人間でしょうけど』

『はい、ボクはイ・ウー主戦派の一人、西儀天音(さいぎあまね)です。水無瀬さんが休学後に入ったので、知らないのも無理はないかと』

『随分簡単にばらすんだね』

 

 瑠璃神が目を細めつつ、宿主と同じように臨戦態勢となる。

 

『潤さんから、正体を明かしても別に構わないと言われてますので』

『……やっぱりあいつが関わってるか。じゃあさっきの狙撃もそうだよ、ね!』

 

 喋りながら、水無瀬さんは腕を振るう。

 その手から出現したのは、17本の氷の矢。鋭利な先端は右上ーー俺がいる屋上のに向けて、真っ直ぐ飛んでくる。

 

「おーやや、バレてたか。こわいこわい」

 

 軽口を叩きつつ、HK417を掃射。フルオートで放たれた17の弾丸は、迫りくる氷の矢を狙い違うことなく打ち砕く。

 

「ざーんねん、あたらなーー」

 

 リロードしながら喋っていた時、先程砕いた氷がこちらへ飛んできて、俺の周囲を漂っていた。

 

氷爆(ニウィス・カースス)

 

 魔術式を宣言し、視線だけこちらを見てきた水無瀬さんの目はーー笑っていた。

 

「……矢はブラフ、本命はこの氷の微粒子ってわけか」

 

 やるねえ。そのつぶやきは、冷気を纏った爆発音にかき消された。

 

 

Side:水無瀬凪優

 天音と名乗った女性を見つつ、私はビルの屋上ーー潤がいるだろう場所で爆発が起こるのを確認した。長距離攻撃だから上手くいくか不安だったが、あの様子なら問題ないね。

 

「どう、瑠璃?」

「……うん、気配は消えた。詳細は分からないけど、しばらくは動けないはずだよ」

「そっか、それは重畳。

 さて、西儀さんだっけ? 狙撃手は潰したんだし、大人しく降伏してくれたら痛い目見なくて済むけど?」

「……ふふっ」

 

 私の警告に対し、天音は着ている和服の袖口に手を当て、含み笑いを漏らす。

 

「……何笑ってるのさ」

「いえ、大したことでは。一人倒したくらいで有利を確信しているのが、おかしくておかしくて……」

 

 クスクス、と余裕ぶった笑い声をあげる彼女に、私は眉を寄せる。不愉快だが明らかな挑発だし、誘いに乗ってやる気はない。

 

「へえ、まだ私達に勝てる気でいるの?」

「さあ? それはどうでしょうね。ただーー」

 

 天音が口元を抑えるのとは反対の手を広げると、真横に『穴』のようなものが出現し、中から身の丈以上の長さを持つ、大鎌が這い出てきた。

 

「潤さんに『お願い』された以上、ボクに断る権利はありませんし、断る気もありませんから」

 

 大鎌を両手で抱えるように握る彼女の目は本気で、退く気はないようだ。

 

「……なにあなた、潤に脅されでもしてるの?」

 

「(瑠璃、一度戻って。あと、第一形態開放準備)」

「〈おっけー、あと十秒で準備は整うよ〉」

 

 会話で時間を稼ぎつつ、瑠璃との融合準備を進めていく。天音は気付いていないのか、形のいい眉を僅かにしかめ、

 

「脅す? 潤さんはそんな非効率的なことはしませんよ。

 ……これは地獄のような状況から救ってくれたあの人への恩返しであり、ボクの意志です。

 ええ、もし潤さんが命じるなら、この命だろうと喜んで捧げましょう。

 例え万人が、いえ、潤さんが命の尊さを訴えようとーーボクにとって、彼の『お願い』は何よりも優先され、幸福なことなんですから」

 

 何の迷いもなく言い切る姿は、狂信者のそれに近いものを感じさせる。

 ……自分の意志だとしても、遠山潤は人を狂わせてるね。

 

「そう。じゃあそのお願いとやらはーー達成できないな!」

 

 瑠璃との『心結び』が終わった私は、叫びながら小太刀二刀を構え、突進する。

 それに反応して、天音も構えを取るがーーその動きは、瑠璃と心結びを行った私に比べ、明らかに遅い。

 

(もらっーー)

 

「!?」

 

 あと一歩というところで、強化された聴覚が左側からの音を感知し、

「ちいっ!」

 

 咄嗟に持ち替えた拳銃、マテバオートリボルバーを片手撃ちし、飛んできた7.62mm弾にぶつけて弾く。

 

「〈ど、どういうこと!?〉」

「(瑠璃、状況説明!)」

 

 狼狽した様子の瑠璃を落ち着かせるため、敢えて強めの口調で説明を促すが、

 

「足を止めるのは、悪手ですね」

「くっ、この!」

 

 銃撃の間に迫ってきた天音が、上段から鎌を振るってきたので、残った小太刀によって受け流す。

 思ったとおり、格闘戦では私の方が遥かに上だが、

 

「ああもう、鬱陶しい!」

 

 確実に当たる一撃を振るおうとしたその瞬間、今度は真正面、天音の後ろから飛来した弾丸に妨害される。

 

「〈凪優、あいつの気配がそこら中からする!

 1、2……9!? ちょうど私達を囲んでる形!〉」

「(はあ!? 何あいつ、分身でも出来るわけ!? 何でもありか!?)」

 

 

 

Side:遠山潤

「何でもは出来ねえよ、出来ることだけだ」

 

 どっかの委員長キャラみたいなことを言いつつ、天音さんに迫る剣戟に対し、あと一歩のタイミングで迫ったところで支援射撃。水無瀬さんの動きを止めることを徹底する

 

「さて、もう隠れる必要はなくなったし。遠慮なくいきますか」

 

 気配遮断をやめ、再びHK417を構える。

 俺が魔術で用意した分身は、思考力はそのままのため、独自の判断で動ける。自分だから連携を取るのも容易だ。

 

 別方向からの分身が、水無瀬さんが放った銃弾を再び叩き落とす。この戦法、ストレス溜まるって中々の評判なんだよな。

 

「さてさて、本物の俺はどこでしょーか?」

 

 笑いながら、再度HK417から鉛玉が吐き出された。何人目で当てられるかな?

 

 

 

Side:水無瀬凪優

「この、くたばれ!」

 

 銃弾の方向から位置を割り出し、逃げられないよう氷瀑で吹き飛ばす。これで四人目、確実に潤の分身を減らしているけどーー

 

「はっ! ーーぐっ……!」

「また一歩届かず、ですね。疲れてきたのでは?」

「言って、ろ!」

 

 天音の一撃を避け、攻撃ーーしようとしたところで、またも後方からの妨害射撃。集中も途切れてしまい、魔術は霧散してしまう。

 

「くそ、本当にうざったい……!」

 

 攻撃が命中する瞬間、魔力を集中させて放とうとした瞬間。確実に妨害の狙撃が入り、こちらの手を潰してくる。

 

 ここまで戦ってると、相手の目的も見えてきた。これは私を倒すというより、

 

「〈凪優、ペース落として! このままじゃ保たないよ!?〉」

「(分かってーーああもう!)」

 

 大鎌による横凪の一撃を避けてすぐ、追撃の銃弾。瑠璃に言われたばかりだが、足に超能力を回して大きく跳躍し、距離を取る。ほぼ密着状態からでも正確に私だけを狙って技量は凄まじく、性質が悪い。

 

(ジャンヌの奴、どこが一流には程遠いだ!)

 

 内心でイ・ウーの同期を罵倒しつつ、間合いを空けて呼吸を整える。今のところ状況は互角かやや有利だが、消耗を強いられている以上逆転は時間の問題だ。

 

「は、あ……」

 

 妨害のための狙撃によるストレス、心結びによる消耗、そしてーー

 

「ーーっ!?」

「『音』が効いてきましたね」

 

 天音が使っている大鎌から聞こえる、甲高い風のような音の不快感。これが、私の動きを鈍らせる。

 先程考えたけど、こいつらの狙いは消耗を強いること。だからこそ、短期決戦で決めたいのだが、

 

「この、ちまちまうざったい……!」

 

 何度目か分からなくなるくらい受けた狙撃での妨害。変わらず続く嫌らしい手口に、思わず苛立ちの声を上げつつ拳銃を構えーー

 

 

「そうかい。じゃあ一気に決めようか」

 

 

 その声は、突如後ろから聞こえた。天音から距離を離していた私は、思わず振り返ってしまう。

 

「〈!? 嘘、気配は減ってない……最初から隠れて……!?〉」

 

 瑠璃が感知したとおり、三歩ほど後ろで笑いながらUSPの銃口を向けている潤は、狙撃をしていたどれとも違うものだ。

 背後を取られるという致命的な状況ーー

 

(……ん?)

 

 だったが、ふと、彼の動きに違和感を抱く。

 

「じゃあさよなーーぷげ!?」

 

「は?」

「〈へ?〉」

「ーーえ?」

 

 故に私は回避でなく、振り向く勢いのまま小太刀を振るいーー柄がにっくきアンチクショウの鼻っ柱にクリーンヒットした。

 心結びで通常より速度の乗った一撃をまともに喰らい、潤は受け身も取れず吹っ飛び、電柱に激突する。潰れたカエルみたいになったぞ、ナニコレ。

 

「……潤さん、何やってるんです?」

 

 天音が明らかに演技ではない呆れた様子ながら駆け寄る姿を、私は心結びで昂った動悸を鎮めつつ、推測を口にする。

 

「……もしかしてあの分身、自分のスペックを割くものだった?」

 

 そう予測を立てる。幾らイ・ウー最弱を自称してるからって、さっきの動きは並の武偵かそれ以下の動きだったし。

 

「〈ええ……バカなの?〉」

「(私もそう思う)」

 

 さっきまで焦っていた瑠璃も、間抜けな急展開に困惑している。何この空気。

 

「おおお、鼻骨完全に折れてやがる……」

「……とりあえずティッシュを。潤さん、見せられる顔じゃないですよ」

「いやそれじゃ治らんから。とりあえず止血用には欲しいけど」

 

 ゴキン、とやたら痛々しい音を立てて折れ曲がった鼻の位置を自分で元に戻す潤。戻した勢いで余計溢れてきたけど、鼻血。

 

「うわあ」

「引くなよ」

「いや引くでしょ。今最高にカッコ悪いけど、あんた」

「格好つけて死ぬくらいなら、多少の恥は許容すべき」

「今のあんたの状態だと、説得力が凄いわね」

 

 女子に介抱されながら鼻血拭ってるとか、間抜けにもほどがある。完全に鼻声だし。

 

「〈……あ、凪優。周りの分身が消えたよ。多分、治療のために魔力足りないから、戻したんじゃないかな〉」

「(……自分から有利な状況捨ててない?)」

「〈だねえ……バカかな?〉」

「(頭のいいバカってやつだと思う)」

 

 もう戦う雰囲気じゃなくなり、瑠璃とそんな雑談を交わしていると、やっぱり聴き取れてるのか潤はジト目を向けてくる。いや事実でしょ、というか人の会話(心中)を覗くんじゃない。

 

「とりあえず、器物損害と傷害罪諸々で逮捕するから、大人しく連行された方が身のためだよ?

 あと車は弁償してもらうから」

「弁償の方がガチボイスな件」

「潤さんのせいで不利になりましたけど……どうします? ボクじゃなくて、潤さんのせいで」

「二度言わんでいいわい、知ってるから。

 目的達成したし、逃亡一択でーーえちょっと天音さん、何故俺はお米様抱っこされてるんです?」

「潤さんに合わせて逃げるより、魔術込みならこっちの方が速いので」

「事実だけど言われたくなかったなあ」

 

 女子に担がれる男子という、大変間抜けな構図にため息を吐きつつも、抵抗する様子はない潤。コイツにプライドはないのだろうか。

 まあ、当然だけど、

 

「逃がすと思ってる? 氷槍(ヤクラーティオー)ーー」

「逃がして欲しいねえ」

 

 足止めをしようとした矢先、抱えられた状態の潤がUSPを向ける。引鉄に掛けた指の動きは分身が消えたためか、先程の比ではない。

 

(でも、同時なら問題ない)

 

弾雨(グランディニス)!」

 

 発砲と同時、詠唱を終えると先程の氷の矢より一回り以上も大きい、槍と言えるサイズの氷塊が、二人に向けて猛然と迫る。

 

進路上の9mmパラベラム弾と氷の槍が対峙し、衝突ーー

 

次の瞬間、銃弾から暴力的な光が放たれ、視界を潰してくる。

 

「うっ!?」

「〈うわ、まぶし!?〉」

 

 反射で目を閉じながら、自分の失敗に歯噛みする。武偵弾は最初に使われていたというのに……!

 

「それでは、次回の公演をお楽しみにー」

 

 ふざけた言葉の後、銃声。音は一発だったが、空気から感じられる銃弾の数は六発。キンジが言っていた、十八番の速射(クイックドロウ)か。

 

 視界を潰されながらも小太刀で全弾叩き落としたため無傷だが、逃げるだけの時間は与えてしまった。

 

「(瑠璃、追うよーー)」

「〈ううー、まぶしい、まぶしいよお……〉」

「……」

 

 ダメだこりゃ。目を抑えてうずくまってる姿が容易に想像できる瑠璃のセリフに溜息を吐き、心結びを解除する。

 

「〈うー、ようやく普通に見えるようになってきた……凪優は大丈夫?〉」

「(平気、咄嗟に庇ったから)。

 追跡は……無理か」

 

感じられる二つの気配は、随分遠ざかっていた。瞬間移動なら追いつけるかもしれないが、減っている魔力をさらに消耗してしまうし、待ち伏せされているかもしれない以上、リスクは避けるべきだろう。

 

「〈逃げられちゃったね……それにしても遠山潤、本当にふざけたやつ!〉」

「(でも、少し厄介だ。次は最初から潰す気でいかないと)」

 

 瑠璃が憤っている中、私は顎に手を当て先程の戦闘を振り返る。

 今回のように消耗を強いられる戦いを避けるには、やはり短期決戦が一番だろう。ダメージは大したことないが、心結びの消耗が思ったより激しく、全力の戦闘は一日は無理だろう瑠璃も既に眠たそうな気配を感じるし。

 

(『武偵殺し』の一件、予定変更しないとかな。正面からじゃなくて、変装して先に侵入しておいて……)

 

「……っと。ようやく来たか」

 

遠くから響く、サイレンの音。あれだけ銃声どころか爆発音も響いていたのに、随分な重役出勤である。

 

「〈あー、それは……結界、じゃない、かなあ……〉」

「(結界? ……ああなるほど、さっき感じてた違和感はそれか。

 瑠璃、何か痕跡とか……瑠璃?)」

「〈くー……すぅ……〉」

(……もう寝てるし)

 

 脳内で響く寝息に、私も疲労が蓄積しているのを感じてしまうため眠った瑠璃を羨ましく感じてしまう。

 だが、文句も言っていられない。とりあえず警察との面倒な接触を避けるため、私もここから立ち去ろうとーー

 

「……あ」

 

 するも、前輪が吹き飛ばされ、焦げた状態で放置されているFT86を思い出した。

 直撃部分は基盤が歪んでいてすぐ直せる状態じゃないし、置いていこうにもナンバープレートがあるから、特定は容易いだろう。

 

「……遠山潤。ぜっっったいに捕まえて弁償させてやる」

 

 とりあえず捕まえたらOHANASHIだ。停車するパトカーから余計時間を喰わされることが決定した私の姿は、出てきた警官が怯える程度には不機嫌だったという。

 

 

Side:遠山潤

「おーいて、容赦なく殴ってくれやがって」

「あれは無茶無謀に出てきた潤さんが100%悪いと、ボクは思います」

「殴った方が悪いって言わねえ?」

「それは時と場合によるでしょう」

 

 ごもっともで。でも優しくしてもバチは当たらんと思う。意味はないけど(オイ)

 

 天音さんと一緒に、もとい担がれて辿り着いたのは、武偵校周辺に用意したセーフハウスの一つ。イ・ウー内でも存在を知るのは主戦派の極一部だけだから、連中か推理した教授が水無瀬さんにチクらない限り、バレることはないだろう。

 

 折られた鼻を魔術で治している間に、一応周囲の警戒をしていた天音さんは不審な目を向けながら口を開く。

 

「そもそも、あの時反撃されるのは潤さんなら予測できたでしょう? わざわざ声まで掛けて気付かせた(・・・・・)んですから、寧ろ殴られたくらいで済んだのは幸運かと」

「殴られる以上があったと」

「氷漬けくらいはあるでしょう、彼女なら十分に。

 そもそも、今回の襲撃がボクには分かりません。水無瀬凪優と瑠璃神の情報は十分に集めているのに、中途半端な準備しかしなかった上、今後相手に警戒させるような真似をしたのは何故ですか?」

 

 本気で理解できない、と首を傾げる天音さん。

 確かに味方であり、俺の性格を知っている彼女からすれば、今回の襲撃は無駄にすぎると感じても、不思議ではない。

 

 HK417のリロードと簡易点検を行いながら、俺は天音さんに向けて指を二本立てる。

 

「理由は三つ。一つ目は『緋弾の研究』において、水無瀬凪優の脱落を教授が認めていないから。

 だけど二つ目、アリアとキンジだけでの実力、コンビネーションが現時点でどの程度か、俺が見たかったから。今回の襲撃が妨害と消耗メインなのは、これが一番の理由だな。

 そんで三つ目は、水無瀬さんがどの程度の実力者なのか、実際に目にしておきたかったから」

「……それだったら、ボクだけに戦闘を任せても良かったのでは?」

「実体験は大事さ。情報だけで高みの見物を決め込んでいると、いつか足下を掬われちまう。

 ま、今回で水無瀬さんの戦闘スタイルは、おおよそ掴めたしな」

「…………」

 

 ちゃんと説明したのに、天音さんの疑惑は取れない様子だった。あれれー、ちゃんと説明したのにおかしいぞー(棒)

 

 横からの視線をしばらく感じていたが、諦めたように溜息を吐いてから、ソファーの横に座る。近い近い、なんですり寄ってくるのよ。

 

「……潤さんがそう言うなら、これ以上は聞きません」

「いや、聞きたいなら納得するまで話すけど?」

「納得するのと情報を開示するのは別でしょう? ならボクは、これ以上無駄なことはしません。素直に休みます」

「そうかい。じゃあ俺はもう一仕事行ってくるから、天音さんはここの防衛と撤退の準備頼みます。明日の夜までには帰ってくるんで」

 

 HK417の整備を終えた俺は立ち上がり、着替える準備をする。といっても、上着とあるものを付けるだけだが。

 

「しかし、二日連続で精力的に仕事をこなすとは、ワーカーホリックみたいだわ」

「世のブラック企業勤めが聞いたら殺されますよ、それ」

「日本人は働きすぎなんだよ。ブラック企業を全部滅ぼして、新しくホワイト企業作った方がこの国のためだろ。

 ……いっそ誰か焚き付けるか、今の業務体形は非合理だし」

「潤さんが言うと冗談に聞こえませんね。まあいいことなのかもしれませんが。

 それで、今度どちらにお出かけですか? 必要ならボクも護衛として付いていきますが」

「いや、顔合わせと様子見だけだから今回は平気」

「……潤さん、完全に悪人の顔になってますけど」

「悪人だよ、少なくとも今から会おうとしてる奴にとっては、な。

 さてさて、情報は見ていたがーー二年の成果は、どこまで実を結んでるかね?」

 

 間宮あかり。標的の名をつぶやき、俺はセーフハウスを出る。

さあ、どれだけ足掻けるのは見せてくれよ? 間宮の曙座の後継者さん。

 

 

 

Side:間宮あかり

「やった……!」

 

 アリア先輩に今回の作戦、『AA』を託された、因縁の夾竹桃との戦い。

 

私の『鷹捲』は、M134(ミニガン)を伝って持ち主の夾竹桃に届き、パルスの電流が彼女を襲う。古文書を見て毒と思っていたみたいだけどーーまあ、ある意味では間違っていないのかもしれない。

 

「ーーーー」

「ーーあっ、まずい!?」

 

 頭から水面へ落下していく夾竹桃に、私は焦りの声を上げる。武器越しとはいえ、鷹捲のダメージで動くことの出来ない彼女を放置すれば、溺れちゃう。

 

 私は慌ててレインボーブリッジから飛び降りようとしてーー違和感に気付いた。夾竹桃が落ちていく水面、そこが小さな渦を作っていることに。

 

「な、何……?」

 

 思わず足を止めると、夾竹桃が水面に叩きつけられる直前、大きな水しぶきを上げながら出てきたのは、

 

「く、鯨ぁ!?」

 

 全長10メートルほどの、黒い鯨。予想外のものが出てきて思わず叫んでしまった。いや本当にどういうこと!?

 

 混乱しながら見ていると、夾竹桃は鯨の上に落ちるが、目立った外傷は無いようで安心した。

 

幾らののかに符丁毒を打ち込み、志乃ちゃんを傷つけた憎い相手とはいえ、死んでいいとは思っていなーー

 

「ーーーーっ!?」

 それに気付いた瞬間、息が詰まる。思考も瞬きも忘れ、視線はただ一点に固定された。

 

 倒れた夾竹桃の近く、鯨の上に乗っていたもう一人。左右対称に八つの黒い穴が開いた、奇妙なデザインの白い仮面をこちらに向け、全身を黒いローブに包んだ、正体不明の男。

 

「……っ」

 

ギリ、と奥歯を強く噛みしめる。そうでもしないと、理性を振り切って襲い掛かってしまいそうだからだ。

 

 

 

 思い出すのは、二年前の茨城での光景。間宮(私達)の実家が焼かれていき、夾竹桃に毒されるののかと、見ていることしか出来なかった私を睥睨する、あいつの視線。

 

『事が済んだ以上用済みだ、捨て置け。毒された以上、どうせ死ぬ』

『……脆いな、間宮一族。期待外れだ。策一つ弄するだけで、公儀隠密の末裔もこの様か』

 

 炎の中で紡がれた、興味も関心もない冷めきった言葉。夾竹桃がイ・ウーと呼んでいた連中をけしかけた、元凶。

 

 

 

火掻(ひかぎ)ぃ!!」

 

 あらん限りの感情を込めて、仲間に呼ばれていたあいつの名前を叫ぶ。

 今、あたしはどんな顔をしているんだろう。志乃ちゃん達には、見せられないだろうな。

 

『久しいな、間宮あかり。壮健そうで何よりだ』

 

 あたしを見上げるあいつの声音は、二年前と変わらない。男か女かも分からない、不自然なノイズがかったもの。

 分かるのは、言葉に何の感情も込められていない、無機質なものってことだけだ。

 

「あなただけは絶対に、許さない……!」

 

 二年経っても、あいつを許せない気持ちは微塵も衰えていない。

 夾竹桃を回収しに来たのだろうが、出てきたのならまとめて逮捕してーー

 

『倒れた友人を見捨てて来るか。復讐者に相応しい行動だ』

 

 その言葉と向けられた銃口に、レインボーブリッジから飛び降りようとしていたあたしの動きは止まった。

 

(まさか……)

 

 火掻が向ける拳銃ーールガーp08を背後に感じながらも、あたしは倒れた友達、志乃ちゃんの傍に駆け寄り、抱え起こす。

 

「志乃ちゃん、志乃ちゃん!?」

「う、う……あかり、ちゃん……?」

 

 夾竹桃のミニガンに撃たれた志乃ちゃんだったが、当たりどころが良かったのか、大きなケガは無いようだ。

 

「っ、よか、った……」

 

 涙をこらえながら安堵の息を吐いていると、背後から音が聞こえてきた。

 

『言動に惑わされる、か』

 

 予想した銃声ではなく、あいつの声と水が巻き上がる音。

 見ると、火掻の周囲で水が巻き上がり、渦を形作っている。

 

「まっ、みきゃっ!?」

 

 私が言いきる前に盛大な水しぶきが上がり、同時に投げつけられた何かが額にぶち当たる。

 

「い、いたいぃ……なにすんの!?」

『符丁毒の解毒法。夾竹桃の頭を覗いて書いた』

「ーーえ?」

 

 痛みを忘れて顔を上げると、既に二人はいなくなっていた。

 あたしは足下に落ちていた巻物を拾い、開いてみると、

 

『勝者の権利。嘘と思うなら捨てればいい』

 

 と、最初に書かれており、あたしには理解できない図面と材料が書かれていた。

 

「これがあれば、ののかを……?」

 

 半信半疑だったが、あたしは巻物を握りしめて立ち上がる。夾竹桃は逃がしてしまったが、最優先はののかを助けることだ。

 

『間宮様、大丈夫ですの!? 状況はどうなりました!?』

「麒麟ちゃん! 夾竹桃には逃げられたけど、符丁毒の解毒方法は手に入れた! あと、志乃ちゃんがケガしてる、意識不明の状態!」

『! 了解ですわ! 今から迎えに行きます!』

 

 電話越しに車のエンジン音が聞こえ、私は志乃ちゃんに応急処置を施しながら待つことにする。何はともあれ終わった、けれどーー

 

(火掻……っ)

 

 夾竹桃を連れてまんまと逃げていった相手に、あたしは内心歯噛みする。

 目の前にいたのに、何も出来なかった。消耗はしていたけど、そんなの理由にならないし、したくない。

 

「次は、必ず……」

 

 嫌な感情に染まるのを感じながらも、あたしは抑えられなかった。

 最後の言葉を言わなかったのは、武偵として、何より凪優お姉ちゃんとの約束があったからだろう。

 

Side:遠山潤

「……あら。似合わない仮面を着けているから誰かと思ったら、潤だったのね」

 

「起き抜けに憎まれ口を叩けるなら、十分元気だな」

 

 水路を使って撤退に成功し、セーフハウスからの撤退準備を進めていると、夾竹桃が目を覚ました。

 拾った時は何故か下着姿だったが、今は寝ている間に天音が着替えさせたため、青色のワンピースを着させられている。

 

「変態」

「俺に言うな、間宮あかりに言え」

 

 完全に不可抗力だろ。

 

「助けてくれって、言った覚えはないのだけど?」

「聞いた覚えもないから、記憶も正常だな。

 単純にこっちの都合だ、気にするな」

「そう。なら、野良犬に噛まれたとでも思っておくわ」

「そこは感謝してくれてもいいんじゃないですかねえ」

 

 なんで悪い意味なんだよ、とツッコミ入れたつもりだが、丸っきり無視された。ひでえなオイ、まあいいけどさ。

 

「潤さん、準備終わりました。あら、夾竹桃さん、目が覚めたのですね」

「おはよう、天音。この服はあなたが?」

「ええ、ボクの手持ちから勝手ながら。サイズは少し大きいと思いますが、下着姿のままには出来ませんし」

「そう、ありがとう。潤に着せられたかとおぞましい気分になっていたけど、杞憂のようで良かったわ」

「扱いが酷すぎていっそ清々しく感じる」

 

 俺に女装(そんな趣味)はねえよ。別ではやらされてる? 知らん(メメタァ)

 

「それで、潤。あなた、何が目的で私を助けたの?

 間宮あかりの前に姿を現した以上、表で動く気のなかったあなたも狙われるでしょうに」

「んー? いや、大した理由じゃねえよ。

 お前さんから情報が漏れるのを防ぐためと、間宮あかりを試すための確認をしたかったんでな」

「試す?」

 

 夾竹桃が疑問を口にするが、俺は答えない。代わりに窓の外を向き、

 

「さて、成果は見せてもらった。次の手を始めようか。

 水無瀬凪優、間宮あかり、神崎・H・アリア、そしてキンジ。ここから楽しみだなあ?」

 

 誰に言うでもなく呟き、月明かりの下で笑った。

 

 

おまけ

 キンジ・アリアVS理子、ANA600便にて

 

「ユーくんはね、今ーー理子の恋人なんだよ?」

「…………は? え? 

 マジか、あの難攻不落なんて言葉が生易しい恋愛外道に春が来たのか?」

(恋愛外道って何……?)

 

「……やーごめんキーくん、ぶっちゃけ見栄張りましたですはい。ユーくん堕とすなら、キーくんとお兄さん同時に口説いた方がマシかにゃー」

「どんな尻軽だよとツッコミ入れたいが、アイツと比較されると何も言えん」

「いやどんなやつなのよ、キンジの弟って」

「恋愛フラグを笑いながらバッキバキにへし折ってくれるアンチクショー」

「女心を踏み躙る天才」

「どう聞いてもろくでなしじゃない!?」

「「うん、合ってる」」

 

 

 

「へっくしょい! まもの」

「あん? 何だ潤、唐突なカミングアウトをして」

「いやなんでだよ、魔術師だけど種族的には人間だからな俺は」

「普通の人間は種族カテゴリーなんてしないだろ、フツー」

「言葉の綾だよ。誰か悪口言ってるんだろ、多分」

 

 

 




キャラ・用語解説
水無瀬凪優
 コラボ小説『緋弾のアリア -瑠璃神に愛されし武偵-』の主人公。銀髪赤目の美少女、スタイルはそこそこいい(本人談)
 現イ・ウーNo.2にして、研鑽派の筆頭。武偵として活動しているため休学中。
 潤と敵対しているが、本人に対して悪い感情は抱いていない。でも今回の件でむかついたので、次回以降はぶっ飛ばす予定。


瑠璃神
 水無瀬凪優に宿る、四人目? の色金。通常は色金の収められたネックレス状態だが、人間形態になることも可能。
 許可なく視られているし聴かれていると確信しているので、潤のことは苦手で嫌い。


遠山潤
 イ・ウー主戦派所属にして最弱、通称は『参謀』。本編よりカオス寄り(作者視点で)
 本編との違いは、
・キンジがおり、義理の弟
・東京武偵校でなく、神奈川武偵校に進学
・アンベリール号事件で金一の身代わりとなり、世間的には死亡扱いとなっている(遠山家の人間は誰も死んだと思っていない)


西儀天音
 イ・ウー主戦派所属。通称は『音使い』。
 白髪碧眼のボクっ娘和装美少女と、作者もちょっと盛りすぎたと思っている。
 潤より年上だが、本人としては返しきれない恩があるため、彼に従っている。敬語はデフォの口調。
 今回は足止めメインのため、あんまり本気ではない。
 本編で出てきた男の後輩は、別世界線の同一人物。


間宮あかり
 間宮の里を襲撃され、計画の主導となった正体不明の参謀、火掻を夾竹桃や他のメンバー以上に恨んでおり、自分の手で逮捕することを誓っている。


火掻(ひがき)
 潤が各地を襲撃していた際、正体を隠していた姿と名前。全身を黒ローブで覆い、顔に八つ目の白仮面という、その辺歩いてたら通報される格好。
変声術で声と喋り方も変えている徹底ぶりで、本人曰く、
「何が悲しくて顔出しで恨まれなきゃならんのだ」
 とのこと。

分け身
 思考力ではなく、本人の能力を分割して発生させる分身。今回は十人にしたため、戦闘力はEランク武偵といい勝負ができるレベルになったため、狙撃にほとんどの能力を割いていた。


凍てつく氷柩
 巨大な氷の塊に相手を閉じ込める。

氷槍弾雨(ヤクラーティオ・グランディニス)
 周囲に展開した氷片の槍が降下する。飛ばすことも可能。


氷爆
 空気中に氷を発生、凍気と爆風を発生させる。

HK417
 潤愛用のマークスマンライフル。狙撃仕様にカスタマイズされている。
最大射程1200mの範囲内なら、仰臥(伏せた状態)でも立ってても狙撃に支障はない。




あとがき
潤「はい、というわけで後書きだよっと」
水無瀬凪優(以下水)「……え、あたしと潤でやるの? そっちの作者は?」
潤「折角のコラボだから、作者は強制退出(ログアウト)させておいた。で、そっちのやり方に倣ってみようかと」
水「うん、そういうことならまあいいけど。
 で、コラボキャラ同士でガッツリ敵対してるのはどういうこと?」
潤「作者(アイツ)の趣味。元々俺をイ・ウー側に置いた話を考えてたけど、よりにもよってコラボでやるという」
水「ろくでもないな」
潤「まあ否定はしない、作者だし」
水「いやあんたのことだって。なんでノリノリで悪役やってるの」
潤「寧ろこっちの方が素に近い」
水「……本編で武偵やってたの、何?」
潤「そういう流れなんだよ察しろ。
 ちなみにだけど、水無瀬さんとかコラボキャラの言動が合ってるかは自信ねえ」
水「よくそれでやろうと思ったな!?」
潤「俺もそう思う。まあ、ウチの作者(バカ)が俺のキャラブレブレなのは今更だし」
水「自分で言うのか……とりあえず、終わりにしとく?」
潤「せやな。さて、ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。
 次回は無限罪、ブラド戦のとこです」
水「私が出ている『緋弾のアリア -瑠璃神に愛されし武偵-』もよろしくね」


 改めて読んでくださり、ありがとうございました。




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『武偵殺し』編
第一話 出会いは特別、とは限らない


作者(以下( ゚д゚))「はい、というわけでスタートです。あらすじにも書いてありますが、キンジさんはいません、その立場にウチのがいるということで」

潤「まさかの主人公不在という。何、存在を抹消したのお前?」

( ゚д゚)「人聞きぃ!? 単にキンジさんのいない世界線ってだけですからね!?」

潤「シュタ〇のΩルートレベルだけどな、それ。あ、基本はギャグですこの作品。あと、作者に銃等兵器の知識は大してありません」

( ゚д゚)「言わんでいいから」


 東京武偵校。報酬次第で依頼を請け負う何でも屋武装探偵、略称『武偵』の卵を育てる教育機関(と言っていいかは微妙なアレさだが)。

 

 都心から離れた人工島丸ごとが学校の施設となっている特殊な立地条件。その中の一つ、第三男子寮の入口で一人の少年が携帯を眺め、立っている。

 

 典型的な日本人らしい黒髪黒目、涼しげな面立ちは美形と言っていい部類だろう。武偵高の制服に身を包み、空いた片手はポケットに突っ込み、口にチュッパ○ャップスを咥える姿は、一見すると無防備に見える。

 

 もっとも、腰に提げた二丁の自動拳銃ーードイツ製のUSPを見れば、(同業者でもない限り)わざわざ喧嘩を売る輩はまずいないが。

 

「さてさて、本日より私、遠山(じゅん)二年生の日々がスタートですよっと」

 

 などと少年――遠山潤が独り言ち、メールをチェックしてから自前の黒いバイクーースズキのSV1000に乗ろうとすると、ポケットの携帯から着信音。聞き慣れた『Magi○』が流れてきたので、着信ボタンを押す。

 

「もしもーし?」

 

『やっほやっほおはろーユーくん! 気持ちいいくらい快晴な新学期の朝ですな~』

 

 電話越しに聞こえるハイテンションなロリボイスの主は、峰理子。去年のクラスメイトであり、性別は違えどウマが合い、馬鹿騒ぎをしている仲の少女だ。

 

「お前が天気の話をする時は、大抵ロクでもない事の前振りと記憶してるんだが」

 

『信用ないな~。本日のりこりんインフォは、とってもお役立ちでっせ旦那?』

 

「マジかよ越後屋、じゃあちょっと期待しちゃうわ」

 

 理子のおふざけトークに便乗する潤、大体いつもこんな感じだ。

 

『くふふ~、期待されたぜ~。ではでは、朝イチで仕入れたホットな情報をオープン!』

 

「ザ・プライス」

 

『それはお宝じゃないかな!? あ、じゃあ情報料としてくだちい!』

 

「小判飴(佐渡名物のお土産)をやろう」

 

『わっほい!』

 

 電話越しに喜ぶ声が聞こえる。それでいいのか武偵(さすがに子供のおつかいレベルの報酬は早々ない)。

 

 話が逸れたが、ジャジャン! と理子は自分でSEを付け、

 

『なんと、先程武偵校へ出発したバスがジャックされちゃいました~! 現在巡回ルートを外れて爆走中であります!』

 

 と、ふざけた口調で真新しい事件を告げてきた。

 

「Oh……」

 

 やっぱろくなことじゃねえと内心呟きつつ、額に手を当てるアメリカンなリアクションをする潤であった。

 一方その頃、事件現場であるバス車内。潤の友人である少年、武藤剛気は己の不運を呪わずにはいられなかった。新学期早々、乗ったバスがジャックされれば無理もないだろう。

 

「チクショウ、武偵殺しは捕まったんじゃねえのかよ……!」

 

 周囲の混乱を助長させないため、小声で悪態を吐く。

 

 『武偵殺し』。ターゲットとなる武偵がいる乗り物に遠隔操作の爆弾を仕掛け、追い詰めることから名付けられた犯罪者だ。

 

 先日逮捕されたとニュースで報じられていたのだが、こうして再び事件は起こっており、剛気を含む乗客の武偵と運転手は、絶賛大ピンチだ。

 

『減速 すると、爆発 しやがります。爆発 したら 皆さんを 月まで 吹っ飛ばし やがります』

 

 新入生の一年女子が持つ携帯からは、紅白出場も経験した某ボーカロイドの爆破宣言が聞こえてくる。一々ネタを挟んでいるのは置いといて、これも武偵殺しと同様の手口だ。

 

「手分けして爆弾を探すんだ! あとこの中で装備科(アムド)の解体経験者がいれば――な!?」

 

 比較的落ち着いている二年の男子が指示を飛ばすも、途中で驚いた声を上げ固まってしまう。何事かと何人かが釣られ彼の見ている方向、後部座席の窓に目を向ける、向けてしまった。

 

「嘘だろ……!?」

 

 ボンネットと前席に計三丁のUZIを搭載した、無人のルノーがバスを追跡している姿に、悲鳴のような声を上げてしまう、振り向いた一人である剛気。それとほぼ同時、誰かの「伏せろ!」という声に従い、頭を庇ってその場にしゃがみ込む。

 

 武偵高の制服は防弾仕様だが、衝撃を完全に殺しきれるわけではないし、頭部は保護できない。撃たれたらバスの中なので跳弾の可能性もあり、撃たれれば負傷は免れないだろう。

 

「……?」

 

 しかし、いつまで経っても銃声は聞こえてこない。不審に思って剛気が恐る恐る顔を上げると、

 

 

「あーら、よっと!」

 

 

 バイクから飛び降り、ルノーを足場に更に跳躍、バスへと飛び移りながら置き土産にUSP二丁の乱射でUZIを破壊する友人、遠山潤の姿があった。

 

「「「「「「ファ!?」」」」」

 

 予想外の光景に外を伺っていた生徒が驚きの声を上げる中、当人はバスの非常口部分に掴まり、

『おーい、開けちくり~』

 

 と、口パクで伝えてくる。近くにいた生徒が開けると礼を言いながら侵入してくる姿は、いつも通りの軽薄で(剛毅から見て)腹の立つイケメン顔だ。

 

「おう剛、おはよーさん。新学期早々、中々愉快な目に遭ってるじゃねえか」

 

 こちらに気付いた潤が手を上げ、ニヤリと笑う。多分不幸な目に遭っているのを面白がっているのだろう、やはり性格が悪い(確信)

 

「そう思うのはお前か、ハリウッド映画の主人公くらいだろ……ピンチになるほど愉快に感じる変人かよ」

 

「ご挨拶だねえ。すぐさま窓から放り出したいわ、顔面から」

 

「死ぬわ!? 外道かオメーは!?」

 

「武偵だよ、っと」

 

 軽口を叩きつつ窓から右手だけを突き出し、迫ってきた二台目のルノーに向けてUSPの引鉄を引いた。

 銃声は一発、しかして放たれたのは三発。十八番である早撃ち(クイックドロウ)ルノーに搭載されたUZIの銃口に侵入し、内側から吹き飛ばした。

 

「……なんでUZIだけなんだ?」

 

「こうするためさ」

 

 トンネルに差し掛かったところで、潤がどこからか取り出したのはバール、っぽいもの(血が付いているように見えたのを、剛気は気のせいということにした、精神安定のため)。

 

「ぬんっ」

 

 前を走っていたルノーに向け、気の抜ける掛け声で投擲すると、タイヤが破裂してスピンしつつ、後続の二台を巻き込んで壁にぶつかり、まとめて爆発四散した。ナムサン!

 

「朝っぱらからでかい花火とは、景気がいいねえ」

 

 USPをリロードしながらつぶやく潤に、どこがだよと剛気が内心でツッコミを入れるのとは逆に、周囲の生徒からは歓声が上がった。

 

「さっすが遠山先輩!」

 

「私達に出来ない無駄に凄くて無駄な技法を平然とやってのける!」

 

「そこに痺れる憧れるぅ!」

 

「あっはっは――よし二番目の奴、外に捨ててやるからこっち来い」

 

「Σ(゚д゚;)エエッ!?」

 

 先程までの切迫した空気はどこへやら、一変してふざけたムードになる。基本的に武偵高の生徒は事件慣れしている上、バカ騒ぎが好きだからか。

 

「っと、それより潤。このバスには」

 

「爆弾が仕掛けられてる、だろ? さっきバイクで追っかけてる時に見たよ、クソでけえC4。武偵殺しと同様の手口だってのも、理子から聞いてる」

 

「さすが理子だな、情報掴むのが早い。そして女子と普通に連絡取ってるお前を轢いてやりたいわ」

 

「面倒だし、ルノーの仲間入りするか親友」

 

「気軽に炎上させるなよ親友。

 ……ちなみに、爆弾ってどれくらいの量だ?」

 

「聞かぬが吉だぞ。予測だと、ビルくらいなら余裕で吹っ飛ばせるな」

 

「言ってんじゃねえか、聞かなきゃ良かった。……俺を不安にさせるため、盛ってるんじゃねえよな?」

 

「不安にさせるのは合ってるが、量に関してはガチだ」

 

「オイ」

 

「まあそんなのはどうでもいいから剛、バスの運転変わってやれ」

 

「どうでもよくはーーあ? なんでだよ」

 

「顔が青を通り越して土気色になってるのが見えねえのか、お前は」

 

 見てみい、と指を差され、運転席の方に目を向けると。

「フ、フフ、フヒヒ……! この速度の先に、求めていた領域が見えてくる……!」

 

 ぶつぶつと何かを小声でつぶやいている運転手が、ハンドルを握っていた。事件のストレスに耐えきれなくなったのだろうか。

 

「……やばくねえか?」

 

「やべえな、明らかに発狂してるし。つうわけでこれ」

 

 潤がバールに続いてどこからか取り出したのは、黄色いメット。工事現場の人がよく使っている、十字マークがついた奴である。

 

「……何でメット?」

 

「セットでつるはしもあるぞ。嫌なら水色の密着型もあるけど」

 

「メットー〇かロック○ン!? じゃあ黄色いのでいいしつるはしもいらねえよ!

 ところで潤、俺改造がばれてあと一回で免停になっちまうんだが!」

 

「晴れてそうなったら、爆笑しつつ祝ってやるわ」

 

「ガチで轢くぞ親友!?」

 

 免停喰らわなければなーとケラケラ笑う潤に内心中指を立てつつ、剛気は運転を代わり(運転手は潤が当て身で気絶させ、医療科(メディカ)の生徒に押し付けた)、人通りの少ないコースを選んで走らせる。減速するとお陀仏してしまうため、加速は慎重に行わなければならない。

 

「バス下の爆弾は俺が解体するから、強襲科(アサルト)狙撃科(スナイプ)は援護、さっきみたいなのが来たら撃ち落としてくれ。

 他の生徒は協力して車内に爆弾がないかチェックを――うおおぉ!?」

 

 運転中のためよく見えないが、後ろ指示していた潤が唐突に慌てた声を上げた。

 

 散々弄られた剛気が、内心ザマアミロと思ったのは、ある意味当然だろうか。

 

 

 どうも、(成り行きで)指揮を執ってたら超ビックリした遠山潤です。なんでここから一人称視点かって? 知らん、作者に聞いてくれ(メタ+丸投げ)。

 

 そりゃ武偵やってるし、それなりに修羅場も経験してる以上奇襲くらいじゃ驚かないですよ? 

 

 でも流石に、バスの屋根からポン刀の切先が眼前に来れば誰だって驚く、俺だって驚いた。

 

 というか、

 

「うおお掠った! 鼻先シュっとしたぞ!?」

 危ねえ、ちょっとずれてたら脳天の生串しが出来てたぞ!? 幸い絆創膏貼っとけレベルのケガだったけど!

 

 そして脳味噌の串刺しってマズそうだな。あ、でも猿の脳味噌料理とかあるか(どうでもいい)

 

「ほらそこのバカ、突っ立ってると怪我するわよ!」

 

「怪我どころか死に掛けたんですけどねえ!?」

 

 俺と同じ場所から入って、釘○(アニメ)ボイスでバカ呼ばわりしてくださりやがるのは、それ天然? と聞きたくなる、ピンクツインテールの小柄な少女だ。

 

 一見すると小学生くらいに見えるが、行内では有名人なため、同学年であることは知っている。前に小学生と間違えたやつがジャーマンスープレックス喰らってたっけ、アレは痛そうだった。

 

 神崎・H・アリア。強襲科(アサルト)(死にたがり達が集まる前線部隊を育成する、武偵校の専門科目の一つ)における優秀な武偵だ。

 

 武偵にはE~Sとゲームみたいなランクがあり、彼女はその中の最高ランクであるS、その実力は軍の一個中隊と同等と言われている。

 

 俺? 探偵科(インケスタ)っていう探偵業を学ぶ専門科目のCランク(半端者)だよコノヤロー(←誰も聞いてない)

 

 そんなエリートさんな彼女だが、どうやらバスにパラシュート(後ろに飛んでいくのが見えた)で降下した後、刀をぶっ刺して着陸したのだろう。中々無茶しやがる(←バイクからルノーに飛び移った輩のセリフ)。

 

「あ……そ、そうだったの。やってから、下に人がいたらちょっとヤバイかなーとは思ってたけど……」

 

 目を逸らしつつ、「ごめん、アタシが悪かったわ……」と謝る神崎さん。あれ、意外と素直かつ常識的。ぶっ飛んだ行動力の持ち主って聞いてたから、もっとアレな人かと思っていたのだが(スゴイシツレイ)

 

「いや、大した事なかったから別にいいよ。唾つけりゃ治るナオールレベルだし、水に流そうや」

 

「そう言ってくれるならありがたいわ。で、アンタが指揮を執ってるの? 武偵殺しって情報は掴んだけど、爆弾は?」

 

「爆弾はバスの底面に見つけた、解体は俺がやるつもり。指揮はまあ、成り行きで。

 それじゃあ悪いけど、神崎さんも援護射撃お願いしていいか? Sランク武偵に指示するのもあれだが」 

 

「……別にいいわよ、アタシは指揮執るの得意じゃないし。アンタの指示に従うわ」

 

「おk。さっきのルノーとか怪しいもん見かけたら、即キルオブゼムで」

 

「何その物騒な言い方……」

 

「まあお気になさらず。じゃあ屋根上行ってもらっていい?」

 

「はあ? なんでよ?」

 

「バスの中じゃ視界が限られるし、遮蔽物も多い。かといって足場が不安定なんてもんじゃない屋根上で精密射撃を求めるのは、大半の奴には酷だろうよ。

 以上の観点から神崎さんが適切、というか神崎さんにしか頼めん」

 

 あとは『協調性に難あり』とプロフィールにあったので、下手にチームを組むより単独での行動を取らせた方がいいだろうという判断である。もちろん口には出さんが、殴られても文句言えんし。

 

「ふうん? まあそういうことなら仕方ないわね、やってあげるわ」

 

 俺の説明に神崎さんは納得、というより満足気だ。こういう反応をする人間は、付け上がりやすいナルシストかあんまり褒められたことのないタイプのどちらかだが、多分後者だろう。前者だったらすげー嫌だ。

 

 というか、こっちを興味深げに見ている気がする。窓から出るのに目を逸らすと危ないぞ、こっち見んな。

 

「よし、野郎ども喜べ! 美少女の足下に敷いてもらえるぞ!」

 

「「「「「オオオオォォォ!!」」」」」

 

「え、そこノるの!?」

 

「「「「「Σ(゚д゚;)エエッ!?」」」」」

 

 ノリいいけどないわーショウジキナイワー(←振った奴)

 

「バカなこと言ってないで早くしなさい!」

 

 神崎さんに怒られました、真面目にやろう(フラグ)。

 

 なので余ってたロック○ンメットを渡そうとしたら、「いらないわよ、何このふざけたデザイン!?」と、余計怒られたが。防弾性良いんだがなあ、バスくらいの高さなら頭から落ちても無傷でいられるし(中身は保証しない)。

 

 何はともあれ、プリプリしながら神崎さんは屋根上へ。指示を出してから俺も外に出る準備(解体用の工具とか)をしているのだが、

 

『俺を踏み台にしたぁ!?』

 

 さっきから延々と喚いてるボー〇ロイドが、死ぬほどウザイ。

 

「あの、遠山先輩、これ、どうすれば……」

 

 後輩女子ちゃんが、困惑した顔で聞いてくる。俺がルノーを足場にした時から、これしか言わなくなったらしい。

 

「窓から捨てとけ」

 

『え、ちょ、おま』

 

 外を指差したら急に発言が変わった。中の人でもいるのかこれ。

 

 捨てたら(お財布的な意味で)流石に困ると言われ、証拠品として持ち帰る必要あるなーと思い直したため、持っていた布で包んでおいた。防音・電波妨害仕様の地味にいい一品だ、後で返してもらおう(ケチ)

 

 準備も終えて窓から出ると、またも追ってくるルノー。その中の一台にはドイツの汎用機関銃ーーMG3が鎮座している。

 

「おいおい、オーバーキルってレベルじゃねえぞ?」

 

 防弾制服程度じゃ余裕で貫通し、人の挽肉が出来るだろう一品のご登場である。命綱を付けて逆さまになった視界の中だが、別に焦ったりはしない。

 

「過剰火力でしょう、武偵殺し!」

 

 屋根上の神崎さんが真っ先に発砲を開始し、一拍遅れてバス内も銃弾が飛んできた。

 

『こちらアルファ1、MG付きのヤバイ奴を先にやっといた! 損傷なし、リロードするわ!』

 

『アルファ2、こっちもUZI付きの二台をやった! 損傷なし!』

 

「ヒュウ、そうでなくちゃなあ」

 

 発砲前に全部潰したので、銃弾が飛んでくることはなかった。特に神崎さんはMGだけを正確に射抜いていた、さすがはSランク武偵である。解体作業中だが、手放しに褒めたいね。

 

 余談だが、コードネームはさっき適当につけたものだ。分かればいいんだよ(雑)。

 

『アルファ0、そっちの解体作業はどう!? 増援来るでしょうし、急いでくれると助かるんだけど!』

 

「え、もう終わったぞ」

 

『『はや!?』』

 

 インカム越しに神崎さんとアルファ2(モブ)の叫びが重なる。ええいやめんか、耳に響く。

 

「構造は多少面倒だったが、難易度自体は大したものじゃないからな。パパっとばらして無力化したわ」

 

『それにしてもどんな速度よ、張り切って損した気分だわ……』

 

「早いに越したことはないだろ常考。アルファ2、運転手に減速して大丈夫って伝えてくれ」

 

『……りょーか――! 潤!』

 

「おん?」

 

 気の抜けた声が、再び緊張を帯びる。アルファ0だよと思いながら後ろを向くと、破壊されたルノーをかわし、猛スピードで近付いてくる大型バイク――ドイツ製のF650GSが見えた。

 

 無人の座席部分にくくり付けられていたのは、

 

「……大盤振る舞いにも程があるんじゃないかねえ」

 

 恐らく世界でもっとも有名な対戦車砲、パンツアーファウストが鎮座している。当たればバスくらい余裕で爆破炎上するだろう。何、今回の武偵殺しは火力バカなの?

 

 こちらはバス裏で解体作業をしていたため逆さま状態、しかもバカでかい爆弾を両手で抱えているため、USPを抜く余裕はない。

 

「うーん、これはピンチか」

 

 神崎さんは降りようとしていたので反応が遅れ、バス内は動揺しているのか射線がずれている。もう爆弾投げつけるか、道路が盛大に吹き飛ぶだろうけどと考えたその時、

 

 

「イヤッフー!!」

 

 

「あ?」

 また後ろからバイク――もとい、スクーターが迫ってきた。聞きなれたハイテンションな声のおまけ付きで。

 

 GSの後ろから現れたのは、ノーヘル(着けろよ捕まるぞ)でハニーゴールドの髪を風にさらし、べスパ――以前剛の奴が200kmまで出せるよう改造したと自慢していた――に乗ったバカもとい、友人にして情報提供者の峰理子である。

 

 GSを追い抜き、バスの横にベスパを着けると、

 

「とーう! りこりん大ジャンプ! アーンドフライ・ア・シュート!」

 

 などと言いつつべスパから飛び降り、右の手でバスの窓ふちを掴み、左の手で愛銃のワルサーP99をGSに向け発砲する。

 

 空中、しかも回転しながらのジャンプで逆さまの視界(パンツ見えるぞ)という状態で放たれた弾丸は、狙い違うことなくファウストの銃口に吸い込まれ、爆発した。

 

 幸い、距離があったためバスの被害はなし。つーかあぶねーなオイ、結局爆発オチかよ。

 

「やはろーユーくん! 待った?」

 

「待ってねえし来ると予測してなかったよ。おいしいとこだけ持っていきおってからに」

 

 バス内に入りながら文句を言うと、理子はリスみたいに頬を膨らませる。子供か、いつも通りだけど。

 

「ぶー。つれないこと言うと理子、うっかりユーくんを突き飛ばしちゃうかもだぞー」

 

「オイヤメロ」

 

 走行中のバスに逆さ吊りとか、冗談でもごめんだ。これ以上頭に血が上がるような事態はごめんである。

 

 バス内の連中はアホ面下げてポカンとしていたが、俺が入って少しすると状況を理解したのか、「ワアアァ!」と湧き上がり、

「「「「「りこりん! りこりん! りこりん!」」」」」

 

 主に男子ども(一部女子含む)がりこりんコールを始めた。おいそこの野郎ども、えー〇んみたいに手を振るんじゃねえ。剛は前向いて運転しろ、衝突して死ぬぞ。

 

「イエーイ、みんなありがとー!」

 

 当の理子はダブルピースのニコニコ顔である。何だこのノリ。

 

「……何、この状況?」

 

「シラネ」

 

 戻ってきた車内の熱気に首を傾げる神崎さんだが、そんなもん俺が聞きたい。手柄を最後に泥棒されて一番持ち上げられるとか、わけがわからないよ。

 

 時の人になっていた理子が周囲に応えていたら、神崎さんを見て目を輝かせる。あ、これアカン奴だ(察し)

 

「ふおお!? ユーくんユーくん、生アリアんですよ生アリアん! 写真で見るよりずっとキュートですなあ!!」

 

「え? あ、ありがとう? というよりアンタ、なんでアタシのこと知って」

 

「アリアんは有名だから知ってるのは当り前田のクラッカーなのですよ! しかもカワイイとか理子の物欲センサーに引っかからないわけがない!」

 

「?????」

 

 何言っているか分からない顔の神崎さん。理解しない方が幸せだろうね、もう手遅れだが(合唱)。

 

「ああもうその反応も可愛いですなあ! これはお持ち帰りしてりこりんファッションショーを開かナルガクルガ!?」

 

「初対面なんだから自重しろHENTAI」

 

 とりあえず、暴走理子の頭にチョップしておいた。すぐさま文句を言われたが、そのままだとお前神崎さんを泥棒するだろうが。

 

 これが俺達と神崎さんが初エンカウントした事件であり、アリアという少女が理子という変態に目を付けられた始まりである。南無。

 

「変態じゃないよ、HENTAI淑女ですよ!」

 

「大差ねえだろ」




登場人物紹介
遠山潤
 探偵科(インケスタ)Cランクの二年生。武藤剛気、峰理子とは一年からの腐れ縁。人に指示するのは上手いが、実力自体はそこそこ。銃の扱いは長けている。

 ジャンプアクションや解体作業などかなりふざけていたが、最後には理子に丸ごと持っていかれた。

神崎・H・アリア
 強襲科(アサルト)Sランクの凄腕武偵、ピンクツインテールのミニマムキュート体型(理子談)。

 原作ではチャリジャックでパラシュートを使っていたが、今回は連絡から時間がなかったためバス着地に用いた。Sランク武偵だからなせる技である。

 ツンケンしているところもあるが、悪いことをしたら素直に謝れる程度には良識的。

峰理子
 探偵科(インケスタ)Aランク。アリアにターゲットを定めたHENTAI淑女。改造ベスパを全力でかっ飛ばしてパンツアーファウストを吹き飛ばし、話題と注目を掻っ攫っていった。こんなキャラ故か、校内屈指の人気者である。

 なお事件後、自分のベスパと潤のSV1000をきちんと回収し、修理に出している(修理費は潤からふんだくった)。

武藤剛気
 車輌科(ロジ)Aランク。乗り物なら大半は乗りこなせるが、違反改造して減点を喰らうこともしばしば。幸い今回の事件で引かれることはなかった。

 弄られ役、思春期男子高校生。


後書き
 ヒラコー先生は我が心の師(挨拶)。

 というわけで始めましてまたはお久しぶりです、ゆっくりいんです。今回は緋弾のアリアの二次創作を書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?

 とりあえずこんなバカなノリですが、稀にシリアスもやる……かも? ヒラコー節を小説で再現するのは難しい……

 構成としては原作一巻分を四話+小話という形で、一話五千字前後で収めようと思います。と言いつつ一話目でいくらかオーバーしていますが(汗)

 とりあえず亀更新な作者ですが、出来るだけ早く次を上げたいと思います。放置してるオリジナル? 艦これ? 知らんな(目逸らし)。

 感想・誤字訂正・批評などいただけると嬉しいです。それでは読んでくださり、ありがとうございました。

追記
2019/5/4 本文・後書き修正しました

2020/4/15 本文・後書き修正しました


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第二話 言って良いことと悪いことがある(弄られる的な意味で)

 バスジャック事件の報告も終わり、2―A教室。始業式に行けなかったけど別にいいや、あの校長何一つ面白いこと言わねーし。

「朝から大変だったね、遠山君」

「そーでもない。始業式サボって単位取れたと思えば儲けもんやろ」

「そういう考えもあり……かな?」

 俺の目の前に立って苦笑しているイケメンは不知火亮。剛気、理子と同じく一年からの腐れ縁で、パーティーを組むこともあったりなかったり。

「しかし、見事にバカルテット全員同じクラスとはな。SSRの誰かが呪いでも掛けたんかね?」

 机に座る俺の周りには剛気、理子、亮の三人。まー代わり映えのしない面子だこと。

「またまたそんなこと言ってー。理子と一緒のクラスになれて嬉しいでしょーそうでしょ~?」

 右隣の理子がいつもよりウザイ。事件後とあってテンションが高いのだろうか。

「あー、朝からとんでもない目にあった……星伽さんとも違うクラスだし……」

 他人の机に突っ伏す剛気。でかいからすげえ邪魔だ。

 余談だがバカルテットとは、よくつるむ俺達四人を指して『馬鹿騒ぎするカルテット』、略してバカルテットである。付けたやつ出て来い、しばく(使ってたやつ)

 理子が率先して騒ぐ、俺と剛が状況とか気分によって騒ぐ、亮はストッパー。止める方の苦労は推して知るべし(機能してるかは別だが)

 とまあまたこいつらと一緒かと呆れたり、自己紹介で一緒に事件を解決した神崎さんがクラスメイトだったり、理子が興奮して追い掛け回していたらキレた神崎さんに発砲されたり、バスジャックについて質問殺到した際に三人で逃げ回ったり、LHRや授業を潰された担任の高天原先生が半泣きになったり、まあ特に何事もなく進んで放課後、教務科(マスターズ)前。

「さーて、どうするか」

 掲示板に貼り出された依頼書を眺めながら、一人呟く。完了すれば報酬と単位がもらえるため、学生にとってはありがたいものである。

まあ俺は卒業分までの単位を既に取っているため、個人依頼の方が実入りはいいのだが、気にしたら負けだ。

 その中から馴染みの依頼を見付けたので、教務科に報告をしてから現場へ向かうことにする。バイクは今朝のバスジャックで負った傷(自業自得)を直すため剛に修理を頼んだから、電車だな。

 そういや剛の野郎、「友情割引だ」とか言いいながらぼったくろうとしやがって。俺が相場分かんないとでも思ってるのだろうか。当然〆ておいたけど、懲りねえなあ。

 明日また〆ようとどうでもいいことを考えながら、モノレールに乗って青海へ。席を確保し途中で買ったももまん(ももの形をしたあんまん)を取り出し腹拵え開始。地味に美味いんだよなこれ。

 ……少し離れた席から視線を感じる。相手の視線は俺、より正確には持っているももまんに集中しているようだ。というか見すぎだろ、バレるよ。

「ふむ」

 二個目を食べ終えて席を立って向かうと、視線の主――驚いた顔の神崎さんにももまんが入った袋を差し出す。

「食べる?」

「いいの?」

 目がすげえキラキラしていた。そういやももまん大好きだったね、あーた。

 

 

「はむ、いつから気付いてたの、あむ?」

「教務科の掲示板から気配は感じてたな。あと食べながら喋るのはマナー違反やで」

「もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ」

「……いやいいけどさ」

 一個のつもりが全部食われ、悲しみを背負ったところで青海に到着。まさか五個全部食われるとは……見掛けに反しておおぐら「あん?」もとい、健啖家らしい。

 まあ過去のことは置いといて、仕事を始めよう。

「で、あんた何の依頼を受けたわけ?」

「猫探し。二十匹の猫を今日の夜七時までに見つけてくれって」

「……はい? 何その数、複数の依頼人から受けたの?」

「いや一人。ダイジョーブダイジョブ、いつも同じ人から受けてるから慣れてるし」

「いつも二十匹も探してるの!? というか何度も依頼するなら逃げないよう対策しなさいよ!」

「出来るだけ自由にしてやりたいんだと」

「その結果逃げられたら世話ないでしょうが!」

 仰る通りである。まあこっちは金になるのでどうこう言うつもりはない。言っても効き目ないだろうし。あと神崎さんツッコミキレいいな、こりゃ理子にボケ倒されるでえ……

 何はともあれ依頼開始。まずは複数のSNSを使って目撃情報を集めることに。ユーザーの中には『またかw』、『どんだけ猫に嫌われてんだよそいつwww』などの無駄コメントもあるが、結構な人数が見かけた場所を教えてくれた。情報を脳内で整理し、効率的なルートを完成させて探索開始。

 一匹、二匹と次々見つけていき、最後の一匹確保まで一時間も掛からなかった。やはりカツオブシとマタタビは偉大である。変な目で見られたけど、こっち見んな。

「ふふふ、もふもふー」

「にゃー」

 抱えた一匹をモフりつつご満悦の神崎さん、猫も気持ちよさそうにしている。

ちなみに彼女、何も手伝わなかった。いや俺の依頼だしいいんだけどね? 何しに来たのよあーた。

 二十匹からなる猫を引き連れた野郎とピンクツインテの美少女。青海では見慣れた光景とはいえ目立つことこの上なく、面白がって足を止めたり携帯で写真を撮っている。以前は取材されて足止めを喰らったこともあるが、幸いそういう輩はいないようだ。あ、顔バレは勘弁な?

 目的の場所は、西洋風の建築式が取り入れられたかなり巨大な家。それ自体はオフィス街であるこの街に合っているのだが、

「なんか、アレね……独特なセンスの家ね……」

 神崎さんが微妙な顔で言葉を濁しているが、ハッキリ言って配色・構造、どこを取ってもイかれている代物だ。景観を壊すと訴えられた某オカマの家といえば分かりやすいだろう。

「まあ、遠山さん! いつもいつもありがとうザマス!」

 そして家に負けず劣らず、というよりそれ以上に住人兼依頼主はぶっ飛んでいる。光沢の入った紫のドレスに、パンチパーマでザマス口調の太ったオバン。大阪のオバチャンでもこんなセンスの人種いねーぞ。

「ああミゼルちゃんにイオちゃん! みんないなくなるから心配したのザマスよ!?」

「フギャー!?」

 おばさんに抱きしめられた一匹が明らかに悲鳴を上げるが、彼女には不安から来るものと勘違いしているらしい。何で分かるかって? 何十回も同じ光景見せられりゃ自然と分かるだろJK。

 ちなみにこのおばさん、間違ってはいるが全力で猫達を可愛がっている。それが分かっているのか引っかいたり噛みつかれることはないのだが、ストレスからか週一ペースで示し合わせたように脱走する。

 唖然とする神崎さんの肩を叩いて正気に戻らせ、一礼してその場を去った。毎度のことながら猫達の縋る視線を感じるが、すまん、俺にはどうすることも出来ん。

 

 

「何か、見てるだけで疲れてくる相手だったわね……」

「慣れると大抵のことには動じなくなるぞ」

「あんたは依頼主を何だと思ってるのよ? ……まあ、否定はしないけど」

 仕事も終わり、疲労困憊と机に突っ伏した神崎さんと話しながら某ハンバーガー店で一番でかいセットを食べる(代金は俺持ち)。

 ちなちに、おばさんと話すとさっきの数倍は疲れる。ちょっと会話しているだけで常時MPを吸収されSAN値が削られている気分になるのだ。何なのあの人。

 神崎さんは突っ伏したまま行儀悪くポテトをもぐもぐしている。たしかいいとこのお嬢さんなのだが、妙にその姿が似合ってるのは何故だろうか。

 まあどうでもいいかと三つ目のオレオを食い終える。「どんだけ甘いもの食うのよ!?」と対面の女子に突っ込まれたが、いーだろ別に。甘いもの食わねえと死んじまう極甘党なんだよ(真顔)

「そんで神崎さん、俺に何か用があるんじゃねえの?」

 食事も一段落したところで本題を切り出す。教室からこっち、探るような目でこちらを見ていたのだ、余程鈍くても気付く。言い方を変えるなら値踏み、か。

 まあ彼女が現在何を目的にしたか知っているため、大体予想はつくけど。

「そうね、そろそろいいか。あと、アリアでいいわよ」

 神崎さん改めアリアが席を立って一呼吸し間を置くのは予想内、

 

 

「ジュン! アンタ、アタシの奴隷になりなさい!!」

 

 

 だが、指を突きつける決めポーズで放たれた言葉はヨソウガイデス。

 凍りつく俺、アリアは固まるこっちを見て不思議そうに首を傾げている。マジかよ気付いてねえのか。

「アリアアリア。ここ店内、周りお客さん」

 若干片言気味に告げると、今更気付いたのかハッとした顔になり、周囲をぐるっと見回すが、もう何もかも遅い。

 夕飯前の微妙な時間とあって客はまばらだが、然程広くない店内で『奴隷になれ』宣言を大声でしちゃったから、全員に聞こえてるわけで。

カウンターの店員さんなんか「え、あの二人ってそんなハードな関係……?」、「あんな小さい子がご主人様って……」、「私もあんな子に飼われたいなあ……」などと囁き合っている。そして最後の人、アンタダメだろ。

「う、あ、う、こ、これは、ちが、その!!」

 信号機みたいに真っ赤な顔で、何か言い訳を言おうとしてうまくいっていない様子のアリア。どうも深く考えず勢いで言ってしまったっぽい。咄嗟に出るのがドレイってのもどーかと思うが。

 状況が悪化する一方なので、ショート寸前なアリアの手を引いて外へ出ることにした。擦れ違い様店員さんに「お幸せに~」と生温い笑みと共に言われた。絶対信じねーだろうけどちげーから、まだ貞操は無事だから(そこじゃない)

 もうこれねーなこの店。青海での活動拠点が一つ潰れた瞬間であった。

 

 

 モノレールに乗って幾つか駅を越え、人気のない公園に辿り着いた。また爆弾発言されても困るし。

 寮の自室にしないのかって? オイオイ、知り合ったばっかの異性を部屋に連れ込むとかマジで撃たれるぞ、他の男子に。

「えーとつまり、冤罪で捕まってるお母さんを助けるためパートナーになって欲しいってことでおk?」

「……(コクコク)」

 まだ赤い顔のアリアが頷く。だいぶ落ち着きはしたのだが、ツリ気味で自信満々な瞳は垂れ下がり、こっちの質問には首を振ることで答えている状態だ。意思疎通が出来るだけマシか。

 ちなみに青海の道中とモノレールでのパニックについては、本人の名誉を考慮し割愛させていただく。でも一般人いる前でガバメント抜くのはやめような? 通報されなかっただけ奇跡だと思う。

「事情は分かったけど、俺は探偵科(インケスタ)のCランクだぞ? アリアが望む前線より、後方支援とか情報収集の役目になると思うが」

「ただのCランク武偵が指揮取ったりバスに飛び移りながら精密射撃出来るわけないでしょ……それにアンタ、去年は強襲科(アサルト)のSランクで前線張ってたらしいじゃない……人望もあるみたいだし」

 小声で早口に理由を告げるアリア。向こうもこっちのことは調べてるみたいだね。

「ああ見てたんだ、あのバスジャックの曲芸」

「曲芸って自覚はあったのね……」

「そりゃまあ。少なくともふざけてる自覚はありますんで」

 まあ奇怪な行動を取ることで呆気に取らせ、恐怖心を薄めようとする効果もあったのだが。パニックになった集団ほど面倒なものはないからな。

 ……うんごめん嘘、単に遊んでただけで理由はただの後付です。

 閑話休題(まあそれは置いといて)

「でもそれなら、理子の奴でも良かったんじゃないか? 近接戦ならアイツの方が上だし」

「……声はかけようと思ったわよ。ただ、いきなり追いかけられたら、ねえ……」

「あー……ご愁傷様」

 可哀想に、理子の『かあいいものセンサー』に引っかかっちまったか。あの変態、気に入った相手なら男女問わず欲しがって付け回すからな。

 ちなみにあのアホ(理子)の座右の銘は『美老年、美少年はいい、美少女ならなおよし!』である。どこの男装皇帝サマだオメーは、座右の銘でもねえし。

「そういうわけで、ジュンには理子との仲介役をお願いしたいんだけど」

「ふうん。だとさ、理子」

「はいはい! 理子もユーくんをドレイにしてあんなことやこんなこと、具体的には」

「言わせねーよ」

「うぴゃああぁ!?」

 ベンチ下から這い出てきた理子に驚き、素っ頓狂な声を上げるアリア。そして理子、何でわざわざアリアが座るベンチの下にいた? まあ理由は聞かんが、どうせしょーもないし。

「い、いいいつからいたのよアンタ!?」

「んー? ベンチには先回りして潜ってたよー。アリアんには教室出るところから着いていったかな~?」

「ほぼ最初からじゃない!? って、じゃあさっきのアタシ達の話も」

「まあそうなるな」

「美少女が自分の発言にテンパる姿、理子的にとってもオイシイです!」

「――――!!??」

 羞恥心が擦り切れたのか可聴域を超える声を上げるアリア。すげーな、人間の出せるもんか?

 とまあ、また暴れそうになったので適当に宥め、理子が俺の隣に座って話を再開する。

「そ、それで、アンタ達に協力して欲しいんだけど」

「俺は別にいいぞ」

「理子もー」

「軽いわね!?」

 ツッコミ入れたら赤かった顔が正常に戻った。え、何が起こったのこれ? 地味に気になります。

「手を貸してくれって言ったのはそっちだろ」

「それはそうだけど……いいの? 危険よ?」

「アリアん、武偵のお仕事に安全なんて言葉はないよー? それに、友達の頼みなら断らないのがりこりんの主義なのです!」

「アリアん言うな! って、誰と誰が友達だってのよ!」

「えー? 一回殺す勢いで衝突して、その後名前を読んだらもう立派な友達だって白い人が言ってたよ~? だからりこりんとユーくん、アリアんの三人はもう友達なのです!」

「どんな物騒な考えなのよそいつ! というかアタシは友達なんて要らないし、アンタみたいな変態なら尚更お断りよ!」

「やーん、つれないこと言わないでよアリアーん。理子寂しくて泣いちゃいそぉ、グスン」

「ええいくっつくな、その忌々しいものを離しなさい!」

 泣き真似して抱きつく理子、引き剥がそうとするアリア。どうやら身長は同じくらいだが、格差があることを気にしているようだ。どことは言わないが。

 あとどうやら、アリアはリアルボッチのようで。元ボッチの俺としては、何となく気持ちは分かるような分からないような。

「何か二重に失礼なこと考えなかった!?」

「そのようなことがあろう筈がございません」

 勘は凄くいいようだ、特に自分の悪口には。

「さて、じゃあ当面の目標は『武偵殺し』ってことでいいかね?」

「そうね、とりあえずは手近なところから逮捕していって、ママの冤罪を晴らすわよ!」

「アラホラサッサー。じゃあアリア、よろしくね」

 それまでのふざけた態度とは異なる笑みを浮かべ、理子は手を差し出す。

「ええ、よろしく。……ちゃんと名前を呼べるなら、普段からそうして欲しいけど」

「友達をあだ名で呼ぶってのは当然でしょ?」

「もう友達なのは確定なのね」

 言葉こそ呆れたものだが、その口元には隠しきれず、

「嬉しそうだな」

「な!? そ、そんなこと! ……ないわよ」

 否定は小さかった。必要ないとは言っていたが、出来て嬉しくない訳ではないらしい。

「それじゃあ改めて、よろしくな。独奏(アリア)がいきなり三重奏(トリオ)になっちまってしっちゃかめっちゃかだが」

「それ、面白くないわよ」

「ユーくん、ゼロポイント!」

「うるせぇ」

 そう言いつつも、アリアはクスリと笑みを零した。ツボに入ったのだろうか。

「いよーし、じゃあチームを組んだしお祝いだー! ユーくん、理子カルアミルク練乳入り飲みたい!」

「堂々と飲酒宣言すんな。寮に置いてあるバナナミルクで我慢しろ」

「まず飲もうとするんじゃないわよ!?」

 ツッコミ入った、理子が嬉しそうだ。これからより騒がしくなりそうである。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
尾行されていたが気にしていなかった探偵科(インケスタ)の武偵。もはや猫探しはウィークリー任務。
アリアのドレイ宣言にも冷静な対応が出来る少年。もっとぶっ飛んだ発言する奴等が過去にいたとかなんとか。
なお祝杯を挙げて一人になったあと、とある戦姉妹(アミカ)に絡まれた模様。

神崎・H・アリア
 潤を尾行していた強襲科(アサルト)Sランク。尾行の腕前は中々だが、いかんせん外見が目立つ。
酒を飲もうとする二人を止めるなど、常識はある模様。しかしこの二人相手に常識人は……
なお、ドレイ宣言をやらかしたあの店には二度と行かなかった。そりゃそーだ。

峰理子
 アリアをストーカーしていた探偵科(インケスタ)Aランク。かなり近くでも気付かれなかったのは本人曰く「圏境A+持ちですから!」とのこと。どこのアサシン先生だお前は。
アリアへの友達宣言はノリで言っているが本気。これから仲良くなる予定である。
本編同様家の因縁があるのだが、アリアを気に入ったのととある理由からその辺は気にしていない。

猫飼いのおばちゃん
ノリじゃなくて前々から脳内設定したキャラ。ちなみに原作の依頼人は普通の主婦。どうしてこうした当時の俺。
今後登場の予定はなし。あっても扱いに困る。


後書き
 発言はTPOを弁えましょう(←アリアに言わせた張本人)。
はい、というわけでアリアさんがやらかした第二話です。ぶっちゃけこのシーンがここまで酷くなる予定はなかったです。ただ筆が進んでしまったんや……(言い訳)
さて、前話の後書きで原作小説一巻分が四話+小話と書きましたが、
おわるきがしねえ
……いや、書きたいことが多すぎるんですよね。まあ本編に関係ない部分はカットしたりするつもりですが……零れ話として短編でも書こうかなあ。でもそうなると本編の進みがなあ……
そんなことを考えつつ、次回へ続きます。次はちょっとシリアスかも?
感想・誤字訂正・批評お待ちしています。非難も罵倒もどんと来いやあ!!(←ヒビの入ったガラスのハート持ち

2019/5/23 修正しました
追記
12/13 本文・後書き改定しました。


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第三話 上手くいかないからって凹んでる時間はない(前編)

 俺、アリア、理子の三人パーティー――アリアはそれぞれをパートナーと言っていた――が結成されてドンチャン騒ぎしたり(主に理子が)、UFOキャッチャーで(主にアリアが)ムキになったり、誰かさんを慕う後輩ちゃんに(俺だけが)絡まれたりした数日後。ただいま強襲科の訓練場所なり。

「いっくよーアリアん! そおぃっ!!」

「は? ちょっと何――うきゃあああぁぁぁ!?」

「え、何それ――ヘブン!?」

 理子に俵担ぎされたアリアがぶん投げられ、俺の鳩尾にクリティカル頭突き。反応遅れてモロに喰らったでござる……

「くぉらあ理子ぉ! いきなり何すんのよ!?」

「よっしゃユーくん撃破ぁ! アリアんイェーイ!!」

「イェーイ――じゃないわよ!? 人をぶん投げるとかどういうつもりよ風穴空けるわよ!」

 その割にはノリノリでハイタッチしましたねアリアさん。俺? 未だ腹押さえてうずくまってるよ。その様子を強襲科(アサルト)の蘭豹先生に爆笑されてるよチクショー。

「近接訓練とは言ったけど、投擲武器を使っちゃいけないとは言われてないからね! そんな盲点を突いた一撃ですよ!」

「アタシは武器扱いか!? いやたしかに盲点を突くのは正解だけど!」

「流石アリアん、理子の作戦を評価してくれるぅ!」

「……そこに痺れる憧れるぅ」

「それ以前に怒ってんのよアタシは! あと潤は調子に乗らせるな!」

 昼に食べたチャーハンと菓子パンを戻さないよう必死になりながら続けたのに一蹴された、解せぬ。

 キレたアリアにコブラツイストを掛けられる理子(〆られて嬉しそう、いつも通りダメだなコイツ)。ここ数日で見慣れた光景である、他の生徒達も全く気にしないくらいには。

一応、『お互いの能力を知るのと連携をとりやすくするため』という名目で始めた訓練だったが、毎度こんな感じでgdgdだわ。いや連携は出来てるんだけどね? 

 二挺拳銃と二刀小太刀を臨機応変に使いこなす前衛のアリア、

 発想がぶっ飛んではいるがアリアと同様のオールラウンダーで前衛の理子、

 近接戦そこそこで射撃に長じている俺が後衛兼支援役である。

 ……あれ、俺の負担でかくね?

「おら遠山、いつまでも寝とらんで起きんかい!」

 『金剛』と書かれた一升瓶を片手に、酒臭い蘭豹先生が倒れた俺に蹴りを入れてきた。流石に酷くね? まあ起きるけどさ、普通に。

「何ややっぱり元気やないか。しっかし、強襲科のSランク三人がパーティ組むとは、贅沢やのぉ」

「二名は元でしょうに。分かってて言ってますよね?」

 実は俺と理子、入学試験で強襲科のSランクに格付けされている。まあ俺は一学期、理子は二学期で転科したが。

「別にええやろ、細かいことは。何だったら峰と戻ってもええんやで?」

「評価してくれるのはありがたいけど、まあ気が向いたら戻りますよ、っと!」

「ふごぁ!?」

 後ろからナイフを振るおうとした、知り合いの男子に蹴り上げが顎に命中し、空中に飛び上がった野郎を掴んで。

「オラァ!!」

「ザンギ!?」

 スクリュー○イルドライバーを見舞ってやった。何か曲がっているような気がするけど、死んでいないからいいや(雑)

 気絶した野郎から離れると同時に発砲音。背後から迫る銃弾を取り出した分厚いナイフで背中越しに弾き、

「ふぇ!?」

 間抜けな声を上げる女生徒にハイキックをぶち込み、吹っ飛ぶ。ワタクシ、女子にも手加減しない主義でして。

 やーれやれ、合間を狙って毎回襲ってくる輩がいるから困る。

「……どこが近接戦苦手なのよ」

 アリアが何か言ってるけど、キコエナーイ。

 

 

 明けて翌日。昼休みに剛、亮、アリアと俺の四人でポーカー中。理子は別件の依頼でおらず、周囲は騒がしいがここは静かなもんだ。ちなみにアリア、剛、亮の三者は俺と理子を通じて仲良くなった。

「よっし、ストレートフラッシュ! ふふん、これならいけるでしょ!」

「あーくそ、俺はワンペア」

「僕はツーペア」

「ファイブカード」

「はぁ!? ちょっとジュン、何でそんなポンポン揃うのよ!? イカサマじゃないの!?」

「イカサマは見破らなければイカサマとは言わない」

 まあ実際してないが、ムッキー! と怒るアリアが面白いので匂わせとく。ハハハ、理子がアリアを弄る気持ちがちょっと分かる今日この頃。

「っと、ちょい失礼」

「何、勝ち逃げするつもり!?」

「ちげーよ、ちゃんとした連絡」

 UFOキャッチャーもそうだったが、アリアは勝負事で熱くなる性質な上に負けず嫌い。ギャンブルには向いとらんね。

 睨まれながら届いたメールを確認。個人的にツテのある人脈からの連絡で――、

「ジュン?」

 内容を見て目を細めた俺に気付いたのか、アリアが硬い声で問いかけてくる。

「アリア、事件だ。断定はできんが、この件はお前さんも関係してる」

「! ……そう、じゃあ行きましょう」

「ああ。剛、亮、悪いが後片付けを頼む」

「分かったよ。遠山君、神崎さん、気を付けてね」

「おい潤、死んだら負け分は払わねーからな!」

「言ってろ負け犬」

 大敗してる剛に笑いながら中指を立て、アリアと共に走って教室を出て駐輪場へ向かう。途中ある場所に連絡を入れるのも忘れない。

「あーもしもし? ……忙しい? わりいけど緊急の要件だ、『貸し』を使いたい。

 ……は? 支払いがでかい? 知らねえよ、人道的支援を行ったってマスコミにでもタレこんどけ。

……おう、助かる。じゃあ頼むわ」

 通話を終えてスマホを仕舞い、寄りかかっていた自転車を逆に蹴り倒し、修理が終わったSV1000を引っ張り出す。

 察して後ろに飛び乗るアリアに、中から防寒着一式とヘルメットを取り出して投げ渡す。ちと暑いかもしれんが、飛ばすからな。手がかじかむよりはマシだろう。

同様の防寒具一式を着用し、座ってエンジンをかける。遅れて準備を終えたアリアが、一瞬躊躇った後俺の腰に手を回す。緊急事態だから気にされても困るんだが、まあそれは後にしよう。

「飛ばすぞ、振り落とされるなよ!」

「分かってるわ――キャ!?」

 初っ端からフルスロットで校舎を出る。後ろのアリアから可愛らしい悲鳴と、腰に回す腕の力が強くなる。なんで彼女が纏うクチナシの匂いが強くなるが、そんなムードじゃないしこれで動揺してたらDT丸出しである。……いや、未経験だけどね? あ、サイレン付けとこ。

『で、何があったの? アタシは『武偵殺し』の件だと思ってるんだけど』

 ヘルメットに備えられたインカム越しにアリアの声が聞こえる。

『御名答、流石の直感といったところかな?』

『茶化さなくていいわよ。……で、状況は?』

『陸の次は空。知り合いのタレコミなんだが、奴さん旅客機でドデカイ花火を挙げるつもりらしい』

『! 旅客機の名称と出発時間は!?』

『ANA600、出発は12:42、約二十分前だな』

『それじゃあ追いつけな――あ、もしかしてさっきの電話?』

『ま、追い付くのは問題ないさ』

 装備の確認や乗り込んでからの作戦を話し合い、十五分ほどで到着。

『飛行場?』

『個人所有のな。っと、いたいた』

 バイクを停車し、防寒具とヘルメットを脱ぎ捨ててアリアと走る先にいるのは、

「お待ちしてました、遠山様」

 五十代くらいのスーツを着た男性。手にはアタッシュケースを持っており、丁寧に頭を下げてくる。

「どうも平沼さん。すいませんね、お仕事中に」

「いえいえ、緊急事態なのですからお気になさらず。こちらが頼まれていた装備一式です」

「はい。……全部揃ってますね。コイツは?」

「機関に異常なし、燃料も十分です。あとはお二人が乗り込むだけです」

「パーフェクトです、平沼さん」

「お褒めに預かり光栄至極」

 苦笑しながら頭を下げる。社長の趣味が読書(漫画)だから、ネタに付き合わされてるんだろうな。

「これって……戦闘機?」

 アリアが見上げているのは、フランス製の戦闘機ラファール。武装は全て取り外されているが、佇む姿は飛ぶのを今か今かと待ち構えているようだ。

「交渉先で貰ったんだと。空軍が使ってた中古品だけど、性能は保証するとさ」

「へえ、気前のいい人もいたものね」

 特に驚いた様子はない。そういや貴方の実家、戦闘機くらいなら普通に買えましたね。剛なんか話を聞いたとき、「世界がちげー!?」とか騒いでたもんだが。

平沼さんに渡されたパイロットスーツを着込み、アタッシュケースを後部座席に放り込む。武装排除した分乗れる人数増やせるよう改造してるので、楽々乗れる。

「って、アンタが操縦するの?」

「そうだが?」

 操縦席に座って計器の確認をしている俺を見て、アリアが胡乱げな目を向ける。こいつ信用してねえな。

「……免許は?」

 ほらやっぱり。

「何度か飛ばしたことある。ダイジョーブ、こち亀の両さんだってゲーセンで鍛えて飛ばせたんだから」

「その例えでどう安心しろと!? あとそれ免許持ってる証拠にならないから!」

 人を疑うお前さんが悪い。隣でギャーギャー騒ぐアリアを無視し、エンジンを入れる。

「遠山様、社長からの伝言を忘れておりました! 『大事な交渉潰されかけた上に緊急で用意したんだ、今度はこっちの貸しにしとくから耳揃えて返せ!』だそうです!」

「『ちっせえこと気にしてるとスクラップにして返却するぞ!』って伝えておいてください!」

 地上の平沼さんにでかい声で返し、ラファールは空へと飛び立った。伝わったかどうかは知らん。

『……借りてるくせに無茶苦茶言うわね、アンタ』

 インカム越しに聞こえるアリアの呆れた声。いーんだよ別に、これくらいでガチギレするような奴じゃないし。

『それにしても、本当に飛ばせて安心したわ。ちょっと辛いけど……』

『急発進したからしゃーないさ。直に慣れる』

『何でアンタは平気そうなのよ?』

『鍛えてますから』

『絶対違うでしょそれ……ああそうだ、どうやって向こうに乗り込むの? あと、この戦闘機は? アンタが飛行場まで持って帰るの?』

『乗り込むのは平沼さんがあっちの機長に話付けといた、見掛けたら非常扉開けてくれる。

 ラファールに関しては自動操縦機能がある。飛行場まで勝手に戻るよう設定してるんだと』

『……地味に最先端機能使ってない?』

『最先端かねえ? 借りてる社長がこういうもんを扱うところの代表だからな』

 寧ろもっとロクでもないもん付けてても驚かない。まあこのラファールは遊覧飛行が用途らしいし、多分ないだろうが。

体感時間で約十五分、目視の範囲内にANA600便を発見。減速して近付けると、貨物部分のハッチが開いて制服を着た女性が手招きしている。

 ラファールの運転を自動操縦に切り替え、後部座席のアタッシュケースから取っ手が二つ付いた、パッと見は巨大な巻尺を取り出す。

『これで向こうまで飛び移るの?』

『うむ、安全性は保障されないけど。とりあえずアリア、取っ手を絶対放すなよ? 絶対だぞ?』

『……それはネタじゃないわよね?』

『流石に命を張ったネタを強要はしねえよ、今回は』

『今回はって何、普段は誰かにやってるの!? もう嫌な予感しかしないわ……』

 軽く目が死んでる。オイオイ気楽に行こうぜ、手を離さなきゃ高確率で死なないんだから。

 握ったのを確認し、ラファールのハッチを開ける。暴風が身を弄ぶ中立ち上がり、乗務員さんにジェスチャーで退くよう指示。巻尺モドキの先端、銃口にも似た筒部分をANA600に向ける。

 風向き、風速測定。射出後の誤差予測、修正完了。――射出。

 ボタンを押すと、先端から銀色のワイヤーが飛び出す。ある程度の距離を飛ぶと傘を広げるように展開して、吸盤状に変形して扉奥の床に貼り付く。よし、安全圏内。

ギャリギャリギャリ! ワイヤーが耳障りな音を立てて先端部分に巻かれていく。

 

 

Q:ワイヤーが先端と一緒に飛んでった巻尺モドキに戻ろうとすると、取っ手を掴んでいた俺達二人はどうなる?

A:引っ張られる

 

 

というわけで、強制スカイダイビングでござーい。

『イイヤッホオ!!』

『!!!!????』

 空を高速で横切るのはドラゴン○ール気分で悪くない。アリアは余裕がないのか、叫びながら命綱代わりの取っ手を握っている。

 浮遊感は数秒。俺は床で受身を取り、アリアは柔らかい荷物にぶつかったので双方ダメージなし。目を閉じてたら受身も取れんし、事前に連絡してもらって助かったわ。

「し、ししし死ぬかと思った!?」

「アリアー、初グライドの感想は?」

「二度とやんないわよこんな無茶苦茶な乗り込み方!! アンタいったい何考えてんのよ!?」

「んなこと言っても、パッと用意できて飛行機に乗り込めるものなんてこれしか思いつかなかったし」

「理子もそうだけど、アンタも大概無茶苦茶じゃないの……」

「大丈夫、出来ない無茶はやらんから。出来る無茶は率先してやるけど。

 ちなみにこれの設計・開発は装備科(アムド)の平賀さん」

「帰ったらアンタもろとも、安全性の文句ついでに風穴開けまくってやるわ……」

「あの、大丈夫ですか……?」

 瘴気のようなものを吐いているアリアに、女性の乗務員さんは恐る恐るといった感じではあるが手を伸ばして助け起こす。幸い、腰が抜けたとかはないようだ。こういう無茶苦茶に慣れてきたのかね、良いことだ(←原因)。

 ちなみに聞いたところだとこの乗務員さん、今日が初仕事だったらしい。まあ運が悪いと思ってくだせえ。

『この飛行機には、爆弾が仕掛けられて、やがります。乗客・乗務員が勝手に部屋から出ると、爆発、しやがります。繰り返す……』

 頭上からはお馴染みボーカ○イド。延々と繰り返され、軽くノイローゼになりそうだ。

「乗客の様子はどうなってるの?」

「今のところは皆さん落ち着いていられますが……中には悪質な悪戯だと怒鳴るお客様もいまして」

「決壊するのは時間の問題、と」

 前回以上にスピーディな解決が求められる訳だ。乗客の説得、武偵殺しが仕掛けている罠の突破、爆弾の解除。やることはいっぱいだねえ。

「ま、不可能任務(ミッションインポッシブル)って訳じゃねえ。行くかね、アリア」

「ええ、アタシ達チーム最初のミッション、成功させるわよ。理子はいないけど……」

「なんだ、アイツが恋しいのか?」

「な!? ち、違うわよバカジュン! 誰があんな変態のことなんか……!」

 赤くなっちゃって。そこまで必死に否定すると、そっちの気があるんじゃないかって思われるぞー。

 制服姿で身軽なり、憮然としたアリアを先頭に突入しようとするが、

「ジュン待って、嫌な予感がするわ。扉の奥に何かあるのかもしれない」

 静止を促され、扉の横の壁に張り付く。耳を当ててみると、微かな機械の動作音。

「多分扉を開けると発動するトラップだな。赤外線探知じゃないから、爆弾じゃなくて小型の銃だ」

「そこまで分かるの?」

「ま、推測だがな。んじゃ、俺は左を」

「OK、アタシは右ね」

 それぞれ得物を構え、飛び込む。侵入と同時、荷物に紛れていたスーツケースの側面が口を開き、そこから銃口が覗く。

「おせぇ!」

「はっ!」

 俺とアリアは銃口を狙って発砲。計四挺のけたたましい音が響き、破壊に成功する。偽装してる分タイムラグがありゃ、破壊も出来るわな。

「流石の『早撃ち(クイックドロウ)』ね。銃じゃアンタには敵わないわ」

「そりゃどーも」

 『早撃ち(クイックドロウ)』。文字通り単なる早撃ちなんだが、他の人間からは『発射音は一発なのに五発の弾丸が飛んでくる技』らしい。まあ要するに、そう錯覚させるくらいには早いってことだ。

「はい皆さん落ち着いて、武偵です! 爆弾が仕掛けられたと聞き、参上しました!」

 客人が騒ぎ出す前に大声で自分達の身分を明かし、武偵手帳を掲げる。先手を取って希望を見せれば銃声によるパニックは防げ――

「ふざけないで! 今更遅いのよ、何様のつもり!?」

 防げたが、ヒステリー起こしてる相手には通じないな。立ち上がったスーツ姿の女性が、こちらに詰め寄ってくる。

「救助のために地上から飛んできたので」

「はあ!? 何それ、もう少しマシな言い訳はないわけ!? どうせ事件が起こるのを待ってたんでしょう、未然に防げなかったあの無能な武偵みたいに!!」

「そんなことはしませんよ。申し訳ありませんが、状況は一刻を争うので通していただけませんか?」

「何よ、逃げるつもり? 大体貴方達武偵は――」

 延々と武偵への罵倒を続けていく女性。周囲が不安げに見守る中、「こいつぶっ飛ばす?」とイライラした様子で視線を送るアリアを制する。

「大方この事件も、あんた達が手柄欲しさに――」

 なおも言い募る女性の背後。彼女の頭に狙いを定め、天井に吊るされた監視カメラ――に偽装した小型ライフルが牙を剥く。

「マズ――!」

 アリアが反応するも、罠の起動の方が早い。派手な音を立てて鉛球が放たれ――それより先に、USPから三発の銃弾が放たれる。

 二発は銃弾に当たって無害な場所に軌道を逸らし、一発はライフルを破壊する。弾いた三発分が足元に突き刺さり、女性はその場に膝を突いた。

 再びの銃撃戦に乗客が悲鳴を上げるが、弾創を抜いたUSPで空砲を放ち、強制的に黙らせる。

「お静かに。今のように皆さんを狙う罠があるかもしれないので、可能な限り席から動かないでください。乗務員の方々も同様です。

 ここまで言って動かれた方の命は保障できませんが、救助を待てずに逃げたければどうぞご自由に。乗っている人間全員を巻き込む無理心中になるでしょうが」

 シンと静まり返った中でそれだけ言い、倒れた女性に手を伸ばしながらニコリと微笑んでやる。

 普通なら文句なり叫びが出るだろうが、誰一人声を上げることはない。それどころか俺を見て顔を青褪めさせていたり、蛇に睨まれたように動けないものも――

ガツン!!

「いてぇ!? 何すんだよアリア!?」

 グリップで殴りかかってきたアリアに文句を言うと、ツリ目を更に吊り上げてこちらを睨み、

「くぉのバカジュン! 今は乗客脅してる場合じゃないでしょうが!! アタシ達が今やるべきことは何!?」

「……事件の解決」

「分かってるならさっさと行く!」

「へーい……」

 見事な空気クラッシュである、いい意味で。まあこれだけ脅せば動く阿呆もいないだろう。

 ああそうだ、一つ伝えておかないとな。

兄の件(・・・)ではお世話になりました、西崎元編集長」

「――!?」

 小声で耳打ちすると、助け起こされたのにまたもへたり込む女性。それを素通りして出口の罠を破壊し、先へ進む。

「……兄の件って何よ?」

 耳聡いアリアが聞いてくるが、手をひらひらさせて答えを濁す。今やるべきは事件の解決ですよっと。




長くなりそうなので後編へ続きます。四話構成とはなんだったのか……ヨソウガイデス(汗)

2019/5/28 本文訂正しました。


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第三話 上手くいかないからって凹んでる時間はない(後編)

「ジュン!」

「あいよ!」

 リロード中のアリアを撃とうとする偽装トラップに入れ替わりでUSPの鉛玉を叩き込む。これでアリアが25、俺が27か。

 現在俺達は機長室へ向けて進軍中。奥へ進むごとに罠の数は増えていき、サブマシンガン、ライフル、珍しいものだとクロスボウやナイフ、鋼糸など隠す気のあるものからないものまで様々だった。たかが二人の武偵を殺すのに過剰すぎるだろ、無傷だけどさ。

「ふう、キリないわね」

「ホントだよな。まあ機関室も目と鼻の先、あと数個罠を突破したら最後の爆弾解除かね」

「余裕ねジュン、アタシでもちょっと疲れてきてるのに。しかし銃弾撃ち(ビリヤード)連鎖撃ち(キャノン)鏡撃ち(ミラー)跳弾射撃(エル)……まるでスゴ技のバーゲンセールね」

「そうか? 俺が見せた技なんて、身に着けようと思えば誰だって至れる領域の技ばっかだよ。アリアだってやろうと思えば出来るだろ?」

「……銃弾撃ちくらいならね、状況と条件にもよるでしょうけど。アンタが言うと嫌味じゃなくてホントに出来そうな気がするから不思議だわ」

「本心ですから」

「どうだか」

 喋りつつ、扉前のトラップを破壊していく。互いが死角位置のカバーを目も合わせずに行っていく。阿吽の呼吸ってやつか、合わせやすくて助かるわ。

「不思議ね。まだ数日、しかも実戦は初めてなのに、まるで長年コンビを組んできたような気分だわ」

 口調は落ち着いているが、顔には喜悦と高揚感が浮かんでいる。そういやあ、アリアの実家は『パートナーと組むことでその本領を発揮する』っていう謎ジンクスがあるんだよな(まあご先祖様の影響だろうが)。今までボッチ、もとい一人で行動してきたらしいし、ようやくパートナーが見つかって嬉しくないわけがないか。それにしても、分かりやすいねえ。

「……なんか微笑ましいものを見る目で見られてる気がするんだけど」

「気のせいじゃね」

 そして勘もいい。

「しかし、妙だな。前回の手口と比べると、敵さんの使ってくる武器がやけに耳っちい」

「そうね、バズーカとか手榴弾くらい持ってきても不思議じゃないけど」

 アリアも同じことを思っていたようだ。『武偵殺し』が名前の通りなら、飛行機ごと俺たちを爆破するくらいのことはしてのけるだろう。なのにそれをしないというのは、

「何か理由がある。……本人が乗り込んでいるとか?」

「どうだろうな。わざわざ空という早々逃げ場のない場所を選ぶには、犯人側にデメリットが多すぎる」

「そうよね……じゃあ何でかしら?」

「単に資金難だったら笑えるけどな」

「資金難なやつがこんな量の罠仕掛けるわけないでしょ……爆弾使ったほうが遥かに安価よ」

「そりゃそうか」

 ハハハと笑う、勿論冗談だ。まあおふざけはこのくらいにして、いい加減ハイジャックを終わらせちゃいましょうか。

 

 

 一瞬だけど、アタシはジュンという存在に恐怖した。

 普段は理子と一緒にバカやってるけど、銃の腕前はアタシ以上で発言の端々から頭も回り、行動力もあるアタシのパートナーの一人。

 先程息が合うのが不思議だと言っていたが、彼がアタシに合わせてくれているというのが、勘で何となく分かっている。後衛だからというのもあるんでしょうけど。

 自分の力をうまく引き出してくれる存在。そんな彼と一緒に戦うことに、高揚感を覚えないといったら嘘だ。だけど、脳裏に先程の光景が貼りついて離れない。

 怒鳴り散らす女性客を狙う罠を破壊し、彼女の目の前にわざと跳弾するよう弾丸を放つ姿。そして笑みを浮かべながら乗客を脅す姿。

 武偵としては下の下である方法、だが説得の速さという意味では最も合理的だろう。しかし、アタシはあの時見た彼の顔が、恐怖と共に刻まれて忘れられない。

 今まで見てきた武偵、犯罪者、どれとも違う表情。あれは何だったんだろう? すぐに持ち直して本人を叩くことで空気を変えたが、もう少し続いていたらアタシのジュンを見る目は変わっていたかもしれない。

 ……考えるのは後だ、今は事件解決に専念しよう。武偵殺しを捕まえられれば、ママの冤罪も一つ晴れる。

「空けるわよ」

「おー」

 気の抜ける返事を背に、アタシは先に入って機関室で待ち構えているトラップを破壊し、ジュンが残った分をカバーする。もう完全にルーチンワークね。

「大丈夫ですか!? ……ダメね、気絶してる。自動操縦に切り替わってるからまだいいけど」

 機長、副機長と思しき二人は気絶している。目立った外傷はないのが不幸中の幸いか。

「そして分かりやすいところにある爆弾。ってワーオ、前の倍はでかくねえかこれ」

「ジュン、解体作業はできそう!?」

「パッと見だが、構造は前と同じタイプだ。難易度は上がってるが問題はないだろうよ。さて、解体キット~」

「バカやってないでさっさと取り掛かりなさい!!」

 某猫型ロボットみたいな声を出して懐から取り出したものを掲げるジュンに怒鳴りつけると、「へいへい、人使い荒いねえ」とかボやきつつも作業を始めた。こんな時でもボケ続けられるのは、余裕があると見ていいのかふざけすぎだと怒るべきなのかどっちだろう。

 とはいえ、解体はジュンに頼るしかないのが事実だ。アタシは機長さん達の応急処置を行いながら、周囲に罠が残っていないか警戒する。まあジュンがすぐに解体するでしょうけど。

「終わったぞー」

 ほらやっぱり。応急処置が終わるのとほぼ同時とかどんなスピードよ。

「整備科の解体専門Sランクはこんなもんじゃないけどな」

「……アタシ口に出したっけ?」

「いや、表情でなんとなく」

「そ。とりあえず、当面の危機は去ったかしらね?」

「そーだな、まあお目当てのはいなかったが。ここから羽田にとんぼ返りして事情聴取かあ」

 ああメンドクセエ、とボヤきながら操縦席に座り、計器のチェックをしながら無線で羽田空港に連絡している。

「ジュン、アタシには嫌いな言葉が三つあるわ」

 機長達を端に寝かせ、無線で連絡中のジュンに背中越しで話し掛ける。こういう時でもない限り、自分の主張なんて早々言えないからね。理子がボケ倒しててツッコミ入れまくる羽目になるし。

「『ムリ』、『疲れた』、『面倒くさい』。この三つの言葉は人間の持つ可能性を自ら貶める良くない言葉よ」

「――、――」

 通信を終えて無線を置いたジュンの表情は、苦笑だった。あら珍しい、こんな顔も出来るのね。

「愚痴るくらいいいだろ? やるべきことはやるんだからさ」

「ノー。日々の何気ない積み重ねが、気付いたら可能性を奪っているのよ?」

「なるほど、確かに一理ある。……まあ、それも可能性が残っていればの話だがな」

「……? どういう意味?」

 別にそこまで深いことを言ったつもりはないんだけど。

「何でもねえ。それより――後ろ、危ないぞ」

「え――!」

 振り返ると、天井部分からライフルが二挺。嘘、まだトラップが残ってたの!?

 驚いて隙を作ったのがいけなかった。ガバメントを構える暇もなく、ドガアン! と重苦しい音を上げてライフルが火を噴く。

 回避――ダメ、跳弾して機長達に当たる可能性がある! 咄嗟に出来たのは急所を腕で庇うことだけだった。

 防弾制服で耐えれる? と思ったその時、アタシの眼前に紺色の布――違った、ブレザーの上着が出現した。次いでガガン! とUSPの発射音が響く。

 ライフルの弾は防弾制服に当たり、ボスン! となにやらおかしい音を立てて制服に食い込んでいた。次いで破砕音、トラップが破壊されたときのものだ。

「おうアリア、無事か?」

「え、ええ何とか。でも、この制服何? すっごい変な音した上にライフルの弾を止めてるんだけど」

 しかも持ってみたら滅茶苦茶重い。何入ってるのよこれ?

「対刃・防弾性能を向上させた改造品さ、スナイパーライフルくらいならそれで防げる。ただちと重い」

「いやこの重さは制服だけじゃないでしょ……」

「漁るなよ? 絶対漁るなよ?」

「それはフリなのかしら」

 どこの芸人よこいつは。まあとにかく助かった、折角だしお礼を言おうと振り返り、そこでアタシは顔を青褪めさせる。

「! ジュン、アンタ!?」

「ん? あーこれ? いやあ、まさかこっちにも張っているとは予想外だった。ご丁寧にサイレンサー付きで爆弾狙ってきやがった」

 多分爆弾解除したら起動するよう設定されてたんだろうな。そう呑気に語る彼の頭からは血が流れ、左腕は穴が開いてカッターシャツを赤色に染めていた。

「と、とにかく止血を……!」

「ワオ、美少女に手当てしてもらえるとかビューティフォー! 理子だったらこう言うんかね?」

「こんな時まで何バカなこと言ってんのよ……! とにかく、アタシと操縦代わりなさい!」

「え、アリア操縦できんの?」

「セスナくらいなら飛ばしたことあるわ!」

「イヤイヤそれじゃ無理だろ。ダイジョーブ、これくらいなら操縦に支障はねえ」

「そういう問題じゃ――」

「アリア」

 それまでおどけていた表情が一変し、真剣な声でこちらに呼び掛ける。ドキン、と心臓が跳ね、腕の処置をする手も止まってしまう。

「ちとクールになろうぜ? ここにいるのは俺達だけじゃねえ、乗客や乗務員だっている。経験のないお前さんに操縦を任せて、地面とランデブーする可能性があるのに賭けるのはちとよろしくない」

「……」

 言い草はアレだが、たしかにそうだ。アタシではコイツを上手く飛ばせる自信はない。逆にジュンは怪我を負っているにも関わらず、飛行機の操縦は安定している。なら、任せるのが正しい選択だろう。

 アタシが黙ったのを見て、ジュンはいつものおどけた表情になり肩を竦める。

「ダイジョーブダイジョーブ、痛覚遮断してるから操縦に支障はねえから。それよりアリアは乗務員さんに状況の報告と機長さん達を安全な場所で休ませるの、あと残りのトラップがないか調べてきてくれねえか? ちとやること多いが、頼むわ」

「……分かったわ」

 頷く。頷くことしか出来なかった。

 

 

 視点変わって我輩、遠山潤。時々メタい? 気にするな。

 さて、あの後はトラブルもなく無事羽田空港に到着。俺は待機していた医療科の生徒に強制連行されちまって事情聴取とかに参加できなかった。腕に穴開いたくらいで大袈裟だねえ、アリアに言ったら怒られて「後始末はアタシがやっとくから、アンタは傷を直すのに専念しなさい」って不安そうな顔で言われちまったけど。

 まあパートナーを不安にさせるのも悪いので、大人しく治療を受けて入院することに。何故か治療・入院費はアリアが払ってくれて超豪華な個室だった。別に集団の安物部屋でいいんだけどねえ。

 そして、一夜明けて日曜。どこから聞きつけたのか見舞いに来る奴等の多いこと多いこと。お前等日曜なのに暇だな、行くとこねーのかよ。そしてゴーヤジュース見舞い品に持ってきた奴誰だ、『ゴーヤそのままの苦さを貴方に!』とかもはや罰ゲーム用じゃねえか。

 病室で騒ぐバカ共が救護課の先生、矢常呂イリン先生に追い払われ(超怖かった)、俺も説教されて(何でや、一緒に騒いでたけど)静かになった午後。差し入れに入っていた板チョコを食いつつ漫画を読んでいたら、アリアが見舞いにやってきた。

「ジュン、具合はどう?」

 どこかに行ってきたのか、薄く桃色の入った白ワンピースという余所行きの格好だ。。明るい格好に関して顔は暗く、涙の跡も見えるが。

「おう、アリア。もう完治してるぜ」

「は? 嘘言わないの、アレだけの傷がそんなすぐ治るわけ――え?」

 掲げた左腕を見たアリアは呆れ顔から一転、驚きのものに変わる。そこに巻かれているべき包帯等はなく、傷跡すら残っていない。

「な、なんで?」

「傷の治りを早くしたからな」

「……ひょっとして、超能力(ステルス)」

「正解」

 武偵高での超能力(ステルス)とは一般的なESPだけでなく魔術、錬金術、召喚術などオカルトと呼ばれるものも含めた『超常的な能力』を含めた総称である。

 といっても、俺の能力は基本『治癒力の向上』という地味な奴だ。軽症ならすぐに直るが、重症だと時間が掛かるため戦闘中はあんまり意味がない。なんで超能力を集めた学科、SSRではD判定となんともいえない評価をいただいている。半端なのは重々承知してるよコノヤロー。

「いや結構使えるでしょその能力……とにかく、治ったなら良かったわ」

「まあ矢常呂先生には「治療の甲斐がないわね」って言われたけどな。ああそうだ、治療と入院費用サンキューな。こんなでかい場所も用意してくれて」

「いいわよ別に、今回の怪我はアタシの責任だし……」

 ……アリアってこんなんだっけ? ツッコミ持ちのツンデレタイプだし、こんな罪悪感抱えた顔、プライドが邪魔して素直に出せないと思ってた(←偏見)。

 申し訳なさそうにこっちの手を握ったまま俯いているアリア。何この空気。

「あ、あのねジュン、その……」

 アリアが言い出しにくそうに言葉を淀ませている。うーむ、とりあえず、

「まあアリア、いったん落ち着こうや。ほいこれ」

「え? ええ。――――!!!!????」

 例のゴーヤジュースを確認もせずに一口飲んだら凄い顔になった。吹いたり吐かなかっただけ大したもんだと思う。

「う、うえ、ゲホ、ゲホ! 何これ、滅茶苦茶苦いし凄い青臭い!? 何でこんなもん飲ませたのよ!?」

「いや、病院にふさわしいしんみりした空気をぶち壊したくて」

「シリアスブレイカーかアンタは!?」

「いいえ、コメディアンです」

「嘘つけぇ!!」

 ガアッとライオンみたいに吼える。元気になったのはいいけど、あんまり騒ぐと矢常呂先生が飛んでくるぞー?(←原因)。

「まあアレだ、武偵は怪我なんて日常茶飯事だし、庇われたくらいで一々罪悪感感じてたらキリないぞ?」

「……それ、本人が言う?」

「実際気にしてないし、あのままだとお前さんパートナー解消するとか言いそうだったし」

「……」

 言うつもりだったんかい、目を逸らして分かりやすい奴である。

「そもそもこの件はお前が始めたことだろ? 母親の冤罪を晴らすなら、戦力は一人でも多い方がいいだろ。序盤に躓いたくらいで凹んでたら身がもたねえぞ」

「それはそうだけど……」

「どうしても納得できねえなら、いずれ俺もお前に怪我させる時が来る。だからこれはその分の貸しだと思えばいい」

「何それ。じゃあアタシが怪我するのは必然ってこと?」

「物理的にも精神的にも、傷を負わない人生なんて有り得ないだろ。何より面白くねえ」

「嫌な人生論ね」

 などと言うが、顔は笑っている。ようやくか、死んでた顔が幾分マシになったな。

「ま、そういうことなら借りにしておくわ。今度はお互いしくじらないようにしましょ?」

「そうだな、また入院してお前さんの辛気臭い顔を見んのはゴメンだし」

「うっさいわね、こっちは本気で心配してたのよ」

 むうと頬を膨らますアリア。うーむ、やっぱりツンデレじゃないような気がする。

「ウヒョー! むくれ顔のアリアんとかレアなもん撮れましたよ旦那!」

「いたのかお前」

「へ? げえ、理子!?」

 病室の入口に立っているのは興奮気味、じゃなくていつも通りの理子。その手にはごつい一眼レフカメラ、主にアリア等の美少女とかを撮るのに使われる(理子談)。

「アリアんもユーくんも反応ひど!? というかユーくん気付いてたじゃん!」

「敢えてスルーしていた、反省はしていない」

「っていうか何他人のこと勝手に撮ってるのよ!?」

「理子の美少女これくしょんを充実させるためですよ!」

「艦○れみたいに言うな! というかすぐ消しなさい!」

「えー、やだよー。アリアんのレア写真は校内で高値で取引され」

「今すぐ消せええぇぇぇ!!」

 病院内で小太刀を取り出すアリア、ブンブン振り回されるそれを楽しそうに避ける理子。お前等病院内だぞ、あと理子は何しに来た。

「とりあえずアリア落ち着け、あと理子はこれ飲んでろ」

「おお、ノド渇いてた理子にくれるとかユーくん気が利くぅ! しかも飲みかけということはアリアんかユーくんと間接」

「はよ飲め」

「せっかちですなあユーくんは。――ドワーフ!?」

 錐揉み三回転して吹っ飛んだ。なんでさ。

 とりあえず静かになったが、まあ当然騒ぎを聞いて飛んできた矢常呂先生に怒られ、怪我が治った俺含め三人仲良く追い出された。すんませんね、いつも騒がしくて。

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 地味に超能力持ってる系武偵。色々スキルを持ってるが、本人曰く「どれもSランク持ちに敵うほどじゃない」とのこと。
 武偵にあるまじき発言が目立つが、大体いつもこんな感じである。結果的に命と精神が無事ならオッケー主義。もう武偵じゃねえなコイツ。

神崎・H・アリア
 凹まされ系武偵。原作より素直かも? 比較してないからよく分からん。
 パートナー組んでの仕事が初めてなので、相手を怪我させたのも初めて。なので必要以上に落ち込んでいた。
 なお母親のシーンがカットなのは、怪我した潤を気遣って一人で行ったため。というか原作でのキンジもストーカげふんげふん尾行して見付かった結果だしね。

峰理子
 ギャグ担当系武偵。戦法は奇妙というより奇天烈の域に達しており、実際隙を突くのが上手い。
 今回、メイド喫茶の衣装作りを依頼されて居なかった。ちなみに潤のお見舞いに来たのは、負傷した彼をm9(^Д^)プギャーするのが目的。

後書き
 長い(小並感)。
 というわけで、前後編に分かれた第三話でした。今回は『もしもバスジャックで傷ついたのがアリアでなかったら?』というコンセプトです。
 ……嘘です、話の流れでなんとなくです。まあアリアでなく潤が怪我するのは前から決まってたんですが、それ言うためだけにしては前後の茶番が長すぎますし。
 あとはシリアス中心なんで特に書くことないです(オイ)。まあ一つ言わせてもらうなら、こういうのも書きたいんや……今回前後合わせて長すぎたんで、今後は出来るだけ短く出来るように頑張りたいです。
 次回は武偵殺し編ラスト。原作沿いとはいえ大分展開の違う今回、犯人は誰か?
 ……まあ、原作知ってる人にはバレバレでしょうが。ではまた次回に。
 感想・批評・誤字訂正、心を抉るものでもお待ちしてます(←豆腐フィジカル)。


追記
1/6 誤字訂正しました。


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第四話 武偵殺しより愛を込めて(前編)

 ハイジャックの一件から一週間が経った。その間某貿易会社が武偵に支援を行ったことで世間から賛否両論されたり、某ゴシップ社が倒産したり、警察の対応が後手後手だったことに非難が飛んだり世間は忙しいことだが、俺には関係のないことだ。

 で、肝心の事件だが進展はあまり見られなかった。乗客・乗務員全てに事情聴取をしたが犯人らしき人間はおらず、恐らく犯人は航空会社の人間に紛れ込んで爆弾とその他トラップを事前に仕掛けたと推測されているが、不審人物などの情報もなく捜査は難航しているという。

「まあ、そんな簡単に捕まるなら苦労しねーわな」

 自室のソファで寝転がりながら六個目のミニアイスを食いつつ、新たに提出された報告書を脇に置く。しかしやっぱミニは駄目だな、すぐ食い尽くしちまう。

続いて『極秘 神崎・H・アリアん☆』と書かれたアリアについての報告書を手に取る。作成者は言うまでもなく理子、☆が死ぬほどイラっとするがまあ無視しよう。

身体特徴、経歴、武偵としての活躍、家族構成、趣味嗜好、性格、果ては口座情報などプライバシーも何もあったもんじゃない情報が見やすく書かれている。アイツ、こういう文面の仕事はきちっとやるからな。

 あと、何でスリーサイズ部分に赤線引いてあるんだ? いらねえよ重要でも何でもねえし。『昔妹と賭けポーカーをして罰ゲームにトランプ柄の下着を履くことを強要され、現在も律儀に守っている』とかもあるけどどうでもいいよ、というかアリア全敗かよ妹つえーな。

 報告書を読み終え、アリアの方については焼却処分する。プライバシーの問題もあるし見付かると面倒だからな。口座番号? 別に金に困ってるわけでもないしどうでもいい。

「さて、出掛けるか」

 本日は理子から呼び出しを喰らっている。直接ウチに来ては拉致する勢いでアキバ等に連れて行くアイツにしては珍しいことだ。ちなみにアリアはイギリスの武偵局にお呼ばれらしく、居ない。

指定された場所は女子生徒の間で人気の喫茶店。元武偵のマスターが経営してるらしく、理子は面識がありオープンの際に手助けをして懇意にしてるんだとか。

SVをかっ飛ばして三十分、都心から少し離れた場所にある店の駐輪場に理子のベスパを見つけ、隣に停車させて店の中に入る。

内装は女子向けコーディネートで普通の野郎なら気後れするんだろうが、甘いものを求めて三千里、理子と一緒に普通の喫茶店からメイド喫茶まで極上の甘味を探求した俺に取っちゃこれくらい何てことはない。そういやこの店は初めてだな。

「あ、潤じゃん! 珍しい、一人?」

「おう。理子に呼び出し受けてな」

 この間ぶっ飛ばした強襲科時代の知り合いである女子に挨拶がてら来店理由を告げると、そいつはお仲間と一緒にキャアキャア騒ぎ出した。何だ急に。

「こ、ここに呼び出しってことは……理子ちゃん、ついに愛の告白ってこと!? 潤はどう思う?」

「あ? 告白? ねえだろそんなこと」

 別の意味での告白ならあるかもしれんが。しかし俺が否定してもこいつらは黄色い声を上げ続けている。

「でもでも、この店奥にVIPルームがあるんだけど」

「そこに男女で入るとね、100%告白が成功するって噂が武偵高にあるんだよ!」

 何その甘ったるい都市伝説、俺は甘味は好きだけどそういう恋愛脳(スイーツ)な話題は専門外だぞ。あとお前等なんでセリフ分割してんだ?

「ふうん、まあないだろうけど一応覚えとく」

 手を振って先に進むと、「結果後で教えてねー」と声がした。結果ねえ、もっと血生臭い話だろうけど。

というか、恋愛から程遠い連中が多い武偵女子の間でもそういう話あるんだな。そんなことを考えつつ、指定された部屋の扉をノックする。

「はーい! おーユーくんいらっしゃい、待ってたよー!」

 中にいた理子がまるで自分の家のように俺を出迎える。「お邪魔します」とノってみたらやたら嬉しそうな顔された。何だこの反応。

「って、お前もう食ってんのかよズリィ」

「いやあ、ユーくん待ってたらお腹空いちゃって、先に頂いてました!」

 ごめーんね☆ などと言っている理子だが、珍しいこともあるもんだ。いつもなら「食事はみんなでワイワイ食べよう!」とか言って全員来るの待ってるのに。

「……? 何だお前、随分気合入った服装とメイクだな。しかも柄にもなく緊張してるっぽいし」

 とりあえず飲み物とケーキ三個ほど注文し、隣に座る理子の姿をマジマジと見つめる。

 所謂白ゴスという服のそれは、おそらく理子自身が製作、もしくはアレンジした一品だろう。派手好きなこいつにしては統一感のある落ち着いたデザインになっているが、腰や腕に巻かれたベルトと体のラインに合わせて作られているので、どことなく拘束的で背徳的な雰囲気を感じさせる。。

「あははー、流石ユーくん、理子の全てを良く見てるー! ねねところでさ、この衣装どう思う? 似合うかな?」

 笑っている理子だが一方的に話すとは。いつもは人のリアクションを期待して待ってるのに。

「ああ、似合ってるぞ。どうと言われると……結婚衣装に見える、かな?」

 ベールでも被ってればよりそれっぽいかもしれない。まあ着ていったら奇異の視線を向けられること間違いなしだが。

「! おー、ユーくんスゴイスゴイ! 理子のコンセプトがすぐ分かるとか相性ばっちしだね!」

「まあ婚期は遠のきそうだがな」

「ちょ、上げて落とすとかひど!?」

 めっちゃ嬉しそうに笑ったと思ったらもういつものテンションに戻った。今の一瞬の笑みにほれちまいそうだったぜー(棒)

『そこに男女で入るとね、100%告白が成功するって噂が武偵高にあるんだよ!』

 さっき会った女子の会話が蘇る。こいつぜってえ真に受けてやがる、みょんなとこで初心だからなー。

 しばらくいつも通りゲームやアニメネタで雑談したりふざけていたら頼んでいたケーキと紅茶が届いた。しかし隣同士だと喋りにくいな、いつもは対面だっつうのに。

「お、ケーキ美味いな、食った中でもかなり上のランクだ」

「でしょでしょー? マスターね、前から喫茶店開くのが夢で以前から修行してたんだって」

「……なんで武偵やってたんだよここのマスター」

「マニーですよマニー。手っ取り早く稼ぐならでっかい依頼受けるのが一番だしねー」

「リアルすぎる裏事情に全俺が微妙な顔をした」

 紅茶から血の味がする気がする。いや嘘だけど。

「……むー」

「? 何だよ?」

 大人しくケーキを食ってると、横の理子がむくれだした。別に無視してるわけでもねえのに。

「理子はこんなに気合入れてドッキドキなのに、ユーくんだけいつも通りKOOLとかズールーイー!!」

「いやどこに動悸上げる要素あるんだよ」

「いつもと違う白ゴスりこりんにハートブレイクして思わず婚約を申し込んじゃうとか」

「ルールブレイカーでお願いします」

契約(婚約)破棄!?」

 ガーン!? とか口で言ってるが、お前がドッキリしかけるなんて珍しくもなんともねえからな?

「つうか、いい加減本題に入ろうぜ。お前がわざわざ呼び出しするくらいなんだ、重要な用件なんだろ?」

「理子としてはこのままデートでもいいんだけど」

「仰ってる意味が分からん」

「ぶー。じゃあつまんない話と面白い話、どっちからする?」

「楽しみはとっておく主義だからつまんない話で。で、今回の件はどういうつもりなんだ、『武偵殺し』さん?」

 ケーキを食べ終えて顔を上げると、理子はニヤアと猫みたいに笑った。ああ、こりゃ始まったな。

「何でだろうねー? アリアんとユーくんを引き合わせるため? 理子が武偵を嫌ってるから? アリアんの家と理子の家に因縁があるから? さーどれでしょー?」

「どれも不正解と来た。アリアと引き合わせたのは必然でも事件を起こす理由には薄いし、武偵嫌ってんならもっとエグイ殺し方をするだろ」

 アリアと理子の家の因縁? 死ぬほどどうでもいい。

「くふふー正解~。というか前の事件についても気付いてたんだね~。ということは、お兄さんの事件にも?」

「当然だろ」

 今年の一月に起こったシージャック。表向きは事故とされたその事件は一人の武偵が活躍したことで誰も死ぬことはなかった。救助に走った武偵を除いて。

武偵の名は、遠山金一。死後にクルージング会社を発端とし世間から貶められた、俺の兄貴だ。

「じゃあほらほら、お兄さんの仇が目の前にいますよ~?」

 カモンカモン、と手招きしてくる理子に、俺は白けた目を向ける。

「するかアホ。殺したどころか兄貴の手助けした人間をぶちのめしてどうするんだっつの。どうせ兄貴のことだから生きてるんだろ? 『イ・ウー』に深入りするために」

 『イ・ウー』。『教授』(プロフェシオン)と呼ばれる人間を頂点に置く、詳細不明の世界的犯罪集団。そのメンバーはどれもが超人であり、恐らく理子もその一人だ。

そもそも世間的に死んだとされる少し前、兄貴からとある犯罪組織の潜入捜査を行っていると聞いていた。疲れからうっかり漏らしちまったんだろうが、そんな情報があればそこに潜入するための工作を行ったことなど容易に推測できる。

「……そっか。お兄さんの葬式に出なかったのも」

「生きてる人間を弔う趣味はねえからな」

「でも、理子はお兄さんが貶められる原因の元凶だよー?」

「どうせ兄貴も承知の上だろ。あの会社への仕返しはお前も手伝ってくれたし、それでチャラだ」

 当時、貶められた兄貴の評価を真に受けたマスコミや会社の質問という名の糾弾があんまりにもウザかったので、件のクルージング会社を含めたマスゴミ連中の不正だの裏取引等々を調べ上げ、世間に公表して社会的に殺してやった。その際理子も手伝いを申し出てきたのだ。というかあの時、俺より不機嫌というかキレてたな。

「ふうん、じゃあ理子のことは許してくれるんだー?」

「そもそも憎んでもいねえし許すことがねえよ。ぶっちゃけお前が『武偵殺し』だからってどうこうする気なんざ欠片もねえし、どうも思わん」

 紛れもない本音だ。理子が犯罪者だろうがなんだろうが、逮捕する気も糾弾する気もない。世間的にはアウトだろうが、んなもん知らん。言わなきゃいいんだよ言わなきゃ。

クスクス、と理子は楽しそうに笑う。

「武偵失格だねーユーくん」

「お前に言われたくねえな」

「そう? あ、そうだ。ユーくんもイ・ウーに来ない? そうなれば理子も嬉しいし、お兄さんにも再会できるよ?」

「だが断る。兄貴がいるんなら俺が出張る必要ねえし、俺は武偵である今の立場を気に入ってるんだよ」

「ちぇー、残念。じゃあ最後に問題、この事件における理子の目的はなんでしょ~?」

 さっきからやたら間延びした質問の仕方をする理子。一見するといつも通りだが、これは『変わる』前兆だ。

「シージャックは兄貴のイ・ウーへの手引き、今回はアリアを連れ帰ること、だろ?」

 一部トップか組織全体かは知らんが、『イ・ウー』はアリアを狙っている。じゃなければ母親にアホみたいな数の罪を押し付けるなんて訳分からんことしないだろ。俺の勧誘? ついでだろJK。

「ブッブー! 残念、一個足りませーん!」

「あ? 足りねえ?」

 鸚鵡返しに問い掛けてしまう。兄貴の件で他にも目的があったとかか?

「お兄さんの件は正解、アリアんの件もたしかに命令されたよ? でもね」

 そこで理子は妖しい笑みを浮かべ、こっちに擦り寄ってくる。砂糖菓子のように甘い匂いがする身体をこちらに密着させ、唇を俺の耳に寄せ、

「理子の目的はね、潤なんだよ?」

甘い声で、そう囁いた。

「は? そりゃどういう」

 続きを言う前、理子に体勢を崩されてソファに仰向けとなってしまい、そんな俺の上に理子が馬乗りで跨ってくる。え、何この状況。

「ねえ、潤?」

 顔同士が近付き、俺の名前を呼ぶ理子の声は、ギリギリで興奮を抑えているものだ。小柄な身体に反して豊かな胸が俺の胸板で潰され、巧妙に隠していたもの(感情)が牙を剥く。

「理子のものになって?」

 

カップルが結ばれるという喫茶店の一室で、理子は甘く甘く囁いた。

……マジかよ。

 




後書き
 次回は短くすると言ったな? 守れなかったよ……
 色々混ぜた言い訳をしつつ、後半に続きます。いや、このラストは原作一巻の山場で私が書きたかったところの一つなんだから仕方ないんですよ!
 次回戦闘パート、の予定。


追記
1/6 誤字訂正しました。


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第四話 武偵殺しより愛を込めて(後編)

 神崎・H・アリアよ。……誰に言ってんのかしら、アタシ。

まあそんなことはどうでもいい、問題は目の前の光景だ。正直思考が正常に働いてないのは自覚してる。なんたって、

 

「理子のものになって?」

 

 

 ……あ、敢えて今見たものを話すわ! アタシは呼び出されたと思ったら、パートナー(女)がパートナー(男)を押し倒して熱烈な告白をした現場を目撃した!

何を言っているか分からないと(ry

え、何!? 何でアタシ告白現場を目撃してるの!? あの二人やっぱりそうなるような関係だったの!? というか事件の件で呼ばれたのに何この状況!?

とりあえず中に入るべき? いやいやどう考えてもマズイでしょというかキスする気子供出来ちゃうじゃない止めるいやいやとにかくお幸せに!!

もう自分でも何考えてるのか分からなくなってきた。多分顔はリンゴよりもまっかっかになってるわ。

「アーリアん? そんなとこに隠れてないで出てきなよ?」

 げ、何でこの状況で気付いてるのよアイツ!? というかこっちは空気読んで撤退しようとしてるんだからそっちも空気読んでよ!

 正直今からでも逃げた方がいいのだが、思考が茹ってるアタシは恐る恐る入ってしまった。

VIPルームと呼ばれるそこは、落ち着いた雰囲気で密会をするには適切と言えるだろう。そして中央にあるソファには押し倒された潤と、押し倒した理子。無理無理直視なんて出来ない!

「お、お邪魔だった、かしら?」

 目を逸らしてどもった声になってしまう。いつものアタシなら怒鳴りつけて蹴っ飛ばしてるところなんだけど、あーもうどうすりゃいいのよ!?

「くふふ、いいよー呼んだのは理子だから。思ったより来るの早かったけど」

「あ、アタシは集合三十分前に来るのを信条にしてるから」

 今は後悔してるけど。ロンドン武偵局の用件が終わってすぐ、急いで来なければこの現場に遭遇しなかったかもしれないのに。

「えっと、と、とりあえず、色々済んだら呼んで! お邪魔虫のアタシは外で待ってるから!」

「なんだったらアリアも混ざる? 愉しいこと」

「はあぁ!? なななな何言ってるのよ!?!?」

 何でアタシも巻き込もうとするの!? 実は理子も一杯一杯なの!?

「だぁって理子、アリアのこと大好きだから。潤と一緒に理子のモノにしちゃおうかなーって」

「アンタ何言ってんの!?」

 意味分かんない! というより分かりたくない! アタシの勘がかつてない勢いで警鐘鳴らしてるんだもん!

「気を付けろアリア、理子はガチのバイだから」

 うわあ潤余計なこと言わないでよ!? 超嫌な予感大当たりじゃない! というか結構余裕そうねアンタ!?

「愛は広大で性別を問わないんだよ?」

「それただの節操なしじゃねえか。いいから降りろ」

「ぶー、チュウの一つもすれば潤もアリアもその気にさせられたかもしれないのにー」

 ふて腐れてるが理子は素直に潤の上からどいた。え、これからナニかするんじゃなかったの? ナニするかは知らないけど(←小学生以下の性知識)。

パァン!!

「みぎゃあ!?」

 え、何々新手の奇襲!?

「おう、とりあえずクールになろうやアリア」

 いつの間にかアタシの前に来ていた潤によるネコダマシだった。何すんのよ!? と言いたいところだが、実際パニくっていた頭は幾らか冷静になったのでムッと黙ることにする。

「くふふ、アリアには速かったかな~?」

「う、うっさいわね! 大体、事件のことで呼ばれたのに何でこんなことになってるのよ!」

「んなもん俺が聞きたい。ああアリア、理子の奴が件の『武偵殺し』だぞ」

「いや分かるでしょあの状況なら――は?」

 今、コイツ何て言った? 

「いやだから、理子が『武偵殺し』だって」

「はいはーい! 犯人はー、りこりんでーす!」

 ブイ! とダブルピースを決める理子に対し、

「はあああぁぁぁぁ!!?」

 叫ぶ。叫ぶしかなかった。もうヤダこのパートナー達。

はい、アリアが驚いてるのに面白いと思ってる遠山潤です。ホントいいリアクションするなーこいつ。

「え、ちょ、理子が武偵殺し? どういうこと? だって理子はアタシのパートナーで、犯人逮捕に協力して……」

「犯人逮捕に協力するとは言ったが、自分が犯人だとは言ってない」

「灯台下暗しだねアリアー? くふふ、それじゃあ種明かしターイム!」

「ドンドンパフパフー」

 適当に合わせてやる。アリア完全に置いてけぼり状態だが、来る前に答え合わせしちまったからなあ。

「理子は『武偵殺し』アーンド、イ・ウー研鑚派(ダイオ)所属、峰・理子・リュパン四世です! よく知ってるよねー神崎・ホームズ・アリア?」

「……リュパン? それにイ・ウー!?」

 それまで混乱していたアリアが、『イ・ウー』の単語で顔を上げキッと睨みつける。自分の母親を牢に入れた組織の名前だ、そりゃこうなるわな。しかもホームズとリュパン、探偵と怪盗という因縁のある家同士ときた。

「くふふ、いい顔になったねーアリア。あ、理子のことは今まで通り理子って呼んでね?」

「……そう、そうだったのね。アンタがアタシと一緒にいたのは、アタシを嘲笑うためだったの?」

アリアの様子がおかしい。上げたと思った顔をまた下げて身体を震わせ、再度理子を見る目には涙が滲んでいた。

「最初からアタシと潤を裏切る気だったの!? 理子!?」

 悲痛な叫びを上げ、ガバメントを構えるアリア。アリアからすれば理子が味方に付いたのは裏切りとみるのも無理はないだろう。だが、

「へ? なんで?」

 理子は心底不思議そうに首を傾げた。だろうな。

「え?」

 この反応は予想外だったのか、アリアも涙目のままポカンとしている。

「理子、潤とアリアのことは今でも大好きだよ? 裏切るとか嘲笑うとかとーんでもない」

「え? え? で、でもアンタはイ・ウーの人間で、武偵殺しの犯人でしょ?」

「うん、そだね。つまるところ二人の敵だね」

「じゃ、じゃあなんでそれが裏切りじゃないって言えるのよ!?」

 訳の分からない展開続きで一杯一杯なアリア。いい加減可哀想かねぇ(←他人事)。

「えーだって、それとこれとは話が別でしょ? 『昨日の敵もいつも友』、理子はどんな立場でもアリアの友達ですから!」

「じゃ、じゃあ、友達ならアタシの『お願い』を聞いてくれるっていうの?」

「裁判での証言のこと? いーよ別に、元々この事件だって理子は『教授』に命令されただけだし、アリアを連れ帰れって言われたけどどうでもいいし~」

「ど、どうでもいいって……」

「あ、でもただ証言するのも面白くないな~」

 ん~、とわざとらしく指に手を当てて考える素振りを見せる理子。傍から見ると可愛らしく見えるが、このポーズの時は大抵ろくでもないことを思いついてる。

「そだ、理子と二人で勝負しよう! 理子が勝ったら潤とアリアは理子のもの、負けたら潤かアリアのものに理子がなる!

 あ、勝っても負けても『武偵殺し』の件については証言するから安心ですよ!」

ほらやっぱり。

「どっちにしろお前が得するじゃねえか」

「理子はSもMもいけますぜ」

「微妙に違う」

「くふふー、どーするアリア、潤? 決めるのは二人だよ~」

「だとさ。どうする、アリア? お前が決めていいぞ」

 ぶっちゃけ全力で拒否して帰りたいが、この件での中心人物はアリアだ。ならどうするかは彼女が決めるべきだろう。……貞操賭けるとか嫌過ぎるけど。

「……だーもう分かったわよ、受けてやるわよ! こんな条件で拒否できるわけないじゃない!

 その代わり、終わったら色々話してもらうからね! 潤、アンタもよ!」

わーお、事情知ってんのバレテーら。直感スゲえなオイ。

「理子! アタシが勝ったらアンタをドレイにしてやるからね!」

「いやん、奴隷とかアリアそういうプレイが好きなの?」

「んなわけないでしょうが! ああもう、いいから始めるわよ!」

「やたー契約成立! ――じゃあ、あたしから行くぞ?」

 言うと同時、理子が突撃してくる。

「え?」

 突然のことに反応できないアリアに向けて二挺のワルサーP99から鉛球が吐き出される。

ギギィン!!

六発の弾丸を、横合いからUSPの銃撃で叩き落とす。

「開始のゴングもなしか、理子?」

「あたしらの間でそんなものが必要か、潤?」

「かは、確かにそーだ」

 互いに笑って今度は足を狙って撃ち込むと、横に飛んでワルサーを構え――るのはフェイント、本命は飛び蹴り!

遠心力が加わった一撃をかがんで避け、理子も追撃はせず壁を蹴って距離を取る。

「な、何この速度? それにいつもの理子と、違う?」

「別に然程違いはねえ、ただ不意を突いただけだ。ありゃ戦闘用、というか理子が本気になる時の人格で、たまたま見た剛は『裏理子モード』とか言ってたな」

 感情が昂ぶると起こりやすくなる理子の人格変化。口調が荒くなり、目付きも鋭くなっている。

USPの弾倉を交換しつつ、戸惑うアリアに今の状態を説明してやる。

「気を付けろ、この状態の理子はいわゆる狂戦士(バーサーカー)、簡単には止まらねえし容赦ねえぞ」

 

 

 流石にあれくらいの奇襲じゃ喰らってくれないか。あたしはワルサーに銃剣を付けながら、初撃の失敗に対し笑みを浮かべる。そうそう、こうじゃないと楽しくない。

「ま、とにかくしつこいから気を付けな。前衛いけるか、アリア?」

「……誰に言ってんのよ、ジュン!」

 持ち直したらしいアリアがこちらにガバメントを向ける。戦意喪失の心配もしてたけど、杞憂なら良し。

「相談終わった? 先手はもらったし、今度はそっちから来いよ」

「……あんまり舐めるんじゃないわよ、理子!」

 ガバメントの引鉄を引きつつ、突進してくるアリア。アタシは引くのではなく同様に突っ込む。

「! ぐっ!」

 前に来るとは思わなかったのだろう、予想外ながらもアリアはギリギリで対応し、銃剣の一撃をガバメントで受け止める。

ギィン! 金属のぶつかる音が響き、鍔迫り合いで拮抗状態となる。体制的にアタシの方が有利な筈だが、筋力はアリアに分があるようだ。

 密着しているところに潤の援護射撃。アリアの脇ギリギリを磨り抜けて襲いくる六発は距離を取ることでかわし、

「はっ!」

 続くアリアの銃撃を銃剣でいなし、再度突撃。銃では不利と見たのか、小太刀二刀に持ち替えて応戦してくる。

「アハハハ!!」

 斬る、突く、薙ぐ、撃つ、流す、防ぐ。激しい攻防の応酬はアタシが押しているが、隙を作る度に潤の射撃が入り攻めきれない。

「く、二対一で攻めきれないとかどんだけよ! あとジュン、援護はありがたいけど狙う箇所考えなさいよ!」

「無茶言うな、ああでもしねえと密着状態から当てられねえっつうの!」

 一旦距離を取り、アリアは潤に文句を言いつつ息を整えるつもりのようだ。だが、休ませてはやらない。

アタシは気付かれないよう、自然な動作で指を動かす。

「チッ! アリア、横に跳べ!」

「え、何、ってまたこれ!?」

 こっちの動きに気付いた潤の呼び掛けで、二人とも間一髪頭上に仕掛けた二挺のアサルトライフルの雨から逃れる。でも、まだ甘い。

防弾性の床はライフルの弾を弾き、二人にそれぞれ跳んでいく。

しかし二人もさるもの、潤は当たりそうなものだけUSPで撃ち落し、アリアは小太刀で斬り払う。へえ、受け流しだけじゃなく斬るのも出来るようになったんだ。

「アハ、二人とも忘れた? 爆弾使いはおまけ、ワタクシの本分は罠使い(トラップメイカー)ですから」

「ただの性悪じゃねえか」

 潤が何か言ってるが、お前それ完全にブーメランだからな? 

 まあどうでもいい。そろそろギアも上がってきたところだ。

「さあさあ手の内を明かしたところで第二ラウンドと行こうか? 楽しくなってきたよなあ二人とも?」

「全然楽しくないわよ!」

「あら残念。潤はどう?」

「あ、俺? そうだなあ」

 何個目かのマガジン交換を終え、潤はふむと手を当て、

 

「楽しいぞ? お前との殺り合いは、確かに楽しい」

 そう言って、イかれた笑みを浮かべた。

 

 

「――」

 ゾクゾク、と背筋から何かが上がるのを感じる。アリアは怯えてあとずさっているが、あたしは違う。

「アハ、やっぱり潤はいいな」

 悪寒と、それ以上の歓喜。アタシが浮かべている笑みも、潤と同様のものだろう。

「アリアも疲れてきたみたいだし、今度は潤が掛かってきたら? りっこりこのボッコボコにしてやんよ」

「ハ、近接苦手な俺をお誘いかよ。――上等、存分に遊んでやろうじゃないか。アリア、援護頼むぜ?」

「え? ちょ、潤、アンタじゃ理子に近接戦は不利でしょうが!」

「なあに、どうとでもなる。殺り方なんて幾らでもある、さ!」

 アリアの制止を振り切り、潤は突撃する。一見すると無手だが、それはフェイク。指を僅かに上へ向ける動作をし、迫り来るそれの狙いは首や胴、合わせて数十箇所。

 それらをあたしはワルサーから持ち替えた両手のタクティカルナイフで切り裂いていく。続く二撃、三撃も斬撃と回避を交えてさばき、ダメージはない。

「……糸?」

 アリアの言うとおり、潤が使ったのは極細の鋼糸。技量次第で人の首を容易く刎ねられ、種類は違うがあたしが罠を起動させるのに使ったのも同じ手法だ。

まあ、罠の大半は潤によって妨害・破壊されてしまったが。援護射撃が妙に少なかったのも、罠潰しを平行して行っていたからだ。

「くふ、やっぱり潤の操糸術はえげつないねえ」

「よく言うぜ、てめえだって大概なものになってきてるじゃねえか。アリアと戦いながらこっちの糸を妨害するとかどんだけだよ」

 何だこの精度、予測以上じゃねえかなどとぼやいているが、表情は愉快気だ。くふふ、ご満悦いただいてるようでなにより。

「じゃあそろそろ、締めに入るとするか」

「そうだな。潤、アリア――お前等のバッドエンドでね」

「ほざけ」

 糸を操りながらUSPを取り出すのを見て、あたしも手札を切ることにした。意識をツーサイドに集中、すると髪が浮かび上がり、先端にはワルサーが二挺ずつ、計四挺絡み付いている。

「ほう」

「超能力!? しかも四つも」

 潤は感心したように、アリアは驚いて声を上げる。アハ、いいリアクション。

「さあ、これで最後だ。存分に遊び倒そうかあ!!」

 叫びながら突進、糸を操り銃を放ちながらナイフを振るう。あたしが得意とする同時行使、手数の多さに一つ防げば別の攻撃に襲われるだろう。

「そらよ!」

 しかし、潤はそれら全てに対応する。糸を糸で相殺し、銃弾を避け、ナイフを弾丸で弾いてくる。

 共に圧倒的な物量での攻撃、状況は互角。距離を取るとアリアからの援護射撃が飛んでくるが、それらは残った糸で対処し、罠を起動させることで行動を制限する。

「シャアア!」

 何度目か分からない攻防の中、潤が攻撃をかいくぐり声を上げながら顎を狙った渾身の蹴りを放つ。それをあたしは避けるのではなくカウンター気味に足をぶつけることで威力を利用し跳躍、天井に降り立ち頭から弾丸を雨のように撃ちこみ、更に持っていたタクティカルナイフをアリアに投げつける。

「な!?」

 銃弾の中からナイフが振ってくるとは思わなかったのだろう、驚いたアリアが跳んで回避する。――今だ。

 あたしは天井から跳躍し、背中から二刀の小太刀を取り出しアリアに斬りかかる。

「え」

 アリアが気付いて声を上げるが、もう遅い。あたしは突進の勢いのまま、小太刀を逆手に構えて同時に振るう。

左右二択の同時攻撃、アリアに防ぐ術はない。しかし、直前にガキンと金属音。間に入った潤が、鋼糸を何十にも巻いた腕で防いだのだ。

「理子おおぉぉぉ!」

 拮抗状態となったあたしに、アリアの叫び声が響き、あたしに向かっていつの間にか持ち替えていた小太刀を振りかぶる。こいつ、潤を踏み台に!?

驚きつつもあたしは回避行動に移ろうとするが――

はっきり言って、手が出せなかった。超能力で髪を動かし、四挺二刀、更には糸を用いて上下左右、空間を問わず飛び回りながら攻撃してくる理子。それらをさばき、一進一退の攻防を見せる潤。アタシも隙を突いて援護射撃を行っていたが、全てが容易く弾かれた。

 次元が違う、それがアタシの素直な感想。ほとんど何も出来なかった、今も潤に守られている。でも、コイツが作ってくれた一瞬の隙を見逃さない、見逃すことなんて出来ない!

「理子おおぉぉぉ!」

小太刀を抜き、潤の肩を踏み台にして叫びながら斬りかかる。アタシの勘が告げる、絶好の好機!

 が、理子はそれにも反応してみせた。状態を思いっきり逸らし、アタシの小太刀は髪を掠めるに終わる。浅かった!

内心悔しく思いつつ潤の横に降り立ってガバメントに切り替える。次元が違うなどと思っていたが、理子とて人間、隙は必ず出来る。そこを狙っていけば!

しかし、いつまで経っても理子からの反撃は来ない。それどころか超能力が解かれ、ワルサーが落ちる中先端が僅かに切られたツーテールを眼前まで持ってきて、

「あー、理子自慢のテールが~!? ひどいよアリアん、女の子の髪は命と同等の価値なんだよ!?」

「は?」

 急に喚きだす理子に、アタシは今日何度目か分からない素っ頓狂な声を上げる。というか、口調も戻ってるし先程まで感じていた威圧感も消えているし、なんなのコイツ?

「折角ユーくんと会うために気合入れて整えてきたのにー!」

「いや知らないわよそんなこと!? というか少し短くなっただけでしょうが!」

「バランスが問題なんですよバランスが! これじゃあ長さ不平等ですッごく間抜け臭いじゃん!」

「知らないわよそんなこと! じゃあ反対も切って長さを合わせなさいよ!」

「あの長さとあの対比がりこりんの黄金比だったの!!」

「だから知るかあああぁぁぁ!」

 気付けばいつも通り絶叫を上げていて、戦いの空気は霧散していた。ホント何なのコイツ!?

「うー、もう理子帰る! 勝負は引き分け、しばらく亡命させていただきます!」

「実家に帰らせていただきますみたいなノリで言うことか、ってオイマテ」

 潤がツッコミを入れているが、すぐに顔をしかめる。アタシは青褪める。何故なら理子の奴、どこからかプラスチック状の棒を取り出したのだ。どう見ても爆弾型の奴を十本ほど。

「ちょ、待ちなさ――」

「そぉい!」

 謎の掛け声と共に、理子が爆弾を床に叩きつける。あ、終わったわコレ。

色々諦めて走馬灯が流れ始めてきたが、予想に反して起きたのは爆発でなく、部屋一面を覆うほどのガスだった。

「って、なにこれケホ!?」

 ガスは凄まじい勢いで広がり、隣の潤が見えないほど濃い。しかも催涙効果があるのか、目が、目があああぁぁぁ!?

「うわーん、アリアんのバカー!!」

 必死に目を閉じていると理子の涙声が聞こえ、扉の開く音。止める間もなく扉は閉まり、煙が晴れると理子の姿はどこにもなかった。

「あーけむい。理子の奴盛大に撒きすぎだろ」

 横では潤がパタパタと手を振っている。何でコイツ催涙効果のあるガスの中で平気そうな顔してるのよ。

五分ほどしてようやく涙が引いてきた。もう急展開の連続で訳が分からないというレベルを超えてるが、これだけは言わせてもらいたい。

「誰がバカだバカ理子おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 今度会ったら絶対風穴開けてやる! アタシはそう心の中で誓い、防音製のVIPルームで声の限り叫んだ。

 




登場人物紹介
遠山潤
 美少女に押し倒された野郎、爆発しろ。戦闘までの展開は本気で予想外で驚いていた。
 理子を狂戦士と評していたが、自分も大概である。近接戦が苦手なのに理子と斬り合えたのは、後ほど理由を話す予定。
 大事なのでもう一回言おう、爆発しろ。

神崎・ホームズ・アリア
 わけがわからないよ状態だった奴。押し倒しの現場に遭遇するわバカ言われるわ、割と悲惨な目にあってばかりいる不遇キャラ。
 二人との実力差を見せ付けられたが、これでへこたれるほど弱くない。そもそも無理は本人が嫌いな言葉だし(恋愛事は除く)。
 なお、理子にもそうだが潤にも相当お冠な様子。

峰・理子・リュパン
 好き放題やった奴。この後ホントに他国へ亡命した(諸事情によりアメリカではない)。
 アリアには到着が早いと言っていたが、実はアリアに見せ付ける気満々だったりする。その目的はまだ不明瞭。
 なお後日、喫茶店の店長にはお詫びとしてかなりの額を渡したらしい。そういうところは義理堅い。
 
武藤剛毅
 『裏理子』の命名者。見た本人曰く「ションベンちびりそうだった」とのこと。

VIPルーム
 今回一番の被害者、もとい被害物。ちなみにアレだけ騒いでも外に音が漏れることはなく、大きな損傷もない。どんだけ優れてるんだ防弾性と防音性。

後書き
 何だこの結末(書いた本人の感想)。
 正直決着が着いてから理子がどう逃げるかは悩んでいたのですが、まさかキャラを好きに動かしていたらこんなことになるとは……
 そして今更ですが、この作品は流れこそ原作沿いですが、展開に関しては別物なことが多いです。武偵殺しのラストがハイジャックじゃない時点でお察しでしょうが。というかラスト武偵殺し関係ねえ(今更)。
 今後もこんな感じで進めていくと思います。正直勢いだけで説明が足りてない部分は多々あると思うので、もし気になる方は質問をお願いします。可能な範囲でお答えします。
 次回は事件の顛末とちょっとした小話です。ただいまアニメ放映中のあのキャラが出てくるかも?
 感想・批評・誤字訂正等、温かいものから極寒並みの辛らつなものまでお待ちしています(←破損しやすいメンタル)。


おまけ
 原作沿いなら使う予定だったNGシーン

「潤のお兄さんはね――今、理子の恋人なんだよ?」
 三人が対峙する中、理子が得意げに告げると一瞬静かになり、
「ブ、ギャハハハハハハハ!!!」
 潤が大笑いしだした。
『へ?』
 突然の行動に、ポカンとなってしまうアリアと理子。さっきまでのシリアスな空気が台無しである。
「あ、あの兄貴に恋人ぉ!? ねえねえ、あんな方法でHSSになる兄貴に恋人とか!!
 理子お前俺を笑い殺す気!? じゃあ大正解だよこれは、最高に有り得ないジョークだギャハハハ!!」
 遂には銃を手放し、腹を抱えて床に転げまわる。
「……何、何でこんなにジュンは笑ってるの? お兄さんそんなにブサイクなの?」
「やーユーくん、流石に笑いすぎじゃないかなーと理子でも思うんですよ……あとアリアん、ユーくんのお兄さんは超絶イケメンです」
「意味わかんないわ……」

 こんな感じで。潤は兄、金一のHSSの成り方と浮いた話が一つもないことからナルシストかそれに近しいものと思っており、恋人が出来るのは有り得ないと思っています。でも潤君、貴方の兄貴原作では婚約者ゲットしてるで?
 ボツにしたのは、この作品における理子のキャラには合わないと感じたからです。普段はアレですが中身は、というタイプなんで。


追記
1/6 誤字訂正しました。


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小話 必殺技とか安易なものを求めるべきじゃない

「あー、えーと、つーわけでアリアの代理を頼まれたんだ、よろしくな」

「……」

 ジトーっという言葉が似合う目で後輩ちゃんに睨まれるワタクシ、遠山潤。別に睨まれる覚えはないのだが。……いや、彼女の場合俺の立場だけで理由になるか。

「……なんでアリア先輩の頼みを引き受けちゃったんですか? 遠山先輩」

「何でって言われてもねえ……断る理由がないし、パートナーの頼みだし」

「……」

「うん、気持ちは分かったし不用意な発言をした俺が悪かったから、その視線やめてくれない? 間宮さん」

 作り笑顔で彼女、アリアの戦姉妹、間宮あかりに言ってみるが、ジト目は強まる一方だった。デスヨネー。

さて、何故こうなったかというと、話しは昨日に遡る。

 武偵殺し――要は理子の一件が終わって一週間。その間事件の詳細に関する報告を(一部伏せて)行い、アリアに(俺だけ正座で)知っている事情を吐かされたり、殴られそうになったり、アリアの母親の裁判が武偵殺しの分上手く引かれたり、蹴られそうになったり、依頼をこなしながら事後処理をしたり、撃たれそうになったりと、まあ一件片付いたら割といつも通りだ。

 ただしアリアはあの一件以来、へそを曲げ気味だが。事件や実力(後者は意図的じゃないし手の内だが)を隠していたのが相当お気に召さなかったらしく、顔をあわせるたびに上記の暴力+エトセトラをかましてくる。まあ全部防ぐか避けるかしているけど。

 とはいえ、裁判関係で自分の母親――かなえさんという、やたら若いというか姉にしか見えない女性――に吉報を伝えられたことで大分機嫌も直ったが。俺のことを彼氏か? と聞かれると凄い微妙な顔をして「違うわ」と言っていたが。ああ、理子の件が引っかかったか。

 ちなみに理子と言えば、マジであのふざけた宣言どおり海外に行っていた。最初に中国、モンゴルと渡っていき、今はロシアを旅しているらしい。世界一周でもする気かアイツは。

 何でそんなこと知ってるかって? 一日最低一回は向こうからメール届くんだよ、俺とアリアに画像付きで。最新のものでは同い年くらいのロシア人少女とVサインで一緒に写っていた。……なんかこの子、どっかで見たことあるような。主にテレビで。

 『ユーくんとアリアんお土産何がいい?』と、帰ってくる気満々な内容を見て「敵対したのって何でだっけ……?」とアリアが頭を抱えていたが、色々考えるのを辞めた方が楽だぞ。理子に敵味方の概念なんてあるのかも怪しいし。

 まあそんなこんなで一件片付き、概ね元の日常に戻った最近。電話を終えたアリアが難しい顔でこちらに近付き、「ねえ潤、頼みがあるんだけど」と切り出してきた。以下、その内容。

「明日なんだけど、裁判関係で話があるからって呼び出しを食らっちゃったのよね」

「何か予定でもあったのか?」

「うん、戦姉妹(アミカ)に特訓の約束してたのよね」

「あー、間宮さんか」

「何、知ってるの?」

「前に怖い顔で絡まれた」

「アンタ何したのよ……まあとにかく外せない用事だし、かといって約束反故にして自主練させるってていうのもアレだし、アンタ特訓に付き合ってやってくんない? 連絡はアタシが入れておくから」

「自主練だけでいいと思うが……俺が教えるって言えば嫌がるんじゃねえか?」

「だからアンタ何したのよ……まあ普段ならそれでもいいけど、もうすぐランク考査あるじゃない? 試験対策にも先輩が教えた方がいいじゃない」

「まあそういうことならいいが、予約の依頼もないしな。ところでアリア」

「何?」

「間宮さんどのくらい強くすればいいんだ? ラディッ○クラス?」

「アタシの戦姉妹を戦闘民族にする気か!?」

 

 

 とまあそんなやり取りがあったのだが、予想通り合流した間宮さんは死ぬほど嫌そうな顔をしていた。アリア大好きだからなあこの子、さしずめ俺は大好きな先輩を横取りしたにっくきクソ野郎ってところか。

「まあとりあえず、始めよーや。とりあえず今日は来るランク考査対策のため、基礎の確認と試験のポイント解説だな」

「……よろしくお願いします」

 めっちゃ不承不承ながら頭を下げる間宮さん。うむ、嫌な相手でも目上に礼儀を忘れないのは大切だぞ(←出来ない奴)。

 ところ変わって強襲科(アサルト)訓練場。毎度襲い掛かってくるアホな連中を適当にぶっ飛ばし(何か間宮さんの俺を見る目が少し変わった)、蘭豹先生にジャーマンスップレックスをやられたり(振られた腹いせらしい、何でや)しながら射撃レーンに到着、間宮さんの撃つ様子を観察する。

「ふーむ」

 UZIを撃つ姿は多少不恰好ながらも特に問題はない。なのに的に当たる箇所は随分とずれている。

「なあ間宮さん」

 マガジンを二本使い切ったところで声を掛けると、不貞腐れた目でこっちを見てきた。何でや。

「なんですか、私の射撃が余りにも酷くて早くも匙を投げるつもりですか」

「どんだけやる気ないんだよ俺。そうじゃなくて、狙いをわざとずらしてるのは何でだ?」

「……何のことですか?」

 あ、目逸らした。嘘吐けないタイプみたいやな、口思いっきり閉ざしてるし。

「間宮の癖は中々抜けない?」

「!?」

 喋りそうにないので一気に核心を突くと、彼女はビクンと肩を震わせ、信じられないといった顔でこちらに振り返る。

「……アリア先輩が喋ったんですか?」

「いんや、自分で調べた。ウチと間宮家は縁があるしな」

 遠山家のご先祖は、テレビで有名な遠山の金さん、遠山金四郎。その父親である景晋(かげみち)の家臣が公儀隠密、所謂忍者の間宮林蔵という男。それが彼女、間宮あかりの先祖だろう。聞いたところによると暗殺術を代々継承して現代にも伝えているらしい。

「そうですか。……? ウチと遠山先輩のお家に関係?」

 アリアがチクった訳じゃないと知ってほっとしている間宮さんだが、ご先祖の主従関係は知らないみたいだ。まあ自分の家のルーツを詳しく調べる奴なんてそういないわな。

「まあそれは置いといて。精度が甘いのは間宮の癖が染み付いてて、急所を狙っちまうから無理矢理軌道を逸らしてる、ってところかな?」

「……はい」

 沈んだ顔で肯定される。やっぱりな、撃つ時の顔が無理してる感凄かったし。

「間宮さん、君は銃を撃つ時どういう気持ちで撃ってる?」

「へ? 何ですかそれ?」

「いいからいいから」

「えーと、うーん……敢えて言うなら『一撃必殺』、でしょうか」

「ふむふむ。じゃあその気持ちで、今度はターゲットの真ん中を狙って撃ってみ」

「……何か意味あるんですか、それ?」

「まあ騙されたと思って。あ、無理矢理逸らすのはしなくていいからな」

「……それだと」

「よし頑張れー」

 発言を途中で遮ると、渋々といった様子ながら銃を構え、放つ。

 すると今まで掠りもしなかった弾が、中心からはやや遠いものの的の中に入っていた。

「――え?」

 自分のしたことが信じられないといった顔でこちらを見るが、「もうちょいやってみー」とドーナツを食べながら促すと向き直り、撃ち続ける。

 先程と同じくマガジン二本を使い切った頃に終了。バラつきはあるものの全部が的に命中しており、通りかかった蘭豹先生も「おお間宮、今日は調子いいやんけ」と褒めていた。本人は茫然としているが。

「な、なんで? 今までこんなに当たらなかったのに」

「間宮さんは下地は出来てるんだが、培ってきた技術を無理矢理封じてきたから歪になってるんだよな。多分癖で急所狙いになっちまうからなんだろうが、今回はそれを『逸らす』んじゃなくて『変える』ことにしたんだ」

 まあ要は心がけの違いだな、と話を締めくくる。完全に矯正するのは時間が掛かるだろうが、続ければ命中精度は段違いになるだろう。

 理由を聞くと間宮さんは嬉しそうに顔を綻ばせていたが、急にハッとした顔になってこちらに向き、

「こ、こんなんで気を許したりしませんからね! でもありがとうございます!」

 何その新種のツンデレ。というかそれは君の戦姉妹が持つ属性だろうに。

 とりあえずもうちょいガンバレーと声掛けながら三個目のドーナツを取り出すと、ジーっと間宮さんの視線が俺、もといドーナツに突き刺さる。

「……食べる?」

 コクコクと頷いたので一つ分けると、嬉しそうに食べ始めた。

「ところで間宮さん」

「んぐ? 何ですか?」

「あっちの子達はお友達か何か?」

 間宮さんにジュースを奢ってあげてひとまず休憩中(ジュースあげたら明らかに態度が軟化した、食い物で心許すとかちょろくて将来が心配)、いい加減気になっていた気配の方を指差す。そこにいたのは黒髪ロングのお嬢様っぽい子、金髪をポニーテイルにした勝気そうな子、最後に金髪フリフリ衣装のミニマムな子がこちらをジッと見ている。黒髪の子からはずっと殺意を向けられてるけど、なんなん?

 というか最後のミニマムちゃん、島麒麟さんじゃん。CVR、ハニートラップを専門とする美少女だけが入れる学科を専攻してて、去年理子の戦姉妹だったから面識あるけど、なんでここに――ああ、金髪ポニテの子を「お姉様」って呼んでるから、新しい戦姉妹になったのか。

「ん? あ、志乃ちゃーん!」

 志乃ちゃんと呼ばれた黒髪少女は駆け寄っていく間宮さんを見て嬉しそうにしている、というか顔がだらしなくなっている。

「あかりさん大丈夫でした、怪我させられてませんか?」

 いきなり失礼やなこの子、というか尾行してたこと言い訳なしかい。

「うん、怪我はないよー。志乃ちゃんたちはどうしてここに?」

「あかりさんが心配で……遠山先輩は戦闘になると誰でもボコボコにするって聞いたことありますし」

 誰だその噂流した奴、誇張じゃねえか。精々四割だよ、調子乗った奴とか突っかかってくる奴限定だし。

 その後も色々聞いている黒髪さんは放置し、苦笑しながら「ども」と頭を下げるポニテの子と島さんに挨拶する。

「遠山先輩、お久しぶりですの」

「おう島さん、お久しぶり。正月以来かな?」

「あれ、麒麟と遠山先輩って知り合いなんですか?」

「島さんの前の戦姉妹繋がりでな。まあ、ちょっと挨拶する程度の知り合いだよ。で、えーと」

「あ、アタシは」

「麒麟の恋人の火野ライカお姉さまですの!!」

「ぶっ!? オイ麒麟、誰が恋人だ!? いや遠山先輩、コイツとは単なる戦姉妹ですから!」

「愛に関係や性別なんて無粋ですの! そしてお姉さまは照れてるだけですの!」

「そういう問題じゃないだろ!? あと照れてるわけでもねえ!」

 三人寄らなくても姦しい火野さんと島さん、置いてけぼり喰らう俺。そーいやこの子百合だったな、それも重度の。

 女子四人それぞれお喋りを始めて完全に蚊帳の外になり、帰ろうかなーと考えていると間宮さんが黒髪さんを伴ってこっちに来る。

「遠山先輩、私の友達の佐々木志乃ちゃんです」

「佐々木志乃です、探偵科(インケスタ)に所属しています。始めまして遠山先輩」

 礼儀正しく頭を下げる佐々木さんだが、先程同様全身から殺気を振りまいている。隣の間宮さんが気付いてないから俺にだけ向けているようだ。何この無駄に器用で無駄なスキル。

「それで今話してたんですが、皆も特訓に参加していいですか? 志乃ちゃんが是非一緒にってことなんですが」

「はい、ご迷惑でなければ」

 ニコニコしている佐々木さんだが、それ建前で絶対目的は間宮さんだろ。『お前には渡さねえぞ』って目が語ってるし。

「俺は別に構わんけど、火野さんと島さんは?」

「え、遠山先輩がですか!? 是非お願いします!」

「ワタクシは遠慮させていただきますの」

 というわけで火野さん、佐々木さんの二人が新たに訓練対象となった。

「ああそうだ佐々木さん」

「何ですか?」

 間宮さんが離れた際に声を掛けると、ちょっといっちゃってる感じの目をしてる佐々木さん。こえーよヤンデレかよ外面取り繕うのやめんのかよ。

「これから近接訓練なんだけどさ、怪我してたら終わった後間宮さんの治療してあげ」

「任せてください!」

 言い切る前にでかい声でガッツポーズされてしまった。

「ふふふ、あかりちゃんに合法的に触れる……」

 美人をグフフ顔で台無しにしている佐々木さん。ブルータスお前も(百合)か。

 島さんにくっつかれてる火野さんが「こんなのばっかでスイマセン」と頭を下げてくれた。苦労人っぽいな、どことなくアリアと同じ立ち位置なのを感じる。

「はああ!」

「よっと」

 再び強襲科訓練場。火野さんの肘討ちを横に避けて背後に回り、腕を取って合気の要領で引っくり返す。「おわ!?」と驚いて受身も取れず引っくり返る。はい二人目ー。

 宣言通りただ今近接訓練中で、倒れた火野さんの横には刀を拾っている佐々木さん。一対三という数では相手が有利な状況だが、素手の俺に翻弄されている。ちなみに武器なしなのはハンデとかではなく、ただの気分だ。

 とそこで、後ろから突進してくる間宮さん。こちらの懐に入り、交差時に俺から何かを取っていく。

『ゆっくりしていってね!!』

「なにこれ!?」

 理子との共同作、リアルゆっくりです。位置をずらしてどーでもいいもん取らせたが、ある意味当たりかもな(ネタ的な意味で)。

 ゆっくり捨てて再度突撃する間宮さん、合わせて別方向から攻めてくる火野さんと佐々木さん。それらの攻撃を全てさばき、反撃を加えていく。

「はあ、もう無理……」

「はあ、はあ……きつい、です……」

 やがてダメージの蓄積と体力切れで動けなくなる火野さんと佐々木さん、残った間宮さんも肩で息をしている。見かけよりタフだな。

「はあ、ふう……」

 乱れた呼吸を正し、それまでと異なる構えを取る。ふむ、大技狙いか。

鷹捲(たかまくり)――」

 技名らしきものを呟き、こちらに飛び掛ってくる。その力は突き出した手の先端に集まっており、当たればただでは済まないだろう。

 まあ、当たればだが。

「へ? うきゃああぁぁ!!?」

 横にずれて回避すると、発動すると止められないのかそのまま壁に突っ込み、

 ゴツン!

 痛々しい音を立てて引っくり返った。悲鳴の上げ方が理子にセクハラされたアリアにそっくりだったな。

「きゅう……」

 たんこぶ作って気絶する間宮さん。多分体内パルスを活用した振動破壊の技だったんだろうが、壁にぶつかったのは咄嗟に腕を引っ込めて不発になってしまったからだろう。まあそのまま発動して壁ぶっ壊したら、洒落にならない修理費が請求されたからある意味正解か。

「当たらなければどうということはない」

 某大佐の名セリフを呟き、その日の訓練は終了となった。

「志乃ちゃんくすぐったいよ~、自分で出来るってば」

「ダメですよ、自分じゃ分からないところもあるんですから(あかりちゃんの手! お腹!)」

「おい麒麟、そこは怪我なんてしてないだろ!? というか抱きつくな!」

「ふふふ、お姉さまも麒麟を堪能してくださいですの」

 なお、その後の治療タイムがもんのすごく百合百合しくカオスだったのは割愛する。俺? いると面倒起こるのが目に見えてる(紳士)だから早々に離脱したよ。

 同日夜、男子寮の我が部屋にて。アリアと二人夕食を取りつつ、本日の一件について話をしていく。

「アンタの特訓、あかりにはいい経験になったみたいね。帰りに会ったんだけど、「いつか遠山先輩をぶっ飛ばしてみせます!」って張り切ってたわよ」

「そら良かった。まあ見た限り、間宮さん達はかなり伸び代あるし今後に期待だな」

「ぶっとばす発言はスルーなのね」

「いや目の前で言われたし。まあ近接術も多少指導したし、次のランク考査は大丈夫じゃねえの?」

「あら、それはアタシの指導が下手だって言いたいの?」

「んなこと言ってねーだろ、怖い顔すんなっての」

「クス、冗談よ。なんにせよ助かったわ。これ報酬代わりにお土産」

「お、なんだ? ――おお、東京バ○ナ! 全部食っていいのか!?」

「いやアタシの分も残しなさいよ!?」

 などとツッコミありつつも和気藹々な会話、平和やなー。

 なお余談だが、後日のランク考査で間宮さんはギリギリDランク合格したらしい。実技では教えたのもあって中々高得点だったんだが、座学で珍回答を出しまくって足を引っ張りまくり、危うく不合格直前だったらしい。ガチでアホの子じゃねーか。

 とそこで、スマホに着信が掛かった。曲はBeatm〇niaのRe;gegenaration。

『あ、もしもし潤ちゃん? ごめんね、ご飯時に』

「おう白雪、気にすんな。急にどうした?」

 電話の相手は星伽白雪。数年前から付き合いのある友人で、普段は大人しく大和撫子の鑑みたいな女子だ。実家は星伽神社で巫女もやってる。

『えっと、青森から研修帰ったきたんで、報告とお土産渡そうかと思って。潤ちゃんの好きなリンゴパイだよ』

「マジか。ナイス白雪、ちょうど糖分が欲しかったんだ」

「まだ食べる気なのアンタ……」

 アリアが呆れた声で言うが、別にいいだろ甘いもん好きなんだよ。

『……潤ちゃん、今どこにいるの? 峰さんと一緒?』

「寮の部屋だけど。理子は海外出張中」

『あ、そうなんだ。……待って、じゃあ誰がいるの? 女の子?』

「神崎・H・アリアっていう女子だけど」

 正直に答えると、急に白雪は静かになった。あ、これ始まったな。

『うふふ、そうなんだ。ちょっと待っててね、今行くから』

 そう言って、不気味に笑いながら通話を切る白雪。まあこうなるよな、アリアが声を発した時点でしゃーない。

「アリア、今から俺の友人がお土産持ってくるんだけど」

「そうなの? じゃあアタシは引っ込んでた方がいいかしら」

「いや、しなくていいよ。それより戦闘準備しといてくれ」

「はい? アンタ何言って――」

 アリアが言い終わる前、ガラガラ! と玄関から何かが崩れる音が聞こえ、

「神崎・H・アリアー! 潤ちゃんをたぶらかす泥棒猫ー!!」

 巫女装束に鉢金、手には抜き身の刀という完全武装の女子、件の星伽白雪が現れた。

 普段は大和撫子な白雪だが、俺の周りにいる女子を武力で排除しようとするヤンデレであり、彼女最大の欠点である。

「ちょ、いきなりなんなのよ!?」

「てーんちゅー!!」

 席を立って戸惑うアリアに、問答無用で据わった目の白雪が刀を振りかぶる。まあとりあえず、

「死ぬなよアリアー」

「いやアンタ助けなさいよ!?」

 




登場人物
遠山潤
 必殺技より連撃派二年生。訓練が終わったら後輩達に飯を奢ってやった。

神崎・H・アリア
 理不尽な目に遭ってばかりの二年生。フラグも立ってないのに襲われるあたり、ぶっちぎりの不幸度かもしれない。強く生きろ。

間宮あかり
 Dランクにぎりぎり合格した一年生。本作では戦闘力が上がった代わりにアホの子化するかもしれない。食べ物に釣られやすい。

佐々木志乃
 あかりを率先してストーカーしていた一年生。潤の態度を見てそういう雰囲気ではないと感じ、露骨な警戒や殺意はなくなった。

火野ライカ
 間宮チームの良心である一年生。あかりがアホの子化しているため、原作より気苦労多いかも。アリアと気が合いそう。

島麒麟
 お姉さま大好きな中学三年生。男は嫌いだが潤はそこそこ紳士なため嫌ってはいない(好きでもないが)。

星伽白雪
 ようやく登場したヤンデレ系二年生。潤と一緒にいるアリアの関係をろくに聞かずに襲い掛かる。キレててもお土産のりんごパイはしっかり持ってきている出来る娘。


後書き
 あかり馬鹿じゃないもん!(本人様からの言い訳)。
 はい、というわけでAA組の特訓回でした。色々はしょってるというかなんか全体的に大人しめなような……まあ、普段はふざけてる潤君も後輩ちゃんの前では比較的真面目モードなんで。
 さて、次回からは魔剣編です。アリアは白雪の誤解を解き、生き残れるのか!?(違)
 感想・批評・誤字脱字報告、デスソース級コメントでもどんとこいやあ!(マイルドしか受け付けない精神構造)。


追記
1/6 本文・後書き修正しました。


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『魔剣』編
第一話 勘違いには別の方向を向かせよう


「じゃあじゃあ、何でアリアは潤ちゃんの部屋に住んでるの!?」

「何でって……そういえば何でかしら? 居心地がいいから?」

「「いざ行動する時に手間だから、なるべく一緒の方がいいでしょ」って言ってただろ」

「てーんちゅー!!」

「今の説明でどうしてそうなるのよ!? もう嫌この武装巫女、潤の周りの奴はロクデナシだらけなの!?」

「はいはい白雪、どーどー」

 頭を抱えるアリアを横に、刀を振りかぶる白雪を宥める。何度目だこのパターン。あとアリア、亮だけはロクデナシ扱いしてやりなさんな。

 あの後、斬りかかる白雪を真剣白羽取りで(俺が)止め、とりあえず落ち着けてからアリアがここにいる事情を話しているのだが、いかんせん途中途中で白雪が暴走して切りかかってて来るため、中々進まん。

 カリスマガードをしているアリアは放置することにして、説明を続ける。

「まあとにかくまとめると、アリアとは事件解決のためにチームを組んだのであり、別に恋仲とかではない。今まで泊まっていたのも特に他意があるわけじゃなく、なんとなくの流れから。オーケー?」

「でも潤ちゃん、ハムスターも同じケースに入れておけば自然そういう仲になっちゃうかもしれないし……」

「それはないわよ」

 お、アリア復活した。理子の相手してるからハプニング耐性高くなったんだな。

「言っとくけどアンタも同罪だからね?」

 ジロリと睨まれました。直感の使い方何か違わねえ?

「何でそう言い切れるの?」

 疑わしそうな目で見る白雪。今までみたいに斬りかからないのは、確信的なアリアの態度に引っ掛かりを覚えたからか。

「それはね」

 アリアが何やら耳打ちをすると、ビシッ!! と音を立てて白雪は固まった。おう、何だ何だ?

「……それ、本当?」

「アタシも呼ばれてその場にいたからね。正直、あんなのを真正面から見せられてどうこうしようとは思わないわよ。だから、どっちも応援はしないけど邪魔もしないと誓うわ」

 恋愛してる暇もないしね、と締めくくって肩を竦める。あー、あのこと話したのね。

「そう……分かったよ。潤ちゃん!」

「おう、何だ?」

 貰ったりんごパイを食べて傍観していたら、何か重大な決意をしたらしい顔の白雪が真っ直ぐにこちらを見て、

「私、負けないから!!」

「ん? おう」

「アリアもごめんね、いきなり襲い掛かったりして」

「いいわよ、分かってくれれば」

「おーい」

「じゃあ、私今日は帰るね。潤ちゃん、アリア、お休み!」

「おやすみ」

「……うん、まあいいや。お休み」

 タタタ、と大和撫子の気品を維持しながら白雪は去っていった。何がどうなった。

「はあ……何か疲れたわ」

「お疲れ。ところでドアどうしよっか」

「アンタが原因なんだから直しなさいよ」

「えー」

「えー、じゃない。というかアタシにもお土産寄越しなさいよ!」

 襲撃一番の理由はアリアが声を出したからなんだけどな? まあ遅かれ早かれ似たようなことにはなってただろうからいいけどさ。

 そんなことを考えつつ、アリアとのリンゴパイ争奪戦に興じた。というかさっきはまだ食うのかって呆れてたのに、お前も良く食うなオイ。

 

 

『二年A組神崎アリアさん、同じく遠山潤さん、至急教務科(マスターズ)まで来てください。繰り返します……』

「んむ?」

「お?」

 翌日昼休み。俺、アリア、剛、亮の四人で昼食を摂っていると、呼び出しを受けた。

「おい潤、お前また何かやらかしたのか?」

「何でやらかした前提なんだよコノヤロー」

「ジュン、アタシまで巻き込まないでくれる?」

「オイパートナー、見に覚えのない冤罪を押し付けるなよ」

「遠山君、ちゃんと謝ればきっと許して貰えるよ?」

「亮だけは信じてくれると思ってた日があったよ」

『日ごろの行いだろ(でしょ)(かな)?』

「泣くぞ、すぐ泣くぞ、いい年した野郎がガチ泣きするぞチクショウメェ!!」

 ここ最近、三人のコンビネーションが上がってきてる気がする。そして周囲、『何だまたこいつらか』って目で見るんじゃねえよ誰かフォローしろ。

 とりあえず剛、今度お前の単車を海水で浸してやる。

「何で俺だけなんだよ!?」

 それこそ日頃の行いだろ。とりあえず昼食を食べ終えてからアリアと二人教務科へ向かい高天原先生から話を聞くと、どうも呼び出した張本人は尋問科(ダキュラ)にいるらしい。じゃあ最初からそっちに呼べよ。

 二度手間ながらも尋問科の教室に向かうと、そこにいたのはけだるげに煙草(らしきもの。実際はギリギリ合法なヤバイ一品)を吸っている尋問科の(つづり)梅子先生と、そして白雪がいた。そういや白雪の担任ってこの人だったか。

「遅いぞ遠山ー……何してたんだー?」

「教務科に来いって放送では言ってたのに、実際こっちにいれば時間もくうでしょーよ」

 おまけに諜報科(レザド)のチャン・ウー先生に『遠山クゥン、いい加減戦兄妹の一人でも持ったらぁ?』って絡まれるし。あの透明オカマ、俺にやたらと戦兄妹を付けさせようとするんだよな。しかも女子ばっかで複数同時に見ろと。何かの嫌がらせかよハーレム願望は理子の方だっつの。

「ん~? そうだったけかぁ……? まあいいや、じゃあ遅刻は不問で。

 それでえーっと、あー何だっけ。……あーそうだ、星伽がお前さん達に話があるんだと」

 頭をぐるんぐるん回しながら(なまじ美人なので首振り人形みたいで怖え)途切れ途切れに用件を伝えてくる彼女を見て、少し怯えた様子のアリアが小声で耳打ちしてきた。

(……ジュン、この人大丈夫なの? 目の前にいる白雪のこと忘れるとか健忘症を疑いたくなるんだけど)

(あの煙草吸った後に酒飲めばもうちょいマシになるぞ)

(ただのダメ人間じゃない!?)

 ヒソヒソ話でツッコミとか器用だなアリア。でも、そんなんじゃ綴先生からは逃げられんぞー。

 尋問科は名の通り容疑者の尋問を専門とする故、容疑者の一挙一動一言一句を見逃さぬために五感が優れているものが多い。で、そこの教諭ともなれば聴覚だって地獄耳クラスな訳で。

「聞こえてるぞー、神崎・H・アリア~。人を健忘症だのダメ人間言うような奴には、全校放送で……あー、アレだ、カナヅ」

「わーわーわーわー!? そ、それは大丈夫よ、浮輪あれば泳げるし!!」

 それ泳げる言わん。あと自分からカナヅチだってばらしてどーするよ。

 叫んだ後その事に気付いてハッとした表情になったアリアが、ギギギと音がしそうなほど鈍い動きでこちらを見て、

「……聞いた?」

「おう」

 だって隣にいるし。

「記憶を失えー!!」

 小太刀二刀を抜いたアリアが峰で殴りかかってくる。おお速え、理子の時もこのスピードだったら互角にやりあえたんじゃねえか?

 まあ、羞恥で顔真っ赤にした一撃が単調じゃない訳がなく、避けるけどな。

「お願いだから殴られてよ!」

「何その怖い頼み。つーか言われる前から知ってたぞ?」

 理子から貰ったプロフィールにも『アリアを轟沈させるなら水の中!』って赤文字で書かれてたし。いや艦〇じゃねーんだからさ。

「そう、そうよね。それくらいアンタなら知ってるわよね……ハハハ……」

 言われたアリアは小太刀を仕舞い、地面に『の』の字を書き始めた。そんな落ち込むことでもねーだろうに。

「まあまあ、今度泳ぎ方教えてやるよ。夏になれば海水浴とかプールに行く機会もあるだろうし、それまでに覚えといた方がいいだろ?」

「アリア……大丈夫だよ、私も最初は出来なかったんだから! 落ち着いたら出来るまで付きっ切りで教えてあげる!」

「優しさで追い討ち掛けるなアンタ等ーーーーーー!!?」

 最近衝撃波に近付きつつあるアニメボイスでの叫びが上がった。ちなみに俺はわざとだが「ふぇ!?」と驚いている白雪は素である。根はええ子だし面倒見いいからなー。

 ちなみに綴先生は後ろでニヤニヤしていた。流石、生徒をいじくり倒すエキスパートな御仁である。ここの人間無駄に精密で無駄に鍛えられた無駄な技術持ち多すぎだろ(←ブーメラン)

 

 

「潤ちゃん、アリア! 私のボディーガードになってください!」

 あの後、どうにかアリアが(自力で)復活し、盛大に横道へと逸れた用件に戻ると、どこかで聞いたような言い方で白雪が頭を下げた。あ、アリアがトラウマ思い出してうーうー言ってる。

 ざっくり内容を三行にまとめるとこんな感じだ。

・最近、『魔剣』(デュランダル)と呼ばれる誘拐犯が超偵(簡単に言うと超能力を使える武偵)を次々と誘拐しているらしい。

・SSR(超能力操作研究科)の秘蔵っ子である白雪の身を案じてボディーガードを付けるよう何度か言っていたが、本人は渋っていた。

・が、今日の朝何があったのかいきなり俺とアリアをボディーガードに指名してきた。理由は本人から聞け。

 以上である。三行でまとめるにはなげーなオイ。

 アリアはこの件を「アタシに任せなさい!」と胸を張って即決した。魔剣は自分の母親に冤罪を被せた一人だからな、まあ無理もない。

 ちなみに俺は二人分の報酬と単位を要求しておいた。綴先生は「あー、そうだなー……」と曖昧にボヤいていたが、好物の酒を渡したら色好い返事をくれた。やはり持つべきものは誠意(袖の下)だな。

 

 

「ジューンてめえ!! 星伽さんと同棲とか羨ましいじゃねえか死ゴポァ!?」

「だから仕事だって言ってるだろうがしつけえんだよテメエはあ!!」

 時間は進み、放課後。24時間態勢で護衛が必要なため剛に頼んで白雪の荷物を運ばせ(白雪の名前を聞いて無料(ロハ)にしてくれた、バカだコイツ)、昼から帰って以降しつこいアホをラリアットで沈めてから搬入を開始する。

 剛? 『私は非モテです。女の子が欲しい!!』って書いたプラカードを首に下げてトラックに吊るしといた。

「ジューン、そっちのカメラは設置し終わった?」

「おう、動作も確認したぞ。ところでアリア、機雷の設置はもうちょいずらした方がいいんじゃないか?」

「でも、ここだと機関銃との位置関係が」

 然程の量でもなかったので荷物はすぐに入れ終え、ただいま俺とアリアはあーでもないこーでもないと言いながら部屋のトラップルーム化中だ。白雪は夕飯を作ってくれている。

 機雷とか機関銃とか物騒な単語が飛び交っているが、俺達が使うのは理子が使っていたようなガチで殺しにいくのではなく、対テロリスト用の非殺傷制圧兵器だ。『武偵は人を殺してはいけない』という制約があるため、こういうタイプの武装は結構な数が流通している。

 まあ、非殺傷といっても痛いもんは痛い。そこの機関銃はゴム弾仕様だが、喰らった理子曰く『死ぬほど痛い』らしいし。何で喰らったかは……まあ、察してくれ。

 ちなみにこれらの品はアリアが用意した。何でも実家にいる妹に頼んだ対超偵用の一級品で、転入時に自分の部屋(VIPルームだった、寝心地あっちの方が良くね?)を要塞化した際の余りらしい。

「~~♪」

 というか、楽しそうですねアリアさん? 鼻歌まで歌ってご機嫌に機雷を設置してるし、俺と設置場所について語り合う姿はいつもより生き生きして見える。白雪とは別の意味で怖え。

「ねえジュン」

「ん?」

 鼻歌が止んで呼ばれたのでそちらを向くと、アリアは神妙な顔でこちらを見ていた。唐突なシリアスモードだなオイ。

「理子のことなんだけど……あんた、どう答える気なの?」

 アリアが切り出したのは、先日理子との一戦前に見た告白、というか押し倒しの現場でのことだろう。その時の光景を思い出したのか微妙に顔が赤い。

「んー、どうすっかね?」

「どうするって……断るにしろ受けるにしろ、ちゃんと考えて答えるべきじゃないの?」

「いやそうじゃなくて、まず返事をすべきなのかって」

「……は? どういうこと? アンタそんな不誠実な人間だったの?」

 サイテー、という感じのゴミを見る目を向けられる。マゾか理子なら喜びそうだが、俺にそんな趣味はない。まあ、これだけ聞けばそう思われても仕方ないわな。

「去年の夏なんだけどな、ラブレター貰ったことあるんだよ。放課後屋上で待ってますなんてベッタベタな奴を」

「何、言い訳? それともアンタ彼女いたの?」

「まあ最後まで聞いてくれって。で、呼び出したのは理子だったんだよな」

「……そ、それでどうなったの?」

 さっきと違い興味津々な様子のアリア。「恋愛なんて下らない!」って前に言ってませんでしたっけあーた? ああ、他人のならいいのか(適当)。

 あと白雪、聞き耳立てるのはいいけど鍋吹きこぼさないでくれよ? お前の飯はマジで美味いんだし。

「ああ、名前を呼んでみたらアイツが振り返って、

 

 

『わーユーくん珍しく緊張してるー! かーわいいくふふー!』

 

 

 ……ってほざいた後、『ドッキリ大成功!』ってプラカードを出したな」

 ズコー!

 そんな幻聴が聞こえそうなほど鮮やかに、二人はコケた。アリアなんか梯子からずり落ちて顔からぶつかってるし。芸人かお前ら。

 いやあ、あの時の理子の満面の笑みはかつて見たことないレベルだったなあ。……思い出したら腹立ってきた、今度殺そう。

「あいたた、なにそれ……で、その後はどうなったの?」

「ガチでボコボコにして向こうが土下座するまで口利かなかった。ちなみにバレンタインを最後に計三回は似たことをやられてる」

『うわあ……』

 二人は何とも言えない顔をする。まあ普段のアイツのキャラから考えても、アレはないわな。

「というか、よく三回も受けたわねアンタ……それでよく理子の友達やってるわ」

「毎回ボコボコにしてチャラにしてるからな。まあ『仏の顔も三度まで』言うし、今回はどうするか微妙だ」

「寧ろ考えるだけ偉いと思うわよ……何か、ゴメン」

「いいよ、気にすんな」

 何とも微妙な空気になったが、その後夕食となり和食料理がギガウマだったため、場の空気は良くなった。白雪の顔が妙に嬉しそうだったのが印象的である。

 あ、そうだ。

『戻ってきたらボコる』

『Σ(゚д゚lll)ナンデ!?』

 自業自得だろーよ。

 

 

おまけ

 その日の夜、親交を深めてから各々の部屋に戻った後アリアの部屋にて。

「……で、何でそんなことしたのよ理子? 返答次第ではアンタとの友達関係も考え直さないといけないんだけど」

『えーと、それはまあ、何と言いますかね……』

「謝罪会見みたいに濁してないでハッキリ言いなさい。アタシの勘だけど、アンタにそんなつもりはなかったんでしょ?」

『……アリアんの直感は凄まじいね~。ええと、実はその日のお昼くらいまでは告白する気だったんだよ?』

「本気だったのね」

『ハッキリ言うね……まあそうなんだけど。でもさ、直前になってドッキ土器し過ぎて頭の中スパークしちゃって、「もういいや誤魔化しちゃえー!」って大急ぎでプラカード用意してた。てへっ☆』

「てへっ☆ じゃないでしょ何がどうなったらそういう結論になるのよ!?」

『そんなの理子が聞きたいよ~~!!? いざリベンジと思って秋とバレンタインにもチャレンジしたけど、同じ結果になっちゃったし! どうしてこうなった!?』

「要するに直前でヘタれたのよね」

『グボァー!!?』

「あ、死んだ」

『死んでないよ生きてるよ!? ああんもう、いっそのことユーくんが押し倒すなりチューするなりしてくれればいいのにー!!』

「ヘタレの理論よねそれ」

『ベヘァ!? 今日のアリアん容赦なさ過ぎない!?』

「正直アンタに同情の余地は欠片もないわよ」

『うぐ、まあそうなんだけどさ……うわーん、やっぱりどうしよう助けてアリえもーん!』

「人を某ネコ型ロボットみたいに呼ぶな!! 大体助けて言われても、もう白雪に中立宣言しちゃったわよ」

『そんなー!? どうしてそうした!?』

「アンタ達の修羅場に巻き込まれるのが嫌だからに決まってるでしょうが!」

『あぁんまりだー!!』

「やかましい!! ……まあ、全く希望ないわけじゃないでしょ。アイツ、返事するかどうか考えてたし」

『……え? それ本当?』

「ホントよ、ここまで性悪な嘘吐かないわ」

『アリアん嘘吐くの下手だもんねー』

「……やっぱ白雪に味方しようかしら」

『わー嘘嘘!? アリアんは男を騙して搾り取りまくる魔性の女です!』

「どっちにしろ褒めてないわ!? ……まあ、愚痴くらいなら聞いてやるわよ。味方するつもりはないけど、『友達』の恋路くらい応援するわ」

『……ううぅ、アリアーん!!』

「ガチ泣きされるとそれはそれで反応に困るんだけど……」




登場人物紹介
遠山潤
 告白した相手から三度フラグを折られている男。そんな目に遭っても理子と友人関係を築いているのは、単純にあまり気にしていないから。
 白雪の手綱を握れる数少ない人間。彼女が暴走しがちなためいる時は宥め役になる。


神崎・H・アリア
 天使な対応をした苦労人。理子に対して割と同情的な態度なのは、過去の自分(ツンデレ)を省みて「仕方ないわね」と思うところがあったため。
 トラップ設置が好きという新たな一面を見せる。なお実際に作動して引っ掛けるのではなく、設置している間が好きらしい。


星伽白雪
 天誅主義の武装巫女。アリアに刃を向けなくなったのは、理子の告白に関して話を聞いてそれどころではないと感じたため。寧ろ中立宣言をしたことでアリアに好印象を持っている。
 恋愛は一気に攻め込むのではなく外堀からじっくり埋めていくタイプ。ただしSSRの研修で度々いないため理子に比べて機会は少ない。


綴梅子
 煙草に加えて酒も必要になった尋問科教師。尋問に必要だろうという作者の偏見により五感が優れている。ただしヤニ切れを起こすと能力は半減。
 生徒を弄り倒すのも好きなドS。ちなみに潤からよく賄賂()を貰い、酒盛りしている。


峰・理子・リュパン
 いてもいなくても話題になる問題児。アリアの言うとおり恋愛面ではヘタレで、要するにツンデレが相手のことを素直に好きと言えないのと同じ状態である。理子のは非常に分かりにくく、割と鋭い潤ですら気付かずにキレた。


後書き
 男の純情を弄んではいけない(何か違う)。
 はい、というわけで魔剣編第一話です。……魔剣要素ないですねこれ、理子VS白雪の乙女の対決? ですわ。まあとりあえず潤君、お前彼女できねーから!!(ゲス顔)
 次回は魔剣が仕掛ける頃を予定しています。潤達を嵌める策士か、あるいはカオスに巻き込まれる哀れなコメディアンか!?(オイマテ
 最後に五十件近いお気に入り登録、感想を書いてくださった皆様、本当にありがとうございます!! 読んでくださると分かるので本当に嬉しい……(泣)
 これを励みに、これからも執筆頑張りたいと思います! 艦これとFate/GOのイベントも終わったし!(オイ)
 では引き続き感想・リクエスト・誤字訂正・キッツイ批評どれでもお待ちしています!(←スライム並の耐久力を誇るハート)。


追記
1/6 本文・後書き修正しました。


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第二話 見て得するものと損するものがある

 白雪の護衛を始めてから数日が経過した。正直アリアと白雪が喧嘩しないか心配していたのだが、特にそんなこともなく仲良く過ごしていく。最近など「お嫁さんになるなら絶対必須だよ!」と言って家事も教えてるくらいだし。まあ嫌がるアリアを根負けするまで説得した結果なんだけどな。

 とはいえそのお陰で、家事スキルゼロだったアリアがある程度は出来るようになり、今は役割分担で行えるにはなっている。俺? 皿洗いくらいはしてるけど白雪が率先してやってくれるため、暇な時間は対超偵用の武装を適当に試作している。一時期装備科(アムド)と共同で色々やらかしたから、そこそこのものは作れるのだ。

 この間、魔剣からのアクションは特に起こっていない。巷では都市伝説的存在だとか何だとか言われているが、火のない所に煙は立たず。そんな楽観的な考えは微塵も出来ん。

 と、白雪お手製の朝食を食いながら考える。食ってるシーンばっか? 授業風景なんか見てもつまらんやろ。

「そういえばジュン、アドアシードには参加するの?」

 出し巻き卵をモグモグ食いながらアリアが尋ねてくる。最近まで洋食派な彼女だったが、白雪の絶品和食が続いて意見を変えたようだ。この間は三人で蕎麦屋行ったし。

 それを見かねた白雪が「こら」と軽く注意している。姉妹みたいだね君ら。

「あ、そういえば潤ちゃん申請出してなかったね」

 白雪が思い出したように追随してくる。そういや生徒会長だったな。

 ちなみにアドアシードというのは、年に一回行われる武偵達の競技大会だ。分かりやすく言うならオリンピックだな、違いは砲丸とかボールの代わりに鉛玉が飛ぶくらいだ。

「護衛の件もあるし、今年は白雪と一緒に裏方やるつもり。仕事がなくても参加自体許可されないだろうが」

「……去年何やらかしたのよ」

 アリアの中ではもうやらかしたこと前提なんですね、分かります。まあ実際そうだけどさ、横の白雪も苦笑してるし。

「んーと、強襲科の参加種目で設置された障害物を投げたり壊したりしてぶっ飛ばされ、ラストのバンドに理子と変装して乱入したら、後でバレてやっぱりぶっ飛ばされた」

 理子お手製の変装術だから、バレねーと思ったんだがなー。やっぱビジュアルに拘りすぎて背格好を変えなかったのがまずかったか。

「それ以前に乱入するんじゃないわよ!」

「えー、でも観客にはすげえウケてたぜ? チアやバンドやってた皆も即興で合わせてくれたからな。

 しかも動画もあがったし、それを見たどっかの芸能事務所がスカウトに来たらしいし」

「訓練されたバカかアンタ達は!? バカしないと死ぬ病気にでも掛かってるの!?」

 失礼な、ただの愉悦至上主義者や(←大差ない)。

 ちなみにそのスカウトマン、勝手に侵入して不審人物扱いされた挙句、蘭豹先生に凹られ綴先生にごうも、尋問されたらしい。哀れといえば哀れだが、ぶっちゃけ顔も見てないのでどうでもいい。

「あの時凄かったねー、しばらくは潤ちゃんと峰さんでずっと話題になってたし」

「いや競技の方を見なさいよ……」

 溜息吐くアリアの言葉は正論だが、世の中目立ったもん勝ちやで?

 とまあそんな訳で、今年は裏方に徹するつもりだ。アリアはチアをやる予定らしい、時間あれば見にいくか。……動画録って理子の奴に売りつけるかな(オイ)。

 

 

 いつもの一幕が終わり、ただいま夕食後の入浴タイム。アリアはももまんの補充、白雪は皿洗いをしているので一番風呂ゲットだぜ。あ、細かい描写はカットな? 野郎の風呂シーンなんか誰も得しねーべ。

 しかし、暇だ。魔剣は機を窺っているのか準備をしているのか知らないが動きがないし、護衛の関係上他に依頼も受けられない。さっさと出てきてくれれば遠慮なく殴り飛ばせるというのに(←後方支援型の探偵科武偵)。

 そんな護衛として論外なことを考えている最中、事件は起こった。

「潤ちゃん、大丈夫!?」

 洗い物をしていたはずの白雪が、突如血相を変えて飛び込んできた。布巾持ったままだし、相当慌ててるみたいだ。

 さて、ここで状況を整理しよう。我輩只今入浴を終えたばかりで、タオルで身体を拭いている最中である。当然服はまだ来ていない。

 

 

Q:この状況で白雪が見たものは?

A:全裸で水も滴るウホッ、イイ男♂

 

 

『…………』

 硬直し、見詰め合ったままの俺達。数秒か数分か、とにかく幾らか経ってから動いたのは白雪だった。

 ビッ!

 そんな音が聞こえそうなサムズアップをし、いい笑顔のまま後方にぶっ倒れた。

 ……えーと、これどういう状況? とりあえず、

「きゃー、しらゆきのえっちー」(棒)

 それだけ言って、扉を閉めた。まずは服を着ないと二の舞になりそうだし、全裸で介抱してるのをアリアに見付かったら風穴開けられかねん。

「ただいまー、って!? 白雪どうしたの!? うわ、鼻血出てるし! しかもなんでイイ顔して気絶してんの!?」

「アリアお帰りー、悪いけど介抱頼むわ」

「ちょっとジュン、アンタ白雪に何かしたの!?」

「いや、白雪がいきなり風呂に突入してきて、全裸の俺を見てイイ顔でひっくり返った」

「どういうこと!? わけがわからないよ!?」

「アリアも俺の裸を見れば分かるんじゃないか?」

「アンタ何言ってんの!? ちょっと大丈夫、普段そんな下ネタ言わないでしょ!?」

「大丈夫だ、問題ない」

「あ、ダメだこいつ! 白雪はアタシが診てるから、ちょっと頭冷やしてから出てきなさい!!」

 幾らなんでも女子に裸見られりゃ俺だってドーヨーするぜ。そしてアリアのツッコミがこれほどありがたいと思う日は始めてだぜ。

 

 

『白雪、助けてくれ! 今風呂の中に――』

『じゅ、潤ちゃん!? 分かった待ってて、すぐ行くから!』

 プツン、ツー、ツー。

『……』

 白雪の回復を待ってから、さっき突撃する原因となった電話の記録を再生させてみたのだが、三人共微妙な顔で沈黙してしまう。

 とりあえず黙っていても仕方ないので、俺からこの通話の感想を言おう。

「ナイワーこんな俺ナイアー」

「声こそ同じだけど、これは……ねえ?」

「私も気が動転してたから気付けなかったけど、改めて聞くとぶき、じゃなくて、潤ちゃんらしくないよね」

 結果は満場一致で『誰だこいつ』だ。ストレートに助けを求めるとか全くもって俺らしくない、というか気持ち悪い。それと白雪、遠慮せず言っていいぞ。これは俺じゃ有り得ねえよ。

「これはアレかしら、魔剣が接触してきたということでいいのかしら」

「非通知だし間違いねえんじゃねえの? 離間の策としては下の下だが、仲間割れさせようとしてるし?」

「何で疑問系なのよ」

「いや、あんまりにもおそ松くん過ぎるから。下調べなってないってレベルじゃねえぞ。

 まあとにかく、実在が確認できた以上SSRに報告したほうがいいだろうな」

「あ、じゃあ私報告に行くね。でも、何て言えばいいのかな……」

「アタシも同行するわ。『魔剣らしき相手が頭のおかしいジュンを装って電話してきた』とかでいいんじゃないの?」

「アリア、流石にそれは潤ちゃんに失礼だよ……」

「じゃあそれで」

「いいの!?」

 いやだって、あの会話すげえ気持ちわりいんだもん。

「ところで白雪、通話の録音機能なんて何で取り付けたの?」

「ふぇ!? ええとその、あの、あれだよあれ、今みたいに犯人から電話来た時のためにね!」

「……まあ深くは聞かないでおくわ。あとジュン、アンタだったらああいう時なんて言うの?」

「ああ、窓に! 窓にピンクの悪魔が! って感じかな」

 ブン! パシィ!

「あら、手が滑っちゃったわ」

「滑ったならしゃーねーな」

 頭部目掛けての小太刀を片手で白羽取りする俺。白雪が驚きで数秒硬直した後、

「ちょ、ちょっとアリア!? 今のは幾らなんでも危ないよ!? 下手すれば潤ちゃん死んじゃうよ!?」

「峰だから大丈夫よ、仮に刃でもジュンなら大丈夫でしょ」

「……なんでそう思うの?」

「勘」

「その勘はダメじゃないかな!?」

 大分こっちのノリに染まってきたのか、白雪のツッコミも上手くなってきたな。最初なんか本気で止めようとしたし。まあ人間慣れである。

 

 

(キュピーン)「なんかアリアんに呼ばれた気がする!」

 呼んでねえよ。

 

 

 日付変わって翌日、朝一で魔剣のことを報告した後特に語ることもなく放課後。生徒会でアドアシードに関する会議があるということで、護衛である俺とアリアも白雪の横に座って参加している。準備自体は順調に進んでいるようで、会議の内容も確認作業と言った感じだ。

 しかし、そうなると暇だ。暇なので何度か意見を出そうとしたのだが、『アンタは喋るな』と横のアリアに視線で制されてしまった。『なんでや、建設的な意見出そうとしてるんや』と口パクで抗議したら、『どうせその後に茶々入れる気でしょ』と返された。図星を突かれてなんか負けた気分、うわありあつよい。

 というわけで大人しく座っていると、知り合いの連中から異様なものを見る目でガン見されていた。なので試しに『敗訴!』と書いた紙を堂々と掲げてみたら、『あ、いつもの潤だ』って感じでみんな会議に戻った。アリアには溜息吐かれた。もうどうしようもねえな俺(←自覚あり)。

 横の白雪が苦笑しながら会議の終了を告げ、役員の皆さんは今後の予定やどこに寄っていくかなどを話しており、女子が多いため自然スイーツ関連が多い。お、聞いたことのない甘味屋の名前、後で調べよ。

 白雪もどこかに行かないかと誘われているが、資料の整理があるからと断っていた。基本遠慮がちなのは相変わらずやな。

「潤ちゃん、アリア、ごめんね。仕事手伝ってもらっちゃって……」

「別にいいよ、待ってるだけも暇だしな。しかしこれ、外部の人間である俺達がやって大丈夫なんか?」

「別に極秘情報とかじゃないし、分かる範囲ならいいんじゃないの? あー、頭疲れてきた……」

「何だアリア、書類作業へばるの早いな」

「逆にアンタは凄い速さでさばいていくわね……後方支援とかただの自称だと思ってたけど、これ見てると一応信じられるわ」

「書類仕事は社会人の基本だぜ? 早く出来るようになって損はない」

「……アンタに社会を説かれるとは思わなかったわ」

「潤ちゃんは掟破り上等! ってイメージだしね。初めての時もそうだったな~」

 ほんわか和んだ感じで言ってるけど白雪さん、それ俺のイメージは常識知らずだって言ってね?(そりゃそうだ)

「そういえば、アンタ達って付き合い長いのよね。どこで知り合ったの?」

「えっと、たしか三年前だったかな? 潤ちゃんが金一お兄さんと一緒に」

 途中まで言って兄貴の名前にハッとなり、ちょっと申し訳なさそうな視線を送る白雪。そういや兄貴って世間では死亡扱いなんだよな、どーせ生きてるのはほぼ確実だし気にしてなかった。

「へえ。ジュン、アンタお兄さんいたんだ?」

「いるぞ、クソ真面目でリアル正義の味方みたいな感じの」

「なるほど、バカ(フリーダム)なアンタとは正反対ね」

「趣味は女装」

「……やっぱアンタの身内だわ」

 ダメだこりゃと肩を落とすアリア。まあ血の繋がりはないから、似てるのは単なる偶然なんだけどな。

「で、白雪と会ったのは兄貴に連れられて星伽神社に行った時なんだよな。青森にあるでけえ神社なんだが、ウチは代々縁があるらしいんで挨拶にな、その時姉妹達と一緒に紹介されて仲良くなった」

「白雪も姉妹がいるの?」

「うん、下に6人」

「多!?」

「義理も含めてだけどな。んで、仲良くなったきっかけなんだが、星伽は閉鎖的な環境でな? 話し聞いたら近所にも行ったことないって言うんで、丁度よくやってた祭りにこっそり連れ出した」

「ふうん、箱入りだったのね。それで二人で回って仲良くなったと?」

「いや、白雪の姉妹合わせて八人で」

「よく抜け出せたわね!?」

「閉鎖的といっても警備とかある訳でもないしな。ぶっちゃけ姉妹達の方がはしゃいでて、俺と白雪が抑え役だった」

「粉雪とか凄かったよねー。ずっと潤ちゃんのこと睨んでたのに、祭りではりんご飴ねだってたもん。ふふ、懐かしいなあ……」

 ちなみに粉雪は二つ下の妹で、未だにそのことを姉妹達にからかわれるらしい。まあ白雪お姉様命! って感じの子が一時とはいえ男にねだるような姿見せればそーなるわな。お陰で祭り終わったら余計嫌われたが。

「祭りかあ。そういや今日、花火大会があるって誰か言ってたな」

「あ、そうなんだ。何だか凄い偶然だね、お祭りの話してる時にお祭りがあるなんて」

 些細なことにも、白雪は嬉しそうに笑っている。よっぽどあの時のことが楽しかったんだろうなあ。

 さっき他の役員と話していた時、白雪が見せた表情を思い出して俺は一つ決める。

「よし、白雪。花火見に行こうや」

『え?』

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 星伽姉妹全員誰にも(自分の兄含む)気付かれず連れ出した地味にやり手なことをする会議室唯一の野郎。
 真面目な空気の中にいるとふざけたくなる性格。自分も参加していれば別だが、今回は暇なので奇行ばっかりだった。
 
 
神崎・H・アリア
 段々トラブルの処理能力が上がってきている、事務仕事はあんまり得意じゃない子。色事よりもトラブルだと真っ先に思ったのは、日頃の理子と潤の行いによる積み重ねの結果。
 潤が事務仕事できるのには素で驚いていた。机に向かう彼の姿が想像できないらしい。
 
 
星伽白雪
 イイ笑顔でサムズアップして倒れた鼻血系大和撫子。なお通話の録音機能は暇な時潤の声を聞くためである。
 姉属性が高いためアリアのことを妹のように(自然と)接している。恋愛事で衝突することがないため、原作より包容力のある姿が見られるかも。
 だが予測しよう、大人しいのは今 だ け だ 
 
 
後書き
 白雪が段々包容力のある癒しキャラになりつつある今日この頃。あれ、こんなキャラだったっけ……?
 最近冒涜的な音楽を聞きながら執筆しています。『旧支配者達のキャロル』、クトゥルフTRPG好きな人なら分かりますかね? 私? ニコニコで動画見てるだけのにわかです。あーTRPGやってみて~。
 さて私事はともかく、次回は花火大会編です。潤はアリアに汚え花火にされてしまうのか!?(多分嘘です)
 魔剣要素ねーじゃん! と思う皆さん、正しいです。何せアリアと潤仲違いする要素がないし……じ、次回には出てくると思います、多分(震え声)
 さてそれではいつも通り、感想・誤字訂正・リクエスト、目にデスソースを塗りこむようなきっつい批評、よろしければお願いします!(←SAN値1減少で発狂する精神構造


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第三話 思い出は汚え花火に汚されない、はず

 思い付きで言ってみた花火大会、当然護衛の関係からアリアは反対し、白雪は乗り気じゃなかったが、俺の巧みな話術によって説得完了した。数十回ツッコミ入ったりど突かれそうになったが、気にしたら負けだぜ。書類仕事? アリアとか白雪の残ってる分も含めて速効魔法(物理)使って終わらせた。『はや!?』とか二人が驚いていたが、人間その気になればこのくらい軽い軽い。

 さて、一旦荷物を寮に置き、電車に乗って会場付近に到着し現在着物屋に来ている。白雪はともかく最近まで外国にいたアリアは浴衣を持ってないからな。これも渋ってたがとある事を口にしたら一応了解した。

 俺と白雪は寮で着替えを済ませており、今はアリアの着付けを店員さんと同行した白雪がやっているところだ。女三人集まると姦しいと言うが、実際楽しそうな声が奥から聞こえてくる。

『よし、これで終わりだよ。うん、似合ってるねーアリア』

『……子供用のじゃなければ素直に喜べるんだけどねえ』

『すいません、この時期はどうしても在庫が無くなってしまって……でも、これなら彼氏さんも惚れ直すと思いますよ!』

『あー、惚れ直させるのはどっちかっていうとこっちです』

『えぇ!? アリア何言って――なんでそこを指差してるのかな?』

『格差社会に対してアタシの指が動いちゃったのよ。理子といいアンタといいホントなんで……はあ』

 女性格差の世界が垣間見えた気がしたが、聞かなかったことにした。大丈夫、成長の余地はあるぞアリア(適当)。

 程なくして店員さんを伴った二人が出てきた。白雪は名前に合わせた白を基調とし花をあしらったもの、アリアは薄桃色に丸線模様の柄があしらわれたものだ。

「ど、どうかな、潤ちゃん? 改めてだけど」

「……」 

 白雪はもじもじしながら上目遣いでこちらを見、アリアは恥ずかしいのかそっぽを向いている。ふむ、そうだな。

「二人とも、よく似合ってる。浴衣のチョイスが良さを引き立ててるな」

「それは私が子供っぽいってことかしら」

「まあアリアのそれは確かに綺麗よりも可愛さを引き立てるものだが、いいと思うぞ? 愛らしさが男心をくすぐる」

「!?」

 ストレートに褒められると思っていなかったのか、急速赤面してオーバーヒートするアリア。おお、久しぶりに見たなその手の反応。

「白雪も、いつも以上に綺麗だな。見ていると目が離せなくなるタイプの美しさだ」

「そ、そんな、綺麗だなんて……はう」

 褒められて嬉しいのか恥ずかしいのか、その場に伏せていやんいやんと首を振る白雪。すげえ頬緩んでるな。

「ま、まさかジュンにこんなストレートに褒められるとは思わなかったわ……これはダメージでかいわね」

「そりゃ褒めるところは褒めるさ、変にぼかした回答も失礼だろ。我ながらちょいとくどい気もするけど」

「潤ちゃん、やっぱり一生傍にいてください!」

「やっぱりって何だよ、俺そんなこと言われたの初めてなんだけど?」

 というか白雪、目がグルングルンしてるんだけど。祭りはこれからなのに大丈夫なんか。

 

 

 白雪を揺さぶって正常に戻してから(ちなみにさっきの大胆な台詞は記憶から飛んでいた)、俺達は祭りが行われている場所に到着した。屋台が所狭しと並び人が隙間なく通りかかる光景は、まさに日本の祭りといった風情、な気がする。どこも似たような感じ? そうかもね(適当)。

「ねえ白雪、アレ何?」

「わた飴だね、ふわふわして甘い祭りの定番なんだ」

「ふーん、そうなの」(ジッー)

「そんなに気になるなら、買ってあげようか?」

「――ハッ!? い、いや、今は護衛中だし、そんな興味あるわけじゃ」

「兄さん、わた飴三つ。そこの物欲しそうにしてるちびっ子ツインテにはでかめでお願いしやす」

「視線でねだる子供かアタシは!?」

 子供だろ、外見も今の態度も実年齢も。買った分を二人に分けると白雪は頭を下げて嬉しそうに笑い、アリアは「これじゃあ片手塞がっちゃうじゃないの、ただでさえこの格好だと動きにくいのに」とかブチブチ言っていたが、わた飴を口にした途端顔がふにゃーととろけた。ああ、これは(わた飴に)堕ちたな。

 結局アリアは自分のだけで飽き足らず白雪の分も少し貰い、更にたい焼き、りんご飴、カステラ焼きと色々買っては嬉しそうにモグモグしている。甘いもんばっかだな。

「ジュン、白雪、次はあっちよ! アタシの勘がこっちだと告げているわ!」

 前も言ったけど直感の使いどころおかしくね? あとアリアさんや、あーた祭りのテンションで護衛のこと忘れてませんかね。

 肩を竦めて続く俺と妹を見守る姉系の優しい視線で笑っている白雪。気分は完全に保護者である。

「やれやれ、あれじゃあ子供に見られても仕方ねえぞ」

「ふふ、でもアリア楽しそう、見てると来て良かったって思うな。……なんだか懐かしいね、潤ちゃん」

「そーだな、あん時の祭りみたいだ」

 普段はクール系で次女の風雪ですら、あの時ははしゃいでいたからな。はぐれないよう見てるのが大変だった。俺の生涯において気を遣った事項のベスト3に入っていい。

「……ありがとう、潤ちゃん。『また』私を連れ出してくれて」

「別に大したことしてねえさ。俺もアリアも楽しんでるしな」

「でもね、潤ちゃんの大したことがないが、私にとっては魔法みたいなことなんだよ?」

「それが魔法ならどうせならここまで飛んできたかった」

 もー混んでるからめんどくさいの何の。アリアなんて何度見失いかけたか分かったもんじゃないし。その度に類まれなる運動神経を利用してスッスッスッと人込みを抜けてきたけど。忍者かお前は、後輩の忍者武偵風魔を思い出したぞ。

 冗談だと思ったのか、白雪はクスクス笑っている。ふむ、

「あ、え、潤ちゃん?」

 白雪が唐突に繋がれた手を見て目を白黒させている。

「はぐれたら困るだろ」

 アリアの奴が先にホイホイ行ってしまうため、白雪はちょっと急ぎ足になって足元が覚束ない。転ぶと危ないしな、折角の浴衣も汚れる。

「……はい」

 少し顔を赤くしながら、白雪はこっちに近寄ってきた。

「……何かラブコメの波動を感じるんだけど。というかジュンが紳士然としてるのに驚くというか引くわ」

 流石に失礼だなオイ。戻りにくそうにしていたアリアの第一声に、チョコバナナを受け取りつつ渋い顔をした。

 

 

 人通りが少なく穴場となっているスポットを見付け、そこに御座を強いて三人で腰掛ける。状況に応じて適切な場所を見つけるのは探偵科の基本技能だからな。

 近くに先ほど会議で出会った役員達が談笑しており、白雪と俺の姿を見かけるとニヤニヤしながら話しかけていた。どうやらデートのために誘いを断ったのだと思っているらしい。お前ら横のアリアも見てやってくれ。

「いい場所取れて良かったね」

「それはそうだけど、このゴザだっけ? はどこに持ってたのよ? いつの間にか食べ物も揃ってるし」

 アリアが言うとおり、御座の上には焼きそば、たこ焼き、フランクフルト、ポッポ焼き(甲信越の方で売ってる長方形の菓子。鳩の素焼きとかポ〇モンではない)など、色々置いてある。だって腹減ったんだもん。

「『隠す』は探偵科の基本技能」

「どうやったら身長以上のものを隠せるのよ……ああもういいわ、理子も同じようなことやってたし」

 ちなみに理子はそこら中に飴玉とかの菓子類を仕込んでいる。以前アリアに「ほーら飴ちゃんだよアリアん~」とかやってど突かれてたな。

「あ、始まるみたいだよ」

 付近のスピーカーから花火開始の合図が流れ、上空に鮮やかな大輪の花が幾つも咲いた。

「わぁ、綺麗……」

「中々ね」

「ふむ、のんびり見るのも悪くないな」

 三者思い思いに呟きつつ、視線は上に釘付けだ。その下で俺とアリアは手だけで食い物の取り合いしてるけど。というかたこ焼き食いすぎだろオイ。

「あ、見て見て潤ちゃん! あの花火ワンちゃんの形してるよ!」

「あっちは定番のナイアガラね。ホント、日本人のこういう技術力には驚かされるわ」

「イギリスにもあるんじゃねえの?」

 などと喋りつつ、アリアと食い物を奪い合う反対の手で操作していた糸が反応した。

 視線は上空のまま気配だけ探ってみると、いた。誰か、魔剣本人かその関係者が――ってチョイマテ。

 視線を戻してスマホを操作し、慣れた番号をコールする。

『もしもし、どうしたの遠山君?』

「どうしたのじゃねえよ、何出歯亀してんだ亮」

 視線の主は我が友人、不知火亮のものだった。超能力独特の気配がしないからおかしいとは思ったが。

『あれ、バレてた?』

「こんだけ近付けばバレるっつうの。で、ストーカーしてるのは何のつもりだ?」

『いやあ、神崎さんと星伽さん、遠山君の三人で遠出するのは始めて見るからさ。偶然見かけて面白そうだし付いてきたんだ』

 悪びれなく言う亮、電話越しだがいつもの爽やかスマイルを浮かべているのが容易に分かる。

 そういやこいつ、俺が女子といるとどんなトラブル引き起こすか面白がってたな。常識人の癖してバカルテットに数えられる由縁だ。『結局ストッパーになってないし!?』って意味で。

「で、尾けた感想は?」

『仲良し親子の団欒って感じかな? 神崎さん、随分はしゃいでて可愛かったね』

「今のアリアに伝えてやろうか? ついでに武偵三倍法に則って教務科(マスターズ)に突き出すとするか」

 ちなみに武偵三倍法とは、簡単に言うと武偵が犯罪したら通常の三倍罪が重くなるということだ。終身刑から死刑になる、みたいな感じで。

『あはは、それは怖いね。それじゃあ二人に気付かれない内に退散するよ』

「別にこっち来てもいいぞ?」

『お邪魔虫になるから遠慮しておくよ。それじゃあ遠山君、お幸せに』

「そういう関係でもねえっつの」

 言ってる途中で電話が切れた、同時に気配も遠ざかる。あの野郎、からかうためだけに絶妙なタイミングで切りやがって。

 というか、結局何しに来たんだか。こんなことばっかりしてるからイケメンでもてるくせに彼女いないんだっての。

 溜息を吐きながら、花火鑑賞に戻ることにする。もう一方に仕掛けた即興の罠に掛かった相手のことを考えながら。

 

 

 しばらくして花火大会も終わり、三人満足気にその場を去っていったが、帰りの電車で携帯をチェックしていた白雪が顔を蒼くした。

「白雪、どうしたの?」

「え、う、ううん、何でもないよ?」

「何でもないって顔じゃないでしょ。そのメール、魔剣関連じゃないの?」

「ち、ちが」

「大方、従わないと俺やアリアを殺すとか、武偵高をぶっ壊すとか書いてあるんじゃねえの?」

「!? 潤ちゃん、なんで」

「その反応だと当たりか」

「あ」

 アリアの直感と俺のカマ掛けに引っ掛かり、白雪がしまったと言った感じになるがもう遅い。というか、アリアの直感が始めて推理等に役立ったと思う。

 白雪が俯き、観念したのかメールを見せてくる。

 内容は簡単、『指定日時に下記の場所へ一人で来ること。さもなければ武偵高を爆破する』という、ありきたりな感じの脅迫文だ。

「潤ちゃん、私どうすれば……」

 白雪が涙目になり、アリアも難しそうに腕を組む。あー、シリアスな雰囲気中に申し訳ないんだが、

「その爆弾なら、俺がもう撤去したぞ?」

『え?』

 二人の表情は深刻なものから驚きに変わる。まるで『事件が始まったと思ったら終わっていた、何を言っているか(ry』といった感じだ。いらねーなこの例え(オイ)

「いやー、学校中にやばそうな爆弾が仕掛けられてるもんでな。全部解体するのは骨だったわ」

「え、でもジュン、解体なんていつやったの? ここ最近、ほとんど白雪やあたしと一緒だったじゃない」

「別に俺がやる必要ないだろ。こういうのは専門家に任せるのが一番だ」

「……あ、もしかして潤ちゃん、装備科の友達に頼んだの?」

「正確には情報科・諜報科・装備科の連中だな。知り合いを通してその更に知り合いもって事で集めた人海戦術でな」

 勿論、魔剣にはバレないよう極秘に動いてもらった。元々は校内に魔剣が潜入しているか確認するためだったのだが、見付けられたのは正に棚から牡丹餅だ。

「そっか、じゃあ学校が壊される心配はないんだね……良かった」

「ホントね、肝が冷えたわ。しかし、こういう時ジュンの顔の広さと用心深さを実感出来るわ……一体何人に頼んだの?」

「学年問わず直接頼んだのは40人、知り合い経由で100人前後だな」

「多!? そりゃ魔剣が仕掛けたトラップも無効化されてるわけだわ……」

「ふふん、このお兄さんにかかればこれくらい余裕よ」

「リアル弟+普段アホな奴が何言ってるのよ。アンタどう考えても悪ガキの末っ子ポジションでしょうが」

「パートナーの評価が適切かつ辛口で辛い。白雪、慰めてくりー」

「(適切なのは認めるんだ……)えっと、大丈夫だよ潤ちゃん、潤ちゃんが立派になるまで私が見守ってるから!」

「それ慰めちゃう、死体蹴りや」

 天然の追撃は恐ろしい、もう俺のライフはゼロや……

「……ところで潤ちゃん、その協力者の中に女子っているの?」

「そりゃこの人数ならな。お前の知り合いも何人かいるぞ」

「ふーん、そっかー……うふふ、後で調べ上げないとなあ」

「恩を仇で返すのは止めなさいっての」

 久しぶりに黒モード発動の白雪をアリアと二人で宥めつつ、俺達は無事モノレールを降りて武偵高に辿りついた。

しかし出てこなかったな、魔剣。あの時高確率でいたのだし、普段と違う格好のせいで戦力ダウンしていたこっちに仕掛けてこなかったのは、騒動を嫌ってか、別の策があるからか。まあいいか、これ以上予測しても仕方ねーべ。

同日の夜中、そろそろ日付も変わる頃。俺は寮を抜け出して一人、武偵高の前にいる。

昼間は銃声だの騒ぐ声でやかましい此処も、夜中とあっては静かなものだ。一部電気が点いてたり爆発音が聞こえるが、いつものことなので気にすることはない。

月明かりもほとんどない中、俺は玄関の扉を押すと何の抵抗もなく開いた。仕事しろよ宿直、まあ仕事してる奴なんて見たことねえけどよ。

足音を殺し、一部騒がしい科目棟ではなく一般教科の棟を歩いていく。

「……どういうことだ、トラップはそのままではないか……?」

「ああ、そりゃ嘘だからだよ」

「!? 遠山、潤」

 こっちから声を掛けると、相手は驚いた顔をして振り向いた。そこにいたのは俺たちの担任、高天原ゆとり先生――の、格好をした誰か。どうやら変声術は使っていなかったみたいだな、手間が省けた。

「ハロー、初めまして。いい夜だな、『魔剣』さん?」

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 女性を褒めるのに躊躇いがないタイプ。相手の美点を褒めないのは失礼に当たると考えている。
花火大会も策の一つみたいにアリアは思っているが、ぶっちゃけ突発的な思い付きに理由付けをしただけである。まず楽しむがモットー。

神崎・H・アリア
 祭りで童心に帰っていたタイプ。ぶっちゃけ護衛任務のことは半分くらい忘れていた(アカン)
交友関係が広くないと使えない策を用いた潤に思うところがあるらしく、自分も知り合い増やそうかなーと考えているが、本人はコミュ力の低さと周囲の評価が良くないことを考えてちょっと躊躇っている(実際は理子と潤の暴走を止められる本物のストッパーの役目と意外と付き合いのいい性格から、周囲の評価は初期に比べて改善、寧ろ鰻登りで上がっている)。

星伽白雪
 久しぶりに黒いモードを見せたタイプ。しかし潤が頭を一撫でするとすぐに大人しくなる。犬か君は。
箱入り生活が長かったせいか、隠し事は苦手。それで潤とか理子にからかわれることもしばしば。

不知火亮
 潤と周囲の女子の反応が面白いのでこっそり見ているタイプ。いつもはもっとカオスなパターンが多いのだが、これはこれで楽しいらしい。
なおこの時、依頼に向かう最中だった。仕事しろよ。

魔剣
 ようやく出てきたと思ったら終盤だけ、しかも事前の策を潤に出し抜かれてしまう不遇臭がするタイプ。次回、彼女の活躍はあるのか!?


後書き
 女の子をストレートに褒められるスキルなんてある訳ねーだろ! で、お馴染み、潤に臭いセリフを吐かせるのにリアルで悩みまくったゆっくりいんです。リア充はことごとく爆ぜろ!
さて、魔剣編もいよいよ終盤です。つってもアリアと白雪、潤の三人がほんわか過ごしてただけの気もしますが……これ何の二次創作だっけ? 銃弾どーした。
次回はいよいよバトル……の筈。ふ、筆が暴走し泣ければダイジョーブダイジョーブ。マケンガタタカワズニツカマルトカナイカラネ?(震え声)
まあ冗談は置いておいて、今回は以上です。感想・誤字訂正・リクエスト・死体蹴りな批評、お待ちしてます!(←弱パンチ一回でKOされる精神力の持ち主)


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第四話 見せ場なく散るのは悪役の一番空しいパターン

 クトゥルフTRPGがやりたい。ボッチだからやる相手いないけどな!orz
 はいスイマセン、言いたかっただけです。


「……その呼び名は好きではない。『魔剣(デュランダル)』は我が名を貶められている気分になる」

 薄暗い廊下の中、高天原先生の格好をしたそいつは、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。観念したというよりまだ余裕がある様子だ。

「へえ、じゃあ本当は何ていうんだ?」

「教えるとでも思うか? とはいえ、我が策を破り逆に私を嵌めるとは、大したものだ」

「いや、あんな電話掛けられりゃ怪しさ抜群だっつーの。寧ろ策を疑わない方がどうかしてるわ」

「……まあ、あれは正直私もないなと思った。星伽白雪だけでなく、お前や神崎・H・アリアの情報もリュパン4世から聞いておくべきだった」

 微妙な表情をする『魔剣』。良かった、その辺の感覚は正常だったようだ。あんなキャラと思われてたら怖気のせいで発狂しちまう。というか理子の知り合いか。

「リュパン呼びはやめてやれよ? 理子の奴、それ聞くと熟成しきった上に砂利の入ったゴーヤ食ったみたいな顔になるんだから」

「どんな例えだそれは……まあ、確かに嫌がるのは事実だな、以後気を付けよう。

 それにしても舐められたものだな、たった一人の上に武器も構えず私と対峙しているとは」

 魔剣の言うとおり、今の俺は武器も構えておらず無防備だ。一見すれば容易に倒せる相手だろう。

 それに、俺はニヤリと笑ってやった。

「自分から罠に引っかかるような奴に、わざわざ本気で殺しにいく猟師がいるか?」

 軽い挑発に、魔剣も同質の笑みを浮かべる。

「ああ必要さ、何せお前が今から捕らえようとしているのは――今にも網を食いちぎらんとする獅子なのだからな!!」

 最後の言葉に合わせて変装用のマスクと服を一気に脱ぎ去り、不要となったそれらを投げつけてくる。俺はそれを払うことをせず、上に跳んだ。

 直前までいた場所に奇妙な形の刀剣が突き刺さり、剣を中心に床や壁の半径数メートルが凍結する。

 顔を歪める魔剣に壁を蹴って後退しながらUSPを乱射する。乱反射しながら迫るそれらは、魔剣の直前で急停止し凍結、床に落ちる。

「迫る対象に自動で反応する氷の鎧って所か? 中々便利じゃねえか」

「そう、故に貴様の弾丸は通じん。さあどうする、遠山潤?」

 そういう魔剣の姿は、先程変装していたのとは随分異なっていた。銀の髪にサファイアの瞳、肩が剥き出しの騎士甲冑のような防具に身を包んでいる。服の下にどーやって着込んでたんだアレ。

「かは、別に銃弾が通らなくても、手段なんて幾らでもあるさぁ」

「最大のアドバンテージを封じられておいてよく言う」

「じゃあ冥土の土産ってことで正体晴らしをヨロシク、魔剣さん」

「それで少しでも情報を集めて策でも練るつもりか? 見え透いたものだが、いいだろう。魔剣呼ばわりも嫌になってきたところだ」

 魔剣は鼻を鳴らすと、背から幅広の西洋剣を取り出して床に突き立て、

 

 

「我が名はジャンヌ・ダルク30世。かの聖女の末裔にして策士の一族、イ・ウー研鑽派(ダイオ)の一人。そしてこの剣は、魔剣の由来となりし聖剣、『デュランダル』だ」

 

 

 と、策士とは思えぬほど威風堂々に名乗りを上げた。心なしかドヤ顔にも見える。

「……はあ、そうですか」

 うん、なんというか……そう、そうねえ?

「……なんだその反応は!? その微妙な顔をやめろ!」

「いや、だってなあ……ジャンヌ・ダルクって言えばイメージ的には火刑の関係から炎だし、聖剣デュランダルはフランスの騎士ローランが持ってた奴だろ?」

 おまけに着ている装備もガッチガチの甲冑。たしかにジャンヌは戦場に出て鎧を着ていたイメージはあるが、これでは聖女というより、

「どう考えても騎士です、本当にありがとうございます。お前本名ア○トリア・ペンドラゴンとかじゃねえの? 声も川〇さんそっくりだし、デュランダルはエクスカリバーと同一視されることもあるし。

 ジャンヌを名乗るなら金髪にして坂本真○ボイスになっからて出直してこい」

「く、峰理子にも同じようなことを言われたぞ……! 貴様、アイツと示し合わせて私を馬鹿にしているんじゃないだろうな!?」

 言ったんだ、まあ理子なら同じ感想持つわな。

「いや、全くの偶然だけど」

「それはそれで腹が立つな!? ――ハ、いかんいかん。挑発して冷静さを欠こうとしたのだろうが、その手には乗らんぞ?」

「……」

 いいえ、素の反応です。とは言わなかった。なんだろう、この残念な感じの空気は。

「まあ、そんなことはいい。それで、貴様が私に傷を負わせられないこの状況、どう打開するつもりだ?」

「傷を与えられないってのは大袈裟だが、まあ不利なのは確かだな。なんで――選手交代だ」

 そう言って身体を横にずらすと、俺の後ろから武装巫女姿の白雪がジャンヌに向かって突進する。

「はあああぁぁぁ!!」

「そう来ると思っていたぞ!」

 奇襲の一撃にしかし、ジャンヌは動じずデュランダルを振るう。白雪が持つ刀、色金殺女(イロカネアヤメ)とぶつかり、冷気と熱気を纏う刀身が甲高い音を立てる。

「炎使いか。確かに相性は悪いがこの程度――!?」

 余裕ぶっていたジャンヌの顔が驚愕に染まる。俺が糸を操作して白雪の頭に巻いた結び紐――彼女が『封じ布』と呼ぶそれを解いた瞬間、刀身に纏う炎の勢いが一気に強くなったからだ。

 燃やしつくさんと言わんばかりの炎から慌てて距離を取ろうとするジャンヌに、数発の弾丸が頭上より降りかかる。再度驚きつつも超能力で強化した身体能力で二発を避け、一発は氷の鎧で防ごうとする。

 しかし、弾丸は予想に反して氷の鎧を貫通し、装甲越しだが右腕に命中する。

「ぐ、神崎・H・アリアか!? 上からの奇襲、しかも不義鉄槌(アンチ・ブロークン)をこうも惜しげもなく……!」

 痺れたのか腕を振りつつ後退するジャンヌ。彼女がいう上からとは、二階からの跳段射撃ではなく(アリアなら出来なくはないが、防弾ガラスに阻まれるので意味がない)、文字通り二階からの攻撃だ。

 実はこの学校、特殊な操作で上階の床が外れる仕組みになっており、そこから上に待機しているアリアがジャンヌに攻撃しているのだ。といってもすぐ出せるのは腕一本が限界であり、射撃する場合音と気配だけを頼りに撃たなければならないのだ。

 だが、アリアには視覚を補う『直感』がある。音を聞いてジャンヌの位置を予測し、対超偵用の弾丸『不義鉄槌(アンチ・ブロークン)』を叩き込むことでダメージを与えられ、攻撃したらすぐさま腕を引っ込めることでという訳だ。いやあ、まさか徹夜明けのテンションで装備科の連中とふざけて作った仕掛けが役に立つとは、世の中わかんねえものである。

 正面から白雪の攻撃を受けながら、同じく不義鉄槌を持つ援護役の俺とどこから来るか分からないアリアの銃撃を避けなければならない。これが即興で考えた、魔剣の包囲網である。俺が不義鉄槌を使うかジャンヌは分からないだろうが、装填していないなどと楽観的なことは考えないだろう。

王手(チェックメイト)だ、ジャンヌ・ダルク。抵抗は自由だが、無意味と告げておくぜ?」

「ぐ……」

 悔しそうに歯噛みするジャンヌは、剣から右手を離し俯く。白雪がほっとして剣線を下げた、その瞬間、

 

 

「では――こうするまでだ!」

 

 

 俯いたままジャンヌが突進し、白雪の横を抜け叫びながら俺に向けて剣を振るう。

 能力差のため白雪との打ち合いはやや不利、アリアは上階のため攻撃対象に入らない。ならば、白雪より弱く突破口に繋がっている俺を狙うのは当然だろう。倒れれば白雪が動揺するのは容易に想像できるしな。

 合理的な選択だ。だが、甘い。

 キィン! ジャンヌのデュランダルと、俺が隠し持っていた刀がぶつかり合う。一瞬拮抗するが、相手はSSRのAクラス、しかも制限を解いた白雪と結び合えたのだ。超能力による身体強化であっという間に押され、更に刀身で暴れる氷が俺の両手を凍らせんとする。

 押し切れるのを確信したジャンヌが笑みを浮かべるが、鍔迫り合う刀の刀身から白雪のものより遥かに弱々しい、しかしたしかに炎が燃え上がる。

「な――」

 自分の氷より遥かに弱い炎に、しかしジャンヌは一瞬怯んでしまい力が弱まる。

 やはり、炎が怖いんだな。白雪と切り結ぶとき、ほんの僅かだが炎に対する恐れが表情から感じられた。火刑台に処された伝承ゆえか、本人の問題かは知らないが、正解だったようだ。

 すかさず距離を離そうとしたその時、頭上のアリアが何かを投げてきて――ってオイマテ。

 投げられたそれを認識して慌てて刀を放し目を閉じようとするが、時既に遅し。俺とジャンヌの中間でそれはカッ!! と爆発的な光を放ち、こちらの目を潰さんとする!!

「ギャアアアアァァァァ!!?? 目が、目がああぁぁ!?」

 ネタ抜きの本気で目を押さえ、その場で転がる俺。恥も外聞もないというか超いてええぇぇぇ!!?

 廊下を無様に転がる俺に澄んだ高い音、そして金属が落ちて飛んでいく音が聞こえ、続いて「これで終わりだよ、ジャンヌ」と告げる白雪の声。まああの閃光まともに受けたら動けんわなとか考えてる余裕もねええぇぇ!?

 次いで聞こえるのは着地音、手錠を掛ける音、そしてこちらに近寄る足音。

「大丈夫、ジュン?」

 などと気遣わしげなアリアの声が掛かるが、見えなくても理解できちまう、ぜってえニヤニヤしてやがる。

「アリアてめえ、眼前にスタングレネード投げるとかどういう了見だぁ!?」

「あら、酷い言い草ね。魔剣を怯ませる絶好の隙にうっかり伝え忘れちゃっただけよ」

「嘘吐けぇ、絶対狙ってやっただろうがあ!? お陰で視界は潰されるわ目はメッチャ痛くて痒いわ最悪だぞコノヤロー!!」

 ちなみにアリアが投げたスタングレネード、俺が改良した一品で閃光と一緒に市販の痴漢撃退スプレーより数倍濃い催涙ガスが撒かれるようになっている。より確実に敵を無力化するための一品なのだが、文字通り身をもって体感するのは予想外だよ!!

「敵を騙すにはまず味方から、使えるものは案山子でも使えって言ったのはアンタでしょ? それを実践したまでよ」

「微妙に意味が違うわぁ!? これで魔剣が無事だったら戦力ダウンだったろうがあ!!」

「アッハッハ、何言ってるかわかんないわ。それにアタシの勘が『ここだ!』って叫んでたから、問題ないわよ。

 とりあえずジュン、アンタがそうなってる理由は一つよ。テメーはアタシをいつも怒らせ過ぎた」

「俺への仕打ちは魔剣逮捕より上って言いたいのかお前はぁ!?」

「失礼ね、同率順位よ」

「同じだろうがああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「……私はこんな奴等に捕まえられたのか?」

「あ、あはは……」

 ちなみにその後、目がああ! 状態の俺はアリアに引き摺られてその場を後にした。足をな。グラウンドとか頭ごっつんごっつんしたわ。

 覚えてろよチクショウがあ!!(←三流悪役感)

 

 

 とまあ、アリアへの呪詛を放ちながら魔剣の一件は幕を閉じた。

 魔剣ことジャンヌは逮捕後綴先生の尋問を受けることになっている。出て行くとき「イキがいいなぁ、本気出すかぁ」などと微笑みながら言っていたので、まあ発狂一回で済めばいい方だろう。ちなみに当日の戦闘については、『装備科生徒の実験失敗』と思われていたらしい。仕事しろよ教師陣or事務員。

 白雪ボディーガードの任務は無事終了、俺とアリアは報酬と単位を貰え、かなえさんの減刑もほぼ確実ということでめでたしめでたしだ。個人としては遺恨が残ったが、まあそれは今度にしよう。

 さて、事件から数日後、本日はアドアシード当日である。俺は宣言通り白雪達生徒会に混じって裏方の手伝いをし、概ね問題なく競技は過ぎていった。

 強襲科の競技で武偵殺し再来かと言わんばかりの爆発が連続して起こったり、狙撃科で知り合いが新記録を叩き出したり、諜報科でガチの毒を使って死に掛ける奴が数人出たり、審判が競技中に酒飲んだり、それを見た他校の生徒が「何このカオス」と唖然としていたりとまあそれなりにあったが、特筆するようなことはない。

 そうして閉会式の前、ラストの余興として女子武偵達によるアル=カタのダンスが披露される。アル=カタとは防弾制服を前提とする武偵が『拳銃を近接武器と仮定して』編み上げた近接戦法である。ちなみに俺は習得しているが使うことはない。拳銃は射撃武器、いいね?

 話が逸れたが、今回披露するのはアル=カタをダンス用に改良したものらしい。要するにチアだ。世間の評判が宜しくない武偵高のイメージアップを計るため見目麗しい女子達が選ばれるらしいが、正直焼け石に水だと思う。まあそこは世間との折り合いとか、そういう問題だろう。ちなみに野郎は後ろでバンド演奏。その中に剛、亮の姿が見える。

 閉会式まで暇になった俺は、適当な席に座ってその様を見学する。……チア集団の中に転装生(チェンジ)(性別を偽ってる武偵、野郎なら男の娘のこと)が何人か見えるが……まあ、見目は麗しいからいいのだろう。……いいのか?

 今回参加を表明していたアリア、そして人手が足りなくなり急遽参加することになった白雪の姿も見えた。白雪は恥ずかしいのか顔が赤かったが、手を振ってみると笑顔で振り返してくれた。アリアが説得というより半ば無理矢理参加させたらしいが、前に出たがらない白雪にはいい経験になると思う。

 そうこうしてる内にダンスが始まった。元々運動神経がいいからかダンスの切れは良く、観客、特に野郎からの歓声が大きい。毎年評判いいからな、動画サイトに上がるくらいだし。

 演目は進み、いよいよ最後の一曲となるそれまでのアップテンポで明るい感じから変わり、ギターとドラムがかき鳴らされる激しい一曲に変わる。予定になかったのかチア達が少し困惑する中、お立ち台に飛び乗る一つの影があった。お、来たな。

 そいつはど真ん中、センターという最も目立つ場所に他と同じチア姿で立つ。ツーサイドに結ったゆるい天然パーマの金髪、くりくりした薄茶色の大きな瞳、低身長で童顔ながら出るとこは出てるスタイル、弾けすぎてる笑顔――そう、東京武偵高一のお騒がせ屋、峰理子である。

「突然ごめんねー、りこりんでーす!! 海外のお仕事から帰って来たんで、飛び入り参加させてもらいまーす!!」

 観客に向かってでかい声で参加表明をする。ちなみにマイクなしだ、あー耳に響く。

 観客席は一瞬静かになった後、

『ワアアァァァー!!』

 と、今度は男女問わず大歓声が上がった。気のせいか地面が揺れてる気がする。

「みんなありがとー! それじゃ、いっくよー!!」

 いつの間にかリーダーみたいに号令を掛け、歌いながら踊り始める。久しぶりに聴くがやはり上手い、ゲーセンとカラオケをほぼ日課のように通ってるだけのことはあるな

 それに周囲は――両隣のアリア、白雪も含めて即興で合わせ始めた。というか、心なしかキレも上がってねえか? チアの連中もさっきより楽しそうだし、アリアと白雪は苦笑してるけど。

「~~♪ ~~~♪」

 音楽に負けない大きさと美しさで、理子の声がアリーナ全体に響く。歌声に聞き惚れるものも多く、熱狂は大きくなる一方だ。

 そうして一曲終わり、最後にチアのポンポンに隠されていた拳銃から空砲が放たれると、観客からは盛大な拍手が送られた。

 チア全員が手を振って応える中、理子と目が合ったので手を振り返してやると、嬉しそうに微笑んだ。こうしてみる分には単なる美少女なんだけどなー。

「みんな、ただいまー!!」

『り・こ・りん! り・こ・りん!』

 そうして閉会式の後、理子がクラスの輪に入るとすぐさまりこりんコールが始まった。というか他のクラスの奴も混じってるぞオイ。

「なんというか、戻ったって感じねえ」

「そーだな」

 輪の外で、俺とアリアの会話はコールの中に消えていった。その後、打ち上げ兼理子のお帰りを兼ねた打ち上げは、クラスを跨いで夜中まで続いた。

 

 

「アイツが帰ってきたことの負担を考えると、今から頭痛くなってきたわ……」

 頑張れ、負けるなアリア(←原因の一人)。

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 策士を策に嵌める武偵。地力で他の人間に劣る分、策や指揮もこなせる武偵では珍しい万能タイプ。
 実は理子が帰ってくるタイミングを知っており、バンドメンバーにサプライズの一曲を事前に打診しておいた。ちなみに曲は彼が書いた(書かされた)オリジナル。
 余談だが、学校床のギミックは教師達にまだバレていない(バレたら凹られた上で直させられるだろうが)。
 
 
神崎・H・アリア
 逆モグラ戦法で魔剣を苦しめた武偵。直感万能説。スタングレネードの投下タイミングは勿論ワザとです。
 普段の仕返しに潤をやったので、しばらくは上機嫌だった。しかし理子が帰ってきたため、再びツッコミを入れまくる苦労人の生活が始まる。
 
 
星伽白雪
 禁じ布まで解いたのにそこまで超能力を振るわなかった武装巫女。まあアドアシード前に終わって精神的に追い詰められこともなかったし、イインジャナイカナ。
 ちなみにアドアシードはカオスと化していたが、割といつものことのため唖然とする周囲の中、潤と共にテキパキ進行をしていた。慣れって恐ろしい。
 
 
ジャンヌ・ダルク30世
 ある意味今一番不遇なキャラ。策では潤にやられ、戦闘でも予想外の連続で実力を発揮できぬまま逮捕された。原作だと三人がかりでやっとなのにねえ。
 ちなみにジャンヌがあの場から撤退出来る可能性のあるパターンは幾つかあり、その最有力候補は『天井を凍結させてアリアを行動不能にし、氷の壁を作って逃げる』であった。これをしなかったのは、司令塔としての潤の脅威性に囚われすぎたためである。
 
 
峰理子
 帰ってきたおバカキャラ。潤に事前準備を頼んでラストの場を大いに盛り上げた。話題性を取られたが周囲は大満足してる模様。いいのかそんなんで。
 
 
後書き
 というわけで、魔剣編終了です。前回でジャンヌは活躍すると言ったな? アレは嘘だ。
 ……いや、本当はもっとバトルするつもりだったんですよ? 廊下一帯を凍らせたりとか、白雪とジャンヌがオリジナルの術式で斬り合ったり打ち合ったりとか。
 でも、気付いたら指はアリアにスタングレネードを投げさせていた……どうしてこうなった!? ……まあ正直、潤に目があ! ネタをやらせたかっただけなんですけどね(オイ)
 次回はアリアに関する小話を挟んで第三部の話に入る予定です。アリア強化フラグ!? かもしれない。予定はどこまでも未定です。
 最後に、六十件ものお気に入り登録、暖かい感想を書いてくださりありがとうございます! これからも彼らは暴走していきますので、私も暴走気味に頑張りたいと思います!(マテ)
 それでは今回はここまでで。感想・誤字訂正・リクエスト、心に風穴が開くような批評、お待ちしています!(←威嚇射撃で動けなくなるビビリ心臓持ち)
 


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小話 天才に対する凡人の感想「わけがわからないよ」

 投稿予定より二日ほど遅くなってしまいました、申し訳ありません。
 もうすぐクリスマスですが、皆さん予定はありますか? 私は仕事です(血涙)


「アタシに足りないのは火力だと思うのよ」

 アドアシードから数日後、理子と一緒にリリカルな〇はを見ていたアリアが唐突に言い出した。ちなみに白雪は星伽に用事があるとかでいない。しかし理子が帰ってきた日は大変だった、部屋に戻って白雪が理子に喧嘩売ったからな。まあ詳しくは後日にでも。

「何だ突然」

「アリアんには既に強烈なツッコミがあるじゃないですか」

「そりゃアンタ達(バカとも)限定でしょうが。そうじゃなくて、これみたいに一撃必殺みたいな感じのやつ」

 アリアが画面を指差す。ちょうど主人公がライバルキャラを拘束して極大砲撃魔法をぶっ放してるところだった。いつ見ても容赦ねえなあ。あとその主人公の掛け声『全力全開!』だから、一撃必殺なら死んでるから。

「ほほう、アリアん魔法少女コスをしたいということですかな? よっしゃあ理子に任せろー! バリバリー」

「やめて! 割といつも通りだから!」

「違うわ!? アンタはそうやって何でもかんでもコスプレに繋げるのはやめなさい! あとジュンも乗るな!

 そうじゃなくて、何か高火力の技が欲しいのよ。イ・ウーには超能力者(ステルス)もかなりいるらしいし、今後のことも考えてね」

「……流石にこんな砲撃は撃てんぞ? 試作の小型電磁砲(レールガン)なら貸してやってもいいが、あれ反動で肩が文字通り吹っ飛ぶし」

「何で使うのが砲撃前提なのよ、というかそのオーバースペック臭い一品何……? そうでもなくて、怪物(クリーチャー)系の頑丈な奴にも効くような技が欲しいってこと。ガバメントと小太刀だけじゃ心許ない気がするし」

「ほうほう、つまりアリアんは必殺技が欲しいと」

「まあ、間違ってはいない……かしら?」

 首を傾げながらも頷くアリア。俺もその解釈で正しいと思う。

「で、アンタ達そういうの心当たりない? アニメとか漫画ばっかり見てるんだから、使えそうなの知ってるでしょ」

「いやそのりくつはおかしい」

「くふふ、しかしそういうのならこの理子にお任せあれ! アリアさん運がいいでっせ~」

「誰よアンタ」

 アリアが冷めた目でツッコミを入れているが、これあかんやつや、理子のスイッチ踏み抜いたなアリア。

「よっしゃあそうと決まれば早速始めなきゃ! ユーくん資料集めるの手伝って、アリアん今日は寝かせないから覚悟しなよ~!!」

「資料集めは任せろバリバリー」

「やめて! それ天丼!」

「は? 何どういうこと――うきゃあ!? ちょ、どこ触ってんのよバカリコー!?」

 オオォォォ……とドップラー効果を残してアリアは理子に連れ去られていった。おかしいな、二つ隣の部屋移動しただけなのに。

 とりあえずお前ら、始めるならお風呂入ってからにしなさい(←主夫感)

 

 

 午後二時過ぎ、グラウンドの片隅にて。

「……眠いわ」

「昼過ぎまで爆睡してたのにだらしねえな」

「逆にアンタ達は何でそこまで元気なのよ……寝てないのに」

「理子は七徹までなら余裕ですから!」

「それ不眠症じゃないの……ふあぁ……」

 サムズアップする理子にツッコミ入れながらも、眠そうに欠伸するアリア。聞いたところによると徹夜するのは始めてらしい。そら眠いわな。

 結局授業サボって午後の講義半分ほどまで部屋で爆睡していたのだが、昼夜逆転は辛いのかまだフラフラしている。これじゃあ特訓どころじゃねえわな。俺と理子? 授業にも出たし徹夜明けでテンション上がってますが何か?

「ユーくん、スイちゃん投下!」

「了解であります理子少佐! ほれアリア、あーん」

「あーん……」

 寝惚けているのか、素直に口を開けるアリアに紫のドロップを放り込む。理子はアリアのレア姿に興奮しながら写真を撮っている。いつも通りだな。

「ふぉあ!?」

 お、新しいタイプの擬音。

「な、何? 急に眠気が吹っ飛んだんだけど? ……ジュンアンタ、やばいもの食べさせてないわよね?」

「いやいや、『スイハーくん四号』はちゃんとした材料使ってるぜ? 服用してから八時間すると死ぬほど眠くなるけど」

「結局副作用あるんじゃないの!? しかもそのセリフだと死にそうななんだけど!?」

「大丈夫、仮死状態になるだけだよ! やったねアリアん、臨死体験が出来るよ!」

「やめんかこのバカどもおおぉぉぉ!!」

 うむ、元気になったようで何よりだ。ジャイアントスイングで理子共々天高くに放り投げられながら、俺は満足して頷いた。

 

 

 宙空から危なげなく着地し(アリアには舌打ちされた)、とりあえず食べたドロップにヤバイ副作用が無いことを(渋々)納得させた後、特訓という名の試行錯誤が始まった。

 始まったのだが……

 ヒュウン!

「うーん、調整したらこんなもんかしら。ジューン、ちょっと相手してくれる?」

「……お、おう」

「? 何で及び腰なのよ」

「いや、だってなあ……」

 首を傾げているアリアに、言葉を濁すしかない。なんというか……ねえ?

「アンタが言葉濁すなんて珍しいわね、明日は吹雪かしら。

 まあいいわ、それじゃあ」

 アリアは小太刀二刀を逆手に構える。俺もそれに合わせて普段のUSPではなく、防御に向いた幅広の短刀二刀を取り出す。

 こっちが構えるのを見てアリアはこちらに突進し、小太刀を振るう。左右同時、そう錯覚させるほどの高速斬撃が俺を襲う!

「うおおお!?」

 ガキキキキキキン!!!

 叫びつつも、必死になって八連撃を防ぐ。

「あら、防がれちゃったか。うーん一撃くらいは入れられると思っんだけど」

「いやいや十分だから!? 正直防げたの運要素も絡んでるから! というか今峰じゃなくて刃でやったよな!?」

「アンタなら当たっても平気でしょ、急所は外してたし」

「いや斬られれば滅茶苦茶痛いからな!?」

「平気なのは否定しないのね」

「うわーいアリアんが回転○舞覚えたー」

 しかも本家より多い八連撃でな。もう調整というより魔改造じゃねえかこれ。

 昨日、俺達は漫画とかアニメの技をネットや動画で見て取り入れられそうなものを研究していた。三人であーだこーだと議論し(意外にアリアも乗り気だった)、アリアが実用できるようアレンジを加える、これの繰り返し。とりあえず同じ小太刀二刀の使い手ということで、最初は某御庭番衆お頭の技を参考にしたのだが……

 再び小太刀を振るい始めるアリアを尻目に、俺は理子をちょいちょいと手招きする。

「……一時間足らずで小太刀二刀流マスターしてねえか?」

「理子の目から見ても完成度やばいよ、しかもアリアん自分用に調整済ませてるし……こいつぁグレートにデンジャーですよ旦那」

「精度は続けてれば上がるだろうし、時間の問題だよな……改めてアリアが天才であることを思い知った」

 普段から感じてるけどな、ツッコミで。本人が聞いたら『アンタ達のせいでしょうが!』って言いそうだが。

「ねー理子、この辺に砕いてもいいちょうど良さ気な大きさの石ってない?」

「あ、すげえ嫌な予感する」

「いあいあ、そんなまさか……ねえ? 幾らアリアんでもそんな」

 まっさかーと笑いつつ、適当な石を幾つか拾ってアリアに投げ渡す。理子、笑顔が引きつってるぞ。

「ん、ありがと。てや!」

 渡された石の一つを掌に載せ、可愛らしい掛け声とは裏腹に石は砕け散る。

「流石、リンゴを素手で握りつぶせる握力の持ち主でアタランテ!?」

「次余計なこと言ったら石をぶつけるわよ」

「もうぶつけてるよね!? というより刺さってるからね!? 普通に痛いからね!?」

 砕いた石の破片が理子の眉間に刺さった。普通死ぬと思うが痛いで済むのはギャグ補正か(←微妙にメタ)

 えぐえぐうるさい理子に破片を抜いて治癒の超能力を掛けてやりつつ(本編初登場、出るタイミング間違ってるよな?)、アリアの行動を見守る。二つ目の石にも同様に拳を振るったが、結果は同じく砕けて散るだけだ。

「おっかしいわねぇ? じゃあこれで、どうだ!」

 再度三つ目の石に拳を振り下ろすと、パァン! と爆発音のようなものが聞こえ、石が粉々になった。

『ファ!?』

 理子と揃って素でビビった。いやいやちょっと待て、流石にこんな早くできねえだろ!?

「あ、そっか。アタシの筋力とかリーチだとタイミング違うわよね。うっかりしてたわ」

 いけないいけないと額に手を当てるが、そーいう問題!?

「……ねえユーくん」

「……何だ理子」

「理子たちは、とんでもないものを目覚めさせてしまったのかもしれない……」

「ああ、なんというか……やっちまったなあ……」

 まさか二重の○をここまで早く習得するとは……今も適当な石相手に練習(全部粉々にしている)アリアを見つつ、俺達は戦慄する。

 正直、出来たら面白いかなーと思っていた程度なので、この展開はマズイ、非常にマズイ。このままアリアの必殺技バリエーションが増えていけば、

((ふざけた時のお仕置きがヤバイ……!!))

 割と本気で死活問題だ。これじゃあふざけた後にすぐ復活できる可能性が下がるジャマイカ(←寝てろ)

「ふう、ようやく安定したわ。……アンタ達、深刻な顔してどうしたの?」

「……ねーアリアん、何でここまで修得が早いのかな?」

「どうしてって……見た資料の動きとか方法を思い出して、後は実際に使えそうな形にしてるだけよ?」

「その動きが一番難しいと思うんだが……」

「元のアイディアはアンタ達じゃない」

「いやまあそうだけどさ、ここまで完成度高いのは予想外でして。何がアリアんの技成立を助けてるのかなーって」

「勘」

 言った、たった一言で済ませた。

「……ユーくん、心理学」

「探る必要あるか?」

 顔見りゃすぐに分かる、嘘など吐いてないし適当に言っている訳でもない。確かに納得できるが、直感凄有能過ぎやしませんかねえ……

『……』

「……何で無言でorzしてるのよ、二人揃って」

「いや、なんというか……天才との差を改めて感じるわ……」

「理子だって極のマスターは三日掛かったというのに、一時間足らずとか……こんなの絶対おかしいよ!!」

「いきなり目ぇかっ開いて迫るな、怖いわよ!? 大体、アンタ達も十分その部類に入るけど」

「いいえ、アリアんと理子にはト○とア○バくらい差があります」

「それ言ったら俺なんかモヒカンクラスだぜ」

「どんだけ自分を卑下すんのよアンタ達……それ言ったらアタシだって推理は下手すればモヒカン以下……」

 嫌なことを思い出したのか、アリアもへこんだ顔になった。トラウマ発動したっぽいな。

『……』

 微妙な空気になってしまった。もうどうしたらいいんだろうねこれ。

 ちなみに、アリアは夕食までにる○剣の使えそうなのは一通り使えるようになっていた。げに恐ろしきは感覚型の適性である。

 

 

 で、翌日の朝。

「いい加減にしろやこのバカ理子があああぁぁぁ!!!」

「ダゴン!?」

 夜中にいつの間にかアリアの布団に入り込んでいた理子が、小太刀の峰で顎を打ち付けられ、

「オラァ!」

「ハイドラ!?」

 追い討ちの振り下ろしで床に叩きつけられた。まさかのオリジナル連撃、というか以前より跳躍力上がってねえか?

 そして理子がピクピクしたまま起き上がってこない。バカな、回復力が追い付いていないだと!? いつもなら即座に回復するというのに。

 そんなパジャマ姿で行われた一連の攻撃に、アリアの恐ろしさを垣間見たのだった。……まあ、痛い目見ようが自重する気はないけどネ!(オイ)

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 前回に引き続き割りとツッコミを入れていた一応主人公。悪ノリでやってみたらホントに出来たアリアの姿は予想外すぎた。
 余談だが理子、アリアの三人の中では一番才能がない、というか才能に関しては平凡。無い分は技量や策で補っている。
 
 
神崎・H・アリア
 何か色々とパワーアップしてしまったピンクツインテ。直感万能説。もう何があっても直感で済ませられるんじゃないかな。
 チームを組んだ当初から理子に付き合って(付き合わされて)ゲームやアニメ、漫画などを嗜むようになり、その後自分から見るようになった。ツッコミがネタ混じりなのはこれが原因である。
 俺の中でのアリアの直感ランクはA+、どこぞの騎士王さんよりやべえイメージである。そりゃ万能だわ(白目)
 最後に、リンゴを潰せる握力というのは公式です。
 
 
峰理子
 アリア必殺技計画企画者。どんどん技を吸収していくアリアの姿を見て、『これ武偵殺しのときに持ってたらやばかったんじゃね?』と内心冷や汗をかいていた。
 ちなみにアリアに教えた技は理子も使える。故に対処法も心得ているが、流石にここまで修得は早くなかった。凹んでいたのは割とマジである。
 
 
星伽白雪
 原作二巻相当の番外編なのに出番が無かった、地味に不遇な星伽巫女。しかしそのお陰で二巻はお淑やかさを維持できた。
 ちなみに今回は星伽に禁制鬼道を使った報告に行ったのだが、「別に大して使ってないし適当でいいんじゃね?」と言う潤の言葉に開き直り、口八丁で誤魔化して色金殺女は没収されなかった。潤からいらん影響を受けているのは間違いない。
 
 
後書き
 アリアさん強化フラグ。いやフラグじゃないか、確定だわ(白目)
 えー、この話を書こうと思ったきっかけなんですが、原作だとアリアって必殺技みたいなの無いじゃないですか? キンジ君は一杯あるのに。
 で、それだと目立たな、不公平だなーと思い今回入れてみたんですが……うん、パワーアップ速すぎねえ? フ○ーザ様か君は(←原因)
 ちなみに今後、暇を見つけてはアリアの技が増えていきます。書くことは無いと思いますが、正直潤と理子がへこむだけだし。
 さて、次回は原作三巻相当、『無限罪』編です。正直一番書きたいとこの一つなんで、今からテンションマックスです! ……でも、サブタイこれでいいのかなあ?
 最後に、60件を超えるお気に入り登録、暖かい感想、ありがとうございます! 皆さんの言葉を受けて、私、決めました! 白雪は間違いなくぶっ飛んだ感じになります! コメントで『やるなよ? 絶対にやるなよ?』的なこと言われたからね、仕方ないね!!(ゲス顔)
 では、今回はここまで。感想・誤字訂正・あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、心臓に杭を打ち込むような批評、お待ちしています!(←ヅダくらい爆発しやすいメンタル)。
 
 
追記
 るろ剣キャラの皆さん、和田先生、何かすいませんorz


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『無限罪』編
第一話 決着が着くことは多分無い


白雪「クリスマスがなんぼのもんじゃーい!」
理子「カップル共に火を灯せー!」
潤「これから毎日カップルを焼こうぜ!」
剛気「カップルどもぉ、一列に並べぇ! 焼き土下座の時間じゃあ!!」
亮「あはは、今日は一段とエキサイティングしてるね」


潤「っていうのが去年のクリスマスパーティーだったな」
アリア「何このもてない奴等のヤケクソパーティー」
潤「あながち間違ってはいない」
理子「ゆきちゃんがお酒持ち込んでから誰も止まらなくなったよね~」
アリア「持ち込んだのよりにもよって白雪か!? アンタ何考えてるのよ!?」
白雪「だってだって、友達がいつの間にかカップル作ってて幸せムードだったんだよ!? そんなの見せられて飲まずにいられないよ!」
アリア「……アタシ達以外に友達いたのね」
白雪「そこ!? 大体アリアこそ、去年のクリスマスはどうだったの!?」
アリア「……長期依頼で犯罪者追っかけてたわ」
白雪「……なんか、ごめんね」
アリア「……謝らないでいいわよ」
潤「何だこの空気」
理子「今年もカップル共を消毒しようぜ!」
アリア「アタシを巻き込むな! 余計惨めになるわ!」


 以上、去年の(おかしな)クリスマス談話でした。即興で思いついたもんなんでこんなクオリティーですが、ご勘弁ください。それでは本編始めます。
 作者? アリアと同じく仕事でした(←聞いてねえよ)



「理子さん、いい加減決着をつけようか」

「くっふっふー、望むところだよゆきちゃん、りっこりこにしてやんよ」

 アリア強化計画(理子命名)から一週間ほどして、白雪が帰ってきた。お土産の白い恋人(実家だから青森行ったはずなんだが)をパクつきながらアリアと三人で談笑、ここまではいい。

 しばらくすると、「ユーくんアリアん、神狩りいこーぜ!!」と、いつも通り理子がやかましく入ってきた。そんな理子を見て「出たわね泥棒猫!」と白雪が目を吊り上げ、それに理子が煽るものだから二人の空気は一触即発となり、現在に至る。

 リビングの真ん中で二人は対峙し、白雪は古武術らしい合気の構え、理子はクンフーの構えを取っている。片方はニヤニヤしているが、二人とも目はマジだ。

「あー、じゃあ、始めるの?」

 二人の間に立つのはアリア。こいつらめんどく「ジュン、それ禁句」、失礼、もうやだこいつらというのが顔にありありと出ているが、それでも関わるあたり付き合いがいい。

「いつでもいいよアリア。ああでも、理子さんが尻尾巻いて逃げるようなら大人しく待つよ?」

「言ってろブリっ子,そっちこそ戦略的撤退と言って負ける前に消えたらどうだ?」

 お互い煽る煽る、というか理子、こんなことでマジモードになるなよ。

「はいはい、口撃はいいからさっさと始めなさい」

 アリアがこちらに視線を送ったので、俺はボクシングとかで使うベルを懐から取り出し、

カーン! 開始のゴングを鳴らした。

「うるさ!?」

 アリアの言うとおり、たしかにこれ室内で使うもんじゃねえわ。

 

 

『ユーくん(潤ちゃん)は、渡さない!』

 

 

 掛け声と同時に飛び出し、拳を繰り出すタイミングも同時だった。いやお前らのもんでも景品でもねーから、俺は。

 

 

 さて、何でこんなことになっているのか。一言で言うなら『いつものこと』だ。この二人、出会う度に大抵挑発しあい、口論がピークに達するとすぐ勝負になる。内容はじゃんけんから殴り合いまで様々だが、毎度毎度飽きないもんだ。

 ちなみに武器を使わないのは、以前二人が武器を持ち出して暴れたため部屋が滅茶苦茶になり、俺の説得(物理)によって戦うなら素手にしとけと言いくるめたからだ。

 いやーあん時は酷かった。銃弾飛び交うわ、炎と刀であちこち燃えるわ、最終的にはM60機関銃(流石に武偵でもこの武装は違法、後で許可取ったけど、俺が)とウィンチェスターM1887ショットガン(流石に以下略)で撃ち合ってそこら中に穴開けまくって、リビングは全壊してしまった。よく火事だの通報されたりしなかったものだ。

「アタシの知ってる白雪は死んだのね……」

 何か遠い目をしているアリア。多分魔剣事件の時を思い出しているのだろうが、俺としてはこっちの方が見慣れている。いつから白雪が常識人だと錯覚していた?

 そんなアリアを置いてけぼりにしつつ、二人の戦いは続いていく。中国拳法全般達人クラスな理子と、超能力による身体強化を用いる白雪はほぼ互角といっていいだろう。

「ぐっ!」

「おりゃあ!」

 お、理子の掌底入った。しかし白雪も負けじと中段蹴りを放つ。ちなみにこの二人の殴り合いはキャットファイトなどではなくガチの殴り合いで、目潰しとか急所突きもありだ。美少女二人がガチで殴りあう姿見たらドン引きする奴も多いだろうな、二人とも人気あるし。俺は見慣れたから気にしてないけど。

「ふふ、潤ちゃんだけでなくアリアにも手を出そうとするなんていい度胸してるね理子さん!?」

「そっちこそ、理子がいない内に餌付けしてアリアんを味方に付けようなんて、大和撫子にしては随分汚い手だねえゆきちゃん!?」

 餌付けて。まあたしかに洋食派のアリアがすすんで和食を食うようになるくらいは美味いもの食ってたけどさ。

「死にさらせぇ!!」

「インド人を右にぃ!!」

 女子二人から上がっちゃいけない感じの声が上がり、渾身の右ストレートが繰り出された。だが理子、テメーのはダメというよりおかしい。

『グフ!?』

 あ、クロスカウンター気味に入って両方ぶっ倒れた。うむ、起き上がらないな。

「これは……引き分けでいいのかしら?」

「だな、これで59勝59敗96引き分けだな」

「どんだけやってるのよ!? というか引き分けの数が何でそんなに多いのよ!?」

 いやだって、二人とも毎回粘りまくるから勝負つかねえんだもん。前に相撲で勝負した時なんか、毎回倒れるの同じで結局両方気絶して終わりになったからな。

「で、こいつらどうするの? 外に捨てとく?」

 指差すアリアの言葉が地味に酷い。というか白雪も『こいつ』扱いなんですね、これは酷い。

「流石に治療くらいはしてやるべ。アリアは理子頼む、俺は白雪診るから」

「やーよ、起きたら絶対セクハラしてくるし」

「俺も同じなんだけど」

「男だし減るもんじゃないでしょ? 寧ろ役得と思いなさい」

「SAN値が減る役得とかお断りしたいわ」

『……』

 沈黙が降りる。こういう場合の方法はただ一つ――!

『ジャンケンポン!』

 結果:俺パー、アリアチョキ。

「チクショウ、また負けた……!」

「所詮頭がパーということね」

 ドヤ顔のアリアに物申したい気分だが、負け犬は吠えることなく従おう。惨めだからな。

「ウヘヘユーくんユーくん、この状況なら逆看護婦プレイしヨグソトース!?」

「異界の門でも開く気かお前は。黙って治療受けないと傷増やすぞ。あと看護師な」

「もう増えてるよ!? うわーんユーくんにキズモノにされたー!!」

「まあ色んな意味でキズモノというか手遅れだわな」

「そんなりこりんは今ならプライスレス!」

「ジャンクで買取してもらいます」

「ゴミ扱い!?」

「何か際どい会話してる……うう、く、悔しくなんかないんだからー!!」

「あ、ちょっと白雪どこいくのー!? ……結局何しに来たのよ、アイツ」

 なお、予想通り治療現場はカオスだった件について。しかしこれがいつも通り、そう言ったらアリアはでっかい溜息を吐いた。幸せ逃げるぞ?

 

 

 白雪が帰ってから静かになり、俺達三人は菓子の山から適当に好きなのをつまみつつ神を狩っている。

 ちなみにこのお菓子の山、理子が約一ヶ月の旅行中に買ってきたお土産だ。マジで世界一周してきたらしく、普通に観光したり秘所巡ったり、現地の犯罪者やマフィアグループをノリでボコったりしていたらしい。一個おかしい気もするが、割といつものことなので気にしたら無駄だ。そしてこの菓子の山、一週間食い続けてるのにまだなくならねえんだが。

 しかし、最近またも暇である。六月になってからの梅雨により天気は雨続きで、雨の日に基本依頼を受けないことにしている俺は時間を持て余している。猫探しはいつも通りやってるけどな、つーか猫達よく雨の中でも逃げようとするな、そんなにあのキラキラオバンが嫌か(第一部第二話参照)。

「あー、テンション上がらん……」

「ユーくん去年も梅雨の時はこんな感じだったねえ」

「ダレまくってるわねえ。でも報酬が一番いいのは何で……グギギ」

「ビークールビークールアリアん、ユーくんたれてるから物欲センサーが発動してないんだよ」

「……そう言いつつ、なんでアンタはジュンににじり寄ってるのよ」

「いや、くっつけばご利益あるかなあって」

「あるか! あとその目と手が変態性を物語ってるわ!」

「理子の物欲センサーを見破るとは……流石アリアん」

「見りゃ分かるし上手くもないわ! あとジュン、見てないでアンタもなんか言いなさい!」

「え? あーうん、きゃー理子のえっちーやめてー」

「やる気ないにも程があるでしょうが!?」

「ぐへへ、そう言われるとますますやりたくなっちゃうんだぜー」

「やめんかこのHENTAI!」

 わーきゃー騒ぎながら俺の周囲を走り回る女子二人、そんな中でもPSVi○aを動かす手に淀みは無い、いつも通り無駄に洗練された無駄スキルである。

 狩りも一段落した段階で俺は外を見る。雨は降り続いているが、雲の流れは早い。

「明日は晴れるな」

「え、予報だと雨じゃなかった?」

「ユーくんの天気予測は予報より正確だよー」

「へえ……便利な技能持ってるのねアンタ」

「雲の流れと風の強さの法則性が分かれば誰でも出来る」

「……アンタ口癖のように『誰でも出来る』って言うけど、普通そこまでやろうとしないからね?」

 アリアが褒めてるのか呆れてるのか微妙な視線送るが、んなこたーない。俺の持つ特技は大半が凡人の領域の限界までいけば手に入るものだ。

「普通はそこまでいくのが大変なんだけどねー。そだユーくん、アリアん、明日は授業サボってデートしようよ!」

「却下、アンタ明日はママの裁判の証言あるでしょうが」

 忘れたとは言わせないわよ? と理子をジロリと睨むアリア。そういや二日前にそんな約束してたな、あと『武偵殺し』関係の司法取引もやるんだっけか。

「えー、いいじゃんいいじゃん! 裁判なんていつでも出来るよー!」

「出来るか! もう予約も取り付けてるしレストランじゃないんだからドタキャンなんて無理なの!」

「やーだー理子遊びたいー! それに大事な話もあるのにー!」

「大事な話? 何それ?」

「理子が言う大事な話は大体どーでもいいぞ」

「ほら、明日に備えてさっさと寝るわよ」

「謀ったなユーくーん!?」

「日頃の行いが悪いんだよ理子」

 諦め悪くジタバタしてる理子だが、アリアに怒鳴られセクハラしようとしたところを昇○拳で沈められた。まさかリアルに『小足見てからの○龍余裕でした』を見ることになるとは。

「YOU WIN!」

「アンタもROUND2で沈めてあげようか」

「スイマセン勘弁してください」

 俺が何をしたし(←日頃の行いブーメラン)

 

 

 明けて翌日の放課後、またSSRの合宿に行く白雪を見送る俺。今度の行き先は比叡山らしい、焼き討ちでもすんのかね?

「潤ちゃん、何かあったらすぐ行くからねー!」

 映画で恋人と離れ離れになるシーン(配役逆な気もするが)を彷彿とさせる涙目で車内から手を振る白雪。とりあえず「お土産よろしくー」とだけ言っておいた。白雪のお土産はセンスがいいので、毎回楽しみなのだ。

 さて、本日はアリアと理子のミニマムコンビは裁判でいないため、最近では珍しく一人だ。久しぶりに依頼でも受けるかと教務科に足を向けようとすると、どこからか聞き慣れたバイクの走行音が聞こえてきた。猛スピードでこちらに横滑りで突っ込み、直前で停止する。轢く気かコノヤロー。

「やほーユーくん、ただいまー!」

 ヘルメットを取って弾けすぎた笑顔を向けるのは、やっぱり理子だった。バイクからこちらに向かって飛び掛ってきたため両手で受け止め、

「そぉい!」

 そのまま投げる。投げられた方は「にゃあああ!?」とか声を上げていたが、難なく着地した。

「むーユーくん、そこは高い高いして抱き寄せるとこでしょー?」

「娘をあやす父親か俺は、嫌だよアホみたいだし」

「親子プレイを所望と申すか」

「俺まだ高校生なんだけど」

 そんな業の深い趣味の持ち合わせはねえよ。というかそれより、

「うう、気持ち悪い……」

 バイクの後部座席でアリアがぐったりしていた。顔色は悪くないのが救いか。

「アリア、そんな体調で大丈夫か?」

「大丈夫じゃない、問題よ……理子のやつ、裏道ジグザグいったり急加速急停止するもんだから、滅茶苦茶揺れるわ頭振られるわ散々だったわ……」

 聞けば予想より裁判が早く終わったので、「デート行くぞー、おー!」と騒ぎ出した理子がアリアを(強引に)バイクに乗せ、ショートカット使いまくって速効帰ってきたらしい。いくら最近の裁判が簡略化したからって早すぎね?

「うう、キツイ……ジュン、アンタ薬持ってるでしょ? 何とかしてよ」

「俺青いタヌキ型ロボットじゃないんだけど。酔い止め用の『ブレナイ君二号』ならあるが」

「やっぱあるんじゃないの……というか風邪も引かないのに何で薬常備してんのよ」

 たしかに俺はこれまで風邪を引いたことはな「⑨は風邪引かないもんね!」うるせーお前が言うな。これはどっちかというと周りがぶっ倒れた時用だ。『ブレナイ君』なら前日に飲み過ぎて死にそうな蘭豹先生とか高天原先生用にな。

「蘭豹先生酔うことなんかあるのね……というか高天原先生も飲むんだ」

「何気に酒豪だよねーゆーかりん先生。ウォッカ一気飲みした時は流石にきつそうだったけど」

「寧ろよくそれで死ななかったわね……」

「ほいアリア、薬と水」

「ん、ありがと。……変な副作用ないわよね?」

「別に副作用はないけど、代わりに死ぬほど苦い」

「ふうん、ならいいけど。まあ苦いって言っても限度はあにっが!!!!???」

「おお立った、アリアんが立ったー!」

 イヤッホーイ、と何となく理子とハイタッチ。まあこれ、『死人が目覚めるほどの苦味を』がコンセプトだからな。その代わり効果も抜群だが。文字通り良薬口に苦し。

 何故か頭を抱えながら悶えているアリアに再度水を渡すと、ようやく落ち着いた。死んでた目も蘇っている、流石俺特製の良薬。

「なんか、ゴーヤと魚の苦い内臓を丹念に混ぜ合わせて数倍濃くしたような味がしたわ……」

「でも酔いはスッキリする」

「後味と気分はサッパリだけどね……というかジュン、アンタはアタシに苦いもの飲ませないといけない性分なの!?」

「いいえ、ちゃんとした理由ありきです」

「まあ、確かに欲しいって言ったのはアタシだけど……」

「前のゴーヤジュース(※第一部三話後編参照)は面白がってだけどな」

「だらっしゃあ!」

「あさき!?」

 元気になったアリアからドロップキックを頂戴した。顔はヤメテ!?

「おーいユーくんアリアん、理子を置いてイチャつくなど言語道断! 早くデートに行こうよー!」

「どこがイチャついて見えんのよ!? というか元はといえばアンタの責任でしょうが!」

 顔面修復している俺を尻目に、ワーギャー騒いでいるアリアと理子。大体いつもこんな感じです。

 しかし、デートとか言ってるがどこに行くんだろうな? まあ大体想像付いてるけど。

 

 

「ところで理子、お前なんで俺のSV1000で帰ってきたんだ? 貸した記憶ないんだが」

「てへぺろ☆」

「よしアリア、コイツにもドロップキックだ」

「ダイジョーブダイジョーブ、電柱にぶつかったり引っくり返ったりは」(目逸らし)

「……やったのか? おいやらかしたのか!?」

「うわわ、ユーくん冗談だからゆーらさないでー!?」

「珍しくジュンが本気の顔してるわ……」

 バイクに関してはガチです、ガッチガチの魔改造カスタムに幾らつぎ込んでると思ってんだ。七桁いってるんだぞコノヤロー!

 なお、後日診ておいたらどこにも損傷はなかった。これで傷が付いてたら理子を地獄流しするとこだったわ。

 

 




登場人物紹介 
遠山潤
 バイクには割と本気で金と力を注いでいる男。ちなみにカスタムは自作、壊すともれなく轢きにいきます。
 薬を色々持っているのは応急キット感覚。一応怪我の際に備えたものもあるが、自前の超能力(ステルス)である治癒能力があるため、ほとんどは自分より他人に使うことが多い。
 
 
神崎・H・アリア
 信じていた白雪もやっぱり常識人じゃなかった事にショックを受けている模様。薄々察してはいたが知りたくなかった、これが乙女心(違)
 潤にやたらと苦いものを食わされている。作者も書いてる時にデジャヴを感じ読み直してみたら似たようなのがあった。しかもアリアまで共通、何だこの偶然。
 
 
峰理子
 帰ってきても相変わらずなトラブルメーカー。最近アリアのツッコミ火力が上がっているが、それでもすぐに復活する。「痛いのもいけますから!」とサムズアップしてアリアを引かせた。
 裁判を早く終わらせるために真面目モードで取り組んでいたため、反動でテンションがメチャクチャ高い。次回、(いつも通り)なにかやらかすかもしれない。
 なお、世界一周はアジア→中東→ヨーロッパ→アフリカ→南米の順にぐるっと世界一周した。北米がないのは設定上の問題なのだが、いずれ語るかもしれない。
 
 
星伽白雪
 拳でライバルを撃滅せんとする武装巫女。古武術は本作のオリジナルだが、正直原作で使えてもそんなに違和感ないと思う。
 ちなみに合宿の際の見送りだが、毎度あんな感じなので潤も周囲も慣れており、特にリアクションがあることはない。

高天原ゆかり
 作者のノリで酒豪設定が追加された先生。駆けつけ三杯分を一気飲みするくらい酒はいけるらしい。
 
 
後書き
 話が進まない(白目)
 理子はキャラとして動かしやすいんですが、その分話が脱線事故起こしやすいので展開が遅い遅い……魔剣のときはあんなにスムーズだったのに、どうしてこうなった(汗)
 というわけで、無限罪編第一話……と言っていいんですかねこれ? もはやこの面子の日常を書いてるだけなような……で、でもまあ、次回は進むと思うかも! じゃなかった、進みますので!
 最後に謝礼を。UA4400越えという、私的にはこれだけ皆様にこの作品が読まれていただいて本当に嬉しいです! これからも潤とその周囲はこんなノリですが、よろしければ生温く見守ってやってください(間違いではない)
 それでは今回はここまで。感想・誤字訂正・あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、黒歴史を掘り返されるような批評、よろしければお願いします!(←現在黒歴史更新中)

追記
 クリスマスなんてなかった、いいね?


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第二話 これは作戦会議と呼んでいいのだろうか(前編)

前書きおまけ 去年の大晦日について
ア「そういえばジュン、ジャンヌと戦った時に炎出してたけど、あれってアンタの超能力(ステルス)?」
潤「いや、この刀の性能」(スラッ)
ア「……無〇刃?」
潤「を、参考にした武器。刃の隙間から可燃性の高い油が出て、居合いか鍔迫り合いで一瞬だけ炎が出る」
ア「ああ、人間の脂じゃないのね」
潤「そこまで人は斬ってないからな」
ア「……殺人傷害罪で逮捕しておきましょうか」(チャラッ)
潤「手錠でのSMプレイなら理子の方が喜ぶぞ」
ア「んなことのために取り出したんじゃないわよ!?」
理「呼んだ!?」
ア「呼んでないわ!? ……で、なんでそんな危険物持ってるのよ」
潤「普通に小太刀二刀持ってる奴に危険物所持を問われたでござる。まああれだ、去年の大晦日に一発芸やったんだけどな、その場のテンションで理子と一緒に適当な刀を改造した」
理「削りはやりきったぜ……」
ア「……宴会用の小道具にしてやられたのね、あの自称魔女」
 ジャンヌのふぐうどがあがった!(テレレッテレッテー!)


「ねえジュン。アタシ達今どこにいるんだっけ」

「秋葉原。別名『武偵封じの街』」

「デートだのなんだの騒いでたの誰だっけ」

「アホ理子」

「人多いわね」

「そうだな、人がゴミのようだな」

「はぐれたら大変よね」

「電話も通じないと尚更な」

「……そんな状況下で、なぁんであのバカはどっかに行っちゃうわけぇ?」(ゴゴゴ)

「『ジャックが、アリスが理子を呼んでいる……! 行かなくてはー!!』とか行ってコンビニに飛んでいったぞ」

「コンビニなら駅前のすぐそこにあるでしょうがぁ!! 大体殺人鬼と不思議の国に何の重要性があるのよ!?」

「多分FG〇のイベントキャラだろ、ナーサリーライム見て興奮してたし。あとアイツ、コンビニはファ〇マ派だから」

「知らんわそんなことぉ!? 連れてきといて放置とか何考えてるのよアイツはぁ!?」

 ダンダンとオリジナル地団駄で暴れまわるアリア。怒気が漏れまくっているため、通行人が避ける形で半円状に空間が出来ている。それでもももまんを握りつぶさないのはある意味凄い。あ、アスファルトにヒビ入った。

 ちなみにこの所業と鬼のような形相で後日、某ネット掲示板の一部で『鬼〇ク』と呼ばれ一時話題になるが、まあこれは割愛しよう。

 コンビニで買ったブラック〇ンダーを食いながらどうするべこれと考えていると、スマホから着信音。曲はまど〇ギのMagia、ならアイツしかいない。やれやれ、やっとか。

『ファミチキください!』

「店員に言え」

 条件反射でツッコミ入れると、そのまま切れてしまった。再度掛けてみるも応答なし。無駄なところでエスパー発揮してんじゃねえよ。

 とりあえず、電話にアリアは気付いてないようなので何も言わないことにした。火に油注ぐの、面白いけどヨクナイ(←確信犯)

「潤さん?」

 暴走アリアを観察していると、横合いから聞き覚えのある声に名前を呼ばれたので振り返る。そこには武偵高の制服を着た青いショートカットの髪を風になびかせる少女、狙撃科(スナイプ)の麒麟児レキが立っていた。ちなみに苗字は不明、本人も知らないとか。

 いつも通りボーっとした感じの無表情だが、手にはいつものドラグノフの代わりに紙袋が垂れ下がっている。生活感のないイメージなので、なんとなく違和感を感じる。

「おうレキ、意外なところで会うな」

「はい、そうですね」

 それだけ言って黙ってしまう。元来無口な子だが、そういうタイプだと分かっているので特に気にしていない。言えば答えてくれるので、話すコツは話題をこちらから提供することだ。

「買い物帰りか、何買ったんだ?」

 何とはなしに聞いてみると、レキは紙袋を差し出してきた。見せてくれるらしい。

 一言断ると、中に入っているのは数冊のスケッチブック、48色入りのコピック(確か一万位するやつ)、そして一冊の本、タイトルは『猿でも分かるイラスト術 ルナティック編』。簡単なのか激ムズなのかどっちなんだよ。

「ちょうど切れたので買い足しに来ました。流石に自作は出来ませんし、品質は此処にある店舗が一番なので」

 無表情だが語る姿はどこか満足気に見えるのは気のせいだろうか。これが理子ならドヤ顔になりそうだ。

 実はこのレキ氏、狙撃科Sランクというとんでもない腕の裏に、イラストレーターの顔を持っている。しかも美少女モノばっかの背景付きで。

 去年選択授業の美術でコンクールに出したら大賞獲得という偉業をなし、それを目にした美術部と慢研から勧誘されたのだ。しかも美術部が慢研と繋がっている、というか似たような人種の集まりのため、たまに顔を出すと二次元イラストばっか書かされているらしい。

「また依頼受けてるのか?」

「はい、納期も迫ってるので」

 しかも滅茶苦茶上手い上に本人も嫌がることなく書き上げるため、順番待ちが出来るくらい依頼が殺到しているらしい。もう絵描きで食えるんじゃないかなこの子、というかいけるだろ。

 一時期は余りの無口無表情さから『ロボットレキ』などとあだ名されていたが、今ではかなりの野郎と一部の女子から『イラスト神レキ様』と崇められており、クラスでは何かマスコット扱いされてるとか。待遇変わりすぎだろ。

「そか、頑張れや」

「はい、私は依頼を100%遂行しますので」

 そのセリフは別の場所で言うべきだと思う。

「あ、そうだ。理子を見なかったか? あのアホ、勝手にどっか行っちまいやがって」

「理子さんですか? ここから左に曲がって、500m先のコンビニに入るのを見まし」

 レキが言い切る前に、アリアが一陣の風になった。風圧が舞い起こり、周囲の人が驚いている。

「……アリアさんだったのですか、アレは」

「何だと思ってたんだよ」

「……阿修羅?」

 うん、印象としては間違ってないけどさ、それ本人の前で言うなよ? 巻き添えで酷い目にあうだろうから。

 そしてレキと別れて件のコンビニまで行くと、アリアが理子に海老反りを掛けているところだった。往来のど真ん中で何やってるの。

 

 

「「かーわーいーいー!!」」

「……可愛いか、これ?」

「「ユーくん(ジュン)にはこれの良さが分からないの!?」」

「ハモるなよ、あー分かった、欲しいの分かったからお前ら離れろ」

 憎たらしい表情を浮かべるペンギンのぬいぐるみが入ったUFOキャッチャーの前に貼り付いた二人を横にどけ、百円を投下する。前にもこんなことあったな、つーか小学生かお前ら。

 ただいま俺達はゲームセンターにおり、直前まで理子が何言おうとプリプリしていた(これでもぶっ飛ばして幾らか落ち着いた)アリアだが、このペンギンマスコット(『ペンダゴン』というらしい、何とは言わんが大丈夫か?)を見たら一瞬で機嫌が直った、どころかハイになった。最近、ご機嫌の取り方が分かってきた気がする。

 というか君等仲いいね? 取ったペンギン渡したら一緒にはしゃいでるし。

「ふんふんふーん♪」

「……ねえ、ちょっと恥ずかしいんだけど」

「諦めろって、こういう奴だ」

 一通りいつものコースで遊び終え、次の目的地へと移動。右にアリア、左に俺、それぞれ真ん中の理子に腕を組まされている状態だ。ちなみに例のペンギンはアリアが片手で抱え、理子は自前の糸を使って背中に背負っている。傍から見るとペンギンが張り付いている状態だ、シュール。

 金髪ロリ巨乳の美少女がピンクツインテロリ美少女とどこにでもいそうな野郎(←と思ってるイケメン)を両脇に挟んでいる謎の光景は当然目立っており、周囲の注目を浴びまくっている。「え、あの子バイ……?」、「あ、でもかわいー」、「金髪ロリ巨乳の両刀……許せる!」周囲の理子に対する反応は男女共々好意的だった、俺は嫉妬と憎悪を籠もった視線で見られたけど。スイマセンね、何か勘違いさせて。

「ユーくんアリアん、次は裏通り行こうよ! でっかいゲームとか漫画売ってる中古ショップあるからさ!」

「新品でまとめて買えばいいじゃない」

「おおう、流石ブルジョワアリアん。でもでも、そういう場所にはお宝が眠ってたりするんですよ! お宝が!」

「そんな骨董品屋じゃないんだから……ねえジュン?」

「よし行くべ」

「一番ノリ気!?」

 いやだって、丁度ガンダム〇Cの設定資料欲しかったし(←宇宙世紀派)

 その後もア〇メイトで新世界に群がる女子達を見てアリアが戦慄したり、メ〇ンブックスでアリアが爆弾発言して俺と理子が爆笑したり(店員さんに注意された、すんません)、同人ショップで理子が目を輝かせてグッズを漁り、俺は新作の同人CDを買ってホクホクしたり、またゲーセンに言って三人でダンスゲームでガチバトルしたりと色々見て回った。アリアも目まぐるしく回ってツッコミを入れることも多かったが、顔を見れば楽しんでるのが分かる。いやあ、初めてのアキバ探索が好評なようで良かった良かった。

 そうして夜も近付いてきた頃、理子オススメの店で夕食食べたら帰るかと話がまとまって向かう最中、アリアが思い出したようにポツリと一言。

「……そういえば、大事な話があるとか言ってなかったかしら? 裁判の後にすっごい真剣な顔で『これはマジな話だから』って念押ししてきて」

「…………あ、忘れてた!?」

「夕食食べて帰ったらさっさと寝ましょ、今日は遊びまわってちょっと疲れたし」

「そだな、俺も帰って本読みたいし」

「こ、これから! お店行ったら詳しい話するから! 信じて、ホントに大事な話なんですよ姐御!」

「誰が凶暴姐御よ!?」

「そこまでは言ってない」

 というか、遊んでて忘れるような話が重要だったらマジで頭沸いてると思うんだが。

 

 

『『『『『『お帰りなさいませ、ご主人様!!』』』』』』

 理子の先導で辿り着いたのは、表通りから少し外れたところにあるビルの一角に存在するメイド喫茶だった。というか俺は理子に連れられて何度も来てる。まあここなら納得だ、飯は美味いし、デザートはもっと美味いし。

「……実家で迎えられた時みたいだわ」

 これが噂のJapanメイド……とかアリアが衝撃を受けているようだが、そんな声はメイド達の声にかき消される。

「キャー、理子様お久しぶりー!」

「理子様特注のメイド服、お客様にも凄く好評なんですよ~!」

「潤にゃんもお久しぶりだニャ、この間は予算の方でアドバイス、ありがとうニャ!」

 理子、ついでに俺の周りにメイドさん達が集まり、楽しそうに話しかけてくる。まあここの店員とは知り合いだしな、特に理子は色々世話してるみたいだし。

「みんなお久し~! 奥でゆっくり話がしたいんだけど場所あるかな? あ、こっちのピンクツインテはアリアんって言うの! メイド喫茶は初めてだから優しくしてあげてね?」

「何か言い方で怖気が走るんだけど」

「わー、可愛い! 理子様の新しい恋人ですか!?」

「何で恋人前提なのよ!?」

「今ユーくんと一緒に攻略ルート爆進中です!」

「「「「「「キャーーー!!」」」」」」

「え、そこ納得しちゃうの!?」

 などと理子+メイド集団に可愛い可愛いとアリアがもみくちゃにされた後(こういうのは始めてなのか目を回していた)、奥の席へ案内された。ちなみに他の客はダブルチビッコ+メイド集団の絡みを見て微笑ましく見ていたり、興奮したりしていた。接客滞ってるがいいのか、いつもこんなんだけどさ。

「つ、疲れた……あんな歓迎のされ方始めてだったわ。何かメイド服しきりに勧めてくるし」

「理子もアリアのメイド服見たかったな~」(チラッチラッ)

「カメラ構えつつこっち見んな、やんないわよ。……少なくとも今は」

「言質頂きましたー!」

「着るなんて言ってないでしょうが!?」

 可能性見せるだけで喜んで飛びつくぞ、理子は。接客してるメイドさん達も期待するような目を向けている。ここの店員全員理子と同類だからな、アリアが絶望しそうだから言わないけど。

(潤にゃん、アリにゃんが自分からメイド服を着たがるよう促すのニャ!)

(イエス、ユアハイネス!)

 やべ、アイコンタクトで了承しちまった。ぶっちゃけこの状況は空気でいるつもりだったんだが、ギ〇スでの命令なら仕方ない(適当)

「興味あるならやってみたらどうだ? ここ、服の貸付サービスもやってるし」

「じゃあ理子もやるからユーくんも一緒にやろうそうしよう!」

「何ジュン、アンタお兄さんと同じ趣味だったの……?」

「ドン引きするな、理子とそこのメイド軍団に無理矢理やらされたんだよ」

 理子指揮の元メイド達が取り囲んでくる状況は地味に怖かった、武器使う訳にもいかんし。ちなみに羨ましいと思った男性諸君、笑顔を向けながら異常な気配を放ってるメイド集団は普通に怖いからな? 下手なホラー映画よりよっぽどだわ。

 んで、俺がメイド服に着替え(させられ)た際も一騒ぎあったのだが、まあ、カットで。

「……でも、ここのスカート短いし」

 チラリと恥ずかしげに目を伏せるアリア。たしかにここのメイド服はやや丈が短めだが、よくある激ミニほどではないし理子の趣味でフリルがあしらわれているためそこまで見えない。というか今お前さんが着てる防弾制服よりは長いんだけど。

「気になるなら裾直しもしてくれるみたいだぞ。まあ何事も経験だし、嫌じゃなければ試してみたらどうだ?」

 ちなみに裾直しは口からデマカセだが、メイドさんにアイコンタクトしたら『任せろ』といい笑顔でサムズアップしてきた。ホント好きねあーたら。

「……似合うと思う?」

「俺はそう思うぞ」

「そう。……次来た時に考えとくわ、ただし理子、アンタもやりなさいよ?」

「うっうー、お任せください!」

「あとジュン、アンタも」

「え、なんでさ」

 『考えておく』は了承を得られたも同然だが、何で俺まで巻き込まなければならないのか。

「前にもやったんでしょ? アタシは恥ずかしいんだから、アンタも恥をかきなさい」

「いやそのりくつはおかしい」

 何で恥をかくのが前提なのか。……普通に考えりゃそうか。

 妥協案を探ったが俺がやめるのは認められず、結局アリアの案で可決された。理子とメイドさん達からは『よくやった!』とアイコンタクトで言われたが、全く嬉しくねえ。

 あと、いい加減注文しようぜ? ここ喫茶店だから、メイドいるけど。

 

 

「ステーキセットにパン付き、コーヒー、あとこのももまんパフェを三つ、こっちは大盛りで」

「オムライス大盛りとスープ、紅茶、食後に五種のアイス盛りと団子フェスティバル一つずつ。あ、デザートは全部大盛りで」

「理子はエスカルゴパスタにから揚げ、ミルクティー、サラダ、後デザートにケーキ一種類ずつ!」

 順に俺、アリア、理子のオーダーだ。ちなみにここのケーキは12種類でどれも手作りである。大量オーダーにも関わらずメイドさんは笑顔で了承した、今頃裏方は地獄だろうけど。頑張れ厨房スタッフ(全員野郎)。

「相場よりちょっと高いのね」

「土地柄とサービス内容からどこもこの手の店はそうなるさ。寧ろここは良心的な部類」

「理子も通いたくなるお店、これは流行る!」

「お前この店にかなり関わってるだろ、ただのステマじゃねえか」

 まあこう見えて二次元、2.5次元のクオリティにはうるさい理子のことだから、当たりの店ではあるんだろうけど。

「で、アンタは結局何をやらせるつもりなのよ」

 飲み物が届き、コーヒーにはうるさいアリアが「へえ、中々ね」と珍しく堪能してから本題を切り出す。

「んっふっふー、それはねー」

 ガムシロップを注ぎまくったクソ甘いミルクティーを上手そうに一気飲みした理子が席を立ち上がり、自信満々の顔で宣言する。

 

 

「ユーくんとアリアんには、理子の『大泥棒だいさくせん』に参加していただきます!!」

 

 

「お待たせしましたー」

 丁度その時、料理の一品目が届いた。サラダとかスープな。

「とりあえず、飯食うべ」

「そうね」

「アッハイ」

 ドヤァとなっていた理子も席に座り、食事を開始した。第三男子寮遠山潤の部屋に住むもののお約束、『面倒な話は飯を食べる前後にしましょう』。理子が(´・ω・`)ショボーンって顔になってるが、気にしたら負けだ。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 アキバ耐性は高い系男子。ちなみに買ったCDはガッチガチのメタル、ゴシックファンタジー系。見た目もあいまって同人CDじゃなければ別の界隈にいそうなタイプ。
 ここまで触れるのを忘れていたが、結構なイケメン。キャライメージは戦国〇双の石田光成の黒髪バージョン。でも普段の言動がアレだから、ね? ……キンジほどじゃないが、結構もてるけど(憤怒)
 
 
神崎・H・アリア
 アキバ初体験だが結構楽しんでいた女子。しかしメイドの集団には気圧されていた模様。集団からのカワイイコールは初めてだったらしい。
 潤に褒められると案外悪い気分ではないらしい。しかし照れ隠しでコスプレ(女装)に巻き込むのはどうかと思う。そのせいで後に凹むことになるのだが、それはまたいずれ。
 

峰理子
 ホームグラウンド(アキバ)で己の欲望を解き放った女子。なお、ジャックとアリスは二連続で出た模様。何その剛運。
 メイド喫茶だけでなく、色々な店に出資や助言などのアドバイスをしているらしい。主に自分が潰れて欲しくない店にだが。
 余談だが、大泥棒さくせんの件は本当に忘れていた。お前そんなんでいいのか。
 
 
後書き
 2015年は終わる、しかしこの小説の第三部は終わるどころか進む気がしない!
 ……はいすいません、投稿が遅れてるゆっくりいんです。活動報告にも書きましたが、クトゥルフTRPGのシナリオを同時進行で書いてるので、投稿が遅れに遅れました。それにしても大晦日ってなんなん、本当は前日の30日にはうpするつもりだったのに……ホントすいませんorz
 ちなみにクトゥルフTRPGが全く分からんって方々に説明すると、まあニャ〇子さんの元ネタです(適当)。SAN値くらいは某名曲で聞き覚えあるかもしれませんが、ネタが分からなくてもおおらかな心でスルーしてください、よし言質取った!(オイ)
 はい、反省してるのかしてないのか分かりませんが次回に続きます。次は……作戦会議の内容なので第二話後編かな? ふと原作をチラリと読み返したんですが、時系列滅茶苦茶でしたね……最初の時点でアレですけど(白目)。
 では、次は三ヶ日中を目標に書き上げたいと思います。じゃないと前書きの正月ネタが使えないので!
 それでは今回はここまで。感想・誤字訂正・あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、真っ白になりそうな批評、お待ちしています!(←年末年始の仕事で既にボロボロな奴)
 
 
おまけ:作者の今年の目標

初詣に行く

 ……投稿してから三時間後には達成できそう。いやだって、去年風邪で初詣いけなかったんですもん(泣)


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第二話 これは作戦会議と呼んでいいのだろうか(後編)

前書きおまけ 去年正月時の様子
潤「……」
理「……」
潤「……ねみー」
理「ユーくーん、みかんとってー」
潤「自分で取れ、というか目の前だ」
 モゾモゾ
理「取ってー、剥いてー、理子に食べさせて~」スリスリ
潤「こたつの中移動してくるなっつの……ああ分かった、分かったから擦り寄るな暑苦しい」
理「えへへー、やり~」


潤「三日間こんな感じだった」
ア「めっちゃだらけてるわね……いつものテンションはどうしたのよ」
潤「大晦日の忘年会で使い切った」
ア「年と一緒にテンションまで忘れたのね」
潤「アリアもコタツの魔力に浸れば分かる」
ア「……夏直前だとまったく魅力を感じないわね」


 お正月は寝正月が相場(真顔)
 



『ちょっと何それ!? 無理、恥ずかしくて無理! 何でそんなの置いてあるのよ!?』

『くっふっふー。アリアん、メイド喫茶は月のイベントとかで色々な衣装を着たりもするんだよー、だからこんなのもあるんだー。

 しかし今のセリフはいただけませんなあ、『無理』、『疲れた』『めんどくさい』はアリアんの嫌いな言葉じゃなかったですかー?』

『あれは武偵の心構えとして言ったのよ! ホント無理、恥ずかしくて死ぬから!?』

『なぬ、赤面して死ぬとな!? これは是非拝見させてもらうしかありませんなあ~!?』

『チクショウ逆効果だったわ!? ええいこの、いい加減にしないと風穴――』

『メイドさん達~、出番ですよー!』

『『『アイ、マム!!』』』

『ちょ、アンタ達人を捕まえて何のつもりよ!?』

『許してくださいお嬢様、理子様には色々借りがあって逆らえないんです!』

『ノリノリな上に満面の笑みで言われても説得力ないわ! というかアンタ、何で正面から抱きついてるのよ!?』

『いやあ、理子様のお山も良いのですが、ちっぱいも中々良いもので』

『死ね変態、アンタも理子と同類か!!』

『くふふー、メイドさんに気を取られてていいのかなー? さあアリアちゃん、脱ぎ脱ぎしましょうね~』

『アタシの傍に近寄るなああぁぁぁ!!』

「……何やってんだアイツら」

 以上、店内奥のカーテンで仕切られた部屋から聞こえた会話の一部始終である。耳を澄ますまでもなく聞こえるので、奥にいる客は何事かとザワついている。一部興奮している輩もいるが、HENTAIは自重。

 それにしても理子の奴、デザートも食わずに何してるんだか。内容からアリアがいつも通りろくでもない目に遭ってるのは分かりきってるが。というか引っ張られた時点で予想できるだろうに。

 心の中でアリアに合掌しつつ、五種のアイスクリーム(大盛)を堪能する。ああ美味し。

『ジューン、ちょっと来て助けろー!』

「無理。そこ女子しかいないだろ」

 変態扱いされてまでパートナーを助ける気はないです。

『アンタの立場や評価なんて元々ろくでもないでしょうが!』

「何それ事実。というかアリア、自分の状態考えた方がいいんじゃね? 今服どうなってるよ」

『……やっぱ来んな! いや来ないでください! あと、アタシのももまんパフェ食ったら風穴標本にするからね!』

 何故バレたし。パフェに伸ばしかけていた手を引っ込める。流石、直感の使いどころを間違えることに定評のあるアリアさんである。

 ドッタンバッタンと暴れる音(物壊すなよ、面倒だから)がしてから十数分後、カーテンが開かれてそこにいたのは、

「ううー、な、なんなのよこれ……」

 身体にフィットするタイプの白い水着にも見える色々ギリギリ衣装で、スカートは見えるか見えないかの極小、という際どいコスプレだった。外見も合わさり色々背徳的で、スカートを抑えてもじもじするアリアの顔は当然真っ赤だ。

「くふふー、どうユーくん? やってやったぜ」

 こちらにサムズアップしてくる理子の格好は、黒ゴスロリにでかい月が施された杖を持っている。上は袖なしで胸元も上部が開いている、かなり大胆なものにアレンジされているが。

「……何のコスプレだこれ?」

「くふふ、今回のテーマは『魔法少女』です!」

「……魔法少女?」

 鸚鵡返しに疑問を口にし、二人の格好をもう一度眺めてみる。

 理子は、まあ分かる。属性的には正義というより悪だろうが。ただアリアは……どちらかといえばアンドロイドとか、SFチックな物ではないだろうか。

「じ、ジロジロ見るんじゃないわよエロジュン……」

 こっちの視線を感じたアリアが赤い顔のまま睨んでくるが、既に羞恥心が限界なのかカーテンで身体を隠してしまった。まあ無理もない。

「どうですか旦那」

「いやどうですかって言われてもな……とりあえず理子の魔法少女に対するイメージは置いといて、何で作戦の話から魔法少女のコスプレになったんだ?」

「それはねー、

 『怪盗といえば変装、しかしただ変身するんじゃつまらない→そういえば怪盗魔法少女のアニメってあったなー→よし、じゃあ魔法少女のコスプレをしよう!』

 ということなのです!」

「なるほど分からん」

 コイツの思考回路はどうなっているのだろう。千回以上考えているが、未だに答えは見出せない。

「まあそんなことよりー、どうどう、似合ってるかなユーくん? アリアんも含めて感想をおねがーい」

 テーブルに身を乗り出して上目遣いでこちらを見てくる理子。こらこら、その衣装だと胸元見えちゃうから。

 しかし、感想ねえ。チラとアリアの方を見ると、「うー……」と唸っていた。とりあえず、こっちから済ますか。

「じゃあまずアリアからだが、ボディにフィットするタイプの衣装は普段見ないから新鮮だな。スレンダーで低身長だから一見するとアンバランスだが、恥ずかしがってるのもあいまって愛らしさと背徳的な色っぽさが感じられる」

「い、色っぽ!? ―――!!?」

 あ、赤面がレベルアップして煙吹いてる、しかも頭抱えてるし。これもまた愛らしい。それと後ろに待機してるメイドさん、サムズアップしてないで鼻血拭こうか。

「おー、流石ユーくんアリアんも形無しですなー女たらしめ~。それじゃあ理子の感想もプリーズ!」

「お前が感想言えって言ったんだろ。まあとりあえず」

 改めて理子の衣装を見てみる。ふむ、そうだな。

「ゴスロリなのはいつもだが、ノースリーブと胸元開けてるので開放的な感じになってるな。腕や胸を見せることで、可愛さよりも色気を出して理子の女の魅力を全面的に出してる」

「はう!?」

 何か胸を押さえてその場に倒れた。何ぞ。

「さ、流石ユーくん……来ると分かって身構えてても凄まじい攻撃だよ……女の魅力全開かぁ」

 恥ずかしいけど嬉しい、って感じで理子が顔に手を当てている。珍しい反応だ、照れてる理子は普段馬鹿やってる分可愛らしく見える不思議。

「ユーくん、その褒めテクで一体何人の女子を堕としてきたぁ!?」

「ねえよそんなこと」

 舐めんな、こちとら童貞だ。付き合ったこともアレなことしたこともねえし、告白されたこともねえよ。

 んで、周囲のお客さんから殺気を感じる。野郎だけでなく女子からも何故か出てるんだが。

『(´-∀-)=3ドヤァ』

 とりあえず手持ちホワイトボードを掲げてみたら、ナプキンを食い始めるものが出てきた。何あれ怖い。あとメイドさんがニヤニヤしてる、休憩時間終わりだろうから働きなさいな(適当)

 

 

 アリアが着替えてから(流石に人前は厳しいらしい、そりゃそうだ)席に戻り、各々デザートを堪能してから理子(コスプレ衣装のまま、妙に上機嫌だ)発案の『大泥棒だいさくせん』(『だいさくせん』はひらがな表記がこだわりらしい、すげえどうでもいい)の説明がようやく始まった。

「で、大泥棒っていうくらいだから何か盗ってくるのよね? 私、犯罪者にはなりたくないんだけど」

「ダイジョーブダイジョブ。理子がその辺りは揉み消すし、仮にばれても逮捕されることはないから」

「はあ? 逮捕されない? そんな都合のいいことがあるの?」

「アリアん、『無限罪のブラド』は知ってる?」

「! イ・ウーのNo2……!?」

 言ってからアリアはハッとし、慌てて口に手を当てる。確かにイ・ウーの話はおいそれと聞かれるわけにはいかないが、それじゃあまずいこと言ったってばらしてるようなもんだぞ。幸い聞き耳を立ててる同業者(武偵等)はいないようだが、アリアはもう少し感情のコントロールを出来るようにならんとな。

「そう、そのブラド。今回アリアんとユーくんにはアイツの住処に理子と潜入してもらって、あるものを取り返して欲しいの」

「取り返して、というと」

「……理子のお母様の形見の十字架(ロザリオ)」

 やっぱりか。戻ってきてからこっち、理子が肌身離さず持っていたあれが見当たらなかったからな。

 納得する俺に対し、アリアは何かショックを受けたような顔だ。

「――理子、アンタのお母さんは」

「……お父様もお母様も、理子が小さい時に亡くなったの。ロザリオはお母様が元気だった時にくださった大切な思い出の品。なのにアイツは、ブラドは……!」

 血が滲まんばかりに強く拳を握る理子。相当悔しいのだろう、常は見せない苦汁の色が表情から窺える。

「……何か、ごめん。何て言えばいいか分からないけど、理子に物凄く申し訳ない気がする。アンタにとって侮辱なのかもしれないのにね」

 罪悪感を滲ませる顔で俯くアリア。本来それは抱く必要のない感情だが、それでも口に出して言えるのは彼女の美点と言えるだろう。

 アリアの憂い顔を見て理子はハッとした顔になり、

「……やーメンゴメンゴ、暗い雰囲気になっちゃったね! アリアんりこりんの心配してくれるの、嬉しいな~!」

「わぷ!? ちょ、理子、離れなさいっての!?」

 暗くなった雰囲気を察してか、冗談めいた感じにアリアを抱きしめる理子。普段だったら派手に抵抗するのだが、理子の手が震えていることに気付いたのか一言文句だけでそれ以上は何もしなかった。

「アリアんは気にせずお母さんを助けてあげてね! 生きているならその分、うんとお話したり一緒にいたりするのが一番だよ」

「理子……ありがとう」

 理子の言葉に抱きしめられたアリアは涙ぐんでいる。うん、イイハナシダナー。

「さて、そこで暇してるユーくん! 今から作戦会議するけどAre you OK?」

 うるせー、空気読んで空気になってたんだよ。

 

 

 さて、理子の大泥棒作戦だが、概要はざっとまとめてこんな感じだ。

・横浜の『紅鳴館』(こうめいかん、紅魔館に非ず)という屋敷がブラドの別荘の一つである。

・来週から使用人が長期休暇で抜けるため、短気募集の広告に乗じて執事・メイドとして潜入。

・期間は一週間。その間に屋敷の構造を把握し、ロザリオ奪取の計画を具体的に練り上げる。

・ブラドは滅多に訪れることはなく、普段は管理人代わりの縁ある人物が滞在している。

・万が一ブラドが居た場合は交戦を前提とし、無理そうなら撤退。居なければ後日別途の報酬を潤・アリアに提供する。

 ちなみに『ブラドと交戦』の部分はアリアの提案だ。イ・ウーのメンバーである奴はアリアの母親に冤罪を被せた一人だからな、当然だろう。「ブラドさえ逮捕できれば、アタシの報酬はいらないわ」とはいかにもアリアらしい。理子は珍しく渋っていたが、条件付で了承してくれた。

 更に具体的な案を練るため、紅鳴館の見取り図を見て策を練ることにする。アリアが詳細な図を見て驚いていたが、「りこりんが一晩でやっちゃいました!」と言った時はもっと驚いていた。何でもジャンヌから習った作戦立案術を改良した賜物らしい。まあこいつ器用だからな。

 理子が中心で案を出し、アリアが不安点を挙げ、俺がその対策を挙げる。それぞれ飲み物と甘味を二杯ずつお代わりし、一時間ほど掛けて大体の策は完了した。

「よっしゃあこれで完璧! ふふふ、では理子達三人のジェットストリームアタックを見せ付けてやりましょうぞ!」

「誰か踏み台にされそうだな」

「アタシは嫌よ、アンタ等の方がお似合いでしょ」

「じゃあここは理子が!」

「いやいや俺が」

「……」

「「どうぞどうぞ」」

「だからやらないって言ってるでしょうが!? というか理子はいつまでコスプレ姿なのよ!?」

「んー、この衣装別に持って帰ってもいいって言われたんだよねー。は、これでユーくんを誘惑しないといけない予感が!?」

「借りたものはちゃんと返しなさい」

「まさかの普通に返された!?」

 とまあ最後はgdgdだったが、作戦は決まった。決行は一週間後、とりあえずは――執事の仕事に不備がないようにするか(違)

「でも、ホントに大丈夫なの? 相手は犯罪者だし取り返すとはいえ、窃盗は立派な犯罪よ」

「ダイジョーブダイジョブ、どうせブラドは盗られても殺されても警察が動くことはないから」

「嫌に自信満々に言うわね……その根拠は?」

「それはね――アイツが吸血鬼だから」

 

 

 さて、それから二日後。雨の中を理子との相合傘(理子の趣味であるドピンクの奴)させられて(俺傘持ってるんだけどな)いる時に事件は起こった。

「理子さん、潤ちゃんとデート行ってきたってどういうことかなぁ……?」

 傘も差さずに抜き身の色金殺女(イロカネアヤメ)を手に下げているのは、まあ予想通り合宿から帰ってきた白雪だ。巫女服の濡れ透け姿は中々扇情的だが、纏っている負の集合体みたいなオーラと死んだ目のせいでそれどころじゃない。濡れた髪のせいでパッと見貞〇である。普通に怖いんですがそれは。

「おう、白雪お帰り」

「はい、ただいま帰りました潤ちゃん! で、理子さんそれ本当?」

 俺と理子を見る目に差異がありすぎるんですが。ヤンデレというより二重人格だろこれ。

「くふふ、ユキちゃん帰ってきてすぐの割に情報早いね~? アリアんも交えて理子、ダブルデートに行ってきました!」

「女中心で同性はダブルデートと呼べるのだろうか」

「理子的にはアリ、寧ろバッチ来い!」

 デスヨネ、流石自他公認のバイである。

「そう、アリアも巻き込んで……人の目を盗んでお痛する泥棒猫には、お仕置きが必要だねえ……?」

「くふふ、アリアんと理子のコスプレがユーくんに褒められたのがそんなに悔しいのかな~ユキちゃん?」

「な、ほ、褒められた……!?」

 ガーンとショックを受けた顔の白雪。俺そんなに褒めてなかったっけ。

「わ、私だってこの間浴衣褒められたもん!」

「理子だって去年の夏に褒められたからノーカンだもーん! その点コスプレ衣装褒められてるりこりんがリードしてますな~?」

「う、ぐぐ……」

 一触即発の空気なんだろうが、何この低レベルな争い。

「ふ、ふふ。甘いね理子さん、私なんか、私なんか」

 笑う白雪の目はぐるんぐるんしている。あ、これアカンこと言うパターンや。

 

 

「潤ちゃんの裸を見たんだからァ!!!」

 

 

 ……何で大声で言っちゃうんですかねえ白雪さ――

 ビシッ

 何かが固まるような音を聞いた気がする。首を横に向けると、笑顔のまま硬直していた理子がいた。

「……ユーくん? どういうこと?」

 真顔になった理子が問い掛けてくる。え、何これ裏モードより怖いんですけど。

「理子に隠れてユキちゃんとにゃんにゃんしちゃったのかなぁ……!?」

「付き合ってる相手でもないのにするとかそこまで悪趣味じゃねえよ。ジャンヌの奴が俺の声真似て電話かけてな、で、焦った白雪が風呂場に突撃して身体拭いてた全裸の俺とエンカウントして引っくり返った」

 サムズアップしたイイ笑顔を改めて思い出す。……うん、アレは女子がしていい顔じゃないな。

「そう、そうなんだ。……ねえユーくん」

「おう、なんだ」

「ちょっと理子用事思い出したから、先に帰ってて。傘は預かってくれると助かるな」

「はいよ、でも傘ないと濡れ――」

 言っている途中で、理子は一陣の風となった。向かう先は一般棟の芸術系教室、そういやさっき通りかかったとき『火刑台のジャンヌ・ダルク』が聞こえたな。

「エイメン」

 とりあえず十字を切っておいた。まあ死にはしないだろう、それ以上に酷い目に遭うかもしれんが。

「にゃ、にゃんにゃん……そんな、私達まだ未成年だし……でも、潤ちゃんが望むなら……」

「……」

 頬に手を当ててイヤンイヤンと妄想に浸っている白雪を現実に戻し、寮まで送ることにした。濡れっぱなしは風邪引くから、ちゃんと暖かくして寝ろよ?

『ジャンヌウゥゥ、何してくれたんじゃテメエエェェェ!!?』

『はあ!? え、ちょ、理子少し待て、何でいきなりキレて』

 ギャアアアァァァ…………!!!

 一般棟からこの世の終わりみたいな悲鳴が聞こえた気がしたが、俺は知らないったら知らない。というか男の裸を見たくらいで騒ぐこともないだろーに(←当初動揺してた奴)

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 相変わらず褒めるときはまっすぐ褒める奴。それ故理子から女たらしと呼ばれるが、本人は口説く気もなく言ってるだけなので毎度周囲との温度差が激しい。なお、好意をもたれるようなことだというのは自覚している。余計たち悪いよ!
 今回は女子同士の対話だったので割と空気だった。でも別に気にしてない、面白ければいいのだ!(オイ)
 
 
神崎・H・アリア
 コスプレ姿を披露して潤に撃墜されたツインテロリ。どんなのか想像したが普通に犯罪集がやばいと思う(←考案者)
 潤と理子が真面目に作戦会議をしている姿を見て違和感を凄まじく感じている。それだけ普段の姿が考えなしに見えるのだ。
 
 
峰理子
 今回の話の主軸。メイドさんと画策してアリアをコスプレさせたり、ロザリオ奪還計画を立てたり、事情を話してアリアと友情をより深めたり、白雪と低レベルの争いを繰り広げたり、ジャンヌをしばいたりとやりたい放題であった。
 アリア同様ストレートにコスプレ衣装を褒められて照れていた。搦め手は得意だが、ストレートには案外弱かったりする。だからヘタレなのかもしれない。
 
 
ジャンヌ・ダルク
 過去の行いにより理子の制裁を受ける羽目になった不遇キャラ。もう不遇な状況しか思いつかない。
 ちなみにジャンヌがしばかれるシーンは二部の時点で決めていた(マテ)
 
 
後書き
 明けましておめでとうございます、盛大に遅刻しましたよチクショウ!!
 ……はいすいません、三が日に出すとか言って盛大に遅刻した上、今しか使えないとか言ってた正月ネタもぶち込みました……だって使わないの勿体無い気がして(汗)
 ま、まあそれでは第二話後半です。ぶっちゃけ最後のジャンヌを理子がしばき倒すのに色々足したような気がする(オイ)
 あ、魔法少女のコスプレネタはそれぞれ中の人繋がりで選びました。格好似てるしま〇かとかマ〇さんで良かったかなあと今更思う今日この頃、まあ脳内妄想ははかどりました(ゲス顔)
 さて次回は第三話です。今度こそ話が進むと……進む気がしないなあ(遠い目)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、パンチの効きすぎた批評、お待ちしています(←腹パン一発であの世行きしそうな精神)


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第三話 お仕事は真面目にやりましょう(前編)

 さて突然ですが皆さんに問題です、一ヶ月も投稿が遅れた理由は次のうちどれでしょう?

1:艦これでレベリングしてた
2:Fate/GOのイベントとレベリングしてた
3:ゴシックは魔法少女っていうシューティングアプリで遊んでた
4:今更デビサバ2(しかもDS版)を遊んでた
5:実況動画を漁ってた
 さて、どれでしょう?
早速正解を言うと……全部です!!


……はい、ホントすいません。新年になってからテンション上がらず色々なものに手を出してのめりこんでしまい、こんな時期になってしまいました。
とりあえずやってた事も落ち着いたので、これから執筆スピード上げていきたいと思います! あ、でも艦これのイベント始まったら遅くなるかも(オイ)




 お風呂パニック事件(理子命名、パニックか事件かどっちかにしろよ)が発覚して以降、地味に大変だった。理子の奴が対抗心燃やしたのかいつも以上に所構わず引っ付いてくるし、白雪も対抗心燃やして訪問回数増えて乱痴気騒ぎが増えるし。お前等家に優しくしてくれ、素手で壁に穴開けるとかどこの格ゲーキャラだ。

 そんな別の意味で過激化している中、本日は中間テストなり。今は久々に晴れた中で体力テスト中だ。といってももう終わってるんだけどな、今はグラウンドを走っているクラスメイト達をぼんやりと見ている。あ、一人こけた。後で笑ってやろう。

「何ド屑がやりそうな笑い方してるのよアンタは」

 呆れた顔で声を掛けてきたのは、同じく体力テストを終えたアリア。服装は半袖半ズボンの体操着姿(「何でブルマじゃないんだー!!」って剛の奴が叫んでた、どうでもいい)で、髪はいつもと違ってストレートにしている。普通運動するときって縛るもんじゃね?

「うわ、アンタホントに運動成績はしょぼいのね」

「だから言うたやん、能力自体は凡人って」

「普段の全開じゃなくて、全力全開でいけばいいじゃない」

「あれ三分しか保たない」

「じゃあその三分を有効活用しなさいよ」

 何か久々に論破された気分なので黙る。まあ冗談は置いといて、たしかにちょっとした工夫でスペック以上の記録を出すことは出来る。それをしない理由は一つ、やる気になれないからだ。

 実戦形式の訓練とかならともかく、こういうスポーツはどうも気が乗らないんだよなー。見るのは好きだけどさ、相撲とか剣術試合とか。

「素のスペックを知っておきたいんで」

「……実際はしょうもない理由な気がするけど、聞かないでおくわ」

 直感でバレテるっぽい。まあ口にした理由もホントだがな、二割くらい。

 隣に腰掛けたアリアがスポーツドリンクを飲みながら見ているのは、女子の体力テストが行われている場所だ。なんとなく俺もそちらに視線を向けると、

「ダブル、サマソー!!」

 と叫びつつ鉄棒から手を離し、空中で二回どころか三回サマーソルトを決めて着地している理子(アリアと同じく髪はストレートにしている)だった。周囲の野次馬がどこに持っていたのか『10点』と書かれた得点棒を掲げている。ノリいいな皆さん、あと野郎共は胸に目がいきすぎだから。たしかにやたら揺れてたけどさ。

 周囲が拍手する中、こちらを見て手を振ってきたので適当に返してやる。しかしなるほど、体力テストはああいう風にやればいいのか。

「いや真似しなくていいから」

 俺にツッコミ入れつつ、アリアの視線は理子の揺れる二つの山に注がれ、次いで自分の胸元に視線が変わり溜息を吐いた。十代の成長度合いなんて個人差が一番出る頃だし、気にしなくていいと思うけどな(本心)。

 

 

 さて、お次は情報科(インフォルマ)の棟で行われる遺伝学のテストだ。ぶっちゃけ0.1単位な上に自由履修なので受ける必要性はないのだが、理由は二つある。

 一つ目、授業外の範囲を扱うのでどんな項目か興味があること。まあ先に受けた剛から聞いた話だとDVD見てレポート書くだけらしいので、あんまり期待はしていない。

 そして二つ目、というかこちらが本命なのだが、理子が例の作戦について話したいことがあるそうだ。それもアリアには内密で。大筋の変更点は無いと思うから、潜入時個々の役割における注意点かね?

 で、テストが行われる大視聴覚室に向かったのだが、圧倒的に女子が多い。小夜鳴先生のテストだから珍しくもないか。先生の紹介? 救護科(アンビュラス)の非常勤講師で丁寧口調のイケメンメガネ、以上。いやそれ以上言うことねーし。

 理子はまだ居ないようなので、空いてる場所を探して座る。周りが女子ばかりなので固まって座る野郎共に尊敬の視線を送られるが、こんなんで怯んでたらスイーツ巡りなんて出来ねーんだよ(←二回目)

 周囲を女子に囲まれた小夜鳴先生が困った顔で着席を促していると、

「おっはーユーくん☆」

 いつの間にか理子が隣に座っていた。☆がウザイ。というか何故気配消して近付いてきた?

「おっはー、古いなオイ。で、話って何よ」

「まあまあ、それはテスト始まってからにしましょーよ旦那」

 他人に聞かれたくないのか、唇に手を当ててウインクしてきた。ふむ、態度はアレだがそれはいつものことだし、マジで大切な話かね?

 そうしてDVDの上映が始まったので、シャーペンを手に――アレ、ない。

「くっふふー。ユーくん、何をお探しかなー?」

「そりゃお前シャーペンに決まって――オイコラ」

 いつの間にか泥棒していた理子が、マイシャーペンを胸元に挟んでいた。オイ制服はだけんな、目に毒だろ(真顔)。

「返して欲しい? じゃーあー、理子から、奪って?」

「……話し合いはどーした」

「そういえば来てくれるでしょ?」

 やっぱりか。こんなことする時点で嘘だっていうのは薄々察していたが。

 さて、目の前には胸元を少し晒して扇情的なポーズを取り、顔を赤らめて上目遣いという実にあざといポーズだ。しかし確かに魅力的であり、しかも教室でテスト中という真面目な空気が背徳感を煽る状況で俺は――

「さて、書いてくか」

 普通に他のシャーペンを取り出した。いや予備くらい持ってるだろ常考。

 DVDの内容を元に解答欄を埋めていこうとすると、シュパ! と音がしそうな勢いでシャーペンが掻っ攫われていった。え、今の見えないどころか認識も出来なかったんだけど。

「くふふー、ユーくんがそう来るのはお見通しなのですよ」

 勝ち誇った顔でシャーペンを掲げる理子。そして手に持った分をスカートのポケットに隠してしまう。こいつわざと際どいところに隠してやがる、どんだけ白雪に対抗心燃やしてんだ。

 だがしかし、

「俺のシャーペンは108式まである」

「ダニィ!?」

 某戦場〇原さんよろしく両手に大量のシャーペンを構える俺を見て驚愕する理子。ふ、流石の理子もこの本数は見抜けなかったか(←謎の優越感)

 先程とは一転してぐぬぬ顔になる理子。シャーペンを一本一本取っていたら時間が掛かりすぎるし、まとめて取ろうとすれば俺に防がれるのは目に見えている。

 さあ、どう出る峰理子リュパン四世?(←フルネームで始めて呼んだ)

 などとやっていると、唐突に部屋の明かりが点いた。

 ……ああ、そういやもう一つ条件があった。『DVDの上映が終わる』こと。当然それが終われば明かりは点くし、小声で話していたとはいえ俺達の姿は目立ちまくる訳で。

「遠山君、峰さん……何度も言ってますが、TPOって言葉知ってますか?」

 そして俺達の前には、青筋を浮かべた小夜鳴先生。何それ美味しいの? とかふざけたらガチで説教くらいそうだ。ここで選ぶ選択は一つ!

「「逃げるんだよォー!!」」

 全力で教室から逃げ出すことである!

 異口同音で叫び、同時に逃げ出す俺と理子。先生の呼び止める声が聞こえるが、すいません説教は嫌なんです!

 なお小競り合いの最中に二人とも回答は終えていたが、後日確認したら単位は取れてなかった。なんでや、回答合ってたやろ!

 

 

 とまあ色々ふざけてたが、いい加減授業や仕事にも支障を来たしそうなので、理子と白雪に『あること』をして落ち着かせることにした。何したって? ナニだよ言わせんな恥ずかしい。まあR18どころか15にも引っ掛からないとだけは断言しておこう。

 その後剛の奴が覗きに誘ってきたので亮と一緒に女子へチクって連行させたり(「裏切りものー!?」とか叫んでいたが、いい加減懲りろよ)、校内フラフラしていたら突然コーカサスハクギンオオカミに襲われてドッグファイト(意味が違う)したり、逃げる狼を半袖姿のレキ(身体検査の途中だったらしい)とバイクで追い掛け回して武偵犬としてレキが飼うことになったり、猫好きらしいアリアがレキの狼(ハイマキと名付けた)を見て犬猫合戦(珍しくレキが饒舌だった)を繰り広げたりと、何か平和なような暴力的なような、要するにいつも通り時間が過ぎていった。

 予断だが理子に確認してみたところ、あの狼はブラドの僕らしい。以前話し合いの際にブラドは所謂吸血鬼の人外と聞いているので、狼を操る術を持っているのだろう。

 さてそれは置いといて、本日はアリアのメイド姿と仕事ぶりを見せるらしい。「一週間の特訓の成果でパーフェクトメイドを見せてやるのです!」などと教官役の理子が言っていたが、一週間で出来たら苦労しねえだろ。しかもアリア実家ではメイドを使う方だったし、プライドも高いから難しいと思うが。

 実践にあたり、俺がご主人様役である。理子じゃない理由? セクハラするから(断言)。

「ご主人様、お待たせしました」

「ん、ありがとう」

 アリアには難しいと思っていた時期が俺にもありました。紅茶を差し出す姿は優雅なもので、本職のメイドといっても通じそうだ。

 その他に掃除や洗濯など一通りの家事をやってみせたが、どれも卒なくこなしていた。苦手な料理はややてこずっていたが、それでも及第点は十分もらえる範囲である。

「……」

「どうしました、ご主人様?」

「……いや、何でもない」

「そうですか。――理子、これで終わりだったかしら?」

「バッチグーだよアリアん! ユーくん度肝抜かれてまっせ!」

 イエーイと二人でハイタッチをする。指摘された通りなので反論する気はないが、一つ聞きたい。

「えらいメイドになりきれてるな。何したんだ?」

諜報科(レザド)のチャン・ウー先生に相談言ったのよ。そしたら「お芝居みたいなものだと思えばいいわよぉ。今自分はこういう役割でいるんだって思えばすんなりやれるわぁ」って言われたから」

「その通りにやってみたら、いやー飲み込みの早いこと早いこと。アリアん役者の才能あるんじゃないかな~」

 すごいすごいと頭を撫でる理子(「アタシは子供か!」と怒るアリアだがスルーされている)の賞賛には同意するが、しかしプライドの高いアリアが傅く役にここまで成りきれるのは素直に驚きである。

「言っとくけどアンタ達のおかげでプライドなんてどうでも良くなってるからね?」

 おかげと言いつつこちらを睨むのはやめていただきたい。……はいすいません、これからも迷惑をお掛け「オイ」いえなんでもないです。やっぱ直感こええ。

「よっし、これで明日から頑張ってロザリオを奪い返すぞー!」

「ついでにブラドもぶっ飛ばして逮捕するわよ!」

「「いや、それはちょっと」」

「何でそこはノらないのよ!?」

 いやだって、いるかどうか分かんないし。まあいずれ嫌でも会うだろうけどな。

 ふがー! と妙な怒り方をしているアリアを尻目に、俺達は明日に備えて決意を固めつつ――とりあえず、夕飯食うべ。

「ユーくんお腹空いたー」

「はいはい、今用意するからな」

「一瞬空気が閉まった気がしたんだけどね……」

 気のせいです。

 

 

おまけ

「そういえばジュン、理子。アンタ達にメンタルとかプライドを鍛えられた『お礼』をしたいんだけど――」

「アリア、ここに俺特製のももまんがあるんだが」

「はむ。……許す、水に流すわ」

「さすがユーくん、お菓子まで作れるとかクッキングパパになれる勢いだね!」

「俺そこまで年食ってねえけど」

「ツッコミ入れるのそこじゃないでしょ」モキュモキュ

「パパー、今日の夕御飯なにー?」

「次そう呼んだらお前の飯無くなるからな」

「すいませんでしたぁ!!」(ガチ土下座)

「まあ、今のはないというかアタシでも引くわ」もきゅもきゅ

「アリアー、夕飯の前に全部食うなよ?」

「分かってるわよ」もきゅもきゅ

「ねえユーくんユーくん、理子の分は?」

「お前はピザまん」

「何で!? 理子も甘いのがいいのー!」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 白雪がいない時はチビッコ二人の飯を作っている黒一点。デザートくらいなら夕飯の片手間で作れるが、本人は「白雪レベルを超えなきゃまだまだ」と思っている。
アリアがメイドをこなしていたのは素で驚いていた。それだけ予想外というか、成長振りが凄いということである。


神崎・H・アリア
 パーフェクトメイドを見せ付けてやった強襲科の生徒。やろうと思えばなんでもそつなくこなすあたり、地味にチート化しているかもしれない。
 なおプライドが原作より低めなのは、『こいつらの相手するのにプライドとか言ってられねえ……』と思っているためである。それでもそこそこあるのでからかわれるが、協調性は増している。
 ちなみに家事の中で料理だけは進歩が遅い。なので普段は潤に任せている。


峰理子
 色仕掛けをするも結局はいつものおふざけに発展してしまうキャラ。なお、単位が削られたのには『デスヨネー』と納得していた。
 なお、潤に『あること』をしてもらったらしばらくベッドの上で枕抱きしめつつゴロゴロ悶えており、事情を知らないアリアから『何コイツ』的な目で見られていた。
 料理は出来るけどしない派。理由は潤の手料理が食べたいから。胃袋は掴むのではなく掴まれている模様。


小夜鳴徹
 非常勤講師なのにバカやってる潤と理子を度々説教している人。そのせいで地味に胃と頭を痛めている。ドンマイ。


武藤剛気
 覗きがばれてしばかれ、あだ名がしばらく『変態超特急』になった。そこ、乗り物に絡めたけど苦しいとか言わない。


後書き
 前書きでも言いましたが、一ヶ月もお待たせして申し訳ありませんでした。しかも久しぶりで書き方忘れてるからクオリティががが……つ、次までにはどうにかします、多分(汗)
 というかこの間久しぶりにハーメルン開いたら、いつの間にかお気に入りがジャスト100に……マジでビビリました、そして嬉しさで発狂しそうになりました。お気に入り登録してくださった皆さん、本当にありがとうございます!
 さて、次回は三話後編でいい加減紅鳴館に突入したいと思います。小夜鳴先生の胃SAN値は持つのか!?(オイ)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、オリハルコンも砕けるような辛口批評お待ちしています!(←粘土より脆い硬度)



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第三話 お仕事は真面目にやりましょう(後編)

 ISの二次創作も書きたい今日この頃。……前も似たようなこと呟いた気がします。



 アリアのパーフェクトメイドが披露された翌日、本日から一週間横浜にある紅冥館でメイドと執事に扮してロザリオ奪取を行う『大泥棒だいさくせん』のスタートだ。相変わらずひらがな部分にイラ☆とするのは俺だけだろうか。

 ワンピース姿のアリアと二人で集合場所に待機していると、

「ごめんなさい、待たせたかしら?」

 そう声を掛けてきたのは、茶髪の偉い美人さんだった。髪を緩く結い笑顔を浮かべる姿は男女問わず視線を集めるもので、深窓の令嬢か女優を思い浮かべるだろう。

 アリアは謎の美人さん登場にポカンとしていたが、俺は溜息を吐いた。というか、

「何で姉貴(・・)の変装してんだよ、理子」

「あ、バレちゃった? いやあ流石ユーくん、カナちゃんのことよく分かってるねえ」

 素の声に戻った理子が、何を感心したのかうんうんと頷いている。

「何気色悪いこと言ってるんだ。というか何でそのかっこ」

「さあさあいざ、吸血鬼の根城へお宝を奪いに行きましょー!」

 俺の言葉を無理矢理遮って電車に乗る理子。聞かれたくないことでもあるのか、まあいいけど。

「ジュン、アンタお姉さんいたの? しかもあんな美人だなんて」

「あーまあ、普段はいないけどたまにいる」

「意味わかんないんだけど」

「前に兄貴の趣味はなんて言ったか覚えてるか?」

「女装でしょ? それがどうし――ってまさか」

「うむ、アレが兄貴の女装姿やな。女装の時はカナって呼ばれてる」

 カナ状態の兄を『姉貴』と呼ぶのは、そう言わないと反応しないからだ。外見や言葉遣いだけでなく、精神状態も女性感覚になるからな。

 なお、理子の変装姿は背丈や言動も含めて100%と言ってもいいくらいだ。何で姉貴を選んだのかは知らんが。

「うわー、うっわー……アレが男の娘って奴なのね、リアルで見ると女としての自信を失うわ……」

「大丈夫、アリアも十分カワイイぞ」

「せめてこっち向いて言いなさいよ」

 ぶすっとしながらも、その顔はちょっとだけ赤い。

「二人とも、私を放っておいて仲良くするのは酷いんじゃないの?」

「な、仲良くなんてしてないわよ! というかり「今はカナね?」……カナ、アンタそのキャラいつまでやるのよ?」

「依頼人さんに会うまで、よ。色々事情があるからね」

「事情ねえ、だからって姉貴の顔を使わんでもいいだろうに」

 架空の人物とはいえ知名度は高い(というか兄貴のときより有名)なんだし。まあ理由を聞いても言わないだろうし、気にしないでおこう。

「あら、潤も久々にお姉ちゃんの顔を見れて嬉しいんじゃないの?」

「兄弟なら引っ付くんじゃねえよ」

 中身が理子って分かってても、ガワが姉貴(兄貴)だと形容しがたい怖気が走るんだよ。俺は男の娘守備範囲外だから。

 

 

「アタシの苦労はなんだったのよ……」

 そう言ってグデーと伸びているメイド姿のアリア。クラシックタイプのメイド服は様になっており中々似合っているが、目が死んでいてはそれも台無しである。

「まあそう言うなって。メイドとしての礼儀作法は得られたんだし、家事の腕も向上したんだから全く無駄じゃないだろ」

「家事なら白雪に教えられた時点で一通り出来たわよ……目上の人間に対する礼儀作法だって元々出来るし」

「え、そうなん?」

「何驚いてんのよぶっ飛ばすわよ」

 ギロリと睨まれたので肩を竦めて誤魔化す。まあこう見えてアリアも上流階級の人間だし、それくらい持ってても不思議はないけどな。

 さて、アリアがここまでだれている理由だが、ここ紅鳴館の管理人が先日迷惑を掛けた武偵高の非常勤講師、小夜鳴先生だったためである。

 まさかの人物登場にお互い驚いていたが、ハウスキーパーとしての契約は滞りなく成立した。俺に関しては若干不安そうにしてたけどな、日頃の行いですねすいません。

 まあそんなわけで、メイドとしての心意気を仕込まれたアリアは、まさかの知り合いだったのでゲットしたスキルが無駄になって不貞腐れているのである。小夜鳴先生普段は地下に篭って研究三昧だからな、披露する機会なんて飯のときくらいだ。

 ここでの仕事は家事全般と屋敷の警備が主となるのだが――ぶっちゃけ大した量じゃないのですぐ終わる。「暇な時は遊んでいていいですよ」と先生本人からお言葉を頂いているので、今は遊戯室でビリヤードの最中だ。

「で、小夜鳴先生の様子はどうかしら?」

 ボールを見ずの背面撃ちを決めながら、アリアが尋ねてくる。

「別に不審がっている様子はないな。俺が何かやらかさないか警戒した感じではあったが」

「自業自得じゃないの……これを機会に少しは自重したら?」

「だが断る」

 自重する俺とか俺じゃねえわ、自分で言うのもなんだが。横を向きながらジャンプショットを決めつつ断言した俺に、アリアは溜息を吐いた。

「まあ、アンタがそれくらいで自重するならアタシの胃SAN値が削られることもないわよね……」

「段々発言が理子に似てきたな、アリア」

「アンタ達と過ごしてれば嫌でもこうなるわよ。スラングが使いやすいってのもあるけど」

「イギリスに戻った時口癖が『ファック!』にならないといいな」

「どんなキャラよそれ……相当ストレス溜まってるんじゃないの?」

 撃った球が戻ってくるバックショットを決めながら同情した口調で呟くアリア。実際はストレスどころか眉間の皺がやばかったり、生徒の所業で倒れたりしてるけどな。妙なあだ名も付けられるし、あの時計塔講師。

「そういえばジュン、アンタのお兄さん女装が趣味なのよね? ということはその……お、男の人が好きなの?」

 顔を赤らめながらアリアが放ったまさかの発言に、俺は噴いた。いやこれ笑うなとか無理だろ?

「く、くくくギヒヒ……あ、兄貴がホモ扱いとか、キヒャヒャ……」

「え、何? アタシそんなに変なこと言った?」

「いや、もっともな疑問だと思う。変なことってのは間違いないが……」

 ああダメだ、気を緩めるとまた笑いそう。ここは説明して落ち着こう、このままでも面白いけど。

 

 

「……何だか潤の奴に失礼なこと言われた気がする」

 

 

「一応言っとくと、兄貴にそーいう趣味はねえよ。至ってノーマルだ」

「そうなの? じゃあなんで女装なんか……ナルシスト?」

「アリアお前俺を笑い殺す気か? 理由話してもいいけど一応オフレコで頼める? バレると兄貴に凹られる」

「別に言いふらしたりはしないわよ。……言う友達もいないし」

 ボソッと呟いて自分で凹んでいるアリア。いやいるだろ、理子とか白雪とかレキとか。まあそれ以外に親しい友人作ってもいいと思うが。

 ちなみにその理子は後方でのバックアップ役だ。当初は俺がバックアップを受け持つ話もあったのだが、

『一週間理子のセクハラ攻撃に耐えろっていうの!? いいや無理ね!!』

 というアリアの強い要望と、

『理子は今回、黒子さん気分なのです! あ、裏方の方ね?』

 理子の良く分からん主張によって潜入組は俺達二人となった。俺と理子の二人? アリアはバックアップ苦手だし潜入組が確実にふざけるから無理(確信)。

「まあアリアがボッチなのかは置いといて。アリア、HSSって言葉に聞き覚えは?」

「うーん、知らないわね。何かの用語?」

「まあ一応、知ってるのなんてごく僅かだろうが。正式名称はヒステリアサヴァンシンドローム、βエンドルフィンが分泌されると起こるもので」

「長くなりそうだから三行で」

「性的興奮すると

 スーパーマン

 それなんてエロゲ?」

「え、エロ!?」

 下ネタが飛んでくるとは思わなかったのか、驚き顔を赤らめるアリア。ですよね、真面目な解説の空気だったし。

 強いて言うなら説明を省略させたアリアのせい(←責任転嫁)。

「そ、エロ。遠山の人間はHSSを遺伝の形で継承している。発動方法としては異性との接触が一番ポピュラーだが、他に絵画や音楽、本とかの芸術・娯楽分野でも発動させることが可能らしいな」

「最初の発言のせいで内容吹っ飛びそうだけど理解したわ……じゃあ、アンタのお兄さんもそのHSSを使えるわけね?」

「そうなるな」

 というか、兄貴以外使える奴いるんだろうか。年取ると使えんし、最近一部の研究機関でHSSを人工的に発現させる方法が考えられてるとか聞いたことあるが。

「で、HSSの影響下にあると大脳、小脳などの中枢神経が劇的に活性化する。推定で通常時の30倍だったか」

「それで超人の出来上がりってわけね。HSSについては大体分かったけど、それがお兄さんの女装と何の関係があるのよ?」

「いつからHSSの発動条件に女装が含まれていないと錯覚していた?」

「………………いやいや、そんなまさか」

「そのまさかです。兄貴は女装することでHSSになれる」

 それを聞いてアリアは「うわあ……」とドン引きする。まあ利点はあるんだけどな、女装して人格も女性になればHSSの欠点である『異性を優先的に守る、傷付けない』という条件をクリアできるし。じゃあ野郎は攻撃できないんじゃないかって? それが潜在的には男って意識が残ってるのか殴れるんだよな、何故か。

 だからといってあそこまで完成度高めなくてもいいと思うけど。まあそうでもしないと自分に興奮するなんて無理だわな(笑)

 

 

「……よし、今度潤に会ったら殴ろう。何となくだが」

 

 

 某所で俺の死亡フラグが立ってる気もするが、キニシナーイ。

「まあ利点がないわけじゃないぞ? 普通は30分くらいしか持続しないHSSが長時間維持できるし。その分負担もでかいけど」

 数日寝っ放しになったりとかな。毎回やめとけって言ったり自己流の負担を軽減する方法も教えてみたが、言い出したらきかねえからなあ。その内無茶しやがって……になるんじゃねえか弟君は心配デス。

「……この話はやめましょう。とりあえず、お兄さんの女装は趣味じゃなくて必要に迫られてのものだった、ってことにしとくわ」

 良い子のアリアは会ってもいないウチの兄貴を変態だと断定するのはやめたらしい。まあ中身はクソ真面目だしな、カナのこと話題にすると凹ってくるけど。

 余談だがその日の夜に兄貴のホモ疑惑を理子に話したら、予想通り爆笑した。まあそりゃそうだよな、この勘違いはなかったわ。アリアお前天才か。

 

 

『はろはろーユーくんアリアん! 二人に会えない寂しさで死んでしまいそうなりこりんでーす!』

『アンタこの前まで一人旅してたでしょうが』

『旅先は出会いがあるからまだ我慢できるけど、今は一人だからさみしーんだよ~! ユーくん成分もアリアん成分も足りなくてりこりん死んじゃいそう、グスン』

『干からびるまでここで働いてましょうか』

「俺達が帰った時、そこには放置されすぎて死体になった理子の姿が……!?」

『遠回しに殺人じゃないですかヤダー!? 理子ひーまーなーのー、構ってー!!』

『電話口ででかい声出すんじゃないわよ! 恋人に構ってもらえない彼女かアンタは!』

『アリアんから恋人承認いただきましたー!』

『んなわけないでしょただの例えよ!』

 しばらく会っていないからか、理子の構ってコールがいつもよりメンドクサイ。報告がてら毎日雑談してるんだけどな、逆効果か。

 紅鳴館で働き始めて三日目の夜、自室代わりにあてがわれたそれぞれの寝室で就寝前。今のところ小夜鳴先生に不審がられることもなく、仕事と平行して屋敷の調査も順調に進んでいる。メイド喫茶で理子に見せてもらった見取り図と一緒だから、ほとんど確認作業だけどな。

 不満点は小夜鳴先生が真面目に働いてる俺を見て毎回驚いた顔をするところか。誤魔化してるけどバレバレだっつの、俺だって真面目なときは真面目じゃい、普段はふざける気持ちが勝るけど。

 ちなみにアリアにも「ジュン、大丈夫? 病院行く?」と割と本気で心配された。夕食時だったんで小夜鳴先生も後ろでうんうん頷いていた。お前等仲いいなチクショウ。

『ほら、さっさと報告済ませちゃうわよ。慣れてきたけど屋敷での仕事は疲れるのよ……』

 これは別室にいるアリアの声。流石に夜一緒だと怪しまれるし男女が同じ部屋というのは非常識だ、感覚が麻痺しかけてるけど寮にいる時の方が異常なんだよな。

『おっけーおっけー! ちゃっちゃと済ませて楽しいお話タイムに行きましょー! 最近ひとりぼっちなりこりん唯一の癒やしタイムなんですよ~』

 これは言うまでもなく理子。女子寮の自室に後方支援用の機材を大量設置しているらしい。そんな光景を想像して俺が思い浮かぶのは何故か引きこもりかニート。

 とりあえずこの三日間であったことと小夜鳴先生の動き、他に誰かいないかなどを報告していく。ブラドの関係者に監視されてる可能性はあるからな、今のところは杞憂だが。

 そして最後にロザリオの置いてある地下の部屋について。これは俺が担当なので報告を行っていく。

「ざっと調べてみたが、事前のセキュリティよりも強化されてるな。一歩でも間違えれば侵入者を殺す勢いじゃないかってくらいになってる。ああ、ロザリオは本物だったぞ、遠目で見たが間違いない」

『おっつおっつユーくん! いやー、聞くだけでもマゾゲーというかクソゲー状態ですが、自信の程は?』

「事前準備すれば三分でどうにかする」

『流石ユーくん、理子達に出来ないことを平然とやってのけるぅ!』

『これで普段から真面目だと完璧なんだけどね』

「『そこはのれ(ろう)よ!?』」

『アンタ達が幸福で完全な市民になったら考えるわ』

 それどこのパラノイア? まあ冗談は置いといて、決行はパート契約終了の一日前、六日目に行うこととした。理子曰く取った後に小夜鳴先生、及びブラドがどう動くか見たいそうだ。

 担当は俺が防犯システムをかいくぐってロザリオを奪い返す役、アリアが小夜鳴先生を誘い出す役になった。まあこれは妥当だ、細かい作業は俺の方が得意だし。しかしアリアの方は不安そうだ。

『小夜鳴先生を誘い出すって言っても、何話せばいいのよ……アタシコミュ力高くないんだけど』

『大丈夫アリアん、自分のツッコミスキルを信じて!』

『あれ条件反射で出てるだけなんだけど。前よりは話せるようになったけど、五分以上会話を引き伸ばせる自信がないわ……』

 どんだけ自信ないんだよ、戦姉妹の間宮さんとかにはちゃんと話せてるから大丈夫だろうに。

『ねえジュン、何か会話を引き延ばす上手い方法ってない?』

 しかも俺に聞いてきやがった。ぶっちゃけ誘い出してある程度適当に話してればいいだけなんだが、そうだなあ。

「会話を長引かせるというか弾ませるには共通の話題が一番好ましいから、俺と理子に苦労させられてる話でもすればいいんじゃねえの?」

『それだ!!』

『アンタ達小夜鳴先生にも苦労かけてんの……? まあそれで話が弾むとは思えないけど、ダメ元でやってみようかしら』

 

 

 結論、めっちゃ話が弾みました。

『ああ、遠山君と峰さんですか。以前廊下は走らないでくださいと注意したら、飛び跳ねていきましたね……ハードル越えの要領で』

『アタシは教室の机積み上げてかくれんぼされたことありました……何故か片付けるの手伝いましたし』

『神崎さんも大変ですねえ……それで、二人をどうにかする方法ですが、申し訳ありませんが私じゃお力になれそうにないです。正直、方法があるなら教えて欲しいくらいですし。至らない教師で申し訳ありません』

『いや、小夜鳴先生が謝ることじゃありませんよ! 元はといえばあのバカ二人が悪いんですし』

『ふふ、慰めてくれるのは嬉しいですが、友人をバカ呼ばわりはいけませんよ?』

『あ、すいません……でも小夜鳴先生はすごいですね、迷惑掛けられてるのにあの二人を擁護できるんですから』

『非常勤とはいえ私も教師ですから、生徒の尊厳を守るのも仕事だと思ってますよ』

『アタシには真似出来そうもないですよ……』

『いえいえ、お二人の相手をいつもしている神崎さんは立派だと思いますよ?

 そうだ、唐突ですがこのバラに『アリア』と名付けて良いですか?』

『え、この青いバラにですか?』

『ええ、これは私が品種改良したものなのですが、名前が決まっていなかったのですよ。それで今ピンと来たんです、お二人にも負けない神崎さんの名前から『独唱』の意味になぞらえまして、『孤独であっても諦めず、誇り高くあれ』という意味で『アリア』と名付けたいのですが……いかがでしょうか?』

『まあ、お上手ですね。どうぞ、私の名前で良ければ使ってください』

『Fii Bucuros! ありがとうございます、神崎さん。お礼といってはなんですが、こちらの『アリア』を一本差し上げます』

『え、いいんですか? ありがとうございます! それとFii Bucuros(素晴らしい)? ルーマニア語ですね』

『おや、神崎さんは語学にも詳しいのですね――』

 こんな感じで三十分以上延々と喋っていた、主に俺達をディスる内容で。雨降らなきゃもっと喋ってたかもしれないな。

 ちなみに俺の回収作業は撤収まで三分足らずで終わっており、今は仕事をしながらアリア達の会話を傍聴している。経過を知るためだったので、もう切ってもいいんだがな。

「……」

『……イラ☆』

「星付けんな」

 とりあえずアリア、お前この仕事終わったら三人でOHANASHIな?

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 兄貴がホモ扱いされて爆笑した弟。他人の秘密(HSS)を平気で話しているように見えるが、それはアリアが話してもいい人物と判断しているため。
 真面目に仕事してると驚かれる、というか頭を心配される。これは東京武偵高全体での認識であり、理子も同様の扱いである。

神崎・H・アリア
 小夜鳴先生と妙に仲良くなった女子。別にイケメン面にやられたわけではない、というかイケメンは本国で見飽きている。
 メイドの職業は事前練習もあってそつなくこなしていたが、料理は潤に押し付けていた。どうも苦手意識が出来てしまった様子。


峰理子
 裏方のせいで今回出番とパートナー成分が足りなくなっていた暴走少女。普段なら三人で屋敷に突撃するが、諸事情あって後方支援に徹していた。
 ちなみにカナの姿で出てきたのは潤を驚かせるためと、小夜鳴に対して狙いがあるため。詳しくは次回に判明する予定。


小夜鳴徹
 紅鳴館の管理人。強襲科生徒二人がハウスキーパーに来ると聞いてどうなるか内心ハラハラしていたが、普段よりも綺麗になっていたので驚いていた。
 潤と理子には一年生の頃から苦労させられ、地味に胃痛と頭痛の種になっている。他の武偵高教師はあまり気にしていないため同調できるアリアと凄まじく意気投合していた。


後書き
 今回は説明回な感じだった、というかHSS(ヒステリアモード)の説明今更な上に原作とほぼ被っててこれでいいかなと不安になっているゆっくりいんです。やっぱ説明はあんまり上手く無いなあ……勢いで書いた方が筆の進みいいんですよね。
 さて、次回は戦闘回の予定です。ブラドとの戦闘、どうなるかは分かりませんが久々シリアスになると思います。……多分(目逸らし)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、はさみで紙を切るように心をズタズタにする批評、お待ちしています!(←紙より避けやすい神経持ち)


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第四話 屈辱に身を震わせる準備はOK?(前編)

 バレンタイン? 知らない子ですね(真顔)


 バレンタイン? 知らない子ですね。

 

 

 ロザリオ奪取から一日経過したが、小夜鳴先生からそれについて言及も怪しんでいる様子もなく、最後の日が過ぎていった。

門の前で先生に見送られ、俺達は紅鳴館を後にする。最初は不気味な外見を怖がっていたアリアだったが、一週間もすれば慣れたのか特に反応は無い。ホラーとか雷にも耐性できてるのかねぇ、面白く「ジュン?」なんでもないです。

 なお帰る間際、小夜鳴先生がアリアと連絡先を交換していた。「その内お茶でもどうでしょうか」とか言っていて、すわ生徒をナンパかと勘違いしそうな光景だが、多分俺達への愚痴というか悪口だろうな、アリアもイイ笑顔で頷いてたし。

「ねえジュン、小夜鳴先生って……」

「うん、どうしたアリア? まさか教師と生徒のイケナイ関係の秘匿方法を聞きたいとか」

「んなわけないでしょうが!? 小夜鳴先生とそんな関係になった覚えはないわよ!!

 ……まあ、アンタが何も言わないなら違うのかしらね」

 何か気になることを言っているアリアだが、それ以上言ってこないのでまだ考えをまとめている最中なのだろう。

 依頼も終わって俺達が向かっているのは横浜のランドマークタワー、その屋上だ。理子の希望でロザリオの受け渡しはそこで行うらしい。わざわざ高いところを指定したのは、『人がゴミのようだ!』をやりたいからかね?(適当)

 エレベーターを使い扉を開ける。曇天の空の下珍しく先にいた理子がこちらに振り返――るように見えた瞬間視界がぶれた。

「ユーくーーーーん! あーいーたーかーったよーーーー!!!」

 どうやら理子に体当たりの勢いで押し倒されたらしい。当の犯人は猫よろしく俺の胸板に顔を埋めてグリグリしている。イタイイタイ、コンクリートに押し付けられて地味に痛い。

「オイ理子、痛いっての」

 声を掛けてみるも反応なしでグリグリしっぱなし。たった一週間会ってなかっただけでテンションゲージが振り切れるくらい我慢できなかったらしい。

「人間砲弾って言葉がピッタリだったわきゃあ!?」

 しばらく理子のされるがままになっていると、今度は前触れもなくアリアに抱きついていく。

「アリアんも久しぶりーーー、もう久しぶりすぎて死んじゃうかと思ったよーーー!」

「たった一週間じゃないのというかはーなーせー!?」

 ジタバタ暴れるも、全身を使って抱きしめられているため脱出出来そうにない。助けてもいいのだが、またグリグリされても困るのでコアラの○ーチ(イチゴ味)を食べつつ見ていることにする。押し倒されたとき頭打って地味に痛えし、禿げないといいけど。

 これは百合ですか? いいえ理子の暴走です。なんてタイトルが付きそうなほど堪能(深い意味は無い)して理子がアリアから離れる。心なしかその顔はつやつやしているように見えた。

「おk、ユーくんアリアん成分補充完了!!」

「今までで一番酷い目に合った気がするわ……」

 理子とは対照的にぐったりしているアリア、心なし顔も赤い。まあ色々触られてたからな、どことは言わんが。

「ほれ理子、お望みの品だ」

 ロザリオをポケットから取り出すと、理子は目を輝かせて俺の手を取りジャンプし出した。

「やったやったー戻ってきたー! ユーくんアリアんホントありがとー!」

「別にいいわよ、ちゃんとした依頼だしね。それで理子、報酬って具体的に何なの?」

「ああんアリアん色気ない話になるのはっやーい、だがそこもいい!

 でーもーその前にー、ユーくん理子にロザリオを付けて?」

「なんでさ」

「こまけーことはいいんですよ旦那!」

 何がだ。まあこれで依頼の締めにするのだろうと予測し、言われるままロザリオを理子の首につけてやる。

 ガシ

「あん?」

 付け終えたと同時、素早く回してきた理子の両手が俺の首に回り引き寄せられる。必然身体も密着してしまう。

「……オイ理子、これが『報酬』とか言ったらキレるぞ?」

「くふふー分かってるよ、ユーくんそういうの嫌いだもんね。これは理子のお願いを聞いてくれた『お礼』、言っとくけど初めてなんだよ?」

「未経験だったのかお前」

「あーひどーい、ユーくん理子がそんな軽い女に見えるの?」

「別に、軽かろうが重かろうが理子は理子だ。経験の有無でどうこう言うつもりはないし、気にすることじゃないだろ」

「……そーいうの反則ー。もうユーくん、目を閉じてね。嫌なら開けたまんまでもいいのよ?」

「いや、貰えるもんは貰っておくわ」

 「何その軽いの、ぶー」などと言っているが、聞かなかったことにして視界を閉ざす。横で状況についていけないのか「な、な、な」とアリアの声が耳に届いてきた。多分真っ赤になって固まってるんだろう、二回目となるとホントすまんね。

 心の中で謝罪してると、顔の部分へ徐々に近付いてくる感覚。そうして触れ合う――

 バチィ!

「あ、ぅ!?」

 直前、弾ける音と微かに感じられる電流、そして理子の悲鳴が聞こえる。目を開くと組んでいた手が解けて力なくこちらに倒れてきたので支えてやる。

「……理子?」

「理子!?」

 俺とアリアがそれぞれ呼びかけるが、「う、あぅ……」と呻くだけだ。意識はあるようだが、呂律が回っていないのか。

「遠山君、神崎さん、ちょっとそこを動かないでくださいね?」

 屋上の入口に立ち、いつものように微笑んで告げる彼、小夜鳴先生。その手にはルーマニア産のクジール・モデル74が握られており、両脇には以前レキと遭遇したコーカサスハクギンオオカミが四体、彼を守るように唸り声を上げている。

「小夜鳴先生!?」

 アリアが驚く中、俺は片手に理子を構えたままUSPを取り出そうとするが、

「下手に動かない方がいいですよ? 狼達には貴方達が妙な動きを見せたら襲い掛かるよう仕込んでありますし、足手まといのリュパン四世を抱えたままでは、元Sランクの遠山君でも大変でしょうし」

 小夜鳴先生の牽制に、俺は舌打ちしつつ銃に伸ばした手を引っ込め、代わりに口を開く。

「どういうつもりです、小夜鳴先生? ――いや、ブラド(・・・)

 ブラドの名前を出すと、小夜鳴先生は驚いた顔をしてから微笑んでくる。

「おや、気付いていたのですか?」

「学校を襲った狼、紅鳴館の管理人という立場、ブラドに会えないという発言、遺伝学の研究、ルーマニア語……ヒントは幾らでもありましたので」

 そもそも、おかしい話ばかりなのだ。学校に現れた狼はブラドの僕だと聞いたが、何故『ブラドの話を理子から聞いて作戦を立てた後』という都合の良いタイミングで襲ってきたのか? そして同時に行われていた身体検査で集められていた生徒達の顔ぶれ、前に剛から聞いた『小夜鳴と一緒にいた女生徒がフラフラになって出てきた』という噂。これらを集めて、仮説ではあるが推理が出来ていた。

「やっぱり、小夜鳴先生がブラド……! でもジュン、どうして武偵高に潜入してたの?」

 アリアも直感で小夜鳴先生=ブラドの構図は薄々察していたようだ。経過を飛ばして答えを見つけるのは流石だが、何故彼がブラドなのか理由までは分からないみたいだな。

「定期的に行われていた身体検査で集められたのは、アリアも含め歴史に名を残す偉人の子孫だったな。それと小夜鳴先生の研究分野である遺伝学、これらを合わせて考えれば『小夜鳴先生が偉人の遺伝子保有者の血液が欲しい』ことが推測できる。一度だけならともかく、何度ともなれば妙な話だろう。

 そんな血液を大量に欲するのは、蝙蝠や吸血鬼の人外である類。目的は『肉体の保持』か『血液を取り込んで強化』の二種類が主か。そこから『ブラドは小夜鳴先生から血を提供してもらっている』、『ブラドは人間の姿に擬態している』という二種類の推測を立てた」

 ここで一度説明を切り小夜鳴先生を見ると、変わらず笑っている。続きをどうぞということなのだろう。

「前者ならブラドと小夜鳴先生に接触があるだろう。だが、ブラドの気配が感じられないことや小夜鳴先生の様子からそれはなかった。外で接触している可能性も考慮したが、先生は外国はおろか、遠出している様子も見られない。なら、後者の擬態して武偵高に潜入する方法が消去法で上がる。

 更に小夜鳴先生が赴任したのは去年の五月、俺や理子が入学して少し経った後だ。普通に考えれば引継ぎだのなんだので遅れたって考えるだろうが、ある仮説を立てれば本当の理由も見えてくる。

 小夜鳴先生、貴方の目的は優秀な遺伝子を持つものから血液を採取すること、そして武偵高に入学した理子の監視(・・・・・)の二つ。違いますか?」

 一気に説明すると、小夜鳴先生は拍手した。曇天の中、それは屋上に白々しく響く。

「いやあ、素晴らしいですね遠山君。推理に強引な部分はあるものの、目的や正体まで言い当ててしまうとは」

「それはどうも、物証が無いので何とも言えませんでしたがね」

「いえいえ、寧ろ証拠も無いのにここまで当ててくるのは素晴らしいと思いますよ。さて、正解のご褒美に少し講義をしましょうか。

 遠山君の予想通り、ブラドの擬態した姿である私は優秀な遺伝子の収集が仕事です。さて、それらを集めて私は何がしたかったのでしょうか、神崎さん?」

「……ジュンが言った通り、肉体を保つのか強くなるためじゃないの? アンタの吸血は人間で言う食事なんだから」

「いえ、違いますね。たしかに吸血は栄養源となりますが、別に肉などの摂取でも問題は無いですから。

 遺伝子を集める目的は二つ、吸血鬼の弱点の克服と他人の技をコピーするためです」

「技を……コピー?」

 アリアが首を傾げてオウム返しに問うと、小夜鳴先生ははいと楽しそうに頷く。

「吸血鬼の特性として、私は血液を媒介として能力をコピーする術を持っています。そしてイ・ウーではそれを人工的に、誰からでも写し取る方法の実現に成功しました。

 これを用いることで(ブラド)は十字架を恐れず、流水を渡れる、数ある吸血鬼の弱点を克服すると同時に、人類が何代も重ねて形にした技を簡単に習得できるのです」

 もっとも、チマチマしたものは彼の好みではありませんがね。そう言って小夜鳴先生は苦笑する。イ・ウーの名前が出た辺りからアリアの目付きが険しくなっているが、彼は気にした様子も無く言葉を紡いでいく。

「その研究の途中、私はその人間が持つ遺伝子から才能の有無を理解出来るようになったのです。ちなみにそこのリュパン4世ですが」

「や、めろ……! 潤とアリアには、言う」

 それまで無反応だった理子が顔を伏せたまま声を上げるが、それで小夜鳴先生が止まるはずもなく、

「優秀な両親から全く何の才能も受け継いでいない、遺伝学的には完全な無能ですね」

 

 

 愉快と言わんばかりの笑みで、断言した。

 無能。その言葉に理子が腕の中でビクンと震え、それを見た小夜鳴先生が益々笑みを深める。

「さて、後は私が何故無能のリュパン4世を監視していたかですが……それはいいでしょう、もう時間ですからね」

「時間? 何の――!!」

 アリアが問おうとしたが、そうするまでもなく分かってしまった。小夜鳴先生の全身が着ていたスーツを破るほど膨れ上がり、人外のそれへと変貌していく。

「遠山君、貴方とお兄さんには感謝していますよ。遠山金一のDNAからHSSを知ることでブラドになるのが容易になり、貴方がお兄さん用に開発した薬がほんの一押し、リュパン4世を絶望に叩き落すだけで変われるようになったのですから!」

 

 

「さあ かれ が くるぞ」

 

 

 その一言は小夜鳴先生の声ではなく、人では発せられない複数の声が重なったように聞こえるものだった。変身を終えて俺達の前に立つのは、数箇所に奇妙な紋様が刻まれた二足歩行の狼、というべきだろうか。全長は俺達の倍を優に超え、発する気配も人外特有の禍々しいものに変わっている。

「……なるほど、小夜鳴先生が妙に饒舌だったのは時間稼ぎか。あの薬は効果が出るまでラグがあるからな」

「まあ、そういうことだ。小夜鳴の奴がお喋りだというのもあるがな」

 俺の言葉にブラドは鷹揚に頷き、金色の目で俺達三人を見ていく。

「さて、遠山と神崎は改めて始めまして、だな。俺達は頭の中で情報を共有できる、だから面倒な紹介はいいだろう。俺がブラドだ。

 それと、イ・ウー以来だな四世」

「……」

 ブラドの言葉に、理子は何も返さない。ただ細かく震えているだけだ。

「なんだ、ビビッて声も出ねえのか? ああそういえば、お前は俺が人間に化けられるのを知らなかったんだな、なら脅えるのも仕方ねえか、ゲババババ!!」

 耳障りな哄笑が響く、心底愉快そうなそれは人の神経を逆撫ですることこの上ない。

「まあいい、これでチャンスは終わりだ四世。お前じゃ一人で物は盗めねえ、挙句宿敵であるホームズの娘と仲良しこよし、てめえの無能さを証明するだけの結果だったわけだ。

 さあ、檻に戻れ繁殖用雌犬(ブルード・ビッチ)。てめえの居場所なんてこの世の中にどこにもねえ、これが最後の外だ存分に堪能しておけ!

 まあ俺は慈悲深い、てめえが寂しくないように遠山と神崎も一緒の檻に放り込んでやるよ、いい交配研究になりそうだからなあ!!」

 ゲババババ、と再び耳障りに哄笑するブラド。人間を実験対象としてしか見ていないセリフにアリアは怒りを露にし、警告も忘れて銃を構える。

 それでも理子は震えていて、そして堪え切れずに、

 

 

「ふ、くふ、ふふふ、あはははは……」

 

 

 俺の腕の中で笑い声を外に漏らした。

「あは、ははは、アハハハハハハハハハハハ!!!」

 先程のブラドよりも大きく、狂ったように笑い声を響かせる理子。

「り、理子……?」

「何だ四世、もう壊れちまったか?」

 アリアが思わずこちらに振り向き、ブラドが呆れたような声を上げる中、俺が手を離すと理子は顔だけをグルンとブラドに向け、

「ブウゥラアァドオオォォ!!」

 狂笑を浮かべ叫び声をながらブラドへと一直線に飛び出し、

 全体重を乗せたドロップキックが、自身の何倍もの巨躯を誇るブラドを軽々と吹き飛ばした(・・・・・・・・・)

「グガアアァァァ!?」

 命中した胸部が歪に凹み、痛覚はあるのか悲鳴のような叫びを上げながら無様に倒れ伏す。

「……は?」

 アリアが呆然とし、狼達も余りの光景に動けないでいる中、

「ハ、ザマァ」

 理子は最高にキチッた笑みのまま、親指を下に向けた。

「よ、四世いぃぃぃ……!!」

 呪詛のように声を上げ、口から血を吐きながらブラドがゆっくりと立ち上がる。胸の凹みはたしか魔臓と言ったか、ブラドの無限再生能力を保つ機関があっという間に修復していく。

「ああ、久しぶりだよブラド! あたしもお前に会いたかった、何でかって? そんなのお前をこの手でブチ殺したいからに決まってるだろ! 檻に入れて家畜みたいに扱われたあの時のお礼を存分にしないとなあ!!」

 アハハハハ!! と心底楽しくて仕方ないと笑う。発せられる殺気は尋常なものではなく、敵味方を問わず竦み上がってしまうほどだ。

「四世、てめえよくもぉ……!」

「アハ、四世四世って、それしかないのか吸血鬼!? 変身したついでに知能も犬並みに下がっちまったみたいだなぁ!!」

 怨敵の姿を嘲笑いつつ、髪に六丁のワルサーを絡め、両手にタクティカルナイフを構える。

「さあ始めよっか、小便は済ませた? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタ震えて命乞いをする準備はOK? お前に祈る神様なんていないだろうけどなあ!!」

「ふざけたことをぬかしやがって……! もう甘やかすのはやめだ、この俺に楯突いたことを死ぬほど後悔させてやるぞ四世ぃ!」

「誰を後悔させるって? アタシは理子だ! 五世を生む道具でもてめえのモルモットでもねえんだよ!!」

 

 

 そうして、当事者以外を置き去りにしながら戦闘は始まった。

「アリア、ちょっと失礼」

「え、キャ! ちょ、ジュン!?」

 展開についていけず固まっていたアリアをお姫様抱っこし、少し距離を取る。

「よし、と。悪いな、あそこだと攻撃の余波が有り得たからな」

「うん、まあ突然抱えられたのは驚いたけどお陰で助かったわ。

 ってそれよりも、理子のアレは何なの?」

 アレ、とはまた抽象的な物言いだ。まあ言いたいことは分かるので、答えるとしよう。

「以前理子に相談されたことがあったんだよ、『恐怖の対象を前にして竦まないようにするにはどうすればいいか』って。で、俺はこう答えた。『恐怖以外の感情で恐怖を塗り潰せばいい』って。

 その結果がアレなんだろうな。怨敵を前にした憎悪と殺意、長年蓄積したものを本人の前で爆発させたわけだ」

「……ジュン。アンタはブラドが理子にとって憎い奴だって知ってたの?」

「いいや」

 知っていたら遠慮なくブチ殺していた。続く言葉は口に出さず首を横に振るだけにする。実際聞いても頑なに教えなかったしな、読心術を用いても分からなかったし。

 直感で何となく察しているだろうが、アリアは「……そう」とだけ言って何も聞かなかった。

 実際、おかしいところは多々あったのだ。校内に出現した狼に何のアクションも見せなかったり、イ・ウーでブラドと顔見知りだろうカナの姿に変装したりと、穴だらけだった。ロザリオを取られたのは本当だったが、結局作戦の本命は『ブラドを誘い出し、倒す』ことだったのだろう。

 視線を交戦中の二人に移す。理子は持ち前の素早さと手数の多さで、ブラドは吸血鬼特有の怪力を用いて拳を振るい、コンクリートの床を軽々と陥没させる。

 理子の攻撃は相手を怯またり吹き飛ばすものの、無限の再生力を前にしては決め手にならず、ブラドの大振りな攻撃は全て空振りに終わっている。

 攻防が続く中、ブラドが奇妙な音を鳴らす。するとそれまで殺気に当てられていて動けなかった狼達が、理子目掛けて一斉に飛び掛かる。

「アリア」

「ん、アタシは右を行くわ」

「じゃあ俺は左で」

 最低限の言葉を交わし、俺達も走り出して狼へと向かう。

 理子を襲おうとする奥の一匹にレキが見せた脊髄部を撃つ一撃で動けなくし、こちらに気付いて反転する一匹には当身を食らわせて吹き飛ばす。これでしばらくは動けないだろう。

 一方アリアは縮地を下地とした高速移動で狼達の懐へ入り、顎を打ち据えた脳震盪で二匹を気絶させた。今狼達反応できなくなかったか?

「潤、アリア?」

「よー理子、勝手に加勢させてもらうぜ」

「……必要ない、あたし一人で十分だ」

「まあそう言うなよ。パートナーが闘ってるのを黙って見過ごせってのは酷だろ?」

「あたしが一人でやりたいんだ。……それに、あたしは二人にブラドが出てくるよう仕向けたのを黙ってたから」

「それに関しての罰は『一緒に闘う』ことにしてあげるわ。ほら、ボヤボヤしてるとアタシ達がブラドを倒しちゃうわよ? 『友達』だからって待ってあげないからね」

「……潤、アリア」

 理子が俺達を見て複雑そうな表情を浮かべた後、何も言わずブラドに向き直る。好きにしろ、ということなのだろう。

「ホームズの娘とリュパンの娘に芽生えた友情か? くだらん、そんなもんでこの俺を倒せるとでも?」

「あら、三対一は卑怯とか言わないわよね? 以前アンタが戦ったリュパンは、双子のジャンヌダルクと共闘したって言ってたし」

「いいや、一向に構わんさ。四世に加えてホームズの娘と遠山の男、どいつも無能の類だがいい実験材料だからな、ゲババババ!!」

「……つくづく舐められたものね、人間を実験材料としか見てないのかしら」

「典型的な吸血鬼って感じだな。じゃあ教えてやるか、化物は人間に倒されるのが相場ってことをよ」

 俺とアリアもそれぞれ銃を構える。

「人間どもが束になったところで、俺様に勝てると思うのか?」

「勝てるさ、それどころかお前に最大の屈辱を味合わせてやるよ、アタシ達三人でな」

 理子の言葉を合図に、敵味方双方が動き出した。さあ、第二ラウンド開始だ。

 




登場人物紹介
遠山潤
 今回は解説役に徹していた男。理子の狙いは大体察していたが、何も言わず協力していた。
 押し倒されても冷静でいられるくらいにはいつも理子にじゃれ付かれている。慣れてるとかそういう問題でない気もするが。


神崎・H・アリア
 潤にお姫様抱っこされて珍しく女子らしい反応を示した子。皆さん忘れてるとは思わないが、原作ではメインヒロインです(真顔)
 最近動きその他が日を追う毎に強くなっている。というか狼の認識力を追い抜くのは最早人間の所業なのだろうか。


峰理子
 只今絶賛狂化中の復讐鬼。アリア達が参戦しても切れたままだが、話ができる程度には冷静な部分を残している。
 電撃を受けて潤に抱えられていたが、実際はすぐ回復していた。動かなかったのは小夜鳴がブラドに変貌するのを待っていたため。彼女にとって復讐する対象はあくまでブラドなのである。


小夜鳴徹・ブラド
 ブラドが来るまでの時間稼ぎに長々と喋っていた人間もどき。変身してからくればいいのだが、それをしなかったのは理子をより絶望させるため(正体がばれていたので意味はなかったが)。
 なお薬の存在があるため原作の理子フルボッコシーンはカット。潤良くやった。


後書き
 長い、しかも戦闘入ったばかりという。一話分で終わらせるつもりだったのですが、どうしてこうなった(白目)
 なお捏造設定が含まれていますが、推理に穴があればそれは潤君ではなく作者の頭が悪いということです、潤は悪くねえ!
 とりあえず、次回はブラド戦の続きです。予言します、誰かが酷い目に遭います。それは誰か!? 正解者には、特に何もありません!(オイ)


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第四話 屈辱に身を震わせる準備はOK?(後編)

 俺、無限罪編が終わったら艦これの冬イベやるんだ……この話と小話書いてからだから、何時になるのやら(白目)



「ガアア!」

 銃を玩具のように握りつぶすブラドの拳が振るわれる。当たれば人間程度ただでは済まないだろう。当たればな。

「おっと」

 ギリギリまで引き寄せて回避し、振るわれた腕を蹴り上げる。無論俺の筋力では多少上がる程度だが、

「はっ!」

 そこに身軽さを生かしてアリアが小太刀二刀を交差させた斬り上げを行う。バターでも切るかのように腕は胴体から離れていき、

「ジュン!」

「あいよっと!」

 後ろに控えていた理子の声を合図に跳躍した彼女を蹴り上げる。弾丸と化して宙を駆けた状態で足を振り上げ、

「死んどけ!」

 回転を加えた踵落としが放たれる。咄嗟に残った腕で防ぐブラドだが、足元にヒビが入る程の衝撃でたまらずよろめき、そこへすかさず俺とアリアの銃撃が放たれる。

 狙うのは両足、銃弾はジャンヌ戦でも使用した『不義鉄槌(アンチ・ブロークン)』。それらは全て狙い通りに命中し、

「あは、もう一丁!」

 未だ宙空にいた理子が追撃の回し蹴りを見舞う。

「グガアアァァ!?」

 いかに吸血鬼とはいえ、二足歩行である以上支えを失えば体勢を保てる訳がなく、ブラドは叫びを上げながら倒れた。衝撃で屋上が軽く振動し、顔面は蹴りの形に歪んでいる。

「こ、このガキどもぉ……!」

 もっとも、それらの傷もあっさりと再生する。斬られた腕は新しく生え、顔面の歪みは修正し、両足も銃弾を吐き出して傷が塞がっていく。不義鉄槌(アンチ・ブロークン)は教会の法化銀弾(ホーリー)と同じ性質を持っているのでかなり効き目があるはずなのだが、足止め程度にしかならない。吸血による弱点の克服って訳か。

「あは、無様だなぁブラド。これで倒れたのは何回目だ?」

「ほざけ、テメエ等の攻撃がどれだけ入ろうが、俺の無限再生の前には無意味なことだ!」

 まあ、そうだろうな。ブラドの再生能力では顔を吹き飛ばそうが上半身を斬り飛ばそうが、即座に再生してしまう。全部試したから間違いない。

 となると、倒すには再生能力を司る機関、四つの魔臓を潰さないといけない。厄介なのが四つ同時に潰さないといけないのだが、以前ブラドと戦った聖騎士(パラディン)が魔臓の位置に聖痕と呼ばれる紋様をご丁寧に付けてくれたため、三つの位置は丸分かりだ。後の一つは隠しているのか見える範囲にはないが、

「さーて、どうする理子、アリア? 俺はまだ余裕あるが」

「アタシもまだ平気よ、法化銀弾(ホーリー)を思ったより使っちゃったけど」

「だからバカスカ撃つ癖直せっちゅーてるのに」

「うっさいわね、アンタみたいに戦いながら弾数の管理するのは難しいのよ」

「じゃあ余裕があるうちに叩いておくぞ、あたし的にはもうちょっと殺してやりたいが」

「よし、じゃあプランCで」

「「ないでしょ(だろ)そんなの」」

「ええ……まさか理子に突っ込まれるとは」

 金輪際出来ない経験かもしれない。まあ冗談は置いといて、弾倉の入れ替えもそれぞれ終わりブラドに向き直ると、

「もう遊びはヤメだ、こいつで串刺しにしてやる」

 引っこ抜いてきたらしい推定五トンのアンテナをこちらに向けてきた。

「ツエペシュの真似事か? その姿なら棍棒振り回すオーク(豚鬼)の方がお似合いだろうよ」

「……てめえも良く吠えるな遠山ぁ。そこまでお望みなら、てめえから血塗れのオブジェに変えてやらぁ!!」

 叫び、ブラドがアンテナを振り下ろす。無論先程と同じ大振りの攻撃など避けるのは容易い。

 だがブラドは振りかぶると同時に肺を大きく膨らませ、

「ワラキアの魔笛に酔え!」

 

 

 ビャアアアアアアウリイィィィイィィイイ!!!

 

 

 宣言し、咆哮が響く。至近距離で物理的圧迫感を伴う衝撃を受け、

「死ね!!」

「っ、チッ!」

 振るわれたアンテナ型金棒の横薙ぎをモロに受ける羽目になる。

「ガ……!」

 ブラドの怪力は凄まじく、衝撃を味わいながら空へ吹き飛んでいく。

「まずは一匹、さて次は――何!?」

 余韻に浸る呟きは驚愕に変わる。ブラドが向き直った時にはアリアの銃弾が放たれていた。

 反応が遅れ、両の肩と右脇腹、それぞれの位置にある魔臓を破壊されながらも腕を動かそうとするが、突如両腕に先端が鋭利な鎖を撃ち込まれて拘束され、更に足がズタズタに引き裂かれる。

「!?」

 驚愕に目を見張り視線を空へと向けるが、それは致命的な間違いだ。上空で放った鎖と足元の法化銀の粉を塗した糸を吹き飛ばされる直前に仕掛けた下手人である俺は、笑って親指を下に向け、言ってやる。 

Du-te dracului,vampir(地獄に落ちろ、吸血鬼)

「ブラドオオオォォォ!!!」

 ルーマニア語による俺の罵倒と同時、理子がアリアの銃撃と同時に投げたアンテナの破片が下顎から上顎までを貫通した。それこそ、杭のように。

 舌に刻まれた紋様、四つ目の魔臓を貫かれてブラドは一瞬停止し、全身から大量の血液が流れる。

「――――――!!!!??」

 もはや口の杭を引き抜く力もないのか言葉にならず、それでもブラドは叫びを上げてその場に倒れた。今度こそ起き上がることはなく、研究の成果でもある血液が屋上を浸していく。

「……ッ」

 最後の力を振り絞って口の杭を抜き、痛みを堪えながら濁った口笛を鳴らす。すると倒れていた狼達がよろめく足で近付き、その身体で日陰を作る。

 血液が失われたことで吸血鬼の弱点が戻ったのだろう。曇天の中でも太陽の光は吸血鬼にとって猛毒になる。

「無様だな、ブラド」

 動けぬまま太陽の光から逃れようとするブラドを、理子が見下ろしている。その傍らにはアリアと脇腹を抱えている俺。アリアは心配そうにこちらを見るが、気にするなと手を上げる。

「よ、ん、せ、ぇ……」

「魔臓を失えば呆気ないものだな、最強種も形無しだ。

 ……本当はもう少し痛めつけてやろうかと思ったけど、やめた。お前の地に這う姿を見て満足だ。

 これであたしの復讐は終わり、晴れて身も心も自由だ」

 言葉通り、理子の目にはもう狂気が宿っていなかった。そこには嫌悪も恐怖もなく、何かの余韻に浸っているように感じられる。

「よん、せい……」

 弱々しいながらも、ブラドは顔を上げて理子を睨みつける。その瞳にあらん限りの憎悪を込めて。

「この、屈辱は、忘れねえぞ……テメエは、俺から、逃げられねえ。次に会ったら、殺してやる……テメエも、アイツも!!」

「復讐する方とされる方が入れ替わったな。まあ、好きにすればいいさ。次があればな」

 そうしてもう興味を失ったのかブラドから視線を外し、こちらに顔を向ける時にはいつもの緩い笑みを浮かべていた。

「やーユーくんアリアん、今回は手伝ってくれてありがとうね! それとだましちゃってメンゴメンゴライアス!?」

 軽く謝る理子にアリアのアッパーカットが決まる。

「いふぁいー!? にゃにふんのさアリアん!?」

 舌を噛んだらしく涙目で抗議する理子。あ、口から血流れてる。

「騙した分の罰よ。友情割引により一発で手打ちにしとくわ」

 友情言う割に殺気が篭ってませんでしたかアリアさ「これくらい普通よ」アッハイ。

「うぅ舌が痛いー。ユーくんお口キレイキレイしてー」

「ほい、一件何の変哲もないドロップ」

「めっちゃ甘い!? めっちゃ甘くておいしいけど傷口にめっちゃ沁みるよこれ!?」

「何で追い討ち掛けてるのよアンタ。

 まあ結果的にブラドも倒せたし、ロザリオも取り戻せた。今度こそ依頼終了よね、理子?」

「うんうん、パーフェクトですよユーくんアリアん! それでは、お手を拝借!」

 両手を挙げる理子に、ハイハイと仕方なさそうに頷くアリア。でも顔が緩んでるから嬉しいのバレバレやな。

「ユーくん、後はユーくん待ちですよ!」

「ヘイヘーイ」

 俺も片手を挙げ、準備が整う。

「それじゃあ、ロザリオ奪還とブラドぶっころ達成をしたので~」

 いや、ブラド生きてるからな? 虫の息だけど。

「これにて理子からの依頼達成です! イエーイ!」

「「イエーイ!」」

 三人でハイタッチを交わし、今回の一件は幕を閉じた。

 

 

 なんて綺麗なオチになる訳がなくて。

「ねえジュン、これどうしようかしら」

 理子の傷口を治療していてやると(「歯医者さんみたいですな!」と理子が言うのでドリルを取り出すと、顔を青くして全力で首を横に振っていた)、アリアが声を掛けてくる。これ、とは未だ倒れ伏しているブラドのことだ。

「放っとけば警察か自衛隊が来るんじゃないか?」

 アンテナぶっ壊したしな。そこそこ時間も経ったし、到着してもいい頃だろう。

「まあそうだろうけど、捕まる前にもう一回くらいボコっておきたいのよね」

「リアル死体蹴りやん」

 何時からそんなドSになったアリアさんや。……ひょっとしてブラドに『無能』呼ばわりされたの根に持ってるのか、妙なところで短気だなオイ。

「(*ΦωΦ*)ピーン!!」

 治療終わった理子が何かを思いついたらしい。ピーンって口で言ってるしな。

「ユーくんユーくん、こういうのはどうでっか?」

 お耳を拝借~と言われたので屈んでやると、

「ふぅ~」

 耳に息を吹きかけられた。

 すかさずゲンコツを振り下ろす。ゴス、と中々いい音が響いた。

「いーたーいー、さっきのアリアんより痛い~!? ユーくんなにすんのさ~!?」

「次やったら脳天踵落としな」

 三回転のおまけつきで。

「ぶー、単なる冗談なのにー。では今度こそ」

 ゴニョゴニョ、って自分で言わなくていいわい。ツッコミ入れてから伝えられた内容は、まあ、なんというか、

「……そりゃあまあ、思い付く範囲で最大の屈辱だろうが。流石に死ぬんじゃねえか?」

「吸血鬼の生命力は凄いからヘーキヘーキ! ……死んでも別に問題ないし」

 小声だけど聞こえてるぞ後半。確かに死んでも殺人にはならんけどよ、人外だし。

 そしてアリアにも耳打ちすると、「GJよ理子」とサムズアップしていた。あ、これ完全にやる流れですわ。女子二人が同調した場合俺が勝てる訳ねえし。

「よーしじゃあ早速やろー! 理子前ねー、ユーくんどこ持てばいい?」

「両肩の辺り、腕は引き摺っていいぞ」

「じゃあアタシは真ん中で」

 日除けになっていた狼達をどかし、それぞれ配置に付く。

「おい、テメエら、何を――」

「よしゃあいくよー! あどっこいしょういち!!」

「「古!」」

 ブラドの声を無視して、理子の掛け声? を合図にその巨体が浮かぶ。

「う、お……!?」

 ただの人間に持ち上げられるは思わなかったのか、頭上から驚きの声が上がる。まあ実際重いしな、百貫デブ抱えるより辛いわ。

「えんやーこらさ~と♪」

「……触ってみると毛並みツヤツヤなのが何か嫌だわ」

「全身毟ればそれなりの価値になるかね?」

「そっちでも良かったかもね、運ぶよりは楽なんだし」

「おい、お前ら、なにするつも――ま、まさか!?」

 屋上の端まで来て、ブラドもようやく気付いたのか焦った声を出す。まあ気付くよな、投げやすいよう事前にフェンスを曲げておいたし。

「はいピッピー! アリアんユーくん、これ以上はりこりん落ちちゃうんでストーップ!」

「つまり押せってことか」

「やめて、理子死んじゃう!」

「ギャグ補正で生き残りそうだけど」

「その場合はアリアんを抱えて逝きます!!」

「アタシを巻き込むな! ジュンにしなさい!!」

 なんでや、というかブラド抱えてお喋りとか余裕あるなお前ら。

「よし、じゃあ理子は準備おk! ユーくんとアリアんはどうかな?」

「いつでもいいぞ」

「右に同じよ」

 両腕に力を込める。そのタイミングでブラドが、今まで死に掛けていたとは思えないほど必死に命乞いを始める。

「ま、待て四世! 今までのことは謝る! 神崎の母親に関しても素直に自供する! 何だったら今までの研究成果を元にお前を強くしてやってもいい! だから」

「うるせえよスカタン、黙ってやられてろ。

 あと、最後にもう一回だけ言っておくぞ」

 口調を変えた理子がブラドを更に持ち上げ、

 

 

「あたしは理子だ!! 四世でもお前の玩具でもないんだよ!!!」

 

 

 叫ぶように宣言し、ブラドを屋上から投げた。

「グアアアアァ!!!??」

 絶叫を残しつつ、ブラドは296メートルの高さから地上へ落下していく。無論狼の姿で跳べるわけもなく、もがく手足は空しく空を切るだけだ。

 ズウン、と鈍い音とここまで伝わる振動が発生し、屋上から地上を覗いてみると、

 

 

 地上に頭から突っ込んだブラドが、犬神様状態になっていた。そりゃもう綺麗に足だけ地上に残して。

 

 

 こ れ は ヒ ド イ。

 足が痙攣しているのを見る限り、まだ生きているようだ。大したしぶとさである、いっそ楽になった方が幸せな気もするが。

「「は、ザマア」」

 俺の横で女子二人は親指を舌に向けて鼻で笑っていた。お前ら仲良いね。

 まあ何はともあれ、ブラドに合掌。敵に回した奴が悪かったんだよ。

 

 

 余談だが、事情説明のためここに残ると宣言したアリアと一度別れる際、壊れたアンテナ(狼達はいつの間にか逃げていた)を見て理子が一言。

「ユーくん、トドメにアレを上から投げるってのはどうかな?」

「……マジでトドメになるからやめとけ」

 死因が肛門裂傷とか流石の俺でも同情するぞ。

 更に余談だが、後日この一件に関して週刊誌でネタが上がっており、『神奈川で起きた謎の地震はUMAによるもの? ランドマークタワーに突如発生したクレーターの謎を追う!』との見出しが書かれていた。UMAて。いやまあ吸血鬼は世間一般からすればUMAだろうけどさ。

 なお、この一件で残ったアリアはやりすぎだと公安に怒られたらしい。女子二人はブーブー文句を言っていたが、そりゃそうだろと思う。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 ブラドのアンテナ攻撃を喰らって軽症で済ませている男。実は直前に自分から飛んでダメージを軽減していた。無理あるだろと思うそこの人、(一応)主人公なので補正付いてるってことで。
 戦闘後の理子の所業には彼をして「そこまでやるか」と思わせていた。まあそこまで怨んでいたのだろうと納得している。でも運び方指示したの君だからな?
 
 
神崎・H・アリア
 理子の悪ノリに同調しいていた子。追い討ちを提案する辺りドSの片鱗が見えた気もするが、普段は弄られる側です。
 なお、怒っていたのは無能呼ばわりされたのもあるが、理子を物扱いするブラドの所業も含まれている。口には出さないが、友達思いな娘なのである。
 
 
峰理子
 復讐完了によりようやくスッキリした少女。本音を言うとまだ凹りたい、犬神様やった後も。それだけ怨みは深いのだ。
 なおこの後ブラドの写真を撮ってネットにばら撒こうと画策していたが、「公安が絡んでくると面倒だからやめとけ」と潤に止められた。もう容赦ねえどころじゃねえなこれ。
 
 
ブラド
 作者自身ちょっとやりすぎたかなーと思っている凹られ役。でも原作で理子にした所業を考えれば仕方ないね!
 ちなみに犬神様状態は前々から考えていました。公安に回収された段階でもまだ生きていたが、取調べの際妙に同情的な視線を頂いたという。
 
 
後書き
 改めて言いましょう、
 こ れ は ヒ ド イ。
 ……さて、以上で無限罪編終了です、本当は理子がショットガン取り出してブラドのきたねえ頭を吹き飛ばしたり、潤がRPG取り出して上半身を吹き飛ばすとかも色々考えてたんですが、グロ表現的にやばいかなと思って自重しました。まあカットしただけで似たようなことはやられてますが。
 なおとどめにアンテナを刺した場合、肛門裂傷で死んだブラドが阿〇鬼よろしく復活して野郎を追い掛け回す亡霊に――なるなんて予定はありませんし書けません、ホモはお帰りください(真顔)
 さて、次回は小話を二つ書きたいと思います。最初は武シノブ先生が書く漫画『緋弾のアリアちゃん』のネタを使用予定です。知らない? 是非買って読んで下さい、みんな可愛いんで!(ステマ?)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、心臓に杭を打ち込むような慈悲のない辛口批評・、お待ちしています!(←悪口一つでボロボロになるメンタル)


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小話 勘違いはこうして広がっていく

 サロメさん、クリティカルさん、卵割りさん、craftさん、百期空亡さん、パフェ配れさん、評価ありがとうございます! こうやって評価してもらえるのは非常に嬉しい……感無量です。

 というか評価とお気に入りがいきなり大量について素で驚きました……UA数も気付いたら一万越してるし、やはりブラドか。ありがとう犬神ブラド様(違)



 

 戦略室。表向きは『女子同士の親交を深める』という名目で開放されている空き教室だが、実態は男勝りの多い武偵高女子達が『女子力を高める戦略を練る』ために使われているらしく、男子からは『男女の巣窟』、『戦略室の女子だけは勘弁』と悪名高いらしい。

 ある一部では仲の『良すぎる』女子達が交流の場として使っているらしいが――深くは考えないでおこう。趣味は人それぞれだ。

 さてブラドの一件から一週間ほど経過し、アリアが母親の刑期が減って喜んだり、理子がアリアに何やら言ったらしく二人揃って暴走したので珍しく俺と白雪で止め役になったりとちょっとしたハプニングはあったが、まあいつも通りである。ブラドの件に関する事後処理は我々関係なし、そもそも俺と理子は痕跡を消してから逃げたので関与してるとは思われてないしな。

 そんなボケとツッコミ、刀に銃弾に拳が飛び交う日常が戻った中、何故に女子しか入れない戦略室の説明などしているのか?

 A:俺もいるから。女装させられて。

「はあ……」

 ハイ現実逃避終わり。思わず溜息が出てしまう。

 最近占拠したらしいこの部屋はアリア、理子、白雪といつものメンバーの他に、絶賛イラスト製作中のレキがいる。俺の部屋に続く溜まり場第二号と化しているらしい。というか元と暫定も含めてSランク四人に襲われるとか、この部屋の前の住人カワウソ、じゃねえ可哀想過ぎるだろ。空き教室がない場合襲撃して奪うシステムだから仕方ねえんだろうけど。

「くふふー、やっぱりユーちゃん似合ってるねー」

「なーんであのバカジュンがこんな美少女に変身するのよ……しかもそれいらないでしょ」

 菓子食べながらニヤニヤしている女装の犯人理子、ぐぬぬなりながらももまん食べているアリア。というか胸部を睨まないでくれ、反応に困る。

「……アリア、今は潤じゃなくて由依(ゆい)で通して欲しい」

「その名前になんか意味はあるの?」

「知り合いに見付かったらまずいだろうよ……亮ならともかく、剛の奴とは鉢合わせたくない」

「ここから出なければいいと思うけど……まあ正体がアンタって分かったら、騒ぎ立てそうよね」

「寧ろゴーくんが新たな性癖に目覚めるワンチャン!」

「流石にそれはな……いわよね?」

 アリアの言うとおり、否定しきれないのが恐ろしい。アイツカワイイ子なら誰でもどんとこいだからな、ひめ〇トみたいな展開とか冗談でも無理、吐くわ。

「はい由依ちゃん、どうぞ」

「ああ、すまんな白雪」

「ううん、気にしないで。それにしても、声まで女の子になってるから見ただけじゃ分からないね」 

「いや、骨格や筋肉の付き方で大体分かると思うが……」

「パッと見で分かる訳ないでしょ、もし分かるなら諜報科でAランク以上貰えるわよ。アンタ一回鏡見てきなさい」

「断る」

 自分の女装姿で興奮する趣味はねえ、兄貴じゃあるまいし。しかし変声術がこんな形で役に立つとは、嬉しいわけないが。

 ちなみに俺の女装姿だが、ぶっちゃけると黒髪黒目のスカ〇ハ師匠で口調も真似ている。男の時の喋りと然程変わらんからな。

 服は流石に例の全身タイツ? ではなく上は白のブラウス、その上に暗色のカーディガン、下は暗色の長いスカートだ。というかこれ上着以外は『童貞を殺す服』だよな? 蓋を開けたら男だった(男の夢を壊す)っていう皮肉か何かか。しかも梅雨明けだから暑いんだが。

 そして理子の無駄クオリティにより、胸の部分もパッドその他で再現されている。触ったアリアと理子曰く『充分な質感とクオリティ』らしい。というかアリアは目のハイライト消すな、何も言えんから。そして理子、何故盛った胸含めてピッタリなサイズの服を即座に用意できた。

「理子はスリーサイズが即座に分かる程度の能力持ちなんだよ! ユーちゃんのサイズをパッド付きで予想するなんて朝飯前でっせ!」

「どこの管理局の子狸かお主は」

 アレ二次のイメージだけどな、何にせよ聞かなきゃ良かった。

「ちなみにー、アリアんのスリーサイ」

「今すぐその口を閉ざすか永遠に黙るか選びなさい」

「サーセン!」

「誠意がこもってない!」

 SAN値が減りすぎて冗談が通じないのか、理子を殴り飛ばすアリアの目がいつも以上に据わっている。

「理子さん、できました」

 とそこで、それまでイラストを描いていたレキが顔を上げてスケッチブックを差し出す。受け取った理子は「ふおおおぉぉ!?」とか興奮しだす、どんな反応だ。

「GJ、マジGJですよレキュ! これは理子のお宝これくしょんに是非とも加えなければ!」

「わー、本当に上手いねレキさん。色もキチンと塗られて背景もあるし、とても三十分で仕上げたものと思えないよ」

「このクオリティなら売り物にしても問題ないわね。犯人の似顔絵書きとかもいけるんじゃない?」

「以前強襲科(アサルト)から依頼を頂きました。犯人逮捕に貢献したそうです」

 どんだけだよ。もう狙撃銃よりコピック持ってる姿の方が見慣れてきたぞ。

「ユーちゃんユーちゃん、ユーちゃんもレキュの渾身の一作見ようよ!」

「……いや、私はいい」

 理子が依頼したとか聞いた時点で嫌な予測しか出来ん。これ以上頭痛の種は欲しくないです。

 結局理子に無理矢理見せられたそれは、予想通り女装した俺のイラストだった。書いたレキの無表情が一瞬誇らしげに見えたのだが、殴ればいいのだろうか。

 

 

「じゃあじゅ、由依ちゃんも加わったところで本日の女子力アップのための議題に移ります!」

 あったのか、そんなもん。てっきり理子の道楽で連れられてきたのかと思っていた。女装について? もう諦めた(慣れた)

「それじゃあ理子さん、発表お願い!」

「はいはーい! それじゃあ本日のお題は~、これだ!」

 司会らしい珍しくテンションの高い白雪の要請を受けて、相方の理子(チョイスミスだと思う)がホワイトボードを回す。おいグルグル回ってるぞ、これじゃあ見えな――あ、折れた。

 が、落ちる前に理子が屈んでキャッチし頭上に掲げる。何その無駄技能。

 ホワイトボードには大きく『ダイエット!!』と書かれていた。

「……女子力と関係ないだろう、それは」

「いいえじゅ、由依ちゃんおおいにあります! ダイエットは女子にとって避けられぬ宿命、誰もが通る道なのです!」

「辛く苦しいダイエット、でもそれを見せない華麗な方法を考えて女子力をアップしようという作戦だよ!」

「……そういうものなのか?」

 同じ聴衆者に聞いてみると、アリアはうんうん頷いており、レキは首を傾げていた。まあレキがダイエットやるイメージはないわな。

 ……そういえば、この間風呂場で妙な悲鳴を聞いたな。まあ梅雨の間俺に合わせて依頼も受けずゴロゴロしていたし、ある意味順当な結果かもしれない。

「まあ内容は分かった、しかし何故私がいるのだ?」

 ぶっちゃけ俺は太ってない。体調管理も(雑だが)しているし、頭使ってれば太ることはないって甘党の名探偵が言って「それは二重の意味でアタシに対する嫌味かしら」いや意味分からんから睨まないで。

「ユーちゃんを連れてきたのは、男の娘視点からのアドバイスをいただきたいからですよ! 男女で理想の違いはあるからね! そういうのも参考にするのです!」

「今おぞましい漢字を使わなかったか理子」

「というわけで由依ちゃん、何かいい方法ないですか!?」

 無視かい。そして白雪に縋るような視線を向けられているが、

「いや……期待しているようで悪いが、私はダイエットなどしたことないから分からんぞ」

「そんなこと言わず! 知識と日陰の魔女と呼ばれたユーちゃんなら何か知ってるはず!」

「どこの紫もやしだ私は、というか魔女はおかしいだろう。

 そもそも、この手のダイエットで楽な方法などロクなのがないだろう。お前等が食事制限などする訳ないのだろうし」

「「そりゃもちろん」」

 アリアと理子の食いしん坊コンビが同時に頷く。こいつらいつも飯三杯は食うからな、一杯減らすだけでもダイエットになると思う。……そこら辺の転がってる菓子を見る限り、無理か。というかお前らダイエットする気あるのか。

「アリアとレキは何かないのか?」

「アタシは訓練か運動するくらいしか思いつかないわ」

「そもそもダイエットしたことがないので良く分かりません」

 何とも頼りない答えだった。というかアリアの答えが若干脳筋臭い。

「……ダイエット用の食事メニューを考える」

「足りなくなって別の物を大量に食うだけだと思います!!」

 笑顔で手を挙げるな理子、誰のために頭回してると思ってるんだ。

 とはいえ食事関係は無理そうだ。では、

「アリアの案だが、無難に運動でいいのではないか」

「それだと女子力を上げられないの……野球じゃ女の子っぽくないし」

 何故真っ先に野球を挙げた。他にあるだろテニスとか卓球とか。肌を晒すから恥ずかしい? ……女子バレー部の部長が言うべきじゃないだろ白雪。

「じゃあ、レキに倣って絵でも描いてみたらどうだ。創作で頭を使えばカロリー消費にはなるし、女子としての見栄えも悪くないだろう」

「ももまん食べながらやったら逆効果だったわ」

 やる気あんのか絵に専念しろよアリア、というかやった後かい。

「どうしろと……」

 食事もダメ、運動もダメ、芸術もダメとなるとほぼ八方塞じゃねえか。というか何で俺が真面目に考えてるんだ、新作のゲーム買ったばかり――ん、ゲーム?

「……理子、これは真っ先にお前が思いつくべき案だと思うぞ?」

「ほえ?」

 なんのこっちゃと理子は首を傾げているが、何故思いつかなかった。

「ゲームセンターでダンエボでもやればいいだろう。アレなら着替える必要はないし、運動にもなる。女子が良くやってるのを見る」

「あ!」

 言われてピンときたようだ。やっぱ忘れてたか、普段だったら真っ先に思い付きそうな癖に。まだ脳味噌狂化状態か。

「だん、えぼ? って何?」

「踊りで得点を競う音楽ゲームよ、昔流行ったダンレボの本当に踊るバージョンね。

 というかジュ、ユイの言う通りよ理子、何で思いつかなかったのよ?」

「えーだってだって、理子が『風〇たけし城!』って提案したら『ゲームで痩せるわけないでしょ!』ってアリアんが言ったんじゃーん! だから理子そっち系は除外してたんだよ~!」

 原因お前かアリア。というかたけし城って古いなオイ、あの地獄をやらせる気か(←経験者)。

 まあそこからいつもの小競り合いが始まったが、白雪の決定で全員ゲーセンに行くことになった。この面子だったら普段は絶対行かないな。

「あ、ユーちゃんはそのままの格好だよ!」

「……何故だ」

「そりゃあ、ロングスカートの絶対領域を堪能したいからですよ!」

「私はやらんぞ、ダンレボ派なんでな」

 それ以前に野郎の足を堪能しようとするんじゃねえ。色々アウトくせえよ。

 ぶーと頬を膨らませている理子を適当にあしらっていると、

「あ、アリア先輩!」

 ……反対から間宮さん筆頭の一年生グループが来た。何でここにいる。

「あら、あかりじゃない。アンタ達も戦略室?」

「いえ、先生に頼まれて置いてある資材を取ってくるよう頼まれちゃったので。みんな手伝ってくれるって言うんで一緒に来たんです」

 間宮さんの後ろには苦笑してる火野さん、アリアを睨んでる佐々木さん、火野さんの腕にしがみついてる島さん、それと最近加わったらしい中学部(インターン)の乾さん、元イ・ウーの一員で今は間宮さんのクラスメイト、そして何やらメモっている夾竹桃もいる。勢揃いだなオイ、間が悪い。

「ところで峰先輩、その人は?」

 あー、火野さんが俺の事を聞いてきた。しかも島さん経由で仲の良い理子に。うーんミスチョイス、出来ればスルーして欲しかったのも叶わずしかも理子とかアカン予測しか出来ない(←本日二度目)。

 質問を受けて全員がこっちを見る。うちのダブルツインテはニヤニヤしている、こっち見んな。

「こちらは本日特別ゲストのユーちゃん、もとい由依にゃんです! さあゆーにゃん、華麗な自己紹介の後何でも答えてオナシャス!」

 何だ特別ゲストってにゃん付けるな気色悪い華麗な自己紹介って意味分からんぞ何でもとか言うんじゃねーよ全員胡散臭そうに見てるじゃねえかええいツッコミ所多すぎるわ!!

 キャラ付けのせいで口に出すこと叶わず、切り札のアリアは今日に限ってツッコミ不良なのか見てるだけだし、散々だなチクショウ。

「……金山由依(かなやまゆい)、二年生だ。この阿呆の戯言は無視してくれ。任務であまりいない上に学年も違うが、機会に恵まれればよろしく頼む」

 とりあえず作り笑顔を浮かべて手を出すと、周囲は一瞬呆けてから代表して火野さんが慌てて手を握り返す。え、何その反応。

「は、はい、こちらこそよろしくお願いします! 一年の火野ライカです! ……カッコイイし綺麗だな~」

「ほえ~、すごい美人さん……は、いけないいけない私はアリア先輩一筋。えっと、間宮あかりです!」

「クールビューティ系、これまでにないタイプ要注意……! あ、佐々木志乃です」

「お姉様を取ろうとするライバルですの……!? し、島麒麟ですの!」

 ……なんで各々反応がおかしいんですかねえ。というか小声で言ってるけど自己紹介の前後聞こえてるからな? 最近耳の良さを後悔しています。

 さて残りは乾さんと夾竹桃だが、後者は端から喋る気がないのかこちらをジッと見ているだけだ。じゃあ残りは乾さんか、スルーしたいけどス〇サハのキャラ的におかしいしなあ……これがしばりか(違)

「ふむ、お前は?」

「ふぇ!?」

 ボーとしていたところにいきなり声を掛けられて驚いたのか声を上げるが、失態に気付いて顔を赤くしながら敬礼する。

「し、失礼しました! 中学部(インターン)の乾桜です! あ、あの、もし良ければ今度ご指導いただけないでしょうか!?」

 いきなりの頼みに少し面食らったが、本人はそれ以上だった。何言ってるんだろうと口を抑え、恐る恐ると言った感じでこちらを見上げてくる。

 ふむと顎に手を当て、とりあえず上手いこと断ろうと口を開く。

「別に構わんぞ、向上心があるのはいいことだ。依頼のない暇な時に限るがな」

 あ、キャラ性優先しすぎて了承しちまった(白目)。

「! あ、ありがとうございます!」

 乾さんはパアとSEが付きそうなほど嬉しそうな顔で何度も頭を下げ、その後二、三言葉を交わしてから間宮さん達と別れた。

「ねえ理子、ちょっと」

「ほいほい、なんですかなきょうちゃん?」

 とそこで、一人残って俺を観察していた夾竹桃が何やら耳打ちし、それに理子が親指を立てて「イグザクトリィ!」と言っている。この反応は……

「……いつから気付いていた?」

「最初から違和感はあったわ。伊達に女子ばかり見てきた訳じゃないわよ」

 やっぱ分かる奴にはすぐバレるか。まあ乾さんには申し訳ないが、これで正体がバレれば今後の面倒は避けられる。変態扱いされるかもしれな――

「ああ、心配しなくてもあかり達には正体を明かさないわ」

「どういうことだ」

 ほぼ条件反射で聞き返すと、夾竹桃は表情を変えないまま『ネタ帳』と書かれたノートを掲げ、

「貴方達の交流は私にとって有益だからよ」

「……お前は女子同士が専門と聞いていたが?」

「男の娘や女装男子も範疇だから無問題よ。描く時にTSしとけばいいのだし」

 作家の想像力を舐めないことねとか言われるが、そういう問題じゃねえよ。何が悲しくて百合モノのネタにされなきゃならん。

「じゃあ、私は行くわ。その内貴方達のことも取材させて貰うから」

 言うだけ言って夾竹桃はその場を去っていった。理子並に自由だなオイ、イ・ウーはこんなんばっかか(←ジャンヌいます)

「はぁ……」

 ともあれ、これで訓練の約束は取り付けてしまった。何が悲しくてまた女装しなければならないんだ、しかも自分から……

「いやあゆーちゃんモテモテですなあ。さくらんからは明らかにラブビーム受けてるとか鮮やかな女たらシュヴァリエオデン!?」

 とりあえず理子はチョップで黙らせた。元はと言えばお前が原因だろうが。

「く、くく、まあ頑張りなさいよユイ先ぱいたぁ!?」

 アリアにはデコピンしておいた。何面白がってんだコノヤロー。

「……白雪、そろそろ行くぞ?」

「は!? は、はい、ゆんちゃん様!」

 おい色々混じってるぞ。何でお前も顔赤いんだ。

「……で、レキは何をしているんだ?」

「今の心温まる光景を絵にしようかと」

「しなくていい」

「ハイハイ理子買います!」

 聞けよ、肖像権の侵害で訴えてやろうかお前等。……女装姿の場合適用されるかは知らんが。

 

 

 それからゲーセンに行き、負けず嫌いなアリアと煽る理子を中心に数時間ぶっ続けで遊んでいた。その結果、

「み、水ぅ……」

「……お前達、ホント馬鹿だな」

 休憩も水分補給もしなけりゃ当然ぶっ倒れる訳で。結局余裕のあった俺が四人の介抱をするはめになった。というかレキまで倒れるとかどんだけ白熱してたんだ。

 そしてさらっと混じっていた夾竹桃、ネタ書いてないで手伝え。何でそんなイキイキした目なんだよ怖いわ。

 

 

 




登場人物紹介
金山由依(遠山潤)
 理子によって女装させられてしまった槍師匠モドキ。なお、連れてこられたのはアリアと理子二人に強制捕縛された結果である。
 相当な美人の部類で白雪含めエンカウントした一年生達を魅了していた(自覚なし)。また女装する約束をしてしまい、今から頭が痛い。


神崎・H・アリア
 今回はツッコミでなく傍観役に徹していたツッコミマシン。由依の胸部装甲にハイライトを消していたが、慣れてくると反応が面白いので弄っていた。
 カナに続いて美人女装を見続け、『このままだと女子力で野郎に負ける……!?』と妙な危機感を抱いている模様。言ったところで当人達には困惑されるだろうが。


峰理子
 パートナーを拉致って女装させた犯人。ちなみに同じようなことは何度かやっており、その度に歓喜の声を上げている。男の娘バッチコイ精神。
 由依の容姿に対する無頓着さと無防備さに何度か手を伸ばしかけたが、その度にアリアから目で制されていた。ツッコミ放棄しても働いているアリアさんである。

星伽白雪
 女装姿は見慣れているので特に動じず受け入れている少女。名前を時々間違えそうになるのはあくまで潤として見ているため。
 今回セリフが少なかったのは、由依の姿に見惚れていたため。女装していても恋する乙女フィルターで素敵に見えている模様。あと、意外に音ゲー上手い。


レキ
 狙撃銃よりペンを握る時間が長くなっている狙撃科(スナイプ)の麒麟児。別に『ペンは銃より強し』を体現しているわけではない。
 イラストを描くスピードは凄まじく、背景含め大体三十分で仕上げる。ちなみに由依のことは頼まれなくても書くつもりだった。音ゲーは理子曰く「ライバルになる予感……!」と言わせる腕前の模様。

 
間宮あかり・火野ライカ・佐々木志乃・島麒麟
 由依に見惚れたり警戒したりしていた後輩ガールズ。大丈夫、百合の対象にはならないから。
 ……恋愛は男女でするものとか言ってはいけない、後輩ガールズにとって警戒すべきは異性でなく同性なのである。

乾桜
 初対面が潤(男)じゃなく由依(女)という妙な邂逅を果たしてしまった中学部生徒。実態を知ったらどういう顔をするのか、とりあえず潤は少女の夢を壊さない義務が発生した。
 一目惚れに近い憧れと好意を抱いてしまった模様。あかりとは違う意味で尊敬するようだ。クールビューティ系に弱いのかもしれない。


夾竹桃
 何故かあかり達といる元イ・ウーメンバー。本編で交流があるのは大分先だが、本作では理子が間に入ってどうにかしたとかなんとか。今では後輩ガールズと昼食を一緒に食べている姿が良く見られる。
 常に一緒にいるわけではなく、フラッと(ネタ探しのため)どこかに行くことがある模様。なお戦略室は彼女にとってCVRに続くネタの宝庫である。
 男の娘や女装男子も妄想補完で守備範囲に含まれる。だって実際に手を出すわけではないし。
 

後書き
 遠山兄弟は女装の呪縛から逃れられない模様。まあ潤の場合理子が主たる原因ですが。
 というわけで緋弾のアリアちゃんで用いられた一室、『戦略室』の回でした。ちなみに男子の戦略室はありません、空き場所が無いのと男女の巣窟に好き好んで突っ込み輩はまずいないため。……ぶっちゃけ作ると設定メンドイのもありますが(オイ)
 さて、次回はお気に入り100件記念の小説、メインはこの小説だとあまり出番のないレキです、というか潤とレキオンリーの予定です。原作のメイン回まであんまり出る予定無かったので、この小説におけるレキがどんなキャラか知っていただくいい機会になると思います。
 というかレキのキャラがどんどん濃くなっているような……設定やネタを即興の思い付きで追加していくのは私の悪い癖なんですが、レキもカオスキャラの仲間入りしそうな予感がします(汗)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、鈍器で殴られたように感じるクリティカルな批評、お待ちしています!(←新聞紙で殴られて死に掛ける脆弱さ)


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リクエスト小話 段々妹か何かの世話してる気がしてきた

 今回はお気に入り100件を記念した、リクエスト小話です。時系列等は特に考えていませんので、今後の本編との関わりはあまり無いかと。
 リクエストはまだ募集していますので、コメントしてくださると嬉しいです。詳しくは活動報告まで!
 
 あいーんチョップさん、ヤンデレ黒タイツさん、評価ありがとうございます! どうでもいいですがヤンデレ黒タイツという評価者の名前に惹かれるものを感じる作者は末期でしょうか(知らん

 他には夜神朔也さん、誤字報告ありがとうございます! 伽羅の名前間違えるとか一番やっちゃアカンやん……以後気を付けます(汗


 よく晴れた休日の朝、惰眠を貪っていた俺の耳にチャイムの音が響いた。

 アリア、理子、白雪の三人は昨日から『秘密の女子会』と称して他数人の友人を連れてどこかへ行って不在、剛や亮達などの目ぼしい友人は依頼や用事でいないため、久しぶりに完全一人である。なので(意外にも)正しい生活習慣を送っている俺にしては大分寝こけていたのだが、チャイムの音で目が覚めてしまった。

 はて、理子宛の荷物だろうか。とりあえず半ボケの頭でドアを開けてみると、

「潤さん、取り立てに来ました」

「え、何その取り立て方法怖い」

 こっちの額にドラグノフを突き付け、足元で唸る元ブラドの僕である武偵()、ハイマキを従えた完全武装のレキさんが立っていた。何、新手の寝起きドッキリ?

 

 

「潤さん寝起きは和服なんですね、新鮮に感じます」

「俺はお前さんの斬新な取立て方法でお目目パッチリだよ」

「いつもやっていますが」

「何それ怖い」

 狙撃銃は突き付けるものじゃなく遠方から撃つものだと思うんですが。近付いても銃剣や殴打で使える? アッハイそうっすね。

 とりあえず立ち話もなんなので上がってもらい、レキにお茶と羊羹、ハイマキに水とビーフジャーキーを提供する。

「「……」」

 主従揃って無言で手を付けようとしない。その癖目は食い物に固定されている。

「どうぞ」

 提供者の俺が言うと、レキはいつもの無表情で、ハイマキは嬉しそうに食べ始めた。なんかレキの頭に犬耳が付いてるように見えてきた。

「んで、取り立てって何の話よ? 身に覚えがないんだが」

 そもそも借金などしてないし、金銭面で困窮しているわけでもない。偶に思い付きで大量に使うこともあるが、それで生活に困ったことはないし。

「正確には潤さんではなく、理子さんへの請求です。以前潤さんが女装した際に描いたイラスト分の」

「……それがなんで俺のところに?」

「理子さん曰く、『ユーくんにツケといて! ダイジョーブ、気持ちよく払ってくれるから!』とのことでしたので支払いを待っていたのですが、期日を過ぎても来られないのでこちらから伺わせていただきました。

 ……もしかして、ご存知なかったですか?」

「今始めて聞いたよ……」

 理子ェ……俺と同じで散財家の癖に金は持ってる筈なのに、何で俺にツケたし。しかも支払い対象が俺の女装イラストとか、何の嫌がらせだ。

「そうですか。しかし期限が来てしまった以上、支払いをしてもらわないと私も困ります。契約もきちんと交わしていますし」

「……こんな契約書にサインした覚えないんだが」

「理子さんが代筆で書きました。印鑑は潤さんから借りてきたと仰っていましたが」

 よし、帰ったらアイツ殺そう。ご丁寧に筆跡まで真似しやがって、鑑識科(レビア)でも判別付きにくいくらいそっくりだし。印鑑も勝手に盗りやがったな、今まで気付かなかったから無駄なところで怪盗スキル発揮してやがる。

 ハイマキを撫でながら物騒な思考をしつつ、溜息を吐いてとりあえず立ち上がる。

「分かった、とりあえず財布取ってくるから待っててくれ。足りなければ悪いが卸してくるから待ってて欲しい」

 とりあえず理子には支払額の三倍を要求しよう、武偵三倍法にのっとって(違)

「はい、お願いします。……と言いたいのですが。正直支払いはお金じゃなくても大丈夫です」

「あん? 何、欲しいものでもあるのか?」

「いえ。欲しいものも特に思いつきません」

「んじゃ何よ」

 思い当たらず俺が首を傾げていると、レキはキッチンの方に視線を向け、口を開く。

「潤さんは料理がお上手とか」

「……その辺の店とか白雪よりは下手だぞ」

 あと、何故上手に『お』を付けたし。

「ですが、貴族階級で舌が肥えてるだろうアリアさんや、味にはうるさい理子さんが美味しいと言っていますので、期待してしまうのは仕方ないかと」

「そりゃあいつらの好みに合わせて味調整してるからだよ。好みさえ把握してれば一手間加えて美味いもんになる」

「はい、それも聞いています。ですがその一手間を毎回欠かさずやっている気遣いを聞いて、私もご相伴に預かろうかと」

「……要するに、飯を食わせろと?」

「この日のために朝のカ○リーメイトを抜いてきました」

 一食抜いてきただけじゃねえか、まだ九時だし。そういやこいつ、アリアや理子と同等かそれ以上の食いしん坊キャラだった。いや知ってたけどさ、どこの世界に請求費を食事で要求する武偵がいるよ、どんだけ食に執心してんだ。

 アレか、一年の頃にカ○リーメイトしか食ってない発言を聞いて、理子と面白半分で食育したのが原因か。じゃあ自業自得じゃねえか(白目)

「まあ俺も朝食まだだし、いいけどよ」

「昼と夕の分もお願いします」

 三食食ってく気かよ、こいつ見かけによらずすげえ食うから後でスーパーいかねえと足りねえぞ。あとハイマキ、そんな期待した目で見ないでくれ。尻尾揺れてる、メッチャ揺れてるから。

「……大したもんは作れないからな?」

「はい、期待して待ってます」

 聞いちゃいねえ、プレッシャー掛けんなよ……

 飯を作るのにプレッシャー掛かるという人生初の経験を味わいつつ、冷蔵庫の中身を確認する。……レキの食べる量考えて一食で尽きそうだな。

「レキー、何か食いたいものあるか?」

「美味しいものなら何でもいいです」

「……ハイマキは?」

「わふ」

 なるほど分からん。というかレキは料理人が一番困る+更にプレッシャーを掛ける発言を自然にしないでくれ。

 とりあえず有り合わせで何か作るか、味付けどうしようと考えながら食材を漁っていると、ふと目に入ったのは非常食用に置いといたカロリー○イトの食べ掛けだった。

 ……ふむ。

 

 

「ご馳走様でした」

「ワン!」

「はい、お粗末様」

 四人分くらいは用意したのだが、レキは余裕で平らげてしまった。しかもデザートに用意したクッキーもどんどん減ってるし。

「カロリーメイ○の新たな境地を見せていただきました」

「気に入っていただけなら何よりだよ」

 (無)表情を見る限り満足しているようなので、ひとまず安心する。割とオーソドックスな朝食にカロリーメ○トを使った料理も入れてみたのだが、レキにとって当たりだったようだ。ちなみに今レキが貪っているクッキーにも用いており、そのせいかレキの目が輝いて見える。

「これがあと二回も食べれることを喜ぶべきか、二回しか食べれないと嘆くべきか難しいところです」

「そこまで大袈裟に言われると反応に困るんだが」

「いっそここに住んでいいでしょうか?」

「これ以上大食いが入るとエンゲル係数+俺の手間的な意味で死ぬんだけど」

「お金は払います、家賃含め」

「いや、そういう問題じゃないから。あいつらから食費以外貰ってるわけでもないし」

 これ以上食い専門が来られるのは流石にキツイ。白雪がいれば二人で出来るが、頻繁に合宿へ行くため常に当てに出来るわけじゃないし。

 「そうですか」と頷くレキがちょっと悲しげに見えるが、流石に同情して身の破滅を招く気はない。あとハイマキ、視線で『もっと』っておねだりしない。あーた最近太ってきたんだから、これ以上肉料理食うとデブ犬一直線だぞ。

「そういやレキ、お前休日も制服なのか? それとも取り立ての時はいつもその格好とか」

 食後のお茶を飲みながらなんとなく聞いてみる。偶に武偵高以外でも会うが、レキの私服姿を見た記憶が無い。偶然かもしれないが、もしかして、

「? 服は制服しかありません、数着を着回してます」

 やっぱり。自分の容姿には無頓着だと思っていたが、まさかこれほどとは……。てっきりこいつの周りにいるクラスメイトが余計なお節介焼いてると思ったのだが、聞けば『レキはそういうキャラだから』ということで受け入れられているらしい。いや確かにそうだけどさ。

 礼服とかくらいは買った方がいいんじゃないかと思うが、余計なお節介なのは自覚しているので口に出さない。

 食器を洗いとりあえず買物に行こうと席を立ち、イラストを描いているレキに昼までどうするか聞くと「付いてきます」とのことなので、ハイマキも加えた二人+一匹で行くことにした。その前にドラグノフをしまうケースを取りに行くため、レキの部屋に寄ることにしたのだが、

「マジかよ……」

 絶句した。何も置いてないし生活感もまるでないのだ。知り合いの物を置くのが嫌いな隠者だってここまでじゃねえぞ……端に置いてあるイラスト用品の違和感が凄い。

「……レキ、予定変更。昼食べたら買物行くぞ、服とか雑貨とか」

「? 必要なんですか?」

 心底分からないと首を傾げるレキ。これが当たり前だから疑問に思ったこともないのか。

「うん、必要。イラスト描くにしろ銃の点検にしろテーブルくらいあった方がいいし、寝具ないと冬場はキツイぞ」

「潤さんがそう言うなら」

 渋るかと思ったがあっさり頷いたので、今日一日はレキの買物をすることに決まった。

 

 

 食材の買い足しに合わせ、服数着や毛布、テーブルなど最低限必要なもの、あとハイマキ用のマットなどを買っておいた。寝具が毛布だけなのは「寝る時は座って寝ます」と譲らないレキとの妥協点だ。何も掛けないで寝るよりはマシだろう。

 ちなみに代金はレキ払いだ。最初は俺が出すと言ったのだが、「選んでもらうのでお金くらいは支払います」と言ったのでそうすることにした。ちなみにその際幾らあるんだと聞いたら通帳を見せてきたため(無防備だなオイ)、見せてもらうと9桁に限りなく近い8桁の数字が書かれていた。わ~おっかね持ち~(棒)

「安西、いるか?」

 それから今は武偵高に戻り、装備科(アムド)の一室に声を掛ける。「いるぞ~」と間延びした声が返ってきたので入ると、部屋の中にいたのはブラドよりある意味巨大に見えるデブ、もといふくよかな男子生徒が何かを食いながらPCで作業をしていた。食べかすこぼれてるぞ。

 百貫男安西は装備科の生徒で銃や刀などの装備からその部品まで、武偵高で必要なものを安く仕入れるのを得意としている。ドラエ○んもビックリなまん丸肥満体型もあいまって、『発明の天才、ただし大抵欠陥あり』と評されるチビッ子女子、平賀さんと双璧をなす装備科(アムド)の有名人である。

 俺個人としては武装の修理や改造を頻繁に行うので、よく世話になっている。ちなみにこいつが物を食っていない姿を見たことない、食うのやめたら死ぬんじゃねえかと思っている。

「お~遠山~、頼まれたものは用意しといたぞ~」

 独特の間延びした声で、外見に反して機敏な動作で紙袋を渡してくる。今日の昼に頼んだのに、仕事が速い。

「おうサンキュ、助かるわ。無茶言ってすまんかったな」

「別にいいぞ~、遠山はお得意様だしな~。これからも贔屓にしてくれるならお安い御用だ~」

「そりゃどうも。あと、これ差し入れな」

「おお~サンキュ~。遠山はやっぱり気が利くな~、これがモテる男の秘訣かね~?」

 肉まん(五個入り、出来立て)の袋を開けながら、安西はニヤリとからかうように告げてくる。

「……お前食うこと以外に興味あったのか」

「驚くとこそこか~?」

 心外だぞ~と言っているが、正直三大欲求を食欲に極振りしていると思っていたので素でビックリした。

 ちなみに俺の斜め後ろでピッタリついてきたレキも、肉まん(これは買ってやった)の四個目をもっきゅもっきゅ食っていた。同じブラックホールの胃を持つのに、この体型の差はなんなのだろうか。美少女補正か(適当)

 そして安西と別れ自室へと戻り、貰ったパーツを用いて作業すること一時間。

「……よし、OSはこんなもんか。おーいレキ、出来たぞ~」

 俺が呼び掛けると、リビングでいつも通りイラストを描いていたレキが顔を上げ、チョコチョコとこちらに近寄ってきた。なんとなくペンギンっぽい。

「早いですね」

「まあ、作るの初めてじゃないしな。とりあえず、ネットとかの機能はいらないんだよな?」

「はい、余計な機能はいりません。シンプル・イズ・ベストです」

「その結果があの部屋なのはやりすぎな気がする」

 さて、俺が何を作っていたのかというと、自作のPCである。部屋で書きかけのイラストが無造作に放置されていたのを見てバックアップは取ってあるのかと聞いたら、「……バックアップ? 後方支援ですか?」とある意味武偵高らしい返事が来たので聞いてみたら、PCは持ってないどころかろくに弄ったこともないらしい(携帯はある、ただしクッソ古いの)。本当に現代人かこいつ。

 なので買物ついでにPCを買う、でも良かったのだが、「余計な機能がついてるのであまり好きじゃないです」と本人が言うのでじゃあ仕方ねえと俺が自作することにした。イラストの保存と修正に特化した、シンプルでレキが扱いやすい奴をな。

「そうそう、基本的な操作はこんな感じ。後は修正用やPCで描けるアプリもあるんだが、それはまた別の時に追加しておく」

「はい、分かりました」

 画面見ながらの返事だったので本当に分かったか不安だが、まあ分からなければ聞いてくるだろう、多分。

 その後、夕飯を食べてレキはお暇することになった。

「ご馳走様でした。買物もしてくれて、本当にありがとうございます」

「いいよ気にすんな、気紛れのお節介だしな。ああ、とりあえず支払いの分はこれでいいのか?」

「はい、もう十分すぎるほどです」

「そか。あ、レキ」

「はい、何でしょうか?」

 改めてこちらを見るレキに、俺は口を開く。

「飯食いたくなったらまた来てもいいぞ。別に一人一匹増えても大差ないからな」

 事前に連絡してくれると助かるけど、と付け足しておく。チビッ子コンビも合わせると相当な量になるからな……

「――――はい、ありがとうございます」

 レキは目を開いた後、ちょっとだけ微笑んで礼を言った。

 ……いや、ここで原作の感動シーン使われてもなぁ(←メメタァ)

「あ、そうです潤さん。これは今日のお礼に」

「ん? ああ今日描いてたイラストか、別に気を遣わんでもいいのに。

 まあ、折角だし貰っておくわ。何描いたんだ?」

「今日一日の潤さんの様子を描いてみました」

「それを俺に渡してどうしろと」 

 しかも何故か女の方、要するに由依の姿で描かれていた。いや上手いけどさ、余計微妙な顔をせざるを得ない。

 とりあえず絵を適当なところにしまい、今日買った服以外の購入同伴を誰に頼むか考える。今日買ったのは間に合わせ分だし、野郎より女子が見た方がいいだろう。

 白雪、はまともだけど感性が古いからなあ。理子、絶対コスプレ衣装買ってくる、却下。……消去法でアリアか、多分連絡しておけばやってくれるだろう、レキとは仲いいし。

「……何か、年下の親戚か妹の世話を見ている気分になってきたな」

 同い年なんだけどな、俺達。

 

 

「はっ!!」

「突然立ち上がってどうしたの、フォース?」

「今私の妹ポジションが脅かされてる気がする! ちょっと日本へ行って合理的にお兄ちゃんに近寄る害虫をサクッと殺してくるよルカ!!」

「いや意味分かんないわよ!? 大体アンタの兄って誰、サードのこと!?」

「あんなのお兄ちゃんじゃねえ!!」

「やめなさい、幾らサードでもその発言は泣くわよ!?」

 某国のアジトの一室で、そんなやり取りがあったとか無いとか。

 

 

おまけ 都内某所で遊び中の理子達

「あ!」

「何よいきなり」

「いやあ、ユーくんにレキュのイラスト代金請求今日だから払っといてってお願いするの忘れてた、テヘ☆」

「いや自分で払いなさいよ!?」

「理子さん、お金で潤ちゃんに迷惑かけるのはやめてね……?」ゴゴゴゴゴ

「ダイジョーブダイジョーブ、ユーくん躊躇無く大金突っ込むしここで男の甲斐性を見せてくれ――お、噂をすればユーくんからラブメールが!」

「ラブメール、つまり恋文……!?」

「いや絶対に違うから」

「くふふー、うらやまかしかろうそうだろう。さーてどんな熱いラブなメッセージが――

 

 

『帰ったら殺す』

 

 

……ね!」ダラダラ

「何がね、なのよ。問題しかないじゃない」

「理子さん、帰ったら素直に謝ろうね?」

 勿論許して貰える訳がなく、東京湾に叩き落とされましたとさ。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 存外料理スキルが高い男子。細かいところまで無駄に凝るため、結果的に美味しいものが出来上がっている。
 PCはOSから組み立てまで一から自作できる。能力は平凡だが極めているため万能、なので大抵のことはそつなくこなせる恩恵である。
 

レキ
 ブラックホールの胃を持つ少女。バカ二人の食育により、美味しいものの話を聞くとフラッとその場所に現れる。最近は大食いチャレンジがあると必ずそこに名前があるとか。
 潤から貰ったPCは今後大切に使っている。その結果作業効率がグンと上がり、更に依頼が殺到するようになったとか。
 狙撃銃の使い方が間違ってる? またまたご冗談を。
 
 
ハイマキ
 レキの忠犬、もといブラドの元僕の狼。潤はよくご飯をくれるので懐いている。ただ、餌の貰いすぎで最近は太りだしている模様。
 人物紹介なのに人じゃない? 気にするな(真顔)
 
安西
 原作でもちょろっと出てた巨漢の装備科生徒。原作のキンジは平賀文の世話になっていたが、潤は自分で武装の修理・改装を行うので部品を提供する安西の世話になっている。
 常に何か食っているは本作オリジナル設定。絵が無いため作者は勝手にハー○様みたいな外見だろうと想像している。
 

峰理子
 東京湾に沈められた。お金はきちんと払いましょう。
 
 
後書き
 というわけでリクエスト小話、レキ編でした。今まであまり出てこなかった彼女がどういうキャラか、なんとなくではありますが分かっていただけたでしょうがどうでしたでしょうか?
 というかレキの設定がどんどんとんでもないのになってるような……もう狙撃銃の代わりにコピックと箸を持てばいいんじゃないかな、大食いイラストレーターキャラとかどうですかね?(←アホの発想)
 さて、次回からは第四部、『砂礫の魔女』編です。……と言いたいところですが、これ書き終えた時点で艦これの冬イベをいい加減やるので、更新遅くなるかもです。初月が俺を待ってるんや……(使命感)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、もう考えるの面倒くさくなったので普通に、批評もお待ちしています!(オイ)


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『砂礫の魔女』編
第一話 何時から出番を大人しく待っていると錯覚していた?


第四部、『砂礫の魔女』編スタートです。
 そしてふと思う、こいつら全然発砲してないやん……と。武偵ってなんでしたっけ(遠い目)
 さて、今回はあるキャラが登場します。ヒントは、原作から数えると十五巻早く登場します。


 機功 永遠さん、評価ありがとうございます! というか評価点が上がっていくことに日々驚いています(汗)


 

 戦略室での一件と同日の夜、自室に戻り風呂に入ってようやく女装を解けた。

「ふう、やれやれ……」

 肩の余計なものが取れて楽になった。服もそうだが女装は面倒だ、収納箇所が多いのは便利なんだがな。

「ええ、そうね。うんうん。……? そう? 別段変わったつもりはないけど。あ、ジュンお帰り」

 アリアは誰かと通話中のようだ。理子は――……何か変な形になって倒れていた。洗濯機にぶち込まれた後みたいだな、何しようとした。

 邪魔しちゃ悪いかと思い夕飯の準備に入ろうとすると、

「そうそう、前に話したパートナーの一人ね。……え? まあ大丈夫だと思うけど。

 ねえジュン、妹がアンタと話したいって」

「妹って言うと、メヌエットさんか?」

 メヌエット・ホームズ。アリアの異母妹でホームズ家の次期当主候補、姉とは逆に優れた推理力で事件を解決する姿から『シャーロックの再来』、『安楽椅子名探偵』などと称されている。今はイギリスのホームズ家にいる筈だが、しがない武偵である俺に何か用だろうか。

 とりあえずアリアからスマホを受け取り、英語で話してみる。

『もしもし? お電話変わりましたミス・ホームズ、しがない武偵の遠山潤です』

『まあ、お姉さまとパートナーを組む方が凡人などとんだジョークですわ、ミスタ・遠山』

 アリアに似た、しかしやや低めの声がおかしそうに笑っている。いや冗談じゃないんだけどな。この発言、未だ受け入れられたことがない不思議。

『ああそれと、日本語で結構ですよ? それと敬語もいりませんしメヌエットと呼んでください、その代わり私も敬語をやめて、ジュンと呼ばせていただきますので』

「そう? まあそれなら楽で助かるけど。そんで、凡夫の俺に名探偵さんが何か用?」

『……ジュンは一度自分の評価を見直しなさいな、いらぬ衝突を生むわよ?

 まあそれはいいのです、今日は聞きたいことがあったので』

「聞きたいこと? というと、アリア関係か?」

『はい、お姉様のことです。聞くというより確認なのですが。

 ――は本当のことですか?』

「あー、アレ?」

 ブラドと戦った後にあった奴か。多分当人達――俺、理子、アリアの三人――は他人に言ってないと思うが、どうやって知ったんだろう。

『では小舞曲(メヌエット)のステップの如く、どうやって知ったか順を追って話しましょうか?』

「夕飯の準備あるから三行で頼む」

『お姉様と話をして峰理子の名前が出たら、

 慌てた様子なので推理し問い質したところ、

 観念したのか色々吐いてくださいました。

 お姉様の悔しい、でも話しちゃうな声は可愛かったわ』

「予想通りだけど四行じゃねえか」

『三行にしろと言われると四行にしたくなりません?』

「どこのヘルPだお前さんは」

『あら、ニャ〇子ではなくそちらが出てきましたか。ひょっとしてジュン、TRPGにも造詣が深いのかしら?』

「ああうん、今とさっきの発言でお前さんがどんなキャラか分かったわ」

 ちなみにTRPGは多少知っている。理子に付き合わされて、色々カオスな展開を味わった経験しかないけど。

『あら、ふふふ。これは楽しみが増えましたね』

「これは弄られる予感」

『弄られるのはお姉様の特権じゃないですか?』

「それにはどう「何か言ったジュン?」いえなんでもないです」

 至近距離なのもあってめっちゃ睨まれました。あと倒れてる理子をベッドに放り投げるのは、優しさなのか雑なのか。

「どうせなら外れて床に落ちた後、床をスリップしていくくらいしないと」

「どんな投げ方したらそうなるのよ!? というかそれやったら理子の顔がとんでもないことになるわ!」

 おっと、声に出ていたようだ。電話中にアリアと喋った無礼をメヌエットは怒らず、寧ろ面白そうにクスクス笑っていた。

『楽しそうですね、お姉様も活き活きしていて何よりですわ。

 それでは、お姉様と変わってくださいな。ジュン、また会いましょう?』

「はいよー。ほいアリア」

 『話しましょう』じゃなく『会いましょう』にしょうもない予測が出来るが、まあどうもできないしスルーしよう。

 メヌエットとの会話を終え夕食の準備に取り掛かっていると、通話を終えたアリアが渋い顔をしてこちらに来た。

「ねえジュン、アタシの勘がすっごい嫌な予感を感じてるんだけど」

「奇遇だな、俺もそんな予測を立てた。まあ多分笑い話だし大丈夫じゃね」

「その笑い話で苦労するのはアタシだから言ってんのよ!?」

 ハハハ、ナンノコトカナ~?

 

 

「メヌエット・ホームズです。専攻は探偵科(インケスタ)、そちらにいらっしゃるアリアお姉様の妹です。皆様、よろしくお願いします」

 そう言って優雅に礼をする金髪碧眼の車椅子美少女、メヌエット嬢に男子は「ウオオォ!」と歓喜の声を上げ、女子は「カワイイー!」と黄色い声を上げ、理子は「車椅子プラチナブロンドツーサイドゴシックロリヰタツリ目!? やべえてんこ盛り過ぎて常時フィーバーだよ!?」と興奮している。そして姉であるアリアは、

「そういうことかあ……!!」

 妹の転校、しかも同じクラスという事実に頭抱えて机に打ち付けていた。脳細胞ガンガン死んでくぞ。

 どうもこの事態を知らされていなかったらしい彼女を置き去りにして、我がクラスの担任、高天原先生とクラスメイト(野郎、メヌエットに礼を言われて感動していた。お前ロリコンだったか)が気を利かせたことにより、メヌエットはアリアの隣に決まった。

「お久しぶりです、お姉様。お顔を見れなかったのでこのメヌエット、淋しかったですわ」

「いやメヌ、久しぶりって言っても三ヶ月くらいでしょうが……」

「まあ、三ヶ月も会えなかったのに素っ気無い対応、お姉様はメヌが嫌いになってしまったのですか?」

「そりゃ会えたのは嬉しいけど、一つだけ言わせて貰うわ。な・ん・で、こっち来るの言わなかったのよ!?」

「それは勿論――お姉様の驚きと苦悩に満ちた顔を見たかったからですわ」

 堪能させていただきました、と華のような笑顔を浮かべて心底嬉しそうに言う妹君。ああこの子アリア大好きなんだなあ、かなり歪んでるけど。

「ア・ン・タ、ねえ……!」

「お姉様、英国淑女がそんなに怖い顔をするものじゃないですわ」

「誰のせいだと思ってんのよ!?」

 バンと机を叩くアリア。俺か理子だったらとっくの昔にしばき上げられてるだろうが、流石に車椅子の妹をぶん殴る気はないようだ。

(ジュン、アンタメヌが来るの知ってたんじゃないでしょうね!?)

(そのようなことあろう筈がございません)

 アイコンタクトの八つ当たりに即答したら、何故か余計睨まれた。何でや。

「ハイハイ質問質問!! ヌエっちはどうして日本まで来たのかな? かな?」

 レ〇方式というウザイ質問の仕方で理子が挙手すると、メヌエットは笑みを貼り付けたまま向き直って指を差し、

「それは峰理子――貴方に宣戦布告するためです」

「ほえ?」

 至極真面目な顔になって告げるが、言われた当人は何のこっちゃと首を傾げている。

「あら、お忘れですか? では小舞曲(メヌエット)のステップの如く、順を追って話しましょう。

 先日、とある事件を解決した際、貴方はお姉様に「アリアの心も盗んでみせるから」と、告白まがいの事をしましたね?」

「ほほう?」

「ちょ、メヌ!?」

 それを聞いて理子の顔が真剣なものになり、アリアが顔を真っ赤にする。そこで赤面すると百合疑惑掛かるぞ。……もう遅い「どういう意味よ!?」直感で読むなよそのままの意味だよ。

「これがジュンでしたら両方手に入れようかと一考しましたが、同性の貴方では看過できません。世界に一つの私の玩具(お姉さま)、貴方には渡しませんわ」

「今お姉様の部分に不穏な単語隠したわよね!? というか両方手に入れるって何!?」

「くふふ、そういうことかあ。いいよヌエっち、もといメヌエット・ホームズ。あたしからアリアを奪えるものなら奪ってみな」

「アンタもマジトーンになって応戦するんじゃないわよ理子!?」

 ツッコミ入れるアリアを間に、微笑んでプレッシャーを出すメヌエットとジョジ〇立ちで相対するマジモードの理子。いやあカオス、そしてそんな光景に対しクラスメイトは、

「すごい、これが女を巡る女のバミューダトライアングル……!」

「流石神崎さん、間宮さんの戦妹だけに女たらしスキルは伊達じゃない!」

「そこに痺れる憧れるぅ!」

「真ん中にいる潤が空気にしか見えない不思議!」

「理子の周りはネタの宝庫ね、冬コミまでに消化できるか位のストックが溜まったわ」

 などと騒いでいる。ちなみに全員女子です。あと誰が空気だオラァ、その通りだよ。

 ついでにどこぞの百合専門同人作家が混じってるが、誰も気にしてない。無論俺も。百合あるところに夾竹桃だし(←適当)

「何でアンタ達そんな簡単に受け入れてるのよ!? というかあかりは関係ないでしょうが! そして違うクラスの奴混じってるわよね!?

 最後にそこの空気なジュン、この状況を何とかしなさい!!」

 全員律儀にツッコミ入れてから、八つ当たり気味に無茶振りしてくるアリアに俺は、

「無理!!」

 超イイ笑顔でサムズアップしておいた。だって巻き込まれたくないからネ!

「ふざけんなあ!? アタシにどうしろっていうのよおおおぉぉぉ!!」

 朝のホームルームに、アリアの絶叫が響き渡った。ハハハ、頑張れ(他人事)

 ちなみにこの騒ぎを傍観していた高天原先生は、

「あらあら、最近の若い子は進んでるわねえ」

 で済ませた。それでいいんですか。

(遠山君、後でどうにかしておいてね?)

 アイコンタクトで命令されました。アッハイ。

 そして騒動の最後、メヌエットがこっちを向いて微笑み、

「ジュンも、よろしくお願いします。ちなみに貴方も気に入りましたので、お姉様と一緒に貰っていきますよ?」

「ユーくんは尚更くれてやんねーぞメヌエットー!」

 ラストで俺にも爆弾を投げやがった。ザマアと笑みを浮かべているアリアと、女同士の争いで歓声を上げてた野郎どもの嫉妬ビームがウゼエ。

 とりあえず一言、俺は景品じゃねえから(←違う、そうじゃない)。

 なおこの後、アリアも巻き込んでメヌエットが散々質問責めにあい、授業どころではなかったのは余談である。時々メヌエットの一言でぶっ倒れてる奴がいるんだが、お前等何言われた?

 

 

「それではジュン、改めてよろしくお願いしますね」

 午後の授業も終わり放課後、溜まり場もとい俺の部屋でメヌ(本人からそう呼んでいいと言われた)が頭を下げた。何か彼女もこちらに住むらしい、やっぱ溜まり場だろここ。

 本来は女子寮にあるアリアのVIPルームで生活する予定だったらしいが、「お姉様がこちらなら私も住みたいですわ」と家主(の筈)の俺に頼んで移ることになった。当のアリアは学校でもみくちゃにされて疲れ果てているため、反論する気力もない。

 VIPルームは維持管理も含めメヌが連れてきた双子のメイド、サシェさんとエンドラさんが住むらしい。主人よりいい部屋を使うことに困惑していた様子だったが、「気にせず貴方達は仲良く使いなさいな」と主人に言われ、顔を赤らめていた。え、別にそんな関係じゃないよな?

 「メヌエットお嬢様をよろしくお願いします」なんて言われたのだが、野郎が住む場所にあっさり置いていいのかね(男女比1:3+1)。まあ、どうあがいても住みそうだから許可したけどさ。

「アリアの妹さん、メヌエットさんだね。星伽白雪です。白雪でいいよ」

「お姉様から話は伺っていますわ、メヌエット・ホームズです。私もメヌでいいですわ」

 帰り道で合流した白雪が、初対面のメヌと挨拶している。アリアの妹ということで白雪にしては珍しく好印象だったようだが、

「ところで白雪、ちょっとお耳をいいですか?」

「何かな? ――――――!? ど、泥棒ネコォ!」

 耳打ちされたら豹変して包丁(どこに持ってた)を振り下ろしたので、間に入った俺が指二本の白刃取りで止めた。「潤ちゃんどいて、そいつ殺せない!」とか言ってるが、包丁は人を切る道具じゃありません、人肉なんてマズイし(違)

 「まあ、(プリンセス)のピンチに駆けつける騎士(ナイト)のようですね、ジュン」とかメヌが嬉しそうに言ってるが、原因あーたでしょうが。

「それと理子さん、いつまで潤ちゃんにくっついてるの!」

「えーいーじゃんいーじゃん。ユーくんだって満更じゃないよね、ね?」

「そろそろ暑い」

「むー!」

 むーじゃねえべ。メヌの宣戦布告聞いてからずっとこうじゃねえか。飯作れんから離れなさい。

 コアラみたいに引っ付いた理子を適当に引っぺがし、アリアの方に放ってから(「アタシに押し付けるな!」と回し蹴りを理子に喰らわしていた、南無)夕食の準備を白雪と始めることにする。二人なら楽だが、同居人増えると料理の負担がヤベーな、これからどうするべ。

 しかも双子のメイドさんから聞いた話によると、メヌも大食いらしい。大脳新皮質の側頭連合野が通常の人間より遥かに発達している――要するに、思考能力が大幅に強化されている分飯もそれ相応の量を食わないといけないらしい。どこぞの名探偵みたいだな、具体的に言うと名前を書くと死ぬノートを巡った戦いを繰り広げたの。

 その量一食で3300キロカロリー。それ以下だと低血糖でぶっ倒れるんだとか。これを聞いた白雪が「そんなに食べてあの体系なの……!?」とか戦慄していたが、まあそれはいい。まさか減量じゃなくて増量の方法で頭を悩ますとは。イギリスではデザートメイン、というかほぼそれだけの食事だったらしいが、流石にアカンやろ。レキ以来の食育が必要そうだが、今回理子じゃなく白雪が一緒なので大丈夫、だと思う。

 「期待していますよ、ジュン、白雪」なんて本人からも言われているので、流石にデザートオンリーの食事はダメ、というか白雪が許さないだろう。何でウチは大食い揃いなんですかねえ、ここはサイ〇人の住処じゃねえんだけど(白目)

「なあお前等、何食いたい?」

「「「美味しいものなら何でも」」」

 出たよ料理人にとって一番困るリクエスト。言った連中はスマ〇ラ始めてるし。というかメヌ上手いな、アリアが速効で吹っ飛ばされてるぞ。

「とりあえず、メヌの歓迎会も兼ねて和洋中色々作るか。白雪、和食の方は頼んでいいか?」

「ハイ、お任せください潤ちゃん! ふふ、潤ちゃんと一緒に作るの久しぶりだなあ」

「そういやそうか。しかしこの量、親戚一同の集まりで料理作ってる気分になった」

 さしずめアイツらは娘とか親戚の子か。全員チビッコだから違和感ない不思議。

「親戚、一緒に料理……は、これも夫婦の共同作業と呼べる!?」

「白雪ー、口より手を動かしてくれ。マジで終わんねえから」

「あ、ご、ごめんね潤ちゃん!」

「だー、また落とされたー!」

「くふふー、アリアん今日は調子悪いね~?」

「あらお姉様、宿敵のリュパンにしてやられるとは、曾おじい様が泣きますわよ?」

「二人してアタシのキャラをお手玉しといて何言ってんのよ!? そんなにいじめて楽しいか!」

「「そりゃもちろん、楽しいよ(です)」」

「アンタらまとめて風穴ぁ!!」 

 うん、アリア嵌められてるのはよく分かるわ。というか理子とメヌ仲いいな、さっきまでの対立ムードどこいった。

 

 

「おー、これぞ正に満漢全席!」

「フルコースじゃないの?」

「和洋折衷じゃないでしょうか」

「いやただのごちゃ混ぜだから」

「あ、あはは……残しても大丈夫だからね?」

 ぶっちゃけ言おう、作りすぎた。和洋中それぞれ五品ずつとか食いきれるかっつの、この後に各人が好きなデザート(俺作)も控えてるんだぞ。

「「「大丈夫、余裕」」」

 だと言うのに、こいつら完食宣言して各々箸だのスプーンだのを持ち出した。食いしん坊万歳ってレベルじゃねえぞ。

「ジュン、そちらのパエリアをいただけますか?」

「はいよ、こっちは付け合わせのスープ」

「潤、私はチャーハン貰っていいかしら」

「あい了解。餃子もあるけどいる?」

「うーん、口臭が気になるのよね」

「後でケアすればいいだろ」

「それもそうね。あら、美味しい。ふふ、半年で随分腕を上げたわね。作ってあげる娘が増えたからかしら?」

「別段そこまで変わってないと思うけどなあ」

 などと現在姉貴の兄貴から褒め言葉を貰いつつ、白雪作の海鮮丼を食う。うむ美味い、やっぱ料理は白雪に適わんな。

「って、カナ!?」

「カナさん!?」

「え、ジュンのお兄さん!?」

「? ああなるほど、女装したジュンのお兄さんですか。遠山金一さん、でしたか」

 突如現れた現在姉貴モードのカナに、メヌ以外の三人は驚いた声を上げる。というかアリアの発言があるとはいえ初見で兄貴と見抜いたのは流石やな。

「はあい、理子と白雪はお久しぶり、ホームズのお二人は始めまして、遠山カナよ。

 色々言いたいことはあるでしょうけど、とりあえず今は夕飯を楽しみましょう」

「「「「それもそうだな(ね、だね、ですね)」」」」

「え、それでいいの!?」

 唯一白雪がツッコミを入れているが、飯が冷める方が問題だから。

「というかジュン、お兄さんがいることはスルーなの?」

「いや、遠山家では日常茶飯事だし」

「何それ怖い」

 

 

おまけ

「ねえ潤、私理子を通して貴方にメッセージを送ったはずなんだけど、どうして来てくれなかったの?」

「飯の準備でそれどころじゃなかった」

「酷い弟だわ……」

 飯の準備中に時間指定してくる奴が悪い(真顔)

 

 

 

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 女子の同居人が増えることにもう何も言わない黒一点。昼休みに嫉妬団と化した野郎ども(剛気含む)に襲われたが、全員ぶっ飛ばしてやった。
 メヌエットの食育と食費の増加を真剣に検討中。とりあえず高カロリーの食事という、女子に対してはまず有り得ないメニューは中々悩みどころらしい。なお夕食は好評でした。


神崎・H・アリア
 妹来日+同居に頭を抱えている姉。直感で何かやらかすだろうとは思っていたが、流石にここまでは予想外だった。
 潤と理子、二人のバカ(爆弾)に追加が入ると考えると、今から頭が痛くてしょうがないらしい。アリアに明日はあるのだろうか。
 どうでも良いが、久しぶりに決め台詞の「風穴!」を言った気がする、
 

峰理子
 ブラド戦の後アリアにも告白していた両刀女子。ちなみにアリアは最初テンパっていたが、「人生初の告白が女からって……」と後で凹んでいた。ドンマイ。
 メヌエットは潤とアリアを巡るライバル――になるかと思ったが、話したりゲームやってる内に意気投合した模様。主にアリア弄りで。


星伽白雪

 新たなライバルにいきなり包丁を振りかぶる武装巫女。ちなみに包丁は自前、マジでどこに仕舞ってた。
 潤と料理するのは何だかんだで楽しい模様。その中でメヌエットにどう対処するか検討していたが、多分暴力はないと思う、多分。


メヌエット・ホームズ
 大好きな姉のアリアが宿敵リュパンの人間に告白されたと聞いて、イギリスからすっ飛んできた妹君。チケットとか荷物の用意は双子メイドが一晩でやってくれました。
 本作では無駄なところで推理力を発揮することが多い。理子とはライバルになる予定で来日したが、予想以上に馬が合う模様。要するにネタまみれでカオスな予感しかしない。
 ちなみに年下なのにアリアと同学年なのは、持ち前の頭脳と多額の『寄付金』を武偵高に提供したため。マネーイズパワー。
 多分原作から一番かけ離れてるキャラだが、正直作者がキャラを把握し切れてない(オイ)。とりあえず、原作のメヌエットはここまで行動力と思いつきで動く人間ではない。


カナ
 待ちぼうけを食らった後しれっと夕飯の席にいた女装男子。なお食べる量は普通、これ以上大食いが増えたら流石の潤でも死ぬかもしれない。
 次回、大切な話をするために登場した。……多分(オイ)


後書き
 はい、というわけで『砂礫の魔女編』と、タイトルだけ借りたメヌエット登場回でした。か、カナが出てるからセーフセーフ(←無理矢理ねじ込んだ)
 いやホントはね、もっと後でも良かったんですよ? じゃあ何で出したのかって? ぶっちゃけキャラが好きなのと後半に出すのが勿体無いから。ロリコンではないです(真顔)
 さて、次回はタイトルのキャラが出て……こないですね、間接的な接触があるくらいだわ(オイ)
 先行き不安すぎますが、投稿ペース落とさないよう頑張ります。艦これの冬イベは終わったけど、今度はFGOが空の境界とコラボしたんだよなあ……と、一型月ファンははまっている模様、もうダメかもしれませんね(白目)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。


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第二話 建前が意味を成さないくらい遊び倒そう(前編)

 サタスペ動画見ながらFGOやってたら遅くなりました(オイ)
 いやあ凄いカオスですねサタスペ、一桁年齢の子が恋人出来た瞬間に子供生むとかどんだけよ……事案発生とかそういうレベルじゃねえぞ




「じゃあジュン、シーン表降ってくださいな」

「へいよ、……『青白く何もかも凍りついた教室で野球拳』。うむ、じゃあ相手は」

「いやいやいやスルーしないでよ!? まず場所おかしいでしょ、そしてそんなとこで野球拳やったら死ぬわ!」

「でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない」

「どこのクズ主人公よアンタは!?」

「あら、何か問題でも?」

「俺以外のプレイヤーが全員女性で面倒な未来しか見えない」

「ジュンも女性だから問題ないのでは?」

「なぬ? ……誰だ人の性別書き換えたのはぁ!?」

「「はい!!」」

「理子はともかく白雪もかよ!?」

「げ、ゲームなら女子同士での交流もありだと思うの!」

「白雪お願い踏み止まって、アンタもそこのバカと同じ領域に行かないで」

「ようこそ、この素晴らしき┌(┌ ^o^)┐ユリィ……空間へ」

「やめなさいバカ! というか夾竹桃はいるの突っ込まないから煽るな!」

「じゃあ潤、ここはお姉ちゃんと勝負してみましょう?」

「中身男同士の野球拳とか誰が得するんだよ」

「負けた方が本当に脱衣っていうのはどうかなヌエっち!?」

「「却下!」」

 アリアと俺のそれ以上いけない宣言が入った。約数名俺を期待した目で見るんじゃねえよ、ここは痴女の巣窟か。

 そんなカオスな状況、俺達が何をしているかというとキルデスビジ〇スというTRPGである。TRPGには造詣が深いメヌの希望で交流を深めるために始めたのだが、もう始まって二時間以上経つのに全然進まないほどアカン状況です。主催者のメヌは楽しそうだからいいけどよ、どーすんだこれ。

 TRPGって何? 遊〇王の闇獏〇がやってたアレ。キルデスビ〇ネスって? ググってアマゾンでルールブック買うか動画を見よう(←ステマ)

 そして何気なく姉貴と夾竹桃(観戦)も混じってるが、アリア以外誰もその存在に突っ込まない。つーか姉貴は何しに来た。

 いい加減gdgdが止まりそうにないので一旦休憩に入り、全員がお茶を飲んで一息吐いたところで、姉貴が「大事な話があるんだけど、ちょっといいかしら」と切り出してきた。

「大事な話? 姉貴、遊びに来たんじゃないのか?」

「そもそも死んだことになってるカナが普通に来てる時点で何かイベントがあると予想して然るべきなのですよユーくん」

「シーン的には姉弟の決別シーンかしら」

「姉弟ちゃう、兄弟や」

「……潤はともかく、理子と夾竹桃は話の内容を薄々察してるんじゃないの?」

「「いや、退学になってから一切の情報仕入れてないし」」

「……」

 元イ・ウー面子×2のセリフに、額で手を押さえる姉貴。連帯感ねえなこいつら。つーかイ・ウー普通に言ってるが大丈夫か。……メヌ以外は既知だし、そのメヌも普通に知ってるだろうから今更か。

「というか何? ジュンのおにい、いやお姉さんって死亡扱いだったの?」

「あら、お姉様知らなかったのですか?」

「いや聞いてないし……そこの三人が普通に話するから、てっきりしばらく会ってないだけかと思ってたわ」

 そういやアリアに事情説明してなかったか。俺は兄貴生きてるの確信してたから伝えてなかったし、理子は生きてるの知ってるからどうでもよさげだし、白雪は素で忘れてたのか「あ」とか言ってるし。総評、どうでもいいから忘れてた。

「貴方達、武偵なら情報共有くらいしておきなさいよ……」

「というかお姉様、遠山金一武偵が関わったアンベリール号の事故は一時期話題になってましたよ? 海外でも報道されたくらいですし」

「あ~……興味ないから忘れてたわ。言われてみればジュンと同じ苗字ね」

「興味ないって……弟のパートナーに忘れられる私って……」

 床にorzする姉貴を、夾竹桃が慰めている。知名度が高いのに関係ありそうな相手が忘れてるとはこれ以下に、灯台下暗しか(違)

「……まあいいわ。それで潤、今日来たのは貴方に話しがあるのよ」

「姉貴の影の薄さについてどうするかか」

「女装美人なのに目立たないとか、流石理子達個性的だね!」

「それはいいから! というかこの面子なら白雪も目立ってないでしょうが!」

「え、ここで私に飛び火するの!?」

 まさかの名指しに白雪驚きだが、目立ってないなんてことないだろうに。理子と毎回素手でガチの殴り合いしたり、初対面のメヌ相手に包丁振りかざしたりとか色々あるぞ。

 話が進まない中、メヌがポンポンと手を叩く。

「皆さん、ここはミス・カナのお話を聞きましょう? 影が薄いのに関しては言及する必要はないのですし」

「それ影が薄いのを認めろってことよね」

「何でそうなるのよ……」

「あら、ではその理由を小舞曲(メヌエット)のステップの如く、順を追って話しましょうか?」

「……もう何も言わないわ。じゃあ単刀直入に言うわよ、潤」

「おう」

 ホームズ姉妹から地味にダメージを受けつつも、姉貴は気を取り直してこちらに手を差し出し、

 

 

「私と一緒に、神崎・H・アリアを殺しましょう?」

 

 

 俺は迷わず姉貴に向けてキット〇ットを持っていない手でUSPを全弾ぶっ放した、姉貴お得意の『不可視の銃弾(インヴィジブレ)』で。それを姉貴はいつの間に持っていたのか、引き出しに閉まっていた遺品として渡されたバタフライナイフで誰もいない方へ弾き飛ばしていく。

 全員がポカンとしている中、姉貴が不満そうに口を開く。

「ちょっと、何するのよ潤?」

「いや、姉貴があんまりにも阿呆な発言をするもんだから、風穴開けてやろうかと」

「ちょっと潤、それあたしの決め台詞!?」

 決め台詞の自覚あったんかアリア、でもほとんど使ってないよな? というか言うことそれかよ。

 しかし、イ・ウー行ってる間に我が()は頭が沸いてしまったのだろうか。そもそも人殺しなんて柄じゃねえだろうに。

「……まあそうよね、貴方ならそう言うと思ったわ」

「分かりきってることを聞くのは時間の無駄だろうに。まあアリアを殺るっつうなら相手になるが?」

「やらないわよ、この人数相手に挑むほどバカじゃないし、今の質問は意思確認みたいなものよ。でもまあ、これで『第一の可能性』は潰えたも同然ね。そうなると『第二の可能性』、か」

 姉貴はどこか満足そうに頷き、「用も済んだし帰るわ、ご馳走様」と席を立つ。颯爽と去っていく美人(だが男だ)の背中に、

「姉貴」

 声を掛ける。「何?」と振り向く相手に対し俺は――溜息を吐いた。

「そういう思わせぶりな発言は誤解を招くって前も言っただろ? 意味わからんし厨二病と変わんねーぞ」

「貴方はホント、姉のプライドというか尊厳を傷付けていくわねえ……!」

「知らんがな、言い回しがメンドクサイ姉貴が悪い。ああそうだ、俺渡すもんあるんだった」

「あら奇遇ね、こっちも渡し忘れてたものがあったわ」

 俺が立ち上がり、姉貴も振り返って正面から相対し――同時に拳を振るう。

「いっつ!?」

「リョウギ!?」

 結果、姉貴は肩の辺りを押さえ、俺はソファー辺りまで吹っ飛んだ。ボディーやめろよ吐くだろーが。

「って、いきなり発砲したり殴ったりなんなのよ!?」

「俺は姉貴のアホ発言とHSSの負担軽減の秘孔突き」

「私は以前どこかでバカにされた気がしたのと、ナイフを返すため」

「後者だけを普通にやればいいでしょうが! なんでそこに暴力が加わるのよ!?」

「「いや、遠山家ではいつものことだし」」

「それで全部済ませられたら頭おかしいわ!?」

 アリアに頭おかしい宣言されたが、事実だからシャーねーべ。というか日常的に理子の折檻してるお前さんに言われたくねー。

「これが姉弟喧嘩、生で見るのは初めてだけど楽しそうね。お姉様、今度メヌと一緒にしませんか?」

「目をキラキラさせて言うんじゃないわよメヌ!?」

「キャットファイトのジャッジは理子にお任せアレ!」

「アンタは思い出したように茶々入れるんじゃない!」

 何かメヌの妙なツボを刺激しちまったらしい。とりあえず、喧嘩はそんなにこやかに誘うもんじゃないだろ。というか喧嘩でもねえし。

 

 

「ユーくんユーくんユーくん!」

「人の名前を呼ぶ時は一回にしなさい」

「ユーくん!」

「よし、おk」

「いや何がよ!?」

「何がって……何だ!?」

「知らんわそんなの!」

「流石ユーくん、何か考えてるようで何も考えて無いスタイル!」

「私達には出来ないことを平然とやってのけるのね」

「痺れも憧れもしないけどね!」

「いやあ、それほどでも」

「褒めてないわ!」

 以上、話が始まるまでの一連コントでした。戦略室ではボケてたから心配だったが、アリアのツッコミはメヌを加えて衰えどころか更に磨きが掛かっているようだ。

「んで理子、いつも通り騒がしいけど何ぞ」

「そうだそうだクリームソーダ、ユーくんこの依頼一緒に受けようよ!」

 理子が差し出してきた依頼書は、どうやらリニューアルしたカジノの警備らしい。名称は『ピラミディオン台場』。……うーむ、

「何よ、変な顔して。アンタにしては珍しく渋ってるの? いつもは他の武偵が嫌がったり馬鹿にするようなのも嬉々として受けるくせに」

「いえお姉様、メヌエットの推理では目の動きを見るに警護するカジノの名前に不満があるのかと」

「あ、それは理子も思った! セトとかアヌビスとか、良さげなのがあるのにね~」

「いや店の名前なんてどうでもいいでしょ……しかも理子、それ両方冥界関連の神様じゃない」

「ピラミッドだと金の墓地みたいで縁起悪いし、どうせならファラオとかにすりゃいいのにな」

「ホントにそれで悩んでたんかい!?」

 「アホか!」とアリアは叫ぶが失礼な、名前付けは重要なんだぞ。特に由来のあるものは影響を受けやすい、これSSR豆知識な。

「まあそれはいいや。で、この客がミイラになりそうな店の警備ね。お前が遊びたいだけじゃねえのか?」

「イエス! さっすがユーくん良く分かってるぅ!」

「いやそこは否定しなさいよ!? そもそも警備の仕事受けるのに遊ぶの前提とかおかしいでしょうが!」

「えー? でも依頼書にはお客役もあるし、警備に支障の無い範囲なら遊んでいいって書いてあるよ~? だからノープロブレム!」

「だからってねえ……」

「では理子、私もお客として仕事を受けますので、貴方はお付きのメイドとして二人一組(ツーマンセル)で動くのはどうかしら?」

「それだ! ヌエっちナイス提案!」

「なんでメヌまでノリノリになってるのよ!?」

「話を聞いてたら久しぶりにやりたくなってきたので。ふふふ、イギリスで見せた私の腕前、再び振るう時が来ましたね」

「それはやめなさい!? あの時カジノを荒らしまくってお父様と経営者が胃を痛めてたでしょうが!」

「何それ楽しそう。メヌ、サポートは十全にやるから存分に暴れてこい」

「理子もパーフェクトメイドっ振りを見せてヌエっち無双をサポートするぞー!」

「ふふ、二人にここまで言われるなら、本気を出さざるを得ないわね」

「やめんかバカどもーーーーーーーー!!!!!」

 煽る俺と理子に額への肘打ちが決まり、メヌは説教された。この扱いの差は何であろうか。耐久力か(適当)

 

 

「というわけで、カジノ警備の予行演習として――死になさい」

「二重の意味でいきなり何!?」

 帰り道の最中、何やら話し始めようとしたメヌが、いきなり表情を変えてイギリスの旧軍用ライフル、リー・エンフィールドを構える。アリアがツッコミを入れる中、鉛球ではなく圧縮された空気が吐き出され、

「よっと」

「ズェア!」

 数発のうち二発は俺と理子に飛んできたので、俺はUSPで、理子は素手で弾いた。「おおぉ、ジンジンするぅ……」とか隣の阿呆が言っているが、そりゃ素手でやればそうなるでしょうよ。

「あら失礼、鬱陶しい虫がいたもので」

「こいつはともかく、俺を害虫と申すか」

「ちょ、ユーくんヒド!? じゃあ理子は某Gの如くユーくんに近付くよ!」

「ちょっと台所からゴ〇ジェット持って来るわ」

「いやアンタ達撃たれたことには何もないの!?」

「「だってアリア(ん)の攻撃よりは弱いし」」

「人を人間兵器みたいに言うな!」

 この間パンチ一発で鉄板をへし折った奴が何を言うか。もう下手な拳銃のヘッドショットよりアリアの鉄拳制裁の方が怖いわ、見学してた奴等全員が「折れたぁ!?」って驚いたんだぞ、俺含め。

「まあ、この銃は象でも撃ち殺せるくらいの出力に調整できるよう改造しているのですが、それよりも強いお姉様の拳は凄まじいものですわね」

「アタシの拳は至近ショットガンクラスと言いたいか!? というかメヌ、アンタその銃にどんな魔改造施してるのよ!?」

「魔はいりませんわ、お姉様。そちらのお二人には最大出力でも手で弾かれてしまう程度ですし」

「アンタ二人に恨みでもあるの!? いやいやいやそれ以前に最大出力で撃ったら反動で引っくり返るでしょうが!?」

「あら、姿勢制御と反動流しが同時に出来れば、普通の拳銃撃つのと大差ありませんよ?」

「そんなバトル漫画みたいな超理論できるか!」

「力学要素を軸に組み立てれば簡単だろ、俺でも出来るし」

「何か普通に出来るとか言われたし!? アンタ達やっぱ頭おかしいわよ!!」

「「いやあ、それほどでもない(です)」」

「だから褒めてないわ!」

 天丼は基本。まあアリアもやり方さえ分かれば直感で出来るだろ、理子も普通にやれるし。

「では、お姉様の横槍が入りましたが」

「誰のせいよ……」

 疲れた声でアリアは言うが、メヌはスルーし改めて告げる。

「というわけで、カジノ警備の予行演習としてお祭りに行くのを提案しますわ」

「……は? いやいや、それと祭と何の関係があるのよ」

「自慢になりますが、私は日本に来るまで一年以上自宅で己の趣味に時間を費やしていました」

「「自宅警備員ですね、分かります」」

「それ自慢することじゃないでしょうが!?」

「なので正直、人ごみの中に慣れていません。はっきり言うとキツイですね、空港降りたときも人酔いしそうになりました」

「よくそれで武偵高に来ようと思ったわね……」

「メヌ頑張りました、お姉様褒めてください」

「あーはいはい、偉い偉い」

 雑な感じにアリアが頭を撫でているが、メヌはそれでも嬉しそうに受け入れている。これが麗しい姉妹愛という奴か、横の理子が興奮しながらスマホで写真撮ってるから台無しだけど。

「ふぅ、堪能しました。さて話が逸れましたが、私は人ごみが苦手ですし集団行動も慣れていません。なので夏祭りに向かい、付け焼き刃ですがこれらを克服したいのです」

「まあ理由としては妥当だな」

「お祭なら一年に二回の祭典が一番だけどね~」

「あれもその内行きたいわ」

「……で、本音は?」

 同調する俺達三人に胡乱気な視線を送るアリアが聞くと、メヌは小さく微笑み、

「日本のお祭が実際にどんなものか興味がありますの。絶対に落ちないよう仕掛けられてる射的の景品を落として、屋台の人が信じられないって顔をするのを見たいですわ」

「前者はともかく後者はゲスい理由ね!?」

「この計画はジュンと理子にお願いしました」

「行き方と人ごみ対策なら任せろバリバリー」

「メンバーは理子が知り合いに連絡掛けてるよ!」

「うわあ不安しかない!?」

 頭を抱えるアリア。失礼な、俺達二人がパーフェクトプランを提出してやろう(←フラグ)。

「あ、潤ちゃん! お肉安かったから大量に買っておいたよ」

「白雪ちょうどいいところに! 実はこいつらがお祭行きたいって」

「もうその話してるんだ? じゃあメヌちゃん、出掛ける前に浴衣の着合わせしようか」

「はい、お願いしますわ白雪」

「当然のように行く流れになってる!?」

 理子が事前に連絡しておきました。そうしてもう覆せないと悟ったのか、アリアは深い溜息を吐いて諦めた。まあ意地になって「行かないわよ!」と言わないあたり、アリアも人付き合いがいいのだろう。拒んだら行くと言うまで説き伏せるけどな、俺とメヌで(ゲス顔)

「次回、お祭編! 女子メンバー一同の浴衣姿に乞うご期待! 詳細はみんなの脳内だけどね!」

「一番期待してるのはお前だろ理子」

 カメラ取り出してるし。あとその次回予告は誰に向かって言ってるんだ。

 

 

おまけ

「そういえばメヌ、さっきいきなり発砲したのは何だったのよ? 二発は何かの虫落としてて、バカ二人が弾いた弾で他にも落ちてったみたいだけど」

「あら、お姉様気付いたのですね。それはこれですわ」

「……それってフ」

「アリア、タマオシコガネだよ。フから始まるのじゃなくてタマオシコガネ、いい?」

「アッハイ」

「和名はアレなスカラベな。エジプトでは聖虫として扱われ、SSR的に見れば護符の材料や使い魔の一種だ」

「……え、ちょっと待って。何となく嫌な予感はしてたけど、もしかして」

「うん、これ呪術が込められてるね。多分、接触されたら不幸な事態に遭うタイプの」

「虫にはセキュリティーも反応しないしなあ」

「うわあ……メヌ、アンタよく分かったわね」

「動きが野生の昆虫に比べて違和感があったので。まあ私がどうにかしなくてもジュンが対処してくれたでしょうが」

超能力(ステルス)持ちが視れば独自の気配を放ってるしな。誰か心当たりはないか? ちなみに俺はありすぎて絞ってる」

「多すぎるってどんだけ恨み買ってるのよ……というか忘れがちだけど、アンタと理子超能力(ステルス)持ちなのよね」

「うーんと、元だけどイ・ウーにパトラっていういかにもエジプト! って感じの魔女ならいたね~。『わらわはエジプトの王であり世界の支配者となるのじゃ!』とか常々言ってた」

「何そいつイタイ」

「誇大妄想家ですかね?」

「ホームズ姉妹の感想が地味にキツイ件。まあ十中八九そいつで間違いないだろうな、とりあえず直接接触しない限りはエジプト系の使い魔に気を付けてればいい」

「だねー。アリアんとヌエっちは直感と推理で区別できるし、ユキちゃんと理子と(一応)ユーくんには超能力(ステルス)があるし」

「一瞬の間に悪意を感じる」

「まあ超能力(ステルス)持ちで引っ掛かるのは、余程抜けてるか油断大敵! な人だけ――あ」

「…………」(松葉杖と医療用眼帯をしている)

「……えっとジャンヌ、ドンマイ☆」

「見るな、私を見るなあああぁぁぁ!!」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 兄(姉?)にヘッドショットを容赦なくぶち込む弟。武偵法とはなんだったのか。
 女装の反動でいつもよりふざけている……筈だが、いつも通りに見えるのは作者の感覚が麻痺しているのだろうか。

神崎・H・アリア
 パンチ一発=至近ショットガンな武偵。その内素手でモビル〇ーツを破壊できるようになりそうで怖い、作者が。
 全方位がボケだらけでツッコミ過労死するレベル。助けてワトソン!

峰理子
 メヌエットの加入で更に加速しだしたボケトリオの一人。そしていつの間にか仲良くなる人たらしスキルはどこぞのサルレベルかもしれない。
 元とはいえイ・ウーメンバーのパトラを『イタイ奴』認定させた。そしてジャンヌにもとどめのダメージ。お前イ・ウーメンバーに恨みでもあるのか、ブラドはともかく。

星伽白雪
 カナに影の薄い奴言われた武装巫女。でもこの作品では(アリアの)数少ない癒やし枠なので、いないと死ぬ、アリアが。
 お祭りに関しては思い出補正もあり、潤達に誘われれば絶対に行く。というか新規加入のメヌエットに浴衣を用意するぐらいには積極的。

メヌエット・ホームズ
 TRPGでふざけたり理子と潤の三人でふざけたり、所々毒舌を混ぜたりと現在の生活を満喫している模様。笑顔も多く見られるが大半あくどいのは性分か。
 一年引きこもっていた結果、TRPGやネットゲーム、SNSなど原作より色々なものに手を出している。そのためリアルは少ないがネットの友人は多い。

カナ
 女装美人というこれ以上ない目立つ配役で影が薄い呼ばわりされる人。というよりいじられキャラになりつつあるかもしれない。
 遠山家で拳の語り合いは基本、別に毎回やっているわけではないが。

ジャンヌ・ダルク
 出番あるたびに不遇なお人。見た目はセイ〇ーだが幸運:Eでも付いているのだろうか。
 
 
後書き
 そろそろジャンヌファンにぬっ殺されても文句言えないかもしれない。だがやめない!
 はいすいません、調子乗りましたゆっくりいんです。本編進むと思った? 残念次はお祭り回だよ!
 ……もう話が進まないってレベルじゃないんですが、でもネタが思い浮かんじゃうんですよね……というかネタを取ったら何が残るんだこの小説。……何も残りませんね(笑)
 さて二回目ですが、次回はお祭り回です。女性陣の浴衣姿は皆さんでご想像ください。というか作者が見たい、イラスト掛ける方オナシャス!(ねだるスタイル)。
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。


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第二話 建前が意味を成さないくらい遊び倒そう(後編)

 エイプリルフールネタ? えーとじゃあ、理子が潤を呼び出してドッキリ成功した場面について詳し「ヤメロォ!」はいやめます


「アリアー、着替え終わった?」

 ヒュッ ドス

「一応ね。やっぱり和服って着るの大変だわ」

 ヒュッ ドス

「慣れればそんなでもないよ? メヌちゃんはどうかな?」

 ヒュッ ドス

「お姉様の言うとおり、着るの難しいですわね……白雪、お願いできますか?」

 ヒュッ ドス

「いいねいいねえ、美少女達の着替えシーンにりこりん興奮します!」

 ヒュッ ドス

「下着姿で撮影してないで、アンタもさっさと着替えろ!」

 ガタンッ

「アリアーん、今廊下にはユーくんだけじゃなくゴーくんもいるから、下手なこと言わない方がいいよー?」

「あ……ゴウキ、変なこと考えてたらぬっ殺すわよ!!」

「何で俺だけ!?」

「信用度の問題じゃね? 我等が変体紳士武藤剛気くん」

「男は誰だって変態紳士なんだよ!!」

「ぬいぬいー、ちょっとゴーくん外に放り出してちょ☆」

「武藤くん、とりあえず外に出てようか」

「お前までそう言うか不知火!?」

 そら言うだろうよ、リンチの対象になりたくないし。

 現在祭りに行くため女子達がリビングで浴衣に着替えているので、俺達野郎は廊下で座りながら待っている。主に(変態)が中へ突撃しないための監視だけどな。俺? アイツらが騒ぐのは慣れてるし女の園(地雷原)でタップダンスする趣味はねえ。

 ちなみに俺は浴衣だが、他二名は普通の私服。風情ねえなあ、まあ野郎なんてそんなもんかもしれんが。制服じゃないだけましか。

 ヒュッ ドス

「ところでよ潤、さっきから何でフ」

「タマオシコガネな、その名前言うと白雪が凄い顔するから」

「……虫を針で仕留めてるんだよ」

 無難に逃げたな、まあ千本(暗器のでかい針)でスカラベの串刺しオブジェを量産してれば気になるわな。というかパトラとかいうエジプト女、どんだけ呪おうと必死なんだよ。もう三十匹以上は仕留めてるぞ。

「SSR的に言うと、使い魔とかサーヴァントってやつ」

「げ……触られるとヤバイのか?」

「男だと女難の相、女ならストーカーに遭うな」

「ちょっと一匹捕まえてくるまみっつ!?」

 ガチで信じそうになった悪友(阿呆)の足に千本を投げつけてやった。ホント、女関係だと知能指数が猿並になるなこいつ。

「あれは嘘だ」

「てめえやっぱり騙しやがったのか!」

「武藤くん、割と本気で信じてたよね?」

「目がガチだったしな」

「お前等には男のロマンが分からないのか!?」

「「いや、まったく」」

「ちくしょう、まともな男は俺だけか……!」

 お前が男の基準だったら大半はアリアにボコボコにされるわ、というか日常的にボコられてるのにほんとこりねーな。

「ところで遠山くん、話は変わるんだけど」

「ん、何よ唐突に悪い顔して」

 トポー食いながら亮にも勧めると、礼を言って一本受け取ってから口を開く。

「結局、遠山くんは誰がいいのかな?」

 

 

 その一言で、リビングの黄色い声がピタリと止まった。

 

 

 え、何この空気。扉越しに聞き耳立ててる気配するし。トポーボリボリしてても分かるんですけど。

「ああ、それは俺も気になってるな。いい加減のらりくらりかわしてないでキリキリ吐け潤」

「普段話題にあがらねえだけだろ」

 こいつか理子か俺のテンションがハイになってバカやるのがお決まりなだけだし。

「神崎さん、星伽さん、峰さん、レキさん、最近だとホームズさんもだね。みんなそれぞれに魅力的な女性だけど、遠山くんはどの子がタイプなのかな? 普段飄々としてる君がどう思ってるのか、是非気になるんだよね」

「おい潤、星伽さんは譲ったんだから素直に吐けや」

「二回言うなよ」

 そういえばこいつ、以前そんなこと言ってたな。「泣かしたら承知しねえぞ!」とか血の涙流しながら。唐突で意味わからねえしウザかったからサマソで撃退したけど。

 とりあえず浴衣を掴む腕を軽く捻ってやった。「腕が、腕がああ!?」とか叫んでるが、騒ぐなよ関節外しただけだろ。

「んー、って言われてもなー」

 剛の関節を戻してやりながら(ゴキンという音と「うわらば!?」と汚え悲鳴が聞こえた気がしたが、無視)、俺は思考する。揃いも揃って美少女揃いだし、好みはあれど魅力的と言えるだろう。だけどそれとこれとは別な訳で。

「ひょっとして、向こうに嫌われてると思ってるのかな?」

「いや、嫌いなやつと好き好んで一緒にいる訳ねえだろ。そこまで鈍くねえよ」

 どこの鈍感主人公だっつの俺は、アイツらがどう思ってるかくらい理解してるわ、言動が明らかにそうだし。

 扉越しから安堵の息が聞こえた気もするが、気のせいということで再度考える。

「う~~~~~~~~~~~~~~~~ん……うん?」

「いや、そんな逆瞑想しながら考えなくても……」

 亮が止めるが、正直このまま頭部だけでスピンしたい気分だ。禿げそうだからやらんけど。

「ごめん、嫌なこと聞いたかな?」

「いや、そういう訳じゃないんだが。うーん?」

「昔何かあったのか?」

「いや、大したことじゃないんだが。十くらいのガキの頃なんだがな、ロリショタがドストライクの二十歳くらいの変態女にストーカーされたことあるんだよ」

「おい何が原因だよ超羨ましいじゃねえか」

「両手にチェーンソー持って100キロババアよろしく全速力で一日中追っかけられたんだよな。危うく両手両足持ってかれそうになった」

「「……」」

 正直に言ったらなんか気まずい空気になった。亮も笑顔のまま冷や汗流してるし。何ぞ。

「……いやいやいや、冗談だろ?」

「冗談だったらいいんだけどなあ」

「……ひょっとして僕、現在進行形で遠山君のトラウマ抉ってるかな?」

「いや、別に? ただそういうのもあったり育った環境の影響で、恋愛に肯定的になれないだけ。否定もせんけど」

「逆にそれで女性恐怖症になってないお前がすげえよ……」

 何か剛が感心してるし亮もウンウン頷いてるが、こんなんでトラウマなってたら武偵なんてやってられんやろ。まああとは純粋に、恋愛より他の方に興味あるってのもあるが。

「うん、この話は終わりにしようか。そろそろ女性陣も着替え終わるだろうし」

「そうだな。ん、噂をすればなんと――うお、どうしたお前等?」

 リビングから出てきた白雪と理子がいきなり抱きついてきた。え、何この展開。

「潤ちゃんごめんね、知らなかったとはいえ怖かったよね……! 大丈夫、私は怖くないから!」

「いや、お前が怖くないのは知ってるけど」

「ユーくん、これからゆっくり知っていっても遅くないから、理子達と一緒に頑張ろう……!」

「何が? 何を知るんだ?」

「ジュン、もし辛いことあったら隠さず言いなさいよ?」

「貴方は一人じゃないんですよ、ジュン?」

 白雪と理子は涙目で見上げるし、ホームズ姉妹は優しい顔で頭撫でたり手を握ったりするし、少し離れたところにいるレキ(黙ってたけどいた)も心なしか同情的な視線だし。いつもならこういう光景にキレる剛も男泣きしてるし、亮は「ちょっと失礼」とか言って顔背けてるし。

「……ワケワカメ」

 当事者置いてけぼりにして感動的なシーンにしないでくれ。空気呼んで小声で言ったけど。

 

 

「ジュン、帯が崩れたので直してくれませんか?」

「ん? 白雪直した方がいいと思うが、まあいいぞ」

「はい、ではお願いね」(ヒョイ、トコトコ)

「おう」

「「「「「…………」」」」」」

「これで良し」

「はい、ありがとうございま――」

「ってちょっと待てええええぇぇぇぇぇ!!!! 何、何でメヌ車椅子から立ってるのよ!? え、これ夢!? ジュンが平然としてるから夢っぽくないけど!!」

「実はお姉様を驚かせたくて黙っていました、テヘ☆」

「テヘ☆ じゃないわこの妹はああああぁぁぁ! 

 ああ、もう……治ったなら早く言いなさいよぉ……」

「お、お姉様?」

 一旦落ち着いたと思ったら、メヌの爆弾発言によりアリアが嬉し泣きし、妹は珍しくオロオロしていた。白雪とかももらい泣きしており、電車等に乗り遅れたのは言うまでもない。

 最後にメヌが歩けるの黙ってた理由なんだが、「車椅子に乗ってるとそれだけで他の方が優しくしたり侮ってくれるじゃない? 後はキャラ付けかしら」とのこと。まだ歩くのがしんどいのもあるらしいが、それはそれでどーなんよ。他の人には黙っててくれとも頼まれたし。

 

 

「ジュン、祭りの最初と言えばわたあめよね! 早速行くわよ!」

「あらお姉様、最初にはかき氷ブルーハワイという謎の味を試すのが相場じゃありません?」

「チッチッチ、アリアんもヌエっちも分かってないなあ。まずはりこりんが購入してきたネコカ○スのお面を付けるのが通例だよ!」

「そんなものはない」

「アリアにメヌちゃん、まずは焼きそばとかたこ焼きを食べに行こっか? 甘いものは後からでも大丈夫だし、無くなったりしないからね?」

「よしじゃあユーくん、お面ドゾー」

「ドモドモー。――オイ、ニボシ買ってこい」(←ジョージボイス)

「「「ブフッ!?」」」

 アリア、理子、剛の三人が吹き出す、ここまでテンプレ。ちなみにレキは白雪の袖を掴んで目線で何かを訴えていた。口で言いなさい口で。

 さて、出る前幾らか食わせておいたが、果たしてこいつらはどれくらい食うのか。とりあえず財布の貯蔵が十分なことを祈ろう。

「あ、遠山の兄貴!」

 SP(サイフポイント)の心配をしつつ理子たちを先導していると、たこ焼き屋の方から声を掛けられた。顔をそちらに向けると、染めた金髪の痩せたいかにもチンピラと言った風体の男が、人懐っこくこちらに手を振っている。

「おう藤木林(ふじきばやし)、久しぶり」

 チンピラ、藤木林に手を挙げて挨拶すると、横から理子が出てくる。

「お、ユーくんこの人誰? 男の子の知り合いなんてレアですな~」

「いや、野郎の知り合いくらいいるからな?」

 寧ろ武偵高だけじゃなく、依頼や個人の関係で親交のある奴は女子より多いし。何で女の知り合いばっかだと思われてるんだ。

「お、また姉御に負けず劣らずの美人な彼女さん連れてるッスね~、相変わらず兄貴はモテモテのようで」

「今のセリフ録音したが、菊代に送っていいか?」

「すんませんマジ勘弁してくださいッス」

「くふふ~ユーくん理子彼女さんだって! だって! ――で、その女誰?」

「ヤンデレの真似してんじゃねえよお前知ってんだろ」

「何ジュン、アンタ学外でも女引っ掛けてたの?」

「アリアの中で俺のキャラが女たらしになりつつある模様。菊代は中学時代のパートナーだよ、今はヤクザの親玉を立派にやってる。

 で、藤木林は組の下っ端で、昔ちょっとした縁があって知り合った」

「うす、兄貴の彼女さん達とお友達さん初めましてッス! 自分藤木林って言って、兄貴には昔危ないところを助けてもらったッス!」

「いや、別に彼女じゃないんだけど」

「そうだよ、私は潤ちゃんの――恋の奴隷です!」

「イケナイイイ仲希望です!」

「大切な玩具(オモチャ)ですわ」

 お前等何好き勝手に言ってんだ、それとメヌは後で屋上な。

「いやあ遠山君、凄いモテっぷりだね」

「チクショウ、何で潤ばっかり……!」

「分かる、分かるッスよツンツン頭の人……兄貴の人柄からモテるのは分かるんスけど、男として、こう、負けた気分に……!」

「分かってくれるか!」

「もちろんッス!」

 野郎二人がガシリと硬い握手を交わす。お前等鉄板の上で何やってんだ。

「まあいいや、えーと注文いいか?」

「お、お買い上げッスか。モテモテの兄貴ならここで男の甲斐性を見せてくれるッスよねえ?」

 藤木林がニヤニヤしながら聞いてくる。ほう言ったな、後悔するなよ?

「じゃあたこ焼き十個入り、二十パックで」

「へい毎度、ってえええ!? いやいやいや冗談ッスよね!?」

「残念ながらウチの連中は食いしん坊万歳上等な連中ばかりなんでな、冗談でもネタでもなくガチだ」

「マジッスか……おーい朝青(あさお)来てくれ、大量注文入った!」

「あん? なんだよそんな大量の客が来た――って、遠山のアニキ!?」

 屋台の奥から丸刈りのデブもとい体格のいい男、朝青が顔を出し、俺を見て驚いた声を上げる。

「おう朝青も久しぶり、とりあえずこれで二十パック頼むわ」

「へ? いや二十パックって――アニキ、これ1.5倍の額払ってますよ?」

「無茶な注文頼んだ分の色付けだよ。休憩の時に使うなり、菊代のご機嫌取りの足しなり好きに使え。小遣い程度だけどな」

「「あ、兄貴(アニキ)……」」

「その代わり最速、且つ美味いの作れよ? 生焼けとか出したら承知しねえぞ」

「「了解ッス(です)!」」

 二名がやたら感動した顔で声を揃えると、真剣な顔付きでたこ焼きを作り始めた。これなら美味いの期待できそうだな。

「潤さんは女たらしというより人たらしですね」

「僕もそう思うよ」

 おうレキに亮、俺に妙な称号付けんじゃね――

 ガシャン!!

「あ?」

 妙な金属音が聞こえたので手元を見てみると、左腕に手錠が掛かっていた。

「は、え、何?」

 武偵がいきなり手錠されるとか意味わかんねーぞ。俺が何したよ。

「さ、桜ちゃんどうしたの!?」

「あかり先輩、皆さん、手伝ってください!」

 聞き覚えのある声にそちらを振り向くと、警官制服姿の乾さんを先頭に、間宮さん率いる後輩ズがこちらに駆けてくる。

 周りが何だ何だと騒ぐ中、手錠を片手に持った乾さんは音が付きそうな勢いで指を差し、大声で告げた。

「その人は『悪』、危険です! 私の勘がそう告げています!」

 ……こういう時、どういう顔をすればいいんだろうか。

 

 

「すいませんでした!!」

 野次馬を退けて場所を移動してからしばらく、土下座しかねない勢いで椅子に座る俺に乾さんが頭を下げてきた。

「いや、もういいって。乾さんに悪気が無いのは分かったから」

「でも、武偵高の先輩を犯罪者と間違えるなんて……」

 乾さんはしょんぼりしている。何度目だこのパターン、落ち込むのは分かるが面倒くさくなってきたぞ。

 ちなみにアリア、理子、剛、休憩に入った藤木林、朝青の五人は未だ爆笑している。メヌも時々「クス」と笑いを漏らしているし、俺の代わりに白雪が「私、怒ってます」って顔してるから怒るに怒れんし、間宮さん達は(火野さんと夾竹桃を除いて)何故か『当然の報いだ』って顔してるし。

「もうお詫びもしてもらったし、気にするなって、な? 誰にだって間違いはあるんだから」

「お詫びといっても、買出しを頼まれただけですし……」

 乾さんは自分が買ってきた食い物の山(代金は俺と白雪持ち)を見て、この程度でいい訳が無いといった顔をしている。こっちとしてはこの人混みの中行ってくれただけで大助かりなんだが、どうしたもんだか。

 まあとりあえず、

「いつまで笑ってんだコラァ!」

「ガブスレイ!?」

「マラサイ!?」

「ハイザック!?」

 いい加減ウザイので、まず手近にいた藤木林と朝青、ついでに剛の三人をぶん殴っておいた。その後アリアと理子も殴ろうとしたが、あっさり避けられてしまう。

「レディーの頭を軽々しく触ろうとするなんて、失礼ねジュン……プッ」

「ユーくん暴力はんたーい! ……ぶはっ」

「うるせえよ、武偵が軽々しく暴力反対とか言うんじゃねえ! そこに直れ!」

「あら、アタシ達に勝つつもり? 無謀ね」

「くっふふふー、久々りっこりこにしてやんよユーくん」

「上等だコラァ! 火事と喧嘩は江戸の華ー!!」

「ここ神奈川だけどね」

 アリアの妙に冷静なツッコミが腹立つ。なお、当然勝てるわけもなく返り討ちにされました。素手じゃこいつら二人は流石に無理だよチクセウ。

 ちなみにさっきの逮捕騒動は『人ごみにおける迅速な逮捕術の試験』ということで誤魔化しておいた。我ながら苦しい言い分だと思うが、乾さんが美少女だからか納得どころか拍手が起こっていた。やはり世の中美貌か。

 

 

おまけ どこぞの海上で

「ぐぐぐ……連中め、何故妾の使い魔をこうも簡単に退けるのじゃ!?」

「そりゃ隠行系の超能力(ステルス)使ってるわけでもなく、同じ種類の使い魔じゃ簡単にやられるでしょうよ……ねえパトラ、呪うのは諦めて拠点の強化でもしたら? その方がずっと建設的よ」

「嫌じゃ、誰も呪えないなどわらわのプライドが許さん! 呪いが成立するまで続けるのじゃ!」

(ジャンヌの呪いは既に成功してるんだけど……最初が拍子抜けなくらい簡単だから忘れてるみたいねえ)

 なお、一晩掛けて呪おうと頑張ったが、当然成功するわけなかったですとさ。

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 後輩に突然『悪』認定されて逮捕されかけた先輩。男の姿で乾桜と顔合わせは初だが、流石にあんまりである。
 女性恐怖症になりそうなトラウマ必須の過去を経験しているが、強がりでも何でもなく気にしていない。異性からの好意には鈍感ではなく希薄、要するに反応が薄い。
 余談だが、財布の残量はギリギリ保ったらしい。

神崎・H・アリア
 パートナー(男)を女たらし認定したお祭りではしゃぐ娘。まあこれだけ女子に囲まれた生活をしていれば当然かもしれないが、渦中にいる人間の発言ではない。
 素手ならタイマンでも余裕で潤をボコれる。多分無手の戦いならこの中でNO.1、並の人間なら指先一つでダウンも夢じゃない……かもしれない。
 
峰理子
 潤がやるネコジョージの物真似が大好きなボケ娘。祭になるといつも件のお面を買ってくるくらい本人の中では定番らしい。
 潤のトラウマ話を聞いて今までのことを反省している模様。まあそれでもノリが変わるわけではないのだが(オイ)

星伽白雪
 お祭だと相も変わらず保護者役な少女。メヌエットの車椅子を押したり着付けを手伝ったりなど、甲斐甲斐しく他の人間の世話をしている。
 一番長い付き合いなのに潤のトラウマ経験を知り、これからはもっと優しくしようと心の中で誓った。これ以上優しくしたらダメ人間になる気もするが……

メヌエット・ホームズ
 実は歩けた安楽椅子名探偵。姉が嬉し泣きする姿に珍しく動揺していた。本人曰く「腕のいい外国の人間が治してくれた」とのこと。というか車椅子がキャラ付けのためのものでしかない。
 ブルーハワイ味という謎の味に挑戦するなど、変わった味への挑戦が最近のマイブーム。ただしコーラのキューカンバー味はダメらしい。

レキ
 今回一言しか喋ってないのに妙な存在感があるのは作者の気のせいだろうか。
 

武藤剛気
 我等が変態にして思春期男子の代弁者。HENTAI発言をかましては女子にドン引きされたり、アリアにボコられるのが日常。でも懲りない。
 潤のモテっぷりに嫉妬パワーを溜めていたが、今回の話ではさすがに同情してしまった。でも嫉妬しちゃう、野郎だもの。
 
 
不知火亮
 潤の爆弾発言を招いたイケメン武偵。本人は気にしてないが流石に悪いと思い、後日昼食を奢った。
 野郎三人の中では騒動を後ろから見守るスタイル。ただし時々火に油を注ぐように煽る。
 
 
乾桜
 初対面の先輩を『悪』認定してタイーホしかけた真面目娘。まあ間違ってはいない、特にアリアにとっては。

 
藤木林・朝青
 誰だこいつらと思った読者の方々、原作十二巻の東池袋高校で出てきたチンピラです。本作では潤と会って既に更正している模様。
 鏡高組の下っ端兼学生。頭の菊代を『姐御』と呼び、極度に恐れている模様。詳細は鏡高菊代が出てくるときにでも。


後書き
 潤は野郎の嫉妬パワーによって誤認逮捕されかけました、主に作品内の野郎と作者、あと(いれば)読者の皆さんの力によって。
 というわけでどうも、またもお待たせしてしまって申し訳ありません、ゆっくりいんです。今回久しぶりの投稿ということですが、やっぱり話がすすまねえ……ちなみにお祭編は魔剣のときにやったのでカットしました、まあ逮捕シーンだけは意地でも入れましたが(オイ)
 次回はいい加減カジノ警備に行かせます。というか話が進まないって話やたらしてる気がしますね……もうやめるか、進まないのがデフォだし(←開き直り)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。



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第三話 警備のついでに昔話、あと戦闘(前編)

 執筆しつつ思う事:依頼中に建物ぶっ壊したら誰の責任にすればいいんだろう……?(マテ)
 ちなみに今更ですが、本作は捏造(というより適当)設定てんこ盛りです。原作と違う部分があっても「まあこの作品だし」というおおらかな気持ちで流していただけると幸いです。
 



『オオーーーーーー!?』

 ホテルも兼任しているらしいカジノ『ピラミディオン台場』。その一角であるルーレットの賭場は、今異様な盛り上がりを見せていた。

「ふふふ、これで私の三連勝ですね、可愛いディーラーさん?」

 客の側で挑発するように微笑んでいるのは、十代前半の車椅子に乗る金髪の美しい少女。傍らには色素が薄く白にも見える金髪のメイドを従え、手元には大量のチップが置かれている。

「……収支は少しプラスな程度、まだまだです」

 対面のディーラーは緑の髪を持つ十代後半の、こちらも美しい少女。無表情ながらその目には真剣な光が宿っているのを理解できる。

 共に美少女である客とディーラーの白熱した勝負。一進一退の攻防と巧みな駆け引きは、周囲の客を老若男女問わず魅了していた。彼女達の熱に当てられた他の客は、損失も気にせずその中に混ざろうとする。中にはこの機会に彼女たちとお近付きになろうと声を掛けたり賞賛するもの(女神呼ばわりしてるのもいる)もいるが、相手にされる様子はない。

 まあ言うまでもなく、客はメヌでディーラーはレキだ。メヌの傍らにいるのは理子、変装姿はなんでも知り合いのメイドをアレンジしたものらしいが……お前等目立ちすぎだろ、警備の仕事どうした。

 まあオーナーもいい客寄せになってるから許可、というよりいいぞもっとやれらしく放置しているのだが……いいのかそんなんで、客の興味がそっちによってるお陰で警備がやりやすいのは事実だが。

 熱狂の隙を突いてスリを働こうとした輩をしばき上げ、スタッフルームに連行しながらそんなことを考える。これで二人目、このカジノの警備体制大丈夫なのか。

 まああの中は理子もいるし、何かあっても大丈夫だろう。……アイツも周囲を見ずに興奮していたが、多分大丈夫、問題ない。

 大丈夫連呼している気もするが、まあヘマしたら理子の目にデ〇ソースを塗ってやろう。地味に嫌なこと考えつつ、今度はアリアの方へ向かう。

 今回俺はボーイの変装をしてカジノ内の警備に当たっている。主な仕事は不審者がいないか見回るのと、他の奴等のフォローだ。動き回るのはバニーガールだけでいいんじゃないか? 女性客に対して必要なんだよ、イケメンにメロメロ状態の奥様だっているんだし。ちなみに俺ではない、当たり前だが。

 さて、次に向かうは白雪の所だ。バニーガールという、恐らく生涯やったことのない恥ずかしい格好での仕事なのでどうなっているやらと思ったのだが……何か撮影会になってるし。他のバニーガールさん達が止めているが、どう考えても逆効果だろ。全員男から見て十分目の保養になるレベルなんだし。

「お客様、申し訳ありませんが当店の従業員に対する撮影はお断りしております」

「何だい君は! 我が麗しのバニーちゃんをカメラに収めるべきときだというのに、止める権利が君にあるのかね!?」

 はい、すげえキモいです。そう言いたくなるのを必死に堪えた。残念なイケメンってレベルじゃねえぞこいつ。ぶっちゃけキモい、大事なことだから二回言った。

「申し訳ございません、規則ですので。ああ、お一つ申し上げてもよろしいでしょうか」

 怪訝な顔をする客の耳元に囁いてやると、突如目を見開いた。こちらを青い顔で見詰める相手に、何も言わず一礼だけで答える。

「……ま、まあ規則なら仕方ないな。皆さん、ここに集まっていては他の方々の迷惑になります、そろそろ解散しましょう」

 彼の言葉に、集まった面々は渋々と言った様子だが立ち去っていく。いやあ流石新鋭ながらこの中で最も大きな企業の方、器もでかくて助かりましたわー(棒)

 礼を言うバニーさん達に適当な返事をして、赤くなって固まっている白雪を伴って休憩室に向かう。勿論無線機でオーナーから許可を貰い、他の仲間にも伝えてからだ。理子たちの方に伝わったかは知らん。

「あ、ありがとう潤ちゃん……ごめんね、折角警備のお仕事なのに足引っ張っちゃって……」

「気にすんな、こういうタイプの仕事は初めてだろ? 慣れないのはしゃーないさ」

「それは、そうなんだけど……なんで皆私のことなんか見てるのかなあ……」

「そりゃお前、大和撫子バニーガールなんて珍しい、しかもスタイルのいい美人がいたら見ちまうだろーよ」

「な、撫子、それに美人……!? あの、潤ちゃんも私なんかをそう思ってる、のかな……?」

「おう、そうだけど」

 余程性癖が偏ってるやつじゃなければ、白雪のことは十人中十人が美少女と答えるだろうし。まあなんというか、自己評価が低いのは白雪らしい。

 俺が肯定すると白雪は顔を真っ赤にし、意を決したようにこちらへ手を伸ばそうとするが、突如ハッとした顔をして伸ばしていた腕を止め、何故か申し訳なさそうに顔を俯かせてしまう。

「? ふむ」

 とりあえず、伸びたままの手を握ってみた。さっきの男達が怖かったわけではないみたいだが……ああ、今は緊張してるな。慣れてないし恥ずかしいのか。

「あ、あの、潤、ちゃん?」

「ん、嫌だったか?」

「ぜ、全然、全然!!」

「そか。さて、俺はそろそろ行くわ。警備続けねえとだしな」

 手を離して踵を返す。赤い顔の白雪は残念そうにしていたが、仕事だからいつまでもこうしてられん。

「あ、あの、潤ちゃん!」

「ん?」

 出る前に呼ばれたので振り返ると、白雪は先程とは別の感じに決心した顔で、

「あ、あのね、私この間のことで潤ちゃんのこと何も知らないって気付いたから……その、嫌じゃなかったらまたお話聞かせて欲しいなあ、って」

 と聞いてきた。

 そういえば、白雪とは三年来の付き合いだがそういう話はほとんどなかったな。まあ、

「別に面白いもんじゃないぞ?」

 というのが最大の理由だが。大抵ありきたりなもんだ。

「ううん、私が聞きたいから」

「ふむ、そっか。じゃあ仕事終わったら飯でも食いながら話すか」

「! ありがとうございます、潤ちゃん様!」

「何で礼言うんだよ」

 頭下げてる白雪に背を向け、ホールに戻ることにした。しかし、何話したもんかね? 後そこのバニーさん、そんなニヤニヤされても別になんもないですから。

 

 

 少し遅くなったが、次というか最後はアリアだ。仕事に関しては真面目だし、白雪のようにアガリ症でもないからあまり心配はしていない。とはいえこの手の仕事は初めてだろうからどんなもんかと思いながら見に来たのだが、

「どうぞ、お客様」

 ……ここまでパーフェクトだとは予想してなかったぜ。

 接客をするアリアは丁寧に、かつ目立つことなく営業スマイルを浮かべて仕事をこなしている。諜報科の武偵には及ばないだろうが、あの髪色で注目されないというのは大したものだ。

 俺の存在に気付いたアリアが、優雅に一礼をしてからこちらに歩いてきた。ちなみにバニーガール姿の彼女は一部分を理子に頼んで盛っている、どことは言わんが。「見栄えと女の意地よ」とのことらしいが、どこに対して気にしてるんだろうか。

「ねえジュン、メヌ達の方どうにかしなくていいの?」

 ……しかも第一声が他の奴等の心配と来た。仕事しながらだから視野も広がってるなあ、成長した「バカ二人が別々に動くから広げざるを得なかったのよ」まだ何も言ってないんですが、後睨まんといて。

「一応オーナーにも聞いたんだが、これ以上ない客寄せパンダだからいいぞもっとやれ状態らしい」

「警備の仕事より利益取るんかいここのオーナーは……問題起こった時の事考えれば面倒でしょうに」

「目先の利益に釣られるのは人間の性。で、アリアの方はどうだ? 見た限りパーフェクトだ、アリア状態だが」

「別に問題ないわよ、慣れないせいで肩は凝るし周囲はあんまり見れてないけど。以前理子に教わった『ぱーふぇくとメイド教室』が思わぬところで役に立ったわね」

「頭悪そうな名称だな」

「まあ内容はまともだけどね、講師が一々セクハラしてこなければだけど。……思い出したら腹立ってきたわ」

「殴るなら仕事終わってからにしてくれよ」

「それくらい分かってるわよ」

 後で理子が殴られるの確定となったその瞬間、ポケットの携帯が震える。開いてみると、

『Σ(゚д゚;) タスケタゲテヨォ!?』

『((((((( ‥)シランナ』

 即返信してやった。あいつ俺達に盗聴器とか仕込んでないよな? じゃなきゃ虫の知らせか。……そういう時だけ感じ取れるならギャグキャラ確定じゃねえか(今更)

「とりあえずアリアの方は大丈夫みたいだから、俺は理子達と白雪のフォローに入るわ」

「パートナーなんだから、アタシが大変そうなら察して助けなさいよ」

「はいはい、やばかったら無線で呼んでくれな」

 適当に手を振って離れていく。実際その後、アリアからヘルプ要請が来ることはなかった。ホームズの人間はパートナーがいることで進化を発揮するらしいが、アリアに関してだけ言えばいらねえんじゃねえかな。

 

 

 夕方も半ばを過ぎ、警備会社の人に引き継ぎを行って本日の依頼は終了となった。いやあ何事もなかったな、強いて言うなら白雪のフォロー回数が多かったのと、三馬鹿(ガチで熱くなって周り見てなかった)の対戦を止めるのが面倒だったことか。……不審者ひっとらえるより味方の方が面倒とかどうなのよ、いつものことか(←普段やらかす側)。

 ちなみに報告書を書く際オーナーから聞いたのだが、本日の利益は普段に比べて1.4倍ほどだったらしい。「またよろしく頼むよ」とか笑顔で言われたが、俺達武偵であって客寄せパンダじゃねえから。

 さて、俺は今併設されているテラスで女性陣を待っている。先程白雪に昔の話をすると約束したが、「じゃあ騒いで流れて忘れる前に皆で聞きまっしょい!」と理子が言ったことで、帰る前にここで話すことになった。まあ帰りの途中で騒ぎになったら忘れるわな、確実に(←元凶の一人)。

 そこそこの時間が経って、女性陣がやってきた。全員ドレス等の正装ではないが、富裕層の多いこの場でも違和感のない清楚ながら高級そうな服装になっている。白雪は和服だが、まあ問題はないだろう。

 ちなみにレキの服装は以前アリアが見繕ったものだ。例の取立て後に頼んで丸投げしたのだが、選択肢は正しかったようだ。選んだのは消去法だけど。

 全員が席に着き、俺の方に注目する。そんな期待するようなもんでもないんだけどねえ。

「さーてさてさて、ユーくんの面白おかしい昔話の始まり始まり~」

理子(パートナー)からの無茶振りktkr、だから大したことないっちゅうに」

「とか言いながら、前のストーカー話みたいにヘビィ過ぎる話はやめなさいよ?」

「いや別にそんな重い話でもないだろ?」

「そう思っているのはアンタだけよ。何か理子の過去話並に重い気がしてきたわ……」

 アリアの言葉に、全員ウンウンと頷く。理子はタハハと珍しく気まずそうに苦笑しているが。まあブラドとやりあった後話し聞いたら相当キツイ話だったからな。本人は過去のことって割り切ってるが、アリアと白雪なんかは本気で泣き始めたし。そらブラドへの恨みも溜まるわ。

「だからそんなんじゃないつうに。あーとりあえず、兄貴と始めてあった時のことからかなあ」

「そういえばユーくん、ユキちゃんとは三年の付き合いだって言ってたっけ? じゃあそれ以前は」

「そ。お察しの通り、俺は遠山家の養子。義兄(兄貴)の親父殿は既に亡くなってて会ったこともないし、母親も同様だな」

「……養子だったんだ、その割には似てると思うけど」

「それよく言われるんだよな、別に血縁とかではないんだが」

 まあどれだけ似ていようが赤の他人であることには間違いない。だって俺、HSS遺伝してないし。技については庭に埋められてた秘伝書みたいなの勝手に漁って覚えたけど。後日兄貴と爺ちゃんにばれて怒られた後呆れられたがな、何してんだコイツって。

「白雪、アンタ知ってたの?」

「う、うん。前に金一さんから「新しく出来た弟だ」って紹介されたし。でも、それ以前に何してたかは知らないんだ。だから気になったんだけど」

 ちらりとこちらを遠慮がちに見る白雪。別に気にせんでもいいだろうに、自前のスティッククッキーを食いながら内心苦笑し、特に気負わず口を開く。

「何でも屋みたいなことしてたな、まあ探偵に雑用関係の仕事も含めた感じ。その前は孤児院で世話になってた」

「……え、ユーくん。ひょっとして御両親は」

「さあ? 顔すらシラネ」

 …………

 気楽に言ったのだが、全員硬直し黙ってしまった。別に固まるほどじゃないだろうに。

「生後一ヶ月も経ってなかったらしいが、路地裏に捨てられてたんだと。で、そこを通りかかった頭領――孤児院の経営者が拾ってくれたんだ。

 で、その後は孤児院ですくすく育ち、九の時にさっき言った何でも屋始めて、兄貴に出会うまで相棒と一緒に仕事してたな」

「……その、相棒って人は?」

「死体を見たわけでも現場に居た訳でもないが、十中八、九死んでるだろうな、一応扱いは行方不明だが。まあ仕事が仕事だ、誰かに恨まれるのも珍しくねえさ。

 で、割とすぐに兄貴と偶然会って、事情を聞いたらいきなりウチに来ないかって言われたな。あん時は笑ったなあ、『私の弟にならない?』って言ってきた美人さんが、まさかの野郎だったからな」

 後で追求したらボコられたけどとケラケラ笑いながら話を締めくくるが、他の面子はどんよりした空気を纏って俯いてしまう。レキまで表情に出してるな、珍しい。

「だーから言ったろ、面白くないって? 期待してたなら悪いが、よくある話だよ」

「……じゃない」

「ん?」

 小さく呟く声が聞こえたのでそちらを見ると、白雪が俯いたまま身体を震わせていた。そして、

「そんなの、よくある話で済ませていいことじゃない!!」

 バンとテーブルを叩いて立ち上がり、叫ぶ。当然その姿は目立ち、周りの客がなんだなんだとざわつく訳で。すいませんね、静かな場所で騒いじゃって。

「潤ちゃん、潤ちゃんは両親に捨てられたんだよ!? なのに、なのに、そんな笑って済ませるなんて、親が子供を捨てていい理由なんて……!」

「……アタシもそう思うわ、ジュン。アンタは親に捨てられたっていう事実を知ってるのに――どうして、心の底から平然としてられるの?」

 アリアの直感は、こちらの心情までも読み取っているようだ。いやあどんどん便利になっていくね直感。

「あー、そりゃあ」

 続きを口にしようとした瞬間、階下でガラスが砕ける音、次いで悲鳴が聞こえてきた。

「おや、タイミング悪く事件か」

「……狙ったように来たのは気のせいかしら」

「流石に邪推だろうよ。まあ現場で事件が起きた以上、武偵なら動かないとな」

「アタシ先に下へ行ってるわ、やり場のない気持ちを犯人にぶつけてくる」

「一緒に行くよ、アリア」

「……あーじゃあ、二人心配だから理子先行くね、ユーくん?」

「私も向かいます」

「おう。じゃあメヌは俺と一緒に避難誘導頼めるか?」

「……元よりそのつもりですわ。避難が完了したら私達も下へ向かいましょう」

 というわけで四人娘は下へ向かい、俺達は周囲の客を誘導して安全に非難させることにした。途中こちらが武偵と分かって八つ当たりをしてくる輩もいたが、全員メヌの空気砲+毒舌によって撃沈された。何か言葉の鋭さが常の三倍マシな気もしますが、アレ人として立ち直れるんかね?

「ジュン」

「ん、何よ?」

「……いえ、今はいいです。昔の話、機会があればまた聞かせてください」

「そんな面白いことでもないだろうに。まあ、気が向けばな」

 これ以上は蛇足な気もするが、まあ約束した以上その内話すとしよう。そんなことを話しながら、俺達は現場となっているカジノへ向かった。

 

 

 




遠山潤
登場人物紹介
 結構重いはずの過去話を平然とする黒一点。アリアの直感通り強がりでなく気にしていない。理由としては周囲に似た境遇の者が多かったのが一つ。
 カジノ警備では他メンバーのフォローに回っていた。何気に引ったくり等手癖の悪い輩を五人以上捕まえており、他人事ながらこのカジノ本気で警備大丈夫かと心配している。
 HSSに関しては『ただしイケメンに限る』能力だと思っている。
 
 
神崎・H・アリア
 『ぱーふぇくとメイド教室』で学んだスキルを十二分に活かしたバニーガール。一部分を盛ったのに関して違和感はなくなったが、後で思い出して凹んだとか。
 自らの直感によって潤が気にしていないのを理解したが、母親を何としても助けたい彼女としては決して共感出来ない部分であり、戸惑っている。


峰理子
 今回の騒動三人組の一人。ちなみにメイド姿はイ・ウーのとあるメイドさんのものでスキルも中々だが、本人が見たら説教ものらしい。
 過去話は原作とほぼ同じなのでサクッとカットされている。代わりに主人公の過去が聞けたよ! やったね理子ちゃ(オイヤメロ)


星伽白雪
 撮影会を開かれるくらいには目立っていた大和撫子バニーガール。彼女の人気っぷりに某ピンクツインテがこっそり溜息を吐いていたのは内緒の話。
 潤と知り合う以前の話を始めて聞き、義理を含めたくさんの姉妹がいる彼女にとって捨てられることは一番信じられないことで、一番ショックを受けている。


メヌエット・ホームズ
 騒動三人組の一人。レキのプレイや弾の落ちる箇所を予測し、互角の勝負を演じていた。なお勝ち額の幾らかは頂いていきました。
 潤の過去については思うところがあるようだが、今のところ言及するつもりはなく、続きを聞きたい模様。


レキ
 騒動三人組の一人。彼女とメヌエットの戦いは後に伝説の戦いとして語られるとかないとか。警備の仕事はしてないけどな!
 潤の家族についての話は特に何かを言うつもりはなく、暴走しそうなアリアと白雪を見守るため、理子と共に下へ降りていった。


後書き
 はい、という訳で今回はカジノ警備、ついでに潤君の過去を一部公開することになりました。何か読み返してみるとカジノ警備がついでになってるような……気のせいですね、この作品でシリアスは気のせい程度の成分です(真顔)
 まあ何か重ーい空気になってますが、先に言っておきます。潤君の過去に関する設定が活かされ、女性陣からの態度や待遇が変わる――なんてことはありません! ぶっちゃけ今回だけだし、本人気にしてないしね! まあ潤がそういうのを気にしないという、ある意味変なキャラだということ、後はキャラ付けでこういうのだということを理解していただければと(オイ)
 次回はいよいよ某魔女のカジノ襲撃編です。潤の話を聞いて心が荒んでるアリア達によって、酷いことになりそう。敵味方のどちらかはご想像にお任せします。
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。


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第三話 警備のついでに昔話、あと戦闘(後編)

 筆の調子が戻らない……やはりギャグか、ギャグが足りないのか!?
 というわけで今回からいつも通り、シリアス0%でお送りします。つまり勢いです(マテ)
 
そして艦これとGE2RBやってて投稿忘れてました、マジすいません(汗


 

「死に晒せぇ!!」

「滅殺!」

「わあい、八つ当たりの結果が頭パーンだよってあぶなあ!? アリアんユキちゃん掠ってる、理子に掠ってるから!?」

「理子さん、下がって援護射撃に徹した方がいいかと」

 そう言ってるレキは、ドラグノフに取り付けた銃剣で相手を串刺しにした後ぶん回している。何あの子怖い、狙撃兵の意味分かってるのだろうか。

 さて、避難誘導が終わった俺とメヌは先程まで警備していたカジノまで戻ってくると、そこはカオスな戦場と化していた。主にアリアと白雪のせいで。

 敵はエジプトでよく見る犬頭のジャッカル人間、恐らくパトラとかいう魔女が送り込んだ戦闘用使い魔だろう、知覚できる波長がスカラベのと酷似してるし。各々槍や斧など時代錯誤な武器を手に持っているが、アリアはアル=カタによる銃での受け流しからの額に風穴開けの反撃(明らかに頭狙ってる、武偵法九条どうした)、白雪は超能力(ステルス)も用いずに色金殺女で滅多切りにしたり、「秘剣、燕返し!」と叫んで(流石に次元曲げたりはしない、超速いけど)敵を三枚におろしたりしている。あ、アリアがグリップでジャッカル男を殴った。え、頭吹っ飛んだんだけど。

 ジャッカル男のついでにルーレットの台がぶち抜かれたりスロット台が斬られたりしており、交代した警備担当が「ひいいぃ!?」と情けない悲鳴を上げてうずくまっている。アリアと白雪を見ながら。あと逃げてなかったオーナーが端で「わ、私の店がああぁぁぁ!?」とか嘆いているが、完全無視だな。というか危ねえぞ、アリア跳弾も気にせずガバメント乱射してるんだから。

「あ、ユーくん! ねえねえアリアんとユキちゃん止めて!?」

「レキはいいのか」

 まあレキは意図的にやってるんだろうが。他二人は明らかに感情が昂ぶってのオーバーキルだな。

「二人があのまんまだと、りこりんのおふざけ(本気)が出せないよ!」

「たまには大人しくしてろよお前」

 今も地味~な感じに援護射撃してるんだし、そういうのもいいだろ。いや「やだやだ~!」じゃねえよ引っ付くな。

 まあでも二人が暴走モードなのはたしかなので止めないとマズイだろう。とりあえずUSPを取り出して援護しようとすると、

「ジュン、ここは任せてくださいな」

 言いながらメヌが一歩前に出た。

「メヌ?」

 何する気だとそちらを見ると、横に並んだメヌが車椅子のカバーを外し、そこに設置されていたボタンをポチッとなする。

 ウイイィィィンと機械音を立てながら出てきたのは――四門の小型ガトリング砲だった。

『……わあお』

 俺と理子の声が重なった。多分同じこと考えてるだろう、お前どこの対策室室長? と。

「アリア、白雪避けろー! フリじゃないぞ、避けないと死ぬぞー!」

「は? アンタ何言って――げえ!? ちょっとメヌ、なんてもん用意してんのよ!?」

「アリアどうした――え、ええ!? メヌちゃん、ちょちょちょっと待って待って!!」

 慌てる二人に対し、メヌはニッコリと微笑み、

Fire(斉射)

 容赦なく発砲命令を下す!

『ギャアアァ!!?』

 女らしさなど欠片もない悲鳴を上げて二人は射線から逃れ、次の瞬間四門のガトリングが回転する。それらは入口に殺到していたジャッカル男達をまとめて薙ぎ払い、ついでにカジノも滅茶苦茶に荒らしていった。オーナーの悲痛な絶叫が聞こえるが、それも銃声にかき消されていく。

 後に残るは、ジャッカル男達であった砂金と、崩壊したカジノだった。そういや砂金の盗難事件が多発してたな、パトラがパクってたのか。

「くぉらあ、メヌ!」

 満足気に息を吐くメヌの頭に、アリアのチョップがクリーンヒットする。叩かれた方は「あ痛」と頭を抑え、般若顔の姉を不満そうに見詰める。

「お姉様、姉妹とはいえ気軽に頭を叩くのはどうかと思いますよ? 世界的に貴重な私の脳細胞がガンガン死んでしまいます」

「やかましいわ! どーいうつもりでガトリングの斉射なんかやらかしてくれやがったのよ!?」

「偶には私も戦闘でお役に立ちたかったのですよ」

「その結果がこの惨状なんだけど!?」

「あら、この程度の被害ならホームズ家にとって微々足るものですわ。そんなことを気にするなんて、お姉様は随分吝嗇家(ケチ)になられたのですね?」

「警備の人間巻き込みかけたことに関して言ってんのよ!!」

「尊い犠牲ですわ」

「もう一回武偵法9条覚えなおしてこい!!」

 使い魔とはいえヘッドショット決めてたアリアのセリフじゃないと思う。ほら、メヌもお前が言うなと言わんばかりの呆れ顔してるぞ。

「まあそれはブーメランということで、お姉様」

「あによ」

 半ギレ気味のアリアに対し、メヌはいつも通りの笑みのまま、

「頭は、冷えましたか?」

 その問い掛けに、アリアは一瞬きょとんとした顔になってから溜息を吐き、

「それでガトリングの件を有耶無耶にしようとしてるんじゃないでしょうね」

 再度ギンと効果音が付きそうな眼で睨みつけた。おおう、メヌの話題逸らし(スラッシュ)バレテーら。

「あら、ばれてしまいましたか」

「アンタが何かやらかした時の対処法なんて分かり切ってるわよ」

「正に姉妹の絆ですね」

「こんなとこで感じるものじゃないのは確かでしょうね……」

 はああ、と諦めきった深い溜息を吐くアリア。この姉妹昔からこんな感じだったのなら、姉が苦労人のツッコミ役なのも納得である。

「そうですか? 私は些細なことでもそういうのを感じられるのは嬉しいことですわ。

 ところでジュン――七時の方角よ」

 メヌが言うのとほぼ同時、ガラクタと化したルーレットの下から難を逃れたジャッカル男が、こちら目掛けてメイスを振りかぶり――

 俺は振り返らないままUSPの引鉄を引き、ジャッカル男の額に命中させてやった。見ていないが、砂金に戻る音がする。

「サンキューなメヌ、助かった」

「いえいえ、ジュンなら言わずとも対処できたのだから、余計なお節介ですよ」

「おー流石ユーくん、不意打ち無効とか狙撃兵涙目だね!」

「私が泣けばいいんでしょうか」

背面撃ち(バックショット)くらいお前も出来るだろうが理子。あとレキ、確実に涙の無駄だからやめときなさい」

 言いながら、今度は吹き抜けの窓を割って急降下してくる砂鷲の群れを三人で叩き落としていく。中でもレキは凄まじく、ドラグノフから放たれる銃弾一発に付き二、三匹の敵をまとめて屠っていった。流石狙撃科(スナイプ)の麒麟児、というかまともにドラグノフ使うの久しぶりに見た気がする。

「空はアイツらに任せておいていいわね」

「そうだね。私達はどうしようか?」

「分かりやすく援軍が来たんだし、とりあえず撃滅かしらね」

「ここにメヌ持参の小型RPGがありますが」

『やめなさい』

 長姉コンビに止められ、メヌは「残念です」と言って車椅子に仕舞う。予測だがカジノが半ばは吹っ飛ぶそれ使ったら、今度こそオーナー気絶するぞ。

 さて、全員で取り掛かり問題なく撃破している訳だが、如何せん数が多い。まあ弾が切れる前に片は付くだろうが、そう予測しているとジャッカル男の一匹が奇妙な行動に出た。手に持っていたモーニングスター(どーいう武器チョイスだ)を持ち手ごとアリアにぶん投げたのだ。

「はっ!」

 無論そんなのが効く訳なく、針の合間に叩き込まれたハイキックが弾を弾く、どころか持ち主の方へ逆走していった、投げた時より豪快なスピードで。蹴りというよりサッカーのシュートだな、ボールがおかしいけど。

 ジャッカル男はしかし投げた時にはこちらへ背を向け、カジノの入口から鮮やかに逃走していった。

「逃げたな」

「逃げたね、明らかに罠って感じで」

「追うなよ、絶対に追うなよ! って奴か。

 ではお言葉に甘えて。レキー、あのジャッカル頭ぶち抜ける?」

「問題ありません」

 レキはその場で膝立ちになり、ダッシュで逃げるジャッカル男(アスリート走りの理想的なフォルムがなんかシュール)に向け、ドラグノフを放つ。双眼鏡で確認した銃弾は、障害物を越え、ガラスの割れた隙間をくぐり、狙い違うことなく後頭部に突き刺さった。お前等ヘッドショット好きね。

『ヒュー』

「当然の結果です」

 俺と理子の賞賛に、レキは淡々と告げる。まあこれくらいなら余裕だわな、以前マシンガンの斉射を跳弾だけで全部叩き落としたたり、4km先のリンゴをぶち抜いたこともあるし。

 とか考えてたら、またもジャッカル男が現れた。そして今度は頭サイズの鉄球をアリアに投げる。

「ふん!」

 それを今度はスフィ〇シュートで返す。弾がギュルンギュルン言いながら飛んでくが、既にジャッカル男は逃亡していた。

「レキー」

「はい」

 ヘッドショット、ハイ終了。と思ったらまた出てきた。今度は巨大な円筒形の石柱、所謂オベリスク(巨神兵ではない)をアリアに投げてくる。

「オラァ!!」

 段々掛け声荒くなってるな。ジェ〇トシュートで弾き返した柱は、当然の如く逃げたジャッカル頭に命中しない。

「……ねえジュン、ちょっと外出てアイツに風穴開けてきていいかしら」

「いやいや、明らかに罠だからな? 出てったら狙撃だの伏兵だのが待ち構えてること必定だぞ」

 適当に宥めてると、またもレキがドーン。そうしてまたも地面から生えてくるが、今度はジャッカル頭ではなく蓄音機のように見える砂の筒だった。

『お主等、いい加減にせんかー!!』

 予想通りそこから声がした。わあ、何かキレてるし。

『妾が外に豪勢な罠をしこたま用意したというのに、貴様等と来たら追うどころかヘッドショット安定とはどういう了見じゃ!? おこじゃぞ、呪いが成功しなかった分も含めて激おこじゃからな!?』

「……何か自分から罠があるって言ってる罠師がいるんだけど。理子、もしかしてこいつが?」

「うに、元イ・ウーのNO.2パトラだよ。理子が知ってる頃より数倍残念な仕様になってるけどねー」

『喧しいわ、妾は未来の全世界を統べる覇王(ファラオ)じゃぞ!? 悪女気取りで男一人も落とせないヘタレ女にどうこう言われる筋合いはないわ!!』

「言っちゃいけないこと言ったなお前!? そっちこそ、カナにチョコッと撫でられただけで速効デレたチョロインの癖に!!」

『ギャー!? 何てこと言うんじゃ!? ち、違う、あれは違うぞ! 無礼にもいきなり撫でてきたから驚いただけじゃ! 焦っておらんし顔も赤くなっとらん!』

 なんか裏モードの理子とパトラで低レベルの口喧嘩が始まった。何だこれ。

「アリアさん、この状況に関して一言」

「五十歩百歩って知ってるかしら」

「『一緒にするな(でない)!!』」

 同時に反応した。うん、お前等似たもの同士だわ。

 とりあえずメヌに頼んでレキを護衛に、カジノのオーナーと警備の人を避難誘導してもらった。

「ジュン」

「ん、何?」

「私の推理から、貴方とお姉様に大きなものが迫り来ると推理しています。どうかご武運を」

「でかいのねえ、俺は兄貴だろうな。ま、気を付けるわ」

 返事を聞いてしかしメヌはまだ何か言いたそうだったが、そのまま去っていった。パトラは口論に夢中なのか仕掛けるどころか気付いた様子もない。いや楽でいいんだけどよ、万が一に備えてもらった白雪が可哀相だろ、困った顔してるじゃねえか。

『ぜえ、ぜえ……ま、まあ良い。とにかく、さっさと表に出るのだぞ貴様等! さもないとこの貧相な賭場ごと押し潰してやるからな!』

 息を切らしながら(体力ねえなオイ)パトラがそう告げ、蓄音機モドキは砂に還っていった。

「チッ、逃げたか。ねーユーくん、どうしよっか?」

「急にモード変わるなお前。とはいえどうするねえ。白雪、どうする?」

「え、わ、私!? えーと、追跡した方がいいんじゃないかな。すぐ思い付くだけでも器物損壊と殺人傷害未遂の罪に問えるんだし」

「そのために罠の中へ飛び込まないといけないんだけどね」

「アリアんやる気ないね~。元とはいえパトラはイ・ウーのメンバーだよ?」

「いや、アイツママの罪状とは関係ないし……何か捕まえるのに無駄な苦労する気がするのよね」

 別にイ・ウー関連なら何でも憎む訳じゃないアリアは面倒くさそうだ。この状況で突撃するか決めなきゃならんのか。

 まあ行くしかないべと結論に達し、メヌ達に連絡を入れてから四人で外へ出ることにする。勿論仕掛け人が罠の存在を告知してくれたので警戒しながらだが、

「おっかしいわねえ、どこにもないわ。白雪、そっちはどう?」

「うーん、こっちも感じないね。超能力系の罠は集中すれば微弱程度でも感じられる筈なんだけど……」

「てっきりジャッカル頭と砂鷲の大量お出迎えかと思ったんだけどね。ジュン、アンタはどう思う? 油断したところをドカンって可能性も」

「――ああ、そういうことか」

「こりゃ一本取られましたな」

 アチャー、と理子と二人頭に手を当てる。残念な奴と見せかけてパトラの奴、中々の策士じゃない。

「はあ? アンタ達何言って――白雪?」

「あ、アレ、アレ」

 青褪めた白雪が指差した方を全員が見ると、そこでは海岸沿いの程近い場所で、複数のシロナガスクジラが水上からジャンプしている光景が見られた。

Q:体長30mの生物が同時に水面着地したらどうなる?

A:余波がヤバイ。要するに軽い津波。

「ギャーーーーー!? つ、つ、つな、つな、津波ぃ!?」

 クジラ達の生み出したビッグウェーブに、泳げないアリアがパニックを起こす。まあ小規模とはいえ人間なら余裕で飲み込める大きさだしな、あーあー混乱して理子に抱きついてるよ。

「白雪、やるぞ。……おーい、白雪?」

「――ハッ!? は、はい、潤ちゃん様! 五防火衣紡(ゴボウヒゴロモノツムギ)!」

 我に返った白雪が懐から護符を出して叫び、俺達の周囲に結界が展開される。そこに俺も印を結んで簡易だが風の結界を重ねた。出力的に白雪のより大分ショボイが、まあ無いよりはマシだろ。

 そうこうしてる内に津波が俺達を飲み込む。轟音と周囲が水一色に染められる中、白雪の張った結界はヒビの走る音がするも、壊れる様子はない。俺の結界? 幾らか勢いを減衰はしてるぞ、意味あるか分からんが。

 そうして十数秒後、波止場とカジノの一部が崩壊したが、俺達は無傷で済んだ。いやあ、白雪の結界様様だわ。

「た、助かった、の……?」

「理子達何にもしてないんだけどね~。ところでアリアん、そこまで情熱的なハグだと流石のりこりんも苦しいのですが」

「え? あ……こ、これは違うのよ! そう、近くに手頃な浮かぶものがあったからつい!」

「りこりん板切れかライフジャケット扱いですかーい」

「浮かび上がりそうなもの二つも付けてるじゃないの、直に!」

「いやいや、理子の胸部装甲は浮輪じゃなくてえっちぃことに使うもので」

「寄んな変態」

「急に冷めた顔になった!?」

 そりゃそうだろうよ、この状況ならありがたいけど。

「ほう? 誰も沈まなかったか。泳げないアリアを回収するつもりだったのじゃがのう」

 頭上から超能力による拡声した声が聞こえたのでそちらを見ると、シロナガスクジラ達が一斉に横へと退いた。

 そしてそこにあったのは、かつて兄貴が世間的に死亡した原因となった船、ピラミッドを載せたアンベリール号が浮かんでいた。

 甲板に経っていたのはおかっぱ頭の際どい水着みたいな格好をした、如何にもクレオパトラ風といった格好の女、こいつがパトラだろう。そしてその傍らには、

「はあい、潤」

 この船で死んだとされた兄貴、今は姉貴となっているカナが、いつもの調子でこちら手を振っていた。何敵と仲良く並んでるんだよアンタは。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 今回援護役なので全然目立っていなかった主人公。後方支援が得意なので戦闘時の立ち位置が地味なのは案外間違っていない。
 津波が目の前に迫っても普段どおりな精神状態くらいには落ち着いている。ちなみに津波対策の結界が役に立ったかは微妙。

神崎・H・アリア
 津波でパニックを起こしていたカナヅチツインテ。そのうち泳げるように特訓させられるかもしれない、馬鹿二人の思い付きによって。
 モーニングスターや巨大石柱をただの蹴りで撃ち返せる程度の身体能力持ち。ちなみに今回のシュートに関しては「慣れれば地上でも出来る」とのこと。それ普通できねえしやろうと思わねえから。

峰理子
 アリアがパニックを起こしたことで地味に役得していたライフジャケット(仮)。女同士? どっちでも彼女にとってはご褒美です。
 恋愛方面で突かれると裏理子モードになる程度にはキレる。でも否定のしようがないと思う、潤は気にしてないだろうが。
 

星伽白雪
 アリアに続いて暴走状態だった武装巫女。炎使わずにジャッカル軍団を退けるのは、描写されないところで訓練しているため。多分カカシに理子の似顔絵とか張ってるんじゃないかな(適当)
 今回使った防御用の結界は今作オリジナル。物理攻撃に特化した仕様で、魔術的な攻撃には防御力はほぼ皆無。
 

メヌエット・ホームズ
 車椅子に殺傷能力の高い技巧をしこたま仕込んでいる探偵。ガトリングやRPGのチョイスを見る限り、若干火薬脳かもしれない。
 潤とアリアが行く先を『推理』し、危険を示唆した。なお同行しなかったのは、屋内はともかく屋外での戦闘は車椅子もあり不得手なため。

 
レキ
 ようやくドラグノフを本来の使い方で活躍させた狙撃手。ジャッカル男を串刺しにしてた? またまたご冗談を。
 『風』からの声で潤達に危機が迫っているのを知ったが、メヌエットが似た内容を伝えているため護衛に専念していた。なお、店が壊されて半狂乱のオーナーにはドラグノフを突きつけて落ち着かせたとか。
 

カナ
 原作の戦闘パートすっ飛ばしてパトラ側にいる姉上(仮)。次回多分戦闘する、多分。

 
パトラ
 ようやく出てきた砂礫の魔女。ジャンヌと同等かそれ以上の残念キャラかと思われたが、悔しがる姿を装って津波を起こすなど、智謀も中々のもの。
 もっとも、原作と同じく詰めが甘いのかはまだ不明だが。


後書き
 ポコシャカ出てくるネタを適当なメモ帳に書き留めていたら、机の上がメモ帳で侵蝕されてる件。さっさと書けよという話なのですが、ずっと先の話や他作品だったりで保存しとくしかないんですよね……
 などと小説家っぽい愚痴を垂れ流しつつどうも、ゆっくりいんです。戦闘描写もありましたが、今回は少しギャグに戻れた……ですかね? とりあえずアリアのパニック姿は楽しく書かせていただきました(ゲス顔)
 次回はアンベリール号内での戦闘です。ここで注目されている彼女が再登場!? いや注目されてませんけどね、出てきたら面白いとは思いますが。誰かは次話を読んでいただければ分かるかと。
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。


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第四話 兄弟喧嘩なのに姉妹喧嘩に見える不思議(前編)

 タイトルからネタバレ臭がヤバイ。まあ前回の後書きで大体ばれてると思いますが。
 だが前回『彼女』が出てくるといったな? アレは嘘だ。
 読んだ後に突っ込みを入れるとしたら、嘆きの森が悪いんや! 彩音さん最高や! ということにしておいてください(マテ)


「雑兵たちでは相手にならん故、妾直々に相手してやろう。光栄に思うがいい」

 そう言って、姉貴を伴ったパトラはアンベリール号の中に引っ込んでいったのが先程。現在は彼女達を追うため船の中を進んでいる。

 「罠など無い故安心して進むといい」と、どの口が言うんだとツッコミ入れたくなることを言っていたが、宣言通り進んでいく中で罠の気配は感じられなかった。律儀なのかプライドが高いんだか。

 壁一面がエジプト絵画と化した廊下を進む中、

「ねえユーくん、パトラ相手に有効な策がりこりんにあるので――」

『却下』

「まだ何も言ってないよ!?」

「どうせアンタの事だからジュンを犠牲にするとか、ジュンを囮にしてここは任せろ先に行け! 作戦とか言うんでしょ」

「犠牲の前提が俺な件。理子、お前の策って敵より味方の方が被害多いじゃねえか」

「理子さん、普段の信用って大事なんだよ?」

「ユキちゃんが優しい顔で諭してくるのが地味にきついんですけど!? いやいやいや今回は本当に有効なのだから!」

『嘘だ!!!』

「一括レ○否定!?」

 酷いよ酷いよ、などと廊下の隅でいじけだす理子。いや普段の行いだろ(←ブーメラン)

「じゃあ聞くだけ聞いてあげるわよ。しょうもなかったらジュン共々風穴だからね」

「津波パニックをごまかすのに暴力的なのは良くないと思いまーす」

「あ"?」

「イエナンデモナイデス」

 アリアと出会ってからベスト5に入るくらいの般若顔で睨まれた。白雪も引いてるんですが。

「さっすがアリアん話が分かる~! えっとねー、策とはこれのことです!!」

 ジャジャン! と自分でSE入れつつ理子が取り出したものを見て、アリアは懐疑的な目に、白雪はちょっと顔を赤くし、俺は頭痛がしてきた。

「それならジュンがやるしかないでしょうけど……本当に有効なの?」

「イエス! 少なくとも積極的に殺そうとはしないはずですたい!」

「こ、これはこれで……」

「……マジでやんのか? あと白雪、何で頬を染める」

「いやいやユーくん、生存率を少しでも上げるためには羞恥心など脱ぎ捨てるものなのですよ?」

「閃光の速度で投げ捨ててる奴が言うと説得力が違うな。で、本音は?」

「ぶっちゃけ理子の趣味です! でも効果も見込めるし一石二鳥だよ、やったね」

「オイバカヤメロ」

「まあ本当ならいいし、嘘でも損はないからいいんじゃないの?」

「俺の尊厳が削られていくんですが」

「微塵の価値も無いわね」

「白雪様ボスケテ」

「大丈夫、私はどんな潤ちゃんでも受け入れるから!」

「神は神でも敵対神だった」

 というか敵しかいない。やだなー覚悟決めたくないなー帰ろうかな――

「さっさとしなさい」

「あい」

 ガバメントを目玉に突きつけられたので諦めることにした。人間諦めが大事だよね、でも理不尽じゃないかな(白目)

 

 

 未来の覇王(ファラオ)、パトラじゃ。妾とカナはトオヤマジュン一行の到着を待っているのじゃが、

「遅いわねえ、潤達」

 アンベリール号の最奥、その部屋で玉座に座る妾の横で、カナは首を傾げている。そんな姿も似合う美人が男というのは恐ろしいのお……神はどこでカナの性別を間違えたのじゃ?

 まあそれは後で考えるとして、たしかに連中の到着が遅い。この部屋までは一直線なのだし、どんなにゆっくり来ても到着していい頃合なのじゃが。

「妾を待たせるとは、兄弟揃って不遜な輩じゃのお」

「そうよねえ、あの子ああ見えて時間には正確な筈なんだけど」

 不遜に関しては無視か! ツッコミ入れたいがぐっと我慢する。どうせ聞いてるのかも怪しいし、それより連中の情報、特にトオヤマジュンの事を聞いたほうがよいか。あやつが一番分からんかったからのう、姉、違う兄なら良く知っているじゃろう。

「のうカナよ、お主の弟はどんな戦い方をするのじゃ?」

「あら、弟の敵に対して喋ると思う?」

「その弟に敵対している立場で何を言う」

「まあ、そうよね。んー、強いて言うなら二挺拳銃かしら? あの子、その時の状況や気分によって、武装を変更するからね」

「状況に応じて、か。それはそれで面倒じゃのう」

「ふふ、流石の砂礫の魔女さんも、私自慢の弟は脅威と感じるかしら?」

「馬鹿を言え、妾の勝利は変わらん。お主が味方でなく、トオヤマジュンたち全員が同時に掛かってきてもな。

 そもそも――あ奴はあの中で一番弱い(・・・・)じゃろう?」

 これは妾だけでなく、カナも理解していることじゃろう。トオヤマジュンは他の連中より二回り、下手をすればそれ以上に弱い。正直、神崎達と肩を並べているのが不思議なくらいじゃな。

「まあ、そうね。でもねパトラ」

 カナは思案顔になり、扉の方を指差し、

「潤は弱い。それでもあの子達と肩を並べられるものがあるのよ」

 言い終えると同時、入口の扉が吹き飛んだ。超能力を施してないとはいえ、派手にやるのう。

「遅かったではないか、トオヤマジュ、ン??」

 最後が疑問形になったのは、先頭に立っていたのが予想と違う人物だったからじゃ。

 腰までの長さで艶のある青みがかった黒髪、服装は夏らしい純白のワンピースで、容貌は10人中10人が美少女と答える、十代後半くらいの娘じゃった。というか誰じゃ、こんな奴おらんかったぞ?

 そやつは手に持った鉈――2m以上あるでかい奴じゃ、あと血が付いてるような……――を手に下げて顔を上げ、

「ボクは遠手梨奈(とおでりな)なのですよ、にぱー☆」

 と言って、満面の笑みをこちらに向けてきた。いや本当に誰なのじゃ!?

 

 

 神崎・H・アリアよ。何かまた面倒くさそうなことになりそうなんだけど、気のせいかしら? ……そんな都合良くないわよね、ハァ。

 アタシ達四人の先頭にいる遠手梨奈と名乗った少女、言うまでもなくジュンが理子によって女装させられた姿である。というか露出してる腕はほっそりとしており、身長も幾らか低くなってるように見えるけどどうなってるのかしら? 超能力? ……ありそうね、無駄なことに凝る性分だし、コイツと理子は。

 というかなんでひぐ○しなのよ、しかも色々混じってて何のキャラか分かり辛いし。あの作品思い出すと怖いからやめて欲しいんだけど……(←トラウマ持ち)

 先頭の梨奈を見て先に反応したのはカナだった。相手の正体に気付いたのかプッと吹き出し、

「あら潤、随分可愛らしくなったじゃないの?」

「何、アレはトオヤマジュンなのか!?」

 横のパトラが驚いた顔でカナに尋ねる。そりゃそうよね、寧ろその反応が普通だわ。

「ええ、私が弟のことを見間違える訳ないわ。ここまで可愛らしくなるのは予想外だったけど」

「そうか、ううむ、そうなのか……男は要らぬゆえ殺してやろうかとも思ったが、あそこまでなれるのなら妾の小間使いとして仕えさせるのもいいのう」

 クスクス笑っているカナと、何やら思案顔のパトラに対し、ニコニコ笑顔なままの梨奈は一言、

 

 

「うるさいのですよ二人とも、どたまかち割りますよ?」

 

 

『え?』

 丁寧(?)な口調から発せられた物騒な言葉に唖然としている二人へ一瞬で近寄り、手に持つ鉈を横に振るう。

 音を立てながら迫る一撃にカナとパトラは慌てて飛び退き、左手にある石柱が粉々に砕けた(・・・・・・)

 ……鉈って切断するための道具よね? しかもあれ普通の石柱より硬い筈なんだけど、どうなってんのよ。

「むう、外れたのです」

 梨奈は残念そうに鉈を引き戻し、再び二人に向き直ってにぱーと笑う。だから怖いのよ!?

「き、きききキンイチ! ではなかったカナ! なんなのじゃあ奴は!? 妾のオベリスクを砕きおったぞ!? しかもただの鉈で! トオヤマジュンは四人の中で一番弱いのではなかったか!?」

「その筈なんだけど……あの子、超能力も使わずにどうやってあんな怪力になったのかしら?」

「悩んでる暇があったら動いた方がいいですよー? 

 動かないなら――痛い思いをするのです」

 いつの間にか接近した梨奈が、兜割りの要領で鉈を振るう。カナを狙ったそれは回避され、床を粉々に打ち砕いた。

「パトラ、私は潤――じゃなくて梨奈か、の相手をするから、残りの三人をお願い!!」

 言いながらカナは先日ジュンがやっていた『不可視の銃弾(インヴィジブレ)』、要するに超スピードの早撃ちを用いてコルトSAA、通称『ピースメーカー』から銃弾を放つ。その速度はジュンが放ったものより上だが、梨奈状態のアイツは視認困難なそれを平然と叩き落した。

「ま、待てカナ! 貴様覇王(ファラオ)の妾に敵を押し付けるとは何様のつもりじゃ!?」

「じゃあ、貴方がこの子の相手をする?」

 指差す先にいるにぱー顔で鉈を構え、殺気を振り撒いている梨奈。もう武偵というよりサイコパスねこれ。

 視界に入れてしまったパトラは即座に目を逸らし、

「まあ、偶には妾の力を存分に見せ付けてやろう。感謝するが良い」

 と、尊大に言い放った。目線が泳いでなければ様になったんだけどねえ。

「ええ、頼りにしてるわよ」

 微笑んで告げ、コルトSAAで牽制しつつ、リナ状態のジュンと、カナ状態のキンイチによる兄弟? 対決が始まった。事情を知らない奴が見れば姉妹喧嘩よね、片方武器がおぞましいけど。

「やー、ユーくんなりきってますなあ……SAN値がガリガリ減ってく光景だけど、だがそれがいい!」

「セクハラしようとして頭割られかけた癖に良くそんなこと言えるわね理子……」

 アタシと白雪が間に入らなければ、割と本気で危なかったというのに。二人がかりでようやく止められるってどんな馬鹿力してんのよ今のアイツ。

「さて、待たせたのうカンザキ・H・アリア、ホトギシラユキ。そして久しぶりじゃなリコ」

 アタシ達三人を前にして、パトラは余裕の表情を崩さない。しかし油断しているとは言い難い、隙もないしね。

「武偵高ではSやAランクと持て囃されてるようじゃが――三人がかりとはいえ、『無限魔力』を備えた妾に、勝てるつもりかのう?」

 ふふんと鼻で笑うパトラの挑発に眉をひそめたのは、意外にも白雪だった。色金殺女を抜き放ってパトラに向け、

「勝つよ、絶対に勝つ。勝って潤ちゃんを小間使いにするなんていう羨ましい関係、打ち砕いてみせるから!」

「そっちかい!?」

 アンタ最近主従系のネタ多いわね!? そんな食いつくことでも無いでしょうが!

「じゃあユキちゃんが勝ったら、ユーくんのドレイかな?」

「よっしゃ漲ってきたぁ!!」

「いらんこと言うな!」

「やー、ここまで盛り上がるとは思わなかったんですよアリアん」

 ヨソウガイデスとか言ってるが、少し考えれば分かるでしょうが! あと白雪はそんな関係でもいいの!? 対潤においてはドMかコイツ!

「さあ行くよパトラ、私と潤ちゃんの明るい未来のために!」

「ヒャッハーリンチだリンチだー! 数の暴力ってもんを教えてあげるよパトラー!!」

「何やら妾とアリアが置いてけぼりを喰らってる気がするのじゃが……まあ良い、来るがいい凡愚ども!」

 物言いはともかく性格はまともらしいパトラに共感を覚えた気もするが、置いといてアタシもガバメントを抜いた。戦闘開始よ。

 ……理子以外、横で戦ってるリナは見ないようにしながら。いやマジで怖いんだって、あれL5はイッてるわよ絶対。

「まずは小手調べじゃ!」

 パトラが叫ぶと、床から数十のジャッカル男、天井からは同じく砂鷲、計100体ほどが出現し、アタシ達三人を包囲する。またそれ? 芸がないわね。

「さあて、この程度で根をあげる訳ではないじゃろうな? どう乗り越える?」

「どうもこうも」

 二人に視線で促すと、まず白雪が色金殺女を構えて突撃し、前方のジャッカル男数体をまとめて胴体切断する。

「この程度の連中、正面突破で十分よ」

 一拍遅れてアタシと理子も同時に駆け出し、白雪の背後に迫る砂鷲を両断した。弾勿体無いし、小太刀だけで十分ね。理子もワルサーは使わないみたいだし、白雪も超能力(ステルス)なしで戦っている。

 その状態でも、戦況は一方的な殲滅状態である。ぶっちゃけ護衛対象いないからカジノの時より楽ね、1000来ても捌ける気がするわ。

 隙を見てパトラにガバメントの一撃――勿論弾は『不義鉄槌(アンチ・ブロークン)』――を見舞うが、命中する直前に巨大な盾が出現して防がれた。まあそう甘くはないわよね。

 数が大分減ると、今度は床からオベリスクが出現し、使い魔を巻き込むの厭わず飛ばしてきた。どこのAUOよアンタ、しかも床が蟻地獄になって動けないし。

 まあ白雪は鎖鎌で天井にぶら下がって難を逃れ、理子は直前に跳んで砂鷲を足場に、アタシは沈んだ状態から力ずくで脱出した。どうやって逃れたのかって? 疾空〇勢の応用。何かパトラがこっち見て目を見開いてるけど……何よ、そのヤバイものを見る目は。こっち見んな。

 迫り来るオベリスクには逃げるのでなく、三人とも側面を蹴って足場にするか回避し、空中疾走をしながら接近する。こういう時は逃げ回るよりも攻撃よ、戦術的にもアタシの性格的にも。

 目前に迫るアタシ達に、パトラは再度ギョッとしながらも先程の大盾を四枚、同時展開する。一々驚いてるけど冷静ね、じゃあ。

「白雪、理子!」

『せーの!』

 アタシの呼びかけに、三人声を合わせて全く同時にライ〇ーキック(白雪は超能力(ステルス)の補助付き)を盾に放つと、四枚揃って紙のように脆くぶち抜いてやった。

「な、なんじゃと!?」

 今度は驚きの声を上げながらも、パトラはその場から飛んで難を逃れる。座ってる玉座が粉々になって顔を青くしてるけど、何この程度で驚いてんのよ。

「変・身!」

「いや出来ないでしょ」

 荒ぶる鷲のポーズ(そこはライダーポーズにしなさいよ)を取る理子にツッコミを入れる。まあ理子の場合、高速変装とかで似たようなことやりそうだけど。

「な、なんという威力じゃ……妾が呪ってやったとはいえブラドを倒したというから出来るのは想像しておったが、全員キンイチクラスとかどういう理不尽じゃ!?

 というか貴様ら、何故超能力(ステルス)をロクに使わん! 妾を愚弄しているのか?」

「そりゃ日本人の節約志向に基づいてですよ、ワザマエ!」

「まるで意味が分からんぞ!?」

 大丈夫よ、アタシも分かんないから。

 それにしてもコイツ、アタシの勘だと表情ほど驚いてないわね。無限魔力なんてふざけた代物持ってるし、精神的動揺を誘いたかったんだけど……まあ、これくらいじゃ無理よね。そういう意味でもブラドより厄介だわ、アレは油断と慢心の塊だったし。

「気を付けてアリア、パトラが魔力を集めてる。多分大技を放つつもりだよ」

 白雪、教えてくれるのはありがたいんだけど、アタシだけ耳打ちしないで理子にも教えてあげて? ……そんな嫌そうな顔しなくてもいいでしょうが。

「くっふふー、これで打ち止めかなパトラー? だとしたらガッカリだなーアッサリだな~」

「ふん、小手調べといったじゃろう? 妾はまだ四つの切り札を残している」

「なん……だと……」

 ドヤ顔パトラに驚いた(フリの)理子。アンタ等仲良いわね、お陰で気をつけるべき攻撃が最低四つあるのが分かったけど。多分嘘吐いてないし。

「では特別に見せてやろう、そして慄け! これが妾第一の切り札――」

 パトラが手を掲げると、味方のジャッカル達を押し潰したオベリスクが浮かび上がって集まり、砂となってから球体となる。このモーション必要なのかしら? 今のうちに叩いていいわよね。

 隙だらけのパトラに小太刀を構えて突撃するが、その瞬間強烈な砂塵が舞い上がる。

「うわ、見えない」

「キャッ!?」

「これは、まさか……!」

 暴風に近いそれは、接近するのも少々キツイ。というか理子、キリッとした顔で見てないでアンタも突撃しなさいよ。

「出でよ――」

 暴風の中心、パトラの上で砂の球体は徐々に何らかの形を取り始める。というかあの形って……

 

 

「オベリ〇クの巨神兵!!」

 

 

『ファ!?』

 アタシ達三人は同時に驚くしかなかった。確かに同じエジプトだけど! オベリスクだけど!

「ホホホ、開いた口が塞がらんとはこのことじゃな!」

 そりゃそうだ、まさかの遊戯〇ネタとかどう反応すればいいのよ!?

 

 

「……いやー、アレはないのです。雑コラくらい適当な僕からしてもアレはないのです」

「二回も言わないであげて。本人大真面目だし、吹き込んだ『あの人』の影響なのよ。

 ……まあ、パトラもノリノリでこの術式作ったけどね」

 

 




登場人物紹介
遠出利奈(遠山潤)
 作者のにわかひぐ〇し知識により生まれた、潤君女装シリーズ第二弾。別にシリーズ化する予定はない、今のところは(オイ)
 常にニコニコしているが機嫌がいい訳がない。というかどちらかといえば発狂済み。流石に鉈持つのが梨〇ではなくレ〇なのは分かっている。しかも鉈のイメージは△様、もう分かんねえなコレ。

神崎・H・アリア
 刀二本でジャッカル軍団をばらし、蟻地獄を跳躍で脱出するSランク武偵。軽く人間やめてる気もするが、気にしてはいけない。
 なお戦闘中、利奈のことは意識的に考えないようにしている。余談だがひぐら〇に対してはトラウマ持ちで、泣きながら潤と理子に慰められるくらい苦手。
 

峰理子
 遠出利奈誕生の元凶。正直色々と間違ってる感が半端ないのだが、本人的には満足のいくコスプレらしい。趣味を詰め込んだとも言う。
 軽い発狂状態の利奈を唯一平然と見れる精神の持ち主。「こんなユーくんでも愛せる!」とは本人の談。コイツも発狂してるんじゃないかな。


星伽白雪
 対潤においてドM疑惑が浮かび上がった武装巫女。それでも(作者には)理子よりマシに見える不思議。
 愛する人なら女装姿も受け入れる(というか気に入ってる)が、流石に今回のは軽く怖がっていた。

カナ
 弟の女装姿を見て「仲間が出来た」と密かに喜んでいる美女(♂)。それでいいのか遠山家。
 なお、弟との戦いは熾烈を極めており、パトラの攻撃の余波も余裕で避けている。多分書かないけど、発狂状態の戦闘描写とか無理(マテ)


パトラ
 冷静さを崩さない自称覇王(ファラオ)の超能力者。無限魔力を元に色々な技を繰り出し、遂には三〇神の擬似再現をやらかした。本人は至って真面目である。
 見目が良ければ中身が男であってもあまり問わないタイプ、ある意味理子に近い。利奈の狂気にはビビッていたが。


後書き
 すまない、更新が半月も遅れた上にこんなネタまみれで本当にすまない……だが私は繰り返す(オイ)
 はいのっけからすいません、作者のゆっくりいんです。久しぶりに嘆きの森を聞いていたら潤の女装レパートリーが増えていました、本当は小話の由依を使いまわすつもりだったんですが……まあ思いついたから仕方ない(開き直り)。
 正直遠出利奈の出来に関してはひぐらしファンの皆様ごめんなさいとしか言いようがありません。これ書き終わったらひぐらしちゃんと観ようと思います。更新速度遅くなる可能性ありますが(マテ)。ちなみに遊戯王も知ってるのは初代だけです。5D’s? 知らない子ですね……
 遠出利奈については、後書きの最後にFat〇風のステータスを載せようかと思います。何でかって? 思い付きです(オイ)。興味のある方は良ければ見てやってください。
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。
 
 


遠出利奈
クラス:バーサーカー
真名:遠山潤
性別:■
身長・体重:160cm 50kg
属性:混沌・狂
ステータス
筋力:A+ 魔力:D
耐久:A+ 幸運:D
敏捷:A+ 宝具:C
クラス別能力
L5(雛見沢症候群):EX
 魔力・幸運を除くステータスを最大限上昇させる。代償として常時発狂した状態となる。
 意思疎通は可能だが、思考の方向性は他者を害する残虐性に固定される。
 
保有スキル
変化:B
 肉体を変貌させるスキル。バーサーカーの肉体は女性的なものに近付いており、身長や体重なども一時的に変化する。
 
 
自己暗示:A+
 自己の思い込みによる暗示、人格を変貌させるスキル。精神系の干渉を遮断し、『痛みを認識出来ない』という人格によって痛覚遮断の効果も持つ。
 
 
宝具
惨劇の大鉈(雛見沢の怪異)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:15人
 身の丈を越す巨大な鉈。宝具というより単なる武器だが、バーサーカーの魔術により破壊力が強化されている。
 性能はひたすらに頑丈で鈍重。その強度はアリアが本気で殴っても折れないほど。バーサーカーはコレを片手で振るう。
 元々は潤が樹木の伐採用にと洒落で作った武装。当然何らかの魔術的付加を施される神秘が宿っている訳ではない。ちなみに付着した血液は血糊をぶちまける勢いでまぶした。
 
 遠山潤が女装した姿の一つ。スキルによってL5を常時抱えた発狂状態になっているが、本来の症状である誇大妄想は自己暗示に、自傷行為は他者を害するものに変わっている。要するに名前が同じだけの別物。
 自身を認識したものに対しては異常なまでの殺気を纏って襲い掛かり、特に自身を害するもの(候補も含む)に対して一切の容赦をしない。
 自己暗示を解くか敵対するものを皆殺しにすれば止まる傍迷惑な存在。実際女装は理子によるものだが、自己暗示を施したのは潤自身の判断である。
 
PS 作者は追想のディスペアも好きです。
 


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第四話 兄弟喧嘩なのに姉妹喧嘩に見える不思議(後編)

・ひぐらし全話見てた
・艦これ春イベ攻略
・FGOコラボイベント
 ハイ、今回投稿が遅れた理由です! 他には多分ないかな、かな?
 ……レナで誤魔化すもんじゃないですね、マジですいません。やっぱ一度見始めると止まらないんだよなあ……
 
 そしてサボってたのもあって筆の進みが遅い……誰か集中力続く方法教えてください、寿命くらいなら削るので(真顔)


 

 

 ……あ、ありのまま、今起こったことを――え、それ前にアリアんがやったからダメ? ちぇー、天丼でもいいじゃない、ネタしかないんだもの!

 あ、ドモドモ、皆大好きりこりんこと峰理子だよ! 前の語りとキャラが違いすぎる? あの時シリアスだったからね、いつもあんなキャラな訳ないじゃん? ……猫被り? オイ今言った奴前出ろ(L5顔)

 おっと失礼、そんなことより理子達の前にいるのはパトラが特製砂人形――オベリスクの巨〇兵だったりする。ご丁寧に彩色までされてて、原作者かKONAM○が見たら著作権で訴えたくなるレベルの出来だね!

「さあ、覇王(ファラオ)たる妾と神の前にひれ伏すがいい! ゴッドハン〇クラッシャー!!」

「名前そのまんまじゃないの!?」

「アリアんツッコミ入れてる場合じゃなくてやばいんですが!?」

「分かってるわよ、総員回避ー!」

「避けるんだよぉー!」

 アリアんが言う前に(本人含め)その場から飛び退り、直後三人のいた場所に拳大の穴が出来た。わーい、コレ当たったら洒落ですまないよね(白目)

「ホホホ、この程度で驚いてもらっては困るぞ? さあオベリスク、全てを薙ぎ払うのじゃ! ゴッドハンドインパ〇ト準備!!」

「生贄いらずで放つとかチートじゃないですかヤダー!?」

 っていうか手がグルングルンしてるんですけど!? どっちかというと神〇嵐だよね!?

「……どうするアリア? 後ろのパトラを直接攻撃することも出来るけど」

 横のユキちゃんが提案するが、アリアんは首を横に振る。

「いいわ、防がれるかかわされるだろうから魔力の無駄でしょ。それよりアタシがアレを何とかするから、白雪はなんかチャージしといて。理子はアタシの援護、隙見てパトラにも攻撃して」

「え、何かって何? それに一人で挑むの?」

 ユキちゃんの困惑も尤も。幾らアリアんとはいえオベリ〇クモドキを一人で相手するのはキツイと理子でも思う。

「アリアん、理子もつっこもっか?」

「大丈夫よ、アタシに考えがあるから」

「やっぱりこりんが変わるしかない、はっきりわかんだね」

「フラグじゃないわよ!? アタシの指揮じゃ不安なのは分かるけど、アイツがあんなんだから仕方ないでしょ!」

 アリアんが指差したその先、そこには、

 

 

「みぃ、潰れるのです!!」

 ドゴオオオォォォォン!!

「く、迂闊に近寄れないし隙もないわね……」

 

 

 壁だの柱だのを破壊しまくる楽しそう(L5)なユーくん改めりなちーと、鎌を手に反撃の機会を窺うカナの姿が。兄弟喧嘩なのに姉妹喧嘩に見える不思議、理子はそんなシチュ大好きです!(←半分元凶)

 アリアんとユキちゃんは速効で目を逸らしたけど(時々「あははははははは!!」って笑い声が聞こえるからかな?)、理子はそんなりなちーも愛してるぜ! サムズアップしたら親指下に向けられたけどね!(泣)

「と、とにかくアレはアタシが何とかするから、理子は援護、白雪は待機しながら機を窺うこと! いいわね!?」

「うー、らじゃ!」

「相談は終わったかのう? こちらもチャージが終わったところじゃ、まとめて吹き飛ぶがいい!」

 わざわざ待っていたパトラがこちらに手を突き出して宣言する。変身シーンに手を出さないみたいで分かってるぅ! 役者の素質あるよ、悪役のやられ役だけどね!

「ゆけいオベリスク、ゴッドハ〇ドインパク――」

「くらえい!」

 宣言が終わる前に、パトラとオベ〇スクモドキへ向けて理子はあるものを投げる。それを見たパトラはギョッとした顔になって言葉を途中で止める。よっしゃ狙い通り。え、何を投げたかって? 

 パ イ プ 爆 弾♪ 皆さんご存知の通り、ワタクシは爆弾使いでもありますから(ドヤァ)

 投げたのは三本。それぞれパトラの目の前、オベリ〇クモドキの足元で爆発する。

「ちょ、理子さん死ぬ! 相手死んじゃうよ!?」

「ダイジョーブダイジョブ、理子花火師の免許一級持ってるから!」

「そんな資格ないし、そういう問題じゃないよね!?」

 爆発音の中でも聞こえるツッコミとか、ユキちゃんも中々やるようになりましたな。

「お、驚かせおって……この程度で妾達がどうにかなると思っていたのか?」

 直前に盾を展開し、持ち直したパトラが声を掛けてくる。うんまー効かないだろうね、だって、

「ただの時間稼ぎ(・・・・)だし」

「何――?」

 ハッとしてパトラが上を向くが、もうおっそーい! 爆発を利用して飛び上がったアリアんが、両手の小太刀を〇ベリスクモドキに振るう。

「フッ!」

 まず右の一閃が首を刎ね、次いで左の柄頭で吹き飛んだ首を打ち据え――粉々に吹き飛ばした!?

「で、デターーーー!! アリアん用に調整した『双龍〇・雷』!」

「す、すごい……! アレだけの巨体を一撃で……!」

 横のユキちゃんが驚きに眼を開いている。ふふんそうだろうそうだろう、アリアんは理子とユーくんが育てたのだから(←ネタ技教えただけ)

「思ったよりすんなり斬れたわね」

「ふふ、何をするかと思えば。首を刎ねたのは大したものじゃが、それだけでどうにかなると思ったら大間違いじゃ!」

 パトラが手をかざすと、吹き飛んだ頭部に砂が集まり始める。どうやら術者を倒さない限り再生するタイプらしい。

「まあそうでしょうね、これだけで足りるとは思ってないから――理子!!」

「へーいかしこまりー! あポチッとな!」

 斬った部分からアリアんが飛び降り、理子は手に持っていたボタン(無論お決まりのドクロハートマーク入り)を押す。

 すると、オベリス〇モドキの内側が光り出し――

 ドオオオォオォォォォォン!!!!!

「きゃあ!?」

「わひゃあ!?」

 ユキちゃんは腕で顔を庇い、パトラは――爆発でよく見えない。チィ、パンチラシーン見逃した!(←そもそもスカートではない)

「うっきゃああああぁぁぁ!!?」

 そんでもってアリアんは悲鳴を上げつつ頭から突っ込んできたので、理子が真正面から抱き止める!

「ナイスキャッチ!」

「ナイスキャッチ、じゃないわよ!? あんな威力だなんて聞いてないわよ!?」

「そりゃまあ、渡した時言ってないからね! ちなみに威力はパイプ爆弾の三倍(当社比)ですわこ!?」

「埋め込む前に先言っときなさいよそういうことは!!」

 アリアん怒りの側頭部による二重の〇。うおお三半規管がイカレルぅ……!

 まあともかく、アリアんが胴体に埋め込んでくれたリモート爆弾のお陰で、巨神兵モドキはものの見事に吹き飛んだ。流石にここまで吹き飛ぶと直すのも難しいのか、再生は始まらない。

「お、おのれ、小癪な……! 出でよ、ラー――」

「遅いよ」

 土煙が晴れた先では、忌々しそうに詠唱を唱えようとするパトラと、その前に高速で接近したユキちゃん。ヒュー、カッコイイ!

「星伽候天流、火々人柱神(ヒヒジンチュウノカミ)!!」

 水平に構えた刀が振り上げられ、パトラを中心に火柱が吹き上がった。それは天井を突き抜け、天へと昇ってゆく。あ、これ死んだんじゃないかな(確信)

「大丈夫、非殺傷設定だから!」

「そんなデバイスみたいなこと出来るの!?」

 出来るならユキちゃんスゲーって普通に言うよ!? まあまだ人を殺したことない(はず)だから事実なんだろうけど。

「この炎は精神にダメージを与えるだけだから、人体に害はないよ。ちょっと焦げるかもしれないけど」

「物理的害あるじゃないの……――! まだ来るわよ!」

 アリアんが叫ぶと、火柱の奥から二本の極太レーザーが飛んできた。

「え?」

「白雪!」

「え、ちょ、りこりん無視ですか!?」

 反応の遅れたユキちゃんにアリアんが飛びつき、理子は遅れながら自力で避け――られない!? ちょ、はや!?

「あびゃあああああぁぁぁぁぁ!?」

『り、理子(さん)!?』

 二本の光線の内、雷撃を纏った一撃をまともに受けてしまう。通り過ぎた後、理子はその場に倒れてしまう。ああ、意識が、薄れ――

「う、嘘、そんな、どうして……!?」

 ……

「理子……く、アタシがもっと早く警告して、白雪だけじゃなく理子も避けさせていたら……!」

「いやアリアん理子を助けなかったのは意図的だよね!?」

 ガバっと起き上がってツッコミを入れる。明らかにこっち見た上で理子を無視してたし!

「なんだ、元気じゃない」

「元気だよでも死ぬかと思ったよ久しぶりに走馬灯が見えたよ!? 何で助けてくれなかったのさ!?」

「アタシの勘が言ってたのよ、『あ、コイツ助けなくても大丈夫だわ』って。あとは……日頃の行い?」

「いや確かに無事だったけどさ!? 日頃の行いにしてもやりすぎだと思うな!?」

 ユーくんお手製『エスケープゴート四号』(要するに超能力限定の身代わり人形、使い捨て)が無かったら死んでたよ!? お陰で傷一つ無いけどさ!

「コレに懲りたら、今後は自重することも覚えることね」

「理子さん、悪行は悔い改めないとだよ?」

「何で理子が悪いみたいになってんの!? 戦場で日頃のストレス発散を敵に委ねるのは流石のりこりんでも怒るよ!?」

「うっさいわね、アンタらのせいで血圧と血糖値が平均越えたのよ!!」

「割と深刻な悩み!? でも血糖値は関係ないよね、ももまんだよね!? あと、それならユーくんも巻き込まないと不公平じゃないかな!?」

「ご飯作ってるからギリ許す! でも理子、アンタはダメよ!!」

「まさかの料理で格差!?」

 ちょっとアリアさんその場のノリと普段のストレスでおかしくなってませんかねえ!? そうか、これがパトラの呪いか!(違)

「き、貴様ら……よくもやってくれたのう……!」

 理子達が口論してると、火柱が消えた場所から怨嗟に満ちたパトラの声が聞こえてきた。両脇にはいつの間に作ったのか、オシリ〇の天空竜とラ〇の翼神竜が出現している。わあお、地味にピンチ?

「オベリ〇クを倒したのは褒めてやろう。じゃが奴は三幻神最弱、残りの二柱をまとめて召喚された貴様らに勝ち目はな――」

「うっさい、今切実な問題について話し合ってるから口挟むんじゃないわよ!!」

「いや切実なのはアリアんだけ――ファ!?」

「え? ええ!?」

 アリアんの指先、そこには緋色の光が収束していた。え、これもしかして超能力(ステルス)!?

「な、何が」

「どっかいってろ竜モドキぃ!!」

 三幻神をモドキとか!? とかツッコミ入れる間もなく、

 

 

 アリアんの指先から放たれた緋色の閃光がオシリ〇モドキを消し飛ばし、更に遥か後方のピラミッドも吹き飛ばした!!

 

 

『…………』

 一同、フリーズ。ピラミッドが崩落するゴゴゴ……という音がやたら遠くに感じる。

「……」

 そして緋色ビームを放ったアリアんだが、彼女は信じられないものを見るように己の指を見てからこちらに振り向き、

「……えっと、今の何?」

『いやこっちが聞きたいんだけど!?』

 まさかの怒りパワーで発動!? スーパーサイ〇人もビックリだよ!?

 

 

「今の、まさか『緋弾』の覚醒……!?」

「みぃ、隙だらけなのです」

「! くっ」

 大鉈の一撃を大鎌、『サソリの尾(スコルピオ)』でギリギリ防ぎ、受け流される。流石は姉貴、驚きの後でも弾くか。

「貴方は驚いていないのね、潤、いや梨奈」

「そんなことないのですよ? あんな形で覚醒させるとは、ビックリビックリなのです」

 血糖値とか血圧の口論によって覚醒するってどうなんだよ、そこまでストレスになってたのか。

「……たしかに、予想外もいいところよね。緋々色金(ヒヒイロカネ)は強い感情によって呼び起こされると聞いたけど……その調子だと、色金のことも知ってるのかしら?」

「なんのことなのです~?」

 即答したらジト目で見られた。オイ妹、じゃねえ弟に向ける目じゃねえだろ。

「……まあいいわ。これでパトラの無限魔力も切れたことだし、援護に行かないとね」

「行かせると思うのですか?」

 「わ、妾のラーが!?」という声を背にしながら、大鉈を構え直す。圧倒的なアドバンテージを失ったとはいえパトラの超能力は厄介だ、態々合流させて状況を傾かせることはない。

「思ってないわよ、だからここで決着を――」

 

 

「ふもっふーーー!!!」

 

 

 姉貴の声を遮って、入口から突如叫び声をあげて何かが超スピードで侵入してきた。ってマジではえぇ!?

「ふも――」

「――え?」

 縮地に匹敵するだろう速度で侵入者は振り向いた姉貴に肉薄し――

「もっふるーーーー!!!!」

「ゴフゥ!?」

 全身を活かしたタックルで、姉貴を吹き飛ばした!!

 姉貴はピンボールのように床をバウンドしていき、壁に激突してピクリとも動かなくなる。

「ええ……なんなのですかこの状況」

 三幻神呼んだりアリアがビーム撃ったり、更にはボ〇太くん乱入で姉貴がやられたり(生きてます)、もう訳が分からないよ! なのです(←錯乱)

「キ、キンイチ!?」

「カナさん!?」

 倒れた姉貴にパトラ、それと白雪が慌てて駆け寄り、治療を開始する。そしてボン〇くんと対峙する俺の前に、アリアと理子がやってきた。

「〇ン太くんだーー!? 量産型来てないかな、鹵獲して使ってみたい!」

「いや言ってる場合じゃないでしょ!? あれが仮に知ってる通りならかなり厄介な強化スーツになるんだし!」

「ふもっふもふももふもふふっふ」

 目を輝かせる理子と警戒したアリアの前で、向こうはボディランゲージを交えて会話を始める。ふむふむなるほど。

「それなら『ボンタックル』の方がいいと思う」

「理子は『ボン太クラッシュ』に一票!」

「何言ってるか分かるの!? というか物凄くどうでもいい会話ね!」

 失礼な、技名を考えるのは大切なんだぞ。後で整理する時に適当だと分かりづらいし。

「ふもっふもっふもっ」

 ボ〇太くんは笑いながら自分の首に手を掛け、ヘッドに手を外す。そうして中から出てきた顔は――

「う、嘘……?」

 アリアが驚くのも無理はない。そこにいるのは死んだと伝えられている人物、そしてアリアには縁深く、尊敬する人物だからだ。

 着ぐるみを脱ぎ、こちらに向き直った二十代ほどに見えるスーツの男性は、こちらに向かって紳士的に微笑み、口を開く。

「始めまして、神崎・H・アリアくんに遠山潤君。峰君は久しぶりだね。

 皆は私のことを知っていると思うが、きちんと自己紹介はさせてもらおう。僕が、

 シャーロック・ホームズだ」

「曾、お爺様……!」

 アリアの曾祖父であり、武偵の始祖と呼ばれる探偵、シャーロック・ホームズは悠然と己の名を告げた。

 

 

「ところでアリアくん、君は『ボンタックル』と『ボン太クラッシュ』、どちらが良いと思う?」

「まず聞くことがそれですか!?」

 あ、この人俺等と似たような感じだわ。そしてこのショッキングな状況でもツッコミ入れられるアリアさん、流石です。

 

 

 




登場人物紹介
遠出梨奈(遠山潤)
 裏で大鉈をブンブン振り回していた女装(させられた)男子。定期的に発狂笑いしていたため、約三人が本気でビビッていた。
 作者がひぐらしを一通り見たため、「みぃ」の言葉も使えるようになった。だからどうしたという話だが。
 シャーロックが乱入してきたため、女装解除のタイミングを地味に失っている。どうしよう(作者の心の声)

 
神崎・H・アリア
 巨神兵の首を斬り飛ばしたり、突如ビームを撃ったり一番戦闘しているピンクツインテ。こんな緋弾の覚醒で大丈夫か? どう考えても問題です。
 覚えた技は自分の武装と合わせて独自のアレンジを施している。極を併用して刀をぶん回しているため、破壊力は抜群。寧ろ人体に放てば弾け飛ぶ可能性あり。
 日頃のストレスフルが覚醒に繋がった。誰かアリアさんにツッコミ休みの日を上げてください。 

峰理子
 思い出したように爆弾使い設定を用いてきた元『武偵殺し』。パイプ爆弾からリモート爆弾、ダイナマイトなど選り取り見取りに揃えている。
 オ〇リスのビーム直撃で普通なら黒焦げになっているが、潤から貰った護符で致命傷どころかかすり傷一つ負わなかった。なので本職超能力者の白雪が優先される始末。
 

星伽白雪
 敵を躊躇なく火柱に包み込む超能力武偵。確かに死なないよう調整しているが、そういう問題でもないと思う。
 再びオリジナル技が出た模様。寧ろ原作の技が披露される時は来るのだろうか。。

パトラ
 結局三幻神全てを召喚した魔女。ぶっちゃけ元ネタをよく知らない、バンナムか原作者に謝れ。
 お世辞にも魔力効率が良いとは言えない三幻神を用いているのは、見栄えが良いから。一柱くらいなら自力でも維持できるが、ビームを見た驚きと無限魔力がなくなった影響で、術の集中が解けてしまった。
 ピラミッドパワーはなくなったが、原作と違い下着姿になることはない。
 

カナ
 裏で戦っていたためあまり目立たなかったが、大鉈を鎌で受け流し続ける技量は流石と言える美女(♂)
 『ボンタックル』(または『ボン太クラッシュ』)によって戦闘不能。実はあちこち骨が折れたりしてかなりの重傷。そりゃパトラも焦って近寄る。


ボン〇くん(シャーロック・ホームズ)
 遂に出てきたラスボス(仮)。噂では量産型も存在するとか。え、そこじゃない? またまたご冗談を。
 
後書き
 もう久しぶりは言わないといったな? え、言ってない? アッハイすいません。
 そんな訳で皆さんイベントお疲れ様です、ゆっくりいんです。またも長らくお待たせしてしまい申し訳ありません、これにて第四部終了です。
 それにしても、今回の話は我ながら酷いですね……どこがって? 原作の根幹に関わる部分が雑に扱われてるところですかねえ(白目)
 さて、次回はいつも通り幕間の小話です。温泉回だぞヒャッホウ! 小説だからイラストないけどな!(血涙)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。



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小話 覗きは男でも女でもアカン

 とある魔女からの苦情
?「作者、私の扱いがここまで悪いのは何故だ!? 恨みでもあるのか!」
作「いや、恨みあるのなんて精々ブラドくらいですけど……」
?「ならどうしてこうなった!? 説明しろ!」
作「デュランダル向けんでくださいよ……強いて言うなら、ノリ?」
?「成敗いぃ!!」
作「え、ちょ、ま」

 ( ゚д|| ゚)←作者
 
 ……というわけで、今回ジャンヌは出ません。
ジ「どういう意味だ!?」



 

 

 武偵指定研修村、というのがある。要約すると武偵の育成を外部で長期間行う施設のことで、プロ野球のキャンプとかと同じようなものと思ってもらえばいい。

「『かげろうの宿』、ここか。おーいお前等、着いたぞ」

 車を駐車場に停め、同乗者達に呼びかける。いやあ長かった、僻地だから遠いし行きにくいでメンドクセーの何の。

『スヤァ…』

 同乗者――理子・白雪・レキ(+ハイマキ)の三人は全員寝ていた。直前まで騒いでた(レキはいつも通りイラスト描いてた)んだがな、間が悪い。

 レキは一声掛けるとすぐに起きたが、他二名は起きる様子はない。「くふふ、ユーくんいいカッコですなぁ……」とか寝言ほざいてる理子の寝顔が妙にイラッとしたので、

 パァン!!

「ふおおぉぉ!? 何々、敵襲、エマージェンシー!?」

「ふひゃあ!? ばば爆発!? 潤ちゃん大丈夫!?」

 うぉーにんうぉーにんうるさい理子とキョロキョロオロオロする二人の出来上がりである。お前等本当に寝起き?

「おはよう二人とも、もう着いたから荷物降ろすぞ」

「ユーくん普通に起こしてくれないとか、ぷんぷんがおーだぞ!」

「もう、潤ちゃんビックリしたよ」

「理子の寝顔がウザかったから仕方ない」

「じゃあしょうがないね」

「そうですね」

「ユキちゃんどころかレキュんにも肯定された!? みんなひーどーいー!!」

 言いながら何故レキに抱きつく。そしてどさくさに紛れて胸を揉む――「ドライセン!?」あ、ドラグノフのケースでど突かれた。

「降りて早々何やってんのよ理子は……」

「セクハラ」

「つまりいつも通りですわね」

「否定したいけど出来ないのが嫌なところね……とりあえずジュン、メヌの荷物お願い」

「ああ、了解。……女の荷物は多いのが相場だけど、それにしても重すぎねえか?」

「TRPG道具一式の持ち歩きは私の嗜みですわ」

「メヌ、ここに何しに来たか分かってる?」

「湯煙殺人事件的なシナリオある?」

「場所に合わせて要望する辺りノリノリね!? だから遊びに来た訳じゃないでしょうが!」

「息抜きは基本」

「生き方そのものが息抜きみたいなくせに何言ってんのよ」

「アチャー、一本取られた気分」

「お姉様、座布団いりますか?」

「要らないわよ、〇天司会変わったばかりだからって無理矢理ネタに入れるな! あとジュンはちょっとくらい否定しろ!」

「流石に冗談だよ、半分は」

「オイ残り半分」

「ナンノコトヤラ。ところで剛の奴はどうしたんだ?」

 いつもなら「女の子の荷物なら幾らでも持ってやるぜ!」とかアホなこと言いつつ大量の荷物抱えてそうなもんだが、今は精神を喰われた廃人のように真っ白くなっている。何やらかしたコイツ。

「ああ、ゴウキなら車の中でデリカシーのないこと言いまくるもんだから」

「私と綴先生で『ちょっと』責めてあげたのよ」

「途中から真っ白になってたけど、それでも運転は安定してる辺り流石武藤君だね」

 最後は亮の発言。まあなんだ、つまりまとめると、

「コイツの自業自得か」

「二人の言葉責めは自業自得でまとめていいレベルなのかな?」

 いやいいだろ。確かにあの二人から同時に責められたら精神がどうにかなりそうだが、んなもん言わせる方が悪い。寧ろそれだけ言わせるとかマジで何口にしたんだ。

「おーい剛、起きろー」

「……」

 へんじがない、ただのしかばねのようだ。

「起きないと綴先生に頼んでもう一回責め立ててもら」

「よう潤、ようやく着いたな!」

 死体蹴りしたら蘇生したでござる。軽くトラウマになってねえか。

 まあふざけるのはここまでにして、旅館に入るとしよう。今日は研修や旅行じゃなく、依頼で来たんだし。

 

 

「というわけで温泉です、イエーイ!」

「イエーイ」

「……イエーイ」

「全体的にテンション低!?」

「いややらないから」

「タオル一枚で騒ぐのはちょっと……」

「峰うるさいぞー……はあ、ダリー」

 どうも、りこりんこと峰理子です! 温泉でハイになったテンションに乗ってくれるのがローの二人だけだけど、別に悲しくはないよ! いつものことだし!(泣)

 さてそれはそうと、待ちに待った温泉シーンですよ温泉シーン! 普段はたまにアリアんとかのお風呂にちょっと乱入するくらいだし、こういう時によく見ておかないとねえぇ……

「こいつが何考えてるのか手に取るように分かるのが嫌だわ……とりあえずゆっくりしたいんだから、騒ぐんじゃないわよ」

 溜息吐いて身体を洗うアリアんは予想通り見事なツルペ「ナンカイッタ?」スレンダーだね! 大丈夫、そっちの需要もあるよ!

「あの、女同士でもジロジロ見られるのは恥ずかしいんだけど……め、メヌちゃん行こうか?」

 ヌエっちを引っ張ってそそくさと湯船につかるユキちゃんは、うーん流石のナイスバデー。属性的には大和撫子なのにこのアンバランスさ、男の子にゃ辛抱なりませんな!

「理子がイヤラシイのはいつものことですし、気にしないほうが得ですよ二人とも」

 スパッと酷いこと言うヌエっちは小柄なのに合わせて色々控えめ、しかし理子には分かる、姉より優れたスリーサイズを有していると……!

 アリアん(姉)もそれに気付いたのか、「私よりある、だと……!?」と、温泉の床でorzしていた。現実は残酷なんだよ……(遠い目)

「……」

 打ちひしがれるアリアんををクールにスルーしてハイマキと一緒に身体を洗い始めるレキュんは、おっきくはないが出るとこは出てる。これは脱ぐと中々のもんですなあ……

「あー……しまった、女将から酒貰ってくれば良かった……」

 額に手を当てている綴先生は――ほほう、ユキちゃんには及ばないまでも中々のワガママボディ。世の紳士諸君と百合の方々、放っておくには勿体無い逸材ですぜ? 理子は勿論年上もオッケーだからありがたく見させていただきます、ありがたやありがたや。

 とと、観察も重要だけど温泉に入るんだった。理子も座って身体を洗い始めましょー。

「というかさ……」

「ん? なにかわひゃあ!?」

 な、なにごとー!? 突然近付いてきたアリアんに理子のお胸を揉まれたのですが!?

「他人の事ジロジロ見てるけど、アンタも随分立派なもの持ってるじゃないの」

 ムニムニ、ムニムニ。

「や、ちょ、アリ、ア……」

「やっぱ大きいわねえ、そして柔らかい……男が大きい胸好きなの、ちょっとだけ分かる気もするわ」

 後ろに回ったアリアんが溜息吐いてるが、首に当たってこそばゆい。というか揉みながら冷静に呟かない――ちょ、場所動かしてる!?

「だ、ダメ! そこは、ホントにダメ!」

「あ、ごめん」

 理子が叫ぶとアリアんは素直に離れてくれた。あ、危なかった。

「……案外責められると弱いのね、アンタって。普段は自分から行く癖に」

「不意打ちでくれば理子だってああなるよお……」

「あ、あわわ……女の子同士なのに、女の子同士なのに……」

「あらあら、お姉様も口で言うほど嫌ではないんですね?」

 湯船に浸かってるユキちゃんが顔を真っ赤にし、ヌエっちはニヤニヤしながらこっちを見ている。やべえ、これは出た後弄り倒される!?

「理子さん」

 そしてレキュんはいつもの無表情で仕切り板を指差し、

「男子の皆さん、あちらにいますが」

 …………

「にゃーーーーーーーーー!?」

 

 

 何でこっちに移した、遠山潤だ。ちなみにアリアと理子のやり取りは……まあ、壁一枚だしバッチリ聞こえてるわな。これ出て鉢合わせたらどういう顔すればいいんだよ。

「向こうは楽しそうだね」

「それで済ませるお前がすげえわ」

 並んで湯に浸かっている亮はいつものイケメンスマイルだ。こいつ精神的に滅茶苦茶タフだわ。対し剛は――オイ、どこ押さえてんだお前。

「だって女の子同士が乳繰り合ってんだぜ! 声だけとはいえこれで興奮しない奴がいるのかよ!?」

「どっちかっつーと気まずい」

「気にしないであげるのが一番いいんじゃないかな?」

「お前等ホントに男か!?」

 どーいう意味だオイ。単純にお前ほど欲求に忠実じゃないだけだよ。

『ふ、ふふふ、中々テクニシャンですなあアリアん! もう少しでりこりんもその気になるところだったよ!

 ではお返しに、アリアんも気持ちよくなっちゃいましょうねえ~!』

『いやいきなりしたのは悪かったけど、顔真っ赤なの誤魔化せてな――ちょ、や』

『あれ? アリアんちょっと胸大きくなった?』

『それ本当? 嘘だったら風穴開けるわよ』

『怖い、怖いよめっちゃ真顔なんですけど!? う、嘘じゃないよ、おっぱいソムリエのりこりんには直に触れば即座に違いが分かるのですよ!』

『うん、要らないスキルと称号だってのは分かるわ。そういえばジュンのとこに住み始めてから、下着のサイズがきつくなってきたような……』

『そういえば私も……』『私も、図ったら成長してましたね……』『理子もそういえば……』

 何か板越しでもこっち見られてるの分かるんですけど。こっち見んな。

『『『『まさかユーくん(潤ちゃん、ジュン)が何か……?』』』』

 なんかとんでもない冤罪押し付けられそうなんだが、俺関係ねえから。いや剛「GJ!」じゃねえよサムズアップすんな。

「うおお、ここまで聞いたら俺は、俺はもう我慢できない! 待ってろ俺のユートピアー!」

 叫びながら、剛は仕切り板を昇ろうとする。おーい、待ってるのはユートピア(楽園)じゃなくてヘブン(天国)だぞ、ぶち殺される敵な意味で。

「遠山くん、止めないの?」

「言っても聞かねえだろアイツは……流石に温泉でバカやる気はない」

 大体、アレだけデカイ声出してんだから気づかない訳が「ギャアアァ!?」ほらやっぱり。

 理子あたりに爆弾でも投げつけられたのか、剛は黒焦げのアフロヘアーになっていた。殺傷力低いので良かったな、木っ端微塵にされても文句言えなかったぞ。

「いい湯だね」

「そうだな」

 ドタバタしてる向こうと違って、こっちはゆったりしたもんである。温泉くらいゆっくりすりゃいいのに、女三人寄ると姦しいっつってもここくらい例外でいいだろうに。

「ユキちゃんユキちゃん、ユーくんの後姿はセクシィだと思いませんか?」

「ああ、なんで防水カメラ持ってこなかったんだろ――ひゃう!?」

 ……あとそこ二名、覗きは女でも犯罪だからな? 減るもんじゃないし見てどーすんだとは思うけどよ。あと、白雪は変な声上げてたが……

 なお、出てから女子達とエンカウントした際、理子の奴はいつも以上にハイだったが――顔が赤いし、誤魔化そうとしているのがバレバレである。薮蛇なんで追求はしなかったけどな。

 

 

 旅館に『幽霊』が出て困っているので、対処して欲しい。女将さんから頼まれた今回の依頼である。何でも物が浮いたり部屋を散らかされたりということが度々あるらしく、シーズンの外れた今のうちに終わらせておきたいらしい。

 この依頼は教務科(マスターズ)から白雪(と何故か俺)が指名され、どこからか聞きつけた理子が「温泉いきたーい!」と騒いで付いてくることになり(白雪は舌打ちしてた)、話を聞いたホームズ姉妹が日本の温泉に興味を持ち、人が多くなったので剛に運転を頼み、亮も面白そうだからと同行を申し出た。まあ、結果的にいつもの面子である。

 ちなみに綴先生は旅館の女将さんと知り合いで一緒に飲むため、レキはハイマキと一緒にいつの間にか車に乗っていた。諜報科(レザド)の人間かお前は。

 余談だが、超能力(ステルス)関係ということでジャンヌに白雪が声を掛けていたらしいが、「またろくでもない目に遭うんだろう!? そんなこと、させる訳にはいかない!」と叫んで逃げたらしい。何と戦ってるんだよお前。

 という訳で、俺と白雪は幽霊の痕跡を探して旅館内を回っている。他の連中? 卓球してるけど。

「喰らえりこりん必殺、ロッソ・〇ァンタズマ!」

「残像作ってそれっぽく見せてるだけでしょうが!」

 人が仕事してる中、こいつら楽しそうである。着いた時の注意勧告どこいった。

「喰らえ風穴スマッシュ!」

「ノブシ!? あ、ユーくんユキちゃんお帰りー。どうだった?」

「うん、収穫はあったよ。あとは夜まで待つだけだね」

「で、理子、卓球ボールがボクシングのストレート喰らったみたいにめり込んでるんだが」

「一瞬意識持ってかれそうになった」

 ナニソレコワイ。しかもボールに凹みが一切ないのが恐ろしい。どういう力加減で打ったんだよアリアの奴。

「おーいお前等、女将がそろそろ夕食にするだと。アタシも腹減ったからさっさと来いよー」

 と、顔だけ出してさっさと消える謎の美人――もとい綴先生。いやあれ先生なのか?

「何か、魔女から魔法少女に戻ったくらい邪気の払われた人を見た気分なんだが……」

「お風呂出てからずっとあんな感じですよ。ここの温泉の効果かしらね?」

 いやメヌ、それどんな効能だよ。綴先生が真人間に見えるとか怖すぎるわ。

 その後女将さんの作ってくれた夕食に舌鼓を打ち、白雪の提案で大部屋の一つに全員が集まって菓子を食いつつ(主に女性陣の食いしん坊ども、夕飯が全然足りないらしい)遊びに興じている。

「うおお、唸れ俺のダイス! ってここでファンブルかよォ!?」

「はい、じゃあ敵の攻撃が自動で入ります――あ、即死圏内ねこれ」

「ギャアアアまた死んだああ!?」

「これで三人目ね」

「む、武藤くんドンマイ! 次は大丈夫だよ!」

「理子は次の戦闘に一票!」

「俺は探索中に余計なもん触って死亡で」

「お前等他人のキャラが死ぬのでトトカルチョしてんじゃねえよ!?」

「まあ、それくらい死にやすくなってるよね、武藤君のキャラ」

 二時間いらずで三人とかある意味快挙だぞ、無論ネタ的な意味で。そりゃ賭けもしたくなるわ。

 そんな風に遊んでいると、いきなり部屋の電気が消えた。

「ってなんだ、停電? これじゃキャラシ書けねえぞ!」

「変だね、ブレーカーが落ちたにしては妙な感じだし」

 亮が言うとおり、電気の消え方は普通と違う感じだった。

「ま、まさか……幽霊?」

「おー、こりゃ真っ暗だねー。さあアリアん、お化けが怖いのならりこりんの胸に飛び込んで」

「レキ、ちょっとごめんね……」

「はい、構いません」

「視界にすら入れない!? うう、せめてツッコミくらい入れてよお……!」

「日頃の行いでしょう。まあ折角ですし、理子には私がくっつきましょう。ちゃんと守ってくださいね?」

「ヌエっちが女神に見える……! うー、らじゃ! 守るよ、超守っちゃうよ!」

 女の子座りしているメヌを理子が嬉しそうに抱きしめる。今日はいつにも増して百合成分が多いな。剛はさっき爆弾投げられたからか、口を開こうとはしない。驚いた、こいつでも学習するんだな。顔はアレだが。

「あ、あの、潤ちゃん! 私も怖いから、その!」

「いや、SSRの人間が幽霊怖がってどうするんだよ」

 まあ結局腕に抱きついてきたんで、好きにさせてるけど。剛が血の涙流してる気もするけど、気のせいじゃないかな(適当)

 

 

 理子達を置いていって白雪と二人、廊下を挟んだ障子を開ける。先にあるのは先ほど夕食をご馳走になった大広間、その一番奥にある襖を二人で開く。

『……』

 出て来たのは、先が暗くて見え辛い正方形の小部屋。本来なら廊下に出るはずなのだが、明らかにおかしい。

 暗がりの襖を開けると、またも同じ部屋に出る。試しに来た道を戻ってみるが、大広間に出ることはなく延々と小部屋に出るのみだ。

「異界化、か」

「正確には絶界かな。相手の領域とはいえここまでのことが出来るなんて、かなり強い亡霊みたいだよ」

「やってることはしょぼいのにな」

 会話しながら先へ進んでいると、小部屋の一つに見覚えのない少年が立っていた。十前後くらいで、不自然に体が透けている。

 そいつは酷く濁った目でこちらを見詰め、口を開こうとする。その瞬間!

「喰らえ白雪謹製清めの塩(物理)!!」

 塩を相手の顔面にシュウウウーート!!

『ギャアアアァァァァ!!?』

 超、エキサイティング!!

「今だ白雪!!」

「うん、確保ー!!」

 刑事ドラマの捕り物みたいに手際よく縄(霊体も捕縛できる星伽仕様)で犯人? を縛り上げていく白雪。何か妙に手慣れてね?

『ちょ、いきなり何!?』

「ドーモ、ユウレイ=サン。ブテイデス。罪状――はいいか、大人しく成仏されろや」

『お兄さん理不尽すぎない!? 僕子供、無害な幽霊! イジメヨクナイ!』

「風呂場で覗きにセクハラもした幽霊のどこが無害ではないと?」

『ナ、ナンノコトカナー?』

「じゃあこっちのお姉さんに見覚えは?」

『お尻がめっちゃいい触り心地だった!! ……あ』

 あ、じゃねーよあじゃ。とんだエロガキじゃねえか、この分だと余罪も腐るほどあるんじゃね?

 とりあえず親指を下に向けて「ギルティ」と告げてやった。

「エロガキに慈悲はなし。というわけで白雪……白雪?」

「潤ちゃんなら良かったのに、子供とはいえ他の男の人に……男の人に……」

「……白雪ー? 白雪さーん?」

 ブツブツ呪詛を呟きながら顔を上げた白雪は――あ、これアカン奴や。ハイライトが消えた瞳でニッコリ満面の笑みを見た少年は、「ヒッ」と怯えきった表情になる。

「ねえボク。女の子のことは気軽に触っちゃいけないって、先生に言われなかった?」

 普段子供と接する時みたいに優しい声音だが、目が死んでるのでめっさ怖い。

『はははハイ、昔それで怒られました!』

 あんのかい、やっぱエロガキだよ。

「そっか、じゃあ何でこんなことしたのかな?」

『そ、それは……ごめんなさい、出来心です! もう二度としないので許してください!』

 縛られたまま頭を下げる幽霊少年。手が動いたら土下座してたな。

「うんうん、悪いことしたらちゃんと謝る、いい子だね。だから――」

 少年の表情が安堵したものになり、

 

 

「死ぬほど痛い目にあわせるだけで許してあげる」

 

 

 炎を纏った色金殺女を構える白雪を見て一転、絶望に染まった。

「おーい白雪さーん、ここ室内、室内」

「大丈夫、全部燃やしちゃうから!」

 何が大丈夫なのだろうか。これ完全にエロガキ絶対殺すマンになってるな。

『ちょ、お兄さん助けて!!』

 少年は縛られたままこちらに助けを求めてくる。まあこいつのことはどうでもいいが、宿を燃やされると困るんだよな。

 なので俺は両手を水平に持ち上げ、

「南無」

 冥福を祈っておいた。

『おいいいいぃぃぃぃ!!?』

「星伽候天流――火々人柱神(ヒヒジンチュウノカミ)!!!」

 この日、耳を劈くような悲鳴が宿全体に響き渡った。幸い直後に俺が消火活動をしたので、火はボヤ程度で済んだ。

 余談だが、この日使った火々人柱神は、パトラ戦より倍以上の威力はあった。セクハラダメ、絶対。

 

 

「ヒグ、グス……潤ちゃん、私汚されちゃったよお……」

「よしよし。白雪はどこも汚れてないし、仮に汚れてても俺は気にしないからな?」

 で、旅館からの帰り道ではずっと慰めました。運転? 理子が変わった。ハンドル握るとめっちゃフリーダムな走り方するから、しょっちゅう隣の白雪とくっついたりぶつかったりで大変だったけど。まあ本人はちょっと顔赤らめてただけだからいいのかね。

 

 

「ジュン、ほんっとーに何もないのね?」

「隠すと自分のためになりませんよ、ジュン?」

「だから何もしてねえって」

 更に帰ってから、ホームズ姉妹のスリーサイズ(特にBの部分)について追及がうるさいの何の。そんな男にとって都合のいい状態になるような生活させてないっつの、計画立てた場合ならともかく(それ言ったら二人が目の色変えてたけど)。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 温泉ではのんびりしたいので、今回はそんなにボケてない(気がする)野郎。その分幽霊相手にはふざけていたが。
 風呂では覗くのではなく覗かれる方。何かおかしい気もするが、面倒なので放置していた。
 女子メンバーの成長に関しては本当に関与していない。そもそも胸のサイズに拘りがない。

 
神崎・H・アリア
 妹に敗北した小さい姉。今回何もしていない人その1。
 いつもは揉まれる側だが今回は唐突に揉んでカオスを生み出した。その結果育っているのを知れたのは僥倖、なのだろうか。
 余談だが、温泉でゆっくり休めたためその後数日は機嫌が良かった。
 

峰理子
 攻めると強いが受けに回ると途端に弱くなるタイプ。今回何もしていない人その2。
 珍しく色々やられてしまってテンションがおかしくなっていた。だが反省しない、帰ってからも皆にスキンシップしてはぶっ飛ばされる毎日である。


星伽白雪
 今回一番にして唯一の被害者。まさかの男に対して修羅モードを発動することになった。
 とはいえ、今回は潤の裸(後姿だけだが)を見たり、帰りに慰めてもらったりと本人にとって役得なことは多かったが。無論そういう問題ではない、セクハラダメ絶対(命の危機的な意味で)。

 
メヌエット・ホームズ
 遊び道具には妥協しない道楽至上主義。今回何もしていない人その3。
 実は宿内で車椅子を使わず歩いて過ごし、疲れたらアリアや潤に背負ってもらっていた。その姿を見て姉が密かに涙ぐんでいたとか。
 

レキ
 湯治目的で無断同行してきた奴。今回何もしてない人その4。寧ろ働いてる奴のほうが少ない。
 

武藤剛気
 我等が思春期の具現化。出てくると大抵ろくでもない目に遭っている。大半は自業自得だが。
 本人としては白雪や理子を車に乗せたかった。理由はまあ……大きいは正義、らしい。そりゃメヌエットにしばかれる訳である。
 
 
不知火亮
 メンバー中恐らく精神耐久が一番高い男。その笑顔が崩れることはまずない。
 女性の好みに関しては不明。聞いてもはぐらかすし、読心を試みてもよく分からない。
 
 
綴梅子
 監督役という名目で同行し、女将と酒を飲んでいた教師。温泉に入ると自身の何かが浄化され、アニメ版のような澄んだ顔つきになる、らしい。
 
幽霊少年
 見た目は子供、中身は武藤と同等かそれ以上のエロ男子。幽霊になって調子に乗っていたら焼き滅ぼされた。
 ちなみに当初は女子全員から袋叩きにされる予定だったので、まだマシな結末、かもしれない。
 
 
ジャンヌ・ダルク
 元ネタのアニメでは出てたのにこちらでは不参加になった不遇の子。まあ出たらまた酷い目に遭う未来しか見えないが(オイ)
 
 
後書き
 おっかしいなあ……幽霊のシーンもうちょい細かく書くつもりだったんですが、温泉シーンが大半を占めてる気がする。どうしてこうなった。
 そんなわけでどうも、ゆっくりいんです。今回はOVAの温泉回を元に書いてみましたが、如何でしたでしょうか? まあ色々省いてはいますが……ぶっちゃけ女子達の交流が書きたかっただけな気もする(マテ)
 さて、次回は原作前半一番の盛り場、『教授(プロフェシオン)』編です。オリキャラも登場させる予定なので、(多分)シリアスです。(多分)シリアスです。大事なことなので二回言いましたよ?(フラグ)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。


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『教授(プロフェシオン)』編
第一話 奪われたら突撃しかない


 第五部、『教授(プロフェシオン)』編スタートです。とりあえず今一番の悩みは、潤の女装をいつ解くか……ですね(何)
 



 

 兄貴を戦闘不能にし、悪夢のスーツ(あながち間違いでもない)を脱いで俺達の前に姿を現したイ・ウーのリーダーにしてアリアの曾祖父、シャーロック・ホームズ。そんな彼に俺と理子は警戒し、アリアは呆然と立ち尽くしている。さっきツッコミ入れてた? 気のせいです(真顔)

「さて、最初の出し物はそこそこ衝撃的だったと思うが、どうだったかな?」

「物理的に衝撃的だったのですよ。イ・ウーのリーダーがこんなお茶目さんだったなんて、ビックリビックリなのです」

 今のは俺、遠山潤(遠出梨奈)の発言。女装まだ解除してないです。

「ははは、恥ずかしながら未だ童心を捨てられなくてね。僕を驚かせてばかりくれる君を逆にどう驚かせようか、そればかり考えていたのだよ」

 その童心の結果、我が()は結構なダメージを負ってるんですが。というか世界一の名探偵を驚かせるようなことした覚えなんてないぞ、初対面だし。

「流石ユーくん、教授を驚かせるとか理子達に出来ないことを平然とやってのけるぅ!」

「君にも驚かされるばかりだけどね、峰君」

「え、マジですか?」

 何素で驚いてんだよ、というかお前こそ何したんだ。

「さて、そのことは後でゆっくり話すとしよう。アリア君」

 崩さない紳士スマイルを浮かべたまま、シャーロックはアリアに向き直る。視線を向けられてアリアは呆然としながらも、ようやく口を開いた。

「……本当に、曾お爺様、なんですか?」

「疑うのも無理はない。何せ僕は既に死んでいるとされている人間だからね。でも、君に備わっているホームズ家の直感は、僕が偽者か本物か分かるのではないかな?」

 ここでも直感かよ、それ出来たら真偽の看破にも使え――あ、アリア確信したっぽい。

「信じてもらえたようで何よりだ、アリア君。そして僕が君の曾おばあさんに言った、ホームズ家の女性がする髪型の言いつけをきちんと守っているね」

 シャーロックはツインテールが趣味、と。曾孫まで律儀に守るとか性癖強要させすぎだ――『違うからね?』と視線で制された、アッハイ。

「今まで多くの辛い思いをしていただろう。ホームズ家には推理力の欠如から冷遇され、母は冤罪によって投獄され、最近までパートナーにも恵まれなかった。

 でも、僕は違う。君がどれだけ才能に溢れているか、僕を超える存在であることを知っている」

「私が、曾お爺様を……」

「そう。そして――僕なら、君のお母さんが無罪であることを証明出来る」

「!!」

 それは、アリアにとって致命の言葉だ。才能がどうとかより、彼女にとって未来も恋も捨てる決意を持って救おうとする手段が、今目の前に転がっている。

 ならば差し伸べられた手を払えるか? 答えは否。それが尊敬する相手からなら、拒むことの出来る人間などまずいないだろう。

 

 

「僕達は、イ・ウーは君を歓迎しよう」

 微笑んで差し伸べられたシャーロック(憧れ)の手を、アリアは微塵の疑いもなく掴んだ。

 

 

「……やー、アリアん盗られちゃったね。どーしよっかりなちー?」

 この展開でも女装時()の名前を間違えないお前がある意味すげえよ。

「と、言われても……どうするですかね?」

 まあ俺もキャラを崩すような真似はしないけど。しかしどうする、どうするねえ。そんなの、隣の理子が笑顔の奥から発してるものと、後ろの動く気配から決まっているようなものだろうに。

「シャー、ロック……!」

 後ろの気配、治療中の兄貴(吹っ飛んだ衝撃で女装が解けた)がヨロヨロと立ち上がる。治療を行っていたパトラが慌てて止めるが、

「これでいい。これ以上、治すな」

 そう言う兄貴の瞳は力強さを失っておらず、懐から小型のナイフを取り出し、

「ぐっ!!」

 自分の腹に突き立てた。

「キ、キンイチ何を!?」

 パトラの驚きに満ちた、咎めるようでもある声。オイオイ、致命傷を避けているとはいえ、それはどうなんだ?

 ナイフを引き抜いた兄貴の腹からは血が流れ、纏う気配は姉貴(カナ)の時と同じ、もしくはそれ以上のものになっていた。ヒステリア・アゴニサンテ。HSS派生の一つであり、別名死に際のモードだったか。

「潤、理子、よく聞け」

 兄貴は鋭さの増した瞳で俺達を見、語りかけてくる。わあお、女装解けたら相変わらずの超イケメン。

「シャーロックはアリアを迎えるために自らテリトリーであるイ・ウーから出てきた、これは二度とないチャンスだ。

 三人で一斉に掛かって、シャーロックを逮捕」

「ちょっと黙るのですよ」

 話を遮ってまだ持っていた大鉈をぶん投げる。弾丸のように飛んでいくそれは兄貴の顔真横を通り過ぎ、壁にぶち当たって豪快に崩壊させた。

 全員が唖然とした表情になる。敵であるシャーロックとその手に落ちたアリアも例外ではない。理子だけはデスヨネーという顔をしているが。

「じゅ、潤?」

「ボロ雑巾にぶっ飛ばされた癖して何言ってるのですか? 僕は自虐趣味の兄を持った覚えはないのですよ」

 にぱー、と微笑んでやり――その表情を一転して怜悧なものに変じ、口調も冷酷なものにする。

「よく聞きなさい。たしかに今はシャーロック、敵の首魁を逮捕する千載一遇の機会かもしれない。ただし、足手まといがいなければの話だけど」

「足手まとい……誰のことを言って」

「貴方よ貴方、自覚ないの? 自傷なんて馬鹿なことやって、死に際のHSSなんてものを発動させて。確かにそれは強力だしシャーロック相手でも通用するかもしれないでしょう。私たち三人なら成功率は更に上がる。

 でも――仮に一撃で仕留められなかった場合、全力で二撃目を撃てるの?」

「それ、は」

 目を逸らした兄貴に溜息を吐く。全く、こんな説明何が悲しくて兄にしなきゃならんのだ。

「出来ないでしょう? 一撃で倒せるほど相手は甘くないし、貴方もそれは理解している。そうなれば、治しきれてない分と自分で開けた傷に苛まれている貴方がお荷物になるのは確定、最悪人質に取られるかもしれない。

 何よりも――私程度の暴論に捻じ伏せられているようでは、成功するものもしないわよ」

「…………」

 兄貴は、反論しなかった。ただ悔しそうに唇を噛んでいる。薄々察していたのか、無理だと改めて思ってしまったのか。

 そんな相手に、俺はもう一度笑って告げる。

「分かったらさっさとここを出て大人しく治療を受けるのです。あの二人は僕と理子がどうにかするのですよ、にぱー」

 それに対して聞こえたのは、拍手の音だった。無論兄貴ではなく背を向けた相手、シャーロックからのものだ。

「いやいや、本当に君は僕の『条理予知(コグニス)』を超えた動きをしてくれる。僕の推理では、君達三人が一斉に襲い掛かってくる筈だったんだがね」

「みぃ、机上の空論ばっかり立てて勘が鈍ってるんじゃないのですか? 武偵は常在戦場、なのですよー」

「なるほど、一理あるね。武偵の始祖などと言われているが、これなら君の方が相応しいかもしれないね」

「いらないのです、そんな大層な名前。のし付けて返済するのですよ」

 にぱーしてやると、これは手厳しいと苦笑するシャーロック。

「潤」

 声を掛けられたので振り返ると、兄貴は真剣な顔でこちらに告げる。

「必ず、必ずシャーロックを捕まえろ。最低でもイ・ウーは終わらせろ。いいな?」

 その言葉に、梨奈状態の俺はまたも笑ってやった。

「たまには弟に任せて、ワーカーホリックな兄は休むことなのです。まあ、出来るかは保障できないのですが」

「信用されたいのかされたくないのか、どっちなんだ」

「そんなもの、受け取る側の勝手なのです」

 きっぱり言うと、兄貴は苦笑しながら後方に下がった。それを半泣きのパトラが怒鳴りながら迎える。

「白雪、申し訳ないですがウチのバカ兄をよろしくなのです。パトラだけだと簡単に絆されそうなので」

「だ、誰が絆されそうじゃ! 妾はそんな簡単な女ではないぞ!」

 その発言自体がフラグだよ。

「……うん、分かった。潤ちゃん気を付けてね。あとついでに理子さんも」

「生存第一、任務は失敗しても生き残る主義なので心配無用ですよ~」

「理子はおまけですかそうですか」

 ひらひら手を振る俺といじける理子を心配そうに見ながら、白雪を含む三人は先程俺が空けた大穴から去っていった。

「さて。どうにかすると言われた以上、僕は大人しく引き返してもいいのかな?」

「別にここで決着付けてもいいのですよ?」

 予備の鉈(標準サイズ)を背中から取り出し構えるが、

「いやいやりなちー、ラスボスは一番奥に控えるのが通例ってもんですよ?」

「ゲーム脳も大概にしやがれなのです理子」

「いやいや、お約束というのは大事だよ。僕がラスボスかは置いておくけどね。

 それに、君を待っている人もいるのだからね」

「……待っている人?」

「懐かしい相手、と言っておこう。君の頭脳ならすぐ推理できると思うよ?

 ではアリア君、行こうか」

 シャーロックは壁に手をかざすと、何の前触れもなく崩壊した。お前も使えるのかよ二重の〇。

 そうして開いた穴の先、突如海から一隻の船が浮かび上がる。正確には船ではなく――原子力潜水艦だ。

「……」

 形成された氷のアーチ――ジャンヌと同じ系統の超能力(ステルス)だろう――を、シャーロックに手を引かれたアリアが進んでいく。途中一度だけこちらを見たが、何も言わず艦の中へ姿を消した。

「……わざわざ待つ必要あったのですかね」

「くふふ、言うとおりならりなちー待ってる人がいるんでしょ? それならここで教授を倒しても意味ないなーい」

「わざわざ従う義理はないのですがね~」

「それに、今アソコで戦ってもアリアん的には何も解決しないからね~」

「そもそも理子はイ・ウーにいたのですから、教授のことは知っていたのですよね?」

「それ言ったらりなちーもじゃないかな?」

 ……

『にぱ~』

 お互い笑顔で誤魔化した。

「まあ、その辺は追々アリアに怒られることにするのです」

「怒られることは確定なんですね分かります」

「怒られない未来があるなら教えて欲しいのです。とりあえず、アリアの救出とイ・ウー壊滅のために、行くのですよ~!」

「お~!」

 二人して腕を上げ、残っていた氷のアーチを渡ってイ・ウーに突撃する。会話は緩いが、俺達はいつもこんなもんだ。

 

 

「あ、中に侵入する前にいい加減着替えるのです」

「え~、もう鉈振り回してれば勝てるんじゃないかな? かな?」

「待ち人にスルーされるとかシュール展開を防ぐためなのですよ……」

 大体この格好、鉈しか使えんし。

 

 

 入口の適当な物陰で着替え(理子が覗こうとしたので壁に叩きつけておいた)、俺達は艦内に突入する。まず出たのは広いホールで、そこには恐竜の化石や鉱物、絵画や書物などがジャンルごとに並べられており、これらだけで小国くらいなら余裕で買えそうな量が保管されている。

「こりゃまた大したもんで。全部シャーロックが集めたもんか?」

「そだねー、教授は収集癖があるから色々なジャンルのものを取り揃えてるよ。多分これでも一部なんじゃないかなあ。

 ……ちょーと借りてもばれないよね? 」

「窃盗が犯罪なのと武偵三倍法が怖くないならいいんじゃね?」

「元犯罪者で大泥棒のりこりんに躊躇う理由はない!」

 そういやお前そういう家系だったな。手際よく金目のものと気に入ったものを(一生)借りていく理子を見ながら、俺は武装の点検をしておく。多分パクってるのシャーロックにはばれてるんじゃねえかなあ。

 三分も掛からずに必要なものをゲットしたホクホク顔の理子と先へ進む。途中『遊戯室』と書かれていた部屋には、家庭用・アーケード・PC版を問わず多数のゲームが置かれていた。というかほとんど日本製だった、イ・ウーいらんとこに力入れすぎじゃね? 『漫喫室』って言うのもあったけど、流石に予想できるのでスルーした。ギャグのつもりかその名前。

 それにしても、結構な距離を歩いてるのに未だ誰とも遭遇しない。理子の話ではイ・ウーのメンバーはかなりの数に上るはずなのだが。

「まるで船員だけ突然いなくなった沈没船だな」

「もしくは爆弾が仕掛けられて沈む直前の豪華客船みたいな」

「それ犯人お前だろ」

「テヘペロ☆ まあ皆逃げた後だろうね~。理子たちが行っても行かなくても、今日がイ・ウー最後の日なのかもな~」

「最後かは知らんが、全員逃げた訳ではないみたいだな」

 どこか思うところのある理子の言葉を否定し、俺は一つの扉の前で立ち止まる。中から人の気配がするからだ。

「お、この感じは~……あれ、ユーくんひょっとして知り合い?」

「ああ、よーく知ってるぜ。しばらく音信普通だったんだが、なるほどねえ」

 兄貴同様、ここにいたのなら連絡がないのも当然だろう。何か理子が意外そうに見ているが、別に俺だってイ・ウーの動向を全て知ってるわけじゃないからな?

「で、ユーくんどうするの?」

「そりゃまずは『ご挨拶』するのが礼儀ってもんだろうよ」

「おお、なるほど! 敵地での『ご挨拶』ならそれしかないね!」

「そーいうこと。じゃあ行くぞ、せーの」

『おっ邪魔しまーす!』

 台詞と蹴りがシンクロし、ドアは容赦なく吹き飛んでいく。無論中にいるであろう相手に向けて角度は調節してある。

 吹き飛んだドアはしかし、目標の手前で止まった。より正確には、止められた。

「相変わらずですね、理子。変わらず壮健なようで何よりです。

 そして――お久しぶりですね、潤」

 片手でドアを受け止めたまま、優美にこちらへ微笑んでいる同年代の女子。艶やかな長い黒髪を巫女のように緩く結い、女性にしてはやや高い身を包むのは藤色の、どこか毒々しい模様が施された和服。

 そこにいたのは、記憶にある通りの彼女だった。違いがあるとすれば眼鏡を掛けていないことと、成長して大人っぽくなってることか。白雪とは違う方向で、大和撫子に磨きが掛かってるな。

「おう、久しぶり。美人さんに磨きは掛かってるが、変わらず元気そうで何よりだよ、眞巳(マミ)

 そう言って彼女――中学時代のパートナー、須彌山眞巳(すみやままみ)に俺は笑い掛けた。なーるほど、こりゃ確かに俺向けの待ち人で、楽に通れそうにない相手だわ。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 イ・ウー本拠地でかつてのパートナーと出会う少年。次回は彼の中学時代について語られる、かもしれない(ノープラン)
 シャーロックが喋っている間は、一応空気を読んで黙っていた。これでも一応場に合わせることは出来る。
 兄と一緒にシャーロックへ攻撃を行わなかったのは、倒せる確率が低かったのと無茶ばかりする兄を嗜めるため。義を通す彼の生き方を否定はしないが、無茶は止める。

 
神崎・H・アリア
 曾祖父に誘拐された今回のヒロインポジション。喋らないとヒロインぽいとかどういうことなの(困惑)
 現在、曾祖父に色々吹き込まれている模様。
 

峰理子
 自分が爆破しかけた客船をネタにする元犯罪者。なお反省しているかは――後のマスコミ達の騒ぎ方を見る限り、微妙なところである。
 イ・ウーの内部は熟知しているので先導していたが、明らかにツッコミ入れたくなる場所を経由して進んでいた。
 

星伽白雪
 金一の治療のため離脱。理由としては本編で言ったとおり、パトラだけでは金一の抑止力とならないため。


遠山金一
 シャーロックを追い詰めようとするも、弟に止められてしまう珍しく男の状態な人。今後一切ないかもしれない(マテ)
 原作なら心臓付近を撃たれていたが、本作では致命傷に至らなかったため自傷行為に走ってアゴニサンテを発動させた。結局潤に止められたので意味はなくなったが。
 
 
パトラ
 金一治療のため離脱。離脱後に本気で怒り、彼を戸惑わせる1シーンがあったとか何とか。
 
 
シャーロック・ホームズ
 ツインテール属性嫌疑を掛けられたイ・ウーリーダー。これでカオスな空気にならないのは長生きの賜物である(違)
 原作のシャーロックより少しお茶目な模様。まあ用意されている部屋を見れば、ねえ……
 

須彌山眞巳
 本作初登場のオリキャラにして、遠山潤の中学時代の相棒。前々から用意していたキャラだがまず思ったこと、名前が面倒臭い(オイ)
 
 
後書き
 という訳で、オリキャラの登場回でした。基本オリキャラ達は作者の趣味全開かネタ満載の二択になると思います。今回は前者、和服美人っていいよね!(何)
 次回は戦闘回になるかと思います。パトラ戦もそうだったけど、上手く書けるかなあ……しかもガチバトル予定なんで、ネタも挟めませんし……シリアス、シリアス、シリアル……(マテ)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。


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第二話 旧友と親友の戦い、(命の)ポロリもあるよ?

 シリアスなんて書くのいつ以来でしょう……そもそもないだろ? かもしれんね(惚け)



 

「……あら、随分とお世辞が上手くなったんですね。中学時代の貴方を覚えてる身としては、美人なんて言われるとは思いもしませんでした」

 俺達の前に立つ眞巳(まみ)は少し驚いた顔になり、着物の裾を手に当てて小さく笑った。微かに顔が赤いのは、本人にとって不意打ち気味だったからか。

「いやいや、他人を褒めることくらいあったじゃん?」

「能力を褒めることはあっても、容姿を褒めることはなかったでしょう? 隣にいる可愛い恋人の影響ですかね?」

「イエス、ユーくん最愛の人ことりこりんです! ユーくんの恋愛感性は理子が育てた、でも平気で口説くように褒めるから困ってるんだよね~」

「世辞に対して大嘘付いてんじゃねえよ」

「あらあら、そうなんですか?」

「そっちも普通に受け入れないでくれねえかなあ」

 そういやこいつ、菊代が冗談で言った「実はアタシ達、そういう仲なんだよね」を真に受けて、「あら、じゃあお邪魔虫はどこかに行ってますね」ってマジレスする奴だった。基本真に受けるタイプなんだよな。

「それじゃあ恋人さんの理子には悪いですが、潤をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「アリアんがいる場所を教えて、通してくれるなら考えてあげてもいいよ?」

「別に構いませんよ。私は教授(プロフェシオン)に足止めを頼まれた訳じゃなく、友人に会いたかっただけですから」

 眞巳は微笑みながら、アリアがいる場所を教えた。嘘を吐いている様子はない、まあ虚言を弄するタイプでもないが。

「じゃありこりんは先に行ってていいかな? ユーくんは煮るなり焼くなりマミさんがお好きなようにしちゃってくださいな!

 あ、ユーくん早く追いついてきてね?」

「追いついて欲しいのか違うのかどっちなんだよ。いいからはよ行け」

 シッシッと追い払う仕草をするも、「うー、らじゃ!」と何故か嬉しそうに理子式敬礼をして走り去っていった。後に残るのは俺と眞巳の二人だけ。

「あの子、私のことだけさん付けなんですよね。遠慮されてるんでしょうか」

「いや、同名のアニメキャラと掛けてるだけだろ。お前とはあんまり似てないタイプだけど」

「あら、そうなんですか? それならいいんですが。理子とは同い年なんですし、仲良くしていたいですから。

 さて、このまま思い出話に花を咲かせるのもいいですが」

 眞巳は袖で隠していた手をこちらに晒す。そこには鉄製で獣の爪のような刃が施された手甲が見えていた。

「それよりもこんな機会、二度とないでしょうから。さあ――存分に殺り合いましょう?」

 嫣然と微笑んだかと思うと、次の瞬間こちらに向かって突進してくる。速いな、能力値だけなら間違いなく俺達の中で最強のアリアよりも速い。

 右に飛んで回避するが、眞巳はそれを読んで即座に左の掌底を放つ。今度は受け流して体勢を崩すが、勢いを利用して回転しながら上段蹴りを放ってきた。

 バックステップで距離を取ろうとするが、相手は逃がさんと追撃を掛けてくる。息も吐かせず反撃も許さない怒涛の連続攻撃、攻防の拮抗は中々崩しづらい。

「ふっ!」

 顔の左右を挟もうとする一撃。喰らえば顔が輪切りにされるの間違いなしの一撃を、ナイフの柄で受け止める。正確には、受け止めさせられた。

「ふふ」

 眞巳は薄く笑うと、押し込む力を強めてくる。筋力でも話にならないくらい差があるな。

 完全に押し込まれる前にナイフを手放して屈み、懐から散弾銃――ドイツ製のサクソニア セミ・ポンプを取り出し、躊躇なくぶっ放す。

 腹部を狙った一撃を、しかし彼女は流れるような動きで避ける。牽制にもう一発放ち、何とか距離を取ることに成功した。

「あら、散弾銃なんて物騒なもの持ってますね」

「いきなり爪で斬りかかってきた奴が何言ってやがるんだか」

「『戦闘中は先手を取られる奴の方が悪い』。貴方の言葉ですよ」

「確かに言ったしその通りだが、ここで言うのは何か違うだろ?」

 いや、「そうですか?」って首を傾げられてもな。

 とはいえ話しながらも、眞巳の瞳は先程の穏やかなものから一変、物騒な情感に満ちている。具体的に言うなら――殺意か。殺せない武偵相手に殺意満々じゃないですかヤダー。

「うふふ、楽しいですねえ。貴方と菊代と私の三人、色々な場所を駆け回ったのも良かったですが……貴方との殺し合いは、あの日々に匹敵するかもしれません」

「殺し合いが中学時代並の楽しさとか、菊代が聞いたら泣き出しそうだな」

「寧ろ笑いながら怒りそうですけどね。でも、そう言ってる潤も、楽しいんじゃないですか?」

「別にそこまで戦闘狂じゃねえよ、俺は。それに今は戦いを楽しむより、アリアのところに行くのが最優先だ。んな訳だから」

 懐に手を突っ込み、取り出したのは無骨な灰色のパーツ。それらを四肢から取り出して組み立てていき、出来たのは全長3mに及ぶ無骨な大剣。

「思い出話はここまでだ。お望みどおり存分に殺り合ってやるから、さっさとくたばれや」

 大剣の切っ先を向けてやると、眞巳の奴は懐かしそうに目を細める。

「……お兄さんの武器を参考に作った分解式武装、『ディス』。それで菊代を苛めていた女子達をぶっ飛ばし、止めようとした他の生徒もまとめて始末したのが私達の始まりでしたね。そうして貴方に付いた二つ名が、『死体量産(デッド・メーカー)』」

「誰が付けたんだろうな、その厨二臭いネーミング。あと人を殺し屋みたいに言うんじゃねえよ」

 ちゃんと全員生きてたっつーの。まあ半殺しになってたり、やられたショックから転校した奴もいたが。

「それに、お前は途中から勝手に乱入してきたんだろうが。『義を見てせざるは勇なきなり』とか言って」

「転校したばかりだったので、友達が欲しかったんですよ」

「求める場所とタイミングが致命的におかしいだろ。というか」

 昔話は終わりだって言ったろ? そう告げると同時、大上段からディスを叩きつける。発生した衝撃波はまっすぐ眞巳に向かい、爆発を起こす。

 ここでやったか!? とか言えばフラグなんだろうが、無論この程度でくたばるような輩じゃない。ほら、後ろから殺意が――

「シッ!」

 振るわれる鉄爪の突きを前に飛んで避けるが、振り返り様伸びてきた腕(・・・・・・・)が首を掠め、血が飛び散る。

「――へえ」

 続く左の伸腕は、USPで叩き落とした。

「なあるほどな。それがお前さんの能力か?」

「ふふ、さあ――どうでしょうね!」

 言うと同時、口を大きく開く。そこから発生したのは、不可視の衝撃波。ブラドの方向とは異なる物理的破壊を伴う攻撃は、ディスを盾にして防ぐ。それでも二・三歩後退してしまうが。

 そして、壁に背が叩きつけられる。だが、部屋の端からは離れており、数歩下がった程度でぶつかるような距離ではない。

 視覚には何も映らない、だがそこにある。つまりそれは――不可視の壁。

「チッ!」

「あはっ」

 すぐそこまで接近した眞巳の蹴りを、屈んでギリギリ避ける。すると後方にあったものは、轟音を立てて崩れ去った。

 距離を取ろうとするも、そこにまたしても先程の壁。続いて放たれた正拳は、ディスを手放し上に跳躍することで避ける。

 天井に足をつけた天地逆転の状態で、USPを全弾吐き出す。進路予測を立てた銃撃にしかし、眞巳は驚異的な身体能力で後退しながら避けていく。

 そうして最後の一発を避け――たと同時、爆発が生じる。

「!?」

 驚きの顔は煙の中に消え、すかさず床に下りてディスを拾い、炎を纏わせた一撃を振りかぶるが、

「ガッ!?」

 煙の中から放たれた水流に反応できず、どてっ腹へ一撃を貰う。ご丁寧に回転付けやがって、キッツイなオイ!?

 骨が何本か折れる音と、勢いを殺せず壁に叩きつけられるダメージをまとめてもらい、口から血反吐を吐く。

「あら、完全には入ってませんでしたか。本来なら風穴を開ける予定でしたが」

 爆風を防いだのだろう、手に持っていた唐傘を脇に投げ、眞巳は俺の目前で微笑んでいる。

「そりゃ、アリアの決め台詞だろうよ……あー喋りにく、ゴフォ!!」

 口内と腹に溜まった血液をまとめて吐き出す。骨とか内臓その他諸々が激痛の悲鳴を上げるが、喋りやすくなったから無視だ無視。

「……本当、貴方はどれだけ窮地に追い込んでも普段と変わりませんね」

「この程度じゃ窮地とは言わんよ」

 もっとヤバイ状態で死に掛けてることなんて、それこそ腐るほどあったしな。

「ふふ、どんな体験をしてきたのやら。でも、これで終わりです。貴方相手に言葉で時間を与えるのは愚の骨頂ですから」

 そう言う眞巳の右腕は徐々に肥大化し、手甲を砕いて赤黒い異形のものと化す。人の顔面くらいトマトみたいに余裕で潰せそうだ。……アリアも出来るか(マテ)

「あんまり見ないでくださいね? これ、結構恥ずかしいんですから」

「いやバッチリ見えてるんだけど」

「じゃあ――頭を潰して、忘れてもらいましょう」

「ナニソレコワイ」

 口封じ(物理)じゃねえか。

「では、さようなら潤。貴方にしては呆気ないものですが」

 それも一興。そういって僅かな悲しみと、多大な嗜虐を混ぜた表情で、異形の腕は振り下ろされる。

「ああそうだ眞巳、一つ言っておくが」

 喋る俺に対し、眞巳は腕を止めない。まあ喋らせる気はないんだろうが、俺は構わず続ける。

「戦闘中視野狭窄になる癖、直してなかったんだな」

 

 

 そうして腕が俺の顔を潰す寸前、眞巳の全身がズタズタに切り裂かれた。

 

 

「が、あぁあ!!?」

 激痛からか動きが止まり、そこへすかさず起き上がって攻撃を仕掛ける。回し蹴りは異形の腕で防がれるが、俺の一撃で揺らぐあたり、ダメージと動揺が響いているみたいだ。

 そこからは一方的な展開。何とか距離を取ろうとする眞巳に対し、俺は容赦なく逃がさず攻撃していき、仕掛けていた糸も併用してダメージを蓄積させていく。

「ぐ、う!」

「遅えよ」

 苦し紛れの反撃に、サクソニアの一撃を至近距離でぶち込む。

「あ、が、あぁ……」

 本来なら人体など穴ぼこにしてやる威力だろうが、皮膚を貫通することはなく、吹っ飛ぶだけに留まる。とはいえダメージはしっかり通っているのだろう、倒れたまま動くことはない。

「はい、ゲームセットと」

 サクソニアを仕舞い、眞巳の元へ歩み寄る。もう戦意はないのか、血塗れの状態で倒れたまま動こうとしない。

「あーあ……負けちゃいましたか。潤の命、この手で摘み取ってみたかったんですが」

「ま、世の中そう上手くはいかんもんさ。もっとも、直接奪い取ることに拘らなければ、勝負の行方は分からなかったが」

「そうかもですねえ……そういえば、どうやって糸を操っていたんですか? 手元や足元には注意していたんですが」

「その発想自体が視野を狭めてるんだよ。別に設置したものは手動じゃなくても、時限式にしておけばいいだろうよ」

「ああ、なるほど……それなら手元を見てても意味がないですね。私もまだまだ、ですか」

「ま、それでも楽しめる殺り合いだったよ。久しぶりに命の危機を感じた」

「よく言いますよ、追い詰められる位置も計算してのものでしょうに……大体、骨とか砕いてるのに平然と動いてるのが意味分かりません。痛いの大好き興奮しちゃうドMなんですか?」

「それドMの域超えてるだろ。ていうか現在進行形で折れてるし、超能力(ステルス)で治してるけどいてえもんはいてえよ」

「じゃあ、無痛症?」

「ちげえよ、どっかの起源覚醒者じゃあるまいし。単純に、痛いのなんて無視しちまえばいいだけだろ? 痛覚という危機信号が動きを阻害するなら、その信号を停めちまえばいい。そうすりゃ繋がってる限り動ける。

 大体お前こそどうなんだよ。通常弾とはいえ至近の散弾喰らって穴も開かないし、傷もほぼ治り始めてるぞ」

「まああと五分もすれば動けるようになりますね、戦闘は無理ですが。

 ……はあ、こんなことなら私も痛覚遮断を覚えておくべきでした」

「先天性の力に頼りすぎなんだよお前は。受け継いだ長所を伸ばすのは結構だが、それを補うものも今後は学んでおくんだな」

「……私がなんなのか、気付いてたんですか?」

「そりゃあな。流石にここまで色々混じってるとは思わなかったが」

 ろくろ首、天狗、ぬり壁、河童、鬼。今回戦闘で使っただけでも、これらの種族と思しき妖怪の技を使っているんだ。実際はどれくらいなんだろうな? まあ要するに、

「国内の様々な妖怪を祖先に持つ、限りなく妖に近い存在(・・・・・・・・・・)。それがお前の正体だろ、眞巳」

「正解。流石は潤、推理が早いですね」

「ここまで推理材料あれば、探偵科(インケスタ)のEランクでも分かるっての」

「……私が言うのもなんですが、人間に期待しすぎじゃないですか?

 まあ、いいです。では潤、私を殺しますか? ここは治外法権のイ・ウーであり、貴方は勝者。こちらが殺そうとした以上、その権利はあり……なんですか、その顔は」

 指摘されたとおり、今の俺はさぞかし微妙な表情をしていただろう。いや、だってなあ?

「何を好き好んで元パートナーの友人を殺さなきゃならないんだっつの。大体、武偵に殺しを勧めるなよ」

「私は妖という人外の存在、そして貴方の敵ですよ? 殺す理由なんて十分ですし、法で罰せられることなんてありませんよ」

「人外の知り合いなんて腐るほどいるし、敵が殺す理由になるなら理子と仲良くしてないっつうの。大体、お前殺して菊代に恨み買いたくないし。なあ?」

『そうだねえ、そんなことされたら潤をどうしちまうか、自分でも想像できないよ』

「え――」

 治ったのか痛みを忘れたのか、驚愕の表情で眞巳が起き上がり、通話中となっている俺の携帯に目がいく。

「きく、よ?」

『ああ眞巳、お久しぶり。コンタクトが取れたらまずどこで何してたか問い詰めてやるつもりだったけど――潤が代わりに教えてくれたから、特別に許してあげる』

「……じゃあ、今までの話も」

『バッチリ聞いてたよ。全く、こっちが組の仕事で忙しいっていうのに、あんた達は豪華客船で同窓会? 羨ましい限りじゃないのコンチクショウ。

 ああそうだ眞巳、一つ聞きたいんだけど。アンタアタシ達と会った時から、イ・ウーとやらの所属だったのかい?』

「……はい、元々は潤の監視を教授(プロフェシオン)に命じられて、神奈川武偵中に潜入しました」

 なんだそりゃ。こんな凡人をハイスペック娘に見張らせるとか、シャーロックの奴何考えてるんだか(←今勝った奴)。

 罪悪感を抱えた顔で答える答える眞巳に対し、菊代はそうかい、とだけ返した。

「……あ、あの、菊代」

『ああそうそう、大事なこと聞き忘れてた。眞巳、あんたもし組織が解散したら、その後どうするつもりなんだい?』

「え? えっと、特に行く当てもないので、どこかの組織に雇ってもらうか、放浪でもしようかと」

『つまり特に決めてないと。よし、じゃあウチに来な。丁度人手が足りなかったんだ、あんたなら『裏』の事情にも精通してるだろうし、組の野郎どもも美人が来るんだから大歓迎してくれるよ』

 決定事項といわんばかりの勧誘に、眞巳はポカンと間抜け面でこちらを見てくる。いや、どう考えても、

「菊代は本気だと思うぞ?」

『当然。腕っ節はそこらの男より遥かに強いし、義理を通す人情も持ち合わせてる。おまけに中学時代の親友でありパートナーの一人、潤に振られちまった以上、組の長としても鏡高菊代個人としても逃せない人材だね』

「とまあ、熱烈な勧誘されてるが」

『あんたが一緒に来てくれると狂喜乱舞するかもしれないよ、潤?』

「組織人とか確実に合わないんで」

 肩を竦めて即拒否する俺に、電話越しから『つれないねえ』という言葉と、でかい溜息が聞こえた。いや、狂喜乱舞する菊代とか想像できんし見たくないんで。

 くすり、と笑い声が聞こえる。それは対面している眞巳のものからだった。

「本当に、貴方達はあの頃と変わらないんですね……私が人間じゃないと知ってなお欲しいと言えるんですもの、菊代は」

『はん、ヤクザの親分なんて強欲なくらいじゃないとやってられないんだよ。それに、種族だの人種だのが違うくらいで親友を迎え入れらないんだってなら、そんな社会だか世界だかに速効で喧嘩売ってやるよ』

 らしい啖呵の斬り方に、今度は声を上げて笑う眞巳。いやあカッコイイね菊代、俺が女だったら惚れてたかも。

「ふふ、ふふふ、本当菊代らしいですね。分かりました、これが終わったらそちらに向かいますね」

『寄り道せずにまっすぐ来るんだよ? あんたはもうウチの子なんだし、他のとこに唾付けられたらたまったもんじゃない』

「……もう入るのは決定事項なんですね」

『中学時代に色々隠したり音信不通だったのは、それで許してあげるよ』

「そう言われたら、行くしかないですね」

 『じゃあ待ってるよ』最後にそれだけ言って電話は切れた。言うだけ言ってって感じだな、マイペースなこって(←ブーメラン)

「潤、手を貸していただいても?」

 喋っている間に回復したらしい眞巳に手を差し伸べる。もうほとんど回復してるな、これ二回戦あったら確実に負けるんじゃねえかなあ。

「もう殺り合う気なんてないから、身構えなくていいですよ。神崎・H・アリアのところへ案内します、それで私の仕事は終わりです」

「直前まで殺気バリバリだったのに警戒しない方がおかしいと思う」

「そういう気分の時もあるんです」

「そういう気分なら仕方ねえな」

 うむ、俺も時々理子に殺意湧く時あるから仕方ない、具体的には菓子を取られた時とか。

「じゃあ、案内頼むわ」

 さーて、理子の奴上手くやってるかね?

 

 

おまけ

「あ、そういえば服……見ました?」

「見てない見てない。あとこれ、とりあえず羽織っとけ」

「……やたら上を向いてると思ったら、こういうところは紳士なんですね。もしくはヘタレでしょうか」

「どっちでもいいですよーと」

「まあ見てたら菊代にチクってましたけど」

「オイそれはマジでやめろ」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 元パートナーと殺し合いを演じた男。仕掛けていた罠で逆転し、容赦なくズタズタにした。
 互角の勝負と思うかもしれないが、能力差は圧倒的で終始ギリギリ付いていくのが限界だった。いつも通りとも言う。
 友人の正体がなんだろうと基本動じない。本人が言うとおり、真っ当でない経歴や出身の知り合いなど腐るほどいるので(本人含む)
 
 
須彌山眞巳
 元パートナーを殺したがった大和撫子系女子。殺したい理由は殺人衝動のためだが、書き忘れたので割愛(オイ)
 本編で記されたとおり、国内の様々な妖の血が混じった半妖。9割以上妖寄りだが、外見は生まれてからずっと人間のまま。クリーチャーフェチの皆さん、残念だったな!(何)
 中学時代から菊代あたりに自分の意思を無視して色々言われることが多かった。もっとも菊代なりの思いやりや配慮であり、拒むことはほとんどなかったのだが。
 
 
鏡高菊代
 電話口だが初登場、鏡高組組長。眞巳を勧誘できた事に分かりやすいくらい喜び、それを部下に見られて微笑ましいものを見る目で見られたとか(その後部下は死ぬほど怖い脅迫を喰らったらしい)
 潤達とのやり取りが(作者的に)一々色っぽく、口説く、振られる、惚れたなどの言い回しは日常茶飯事。
 潤にとって、怒らせてはいけない人間の一人。その理由はいずれ本編で。
 

峰理子
 潤を生贄に、さっさか先へ進んでいったフリーダムウーマン。現在アリアと戦闘中。
 彼女発言に悪ノリしたが、一人になってから周知でもだえていたとか。大体いつも通り。
 
後書き
 タイトルの親友部分どこいった、字数の都合でカットされました。アリアVS理子戦は犠牲になったのだ……(マテ)
 という訳でどうも、ゆっくりいんです。ブラド戦以来のガチな戦闘シーンでしたが、どうでしたでしょうか? 個人的には、もっと実力差とかが分かる描写を入れるべきかなあ……と。そもそもウチの主人公、近接苦手ですし。
 とりあえず、オリキャラ眞巳さんの登場はこれで終わりです。今後の登場は、展開的に菊代と一緒のタイミングなので結構後ですかね? リクエストがあれば小話とかで出してもいいんですが……そして今更ですが、名前が一緒だからってマミったりはしません、今も未来も(真顔)
 さて、次回はアリアとの再会、そしてシャーロック戦突入くらいでしょうか。今回シリアスしてた気がするので、反動によりギャグになると思います。というか原作戦闘はギャグになる可能性がたか、おっと何でもありません。
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。
 


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第三話 説得というより仲間にする感じ

 酒呑ちゃん可愛い、ただし持ってはいない(何)



 

 

「く、や、この、離しなさいよ……!!」

「くっふふふー、アリアんが好きなとこはどこかなー、ここかなー?」

 …………

「……助けないんですか?」

「……行かないとダメか?」

「私が潤の立場だったら見ないことにする一択ですけど、このままだと彼女の貞操が危ないような」

 いやまあ、そうなんだけどさ。アレに干渉しなけりゃならないの、俺?

 あ、遅れながらどうも、遠山潤だ。今は眞巳の案内でアリアがいるだろう部屋に案内されたんだが……

 到着して目にしたものは、アリアを髪で拘束して服の中に侵入しようとする理子の姿だった。人がさっきまで殺り合ってたのに何やってんだこいつ。

「あーうん……しゃあないか」

「くふひひ、さあアリアちゃーん、身体検査のお時か」

「オラアアァァァ!!」

 喰らえ伝家のマーシャルキック!!

「あべし!?」

 おお、ボールみたいに良く吹っ飛ぶな。

「あの、凄くいい感じの鈍い音が聞こえたんですが……」

「クリティカルで入ったッぽいな」

 まあ白目向いてピクピクしてるから、ちゃんと生きてるだろ。

「ああでも、反応が普通だったからちとやばいか?」

「『あべし!』は普通の反応なんですか……?」

「普通普通、いつもに比べれば超普通」

 まあいいか、急所に入っててもアリアの蹴りの方が強いだろうし。

「おーいアリア、大丈夫か?」

 倒れたアリアに手を差し伸べる。が、

「触んないでよ!」

 思いっきり手を払いのけられてしまう。警戒心の塊みたいな表情で立ち上がり、こちらから一気に距離を取る。

「アリア? どした、理子がセクハラしてたので気が立ってるなら」

「うるさい! 気安くアタシの名前を呼ぶな、近寄るな! 風穴開けるわよ!!」

 こちらの言葉を遮り、ガバメントをこちらに向けながら叫ぶアリアは――敵意と不信、か。完全に情緒不安定で、こちらの話を聞きそうにない。

「……ふむ」

「何よ、怒ったの? いきなり怒鳴られたことが気に入らないの? じゃあかかってきなさいよ、殺せるもんなら殺して」

シャーロックに何を吹き込まれた(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 今度はこっちがアリアの言葉を遮り、質問する。

「な、何よ突然。曾お爺様は関係ないでしょ!? アンタの質問に答える気はない!」

 目に見えて広がる動揺。まあそうだよな、この状況でアリアに吹き込むのはアイツしかおるまい。

「その顔が答えみたいなもんだがねえ」

「! 来ないでよ、これ以上近寄るなら撃つわよ!」

「警告してくれるとは随分優しいねえ、いつもなら問答無用で殴り飛ばすだろうに。

 まあそうだな、それに返すなら――撃ちたきゃ撃てば?」

 一歩一歩、ゆっくりと近付いていく。そんな俺に対し、アリアは――引金を指に掛けたまま動かず、動揺が強まるばかりだ。最近感情制御(ポーカーフェイス)も上手くなってきたんだが、今はまるで隠せてないな。

 結局アリアは引金を引かないまま、俺がすぐ目の前まで来るのを許してしまった。

「じゃ、もう一回聞こうかな。シャーロックに何を吹き込まれたんだ、アリア?」

 ギリ、と奥歯を噛み締める音が聞こえる。よく見たら、口元から血が流れていた。

「……アンタも理子も、ホントそう。何もかも隠して、その癖平然とアタシの隣に立って、ここにも平然と入ってきて。何様のつもりなのよ!」

「隠し事の一つや二つ、別に珍しくもあるまいに」

「ええそうね、アンタにとって別段珍しい隠し事でもないでしょうね――9条破り(・・・・)!」

 はっきりと、アリアは侮蔑の表情を浮かべる。武偵法9条破り――端的に言うなら、『人殺し』だ。

「ねえ、一体何人殺してきたの? 武偵になる前、お兄さんの養弟になる前一体何をしていたの?

 アタシは知ってる、曾御爺様から聞いたわ。アンタが人殺しを育てる組織に居て――何人もその手に掛けてきたって!」

「ふむ、それで?」

「理子はイ・ウーの命令だった、アタシもいずれその手を汚すこともあるでしょうね。

 でもアンタは違う! 自分の意志で、罪の有無に関わらず大勢の人を殺す『悪』を行った! 違う!?」

「いや、全くその通りだ。俺は俺の意志で、お前の言う『悪』を、兄貴に拾われるまでやっていた」

「!」

 特に迷いなく肯定すると、アリアが俺の左胸――つまり心臓部分にガバメントを突きつける。

「後悔は、ないの?」

「いや、別に」

「罪悪感は」

「何だそれ?」

「アンタ――最低最悪ね」

「よく言われる。なあ理子?」

「そうだな、潤は女子供にも容赦のない鬼畜野郎だ」

「そこは擁護しろよ」

 いつの間にか復活した理子が、裏モード口調でやれやれと肩を竦めている。まあこいつから見ても言い訳無用だわな、俺は。

「で、どうするんだ潤? 今更だが少しは誤魔化したらどうなんだ」

「いや、ここまで来て嘘吐けば余計不信買うだろうよ。なあアリア?」

「……っ、う、るさい、うるさいうるさいうるさい!! 何でいつも通りなのよ、撃てないと思って舐めてるの!?

 ふざけないでよ、アタシはやるわ、ママを助けるためならアンタを殺すことだって!!」

「だろうな、お前には汚れる覚悟があり、それをする資格がある。ああそうだ、アリア」

 狙うならここだぞ。そう告げて、極自然な手付きでガバメントを俺の額に導く。

「っ、潤!?」

「な――なんの、つもり」

「いや何、武偵殺すつもりなら頭狙わないとな。心臓だと防弾服の影響で致命には達しないし」

 俺の場合制服だけでなく、私服も防弾繊維で作られてるからな。確実に殺すつもりならここが一番だろう。

「あと殺さずに捕縛するつもりなら、四肢の継ぎ目を狙うといい。稼働率の関係からどうしても防御が薄くなっちまうからな」

「……っ」

「まあ、別にイ・ウー所属だからって絶対に殺す必要はないだろうけどな。それでも俺や理子、シャーロックと同じ穴の狢になる気なら、今の内に覚悟を決めるといい」

「……曾御爺様は、アンタと違う。あの人は、己の使命のため」

「いいや、同じさ。崇高な理念があろうと、薄汚い欲求からだろうと、『人を殺す』という行為に変わりはない。

 必要なのは、相手の命を背負う『罪悪感』じゃない。命を奪う蛮行を受け入れる『気概』だ」

「……アンタ、死にたいの? この距離なら、絶対に外さないわよ……!」

「いいや、全く。まだまだやりたいことは腐るほどあるさ。

 ただ、因果応報呪わば穴二つ。人を殺したなら、例え法が裁かなくとも殺される覚悟はしなきゃならん。だからそれとこれとは別の話だし、アリアがこの距離で外すなんて夢は見てないさ」

 『死にたい』のではなく、『死を受け入れている』だけの話。実際大して違いはないが、それが魔術師(・・・)である頃から俺の規定。要するに、『殺されても仕方ないし恨まない』、ということだ。

 ……ま、実際殺されてそんな綺麗事言ってられるかは知らんけどな。その時はその時、少なくともアリアなら恨みはしない。

「で、どうするアリア? 俺の命はお前の掌にあり、引いても引かなくても『覚悟』は決められるぞ」

「っ、どこまでも、下に見てるわね……! いっつも馬鹿にして! 嫌い、アンタも理子も、大嫌いよ!!」

「嫌われるのも憎まれるのも、今更さ」

 そういう仕事をしてたもんでね。

 暫しの静寂。それを破ったのは、掠れたアリアの声。

「……じゃない」

 突き付けていたガバメントが下がり、手から滑り落ちる。

「出来る訳、ないじゃないのぉ……」

 その場に崩れ落ち、女の子座りになったアリアは――目に手を当てて、涙を流した。

「出来ないわよ、無理よ……アタシにジュンを殺す覚悟なんてないし、したくもない。

 やっと見つけたパートナーを、ジュンを、理子を、友達を……人殺しだからって、嫌いになんてなれるわけないじゃないのお!!」

 子供のように泣きじゃくり、嫌々と頭を振る。その姿はひどく弱々しく、まるでただの少女だ。

「ごめんなさいママ、私はママをすぐにでも助けたいのに。ごめんなさい曾御爺様、曾御爺様の力になりたいのに……

 でも、でもでもでも、アタシはこんな、こんなの嫌なの、望んでないの! 皆と一緒にいたいの、誰も死んで欲しくないし、殺したくなんかないのお!」

 謝罪を繰り返し、後はただただ泣くばかり。二兎を追う者は一兎をも得ず、分かっていても求めずにはいられなかったのだろう。その矛盾から起こる重圧は、耐え切れるものじゃなかったのだ。

「それが、お前の『無理』なことか」

 やれやれ、最初からそう言えばいいものを。普段はワガママな癖に、肝心な所で尻込みしちまうんだからな。

 俺は屈んで、泣きじゃくるアリアの頭を撫でてやった。

「ジュ、ン?」

「あー、悪かったよアリア。ちと言い過ぎた。そうだな、殺したくないしみんな助けたいなら、そうする方向でいこうや」

「……でも、そんな都合のいい奇跡みたいなこと」

「『奇跡は二流の産物』。どっかの請負人が言ってた台詞だ。奇跡だろうが無謀だろうが、不可能なら可能なように弄くっちまえばいいだけさ。

 だから――アリアの母さん助けて、シャーロックの手も借りる。そんでもって誰も死なないようにする、これを今後の方針で考えていこうや」

「……ジュンに、出来るの?」

「出来る出来ないの問題じゃない――なんて言えればいいんだろうが、まあ俺一人じゃやれることは限られるわな。だーけど三人なら、可能性は大幅に上がる」

「……ホント?」

「ホントホント。だからまた三人でやっていこうと思うんだが、どうかね? 人殺しの俺とは嫌だってなら、また別の方法を考えるが」

「……むぅ」

「ほーらユーくーん? アリアんに意地悪言うもんじゃないよ~。よしよしアリアん、悪いのはユーくんだからね~」

「うん……ジュン、意地悪。全部ジュンのせい」

 俺の所為かよ。泣いた反動で一時的に幼児化してるアリアは、理子に撫でられ抱きしめられつつこっちに頬を膨らませている。何この生き物。

「じゃあ、アリアんはどうしたいのかな? 改めて理子お姉ちゃんに教えて?」

「……ママも、曾御爺様も助ける。アタシと、理子と、……ジュンの三人で」

 うん、俺言うのに一瞬間が必要なくらい嫌な思いさせてしまったらしい。だが私は謝らない(真顔)

「よしオッケーオッケー! よく言えたね偉いよ~。

 ほいじゃあ善は急げ電光石火! 早速教授(プロフェシオン)の元に行くよアリアん、ユーくん!」

「……うん、行く」

 理子の手を借りて立つアリアは、もうこちらに対する嫌悪や恐怖はないようだ。ま、最上の形で一件落着なら悪役(ヒール)でもいいさ。

(ユーくんやばい、やばいですよこれ! アリアんが可愛すぎてヤヴァイ!)

(ちっとは落ち着け、あと鼻血を拭け)

 台無しだよ(白目)

 

 

「……で、眞巳は何で泣いてるんだ?」

「グスッ……すいません、いい話もものでつい」

 涙脆い元パートナーである。

 

 

「あ、そうだユーくん」

「あん? なにより――コンバトラー!? 何するし!?」

「うっさい、ただの八つ当たりだ。……死ぬのを受け入れているとしても、簡単に死にそうな真似なんかしないでよ」

「……あーはいはい、悪かったよ」

(何このラブコメ空間)

 

 

 眞巳とは先程の部屋で別れ、俺達はいつもの三人でイ・ウー内を進んでいく。

「……ああ、死にたいくらい恥ずかしい。なんであんな子供みたいになってたのかしら、アタシ」

「抑制してた反動だろうよ。今は普通なんだし、いいんじゃねえの?」

「理子としてはちょー可愛いアリアんが見られたので何も問題ないですよ! 寧ろ時々はああいう風に甘えて、ああなんでカメラ持ってこなかったのかなあ」

「帰ったら記憶失くすまでしこたま殴ってやるわ」

「りこりん痛いのもいけるからダイジョ」

「バットで」

「バットで!?」

「釘付きの」

「くぎゅバット!?」

「誰がツンデレだ!?」

「思ったけど言ってないよ!?」

「ここに鉛製のならあるが」

「それ『愚神礼賛(シームレスバイ〇ス)』!? 流石のりこりんでもそれで殴られたら死ぬよ、マジで死ぬよ!?」

 寧ろ普通の釘バットなら死なないのか。……理子だと在り得るから怖いな。

 まあ、とりあえず調子も幾らか戻ってきたようで何よりだ。そうしていつも通りの雑談を交わしながら、俺達はシャーロックが待ち構える部屋に到着する。

「んじゃ、開けるぞ」

「え、ユーくん普通に開けるの?」

「どうせ蹴っ飛ばしても効かねーべ」

「そういう問題じゃないでしょ……」

 いいえ、そういう問題です。そうして俺は扉に触れ――すぐに離して横に移る。

「ねえ、その扉に張り付いてるの何?」

「理子お手製『ゆっくり爆弾』」

「はいスイッチドーン!!」

 『ゆ っ く り 爆 発 し て い っ て ね』と、妙にイラッとする間で発言した後に爆発が起こり、その後二回目の爆発が起こった。

「……もしかして、扉に爆弾でも付けられてたの?」

「そのまま開けるなり蹴ってたらジ・エンドやな」

「曾御爺様……入れる気あるんですか」

 横でアリアが溜息吐いてる。尊敬する相手とはいえ、遊び心に余念のない姿は減点対象のようだ。

 入った場所は、先程最初に入ったホールに似た、しかしそれより大きく物の少ない場所だ。端には古めかしいレコードが置かれており、……どこぞの神狩のBGMが流れていた。というか『終〇りなき侵蝕』かよ、分かる奴いんのかこれ。

「やあ、よく来たね。前座の起〇札が本領を発揮しなかったのは残念だよ」

「BGMについて一言」

「僕の趣味だが、何か?」

 アンタ本当に100年以上生きた人間か?

「……曾御爺様、お話があります」

 俺達の横を通り抜け、アリアが一歩前に出る。それを見てシャーロックの顔が面白がってるものからシリアス顔になった。

「ふむ、何だいアリア君?」

「……アタシは、曾御爺様に色々教えていただきました。ジュンが本当はどんな奴なのか、ママを救うのに最短で最善の方法についても。

 それには感謝しています。教えていただかなければ、アタシはずっと無知のままで二人に並んでいたでしょうから」

「気にすることはない、可愛い曾孫のためさ」

「……でも、それだけじゃダメなんです。曾御爺様のやり方なら確かにママを救える。でも、『表』の世界で堂々と歩くのは、難しくなる。だから、別の方法をジュンが提示してくれて、三人で考えました」

「……そうだね。一箇所に留まり続けるのは、君もかなえ君も難しくなるだろう。それでは、どんな方法を考えたのだい? 僕の推理では、君達が僕を逮捕するのが一番確実だと思うが」

「それも考えました。でも、私はママを助けるために、今度は曾御爺様を牢に閉じ込めなんて、アタシは嫌です」

「ふむ――では、どうするのだね?」

「考えてみれば、簡単なことだったんです」

 スッ、とアリアは手を差し出す。それにシャーロックが「ん?」と首を傾げる中、

 

 

「一緒に来て欲しいんです、曾御爺様。ママの冤罪を晴らしていただいて、そして――貴方と一緒に、日の当たる場所で生きていきたいんです」

 

 

 アリアが微笑みながら告げた言葉に、シャーロックは唖然とした顔になった。

 数十秒、数分。棒立ちになっていたシャーロックがようやく口を開く。

「……僕は、君達武偵で言う犯罪者だ。それ以前に、世間では死んだことになっている。そんな僕が、表の世界で受け入れられると思うのかい?」

「ママの冤罪さえ証明してくだされば、私とジュンと理子、三人で強引にでも無罪まで持っていきます。受け入れられるかについては――少なくとも、ホームズ家なら『シャーロックなら生きていても不思議ではない』くらいの感覚で受け入れられると思いますよ?」

「……もう一つ、僕は今日が寿命だ。『緋弾』の継承を行えば、すぐ死ぬ運命にある」

「寿命に関しては――ジュン、どうにかなる?」

「延命治療程度ならここで出来るし、それ以上のこともどっかの組織なり機関なりに頼めばいけるだろうさ」

「というか教授(プロフェシオン)が一番知ってそうですけどね~、りこりんそう推理します」

「――だ、そうです。馬鹿だけど頼もしいパートナーでしょう?」

 誇らしげに言うアリアに(「バカとはなんだバカとはー!?」と喚く理子はスルー)、シャーロックは思案顔で顎に手を当て、

「……確かに、僕の推理でも今の方法は可能だろう、少し時間は掛かるだろうがね。

 はは、それにしても凄いことを思い付くものだ。イ・ウーの長になってから、恐れられたり協力体制を求められることはあったが……僕を表に引っ張り出そうとしたのはアリア君、君が初めてだよ」

 そう言うシャーロックの顔は優しげで、どこか眩しいものを見るようだ。

「良いパートナーを見つけたね、アリア君。僕にもワトソン君がいたが……或いは今の君なら、緋弾がなくても僕以上になれるかもしれない。君の提案は、間違いなく最上だろうから」

「! じゃあ」

「だが」

 喜色を浮かべるアリアに、シャーロックは待ったと手を出す。

「緋弾の継承は僕の最たる望みだ。それなくしては納得できないし――そんな簡単にハッピーエンドでは、面白くないだろう?」

「バッドエンド至上主義かよ」

「いいや、爆破オチかな」

 一番性質わりいぞある意味それは。

「という訳でアリア君、潤君、峰君。君達に二つの試練を与えよう。

 一つ、アリア君へ『緋弾』の継承を行わせてもらうこと。

 二つ、僕に勝利すること。

 この二つを為せたら、君たちの要望を呑もう」

 ステッキを構えるシャーロックに、対するアリアは――不敵な笑みを浮かべた。

「いいんですか、そんな簡単な方法で?」

「何、そう簡単にはいかないさ。年甲斐もなく楽しくなってきたが、存外僕も子供っぽいのでね、面倒だろうが了承して欲しい。

 さあ、戦いに敬老精神も不要、全力で掛かってきたまえ。三人相手でも、易々と遅れは取らないよ?」

「実力差の問題じゃねえさ」

 ちょっと口を挟ませてもらう。大事なことを忘れてるぜ、シャーロック。

「ほう、では何かな潤君?」

「簡単なことだ。『ホームズ家の人間はパートナーの存在によりその進化を発揮する』。

 今のアンタは一人、対しアリアは俺と理子のパートナー付き」

 故に負ける道理はない、そう言ってUSPを構える。「くふふー下克上じゃー!」と言いながら、ナイフとワルサーを構える。

「ハハ、なるほど。まさか部外者にホームズ家の信条を言われるとは、つくづく君には一本取られてばかりだ。

 でもそういうことを言われると――是非とも不可能を可能にしたくなるね!」

 シャーロックが突撃してくる。さあ、戦闘開始だ。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 9条破りを平然と肯定した危険人物。殺したことも因果応報の考えも、全て本当のことである。詳細はいずれ解説か本編にて。
 『シャーロックを味方に引き込む』という、とんでもない方法を提案。同じ予測型であるシャーロックにとって、ある意味天敵と言える存在。


神崎・H・アリア
 パートナーと曾祖父の間で揺り動かされた継承者。今回一番ヒロインしてると思う、今までの話全部含めて。
 幼児化して理子に縋りつく彼女を想像して、密かに書き手が萌えていたのは別の話。思い返してみると自分がキモい。
 

峰理子
 セクハラ未遂でマーシャルキックを貰ったTHE・HENTAI。思いっきり急所に当たって死に掛けたが、眞巳が裏で治療して事なきを得た。
 潤と二人分の交流関係を合わせれば、大抵のものは手に入るらしい。想像すると色々怖い(作者が)。


シャーロック・ホームズ
 自身の推理を悉く上回って驚かされる名探偵。内心ちょっぴり自信を失くしているが、潤が特別相性が悪いだけで気にする必要はない。
 レコードでゲームBGMを再現する無駄にハイクオリティな技を披露する。多分途中でまともな曲に変わる、かも? 全てはシャーロックの気分次第である(オイ)


須彌山眞巳
 地味に理子の命の恩人。彼女の超能力(ステルス)が無ければ理子は戦線離脱していたかもしれない、それくらいいいのが入っていた。
 割と涙脆い。潤達と別れて現在、約束どおり菊代の元へ向かっている模様。
 

後書き
 アレ、何で私シリアス書いてるんだろう……まず書き上げて思ったことがこれでした(何)
 という訳でどうも皆さん、ゆっくりいんです。軽い予告詐欺をやってしまいましたが、随所にネタ差し込んでるから問題ないよね! ……すいません、言い訳ですね(汗)
 次回は戦闘パート、そして教授編終了……の予定です。書きたいことが増えなければ大丈夫、のはず。そしてギャグ、のはず……原作だと五巻の約半分なんで、あんまり長引かせたくないんですよね~。
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。


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第四話 ちゃんとしたオチ? ああ、いい奴だったよ(前編)

 多分タイトル通りの内容になるかと。シリアス書き続けた反動ですね(真顔)



 

「いきなり大判振る舞いだー! 三倍ボム!!」

 叫びながら理子がそこら中から取り出したダイナマイトを投げつける。おい船を沈める気か、まあ当然のように氷の嵐でまとめて凍結したのだが。

 とか観察していたら、「アンダースローじゃあ!」と叫んでダイナマイトの一本をシャーロックの足元に投げ、しめやかに爆発!

「ヒューウ、派手にやるねえ」

「いや派手すぎでしょ!? 理子アンタ、曾御爺様を殺す気!?」

「いやいや、単なる前座ですよアリアん? そもそも教授(プロフェシオン)がこんなので死ぬわけ――」

 喋りつつ、後ろからステッキを振るうシャーロックの方を見ないまま、片手で受け止める。真剣白刃取り、片手バージョンといったところか。

「ないですよねえ?」

「そうだね、峰君の言うとおりだ。アリア君も遠慮することはないさ。

 さて、まずは『復習』といこうか」

 動きを止めているシャーロックにUSP二丁の全弾を見舞い、一拍遅れてアリアもガバメントを抜き放つ。正面からは二割ほど、残りは跳弾、更にアリアの銃弾とぶつけることで軌道と着弾時間をバラバラにし、逃げ場のないようにする。多重跳弾射撃(エル・マルチプル)とでも言うべき攻撃はシャーロックに風穴を開けるも、すぐに崩れていく。パトラの砂人形か。

「ジュン、下よ!」

 直感で察したのかアリアが叫ぶと――砂の波紋から腕だけ出てきた。うわ、ホラーでありそうな光景を実際にみるとキモいなオイ!?

 

 

 きっとくるー♪

 

 

「いやだからってBGM変えんなよ!?」

 何この蓄音機、空気読みすぎじゃね? 見た目骨董品で中身はイ・ウーの無駄に洗練された技術による無駄傑作なの!? しかもこっちの心読むの!?

「んなツッコミ入れてる場合じゃないでしょ!? 今戦闘中ー!」

「ハハハ。アリア君ほどではないにしろ、ツッコミに素養のある自分を恨むことだね、潤君」

 笑いながらシャーロックに足首を掴まれ――あ、ヤベ。

 小石でも投げるかのように軽々とブン投げられる! 理子の方へ!

「うおおおぉぉ!?」

 ヤベえ!? これは理子でも避けざるを――オイなんで「バッチコイ!!」って構えてるんだよ、お前の筋力じゃこの勢いは無理――

『フルフル!?』

 ギャグ漫画よろしくぶつかり合い、仲良く壁際まで転がっていった。というか理子と壁の間でクッションになったから余計ダメージ負ったわ!?

「いやん、ユーくんそんな理子にくっついてきちゃって……ス・ケ・ベ」

「自分から故意にくっつかせてスケベ呼ばわりされるこの上ない不名誉」

「ちょっと、アンタ達さっきから何ふざけてんのよ!?」

 ガバメントで牽制しつつアリアが文句を垂れてくる。え、俺も? ああ、蓄音機にツッコミ入れてたもんな。

 たしかにふざけ過ぎた、なので俺が取るべき行動は、

「おら行け人間砲弾ー!!」

 サンドイッチの片割れを敵目掛けて投げつける! 以前アリアをぶつけられた恨みを込めて!

「イヤッフウウゥ!?」

 悲鳴なのかヒゲの配管工なのかどっちなんだよ。

 砲弾(理子)はターゲットと擦れ違い様にウィンチェスターの散弾をぶっ放すが、本人含めあっさり回避され、

「アリ――」

「こっちくんな!」

 回転付けてからこっちに向かって投げ返してきた!

「ふむ、ここは若い男女に譲ろうか」

 またも擦れ違い様、軽く背中を押すだけに見えたシャーロックの動作だが、速度が――明らかに倍近くなってる!?

「え、ちょ、おま」

 これ回避無――

『フォルゴレ!?』

 衝突天丼!? 二度までは同じボケでもいいと婆っちゃが言ってたからセーフ!(←誰だよ)

「ぐおおおお……ここ最近では一番ダメージ受けた気がする」

「オウンゴールで死にそうになるとか始めて聞いたわよ」

「そしてなんだかんだ二度もりこりんの愛を受け止めてくれるユーくんの優しさ、プライスレス!」

「そんな愛(物理)とかいらんわ」

 単に受け止めないとダメージ余計に負うんだよ、避けるには俺の身体能力じゃ無理だし。

「おや、もうお終いかい? 復習で躓いてたら、単位はあげられないな」

「うるせえ、卒業分の単位なんぞとっくに取ってるっつうの」

 どーでもいいが、アリアと理子も単位は卒業分まで足りている。全員理由は『何か日常感覚で依頼受けてて気付いたら溜まってた』である辺り、無計画さがよく出てるわ。

「というかアンタも理子もふざけすぎでしょうが! 曾御爺様を逮捕する気あんの!?」

『いや、シリアスしてた反動で』

「ボケの呪いにでも掛かってんのかアンタ達は!? その反動は帰ってからにしなさいよ!」

『よっしゃ言質取ったぁ!!』

「許可取らなくてもバカやるでしょうがこのバカども!!」

 ごもっともだが、こういうのは気分の問題なんだよ。

「ふむ、僕の曾孫とは思えないくらいツッコミにキレがあるね、アリア君」

「曾御爺様も変なところで感心しないでください!?」

 ホームズ家はボケの一族なのか。じゃあワトソン家が代々ツッコミ兼フォロー役……いやねえ――あ、シャーロックがアリアに見えない位置でサムズアップしてきた。

 つまりアリアはホームズ家の突然変異、だから実家とそりが合わないのか(違)

「まあ教授(プロフェシオン)も復習なんて言って手ぇ抜いてたし、こっからは真面目にやりまっしょい。――多分」

「最後聞こえてるわよ。大体曾御爺様が手加減してるなら、その間に全力で倒して逮捕すればいいでしょうが」

『……お前(アリアん)天才か』

「素で思いつかなかったんかい!? 相手の強さに合わせて戦いを楽しむ人造人間かアンタ達は!?」

 そんなつもりはない、自然そうしてるだけであって(オイ)

「ふむ、このままふざけつつ『予習』を兼ねて戦うのも楽しいが」

「やめてくださいアタシの気力が持たないです」

「と、可愛い曾孫から苦情が来たので、先に済ませてしまおう。『緋弾』の継承をね」

 いつの間にか蓄音機の曲がモーツァルトの『魔笛』に変わっていた。……いや急にガチのクラシック挟まれてもな、しかも無理矢理ラストパートからのスタートかよ。

「さて、君達は『色金(イロカネ)』についての知識はどれくらいあるかな?」

「既存の超能力を遥かに上回る力を宿し、持ち主に与える金属の総称」

「理子の持っている十字架にも、この色金が少しだけど入ってるんだよねー。たしか教授が持ってるのとは違う種類で、色々な組織が欲しがってるんじゃないかな?」

「……アンタ達、よく知ってるわね。帰ったら吐かせないといけないことが増えたわ」

 やべえ、薮蛇だった。

「そう、色金は超常の力を与える金属。僕はこれを『超常世界の核物質』と考えている。どこかの組織がこれを用いれば、それだけで世界のパワーバランスが引っくり返るだろうね。

 そして、僕が持っている色金の一つ、緋緋色金(ヒヒイロカネ)。これをアリア君、君に継承してもらう。より正確には、過去の君にね」

「過去……?」

「三年前、と言えば分かるかな?」

「! まさか、あの時撃たれてから目と髪の色が変わったのって……」

 思い当たる節があるのか、驚いた顔のアリアに対しシャーロックは微笑みながら頷いた。

「え、アリアの髪と目って生まれつきの色じゃないんか」

「天然ピンクじゃなくて養殖ピンク……これだとエチい素質はあるのかな? かな?」

「アンタ等ちょっとは真面目に出来ないの!?」

「品切れでござい」

「補給満タンでオナシャス!」

「こ・い・つらはああぁぁぁ……!!」

 キレ過ぎてももまん型の青筋が――ん? 何かアリア光ってね?

「これも色金が与える力の一つだよ。名は『緋天・緋陽門』。

 さあ、アリア君。それで僕を撃ちなさい(・・・・・・・)

「え、でも――ちょ、何で腕が勝手に!?」

 アリアの意志とは関係なく、シャーロックに向けた指先へ光が集まっていく。

「すまないね、潤君や峰君に向けられても困るから、ちょっと盛らせてもらったよ」

「展開として有り得るから困る」

「理子、アリアんの光線に耐えたら告白するんだ……」

「雑な死亡フラグ立てるんじゃないわよ! あと撃たれないようにするなら怒られないようにすればいいでしょうが!!」

 いや無理だろそんなの、俺か理子のどっちかはやらかすし。

 苦笑しているシャーロックの指先にも、同じ色の光が集まっている。魔力の大きさからして威力は互角。相殺、いや、ぶつけ合うことで発生する衝突エネルギーが狙いか?

「あーそっか、アリアん操ってるのは夾ちゃんの毒かー。こりゃやられましたな」

「空気中にばら撒いてたみたいだな。俺や理子はともかくアリアは耐性ないから、吹き散らせばよかったな」

「呑気に喋ってないで止めなさいよ!? く、静まれアタシの右手ぇ……!」

「アリアんは 厨二病ごっこを おぼえた!」

「アンタ達に向けて撃ってあげましょうか?」

 意志力だけじゃ無理だ――あ、ちょっとこっち向いた。やべえ、シャーロックの予言通りになるかも(汗)

「あーはいはい分かったよ、今毒の治療するから待っテオテスカトル!?」

「この期に及んで何ふざけてんのよジュン!?」

 いやふざけてない、これは誓ってふざけないでビリビリされたんですけど。周囲でスパーキングしてる奴か?

「アリアそれしまって、ほどばしってるビリビリ!」

「出来たらやってるわよ! 感電くらい気合で何とかしなさい!」

「お前雷舐めんなよ! 体感的に当たり所悪ければ死ぬくらいの電圧喰らったんだぞ!?」

「それで平然としてるユーくんも大概だとりこりん思いまーす」

 うるせえ、そこのリアルにスーパーな野菜人みたいな奴よりマシだよ。

「本当に意志力だけで曲げそうなのが怖いね……それにしても、緋弾の覚醒には心理的な成長、アリア君の場合『愛』を知ることが重要だと推理していたんだが……」

「友人に対して怒れる『友愛』も、立派な成長なんじゃねえの?」

「……なるほど、潤君の言うとおりだね。僕も機会があったら、『条理予知(コグニス)』を鍛え直さないとか。

 さて、お喋りはお終いだ。『友愛』なら……アリア君、君の大切なものを思い浮かべながら、力を制御して」

「あ、はい。………………何か腹立ってきました」

「出来れば心穏やかなもの限定にしてくれるかな?」

 むかっ腹立てながらも光の制御が出来てる辺り、シャーロックも苦笑するしかないわな。

「よし、それだけ安定したなら十分だね。では――過去への扉、『暦鏡(古余暇が身)』を開こう」

 シャーロックの宣言と同時、二人の指から同時に光が放たれ、衝突する。それらは爆発することなく交じり合い、二人の中間に2メートルほどのレンズのような穴が出現する。そこに映っているのは、

「ふおおおおぉおぉぉぉ!!? ユーくんユーくん、金髪碧眼のアリアんですよ!! ピンクもいいけどこっちも捨て難い……!」

「まず喋るのがお前で、言うことがそれかよ」

「ふうむ、しかし理子の目から見て身長もスリーサイズもほとんどかわ」

「その口か目玉、どっちを使い物にならなくしてあげようかしら?」

「サーセン黙ります!」

 両手敬礼した後お口チャックする理子。あ、冷や汗かいてる。限りなく本気の脅しだって気付いたんだな。

 まあそれはともかく、そこに映っていたのは確かにアリアだった。どこかのパーティ会場なのかドレス姿で、理子の言うとおり外見は金髪碧眼であること以外はほとんど変わってないように見える。

「緋弾は埋め込まれたものに延命の効果を与えるが、同時に老化も遅くなる。君が撃たれてから三年、ほとんど変わっていないのはその影響だね。また、成長期の人間が緋弾とあり続けると、髪と目の色が変化していく。君のような美しい緋色(カメリア)にね」

「つまりアリアがロリ系ピンクなのはシャーロックの所為と」

教授(プロフェシオン)に最敬礼! ズビシッ!」

「緋弾の影響だって言ってるでしょうが! 曾御爺様に変な性癖があるみたいに言うな!」

「ここまで来てそのテンションだと、いっそ漫才師でも兼任するのを勧めたくなるね。さて、君達が仲良くしている間に、僕も済ませてしまおうかな」

 それやったらアリア(ツッコミ)が過労死します。などと心の中で返していたら、シャーロックは拳銃、当時の相棒であるワトソン卿が使っていたものと同じ、アダムズ・マークⅢを取り出し、過去のアリアに照準を合わせる。

「これで――『緋弾』の継承は、終わりだ」

 シャーロックの言葉と同時、こちらを見ていた過去のアリア(「何か変態が見てくるような悪寒を感じるわね……」とか呟いてる、理子の発言と視線だろうな)の背に向けて、引金を引いた。

 銃弾は迷いなく過去のアリアの左胸部分へ吸い込まれるように命中し、その場に倒れる。そして穴は空気に溶けるように、呆気なく消えていった。

 音楽も途切れ、その場の全員が見ている中でシャーロックが口を開く。緋弾が無くなった影響か、その姿は徐々に年老いたものとなっていく。

「さて、以上で『緋弾』の継承と講義は終わりだ。これからも君達三人で先へ進んでくれたまえ、僕は『序曲(プレリュード)

 それと潤君、何やら浮かない顔だね」

「……何ジュン、その無味無臭のお菓子を食べた時みたいな表情は?」

 どんな表情だよ。まああまりいい顔をしていない自覚はあるが。

「別に。過去干渉は魔術師にとって(・・・・・・・・)好ましくない、寧ろ忌まわしい事象だ。だがアリアに緋弾を撃ち込まないのは現在の状態と矛盾してどんなパラドックスが起こるか分からんし、何より今の俺は武偵、今更の話だ」

「ふむ、しかし割り切れてはいないと」

「本能的な拒否感だ、こればっかりはどうしようもない」

 アリアと理子は首を傾げているが、実際本気でどうでもいいことだ。シャーロックが聞いてきたから答えたに過ぎない。

「さあて、アンタはこれで終わりみたいな空気を出してるが――こっちはこれで終わり、とはいかねえんでな。第二ラウンドといこうか、ご丁寧に自分から弱体化してくれたんでな」

「君ならボスキャラを弱らせなくても倒してしまいそうだがね。しかし、付き合いたいところだが僕の時間も残り少ない。精々五分、あるかないかだね」

「ウルトラ〇ンより若干長い程度かよ。じゃあ――しょうがねえか」

 思わず溜息を吐く。これは使いたくなかったんだがなあ。

 顔を上に向け、額に手を当てて目を閉じる。イメージとしては脳への血流増幅……よし、完了だ。

 視線を下ろした俺を見て、シャーロックと理子は驚いた表情になる。まあそうだろうな、アリアも直感からの違和感で首を傾げているし。

「それはまさか――HSS?」

 口を開くのはシャーロック。確かに、今俺が放つ気配は兄貴のHSSに酷似しているだろう。

「ハ、分かりきったこと聞いてんじゃねえよくたばり損い。時間がねえのはお互い様なんだ、とっとと始めちまおうぜ」

 常の口調より荒いのは自覚している。この系統はHSSの派生型、女を奪われた時に発動するベルセに似ているだろうが――勿論違う。

「ユー、くん?」

「ジュン? アンタ一体どうなって」

「何ボサッとしてるんだテメエ等。あの野郎を捕まえるんだろ、さっさとやっちまうぞ」

 唖然としている二人の前に出て、USP二挺を構える。そこで、シャーロックが纏う雰囲気も変わった。

「……なるほど、ここで使うのは推理できなかったな。では僕も、今持っている全力でお相手しよう」

 片や死に掛けのHSS、アゴニサンテ。

「ああ、楽しませろよお? 簡単に倒せるようなら――」

 片や意図的に発動させるHSS、その性質から名付けたのは害毒(ヴェノム)

「――失意のあまり、殺しちまうかもしれないからなあ!!」

 空気を読んでBGMもノリのいいのに変わったし、存分に殺し合おうぜ?

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 前回まででシリアス成分が無くなったため、いらんダメージを負いまくっている。身体能力の関係から仕方ないとはいえ、だらしねえな。
 緋弾継承後HSSを発動させ、シャーロックに襲い掛かる。余談だがHSSに対して使えないと発言したのは義兄が持つ遺伝性のもので、自身で開発したものなら話は別である。


神崎・H・アリア
 敵味方問わずツッコミに忙しい、帰ってきた三人組最後の良心。『友愛』によって緋弾を覚醒させたと言われたが、本人的には不満な模様。そりゃ(あれだけツッコミやらされた後なら)そうだ。
 なお過去の自分が撃たれるのを止めなかったのは、暦鏡に飛び込もうとする理子を止めるため取っ組み合いをしていたため。何してるんだコイツら。

 
峰理子
 シリアス成分枯渇により最もふざけていた奴。ちなみにアリアとの対戦は言うほどシリアスしていない、要するにいつも通りである。
 過去のアリアにセクハラするため、本能のまま突撃しようとしていた。もう救えねえなこのHENTAI。
 

シャーロック・ホームズ
 前半戦は潤と理子を軽くあしらっていた名探偵。なお緋弾の講義は二人がある程度知っているのを推理していたため、省略した。特に気にしてはいない。
 HSSを発動させた潤に対し、自身もHSSを含めた本気で相対することを決意。次回かなりの死闘になる、はず。
 

後書き
 私に文をまとめる才能はない模様。おっかしいなあ、今回で終わる予定だったんだけどなあ……
 はいというわけで皆さん、フラグを回収してしまったゆっくりいんです。多分原作の見せ場シーンをとことんギャグにしてしまいましたが、如何でしたでしょうか? 正直、作者としてはやらかした感満載です(汗)
 次回は本当にラストのはずです。というか魔剣編より長くなってるんで、これ以上引き伸ばしてどうするんだって話に……まあ、山も谷もオチも予定も組んでない作品なんですが(オイ)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。
 
 


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第四話 ちゃんとしたオチ? ああ、いい奴だったよ(後編)

 

 はいどうも、遠山――なんて言ってられるか、戦闘だヒャッハー!

「死ねオラァ!」

 銃撃からの接近して顎を狙った蹴り、当然避けられてステッキに偽造していたスクラマ・サクス(西洋の片刃の直刀)で防がれる。

「銘は聞かない方がいいよ、この剣は」

「んなもん知らねえし興味もねえよ! 大方英国王室の宝剣とか聖剣のレプリカだろ!?」

 至近距離からUSPをぶっ放すことで返答とする。今は戦闘中だろうが!

「くふ、ユーくんノリノリじゃん! りこもまーぜーて!」

「ああもうジュン、もうちょっと落ち着きなさいよ! これじゃ援護しにくいでしょうが!」

「知らねえよ、そっちが合わせろ!」

 今の俺に協調性を求めるなんぞ無理難題だ。何せ、思考が攻撃一辺倒だからな。

 結局アリアも銃での援護は諦め、小太刀二刀での接近戦へ。三人が入れ替わり立ち代わり攻撃する状況は、衰えつつあるシャーロックにはきついだろう。しかも俺は『条理予知(コグニス)』と呼んでいたコイツの推理を予測(・・・・・)して、攻撃のコースを変えているからな。HSSによって強化された思考力と神経速度を存分に活かして。

「く、流石に、これは、キツイね……!」

 俺達三人の攻撃を捌きつつそう語るシャーロックは、言葉に反して楽しそうなものだ。そうした攻防の中で出じた僅かな隙を突こうとするが、その瞬間彼の全身から電が発生する。

「ライボルト!?」

「キャッ!?」

 理子とアリアはたまらず後退するが、

「な!?」

 俺は構わず突進することで、シャーロックは驚いた顔になる。

「ヒャハハハハハ!! 蛇〇崩天刃!!」

 痛覚を遮断、電撃によって停止しかける神経を強引に再起動させ、魔力を纏った蹴りをシャーロックに見舞う。オラ初ヒットだ!

「ぐっ!」

 上に吹っ飛ばされたシャーロックは天井で体勢を立て直そうとするが、

「つーかまーえた!」

 袖から放ったくちばし状の金属が先端に付いた鎖が、シャーロックの足を捕らえ、

「あよっこいしょおっと!」

 理子と二人がかりで引っ張り、慣性のままに落ちてくるシャーロックへ向けて構えを取り――

「潤!」

 理子が叫ぶと同時、抱きつく形で二人とも横に倒れる。何すんだと言いたかったが、直前まで立っていた場所に斬撃が走ったので黙ることにする。理子に助けられてなければ死んでたかもな、それにしても、

「随分懐かしいもん出してくれるなあ!」

 降りてきたシャーロックに、銃剣での交差撃。

「何、これも『予習』の一貫さ。君にとっては見慣れているだろうけどね」

「ハ、見えるもんじゃねえけどな!」

 魔力も載せず、力も一切入れず、ただただ速度のみを追求した不可視の剣術。防御すれば防具ごと斬られる回避絶対の技。

 見慣れてるどころか腐るほど向けられ、腕だの足だのを斬られたのは一度や二度じゃない。

 とはいえ、連発は先程までのシャーロックでも不可能だろう。相手は霧や風の超能力(ステルス)を使いつつ、一対三の撃ち合いは続いていく。

 攻防の終わりはどちらからだったか。互いに距離を取り、先に構えたのはシャーロック。レイピアを向けるようにスクラマ・サクスの切っ先をこちらに向ける。

「さて、名残惜しいが時間だ。そろそろ終幕(フィナーレ)といこうか」

 そう告げるシャーロックに、俺はUSPの銃剣を取り外して一歩前に出る。

「……アンタがやるの、ジュン?」

「何だったらお前が引導を渡すか、アリア?」

「そんなの好き好んでやるわけないでしょ。その状態だと嫌味な感じマックスね」

「ユーくんのいいとこみってみたい!」

「いいとこだあ? ケ、んなもんねえよ」

 主人公とかガラじゃねえし、終わって出来るのは死にかけの人間と血飛沫くらいだろうよ。

 シャーロックは何も言わず、今までにないマジな顔でこちらを注視している。構えからしてカウンター狙いか。だったら――

 先に飛び出したのは俺。飛び込みながら銃を持つ腕を思いっきり引き、

「ブラッド・ク」

 告げる途中、体内から競り上がってくる違和感。あ、これやべえわ。

 シャーロックとの距離を半分ほど詰めたところで、

 

 

「ゴフッ!?」

 吐血してその場にぶっ倒れる。

 

 

『……は?』

 ホームズ二人の声が重なる。そしてぶっ倒れる直前、

 

 

「ふもーーーーー!!」

 俺の上を軽々と飛び越えて拳を構える、量産型ボン〇くんの姿を確かに見た。

 

 

 脳の処理が追い付かないのか硬直しているシャーロックに向け、ボ〇太くんの拳が深々と顔面に突き刺さった。うわあ痛そう。

「ふもっふもももも!」

 シャーロックを殴ったボ〇太くんがなにやら声を上げると、

『ふもー、ふももー!!』

 壁や天井、床下から入口まで、あらゆる場所から量産型ボン〇くん達が現れてシャーロックを包囲し、集団攻撃(リンチ)を始めた。

「……おーおー、容赦ねえなオイ」

 ぶっ倒れたまま乱闘(たまに間違ってボン〇くんがボン〇くんを殴っている)の様を見ていると、アリアがこちらに歩み寄ってくる。

「とりあえずジュン、アンタ最高にカッコ悪いわよ」

「まず言うことがそれかよ」

 先にぶっ倒れたことへの心配とかだろうよ。信頼の表れ? ちょっと何言ってるのか分からないですね。

「もうどこからツッコミ入れればいいのやら……とりあえず、何でアンタはぶっ倒れたのよ」

「いやあ、俺のHSSは確かに能力を向上させるんだがな? 思考が殲滅主義で戦闘から逃げられなくなる、敵味方問わず殴りに掛かる、持続時間五分未満と欠点だらけで、中でも特に問題なのが使った後の反動であちこちイカれちまって、『病弱:A+』が発動したみたいな状態になるんだよな」

「諸刃の剣じゃなくてただの欠陥技能じゃないの……お兄さんや曾御爺様に比べて酷い結果ね」

「しゃあねえだろ、兄貴みたいに遺伝でHSSに耐えられる頑丈な身体だったり、人外の領域に片足突っ込んでるシャーロックとは違って、俺の耐久力は並なんだから」

「要するに考えなしの結果この様ってことね」

「そうとも言う」

「……で、次。アレ何?」

「量産型ボン太くん。お前追っかける途中に理子が見付けて、ハッキング後にこっちで使えるよう待機させといた」

 あいつだけ攻撃の手が少なかったのは、戦闘しながらボン〇くん達を気付かれないよう配置させてたんだろうな。いやはや、器用になったもんで。

「……じゃあ、その理子は?」

「さっきシャーロックを殴った着ぐるみの中。十八番の早着替えでもしたんじゃね?」

「……ああうん、じゃあ最後。曾御爺様、生きてる?」

「保障はしかねる」

「今すぐやめろバカ理子ーー!!」

 ドロップキックが中心のボン〇くん(理子内蔵)に突き刺さった。え、今いつ飛んだの?

「ドンタコス!? ふもっふももふもふふもふ!?」

「何言ってるか分かんないわよ、とりあえずそれ脱げ! あとなんで悲鳴だけはいつも通りなのよ!?」

「そんなん理子が聞きたいよ! というより何すんのアリアん、もうちょっとで教授(プロフェシオン)にトドメさせたのに!」

「トドメさしてどうすんのよアンタそれでも武偵か! というか曾御爺様生きてるんでしょうね!?」

「ダイジョーブダイジョブ、教授(プロフェシオン)がタコ殴りにされたくらいで死ぬわけないし」

「大丈夫な要素が欠片もないじゃないの!? これで曾御爺様が死んでたらアンタもころ」

 アリアの言葉は途中で止まる。まあ無理もない、量産型ボン〇くん達に囲まれて倒れていたのは、

 

 

 ジャス〇ウェイ!!

 

 

 だったのだから。あーあ、理子の奴やっちまったな。

 アリアが横で冷や汗掻いてる理子に振り返る。笑顔で、かつて見たことのないほど満面の笑みで。

「ねえ理子、何時から入れ替わってたの?」

「えっと、今アリアんと話してた時だよ! おっかしいなーさっきまでそこにいたんだけどなー」

「で、実際は?」

「量産型ボン〇くん達に殴るの任せてたから実際わかんな」

「だらっしゃあああぁぁぁ!!」

 ドゴォ! グキメキィ!

「ひでぶ!?」

 今の踵落としで変な音しなかった――あ、でかいたんこぶ出来ただけで無事っぽい。良く耐えたなあの一撃。

「何してんのよどうすんのよアンタバカなの!?」

「いーたーいー!? 滅茶苦茶痛い、痛いのもいける理子でもこれはマジで痛いー!!」

「喚いてないで曾御爺様をさっさと探しなさい!」

「自分からやっといて流石にそれは理不尽じゃないかなあ!?」

「――いやはや、危なかった。久しぶりに本気で命の危機を感じたよ」

 探そうとしていた人物の声は、意外と近くから聞こえる。具体的には俺達の位置よりやや上、柱のように設置されていたICBM(大陸間弾道ミサイル)の傍らで。

「何ともどっちつかずでおかしな結果になってしまったが、とりあえず引き分けということにしておこう。気紛れで作った身代わりジャ〇タウェイが無ければやられていただろうが、そこは多勢に無勢の分で大目に見てくれ」

 乗れるように改造したICBMのハッチが開く。

「では、これにて第一部の公演は終了だ。アリア君、潤君、峰君。君達の旅路が幸福なものであることを祈っているよ」

 最後に微笑んで一方的に告げ、シャーロックが乗り込むとICBMは煙を吐き出し始める。まもなく空へと飛び立つだろう。

「待ってください曾御爺様! ちょっと理子、ジュン、ボサッとしてないで行くわよ!」

「ちょ、今からICBMを乗っ取るつもり!? 幾らアリアんの神速でも無茶だよ!」

「んなことしないわ、壁面に張り付くのよ!」

「うわーいもっと無茶振りキター! いや無理でしょそれは!?」

「アタシの前で無理って言葉は禁止、出来る出来ないじゃなくてやるのよ! ジュン、アンタもぶっ倒れてないで速く来なさい!」

「あーごめん、ぶっちゃけダメージ抜け切ってなくて付いてくどころか走るのもキツイから完全にお荷物だわ」

「もうアンタはHSS(それ)使うな!」

 デスヨネー。うん、言われなくてももう使わんべ。

 そうしてぶっ倒れた俺と大量の量産型ボン〇くんを残したまま、アリアと理子(着ぐるみはいつの間にかオールパージしている)は空へ上がるICBMにマジで小太刀とナイフだけでしがみつき、「イヤッフウウウウりこりんは音速のハリネズミと同じ領域にいるぜーー……」とか言う理子の戯言を残して空へ消えていった。それに遅れて、残っていたICBMもあちこちから打ち上がる。あの中はイ・ウー残りのメンバーか。まあ今はどうしようもねえな。

「ここで主人公系のキャラならアイツらに着いていくんだろうが」

 生憎この様である。やっぱ俺主人公向きじゃねえな、無茶すると速効でボロが出る。

「ま、無茶するパートナー達のフォローに入りますかねえ……」

 覚束ない足取りながらも、俺は立ち上がって動くことにした。あーしんどい。

 

 

 結局、曾御爺様を止めることは出来なかった。強引に張り付いていたICBMは雲を超えた辺りで限界を迎え(というよりこれ以上は人体にマズイので)、アタシと理子はパラシュートなしのスカイダイビング中だ。

「で、理子。着地のことは何か考えてるの?」

「もーちのろんですよお嬢さん! 考えなしに飛びついたアリアんと違い、りこりんバッチリ対策は考えてあります!」

 手を繋いで(理子が伸ばしてきた、掴んだら何かゲスい笑み浮かべてたけど我慢)一緒に落下してる理子はいつも通りウザイが、考えなしだったのは事実なので黙っていることにする。原因の一端はアンタにもあるけどね。

「ふうん。じゃあ理子先生のアイディアを聞こうかしら」

「ほほう、そんなに聞きたいかねアリアクティーラ!?」

「早よ言え」

 ツインテールで顔面ビンタしてやった。命綱代わりとはいえ手加減してやる気はない。

「ふふふー、りこりん十八番のヘアーアタック、実はちょっとした浮遊にも使えるのですよ!」

「へえ、色々便利なのね」

「くふふーそうでしょうそうでしょう。このロザリオがあればこのくらい容易く――」

 そこで理子の言葉は急に止まってしまった。どうしたのかと思って横を見ると、理子の視線の先。いつもは胸元で存在を示すお母様の形見だというロザリオが――ない。

「にゃああああああ!!? ドコ、理子のロザリオどーこー!?」

「ちょ、理子ロザリオどっかに落としたの!? それじゃあ超能力(ステルス)使えないじゃない!!」

「そんなこと些細な問題だよー! 理子のお母様の形見が、肌身離さず持ち歩いてたのにどこなのーー!?」

 いやそんなことって!? とツッコミ入れたいが、慌てた様子であちこちのポケットや下着(どこに手を突っ込んでるのよ!?)を漁るも、出てくるのはお菓子と武器ばかり。肝心のロザリオは影も形も無い。

「な、い……無くした……?」

「うわあ、最悪……仕方ないわね。理子、ぶっつけ本番だけどアタシがやってみるからやり方を――」

「ふ、うえ……うええええええん」

「って泣いたあ!?」

 しかも明らかにガチ泣き、落下中なのを忘れるくらい失くしたのがショックだったの!?

「理子、理子のロザリオぉ……お母様がくれた、大切なあ……」

「ちょ、理子落ち着いて! 分かった、分かったから! 降りたら絶対見つけてあげるから、とりあえず泣き止んで!」

 懸命に声を掛けるも、理子はえぐえぐ言うだけで言葉になっていない。この子ロザリオ失くしたらここまで精神不安定になるの!? 確かに四六時中肌身離さず持ってたけど!

 とか何とかやってる間に、地上が見えてきた。水面に激突するまで10秒も無いだろう。

(あ、終わったわコレ)

 アタシは静かに察し、泣いてる理子を仕方なく抱きしめてから目を閉じる。ママと曾御爺様に心の中で謝罪しながら。

 そうして落下の衝撃は――来なかった。代わりに感じるのは、ゆりかごに揺られるような浮遊感。

「……?」

 恐る恐る目を開けてみると、そこは先程までいたイ・ウーの甲板上で。

「何やってんだお前等」

 右手で開いた本を持つジュンが、呆れ顔でこちらを見ていた。

「ジュ、ン? アンタが助けてくれたの?」

「そーだよ、何の対策もせずに超スピードで落下してきたから、流石に驚いたぞ」

 本を閉じながら溜息を吐く。うん、これはもう言い訳の仕様も無いわ。予測していたんでしょうけど、命まで助けられて文句言うのは筋違いでしょ。

「ありがと、本気で死ぬかと思ったわ……」

「いーよ別に、ただ次空へ行く時はもうちょい考えてから行ってくれ。

 で、理子は何で泣いてるんだ?」

「あーその、どこかでロザリオ落としたみたいで……それに気付いたらこのザマよ」

 そのせいで死に掛けたのだが、結果的に生きてるので言わないことにしよう。とはいえどこに――

「それってこれか?」

 そう言ってジュンが取り出したのは、紛れもなく理子のロザリオだった。それをみた理子はビックリ仰天の顔で固まってしまう。

「え、どこで見つけたのそれ?」

「シャーロックと戦った部屋で。戦闘に夢中で落としたんじゃねえのか」

 ちゃんと確認しとけよ、と呆れるジュンに対し、

「……ユ」

「ゆ?」

「ユーくん愛してるーー!!」

「わ、オイちょっと待て俺まだ上手く動けな――」

 泣きながら飛びついてきた理子を、未だ体ボロボロのジュンでは支えきれず、

 ドボーン

 二人仲良く海に落ちた。

「あーあ、何やってんだが」

 助けてやりたいが、カナヅチのアタシには無理な話だ。ま、モテ男の宿命と思って諦めなさいな。

 とにかくイ・ウーとの、曾御爺様との戦いは一旦終了。残念ながら捕まえて同行してもらうのは失敗したけど、それはまた機会があるだろう。問題は、

「メヌにどうやって伝えるかよね……」

 生きてたのはともかく、捕まえられなかったことで絶対何か言うでしょうねえ。今から頭が痛いわ……

 主のいなくなったイ・ウーの甲板上、今日も晴れやかな青空と対照的に、アタシの心はブルーだった。いやネタとかじゃないからね?

 

 

「ところでジュン、これ(イ・ウー)どうするの?」

「パクる。普段はどっかに隠しとけばいいだろ」

「堂々と窃盗宣言したわね……」

 




登場人物紹介
遠山潤
 発動させたHSSで、最終的には自爆しているバカ武偵。主人公補正で限界を超える? ねえよんなもん(本人談)
 アリア達の落下予測位置にイ・ウーを動かすためボロボロの身体で移動し、甲板で万一に備えて浮遊の超能力(ステルス)を準備していた。サポート面に関しては優秀な模様。
 なお、海に落ちてもロザリオだけは手放さないようにしていたらしい。
 

神崎・H・アリア
 曾御爺様のことになると後先考えず感情的になることが多い曾孫。パートナーが殺さないか危惧しているからだろうか。
 原作では理子の真似をして助かっていたが、本作では先駆者が傍にいたためか自力でどうにかする発想が出なかった模様。思考放棄の結果であり、ハイジャックの件と合わせてそろそろ空がトラウマになりそうな勢いである。


峰理子
 量産型ボン〇くん軍団をいつの間にか掌握していたリンチ犯。もっとも、囲む頃には既に逃げられていたが。
 ロザリオがないと情緒不安定になり、幼児退行を起こす。この後潤に思いっきり甘え、正気に戻ってから恥ずかしさで一人悶絶していたとか何とか。


シャーロック・ホームズ
 久方ぶりに二度のダメージを受けた名探偵。盲目設定とかあったが、そういや忘れてたぜ!(正確には、潤に看破されていて出す必要なかった)
 余談だが自作のジャスタ〇ェイ、一度殴られるまで入れ替わったことに相手が気付かない、優れたスケープゴート用品らしい。

 
イ・ウー
 パ ク ら れ た。
 使うかは……まあ、今後のお楽しみで。一応考えてはいます。
 
後書き
 はい、ではこれで『教授(プロフェシオン)編』、並びに第一部のお話は終了です。いつも通りしょうもないオチですが、まあそれがこの小説の味なので(違)
 いやあそれにしてもここまで長かった……本当は去年中にこの話まで終わらせるつもりだったのですが、サボり癖が付いてから投稿に間が空き、気付けば2016年の半ばまで来てしまいました(汗)
 勢いだけの当作ですが、皆さんから読んでいただくだけでなく、感想やお気に入りを頂いて本当に嬉しいです。これからも暇潰し程度で構いませんので、この作品を楽しんでいただければ幸いです。
 さて、次回から夏休み編ということで、小話を幾つかと、その前にキャラ設定を公開しようと思います。どうでもいいわ! という方もいらっしゃるでしょうが、作者自身いい加減キャラの立ち位置や設定を把握し切れてるのか怪しいので、どうかご容赦ください(汗)
 設定が終わったら、次回は皆さん大好き例のキャラがフライングで出ると思うのでお楽しみに! ……多分(マテ)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。
 
 


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『夏季休暇』編
閑話その一 そうか、お前が元凶か


 夏休み編スタートです。今回は夏休み前の導入兼新キャラの合流の形でお送りします。
それにしても、テスト前って勉強したくなくなりますよね(何)



 

「夏休みだー!」

「ヒャッハー!」

「いやその前にテストあるでしょうが!?」

『テスト? 何それ美味しいの?』

「メヌ含めてハモるな! 普通テスト前の勉強してる時期でしょうが!」

「いや、別に改めて勉強するレベルじゃないし」

「授業なんて一回聞けばりこりんブレインフォルダのおまけに入っちまいますぜ」

「テスト勉強は不要、はっきり分かりますね」

「ああ、そういえばコイツ等実際頭いいから何も言えないわね……」

 これでも白雪合わせて東京武偵高の偏差値上位陣です(ドヤァ)

 さて、イ・ウー、というよりシャーロックの一件から何日か経過した。諸々の後処理はいつも通りなので省略、強いて言うならアリアに理子共々知っていることを粗方吐かされたことくらいか、正座で。

 で、今は武偵高三大苦行『テスト勉強』の時期である。ウチの連中は机に座っていられる奴の方が少ないからな、モチベーションは普通の学校より超低い、死んだ目の奴も多いし。

 が、先程言ったとおり俺達にはほぼ無関係、勉強したくないでござる!

 というわけで、今は来たる夏休みに向けて遊びの計画を立てている真っ最中である。単位? 全員余裕で足りてますが何か?

「この時期に敢えて温泉行きたい、風呂上りのフルーツ牛乳は格別」

「海、は人が多いし、プールに行きたいわね。お姉様のカナヅチ克服のため、超スパルタコースで優しく教えてあげましょう」

「はいはい、理子夏の祭典行きたい! ユーくん含めて全員でコスプレしようそうしようというか決定!!」

「人の予定を勝手に決めるな、というかメヌは何空恐ろしい計画を立ててるのよ!?」

「あらお姉様、また津波が起きた時に自力でどうにか出来るのですか?」

「ぐ!? いやでも、救命道具付けてれば問題は」

「そんな都合のいいことありませんよ。ちなみに拒否するようなら、理子に頼んでお姉様の無様な状況を再現してもらった後、間宮さんに提出します」

「声真似は任せろバリバリー!」

「ヤ メ ロ! 人の積み上げてきた威厳を一言で崩すとか、悪魔かアンタは!?」

「お姉様のカワイイ妹ですよ?」

「アタシの妹がこんなに自画自賛するわけが無い!!」

 カワイイのは否定しないんだな。

 そんな感じでアリアの逃げ道を面白半分で塞いでいると、玄関からチャイムの音。はて、誰だろうか。白雪は生徒会の会議に出ているはずだが。

「よし、ここは理子が」

「いーよ俺が出るから。また貞○の真似して来客脅えさせる気かお前は」

 通称『金の○子事件』。銀を五人集めると出現する、どんな悪夢だよそれ。

「はいはーい、今開けますよっと」

 ドアを開けた先にいたのは――なんというか、メイド? な女性だった。

 髪は白金(プラチナゴールド)のストレートロング、瞳は優しげな色を湛える翡翠色(エメラルド)、肌は白人特有の抜けるような白さで、街を歩けば男女問わず振り返ってしまうような美人さんである。

 問題は服装と装飾品。東京武偵高(ココ)の制服にメイド服を足したような上着とロングスカート、頭にはヘッドドレスというみょんな姿だった。そして左手中指に嵌められた『U』を象るリング。以前理子に見せてもらったイ・ウーのスクールリングだ。

「突然の来訪、申し訳ありません。遠山潤様のお部屋でお間違え無いでしょうか?」

「ああはい、合ってますよ。部屋主の遠山潤です。えっと、イ・ウー関係者の方?」

「はい、元イ・ウー主戦派(イグナティス)、リサ・アヴェ・デュ・アンクと申します」

 丁寧にお辞儀をしてくる彼女の動作はアリア達とは違う品に満ちている。その姿と先程の発言から、俺は記録を掘り返し一人の人物を思い浮かべる。

「もしかして、イ・ウーの会計係さん?」

「はい、ご存知でしたか。さすが(モーイ)、遠山様はイ・ウーの内情にも詳しいのですね」

「まあ、一応関わりがあったんで。それで、ご用件は?」

 見たところ武装している様子はないし、敵意も感じられない。物腰も洗練されているが奉公人の類であり、横に置いているキャリーバッグの中身が危険物で無い限り、襲い掛かっては来ないだろう。

「あ、それはその……初対面の方にこんなお願いをするのはおかしいと、重々承知の上なのですが」

 でも一目見て確信しました。そう呟き彼女は不安そうながらも決意した顔になり、こちらを真正面から見つめて頭を下げ、

 

 

「遠山潤様、私のご主人様になってください!!」

 

 

 とんでもない事をお願いしてきた。

「……Wat(はい)?」

 思わずオランダ語で返してしまった。え、何、雇ってもらう時の決め台詞? 斬新過ぎるだろオイ。 

 

 

「えーとつまり、リサの家系は代々これと決めた武人に仕える家系で、イ・ウーには相応しい人物がいなかったから、シャーロックが推薦してきた俺に会いに来たってこと?」

 場所は変わって我が家のリビング。対面に座ったリサの話をざっくりまとめて聞き返すと、彼女は赤い顔のまま頷いた。ちなみに呼び捨てなのはそう呼ぶのを希望されたからで、顔が赤いのはさっきのご主人様宣言を我が家の連中に聞かれたからだ。

 対面同士の俺達に対し、間に座っている三人の表情は三者三様。理子は再会を喜んでいるニコニコ顔、メヌはどう弄ってやろうかといういじめっ子の顔、アリアは――顔を赤くして頭を抱えていた。多分黒歴史認定した『ドレイ宣言』を思い出したんだろうな。未だにからかうとカオマッカー! になって死ぬほど殴ってくるし。

「うんまあ、話は分かったけど……何で俺? シャーロックの推薦もあるんだろうが」

 というかあの名探偵、何を考えて俺に押し付けようとしてんだ。

「一目見てリサの勘にピンと来たのです、遠山様こそリサのご主人様に相応しい方だと!」

 え、アリアじゃないしそんな直感でいいのか――って、ホントに頭からピン! って感じで耳が生えてきたんですけど。しかも見た限り本物だそ、人狼(ワーウルフ)

「あ、し、失礼しました、つい興奮してしまって……」

「でたーリサの十八番、犬イヤーピン!」

 何だそのネーミング、というか十八番と言われるくらいよくある光景なのか。そしてメヌは何故目をキラキラさせている。

「ね、ねえ、この耳は本物なのかしら?」

「はい、その気になれば動かせます……よろしければ触りますか?」

 微笑んで頭を差し出すリサに対し、メヌはコクコクと頷いて犬耳を触り始めた。

 モフモフモフモフ。

 ニコニコ。

 モフモフモフモフ。

「んっ……」

 何で急に悩ましい声を上げるんですかねえ……

 数分間耳を弄繰り回し、満足した様子のメヌはこちらに向き直って真剣な顔で、

「ジュン、この子の主になってあげなさい」

「耳で懐柔されてんじゃねえよ」

 メイドなんだし家事能力とかで見ろよ。妙なところで年相応というか可愛らしいが、そーいう問題じゃねえだろ。

 チラと姉の方を見てみる(妹はリサの隣に座りだした)と、アイコンタクトで別にいいんじゃないのと返してきた。我関せず、というより妹が欲しがってるから肯定的な感じだ。何だかんだでメヌには甘いんだよなあ。

 最後に理子の方をチラと見ると、

「イインジャナイカナ!」

 カタコト喋りでサムズアップしてきた。意味分からん、というか若干焦ってる?

「あの、お願いします遠山様。厚かましいのは承知の上ですが、ここに居られなければ行く当てがないのです……」

「ジュン、ここで見捨てるようなら男としての貴方を軽蔑するわよ」

「メヌは完全にリサの味方ね」

 コーヒー(客人であるリサが淹れてくれた)を飲みつつ、アリアが他人事のように漏らす。うん、ホームズ姉妹は当てにならんねこれ。

 どうすっかねえと俺もコーヒーに口を付ける。……本当に同じ豆から淹れたのかこれ? メッチャ美味いんですけど。

「あ……申し訳ありません、忘れていました。遠山様、こちらシャーロック様からの手紙です」

「曾御爺様の!?」

 アリアがガタンと席を立つ。オイリサがビックリしてるぞ、どんだけシャーロック大好きなんだよ。

「あの、これは遠山様以外読まないようにと言われているので……」

 リサが申し訳なさそうに言うと、奪い取りそうな勢いだったのが不貞腐れたものに変わる。いや、俺宛ての手紙読んでどうするんだよ。

「シャーロックからの手紙ねえ」

 ろくでもない予感しかしないのは気のせいだといいんだが。短い邂逅で色々やらかしてくれたのを思い出しつつ、封を破って手紙を開く。

『オメエに書くことねーから!!』

 反射的に破った。

「ちょ、ジュン何してんのよ!?」

「いや、死ぬほどイラッとしたもんで」

 多分理子が同じことやったら似た反応すると思うぞ、お前も。

 とはいえアリアに怒られたので、超能力(ステルス)で手紙を修復し(リサに「モーイ!」とやたら褒められた。そんな珍しいか?)、再度読み始める。というか太字で書くんじゃねえよ、本文小さいし。

『この手紙を読むときは、ついイラッとして一度破いた後だと思う』

 無駄なこと推理すんな。

『さて冗談は置いといて。潤君、今君はリサ君の主になってくださいという発言に面食らっているだろう。

 僕がリサ君に君を推薦したのは、その人柄や功績を判断してのことだ。何言ってんだコイツと思っているだろうが、君には人を率いる才能があると僕は推理している。現に、君を中心に人が集まっているのだからね』

 まあ集まってはいるな、他人の家を占拠して。

『別に気にしてはいないだろう?』

 手紙で会話してんじゃねえよ、その通りだけどさ。

『僕としては、リサ君を受け入れてくれると嬉しい。君の主義もあるし、主としてか友人としてかは君次第だが、懐に飛び込んだウサギを無慈悲に仕留めるほど容赦のない人間ではないだろう?

 それと、彼女の料理は絶品と言っていい。アリア君たちもその腕前を見れば喜んで迎え入れるし、君の負担も軽減するだろう』

 ウチの台所事情まで加味しなくていいです。

『君にとっても彼女にとっても最良の選択が選ばれることを、私は願っているよ。では、またいずれ。

 P.S この手紙は読み終えると自動的に爆発する』

「あ?」

 最後の一文を読んだ瞬間、手紙が突如光り出し、反応する間もないままボンッ! とコミカルな感じで爆発を起こした。

「!? と、遠山様大丈夫ですか!?」

「あーうん、大丈夫大丈夫」

 爆発の威力自体はオモチャレベルだ。手と顔は煤だらけだろうが。

 心配して駆け寄ってくるリサに対し、他三人は爆笑していた。お前等を追い出してやろうかコノヤロー。

 とりあえずシャーロック、次会ったらテメーは死ぬまで泣かす。

 

 

 持ってきてもらったタオルで顔を拭き、淹れ直したコーヒーで一息付く。ちなみに全部リサがやってくれた、だから客人にやらせてどうするんだよ俺含め。

 そのリサはコーヒーを出してくれた後、期待と不安が入り混じった目でこちらを見ている。まあ今後が掛かってるし、これと定めた主がようやく見付かったんだからなあ。

「何を悩んでいるんですか? 即断即決、思い付きで即行動のジュンにしては随分と時間が掛かっているわね、普段なら素直に受け入れてあげそうなものなのに」

「ストレートに考えなしのバカ言ってもいいんだぞ?」

「自覚あるなら直しなさいよ……」

 アリアが溜息ついてるが、だが断る。楽しむ時くらい頭使わなくてもええやろ。

「別に住んでもらうのは構わんが、主となると話は別なんだよ」

 リサの顔が一瞬喜色に染まるが、次の瞬間ガックリと肩が落ちる。

「なんでよ」

「ユーくんの主義じゃないかな~? たしか『従わず、従えず』っていうのがあったよね?」

 オイ理子、ここぞとばかりに口挟むんじゃねえよ。ホームズ姉妹に呆れた目向けられたじゃねえか。

「何それ、アンタが前に居た場所の決まり?」

「いや、俺ルール」

 呆れ目がジト目に変わった。おいヤメロ、俺がそういう目で見られると興奮する性癖だと思われるだろ。

「その主義を一つ捨てるだけで、女の子一人が幸せになれるんですよ?」

「まあそうなんだけどな……」

 メヌに言われるまでもなく重々承知の上だが、ガキの頃から掲げていた主張は本能が良しとしない。

 とはいえ、目の前の彼女を見捨てるほど冷酷にもなれないわけで。

「あ、あの、ご迷惑でしたらここを去りますので……」

 悲壮感一杯の顔で言われてもなあ。ほら、ホームズ姉妹の非難的な目が。こういう時男の立場って弱い。主でなくてもよければ迎え入れるというのも提案してみたが、涙目で首を横に振られてしまった。

 ちら、と先程からほとんど喋っていない理子の方を見やる。視線を感じたのか、しょうがないにゃあと言う風に肩を竦め、こちらへ近寄って耳打ちしてくる。

「ユーくん、ここはルート分岐だよ。リサを受け入れるかどうかで、潤が今後本当の意味で変われるかが決まる」

「……ああ、たしかにそうだな。でも、お前はいいのか?」

 さっきからちょろっとだけとはいえ、不安の感情を出してたくせに。

 俺が問うと、理子は一瞬驚いたように眼を開き、その後ニヤーと笑った。

「くふふー、どしたのどしたの? これはユーくんの事情なんだから、理子のことなんて気にしなくていいのに聞いてくるなんて」

 ……言われてみればそうだ。家主は俺で決定権はこちらにあるのに、何故理子の意志を確認しているのやら。

「ふむ。……どうしてだろうな?」

 強いて言うなら、何か引っ掛かりがあるのだが。それを言葉として表現できん。語彙力ねえな俺。

「ユーくんでも分からないことあるんだねー。まあ理子は概ね賛成ですよ? ライバルが増えるのは頂けないけど、リサを見捨てるのは河合荘だし、ご飯美味しいし、一緒に居て楽しいし、ご飯美味しいし」

 食いしん坊万歳かお前は。まあ不安なんてどこかに飛んでルンタッター状態の理子を見て、腹を決めることにする。

「そうだな、決めた。武人としては心許ない俺で良ければ、よろしく頼む」

 対面のリサに告げると、彼女は泣き顔から一転してキョトンとした顔になり、内容を理解したのか驚き顔になり、

「――はい! よろしくお願いします、ご主人様!」

 喜色満面の笑みで立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。それにアリアはやれやれと安堵の息を吐き、メヌは、何故かちょっと面白くなさそうに理子を見ていた。

「よっしゃあー! じゃあ珍しくヘタレモードなユーくんも了承したことだし、お祝いにゲームやろゲーム! リサ、今日は負けないぞー!」

 がおー、と妙に上機嫌な理子がリサに向かって両手をライオンっぽく掲げる。え、お祝いにゲームやんの? たしかにさっきからチラチラゲームの方見てたけどさ、リサ。

「ゲーム得意なのか?」

「あ、はいそこそこには。イ・ウーでは色々な方と対戦したり協力プレイをしていましたし、アニメも結構見てました」

 結構理子寄りの趣味らしい。

「くふふー、そこそこ? イ・ウー内のアニメ・ゲームブームを作ったのはリサだったとりこりん思うのですがね~?」

「い、いえそんなことないですよ理子様? パトラ様やシャーロック様がその影響で新しい技を開発したり、会話にネタを挟むようになったくらいですし」

『お 前 か よ』

 イ・ウーの連中が妙にネタ技多かったのはお前が原因かい。訂正、アイツらに広めてる時点で理子以上と言ってもいいわ。思わずアリアと台詞が被ったぞ。

 ということは、あのゲームが大量に置かれてた『遊戯室』もリサが用意したもんか。会計係やってたんだし、揃えるのはお手のもんだろ。

「ちなみに音ゲーの腕前はビーマニで冥アナザーを片手フルコンする程度です」

「ナニソレコワイ」

 どこのペン回しが異様に美味い伊〇君だよ、「一時期やりこんでいたもので……」とか恥ずかしそうに言ってるけど、それやり込んでるちゃう、極めるや。

 というか、ウチの二大ゲーム廃人(もう一人はメヌ)である理子に勝てるとかどんだけだ?

「くふーふ、接待プレイなんかいらないよーリサ? 遠慮なく掛かってきんしゃい!」

「いいのですか? では理子様、お手柔らかに」

 というわけで、理子チョイスのメル〇ラを始めたのだが……

『K.O』

「にぎゃー!?」

「ありがとうございました」

 ……本命キャラ琥〇さんの理子に対し、七〇でストレート勝ちしてるんですけど。

 その後俺達とも対戦したが、誰も一本取れなかった。メヌは結構善戦したが、俺は一本、アリアに至っては二本ともパーフェクト勝ち取られたし。

 これはとんでもない逸材を拾ってしまったかもしれんな……

 

 

 余談だがその後帰ってきた白雪が「また新しい泥棒ネコ……!」と目くじらを立てていたが、なんかすぐに打ち解けていた。この面子全員とすぐに仲良くなれるとか、すげえなリサ(←その面子をまとめてるやつ)

「あーやっちゃったなあ……でもリサを見捨てるのは後味悪いし、ユーくんも理子のこと気にしてくれてたし……」

 あと、理子が一人でそんなこと言って、後悔と喜びの混じった変な顔をしていた。

 テスト? 適当にやって問題なしでした、記録することでもねえな。

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 あーだこうだ言うも、最終的にはリサのご主人様になった黒一点。部屋の女子率が更に高まるが、本人は一向に気にしていない。
 法律には緩いが俺ルールは厳守する模様。それで周囲を呆れさせることも多々あるほどなので、今回折れたのはかなりレアなケース。他に思うところもあるようだが。
 

神崎・H・アリア
 夏休みにカナヅチ克服を無理矢理やらされそうな水怖い(ガチ)な子。水面を超能力(ステルス)なり縮地で走ればある程度代用できるが、本人はそこまで頭が回っていない。
 リサが入ってきたことに関してはただ一つ、「酷いボケキャラじゃないことを祈るわ」とのこと。


峰理子
 再会を喜ぶ傍ら、強力なライバル出現に頭を抱えていた恋愛ヘタレ。イ・ウーで一緒に過ごしていた間、彼女の女子力の高さとメイドとしての力量は把握済みなのが
主な理由。
 潤のいつもと違う反応にワンチャンと見たのか、不安が吹き飛んで上機嫌になった。恋する少女は浮き沈みが激しい、直後にやらかしたー! ってなってたし。


メヌエット・ホームズ
 久方ぶりに登場した姉弄り大好きっ子。双子のメイド曰く「アリア様を弄っている時がお嬢様が最も輝いている時」とのこと。姉からすればたまったものではないだろうが。
 少し態度を変えた潤を見て喜ぶ理子に、自分の玩具が取られるかもしれないと思って面白くない模様。まだ確定した訳ではないが。
 余談だがリサの犬耳はお気に入りのようで、あの後も度々触っている。


リサ・アヴェ・デュ・アンク
 読者諸兄と作者の願望により、遅まきながらも登場した(個人的に)パーフェクトメイド。それでも異様に早いのだが。
 メイドに加えてゲーマーという属性が付いた模様。イ・ウー在籍時代は扱いが不遇だったことから気晴らしにゲームをやってみたらはまり、他の面々にも広めてみたら一部を除いてやたらとはまった。正に元凶である。
 余談だが、彼女と格ゲーをやって勝つのは、条理予知を全力で用いたシャーロックでも至難の技である。
 ゲームの後に他の面々が歓迎会を開いてくれたのだが、そこで嬉し泣きしてしまった。イ・ウーではかなり損な役回りが多かったからだとか。どんだけだよ。
 

シャーロック・ホームズ
 ほぼ潤を煽るためだけに手紙を残していた。ぶっちゃけ事情はリサが説明しているので、あまり必要はない。

 
後書き
 よし、合流の理由に無理がある気がする(白目)
 皆さんどうも、説明と理由付けの下手な作者のゆっくりいんです。またも作者の独断と偏見で先にリサが登場することとなりました。可愛いから仕方ないね、メイド属性のない私を萌え殺す勢いでしたし。リサ、恐ろしい子……!(何)
 さて、次回は幾つかネタがあるのですが……アリアかメヌか、もしくは星伽シスターズ辺りを予定しています。いっそリサ絡みのストーリーでもいいんですが……まあ、未定です。
 そういえば私事ですが、お気に入りがもうすぐ300件に達しそうなくらいになりました。これも偏に読んでくださる皆さんのお陰です、ありがとうございます!
 300件をいったら、またアンケートをとって番外編か特別編でも書こうかと思います。詳しくは達成後に活動報告へ書こうかと思いますので、よろしければご参加ください。というか200件の時サボってたから、その分合わせて二作書いた方がいいですかね……自分で定めた締め切りガガガガ(汗)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。


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閑話その二 努力なんて人に見せるもんじゃない

 リサのご主人様になってから数日が経過し、夏休みに入った。とりあえず学校への編入は来学期からということで手続きを済まし(年上かと思っていたが、同い年らしい)、その間彼女には家事等を任せていたのだが――うん、生活の質が激変したな。特に料理と経済面で。もう以前の生活には戻れないんじゃないかな(真顔)

 ウチの個性的な面々とも十分仲良くやれている。唯一家事担当の白雪が「私、要らない子宣言……!?」とか妙に危機感を覚えている時もあったが、リサが顔を立てて家にいる時は白雪メインで動いているため、彼女も満足しているようだ。

 というかリサの信頼獲得がすげえんだよな。なにせ、

「メヌ様、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫よ……まだいけるわ」

「ギリギリになる前に言えよー」

「私が倒れる前に察するくらいの機知はあるでしょう?」

「何その過度な期待」

「ご主人様なら出来ます!」

「メイドからの信頼が重い」

 姉にも内緒にしている早朝のリハビリに、俺と二人で参加しているくらいなんだから。

 イギリスに居た頃からずっとやっていたらしく、以前は双子のメイドさんに手伝わせていたらしいが、「意外と口が固いし、万が一見付かっても言い訳が出来る」という理由から俺が変わることになり、そこへ同じく信用できるリサも加わることとなった。

「はあ、とう、ちゃく……!」

「ほい、ご苦労さん。今日はいつもより長くいけたな」

 疲れ切ったメヌが転ばないように支えてやり、車椅子に座らせてやる。歩き方は大分しっかりしてきたな。

「はあ、はあ……我ながら、体力の無さが、嫌になるわね……」

「それは地道に付けていくしかないだろ。リハビリの回数を増やせば話は別だが」

「嫌、よ……お姉様を驚かせたいのに、バレるようなリスクを犯したら本末転倒じゃない」

 辛いからとかじゃないんだな。まあ負けず嫌いというか妙なところで意地っ張りなのは、メヌらしいといえばらしい。こいつ、人を弄ったり驚かせるためなら努力は惜しまないもんな。

 特製スポーツドリンクを渡し、汗を拭いてやりながら俺達の話を聞いているリサは、柔らかな笑みを浮かべてメヌの頭を撫でてやる。

「メヌ様は充分過ぎるくらい頑張っていますよ、ヘルモーイ(素晴らしいです)

「な、何よ急に。もう、子供じゃないんだから」

 そう言いつつも、メヌはされるがままになっている。存外、甘えさせてくれる相手に弱いのかもねえ。

「いや十四なんだからまだ子供だろうよ。こういう時くらい素直に褒められとけって」

 流れに乗じて俺も頭を撫でてやると、メヌは恥ずかしそうに顔をプイッと背ける。「……まあ、当然のことだけど。悪い気分じゃないわね」とか赤い顔で言ってるのは、突付くと薮蛇で弄られるので聞かなかったことにしよう。

 ノートを取り出し、今日分の達成距離を記入していく。

「ジュン、この調子なら後どれくらいでいけるかしら?」

「んー、早くて9月半ば、遅くて10月後半かねえ。上手くいけば修学旅行には間に合うな」

「あら、いいわね。学校行事が記念なんて、陳腐だけど素敵じゃない」

 どこに行くのがいいかしら、とメヌが早くも行き先を考えている。取らぬ狸の皮算用になる可能性もあるんだが、楽しそうなので言うのは野暮だろう。

 ちなみにこのリハビリ最初の目標は、『自分の足でアリアと一緒にお出かけ』。勿論アリアには内緒で、前のように驚かせたいそうだ。まあいいリアクションしてくれるだろうな、アイツは。本人にとってはたまったもんじゃないだろうが。

「ご主人様、メヌ様の記録を見る限り、医学の心得をお持ちですか?」

「ん、まあ一応はな」

モーイ(すごい)! 正にご主人様は専科百般、出来ないことなどないのですね!」

「いやいや、そんな手放しに褒めるもんじゃねえって」

 たしかにノートには過去の歩行距離、そこから予測できる今後の移動可能距離、体力の付き方、ペース配分等の予測を記しているが――救護科(アンビュラス)の生徒ならもっと細かいデータや計画が立てられるだろう。そもそもこの記述が分かるなら、リサも医療知識は持ち合わせているんだろうし。

「あら、私の足を治療してくれたのは、どこの誰だったかしら?」

「んー? 腕のいい医者じゃねえの?」

「ええそうね、黒髪黒目の日本人で身長170弱、今なら年齢は十代後半で一見気紛れで軽薄だけど、中身は思慮深く仲間や気に入った相手には甘い男、そんなジュンみたいなお医者様が二年前の秋に来てくれたわ」

「へえ、そりゃまた随分なドッペルゲンガーがいたもんだ。偶然その時期に依頼でイギリスに行ってたが、出会ってたら死んでたかもしれんねえ」

「たしかに、瓜二つと言っていいくらいそっくりだったわ。ああでも名前は違ったわね、多分偽名でしょうけど」

 メヌはニヤニヤとこちらを見て、リサは尊敬の眼差しでこちらを見ている。偶々メヌの症例に対して知識があっただけだから、超能力(ステルス)合わせての裏技みたいな方法でやったんだし、そんな目で見られてもねえ……しかも無免許だし。

「ほら部屋に戻るぞー、そろそろアリア達も起きる頃だろうし。メヌは疲れてるだろうから俺が押してやるよ」

「嫌よ、貴方ここでふざけてこの空気をぶち壊す気満々でしょ」

「そんな目で俺を見るなあ!」

「はいはい、存分に尊敬されてなさい。リサ、悪いけど押してもらっていいかしら」

「はい、承知しました。ご主人様には自信を持ってもらうため、どれだけ凄いかを聞かせていただきます」

「いいわねそれ、ジュンは基本自虐的だし、如何に自分が有能か語らせるのも面白そうだわ」

「やめてくださいしんでしまいます」

 お前等仲良しだな、でも連携して俺を弄り倒さなくていいから。リサは半分くらい本気で言っている気もするが。

 

 

 時間は経過し、夕方の自室。現在自作のモニターを作成中である。リサが来てから全員でゲームをやるようになり、しかしテレビが足りないので『全員分のモニターがほしーい!』とか理子の奴がやかましかったのが理由だ。ていうか自分でやれよアイツは。

 今現在部屋にいるのは作業中の俺と、鼻歌を口ずさみながら家事をしているリサ。ホームズ姉妹はアリアの母親であるかなえさんの裁判に向けて証拠集め。その関係で最近は家を空けることが多いが、メヌも手伝い始めてから大分捗っているようで、「この調子なら思ったより早く証拠が揃いそうだわ」とアリアが嬉しそうに言っていた。

 まあ大抵夕方には帰ってくるんだが、リサの料理目当てで(ぶっちゃけ和食以外は白雪を上回っているレベル)。

 白雪と理子は食材の買出し。白雪が買物係で、理子は荷物運びだ。そうしないと無限に余計なもの買ってくるからな、アイツ。

「っと、こんなもんか」

 モニターも人数分組み立て、スー〇ァミ、P〇2、ワンダー〇ワンなど古い機種も複数のモニターに繋げられるよう改造し終わった。動作確認もしたし、これなら大丈夫だろう。

「お疲れ様です、ご主人様。すいません、無理なことをお頼みしてしまって……」

「いーよ別に、美味い飯作ってくれるせめてもの礼だ」

 本来なら何日か掛けて作るつもりだったが、「ユーくん今日中に製作できるよね? 出来なきゃ罰ゲームだよくふふー」とか理子が煽ってきたので、やってやらあ! という気分になり一日で仕上げた。お陰でほぼ一日潰れてしまったが、まあ結果オーライなのでよしとしよう。

 さて、片付けたら設置するか。

「……」

 じー

「……動かしてみる?」

「え!? あ、いえ、ご主人様が片付けをされてから……いえ違います、リサが片付けます!」

 そう言いながら横目でチラチラゲーム機見てるやん、めっちゃ気になるのね。流石ゲームをやらなかった白雪を巻き込む熱意は伊達じゃない。

 「いいから」と言って工具を一旦脇に除け、再チェックも兼ねて全てのゲーム機とモニターを起動させた。その度にリサが「モーイ!」と本気の賛辞を送っている。

「本当にご主人様は凄いです! こんなものを簡単に作ってしまうなんて……」

「いや、この改造そんな難しいもんじゃない。方法さえ分かれ、誰でも出来るさ」

「そんなことありませんよ、リサにはサッパリですし」

「そりゃやり方が分からないからだろ」

「それを思いつく想像力と実行力は、ご主人様自身のお力ですよ。誰でも出来るなんて言わず、誇っていいとリサは思います」

「……そういうもんかねえ」

 「『誰でも出来る』が最早口癖」とは以前何人かに言われたことだが、実際俺がやっていることなんて大したことはないし、Sランク武偵や専門家ならもっと短時間、かつ上等なものを作り上げられるだろう。

「なあリサ、上を目指し過ぎるのは悪いことかね?」

「と、いうと?」

「いや、以前師匠に『何でも出来るようにとは言ったが、お前は理想値が高すぎる』って呆れられたからさ」

 なんとはなしに聞いてみた。ちなみに俺の師匠はそれこそマジで『何でも出来る』ので、その時は「お前が言うな」と返したな、本人は苦笑いしてたが。

「そうですね……向上心があるのは良いことだと思います。ただ、時には立ち止まったり、振り返ることも必要なのではないかと。

 ご主人様は、少し急ぎすぎているのかもしれません」

「別に急いてるつもりはないんだが。ほら、『急がば回れ』って言うし」

「それ、結局急いでませんか?」

「ん? ……そういやそうか」

 一本取られた気分だ、リサは何故か楽しそうに笑ってるが。

「やっぱりご主人様は、放っておけないタイプですね。……理子様や白雪様が気に掛けるのも、何となく分かる気がします」

「こんな男に入れ込む理由が分かっちまったか」

「はい、分かっちゃいました。しっかり先を見ているようでどことなく向こう見ず、向上欲が強すぎて止まることを知らない方」

「人を競輪みたいに言わないでくれませんかねえ」

 もしくは猪突猛進か。猪は障害物と敵をまとめて薙ぎ払うのが得意なアリアだけで充分だっての。 

 

 

「……」

「お姉様、どうしました?」

「いや、ジュンがアタシを馬鹿にした気がしたんで、帰ったら胃酸吐くまで殴るわ」

「人前で堂々と言うのはメヌでもどうかと思います。裁判員さん引いてますよ?」

 

 

「そんな進みっぱなしな人だからこそ、目に付いた人は思わず気にしてしまってしまうんだと思います」

「要するに、突っ走りすぎてつい見てしまうと?」

「それで『もっとゆっくりにすればいいのにな』と思って、声を掛けたくなっちゃうんですよ。いつの間にか同じペースに巻き込まれちゃうんですけど」

「なるほど、そりゃ合わせる方は大変だな」

「でも、それが楽しいからやめられないんですよ。それに、見返りを求めず誰かを助けられることは、非常に尊い行為だと思います」

 でも、と言いつつ、リサが俺の手を取る。極々自然な動作だったため反応できず、引っ張られて二人でソファに隣り合って座る。

「偶には誰かに甘えて、ゆっくりしたり止まってもいいと思います。ご主人様、起きてる間はずっと休んでないじゃないですか」

「んー、まあそうね」

 たしかに、起きてる時は何かやってるのが当たり前になっており、休むのは寝る時で十分と割り切っている感はある。別にそれで極度の疲労に見舞われる訳でもないから、気にしていなかったのだが。

 「失礼します」と一声掛けてから、リサが俺の肩を押して横倒しにし、ぽすんと膝で受け止める。まああれだ、膝枕って奴だな。

「お仕事もいいですが、今はゆっくり休みませんか?」

「休息を強要するメイドはどうなのだろうか」

「主の健康管理もメイドの勤めですから」

「別に疲れちゃいないんだがねえ」

 などと言いながらも、横になると意識が段々曖昧になってきた。おかしいな、体力的にはまだ余裕ある筈なんだが。

 リサの方が正しかったか。そんなことを頭の隅で考えつつ、心地良いと思える睡魔に身を委ねることにした。途中理子と白雪の声が聞こえた気もしたが、よく覚えていない。

 温かく柔らかい膝の感触と、甘く包むような香りに包まれ、

「お休みなさい。ゆっくり休んでくださいね、ご主人様」

 慈しみに満ちたリサの声を最後に、俺の意識は閉じていった。まあ、偶にはこういうのも、悪くない――

 

 

 結局夕飯の前には叩き起こされたけどな、メヌと理子の悪戯心で。その時の起き抜け姿はアリア曰く、「叩き起こされて不機嫌な熊みたいね」だったそうな。そんな可愛いもんじゃねえだろ、熊に謝れ。

 

 

おまけ 寝る直前に帰宅した白雪・理子との会話

「たっだいまー! 今日も色々仕入れてきたよ新作のお菓子とか!」

「もう、理子さん無駄遣いはしないでって言ったのに……」

「あ、お帰りなさい。お買い物ありがとうございます」

「おー、お帰りー」

『…………』

「何で膝枕!?」

「しかもユーくんがリサにされてるし!?  逆だったら理子もあるけど!」

「理子さん、それどういうこと……?」ゴゴゴゴゴゴ

「ご主人様はお疲れのようですので、少しお休みになるそうです」

「え? いあいあ、マンボウよろしく動いてないと死にそうなユーくんがそんなまさか」

「( ˘ω˘ ) スヤァ…」

『ホントに寝たぁ!?』

「あの、お二人とももう少し静かに……」

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 とりあえず色々やってる武偵。メヌのリハビリ記録からモニター製作まで、やらせれば大体出来る。ただし女装は(自発的には)やらない。
 ワーカーホリックというより何かしてないと落ち着かないタイプ。甘えるより甘えさせるタイプ(無意識)なため、リサみたいなタイプは新鮮。

メヌエット・ホームズ
 努力は人に見せず、人を弄るのは目の前でやるタイプ。特にイタズラの努力は怠らない。
 賞賛されることはあっても直接褒められることはなかったため、慣れていない。あと姉属性の相手にも弱く、反応がツンデレ的になるのは姉妹の共通点か。
 足の治療に関しては、潤が色々した模様。具体的なことは……多分語らない(オイ)

リサ・アヴェ・デュ・アンク
 主はやたら高評価なメイド。無条件の称賛は、潤にとって慣れないものである模様。
 人を甘やかすのが非常に上手く、頼られるタイプの人間も頼らせる。これダメ人間製造機じゃね? と戦慄したのは作者。


後書き
 なんか流れでリサとメヌメインの話になってしまった……まあ原作の絡みあるし、仲は良好でもいいのかな?
 というわけでどうも、作者のゆっくりいんです。夏休み要素が欠片もない気がする今回、いかがでしたでしょうか? ……はいすいません、次回は流石に夏要素いれます、星伽姉妹とか(違)
 そういえばリクエストに関連してか、お気に入りの件数が異様に伸びてる気がするんですよね……これがリサの力か(戦慄)
 さて、次回はプールか星伽姉妹編を書こうと思います。原作外の話なので順番が定まってないから、思い付きと気分で変わるんですよね、予告詐欺を一番やらかす回(オイ)
 とりあえず、今回はここまでで。感想・誤字訂正・評価・批評、あのキャラのことが知りたい、こんな話を書いて欲しいなどの質問・リクエスト、お待ちしています。


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閑話その三 責められるのには慣れてます

 マイクラやりたい、音ゲーやりたい、COCやりたい。



 

 

「潤ちゃん、私って必要なのかな……」

「いや、いきなりどうした」

 依頼からの帰り道、奈良の合宿から戻ってきた白雪と偶然合流し(わざわざリムジン降りて一緒に歩いている)、寮へと向かう途中。それまで笑顔で話していた白雪が突如暗い顔になって呟いた言葉にどう返せばいいか分からない。いやどーしたよマジで。

「最近ね、リサちゃんと一緒に家事をやってるんだけど……そこで如実に差を感じるというか、正直上にいる和食もいずれ追い抜かれそうというか……あはは、私要らない子だあ」

「おーい白雪、帰ってこーい」

 ダメだ、円環の理(負のスパイラル)に囚われてやがる。目が明らかにハイライト失ってるし、今にも(精神的に)死にそうだぞ。

 普通に考えれば家事が本業のリサと、SSRと平行して家事もこなす白雪では差が出て当然なのだが……まあ、そんなこと言っても慰めにはならないだろう。

 というかそれ言ったら俺なんかどうなんだ。……うん、戦闘、戦略構築、家事、製作。どれも誰かが俺以上に出来るな。

「白雪、ちょっと二十年くらい山奥に引っ込んでるわ」

「え!? 何で、何でそうなったの!?」

「いや、改めて考えると俺の方が要らない子かなーって」

「え、あ、え!? そ、そんなことないよ、潤ちゃんは私にとって必要な人だよ! ごめんね潤ちゃん、私のせいで変なこと考えさせちゃってごめんね! あと山奥なら白神山地がオススメだよ!」

「それ星伽神社がある場所じゃん」

 さらっと実家勧めんなし、まああそこも俗世から離れているといえばそうだけどさ。

 軽く欝になったり謝り倒したりしながら寮に到達、ドアを開ける。

 

 

「怨・敵・調・伏!!」

 

 

 いきなり敵意満々な声で出迎えられた。具体的には新田〇よりボイスで。

 玄関で待っていたらしい彼女は、白雪の二つ下で義理の妹、星伽粉雪。何の躊躇いもなく俺の脳天目掛けて懐刀を唐竹割りの要領で振り下ろす。脳天かち割るのは不向きだと思うぞ、その武器は。

 とはいえ中々の速度、当たれば血液(潤汁)ブシャーは間違いないので、

「ほいっと」

 白刃取りで止める、中指と親指の二本で。

「ふ、ぐぐぐぐぐ……!!」

「粉雪!? どうしてここに!?」

「お久しぶりです、お姉様! ちょっと待ってください、このスケコマシを成敗してやりますので!」

「おー粉雪か、久しぶり。元気そうで何よりだ」

「ええ元気ですよ遠山様、ついでに遠山様が大人しく斬られてくだされば、お姉様と幸せな日々が取り戻せてハッピーエンドなのですが!」

「なるほど、そりゃたしかにハッピーエンドだな。

 だ が 断 る」

「むがーーーーーー!!!」

 あ、懐刀に込められてる魔力が上がった。うーん、半年前の正月に会った時より腕を上げたな。訓練は怠ってないようだ。

 などと拮抗状態のまま考え事をしていたのがいけなかったのか(そりゃそうだ)、

「隙有り!」

 粉雪の掬い上げるような蹴りが放たれた。俺のデリケート部分目掛けて。

『あ』

 擬音にするならガン、か、キン、か、ゴリッ、か。とにかく粉雪も予想外だろう一撃がクリティカルヒットし、

「お、おお、おおお…………」

 俺はその場に崩れ落ちた。それでも白雪お土産の鹿サブレを落とさなかったのは、甘党の意地が成せる技か本能か。

「じゅ、潤義兄(にい)様!? 大丈夫ですか!?」

 粉雪の後ろにいた白雪の一つ下の妹、クール系美人風雪が珍しく慌ててこちらに駆け寄ってくる。

「お、おう……風雪も、ひさし、ぶり……」

「い、今は挨拶なんていいです! お姉様、奥で潤義兄様の治療を!」

「う、うん! ジュ、潤ちゃんしっかりして、気を確かに!?」

「だ、だいじょ、ぶ、こんなんで、死ぬわけ……ガクッ」

『潤ちゃーん(潤義兄様ー)!?』

 叫ぶ二人にサムズアップしておいた。大丈夫、潰れてはいないから。

 そういえばアレを蹴られた痛みは出産の百ウン十倍と聞いたような……そんな雑学を思い出しながら、俺はお姫様抱っこされて部屋へ連れて行かれた。いやん、風雪ちゃんたら力持ちー。……存外余裕あるな俺。

 

 

『本当にすいませんでした!!』

 治療が終わってすぐ、白雪と風雪は深々と土下座をしてきた。頭どころか身体全体が床に着きそうな勢いである。

「大丈夫ダイジョブ、死ぬより痛いだけで異常はなかったから」

 自己診断の結果だが、特に問題はないだろう。……それよりパニックに陥った二人が下着を下ろすのを止めるのが大変だった、超能力(ステルス)まで使う羽目になったし。

「いえ潤義兄様、一歩間違えれば大惨事だったのにいつもの事と止めず、重ね重ね申し訳ありません……粉雪、目を背けてないで貴方も謝りなさい!」

「……悪いのは攻撃を避けなかった遠山様で、寧ろ私は汚らわしいものを触らされた被害者」

「粉雪、今潤ちゃんに謝らないなら絶交します」

「本当に申し訳ありませんでした遠山様!!」

 全身全霊真心のこもった土下座だった。まあ姉二人に責められたら勝てないわな。

「いーよいーよ、粉雪が攻撃してくるのなんていつものことだし」

 流石に急所突きは予想外だったが、出会い頭のカチ割りなんぞまだ優しい方だ。普段だったら炎を纏ってるし。

「あの、潤ちゃん。粉雪に寛大なのは嬉しいんだけど、その顔じゃ……」

「え、そんなヤバイ顔してる?」

 申し訳なさそうに頷かれ、風雪に渡された鏡に映っていたのは……うわあ、死人の方がまだ幾分かマシな顔色してるよ。痛覚遮断してこれかよ、そりゃ説得力ないわ。

「遠山様、如何様な罰も受けますので、どうか、どうかお許しを!」

 プルプル震えてる粉雪に、ん? 今なんでもって言ったと返したいが、冗談が通じそうにないのでやめておく。今の状態だと鵜呑みにしかねん。

 まあ、俺からの許しが無ければ白雪は決して許さないだろう。そんな感じの顔してるし。

「罰ねえ」

 別に怒る気もないので特に思いつかないが、姉二人の様子から見てけじめは必要だろう。

 どうするかなーとリビングを見渡していると、テーブルの上に置かれた雑誌を発見する。ほむほむなるほど。

「よし、じゃあ星伽三姉妹」

 姉達も含まれたことに妹は驚いた顔になるが、本人達は至って真面目に頷くだけで何も言わない。連帯責任で罪を負う覚悟か、美しい姉妹愛だねえ。

「買物行くべ」

『え?』

 まあそんな覚悟いらんけど。

 

 

 というわけで、やってまいりました新宿。本当なら池袋でもいいんだが、万が一あのジャンルに白雪達が興味を示したら目も当てられないという配慮である。

「それで潤ちゃん、何を買うの?」

「日用品から雑貨、服から本まで色々。あと武器も幾らか見ていきたい」

 大抵のものが揃うのは新宿のいいところだ。まあ東京だと大体の場所はそうかもしれんが。

「わあ……」

 都会に憧れる娘っ子よろしく、粉雪は色々な店を見ては目を輝かせている。普段は仏頂面で生真面目だが、こういう時は年相応だな。

「こら粉雪、今は潤義兄様の買物に付き合っているのですよ。自重しなさい」

 二番目の風雪も嗜めているものの、気になる店があるのか視線がチラチラと泳いでいる。まあ好奇心には勝てんわな。

 ちなみに制服と巫女服では明らかに目立つので、全員私服に着替えている。白雪はフリルの付いた白ワンピース、風雪は薄緑と白で落ち着いた色合いの着物、粉雪はレイヤースカートとUネックの半袖カットソーのちょっと背伸びした格好だ。和服が風雪一人だと目立つので俺も簡単な和服にしているが……うん、どう考えても相殺できてないな、美少女三姉妹の存在感が。俺のおまけ感が異常、野郎どもの嫉妬ビームも異常。

 それはともかくとして、

「あちぃ……」

 流石のコンクリートジャングル、今年は幾らかマシな気温のはずだが、溶けそうだ。クーラーの中から出た途端これだもんなあ。

「潤義兄様、どうぞお入りください」

 そう言って、風雪が和風日傘を俺の頭上に掲げる。日差しが遮られるだけでも充分にありがたいし、気遣いは純粋に嬉しいのだが。

「……くっついたら結局暑くないか?」

「私は構いませんよ?」

 違う、そうじゃない。まあ太陽の攻撃よりはマシか、腕がちょっと当たるくらいだし。

 余談だが風雪が俺を『義兄様』と呼ぶのは、「いずれお姉様と結ばれて星伽に入ると、私は信じていますので」ということらしい(白雪は「出来た妹だ!」と大層喜んでいた)。その他の姉妹は名前呼び、粉雪だけは苗字呼びだ。まあ男嫌いの彼女が素直に名前を呼ぶとは思ってないし、別にいいけどな。

 ……もう一個おまけで「潤義兄様が正式に星伽の一員となりましたら、姉様と私の姉妹丼など如何ですか?」とも言われたが。あの時はお茶噴いたね、どこで覚えたのそんな言葉。

「白雪お姉様、私達も一緒の傘に入りましょうそうしましょう!」

「わ。こら粉雪、貴方自分の日傘があるでしょう?」

「えへへ、お姉様ー」

「もう……仕方ない子ね」

 夢見心地な粉雪を見て、白雪は苦笑しながらも受け入れている。自分も暑いだろうに、こういうところは姉だねえ。

 その後女性向けの洋食店で遅めの昼食を取り(店内の女性一同に何だコイツの目で見られた、マジすんません)、まずは服屋に向かう。

 適当に気に入ったのを二・三着手に取り、白雪達のアドバイスで合わせる服や追加分を揃えていく。女性の視点で見るのも面白いと思ったのだが、粉雪が自発的に口を開いたのは予想外だったな。凄く嫌そうな顔で渋々だったけど。

「潤ちゃん、私達外で待ってようか?」

「いや、もうちょい試着したりして決時間掛かるから、お前等も買物してきていいぞ」

「え? でも潤義兄様が一人になってしまいますが」

「男の買物に待たされるなんて嫌だろうよ。ほら、いいから行ってこいって。集合場所は後でメールするから」

「行きましょう白雪お姉様、風雪お姉様! 遠山様のお許しも出ましたし!」

「え、ちょ、ちょっと粉雪ー!?」

 「潤ちゃんごめんねーー」とドップラー効果を残しながら、白雪と粉雪は女性服売り場へ消えていった。やたらはええなオイ。

「もう、粉雪ったら仕方ありませんね」

 風雪は微かに苦笑しつつ、俺の方を向いて「潤義兄様、ご配慮ありがとうございます」と頭を下げてから二人の後を追った。はて、何かお礼言われるようなことがあったかね?

 その後雑貨屋、家具屋、本屋などを見て回っていたら夜になっていた。ぶっちゃけ俺の用事より白雪達の方が時間掛かってたが、まあ女の買物は長いというし、仕方ないわな。

「すいません潤義兄様、買物に付き合うはずが待たせることになってしまって……」

「別にいいよ、目的のものは買えたしな」

 これでとりあえず、東京観光(・・・・)はお終いかね。まあ他にも目的はあるんだろうが、そっちはあんまり関与しなくていいだろ――

「潤ちゃん?」

 気配が変わったのを感じたか、白雪が心配そうな声で名前を呼ぶ。それには答えず、俺の目先にいたのは、

「ヒャッハー!! オイ兄ちゃん、金目のものと嬢ちゃん達を置いていきなあ!」

「女独り占めはよろしくねえなあ、俺達で可愛がってやるからよお」

「そうすれば痛い目は見なくてすむぜえ! ヒャッハー!」

 ……なんというか、前時代ってレベルじゃねえ連中だった。ぶっちゃけ学ラン来たヒャッハーである、全員モヒカンだし。何でこんなのが都心にいるんだよ、世紀末にお帰りください。

「た、立ち去りなさい、不埒なるものよ!」

 粉雪は威勢良く告げるが、声も足も若干震えている。まあ妙チクリンとはいえ下卑た考えの男が十人近くいるんだからな、箱入り娘にゃちょっと怖いか。風雪も俺の袖を掴んでるし、白雪も表情は不安げなものだ。

 震えに気付いたか、ヒャッハー達から嘲り笑い声が上がる。

「おーおー、威勢良くかけ声上げちゃってかぁーわいいー!」

「プルプル震えて健気だねえ、お兄ちゃん達が守ってあげようかあ?」

 それに粉雪は顔を真っ赤にするも、恐怖が勝っているのか打って出ようとはしない。

「……はあ」

「じゅ、潤義兄様?」

 何かアホらしくなってきた。こんなのに関わってても時間の無駄だ。

 風雪の手を出来るだけ優しく解いてやり、

「おぅおぅどうしたあ? 俺達といいことする気になっ――あべし!?」

 先頭の奴の顎を蹴り飛ばした。それだけでアッサリと伸びてしまう。

「て、てめえ何しやがる!?」

「うるせえ、こちとら一山幾らの量産型モヒカンに付き合ってる時間はねえんだよ。さっさとやられに来い」

「んだとコラァ! 野郎ども、やっちまえ!」

『ヒャッハー!!』

 鉄パイプ、クロスボウ、鉈、角材etc……とにかくまともな武器はなく、ヒャッハーどもは襲い掛かってきた。せめて一人くらい拳銃持てよ。

 で、結果は、

「ひでぶ!?」

「あぶぱ!?」

「ブァラ!?」

「ごぼば!?」

「ブルアアアァァア!?」

 って感じで、あっさり片付いた。何か一人悲鳴がラスボス級だった気もするが、無視だ無視。

 とりあえず警察に引き渡し(何でも都内を暴れてる暴走族だそうで、やたら感謝された。未だにいるんだなそういうの)、その場を離れることにする。ああ、無駄に動いたから腹減った。

「なあ、飯どうする――って、大丈夫かお前等?」

 白雪は普通に立っているが、風雪は微かに震えており、粉雪に至っては腰を抜かしている。

「風雪、もう大丈夫だぞ」

「あ、潤、義兄様……」

 軽く抱きしめて頭を撫でてやると、風雪の震えは徐々にだが収まった。

「あ、あの、遠山様……」

「粉雪、立てるか?」

 手を伸ばすも、弱々しく首を横に振るのみ。ふーむ、しょうがねえか。

「あよいしょっと」

「え? きゃ!?」

 疑問から悲鳴へ、おんぶされたのに驚いたようだ。

「あ、あの、何を?」

「んー? このまま座り込んでるわけにもいかねえだろ。男の背中は不本意だろうが、家までだから我慢してくれ」

「……」

 羞恥か屈辱か、粉雪はそれっきり黙ってしまった。そうして袖を握って離さない風雪を伴い、白雪も横に並んで帰路へ着くことにした。どっか寄るって状況でもねえしな。

「……ありがとう、ございます……潤、様」

 後ろからそんな声が聞こえた。が、答えれば否定するのは目に見えていたので、どういたしましては心の中に留めておくことにする。

 

 

 翌日の夕方、風雪と粉雪は星伽へ帰ることとなった。

 風雪は「何から何までありがとうございました」と、いつも通り丁寧に頭を下げ。

 粉雪は「こ、これで勝ったと思わないでくださいじゅ、遠山様!」と言って、赤い顔で車に乗っていった。え、俺とお前で何か勝負してたの?

 疑問に思う俺に、白雪は横でクスクス笑っていた。

 

 

おまけ 帰宅直後のこと

「たでーまー」

「ユーくんおかー。っておお!? どしたのどしたの、クールビューティふうちんがユーくんの袖を掴んで小動物チック、これは萌えるー!!」ガバッ

「え、ふわ、峰、様?」

「ああもう可愛いなあ、戸惑った感じがいいよお、お持ち帰りしたいよお」スリスリ

「あう、あの、やめて」

「くふっふっふー、やめてと言われてやめるりこりんではないのだー!」

「じゅ、潤義兄様、助け、て」ウルッ

「……オイ理子」

「ほほ? なんですかなユーく」

「平和主義者クラァッシュ!!」バキィ!

「フィリオネル!?」

「人畜無害キィック!!」ドカァ!

「クリストファー!?」ガッシャーン!

「やれやれ」

『どこが平和主義(なんですか)!?』

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 三女には毎度斬りかかられている星伽婿候補。普段は難なく対応するが、流石に金的は予想外だった。
 実は男嫌いの粉雪を考慮し、女装して一緒に買物行かせるプランも考えていたのだが、流石に三度目ともなるともういいよな感じがするのでボツにした。まあまたやらされるだろうが(オイ)


星伽白雪
 自分の存在意義に迷い始めた長女。潤が落ち込み始めたので有耶無耶になったが、一応励ましは貰えて悩みは解消した模様。
 ヒャッハーどもとの戦闘で躊躇したのは、自身の火力が高すぎるのを考慮して。妹を脅されて内心怒っており、犬も食わないヒャッハーの丸焼きが出来る可能性があった。

星伽風雪
 性格捏造満載の次女。何かクール系と見せかけてぶっ飛んだ発言が多い気もするが、基本はいい子である。
 姉と義兄(になる予定)の恋愛を一歩下がって見守っているが、漁夫の利はしっかり頂くつもり。純粋に慕っているのもあるが。
 ぶっちゃけ兄さんと呼んでくれるクール系妹って良くね? という作者の願望からこんなキャラになった(オイ)


星伽粉雪
 お姉様大好き三女。潤にはデレないめげない野郎ぶっ殺してやらあ! の精神で接している。
 対人慣れしていないのもあり、ヒャッハーどもには怯えてしまった。まあアレが出てきたら普通に怖いと思うが。なお、潤の背中は悪くなかった模様。デレるかはまた別の話だが。


峰理子
 安定のオチ要因(マテ)
 星伽姉妹とは潤経由で面識がある。


後書き
 書く前に思った、「逆に考えるんだ、後書きを伸ばす必要は無い」と。というわけで、特に重大連絡等無ければ後書きは簡素なものに変更しようと思います。
次回予定は「アリア、泳ぐ」。ただし泳げるとは言っていない。
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエスト。良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。


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閑話その四 見栄を張るのは程々に

 夏休みに入ってからアリアがツッコミをしていない気がするので、今回は頑張ってもらいます。
ア「また胃が荒れる日々が来るのね……」
 潤君の女装は今回ありません。
潤「まあ今回は無理があるだろ」
理「またやってもらうけどね!」
潤「オイ」
 



 

「い、いいジュン? 絶対に離さないでよ、絶対によ!」

「離せっていうフリにしか聞こえないんだが」

「ちっがぁう、大真面目に言ってんのよ! 離したら風穴スクリューの刑よ!」

「安全確保のために手を離すべきだろうか」

「まず手を離さなきゃいいでしょうが!?」

「その発想はなかった」

「お姉様、足が着くんですから沈むことはありませんよ?」

「引っくり返って溺れるかもしれないでしょ!?」

「そんな器用な溺れ方あったら笑うぞ」

 横浜国〇プール。オリンピック等の国際競技でも使われるここに、俺達いつもの面子(+レキ)は来ていた。夏休み中とあって結構な人の数だが、運良くメヌが人酔いをしない程度には空いている。

 さて本日何の目的でここに来たかというと……まあお分かりとは思うが、アリアのカナヅチ克服である。しかも誰かに強制されてのことではなく、自分から申し出た結果という。

 なんでも数日前、裁判の準備が終わった後学校に寄った際、見知った女子グループ(『武偵殺し』の件で俺が入院した時、顔を合わせていた救護科(アンビュラス)の生徒達)から遊びに誘われたらしい。友達が少ない(と思い込んでいる)アリアはこれに喜び二つ返事で了承したのだが、その行き先がプールとのことで――

「やべえ、アタシ泳げないじゃん!?」

 と遅ればせながら気付き、俺達に泳げるよう指導してくれと頼んできた訳である。素直に言えばいいだろうに、クラスメイトや後輩どころか戦姉妹である間宮さんにも自分の弱点は隠しているらしい。というか、(俺達へのツッコミを除いて)みんなの模範であるよう振る舞っている結果なのだが、疲れないかそれ?

 まあそんな訳で、プールでの練習である。ちなみに場所が横浜なのは、見付かるリスクを減らすこと、かつ比較的近郊で大きな場所を選んだ結果だ。そこまでばれたくないか。

 そしてリハビリを兼ねてメヌも参加し(理由の半分はアリアより先に泳げるようになってドヤ顔したいらしい)、リサ指導の元歩くところから二人でやっている。ちなみにアリアの指導役は白雪だったのだが、暇なのでついてきた理子の挑発に乗り、現在別のプールで水泳対決の真っ最中だ。なので俺が代役を勤める羽目になっている。レキ? その辺にビート板よろしく浮かんでボーッとしてる。

「う、ううー……えい!」

 アリアは怖がりながらも水面に顔を付け、引っ張られながらバタ足で進んでいくが――すぐに顔を出してしまう。

「うう、やっぱり痛くて目を開けられないわ……」

「開けない方が怖いと思うがね」

 ゴーグル使えばいいだろうに、『使うとカッコ悪いから嫌』と謎の拒否するんだよな。泳ぎの素人が体面気にしてどうするよ。

「う~……ねえジュン、手っ取り早く水に慣れる方法ってないの?」

「技術的な面ならともかく、アリアは精神面の問題だからなあ……まあ水中を異物と感じず、歩くのと同じ感覚で手足を動かせるよう慣れていけばいいんだが」

「……」プルプル

「うん、意識するとそうなっちゃうよな」

 手を繋いだままなのに、生まれたての子鹿みたいに震え出した。中々慣れんねえ、やっぱ幼少期に自宅の池で溺れたトラウマが払拭できんか。運動神経は妖怪クラスなんだから心配はな「誰が人外ですって?」いえ言ってないです。

 とりあえず、休憩も兼ねて昼食を取りに出ることとする。アリアは渋ったが、煮詰まってるんだから気分転換も必要と伝え、渋々納得させる。

「ふー、はー……こ、これで八連続引き分け……」

「ぜえー、ぜえー……流石ユキちゃん、理子が認めたライバルなだけはあるね~」

 お前等骨休めに来た筈なのになんでガチバトルになってるんだ。つーか一本400mを八連続とかアホの所業じゃねえか。

 

 

 リサと白雪(おまけ程度に俺)が用意した四段重箱×2を完食。相変わらず食欲すげえなこの四人は。

「はーあ……ねえジュン、暗示か何かでサクッと水に慣れる方法とかない?」

「頭クルクルパーになっていいなら」

「理子ならオミズダイスキー! みたいな感じになるよ?」

「メヌなら言葉だけで水、水ウワアアァァァ!! みたいな感じに出来ますが」

「全部頭パーになってるでしょうが!? ……まあ、そんな簡単に慣れたら苦労しないわよね」

 ツッコミ入れてから再度溜息。中々上手くいかなくて凹んでいるようだ。普段アホみたいなスピードで技を習得していくからな。この間なんか格ゲーの空中コンボをリアルに再現して理子をボコってたし(リサが目を輝かせてた)。

「まあ、苦手な分野だし焦らず覚えていこうや。人より遅くても別に恥ずかしいことではないし」

「寧ろそういう欠点があった方が愛らしく思えることもあるのよ」

「どっから出てきた夾竹桃」

「百合あるところに私ありよ」

「今回百合要素そんなにないと思うが」

「貴方も女装すれば良かったのに」

「何その嫌な振り」

 幾らなんでも体格とか誤魔化せないっつうの。

「今度水着でも出来る女装探してみるね夾ちゃん!」

「ええ、期待してるわ」

 サムズアップすんなし。とりあえず話しの邪魔だから追っ払ったら、イラスト描いているレキと一緒に黙々と同人誌を描き始めた。お前等ここプールだぞ。

「ねえジュン、誰か泳ぎの上手い人っていないかしら?」

「そこに二人ほど」

 白雪と理子を指差す。ちなみに俺は苦手な部類だ、連続だと800mくらいが限界だな。

「いや、そこの当てにならない二人じゃなくて」

「ちょ、アリア酷いよ!? さっきまで一緒に頑張ってたよね!?」

「ええそうね、途中で理子の煽りを受けて、プールのど真ん中で手を離してくれたわよね」

 危うく溺れかけたわよと睨まれ、サッと目を逸らす白雪。まあ夏の陽気にやられたんだろ、仕方ない。「だって潤ちゃんとのデート権を賭けて勝負って言われたし……」とか聞こえる気もするが、人の予定を勝手に作らないでくれませんかねえ……。

「知っている限りだと眞巳の奴が一番速いかな。河童並の速度でスイスイ泳いでく」

「ああ、イ・ウーにいた子ね。あの時は余裕なくてちょっと喋っただけだからどんな人か分かんないけど……ちょっと見てみたい気もする」

「見ると凹むと思うが――あ」

「はい? ……あら」

 水着の上に和風パーカーを羽織った眞巳が、から揚げを食いつつこっちに気付いて驚いた声を上げた。いや、なんでいるの?

 

 

「菊代に『あんたここ一ヶ月全く休んでないじゃない、まとめて休みやるからどっかで羽伸ばしてきな』と言われたんです。

 本当は会合の護衛と書類仕事の予定だったんですが、それも代役を立てられてしまって。何かしてないと落ち着かないので、運動も兼ねて遊びに来ました」

「立派な仕事中毒(ワーカーホリック)だなオイ」

 改めてアリアと初対面のメヌが挨拶をし(リサは同じ主戦派(イグナティス)ということで面識があるらしい)、泳ぎを見たいと頼んでみたら快く了承してくれた。比較対象として理子と競走してもらうことにする。というか3キロ以上泳いだのに元気だなコイツ。

「いやー、マミ=サンと泳ぎで勝負とか、無理ゲーにも程があるんですがそれは」

「ノリノリで受けてたじゃないですか……あと理子、同い年なんですし呼び捨てでいいですよ?」

「いいえ、マミさんはマミさんなのです!! これは理子の拘りなのだ!」

 いや呼んでやれよ、眞巳の奴(´・ω・`)ショボーンってなってるじゃねえか。

「では、位置についてください。よーい」

 ドーン!!

 うん、ドラグノフの空砲で合図するのやめようね? 他のお客さん何事かとこっち見てるじゃねえか。こっち見……ますよねそりゃ、すんません。

 両者同時に飛び込み、泳ぎ始める。その時点で差が出始めていた。

「え、ちょ、速!?」

「……オリンピックでも余裕で金取れるんじゃないかしら、ジュン?」

「本人はやりたがらないだろうな」

 理子と眞巳の差は、水かき一回ごとに倍々ゲームで開いていく。流石、河童の血筋も引いてるだけのことはあるな。

 当然眞巳の圧勝で、その後偶然いた水泳競技の関係者からスカウトの話が掛けられ、そそくさと逃げるように去っていった。何かすまんな、今度飯でも奢るわ。

「いやー……ハードル高くなった気がするわ」

「あそこまでは目指さなくていいから」

 遠い目をするアリアに言っておく。アレは完全に人外の領域へ片足突っ込んでる速度だし。どこぞの魚人族も真っ青なスピードだよ。

 うーんしかし、このままだとマイナスイメージもあって泳げるまでにこぎつけるか怪しいな。裁判の証拠集めで今日以外は練習時間取れないし……仕方ないか。

「リサ、メヌの進渉はどれくらい?」

「水の中を歩くのはもうお一人でも大丈夫です。メヌ様の体力も考慮して、今日は補助ありで25mまで泳ぐのが目標です」

「なるなる。じゃあアリア、今日中に補助なしで最低25m泳げるようにしよう」

「はあ!? いきなり無茶振りとかどういうことよ!?」

「だらだらやるより目標あった方がいいだろ? ちなみに目標未達成で姉より妹が優れてた場合、東方地霊〇のルナティックノーミスクリアを出来るまでやってもらいます」

「ちょ!?」

「もしくは超魔〇村をノーコンクリアでも可」

「アンタアタシを睡眠不足で殺す気!?」

「大丈夫ですアリア様、その場合は不肖リサが全力でサポートさせていただきます!」

「主人権限で許可する」

「うわあい全力で目を輝かせてるんだけどこのメイド! あーもう分かったわよ、そんな地獄をやらされるくらいならあの子達に笑われないよう死ぬ気でやってやるわよ!」

 いや、別に出来なくても笑われはしないだろうが。誘ってきた曲直瀬(まなせ)さんのグループは武偵高でも一、二を争う良心の持ち主達だし。まあ言わないけどね!(ゲス顔)

 その後、必死の練習(アリア曰く『背水の陣』、後ろで期待してるリサから逃れるためか)が実を結んで夕食までには何とか25m泳げるようになった。うん、やっぱり人間追い込まれると強いね。

 そして後日、アリアは一人緊張の面持ちで遊びに出かけたのだが――楽しかったが何か違うという、凄い複雑な表情で帰ってきた。まあそりゃ、プールだからって泳ぐとは限らんしな。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 白雪からアリアの指導役を(なし崩しに)バトンタッチされた男。最終的には恐怖の罰ゲームを課すことで解決。
 実は当初女装姿で指導するのも考えていたが、本文の通り無理があるので却下した。ちなみに予定していたのはちょっと大人版ケロちゃん。
 水着は……野郎のなんて書かなくていいよね?
 

神崎・H・アリア
 カナヅチ克服作戦で身も心も削りきったツッコミ役。とりあえず最低限水を怖がったり溺れることはなくなった。
 水のトラウマに関しては本作オリジナル。運動神経いいのに泳げない理由は精神的なものじゃないかと勝手に思った結果である。
 水着は赤のワンピースタイプ。
 
峰理子
 結局手伝いもせずに遊び倒してた奴。お前何しに来たんだとアリアにジト目を向けられるが、当然のように興奮していた。
 水着はハニーゴールドのビキニ、フリル付き。そんなのあるのかは不明。


星伽白雪
 指導ほっぽり投げて理子と勝負してた巫女。今回の件でアリアからの信用が若干下がった。
 水着は白のビキニタイプ。黒でもいいけど何か違う気がするので。


メヌエット・ホームズ
 足のリハビリがてらリサと一緒に泳いでいた妹。結構大変だったが始めてのプールはご満悦した模様。
 姉が必死になって妹に追いつかれまいとする様は、見ていて中々楽しかったらしい。愉悦部員要素が強くなってる気がする。
 水着は青のワンピースタイプ。スクール水着を想像したそこの君、私もだ(オイ)


リサ・アヴェ・デュ・アンク
 メヌの指導役として泳ぐのを手伝い、仲は益々深まっている模様。泳いだ距離や運動量を記録して潤に渡しているなど、メイドの仕事もしっかりこなしている。
 罰ゲームの件については本気で、アリアが目標を達成した際は賞賛しながらもちょっと残念そうだった。ちなみに罰ゲームを普通にクリアできるのは彼女だけである。
 水着は青のパレオ。腰に布巻いてる割に隙が多く見えるのは着こなし方の問題だろうか。


レキ
 勝手についてきたマイペース娘。プールに浮かんでいたのはイラストのアイディアを練るためだったらしい。
 ハイマキは家で留守番。クーラーを付けてもらい、ご飯も用意されてグータラしていたらしい。太るぞ狼。
 水着は黄緑のビキニ。布は大きく露出度は控えめ。

夾竹桃
 フラッと神出鬼没に現れる百合の愛で手。最近はメヌとリサのコンビで色々書いているらしい。
 水着はそもそも着てない、パーカーと短パンでそれっぽい格好をしていただけである。お前何しに来た。 

 
須彌山眞巳
 休みを押し付けられた(本人談)仕事中毒(ワーカーホリック)。友人と働ける環境でやる気がモリモリ湧いており、止まる気がない。
 特に予定はなかったが出てもらった。理由も特にない(オイ)
 水着は灰色のタンキニ(タンクトップ+ビキニ)。露出度と色が控え目なのは大和撫子の嗜み(嘘)

 
後書き
 水着回なのにエロス成分が欠片もない不思議。ギャグ優先の弊害か(←ただの力量不足)
 夏休み編は後一、二話分で終わる予定です。そうじゃないと延々と書いてそうなので……というか書きたいもの適当に書いてるだけな気がする。
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閑話その五 近くのほうが基本分かりにくい

 自分の作品を見返して思いました。最近大人しめなので、夏休みらしくヒドイ感じにはっちゃけようかと。
 お気に入り件数300件達成しました、ありがとうございます! これも偏に読者の皆さんのお陰です。
 以前予告したとおり小説のリクエストを受け付けようと思いますので、興味のある方は後書きを読んでいただけると幸いです。



 

 

「ふっ」ドス

「ぐえっ」ドサリ

 肘討ちを喰らった男が意識を奪われ、路地に倒れる。それを見てメヌが一言、

「ああ、緊張するわ……」

「いや、言動が全く合ってないんだけど。何でオフ会相手をぶちのめしてるのよ」

「『女子の』オフ会なんだから当然でしょう? ネカマ死すべし慈悲はない」

「それを有限実行するあんたが怖いわ……」

「ほらほたて、喋ってないでこの死体を捨ててきなさいな」

「誰も死んでないでしょうが、殺人幇助と誤解される発言はよしなさい。あと名前呼びはやめて」

 理不尽な要求に溜息を吐きつつ、倒れた相手を引き摺っていく。何でこうなったんだったか。

 

 

 時間は戻り、2日前の昼過ぎ。

「人捜し?」

「ええ」

 台場の喫茶店、鸚鵡返しに尋ねる俺の言葉に頷くのは――元イ・ウー所属の夾竹桃。男の俺に興味のないこいつが頼みごとなど珍しいことだ。

 ……まあ実際は拉致られたんだけどな。上野あたりを剛達とブラブラしていたら背後から角材で殴られ(毒使えよ)、「協力しないと理子達に媚薬を盛って、女装姿の貴方を密室に放り込むわよ」とトンデモな脅しを付けられて。脅迫まで同人誌のネタにするとか流石だわ、というか女装の俺には肯定的だなお前。

「貴方、そういうのは得意でしょう? 勿論報酬はきちんと払うわ」

「まあ探偵科(インケスタ)だしそこそこだが、それなら理子に頼んだほうがいいんじゃないか?」

 武偵ランクも実績も、あいつの方が高いんだし。

「……あの子、腕は確かだけど余計なものまで拾ってくるから。いつもなら構わないけど、今回は目的物だけに絞りたいのよ」

「あー……それなら納得」

 微妙に信用のない同期である。まああいつは信用していい部分とアウトな部分がハッキリしてるから、ある意味楽なんだが。

「それで、嫌々男だけど腕の確かな貴方に頼んだわけ」

「嫌なら拉致ってまで頼むなよ」

「急を要するし重大なことなのよ、凄く嫌だけど」

「よし、俺帰るわ」

「貴方にも媚薬を盛っていいのよ?」

「よしさっさと要件を済ませよう、それがお互いのためだ」

「ええそうね、それが賢明だわ」

 淡々と頷いてるけど、目が本気(マジ)だから笑えねえわ。なんちゅう斬新な脅しだ。

 夾竹桃は鞄を開き、そこから何枚かの用紙を渡してくる。

「チャットログ?」

 口に出したとおり、何かのゲームにおけるログをプリントしたもののようだ。

「ええ、『ソニックファンタジー 反逆の乙女による乙女のための戦い』というオイラインゲームなのだけど」

 ツッコミ入れればいいのか入れなくていいのか分からないゲーム名だな。

「そこにある『メズ』というユーザーとコンタクトを取りたいの」

「……情報科(インフォルマ)のジャンヌに頼んだ方がいいと思うが」

「断られたというか逃げられたわ。「嫌だ、私はもうお前の実験台(強制)にはなりたくない!」って叫んで」

「うん、大体予想付くけど聞いとくわ。何したし」

「ちょっと同性媚薬の実験台にしただけよ、定期的に」

 予想の斜め下で酷かった。拷問よりマシ、なのだろうか。とりあえずジャンヌには心の中で合掌しておく、まあこれからも似たような目に遭うんだろうが(マテ)

「まあユーザー名も載ってるし、特定は然程かからない筈だ」

「期限は今日までで」

「お前常識の意味知ってる?」

「貴方と貴方のお仲間には言われたくないわ」

 ごもっともで。とはいえ急な話なので、条件をクリアするには今からやらんとだな。

「で、アカウント特定したらどうするんだ?」

「後でメッセージを送るから、それをコピペして送って頂戴。私名義だと分かるようにね」

「ん、了解」

 とりあえず剛達に急な依頼が入ったとの断りを入れ、夾竹桃と別れてから適当なネカフェに入って作業を開始する。環境は自室の方が整ってるが、理子とかに見付かって騒がれると面倒だし、一応プライバシーの捜査になるからな。

 そもそも、この程度なら特定は容易い。とはいえ何故か一般レベルとしてはやたらセキュリティが固かったので、夾竹桃がわざわざ依頼してきたのも納得だ。

 作業終了の旨をメールで送ると、『速いわね、有名無実じゃなくてホッとしたわ』と序文が入ってから(島さんもだが、男に厳しすぎね?)、下に本題のメールが書かれていた。

「しかし、これはどうなんだ……?」

 確認の際にメッセージの内容を見たのだが、

『女子限定オフ会『咲かせよ百合の花(リーリエ・ブリューエン)』開催』

 と、見出しに書かれていた。うんまあ……幾らアイツ――メヌでも、これは来るのかなあ。

 

 

 

 そして翌日、メヌからメールの件で問い詰められ(ゲームは実家でプレイしていたが、最近は別の遊びでご無沙汰だったらしい)、悩んだ結果参加することに決めた。女子限定なのが参加する動機になったようだ。まあ男苦手だしな(←男)

 とはいえ、不安だから俺にも着いてきて欲しいってのはどうかと思うんだが……そもそも女だけという条件を、おまけ程度の存在とはいえ破るのはよくないだろうし。

 不安顔のメヌに対してどうすんべと思考していると、「話は聞かせてもらった!」と理子が天井裏から出てきた。普通に玄関から入って来いよ。

 で、後は皆さんお察しの通り、いつものパターンです。女装した俺とメヌが二人、集合場所で待機している状態である。

 ちなみに俺の女装姿は……うん、山海堂(さんかいどう)ほたてという名前で察して欲しい。夏だからってブラウスとホットパンツの肌剥き出しな格好させられるし、もう二重の意味でなんなんだこれ。

「それにしても、理子の変装術には驚かされるわね。あのジュンがこんな可愛くなるなんて、体格を弄ってるのもあるのかしら?」

「一応ある程度はね、今回は肌見せてるから四肢は特に。隠せないところはどうしようもないけど」

「つまり脱いだら凄いと」

「悪い意味でね。で、ホットパンツに手を掛けるのは何故かしら」

「どこまで本格的になっているのか確認しようかと」

「やめなさい」

 手刀で変態行為を止める。メヌは不満そうに頭をさすりながら「もう、乱暴ね」などと言っているが、好奇心で社会的地位を崩壊させられかけてる方の身にもなれっつうの。

 ……よく考えなくても、白雪とかリサを同伴させれば良かったな。理子は「くふふーユーくんの露出大作戦でりこりん大興奮ですよ!」などとのたまっていたので却下としても(無論その後〆た)。

「それにしても、暑い……日本の夏はホントにうんざりするわね」

「湿度も高い分外国人には余計きつく感じるらしいわ」

 木陰に入っているとはいえ、普段家の中が多いメヌには尚更だろう。飲み物を渡しつつ二人で雑談しながら待っていると、左手からドサリと倒れる音がした。

「あ、が、が……」

 そちらに目を向けると、痙攣しながら倒れている男が一人。そしてそれを見下す、というよりゴミを見る目で立つ、二人の女性を伴い武偵高の夏服を纏った少女が一人。いわずもがな、夾竹桃だ。

「ネカマ死すべし慈悲はない」

 驚いたメヌの前で放つ言葉は、一字一句同じものだった。お前等気が合いそうだな、ていうか俺も処刑対象にならない?

 

 

 オフ会には15人参加予定だったが、その内モノホンの女子は四人だけだった。女子向けのゲームと聞いていたんだが、ネカマ多すぎだろ。あれか、少女漫画を買う男子のノリか。

 なお、倒した野郎はメヌが四人、夾竹桃が七人だ。死体(死んでないけど)の事後処理は全部俺がやった。まあ熱中症にはなるかもしれんが、こいつ等を騙して命があるだけマシだと思ってもらおう。

 メヌと夾竹桃は思わぬ所で出会ったことに驚いていたが(『知らないほうが面白い』と言われたので、相手については黙っていた)、他二人も含めて楽しそうに談笑している。

 却って少人数で良かったかもしれんな。そんなことを考えながらチーズケーキを食う俺。ちなみにメヌの付き添いで中身男だということも話したのだが、他の女子二人(生粋の男嫌い)含め全員から「可愛いから許す!」と同席を許可された。いいのかそんなんで、処刑されずには済んだが。

「次に全員で参加出来るのはいつかしら?」

「直近のスケジュールだと……」

「ふえー、武偵さんって夏休みでも忙しいんだね」

「見て見てー、私のキャラ課金装備で可愛さマシマシにしたんだー」

 ふむ、このモンブランもいいな。

「一部だけど描いてる作品よ」

「あら、モモコは器用なのね。ストーリーは……ちょっと過激、かしら」

「というかこれ、メズちゃんに見せて良かったのかな……あわわ」

「あ、このネコちゃんカワイイー」

 すいません、コーヒーとショートケーキ追加で。あ、こっちのパンケーキも。

「じゃあ私がキャラ作成かしら」

「設定と世界観構築は私ね」

「背景とPC作業は任せろバリバリー」

「私は~……動物描けばいいのかな~?」

 …………

「新しいジャンルに挑戦ということで、これはどうかしら」

「それならちょうど手頃な人材がいるわね」

「これもまた神秘の探求……ゴクリ」

「よし、脱ぎ脱ぎさせちゃおー」

 オイちょっと待て。

 おまけなのでケーキ食いつつ聞き役に徹していたが、話が妙な方向になってきたので一度顔を上げる。全員こっちを見ていた、こっち見んな。

「で、あたしを見て何なの? あげるものなんてジト目くらいしか無いわよ」

「話は聞いてたでしょう? とりあえず脱いでもらえるかしら」

「そんな痴女紛いの要求誰が受けるのよ」

 そもそもそれで一番嫌がるのはお前だろうよ、モモコちゃん。

「私達を救うためと思って、お願い!」

「真摯に頼み込んだからってOKする訳ないでしょうが」

 冬コミ目標にして自作ゲーム(ジャンルは百合ADV)を作ってみようというのは聞いてたが、何故そこで俺が関わる。

「モモコも新しいジャンルに手を出そうと考えてるのよ、ほたて。だからこれは尊い犠牲による進歩よ」

「進歩も何も、女装とそれは違うものでしょうが。あとほたて言うな」

「いやいや、カワイイ女の子に付いてるって意味では、男の娘も(風穴ァ!)も一緒だよ」

「そもそも性別が違うことに気付いて、お願いだから。あと公衆の面前で堂々と言うんじゃないわよ」

 このおっとりマイペース娘、平気で爆弾発言するから怖いわ。

「ふう、仕方ないわね。山海堂さんは強情だし、外堀から埋めていくことにしましょう」

「極めて真っ当な意見でしょうが」

 ツッコミはスルーされ、夾竹桃はどこかに電話をかけ始めた。しばらくすると「ええ、ありがとう」と言って電話をこちらに差し出してくる。何ぞと思って受け取り耳に当てると、

『ユーくんがモデルの(天誅ゥ!)ヒロイン、有りだとりこりん思います!』

「あんたこういう場合肯定意見しか言わないでしょうが」

 よりにもよっての奴に賛同を求めたよコンチクショウ。

「……というわけで、理子の説得が成功すれば戦略室を貸してくれる約束よ」

「何時から戦略室は部外者も受け入れる作業場になったのよ」

「溜まり場よりはマシなんじゃないかしら」

 大差ないわい。まあレキはともかくアリアと白雪は流石に反対だろ。とか思ってたら早速メールが来た。白雪からだ。

『そ、そういう恋愛も知るべきだと思うよ! 別に潤ちゃんがヒロインになったら攻略したいとかじゃないから!』

 ……次、アリア。

『面白そうだからアンタ犠牲になりなさい』

 ……最後、望み薄だけどレキ。

『イラスト関係でしたらお手伝いします』

 寧ろノリノリじゃねえか。まさかの全滅という――ん、もう一件メール?

モーイ(良いです)! ご主人様なら素晴らしいモデルになると確信しています!

 売り上げに関してはリサにお任せください!』

 リサェ……八方塞がりじゃねえかこれ。夾竹桃のドヤ顔(無表情)ウゼエ、そして喜ぶなそこの変態淑女(女子)二人。

「愛されてるわね、ほたて」

「これっぽっちも嬉しくないわ……あとほたて言うな」

 その後、予行演習と称してリサと一緒に女装姿で夏コミの売り子をやらされたり(相場よりかなり高く売れたらしい、リサ様々である)、モデルとして女装姿で散々呼び出されたりと色々あったが、まあそれは別の話……にしたい、ホントに。

 

 

おまけ

「ねえジュン、じゃなかったほたて」

「何よ、あとほたて言うな」

「アンタ普段からその格好でいなさいよ」

「……頭が沸いてるか変態としか思えない発言だけど、その真意は?」

「アンタがその姿ならアタシのツッコミ回数が減るからよ」

「そう言われて素直に頷くと?」

「アタシは日々のストレスで辛いのよ」

「あたしだって女装とツッコミのストレスであんた以上に辛いのよ」

『……』

「分からず屋は拳で聞かせるしかないみたいね」

「やってみなさいよ脳筋娘」

『…………』ゴゴゴゴゴゴゴ

「たっだいまー! って、なんでほっちゃんとアリアんが今にも殴り合い空を始めそうな勢いなの?」

 ちなみに結果は引き分けだったので、結果は有耶無耶にしておいた。口先八丁は俺の特技やで。

 

 

 




登場人物紹介
山海堂ほたて(遠山潤)
 女子オフ会に参加させられた女装男子。なお、その時の食べたケーキは六切れに及び、更に理子達へのお土産も購入したとか。甘味は命。
 この姿だと完全にツッコミ役。口調もアリアっぽくなるが、手を出すことは基本ない。苦労人。
 
 
メヌエット・ホームズ
 後に設立されるサークル『咲かせよ百合の花(リーリエ・ブリューエン)』のシナリオ・設定担当。TRPGの経験で文才はかなりのもの。
 『メズ』は本名を縮めたハンドルネーム。原作のものを使っても良かったが、呼びにくいのでこっちにした。
 これ以降、ちょくちょく三人の友人と戦略室に入り浸ってる姿が見られるようになったとか。楽しそうな姿を見て、密かに嬉しがっている姉の姿が見かけられている。
 
 
夾竹桃
 サークル『咲かせよ百合の花(リーリエ・ブリューエン)』の代表兼イラスト担当。イラスト神と呼ばれているレキとのコラボも予定しているとか。外見は無表情だが、一緒にサークル活動が出来るので内心テンションが上がりまくっていた。
 野郎はサーチ&デストロイ対象だが、擬似百合ならOKな模様。遠山潤の女装はカナ同様、彼女が認める数少ない例外の存在である。


オフ会メンバー女子1・2
 それぞれPC、印刷担当。1が好奇心旺盛で2がマイペース。双方武偵に対する偏見はない。
 一般高の人間だが、それぞれ担当する分野のスペックは高い。また双方男嫌いだが、ほたての存在は許せる模様。どんだけだよ。
 
 
後書き
 どうしてこうなった(小並感)
 とりあえず、メンバー1・2は今後出番があれば名前を付けようと思います。多分一発キャラだろうしないでしょうけど……というか今回地味に難産でした、投稿も遅れてしまいましたし(汗)
 さて前書きに記したとおり、お気に入り登録300件を記念してリクエスト小説を募集したいと思います。
 内容はそれぞれ、
・各キャラとの日常orギャグ
・潤と理子を中心とした一年生編
・潤や他キャラとのIF展開
 などを予定しています。詳細は下記のURLに記載しますので、そちらで希望のコメントを書いてくださればありがたい限りです。

 https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=118451&uid=74852
 
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。


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閑話その六 心当たりがありすぎる

 お久しぶりです、もう夏も過ぎて大分経ちますが、夏休み編ラストです。遅刻ってレベルじゃねえよ本当に……
 もう忘れ去られてても仕方ないですが、これからボチボチ頑張っていこうと思います。あ、小説リクエストは締め切りました(今更)
 



 

 

 8月31日、要するに夏休み最終日。俺と理子はアリアから呼び出しを受けた。

「アリアんからご指名か~……は、まさか告白イベント!?」

「やらかし過ぎてアリアの怒髪天が有頂天に達したに一票」

「いあいあ、理子何かをやらかした記憶はございませんよ? 精々夏コミでえっちぃコスプレを無理矢理着ていただいた程度でして。

 寧ろユー君の方が何かやらかしたんじゃないかな~?」

「何で自白してるのに疑われなきゃいけないんですかねえ……俺こそねえよ、アリアのももまん間違って食っちまったくらいだし」

「いえいえりこりんだって――」

「オイオイ俺こそ――」

 そんな感じに喋りながら先へ進んでいく。しかし武偵校の屋上とか、クソ暑い場所やん……(←超能力(ステルス)で自分を冷却中)

 そうして辿り着いた屋上に続く扉を開けようとした瞬間、俺は恐ろしいことに気付いてしまう。

「ん? どったのユーくん?」

「……なあ理子、『どちらか』じゃなくて『両方』ボコられる可能性もあるんじゃないか?」

「へ? ……いあいあ、それこそまっさか~」

「この八月中にやらかしてアリアを怒らせた回数」

「……両手の指じゃ数えらんないかな~。寧ろ足を入れても足りねえ!」

「この時期、屋上なら誰も来ないな」

 暑いし、休暇中だし。

「oh……」

「……」

 

 

『殺さないでくださいサーセン!!』

 結論:謝って許してもらおう、エクストリーム土下座で。プライド? 命と比べるもんじゃない(真顔)

「……いや、いきなり何なのよアンタ達」

 唐突に謝られたアリアは困惑、というか軽く引いていた。人が全力で謝ってるのにその態度はヒドくね?(←説明すらしてない)

「今までの行いは十二分に反省しますので」

「命ばかりはお助けを!」

「……ああ、そういうこと。別にぶっ飛ばすために呼んだ訳じゃないわよ、安心しなさい。

 大体、アンタ達反省したところで後悔もしないし、またやらかすでしょ」

『もっちろん!!』

「……」(ブチッ)

 

 

 ――しばらくお待ちください――

 

 

「少しは考えて喋んなさい」

「ウゴゴゴゴ……まさか突撃、粉砕、勝利思考のアリアんに言われるとは」

「オゴゴゴゴ……ゲンコツ制裁の時点で説得力ないやろ」

「まだ懲りてないみたいね」(ゴキゴキ)

『ハイスイマセン直すよう善処します!』

「そこで絶対って言わないのがらしいわね」

 ハアと溜息を吐かれる。そこで改めたら俺達じゃないんで「威張んな」ハイスイマセン。直感によって体も心も謝りきったぜ……

「何でジュンはやりきった顔なのよ……とにかく、別にどうこうするつもりはないわよ」

「どうこうするって何かエロい響きがするよネクロマンサー!?」

 縮地からのアッパーカットが綺麗に決まった。あ、理子舌噛んでる。

「話進まないからちょっと黙んなさい」

「ふぁい……口の中切ったかも」

「自業自得でしょ。で、今日は何で呼んだかっていうと――お礼を言いたかったのよ」

「お礼?」

 俺が問い返すとアリアは頷き、こちらに背を向けてフェンスの方に歩いていく。

「ジュン、理子。アンタ達がパートナーになってくれなかったら、ここまで来れなかったと思う。

 だから、その……ありがと」

 背を向けているので見えないが、きっとアリアの顔は夕日と同じように赤くなっているだろう。こういうところは相変わらず恥ずかしがるんだねえ。

 俺の治療を受けている理子は一瞬ポカンとした顔になるが、

「ユーくん! 今、今理子はアリアんの顔を見なきゃいけない気がする! いや見る!」

「しんみりしたシーンが台無しになるからヤメレ」

 突撃しようとする理子を羽交い絞めにする。はーなーしーてーって言いながら頭振らんで、ツインテがペチペチ当たるから。

「……ほんと、シリアスが続かないわよね」

 特に理子は、と苦笑しながら振り向くアリアは、いつもと同じ顔だ。「チクセウ見逃した!」とか叫んでるアホがいるけど、ここは見ないもんだろJK。

「というか、何当然のようにイチャついてるのよ」

「別にイチャついてはいない」

「正面からなら良かったんだけどネ!」

「……ああうん、ジュンもだけど理子も自覚ないのよね……そりゃ極自然にこの距離感なら、白雪が愚痴るのも無理ないわ」

 どうしろっていうのよ、とぼやくアリア。そして俯いていたと思ったら急に顔を上げ、

「だいたい理子、アンタがヘタレなのがいけないのよ!」

 何故かキレ気味に指差す。

「いきなり何!? 理子のどこがヘタレだと言うのですか、失礼しちゃうね!」

「誰からどう見てもヘタレでしょうが! アタシの苦労の半分はアンタのそれなんだからね!」

「何だとぉ!? 幾らアリアんでもおこだよ、りこりんぷんぷんがおーだよ!

 そこまで言うなら理由を言ってもらおうジャマイカ!」

「アンタに足りないものそれは情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さそしてなによりも勇・気が足りない!!」

 わあ、一息で言い切ったよ。

「くう、なんていう説得力……!?」

 あるんだ、まあ兄貴なら仕方ない。

「もうまどろっこしいから今すぐジュンを押し倒すくらいの根性を見せなさいよ! その無駄にでかいのを使って!!」

「いいいきなり何とんでもないこと言ってるのかなあ!? そりゃアリアんのぺったんに比べれば理子のお胸は豊満に育ってますが!」

「誰が草も生えない大平原だあ!!?」

「自分から言ってキレるのは理不尽じゃないですかねえ!?」

 アリアに胸の事は思ってもいけない、あっちから言ってもな。

 理子が俺の腕から抜け出し、フェンスを飛び越えて「サラダバー!!」とか叫びながら地上へ自由落下していった。。般若顔のアリアも躊躇せず飛び降りて追跡する、元気だなーアイツ等、というか何だったんだこのイベント。ギャルゲならフラグ? いいえ、現実です(真顔)

 とりあえず帰るかと足を屋上の扉へ向けると、

「どうも、潤さん」

 ハイマキを伴ったレキが立っていた。服装はいつもの夏制服、ドラグノフを収納したケースを抱え、横にはお供のハイマキが付いている。

「おおう。レキ、お前いつから居たんだ」

「アリアさんがいらっしゃる前からです。潤さんは察知していたのでは?」

「いや、アリアが気付けないのに俺が分かる訳無いだろ」

 ないないと手を振るも、レキの目は無表情ながら疑惑のものだ。なんで皆さん俺に対する期待値が異様に高いんですかねえ。

「で、お前さん何して――って、聞くまでもないか」

「はい、『風』を感じながらイラストを。ここは絶好の執筆環境ですから」

 なるほど分からん。レキのイラスト力は『風』が関係あるのだろうか。

「ところで潤さん、少しよろしいでしょうか?」

「ん、何か用?」

「はい、御用です。実は潤さんを待っていました」

「その言い回しだと俺が逮捕されそうなんだが。

 まあいいや、話でもあるのか?」

「いえ、お願いしたいことがあるんです」

 おや、レキにしては珍しい。どっかのアホなら「立った、フラグが立った!」とかはしゃぎそうだが、俺は訓練された恋愛素人、そんな甘い展開ねえことは分かってます(ドヤァ)

 そもそもレキ相手にフラグとかねーべなどと考えていると、

「潤さん」

 レキが口を開き、

 

 

「死んでください」

 

 

 何か酷いことを言われた気がする。

「……すいません、間違えました」

「とんだ間違いだなオイ」

 これが理子だったらリアルファイトに発展するぞ。

「では改めまして、潤さん」

「おう」

 俺が返事をすると同時、レキはケースを蹴り上げてドラグノフを取り出し、両手に構える。

 え、何それカッコイイ。額に銃口を突きつけられていなければ、素直にそう思えただろう。というか前も似たような展開なかったか、ハイマキも臨戦態勢だし。

 

 

「あなたを、殺します」

 

 

 さっきの「死んでください」と大差なかった。どこの自爆大好きMS乗りだよ。

 というかいきなり殺す宣言される心当たりなんて……多すぎて絞れん(オイ)

「……とりあえず、何でそんなオーバーアクションの取り出し方したんだ?」

「『こうすれば相手はレキュんの演技に見惚れて動けなくなるよ! あと理子が見てみたい!』と言われたので」

「……いや、最悪故障するだろ」

「はい、二度とやりません」

 じゃあ頼んだ本人の前でやってやれよ。まあ動きを止めるのには成功してるけどさ。

 

 

 おまけ その頃のアリアと理子

「よく考えたら押し倒す発言はなかったわね……ごめん理子」

「殴る前に気付いて欲しかったナー」

「それはアレよ、直前に恥ずかしいこと言った反動よ」

「恥ずかしさを誤魔化すためなんですね、分かります。そんなアリアんもいいと理子は思います!」

「寄るなヘンタイ。まあアレね、ツンデレって便利な言葉よね」

「自分の属性を冷静に語っている……!? アリアん、恐ろしい子……!」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 殺される理由に思い当たりがありすぎる主人公(仮)。真っ先に思い浮かぶのはアリア、そりゃ(あれだけツッコミさせてれば)そうだ。
 フラグは早々成立しないと考えている主義。どの口が言うのだろうか(しかも自覚あり)。
 
 
神崎・H・アリア
 胸の話題は原作より禁句となっている色々ちみっこツインテ。まあ草も生えないことに草を生やすしかないとい(銃声)
 自分の属性(ツンデレ)について冷静に語る姿はどこかシュール。でも本作のアリアにツンデレ成分はほぼないと思う。
 
 
峰理子
 土下座して許しを請うのになんら躊躇の無いブリっ子。アリア相手なら命を優先するのは仕方ない。
 恋愛に関しては相も変わらずヘタレな模様。その癖潤とベタベタするのには躊躇しないので、一部女子達がヤキモキするのも無理はない。
 
 
レキ
 動かなければアリアに気付かれない程度の気配遮断を持っている狙撃手兼イラストレーター。忍者属性まで持ち始めて、風魔さん涙目である。
 告白フラグだと思った? まあ間違ってはいない。狙われてるのはハート(物理)だが。
 
 
後書き
 そんな訳で三ヶ月ぶりのお久しぶりです、ゆっくりいんです。忘れてしまった方と所見の方は始めまして、そしてすいません(挨拶)
 ここまで遅れた理由なんですが、アレです、リアルはクソだなという奴で一つ。……とりあえず、今後はどれだけ忙しくても執筆から離れないようにします。久しぶりだと書き方とか完全に忘れてるんですよね……
 リハビリも兼ねて今回は短めになりましたが、いかがでしたでしょうか? とりあえず潤にフラグ(殺害)が立ったところで、次回は『修学旅行Ⅰ(キャラバンⅠ)編』始まります。
 それでは今回はここまで。感想や批評、辛口のコメントでもいただけるだけで嬉しいです。
 


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『修学旅行』編
第一話 分の悪い賭けは好きだけど、やるもんじゃない 


 『修学旅行(キャラバン)Ⅰ』編スタートです。タイトルがおかしい? またまたご冗談を(真顔)
 そして前話執筆しながら艦これやってたら、久しぶりに猫りました。何故書ききる直前に来るのか……猫は減っても絶滅しないんですね(白目)
 
おまけ 去年のハロウィン
「ユーくん、トリックオアトリート!!」
「お菓子をくれないと」
「い、イタズラしちゃいます!」(寧ろして欲しいかも……)
「……モリ○ンに多々良○傘、メディ○リリィとこれまた統一感の全く無い組み合わせのキャストだね。
 とはいえ台本があるわけでも無し、クオリティは高いのだから文句は言わないでおこう。ああ、チョコケーキとプリンを用意したのだが、食べていくかね?」
『……』
「すげーユーくん、ズ○ピァのクオリティーがテラヤバス!!」
「金髪紳士の潤ちゃん……これはこれでカッコイイ……」(うっとり)
「紳士然とした狂人っぽいですね」
「ご満足いただけたかね?」(ワ○キアボイス)


「ってな感じだった」
「ジュン、今年もケーキとプリンの用意はしなさい。しないとトリックアンド風穴よ」
「リサもいるから今年はより豪華になるんじゃねえの?」
「よし」
 一日遅れのハロウィンネタ……い、いや大丈夫、ハロウィンイブがあるんだから、ハロウィンアフターも大丈夫なはず(←ねえよ)
 


 

 学校の屋上で美少女と二人きりのシチュ、皆さんなら何を想像するだろうか。俺は自殺他殺問わずの飛び降りです。まあ現状はそれよりもやばい気がするけど。

 東京武偵高の屋上にて現在、私遠山潤は友人の少女、レキ(苗字不明)に狙撃銃を突きつけられています。しかもヘッドショット安定の額に。武偵法9条どうした。

「殺す、ねえ。そう言うわりに引金を引かないんだな」

 武偵という仕事柄、どこで怨みを買っているかなど思い出すのも億劫なくらいなので、命を狙われるのは珍しいことではない。

 しかし、レキの銃口には殺意どころか害意すらない。あくまで銃を突きつけているだけ、受ける印象はその程度だ。

 銃を突き付けられた状態で数秒、レキの口が開く。

「ここで撃ったとしても、潤さんは避けてしまうからです」

「いや、この距離で引鉄を引くより早く動くなんて妖怪じみた動きできねえから。アリアとかならともかく」

「『風』が言いました、貴方は世界にとっての害故に今すぐ殺せと」

 無視かい。

 しかし『風』ねえ、それはレキにとって従うべきものであり、何らかの意志だ。決して妄言などの類ではないだろう。

 というか世界の害とは、また大きく言われたものである。一介の平凡武偵に何を思ってるのやら。

「ですが、私では殺せません。貴方に対して狙撃手の相性は、最悪ですから」

「今まさに命を握っている状況なのに?」

「はい、雲を手で掴もうとしている気分です」

 そんな不定形かつ気紛れそうに見えるのか、俺(違)

「ですが、『風』の命令は絶対。ならば貴方を殺さないといけない、二律背反です」

 困りました、と無表情で告げるレキ。こいつの中で俺はどんな超人設定になっているのだろうか。

 まあ、撃たないと言うのならありがたい。それなら、

「じゃあ、ゲームをしようか」

「?」

 レキは首を傾げている。撃つ気ゼロだねえホント、何のために突き付けてるんだか。

「俺は銃撃を全部防ぐ、レキは一発でいいから銃弾を当てるのが勝利条件だ。どうだ、簡単だろ?」

 

 

 ドラグノフを突き付けられたままゲームの提案をする潤さんを見つめる。表情はいつも通りの軽薄なもの、何を考えているか、私では分からない。

「制限時間は夕飯に間に合うよう一時間、装弾数はレキが事前に宣言した数まで、一発でも百発でも自由だ。

 場所は――学園島一帯でいいか。そこなら距離は困らないだろ?」

 こちらの2051m(キリングレンジ)を考慮した発言。それは逆に言えば、彼は私の銃弾から逃げられない距離に居続けると宣言しているに等しい。

「命中判定は四肢とか腹とか、ダメージを確実に与えられる箇所ならどこでもオッケー。掠りは無効で、狙うのは勿論心臓とか頭でも大いに結構。

 あとはー、制限掛けるか。俺はレキに攻撃をしないし、銃器等の飛び道具全般もなし。自前で使えるのは刃物あたりだな。

 この条件でレキが勝てば俺を殺せる、逆に俺が勝ったら一つ何でも命令する権利を貰おうかね」

 まあヘッドショットされたら手間は省けるけどなー、などと笑う。顔はいつも通りの飄々としたものだが、瞳に油断・慢心の類は無い。

「かは、そんな警戒しなさんなって。これはゲームの提案なんだから、ある程度は公平じゃないとダメだろ?」

「……ゲームという時点で、私は潤さんに侮られているということでしょうか」

「じゃあ普通に殺り合うか?」

「……」

 傍から見ればこの状況、圧倒的にこちらが有利だろう。ほぼ相手の命を握っているに等しい状況なのだから。

 だけど、私では――潤さんを相手に殺せる未来が、全く見えてこない。

「……十発です」 

 結局、私は彼の言うゲームに乗るしかない。狙撃手としての矜持と合理性をすり合わせた結果、ドラグノフの最大装填数を宣言する。

 聞いた潤さんは嬉しそうに、それこそ子供のように無邪気な笑みを浮かべ、

「よし、それじゃあゲーム」

 スタート、そう言い切る前にドラグノフの引鉄を引き、弾丸を放つ――が、直前にブリッジの要領で回避され、そのまま跳躍してこちらから距離を取る。残り九発。

「かはは、せっかちな狙撃手(スナイパー)だな。フライングくらい別にいいけどよ」

 ではサラダバー、と潤さんは普通に屋上の扉から去っていく。しかし何故か足音はこちらに戻ってきて、

「あ、ちなみに『何でも』ってのは文字通り何でもしてもらうから、そこんとこよろしくなー」

 顔だけ出して悪魔の契約めいたことを言う彼に一撃を放つが、直前に閉められて防弾性の扉に弾かれた。階下に去る足音と共にフハハハハと聖帝風の笑いが耳に届く。残り八発。

「ハイマキ」

 私が名前を呼ぶと、それで察したのかハイマキは弾丸のように飛び出し、潤さんを追う。あの子には盗聴・発信器を付けてあるので、見つければ即座に撃つことが可能だ。

『ようハイマキ、さっきぶり。やー、流石に狼から逃げ切るのは無理だわな』

 程なくして追いつく。逃げるのは諦めたのか、潤さんは普通にハイマキへ話しかけている。お邪魔する度ご飯を頂いているので潤さんには懐いているが、今は唸り声と警戒するような気配をマイク越しに感じる。

『クク、そんな睨むなって。犬猫平等愛主義の俺からすると泣きそうだわ』

「私は一発の銃弾」

 潤さんの話し声を横に、私は自己暗示の言霊を紡いでいく。

『……おーおー、敵意満々だねえ。だが、こいつを見ても同じ反応が出来るかな?』

「銃弾は人の心を持たない」

 「周囲への警戒が疎かになるからやめとけ」と、彼に言われた技術。だがこれはゲームだ、周囲を警戒する必要は無い。

『このイギリス産最高級のナチュラルドッグフードを前にしても、同じ態度が取れるかな!?』

「故に、何も考えない」

 ハイマキの動揺する気配が伝わってくる。だが、足止めには成功している。

『……キュウン』

『よーしよし、いい子だ。主従共々食欲には正直だな』

「ただ目標に向かって」

 ドッグフードを前に屈したハイマキ(駄犬)の鳴き声を聞きながら、引鉄を絞る。

『ほーら、ゲーム終了まで大人しくしてたら食べ放題だぞー? ほれ、約束のお手』

「飛ぶだけ――」

 ハイマキが開け放った扉、その隙間に向けて弾丸を吐き出す。防弾性の壁・階段を幾度も跳弾しながら、二階の踊り場にいる潤さんの背中を捕らえる――

 直前、金属製の物質とぶつかり合う鈍い音が響く。恐らく背中越しにナイフか何かで弾かれたのだろう。

 ここまでは予想通り、本命は早撃ち(クイックドロウ)で放たれた二発目――

「!?」

『おーとと、アブねえアブねえ』

 喋る直前銃弾同士のぶつかり合う音が響いたのに、私は驚きを隠せない。恐らくだが、弾いた銃弾の軌道をずらして二発目にぶつけたのだろう。背中越しで、視覚を用いず。

 信じ、られない。アリアさんや理子さんはよくデタラメと評されているが、私には潤さんの方がよっぽどそうだと思う。

『よし、じゃあハイマキはここで待ってろ。いいか、絶対動くなよ? 絶対だぞ?』

 フリにしか聞こえない言葉を最後に、潤さんが離れていく音が聞こえる。少ししてから、ハイマキに追走の指示を出した。内心僅かに感じる動揺を押し殺すように。残り六発。

 それとハイマキ、後でお仕置きです。

『キャウン!?』

 

 

『うん、それでね――うわ何!? 潤、貴方誰かに狙われてるの!?』

『え、レキだけど』

『ダニィ!? レキちゃんに何かしたならクラス総出でヌッ殺しにいくわよ!?』

『ファンクラブの連中も動きそうだな。いやそうじゃなくてゲームだよ、負けた方が勝った方のいうことを一つなんでも聞くっていう』

『ん? 今何でもって』

『言ったけどお前は関係ねえよ』

 女子生徒と話している時を狙ったが、これも防がれた。これで残り、五発。

 校外、町外れ、店内、寮内。狙撃手にとって有利な場所を選んで撃ったにも関わらず、悉くが防がれた。後ろに目が付いているんじゃないかと疑いたくなるような――

「目?」

 自分の言葉に思い当たる節があり、全身を探ってみる。だが小型機械の類は見当たらない。最初にハイマキを向かわせた時点で確認したのだから、当たり前のことだ。

 残弾が少なくなるにつれ、焦燥感が増していく。そしてありもしない可能性に思い当たる、完全に相手のペースだ。

 時間は五分を切った、弾も一発しかない。だが冷静にならなくてはいけない。私は小さく深呼吸を繰り返し、思考を巡らせる。

 跳弾や背後狙いの一撃は無駄、ならば何か奇策をと思うが、奇策を常とする相手では分が悪すぎる。

 ならば、とレキは決意する。時間は残り三分、幸い相手はこちらへ向かってきている。

 準備を済ませ、所定の場所に待機。残り一分。

『灯台下暗し――って、レキ相手じゃ意味ねえか』

 狙う場所、最初に二段撃ちをした踊り場に相手が到着。残り二十秒。

『さーてさて、レキがどう動くか』

 今。屋上から身を投げ出し、校舎の方へ向けてドラグノフを構える。残り十秒。

 ほんの僅かだが、本気で驚いた顔の潤さん――珍しいものを見たと思う――に向け、一撃を放つ。残り五秒。

 正道も奇道も意味が無いなら、己を危険に晒してでも敵を倒す脆道(きどう)を。果たして私が聞けたのは金属の鳴る音だけだった。

 ナイフは構えていなかった、結果は――

「ふう、今のはやばかった」

 そこには肉厚のナイフを眼前に構えた潤さん、足元には分断された銃弾が転がっていた。

 銃弾切り(スプリット)。咄嗟にやってのけたようだ。これでゲームは私の、負けだ。

「おう、惜しかったな。狙撃手にはない手で意表を突かれたのには肝が冷えたぜ」

 潤さんは私を踊り場に引っ張り込み、笑顔でそう告げながらナイフを私の首筋に突き付けた。

「さて、ゲーム終了だな。……そう怯えた顔すんなって、別に殺しだの拷問はしねえよ」

 硬い表情の私(←傍から見るといつもの無表情)な私に潤さんは苦笑する。

「はい、私の負けです。煮るなり焼くなり灰にするなり好きにしてください」

「若干話が成立してない感じな件。だから殺したりしないっての。

 まあ、殺しよりも酷なこともあ――」

 笑みがゆっくりと、酷薄なものに変わり、

 

 

「くおらぁバカジュン!! レキに何してんのよ!!!?」

 

 

 メキョゴキ!!

「メメント!?」

 アリアさんのドロップキックを首に貰い、壁に顔面から叩きつけられた。

「レキ大丈夫、変なことされてない!? ケガは無い!?」

「――はい、大丈夫です。アリアさんのお陰で」

 寧ろ潤さんが生きているのだろうか。人体から発してはいけない音が複数聞こえた気がする。

「そっか、良かったぁ……ジュン、アンタどういうつもりでレキに酷いことしようとしてんのよ!?」

「あの、アリアさん、寧ろ今の一撃で首が酷いことになりかけたんだが……というか何でここにいるの分かったし」

 意外と普通に生きていた。この人の生命力はG級なのだろうか。

「いやあユーくん、あれだけあちこちウロチョロしてれば索敵するまでもなく発見されるでありますよ」

 倒れた潤さんを突っつきながら「いーきてますかー」と言っているのが理子さん。頭にでかいたんこぶをこさえているが、いつものことなので誰も気にしない。

「ああ、そりゃそうか……理子、俺が死んだらPCを破壊、して……」

「あ、そういうシーン? じゃあ――いやぁユーくん、死なないでー!?」

 目に涙を浮かべて迫真の演技をする理子さん。前後の展開を見てなければ誤解する人は多かったことだろう。

「何バカやってんのよ。リサと白雪が帰って夕飯の準備してるんだから、さっさと帰るわよ」

「惨劇を起こした本人が何事も無いように振舞うという」

「りこりん知ってるよ、そういうのをキジルシって言うんだって!」

「アンタ達にだけは言われたくないわ!? ほら、レキも来なさい。ジュンが迷惑掛けたお詫びに夕飯食べていくといいわ」

「作るのはアリアじゃないけど」

「理子とアリアン、ヌエっちは食べ専ですから!」

「アンタが迷惑掛けたのは事実でしょうがバカジュン!」

「寧ろ吹っ掛けられたのは俺なんですが、話を聞いてもらってもいいんじゃないですかねえ……」

「日頃の行いかと」

「元凶のお前が言うか」

 確かにそうだが、こればかりは自業自得だと思う。

「というかジュン、アンタいつまで寝てんのよ。どうせもう治ってるでしょ」

「常人なら間違いなく即死のキックを食らわせて言うセリフではないと思う。何か首が曲がったままで元に戻らん」

「……はあ、しょうがないわね。理子、何とかしなさい」

「うっうー! 整体はりこりんに任せろバリバリー」

「え、オイバカやめ」

「そぉい!!」ゴキャァ!!

「―――――!!? イッテエエエェェェ!!?

 何しやがる理子!?」

「大丈夫、理子の整体術はイタイの一瞬だから!」

「アリアのとセットで一瞬涅槃が見えかける痛さだったわ!?」

「でも治ったでしょ? そしてこの痛みが段々癖になってくるんですよ……!」

 

※危険なので絶対にマネしないでください、死にます

 

「ああそうだな治ったよ、じゃあてめえのMっぷりに磨きかけるためにお返ししてやらぁ!!」

「いやん、ユーくんったら意外にごうい」

 ガガン!

「帰るわよ」

『アッハイ』

 顔面周りにガバメント全弾を撃たれて、二人は真顔になった。なるほど、これが二人の躾け方か(違)

 それにしても、何故アリアさんは私に優しいのだろう。そんな疑問を感じながら、私は三人の後をハイマキと共に追っていった。

 

 

おまけ ゲームに勝った潤がレキに命令した結果

「おー、レキュん巫女服も似合いますなー! それじゃあ次はどれにしようかなーくふふ~♪」

「…………」(ゴゴゴゴゴ)

「…………」(ニコニコニコ)

「…………」(滝汗)

「いやー、理子の着せ替え人形にされそうだったから助かったわ」

「左右の白雪とリサがいなければ平和な光景なのにね……」

「手は出さないようにジュンが言ったんですし、命を狙った代償にしては安いと思いますよ?」

「アレが安いのかしら……? レキが冷や汗かいてるの始めて見たわよ。

 というかあのプレッシャーの中で着せ替え人形にしてる理子の肝がどうなってるのか聞いてみたいわ」

「アレくらいでどうにかなるメンタルの持ち主じゃないだろ」

「別方面ではとんだヘタレですけどね」

「ちょいヌエっち、聞こえてるんですけどー!?」

「聞こえるように言ったのよ」

「テラヒドス」(泣)

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 ゲームに勝ったがパートナーに殺されかける男。まあ最後のシーンだけ見れば誤解されても仕方ないが。
 ナイフで銃弾を弾くのは某殺人鬼の真似。ちょうど今期にアニメ化もしたしいいかなと思ったので。ちなみに潤が弾けたのは純粋な技術だけでなく、事前の下準備によるものも含まれる。
 
 
神崎・H・アリア
 パートナーが何かしてる=お前が原因かあ!! がほぼ脳内で成立してるツッコミ役。普段の被害状況を見れば致し方ない、かもしれない。
 帰り道で潤に事情を聞いて、ちょっと申しワイ顔をしながら素直に謝った。ここのアリアは素直に謝れる子である。
 
 
峰理子
 ラストのガヤ。アリアに文字通り引き摺られる形で乱入した。
 タンコブは前回のおまけでこしらえたもの。
 
 
レキ
 命中率が99%どころじゃなく下げられてそうな狙撃手。潤とは致命的に相性が悪く、少し恐れている部分もある。
 理子のファッションショーと無言のプレッシャーは二時間近く続き、本人曰く「生きた心地がしなかった」とのこと。なお着せられたコスプレの巫女服は東風谷○苗。
 余談だが、アリアが彼女に甘いのはまだ全うな感性の持ち主で、頼みを言えば二つ返事で了承してくれるため。密かな癒し枠である。
 
 
後書き
 真面目な戦闘シーンだと思った? そんな描写力はありません。
 というわけで修学旅行編+ハロウィンのおまけを収録しましたが……一日遅れ、あ、投稿する頃には日付跨いでますね……アカンけど、ネタをなしにするのは勿体無いので(←貧乏性)
 書いていて最近主人公達が人外じみてきている気もしますが、あくまでギャグ空間だからです。普通に戦闘中とかなら死にます。……多分(オイ)
 次回は水投げイベント+新キャラ登場です。今回はどういう扱いになるのか!?(マテ)
 それでは今回はここまで。感想・評価・誤字指摘、どんなものでも送ってくださると嬉しいです、テンションがおかしいことになります(真顔)


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第二話 酒は飲んでも吐くな

昨年の反省会
ジャンヌ(以下ジ)「作者、そこに正座しろ」
作者(以下作)「あ、はいジャンヌさん。後、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
ジ「うむ、おめでとう。こんな状況でも挨拶が出来るのは良いことだ。だがよろしくされるのはごめんだ!」
作「はあ、そりゃまた何故に?」
ジ「想像くらい付くだろうが……まあそれはいい。作者、前話を投稿したのはいつだ?」
作「……11月1日ですね」
ジ「これを書いてるのは?」
作「2017年1月1日です」
ジ「二ヶ月経ってるだろうが! 投稿を早めにする宣言はどうした!? しかも新年早々汚い話にしてからに!!」
作「ジャンヌさんネタバレアカンです。いや、仕事が思った以上に忙しくて……」
ジ「提督業とマスターがか」
作「イベントと新章楽しかったです。……あ」
ジ「……口にしてないが、年内に達成するつもりだった目標は?」ゴゴゴゴゴゴ
作「……第六章完結です」
ジ「……」チャキ
作「言い訳(遺言)だけでもいいですか?」
ジ「いいわけあるかこのバカものがぁ!!」
作「デスヨネー」( ゚д|| ゚)スパン

 
 ……というわけで明けましておめでとうございます、そして申し訳ございません、またもお待たせしました。今回は例の姉妹が登場します。
 とりあえず年内完結を目標にしていきますので、懲りずに読んでくださる方、お付き合いいただけると幸いです(かなり無茶無謀な気もしますが……)
 あ、ジャンヌさん。本編の出番考慮中なんですが、どうします?
「いらんわ! 寧ろもう出たくない!!」
 え、それだと今回と似たような裏話限定になりますけど。
「それでいい! もう理子達にいつ突撃(フォロー・ミー)されるか脅えて、盲腸になりかけるのは沢山なんだ……! だったらここで作者の怠慢を断罪するおまけキャラの方がマシだ!!」(半泣き)
 アッハイ(この人元イ・ウーの一員だよな……?)
 



 

「リサ・アヴェ・デュ・アンクです。皆さん、よろしくお願いします」

 ウオオオオォォォォ!!?

「ご主人様――遠山潤様のメイドを勤めております」

 はああああああぁぁぁぁ!!?

 ダニイィィィィィ!!!?

 以上が始業式後の転校生、リサの紹介におけるクラスメイトの反応である。男女揃って声がでけぇ。

 なおクラス全体が授業放棄して俺とリサを尋問してる中、高天原先生は「あらあら、遠山君はおませさんねえ」とか呑気に言ってた。先生それでいいんですか、そのままどっか行っちまったけど。

 アリアと理子とメヌ? 片や我関せずで寝てて(多分ワンパン○ン一気見のせい)、片やクラスメイトに混じってしょうもないこと聞いてきて、最後はニヤニヤしながらこっち見てたぞ。全員一般教科ほぼ投げてるとはいえ、授業受けろよ。

 結局昼直前になるまで色々聞かれる羽目になった。というか授業再開しようとしたら昼休みになってた。

「どうしてこうなった」

「すいませんご主人様、リサのせいでこんなことに……」

「気にすることでも無いでしょ」

「カミングアウトを止めなかったユーくんのせいだしネ!」

「まあ、いずれ関係性がばれるだろうというジュンの配慮ですけど」

「あ、あはは……潤ちゃん、お疲れ様」

「お疲れ様です」

 他クラス二人の労いを聞きながら、白雪の用意してくれたおにぎりを頬張る。うむ、美味い。

 まあ正直、下手にリサとの関係性を隠していたら却って暴動が酷くなるだろうと思って暴露したんだしな。教務科(マスターズ)で転入手続きのついでに報告したとき蘭豹先生は凄い顔してたし、綴先生はずっとニヤニヤしてたけど。

 故にこの結果は予想通りなので、疲れはしたが別に文句は無い。だがしかし、

「何で私はまた女装させられているのかしら……」

 屋上に逃げようとしたら理子とアリアに連行された場所がいつぞやの戦略室だから仕方ないんだが――いや、まず戦略室に入れられるのがおかしいだろ。本来女子専用の場所だぞここ。

「ダイジョブダイジョーブ、ユーくんの性格を考えればここに突撃する変態さんだとは思わないだろうしね!」

「貴方は私を変態にしたいのかしら理子」

「女装してるからいいんじゃないの?」

「そういう問題じゃないでしょ……」

 アリアも段々感覚が麻痺してきてるな。

 ちなみに俺の格好は遠野秋○制服バージョンである。選んだ理由は理子がパッドを忘れたかららしい。「りこりんとあろうものが何という失態!!」とか言ってたが、お前元キャラに殺されても文句言えねえぞそれ。あとアリアとメヌは何でサムズアップしてんだ。

 まあこうなった以上仕方ない、午後の専門科目までのんびりするとしよう。リサ特製のミネストローネを啜りながら、いつも通り諦めることにした。飯のチョイスがおかしい? いや、意外と洋食・ご飯の組み合わせはいいんだよ、マジで。

「白雪が考慮して塩なし白米おにぎりにしたのは正解ね」

「りこりんが脇で握ったからちょっとしょっぱいかもしんないけどね~」

「「「よし殺す」」」」

「ユーくんとアリアんだけじゃなくヌエっちまで!? ちょ、待って、流石に冗談だから!?」

 冗談でも食い物を粗末にする発言するんじゃねえ。

「他みんなー、理子に救いを分けてくりー!?」

「ねえリサちゃん、このミネストローネなんだけど、味付けどんなの?」

「あ、これはですね」

「モッキュモッキュ」

「せめて反応してくださいお願いします!?」

 どうリアクションすればいいんだよ。どうでもいいけど、リサは俺を普通に戦略室へ招き入れようとしていた。女装姿見せたら驚いていたが、順応早いのかもういつも通りだ。お前は主がこんなんでいいのか。

 理子の悲鳴をBGMに、始業式の昼休みは平和に過ぎていく。どこかから感じる視線をスルーしながら。

 

 

 水投げ。元は緑松(たける)校長(異様に影の薄いオッサン)出身の学校で行われた、『始業式の日には誰に水を掛けてもいい』という、異性相手にやると訴えられそうなイベントである。

 武偵校でもこの行事は取り入れられている。『始業式の日には素手なら誰に喧嘩を吹っかけてもいい』という感じに変わって。

 まあ要するに、

「オラアア、遠山覚悟ー!」

「死ねやあ潤!!」

「リア充遠山先輩に裁きを!!」

 こんな感じに、上下級問わず喧嘩を吹っかけても問題ないのだ。俺はあんまり気にしてないが、武偵校って上下関係にうるさい縦社会だからな。

「あらよっと」

 三年先輩の拳を反らして一年後輩へ、同輩C組の顔見知りの蹴り脚を掴み、ぶん投げる。

「「「ジェットストリーム!?」」」

 汚い衝突音が響いた。いやあ、いい感じに絡まって(意味深)ますね。

「始業式から元気だねえ」

「三十人近い相手を片手間に捌くジュンも大概だと思いますけど」

モーイ(凄いです)! 流石ご主人様、相手にほとんど怪我を負わせず無力化する手際、お見事です!」

「パチパチパチ」

「ワオン!」

 順に俺、メヌ、リサ、レキ、ハイマキである。というかこの面子、近接戦(もしくは戦闘自体)さっぱりなのばっかじゃねえか。一応出来るのが俺、一番強いのが武偵犬(狼)ってどうなのよ。あとレキ、口でパチパチ言うな。そして何故帰路に同行している。

「ご相伴に預かろうかと」

「飯目当てかい」

 ゲーム対決以来来過ぎじゃないかお前。

 まあ白雪は生徒会、アリアと理子はどっかで喧嘩を楽しんでるだろうから仕方ないといえば仕方ないが。何で帰宅組がやたらと襲撃されてるんですかねえ。

「その辺どう思うよ陽菜」

「い、いだだだだだ!? 師匠、とりあえず腕を捻りながら平然と聞かないで下され!? 参ったので放して欲しいでござる!!」

 振り向かないまま俺に右腕を捻られているのは、神奈川武偵中からの後輩、風魔陽菜。以前軽くボコってから尊敬されるようになり、『師匠』と呼ばれ時々訓練を施してやっている。

 半ば悲鳴に近い後輩の懇願に俺はニッコリと笑って、

「だが断る」ゴキン

 肩を外してやった。

「アイエエエェェェェ!?」 

 お前それ言われる方だろ。

「知り合いにも容赦ないのねえジュンは、正に鬼畜の所業かしら」

 などと言いつつメヌはコロコロ笑っている。段々イイ性格に磨きが掛かってきたな、リサは若干引いてるが。

「柔い鍛え方した覚えはないんだが」

 捻られたら捻り返すくらいしろよ、忍者なんだし。ただでさえ無駄にド派手な技で諜報科(レザド)Aランク相当の実力がBランク評価になってるんだから。気配遮断も微妙だし。

 後輩の醜態に(「また挑ませてもらうでござる!」とか言って逃げ去った、腕外れたまんま)溜息を吐いていると、

日本(リーペン)の武偵、思ったよりやるネ。でもまだ合格とは言えないヨ。

 遠山チュン、お前をテストしてやるネ」

 などと背後から甲高い声が聞こえた。

「そんな謎の情報屋みたいな名前じゃないんだが」

 返しつつ振り向くと、そこに立っていたのは黒髪ツインテールで年下と分かる少女。身長は大体140cm、服装はいわゆるキョンシーの類だ。

 特徴はまあ、なんというか、

「【速報】神崎・H・アリアのパチモノ出現、中国遂に個人までもパクリか!?」

「それだけお姉様の知名度が高いということですかね」

「人を見てまず言うことがそれカ!? あとパクる違う、お前らの方が真似してるネ!!」

 出たよお得意のパクった発言。中国版アリアが牙を剥きつつ怒りながら、瓢箪の酒を一気に呷る。いや中国じゃ飲酒年齢の制限無いけどよ、ここ日本だぞー。

「あの、ご主人様。あの方はイ・ウーの一員です」

「うん? そうなの? いたっけあんなの……?」

「正式な所属ではなく一時期滞在していたのですが……彼女はココ様、通称は『万武(ワンウー)』。近接、射撃、狙撃、更に技師としても一流と称される万能の使い手です」

「万武ねえ」

 その割には銃や刀剣の類を武装しているようには見えない。水投げの行事に倣っているのか、それとも舐められているのか。まあ自分の強さに自信を持っているのは感じられるな。

「お姉様のような優雅さはありませんね。出直してきなさいチンチクリンパチモンさん、お子様はお酒よりジュースの方がお似合いですよ」

「誰がお子様でチンチクリンネ、お前に言われたくないヨ! というかココはもう14歳ヨ!!」

「やっぱりお子様じゃないですか。背伸びするためにお酒を飲むのはいいですけど、今から続けてたら身長も胸も永遠にそのままでしょうね」

「グヌヌ……ホームズの妹、口だけはよく回る奴ネ! チュンを試す前にお前を殺してやるヨ白色人(バイセレン)!!」

「まあ、野蛮野蛮。口で敵わないなら暴力ですか、流石人の名前を間違える知能レベルの黄色猿《イエローモンキー》ですね。

 ……いえ、貴方相手ではお猿さんに失礼ですか」

「ウガーーーーー!!」

 ……何でパチモンアリア、もといココを煽ってるんですかねえ。あとメヌ、イエローモンキーは日本人への蔑称でもあるからな?

「大丈夫です、私は日本大好きですから」

「そういう問題ではない」

「潤さん、敵が激おこで臨戦態勢です」

 だろうな、酒以外の理由で顔真っ赤だし。

 メヌとココの間に立ち、構えを取ると向こうから突撃してきた。

「邪魔ネ、チュン!」

 叫びながら頭を振るパチモンアリア、もといココ。ツインテールの片方がこちらの首に掛かりそうなので、軽くスウェーでかわし、

「エ――」

 空中で体勢を崩し、無防備な相手に向け、

「見え見えなんだよ、阿呆が。あと俺は潤、だ!」

 全力で引いた右手を牙○の要領で腹にぶち込む!

「ぐげぇ!!?」

 うわきたねえ、吐きやがった!?

 殴られたココは地面を二回ほどバウンドし、死にかけの魚みたいにピクピクしている。よし、生きてるなら問題ない(オイ)

 しかし、殺す気で来たからつい本気で応戦してしまった。

「うわあ、腕ゲ○まみれだし」

 酒+胃液+αの嫌な臭いが充満している。腹じゃなくて頭にすれば良かったか、ただそれだと殺す可能性あるんだよなあ、牙○・無式。

「ジュン、汚いので洗うまで半径10メートル以内に近寄らないでくださる?」

「一応守ってやった相手にあんまりな対応じゃね? リサ、悪いけどタオルないかな?」

「――あ、は、はい! ご主人様、拭きますからお手を出してください!」

「いやいいよ、そっちまで汚れるのは流石に可哀想だし」

 献身的なリサの発言に待ったを掛け、タオルで手を拭き汚れ物を脱いでまとめて包む。何故か「ご主人様、リサのことそこまで……」とか感動に潤んだ目を向けてるが、どうしたマイメイド。

「レキー、アレ縛っといて」

「はい」

 後ろでボケッとしていたレキに声を掛けると、懐からワイヤー(昨日のゲームで使った奴)を取り出し、手際よく縛っていく。

「……オイ、何故亀甲縛りにする」

「『美少女を見たらこの縛り方をするのが業界の通例だよ、男の子を前屈みに出来るぜ!』と理子さんが言われていたので、覚えました」

「それで覚えるお前もどうなんだ」

「興奮しますか?」

「色々足りてない上にぶちまけてくださった幼女とかどう興奮しろってんだよ、は○ないのゲロインじゃねえんだぞ」

「吐かせたのは、お前、ネ、チュン……ウッ」

 オイもう吐くな、この位置だと今度は足に掛かる――

「オ、オエエェェェ」

「ギャーーーー!?」

「……酷い匂いです」

 酷いのは俺の靴だよ!? もうやだこいつ……

 

 

 正直捨てておきたいが聞きたい事もあるので、縛ったココを大型ダンボールに詰め込んで寮に運んでいく。最初は暴れていたが、「串刺しにするぞ?」と脅したら大人しくなった。残念、嘔吐のお返しにパイルバンカーぶち込んでやろうと思ったのに(真顔)

 とりあえずシャワーを浴びて着替えると、

「コンクリ漬けかマジックショー(タネ無し)どっちがいいかなアリアん?」

「アンタイ・ウーの同期に恨みでもあんの……? 普通に尋問すればいいでしょ、喋るまで殴る方式で」

「それ尋問じゃなくて拷問ネ!? お前達、(ウオ)に恨みでもあるカ!?」

『いや、別に』

「ただの鬼畜ネこいつらー!?」

 何か物騒な会話をしながら理子とアリアが帰ってきた。肩に縄でグルグル巻きにしたパチモンを俵担ぎして。ああ、やっぱり一人じゃなかったか。

「おう理子、アリア、お帰りー」

「ただいま。ジュン、アンタもうお風呂入ったの?」

「帰り一発目でユーくんの湯上り姿とか眼福ですわくふふー」

「男の風呂上りとか得すんのお前くらいじゃねえかな。ちなみに風呂上りなのは襲ってきたパチモンアリアを腹パンしたら吐かれた」

「どんなクソ野郎なのよアンタは」

「メヌを襲おうとしてたんで仕方なく」

「なら許す」

 許された。流石、シスコンをこじらせつつあるアリアさんである。本人に自覚あるかは分からんけど。

「それでユーくん、2Pカラーってどなたでっしゃろ? この間アリアんに『嫁にしろ!』宣言したコッコちゃんではないだろうし~」

「ちょ、何でそれ知ってるのよ!? レキには内緒にしてって頼んだのに!!」

「理子のアリアんを取ろうとはふてえ鳥類だぜ……」

「誰がアンタのよ、というか質問に答えなさい!」

「壁に理子あり障子にユーくんですぜ」

「うわあそれで分かる自分が嫌だわ!?」

「同姓にモテモテのアリアさん流石ッスわー」

「うっさい!! アタシだって好きでモテてる訳じゃ」

 

 

 ウニョラー!!!

 

 

 リビングから聞こえてきた奇声が、アリアの発言を遮った。俺達三人は思わず顔を見合わせる。

「チョ、お前等猛妹(メイメイ)に何したね!?」

『……』

 俵担ぎされたままのココ二号が喚く中、

「俺達というより……」

「多分、いや間違いなくメヌがねえ……」

「社会的にナムサン」

「峰理子、お前今とんでもないこと言わなかたカ!?」

「気のせいだとイイネ~」

「イイネ!?」

 多分手遅れだろうなーと思いつつリビングへの扉を開けてみると、

 

 

「トッピロキー!!」

 

 

 ……猿に似た奇妙な表情とポーズで部屋中を暴れまわる、ココ一号がいた。

「ふう、ちょっと本気になってしまいました」

「ええっと……」「……」

 やりきった顔のメヌと、困り笑顔のリサ、我関せずのレキ。何したんだそこの名探偵、というかレキは無関心かい。

「あらお姉様、理子、お帰りなさい。こっちのから聞いていた通り、姉妹がいたのですね」

「ただいま、メヌ。何アンタ、そいつにちょっとした拷問でもしたの?」

「そんな野蛮なことはしませんわ、ちょっと『OHANASHI』しただけですもの。小舞曲(メヌエット)のステップを用いるほどのことでも無いですし」

「探偵が自分の役目を否定している……!? ヌエっち、恐ろしい子……!」

「ちょっと校内ネットで目撃情報でも調べれば分かる件。で、俺がいない15分の間に何したのか今北産業」

「壊しました」

 三行どころか一言で済ませやがったぞこのドS探偵。

「あの、ご主人様。メヌエット様は別室でお話されていたので、リサには何があったのか……」

「同じくです」

 一応人前で尋問? シーンを見せない程度の良心はメヌにもあったらしい。じゃあ一安心、でいいか(適当)

「さて」

「ヒィ!?」

 メヌが視線を向けると、担がれたままのココ二号は引きつった叫びを上げる。そりゃ同じ目に遭うと思えばなあ。

 アリアに投げ捨てられ、目の前に転がってきたココ二号に優しく微笑む。見る目はネズミを嬲り殺すネコのそれだけど。

「そんなに脅えなくても大丈夫ですよ? 素直に私やリサ、お姉様を狙った理由を話していただければ、ですが。貴方の姉妹はお話しする前にこうなってしまいましたので」

 バナナを貪っているココ一号を指差すメヌ。「アレ、理子ハブられてなくね?」と餌をやっている理子が言っているが、俺とレキもハブだから大丈夫だ(何)

「だ、誰がお前なんかに話すカ!」

「あら、残念。では貴方も同じ状態にした後、姉妹仲良く撮影して動画にうpしましょうか。これで立派なy○utuberデビューですよ」

「機材の準備は理子に任せろバリバリー! ツァオツァオの痴態を余すところなくカメラに収めてやりますぞくふふー」

「じゃあ俺は配信で。中国系サイトの候補探してくるわ」

「对不起,请原谅严重(すいませんマジ勘弁してください)!!!」

 縛られたまま土下座してきた。エビが頭下げてるみたいだな。

「……まあ、ウチのバカどもに目を付けたのが運の尽きね」

 失礼な、人を鬼か悪魔みたいに。

「もっと性質の悪い何かでしょ」

 今日もアリアの直感は絶好調なようだ。

 

 

おまけ その頃のココ姉妹長女、どこぞのビルの屋上から

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

「……焔娘(バオニャン)猛妹(メイメイ)。すまないネ、私だけじゃ二人の救出は無理ヨ」

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

「ち、違うネ! これは戦略的テタイというやつで、ヤヴァイものを見てちびりそうだからじゃないノヨ!」

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ、スゥー……

「って、誰に言い訳してるネ……とりあえず、荷物をまとめて……ああもう、手が震えてしまいにく」

 

 

「みぃつけたあ」

 

 

「!? だ、誰ネ!?」

「私が誰かなんてどうでもいいことなんだよぉ……貴方達が潤ちゃんとアリアを狙った、それが問題なんだから」

「ほ、星伽白雪……!? ち、違うネ! あっちのココは危害を加えたけど、私にその気はないネ!!」

「じゃあ、そのM700はどこを覗いてたのかなぁ?」

「そ、それは……依頼で通行人を監視してたヨ!!」

「私は嘘がでぇきれぇなんだあ……そのスコープは明らかに潤ちゃんのお部屋だよねえ……

 フフ、これ以上聞くことはないかなあ」

「え、ちょ、お願いだから話を聞いて」

 

 

「天誅」

 

 

 アアアアアアアァァァァァァァ!!?

 この日、とあるビルにて『夕刻に響く苦悶の絶叫』という怪談が広まったとか。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 新敵キャラに二度(吐瀉物で)汚される主人公。美少女ならご褒美? んな訳ない(本人談)。
 暴力男女平等主義。ちなみに腹を狙ったのは「何か物言いとドヤ顔がイラッとした」とのこと。小学生か。

 
神崎・H・アリア
 パチモンキャラに告白されたり縛って連れてきたり、何かと偽者が横行している現在。でもピンクの髪までは真似されてないため、アイデンティティは守れている、筈。
 ちなみにココとの対戦は一人で応じ、相手の銃を弾き飛ばして頭突きと蹴りのコンボでKOした。この間約二秒。
 

峰理子
 人を社会的に殺すのを(割と)ノリノリでやろうとした外道。「敵だから是非もないネ!」とのことだが、どう見ても面白半分である。
 映像機材は自前で、アリアや潤の勇姿(本人談)を綺麗に収めるためとのこと。一度アリアに壊されかけたが、ガチ泣きしてギリギリ阻止した。
 なお、ココ姉妹の情報は伝え忘れていた模様。無論後でアリアにしばかれました。
 

星伽白雪
 怪奇現象

 
メヌエット・ホームズ
 パチモノのなってなさにイラッとし、ついついいつもより毒舌となってしまった妹。劣化コピーは論外、ただし面白ければ例外。
 拷も、もとい尋問の様子について聞いたところ、「1d100のSANチェックがしたいならどうぞ?」とのこと。作者は何も知らない。

 
リサ・アヴェ・デュ・アンク
 転校初日で潤のメイドを公言する大物。それでも快く迎えられたのは、本人の人徳によるものか。
 なお下品な質問をする輩は男女問わず、アリアに殴られ、メヌに(言葉で)斬られ、理子と潤に(ギャグ的な意味で)辱められる。全員、順調に餌付けされている模様。
 

レキ
 原作ではメインヒロイン扱いのタイミングだが、本作ではタダ飯食らいと化している。ハイマキ共々もりもりご馳走されてます。


ココ姉妹
 え、私達の出番少なすぎ……!?
 
 
後書き
 どうしてこうなった。
 改めてあけましておめでとうございます、ゆっくりいんです。おっかしいなあ、ココ姉妹の長女だけは逃がす予定だったんですが……筆を進めたら初登場で全滅してるんですが(汗)
 とりあえず今回の教訓、白雪の前で潤やアリアを害してはいけない、勿論覗きも。なぜなら本人がプロ級なので(真顔)
 ……まあ、仮に生き延びてもろくなことにならないでしょうが(オイ)
 さて、次回は修学旅行本番です。ココ姉妹? 出ない……方が幸せなんじゃないかなあ。
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。


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第三話 おやつが三百円とか足りる訳ねえ

 年始からiTunesカード一万円分買って手が震えましたわ……私は課金を、お年玉ガチャを、強いられているんだ!
ジ「さっさと回して続き書け!」
 デスヨネー。
 



 

「ほい、五光と花見酒。あ、月見もか」

「なんでそんなでかいの引けるんだよお前はああぁぁ!? 後一歩で猪鹿蝶揃ったのに!!」

「単純に遅いからだろ、捨て札迷い過ぎなんだよ。はい、ボッシュートになりまーす」

「うおおおおヤメロォ!? もう土産代どころか宿泊費すら怪しくなってきたぞ!?」

「武藤君、連敗して焦ってたのが裏目に出たね……今夜はネカフェ泊りかな?」

「洒落になってないんだよ不知火!?」

「金は貸してやってもいいぞ、お前の金をトイチでな。えーと、次はマサか」

「この流れだと嫌な予感しかしないなあ……そういえば遠山君、峰さん達は?」

「ガールズトークするからってことで荷物ごと追い出された。「入ってきたら顔面砕くわよ」ってアリアの脅し付きで」

「……最近神崎さん、凶悪すぎない? 同じSランクだけど、勝てる気がしないんだけど」

「余計なこと言うと千切られるぞ」

「……え、何を?」

 

 

 ……神崎・H・アリアよ。なんか向こうでジュンとマサトの悪口が感じられたから、後でストレス発散(実戦訓練)に誘いましょう。ももまん食べた分の運動も兼ねてね。

 それはともかく、修学旅行である。修学旅行なのよ! ……失礼、ちょっとテンション上げすぎたわね。

 ぶっちゃけ友達と行く修学旅行とか初めてだから、楽しみすぎてあんまり寝れなかったわ。……朝にそれ言ったらみんなが妙に優しかったけど。というかメヌ、アンタはこっち側でしょうが!

 ここまで何かなかったのか? アタシのパチモン達をダンボールに詰めて専門の業者(ジュンの知り合い)経由で中国に送り付けたり、リサがジュンのベッドに潜り込んで一騒動あったり、メヌが面白がって便乗したからまた一騒動起きたり、理子と白雪が対抗して添い寝する権利を巡って殴り合ったり、面倒くさくなったアタシがジュンを海の藻屑にしかけたり、まあ概ねいつも通りよ。

 ちなみにあの、えーと、タオタオ姉妹だっけ? アイツ等の目的はアタシ達の実力を測って、合格なら自分達の陣営にスカウトする予定だったらしい。試すどころかボコられて本国に強制送還されたけど。アイツ等ママの罪状と関係ないし、ぶち込むと面倒だし。

 そんなこんながあって現在、京都に向かう電車の中である。「お菓子は一人三千円です!」という白雪の言葉に従い予算内(しないと普通に怒られた)で買ったものを食べているのだが、圧倒的に足りない。やっぱり市販のお菓子はももまん以外ダメね、全然足りないわ。横で白雪が「どこにそんな容量を入れて太らないの……!?」とか戦慄してるけど、食べた分動けばいいのよ。

「それでリサ~、お話ってなんじゃらほい?」

 各々好き勝手に喋っていた中、理子が本題を口にする。ジュンの隔離(二両隣に追いやった)を提案したのはこの子だしね、凄い申し訳なさそうにしてたけど、いーのよアンタのご主人様は雑に扱っても(真顔)

「はい、実はご主人様のことなんですが……

 

 

 率直にお聞きします、皆様はご主人様とどういう関係を望んでいますか? 

 勿論、恋愛的な意味でです」

 

 

 ……ストレートに聞いてきたわねえ。あれかしら、夜這いしたのに普通に受け入れられて、文字通り一緒に寝ただけなのが乙女のプライドに触れたのかしら。悔しそうで嬉しそうっていう複雑な表情だったけど。あと最後は理子対策ね、なんだかんだではぐらかすし。

 リサの言葉に対し、キョドって赤くなる、頬に手を当てて嬉しがる、読めない笑顔でこっち見る、無表情の中にある微かに浮かぶ何か、誰が誰かは……まあ、分かりやすいわよね。

 しかしこう改めて見ると、なんであのバカジュンがモテるのかしら。

 強襲科の元Sランク、気遣いが出来て力を引き出してくれる後衛役、面倒見が良く人の悩みを真剣に聞き答える、手先が器用で大抵のものは作れる、家事が出来て料理上手……あれ、褒める部分やたら多くない? とりあえず、リア充の風穴開けてやろうかしら。

 などと考えてたら、白雪が「ふ、夫婦になる!」と宣誓していた。周り誰もいなくて良かったわね、まあ前からその目標は聞いてるけど。

「えっと、恋び、えっと、もっと深い仲になりたいかな!」

「理子様、はっきり言わないと希望すらないとリサは断言します」

「リサちーの発言厳しくない!?」

 いや妥当でしょ、逆にアンタは押していけばワンチャンあるとアタシの直感が言ってるし。

「うふふ、そうですねえ……うふふ、どうなるのが一番面白いかしら?」

 我が妹は面白さ優先なのね。イマイチ本気かどうかは分からないわ。あとこっち見んな。

「リサは、何番目でもいいのでご主人様の寵愛がいただければ」

 健気ねえ。いや、逆に『どこでもいいから私は愛される立場にいる』って強欲な考えなのかしら? ……流石に深読みしすぎよね。

 残ったのはアタシとレキ。あっちは口を開く様子がないので、まあ今更だけど先に言っておきましょ。

「アタシはアイツの相棒で、親友よ。それ以上も以下も望まないし、アンタ達の恋路には中立でいるわ」

 ある程度は助けるけどね、と一言加える。少なくとも理子が告白? してるのを見た時から、アタシの立場は変わらないわ。男女で友人関係は無理とか聞くけど、あいつに限っては例外でしょ。

「……私は」

 最後。レキは一瞬目を閉じ、ゆっくりと口を開く。

「私は、潤さんとは友人でいるのを望みます。恩も有りますし世話になっていますが、それ以上に……」

 怖いです。囁くようにだが、アタシにはそう聞こえた。……怖い、か。まあ、言いたいことは分かるかもしれない。アイツ、底が読めないところあるしね。

「で、リサ。改めて聞いてどうするの?」

「はい、アリア様。まずは立場を明確にしてから、今後どうするか対策を決めようかと」

「対策って、リサちー随分大袈裟に言うねえ」

「ですが理子様、現状のままだと押し倒してもスルーされるかもしれません」

「え、あ、え、えー、ああ、そうかもしれない、かな?」

 キョドリ過ぎでしょ、というかアンタ前にやってたじゃない。

 まあこれだけ複数の女子と過ごしてて、ラッキースケベに一回もあってないからねアイツ。好意に気付いてても何も言わないし。やっぱアイツ爆発(物理)した方がいいんじゃないかしら?

「アリア様、レキ様。お二人から見て、ご主人様の恋愛感はどうだと思いますか? 」

「え、アタシ達?」

「はい、客観的な立場に近いお二人の意見がもっとも適切かと」

「うーん、そうねえ。……あれかしら」

「アレですかね」

『無関心』

 評価が被った。より正確に言うなら、趣味と悦楽に偏りすぎて他に目がいかない感じかしら。

「「「「…………」」」」

 薄々は察していたのか、四人とも黙ってしまう。アイツとの特別の仲を目指す人間にとっては痛い話よねえ。

「……真面目に対策、立てないとだね。アリア、レキさん、協力してくれないかな?」

「まあ、出来る範囲でね」

「お力になれるなら」

 そうして割と真面目に話し合った結果、『ユーくん恋愛の興味持たせるぞ』作戦が決まった。命名は理子、ほぼまんまじゃないの。

 具体的な方法はあんまり煮詰めてない、固めすぎると普通に気付かれるだろうし。まあケースバイケースで行きましょう、この面子即断力? は高いし。

 幸い今から修学旅行、いつもと違う環境なら何かしらチャンスはある、かもしれない。

「何か真面目に考えたら疲れたわね……理子ー、ももまん取って」

「おk、ここからは食べながら楽しいガールズトーク……あ、アリアん大変だ! お菓子がもうほとんどないよ!?」

「なん、だと……!? ちょ、これじゃあお昼まで持たないわよ!?」

「売店で補充するしかないですね」

「ジュンも荷物持ちに呼びましょうか」

「控えるって選択肢はないのかな!?」

「「「無理!!!」」」「無理です」

 というわけで、次の停車駅に降りてお菓子を補充することになった。恋愛の真面目な話? そんなの後回しよ、糖分は命より重いのよ!

「先は長いですね……」

「あはは、でも下手に悩むよりいいの、かな? 折角の修学旅行だし、潤ちゃんは気長に見ていくくらいがいいんじゃないかな、リサちゃん?」

「……そうですね、白雪様は頼りになります」

「そ、そんな、頼りになる奥様だなんて……」

 ……なんか白雪がまた暴走してるんだけど、それより糖分よ!

「お姉様、この売店ももまんありますわ」

「GJよメヌ、残さず確保だわ!」

「アリアん、そろそろ電車出発するよ!?」

「最悪メヌ抱えてしがみついてでも乗り込むから大丈夫よ!」

「アリアー、あんまん買っていいか?」

「ももまんと形似ててややこしいからやめろって言ってるでしょバカジュン!!」

「呼び出したくせにバカ呼ばわりは酷くね!?」

 ももまん以外のまんじゅうを買おうとするあんたが悪いのよ! KY(空気読め)

 

 

 はい、というわけでやって来ました京都! ……というテンション上げるほどでもないけど。何故なら、

「ジュン、アンタ京都に住んでたの? じゃあガイドとか出来るのになんで言わなかったのよ!?」

「寧ろ住んでたからこそノープランな方が楽しいかなと」

「理子」

「うっうー! ユーくん、ちょおっとその場から動けないよー」(ガシッ)

「オイマテ、なんで腕極めながら密着してくるんだ」

「あ、当ててるんだよ……」

「腕の痛みで寧ろマイナ」

「なにイチャついてんだアンタ等はぁ!!」

「俺じゃないだろこれハーゴン!?」

 何か腹の中にズンと来たんですけど……しかも理子の方に衝撃はいってないみたいだし。

「斬魔○二の太刀の応用よ。超能力(ステルス)で衝撃を内側に押し留めて爆発させる感じの」

「それどっちかと言うと内頸の類だよな……? 日に日に力を使いこなしてるようで驚き、ですよ」

「ユーくん無理スンナ」

 珍しく理子が心配顔だ。大丈夫、腹パンを内臓に受けた程度の痛みだから(←脂汗かいてる)。というかいい加減腕離せ。

「あらジュン、お姉様の一撃(ツッコミ)を受けたくらいで倒れるほど柔じゃありませんよね? とりあえず、道案内はお願いしていいですか?」

「受ければ分かるよこの辛さは……別にいいけど、定番の金閣寺とか清水寺は案内するまでもないだろ」

「じゃあじゃあ、ユーくんのオススメでセンスのある場所チョイスをオナシャス!」

「何そのマンドクサイ注文……観光地のチョイスにセンスもクソもないだろ」

「……あ、ご主人様。こういうのはどうでしょう?」

 リサが何やら耳打ちしてきた。ほむほむなるほど。

「それなら候補は幾らでもあるし、歩きと電車でも一日で回れる範囲だな」

「決まったの?」

「大まかには。護王神社、石清水八幡宮、壬王寺」

「? 全部定番のお寺とか神社じゃない」

「あっ」

 白雪は気付いたようだ。流石神職、察しがいいね。他の連中は首傾げてるし、もうちょいヒント出すか。

「哲学の道、由良神社、愛宕神社、舞鶴鎮守府」

『……ああ!』

 全員気付いたようだ。まあ神社名そのままだしな。

「これ以外だったら、けい○んとかたまこ○ーけっと、いなりこん○んとかの聖地もある」

「ジュンさん行きましょう、超行きましょう」

 無表情の中で目を輝かせているレキが俺の袖を引っ張ってくる。そういえばお前この間、ウチの面子といなりこんこ○見てたっけ。

 というか引っ張る力が意外と強いんですけど。ハイマキー、ご主人様止めてくれ。

「ワフッ」

 あ、無理? そりゃそうか。

「ちょおっと待ったあああぁぁぁ!!!」

 理子の静止が掛かった。駅前ででかい声出すなよ、ウチの連中はともかく周囲の一般人が何事かって顔してるじゃねえか。

「なんでしょう理子さん、私は一刻も早く向かいたいのですが」

「くっふっふ~、甘いよレキュ、パルスイートより甘い!」

 それお前の好物だろ、毎度直食いして白雪とリサに小言頂いてる。

「ユーくんだって一緒に食べてるじゃん!」

「俺の買ってきた分をお前が食ってるんだよ」

「りこりんはオードロボーだから許されるんです!」

 思い出したように怪盗キャラ出すんじゃねえ。

「まあそれはともかくレキュ! 聖地巡礼に一秒でも早く行きたい気持ちはヨークタウン分かるよ? しかーし、京都に着いたらまず行くべきところがあるのです! それは!」

「それはなんでしょう?」

「それはぁ!」

「さっさと言いなさい」

「アッハイ。ここだぁ!!」

 ビシッと理子が指差した先、そこにあったのは――京都にはよくある呉服屋。いわゆる着物をレンタルできる場所だ。

「京都に来たらまず和服! 和服を着るのは義務と言える、いえ義務なのです!」

 たしかに周囲を見ても、地元の人間、観光客を問わずほとんどが和服姿だ。逆に制服姿で固まってる武偵高生はかなり浮いている。

「……いや、着てる人が多いってだけで義務ではな」

「なるほど失念していました。流石は理子さん、慧眼ですね」

「それで納得しちゃうの!?」

「知り合いのところで安くしてくれる場所があるからそっちにするか」

「さっすがユーくん、京都の人間地図アプリだね!」

「いや意味分かんないわよ!? というか和服は義務じゃないでしょう!?」

「いいえお姉様、これは義務です。着ないとハブられるかZAPされる程の」

「それ最早強制じゃない!? リアルパラ○イアとかおかしいでしょ!?」

 アリアが怒涛のツッコミを入れる中、「義務なら着なきゃなー」、「可愛くて動きやすいのあるかなー?」、「和服用の武装考えなきゃ」、「ZAPZAPZAPZAP……ああああぁぁぁぁ」と、周りの連中も納得したのかそれぞれ呉服屋に散っていく。何名か発狂してるけど。

「アンタ達それで納得しちゃうの!?」

「ZAPならシカタナイネ!」

「え、えええ……白雪はどうおも」

「潤ちゃんどんなのなら喜んでくれるかなあ……うふ、ふふふ」

「へんじがない ただのとりっぷのようだ」

「アンタが言うのジュン!?」

「アリア様、ここは郷に入っては郷に従えの精神で行くのがよろしいかと」

「……本心は?」

「これ以上ツッコミに時間を掛けると回る時間が減っていく一方です」(ソワソワ

「さっさと行きたいだけかい!!」

 まあアレだ、深く考えたら負けって奴だ。

「アンタ達みたいに考えなしで行ける訳ないでしょ……ああ、今から疲れる予感しかしないわ」

 頑張れ。

「助けろ!?」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 恋愛には鈍感野郎ではなく(ほぼ)無関心野郎。まあそんなのどうでもいい、周囲の女子に惚れられまくってるとか爆発しろ!
 本編で語られたとおり、遠山家に養子入り以前は京都に住んでいた。地元での顔見知りは多いらしい。
 

神崎・H・アリア
 ジュンとは友人で相棒派。手助けすると言っているが、それが自ら苦労を背負い込むことを肯定していることを、彼女はまだ気付いていない。
 『和服を着るのは義務』というのにどうしても納得いかない様子。まあ現実はどの程度か知らないが、この世界の京都では暗黙の了解になっている。
 
 
峰理子
 もうそろそろヘタレ発言が出来なくなってきた暴走特急。二の足踏んでるとマジでリサにかっさらわれ「ヤメロ!!」アッハイ。
 京都の常識? を逸早く察する観察力の高さは流石である。実際半分以上は皆の和服姿を見たいだけだが。
 

星伽白雪
 今回妄想の多かった(多分)常識人枠。脳内では潤をトリコにする計画が進んでいるとかないとか。


メヌエット・ホームズ
 潤に対する感情が一番謎な少女。少なくとも嫌ってはいない筈だが……?
 余談だがあそこで和服に着替えるのを拒否するものが出た場合、彼女によるZAP(精神処刑)が下される。


リサ・アヴェ・デュ・アンク
 恋愛面において裏の画策を進めている、ある意味ボス的存在。潤は(自分にとって)とんでもないのを拾ってきたのかもしれない。まあ原作でも一番アクティブだし……
 この面子らしくサブカル方面の欲求には正直な模様。超ワクワクしてる姿のリサは耳が見え隠れしてたとか。
 

レキ
 潤とは友人希望枠。やはり彼に対して恐れている部分がある模様。
 今回謎のアクティブ(というか暴走)を見せてくれた。本人曰く、「京都は色々なインスピレーションを刺激します」とのこと。
 
 
武藤剛気
 ギリギリ宿泊代までは毟り取られなかった。
 
 
不知火亮・一石雅斗
 コイツ等同時に出すと口調が似通ってるのでもう同時には出さない(誓い)
 一石は一年の頃潤とクラスメイトで、同じSランクということで親交がある。特進クラスが修学旅行行ってる余裕あるのか? 気にするな!

 
後書き
 主人公の知らぬところで恋愛包囲網が形成されている模様。とりあえず潤はもげろ、もしくは爆発しろ!(ガチ)
 そんなわけで皆さんどうも、そろそろ早く出す詐欺を抜けたいゆっくりいんです。早く書かないとネタが、脳内のネタが溶けるんだよ……! ISとか恋姫とか他のも書きたいんだよ、でも並行で書くスキルは私にはないんだよ……! 疑似百合書きたいんだよ……!
 とまあ作者の愚痴は置いといて、いきなりgdgdスタートな修学旅行、如何でしたでしょうか? まあ今回は半分以上車内の恋愛話? で大人しめでしたが……次回には進みます、多分(オイ)
 チーム決めのための修学旅行(キャラバンⅠ)? ああ、そんな要素ありましたねえ……まあ、ここのチームは今更な気がするので、その要素は死に絶えました(マテ)
 それでは今回はここまで。感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。
 では読んでいただき、ありがとうございました。


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第四話 目的なくふらつくと大抵何かトラブルが(漫画にあらず、前編)

 修学旅行の続きです。今回は潤君の過去に触れるかも?
 あ、活動報告に思いつきでSS書いたので、良かったら読んでやってください。アリアとは何の関係もないFGOのですが……
 


 

 

「にゃー」「にー、にー」「ふみゃー」

「こ、これは夢……? それとも天国なのかしら……」

「至ってこの世だよ、モチツケ」

「ね、ねえジュン、この子達触っていいのよね?」

「そのために連れてきたから大丈夫だよ、こいつら人懐っこいし。ほれ、餌の猫缶」パカッ

「にゃー」

「わ、一斉に集まってきたわ!?」

「音に反応する辺り一杯ご飯貰ってるんだろうねー。アリアん、ワンワンと違ってにゃんこは撫ですぎると嫌がるから気を付けてね?」

「わ、分かったわ。ほ、ほーら、おいでおいでー……」

「にー、にー」

「ほわあー……ああ、可愛いわぁ……」ナデナデ

「アリアんは猫の魔性に陥落したようです。くふふ、これはシャッターチャンス」

「にゃっ」

「おお? りこりんに餌を催促するとはふてえにゃんこですなあ……だが許す! 代わりにもふらせろー!」

「お姉様を横取りするとは、幾ら愛らしくても許されざる所業」

「にゃー」

「私の膝がいいの? ふふ、贅沢な子ね。いいでしょう、特別に許してあげます」ナデナデ

「メヌちゃんまで陥落した……!? で、でも犬派の私はこれくらいで屈したりは……!」

「にー?」ウワメヅカイー

「すいません無理です! ああ、可愛いなあ……」

 約二名何やってるんだ。あ、どうも遠山潤です。

 現在俺達は一通りの観光を終え、今日最後の観光場所、哲学の道に来てる。チョイスした理由の一つに人間失格の殺人鬼と虚無な女子大生が出会った場所ってのがあったんだが……うん、猫天国でどーでも良くなってるなこりゃ。

 あの後それぞれ和服に着替え(理子に危うく女装させられかけたが、今回は無事阻止)ここまで舞鶴鎮守府跡、護王神社(重巡『高雄』に積まれてた御神体が祀ってある)、由良神社(名前まんま)、壬王寺(新撰組の沖田総司と斉藤一が稽古に使用した場所)等色々回り、はしゃぐ一行(俺含む)のブレーキ役になっていたせいでアリアは死に掛けていたのだが……今は寧ろツヤツヤしてるな。

「ご、ご主人様……私も触っていいでしょうか?」

「出来れば俺の足を引っ掻いたり齧り付いてる奴を頼む」

「え、ああ!? ネコさん、ご主人様から離れてくださーい!?」

 リサが慌てて足元にじゃれつく猫達を引き剥がす。なあんで俺に来る動物達はこうなるの痛い痛いリサ爪刺さってるから無理矢理引っ張らないで。

 まあ満足してくれてるようで良かった、あとは宿に入って感想文(多分テキトーなのでも大丈夫)書くだけだな。

 と、そこで携帯から着信音(『甲賀忍法帖』)が。番号は、予約してた宿からか。

「はい、もしもし。はい、そうです。

 ……え? ああはい、分かりました。ああいえ、お気になさらず」

 電話を切る。横でアリアが「ちょっと、にゃんこが逃げるでしょ!」とか言ってるが、ぶっちゃけそれどころじゃない。というかにゃんこって。

「潤さん、どうしました?」

 横で文字通り群がられてるレキが聞いてくる。横でハイマキが嫉妬の唸り声を上げてるけど、今だけなんだから我慢しなさいって。

「宿が燃えた」

『え?』

 全員が一斉に声を上げる。嘘だと言えないんだよバーニィ。

「数時間前に近隣三軒を巻き込む火事が起こったんだと。不幸中の幸いで死者はなし、現場の状況と出火の原因から警察は放火と断定、犯人はまだ逮捕されてない」

 ニュースを読み上げながら情報を集めていく。泊まる予定だった宿は――あーダメだな、全焼してるわ。

「で、さっきの電話は予約客へのお詫び。まだorzしててもいいだろうに、大した支配人さんだよ」

「では……夕食のバイキングは?」

「当然ない」

 宿が燃えたんだから出るわけねーべ。あ、レキが今までの中で一番分かりやすい絶望の表情してる。傍から見ると微量だけど。

「……ねえユーくん、犯人はまだ捕まってないんだよね?」

「ああ、警察から情報リークしてる限り逃走中」

「目撃者は?」

「数件。火災の三十分くらい前に眼鏡を掛けた細身で長身の男が不審な動きをしてたとか」

「ふ、ふふふ……なあるほどお、サークル○ーサンクスユーくん」

 ゆらりと理子が立ち上がる。本人の陽気さを表すような黄色の単衣から漏れる怒気に驚いてか、猫達が逃げていく。

「潤、ナビ頼む」

「おk」

「風穴どこまで空けられるか試してやるわ」

「悪人に人権はないと言いますし、どこまで壊せるか試してもいいんですよね?」

「見敵必殺(サーチアンドデストロイ)です」

 理子に続き、食いしん坊三人も順に立ち上がる。笑顔が最早狂気である(レキは無表情だが)。

「あ、あのご主人様、皆様何をするおつもりなのでしょう?」

「犯人探して野郎ぶっ殺してやらあ!! 以上」

「文字通りの事態になりそうなんですが……」

「多分大丈夫、だと思うよ? いざとなったら私と潤ちゃんが止めるし、うん」

「え、俺も加勢するけど」

「潤ちゃん!?」

 食い物の恨みは死より恐ろしいのだよ、白雪。

 

 

 その後の顛末産業

「うん、凄く好きなんだ……火事」

「へえ、じゃあもう満足したわよね? 生きるのに」

「大好きな炎に包まれる幻想を抱いて死になさい、マザーファッカー(クソ野郎が)」

「いっぺん死ね、氏ねじゃなくて死ね!」

「心臓と眼球と脳髄、撃たれたくない場所を選んでください。そこにしてあげます」

 四行どころか五行になったし。ちなみにこいつ等武偵です。無論、犯人がキルされたのは言うまでもない。※生きてます

 

 

「うーん、ダメか」

 犯人を成敗(隠喩)した後幾つかのホテルを探してみたが、シーズン真っ盛りなのもあって空いている場所が少ない。そもそも手頃な値段で食べ放題も付いてる好条件な場所、あそこくらいしかねえわな。

 もう食材買って適当な宿に入るか、ビジネスホテルでいいんじゃ

「そんなことになったら」

「分かってますよね?」

 うん、ホームズ姉妹に殺されそうなんだけど。とはいえどうしようもないんだが、誰かの権力使って良さげなホテルを無理矢理空けるとか?

「ホテルがないなら家を使えばいいのでは?」

「突如どうしたレキ」

 いつからアントワネットになったんだお前。最近では本人の発言じゃないことが一般的になってきてるが。

「処刑される趣味はありません。潤さん、昔住んでいたのなら京都での拠点があるのでは? あちこちに持っていますし」

「何気に金持ちだよねユーくんって」

「お前みたいに貸し出してるわけじゃないから維持費掛かるけどな。

 あー……あるにはあるが、場所が郊外だし、三年前から使ってないから確実にボロ家だぞ?」

「ご主人様が昔住んでいた場所、リサは興味あります!」

『私(理子)も!』

 白雪、メヌ、理子の三人も同意した。最後にアリアの方を見ると『まあいいんじゃない?』と目で告げてきた。え、マジですか……

「住めるかどうかも怪しい可能性が高いんだがなあ……じゃあ、車借りるか」

「どのくらい掛かるんですか?」

「約一時間、バスとか電車のルートも外れてる真性の田舎で、政府の治外法権」

「それ違法建築じゃないの!?」

 サア、ドウダロウネー?

 

 

 というわけで車を飛ばして約一時間、道路以外何も存在しない京都の端。

『でか!?』

 着いてから俺以外の全員が家を見て一言。そんなに大きいかねえ? アリアの実家や星伽神社に比べれば大したことないが。

「いや比べる対象がおかしいでしょ!? 庭も入れてどんだけ広いのよ!?」

「庭合わせて1740坪だけど」

「うわーいユーくん家江戸下屋敷のちょうど半分だー」

「アンタよくそんなの覚えてるわね!? というかもう屋敷じゃないこれ!? 何ジュン、アンタ実は結構なお坊ちゃんだったの!?」

「いや、ここ住んでたの俺と相棒の二人だけど」

「幽閉でもされていたのですか、潤さんとその相棒さんは」

「自分達で作った家に閉じ込められるってなんだよ」

『作った!?』

 またも一同驚いてるが、もう反応メンドイのでさっさと家に向かう。部屋汚れてるだろうしまずは掃除だなーなどと考えていると、

 

 

『このような場所に何用だ、人間達よ』

 

 

 頭に直接声を響かせ、入口の前に佇むのは巨大な狐――もとい、九の尾を持つ巨大な妖である。

 全長約3メートル、陽炎のように揺らめく姿は神秘的で、漏れ出る魔力と威圧感が人間より圧倒的に格上の存在であることを感じさせる。

「嘘、九尾の狐……しかも玉藻様より格上の存在……!?」

『……緋々の巫女か。ならば分かるだろう、人と妖の境界線に無断で踏み入る意味を? 見逃してもらえるなどと思うな』

「強制負けイベクラスのボスが突如出てきたよこれ――なんて、ふざけてる場合じゃないな」

「銃弾が通じればいいのですが……」

「メヌ、リサ! アンタ達は下がってなさい! ヤバイわ、アタシの直感が圧倒的にヤバイって囁いてる……!」

 戦闘組が危機感から武器を構える中、俺はというと――

「いや、人の家で何やってるんだよ玉陽(ぎょくよう)の姉さん……そんなキャラじゃないでしょうよ」

 溜息を吐きながら名前を呼ぶ。すると妖狐――玉陽はニタアと顔を笑みの形に変え(こえーよホセ)、全身から光を発し、

「三年も帰ってこない弟分を、ちょっと脅かしてやろうと思っただけよ」

 そう言いながら前に出てきたのは、動きやすく改造した単(ひとえ)(平安時代の公家女性が纏う着物みたいなの)を纏い、妖艶な笑みを浮かべる金髪黒目の美しい女性。頭部に狐耳、背から突き出る九尾が人でないことを示している。

『……え?』

 臨戦態勢だった連中が、そのまま固まる。お前等今日はよく合うな、普段はどれだけ練習してもタイミングずれるのに。

「脅かすならせめて殺意と敵意をぶつけろよ、まあ他の連中には効いてるが」

「貴方に効かなければ意味ないでしょう。あ、ごめんなさいねお嬢さん方。ようこそ元氷条邸へ、歓迎するわ」

「何故に家主気取り」

「放置してた家なんだし、誰が住んでようと自由でしょう?」

 なるほど道理だ、でも住んでるなら庭の整理くらいしてくれよ、歩きにくい。

「……ジュン、その方は?」

 未だポカンとしてる戦闘組(いい加減武器仕舞えよ)に代わり、メヌが質問してくる。案外立ち直り早いね。

「あっちの山に住んでる霊獣の玉陽姉さん。ここに居た時は世話になったり世話してた仲で、姉呼びは流れでなんとなく」

「あら、素っ気無い紹介ね。私、これでもずうっと心配してたのよ……?」

 しなだれかかり、腕を絡めてくる玉陽姉さん。上目遣いに見上げてくる瞳には涙が溜まっている。「ど、泥棒猫ならぬ泥棒狐……!?」と白雪が戦慄しているが、このタイミングで復帰するのか。

「三年で大きくなったわね、人の成長は速いものだわ……女を待たせたんだし、どうすればいいか分かるわよね?」

「いやそういう関係じゃねえだろ」

 大抵の男を問答無用で堕としそうな妖艶さは流石玉藻の前の娘と言ったところだが、俺からすればふざけてるの丸分かりである。

「ふふ、相変わらずそういうのはさっぱりね。変わってないようで安心したわ」

「何がしたいんだよホント」

「ちょっと確かめたかっただけよ、弟分が連れてきた娘とどんな仲なのか、ね」

 相変わらず隅に置けないわねえ、などと離れて肘を突いてくる姉さん。変わらずってなんだよいやマジで。

「……なんなのよ、ホント。本気で逃げる気だった自分がバカらしくなってきたわ」

「あっはっは、ちょっとビビリすぎですよアリアん」

「逃走のタイミングと作戦提案してたアンタが言えたセリフか!!」

「べべべべべ別にビビッてないし、ヴィヴィッドないですよ?」

「わざとらしいくらい震えるのと言い間違いヤメロ、なんかウザイわ!!」

「なんかって流石に酷くないですかねえ!?」

「いえ、妥当な評価かと。私もそう思いましたし」

「レキュが辛辣辛辣ぅ!?」

 緊張の糸が切れた反動でギャーギャー騒ぎ始める連中を見て、姉さんは微笑ましい表情になる。

「賑やかな子達ねえ」

「ありゃ騒がしいって言うんじゃねえかな」

 まあ変に敵対的な態度よりいいのだろうが。

「ところで潤ちゃん、この人とは本当にそういう関係じゃないんだよね……?」

「深刻かつヤバイ瞳で見るんじゃねえよ、本当だから」

 白雪病んじまったじゃねえか、どうしてくれんだ姉さん。いやサムズアップされてどうしろと。

 

 

おまけ 氷条邸庭にて

「ワン!」、「にゃー」、「キュー」、「プギー」、「ピー」、「メー」、「ペーン」etc……

「こ、ここは天国、それとも夢……? ジュン、アンタ天国への案内人だったの?」

「ここは現実で俺は人間だよ、モチツケ。というか反応が哲学の道の時と一緒」

「うふふ、モフモフ、モフモフがいっぱい……」

「うひょーりこりんにもモフモフさせろー!」

「聞けよオイ、あと荷物置いてからにしろって」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 昔はでかい家に住んでいた元京都人。なお京都弁は喋れるが喋らない、通じにくいから面倒とのこと。
 動物には噛み付かれたり引っ掻かれたり、変な好かれ方をする模様。家への移動中も兎に足を噛まれて「いてえ!?」となっていた。
 

神崎・H・アリア
 今回は彼女の癒やし回(多分)。日々のストレス(ツッコミ)からか、動物が異様なほど好きになってしまった。大体相棒と妹のせい。


峰理子
 一瞬だけマジモードになったおふざけキャラ。なお玉陽がふざけて近寄った時、ちょっと頬を膨らませていたとか何とか。
 

星伽白雪
 新たな恋敵出現か!? と感じて久々に病みかけた巫女。立場上(多分)高位の妖には逆らえないので、内心焦りまくっていたのは乙女の秘密。
 

メヌエット・ホームズ
 猫の魔力にはさしもの名探偵も勝てなかった模様。
 

リサ・アヴェ・デュ・アンク
 主に引っ付いてた猫をひっぺがそうとしたら、皮膚ごと取れた模様。この後めちゃくちゃ謝った。

 
レキ
 ハイマキ(お供)の嫉妬を煽るほどのビーストマスター。歩くだけで数多の動物が近寄り、アリアに「羨ましい……!」と嫉妬ビームを浴びせられていた。


玉陽
 氷条邸近くにある山を住処とする妖狐。弟分の魔力を察知し、からかいついでに妖狐の姿で出現した。
 玉藻の前の娘とか昔鬼の旦那がいたとか色々設定はあるが、多分使われることはない(オイ)


後書き
 師匠来たあああぁぁぁ!!! 100連目ジャストで来てくれたイヤッフウウウゥゥゥ!!
 うわあああああキングハサン、キングハサンだああ!? 破産する前に来てくれたあああぁぁぁ!!!
 ……というのが8日と25日の夜中、SNNでガチャの結果に荒ぶっていた作者です。あとで見て知り合いに引かれたなこりゃ、と自分で引いてました。
 という訳で京都修学旅行編、第二話をお送りしました。……うん、何も進んでないなこれ。というわけで次回に続きます(マテ)
 それでは今回はここまでで。感想・評価・誤字指摘などお待ちしております。お読みいただきありがとうございました。

 


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第四話 目的なくふらつくと大抵何かトラブルが(漫画にあらず、後編)

 この間推薦作品眺めてたら、この作品が掲載されてたんで驚きました……あいーんチョップさん、推薦ありがとうございます! 書かれてたの二ヶ月以上前で申し訳ないです!(汗
 さて、今回で修学旅行編も最終話……のはず(オイ)。ではでは、早速本編へ――
ジ「で、一ヶ月も投稿をサボっていた遺言はそれでいいか作者?」チャキ
 ……リアルが忙しかったってことでダメですかね、ジャンヌさん?
ジ「ああ忙しかったようだな、艦○れとか戦艦○女とかFGOで」
 わーい、バレテーラー。まあしょうがないよね、たーのしー!!
ジ「せめて今嵌ってるドラ○ルージュのシナリオ書いてたとか言い訳しろ貴様はー!!」
 ちなみにけものフレンズは観てないです( ゚Д| |゚)カラタケ!!
ジ「……さて、お待たせした諸君申し訳なかった。それでは本編始ま」
 ( ゚Д| |゚)あ、ところでジャンヌさん。感想欄でジャンヌさんにも出て欲しいって要望が、
ジ「嫌だあああぁぁ理子や神崎にボロ雑巾にされるのはもう嫌だああああぁぁぁぁ!!?」
 ( ゚Д| |゚)……だそうです。ガチ泣きされたので厳しいですねこりゃ。
 



 

 

「むむむ……」

「ぐぬぬ……」

「こ、これは……」

「……なるほどね」

「……」カキカキ

 神崎・H・アリアよ。今アタシ達はヒジョウテイ? と呼んでいた元潤の家に上がっているんだけど……これは、どう言えばいいのかしらね。

「ふふ、可愛いでしょう? これが十二歳の時、裏山を背に撮ったのね。で、こっちが」

 彼女、妖狐の玉陽さんは楽しそうに持ってきたアルバムを指差し説明する。それぞれの写真には幼い潤が、今の緩い雰囲気からは想像も付かない無愛想な顔で写っている。違いがあるとすれば髪と眼の色ね、なんでほおずきよりも紅い感じの赤色なのよ、異世界モノの敵キャラみたいになってるわよ厨二病か(←ピンクツインテ)

 問題はその横、並んで写っているもう一人だ。鴉の濡れ羽色と呼ぶに相応しい艶やかで極めの細かく美しい髪、鋭利な刃物のように洗練された宝玉のように黒い瞳、黄金比を極めた白く柔い肌、やや小柄な体躯から見える四肢は細く脆い、表情は無ながら儚げで神秘的な印象を写真越しでも感じさせる。

 まあ何が言いたいかというと、美少女である。十人に聞いたら百人が絶世を付けて答えるクラスの美少女である。何言ってるか分からないと思うけど、そんな表現しか思いつかないわ。

 話を聞くに、どうやらこの人が潤の『相棒』らしい。……自分で言うのもなんだけど、アタシ含めてこの面子は容姿がいい方だ。でもこれは敵わないわねー。潤がハニトラに靡かないのも納得だわ。

 それはいいのよ、女として完全敗北した気分だけど置いときましょう。でもねえ、

「……タマ姉さん、本当にこの子は男なの(・・・)?」

「ええ理子ちゃん、小さい頃一緒にお風呂入ろうとして見たから間違いないわ」

 すぐ追い出されちゃったけどねー、と理子の質問に笑いながら答える玉陽さん。この人もHENTAIなのかしら……いや問題はそこじゃないわ。

 そう潤の相棒、とんでもない美少女である。美少女に見えるのだ。

 だが男だ、いや男の娘だ!! ナ、ナンダッテー!!

 ……いやーないわーマジないわー、このパーフェクト美少女が男とか有り得ないわー、『こんなにカワイイ娘が女の子な訳がない』とか言っても限度あるでしょ!?

「……」カキカキ

 そしてレキ、アンタはさっきから何書いてるのよ!? え、二人をTSにして書いてる? 片方胸以外ほぼまんまじゃないの!? ……なんで胸あるのよ!!!(激怒)

「あはは、みーんな同じような反応するから逆に面白いわね」

 いやそりゃそうでしょ誰がこれを見て男だと思うのよ!? 写真越しとはいえアタシの直感でも『だが男だ』って感じられないのよ!?

「ぐ、ぐぐぐ、相手が意外な形の強敵だよこれぇ……」

「いやユキちゃんライバル違うんじゃないかなあこれは……」

「どちらかというとラスボス、ですかねえ……」

 ジュン、アンタ昔の『相棒』がラスボス認定されてるわよ。ある意味当たってるけど。

 しかしこの容姿、そしてアイツの普段の女に対する態度からして、

「ひょっとしてジュンって、ホ」

「その続きを言ったらパートナー解消するぞアリア」

 いつの間にかいたジュンが冷たい無表情で断言してきたので無理矢理言葉を中断する。危ない危ない、パートナーにあらぬ疑いをかけるのは良くないことね。……久しぶりに本気の危険を感じたわ(汗)

「あら潤、お帰り。もう出来たの?」

「材料切って煮るだけなら然程掛からんよ」

 ジュンの両手には土鍋、それをテーブルの上に置いてカセットコンロで火を点ける。蓋の隙間からいい匂いがしてきた。

「ほい、開封。鳥すき鍋秋の風味マシマシバージョンだ」

『おおー』

 アタシ、理子、メヌの三人は思わず声を上げる。濃い目のスープで煮られており、食欲を湧かせる。レキもイラストを描く手を止め、鍋をじっと見つめている。

「美味しそうね、〆のうどんが今から楽しみだわ」

「はあ? 何言ってるのよメヌ、鍋の〆と言えばご飯でしょ」

「いやいや二人とも、そこはお餅をりこりんは提案します!」

『それはない』

「まさかの餅全否定!?」

「言うと思って全種類用意してあるから安心しろ」

『さっすがジュン(ユーくん、潤さん)!!』

「まあ全部俺が食うけど」

『……』

「冗談だからマジのプレッシャーはやめてくれませんかねえ……」

 食い物独り占めとか万死に値するわ。

「小分けの皿を取ってくるであります!」

 逃げたわね。

「あ、潤ちゃん私も手伝」

「ダイジョブダイジョブ、白雪は今回お客さんなんだから座ってなって」

「そうそう、ここは家の住人に任せなさい」

「今の住人は姉さんだろ」

「貴人は料理をしないものよ」

「いつの時代を生きてるんだアンタ」

 そもそも人じゃなくて狐だろ、とジト目を向けるも澄まし顔でスルーした玉陽さんである。強いわねこの人。

「で、でも……」

「あの、ご主人様、メイドが主人を働いている傍らで休んでいるのも……」

「……ふう」

 ジュンは溜息を吐くと鍋つかみを外し、何を思ったのか白雪の横に屈み、

 

 

白雪(・・)

 

 

 甘い、蠱惑的な声で彼女の名前を呼んだ。

「――――っ」

 反射的に身体が震えてしまう。離れた場所で聞いているアタシでこれなのだから、耳元で囁かれてる白雪は溜まったものじゃないだろう。現に「ひうっ!?」と呻いて顔が真っ赤だし。

「白雪はいつも家事を頑張ってるだろう? 今回はそのお礼を兼ねてるんだ、俺の顔を立ててくれると嬉しい」

「は、はい、はひ、潤ちゃんの、顔を……!」

「うん、そうそう。いい子の白雪ならその辺を察して、待っててくれるよな?」

「は、はい、待ってます、いい子で待ってますぅ……!」

 最後に「ありがとうな」と囁かれると、白雪は陶酔しきった顔でコクコク頷いている。何かこの顔見たことあるような……ああそうだ、麻薬常用者がヘブン状態の時にそっくりだわ……ってやばいんじゃないのそれ!?

リサ(・・)。リサも、分かってくれるよな?」

「!!!??? は、はいご主人様、リサもお待ちしています!!」

「うん、リサはいい子だな」

 リサも痙攣したかと思うと机に突っ伏した。揃って顔は真っ赤な上に恍惚としている。

「んじゃ、用意するわ」

 ジュンは何事もなかったかのように奥の調理場へ消えていく。え、この状況放置!?

「最近は声優も覚える言語術の一種ですね。ちょうど私の言葉で切るのと正反対の性質の、強い快楽を感じさせるものかしら」

「地味にえげつない方法使うわねアイツ……」

「たしか『呼蕩(ことう)』って言ってたかなあユーくん。おーいユキちゃんリサー、いきてる~?」ユサユサ

「はううう……」「んん……」

「へんじがない ただの かいらくづけのようだ」

「妙な改竄するな!!」

 ちなみに後で聞いたのだが、『呼蕩』は聞き続けると中毒症状になってしまうため、普段は使用を控えているらしい。……要するに電子ドラッグみたいなもんじゃないの!? 怖いわ!!

 

 

「……で、ここに建設許可を貰いに来たのが二人との馴れ初めだったかしら」

「何故か力試しと称して九歳のガキに襲い掛かる玉陽姉さんマジ鬼畜。あの時は死ぬかと思った」

「弱くて死なれた後に家だけ残されても迷惑じゃない。それに殺す気はなかったわよ、精々半殺しよ」

「明らかに殺る気だったじゃないですかやだー!!」

 玉陽さん主体でジュンと『相棒』の話を聞きながら食事を進める。話を簡単にまとめると、

・ジュンと『相棒』がここに来たのは九歳の頃

・保護者等はおらず子供二人暮らし

・家は自分達で建てた

・仕事は世話になっていた孤児院から回してもらったものや、個人経由の依頼を受けていた

・その頃は『魔術師』として活動していたらしい

・十四歳の頃に『相棒』が『行方不明』になり、ジュンは後お兄さんに誘われてここを離れた

 とのこと。仕事の詳しい内容は聞いてない、まあろくでもないのは確かね。アタシの勘がそう囁いてるわ。

 というかツッコミ所多すぎるわ!! 九歳の子供二人だけって育児放棄じゃない!? それを疑問に思わず仕事してるのもおかしいし、仕事回す孤児院もどうなのよ!? あと自分達で家建てたってこの武家屋敷みたいな家を一から建てたとかどんな職人技よ!? というか魔術師と活動してたって何!? 意味分からないんだけど!!

 半分以上は「若気の至り」で流されたけど納得できるか!! 玉陽さんも「どこぞの魔法先生みたいなものだし、自己責任だからいいんじゃないかしら?」とか言ってるけど、それで済ませていいことじゃないから!? そりゃ日本にも飛び級制度はあるけど限度があるでしょうが!?

 ……ツッコミ過ぎて頭痛くなってきたわ。デザートの栗羊羹とももまん(自前)を食べて落ち着きましょう。

「とりあえずまとめるとー、ユーくんは非常識ショタだった?」

「そんな非合法ショタみたいに言われても」

「非合法ショタ、つまり子供のユーくんとおねショタ展開……ユーくんタイムマシンかロリ神様ないかな!?」

「ねーよあったら怖いわ」

「そこは魔術師だし何とか!」

「魔術師は万能ではありません」

「ご安心を理子さん、私がショタ潤さんを見事に書き上げましょう」

「レキュ、君は神か……!?」

「俺にとっちゃ悪魔がいるんですけど、しかも二人。助けて白雪とリサ(最後の良心)

「ちっちゃい、ちっちゃいユーくんにあんなことやこんなことを教えて……きゃっ」

「ご主人様の小さい時……ああ、いけませんそんな」

「へんじがない トリップしてやがる」

 でしょうね、まあ精々妄想のネタにされなさい。

 ……前の過去話はくらーく重い感じだったんだけどねえ。掘り下げるときっついことになりそうだけど、まあ聞くことでもないか。

「というかジュン、アンタ写真だと髪と目の色が赤いんだけど」

「あー、元々は(あか)かったな。今は超能力(ステルス)、というより魔術で黒にしてるけど」

「ニュアンスが微妙に違う気がするのは置いとくけど、何で染めたのよ」

「いやだって、目立つじゃん」

「ジュン、見た目以上に行動で目立っている以上然程意味がないと思いますけど」

「普段普通に生活してるんだから意味あると思うんですけど」

「本気で言ってるなら頭の病院に行くのを勧めるんですけど」

「アリアがとても辛辣なんですけど」

 当たり前でしょ、アンタと理子が静かならミサイルの爆発音も静かって言えるわよ。

「ふふ、仲良いのね。で、潤。誰が本命なのかしら? メイドのリサちゃん? それとも理子ちゃんか白雪ちゃんかしら」

「玉陽姉さんが恋愛脳(スイーツ)になったようです」

「朴念仁の息子がどんな彼女を紹介するか気になるじゃない?」

「いつから自分が親だと錯覚していた」

「面白いから今からね」

「ヤダこの狐メンドクサイ」

 アンタがそれ言うか。というか当たり前のように恋愛話流したわね。……ああ、他がトリップしてるせいか。

「そういえば姉さん、折角だしアリアの超能力制御に手を貸してやってくんない?」

「ん? アリアちゃん魔術師見習いなの?」

「あ、はい。魔術師じゃなくて超能力使いですが」

 細かいところは然程違わないのかもしれないけど。あと、ちゃん付けは何だかくすぐったい。

「ふうん、なるほどふんふん。……そうね、その魔力量だと暴走したら大変だし、ちょっとお姉さんが教えてあげましょう」

「いいんですか?」

 基礎は潤と白雪からある程度学んだが、正直制御は苦手にしていたところだからありがたい申し出だ。

「玉陽姉さんは魔術制御に特に秀でてるからな、学ぶところは多いと思うぞ」

「褒めても膝枕くらいしか出来ないわよ」

「結構です」

「もう、子供の頃」

「から断ってたよ」

「こういう所は幾つになっても可愛げないわねえ」

 やれやれと肩を竦める玉陽さん。まあ潤が他人に甘える姿ってのも想像できないけどね。……もうちょっと、周囲を頼ってもいいと思うけど。戦力的な意味だけじゃなく、ね。

 

 

 で、その後食休みを挟んで理子、白雪も含めた超能力三人組で特訓することになったんだけど。

「じゃ、始めましょうか」

『オオオオオオォォォン!!』

「ちょ、タマ姉さんが妖狐にトランスフォームしたですよ!?」

「ぎょ、玉陽様、何故そのお姿に!?」

『実戦の中で制御術を使えるようにしたほうが良いでしょう? というわけで全力で制御しながら私を倒してみせなさい、失敗したら(物理的に)美味しく頂くから』

「とんだ脳筋思考じゃないの!?」

『失礼ね、これが一番手っ取り早いのよ。潤、貴方も何か手伝いなさいな』

「ん? あーじゃあ蔵から引っ張り出した魔導書で、

『顕現せよ七十二の一、憎悪のままに人を焼け』」

 ズドォン!!!!

『オオオオオォォォォォォォ……!!!』

「ギャー!!? バアルだこれーー!?」

「ちょ、魔○柱呼ぶとか何考えてるのよ!? というか何でそんなの出来るのよ!?」

「ダイジョーブダイジョブ、一時間もせずに消える劣化模造品だから」

「……劣化ってどのくらいよ」

「さーて風呂でも沸かしてくるかなー」

「マテやコラアアアァァァ!!!?」

 とりあえず訓練を終えて一言、生きてて良かった!! 冗談抜きで強かったわよ両方とも……そう両方とも!!

 なお疲れて即寝た翌日、理子と二人がかりで潤をボコボコにしたのは言うまでもない。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 暴露話に花を咲かせられた主人公。子供の頃からロクデナシだった模様。
 なお、魔○柱の魔力は本人でなく魔導書が賄っている。「あんな馬鹿魔力前提の顕現、自前で維持出来るかっての」とのこと。
 

神崎・H・アリア
 男の娘に女子力で負けたりツッコミ入れまくって久々に疲弊した模様。その後地獄の模擬戦だからたまったものではない。
 なお終了後、本当に制御が一段階上手くなった。「脳筋主義な方法で身になってるのが腹立つわ」とは本人の言。
 

峰理子
 鍋の〆は餅派のロンリーガール。実際美味しい、はずである、多分(オイ)
 タイムスリップしてのおねショタというよく分からない新ジャンル? を生み出そうとした。業が深すぎやしませんかねえ……
 

星伽白雪
 呼蕩でノックダウンされた女子その1。なおその後、何度か潤に頼もうか葛藤してた模様。アカンて。


メヌエット・ホームズ
 今回は静観役。

リサ・アヴェ・デュ・アンク
 呼蕩でノックダウンされた女子その2。なおその後、時々物欲しそうな視線を潤に送っていたとか。アカンて。

レキ
 ひたすらイラスト作業に徹していた子。なお、おねショタイラストは後に数人の手に渡り、好評だったとか何とか。
 
玉陽
 書いてる内に掴み所のなくなった狐のお姉さん。潤のことは弟のように、あるいは子のように見ている……のかもしれない。
 

『相棒』
 超絶美少女(♂)。イメージ的にはりり○よ+閻魔○い+両○式を足していい所をミックスしたハイブリッドキャラ。ちなみに家事万能、女子力がストップ高。だが男だ。

 
氷条邸
 京都郊外にある家、もとい武家屋敷。規模的には大名屋敷クラス。でかい(確信)
 色々な武器や魔導具が置かれている『蔵』、数か月分の食料が腐らないよう時間を止めて保存されている『糧食庫』、適当に掘り当てた『露天風呂』など色々あるが、これ以上使うとパワーバランスが崩壊するので今後使われる予定はないし、他の施設も使わない(戒め)

 
後書き
 Xオルタと新宿のアーチャーが出ました。ガチャは絶好調ですがリアルの運は死滅しているゆっくりいんです。勉強も仕事もしたくないでござる!!
 さて、半端な感じですが修学旅行編終了です。潤の過去に多少なりとも触れましたが、とりあえず昔からやべえ奴だなと認識いただければ大丈夫です。多分設定が活かされるかは微妙だし……(オイ)
 次回は小話を挟んだ後七章に進む予定です。いつぞやのリクエストされたものか、もしくは割と謎な潤の一日でも書くか……筆とノリ次第ですね(マテ)
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。
 
 

 


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小話 大体いつもこんな一日(いつもそうとは言ってない)

 今後出るであろうキャラたちの設定が脳内でどんどん酷くなっていく……



 

 孫子曰く、敵を知り己を知れば百戦危うからずと言う。

「というわけで自分を知ったので、にっくきアンチクショウもとい遠山先輩を尾行したいと思います!」

「イギリス人のアタシでも何か違うの分かるわよそれ!? いや逆に合ってるのかしら……?」

「多分合ってますけど方法が致命的に間違っているんじゃないですかね。というか尾行するのに大声出すのもどうかと」

 それもそうね。ああ忘れてた、神崎・H・アリアよ。修学旅行から帰って初めての休日、出掛けようとしたらおつむがちょっと心配なアタシの戦姉妹(アミカ)間宮あかりと、あかりの戦姉妹志望の乾桜が我が家(男子寮)の前でスタンバってるもんだから、何事かと声を掛けたらさっきの宣誓よ。

 気合十分なのは良いけど、我が戦姉妹は尾行に向いてないと思うわ。そもそも変装すらしてないし、せめて髪型変えるくらいしなさいよ。

「というか何で尾行なのよ、普通に情報収集なり模擬戦での動きを思い出せばいいじゃない」

「いや長い文章読んだり考え込むと頭痛くなってくるんですよ……」

「……」

 桜の方を見ると、手遅れですと首を横に振った。この子ここまでバカだったかしら、初めて会った時はもうちょっと考えて動いてる……訳でもなかったわね(白目)

「とりあえず、尾行する気なら髪の色くらい変えなさいよ」

「アリア先輩も遠山先輩の弱みを探すの手伝ってくれるんですか!?」

「目的変わってるじゃないの!? アンタの尾行があまりにもなってないから口を出したくなっただけよ!!」

「なるほど!」

「普通に納得するな!」

 とりあえず蹴っ飛ばしといた。「痛いです!」とか言ってるけど無視よ無視。

 まあ本音を言うと、アタシも潤が一人の時何してるのかは気になる。大抵誰かといるし、相手のペースや行きたいところに合わせること多いのよね、アイツ。

 というわけで尾行に混ざることにする。予定だとあと二十分くらいで出掛けるはずね。

「とりあえずアンタ達も含めて簡単でもいいから変装しておきましょうか。り」

「よしハイマキ、そこでれいとうビームだ!」

「キュウーン……」

「むむ、これもダメかあ。それじゃあサイケこうせ」

「不可能なことやらせようとしてるんじゃないわよ可哀想でしょうが!!

「ユンゲラー!? 蹴られるりこりんは可哀想と思わないのですかアリアん!?」

「アンタを哀れむくらいならア○バを哀れむ方がマシよ!」

「うわあグサッと来た! ハイマキ、乙女ハートに大ダメージな理子の仇を取るためアリアんにアタック!」

「 」ブンブンブンブン

「最終形態フリー○を前に絶望した野菜王子みたいになってる!?」

「誰が宇宙の帝王よ!」

「ポルンガ!?」

 もう一回蹴り入れておいた。というかハイマキ、そんなに脅えなくてもいいでしょ――目を向けた途端降伏のポーズ取らないでよ!? 何もしないから!

「バカやってないでさっさと変装道具出せバカ理子!」

「乗ってくるアリアんも同罪だとりこりん思いまーす。もう仕方ないなあアリ太くんは」

「オラア!」

「オラエモン!?」

 背負い投げで地面に頭から突き刺してやった。誰がダメメガネよ!?

「あの、峰先輩は大丈夫なんですか……?」

「うーうー言いながら抜けようとしてるし平気でしょ。これくらいで大人しくなるならアタシの胃は痛まないわよ」

「……大変ですね、ツッコミ役。特に周りがボケばかりだと……」

 桜が遠い目になっている。ああ、この子とは仲良くなれる気がするわ。周りが天然バカにヤンデレストーカー、百合っプルにネタ収集者だものね。

 ……改めて考えるとカオスね、アタシの周りも他人のこと言えないけど。……今度お茶にでも誘おうかしら。

 ちなみに桜がここにいるのは、早朝に尾行を思いついたあかりに何の予告もなく引っ張り出されたらしい。あかりアンタ……

 

 

 さて、グダグダやりながらも簡単な変装(ウィッグ付けて軽く化粧した)を済ませて待つことしばし、潤が寮から出てきた。携帯を弄りながら降りているためか、階段脇に隠れているアタシ達に目を向けることはない。

「まずは第一段階突破ですね!」

「遠山先輩でも気付かないことがあるんですね」

「いやー気付いてて無視した可能性も大」

 アタシも理子の意見に賛成。普段は全身に目がついてるんじゃないかってくらい気配に敏感だからねアイツ。……この間の魔神○思い出したわ、これ以上考えるのはやめましょう。飛び出して潤を殴り飛ばしたくなるし。

 まあ最悪見失わければいいでしょ。ハイマキ、追跡は頼むわよ。

「ワフ」

 よしよし、いい子ね。ちなみにこの子がアタシ達と一緒にいるのは、現在(イラストの依頼で)修羅場ってるレキに代わって理子が散歩を頼まれたからだ。

「あ、ユーくんバイクで移動するつもりですな」

「キュウーン……」

 いやだからいきなり伏せないでよ!? 別に追えなくなっても怒ったりしないから!?

「その代わり酷いことするんですね、エ」

「言わせねえわよ!!」

「ラブアンドピース!?」

 後輩に際どいネタ振ろうとするな! あかり、「エ、なんですかね……?」って考えなくていいから! 知る必要のない知識よ!

「は、それよりもこのままでは追いかけられなってしまいます! どうしましょう!?」

「いやジュンがバイク乗るのくらい予想しなさいよ!?」

「ぶっちゃけ持ってるのも初めて知りました!」

「もう尾行やめろアンタは!?」

「あの、遠山先輩行っちゃいますけど」

 ああそうね、縦四方固め極めてる場合じゃなかったわ。

「理子」

「ほいほいりこりんにおまかせ~。というわけで皆、ゴーくんから死ぬまで借りてるハイエースに乗るのだ!」

「死ぬまでってつまり貰ったんじゃ……?」

 そこで盗んだって発想が出ない桜はまだ穢れきってないわね。

「やー、ハイエースに乗るといつも興奮しますな!」

「峰先輩、ハイエースお好きなんですか?」

「いやいやさくっち、ハイエースでハイエースすることを考えると興奮するのですよ!!」

「はあ……?」

 よく分からないと首を傾げているけど、知らなくていいことよ。誘拐の時にハイエースが一番使われてるってことなんて。

 理子の巧みなドライビングテク(詳細は伏せるわ)によって付かず離れずの距離を取り、辿り着いたのは上野だった。車を適当なコインパーキングに停め、尾行を続ける。

「あ、潤じゃんヤッホー! 偶然会ったんだし、どっかでお茶してかない?」

「奢りじゃないなら考えるけど」

「よー潤! 今暇か、暇だよな!? この間のカラオケ勝負のリベンジだ!」

「暇だけどお前の相手をするほど暇じゃない」

「潤さん! 今日新しい娘入るんですけど夜どうすか!?」

「未成年に風俗を薦めるんじゃねえよ」

 歩きながら色々な人に声を掛けられる。武偵高生徒、バンドマン、ホストみたいな男、果ては893から政府の偉い人まで……というか最後の人テレビで見た与党の議員よね? 「今度暇なときまた意見を聞かせてもらいたい」とか言われてるけど、アイツどんだけパイプ持ってるのよ。

 ちなみに会話は私が拾ってる。そこそこ離れてるし喧騒の中だけど、これくらいなら訳ないわ。あかり達は驚いてるし理子は「超能力(ステルス)なしでそれとかアリアんが人外じみてきてヤバイ」とかほざくのでアイアンクローの制裁加えといたけど。というか理子も聞こえてるでしょうが!

 そうこうしてる内に辿り着いたのは、一軒のカラオケ屋。ヒトカラでもするのかと思ったが、ジュンは受付に何か言って上へ向かう。

「私たちも突入しますか?」

「鉢合わせたら面倒だし、もうちょい待ちましょ」

 それから十分ほど経ち、ジュンは女子高生と一緒に降りてきた。見た限り一般高の娘ね。

 その子は涙目で何度も頭を下げている。えーと、お礼を言ってるみたいね。ジュンは……「喧嘩してもいいけど、無闇に家出するなよ」か。なるほど、家出少女を探してたのね。駅まで送って迎えに来てた親御さんにわざわざ引き渡すあたり、面倒見いいわねコイツ。

 そうして次に向かったのは、ビル内にある事務所。

「あれ、ここってたしか最近勢力を増しつつある893さんの事務所だったような……?」

「え、ちょ、それいくら遠山先輩でも危なくないですか!? 一対多数に正面からとか無謀ですよ!」

「大丈夫だと思うよ、桜ちゃん」

「平気でしょうね」

「問題ナッシングレベルですな!」

「あれ、心配してるの私だけですか?」

 だって893数十人程度にアイツがどうにかなるなんて思ってもいないし。どうせ無傷で出てくるでしょ。

 壁に張り付いてその後の経過をざっくり眺めると、

「なんじゃこのガキィ、ここはロペス組やぞ!?」

「どーもー武偵でーす。これから詐欺罪の強制捜査に入ります、拒否権はない」

「はあ!? オイ待てや武偵さんよ、何の証拠と権限があってここにきやがった!?」

「証拠は今から探す、権限は武偵だから自己判断の自己責任なので問題ナッシング、おk?」

「おk、な訳ねえだろうが!? そんな横暴通るんだったら警察のカチコミも許されるわ!!」

「横暴ちゃう、正面突破や。さっきの一言目を恐喝罪に仕立て上げてもいいんだし。

 というかお前等みたいな現代ヤクザの知能犯気取りは正面から殴り込みした方が早いんだよ常考」

「そんな理屈通るかああぁぁぁ!!?」

 うん、幾ら武偵でも通るか微妙よそれは。まあ十分もすると警察が来て、893達を一網打尽にしてたけど、不思議と彼らに同情したくなるのはなぜかしら。

 それから昼食を挟んで本屋、金券屋、そしてゲームセンター? また誰か探してるのかと思ったが、そうじゃないっぽいわね。美少女フィギュアが並ぶUFOキャッチャーを素通りし――理子が一々立ち止まるので襟首掴んで引っ張る羽目になった、ギョッとされたけど仕方ない――、奥のネコとかレオポンのぬいぐるみが置かれたコーナーだ。ってレオポン!?

「アリアんストーップストップ、出てったら見付かるから!? というか以前一個取るのに五千円溶かしたことあるよね!?」

 離しなさい理子、アタシには例えばれてでも負けてでもやらなきゃいけないことがあるのよ!!(←万札を握りながら)

 く、ハイマキを連れてこられないゲーセンでアタシの目を欺くとは、やるわねジュン!(違)

「アリア先輩がかつてないほどハイになってますねこれ」

「ピーポニャン見て興奮する時の桜ちゃんみたいだねー」

「ちょ、あかり先輩それは言わない約束じゃないですか!?」

 恥ずかしがることはないわよ桜、好きなものは好きなんだからしょうがない!

「さあ待ってなさいレオポン、今日こそ華麗にゲットしてやるわ!!」

「金を溝に捨てる行為はやめなさいアリア」

「捨てるんじゃないわ、これは必要経費よ!

 ……って、わひゃあ!?」

 ジュンの奴、いつから背後にいたのよ!?

「お前がレオポンに夢中だった時だけど。で、半日尾行してて何がしたかったんだお前等」

「ユーくんのプライベートを余すところなく覗いてユキちゃんに自慢するためですよくふふ」

「寄るな人権侵害者」

「そこまで言う!?」

 呆れ顔なジュンの手には、抱き枕型レオポン!?

「ふふふ、流石遠山先輩私達の尾行を見破るとはやりやがりますね!!」

「最初からばれてましたけど」

「しかしここで会ったが三日ぶり、今日こそぶっ飛ばさせていただきます! 

 喰らえひかちゃん直伝鷹捲――アタッ!?」

「ゲーセンで騒ぐな暴れるな、出禁喰らったらどうしてくれるんだよ」

 チョップ一発であかりの暴走を止めた。そうね、レオポンが壊れるから暴れるのは良くないわよあかり(真顔)

「とりあえずジュン、その子をくれるなら今日一日尾行されたことは許してあげるわ」

「なんで俺が許される方なんですかねえ……メヌにやるか、このレオポン」

「すいません謝罪でも何でもしますからそれを私にください」

 土下座も辞さない構えである。メヌにあげたら絶対くれる訳ないし、「羨ましいですかお姉様? 羨ましいですよね?」って煽られるのが目に見えてるのよ!

「その素直さに裏を感じるのは俺だけだろうか」

「アンタアタシを何だと思ってるのよ」

「ももまんとレオポンバカ。まあいいや、ほれ」

「レオポンに免じて許してやるわ」

「そりゃどうも。乾さんはこれ、ピーポニャン好きって聞いたから」

「あ、ありがとうございます! ……あれ、私遠山先輩に教えましたっけ?」

「情報は武偵の命だからな」

「むー! ねえユーくん、理子のはー!?」

「頭グリグリすんな痛いから。ほれ、アルトリアとジャンヌのオルタセット新宿Ver」

「流石ユーくん愛してるー!」

『リア充爆発しろ!!』

 何か周囲の客から一斉に声が上がった。男女問わずとかどんだけよ。

「ぐ、まさかアリア先輩や桜ちゃんも懐柔されるとは……! でも、私は一人でもあきらめな」

「間宮さん、この辺に隠れ家的な洋菓子店あるんだが一緒に行く? 俺の奢りで」

「慎んでお供させていただきます!」

 ビシッと敬礼してきた。落ちるの早いわね、まあ食い物で釣られる以上あかりは勝てないか。

 ところでジュン、その奢りはアタシ達も含まれるのよね?

「夕飯に支障出たらリサと白雪にチクるぞ」

 失礼ね、ホールくらいまでなら大丈夫よ!

「そんなに食べて何で太らないんですか!?」

「女の子はお菓子の容量無限大なのだよさくっち!!」

「容量は無限大でもカロリーは来ますよ!?」

 それくらいで太るなら運動量が足りてない証拠よ(真顔)

 こうしてアタシ達はジュンの奢りでケーキを堪能し、満足して帰途に着くのだった。尾行の成果? あーうん、とりあえずジュンは一人でもやらかしまくるでいいんじゃないかしら(適当)

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 半日尾行され続けてた野郎。なお、最初から気付いていたが声を掛けなかったのは、「杜撰すぎて逆に声掛けづらかった、というかでかい声で叫ぶなよ」とのこと。そりゃそうだ。


神崎・H・アリア
 レオポン・ももまんに関してはプライドを捨てるのも辞さない暴走モードになるツッコミ役。本人曰く「つい理性をパージしちゃうのよ」とのこと。
 

峰理子
 ハイマキの散歩をしていたら面白そうだったので同行したノリと勢いで生きている奴。なお、オルタコンビを白雪に見せて自慢した模様。すぐ殴り合いになるが、いつものことである。
 なお、アリアと揃って本当にケーキ1ホールを平らげ、店員と後輩を戦線恐々させていた。これでもおやつの範囲らしい。
 

間宮あかり
 順調にバカキャラ化が進んでいるAAの主人公。マジでどうしてこうなった、反比例して戦闘力は高くなっている。
 ジュンをライバル視しているが、食べ物に二秒で釣られるため色んな意味で勝つのは当分先の話である。
 

乾桜
 百合の花咲き乱れる花畑の中、一人ツッコミを頑張る苦労人。次点は火野ライカ。
 アリアと理子のやり取りを見てボケ役を止めるのは暴力も辞さないといけないのかと悩んだりしたとか何とか。


ハイマキ
 ご主人様以外に散歩へ連れて行ってもらったら、何だか妙なことに巻き込まれた武偵犬(狼)。なお喫茶店で犬用クッキーを貰いご満悦。
 アリアには逆らっていけないという本能が染み付いている。強者に従う犬の本能である。


後書き
 間宮あかりのバカキャラ度がグンと増した気がします、ののかちゃん頑張れ!(オイ)
 はいどうも、遠山潤です。今回の小話で潤の生態というか一人だとどうなるか書くつもりだったのですが……うん、いつも通りgdgdしただけだな! 何も分からん!(マテ)
 さて、次回はリクエスト分の小話を消化しようと思います。メインはリサです、お好きな方はお楽しみに。普通の話にはなる……のかな? ウチに限ってただのラブコメは有り得ませんけど(真顔)
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。
 
 
 
 


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リクエスト小話 いつから定番所に行くと錯覚していた?

 今回はいっしーさんリクエストの話となっております。しかしリサ大人気やな……先行で出して今更ですけど、皆さんはリサ好きですか?



 

 秋葉原。別名『武偵封じの街』。海外メディアでも日本のオタク街として有名であり、外国人観光客も多い場所である。

「ですがリサはアキバではなく、中野に行くことを選択しました」

「何でキリッとした顔で言うんだよ」

 どうも、遠山潤です。本日は俺とリサの依頼休みが重なったため、二人でデート中(リサが言うには)である。場所はリサの言うとおりアキバでなく中野、カオスのオタクビル中野ブロード○ェイが存在する、隠れたオタク街だ。

 アキバは何回か回ってるが、中野は初めてだな。隣のリサはウキウキしているのが分かる表情で周囲を――オイ、犬耳出てるぞ。

「あ、申し訳ありませんご主人様! んん……戻らないです」

「興奮すると戻らないもんなのか……? まあいいか、コスプレと思われるだろうし」

 アキバみたいにコスプレイヤーが大量にいる訳じゃないから目立つが、元々白人系の美少女ということで注目されているため、大して変わることはない。100に1を足す理論だな。

「しかしなんで中野? アキバの方が欲しいものは多いと思うが」

「メイドカフェを見ると一言物申したくなるもので」

「ご意見番かお前は」

 まあ言いたいことは分からんでもない。本職からすれば客商売でやってるメイドカフェに思うところはあるのだろう。

「あとこれはリサ個人の問題なのですが、流行りものに便乗するのは負けた気がしてしまうんです」

「ウチのメイドは厨二病なようです」

 マイナー路線カッケー心理に聞こえるぞ。というかお前理子と今期のアニメ毎週欠かさず見てるじゃねえか。それは別問題? アッハイそうっすね。

「まあいいけどさ。つってもブロード○ェイ以外何があるのかねえ」

「ご主人様、あちらにコアラの○ーチ焼きというのがありますよ。世界でここだけの販売だそうです」

「ふうん、結構並んでるな」

 形もコアラの○ーチなんだな。ふむ……

「皆様へのお土産用と、今食べる分に幾つか買って行きますか?」

「……顔に出てたか?」

「はい、物欲しそうな子供のようでした」

 クスクス笑われてしまった。しょうがねえだろ、日本人は限定って言葉に弱いんだよ。誤魔化すために笑ってる顔も可愛いなと褒めたら、リサは(犬)耳まで真っ赤にして「ご主人様にそこまで褒めていただけるなんて……リサは、リサは……」と、何か辛抱たまらんみたいな顔してたが。帰ったら変なことされそうだなあ……

 なお、並んでた最中なので野郎どころか女子からの嫉妬ビームもやばかったのは言うまでもない。人を妬む暇があったらいい人でも探した方がいいと思うぞー。……殺意が混じったな、なんで全員心読んでるんだよ。

 

 

「ヘルモーイ(素晴らしいです)!」

 ブロード○ェイ内でリサの第一声がこれである。周りの客が何事かとこちらを見て恥ずかしそうにしてるが、叫ぶのも無理はない。正直ネットで話題に上がるほどの場所か? と思っていたのだが、いい意味で予想を裏切られたわ。

 ガイドブックを見ながら店を冷やかしつつふらつく。ふうん、地下はスーパーと飲食店になってるのか。その気になれば一日中遊べそうだな、まさにオタクのデパートってか。

「まん○らけ多いな、どんだけ分かれて存在してるんだこれ」

「ご主人様、こちらでスマホのオリジナルカバーを作ってくれるらしいですよ! これでネコ○ルクペアルックなんて……キャッ」

「え、それで恥ずかしがるの?」

 いや面白いけどさ、お前持ちキャラ白○ンなんだからそっちのセットにしろよ。

 などとカバーのデザインを考えたり(結局複数個作った)、

「おーいリサ、そっち成年誌のコーナ」

「……よ、世の中には色々なプレイがあるのですね。モーイ、勉強になります」

「無理に取り繕わなくていいから」

 というか未成年が読むなよ。あとメイド物を気にしながらこっち見るのやめような?

 などと(リサが)恥ずかしい思いをしたり、

「ネタTシャツも集まるとカオスだなあ。あ、壁殴り代行」

「ご主人様、てめぇ馬鹿か! Tシャツありますかね?」

「それはしんよこに行った方がいいんじゃないかなあ」

(お前等見てる方が壁殴り代行頼みたくなるわ!!)

 などと店員から負のオーラを感じたり(チラ見したら慌てて営業スマイル浮かべてた。おせーよホセ)、

「これと、これ……あ、店員さん、こちらのショールームにあるのもお願いします」

「化粧品随分買うな、どれも切らしかけてたっけ?」

「いえ、これは理子様から依頼されたご主人様女装用のセット」

「よし今すぐ戻せ」

 などと女装用化粧セット購入を阻止しようとしたり(結局買われた)、色々見る場所は多かった。そんでもって本日の本命、

「ここが噂の中野T○F……北斗の聖地ですね!」

「違……わないな。うわあ、人間やめてるプレイヤー多くね?」

「ご主人様、リサ行ってきていいですか?」

「そこで目を輝かるリサが流石だよ。いいよ、楽しんできな」

「はい、ありがとうございます!」

「ああん? なんだあ姉ちゃん、女だからって手加減しないぜー?」

 ……なんでここにもモヒカン(ガチ)が湧いてるんですかねえ。

「はい、全力で楽しみましょう」ニコッ

「……ポッ」

「あの兄さんは童貞」(適当)

 アタァ!!

「ギィヤァーーーー!?」

「ありがとうございました」

 しかもこの強豪勢に勝つし。常連相手に二十連勝していったリサは『謎の白人美女ゲーマー』として、しばらく噂になったとか。ただの(キチガイレベルの)格ゲーマーメイドです。

「お帰りー、見事に勝ち逃げしてきたな。……どうした、ニコニコして」

「ご主人様、リサが最初の方に笑って挨拶した時、ちょっと複雑そうな顔してました」

「んー? そんな顔してた?」

「はい、してました」

 マジかよ、自分で気付かないとか脳味噌がいかれたか、俺。

 ニコニコしっぱなしのリサと腕を組みながら、ゲーセンを去る。世紀末チックなお兄さん達から嫉妬の視線を頂くが、もう慣れたよ。

 

 

「ブラックコーヒーとシュークリームでお願いします。ご主人様はどうなさいますか?」

「ホットココアとショートケーキ、あとモンブランで」

「は、はい、かしこまりました」(男の人甘いもの多!? というかご主人様って……)

 同じブロード○ェイ内の喫茶店、店員さんのギョッとした視線を受けつつ注文を済ます。すいませんね、変な関係では……あるか、現代的に考えれば。

「ご主人様、今日はありがとうございました」

 注文が届いてからしばらく雑談していると、リサが頭を下げてきた。なんぞ、改まって。

「い、いえ、ご主人様の貴重なお休みをメイドであるリサのために使って頂いたので……」

「ああ、そういうこと。気にしなくていいぞ、俺も楽しかったし、普段家事やってるリサには見合うものがないとな」

 寧ろ普段の仕事っぷりを考えたらこの程度の対価では足りないくらいである。リサ一人の参加で家事と家計の負担が一気に軽くなったからなー。もうリサに足を向けて寝られん。

「そ、そんなことないです。寧ろご主人様が主義を曲げてまで受け入れてくださらなかった時のことを考えると、リサの方が感謝しても仕切れません」

「アレは意地張ってたみたいなもんだよ。俺一人の主張を曲げて人一人が救われるなら十分合理的だろうよ」

 

 

「はっ!? 今お兄ちゃんが凄い波長の合う表現をした気がする!」

「……最近変な電波を定期的に受信するねフォース。クスリでどうにかなる身体じゃないでしょうし、頭でも打った?」

「愛の成せる(わざ)だよ!」

「ああなるほど、(わざ)なら納得したわ」

 

 

「リサはもうちょっと我侭行ってもいいんだぞ? それくらいの成果は上げているさ」

「え、そんな、でも、リサはご主人様のメイドで、こんな出過ぎたお願いを何度も言うのは……」

「立場で遠慮する必要はないぞ、少なくとも俺に対しては」

 ココアを飲みながらそう言うと、リサは感動に潤んだ目で、

「ヘルモーイ、やはりご主人様は素晴らしい御方です……でしたら、あの、またお休みが重なった時、一緒にここへ行きませんか?」

「ん、いいぞ。まだ見れてないところもあるからな」

 正直俺もここ気に入ったし。頷いて肯定すると、

ダンキュウェル(ありがとうございます)、ご主人様」

 華の咲くと呼ぶに相応しい笑顔で、リサは微笑んだ。次いでテーブル越しに俺の手を掴み、笑顔から一転顔を赤らめて、

「あ、あの、ご主人様。ぶ、不躾ながらもう一つお願いが」

「――んー、ちょっと待ってくれ」

 手を掴んだままのポーズで困惑するリサを背に席を立つ。そうして俺達の二つ隣、黒髪の女子高生三人組の前に立ち、

「で、お前何するつもりだったんだ理子(・・)

「ぎギクゥ!? だ、誰のことですかなー?」

 その発言でお前だって一発で分かるよ。あとその手にあるボールペンに偽装した爆弾を仕舞いなさい。

 観念したのか理子と他一名(一人は黒髪そのままなので白雪)はウィッグを脱ぎ、気まずげな笑顔を浮かべる。リサは「理子様!?」と驚いてるな。

「あ、あははー。いつから気付いてたユーくん?」

「モノレール乗るところから視線は感じてたな」

「最初からばれてましたね、理子」

 対面でクスクス笑うメヌは、反省の欠片も見受けられない。というかお前も元気になったな、数時間歩き回っても平気なんだから。

「え、えーと潤ちゃん、あのね? 駅で偶然二人を見掛けて、それで気になって二人を追いかけて、て……ご、ごめんなさい!」

 土下座しそうな勢いで頭を下げる白雪。うん、素直に謝れるのはいいことだよ、許す。

「気になったので」

「是非もないネ!」

 うん、お前等はダメだ。

 リサは静かに立ち上がり、こちらへと近付いてくる。いつも通りのニコニコ顔だが、ちょっと負のオーラを纏ってるのは気のせいじゃないっぽい。

「理子様、メヌ様。夕飯はヘルシーメニューを提案しようとリサは思うので」

『すいませんでした!!』

 めっちゃ危機感のある顔で謝った。リサを怒らせてはいけない(戒め)。

 リサは小さく溜息を吐いてから、バカ二人のことも許してやった。お疲れ様。

 ……お願いはまあ、別の時に聞くとするかね。内容は大体察せるし、叶えられるかどうかは別だが。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 メイドと一緒に休みを満喫してきた主人公。随所でイケメンっぷりを発揮し、周囲の嫉妬ビームを何回も喰らっていた。多くは言わない、もげろ。


リサ・アヴェ・デュ・アンク
 アキバでなく中野をチョイスするややディープな感じのメイド。チョイス理由の一番は格ゲーなのがここの彼女らしい。
 潤に終始ドキドキさせられっぱなしだが、最後の最後で台無しにされたのは流石に溜息もの。ちなみに帰ってから改めて『お願い』を聞かれたが、恥ずかしくして言えなかった模様。
 
 
峰理子
 前回に引き続きストーカー行為に精を出す変態淑女。「ちょっと癖になってきたかもしれない」とは本人の談。やめて差し上げろ。


星伽白雪
 理子とメヌエットに唆されてストーカー同行した巫女さん。リサ相手には流石に嫉妬攻撃も控えめな模様。


メヌエット・ホームズ
 興味本位でストーカーに同行した安楽椅子探偵。罪を罪とも思わないいい根性しているが、夕飯のメニュー変更には勝てなかった。なお、足の調子は走りさえしなければ健常者と然程代わらない模様。
 
 
後書き
※注意:この中野はフィクションです。実際の団体、企業とは関係ありません。
 ……よっし、注意書き終わり。どうも皆さん、ゆっくりいんです。というわけでリクエスト作品、リサメインでお送りしましたが如何でしたでしょうか? 萌えればいいと思います(オイ)
 ちなみに今回何故中野かというと、リクエストアキバだったんですがブラド編でやったのと、実際に作者が中野行ってきたからです。それが活かされてるかは……分かんないネ!(マテ)
 では、次回より第七章『吸血姫と忍者』編をお送りします。新キャラの崩壊度? ハハハ、ナンノコトデスカネエ?
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。




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『西洋忍者・紫電の魔女』編
第一話 選択が二択とは限らない(前編)


 ギャグ動画で笑ってたら小説のネタを忘れた……そんな経験皆さん在りませんか? 私が今まさにそうです(真顔)
 仕方ない、この間買って放置していたFate/Exterraをやりながら思い出し、
ジ「とっとと書かないか作者! 久しぶりの私の出番なんだぞ!」
 あ、そういえばジャンヌさん出ますね。
ジ「私だって出たくないんだ……だけど、だけどなあ、こればっかりは仕方ないんだ!」(泣)
 扱いが酷い恨みはアリアさんか理子さんに言ってください。
ジ「諸悪の根源は貴様だろうがあ!!」
 デスヨネー( ゚Д| |゚)
 
 
追記1 
( ゚Д| |゚)……あ、前章で星伽神社の分社に寄るの忘れてた。
風雪「……」(無言で非難の目)
( ゚Д| |゚)スイマセンいずれ番外編書くので勘弁してください。
風雪「……潤義兄様と二人っきりか、近い状態で勘弁して差し上げます」
( ゚Д| |゚)お義兄さん大好きですね風雪さん。
追記2
 これ書いてる時点でお気に入りが400件突入しました、ありがとうございます!
 
 
 さて前座が長くなりましたが、第七章『吸血鬼と忍者と厄介事』編、始まります。
アリア「何か不吉な単語が増えてるんだけど!?」
 気のせいです(真顔)
 



「それじゃ、チーム『バスカービル』結成を記念して……かんぱーい!」

『かんぱーい!!』

 グラスの打ち合う音が響き、そこから一気に飲み干すもの、上品に少しづつ飲むもの様々だ。こういうところで個性というか本質が出るよな。

 というわけではいどうも、遠山潤です。現在はチームの写真撮影終了後、場所はいつものマイルームで結成祝いを兼ねた夕食の最中だ。そういえば修学旅行ってチーム決めの最終調整も兼ねてたんだよな、もう決まってたも同然だったから気にしてなかったけど。

 ちなみに集合写真の際蘭豹先生にしばかれた。理由はレキがイラストを描いてて時間を忘れギリギリだったこと、リーダー決めてなくて中央を誰にするか軽く揉めたからだ。結局「はよしろや遠山ァ! お前このチームのまとめ役やろ!」という蘭票先生の一喝+スクリューパイルドライバーで俺に決まったけど。解せぬ、防弾制服・黒も汚れたし、何故俺がまとめ役と思ったし。

 ちなみに副リーダーは理子。最初はアリアが適任じゃないかと話していたが、「アタシ殴りこみ専門だから考えるのはアンタ達に任せるわ」とのこと。どんどん脳筋思考になってるけどいいんですかアリアさん。

「しっかし、レキまで入るとはな」

 確か仲のいい強襲科(アサルト)狙撃科(スナイプ)混合の別チームから誘いがあった筈だが、こっちに来たのは正直意外だ。

「ここが一番自由に動けると思ったので」

「我々はー、ここに自由主義宣言を掲げる! っていうのがりこりん達のモットーだからね」

「初めて聞いたし自由主義とフリーダムは違うものでしょうが!?」

 などと会話しながらも三人+メヌの食事をする手は止まらない。おっかしいなー、今日は和洋中ごちゃ混ぜでテーブルに置ききれないほど作った筈なのに残る気配がないぞ~?(白目)

『普段は八分目にしてるので』

 ハモりやがった。これだけ食ってもエンゲル係数で破産しないのは、間違いなくリサのお陰である。

「そ、そんな、メイドとして当然のことをしたまでで、ご主人様にお褒め頂くなんて……」

「リサちゃん、自信を持って! 私も今までの食生活だったら首が回らなくなってる自信あるから!」

 白雪の言うことには同意だが、お前ももっと自信持っていいぞ。少なくとも俺一人じゃこいつらの飯を賄いきれないし。

「さてさて、楽しんでるところですがちょいと理子のありがてー言葉にお耳を拝借!!」

「リサ、そっちのフルーツサンドイッチ取ってもらえるかしら?」

「はい、メヌ様どうぞ」

「ありがと。ふふ、やっぱり貴方の作るデザートは美味しいわね」

「恐れ入ります」

「スルーしないで聞いて!? アリアんに関わる重要なことだから!?」

 名指しされたアリアは「嫌な予感しかしないんだけど……」と不安そうな顔だが安心しろ、今回はいい意味でのサプライズだ。

「なるほど、ジュンも一枚噛んでるのね」

 今日もアリアの直感は(間違った方向で)絶好調のようです。何故そこまで信用しないし(←日頃の行い)

「ではでは皆様、お手を拝借!」

 使い方間違えてねと思いながらアリア以外の全員が取り出したのは――

 

 

「アリア、Happy Birthday!」

『おめでとー!!』

 

 

 クラッカーである。パンッ! と軽い音を立てて、紙テープがアリアの頭上に降り注ぐ。

「――え?」

 当の本人は予想外だったのかポカンとしていたが、

「いえーい、アリアんおめでとー!!」ドカン!!

「うみゃあ!?」

 理子が取り出した巨大クラッカーの音で現実に立ち返った。猫みたいな悲鳴上げてる? 気のせいです(真顔)

「何すんのよ理子!? 至近距離でそんな馬鹿でかいクラッカーぶっ放すんじゃないわよ!!?」

「大丈夫、ユーくん印の安全性は保障されてる一品だから!」

製作者(犯人)アンタかバカジュン!?」

 一晩で作りました。

「アリアさんの驚き顔、撮影成功しました」

「流石ですねレキ、現像したら私にもくださいね?」

 お前等はマイペースだね。というかメヌはともかく、レキは必要なのかその写真?

「資料用です」

「レキアンタ、肖像権の侵害くらい知ってるでしょうが!?」

 知ってても無視するんじゃないかなあ。

「まーまーアリアん、折角の誕生日なんだからそんな怒らないおこらなーい」

「アンタのせいでしょうが!?」

 全く以てその通り(←責任逃れ)。というか理子、アキレス腱固め喰らってるのに案外余裕だな。

「ふっふっふ、理子は痛いのもいける口だからイタタギブギブアリアんこれはちょっとシャレにならないレベルアップですよ!?」

「イタイ奴が何か言ってるからついギアを上げちゃったわ」

「誰が上手いこと言えと」

「言ってないでヘルプミーユーくん!?」

「アリアー、リサと白雪特製ももまんケーキが控えてるぞ」

「ももまんに未来永劫感謝しなさい理子、あとジュン」

 我々の地位はももまん以下らしい。ケーキが無ければ即死だった……(理子が)

 まあ何はともあれ、その後のプレゼントやケーキに関しては大層喜んでくれた。最後には満面の笑顔で、

「皆ありがとう、今度こそママを助けられるよう頑張るわ!!」

 と珍しく素直に礼を言ったし。……助ける、ねえ。

 なお理子を〆ている際、目尻にチラッと浮かんでいたものは――言うのも無粋だわな。

 

 

「ん? なんだこりゃ」

 アリアの誕生会からしばらくして、剛と亮の野郎三人で情報棟の講義から帰ろうとした矢先。下駄箱の中に手紙が一枚入っていた。差出人は『Janne d’arc』。ジャンヌ?

「おい潤、それってラブレターじゃねえか!? しかもジャンヌさんだと!?」

「遠山君、いつの間にジャンヌさんまで手を出してたの? 峰さん辺りが大変なことになりそうだけど」

「手を出すどころかロクに会った記憶も無いんだが」

 司法取引でジャンヌが編入して以来、顔を合わせた記憶はほとんど無い。聞いた話だと理子にぶっ飛ばされて以来、極端に俺達のことを避けているらしい。修学旅行で遭遇した際も超スピードで逃げられたからな。

 というかラブレターじゃないだろこれ、封筒のシールが逆十字になってるし。暗喩で死ねって言われてるのだろうか。

 とりあえず覗き込む剛を無視し、開封して中身を拝見すると、

『遠山潤殿

 10月1日夜一時、空き地島の南端にて待つ。

 武装の上一人で来たれし』

 フランス語でそう書かれていた。末尾に『どうせお前は読めないだろうから、裏に日本語で書いておく』などと書かれていたが、舐めてんのかお前は。というか情報科(インフォルマ)所属なら相手の個人情報くらい調べ上げておけよ。

「よ、読めねえ……潤、分かるのか? 俺、英語ダメなんだよ」

「英語じゃなくてフランス語だ剛。外国語の勉強くらいしておけ」

「お前みたいに何ヶ国語も読み書きなんて無理だっつの……英語の授業だけで頭痛いんだし」

「留 年 確 定」

「そこまで成績酷くねえよ!?」

「あはは、まあ武偵も国際化の波が来てるし、覚えて損はないと思うよ?

 それで遠山君、やっぱりラブレターだったのかな?」

「やっぱり違った。もっと物騒な内容だわ」

 武装した上で来いとか果たし状と思うだろ常考。とりあえず内容に違いがないか裏も見てみると、

 

 

『ジャンヌだと思った? 残念シャーロックでした!!』

 

 

 全力で手紙を床に叩きつけた。

「と、遠山君どうしたの?」

「いやなんでもない、殺したくなるほどイラッとしただけだ」

 ま た こ の パ タ ー ン か よ。末尾の日本語が若干ぶれてておかしいとは思ったが、あの野郎どんだけ手紙を書いてるんだ。

『はっはっは、死ぬほどイラついてもらったようで何より』

 的確に心理状態を予期してるんじゃねえよ。お前俺に恨みでもあるのか。

『量産型ボン○くんを奪われた挙句殴られたのだから、怒りを持つのは当然だろう?』

 ありゃ俺じゃなくて理子がやらかしたのだよ。

『というのは冗談で、英国紳士のお茶目なイタズラさ』

 ファック。よし、亡霊でも実体でもいいから出てこい英国紳士(クソ野郎)、テメーは最低二回殺す。

『おお怖い怖い、こういう時文章で良かったと思うよ。

 まあ前置きはここまでにして、遠山潤君。君ならジャンヌ君の手紙の召集(表は彼女自身に書いてもらったものだ)について、心当たりがあるんじゃないのかね?』

 ……まあ、なくはない。潜水艦イ・ウーには即席の自走装置を付けて適当に世界中を回らせて目くらまししているが、メンバーの何人かはあの日に脱してるんだし、組織自体の崩壊は大半知られているだろう。

『そう。イ・ウー崩壊によって、世界のパワーバランスが崩れた。これによって新たな争いが生まれるのは、謂わば必然なのさ』

 何だかんだで結構な影響力あったんだな。俺の古巣は特に影響ないみたいだが。

『『裏の裏』にまで影響を及ぼすほど自分のことを自惚れてはいないさ。さて、実はこの状況を推理して、一つの布石を打っておいた。それはだね――』

 最後に書かれていた一文、それを見て俺は――

 

 

「ふっざけんなああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!?? あんのクソ探偵があああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 ブチ切れた。ええそりゃ剛と亮がドン引きしながらも心配するくらいでしたとも。だがこれは無理だ、叫ぶな怒るなというのが土台無理な話だ。

『はっはっは、まあ頑張ってくれたまえ若人よ』

 二回目だが笑い声を書くんじゃねえよ、というかとんでもないやらかししておいて平然と後始末を押し付けるんじゃねえ!?

 そうして俺は対応が遅れた、末尾に『なお、この手紙は読み終わると突撃してくる』というのに。

「…………」

 顔に殺す勢いで張り付いてきた手紙を力任せに剥がし、何事かと駆けつけてきた情報科の教師(二十代女性、独身。戦闘能力なし)を一睨みで退散させた。おう人の顔見て高速で逃げ出すとはどーいう了見だ。

「遠山君、人に見せられないような悪鬼羅刹の表情になってるよ……?」

 亮に鬼か悪魔で例えられた。とりあえず一つ深呼吸し、

「すまん、落ち着いた。ああそうだ、剛」

「お、おう。なんだ?」

「とりあえず五百発くらい殴らせてくれ、もちろん全力で」

「嫌に決まってるだろ!? というか五百発も殴られたら普通に死ぬわ!!」

 それくらいしないと収まりそうにないんだよ(←八つ当たり)

 

 

おまけ 集合場所にて

「ようジャンヌ、とりあえず十発くらい殴らせろ」

「いやだああああああやっぱりこうなったあああぁぁぁぁ!? 私は悪くない、私は悪くねえ! 全部教授(プロフェッサー)って奴の命令なんだ!!」

 出した時点でてめーも有罪だよ。まあ流石にどうかと思うので、殴るのはやめておいた。露骨に安堵してるが、お前普段理子に何されてるんだよ。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 シャーロックの手紙相手にはツッコミ兼キレキャラと化す主人公(仮)。最後の文に何が書かれていたのかは次回。……ろくでもないことは確かであるが。
 

神崎・H・アリア
 嬉しさで涙腺崩壊しそうなのを暴力で誤魔化すツンデレもといツッコミ役。最後には素直に礼を言うあたり、嬉しさ満開である。
 なお誕生日プレゼントに関しては嬉しがったり叫んだりツッコミ入れたり、要するにいつも通りの模様。


峰理子
 アリアのサプライズ誕生日パーティの企画者。他メインで考えたのはメヌエット(サプライズ担当)とリサ(料理担当)。
 本人曰くアリアが〆てくるのも含めて「大成功!」らしい。


武藤剛気
 八つ当たりで殴り殺されかけた思春期代表男子。なお百○拳で繰り出される予定だったため、喰らったら爆破四散していた可能性あり。
 

不知火亮
 内心潤にドン引きしていたイケメン。ラブレターかと思ったら手紙を叩きつけるわ叫び出すわなので無理もないが。


ジャンヌ・ダルク
 久々に本編登場と思ったら殴られかけた不運キャラ。彼女に明日は……あるといいですね(目逸らし)
 ちなみに裏側では女子テニス部の後輩にキャーキャー言われたり、ルームメイトと仲良く過ごしたり平和を謳歌していた。


後書き
 色々内容詰め込んだら全然書ききれない……一話目から早速前後編に分かれます、ゆっくりいんです。これでも誕生日ネタはかなり削ったんですけどねえ……
 というわけで次回は後半になります。タイトルからしてやらかす……訳ではないと思います、多分。というか新キャラ全く出てねえ!?
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第一話 選択が二択とは限らない(後編)

 先の戦闘シーンを想定すると、シリアスにするかカオスにするかで悩むんですよね……ネタまみれになるのは間違いないんですが(オイ)
 
 


 

「そうだ遠山、お前に渡すものがあるのだが」

 どうも、遠山潤です。現在ジャンヌと合流して集合場所へ向かってるんだが、途中で渡されたものは――眼球型のアイテムとベルト?

「なにこれ、近未来型の千年眼(ミレニアム・アイ)?」

「このサイズを眼球に埋め込む気なのか……?

 これは教授(プロフェシオン)からの贈り物で待て待て投げ捨てようとするな!?」

「いや、手紙ならともかく金属爆発するのは洒落にならんやろ」

「念押しで『爆発しないから安心したまえ』と言われたのは以前あったからなのか……?」

「手紙爆発は意味が分からんかった」

 あれ以来シャーロックに殺意を抱くようになったのは必然。というか念押しとか「爆発しないよ? 絶対しないよ?」ってフリにしか聞こえねえよ、アイツの性格から考えて。

(はあ!? アイツそんなとんでもないもの仕込んでたの!?)

 何か頭の中に声が聞こえた気がしたが、とりあえず調べた限りでは爆発しそうにないので、ベルトと一緒に仕舞っておく。

「で、ジャンヌ。これから何があるんだ?」

「聞かなくとも分かることを言う必要はないと思うが?」

 質問に質問で返された、嫌な感じの笑みを加えて。ふむ、それでは開発中の粘着型マスタード爆弾を――

「ヤメロォ私が悪かったからそれを仕舞ってくれ!? というかお前なら予測は付いているだろう!?」

「まーそうだけどさ」

 ちょっとイラッとしたんだ、仕方ないネ。

 空き地島から感じる、多数の気配。辿り着いたそこには予想通り尋常じゃねえ連中が集まっていた。

藍幇(ランパン)の幹部、バチカンのシスター、リバティーメイソンの構成員、フリーの傭兵にアメリカの遺産、あとは妖数名……ここで殺し合いが始まったら学園島が消し飛ぶな」

 集まった面子を見てひとりごちる。どいつもこいつも『裏』の世界では有名な組織と人物だ、如何にも何か始まるって感じだな。

 お、レキもいた。……この状況でもイラスト書いてるお前の胆力は流石だよ。

 あとは姉貴とパトラ、仲良さそうにじゃれていたがこっちに気付くと手を振って……何か隣のパトラがウキウキした目でこっちを見てるんですけど。嫌な予感がするなあ、具体的には俺を女装させようとする時の理子みたいな感じで(遠い目)

 まあそれは置いとこう、あとは……お、懐かしい奴発見。向こうもこちらに気付いたのか、視線を向け――黄金のルガーP08を問答無用で抜き撃ちしてきた。それに対しこちらもUSPを抜いて『銃弾撃ち(ビリヤード)』で叩き落す。

「な!? カツェ、いきなりどういうつもりだ!?」

「あージャンヌ、いつものことだから気にしないでくれ。ようカツェ、腕上げたみたいだな」

「よう潤、お前も腕は落ちてないみたいだな」

「そこはお前も腕を上げたなって返すところじゃね?」

「お前がこれ以上強くなることあるのか?」

「ないな、違いない」

 ハハハとお互いに笑う。相変わらずクソ真面目な輩が多いドイツ人の中では、取っ付きやすい陽気なキャラである。

「カツェ、遠山と知り合いだったのか?」

「おう、ジャンヌも久しぶり。まーウチの方で知り合ったダチさ」

 魔女帽に黒ローブ、左目に逆卍のマークが施された眼帯を付けた魔女連隊(レギメント・ヘクセ)の隊長にして友人、カツェ・グラッセは上機嫌に口を開く。

「なんにせよ久しぶりだな。最近は派手にやってるみたいじゃねえか、教授を殴り倒したりとかよ」

「殴り倒したのは俺じゃなくて理子だけどな」

 可能なら俺も撲殺(殴り倒したい)けど。

「あいつは一年半で色々変わったよなあ……暴れすぎじゃねえか? 特にお前の女装画像とか」

「オイマテ何でお前が知ってるんだよ」

「直メで毎回送られてくるけど」

 ほれ証拠、とご丁寧にスマホ(最新式)から証拠写真を見せてくれた。あの野郎……

『死ぬ覚悟しておけ』

『Σ(・ω・ノ)ノエエッ!?』

 まあ余談(殺害宣言)は置いといて。

「なあカツェ、シャーロックのクソ野郎が送りつけてきたもん持ってるか?」

「ん? あーあれか。あるぜ、教授が絶対持ってくるようにって言ってたし」

 ウチでも扱いに困るんだよなー、と懐から取り出し見せてきたのは、銀色の輝きを放つ長方形の金属。

「これは、まさか、色金……!?」

「……正確にはそれを参考にした模造品、だな」

 驚くジャンヌに力なく補正を入れる。マジで造ったのかよシャーロック……

 手紙に書かれた最後の一文が頭の中に蘇ってくる。

 

 

『実は少し前に緋々色金を元にした非々色金(ひひいろかね)というのを作ってね、目ぼしい組織に速達で送り届けておいたのだよ。

 数は全部で七個、誰が持っているかは……まあ、君なら予想が付くだろう。

 余談だがこの色金は人に結びつかないが相応の力は持っている。暴発させれば小国くらいは吹き飛ぶんじゃないかな? まあ、頑張って回収してくれたまえハッハッハ』

 

 

「ホンット、何考えてるんだアイツはぁ!!?」

「おお、潤の奴が珍しく荒れてる」

「そりゃ荒れもするわ!? 確かにあの野郎超常世界の核物質とは例えてたけど、誰がその通りのものを作れと言った!? 実質超能力(ステルス)の核が配られたようなもんだぞ!?」

 間違って過激派組織にでも渡ったらリアルに国が吹き飛んで最悪全面戦争だぞ!? 『第三次大戦だ』ってか、やかましいわ!

 ……まあそんなもんを渡された以上、大抵の組織は慎重に取り扱うだろうが。冷戦時のアメリカとソ連による核保有の応用で、自分がいなくなった後の抗争に対する牽制だろうが、押し付けられた側からすればたまったもんじゃねえよ。

「これ全部回収しねえといけねえのかよ……」

「潤に渡っても似たり寄ったりって全員考えるんじゃねえの?」

「うっせ、だから頭痛いんだよ。……回収したら封印処理して宇宙にでも捨ててこようかなあ」

「なんだその斬新過ぎる処分方法は……というか似たり寄ったりなのは否定しないんだな」

 そりゃこんなもんあれば誰だって悪用すると思うだろ常考。まあ、それはさておき時間である。気付いたジャンヌが慌ててお立ち台(らしき場所)に向かう。しかしよくフルアーマー姿を見られなかったもんだ、その場合コスプレとかで適当に誤魔化すけど。

 ……それと、こっちに歩み寄ろうとしてたシスターが睨んでるんだが。原因はまあ考えるまでもない、カツェと親しげにしてたからだろうな。

 

 

「では始めよう。各地の機関・組織・結社の大使たちよ。宣戦会議(バンディーレ)。イ・ウーが崩壊した今、我々が求めるもののために、Go For The Next!」

『Go For The Next!』

 バラバラながら唱和する面々。レキ? 応じずイラスト描いてるよ、お前何しに来た。

 

 

 イ・ウー崩壊とシャーロックが配った核超能力により起きた今回の抗争、名は極東戦役(FEW)。開催場所がここなのは抑止力だったシャーロックをぶっ飛ばした俺達に因んでとのこと。だからって学校を使うののはどーなのよ。

 さて、この戦役のルールを簡単にまとめると。

・各組織の代表は『師団(ディーン)』、『眷属(グラナダ)』いずれかの連盟に所属するか、『中立』を宣言する。

・いずれかの連盟が全滅、または降伏することで終了。

・相手人材の引き抜き、奇襲、裏切りなどなんでもあり。ただし全面戦争のみ禁止とする。

 なるほど、聖杯大戦か(違)

 そうして宣言が終了し、各々がどちらの勢力に付くか宣言していく。

師団:バチカン、玉藻

眷属:パトラ、鬼、藍幣、魔女連隊

中立:リバティー・メイソン、フェイスペイントの傭兵集団(正確には無所属)、LOO(としか言わないから実際分からん)、姉貴

 師団少なくね? まあバランス配慮なんて気にしないんだろうな、ゲームじゃあるまいし。

「で、お前さんはどうするんだ? 他人の影に潜む物好きさん」

 俺が声を掛けると、背後からズズズと音を立てるような速さでゴスロリ姿の少女が出てくる。何そのポーズと演出。

「気付いていたの遠山、お父様を倒すだけあって鈍くはないようね」

「鈍かったら俺の居場所は棺桶の中だわな」

 彼女――ブラドの娘である同じ吸血鬼、ヒルダに肩を竦める。

「お前ごときが吸血鬼と同じ棺桶の中に入れると? 中々際どいジョークね。

 ああジャンヌ、私は当然『眷属』よ。バチカンの狂信者共と肩を並べるなんて死んでもごめんですもの」

 ついでのように己の所属を告げると再度こちらに向き直り、

「それで、遠山。理子(・・)は元気かしら?」

「理子? あー元気元気、無駄に無駄を重ねて無駄すぎるくらい元気」

 寧ろアイツがしょぼくれてる顔なんて早々拝めねえよ。

 「そう」とヒルダは一つ頷くと、また俺の影に潜んでいった。え、出番終わりでいいのかよ。

 そうなると最後、未だ所属を宣言していない俺とレキに注目が集まるわけで。というかレキ、お前いつまでイラスト書いてるんだよ。

『今いいところなんです、潤さんにお任せします』

 なんて瞬き信号で伝えてきやがった、マジで何しに来たお前。

「では最後に遠山、所属を宣言してもらおう。シャーロック・ホームズを倒した立役者、どこに入るかでパワーバランスも大きく変わるだろう」

 お前は何を言ってるんだ。ここにいる魑魅魍魎の連中に、平々凡々の俺が加わったところで変わる訳ないだろうが。ほら、無駄に緊迫した空気になるし。

 とはいえ、俺の答えは最初から決まっている。

「チームバスカービルは『中立』だ。今のところ、俺は誰の味方でもねえ」

 きっぱり告げると、他の何人かは驚いたのかざわつき始める。そんな意外かねえ。

「つまり、最初は様子見するってことか?」

 代表なのかカツェが質問してくるが、俺は首を横に振る。

「逆だ逆、積極的に攻め立てるんだよ。核クラスの超能力アイテムなんぞ、さっさと回収して封印なり廃棄するに限る。

 だから俺の味方はいない、少なくとも非々色金を持ってる連中に対してはな。例外として、色金を全部譲ってくれるならその勢力に無条件で味方するが」

 その言葉に、何人かが殺気立つ。まあ欲しいものの前提条件と矛盾するんだから当たり前か、舐めた口聞くんじゃねえぞクソガキってのもあるんだろうが。

「まあ現実にそんな勢力はいないわな。というわけで――

 

 

 持っている奴等、交渉なり暴力なりで強引にでも頂くからな?」

 

 

 宣戦布告にも似た言葉に対し、殺気が更に一段階上がる中、

「ハハハハハハハハハ!!!!」

 離れたところでつまらなそうな顔をしていたフェイスペイントの傭兵が、バカでかい笑い声を上げ始めた。おおうなんぞ、ツボるところあったか?

「ハ、でかい口叩くじゃねえか遠山潤! この面子相手にバカな宣言できるなら殺り甲斐があるってもんだ!」

「誰がバカか、バカは理子の専売特許――いてっ」

 足元から軽く電流が流された。何、ヒルダの超能力? 何故バカ呼ばわりさせないし。

「『全員敵に回す』なんてやり方を選ぶ奴がバカ以外のなんだってんだよ、普通はどっちかの勢力に属して機会を窺うもんだろうによお!!」

「いや普通に考えれば足元を掬われる確率の方が高いだろ常考」

 チラリと藍幣代表で先日箱詰め郵送したココ共の上司、諸葛静幻を見やる。苦笑で返された。こいつはまともっぽいな。

「ハハ、足元の代わりに両手両足千切られそうだってのによく言うぜ! 

 おもしれえ、俺はGⅢ。その内喧嘩売りにいくから待ってろよ!」

「色金忘れんなよー」

 上機嫌に去っていく傭兵、GⅢにそれだけ言っておく。戦闘狂の類か、怖いねえ(←煽ったやつ)。

「……では、最後にレキ」

「私たちウルスは『中立』、正確には潤さんの味方になります」

「その味方は今ここにいる全員を敵に回しているのだが……いいのか?」

「潤さんは勝てない戦いはしませんから大丈夫です。なんやかんやで最終的にどうにかしてくれます」

 大雑把過ぎね? あと任せる気満々かいレキさん。

「……では、これにて宣戦会議を終了する。各々存分に闘い、欲し、奪い合え!」

 何か決闘っぽいジャンヌの締めで今回の会議は終了した。そのまますぐ戦闘――にはならず、何人かはこちらに交流も兼ねてか挨拶をしてくる。

「先日はウチのココ達が失礼しました」

「いやいや、こちらこそ急に送りつけて申し訳ない。で、ちゃんと届いた?」

「ええ、ご丁寧に空気穴も開けてきっちり密封されたものが。貴方、人攫いに向いてるんじゃないですか?」

「いや、あのチンチクリン共趣味じゃないし」

「趣味の範疇ならやるんですかね……?」

 などと先日の一件について話したり、

「なんだこっちつかねえのかよ潤、師団の連中を囲んでリンチにしてやりたかったのによ」

「もう既にリンチ寸前な状態について。今なら友情価格で色金一個くれるなら味方するが?」

「誰がお前みたいなトンチンカンにやるかっての。ボコボコにして眷属の使いっ走りにしてやるから覚悟しとけよ!」

 トンチンカンな友人にパシられそうになったり、

「潤は相変わらずねえ、まあ死なないように気をつけなさいよ?」

「ぶっ飛んでるのは姉弟そっくりじゃのう。では妾が勝利した暁には……ぬっふふふ」

「おうこっちを変態的な目で見るな」

 姉貴に苦笑され、パトラにニヤニヤされたり。別の意味で身の危険を感じるが、まあ戦闘にならないだけマシだろう。

 で、問題は最後。リバティーメイソンの代表が接した時のことなんだが(ちなみに師団は警戒してか近寄りもしなかった)。

「初めまして、トオヤマジュン。言うのが遅くなってしまったけど、イクスカリヴァーンを英国王室に返却してくれて本当に感謝するよ」

「どうも、モノがモノなんで無事に届いたなら何よりですよ」

「……そうだね、無事に届いたよ。日本の一般的な宅配会社経由で他の荷物に紛れてね。あの時は偽者なんじゃないかって大騒ぎになったものだよ」

「無事に届いたからいいじゃない」

「一般物に紛れさせて奪われるリスクを減らす君の考えは理解できたけど、どういう頭をしていたらこんなことが出来るんだと丸一日悩まされたよ」

「ちゃんと包装と擬態用の魔術は掛けてますけど」

「うん、それのせいで余計騒ぎが大きくなったのを理解してくれるかな? ご丁寧に差出人も不明だったし。

 と、自己紹介が遅れたね。ボクはエル・ワトソン。アリアの婚約者だ」

「………………」

「どうかしたのかい? アリアに婚約者がいても不思議ではないと思うが」

「……いや、まさかアリアが一族公認で百合娘だとは思わなかったので。何、イギリスは貴族階級まで同姓婚を薦めるようになったのか?」

「随分素敵な世界になったわね」

 色々な意味でな。というかヒルダ、なんでそこだけ口挟むんだよ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 僕が女だと何故分かっ、じゃない、ボクは男だ、間違えるなんて失礼だぞ!!」

「え、体型や歩き方とか見れば丸分かりじゃん。そもそもモノホンの男なら女と言われても『頭にウジでも湧いてんのかコイツ』って反応するだろ」

「う、ぐ……リバティー・メイソンの誰にもばれたことなかったのに……い、いや、しょ、証拠は! ボクが女だという証拠はあるのか!?」

 マジかよリバティーの皆さん目に風穴でもあいてんのか? もしくは全員ホ――いや、流石にねえか。

「証拠って言われてもねえ……スリーサイズでも当てればいいか?」

「HENTAIだ!?」

「最低ね」

 何その反応、解せぬ。ところでワトソンくんちゃん、あーた大声で騒いでるから周りにバレてるの把握してる?

 

 

おまけ

「というかいつまで着いてくるんだよヒルダ」

「私は理子に会いに来たのよ、なら向かう場所は一緒でしょう。ほら、キリキリ豚のように歩きなさいトオヤマ」

「俺二足歩行なんですがねえ……自分で歩けばいいだろうに、何でわざわざ魔力の無駄遣いするんだか」

「貴族は自分の足を使わないものよ」

「俺は馬車代わりですか」

「いいえ、豚車よ」

「豚に拘りすぎじゃね? ただいまっと(小声)」

「すぅー……くぅー……」

「……ソファーで思いっきり寝てるわね、神崎・H・アリアが」

「ゲームやってて寝落ちしたんだろ。アリアの奴、いっつも十二時には眠くなるし」

「宣戦会議の場所に来れば母親の罪状も減らせたでしょうに……見た目通り子供なのね」

「だぁれが昨今の小学生にも劣る超ミニマム体型よ!!?」

「誰もそこまで言ってないわよ!? というか起きてるじゃない!?」

「むにゃ……すぅー」

「え、今の寝言なのかしら……?」

「寝ながらツッコミは稀によくある」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 まさかの中立宣言をしたバスカービル代表。お陰で師団から睨まれる羽目になっているが、本人曰く「アリアの殺気の方が怖い」とのこと。
 王室の宝剣を宅急便で返すイカレた感性の持ち主。ちなみに返却理由は「俺は使わんし、持ってても諍いの種になるからいらん」とのこと。
 

神崎・H・アリア
 寝ながらでもツッコミは忘れないツッコミの鏡。不憫。


レキ
 本当にいただけの武偵(イラストレーター)。ちなみに描いていたのは武装姿のジャンヌ。後にテニス部の後輩達で奪い合いが発生したとか。
 
 
カツェ・グラッセ
 魔女連隊隊長にして潤の友人。即座に撃ち合ったり肩を並べたりする仲らしい。
 潤が味方にならないのを残念がっていたが、それならそれで面白いという物騒な思考の持ち主。
 
 
ヒルダ
 潤の影に潜んでいたブラドの娘。理子に強い関心があるようだが……?
 
 
エル・ワトソン
 初見で女と見破られた女装男子。カイザーの代わりに出席したのは、武偵校にそのまま編入予定のため。
 ちなみにイクスカリヴァーンの開封をしたのは彼女で、送り主を調べたのも彼女。それ故潤に会う前の印象は『計算高いけど頭がおかしいかとてつもないバカ』。特に間違ってはいない。
 
 
後書き
 先に一言を。原作では宣戦会議で勢力に属さないのは本来『無所属』ですが、主人公の立ち位置から『中立』に変更させていただきました。単に語感の問題ですが、無所属だと本当にやりたい放題しかねないので……
 しかしシャドウバースはマジで時間泥棒。新パック追加だけど……小説書けなくなるんで大人しくしてます(泣)
 はいどうも、そろそろ展開が原作から離れてきたなーと思ってるゆっくりいんです。え、元々おかしい? ははは、ナンノコトヤラ。
 とりあえず次回は新キャラのヒルダ、ワトソンくんちゃん+アリアの裁判について語るかと。それと文化祭の前準備……かな? 正直、仮想喫茶のことしか覚えてないんですよね(汗)
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。
 
 




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第二話 証拠が無いなら造るか消せ

 前から自分の小説にもしキンジがいたらを考えることがあるんですが……うん、アリア以上に激しいツッコミ役しか思いつかないですね。多分胃痛が絶えないんじゃないかなあ……
 



 

「理子ー、入っていいか?」

「あいあい! どーぞどーぞユーくん、りこりん特製Love Cobwebへようこそ!」

「素直に愛の巣って言えよ」

 ここ俺の部屋だし、しかも何で蜘蛛の巣なんだよ、捕まったらムシャムシャ(物理)されちゃうの? こえーよ。あ、どうも遠山潤です。

「いやん、ユーくんから愛なんて言葉が聞けるなんて――あり? この気配は……」

「久しぶりね、理子」

「――ヒルダ」

 部屋で深夜アニメを見ていた理子が、俺の影から現れたヒルダを見て目付きが鋭いものになる。一緒に見ていたリサと夾竹桃も振り向き、一瞬の無言。そして、

「ヒルダーー!!」

「理子――!!」

 お互いの名前を叫んで同時に飛び出し、

 

 

 ガシッ! と音がしそうなほどしっかり抱き合った。

 

 

「本当に久しぶりね理子! ああもうまた更に可愛くなっちゃって、女子三日会わざれば刮目して見よって諺は本当ね!」

「ふふふー、それ女の子じゃなくて男だよヒルダー? でもでもかわいいって言われるのは悪い気分じゃないかなー」

「そうでしょ? あと、私のことはお姉ちゃんって呼んでも」

「それは嫌」

「ガーーン!?」

 割り込み拒否されてorzするヒルダ。そこまでショックなのかよ、いつも断られてるって聞いてるんだが。

「いつもこんな感じなのか?」

「大体こんな感じね」

「御家族で仲が良いのは良いことですよ」

 夾竹桃は呆れ顔ながらそれでもメモを取り、リサは微笑ましそうに二人を見ている。なるほど、イ・ウーではこれが日常だったのか。

 そこで凹んでいるヒルダはブラドの娘である吸血鬼――なのだが、当時監禁されていた理子のことを妙に気に入り、父親の目を掻い潜って脱走させたらしい。その後二人でイ・ウーに入って生活していたとか。

 まあ要するに、両親を亡くした理子の親だか姉代わりらしい。

 その後、久しぶりの再会を祝って夜中の宴会が始まった。まあ途中でアリアが「うっさいわね! 夜中に騒いでんじゃないわよ!」と(寝ながら)キレたので、理子の部屋に移動したけど。

「んーにゅふふー……ユーくーん……」

「……」

 そして呑みすぎた理子が俺を抱き枕にして寝落ちし、拘束されて動けない俺を影からヒルダが凄い顔で睨んでいた。いや抜け出したいんだけど巧妙に間接極められてて……え、可哀想だから起こすな? じゃあその目付きをやめてもらえませんかねえ……

「……見極めさせてもらうわよ、トオヤマ」

 いや、顔半分だけ出して言われても……え、俺の影に入るの?

 

 

 ヒルダ来訪から数日経過した昼間。俺、理子、アリア、メヌ+αの五人は手配した黒塗りセダンに乗り込んでいる。行き先は東京高等裁判所、アリアの母親である神崎かなえさんの裁判である。勿論全員スーツ着用済、ちなみに+αはかなえさんの担当弁護士さんだ。

「うう、本当に大丈夫かしら……」

「お姉様、それ今日だけで十七回目ですよ? いい加減聞くのも耳タコですし、少しは落ち着いてくださいな」

「何で数えてるのよアンタは……いや分かってる、分かってるわよ。準備も万端不備はなし、やれることはやったって。でも、これでママを釈放できなかったらと思うと……」

「私やジュン、理子も最善を尽くしたんですから、自信を持って裁判に挑んでくださいな」

「アンタ達じゃなかったらもうちょっと安心できるんだけどねえ……」

「お姉様の不信に、メヌ泣いてしまいそうです」

「1ナノも涙が感じられない顔でよく言うわ……」

 顔が緊張と不安に満ちているためか、ツッコミにもイマイチキレがない。もうちょい信用してもいいんじゃよ?

「実績を考えたら当たり前でしょうよ」

 仕事の実績で考えてくだせえ。ホント直感はこんな時ばっか冴え渡るよなまったくもう。

「ふう、仕方ありませんね。理子、お姉様の緊張を和らげてください」

「うっうー、了解ですぞヌエっち!」

「ちょっとメヌ、私今そういう気分じゃ」ガシッ

「ふう~~~~」

「みぎゃああああぁぁぁぁぁ!!!??」

 おお、頭押さえ込んで耳に息吹き掛けたら凄い声上げ始めた。助手席の弁護士、蓮城(れんじょう)さんが何事かと振り向くが、いつものことなんでお気になさらず。

「なにすんのよなにすんのよこのバカ理子!? かつてないおぞましい感覚に全身が苛まれたわよ!!」

「えーそこまで言いますかいアリアん? ちょっとくらいは気持ちよかったでしょ?」

「んなわけあるか! 鳥肌が立ち過ぎて鳥になる勢いで気持ち悪かったわよ!」

「そしてお姉様は臆病者(チキン)になるんですね、今の状態だけに」

「欠片も上手くないわよ!?」

 緊張と一緒に理性も吹き飛んだらしい。元気なのはいいんだけど、車内で暴れるのはやめて貰えないかねえ。うお、ハンドル取られる。

「……大丈夫なのか、アレ」

「いつものことなんで」

 口でも伝えておく。軽く引いてるけど、気にしたら負けですよ。まあ到着する頃にはスッキリして落ち着いてるだろーよ。

 

 

「皆ありがとう、今度こそママを助けられるよう頑張るわ!!」

 誕生日の時、アリアは力強くそう告げた。その後パーティも終わり各々遊び続けたり寝始めたりする中、俺とメヌは裁判関係の話ということでアリアを別の部屋に呼び寄せた。というかメヌの部屋だけど。

「で、二人とも話って何? メヌにも手伝ってもらったから裁判の資料は全部揃ってるし、受け答えも想定してシミュレート済みなんだけど」

「はい、お姉様はメヌが想定し得る限り最善のものを備えていますね。それを踏まえた上で言います、

 

 

 今のままでは絶対に神崎かなえを無罪に出来ません」

 

 

「……は? ちょっとメヌ、いくらアンタでも言っていい冗談と悪い冗談があるわよ」

 嬉しさの余韻が吹き飛び、すっと真顔になるアリア。常なら小さな体躯から発される怒気も殺気も無いのは怖いが、メヌは臆することなく首を横に振る。

「残念ながら事実です。その理由は……ジュン、お願いするわ」

「ここで俺にバトンタッチかよ。正確には無罪に出来ないんじゃなくて、無罪にさせないよう妨害されてるんだがな」

「……誰がそんなことをしてるのよ?」

「政府や軍部のお偉いさん。かなえさんが持ってる色金の情報を表に出したくないんだろうな。そもそも一個人にここまで罪状被せるなんて、余程出したくない理由があると思った訳で」

 そうしたら見事にビンゴだった訳だ。ちなみにメヌも同じような情報を持っているが、日本に来るまでほとんど引きこもっていたのとリアルイギリス貴族に手出しをするのは日本じゃ不可能である。まあ来たとしても十中八九返り討ちになるだろうけど。

「色金の情報をママが……!? いや、それよりまた色金なの……じゃあ、アタシが必死になってイ・ウーの奴等を捕まえたのも、証拠集めに奔走したのも無意味だっていうの!?」

 叫ぶアリアの瞳には悔し涙が浮かぶ。親子揃って色金に振り回され、母親を助けるため必死の努力をしたというのに、それが無駄と言われてるも同然だから無理もないだろう。だが、

「もちろん、そんなことにはさせません」

「……?」

「お姉様の成果を保身のために消そうとする輩の思い通りになどさせませんわ。私とジュンで逆にぶち倒してやりますとも」

「で、でも、相手は裁判に圧力掛けられるような立場の人間よ? そんなのをどうにかするなんて」

「別に邪魔するのは俺達じゃなくても問題ないさ。敵なんてのは外部より身内の方が多いだろ、政治家という生き物は特にな」

 内憂外患、どっちに食い潰されるかは人次第だが、俺からすれば予測し辛い内側の方が怖いだろう。

「ジュン……」

 俺が笑って言うのを見て、アリアは、

「三流悪役みたいな顔するのね、アンタ」

「そこは素直にお願いしてくれてもいいんじゃないかなあ」

 

 

『それも、そうね。お願いジュン、ママを助けるのを手伝ってください』

「では判決を伝えます」

 真実を伝えたあの時を思い出しながら、裁判長の宣言を傍聴席から静かに聴く。

『お、おう』

「被告、神崎かなえ」

 右隣に座るスーツ姿の理子も緊張している。お前そんな顔出来たんだな。

『照れました? ジュン』

「被告は」

 一方、反対のメヌはいつもの含み笑いだ。これは自信満々と見える。

『いや、素直に驚いた』

「無罪とする」

「!!」

「――え?」

 無罪判決が伝わった途端、アリアは喜びで立ち上がりそうなのを辛うじて制し、かなえさんは――信じられない、といった顔だ。やっぱり自分の現状把握してたんだな。

「いよし! やったぜユーくん、ヌエっち!」

「当然の結果です」

「何はともあれ、これで一件落着だな」

 やれやれだ。無駄にならなくて何よりである。

 

 

「ママー!!」

「アリア……!」

 裁判所から出てすぐ、神崎親子は再会を喜んで抱き合う。

「ママ、ママァ……! 良かった、ホントに良かったぁ……」

「アリア、ありがとう……またあなたをこうして抱きしめられるなんて、夢みたいだわ」

「……ぐす」

 横の理子が貰い泣きしたので、何も言わずに頭を撫でてやる。親に関しては思うところあるだろうしな。

 それを見てか背後の影が揺らめいた。「理子に気安く触るものじゃないわ」とか言われるかな、と思ったらハンカチを取り出す動作、ってお前も泣いてるんかい。

(グス、家族の再会っていいものね。種族を超えた愛があるわ……男の涙なんて気持ち悪いものだけどトオヤマ、今日だけは存分に泣くのを許すわ)

(ブラドを出してやればお前も味わえるんじゃねえの?)

(理子を檻に閉じ込めていたクソ野郎(お父様)のことなんて知らないわ)

 酷い娘もいたものだ。まあ出てきたらもう一回ブチ殺してやるけどな。

 その後かなえさんに挨拶がてら感謝のハグをされたメヌが珍しく慌てていたり(「やべえあのメヌっちで萌え死にそう!」とか理子が喚いている)、俺にも礼を言われてどうやって無罪にしたのか聞かれたので「禁則事項です」と二人揃って誤魔化したら苦笑されたり、涙ありだがいつもの雑談をしていたら、

「まさか本当に母親を助けるとはね……コングラッチュレーション(おめでとう)、アリア」

 と、大袈裟に拍手をしながらワトソンの奴が割り込んできた。爽やか好青年(風)スマイルを合わせると普通は胡散臭いことこの上ないが、

「ハンカチいる?」

「っ、い、いや大丈夫だ、自分で持っている。そもそも紳士はこの程度で泣かない」

 目元がちょっと腫れてるの見れば色々誤魔化そうとしてるのモロバレだわな。というか泣く奴多すぎないか。

「逆にユーくんは感動のシーンで何故泣かないのですかな?」

「鍛えてますから」

「そこは鍛えなくてもいいと思うんだが……人間の感性として」

 紳士はこの程度で泣かないとか言ってた癖に掌返し早すぎるだろ。

「あーえっと……エル、久しぶり」

「うん、久しぶりアリア。……ひょっとして、トオヤマからボクのこと聞いた?」

「いや、勘で。メヌが昔アンタの事を弄ってた意味が今分かったわ」

「そんな簡単に見破られるとボクの立つ瀬がないなあ……」

「まあ、ホームズとワトソンの友好を強固にしようとする事情は理解してるつもりよ。今後は仲良くしましょう、友達として(・・・・・・)

「そこまで強調されると却ってそっちの気を疑われるの理解してる?」

 なんで幼馴染だろう二人で微妙な空気かもし出してんだこいつ等。

「あらあらワトソン卿、お久しぶりですね」

「う、メヌエット嬢……」

「メヌで結構ですわ、知らない仲ではないのですし。ですがその呻き声と嫌そうな顔はいただけませんね、紳士の名が廃りますわ」

「君は分かってて弄り倒してくるから苦手なんだよ……でも、以前会った時よりは雰囲気が柔らかくなってるね」

「確かにお姉様より一部分は柔らかく成長していますが」

「違う、そういう意味じゃない。淑女がそんなこと言うのもどうなんだい」

「今日は聞かないことにしておくわ。色金の影響で成長が遅れてるとはジュンから聞いたけど、妹が成長していくのを納得する理由にはならないわよ……」

 そこはまあアレだ、曾爺さんを恨めとしか。

 その後アリアとワトソンの妙なやり取りに首を傾げるかなえさんに真実を教えて驚かれたり、「アリアがいいなら止めはしないけど、親としては男の子と恋をして欲しいわね」と意味深にこっちを見られたりした。こら理子、人様の母親を威嚇しない。というか「きゅるるるる」って威嚇なのか。

 

 

おまけ

「ジュン、深刻な問題があるのですが」

「足の調子が悪いのか?」

「いえ、至って順調です。ではなく、かなえさんのことをさん付けで呼べばいいのかおば様と呼べばいいのか、お義母様と呼べばいいのかメヌの頭脳を以てしても解決できません」

「……いや、好きに呼べばええやん」

「それが分からないから恥を忍んでお前に聞いてるのよ!」

「逆ギレかい、たまに対人関係でポンコツになるよなお前……じゃあ親しみを込めて『お義母さん』でいいんじゃねえの?」

「そ、そうかしら。でもそれはその、何か違う気がするし、恥ずかしいし……」

「私は何でもいいわよ? ただお願いを聞いてくれるなら、おばさんよりお義母さんの方が嬉しいかしら」

「どっから出てきたんですかかなえさん」

 その後、メヌが密かに『お義母様』と呼ぶ練習があったとかなかったとか。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 アリアの母親かなえさん救出に一役買った男。何やらかしたか? 堂々とは言えないことです(適当)。強いて言うなら後日、政治家の汚職とか一斉摘発が起こったというくらい。
 抱き枕にされても冷静なのは、完璧に極まっているため気持ちいいより痛いため。痛気持ちいいの領域は無理とのこと。
 

神崎・H・アリア
 無事母親を助け出せて感動にむせび泣いた少女。原作では努力の甲斐なかったが本作ではアリアの地道な証拠集めが無罪の決定的な証拠になった。
 これで無事イギリスに帰る――予定はない。しばらくは母親と寮の自室で暮らす予定のため出番(ツッコミ)が減る――といいね(オイ)


峰理子
 親子の再会にもらい泣きしているお騒がせ役。名前は出ていないが裁判対策にも一役買っている。
 ヒルダとは家族のように仲が良いが、恋愛関係は(当てにならないため)相談することはない。あと『お姉ちゃん』と呼ばないのは、幼少期彼女に依存しないため自制してたのが癖になったとか何とか。


メヌエット・ホームズ
 不可能裁判を無罪にしてやった安楽椅子探偵。「久々に全力を出した」とは本人の談。
 対人関係でポンコツ振りが出るのは姉妹共通。メヌエットの場合弄れる相手なら例外らしい。


後書き
 異母姉妹の場合相手の母親なんて呼ぶんですかね? そんな無知を晒しつつどうも、ゆっくりいんです。
 いやー今回は難産でした……新キャラを動かすのって予想以上に難しいですね、しかも複数だと尚更。この辺にノリで書いてる弊害が出るのだなあと実感、まあやめませんけど(オイ)
 次回は出来なかった文化祭準備(という名の衣装決め)と、ワトソン視点でのお話になるかと。ヒルダ? 新キャラ同時は流石に勘弁してください何でもはしません。
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。





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第三話 他人からどう見えてもこれが日常(前編)

 相変わらず間違った方向に全力を注ぐ型月陣営。なんでちびノブにバリエーションが出来てるんですかねえ……
 そして信勝の人気に驚きと共に納得。なんで大量にホ○が湧いてるのかは分かりませんけど……

……この前書き見ると、自分がいかにストックしてた話を放置してたか分かりますね(汗
 
 



「ヤメロォゲイザー並べながら貫きヤメロォ!? りこりんのヘクター軍団が壊滅するからぁ!?」

「ふふ、この相手がやめてくれぇと言う瞬間がたまらないからコントロールはやめられないのよねえ……!」

「堂々とゲームやってるんじゃないわよ理子にメヌ!? ジュン、アンタリーダーなんだから何か言って」

「ジュンちゃん、このフラワーってどうやって取るのかな?」

「タマゴ反射させてぶつけるとゲットだな」

「白雪まで毒されてる!?」

 教師陣来るまで暇なんだから別にいーべ、白雪もようやく色々やるようになってきたし。あ、どうも遠山潤です。

 現在俺達、というか二年生は体育館に集められている。今度行われる文化祭の衣装を決めるためだ。しかもこれ決め方がクジで、ちゃんと役職になりきらないと教師陣にフルボッコされるペナルティー付きでな。

 とはいえ、普段から変装(女装)させられている俺からすれば別に難しいことではない。なので「さっさとチーム毎にまとまれやガキ共ォ!!」と怒鳴りながらM500をぶっ放している蘭豹先生や、「出来なかったら……分かってるよなぁ?」と、生徒を面白半分で脅している綴先生の言葉も基本他人事である。役職によっては練習も必要だけど。

 ちなみに先輩から聞いたところ、男女別でそれぞれにハズレがあり、男は定番の『女装』、女子は年度によって違うらしい。まああれだ、自分的にハズレがダメージにならないな。……嬉しくはないが(白目)

「くふふー、ユーくんには是非とも当たりを引いて欲しいですなー」

「それ一般的に言うハズレだろ。いい加減飽きろよ」

 今までの女装、全部理子の自作だからな。その熱意はどこから来るんだ。

「いやいやまだまだやって欲しいネタはあるんですよ! ユーくんだけじゃなく女子勢もペアルックとかでアイディアあるし」

「だからアンタの趣味にアタシを巻き込むんじゃないわよ!?」

 巻き込まれるの確定なのねアリア。かなえさん救出で気が抜けたかと思ったが、ツッコミの精度は相変わらずで何よりだ(何)

「そして我等が神絵師レキュという最強の布陣!」

「バッチコイです」

 いつから居たレキ、そして誇らしげにコピックを掲げるな、最近狙撃銃構えるより様になってるって噂だから。

 周囲からは歓声や悲鳴。そりゃものによっては難易度高いからな、脳筋強襲科(アサルト)の連中にはキツイだろうし。

「師匠、お待たせしたでござる!」

 最後になってようやくバスカービルの出番、男子の担当は陽菜だ。ちなみにここまでハズレの女装はなし、確率どんくらいになってるんだろ(白目)

「先程綴先生が仰っていた通り、今年はチェンジなしでござる故心して掛かってくだされ!」

「運頼みにどう覚悟すればいいんだよ」

 というかチェンジなしとかなんで去年より条件厳しくなってるんだろう。アレか、女装から逃げる甘えを捨てろって意味か。

 ちなみにバスカービルの面子が引いたのは、

白雪:アイドル

レキ:OL

メヌ:魔術師

リサ:巫女

 となっている。カオスだなあ、白雪なんか「あああアイドル、わわ、私が……!?」とか可哀想なくらいテンパってるし。まあ生徒会長やってるし何とかなるだろ(適当)。あと魔術師ってなんだよ。

 さて、残りはアリア、理子、俺の三人である。「アンタ達の後とか色んな意味で嫌よ!」と言われたので一人目はアリア。何故順番程度で嫌がるし(←絶対やらかしそうな片割れ)

「レースクイーンとか悲しくなるから勘弁してよ……」

 バニー好評だったやん。

「んん……これだ! アタシの勘が一番マシだと囁いてるわ!」

 くじ引きの危険も回避とか直感便利過ぎるだろ。さて、そんなアリアが掲げた紙に書かれていたのは、

『キグルミ(種類の指定なし)』

 ……衣装?

「……え、何これ。え?」

「アリアん、ド定番のふ○っしーとドラマーのにゃん○すたーどっちがいい?」

「ハードル高い二択やめなさいよ!? というか何で持ってるのよ!?」

「コスプレ衣装は常に持ち歩くのが淑女の嗜みなんですよ!」

「それ前文にオタクって付く淑女でしょうが!!」

 オタクでもまずいねえよ。

 さて、アリアの衣装? は後にして次は理子である。正直キグルミがマシな時点で嫌な予感しかしないが、「これだー!」と特に迷いなくクジを引く。

『魔法少女』

 ……ああ、これは間違いなくハズレですわ。というか最早役職でも何でもねえぞこれ、魔術師と半ば以上被ってるし。

「ウヒョーいいのktkr! どれにしよっかな~迷っちゃうな~」

 本人は嬉しそうだけどな。しかしこれ仕込んだの誰だよ、意味が分からんぞ。

 そして何故かトリの俺。「ユーくん、理子信じてるからね!」、「師匠、師匠ならやってくれるでござるよね?」とかバカと後輩に言われてるが、お前等俺に何を期待してるんだよ。あと周りの連中、期待に満ちた目で見るな、こっち見んな。

 まあこんなのは運だし、悩んでも仕方ない。適当に一枚取り、開いてみる。女装なら理子のオモチャ決定だな(白目)

『魔法少女』

「なんじゃこりゃあ!?」

 即座に叫んだ。そりゃそうだろ、誰が女子と同じ大ハズレが出てくると思うよ!?

「おっと師匠、その様子ですとやり遂げたでござるか?」

 ニヤニヤしながら陽菜が覗き込んでくるが、書かれた文字を見て驚きに変わり、

「これは……女子用のが紛れ込んだようでござるな。しかし引いてしまったものは仕方ないでござるよ」

 ドンマイでござる師匠、と肩に手を置く陽菜の行動で正気に戻り、わざとらしい同情の視線から概要は察した。

「オイ陽菜、箱の中身を見せろ」

 手を出すとギクリと震える。分かりやすすぎんだろ。

「ちぇ、チェンジはなしでござるよ?」

「誰も変えたりしねえよ、何があるのか見るだけだ」

 明らかに動揺してる陽菜から箱を奪い取り、紙を全部広げてみる。……ああ、やっぱり、

「全部『魔法少女』じゃねーか!! 陽菜テメエ、さっきアリアと理子が騒いでる間に中身入れ替えやがったな!?」

「ぬ、濡れ衣でござるよ師匠! 拙者は不正の手伝いなどせぬ綺麗な忍で」

「で、幾ら貰ったんだ?」

「二万ほど。今月は楽になったでござルシフェル!?」

 膝と肘で腹の前後を挟んでやった。

「うわあ、アンタえげつない技使うわね……」

 眼球部位を掴んでフェイスクラッシャーする奴が何を言うし。

「ゴッホォ……師匠、息が、し辛い、で、ござる」

「喋れりゃ上等だろ。さて、金目的で不正を働いた以上覚悟は出来てるんだろうなあ?」

 ニッコリと満面の笑みで告げてやる。武偵は罠に嵌められた方が悪いというが、バレたら話は別だ。

「じょ、女子の腹を殴るのは武偵といえど如何なものかと……あ」

 脂汗と青い顔でなお言い募るのは褒めてやるが、その言葉はマズイよなあ?

「陽菜、俺の好きな言葉は?」

「……だ、男女平等でござる」

「じゃあ、嫌いなものは?」

「……性別や立場を盾に相手を非難する輩でござる」

「ふむ、よく分かってるな。それのせいで甘味屋行くときいっつもセール対象外になるんだよお!!」

「それ拙者と微塵も関係ないでござるよ師匠!?」

「うるせえ! 言動両方で阿呆なことしやがって、喰らえ男女平等マンチカン!?」

「ちょっとは落ち着け!! 周りが引いてるでしょうが!」

 アリアの飛び蹴りで制裁は中止された。うるせえ、引きたきゃ勝手に引かせてろ!

 

 

「ユーくん、女装すればレディースデーの対象になるんじゃないの?」

「………………いや、そこまでするのは流石にないな」

「悩み過ぎでしょ!? というか金に困ってるわけでもないのにどんだけせせこましいのよ!」

 優越感を味わいたいんだよ(イミフ)

 

 

「ウィンチェスター武偵校から転校してきましたエル・ワトソンです。みんなよろしくね」

 笑顔で挨拶をすると、男子からの拍手と女子からの歓声が上がった。うん、やっぱり女子だといきなりはばれないようだ。トオヤマやアリアがおかしいだけなんだろう。

 あ、どうも皆さん初めまして、エル・ワトソンです。本日は転入初日、挨拶を終えてボクは高天原先生に指定された席、アリアの隣に座る。

「分からないことがあったらクラス長の遠山君に聞いてくださいね~」

 ……クラス長なのか、彼。うん、このクラスが他よりカオスな理由が分かった気がする(偏見)

「ハロートオヤマ、この間はどうも。分からないことがあったらよろしく頼むよ」

「ハローワトソン、多分大丈夫だと思うが何か困ったら聞いてくれ。可能な範囲で答えよう」

 そこは何でもじゃないんだね。とりあえず席に座り、HRが始まってからこっそりと気になっていたことを聞いてみる。

(ところで、あのことは言いふらたりしてない?)

(男装のことなら言ってない。理子辺りは察してるだろうけどな)

 ……だろうね。さっきからこっちを見てニヤニヤしてるし。とはいえトオヤマが安易に言いふらすような人間じゃなくて助かった。これは貸し一つになるだろうか。

(別にいい、喧伝するようなことでもないしな。CVRに転装生(チェンジ)がいるのなんて日常茶飯事だし)

(何でCVRに男子がいるのに疑問を持たないんだ君は……? ああそうだトオヤマ、君に言っておきたいことがあるんだ」

 途中から周りにも聞こえる程度の声量にすると、周囲が何事かと振り向く。まあ目立つだろうね、HR中に転入生とクラス長が話してるんだから。

 だからこそ、堂々と宣言させてもらう。

 

 

「アリアは、渡さない」

 

 

 と。

 一瞬の静寂、そしてそこから男女問わず叫び声が上がった。

「キャー! まさか潤と転入生で神崎さんを巡っての三角関係!?」

「アリアさんモテモテだね! やっぱり美少女はスタイル云々の不利なんか平気で覆せるんだよ!」

「誰よスタイル(人が気にしてること)口にした奴は!?」

「この展開は予想外……いや待って、この三角関係からエル×潤カップリングの新しい方向が開拓できるかも……!!」

 女子の皆は面白がっている(アリアは怒っている)様子だ。ところで最後の人、ボクとトオヤマのカップリングってどういうこと? まさかこの人にも女装がばれて……?(←無知)

「おおう、よく言った転校生! そうだよな、潤にだけいい思いさせるのは許せねえよな!」

「腹立つイケメンかと思ったがその啖呵はすげえ!! 一緒に潤を追い落としてやろうぜ!」

「じゅーん、てめえの時代は終わりが始まったぞ! このイケメンがお前を落ちぶれに落ちぶれさせたら友人の手向けとしてトドメに轢いてやる!」

 そして何故か男子達からは絶賛された。なんだろう、今彼等の嫉妬(怨み)をパワーに変えたらメテオも落とせそうだ。十中八九八つ当たりな気はするけど。

 「み、皆さん落ち着いてHRに戻ってくださーい……」と半泣きの高天原先生(本当にすいません)を尻目に、トオヤマはキョトンとした顔でこちらを見詰め、

「いや別に俺のもんじゃないし、欲しいなら自分の力で手に入れればいいんじゃねえの?」

『そこは何でもいいから反論しろよ!?』

「というかアタシをモノ扱いするんじゃないわよバカジュン」

 クラス総出+アリアのツッコミ。うん、ボクとしてもそういう反応をされるとは思わなかった。なので今度は挑発的な笑みを浮かべ、

「へえ、信頼しているアリアを婚約者としてだけでなく、パートナーとしてもあっさり渡すというのかい? 宣戦したボクが言うのもなんだけど、とんだ見下げた男だね」

 と煽ってみるが、トオヤマの表情は変わらず、

「まず勘違いから訂正するけど、俺とアリアは恋仲でもどちらかが恋慕してる訳でもないぞ。それにパートナーを奪うよりも二重契約を結んだ方が合理的だろ、奪おうとすれば必然バスカービルを敵に回すんだし。

 そもそも俺じゃなくてアリアに言わんと、奪うも引き込むも無意味だと思うが」

 まあ無理矢理すればぶっ飛ばされるだろうけど、と肩を竦める。感情論をぶつけたら相手からは無反応、例えるなら決闘用に投げつけた手袋をスルーされた気分だ。……なんというか、何て言えばいいか分からなくなってしまう。

「き、君はそれでアリアをボクに奪われてもいいのかい?」

「俺の感情的なこと? いやまあ強引に奪われれば思うことはあるが、それがアリアの意志なら無理に引き止めるつもりはないな」

 本人の意思次第だろこーいうのは。と、大人というかドライな対応をされてしまった。アリアの方に視線を向けたら『こーいう奴よ、自由意志を尊重し過ぎるの』とアイコンタクトで返される。ええ、受け入れてるのかい……?

 「ちくしょう澄ました顔しやがって!」、「そこは情熱的に口説いた方が面白いのに!」等と周囲が騒ぎ立てる中、多分ボクとトオヤマは同じことを思っているだろう。

((どうしよう(どうすんだ)この空気……))

 それをぶち壊しに掛かったのは、トオヤマの隣に座る峰理子だった。彼女は徐に立ち上がり涙目で、

「酷いユーくん! 理子と一緒にアリアんを貰って「ハーレム王に俺はなる!」って言ってたのは嘘だったの!?」

 などととんでもないことを言い出す。

「どこの転生悪魔だ俺は。そんな発言もアリアをお前と共有する約束もした覚えはねえよ」

「というかアンタもアタシをモノ扱いするんじゃないわよ!」

「一生大事にしますから!」

「そういう問題じゃないわよ!! というかまず女同士でおかしいことを考えなさいよ!!」

『え? 何かおかしいの?』

「恋愛感がとち狂ってる奴しかいないのここは!?」

 うん、ボクもそう思う。この国は特殊な性癖を受け入れる器が大きいのかな?

「よーしもう我慢できねえ! りこりんにうらやまけしからんこと言われて平然としてる(クソ野郎)に制裁を!!」

『然り! 然り! 然り!』

「征服王も呆れそうな嫉妬団の攻撃理由。お前等そのパワーを自分の恋愛に向けろよ」

『その上から目線が腹立つゥ!!!』

 ほぼ全ての男子+一部女子で構成された嫉妬団は怒り狂い、一斉にトオヤマ狙って引鉄を引く――って、これは幾らなんでも危ないんじゃないか!?

 無論今更止められる訳がなく、百近い弾丸は一斉に彼へと牙を向け――

 ガガガガガガギギギギギギ!!!!

 発砲音と金属の擦れ合う不快な音が幾度にも響き合う。それが途切ると、いつの間にかUSPを構えていたトオヤマは無傷だった。

 足元には無数の弾痕、それを見てボクは理解した。なんとこの男、自身のも含め全ての銃弾を足元に落ちるよう調整して弾丸同士をぶつけたのだ。

 驚愕の技を放った本人は変わらぬ顔でUSPをしまい、手を叩く。

「ほらお前等、まだHR終わってねえから席に着けー。先生、あと話すことはありますか?」

「あ、はい。えーとですね」

 え、普通に続けるのかい!? 周囲も舌打ちしたりつまらなそうにしながらも着席する。

「……いつもこうなのかい?」

「ご主人様は寛容な方ですから」

「面白いでしょう?」

 これを面白いと言っていいとは思えないんだけどメヌエット嬢。

 その後の休み時間で「宣戦は自由だけど次はTPO考えてくれな。あいつ等騒ぐネタがあれば喜んで飛び付くから」と、トオヤマから軽く注意された。そんな常識的なこと言えたんだね君、横の峰理子も「ユーくんがまともなこと言ってる……これは世界の終わり!?」とかオーバーリアクションで驚いてるし。直後に目潰し喰らってるけど。

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 まさかの大ハズレ枠を引いた女装(させられる)男子。危うく暴れそうになったが、アリアと理子によって鎮圧された。
 実はクラス長だったどうでもいい(後付け)設定。騒動が起こると一応鎮圧を行う側(でも原因は大抵こいつ)。


神崎・H・アリア
 変装する場合大抵ろくなのに当たらないツッコミツインテ。まあ原作の小学生よりは……ね?


峰理子
 本人にとっては大当たりの変装を引いたコスプレ娘。無論潤とのペアルックを想定して色々思考中。
 教室では無論お騒がせキャラ。煽るためなら平然と潤に際どいネタを放り込むが、本人は男女問わず好かれているという美味しい立場にいる。


白雪・レキ・メヌ・リサ
 各人の変装姿を想像してヤラシイ想像した人、挙手。

 
エル・ワトソン
 潤に宣戦布告をした男装女子。勿論恋愛的な意味ではなくパートナー的な意味である。……多分(マテ)
 クラスメイトの暴れっぷりと潤のマイペースさを見て、「あ、これペース握るの無理そう」と薄々察してしまった。でも負けない。
 
 
後書き
 一部除いて各人の変装はダイスで決めました。しかし白雪のアイドル衣装とかどうしよう……モバマス参照で良いか(←モバゲー時代勢、ただし未プレイ)
 というわけでどうも、ゆっくりいんです。世間は梅雨に入りかけですが、皆さんはどうお過ごしでしょうか。私はCCCコラボを終えて鬼退治中です(オイ)
 さて、カオス極まりない状況ですが次回は先頭前の日常一幕になるかと。しかしこれどう敵対させたものかな……(マテ)
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。


 


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第三話 他人からどう見えてもこれが日常(後編)

 アリア書きながらCCCで頭が一杯な作者です。いっそこのコラボを機に前から考えてたCCCの小説も書いてみようかなあ……。
ジ「この作品が完結するまでは別のものは書かないと誓ったのではないか?」ジロリ
 いやだって書きたいんですもん。そもそも誓いと約束は破るためにあるもんでしょ?(`・ω・´)ドヤァ
ジ「そんなことだから他の作品が中途半端に終わるのだろうが!!」
 ( ゚Д| |゚)デスヨネー 
 



「うがー、なんでこんなに出ないかなあ!? もう五十周以上はしてるんだけどどう思うユーくん!?」

「2%なんてそんなもんだろ、確率は偏るのが世の常だ」

 本人の幸運度にもよるけどな。どうも、遠山潤です。現在ワトソンくんちゃん編入からすぐ後の休み時間、物欲センサーの洗礼を受けている理子の横で読書ナウだ。

「不思議とアンタが読書する姿って違和感ないのよね」

「水魚の交わりならぬ水油の交わりということですかね?」

「合体事故でも起こしてるのか俺は」

 本は一冊一冊に作者の世界と想念が織り込まれている、故に俺は読書が好きだ。新しい世界と知識を得られるからな。

「ユーくんユーくん、リアル獲得率アップの超能力(ステルス)とかないですか!?」

「そんなこと考える暇あるなら再チャレンジしろ、回転数が全てだ」

「あら、自分の手で確率を確立に近づけるジュンのセリフとは思えませんね?」

「ゲームの確率上昇なんてハッキングくらいしかねえよ」

「ちょっとD○Mにアクセス(侵入)してくる!!」

「ヤケ気味だからって不正行為するんじゃないわよ理子ゲームで不正はしない姿勢はどうした!? ジュンも面倒だからって煽るんじゃないの!!」

「ジュン、お腹が空きました」

「さっき(おやつのストロベリーパイを五個も)食べたでしょう」

「聞きなさいよ!?」

「読書中だからってことを考慮し――オイ理子、後ろからくっついて他人のポケットを漁るな」

「ヌエっち、隠し持ってたパイを確保しましたぜ!」

「でかしました理子」

「オイ返せやコラァ!!?」

「お菓子くらいでガチギレするんじゃないわよ!?」

 ももまん取られて阿修羅になる奴が何言ってんだ。……とまあ、いっつも周囲に邪魔されて教室で読めた試しがない。

「潤貴様ァ、りこりんに抱き疲れるとはなんて羨まケリドウェン!?」

「うるせえNPC1」

「仲山だよ! その呼び方やめろ!?」

 便乗してモブ共「モブ言うな!」人間の屑共が騒ぎ出すし、こうなると中断するしかない。ワトソン? さっきの騒動で男女問わず質問責めにあってるからスルーで。

 

 

 時間は飛んで授業中。現在は透明オカマチャン・ウー先生が教える世界史の授業だが、教壇に立つ(見えないけど)教師含めやる気はない。まあ武偵校で一般科目を真面目に受ける奴などまずいないだろう、必要だと思ってないのだし。そりゃ偏差値も下がるわ。

 そんな中俺は真面目にノートを取る――フリをして新武器のアイディアを練っている最中だ。ぶっちゃけ教科書の内容は二年の最初に暗記してるし、勉強する意義も感じられん。隣の理子なんて教科書立ててる影でゲームやってるし。お前隠す気あるのか。

 そんな中、真面目に板書してるのはリサとワトソンくらいである。ところでそのワトソンくんちゃんから妙に視線を感じるんだが、『コイツ何やってんだ』的なのを。別にええやん、成績は維持してるんだし。

 

 

「よーしじゃあジュン、行くわよ!」

「うーい」

「声が小さい!」

「ういー」

「結局やる気ないんかい!?」

 むしろそっちが張り切りまくってるのはなんでさ。

 時間と場所は変わって午後、強襲科(アサルト)訓練場の一角。「久々に模擬戦やるわよ! タイマンで!」と何かヤル気満々のアリアにドナドナされてきたでござる。真正面からのガチンコ勝負で俺が勝てる訳ないじゃん……え、「ユーくんなら何とかできるんですよ諦めんなよぉ!」? うん無責任な声援ありがとう理子、是非代わってくれ(懇願)

「ご主人様、頑張ってください!」

 ……しゃーなし、やりますかね。

「あれ、理子の時と対応違い過ぎない!?」

 残当。

 軽く柔軟をしてからお互い構える。アリアは腰を落として突撃体勢に入り、俺は無形。どっからでも掛かってこーい。

「いやアンタ無形の構えは向いてないんでしょ」

「何故知ってるし」

「自分で言ってたじゃな」

 言ってる隙にサクソニア セミ・ポンプを連射でシュート!

「うわせこ!?」

「超、エキサ――かわした、だと……!?」

「というかこれくらいで隙あるわけないでしょ」

「デスヨネー」

 貫き手の一撃を避けながらそりゃそうだと頷く。散弾が飛んだ方角にいた野次馬達からブーイングが聞こえるが無視だ無視。

 最近トラックを殴り壊せるくらいの威力に「そこまでやばくないわよ!」そうだね、車が吹っ飛ぶくらいだね(白目)

「というか真面目にやりなさいよ!!」

「真面目に正面からやると五秒で負けるんですけど」

 実際は二秒もいらないだろうけど。さーてどうするべと拳を受け流しながら思案するが、腕が痺れ始めたので悠長にもしてられない。本当洒落にならない威力だよな。

「次は当たるわよ!」

「ダメージはそうでもない」

 心臓狙いの一撃を敢えて半端に流し、受けた衝撃を利用して距離を取る。ダメージは残るがまあ許容範囲、小太刀に持ち替えて突進してくるアリアに対し、こちらは先制で首を狙ったハイキックを放つ。

「足が短いアタシへの嫌味かしらそれは!?」

「なんでそうなる」

 身長によるリーチ差なんだからしょうがねーだろ。小太刀一本で受けられながらボヤキつつ、内心舌打ちをする。直感で靴先の仕込み刃を読まれてたか。

「で、手癖の悪いアンタが足技に切り替えるってどういうつもりかしら?」

「そこは手技主体とかでいいでしょうよ。まあこういうことさ」

 クライム・バ○エ。小さく呟き、足元にスケート靴の刃を模す形で魔力が集まる。そしてそのまま地面を文字通り滑って移動、立体機動でアリアの側面を取り、足先から衝撃波を飛ばす。

「ええい、ちょこまか鬱陶しいわね!」

 小太刀で全部潰されてはいるが、慣れないこちらの動きを捉え切れてな、

「はっ!」

 とか思ってたら、背を向けたまま小太刀で床を削りながら進む衝撃波が放たれる。え、ちょ、

「あぶな!?」

 進路コースから跳躍することで回避し難を逃れるが、

「つーかまえた」

 間近でアニメ声、かと思ったら腕ごとホールドされた。げ、短距離転移とかいつの間に使えるようになったんだよ!?

 なんて口にする間もなく、アリアによって視界は上下180度回転。あ、これアカンやつや。

「表○華!!」

「サスケェ!?」

 床をぶち抜いて頭が半分めり込んだ。大した高さでもないのになんちゅう威力だ。

「よし、じゃあアタシの勝ちね!」

「ご、ご主人様大丈夫ですか!?」

「鉄○が無ければマジでやばかったかもしれん」

 危うくブラドと同じ末路を辿るところだった。六○万歳、魔力を使わない超人技って便利だよね。

 とりあえず頭を出して――待て理子にリサ、何故両足と両手を掴んでいる。

「じゃあ行くよリサ、うんとこよいしょー!」

「ど、どっこいしょー!」

 俺はカブかよっていたいいたいマジで痛い!? リサが非力なのと理子が絶妙な手加減で抜けずに引っ張られてるから首が伸びる!

「イデデデデ!?」

「ユーくん耐えて、もうちょっとで抜けるから!」

「抜けるのは頭じゃなくて首になりそうなんだけど!? 俺ゴム人間じゃないから!?」

「というかジュンなら自力で抜けられるでしょ」

 アリアの言うとおりである。この後自力で抜け出してからリサに滅茶苦茶謝られ、逃げる理子には捕まえてからキャメルクラッチしておいた。

「お疲れ様トオヤマ、酷い目にあったね」

「ああどうもワトソン、何で模擬戦中より後のほうがダメージ受けてるんだろうな」

「いつもの事なんじゃないかな?」

 その通り過ぎてグウの音も出ない。いらんところでダメージ負うのは最早定めな気がする。

「そんなギャグ染みた体質は無いと思うけど……しかし君もアリアも凄いね、アレだけ超能力を効率的、かつ効果的に使えるのは上位レベルでも中々いないよ。特にアリアは最近まで超能力に触れてもいなかっただろうに」

「まあアリアには制御を第一に教えたからな。別に褒められるほどのもんじゃないさ」

「いや、褒めるものだとボクは思うよ? 超能力は派手さや威力が注目されがちだけど、最も大事なのはその力を制御下に置くことだし。怠れば暴発の可能性がある銃を携帯するようなものだからね」

「妙に詳しいな。ところで話は変わるが」

「急だね、なんだい?」

「俺の観察なんぞしてどうするつもりなんだ?」

 隠す気もないようなので尋ねておく。朝からこっち、午後の選択授業まで同じ場所にいて見られてるからな。嫌ではないが気にはなる。

「それは勿論、君がどんな人物かを知るためさ。恋敵の弱味を握りたいのは当然だろう?」

「はっきり弱みって言ったよコイツ。というか恋敵でもないというに」

「細かいことを気にすると禿げるよ?」

「まだ禿げてない」

「禿げる予定でもあるのかい……?」

「そんな恐ろしい予定はない。というか弱みを握るなら隠れてやるもんじゃねえの」

「君の場合隠れてもすぐに見つけるだろう? だったら正面から堂々と見ていた方がいいと思ってね」

「うん、それ正解。ここ最近二回ほどストーカー被害に遭ってるし」

「君をストーキング? ヤクザか政府絡みの人間にでも追われてるのかい?」

「いや、後ろにいる奴」

「アイタタタ、ユーくん首捻らんといて!?」

「ああ……」

 凄い納得顔+憐れみの視線を向けられた。察しすぎじゃないですかねえ。

 その後強襲科連中に奇襲を掛けられ、ワトソンは女子連中に連れて行かれて解散させられた。女子の扱いに慣れてるね君。

 

 

「ただいまー。って、今日は誰もいないんだったな」

 依頼も終えて(ワトソンも付いてきたが気にしないことにした)部屋に帰るも、珍しく返事はなし。アリアとメヌはかなえさんがいる女子寮へ、白雪は毎度お馴染み合宿、リサは救護科(メディカ)の長期依頼で県外に出張中。理子? 知らん、何かヒルダと話をしてくるとか言ってたな。

 まあともかく、誰かがいないのは普通だが誰もいないのは久しぶりだ。ワトソンの裏工作で交流のある奴等大半が依頼で忙しいのもあるけどな、その気になれば自分で補給・整備は出来るからいいんだけど。

 飯の時間にはまだ早く、課題や達成しないといけないノルマも差し迫ったものはなし。さて、どうしたものか。

「まあ、一人だし丁度いいか」

 やることを決め自室へ。荷物を置き、大量の本に囲まれながら仕舞っていた部品を取り出す。銃、刀剣など雑多に収められている箱から材料を選別し、同時に図面を脳内で作成していく。

 外界への認識を最低域まで遮断、分割・並列思考を『作成』に集中、作業開始――

「………………」

 聞こえてくるのは手元の材料を手繰る音のみ。素材は組み合わされて部品となり、部品が組み合わされて武器となる。

 時間経過を気にせず作成に取り組む、一つ組み合わせれば二つ、二つ組み合わせれば三つ――

「ユーくん♪」

 声を認識したと同時に、背中越しに密着される感覚。それを機に、意識が通常域に帰還する。

「……ああ理子か、お帰り」

 製作していた武器を置き、座ったまま振り返るとそこにいたのはいつも通りニコニコ笑顔の理子。

「ユーくん随分集中してたんだね? ちょっと気配遮断したらヨユーで不意打ちハグ出来ましたよ」

「気配殺してまで抱きつく理由が分からんのだが」

「サプライズって面白いでしょ?」

「仕掛ける方はな」

 実際は作成中のものが完成するまで待っていたのだろうが、口には出さない。変な所で気の利く奴である。

「くふふー、ユーくん独り占めだー。ぎゅー」

 笑顔で抱きしめる力を強める。小柄な体躯には不釣合いな大きい胸が背中に押し付けられ、ミルクのような甘い香りを全身に擦り付けられてマーキングされてる気分だ。

「満足したなら離してくれ、動けん」

「えー、やーだー。久々の二人っきりなんだから、ユーくん存分にイチャラブしようよー」

 つれなーい、と膨れっ面になる。このままでも立てなくはないが、コアラの親子みたいにしがみつかれたままだな。絶対離さんぞーって意志を感じる。

「……ヒルダとの話し合いは失敗か?」

 軽く溜息を吐いて質問する。理子がしつこく抱きつく時は、大抵機嫌が悪い。以前「ユーくんに抱きついてるとマイナスイオンで落ち着くのですよ」と言われたが、絶対お前の気分だろそれ。

 水を向けてみると、案の定頬を膨らませて愚痴り始める。

「そーそーそうなの! ヒルダったら酷いんだよ! ユーくんは危ない奴だからやめろって!」

「特に間違ってはいないな」

「潤がそういう態度だから説得しきれなかったんだけどなあ?」

「そう言われましてもねえ」

 裏モードになって睨まれるけど、ヒルダ(姉代わり)の立場からすればいい顔は出来ないだろう。実力はともかく思想的な意味で。

 一度愚痴り出すと中々止まらないので、とりあえず聞いてやることにする。ちなみにヒルダの俺に対する評価は女たらしや他人を不幸にするなど散々だった。前半は流石に否定したいが、住んでる状況見ればそうなるよなあ。

「つまりヒルダを説得できなかったのはユーくんが全て悪いのです!」

「いやそのりくつはおかしい」

「だってヒルダのマイナス評価を全部肯定してるじゃん! そんなんじゃ説得できるものも出来なくなっちゃうよ!」

「事実をどう否定しろと」

「気合で! もしくはユーくんお得意の洗脳に近い説得で!」

「他人聞き悪いなオイ。最近はそこまでのOHANASHIなんざ稀にしかしてないっての」

「稀って理子知らないんだけど……とーにーかーくー! りこりんを苦労させるユーくんにはりこりんを労わる義務があるのです! 具体的にはりこりんをハグとか、りこりんをナデナデとかで!」

「義務という名の欲求な件。まあたまには応えてやるとしよう」

「そうそうユーくんも正直に――ふえ?」

 拘束から抜けて逆に抱きしめられた理子が間抜けな声を出す。相変わらずちっこいなコイツ、抱きしめるにはちょうどいい大きさだ。

「ゆ、ゆゆゆユーくん?」

「ん、何だ理子? このハグの仕方じゃ不満か?」

「い、いや、そーいうわけではないけ、ふわっ」

 リクエスト通り頭も撫でてやると、抜けた声を上げてされるがままになる。というか状況に頭が追い付いてないみたいだな。おー髪サラサラ、撫でやすいわこれ。

 片手で頭を撫で、もう片方で背中を叩いてやる。顔は見えないが、気持ち良いのか体重をこちらに預けてきた。

「……どしたのユーくん、今日は過剰サービスじゃない」

「なんだ、どつき回す方が良かったか?」

「そーいう訳じゃないけどさ……ただなんというか予想外で、理子ちょっとびっくらいこいた。どういう心境の変化?」

「別に、深い意味はないけど」

 本当に、ただ何となくだ。正直に答えると抱きしめられた理子がふて腐れた気配を発し、向こうからも抱きしめ、左胸に頭を預ける。

 お互い密着し合い、制服越しに体温と鼓動を感じられる距離。騒がしい俺達にしては珍しく、静かな時間が過ぎていく。

「……やっぱりユーくん、全然ドキドキしてないし」

「お前は爆発寸前みたいだな」

「当たり前じゃん……もう、この冷血漢はどーやったらドキが爆発するのかなー」

「さあてねえ。なんだったら、試してみるか?」

「んー? 何をです――か?」

 密着していた身体を離し、顎を持ち上げる。いつも陽気な光を宿している瞳には、驚愕が映る。

「あ、あれ……ユー、くん?」

 まん丸お目目を限界まで見開き、動けないでいる理子に小さく笑ってやり、顔を近付ける。理解したのか条件反射か、彼女は目を瞑り――

 

 

 額に向けて渾身の頭突きを見舞ってやった。

 

 

「―――――――っっっ!!!??!?!?」

 頑丈さがウリの理子も無防備な状態では耐えられなかったのか、声も出せずに額を抑えている。

「ヒャハハハハハハ!! 引っ掛かった引っ掛かった!!」

 思わず呵々大笑してしまう。いやあこの落差、笑うしかな――

「オラア!!」

「イオナズン!?」

 脇腹に渾身の蹴りが突き刺さった。おおお、結構響く……

「なあ潤? 今のはさあ、今のはさすがのあたしでもどうかと思うぞ!? 今なら憎しみでお前を殺せそうだよ……!」

 裏モードにまでなって激おこプンプン丸状態のようだ。まあ非は俺にあるけどさ、

「同じようなこと三回もやった奴に言われたくない」

「うぐ……そ、それはあれだよ、乙女心ってことで察してよ」

「察しても許しちゃダメだろ。寧ろ一回で許してやろうと思う俺の寛大な心に感謝すべき」

「乙女の純情を弄んだのを簡単に許せるかー!」

「俺は三回も弄ばれたぞ」

漢女(おとめ)の純情を?」

「オイバカやめろ」

 その呼び方はアカン、主に俺の貞操的な意味で。

「むーーー……でもでも、それでもあんまりだと理子は思います!! 上告!」

「取り下げで。まあヒルダを説得出来たら考えてやるよ」

「言質取ったー! 約束だからね、嘘吐いたらアリアんに頼んでサンドバッグになってもらうからね!」

「なんだその新種の拷問」

 確実に死ねるだろ常考。……というか、ノリでとんでもない約束したなあ。

 

 

 数日後、靴箱に手紙が差し込まれていた。またシャーロックじゃねえだろうなと警戒しながら封を切ると、

『アリアとメヌエットは預かった。返して欲しければ指定された場所へ来ること。

 エル・ワトソン』

 ……メヌはともかく、よくアリアを誘拐できたな(違)

 

 

おまけ

「そういえばユーくん、何造ってたの? りこりんにもみーせーて!」

「やーだーよと断りたくなる一言だな。偽装をメインテーマにしてみ」

「こ、これは……! ねえねえユーくん、これ貰っていいかな!?」

「上野にある甘味屋のジャンボパフェで」

「勿論おk! くふふー、デートの約束も取り付けるとか流石のりこりんですな!」

「あ、晩飯もお前持ちな」

「さすがにそれは甲斐性無さすぎじゃないかな!?」

 

 

 




後書き
 ぐぼぁ(砂糖の塊)
 ……失礼しました、一ヶ月振りの更新でジャンヌさんに殺されるのを危惧するゆっくりいんです。いや今回の後半書いてたら砂糖も吐きたくなりますって……昔書いてた東方の二次創作もこんな感じでしたけど、我ながらどういう神経してたんでしょうね(白目)
 そんなわけで、次回はVSワトソン編、余裕あれば理子VSヒルダも書いていこうかと。戦う理由? いつも通りしょーもないです(マテ)
 あ、キャラ紹介は今回から省くことにします。正直本編の内容抜き取ってるだけで必要性を感じなかったので……リクエストあれば戻すかもしれません。
 それでは今回はここまで。感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。



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第四話 御託はいいから殴り合おう(前編)

 デラーズ紛争MS解説を見て懐かしさに浸っているこの頃。やっぱ統合計画のジオンMSっていいですよね、特にリック・ドムⅡ(何
 ところで友人がハイスクー○D×Dを勧めてくるんですが……なんで主人公とイケメンキャラの絡みネタを多用す
 氷||(´・ω・`)||氷ピキーン
ジ「個人的な時事ネタで投稿遅れたのを誤魔化す輩は氷漬けだ」
 氷||(´・ω・`)||氷(ライターください)
「こいつ脳内に直接……!? いや違う、ライターくらいでその氷が溶ける訳ないだろうが!」




 

 東京スカイツリー。高さ634m、地上160階に及ぶ巨大電波塔兼観光施設であり、現在でも国内外を問わず人気が高い。

 午前二時、SV1000をかっ飛ばして到着し、エレベーターで目的の階を押す。普通なら深夜でも警備員や監視カメラが動いているものだが、人払いの結界とハッキングにより不気味なほど静かだ。まあ結界は俺がやったんだけどな。

 エレベーターの上がる音をBGMに、ワトソンのデータを脳内でおさらいしていく。手紙には装備に制限を設けていなかったため、ワトソンが望むのは交渉でないだろう。アリアを誘拐した理由までは推測の域を出ないが、ここまで来たら直接聞いた方が早いか。

 チン、と到着の音が鳴り、扉が開く。目的の場所――展望台エリアにて、ワトソンは窓の外を見ながら待っていた。

「ジャストだ。時間を守れるのは英国紳士として評価するよ、トオヤマ」

 振り向いた(彼女)の格好は、防弾・防刃性のトレンチコートにベスト、コンバットブーツ。黒一色に統一された完全武装だ。まあ俺も防弾制服に黒コートと、似たような格好だが。

 お前紳士じゃないだろ? ツッコミ入れる空気ではないので、

「そりゃどうも。で、誰も来ないよう諸々の処置までしてご苦労さんなことだが、用件は何だ?」

 見たところ罠はなし、その代わりかワトソン自身は薬を使っているようだ。見たところ痛覚と恐怖心の減少、身体能力上昇、軽度の興奮状態か。

 俺の質問に手袋が投げつけられる。

「君なら分かっているとは思うが、決闘だ。二人を取り戻したければボクを倒してみろ」

 こちらを見据えるワトソンの瞳は、敵意と殺意に満ちている。

「見捨てると後が怖いからやるけど、戦闘じゃなく決闘なのはどういうつもりだ? 普通場所を指定したなら自分に有利なフィールドを作るだろうに」

「そんなの簡単だ。君には離間等あらゆる搦め手が効かないのは理解した。ならば下手に策を講じて逆に利用されるより、正面からやりあった方が勝ちの目はある。

 

 

 そして何より、ボクはお前のことが気に入らない」

 

 

 表情、瞳からその言葉が本気であることが分かる。

「……幼稚だと笑うかい?」

「――いいや」

 ワトソンの言葉に俺は首を横に振り、

「感情に従った行動なら合点がいった、興も湧いた。いいぜ、決闘に小難しい理屈はいらねえ、存分に殺り合うとしようか」

 笑いながら背負っていたギターケースの先端をワトソンに向ける。

「……君も良く分からない男だな。てっきり奇天烈なことをしながらも合理的に行動するかと思っていたんだが」

「合理だけに従う奴が不利な殴り合いなんざするわけねえだろうよ。本来俺は後方支援と情報収集が仕事だぞ」

「……そうか、そうだね。じゃあ会話はここまでだ、始めようか」

 片手にSIGを構え、もう片方に1ユーロ硬貨を取り出す。

「これが合図だ」

 ピィン、と小気味いい音を立ててコインが弾かれる。と同時、SIGから銃弾が吐き出された。

 一拍遅れたが、こちらもギターから砲身が競り出て銃弾を叩き落す。落ちてからとは言ってないからな。

「やはりエ○・マリアッチか。妙なものを使っているね」

「汎用性が高いから好きなんだよ。まあ使いにくいってもっぱら評判だが」

 こんな風にな、とデスペラード砲の構えでミサイルを撃つ。無論アッサリと避けられ、逆にSIGの一斉掃射を浴びる羽目になった。

 当たり前だが、こんなポーズじゃ素早く動けないのでギターケースを盾にする。一発腿に掠ったが、移動に支障はない。

「うん、やっぱこの構えはないな。隙でかいし」

 様式美に拘った結果がこれだよ! などとふざける暇もなく追加の銃弾を弾き、避けながらマシンガンで反撃するが、さっぱり当たらない。

 身体能力はクスリ込みでも眞巳より下だが、技術面では上だろう。今もこちらの隙を突く形でSIGの跳弾を死角に撃ち込んでくる。面倒な手合いだねこりゃ。

「銃撃戦では一歩劣るか。アリア以上の技量とは流石だね」

「全弾回避してる癖してよく言う、ぜ!」

 散弾に切り替えてぶっ放すが、これも外れ。軽業師のような身軽さで接近され、首を狙ったコンバットナイフの一撃を間一髪で避けるも追撃の肘撃ち、はかわしきれないのでマ○アッチで受ける。

「仕込み刃ね、全身凶器の類か」

「そうだ、マ○アッチで受けたのは正解だね。でも、近接戦の方が不得手なのは本当のようだ」

「そう思うなら手加減してくれませんかねえ」

「手加減する相手じゃないさ、ボクは君の能力と実績が見合わないのを知っている。

 さて、まずはその物騒なギターを頂こうか!」

 ギターケース越しに伸ばされた手で弾かれ、マ○アッチを離してしまう。見事な盗む技、ゲームなら『Steal!』と表示されるくらい鮮やかだ。まあ、

「欲しけりゃくれてやるよ」

 余計なおまけ付きでな、と自分から手を離し、マ○アッチごとワトソンを蹴り飛ばす。

「な!?」

「はいドーン」

 距離が離れたところで仕掛けを作動、驚愕するワトソンを巻き込んでマ○アッチはしめやかに爆発四散! ワザマエ!

「ふむ、不意を突くには爆弾もいいか。実用性は及第点、課題は取り回し易さ」

 か、と言い切る前に煙の中から長針が飛んできた。ダメージにならないのは予測していたが予想より対応が早――

「ぐえ!?」

 針を取り出していたUSPの銃弾で弾いた直後、顔面に何かを掛けられた。目が見えん+粘り気が良すぎて剥がせねえぞこれ!

 そうして怯んでいる内に、身体を糸で縛られる。鋼線じゃねえなこれは、毛髪か?

「爆発に巻き込んだ直後に追撃もなしとは、詰めが甘いね。まさかあれで勝ったつもりだったかな?」

 だとしたらくたばらなくて失礼した、とワトソンの声が聞こえるが、全方位から聞こえるような錯覚を感じる。幻覚、しかも超能力(ステルス)ではない類か。

「顔に付いてるものは無理に剥がさない方がいいよ? (にかわ)よりも強い粘着力だからね、皮膚ごと持っていかれかねない。

 まあ、ここまで言えば君が今受けているものがなんなのか分かるだろう?」

 衣擦れと金属音。それらが聞こえる中俺は答えを口にする。

「……長針の毒に吸着の痰、蝶の幻術に髪の糸。爆発は壁に入る隠行で逃れたか。

 甲賀と伊賀十人衆の技を同時に複数使うとか、どんだけデタラメなんだよ」

 しかも恐ろしいのは、これらの技に一切の魔力を感じないこと、つまり超能力(ステルス)ではない。どんな修練を積んだら十人衆の業なんか使えるんだよ、しかも複数。俺じゃあ超能力で再現するのが精一杯だぞ。

「お褒めに預かり光栄だよ、文字通り血の滲むような努力をして会得したからね、この対超能力用の『忍術』は。

 ……あ、ちなみに服はもう着てるからね!? 決してボクは露出狂じゃなくて技のせいだから!」

「うんそこまで聞いてねえよ、というかスルーしようとしたのに自分から口にするとか」

 そこの欠点は解決してないのね、本当に緊急離脱技のようだ。見えなくてもワトソンの顔が真っ赤なのは想像に容易い。

「……ゴホン。失礼、取り乱した。

 とにかく、これこそボクが『西欧忍者(ヴェーン)』と呼ばれる由縁。バジ○スクに登場する二つの里の技を修め、他にも忍者の技能を修めたエージェントさ」

「リアル現代忍者と。じゃあスレイヤーなあの技も」

「それはボクの勉強不足でまだ観てない。というかネタ衆がプンプンするんだが」

 正解。口には出さないでおいた。

「ふう。……さて、ダメージも癒えたし続きといこう。といってももう詰みの状態だが、どうするんだい?」

「どうするって」

 こうするよ。言うと同時全身から炎を発し、顔面の痰と拘束する縄を焼き払った。そうしてUSPを構えるが、

 

 

「それは読んでいたよ」

 

 

 妖しく光るワトソンの瞳。俺はそれを直視してしまい、意志とは無関係に自らのUSPを側頭部へ突き付けてしまう。

「君らしくないミスだねトオヤマ、この展開なら読めていたと思ったけど。それとも生理的な不快感は拭えなかったかな?

 さあ、これで本当にチェックメイトだ。自らの銃弾でそのよく回る頭に風穴を空けるといい」

 それアリアのセリフだろ。一言を口にすることすら叶わず、引鉄に掛けた指へ力が籠もり――

「おらよ」

 引鉄は引かず、全力でUSPを投げつけてやった。

「――え、な!?」

 瞳術が破られると思わなかったのか、一瞬硬直するワトソン。条件反射か顔面に迫るそれは難なく弾くが、その頃には俺も動いている。

 制服の上着を脱ぎ捨て、右手には薄手のナイフを。一直線に飛び掛るが、ワトソンとてただ固まっているわけではない。息を吸い、こちらの進行先にかまいたちを発生させる。触れれば全身を切り裂くそれを跳躍で回避し、天井に一瞬張り付いて再度突撃。

 反応が後手後手になっているが、それでも再度かまいたちの防壁を即座に張るのは流石と言えるだろう。

「極彩と」

 防御が無意味、という点を除いてだが。

 不可視の防壁はただのナイフにあっさりと切り裂かれ、

「散れ」

 技の後で硬直していた相手に、ナイフの一閃が走った。

「――ぐ、う……なんで、瞳術が解かれ」

「解いてねえよ。単純な話、敵意も悪意も一切持たなければ(・・・・・・・・・・・・・・)

「――はは、やっぱり君は、デタラメだよ」

 ドサリ、と音を立てて倒れる。起き上がろうと必死に足掻いているが、まあ無理だろうな。気力でどうにかなる状態じゃない。

「チェックメイト、でいいかね?」

「……ああ、悔しいけどボクの負けだよトオヤマ。まるで身体に鉛を注入された気分だ」

「いやそれ死ぬだろ」

「比喩だよ、分かるだろうそれくらい。というか一体何をしたんだい? 外傷はない筈なのに全く動けないんだが」

「ナイフで神経系の機能を一時的に切らせてもらった。超能力による神経攻撃の類で」

「要約すると?」

「非殺傷設定の魔力ダメージ」

「神経系がどうこうって言ってなかったかい?」

 お前がざっくりまとめろって言うから簡単にしたんだろ、俺は悪くねえ(何)

「んで、アリアとメヌはどこに隠してるのよ?」

「ボクを殺せば分かる、と言ったら?」

「死体は喋らんし吐けないだろ」

「ボクの死が扉を開く条件かもしれないじゃないか」

「魔王城の門番でもない限りねーよ。というか九条破りをさせんな」

「君ならどうとでも誤魔化せるだろう? というかさっさとトドメを刺してくれ、ボクは負けたんだから」

「なんで自殺志願者になってるんですかねえ……」

 あと『私、死を受け入れています』みたいな顔してるけど、USP向けたら反応してるのバレバレだからな。

「……正直、頭が冷えた。君への嫉妬でアリアとメヌエット嬢を巻き込み、無理矢理決闘に挑ませた自分の醜さに死にたくなってきてる」

「俺なんぞに嫉妬してどーするよ」

「傍から見れば幾らでも感じられるものだよ? 強襲科Sランクの腕前、にも関わらず誰とでも親しげにいられる姿勢、それでいて頼りになる仲間に囲まれて自由気ままに過ごしている。

 ……男であるよう教育され、躾けられ、誰にも正体を明かさないでまともな友達もいないボクからすれば、君という存在は妬ましく、憎らしい存在だ」

 そして何より。それまで淡々と語っていたワトソンの瞳がありったけの憎悪と嫉妬を孕む、視線に威力があるなら殺せそうだな。

「超能力を使う素質がある!! ずるいじゃないか、それだけの力と人脈を持ちながら他人にも教えられるくらいの知識を持ってるってアリアから聞いたし!

 ボクだってN○RUTOの忍術とか使いたかったのに、なんで天は君にばかりボクが欲しいものを与えているんだい!? サノバ○ッチ!!」

「……えぇー」

 一番怒る理由それかよ、というか色金前提の理子より魔力が低い俺に嫉妬するとかどんだけ――ああ、先日の模擬戦か。

「……はあ、もう色々吐いたらどうでも良くなってきた。トオヤマ、君の手で終わらせてよ」

「闇堕ちした味方かお前は。というか適正開放すればお前だって超能力くらい使え――」

「使えるようになるのかい!?」

 飛び起きて両肩を掴まれた。痛い痛い力込めすぎだから! というか衰弱状態だったのにいきなり起き上がるとかどんな精神構造してるんだ!?

「本当なんだねトオヤマ!? ボクも影分身とか白○とか使えるようになるんだよね!? 嘘だったらリバティー・メイソンの全戦力を賭して君を殺しにいくよ!!?」

「ちょ、待った待った本当だから!? とりあえず落ち着いて手を離し」ゴキン

 あ、外れた。万力だけで壊しにくるとかどんだけだ今のコイツ。

「あ……す、すまないトオヤマ。ちょっと落ち着くことにするよ」

「是非そうしてくれ」

「……ゴホン。もしボクに忍術を教えてくれるなら、リバティー・メイソンはバスカービルへの助力と非々色金の譲渡を約束しよう。元々君にはイクスカリヴァーンを返却されて印象もいい、ボクが一言掛ければ上層部も頷いてくれるだろう」

「私欲で組織の行き先を決めようとしてる件」

「いざとなったら色金を盗んでボクだけでも協力するから、この通り!」

「それ間違いなく指名手配されるからな? まあその条件なら願ったり叶ったりだが」

「! じゃあ?」

「ああ」

 こちらが手を差し出すと、ワトソンは満面の笑みで両手を握ってきた。力は込められていないので女子特有の柔らかい手なのはよく分かるが、瞳が爛々し過ぎて怖い。餌を前にした犬みたいだ。

「契約成立。改めてよろしく、エル」

「ああ、よろしく親友(Close friend)!」

 (親友認定が)はえーよホセ。

 

 

おまけ

「アリアー、メヌー、起きろー」

「んぅ……あれ、ジュン? 朝ゴハン出来たの?」

「今夜中だから、飯の時間過ぎてるってレベルじゃないから」

「……ジュン、髪を整えて顔洗って」

「自分でやるかサシャさんとエンドラさんに頼みなさい。ホラ、ここ寮じゃないんだからシャキッとしろ」

「アリア、メヌエット嬢、大丈夫かい? すまなかった、手荒い真似をし」

「――」パチリ、ギロ

 ドカバキボコグシャバキバキ!!!

「……ぐほぁ。な、何が」

「……うわぁ、王子を誘う魔の○ディールで空中コンボとかえげつないな」

「エル、アンタ食事に睡眠薬盛るとかどーいうつもりかしら? 覚悟は出来てるんでしょうねえ」

「ま、待ってくれアリア! 確かに一服盛ったのは謝る! だけどこんなの珍しくないんだから」

「あらあら、ワトソン卿分かってないようですね? 神聖な食事に何かを盛るということ、それがどれだけ罪深いか教えて差し上げますわ。お姉様、逃がさないようにしてください」

「ジ、ジュン、助けて(Help me)!!」

「いやすまん、我が家には『食材で遊ぶ輩はもれなく極刑』というルールがあるんでな……気の毒だが、存分に死んでくれ」

「う、裏切りものー!」ドップラー

 ドナドナされたエルは十分後、(精神的に)死んでいた。ところでお前等、上にいるだろう二人忘れてないよな?

 

 

 




後書き
 なあにこれえ(真顔)
 どうも、ゆっくりいんです。おっかしいなあ、最初はガチバトルするだけの予定だったんですが……変な厨二病こじらせて実際に使えるようなキャラになっちまったよ……というかバトルも半分以上ネタですねHAHAHA。
 まあこれでワトソンくんちゃんの強化フラグが立ったということで一つ。……ツッコミ役が増えたと思ったのになあ、どうしようかなあ(シラン)
 とりあえず、次回はおバカとシスコンの対決になると思います。というか文化祭ネタどこにぶち込もう……カットしたらダメですかね?(チラッ)
 とりあえず今回はここまでで。感想批評評価等お待ちしてます! あと早めに投稿します! ……嘘じゃないですよ!?(フラグ)
 
PS 
フラグでした! 毎度毎度お待たせしてしまって大変申し訳ありません!
ジ「謝る必要はないぞ作者。この前後編が終わったら活動報告に座談会(言い訳)タイムが待っているからな」
 え、ジャンヌさんによるリンチですか?
ジ「いや、ホームズ姉妹だ」
 ……逃げていいですか?
ジ「逃げられると思うのか?」
 デスヨネー(白目)




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第四話 御託はいいから殴り合おう(後編)

 いい加減アプリゲーにも飽きたので更新早くなると思います。
ジ「やりながらでも書かんかこの飽き性の権化があ!!」
 権化なんて難しい言葉よく知ってますねジャンヌさ( ゚Д| |゚)グダコ!?
ジ「バカにしてるのか貴様は!?」


「だーかーらー! あの男のどこがいいのよ理子!?」

「何度も言わせないでヒルダ! 良いとこなんていっぱいあるから語り切れないのー!! ヒルダだって理子のこと喋りだしたら止まんないでしょ!?」

「三時間は余裕で越えるわね!!」

「つまりそういうことだよ! そもそも恋に理由を問うなんてナンセンス、冷めてきてる証拠だってはっきりわかんだね!」

「そんな夢見心地な気分で選んだ男なんてお姉ちゃん許さないわ! たしかにルックスや性格は及第点だけど!」

「じゃあ何も問題ないじゃん! 寧ろお買い得物件だよユーくんは! 将来有望だよ!」

「そうかもしれないけど、じゃあ現状ハーレム状態のアイツが浮気したらどうするつもりなのよ! ああ見えて一途な気はするけど!」

「その時は理子がハーレム管理するから問題ないですー! なんでユーくんの良さが分からないかなヒルダはー!?」

「良さが分かっても認められないのよ、親代わりの姉として! というか相手がハーレム作るの前提とか認められる訳ないでしょうが!」

『この、分からず屋ー!!』

 ……第三者の俺がやたら褒められる姉妹喧嘩って何これ、何だこれ、新手の罰ゲーム? あ、どうも遠山潤です。

「モテモテねえ、ジュン」

「リア充爆発しなさい、ジュン」

「うん、もうそれでいいからすげー帰りたい」

「余計ややこしくなると思うけど……」

 ごもっともですエルくんちゃん。でも残っててもややこしいことになりそうなんだよなあ、俺の苦手なジャンル(恋愛)的な意味で。

 現在俺達がいるのはスカイツリーの外部、高さ約600mの地点だ。風が強くてやばい中、理子とヒルダは苦もなくナイフと三叉槍(トライデント)、銃と雷撃で攻防を続けている。喋ってる内容はアレだけど。

「というかなんでユーくんはワトソンくんちゃんをおんぶしてるのかな!? かな!? 理子が真面目に戦ってる中見せ付けてくれるとか、ぷんぷんがおーで爆撃するぞ!」

「どこをどう見れば真面目なんだよ、エルは後ろ二人にボコられて動けないから担いでるだけだ。あと爆撃はやめなさい」

「うー、理子だってユーくんとイチャコラしたいのに! 具体的にはアリアんとヌエっちみたいな感じで」

「ふふ、羨ましいですか理子? 自分戦闘中でお姉様とラブラブなメヌをみて今どんな気持ちですか? NDK? NDK?」

「……初お姫様抱っこが妹で、しかもする方ってなんかもう、もう……ダメだわ、言葉が出てこない」

 目が死んでるけど強く生きろアリア。というかこの強風下でよく平然と話せるねお前等。

「おねーちゃんから目を逸らすとは余裕ね理子!」

「目を逸らしてるのが隙と思わないでよヒルダ! 喰らえ六身分解ゴッドキャット+ジョー○!!」

『どりどりどりどりどりどり』

「こんなの打ち落とし――ちょっと、非常識なスピードと追尾性能持ってるんだけどキモ!? ああもう、消し炭になりなさい!」

 接近するネコミサイルを雷撃で迎撃するヒルダ。あ、それ悪手や。

『ぬっコロス!』

「えっ」

 唖然顔のヒルダを巻き込んで爆発四散、ワザマエ!

「リア充でもないのに爆発しましたね」

「まあブラドの娘なら死んでないでしょ。あとメヌ、首に抱きつくのはやめなさい」

「嫌ですわお姉様、メヌは落ちないよう必死にしがみついてるだけです。ぎゅー」

「アタシが抱えてるんだから落ちる訳ないでしょ! というか胸部のものを押し付けるのをやめろって言ってるの!」

「大差ないですしいいじゃないですか」

「アタシが勝ってるならね! アンタわざとやってるでしょ!? これもジュンのせいよ!」

 なんでさ。睨まれる覚えがないのでさっさと目を逸らしておく。前にも言ったが恨むならどっかの迷探偵を恨みなさい。

「す、すまないジュン。もう降ろしてもらって大丈夫だ」

「ん、そうか? まだ回復しきってないと思うが」

「自分で立つ分には問題ないよ。あと、峰理子に言われて改めてというか、この体勢だとお、押し付けてしまってるし……」

 寧ろ分かってないで抱えられてたのか。「何照れてんだこの男装麗人、カワイイだろーがー!」と理子の野次だか興奮だか分からない言葉も聞こえたので、顔の赤いエルを下ろすことにする。

「ふふ、やるじゃない理子。イ・ウーにいた頃より強くなってるようで、お姉ちゃん安心したわ」

 煙の中から平然と姿を現すヒルダ。爆発の影響か傷はないが服が例えるなら中破状態になっており――

「平然と見るんじゃないわよエロジュン!!」

「アザトース!?」

 メヌを抱えたままのアリアに眼球突きされた。おおお、これはちょっとシャレにならないんですが……

「お姉様、なんてエグイ……」

「アリア、流石にそれはちょっと……」

「え、なんで引いてるのよアンタ達。ジュンならこれくらいでなんとかなったり」

「ヤベエ見えねえ」

「ウソォ!?」

 ホントホント。超能力(ステルス)じゃないと治せないダメージとかアリアさんさすがっすわー。

「悪かったから笑顔で言うのやめてよ……というか理子にヒルダ、固まってないでさっさと続けなさいよ!」

「いや、だってねえアリアん……」

「吸血鬼の私から見てもそれはちょっと……」

「……アタシが悪かったわよ、何もかも! だからこっち見ないで、こっち見んな!!」

 涙目に免じてアリアを責めるのはここまでにしよう。

「……何あの子可愛いわね、嗜虐心がムクムク湧いてくるわ。理子、あなた諸共おねーちゃんがお持ち帰りしていいかしら?」

「アリアんは理子のものなんでダメでーす」

「二人とも何を言ってるんですか、お姉様はメヌのものです」

「何で所有権の話になってるのよ!? アタシは誰のものでもないわ!」

「姉属性と庇護欲を両立させるアリアは(萌えの)最強兵器かもしれない」

「単純にあの三人がSなだけだと思うけど……」

 それは大いに有り得る。

「っと、話が逸れまくったわね。理子がここまで出来るようになったのなら、おねーちゃんも本気を出さざるを得ないわ」

「それなら第三態(テルツア)かなー? 『これぞ吸血鬼が神に最も近付いた姿なのよ!』とか前にドヤ顔で語ってたから、理子見るの楽しみ~!

 あとヒルダ、どんなに連呼してもお姉ちゃんとは呼ばないからな?」

「ΣΣ(゚д゚lll)ガーン!! わ、私の完璧な『自然にお姉ちゃん♡と呼んでもらうぞ』作戦が……」

 お前それマジで言ってんのか、とりあえず♡がウザイ。それとお姉ちゃんって呼ばれてるぞ、ド平坦な声でだけど。

「……ふ、ふふふいいわ。この戦いに勝てば理子にお姉ちゃんって呼んで貰えるもの、当初の予定通り何の問題もないわ」

 勝った景品それでいいのか。

「残念ねえ理子、第三態は確かに神にも近しい力を得るけど、吸血鬼の変身なんてテンプレで時代遅れ、これが私の新たな切札よ!」

 語りつつヒルダの影から出てきたのは、金色に輝く三角形の金属。

「ねえジュン、メヌ、アレって」

「だろうな」「でしょうね」

「そ、それはまさか……!?」

「ホホホ、さあおねーちゃんの新しい力に恐れ慄きなさい! バル○ィッシュ、

infiinat(set up)!!」

『Da, domnule(yes sir)』

 ルーマニア語で宣言すると、デ○イスが黒い光を放ち、ヒルダを包み込む。

 

 

※ヒルダの変身シーンは皆様の妄想力にて補完ください by作者

 

 

「うおっまぶし!?」

 本日二回目の目潰し発動。今日は眼球の幸運Eだな。

 超能力で再び視力を元に戻す一瞬で光は収まり、そこに立っていたヒルダの姿は……二の腕まで剥き出しにした黒い衣装、薄桃色のスカートは元ネタより若干長い……と思う。そして手にはやたらメカメカしい金の宝玉が埋め込まれた黒い杖。うん、よりにもよって幼年期の方かーい。

 杖を右手に下げ、ヒルダはそれっぽいポーズをとって理子を指差し、

「これぞ新形態、吸血魔法少女雷刃ヒルダよ!! 吸血鬼×魔法少女という新ジャンルね!!」

『お前(アンタ)が先にやるのかよ魔法少女ネタ!?』

 俺とアリア、二人のシンクロツッコミが炸裂する。魔法少女ネタ先にやられたら俺恥かくだけじゃん、インパクト(弱)じゃん。

「というか恐れ戦く部分が違うでしょうが!」

「何言ってるの愛玩動物(アリア)、昨今ジャンル被りはキャラとしての死活問題なのよ!? 渾身の出来だと思った作品も異世界モノってだけで『またかー』って辟易されてろくに見えてもらえなくなるんだから!!

 あと、理子とトオヤマがクジで引き当てて『ヤベェ、被ってる!?』なんて焦った事実はないから!!」

「語るに落ちてるわ新ジャンル!! あとそのおぞましい呼び方やめなさい!

 というかあんたのはただのコスプレでしょうが!!」

「ココココスプレじゃないわよオマージュよ、リスペクトよ! 教授(プロフェシオン)の作品を貰ったけどモデルチェンジの方法が分からないとかじゃないわ!!」

「曾お爺様こんなのにまでモノを与えないでください!!?」

 もうあの迷探偵、二つ名『天災』でいいんじゃないかな。迷惑度で言うならどこぞのウサギ博士とどっこいどっこいだし。

「……るい」

「? オイ理子?」

 小声で何か言っていたので声を掛けると、ブルブル震えてやがる。と思ったら一気に顔を上げ、

「ズールーイー!! そんなの貰ってるなんてヒルダだけズルイー!!

 理子も魔法少女になりたい、コスプレじゃなくてピカッと変身してザクっと悪を滅したい!」

「効果音と滅するって表現が魔法少女感皆無ですね」

 ご乱心な理子の様子にご満悦のメヌはスルーされ、グリンとこっちを向いた。こえーよ、目付きと行動が。

「ユーくん、理子と契約して魔法少女にしてよ!」

「俺QB役かよ。契約は出来ても魔法少女にはならんぞ」

(契約は出来るのか……ジュンは何でもありすぎじゃないかな?)

「何でもは出来ないししたくない」

(!? 脳内に直接……!?)

 いや、口に出てるから。

「じゃあ魔法少女の変身アイテムでいいからちょうだい!!」

「ねーよんなもん、俺プ○キュアもプリズマ○リヤも無知だぞ」

「な○はとまど○ギは詳しいじゃん! とにかくなんかだーしーてー!! 一個くらいなんかあるだろおん!!」

「キャラが行方不明になってるぞ。……あーまあ、似たようなのならあるけど」

「じゃあそれでいいからちょうだいちょうだーい!! りこりん変身形態を見せ付けてヒルダに対抗したい!」

 もう渡さないと殴り殺されそうな勢いなので、しょうがないからブツをパスする。まだ試作段階だから壊すなよーとは言ったが、果たしてどうなるやら。

「なるほど、ジュンはあのキャラ好きでしたね」

「――なるへそ、さっすがユーくん! よっしゃいっくぞー、変・身☆」

 ☆がウザイ。

 そして再び閃光。

 

 

※理子の変身シーンは(ry

 

 

 流石に三度目を喰らうほどバカではない、この秘密兵器(サングラス)で――

「あ、ごめんジュン借りるよ」

 横から伸びたエルの手に掻っ攫われた。えっちょっおま、

「ウオアーーーー?!?! 目が、目がああアアア!!?」

 結局こうなるのかよ!?

「ジュン、うっさい」

「マヌケですねえジュン」

 ホームズ姉妹が辛辣過ぎる、メヌの奴はさぞ綺麗な嘲笑を浮かべているだろう。

 以下略で視力を戻し、光が収まった先にいたのは、

「はーい、オ・マ・タ・セ☆ グレートデビルでカワイイ後輩、MBちゃんですよー☆」

 白のカッターシャツに首もとの赤いリボン、絶対領域が守られた紫のスカートと黒コートを纏った姿でタクト片手にあざといポーズ+ウインクをかます理子の姿があった。……うんまあ魔法少女っぽくはある、かもしれない。

「録画開始」

『Da, domnule』

 そしてデバ○スで録画を始めてるヒルダ。お前等やっぱり姉妹だよ、行動パターンが同じだし。

「ふっふふー、ではではネタ被りなんて重罪をやらかしたヒルダには、MBちゃんからキツーイお仕置きですよ~?」

「あくどい笑みを浮かべてる理子もいいわねえ……っとと、果たしてそううまくいくかしら?」

 顔のゆるみが戻ってねえぞ吸血魔法少女。

 

 

「イエイ、MBちゃん大勝利です!」

「ば、バカな、速さが足りないというの……!?」

 Vサインして笑顔の理子もといMBと、魔臓をぶち抜かれて悔しそうに突っ伏しているヒルダ、勝敗は明らかだ。現在進行形で流血してるのに元気だねあーた。

「今までで一番高等、かつしょうもない戦いだったわね……」

「超能力での空中戦と高度な魔術を用いた一大決戦でした。技は全てネタまみれでしたけど」

「最後は毒混じりの紫電を喰らわせて持久戦に持ち込もうとしたヒルダをタクトで殴り飛ばしたからね……魔法少女って何なんだろう」

「昨今の魔法少女は物理がメイン」

 そもそも理子のは魔法少女でもないし。

「イエーイ、やったぜアリアん!」

「はいはい、イエーイ」

 呆れながらもハイタッチを交わす二人。なんだかんだで合わせるよな、アリアの奴。

 そしてヒルダの悔しがる姿にご満悦のメヌ、困惑気味のエルともハイタッチしていき、最後にこっちへ駆けてくる。

「ユーくんイエ――おろ?」 

「っと」

 が、途中でよろけたため手を伸ばし、支えてやる。引き寄せたので抱きしめる形になり、「うわあ、大胆ね」「さすがスケコマシ」「こ、これは……」と周囲の反応が生暖かい。メヌ、これだけでその反応はおかしい。

「あ、あははごめんユーくん。急に力が抜けちゃった」

「毒回ってる状態で動き回ればそうなるっつうの。立てるか?」

「うーん……おう、無理そです。ユーくん治してー」

「はいはい、じゃあちょっと待ってろ」

 支えたまま毒の種類を推測し(恐らく神経毒、死なないが性質の悪い効力の)、ポケットから丸薬を取り出して寄りかかっている理子を少し離し、

「? ユーく――んむ!?」

 

 

 抱き寄せて接吻、要するにキスした。

 

 

「……な、ななななあ!!?」「……あら、あらあら」「……え?」

 後ろがなんか変な反応してるが無視し、毒で力が入らないのか抵抗のない理子の口内に舌を差し入れる。

「――!? ん、んん!?」

 クチュ、コクン。ツバと一緒に口移しで飲ませた丸薬を嚥下する音が聞こえる。よし、ちゃんと飲んだな。

「あ、あううあうあうあううはうう」

 口を離すと、絶賛混乱中の理子。あ、お互いの口元で唾液がアーチ描いてら。これはちょっと恥ずかしい。

「ななななにすんのさーーー潤!!!?? いきなりキスしてくるとかどーいう了見だ!?」

 口元拭っていると、アリアに負けない真っ赤なお顔で理子が迫ってくる。キャラ混じってるぞ。

「え、何って治療行為だけど。特効薬だから効いただろ?」

「効いたけど! ビリビリしてた手足とか頭がスッキリしてるけど! それでキスするのはおかしくない!?」

「飲用でしか効かないんだからしょうがないだろ。ヒルダの使った毒は五感の麻痺がメインだから、嚥下するのもきつかっただろうし」

「超能力で治すとかあるだろ!?」

「俺のスペックじゃ時間掛かりすぎるな。数日間寝たきりになるとか嫌だろ?

 大体、ヒルダを説得(物理)出来たらご褒美欲しいって言ってたのお前だろ」

「言ったけど! ムードとか場所とかTPOがあるでしょーが! 前も言ったけど理子初めてだったんだよ!?」

「安心しろ、俺も初めてだ」

「え!? ……ど、どうだった?」

 何故意外そうなんだ、そして言い辛い質問だな。

「……柔らかかったな」

 ボン。

「……………うきゅう」

 あ、赤面爆発して気絶した。倒れそうになるのをもう一度支えてやる。

「トオヤマぁぁぁ……!!!!」

 向かいから地獄の底より這い上がるような怨嗟の声が聞こえてくる。振り返るまでもなくヒルダだというのは確定的に明らか。

「姉の前で妹の唇を奪うとは言語道断、問答無用で介錯したあとさらし首にしてくれるわ……!!」

「落ち着けヒルダ、妹同様キャラが迷走してるぞ」

「これが落ち着いてられるかあ!! 私だって理子にあんなことやこんなことをするのは自重していたというのに………!! 死ね! 骨も残さず消滅して私にあの世で詫び続けろーーーー!!!!」

 激おこなヒルダは限界値を超えた雷撃をチャージしている。もちろん当たれば消し炭になること請け合いだが、

「いやお前、今の状態でそれはーー」

「きゃああああっぁぁぁぁぁ!!!」

 言い切る前に制御を外れた雷はヒルダ自身に襲いかかった。デスヨネー。

「おーいヒルダー、ヒルダさーん?」

「…………」ピクピク

 あ、生きてた。まあ魔臓もなしにあんな威力の雷撃撃とうとすればこうなるわな、むしろ黒コゲですんだだけ運がいいか。

 とりあえず、理子を背負って焦げヒルダを脇に抱える。姉の方は異様に軽いが、多分内臓と骨が幾つか吹っ飛んでるなこれ。まあ吸血鬼だし大丈夫だろ、雷撃で傷口も焼き塞いだし(適当)

「よーし、お前ら帰るぞー。ヒルダ死に掛けだからさっさと病院行かんとな」

「いやとんでもないこと人前でやらかしといて何平然としてるんだいジュン!?」

「? ああ、口移しで薬飲ませたこと? 医療行為だし何事でもねーべ」

「大事だよ、なんで当事者が一番平然としてるのさ!? アリアなんてあまりにもショッキングな光景にフリーズしちゃったよ!?」

「………………」カチーン

「ふむ。おーいアリア、起きローガーディアン!?」

「頭はたくんじゃないわよバカジュン!! ……ハッ!? なんだ夢ね」

「夢として処理するほどショックだったのかい!?」

「お姉様の恋愛力はたったの5ですから」

 ミ=ゴ(逆)なんですね分かります。というか条件反射で殴ったことには何も言わな「いつものことでしょ?」アッハイそうっすね。

「それとジュン、この件は白雪とリサに報告しておくから覚悟しておきなさい」

「覚悟するほど大袈裟なのか」

「死ぬ覚悟よ」

 ニコニコしながら殺意のオーラ混ぜて言うない、マジで拷問される覚悟でもしろってか。

 そして帰った翌日、話を聞いた白雪とリサによって尋問が行われ、追っ掛けられる羽目になった。…………理子が。

 え何、死を覚悟するって気絶してたあいつに言ったの?

 なお、追いかけっこの最中「お願いだから掘り返さないでーー!?」と顔を真っ赤にしながら逃亡する理子があちこちで見られたという。俺はメヌとリサのダブルニコニコ顔(修羅モード)に挟まれてそれどころじゃなかったけど。とりあえず、ヤケクソ顏で俺を押し倒そうとするのはやめような巫女とメイドさん。

 

 

数日後、理子の自室。

「ううう、ユーくんのバカバカバカァ……オトメの唇を何だと思ってるのさあ……しかもアリアん達に見せ付けるようなんてさあ……」ジタバタ

「……いい加減落ち着きなさいよ理子、枕抱えて悶えるの何時間やってるの」

「じゃあアリアんは同じことやられて冷静でいられるの!?」

「いや、そりゃあまあ……でも良かったじゃない、これで白雪やリサに対して一歩リード出来たんだし」

「……腹立つくらい冷静な潤があれくらいで心変わりすると思うか?」

「え? いや、流石にそれは……有り得るわね、ジュンなら」(汗)

「…………」

「ま、まあキスしてくれるくらいなんだし、ジュンの中でアンタは特別ってことなんじゃないの?」

「……その条件だとユキちゃんやリサ、もしかしたらヌエっちも当てはまりそうなんだけど」

「「……………」」

「……だああもうまどろっこしいわね!! もういっそ教室で『あそこまでしたんだから責任とってよネ!』とか言えばいいでしょうが!!」

「アリアんモノマネド下手だよね」

「うっさい! 自覚あるんだから言わなくていいわよ! で、言って既成事実を作ればいいでしょうが!!」

「想像しただけで恥ずか死しそう……」バタバタ

「……そういうとこをアイツに見せれば意識してもらえるんじゃないの、女のアタシから見ても今のアンタ可愛いわよ」

「うんありがとう、でもそれが出来たらこんなとこでグズグズしてないよお……」カアアァァ

「……ホント、何でこんなにヘタレなのかしらウチのパートナーは。女だったら余裕で口説く癖に、相手があの無関心野郎なせいかしら」

「返す言葉もございません……」

「いや女の部分は否定しなさいよ」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 何にもしてない癖に今回色々奪っていった奴。とりあえず爆ぜろ。
 なお理子の予想通り、キスした後も変わらず接している。理由はあるのだが、うんやっぱり爆ぜろ(二回目)


峰理子
 今回最大の被害者。ご褒美くれとは言っていたが、マジでくれるとはヨソウガイデス(心境)
 相も変わらず中身は乙女(と書いたヘタレ)。その後3日くらいは潤の顔がまともに見れなかったとか。


ヒルダ
 キスシーンのために戦闘シーンをカットされた自爆お姉ちゃん。色々な意味で潤を恨んでいいと思う。
 現在治療中だが、溢れる姉パワーで文化祭の頃には復活すると思う(理子のコスプレを見るため)


後書き
 潤ったらするだけしといてサイテー!! ……はいすいません、読者の皆様の心の声を代弁しました(マテ)
 というわけで大変お待たせしました、ゆっくりいんです。え? お前誰だって? ハハハ、そう言われても仕方ないですよね(白目)
 まあ何はともあれ、ボチボチ連載を再開していこうと思います。今後の予定としては外伝とリクエストを消化してから次の『人口天才(シニオン)』編に突入しようと思っています。……リクエスト下さったお二方、お待たせしすぎて本当に申し訳ありません……もう忘れてると思いますが、書いていこうと思います(汗)
 では、今回はここまでで。感想・評価・誤字脱字など寄せていただければ大変ありがたく思います。それでは、読んでくださりありがとうございました。
 ……さーて、ホームズ姉妹に処刑されてくるかな(震え声


PS
キャラ紹介調子を戻すために復活させてみました。今後は話でメインを張ったキャラだけにしようと思います。


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外伝 思い込みで大抵のことは何とかなる

 今回はメガネなあの娘が登場します。あ、ジャンヌさん出番ですよ。
ジ「……」
 無言でクラウチングスタートの構えを取らないでください。理子さん達は出ませんから。
ジ「本当だな!? 嘘なら死んでも切り刻むぞ!」
 サイコパスみたいな顔と声になってるんで落ち着いてください、読者さんに見せられない顔になってますよ……
 




「ううう、えい! ――わきゃ!?」

「……」

「どう思う?」

「どうと言われてもねえ……」

 目をつぶってジャンプし、走り高跳びの棒に顔からぶつかるというある意味器用なことをしでかす彼女、中空知美咲(今は涙目で鼻を抑えつつメガネを探している)を見て一言、

「諦めた方がいいんじゃないかと」

「それを何とかするために呼んだのだろうが!? 少しは知恵を絞ってくれ……」

 溜息吐きながら言われても、人間出来ることと出来ないことがあるんですよジャンヌさん。

 あ、どうも遠山潤です(遅)

 

 

 さて、事の始まりは二日前、俺対エルの決闘、理子対ヒルダの姉妹喧嘩が終わった翌日のことだ。ゲームしてるホームズ姉妹を尻目に白雪とリサの三人で昼食の準備をしていたら、突如電話が鳴った。番号は――未登録だが知っている奴、ジャンヌのものだ。何だ珍しい。

「もしもし、出先で理子に襲われたとしても責任は取れんぞ」

『エンカウントした瞬間に逃げるから大丈夫だ』

 いいのかそんなんで、お前ら同期だろ。そこまで逃げ腰だといっそ清々しいな。

「何もないならいいんだが、何か用か? お前から全力で避けてきてたのに電話とは珍しい」

『別に理子が怖いのであってお前個人に思うところはそんなにない』

 ちょっとはあるのかよ、まだ魔剣事件の逮捕劇根に持ってんのか。

『……ところで、理子は近くにいるのか?』

「いない、ヒルダの見舞いに行ってる。扱いは雑だがアイツも姉のことが心配なんだろ」

 まあ理由の半分はそれで、もう半分は別にあるが。ちなみにあれから全く顔を合わせていない、白雪とリサの尋問から逃げてたのもあるんだが、エンカウントすると超スピードで逃げるんだよなアイツ。

『そうか。……私にもその優しさを一片でもくれればいいんだが』

「何したらそんな目の敵にされるんだよお前」

『知らん、会うたび全力で逃亡してるからな』

 それ何もしてないのにトラウマ抱えてるだけじゃねえか、折檻で心折れてたらやってられ「アンタと理子だけよそこまでボコられて平然としてるのは」ゲームしながらツッコミ入れなくてもいいんじゃないですかねアリアさん。

『っと、話が逸れたな。トオヤマ、お前に依頼がある』

「依頼? 探偵科か、それとも超能力(ステルス)絡みか?」

『いや、学科関係ではなく私個人としての頼みだ。勿論報酬は出す。ただ、一つ条件を付けたいのだが』

「なんぞ、言ってみろ」

『来る際女装してきてほし――』

 すぐさま電源ボタンを押して通話終了。さーて、飯作るべ。

 まあ当然再コールは来るが無視、そうしたら白雪の携帯に電話が掛かり、「潤ちゃん、ジャンヌが話あるって」と渡されてしまった。切るのもあれなので渋々出ることにする。

「ジャンヌ、トラウマを脳内で延々とリピートさせて精神崩壊させる魔術がある」

『ヤメロォ私の言い方が悪かったから説明させてくれ!!』

「三行で言え」

『依頼対象は男性が苦手で、

 女装が出来て教えるのも上手いと聞いて、

 最後の手段でお前に頼んだ』

 律儀に三行でまとめやがった、何か微妙な気分だ。

「話は分かった、その口振りだと他の連中に頼んでもダメだったみたいだな」

『ああ、あまり公には出来んし、条件をクリアした相手にも無理だと言われてしまったんでな。とはいえ本人の希望だし、どうにかしてやりたい気持ちは確かだ』

「ふうん、随分そいつに肩入れしてるんだな。あと訂正しておくが、俺は好きで女装してる訳じゃないからな?」

『――え?』

「何素で驚いてんだコノヤロー」

 いっつも理子の強制でやらされてるんだよ、変装技術はあるけど好き好んで女の格好なぞせんわ。

『……コホン、失礼した。とにかくトオヤマ、出来ればこの依頼受けて欲しい。必要なら私がメイクを施そう、イ・ウー時代に理子から習っている』

「いらねえよそんな気遣い、それより依頼の内容を言え」

『ああそうだったな。依頼についてだが――私のルームメイト、中空知美咲が体育の単位を落としそうなので、助けてやって欲しい』

「……はあ?」

 

 

 とまあ荒唐無稽な依頼を受け、考えた末に依頼を受けた。自分から女装するのは普通に嫌だが、顔見知り程度とはいえ仕事で世話になった相手だ、義理人情があるなら助けるべきだろう。

 まあ実際は報酬に釣られてなのだが。公開しないという約束付きだが、ジャンヌ・ダルクの一族が研鑽してきた超能力に関する資料の写しを貰えるのだから。蒐集家としてこういうものは是非とも手に入れておきたい。

 ちなみに本日の女装姿はマルファ・トーラスという名前の外国人女性で、ジャンヌがフランスにいた時の知り合い、たまたま日本に来ていたから依頼を受けたという設定だ(それを聞いた中空知がひたすら申し訳なさそうにペコペコしていた、メンドイ)。ぶっちゃけFG○のステゴロ姐貴なのだが。

 なおジャンヌが『嫌がっていた割に随分と気合が入っているじゃないか』とニヤニヤしながら瞬き信号でからかってきたため、口の中に特製サータアンダギー(練乳等の甘味を混ぜたリサとの合作、死ぬほど甘い)を口の中にねじ込んでやった。悶絶していたが、そうかそんなに美味かったか(邪笑)

 とまあそんな訳で、中空知の単位取得がため訓練をすることになり冒頭へと戻るのだが……いくらなんでも鈍すぎねえか、ジャンプしてバーへ当たりに行く奴初めて見たぞ。

「とりあえず、踏み切りのタイミングに力の入れ方とか色々ツッコミ入れたい部分はあるけど……一番はアレね、目をつぶるのは流石にダメよ、見えないから危ないし」

 それと何故走り方がX脚なんだろうか。寧ろ走れているのか不思議なくらいだ。

「それは分かっている、だから具体的な方法をトオ「マルファね」……マルファに教えてやって欲しいんだ」

「無茶言うわね、正直技術云々以前に苦手意識の克服と基礎体力を付けるのが一番重要なんだけど……あとジャンヌ、次間違えたら殴るわよ」

 お前が女装させたのに自分から台無しにするとかどんだ――分かった、分かったから真っ青な顔で首をガクガク縦に振るのやめなさい。

「ううう、どうしてこうなっちゃうんだろう……」

「そりゃあ目を瞑って目測も何もない状態で跳んだらこうなるわよ。はい、メガネ」

「あ、トーラスさん「マルファでいいわ」え、えっと、マルファさん、ありがとうございます。……私、目を閉じてました?」

「跳ぶ時棒見えてなかったでしょ?」

「うう、無我夢中で分かりませんでした……気付いていたらぶつかっていたというか」

 どんだけだ、自分の状態に無自覚とか相当だぞこれ。この人どうやって武偵校に入ったのだろう、身体検査もテスト項目にあるはずなんだが。

「まあ今ので大体分かったわ。とりあえず当面の目標は苦手意識の克服と、走り方のフォームを修正することね」

「は、はい。でも今のだけで分かるなんてマルファさんは凄いですね。……ところで、なんで走り高跳びなんですか?」

「跳躍力と瞬発力を同時に計るならこれが一番手っ取り早いからよ。別にハードルか走り幅跳びでも良かったけど、すぐ用意できたのがこれだけだったからね」

 まあ、ハードルはやらなくて正解だったと思う。あの身体能力では全部のハードルとランデブーすることになりそうだし。バーのドミノ倒しとか想像するだけで哀れみを覚えそうだ。

「それにしても、大分運動への苦手意識があるみたいね」

「あう……そんなことも分かっちゃうんですね……そうなんです、私なんてドジでマヌケな上にコミュ症の運動音痴で……そのせいで友達もジャンヌさんくらいですし……」

「いやそこまで言ってないわよ」

 ツッコミ入れるがどんよりモードで聞いてないっぽい。通信科(コネクト)でSランク相当の評価なんて早々もらえないだろうに、えらい自己評価が低いこって。ちなみに実際のランクはB、低い原因は本人が言う通りコミュニケーション能力が壊滅的だからである。通信機越しならしっかりしてるんだけどな。

「ほら、とりあえず立ちなさい。人間苦手なものがあるなら嘆くより克服する方法を考える方が建設的よ」

「あうう、すいません……でもマルファさん、亀より鈍い私がそんなこと可能なのでしょうか……」

 どんな例えだそれ。涙目でこちらを見上げてくるのは男心をくすぐるのかもしれないが、秋口ということで双方ジャージなためシチュエーション的には残念な感じが拭えない。

「……まあ、無いわけじゃないわ。根本的な解決にはならないけどね」

「そうですよねやっぱり私なんて――え? 今、あるって?」

「そうよ、あるの。とりあえず、これを耳に付けなさい」

 きょとん顔の中空知に用意していたブツを渡し、指示すると素直に付ける。

「えっと、付けましたけど……これ、何ですか?」

 素直なのは結構だが、武偵なんだし少しは疑うことを覚えて欲しい。この子その内悪い男に引っかかりそうだ。……強引に迫られたら男女関係なくどうしようもなくなりそうだが。

「小型の通信機よ、秘匿性を高めるため小型化と集音を重視したものね。跳び方をこれで教えるから、もう一度高飛びに挑戦して」

「え? でも、さっき全然ダメだって」

「いいから、騙されたと思ってやってみなさい」

 背中を押しながらスタートラインに立たされた中空知は困惑気味だが、素直に従ってその場で待っている。俺も同様の通信機を口の端に付け、準備完了だ。

「中空知さん、聞こえる?」

『はい、感度良好です』

 すぐさまアナウンサーのように明瞭な声が返ってくる。よし、切り替わったな。

「OKよ、じゃあ今から高飛びの方法を口頭で伝えていくから、覚えてちょうだい」

『了解しました、では指示をお願いします』

 返事を聞いて走り方のフォームや跳躍のタイミング、力の入れ方などを教えて動きを確認していく。

「じゃあ、実際にやってみましょうか。跳ぶタイミングはこちらで指示するわ。あなたは視力があまり良くない分、聴覚で出来る部分はカバーしなさい」

『――了解しました。では、行きます』

 返答が一瞬遅れたのは苦手意識ゆえの緊張か、まあいいだろう。中空知は教えたとおりのフォームでスタートを切り、バーへ向かって走っていく。

「今よ、飛びなさい!」

『っ!!』

 合図と共に中空知の身体が宙に浮かび上がる。フォームは少し崩れていたが――それでも最下段に設置したバーを飛び越え、マットに身体が落ちた。

 見違えるような動きに、側で見ていたジャンヌも驚いた顔になる。よし、成功だな。

「状況終了ね、お疲れ様」

『はい。的確なタイミングの指示、感謝します。では、通信を終了します』

 通信機が切られ、彼女の纏う雰囲気が元のオドオドしたものに戻る。そして信じられないものでも見るように自分が座っているマットとバーを交互に見て、

「ママママルファさん!! 今、私、飛んで!! あのバーを飛び越えて!? ゆ、夢、夢じゃないですよね!!?」

「夢じゃないから落ち着きなさいって……ジャンヌ、中空知さんの跳ぶ姿、ちゃんと撮れた?」

「あ、ああ問題ない。……驚いたな、どんな魔法を使ったんだ?」

「超偵が魔法なんて言葉を簡単に使うものじゃないわ」

「では催眠か」

「あんた私を何だと思ってるの?」

 殴るわよ、とポキポキ指を鳴らすと、青い顔でプルプル顔を横に振った。トラウマ多すぎじゃないかコイツ。

 まあ催眠ではないが、近いことはした。以前手に入れた情報から中空知が通信機器を使用中は高い集中力を維持していると聞いたので、何らかの通信手段を介せばその状態を引き出し、運動などにも応用できないかと予想したのだ。

 つまり意識の切り替え、スイッチのON/OFFの類だ。彼女の場合通信機が媒体であり、その状態なら記憶力だけでなく集中力、果ては身体能力にも影響を及ぼすのだろう。まあ素の身体能力が一般の女子高生より多少マシ程度なのだが、そこは今後の鍛え方次第だろう。

 ジャンヌが撮影した動画を見て中空知は「信じられないです……」などと言っているが、嬉しそうな表情だ。人間意識次第で割とどうにかなるもんだよ。

「それが貴方の出せる力ということよ、偶然でも奇跡でもないわ。ただ、この方法はあくまでその場凌ぎでしかないから、基礎的な体力造りは忘れないようにね」

「は、はい、分かりました先生!」

 誰が先生やねん。

「まあしばらくは通信機を使って体育の授業を受けてもいいでしょう、貴方がまずやるべきことは運動が出来るという自信を付けることだから。

 それまで通信の補助やトレーニングに関しては、ジャンヌにお願いしなさい」

「な!? わ、私か!?」

「何意外そうな顔してるの、ルームメイトなんだから助けてあげなさい、そもそも私に依頼して何とかしたいって言ってたのはあなたでしょ」

「あの、ジャンヌさん。ご迷惑をお掛けしますが、お願いしてもいいですか……?」

 またも上目遣いのポーズ、何それ素でやってんのか。

「…………まあ乗りかかった船だ、最後まで付き合おう」

「! ありがとうございます、ジャンヌさん!!」

「こ、こら! 嬉しいのは分かったから抱き付くな!」

「あ! すすす、すいませんつい……」

 中空知が身体を離すが、二人とも恥ずかしげに目を逸らしている。え、何この空間。

「ジャンヌ×美咲の正統攻めか、美咲×ジャンヌの逆転無自覚攻めか悩むわね……マルファ、どっちがいいと思う?」

「どっから出てきたのよあんた」

 ホントどこにでも出てくるな、この妖怪百合集め(夾竹桃)

 

 

おまけ

「トオヤマ、先日の依頼について中空知からマルファにお礼とのことだ」

「女装時の名前を出すんじゃねえよ。……なんだこれ、ポプテ○ピックのヘッドホン?」

「是非いいものだから渡してくれと」

「いや確かにヘッドホンは質のいいもんだが……趣味のブツを渡すのはどうかと思うぞ」

 後日、部屋で使っていたら理子が欲しがったので却下したら中指立てたので握り潰してやった。女の子がそんなポーズするんじゃありません。

 

 

 




登場人物紹介
マルファ・トーラス(遠山潤)
 とうとう自分の意思で女装をした男。報酬の本に釣られればやむなしと考えるくらいの本好きだが、今後その要素はあんまり出ない気がする(オイ)
 

ジャンヌ・ダルク
 ルームメイト兼友人のため色々動いた友達想いの魔女。なおその後中空知を名前で呼ぶようになり、仲が深まった姿をテニス部の後輩に見られてちょっとした騒ぎになった模様。
 なお、理子にぶっ飛ばされるのは主に余計な一言が口から出るため。
 
 
中空知美咲
 オドオド系女子。スイッチが入ると有能なタイプ。色々アドバイスしてくれたマルファにはまた会いたいと思っているが、正体知ったら気絶するんじゃないかな。
 
 
夾竹桃
 妖怪百合ネタ集め、以上。


後書き
 最後の微百合シーン書きたかっただけな気がする(オイ)
 というわけでどうも、ゆっくりいんです。今回は外伝ということで中空知さん強化プラン(体育)をお送りしました。まあ実際ここまで運動音痴なのかは不明ですが……原作見てるとあながち間違いではないかと思います、多分。
 というか書いてて思ったんですが、何で中空知さん武偵校に入れたんですかね? 本文でも書きましたが体力テストとかあっても不思議じゃないのに……実は推薦もらえるくらい成績優秀なんですかね、通信科の実力はSランク相当なんですし。
 ちなみに彼女が無事単位を取れたのかは……まあ、今後の展開次第ということで(マテ)
 では、今回はここまでで。次回は以前いただいていたリクエスト小説を手がける予定です。……大丈夫、ネタは浮かんでるはず(汗)
 では、今回はここまでで。感想・評価・お気に入り・誤字脱字訂正など一言でも何かいただければとてもありがたいです。では読んでいただき、ありがとうございました。




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リクエスト小説 実はいたルームメイト

 こちらは葵つばめ様の作品に登場するオリ主、『御剣明』とのコラボ小説になります。なおIFルート扱いになりますのでご了承ください、元々はルームメイトがいない設定なので……
 まあ、やってることはいつもと変わりませんが(オイ)
 余談ですがいただいた設定と作品を幾つか読ませていただいたところ(プリキュア分からないんです、申し訳ない……)、クールキャラのイメージが強い明くんですが、
潤「ウチに来るということは」
理子「そーいうことだよネ!」
 ……とのことです。キャラ崩壊の危険がありますが、苦情は潤までお願いします。
潤「自キャラに責任転嫁する作者はクズの鑑」
 はい、では始めまーす(無視)
潤(後で○すか)

PS
 日付見たら10ヶ月近く経っていました、本当に申し訳ないですorz
 


 今日も今日として騒がしい第三男子寮IN俺の部屋。アリアと理子の追いかけっこを眺めていたら、「たまにはコイツを止めなさいよバカジュン!」と言って何故か一緒に追い掛け回された。うむ理不尽、アリアは夕飯のデザート抜「人体がどこまで曲がるかアンタで試してもいいのよ?」よし黙ろう、沈黙は金なり。

 とまあアリアに捻られかけた腕を元に戻していたら、携帯から『広有射怪鳥事』の着信音。おや、久しぶりに掛かってきたな。

「へいもしもーし、お掛けの電話番号は死人でもご利用できまっせ」

『雑に殺すな、生きてるっての。……ったく、久しぶりなのにご挨拶だな潤』

「数ヶ月も音信不通ならそう思われても仕方ない件。で、今度はどこ行ってたんだよ明、あとお土産何?」

『最後を一番気にしてないかお前』

 同じA組で強襲科所属、あとルームメイトの御剣明は通話越しに大仰な溜息を吐く。男に心配されて嬉しいのかよ。

『俺の命より土産を優先された気分になっただけだよ。守秘義務があるから詳しくは言えんが、中国で仕事してたんだよ。ここ数週間は日本にいたけどな』

「ふうん、他所との通話も禁止されてたん?」

『電波届かない場所にいたからな』

「山奥か電波のないド田舎?」

『いや、異世界』

「LSDの静脈注射は俺でもヤバイと思うんだが」

『幻覚じゃねえよ、というかお前にだけは言われたくない。詳しいことは帰ったら話すから、飯でも用意しててくれ』

「比較的まともだと思ってたルームメイトがトンチキなこと言い出したらキチッてると疑いもするだろ。何、今日帰ってくんの?」

『今武偵高行きのモノレールを待ってる』

「(連絡するのが)おせーよホセ」

『色々あったんだよ、悪かったって。っと悪い、来たからまた後でな』

 言うだけ言って切られてしまった。ルール遵守とか律儀な奴だな、そのモノレールほぼ武偵しか乗らないから守る奴なんてほとんどいないのに。

「ユーくん、誰から電話ー?」

「明から。もうすぐ帰ってくるんだと」

「おー、アッくん帰ってくるんだね! お土産何かな~」

 復活した理子が何かな何かなーと楽しそうに揺れている。そうだよな、まず気になるのはそれだよな(マテ)

「アキ……? そいつってアキ・ミツルギ?」

「ああ、その明だな。アリア、知ってるのか?」

「ええ、以前メヌの頼まれ事を受けた時一緒に仕事してね。中々腕も立つから覚えてるわ、終わったらすぐどっか行っちゃったけど。

 東京武偵高って聞いてたのに見当たらないなーと思ってたら、長期依頼でいなかったのね」

 納得だわ、それにしても縁ってあるのねえなどと感慨深そうである。あいつは兄貴よろしく人助けが趣味なところあるから顔も広いんだよな。……そう考えると、ワンチャンアリアのパートナーにもなってたのかもしれんねえ。

「つまりアッくんは理子からアリアんとヌエっちをNTRる可能性があった……? 殺さなきゃ(使命感)」

「殺すな! 現実にはなってないからいいでしょうが!? あと何度でも言うけどアンタのものじゃないわよ!!」

 律儀に否定するアリアである、まあ無視したら肯定したとみなしてセクハラが捗るからなコイツ。

「それで、アッくんいつ帰ってくるの?」

「今武偵高行きのモノレール内」

「もうすぐじゃないの!? 何でそんなギリギリに連絡してきたのよ!?」

「シラネ、本人曰く色々あったらしいが」

「色々って聞いてみると案外何もなかったりするよね~。あ、そうだアリアん! ちょっとりこりんにお耳を貸してちょ」

「あによ、噛んだりしたら床に連続で叩きつけるわよ」

 部屋が壊れるんで是非ともやめて欲しい。

「気にするのそこじゃないと思いまーす。あのね、こしょこしょこしょ……」

「口でこしょこしょ言うんじゃないわよ」

 とりあえずお茶と菓子を用意している横で、理子がなにやら耳打ち。どうせろくでもないことだろうな(確信)

「……それをして何の得があるのよ? アンタの自己満足以外の何者でも」

「ここに期間限定もみじカラーレオポンがあるのですが」

「しょうがないわね、パートナーの頼みだからやってやるわ」

 物で釣られる頻度高すぎじゃないですかアリアさん。まあいいや、準備を続け――

「よっと」ガシッ

「ほいほい」ガシッ

「オイマテ何だいきなり」

「両手に華って奴ですよユーくん」ギリギリ

「華は人の腕を力尽くで押さえつけねえよ、何する気だ」

「大体想像付くでしょ」

 予測出来ても認めたくないことはあるんだよ。

「ただい――」

「ジュンをゴールに」

「シュウウゥゥゥト!!」

「ごふ!?」「エキサイティング!!?」

「超が足りないよ!!」

 うるせえ、咄嗟に言えるか。

「いてててて……なんで帰って早々こんな目に遭ってるんだよ、お前も俺も」

「俺は投げられただけだからそこのバカに聞いてくれ」

「やっぱ理子の仕業――あれ、アリア?」

「ハーイアキ、久しぶりね。元気だった?」

「……潤をぶつけられる前までは元気だった気がするよ」

「疲れてるならここにお茶とお菓子がご用意してあるよアッくん!」

「ああありがとう理子、余計なことせずに案内してくれたら一番良かったよ」

 用意したのも俺なんだけどな。

 

 

 さて、意味不明な出迎えも終わって(無論理子はしばいた)、明の旅先での話を聞いているのだが、

「プリキュア、ねえ」

 魔法少女とは聞いていたが何と言えばいいのやら。見た限り嘘は吐いてないみたいだが。

「何だ、潤ともあろうものが信じられないのか?」

「お前は俺を何だと思ってるんだ、戦隊モノの魔法少女なんざどこのアニメだよ。

 あーでも、昔は正体を隠さないで活動していた連中もあるし、その名残か単に世間知らずだと考えれば……」ブツブツ

「何でコイツ考え込んでるのかしら」

「多分余りにも信じられないことをしているモノをユーくんなりに受け入れようとしてるんじゃないかなあ」

「本人が一番アレな存在なのにな」

「うるせえ万能系女たらし」

「お前にだけは言われたくねえよ」

「「いやどっちもどっちでしょ」」

「「オイどういう意味だ」」

 そのままの意味ですけどみたいな顔やめろ、俺にハーレム願望はね「無くても勝手に出来そうだけどね」なにそれ怪談?

「はあ、まあいいか。それにしてもアリア、随分変わったな。前は私は一人でいいんだみたいな顔してたのに」

「どんな例えよ、……まあ否定はしないけど。あの頃は本当に一人だったからね。今はバカとはいえパートナー二人に妹、ママに仲間もいる状況なんだから、変わるのも当然かも」

「素直には褒めてくれないパートナーに俺ちゃん涙目」

「きっとツンデレなんですよ」

「そーいうとこが褒める気になれない理由よ」ギロッ

「はは、まあ楽しそうで何よりだ」

「どこがよ、毎日のように胃が痛いわ。アタシとしてはアンタがいてくれた方が嬉しいんだけど」

「は?」

「おっとこれは」

「まさかのイギリスからのフラグ回収ですかな?」

 僅かな時間だけど出会った男に惚れる、テンプレだが恋愛漫画のような展開――

「アキならツッコミ役を押し付けられるし」

「全く嬉しくない理由をありがとう、お断りだよ」

 なんてなかった。甘い展開をアリアに期待するのはまだ早かったようだ。

「……チッ」

「舌打ちすんな、聞こえてるぞ」

「聞こえるようにやったのよ」

「女子がそういうことすんのやめろよ……」

「女子に何の夢見てるんだか」

「自分の欲求を満たすために男の子を女装させる奴もいるしね~。案外男より欲深なんですよ?」

 そりゃお前だろ。いやテヘペロ☆ じゃねえよしばくぞコラ。こちとら毎度毎度SAN値だか精神がゴリゴリ削れて「それはつまり0になれば女装姿のユーくんを受け入れるってことですかな?」よしそこに直れ、その自慢のツーサイド焼いたる「ヤメロォ!!」

「…………」

「何よアキ、ゴーヤをそのまま口に突っ込まれたような顔して」

「どんな状況になったら起きるんだよそれ。……ところで、メヌエットは元気なのか?」

「ああ、あの子なら」

 露骨に話題を逸らそうとしたところで鍵の開く音がするけど、今俺は忙しいんだよ。あと一歩でこの金髪ロリモドキをパーマにしてやれるんだか――

「やめろっての」

「ラーカイラム!?」

 割と本気のチョップが首筋に炸裂する。いてーなこの野郎、目玉飛び出すかと思ったじゃねえか。

「アレくらいで飛び出るわけねえだろ。……いや、お前なら何起こっても不思議じゃないけど」

「俺を何だと思ってるんだよ」

「ビックリ人間。と、白雪さんに……メヌエット、久しぶり。あとそっちのメイドさん? は初めまして、御剣明です」

「あ、明くん。お帰りなさい、それとお疲れ様」、「間のことは後で聞くとして、お久しぶりですアキ」、「初めまして、御剣様。ご主人様のメイドのリサ・アヴェ・デュ・アンクと申します」

 買物に出てた白雪達が帰ってきたので、仕方なしに矛を収める。もう焼かんからそのセムテックス(テロでよく使われる爆弾)をしまいなさい理子。

「潤お前、ご主人様とか……何、そういうプレイ?」

「そんな妙な性癖はこじらせてねえよ」

「ところでさっき、女装とか素敵な単語が聞こえたとリサから聞いたのですが」

「ご主人様、メイクはお任せください」

「しない、あとそのメイク道具を仕舞いなさい」

「…………」

「だからその顔はなんなのよ、アキ」

「いやだから」

「ひょっとしなくてもあっくんに女装経験があるとりこりんセンサーが捉えた!!」「そんなわけな」

「喰い気味に否定してる時点で語るに落ちてますね、なんでしたら女装するに至った経緯の推理をここで披露しましょうか? ジュン、何か情報を一つ」

「やめろ、いややめてください。マジで思い出したくない」

 死んだ目になっていく明を見て、メヌは非常に満足そうである。そうか、お前も被害者か(白目)

 「明くんも顔立ち綺麗だから似合いそうだよね~」「ご主人様とのツーショットなどは」「リサステイ」それ以上いけない、主に俺の尊厳とバカ共の暴走的な意味で。

「大丈夫です、リサはどんなご主人様でも受け入れます!」

「そういう問題じゃねえから」

「ほほう、つまりユーくんとあっくんのコラボですな!」

「オイふざけろ、俺じゃなくて明だけにしろっての」

「マテコラ、人を生贄にして逃げようとするんじゃねえよ」

「この数ヶ月で俺がどれだけ女装されたか語ってやろうか」

「……それには同情するが、俺だって嫌だよ」

「それなら方法は一つしかないわね」

「うお!?」

「いつも言うけどどっから出てきた夾竹桃」

「天井から」

 女郎蜘蛛かこいつは、まあピッタリではあるが。

「お、おい潤、この人は? お前のハーレムの一人か?」

「誤解しか呼ばない呼び方はやめろ。こいつは夾竹桃、百合好きのHENTAI漫画家だよ」

「失礼ね、二人とも毒してからTSさせるわよ」

 物理的に男の尊厳を亡くそうとするな。……出来ないよな?(汗)

「まあそれは置いといて。双方嫌というなら、どちらかが犠牲になる道を選ぶしかないわね」

「そして助かったと思わせて『あれは嘘だ』戦法ですね、分かります」

「なら私達から逃げきってみる?」

 いつの間にか俺達二人はアリア、理子、夾竹桃の三人に囲まれている。リサとメヌはいいとして、白雪も加わりそうな勢いだ。

「……なあ潤、なんでこうなったんだ?」

「いつものことだとしか。ちなみに明、アリアと理子を同時に相手する場合の勝率は?」

「勝率で言うなら0.01%を切ってるな。あの時ですらアリアの方が強かったんだし」

「そりゃお前が戦闘時も紳士だからだろ。まあ現状だと素で勝てなさそうだけど」

「……策は?」

「お前を犠牲にすれば助かる確率は三割」

「それだったらお前と潰し合った方がマシだ」

「まあそれなら五割だからな」

 約束が守られればだけど。ニヤニヤしてるメヌに口プロレスされ、ジリジリ近付いてくるアリアと理子に無理矢理抑えつけられる未来しか予測できん。まあ、

「俺達だけならの話だけど」

「は? 何だ、援軍のあてでも」

 言ってる最中に背後の防弾ガラスが割れ、ベランダから飛び出してきた黒い糸に全身を絡め取られる。よし、ナイスタイミング。

「フハハ、サラダバ明くーん」

 引っ張られる最中にベランダの窓を蹴飛ばし、退路を確保する。後ろの夾竹桃が妨害のため俺を毒そうとするが、炎を顕現させて妨害。直接触れなきゃいけないのが仇になったな。

「オイふざけんなじゅーーーーん!!? この状況でどうしろってんだーーー!!?」

 シランナ。

「……えっと、ジュン。ルームメイトが大層お怒りのようだけど、いいのかい?」

 電話で救出依頼をしておいたエルが困惑顔で尋ねるが、

「所詮この世は弱肉強食、強ければ生き、弱ければ(男の尊厳的な意味で)死ぬんだよ」

「うん、名台詞が台無しにされたよ薄情者」

「報酬の起爆○を倍の二ダースにするけど」

「OK親友、ボクは気にしないよ」

 うむ、物分りがいいのは大好きやで。部屋から銃声や剣戟、更に風きり音や雷明が発生していたが、俺には関係ねえのである。

 

 

 その後明がどうなったかは――翌日逃げるようにまたどこかへ行ったことで察しろ。メールで『自分のハーレムくらい制御出来てるようにしておけ』と文句を言われたが、俺が制御できる訳ないだろあんなトンチキども。あとハーレムじゃねえよ、そう見られても仕方ないが。

 まあ酷い目に遭いつつお土産置いてったのは流石と言っておこう。明らかにパン屋で買ったパンというアットホームなチョイスは謎だが。やたらと美味だし。

 

 




 
登場人物紹介
御剣明
 ゲストキャラ、潤のルームメイト。女子が大量に居着いていたのは驚いたが、「まあ潤だしな」で納得した模様。
 なお、この後滅多に帰ってくることはなくなった(居ても男友達の部屋に避難している)。ちなみに強襲科Aランク(実際はSランク相当だが抽選から漏れている)で風と雷の超能力(ステルス)を使える優秀な生徒だが、今回は流石に相手が悪い。


遠山潤
 ルームメイトを平然と見捨てる外道。なお後日アリアと理子に捕まり、結局女装させられている。ちなみに精神的ダメージがどうのと言っているが、そんなことで傷付くような神経は持ち合わせていない。


神崎・H・アリア
 明が帰ってくるのを(ツッコミ役として)熱烈に期待していたツッコミツインテ。ちょっと会っていたとかパートナー候補だったとか恋愛っぽいフラグはあるのだが、彼女にとって自分の代役が出来るかもしれない方が重要である。
 
 
メヌエット・ホームズ
 明との知り合いその2にして以前の依頼主。口で言いくるめてくるため彼は苦手としており、それを重々承知のため嬉々として弄ってくる。


後書き
 先に言っておきます、つばめ様すいませんでしたorz
 ……という訳で謝罪からどうも、ゆっくりいんです。コラボにも関わらずコラボキャラを酷い目にあわせる話でしたが、如何でしたでしょうか。私は一発殴られる覚悟をしました(真顔)
 本当はアリアとの戦闘シーンとか武偵校での絡みを書く予定だったんですが……すまない、いつもどおり指が暴走したんだ、本当にすまない……プロット書いても全く守らないんですよね(白目)
 そんな訳で、つばめ様から苦情が来たらこの作品は消します(マテ)
 次回はリクエスト小説第二段をお送りする予定です。……今までの女子キャラほぼ全員出すとかどうなることやら(汗)
 では、今回はここまでで。感想・評価・お気に入り・誤字脱字訂正など一言でも何かいただければとてもありがたいです。
 読んでいただき、ありがとうございました。
 
 


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リクエスト小説 咲かせよ百合の花企画 『ユリハーレム構想』

 こちらは機巧永遠様からのリクエスト小説となります。……リクエスト受け付けたの半年前でしたが。本当にお待たせして申し訳ないですorz
 ちなみにタイトルはリクエストの原文ほぼそのままです。……まあご想像通り某サークルの皆さんが元凶です、詳しく知りたい方は『閑話その五・近くのほうが基本分かりにくい』を見ると分かる……かも?(ダイマ)
 あ、時系列等は気にしない方向でお願いします。
 


 

 

「『メズ』、『百姫(ユキ)』、『甘美(アミ)』、準備はいい?」

「大丈夫よ」「うん、システムオールグリーン!」「おっけーだよー」

 どうも、夾竹桃よ。本日は私達『咲かせよ百合の花』のメンバーでお送りするわ。ちなみに全員ハンドルネームで呼び合ってる、こうすると一体感が増すのよね。

 場所はアリアとメヌエットが暮らしているVIPルーム。場所をどうするか話していたらメズが快く貸してくれたわ。ただ住んでいるアリアの母親、メイドの二人には悪いから一泊二日の旅行券を送っておいたけど。

 さて、今回私達がわざわざ集まった理由なんだけど――今現在サークルで作成している同人ゲーム、『白百合の初体験』のためだ。このゲームは当然百合ゲームで同姓を好きになるのが初めてな主人公が「ももちゃん話長いよー?」ごめんなさい甘美、ちょっと熱くなりかけたわ。

 まあ長々と語ったのだけど、要はゲームの資料集めね。本は色々読んだけど映像関係だけではイマイチだから、いつもの私がやるネタ集めを皆でやろうという話だ。ただ見るだけではつまらないので、ちょっとしたイベント込みだけどね。

『んっ……ここは、教室、いや結界の中? そしてこの格好……大体察してしまう自分が嫌ですね』

 どうやらターゲットが目を覚ましたようね。この状況で焦らず役になりきれる判断力は素晴らしいわ。

「聞こえるかしら、遠山潤。まず言うことはゲーム中あなたのことを遠城弧猫(えんじょうこねこ)、と呼ぶわ、決して男の名前を名乗らないこと。返事はハイかイエスよ」

『……夾竹桃ですか、この状況の元凶は。なんのつもりでこんな場所に閉じ込めたのですか?』

「私だけじゃないわ、サークルメンバー全員よ」

「おはようございます、コネコ」、「あはは、ごめんねおはよー」、「弧猫ちゃん相変わらずすごいクオリティーだねー」

『誰もそんなこと聞いてないです、さっさと出してください。さもないと全員殴りますよ』

 ジト目で声のする方向を見上げてくる、白髪碧眼の見た目は少女、中身は男の娘の遠城弧猫。相変わらず理子はいい仕事するわね、あのむさい男がロリ美少女に大変身してるわ。

 でも、そんな態度とっていいのかしらね?

「ふふ、でもあなたの超能力(ステルス)でその絶界を破ることは不可能よ?」

『力尽くなら、そうですね。でも解析すれば別です、すぐに術式を分解(バラ)して』

「ちなみに内部から解くと散開している理子達が一気に集まる仕組みになってるわよ」

『……この状況では助けにならないどころか嫌な予測が立てられますね』

 思惑どおり指を引っ込めてくれたのはいいんだけど、もうちょっと仲間を信用してもいいんじゃないかし『絶対変な目に合わされるのにですか』……正解よ。

「じゃあ前置きはここまでで、ゲームのルールを説明するわね。場所は武偵校を模した校舎内、あなたはひたすら鬼役の女子達+αから捕まらないよう逃げ回りなさい。制限時間は一時間、捕まると酷い目にあうわ、R15以上かG表記かは相手によるけど」

『雑過ぎませんか、あとαって誰のことです?』

「別にいいでしょ、理解してるんだし。αはあれよ、カナね」

『是非とも帰ってもらいたいのですが』

「大丈夫よ、兄弟揃ってパトラの前で女装を披露するだけだから(最悪女装で一生を過ごすかもしれないけど)」

『聞こえてますよ』

 あら失礼、まあ私達としては是非そのままでいてもらいたいけどね。

「ああそうだ弧猫ちゃん、女の子に暴力を振るうのはなしだよ、逃げるのに魔法を使うのも。もしどっちかを破ったら即座に女の子達が集合するからね~」

『このブレスレットはそのためですか、呪いよろしく外れませんし。絶界といい、ずいぶん腕のいい超能力がいるみたいですね』

「えっへん、甘美ちゃん実は中々やるんだ~」

『……その才能は是非とも別のことで活かすことをオススメしますよ。つまり要約すると、鬼ごっこですか』

「そういうことです。ちなみに弧猫のことは好きにしていいと参加者の皆さんに伝えてあります、こちらで責任は取りませんので頑張って逃げてください」

『メヌは私のことを何だと思ってるんですか』

「愉しみ、ですかね?」

『愉悦部長みたいなこと言わないでください』

 でっかい溜息吐いてるけど、あっさりと受け入れるあたりトラブルに慣れてるわよね、それとも諦めてるのかしら。

「じゃあそろそろいいかしら。私がスタートって言ったら配置に着いてる娘達も動き出すわよ」

『変なとこだけ公正ですね。それと待ってください、武器だけ外します。鬼ごっこで持っててもデッドウェイトにしかなりませんし』

「たしかにそうね、じゃあ今の内に外しなさい」

『分かりました』

 素直に頷き、愛用のUSP二丁を袖から取り出し、床に置く。次に背中から同様の二丁。しかしチラリと見える肌やスカート下の足を見ても、女子にしか見えな――

 ガシャン、ガシャガシャガシャン

「「「「……」」」」

 ガチャガチャ、ガキンガキンパチ、ゴトン。

「待ちなさい」

『はい、なんでしょう? ……あの、中身男の肌を見て楽しいですか?』

「女性的なラインが形成されてることに感心しただけよ。……違うそうじゃなくて、どれだけ武器を抱えてるのよ」

『まだ半分ですよ』

 平然と言う弧猫に絶句する。今置いてあるだけでも数十の銃器や刃物が置かれているのに、まだあるというの。

 結局全部の武装を解除するのに五分近く掛かった。最後に脱いだ制服の上着なんて投げ捨てたらコンクリートにヒビが入ったんだけど。

『ふう、大分軽くなりました』

「どれだけ積んでるのよ本当に……」

「大体の計算だけど、全部で100キロは軽く越してるだろうねこれは……」

 昔のジャ○プ漫画の主人公か何かかしら。……これは、簡単に捕まりそうにないわね。

「……まあ、それはあの娘達次第ね。じゃあ、そろそろ始めるわよ」

『はい。……私が勝ったら何かあるんですか?』

「特にないわね」

『じゃあ皆さんをボコらせてもらうのでいいです』

「冗談よ、ちゃんと景品とか叶えられる範囲で用意するから」

『それならいいです、嘘でないことを祈ります』

 一瞬目が本気だったわね、危なかったわ。

「それじゃあ行くわよ。3、2、1――スタート」

『エンジョウ、大人しくお縄に――』

『では逃げます、えいっ』ドゴン!!

『って、なんだあの速度は!? 超能力でなければ女装の影響か!?』

 一番近くにいたジャンヌ(かませ犬)から予想以上の速度で逃げ出し、あっさりと撒いてしまった。……驚いてたのもあるけど、これは一筋縄ではいかないわね。

 ところで、格好が原因と考えるあたりジャンヌも遠山グループの考えに毒されてきてるのかしら。

 

 

 

 さて、弧猫が逃げた先は体育館、時間にして五分くらいだろうか。途中風魔雛菜や間宮あかりを筆頭とする一年生グループ(乾桜は除く、あの子前に別の女装した彼の姿に憧れてたから知らないほうがいいだろう)とも遭遇したが、あっさりと振り切っている。残念だけどあの娘達に弧猫の相手は荷が重いだろう、息の一つも乱してないのだし。

 とはいえ、上手く逃げ込めたわけではない。一年生達は追い掛けるのがメインではないのよ。

 弧猫が体育館に到着した途端、銃声が響く。それらは軽々避けられるが、本命は撃った本人が振るう小太刀二刀、しかしこれもかわして距離を取る。

『む、何よ随分速いじゃない。あかり達は上手いこと誘導してくれたけど、ちょっと厄介そうね』

 小太刀二本を構えた神崎・H・アリアは、不満そうな顔をして再度突撃する。

『アリアも参加してたのですか』

『まあね、正直無視してママと旅行にでも行こうかと思ったけど、アンタを好きにしていい権利と言われて面白そうだったから』

『……サンドバックですか?』

『それは別のとこでやったからいいわよ、アタシの目的はね――男一人のアンタと白雪・理子・リサ・メヌの四人でデートさせるわ』

『……はい? それでアリアに何の得があるんですか?』

『別にないけど、二人くらいなら余裕で捌くアンタが四人に迫られたらどういう風になるのか見てみたくなったわ』

『……アリア、メヌに毒されましたか?』

『失礼ね、あそこまで性悪じゃないわよ』

「お姉様、あとでももまんの中身を豆板醤に変えておきます」

『ヤメロォやったらマジでキレるわよ!!? ……まあそういうわけで、アタシの楽しみのために大人しく捕まりなさい、コネコ!!』

『断固拒否します』

『別に拒否してもいいわよ、逃げられるならね!』

 小太刀が振るわれる、回避。離れたところでガバメント、これも回避。回天○舞十連、やっぱり回避。超能力込みの地面割り、結局当たらず。

『……だあああちょこまか鬱陶しいわね!! 大体速度上がったとはいえ何で当たらないのよ!』

『逃亡に100%のリソースを費やしてる私と攻撃・捕縛に分散させてるアリアでは私に分があります』

『どこかの仙人かアンタは! そんな理屈通じるわけないでしょうが!!』

『超能力持ちが言っても説得力ないです』

『やかましい、越えられる物理法則にも限度があるでしょ普通! 大人しく捕まりなさい!』

 弧猫以上の高速移動で背後を取り、、腕を取ろうとするが、

『捕まれと言われたら逃げたくなります』

 伸びた腕の真下を屈んで横から抜け、二階の窓から飛び降りる。「待ちなさいコラァ!!」と女子らしくない叫びを上げながらアリアが追いかけ、足跡を見付けてそちらへ走るがそれは弧猫が造ったフェイク、本物は逆方向へと既に走っていた。

『意外とチョロイですね』

 それがパートナーへの評価でいいのかしら。

「ああ、必死で無駄な努力をしてるお姉様はカワイイわね……」

 メズはいつも通りマイペースね。

 さて、林の中を抜け出そうと駆けている弧猫だったが、横合いからの銃声で後方に跳躍、飛んできた銃弾と水流は避けられたが、

『うっ……しまった、誘導されました』

 跳んだ先で白い粘着性の糸に捕まってしまう。以前眞巳が見せてくれた土蜘蛛の糸ね、絡まる感じが扇情的でいい趣味してるわあの子(メモメモ)

「ロリ美少女の触手プレイ……ゴクリ」

 業の深い趣味ね百姫、脳内でどういう補完がされてるのかしら。

『くっふっふー、ネコちゃんの拘束シーンゲットだじぇ!』カシャカシャ

『いや理子、さっさと捕まえた方がいいですよ? じゅ、じゃなかった弧猫ならすぐに逃げ出しそうですし』

『何言ってるのマミさん、例え逃げられる可能性があってもそこに求めるエロスがあるなら撮らずにはいられない、それがフェティシズムってモノなんですよ!』

『なるほど、これが探求者の姿ですか。私もフェチに目覚めればこうあるべきと学びました』

『そこの理子(変態)は極端な例ですから間違えてもマネしないでください眞巳』

 相変わらず眞巳は真に受けるわね、将来悪い男に騙されないか心配だわ。悪い女ならいいんだけど、ネタ的に(マテ)

『くふふ、平然としてるけどネコちゃん動けないよね~? そ・れ・に、その先は理子特製の地雷が一杯敷き詰めてあるし、空には自爆装置付きのドローンが配置してあるよ~。

 この完璧で逃げられない布陣、あとはりこりんに捕まってイイことされるだけだね~。ねえ今どんな気持ち? NDK? NDK?』

『いや理子、あの子相手にネタバレとか逃げてくれって言ってるようなものですよ?』

『大丈夫ダイジョブ、マミさんの糸は頑丈かつすげえネバネバしてるし、いくらネコちゃんでも超能力なしじゃ簡単には――』

『えいっ』

 理子がベラベラ喋ってる間に弧猫は手近な糸が絡んでいた木を根元から引っこ抜き、

『とう』

 気の抜ける掛け声と共に伸びた糸を手刀で切断した。……ジャンヌが言ってた女装の影響というのもあながち間違いじゃないかもしれないわね。

 『嘘ォ!?』と理子が叫んでる間に同様の方法で反対側の糸も切断し、拘束から開放される。

『だから言ったじゃないですか……』

『ぐうう、でもあんなの理不尽でしょ!? アリアんじゃないんだし素手でどうにかできるとかなんでさ!?』

『筋力にリソースを限界まで回して腕を振るえば、真空波くらい作れます』

『それ聞くと普段の身体スペック申告は詐称なのかと思いたくなるんですが』

『非効率的だからやらないだけです、鍛えれば誰でも出来ますよ』

『うぐぐ、だがこの地雷原から逃れるのはどうか』

『やあ』

 理子の話を遮る形で震脚、画面越しからでも分かるくらい地面が揺れる。当然そんなことをすれば地雷は爆破するのだが、

『では二人とも、さようなら』

 爆発を利用して飛び上がり、更に空中のドローンを踏みつけて爆破させ、同様の方法で空中を疾走していった。

『流石ネコちゃん、無茶苦茶だあ!? そしてパンチラシーン逃した、チクセウ!!

 ってそんなこと言ってる場合じゃない、マミさん急いで追い掛けて』

『そうやって妙に余裕な態度を装うから、毎回逃げられるんですよ。……恋愛的な意味でも』

『ゴフォオ!? 今それ言わなくても良くない!?』

 この二人はもうダメね、眞巳は早々に諦めてるし。

「う~、爆風で遮られたからねこちーのパンチラ見逃した~。男の娘の中がどうなってるのか見たかったのに~」

 そんなもの見たがるのはあなたくらいよ甘美、あと弧猫の下着は上下とも女物らしいわよ、着替えさせた理子曰く(頑なに脱がないので超能力で男物の下着を原子変換させてるらしいけど)。

「グッジョブりっちー」

 ショタだけじゃなく男の娘も守備範囲なのね、あなた。

 

 

 さて、爆発によって空中から逃げるという中々キチッてる方法で弧猫が向かった先はグラウンド。そこには二人が堂々と待っていた。

『来たわね、弧猫』

『ご主人様、そのお姿も素敵です……』

 普段どおりの笑みを浮かべる絶世の美女(♂)カナと、うっとり顔のリサだ。あの子は主人がこんなんでもいいのね。

『……姉さんにリサですか。出来れば通してくださるとありがたいのですが』

『そう言われて逃がすと思う?』

『いえ、全く。強いて言うなら自分たちが待ってたフィールドで何も用意していないことが疑問です』

『あなた相手に小細工なんてしても仕方ないでしょ? 下手に用意してリサが怪我したら後で何されるか分かったもんじゃないし』

『うう、申し訳ありませんカナ様……』

『いいわよ別に、私の作戦に乗ってくれたのはリサの方だしね。

 というわけで弧猫、私としては大人しく捕まってくれれば助かるのだけど』

『男二人のファッションショーとか超絶嫌です』

『あら、今ならリサに捕まえさせてあげるわよ? このメンツなら一番マシな相手だと思うけど』

『ご、ご主人様……』

 リサが潤んだ瞳で見つめる中、弧猫は数秒沈黙し、

『……たしかにそれが一番マシですが、最初から次善の策を取るほど愚かではありません』

 結局提案を蹴った、まあこれは予想通り。リサは一瞬残念そうにしたが、『それでこそ私のご主人様です』と誇らしげだ。美しい主従の絆ね(メモメモ)。

『そう、まあそうなるわよねえ。じゃあいつも通り――力尽くね!!』

 言いつつカナは全弾『不可視の銃弾(インヴィジブレ)』を放ち、組み立て済みのスコルピオを振り上げるが、弧猫は銃弾を避けつつ鎌の攻撃範囲外に上手いこと移動している。速度はHSSが発動してるカナが有利なんだけど、立ち回れているのは予知能力の差かしらね。

『予想以上に身軽ね! でもどこまでかわせるかしら!?』

『これくらいなら幾らでも避けられ――ああ、そういうことですか。リサを傷つけない、というのは嘘ですか?』

『嘘じゃないわ、ただ貴方が避ければ運悪く(・・・)リサに当たってしまうかもしれないわね。それに戦場へ立つ以上、この子も怪我くらいは承知の上よ』

『……』

 位置関係として狙われているリサも覚悟した顔だ、なんだかんだ言いながら弧猫はリサに甘いし、これは詰んだかしら?

『さあ、どうするのかしら弧猫? お得意の並列思考でどうにかするのかしら? まあ――時間なんてあげないけどね!!』

 スコルピオを上段に構えたカナが突っ込み、胴に向けて振るわれる。そして、

『えいや』

『グハァ!?』

 カウンターで放たれた腹部への蹴りをもろに受けたカナが、すごい勢いで吹っ飛んでいった。あ、追撃で頭蹴っ飛ばして意識刈り取ろうとしてるわね。

『げふ!? ちょ、ちょっと待って、攻撃はしないんじゃ、オグァ!?』

『しませんよ、女子には(・・・・)。姉さんは外見こそ女ですけど中身男ですから例外です、意識まで女性になりきったのが仇ですね』

『……』チーン

 ……気付かれてたか、まあ予想できた展開よね。戦闘型がもう一人いたら結果は変わったかもしれないけど。

『ご、ご主人様……』

 一人残ったリサはそれでも飛び掛ろうとするが、

『リサ、待て(ステイ)。言う事を聞けたら後で頭を撫でてあげます』

『ヘルモーイ! メイドは主人の命令に絶対遵守です!!』

 あっさり陥落したけど、こっちとしてはおいしいネタを頂いたから別にいいわ(メモメモ)

『じゃあここで大人しく待ってて――はっ』

『え? ――ご主人様!?』

 飛んできた小刀を振り返り様に蹴りではじき、駆け寄ろうとするリサを手で制して、『ステイですよ』と告げる。心配しているのが分かっててもルールがあるのは分かってるのね、薄情だわ(←元凶)

『ふうん、変わったわね弧猫。前だったら脅しで弾いた武器を顔面近くに飛ばしたでしょうに』

『ルールがあるからです。飛ばした武器に自分から当たられても困りますし』

『それに、そんなカワイイ格好を積極的にしてくれることもなかったし』

『……二人と違って押しの強すぎる奴等が多いんです、断っても実力行使されますし』

『意地になれば逃げられると思うけどねえ。まあ、アタシは男か女、どっちの姿でも十分可愛がってあげるさ?』

『やめてください目がマジなんですが』

『本気だからね』

 ……鏡高菊代が百合も許容範囲だとは思わなかったわ、思わぬ収穫ね(メモメモ)

『ちなみにアタシはこの子を狙うのに躊躇しないよ?』

『っ』ビクッ

『……』

 露骨にリサを狙う様子を見て、弧猫はその場から飛び去った。

『……本当、変わったねえ。以前なら一般人相手でも「だからどうした」で済ませそうなものだったのに。

 妬けるくらい愛されてるってことだねえ、メイドさん?』

『あ、愛……そうなのでしょうか?』

『そうだよ、自信もっていいさ。まあアイツはその辺無関心だから、厄介なのには変わりないけどね。

 ……さて、アタシも追っかけるか。アイツ相手なら一対一の方が楽なのは知ってるけど、眞巳みたいに火力担当じゃないから止むを得ないわ』

 これは三角関係ということでいいのかしら(メモメモ)

「メズの推測では違うと思うけど」

 いいのよ、その辺は補完できるわ(メモメモ)

 

 

『……』

 弧猫が逃げ去った先は外れにある倉庫の屋根上だった。そこには武装した星伽白雪が佇み、気配を感じると閉じていた目をゆっくりと開く。

『最後は白雪、ですか。ここに来るのは予想されてましたか』

『――うん、潤ちゃ――弧猫ちゃんならここに来ると思ってたから』

『……経験則による勘、ですか。付き合いの長さがなせるもの、おまけに気配を消されてたら到着するまで中々気付けないです』

『うん、でも良かった。正直、当たる自信はあんまりなかったから。弧猫ちゃんのことは良く知ってるつもりだけど、それが一面だけってのは理解してるつもり』

『……一面なれど本質、ですよ。まあこの格好で言っても説得力ないですが』

『大丈夫、カワイイと思うよ!』

『サムズアップしてまで肯定しなくていいです』

 もう周りには肯定派しかいないんだから諦めなさい。

『じゃあ弧猫ちゃん、始めよっか。悪いけど、手加減は出来ないから』

『……封じ布まで外して、本気ですね。そんなに景品が欲しいのですか?』

『それもあるけど、何より負けたくないから。理子さんにも、リサちゃんにも、そして何より――潤ちゃんにも』

『……私にも、ですか』

『うん。私はしつこいし、諦めないから!!』

 宣言と同時刀から炎の斬撃が飛び、弧猫の前で爆発する。それは余裕を持った跳躍で回避されるが、白雪も予測していたのか次々と炎を飛ばしてくる。

 点ではなく面、威力よりも範囲を重視した攻撃。当たって怯ませるのが目的なのだろう、実際ダメージが薄いとはいえ、弧猫は攻撃を避けきれずにいる。

『は、は――はあ!!』

 が、それ以上に白雪の消耗が激しい。短期決戦向けの超偵が途切れることなく超能力を連発しているのだ、無理もないだろう。

『10分。これだけの時間超能力を使い続けるのは大したものです、私だったら三分で枯渇していたでしょうね。

 でも、そろそろ限界だと予測します。連続行使は例えるなら無呼吸で全力疾走のマラソンを続けているようなものですから』

『そう、だね、正直きついよ。っ、はっ! 

 でも、これだけあれば来るまでの時間は十分稼げたよね?』

『!? しま――』

 それまで軽業師のように屋根を飛び回っていた弧猫が、急に動きを止めてしまう。まるで何かに縛り付けられたかのように。

『アタシを忘れて他の女に夢中なんて、酷い奴だね弧猫』

『……影縫い、ですか。眞巳から習って』

『おっと、喋る時間は与えないよ。さあ星伽白雪、こっからは純粋に速さ勝負だよ!』

『分かってます、あなたには負けません! 弧猫ちゃん、お覚悟――きゃっ!?』

 菊代に合わせて走り出そうとした白雪だったが、限界が来ていたのか足をもつらせ、屋根から落ちてしまう。

『まず――』

『っ、くっ――』

 間に合わない。そう思った時、弧猫の足からブチブチと嫌な音が響き、

『白雪!』

 血塗れの足で白雪に向かって飛び、空中でその身をお姫様抱っこ、地上へ体勢を整え着地する。まるでヒロインを助ける主人公ね、素敵だわ。

『あ』『きゃっ?』

 が、傷だらけの足では踏ん張りが効かなかったのか、白雪を巻き込んで倒れてしまう。

「「……」」

 そしていかなる偶然か、弧猫が白雪を押し倒すような格好になった、一つでも動けば唇が触れ合うような顔の距離で。「「おおお!?」」とサークルメンバー二名は歓声を上げる。GJよとラブるの女神、メズは微妙に面白くなさそうだけど。

『あ、あの、あのあの、潤ちゃん、私』

『……白雪、怪我はないですか?』

『え? う、うん、大丈夫、ありがとう』

『いえ、怪我がないならいいんです。……ごめんなさい、今どきますね』

『あ、まっ――潤ちゃん、その足!?』

『ああ、これなら大丈夫です。痛覚は切ってあって――』

『ダメ、こんな怪我放っておけないよ! 潤ちゃん動かないで、今治すから!』

『わ。あの、白雪?』

 今度は白雪が弧猫をお姫様抱っこ、だと……!? やばいわ、これは中々ないシチュエーションね(メモメモ)

『ごめんね、靴脱がすよ。……っ、こんな酷いの、私のせいで』

『……大丈夫です、痛みは切って』

『そういう問題じゃないよ! ケガしたら痛いって言わないとだよ、じゃないと気付いてもらえないし、助けられないから!』

『え、えっと、あの……はい、すいません』

 涙目の白雪に迫られて困惑顔で頷き、大人しく治療を受ける弧猫。

『……白雪、魔力なら私の方が余ってますから自分で』

『ダメ、私にやらせて。潤ちゃんに怪我させたのは私が原因なんだから』

『……でも、残量からして辛いと思います』

『大丈夫、私頑丈だから! ……それに、助けて貰ったんだからこれくらいしてあげたいの』

『……じゃあ、お願いします。あと白雪、潤ではなく弧猫です』

 動こうとしていた弧猫だが、地面に降ろされて大人しく治療を受けている。いいわねこのシチュエーション、素晴らしいわ白雪。

『白雪、弧猫、だいじょ――うぶみたいね』

『あ、鏡高さん。うん、見た目ほど酷いケガじゃないし、これならすぐ治るよ』

『そうかい、それは何より。まあとりあえず――勝負はあんたの勝ちだね』

『え? 勝負?』

『……白雪私を抱えてるじゃないですか。その前に私が白雪を抱っこしたのもありますけど』

『……あ!』

 気付いてなかったらしい。それだけ必死だったのね。

『で、でも、こんな形でいいのかな』

『いいんじゃないの? 運も実力のうち、情で動いた弧猫の負けってことでしょ。それでいいわよね、主催者さん』

「そっちが納得してるなら構わないわ、寧ろ素晴らしいものを見せてもらえたし」

 仮に無効だったとしてもこっちからMVPを送っていいくらいだわ。菊代には『だ、そうだよ』と肩を竦められたけど。

『えっと、じゃあ……私が弧猫ちゃんに、好きなことをお願いしていいってこと?』

『……約束した覚えはないですが、そうなりますね。出来ればお手柔らかにお願いします』

『そ、そっか……えっと、じゃあ、えっとね、こね、じゃなかった潤ちゃん!』

『はい』

『あの、あのね』

 白雪は顔を真っ赤にして必死に言葉を出そうとしている。初心ねえ、一々良い反応だわ。

『私と――デートしてください!』

『――はい?』

『……だ、ダメかな? あの、デートプランは潤ちゃんに考えて欲しいんだけど』

『いえ、ダメではないですしプランくらい考えますが……正直、丸一日好きにされるとかかと思いました』

『だ、だって、女の子からデートに誘うなんてはしたないことだし……』

 昭和の女かしらこの子は。そういえば感性はそっちに近いんだっけ。

『……貞淑な乙女なんですね、既成事実迫られたらどうしようかと思ってましたが……』

『き、既成事実……そ、そういうのはお互いに好き合っていて、合意の上じゃないと。お互い愛し合うんだし、一方通行の想いとかダメだと思う……』カアァ

『……すいません、女性に言うことじゃなかったですね。とにかく、了解しました。では今度のデート、楽しみにしててください』

『! は、はい、よろしくお願いします、潤ちゃん様!!』

『土下座しなくていいですから……あと弧猫です』

 とりあえず、決まったようね。『お願い』は拍子抜けだったけど、内容は――うん、聞くまでもないわね、皆満足そうだわ。これならいい作品が書けそうだわ。

 それでは、今回の企画はここまでね。次回があればまた会いましょう。

『二度とやらないでください』

 そう言われるとやりたくなるわね。

 

 

 




登場人物紹介
遠城弧猫(遠山潤)
 リクエスト先でも女装させられる我等が主人公、段々慣れてきた気がする。
 女装時は格好の影響を受ける説が立っているが、本人曰く『格好に合わせて能力値を変更している、あとは気分』とのこと。
 歩く武器庫のような装備数だが、普段からこの程度は武装しているらしく、お陰でか脱ぐと(速度が)すごい。

 
星伽白雪
 勝者。ラッキースケベを受けたりデートの約束を取り付けたりなど、ヒロイン度では本作一な気がしてきた。
 原作だと既成事実を作ろうとするほど積極的だが、自分から手を出すことはない受動的+潤に迫るのは無意味という要素が合わさった結果、「デートを自分からねだるのははしたないこと」と妙に純真なキャラになった。まあ感性が古い娘なのでセーフ……だと思う。
 
 
桃子(夾竹桃)
 主催者兼元凶。今回の企画でネタが大量に入ってご満悦の様子。後で潤から大量の薔薇小説をアジトに投げ込まれるという報復を受け、卒倒しかけたが。
 
 
メズ(メヌエット・ホームズ)
 今回は傍観者。本人的に少々面白くない展開が目立ったが、創作を始めたらあんまり気にならなくなった模様。
 
 
百姫
 ネーミングの由来は『百合を愛する姫=百姫』。CG等のパソコン関係専門。百合だが綺麗・カワイイものなら男の娘でもOK。セミロングの黒髪にヘアバンドが特徴、スレンダー。眼鏡とコンタクトを気分で使い分ける。四人の中では一番普通、のはず。
 
 
甘美
 ネーミングの由来は『甘味こそ最も美味なるもの=甘美』。実は超能力持ちの少女。イラストとシナリオ補助担当。精神的に同年代かそれ以上の女性かショタ好きなバイ。童顔低身長でニコニコ笑顔を絶やさない、髪は茶色のボブ。癒やし担当でマイペース。
 
 
感想
 全員分書いたら一万文字越えたんですけど(白目)
 とりあえずこれでリクエスト小説二つ目完了です。……機巧様、長ったらしい上にぐだってたらごめんなさい、しかも夾竹桃視点大して書けてねえし……改めて、大量のキャラ動かすのは大変だって身に沁みました。
 ちなみに今回の勝者はダイス振って6が出たらにしました。一緒に出たキャラは同数ですね、全員軒並み出目が高くて驚きましたけど……
 では今回はここまでで。感想・評価・お気に入り・誤字脱字報告等、何かいただけると非常に励みになりますので、気が向いたらよろしくお願いします。
 読んでいただき、ありがとうございました。
 
 
 


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『人工天才』編
第一話 増えるのは厄介事だけとは限らない(前編)


 八章人工天才(シニオン)編スタートです。といっても今回で出てくるかは微妙ですが。……前章でやるつもりだった文化祭が残ってるので(オイ)
 ところで医療行為(意味深)に関して感想が、『潤なら仕方ない』、『いいぞもっとやれ』適な流れなのは驚きました。ぶっちゃけリアル嫉妬団が形成されると思ってました、主に私が(オイ)
 まあウチの主人公は絶食系として認知されてるってことですかねえ。もしくはホ
y=ー(´・ω・)…y=ー(´゜ω゜)・∵.ターン
潤「なんか言ったか亀作者」
( ゚д゚)・∵.(いえ何でもないです)




 

「いらっしゃいませ。三名様でよろしいでしょうか?」

「「「オオオオーーーーー!!?」」」

「……えっと、何か?」

「あ、すいませんつい……完成度が余りにも高かったもので」

()ちゃーん、お客様案内したら四番テーブルの注文お願い!」

「分かったわ、()

「「「まどほむ、だと……!?」」」

「……あの、お客様。ご案内しますので」

「焔ちゃーん!」

「今行くわ、そんなに急かさないで」

 はいどうも、遠山潤(女装中)です。本日は来て欲しくなかった文化祭一日目、変装食堂と名付けられた喫茶店で接客の最中だ。ちなみに俺の衣装だが……うん、察してくれ。敢えて同じタイトルの理子とどっちがどっちかは明言しないでおく(蘭豹先生には爆笑された、うるせーよ)。

 同じジャンルということでコンビを組まされ接客しているが、特に問題はない。先日の医療行為(比喩)が尾を引いていたらこうはいかなかっただろうが、面倒なので一度話し合ったらいつもの通りなあいつに戻ったからな。話し終わりに「うるせーこの絶食フラグ男!」とか言われて頭突きされたのは納得いかないが。ナニはしたけど俺が何したよ。

 まあそんなこんなで接客してたら一段落――着かない。交代時間はとっくに過ぎているのだが、客足が全く途切れないのだ。何か去年の数倍は混んでるんだが。

「焔ちゃん、厨房からヘルプが来たんだけど……」

「ええ、今行くわ。……そんな泣きそうな顔しないで、落ち着いたら接客に戻るわ」

「! うん、私待ってるね!」

「ちょ、円!? お客様の前なんだから……」

「? 人前じゃなければいいの?」

「そういう意味じゃ……いや、抱き付くのが嫌というわけじゃないけど……」

『『『ごっつあんです!!!』』』

 厨房、カウンター、お客の多数が笑顔でサムズアップしてくる。お前等シンクロ率高いな、あと厨房組は仕事しろ、料理が焦げる。

 とまあ必要のない演目を見せてから厨房に入ると、消防士姿の剛が笑いを漏らしながら、

「く、くく……いやあ潤、ノリノリ過ぎて笑えてき」

「黙って手を動かすか頭の風通しを良くするか選びなさい」ジャキッ

「スイマセンデシタ」

 用意しておいたベレッタM92Fを突きつけて作業に戻らせる。この格好は武装出来るから便利だよな。

「でもとーやまくん「遠美(えんみ)ね、平賀さん」遠美ちゃん、とっても似合ってるのだ!」

 キャバ嬢姿のチビッ子発明家である平賀さんが褒めると、調理してたり休憩中の女子達が「確かにねー」「焔なら何でもできるイメージはあるけど、これは予想外だったわ」「カワイイ!」「ウェヒヒヒ、エプロン姿の焔ちゃんも……」などとやたら賞賛してくる、どういう顔すればいいんだろ。あと最後一名、早く接客に戻りなさい。

 さて、(成り行きで)厨房の指揮を執りつつカウンターの方を見てみると、他の面々も忙しそうに回っている。

 まず白雪、彼女の指定は『アイドル』で格好は某本好きの大学生が着る衣装をベースにしたものだ。ちょっとオドオドしながらも接客をこなしている姿は似ていなくもない。

 次はレキ、指定は『OL』。髪を下ろしキャリアスーツで決めているが……なんだろう、無表情も相まって着せられてる感が凄い。

 三人目はメヌ、指定は『魔術師』。あれだ、某聖杯大戦に出てた車椅子のお姉ちゃん魔術師の格好を給仕っぽくアレンジした奴だ。いつもより大人びた感じで対応してる、正直まともに接客できるのが意外だ。

 四人目リサ、指定は『巫女』。まんまスタンダードなケモミミ(自前)巫女である。愛想と接客が流石のクオリティなため一番人気である。見てて一番安心するな。

 で、最後のアリア、指定は『キグルミ』なんだが、

「わー、何か変なのー!」

「ねー、この子喋れないのかな~?」

「ノ、ノブー!?」(訳:ちょ、アンタら一斉にくっつくなー!?)

 ……人気者で押し倒されかけていた。まあ子供受けはいいし、このまま犠牲になってもらおう、南無。というか何故これにした理子。

(助けろバカジュン!)

(ごめん無理。子供引き付けといて)

 いつの間にか念話も覚えたらしい。いつもながら使う場所が間違ってるけど。

 ちなみに衣装は全部理子とリサが用意した。どっから調達したと聞いたら「「手作り(です)」」と答えられたんだが。一週間でこれ全部作るとかなにそれこわい。

 それから厨房と接客を回りまわって一時間後。

「焔ちゃんきりないから上がっていいよー! 交代の子も戻ってきたし、円ちゃん達と一緒にハーレムデートしてきたら?」

「そう? じゃあ上がらせてもらうわね、お疲れ様。あとその表現はおかしいと思うのだけど」

「近頃は女同士でもデートって言うらしいよ?」

「それはCVRの用語だと思うわ」

 ともあれ解放されたので、他の皆にもお疲れを言いつつ喫茶店を出て行く。はあ、ようやく着替えられる。

「焔ちゃん、お疲れ様♪」

 とか思ったら、後ろから抱き着いてくるのが一名。ご丁寧に客の間から気配を消して。

「ひゃっ?」

「ウェヒヒ、焔ちゃんカワイイ声上げるねえ」

「……急に抱き付かれたから驚いただけよ、円もお疲れ様。とりあえず私、着替えたいのだけど」

「えー? もうちょっとこのままでいようよ~」

「あなたのもうちょっとは今日中ってことでしょう。……ところで、少し苦しいんだけど」

 少しどころかホールドする勢いなんだけどな。やめーや、昼の賄いが胃からせり上がってくる。

「……」ニコニコ

「……ねえ円、黙ってないで何とか」

「みんなー!! 焔ちゃん確保したよーー!!」

 いきなり大声を出したかと思うと、廊下や各教室から計十人以上の女子達が一斉に群がってきた。周りは何事かと驚いている。そりゃそうだ、俺も状況が分からん。

 「よくやった円!」「さあ焔ちゃん、いいとこに連れてくからねえ~」「さあ野郎ども、出荷の時間よ!」「私ゃ女だよ!」などと好き勝手言いながら四肢を拘束されて持ち上げられ、どこかへと連れて行かれてしまう。女がこういう格好で男に連れてかれるのは見たことあるけど、女に女装男子が連れてかれるのは始めてかもしれない。

 というより誰か止めろよ、周りの客に迷惑――面白がって写真取らないで、お願いだから。

「……どういう状況なのかしら、これ」

「大丈夫だよ焔ちゃん、私が付いてるから!」

 一瞬AT―4(ロケラン)でまとめて円環の理に導いてやろうかと思ったのは悪くないと思う。

 

 

 神崎・H・アリアよ。……何かジュン(ホムラ)が目の前で掻っ攫われていったんだけど、どういう反応すればいいのかしら。

「……ノブ」(訳:とりあえず着替えよう)

「あの、アリア様……ご主人様が攫われたのですが、大丈夫でしょうか?」

「ノブノブ」(訳:大丈夫でしょ、精々別の女装されるくらいでしょうし)

「!? それならご主人様の勇姿をこのカメラに収めないと……!」

「ノブー!?」(訳:いやアタシが言うのもなんだけど主人を心配しなさいよ!?)

 ところで何で会話できてるのかしら、理子が変な細工したせいでノブしか言えないのに。

 とりあえずメヌ達とも合流して着替えていると、メールが届いた。差出人は誘拐犯(理子)ね。

『体育館で面白いものが見れるよ~ん! ユーくんとりこりんも出るので、興味あったら30分後にキテネ☆』

 ☆がウザイ。じゃなくて、30分後ねえ。たしかその時間って、

「女子軽音部のライブだね」

 生徒会長の白雪が教えてくれた。……ああうん、何だか察しが付いたわ。これはあれね、子供に囲まれたアタシを助けなかったジュンへの天罰ね、きっと。

 内心ちょっぴり同情しながら屋台の食べ物をちょこっと買いつつ、途中シフトの終わった女子制服姿のままのエル(アンタそれでいいの?)やママと合流し、興味があるのか一緒に行くことへ。到着してから受付へ声を掛けたら、券は必要ないと顔パスで通してくれた。理子が手を回したらしい、ジュンというエサで。

 中は随分とごった返している。某軽音アニメに影響されて創設された女子軽音部は毎年何故か見目麗しい子が多くCVRのミュージカルに次いで人気がある。当日入場券がすぐ完売したとは白雪の情報だ。男って分かりやすいわねえ。……いや、女も結構いるけど。

 適当な場所に陣取って買ってきたものを食べていると、舞台の幕が上がった。ジュンと理子(バカ二人)は――ああ、見れば分かるわね。新宿事変で暴れた魔女と暴君のドレス姿をアレンジしたライブ衣装を着て中央に立ってるし。……リサも知らなかったみたいだし、いつの間に作ったのかしら。

 そういえば理子はともかく、ジュンの歌を聞くのって初めてね――そんなことを考えていたら、音楽がスタートした。

 

 

「「~~!」」

 …………

「「~~~~♪」」

 

 

「……ハッ!?」

 気が付いたら一曲終わっていた。一瞬の静寂、そしてその後に爆発するような歓声――普段は大人しい白雪やリサも興奮に目を輝かせ、レキも興味深げに舞台を見上げている。……驚いた、観客の心を奪う歌声だったわ。

 そうして十曲ほど歌い上げ、バンド名も伝えずMCも入らず舞台は終了となった。だがそれに文句を言うものはいない、どころか全員、熱に浮かされて興奮したままだ。

「すごかったねアリア! なんというか……うん、凄かった!」

「そうね、何というか……すごかったわ」

 語彙力が落ちてるのは理解してるが、仕方ないと思う。リサだってさっきから「ヘルモーイ!」しか言ってないし、レキも余韻に浸ってるのかステージを見てるわ。メヌも「文字通り心を動かす音楽、ですか」とか冷静を装ってるけど、興奮からか顔が赤いしね。

 興奮冷めやらぬ中体育館を出ると、オルタに扮した二人を見つけた。

「ジュ――」

「で、人をいきなりさらってぶっつけ本番でライブやらせるとか、どういう神経してるのかしら暴君サマ?」

「ノリノリだった癖してよく言う。本当は喝采を送られた照れ隠しか? 聖女様はチヤホヤされるのが仕事だしな」

「ハ、頭にウジでも湧いてるのかしらこの皇帝(笑)は。賞賛も名声も知ったこっちゃないわ、まずいの一番にあんたを焼こうと思ってただけよ」

「龍の魔女は魔術だけでなく頭も燃え上がっているようだな。いっそ灰になるまで燃やせば落ち着くんじゃないか?」

「「……」」

 ……あれ、なんか本気で睨み合ってるんだけど。というかこいつ等、本当にジュンと理子? 何かアタシの勘が違うものを伝えてるような……

「アリア、気を付けて! この二人」

「! ちょ、嘘、でしょ!?」

「……ふむ、人間だと思って甘く見た、か」

 白雪が警戒の声を上げる中、オルタ二人は驚いたような声を上げ――次の瞬間白い光を放つ。

「きゃ!?」

 前に出ようとした白雪がまともに光を浴びちゃったけど、まあ大丈夫ね。それより光が収まるとベルトらしきものが地面に落ち、その場に立っていたのはジュンと理子になっていた。え、どういうこと? 女装(一人はコスプレ)してたんじゃないの?

「……オイ理子、何か言うことはあるか?」

「思い付きとノリでやった、後悔も反省モリアーティ!?」

 ギターケースで思いっきり頭を叩かれていた。なんなのよ一体……

 あとで聞いた話によるとこのベルトと付いている玉、何でも玉の中にいる魂が装着者に憑依し、力を貸すものらしい。ワンチャン体乗っ取られるらしいけど……

 何でそんな危ないもん使ってるのよ!? と詰問したら、二人とも「「シャーロックからの贈り物」」と異口同音に答えた。曾お爺様!?

 

 

 はいどうも、色々酷い目にあった遠山潤です。あのベルトマジでヤバイもんじゃねえか……事前に対処用の魔術掛けてなければやばかったぞ。まあ乗っ取り始める条件が『ライブを成功させること』だったため、時間あったのが幸いだった。理子? アイツは自力で何とかしてたよ、その後しばいたけど。

 とりあえず仕事とライブ連続で腹が空いたため屋台で買い食いしていると、メールが来た。相手は……亮か、珍しい。

『遠山君、妹さんが来てるって言ってるんだけど』

「あん?」

 妹? 風雪だろうか。しかし白雪に聞いてみるも、仕事があるので来ていないとのことである。ふむ、なら孤児院時代の後輩だろうか。

『妹? どんな奴だ?』

『14、5くらいだと思う。栗色のボブカットが特徴なカワイイ子だよ?』

「……誰だ?」

 年齢はともかく、外見でそういう奴に覚えはない。マジで誰だ、妹を名乗るモンスターか(何)

「ユーくんどしたの? 身に覚えのない請求でも来たのかな?」

「そりゃお前だろ、注文した服の数くらい覚えとけ。いや、妹を名乗る奴が来てるんだが……記録にないんだよな」

「何ジュン、どっかで年下の子でも引っ掛けたの?」

「アリアさん、そろそろ俺が一級フラグ建築士みたいな発想やめません?」

「え、違うの?」

 マジ顔で疑問に思うのやめてくれませんかねえ。

「ユーくん、妹を名乗る殺人鬼が現れたとかは?」

「そんなマンガじゃあるまいし……」

「そっちの方がありそうだな」

「あるの!? アンタどんだけ方々で怨み買ってるのよ!?」

「正直味方より敵の方が多い人生です」

「武偵が無闇に敵を作るんじゃないわよ!!」

 しゃーないやん、主に前職の因縁なんだし。

 とりあえず分からないなら行くしかないべということで、再び変装食堂へ。俺達に気付いたパイロット服の亮がこちらへ近付いてくる。

「お疲れ様、遠山君。こっちだけじゃなくライブでも活躍したって聞いてるけど」

「それは後で話そう、俺の胃SAN値がもたん。で、自称妹はどこにいるんだ?」

「自称……? ええと、それならあっちに――」

「お兄ちゃーん!!」

 指し示した方向には言っていた通り、十代半ばほどでボブカットの少女が満面の笑みでこちらに手を振っている。服装はパーカーにショートパンツとこの時期にはちょっと寒そうな格好である。

 「妹系美少女、守ってあげたくなる……整いました!」ほざいている理子は無視し、自称妹の方に近付いていく。幸い、敵意の類は感じない。

「潤遅いよー。妹ちゃんを待たせるなんて!」

「あ、いいんですお姉さん。私が勝手に来ただけなんですから、連絡も取ってなかったし」

「くう、なんていい子なの……! ほら潤、ちゃんと相手してあげなさい! あと今度から妹ちゃんを招待してあげること!」

 そもそも会ったことさえないんですが。

 モブB「花川よ!」が去っていくのを見送り、少女の体面に座る。向こうは俺が来て嬉しいのかずっとニコニコ顔だ。

「武偵校は怖い所だって聞いたけど、お姉さん親切だから良かったよ~」

「アレが同性の年下趣味な可能性もあるけどな、あー、初めまして、でいいよな?」

「うん、そうだね。初めましてだよお兄ちゃん。私はジーフォース、よろしくね!」

「GⅣ……ってことは、GⅢの一味か。いやその前に、俺姉貴モドキの兄貴はいるけど妹は――あん?」

 何か感じるものがあり、対面の少女をじっと見つめる。あちらは行儀良く座り、ニコニコしたままだ。「じっと見つめるとか、やっぱアイツロリコンなのかしら」などと隣のテーブルに座るアリアが言うが、見た目ロリのお前に言われたくな「腹か腕」すいません貫手か骨折の二択は辛いです。

 まあそんなこんなで余計なことを挟みつつ三十秒ほど経ち、理解した。

「……ああ成程、確かに俺の(・・)妹だわ」

「! さっすがお兄ちゃん、合理的かつ速効で理解してくれるとか話が分かるー!!」

「そこに痺れる」

「憧れるゥ!」

 ネタにも即座に乗ってきた。このシンクロ率、間違いなく兄妹……!(何)

 閑話休題。とりあえず、

「食べながら身の上話でもするか。好きなの頼んでいいぞ」

「ホント!? じゃあじゃあ、キャラメルマキアートとハニートーストキャラメル味ください!」

「俺はココアとハニートーストベーシックで」

「えっとー、遠山君と妹さん。これ特大サイズが前提のサービス品だけど、一人一個で大丈夫?」

「「大丈夫だ、問題ない」」

 セリフとサムズアップまで一緒だった。バッチリだなマイシスター。

「……うん、兄妹だって納得したよ。それでは、しばらくお待ちください」

 苦笑しながら亮はオーダーを伝えに行った。さーて、何から話そうかね。

「あ、じゃあ私から! 趣味はMSの武器を人間サイズで再現することです!」

「「「「「潤の妹だこれ!!?」」」」」

 どーいう意味だお前等。あと妹よ、そのどこからともなく取り出したジャイアン○・バズは仕舞いなさい、実弾入ってるでしょーが(違)

「無駄に完成度たけーなオイ」

「夜も寝ないで昼に爆睡して作った一品だから!」

「それただの昼夜逆転。夜更かしは健康と成長に悪いぞ」

「んー、お兄ちゃんがそう言うならやめるね」

 妙な所で素直だな。

「というかあっさりと認めたわね……」

「これはまさか新たなライバルかも……?」

「ですが理子様、妹は流石にないのでは……」

「でもリサちゃん、よく似た義妹って可能性も……」

「メヌの推理では10中8、9血の繋がった妹だと思います」

「じゃあ今度はお兄ちゃんに質問」

「おう、Don’t来るな」

「まさかの拒否!? しかし妹はこれくらいでめげない! ずばり、好きなタイプの女性は!?」

「「「!!?」」」ガタタ!!

 落ち着けお前等。というかマイシスターよ、最初に聞くことがそれか。

 

 

 その後、詳細は寮の部屋でするため連れて行くことにした。視た限り危険度はかなり低いしな。

 なお、途中でフォースは呼びにくいので金女(かなめ)という日本名をあげたら、驚きの後半泣きの笑顔で「一生大事にします!」と言われてしまった。いや仮称だし、変えてもいいからな?

 

 

 




登場人物紹介
遠美焔(遠山潤)
 二度の女装(一個は変身だが)をやらされた男。それでもケロッとこなしてしまうので、パートナーが調子に乗ってしまうのだが。
 とりあえずジーフォースを妹認定した模様。本人曰く「波長が合っている」とのこと。
 
 
峰理子
 まど○ギと新宿組の合わせ衣装がやりたかった、以上(マテ)
 
 
遠山かなめ
 皆さんお待たせ、今度こそヤンデレだよ!! ……と言いたいところだが、実は最も設定が弄られているキャラ。根本から違うので、どんなキャラになるか今から不安で仕方ない(オイ)
 とりあえず共通してるのは、お兄ちゃん大好きなところか。


後書き
 文化祭でやりたいネタをまとめて捻じ込み+かなめちゃん登場をまとめてみました。しかしなんというか……この先の展開が脳内で複数出てきて迷う(オイ)
 というわけでどうも、ゆっくりいんです。今回は前章でやり残してた事を足したので短くなりましたが、如何でしたでしょうか? 私は以前頂いたネタを消化できて満足です(何)
 さて、次回からはかなめちゃんと本格的な話し合いになります。ここから大分原作とは違う展開になるのでご了承ください。え、既にずれてるだろ? ははは、またまたご冗談を。
 では、今回はここまでで。感想・評価・お気に入り・誤字脱字訂正など一言でも何かいただければとてもありがたいです。
 読んでいただき、ありがとうございました。
 

おまけ
文化祭で歌った曲リスト
・密教の首飾り
・サクラメイキュウ
・嘆きの森
・凶夢伝染
・キルト
・インビジブル
・甲賀忍法帳
・Magia
・孤高の創世
・カメリアの瞳
 一応同人音楽は外したチョイス。全部分かる方、私と友達になってください(何)



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第一話 増えるのは厄介事だけとは限らない(後編)

 デレステ、ミリシタを並行でやってるところに新作のアプリ、だと……!? サタスペも並行で勉強してるから、益々小説書く時間無くなりますわ(マテ)
 案の定一ヶ月近くの投稿放置、誠に申し訳なく
ジ「……」
 あ、もう処刑確定なんですね分かります(悟り)
 


 どうも、遠山潤です。自称妹から血の繋がった妹にランクアップしたかなめと色々話したかったが、先に明日の準備(フケようと思ったら高天原先生に見付かった。半泣きでお願いするのって教師としてどうなんだ)があるので合鍵を渡して俺の部屋で待ってもらうことにした。

 「ちょっと無防備過ぎるんじゃない?」とアリアに言われたんだが大丈夫、下手なことすると部屋の罠が発動するから。まあかなめなら大体予測して潰せそうな気もするが。

 で、面倒な片付けと翌日の準備を終わらせ、日が暮れる前に部屋へ戻ると何やらいい匂いが。

「あ、お兄ちゃんと皆さんお帰りー。冷蔵庫にあったもの適当に使ったけど、大丈夫だった?」

 エプロン姿のかなめが玄関まで走り寄ってくる。お玉持って首を傾げている姿を見て理子がまた騒ぎ出すが、アリアが無言で掌底を放って黙らせているな、この流れさっきもやったぞ。

「ただいま、別に使うのは問題ないが……何か作ったのか?」

「うん、時間あんまりないから簡単なものばっかりになっちゃったけど……でも皆よく食べるって聞いたから、多めに作っておいたよ~」

 部屋に入るとカレー、パスタ、ハンバーグなど確かに簡単だがかなりの量の料理が揃っている。「あ、デザートはフルーツポンチだよー」という追加情報に俺と理子とメヌが反応した。マジかよ分かってるなマイシスター。

「……毒入ってるかもしれないわ、気を付けなさい」

「アリア、まず涎を拭こうな」

「そもそも毒なんて仕込んだらお兄ちゃん+αに殺されますしおすし」

 よく分かってるな、料理に毒を盛るのと動物虐待する奴は極刑(真顔)

「……じゅるり」

「はいはいー理子お姉ちゃん、食べたいのは分かるけどまずは手洗いうがいを済ませてくださいねー」

「!? お姉ちゃん、だと……」

「あ、もしかして嫌でした? じゃあ理子せんぱ」

「逆! もっと呼んで!! 理子も妹が欲しかったんだよー!」

 感極まったのか思いきりかなめを抱きしめる。される側も「もう、しょうがないなあ理子お姉ちゃんは」などと言いながら満更でもなさそうだ、これどっちが姉かわかんねえな。

「ちょっと待ちなさい!!」

 叫びつつ突如影から出てきたのはヒルダ。もう治ったんだな、あれだけ穴ボコだったのに。

「ええ、お陰で完治したわよトオヤマ」

「キ……例の件がまだ尾を引いてる+αね。アンタ何かした?」

「適合する血液の入ったエリクサーを理子に渡したくらいだけど」

「ちゃんと飲ませたよ! ただし耳から!!」

「口からじゃないの!? というかそれで効果あるの!?」

「まだ耳の中に異物感がするわ……治ったけどどうしてくれるのよトオヤマ!?」

 いや、俺1ミリも悪くないやん。

「とまあそれは後でいいのよ! そこのポッと出妹キャラ、理子は私だけの妹よ! 横取りしようなんて言語道断」

「「黙れ負け犬」」

「グボハァ!? ちょっとトオヤマ、お前の妹口が悪過ぎるんじゃない!?」

 理子はいいのか。

「起きれないからって口移しで薬をせがむヒルダが悪いとりこりん思いまーす」

「「ヒルダ……」」

 下の代表として俺・メヌで冷たい視線を送っておくが、本人は平然と、

「して欲しかったからしょうがないじゃない! 貴方達だって姉妹にして欲しいことは在るでしょ!?」

「兄貴が姉貴になってそんなことしたら焼き殺すわ」

「お姉様大好きなメヌでもそれは流石にないですね」

「そもそも弱ってるのをいいことに欲求を満たそうとするのはかなめちゃんどうかと思うの」

「くう、ここに味方はいないのね……! でも私はめげないわ、さあ理子私と存分にハグを」

「ちょっとお姉ちゃん(・・・・・)、邪魔だから影に潜ってて」

「妹が辛辣!? ああでも、理子にお姉ちゃんと呼んでもらえたなら……!」

 お前それでいいのか。本当に影の中へ戻ってるし、恍惚とした顔で。

「し、姉妹ってこんな感じに接した方がいいのかな……?」

「違うと思います。流石にイラストを描く気も起きません」

 美しくない姉妹愛だからな。白雪は強いて言えば粉雪が近いかもだが、流石に違う……よな? あとレキ、そう言いながらかなめと理子の抱き合う姿を描いてる「潤さんも入りますか?」いらん。

 

 

「ん……うまい」

「ホント? 良かったあ! あ、おかわり欲しければ言ってねお兄ちゃん」

「かなちゃんおかわり!」

「それおにぇちゃんと同じ名前です理子先輩」

「めーちゃんおかわり!」

「はーい、ちょっと待ってね理子お姉ちゃん」

 羊みたいなあだ名になったな。

 さて、ヒルダが退散してから俺達はかなめの料理をいただいているのだが、これがまた上手い。料理担当である白雪やリサも「あ、おいしいねこれ」「モーイ! 素晴らしい腕前ですかなめ様」としきりに褒めているし。まあリサの発言には「その呼び方なら妹様がいい!」とか訂正しているが。名前じゃないけどいいの「妹属性は私のアイデンティティなの!」さいですか。

 ちなみに唯一警戒していたアリアだが、「なんかもう緊張するだけ無駄な気がしてきたわ」と、ニコニコしながらリサと一緒に給仕係をしているかなめを見て溜息を吐く。敵が増えるよりはいいやろ。そもそも、

「ねえ白雪お姉ちゃん、リサお姉ちゃん、ちょっといいかな?」

「何? かなめちゃん」「はい、なんでしょう」

「あのね……」コショコショ

「!? そ、それって本当!?」「い、いいのですか妹様!?」

「うん、私は二人を応援してるよ♪」

「潤ちゃん、すっごくいい妹さんだね!」「ヘルモーイ! ご主人様、妹様は素晴らしい方です!」

 ウチの常識組があっさりと陥落してるんだし。

「ちょっとマテ、アタシが常識(そっち)側じゃないと言いたいわけ?」

 指鳴らしながら迫ってくる相手をどうやったらそちらにしろと。

「まあまあアリアお姉ちゃん、ゴハン中なんだしここは抑えて、ね?」

「うるさいわよ妹(仮)、バカ兄は殴っても直らないけど殴らないと気が済まな」

「ここに自作のレオポン型ももまんがあります。これを裂いたらどうなるかなー?」

「!? ひ、卑怯よアンタ! そんな、そんな美味しそうだけど食べれないものを作るなんて!?」

「写真撮って保存すればいいんじゃないかな? それに、また作れるよ?」

「妹(真)に感謝しなさいジュン」

 好きなもののコラボで撃沈された模様。後ろでかなめがドヤ顔してるけどな。

「……」

「あれ? メヌエットちゃん、口に合わなかった?」

「いえ、大変おいしいです。ですが遠山かなめ、お前に言っておくことがあるわ」

 目の前のカルボナーラを食べ終えてフォークとスプーンを置き、かなめをキッと睨む。食べるのが優先なのな。

「お姉様をお姉様と呼んでいいのは私だけよ、他の人はともかく、これだけは譲れないわ」

「……ほほう? 言いますねえ車椅子モドキ系妹、どう呼ぼうと私の勝手じゃないかな?」

「普通ならね。でも『お姉様の妹』という立場を独占できなくなるのは許さないわよ天然タラシ不思議系妹」

「「……」」

「何この殺し合い直前の空気」

「妹という立場は命より重い……!」

「そこまで大袈裟な訳」「「然り」」「あるの!?」

 キャラ被りは死活問題だからな、こいつらは文字通り命賭けてるけど。

「よろしい、ならば戦争(クリーク)だ。ここで明かすと目的の一つはね……お兄ちゃんの周りにいる妹キャラを殲滅することなんだから!

 私より優れた妹キャラなどあってはならんのだーー!!」

 お前妹キャラに会う度SATSUGAIする気か。

 

 

 で、十分後。

「 」チーン

「ふ、他愛ないわね」モグモグ

 床に倒れ伏し魂が燃え尽きているかなめと、勝者の余裕を讃えながらフルーツポンチをパクつくメヌの姿があった。まあそうなるわな。

「ぐふう、バカな……お兄ちゃんの上位互換として作られたこの私が敗れるとは……!」

「いや俺が多少パワーアップしたからってメヌに口で勝てる訳ねえじゃん」

「デスヨネー。お兄ちゃんは相手を土俵から引き摺り降ろして戦うタイプだし」

「復活が異様に早いところはそっくりだねめーちゃん」

「高度な柔軟性が取り柄なんだろ」

「つまり行き当たりばったりよね」

 いいんだよその場で考えるから。

「私の完勝で文句ないわね?」

「妹道に逃走はな「もう一回抉るわよ」すいませんでしたメヌエット様!!」orz

「プライドが欠片すらないのもそっくりだネ!」

「そもそも腕力及び口でホームズ姉妹に俺達が勝てる訳ない件」

「アタシが脳筋だと言いたいのかコラ」

 そうだよ。

「後で〆る。はいはい、メヌもそこまで。大人げないわよ」

「メヌはこの中で一番年下だからセーフです」

「意味が違うわよそれ」

「うう、アリアお姉ちゃーん。かなめの心はボドボドですぅ……」

「メヌ相手にその程度で済んでるなら十分強いわよ」ナデナデ

「!? 抱きしめられてナデナデ、ですって……くう、これが勝負に負けて試合に勝ったという奴なのね……!」

「何本気で悔しがってるのよ、メヌも撫でて欲しいならこっち来なさい」

「! ……お姉様、最近ジュンみたいな人たらしになってきましたね」

「進んでバカやるほどバカになったつもりはないんだけど」

 二度もバカって言われると流石に不本意なんですが。あと、なんだかんだ言いながら撫でてもらうと満足そうなあたりメヌもチョロイ気がする。

 その後、お前ら妹キャラだけど方向性違うんじゃね? とツッコミ入れたら言われてみれば……ということであっさり和解した。争いはいつもディスコミュニケーションから生まれる(適当)

「で、肝心な話を聞いてなかったんだが」

「んむ? ふぁあにおひぃひゃん?」

「食べてから喋りなさい行儀悪い。お前何の目的でここに来たんだ?」

「あむあむ。言わないとダメ?」

「いや言わなくてもいいけど」

「いやそこは聞きなさいよ!?」

 だって大体予想付くし。まあ隠すほどのものでもないらしくかなめは語り出す。それによると、

・宣戦会議の折、リーダーのGⅢが遠山潤に興味を持ったので誰か派遣することにした。

・そこで情報収集と宣戦布告のため、俺と縁深いかなめを使者兼偵察として送り込む。

・GⅢの目的は色金(アリアのも含む)の回収とバスカービルメンバーの取り込み。

 とのことである。宣戦布告と聞いて何人か身構えたが、「まあ私にその気はないんだけどねー」とかなめ当人は呑気に茶を啜っている。

「今この場で私たちをどうにかする気はない、ってことでいいのかなかなめちゃん?」

「そだよー白雪お姉ちゃん。というかちょっと視ればこの戦力に私一人で挑めとか凹られる未来しか予想出来ないから非合理的だし、元々お兄ちゃんに会いたいから立候補したのでその他は二の次だしねー」

「お前自分のこと使者兼偵察って言わなかったか」

「いやあお兄ちゃん、この私はサードにも色んな意味で期待されてないので。「どうせお前のことだから遊ぶ呆けて報告怠るだろうが、思い出したら連絡くらい寄越せ」って言われてるからねー」

「それでよく送り出されたわね!?」

「暇かつ対応力があるの私くらいだったので。サードとやること被るから仕事が少ないんだよね~」

「……ああ、この興味ないことには適当な感じ、ジュンにそっくりだわ」

 失礼な、俺は依頼の報告はちゃんとやる「興味ないのは?」雑に流すな。

「これでも私、『人工天才(シニオン)一ムラのある問題児』として有名ですから!」

「威張って言うことじゃないでしょそれ……っていうかシニオンって何?」

「アメリカのロスアラモス・エリートが研究していた『デザインベイビー』。優秀な遺伝子の人間を掛け合わせて最強の人間兵器を『人工天才』と呼んでいる、だったよね?」

「……詳しいわね、理子」

「依頼で調べたからな」

「二人でネ!」

「何故そこを強調する。ニューステイツで規模は縮小されながらも引き継がれていたと聞いていたが、当人に出会うのは初めてだけど。

 ……ふむ。そうなるとかなめ、お前と俺は」

「うん、お兄ちゃんの予測通り、『父親』が一緒だよん♪」

 父親、と聞いて理子達が嫌そうな顔をする。まあ生まれたての赤ん坊を捨てるような輩だしな、良い印象はないだろう。こちらとしてはかなめが妹な理由に納得いったからいいんだけど。

「まあ実際はお兄ちゃんの義理のお父さん、遠山金叉の遺伝子も混ざってるらしいんだけどねー。だからサードの次でフォースって呼ばれてるんだし」

「ふうん、まあ『あの人』ならこの手の計画に融資するのは納得だ。優秀な個体と聞けば間違いなく欲しがるだろうし」

「個人的にはお兄ちゃんを捨てたクソ野郎ってことでぶち殺したいけどね」

 落ち着けマイシスター、そのヒートサーベルを仕舞いなさい。というかお前等も頷くな、九条はどうした。

「別に殺しはしないわよ。ただ一発文句言って殴りたいだけ。親が子を選べないからって捨てるのはどうかしてるわ」

「愛情じゃなくて有用性で子供を見てた人間なんだし、言うだけ無駄だと思うけどな」

「……なんでお前はいつもそうなのかなあ、潤」

 理子が裏モードで呆れた溜息を吐いてるが、んなもん簡単だ。

「俺にとってあの人は血縁上関わりのある人間、それ以上でもそれ以下でもないし、『家族』なら孤児院の連中と相棒、今だったら兄貴とじいさんばあさんがいるさ。

 それに」

 『妹』も出来たしな。そう言って頭を撫でてやると、かなめはキョトンとした顔になり、

「……もー、お兄ちゃんがそう言ったら怒るに怒れないじゃん」

 頬をリスよろしく膨らまし、不満気にしているが嬉しそうだ。面倒くさい妹なこって。

「知らない奴のことで怒るのは」

「……非合理的だね。りょーかい、じゃあこの件は気にするのやーめた!!」

 あポイ、とゴミ箱に捨てる仕草をするかなめ。それを見て理子達も折り合いが着いたのか、

「じゃありこりんがユーくんの新しい家族になればモーマンタイだね!!」

 何故そうなる。

「え?」

 ほら、かなめも何言ってんだコイツ状態になってるぞ。

「ちょ、めーちゃんそこはりこりんも応援してくれる流れでしょ?」

「えーどうしよっかな~。白雪お姉ちゃんとリサお姉ちゃんはいいけど、理子お姉ちゃんはお料理しないしな~」

「まさかの家事力で差別!?」

「あははー冗談だよ? 理子お姉ちゃんのことも、公平に応援することを誓いまーす」

「何~、言うのがおそーい! もっと気合入れて誓えこの悪女め~!」

「きゃ~許して~」

 キャッキャじゃれ合う二人を見て、そういえばかなめの処遇どうするべと話し合うが、

「花嫁修業したから家事出来るよ! 特に料理!!」

 という本人の発言と実績を持って滞在許可が全員可決。特に料理組と聞いてホームズ姉妹の挙手が早かった、お前ら最初警戒したりケンカしたよな。

 

 

 なおその後我関せずとイラストを描いているレキを見たかなめのやり取りなのだが。

「そこの水色の髪の人!」

「レキです」

「えっと、じゃあレキさん! そなたは妹か!?」

「? いえ、長女です」

「ならば良し! よろしくねレキお姉ちゃん!」

 何の確認だこれ。

 

 

 さて明けて翌日、文化祭翌日。本日は仕事もないため文化祭を見て回っている。かなめとエルの三人で。

 前者は「お兄ちゃんと一緒の学校に通いたい!」ということなので案内を兼ねて、校舎は「忍術を教えてもらうスケジュール調整を相談したかった」とのことで合流した次第である。やることないのか親友、ちなみにホームズ姉妹はかなえさんも交えた家族三人で巡回中、他の連中はそれぞれ仕事中である。メヌが人混みを躊躇してるとかなえさんに押されて慌てるレアな光景が見れた。

 余談だが初見で男装を見破られたエルは「この無遠慮に見破る感じ、まさしくジュンの妹……」などと訳の分からない戦慄の仕方をし、かなめは「いやあそれ程でも」と照れていた。多分観察眼より妹認定されたのが嬉しいのだろう。

 剛の妹である武藤貴希(兄に似ず美人)がからかってくるのでたこ焼き20パックを買って青ざめさせたり、大判焼きのキャラメル味という誰が買うんだみたいな商品をかなめがほぼ買い占める勢いで購入したり、SSRの屋台で何故か兄妹の恋占いをする羽目になったり(かなめの目がキラキラしてた)、エルが女子のコスプレ衣装を羨ましそうに見ていたので二人して着替えさせようとしたら顔を真っ赤にして逃げられたり、お化け屋敷の方に寄ったらマジもんの幽霊がいてSSRの生徒を尻目に除霊(物理)させられたり、まあ存分に遊びまわった。

 あと移動中、エルにはかなめのことを話しておいた。人工天才の話はリバティー・メイソンでも話題になっていたらしく、「敵には回したくないな」と呟いていた。もっとも「お兄ちゃんの敵に回らなければ大丈夫だよ!」と笑顔で言われて苦笑していたが。

「しかし何だ、そう言われると君達が兄妹というのは納得したよ。よく似ている」

「まあ似てる部分は多いわな」

「えへへー、そうでしょそうでしょ。エルおにぇちゃんはいい目を持っているよ!」

「うん、その妙な呼称じゃなかったらもっと素直に喜べるんだけどね」

 そう言いつつ嬉しそうな顔は何でなんですかねえ。あとかなめ、嬉しいからって抱きつかない、動きにくいでしょうが。

 そんな訳で昼食の時間も過ぎ、さて午後はどこを回ろうかと話し合っていると、

「ここにいたか、遠山の」

 と、後ろから古臭いながら幼い声が聞こえる。そこにいたのは東京武偵高の制服を着た幼女――ではなく、狐の妖だ。耳は帽子で隠しているが――まあ、この騒ぎの中なら注目されることもないだろう。

「宣戦会議にいた玉藻だったな。俺に何か用か?」

「用か、とはまた随分な言い種じゃのう。リバティー・メイソンと協力関係を結び、ヒルダを討ったというから様子を見に来たというのに」

「様子を、ねえ」

 リバティーメイソンはワトソンとの個人的な契約、ヒルダは姉妹喧嘩の結果なんだけどな。情報精度がイマイチに感じるのは、師団が人手不足のせいだろうか。組織だって動けるのはバチカンくらいだしな。

 あとエルちゃんくん、後ろめたそうに目を逸らすんじゃない。あーたが選んだ道でしょうよ。

「結果がどうあれそれはお主達バスカービルが得た戦果じゃ、誇ると良い」

「そりゃどうも。で、『中立』の俺達に『師団』が何用で?」

「……その口振り、やはりこちらに着く気はないということか?」

「逆に聞くが、何かメリットがあるのか?」

 最大勢力であるバチカンはヨーロッパで敗戦を繰り返しているし(カツェ経由の情報)、こちらの味方には元『眷属』のヒルダもいる、衝突は免れないだろう。百害あって一利なし、これで味方になるのなら逆転狂いのキチガイか物好きな正義の味方くらいだ。

 口に出さずとも分かっているのか、それでも玉藻は残念そうに肩を落とす。

「遠山侍は本来義に生きる一族なのだが……お主は違うようだな」

「そーいうのは兄貴の役目だ。血縁の宿命というのは縁遠いところにいるんでね、俺に正義の心を問うのは筋違いってもんだ」

 ご期待に添えなくて悪いがね、と肩を竦める。

「……そうか、残念じゃ。遠山金一も行方不明じゃし、当てが外れたの」

「そっちが持ってる色金モドキを無条件で渡してくれるなら話は別だが」

「無理に決まっているじゃろう、アレは今バチカンが持っているし、代表戦士(レフェレンデ)のメーヤにそこまでの発言権はない。

 第一、あんな危険物を個人に持たせるなどどうかしている」

「そりゃそうだ」

 元より期待してはいなかったので、別に構わない。まあそうなれば、

「いずれは戦って奪わせてもらう、かね」

「そうなるの。では当てが外れた以上、儂はここで失礼させてもらうぞ」

「ほいほいどうぞ、俺は追わんよ。大人しく帰るならな」

 玉藻の視線は生徒会室――白雪がいる場所に向けられている。この後に何をするかは簡単に予測できるが、敢えて視線で問う。何するつもりだと。

「知れたこと。遠山侍がダメな以上、星伽巫女だけでもこちらに引き込まねばなるまい」

 やっぱりな。白雪の性格上、縁のある玉藻の誘いなら断り辛いだろうし。

「片割れだけでは心許ないが、緋々神の件もある。最悪お主達と闘わせる羽目になるやもしれん――」

「ねーお兄ちゃん」

 玉藻の言葉を遮る形でかなめが口を開く。いつの間にか幅広の機械剣を取り出し、玉藻の首に突きつけながら。

 「な、に?」などと玉藻は驚いているが、お喋りの途中で気配を絶っていたのに気付かなかったみたいだな。かなめは変わらずニコニコしたまま、

「このお狐様さ、うるさいから首落としていいかな? 白雪お姉ちゃんを死地に追い込む魔の手から阻止できるし、師団の頭数を減らせるよね、それってとっても合理的じゃない?」

 物騒なことを平然と言ってのける。殺気は纏っていないが首筋へ徐々に刃物が近付いていく。

「ま、待て! 儂を殺すのなら神罰も」

「いやねえだろ、お前神というより妖寄りの霊獣だし。そもそも玉陽姉さんより格が低い奴に言われてもなあ」

「!? お主、玉陽様の知り合いなのか!?」

「知り合いというか、姉代わりというか」

「おにーちゃーん、もう殺っちゃっていい?」

 かなめの刃がカタカタ動いてるが、もうちょい待ちなさい。どうせ自分で貼った人払いの結界があるから助けも来ないんだし。

「待ってくれジュン、今ここで玉藻を殺したら師団の連中が明確な敵になるぞ!?」

「え? 何か問題ある?」

「……今はこちらの人数も少ないし、下手すれば眷属との挟み撃ちになる、それは避けた方が良い!」

「ワトソンお主、今一瞬脅威になるか考えおったな!? 確かに儂等の戦力は乏しいが、そこまで哀れまれるほど貧相ではないわ!!」

 ヨーロッパで連敗中の癖に何言ってんだ。

 結局首は獲らず、玉藻が張っている『鬼払結界』の解除を条件に見逃した。これで朝から「肌が痛い、違うこれ焼けてるわ!?」と騒いでたヒルダも大人しくなるな。

 なお「大陸から来る厄介な相手を寄せ付けないために張っていたというのに……もう知らんぞバーカバーカ!!」と捨てセリフを残して逃げていったが、神を自称するならもうちょい威厳を保てよ。

「それにしてもかなめ君、かなり高度な気配遮断と歩法術だね……一体どこで学んだんだい?」

「忍術の基礎にして究極の技って言ってたから覚えた!」

「詳しく話を聞こうじゃないか」

 落ち着けエル、多分お前も習得してる技だから。

「潤ちゃんかなめちゃん、大丈夫!? 今ここで結界が貼られてたみたいで、急いで来たんだけど……」

「じゃりん子の姿をした妖狐に『お前も眷属になれぇ!!』って迫られてた」

「上から目線でお兄ちゃんをめっちゃ侮辱してた!」

「ちょっと待ってて潤ちゃん今滅してくるから!!」

 もちつけ、あと封じ布を外すんじゃない。かなめも適当な事言うんじゃ「私からはそう見えたもん!!」あーはいはい分かったから、その気持ちだけで嬉しいからお前も落ち着こう。まあちょっとイラッとしたのは事実だけどさ。

「なんというか、うん……またアリアの苦労が増えそうだね」

 ボケが増えたと言いたいのか。

 

 

おまけ

「そういえばかなめ、実際ここまでの料理作るのには時間が足りないと思うんだが、何かしたのか?」

「ちょっと時を止めてみたよ!」

「……まあ、ジュンの妹ならそれくらいやるわよね」

「さっすがめーちゃん、そこに痺れる憧れるぅ!!」

「信じるの!? いや実際はマルチタスクでまとめて作ってただけだよ!?」

「それはそれで凄いと思うんだけど……」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 暴走しかける妹+αを抑えまくった今回。ちなみに師団との相性は最悪に悪い。
 
 
峰理子
 姉代わりのヒルダに塩対応なのは地味に喧嘩中のため。まだ潤のことが認められていないためおこらしい。
 
 
メヌエット・ホームズ
 キャラ被りは命の危機に等しい(本人談)
 
 
遠山かなめ
 お兄ちゃんお姉ちゃん呼びで周囲を陥落させていく妹キャラ代表(自称)。ただしお兄ちゃんの敵(仮)には容赦しない。
 ちなみにGⅢ曰く「超フリーダムな癖に能力が高い万能型だから扱いに困る」とのこと。


玉藻
 師団所属の妖狐、多分不憫枠。神扱いでないのは作者イメージの狐神様が某良妻賢母の鯖本体なため。そもそも玉藻って大妖狐のイメージが強いし。


ニューステイツ
 北アメリカ大陸から流れてきた避難民がヨーロッパに設立した新国家。国際的には先進国扱いされている。
 アメリカがどうなってるかは、次回に詳しく説明する――予定です(マテ)
 
 
あとがき
 初っ端から暴れていくかなめちゃん。あれれーどうしてこうなった? というかヤンデレ要素どこ行ったのかな?(知らん)
 というわけでどうも、予想外な方向に進んで困惑しているゆっくりいんです。メヌエットもそうですけどキャラの方向性が訳分からんことになってますね……え、いつものこと? ハハハ、何のことやら(棒)
 とまあそんな感じで次回はジーサードリーグが本格的に干渉――しない日常編です。まあこの辺りで潤の設定を掘り下げてもいいかなーと。興味ない方はいつものバカ騒ぎと思ってください(雑)
 では、今回はここまでで。感想・評価・お気に入り・誤字脱字訂正など一言でも何かいただければとてもありがたいです。
 読んでいただき、ありがとうございました。
 


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第二話 魔術と科学の両刀持ちはチート臭い

今回は色金や超能力(魔術)も交えた半解説回みたいになると思います。多分原作やアリスベルとも違う本作の設定がようやく出るかと……まあキンジがいない時点で今更ですけどね!
 
 


「さて、今日は新人もいるし属性から話していくか」

「はいお兄ちゃん先生! 魔術でお兄ちゃんを責めるなら何の属性がいいですか?」

「よし問答無用で座れかなめくん。強いて言うなら水が苦手だ」

「そこは公言していいのかい……?」

 どうせ言わなくてもばれるし。あ、どうも遠山潤です。

 今日の場所はいつもの自室、ではなく選択教科棟の一室。教壇に立った俺が何を教えているかというと――超能力(ステルス)、というか魔術の講座だ。以前エルにこちら側へ付く条件として教える約束をしていたのだが、どっから聞きつけたのか「ルっちー(エルのあだ名)がユーくんと二人きりになろうとしてる!?」などと理子が騒ぎ、耳にした白雪が久々に暴走しかけ、意味を理解したエルが「じゃ、じゃあ複数人いれば問題ないだろう!?」と提案した結果、まとめて教える羽目になった。

 講師は俺、補佐は白雪と理子、生徒はエル、アリア、リサ、メヌ、かなめ。見学人? はレキ(端でイラスト描いてる)。実は夏季休暇以降、アリアメインで定期的に教えてたりする。

「まずは属性についてだが、これは東洋の陰陽五行、西洋の四大属性どちらかの解釈が基本となる」

「火・風を+の属性、水・土を―の属性を基本として考え、雷を+、木を―、金を中間の複合属性として考えるのが潤ちゃんの魔術理論かな」

「+と-の属性でも足すことは可能なのかい?」

「可能だ、そもそも+、-は特性による便宜上の区別だからな。他に+の極致として光、逆の―に闇の属性がある。これらの適性は金を除いて人間なら一個か複数持っており、基本多くて二つだ」

「金が適性候補から外れるのは?」

「魔術の発展過程で生まれた『人工の属性』だからだ。適性は生来のものであり、あらかじめ仕込みでもしない限り金の適性持ちは生まれんな」

「つまり金以外の厨二能力に目覚めるチャンスがあるということなんだよ!」

「な、なんだってー!?」

「そこ、静かに」

「「アッハイ」」

 理子とかなめ、二人揃って( ´・ω・`)顔になる。理子(お前)は何しに来たんだ、いつものことだが。

「モーイ、メガネ姿のご主人様も真面目で素敵です……」

 リサがなにやらウットリしてるけど、お前と白雪が押しに押して付けさせたものだからなこれ。

「……話が逸れたな。で、適性の開放には先天性と後天性がある。分かりやすく言うなら、魔術を使うスイッチがオンになっているかどうかの違いだと思えばいい。白雪達SSRの人間が先天性だな」

「そうなると、後天的の人はスイッチをオンにする必要があると?」

「うん、そうだね。そして潤ちゃんはその方法を理解してるの。『表』ではあまり知られてないけど、覚えれば誰でも出来るんだって」

「くっ、ジュンにもっと早く会っていれば今頃忍術マスターになれたかもしれないのに……!」

 何だそのダサい名称、あとお前忍術言うけどN○RUTOみたいな忍者のイメージは後世の創作だからな? 現在で言うならスパイとかの方が近いんだし。

「あと最後に、適性はあくまで『使いやすい』程度の違いだから、慣れれば適性外の魔術でも大体は使えるぞ。

 説明はこんなもんか。あと何か聞きたいか?」

「はいはーい! かなめも色金について聞きたいです!」

「……GⅢに聞いてないのか?」

「『説明しても聞いてねえんだから自分で調べろ』って言われたんだよね。自分が説明下手の癖に失礼しちゃうよ、プンスカ!」

 いやどう考えてもお前が悪いだろマイシスター。

「……まあそれなら説明しとくか、興味本位で使われても困るし」

「何でりこりんを見るのかな? かな? は、まさかこれは信頼のサイン……!?」

 そうだな、(こいつにだけは悪用させちゃいけねえという意味で)信頼してるよ。

「じゃあ簡単に説明するか。まず色金は三つの種類に分かれる」

 ホワイトボードにそれぞれの種類を書き込んでいく。

 アリアがシャーロックから押し付けられ(継承し)、星伽神社の祭神でもある『緋々色金』。

 理子が母親の形見として持っているロザリオに微量含まれている『瑠々色金(るるいろかね)』。

 レキの故郷、ウルス族に伝わり(多分)髪色の原因となった『璃々色金(りりいろかね)

「この三つだな。色金にはそれぞれ意思があり、所有者に超々能力(ハイパーステルス)と呼ばれる力を与える」

「超能力とか魔術とは違うの?」

「近いが違う。色金は魔術だけでなく気術――ドラゴン○ールとかの『気』に該当するものも操作出来る。

 で、色金はそれぞれ能動、中立、抑制で性質が分かれる」

「そろそろ長くなってきたからユーくん産業で!!」

「緋々色金は人を選ぶけどすげえパワーを与える代償に乗っ取られる危険あり。

 瑠々色金は緋々より弱いが誰にでも力を与える汎用性が高い。

 璃々色金は逆に超能力の力を弱め封じるもので、長いこと近くにいたレキは高い対魔力持ち。

 あと色金は大きさと力が比例する関係だ」

「必要なこと言ってるけど四行だね」

「産業ルールは破るためにあるのです」

「破るの前提ならルールはいらないんじゃないかな……」

 破ると楽しいから仕方ないんだよ(クソ理論)

「ねえジュン、アタシがやたらと力強いのは色金のせいよね? そうよね?」

「色金の影響はあるけど、覚醒する前から筋力は大概だったろ」

「うぐぐぐぐ……」

 いやそんな本気で悔しそうにされてもな。あとどう足掻いても怪力少女のイメージは拭えな「殴るわよ」とりあえず殴ろうとするのをやめればいいと思うよ。

 

 

「じゃあ次は、術式の事前準備による詠唱短縮と自動発動についてを」

「 」チーン

「……実践してたんだが。おーいアリア、アリアさーん? ……知恵熱でぶっ倒れてるな」

「アリアーん? 起きないとりこりんが悪戯しちゃいますぞー?」

「  」プシュー

「……くふふー返事がないならいいってことですよネルソン!!?」

 きっちり裏拳が入った。もう条件反射だなこれ。

「ところでエルおにぇーちゃん、お兄ちゃんと二人っきりになろうと思ったのはどのような心境で?」

「え、いや、そんなつもりはなかったんだよ? 純粋に教えを請おうと思ってただけで」

「で、本音は?」

「忍術教えてもらえるのに浮かれてたから改めて言われると恥ずかしくなってきた」

「何この人乙女」

 文化祭で一緒に行動したせいか、かなめとエルの仲は良いようだ。ツッコミ役と察して積極的に絡んでるだけかもしれんが。

「アリア、大丈夫? はい、お茶とももまんだよ」

「ありがとう白雪……あーもう、なんでエルやかなめにも抜かれるのよ」

「暇を見て忍術を使えないかと色々調べていたから……」

「基礎知識くらいは勉強してたので。一応超能力使いですし」

「一応ってレベルを超えてるでしょ……腹立つところで謙虚なのは兄貴そっくりよね」

「八つ当たりは良くないと思いま「あ?」なんでもないですアリアお姉さま」

 やだありあこわい。普段から睨まれててよく平気だな俺(他人事)。

「まあまあお姉様、循環系は誰よりも上手いじゃないですか。特に身体強化と治癒活性化は」

「そればっかりなんだけどね……放出系は進歩が亀の歩みレベルだし」

 幾らなんでも凹むわよ、とふて腐れてしまう。天性の『勘』があったから、能力面で壁に当たることは少なかったんだろうな。人材面はアレだ「誰が独りよがり系コミュ症よ!!?」そこまで言ってねえから。

 ちなみにホームズ姉妹のいう循環系・放出系とは魔術の種類を大別したものであり、前者が術者の内部(肉体・精神)、後者が空間や一定範囲に作用するタイプだ。あとアリアが得意なのは身体強化。理子が即行で「超能力まで脳筋仕様だよ、やったね(ry」とか騒いでたな(無論その後ぶっ飛ばされてた)。

 ビームとか瞬間移動? 出来るけどチャージに時間掛かるしめっちゃ魔力喰うぞ。

「ううううう……ルーンもカバラも陰陽道もさっぱり理解できないのはなんでなのよお」

「直感の癖で過程をすっ飛ばして理解しようとしてるからだな。数式を覚えずに答えを導き出そうとして間違えるようなもんだ」

「返す言葉もないわ……ねえジュン、高速処理用のデバイス作れない?」

「作れるけど修理とか維持がハイパー大変なものになるぞ」

「あーうー……」

 脳がとろけた顔してやがる。面倒と投げ出さないのは立派だが、このままじゃ袋小路だな。修験道の術式を基にした印を組んでNINJUTU使ってはしゃいでるエルを恨めしそうに見ている。進み早かったからなあ。

「……しゃあない。理子、白雪、ちょいちょい」

「ほいほーい」「潤ちゃん何かな?」

「アリアのことでなんだが……」

「あ、耳にフーはダメだよユーくん?」

「お前じゃねえんだしやらねえよ」

 ゴニョゴニョゴーニョ。

「ほむほむなるほど、それなら大丈夫だよー。基礎は理子がつくっちゃる!」

「私が監修するから読めるものになるよう頑張るね」

「ちょ、ユキちゃん理子の作品は信用できないと申しますか!?」

 前に顔文字の暗号形式でメール送りつけたのどいつだよ。あれ読み解くの地味に時間掛かったんだぞ。

「まあ俺も手伝うし、頼むぞ」

「はい、潤ちゃん様!」

「オッケー! ズドン!」

 口でズドン言うな。

「あ、ジュン! 木遁ってどういう術式を組めばいいんだい?」

「ああ、それだと水と土をベースにして」

 アリアの視線がより厳しくなるけど、しゃーないだろこういうのは個人の進みに合わせた方がいいんだから。あと今のエルちゃんくんは浮かれてる状態だから勘弁してやれ。

「そういえばお兄ちゃん、理子お姉ちゃんと白雪お姉ちゃんは教える側なんだね」

「去年似たようなことを教えたからな。理子はあんまり超能力使わんから分かりにくいだろうが、教えられるくらいの知識はあるぞ」

 ほぼ遊んでるだけだがな。今はアリアのフォローと直感のシステムの聞き込みを「シュノーケル!?」あ、セクハラ未遂でサマソ喰らってるわ。

 その後、三人でアリア用の術式を編み出したが――使いこなせるかは、また別の問題である。エルはその日の内に大体の属性使いこなせたけどな。

 

 

「そういえばレキお姉ちゃんは超能力使わないの?」

「『風』に長く触れていたので」

「?」

「簡単に言うと璃々色金の影響で魔術が使えん状態なんだよな。その代わり――『炎矢(フレア・○ロー)』」

 パン

「?」カキカキ

「この通り、天然の対魔力持ちになってる」

「おー、なるほど」

「潤さん、攻撃の謝罪にスコーン(カロリーメイト風味)のお代わりを要求します」モキュモキュ

「お前それ十個目なんだけど」

 

 

「ううううぅぅ……」

「がるるるるる……」

「……」

「おお、しゅらバトル状態」

 翌日、かなめの編入手続きを終えて帰宅すると、義妹(予定)の風雪とリアル妹が睨み合っていた。何も見なかったことにして扉を閉めたい衝動に駆られたが、後ろの理子が邪魔で引くに引けない。

「潤義兄様と理子さん、お帰りなさい!」

「お兄ちゃんと理子お姉ちゃん、お帰り!」

「ただいまーらいおん~。……りこりん扱いが明らかにおまけな件について」

「無視よかマシだろ。ただいま、それでお前ら何やってるんだ」

「白雪姉様に内緒で遊びに来たら義兄様の妹を名乗る不届き者がいたもので」

「お兄ちゃんの義妹を自称するファッキ○女がいたもんで」

「「排除しようかと」」

 言いつつそれぞれ和弓とアー○ーシュナイダーを取り出す。オイマテ武器を取り出すんじゃねえ。

「義兄様の妹は――」「お兄ちゃんの妹は――」

「「私だけ」」

「やめんかバカタレ」

「あいた!?」「タイラント!?」

 ハリセンで二人の頭を引っ叩いた。マジかよこれで止まるのか。

「どーどー、めーちゃんドードー」

「ドードリオ!!! 離して理子お姉ちゃん、出来た妹は一人だけで十分なんだよ!」

「二人いちゃいけない理由はないだろ。風雪も何してるんだ」

「近親憎悪です」

 断言しないで、普段無表情なのにテレビだったら見せられない顔になってるぞ。

「メヌちゃんは妹としての方向性が違うからいーけどオメーはダメだ星伽風雪ー!!」

「それはこちらのセリフですぽっと出妹! 奉仕系妹キャラの座は一つしかないんです!!」

「何をー! 私はお兄ちゃんと血の繋がった妹だぞコラー!!」

「血の繋がりで優位性を示すなど笑止! 私は潤義兄様と三年前に出会ってから慕い続けているんですよ!!」

 それでいいのか卑弥呼の子孫。

「とりあえずお前ら武器を放しなさい、部屋壊れたら直すの俺なんだぞ」

「その節はお世話になりまシスターズノイズ!?」

 ガンド(物理)を理子にぶつけてやった。世話じゃなくて迷惑だろコノヤロー。

「この脳味噌凝固ジャパニーズ!! こっちと代われコノヤロー!!」

「うるさいですよ都落ちステイツ!! 嫌です、潤義兄様の体温を間近に感じられるんですから!!」

「お前そんなキャラじゃないだろ」

「めーちゃん、りこりんでは不服と申すか」

「理子お姉ちゃんだって羽交い絞めされるならお兄ちゃんの方がいいでしょ!?」

「理子は男女どっちもいけるからオッケーです!!」

「…………」

「無言で抜け出した後引くのやめて!? そういう所はユーくんにそっくりだね!?」

 似てる似てないじゃなくて引くだろ普通。

「ただいまー……風雪!? 何でいるの!? 何で潤ちゃんに抑えられてるの!?」

「止めないでください白雪お姉様、これは私の存在意義を賭けた戦い――」

「風雪!!」

「は、はい!」ビクン

「うらやまけしからんから私と代わりなさい!」

 止めろよお姉ちゃん。

 

 

 その後、暴走寸前の二人を宥めるため理子の一計(という名の趣味)に俺も巻き込まれて落ち着いたのだが……うん、詳細は語りたくない。女子に「尊い……」とか言われてもどうすりゃいいんだよ。

「ゆ、ユーくんユーくん。この衣装、ハロウィン用の衣装に……」

「ぜってえ嫌だ」

 これだけは絶対ごめんだよ。

 

 

 




登場人物
遠山潤
 バンドリの黒髪でオドオドしてる子って可愛いよ(銃声)


神崎・H・アリア
 直感任せが超々能力修得の仇になっている色金継承者。なおこの世界の色金は『右手に魔力、左手に気』みたいなことも出来る(使えるかは人によるが)
 
 
エル・ワトソン
 忍術修得ですっごいはしゃいでいた男装の麗人。想像すると微笑ましい、気がする。
 
 
遠山かなめ
 不倶戴天の敵が現れて怒髪天状態の妹。目と目が遭った瞬間に「キャラ被りな、殺さなきゃ……!」となったらしい。
 
 
星伽風雪
 クールキャラをかなぐり捨ててお義兄ちゃん(の妹という立場)を守ろうとする星伽巫女の次女。交渉帰りに立ち寄ったら運悪くエンカウントしたらしい。
 なお、作者は原作における彼女の役割を忘れていた模様(オイ)
 

レキ
 天然対魔力A。どっかの自称アイドルサーヴァントよろしく自覚はない。
 
 
後書き
 ニューステイツの説明を入れると言ったな。アレは嘘だ
 ……はいすいません、ゆっくりいんです。本音言うと魔術の説明終えたらニューステイツの説明ぶち込みたかったけど、風雪とかなめの喧嘩シーンが楽しすぎて……(マテ)
 今後入れる隙なかったら登場人物の欄にでもねじ込もうかと思います。正直今回の魔術に関する説明も雑オブ雑ですけど……質問あれば感想欄かツイッターで、重度のネタバレにならない範囲でお教えします。
 さて次回は……いい加減かなめちゃんを編入させようかなあと。同じクラスには原作準拠なんでぶち込みません、当然ですよね(真顔)
 では、今回はここまでで。感想・評価・お気に入り・誤字脱字訂正など一言でも何かいただければとてもありがたいです。
 読んでいただき、ありがとうございました。
 
 


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第三話 一人増えてもやることに大差なし(前編

 最近漫画化したラノベを購入した際、友人とその内アニメ化するんじゃないかって話してました。こう思うとラノベのアニメってホント増えましたよねー。
 ただ原作を読む身としては、クール長めでもいいんでば内容を濃くして欲しいなーと。アリアとかアリアとかアリアとか。
 せめてシャーロックのところまでやってや……(遠い目
 



 

「…………」ツーン

「かなめ、いい加減機嫌直せっての」

「ふーんだ、私以外の妹を持つ悪いお兄ちゃんなんて知りませーん」

「分かりやすく機嫌悪くしちゃって……しゃーない、店員さんトリプルアイス、キャラメル味で」

「……そ、そんなので許して貰おうなんて甘いんじゃないかな?」

「アイスだけに?」

「お兄ちゃん意味わかんない」

「知ってる」

 だから急に真顔はやめてくれ。

「別に謝罪じゃなくて、かなめが好きだから買っただけだよ」

「……もうしょうがないなあ。可愛い妹のためを思って買ってくれたのなら、もらってあげる!」

 嬉しそうに舐め始めて何よりだ。あ、どうも遠山潤です。本日は編入前最後の一日ということで兄妹デート(かなめ命名。「とっても背徳的ぃ! 最高にハイってやつだよ!」とのこと)である。

 まあ実体は義妹(仮)の存在が知れて、ご立腹な妹のご機嫌取りだが。あの後「私以外に妹がいるってどういうこと!?」と凄い顔で迫られた。いつの間にか出来てたんだよ(ガチ)。

 あと風雪だが、「私は『上京した兄の帰りを健気に待つ妹キャラ』を目指します!」と言って青森に帰った。ごめん訳が分からないよ。

 まあそれはともかく、デートである。現在俺達は武偵高から離れお台場にある某アイスクリーム屋で糖分補給中だ。ちなみに俺のはストロベリーヨーグルト、バナナ、バニラの三色カップ。どれも甘いの? そりゃそうだよ(真顔)

 で、ここをチョイスした理由なのだが。

「それにしてもすごいねえお兄ちゃん、実物だと迫力が違うよ!」

「そうだな、これが侵攻する姿想像したら逃げたくなるわな」

「「シャンブ○」」

 赤く塗られた全長77.8mの巨大○Aを見上げる。いやすごいんだけどさ、誰だよこれにした奴。前のザ○Ⅱからどうしてこうなった。

「ビットが飛ぶ姿を見るのが待ち遠しいな~……ねえお兄ちゃん」

「んあ? 何よ」

「中にこっそり入って動くようにしちゃダメかな?」

「同じ衝動に駆られたけどやめなさい」

「大丈夫、小型核融合炉なら作れるよ!」

「ガチで動かせそうなもの出すんじゃない」

「えーお兄ちゃんだって似たようなもの造ってるじゃーん」

「『アレ』は表に出すものじゃないからいいんだよ」

「じゃあその技術を聞きだして私ガーベラテトラ!?」

「やめろっての」

 チョップで止めた。ぶーたれるのでアイスをあーんしてやったらニコニコ顔になったけど。そこの店員さん、嫉妬の目で見られても困るわ。

「で、どっか行きたい場所あるのか?」

「お台場の甘味を食い尽くしたい! あと本屋!」

「まだ食うかお前は」

「お兄ちゃんだって余裕でしょ?」

「そりゃいけるけどさ」

「じゃあいこいこ!! 次の甘味が私を待ってるんだよ!」

「袖を引っ張るなっての」

 席から無理矢理立たせられたので文句言うも、腕を組んでニコニコ顔。聞いちゃいねえ。まあ甘味に関しては望むところだけどな。

 その後パンケーキ、パフェ、ケーキなどあらゆる甘味を食い尽くし(行く先々で店員さんが戦慄していた)、合間に本屋も寄って、

「お兄ちゃんお待たせー。いやあ、本屋って目移りしちゃうよね~」

「その気持ちは分かるが、そこまで買うなら通販でいいんじゃねえの」

「お兄ちゃんは同じ量買うなら通販と店舗、どっち使う?」

「店舗」

「ふっふっふ、こういうとこもそっくりだよね~」

「それ喜ぶとこなのか? まあいいか。ほら貸しなさい、会計も済ませてくるから」

「わっほい、お兄ちゃんやさしー♪ そういうとこがモテる理由なのかな?」

「こんなんでモテたら人生苦労しねえだろ」

「女子に囲まれて生活してる癖に言いますか」

「言いますとも。そもそもあそこまで居候が増えたのは俺の意思じゃねえし」

「それ大抵のハーレムもの主人公は同じだと思うよ?」

「……ホントウダ!?」

「ヤッチマッタナー!」

 ドヤ顔の妹に論破されるのは悔しいが、そうか俺って端から見るとそんな感じなのか、そりゃ殺意も持たれるわ(遅)

 なお、かなめが買ったのは案の定機械工学と巨大ロボに関するものばかりだった。好き過ぎだろマイシスター。

「大丈夫、妹もののラノベと漫画も揃えてるから!」

「思い出したようにブラコン属性を出していくスタイル」

「かなめは自分を曲げないよ!」

「性癖が捻じ曲がってるんですがぞれは」

「まだ手を出してないから無問題! あとはこの『女装大全・極の章』がいい仕事して」

「よし今すぐ戻しなさい」

 あとその『まだ』は永遠に来ないようにしなさい。

「えー、女装大全は理子お姉ちゃんと白雪お姉ちゃんとリサお姉ちゃんの希望だしー」

 増えてる、だと……!? ちくしょう、理子一人ならしばけるけど白雪とリサ相手じゃ無理か!(何)

 とまあ本屋で絶望したりゲーセンで大量にフィギュアをゲットしたら店員に泣きつかれたりしてデートは終了となった。最後にかなめがシャン○ロを動かそうと不法侵入する騒ぎもあったが――大丈夫、ばれなきゃ犯罪じゃない(オイ)

 

 

「お、お兄ちゃんお兄ちゃん!! PCにあったド○Ⅲの設計図はどゆこと!?」

「オイマイシスタープライベートの侵害」

「兄妹だから犯罪に問われないのでノープロブレム!」

「めーちゃんのハッキングスキルは理子が育てた」ドヤァ

「お前今日のおやつ抜きな。昔プラモの説明書でドライ○ンの砲撃バリエーションがあるって読んだから、気まぐれで造っただけだよ」

「いやこれ細部までスッゴイ練られてるじゃん!? 必要な素材と場所があればすぐにでも造り始められるよ!?」

「国家予算に匹敵する費用と年単位の時間が掛かるだろうけどな」

「寧ろそれを設計図とはいえ作ってるユーくんがなんなのか……こういうところは兄妹なんだねえ」

「そう、似たもの兄妹なのですよ!」(* ´ω`*)ムフー

「自慢するとこそこじゃねえでしょうよ」

 

 

 明けて平日の授業明け。いつも通り依頼の掲示板へ向かおうと思ったら呼び出しを受けた。

「今度は何したんだよ潤」

「何もしてねえよ剛、強いて言うなら解体したPCを即席爆弾に改造したくらいだ」

「それは呼び出しを受けても文句言えないと思うよ……?」

 何でだよ、爆発物くらい武偵なら常備してるだろ(ないです)。

 野郎三人で強襲科の訓練棟に向かうと、そこで見たのは。

「あ、やっほーお兄ちゃん! テスト中に会えるなんて嬉しいな、嬉しいな♪」

 編入試験中のかなめが満面の笑みで近付いてきた。片手にMMP―80○シンガン、左手にヒー○ソード(それぞれ人間サイズ)を握って。後ろには相手をさせられたのだろう、一年坊の山が築かれている。あ、間宮さんと火野さん発見。足と頭しか見えねえけど。

「オイ潤、お前いつの間に後輩捕まえて妹プレイなんて高度なものを――」

「そこのツンツン髪の人、私はれっきとしたお兄ちゃんの妹です。イ イ ネ ?」

「アッハイスイマセン殺さないで」

「こらこらかなめ、狙うなら首じゃなくて腹にしなさい。即死は避けれて苦しいんだから」

「助けろよ親友!?」

「自業自得だろ親友」

「あはは……ごめんね武藤君って無神経なところが多々あるからさ」

「さらっと辛口だな親友その二!?」

 亮でも擁護できる範囲を超えてるんだろ。

「えっと、この間会った妹さんでいいんだよね?」

「はい、こんにちは胡散臭いイケメンの人! 私は遠山かなめ、好きな言葉は『近親相姦(兄妹愛)』です!」

 オイ兄妹愛におかしいものを感じたぞ。

「うん、お兄さん大好きな妹さんということはよく分かったよ」

「それだけ分かって貰えれば万事オッケーです!!」

「オイ潤、こんな可愛い妹がいるなんて聞いてねえぞ!? ウチのと代えろ!」

「私はお兄ちゃん以外の兄は認めないので絶対にノウ!! です!!」

「チックショー! なんでそんなに羨ましい環境にいるんだよーーー!!!」

 いや血の涙を流されても。大体お前の妹も美人の部類やん。兄貴をバカにしてる気はするけど。

「というかかなめ、お前ここで何してるんだ? 装備科の試験受けてたんじゃなかったのか」

「えーとね」

「くぉらあ遠山妹!! 試験途中でくっちゃべるとはええ度胸やなあ!! あと遠山兄、呼ばれたならさっさと来いやぁ!!」

 かなめの言葉を遮って蘭豹先生の怒鳴り声とM500の発砲音が響く。なるほど、大体察した。

「試験中に目を付けられて組み手でもやらされてたか」

「そーなんですよお兄ちゃん。せんせー、もう全員倒れちゃったんですけどーー!!」

「見りゃ分かるわ、だから兄貴を呼んだんやろ!! 不知火と遠山、ボサっとしてないで相手せえや!!」

「俺探偵科で妹は装備科志望なんですが」

「ごちゃごちゃ言ってると強襲科の単位無しにすんぞ!!」

 何その理不尽、そんなのまかり――通りそうだな、ここなら。

「あはは、面白い先生だよね~お兄ちゃん」

「あれは理不尽って言うんだよ。何故お前は笑ってられるんだか」

「失うものがあるのは遠山君だけだからじゃないかな」

「亮は無いのに俺だけとかひでー話だ」

 とりあえず今度渡す酒のランクを大幅に下げてやろう。

 で、まずは亮から行くことになった。「真打ちは後で出るものだよ?」って笑顔で言われたけど、それでいいのか強襲科Aランク。

「それじゃあよろしく、妹さん。手加減してくれると嬉しいかな」

「よろしくお願いします、不知火先輩! フェミニズムを存分に発揮してくれると嬉しいな~?」

「あはは、それは無理かな。手加減したら即効でやられちゃいそうだし」

「わあ、先輩大人げなーい」

「……なあ潤、妹ちゃんってそんな強いのか? 不知火だって相当なもんだと思うが」

「少なくとも俺よりは強いぞ」

「あ、喧嘩売らない方がいいな」

 賢明な判断だ。とか言ってたら戦闘が始まった。が、二人とも動かない。片やMMP80、片やUSPを下げて静観の構え。そうして先に動いたのは、かなめの方。

「とりゃ!」

「――!!」

 胴体を狙った弾幕が貼られる、その直前に亮のUSPが火を噴いた。

「わっとと!?」

 武器を狙った正確かつ不意打ちの一撃。かなめは撃った反動を利用して二発の弾丸を回避する。

「おおあっぶなーい。不知火先輩はカウンター型なんですね」

「うーん、初手で通らなかったのは痛いなあ。さすが遠山君の妹、一筋縄ではいかないね」

「ふふん、褒めても手加減しませんよ?」

「それは残念」

 USPを乱射しつつ後退する亮に対し、追撃するかなめ。距離を空けつつカウンター狙いの亮は銃で牽制しつつ近接戦を狙うが、

「ほい!」

「――!?」

 かなめは持っていたヒートブレードを投げ付ける。虚を突かれた亮はそれでも最小限の動きで避けるが、続けざまにMMPをばら撒きながら迫ってくる。

「ふっ!」

 それに対し亮は敢えて攻撃を受けながら投擲体勢のかなめに向かって発砲するが、

「アハ♪」

 両手にプファイファー・ツェリスカを取り出し、一発目でUSP、二発目で左手に構えていたコンバットナイフを叩き落とした。USPの弾丸は敢えて防弾制服で受けている。

「ふふ、先輩合理的ー♪ でも残念、かなめの武器はM○のだけじゃないのです」

「……ふう、参ったよ。武器を投げられるのは遠山君もよくやるから対処できたけど、まさか両方来るのは予想外だったよ。それに随分エグイ拳銃を使ってるね」

「エグイって何ですかエグイって~。ちょっと大きいけどかなめの愛銃なんですよ?」

「二丁で使うもんじゃねえだろそれ。アリアでも使いたがらないぞ」

「……なあ潤、アレってそんなやばいのか?」

「たまには車両以外の勉強もしろ剛。プファイファー・ツェリスカは象の頭蓋骨くらいならぶち抜けるゲテモノ拳銃だ」

「……お前の妹、やばくねえ?」

「やばくないです~、普通の女の子です~!」ブーブー

 蘭豹先生のM500よりやばい代物両手持ちして何言ってるんだ。

「なんや不知火、下級生相手にあっさり負けおって」

「いやあ先生、確かにあっさりなのは認めますけど、ケガじゃ済まない武装ばっかりなのはちょっと……」

「武器の性能差が戦力の差となった結果だな」

「……まあええやろ、引き際を見極るのも武偵に必要なもんやしな。

 じゃあ次は遠山行けや!」

「先生、ケガじゃ済まない武装って聞いてました?」

「お前ならなんも問題ないやろ。四肢吹っ飛ぼうが心臓止まろうが平然としてそうやし」

「それで動けたら妖怪でしょ」

 魔術なしで心肺停止から蘇る人間とかこええよ、確実に人外の領域だろ。

「おにいちゃーん、早く早くー!」

「はいはい。お前試験中なんだからもうちょい緊張感持てよ」

「え? もう装備科の試験終わってるよ?」

「……蘭豹先生」

「ええやろ別に、聞いたこともない遠山の妹とか気になってしかたないんや。強襲科に向いてないなら無理強いはせんかったけど、本人がノリノリな上に一年坊がこの様やからな。

 だから上のAとかSランクと戦わせはっきりするやろ」

「いつも言ってますけど、『元』Sランクですので」

「ええからやれ! 特別に実家土産の麻花(マーファー)食わせたる!」

「しゃーねえなあ」

 菓子を代価に出されたのなら致し方なし。

「ぶー。お兄ちゃんは私と戦うの嫌?」

「いや、勝てない戦いはしたくないだろ常考」

「え? お兄ちゃんが私に負ける訳ないじゃん」

「あ? 基本スペックで劣ってる上、こっちより武装が豊富な相手にどうやって勝てるんだよ」

「「……はい?」」

「……なんで相手の方が優れているのを主張してるんだ、あいつら?」

「あれだね、自己評価が著しく低いところはそっくりなんだね」

 うるせえ、俺のは間違いなく事実だよ。

 とりあえず俺がUSP二丁を構え、かなめはジャイアン○バズを肩に担ぐ。オイ殺す気か。

「大丈夫、爆発はしないから!」

「そのサイズの砲弾当たるだけで」

「さっさと始めろやあ!!」

 最後まで言わせてください。しかしその願い虚しく開始の轟音が鳴り響く。同時、かなめのバズーカから放たれる砲弾が俺目掛け飛んできて――足元で爆発四散!

「はぁ!?」「え?」

「爆発はしないんじゃなかったのか」

「アレは嘘だ」

 うん知ってた。だから死体の山(生きてます)から離れたんだろうし。

 次いで放たれる一撃を跳躍してかわすと、合わせてかなめが空中疾走で迫ってきた。距離の詰め方がアリアと一緒じゃねえか、おまけにヒートホークも出てきたし。もうなんでもあるなM○の武器。

(当たったら死ぬよなこれ)

 胸中でボヤキつつUSPの連射で狙いを逸らし、同時後退しながら弾切れの二丁を上に投げて懐から新しい二丁を取り出し乱射、床に着陸しつつ拳銃による弾幕を貼る。

「甘いよ!」

 これに対しかなめはヒートホー○を投げ捨て、今度はヒー○ナギナタを回転させて弾幕の嵐を弾いていく。オイマジかよ。

 とはいえ動きは鈍くなるので、再度弾幕を張りつつ銃とマガジンを上に投げ、空中でリロードの完了したUSPで再度発砲。

 計八丁による銃撃の嵐。かなめは自身の身長より引き続きナギナタを回転させて防いでおり、膠着状態が――

突撃(チャージ)!!」

 生まれなかった。ナギナタが回転しながら突っ込んでくるとか、オイマジかよ(二回目)。

 足元のマガジンを蹴り飛ばすも弾かれ、勢いは衰えず。

 迎撃、回避、防御。かなめが迫り来る中、八つの分割した思考を高速で回転させ、俺が取った選択は、

「っそら!」

 袖から出した二本の鉤付き鎖で肩を狙う。無論これも弾かれるが、狙いは当てることではなく、絡めること。

「っと!」

 後方から迫りくる鎖をかなめは振り向かずナギナタで斬り落とす。隙は一瞬、だがそこにサクソニアの鉛玉を連射でお見舞いする。

 かなめの腕力では引き戻すのに僅かながらタイミングが間に合わない、そう予測しての銃撃だったが、

「オソマツ!」

 ナギナタを床に刺し、棒高跳びの要領で避けられてしまう。

「雑技団かお前は」

「いいえ、ニンジャスレイヤーデス」

 ナギナタで突撃する忍者がいてたまるか(偏見)。

「そこまで! これくらいでええやろ」

 再度構えようとしたところ、蘭豹先生から終了の宣言。俺は一息吐いて落とした武器を回収する。げ、鎖の鉤が斬られてるじゃねえか。

「あーあ、お兄ちゃん相手じゃ攻め切れなかったな~」

「結果的にはな。もうちょい長引いたら俺の方がジリ貧だったろ」

「ないない。だってお兄ちゃん、まだ幾らでも手はあるでしょ? なのに武器の性能差があって立ち回りは互角だし~」

「本気で攻め込んでない癖によく言う。別にナギナタぶん回しなんて妙な技使わなくてもいいだろーよ」

「お手玉よろしく拳銃の曲芸してた奴がよー言うわ遠山」

 横から話しかけてきた蘭豹先生は呆れた顔だ。口元は笑ってるけどな。

「試合じゃなく試験なんだし、いきなり殺りにいくのもどうかと思いますけど」

「アホ、試験だからこそ最初から全力で殺りにいくもんやろ。武偵は常在戦場、手抜きなんて以ての他や」

 別に手は抜いてないんだけどな。

「まあええわ、中々ええもん見せてもらえたし不問にしたる。それにしても兄妹揃ってSランク級の腕前とは流石やなあ」

「俺は元Sランクですし、かなめは装備科志望ですけどね」

「チッ、学科選択の自由とかホンマ面倒やな……遠山妹ォ、強襲科の転科も考えとけや!!」

「自由履修なら考えときまーす」

 恫喝にも屈さず笑顔でウインクするかなめに再度舌打ち。まあ先生本人も本気で言ってる訳ではない、惜しいとは考えてるだろうが。

「まあええ、遠山かなめの強襲科試験は暫定だけどSや。教師陣もぶっ飛ばしてるんやしな。お疲れさん、帰ってええで」

「せんせー、装備科の暫定ランクは何ですか?」

「んなもん装備科の担当に聞けや。お前らの試合見てたら忘れたわ」

 堂々と忘れた発言しないで欲しい。それでいいのか武偵校とはいえ教師。

「なあ不知火、女ってこええなあ……」

「遠山君の妹さんが例外なだけだと思うよ? まあ、人は見た目によらないってのは確かだけどな」

 俺の妹はコワカワイイ。

「カワイイとな!?」

 そこだけ反応するんかい。

 

 

おまけ

「おにいちゃーん、装備科の暫定ランク結果出たよー」

「お疲れさん。……あれ、Aランクか。かなめの技術力ならSランクでも不思議じゃないんだが」

「『技術はSランク相当だが、規定を無視した威力への改造と課題にない武装の追加が減点対象としてAランク判定』って言われた。ぶー、時間余って暇だったからグレードアップしてたのに、なんでマイナス扱いされるかなー」

「理子と同じような扱いじゃねえか……」

「えーでもユーくん、PC調査でターゲットの情報を抜き取るついでにクラッキングしてPC壊したら怒られるっておかしくないですかねえ」

「試験中止になるようなことすれば怒られるに決まってるだろ」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 実は妹と似たようなものを造っている(しかもメカの方)。本人の能力はかなめより下だが、実戦経験では上のため互角に渡り合う。
 
 
遠山かなめ
 お兄ちゃんとデートして大変ご満悦。なお、後で風雪に「羨ましいでしょ? NDK? NDK?」とメールして悔しがらせたらしい。というかお前ら連絡先交換してるのか。

 
不知火亮
 不意打ち上等反撃スタイル。本当は相手を動揺させてからの一撃が得意なため、今回のような試験では不利で負けを認めた。
 
 
一年坊ズ
 遠山潤の妹と知らずに挑んでボコられた哀れな未来の同級生(あかりとライカ含む)。まあなんだ、大怪我はしてないし頑張れ(雑)
 
 
後書き
 やっとかなめが編入しました。しかし最初っからエンジン全開の暴れまくりである。これ同級生の友人出来るのかなあ……少なくともAA組には警戒されても文句言えませんね、接点どうしよう(白目)
 というわけでどうも、ゆっくりいんです。読み直してからまたもニューステイツの背詰め入れ忘れたのに気付きましたが、石を投げないでください(土下座)
 話としては全く進んでませんが、今回はかなめの話と同時に潤についても話す予定なので、気長にお付き合いいただけると幸いです。
 まあ、次回は未定なんですが(オイ)。ネタはストックしてるけど、また解説回になりそうかなあ……退屈でしたら遠慮なく言ってください、正直作者の自己満足なところはあるので。
 では、今回はここまでで。感想・評価・お気に入り・誤字脱字訂正など一言でも何かいただければとてもありがたいです。
 読んでいただき、ありがとうございました
 



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第三話 一人増えてもやることに大差なし(後編)

 この間友人と、『異能バトルもので最強の能力はどれか』って話になったんですよね。友人は時間干渉系、私は認識妨害系だと答えました。
 認識されなければ対処も何も出来ないから強いと思うんですよね。まあ完全にアサシンの発想ですから、異能系だと見つかれば即効でやられるのがお決まりなんですけど……
 皆さんはどれだと思いますか? と、本編にまるで関係ない話題を投げてから開始します(オイ)
 
 


 

(抜き足差し足)

(し、忍び足……)

 どうも皆さん、お兄ちゃんのカワイイ唯一妹遠山かなめです! もう一人いるんじゃないかって? アレはただの自称、イイネ?

 さてただいま私が何をしていますかというと――白雪お姉ちゃんと一緒に一人さまよっているお兄ちゃんを追跡中なのです! ストーカー? ノウ、兄が心配で影ながら見守る出来た妹の所業です(真顔)

(ね、ねえかなめちゃん、本当に良かったのかな? 潤ちゃんは気にしないだろうけど、プライベートを勝手に探って……)

 白雪お姉ちゃんが心配そうにこちらを見てくる。ちなみに声は念話でしてるから一切聞こえない。魔術って便利だよね~、まあ変な人みたいに見られることもあるけどそこは致し方なし、風聞よりお兄ちゃんのことを心配するのは妹の義務です。

(でもお姉ちゃん、お兄ちゃんが普段一人で何してるか気になるでしょ?)

(そ、それはそうだけど……)

(それに、億が一くらいだけどお兄ちゃんを騙す悪い女がいるかもだし。もしそうなってたらどうする)

(例え人誅と言われようが一切の容赦なく斬ります)

 怖い怖い、適当に言っただけだから完全な無表情にならないで!? 「白雪は怒らせない方がいいわよ」っていうアリアお姉ちゃんの言葉が良く分かったよ……(その後あなたが言うかって呟いたらしばかれたけど)。

(ま、まあそれは会った時に対処するとして)

(うん、もしそうだったら穢されちゃった潤ちゃんを清めてあげないとね!)

(殺傷力のない浄化の炎で物理的に清めそうだね)

(……そ、そんなことしないよ?)

 目を逸らさないで、フレイム何とかじゃないんだし。お兄ちゃんのキャラ的に黒焦げパーマになっちゃいそうだから。

 話が大幅に逸れたけど、実際お兄ちゃんが何をしているかというと謎な部分が多い。誰かと一緒にいる時、基本相手に『合わせる』ことが多いからだ。

 白雪お姉ちゃんやリサお姉ちゃんも同じタイプだけど、そういう相手でもお兄ちゃんは『相手が好みそうなこと』を選択して行動できるからねー。だからこそ男女問わず仲良くなれるしモテるんだろうけど(三日間聞いて回ったら結構な数の女子に好意持たれてた、スゲエビックリ)。人気者の兄を持つと妹は辛いですわ……。

(かなめちゃんも随分だと思うけど……転入して三日間で男女上下問わず色んな人と仲良くなれてるし、警戒してた間宮さんのグループとも一緒にお昼食べてたよね? うう、コミュ力オバケの二人ほどは望まないけど、私ももうちょっと緊張せず話せればなあ……)

(あかりちゃんはお菓子分けてあげたら簡単に和解できたんだけどねー)

(……)

 うん、そりゃ微妙な顔になるよね。あんまりにもちょろいから将来が心配になるよ。妹さんいるらしいけど大変だろうなあ……。

 と、また話が逸れた。まあまとめると気になったので、午後一から「仕事がねえ」とボヤいてたお兄ちゃんを尾行してる訳です。午後の専門講義? サボった! 大丈夫、サボり魔のレッテルを貼られれば今後動きやすくなる――

(いや普通にダメだからね?)

 アッハイスイマセン。

(もう……潤ちゃんの事だから大目に見るけど、今回だけだよ?)

 プリプリ怒ってるけど、お兄ちゃん絡みって言えば大抵許してくれそうな気がする。チョロい(確信)

(うーん、でも……本当にいいのかなあ)

(まあまあ白雪お姉ちゃん。三歩下がって影踏まず、夫のことをそっと見守り知らないところで助けてあげるのもいい奥さんの条件だよ?)

(そうだねかなめちゃん、旦那さんを影に日向に支えるのは妻として当然のことだよね! 潤ちゃんなら話せば分かってくれるんだし!)

 チョロい(二回目)。

 説得が終わったところで気配遮断しながら尾行を続けていると、お兄ちゃんが入った場所は――特別教室棟の一番奥にある図書館だった。

 学校案内してもらったリサお姉ちゃん(自分から案内を買って出てくれた)によると、武偵校の図書館利用率は物凄く低いらしい。偏差値の低さと比例するように勉強嫌いが多いのと、入り組んだ場所にあるのが原因だとか。

 人がいるのはテストの時期によっぽど追い詰められてる時くらい。秘密の実験とか逢引き(武偵校では大抵リア充が目の敵にされる、同姓同士は例外)には良い場所なのだが(図書委員は存在するが誰かいるところを見たことないとのこと)、ここはまず選ばれない。特別棟だけでも他に使える場所なんて腐るほどあるし、実験なら自分の部屋や専用の研究部屋を持つ生徒が珍しくないからだ。

 長々と語ったけど、人が訪れることはまずない場所ということ。しかも中にある本は生徒や教師から寄贈されたものが大半で、雑多なジャンルが半端に揃い、果てはマンガ本もある(しかも全く整理されてない)。もう図書館というより古本屋か無限○庫だよねここ。

 そんな本が雑に詰まれたり並べられたりする中で、お兄ちゃんは特に迷うことなく十数冊の本を抜き取っていく。ジャンルは心理学、政治、ヨーロッパ史、神道、機械工学etc……うん、統一性が全くない。あ、烈火の○もある。

 それらを机の端に置き、懐からノートPC、ノート、ボールペン二十一本(多い)、辞書並みに分厚い二十冊(多い)の魔導書らしきものを取り出す。理子お姉ちゃんもそうだけど、どれだけ懐に入れてるんだろう。容量は空間拡張の魔術でポケットを拡張すればいけるだろうけど、亜空間に閉まってるわけじゃないから重量もシャレにならないとかなめは思うの。

 私達が見守る(ここ重要)中、お兄ちゃんが机を指で叩くとボールペンと魔導書が宙に浮き、図書館の本が三冊、お兄ちゃんの見やすい位置に移動する。

「……」

 本が自動で同時に捲られていき、右手はノート、左手はPCに記入する。器用だなあ、その気になれば足で打ち込みとかも出来るんじゃないかな。

 本は数分で最後のページまで行くと元の位置に戻り、次の数冊が前に来る。後はこれの繰り返し、その間もお兄ちゃんの両手は止まらず書き続けていく。

(潤ちゃん本を見てないけど、内容入ってるのかな……?)

(アレ使って内容を抜き取ってるみたいだね)

 私が指差しお姉ちゃんが目を凝らすと、お兄ちゃんと本の間には細い糸が何本か繋がっていた。魔力の流れを感じるので、多分内容を頭の中で読みながら『記録』しているのだろう。お兄ちゃんの特性上、『視た』ものは忘れないしね。

 書き込みを進めていくと、周りの魔導書も記入が進められていく。こっそり見てみるが、PCと同じ内容みたいだ。多分書き写しかな、凄い勢いでページが埋まっていくよ……

「……」

(す、すごいねかなめちゃん……ああでも、無表情で作業に打ち込んでる潤ちゃん様の姿も……はふう)

(…………)

(? かなめちゃん?)

(あ、ごめん今いいところなの)

(何でBlack ○at読んでるの!?)

 いやだって、ニューステイツだと出回ってないんだもん。……あ、八巻抜けてるし。オッノーレ!!

 と、マンガ読みながらお兄ちゃんの動向を見守るという無駄に高度なことをしていると、蛇形の折り紙が凄い速度で跳んできた!!

(ほいっと)

(見もせずに受け止めてる!? 無駄に高性能だね!?)

 いや、白雪お姉ちゃんも余裕でしょ。たかだか魔力が込められて音速で飛んできただけだし(真顔)

 よく見ると折り紙に何か書かれている。ので開いてみると、

『何してんだお前ら』

 わあい、バレテーラ(予想通り)

 

 

「結局何がしたかったんだお前は」

「いやあ、たまには魔術師なお兄ちゃんも見て心の栄養を補給しようかと」

「なるほど、意味分からん」

「ご、ごめんね潤ちゃん。勝手に見たりして」

「別に隠してる訳じゃねえから問題ねえよ。そもそもお前がストーカーやってるのなんて珍しくないだろ」

「な、ナンノコトカナー」

「常習ストーカー認定されてる白雪お姉ちゃんで「他人のこと言えんのかバカ妹」あたたたたた!!? お兄ちゃんつむじ、つむじを思いっきり押さないで!?」

「押すとハゲるんだっけ」

「それ迷信だよ!? 痛い痛い背が縮むーー!?」

 それも迷信だろ。あ、どうも遠山潤です(遅)

 しかしかなめのやつ、最近俺達の周りをかぎ回ってる様子だ。理子とアキバへ出兵したり(俺も無理矢理連れてかれた)、アリアにランバージャックを(ノリで)挑んでボコられたり、白雪と和菓子屋巡りしたり、リサとメイド服合わせで(俺が)もてなされたり、メヌが用意したエグいシナリオのTRPG(最近のお気に入りはサタ○ペ)をプレイして絶叫してたり、レキとセルフ大食い大会してたり、エルに女物のカワイイ服を着せようとして追いかけっこしたり……あれ、普通に遊んでるだけじゃねこれ。

「うおーん痛かった……ん? どしたのお兄ちゃん、そんな情熱的に見つめちゃって」

「普通に見てただけなんだが」

「じゅ、潤ちゃん近親愛はさすがにダメだよ!?」

「何の心配してるんだ白雪」

「まさかお兄ちゃんがお姉ちゃん達に靡かないのは、妹しか愛せないから……?」

「なん、だと……」

「そんなおにあ○か俺○みたいな展開も性癖もねえよ」

「おに○いはかなめの愛読書です」

 何故ドヤる。まあ俺含めた全員を知ろうとしてるだけと予想できるし、放置でいいか。

「まだ時間あるし、夕飯前だけど何か飲むか?」

「お兄ちゃん特製のアレ!!」

「好きだなマイシスター、まあ構わんが。白雪も飲むか?」

「わ、私はお茶で大丈夫だよ!!」

 青い顔をしてるけど、そんなやばいもんかあれ。

 かなめの言うアレとは、俺自作の『キャラメルちょここあ』(命名理子)。キャラメル、チョコ、ココアの黄金比を計算して気紛れで作った一品で、かなめのソウルドリンクとなっている。味は甘さに極振りしており、ももまんが半主食のアリアをして「甘!? 甘さが天元突破して歯と喉と胃を溶かされてる感じがするわよこれ!!?」と言わしめた一品である。

「はー……この一杯こそ至福の時ですなあ……」

「かなめちゃんよく平然と飲めるね……甘いのもそうだけど、何よりカロリーが……」

 恐ろしいものを見る目の白雪が言うとおり、こいつはカロリー度外視で作られている。具体的に言うと一杯で1000カロリーくらい、ミス○のドーナツ二個強分である。まあ元々メヌ向けに作ったものだしな、甘すぎて本人には不評だったが。

「ところでお兄ちゃん、不肖妹である私かなめ、お兄ちゃんへの質問コーナーなるものを考えたのですが」

「いきなり何言ってるんだお前は」

 白雪に玉露を貰い、いつも通りトチ狂った感じの妹に白い目を向ける。誰が得するんだそんな――

「ユーーーーくーーーーーん!!!」

「ノーフォーク!?」

 気配遮断しながら帰宅した理子が飛びついてきた。脇腹に突き刺さったので地味に痛い。

「ごふぉ……お帰り理子、なんだ急に」

「カマドウマ、間違えた構って!」

「あ?」

 だからなんなんだよ、二重の意味で。

「ユーくん理子に構って~!! 最近めーちゃんばっかで理子のこと完全に放置プレイじゃん!! 放置少女イクナイ!」

「この間アキバ行っただろ、普通にバカもやってるし」

「それ以外あんまりないじゃーん! りこりんもっとベタイチャしたいんです~、ナデポされたいんですー!! 

 お熱いキッスまでした仲なのにこの扱いはあーんまりでしょーよおにーちゃん!!」

「理子お姉ちゃんお兄ちゃんをお兄ちゃんと呼んでいいのはかなめだけ!!」

「もう引っかかる場所間違ってるとかツッコミ入れねえぞ。というか医療行為だっつーのにまだそのネタ引っ張り出すか、前は口にするだけで赤面してた癖に」

「うるせーユーくん成分が不足してる状態で手段もクソもあるかー!! さありこりんに構え、存分に甘やかせー!」

 酒の切れたアル中かこいつは。「理子さん、潤ちゃん困ってるんだし離れようか。後それ自慢なの?」って白雪が額に青筋浮かべながら言っても「やーだー!!」しか言わんし、完全にだだっこモードだよこいつ。

 とりあえず腰にしがみつきながら揺らすのやめなさい、色々当たってるから。

「結果的に当たってるの!!」

「まあまあ理子お姉ちゃん、お兄ちゃんこれから夕飯作るんだし、あんまり困らせちゃダメだよ?」

「くっ、この妹構われまくってるからドヤ顔してやがる……! そんなに妹が偉いのかコラー!!」

「違うよ理子お姉ちゃん、私が目指すのはエロい妹だよ!」

「でっかい夢があるね!」

 そんな夢は捨てなさい、リアクションに困るから。

「とにかくユーくん、ユーくんは理子を甘やかす義務があイダダダダダダダ!?」

「んなもんねーよ。いいから離れろっての」

 額グリグリしてやるもなおくっついたままだ。何がコイツをそこまで駆り立てるんだ、いい加減ウザい。

「はーなれろっちゅーに」

「いーやーじゃー!! 今日のりこりんは執念深いんじゃー」

「――いい加減にしろやゴラァ!!」

「えぇ!? 潤ちゃん!?」

「ビックリするくらいお兄ちゃんが唐突にキレた!?」

 そりゃ俺だってキレる時はキレるわ、しつこいんだよコイツ! 

「がう!!」

「いってえ! いきなり噛み付くんじゃねえ脳味噌百合色!」

「妹にかまけてばっかのユーくんが悪いんだよ! こうなったら首に一発やってキスマークっぽくしてやる!」

「あらゆる意味で誤解しか呼ばねえからやめろやハゲ!」

「誰がハゲか、腰までふっさふさだよ!」

「いい加減にしなさい理子さん!」

「羨ましい癖に常識人気取りしてるユキちゃんにどーこー言われたくないね!」

「なあ!? き、キスしたくらいで調子に乗ってえ! じゃあユーくん奪われても文句言わないよね!?」

「オイ白雪助けろよ!?」

「大丈夫、理子さんぶっ飛ばして私が潤ちゃんのものになるだけだから!」

「ぶっ飛ばす言いながら色金殺女を抜くんじゃねえ!?」

 三つ巴の状態が出来ただけじゃねえか!? というかかなめの奴も煽ってないで止め、

「いやあ、これぞ愉悦のこうケイローン!?」

「何AUOスタイル気取ってんだコラァ!!」

 デストロイくん三号を顔面にぶつけてやった。あーもう収集つかねえじゃねえか!! ラブコメ? ねえよんなもん!(ガチ)

「……何この状況、痴話喧嘩?」

「仲良き事は美しきかなですわ、お姉さま」

「うん、多分違うけど楽しそうねアンタ」

 結局アリアによって俺と理子は制圧(物理)され、白雪は宥められて落ち着いた。オイ扱いの差「今更論じる必要ある」ですよねこの暴力ツインテ!!

「誰が脳筋ミニマムよ!」

 んなこと言ってネプチューン!?(←再度ブッ飛ばされる)

 

 

 




登場人物
遠山潤
 図書室を利用して色々やってるのは「部屋だと当たり前のように邪魔されるから」とのこと。
 珍しくキレていたが、キレてもアリアに勝てる訳ではない。そもそもコイツの売りは冷静さである。

 
星伽白雪
 珍しく煽られた結果争奪戦に参加した良妻賢母の卵。実は理子にリードされてる状況に焦ってる、かもしれない。
 
 
峰理子
 「むしゃくしゃして飛びついた、反省も後悔もしていない」とのこと。

 
遠山かなめ
 お兄ちゃん大好きだが、お兄ちゃんが不幸な目にあっているのを見るのも好き。
 
 
神崎・H・アリア
 人間制圧兵器。
 
 
あとがき
 後半ノリの神様が湧いてきた、話は進まないけどまあいいか(オイ)
 というわけでどうも皆さん、ゆっくりいんです。あとがき書いてる段階で結局ニューステイツの紹介してないやん!! と気付きましたが……後半の予定が丸ごと変わっちまったんだ、是非もないネ!
 とりあえず次回はいい加減話を進めます、というかいい加減妹編終わらせにかかります。進む進む詐欺ではない、はずです。筆が暴走しなければ(白目)
 信じられるか、ここまでGⅢリーグの連中誰も関わってないんだぜ……? などとバカなこと言いつつ、今回はここまでです。
 感想・評価・お気に入り・誤字脱字訂正など一言でも何かいただければとてもありがたいです。
 それでは読んでいただき、ありがとうございました
 
 
 


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第四話 欲を出すときりがない(前編)

 サタスペで何回も見るほど好きな動画主が、新しいシリーズ始めてテンション上がってます。いやあ楽しくて何回も見てますわ……
 
 



「あーまだいてえ……理子の奴、思いっきり噛みつきやがって」

「お兄ちゃんすぐ治してたじゃん」

「傷口は消えたけど痛覚だけ残ってるんだよ。面倒な呪術使いやがって……」

「理子お姉ちゃん地味にエグイねー。でも痕を残されるのはお兄ちゃん的に嬉しかったり?」

 そんなマゾ趣味は持ち合わせてねえよ。どうも、遠山潤です。妹も何故かボロボロなのが気になる今日この頃。

「あかりちゃんが『リベンジだよ覚悟ー!!』っていきなり襲い掛かってきたんだよねー。褐色の子と二人掛かりで。息ピッタリだから地味に危なかったよ、返り討ちにしてやったけど」

「褐色っていうと、間宮ひかり?」

「そうそう、ナゴジョの制服着てた子。アレやばいよね、着てる方も着せる方も……目のやり場に困って一発もらっちゃったよ~」

「女同士でそれはどうなんだ」

「履いてないのはヨソウガイデス」

 痴女じゃねえか。校訓がイカレてるナゴジョ(『強きは美なり』の時点でヤベエ)でも、履いてはいけないなんてルールはない、俺の記憶では。まあ間宮さんの親戚だしな(決め付け)

「で、わざわざ部屋に呼んだのは何なのよ」

「密室で二人っきり、しかも兄妹という背徳的な展開がどれくらいクルのか試してみた」

「よし帰るわ」

「ちょ、冗談だから! 何の躊躇もなく帰ろうとしないでマイブラザー!?」

 七割本気の癖して何言ってんだマイシスター。引っ付くくらい必死に止められたので、やむなく残ってやったが。

 女子寮にあるかなめの部屋は、滅多に帰らないらしいがきちんと片付いている。娯楽用品と一緒に作り掛けの腕部ガトリングが置いてあるのはアレだが、まあかなめだし。

「日当たりのいい端の部屋って、いい場所取ったんだなお前」

「ちょっとお金の力で少々。でも全然使ってないから共用のプライベートルームとかでいいかもね~。急に一人で何かやりたくなった時とかに」

「理子が私物(コスプレ衣装)持ち込みだすぞ」

「私にも着させてくれるなら」

 いいのかよ。ちなみにアイツの部屋は衣装の物置と化しており、それでも場所が足りないらしい。後先考えず作りまくるからだよ。

「ささ、お兄ちゃん。妹の隣が空いてますよ」

「なんでベッドを選ぶんだよ」

「ノリと下心」

 はっきり言ったぞこのエロ妹。セクハラしてきたら紅○腕で沈める算段を立てつつ、かなめの横に座る。そしたら嬉しそうに擦り寄ってきた。……よし、下心は少ないな(何)

「ふふ、何だかんだでお兄ちゃんやさしー」

「ぶっとばすのは俺の仕事じゃないし」

「アリアお姉ちゃんも望んでやってるわけじゃないと思うよ? 

 ところでお兄ちゃん、ここに来た理由なんだけど」

「おう」

「もう一人妹がいますって言ったら、信じる?」

「あ? まだ増えんのか?」

 既に四兄妹だっつうのに。一人血縁はないけど。

「うん、サードから情報が来たんだ。私達と同じGシリーズの第二世代人工天才(ジニオン)がいるって」

「第二世代ねえ……ニューステイツにそこまでの予算があるとは思えないんだが」

 かなめとジーサードの生まれたニューステイツは、東西分裂時の西ドイツにアメリカ・カナダの難民が流れ込んだことで成立した多民族国家だ。

 難民の受け入れと引き換えに、当時の合衆国が持っていた最先端技術・兵器を導入することで栄え、先進国の仲間入りを果たした。。その中には『人工天才』の母体となる計画もあったるらしい。

 だが当然、進歩したとはいえ旧アメリカほどの国力を持っておらず、頓挫したプロジェクトは相当な数にのぼった。かなめ達人工天才の第一世代は一定以上の成果を挙げたが、同時に一人当たりのコストもバカにならない。

 なので第二世代と呼ばれるほどのものが出来たとしても、実戦投入できるほどの人材は早くて数年後と予測していたのだが。

「うーんとね、『妹』は第二世代最初の完成形なんだって。元々核とかの戦略兵器が世界規模で敬遠されて、代わりとなる超兵器として作られたのが『人工天才』だからねー。

 サードっていう成功例が出来たせいか、最近は力の入れ具合が桁違いらしいよ? その内思いつきでお兄ちゃんのところに突撃してきたりして」

「そんな急に来る訳ねえだろ、扱いとしては兵士だろうし」

「いやあどうだろうね? 私達の『妹』だし」

「天才とアレは紙一重っていうけど、性格がアレな人造兵器ってどうなんだろうな。そもそも『妹』いくつだよ」

「そこで何でかなめを見るのかな? かな? まあそれはともかく……確か今年で十歳だね」

「そんなアクティブな十歳、早々いてたまるか」

「お兄ちゃん自分が十歳の時何してたか覚えてる?」

「普通にガキやってたよ」

「嘘だ!!」

 急に叫ぶな顔芸やるな、結構似てるからこええんだよ。

「まあ、今更一人増えたところで別に。というかお前はいいのか、妹という立場の人間が増えるんだが」

「大丈夫、至高の妹は私一人だって教えるから!」

 何その最高に頭悪い自称。

「そして家族が増えるよ! やったねおにい」

「オイバカヤメロ」

 その『妹』が殺しに掛かってきたらどうすんだ。

「あはは、ジョーダンジョーダン。まあ『妹』の話(余談)は置いといて」

 それで済ませていい話――

 

 

「お兄ちゃんはさ、恋したいって思う?」

 

 

「――あ?」

 多分大層間抜け顔を晒しているだろうが、かなめは変わらずニコニコ顔のままだ。

「……あ?」

「おお、お兄ちゃんが反応出来なくなってる」

「いや、そりゃあまあ……お前何考えてるんだ?」

「純粋な疑問だよ? お兄ちゃんは恋愛を忌避してるけどさ、理子お姉ちゃんのことは好きでしょ? あ、勿論恋愛的な意味でね?」

「何故そこで理子なのか」

「私の目から見ても一歩リードしてるからね~。まあ仮に付き合ったとしても、白雪お姉ちゃん達が諦めるとは到底思えないからお兄ちゃんは安心していいよ?」

 その予測で何を安心しろというのか。

「そもそも付き合う気がねえよ」

気がないよう(・・・・・・)にしてるだけでしょ? 付き合う=えちぃことする、って訳じゃないんだし、もうちょっと前向きに見てもいいと思うのですよ」

「そんな煩悩にまみれた考えはしてないが……バレた?」

「徹底的に隠蔽してても分かる時は分かるもんです。伊達にお兄ちゃん大好きを公言してないよ」フンス

「いや好きと見破るのは違うだろ」

 ホームズ姉妹にも気付かれていないのに、まさか妹が見破るとは不覚。ドヤ顔がウザイのでデコピンしといたけど、指三本で。

 ……かなめの言うとおり、俺は異性に向ける、向けられる好意を理解は出来ても実感できないようにしている(・・・・・・・・・・・)。三大欲求の一つを魔力に変換する魔術式を脳に組むことで。

「別にお兄ちゃんの考えを否定するつもりはないけど、もうちょい正直に生きてもいいと思うよ? 私みたいにお兄ちゃん大好きー!! みたいな感じでさ」

「お前が正直過ぎるんだよ。こちとらガキの頃から欲求を排除してるんだぞ」

「……つまり、欲求を開放したらエッロエロのお兄ちゃんが……?」ゴクリ

「どーいう思考回路してんだお前は」

 魔力に変換してるんだから、消化されてるに決まってるだろ。

 溜息を吐く。……口に出す気はないが、俺にとって恋愛なんてものは――

「無駄ならともかく無意味。隙をさらし情にもつれて自分を殺す情動、でしょ?」

「!?」

 驚き思わず顔を上げるも、見えるのは変わらずニコニコしてるかなめの顔。思考を読まれた? いや違う、これは――

「んっふっふー、探り当てるのは得意なんだよ? 何せ私はお兄ちゃんの上位互換ですから」

「……はあ、そういやそうだな。で、幻滅したか?」

 ばれてしまっては、隠す意味もない。好意を向けられる人間としては最低の思考かつ返礼だろうが、俺は生き方を変える気は――

「んーん、別に? 私はお兄ちゃんのそーいうところも受け入れるから」

 ねー、と何故か抱きしめられた。正直意外だ、俺からすれば『恋愛においてゴミ野郎でも構わない』などと言われてるのと、さほど変わらないんだし。

「ねえお兄ちゃん、お兄ちゃんのその考えはどうして生まれたの?」

「……恋に落ちた末、裏切りにあって殺された先達なんて腐るほど聞いたし見た。愛や恋を語るものは、大抵先に死んでいく場所だったからな。

 近過ぎる距離は、情と破滅を呼ぶ。それを避けるなら、恋を知らなければいい。それだけの話さ」

 我ながらあんまりにも極端な意見だが、事実なのだから仕方ない。愛したものが力を合わせて事をなすなど、俺の辞書にはない、創作の世界と大して変わらないものだ。

「うんうん、お兄ちゃんも中々ハードな人生だし、そういう考えもあるよね。でもねお兄ちゃん、今だけはお兄ちゃんの本当の気持ちで聞いて欲しいんだ」

「? うお、かなめ?」

 抱きしめたままベッドに押し倒してきたかなめは、声を上げる俺の顔を笑顔で見ながら、

 

 

 自分の指を俺の額に突っ込んできた(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「――――!!?」

 脳内に感じる、内臓をかき回す感覚を数倍にしたような異物感。魔術的な干渉なので痛みはないが、古びて鍵すら失くした錠前を強引に外される――構築していた魔術式を破壊されたのだ。

「……うん、これで良し。やっぱり秘匿性を重視したから、そんなに難しいのじゃないね」

「――かな、め。お前、何を」

 弛緩の魔術も同時にぶち込まれ、四肢どころか呂律も回らない。さっさと活を入れればいいのだが、それよりこの感覚を――

「長年封印してたから、動揺と嫌悪感かな? ごめんねお兄ちゃん、でもお兄ちゃんにはその状態で聞いて欲しかったんだ」

 ねえお兄ちゃん。俺を呼ぶかなめの顔が至近に近付き、成長途中の少女特有の身体が余すことなく密着する。

「私はね、お姉ちゃん達が大好きだよ。ジーサード達チームの皆もそうだし、武偵校の仲いい子達も好き。いーっぱい好きなものに囲まれて幸せなんだ。でもね」

「……」

 息の掛かる距離で、かなめは語り続ける。少しの羞恥と多くの嬉しさで、その顔は赤い。

 

 

「お兄ちゃんが一番好き、大好き、愛してる。世界中の誰よりも、理子お姉ちゃんよりも白雪お姉ちゃんよりもリサお姉ちゃんよりもメヌちゃんよりも愛が深いって断言できる。

 お兄ちゃんの喜ぶ顔も怒る顔も、悲しむ顔も楽しい顔も大好き。良い所も悪いところもまとめて愛したいの、ううん、愛するの。

 お兄ちゃんの一番じゃなくていい、誰か別の人を愛してもいい、そういう目で見られなくてもいい、見返りがなくってもいい。

 ただ、ただ愛させて。私がお兄ちゃんを愛してるってことだけ分かってもらえばいいの」

 

 

 一種狂気的で、報われないことを百も承知な告白。俺を見つめる瞳は、ただただ愛おしさに包まれている。

「……そこは、愛して欲しいものじゃないのか?」

 身体中を支配する違和感と倦怠感を強引に抑えつつ、俺が質問すると、

「そうだね、お兄ちゃんに愛してもらえるならこれ以上の幸せはないよ。でもね?」

 本当に愛してるなら、どれだけ報われない結果でも好きって気持ちは変わらないんだよ?

 思いのたけをぶつけると、かなめはごく自然に唇を奪ってきた。触れ合うだけの一瞬、だがそれだけでかなめは至福の表情だ。

「んっ……ふああ、すっごく背徳的で素敵。これがキスなんだあ……

 ……あ、ごめんねお兄ちゃん。一方的に思いをぶちまけたら、何か我慢できなくなっちゃって。お兄ちゃんが許してくれるから甘えちゃった」

「……」

 魔術で即座に治癒したので、キスされる直前に跳ね除けようと思えば出来たし、無理矢理黙らせることも出来た。

 出来なかったのは、かなめの想いが何一つ嘘のない、本当のものだからだろう。

 俺が『知識』に執着するように、『遠山潤への愛情』はコイツの存在意義だ。俺が本当の意味で拒絶しない限り、それが潰えることはないだろう。

 向けられた無尽蔵の愛情、それに対して俺は――

「……ああ、お兄ちゃん無防備すぎぃ。そんな姿見せられたら、我慢できなくなっちゃうよお」

 何も、出来ない。口も身体もろくに回らない。興奮によりモジモジしているかなめを受け入れようとしているのか、もしくは好ましいと思っている――?

「あんまり手荒なことはしないつもりだったけど……うん、ちょっとだけ、いただきますね。お兄ちゃん」

 壊れたように自問自答し思考を回す中、再びかなめの顔が近付き――

 

 

「……オイ潤、幾らなんでも堕ちるの早すぎじゃないか?」

 

 

「!?」

 横合いからの呆れ声で世界が正常に戻った。かなめをどけてベッドから跳び退る。「あんっ」とか妙に艶のある声が漏れるけど、今は妙に来るものがあるから勘弁して欲しい。

「っ……理子、いつからいたんだ?」

「浮気現場を発見された旦那みたいな反応だぞ」

「未婚の奴が何言ってんだ」

「はん、ちょっとは調子も戻ってきたな。かなめがとびっきりの重い愛の告白をしたところからだよ」

「重くないですー、想いが溢れたんですー」

「溢れ出してきた聖杯の泥みたいなもの吐き出しといて何言ってんだか……で、めーちゃん。溜めに溜めた想いをぶちまけた感想は何かあるかな?」

「あれ、理子お姉ちゃん怒ってないの?」

 かなめの言うとおり、理子は半分ほどマジモードだが怒りの感情は抱いていない。呆れている感じはするが。

「ん? あーまあ、ユーくんに惚れる奴が増えるのなんていつものことだし」

「オイマテ、人を性質の悪い女タラシみたいに言うんじゃねえよ」

「その通りだと思いまーす」

「お兄ちゃん、現状を把握するのは基本だと思うよ?」

 うるせえ、特別なことなんてしてねえよ。

「……んで、改めてめーちゃん。ユーくんに告白してどうするつもりだったの? 自分の陣営に引き込むとか?」

「ん? いあいあ、そんなことするならもっと上手い方法があるよ。私はお兄ちゃんに自分の想いを伝えたかったのと、お姉ちゃん達へのちょっとしたお手伝い」

「? どゆこと?」

「えへへー、お姉ちゃんにいいこと教えたげる。今お兄ちゃんはいやんな気持ちを変換してた魔術式が解かれてるから、抱きついたりチューしたら普通の反応するよ」

「え? ……マジでユーくん?」

「んな訳あるか。そもそも解除されたなら新しく作ればい」

「ふふーふ、私に全部妨害されてるのにー? お兄ちゃん構築が遅いよー?」

 ぐっ、こいつ邪魔だけじゃなく余計なことを……!

「あ、マジっぽい顔してるねユーくん。それじゃあ失礼しま~す」

 座ったままの俺に正面から抱きついてくる理子。いつものこと、しかし今は押し付けられた胸部、回された腕、近付いた顔、彼女独特の甘い匂い――すべてに体が反応してしまう。

「――っ、オイ理子」

「あ、構築更に遅くなった」

「……ホントに動揺してるし。何か信じられないなー……ねえユーくん、ギュッとして」

「な、んでそんな」

 心拍上昇、思考鈍化、構築崩壊。並列思考のあちこちでエラーが走り、目の前で抱きつきながらこちらを見上げる理子のことばかり意識がいってしまう。

「えーいいでしょ? いつもやってるし、ちゅーもした仲じゃんか~」

 脳裏に毒で倒れた理子とのキスシーンが蘇り――

「――――///!!」

「うわ、お兄ちゃんの赤い顔なんてまず見れないものが……カメラ、いや動画で撮らないと」(使命感)

「隙ありー! ……うわ、すごい心臓バクバクいってる。んふふーユーくん素だとドキドキしてたんだ、嬉しいなー」

「――――っ、おまえ、ら」

 体温上昇、思考力低下、呂律鈍化。最悪だ、羞恥心ってここまで行動を妨害するのか。

「あー、お兄ちゃんカワイイナー。理子お姉ちゃん、さっきの件はこれで許してくれないかな?」

「許す! でもめーちゃん、ここまでしてくれたらりこりんがユーくんを取っちゃうよ~?」

 だから俺は誰のものにもならな、というか動くな当たって「いつも当ててるよ?」今は状況が違うんだよ!

「別にいいよ? かなめはお兄ちゃんの一番じゃなくてもいいし、取られたならお兄ちゃんごと貰っちゃえばいいんだし」

「ほほう、貰うとな?」

「イエス、貰うのですよ」

 理子とは反対にかなめも抱きついてくる。オイサンドイッチやめろ、嗅覚と触覚のダブル攻撃で色々クるんだよ!

「遠山かなめは欲張りなんだ。だから愛してるお兄ちゃんはもちろん、大好きなお姉ちゃん達もまとめて欲しいんだー。

 だからー、勝負しよ? バスカービルとジーサードリーグで、小細工なしの総力戦を。負けた方が勝った方のチームに従うってことで!

 あ、ちなみにお兄ちゃんは負けたら私が貞操をもらいマスターハンド!?」

「ついででとんでもないこと言うんじゃねえ!!」

「じゃあお兄ちゃんが勝ったらカワイイ妹を好きにしてインガノック!?」

「同じだろうがあ!!?」

「じゃあ代わりにりこりんが」

「だから同じだろうが!?」

「妹と恋人候補が一緒と申すカルデア!?」

「知らねえよ、この状態でその手の話題を振るなーーーーー!!!」

 色バカ二人を振り切って恥も外聞もなく全力逃走した。チクショウ、最悪の黒歴史じゃねえか! 動悸が上がりっぱなしなのも無性に腹立つ!

 翌日ジーサードとかなめから果たし状が送られてきた。戦闘に切り替えられるのがここまで幸運だとは知らなかったよというか知りたくもなかったわ!!

 

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 リミッターが外れればただの素人DT。
正直今回のは賛否両論あると思うけど、筆が暴走したんだ、ゆる「許すかぁ!?」(発砲音)
 
 
遠山かなめ
 重すぎる愛の告白をかまし、ついでに潤の色々なものを開放してやった奴。ブラコンはここでもやっぱりブラコンだった。
 
 
峰理子
 気になったのでなんとなくストーカーしたらとんでもない告白と漁夫の利をゲットした。「恥ずかしがるユーくんとかヤベエ萌えるし燃える」とのこと。
 
 
ニューステイツ(補足)
 一般的には核の炎とBC兵器の暴発によって、人が住めない不毛の土地になったと伝えられている。
 

あとがき
 何この潤の反応、引くわあ……(ドン引き)。あ、どうもゆっくりいんです。
 当初の予定ではもうちょい対立構図を出すつもりだったんですが……何かからかい癖のあるクラスメイトと後輩にからかわれるキャラみたいになっちまいました、違和感がすげえ(白目)
 さて、次回はいい加減ラスト、ジーサードリーグとの総力戦になります。一部M○みたいだったり超野菜人みたいな戦闘になる予定ですが、大丈夫な方は一緒に逝きましょう(白目)
 では、今回はここまでです。感想・評価・お気に入り・誤字脱字訂正など一言でも何かいただければとてもありがたいです。
 それでは読んでいただき、ありがとうございました

 
PS
アズレンの開発ドックで本気になってしまいました、投稿遅くなって許してヒヤシンス(汗 
 
 


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第四話 欲を出すときりがない(後編)

「ねーユーくん、武器貸してよマジックアイテム的なの。めーちゃんと戦うにはちょっと火力不足だし」
「……おう、ちょっと待ってろ」
「まーだ恥ずかしがってるのー? ……一日過ぎてもそーいう態度だと、りこりん嬉し恥ずかしで更に可愛がりたくなるんですが」
「文句ならかなめに言え……『今のお兄ちゃんだと三日は解除できないよ! あー見れないのが勿体無いなー』って言われたんだぞ。
 頭の周りは鈍いし、かなえさんのとこに行ってるメヌにばれたらどんなことされ――」
「ふむ、では小舞曲(メヌエット)のステップの如く順を追って産業で説明しましょう。
 ジュンは今、かなめにナニかされたようです。
その結果、人間らしいせ「オイ女子」欲求と感性が戻ってきました。寧ろ封じてた分滅茶苦茶焦る素人なんちゃらです。
 というわけで白雪とリサ、今行けばお顔真っ赤のジュンが見れるわよ」
「ジュンちゃん、ちょっとごめんね!」「ご主人様、失礼します!」
「おいちょ、お前ら!?」
「おー、ホントに顔真っ赤にしてるわね……アレね、ジュンが可愛く感じられて気持ち悪いわ」
「じゃあ見るなよパートナー!?」
「だが断る。メヌ、撮影準備よ」
「既にやってますよお姉様。バカみたいに焦るジュン……いいわ」
「聞けや愉悦姉ま「アタシはそこまで趣味悪くないわよ!?」知るか!?」
「潤ちゃんごめんね、でも潤ちゃんにそういう目で見られてるって実感できると嬉しくて……!」
「ご主人様、リサは今とても嬉しゅうございます……!」
「そんなんで喜ぶなよ!? やーめーろー、色々当たってて気まずいから!!」
「「一向に構わないです!!」」
「これぞ愉悦ね」
「メヌ、アンタも抱きつけばもっといいものが見れるんじゃないかしら?」
「お姉様ナイスアイディアです。ではジュン、正面から失礼して。……あら、これはこれは」
「何もなってねえよ!? 意味深に下半身を見るな!」
「いやー、今のユーくんを女装させたら最高に萌えると思わねーですかレキュ?」
「ご安心を、既に描いてます。久々に本気を出す時と判断しました」
「GJ!」
「いい加減にしろやああああああ!!!!!」
 

長い


「おう、来たか遠山じゅ……なんかゲッソリしてんな」

「頼むから聞かないでくれ……」

「お、おう……何か哀れな気がするし、聞かないでおくわ」

 やめろ、同情はいらないから見るな、こっち見んな。俺はもう疲れたんだよパト○ッシュ……あ、どうも遠山潤です。さっき愉悦の玩具にされました(白目)

本日十月三十一日、ジーサードリーグとの決戦である。正直提案する方もアホだが、ノリノリの俺達もアホだろう。双方ボロボロになって漁夫の利狙われたらどうするんだろうな、まあ近くに敵の気配はないけどさ。

ハロウィンだからか、双方示し合わせたかのように仮装している。ジーサードもフランケンシュタインっぽいし、その隣には――

「おっにいちゃーん!」

 ワンピースで人狼コスプレのかなめがこちらに向かって突撃してきた。

ヒョイ

無論最低限横に動いて回避するが、

「会いたかったよー!」ギュン!!

「ドーベン!?」

 猛スピードのまま直角に曲がってきた。チクショウ予測ミスった!

「しばらくぶりでさみしかったよ~」

「一日も経ってないだろうが……ていうか今は敵同士なんだから離れろ」

「んー? もしかして恥ずかしいのかな? かなめワンちゃんだぞ~、ガオー♪」

 服越しに感じる金属のせいで警戒はしてるよ。こいつあざとい見た目の割にフル武装で来てやがるな。

「あ、お菓子いらないからイタズラさせて♪」

「よし帰れ」

めんどくさくなったので放り投げ(「いやーん♪」とか言ってるが無視だ無視)、ジーサードに向き直る。

「で、決闘の内容を確認するぞジーサード。

 両チームでの総力戦、勝敗はどっちかが全員倒れるまで、敗者は勝者のチームに組み込まれる――これでいいんだな?」

「ああ、合ってるぜ。フォースも「か・な・め!」耳元でデカイ声出すな!

 ……かなめもお前のことを気に入ってるみたいだしな、一々まどろっこしく話すより殴り合って奪う方が速いし、シンプルでいいだろ?」

「後腐れはないが、脳筋か戦争屋みたいな発想だなオイ」

「ハ! こいつは『戦争』じゃなくて『戦役』なんだぜ? わざわざ代表戦士(レフェレンデ)なんて用意する『遊び』なんだし、欲しけりゃ殴り合えってことだろ」

「血の気の多いこって」

 まあ嫌いじゃないがな。背負った棺桶型の武装を地面に叩きつけると、ジーサードもニヤリと笑って右腕を鳴らす。そういや左は義手だったな。

「で、俺のお相手は誰がしてくれるんだ? 何なら全員相手でも構わないぜェ?」

「何のために部下連れてきたんだよ。アリア、ゴー」

「え、アタシ!? アンタがジーサードとやり合うんじゃないの!?」

 指名されると思ってなかったのか、ビックリ顔の妖精衣装なアリア。いやだってねえ、

「ジーサードは近接型の高火力系、殴り合うなら相応の力がいるだろ。目には目を、だ」

「アタシがバ火力だと言いたいか」

「どっちかっつーとキチっテルミ!?」

 綺麗な右フックが顔面に入った。おおお、視界が揺れるう……

「自業自得でしょ。っていうか近接なら白雪か理子でもいいじゃない」

「白雪は対超能力(ステルス)要因だ、お前搦め手苦手だろ。理子は対かなめだけど、代わりたいなら言ってくれ」

「いつの間に決めたのよアイツ」

 

 

「ふふーふ、フル火力で恥ずかしい姿にしてあげるよ理子お姉ちゃん」ガシャガシャ

「くふーふ、返り討ちにしてりこりんファッションショーに強制参加だよめーちゃん」ジャキジャキ

 

 

「……サード相手にするわ」

「そうしてくれ」

 まあ銃器(多分ビーム系)+四枚のサイドバインダーでフルアーマーのかなめと、爆発物・ショットガン・(貸してやった)魔導具で全身兵器の理子を見たら、誰だってそうなるわな。つーかよく動けるなあいつら。

「普段からフル武装のユーくんが言うセリフじゃないと思いまーす」

「お兄ちゃん過剰武装って領域を超えてるよね」

 いいんだよ足遅いだけだから(何)

メインの相手が決まり、残ったメンバーもそれぞれ対峙する。ワンピース型天使ルックスの白雪はフルアーマーで声のでかい男アトラス、そして俺は赤と青の瞳を持つ虹彩異色の銀髪少女、ロカと妖狐の九九藻だ。

「ふうん、アンタが遠山ジュンね。かなめから話は聞いてるわ、ロカよ」

「同じく九九藻と申します」

 ロカは興味深げにこちらをしげしげと眺め、九九藻は何故か俺に敬意のこもった挨拶をする。ちなみに前者は魔女、後者はエプロンメイドのコスプレ――マテ何だ後者。

「どーも、遠山潤だ。それにしても、超能力組は白雪に当てられると思ったんだが」

「アトラスじゃお前に翻弄されそうだからこその編成だよ。まさか二対一が卑怯だなんて言わないわよね?」

「言うわけないだろ、寧ろ前線メンバーの数を合わせてきたジーサードの酔狂さに驚いてるわ」

「サード様は律儀な方ですから。決闘と言った以上、必要以上の人数を嫌がったのです」

「それで損しないといいけどな。ところで九九藻、さん? 何で俺に敬語?」

「サード様のお兄様であり、サード様が認めている方なら当然かと」

 なるほど分からん。

「諦めなよ遠山ジュン、この子ずっとこの調子だし。

 で、お前は仮装の一つもしないのかい? 日本人(японский)は周囲に合わせる民族って聞いたんだけど」

「ん? ああ、仮装ね」

 言われて突き刺した棺桶を蹴飛ばす。すると中から明らかに人間サイズでない二挺の大型拳銃が出てきて、本体部分は分離しボロボロのコート、肩周りを浮遊する鎖となり、一部赤黒く染まった白い仮面を顔に取り付ける。

『衣装兼試作品の魔導具、『刈銃(かいじゅう)』だ。実戦テストは始めてなんでな、付き合ってもらうぜ?』

 銃の先端を突き付ける。外装をこれにした理由? ただの趣味です(真顔)

 しかし何故かロカは大変微妙な顔で、

「いや、カッコつけてるところ申し訳ないんだけどさ……昨日の醜態を誤魔化すために、わざと大袈裟なことしてるの丸分かりだからね?」

「わざわざ口に出さんでもええわ!!?」

 頼むから空気読めよ!? まさかかなめの奴喋って――違うコイツ思考が読め「そうよ」チクショウ読心対処もボロボロかよ!

「あ、あのジュン様、かなでと禁断の仲に発展したというのは本当のことで……」

「なんでこのタイミングで聞くのお前!?」

 あるわけねえだろ常考!! ……あってたま「あと一歩だったんだけどねー」うるせえさっさと戦え!!(動揺)

 

 はろはろー、ユーくんの悶える姿をずっと眺めていたいりこりんだよー! こっち見ずに銃口向けられたから諦めたけどね!(泣)

「余所見とは余裕だね理子お姉ちゃん!」

 喋りつつめーちゃんが手持ちの銃からビーム(多分科学と超能力のハイブリッド)が発射された。はや!? だがイナバウ○ー、からのルガーP08(ユーくんの借りた、旧式拳銃に見せかけた魔導具)からウオーターカッター!

「ユーくんの方は見ざるを得ないんだよ!」

「それは確かに!」

喋りながらめーちゃんのサイドバインダーから出てきたファン○ルが攻撃を防ぐ。今度はビームシールド!?

「かがくのちからってすげー!」

「お兄ちゃんが魔術メインで、私は科学メインのハイブリッドだからね! ビーム兵器くらい訳ないですよってあぶなぁ!?」

 ちぃ、死角からの光線を避けますか!

「発射寸前まで気配を消してたのにやりますなめーちゃん!」

「気配には敏感なんですよ理子お姉ちゃん!」

「おっと敏感とは意味深な匂いがしますな!」

「お兄ちゃんに色々されちゃったので!」

「オイ潤妹に何してるんだあ!?」

「何もしてねえよ!? 寧ろ俺が敏感にされたわ!」

「「ヤッタゼ!!」」

「何喜んでんだお前らあ!!」

 いやこれは喜ばざるを得な――あぶな!? ちょっとこっちにマハラギ○イン飛ばさない「デンバー!?」あ、ロカっちのサイコキネシスでユーくん吹っ飛んだー!

「いくらなんでも気が散りすぎじゃない、遠山(チェリーボーイ)!」

「うるせえ事実だけどその呼び方やめろ!」

「隙有りです!」

「あるけどねえよ!」

 いやどっちなのさ(←元凶)

とまあ向こうはgdgdだけど、それでも遠距離のロカ、近距離のツクモという二人をまとめて相手にするユーくん(刈り取る○のスタイル)は流石だねー。手数と技の多さなら理子達も負けてないもんね! 具体的に言うと一秒でビームと魔術が百単位でぶつかり合ってる状態です!

「ふふふ、流石だね理子お姉ちゃん! もう手数ならお兄ちゃんにも負けないんじゃないかな!?」

「くふふー、お褒めいただき恐悦至極だよめーちゃん! でも残念、手札の数がまだまだ及ばないんだよねー!」

 本気で殺り合えばまだユーくんには敵わないだろうけど、敵対する気は(今のところ)ないから大丈夫だね! 別の意味では殺してというか射止めてやりたいけど!

「キリないからこっからは接近戦じゃー!」

「よっしゃ来い来い! 理子のタクティカルナイフは108本まであるぞ!」

「煩悩の塊だね、多すぎないかな!?」

 煩悩が死んだら理子は生きていけないのです!(マジ顔)

そうして向こうは六刀流ビームサーベル、理子は髪の毛に絡めた108本のタクティカルナイフでぶつかる――直前に大量の手持ちフレジェット弾(『貫通』の魔術式付与)をシューーーーート!!!!

「さすがにワンパターンだよ!!」

 叫びながらめーちゃんはファンネ○・バリアーを展開し、接触する――

 ゴオゥ!!!

「ルックミー!?」

「ミデア!?」

 直前、横からの衝撃波で理子達吹っ飛ばされたー!!

え、というか何!? 理子達どころかフレジェット弾も吹っ飛んだし、めーちゃんに至ってはシールドごと吹っ飛んだんだけど!?

……まありこりん分かってるんだけどね。だってちょうど横で、

「ふんっ!」

「オラァ!」

 ……サイ○人? と言いたくなる戦いを繰り広げてる、アリアんとGⅢがいるんだし。一発一発の攻撃で相殺しきれない衝撃が余波で飛んでくるとかどんだけー。ちなみに理子達はそれで吹っ飛ばされた、近寄りたくないね!(汗)

「……よっしゃ、仕切りなおして今度こそりこりん必殺カラフルレーザーを」

「なにをー、それならこのガトリングミサイルで」

「「マジメにやれ!!」」「「クウラ!?」」

 アリアんとGⅢの蹴りがそれぞれの味方に入って吹っ飛ばされたー! 

じゃなくて流石に酷くない!? 理子達は(ネタ技を使うのに)必死なのに! というか何でそんなに息が合ってるのさ二人とも! もうケッコンしちゃえよ!(何)

 苛立ちが募る。感情を抑えるのに分割思考を二つも割いている現状が。

しかも、完全に抑え切れていない。戦闘中の余分な情念は、射撃精度を確実に落とし隙を作っていく。

「文字通り、動揺が手に取るように分かるわね。そんな読みやすい弾丸、当たらないし」

「お覚悟!」

「っ、チッ!」

 空間歪曲による圧縮を避けるも、ツクモの金属並に硬化した尾の追撃を後退。かわしきれず左腕を浅く斬り付けられる。戦闘に支障はないが、傷の治りが遅い。尻尾の付与能力だろう。

ロカとツクモの連携は巧みで、遠近の攻撃が絶え間なく降り注いでくる。普段なら、連携の隙や穴を突いて反撃するのだが、

「クソがぁ!!」

 銃口から放たれるのは、空間爆発――マ○ラギダイン。しかし、これも避けられてしまう。

……思考の猥雑化による反応・射出速度の低下。通常より遥かに遅れているのは、格上二人相手に致命的だろう。

「ぐっ!」

 命中どころか反撃を受けている。致命傷は避けているが、ダメージの蓄積は無視できない。

「フォース「か・な・め!!」ああもううるさいな、かなめの干渉は予想以上に効いてるみたい「そんなつもりなかったけどね!」戦いに集中しなさい!」

「ロカ、あなたも他人の事言えないわよ。とはいえ潤様、サード様のためにも勝たせていただきます!」

「――――」

 会話を耳に入れつつも、苛立ちは加速度的に増していく。千々に乱れた思考、予測以下の反応力、干渉防御のお粗末さ、そして何より――情念に振り回される自分。ガリガリと、脳を徐々に削られていくような感覚。

なんだこれは? なんだこれは? なんだこれは?

敗北は構わない。勝利に絶対はないし、負けることなど珍しいことではない。

弱者であるのも構わない。自身が凡百なのは分かりきっていることなのだから。

だが――『常に全力を出せる状態』でないなど、許せる訳がない。俺の武器は冷酷なまでの思考力、それを無くしてしまうなど――

バカ二人のSFモドキ合戦も、超人達の殴りあいも、今は意識の彼方。再度諦めず感情を制御しようとするが、

「――――!!!! アアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 阻害してくる本能に、何かがキレた。

「え、何、これ……?」

 ツクモが魔力の集中を感じたのか、怯えた表情になる。だが、そんなのどうでもいい――

 目を見開き、銃口を天に向ける。

「メギ――」

 今はとにかく、

「ドラ――」

 この纏わり付いてくるものを、

「オォン!!」

 一切合切吐きつくせ!!

放たれるのは、極光の玉。それは天から地へと高速で落ちていき、

「え、ちょ――」

何か言おうとしたロカとツクモを飲み込み、破裂した。

「…………あー、スッキリした」

 どうも、遠山潤です(遅)

 結論から言うと、メギド○オンで空き地島の半分が吹っ飛んだ。これでも範囲絞ったし、まあ――

「小さい被害で済まされないでしょ!?」

 あ、ロカ生きてた。いや非殺傷設定だから死ぬわけないんだけど。ツクモは気絶してるな、ボロボロになってらあ。

「喰らった時走馬灯が見えたわ! お前、何考えてあんなものぶっ放したの!?」

「イライラしてたからぶっぱした、後悔も反省もしていない」

 実際大分スッキリしたし。ストレス溜まった人間が叫びたくなる気持ち、今なら共感出来るだろう。

「傍迷惑な……」

「妹を送り込んできたお前らに言われたくない。で、まだ続けるのか?」

「あれはかなめの提案だから……負けでいいわよ、こんだけボロボロな上ツクモもやられたし」

 お手上げ、と降参の意を示す。なんだ、もう一発ぶっ放してやろうと思ったのに。

「イーヤー!」

「グーワー!?」

 理子達も勝敗付いたか。理子の魔槍がかなめの武装を貫き、かなめのミサイルが魔導具を破壊した。引き分けか、しかし何だその叫び声。

超人二人はアリアの勝ちで終わっている。俺が発狂(咆哮)した際に必殺技の打ち合いしてたしな。お互いボロボロだけど。

白雪? 速攻でアンガスとかいう奴の強化プロテクターぶっ壊してたぞ。鉄くらい余裕で斬れる白雪には最高の相手だわな。

「おうGⅢ、死んでる? 勝負は俺達の勝ちでいいよな」

「生きてるっつのバカヤロウ……チッ、全員ダメならどうしようもねえな。負けってことにしてやらあ」

 仰向けに倒れたまま、渋々敗北宣言をするGⅢ。その割には楽しそうな顔してるけどな、少年漫画のキャラみたいなやつだ。

「ヤッタゼユーくん、イエーイ!」

「お兄ちゃんイエーイ!」

「イエーイ!!」

「いやなんでかなめまで混じってるのよ!?」

「まあ私的にはどちらでも良かったので。アリアお姉ちゃん大丈夫?」

「大丈夫じゃないわよ、あちこち痛いっての……アンタんとこのリーダー、女相手に容赦なくボコボコ殴ってくるんだもの」

「ハッ、女扱いされたいなら腕力と背丈をどうにかするんだな」

「誰がチビゴリラよ脳味噌ゴリラ!」

「ンダとコラ! 言ってねえし脳筋直感ヤロウに言われたくねえよ!」

「ハア!? 脳筋に脳筋とか言われたくないわよ!」

 ……なんか小学生並のやりとりで喧嘩してるな。まあ楽しそうだしいいか。

「とーりーあーえーずー。これで私はお兄ちゃんのものだねー?」

「……いきなりくっつくな」

「おー、お兄ちゃん照れてる?」

「はいはいめーちゃん、負け犬は指をくわえてりこりんとユーくんのイチャイチャシーンを見ててねー。ユキちゃん、ゴー」

「う、うん。かなめちゃんごめんね?」

「ふふ、白雪お姉ちゃんとはいえ簡単に――離された!? 何その体術!?」

「星伽の基本護身術だよ。じゃ、じゃあ潤ちゃん、失礼します……」

「お、お前ら……」

「んー? なーにユーくん? いつもなら抱きつくくらいへっちゃらだよねー?」

「……」

「おー、ユーくんかおま」「ガアアアアァァァ!!!」「ほぇ!?」

「じゅ、潤ちゃん!?」

 叫んだ際に驚いて離れた二人にこれ幸い。俺は全力で――

「逃げるんだよお!」

 どこに? 知るか!!(マジ顔)

 

 

おまけ

「あらあら、あんな状態のジュンに迫ったら予測できるでしょうに……理子も白雪も浮かれてるみたいですねえ、ジュンがかわいそうだわ」

「メヌ様、グラス片手に愉悦の笑みを浮かべながらだと完全に外道ですよ」

「でもリサ、見てて面白いでしょう?」

「あのご主人様はかわいいと思います」(真顔)




登場人物紹介
遠山潤
 ヒロインに迫られて全力逃走するとかいつの主人公だよと言いたくなった。多分今回の件は黒歴史扱いされると思う。


神崎・H・アリア
 スーパー緋々色人。ちなみに最初はGⅢとの戦闘を描写していたが、面白くないので没に(銃声)


峰理子
 高火力魔術師スタイル。ふざけているが一秒に数百発の魔術が飛び交っているガチの戦場になっていた。


メヌエット・ホームズ
 至極愉悦。


遠山かなめ
 高火力SFスタイル。潤に関しては「ちょっとやりすぎた。反省はしてるけどお兄ちゃん可愛かった」とのこと。


GⅢ
 スーパー人工天才。超能力一切なしでアリア以上の火力を出していたので、ある意味一番のヤバイキャラかもしれない。


ロカ・ツクモ
 技とか能力がほぼオリジナルのキャラ。口調すらちゃんと合ってるのか不安。


後書き
爆発オチなんてサイテー! 違うんだ、ああしないと締まらなかったんだ……(言い訳)
というわけでどうも、ゆっくりいんです。戦闘シーンというより怪獣総決戦でしたが……うん、ウチのアリアはどこにいくんでしょうね(知らん)
そして潤はどこに行ってしまったのか!?(知らん)
次回は外伝の予定です。カワイイあの子が主人公の悩みを解決する……かも?(作者主観)
 感想・評価・誤字訂正、お待ちしてます。

PS 二ヶ月前に出したつもりのものを放置していました。外伝と順番が前後してしまい、マジですいませんorz


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外伝 悩んでる時点で袋小路

アリア(以下ア)「さて、長い間サボってたバカ作者はどこいったのかし」
作者「――」チーン
ア「……何これ? 完全に死んでるんだけど」
メヌ(以下メ)「お姉様、作者はリアル事情で死んでるだけですわ」
ア「だけって……というかリアル事情は基本話さない方針じゃなかったの?」
メ「それだけ余裕が無いということです。仕事行っては少し休んで寝て、また仕事行くサイクルだそうですよ?」
ア「転生都市とか他の二次創作も書いてたじゃない」
作「ああでもやってないと死にそうだった……」ゲボァ
ア「……ああうん、とりあえずしばき倒すのは勘弁してあげましょうか」
メ「さすがお姉様、優しいですね。私ならトドメを刺しにいきますが」
ア「そこまでやっても得が無いでしょ……ん? 何か書いてあるわね」
『亜種新宿はとうとい』(血文字)
ア「知るか!? やっぱ遊んでたんじゃないの!?」ゲシッ
作「グボァ!?」
 お待たせして申し訳ありませんでしたorz


「……どこだここ」

 どうも、遠山潤です。GⅢリーグとの決闘から一夜明け、今まで無我夢中に走ってきたのだが……どこへ行くか考えてなかった。西に向かったのは間違いないんだが。

 現在時刻は朝の六時。当たり前だが店や家屋のほとんどは閉まっており、コンビニの光が目に入るくらい。とりあえず近くの案内図を見てみると、

「わあお、京都じゃん」

 まさかの京都再びである。一晩でどんだけ走ってたんだよ俺、疲れてないから別にいいけどさ。

 とりあえず腹も減ったので、コンビニで箱買いしたブラック○ンダーをもっきゅもっきゅしつつ(白雪がいたら確実に注意されるな)、これからどうするべと考えていたら、

「え? 潤義兄様!?」

「……おおう」

 コンビニに入ろうとしてた風雪(by私服姿)とエンカウントした。朝早いのねお前さん、というか何をこそこそしてるのよ。

 

 

「すいません潤義兄様、妹達の分まで選んでいただいた上に、荷物持ちまでしてもらって……」

「いーよ気にすんな、俺も食いたくなったし」

「丸一箱でまだ足りないのですか……? じゃあ、義兄様の分を多めにしますので」

「いや、自分の分はあるから気にしなくていいぞ? 気にせず食いなさいな」

「……買ってから、カロリーが気になってしまって……」

「姉妹共通の悩みだな」

 食った分動けばいいと思うんだがなあと思いつつ、風雪と並んで早朝の街並を歩いていく。

「それにしても、食べ歩き……この発想はありませんでした。少々はしたないですが、これなら周りの目を気にせず食べられます。流石は潤義兄様」

「京都なら団子の食べ歩きはありそうなもんだが」

「? お団子は座って食べるものではないですか?」

 やだこの子、育ちがいい。とりあえずエクレアを差し出すと、そのまま食べてクールな顔がふにゃりと笑顔になる。何か餌付けしてる気分。

「しかし、風雪だけじゃなく妹までコンビニスイーツにハマるとは」

「以前義兄様や姉様、粉雪と一緒にコンビニへ寄った時、気になってしまって……こっそり抜け出して買ってみたら、トリコになってしまいました」

「……こっそり抜け出さなくてもいいんじゃねえの?」

「星伽では、こういう場所に近付くのは良く思われないので……」

 どんだけだよ星伽の大人達。めんど、いや厳しいって言っても限度があるだろうに。

 道理でこんな時間にこっそり出てくる訳だわ。姉妹の分も合わせて大量のスイーツを買ったら、店員さんがギョッとしてたけど。

「風雪、こっちのチーズケーキもいけるぞ」

「はい、いただきます。……潤義兄様、何かお悩みですか?」

 チーズケーキをぱくつきながら、風雪は俺の方を見て小首を傾げる。

「あー……分かる?」

「はい、なんとなくですが。いつもの潤義兄様らしくない気がします」

「参考までに、普段の俺はどんな感じよ」

「いつも積極的で、私達を導いてくださる方です」

 何だその異様に美化された存在。俺はもっと気まぐれだぞ。

「私からそう見えるだけですよ。今日の潤義兄様は、迷っている様子なので……私で良ければ、相談に乗りますよ?」

「んー……」

 申し出はありがたいが、忙しい風雪に言うのもどうかと思う。でも姉と同じく頑固なところがあるし、意地でも聞き出したがるだろうなあ。

「……神社に着いたら、ちょいと聞いてもらえるか?」

「! はい、お任せください! 私がズバッと解決して差し上げます!」

「いや普通に解決してくれよ」

 キャラ変わってるぞお前。まあ良く出来た妹(義理候補)だよ。

 

 

「私以外の優れた妹など存在しねえ!!」

「ほわ!? ……ほああ、どしたのめーちゃん」

「怨敵がお兄ちゃんに褒められてる気配がしたので」

「寝てても反応するとか、妹センサーすげぇ……」

「24時間365日、お兄ちゃんに関することならどんなことでも感じ取れるのデスフォッグ!?」

「うるっさいわよ朝っぱらから騒ぐな!!」

「寝起きのアリアんは三倍凶暴……」スヤァ

(起きたら〆てやる)

 

 

 山上の星伽分社へ到着し、シスターズ(粉雪より下の三人)にこっそり買ったお菓子を渡してのち。俺は風雪が自室として使っている離れに案内され、緑茶片手にコンビニスイーツを堪能している。

「……なるほど、お話は分かりました。とりあえず、義兄様をこんな風にした自称妹のアノ野郎をぶちのめせばいいんですね」

「発想が飛びすぎだろ、落ち着け義妹(いもうと)

 また人様に見せられない顔になってるぞ、クール系美人どこいった。あと、あの堕妹(バカタレ)は俺がぶっ飛ばすから(真顔)

「……すいません、取り乱しました。では、義兄様は今、その……女性に対して、人並の反応を示す、のですか?」

 赤くなって顔を伏し気味にしつつも、私気になりますな視線を送ってくる風雪。うん、狙ってないのが余計あざと――違う、そうじゃねえ。

「……あーまあ、人並というか、年相応の反応は示してるんじゃないか? メヌの奴は『完全にDTの反応ですね』とか言いやがったが。

 式はいくらか戻したけど、まだ完全じゃないし」

「……」ツツツ

 そんな遠慮がちに手を伸ばされても。

「……触れたきゃ好きにしていいぞ。理子とか白雪で色々諦めがついたし、こんな俺が見られるのは最初で最後かもしれんしな」

 思わず溜息が出てしまう。どうせ避けようとしても、思考が煩雑化してて未来予測がまともに出来んしな。寧ろ素の状態で女に慣れるチャンスと思おう(ヤケクソ)

 だが風雪はハッとした顔になり、手を引っ込める。

「……すいません、潤義兄様。危うく欲望に負けて、手を出してしまうところでした」

「俺は許可を出したんだが」

「許しがあるからしていい訳ではありません。気にならないといえば嘘になりますが、義兄様の嫌がることを、私はしたくないです」

 風雪は正座のまま一歩下がり、「申し訳ありませんでした」と頭を下げる。欲望丸出しなウチの連中とは大違いだな。

「……配慮はありがたいが、真面目すぎると損するぞ?」

「今は退くべきだと判断したので」

「そうかい」

 妹分に気を遣われた事実に礼の言葉が出ず、苦笑になってしまった。いやはや、情けない限りで。

「お気になさらないでください、義兄様が辛い時に支えるのも、義妹(いもうと)の勤めです」

「姉は暴走気味にくっついてきたけどな」

「白雪姉様は普段慎ましい分、ここぞという時に抑えが効かなくなってしまいますから」

 オイお姉ちゃん、妹に冷静な分析食らってるぞ。

「潤義兄様。今回の件に関して、私なりに意見を申してもよろしいでしょうか?」

「いや、そんな畏まった言い方せんでいいよ。こっちからお願いしたいくらいだし」

 正直、自分の中でも即断即決出来ないのだ。どう付き合うか、あるいは対処するか。それすら迷っている。

「はい、では。とりあえず、あの自称妹とは縁を切った方がいいかと」

「いや極端すぎるだろ」

「すいません、本音が出ました」

 

 

「お前がどっかいけ清楚モドキぃ!!?」

「……今日のめーちゃんは荒れてるねえ」

「いつものことでしょ、急におかしくなるのは」

「アリアお姉ちゃん、私の扱いが雑じゃない!?」

バカ(ジュン)の妹だし妥当でしょ」

「なら良し!」

(言っといてなんだけど、それでいいのね)

 

 

「コホン、では改めて。……今回味わったものは、義兄様にとって忌むべきものだと思います。ですが、その感覚を抹消すべきではないかと」

「……魔術式による欲求の変換は、やめろってことか?」

「いえ、それは潤義兄様の判断次第です。武偵のお仕事に支障があってはいけませんし、部外者がどうこういうのは間違いですから。

 私が言いたいのはこの感覚を無視せず、向き合うべきだということです」

「向き合う、ねえ。……なあ風雪。今までの俺は、無視という形で『逃げてた』のかね?」

「……私からはなんとも。潤義兄様が過去何を思ってそうしたのか、分かりませんから。

 ただ、その……向き合っていただければ、それは嬉しいことだと思います。白雪姉様も、何より峰様も」

 そして、私も。そう言って、風雪は穏やかに微笑んだ。まるでどんな選択肢でも受け入れる、と言わんばかりに。

「そこで一番が姉じゃなく理子なのか」

「私から見ても、潤義兄様と峰様は一番近しいと思いますよ? ……せ、接吻もされたみたいですし」

「オイマテそれどこで聞いた」

「白雪お姉様がLI○Eで、それはそれは悔しそうに」

 何妹にさらっと教えてるんだお姉ちゃん、そもそもアレは医療行為だっつの(ガチ)

「……まあ、アイツは(バカを一緒にやると言う意味で)他の奴等とは違うけどよ」

「ふふ、ご自分では理解出来ない部分もあるのですよ」

「そーいうもんか」

「そういうものです」

 笑顔で断言されては返しようがないので、シュークリームに手を伸ばして無言を貫くことにする。風雪からは優しげに見られてしまったが。

「……まあ。妹分にそこまで言われたなら、ちゃんと考えてみますかね。風雪」

「はい、なんでしょ――ひゃっ?」

「ありがとな」

 対面に座る風雪を、包むように抱きしめる。今は感覚がアレになってるが、礼にはなるのかねえ。

「……」

「……かはは、やっぱり慣れねえな」

 腕の中で真っ赤になって黙ってしまった風雪を離し、誤魔化し笑いを浮かべたが……何か様子がおかしいな。

「ああ、ダメです潤義兄様、それはずるいです卑怯です素敵すぎます……お姉様より先にお手を出してもらわないと誓っているのに、幸せすぎて私破ってしまいそうです……」

「風雪? おーい風雪? ……ダメだ、トリップしちまった」

 こういうところは姉と一緒なのな。あと妙な誓いを聞いた気がするんだが、スルーした方がいいんだろうか。

 

 

 魔術師にとって情欲とは害の類。

 そう思ってきたし、相棒もそうだった。俺達は『家族』だったが、突き詰めれば『一人』であり、そうあるべきだ。そう生きてきたし、欲に触れて死んだ奴を何人も見てきた。

 それは武偵になった今でも変わらない。ガキの頃に根付いた価値観はそう変わらないし、恋というものを理解は出来ても共感は出来ない。自分と同等かそれ以上の『大切なもの』なんて持ってしまったら、それこそ致命的なものになりかねない。

 ……だが、今は違う。アイツ等は最低とも言える俺の在り方を理解し、それでも諦めず慕っている。……そして俺自身、想われるのを悪くないと思っている部分がある。

 ならば結末がどうであれ、向き合うべきなんだろう。俺自身のことも、あいつ等のことも。

「ま、結局はきちんと考えて、ほったらかしにせず答えろってことなんだろうな」

 理子のヘタレを笑えんねえ。苦笑しながら、俺は星伽の山門をゆっくりと下る。とりあえずは、あいつ等のいる寮に帰るかね。

 

 

おまけ1

『潤義兄様に抱きしめられて幸せすぎてどうにかなりそうですお姉様』

『!?!?!?!?!?!?!?!?!?』

 

 

おまけ2

「たでーまー」

「あ、お兄ちゃん! おかえりー、遅かった、ね……」

「お、かなめか。ちょうど良かったわ」ジャキィ

「……お兄ちゃん、それはナンデスカ?」

「『フェアルング』っていう自作のバズーカ砲だが」

「いや名前聞いてるんじゃないんですけど!? ナズェワタシニムケテルンデスカ!?」

「理由がないとでも?」ニッコリ

「ちょ、ちょっと待ってお兄ちゃん! 謝る、色々解放しちゃったこと謝るし、理子お姉ちゃんたちを煽ったのも謝るからそれはさすがに――」

「はいドーン」

「うわあい聞いてくれなあ『ヒーホー!』ジャックフロスト!?」

「よし、オチは着いたな」

「帰って早々何してんのよアンタは……」

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 発狂して京都まで来た、三大欲求に悩む絶食系(偽)。妹分に相談した結果、恋愛ルートの可能性が出てきた模様。
余談だが、『フェアルング』の中身からはアレなものかマスコット形のものが出てくる。痛いけどダメージはない。


星伽風雪
 悩める潤の相談役。真面目なのに許容量が大きいクールキャラ。ただし自称妹、オメーはダメだ。
潤に抱きしめられた後、しばらく幸せスパイラルでバグっていた模様。男性に対する免疫はほぼない。


遠山かなめ
 お兄ちゃんセンサーの精度はバツグン通り越して異常。なお、何回か変なのをぶつけられて許された。


後書き
 というわけで皆さんお久しぶりです、今までで一番お待たせしましたorz
今回は潤君再び京都へということで、出張中の風雪とエンカウントしました。別に原作で出たシーンを忘れてたから、今やったとかはないです。ホントですよ?(目逸らし)
次回からは第九章『邂逅と懐郷』編をお送りします。潤の中学時代について色々触れられるかと。前書きの通り、リアルが忙しいので次回がいつになるかは分かりませんが……気長に待っていただけるとありがたいです(汗
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、何かあれば嬉しいです。
 





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『帰省・回想』編
第一話 帰省ってもっと落ち着いた感じじゃなかったっけ


アリア(以下『ア』)「」ギリギリギリギリギリギリ
作者(以下『作』)「アリアさん痛い、痛いですマジで。頭砕けそうなんで勘弁してください。というかジャンヌさんどうしたんですか」
ア「人の顔見るなり逃げ出したわよ、失礼な奴よね」
作(無理ないんじゃないですかねえ、片手で男一人をフェイスクラッシャーしながら持ち上げる合法ロリがいたら)
ア「だぁれがゴリラも裸足で逃げ出すマッチョツルペタロリよ!!?」ギギギギギ
作「言ってないでぎゃああああ痛い痛いイタイ!? 頭パーンして死にますから!? そもそもなんでこんな目にあってるんですか!?」
ア「加減してるから砕けないわよ!」
作(加減しないと砕けるの……!?)
ア「それより亀更新と言っても限度があるでしょうが! 十一月になったら時間出来るとか言ってた癖に、何してたのよ!?」
作「TRPG楽しいででででで!?」
ア「遺言言ったら風穴ァ!」
作「サタスペは、いいぞ」ドヤァ
ア「風穴フォールアウト!!」ドゴォン!!
作「イヌガミ!?」
ア「……ブラドみたいになっちゃったわね」
ジャンヌ(やはり神崎・H・アリアはヤバイ……関わりたくない)ブルブル
 毎度毎度スイマセンデシタorz
では改めて第九章『帰省・回想』編、お送りします。




「ただいまおっにいちゃーん! 私を受け止めろー!!」

「おう、お帰り」ヒョイ

「スルーしないでキャッチ&ハグして!? 妹の愛を受け入れて!」

「家族愛と近親愛がごっちゃになった危険物なんて誰が受け止めるか」

「近愛って書くとそれっぽいよね!」

 禁愛にしとけ。どうも、遠山潤です。押し掛け妹と暮らし始めて二週間、突撃されるのにも慣れてきました。ただし理子、オメーは二人揃って来るな。

「えー、めーちゃんと一緒に挟み撃ちにしてるだけじゃーん」

「跳躍したところでクロスカウンターよろしく捕縛されるとか意味わかんねえよ」

「「ユーくん(お兄ちゃん)の事は何でも知ってるからね!」」

「1ナノも嬉しくねえ」

 最近、かなめは理子の妹なんじゃないかと思い始めてきた。

「なぬぇ!? つまりりこりんにも待望の妹が」

「いいや理子お姉ちゃん、実はかなめは未来から来た二人の娘なんだよ!!」

「「「な、なんだってーー!?」」」

 何トンデモなホラ吹いて、

「潤ちゃん、潤ちゃんは理子さんを選んだあいた!?」

「ご主人様、理子様が嫁でもリサはご主人様のお傍に仕えてますよはうっ!?」

「真に受けるなっての」

 寧ろなんで信じた。思わずチョップしちまったよ。

「大丈夫だよユキちゃんリサ、めーちゃんが妹というアイデンティティーを捨てる訳がない!」

「さっすが理子お姉ちゃん、よく分かってるー!」

「うわあ、どうでもいいけどすげえ説得力」

 でもお前、さっきの娘宣言に乗ってたよな。

「まあ仮にかなめが娘でも、お兄ちゃんを好きなのは至極合理的な選択!」

「いや何もかもおかしい」

「そして未来からやってきた私は、理子お姉ちゃんからお兄ちゃんをシェアするかNTラーゼフォン!?」

「何しょうもないこと言おうとしてるのよ」

「アリアお帰り、俺貞操の危機なんだが」

「ただいま、自分で撒いた種なんだから自分で解決しなさいスケコマシ。話術でも筋力でもいけるでしょ」

「流石カワイイより筋力にステ振りする人は格が違ウルク!?」

「だぁれが女子を捨てた筋力オバケよ!? アタシだってカワイイものに憧れるわ!」

「お姉様はカワイイですよ? ほら、こんな風に」

「ひゃん!? ちょ、メヌ背中をツーってするのやめなさい!! アタシそれ弱いんだからぁ……!」

「唐突な濃厚百合姉妹プレイ」

「写真は理子におまかせ!」

「理子、後で私にもくださいね」

「撮るなバカ理子ー!!」

「え、ちょっとアリアん理子だけなノーザンブレード!?」

 うん、前よりカオスになった気がする。あとレキ、ホームズ姉妹の触れ合いをイラストにするのはやめなさい。アリアに破かれるぞ。

「あらあら、お姉様と理子は相変わらず仲がいいですね。私、妬けちゃいますわ」

「一方的にボコられてる状況をそう言えるのかは疑問だけどな」カザアナー! ギョエー!?

「遠慮がないのはいいことですよ。かなめ、ダージリンくださいな」

「はーいメヌちゃん、かしこまりだよー」

「いつの間に上下関係が出来たんだお前ら」

「嫌ねえジュン、かなめは大切な『オトモダチ』よ?」

「いざとなったら盾にする友達ですね、分かります。そして何故くっついてくる」

「んー、やっぱり初心な感じが皆無になっちゃいましたね。私としては、無様を晒してくれるあの姿が好みなんですが」

「お前最近ドS過ぎない?」

「失礼ね、抉ったあとかなめに言ってもう一度解かせるわよ」

 嫌だよ冗談じゃねえ、今度は三倍の強度と密度でロックを掛けたから簡単には「結局ヘタレですね」うるせー俺はこれがいいんだよ。

「ふっふっふ、そんなお兄ちゃんの防御など容易く踏みにじる背徳かガガガガガガ」

「させるわけねえだろ阿呆」

 いつの間にか背中に貼り付いてたかなめに10○ボルトを浴びせてやった、対策くらい立ててるっちゅうの。あと「ぐはぁ」とか言いながらおんぶさせるな、理子は「いいなあ」じゃなくて剥がせ、マイシスター意地でも張り付いてるんだよ。

「むう、仕方ないですね。では代わりに何か面白いことをジュンに求めます」

「他人の携帯覗くんじゃありません」

「理子によくハッキングされてるんですし、今更じゃないですか」

 そういう問題じゃない。あと理子、「イエィ!!」じゃねえよ、オススメのアプリとアニメの情報放り込むのやめ「だが断る!」よし、シバく。

「えーと、あ、メヌちゃん鏡高菊代って人からメール来てるよー」

「でかしましたかなめ、ジュンの新しい女ですか?」

「「「「ダニィ!?」」」」

 大いに誤解を呼ぶ表現ありがとう、あとナチュラルに見てんじゃねえよ妹ズ。理子と取っ組み合いしてるから没収も出来ねえし。

「ほうほう、これは熱いラブメールですなあ」

「かなめちゃん、他人の携帯を覗くのはマナー違反だよ? メッ!」

「お兄ちゃんは家族なのでセーフ! それに白雪お姉ちゃん、もしかしたらお兄ちゃんをたぶらかす悪女の情報が眠ってるかもしれないんだよ? つまりこれは好奇心でなく、妹の義務なのです!」

「なるほど、夫をたぶらかす泥棒猫は妻がどうにかしないとね! じゃあもっとメールを遡って」

「そーい」

「アルアジフ!?」「ふにゅ!?」「ユバーバ!?」

 妙な大義名分を得ても覗くんじゃありません。とりあえず理子を投げ付けて阻止、ついでに糸を使って携帯を回収、というかなんだそのやられ声。

「で、ジュン? その菊代とはただならぬ関係なんですか?」

「中学のパートナーがそれとかどんだけ爛れてるんだ俺は。あと言い回しが誘惑してるっぽいだけで、内容は仕事の依頼だからな」

「でもでも潤ちゃん、そんなメールを送ってくるって事は、その菊代さんが潤ちゃんを狙ってる可能性も……!」

「あいつはそーいうのが癖になってるだけだよ、落ち着け」

かなめが来てから白雪の暴走回数が増えたなこりゃ(白目)

リサにアイコンタクトで「何とかしてくれ」と送ったら、

(ご主人様がリサをナデナデしてくださるなら)

 と返ってきた。お前も強かになってきたね。

「つーわけで、仕事ついでに実家帰ってくるわ」

「いや、何がという訳なのよ。1ミクロンも理解できないわよ」

「つまり1ナノ程度は理解できたと」

「全く理解してないと大差ないでしょそれ」

 ごもっともで。

「簡単に言うと、菊代の組に藍幇が接触してきたから、ちょいと相談に乗ってくれとのことで」

「ふうん、組っていうといわゆるヤクザ? でも依頼なら、武偵校経由で受ければいいんじゃないの?」

「ヤクザものからの依頼なんて、幾ら危険物満載の武偵校でもいい顔はせんだろ」

「アンタにそんな配慮があったことに驚きだわ」

「マジ驚きはやめてもらえませんかねえ」

「理子と一緒に風聞も気にせず暴れてるのが何言ってんのよ、この間のトライアングルも平気で下負けして、情報規制も掛けなかった癖に」

「優秀な人材が喧伝されるのは当然の話だろ。たかがメンツのために功績を潰される方が問題だ」

「そういう考えが異常だって言うのよ。まあアンタなら問題は……起きるんじゃなくて起こす方よね」

「何でトラブルメーカー扱いなんですかねえ」

「本気で言ってて自覚ないなら病院言った方がいいわよ」

「お姉様、医者が匙を投げることになりますよ?」

「それもそうね」

 ホームズ姉妹の口撃が辛い。不治の病みたいに言わないで欲しいわー。

「自業自得でしょ、誰がどう見ても。で、アンタ一人で行くの?」

「いや、かなめも連れてく。諸々の事情込みで、新しい『家族』を紹介しとかないとな」

「それだけで済めばいいけどね……理子とか絶対についてこようとするわよ」

「そんな気はするけど、実家までうるせーの勘弁だから置いてく」

「ぶーぶー! ユーくんにうるさい言われるのはりこりん心外でーす!」

「俺は切り替えできるんだよ、お前常時じゃねえか」

「ぶー!」

 ぶーじゃねえべ、ブタかお前は。

「うう、私も一緒に行きたいのに……何でこんな時に呼び出しが……」

 意気消沈する白雪。なんでも星伽本家の方でトラブルがあったらしい。毎度間が悪いよな。

「ご、ご主人様、リサも付いていって良いでしょうか? ご家族にも挨拶しないといけませんし」

「……自分のメイドとかどうやって説明しろ」

「――――」ウルウル

「「……」」

 メイドの上目遣いとホームズ姉妹の蔑みの目が辛い、何だこのダブルパンチ。

「……ちゃんとリサも事情話せよ、誤解ないように」

「! 勿論です、ありがとうございます!」

 歓喜のあまりか、犬耳出しながらこっちに抱きついてくる。やめなさい、尻尾がくすぐったいのと生温い視線が辛いから。

「いやあ、何だかんだで」

「リサには甘いですね、ジュンも」

 そこ二人、ニヤニヤしない。

「よっし、じゃあ理子も恋人として」

「却下」

「ぶーーーー!!」

「ふふふ理子お姉ちゃん、向こうでは私がお兄ちゃんとイチャラブで過ごすから、安心してね!」

「屋上行こうぜめーちゃん、理子久しぶりにキレチマッタヨ……」

「望むところだバリバリー!」

 あ、ホントに出てった。あとマイシスター、お前とイチャコラする予定はない(真顔)

「潤ちゃん、妹に手を出しちゃダメだよ!?」

「何を心配してるんだお前は」

「リサちゃんならいいけど!」

「白雪様……!」

 お前ら何感動して抱き合ってんの、というか家事組で何の協定が出来てるんだ。

「……じゃ、いない間アタシとメヌはママと一緒に過ごしてるわ。たまにはのんびりするのも悪くないわね。メヌ、アンタもたまにはシナリオばっか作ってないで、家族サービスしなさいよ」

「お姉様には毎日サービスしてますが」

「弄り倒すのはサービスって言わないでしょうが!?」

 楽しそうだね二人とも、止めろよ。

で、翌日。

「「お兄ちゃん、お待たせーー!!」」

「……」

「「あれ、私が二人!?」」

「……右の方は理子だろ、何してんだ」

「ふふふ流石ユーくん、こうも容易く見破るとは……!」

「バカにしてんのかお前は。で、何なんだよ変装までして」

「連れてけ!」

「やだよ」

「つーれーてーけー!!」

「お兄ちゃん、部屋なら足りてるっておばあちゃん言ってたよね! だから大丈夫だよ!」

「さらっと盗聴するんじゃねーよ、そして何で理子の味方してんだマイシスター」

「べ、別にお兄ちゃんを追い詰めて(風穴ァ!)するお手伝いしてくれるとか言われてないよ!?」

「…………」

「心底からの冷たい瞳、これはこれで癖になりそうな理子が」「黙れHENTAI」

「大丈夫、理子お姉ちゃんがプランで実行するのは私だから!」

「ちょ、めーちゃん何美味しいとこだけ持っていこうとするのかな!?」

「えー。だって理子お姉ちゃん肝心のところでヘタレだしー」

「ぐぼぁ!? だ、誰からそのことを……違う違う、ソンナコトナイデスヨ?」

「嘘吐けぇ、ここに証拠が――あ、お兄ちゃんいない!?」

「ダニィ!? 待てぃユーくん!」

「嫌だよ恥知らずども」

「大変ですね、潤さん」

「そうだな、いつもどおりだけど。……で、何当然のようにいるんだレキ」

「狙撃と暗殺ならお任せください」

「武偵が暗殺とか言うんじゃありません」

「本音を言うと、イラストがマンネリ気味なので気分転換に」

「少しは本音を隠しなさい」

「ふふ、賑やかですねご主人様」

 結局、2+2=4人になった。部屋足りるかなこれ(遠い目)

おまけ

移動中にて

「はーいはい、どしたよアリア」

『ああ潤? 今ナゴジョの騒動で武極ってのが暴れてて、それにあかり達が向かうことになったんだけど』

「クーデタークラスの事件をヒヨッコ一年に任せる武偵校ぇ……しかも武極って三年じゃん」

身内(武偵)の不始末は身内(武偵)でよ、それにあかりの親族が関わってるからね。

 で、アンタ何か情報ないの? ナゴジョの秘密経路とか弱味とか』

「そういうゲスいのは俺よりメヌのやく『人の妹貶める奴は風穴』へいすいません。しかし、戦妹(いもうと)思いの戦姉(おねえちゃん)ですなあ」

『うっさい、いちいち茶々入れんなしばくわよ! で、あるの!? それともないの!?』

「おおこわいこわい。んーつっても、校舎の見取り図と武極のトラウマを抉るくらいしか思いつかんぞ?」

『……また何したのよアンタ』

「ピンク髪のツインテールと黒髪ロングの姿で突っ込むのがオススメ」

『言えや』

「文化祭でやったコスプレして、去年同じような武極の騒動を理子と潰してやった」

「プライドの高い娘を地べたに這いつくばらせる快感を覚えちゃったネ!」

『うわぁ……』

「あれ、ドン引きされてるよユーくん!?」

「そりゃそうだろ」




キャラ紹介
遠山潤
 ようやく調子が戻ってきた主人公(仮)。実家に帰るだけで話が延々と続く辺り、もはや収拾がつかない模様。なお、付ける気もない。


峰理子・レキ・遠山かなめ・リサ
 出張メンバー。約二名は強引に付いていった。実家で何か進展――よりもトラブルしか見えない。


メヌエット・ホームズ
 留守番組。最近、愉悦力が高まってきたらしい(謎)


後書き
 下書きの半分で五千字オーバーなんですがどういうことや(白目)
というわけでお久しぶりです、お待たせしましたゆっくりいんです。はい、『帰省・回想』編スタートしましたが、内容進んでません(オイ)
じ、次回は実家に着きますので(震え声)
ア「次回出るのいつかしらね」
 やめてください心に刺さります。
では今回はここまでで。 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ書いてくださるとこれ以上なく嬉しく、モチベも上がります。
では読んでいただき、ありがとうございました。


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第一話 帰省ってもっと落ち着いた感じじゃなかったっけ(後編)

ジ「……」
作「……あの、ジャンヌさん? 無言でデュランダルを大上段で構えるのは何故なんですか? 投稿遅れた罰の前振り?」
ジ「何、行われる罰より行うかもしれない恐怖の方が来るだろう? メヌエットに人間、そういうものの方が来ると聞いたのでな」
作「あのドS名探偵、いらんこと教えてくれちゃいますねえ……!」
ジ「というわけでさっさと書け、もう年が明けたんだぞ。ああ安心しろ、振り下ろすとしても死ぬほど痛い程度だ、死にはしない」
作「それ拷問じゃないですかヤダー目がマジだこの人ー!?」
 じゃんぬさんこわい。
 あ、明けましておめでとうございます(遅)



 どうも、遠山潤です。早速? 巣鴨の実家に帰ろうと思うのですが、ここで一つ重要な問題に気付く。

「ツッコミ不在の恐怖……!!」

「りこりん達は遊び倒すので」

「是非もないネ! 頑張れお兄ちゃん!」

 ちくしょうこんなメンツしかいねえ! そこのバカ二人はボケもツッコミもこなせるけどボケしかしないし、レキは天然だし。

「ご、ご主人様、よろしければリサが……!」

「いやいい、リサはそのままでいてくれ。気持ちだけありがたく受け取っておく」

 アリアみたいに荒んだキャラになったら、メヌに殺されそうだし。凹まなくていいから、それが普通だから。

 

 

「荒ませたのはアンタ達でしょうが!?」

「お姉様、どうしました?」

「アリア、女の子があまり乱暴な言葉使いをするものじゃないわよ?」

「ご、ごめんなさいママ」(ジュンと理子の奴、帰ったらぶっ飛ばす。何となくだけど)

 

 

「ツッコミを任せていた弊害がこんなところで出るとは……」

 これは覚悟を決める(ツッコミやる)しかないのか、と悲壮な決意(大袈裟)を抱いていると、実家の前で何やら見覚えのある男が一人、掃き掃除をしている。

「おう兄貴、遅かったじゃねえか」

 軽装姿でペインティングを消したジーサードだった。

「やっほーサード」

「おっす、さっちゃん!」

「おう、かなめに峰理――待てや、何だその呼び名!?」

「ジー『サード』だからさっちゃんだね、シンプルイズベスト!」

「バッドだよ少しは考えろ! 男に付けるネーミングじゃねえだろ!?」

「女の子なのに銀兵衛って付けられる娘もいるんだよ!? 男女差別だ!」

「そいつが特例なだけだろうが! マイナーをさも常識のように語るな!」

「あ、生贄(ツッコミ役)発見。かなめ、ゴー」

「タイホダーさっちゃん!」

「お前までさっちゃん言うな!? というか言葉の裏に悪意を感じたんだが!?」

 うーん、これは逸材の予感。悪意? 気のせいだろ(真顔)

「おお潤、偉い別嬪さん引き連れて帰ってきたな、羨ましい。で、どの娘を手篭めにしごふぁ!?」

「あらあら、お爺さんったら挨拶もなしに失礼ですよ。お帰り、潤。それと皆さん、いらっしゃい」

「ただいま、婆ちゃん。……爺ちゃん泡吹いてるけど、大丈夫か?」

「これくらいで怪我するほど柔じゃないわよ。さ、お客さんを部屋に案内してあげなさい」

 『秋水』をまともに喰らわせて言うセリフじゃないと思うけど、実際爺ちゃんは無傷である。(俺を除いた)遠山の人達、頑丈すぎねえ?

「で、サード。お前なんでいるのよ」

「ジジイに奥義(エクセリオン)を教えてもらおうと思ったんだよ。そしたら掃除だの草刈だの押し付けられてよお……」

 メンドクセエ、とか言ってるけどやるんだな。口悪い癖に真面目というか、義理堅いというか。

「……オイ兄貴、何だその生温い目は」

「いや、別に。しかし、『流星(メテオ)』だったか? 『桜花』と似た技を使える奴が、覚える必要あるのかね」

「わかんねえのは覚えたくなる――待て兄貴、何で養子のアンタが『桜花』を知ってるんだ?」

「奥義なら古文書盗み見て全部暗記してる「教えろください」」

 つい先日まで敵だった奴に躊躇なく頭下げやがった。どんだけ奥義欲しいんだよ。

 

 

 時間は飛んで夕飯時。各々の自己紹介も済ませ(リサを俺のメイドと紹介した時、爺ちゃんが固まり、婆ちゃんがめっちゃイイ笑顔だった)、今は爺ちゃんに酌をしつつ愚痴を聞かされている状態だ。オイコラサード、面倒臭いからってさり気なく距離取るな。

「まったく、金一もそうだが休みの時くらい帰ってこんか。婆さんも寂しがってたんだぞ」

「悪かったって。夏休みは色々あったんだよ」

「めんこい子と逢引きしたり、そこの美人さんをメイドにして手篭めにしたりか」

「最後以外は間違っちゃいないけど、人聞き悪過ぎね?」

「んん? 何だ、若いんだしかっこつけようがやることはやっているだろう? 男だったらハーレムだったか? は夢と言う「お爺さん?」……まあ、火遊びも程々にしておけよ」

 掌返しはええなオイ。爺ちゃんこそ相変わらず若いというか、お盛んなようで。そんなんだから婆ちゃんからの折檻が止まらねえんだよ。

 まあ実際、休暇中は教務科から大量の指定依頼があったり、コミ○に女装で参加させられたり、殺し合いのゲームをやったり……うん、改めて思い返してもろくなもんじゃねえな(白目)

「しかし、金叉に隠し子とはなあ……金一だけのはずが、気付けば四人兄妹か。賑やかになったもんだ」

「隠し子とは違うけどな」

 親父が何かして生まれたとは言いがたいし。

「細かいことはいいんじゃよ、家族が増えるのはいいことだ」

「まあ、相手によりけりだけどな。お代わりいる?」

「おう、たっぷりでな。しかし、お前は相変わらず捻くれてるのう」

 いや事実だろ、毒親とかだっているんだし。

 リサを交えて婆ちゃんと料理の話をしているかなめ、金三(ジーサードの和名、婆ちゃんが名付けた)呼びされて赤面しながらもお代わりをもらっているジーサード。二人を爺ちゃんは優しい目で見詰めている。受け入れられて何よりだな。

「よし、今日は新しい家族の祝いだ! 潤、金三、お前らも飲め!」

「はいはい、婆ちゃんがうるさいから軽くな」

「あん? 何だ、この家の全部飲み干しちまってもいいのか?」

 シャレに聞こえんからやめとけ、前に一升瓶ラッパ飲みしたら怒られたんだから(←未成年+アル中の危険性大)。

(ユーくんが穏やかに過ごしている、だと……!? まだめーちゃんから受けたダメージが抜け切ってないの!?)

(念話使ってまで言うことかそれ)

 寧ろお前こそ大人しくしてるのが異様だよ。食いっぷりは変わらんけど。

 

 

「とまあ、しんみりタイムはしゅーりょー!! ゲームの時間じゃー!」

「「いえーい!」」

「いえーい」

「いきなりテンション変わりすぎじゃねえか?」

「いつもの事だから気にすんな。というか理子、人ん家にゲーム持ってくるなよ」

「つーかお邪魔するのに持ち込む許容量を超えてるだろ」

 ダンボール三個分だからな、本人曰く(言い訳が)「これでも厳選した方だよ!」らしいが。荷物を押し付けてくるから、変わりに収納用の亜空間魔術教えたんだが、仇になったか。

「さー、まずはゴエ○ン2をノーミスクリア目指すよー!」

「コイツ労働に対する意欲がまるで感じられね」

「ゴエ○ンは3だろ常考」「お兄ちゃんに一票」

「ご主人様、僭越ながらリサはきらきら道中を推させていただきます」

「オイイ!? 何で全員やる気が欠片もねえんだよ!?」

「私は何も言ってませんが」

「スケッチブックに『敢えて64推し』って書いてるならまとめて扱うわ! というか全員やる気なしか!?」

「失礼な、やる気はありますよさっちゃん! ゲームの方なら!」

「娯楽に浸る気満々じゃねえか! あとさっちゃン呼びすんじゃねえよ!」

「そんなに仕事大好きマンになってるとハゲるよさっちゃん!」

「兆候すらねえよ! かなめもその呼び方やめろや!」

「さっちゃん」

「小声で言うな!」

「サ、さっちゃん様、あまり大声で叫ばれると、喉を痛めるかと」

「今普通に呼ぼうとしたよな!? お前は普通のキャラだって信じてた俺がバカだったよチクショウ!!」

「うるせーぞ金三! 近所迷惑だろうが!」

「ジジイもうるせーよ! あと金三言うな!」

「こりゃ確かにツッコミ役(逸材)だねユーくん!」

「360度全てのボケに対応出来るなこりゃ。ここに金三がいて助かったわ」

「そんな感謝と期待の言葉なんぞいらんわ! つーか兄貴もその呼び方やめろ!」

「あだ名が多いのは慕われてるって証拠だぞ」

「不名誉なもんばっかじゃねえか!」

「じゃあ何がいいんだよ」

「普通に呼「言いにくい」言語も舌滑も一切不自由してねえ癖に……じゃあせめて良さげなのにしろよ、兄貴名付けるの得意だろ」

 抵抗を諦めたか。アリアよりは早いと見るか、引き際を心得ていると見るべきか。しかし、何故あだ名付けが得意だと思われてるのだろうか。

「ふむ……」

「ユーくん、ここはユーくんのネーミングセンスを見せる時ですよ!」

「お兄ちゃんならやってくれるとかなめも信じ」「うるせえ」「アッハイ( ´・ω・`)」

 マイシスターが凹んだ振りしてるが、『名付け』っていうのは重要なことなんだよ、魔術師的に考えて。

「……『ジス』。ジーサードのⅢを『スリー』に読み替えだな。ちと安直だが、どうだ?」

「ジス、か……」

 口の中で何度か「ジス、ジス」と呟いてから、

「……まあ、悪くねえな。じゃあそう呼んでくれや」

 気取った風に言ってるけど、顔がニヤけてるぞ。

「うっうー、了解だよさっちゃん!」

「もう黙れやお前!? ああもうコントローラー貸せ、俺ゴエ○ンやるからな!」

 結局お前もやるのな。

 

 

おまけ1

「もしもーし」

『もしもし、潤ですか? 何やら楽しそうな声がしますけど』

「理子とかがレトロゲーやって騒いでるだけだ、いつも通りだよ。んで眞巳、菊代はどうした?」

『組の人がやらかして『お説教』が忙しいから、代わりに私が』

「その組員さんには黙祷しておこう」

『自業自得ですけどね、あと死んではいないので黙祷はいりませんよ』

(死んだほうがマシだろう目にあってるけどな、多分)

『さて潤、依頼については明日の昼に行いますので、上野の『あそこ』に来てください』

「あのやたら欲張りな感じなネーミングの店ね、りょーかい。大食いが約二名いるけど、大丈夫か?」

『食費の心配をするほど、菊代はお金に困っていませんよ?』

「七桁は流石に心配した方がいいかなあと」

『大喰らいな鬼の集団でもいるんですか……?』

 

 

 

おまけ2

「潤ー、お風呂が湧いたよー。人が多いし、早めに入りなさーい」

「うーい。ほら女子ども、さっさと行ってこい」

「それはモチロン」

「お兄ちゃんも一緒だよネ!」

「んな訳ねーだろ。とりあえず手を離せ、恥じらい死に組」

「恥ずかしいけど」

「見て欲しいのですよユーくん」

「ご、ご主人様のお望みでしたら、リサはいくらでも……」

「知らん、リサも変な妄想してないで入ってきなさい。時間ねえし、二人一組で入れよ」

「「ぶー!!」」「はい……」

「ぶーじゃねえだろ」

「兄貴も大変だな、色んな意味で……」

「もう慣れた」

「それは慣れていいことなのか……?」

「白雪と理子の二人がかりで引きずりこまれそうになった時もあったから、今日はまだマジだ」

「ああ……なるほど」

「似たようなことあったなあみたいな顔してるけど、何かあったのお前」

 

 

おまけ3(女性陣が風呂に行ってから)

「そーいやジスよ」

「んだよ兄貴。あ、大入り袋盗るんじゃねえ!」

「早い者勝ちだろ。アリアと戦った時HSSになってなかったけどよ、何で使わなかったんだ?」

「……HSSで女は殴れないだろ」

「お前ならそれくらいの課題、クリア出来るだろ。戦った相手に女もいるんだし、アリアが手抜きできない相手なのは分かるだろうし」

「あー……アレだ、HSSで殴れる気がしなかったんだよ」セキメン

「あ(察し)」

「……んだよ兄貴、その目は」

「いや別に。パートナーと義弟にまとめて春が来たのかなーと」

「だ、誰が暴力チビのことを女として見てるんだよ!?」

「語るに落ちてるんですね、分かりま『信じてるもーのーをー♪』おん? もしもーし」

『だあれがゴリラも慄く怪力マッチョ女よ!! 脳筋サイボーグに言われたくないわ!!』

「そこまで言ってねえし、俺に言うなよ。アリアとジスに春が来たなーって言ってただけだし」

『だだだ誰があんなジュンよりもガサツな奴のこと好きになるのよ!?』

「あっ(まさかの両想いである)」

『今変なこと考えたでしょ!?』

「邪推ですよマイパートナー」

(何かフラグが立つことあったっけ……? あれか、川原で殴りあったら友情以外の何かが芽生えたとか?)

 

 

おまけ4

 ピンポーン

「ん? 誰だこんな時間に。はーい、どちら様」

「ワフ」

「うお、ハイマキ? どうした、アリア達に何かあったのか? というか鼻でチャイム鳴らすとか器用だなお前」

「クゥーン……」(縋るような瞳)

「……オイレキ、ハイマキの世話は誰に任せたんだ」

「ハイマキも気分転換が必要かと思い、何も言わず野生に一時帰しました」

「鬼かお前は」

「ドッグフードに屈した罰です」キロッ

「キャイン!?」

「……あー、ハイマキ。番犬としてなら面倒見るが、どうだ?」

「! ワン!」

 この後一晩で犬小屋を作った、俺が。

 

 

 




キャラ紹介
遠山潤
 実家ですわツッコミ役か!? と危機感を抱いていたところ、アリアに代わる逸材の出現に思わずニッコリ。頑張れマイブラザー。
 
 
峰理子
 潤の祖父母に『挨拶』する気満々の一人。
 
 
レキ
 鬼畜飼い主。駄犬にはお仕置き主義。


リサ・アヴェ・デュ・アンク
 潤の祖父母に『挨拶』する気満々の一人。なお、紹介時の騒ぎは潤のトークスキル(言いくるめ)で乗り切った。
 
 
遠山かなめ
 「実家でお兄ちゃんに迫るとか、超背徳的ぃ」とのこと。
 
 
ジーサード
 新たなるツッコミ役(犠牲者)「やめろや!」
 ジス呼びは気に入った模様。
 
 
ハイマキ
 期間限定遠山家番犬。
 

遠山(まがね)・雪津《せつ》
 口調が合ってるのか自信がない老夫婦(マテ

 
あとがき
 入浴シーン? ねえよんなもん!
 はい失礼しました。明けましておめでとうございます、ゆっくりいんです。いつも通りお待たせしておりますスイマセンorz
 さて、期待の新人(ツッコミ役)ジーサードが出てくれました。これなら筆も進みそうで一安心、アリアさんも役目から解放されて一安心です。私もバランスが取れて一安心(マテ)
 ちなみにこの話、前回と合わせて一話分の予定でした。ノートに下書きしたけど、大きく脱線蛇足した結果なんや……予定通りには行かないものですね(いつも通り)
 さて、次回は電話越しの登場だけだったあの人の登場です。皆さんの知っている彼女とはちょっと違うかもしれませんが、生暖かい目で見てくださると何よりです。
 ……もう原作要素なんて欠片も残ってないだろ? 何言ってるんですか、帰省の際にレキとハイマキがいるじゃないですか!(力説)
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。モチベにも繋がります(感想乞食)。
 では読んでいただき、ありがとうございました。
 


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第二話 旧交の温めは依頼より大事(前編)

アリア(以下ア)『ジュンタスケテ!!』
潤「何だよアリア、急にどうした」
ア『成瀬ゆかりっていう先輩に追われてるのよ! 何か求愛されてて怖いんだけど!?』
潤「成瀬先輩? ああ、CVRの同姓トラッパー(女のための女)だな」
ア『ガチじゃないの!? みぎゃー、何で私女にばっか好かれるのよ!!』
潤「男に目覚めてもそうなるんですね、分かります」
理子(以下理)「アリアん今の状況と気持ちをKWSK!!」
ア『風穴でぶち抜くわよ元祖レズ女!』
理「ノンノン理子は両刀です!!」
ア『どっちにしろ迷惑よってこっちきたぁ!? なんでCVRが大挙して来るのよ!?』
潤「これはもうアリアダメかもしれんね」
ア『タ ス ケ ロ ! ! !』
 この後滅茶苦茶撒き方を指示した。


「おはようさーん」
「「「……」」」
「おはようございます、潤さん」
「おうレキ、おはよう。……どうしたお前ら」
「ユーくん、それは見えすぎてますよお……! りこりん的にアカンですってえ……!」
「ご、ご主人様、その格好は、ちょっと……え、大胆過ぎるかと……」
「……爺ちゃんお下がりの作務衣着てるだけで何言ってるんだ、お前ら」
「だってシャツが無いじゃないデスカ!?」
「何キャラだよ理子、合わねえから着てねえだけだ」
「お兄ちゃん」
「おうかなめ、お前はふつ「襲っていい?」うん違ったわ。ジスー助けてー、襲われるー」
「もうちょい緊迫感のある声出せよ兄貴!?」
 何だかんだで阻止してくれました。


「ふんふんふん、どっれにしよっかなー♪」

「理子お姉ちゃん、北京ダックとカニカマがオススメらしいよー」

「……」ジー

「お前ら程々にしろよ。向こうの予算オーバーで俺が自腹切るとか嫌だぞ」

「大丈夫ですご主人様、私がギリギリまで『交渉』しますので」ムンッ

「やめなさいここの主人とは顔馴染みなんだから。この前平賀さんが値切られまくって泣いてたでしょうが」

「平賀様は少し額を盛っていたので、『勉強』させていただきました」

 ほぼ価格破壊の交渉なんだよなあ。あ、どうも遠山潤です。俺達は現在菊代に指定された中華料理屋『交龍鳳』に来ているんだが。大食い面子と値切りEXスキル持ちのリサがいるので不安しかねえ。

 なお、ジスの奴は留守番である。遠山家の奥義について(こっそり教えたら)、「ちょっとトマト栽培しながら練習してるわ」とのこと。ハイマキもいねえからまた黒一点か(いつもの)。

「ところでよ……誰か衣装指定したりされたっけ?」

「ん? いや全くなかったよお兄ちゃん?」

「りこりんが選ぶならもっとレパートリー豊かにするね! あーでも、こういう統一感あるのも捨て難いなー今度は何かテーマ決めようかなー?」

「ヘルモーイ! ご主人様、とてもよく似合っています!」

「ああうん、ありがと。……何このシンクロ率、怖い」

 ちなみに我々の服装、女性陣は特徴に合わせた色のチャイナドレス、俺は某チャイナの神拳使いが着ているアオザイの赤バージョンである。何で全員中国系衣装に身を包んでるんですかねえ。

「お待たせ潤、待たせちまった……何で全員バッチリ衣装着込んでるんだい?」

「ただの偶然」

「これが偶然とか、逆に怖いんだけど」

 俺もそう思う。まあともかく、派手な着物姿と金の髪を持つ美少女――現鏡高組組長、鏡高菊代。その傍には対照的に落ち着いた色合いの着物と黒髪の美女よりの美少女――須彌山眞巳(すみやままみ)が入ってきた。

 ……ふむ。

「ん? なんだい潤、人の顔ジロジロ見て」

「いや、菊代が綺麗になったなと。久しぶりに会うと印象違うの良く分かるな」

 メールや通話はともかく、直は久しぶりだしな。

 俺が告げると、菊代は一瞬ポカンとした顔になり、その後クツクツと笑い始める。

「まさかアンタの口からそんな言葉が出るとはね。これから雪でも降るのかね?」

「まだ冬じゃねえから。つーか眞巳にも同じようなこと言われたぞ」

「そりゃ言うだろうさ、中学時代のアンタを知っていたらね。女子相手に容赦なくフェイスクラッシャーしてた癖して」

「「え、何それユーくん(お兄ちゃん)怖い」」

「心がブスなんだから、顔もそうあるべきだろ」

「「「……うわあ」」」

 何で眞巳も引いてんだよ、お前も当事者の一人だったろ。菊代の奴はケラケラ笑ったままだけど。

「根っこは変わってないみたいだね、安心したよ」

「とっころでユーくん? そろそろそちらの美少女を紹介して欲しいんですが? ユーくんが褒めた美少女を!」

「何その面倒臭い言い方。ひょっとして興奮してるの?」

「うん! デドバ!?」

 あら素直。とりあえずデストロイくん三号(ハリセン)で頭を引っ叩いて仕切り直しとする。オイレキ、喋ってないからってイラスト描き始めるんじゃねえよ。

「んじゃあ改めて。こっちが依頼人兼中学時代のパートナー、現鏡高組の組長鏡高菊代。横にいるのはボディーガードの須見山眞巳、理子やリサは知ってるな。

 で、菊代。こっちは同級生で現パートナーで変態の理子、副業狙撃手(スナイパー)本業イラストレーターのレキ、妹のかなめ、あとメイドのリサだ」

「はろはろお初ーきくりん! 定位置はユーくんの隣、りこりんでーす!」

「レキです。イラスト業は副業です」

 嘘吐け、お前武偵校の依頼より稼いでるだろ。

「初めましてお姉さん方! お兄ちゃんの妹兼運」

「やめい」

「メイトリクス!?」

 裏拳で無理矢理遮る。公共の面前でトンデモ抜かすな、後がめんどくさいから(そこじゃない)。

「初めまして、鏡高様。眞巳様はお久しぶりです。ご主人様のメイドをさせていただいています、リサ・アヴェ・デュ・アンクと申します」

「……色々ツッコミ所が多すぎるんだけど。何? 硬派モドキだったアンタが宗旨替えして、妹も混ぜた鬼畜ハーレム願望でも持つようになったのかい?」

「私も初めて聞くのですが……そうなんですか?」

「どっちも主義にした覚えがねえよ。そこの理子(バカ)は一年からの腐れ縁で、リサはどこぞの迷探偵が送りつけてきて、妹は最近出来た」

「いやそんな周囲に女囲んでれば……ねえ?」

「ですねえ……」

 中学のときと変わんねえだろ、周りが女ばっかなのは。あと菊代はヒソヒソしながらこっち見てんじゃねえ、こっち見んな。

「ユーくん、そこの昔の女らしき美少女との関係についてくわシグニット!?」

「パートナーだって言ってんだろ桃色脳」

「お兄ちゃん、それアリアお姉ちゃんの悪口?」

「んなわけねーだろ、アイツに言うなら脳筋ピンクだ」

「録音しておきました」

「オイバカヤメロ」

 それはマジで死ぬから。

「……楽しそうだねえ、ちょっと妬けちゃうよ」

「ふふ、でも私達も周りから見ればこんな感じだったかもしれませんよ?」

「そうかね? さて、これから話し合いと行きたいけど……」

「「「……」」」

 約三名の視線は前菜のパクチーとキクラゲの和え物に釘付けである。菊代が苦笑しながら「食べてからにしようか」と告げると、喜び勇んで(一人無表情だが)飛び付いた。何かすまんねホント。

「鏡高様、お茶のお代わりはいかがでしょうか?」

「ん、ああありがと、お願いするよ。……なんでアンタのとこのメイドは配膳してるんだい?」

「……職業病?」

「止めなよ。あ、潤。眞巳に聞いたけど、予算オーバーしたらアンタの持ちになるって聞いたんだけど……ウチはそんなに困窮してないよ?」

「いや、流石に七桁行くのは申し訳ないんで」

「どれだけ食う気なのさ……?」

 あるだけ食うな、冗談抜きで。あと俺の払いじゃなくて割り勘だから(真顔)

 

 

「そういえば菊代、他の人達は?」

「邪魔になるから外で待たせてるよ。護衛なら眞巳一人で充分だし」

「忠臣の三善さんが聞いたら泣きそうだな」

「事実だからしょうがないだろ? 嫌なら眞巳から一本でも取ってもらわないと話にならないし。まあ、そういう『信頼出来る奴』は家の方に回してるよ」

「……ふーん、なるほどね。お、このエビチリうまいな」

「こっちの北京ダックもいけるよ、料理長また腕を上げたみたいだね。

 それにしても、懐かしいねえ。中学の時はよく三人で食べに来たもんだ」

「ですね。また一緒に食べられる日がくるなんて、夢にも思いませんでした」

 眞巳が懐かしさと嬉しさに眼を細める。まあ、

「誰かさんが数ヶ月前まで音信不通だったからだけどね」

「えっと、それは、その……」

 めっちゃ目が泳いでいる眞巳さんである。

「あんま苛めるなっての。大体、ここに来るなら三人じゃないと嫌だって駄々こねたのはお前だろ、菊代」

「そりゃまあ、立場だの腹の探り合いでうんざりしてる中、一人欠けた寂しい食事会なんてごめんに決まってるじゃないか。……何だい二人して、その目は」

「いえ、何というか」

「お前って妙なところで可愛げあるよな」

「……ホント、あんた変わったねえ。ストレートにそんなこと言われるとは思わなかったよ。

 じゃあ、そんなカワイイあたしと後で一緒にどうだい……?」

 フォークを置いて俺の頬を手で包み、妖艶に微笑んでみせる。男だけでなく女も惑わしそうな色気だが、

「はまったら組長の旦那コース確定なので嫌です」

「……ふう。そっけないのは相変わらずだね、残念。まあ、そっちの可愛らしくもおっかない子達に免じて、ここまでにしておこうかね」

 そのおっかない奴等、料理ついでにこっちチラ見してる程度だけどな。

「いやあ、美少女に褒められるとテンション上がりますな浮気んぼのユーくん!」

「上げてるのか嫉妬なのかどっちなんだよ、あと口を拭きなさい」

「何だい潤、その娘があんたの」

「第一候補です!」「両刀のバカだな」

「ちょ、流石に酷くてりこりん涙流すよ!? そりゃどっちも行けますけど!」

「「……」」

「無言で引かないで!? というかマミさんまで!?」

 そりゃ引くだろ、何堂々とカミングアウトしてんだ。……ああ、周りが百合だらけ(普段が普段)だからか。感覚麻痺してるじゃねえか。

「……ふふ」

 とか思ってたら急に笑い出した。何ぞ急に。

「いや、懐かしいなあと思ってね。中学の時はこことか人目のつかない場所に集まって、色々バカやってたなあって」

「ここまで騒がしくはなかったけどな」

 あとこの辺で集まったりしてたのは、中学で暴れ過ぎた結果だけど。たかが全員半殺しにしただけなんだけどなあ。

「はいはーい! お兄ちゃんはそっちのお姉ちゃん二人と組んでたんだよね? 中学時代の話聞きたーい!」

「りこりんもー!」

「ご主人様の中学生時代……リサも聞きたいです!」

「なんだい潤、妹や恋人や愛人に話も聞かせてやってないのかい?」

「話す隙間もないくらいボケる奴しかいないからだよ。あと恋人とか愛人では「あるね!」「なります!」……可能性程度はな」

「「「「!!?」」」」

 なんでそんな死ぬほど驚いた顔してんだよ、菊代と眞巳含めて。

「め、めーちゃんレキュ! ユーくんがデレた、この状態でデレたよ!?」

「ご、ご主人様、そんなにもリサのことを……!」

「やったね理子お姉ちゃんリサお姉ちゃん、ゴールは近いよ!」

「ご祝儀はウエディングドレス姿のお三人で良いでしょうか」

「オイヤメ「オナシャス!」フ○ック」

「……あんたホントに潤かい?」

「偽者と言われても否定出来ませんね……もしくは人格が壊れました?」

「至って本人だよ。というか依頼の話どうした」

「あんたの変わりようの方がよっぽど重要かつ深刻な問題だよ」

 オイ依頼人、旧交温めるだけの話じゃねえんだぞ。

 

 

おまけ

「そういえば潤、あたし同年代の友達が出来たんだけど」

「珍しいな、頭になってからそういうのはさっぱりだって嘆いてなかったか」

「ああうん、そっち関係の子じゃないからね。。一般人の望月萌って子だよ」

「……借金の肩代わりでもしたのか?」

「してないよ、何だと思ってるんだい……クラスメイトとトラブってたから、ちょいと助けてあげただけさ。暴力とか嫌いって言ってた癖に私と友達になりたいなんて、変わった子だよホント」

「……嬉しそうだな」

「そりゃあね、眞巳以外久しぶりに出来たんだもの。で、その萌についてなんだけど。潤」

「おう」

「絶対会わないで欲しい」

「……あ? なんでよ?」

「いや、多分会ったら一目惚れするだろうなって女の勘が告げてるんだよ。あの娘の人生滅茶苦茶にするのはごめんだしね」

「俺呪いの黒子とかないんだけど」

「この前お泊まり会した時、好みのタイプがガッチリあんたに当てはまってたんだよねえ……」

「さっすがユーくん、会ったこともないのに惚れさせるとかモッテモテだねー! ニコポナデポのチート主人公かな? かな?」

「最早不名誉の称号だろそれ」

「……あの娘、怒らないのかい?」

「基本面白がる方が先だから。実害がないなら特に」

 ついでにカワイイと自分が貰おうとするからな、あの変態。

 とりあえず写真を見せてもらって、見かけたら避けるよう約束した。何だこの約束(知らん)




登場人物紹介
遠山潤
 中学と現在では最早キャラが違う可能性が出てきた。


峰理子
 止める相手もライバルもいないため(リサは同士)、今回は積極的に恋人宣言しまくっている。お陰で初対面の人には大分進んでると思い込ませた模様。


リサ・アヴェ・デュ・アンク
 堂々とご主人様のメイド宣言する子。他所でもやってるため、そろそろご主人様が変態扱いされそうな模様。


レキ
 ご飯食べてイラストこっそり描いてました(いつも通り)。


遠山かなめ
 お兄ちゃんの過去にも現在にも女関係にも興味津々な模様。とりあえず横槍を理子お姉ちゃんと一緒に入れるのが最近の趣味。


鏡高菊代
 ヤの付く仕事の組長姐さん。潤のあまりの変わりっぷりに、依頼の話も忘れて何があった状態になっている。
 
 
須見山眞巳
 菊代の護衛系オリジナルキャラ。彼女一人で組の戦力と同等かそれ以上となる。潤曰く「過剰火力」。
 
 
後書き
アリア(以下ア)「ふん!!」ドゴォ!!
作者(以下作)「カーマ!? い、いきなりなんですかアリアさん……」プルプル
ア「投稿遅れた罰。メヌに言われたのよ、一撃でのすより意識のあるまま殴り続けた方がいいって……」
作「それ拷問じゃないですかヤダー……そういえば、ジャンヌさんは?」
ア「顔見たら悲鳴上げて逃げていったわよ、失礼な奴ね」
作(そりゃそうなんだよなあ)
 というわけで毎度お待たせしました、ゆっくりいんです。他の作品に比べてアリアの筆ノリが悪いの何の……FGOとかバンドリかいてる場合じゃないですけど、書きたくなるからですよねスイマセンorz
 とりあえず、次回はキチンと依頼の説明しますのでお待ちください。あ、潤や菊代達の過去にもちょっと触れるかもです。
 では今回はここまで。感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。


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第二話 旧交の温めは依頼より大事(後編)

菊代(以下菊)「ところで潤、何か愉快なこと(女装)してるって話を聞いたんだけど」
潤「どこで聞いたそのはな「はいはいソースはりこりんです!」オイコラ」
菊「というかネットに晒されてるけどね」
潤「オ イ マ テ コ ラ」ギリギリギリギリ
理子(以下理)「ふぎぎぎぎユーくん割れる、理子のぷりちーフェイスが割れちゃうからあ! 仕方ないんだよ女装(ドレスチェンジ)したユーくんの可愛さを理子には伝える義務があっ(ベキィ!!) テンタラフー!?」
かなめ(以下か)「おお、理子お姉ちゃんが死んだ」
潤「これくらいで死ぬなら世界はもっと平和だよ。ったく、ウイルス送っとこ」ポチ
理「あー待って待って待って理子のこれくしょんがあ!? 酷い、ああんまりだああ!!」
潤「肖像権の侵害をしといて何言ってるんだ。あと、プラネッ○マンにしといたから文句言うな」
理「リサ、いつもの神業でさくっとデリートしちゃってしまいなさい!」
リサ「理子様、流石にナビがないとリサもどうしようも……」
理「ユーくん造って! もちフォル○で!」
潤「何でけしかけた奴に依頼してんだよお前は」
菊「あらら、消えちゃったのは残念だね。……いや待った、ここに実物がいるんだからやらせれば」
潤「お前それそこの理子(変態)と同レベルの発想だからな」
理(まあバックアップは取ってあるんだけどね、オフラインで!)
レキ(イラストのバックアップもあります)
潤(……帰ったらバックアップ探すか、絶対あるだろうし。いざとなったら部屋ごと燃や「オイヤメロ殺すぞ潤」心読んで急に切り換わるんじゃねえよ」


・菊代をヤクザものという理由で吊るし上げてた女子生徒をシバいたのが知り合ったきっかけ。

・その後コンビを組むようになり、眞巳が転校したのと同時期、逆恨みした生徒達に男女問わず襲われ、全員返り討ちにする。

・その後は特に何事もなく卒業まで過ごす。

 

 

「以上」

「「「いやいやいやいや!!?」」」

「何だよ、ちゃんと説明しただろ」

「いやざっくり過ぎでしょユーくん!? というかそれくらいの話なら前に聞いたんですけど!?」

「そうだよお兄ちゃん! 大体は調べ尽くしたけど、やっぱり本人の口から色々と聞きたいじゃん! お兄ちゃんの嬉し恥ずかしTOLoveるイベントとか!」

 ねーよんなもん、何でラブコメの主人公になんなきゃいけねえんだ(なお現状)

 というわけでどうも、遠山潤です。……リサ、そんな子犬みたいな上目遣いで「続きは? 続きはないのですか?」って訴えてもないから。というか、

「お前ら同窓会に付いてきたノリになってるけど、依頼受けに来てるんだからな」

「潤さんが真面目に話を進めるなんて、雨の代わりに銃弾が降りそうです」

 んなもん日常茶飯事だろ。あと、ツッコミ役(アリア)いないからこうするしかねえんだよ。

「なんだったらウチでお泊まりついでに昔話をしようか?」

「「お泊まりとな」」ガタッ

「座れ変態×2。菊代、ぐだぐだする上にワンチャン襲われるぞお前」

「……あー、そうだったね。ごめん理子だったっけ、今の話なしで」

「ド変態と思われてる!? いやりこりん合意なく襲ったりしないからね!?」

「セクハラはするだろ」

「ヘタレだからそれ以上のことはしないけどね、理子お姉ちゃんは!」

「ヘヘヘヘタレちゃうわ! めーちゃんちょっと辛辣じゃないですかねえ!?」

「ふふふ、出来た妹は常に進化するんですよ理子お姉ちゃん! お兄ちゃんの弱点とか好きなものとか嫌いなものとか隠れた性癖とか! ね、リサお姉ちゃん!」

「はい、妹様! 惜しむらくは、ご主人様の性的嗜好が未だ不明なことですが……」

 白雪合わせて三人でコソコソやってると思ったら、何してるんだお前ら。いや理子、「分かったら情報共有オナシャス!」じゃねえよ、何の役に立つんだそれ。

「潤の性的嗜好とか是非とも根彫り葉彫り聞きたいけど」

「聞いてどうすんだ」

「でも潤、以前は悟りを開いた菩薩のように分かりませんでしたから。私達も気になるのは仕方ないかと」

「完全公開処刑じゃねえか、言わねえよ。というか菊代、いい加減仕事の話してくれ」

「ああごめんごめん、潤を弄るのが楽しくってつい、ね」

 今度泰山風麻婆食わせちゃる。まあとにかく食事も終えたので、全員話を聞く体勢にようやくなった。

「さて、改めて依頼なんだけど……最近、ウチの組では新しい顧客が出来るかもなんだ。藍幇(らんぱん)、って言えば分かるかね?」

「いやあ、ここで繋がりますかあ。なるほどねえ、運命的なサムシングを感じますな」

「ん? 何だ、繋がりでもあるのかい?」

「前に幹部らしきガキンチョどもを段ボール詰めにして突き返した」

「何してるんだいアンタは……まあ知ってるなら話が早い、交渉の手伝いと、何かあった時の護衛をお願いしたいんだ。ウチに中国語話せる奴がいないしね」

「仲介はこっちが恨まれてるし、護衛は眞巳がいるから事足りると思うんだが」

「確かに眞巳一人でも充分な戦力だけど、四六時中一緒というわけじゃないからね。念のためだよ、念のため。

 それに、潤なら顔を出さなくても交渉くらい余裕だろう?」

「まあ、俺は本来裏方だしな」

「つまり普段の潤さんは狙撃銃片手に殴り込むような愚考を犯しているのですね」

「敢えて危険な前線に赴き、戦功を上げてくる……ご主人様は万能のお方なのですね。ヘルモーイ!」

 レキ、お前やたらと辛口だな。メヌの辛辣さが映ったか? あとリサは褒めすぎだから、前線に出てるのは暴れたいだけだから(アホ)

「とまあ、ウチの未来のために手伝って欲しいんだ。どうだい、受けてくれる?」

「一応武偵であるりこりんとしてはー、オクスリとかちょーっとやばめなもん扱ってると協力しにくいんですが」

「そこは問題ないぞ。菊代んとこはクスリご法度だからな」

 昔気質ということで他の派閥から侮られることも多いが、まあそういう輩は悉く潰されていくわけだ。頭が情報操作に関してSランク武偵に匹敵する腕前だからな(+尋問術)。

「うっうー、それなら安心なのです! ユーくんの『元』パートナーだし、サービス価格で受けてあげましょう!」

「『元』をやたら強調するねえ、峰理子? あたしは売られた喧嘩は買う性質だよ?」

「くふーふ、理子は売り買いどっちでもするんですヨーギラス!?」

「やめろアホたれ」

「理子だけ殴るのは不平等じゃないんですかねえユーくん!?」

「吹っ掛けたのはお前だろうが」

「……」

「? 何だよ菊代」

「いや、なんでもないさ。じゃあ、依頼を受けてくれるということでいいのかい?」

「俺は特に問題ない。皆はどうだ?」

 全員頷いたので、これで契約完了だな。菊代から向けられた何とも言えない視線は気になるが、まあそれは後だ。

「恩に着るよ、潤とその仲……ハーレムメンバー達が一緒なら、百人力だね」

「オイなんで言い直し「私は違いますが」誤解呼ぶからその言い方やめなさい」

 俺が女を囲ってる変態みたいじゃねえ――

「「「私は一向に構わない」」」

 もう喋るなよお前ら。あと菊代に眞巳、笑ってないでせめて引けよ。

 

 

 依頼料とかの細かい相談はリサに任せ(搾り取らないように注意しといた)、ただいま俺は菊代と別室で二人きりになっている。何でも依頼の方針を相談したいのだとか。

「ありがとうね、潤。組の恥部にもなるから、あんまり公に話したくないんだよ。アンタは口も固いしね」

「理子も口は固いけどな」

「あの娘、うっかり漏らしそうな気がするんだけど」

「意外とそうでもない」

 多分拷問されても吐かないだろう、それくらい精神面は強くしたしな。

「……ふーん」

「菊代?」

 生返事をしながら、菊代は鍵を掛けた。ここは政府の高官や外交官の密談、または『接待』などで使われる関係上、防音・防弾性に優れた部屋ではある。

 なので鍵を掛けるのはおかしくないのだが、先程の意味深な視線と合わせ、嫌な予感がする。

「一緒にいた娘達、随分と信頼してるんだね? 特にあの理子って娘は、身内の妹さんとは別の意味で別格だ」

「そうか? まあ、高校入ってからの腐れ縁だしなあ」

「……それでもあたしから見れば異常なくらいだよ、どんな人間とも一線を引いてたあんたを知ってる身としては、ね。

 ねえ、潤。やっぱりあの娘があんたの『特別』なのかい?」

「別にそういうのじゃねえよ。ただまあ、特別に見えるっていうなら――」

 

 

 あいつは、『地獄』を乗り越えたからだろうな。

 

 

「妙な同族意識でも芽生えてるのかもしれんね」

「……ああ、なーるほど。そういうことか、なるほどなるほど。それはまた――」

 音もなく、菊代はこちらへ距離を詰めてくる。そうして耳元で一言、

「――妬けるねえ」

 背筋があわ立つような色の声音で、こちらの耳朶を震わせてくる。

「……」

「あの娘が『そっち』も経験済みというなら、別に見てるのも無理はないか。今のあんたを囲う中では、真の意味での『お仲間』だしね。

 ……でも、納得は出来るから落ち着くわけじゃないしねえ。潤、それじゃあ他の娘達はどうするんだい? それと、今更かもしれないけどさ――」

 あたしじゃ、ダメ?

 妖艶さをかもし出しながらも、袖を握り、庇護を求める弱々しい瞳。どんな強靭な意志を持つ輩でも、これを前にしては揺らいでしまうだろう。だから――

「……ふむ。諜報や尋問だけでなく、『色』で攻めるのも出来るようになったんだな。大したもんだ」

「……ちょっとは乗ってくれてもいいじゃないか」

 あっさりと離れた菊代が、ぷくぅと頬を膨らまして不満を露にする。そうしてる方が可愛いぞ(素)。

「はあーあ。潤の動揺一つも引き出せないようじゃ、あたしの色仕掛けもまだまだだね」

「相手が悪いだけだろ。今くらいならCVRでも充分通じるぞ」

「そんなのどうでもいいよ、あんたのうろたえる顔一つでも見たいために鍛えてるんだから」

「来世に期待だな」

「言ったね? じゃあ赤面するくらいの色気を身に付けてやるから覚悟しなよ」

「お好きにどうぞ」

 軽口を叩き合うと、どちらからともなく笑い出した。そういやこんな感じだったな、中学時代の俺達は。

「あー、やっぱり楽しいねこういう駆け引きは。でもまあ、変わってないようで安心したよ」

「何がだ?」

「潤が色事に屈しなかったことだよ。そっち方面で腑抜けるなんて、、女としてはともかく、元パートナーとしては見たくないからね。

 まあ、屈したら存分に扱き使ってやるけど」

「落としたいのか違うのかどっちなんだよ、お前は」

「そこはあれだ、乙女心って奴だよ」

 乙女心というより魔性のプライドじゃねえのかそれ。とツッコミ入れても仕方ないので、改めて依頼についての『話し合い』を行った。

 ……ふむ。現在の内情と方針の一致もしたし、これなら大丈夫だろう。内容に関しては、あいつ等に話すのは後でいいか。何となく察するだろうし。

「ああそうだ潤、仕事終わりでいいからウチに顔を出してくれよ。父さんも喜ぶだろうから」

「そのつもりだよ。親父さんには世話になったし、不義理なことはしたくねえしな」

 鏡高前組長、つまり菊代の親父さんとは中学時代、組の反乱分子をあぶりだした時に気に入られ、遊びに行く度良くしてくれたんだよな。懐かしいことだ。

 まあ、初対面では菊代が悪い男に引っ掛けられたと思い、顔がやばかった。地味に親バカなんだよなあの人、気に入られてからは危うく婿扱いされそうになったけど。

「そう言ってくれて安心したよ、あんたって墓に手を合わせるイメージがないし」

「間違えてはいないが、世話になった人ならそれくらいするさ」

「やっぱ普通はしないんじゃないか……あ、そうだ潤」

「ん? 何よ」

 先に部屋を出ようとする俺に菊代は声を掛け、

 

 

「理子ちゃんに飽きたら、いつでもあたしのとこに来なよ? あんたなら、組を挙げて大歓迎さ」

 

 

 先程とは違う楽しそうな笑みで、そんなことを言い切りやがった。

「……お前も変わったなあ。まあ、考えとくわ」

「知らんとか言わないだけ、あんたも大概変わったよ」

「違いない」

 もう一回笑って、俺達は部屋を出た。さあて、依頼開始だ。

 

 

おまけ

「おっかえりー浮気もののユーくん! きくりんの匂いが身体からぷんぷんしてりこりんはぷんぷんがおーなのデタラメロックンロール!?」

「面倒臭い嫉妬キャラみたいになってんじゃねえよお前は」

「理子お姉ちゃん、さっきまですっごいソワソワしてたんだよ? 誘惑されてないかなーとかブツブツ言いながら」

「面白いのでスケッチしておきました」

「可愛らしかったですよ、理子様」

「ちょ、めーちゃんそれは言わない約束ぅ!? リサも優しい感じで微笑むのはヤメテ!?」

「きめえ」

「あ”あ”!? 今何つった潤!?」

「おおきめえきめえ」

「いっぺん死ね!」

「いやあお兄ちゃん、それはないでしょうよ……」

「あたしらからすれば見慣れた塩対応だけどねえ」

「ですねえ」

 

 

 




後書き
ジャンヌ(以下ジ)「ふん!」
作者(以下作)「( ゚Д||)デベロップ!?」
作「( ゚Д||)いきなり何すかジャンヌさん」
ジ「何、結局月一投稿となってる輩にお仕置きしただけだ。というかさっさと戻れ」
作(そっちが斬ったんだけど何この理不尽)
作「……( ゚Д゚)よし、戻りましたわ。とりあえず令和から定期投稿するよう頑張るんで、勘弁してくだせえ」
ジ「……これ以外のシリーズも書きたがりで、スマホのイベントで忙しいくせにか?」
作「シャニマスはみんな可愛い(真顔)」
ジ(これはダメだな)


 というわけで令和初投稿でございます、ゆっくりいんです。初日に頑張って投稿しました。
 ……もう日付過ぎてる? 私の中では寝るまで今日なのでセーフです(暴論)
 そんな戯言は置いておいて、今回は菊代からの依頼編でした。前回中学時代の話をすると言ったな? アレは嘘(獣に引き裂かれるような音)
 ……本音言うと下書きはあるんですが、何とも言えない出来だったんですよね……代わりに菊代との絡みをガッツリ書きました、許してください(何様)
 次回は菊代からの依頼編になると思います。内容は大まかなもの以外未定です(オイ)
 それとアンケートもやる予定なので、よかったら書いてやってくださーい。すぐ書ける訳ではないですが()
 では、ここまで読んでいただきありがとうございました。感想・評価・誤字脱字の指摘、お待ちしております。


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第三話 事前準備は万全すぎて損はない

理子(以下理)「ぐあああああ出なーい!! キズナ○イちゃんが出なーい!!」
潤「完全に物欲センサーに囚われた結果である。……オイ、その手に持ってるリンゴのカードは何だ」
理「追い課金!」
潤「……まあいいけどよ」
かなめ「げ、孔○先生被った……寧ろ他の人のところに行ってあげてください」
潤「殴られても文句言えないセリフだなオイ(I'm ready♪)ん?」
メヌエット『無課金でSSRまみみん出ました(`・ω・´)ドヤァ』
理「何でそんなに出るんだよみんなーーーーー!!?」
潤「知らんがな」
 近況報告です(適当)


「……なあ兄貴」

「何だよジス」

「何でハイマキの散歩してるんだよ」

「レキが「唐突に閃きました」とか言って引きこもったからだが」

「ワフ」(訳:ご主人には困ったものです)

「そうじゃねえよ!? 依頼受けたのにのんびり散歩なんぞしていいのかって話だ!」

「お前散歩が犬にとってどれだけ重要なのか分かってないのか」

「ワウ!」

「論点そこじゃねえよ! ていうか犬じゃなくて狼だろそいつ!?」

「Σ(・ω・)ワフ!?」

「何忘れてた!? みたいな反応してんだよ!?」

 あんま騒ぐなよ、狼飼ってる人は珍しいから群がられるぞ、俺ら以外いないけど。どうも、遠山潤です。

 菊代から依頼を受けた翌日、ただいま俺とジスは男(+雄)だけの散歩である。最近デブ一直線なハイマキのため、全力疾走していたのだが。

「まさか巣鴨から東京湾まで走らされるとは思わなかったぜ……」

「汗一つかいてない癖によく言う」

「そりゃ兄貴もだろ。というかそのロースペックで息切れ一つしないとか、何をしているのか聞ききたいんだが」

「さらっと低スペックとディスるこの弟である。呼吸法や走り方に気を配れば、これくらいの距離と速度余裕だろ。技量で補える範囲だ」

「……世の中でそのレベルはクレイジーだぞ、兄貴」

「バンナソカナ」

「マジ顔で言うなよ怖くなってくるだろ」

 何がだよ、おかしいことなんて一つも言ってないだろ(真顔)

 まあそんな話は置いといて、ここは東京湾の中でも外れの位置にある倉庫。業者は滅多に近寄らず、少し寂れている区画である。

「で、兄貴。なんで早朝から散歩なんぞ出たんだ?」

「バカとメイドとマイシスターが一晩掛けて女装計画を練ってたから」

「ああ、そういや良くやらされてるんだっけか……ご愁傷さん」

「他人事みたいに言ってるけど、お前もターゲットだぞ」

「……はあ!? いや、何でだよ!?」

 何でと言われても。

「経歴はどうあれ、お前遠山家の血縁だろ」

「……まあ、ゴンザのDNAが使われてるしな」

「で、金一の兄貴がアレだろ」

「ああ、『カナ』のことか」

「つまりそういうことだよ」

「いやわかんねえよ!?」

 多分分かんない方が幸せだと思うが、ツッコミ入れられたなら仕方ない。

「要するに、『兄貴に似合うならその弟もイケるんじゃね?』のノリでお前の衣装も用意されてた。理子の奴は「これで姉妹丼ならぬ兄弟丼だね!」とかアホなこと言ってたが」

「頭おかしいんじゃねえか兄貴のコレ!?」

「どれだよ。ちなみにハイマキも可愛くデコられるとか何とか」

「ワフ!?」

 そんなバカな、と言われても事実なんだよなあ。可愛いは正義っつっても限度あるだろアイツ等。俺? 当たり前のように確定枠だよコノヤロー。

「……ちょい待て兄貴。もし俺が早朝に出掛ける姿を見かけなかったら」

「最初の犠牲者になってただろうな」

「言えよ!!?」

殿(しんがり)って重要な役割だよナコトシャホン!?」

「囮か餌って言うんだよクソ兄貴!! 殴るぞ!!」

「もう殴ってるだろ……」

 しかも義手でアッパーカットするなよ、脳ミソぐわんぐわんするわ。速攻で手が出るとか、アリアかお前は。

 

 

「だあれが口より先に手が出る暴力系ロリよ!?」ガバリ

「……お姉様、朝から大きい声を出さないでください……」

「あ、ごめんメヌ……ってなんでアンタアタシの布団に入ってるのよ!?」

「ふふっ、お姉様あったかいナリィ……」ギュー

「アタシは石か……ってもう寝てるし、ガッチリ腕掴んでるし。

 ……寝直そう」

 

 

「……」

「どうした兄貴」

「アリアの絶叫を聞いた気がする」

「……兄貴なら聴こえてても不思議じゃねえな」

「人を盗撮魔みたいに言うな」

「この場合盗聴じゃね?」

 確かにそうだ。バカだなあとカラカラ笑うジスが無性に腹立つ、殴りてえ(返り討ち確定)

「で、ほとぼり冷めるまでこの辺いるのか?」

「いや、手ぐすね引いて執念深く待ってるから意味ねえな」

「……今からでもニューステイツに帰るか」

「知らないのか、変態からは逃げられない」

「その執念は何なんだよ!? というかジジイとバアさんに見つかったらどう言い訳するんだよ!?」

カナ(前例)があるからスルーされるんじゃねえかなあ」

「懐広すぎるだろ遠山家!?」

 色々諦めたんじゃねえかな、知りたくねえけど。っと、そんなことより。

「ジス、ちょい隠れるぞ」

「あん? オイ兄貴、いきなり掴む――うおお沈む、沈んでくぞ!?」

 

 

 ……

「ん? そこに誰かいるのか?」

「ワフ」

「……何だ、迷子の犬か。ほら、仕事の邪魔だからあっちに行ってろ」

「クゥーン……」スリスリ

「……はあ、しょうがないな。ほら、ジャーキーやるからあっちに行ってろ」

「! ワン!」ダダダダダ

「やれやれ、全く……どうも犬には甘くなるな、俺」

「……お前、そんなキャラだったか?」

「ほっとけ」

 

 

『ハイマキ、もうちょい離れてくれ。……よし、ここでオッケー。そのままビーフジャーキー食いながら待機』

「ワオン!」

 どうも、遠山潤です(二回目)。現在俺とジスがどこにいるかというと――ハイマキの影である。ちょっと原子構成その他を魔術で弄って潜り込んでみた。

『オイさらっと怖いこと言ってねえか兄貴!?』

『失敗しても新種のUMAかSCPっぽい形になるだけだから大丈夫だよ』

『何も大丈夫じゃねえだろそれ!? クソ、殴りてえのに手がねえ!』

 そりゃ影の一部だからな。影同士か持ち主のハイマキと意思疎通は可能だが、身体があるわけじゃないし。

『そんな場所に説明なしで巻き込むんじゃねえよ……でもこれ便利だな、ヒルダが使う影に潜り込む超能力(ステルス)か?』

『あっちほど便利じゃねえな。隠れるだけで何か出来るわけじゃねえし、魔力感知が出来る人間にはすぐ気付かれる』

『……それ、あっちに超能力持ちがいたらアウトってことだよな?』

『逆に言えば、気付かれたら超能力持ち相当の戦力がいるってことになる』

『……なるほどな。じゃああいつ等がカガミダカ組の人間か』

『何人か見知った顔がいるしな、組の徽章は外してるが。

 ……っと、お相手が来たな』

 影の中で雑談していると、倉庫の中から別の一団が出てきた。遠見で見る限り同じアジア系でも、中国系の特徴が強い。というか、

『……オイ兄貴、あれツァオ=ツァオじゃねえか?』

『だな。取引してるのは……携行型の無反動ガトリング砲、カラシニコフ、アヘン……』

 ぱちもんアリアことココ姉妹(眼鏡掛けてるから別個体っぽい)が指示して運搬させてる荷物の類は、『遠見』と『透視』の合わせ技で見る限り、重火器と麻薬がメインのようだ。

『……ヤクザが持つ武器にしては過剰すぎるな。それに、カガミダカでドラッグはご法度じゃなかったか?』

『ああ、菊代も方針は親父さんと一緒のはずだが……まあ、ここまで見れれば収穫は充分か』

『それじゃあ――』

『帰るぞー。ジス、ハイマキ』

『おう! ……って何でだよ!? 今なら一網打尽に出来るだろ!?』

 そりゃそうだが、何で血気盛んになってるんだコイツ。そもそも、

『依頼人の意向も聞かずにしばき上げるのはまずいだろ、もしかしたら組の方針が変わったのかもしれんし。

 とりあえず証拠は取れたし、まずは菊代への連絡と確認が先だ。ヤクザの問題に無闇矢鱈と首突っ込むもんじゃねえぞ、あっちにも面子があるんだし』

『いやでも藍幇の連中もいるだろ!? 麻薬の密輸とか捕まえる理由も充分じゃねえか!』

『捕まえてもすぐに保釈されるだろ常考。最悪、蜥蜴の尻尾切りされて情報はなし、藍幇全体の警戒度を無駄に上げる羽目になっちまうぞ』

『いや、でもよお……』

 理由を話してやったが、ジスは納得できていないようだ。なんというか、

『そういうとこは遠山の人間だな、お前も。悪を見逃せない正義のヒーローってとこか』

『ばっ……バカ言うな、俺が暴れてえだけだよ! そんなガキが夢見るヒーローみたいな動機なんてねえよ!』

『じゃあ大人しくしてろっての。暴れたいならしっかりした場を用意してやるから』

『……チッ、分かったよ』

 ようやく納得してくれたようだ。兄貴ほど頑固じゃなくて良かった良かった。

 ハイマキに離れてもらい、影から出てくる。ジスは身体に異常がないかしきりに確認しているが、問題ねえっての。

「その言葉がどれだけ信用できるんだよ……で、兄貴。これからどうするんだ」

「とりあえず、菊代にメールは送ったから返信待ち。結果が来たら理子達に情報共有、後に行動開始だ」

「おう、分かった。……なあ、俺の光学迷彩(マテリアル・ギリー)使えばよかったんじゃないか?」

「あの先端科学(ノイエ・エンジェ)版透明マント? ダメージ受けるとすぐバレるし、あんまり好きじゃねえんだよなあ」

「そりゃどっかしらダメージ受ければ故障するからな……」

 だろうな、しかも勘のいい奴なら気づくし。まあ、今回いたココは戦闘能力のないタイプっぽいし、運び屋してる連中も大したことないっぽいが。一部除いて。

「藍幇の連中、幹部クラスはココだけっぽかったから、今回の密談はアレの独断……いや、まだ断定には早いか。

 そういやジス、全く関係ないんだが」

「何だよ兄貴」

「ノイエ・エンジェって聞くと、某○Aを思い出すよな」

「……かなめも全く同じこと言ってたぞ。本当思考パターンそっくりだよな」

「設計図作るとこもか」

「そこまではやってね……え、あるのか?」

「地上対応にカスタマイズしたのなら」

「何と戦う気なんだよ兄貴は……」

 何でもだよ。嘘だよ趣味だ(真顔)

 などと雑談しつつハイマキの労いを兼ねて頭を撫でていたら、メールが届いた。宛先は――かなめ?

 

 

『見 せ て ! ! ( /゚Д゚)/ウオーーー!!』

 

 

 ……

「……盗聴器かカメラでも付けられてるんじゃねえか、兄貴?」

「ナチュラルに覗くんじゃねえよマイブラザー。出る前に全部取り外したから大丈夫な筈だよ」

「付けてんのかよ何やってんだあいつ……」

「全部で三十六個あった」

「多いわ!? 何考えてるんだよアイツは!?」

 寧ろカメラとかなしに察してる方が怖いんだけどな。……ないよな?(再確認)

 

 

おまけ

 ヤーミヲーハラーイスースメー

「ん? 理子からか」

『準備いつでも万端なのです! さっちゃん共々お帰りをお待ちしてますぞー( ´・ω・`)ムフー』(添付:数々の女装衣装)

「……なあジス、先に一人で帰ってくれねえ?」

「嫌に決まってんだろ!? 兄貴こそ先に帰れよ、ハイマキは俺が連れて行くから!」

「ワウ!」

「それこそごめんだよ何度やられてると思ってんだ」

 ヤーミヲーハラーイスースメー

「ん?」

『二人とも、逃がさないからね(ハート)』

「……退くも進むも地獄だな、これ」

「オイ兄貴、逆ハニトラでどうにかしろよ」

「爺ちゃん婆ちゃんがいる前でやれと?」

「女装よりマシだろ!?」

 結局逃げようとしたらかなめと理子によって捕縛された。……どこから調達したのか、ヘリからのヒモなしダイビングによる上から来るぞ! で。

「ううチクショウ、何でこんな目に……」(樹○私服スタイルのジス)

「こうなれば、なりきった方が、楽ですよ……」(凛○着物スタイルの潤)

「いやダメだろ!?」(でも声帯チェンジはする)

 後日、メールで女装姿が触れ回られたことにより、ジス陣営の一部(女子共とオカマ)が歓喜の渦に包まれ、仲間に加わったとか。変態が増えた(白目)




あとがき
 藍幇キャラが出ると思った? 残念キンコちゃんでした!(格好は違うけど)
 どうも、遠山家は女装の呪縛から逃れないを忠実に再現しました、ゆっくりいんです。恐ろしいのは原作と何一つ違ってないことなんですよね(原作のサードは割とノリノリでしたけど)
 というわけで今回は、誰が得するのか分からない男だけの回でした。本当は散歩してから女装するまで女性陣に追い込まれるシーンも書こうかと思ったのですが……いつもと変わらねえなこれ! と悟ったので省略しました。哀れサード、君も女装(遠山)の呪縛からは逃れられないのだ……(原作では平然としてた気がするけど)
 次回は鏡高組視点のお話……の予定です。潤なりに今回の依頼をこなします、つまりいつも通りです。
アリア「こんなに早く投稿するなんて……アンタ本当に作者?」
 泣きますよアリアさん(自業自得)
 では、今回はここまで。感想・評価・誤字脱字のご指摘、いつでもお待ちしています。アンケートも行っていますので、良かったら投票してください。
 それでは、読んでくださりありがとうございました。


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第四話 オトシマエは超重要(前編)

ジーサード(以下G)「オイ兄貴、入る――うお、何だこの散らかりよう!?」
潤「仕舞ってた冬物の服引っ張り出してるんだよ。自前ならともかく、兄貴のお下がりとかもあるしな」
G「それにしたって随分な量だな……お、オイ兄貴これは?」ブルブル
潤「あ? ああ、その特攻服か。前に藤木林と朝青っていう奴等からお礼ってことで貰った「これ貰っていいか!?」……いやまあいいけど」
G「oh……ビューティフォー……!」
潤(着るタイミングなくて肥やしになってたし、丁度いいか。二人には後でメールするとして――ん?)
潤「……」スッ
ジ「ん? オイ兄貴、何隠して……見なかったことにするか」
潤「そうだな」
潤(仕舞った記憶ねえのに、なんで『女子者の服』があるんだろう)
 この後滅茶苦茶女性陣から隠した。




「さあて、潤の奴に段取りその他任せちゃったけど……どうなるかねえ」

 どうも、鏡高菊代だよ。……誰に言ってるんだろうね、これ。まあ細かいこと気にしたら負けか。

 今日は待ちに待った藍幇(らんぱん)との交渉。家の警備はガチガチに固めてるけど、中心にいるのは古参の連中じゃなく最近幹部になった東大卒の頭脳派、松永が集めたメンバーだ。

 眞巳はこの人選に反対してたが、潤が「好きに選ばせとけ」って言ったら、渋々引いていた。あいつの『策』には信用が置けるからね、大丈夫だろう。

 ……うん大丈夫、大丈夫なはず(中学時代の惨状を思い出しつつ)。

 ……警察(サツ)と揉め事になったら、潤に丸投げするかね(溜息)

「おう菊代、お早い到着で」

「……ん? 潤、あんただけかい? 他の子達は?」

「大勢でぞろぞろしてたら怪しまれるだろ、しかも明らかにヤクザものじゃない女子が大量とか。必要なら出てくるから大丈夫だよ」

 肩を竦めながら店に入ってくる潤の姿は、スーツに赤色のネクタイをカッチリ着込み、サングラスも掛けた完璧ヤクザスタイルだ。簡単な変装かね、背格好も微妙に違うし。……久々に見るけど、本当どうやってるんだろうね。超能力(ステルス)も使ってないらしいし。

「そういや眞巳はどうした?」

「あの娘は藍幇の人を迎えに行くため、席を外してるよ。あっちの使いとは知り合いらしいし、丁度いいと思ってね」

「ふうん、そうか。それは、」

 

 

 ちょうど良かった

 

 

 ホルスターから抜き出したUSPを、こちらの額に突き付ける。

「……何のつもりだい?」

「見ての通りだが?」

 いつも通りふざけた態度のまま笑い、ポケットから無線を取り出してどこかに連絡する。程なくして、ウチの人間がカラシニコフ(AK47)片手に部屋へ入り、こちらに銃口を向けてきた。

「土足で上がりこんでくるなんて、礼儀のなってない連中だね。一から躾け直してやろうかい?」

「この状況でそれだけ言えるとは、さすが組長さんだな。切り抜けられる方法でもあるのか?」

「さて、どうだろうね?」

 平然とした態度で答えるが、実際打つ手はない。そこいらの雑魚なら問題ないくらいの武力は持っている、目の前の男が鍛えてくれたしね。

 が、座ったままでこれだけの突撃銃(アサルトライフル)を向けられるとなると、流石にどうしようもない。

 それを分かっているのだろう、松永と部下の男達はニヤニヤと小馬鹿にした笑いを浮かべている。

「今眞巳にも連絡したよ。菊代が危機的状況にあるから来てくれってな」

「まあ、間違ってはいないね。……なるほど、あたしはどこから嵌められていたんだい?」

 両手を挙げて降参の意を示す。全く、こんな展開は幾らなんでも予想外だ。

「依頼を受けてからだよ。俺から松永さんに話を持ち掛けてな、この反乱に協力したのさ。

 聞いたぜ、随分と扱いが酷かったらしいな? 先代の親父さんは偉大だったんだろうが、その七光りで無理矢理まとめ上げれば、不満は出てくるもんだ」

「……耳に痛い言葉だね。でも潤、あんたが裏切るメリットが分からないんだけど? 

 『処理』はどうとでも出来るから武偵活動は続けられるだろうけど、あんたが利もなしに動くとは思えないね」

「残念ながら、明確に欲しいものがあるんだよなあ。『非々色金』っていうふざけた超能力のアイテムがよ」

「ヒヒイロカネ? なんだいそれ」

「分かりやすく言うと、超能力系核爆弾」

 えぇ……何それ、やばいじゃないか。しかしなるほど、それなら潤が動いたのは納得である。

「で、あたしの身柄と引き換えにそれを貰おうって訳?」

「流石にお前一人じゃ足りねえよ。鏡高組のトップを松永さんに『代替え』させて藍幇をバックに付かせること、俺は藍幇の依頼を受けること。これが条件だ」

「こんな美少女捕まえて物足りないとか、随分と贅沢だねあんた等」

「自分でそれ言うか」

 呆れたように首を振る潤。そういう顔を見てると、昔パートナーを組んでた時を思い出すよ。

「遠山君、そろそろ話は終わりにしましょう」

「っと、すいません松永さん。それと――もう来ますね」

「菊代、大丈夫で――潤? 一体、何を」

 飛び込んできた眞巳だが、部屋の状況を見て固まってしまう。まあ無理もない、潤が裏切るなんて完全に予想外だしね。

「見りゃ分かるだろ? さて、眞巳。するべきことは分かるよな?」

 首だけ眞巳の方に向け、ニヤニヤしている松永の横で、潤は口を開く。

 

 

 こいつ等潰すから、お前は菊代を守れ。

 

 

「え?」「は?」

 誰もが予想外の言葉に一瞬止まる中、同時に動いたのは潤と――あたし。

燐音(りんね)

 

 

 りいいいぃぃぃん

 

 

 言葉を紡ぐと同時、澄んだ音色が聴覚を蹂躙する。事前に瞬き信号で『耳塞いでろ、あと対精神ショック用意』と伝えられたのであたしは無事だったが、

「――――」

 他の連中は心奪われたように動きを止めている。傍から見ると怖いね、これ。

 静止はそう長い時間じゃない、でも潤には充分な時間。USPの引鉄が早撃ち(クイックドロウ)に一発の銃声と八発の弾丸が吐き出され、全員のAKを弾いた。

「――あ、なっ、貴様!?」

「眞巳、菊代任せた」

「え? あっ、はい! 分かりました!」

 動揺から立ち直れていない連中の四肢を、潤は片っ端から打ち抜いて無力化していく。悲鳴と血が飛び交う中、あたしは思わず言ってしまう。

「あーあ、やっぱりこういうことか(・・・・・・・・・・・)

 

 

 どうも、遠山潤です。現在裏切り者の制圧中ですたい。裏切ったんじゃないかって? ハハハ、何のことやら。

「う、ぐう……」「いてえ、いてえよお……!」

 撃たれた連中は傷口を抑えて蹲ったり、倒れて泣き叫んだりしている。四肢を打ち抜いただけなんだが。神経は健在なんだから、痛覚を止めれば動けるだろうに。

「な、何故だ……」

「ああ松永さん、協力ご苦労さん。お陰で俺も仕事が片付きそうだわ」

 武器を弾かれただけで無傷の松永――裏切り者の首魁が、呆然とした表情から一転、赤くなった顔で怒鳴り散らしてくる。

「何故裏切る!? いや、裏切れる(・・・・・)!? 協力を持ちかけてきたのはそちらだろう、遠山潤!」

「ん? 裏切ってなんかいないぞ? 言っただろ、『俺の目的のために、新しくなる鏡高組の邪魔になるものを排除したい』って」

 何一つ嘘は吐いていない。まあ、『菊代のため』というのは伝えていなかったが。

「だとしても! 我々は『誓約』を交わしたのだぞ!? 決して裏切ることのないようにと、用意したのはそちらだろ!」

「ああ、これ?」

 懐から取り出した一枚の用紙。達筆な文字で書かれたそれは魔術における『誓約書』であり、簡単に言えば『互いを害さない』という内容が書かれたものだ。

 署名だけでなく血判も押されており、込められた魔術式が起動すれば破ることのできない強制力を発揮するだろう。もっとも、

「残念だけど、これ魔力が込められただけの用紙だよ。偽装を施したとはいえ気付かないとか、とんだハズレの魔術師がいたもんだ」

 「なっ……なん、だと……!?」などとテンプレ驚きしている松永は放っておくことにする。

 余談だが、菊代とは中学時代に同じ内容の『誓約』を交わしており、直接的に菊代を害するのは不可能である。だからこその余裕もあるのだろう、裏切りを見破られていたのもあるんだろうが。

 とそこで、懐に入れておいた無線機から連絡が入る。

『兄貴、オールクリアだ。鏡高の人間合わせてこっちの被害はゼロ、周囲に伏兵もなしだ』

「お疲れさん、ジス。予測より制圧早いな、流石リーグのリーダーだ」

『いや、これに関しては兄貴の提示した作戦がピタリとはまり過ぎてたからだよ』

「謙遜するねえ、珍しく。まあ、後始末は任せるわ」

『謙遜じゃねえんだけどなあ……ここまで来ると気味悪いな』

 何か失礼なことを言いつつ、ジスの通信が切れた。無線に向けて怒鳴っている松永に向けて、USPを額に突きつける。「ひぃ!?」などと情けない声を上げているが、別に殺さんって、多分。

「残念だけど、あんたが用意した兵隊は全滅だよ。松永さん」

「……何故だ。決起の日程以外、お前には何も情報を与えていないんだぞ? それがこうもあっさりと……」

 信じられないもの見る目だが、呆れて溜息を吐いてしまう。

「人員から装備、襲撃時間etc……情報なんてのはどこにでも転がってる。そこから個々人の行動パターンや心情も含めて思考すれば、襲撃内容を『予測』して、幾らでも『対策』を立てられるだろ?」

「それが出来るのはあんただけだよ」

 背後の菊代が呆れた感じに告げるが、んなわけねえだろうよ。これくらいの作戦を完璧に潰せなければ(・・・・・・・・・)策士としては二流以下だ。

「訂正しようか、あたしが知る限りあんただけだね」

「じゃあ見聞を広げてみろ、そこら中とは言わないけど珍しくもないさ。で、こいつどうするんよ菊代」

「そうだねえ……じゃあ、あたしに任せてくれないかい? 潤と眞巳は一応周囲の警戒をしていてくれ」

「了解」

「分かりました。……潤、後で話を聞かせてもらいますからね」

 きろりと眞巳に睨まれてしまった。いやあ、美人の険しい顔は怖いねえ(表情変わらず)

 USPの銃口を下げ、代わりに菊代が松永の前に、改造和服の裾を揺らしながら近付いていく。

「き、菊代さん……」

「ねえ松永。あたしはね、裏切りに対して寛容じゃいられないんだ。父さんから若くして、しかも女の身で引き継いだから舐められてるのは分かってたけどね。

 だからこそ、あんた達には『落とし前』を付けないといけない」

 『落とし前』と聞いて、腰を抜かした松永が震え出す。どんな目にあうのか想像しているのだろう、一切容赦ないし、見せられるものじゃねえからなあ。

 そんな彼に対し、菊代はいつもの艶然とした、しかし優しさに満ちた笑みを向ける。

「だけど、あたしは選ばせてあげる。あんたと、あんたの仲間の人生を。

 裏社会の人間としての尊厳と矜持を捨てて、一生を組の犬として過ごすか。

 あるいは尊厳と矜持を守るため、苦しみ抜いて惨たらしく死ぬか」

 笑ったまま、黒く、重いプレッシャーが菊代から放たれる。もし首を横に振れば、宣言通り『最大限』惨たらしい形で葬られるだろう。

 松永も理解しているのか、顔色は真っ青だ。助けを求めるように周囲を見るが、仲間は依然倒れて呻いているだけだ。全員四肢を打ち抜かれてるしな。

「ああ、心配しなくていいよ。昇進は無理だけど、衣食住の面倒はキチンと見るさ。ちょいと危険な『仕事』は増えるけど、死ぬよりはマシだろうね。

 さて、どうする? あんたの決定で、ここと外にいる連中の将来が決まるけど」

 上に立つなら部下の責任も命も背負うのさ。菊代が告げると松永は俯き、

「…………すいませんでした、菊代さん。今後、決して逆らうことはしません。だから、命だけは……」

 搾り出すように、屈服の言葉を吐き出した。それを聞いて、菊代は心から嬉しそうに微笑み、

「うん、反省してくれたなら嬉しいよ。誰にだって間違いはあるし、今回は多目に見るさ。

 でも――」

 そこで一度言葉を区切って顔を寄せ、

 

 

 二度目は、ないよ?

 

 

「――――っ、はい」

 底冷えのする声音は、心底彼の肝を冷やしたのだろう。大の男が情けないほど縮こまってるが、正直気を失わないだけマシである。

「これにて一件落着、かね?」

「……私は何も言われてないですけどね」

 ごめんて。

「軽い、-5点」

 え、何その採点方式怖い。

 

 

「で、潤。あたしを騙した落とし前は、どう付けてくれるつもりなんだい?」

 松永を筆頭とした反抗勢力を粗方捕縛した後。ウチの面子も合流した中で、菊代は凄味のある笑顔のままズイズイ寄ってきた。静かに間合いを詰めないでくれませんかねえ、近過ぎるから。

「油断してるとこを後ろから突くのが一番楽だったんだよ、誰も死ななかっただろ?」

「それは感謝してるよ。でも、仮でも裏切られた以上、あたしの乙女心はズタズタだよ。七光りなんて酷いことも言われたしね」

「乙女心なんて繊細なものない「と・お・や・ま?」アッハイ何でもないですすいません」

 もっと近付いてきた、圧だけならアリア並で怖いんですけど。あと近いから、触れてるから。

「huuー! 追い詰められてるユーくんも新鮮でいいですなあめーちゃん」

「惜しむらくは然程お兄ちゃんが焦ってないことだね、理子お姉ちゃん」

「でもご主人様の新しい一面を見れるのは良いことです、モーイ!」

 助けろよお前ら。レキは距離取ってイラスト描いてるし、ジス――オイなんで距離取って首を横に振ってるんだお前。まさか怖いのか。

「ふうん、ならなんでも一つ言うことを聞くんだね?」

「そんなこと一言も言ってないんですがそれは――おおう?」

 言い募っていると、袖を引かれて身体が密着し、

 

 

「んっ」

 

 

 ……唇同士が軽く触れ合う。いや端的に言おう、キスされたわ。何で急に?

「「ファッ!?」」

「「え?」」

「は?」

「これはいい題材ですね」

 レキ、お前本気でマイペースだね。袖を掴まれ唇を奪われたままそんなことを考えるのは、現実逃避だろうか。

「んっ……はあ」

 たっぷり数十秒経過してから、菊代は身を離した。顔は赤いが、それでも心底楽しそうに笑いながら、

「今回はこれくらいにしてあげるよ」

「……いや、どういうことだよ」

「そういうことだよ。ふふ、しかし成功するなんてね。あたし自身ちょっと驚いてるよ」

「博打でファーストキス捧げるのはどうなんですかねえ」

 しかも周りが思いっきり見てるんですけど。ほら、組の人達も固まってるぞ。

「あたしは別に構わないよ? 潤のことは気に入ってるからね。ところで、後ろ見た方がいいよ?」

「あ? 何の話――んむ?」

 振り向いた瞬間、頭をホールドされて再び唇を奪われた。……相手がマイシスターだけど。

「――――♪」

 かなめは鼻歌を歌いながら、ちょうど菊代より一秒長く唇を離す。そしてぺろりと舌を舐め、

「うーん、これがお兄ちゃんとの初キスかあ。とっても甘くて背徳的ぃ。ほら、リサお姉ちゃんも今がチャンスだよー」

「! ご主人様、失礼します!」

「いや何がチャンスなん――んっ」

 二人以上に、リサのそれは貪るようなそれ。あの、舌を無理矢理入れようとしないでください。

「……っっ。ヘルモーイ……」

 口を離したら、恍惚とした表情で更に抱きしめてきた。あれ、これ公共の場で襲われ――

 

 

「オイ潤」

 

 

 とか思ってたら、ムカ着火インフェルノを内包した理子が無理矢理袖を引っ張ってきた。あれなんだろう、すげー怖い。

「なぁにキス合戦に屈してるんだお前。そんなに良かったのか、あん?」

「寧ろ状況がよく分からなくて混乱してるんだけど」

「今までのお前ならあっさり防いでただろ? あたしと白雪が一年間どれだけ苦労したと思ってるんだ」

「お前自爆してふざけて「うるせぇ」えー……」

 強引に封じられたんだけど。何この理不尽。

「しばかれたくないなら目を閉じてろ」

「要求がイミフ。まあいいけどさ――」

 マジでぶん殴られるかなーとか思って目を閉じたら――

「いいか、お前ら」

 

 

 こいつはあたしが貰うから。

 

 

 と、こっぱずかしい宣言の後、触れるようなキス。お前もか、ブルータス。

「「……」」

 お互い無言で見つめること数十秒。

「……じゃ、じゃありこりんは言うことも言ったし、先帰ってるねー! サラダバー!!」

 抱きしめホールドから開放されたと思ったら、全力ダッシュでその場から離れた。はええなオイ。

「……なんだったんだ、今の一連の流れ」

「いやあ……潤、あんたもそんな顔するんだねえ。あたしと他で違うのは悔しいけど、いいもの見れたから良しとするよ」

「? そんな変な顔してるか?」

「鏡いる?」

「いや、いい」

 言われて予測はつく、見たくはねえな。あと、そこでフリーズしてる眞巳と凄い顔で見てくる組員さん達、何とかしてくれな?

 

 

おまけ

 シンジテルモーノヲー♪

「ん? レキからメール? 何かしら」

『件名:これは凄いものです』(添付:各人キッスの画像)

「???!?!?!?!?」

「お姉様、どうしました? ……あらあら、ふうん」

「ななな何でこんなものが送ってこられるのよジュンのヘンタイ!」

「お姉様、子供は出来ませんよ?」

「知ってるわよ人の黒歴史掘り返すな!」

『責任取りなさいよこのエロジュン!!』

『ごめん急に何』

「ふうん、ふうん……何かしら、面白くないわね」

 

 

 




設定
燐音
 『美しき音色』の魔術。対象の神経に干渉し、一時的に忘我の状態に追い込む。威力はないが、精神抵抗が出来なければ簡単に呑み込まれる。


後書き
 何だこのラスト、菊代さん何してくれるんです?(何もかも予定外の顔)
 あ、すいませんゆっくりいんです。おっかしいなあ、裏切り潰して藍幇との接触して終わるつもりだったんだけど……どうしてこうなった(白目)
 とりあえず、今回ラストは前後編となります。いやマジで伸びるつもり無かったんですけどね? これどう収集付けるかなあ(白目)
 ではご視聴いただき――ん、手紙? ジャンヌさんから?
『Pervers!!』
 ……どういう意味?(英語すらよく分からない顔)
 
 
※感想、誤字脱字、評価などお待ちしてます。


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第四話 オトシマエは超重要(後編)

作者(以下( ゚Д゚))「アンケートの結果……シャレで置いた『エッチなのはいいと思います』が一番多い、だと……?」
( ゚Д゚)「これは、まさかのエッチなSS初投稿、か……? いや本編が終わってない、いやでもIFならあり、か?」
( ゚Д゚)「よ、よし。リアルハーレムちゃんすをここに……」
ジャンヌ「貴様の煩悩を吐き出したいだけだろうが!! 普通に続きを書け!」
( ゚Д||゚)ソレガアッター


( ゚Д゚)「……後半何書けばええんやろ」(本音)



「ぬえりゃあ!!」

「ぐえ!?」「ごがぁ!?」

「……ねーお兄ちゃん。理子お姉ちゃん何やってるのかな」

「鏡高組以外のカタギじゃない奴を殴り倒してるな、一人で」

「明らかにさっきのセリフから来る恥ずかしさを誤魔化すためですね」

「大胆宣言からの羞恥……理子様、あざといですね! 見習わなくては!」

「皆さん分析しないでくださいませんかねえ!? りこりん泣くよ!?」

 しばきながら言うセリフじゃねえだろ。どうも、遠山潤です。俺がナニカサレタヨウダ……からすぐ、鏡高邸の入口で暴れてる理子に追いつき、どうしようかなーと思っているところである。いやマジでどうしよう、コイツ一人で片が付きそうなんだけど。

「……オイ兄貴、峰理子が戻ってきて急に暴れ始めたんだが……」

「色々誤魔化そうとした結果?」

「何で疑問系なんだよ!? つうかそれじゃあわかんねえよ!」

 乙女の秘密ってやつだよ、察しろ。……ジス、鈍そうだから無理かな。

「さらっとバカにされた気がするんだが!?」

「アリアみたいなこと言ってんじゃねえよ」

 直勘持ち二人目とか何も出来なくなるだろ。とか駄弁ってる間に、粗方の敵――藍幇の構成員――を一人で倒してしまった。銃器相手に素手で無力化するとか、成長したもんだ(師匠目線)

「お兄ちゃん、ここで理子はワシが育てた(意味深)って言うところだよ」

「完全に変態じゃねえか、光源氏じゃねえんだから」

「ご主人様ならそっち方面の教育も出来るとリサは確信しています!」

「ごめんリサ、そこで強く推す理由が分かんない」

「いやお前ら駄弁ってないで加勢しろよ!?」

「「え? いる?」」

「異口同音で薄情な発言するなよこの兄妹は!!」

 お前も兄弟だろ。

「ユーくーん? りこりんを完全放置とかどういう了見かな? かな? これはマジもんのぷんぷんがおーだよ?」

「お前なら出来ると信じてたから」

「それなら許そう」

「――と、楽をした言い訳に褒めるお兄ちゃんなのであった」

「うりゃあ!!」

「オイなんでくっつく」

「サボったばぁつだよ!」

 どっちかというとご褒美だろ、自分への。うりうりーと身体を押し付けてくるのに合わせ、先の光景が――蘇りはするが、鋼の精神を備えた俺に隙はない(自慢することではない)。

 というか、死屍累々と敵が転がってる時点でそんなムードじゃねえべ※死んでません

「で、そっちは残り三人だけなんだが。どうするんだ、諸葛静幻さん?」

「……いやあ、参りましたねこれは。鏡高組との交渉に来たつもりが、罠にはめられて全滅させられるとは。

 というか、ここまで一方的なのは武偵でもどうかと思いますが」

「後で藍幇の悪事を余すことなく列挙すれば大丈夫だ、問題ない」

「ヤクザより兄貴の方がよっぽど性質悪いな……」

 いいんだよ正義はこっちにあるんだから(真顔)。静幻さんも「まあそうなりますよね」って苦笑してるし、常套手段だ(んな訳ない)。

「さて、そっちの選択は二つ。大人しく逃げるか、袋叩きにされてからパチモン色金の在り処を吐かせられるか」

「第三の選択はありますかね?」

「横にいるパチモンメガネに交渉の余地があれば」

「それは無理ですね」

 いや諦めんなよ、あんたそいつの上役でしょうに。

「チュン、姉ちゃん達が世話になったネ!」

「お兄ちゃんいつから謎の情「それ前に言った」チクショウネタ被りか……!」

「聞くネ! 部下を全員倒すとは少しはやるネ、でもこいつならドカ!?」

 そう言って、眼鏡のパチモンアリア――もといココが指を差したのは、何故かナゴジョのセーラー服(異様に丈の短いアレなやつ)に身を包んだ――見た目は幼女、中身は人外のヤベー奴が出てきた。

「兄貴……あいつ、ヤバイんじゃねえか?」

「ヤバイな。今まで相手してきた超能力(ステルス)系でトップクラスじゃねえかねこれ」

「正にうぉーにんうぉー「それ天丼」面白いネタは使い回してもいいって偉い人が言ってたから問題ねー!!」

 じゃあその偉い奴は面白くない人だな、きっと。

 雑談の間も、幽鬼みたいな動きで奴が近付いてくる。そいつはココたちの前に出ると、顔を上げ、

「――っ、魔力収束! 回避――」

 言い切る前に、目からレーザービームが放たれた。この感じ――アリアと同種の力――

「おおう」「うひょう!?」「うおお!?」

「――ハ?」「なんと」

 俺、かなめ、ジスの三兄妹狙いのビームを――特に合わせたわけでもなく、全員マトリック○スタイルで回避した。

「わあ、何この光景すげえよレキュ。これが兄妹愛のなせる連鎖プレー……!?」

「傍から見るとシュール極まりないです」

 だろうね、でも当たったらシャレにならないんだよなあ。

「……オイ兄貴、かなめ。なんで避け方がそれなんだよ」

「「いや咄嗟に出たもので」」

「意図的じゃねえのかよ!? こええよ!?」

 同感、何だこのシンクロ率。

「う、嘘ネ……孫の攻撃を、こうも簡単に……」

「だから万全の状態で迎え撃つべきだと言ったじゃないですか……寝ている状態では限度がありますよ」

 小声でこちらには聴こえないよう二人が話しているが、残念俺の耳は盗み聞きくらい容易いのだ。

「孫、孫ねえ。まさか斉天大聖とか言わないよな」

「え、何でバレタネ!?」

「彼なら名前一つで答にたどり着きますよ、完全にこちらが迂闊でしたね……というわけでココさん、逃げますよ。バスカービルの皆さんにジーサードリーグの二人もいる以上、勝てるとは思えませんし」

「ぐぐぐ、虚仮にされたまま退くナンテ……」

 メガネココは悔しそうにしているが、「やるならお一人でどうぞ」と静幻に言われれば退くしかない。二人とも幹部クラスなんだろうが、一枚岩じゃないな。

「というわけで遠山さん、見逃してくださると嬉しいのですが」

「貸し一つで」

「兄貴!?」

 ジスがびっくらこいてるが、

「今捕まえて、静幻さん奪還のために軍団で来られても面倒だろ。それなら相手のホームグラウンドだとしても、向こうで戦った方がマシだ」

 それに相手も分かった以上、『準備』も必要だしな。

「……チッ」

 納得していない様子だが、ジスも藍幇の規模と危険性は理解してるのだろう、反対はしなかった。

「ちゅーわけで、さっさと連中を回収して帰ってちょーだい」

「ありがとうございます。しかし、大きな借りになりそうですねえ」

「ガキンチョのお守りで責任を負うとか、あんたも大変だな」

「組織における年長者の務めですよ。では遠山さんに他皆さん、御機嫌よう」

 「誰がガキネ!?」と叫ぶココを無視して礼儀正しく頭を下げ、藍幇一行は去っていった。さあて、菊代達の後始末を手伝いますかね。あ、アリア達にも今回のこと伝えんと。

 

 

 明けて翌日。帰宅後のマイルームにて説明会でござい。

「で、おめおめ相手を逃がしたと?」

「そーなるな」

「……まああんたのことだし、何も考えてないようで考えてるはずだから、信用しておくわ」

「誰が頭空っぽ人間か」

「普段はどう見てもスッカラカンでしょうが」

「鈴の大きさくらいはあるわい!」

「威張るほど詰まってないでしょうが!?」

 詰まってるよ、最低限の良識くらいは。

「というかジュン、集団で来ても全然平気でしょ。あの場には理子達もいたんだし」

「その場合重火器と爆弾とビーム兵器が飛び交う戦場になってたけど」

「アンタ武偵の自覚ある?」

「大体は銃検通してあるぞ」

「大体に含まれないのも多数あるでしょうが!!」

「理子の方が多いぞ」

「どっちもどっちでしょ!」

 解せぬ。

「……で、ホントのとこどうなのよ? 貸しにしたとはいえ、逃がすメリットなんてほぼないでしょ」

「準備があるのは本当だよ。あとはまあ、放っといた方がガタガタになってくれるだろうし」

「つまり内輪揉めですか。ふふ、外から眺めていたいですねえ」

「さらっと外道なこと言わないのメヌ」

「あらお姉様、火事は対岸で眺めるのが一番ですよ?」

「まず消火しなさいよ!?」

「敵地の火消しをわざわざする意味が無いんだよなあ」

「アンタ達、敵なら平気で見捨てそうな神経してるわね……」

 失礼な、見込みありそうなら敵でも助けるよ(全員助けるとは言ってない)。

「まあそれはいいわ。で、ジュン!」

「何だよアリア、改まって」

 お顔まで真っ赤にしちゃってまあ、思春期?(同い年です)。

「れれ、レキから送られてきたこここ、これはどういうことなのよ?」

「はい? 何のはな――オイレキ、何撮ってんだよお前」

「絶好の資料だったのでつい」

 いい顔(ほぼ変わらねえけど)でサムズアップしてんじゃねえ、色々アウトだよコノヤロー。

「ああアンタ、こんなことして、しかも妹とまで! 妹とまで!!」

「そこ繰り返さないで、完全に変態みたいだから」

「みたいじゃなくて完全にヘンタイよ、このエロジュン!」

「俺寧ろ襲われた側なんですけど」

「じゃあ何で平然としてるのよ!?」

 いや俺だって多少は羞恥心あるよ? 

 ……あるけどさ、それを出すと全員騒ぎ出すじゃん(かなめ来訪時の騒動を思い出しつつ)。

 というかやられた側なのに、何で俺が説教されてるんだろ。

役損(やくそん)だね、お兄ちゃん!」

「おめーも原因の一人だろマイシスター、妙な造語造るな」

 

 

「潤ちゃん! 理子ちゃん達にあんなことやこんなことされたって本当!?」

「その言い方だとABCやられたみたいなんですが。というか誰だ白雪に教えたの」

「理子が教えた」ドヤァ

「オイ何自分の恥を教えて「潤ちゃん!」アッハイなんで」

 チュ

「「「ファ!?」」」

「――……白雪?」

「……あ、あの、あの、その……恥ずかしいけど……私、負けないから!」カアア

「……あー、あーうん。分かった」

「! あの、潤ちゃんさえ良ければ、もっと見て」

「じゃあ遠慮なく見ちゃおうかなー」

「!? く、やっぱり邪魔しにきたわね泥棒ネコ! 先を越されたけど、潤ちゃんは渡さないから!」

「くふふふ、塩を送るのはここまでだよユキちゃ~ん。ユーくんはりこりんのものだからねー」

「……甘いよ理子ちゃん。私にはまだ切り札があるんだから」

「ほほーう? 面白いね、聞かせてもらおうジャマイカ」

「ふふふ、じゃあ教えてあげるね。そう、一人っ子の理子ちゃんにはない、妹のいる私ができる男の子の夢――『姉妹丼』が!」バーーン!!

「なん……だと……!?」

「いやいやいや、何風雪も巻き込んでとんでもないこと言ってんのよ!? というか神社の娘がそれでいいの!? シスターみたいに清いものじゃないの!?」

「星伽が何だー!!」

「あダメだこれ、開き直ってる!?」

「お姉様、私達も同じこと出来ますよ?」

「何言ってんのメヌ!? ししししないからそんな破廉恥なこと!?」

「く、まさかユキちゃんがその手を使うとは……! めーちゃん、こーなったら理子達も擬似姉妹プレイを」

「理子お姉ちゃんとは妹枠で被るからダメです」

「判定が厳しい!?」

「……平和だな」

「その平和、今にも破られそうですが」

「言うな。とりあえず、次回は中国攻めな」

 

 

おまけ

「ところで理子、何で白雪にやらかしたこと教えたんだ」

「お前に一年大変な思いさせられた悲しみの記憶からだよ潤」

「……え、俺が悪いの?」

 

おまけ2

「~~♪」

「楽しそうですね、菊代」

「ん? ああ、そうかもね。潤に一泡吹かせてやったし、組復興の協力も得られたしねえ」

「すぐさま立て直しのプランを出すあたり、潤も流石ですね。……ところで菊代」

「なんだい、改まって?」

「あ、あの時の行為なんですが……本気なんですか?」

「……ふふ。さあ、どうだろうね?」




あとがき
 なんだこれ(二回目)
 どうも、暑さにやられているゆっくりいんです。本編は別の意味でアツアツですね、潤は爆発すればいいんじゃないかな(真顔の嫉妬)。
 さて作者の醜い心情は置いといて、次回は外伝を挟んで中国編にいきたいと思います。予定ではカワイイエルくんちゃんを書こうかなと。

 今回はここまで。感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。
 では読んでいただき、ありがとうございました。


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外伝 カワイイって何だろう

 実は前々から書きたかった今回の話。男装っ子が女子の格好したらかわいいのは万国共通の認識です(んな訳ない)。


「ジュン! ボクを女の子らしくしてくれ!」

「……え、何急に。えっちぃのは勘弁よ?」

「たたた頼まないよそんなこと! 君そんな奴だったのかい!?」

「最近セクハラと貞操の危機がありまして」

「……普通逆じゃないかな」

 俺もそう思う。どうも、襲われる系男子遠山潤です。ちなみに貞操の危機はマジで起こりました、メイドと妹のコンビによって。あいつ等抜け駆けが上手すぎる、心臓に悪いわ。

 それはともかく、今いるのは特別棟の一角にある美術室。午後の専門科目? エルに『大事な話がある』ってメール来たからフケた。

「で、急に何だ? 服装とか女性らしい仕草なら、ウチの女性陣に聞いた方がいいぞ」

「いや、確かにそうなんだけど……ボクが女子に女の子らしさを教わってたら、おかしく見えるじゃないか」

「あーそっか、男子で通してるもんな」

「何だその『忘れてたわ』みたいな反応!? 言っておくけど君達以外にはバレてないからな!?」

 そうなんだよなーふっしぎー。イ・ウーで同期だったジャンヌにもばれてないし。……まあ、こっち見つけると180度転回して全力ダッシュするからなんだけど。お陰でジャンヌを慕う後輩女子達に恨まれてる、何故か俺だけ。何もしてねえよ、理不尽だろ。

「じゃあウチに来ればいいのでは?」

「……メヌ嬢に弄り倒されるのを覚悟でか?」

「理子とマイシスターも足しておこう。大丈夫、女装の呪縛以外からは逃れられる、はず」

「君も大概タフだな、大抵の人は逃げると思うぞ……」

 慣れって怖いよな。ハーレムだと思った? 残念女子どものオモチャです。家主の発言権はほぼない。

「まあ、事情は分かったけど。俺は何をすればいいんだ?」

「いや、その、女子らしさを磨く手伝いをして欲しいなと……ほら、男の目線でも見て欲しいし、ジュンはそういうの詳しいだろう?」

「……他の奴に話すの恥ずかしいんだろ、絶対からかわれるし」

「うぐっ」

 図星だった、口にも出してやんの。ウチの連中なら嬉々として羞恥心を煽りながら育てそうだな。……いや、煽ってる時点で駄目か。

「と、とりあえず制服は持ってきたんだが」

「『女子は男勝りで女子力が死んでる』と言われるウチの制服着たくらいで、女子らしくなれたら苦労しないだろ」

「!? これで少しは女らしくなるんじゃないのか!?」

「お前その理屈なら俺はとっくに女らしくなってるからな?」

 「そこは男の娘でしょユーくん!」と脳内の理子が叫んでるが、黙れ元凶。

「う、た、確かに……文化祭の時の姿は見事だったけど、ジュンは変わらずだからな……」

「思い出さないでくれませんかねえ」

 アレは嵌められたんだから、是非とも黒歴史にしたい。もしくは陽菜の口を永遠に閉ざすか(真顔)

「で、でもボクが用意してるのはこれと、女子らしいシチュエーションプランくらいだぞ?」

「何その痛い発想」

「ううううるさいぞ! ボクなりに精一杯考えたんだ!」

 少女マンガでも読み漁ってんのかこいつ、自覚あるのか顔赤いけど。しゃーねえなあ。

 ギャーギャーポカポカ(普通に痛い)騒ぐエルを尻目に、亜空間へ収納していたものを机の上に出現させる。これ、人前で出したくねえ。

「? 香水に女性ものの化粧品、それにウィッグと衣装……ジュン、実は女装好きの気が」

「ねえから。依頼で必要な変装道具を持ち歩いてるだけだよ。亜空間なら容量制限ないし」

 閉まった場所忘れると、永遠に取り出せなくなるけど。

「それにしたって、一式持ってるのはさすがに……うわあ」

「よし、俺帰るわ」

「ま、待ってくれ! ボクが悪かったから帰らないでえ!」

 その格好(男装)ですがりつくなよ、貴腐人に目を付けられたらどうするんだ。

 

 

「ほら、こんなもんでどうだ?」

「……すごい……これが、ボク……?」

「鏡映ってるのはお前さん以外にいないだろ」

 まあ、大分様変わりはしたがな。髪の色に合わせて付け髪で伸びた腰までのストレートヘアー、アクセントの赤いリボン、顔は薄く化粧を施し垂れ目の印象を強調、ゆったりした純白の長袖ワンピース、合わせて着る上着のカーディガン。そんな感じの、ちょっと儚げな美少女が姿見の中にいた。

 そうして出来たのが劇場版ポスターの間○桜、黒髪バージョンである。何でこれにしたって? ぱっと出てきたのがこれだったから。

 女装? したエルは、信じられないものを見るように鏡に映る自分を何度も見たり、その場でクルクル回っている。おーい、スカートなんだからあんまり激しく動くなって。

「すごい……凄いよジュン! 今のボクは正真正銘女の子だ!」

「そりゃまあ、そういう風に仕立て上げましたからね」

「ジュンは女子のコーディネイトも完璧にこなせる女装の天才だね!」

「オイヤメロ、単に変装術の応用だから。女装の才能じゃねえから」

 そんなこと言われると、自発的に女装させられるから。テンション上がってて聞いてないっぽいけど。

「ふふ、こんな可愛らしくなれるんだなあ……あ、ボクって一人称、変えた方がいいかな?」

「別にいいんでね、無理にキャラ付けするとどっかでボロが出るし。外出するなら声域を変えるくらいで」

「え、このまま出掛けるのかい!?」

「どうせならその格好でうろつきたいだろ?」

「う、それはそうだけど……ジュン、一緒に来てくれるかい?」

「俺? まあいいけど、じゃあどこ行」

「いや待ってくれ!」

「? 何よ」

 何か嫌な予感がする(真顔)

「その、そのままのジュンだと、男の人とデートしてるって、思われるから……」

 チラチラこちらに視線を送りつつ、エルが言いにくそうにしているが……え、マジでやんの? メッチャ期待した目で見られても困るんですけど。

 

 

「……どうしてこうなった」

「ふふ。女の子同士で一緒に出掛けるの、夢だったんだ」

「片方が違うものでしょ……」

「いつもボクが男装しているんだから、これでおあいこだろ? よく似合っているよ、エレ」

「褒められても全く嬉しくないのだわ……あと、見た目女同士の時点で、バランス悪いのだわ」

 ガックリ肩を落とす、俺ことエレちゃん。まあ見た目はそのまんまエレ○ュギカルである。流石にあの格好だと目立つので、秋仕様のファミ○スタイルだが。

 ……俺は(自発的に)やってねえ! と言った傍から女装をするとか、不本意かつ不覚である。もう一回言おう、どうしてこうなった。

「まあまあ。ここまで来たんだし、もうちょっと『女の子らしさ』を勉強させて欲しいな」

「そりゃあ、引き返しはしないけど……来る場所、ここで良かったの? ウチの生徒と鉢合わせる確率も、ゼロじゃないのだわ」

 ここ――東の迷宮と呼ばれる駅から出たある意味での聖地、池袋である。夕方に差し掛かった時間の今は、キャピキャピした少女達の姿を多く見掛ける気がする。

「うん、実は行きたい場所があるんだ」

「行きたい場所? サンシャイ○とか?」

「そこもあるけど、乙女ロードってあるよね?」

「……まあ、あるけど」

 あ、これ致命的なパターンだな(真顔)

「乙女の道というくらいだし、女子らしさを「よーしクレープでも食べて女子力磨くのだわ」ってジュン!? 何で無視するんだい!?」

「今はエレなのだわ。あそこ、サラ(桜の略)が想像するような場所じゃないわよ」

「む、そんなの行ってみなければ分からないだろう!」

「分かるから言ってるのだわ……流石にあそこは勘弁なのだわ」

「んん……? キミがそこまで嫌がるのも珍しいね。何があるんだい?」

「言いたくないんだけど……まあ、言わないで突っ込まれても困るし、言うわ」

 これ男(今は女の姿だけど)の口から言うのは微妙な気分になるんだよなあ。いや趣味としてはありだよ? ただ、俺にそっちの趣味は無いのだよワトソンくんちゃん。

 手招きして耳元に口を寄せると、周囲の人々がザワザワし出した。まあ二人とも目立つしな、俺にいたっては金髪だし。

「な、な……!」

 小声で乙女ロードの真実を告げると、エルの顔が真っ赤に染まった。その顔で羞恥に悶えると理子(変態)が狂喜しそうだな。

「そ、そうだったのか。危うくとんでもない場所に踏み込むところだった……ボクには早い世界だな、うん」

「来ない人には一生来ないし、気にしなくていいのだわ」

 はまる奴は泥沼に頭まで浸かるけど、幸いウチの人間はいない。逆は多めだけど。

「むう……しかしそうなると、わざわざ来たのにどうすればいいだろうか」

「だからクレープでも食べ歩きして、ちょっぴりショッピングでもすればいいのだわ。折角だから女子ものの服でも買ってきましょう」

「え、それって……スカートも購入するのかい?」

「そりゃそうなのだわ」

「そ、それはちょっと……恥ずかしいかな」

「なんでそこを一番恥ずかしがるのか分からないのだわ……」

 

 

 その後のショッピングはダイジェストで、クレープ屋。

「はい、ご希望のストロベリーアイスなのだわ」

「ありがとう、エレ。……わ、生地もふわふわだし、クリームとイチゴのバランスも良くて美味しいですね」

「初めて食べたみたいな物言いね」

「実際、初めてですからね。普段は女子らしいものを食べてると、変に見られそうだし」

「気にしすぎじゃないかしら。スイーツ好きの男子なんて、昨今珍しくないのだわ」

「ジュンとかそうですしね。でも、どこでボロが出るか分からないから……ところで、エレの奴は……すごい甘そうだね」

「バナナキャラメルストロベリーアイスなのだわ、美味しいわよ。そういえば、ちょこちょこ口調変えてるけど」

「た、試しにちょっと……どうですかね?」

「ちょっと恥ずかしそうにしてるのはカワイイと思うのだわ」

「か、かわ!?」

 ファッションモール。

「これなんかどうかしら?」

「こ、これは……短すぎないですか?」

「これくらいなら普通の範囲なのだわ。サラは足が綺麗なんだから、ちゃんと魅せておくのだわ」

「セ、セクハラだよエレ!?」

「? 女同士で何言ってるのかしら?」

「ぐぅ……」

 この後滅茶苦茶女物の服を購入した、カードで。……美少女がブラックカードを慣れた手つきで出したから、店員さんビックリしてたな。本人は不思議そうにしてたけど。すいません、この娘少し世間知らずなんですよ。

 買う時に家がとか父が何て言うかとかブツブツうるさかったので、ある一言で解決させた。それは、

「ばれなければ大丈夫だ、問題ない」

 と。……二重にダメな気はするけど、気にしたら負けだ。

「ふう、色々未知の場所に行けたな……やりたかったことも出来たよエレ、ありがとう」

「別にいいのだわ、この格好なのは不本意だけど」

「ふふ、でも似合ってるじゃないですか」

「さっきも言ったけど、不本意なのを褒められても嬉しくないのだわ」

 またまたそんなこと言ってーみたいな目で見ないで、実際不本意なんだよ。やればやるほど抵抗感が薄れるけど(白目)

「でも、お陰で女子らしさというのを学べた気がするよ。ねえエレ」

「ん?」

 少し前を歩いていたエルが、駅の見える交差点の前で振り返り、

 

 

「また、付き合ってくれますか?」

 

 

 夕日をバックに、女子らしい柔らかな笑みでこちらを見てきた。……まあ、

「いやアリアあたりと行けよ」

「即答!? 付き合い悪いなキミは!」

 いやいいだろ、わざわざ女装して女の子トレーニングに付き合ってるんだから。

 

 

おまけ

「ユーくんユーくん! これ見てこれ!」

「なんぞい理子。……池袋に美少女コスプレイヤー出現?」

「今SNSでものっそいバズってるんだよ! 化粧の仕方で気付いたんだけど、ひょっとして片方ユーくんだよね!? その日ブクロにいたでしょ!」

「いや流石に「そういえばその日にママとメヌの三人で遊び行ったけど、アンタとエルの気配感じた気がするわね」サイヤ人か何かかアリア」

「誰が大猿も怯む怪力の持ち主よ!?」「言ってないマジで言ってない」

「おー、ついにユーくんも女装をすすんでやるように……しかもワトソンくんちゃんも巻き込むとか、ベリーゴッドだね! よーしボクっ娘に良さそうなのはー」

「オイヤメロ、積極的になった覚えは欠片もねえよ」

 このあと殺す気で止めた。……まあ、この程度でどうにかなるわけないんだけど。

 

 

 




後書き
 ワトソンくんちゃんみたいなキャラは貴重、男装の麗人もそろそろ男の娘みたいな新しい属性と呼び名で普及化しないかなあ(願望)
 どうも、転装生(チェンジ)には一過言あるかもしれない作者、ゆっくりいんです。CVRとかにいっぱいいそうですよね、いつかそっちも焦点当ててみたいものです(真顔)
 さて、次回は中国編です。多分今までで一番苦労するかな? 正直当初想定してた潤とヒロイン達の関係性が予想の斜め上を行ってるので、どうなるか作者にも分からないんですよね……
 それでは今回はここまで。感想、誤字脱字、評価などお待ちしています。
 読んでくださり、ありがとうございました。
 


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『藍幇』編
第一話 幸福と不幸は後者が多めな気がする


理子「くふふー、ユーくんだけビジネスクラスとか珍し――あれ、何持ってるの?」
潤「亀龍(きりゅう)選手が隣席で、仲良くなってサインもらった」

※亀龍:人気急上昇中の力士。横綱候補の一人と言われている。

理子「!!? え、嘘でしょ!? どんなラッキーなのユーくん!? あとそれ頂戴!」
潤「やらねえよ、俺の名前書いてもらったんだぞ。 とりあえず、中国で使える幸運全部使ったわ」
 この後乾桜に滅茶苦茶自慢した。
※遠山家の人間は全員相撲見てます。




「きょうちゃん、ユーくん女装させて連れてきたよ! 今日はパチュ○ースタイル!」

「でかしたわ理子」

「いやごめん状況がまるで掴めないんだけど」

「ジュン、助けてください」

「すげえ切羽詰った声初めて聞いたけど、どうしたのメヌ」

「締め切り間際の修羅場を甘く見ていました……モモコも寝かせてくれないし、全員死にそうなのよ」

「五徹くらいで情けないわよ」

「常人なら死ぬでしょ、メヌは体力もないんだし。で、買出しでも行けばいいの?」

「それはいいから製作手伝って……私の推理によると、このままじゃ体力が持つかどうか五分なの」

「手伝いのために女装させたの理子」

「くふふー今回はりこりんの推しだから超気合入れたよダカラタスケテ!」

「……疲労でおかしくなってるわね、これは。いや、いつも通りかしら?」

 というわけでコミ○には間に合わせました。二年生が修学旅行行くから早めに済ませたんだろうな、もうちょっと余裕持てよ。

 どうも、予兆なく女装させられアシをやらされた遠山潤です。とりあえず死んでる理子とメヌを仲良くベッドに放り込み、本日は修学旅行の準備でござい。行き先は中国の香港、ということで。

「予備のUSP、サクソニア、H&K PSG1、パンツァーファウストⅢ……後は携行型に改良したHEAT弾と」

「修学旅行で何しに行くのよ」

「殴り込み」

「ヤクザかアンタは!?」

「相手もチャイニーズマフィアだし、やっちまっても問題ないべ」

「アタシ達はぶ・て・い!! 意味分かってる!?」

「殺さなきゃ問題ないし、万が一やっても海外なら隠蔽が」

「無力化って言葉の意味を覚えてこい!」

「ラクシュミー!?」

 覚える前に脳味噌が吹き飛びそうなんですけど。強烈な右フックで顔面スパーンするかと思ったぜ……

「アリア、あんまり潤ちゃんを苛めちゃダメだよ?」

「この程度でへこみもダメージもないでしょ」

「ダメージは受けてるんですがねえ」

 白雪も慣れてきたのか、最近は俺がぶん殴られても苦笑するだけになってきた。じゃれてるって思われてるのかね、手乗りタイガーも比べ物にならないくらい凶暴かつ理不尽だけど。

「それより白雪からも言ってよ、ジュンったら戦争でも行くみたいな準備してて」

「あ、潤ちゃん。頼んでたのはどうかな?」

「ああ、終わってるぞ。M60は取り回しとクールタイムの短縮、色金殺女は研磨と魔力の収束率を上げといた。あとこれ、頼まれてた槍の『色金包女(イロカネツツメ)

先端の刀身を変えれば薙刀としても使えるぞ。こっちは替刃な」

「わあ、ありがとう……! ふふ、潤ちゃんからの贈り物、嬉しいなあ。夕飯は潤ちゃんの好きなものにするから、期待してね!」

「白雪!?」

 アンタもなの!? とか叫んでるけど、武器の更新してないのお前だけだぞ。寧ろガバメントとポン刀だけでその戦闘力なのが謎だわ。

「潤ちゃんからの贈り物……こ、これって、恋人のプレゼントかな?」

「そんな血生臭いプレゼントで恋人シチュの妄想出来るあたり、アンタも逞しいわね……で、ジュン。幾らなんでも重武装過ぎない?」

「中国行くと毎回ろくな目にあわないんだよ。殺生専門の仙人に狙われたり、キョンシーの素材にされかけたり」

「……自業自得じゃないの?」

「ただの偶然なんだよなあ。ちなみにこれ、一例だから」

「……まあ、そこまで備える理由は分かったわ。ただ、よっぽどやばくなければ使うんじゃないわよ!」

「つまりやばいと感じたら使っていいんですね分かります」

「アンタの所感じゃなくて状況で考えろって言ってるのよ!? 街中でロケランとか使うんじゃないわよ!?」

「相手が使わなきゃ使わないよ」

「撃たれても使うんじゃないわよ!?」

 解せぬ、目には目をは基本だろうに。

 

 

 で、そんな準備期間から数日後。飛行機の中でお相撲さんに会うという嬉しいハプニングに会いつつ(並んで座ってたリサも嬉しそうに握手してた。興奮したのか耳が出て、お相撲さんビックリしてたけど)。

「というわけでとうちゃーく! ホテルセントラルタワーよりたっかーい!」

「「「オイヤメロ」」」

「うっさいわよアンタ達! ちゃっちゃと荷物出しちゃいなさい!」

「オッケー、ゲーム機とか衣装の準備はばん「必要なもん出せって言ってんのよスカタン!」ゼルガディス!?」

「オーイ、遊んでないで手伝えお前ら」

「オゴゴ、ニードロップは遊びの範疇を越えてると思うのですがユーくん……」

「いつも通り自業自得でしょ。で、ジュンは何してるのよ」

「部屋の異界化だけど。具体的に言うと迎撃用の結界」

「発案私、監修白雪ですお姉様」

「潤ちゃんとの共同作業なので、張り切って創りました!」

「物騒なのに共同作業ってどうなのよ……? いや、白雪がいいならいいんだけど」

 荷物出す前にトラップ仕掛けるアリアが言えたセリフじゃないと思う。というかワイヤートラップに組み合わせての軽機関銃はやりすぎじゃないのだろうか。

「? これくらい避けられるでしょ?」

「アリア様アリア様。普通の武偵はそれで迎撃されたらよくて重症、悪いとQBみたいな風穴だらけになるかとリサは思います」

「……は!?」

「順調に重火力脳になっていますね、アリアさん」

「うっさいわよレキ! というかここに来てまでイラスト描いてるんじゃないわよ!」

「タイトルは『セーラー服と重機関銃』です」

「なんでグレードアップしてるのよ!? バカジュンじゃないんだし、そんなもん振り回さないわよ!!」

「二丁持ちで反動無視してた奴が何を言うか」

「誰がカイリ○ー系乙女よ!?」

「つまりアリアんは超能力を使えば四丁までは余裕でいける……?」

「ゴリラも裸足で逃げる怪腕ですね、さすがお姉様」

「ストレートにゴリラより酷いとか言うんじゃないわよ! アタシだって女子なのよ!?」

「「「ソーデスネ」」」

「そこに並べアホコンビィ!!」

 何でメヌは外されてるんですかねえ、ドヤ顔するな妹様。あと配線振り回すなって、ワンチャン爆発オチに「爆発オチなんてサイテー!」こんな時だけ心読むなアホ一号。

「ハー、ハー……何かこんなにツッコミ入れるの、久しぶりな気がするわ。ジュンと一緒にボケ役がいなかったからかしら」

「潤ちゃんの帰省、私も付いていきたかった……!」

「……違うわね、ストッパー役の白雪がポンコツに戻ったからか」

「流石に酷くないかなアリア!? 私何か嫌われるようなことした!?」

「いや、最初に会った頃のしっかりした白雪が帰ってきたのは、やっぱり一瞬だったなあと……」

 何か遠い目になってるけど、実際白雪って基本はしっかりしてるんだよな。部活も生徒会もしっかりやってるし、でも俺が注意してるから無茶しない範囲に抑えてるし。

 ただ、俺と理子が関わるとこっち側になるもので。……最近は風雪()も含むな。

 

 

「お兄ちゃんの浮気者ーーー!!! 妹はかなめがオンリーワンでナンバーワンでしょうがあ!!」

「う、うわ!? どうしたのかなめちゃん!?」

「あ、ごめんあかりちゃん。お兄ちゃんが他の()に浮気してる気がして……」

「あー、遠山先輩人気あるもんねー。でもそんな風に叫べるなんて、お兄ちゃん想いなんだねーかなめちゃん」

「世界で誰よりお兄ちゃんのことを常時考えてます」ドヤァ

「おー」

(そこは感心するとこじゃないと思いますあかり先輩……)

 

 

 ……何かマイシスターからの毒電波を受信した気がするが。スルー安定だな、うん。

「で、まあそれは置いとくけど。結局誰が偵察に行くのよ?」

「ぶっちゃけ誰が行っても余裕で釣れるんじゃないかなあとりこりん思います~。空港からここまでもーう視線が多いのなんの。気分はアイドルかな?」

「逃亡中の犯罪者だろ、殺気だった奴も多かったし」

 正直、襲われなかったのが不思議なレベル。まー全員藍幇だろうな、それもココ姉妹の息がかかった連中。正直、襲撃されても不思議じゃないレベルだった。

「向こうも半端な戦力で手を出そうと思うほど、バカじゃないってことでしょ。アタシのパチモンがそれで痛い目あってるんだし」

「痛い目というより酷い目にあってたけどな」

「お姉様と私に害をなす輩が悪いのですよ」

 いや被害あったの俺だけやん、ゲ○インという名の精神的ダメージを。

「ジュンはそういう役ですから諦めてください。

 さて、事前に話していた散策の件ですが、固まって動くと敵も手を出し辛いので動かなくなるのは、メヌエットのステップを踏むまでもなく分かることです。なのでツーマンセル、もしくは単独での行動がいいかと」

「はいはいはい!! 理子、ユーくんと一緒に回りたい!」

「あ、抜け駆けはずるいよ理子ちゃん! というか潤ちゃんの実家に行くなんていううらやまけしからんことしてきたんだから、私に譲りなさい!」

「白雪様、言い分はごもっともですが、ご主人様の横は簡単に譲ってくれるものではないかと。もちろん、リサもご一緒したいです!」

「面白くなってきたのでメヌも仲間に入れてくださいな」

「では私も」

「大人気ね、潤」

「ツーマンセルとはなんだったのかという件。俺が残ればいいんでね」

「そうなったら誰が残るかで争いになるだけね」

 それな。いつから俺はラブコメの主人公みたいな立ち位置になったんだろう。約二名はノリでやってるけど。

「自覚なかったの……?」

「そんなマジ顔で驚かれても困るんだが」

 まあ険悪にならないのは、こいつ等のいいとこだと思う。火に油は幾らでも投下するけど。あーこら理子、白雪とプロレス始めるんじゃないっての。ここ寮じゃねえんだから防弾とか防音パーフェクトじゃないぞ。

「ふむ、全員譲る気はないということですね。では、私から提案があります。ここはくじ引きで天を運に任せましょう」

「運ゲーなら任せろバリバリー!!」

 ガチャで定期的に爆死してる奴が何言ってるんだ。

「ガチャは悪い文明だから仕方ないんだよユーくん」

「急に真顔になるなよ怖いわ」

「出るまで回せばいいんです」

「そう言って十万単位を毎回突っ込むのやめなさいメヌ。この間ママが心配してアタシに相談してきたんだから」

「課金は呼吸と同じなのですよお姉様」

「うん、理解しちゃダメなのは分かったわ」

 収集欲を刺激されてるからな、諦めろアリア。

「まあそれはともかく。ここにももまんがあります」

「いつの間に用意したのよアンタ……ってそれ、アタシの分じゃないでしょうね!?」

「お姉様は自分用の亜空間に仕舞っているじゃないですか」

「いや、アンタのことだからそれくらい干渉出来そうだし」

「流石にやりませんよ」

 出来ないとは言わないんだな。

「そう、それなら安心だわ。じゃあ一ついただい――」

「この中から当たりを引いた人が勝ちです。ハズレを引いたらご愁傷様ですね」

 ピタッ、って擬音が付きそうな感じでアリアが停止した。額に汗を浮かばせながらメヌの方を向き、

「……ねえメヌ。ちなみに何が入ってるの?」

「カプサイシン、鷹の爪、デスソースその他諸々の辛味+酸味を混ぜた究極の一品です」

「アンタももまんになんてことしてるのよぉ!!!??」

 うわ、アリアがガチギレした。

「自作したものですから大丈夫ですよ。中身がばれないように巧妙な偽装を施しましたが」

「この間作った時に減ってるなあと思ったらアンタのせいか!?」

 作ったの俺だけどな、近所の店舗で全滅しててももまん欠乏症になってた誰かさんのために。

「というわけで、勇気と無謀を履き違えた方は参加してくださいな。あ、覗くのは無駄なので悪しからず」

「く、『透視』が効かないなんて……メヌちゃん、本気なんだね……!」

「というかヌエっち、『隠蔽』とかの術式すっごい得意だよねー。これは理子と一緒に怪盗コンビを組むしか」

「お金は間に合ってるので結構です。お姉様のものは真正面から正々堂々騙して奪ってあげますので」

「アンタ正々堂々の意味を辞書で引いてきなさいよ!?」

「正しく整っていて勢いの盛んな様、ですね」

「くっ、人間コンピュータより優れた頭脳は伊達じゃないわね……!」

「あんなのと一緒にしないでください。あ、私の分は公平を期すため潤が代わりです」

「被害担当艦ですね分かります」

「当てればいいんですよ、頑張れお兄ちゃん☆」

「ごめん寒気がした」

「(言葉で)殺すわよ?」

 じゃあやるなよ、お前がお兄ちゃん大好きキャラとかいっそ怖いわ。

 

 

「むきゃーーーーーーー!!! メヌちゃんお前もかーーーーー!!??」

「だから急に叫ばないでください!?」

 

 

「じゃあ恨みっこなしで」

 各人、テーブルに置かれた桃まんを一つずつ手に取る。リサ、泣きそうなくらいなら参加しなくても――え、女には譲れない一線がある? そっすか(投げた顔)

「「「「「せーの」」」」」

「「「「「…………」」」」」もきゅもきゅ

 ふむ、普通のももまんだな。じゃあこれはあた――

「むぐっ、うっ、ふぐおぉぉぉ!!!??」

 あれ、理子だけ急に顔色がやばくなってきたな。他の面子はギョッとしてるし、まさかメヌ――

「チッ、使えないわねジュン」

「舌打ちはやめような、はしたないから。じゃなくて、当たりってもしかして」

「ええ、いい思いをするには相応のダメージを受けなければいけません。理想の展開としては、ジュンが苦しんで私に付いてこさせたかったのだけど」

「わーこの車椅子少女ドッエスー」

 真顔で言い切るあたり、もう完全に開花してんじゃねえかな。ところで理子の顔が信号機みたいにコロコロ変わってるんだが。

「おめでとうございます理子、コンビの権利は貴方が得ました」

「ふおおおおやったぜい……! 理子の圧倒的しょう、うぐう口とぽんぽんにくるぅ……」

「……これ、悔しがればいいのか安堵すればいいのか分からないよ潤ちゃん」

「メヌにはめられたって思えばいいんでね」

「失礼ですね、誰も当たりがやばいのなんて言ってませんよ」

「だから性質悪いんでしょ」

 呆れた目で妹を見るアリア。そろそろ妹補正も限界なんじゃねえかな。……いやねえか、この無自覚シスコンは。

「ごめんユーくん、恥とか遠慮とか捨てて理子をおトイレに連れてって……」

「何故俺に頼むし。リサ、頼む」

「は、はいご主人様! 理子様、お気を確かに……!」

 それ発狂してる奴に言うセリフだから。やばいもんでも混ぜたのか、メヌ。

「……というか、コンビ決めるだけなのになんでこんな掛かるのよ」

「それな」

 いつも通りとも言うけど。

 

 

おまけ

「そういえばジュン、アンタが張った結界……大丈夫なの?」

「どういう意味での大丈夫かによるが、耐久と攻撃性はそんなでもない」

「……大丈夫なの?」

「全く信用してないな。まあアリア相手なら大丈夫だろ」

「へえ……言うじゃない、アンタの結界くらい易々と突破してやるわ」

「え、アリア? あの、入らない方が……あー、行っちゃった」

「まさかマジで乗るとは」

「お姉様はチャレンジャーですから」

 

 

 五分後

『ふんぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』

「おお、全く色気のない悲鳴」

「ああ、お姉様の悲鳴いいですねえ」

「いや言ってる場合じゃないんじゃないかな!? というかアリア何を見たの!?」

「常時雷の鳴る幽霊屋敷というクローズドホラー。ただの幻影だから倒せないし、寒気と怖気がとまらない」

「ああ、それはお姉様倒れますね。倒せないゴーストとか悪夢以外の何者でもないですし」

「相手の『苦手』なものを展開させる結界だからなあ。とはいえ殺傷力が相手依存だし、もうちょい攻撃系の罠増やすか」

「潤ちゃん殺しちゃダメだよ!?」

 この後アリアはメヌの気付け(意味深)で起こされた。




後書き
 オイ進まねえぞいつものことか。どうも、作者のゆっくりいんです。
 さて中国という名の藍幇編、スタートしましたが……まあ、次回から戦闘シーンもあると思います、うん。ちなみに誰が付いていくかはマジでダイス振りました。原作では白雪だったけど許してちょ――
白雪「…………」<◎> <◎>
 が、外伝書くか何かリクエストもらったら書くんで、勘弁してくだせえ(震え声)
白雪「……約束ですよ」スッ
 へい、そりゃもう。
 ……あー怖かった、アリアさんなら泣きそうな勢いでしたわ。
 さて、次回は散策編となります。ココ姉妹のヘイトと殺意がマックスですが、まあ潤君が恨まれるのはいつものことなので(オイ)
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。
 では読んでいただき、ありがとうございました。


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第二話 窮鼠どころか虎に襲われたんだが(前編)

潤「ところでメヌ、あのももまんモドキ何が入ってたんだ?」
メヌ「風○まんじゅう改の味を想像から再現+苦痛を感じさせる類の調味料と材料を混ぜ混ぜしました」
潤「いっそ気絶した方がマシじゃねえか」
メヌ「なまじ頑丈なのが仇になりましたね、理子」
潤「お前飯で苦痛を与える真似はやめような? 白雪とリサが凄い顔してたから」
理子「ユーくん、何でもいいからおくすりちょうだい……おくちとおなかが死んじゃうのぉ……」
潤「あーはいはい、放っといて悪かったから女子がしちゃいけない動作と表情するんじゃない」





「ユーくんユーくん、次は北京ダック食べよう北京ダック! 理子ミシェランの星ベイマックスなお店知ってるから!」

「その店評価が星じゃなく雪だるまでも使ってんの? つーかさっきまでアワビのシュウマイとか餃子とかめっさ食ってたのに、まだいけるのか」

「あのトンデモももまんのダメージを癒すには、まだまだ足りないんだよ……!!」

「……あーうん、気が済むまで付き合ってやるから、そんな切ない顔するな」

 背中から哀愁漂ってるぞ、似合わねえ。どうも、遠山潤です。現在北京あたりをウロウロしながら(理子曰く)グルメデート中である。実際は藍幇連中の炙り出しなんだが、全然来る気配ないので食い道楽状態でござい。

 最初は泊まってるホテルの最上階から飛んで強襲掛ける案だったんだけどなー。理子と俺でグレネードとかの高火力を叩き込んで、レキが逃げてきた奴等を狙撃、そんで一番槍の白雪に合流して拠点ごと吹き飛ばす感じで。メヌが「確実過ぎて面白くないです」で却下されたけど。アリアには「テロリストかあんたらは!?」ってツッコミ入れられた、失礼な奇襲じゃなくて強襲(アサルト)だよ。

 というわけで、もぐもぐむしゃむしゃ。デザートで来た杏仁豆腐とマーラーカオを二人して貪っている最中である。組み合わせがおかしい? この程度で怯んでたらスイーツバイキング全種類制覇(しかも毎回)など出来ないんだよ(真顔)

「はーーー、お腹いっぱーい♪ りこりん幸せー」

「食い過ぎて腹が妊婦みたいになってるな」

「はいパパー、触ってあげて♪」

「誰がパパだ。食い物から出来る子供ってどんなのだよ」

「ユーくんとりこりんの子供ならカッコカワイイに決まってるんだよ!」

「男でもお前の趣味に染められそうだな」

「大丈夫、立派な男の娘に育てるよ!」

 オイ字が違うだろ絶対、いい笑顔でサムズアップしてるんじゃねえ、「きゃはー想像したら興奮してきた!」じゃねえから。

「えー、ユーくんは子供好きじゃないの?」

「俺の好き嫌いじゃなくて、将来が歪むこと前提にするんじゃねえよ」

「これからの時代を生き残る最先端の属性なのですよ!」

「どう考えても一過性とお前の趣味な件」

「くふふー。と言いつつりこりんとの愛の結晶を作るのに異論はないのですねユーくん?」

「俺らの遺伝子を混ぜたホムンクルスでも作れってか」

「そっちの方がよっぽど人生歪むんじゃないかな!?」

「生まれで差別しちゃいかんだろ」

「差別されるような生まれを積極的に作るのもどうかと思うんですけどねえ!?」

 何でだよ、人か鉄の子宮かの違いだろ(真顔)。可愛がればホムンクルスでも問題ない、寧ろ普通の人間より頑強に作れるし。

「……やっばい、りこりん恥ずかしくなってきた」

「中国で良かったな、日本だったら異様な目を向けられてたぞ」

 まあ向こうなら日本語で喋らなければいいんだが。理子も結構な数の言語いけるし。

「よ、よーし! 腹ごしえらえにデートの続き行こうかユーくん!」

「食べ歩き用のごま団子(50個)は腹ごしらえクラスじゃねえよ」

「他人のお金で食べるご飯は格別だよね!」

「ところでレキからまた請求が来たんだが弁明は?」

「ナ、ナンノコトカナー?」

「よし、このごま団子全部俺のな」

 速攻で奪取、しようと思ったら腕にすがり付いてきやがった。ぶら下がるなっちゅうに、子供か。

「わー待って待って!? 手持ちがなかったからユーくんのサイフを頼るしかなかったの許シオンエルトナム!?」

「俺のサイフを緊急手段で当てにしてんじゃねえよ」

「おおお、ゲンコツされるとりこりんもっと縮むんですがあ……」

「その内消滅しそうだな。ほら行くぞ、あんまりサボってるとアリアにしばかれてメヌに(心を)切り刻まれる。

 と、その前に。いい加減食い散らかすのと口汚すの直しなさい」

「ユーくん拭いてー」

「子供かお前は」

「まだ未成年だもーん」

「未成年は部屋で堂々とカシスオレンジ飲まねえよ。ほら、顔こっちに寄せなさい」

 あーあー、食べカスあっちこっちに付けちゃって。ここまでだと味混ざるんじゃねえか?

「うにゅー、くふふー。ユーくんなんだかんだで面倒見いいよねー」

「口汚した女子が横歩いてるのが嫌だからだよ」

 ウエットティッシュで顔を拭かれながらくすぐったそうに、そして嬉しそうにしている理子。こいつ二人きりだと世話焼かれ上手になるんだよな、普段は自分でやる癖に。

「はい終わりっと。ほら、アリアとかメヌにしばかれる前に行くぞ」

「うー、らじゃ――おお?」

「? なんだよ?」

 店を出てすぐ、理子は俺に握られた手を不思議そうに見ている。

「いや、ユーくんから伸ばしてくれるとは……りこりんビックリなのですよ」

「離したら絶対どっかに行くだろお前」

「いつもだったらどんな場所でも付いてきてくれるのにぃ?」

 何でニヤニヤしながら見上げてくる、というか顔赤いぞ。

「向こうに顔見せるのがメインなんだから追跡しにくくしてもしょうがないだろ。ほら行くぞ」

「はぁい、ダーリン♪」

「誰がダーリンだ」

「そりゃユーくんのことですよ♪」

 嬉しそうに左腕へくっついてくる。何がそんなに楽しいのやら。

(ユーくんが『自分から』手を伸ばしてくれるのなんてレア中のレアなんですよ~、自覚ないですなこりゃ。

 ユキちゃんだって早々ないことだし……くふふ、これは攻略が進んでるかな~?)

 

 

 上海、北京、広東と俺の財布が大分軽くなるまでうろついていたが、連中誰も出てくることはなかった。リアルに現金が尽きそうで地味にピンチ、戻ったら補充しないと(使命感)

 さて、現在は二人一組の囮作戦から一人に減らし、アリア、理子、白雪、俺の戦闘力高いメンツだけで街を回っている。一人明らかに戦力外レベルじゃね? と告げたんだが、司令塔のメヌ含め全員に『何言ってんだコイツ』って顔された、解せぬ。

 さて、現在俺の担当は香港島の辺り。市街地をぶらぶらし、買い食いした肉まんをもぐもぐしながらぶらついている。うむ良かった、段ボールじゃないな(古い)。

 さて、世間はクリスマスや新年間近なせいか、プレゼントやデートプランに浮かれる連中が目立つ。リア充とか爆竹で爆砕すればすればいいんじゃないかな(お前が言うな)。

「あ、そうだ。クリスマスプレゼント追加で探すか」

 一応全員分は揃えてあるが、日頃世話になったりしたりしてるし、多めでもいいだろう。とりあえず雑貨店に入り、目ぼしい物を探していく。

「この茶器白雪が好きそうな柄だな、セットの湯呑みが夫婦ものになってるけど。……いや、寧ろ喜ぶか」

 これ渡したらどうなるかなーとか思案してたら、外からがったんごっとん喧しい音が。

FV603(サラセン)、中国警察の装甲車か」

『あーあー、今から映画の撮影を行います。危ないので、下がっていてください。

 それとそこのサボってる役者さん、さっさと店から出てきなさーい』

 こっちの掛け軸はリサが好きそう……あ、ダメだ。これめんどくせえ呪術掛けられてる。

『あーあー、早く出てきなさーい!』

 ……何だこれ、セクシーポーズのパンダ? 理子が好きそうなシュールさだ――

『チューン! 無視してないで出てくるネ!!』

「あん?」

 広東語から日本語に、しかも名指し(ただし間違っている)で呼ばれたため、止むを得ず店から出る。

「オイそこの3Pカラー、公道塞いでスピーカーでがなりたてんじゃねえよ。店と俺に迷惑だろうが」

『非常識が服を着て歩いてる奴に常識を説かれたくないヨ!? あと3Pカラーってなにネ!?』

「この距離でスピーカー使うんじゃねえよスカタン。日本にアリアの2Pカラーがいるから、お前らは3Pカラーってだけだよ」

「パチモン扱いヤメルネ! ココはオンリーワンの存在ヨ!」

「四つ子が何言ってんだ劣化コピー」

 適当に煽るだけでムキー! と叫んでスピーカーを投げ捨てるメガネココ。煽り耐性の低さはアリア以上だな、今の内に連絡飛ばしとこ。

 血走った目でこっちを睨みつけるココの周囲には、香港藍女中學の女子生徒達が百人近く待機している。藍幇が資本主の学校だったか。

「で、こんなに兵隊代わりの連中を引き連れて何のつもりだ? 一応警告しとくが、極東戦役(FEW)は代表を決めた『決闘』だ。集団戦はルール違反になるぞ」

「キヒヒ、ルールが何ネ! 数を揃えた方が勝つ、これ戦争の基本アル!」

 こちらを嘲笑い、自分の有意を主張するメガネアリアもどき。まあルールなどと言っているが、この極東戦役に審判は存在しない。守るかは相手の矜持や良識次第、ということだろう。

「つまり、お前はこいつらを極東戦役の『人員』として参加させた。そういうことでいいんだな?」

「一々細かい男嫌われるヨ、チュン。この娘達はお前を倒すために用意したんだから、『兵』として扱うのは当たり前ネ」

 武偵、またはそれに近しい訓練を受けたのだろう少女達は淀みない動きで各々の武器を構える。

「キヒヒ、郁手(かかれ)!」

 号令を受け、少女達が動く――

 

 

「あ、そう。じゃあ死ね」

 

 

 前に、サブマシンガンのH&K MP5を抜き、少女の群れに向けて躊躇なく鉛玉をぶち込んだ。

 野次馬達の悲鳴を発砲音がかき消し、撃たれた者は血を流しながら倒れ伏す。撃ちつくしたあと、サラセンの周りには阿鼻叫喚の光景が広がっていた。

 『ううう……』、『痛い、痛いよう……』などと広東語で呻いている少女達を無視し、サラセンへと足を進める。痛覚の制御は出来ないか、好都合だな。

「な、な、ナ……!? チュン、お前、何てことしてクレル!?」

 俺の行動が予想外だったのか、メガネココはこちらの行動を非難してくるが……何言ってるんだ?

「わざわざ確認までしたんだ、十分紳士的だろ。狙いだって足、しかも後遺症が残らない場所だぞ。

 ああ、もしかして見目も良いしCVR候補の連中だったか? それは悪いことしたな」

「ヒッ……」

 何だよ、人の顔見て悲鳴上げるなんざ。そこいらにいる男と変わらないだろうに。

 H&K PSG1――狙撃銃を取り出し、『敵』の頭部に向けて狙いを定める。この距離だ、スコープを覗く必要もない。

 こちらの狙いを察したのか、ココは慌てて装甲車の中に引っ込もうとするが、遅い。実戦慣れしてないな、兵站か支援担当の姉妹ってわけか。

「遅えよ」

 

 

『そうだな、お前が遅いぞ』

 

 

「――!」

 足元から聞こえたと同時に、掬い上げるようなアッパーカット。直前に構えを解いて避けることは出来たが、PSG1は破壊されてしまう。

『へえ、いい反応だな遠山。……って、この言葉じゃ通じねえか』

 回避してからも拳、蹴り、肘と容赦のないラッシュが続き、距離も取れず捌くのが精一杯だ。

『喋んなきゃ喰らってたかもしれんな』

『! へえ、面白いなお前。まさか返事が来るとは思わなかったな』

 相手――名古屋女子武偵高のセーラー服を着た少女、に見える化生、孫悟空の表情は驚きに変わり、次いで楽しそうだ。その間も攻撃は全く止まらないが。

『にしても、変な感覚だ。まるで反応出来ない速度なのに、きっちり反応されてやがる。一体どんな魔法だ?』

『千年級の大妖怪が『魔法』とか言うんじゃねえよ。大体反応し切れてねえよ、冷や冷やもんのタイミングが11も出てる』

『キキ、その速度でギリギリなのがおかしい、って言ってるんだよ!!』

 半ば飛びながらの連打、回し蹴りを跳躍でかわし、距離を取る。速いのは慣れてるんだよ、アリアでな。

『アー、アー、あー……よし、舌を使わなくても何となく分かってきた(・・・・・・)。さて改めて、始めまして、か? 遠山」

 慣れない感じだが、日本語で話し始める孫。ふむ、口調からして写した(・・・)か。

「初遭遇は日本だけどな。一応初めましてだ、孫。お前が藍幇の代表選手(れふぇレンテ)でいいのか?」

「あ? あー、まあそうなるんじゃないのか? 人間のそういう細かいルールはどうでもいいんでな。俺はただ、強いのと戦えればいいんだ」

「戦闘狂かよ」

「お前が言うか?」

 キキキと笑っているが、言える立場だよ。ウチの戦狂い枠は理子だから。

「キキ、自覚なしか。まあ弱く感じるのに倒せない相手とか面白いし、構わないけど、な!」

 喋りながら放ってきたのは、菊代亭でも使ってきた眼光線(メーザーアイ)。内包する魔力から、当たればシャレでは済まないだろう。当たれば、だが。

 相手も分かっているのだろう、すぐさま追撃の構えを――

 

 

 トス、トス

 

 

 そんな軽い音がするような感触、そして左半身に刺さった『何か』。それによって僅かだが反応が遅れ――

「――っ」

 反応速度上昇――不可、展開間に合わず。

 迎撃――不可、魔力不足。

 思考、思考、思考、思考――

「――ガッ」

 閃光は致命傷、から一歩ずれた場所。ギリギリ反応出来たが、追撃の掌底が心臓を抉る勢いで突き刺さり、近くのビルを破壊する勢いで吹き飛ばされた。

「ご、ぐ、あ……チク、ショウ、避け損ねた……」

「……助力を求めた覚えはないんだが、――?」

 状態把握。レーザーと掌底命中、胸部を中心に骨格粉砕。内臓四破損、魔力循環率二割に減少。戦闘続行非推奨。

「……けっ、横槍とは興醒めだな」

 術式展開、隠蔽式並行処理。生存を第一とする。

「そんな屁理屈を聞きたいんじゃねえよ。俺の楽しみを邪魔するなんて、どういう了見だって話――あ?」

「人、工、たいよ、う」

 瓦礫から血塗れの姿で立ち上がり、左腕をかざした先にある巨大な火球――太陽を模した炎が撃ち出される。

「な、何アルかアレ!?」

 ココが阿呆みたいに驚いている中、孫ではないもう一人の襲撃者は速攻で襲い掛かってくる。

(……アンタならそうするだろうな)

 倒れている藍幇所属の女共に、ココ。冷徹なれど冷酷ではないか。

 気を練った拳が振るわれる。それだけで火球は消し飛ばされるだろう。

(例え結果がわかってても、か)

 だが当たる直前、火球は膨大な光を放つ。それは一帯を飲みつくす炎の暴力――ではなく、視界を塗り潰す悪辣な光。

「キッ!?」

「ギャア!」

 まともに見たものは目がいかれ、直前に防いだものも視界不良で怯んでしまう。目を閉じた程度で遮ることは不可能だ。

 そして光り出すと同時に、俺はその場から全力で駆け出す。人通りの少ない道を選んで、ただ逃げるために。

「はっー、はっー……ハッ、ハア」

 追手の気配がないのを確認してから乱れる呼吸を整え、壁に背中を付ける。暗色に血生臭い赤黒が塗りたくられてしまったが、気にしている余裕はない。

「はっ、げは、はあ……ああくそ、呼吸が、もどらねえ」

 情けないことこの上ないが、片方の肺が潰れている以上一苦労だ。概念核――魂レベルのダメージを受けているため、治癒魔術の起動もままならない。さっきの人工太陽でほぼ魔力もなくなった。

……維持していた魔術式の幾つかも剥がれたため、左目と髪の一部が元に戻っている。先程の火球よりも、血よりも濃い、『(あか)色』に。

「……チッ」

 近くにこちらを探る気配。携帯がぶっ壊れたから応援も呼べねえし、やるしかない。 

 無事だったUSPをホルスターから抜き、気配を消して待ち伏せする。血で滑るのと力が入らず照準がぶれるため、最悪殺してしま――いや、この気配は。

「潤ちゃん、見つけ――潤ちゃん!?」

「……白雪」

 来たのは連絡していた白雪だった、運が良い。

 こちらの窮状を理解したのか、青い顔で悲鳴を上げながらも俺の身体を支えてくれる。

「潤ちゃん、しっかりして、潤ちゃん!! すぐにホテルへ連れて行くから!」

「……悪い、助かっ、た。治癒、効かねえから」

「! 急がないと、急がないと……! メヌちゃんに連絡して、それから」

「……理子かアリアに、追っ手を撒くか撃退するよう、指示、してくれ。……ごふっ」

 喋りながら込み上げてきた血を吐き出す。電話をしていた白雪が気付き、涙を流す。

「潤ちゃん……! お願い、絶対に死なないで……!」

「だい、じょぶ、まだ、死なない……悪い、服、汚した……」

「ううん、いいの、いいのこれくらい……! 掴まって、すぐに行くから!」

「……ん」

 お姫様抱っこされた俺は、残った力で制服の裾を掴む。それを確認した白雪は、魔力を纏わせた足でビルの上に跳躍した。

 ……本当、男女の役割が逆だよな。朦朧とする意識の中、そんなことを思って苦笑が出た。案外余裕あるじゃねえか、自分。

 

 

 

 

 

 




あとがき
 潤、敗北。あ、死んではいないので大丈夫です。死に掛けてはいますけど。
 というわけでどうも、ゆっくりいんです。今作初かもしれない、潤君ボロボロのシーン。まあ今までが運良かったのです、ホントに。
 次回のメインは別の誰かになるかと。珍しくシリアス続くかもなので、いつものノリを期待してくれている方は、もう少々お待ちください。
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。では読んでいただき、ありがとうございました。


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第二話 窮鼠どころか虎に襲われたんだが(後編)

 現在の潤君の状態ですが、例えるなら月の聖杯戦争で李書文先生に一撃で瀕死にさせられた鯖+追撃ダメージ状態です。
 ……誰が分かるんだろうこの例え。起源弾ぶち込まれたケイ○ス先生でええやん。
 
 
『……え? ごめんレキお姉ちゃん、もう一回言ってもらっていい?』
「潤さんが藍幇の襲撃を受けて負傷しました。白雪さん曰く命に別状はありませんが、戦線復帰には時間が掛かるとの『よーしちょっと藍幇滅ぼす準備してくるね』……切られてしまいました」


「リサちゃんごめん、すぐに治療とベッドの準備して! 潤ちゃんが!」

「白雪様、一体何が――ご主人様!? ご主人様が、ボロボロ……」

「……これは一大事ですね。リサ、言われた通り用意しなさい。早く!」

「! は、はい、メヌ様!」

 どうも皆さん、メヌエット・ホームズです。藍幇の相手を誘い出す作戦中、ジュンが標的に接触したと連絡を受けたのですが……満身創痍で白雪に抱えられた状態で、戻ってきました。

「……白雪、ジュンの容態は?」

「見た限りだけど、全身骨折と内臓の幾つかがやられちゃってるんだけど……一番の問題は、外より中。魂が傷付いちゃってるから超能力は使えない状態に……うう、ぐす、潤ちゃん……」

「……白雪、しっかりしてください。今この場で最も超能力に通じてるのは貴方です。ジュンが助かるかどうかは、貴方にかかってるんですよ」

 車椅子から立ち上がり、白雪を落ち着かせるために背中をさする。尋常じゃないくらい取り乱してますね、無理もないですか。

「う……うん。ごめんねメヌちゃん、私の方がお姉さんなのに……」

「いいんですよ、貴方が動揺してるのは見るまでもなく分かりますし」

 ……本音を言うと、私はお姉様のように仲間が傷付く姿なんて見たことない。私一人なら間違いなく動揺していただろう。血塗れのジュンの姿なんて、私には縁遠い世界のことだった、はずなのに。

 今冷静でいられるのは、目の前で泣きそうになってる白雪と、

「し、白雪様、準備できま――ふぎゅ!?」

 ……いつものパーフェクトメイドぶりが嘘みたいに動揺してる、リサの存在ね。ギャグ漫画みたいに正面から転んだわよ。

 ……ジュンへの依存度=焦り、なのかしら。嫌な比例ね、このチーム大なり小なり彼へ依存してるし。

「ありがとうリサちゃん! じゃあ降ろさないと……潤ちゃん降ろすよ、痛かったらごめんね……?」

「…………ん。あー、着いて、たのか……ありがと、な、白雪」

「ううん、このくらい気にしないで。それより無理に喋らなくてい「ご主人様!」」

「……あ? あー、リサ、か……」

「ご主人様、ご主人様……ああ、こんなボロボロになってしまって……」

 リサが涙を流しながら、ジュンの無事な手を握っている。

「リサ、泣きたいのは分かるけど早く治療を始めなさい」

「そ、そうでした……白雪様、ご指示をください。リサに出来ることなら何でもしますので」

「うん、ありがとうリサちゃん。じゃあ最初は魔力路の修復から……」

 ……今なんでもって、って条件反射で言いそうになったけど、流石にこんな状況でボケるのはやめましょう。

「白雪、私に出来ることはありますか?」

「ありがとう、でも今は大丈夫だよ。潤ちゃんの治療は私達がやるから、メヌちゃんはアリア達の指示に専念してくれないかな?

 ……多分、理子ちゃんが一番まずいと思うから。説得して、何とか戻るように言ってくれないかな」

「……分かりました」

「白雪さん、運ぶの手伝います」

 そこでかなめ達への通話から戻ってきたレキも合わせ、三人は奥の部屋へ消えていった。

「……さて、今の理子がどうなっているか、ですね」

 正直、推理すればどんな状態かは容易に想像がつく。だからこそ問題なのだが。

「私は言葉で相手を操ったり切ったり出来るけど……通じない相手にはどうしようもないのよね」

 もし突撃しそうなら、お姉様にも協力してもらわないと。……同じく錯乱してるでしょうけど、理子よりはマシでしょう。

 

 

「うん、うん。……分かったわ、理子にも伝える。……一応やってみるけど、期待はしないで。やばければ止めるけど」

 神崎・H・アリアよ。……ジュンがやられたってのには驚いたわ。藍幇の連中を舐めてたかしらね、アイツもアタシも。

 指令塔のメヌに指示が下されたけど……大丈夫かしら。

「アリアーん。ヌエっち何だってー?」

「あー、そのまま囮を続けてくれって。ジュンからの情報だと、孫だっけ? とココ連中以外に、襲撃者もいたらしいわ」

「おけおっけー。それじゃあデートしつつ、憎いアンチクショウを探しに行きますぜ~」

「目撃情報も何もないのにどうやって探すのよ……」

「そこはまあ、乙女の勘と待ちガイルスタイルで」

「後者乙女要素皆無じゃないの。……ねえ理子」

「ん~? なあにアリアん?」

 理子はいつも通り、バカっぽい雰囲気で首を傾げている。そう、あまりにもいつも通りだ。浮かべてる表情も、スカートをあざとくふんわりさせながら振り向く動作も。

「いや、ジュンの様子が気になるんじゃないの? アンタなら白雪の助けにもなるだろうし、アタシ一人でも回るだけなら問題ないわ」

「……くふふー、アリアん珍しく優しいね~」

「珍しくは余計よ」

「そうだねー、いつも優しいねー。でもまあ、ユーくんがやられるような相手だし、アリアん一人にするのはちょーーっと不安だからね」

「ホントに心配してんのアンタ」

「ホントのホントですぜお嬢さん。まあそれに」

 

 

 容赦なくやらないとだしね~?

 

 

「まーユーくんの場合、自分から手を出したかもだから自業自得かもだけど。女の子に手を出すのはスーパー早いからね!」

「……本人が聞いたら問答無用で殴りかかってきそうね」

「くふふー、今ボロボロだからそんなことナイナイ!」

 ……笑顔は本来攻撃的なものだって、良く分かるわ。これなら裏理子モードでキレてる方が何倍もマシね、怖過ぎるわ。見知らぬ通行人も無意識なのか、アタシ達を避けてるし。

 ……ごめんメヌ。何とか理子をそっちに戻したいけど、アタシじゃ力不足だわ。冷静に笑顔で怒ってる相手って、どうすればいいのかしらね。

 

 

「ご主人様……」

「リサちゃん、集中を乱しちゃダメ……」

「は、はい。すいません、白雪様……」

 星伽白雪です。動揺しがちなリサちゃんを叱咤し、潤ちゃんの治療を行っていますが……正直、経過は良くありません。

 今の潤ちゃんは魔力路――体内の魔力を循環させる、血管みたいな器官――がボロボロに乱されていて、回復以前に修復しないといけません。例えるなら巨大な風穴が開いたダムで、水が漏れ続けている状態でしょうか。

 幸い致命傷には至っていないのと、潤ちゃんが超能力面での耐久が高いため、すぐに死んじゃうことはないけど……早く治さないと最悪後遺症が残ってしまうから、急がないと……。

「フ、ウ……」

「ご、ご主人様……? 眠ったのです、か?」

「うん、そうみたい……多分、休眠状態で魔力の循環を直すためだと思う」

 多分潤ちゃんが起きてれば、「微々たるものだけどな」って苦笑するだろうけど、私達としてはそれがありがたいです。手術を手探りでやっている中、病の箇所が分かる図面を貰ったようなものですから。

「……っ」

「……白雪様、大丈夫ですか?」

「うん、私は大丈夫……リサちゃん、魔力を潤ちゃんに流すのに専念してもらえる? 私が直すのをやるから」

「は、はい。ご主人様、失礼します……」

 リサちゃんが目を閉じ、潤ちゃんの手を自分の胸元に寄せて魔力を流してくれます。少し楽になってきたのか、呼吸も安定してきました。

 穴が空いている身体、壊死しかけていた魔力路も回復傾向にあります。でも、まだ予断は許せない状況です。潤ちゃん、絶対助けるから……

 

 

 神崎・H・アリアよ。結局あの後、アタシと理子の二人で藍幇の下手人を探して回ったけど……結局夜まで成果はなく、土地勘もないので無理は出来ないから、ホテルに戻ってきた。警戒されたのか、それらしい奴は影も形も見えなかったわね。途中出会ったゴウ達にも話を聞いたけど、収穫はなかったし。

「めーちゃんレキュ、ただいまー。ぶう、見つからなかったよー」

「メヌ、レキ、ただいま。……ジュンの様子はどう?」

「お帰りなさい、二人とも。治療は終わりましたよ」

「とりあえず、峠は越えたとの事です」

「……そう、それなら良かったわ。じゃあ、情けない姿をさらしてるアイツの顔でも拝みにいこうかしら」

 軽口を叩いてみるが、内心安堵の息を吐く。隣の理子も「まーユーくんだし、そう簡単にはくたばらないよね~」などと言っているが、アンタ険しい顔しながらもホテルの方チラチラ心配そうに見てたじゃない、アタシ知ってるから。

 ……正直、アタシはジュンがやられるなんて想像もしてなかった、のかもしれない。

 アタシ達の中では一番弱く、武偵校全体で見ても実力は良くてCクラス。だけど、アイツにはそれを補う頭の回転の速さと、何より『上手い』がある。

 銃撃の技術、先読み、交渉エトセトラ、アイツは何をやらせても器用にこなす。だから格上の連中でも対等以上に戦えるし、ふざけているようで引き際や駆け引きも心得ている。ここにいる誰より慣れている、っていうのもあるんでしょうけどね、戦いも交渉も。

 だからか、無意識に思っていたのかもしれない。ジュンが、アタシの相棒はいつでも笑って、どんな危機も平然と乗り越えるんだって――

 

 

「えちょっと待ってリサ、そのえぐい急旋回殺人鬼がやるもんじゃな、ギャー二回目殴られたあ!?」

「急旋回は生存者だけの特権じゃないのです、ご主人様」ドヤァ

「初心者の私から見ても、リサちゃんがとんでもない動きをしているの分かるんだけど……」

 

 

「……くおらぁジュン!!?」

「お? アリアお帰りー」

「お帰りーじゃないわよ!? こっちが心配してたのに平然とゲームやってるとかどういう神経してるのよ!?」

「平然とはやってない、寧ろ追い詰められてピンチ」

「そういう意味じゃないの分かってるでしょうが!?」

 ピンピンしてるじゃないの!? しかも横に白雪とリサをはべらせて! センチになったアタシの心を返せこの(風穴ァ)野郎!!

 全く、心配して損し――

「……レキ」

「どうぞ、アリアさん。潤さん特製デストロイくん7号です」

「何でアタシが7号なのよ」

「私は9号ですね」

「理子は5号!」

「いや聞いてないから」

 ひっぱたく紙の部分が全員のカラーに合わせてる辺り、無駄にこだわりを感じるわね。

 まあそんなことはどうでもいいので、

 スパァン!

「ぶげ!?」

「潤ちゃん!?」「ご主人様!?」

 思いっきり後頭部を引っ叩いてやった。ゼロフレームハリセンの名に恥じないわね、ジュンが反応も出来ず喰らってたわ。……なんか手に馴染むのが釈然としないけど。

「おーいて、ゲーム中に手を出すのはハウスルール違反だぞオイ」

「ちゃんとリザルト画面になるまで待ってたからノーカンよ。無様を晒したリーダーに対する罰だと思いなさい」

「そりゃまたお優しいこって」

「普段なら地獄落としとか決めるよねーアリアん」

「今はしないわよ、流石に。……で、アンタどれくらい『治ってる』のよ」

 直観で分かった、軽口叩きながらゲームやってたコイツは全然回復してない。どころか、横にいるリサと白雪が付いていないと、万が一もありえるかもしれない状態だと。……そんな状態でゲームやってるのは。

 アタシの思考を予測したのか、ジュンはゲームからこちらに目を向け、

「全開時の2%」

「どこの探偵魔人よアンタは」

 そんなんだったら指一本動かせないでしょ。

「真面目に答えると、40%だな。思考は問題ないが、身体は七割程度。一番は回路がいかれてて魔術の効力も結構切れてる。全快は三日、戦線の復帰は一日」

「大分やられてるわね……じゃあ、今回は後方支援に徹しなさい。で、そんな状態で何でアンタは寝てないのよ」

「寝すぎて目が冴えた。かといって出来ることももうやったから、リサに付き合ってもらっての気晴らし」

「ああ、もしかしてまた『あの』魔術切れてるの?」

「……生存を優先した結果だよ」

「だから顔赤いのね。いやいや、珍しいもの見れたわ」

「やかまし」

 白雪がくっついてて顔赤くなってたら説得力ないわね、笑っちゃうわ。ほら「じゃあ理子もー!」って、横のバカが嬉々として突撃していったわよ。あーらら、照れちゃって可愛いわねえ。

「……お前最近メヌに似てきたんじゃないか」

「んなわけないでしょ、日頃の仕返しよ。

 とにかく、全快じゃないならさっさと休みなさい。アンタぶん殴れないとか調子が狂うわ」

「普段から殴らなきゃいいんじゃないですかねえ。心配されてるんだかしてないんだか」

「心配してるに決まってるでしょ? ……あんまり不安にさせるんじゃないわよ、リーダー」

「……あー、悪い」

 珍しく素直に謝ってきた。分かればいいのよ、分かれば。とりあえず、疲れたから先に寝ることにするわ。

 あ、一つ言い忘れてた。

「ねえジュン」

「なんぞ」

「……無理に強がったり、平気そうに見せなくていいわよ。アンタが弱ってるなら、アタシも他のみんなも、助けてあげるし手を差し伸べてあげるわ」

 それとも、アタシ達はそんなに頼りない? ドア越しに振り返ると、ジュンはポカンとした間抜け面になっていた。あら珍しい、写真撮っておけば良かったかしら。

「……いや、そんなことはないさ。じゃあ今は、お言葉に甘えさせてもらうかな」

 苦笑して、少しだけ力を抜いた、ような気がする。コイツ肝心なとこは隠すの上手いから、見抜くの難しいのよね。アタシの直観も働かないし。

 よろしい。アタシはそれだけ返し、今度こそ自分の部屋に入っていった。決して恥ずかしいことを言って顔が赤いわけじゃないわ、ないったらないわ。

「いやー愛されてますなーユーくん。アリアんがあんなこと言うなんてねー。これは盛大に反省! しないと」

「それは猿のだろ。まあ今は大人しく――オイマテ理子、なんでくっつイデデデデデ!?」

「いやー、アリアんがアメだから、理子はムチになろうかなーと」

「理子ちゃん!? ちょ、傷が開いちゃうからダメだよ!!」

「ダイジョーブダイジョブユキちゃん、傷になる場所は避けてるから」

「いやそういう問題じゃないし当たってダダダダダ!?」

「うるせえ心配させた分とエテ公如きにやられた罰だ、甘んじて天国と地獄を同時に受けろ解禁済みヘタレ」

「デフォでヘタレな奴に言われたくなギャアアア!?」

 ……向こうで騒ぎになってるけど、それが理子の愛情(物理)よジュン、甘んじて受けなさい。

 というか、ここで涙の一つも流せばいい雰囲気になるのに、つくづく愛情表現下手よねアイツ。

「アリアんに 恋愛を 説かれた…!?」

 やかましいわ!! 毎度恋愛相談して寝不足にさせるのはどこのどいつよ!! つーかナチュラルに心読むな!!(ブーメラン)

 

 

おまけ

「ジュン、そこに座りなさい」

「え、床じゃなくて「いいから」アッハイ」

「……」

 ドン

「おおう?」

 ボフッ

「……」

 ギュッ

「ちょ、メヌ?」

(何故にベッドで押し倒されて抱きつかれて――)

「……あんまり、心配させないでちょうだい」

「……」

「大切な人と別れるのは……慣れて、ないのよ」ギュッ

「……そうだな、悪かった」

「……もっと強く撫でて、抱きしめて。いるってこと、教えて」

「……ん」

 十分後……

「……他の人に言いふらしたら、殺すから。覚悟してちょうだい」

「言わねえよ、(精神的に)死にたくないし」

(顔が真っ赤だってこともな)




あとがき
 シリアスからの謎のラブコメ、この小説はどこへ向かっているんだろう。そしてホームズ姉妹はどうなるんだろう(知らん)
 どうも、ゆっくりいんです。久々のシリアスが難産過ぎて頭沸騰しそうでした。お陰で合間にオリジナル異世界小説書いて、同時投稿しますので読んでくださいギャグです(ダイマ)
 さて、次回は孫襲撃イベントです。今のとこ酷い目にあっている中国勢、孫は果たして逃れられるのか!?(フラグ)
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。
 では読んでいただき、ありがとうございました。

追伸
 デストロイ君の数字が分かった人は、お金を掛ける覚悟のある同士とみなします。


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第三話 自分より周囲がやる気満々なんだが

潤「……なあリサ」
リサ「はい、なんでしょうかご主人様?」
潤「いや、もう動くのは問題ないから。くっついてなくても大丈夫だぞ?」
リサ「駄目です。リサはご主人様に守ってもらう誓いを立てましたが、無茶をして欲しいなどとは一言も言っていません。
 なのでリサはメイドとして、ご主人様を癒やす義務があります」ギュー
潤「いやこれ拘束だろ」
リサ「それに、最近ご主人様はリサに構ってくれません。リサはご主人様から構ってもらうご褒美を要求します」プゥ
潤「いやそんな構ってないわけじゃないと思うが……あーこら、もっと押し付けるんじゃない」
リサ「ああ、ご主人様かわいいです……」




「くふふー」

「うふふ」

「……」ニコニコ

「……」

 何だこの状況。どうも、遠山潤です。

 孫(サイ○人にあらず)にボコられてから一夜明け、俺も五割程度は回復。とりあえず動いたりは問題ないため、改めて作戦会議となったのだが。

「んじゃあ、孫の対策についてだが」

「私が占星術で探して」

「理子とユキちゃんがボコり」

「連行したら私がトドメを刺します」

「何だその私刑サイクル」

 上から白雪、理子、メヌの発言である。大半の奴が助からねえだろ、肉体も精神も。死んだ方がマシな状態にされそう。

「……えー、じゃあ藍幇の拠点は」

「爆発物設置は任せろバリバリー」

「邪魔する輩は刀の錆にします!」

「ルートはリアルタイムで案内しますよ」

「お前ら何でそんな殺意高いの?」

「「「え? 普通ですよ?」」」

 アリアー助けてー、この人達殺意高過ぎるのー。

「アンタの代わりにやる気なのよ、愛されてるわねジュン」

 言いながら目を逸らさないでくれませんかね。諦めないで、武偵は諦めないしこのままだと香港藍幇が炎に包まれるから。リサはニコニコしてるだけで止める気配皆無だし、寧ろ賛成派だよこれ。

「では、作戦決行前に状況の整理をしましょう」

 この空気を無視して平然と話すレキさん流石ですわ。スケッチブック取り出したのは謎だけど。

「まず、昨日の遭遇戦で潤さんがやられました」

 何で俺がヤムチャしてるんだよ、しかもTSしてるし。

「その後、アリアさんと理子さんが夜まで捜索を行いましたが、接触はなし」

 何で二人ともフル武装なんだよ、こえーよ。

「潤さんは戦線離脱で指揮に専念、今回はアリアさん、理子さん、白雪さんの四名で相手拠点を中心に捜索する予定です」

 指揮する俺がキングプロ○アみたいになってるのなんなの? あと立ってる三人が明らかに制圧三秒前の状況なんですが。後ろのメヌに至っては裏ボス感満載だし。

「以上が、現在の状況です」

「なんでイラストで説明したんだ」

「特に意味はありません」

「アッハイ」

 こいつもうちょい合理的に動いてなかったっけ(白目)

「というわけで潤さん、前日の時点で闇雲に探すのは非効率的なのが分かりました。何か方法はありませんか?」

「最後俺に丸投げかよ。まあ前回の戦闘で魔力パターンも把握したから、探索くらいは出来るだろうが……」

 チラリとメヌの方を見ると、ニヤリと邪悪に(見た目だけは綺麗に)笑い、車椅子を動かして横に並んだ。おうなんだよ怖いからこっちくんな。

「では目には目を、歯には歯を、奇襲には奇襲で行きましょう。ジュン、ターゲットの居場所は?」

「……あー、ちょっと待って。白雪、理子、これ孫の魔力パターン」

「ありがとう潤ちゃん、じゃあちょっと探るね」

「手伝うよ~ユキちゃん」

 白雪は地図上から孫の魔力を探り、理子がリアルとリンクするよう補助する。普段ポコポコ(弱表現)殴り合ってる癖に、こういう時はコンビネーション抜群だよなこいつ等。

「……っ。見付けた。香港市内を移動中、他に目ぼしい敵はいないね」

「ありがとうございます。さて、その上で作戦なのですが――」

 メヌが語る作戦に、白雪は驚き顔、理子は面白そうだと笑い、アリアは顔を引きつらせた。あーこれは、トラウマ再発かな?

「む、無茶苦茶だねメヌちゃん……」

「でもこれなら奇襲にはピッタリだね、ボッコボコですよボッコボコ!」

「……マジでやるの?」

「今のお姉様ならこれくらい問題ないかと」

「いやまあそうだけど……え、ジュン他にないの?」

「……奇襲仕掛けるならそれが一番だな。この結界は『隠蔽』の術式も兼ねてるから、出るまでは気付かれないだろうし」

「……アタシ、こっからでも超能力で援護できるわよ」

「ビームぶっ放してビルとかターゲット以外をぶっ壊さないって確約できるならそれでもいいけど」

「うぐっ」

 痛いところを突かれた、と胸を抑え「抑える胸がな」「だらっしゃあ!!」「イーターオブワールド!?」読心して吹っ飛ばされるとかわかんねえなこれ、あと俺を睨むな、何も不埒なこと考えてねえから。

「アリア、大丈夫だよ。いざとなったら私が支えてあげるから!」

「いや、そういう問題じゃないんだけど……あー、分かったわよ。行けばいいんでしょ行けば」

 投げ遣りに返事をする。まあアレだ、頑張れ(投げ遣り)。

「もうちょっと考えなさいよアンタは!?」

 ハハハ、俺がメヌ以上のプランニング出来るわけねえじゃん(真顔)

「ところでリサ」

「はい、何でしょうご主人様」

「そろそろ離してくれない?」

「申し訳ありませんが、その命令は受け付けません」ギュー

「えー……」カァァ

(弄り倒したい)byメヌエット

(リサちゃん……羨ましい!)by白雪

 

 

 

 ……神崎・H・アリアよ。今私達はホテルの屋上(鍵は理子が開けた、手馴れ過ぎでしょ)にいるんだけど……不安しかないわ。

 ジュンの仇討ち(死んでないけど)にみんなが燃えてるのはいいんだけど、いつも以上に無茶苦茶な作戦なのよね……

「それじゃあヌエっち、調整よろしく!」

「任せなさい理子、頭から行くようにします」

「普通にしなさいよ!? というか頭からとか死ぬわよ普通!?」

「高度300メートルから直下して無傷だった奴が何を言うか」

 アレは理子が強引に外での模擬戦中に自爆技仕掛けてきたからよ! 超能力使ってなかったら重傷だったわ間違いなく!

「ほらほらアリア、ちゃんと備えないとメヌちゃんの言った通りになっちゃうよ?」

「いつもは止める側なのに、やる気満々ね白雪……」

「当然だよ、潤ちゃんをこんな目に合わせた犯人は、骨も残らずしょうめ……いや、拘束するから!!」

「殺意が溢れきってるじゃないの!? ちょっと炎、色金殺女から炎出てるから!」

「アリアー、動くとメヌの言った通りになるぞー」

 潤が後ろで警告してくる。いや熱っついんだけど、熱がこっちに伝わってくるんだけど!?

 ……そんなアタシ達の後ろには、潤が取り出したヘンテコな道具が置かれていた。見た目はアレね、業務用のでかい扇風機。まあ察しの通り、魔導具の類なんだけど……

「ねえ、これ本当に大丈夫なのよね……?」

「ダイジョーブダイジョブ、この『ボムディ君二号』は座標さえ間違えなければ確実だから」

「……間違ってたら?」

「死にはしない」

「そういう問題じゃないでしょうが!?」

 不安しかないんだけど!? というかいつまでリサとくっついてるのよ! 見てるこっちが恥ずかしいわ!

「よし、調整完了です。レキ、お願いしますね」

「はい。ではポチッと」

「え、そんな急なのわきゃあああああ!?」

「ひゃあああああ!?」

「ヒャッホーーーー!!」

「いてらー」

 アタシ達は『ボムディ君二号』から発生した突風によって、香港方面へと一気に吹っ飛んでいった。ちょ、これ幾らなんでも早すぎィ!? 風圧は大丈夫だけど!

「アリアん、もう着地するよお!」

「え、もももう!? 理子、着地手伝ってえ!」

「うー、らじゃ! ユキちゃんは!」

「大丈夫! なんだったらアリアも私が助けるよ!」

「だーめ、アリアんは理子に助けを求めたのですから!」

「どっちでもいいから早くしてぇ!? もう地面が来てるから!」

「理子達が向かってるんだよなあ」

 呑気なこと言ってる場合かあ!? というかこの速度(体感でマッハ)で空中飛行とか、怖過ぎるわよ!? 以前のハイジャックがかわいく感じられるレベルじゃない!?

「ほいほいっと」

 ぶつかる前に、理子のツーテールが浮かび上がり、落下速度を緩めてくれる。た、助かった……

「なんかアタシこんなのばっかね……」

「アリアん落ち着いてる場合じゃないよー。ターゲットは目の前なんだから」

 ああ、そうだったわね。理子に言われて気持ちを切り替え、顔を上げると……

「な、なんですかあなた達……? いきなり空から……ヒィ!? バスカービル!?」

 ……なんかナゴジョの制服を着た、アタシと同じくらいチンマイ感じの黒髪女子(withテール)が、ビビッているのかプルプルしていた。腰を抜かしたのか、へたり込みながら。というかアタシ達はマフィアか悪の組織か。

 そして誰がちょうどいい感じのミニマムサイズじゃコラァ!!?(セルフギレ)

「いたー!! 理子ちゃん確保!!」

「アラホラサッサー!」

「ひゃああああああ!?」

 ……失礼、取り乱したわ。それにしても、これが孫? ジュンを真正面から屠れるくらいの……いやごめん、アタシの勘も『違う』って告げてるわ。理子にあっさり捕まって(何故か)亀甲縛りに縛られてるし、ジタバタしてるだけで抜け出す様子もないし。

「さあて、じっくりお話を聞かせてもらうよ、孫さん……?」

「違うんです違うんです私は猴です孫なんて名前じゃないですーーー!!」

「残念魔力パターンが一緒だからバレバレなんだよね~。さー孫ちゃん、キリキリ吐かないとR18Gな展開にしちゃうゾ★」

「アンタ目が笑ってないわよ」

 これ向こうが下手なこと言えば、実行に移しかねないわね。

「ヒイイイィィィ痛いのは嫌ですーー!!?」

「大丈夫、素直に喋ってくれれば――苦しまずに介錯してあげるよ?」

「ピギャアアアアアァァァァ!!!??」

 ……あーあー、白雪の暗黒微笑浴びてギャン泣きしちゃったじゃない。周囲の人もドン引きどころか逃げ出し始めたわよ。

 まあとりあえず、

「いい加減、落ち着き、なさい!」

「ウシワカ!?」

「あうっ!?」

 小太刀の峰(+二重の○み)で脳天に一発。ったく、武偵の自覚あるのかしらこいつら。

 ガチ泣きしながらもがく猴に屈んで視線を合わせ、頭を撫でてやる。何で敵を慰めてるのかしら、アタシ。

「あー、猴だったかしら? 悪かったわね、そっちの二人ジュンがやられたから、気が立ってるのよ。ホラ、落ち着かせたからもう大丈夫よ」

「う、ぐす、ひっぐ……本当です? 牛裂きとかネジキリとか、バラバラにされないです」

「アンタアタシ達をなんだと思ってるのよ」

「ぎゅ、牛魔王も恐れるような所業を平然と行うって、ココ達が」

「よーし今すぐアイツ等のとこに連れて行きなさい、ボコボコにするから」

「ヒィ!?」

「アリアーん、そんなこと言ってるから拳王みたいな扱い受けるんだよ~?」

「誰が世紀末覇者よ!?」

「あ、ごめんねアリア言うの忘れてた。孫さん? 猴さん? には、あんまり近付かない方がいいと思う」

「え? なんでよ」

 チョイチョイ手招きされたので猴を理子に任せ(また怯えてるけど)近付いてみると、

(彼女から緋々色金の気配を感じるの。長時間近くにいると、共鳴するかもしれないから)

(……それ本当? アタシ、離脱した方がいい?)

(ううん、長いこと触れたりしなければ大丈夫。『殻金』もあるし、『心結び』もそこまで深くないから。ただ万が一を考えて、ね?)

(ちなみに、最悪の場合は?)

(意識を消されて完全に乗っ取られる、かな)

 ……洒落になってないわね、それ。曾御爺様、受け継がせるのはいいけどもうちょっと説明をしてください……思わず溜息が出てしまう。

「ねーねーアリアんにユキちゃん。ゆりーむな内緒話中に申し訳ないんだけど」

「はっ倒すわよアンタ。で、何よ」

「向こうからお巡りさんがワンサカ来てるよー?」

「え……!?」

 白雪が驚いた顔してるけど、そりゃ通報もされるでしょうね。いきなり空から降ってきた女子三人が、人外とはいえ見た目幼女を縛り上げた挙句、脅してガチ泣きさせたんだから。……武偵の正義ってなんだったかしら、完全に悪役よねこれ(遠い目)

 市街地方面からサイレンの音と警察車輌がすっ飛んでくる。……何か数多くない? 走行車輌も見えるし。やる気満々じゃないの。

「捕まるのも面倒だし、コイツ連れてここから離れましょ。向こうが到着するのには時間があるし」

 

 

「――へえ、誰を連れていくって?」

 

 

「!?」

 気配が変わったのを感じてガバメントを構え、理子が気絶させようと首筋に手刀を振るうが――ブチン。縄を力づくで破り、回避されてしまう。

 ……『なった』みたいね、猴から孫に。好戦的な笑みを浮かべる姿は、さっきと別人だ。二重人格か、戦闘用の人格かしら。自分で変えたって感じじゃないけど。

「くふふ、出てきた出てきた! あっちの泣き虫ちゃんをどうこうしてもしょうがないしねえ。ちょっとそそるものはあったけど」

「キキ、てめえ等に猴を好き勝手させる訳にはいかねえからな。情けない奴とはいえ同じ身体だから、な!」

 孫が蹴りを放ち、理子が後方に跳んで距離を取らされた。

「ユキちゃん!」

「うん、出てきたなら一切容赦はする必要ない、ね!!」

「キッ!? 色金殺女、制御棒……チィ、緋巫女か!?」

 白雪と理子が入れ替わり、振るわれる色金殺女を見て孫が冷や汗を流している。あーあれ怖いわよね。アタシも白雪が構えてるの見ると、本能的に身構えちゃうし。

 さて、理子とアタシが後衛の銃撃、白雪が前衛ね。戦闘開始――っ!

「はっ!」

 直観で飛んできたもの――針状の武器をガバメントで撃ち落す。コイツがもう一人の襲撃者ね、まさか攻撃のタイミングにギリギリ偶然、反応できるレベルなんて……ジュンがやられる訳だわ。

「……ふむ、防ぎましたか。シャーロック譲りの直感、いやそれ以上ですね」

 出てきたのは、中国の民族衣装を纏った糸目丸メガネの男だ。恐ろしいことに、今もほとんど気配を感じれらない。

「諸葛静幻、だったかしら。まさか香港藍幇のボス直々に出てくるなんてね」

「それだけあなた達バスカービルの事を警戒……いえ、評価しているのですよ。三対一より二対一の方が良いでしょう?」

「まあ、アイツは切り札でしょうしね。ところでアンタ、曾御爺様と知り合いなの?」

「ええ、個人的な付き合いと、ココ達のイ・ウー留学の際に少々。さて、こちらはこちらで始めましょうか」

 指の間に針を構える静幻は――曾御爺様と同じか、それ以上の気を感じられる。ジーサードとはまた違う厄介さね。

「……悪いわね理子、白雪。合流は時間掛かりそう」

 アタシもガバメントを構え直し、目を細める。余裕はなし、全力で潰すわ。

 

 




あとがき
 何か猴がかわいそカワイイみたいなキャラになった、なんで縛り上げてるんだろうこの二人(元凶)
 というわけでどうも、ゆっくりいんです。バスカービルの半分が怨念に包まれてる状況、いかがお過ごしでしょうか。冷静に怒る方がよっぽど怖いの複数とか、大抵の人間はちびるどころか泡吹きますよね。
 さて、次回は理子・白雪VS孫、アリアVS静幻です。静幻さんは諸々あってピンピンしてますが、事情は戦闘後にでも語るつもりですのでよしなに。
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。
 では読んでいただき、ありがとうございました。


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第三話 自分より周囲がやる気満々なんだが(後編)

潤「おーおー、やってるねえ。しかしシャーロッククラスの静幻さんと互角にやり合うとは、アリアも成長したもんだ」(自前の双眼鏡で観戦しつつ)
メヌ「ジュン、私にもお姉様の雄姿を見せなさい」
レキ「ジュンさん、私にも見せてください」
潤「レキは素で見えるだろ、同じ香港だし。あとメヌは見たいからって指を捻るな、バリツ決まってて痛いから」
メヌ「必死なお姉様の姿もいいですね……見てると歪めたくなります」
潤「そろそろ戻れないところに来てないかお前」
メヌ「失礼ね、捻るわよ。それより返すから、タイミングを教えなさいな」
潤「あいよ。リサ、メヌに渡してやってくれ」
リサ「はい、ご主人様。メヌエット様、気を付けてお使いください」
メヌ「ありがとう。さて、お返しはキチンとしませんとね?」


「そこ!」

「残念、少し遅いですよ」

 神崎・H・アリアよ。って、今戦闘中だからそんな余裕もないわね!

 ガバメントの銃撃を横にズレながら回避し、静幻は針を投げてくる。威力自体は大したことないけど、動きを鈍らせるために関節を狙われるから、回避か反撃を迫られる。ジュンによると防弾制服くらいなら貫通するし、刺さると普通の針より痛いらしいから、喰らうわけにはいかないのよね。やり辛いったらありゃしない。

「というか、アイツ等は、どこ行ったの、よ!」

「あっという間に飛んでいきましたからねえ……あちらは完全にクンフー映画みたいになってましたし」

 苦笑してるけど、本当よね。バスの中でインファイトしたり、店に突撃してたし。アイツ等合流する気あるのかしら、探すの大変なんだけど。

「しかしこれ、どう隠蔽したものかしら……ほっといたら大騒ぎになるわよ」

「ああ大丈夫です、映画の撮影ということで誤魔化していますから。寧ろ嬉々としてエキストラになろうとしたり、見物する人が出てきてますが」

 ……事件現場に身一つで突撃するのといい、東洋人精神的にタフ過ぎない? 普通銃声がしたら逃げると思うんだけど。

「まあ後の修繕費その他諸々は藍幇のサイフから出るので、可能な限り壊さないで欲しいんですが……」

「……アンタも大変ね」

「そちらこそ。まあ、若人の無茶を止めたり許容するのは、年長者の務めですから」

「アタシ達は同い年なんだけどね」

 溜息を吐くと、静幻は苦笑していた。お互いガバメントと針で牽制し合いながらだけどね。あーもう、こいつ曾御爺様ほど手数は多くないけど、早いし上手いしで戦いにくいことこの上ないわ。

 ……どっかでまた爆発音が聞こえてきた。アタシ達は隠れて目立たないようにしてるのに、大人しく出来ないのかしらアイツ等。

 

 

「ヒャーハー踊れ踊れおサルちゃ~ん! 失敗したら命で反省だよー!」

「大人しくやられなさい、逃げるなー!」

「キキキキキィ!? こいつ等容赦なさすぎだろ!?」

 敵だしユーくんを殺った(死んでない)奴に容赦する理由がないんだよなあ! まあ油断してた(かもしれない)から自業自得だけどね! どうも、りこりんこと峰理子です!

 現在バスの中でのインファイトを経て、ユキちゃんと一緒に車を足場にした追撃戦ちゅー。いやあ、楽しくなってきたねえ!

「鬼さんそちら、どっこ行くのー!?」

 車上を跳んで逃げ回る孫に、フランス製の軽機関銃――AA52をぶっ放しながら追いかけていく。連続で吐き出されるそれを見もせずにかわしていくが、進行方向は誘導させてもらった。くふふのふ、当たったら痛いもんねー。何せ全弾不義鉄槌(アンチ・ブロークン)だから!

 え、飛びながら振り回せる筋力とかおかしい? 超能力って便利だよね!

「待ちなさーい!」

「キキ、捕まるわけ――キィ!?」

 銃弾の雨をかいくぐりながら車上を逃げ回る孫だけど、ユキちゃんがどっかから取ってきた竹槍を投げつけられ、ビックリして大げさに避けた。竹槍すげえ!? アクション映画としてはコメディー感強くなるけど!

「チィ! 『オイ、借りるぞ!』

 徐々に距離を詰めている中、焦れた孫が中国語で叫ぶと、乗ってた男を投げ捨てて赤いオープンカー――BMW・Z8に飛び乗った。あーズルイ! 理子も車乗りたい!(違うそうじゃない)

「理子ちゃんどうするの!? このままじゃ逃げられちゃうよ!」

 逃亡阻止のため、M60をぶっ放しながらユキちゃんがこっちに聞いてくる。うーん、足で運転しながら弾かれてて効果は薄い。器用なことするなあ。

「くふふー、そういう時は――」

 車内からこちらに銃を向けている女性――リストにあった藍幇の構成員、中々の美人。ジュルリ――に反撃の早撃ちを見舞い、武器を取り落としたところで車から強引に引き摺り下ろす。よしゃ、アッ○マーもとい足ゲット!

「現地調達ですよ現地調達! さあユキちゃん、乗るのです!」

「さすが理子ちゃん、手法がゲスいね! というか窃盗罪じゃないかな!?」

「大丈夫、あの人傷害未遂になるから!」

 裁判なってもひっくり返せばいいからね! あと現地調達(このやり方)はユーくん推奨ですぜ!

『ちょ、返しなさい!?』

 何やら叫んでる女性を無視し、アストンマーチン・DB10――え、マジで本物!? と思ったらレプリカだった、がっくし――のアクセルを踏み発進させる。理子広東語わっかんなーい(棒)

 渋滞の切れ目を狙って発進したため、ここからは孫と理子達の追いかけっこだ。カーレースですよカーレース! 

「いやあレプリカとはいえ、この加速感はたまりませんなあ! ユキちゃんAA使う!?」

「まだ大丈夫、弾はあるから! でも理子ちゃん、相手止まってないよ!?」

 そうなんだよねー。お互い蛇行しながら車をすり抜けてるせいか、距離が縮まらない。おまけにその辺にいる構成員が56式自動歩槍で撃ってくるもんだから、ユキちゃんの援護まで手を回しにくい。

 というか一歩間違えるとその辺にいる人に当たるし! ワルサー(髪操作)撃ちながら全部弾きつつ運転するから面倒だよ、もう! 弾も無限じゃないしね!

「――よーしユキちゃん、短期決戦といこうか!」

「何かロクでもないこと思いついたの!?」

「ロクでもないの前提!? これユーくんもやりそうな手だよ!?」

「何か素晴らしい手でも思いついたの!?」

「撤回はや!?」

 さすがユーくんキチ! 本人に言ったら「やらねーよアホ」って返されそうな作戦だけど、同じ状況なら絶対やるね! りこりんにはお見通しですよ!(確信)

「ユキちゃん、魔力放出! 出来る!?」

「! うん、いけるよ!」

 さっすがバスカービルNo.1の超能力使い、良く出来た巫女さんだね! zero観せておいて良かったよ!(黒い笑み)

「うふふ。良く出来た巫女系新妻なんて言っても、何も出てこないよ!」

「そこまでは言ってないかなあ!?」

 読心ついでに自分の願望混ざってないかな!? いつものことか!(諦め)

 ユキちゃんが車全体に魔力を纏わせると、DB10(偽)は一気に加速する。よっしゃ、これで逝ける!

「ヒャッハー! 最高速だぜー! 早い、早いよスレッ○ーさん!」

 蛇行コースを抜けて直進、体感時速はおおよそ400kmかな!? ユキちゃんが悲鳴上げてる気がするけど、気にしなーい!

 こっちの急加速に気付いた孫がギョッとした顔になり、同じ手法で逃れようとするが――くふふ、もうおそーい!

 追いつき横並びになったところで、DB10(偽)を――

「はいドーン!!」

 思いっきりぶつける!!

「ギキィ!?」

 立っててバランスが悪いのもあったからか、孫は車上から投げ出されてショーウインドウのガラスをぶち破り、Z8は引っくり返って強制停車。よっしゃあ、やってやったぜ!(ガッツポーズ)

「ひゃあ!?」

「おおっと! りこりんナイスキャッチ!」

 衝撃でM60ごと落ちてきたユキちゃんをお姫様だっこ。良し、ケガなしだ――

「なんでしてくれるのが潤ちゃんじゃないの!?」

「え、真っ先に怒るとこそれ!?」

「私がお姫様抱っこヴァージンだったら、理子ちゃんを打ち首にすることだったよ!!」

「そんな初めてりこりんも初耳なんだよなあ!?」

 というか一歩間違えれば首だけになってたのりこりん!? 怖過ぎるよ!!

 

 

「……無茶苦茶やるなあアイツら。人的被害が0なあたり、理子らしいが。というか遊んでないで追い討ちかけろよ」

「何気に白雪をコントロールしてますね。さてジュン、ここですか?」

「ああ。位置予測完了、外すなよ?」

「そっちこそ、ちゃんと支えてよ? ケガの一つでもしたらお姉様に言いふらすから。……ちょっと恥ずかしいわね、この体制」

「お前が座ったままがいいって言うからだろ。――っと、狙いよし。『魔弾装填』」

「『発射(Fire)』」

 

 

 ――理子達がギャーギャー喚いていると、一条の閃光――魔力を伴った弾丸が、砂塵の舞うショーウインドウの中に吸い込まれていった。遅れて発砲音と、「ガッ」という呻き声が響く。お、援護射撃キタキタ!

「グ、ギィ……この野郎……」

 ショーウインドウから出てきた孫は、左足から血を流していた。流石ヌエっち、ユーくんの補助ありとはいえしっかり命中させてるね。二段追撃作戦『猿カニ』は成功だZE!

「追い詰めたよ、孫。それともまだやる? 次はうっかり首を刎ねちゃうかもだけど」

「キ、キキ。今代の緋巫女は随分性急だなあ?」

「当然だよ。あなたは潤ちゃんの仇であり、アリアの『覚醒』を促す存在。星伽としても私情でも、見逃す理由がありません」

 色金殺女を首筋に当てるユキちゃんは、ここ最近では最高に凛々しい顔だ。私情とはっきり言っちゃうあたり、ユーくんの影響が感じられるけど。その内「星伽がなんだー!」とか言いそう。

 などと余計なことを考えつつ、孫の逃亡を後ろから警戒していると、マナーモードにしていた携帯が鳴った。髪の毛で取ってみると、相手はアリアんだ。

「ほいほーい。愛しのりこりんですよー」

『はっ倒すわよアンタ。ジュンから連絡あったわ、状況終了だって』

「アリアんに先へ連絡とか、理子のジェラシーが爆発してぷんぷんがおーしそうですよ」

『混ぜっ返すからでしょ、妥当な判断よ。で、向こう(藍幇)から停戦と交渉の申し出が来たわ』

「ありゃホント? こっちが有利な時に言うとか、随分都合のいい話ですなあ」

『別にいいでしょ、その分こっちが有利に運べるんだし』

「おお、アリアんが交渉のことを考えるとは……成長したなあ、ヨヨヨ」

『元々考えられるわ!? アンタアタシのことどんだけ脳筋だと思ってるのよ!? ……誰が脳味噌筋肉ダルマよ!?』

「そこまで言ってねっす」

 というかこの前「殴った方が早いじゃない」って言って、麻薬グループを潰した人のセリフじゃねっす。まあラリってて話聞ける状態じゃなかったけどさ。

「ところでアリアん、静幻さん相手にしてたけど大丈夫なの?」

『大丈夫じゃなければ電話なんてしてないわよ。とにかく、そっちに合流するわ。動くんじゃないわよ』

「それはフリですか」

『違うわ、本当に動くなって言ってんの! これ以上余計な被害出すんじゃないわよ!?』

「あいあいさー。ユキちゃん、孫~。一時停戦だってさ~」

「……うん、分かったよ」

 刀向けたまま残念そうだよこの娘。孫は孫で悔しそうな顔しながら項垂れてるし。りこりんがいなければ第二ラウンド始まったかもしれませんなあ、危なかったぜ(普段煽る側のセリフ)。

 その後、合流したアリアんは街の惨状に頭を抱え、静幻さんは苦笑していた。えーいいじゃん人的被害は0なんだし! と言ったら、残○拳喰らったでござる、解せぬ。

 

 

「潤ちゃんごめんね、仇を討つ前に終わっちゃった……」

「いやいや、十分さ。白雪の頑張りがあったから、今の状況を作れたんだぞ? 孫に手傷も負わせたしな」

「潤ちゃん様、何てお優しい……次はちゃんと首を持って帰るからね!」

 いやいらないから、これ以上やるとややこしくなるし。

 どうも、遠山潤です。現在静幻さん直々の案内で藍幇城を案内されている。( ´・ω・`)ショボーンしている白雪を撫でてやりながら、「ヒャッホー藍幇城だー!」とテンション爆上がりの理子に付いていってるんだが、お前好きだよなこういうキンキラキンな場所。

「しかし良かったですよ、遠山さんと一戦交える羽目にならなくて。コストとしても心情としても、この程度なら安いものです」

「ボコられる一因を造った癖に良く言うわ。というかコストがどうこう言うなら、ぶっ壊した道路とかの支払いはそっち持ちでいいんだな?」

「その程度で心情が良くなるなら安いもの。ココ達が猴を連れ出した時はどうしたものかと頭を抱えましたが、丸く収まって何よりですね」

「その暴走も予想の範囲内だろ」

「何のことでしょうか?」

 振り返ってその糸目を更に細め、笑ってみせる静幻さんに肩を竦める。やれやれ、底の見えん奴「アンタも人の事言えないでしょ」なんでそっちから来るんですかねアリアさん。

「ねー、そんなことより理子、お腹空いた~」

「確かにそうですね。交渉も大事ですが、食事は何よりも優先されます」

 そりゃお前等だけだよ食いしん坊バンザイ。レキも無言でコクコク頷くな、お前アリアと静幻さんの間に一発ぶち込んだだけだろうが。

「狙撃は集中力を使いますから」

 撃っても撃たなくても食う量変わらねえだろ。

「ご安心を、そう言うと思って用意させていますよ。食事は会談にとっての必須事項ですからね」

「ひゃっふー! 流石静幻さん、分かってるー!」

「ふむ、本場の満漢全席を一人で食べきれるか、チャレンジしたかったのでありがたいです」

「アンタ達遠慮ってものがないの?」

「アリアも出されたら全部食べちゃうんじゃないかな?」

「……そ、そんなことないわよ。アタシはマナーも暗黙の空気も察せるわ、うん」

 目を逸らしながら言っても説得力ねえぞ、白雪とリサ(調理組)からは生暖かい笑みを向けられてるし。

「っんん! 毒とか盛ろうと考えないでよ?」

「しませんよ、恐ろしいことが起こるのは目に見えてますし」

「藍幇城が消し炭になるだけならいい方だな」

「……厳命しておきましょう」

 一瞬笑みが固まったけど、残念冗談じゃないんだよなあ。まあ察したからこそこのセリフなんだろうが。

「それはそうと、皆様お召し物を変えては如何でしょうか? 先程の戦闘で服が汚れてる方もいらっしゃいますし」

「アンタのせいだけどね」

 渋い顔でアリアが苦言を呈す。多分静幻さんとの戦闘で引き分けに『もってかれた』のが不満なんだろうな、まあいい経験と割り切れ。

 特に反対する理由はなかったので全員了承したが、その際理子が余計なことを吹き込みやがったせいで、

「……遠山さん、そういう趣味がおありで?」

「ねーよ兄貴と一緒にすんな」

 懐疑の目を向けられてしまった。全部理子の仕込みだから、望んでやったことはねえよ。

 ……結局理子とノリノリで参加してきた接待役のお姉さん方にやられたが。っていうか恋○のキャラは中華服というには微妙だろ、しかもどっかのはわわ軍師だし。身長も変える羽目になったじゃねえか(いつも通り拘る奴)

 元ネタ聞いて静幻さんがすごーく微妙な顔してたぞ。はわわ、こっち見ないで、こっち見んな(真顔)




キャラ補足
諸葛静幻
 ご存知、香港藍幇の取りまとめ役。本来であれば死病に冒され寿命も残り僅かだが、どっかの自称『魔術師』が完治させた。
 現在はリハビリを経てバリバリ前線でも働けるため、シャーロックと戦った時以上の戦闘力を誇る。頭も切れるため、潤としては孫よりこっちが厄介。
 武器とか戦闘スタイルは作者の妄想。ビームは多分打てるけど打たない。

 
後書き
 追いかけるのと追いかけられるのが逆転してる件。どうも、作者のゆっくりいんです。久々の戦闘シーンでしたけど、うん、いつものノリでしたね(真顔)
 静幻さんについては色々変更入ってますが、そこはご了承ください。彼が動けないと藍幇が(潤達によって)もっと酷いことになりそうなので。
 え? 今更多少の改変は気にしない? はははまたまた、ご冗談を。
 
 
 さて、ツイッターでも宣伝していますがちょっとした報告をば。この藍幇編が(外伝含め)終了したら、ラジオ回をやろうと思います。はい、いつもの思い付きです。
 詳細は活動報告にありますので、よろしければ見てやってください。あ、感想にリクエストはおやめください。以前それで警告が飛んできたので……
 
 
 長くなりましたが、次回は藍幇編決戦となります。……はい、終わるはずです多分(予定は未定)。
 それでは、今回はここまで。感想・誤字脱字訂正、評価などいただけましたら、嬉しさの余り執筆速度が上がる……かもしれません(不安定)
 それでは、読んでいただきありがとうございました!


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第四話 策というほどのものではない

 どうも、作者のゆっくりいんです。今更なんですが、いつも誤字報告ありがとうございます!
 改めて指摘されると、「なんでこんな間違いしてるの!?」っていうのが結構あるんですよね……酷い時だと、アリアさんの名前を間違える時もありますし……これは風穴案件ですわ。
 さて、藍幇編も(多分)ラストです。孫とココ達の運命はいかに!?(そこかい)
 

※本編に飲酒シーンがありますが、決して未成年の飲酒を勧めるものではありません。
 


「ふえええぇぇぇぇ……」

「ふふふどうしたどうしたー、転がしちゃうぞー?」

「……」コックリコックリ

「泣いてるお姉様を……いやいやダメよメヌ……」

「…………」

 何だこの状況(二回目)。

 どうも、遠山潤です。今は藍幇……というより静幻さんとの交渉を終え、、用意された貴賓室でゆったりしている……と言えればどれだけ良かったか(白目)

 ちなみに話し合いの内容だが、

・藍幇とバスカービルの停戦

・可能な範囲で、双方が支援を行う協力体制(藍幇は資源、バスカービルは戦力・技術)

・非々色金の譲渡(静幻さん曰く、「解析はもう終わった」とのこと)

 以上である。ココ達? 場を荒らすのが目に見えてたから、入場すら許してもらえなかったぞ。静幻さんの方が立場も権限も上だからな。

 協力については確約出来ないが、非々色金(迷探偵の負の遺産)が譲渡されるのは大きいな。向こうから仕掛けてきたものあって、譲歩してくれたから動きやすいのはありがたい。

 満漢全席? いつも通り壮絶な勢いで食いつくしてたからスルーで(冗談抜きで厨房が戦場と化していたらしい。ホントすいません)。

 静幻さんが「まさか全部食べてしまうとは……」って、糸目を開いて驚いてたのが印象的だったな。

「わふー、ごしゅじんしゃまー。りしゃはおしたいしてましゅ~」

 ……現実逃避やめるか。リサ、いつもと言ってること一緒だぞ。正面から抱きついてスリスリしてるのと、耳が出てるのが違うけど。あーこら、匂い嗅ぐんじゃありません。「いい匂いですぅ……」じゃないから。

 さて、なんでこんな状況になっていたかというと……理子がヒョウタンに入ってた『藍苺酒(らんめいちゅう)』、要するに酒を飲み始め、他の面々が気付かずにどんどこ続いたためである。口当たりいいし、ジュース感覚で飲めるからな。

 お陰でチャイナドレス(全員着替えた)はあっちこっち乱れてるし、酒気と女の匂い混じって色々アカン空間になってるよ。乱痴気騒ぎもいいとこである。

 なお、 俺は静幻さんと今後について話していたため呑んでない。戻んなきゃ良かったわ(真顔)

 というかどんだけ飲んだんだよ、ヒョウタンの中身ほぼ空じゃねえか。アリアは色金の影響で肉体年齢が止まってるから仕方ないけど、白雪は相当強いはずなのにカオマッカー! だし。なおメヌも普通に見えるが、酔いの回りはアリアと似たり寄ったりだ。白人なのに顔に出にくいのな。

「ふえええぇぇ……子供じゃないもーん」

「あーはいはい、俺が悪かったからもう寝なさい」

 こんな時も直感鋭いんだから。

 泣き上戸のアリアをベッドに寝かせ、頭を撫でてやってると、寝息を立て始めた。早いなオイ。

「んうー……ジュン、メヌもー。お姉様と一緒に寝るー」

「はいはい、早く寝な」

「だっこー……」

 子供か、いや子供だったかこの中では。車椅子から下ろしてアリアの隣に寝かせてやり、「うふふ、お姉様かわいーい……」と笑いながら眠りに就いた。これ記憶残ってねえよな?

「あはは、ほら潤も飲めー」

「はいはい飲んでるよ、残りは俺が貰っちゃうから白雪はこっちにしなさい」

「なぁにい~? 俺に酒じゃなくて水を飲めってか~!?」

「水じゃなくて酒だよ」

 「ならよーし!」と言いながら、豪快に飲み干す。まあ水なんだけどな、酔っ払って判別付いてないけど。

 女の子が取っちゃいけないポーズ状態の白雪に、もう何杯か水を飲ませて寝かし付けた。色々乱れてるから衣服は直した、アカンでしょコレ。

 で、レキは……体育座りのまま寝こけてた。何か「潤くん……」とか寝言漏れてるけど、そんな呼び方始めてだわ。とりあえず毛布掛けてやった、一番平和だわ。

「わふふー、しゅりしゅり、ふんふん」

 ……で、一番の問題はこのメイドである。介護中も引っ付いたままだし、口に出してることをずっとやってる状態である。犬かコイツは、いや狼か。

「リサー? もう寝ような?」

「わふふー? なんでしゅかー?」

「……リーサー?」

「わふ?」

 ……ダメだ、言語が通じねえ。甘え上戸+言語力低下かよ、性質わりい。

 ……ん? 待てよ?

「リサ、待て」

「わふっ」ピタッ

 嘘だろマジで止まったぞ。犬耳すらピクリともしねえし。

 とりあえずベッドの方まで移動し、

「はい、おいでー」

「わふー♪」

 嬉しそうにトコトコ寄ってきたので、抱き上げてベッドに寝かしつける。

「はい、お休み」

「わふ……おやしゅみなしゃい」

 言うと素直に目を閉じた。完全に犬系メイドじゃねえか。

 ……さて。

「くふふふー、ユーくんお疲れ様~。いやあ、いいのが一杯撮れタヌキチ!?」

「ちったあ手伝えや元凶ぉ!!」

 チャイナドレスで撮影しまくってる理子に、史上最高クラスのアッパーカットを叩き込んでやった。飲ませるだけ飲ませて放置とかふざけるなよホント。

 

 

「ったく、何考えてんだお前は」

「いやあ、そこにお酒があったものでつい。ユーくんも眼福だったでしょ?」

「記憶があった場合、ぶっ飛ばされそうで怖い」

「思春期を殺した少年みたいな感想ですな」

「お前は思春期真っ盛りのエロガキみたいだな」

「いやあ、それほどでも」

 褒めてねえ。こちとら酔っ払い+チャイナドレスの介護したせいで、色々見えちまうし触れちまうんだよ。スリットからの生足とか谷間とかうなじとか。

「役得でしょ?」

「お前は眼福だな」

「にゅふふー、理子のおにゃのこメモリーが更に充実しますな」

「メモリーごと焼くか」

「オイ殺すぞ」

 急にマジになるな、こええよ。声どころか目まで据わってるじゃねえか。

 酔っ払いどもを寝かしつけた後、俺と理子は中庭で月見酒としゃれ込んでいる。藍苺酒は飲み干されてたから、代わりに貰ってきた白酒(バイチュウ)でな。寝てる連中ほっといていいのか? 大丈夫、部屋にエグイ罠仕掛けといたから(真顔)

 しかし理子の奴、誰よりも飲んでる癖して余裕だな。流石に顔は赤いが。

「んー? 何々ユーくん、理子の顔に見惚れちゃった?」

「強いて言うなら酒臭い」

「ぶー。ユーくんが飲むの遅いからですー」

「俺は風情を楽しんでるんだよ」

 あと俺が遅いんじゃなくて、お前が早いんだからな? 貰った分の1/3無くなってるじゃねえか。

「というかー、こういう時はお月様だけじゃなく、理子を眺めて褒めるべきだと思いまーす」

「絡み酒かよ。……いやいつも通りか」

 視線を月から横に向けると、理子は首を傾げてこちらを下から覗き見つつ、ほんのり赤く染まった顔で笑っている。

 足を惜しげもなく組んで晒し、片手に酒の器を持つ姿は――

「……ふむ。月とは異なる艶のある美しさ、か。今に留めたくもあり、先が楽しみでもあるな」

「――――ホント?」

「嘘吐いてどうする」

 理子は目を見開き、こちらをマジマジト見つめてくる。そんな褒めなかったっけね。俺。……そういやいつもバカやってばっかだわ、つまり自分達のせいだわ(なんとも言えない顔)

酒をゆっくりと嚥下しながらいつもの所業を思い返していると、

「……えへへー」

 先程とは違う、蕩けた笑みでこちらに身を寄せてくる。飼い主に甘える仔猫みたいだな、スリスリしてくるし。

「どうした急に」

「んー? なんだろ、お酒のせいかな? 理子、甘えたくなってきちゃった」

「いつも通りじゃねえか。酒こぼすぞ」

「んーん、違うの。今はね、身も心もユーくんに預けたい気分。……ダメかな?」

「……別にいいぞ」

 ……わざわざ聞くことでもないだろうに。

「んふふ、ありがと。じゃあ、もう一個ワガママでえ……山査子(サンザシ)、食べさせて欲しいなあ」

「いつもなら言わずともねだるだろうに」

 まあいいけど、俺も食いたかったところだし。見た目は羊羹のような菓子を一個手に取り、

「ほら」

「あーん。……にゅふふ」

「あ? ――んっ」

 

 

 何の脈絡もなく、山査子を咥えたまま俺と理子の唇が重なり。菓子の半分を舌で押し込んできた。

 

 

 ごくん。嚥下する音がやけに生々しく聞こえる。

「……オイ理子、酔ってるのも大概に――んうっ」

「ん~~」

 苦情は再度唇を塞がれることで遮られた。今度は白酒が流し込まれ、理子の唾液が混じったものを飲まされる。

「――ぷはっ。くふふー、お裾分けだよユーくん。どう? 美味しかった?」

「……食ってるもん一緒だろ。何がしたいんだお前は」

「あれれ~、そう言いながら顔が赤いよ~?」

「酒のせいだろ」

「そうかな? そうだね、お酒のせいだね~」

 仕方ない仕方ないと言いながら、理子(元凶)はまた身を寄せてくる。……ほぼ『戻ってる』筈なのに、自分の顔は見れたものじゃなさそうだ。

 結局その後は終始無言で過ごした。……何だかなあ、見られてないのが幸いか。

(遠山、ここで手を出したら炭も残らないよう燃やすからね)

(いたのかよヒルダ)

(可愛い妹の照れた姿がにっくきコンチクショウに向けられてると知りながら、悶絶と憎悪の狭間で空気を読んだわよ)

 じゃあ最後まで黙ってろよ。あとそういうとこは姉妹だな、お前ら。

 

 

 開けて翌日、本日はクリスマスイブなり。

「「「「「…………」」」」」

 まあ、そんな空気じゃないのだが。

「みんなニーハオー! はれ? どしたの死人みたいな顔して」

「半数が二日酔い対策で飲んだ薬の不味さに撃沈、もう半数は知らん」

「そりゃあーんなことやこーんなことがあったかランスロット!?」

「誰のせいよ誰の……うう、口の中がまだ変な感じ」

 げっそりしたアリアの裏拳が理子を撃沈させる。ちなみにコイツとメヌ、白雪の三人が薬で撃沈した組だ。『良薬口に不味し』を体現してるからな、酔い止めの『ヨイゴロシくん2号』は。

「というかジュン、何でアンタが寄越すのはトンデモ味ばっかなのよ……」

「味がアレなら次回は飲まないよう気を付けるだろ、その分効果は折り紙付きだが」

「納得はしたけど、ふざけるなと言いたいわね……」

 溜息を吐くのはメヌ。この二人が一番二日酔いのダメージでかかったからな、肉体年齢的に無理もないが。

「……? 理子ちゃん、何かいいことでもあった?」

「ん~? りこりんはいつも通りの元気印ですよユキちゃん?」

「……んー、気のせいかな」

 首を傾げる白雪の隣に、理子はいつも通りの笑顔で座る。恋愛関連では勘がいいな白雪、アリアはその方向だとポンコツ「何か言った?」何でもないです。

「ところで朝ごはんマダー? 理子、お腹空いた~」

「お前昨日と言ってること一緒だぞ」

「でも実際遅いですね、これは許されない事態です。『お仕置き』案件かしら?」

「藍幇の厨房を全滅させる気か」

「というか静幻の奴も遅いわね。ココ達辺りと揉めてるのかしら?」

「そんな気配は感じないが。……ん?」

「何よジュン」

「ちょっと待ってくれ。……白雪、静幻の気配を探ってくれるか?」

「え? ……あれ、感じられないね。出掛けてるのかな」

 白雪も眉を顰めてるが、それはないだろう。渡すだけとはいえ、大事な交渉を投げるほどあの人は阿呆じゃない。

「……ジュン、どう読みます?」

「……メヌと同意見だな」

「「予想外のアクシデント」」

 異口同音に言ったのを見計らったように、部屋の扉が乱暴に開かれた。そこから出てきたのは――予想通り、ココだ。ご丁寧に四姉妹勢揃いか。

「チュン! お前に話あって来たネ!」

「お呼びじゃねえ、静幻さん呼んでこい」

「会食も持たずに来るあたり、交渉する気があるんですかね」

 順に俺、メヌの反応である。いい加減低血圧でイライラしてるな、爆発しないといいけど。

「キヒヒ、これは交渉じゃない、勧誘ネ!」

 そう言いながらココ達が広げたのは、古風な形の巻物だ。えーと何々、辞令書? 判子は上役組織の上海藍幇か。

「……」

 どう反応すればいいんだろうな、これ。

 とりあえず、内容を産業で纏めると。

・遠山潤を武大校(軍でいう師団長クラス)、神崎・H・アリア、峰理子を武中校、他を武小校待遇で香港藍幇に迎える。

・曹操姉妹を正室側室とし、藍幇の運営について専属の女性教師を付ける(この時点で白雪と理子の目がヤバイ)

・終身雇用の前払いとして、三千万元(日本円で約四億五千万強)を支払う

 以上を条件として藍幇に降伏・所属しろとのことである。珍しく三行で収まった? そりゃ収めるもんだろ(真顔)

 普通に考えれば破格の条件……じゃねえな。コイツ等俺をダシにして成り上がる気満々だし。オチは絶対抗争へ巻き込まれるパターンだろ。

「外部の人間に対する待遇としては、破格のものネ。コレを断るような宇宙規模のバカなら、孫と一緒に叩きのめせと――チュン、聞いてるのカネ!?」

「……はあ」

 答える代わりに溜息が漏れた。コイツ等理子達と孫の戦闘を聞いてないのか? 香港藍幇が不利なのを分かってるからこそ、静幻さんは交渉に乗り出したのだし。まさか、金を積めば誰でも降ると思っているのだろうか。

「……言っておくが、お前らのいう宇宙規模のバカなんて、割とそこら中にいるぞ。世の中金と地位が全てとは思わないことだ」

「ヘエ? じゃあ断るつもりカ?」

「そもそも俺達は静幻さんと交渉したんだが」

「諸葛は譲歩し過ぎネ、だから人質取らせて大人しくしてもらたヨ。お前達も受けなければ、自分も家族も大変なことな――」

 喋る途中、ココ姉妹の横で轟音が鳴った。白雪の投げたテーブルが砕け散ったものだ。あーあ、結構な工芸品なのに。

「――で? 言いたいことはそれだけ?」

 黙って聞いていたアリアが、怖気が走るほどの怒気を纏いながら立ち上がる。コイツに『家族』のワードは禁句だわな、それだけのために必死こいて走ってきたんだし。

「降伏どころか脅迫なんていい度胸ね? じゃあこっちも極東戦役の方式に倣って、宣誓してやるわ。

 『バスカービル』は香港藍幇と敵対を宣言する、全員一切容赦なく風穴開けてやるわ。異論はないわよね、リーダー?」

「反対しても止まらないだろ、ウチのメンツは」

 温厚なリサですら、険しい顔でココ達を見てる訳だし。バスカービルの空気やばいぞ、ココ達も察したのか引き気味だし。

「ふ、フウン。こんな条件を蹴るなんて、お前ら最高のバカね。ココ達の城で喧嘩を売ったこと、後悔するがイイネ!」

 猛妹が負け惜しみよろしく叫ぶと、脱兎のごとく逃げ出した。凄い三下感出てるな。

「……手を出すなって合図されたけど、良かったのか? 理子、メヌ」

「ダイジョーブダイジョブ。ねーヌエっち?」

「ええ、勿論です理子。相手が準備万端だというなら」

「「完膚なきまでに潰して、プライドも何もかも粉々にしてやる(します)」」

 ……いーい笑顔だなあ。静幻さんの努力が水の泡となったよ、完全に。オマケで逆鱗にも触れちまったと。俺しーらね(目逸らし)

「ジュン。アタシ達がやるから、メヌと一緒に指令塔やりなさい。アンタまだ完治してないでしょ」

「まあ確かに全快じゃないが……大丈夫かお前ら?」

「大丈夫だよ潤ちゃん、身の程知らずの泥棒ネコに思い知らせるだけだから」

「いややりすぎを心配してるんだが……」

 九条破りするなよマジで、証拠隠滅大変だから(違)

 

 

 

 




あとがき
 終わらねえじゃねえか、何で酒盛りのシーンをあんなに延ばした(白目)
 という訳でどうも、ゆっくりいんです。やはりココ達がとんでもない目にあうフラグ立ちましたが、いかがお過ごしでしょうか。私は今から(アリア達の暴れっぷりが)怖いです。
 さて次回ですが、本当に藍幇の決戦……なんだけど、さっくり終わらせないと残酷シーンになりそうですねコレ、どうしよう(知らん)
 感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。
 では読んでいただき、ありがとうございました。



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第四話 策というほどのものではない(後編)

ジャンヌ(以下ジ)「オイ作者」
作者(以下作)「ヘイなんでしょう、ジャンヌさん」
ジ「また一ヶ月近く投稿が空いているんだが……弁明はあるか?」チャキッ
作「今回はSkimaでの依頼を二件、ハイオークさんの話を一件書いてましたね。
 大分ローペースになっちまってますけど、夏の暑さに現在進行形でやられてます」(白目)
ジ「……一応小説自体は書いていたようだな。なら仕置きは勘弁してやろう」チャッ
作「( ゚Д゚)いやもうクソ暑いんで、氷漬けでもいいから涼しくしてくれませんかね」
ジ「仕置きされて喜ぶ変態をどうこうする趣味はないぞ」
作「( ´・ω・`)ヒデエイイヨウ
 ……あ、ジャンヌさん。次回でば」
ジ「あーあー、聞こえない聞こえない! 私は何も聞いてないぞ!」
作「……今回の修学旅行Ⅱ、成功しました?」
ジ「…………」メソラシ
作「諦めてください」
ジ「ああああああああああぁぁぁぁ……」orz


『ウー、ヒック……この動き、見切れ』

『酔いが回る前にぶっ飛ばせばいいでしょ』

『ヘ? チョ、容赦なさすギャアアアァァァ!!?』

※通信機越しに響く銃声と殴打音

 

 

『キヒヒ、この完璧な守り、どう崩すネ?』

『……アホくさ。そんなの』ポイッ

『? 峰理子、何シタ――っ!?』

 爆発音と悲鳴が連続して響く。

『『転移』で内側から崩せばいいだろ。機動力を削ぐとか舐めてるのか?』

 

 

『……』パァンッ

『――ウッ!? そんな、狙撃の銃弾を初撃で撃ち返すなんて無茶苦茶ネ……!?』

『この程度出来なければ、潤さんに触れることすら出来ません。とりあえず、消えた朝食の恨みです』

『そんなものあってたま――』

 銃声が響いた後、静かになる。

 

 

「……何か全員気が立ってないか?」

「朝食抜きで戦闘してるのに、穏やかだと思うの? 私もストレスと貧血であのチンチクリンを血祭りにしたいわ」

「言葉だけで憤死させる気がお前は」

 出来そうで怖いけど。どうも、今回はメヌと指揮役に回された遠山潤です。

 通信で分かるとおり、ココ共は三行で鎮圧された。やっぱウチのメンツからメシを取り上げたらダメだな、凶暴性が十割増になる。

 俺? 携帯用のチョコを全部メヌに貪られたよコノヤロー(しかも「全然足りないわ」とか言い出すし、何枚食ったと思ってんだ)。

 さて、俺達が今いるのは――藍幇城内の厨房である。メシがなくてイライラマックスなメヌの命令によって速攻で鎮圧(ロケラン+車椅子ガトリング脅迫)した。

 今はリサが朝食を作っているので周囲を警戒してるけど、多分決闘が終わるのが先だと思う。

「チュ、チュン!」

「いい加減その名前で呼ばれすぎて、雀と勘違いしそうですね」

「ちゅちゅん」

「可愛くない、焼き鳥屋行きです」

「振っておいてあまりの辛辣さに全俺が泣いた」

「お前ラ真面目に聞くネ!?」

「「え、やだ(いや)よしょうもなさそうだし」」

「ムキー! そう言ってられるのも今のうちネ! 附上(囲め)!」

 メガネココが号令を掛けると、完全武装の兵士達が俺達にアサルトライフルを向けてきた。キレやすすぎませんかねあーたら(←原因)

「人質取るつもりだな、分かりやすい上に同じ手とか草生えるわ」

「ご、ご主人様……」

 銃を向けられて、調理中だったリサが俺の背後で怯え、裾を掴んでくる。理子だったら「ヤベエシャッターチャンスですよ!」とか騒ぎそうだが。

「リサ。悪いけど、絶対に守ってやるから調理に集中してくれ。こいつ等より腹を空かせたアリア達が暴れる方が怖い」

「ご主人様っ……分かりました、リサの命に代えてもお調理を完成させます!」

「いや命張るのは俺だから」

「ジュン、メイドだけじゃなく私も守りなさい」

「誰が料理より優先度の劣るザコネ!?」

『誰が腹ペコ大魔神よ!?』

「おう同時に言うのやめろや」

 ただの優先順位だよ。あとアリア、お前と理子が空腹で暴れた結果、学園島の一部を素手で吹き飛ばした(比喩にあらず)の忘れてないからな?

「ふ、フン。ボロボロのリーダーに戦闘力のない小娘二人で何を粋がるネ、(かか)レレレレレレレレレ!?」

「……ねえ遠山、ココ達ってこんなアホの子だったかしら。お前が無防備でいる訳ないのにね」

「俺に聞くなよ、イ・ウー時代の話なんてリサが交渉でやり込めた話しか知らんぞ。

戦争は数の信奉と相性の悪さによるものじゃねえの。

 あとメヌ、新機能を使いたいのは分るけど、ガトリングミサイルはしまいなさい」

「いっそ動けないようにするのも慈悲だと思いますけど」

「厨房にも被害出るぞ」

「……チッ、仕方ないわね」

 舌打ちするんじゃありません。本当、理子がヒルダを護衛に残してくれて助かった。

「報酬は理子のコスプレ衣装でいいわ」

「血とかじゃないのな」

「物的な供給は簡単だけど、心の栄養は摂りにくいものなのよ」

「姉妹揃って過剰供給してる癖に何言ってんだ」

 あと姉妹って言われただけでドヤ顔すんなし。

 

 

「……星伽巫女一人か。遠山はどうした?」

「潤ちゃんなら下にいるよ。並んでいるだけが闘いじゃないから」

「……ふうん、今回の遠山侍はそういう感じか。アタシは正面からのほうが好きだし、アイツとは決着を付けておきたかったんだが」

「その必要はないよ、孫。あなたはここで――私が斬るから」

 星伽白雪です。今私はここ姉妹を抑えている(ボコっているとも言う)皆のお陰で、孫――いいえ、緋々神と藍幇城の屋上で対峙しています。

「へえ、いいねえ。今代の星伽巫女は随分と性急で――情熱的だ。遠山侍への愛が成せる業かねえ」

 舌なめずりをしながら、こちらを好戦的な目で見詰める孫。大変結構。

 孫の傍らには静幻さんもいますけど、手を出してくる気配はないし、見届け人代わりでしょう。人質を取られたというのなら仕方ないですし、敵に回らないのなら十分です。

「で、刀を使わないのは何のつもりだ? まさか武器なしで俺に勝てると思ってないよな?」

「そんな侮りはしないよ。私が使うのは――これ」

 裾から取り出し、組み立てたのは携帯型の槍、『色金包女(イロカネツツメ)』。緋々神を倒すために潤ちゃんが造り、託してくれた武器。

 水平に構え、余分な呼気を吐き尽くす。槍術も武装巫女の嗜み、十分振るえます。

「は、それで俺を一刺しにしようってか。怖いねえ。だが――」

 孫の右目が輝き出す。潤ちゃんが喰らったレーザーアイ、当たれば死ぬかもしれない一撃。左足が完治せず機動力が落ちている今、最適な攻撃方法でしょう。

「予言するぜ。お前の槍が届くより、アタシの『如意棒』が当たる方が早い」

「なら私も予言するよ。あなたの『如意棒』が、私を貫くことはない」

 星伽の予知は外れないんだよ? 笑いながら封じ布を外し、魔力を槍の先端に集めます。もっと鋭利に、もっと集中させて、もっと、もっと――

 孫も瞳に力を集め、レーザーの威力を上げていきます。私一人を殺すには過剰なほどの威力を。

 恐らくこちらの出方を窺うと同時に、待っているのでしょう。私の一撃が完成するのを。

 超人特有の矜持と侮り。それがあなたを滅ぼすんだよ、(緋々神)

「キキ、じゃあ――今回が初の外れる日、だな!!」

 叫び、有り余る魔力を纏ったレーザーが、私の心臓目掛けて放たれます。

「星伽候天流――」

 同時、私も飛び出します。孫の言うとおり、槍が届くよりもレーザーが触れる方が早いでしょう。

 それなら――

 

 

 レーザーごと貫いてしまえばいい(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「――あ?」

「――緋々伏貫(ヒヒノフセヌキ)

 腹部に一刺しが入り、孫は信じられない目で私を見ています。あまりの驚きに、刺さった槍のことなど気付いていないかのように。

「無茶、苦茶だろ……如意棒を避けるんじゃなく、貫く勢いのままあたしに一撃を加えるだ? そんなの……」

「……潤ちゃんは、不可能なことは不可能とはっきり言うよ。

 この武器と、私。二つを信頼してくれたからこそ、打ち破れた」

「……はっ、直接の戦闘力じゃないあいつを甘く見過ぎたってことか。ああ、いいなあその信頼……正しく」

「愛の力、です」

 笑いながら告げて槍を引き抜くと、孫は苦笑しながら腹を押さえ、その場に座り込んだ。

「そうだな。あーあ、羨ましいよチクショウ。

 ま、文句無しにあたしの負けだ。今回は負けを認め」

 

 

『いいや、お前に次はない(・・・・)

 

 

「!? とおやがっ!?」

 声が響くと同時、孫の身体に電流のようなものが走り、身体を縛り上げます。

 彼女の足元にはカバラとルーンを独自の形に融合、発展させた魔術陣――潤ちゃんのものです。

「……ふう。ここまで弱っていれば、『縛鎖』も充分効くか。

 白雪、ありがとうな。一番危険な役目をこなしてくれて」

「ううん、怖かったけど……潤ちゃん様の頼みとあらば、例え火の中水の中、どこでも行くよ!」

「炎使いが水の中に飛び込んじゃダメだろ」

「遠山、何の、つもりだ!?」

 頭を撫でてくれた手を離し、孫の方に潤ちゃんは振り向きます。……むう、邪魔された。

「ああ、簡単さ。お前さん――緋々神を、猴を通して」

 

 

 封印するためだ

 

 

「なっ――」

「殻金は健在だが、シャーロックから緋弾を正式に継承した以上、アリアがお前に乗っ取られるリスクは避けられないからな。

 だったら、お前の意思そのものを星伽の御神体から出られないようにすればいい」

「遠山お前、どこまで」

 驚愕に目を開く孫に、潤ちゃんはニヤリと笑います。そういう顔の潤ちゃんも、おっかな素敵……

 ……っと、いけないいけない。万が一に備えて警戒しないと。

「どこまで? そうだな、星伽巫女が知ってること、緋々粒子を下手に減らすと超能力のバランスが崩れることかな」

 お陰で壊すことが出来なかったわ、と潤ちゃんは肩を竦めます。

「それとお前への対策は――三年前(・・・)、アリアが緋弾を継承してからだな《・・・・・・・・・・・・・・・》」

「っ! ぐっ!」

「ああ、猴から抜け出すのは無理だぞ? 今のお前は『縛られて』いるからな」

 逃れようともがく孫に潤ちゃんは開いた手を向け、

――(連結)――(封印)――(封印)――(封印)

「とお、やま、お前は――」

――(束縛)

 孫が何か言おうとしたのを遮り、潤ちゃんの手が彼女の身体に抵抗なく入り込み――

陽伏岩戸(ひぶせのいわと)

「ガ、アアアアアアア!!!??」

 呟くと、孫の身体から幻影の炎が立ち上がり――やがて燃え尽きるように火は縮まり、消えました。

 ドサリ、と音を立てて孫――いえ、猴が倒れます。

「ほい、封印完りょ――ゴフッ」

「潤ちゃん!?」

 またも血を吐いて倒れそうになったので、慌てて支えます。……良かった、二日前みたいに中もボロボロってわけじゃない。

「あー、やっぱ治り掛けで多重付与は身体に来るな……」

「潤ちゃん、大丈夫!? ギューってする!?」

「ごめんなんでそうなるのか分からない」

「いやはや、まさか孫が完全封印されるとは……藍幇の最大戦力が失われたことになりますね」

「猴自体は残ってるだろ。で、まだやる静幻さん? 俺はボロボロだから仕留め時だぞ」

「しませんよ、窮鼠に噛み殺されたくないですし。そもそも私は講和を申し立てていたんですから」

 今から賠償でどれくらい搾り取られるか心配です、と肩を竦める静幻さん。良かった、私もそんなに余裕なかったから、話の分かる人で。

 とそこで、私の携帯から着信が響く。潤ちゃんに断って画面を見ると……かなめちゃん?

「もしもし? かなめちゃんどうしたの?」

『やっほー白雪お姉ちゃん、メリークリスマスイヴ! お兄ちゃんに繋がらないから、代わりに掛けたんだけど』

「あ、潤ちゃんに用事? 携帯壊れちゃったからか……ちょっと待ってね」

『うん、おねがーい』

「潤ちゃん、かなめちゃんから」

「かなめ? はいもしもーし、どしたマイシスター。

 ……は? お前マジで言ってんの? っていうかどうやって引っ張ってきた、え、電波をキャッチした?」

 通話を代わった潤ちゃんが、すぐに顔を強張らせます。

 ああ、その困り顔もい――じゃなくて、覚えがあるなあ。理子ちゃんが洒落にならないイタズラを仕掛ける時と、同じです。

「……待て、待てマイシスターマジで待て、ステイ。もう終わったから、というかそれやったら香港が火の海だから。

 ……静幻さん、すぐにココとその私兵を引かせてくれないか?」

「……あなたがそこまで慌てふためくなんて、一体妹君は何をしたんです?」

「……見てもらうのが一番早いかな」

 どこからか取り出した双眼鏡を静幻さんに渡し、海岸沿いを見るよう促すと――彼は固まってしまいました。

「……すぐに手配してきます」

「頼むわ」

 神妙な表情で去っていく静幻さんに何があったのだろうと思いましたが、潤ちゃんから双眼鏡を借りて察しました。

「えぇー……アレ(・・)、かなめちゃんが?」

『イグザクトリィ白雪お姉ちゃん! お兄ちゃんの敵を殲滅する健気な妹かなめ、ボストーク号と共に参上しましたー!』

『オイ妹ちゃん、そっちのボタンは絶対に押すなよ!? ミサイル出るからな!?』

『それはフリですかゴー先輩?』

『コントじゃなくてマジレスだよ!?』

「武藤くん!?」

 一緒に何やってるの!? いや寧ろ止めてるのかな!? 

 スピーカーモードの携帯から聞こえる二人の会話に、不安しかなかったです。潤ちゃんがガチ説得したのと、藍幇側が無条件降伏して何とか収まりましたけど……。

 さすが潤ちゃんだね!(違)

 

 

 あの後、静幻さんに頼んでボストークの存在を隠蔽し、適当な『存在しない』港に停泊してもらった。この時だけは藍幇の影響力に圧倒的感謝。

『ボストークは整備と補給を済ませておくから、お兄ちゃんは白雪お姉ちゃんとデート行ってきなよ! 白雪おねえちゃんは今回のMVPだし。

 それとクリスマスの準備してるから、遅れちゃダメだよ! 日付変わるまでに帰ってくるよーに!』

 何でそんなに準備いいんだよと思ったら、潜航中に暇だったからやってたらしい。もっと気を遣うとこあったと思うんだが。

『あ、藍幇が余計なことしてきたら香港を火の海にするからね!』

 やめなさいガチの戦争になるから。……いやマイシスター、全部滅ぼせばダイジョーブ! じゃねえよ。中国全土の魔術師が飛んでくるぞ(白目)

 というわけでどうも、今回ボロボロになってばっかな遠山潤です。マジで中国ろくなことねえ、いつもそうだが二度と来たくない(白目)

「潤ちゃん、こっちに吉野○もあるよ! あ、マ○ドナルドも!」

「中国に進出してる企業も結構あるからな。おーい、あんまり先行くなよ」

「あ、じゃ、じゃあ、手を繋いで……」

「ん? ほいよ」ギュッ

「……!」パアアァァ

 分かりやすいくらい顔が明るくなった。このくらいなら安いものである。

 というか珍しくはしゃいでるな白雪。改めて海外だからテンション上がってるのと、面倒見る相手がいないからかね?

「さて、次どこ行く?」

「潤ちゃんと一緒なら、どこでもいいよ?」

「いや、白雪が行きたい場所はないのか?」

「ううん、私この辺りの地理は詳しくないし――それだったら、潤ちゃんと一緒にいるのを、純粋に楽しみたいなって」

 ふわりと、柔らかく微笑んでこちらの腕に抱きついてくる。今一緒にいる、それだけで幸せ。そう言わんばかりだ。

「無欲だなあ、白雪は」

「ううん、私は潤ちゃんが思うより欲張りだよ?」

「何か欲しいものでもあるのか?」

「え、えっと」

 そこで白雪は恥ずかしそうに顔を赤く染め、こちらの耳元に口を寄せ、

「潤ちゃんとの子供、かな……」

 と、小さく言ってきた。

「いやごめん、知ってる」

「え!?」

 何で驚いてるんだよ、たまにトリップして「既成事実からゴールイン、子供は……フフフ」とか言ってるじゃん。……まさか自覚ないのか、ビックリだよ。

「んー、じゃあテンプレだが。『百万ドルの夜景』、見に行くか」

「……! うん、行こう潤ちゃん!」

 試しに提案してみたら、嬉しそうに手を引いて歩き出した。その後白雪に一足早いクリスマスプレゼントを渡したら、またトリップしだしたのだが――まあ、喜んでもらえたならいいか。

 ……これで周囲の脅える視線がなければ一番なんだけどなあ。女性の何人かは白雪を拝んでいたが。あれか、武神の孫を倒したから崇められてるのか。

 

 

おまけ

「……なあ白雪、何でホテル街を通ってるんだ」

「……えへへ。潤ちゃん様と期待しちゃったかな、って。キャッ」

「中国のそういうホテルは衛生面がアレだぞ」

「!?」

 

 

「あ、お帰りーお兄ちゃん。時間ギリギリってことは、さっきまでおたのシンリョウギョク!?」

「未成年がそういうこと言うんじゃありません。あと普通にデートしただけだから」

「セーフ……」小声

「誰だ今の」

 

 

 




後書き
 妹の狂気(愛情)は国すら滅ぼす。ちなみに説得されるまで撃つ気満々でした、世界地図を変える気か(白目)
 というわけでお久しぶりです、ゆっくりいんです。前書きでも述べましたが、最近はSkima様で受けていた依頼や、ドSハイオークさんの話を更新してたら大分遅くなってしまいました。申し訳ありません。
 さて次回は修学旅行V、久々のジャンヌさんとうじょ
ジ「嫌だああああなんでアイツらとおおおおおぉぉぉぉ……――――」
 ……えー、ジャンヌさんは逃げてしまいましたが、運命は変わらないのでご安心ください。その前に小話とリクエストの消化がありますけど(白目)
 それでは、今回はここまで。感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。
 読んでいただき、ありがとうございました。


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リクエスト小説 武偵でも常識を知りなさい

 今回の話は五代セーラさんからのリクエストをいただいたコラボ小説です。
 あちらのオリ主『佐伯ミクル』さんとの交流、果たして彼女は無事でいられるのか……!?(マテ)
 それではどうぞー。
 
 



「……」チョコン

「……」

 夏の暑さが徐々に遠のいてきた今日この頃。マイバイクの前に武偵校の女子生徒が座っていた。何を言っているか分からないし、どうすればいいのだろう。

 どうも、俺です。間違えた、遠山潤です。ゲーセン帰りだから目立つし、スルー安定でいいでしょうか。

 え、ダメ? デスヨネー。

「……えーと。お久しぶり、レディ。俺か俺のバイクに何か用?」

「お久しぶりです、お兄さん。……お兄さん?」

「いや同い年だからな?」

「……お兄さん」

「名前忘れてるだろ、佐伯ミクルさん」

 

 

「ハッ!?」

「ど、どうしたのかなめちゃん?」

「お兄ちゃんをお兄ちゃん呼びする不届きものが出現した予感が……!」

「つ、つまり……新しい泥棒ネコ!?」

「きっとそうだよ! こうしちゃいられない、お兄ちゃんの元へ――チクショウGPS外されてる!?」

「く、さすが潤ちゃん。追跡を撒くのはお手の物だね……!」

 

 

 ……何かマイシスターがガバイ妹判定してる気がするんだが。

「どうも、ミクルです」

「いや知ってるよ。前に任務で一緒だったし」

 やりにくいなあこの娘。考えというより行動がフリーダム過ぎないか。

「はい、一緒でした。だから覚えてますよ、声は」

「名前より印象深い声してんの俺? 

 じゃあ改めて、遠山潤だ。よろしく、佐伯さん」

 というか同じ探偵科(インケスタ)なんだけどな。

「……」

「佐伯さん?」

「……」

「オーイ、佐伯さん?」

「……」

 返事がない、無言でこちらを見上げている。

「……ミクルさん」

「はい、ミクルです遠山さん。よろしく」

 名前じゃないと反応しないのかよ。というか距離感おかしくねえか、何故近付いてくる。

「で、改めて何か用?」

「乗せてください」

 ビシッと後方のバイクを指差す佐伯、もといミクルさん。わー要求がストレート~(困惑顔)

「モノレール近くだぞ」

「太鼓の達○で体力を使いすぎました。道はやっと覚えたけど、歩きたくないです」

「ペース配分って言葉知ってる?」

 ウチのメンツはD○Rでぶっ倒れたけどさ。

「というか乗せてもらうために待ってたのかよ。声掛ければ良かったのに」

「待ち伏せすればすれ違いを防げますから。バイクは覚えていましたので」

「なんでバイクは覚えてて名前を忘れるん?」

 いやカスタマイズしてるし目立つけどさ、SV1000。

「……とりあえず、乗ってく?」

「お願いします」

 ペコリと頭を下げるミクルさん。至近距離だから銀髪のドリルツインテが刺さって地味に痛い。

「……」ジー

「あの、ミクルさん? 準備できたぞ?」

 エンジンふかしてる間も、マゼンダの瞳でこっちを見てて落ち着かないんだが。

 とりあえず予備のヘルメット(理子がよく同乗するので入れてる奴、フリーサイズ)を渡すのだが、スルーして間近まで迫り、こちらの頭に手を置いてきた。なんぞ。

「遠山さん」

「おう」

「ちっちゃいですね」

「置いてってやろうか」

「嫌です」

 じゃあやるなよ。あと俺は男子の平均くらいだからな?

 女子に頭をポンポンされると、どういう顔すればいいか分からん。

 

 

 佐伯ミクル、探偵科所属の二年生。クラスは白雪と同じB組。

 ランクはギリギリA、『能力は優れているのだが、どこか抜けていて見落としがある。あと力押しでどうにかしようとする』と、探偵科とは思えない評価を貰っている。

 今年の四月に京都武偵校から東京武偵校に転入、元殲滅科(カノッサ)所属、こちらでもAランク。

 後ろに乗っている彼女のプロフィールを思い出しながら、バイクを武偵校に向けて飛ばしている。こら急に立つんじゃありません、バランス悪いから。海岸線が綺麗なのは分かるけどさ。

「というかやっと道を覚えたって言ってたけど、方向音痴の気でもあるの?」

「分からなくなったら他人に聞くのを覚えました」ドヤァ

「それ何の自慢にもならんし普通だからな? 現場に出る武偵が道に迷うのはどうなんだよ」

「前の学校で、集合場所から現場に直接行ったことはあります。一人で暴れたら何故か怒られました」

「寧ろ何故独断先行して怒られないと思ったのか」

「先生には「ちょっと東京の武偵校行って色々学んでこい」って追い出されました」

「それが理由で東京武偵校来たの? 先生に言われたから?」

 いやまあ武偵校は軍隊とかに近い縦社会だけどさ(←例外というか気にしない奴)。

「言われるままに来たんですけど、先生は私に何を学ばせたかったんでしょう」

「常識じゃねえの」

「武偵校で必要なことは学んでると思います」

「勉強で得るものじゃないんだよなあ」

 傍から見てて心配になるくらいフリーダムだし、俺がそう思うくらいだぞ。……誰が服を着た非常識だコノヤロー(言ってないけど合ってる)。

「じゃあ遠山さん、折角だから色々教えてください」

「あ? 俺?」

「報酬はさっきゲーセンで取った『ラーセさん』を差し上げますので」

「報酬でぬいぐるみ出す奴始めてだよ」

 SSRはネジの外れた奴が結構いるけど、この娘は抜けてそうで怖いわ。ネジがこっち来い(真顔)

 

 

「爆発するよりも早く吹き飛ばせば、爆弾って無力化出来るじゃないですか」

「耐久性によっては触れただけで爆発するからな? この間蹴っ飛ばした奴はマジで危なかったからな?」

「あの程度ならカバーできました」

「安全第一って言葉知ってる?」

「悪霊退散なら」

 殲滅科って言葉通りの意味じゃねえからな?

 所変わって郊外にある喫茶店。ちょっとした隠れ家のそこで、宣言通り勉強会をしているんだが……うん、これやっといて正解だったわ。

「猫と人がいたのなら、前者を最優先するのは普通です」

「否定はしないけど、武偵は人を見捨てたらダメだからな? 両方助けようぜ」

「つまり片方だけなら猫を優先しろと」

「違うそうじゃない」

 この佐伯ミクルというお嬢さん、良識は人並みにあるんだが常識が危うい。特に協調性、危機意識がヤヴァイ。

 こっちでは探偵科所属なのに、何で協調行動について教わってないんだよ。……いや、高天原先生(あの人)が教えられる訳ねえか。常識人に見えるだけのぶっ飛び枠だし。

「道に迷わない方法って何かないですか?」

「地図アプリ使えばええやん」

「見ても良く分からないのです」ズイッ

「……ミクルちゃんよ、それ車輌向けのアプリやで」

「……おお。遠山さん、全く分からないので入れてください」

「感心しながらスマホを渡すのやめなさい」

 というか個人情報が詰まってるものをポンと渡すんじゃありません。武偵じゃなくても悪用されるのが目に見えるぞ。

 とりあえずアプリを入れてからスマホは人に渡すんじゃありません、と注意しておく。

 何でこんな常識的なこと言ってるんだろう、本人も分かってるのか分かってないのか曖昧な顔だし。

(これ、マジでどうにかした方が良さそうだなあ)

 放置しておくと大惨事になりかねない。下手すれば飴で誘拐される幼児みたいなことになりそうだ、想像できるから笑えねえ。

(……この際だし、色々『教え込んでおく』かね)

 ミクルは善悪に対する拘りがあまり強い方じゃないし、ちょうどいいだろう。

「……ばれないようにする『悪い知恵』もいいな」

「? 遠山さん、何か言いました?」

「いんや、ネコり言」

「ネコですと」ガタッ

「いやいないから、ただの返事だから」

「( ´・ω・`)」

「そんな本気で凹まんでも」

 本当に大丈夫なのだろうか(二度目)

 

 

おまけ

「ねーユーくん」

「なんぞい理子」

「最近さー、みくるんが中々クレバーであくどい感じに仕上がってるんですが。何か心当たりはあーりませんか?」

「一皮剥けたんだろ」

「あくどい感じが明らかに他人の手によるものなんだよなー。あとその表現エロくてイイネ!」

「思春期のエロガキかお前は、いつものことだけど」

 

 

おまけ2

「あ、遠山さん」

「おう、ミクオイマテ何故頭に手を置く」

「ちぢめー」ギュウウウ

「いや頭押したくらいでうおおおマテマテマテ力強い、マジで力強い人外の領域!? 

 いきなりなんだよ!?」

「いっそミニマムサイズになれば可愛くなるかなって」

「マジで訳が分からないよ!?」

 この後滅茶苦茶抵抗した。

 

 

 




あとがき
 ということで、佐伯ミクルさんコラボ回でした。今後彼女は(悪)知恵を身に付け、一目置かれる存在になるでしょう(色々な意味で)
 それと今回、コラボ相手のセーラ様からイラストをいただきました! 遠山潤のイラストです! ドン!
 
 
【挿絵表示】


 うーん、この軽薄に笑ってる感じ、潤らし(銃声)
 ……( ゚Д゚)えー、改めてイラストありがとうございます(頭部から流血)
 それでは、今回はここまで。感想・評価・誤字訂正、いつも通りお待ちしております!
 改めて、コラボをしてくださった五代セーラ様、そして読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました!




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外伝 お前等の熱意が俺を巻き込む

 今回の外伝は冬の祭典、そしてあのイタリア娘がフライング登場します。
?「やっと出番ね! この時をずっと待っていたわ!」
( ゚Д゚)いや大分早いですよ。
( ゚Д゚)ところでジャンヌさん、これ終わったらでば――


『探さないでください じゃんぬ』


( ゚Д゚)……
( ゚Д゚)次回までには連れ戻されると思います。
 
 
追伸:誤字訂正いつもありがとうございます。


「ふふふ、遂に来たわよ冬○ミ! 私は帰ってきた!」

「イタリア出身なのに魂の故郷が日本という謎。というか時差ボケと旅疲れで死んだように寝てたのに、元気だなあ」

「ええ元気にさせられたわよ、寝ているあたしに無理矢理飲まされた変な薬でね! こうやってテンション上げなきゃ損ってものよ!」

「ポジティブだなあ」

「薬用意したのはユーくんだけどね!」

「鼻摘まんで飲ませたのはお前だよな理子。つまり俺は悪くぬえ」

「理子に飲ませるよう指示したのはあんたでしょジュン!?」

「そのようなことあろうはずがございません、ベレッタ嬢。寧ろ奪われたんだけどな、エリクサー」

「エリクサー!?」

「薄めたのだから、不老になったりはしないぞ」

「薄めた!? 不老!? 待って理解が追いつかない、あんたパラケルススか何かなの!?」

 いいえ、しがない魔術師です。

 というわけでどうも、遠山潤です。香港から帰ってきてようやく完治し、早めの年末大掃除を済ませて後はのんびりするべと思ってたら、

「冬コミ行こうぜ! ユーくん車の運転な!」

「来ないと女装した状態で以下略」

「という訳で準備してください、一晩で」

「ジェバンニだってもうちょっと用意する時間あると思うんだけど?」

 と、サークル『咲かせよ百合の花(リーリエ・ブリューエン)』のメンバー+αに言われたのが、前日の夕飯時。

 そのすぐ後に「○コミ!? 私も行くわ! というか連れてって!」と、アリア+観光目当てで来日していたベレッタ・ベレッタ嬢が同行を申し出てきた。

 まあ朝五時に出発と言ったら、「マンマミーア!? 日本人(ジャポーネ)はクレイジー過ぎるわ……!?」と戦慄していたが。大丈夫、早朝に叩き起こされて限定フィギュアの列に並ばされたことあるから(何)

 そんな訳で、なんの予告もなしに車(またハイエースかよ)を運転させられる羽目になったのだが。

「「「「( ˘ω˘)スヤァ…」」」」

 肝心のメンバー達は寝ていた。熟睡状態じゃねえか。

 「おーい、きょうちゃーん?」と理子が揺すってるが、ピクリとも反応しねえ。「声掛ければ普通に起きるわよ」とか自信満々に言ってた夾竹桃はなんだったんだ。

 しょーがねえなあ。

「あ! あんな所にノーマルを装った男装麗人とコスプレの百合が!」

「「「「<●><●>ユリッ!?」」」」ガバッ

「それで起きるの!? というか怖いんだけど!? 何なのよコイツら!?」

「うん、俺も予想外だわ」

 というかお前も釣られるんかい、理子。そこまで(百合が)酷くないメヌだけ熟睡中だが。

「……アレは知り合い以上友人未満ね、友情成立じゃないわ」

 何で見ただけで分かるのお前。

「なーんだ残念、ももちゃんの眼力は確かだし、起きて損した気分」

「嘘吐いたジュンチーには罰ゲーム~。りこち~」

「もう用意してあるよー超あるよー」

「わー準備良くて引くわー」

 いつも通り過ぎてこうなる未来が――予測してないと思ったのか?

「あポチっとな」

 ふはは、以前車輌科(ロジ)に侵入して運転席をイジェクション○ッド風に改造しておいたのだ!

 ガチン!

「あれ?」

「いつから予測してないことを予測してないと錯覚していたのかな、ユーくん?

 さー、脱ぎ脱ぎしましょうねー。大丈夫、カーテンは閉めておいて人の壁作っておくから」

「理子に対策されてた、だと……!? 嘘だと言ってよバー○ィ!?」

「ところがどっこい!」

「現実よ。大人しく新作キャラになりなさい」

「オイマテそれ完全に用意してただろこっちくん」

「目潰し用毒『ムスカ』」

 夾竹桃がぷっとキセルから針を飛ばし、眼球に超エキサイティング!!

「うおぎゃああああ!? 眼が、眼がああァァァ!?」

 痛い、これ刺さるのと毒のダメージで倍プッシュに痛い!? というかまたこのパターンかよ、ジャンヌ以来だな来て欲しくなかったよチクショウ!

「きょうちゃんナイス! ユーくん覚悟ー!」

「覚悟する間もなくやるだろうがいてええええ!?」

「コスプレさせるのに失明させるの何!? 大佐の数倍えぐそうなんだけど!?」

「この程度じゃダメージにもならないわよ」

 ダメージになってるよバカヤロ、あちょっと待て脱がすなアッー!!

「…………」(←チラチラ見て赤面するベレッタ嬢)

 

 

「もう、何ようるさいわね……あらジュン、女装してるなんて気合十分ね」

「私が進んで女装したと思います?」

「メヌエットのステップを踏むまでもなく違うのは分かりますが、そういうことにしておきます」

「話が通じないことは分かりました」

 

 

 時は過ぎ、冬コ○開始二時間後。

「ありがとうございましたー。並んでいる皆さん申し訳ありません、新作の『白百合の初体験』は完売になりましたー」

「え、マジ!?」「うーん、仕方ないよね~」「ふふふ、お姉様と一緒にプレイするの楽しみですわ……」

 多めで三百枚用意したのに、昼前に完売とか予想外でござる。ところで聞き覚えのある声が聞こえたんだが、気のせいだろうか。

「スケブは現在先着十名様受け付けていますので、整列中の皆さんは希望のキャラを記入して紙をお渡しくださ~い」

「私モモちゃんで!」「あたしはイチゴちゃん!」「わ、私は茉凛ちゃんで……」「アンタマジ!? いや、私も新しい扉開きかけたから分かるけど……」

「あ、あはは……」

 おう本人の前で扉を開いた話はやめてくれ、俺に効く。

 ちなみに茉凛というのはフルネーム『乙山茉凛(おとやままりん)』というゲーム内のキャラクターで、

『ヒロイン達の中心にいる主人公をライバル視している、秀才系の生徒会長キャラ――と見せかけて、実は本来の性別にコンプレックスを持っているシークレットヒロイン。可憐で上品な男の娘』

 長え、設定盛り過ぎ、あとプレイ前からバレてるのにシークレットヒロインっておかしいだろ。

 アレか、百合と謳ったゲームに出てきたシークレット(にしておきたい)ヒロインってか。じゃあ出すなよ(白目)

 というかこの客層(ほぼその手の趣味か興味のある女子or女子モドキ)で受け入れられてるのが予想外過ぎるわ。ネット告知の評判も概ね好意的だし。

 余談だがこのキャラ、俺の女装姿とアニエス学園に在学中のとある転装生(チェンジ)がモデルらしい。どこで知り合ったんだと思ったら、理子がどっかのイベントで仲良くなったとか。

 ま た お 前 か。

 更に余談だが、キャラのモデルについて相談したら、

「モチのロンでオッケーや! ウチみたいなのの魅力が伝わるなら、強力は惜しまんでー。

 あ、もし良ければなんやけど、もう一人のモデルさんにも会わせてもらえん?」

「モチOK! 日程は調整しとくぜ!」

 と、両者快く引き受けたらしい。知らぬところで妙な約束取り付けないでくれませんかねえ(白目)

「ただいまー。……あら、もう完売したの? 凄いじゃない(Bravo)!」

「お帰りなさい、マーズベレッタ。お目当てのものは見付かりました?」

「……え、ええもちろん。色々勉強になったわ。日本の創造力はやっぱり凄いわね……」

 セーラーマー○姿のベレッタは、目を逸らしながら顔を赤くしている。

「だから買うのはイラスト集かグッズだけにした方がいいって言ったじゃないですか」

「抱き枕を間違えて指差してしまったわ……」

「とんだスケベですね」

「間違えたって言ってるでしょうが!?」

 知ってる、でもその格好で蹴るのはやめような。擬似百合シーンで微笑ましそうに見られるから。

「他の娘達は?」

「店番押し付けて買物に行きました」

 理子なんて未成年に間違われないよう大人びた変装してまでな。

「……あんた、それでいいの?」

「運転役も含めて、たっぷり奢ってもらうことにしてるので。とりあえず羊羹一本とケーキ1ホールからですね」

「甘いのばっかり食べてるから、そういう扱い受けるんじゃない?」

「男女差別と言いたいところですが、否定できませんね。まあ食べるのを辞めるくらいなら受け入れますが」

「何があんたをそこまで駆り立てるのかしら……?」

「マーズは銃を作るのをやめられますか?」

「ああ、その例えなら納得だわ。……いや、セーラー○ーズは銃を作らないわよ! 何を言ってるの!?」

 だからゲシゲシ蹴るのやめなさいって。アリアに比べたら子猫に噛まれたようなもんだけど。

「はあ、もう全く……疲れたからちょっと休むわ」

「飲み物どうぞ。初めてのコミ○、どうですか?」

「なんというか、予想以上の人混みと熱意だったわ……流石、日本の主要産業の一つね」

「熱意のせいで超能力が使えない謎の空間と化してますからね、ここ」

 電波も魔力も通らないとか、冷静に考えて恐ろしいよなあ。アキバが『武偵殺しの街』なら、こっちは『魔術師殺しのイベント』だし。

「ねえジュ「茉凜です」それ呼ばせるのね……じゃあマリン、ありがとね。無理言ったのに連れてきてくれて」

「構いませんよ、一人増えただけですから。というかお礼はサークルチケットを用意した桃子に言うべきですよ?」

「いや無茶なオーダーに全て応えたあんたに真っ先に言うべきだと思うけど?」

「……」

「目頭押さえてどうしたのよ」

「いえ、余りにも常識的かつ労いに満ちた言葉だったので……いい子ですね、あなた」

「ええ……何でガチ泣きしてるのよ……」

 軽く引かれてるが、まあ仕方ない。普段ならハーレム野郎とか潤だしで済ませられるし、白雪とかリサ以外で純粋に労われたのなんていつ以来だろう……

「はあもう、いつまでも泣かないの! 販売も終わったら午後からは一緒にコスプレスペース行きましょ。

 日本のコスプレがどんなのあるか、楽しみだわ!」

「あら、それはデートのお誘いですか?」

は、はあ(コ、コオーサ)? なな、何言ってるのよ?」

 からかうように言ったら、顔を真っ赤にしたマーズベレッタが上目遣いで睨んできて、思わずクスクスと笑ってしまう。随分可愛らしい怒り方だ。

「……あんた、その笑い方だと女子らしさが増してるわよ」

「やる時は徹底的にやる主義なので」

「そういうことしてるから、他の連中にやらされるんじゃない……?」

 否定はしない、でも辞める気もない。

 その後、ベレッタマーズと一緒にコスプレ広場へ行ったら、ウチの作品に出てくるキャラのコスプレしてる奴がチラホラ見えたんだが……え、あいつ等のサークルってそんなに有名なの? 発売日今日だよ? アトリ○シリーズの新キャラじゃないんだよ?

 

 

 

 

 




後書き
 コミケ編&ベレッタ登場回でした。まあ年末を利用した旅行なので、本格参戦は(あれば)もうちょい後ですね。
 さて、次回から修学旅行というか、欧州編ですね。ジャンヌさんは無事アリアさんと理子さんに捕縛されたらしいので、次回はキチンと出てくるでしょう(愉悦の笑み)。
 それでは、今回はここまで。感想・誤字訂正・評価・批評・質問・リクエストなど、良ければ付けてくださるとこれ以上なく嬉しいです。
 読んでいただき、ありがとうございました


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ハロウィン企画 イタズラで死ぬのか?

お題:trick or treatされてお菓子がなかったら?

潤「遠回しに死ぬと言ってるのかお前は」

( ゚д゚)つ『蘆屋道満の妖でも分かる呪術指南書』

潤「命と貞操の危機が及ばない範囲な」

( ゚д゚)ピブリオマニア……



理子の場合

「ユーくーん、trick or treat! お菓子くれたらイタズラしたげるぜ!」

 

「逆に考えると、この魔女ッ子(ハロエリバージョン)にあげなければいいってことか」

 

「よーこーせー! くれなきゃありもしない性癖をみんなに騙ってやるー!」

 

「いつも自分のを語ってる奴が何言ってるんだ。

 ……げ。なんでこういう時に限ってないし」

 

「ほほう? つまりないということですか……イタズラかくてーい!」

 

「わあ、引くくらいいい笑顔。お手柔らかにな」

 

「くふふ、そーれーじゃー……」

 

「おいなんで近寄る」

 

「そりゃもちろん、逃げられないためですよ?」

 

 

 

「このけも○レ2を観る苦痛からな」

 

「ドシリアスな顔してイタズラの領域超えてるじゃねえか。あとそれでダメージ受けるの俺よりお前だろ」

 

 

 

結果

 ガチのク○アニメを観させられる

 

 

 

白雪の場合

「じゅ、潤ちゃん様! trick or treatです!」

 

「清○のコスプレが似合い過ぎて白雪がコワカワイイ」

 

「そ、そんなかわいいだなんて……えへへ……

 ……は! 違う違う! お菓子くれないとい、イタズラしちゃうよ!」

 

「なんだろう、他の奴等にはない安心感は。

 ……嘘やん、ないし」

 

「え、ないの? わわ、どうしようどうしようこれは想定してなかったよ……!

 と、とりあえず既成事実を!」

 

「へーい落ち着け白雪、それはとりあえずで求めることじゃねえから」

 

「今日が旗日です!」

 

「あ、ダメだ聞いてねえ。目がグルグルしてる」

 

 

 

結果

 関係を迫られる(最終的には抱きしめて落ち着いた)

 

 

アリアの場合

「え、これはヤバくない?」

 

( ゚Д゚)ガンガレ

 

「後で燃やすわ」

 

 

 

「ジュン、trick or treat。お菓子なかったら……分かってるわよね?」

 

「ストレートに脅すあたり手慣れてません?」

 

「くれなきゃ暴れちゃうわよ」

 

「ドラまたかよ、違う声の人だろそれ。

 ……Oh、なんでないし」

 

「へ? アンタがお菓子持ってないなんて珍しいわね」

 

「俺も予想外だよ」(亜空間の予備もねえし)

 

「ふーん。じゃあイタズラしていいってことね」ポキポキ

 

「オイマテ何故指を鳴らす。そして何故緋々神の力を込める」

 

「イタズラっていう大義名分をもらったし、全力でやってもいいかなーって」

 

「イタズラの領域を超えてるんです「そぉい!」ガネーシャ!?

 お、おおおおお……」

 

「あ、あれ? ちょっとやりすぎた?

 ……ジュン、今の気持ちは?」

 

「怒りの超サイヤ○2に殴られた○ルの気持ちが分かった気がする……」

 

「いやアタシ二発も殴ってないわよ!?」

 

「そういう問題じゃないっす……腹に肉球型の風穴空いてない?」

 

「そんなグロいことなってないから!? アタシ凶悪なタマモ○ャット扱い!?」

 

 

 

結果

全力で殴られる(この後めちゃくちゃ謝られた)

 

 

メヌの場合

アリア(物理)の後にメヌ(精神)って、ガチで殺しに来てない?」

 

( ゚Д゚)フルコースですね

 

「分かってるなら止めろよ」

 

 

 

「ジュン、trick or treat。仮想を褒めた後お菓子を寄越しなさい」

 

「この強欲さに安心感を覚える不思議。車椅子系吸血鬼とか新しいな、似合ってるぞ」

 

「病弱系吸血鬼という新ジャンルです」ドヤァ

 

「それもういなかったっけ」

 

「なんと( ´・ω・`)

 それはそうと、ジュンは吸血鬼みたいな顔色ですね」

 

「お菓子がなかったから、イタズラでアリアの全力パンチを貰いまして……」

 

「お姉様……」ドンビキデス

 

「妹すら引くという」

 

「……ん? 今、お菓子がないと言ったの?」

 

「おう、何故かない」

 

「へえ……じゃあ覚悟はいいわね?」ニタァ……

 

「ヒロインがしちゃいけない顔である。まあお手柔らか(パシャ)オイなんで写真撮った」

 

「キスしたように見える角度まで近付いたわ。私の唇は安くないのよ」

 

「うん、自分を大切にするのはいいと思うぞ。で?」

 

「かなめと風雪に送信したわ。『妹でも十分チャンスがあるわよ』ってメッセージを添えて」

 

「ヤ メ レ。黒薔薇の小太○かお前は」

 

 

 

結果

 偽装写真を妹ズにばら撒かれる(今までに比べれば優しい方とのこと) 

 

 

 

レキの場合

「潤さん、お菓子をください。さもないと撃ちます」ジャキッ

 

「わあ定型文もなしにドラグノフ突きつけられるこの感じ、懐かしいわ」

 

「とりあえずお菓子をください、話はそれからです」

 

「話をする前に撃ちそうじゃない? あとヘッドフォンに犬耳付ければ仮装と言い張るのはどうかと思うぞ。

 ……あ、ごめん。何故か持ってないわ」

 

「…………」

 

「無言でこっち見ないで、涙目にならないで。

 あとでカロリーメイトのお菓子作ってあげるから」

 

「……約束ですよ」

 

 

 

結果

 (凄い分かりにくいが)涙目になられる

 

 

 

リサの場合

「ご主人様、tricl or treatをお願いします」

 

「え、俺? trick or treat」

 

「申し訳ございません、リサは何も用意できませんでした……不出来なメイドにどんなオシオキでもしてください」

 

「積極的にイタズラを望みすぎじゃないかなこのゴーストメイド。というか俺も何故か持ってないんだけど」

 

「!? つまりリサがご主人様に、いつもは自重してるあんなことやこんなことを……?」

 

「え、待って俺何されるの?」

 

 

 

結果

 積極的にイタズラすることを望まれる(いつも通りとも言う)

 

 

 

かなめの場合

「へーいお兄ちゃん、trick or treat! って前置きはいいよね、イタズラさせろー!」

 

「メジェ○様スタイルで迫ってくると怖いんだけど!? というか菓子持ってるかくらい聞けよ!」

 

「メヌちゃんから持ってないのは確認済みだよ! というわけでこの『お兄ちゃんに好きすぎる妹の催眠音声CD』を、私が朗読したバージョンで聞いて」

 

「イタズラを越えててマイシスターの発想がアレな件」

 

 

 

結果

 妹属性を植え付けるために、催眠CDを聞かされかける(種死版のゲルググIF設計図で手を打った)

 

 

 

風雪の場合

「え、風雪いるの?」

( ゚Д゚)仲間外れは可哀想じゃないですか

「俺の被害が増えるんだけど」

 

 

「あ、潤義兄様。えっと、とりっくおあとりーと! です」

 

「あれ、風雪? というかお前英語出来るだろうに、何故片言」

 

「西洋行事はよく知らないので……えっと、こう言えばお菓子をいただけてしまうのですか?」

 

「まあそういう行事だからな、本当は子供がやるもんだけど。

 ……あれ? ごめん、お菓子ないわ」

 

「え? その場合、どうなるのです?」

 

「イタズラされる」

 

「い、イタズラ!? えっと、えっと……じゃあ、えいっ!」ギュッ

 

「おおう。なんで抱きしめられてるの?」

 

「い、イタズラということは潤義兄様を困らせるようなことをするべきと思ったので……」カアァ

 

(今までえぐいのが多かったせいで、癒やされてしまう不思議)

 

 

結果

 抱きつかれる。かわいいか(なおその後、遭遇した男子達が血の涙を流しながらリア充爆発しろ! と叫んでた)




「あー、やっぱり危機が来るよな……」

( ゚Д゚)お疲れ様です。こちら報酬ですよ

「うい、どーも」

( ゚Д゚)(まーマントラで書かれてるせいで読めないんですけどね)

「……ふうん、当時の修験道とも違うスタイルか。陰陽道の要素も混じってるのか?」

( ゚Д゚)(あ、こいつ大体の言語読み書きできるんだったわ)


おわり


PS
出勤や投稿の合間にでも読んでやってください。


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『欧州』編
第一話 年明けから何かが起こるとは限らない


作者(以下作)「アリアさん、私思ったんですよ」

アリア(以下ア)「あによ作者、時と場合と発言によっては殴るわよ」

作「それ殴られるのほぼ確定なんじゃ」

ア「いいから早く言いなさい」

作「( ゚д゚)アッハイ(聞くのは確定なのね)
 最近、潤が大人しいじゃないですか」

ア「……まあ、シリアスだったりツッコミに回ったりしてるからね。アタシとしてはありがたいけど。
 で、それがどうしたのよ」

作「( ゚д゚)そろそろ弾けさせていいかなーって」

ア「ヤ メ ロ ! ! アイツがそっちに回るとまた胃痛が加速するのよ!?」

作「だから許可求めに来たんで(ギリギリギリ) ( ゚д゚)アダダダダ!?」

ア「アンタはあ! ツッコミ役(アタシ)にばっか負担押し付けるんじゃないわよ!!」

作「待ってアリアさん潰れ(ゴキン) ( ゚д゚)あふん」


 はい、というわけで『欧州編』スタートです。
 
 なお今回より、一行空けた文章にします。読みやすい! にくい! などのお言葉をいただけると、指標になって嬉しいです。

ア「単に感想欲しいだけでしょ」

( ;゚Д゚)ナンノコトカナ


 

(何か腹の上が重いような……テラ眠いのに妖怪マイシスターでもいるの)

 

「……何時だと思ってるんだ、理子。というか顔が近いわ」(小声)

 

「くふふー。あけおめー、ユーくん。武偵は常在戦場、油断大敵だよー?

 ちなみに今は夜中の三時だねー」(小声)

 

「はいあけおめ。よし、それを理由にするなら新年早々殺ることは決まったな」(小声)

 

「いやん、ヤルこととかユーくんえっち♡ 

 あ、もしかして姫初めに来たのをお察しでしたかさっすがー!」(小声)

 

「来るならせめて寝る前に来いよ」(小声)

 

「ダイジョーブダイジョブ、襲ったとか襲われたとかそういうのがどうでも良くなるような「お前のお汁粉、レキとメヌにあげるわ(小声)」調子乗ってすいませんでしたあ!!」(大声)

 

「うるっさいわよバカ理子真夜中に何してんのよ!」(キレ声、殴打音)

 

「ガスコーニュ!? は、謀ったなユーくん!?」(大声)

 

「アンタも何やってるのよバカジュン!?」(キレ声)

 

「冤罪をシェフィールド!? 流石に理不尽でしょうよアリアさん!?」(大声)

 

「……ムニャ……」(ぱたりこ)

 

「「え、今の寝言?」」

 

 以上、新年早々バカに巻き込まれた理不尽でした。名誉毀損で訴訟も辞さない。まあそのまま起きて初日の出を見てたけどさ。

 

「お姉様を訴えるなら、メヌが弁護側に立ちますね」

 

「冤罪を有罪にされる未来が見えるねー、ユーくん」

 

「その時はお前も道連れにするわ」

 

「それは逆恨みと言うのですよ」

 

 蹴られたのは100%お前のせいだよ。どうも、遠山潤です(遅)

 

 藍幇の一件も終え、ようやく全快してから早一週間。ボストーク内でのクリスマスだったり大晦日の掃除だったりコミケ(戦場)への強制連行だったりイベント盛り沢山だったが、特にトラブルらしいトラブルはなかった。やっぱ中国はデッドスポットだな(真顔)

 

 さて、本日は元旦。理子のせいで(ここ重要)早めに起きたから朝飯の準備をしていたんだが、

 

「匂いに吊られて起きました」

 

 と言って、メヌの奴が部屋から出てきた。夾竹桃達と打ち上げした後、徹夜でゲームしてた癖に元気だな。

 

「私の中では睡眠欲<食欲ですから、美味しいご飯があれば生きていけます。良い推理に良い食べ物は欠かせないものです」

 

「限度はあると思うぞ十三歳」

 

「それよりお汁粉の味見役に立候補します」

 

「食い意地で睡眠欲を捻じ伏せるメヌらしさよ。煮立つまでもうちょい待ちなさい」

 

「…………」ジッー

 

 鍋を見て目を輝かせる姿は、まんま子供である。まあかなめと二人揃っての最少年枠だけどさ。

 

「最少女枠でお願いします」

 

「語呂悪くね? そんな見てても早くは出来んぞ」

 

「超能力を使えばいいじゃないですか」

 

「料理に加速魔術を使えと」

 

「私の胃はそろそろ悲鳴を上げそうです。速やかに高カロリーの提供を希望します」

 

 それ四六時中だろとは言わないでおく。大晦日の夜中にビッグスナックゴールドを半ダース食ってたくせに、燃費悪いなこの娘は。

 

 余談だが、メヌは立って鍋を見ている。もう家の中だと歩き回るのが日常の光景になったな。未だにアリアが目を潤ませてるけど、慣れろよ。

 

「とりあえず、車椅子には追加武装のプランを考えています。将来的には車椅子系美少女武装探偵を目指したいですね」

 

 とは、本人の談。属性過多だろ、お前はどこを目指しているんだ(←強化プランの具体案を出してる奴)。

 

「あのー、ユーくんめーちゃん? 和やかに朝ご飯の準備してないで、理子の方を見て欲しいの。どう思う?」

 

「鎖でグルグル巻きにされてますね」

 

「新年早々新しい性癖を開花させたか」

 

「縛ったユーくんが言うセリフじゃないよねえ!? 理子に酷いことするんでしょ、エロどうジンネマン!?」

 

 言わせねーよ。『私は新年早々エロいことを考えました』ってぶら下げた札の通りじゃねえか(書いた奴)

 

「フライパンで殴ることはないんじゃないですかねえ!?」

 

「アリアのパンチよりマシだろ」

 

「それは確かに!」

 

「だあれが鈍器より遥かに危険な凶拳よ!?」

 

「ガズエル!?」「ガズアル!?」

 

「アリア、いきなり殴るのはやりすぎなんじゃ……?」

 

「お姉様、明けましておめでとうございます」

 

「おはよ、メヌ。Happy new year。……アンタちゃんと寝た?」

 

「28時間前には睡眠を取っています」

 

(あ、これが普通なのね。……ネジが外れてるのかしら)

 

 アリアの横に立っているベレッタ(コミ○の後そのまま泊まった)が、色々察した目になっている。遠山家ではこれが日常です(真顔)

 

「潤さん、明けましておめでとうございます。お年玉をください」

 

「はいおめでとう、レキ。親戚に金をねだる子供かお前は」

 

「くれないのなら美味しい正月料理を所望します」

 

「さあ、お兄ちゃんへのハードルがぐんぐん上がっていくー!」

 

「お前らがはしご外して、どんどん登らせるからだけどな」

 

「ご主人様、明けましておめでとうございます。白雪様よりおせち料理を預かってきました」

 

「ああ、ありが――何か予定の倍くらいあるんだけど」

 

「白雪様曰く、「これくらいないと全然足りないだろうから、頑張りました!」とのことです」

 

 リサに言われ、周囲の面々(いつもの+1)を見回し、

 

「まあ確かに」

 

「あ、あたしそんなに食べないわよ!?」

 

「ここでその言葉は餓死を意味するぞ」

 

「何それ!? 戦場か何か!?」

 

 「マンマミーア!?」とベレッタが叫んでいるが、あながち間違いじゃない。油断してると骨まで食われるからな(比喩に非ず)。

 

 そんなこんなで、新年一発目のお節料理は大変おいしゅうございました。女子とは思えない食いっぷりにベレッタが引いてたけど、下手にダイエットするよりいいんじゃないかね。

 

  

 朝食後の初詣ということで、やってきました星伽神社IN東京。関係者以外立ち入り禁止なこの場所は、正月の騒々しさとは無縁の静寂に包まれている。

 

 最初は青森の本殿まで強行する話も出ていたが、思いついたのが真夜中だったのと男子禁制なので諦めた。さすがに元旦からオメーの居場所ねーから! は勘弁願いたい。

 

 女装すればいい? もちろん言われたよ、却下したら(アリアからも)ブーイングが来たけど。お前ら勘違いしてるみたいだけど、俺が積極的に女装したことは一度もないからな?(真顔)

 

「「明けましておめでとうございます、潤ちゃん(義兄)様と皆様」」

 

 出迎えてくれたのは、祭事用の巫女服を纏った白雪と風雪。久々に見るけどやっぱり似合ってるなあ、清楚ながら下品でない範囲の綺麗さがいいわ。

 

「そ、そんな綺麗だなんて……潤ちゃん様、ありがとうございます……!」

 

「あ、ありがとうございます義兄様……褒められるのは慣れないですけど、嬉しいです……」

 

「……あれ、俺声に出してた?」

 

「顔見れば分かるでしょ」

 

 ナニソレコワイ。いつもの表情だと思うんだけど。

 

「わー、ユキちゃんぜっちゃん(風雪のこと)似合ってるねー! 写真撮っていいかな? 答えは聞いてない!」パシャパシャ

 

「傍迷惑なカメコだな」

 

「理子お姉ちゃんは新年から絶好調だねー」

 

 カメラ(ガチ装備の一眼レフ)に晴れ着姿が果てしなくシュールだけどな。

 

「というか、理子お姉ちゃんが真っ当な晴れ着を着ててビックリ」

 

「くふーふ、理子だってTPOを弁えるのですよ?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「そんなにハモらなくてもいいんじゃないかなあ!? 泣くよ、いくらりこりんでもこれは泣くよ!?」

 

 残当だろ、どう考えても(ブーメラン)。

 

 一頻り騒いでから、晴れ着姿の一同(俺含む)は二人の案内で境内に入っていく。公道から外れた小高い山の上にあるため、上から見える景色は中々のものだ。

 

「お姉様、メヌは正月早々疲れ果てました……」

 

「十段も登ってない癖して何言ってんのよ」

 

 文句言いながらもメヌ(藤をあしらった薄青の晴れ着姿)を背負うアリア。正月早々百合百合しい「なんか余計なこと考えた?」気のせいですよ。

 

 お参りを済ませてから(この前星伽神社の祭神を封印したんだけど、ご利益あるんだろうか)、理子の奴が「おみくじ引こうぜ! ユーくん恋愛な!」と提案したので、引く流れになった。というか恋愛限定かよ。

 

 一般向けには解放してないからあるのか思ったら、星伽姉妹が「こんなこともあろうかと」と祭壇の奥から取り出してきた。用意いいなオイ。

 

「それで潤ちゃん、何占いがいい?」

 

「恋愛運や恋占い、恋愛占いがありますよ潤義兄様」

 

「恋愛関係しかなくね?」

 

 つーか風雪テンション高いな、正月だから浮かれてるっぽいけど。

 

「じゃあ恋愛運で」

 

「「承りました」」

 

 厳かに、されどノリノリでおみくじを差し出してくる星伽姉妹。理子かメヌかかなめあたりの仕込みを疑いたくなるが、白雪曰くガチで占ったものらしい。

 

「どーれーにーしーよーうーかーナスキノコ!?」

 

「早くしなさいっての」

 

 チョップなあたりまだ優しいっすねアリアさん、左右に両断されるかと思ったけど。

 

「ほい、じゃあこれで」

 

 一枚取り出して中を開くと、他の女子連中が俺をカコメカコメしてきた。狭い狭い、段々輪を縮めるなって。こっちくんな。

 

『機は熟せり、想いは告げられる。相反する思想、なれど自らに正直であれ』

 

「……おみくじに説教されてる気分になったんだが」

 

 もうすぐ何か来るから、思うとこあるけど素直に受けろってことらしい。なんかピンポイント過ぎない?

 

 読心でも使って書いたんじゃねえかと思ったが、

 

「白雪お姉様が『神降ろし』の状態で造ったものなので、的中率はかなりのものかと」

 

 という風雪の話を聞く限り、結構な確率で当たるらしい。まあ俺は占いの的中率を下げるデバフ持ちだから、微妙なところだけど(ガチの話)

 

「ユーくーん、何書いてあるのかみーせーてー!」

 

「ヤーダー「隙ありです、ジュン」あ、メヌこの野郎!」

 

「野郎じゃないです、プリティーガールです」

 

「自分で言うのそれ」

 

 まあ実際プリティーというかキュートだけどさ。

 

「褒めても何も出ませんよ。……へえ、面白い内容ね」

 

「ヌエっちー、理子にも見せてー」

 

「見せない方が面白いのでダメです。舌戦で勝ったら考えますよ」

 

「よし諦めよう!」

 

 潔いな、まあ精神に致命的なダメージを負うほど物好きじゃないか。

 

(ジュン、面白いものを見せてくださいね)

 

 メヌが口パクで伝えてくるが、先が分からない以上期待に答えられるかは分からんぞ。

 

「うん、みんなお疲れ様。お昼にお雑煮とか色々用意してあるから、いっぱい食べてね」

 

「「よっしゃあ!」」

 

 白雪製お雑煮の美味さを知っている俺達が思わずガッツポーズする。苦笑したり呆れられたりしたが、いいんだよ素直に喜べば。

 

 その後、社務所内で白雪姉妹を左右に侍らせて(アリア談)甲斐甲斐しく世話をされた。何人かから生暖かい目を向けられたり席の奪い合い(主に妹ズ)が発生したが、お前らメシを食えメシを。

 

 余談だが、おみくじを引いたベレッタが微妙な顔をしていたのだが。一体何を引いたんだろうか。

 

 

 

 そんなこんなで、新年は珍しく穏やかに過ごしたのだが。反動か新学期始まって早々校長室に呼び出された。御用は何ぞい、まだ何もやらかしてないぞ(目逸らし)

 

「遠山潤君、峰理子さん。二人にチーム『バスカービル』からの脱退を命じます」

 

「「……はい?」」

 

 無個性の集合体――もとい、『見える透明人間』こと緑松校長の宣言に、俺達は異口同音の反応をした。それに同伴した高天原先生が慌てた表情になるが、

 

「はい、はい。説明が必要ですよね」

 

 校長は気にした様子もなく、話を続けてくる。三行で纏めると、

 

・ここ最近の俺達の活躍(優しい表現)が目に余り、ニューステイツと中国、イギリスの一部が猛烈に反発しているらしい。

 

 

・基本的に放任主義の武偵校でも、海外からの要請は無視しづらい。

 

・なので対外的な処置として、特に苦情の多かった俺達二人を処分する形になった。

 

 ということらしい。きっちり三行で収めやがった……(そこじゃない)。

 

「えー校長先生、理子達そんな目を付けられることした記憶ないんですけど~」

 

「右に同じく」

 

「はい、はい。問題児はみんなそう言うんですよ」

 

 武偵校といい海外といい、酷い偏見の評価である(やってきた所業を省みてない顔)。

 

「とりあえず、あなた達を放逐するのは危険過ぎるので、チーム『コンステラシオン』に監査役として仮参加してください」

 

 人を危険物みたいに言うのはどうかと思う(真顔)。

 

「ああ、一つ言い忘れていました。海外からの苦情に関してですが」

 

 どっかの刑事さんよろしく指を一本上げ、

 

 

 

「あなた達が独自に行動(・・・・・)する分には、武偵校から何か言うことはありませんので」

 

 

 

「なるほど、了解しました」

 

 校長の言うことに俺達は理解を示し、頭を下げて部屋を出ていった。さあて、まずはどこに抗議(・・)すればいいかなあ(邪笑)

 

 

「……ふう。やれやれ、何事もなく行ってくれましたか」

 

 悪い笑みを浮かべて退出した生徒二人を見送り、緑松校長は肩の力を抜く。

 

「いやいや、何をしでかすか分からないというのは、本当に怖いですねえ」

 

 一年の頃から、彼等には苦労を掛けられっぱなしだ。普通なら教師陣、最悪の場合校長自身が抑止力となるのだが、

 

「……遠山潤君。彼と私では相性が最悪ですからねえ」

 

 何せ「誰の印象にも残らないし思い出せない」自分を完全に記憶・認識しているのだ。例え背後から迫ったとて、容易く感知されるだろう。

 

「いやいや、一体どんな修羅場を辿ってきたのですかね、彼は」

 

 まるで自分の認識阻害程度、慣れている、と言わんばかりだった。

 

 まあ校長としての自分を敬ってはいるし、譲歩はしたのだから上手くやるだろう。抗議してきた方々はお気の毒だが、自業自得なので頑張って欲しい。




各人晴れ着紹介(原作と違う、ないもののみ)
遠山潤
 スタンダードな男性用。ベースは黒。

峰理子
 キンモクセイをあしらった、黄色柄の落ち着いた晴れ着。
 
メヌエット・ホームズ
 藤をあしらった、アリアと対の青色。
 
リサ・アヴェ・デュ・アンク
 シロツメクサをモチーフにした、白ベース。

星伽白雪・風雪
 星伽巫女の衣装を晴れ着風に改良し、華やかさを増した赤・白ベースの衣装。
 
 
 
あとがき
 本編は新年明けましたが、話は進みませんでした。ジャンヌさんは上手く逃げ切ったようです(汗)

 というわけでどうも、ゆっくりいんです。久しぶりの本編でしたが、予想通り話が進まねえ……まあ予想の範囲内です(真顔)

 次回は無事ジャンヌさんが捕縛されると思いますので、本編の進行はもう少々お待ちください。……アリアさんボコってないといいんだけど(小声)

 それでは今回はここまで、読んでくださりありがとうございました。

 感想・評価・お気に入り等、いただければテンションが爆上がりして投稿頻度が早くなるかもしれません(真顔)


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白雪誕生日SS あなたの隣が愛しくて

 ウチでヒロイン力一番高いの、白雪なんじゃね? そう思いながら書いてみました。嘘です、仕事中にパッと思いつきました(いつもの)

 というわけで白雪誕生日記念です、時系列は適当なので気にせず見てください(オイ)


「よーし、白雪行くぞー。危ないからちゃんと捕まってろよ?」

 

「う、うん。今日は一日よろしくお願いします、潤ちゃん様」キュッ

 

「いや、端っこつまむだけとか普通に危ないから。ちゃんと腰に手を回すか、掴める部分探しなさい」

 

「こ、腰!? 潤ちゃんのお、お腰を!?」

 

「何か新しい表現が生まれた件。セクハラじゃないぞ、本当に危ないからな」

 

「う、うんそうだよね。ごめんね、ちょっとビックリしちゃっただけだから。

 じゃ、じゃあ失礼します……」ギュッ

 

「おう、変なことはするなよー」

 

「し、しないよ!? そんなこと!? 誓ってしないから大丈夫!」

 

(神様仏様緋々神様、ありがとうございます! 私、星伽白雪は幸せものです!)

 

 何か白雪が大袈裟に感謝してる気がする。というかフリにしか聞こえないんですが。

 

 はいどうも、遠山潤です。本日は十一月十四日、我等バスカービルの良心白雪の誕生日である。

 

 とりあえずプレゼントとは別に何か欲しいものとかして欲しいことある? 遠慮せんでいいよ? って聞いてみたら、

 

「えっとじゃあ私のはじめ、じゃなかった、潤ちゃんのバイクに乗りたいです!」

 

 一瞬貞操の危機を感じたが、何てことのないお願いだった。「ここで察しなきゃ男じゃないよおにいちゃーん?」とかマイシスターに言われたが、そういう偏見は良くないと思います(意図的なスルー)

 

 というわけで誕生日当日、朝から白雪とドライブデートでござい。学校? 自主休校した(真顔)

 

 白雪はSSRの外部研修ってことで通したけど、「こんなことしていいのかなあ……」と呟いていた。リサに何か吹き込まれてからは吹っ切れた顔してるけど。

 

「んじゃあ改めて、ヘルメットはキチンと被ったか?」

 

「う、うん大丈夫。潤ちゃん、お願いします!」

 

「そんな気合入れんでもいいって。行くぞー、舌噛むなよ」

 

「う、うん――キャッ!?」

 

 暖気していたSV1000を発進させる。後ろから可愛らしい悲鳴が上がってるけど、まあ慣れてないと無理もないよな。

 

「白雪、大丈夫か? 怖いならスピード落とすけど」

 

「う、ううん大丈夫、潤ちゃんに捕まってられるし」ギュウウ

 

「そかそか。じゃあもうちょいスピード上げるぞー」

 

「え? ――ひゃあああ!?」

 

 かはは、予想以上の体感速度に戸惑ってるな。そんなしがみつかなくても大丈夫だぞー(←元凶)

 

「うう、酷いよ潤ちゃん……」

 

「悪い悪い、白雪がどんな反応するかと思ってつい、な」

 

「むうう……」ギュー

 

 拗ねてしまったのか、さっきより密着度合いが強まった。ちょっと意地悪し過ぎたか、まだ70kmくらいなんだけどな。

 

 ところで白雪さんや、あんまり密着すると胸部のお餅が強調されるんだが。

 

「あ、当ててるから大丈夫なの!」

 

 なのって何よ、真っ赤になりながらも離れるのやめようとしないし。まあいいけどさ。

 

「お? 白雪、横見てみ」

 

「? わあ……!」

 

 場所こそいつものレインボーブリッジだが、冬間近の空気と太陽の光で、水面は澄んだ色を讃えていた。

 

「な? バイクで行くのも悪くないだろ?」

 

「うん、すっごいキレイ……本当に車とは違うね、風も冷たいけど気持ちいいし……」

 

「海岸沿いはもっと綺麗だぞ、特に夕日はな」

 

「わあ、想像するだけで素敵だね……こんなことなら、もっと早く乗せてもらえば良かったなあ……」

 

 嬉しさと少しの後悔が混ざった笑顔。多分、忙しさと言えなかったことによるものだろうが。

 

「これから機会はいくらでもあるさ。冬休みに遠方まで行ってもいいしな、寒いけど」

 

「……潤ちゃん、また乗せてくれるの?」

 

「何で驚いてるんだよ。他ならぬ白雪の頼みだ、乗せるくらい訳ないさ」

 

 この程度、普段のお返しにはまだまだ足りんし。

 

 笑いながらそう告げると、白雪は身体だけでなく顔もくっつけてきた。背中越しに少し早い心臓の鼓動と、彼女の息遣いが感じられる。

 

「やっぱり、潤ちゃんは凄いな……籠の中にいた私を、どこまでも飛ばせてくれるんだもん……」

 

 ズルイよ、と最後に小さく、切ない声。

 

「鍵が掛かっていないのに気付かなかっただけだよ。白雪という鳥は、望めばどんな場所でも飛んでいけるさ」

 

「そんなこと……ないよ。潤ちゃんっていう道標がなかったら、私は飛ぶことも出来なかったし、しようとも思わなかった」

 

「道路標識みたいだな」

 

「…………」

 

「痛い痛い、叩くな叩くな悪かったから」

 

 混ぜっ返したら背中を連打で叩かれた。さすがにKY過ぎたか、反省。

 

「もう、もおお……!」

 

「牛かな?」

 

「違うの、不満なの! というか潤ちゃんは頑張り過ぎです!」

 

「何よいきなり。鏡いる?」

 

「いきなりじゃありません、前からずっと思ってました! 部活と生徒会長を兼任してる私から見ても、潤ちゃんは他人のため自分のために働き過ぎだよ!」

 

「前者はともかく後者は別に良くない?」

 

「限度があります! 魔術師だからってやりすぎていいことはないんだよ? 

 潤ちゃん、寝る以外で休んでる?」

 

「起きてる間は動いてないと勿体ないだろ」

 

 極論寝る時間ももったいないしな。思考整理と性能低下を防ぐため、取るようにはしてるけど。

 

「それが頑張り過ぎなんです! 普通じゃない人でも倒れちゃうから!

 ……潤ちゃん。たまには甘えて、ゆっくりしてもいいんだよ? 

 前に進む潤ちゃんはカッコイイし、尊敬してるけど……いつか潤ちゃんが、どこかに行っちゃいそうで……私、怖いよ……」

 

 ぐす、と湿り気を感じさせる声。くすぶり続けた不安が、二人きりで出てきたのだろうか。

 

「……ごめんね、潤ちゃん。せっかく連れ出してくれたのに、こんなこと言って……私、やっぱり……」

 

「『自らを価値無しと思う者こそ、真に価値無き人間だ』」

 

「え?」

 

 ブレーキを踏んで路肩に寄せ、涙で潤んだ顔と向かい合う形にする。白雪の泣き顔ってなんかそそるよな、ってそうじゃなくて。

 

「俺が好きな軍人の言葉さ。極論だが、ある意味で的を射ている。

 白雪、あんまり自分を卑下するなって。言霊の重要さは、お前なら知ってるだろ?」

 

 手袋を外し、頬を撫でてやる。白雪は驚いたようだが、抵抗は特にしない。

 

「お前がそうであるように、俺も随分と助けられてるんだからさ。

 ……まあ、甘えベタなのは性分なんでな。勘弁してくれや」

 

「潤ちゃん……」

 

 白雪は赤い顔でぼうとこちらを見ていたが、急に満面の笑顔になり、

 

「……駄目。潤ちゃんから甘えてくれなきゃ、私と風雪、リサちゃんとかなめちゃんでうんと甘やかしちゃうんだから」

 

「何その最凶布陣、怖い」

 

 どんな奴でもダメ人間にしそうな布陣やめーや。

 

「大丈夫、もう計画も準備も万端だから。あとは踏み込む勇気だけ!」

 

「アリ地獄だよねそれ、抜け出せなくなる奴じゃん」

 

「……それが嫌なら、甘えてくる、頼ってくれるって約束して、ね? 私も他の皆も、潤ちゃんが頼ってくれれば嫌な顔なんてしない、寧ろ嬉しいから」

 

 約束だよ? と指を立てながらウインクする白雪に、俺は肩をすくめることで最後の抵抗とする。

 

「へいへい。たまには肩の力を抜くことを覚えるよ」

 

「私としては、私抜きで生きられないくらい甘えてくれてもいいよ?」

 

「お断りです」

 

 さっきのメンツなら容易に実現できるのが怖い。うげえと嫌そうな顔を見せておくと、何がおかしいのか白雪は楽しそうに笑い出した。

 

 ……まあ、少しは甘え方を覚えた方がいいかね。妙な流れになったドライブデートだが、たまにはこういうのもいいだろう。

 

 

 

おまけ

「なあ白雪、お前が行きたかったここって……」

 

「……う、うん大丈夫! ホテル街ってことは知ってたから! そのためにおめかしもしたし!」カオマッカー!!

 

「妙に大人っぽいコーデで固めてると思ったらそういうことかい」

 

将来の義妹(かなめちゃん)にも「誕生日会は後日にやるから、朝帰りでももーまんたいだよ白雪お姉ちゃん!」って言われてるから大丈夫!」

 

「何言ってんだあのマイシスターは」

 

 この後滅茶苦茶ホテルを回避した。周囲のカップル達からは微笑ましく見られたけど。こっちみんな。




あとがき
 はいというわけで、白雪とバイクデートしたいだけの話でした。和風美人の巫女さんだからこそ、こういうシーンもいいかなーと思って。

 途中にシリアスなシーン入った気もするけど、オチはいつも通りですね。ちなみにジュンの貞操を狙うトップ2の片割れです。もう一人? メイドですね(真顔)

 それでは、今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。

 感想・評価・誤字指摘などいただければ嬉しいです。




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第二話 行く前も行った後もどこ行くんだ

 えー皆さん、遅まきながらあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 依頼も重なって執筆速度はますます遅くなっていますが、想定しているかーー

アリア→(っ・ω)つ作者→つ)゜д゜)

作者( #)ω・)(以下( #)ω・))「アリアさん、クッソ痛いっす」

アリア(以下ア)「二月になって新年の挨拶してる奴に、パンチ一発で済ませたんだから十分優しいでしょ」

( #)ω・)「貴方の一撃、ジャンヌさんの斬撃五発分くらいのダメージなんですが……」

ア「だぁれが真剣より恐ろしい威力の拳持ちよ!?」

( #)ω・)「(口では)言ってないです」

ア「……もう一発殴ってやろうかしら。まあ依頼もこなしてたみたいだし、ここまでにしておきましょうか。
 あ、ジャンヌ捕まえてきたわよ」ズルズル

( #)ω・)「お疲れ様です。ジャンヌさん、明けましておめーー」

ジ「いやだああああ私のことはほっといてくれええええ!!」

ア「ほっとけないから捕まえたんでしょ。それと今回アタシはいないわよ」

ジ「……じゃあ誰なんだ?」

ア「リサとジュンと理子」

ジ「いやあああああ!!」ジタバタジタバタ

ア「頑張りなさいツッコミ役」ニッコリ

( #)ω・)「もう諦めてくだせえ」

ジ「命に関わるんだぞ!? 諦められるか!!」

ア(マジで何したのよ理子(アイツ)


潤「今年もこんな感じですが、今年もよろしくお願いします」

ア「あらジュン、主人公(多分)だし一応出てきたのーー」


【挿絵表示】


ア「ーーいや誰よアンタ!?」

潤「一年近く一緒に過ごして言われる悲しさよ。俺なんかした?」

ア「数えるのがバカらしいくらいやらかしてるでしょうが! じゃなくて、アンタそんなイケメンっぽい悪人面だったの!?」

潤「意地でもイケメンとはっきり言わないパートナーである。
 まあこんな顔なんだよ、私服だけど。書いてくださったアカツキ様には感謝感激ももまんあられを降らせないと」

ア「ーーそれ出来るなら詳しく」

潤「顔が怖いですアリアさん」

理子「くふふふ、ユーくんの写真ゲットでみんなに配るしかねえですねえこれは」

潤「お前は新年から変わらずだな」


 成田空港ターミナルにて。

 

「…………」

 

「オイ、逃げちゃダメだぞジャンヌ。これで単位落としたら、留年したお前を指さして笑うしかない」

 

「普通に性格悪いな遠山!? 

 というか逃げて何が悪い!? 何故お前と理子が監査役なのだ、よりにもよって!」

 

「んなもん教師陣に言えよ。あとまた失敗したら教務科のフルコース体罰だとよ」

 

「日本に戻りたくなくなる情報をどうもありがとう! ヨーロッパでは留年なんて珍しくもないというのに……!」

 

「残念、お前の学校は日本だ。そして司法取引で武偵校に入ったから、卒業までやめられない止まれない落ちれないだな」

 

  ちくしょう(メールド)! と叫ぶジャンヌを尻目に食うエッグタルトは、いつもより美味い気がする。こいつ愉悦の味を加速させる特性でも持ってるのかね。

 

 あ、どうも、遠山潤です(遅い)。

 

 本日はバスカービルをクビになり、修学旅行Ⅱの単位を落とした(信じられねえ)ジャンヌリーダーのチーム、『コンステラシオン』の監査役としてヨーロッパに行く日である。改めて思い出すと、修学旅行の再履修って意味分からねえな。

 

 どっかふらふらしてるだろう他のメンバーは、理子(バカ)リサ(メイド)が回収の最中だ。俺は全力逃走しようとするジャンヌの監視兼集合の目印代わり、理子だと脇目もふらずに(超能力も使って)逃げようとするからな。

 

「携帯型のトリモチランチャーに催涙ボール(辛子入り)……これだけあれば大丈夫か? 一応鋼糸も用意しとくか、足止め用に」

 

「それ全部私用か!? お前は私を何だと思っている!?」

 

「チームメイトを置いて全力逃走しようとした阿呆」

 

 理子を見た瞬間の全力ダッシュは笑ったよ、余裕で捕まってたから余計ツボに入ったけど。

 

「ユーくーん、チコちゃん連れてきたよー」

「峰様、後生ですから降ろしてください! この島苺、日本産の新型機ARC670号の雄姿を、脳にもカメラにも刻み込まないといけないのですの!」

 

「はーいそれもう十回目だから、大人しくしてねチコちゃーん。じゃないとーー襲うよ?」

 

「ピィ!? わ、私は麒麟と違ってそういう趣味はないですの!?」

 

 

「人前では自重しろよ理子」

 

「ほうほうユーくん、つまり人気のないところならいいのですな?」

 

「女子トイレはあっちだ、フライトまでには戻って来いよ」

 

「遠山様、止めてくださいですの!?」

 

 いやここまでしないと離れないだろ。

 

「ご主人様、中空知様をお連れしました」

 

「あ、あののアンクさん、引っ張らなくてもーーぴぃ!? おおお、おひょこやまくん!?」

 

「オスのひよこみたいな呼ばれ方した件」

 

「だいじょぶなっちー? ユーくん女装させる?」

 

「オイヤメロマジで」

 

「え、えええっと……」

 

 そこで迷わないでくれませんかねえ。チラチラこっち見てもやらんから、こっち見んな。

 

「グッドモーニングジュン。早くも不安が漂っているけど、大丈夫かい?」

 

「ハローエル、京極の代役ご苦労様。ウチのメンツも似たり寄ったりだし、理子がどっか行かなければ大丈夫だろ」

 

「このメンツで一番心配なのが、相方の監査役なのか……とりあえず、ふらふらしてたら土遁で埋めようか?」

 

「首だけ出した状態にしといてくれればいいぞ」

 

「いやあ信頼の厚さにりこりん嬉しくなっちゃうね!」

 

「「…………」」

 

「無言で呆れた目を向けないで!? なんか視線が痛い!」

 

 (悪い意味で)信頼の証だよ。

 

「はいじゃあ点呼するぞー。いーち」

 

「にー」

 

「三です」

 

「よ、四だ」

 

「五だね」

 

「六ですの!」

 

「にゃ、なにゃ……あうっ」

 

 最後は中空知さんが噛んだ。「なっちーカワイイー!」じゃねえよ、追い打ち掛けんな。顔真っ赤にしてるじゃねえか。

 

 余談だがリサがいるのは、本人たっての希望と白雪の推薦、あと監査役が仕事を放棄しないか(主に理子を)見張るためだ。お前も含まれてるって? その通りだよ(真顔)

 

 

 

 逃げようとするジャンヌを逐一捕まえ、ジャンボジェットの群れに立ち止まる島さんをボストーク号の写真で釣り(本当に付いてきた)、迷子になりそうな中空知さんを(理子がセクハラしながら)誘導し、何とか飛行機に乗れた。このチーム旅行に向かねえなホント、釣るのはバスカービルより楽だけど。

 

 そんな訳で、機内からダイブイントゥザスカイしてでも逃げようとしたジャンヌ以外は大人しく座っていたので、特に苦労なくやってきましたフランスはシャルル・ド・ゴール空港。検問で疑惑の目を向けられたが、他の連中が騒ぎまくってたからだな、うん。

 

「ジャンヌ用のネタ武器を大量に持ってるユーくんのせいだと思うけどな~」

 

「ネタ武器じゃねえよ、捕縛用だ。空港の検査に引っかかるようなもんは(手持ちに)ねえから」

 

「精神攻撃系が良かったんじゃない? 持ち運び楽だし、うめてんてーでトラウマ刻まれたらしいし」

 

「他人のトラウマを抉ろうとするのはやめてくれないか!? 外道か!」

 

「やーだなージャンヌ~。ーーここまでするのはお前くらいだぞ?」ニタァ

 

「ヒィ!? もうやだこの同期ぃ!?」

 

 美少女がしちゃいけない嗜虐と邪悪さがブレンドした理子の笑みを見て、ジャンヌは俺を盾にして隠れる。そこまでして逃げたいか、マジで何したんだ理子。

 

「えーじゃあ、これからは自由行動ってことで二班に分かれるんだが。ジャンヌと理子はーー」

 

「 」ガタガタガタガタ

 

「……別行動にするか。班分け決めるぞー」

 

「えー。そんな怖がられるようなことしたかな~?」

 

 えーじゃねえよ、露骨に安堵してるじゃねえかジャンヌ。あと目が笑ってないぞ。

 

 というわけで俺・ジャンヌ・リサのチームがパリ周辺、理子・エル・島さん・中空知さんはブリュッセルを回ることになった。「遠山は理子に対する盾だ!」と宣言したジャンヌによってこうなったのだが、お前天然で地雷抜くよな、理子が青筋浮かべてるぞ。

 

「ご主人様、ジャンヌ様。お食事はどうしますか?」

 

「んー、時差ボケはまだ大丈夫だが……どっかで軽く食うか。ジャンヌはどうする? 別行動にするか?」

 

「……いや、同行してくれ。一人になったら、いつ闇討ちされるか分かったものじゃない」

 

「何をしたら(割と)温厚な部類の理子をそこまでキレさせるんだよ」

 

 菓子一つやれば恨み言なんてすっ飛んでく類だぞ、アイツ。

 

「『どうせヘタレのお前では添い遂げられそうにないのだから、星伽白雪と遠山を接近させても問題なかっただろう?』と言っただけだぞ?」

 

「……………………うわあ」

 

「うわあとはなんだ、うわあとは!?」

 

「いやうん、言っていいことの限度超えてるから思わず」

 

 素で引いちゃったよ思わず。横に並んでいるリサに視線を向けると、

 

「…………」フルフル

 

 無言で首を横に振っていた。ああ、これはつまり、

 

「パーフェクトにダメだジャンヌ」

 

「何故だ!? 私は事実を話しただけで、理子に悪気があった訳じゃ」

 

「ジャンヌ様、物事には事実でも言っていいことと悪いことがあります。寧ろこの程度で済んで良かったかと」

 

「そこまでのことなのか!?」

 

 寧ろ五体満足でいられるだけ幸運だと思う。口に出すとまた発狂しそうだから言わないけど、天然の地雷踏みって恐ろしいな(真顔)

 

 

 

 時差ボケのためホテルの一室で寝落ちした女子二人をベッドに寝かしつける。「慣れているから問題ない」とドヤ顔かましていたジャンヌが一番最初に寝たのはどういう顔すれば分かんなかった、マジでなんなんこいつ。

 

 観光を終えて泊まる場所を決めようとした時、最初はジャンヌが所有するアパートに行こうという話だったのだが(魔術的な防御施設もあるらしい)、

 

「後で理子にバレてもいいのかそれ」

 

 と釘を刺したら、あっさり掌を返してホテルで泊まることになった。しかも最初は男女別で部屋を取るつもりだったのだが、

 

「師団と理子に襲われたら事だろう!?」

 

 というジャンヌの(必死な)主張により、女子二人がベッド、俺がソファという二人部屋で無理矢理三人泊まることになった。受付のおっちゃんがめっちゃニヤニヤした顔で見てたぞ、こっち見んな。

 

 というかこれもバレたら事だと思うんだが、恐怖で頭が回っていないのだろうか。

 

「まあリサがいるし、多分大丈夫か」

 

 ダメなら被害が全部ジャンヌに行くよう誘導しよう。外道? 魔術的な防護も人任せで寝てる魔女が悪い、メイドは許す(真顔)

 

 そんな感じで部屋の防御を固めていると、外からノックの音が五回。ふむ、時間ぴったりくらいか。

 

「合言葉は?」

 

『我等が帝国に勝利を』

 

「OK、今開けるよ」

 

 さっきメールで決めた合言葉(ドイツ語)を聞いて扉を開くと、そこに立っていたのはフォレ・ノワール女学院ーーフランスの名門女子学校ーーの制服を着た少女が、使い魔の大鴉ーーエドガーを肩に、旅行用のカバンを手にした眼帯の少女ーーカツェ・グラッセが入ってくる。

 

 部屋の鍵を閉め、荷物を置いたカツェと俺は向き合い、

 

「「勝利万歳(ジーク・ハイル)!!」」

 

 ナチス式敬礼で挨拶を交わす。日本人がやって大丈夫なのかって? 会う度にしてるからノープロブレム(真顔)

 

「ようカツェ、尾行はなかったか?」

 

「問題ねえさ、ローマの連中は『火消し』で大忙しみたいだからな。あたし一人に構う暇はねえみたいだ」

 

「そりゃ重畳。あっちこっちで広まってるらしいから、教会の方々も大変なこって」

 

 全くだ、と二人で笑い合いながらソファに腰掛ける。

 

「まずはローマの大勢力相手に連勝おめでとう、と言うべきかね?」

 

「よしてくれよ、あたしはほとんど指示出ししてただけだ。部下が十分に育ったお陰さ」

 

「部下が十全な働きを出来るのは、指揮官が優秀だからこそさ。今回の戦績からして、お前も十分な功績を上げただろうよ」

 

「……おい潤、火ぃ寄こせ、火。学校の連中相手に神経使ったから、一服してえんだよ」

 

「なんだ、柄にもなく照れてるのか?」

 

「うっせ! 早くしねえと水牢にぶち込むぞ!」

 

 そりゃ怖い、と降参の意味を兼ねて手を上げ、ジッポーでカツェが咥えたタバコーーと同じ形をした、魔力回復用の魔導具ーーに火を付けてやると、少し赤い顔で思いっきり吸い込んだ。相変わらず褒め慣れないねえ、こいつは。

 

「ま、その話は置いといて。わざわざ『中立』を謳ってる俺と密談なんて、どういう腹積もりだ?

 今更『眷属』に着けって話じゃないだろうし」

 

「こっちは今からでも構わねえぜ? なんならあたしからイヴィリタ長官に口添えして、ナチス(ウチ)に佐官待遇で迎えてやってもいい。お前ならウチの連中も大歓迎だろうしな」

 

「…………魅力的な案だが、辞めておくわ。兄貴とチームの連中が怖いんでな」

 

「大分迷ったなあ。流石総統閣下のファンだけはある」

 

「ファンじゃねえよ、尊敬してる人物に挙げただけだ」

 

 似たようなもんだろ、とケラケラ笑われ、今度は俺が不貞腐れ顔でシブーストを食う羽目になる。いーだろ別に、兄貴にはすげえ微妙な顔されたけどさ。

 

「……ま、二割冗談の勧誘はここまでにしてだ」

 

「八割本気の勧誘という」

 

「優秀な人間を引き入れたいのは当然だろ? あたし達に好意的な奴なら特に、な。

 と、また話が逸れたな。今回の件だが、武偵としての潤に『依頼』をしたいんだ」

 

「一応俺、犯罪組織とつるまない武偵側の人間なんだが」

 

「あたしと会ってる時点で今更じゃねえか?」

 

「友人に会ってるだけで咎められる謂れはねえよ。

 ……で、内容と報酬は?」

 

「報酬は、お前が欲しがってる『非々色金』」

 

「……そりゃまた、願ってもない話だが。どういう掌返しだ?」

 

 宣戦会議の時は、無条件で味方するなら考える、という程度には渋った癖に。

 

「藍幇の連中とも情報共有して、解析も終わったからな。その上で総統閣下から直接命令が下ったんだ、決して使うなって。

 そのまま取っておくのもアレだし、処分する気のお前に押し付けちまった方が賢いって長官の判断だ」

 

「そりゃ賢明なことで。総統閣下も危険性を理解してくれたのなら、何よりだ。

 そんで、依頼内容は? ここにいる教会の連中でも追い出せばいいのか?」

 

「それは魔女連隊(あたしの部隊)で事足りる、もっとお前向けの仕事さ。

 潤、あたし達眷属は今『正体不明の敵』に少なくない被害を追ってる。こいつを探し出して、可能ならぶっ倒して欲しい」

 

「……『正体不明』、ねえ」

 

 魔女連隊の長であるカツェが正体不明なんて言うにはーー質の悪い魔術師か、はたまた鬼や蛇の類か。

 

 はてさて、今回の海外旅行も面倒なことになりそうだーーシブーストをカツェと奪い合いながら、俺は心中で独り言ちた。

 

「あ、オイカツェ! エドガー使ってまで俺の分取るんじゃねえ!」

 

「うるせえ、メシも戦争も早く取ったもん勝ちだろ! 客人なんだから、置いてある菓子くらい寄こしやがれ!」

 

「俺が買ってきたもんだよ!」

 

 その後、菓子の奪い合いで仁義なき魔術戦(サイレント)が行われたとか、いないとか。

 

 

おまけ

「そういやカツェ、お前社会見学はどうしたんだ? 明日はルーブル美術館行くって話だっただろ」

 

「あー? あんなの面倒くせえから、適当な理由付けてサボることにしたわ。話す奴もいねえから、行っても退屈でしょうがねえし」

 

「そういやお前、学校だと浮いてるんだったか」

 

「あたしがストラスブール出身だからってちょっかい出してきた奴等に、ちょーっと『仕返し』しただけなんだけどな。ケケケ、やり返されると思ってねえとか、根性のねえ奴だ」

 

「泣き崩れたり退学するまでボロボロにしてやったら、距離取られるわな」

 

「境遇とか出身が似たやつからは慕われてるけどな、これでも。

 大体、仕返しの隠蔽方法を教えたのは、どこの誰さんだったっけな?」

 

「さあ? そんな奇特な奴は思いつかねえなあ」

 

「ケケケ」「キヒヒ」

 

 この二人、案外似た者同士なのかもしれない。

 

 

 




キャラ紹介
カツェ・グラッセ
 ナチス軍『魔女連隊(レギメント・ヘクサ)』隊長。潤とは悪友の関係で、付き合いは白雪達より古い。

 褒められ慣れてないので、言われると照れるタイプ。あとやられたら倍返しなんて目じゃないレベルで復讐するやべー奴。
 

あとがき
 二月入ってから今年初の投稿とか絶望しかねえ()

 そんな作者の愚痴は置いておいてどうも、ゆっくりいんです。毎度お待たせして申し訳ありません。この作品を忘れられても大丈夫、作者が泣くだけです(女々しい)

 さて、本格的に修学旅行、というかフランス編突入+カツェさん登場ですね。ジャンヌさんはまあ……強く生きてください()

 次回は魔女連隊のアジトに(自主的に)赴く予定です。大分展開が原作から変わってますが(眷属に手を貸してるし)、良かったら生温い目で見てやってください。

 それでは今回はココまで、読んでくださりありがとうございました。

 感想・評価・お気に入り等、いただければテンションが爆上がりして投稿頻度が早くなるかもしれません(真顔)


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第三話 何ちゅーもん用意してるんだ(前編)

カツェ(以下カ)「そういやジャンヌ、お前師団の連中に敵認定されてるぞ」

ジャンヌ(以下ジ)「はあ!? 何故だ!? 私は今回の戦役で中立を保ってるし、目立つことは何もしてないぞ!?」

カ「いやバスカービルは東京武偵校の連中だし、『師団』の連中を脅して追っ払ったんだろ? そんな中にいる奴を外の連中が見たら、どう思うよ」

ジ「……遠山ああぁぁぁ!! お前のせいかあ!?」

潤「俺じゃねえよ、やったのはマイシスターだ」

ジ「妹の手綱くらいしっかり握っておけ! お陰で無関係を貫いていた私まで巻き込まれたぞ!?」

潤「巻き込まれたのは修学旅行Ⅱの単位取れなくて時期が被ったのもあるけどな。
 まああれだ、ガンガレ」

ジ「ああああああああ!!!」ガクガクガク

カ「……ジャンヌってこんなだったか?」



「あ、潤ちょっといいか?」

 

「あん? 何よ?」

 

「ウチの連中がお前の女装姿を「よし断る」……理子とリサからも頼んでくれよ」

 

「ユーくんを女装させると聞いて! エキスパートの理子に任せろーバリバリ!」

 

「オイヤメロマジで」

 

「大丈夫ですご主人様、女装用のセットはリサが持ってきていますので!」

 

「このメイド準備万端である」

 

 いらんもん持ってくるな「メイドの嗜みだネ!」そんなメイドは普通いねえよ。

 

 というわけでどうも、遠山潤です。はいそこの魔女連隊のみなさーん、ワクワクした目でこっち見ない、ジャンヌは……うん、引くのは真っ当な反応だよ(白目)

 

 現在俺達は別行動の理子と、パリから南東にあるクベール飛行場で合流。カツェの部下が乗ってきた飛行機、グラーフ・ツェペリンNT号に銃器やら爆発物ーー前線の眷属への補給用とのことーーの積み込みを手伝わされていた、俺だけ。

 

「いやなんでやねん」

 

「口ではどうこう言いつつ、手伝ってあげるユーくんやさしー見境ナーイ!」

 

「元気が余ってるようだし手伝え金髪アホロリ」

 

「んー? ここにはスーパー美少女りこりんしかいないからわっかんなーい」

 

「自分で自分を美少女と呼ぶとか痛くないか……」

 

「あ?」

 

「ヒッ!?」

 

 理子に睨まれてジャンヌ(地雷踏み)が青い顔になってる。そーいうこと口に出さなきゃいいと思うよ。

 

「同盟国が相手を助けるのは当然だろ?」

 

「手助けって強制させるもんじゃないと愚考するんだが。しかも何故魔術で運ばせるし」

 

「えー残念だなーここにベルティヨン(パリで超人気のアイスクリーム屋)のアイスがあるんだけどなー」

 

「俺がそんなもので釣られクマー」

 

「ご、ご主人様が餌に釣られたアナ〇グマのように……モーイ、それもいいです!」

 

 甘味に屈する主人でいいのかリサ(今まさに視線がアイスに言ってる奴)。

 

 とまあ報酬に釣られ、魔術で荷物運搬をやっている状態だ。カツェ曰く、

 

「潤は魔力量はともかく、精密操作は見てて勉強になるぞ、お前ら見ておけ。魔力量以外はな」

 

 なんでで二回言ったし、いじめか。

 

 前にお前が他校の女子に一目惚れで告白して見事に玉砕した話を、

 

「エドガー、つつくだ!」

 

「いてて待て頭はハゲるだろヤメロォ!?」

 

「つつかれながらも集中が乱れてないのは素晴らしいです、ご主人様」

 

「そりゃマルチタスクで処理してるからアダダ髪の毛を引っ張るなエドガー!?」

 

「クエーン!!」

 

「いやそりゃそうだろ俺の髪は食い物じゃないんだよあででで!?」

 

 魔女連隊の皆さんも拍手してないで助けて欲しい、頭上からブチブチって音がするんですよ現在進行形で。

 

 けしかけたカツェは爆笑してるし、理子はーーダメだ、ジャンヌ追いつめるのに夢中になってる。

 

「ーー見つけましたよ、忌まわしき魔女とその協力者!」

 

「ん?」

 

「お?」

 

 使い魔(エドガー)と頭皮のデスマッチを繰り広げていたら、聞き覚えの(一応ある)叫びが、空港の入口から響いた。

 

 荷物運びを一旦中断し、エドガーも頭から離れてカツェの肩に止まる。思わぬところで俺の頭髪が救われた(真顔)

 

「……残念です、遠山さん。あなたと敵対することになるなんて」

 

「いきなり殺意マックスで完全武装の相手に迫られてるんだが」

 

「わーユーくんモッテモテー!」

 

 それ天丼な、いつぞや言ったからもう口にはせんけど。

 

 俺達の前には、大振りの盾と剣で完全武装したシスター数十人、それを従えるバチカンの代表選士、メーヤが先頭に立っていた。なんというか、

 

「中世ヨーロッパ映画の撮影みたいだねえユーくん。もしくは実写版異世界ファンタジーかなあ?」

 

「敢えて口に出さなかったんだけどなあ理子さんや」

 

 本人達が真面目腐った顔なのも余計に拍車を掛けてる。ルガーP08を構える魔女衣装のカツェ達の方が、よっぽど近代的に見えるわ。

 

「ようメーヤ。男の尻を追っかけてくるなんて、バチカンの連中は随分と尻軽になったんだなあ?」

 

「黙りなさい厄水の魔女、お前の言葉を聞く意味などありません。裁きの末に上げる断末魔以外、声を出す権利はないと思いなさい」

 

「おー、怖い怖い。だ、そうだぞ潤?」

 

「そこで俺に振るのかよ。

 あー、宣戦会議以来ですねメーヤさん。本日は何用で?」

 

「何を? 決まっています。魔女どもと、その協力者を殲滅するためです。カナさんの弟であるあなたと戦うのは、心苦しいですが……」

 

「殲滅って単語出したぞこのシスター」

 

「やられたら異端審問からの火炙り確定じゃないですかヤダー!?」

 

「……遠山さん、峰さん、今からでも師団(私達)に付いてください。共に悪しきものを倒すため、戦いましょう」

 

「「だが断る」」

 

「友人を見捨てて大義を果たすのは趣味じゃないんで」

 

「理子も同じーく」

 

 そもそも正義って柄じゃないしな、俺も理子も。

 

「待て、何故私の名前が上がらない!?」

 

 そりゃ喋ってないからだろ常考。

 

「……」

 

 メーヤさんは無言で首を横に振ると、号令の手を上げた。すると周囲のシスター達が剣を構え、突進の体勢を整えてくる。マジで銃器ねえのかこいつら、聖別はされてるみたいだけど。

 

「で、その時代がかった武器(玩具)だけで俺達をどうにかするつもりか?」

 

 USPを構えながら挑発を掛けてみるが、流石に拳銃程度で怯む様子はない。

 

「いいえ、さすがにこの戦力だけで倒せるとはうぬぼれていません。ですのでーー」

 

 お覚悟を。そう言った直後、彼女たちの後ろで微かな駆動音ーー

 

「ーー理子!」

 

「あいあいさー!」

 

 俺の呼びかけを正確に理解した理子が、グラーフの前に飛び出しーー

 

「ぬ、うぐぐぐ! とーまーれー!」

 空気を引き裂いて迫る120mm徹甲弾(・・・・・・・・)を、超能力で受け止める。

「『ーー(静止)』」

 

 逆回転を加えることで回転力を抑える理子と、衝撃を殺す俺の魔術を合わせ、砲弾は鈍い音を立てて地に落ちた。ふう、さすがに正面からは一苦労。

 

「ふひー、ありがとユーくん……やっぱ正面から受けるもんじゃないねー、蹴れば良かったかな」

 

「その場合、あらぬ方に飛んでいくけどな」

 

「デスヨネー」

 

 一息吐く俺達を、メーヤさんは驚いた顔で見ている。なんだよ、こっち見んな。

 

「……まさかあれを止められるなんて。つくづく規格外ですね、峰さん。それに遠山さんも」

 

「八割は理子のお陰だけどネ!」

 

「俺はサポート程度やで」

 

 気付いたのは俺だけど。直前まで察知できなかったのはアレか、メーヤさんの幸運補正の加護かね。

 

「……なりふり構わなくなったなあ、メーヤ。お得意の突貫はどうした?」

 

「お前達を滅ぼすのに、手段を選んではいけないと学びましたので。住人の皆様には避難していただきましたし、遠慮なくいきます」

 

 そう言って、簡易の柵を踏み潰しながら出てきたのはイタリア軍で採用された戦車ーーアリエテが三台。

 

「わあ、完全にやる気だねユーくん」

 

「ああ、こいつはマジの「メロンサイズだね!」オイそっちかい」

 

「いやあ、あちらのシスターさん、服を押し上げる見事なものが理子を誘惑してつい。ユーくんもそうでしょ? でしょ?」

 

「おう最低だな潤殺すぞ?」

 

「真に受けないでくれませんかねえカツェさん。とりあえず、お前と同列に語り出したらおしまいだよ理子(HENTAI)

 ……どうしたリサ、離れてた方がいいぞ」

 

「ご主人様、大きいのがいいのですか……? り、リサも頑張りますので!」

 

「何も言ってないんですけど!?」

 

 俺が脅威と思ったのは砲弾と超能力の波状攻撃だよ、いやマジで。

 

「……っ。敵を前にして余裕ですね、あなたたちは」

 

 ちょっと胸を庇いつつ、赤い顔で言ってくるメーヤさん。ウチのHENTAIがすいませんね。

 

「いやあ、言及しないのも失礼かなと」

 

「もうお前はジャンヌ弄ってろよ」

 

「あそこでもうダメだあ、おしまいだあ……ってなってるよ?」

 

「何したのよお前」

 

 まあ邪魔にはならないし、放っておくか(鬼畜)

 

「んんっ。お喋りはここまでです、魔女達もろともあなた方は滅びなさい」

 

 勝者の余裕を崩さず言ってくるメーヤに対し、

 

「ーー甘いなあ、シブーストより甘いぜメーヤ?」

 

 ニヤリと笑うカツェ。それはアレか、昨日半分以上奪われた菓子に言及しろということか(違)

 

「幸運の加護も手伝ってあたし達を追跡すること、そして追いつめられ気味のお前達が戦車を持ってくることーー全部、潤の奴が予測してたって言ったらーーどうする?」

 

「……それは、大したものです。やはり遠山さんは、カナさんとは違う意味で怖い御方ですね」

 

「ユーくん化物だって褒められてますぜ」

 

「そこまで言われてないだろ常考」

 

「ーーですが、それがなんだというのです? 予測できたのだとして、この戦力に勝てるものを用意したと?」

 

「せいかーい。珍しく冴えてるじゃねえか、褒めてやるぜ?」

 

 そこでメーヤさんは気付いたようだ。カツェがルガーを構えるのとは反対の手に握る、ベタなボタンタイプのスイッチに。

 

「……オイオイ、まさか『アレ』を完成させたのか?」

 

 設計図渡したのは俺だが、まさか一年近くでそんなーー

 

「さあさあ敵も味方も区別なく、ご覧あれ! これこそ我らナチスドイツが技術の粋を集めて作り出した新兵器ーー」

 

 そうして、空港の地下エレベーターから上がってきたのはーー

 

 

 

「ヴォルフ05だ!」

 

 

 

 

「「ヒュー!!」」

 

 俺と理子は思わず賞賛の声を上げてしまう。どう見てもヒル〇ルブです、本当に完成させたのかという感嘆を込めて。

 

「な、何ですか!? あのバカでかい戦車は!?」

 

 メーヤさんがその巨体に押されたのか、動転した表情で叫ぶ。まあ全長30mオーバーとか、既存戦車の倍以上だからなあ。しかもそれが二輌並んでるし、砲門向けてるし。

 

「理子、リサ、耳塞げぇ!」

 

「もう出来てるよぉ!」

 

「あわわ、ご主人様、リサはどちらを抑えれば!?」

 

「何で狼の耳出してるのお前!?」

 

「実物を見れた感動でつい!?」

 

 気持ちはわかるけど、耳が死ぬぞ。

 

発射(feuern)!」

 

 リサの犬耳を抑えるのと同時、カツェの嬉々とした号令でヒル〇ルブ、改めヴォルフ05の主砲がぶっ放された。あ、実弾じゃなくてビームじゃん。こいつ魔術と科学のハイブリッドで改造施したやつか。

 

 二発のビーム砲は500m程離れたアリエテへ真っ直ぐ向かいーーしかし運悪く(・・・)、直撃ではなく、側面すれすれで爆発した。

 

「「「キャアアアア!?」」」

 

 衝撃の余波で、離れていたシスター数名が吹き飛んでいった。南無、えげつない威力だなあ。

 

「チッ、直撃じゃないか」

 

「これはシャッターチャンス!」

 

「ぶれないなお前」

 

 舌打ちするカツェに、シスターたちの痴態を撮ろうとカメラを構える理子。その根性を別の所に活かすべきだと思う、言っても無駄だろうが。

 

 とはいえ、今の一撃でアリエテ二輌が行動不能になった。一つは履帯がダメージを受けて傾いてるし、もう片方は衝撃でひっくり返ってる有様だ。あれ中の搭乗員生きてーーあ、ハッチの隙間から這い出てきた、というか戦車兵もシスターかよ。

 

 「何をしているのですか!?」とメーヤさんが叱咤しているけど、完全に士気が挫けたな。シスター達も兵士というよりこっちが逃げないための壁役だしーーあ、全力で反転ダッシュし始めた。

 

「さて、まだやるか? あたしとしてはこいつの性能を存分に試したいから、来るのは人でも戦車でも一向に構わないぜ?」

 

「くっ……」

 

 自慢げにボディーを叩き、主砲をメーヤさんに向けるヴォルフ05。それでも気丈に大剣を構えようと手を伸ばすが、

 

「……撤退、します。動けるものは負傷者の回収を、戦車は壊れたものを置いていって構いませんっ」

 

 後ろで魔術による攻撃準備をしていた魔女連隊と俺達に気付き、歯噛みしてその場から去っていった。シスター達も慌てた様子で彼女に付いていく。

 

「……何だ、特攻くらい期待してたのにつまんねえの。こいつの実戦テストもしたかったのに」

 

「追撃掛ければ存分に試せるぞ」

 

「しねえよ。メーヤの幸運加護は効いてるみたいだから当たらねえだろうし、深追いして余計な損傷を負うのもアホらしいしな。

 潤が加護を取っ払ってくれたなら別だけどよ」

 

「お望みならそうしたが、要らなかっただろ? 欲しいものは手に入ったしな」

 

 俺の言葉に、カツェはニヤリと笑ってからアリエテの残骸を指さし、

 

「お前ら、回収しておけ! ヴォルフ用の追加パーツが向こうから来たぞ!」

 

「「「「「ナチスの科学力は世界一ぃ!!」」」」」

 

 魔女連隊の少女達が歓声? を上げた。なんでも既存兵器のパーツを魔術で再加工し、利用しているそうな。量産化でも目指してるのか、このトンデモ兵器。

 

「あ、潤。ポンコツの残骸持ってくから、収納頼むな」

 

「お前最初からそのつもりだったろ」

 

 俺の亜空間は便利ポケットじゃねえんだけど。あとどうせならそっちの戦車を「ナチス(ウチ)の新兵器をホイホイ預けるかっての」デスヨネー。

 

「ほい、回収完了っと。カツェ、フライトまでまだ時間あるよな?」

 

「ん? まあ昼過ぎに出す予定だから、まだ時間はあるが」

 

「じゃあ俺と理子はちょっと出かけるわ。時間までには帰ってくる」

 

「お、なんだデートか?」

 

「いやは「そーそー、ユーくんから熱烈なアプローチ受けたから仕方ないよネ!」おう雑な嘘吐くなや」

 

「うにょにょ、ほんにょだひょーん」

 

 まだ言うか。しかしこいつもち肌だな「ふぇい!」うごご、俺まで引っ張るなっての。

 

 俺達の喧嘩を見たカツェは呆れた溜息を吐き、

 

「はいはい、ごちそうさん。時間までに戻れば問題ねえから、好きにいちゃついてろよ」

 

「なんでそうなる。とりあえず、リサとジャンヌをよろしく」

 

「あああもう私を巻き込まないでくれえ……」

 

「……ジャンヌの奴、まだ頭抱えたままなんだが。こいつこんなに精神脆かったか?」

 

「俺に聞かれても」

 

 司法取引の後は大体こんな感じだぞ。

 

おまけ

 ねえ 輪になって 踊りましょう♪

 

「かなめちゃん、携帯鳴ってるよ~?」

 

「お? あ、お兄ちゃんからラブメール! なーにかな、なにか」

 

 

件名:ナチスやべえ

『ヴォルフ05が実際に動く動画』

 PS:拡散禁止

 

「…………」

 

「あれ、かなめちゃんどうし」

 

「……はあ? はああああああ!? ちょ、お兄ちゃんなにこれ、ナニコレ!? ヒルドル〇の実物が観れたとかお兄ちゃん羨まし過ぎるんですけど!?」

 

「か、かなめちゃん? どうしたの、大声出して?」

 

「くっ、こうしちゃいられない!」

 

「ちょ、どこ行くの!? もう授業始まるよ!?」

 

「ちょっとフランス行ってくる!」

 

「ええ!? ちょ、今から遠山先輩追っかけるの!? 無理だって!」

 

「ぐ、離してあかりちゃん! 私は、私は今行かないとなんだあ!!」

 

「あ、ダメだこれ暴走してる! ライカー! かなめちゃん止めるの手伝ってーー!!」

 

「ぬおお、HANASE!!」

 

 

『何見せたんですか遠山先輩』

 

『ごめん煽るつもりで送った』

 

『先輩最低です』

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき
 ヒルド〇ブはいい機体、異論は認めるが聞き入れはしない(意味なし)

 というわけでどうも、ゆっくりいんです。本当は追撃シーンもやりたかったんですが、バチカンの人達が笑えない事態になる未来しか見えなかったのでやめました。九条破りダメ、絶対(どの口が言うか)。

 さて、次回はカツェ達と別れた潤と理子視点の話、後編になります。ちょっとしたオリジナルシーンになりますが、ご了承ください。フランスだったらやるかなーと思ったシーンなので。
 
 ……え、今回もそうだろって? ハハハ、なんのことやら(目逸らし)

 感想・評価・お気に入り等、いただければテンションが爆上がりして投稿頻度が早くなるかもしれません(真顔)

 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。


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第三話 何ちゅーもん用意してるんだ(後編)

 前話の感想欄がヒルドル○で埋め尽くされた件。皆さん大好きですね、私も大好きです。


ジークジオン!!(何)


 あ、本編に出てるのはヒルドル○ではなくヴォルフです。主砲がビームになってたりホバー移動できるよう改造されてるので、完全に別物ですね(苦しい言い訳)


『ねーこーねーこー 左右にねーこー♪』

「ん? アリアか、もしもーし」

『ねえジュン、アタシの着信設定が素敵ものになってる気がするんだけど』

「そんなことに直感使ってどうするよ。わざわざ国際電話でかけてきたし、何かあったか?」

『かなめがアンタの動画メールを見てからPCに貼り付いて何か作り続けてるんだけど、どうしてくれるのよ。白雪が心配そうに見てるんだけど』

「創作魂に火が付いたんだろ」

『山火事もビックリな勢いで点けた犯人が何言って「違うこれだとザメ〇だーーー!? MTの理想型には程遠い!?」うっさいわよやるなら叫ばずやれ!!「デラーズ!?」』

「わあ、まるで行き詰まった研究者みたいな叫び」

『他人事みたいに言うな!? こっち関係じゃお兄ちゃんに負けてらんねー! って言い続けてうるっさいのよどうにかしなさい兄!』

「その内満足すれば収まるぞ」

『それまで甘んじて受けろってことか風穴空けるわよ!?』

 その後、メヌによって(精神的に)沈められたとのこと。「貸し一つよ」って電話越しに言われたけど、俺が作ったんじゃないんですけどねえ。


  やっほーみんな、りこりんこと峰理子だよー。

 

 ……え、テンションが普通? いつもはもっとウザい感じ? 失礼しちゃうなー、理子も怒るんだぞ。ぷんぷんがおーだぞ!

 

 ……まあ、テンション低いのは理由がありまして。

 

「ぐええええ……やっぱ魔力消費激しすぎるだろ、この転移術」

 

 ……理子の横で愛しのユーくんが、魔力空っぽ状態でリバースしそうな顔になってたら、ねえ?

 

「ユーくん、流石に魔力少なすぎない?」

 

「うるせえ、色金保有者を前提にした術式を使えるようにしただけなんだからしょうがねえだろ……」

 

 大体元の術式が雑すぎるんだよ、ファッ〇。死にかけてても悪態吐く元気はあるね~。

 

「でも考えたよねー。千里眼を組み合わせることで、『視界に収めた』遠方でも転移できるようにするなんて。アリアんが目ん玉ひん剥いてたし」

 

「『歪曲』の魔眼使いが透視を併用することで、一帯を範囲にしてただろ。原理はそれと同じだよ」

 

 むしろ何故思い付かん、と息を整えながら溜息を吐く。バテるの早いけど回復も早いんだよねーユーくん。あとそんなポンポン思いつくのを基準にするのは、アリアんに酷だと思うよ。

 

 ……ん? バテるのは早いけど回復も早いユーくん……なるほど、ひらめーー

 

「はいどーん」

 

「インモラル!? なんでいきなり『フェアルング』(ミニキャラが飛んでくるバズーカ砲)撃ったし!?」

 

「しょうもないこと考えてる気がしたんでつい」

 

「考えてることがバレてる……いやん、ユーくんのえっちぃ☆ そんなに理子のこと愛してるの?」

 

「哀悼の意は示しておこう」

 

 わー顔が殺る気だー。そういうのもいいけどさ(重症)

 

 ……あ、出てきたミニワド○ディがよしよししてくれてる。優しい……(感動)

 

「頭に乗られて頭を撫でられるとはこれ如何に。

 で、転移中に何か飛んだりしてないよな?」

 

「うん、おっけーおっけー問題ナッシング。さすがユーくん、安定性と精度『は』抜群だね!! この二つは!!」

 

「よーしお前1ミリも褒めてねえし感謝してねえな? 表出ろ、しばき回してやる」

 

「いやここ外なんですがそれは」

 

 あと両手が塞がってる美少女を襲おうとするとか、ユーくんさいてー。

 

「自分で美少女とかただの痛いやつじゃね」

 

「真顔で言われるとさすがにりこりんでも傷付くんですけど!? というか理子はびしょーじょでーす!

 まあそれはともかく、早く行こうよ。時間は有限だし、待たせてるんだからさ」

 

「足止めてるのはお前だけどな」

 

「りこりん何にも聞こえなーい」

 

 呆れて肩を竦められたけど、ちゃんと付いてきてくれるのはユーくんの優しさだよねー。

 

 ーーそうして私は、足を進める。クベール飛行場とは正反対、フランス北西のある郊外にある教会の一角にある『墓地』に。

 

 

「酒は甘いの好きだったよな」

 

「うん、そーそー。対外的にはワインで通してたけど、家族の前では甘いもの全般好きで、食べ過ぎてお医者さんに怒られてたからねー」

 

「お前が甘いの好きなのはそっちの影響かね」

 

「かもねー。あとはお花を置いてっと」

 

「……真冬の時期にひまわりってのも、変な感じだよな」

 

「まあ折角だし、用意したかったのですよ。ちゃんと菊も用意してるからダイジョーブ」

 

 教会の端にある質素な墓石。少し汚れてしまっていたそれを丁寧に磨いていき、その後に二人ーーお父様とお母様の好きだったものを置いていき、黙祷を捧げる。

 

「「…………」」

 

 私達には珍しい、静寂の時間。潤も目を閉じ、祈りを捧げてくれている。

 

 「魔術師に墓参りの習慣なんてねえぞ」って真顔で言ってた潤だけど、いざやる時は凄い礼儀正しいんだよね。埋葬のやり方も覚えてるらしいし。

 

「……ん、オッケー。ねえお父様、お母様。理子ね、新しい友達が出来たんだーー」

 

 屈んで墓石に手を添え、この春からあったことを語り始める。アリアが新しいパートナーになったこと、怨敵のブラドを倒したこと、メヌエットやリサが来て一緒に暮らし始めたことーー

 

「……」

 

 潤は語る私の横で、煙草の一本を取り出して火を点け、墓前に供える。それを見て、喋りながら小さく笑ってしまった。煙草好きのお父様に、一服させてくれたのだろう。

 

 たっぷり三十分、両親への報告を終えて立ち上がる。

 

「……うん、お話終わり。ありがとね潤、付き合ってくれて」

 

「ん? ああ、別に構わんさ。話したいことはあるだろうし、向こうも色々聞きたがってるだろうしな。生者の都合で家族の交流を遮るのも、無粋だろうよ」

 

「……うん、そうだね。そうだよね」

 

 潤の言葉に、私は小さく頷いて横に並ぶ。普段は素っ気ない上さっさと先に行っちゃう癖して、こういう時はちゃんと待ってくれるのがずるいよねえ。

 

 お父様とお母様への『報告』は、私が墓参りをする際の習慣だ。もっとも、イ・ウーから簡単に出られなかったため始めて来たのは去年が初めてで、その時も潤が一緒だったけど。

 

「……正直、去年も思ったんだが。恨み言の一つや二つ、ぶつけると思ったんだがな」

 

「……くふふ、そうかもねー」

 

 遠慮なく、的を射た言葉に私は小さく笑う。ヒルダに助けられるまでの監禁生活は生まれてから一番の地獄だったし、両親が残してくれたのは今近くにある、誰もいない屋敷とロザリアだけだ。

 

「……多分、もっと前に来てたら、口にしてただろうねえ」

 

 どうして一人にしたのか、何も残してくれなかったのか、ブラドなんかに付け入る隙を与えてしまったのか。恨み言なんて、それこそ吐いて捨てるほどある。

 

 でも、それでも。

 

「死人に口なし、なら死者を貶めることはしない……って言ったのは、誰だったかな?」

 

「さあなあ。そんな殊勝な心掛けを持つ奴がいるのかね?」

 

「いるねー、私の半径3m以内に。

 ……まあ、それにさ。たまに『帰って』くるんだし、土産話は楽しい方がいいでしょ?」

 

「……そういうとこは、お前らしいね」

 

 今度は潤が小さく笑い、頭を撫でてくれる。むー子供扱いとは失礼な、同い年だぞー。

 

 でも悔しい、嬉しくなっちゃーー

 

「墓前で下ネタはさすがにやめた方がいいんじゃね」

 

 潤もアリアのこと言えなくなってきてないかな。

 

「あんな直感脳筋タイプと一緒にしないで欲しい」

 

「帰ったらDeath or Killだねこれ」

 

「それどっちも死なない?」

 

 

 

「……よし、ジュンを徹底的にボコるわ」

 

「お姉様、どうしました急にこわーーーーい顔になって」

 

「何でそんなに伸ばすのよ!? いや、急にジュンを殴り倒さなきゃいけない気がして」

 

「いつものことじゃないですか」

 

「……言われてみればそうね」

 

 

 

「まあそんな話は置いといて」

 

「死亡フラグをそんなことで投げられたんですが」

 

「いつものことじゃん、それこそ。

 ……さーて、湿っぽいシーンは終わり! ここからはラブラブちゅっちゅなシーンですよーくふふ、ユーくん防弾制服黒似合ってるねー」

 

「いきなり呼び方が戻ったな。というかお前も同じ恰好だろ」

 

「男の子と女の子が着るのじゃ、印象が全然違うんだよー?

 ……は、つまりユーくんが女装すればまた凄いノーデンス!?」

 

「何でも女装に結び付けるんじゃありません」

 

「しかし理子は退かぬ、媚びる、稀に省みる!!」

 

「聖帝も微妙な顔をする宣言だなオイ」

 

「そもそも理子が来年お父様とお母様に報告するのは、ユーくんとラブラブカップルになることだからね! ここで宣言しちゃる!!」

 

「そうか、まあ頑張れよ」

 

「超他人事!?」

 

 去年よりはいいけど、相変わらずスルー気味の返答がムカつく! 激おこだよ!

 

 むー! と唸りながら腕に絡みついてやるけど、はいはいって感じに流されるのがプラスで腹立つぅ!

 

「この堅物どうやって落とせばいいんだろ……」

 

「頑張れ!」

 

「だから他人事ォ!? ぶん殴るよいい加減!」

 

「墓前で暴れるなよ」

 

「ぬぐぐ!」

 平手でぺペペペペと背中を叩いてやるが、普段アリアんに殴られ慣れているため応えた様子はない。ぐぬぬ、その頑丈さが恨めしい……

 

「……あ、忘れてた。

 お父様、お母様、いってきます」

 

 お墓に告げて、理子達は背を向けーー

 

 

『いってらっしゃい、理子』

 

『気を付けてな』

 

 

「ーー!?」

 

 思わず振り返ってしまう。今のはーー

 

「……ユーくん、今のーー」

 

「お前の幻聴じゃねえよ。愛されてるな、理子」

 

「ーーうん……!」

 

 今度こそ振り返らずに、墓場を後にする。目から零れたものは、悲しみじゃなくて嬉しさだね。

 

「お父様、お母様。理子、次こそユーくんを彼氏として紹介するから!」

 

「宣言そっちかよ」

 

 その後、屋敷の様子だけ見て理子達はその場を去っていった。よし、ここを理子達の愛の巣にしよう!(キラキラお目目)

 

「お断りです」

 

「だがそれを断る!」

 

 

 

おまけ

「まーでもさー、去年に比べて理子も強くなったよねー。二年前からの急成長がとまらぬえですなーくふふ」

 

「自分で言うかそれ。まあ盗みにしろ戦闘にしろ適性はあったんだ、寧ろ伸びしろの塊といえるレベル」

 

「それを伸ばしてくれたのはユーくんだけどねー。ブラドに才能がぬえ! って言われたのが嘘みたいですよ」

 

「まだ気にしてんのかお前」

 

「んー別に? 次に顔合わせたら殺すつもりだけど」

 

「殺意の波動に目覚めた理子。……いつも通りか。

 そもそも、ブラドが人に教えるの致命的に下手という問題があったけどな。まさかリュパン家の『盗みの書』すら見ずに『才能がない』と断言してたるのは予想外だわ。

 その辺どう思うよ、娘さん」

 

『お父様にはノーコメントにさせなさい、遠山』

 

「そうかい。まあここまで成長した以上、リュパン四世を名乗っても不足じゃないと思うがね、俺は」

 

「いあいあ、まだ理子は肝心なものを盗めてないから、お父様にはまだまだ及ばないよ」

 

「その心は?」

 

「ユーくんの、心で「いや無理だろ」食い気味に否定!?」

 

『遠山、理子に手を出したらわかっ「シスコン拗らせて邪魔しないでね『お姉ちゃん』」ふぐあっ!?』

 

「姉呼びされるたびにダメージ受けてないかこいつ」

 

 

 




あとがき
 というわけで、墓参り回でした。理子の両親は原作だとちょっと触れただけだったので、折角だから一度行っておくべきだと思ったんですよね。

 さて、今回はおまけ回(みたいなもの)ということで短めです。次回はいい加減ナチスの拠点に殴り込み(させられ)ることにさせるかと。

 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。

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第四話 やばいものが迫ってる

キノクニ 十二月末

「……はあ。年末にこんなところまで強襲を掛けなければいけないなんて、モーレツに不服ですよ」

「言っても仕方ないだろう、『魔剱』。もう戦いも終わったのだし、早く戻りたいのなら色金を回収することだ」

「分かっていますよ、『雲居』。さてーー」

「ひ、日ノ本の女武士……覇美様を倒したその手腕、一体……」

「敗者に語ることはありません。情報はどこから漏れるか分かりませんからね。
 あと私は武士ではなく、魔女です。次に間違えたらモーレツに追撃ですよ」

「う、うぐ……」

「……人間にはない臓器の中、ですか。切られて出てきてくれたのは幸いでしたね。見た目が見た目だけに、ここまでするのはちょっと気が引けましたが。
 さて、目的も達しましたし帰りましょう。次はどこでしたっけ」

「欧州だ。『師団』の応援要請で向かう、敵地のど真ん中だが……」

「問題ありません。雇われた以上、『私達』で敵は全員倒します」

「……頼もしくなったものだ、本当に」


「よー潤、お帰……何してんだお前」

 

「うぐええええ……いや気にするな、魔力切れかけで死にそうなだけだ」

 

「ユーくんやっぱ魔力少なすぎない?」

 

「うるせえ、補助で魔力譲渡するお前がサボタージュしたからだろうが……」

 

「ああ騙されたのか、ご苦労さん。じゃあヴォルフ持ってくから、お前の亜空間に入れてくれ」

 

「死にかけてる友人にそれさせるか……」

 

「荷物持ちは男の甲斐性だろ?」

 

「どっちかというと倉庫扱いだろ……」

 

「ご主人様、お疲れ様です。ヴォルフ格納の準備は出来ております」キラキラ

 

「……わあったよ、ちょっと休んだら収納しておくよ」

 

((メイドに甘い))

 

 オイそんな目で見るな、こっち見んな。どうも、遠山潤です。なけなしの魔力で亜空間開くのは、理子が補助してくれました。さっきの転移でやれ、マジで。

 

 というわけでグラーフ・ツェペリンNT号に魔女連隊の迎え、カツェ、輸送用の武器、おまけの俺達を満載し、飛行場から飛び立った。上空から見る景色は中々のもんだね、自力で飛ぶのとは違う感覚だ。

 

 幾らなんでも狭くね? と告げたら、武器達も亜空間に収納させられた。だから俺は倉庫じゃねえよ、というかお前らも亜空間使えるだろと抗議したのだが、

 

「いやあたしの亜空間は総統閣下への献上品とコレクションでいっぱいだから」

 

「理子もコスプレ衣装とゲームと漫画と武装で一杯で」

 

「拡張か整理しろやお前ら」

 

「「ワンチャン出てこなくなるからノー!」」

 

 こいつ等片付け出来無さすぎだろ(白目)

 

 とりあえず女装をさせようとする魔女連隊+ウチの変態+メイドの連携を回避以外は何事もなく空港に到着。ここからはヴォルフで移動するらしい。

 

「オイマジか目立つだろ」

 

「『隠蔽』と『偽装』の魔術で普通の車に見せて運ぶから問題ねえよ。リスクはあるが、訓練も兼ねてるからな。

 それに、いざとなったらお前がどうにかしてくれるだろ、潤?」

 

「魔力減り気味の人間に頼るなよ。理子、お前が面倒見てやれ」

 

「えー? まあらじゃ!」

 

 えーじゃねえよ、なんで一瞬渋った。お前の大好きな女子だぞ(真顔)

 

 あとジャンヌだが、

 

「もう私は付き合わないぞ! 酷い目に遭いたくないし死にたくない!(コンステラシオンのこともあるし、私はチームのみんなと一緒に帰国しよう。道中の安全は任せておけ)」

 

 と、本音と建前が逆になって超スピードで帰って(逃げて)いった。まあ別にいいけどさ、それでいいのか戦役宣誓者。

 

 さて、特にバレることなく目的地ーーエコール戦争博物館に到着。魔女連隊の皆さんも腕を上げたねえ、手を貸す必要も無かったか。

 

 カツェに案内され(何故か入場料取られた、全額俺持ちで)、地上のルートを外れて地下の隠し大広間に入る。「秘密基地みたいでドキドキしますなー」とか理子が言ってるけど、文字通りその類だぞ。

 

万歳(ハイル)!」

 

「「「万歳(ハイル)!」」」

 テーブル中央の席に陣取っていた、二十歳前後のゲルマン系美人ーーイヴィリタ・イステル少将が略式の敬礼で挨拶を交わし、俺達三人も返礼する。リサだけ反応が遅れ、慌てた様子で真似していた。別に癖みたいなもんだし、やらなくても大丈夫だぞ。

 

「お久しぶりね、遠山氏、理子さん、リサ。カツェから報告を聞いて、皆様が来るのを心待ちにしていました。

 我がナチスと日本は昔から変わらぬ友好国。共に轡を並べられることを総統閣下も、私個人としても嬉しく思いますわ」

 

「歓迎のお言葉、痛み入りますイヴィリタ長官。精強で知られるナチスの皆さんと行動を共に「わーイヴィリタさん、お久しぶりー! また美人に拍車がかかっテンタクルロッド!?」」

 

 最後まで言わせろやコノヤロー。思わずアッパーカットを理子(バカ)に決めてしまったが、イヴィリタ長官はいつも通りねと苦笑しているだけだ。寛容で助かったよ、全く。

 

「ありがとう理子さん、忙しいけど美容には気を遣ってるから、そう言ってもらえると嬉しいわ。

 さて潤君、堅苦しいのはここまでにしましょう? 客人をいつまでも立たせているのは、失礼に当たりますわ」

 

「……お気遣いどうも、イヴィリタさん。君呼びはしなくていいんですが」

 

「日本語なら、これがしっくりくるのよ」

 

「さいでっか。あ、これ『お土産』です」

 

 席に座る前に、持ってきていたトランクケースをイヴィリタさんに手渡す。中身を見た彼女は頬を緩ませ、

 

「さすが、私達が喜ぶものを分かっているわね。

 みんな、同盟相手お手製の『お土産』よ。ありがたく頂きなさい」

 

 イヴィリタ長官の言葉に、付近で控えていた魔女連隊の少女達が黄色い声を上げながら、トランクに手を伸ばしていく。さらっと同盟相手って言われたけど、今回は依頼なんですが。

 

「ユーくん何持ってきたの?」

 

「武器」

 

 連隊の皆さんが手に取っているのは、一見するとただの旧式拳銃であるルガーP08だ。

 実際は簡易の魔術式を埋め込み、引鉄と魔力を込めるだけで魔術が放たれる魔導具、『タスラム』。 最近は使ってないが、俺もメインで使う武器の一つだ。

 

「うわ、ユーくんとは思えない色気のなさ!?」

 

「元々ねえよそんなもん、お前だって食い気じゃねえか」

 

 リサと一緒に和菓子セット(自作)持ってきてただろ。

 

「女子力アップ間違いなし!」

 

「ほぼ作ったのリサだろ」

 

「あら、美味しいわねこれ。私達でも食べやすいよう調整されてるみたいだし……リサ、腕を上げたわね」

 

「は、はい。ありがとうございます、イヴィリタ様」

 

「理子をスルー!?」

 

 別にいいだろ、いつも通りだし「よくねー!!」うるせえ、耳元で叫ぶな。

 

 微笑みながら褒めるイヴィリタさんに対し、リサは少々ぎこちない表情で頭を下げる。

 

 そういえば、イヴィリタさんの曽祖父はイ・ウーの歴代艦長の一人か。関わりがあっても不思議じゃないが、リサが少し怯えた様子なのはーー

 

「……大丈夫、今更あなたの『力』があるからって、どうこうしようなんてないわ。こわーいご主人様もいることだし、ね?」

 

「凡百の武偵になんちゅう評価を下してるんですか、イヴィリタさん」

 

「あなたは凡愚の意味を辞書で引いた方がいいわよ?」

 

「ご主人様はリサが想像もできない凄いお方です! 自信を持ってください!」

 

「何でそこで勢いつくんだよ」

 

 俺の後ろに回ってから褒め殺しってなんだよ。イヴィリタさん「愛されてるわねえ」じゃねえから、その生温い目をやめてくれ。

 

「さて、旧交を温めるのはここまでにして、仕事の話に移りましょうか」

 

「生暖かい旧交だな」

 

 俺がイヴィリタさんの対面に、両隣に理子とリサが着席。カツェは俺達から右側に座った。座ってる面々を見ると、本気で作戦会議って感じだな。なんせーー

 

「ようパトラ。兄貴ーーいや今は姉貴か? どこにいるか知らねえ?」

 

「……妾が聞きたいくらいじゃ」

 

「あららー、振られちゃったかーパトラ」

 

「な、振られたなど変なことを言うでないわ峰理子!? 妾はキンイチのことなど何とも思っておらん!」

 

 顔真っ赤にして何言ってんだコイツなパトラ、

 

「この前砂占いしてたのはどこのどいつだった?」

 

「な!? カツェ、余計なことを言うでない?」

 

「あたしは誰がやってたなんて言ってないけどなー? ケケケ」

 

 ケラケラ笑いながらパトラをからかうカツェ、

 

「……」

 

 無言でこちらを見ている『眷属』の傭兵、弓と風の超能力使いでロビンフッドの子孫であるセーラ=フッド、

 

「……」

 

 そして同じく無言、ただしこちらは視線を下に向けている、黒髪ロングでストレートの髪と額に角を生やした、『鬼』の女性。

 

 眷属の主戦力勢揃いってとこだな。それだけこの話し合いは重要ってことか。

 

「さて、今回あなた達に依頼したいことなんだけど……ミス津羽鬼、お願いできるかしら?」

 

 津羽鬼、と呼ばれた鬼の女性は顔を上げる。その目は死人のように虚ろでありながら、内に怒りを秘めた奇妙なものだ。無力感とそれでも抑えられぬ憤怒、かね。

 

「紹介に預かった津羽鬼だ。今回の招集に応じてくれ、感謝する。

 ……本来であれば、私の上役である閻様が来る予定だったのだが……今は動けない状態のため、代役として私が参上した。申し訳ないが、ご了承いただきたい」

 

「動けない……つまり、やられたってことか?」

 

 カツェが信じられないといった顔で質問する。他の面々も同じような表情だ。

 まあ無理もないだろう。『鬼』は純粋な戦闘力ならとびぬけて高いし、眷属の切り札としても考えられていた存在だしな。

 

「……ああ。閻様と我等の主、覇美様が敵と交戦し、重症を負った。幸い一命は取り留めたが、しばらく復帰は無理だろう」

 

「鬼を動けないくらい重症にさせた……一体どのような妖の類なのじゃ? そやつらは」

 

「……妖ではない。いや、一人は妖の類だったが、主に戦ったのは術使いの人間の女だ」

 

「人間? ただの人間が……いや、ありえないことじゃねえな。どんな奴だ」

 

 何でこっち見るんだよカツェ、こっち見んな。

 

「……二つ結びの黒髪で、現代の寺子屋の制服? とかいうのを着ていた。妖は銀髪の女だったな、随分派手な洋装だった。

 名前は確か……人間は『魔剱』、妖は『雲居』と呼ばれていたな」

 

「『魔剣』……? ジャンヌが確かそう呼ばれておったか?」

 

「そりゃ潤達の所で事件を起こした時のあだ名だろ? 同じ名前だがーー」

 

「『魔剱』、立花・氷焔・アリスベル。『雲居』、獏」

 

「「「は?」」」

 

 俺が呟いた二つの名前に、周囲の視線が一斉に集まる。何で分かるんだって顔をされるが、続きを口にしたのは理子だ。

 

「アリスベルは『魔女狩りの魔女(マツギハンターマツギ)』とも呼ばれる現代の魔女だねー。最近の活躍だと四月から神奈川の居鳳高で行われた鳳戦役と、主武器でもある環剱探索かな? 確か獏のお母さんが作ったものだったっけ。

 ちなみに『魔剱』は武器の環剱から取ったものだろうから、漢字違いだと思うよ? 日本語って面倒だよねー」

 

「……待て、待て待て理子。『魔剱』なんて名前を聞いただけで、なんでそいつが出てくる? そもそも、魔剣なんて通称は珍しくもないだろ」

 

「『魔剱』は確かにそうだが、『雲居』は心当たりがあるんだよ。

 貘雲居昇時得(ばくくもいのぼりのときえ)ーーある妖の官女に与えられた号だ」

「……! まさか、『心喰らい』の獏か!?」

 

 津羽鬼さんが驚いた表情になる。さすがに知ってるか、有名だろうしな。

 

「ご名答。そして獏に関して俺達は二つの情報がある」

 

「一つは、封印された時の影響で立花家との『契約』に縛られている。まあ、これはもう解約されてるかもしれないけどねー。

 で、二つ目。長年封印されていた獏は一年前くらいに封印を解かれて、立花家の娘と行動を共にする姿を目撃されているんだってー。

 ちなみに封印を解く少し前に、アリスベルは中国で両親を殺されているらしいよ? 特徴も黒髪ツインテールの少女で共通してるねー」

 

「……よく調べてるのう」

 

「情報は戦闘の優位に立つ必須のものだからねー。というわけではい、これが魔剱の情報だよー」

 

 背中から出した紙束を渡され、カツェ達は微妙な顔になる。人肌でぬるくなってるからな、そりゃ嫌だろう(違)

 

 それまで黙って聞いていたイヴィリタさんは、俺達に笑顔を向けて口を開く。

 

「流石ね、潤君に理子さん。正体が曖昧だった相手の情報を掴めただけでも、あなた達を引き入れて正解だったわ」

 

「確定情報ではないけどな。これまでの行動と津羽鬼さんの話を含めて、的中率は85%ってところだ」

 

「そこまでの信用度があれば十分よ。さて、そんなあなた達に追加の情報なんだけどーーつい先日、『魔剱』と『雲居』が欧州で目撃されたわ。『師団』と一緒に行動しているのもね」

 

「つーまーり、鬼もぶっ倒した異能使いを退治しろと?」

 

「別に倒す必要はないわ、極東戦役からご退場してくれるのなら、戦闘でも交渉でも一向に構わなくてよ。

 ねえ潤君、何か策はないかしら?」

 

「なんで俺に聞きますかねえ」

 

「あら、あなたの作戦は信用できるってカツェから聞いてるわよ? 期待してるわね」

 

「うっうー! ユーくん、ここはお姉さんの期待に応えるべきでしょ!」

 

「モーイ! ご主人様の素晴らしさは、既にナチスの皆様にも知れ渡っているのですね!」

 

「プレッシャー掛けてくれますねえお前ら!?」

 

 リサはいつも通り素だろうけど!? 最近この態度ががブースター掛けてるって理解したよチクショウ!

 

「あー……じゃあ、俺からなんだが」

 

 俺が口にすると、イヴィリタさんは少し悩ましそうな顔になる。

 

「……それだと、あなた達にリスクが高すぎない?」

 

「逃げ足としぶとさは定評があるから大丈夫だよ、俺達は。

 仕事はしっかりやるから、報酬の色金、忘れないでくれ」

 

「ええ、それはもちろん。さて、今後の方針も決まったことだし、食事にしましょうか?」

 

「待ってました!」

 

「ジャーマンポテト食いたい」

 

「あ、ご主人様、イヴィリタ様。リサもお手伝いしてよろしいでしょうか?」

 

「もちろん、あなたが手伝ってくれるなら、ウチの子達も喜ぶわ。あなたの好物であるオリボーレン(オランダのドーナツ)も用意してあるから、存分に堪能してちょうだい。

 ああ、潤君と理子さん。あなた達は何か食べたいものある?」

 

「「甘味」」

 

「ふふ、仲がいいわね。シュネーバル(クッキー生地っぽいのを油で揚げ、砂糖などでコーティングしたお菓子)でも用意させましょうか」

 

 やったぜ。俺と理子は一緒にガッツポーズを取って、イヴィリタさんに苦笑された。甘味は命よりも重いんだよ(真顔)

 

 

「遠山潤」

 

「ん? ああ、セーラ=フッドさんか。俺に何か? 策に不満や不安があったなら、受け付けるが」

 

「違う、少なくとも私に不利益はないし、文句をつける内容でもない。あなたに警告をしに来た」

 

 夕食後、このあとパーティーがあるからと腹ごなしの運動代わりに散歩をしていたら、夕飯時も黙ってブロッコリーをモリモリ食っていたセーラ=フッドさんが俺にコンタクトしてきた。

 

「私は『巨視報(マクロユノ)』持ち。死期が近いものの未来が視え近い相手には伝えるようにしている」

 

「『巨視報』、未来視の魔眼に近しい類のものか。で、俺の死期が見えると?」

 

「そう。明日の夜」

 

「ーーへえ。それはそれは」

 

 明日の夜。それは、イヴィリタ長官が告げた作戦決行日だ。

 

「つまり、俺は明日死ぬと?」

 

「……本来なら、私が告げる相手の確率は100%到来する、はず……」

 

「はず?」

 

「……あなたから視える運命は、揺らぎのようなものを感じる。そのせいで、私は私の予報に確信を持てない。こんなことは初めて」

 

「……ああ、なるほどな。別に気にする必要はないさ、俺は運命干渉や予知を『遮断』する術式を施してるからな。

 ……しかし、それでも『視えて』しまったのかあ。こりゃ、久々に死ぬ思いをするかもなあ?」

 

「……何故、笑っている?」

 

 くつくつと声を漏らしていたら、セーラさんが変化に乏しい顔を僅かに歪めている。引かれてる気がするのは気のせいだろう。

 

「いや何、備えは十二分にしようと思ってな。教えてくれて感謝するよ。

 そうだ、こいつは礼とお近付きの印ってことで」

 

「……!? こ、これは」

 

「品種改良されたロマネスコ(ブロッコリーの一種)だ。以前伝手で手に入れた「これはもう返さない、いや返せない」はえーよホセ」

 

 お目目キラッキラしてるぞ、そんなに好きか。

 

「……何かあれば一度、無償であなたを助ける」

 

「いやそこま「またも女の子を口説いてるユーくん発見!」オイ人聞きの悪いこと言うなアホ理」

 

 言ってる途中で、両手両足を魔女連隊の皆さんに掴まれた。オイ何すんだHANASE!

 

「くふーふふ、さあユーくん、お着換えの時間ですよー?」

 

「待てや、女装はさっき拒否しただろうが!?」

 

「そーんな言葉を理子が受け入れるとでも思ったかー!?」

 

「大丈夫だ潤、もうリサが更衣室で準備完了してるぞ」

 

「後は覚悟だけです!」「遠山様の女装姿、とても気になります!」「出来次第ではお姉様と呼ばせてください!」

 

「好き勝手言ってくれますねえアンタら!? ちょ、セーラさん今助け」

 

「冥福を祈る」

 

「オオオオイ!?」

 

 祈んないで助けて!? というか助けるのって任意じゃなくてアンタの意思かい!?

 

 結局拘束から抜け出せず、理子と俺でArcae〇セットをやらされる羽目になった。おまけに即興で舞踏用にピアノアレンジした曲を連奏させられる羽目になったよチクショウ!

 

 好評だったせいで「素晴らしかったわ、次もよろしくね?」ってイヴィリタさんにも褒められたけど、やらんわもう!(フラグ)

 

 

「オメーは毎度毎度強制女装させやがって……この口か、ろくなこと言わないのは」

 

「むいー。ふぃこふぁふくぬぁーい」

 

「お前以外に誰が悪いんだよタコ。……どうした、リサ」

 

「ご、ご主人様、リサに理子様と同じことをしても、大丈夫です……」

 

「そんな覚悟完了みたいな顔しなくていいから」

 

 お仕置きする趣味なんてねえよ。

 

 準備だの作戦の調整だの(理子の)暴走で過ぎた翌日の夜、俺、理子、リサの三人はベルギーの首都、ブリュッセルの街中を歩いていた。魔剱の最終目撃情報がここだったからな。

 

 さて、俺が提案した作戦だがーー簡単に言えば、『釣り』だ。俺達三人が囮となり、予め定位置についてもらったカツェ達と魔女連隊を配置し、一斉火力で焼き滅ぼす。

 

 策としてはシンプルだが、監視位置の死角を潰す配置にしたし、逃走ルートの想定もしたから、即席の準備としては悪くないと思う。戦術・戦略指揮官として高い能力を持つイヴィリタさんが太鼓判を押してもらったしな。

 

 ちなみに囮役は俺と理子の二人で行くつもりだったが、

 

「リサも一緒に行きます! 囮というならリサは適任ですし、いざとなればあの力も……」

 

 と、リサがごり押しで参加してきた。俺は反対したけど強情に首を横に振り、役に立ちたいと言われ、最終的には泣き落としに入り、

 

「自分の女一人くらい、守ってあげなさいな」

 

 というイヴィリタさんの発言により、やむなく参加させることになった。いやあ、あの時の周囲から向けられた目の生温いこと。

 

「……」

 

「ん? どしたのユーくん?」

 

「……いや、津羽鬼さんの言ってたことが、まだ引っかかってな」

 

「……そんなに? ユーくんも納得したんじゃなかったの?」

 

「ああ、理屈としては納得できる。……出来るんだが」

 

 閻様と覇美様の強靭な皮膚が安々と破られ、いつの間にか切り裂かれていた。彼女は、自分の上役達の敗因をそう語っていた。

 

 無論、環剱という鋭利な武器を持っている魔剱なら、出来ぬ所業ではない。人間相手だから慢心していただろうし、鬼は生来の強さのせいで探知に関しては雑なところがあるからな。

 

 ……それでも、引っかかるものがある。魔術師が用いる手段に対し、理屈で納得してはいけないという経験則。そして感じる既視感ーー

 

 思考を回せ、状況を想定し、仮説を組み合わせろ。この感じる違和感は、何ーー

 

『ーー何、これも『予習』の一貫さ。君にとっては、見慣れているだろうけどね』

 

「ーーっ。そう、か」

 

 繋がった、推測に至った。かつて戦った、シャーロックの言葉ーー

 

「ーー!」

 

「わっ!?」「キャッ!?」

 

 虫の予感、第六感の類と呼ばれる本能の警鐘。普段だったら絶対に起こらないそれに従い、隣にいた理子とリサを突き飛ばす。

 

「アイテテテ……ちょっとユーくん、さすがにそれは、ひどーー!!?」

 

「理子様? どうされーー」

 

 視線をこっちに向けた理子は、目を見開きながら即座にワルサーを構え、その行動を訝しんだリサは、絶句する。

 

 ……良かった、二人とも無傷か。俺の勘という奴も、捨てたもんじゃないらしい。

 

 

「潤!!」「ご主人様!?」

 

 

 二人の悲鳴を耳にしながら、俺の両腕は根元から『斬られ』、宙を舞った。

 

 

 




後書き
 潤君ピンチの巻その2。藍幇編と違うのは両腕が吹き飛んでるのと、現在進行形でピンチのまま続くってことですね。

というわけではいどうも、ゆっくりいんです。いつもは一章毎にとりあえずの区切りを付けるのですが、今回はそのまま続く形となります。

さて、ここで一つ報告を。この作品における『やがて魔剱のアリスベル』ですが、時系列を少し弄っており、鳳戦役は潤がアリアと会ったのと同時期になっています。

 これは当作品の設定の都合とキャラの調整……もあるのですが、一番の理由は、

「あああ暦鏡周りの時間転移分からん! 頭おかしくなる」

 という、作者の頭の悪さのせいです(オイ)

というわけでここのアリスベル世界は原作と色々ずれていますが、まあこの作品だし……ということで、大目に見てやってくださいお願いしますorz

 さて、次回は欧州編第二幕の開催。作者個人として一番書きたかった、リサ編を混ぜたオリジナル要素マシマシの展開です。

……オリジナル展開なんて今更? いあいあ、今までと比較にならない部分が多数あるので。

 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。

 感想・評価・お気に入り等、いただければテンションが爆上がりして投稿頻度が早くなるかもしれません(真顔)


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『妖刃』編
第一話 二度と会いたくなかったなあ


 さて第十二章、『妖刃』編スタートです。外伝は諸事情によりお休みさせていただきますが、ご了承くださーー


潤「一気に進めたいっていう作者側の都合だろ。というかサブタイ、非々色金みたいに誤字じゃねえか!? ってツッコミ来るんじゃねえの?」

作者(以下( ゚д゚))「ここで言ってるからセーフ。あと裏事情は言わなくていいから。
 あ、潤も言ってますが誤字ではないです。『妖刕』とは別人なので」

潤「というか俺、絶賛大ピンチなんだが」

( ゚д゚)「四肢全損じゃないんだから、間違いなく安いでしょ」

潤「首が残ってる不思議」

( ゚д゚)「でしょ?」

ヒロイン達(そこまで!?)


( ゚д゚)「あ、セーラさん。潤の死亡率いま幾つくらいです?」

セーラ「……90%」

潤「ほぼ死ぬじゃねえか」

( ゚д゚)「10%は外れるで」


「潤!!」

 

「ご主人様!!」

 

 二人の悲鳴を聞きながら、斬られて舞う両腕を見上げるーー

 

「ーーっ」

 

 なんて余裕があるわけもなく、『認識できない』斬撃が再び迫る。腕を戻す暇もねえな、ったく。

 

 ……今の今まで『予測できなかった』なんて、対策されているだろうとはいえ、とんだ失態だ。それでもこの程度(・・・・)で済んだんだから、相当安い方か。

 

「っ、チッ」

 

 姿も音も軌跡すら認識できない、ある種暗殺者の理想と言える技術。未来予測を全力稼働させ、攻撃のコースを予測して回避を続けるが、俺の身体能力じゃ捌き切るのは不可能だ。

 

「ーーっ」

 

 知っている、俺はこれを、この殺しの技を、よく知っている。

 

 首の皮一枚を斬られ、肩を斬られ、腹を斬られ、足を斬られる。致命傷は避けているが、出血は免れず、治癒も追いつかない。

 

「潤!」

 

 理子が叫びながらワルサーを乱射しつつ、髪を使って爆発物ーー手榴弾を十個ほど一斉に、俺の前へ投げ付ける。

 銃口から吐き出されるのは鉛玉ではなく、圧縮された魔力の弾丸。それらは爆弾と『何もない』場所に着弾、爆発をーー

 

「っく、本当でたらめ!」

 

「理子、途切れさせるな!」

 

「分かってる!」

 

 起こす直前、その全てが『切断』され、爆発せずに無力化される。理子は舌打ちしながらも弾幕を切らさず、俺も魔術で死角部分をカバーしながら、

 

「カツェえ! 撃て、俺達ごと撃てぇ(・・・・・・・)!!」

 

 血みどろになりながら、俺は待機しているカツェ達に大声で叫ぶ。

 

 

 斉射(feuer)!!

 

 

 間は一瞬。各属性の魔弾、水流、砂の刃、弓ーー眷属側の援護射撃が俺達も巻き込んで、一斉に降りかかりーー再び、『切断される』。が、今ので攻撃できる位置が予測できた。

 

「「そこぉ!」」

 

 予測場所は全く同じ。俺の眼前に出現した魔術陣から放たれた閃光と理子の魔弾が、50m程離れた場所に着弾した(・・・・)

 

「……当たった、か?」

 

「……いや、掠っただけだ。それでも充分だがな」

 

「……」

 

 煙が晴れ、立っていたのは藍色の着物の上に黒い、ナチスのSS士官が着用するものに似たコートを羽織い、癖のない黒の長髪を腰まで伸ばした、人形を想起させる完全な美の持ち主。

 

 十人中十人が絶世の美少女と答えられる容姿の持ち主。僅かに裂かれた頬から流れる血すら美しく感じさせるその姿で、鋭利な瞳をこちらに向けている。

 

(おぞましいほどの美しさ、とは誰が言っていたかね)

 

 だが、俺は知っている。絶世の美を持ちながら、こいつは男だということを。何故ならーー

 

「久しぶりだなあ、『氷帝』。いや、この呼び名はもう古いな。元相棒って呼ぶべきか?」

 

「……」

 

 俺の言葉に、死んだはずの家族であり元相棒の魔術師、■■■■は何も答えず、治癒魔術で傷跡が消えると再び気配が消え、『認識できなくなる』。

 

「ちいっ!」

 

「くっ!」

 

「ーーそこまでです、『妖刃』さん。これ以上、遠山さんを傷つける必要はありません」

 

「ーー……」

 

 そこで割り込んだ第三の声に、『妖刃』と呼ばれたこいつは俺の首元に刃を添えた状態で、停止する。

 

 あと少しでも動けば、俺の首は両腕と同じ運命になっていただろう。やれやれ、相変わらず出鱈目な『遮断術』だ。

 

「……こいつは、半端に生かさない方がいい。首を跳ねた方が、賢明だ」

 

 鈴の鳴るような透き通る声で、物騒なことを提案してくる。そこに殺気もなければ、感情の揺らぎもない。こりゃ洗脳されてるとか別人格でもないな、完全に本人だ。

 

「ーーっ。両腕を失った時点で、彼に勝ち目はありません。無駄な殺生は控えてください」

 

 元相棒の言葉に、第三者ーーメーヤさんは怯みながらも毅然とした声で止めるよう告げるが、

 

「ーーモーレツに甘いです、シスターメーヤ。『妖刃』君の言う通り、首を落としたくらいでも足りませんよ、彼は」

 

 メーヤさんの言葉に待ったをかけたのは、円月輪のような武器ーー環剱を携えた黒髪ツインテールで制服姿の少女、『魔剱』。勝気そうなツリ目を、油断なくこちらに向けている。

 

「……魔剱さん、あなたもですか。両腕を失った彼への対応が、甘いと言うのですか?」

 

「逆に聞きますが、『妖刃』君の攻撃を腕が無い状態で凌いだ彼が無害だと?」

 

「……ですが、もう勝敗は決したも同然です。私が止めなければ遠山さんは死んでいたでしょう。

 妖刃さん、もう一度言います。武器を収めてください」

 

「……」

 

 再度言われ、妖刃は無言で刀を収めて距離を取る。『自爆』の術式に巻き込まれるのを避けて下がったな、こいつ。死ぬ気はねえからやらねえっての。

 

「遠山さん、降伏してくださいませんか? 師団の皆さんには私が口添えしますので、悪いようにはしません。それとも、まだ抵抗を続けますか?」

 

 メーヤさんは憂いを含んだ表情で、こちらに問い掛けてくる。その目からは、本気でこちらを案じているのだろう。

 

 なるほど、性質が悪い。

 

「ーーいやいや、この状況で勝てると思うほど、俺はバカじゃないつもりだ」

 

 包囲を完成させたシスター達を見ながら、降参の意を示そうとして両腕が無いことに気付き、肩だけ竦めるのに留める。

 

「……潤」

 

「理子もまあ、武器を下ろせって。殺されないならマシだろうよ、異端審問にかけられないことを祈らないといかんが」

 

「……そんなこと、しませんよ。あなた達は魔女でもなければ、異端者でもないのですから」

 

 そりゃ良かった、と安堵の息を吐く。現代でもろくでもないの多いからな、異端審問は。

 

「それでは、遠山さん、峰さん」

 

「そうだな。理子」

 

「ああ、もちろんーー」

 

 

「「退かせてもらう」」

 

 

「ーーえ?」

 

「……」

 

「やっぱり」

 

 俺達がそう言うと同時、メーヤさんは困惑の声を出し、妖刃は刀に手を掛け、魔剱は溜息を吐きながら環剱に魔力を注ぎだす。

 

「残念、もう準備済み(・・・・)だ」

 

 血液を失った青い顔で、それでも俺は連中を笑ってやり、

 

「虚陣」

 

 

 斬られた両腕(・・・・・・)に手を開かせ、カバラ・ルーン・マントラ・九字ーー俺が知るあらゆる魔術式を含んだ陣が展開され、

 

「ーーあ」

 

「ーー」

 新月の空を暴力的に照らす、光の帯がこちらに落ちてきた。

 

 地表を貫かんとする白の暴力。そんなものを想起させる魔術にメーヤさんとシスター達は呆然とし、妖刃は視線を上に向け、

 

「刺髪!」

 

「はあ!」

 

 理子が俺に合わせて硬質化させた数千の髪を伸ばし、魔剱も魔術式を起動させて迎え撃つ。予測より反応がいいな。

 

「虚壁」

 

 妖刃が一言詠唱を口にし、眼前に巨大な氷の壁を出現させて防ぐーー

 

「散」

 

 直前、光の帯は八つの光弾に分散し、氷の壁を避けて再度地上に降り注ぐ。

 

「……」

 

 が、妖刃はそれを通すほど甘くない。氷の壁を足場に跳躍し、分散直後の光弾へ向けて刀を振るう。

 

「きゃーーあ、え?」

 

「……」

 

 悲鳴を上げようとしたメーヤさんが呆然とするのも無理はないだろう。抜刀・納刀の音すらなかったのに、光弾は切断されて消えたのだから。

 

 だが、時間は稼げた。あとはーー

 

『ご主人様! 理子様!』

 

 リサの思念が飛んでくる。と同時、路地裏の方から全長3mを超えた巨大な白い狼ーー幻視で『命の危機』と『満月』を視たリサ改め、『ジェヴォーダンの獣』が飛び出してきた。

 

 妖刃と魔剱が硬直した僅かな隙を突き、リサが俺を咥えて背中に乗せ、理子が跳躍して飛び乗る。

 

「リサ、速度緩めるな! そのまま突っ走れ!」

 

『は、はい!』

 

「にーげるんだよおー! バッハハーイ!!」

 

 動揺しているシスター達を飛び越え、ブリュッセルの街を巨狼が疾走する。建物の上に目を向けたら、俺達が離脱してすぐに二度目の斉射したカツェ達が、撤退を始めた。賢明だな、パトラだけ意地を張ったのか無理矢理引きずられてるけど。

 

 あ、両腕回収しておかないと。

 

「ユーくん、両腕浮かんでるのエグくない?」

 

「文句ならあいつに言え」

 

 切断面綺麗だけど、概念魔術相当の攻撃だからくっつけるの手間なんだよ。

 

「……さて、逃げろや逃げろ」

 

 行き先は事前に念話で指示している。ディアマン通りにあるブリュッセル石工組合会館ーーエルが教えてくれた、リバティーメイソンのロッジだ。

 

 

「……」

 

 相も変わらず、呆れるほどの分析力だ。走り去っていく巨狼を見ていると、横で魔剱ーーアリスベルがこちらに近寄り、肩を竦める。

 

「見事に逃げれられましたね。どうします? 妖刃君」

 

「どうもこうも……俺達は傭兵だ。依頼主の指示なしで勝手に動くのは、まずいだろう。

 ……で、メーヤ・ロマーネ。どうするんだ?」

 

「……っ」

 

 忠告を無視し、おまけで命の危機に晒されたメーヤ・ロマーネは、血を流すほど唇を強く噛んでいる。手を伸ばしたのに裏切られ、怒りに震えているのだろう。

 

「……妖刃さん、魔剱さん。今から追えますか?」

 

「私は……あの速度では、ちょっと難しいですね」

 

「俺は問題ない。……もっとも、リバティー・メイソンの拠点に着かれるまでだが」

 

 巨狼の速度と目標までの距離から、接敵は二度が限界だろう。リバティー・メイソンが自分の『現在の上司』の影響外にある以上、下手に手出しは出来ない。先の戦闘で『得た』情報から、あれはそう結論付けたのだろう。

 

「……妖刃君、なんだか楽しそうですね」

 

「……そんな顔、していたか?」

 

「いえ、顔はいつもの不愛想ですよ。ただ、そんな感じがしたので」

 

「それは、悪かった」

 

「……別に、謝ることではないですよ」

 

 そう言いながらも面白くないのか、アリスベルは不貞腐れた顔だ。後で機嫌を取らないとな、と考えながら口を開く。

 

「俺は追う。アリスベル、あれは任せた」

 

「! ええ、了解です。取り逃しちゃいました分には足りませんが、モーレツに刻んであげます」

 

 と思ったら、頼まれて機嫌良さそうに切断された光弾ーーが変じた、二枚羽の天使に向けて環剱を向ける。

 気難しいが、分かりやすいな。そんな風に今のパートナーを評しながら、敵ーーかつての相棒と、その現在のパートナー、巨狼の三人を追跡するために姿を消した。

 

 

「ユーくん、カツェ達は撤退したみたいだよー。手ぇ出すなよ、フリじゃねえからな!? ってのも伝えたけど、大丈夫かなあ?」

 

「フラグメッセージだが、問題ないだろ。イヴィリタさんを含めたナチの連中は、あいつの厄介さを理解している。

 少なくとも、十全の準備を整えてからーーうげ」

 

『ご主人様、どうしました?』

 

「……リサ、これは主人としての命令だ。到着するまで絶対振り返るな、じゃないと全員死ぬ」

 

『え?』

 

「返事! あと加速!」

 

『は、はいぃ!!』

 

「理子!」

 

「もう準備してる!」

 

「ヨシ!」

 

「この状況でよくふざけられるなお前!?」

 

「ふざけてねえとやってられねえんだよ!」

 

「なるほど納得!」

 

 納得されたので俺は、背後ーーほんの僅かだけ感じられる、急接近する気配に向け、魔術陣を展開する。腕くっつける暇もねえなチクショウ。

 

「潤、どれくらいもたせればいい!?」

 

「最低一分、接敵予想は二回! 死ぬ気で避けて防げ!」

 

「オーライ相棒! おりゃあああ!!」

 

 両手に一丁ずつ構えたウィンチェスターM1887ーーショットガンを乱射する理子。俺も数十の魔術陣を展開させ援護をするが、距離は離れるどころか縮まる一方だ。雀の涙程度には遅らせてるけどな!

 

「理子、弾幕張れ! 魔術も同時展開!」

 

「潤、ほとんど当たってない上に有効弾斬られてるんだけど!?」

 

「やらねえよりマシだ! とにかくうちまーーチィ!」

 

 いつの間にか追いついて刀を振るう妖刃に対し、無詠唱の三重概念ーー『遮断』、『拒絶』の二重魔術ーーで防御ーー

 

「あ?」

 

「よし、防いだ! 潤、もう一回いけるか!?」

 

「腕ないのと供給追いつかないから無理だ! 理子、頼む! 最低三重!」

 

「キッツイなあもう!」

 

 妖刃がダメージを嫌って追撃がないだけマシだよ、いやマジで。

 

「ーー」

 

「接敵!」

 

「ーー『デマント(拒否)』!!」

 

 理子が展開した概念防御の魔術は、妖刃の斬撃と相殺されーー

 

「ーー」

 

「あーー」

 

「ちい!」

 

 しかし十分に距離を取れず、二刀目の斬撃が迫る。間に合わなーー

 

「ーーっ」

 

 が、理子の背後から雷撃が放たれ、奇襲を喰らった妖刃は切り伏せながらも、空中での勢いを失った。

 

「……ナイスタイミングだ、ヒルダ。助かった」

 

『礼はいらないわ、遠山。理子に手を出すものは、誰だろうと手加減しないのだから』

 

『ご主人様、見えました!』

 

 リサの思念に千里眼で背後を視ると、目的の建物が見えた。そして事前に連絡を取っていたエルが、驚いた表情ながらもこちらに手を振ってくれる。

 

 妖刃はーー

 

「……よし、追ってきてないな。気配が遠ざかった」

 

「すげーほっそい気配だけどね……い、生きてて良かった……」

 

 隣で立っていた理子が、緊張を解いてリサの背中にへたりこむ。交戦時間は二分にも満たなかったが、こんなに短時間で命の危機に晒されたのは久しぶりだよチクショウ。

 

「まったく、想定する中でも最悪な部類の相手だな……まあ、まだ対処できる範囲になってくれてたから、良かったよ」

 

「アレでまだ対処できる範囲なの……?」

 

「範囲ですとも」

 

 高速移動中とはいえ、多少なりともあいつの気配遮断を『感知できた』んだから。

 

 

「……逃げられた、か。あいつが育てたパートナーも、十分脅威だな」

 

 

 おまけ

「ジュン、理子、大丈夫だった!? それと、この狼はーー」

 

『うきゅう……』パアアアア

 

「え、リサ!? あの狼はリサだったのかい!? 目を回してるけど大丈夫か!?」

 

「緊張と魔力消費で目を回してるだけだから気にしないでくれ、エル。中まで担いでくれると助かる」

 

「あ、ああ分かっーーってジュン、君両腕が!?」

 

「あーうん、その辺も説明するから中に入れてくれ。まずないだろうが、『魔剱』や『妖刃』の追撃があるかもしれんし」

 

「『魔剱』……!? わ、分かった、すぐ開ける!」

 

 

 




用語解説
ジェヴォーダンの獣
 オランダに伝わる伝説の獣にして、リサが持つ特異体質。元々は発動すると暴走させていたが、潤との特訓で条件を満たせば人狼か巨狼形態に任意で変身し、暴走もしなくなった。

 戦闘能力は(本人の性格から)無いに等しいが、移動速度と耐久力はずば抜けている。

 ちなみに服は魔力で体毛になっているため、解けても裸にはならない。裸にはならない(大事なことなのでry)
 

あとがき
 というわけで、地獄のチェイスでした。イメージとしては新宿特異点のワンコとバイクの追いかけっこを想像していただければ。役割が逆転してるのと、バイク側は生身でしたが(白目)

 はいどうも、ゆっくりいんです。潤が両腕斬られてあっちこっちも斬られましたが、愉快な仲間達はなんとか生き延びました。良く生きてたなホント(オイ)

 次回からはVS妖刃・魔剱のための逃亡・準備タイムです。さて勝てるのか? 私は全く構想が浮かびません(マテ)

 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。

 感想・評価・お気に入り等、いただければテンションが爆上がりして投稿頻度が早くなるかもしれません(真顔)



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第二話 逃げろや逃げろ、そして準備だ

 ここでネタバレを一つ。

 『妖刃』は原作の『原田静刃』ポジションにいる別人です。というかこんな妖刕( ゚д゚)いてたまるか(←用意した奴)

 立ち絵イメージですが、私のTwitterプロフ絵がイメージです。興味があればご覧ください。
 
 
セーラ「作者」

( ゚д゚)「はい? 何でしょうセーラさん」

セーラ「今、75%」

( ゚д゚)「峠は越えましたね、ありがとうございます」

理子「十分高いんだよなあ」


「あー……これ、新しく生やすより縫って再接合した方が早いか」

 

「ご主人様、リサがやります! 縫合セットも用意しました!」

 

「ユーくん塗り薬いるー? くっつくの早くなるよー」

 

「いやそれ接着剤じゃないか峰さん!?」

 

「ちゃんとした塗り薬なんだよなあ、これ」

 

「嘘ぉ!? ケースが日本のホームセンターにありそうなので紛らわしいんだけど!?」

 

 本当だよな、ぱっと見木工ボンド用のだし。なんでこんな見た目かって? 理子の趣味(真顔)

 

 というわけでどうも、遠山潤です。前回は死の危機に瀕してたから自己紹介忘れたわ、よく生きてたな(白目)

 

 妖刃とのデスレース後、現在はリバティー・メイソンの拠点に匿ってもらって、治療の最中だ。出血を止めて造血もしてるんだが、腕の再接続が手間なのよな。拾っておいて正解だった、足止めに自爆させようかとも思ってたけど(真顔)

 

「ん、んう……はあ。ご主人様、治りました。どうでしょうか?」

 

「……なんか、リサが魔術使う時のボイスエロくない? どうですかユーくん、ルーちゃん(エルの愛称)」

 

「真面目に治療してる奴に何言ってるんだエロ魔人」

 

 あとエル、顔を赤らめて「えっと……」とか言ってると、肯定してるも同然だぞ。

 

「失礼。遠山潤、峰理子、リサ・アヴェ・デュ・アンクのお三方で間違いないか?」

 

「ん? ああ、合ってるよ。初めましてカイザーさん、リバティー・メイソンの優秀な殲魔士(エクソサイザー)に出会えるなんて、光栄だ」

 

「……ワトソン君に聞いていた通り、いい耳をしているな。こちらこそ、イクスカリヴァーンを普通郵便で送る優秀な武偵に出会えて光栄だ、ジュン」

 

 まだその事音に持ってるのかよ、細かいこと気にするとモテないぞイケメン(適当)

「必要なもんが帰ってきたんだから別にいいだろ」(真顔)

「……まあ、まあいい。その辺りの話し合いは、後でじっくりしよう。

 とりあえず、消防や警察への対応は任せてくれたまえ」

 

「あー、悪い。腕ぶった切られたのと逃げるのに必死だったから、そこまで気を回せなかった」

 

「君にそこまで言わせる相手なんて……ギリシャの神々でも出てきたのかい?」

 

「しがない武偵をどんな目で見てるんだエル。

 ……まあ個人的には、そっちの方が良かったかなあ……」

 

 本気なのか冗談なのか分からない言葉に、俺は溜息を吐く。神なら神殺しの武器を使えるから、対抗策はあるからな。いやあっちは当てればいいけどさ、当てれば(白目)

 

 二人が興味深そうにこっちを見ているが、聞かない方が胃に優しいぞ? 言うけどな(ゲス顔)

 

「魔剱の相方は『妖刃』と呼ばれてた。『氷帝』の方が分かりやすいか?」

 

「「……は?」」

 

 エルとカイザーの口から、異口同音の疑問。気持ちは分かる、俺だってこんなこと言われたら同じ反応するし。

 

「えっと……ジュン、血を失いすぎておかしくなったかい? 高級ホテルほどじゃないが、休める場所なら用意するよ」

 

「おう妄想に囚われた可哀相な人みたいな扱いやめーや」

 

「可哀相扱いはよくされるんじゃない? ユーくんは!」

 

「お前それブーメラン」

 

 白けた視線と可哀相なものを見る目を向けられるナンバーワンだろうよ、理子は。

 

「……冗談だとしたら、流石に笑えないのだが」

 

「冗談でこんなこと言えねえよ。直前まで認識できなかったから、このザマだ。

 ああそうだ、カイザー。もみ消しはやらなくていいと思うぞ。あいつの飼い主なら、片手間でやってくれるだろうし」

 

「……『氷帝』単独ではなく、飼いならしている組織があると?」

 

「制御できているかは分からんがな」

 多分できてるんだろうが。口には出さず、俺はあいつと相対した時の姿を脳内に描く。

 あやめの花を模した髪飾りの代わりに付けていた、新しいもの。あれが意味するのは一つ。

 

「剣型のフルール・ド・リス。……あんたらなら、俺達より馴染み深いだろ?」

 

「……!?」

 

「まさか……西欧財閥!?」

 

「見間違いではないぞ」

 

 エルとカイザーは絶句している。無理もないよな、事実なら相手が悪すぎる。

 

 西欧財閥。名の通り西ヨーロッパを中心とした財閥が統合したことで出来た欧州の一大組織であり、代表の発言権は『EU全体の総意と同等』と言われるほどであり、これは比喩でも何でもない。

 

 また魔術・教会関係の各組織とも太いパイプを持っており、表だけでなく裏にも影響は大きい。私兵の下部組織も相当数あるからな。

 

「……なるほど、なるほどだ。あちらが関わってくるなら、下手に動かない方が賢明か」

 

「でもユーくん、『氷帝』ーーあーいや、この呼び方はやめた方がいいかな?」

 

「そうしておけ」

 既に捨てた通称だろうが、魔術的の名を連呼するとろくなことがないからな。あれは物理的に害を及ぼすタイプだが、ホラーものの怨霊よろしく(白目)

 

「えーと、『妖刃』くんちゃんは財閥のワンコになるような子なの? ユーくんから聞いてたキャラとは、だいぶ違うんだけど」

 

「お前命知らずだな。本人の前では言うなよ、首が飛ぶ」

 

 あいつをくんちゃん呼びした奴なんて初めてだよ。「ほーい」とか言ってるけど、どこまで分かってるんだか。

 

「金や権力で転びはしないだろうな。大方命を助けられたとか、誰かの跡を継いだとかじゃねえか? あれで義理堅いところがあるからな」

 

「にゃーるほどにゃー」

 

「……あの、ご主人様。そうなると『妖刃』様は、やはり」

 

「ーー陣営が変われば、敵味方も変わる。友や相棒との殺し合いなんて、別に珍しくないさ」

 

「…………」

 

「そんな顔するなって」

 

 泣きそうな顔で目を伏せるのに苦笑しながら、頭を撫でてやる。よし、腕はちゃんと動くな。リサの治癒魔術の腕も上がってるか。

 

「……ジュン、イチャついてるところ悪いんだが……」

 

「エルの言い方よ」

 

「その、勝てるのかい? 『妖刃』が君の元相棒だというなら、難敵というレベルじゃないだろう?」

 

「ぶっちゃけ至難。難易度はベリーハードというよりインフェルノ」

 

 即答してやったら、ええ……という顔でこちらを見てくるエル。しゃーないやん、真正面から俺があいつに勝てるわけないんだし。首が胴体とお別れするだけやで(真顔)

 

 かといって集団で襲っても、空を舞う首の数が増えるだけだ。

 

 『山の翁の暗殺術と、、NOUMINの剣術を足して割らない』って、妙な評価した奴もいたからなあ。的確過ぎて泣けてくる。

 

「正直、妖刃もそうだが魔剱も十分脅威だ。あいつと肩を並べられるくらいには、な」

 

「……それなら、どうするんだい?」

 

「今必要なのは時間だ。さっきの戦闘で情報は集まったから、備えを十全にする」

 

 置き土産の天使モドキを介して、魔剱の戦闘スタイル等の情報も得られたしな。引くくらい強いからどうしろとって感じだが(白目)

 

「つまり、リバティー・メイソンの皆さんに支援してもらうのが重要なのですよ!」

 

「タカる気かよお前」

 

「な、なるほど。それじゃあーー」

 

 

「ーー残念ながら、それは不可能だ」

 

 

「……カイザー? 一体何をしているんだ!?」

 

 会話中に連絡していたのだろう。リバティー・メイソンの他メンバーがロビーに集まり、集団の中心で俺達に銃を向けるカイザーの姿に、エルが非難の声を上げる。

 

「……ワトソン君、冷静になりたまえ。今彼等を匿うということは、かつての『氷帝』と西欧財閥を一遍に敵に回すのだぞ? それがどれだけまずいか、君とて分かるだろう。明日どころか次の瞬間には、ここが惨劇の場になっても不思議じゃない。

 ……それに、『妖刃』と遠山潤はかつてコンビであり、家族だった。水面下で繋がりがあると疑わない方が、無理があると思うぞ?」

 

 コウモリもいることだしな、とカイザーが忌々しそうにつぶやく。ふむ、本心ではないが冷静な判断力。組織人としては優秀と言えるだろう。

 

「っ、それは、確かにそうだ……悔しいがボク達が束になっても、妖刃には勝てない」

 

「分かってくれた「だが!」」

 

 カイザーの言葉を遮って顔を赤くし、組織の仲間に向かってエルは強く主張する。

 

「彼は、ジュンは王室の宝であるイクスカリヴァーをシャーロックの手から取り返してくれた! 英国紳士なら、その恩義を仇で返すというのは、あまりにもーー」

 

「はいエル、ストーップ」

 

 ヒートアップするエルに声を掛ける。これ以上は組織の人間としてまずいでしょうよ、今後の立場を考えろって。

 

「! ジュン、どうして止める!? ボクは、ボクだけじゃなくリバティー・メイソンも、キミへの恩義がーー」

 

「その気持ちだけで十分だよ、だから冷静になれって。

 仮に妖刃を倒せても、万が一西欧財閥が出てくれば問題はリバティー・メイソンだけじゃなくなる。お前もそれは分かるだろ?」

 

「ーーう、ぐ……なら、ボクだけでも! ボク個人として手伝うなら問題ないだろう!? 必要なら、リバティー・メイソンも抜ける!」

 

「ワトソン君、何を言っているんだ!?」

 

「恩人に報いることすら出来ず縛るなら、名誉と地位もボクは不要だ!」

 

「ワトソン君……」

 

 憤怒と決意を秘めた目を見て、カイザーも本気だと理解したのだろう、口を閉ざしてしまう。後ろにいるリバティー・メイソンの面々も困惑を滲ませている中、

 

 スパーン!!

 

「あいたぁ!?」

 

 エルの後頭部に、デストロイ君三号(ハリセン)を叩きつけてやった。

 

「ちょ、何するんだジュン!?」

 

「何じゃねえよバカヤロー。曲がりなりにも家に誇りを持つ奴が、簡単に捨てるなんて言うなっての。一時の感情で、積み上げたものが全部無くなるぞ」

 

「っ、ジュンはボクの援護などいらないと言いたいのか!?」

 

「んなわけねえだろ、お前個人でも大助かりだよ。だけどな、今必要なのはリバティー・メイソン構成員としてのエル・ワトソンだ」

 

「……どういう意味だい」

 

 少し冷静さを取り戻したのだろう、エルが後頭部をさすりながらも睨み上げてくる。引っぱたいたのは悪かったって。

 

「極東戦役が終わったら、師団と眷属で交渉の機会が必ずある。その時、『中立』を謳った俺達が交渉で少しでも発言権を持つには、組織に属し、関りを持つお前の力が必要なんだよ。

 お前個人としても、組織としてもが借りを返すならそん時だ。組織を危機に陥らせる可能性が高い、今じゃねえよ」

 個人()にやられたなら、メンツを潰さないためにも口出ししにくいしな。そう締めくくり、肩を竦める。

「……だが、それもキミ達が死んでしまっては意味がないじゃないか」

 

「だーいじょうぶだってルーくん。ユーくんのしぶとさは、ギャグキャラ並だから!」

 

「もうちょいマシな例えなかったのかオメーは」

 

 あとそれもブーメランだからな。

 

「……というわけでカイザーさん。腕も治ったし、俺達は出ていきます。後ろから撃たないでくださいよ?」

 

「それは誓ってしない、安心してくれたまえ。

 ……しかし、どうするのだ? 妖刃は付近にいるだろうし、外に出たら間違いなく襲われるぞ」

 

「そこはまあ、やりようですよ」

 

 逃げるだけなら難しくないし、こっちには理子(逃亡の達人)もいるしな。

 

「そうか。……すまないな、ジュン。恩人を追い立てる、不甲斐ない男で」

 

「襲われないだけマシなんで、お気になさらずー」

 

 背を向けて手を振る俺に、カイザーが苦笑する気配を感じた。どいつもお人好しだねえ、ただの同盟相手だというのに。

 

「ジュン……」

 

「そんな今生の別れみたいな顔するなって、エル。首だけになっても、生きて帰ってくるよ」

 

「その時は理子が腰にぶら下げて持ってくるねー」

 

「いえ、リサが丁重に持っていきますっ」

 

「……いや、それは下手なホラーより怖いから、五体満足で帰ってきてくれ」

 

「一本までは欠損を許してくれると助かる」

 

 大真面目にそう言ったのだが、冗談と思われたのか苦笑されてしまった。いやマジで五体満足なら奇跡の部類だぞ。

 

 

「…………地下水路か」

 

 リバティー・メイソンのロッジから出てきた潤達の魔力を辿り、気配を殺したまま妖刃は動く。コンクリートを斬り開き(・・・・)、地下へ着陸して疾走。すぐさま見つけた。

 

「ーー」

 

 抜刀。余人が見たら納刀の瞬間まで、認識すらできない居合の一撃は、並んだ三人の首をまとめて撥ねーー

 

「……」

 

 霧が散るように、幻として消え去る。

 

「と、妖刃君!」

 

「妖刃、やったか?」

 

「……いや、囮の幻影だった」

 

 遅れて地下に入った魔剱ーーアリスベル、と雲居ーー獏に首を横に振り、再び音と魔力を辿り始めるがーー

 

「!? 何だ、これは……!? あの三人の気配が、街中に感じられるぞ!?」

 

「どれも均一で、特定がし辛いですね……」

 

「魔力反応の、分散だ」

 

 気配を消すのではなく、増やすことで相手を混乱させる。奴の十八番と呼べる逃走術。

 

「……妖刃、特定はできるか?」

 

「俺の魔術の腕では、無理だな。あれが作る以上、魔力の気配も完全に均一だろう」

 

 潤という男の魔術は、一種偏執的なまでに精密で精巧だ。余人からすれば理解不能な領域でも、あれにとっては当然の範疇なのだから、おかしいものだ。

 

「……だが、何もしない訳にはいくまい。魔剱、妖刃。潰して回ってくれ」

 

「分かりました」

 

「了解」

 

 雲居の指示を受け、二手に分かれて行動を開始する。

 

(逃がしたか。……奴に時間は、与えたくないのだがな)

 

 発生源の魔力を切り裂きながら、妖刃は思う。厄介なことになりそうだ、と。

 

 

おまけ

「ふう。とりあえず、駅まで着いたな」

 

「いやー正面から堂々と出るとか、聞いた時はユーくんの頭がアレになったかと思ったけど」

 

「逆に考えるんだ、追い込んだ鼠だけど正面から逃げてやろうと」

 

「ヘルモーイ! 相手の思考を予測して裏をかく手腕、流石ですご主人様!」

 

「思い付いても普通やらないけどねー。それで、どこに愛の逃避行するのユーくん?」

 

「愛はいらんだろ。とりあえず、西欧財閥とバチカンの影響が少ない場所が候補だが」

 

「ご主人様、リサから提案があるのですが」

 

「聞こう」

 

「ありがとうございます。リサの故郷、オランダはいかがでしょうか?」

 

 

「……行ったね」

 

「ああ、行ったな。無事に帰ってきて欲しいものだ」

 

「おや、カイザーが初対面の相手を気にかけるなんて、珍しいね」

 

「ワトソン君にあそこまで言わせる相手なんだ、気にもするさ。

 ……少し、妬けるな」

 

「? 何か言ったかい?」

 

「い、いやなんでもないぞワトソン君!?」

 

 

「……んん?」

 

「どうした理子」

 

「いや、どっからか夾ちゃんと逆というか、決して相容れない匂いがしたような……あれかな、腐臭?」

 

「よし、触れないでおこう」

 

 




あとがき
 逃亡決行までで一話過ぎた、どういうことだってばよ(白目)

 どうも、ゆっくりいんです。リバティー・メイソンからも刺されそうになりましたが、ダメージなく逃亡成功しました。さすが潤君汚い、詭弁の達人なり(褒めてない)。

 さて、次回はオランダの逃亡先で反撃の準備です。イチャイチャ? (多分)ないです、真面目にやるはずです(多分)

 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。

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第三話 ここまでする必要はあるけどねえよ

 今回は先にお礼をば。

誤字修正をしてくださったシゲポン☆様、シニカケキャスター様、ありがとうございます!

改めて見ると、結構な誤字量で自分に引いてます()

そして評価と感想、お気に入りをくださる皆様、いつもありがとうございます! お陰様でお気に入り700件……こんな(ネタ的な意味で)谷しかない小説が


潤「感動してるならさっさと書け」

作者(以下( ゚д゚))「アッハイ。あ、そうだ潤」

潤「あ? 何だよ亀更新野郎」

( ゚д゚)「今回『変わって』もらいますので」

潤「………………お前マジで言ってる?」

( ゚д゚)「一番バレない方法でしょーよ」

潤「死ね」

( ゚д゚)「ストレート!?」


セーラ「作者」

( ゚д゚)「はい、セーラさん」

セーラ「65%」

( ゚д゚)「大分下がりましたね、ありがとうございます。ブロッコリー食べます?」
セーラ「いただく」モグモグ

リサ「まだ半分を切っていないので、心配です……でも、ご主人様ならきっと……!」


 ブリュッセルからオランダの首都、アムステルダム行きの電車内にて。

「律(りつ)ちゃん、エルくんちゃんから貰ってきたお菓子があるんだけど、いる?」

 

「……奪ってきた、の間違いじゃないの? まあ、いただくわ」

 

「文句言いながらも甘いものに目がないわね、律は」

 

 ……はいどうも、遠山潤です。皆さん予想してるとは思うけど、女装姿で逃走中ですたい(白目)

 

 普通に電車待ってたら、「よーしお着替えだー! ユーくんこれな!」と女装セットを渡され、女子二人にトイレに押し込められるとか……もう、何?(いつもの)

 

 格好だが、ナチスの拠点にいた時と同じものだったりする。俺が黒髪と黒いドレスを着込んだ目つきの鋭い少女、理子が白髪に白いドレス、赤いベレー帽を被った優しげな顔立ちの少女、リサは蒼い髪と切れ長の瞳を持つ、理知的な美人さんになっている。だから誰が分かるんだよ、このArc〇eaコスプレ。

 

 格好のせいで明らかに悪目立ちするから、個室付きの一等席に入り込んで食事休憩中だ。俺達逃亡中なんだよな(そうだよ)

 

 当然駅員さんには怪しまれたけど、理子の暗示(Not魔術、足が付くと面倒だからな)とリサの話術で誤魔化せたので、旅路は順調だ。俺? 女装(この格好)でトーク力なんか期待するなマジで(死んだ魚の目)。

 

 まあそんなこんなで電車は夜通し走っていき、特に襲撃もなくアムステルダムに到着。 寝ていたリサが謝ってきたが、ここまで怒涛の展開だったし、疲れて寝てしまうのも無理はないだろう。

「でも、律(潤のこと)も光(こう、理子のこと)も一睡もしてないのに、私だけ……」

 

「大丈夫だよ。私も律も、徹夜くらいでどうにかなる身体してないから!」

 

「徹夜の大半はあなたのアニメ鑑賞かゲームに付き合わされた結果だけどね」

 

 まあ妖刃達の襲撃に備えてたのもあるから、別に問題はない。

 

「それじゃあ、早速お部屋を借りないとね。どこがいいかなあ?」

 

「午前八時からやってる不動産屋なんてあるわけないでしょう。私はそれより、さっさと着替えたいのだけど」

 

「二人とも、ここには補給に立ち寄っただけよ」

 

「「ええー」」

 

「ワガママ言わないで、特に律」

 

「……え、私なの?」

 

 女装解除が定住地を探すよりダメって、どういうことよ(白目)

 

 

 そんなこんなで補給(九割食料品、というかお菓子)を済ませ、電車とバスを駆使して辿り着いたのは、かつて要塞都市であった田舎町、ブーダンジェ。アムステルダムに比べ人も少なく、静かな場所だ。

 

 気に入った、何より女装をしなくていいのが大きい(女子二人からはメタクソ抗議の声を上げられた、解せぬ)。

 

 リサが子供の頃に訪れたことがあるらしく、ここを選んだらしい。この辺りは俺も理子も拠点を持ってないし、大掛かりな組織の建物もない。よいチョイスだな、流石出来るメイド。

 

 なお、理子が「ロリリサ……これはこれで……!」とかほざいてたので、肘打ちで黙らせた。たまには落ち着けコノヤロー、ここは日本じゃねえんだぞ(そうじゃない)。

 

「……」

 

「ぬごごご……どしたの、ユーくん?」

 

「……いや、この後どうしようかと思ってな」

 

「? 女装リトライする?」

 

「それはない」

 

 ええー、と抗議の声を上げる理子を無視し、カプチーノで喉を潤す。多分、眉間にはシワが寄っているだろう。

 

「……どうしたものかね」

 

 拠点を探すリサを待つ間、俺は妖刃達に見つからない方法を思考する。……正確には、躊躇してるんだがな。

 

 

「わーひっろーい! 三人で住んでも余裕だねーくふふ」

 

「良い場所を見つけられました、これもご主人様のお陰です」

 

「いやなんもしてないから、リサが見つけてくれたんだよ。ありがとうな」

 

「ご主人様……本当に、ご主人様はお優しいです……リサの欲しい言葉をくださるのですから……」

 

「……あれ、理子置いてけぼり?」

 

「連鎖すると落ちてくるもんみたいなものだろ」

 

「おじゃま〇よ扱い!? ふざけろー理子ともイチャイチャしろーユーくんリサー!」

 

「ひゃっ!? り、リサもですか理子様!?」

 

「くふふふ、相変わらずいいもの持ってますなあ」

 

 理子が背後から抱き着いて、リサの柔らかい身体を堪能しているのは非常に百合百合しい光景だ。俺がお邪魔なんじゃないかね。

 

「オイケガさせるなよ理子、もししたら」

 

「くふふ、ユーくん程度の情熱では理子を止め「ホームズ姉妹にチクる」すいませんでしたあ!!」

 

 土下座とは潔いな、情けないけど(←間違いなく同じ反応するやつ)。

 

「とりあえず、俺は着替えてくるから」

 

「撮影は任せろバリバリー! ユキちゃんとめーちゃんにもバッチリデータを送るよ!」

 

「ご主人様、お手伝いします!」

 

「ちげーよ覗くなって言いたかったんだ。大人しく待ってろ特にそこの変態」

 

 二人揃って(´・ω・`)顔するなっての、野郎の裸なんか見てどうするんだ。

 というか理子はどこにそのデカいカメラ隠してたんだか。亜空間じゃなくて服の中から出てきたよなそれ。

 

「……はあ。やりたくねえなあ」

 

 これ自発的にやるとか、ある意味女装よりあれなんだけどな。……まあ、背に腹は代えられないかあ。無意味に死にたくはないし。

 

 

 はーい、りこりんこと峰理子ですよー……テンション低い? 当たり前じゃん! ツッコミ枠のアリアんも(割と)常識枠のユキちゃんもいない今この時がチャンスだったのに! 扉一枚隔てた先に(理子にとっての)ユートピアが待ってるのにいい!! 

 

 超複雑で固い結界とか張られたら、覗くことすらできないじゃん! ああああんまりだよ!!

 

 ……とまあ、脳内暴走しつつ大人しく(?)待ってるりこりんなのです。なえるわー……

 

「うーむ、ユーくん遅いなー……」

 

「ご主人様、まさか昨夜の戦闘の傷が……?」

 

「残ってるかもしれないね! よしリサ、ここは突入をーー」

 

「何バカなことを言っているのですか、あなたは」

 

「ーーほえ?」

 

 残念ながら突入は叶わなかったが、出てきたのは予想外の人物ーー腰まで届く赤味の混じった紫の髪、側頭部に短い三つ編み、切れ長の赤い瞳、ほっそりした腕とウエストに反して、制服のような落ち着いた色合いの服に包まれた豊満なバスト。膝上のミニスカートとニーソックスに包まれた絶対領域から見えるおみ足は、非常に柔らかそうでむっちりとした蠱惑的なーー」

 

「途中から口に出てますよ」

 

「総評、誰だこの白人とモンゴロイド系のいいところを詰め込んだすごい美人!? ありがとうございます!」

 

「……」

 

 ありがたやーと拝んでいたら、ゴミを見るような眼で見下された。残念だったな、理子にとってはそれもご褒美だ(ドヤァ)

 

「え、えっと、どなた様でしょうか? というか、ご主人様は? ご主人様はどこですか!?」

 

「……まあ、いきなりこんな姿で現れたら、驚きますよね。すいませんリサ、『潤の時点で』あなたには説明しておくべきでした」

 

「「?」」

 二人して首を傾げる。この美人さんは突然何を言っているのかな? 女装したユーくんなら魔力とか魂の形で分かるしーー

 

「ん? んん? いや魔力のパターンは違うけど、この魂を反転させた感じーーハッ!?」

 

 理子は今、恐ろしく素晴らしい事実に気付いてしまった。まさかユーくん、

 

「TS、だと……!?」

 

「察しが良くて助かります、理子。その単語は些か不本意ですが。

 私は潤の『陰』の部分ーー分かりやすく言うなら、『女性部分の人格』を基礎として肉体を変えたーー何をしているんですか、あなたは」

 

「いや、立派なものをお持ちなもので、つい」

 この感触と質感、ひょっとしてユキちゃんやリサに匹て「キュベレイ!?」こぶしが外にも内にも響いてクッソ痛い!?

 

「おおおおお、こっちのユーくんは容赦ねえですわ……」

 

「あなたのセクハラが度を越してるんですよ」

 

「だが理子はひかな「刻みますよ」こわ!?」

 

「ご、ご主人様? 本当に、ご主人様なのですか?」

 

「はい、あなたの主ですよ、リサ。証拠代わりに、中野でデートをした話でもしましょうか?」

 

「あ、いえ! そこまで言っていただければ、リサは信じられます!

 それにしてもーーヘルモーイ! ご主人様は女性になられたら、美しいのですね!」

 

「分かるよリサ、めっちゃ美人でりこりんも惑わされるとこだったぜ……」

 

「男でも変わらないでしょう、あなたは」

 

「否定できないネ!」

 

 また冷たい目を向けられる、何か癖になりそう(手遅れ)

 

「……何も言いませんよ。とにかく、準備ができるまではこの姿で過ごします。妖刃には男性体の魔力パターンを把握されてますから」

 

「かしこまりました、ご主人様。女性としての生活でお困りのことがあれば、なんなりとリサにお申し付けください」

「というか事前に教えてくれれば混乱しなくて済んだんじゃない? あと、記憶とかはユーくんのものと変わらないんだよね?」

 

「ええ、記憶も経験も共有していますので、支障はありません。言わなかったのは、男性体が最後までなるのを躊躇していたからかと」

 

「こっちのユーちゃんは気にしなさそうだけどねー」

 

 こっちに向ける瞳は、ユーくんの時に比べて感情が薄いものに感じられる。あとそのミニスカートでおみ足を組んで座る姿、理子的には非常にオッケーです(サムズアップ)

 

「顔が変態臭いですよ、理子。いえ、今更指摘しても無駄なのは分かってますが」

 

「目の前に魅惑のボディーがあったものでつい。あ、今はなんて呼べばいいの?」

 

「……そうですね。今の私を呼ぶなら」

 

「シギ。そう呼んでください、それ以上もそれ以下もありません」

 

 

「……クリフォト・カバラは敷設、マントラは掌握・内蔵……こっちには神道式の空間掌握を記述しておきますか」

 

「ご主人様、昼食が出来ました。よろしければここまでお持ちしますが」

 

「ああリサ、ありがとうございます。すいませんが、お願いしていいですか?」

 

「はい、少々お待ちください」

 

 皆様ごきげんよう、リサ・アヴェ・デュ・アンクです。

 

 潜伏生活を始めて三日、女性となったご主人様ーーシギ様は、日がな椅子に座ったまま、浮かせた魔導書を捲っていき、色々な魔術を部屋の中に何個も書き連ねています。リサもご主人様の手解きを受けたので多少分かりますが、凄い精密な術式だということくらいしかわかりません。

 

 何でも、部屋の中を『工房』にしているのだとか。理子様は逆に、武装等の兵器を準備しておられますね。

 

 忙しい御二方に代わり、身の回りのお世話はすべてリサがやらせていただいています。ご主人様からはお礼を言われますが、寧ろリサとしては嬉しくて、もっと頼っていただきたいくらいです。……口にしたら非常に微妙な顔をされたのですが、何故でしょう(←無自覚で主人をダメにさせようとするメイド)

 

「一つ準備が遅れれば、その分死に繋がります」

 

 そう仰られたご主人様は、睡眠以外の時間をほぼ作業に当てられています。今の状況から、急がなければならないのは分かりますが……

 

「ご主人様、よろしいでしょうか?」

 

「……はい。何でしょう、リサ?」

 顔を上げ、感情の薄い瞳でリサを見るご主人様。

 

 顔立ちどころか性別も変わりましたが、よく視れば根の部分はリサの主であることが分かります。一つのことに熱中してしまうのは、男女いずれのご主人様でも変わりません。

 

「差し出がましいですが、一度休まれてはいかがでしょうか? この三日間、睡眠以外でろくに休まれていませんし」

 

「……たしかに、休憩も入れていませんね。集中は問題ありませんが、そろそろルーチンワークでつまらないミスを引き起こす頃です。

 ありがとうございます、リサ。私は潤よりも集中力が偏るため、止め時が分からなくなってしまうので」

 

「はい、お役に立てたなら何よりです。

 ……ご主人様、失礼します」

 

「……? リサ?」

 

 座ったままのご主人様は、不思議そうな顔でリサに抱きしめられたままになっています。感じられる体温や身体つきも、女性そのものです。改めて、魔術ってすごいですね。それともご主人様がすごいのでしょうか。

 

「どうしました?」

 

「はい。リサを守ってくださるご主人様が少しでも癒されないかと、愚考した次第です」

 

「……そうですか。そう言われると、効果があるかもしれませんね」

 

 ありがとうございます。

 

「ーーっ」

 

 耳元で囁くように礼を言われ、幸福感とくすぐったさでリサの中の何かが競り上がってくるように……あ、獣の耳が出てしまいました。

 

 慌てて離れると、ご主人様は小さく苦笑していました。女性として見せる表情も、リサには非常に魅力的に感じられます。

 

「いえ、メイドとして当然のことをしたまでです!

 それにーー」

 

「それに?」

 

「ご主人様の背中を流すという、今まで出来なかった大任を務められたのですから!!」

 

 今までは男女ということで奥ゆかしいご主人様に断られてしまいましたが、今は同じ女性同士、何ら問題はありません。

 

「そこですか。まあ、実際助かってはいます」

 

「! モーイ、嬉しいです、ご主人様! 他にも必要なことがあれば、何なりとお申し付けください! 添い寝や子守唄など、何でもしますので!」

 

「……ちょっと張り切り過ぎじゃないですか、リサ」

 

 メイドとして主のお世話をするのは義務です。この機会をものにして、ご主人様の身の回りのお世話をより広く、完ぺきにこなします!(決意の顔)

 

 そうして潜伏すること一週間。ご主人様と理子様は準備を重ね、時にセクハラをしようとした理子様が無言で蹴られたり(幸せそうな顔でした)、街の祭りに顔を出したり、忙しいながらも穏やかな、充実した時間を過ごしました。

 ですが、それも終わり。ご主人様の元パートナーである『妖刃』様達が、リサ達を発見しました。

 

 ……リサは、非力なメイドです。だから理子様と皆様、何よりご主人様の無事を祈るばかりです。

 

 

 




あとがき
 はいというわけで、潤、女になるの巻でし(銃声)

 ……えーどうも、ゆっくりいんです。ヘッドショットされましたが、私は元気です(流血)

さて、リサとのちょっとした日常シーンを挟みながら準備を勧めましたが、いかがでしたでしょうか? この準備が無駄となるか、有用となるか。それは次回の決戦で分かるでしょう。

 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。

 感想・評価・お気に入り等、いただければテンションが爆上がりして投稿頻度が早くなるかもしれません(真顔)

 




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第四話 ここまでやって五分ならいいなあ(前編)

「……一週間、か。魔剱、雲居は?」

「戦闘は私達二人に任せる、とのことです。バチカンが合流したら始まりますね。
 ……不安ですか? 妖刃君」

「不安、とは違うな。……単に、時間を与えすぎた。楽には勝てないだろう」

「……あなたの元相棒、そんなに厄介なんですね」

「……不安か?」

「ーーいいえ。私は妖刃君と一緒なら、負ける気はしません」

「そうか。……なら、足元を掬われないように、しないとな」

「ですね。……あ、バチカンの方々が来ました。行きましょうか」


セーラ「作者」

( ゚д゚)「はい」

セーラ「60%」

( ゚д゚)「大分下がりましたね。ではこちら、各国のブロッコリー詰め合わせをどうぞ」

セーラ「感謝。では私も戦ってくる」

潤「前回とほぼ変わらねえじゃん」


「しぃちゃん、バチカンの人達が来たよー。魔剱の気配も感じられるね」

 

「予想より遅かったですね、メーヤさんの幸運が仕事をしなかったのなら幸先よいのですが。

 さて、こちらから仕掛けましょう」

 

 遠山潤改め、シギです。部屋の窓から覗けば、バチカンの面々が大通りを歩いているのが見られます。遅まきながら、私達がここに潜伏した情報を掴んだのでしょう。

 

 理子が集めた情報によると、師団は奪われていた勢力図を破竹の勢いで取り返していたようです。『魔剱』と『妖刃』に対する被害を考慮して、眷属が即時撤退をしたのもありますが。

 

「余裕が出来たのか、以前より人数が多いですね」

 

「めっちゃ目立つよねーあれ」

 

 ……カツェ達にも連絡はとれましたし、仕掛け時ですね。そして、向こうとも『繋がり』は出来ました。

 

「ご主人様、理子様、ご武運を。どうか、ご無事でお帰りください」

 

「ええ、もちろんです。ではリサ」

 

「いってくるね~」

 

「ーー『魔術陣地』、起動」

 

 両手を組んで祈るリサに頷き、準備していた術式を『まとめて』起動させ、極東戦役関係者全員を巻き込んだ『転移』を開始する。

 

 さあ、先手は取らせていただきました。これより戦いを、始めましょう。

 

 ……あ、転移が完了する前に男に戻っておきましょう。理子、勿体ないなあって顔するんじゃありません。

 

 

「こ、ここは……!?」

 

「おービックリした。転移させるとは聞いてたけど、いきなりすぎねえか潤?

 ああ、腕はくっついたのな」

 

「事前に転移するって伝えたから文句言うなよカツェ。とりあえず、一週間ぶり」

 

「パトラとセーラもお久ー。調子はどう?」

 

「問題ないぞ、十分休んだからの。さて、あの二人へのリベンジマッチといこうかの」

 

「パトラ姉、調子乗ると痛い目見るよ。撤退の判断は適切に行うべき」

 

「待てセーラ、お主に言われると嫌な予感しかしないのじゃが!?」

 

「いや前回セーラに助けられなかったらやばかったじゃねえか、パトラ」

 

「うぐっ!?」

 

「お前らコントやってるとか余裕だな」

 

「「「お前が言うな」」」

 

 いきなり異口同音のツッコミは予想外だよ。

 

 どうも、遠山潤です。良かった、転移前に『変われた』わ。万が一見られてたらやってやって! と魔女連隊に騒がれるのが目に見えてたし。カツェ以外いねーけどさ、今回。

 

「まさか、私たち師団も巻き込んでの強制転移……!? これだけの大魔術を遠山さん一人で……

 ……侮れない方と思っていましたが、訂正します。遠山さん、あなたは師団の脅かす存在です」

 

「今更かよ」

 

 カツェが呆れたような目を向けているが、俺は首を捻るばかりだ。

 

「魔力パターン、現在位置、指定座標との距離、魔力干渉への対抗ーーこれらを考慮して魔術式を構築すれば、誰だって出来るだろう?

 即席は無理でも、今回は時間があったんだしな」

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

「え、何この空気」

 

 なんで何言ってんだコイツ、みたいな目を向けられてるんだろう。妖刃くらいじゃねえか、目で何も語らないの。こっちみんな。

 

 閑話休題(まあいいや)。転移先はオランダ国内にある、人がいなくなって久しい廃村。周囲五キロに人がいないのは確認済みなので、気兼ねなく暴れられるな。

 

 面子は俺と理子、カツェ・パトラ・セーラの眷属の主力、メーヤさんと配下のシスター兵、そしてーー

 

「……」

 

 離れた場所からこちらを無言で見ている『妖刃』と、寄り添うよう隣に立つ『魔剱』。

 

「さてと。潤、一番手もらうぜ? 雑魚はあたしに任せろ」

 

「因縁の相手を雑魚呼ばわりするのか」

 

「普段なら幸運の加護のお陰で厄介極まりないがな、あの胸だけシスターは。

 だけど、今なら問題ないだろ? あ、折角だからタスラム一丁貸してくれ、暴れたい」

 

「はいよ、無暗に壊すなよ。

 璃々粒子も吹き飛ばしておいたし、存分に暴れてこい」

 

「おう!」

 

 ご機嫌な様子で歌いながら(この間のパーティーで俺達が弾いた曲だ)、カツェはシスター軍団の前に一人で立つ。魔剱と妖刃はーーふむ、動かないな。連携を取る気はない、か。

 

「よーうメーヤ。てめえの顔もそろそろ見飽きてきたんだが、ちょっとは変わり映えしないのか?」

 

「……カツェですか。私もあなたのような魔女の顔など、何度も見たくありませんね。速やかに己の罪を悔い、火にくべられるべきではないですか?」

 

「おー怖い怖い、未開の部族なんかよりよっぽど野蛮だなあバチカンの連中は。じゃ、精々殺されないよう返り討ちにしないと」

 

「……随分大きく出ましたね。『厄水の魔女』とはいえ、私達に一人で勝てると?」

 

「さあ、どうだろうなあ?」

 

 ニヤニヤと小馬鹿にした笑みを浮かべて二丁のルガーーータスラムを弄ぶカツェと、射殺さんばかりの瞳で大剣を構えるメーヤさん。

 

「カツェ、援護は?」

 

「いらねえ、ここまでお膳立てされれば一人でも十分だ」

 

「そうかい。じゃあ俺達は観戦させてもらいますかね」

 

「ユーくんお菓子食べる?」

 

「いやガチの観戦モードじゃねえか!?」

 

 だからそう言ってるじゃん。ストロープワッフルを堪能しながら、廃棄された風車の上に飛び移る。巻き込まれるのはごめんだしな、菓子が吹き飛ぶ(そこじゃない)

 

「ーー乙女達、相手は『厄水の魔女』一人! 今度こそその首を獲り、主に献上するのです! 突撃ーーー!!」

 

 わあああああ!! と叫びながら、シスター軍団が突撃してくる。装備大盾と剣だけで銃持ちに挑むとか、長篠の戦いを思い出すのは俺だけだろうか。ここヨーロッパなんだが。

 

「はっ、やってみろバチカンの犬が!」

 

 金と黒のルガーを構え、シスター達に向かって放たれるのは掌サイズの水球。

 

「そんな弾丸程度でーー」

 

爆ぜろ(Explosion)!!」

 

「「「キャアアアアア!?」」」

 

「ーーな!? ぐう!?」

 

 カツェが叫ぶと水球はメーヤの近く(・・・・・・)で爆発し、圧縮された水は純粋な暴力と化す。近くにいたシスター兵数名が吹き飛び、メーヤも吹き飛びはしないが体勢を崩した。

 

「ハッ、ボケっとして真正面から受けてるとは、とんだ間抜けだなシスターさんよお!?」

 

「おー! シスターの濡れ場シーンとか、カツェ流石ですな! これはいい資料になる!」カシャカシャ

 

「お、このワッフルキャラメルじゃなくてメープルなのか。うむ、うまい」

 

「いやお前らマジで自由だな!?」

 

 戦闘前に頑張ったんだし、別にいいべ。

 

「ぐ、そんな!? 何故『幸運』の加護が働いていないのですか!?」

 

「ははは、踊れ踊れ!」

 

 メーヤが動揺する間にカツェは笑いながら連射し、連携の崩れたシスター兵達を倒していく。これは一方的だなあ。

 

 中には突撃してくるものや、聖句を唱えて攻撃しようとする者もいるが、

 

「ほほほ、妾達まで援護しないとは言っておらんぞ?」

 

「動揺した獲物ほど、狙いやすいものはない」

 

 パトラの砂に足を取られ、セーラの弓によって詠唱を中断された。完全に眷属側のペースだな。

 

「カツェ、あなた、私の加護を打ち消すほどの力をどこで手に入れたのです!?」

 

「あー? そんな急に変わるわけねえだろ。お前、仮にも超能力使いなのに気付いてないのか?」

 

「何のことーーっ!?」

 

「ユーくんご指名みたいだよ?」

 

「よっし、ホームランで返してくるわ」

 

「それDH打者だよね? 理子はホストかキャバ嬢を期待してたんですが」

 

 後者おかしいだろ(真顔)

 

 さて、メーヤが何に驚いているかというとーー恐らく、この周辺に張られた魔術式だろう。

 

 廃墟一帯を覆うほどの巨大な魔術陣が地表に展開され、空にも同様の、幾らか小さい魔術陣。こいつら全て、俺が用意した支援系の魔術ーー分かりやすく言うなら、てんこ盛りのバフとデバフだ。

 

 本来はその場でしか発生しないそれらを、『魔術陣地』ーー起動した術式を『貯蔵』し、改めてこの場所に展開したのだ。

 

「場所を選べるなら、自身に有利な環境を、相手に不利な環境を与える。戦術の基本だろ?」

 

 上策は戦わずして勝つことだがな。そう言っている間も、バフ山盛りカツェが、幸運の加護すら失ったシスター兵達を薙ぎ倒していく。大勢は決したーー

 

 

 その者を、視よ

 

 

 その時、動いたのは妖刃だ。使ったのは、■の魔術。

 

「「「「ーー」」」」

 

 戦っていた者達は敵味方問わず、その魔術を無防備に受けてしまい、忘我の状態になる。

 

 ■しい、そんな陳腐な言葉すら意味をなさない、■の顕現。不完全なものは魅了され、動くことすら出来ず。視線を向けていないものでも、その影響からは逃れられない。

 

「ーー吹き飛べ」

 

 だから、後ろの俺が動く。

 理子が用意してくれたマークスマンライフル、HK417。理子特製の魔弾が積められたそいつから吐き出された弾丸は、金色に黒混じりの、音を超えた速度の熱線。

 

 魔術を使用したばかりで隙を晒した妖刃に向けての狙撃は、一直線に向かいーー

 

「ーーさせませんよ」

 

 直撃する前に、魔剱の投げた環剱が弾いた。

 

「チッ、流石にこの程度じゃ当たらないか。カツェ、生きてるか?」

 

「ーーーーっ。誰に、言ってんだ潤ーーいや待て、それで防げるのか!?」

 

「その者じゃ無理だよ、太〇拳じゃねえんだし。魅了系の魔術を防ぐ加工をしたもんだよ」

 

 そう言いながら魔導具ーー見た目はサングラスのそれを投げ捨てる(理子のはピンク色)。視線と注意は妖刃と魔剱に向けたまま、な。

 

「さて、選手交代だ。アレをもろに受けちまった以上、まともに戦えないだろ」

 

「……ああ、まださっきの姿が目に焼きついて離れねえ。魔術もまともに使えねえし、腹立たしいが任せた」

 

「任された。理子、行くぞ」

 

「おーきーどーきー。さあて、暴れるぞー」

 

 こっちは文句を言うパトラ以外スムーズに選手交代できたのだが、向こうは逆に揉めているようだ。

 

「ーー原田さん、何のつもりですか!?」

 

「負けそうだったところを助けてあげたんじゃないですか、妖刃君は。というか名前を言わないでください」

 

「そ、それはーーですが、魔女を討ち取る好機をみすみすーー」

 

「……邪魔だ、メーヤ・ロマーネ。部下ともども、下がっていろ」

 

「なーー」

 

「雇い主だから大目に見ていたが、これ以上は看過出来ない。

 

 

 俺達があいつらを、殺す。そのためには、お前らが邪魔だ」

 

 

「…………っ」

 

 何か口にしようとしたメーヤさんだったが、妖刃がわざとらしく刀を鳴らすと、青い顔で下がっていった。

 

「……さて、待たせたな」

 

「いや、別にい「氷断」うおおおおお!?」

 

「にょああああ!?」

 

 いきなり氷の中に閉じ込めようとするって容赦ねえな!? ほぼ反射で左右に避けるーーいや、狙いは分断か。

 

「そのまま氷漬けになってくれれば楽だったんですが」

 

「絶対零度より冷たい氷の中とかお断りだわ、寒いってレベルじゃねえぞ。

 というか俺の相手はあんたか、魔剱」

 

「そうですね。改めて始めまして、遠山潤。あなたにはボコるついでに、聞きたいことが山ほどありますので」

 

「ボコられるのが前提なのについて、女は怖い。

 で、聞きたいことってなんぞ」

 

 俺が問い掛けると、魔剱は何故か頬を赤らめた。え、何急に。

 

「その……凍刃君の昔のことを、色々と」

 

 あー、そっちかあ。なんというか、

 

「乙女か」

 

「乙女ですよ!? モーレツに失礼ですね!!」

 

 腕を振りながらうがー! と吠えたてる。何コイツ、ツッコミ適性あり?(そこじゃない)

 

「というか本人に聞けばいいだろ。性格変わってなけりゃあ聞かれれば答えるぞ、アイツ」

 

「むう……」

 

「何よ」

 

「そのよく知ってるぞ、みたいな感じが気に入りません」

 

「いやどーしろと」

 

 そりゃ五年は一緒にいたんだし。

 

「あとその……改めて二人っきりで聞くとなると、ちょっと恥ずかしくて……」

 

「乙女か」

 

「だから乙女ですよ!?

 ……んん! とにかく、凍刃君の元には行かせません。あなたが集団戦でこそ真価を発揮するのは、聞かされていま」

 

「通してくれるなら、あいつの弱点とか好きなものの詳細を教えるけど」

 

「…………行かせません! あなたを倒してから聞けばいいんですし! モーレツに惑わそうとしても無駄ですよ!!」

 

「だいぶ迷っただろ今」

 

 分かりやすいなあこいつ。生温い目を向けてやったら、「なんですかその目は!?」とまた百面相してるけど。

 

「さて、精々抵抗させてもらいますかね。火力で」

 

 亜空間からストックしていた魔導書を展開、更に魔術陣を並べーーようとして、何個かが真っ二つに裂かれた。

 

「出来るものならどうぞ。持ってくるならせめて首だけにしてこいと、凍刃君に言われているので」

 

 いい笑顔で複数の環剱ーー投げたのも合わせて計七個が展開される。わあ、すげえ回転速度+放電してるし。あれ、充式と魔術式の起動を自力で行うようにしてるのか。

 

「首だけとか鬼退治かよ」

 

「あっちはそのままにしておきましたよ、死んじゃいますし。あなたは首だけくらいじゃ死なないでしょう?」

 

「そりゃそうだけどよ」

 

 治せるからって生首オンリーを許容できるわけじゃないんだが。

 

「まあ、そこまで言うならーー殺す気で来るといい」

 

 その続きは言わない。今の俺は魔術師じゃなくて、武偵だからな。

 

 

「ぬうう……」

 

「……」

 

 どーも、峰理子です。妖刃の罠に見事引っ掛かり、現在一対一で睨み合っている状況だ。向こうは無口無表情の自然体だけど。

 

「正直、意外だった。こんな簡単に分断出来るとは」

 

 と思ったら、口を開いてくれた。独特なテンポの語りも、鈴の鳴るような美声でやんの。なんだこれ(語彙力消失)

 

「まあ、この展開は予測してたからな」

 

「遠山が、か?」

 

「私もさ。元相棒だからって、そっちばっかに注目するのは酷いんじゃないか?」

 

「他意はない。……寧ろお前も、十分脅威だ」

 

「そう言ってもらえるなら、光栄だなあ。

 ああそうだ妖刃、お前に一つだけ言っていきたいことがある」

 

「……?」

 

 首を傾げる妖刃(これもすげー絵になる)に、私は指を突き付けて京都の修学旅行Ⅰ以来、思っていたことをぶちまける。

 

 

「な・ん・で! 潤の元相棒がこんな超絶美人なんだよ!!?」

 

 

「……は?」

 

「しかも女ならまだしも、男! 男だぞ!? そりゃ敗北とかを通り越して世界遺産レベルの美貌だってのは分かるけどさ、いくらなんでもあんまりじゃん!

 こんなのが常時傍にいたら潤に顔面偏差値の意味がなくなるのは確定的に明らかだし、しかもアプローチ掛けても反応薄いし恋愛は疎ましく思ってるから二年近くかけてほとんど進展しないし!

 もうーーなんか、なんかだよ!? 神は理子にどれだけ険しい恋愛の坂を用意してくれてるんだよチクショーめえ!!」

 

「…………それは、俺が悪いのか?」

 

「いんや、これはただの僻みと羨望と嫉妬だから! 気にしないで、慰められたら惨めになる!!」

 

「…………」

 

 少しだけ眉を下げた困惑顔で、こっちを見る妖刃。潤がいたら「何そのレアな表情」とか言いそうだけど、私には関係ねー!!

 

 キャラ崩壊? 知るか! 理子はこの思いをぶつけずにはいられなかったんだ!(傍迷惑)

 

「ふー、ふー……悪い妖刃、リビドーを抑えきれなかった」

 

「……いや、別に構わんが。……容姿を理由に褒められることはあったが、キレられたのは、初めてだ」

 

「金輪際ないだろうから気にしない方がいいぞ」

 

「お前が言ったんだけどな」

 

 正論、だが私は悪くぬーー

 

 髪に仕込んでいたタクティカルナイフを抜き、真正面から(・・・・・)気配を消して迫る妖刃の一撃を捌く。本当見えないな、いつ迫ってきたんだよ。

 

「残念。見えない感じられない一撃でも、慣れれば対処は出来るさ」

 

「……」

 

 妖刃は刀を収めたまま、私の一撃を避けて後退する。決闘じゃないしな、会話中の奇襲くらい予測してた。

 

 しかし、いつ離れたのか全然理解できない。瞬間移動したようにしか見えないし、やっぱり視力は当てにならないな。

 

「さあて、もう言いたいことは言ったし、曲がりなりにも通用するのは分かった。

 ーーりっこりこにしてやんよ、妖刃」

 

「……意味が分からん」

 

 言いながらも妖刃は刀を収めた無形の構えを崩さず、対する。20m以上の高さはある氷で見えないけど、向こうも始める頃だろう。

 

 

「『魔剱』立花・氷焔・アリスベル」

 

「元魔術師の武偵、遠山潤」

 

 

「元イ・ウー研鑽派(ダイオ)所属、峰・理子・リュパン四世」

 

「西欧財閥所属、『妖刃』原田凍刃」

 

 

 意味はないが、自然と名乗りを上げーーそれ以上は何も口にせず、師団と眷属それぞれの傭兵が激突した。

 




あとがき
 カツェ達の前半戦だけで終わったんだけど!? くそう、書きたいことが多すぎる!(計画性の無さ)

 というわけでどうも、ゆっくりいんです。ええ、予定にない前後編ですよこれは。まあ潤と妖刃は因縁があるから仕方ないとはいえ……どうなるんだこれ(知らん)

 それにしてもここ、原作ではリサがメインの回なのに完全フェードアウトしているという。まあこんな戦場に連れてこれるわけないんですが、ジェヴォーダンの獣状態でも即死するわ(白目)

 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。

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第四話 ここまでやって五分ならいいなあ(後編)

( ゚д゚)「まさかの妖刃を理子さんに押し付けるという潤の外道プレイについて、一言」

潤「しょーがねえだろ役割分担なんだから。あいつの相手するなら、俺より理子の方が向いてるんだよ」

( ゚д゚)「アリアさん呼べば良かったのでは?」

潤「あいつの気配遮断はアリアの直感をすり抜けるよ、相性が悪すぎる」

( ゚д゚)「誰だこんなキャラ用意したの」

潤「オメーだよハゲ」

( ゚д゚)「まだ禿げとらんわ!」


 そんな感じで(どんなだ)、今回は戦闘回です。潤達は生き延びれるのか!?
 
セーラ「……60%」

理子「死亡率変わってねー!? ちょ、セーラ理子的にはシャレにならないんだけど!?」

セーラ「私は嘘を吐けないから。それにこれは遠山潤の死亡率」

理子「え、じゃあ理子はどれくらい?」

セーラ「……」サッ

理子「ちょおおおい!? お願いだから言ってよお!?」


「頭上と足元注意だ」

 

「そちらは上下ですね!」

 

 五つの魔術陣から熱線の雨が降り注ぎ、足元の影が伸びて主人に牙を剥く。頭上は簡易の結界、影は手を向けると静止し、元の形に戻った。『回帰』の魔術か、環剱を操りながらよく使えるねえ。

 

 こっちは雷撃を纏って首と両膝を切り落とさんとする環剱を回避ーーするも追尾してきたので、HK417をぶち当てて軌道を逸らし、魔術式を破壊した。ち、破壊しても即座に次のが補充されやがる。

 

 どーも、遠山潤だ。ただいまバトル中、魔剱改め、アリスベルとのな。もう(なんとなく)名乗り上げたし、わざわざ通り名で呼ぶ必要も無いだろ。

 

「モーレツ!」

 

「うおっと!? それ口癖なのかい!?」

 

「言うと気が入るので! はあっ!」

 

 環剱だけでなく、近接戦も厄介だ。八卦掌と八極拳をベースにした独自の中国拳法は自由自在で、隙が無いったらありゃしない。嫌だねえ万能優秀型は!

 

「っ、ちっ!」

 

 避けきれない一撃を敢えて受けて衝撃を流し、距離を取ったところで『奥の手』の一つを切る。

 

 亜空間より現実へ一瞬で出現し、対象に喰らいつく先端が鋭利な口となっている鎖、『八頭束(はっとうそく)』。背後より不意打ちで迫る八本のうち四本に、アリスベルはーー

 

「ーー読めていますよ」

 

 予測し、背後に設置した環剱で全て弾いた。

 

「初見で叩き落とすか、厄介だねえ」

 

「あんな痛そうなもの、当たるのはお断りですよ!」

 

 環剱が纏う電撃が空に開放され、輪の形になってこちらへ襲い掛かる。こっちは魔導書二冊に風刃を放たせて相殺、アレ当たったら痺れながら裂かれるよな。

 

「ならこっちはーーどうだ?」

 

 今度は『八頭束』が全方位、アリスベルを中心に波状攻撃で襲い掛かるが、

 

「っとと、嫌な攻撃の仕方ですね」

 

 鎖を足場にしていき、アクロバティックな動きで回避を行う。曲芸師かよ、なんかダンスっぽいし。

 

「きゃっ!?」

 

「ん?」

 

 魔術陣から放たれた不可視の風弾が鎖に当たったと思ったら、アリスベルが悲鳴を上げて体勢を崩した。ああ、なるほど。

 

「空中戦、苦手なんだな」

 

 魔術陣を足場にして(・・・・・)跳躍し、魔術で空に浮かぶ。高所が有利と分かった以上、その位置を取るのは基本だろう。

 

「……ええ、お恥ずかしながら」

 

 熱と風、更に地上から即席の傀儡人形を精製して襲い掛からせ、防戦一方のアリスベルは不機嫌そうに、

 

「だからこそーー補うためにもこれを使います」

 

 かと思ったら一変して不敵な笑顔を浮かべ、右手の指輪から出てきたものーーパワードスーツに見えるそれを背中に装着し、勢いよく空へ舞い上がってきた。

 

「みたいじゃなくてパワードスーツだったか、それ」

 

「ええ、友人に京菱の関係者がいますので。いいものですよ、このPADは」

 

「ああ、あの先端科学兵器を研究している企業か。それにしても、魔女がパワードスーツを使うとはねえ」

 

「『魔術師は己の実力でなく、己以上に動く手足となるものを持てばいい』、でしたっけ?」

 

「ーーは。自分で言ったことだけに、全く正しいとしか返せねえなあ!」

 

 妖刃あたりにでも聞いたのかね。笑いながら弾幕の密度を上げていくが、アリスベルはPADによる三次元軌道を駆使していき、動きを止めようと放った重力増加の魔術も加速で回避する。思ったより厄介だな、あの速度は。

 

「さて、逃げてばかりは性に合いませんね。ーー『紫電壁(ブリッツウォール)』!」

 

「わお」

 

 環剱二本とアリスベルを三点として結び、進行方向のもの全てを薙ぎ払う電撃の壁がこちらに迫る。魔導書は『透過』を発動させて避けられたが、魔術陣は三割ほどやられてしまった。術式も精密だし、恐ろしい威力だな。

 

「『無間の穴に果てはなく』」

 

 『穴』の概念を付与した魔術で、自身が入れるくらいの隙間を作って雷の壁をーー

 

 

荷電粒子砲(メビウス)

 

 

 避けようとしたところで、穴を埋めるようにアリスベルの十八番であるビーム砲ーー相手を『無力化』することに特化したメビウスが放たれた。

 

 回避は不可能、これを当てるために行動を制限された俺は動くことが出来ずーー嗤ってやった。

 

「『あなたの力はあなたの元へ』」

 

 詠唱による『反射』の術式。神代文字の方が早く紡げるが、あれやりすぎると喉がズタズタになるからな。魔力消費も大きいし。

 

 メビウスは防御不可能の術式であるが、反射の弱点があるのは承知済みだ。タイミングは良かったが、術者自身に返ーー

 

「ーーーーうおおお!?」

 

 る寸前、俺達の間に割り込んできた環剱がメビウスを反射させ、再び迫ってきた。

 

 思わず悲鳴を上げながら風の衝撃波を自分にぶつけ、ギリギリ回避する。あぶねえ!? しかも環剱の貯蔵魔力を吸って威力上がってーー

 

「ぬおおお!? 今度は後ろかよ!?」

 

「モーレツに甘いですよ、遠山潤。もう既に包囲網は完成しました」

 

「そんな素っ裸にしたいかこのヤロウ!? そーいうのは妖刃にやっておけ!?」

 

「んな!? そ、そんな意図はありませんよこのスケベ! 大体改良したから服は吹き飛ばしません!

 あと凍刃君の裸は見たら負けた気分になりそうなので、見たいけど見るのは嫌です!」

 

「オメーも大概だろなんだその矛盾発言、乙女か!」

 

「乙女ですよ!? もう三度目、許しません! モーレツにぶっ飛ばしてやります!」

 

 もう十分やる気じゃねえか。軽口を叩き合いながらも、六本の環剱によって乱反射を繰り返すメビウスの輪ーーというより、牢獄から抜け出せないで回避を強要される。弾幕STGの主人公側みたいになってきたな、攻撃できない上制限時間未定だけど!

 

 包囲の空白地帯に誘導しても設置された環剱が移動し、反射を繰り返すたびに威力も速度も上がっていく。魔術式構築の時間もーー

 

荷電粒子砲(メビウス)ーー」

 

 そこにおかわりのもう一本が迫る。ええい、難易度が跳ね上がーー

 

(ブレイク)!」

 

 アリスベルが追加の詠唱をすると、帯状だったメビウスは光の弾幕になり、こちらに襲い掛かる。オイオイマジかよ。

 

 回避ーー不可、密度が濃すぎる。

 

 迎撃ーー不可、展開追いつかず

 

 防御ーー論外。一撃が弱くても、当たり続ければ無力化は免れず、性質上防御術式を貫かれる。

 

 迫る光弾をスローの世界で見ながら思考を回すも、解決策は見出せない。完全に追いやられた形だ。

 

 ……氷壁で幾つか潰されたとはいえ、魔術陣地でこっちに有利な状況を作りつつ、魔力切れも心配しなくていいのにこのザマか。

 

 ……仕方ねえ。

 

(『斑目(まだらめ)』)

 

 口には出さず、魔術式を起動。そうしている内に拡散したメビウスへ手を向けーー俺に触れる直前、『消滅』。

 

「ーー掌に複数の目、しかも『魔眼』!? 術式そのものを『消去』するーー」

 

「ーーーー」

 

 見下ろす瞳で、アリスベルは言葉を中断する。気付いたか。

 

 表情も雰囲気も変わっているし、よほど愚鈍でもない限り理解するだろうが。

 

「……なるほど、凍刃君が早急に決着を付けろと言ったのを理解しました。

 時間を掛けるほどに学習し、対策されるというのもありますがーー」

 

「ーー」

 

「あなたをその気にさせるな(・・・・・・・)、という意味でもあったんでーー」

 

朱雀塵路(すざくおうじ)

 

 アリスベルの言葉を遮り、朱雀を模した炎塊を放つ。『なった』以上会話はしないし、意味がない。

 

「! 荷電粒子砲(メビウス)(ピアース)!」

 

 アリスベルも即座に反応し、貫通力に長けたメビウスと朱雀がぶつかり、相殺される。無論、この程度は予測済み。

 

「傀儡童子」

 

 魔導書達を自身の直掩にし、残った魔術式をアリスベルの包囲に。足りない分は亜空間から展開した『人形』ーー人と全く同じ形をした駒を加える。

 

「ぐ、本当に容赦ないですね!」

 

 自身の近くに移動させた環剱とメビウスで迎撃の構えを取るアリスベルには、アリスベルの瞳には焦りと、若干の怯えが見えている。

 

「殺す気で来るといい」

 

 『切り替える』べきではなかったとなる前なら言うだろうが、もう遅い。

 

「俺は、殺すから」

 

 無駄と理解しながらも、敢えて宣言をする。何故なら今は『殺すこと』を前提とした、心理と数理から最適解の合理を常に求め続ける、『魔術師』としての戦い方なのだから。

 

 

「にゅああああああ!? 死ぬ死ぬ、マジで死ぬからぁ!?」

 

「……さっきまでの威勢はどうした」

 

「対応できるとか調子乗ってすいませんでしたぁ!」

 

「……」

 

「ぎゃあ!? 髪掠ったぁ!? ばっちりセットしたツーテールが!?」

 

「髪の心配をしているあたり、余裕だな」

 

 どうも峰りってまた掠ったあ!? 挨拶してる余裕なんてねえよチクショウ! というか気配遮断を見切ってやったぜ(ドヤァ)とか言ってた一分前の自分を殴りてえ!

 

 リン。鈴の音の直後、斬撃が迫る気配。

 

「おおうっ!?」

 

「ブリッジで回避、か。器用だな」

 

「こーするしかないん、だよ!!」

 

 リン、リン。やけくそ気味にウィンチェスターを片手撃ちで連射するも、あっさり姿を消したと思ったら射程範囲外に逃れられていた。ヒット&アウェイ戦法が死ぬほど厄介だなあ。

 

 リン、リン。

 

 ……ちなみにさっきから聞こえる鈴の音だけど、別に妖刃の動きに合わせてではなく、動いている間一定間隔で鳴り続る魔導具の類だ。しかも気配遮断中は音が止まるしで、感覚狂わされるわ!

 

『妖刃の強さを支えているのは、大きく分けて二つ。気配を消すのと速度です。

 前者は厄介ですが、攻撃の瞬間に僅かながら気配がするだけマシになりましたね。前は『攻撃されても気付くことすら出来なかった』ですから。

 厄介なのは速度ですね。私達が出会った最初の時点で、秒速一里(約4㎞)の速度を魔術その他一切の補助なし(・・・・・・・・・・・・)で出すのがデフォでしたし。

 その後ですか? 計測不能なものは分かりませんよ。亜光速には最低でも達していたと思いますけど、それだって三年前のことですから。

 あと、『裁断』の概念起源がありますから、どんな攻撃も常時防御不可の斬撃になりますね。

 まあ要約すると、

・連続で飛んでくる防御不可の視えない即死技

・防ぐんじゃなくて避けろ

・失敗したら首が胴体と泣き別れ

ということです』

 

(軽々しく言うことじゃないよなあホント!?)

 

 潤の支援を限界まで受け取り、自分でもバフ山盛りで継ぎ足し、斬撃の未来予測を立てる。ここまでしてようやくギリギリ回避できて、稀に反撃が出来るレベルだ。もうチートってレベルじゃないよ、MUGE〇でいう神か論外レベルだよ、理子的に!

 

「にゃああああ!?」

 

「俺は犬派、だが」

 

「んなこと聞いてないんですけどお!?」

 

 あーもう、潤に「お前の方が妖刃に対抗できる、頼んだぞ相棒」とかおだてられたからってやるんじゃなかったなあ!? これだったらガチギレしたアリア相手にした方が百倍マシだよ、終わったらぶん殴ってやる潤のーー

 

「ふおおおお!?」

 

 リン。斬撃が来てから鈴が鳴る。おせーよホセ!(ガチギレ)

 

「……なるほど。あのバカより厄介、だな」

 

「いやいや何もできず死にそうなんですけど!?」

 

「掠り傷で済ませているくせに、よく言う。それにあいつと同じか、それ以上の速度で『学習』しているな」

 

「そりゃ何度も受けてますからねえ!?」

 

 お陰で回避精度は鰻登りだよ、視えてはいないし代償に傷だらけだけどね! もうお嫁にいけない!

 

「……あいつに責任を取らせれば、いいだろう。傷物でも気にしない類だ」

 

「うえ!? えーいやそのー、元相棒さんにそう言ってもらえるのは嬉しいし潤も言ってたけどいざそう考えるとおおおおおお!?」

 

 照れてたら気配遮断を併用した一撃が飛んできた。マジで危ない、首がお空を散歩するところだったんだけど!?

 

「これが孔明の罠……!?」

 

「お前がバカなだけだろ」

 

「何でツッコミだけ早口!?」

 

 あとその無表情ながら残念なものを見る目はヤメロォ!!

 

(……とはいえ、どうしたもんかなあ)

 

 正直、予測以上に隙が無いので下手に手札を切れない。潤から対妖刃用の武装は渡されてるが、そもそも当たらなければ意味がないのだ。亜空間を利用した全方位からの攻撃も、あっさり斬り伏せられーー

 

 

 誓いは夕暮れ格子 私を引き寄せ

 

 

「ーーーーっ!?」

 

 距離を取った妖刃から紡がれる、澄み切った美しい歌声。氷の壁によって反射されて全方位から響くそれは、こちらの感覚を狂わせる。

 

(や、ばーー)

 

 妖刃の歌は、相手の精神や肉体に作用する魔曲であり、長い『詠唱』でもある。

 

 潤に言われたことを思い出す。なるほど、これは想像以上にキツイ。

 

 

 指切りし また明日と 微笑みを浮かべながら

 

 

「ぐ、う!?」

 

 しかも歌いながらでありながら、攻撃の手は一切緩まない。デバフ+詠唱効果の歌唱とかそれだけでも厄介だというのに。しかも居合の一撃離脱をやめて、二刀での連続攻撃にシフトしてきた。

 

「ぐ!」

 

 

 張り詰めた鼓動の糸を 弾かれて

 

 

 髪を操作し、一本一本に魔力を載せて炎の鞭としながら、対抗の歌唱を開始する。

 

「ーー」

 

 よっし、デバフの効果は打ち消せた。妖刃も歌いながらちょっとだけ目を開くーー驚いてるみたいだし、練習した甲斐があったね! 詠唱としてはまだ効果あるし、これだけ手数増やしても押されてるけど! 髪切られてくし!(泣)

 

 

 罪無き魂を道連れ 地獄への扉を開いた いざや隠れ鬼

 

 

「ーー灰の寒炎」

 

 ショートバージョン(それでも二分近い)の詠唱が終わり、妖刃の頭上を漂うのはーー青白い気を纏う、灰色の炎ーー

 

「ーーっ!」

 

 歌を途中で止めて、私は高速で離脱する。が、少し遅かった。銃を握った左腕ごと凍り付き、動かなくなってしまう。

 

(アフーム=ザー……)

 

 生ける炎の子供と言われる、極寒の冷気を纏った炎。一つのを丸々凍らせたという神性の一柱。

 

 知ったのはメヌエットの遊びーーTRPGに付き合ったからだが、まさか実在? それとも妖刃の魔力で造り出したーー

 

「ーーーー」

 

 もちろん、思考の隙を妖刃が見逃してくれるわけがない。極寒の炎を従えたままこちらに近付き、二刀を振るう。

 

 

八十禍(やそまがつ)(つがい)

 

 

 先程より更に速いと感じさせる斬撃。その名前は潤に聞いた覚えがある。確か、一瞬八十連の斬撃ーー

 

(あ、こりゃ死ぬかな)

 

 迫る不可視の白刃を他人事のように感じながら、私は思考する。まったく、ユーくんが見誤るなんて珍しいこともーー

 

 

「この、モーレツ!!」

 

『ーーーー!!』

 

 私、アリスベルは迫りくる傀儡兵を環剱で捌いていく。

 ……人形達は斬る度、甲高い絶叫を上げながら爆発していきます。流れる血も人間と同じような、赤くて生温いものなのが嫌らしい。

 

 置き土産でこっちの集中力を削ぐのとダメージを与えることに専念している、ということでしょうか。呆れた物量ですね。

 

 環剱という『質』で勝負をかけた私と、魔術・魔導具・人形までも惜しみなく投入する『量』の遠山潤。彼の魔術の運用方法は、私一人を殺すために統率された『軍団』のようです。

 

荷電粒子砲(メビウス)(バレット)! (ディストーション)!」

 

 遠山潤を追撃していた環剱からメビウスが放たれ、一度回避したのが進路を90度曲げながら再び襲い掛かるが、

 

「『散逸』」

 

 彼と直掩の魔導書が魔力を練ると、メビウスの魔力がほどかれるように分散し、届く前に無力化されてしまう。

 

 ……悔しいですが、もうメビウスは通じせんね。それならーー

 

荷電粒子砲(メビウス)(アンデュレート)!!」

 

「「「ーーーーーー」」」

 

 近くに寄っていた傀儡兵と魔術式をまとめて吹き飛ばす。キリコに感謝ですね、PADが無ければ宙空からの広範囲攻撃は難しかったーー

 

 

「星を穿て」

 

 

 ぞくり、とその詠唱に肌が泡立つのを感じる。目を向けた先には、魔導書と魔力をリンクさせた遠山潤の姿。そしてその背後から感じる、馬鹿げた量の魔力。大陸一つ滅ぼす気かとツッコミを入れたくなりますね。

 

 ……『魔術陣地』と呼んでいた支援があっても、遠山潤の魔力は通常より一段階引き上げられている程度です。

 

 なのに、あそこまでの凶悪な魔術式を造り上げる。まさに本人が言う通り、己以上に動く手足となるものを持てばいいってことですね。

 

『アレの厄介さは、単なる能力では計れないこと、だ。適性ーー才能という面では、凡百の域を超えないがーー

 何百手も先を読み、最適解を求め続けーー時間を与えれば、こちらを追い詰める。

 ……悪辣さでは、俺達の中でも上位の魔術師だ』

 

 凍刃君が事前に言っていた評価を思い出す。全くその通りですね、能ある鷹は爪を隠すと言いますがーー彼は、隠しているものが多すぎます。

 

 

「イクリプス・カノン」

 

 

 夜闇を白く染め上げる極光。メビウスとも、前回の逃亡戦とも比較するのが馬鹿らしい大きさと威力、回避も防御も不可能な一手。

 

 滅びを告げる神の光。そんなフレーズが私の胸中に浮かびーー

 

 

「「ふっざけんな!!」」

 

 

 そんな想いを否定するため、はしたないと分かりながら自分に活を入れるため叫ぶ。誰かと声が被った気がしますが、気のせいでしょう。

 

 確かに絶望的だ、これを止めることなど出来ない。だからといってーー諦めていい理由にはならないんですよ!

 

「私はまだーー凍刃君に何も、伝えられていないんです!」

 

「ーーーー」

 

 魔導書を従えた遠山潤と目が合う。合理を求めた結果の行き着いた先の状態である彼の目は、酷く感情が薄い。思いの丈を叫ぶ私に対しても、何のリアクションもない。

 

 ならその顔ーー元の間抜け面に戻してやります!

 

荷電粒子砲(メビウス)ーー」

 

 私自身と、周囲に浮かぶ六つの環剱を同時に励起させる。限界以上の魔力行使に循環経路が悲鳴を上げ、口と瞳から血が流れ出てきますが、死ぬよりはマシです!

 

 

(クラスター)!」

 

 

 ぶっつけ本番の新技、それは七つ同時に放たれたメビウスを接近させーー束ねた極大の閃光。

 

「ぐ、ううう!!」

 

「ーーーー」

 

 光同士がぶつかり合う余波で吹き飛びそうになるが、私はPADを必死に制御する。

 

 これだけの威力でも、あちらの極光には及ばない。でも、逸らすくらいならーー!

 

 拮抗は一瞬、私のメビウスは飲み込まれて爆発してしまうがーー極光の進路は僅かに逸れ、私には向かわず空へと消えた。

 

「はああああ!!」

 

 極光同士の結末を見てすぐ、私は環剱を手にPADのブースターを全開にし、突進を掛ける。

 

「ーーーー」

 

 予測が外れていたのか、それとも想定を超えたのか。僅かに目を見開き魔導書の魔力も尽きた遠山潤は、それでも銃ーータスラムと呼んでいたルガーP08を構えて迎撃の体勢を取る。

 

 でも、遅い。ここまで接近すれば、私の間合いだ!

 

「終わりです、遠山潤!」

 

 宣言通り、首だけにしてあげます!

 

 

 迫る刃より一瞬早く、使い物にならなくなった左腕を前に突き出し、魔力を流す。私ではなく、ロザリオに収められた瑠々色金のものを。

 

(こんな時くらいすぐ応えろ、色金!)

 

 感情の高ぶりからか、色金の魔力は通常より遥かに速く左腕に集まり(代償に内臓の幾つかがいかれた感覚がする)、

 

「『爆ぜろ』!!」

 

「ーーっ」

 

 中の氷ごと、自分の左腕を『自爆』させた。

 

 爆発の衝撃と降り注ぐ氷。さすがの妖刃も至近距離でのこれは避けきれず、

 

「ご、ふっ」

 

 氷の破片が刺さりながら、派手に吹き飛んでいった。やっと一撃与えてやったぜ!

 

 もちろん喜ぶ間もなく、私はすぐに追撃を掛ける。肘から先がグロいことになっていたり爆発の衝撃を受けてクッソ痛いが、千載一遇の好機、逃してたまるか!

 

 加速の魔術で迫りながら、態勢を整えようとする妖刃に接近し、胸の隙間から出した『切り札』ーーお母様の形見であるデリンジャーを胸部に押し付けてやる。

 

「峰、理子っ……」

 

「くた、ばれ! 妖刃!」

 

 パン。私の叫びとは正反対の、軽い銃声が響いた。

 

 

「ーー惜しかったな」

 

 アリスベルが放った渾身の一撃。文字通り首の皮一枚のところで、『静止』の魔術式が起動した。マジでマジカル首刈るされるところだったわ。

 

「そう、ですね。でも、このまま戦えば私が勝つと思いますよ?」

 

「そうだなあ、こちとらカノンで魔力もほぼ空だし」

 

 魔力路(体内の魔力流動機関、人体でいう血管のようなもの)の幾つかがイカれているが魔力にまだ余裕のあるアリスベルと、『魔術陣地』の維持が限界なところまで擦り減った俺。いやあまさか、あれでノーダメージなのは予想外だった。

 

 まあ、それでもーー 

 

「俺()の勝ちだよ、立花・氷焔・アリスベル」

 

 

 ニヤリと我ながら悪どい笑みを浮かべると同時、氷の壁が粉々に砕け散った。

 

 

「!? まさか、そんなーー凍刃君!?」

 

 余程この展開に動揺したのだろう。アリスベルはとどめを刺すのも忘れて、妖刃の方にすっ飛んでいく。刃を引くときにもう一回首を掠ったけどな! 無意識で殺しに来ないでくれませんかねえ!?

 

「ーーさて、と」

 

 魔導書を浮かせたまま、俺は地上に降り立つ。そこには左手が吹き飛び、あちこち切り傷を作りながらも立っている理子とーー

 

「凍刃君、しっかりしてください凍刃君!?」

 

「……」

 

 アリスベルの悲痛な呼びかけにも応じず、うつ伏せに倒れた妖刃の姿があった。

 

「よう理子、なんか焦げ臭いけど大金星じゃねーの」

 

「おー潤、やってやりましたよこんチクショウ。とりあえず後で一発殴らせろ」

 

「後でな、後で。妖刃はどうなったよ?」

 

「……『切札』を胸のところにぶち込んでやったから、当分は立てないと思う。死ぬほどじゃないと思うけど、私も限界近いわ」

 

「そうかい、俺も魔力のストックがすっからかんだがーーまあ、よくやったよ、本当に」

 

「……そう思うなら褒めちぎれ、あと頭撫でるのもな」

 

「それも後でな。さてーー」

 

 改めてタスラムを構えると、こちらの意図に気付いたのかアリスベルが立ち上がりーー妖刃の前で両手を広げる。

 

「凍刃君は、やらせませんよ……!」

 

 自身も限界が近く足が震えてるのに、それでもあいつを守ろうとするアリスベル。健気だねえ、妖刃も庇われるのは初体験だろうよ。

 

「……なーんか理子達完全に悪役じゃない、ユーくん?」

 

「『眷属』側だし、実際ヴィラン側の方が性に合うけどな。

 さて、まだやるか魔剱? 二体一の状況で、倒れたそいつを庇いながらは非合理だとーーオイオイ」

 

「……うっそお」

 

「……」

 

 亡霊のように緩慢な動きながら、妖刃が起き上がる。理子がぶっ放した『疵』の概念効果で、傷の再生も出来ないだろうに。

 

「凍刃君!? ダメです、動いちゃ! 私が戦いますから、下がってーー」

 

「…………お前、こそ、無理を言うな、アリスベル。もう、限界だろう。

 ……俺は、まだ動ける」

 

「凍刃君! やめて、やめてください! 死んじゃいますよ!?」

 

 うーんこのラブコメ臭、どうしたもんかーーとか言ってる場合じゃねえな。

 

「オイ妖刃、まさか『妖刕』を使う気か?」

 

「……」

 

「やめとけって。そいつの能力は俺の予測が正しけりゃ、お前の体質に『余りにも合わない』。

 そんなこと、お前が一番分かってるだろ?」

 

 妖刕(ようとう)。妖刃、原田凍刃が使っている刀の銘であり、いわゆる魔剣、妖刀の類だ。

 

 感知し分析した能力が正しければ、その能力は『潜在能力の開放』。他にもあるが、それは置いておこう。

 

 確かに限界を引き出せるというのは魅力的だ。だがそれは同時に、肉体への過負荷を伴うものであり、妖刃にとっては致命的な欠点だ。

 

「笑えないくらいの虚弱体質がやるもんじゃねえだろうよ」

 

「……」

 

 妖刃は、その異常な速度と気配遮断術の代償に、極度の虚弱体質となっている。どれくらいかといえば、その辺の一般人に殴られても骨が折れちまうレベルだ。今は多少改善されてるようだが、それでも根本の脆さは変わっていない。

 

 そんな人間が、妖刕の能力を使えばどうなるか? 

 

 あいつの速度から使うのは一瞬で済むだろうが、良くて致命傷、悪ければ全身が負荷に耐えられずバラバラになるだろう。

 

 現に、前の追撃も今回も、妖刕の能力は一切使ってなかったしな。多分、意図的に抑え込んでいるのだろう。

 

 逆に純粋な技量だけであの戦闘力なのが、こいつの恐ろしいところなんだが。

 

「凍刃君……」

 

「ねえ妖刃、いや原田凍刃。女を泣かせるのは中々に重い罪だよ? それでもまだその刀を振るう?」

 

「……」

 

 アリスベルが涙を溜めて見上げ、理子が説得の言葉を投げかけても、妖刃は刀に手をかけたままだ。うーん、どうしたもんだかーー

 

 

 ピリリリリ

 

 

「あ?」

 

「お?」

 

「……」

 

 緊張した空気をぶち壊すように、無機質な携帯の着信音が響いた。発信源はーー妖刃からだな。

 

「あ、私が出ます凍刃君! はい、もしもし……あ、レオさん。どうしました?」

 

「行儀がいいのか天然なのか、普通に電話対応出られると反応に困るよねー。

 ……どったのユーくん?」

 

「……いや、レオの名前に聞き覚えがあるんだが。まさかなあ」

 

「理子は西欧財閥の名前が出た時点で予測してたけど」

 

 マジかよお前優秀だな。

 

「はい、分かりました。……遠山潤! レオ君があなたに話があるそうです!」

 

「そんなでかい声出さんでも聞こえるって、っとと」

 

「……」

 

 予告なしに携帯を投げつけられ、お手玉しながら携帯をキャッチする。妖刃は毒気を抜かれたのか、刀から手を放してしまった。そりゃ相棒がこの態度じゃなあ。

 

『こんばんは。初めまして、遠山潤さん、峰理子さん』

 

 スピーカーモードから聞こえてきたのは、流暢な日本語で話す少年のものだ。

 

「どーも、初めまして。妖刃の上司でいいんだよな?」

 

『はい、妖刃ーー凍刃さんの上司兼友人、

 レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイと申します』

 

「わーお、超ビッグネームが出てきたね」

 

『はは、お褒めに預かり光栄ですがーー偶然党首の座に着けだだけの若造ですよ、ボクは』

 

「それは謙虚を通り越して嫌味か貴様! というレベル」

 

『おや? 日本人には謙虚スタイルの受けがいいと聞いたのですが、違いましたかね?』

 

 謙虚の度が過ぎるんだよあんたの場合。

 

 レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。十代半ばの若さで西欧財閥のトップの座に着いた男であり、彼の名を知らないものはまずいないだろう。

 

 トップにふさわしいカリスマ性、政治力を併せ持つことから、着いたあだ名は『少年王』。ちなみに趣味は人をおちょくることらしい、ちょくちょく会見で顔真っ赤にする議員とか見るもんな。

 

『まあ会話のジャブはこれくらいにして、早速本題といきましょう。遠山さん、峰さん。ボクと取引をしませんか?』

 

「それはあんた個人か? それとも西欧財閥の総意か?」

 

 財閥は強大だが、関わると面倒だからな。黒い噂が絶えないのは構わんが、小間使いはごめんだ。

 

『前者ですよ、そもそも今回『師団』に凍刃さんを傭兵として貸し出したのも、ボクの独断ですしね。

 アリスベルさんは勝手に付いてきちゃったみたいですが』

 

「……」

 

 妖刃が無言で見つめてアリスベルが赤い顔で目を逸らした。ラブコメならよそでやれお前ら(ブーメラン)

 

 まあ、個人の権限でこの戦力を動かせるというのが、レオという男の権力基盤を窺わせる。

 

「まあ、それなら交渉の余地はあるな。で、内容は? 負けを認めて色金を譲れとか言うのなら応じないぞ?」

 

『あはは、逆ですよ逆。『師団』の負けを認めるので、ここで極東戦役を終わりにしませんか?』

 

「ーーあ?」

 

『ああ、鬼から手に入れた色金もお渡ししますよ? あなたが悪用しなければ、という前提ですが』

 

「いや、する気はねえが……」

 

「どっちかというと、こんなあぶねえもん持ってられるか! 宇宙に捨ててやる! って勢いだよねー」

 

「一歩間違えれば世紀末世界になるからな」

 

 モヒカンだの伝承者がうろつき回る世界とかごめん被るわ。

 

『ああ、それでしたら処理をこちらで手伝いましょうか? ボクのポケットマネーでも、宇宙船くらいなら都合できますし』

 

「ーーあん?」

 

 思わず二度、訝しげな声を上げてしまう。ポケットマネーでというのは西欧財閥のトップだからスルーとして、それよりも、

 

『そちらへの条件が有利過ぎて都合がよすぎる、ですか?』

 

「これで疑うなって方が無理だろ」

 

 プラスだけ示される交渉ほど、信用できないものはない。

 

『そうですね、もちろんこちらにも利はあります。というか、既に目的は達成していますね。

 一つ、凍刃さんが功績を上げたことで、バチカンに貸しを作れたこと。

 二つ、非々色金という厄介なものをバラまいてくれたシャーロック卿の遺物を回収し、最終目的がボクと同じなあなたと接触できたこと。

 そして三つ、』

 

「俺ーーいや、俺達バスカービルと繋がりが出来ること、か?」

 

 さすがにこれはないだろと思ったが、返事は拍手だった。

 

『その通りです。流石遠山さん、優れた頭脳を持っている』

 

「褒め言葉として受け取っておくよ。で、そっちの条件は?」

 

 さすがに何も求めてこないということはないだろう。

 

『はい、それに関しては簡単です。ボクの個人的な『依頼』を、空いた時でいいのでこなして欲しいのですよ。もちろん、武偵校経由で単位も貰えるようにしておきますので』

 

「……他には?」

 

『え、それだけですが』

 

「うわー胡散臭ーい」

 

『そう言われても、ボクとしても欲しいものはそれくらいですからねえ。

 ああそうだ、もう一つありました』

 

 焦らすなあコイツ。と思ったら、急に真面目なトーンになり、

 

『……これはボク個人としての意見ですが。極東戦役なんていう局面で、友人である凍刃さんを死なせたくないのですよ。

 彼の代わりが務まる人なんて早々いないですし、こんなところで死なせてしまったら、あの世の兄さんに叱られてしまいます』

 

「……ああ、なるほど。あいつは『毒蠍』の後継って訳か」

 

 道理で情報を洗い出しても出てこないわけだ。アリスベルと同じ居鳳高に通ってたのに、面白いくらい偽の経歴だらけだったからな。

 

『はい。というわけで、手を引いてくれませんか凍刃さん? あまり女性を泣かせるものではありませんよ』

 

「……お前まで言うか」

 

 溜息を吐きながら、妖刃改め原田は、戦闘態勢を解いた。

 

「元より、レオが持ってきた依頼だ。色金も不要なら、これで手打ちにーーこふっ」

 

「凍刃君!? 無理せず座ってください!」

 

『あ、追加条件で治療もお願いしますね遠山さん』

 

「はいはい、分かってますよっと」

 

 とりあえずエリクサー(もどき)を飲んで自分を回復させてから妖刃の弾丸を取り除き、破壊された魔力路を元の形に戻す。治療中アリスベルがずっと心配そうに支えてたんで、どういう顔すればいいかわかんねえ。あと理子が横で「理子もなーおーせー!」ってうるせえ。自分で治せるだろお前。

 

「ほい、全快っと。調子はどうよ」

 

「……問題ない。腕は、衰えてないようだな」

 

「そりゃまあ、技術を腐らせるのはごめんだからな。

 さて、これでいいんだよな? レオナルドさん」

 

『はい、ありがとうございます。あと、レオで結構ですよ。

 では、色金は獏さんが持っているので、彼女から受け取ってください。それで契約成立です』

 

「おーきーどーきー!!」

 

「なんでお前が答えるんだよ。まあこっちとしても破格の条件だ、受けよう」

 

『ああ良かった、これで面倒くさい書類整理にアテが出来ました』

 

「オイコラ」

 

『あはは、冗談ですよ冗談』

 

 本気か嘘か判別付きにくいんだよ、おちょくってるのは分かるが。

 

『ああそうだ、おまけのサービスをしておきますね。日本に帰ったら楽しみにしていてください、では』

 

 最後にそれだけ言うと、返事も待たずに電話を切った。サービスってなんだ、菓子なら喜ぶ(いつもの)

 

「……次は敵でないことを、祈っている。遠山」

 

「俺だってお前の相手なんざごめんだよ、原田」

 

 『敵にならない』って約束はしてないから、可能性は0じゃないけどな。

 

「次があればモーレツのボッコボコにします」

 

「くふふーやってみなーよアリスちゃーん? 負けたらりこりんがあーんなことやこーんなことをしてやるぜー」

 

「ど、どんなことする気ですか!? 遠山さん、この人変態です!?」

 

「ごめん昔っからなんだ」

 

 救いようがない変態なんだ、大目に見てくれ(保護者目線)

 

 アリスベルが理子を疑わしい目で、原田はこちらを見ずに去っていった。すごいな、ほぼ初見の相手にも変態認定されたぞ。

 

「……はあ、やれやれっと。生き残れたなあ」

 

「だねー。いやあ、今回はガチで死ぬかと思ったよ……」

 

「マジで大金星だもんな。予想以上の成果でビックリだわ」

 

「それ良くて引き分けくらいになるって予測してたのかなユーくん?」

 

 なんのことでござんしょ。

 

「まあ余罪追及は後にしましょうそうしましょう。

 ではユーくん、お手を拝借」

 

「ん? おお、そうだな」

 

 右手を上げる理子に応じて、俺も反対の手を上げ、

 

「勝ったぞー!」

 

「「イエーイ!!」」

 

 勝利と生き残れたことを、喜ばんとな。

 

 

 余談だが、今回の決着に復活したバチカン側、というかメーヤさんがごねようとしたがーーカツェがヴォルフを呼び出して強制的に黙らせた。最初っからそれ使えばよかったんじゃね。




あとがき
 終わったー! 長かった! 書きたいこと書いてりゃ長くなるよなそりゃ!(自業自得)

 というわけでどうも、ゆっくりいんです。今回で極東戦役編終了となります。潤と理子さん生きてた! 勝った! 第三部(ry)

 え、アメリカとイギリスはどうしたって? いやアリアが緋々神に乗っ取られてませんし、メヌエットさんはウチにいるので……ということです!(何)

 さて、次回からは時系列をすっ飛ばして、日常編に戻りたいと思います。考えてみればほぼ日本にいませんでしたしね、つまりいつも通りになります。

 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。

 感想・評価・お気に入り等、いただければテンションが爆上がりして投稿頻度が早くなるかもしれません(真顔)


PS
 本当はまだ書きたいことあったんだけど、くどいのと作者の体力が限界なのでここで終わりにします。
 


( ゚д゚)「そういえばセーラさん、理子さんの死亡率ってどれくらいだったんです?」

セーラ「90%」

( ゚д゚)「FG〇のピックアップ星5鯖の十倍の確率ですね、そらいけますわ」

理子「十回に九回は死ぬんだよなあ!? ホント生きてて良かった!」


おまけ
おまけキャラ紹介
○原田凍刃
性別:男 年齢:推定十六歳 髪の色:黒 目の色:黒 
職業:西欧財閥暗殺者、学生 所属:居鳳高校1年X組 
趣味・特技:家事全般(特に料理)、歌唱
忌名:■■■■・■■■(既に失われた名前のため、表記不能)
魔術属性:氷・地
技術:居合術
通称:『妖刃』
所有武器:妖刕、黒套、短刀(投擲用)
能力
筋力:E  耐久:E  敏捷:A+ 魔力:A+ 
対魔力:E 体力:A+  知力:C 幸運:B
略歴
 遠山潤の元相棒にして元魔術師、西欧財閥所属の暗殺者。現在は暗殺業を(レオの命令で)休業し、居鳳高校に編入した。

容姿
 人形じみた美しい容姿の、黒髪黒目の大和撫子系。十人が十人見惚れる美人であり、完成された美。
 だが男だ

性格
 ゆっくりとした、独特の間で喋るのが特徴。基本的には物静かで無表情だが、キレると怖い。
 家事万能であり、女性陣より美味しいのを作って凹ませること多々あり(本人に悪気はない)

備考
 鬼達を倒した張本人。自信満々に構える彼等を、気配遮断で『真正面から』斬り伏せた。

能力
高速移動:A+
 『見えない』のではなく『認識できない』速度での移動術。傍からは瞬間移動したように見える。

虚弱:A+
 虚弱脆弱な肉体。筋力と耐久が最低値になり、一般人に殴られても骨が折れるほど脆い。

気配遮断:A
 周囲の空間と同調することで、存在を隠匿する技能。魔術師次代よりランクが落ちており、攻撃の瞬間僅かに気配を感じられる。

魔術:C+
 魔術師時代は魔導具を介さないと発動できなかったが、幾らか改善されたことで自力での使用も可能。

歌唱:A+
 肉体・精神に干渉を行い、同時に魔術の詠唱としても使用する。高速移動・攻撃しながら使用が可能。


〇立花・氷焔・アリスベル
性別:女 年齢:十六歳 髪の色:黒 目の色:黒 
職業:学生 所属:居鳳高校1年X組 
趣味・特技:家事全般、メビウスの研究
魔術属性:雷・光
技術:中国拳法(八極拳をベースにしたオリジナル)
通称:『魔剱』、『魔女狩りの魔女』
所有武器:環剱×7
略歴
 獏との契約を終え、現在は十の環剱を求めながら凍刃を手伝う『魔女狩りの魔女』。

容姿
 原作参照。胸元に凍刃がプレゼントしたペンダントを付けている。

性格
 礼儀正しいが比較的苛烈。恋のライバルには敏感だが、かなり初心。乙女か。
 長く一緒にいたためか、凍刃に対して依存している部分がある(無自覚)
 

備考
 時間移動をしていないため、両親を迎えに行った後は凍刃たちと一緒にいることが多い。 
 両親を日本に招待して一緒に暮らしており、恋路に関しては生温い目で見られている。

能力
環剱:A
 十本ある内の七本を回収済み。自力で回転させるだけでなく、充式させることで独自に浮遊・稼働させることが可能。
 
中国拳法:A
 八極拳と八卦掌をベースにしたオリジナルの拳法。破壊力よりも速度と連撃を重視したもので、達人級の腕前と評されている。

魔術:A+
 メビウスだけでなく光、雷をメインに多数の属性、種類の魔術を使用可能。基本的には慣れたものを多用する傾向にある。


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進行編
第一話 やべーものには蓋を押し付けろ


 総合評価1000pt達成……まさか趣味で書き始めたこの作品がここまで行くとは、ありがとうございます!

 さて、では『進行編』始まります。

潤「進行ねえ、武偵校の酷さが加速するのか?」

作者(以下( ゚д゚))「それは元々でしょ。寧ろ関係性が進行するものかと」

潤「……今更じゃね?」

( ゚д゚)「お前が言うな」

潤「そういやジャンヌどうした」

( ゚д゚)「欧州から逃げるように帰って、こっち(メタ書き部分)からも全力で逃げてます」

潤「もうジャンヌって感じだな」

( ゚д゚)そっすね

 極東戦役から一週間後、帰宅して呼び出された二人
校長「はいはい、遠山君、峰さんにお伝えしますよ。お二人のバスカービル再入隊を、当学園は認めます」

潤「およ、そりゃまた急に」

理子「校長せんせー、何かあったんですか?」

校長「……お二人とも、一体何をしたのですか? 独自に何かをする分には構わないと言いましたが……まさか西欧財閥の当主殿から連絡が来るとは、予想外でしたよ」

潤「ああ、レオの奴が言っていたサプライズってそれか」

理子「レっ君に感謝だねー」

校長「本当に何をしたんですか、あなた達は……?」



「潤ちゃん、鮭はらこめしと和牛弁当、どっちがいいかな?」

 

「白雪は食いたいのあるか?」

 

「私は、潤ちゃんが選んだ後でいいよ?」

 

「んー。じゃあ和牛弁当で」

 

「……」ホッ

 

「カロリー気にするなら重いの買わなくても大丈夫だぞ」

 

「え!? な、何のことかな? 体重計が怖いとかそんなことないよ!?」

 

 言ってんじゃねえか、あとそんな気にしなくてもいいだろうに、全然軽いんだからさ。

 どうも、遠山潤です。極東戦役の諸々の後始末が終わって約一か月、本日は二月三日の節分デーなり。きっと今頃ジャンケンで負けた鬼役のアリアが豆をぶつけられまくり、理子にキレている頃だろう(予測)

 

 

「おーにはーそとーーーー!!」

 

「落花生を全力で投げるなって言ってるでしょうがバカ理子ォ!!?」

 

「ふくまる!? だって手加減したら失礼でしょー!? アリアん鉄壁だからモーマンタイだし!」

 

「だぁれが成長の余地がない絶壁平原よ!?」

 

「それはもう被害妄想の類じゃないかなあ!?」

 

 

「雪、止んで良かったね潤ちゃん。この調子なら予定通りに到着するみたいだよ」

 

「そか。じゃあ夕方までには用事を片付けて、晩飯には間に合うかね」

 

「風雪、潤ちゃんが来るって張り切ってたよ。「潤義兄様が来るのなら、全力でおもてしますっ」って」

 

「普通に迎えてくれればいいんだけどなあ」

 

 ただでさえ忙しいだろうに、どこでこんな義兄様大好きっ娘になっちまったのかなあ。姉もクスクス笑いながらこっち見てるし。

 

 なんとなく決まりが悪くなり、窓の外に目を向ける。雪に覆われた田園風景は、東京じゃ中々見れない光景だ。たまには穏やかなのもいいよな、ボロボロになったり腕が吹き飛んだり散々だったし。

 

 ここ一か月は平和だったけどさ、アリアのツッコミ(物理)がより苛烈になったくらいで(苛烈にしている原因の一人のセリフ)。

 

 さて、俺達が向かっているのは青森にある星伽神社の本殿、白雪の実家だ。いやあ、二人で遠出のデートしてくるわって適当に言ったら大変だった。理子は連れてけ―!! ってうるさかったし、アリアとマイシスターは遂に覚悟を決めたのねって悟りの顔をしてたし。お前の関係で出向くんだからなピンクツインテ、恩に来させる気はねえけどさ。

 

 というか覚悟ってなんだよ、『まだ』何もしてねえよ。……唇は奪われたけど(真顔)

 

「あ、そうだ潤ちゃん」

 

「ん? 何よ?」

 

「えっと、あの、そのね……お、お父様とお母様への挨拶、どうしよっか?」

 

「なんでお前も結婚報告する気なんですかねえ!?」

 

 隣に座って赤い顔で妄想の世界に旅立とうとする白雪さん、オーイ戻ってこーい。そこの老夫婦の方、優しい目で祝福を伝えないでくれ。小声で「若いの、頑張れよ」とか言わなくていいから。

 

 一応仕事で行くんだけどなあ。まあ白雪が幸せならいいか。……いやいいのか?(知らん)

 

 

 新幹線を下り、星伽の人が出してくれた車に乗って星伽神社に到着。本当はヘリを使うのが一番早いんだが、今回は急ぐ旅でもなかったため電車を選んだ。白雪の妹達へお土産買う必要もあったからな。

 

 ちなみに駅を下りてから階段を登りきるまでの間、白雪とずっと手を繋いでいた。

 

「寒いし足下危ないから、転んでもいいよう潤ちゃんに支えて欲しいな……ダメ、かな?」

 

 って、上目遣いでお願いされたら断れない。お前さんSSRの山籠もりで俺より健脚だろというツッコミを入れたくなったが、野暮な気がしたのでやめた。

 普段は姉としての立場があるから頼られるが、俺と二人きりになると甘えてくるんだよなあ。別にいいんだけどさ、(家事方面で)世話になってるし。

 

 ちなみにお付きの人には、「結納はいつになりますか?」とか言われた。あんたも恋愛脳(スイーツ)かよ、ここの人そんなんばっかか。

 

「潤義兄様、お姉様、お待ちしておりました」

 

「お久しぶりです、白雪お姉様。遠山様はうらやまけしからんなのでとりあえず天誅していいですか」

 

「こら粉雪、潤義兄様になんてことを」

 

「バッチコイ」

 

「よし。お覚悟お!!」

 

「潤ちゃん(義兄様)!?」

 

 なんて巫女服姿の風雪、粉雪とのいつものやり取りである(ちなみに今回クリティカルヒットはなかった、一安心)。

 

 驚いてる姉達よ大丈夫だ。顔を合わせる度殴り掛かってこない粉雪なんて粉雪じゃないから(サムズアップ)

 

 

 二人に案内され、俺と白雪は星伽神社の本殿とは離れた場所にある、湖の側へ向かう。今回はあっちに用はないからな。

 

「ここに来るのも三年ぶりかあ。相変わらず立ち入り禁止の札もないのな」

 

「潤ちゃん、あの時平気でここに入ってたもんね……」

 

「遠山様は神仏に平気で喧嘩を売りそうですよね。禁足地とか平然と土足で入り込むのが想像できます。」

 

「喧嘩を売られたらどうしようもねーべ。まあ仕事柄っていうのもあるけど、好奇心が勝るのは否定しない」

 

 当時は無断侵入して、星伽の大人たちに滅茶苦茶怒られたからなあ。まあその後いくつか『提案』をしたら、見る目が180度変わったけど。

 

「いつの間にか兄貴より重要な遠山家の人間として扱われた件」

 

「それだけ潤義兄様の提案が星伽の、ひいては私達にとって救いで、偉業と言っても差し支えないことだったのですよ。だから私は潤義兄様に感謝していますし、尊敬しています」

 

「具体的な方策は星伽の人達がやってくれたんだけどなあ。まあ称賛は素直に受け取っておくよ、ありがとうな風雪」

 

 俺が笑いながら礼を言うと、風雪は赤くなった顔でこちらこそありがとうございます! と頭を下げた。なんでお前が頭下げるよ。

 

 その姿を白雪は微笑ましそうに、粉雪は憎々しさと礼を言うべきかの迷いが混じった複雑な表情で見ていた。

 

 何だ、お前さん白雪(長姉)だけじゃなく風雪(次姉)もいけるクチ「違いますよ!」そうかい、こんなところで心を読むなよ。

 

 

「では、私達はここでお待ちしています」

 

「お姉様、ケガのないようお気を付けください」

 

「うん、ありがとう粉雪」

 

「あれ、俺は?」

 

「何もないところで盛大にずっこけてください、顔面から」

 

 どこのダメガネガンマンだよ俺は。

 

 風雪がお小言を粉雪にしているのを背に、俺達は注連縄で区切られた洞窟に足を踏み入れる。中は人二人が通れるくらいの道幅が出来ており、進むのに不自由はない。

 

「暗いね、潤ちゃん……」

 

「燭台のお陰で見るのに不自由はないけどな。って、なんでくっつくし白雪」

 

 左腕にくっつかれると、咄嗟に武器が取り出せないんだが。

 

「えっと、その……暗いのがこわ」

 

「……別にくっつくのに一々理由付けなくていいぞ」

 

「!」

 

 不安顔が洞窟全体を照らすんじゃなというくらいの明るいものになり、より強く腕にしがみついてくる。普段は許可なくくっついてくるのに、二人きりだと許可貰いに来るんだよなあ。あれか、対抗心と勢いか。

 

 うーむ、二つのやわっこい感覚に白雪のいい匂いが。……理子のHENTAI性が移ったか?(人のせいにするクズ)

 

「潤ちゃん、最近優しくなったよね」

 

「前の俺は外道だったと」

 

「違うよ、そういう意味じゃないよ!? あの、なんていうかーー前より壁がなくなったというか、距離が近くなったと思うんだ」

 

「……そうか?」

 

 うん、と幸せそうに頷く白雪。特に心当たりはないんだがなあ、帰国してから時折似たようなことを言われる気がする。

 

 ……どこからか『イチャついてんじゃねえぞコラぁ!?』とか聞こえた気がする。何だ、こんなとこまで嫉妬団のお出ましか(違)

 

 

 洞窟の行き止まりは、大きな空間になっている。そこに鎮座するのは注連縄を巻かれた、星伽神社の『ご神体』ーーUFO型の巨大な金属、緋々色金である。相変わらずツッコミ待ちとしか思えない形状だな、これが紀元前からあるってんだから驚きだわ。

 

「……うん、頼んでた魔術式はちゃんと刻まれてるな。星伽の人達はいい仕事してくれてる」

 

 お礼代わりにお土産多めに持ってきたけど、要請以上の仕事をしてくれてるし、別に何か用意するかなあ。あとで要望でも聞くか(フラグ)

 

「うん、私から見ても問題ないよ。じゃあ、潤ちゃんーー行ってくるね」

 

「ああ、ここからはお前が一番重要な役割だ。頼んだぞ、白雪」

 

「はい、潤ちゃん様! 命に代えてもやり遂げてみせます!」

 

「そこはちゃんと帰ってきなさい」

 

 失敗しても俺がフォローするから、力み過ぎるなって。というか万が一死んだら俺が粉雪に刺されて後追いエンドだよ?(真顔)

 

 「潤ちゃん、そんなに私のこと……!」と何やら感激した様子の白雪だったが、封じ布を外して俺に渡すと真面目な顔になった。良かった、緩んだ顔でやられたらリアクションに困る。

 

「ーー」

 祓串(はらえぐし)を手に、腰に着けた鈴を鳴らしながら、色金の上で舞う。そんな白雪の姿は、以前原田が使った■の魔術とは異なる神秘的な美しさを、たった一人の観客である俺に魅せてくれる。

 

「……ふむ、早速効果ありか」

 

 色金から漏れ出る力が弱まるのを感じる。効果が出るのはもう少し掛かると思ったが、教えた手順を完璧にこなしているのと、白雪が持つ魔力が大きいだろうな。本人は「私なんて歴代の星伽巫女に比べれば」とか言ってたけど、資料を見た限り十分匹敵するかそれ以上だと思うがねえ。あいつはもっと自信持っていいと思う(ブーメラン)

 

 

 緋祓舞。本来は緋々神に憑依された際、依代の身体から祓い出すための、もっとも強力な神楽舞である。

 

 今回白雪が執り行っているのは、俺が提案し、星伽巫女と関係者総出で草案を練って改造したものであり、その効果は『依代から緋々神を祓う』から、『緋々神の意思を色金の中に閉じ込める』ものに変更されている。簡単に言えば封印だな。

 

 もちろん封印するだけでなく、その後は緋々神の力を弱め、憑依が出来ないよう処置を進める予定だ。こっちは歴代星伽巫女の功績だな、俺が言うまでもなく向こうから提案してくれたので非常に助かる。

 

 白雪の舞を特等席で見守っていると、入口から張っていた軟糸(触れると切れることで対象の存在を知らせる糸)が引きちぎられるのを感じた。同時に高速で接近する魔力反応、猪突猛進って感じだな。

 

「さすがにほっといてはくれねえか」

 

「ーー遠山ぁ!!!!」

 

 叫びながら、少女の姿をした鬼の頭領、覇美ーーを依代にした緋々神が、喉が張り裂けん限りの絶叫を上げつつ、頭部を狙った飛び膝蹴りをかましてきた。

 

 完全に背後を取った奇襲、普通なら決まったと思うだろう。

 

「『(たが)いの恋は実らず』」

 

 だが残念、こちとら先月に妖刃の理不尽な気配遮断術を喰らったばかりなんでな。

 

 直前に『遮断』の魔術式で相殺された緋々神は、舌打ちをしながら後ろに跳ぶ。

 

「どけ遠山、じゃなけりゃすぐに儀式をやめさせろぉ!! あたしを、あたしはもっと恋と戦を楽しみたいんだ! 自分の中に閉じ込められるなんてごめんだ!!」

 

「どけって言われて通すと思ってるのか? てめえなんぞに白雪は指一本触れさせねえよ、幽霊モドキ」

 

「ーー殺すっ!!」

 

 問答は不要と判断したか、安い挑発に乗ったか。殺意を漲らせながらこちらへ突進してきた。

 

 用意していた魔術陣を起動させてタスラムを構え、敢えて嘲笑を浴びせる。

 

「ヒャハハハ! ちょうどいい、節分だし鬼退治といこうか! 頼光や四天王に比べれば、随分とみすぼらしい相手だがな!

 鬼さんこちら、傷だらけの身体でどうするんだあ!?」

 

「ーーてめえええ!! 前の封印といい、どこまでも舐め腐りやがってえええ!!!!」

 

 完全にキレた緋々神は自分の上で舞う白雪の存在も意識の外か、こちらに殴り掛かってくる。

 

 一撃一撃は速く重いが、俺程度でも捌き切れないほどではない。孫の時に比べて明らかに力が落ちているのは、白雪の封印によって依代から引き剥がされていくのとーー

 

「グ、ガ!? チク、ショウ! ちゃんと動け、このポンコツが!」

 

「ハ、やっぱり『妖刃』から受けた傷が癒えてねえみたいだなあ! 重傷者を無理矢理乗っ取って動かすとか、とんだ鬼畜もいたもんだ!」

 

「うるっせえ! てめえを殺すには、これでも十分すぎるくらいだよお!!」

 

 緋々神は吠えるが、妖刃ーー原田の斬撃は、自然治癒で治る類ではない。鬼生来の生命力で補っているが、余裕はないだろう。でなければ、牽制の魔弾程度で怯むわけがない。

 

「くたばれやあ!!」

 

「『斑目』!」

 それでも顔面に向けて致命の拳を振るう緋々神に、俺は銃を投げ捨てて詠唱を口にしーー顔面に触れる直前、奴の動きを止めた。手と瞳の中に出てきた『魔眼』が、緋々神を縛ったのだ。

 

「な、んだ、こーー」

 

「『色金包女(イロカネツツメ)』」

 

 驚愕した緋々神の言葉を遮り、亜空間から出現したのは以前白雪に送った武器ーー『色金殺しの槍』である。

 

「ガ、アアアアアッ!?」

 

 亜空間より射出された長槍が左肩に突き刺さり、勢いそのままに吹き飛ばされた緋々神は苦痛の絶叫を上げる。

 壁に縫い止められた奴の身体を、俺は展開していた糸で縛り上げた。

 

「とお、やまぁ……!」

 

「やめとけって。今お前を縛ってる糸は通常のTNK繊維のものじゃねえ、対神霊を想定した魔導具だ。

 首以外、少しでも動けばその部分からズタズタだぜ?」

 

「ぐ、う……」

 

 糸を操作しながら告げてやると、緋々神は色金包女を抜こうとした手を止める。指が少し切れたので、脅しではないと気付いたのだろう。

 

「チェックメイトだ、緋々神。お前の敗因は十全でない依代を使ったこと、そして何より冷静になれなかったことだ。

 それともーー頭だけになっても、まだやるか?」

 

「クソ、があ……」

 

 射殺さんばかりにこちらを睨み付けているが、動く様子はない。逆転の目はないと、理解したのだろう。

 

「遠山あ、覚えてろよ……封印が解けたら、真っ先にお前を殺してやる……!」

 

「生憎、その手の脅しは聞き飽きてるんでね。全くもって心に響かんな。

 ……ま、解けるまで最低でも三百年あるんだ。その間、殺す方法でも模索し続けるんだな」

 

 もっとも、その頃にはその辺の亡霊と変わらないくらい弱体化しているだろうが。その言葉は、わざわざ伝える必要はないだろう。

 

「なーー三、百?」

 

 今この瞬間も力を失う緋々神が、信じられない、信じたくないと目を見開きーーすがるように、敵である俺の顔を見てきた。

 

 だから俺は、事実だけを告げてやる。冷酷で、何の慈悲もない言葉を。

 

「二千年以上生きてきたんだ、たかが半分にも満たない時間だろ? 色金同士のバランスもあるから、壊す予定もないしな」

 

「い、いやだ、いやだ……! 三百年もずっと孤独なんて、そんなの」

 

「……そういうセリフは、てめえが依代にして殺した人間達の怨嗟を聞いてから言うんだな。

 俺もお前も、命乞いが出来る立場じゃねえだろうよ」

 

 死なないだけありがたく思え。それだけ告げて俺は緋々神に背を向け、白雪の神楽舞を見守る。

 

「とお、やまーー」

 

 縋るような声を最後に、緋々神の気配は完全に消え去った。

 

 

「じゅ、潤ちゃーーきゃっ!?」

 

「おっと。白雪、お疲れ様。大分消耗しただろ、平気か?」

 

「私より潤ちゃんだよ!? 緋々神に襲われたんでしょ、ケガしてない!?」

 

「ああ、手負いだったし無傷だーーってこらこら、どこ触ってるんだ」

 

 耳たぶを揉むんじゃありません。足をもつれさせて落ちてきた白雪を御姫様抱っこで抱えたまま、なんでこんなことされてるんだろね。

 

「はあ、良かった……潤ちゃん最近ケガしてばっかりだったから、本当に良かったあ……」

 

「ぶっちゃけあの状態じゃ、アリアの方が怖いくらいだったけどな。

 さて、封印も無事に終了したんだ。相当消耗しただろ、おぶってやるよ」

 

「あ、えっと……ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いします」

 

「だから返事がおかしいだろ」

 

 苦笑しながら白雪を背負い、来た道を戻る。正常に封印が機能しているのだろう、色金の纏う気配は変わらないが、攻撃的な意思は感じない。

 

「ねえ、潤ちゃん……」

 

「ん?  何だ?」

 

「本当に、ありがとう……潤ちゃんのお陰で、これからの星伽巫女は、依代になりうる人を、殺さなくて……」

 

「それは俺達より後の人間次第さ。ご先祖様の卑弥呼みたいに、悪用するため封印を解こうとすればーー」

 

「……すう……」

 

「ありゃ、寝ちゃったか。無理もないか」

 

 ここまでやってくれた相手に悲観論を伝えなかったから、まあ、良かったのかね。

 

「お疲れさん、白雪」

 

 背負ったまま白雪の頭を、優しく撫でてやる。

 

「えへへ、潤ちゃあん……」

 

 ……ホントに寝てるんだよな、こいつ?

 

 ……あ、覇美そのままにしてた。まあ槍は引っこ抜いたし止血もしたから、後で誰かに回収してもらえばいいだろ。

 

 

 

おまけ

「潤義兄様、白雪お姉様!? 大丈夫でしたか!?」

 

「ああ、見ての通りピンピンしてるよ。白雪は舞の疲れで寝てるだけだ。

 風雪もありがとうな、緋々神の足止めしてくれて。あいつの足のケガ、お前がやってくれたんだろ?」

 

「い、いえそんな! 私と粉雪じゃ、少しだけ手傷を負わせるのが精一杯でしだし、寧ろ潤義兄様に負担を押し付けてしまって……」

 

「怪我がないのが一番さ、それに殿は元々俺だったしな。

 あと、緋々神に手傷を負わせたのは十分『誇っていい』ことだぞ?」

 

「ーーっ。……はい、潤義兄様。ありがとうございます」

 

「どういたしまして。粉雪もありがとーー」

 

「……」

 

「何よその感謝と嫉妬が混じった目は」

 

「遠山様、何故、何故……白雪お姉様を運んで差し上げるという大任を、私に譲ってくださらなかったのですか!?」

 

「粉雪……最初に言うことがそれですか……」

 

「寧ろこれが粉雪って感じで、何か安心するわ」

 

 

おまけ2

「ん……あれ? 潤ちゃん?」

 

「お、起きたか白雪。おはよう。今風雪が夕飯を作ってくれてるぞ」パタン

 

「あ、そっかあ……」ボッー

 

「…………!? じゅじゅ、潤ちゃん!? なな、なんで、ひざ、ひじゃまくら!?」ガバッ

 

「ん? ああこれ? 本当は布団で寝かせてやろうと思ったんだが、風雪が、

 『潤義兄様のお膝は、白雪お姉様にとってどんな枕よりも心地よいものですよ』って変なこと言うもんだからさ。

 すまんね、野郎の膝とか寝にくかーー」

 

「本当にありがとうございます!」完璧なDOGEZAスタイル

 

「ええ……」(´・ω・`)ドウイウコッチャ

 

(ナイス、本当にナイスだよ風雪! こんな至福を味わえるなんて、お姉ちゃんはいい妹を持てて幸せです!!)

 

「……あー、まあ喜んでもらえたなら良かったわ。今回は白雪が一番の功労者だし、他に何かあれば出来る範囲で聞くぞ?」

 

「!? ほ、ホントにいいの!?」

 

「これに関しては二言はぬえ」

 

「じゃ、じゃあ、既成じーーじゃなくて、えっと、その……まだちょっと疲れてるから、潤ちゃん様のお膝、借りてもいいですか……?」

 

(今貞操を奪われかけなかったか)

 

「まあ、こんな硬いので良ければ幾らでも。あ、枕かタオルいる?」

 

「そのままでいい、いえそのままがいいです!」

 

「お、おう」

 

「えへへ……幸せえ……」

 

 

「し、白雪お姉様……すごく、大胆ですね……」

 

「……そうでやがりますか?」

 

(むしろあの距離感で、何故付き合ってやがらないんですかね……)

 

 

 




あとがき
 封印するだけのつもりが、思いっきりバトル展開入ったんですが。おっかしいなー、前話の影響か?(知らん)

 というわけでどうも、ゆっくりいんです。今回のテーマは『後始末』、封印した色金を完全に封じた形ですね。前回の分は、あくまで孫から出るのとアリアさんへの影響を防いだだけだったので。

 さて、次回も時間は飛び、女子の戦場の時間です。……このメンツだと修羅状態になるか、協力して追い込まれる未来しか見えませんね。どっちでもいいんですが(オイ)

 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。

 感想・評価・お気に入り等、いただければテンションが爆上がりして投稿頻度が早くなるかもしれません(真顔)



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第二話 何、お前らそんなに俺を追い詰めたいの?

潤「なにこのサブタイ、俺の心の代弁?」

( ゚д゚)「ハロウィンの悪夢再来」

潤「あの時と同じようなことになったらお前殺すわ」

( ゚д゚)「何故に!?」

潤「何で殺されないと思ったんだよ」



『うおお後ろ取られたあ!? ちょ、ヘルプ! 誰か助けてくれえ!?』

 

「だから後方注意もしろって言っただろ阿呆が…おい剛、カバーしといたぞ」

 

『さっすが! 愛してるぜ、潤!』

 

「キショい去ね、この世から」

 

『死ねよりひでえ!?』

 

『遠山君、そっちの援護向かおうか?』

 

「いや大丈夫だ、亮はそのまま拠点落としてくれ。ここで沈めば、俺達が落とされても挽回できる」

 

『了解、任されたよ』

 

 どうも、遠山潤です。現在男三人でゲーセンプレイ中である。戦〇の絆は古い? よーし今言ったやつ表出ろ、ジャイアントバズの餌食にしてやる(マジ顔)

 

 剛の奴が突撃ばっかするから危うく負けそうだったが、亮が拠点を落としてくれたおかげでなんとかなった。頼りになるは冷静な仲間である、いやマジで。

 

「ふう、お疲れさん。勝ったしいい時間だからメシでも行くか、奢るぞ」

 

「いいのかい? それじゃあ折角だし、ご馳走になろうかな」

 

「おい潤、A5ランクのステーキ食いに行かねえか? 近くに店が出来たらしいぞ」

 

「お前は少しくらい遠慮しろ」

 

 被撃墜数一番多かった奴に選ぶ権利はねえよ。

 

 亮の希望で、学園島内にあるとんかつ屋で夕飯を食うことになった。選んだ本人曰く、一人で入る雰囲気じゃないけど入ってみたかったとか。女子向けの喫茶店に入れない男子みたいだな(←一人でも甘味を求めて突撃する奴)。

 

「野郎だけで集まるのも、久しぶりな気がするな」

 

「そうだね。大抵は遠山君が女の子を引き連れてるし」

 

「その言い方だと俺が尻軽みたいなんだが。エルでも呼ぶか?」

 

「実際尻軽だろうが轢くぞオラァ羨ましい! というか女顔でも男を増やしてどうするんだよ!?」

 

「とんかつ食いたがってたのを思い出した」

 

 まあ今日呼び出しても断られるだろうが、しかし良かった、剛の奴は可愛ければいいやって程飢えてる訳じゃないみたいだな。

 

「なんか不本意な安堵の仕方してねえか潤」

 

「気のせいだろ、冤罪は武偵法三倍だぞ」

 

「そういえば遠山君、唐突に誘ってくれたけど何かあったの? 明日はイベントでしょ?」

 

「可愛い女子からチョコを貰える素敵デイ、バレンタインがな!」

 

 愛を成就させるとかではないのな。

 

「そのチョコを作るからって追い出されたんだけどな。『お兄ちゃん、今日はキッチンが戦場になるからどっか行ってて! できれば朝まで帰ってこないで!』って言われて」

 

「あーなるほど……大変だね、女性との同棲は」

 

「同棲じゃなくて居候な」

 

 色々教務課に働きかけて黙認されてるけど、変な言い方するとまた面倒な絡まれ方されるから勘弁してくれ。追加の賄賂、もとい心付けを用意するのが面倒なんだ。

 

「いーいよなあ貰えるあてがある奴はよお! なあ不知火!?」

 

「うーん、あんまり多いとお返しが大変になるんだよね……」

 

「お前もかブルータス!?」

 

 店ででかい声出すなよ、迷惑ーーいや店員さんに他のお客さん、何うんうんって頷いてるんだよ。ここはモテない野郎の巣窟か(スゴイシツレイ)

 

「で、実際どうするの? 遠山君」

 

「どうするって、何がよ」

 

「いや、チョコを貰ったとして、そこでもしかしたら告白されるかもしれないでしょ? 遠山君の場合、複数の女の子からされる確率が高いから、どうするのかなーって」

 

「てめえ潤、恋愛に興味ありませんみたいな顔して抜け駆けどころかハーレム作るとか「そろそろうるせえ」」

 

 ノーフレームで目潰ししてやった。いい加減迷惑なんだよ、俺に(真顔)

 

「うおああああああ!? 目が、目がああ!!?」

 

「うわあ……すごい痛そうだね」

 

「失明する威力じゃないから大丈夫だよ、それに股間クラッシャーされるよりはマシだ」

 

「それは怖いね……で、実際どうなのかな?」

 

 やけに食いつくなコイツ、誰とくっつくか賭けでもしてるのか? というかお前こそ身を固めろよ、アテは校内外問わずあるんだから。

 

 まああれだ、

 

「多分そうなった場合、俺の意思に関係なく包囲網が出来ると思う。ロマン? 純愛? 何それ食えるの?」

 

「……あー」

 

 納得しちゃうか―、じゃあどうしようもないな。というかウチのメンツは一人に惚れてる癖して、マジの奪い合いとか喧嘩しないで自然と結束出来てるんだよな、恐ろしいわ(ほっといた奴)

 

 余談だが去年、蘭豹先生が一目惚れしてた男にチョコを渡そうとしたら逃げられ(斬馬刀背負ってたらしい、阿呆なのだろうか)、その腹いせに危うくバレンタインを中止する暗黙のルールが出来そうになったらしいが、俺がその人を探し当てて仲介し、何とか渡すのに成功したらしい。

 

 なんで俺がやんなきゃいけなかったんだろ、いや武偵校中のモテない男女達から依頼されたからなんだけどさ。

 

 オチは一か月も経たずに振られたらしいけどな。お陰で卒業式シーズンに暴れて、校長先生にこっぴどく叱られてたっけ。『お前のせいやぞ遠山あ!』とか八つ当たりされたけど、俺が何したよ(白目)

 

 

 さて、明けて翌日二月十四日、世はバレンタインデー。昨日は適当なビジネスホテルに泊まったため、ちょっと遅めの登校だ。家主なのに追い出されるってなんなんだろうな(悟りの目)。

 

 教室に入ると、三学期にもなって座る奴が減る席は、今日に限って満員御礼。男女問わず独特な空気を放っている気がする、何この無意味な攻防を警戒しているみたいな状態。

 

「あ、ジュンおはよう。はいこれ、ハッピーバレンタイン」

 

「お、サンキュ―アリア。お前さんが一番手か」

 

「そりゃまあ、お世話になってるしね。義理チョコだけど、ありがたく食べなさいよ」

 

「お返しはレオポン型のお菓子で「期待してるわ」」

 

 食い気味に返事されたよ、型造らないと(決心)

 

(((((そんなあっさり渡し渡される、だと……!?)))))

 

 なんかクラスメイトから畏怖の視線を向けられてるんだが、なんだお前ら。このももまん風味チョコは俺のだからやらんぞ(違)

 

 

※ここからダイジェストです

 

 

屋上 休み時間

「キンジさん、ハッピーバレンタインです」

 

「お、レキありがとな。まさかお前さんから手作りを貰えるとは」

 

「理子さんに折角だからということで誘われましたので。味は保証できませんが」

 

「いやいや、十分だよ。お、チョコクッキーか」

 

「皆さん、ジャンルが被らないようにしていますので」

 

「そか。気遣いに感謝だな」

 

「……」ジ―

 

「……」

 

「…………」ジジー

 

「……食べるか?」

 

「はい、ご相伴に預かります」

 

 色気より食い気だなこの子は、ホントに。

 

 

昼休み、教室

「さてジュン、私からもこちらを差し上げます」

 

「……お前料理できたのか、メヌ」

 

「失礼ね、抉り穿つわよ。リサに教えてもらって出来るようになりました、お姉様よりは上手よ」

 

「メヌより先に教わって抜かれるアタシって……」ズーン

 

「手先が器用だからな、仕方ねーべ。さて、中身はーーお、チョコドーナツか」

 

「ただのドーナツじゃないわ。なんとーー」

 

「なんと?」

 

「チョコとドーナツには、市販の十倍相当に達する高カロリーの材料を練り込んだわ」ニヤァ

 

「「「「「!!」」」」」

 

「へえ、どれどれ。……うん、クッソ甘いけど美味い。カロリーだけじゃなく、味もしっかりしてるな。上手じゃん、メヌ」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

 ……なんか女子から恐怖の視線を向けられてる気がするが、気のせいか?

 

「当然よ、その気になれば料理くらい余裕です」

 

「かなえさん直伝だもんな」

 

「……そうよ、悪い?」

 

 恥ずかしそうに顔を背ける。相変わらず、母代わりのかなえさんには弱いなあ。

 

「悪くないさ、寧ろ美味くてありがたい」

 

「そう、それならいいのよ。……ふふっ」

 

「? 何よ」

 

「いえ、誰かに食べてもらうのもいいものだと思いまして。

 あ、ちなみにカロリー以外にも隠し味がありますので」

 

「カエルの肉とか言わないよな」

 

「それは合わないでしょ……桃子特製のシロップよ」

 

 毒じゃねえか、クロロホルムかトリカブトでも入れてるのか。どっちも甘くなるし平気だけどさ。

 

 

昼休み 生徒会室

「あ、潤ちゃん! ごめんね、呼び出したりしちゃって」

 

「別にいいぞ、用事あるわけでもないしな。それで、呼び出したってことは」

 

「はい、ご期待通りのーーハッピーバレンタイン、です!」

 

「ありがとな、今年もくれて。

 お、チョコの大福とーー栗ようかん?」

 

「あ、ようかんは風雪からの分だよ。潤義兄様にお渡しくださいって言われて。チョコはあんまり自信ないから、これにしたんだって」

 

「ようかん造る方が難易度高いと思うんだが。

 ……うん、美味しい。チョコ大福、しつこすぎないくらいの甘さでいい感じだな」

 

「良かった、喜んでもらえて。……あ、あのね? 潤ちゃん」

 

「ん? どした?」

 

「その、来月のお返しなんだけど……お菓子じゃなくて、潤ちゃんでもいいかな、って……」カアァ

 

「いや普通にお菓子用意するから」

 

「真面目!?」

 

 

午後休憩時間 廊下

「おっにいちゃーん!!」ドンッ

 

「おおう。廊下で突撃するんじゃないぞ、マイシスター」

 

「えへへ、ごめんごめん。お兄ちゃんを見たら嬉しくなって、つい。

 さって、モテモテのお兄ちゃんに追撃を選択! これがアタシのチョコだ!」

 

「でっかい声で言わなくても貰うって、ありがとな。

 ……お? 生キャラメルチョコのマフィン?」

 

「うん、チョコとキャラメルの黄金比を求めた自信の一品だよ! リサお姉ちゃんに太鼓判も貰ったし、メヌちゃんには及ばずとも食べ応え抜群!」

 

「あいつのはカロリーで殺しに来てる部類だけどな。

 ……こ、これは……!? チョコとキャラメルの、奇跡のコラボレーショーーオイマイシスター、何一緒に混ぜた」

 

「媚薬成分を抽出したクルミをふんだんに使ったよ!」

 

 なにする気なんだよ、メヌよりは普通の食材だけどさ。あと効かねえからな、俺には。

 

 

放課後 第三男子寮

「ただいまー」

 

「お帰りなさいませ、ご主人様。……すごい戦果ですね、リサはちょっと嫉妬してしまいそうです」

 

「大体は義理だったりお返し目当てだったりだけどな。まあこれだけあれば、三日分の菓子にはなるだろ」

 

(つまりリサ達以外に本気の方もいるのですね……これは負けてられませんっ)

 

「ではご主人様、リサの想いも受け取ってくださると嬉しいです」

 

「もちろん、喜んで。

 ……お、ホワイトチョコで包んだ特大オレオか。というかでかくね?」

 

「ご主人様は甘いものをいくらでも食べられますし、折角なので大きいサイズをご用意しました」

 

 それにしたって薄型のせんべいサイズは予想外だわ。

 

「……うん、ただ甘いだけじゃなくしっかりした味わいだな、紅茶に合うお菓子だ、俺は好きだな」

 

「! モーイ、お気に召していただけたようで何よりです。夕飯はご主人様の好きなものを造りますので、ゆっくりなさってください。

 ……それとも、リサを召し上がりますか?」

 

「今そんなことしたら確実にバレるだろ」

 

 何故だろう、修羅場より便乗される未来が見えた。

 

 

 粗方チョコというかお菓子を受け取り、俺は腹ごなしに近場を散歩していた。夕飯はリサと白雪が張り切ってたからな、少し空けた方がいいだろう。決して意味深な視線を感じたからではない。

 

「あ、来た来た。ユーくーん!」

 

「ん? おう理子、ひょっとして待たせたか?」

 

 女子寮近くにある庭園、そこに座っていた理子がこちらに手を振っている。

 

「ううん、理子が好きで待ってただけだから」

 

 隣空いてるよーと言われたので素直に座ると、笑顔でこっちに身を寄せてきた。寒空の下にいたせいか、いつもより身体が少々冷えている。

 

「わざわざ外で待たなくてもいいだろうに。寒いだろ」

 

「でも理子この場所が好きだし、渡すならここだー! って決めてたから。

 くっふっふー、というわけでユーくん、理子からのバレンタインチョコはー、これだ!」

 

「わあお、こりゃまた甘そうなのが」

 

「スタンダードなストロベリーホワイトチョコだよ!」

 

「お前のスタンダードは世間で言う甘すぎだろ」

 クラスメイト(女子)に友チョコを渡してたけど、あまりの甘さに悶絶してなかったか。砂糖にパルスイート使うのがデフォだし、こいつ。

 

「くふふー、ユーくんは食べられるから問題ないでしょー?

 じゃあ夕飯の前だし、一個だけにしよっか?」

 

「そうだな、そろそろ口の中が甘味一色になりそうだし、そのくらいでーーオイ理子、何してるんだ」

 

「んー♪」

 

 口にチョコを咥え、上目遣いで楽しそうにこちらを見ていた。この状態で食えと?

 

「んふふー♪」

 

「お前な……」

 

 完全に遊ぶ気だな、こいつ。溜息を吐き、チョコに口を近付ける。直接触れなければ大丈夫だーー

 

 

「んー、んっ」

 

 

 ……離れようとしたら理子の腕が首に回され、チョコと一緒に唇が合わさった。

 

「んっ、んうっ」

 

「ん、むっ……」

 

 キスしたままチョコを押し込まれ、甘く蕩けた唾液と舌が混じり合う。脳髄が痺れるような感覚は、気のせいだろうか。

 

「ーーっ、ぷはっ。あはは、ユーくんごちそうさまー。あっまいねえ、美味しかった?」

 

「お前な……」

 

「……あれ、ユーくん照れてる?」

 

「……」

 

 僅かに赤くなった顔で目を逸らし、気まずい沈黙が流れる。さすがに予想外だったんだよコノヤロー、反応に困る。

 

「……え、えっと、じゃあ理子はもう行くね~! お返し期待してるから、ばいばいきーん!」

 

 先に限界を迎えたのは理子だった。赤い顔で、それでも笑顔で庭園を去っていく。帰る場所一緒だけどな。

 

「ったく、なんなんだ……お?」

 

 理子の奇襲と自身の持て余した感情に、甘い味わいとは逆の渋い顔になっていると、口の中に違和感。

 

「……これは」

 

 口から取り出してみると、小さく四つ折りされた紙だった。メッセージカードだろうか、飲み込んだらどうするんだ。

 

 変なところで頭の回らない理子に呆れ、チョコ混じりの紙を開いてみると、

 

 

Je t’aime a la folie(狂おしいほど、あなたを愛している)

 

 

「…………知ってるよ」

 

 フランス語で書かれた紙をたたみ、ポケットに入れる。……ホント、回りくどいなあいつは。

 

 なんとなく、何も考えずに夜空を見上げる。リサが心配で電話をかけてくるまで、ずっとそうしていた。

 

 

 




あとがき
 全員甘い(砂糖吐き)。なおこの結果により、潤の包囲網は順調に縮まっている模様(真顔)
 
 というわけでどうも、ゆっくりいんです。今回は久々の男性陣登場、そして全員から安全にチョコを貰う潤の構図。蘭豹先生を抑えられたのは大きい、他の武偵達も青春を謳歌しているでしょう。

 さて、次回は更に時間を飛ばして『お返し』です。潤の答えと、理子はどう答えるのか? 多分どっちかがちゃんと伝えられないでしょうが(予測)
 
 それでは今回はここまで。読んでくださりありがとうございました。
 
 感想・評価・お気に入り等、いただければテンションが爆上がりして投稿頻度が早くなるかもしれません(真顔)





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第三章 お返しはちょっと豪勢くらいがいい、マウントを取れるから

作者(以下( ゚д゚))「えーでは、時間をすっ飛ばして三月です」

潤「飛ばし過ぎじゃね?」

( ゚д゚)「いやだって、極東戦役と緋々神関連が終わっちゃいましたし、進級するまで日常シーンくらいしかないですよ」

潤「読者様が求めてるのは日常系(ギャグ)だと思うぞ」

( ゚д゚)「ルビから感じる自覚症状よ。
 あと、恋愛関係のイベントは一気に終わらせたいんですよね。伏線回収とか絶対に出来ないんで」

潤「鶏以下の記憶力な奴が、年単位の伏線回収とか出来るわけないわな」

( ゚д゚)イウナシ

( ゚д゚)「さて、潤。覚悟はOKです?」

潤「俺は出来てる、向こうは知らん」

( ゚д゚)「展開は私にも分からん」

潤「引くくらいプロット書いてないからな、この作品。ガチで勢いだからどうしてこうなったな展開が多いし」

( ゚д゚)「どうしてこうなった」

潤「オメーが書いたんだよ」


「犯人はあなたですね、執事殿」

 

「な!? 何を根拠に仰ってーー」

 

「犯行時刻、部屋の間取り、凶器、そして動機。その全てについて知っているのは、あなただけなんですよ。完全と言っていたアリバイを崩すことも、なんなら犯行現場の再現も出来ますよ?」

 

「ぐ……仕方ないのだ、奥方様が、奥方様が……

 

 

 私をハンガーで叩く快感に目覚めてしまったのだ! 

 

 

 こんなバカげたことを止めるためには、こうするしかなかったんだ……」

 

「いや他にあるでしょ、なんで凶器が壺なんですか」

 

 どこぞの鉱山司令かあんたは。

 

 

 はいどうも、遠山潤です。なんか最近しょうもない依頼が多いんだけど、気のせいだろうか。高天原先生から警察だと動きにくい相手だからお願いね? って言われて受けたけどさ、なんだこれ。

 

 解決したのに意味が分からなかった。被害者も階段から落ちて気絶しただけでケガもねえし、なんだこれ(二度目)

 

 さて、本日は3月14日、ホワイトデーなり。ウチのメンツ+αにはほとんど渡したのだが(何人かから襲われそうになった、イメージカラーの宝石を使ったアクセサリーだけでどうしてこうなった)、まだ渡せてないバカ筆頭が一人。

 

「理子の奴、用がある時に限って携帯が死んでやがる」

 

 電池切れか、はたまたサイレントマナーにしてるのか。こういう時は足で行くしかないのだが、魔力を探れば大まかな場所は分かる。魔術師って便利だよな(無駄遣い)

 

 というわけで、お台場に到着。依頼とかの用事がないとわざわざ来ない場所だから、あんまり詳しくない。スイーツ関連は網羅してるんだけどな(全部制覇した顔)。

 

「さーて、あのアホンダラはどこにいるのやら」

 

 「お返しは十倍でいいよー」とか言ってたくせに、見つけられなきゃ渡すことも出来ないじゃねえか。

 何か弄ばれてる気がするし、見つけたら凹ーー

 

「あれ? 遠山先輩? ひょっとして峰先輩を探してます?」

 

「おう火野さん、偶然。超偵もビックリな正解を出したけど、心読めるようになった?」

 

「出来るならやりたいですよ、麒麟に振り回されなくて済むんですから……」

 

 たまに訓練を付けてやってる後輩、火野さんは溜息を吐く。言いながら口元にやけてるぞ、相変わらず仲が良い(意味深)なようで。

 

「女心は秋の空って言うしな」

 

「遠山先輩は季節外れの台風って感じですよね」

 

「予測出来ない災害って言いたいのかコノヤロー」

 

 その評価は理子に与えるべきだよ(五十歩百歩)。

 

「さっきカフェ近くで峰先輩に会ったんですよ。「理子と会ったこと言うなよ、絶対に言うなよ!? 特にユーくんには!」って言ってましたけど。

 ……フリですよね、これ?」

 

「だろうから教えてくれ、そろそろホワイトデーのお返しを叩きつけてやりたい」

 

「相変わらず仲良いですねー、お二人は」

 

「戦妹を溺愛してる火野さんには負けると思う」

 

「そーそー、最近「お姉様に愛されるため、カワイイの成長期中ですわ!」とか言ってたんですけど、これがマジでーーいや何言わせるんですか!?」

 

 赤い顔して叫んでるけど、語りだしたのお前さんだからな。もう早く結婚しろよ、ご祝儀は多めに包むからさ(生温い目)

 

 まあ雑談を挟んだが、理子の居場所を教えてもらったのでそのまま向かうことに。  

 

 火野さんにはお礼として、女子のペアだとセールになる喫茶店のサービス券あげた、「行かないですよアタシには難易度高い!?」と言いながらも興味津々だったのバレバレだからな、仲良くしてこい。

 

「ーーあん?」

 

「どーん!」

 

「ドンドンパ!?」

 

 向かってる途中気配を近くで感じたと思ったら、後ろから理子が抱きつきという名のタックルをしてきた。なんで体当たりの殺意が高いんだよ、内臓飛び出るかと思ったわ。

 

「やほーユーくん! お探しのラブリーりこりんはこっこですよ~。

 くふふー、ねえビックリした? ビックリした?」

 

「二か月で原田の気配遮断術をマスターしつつあるお前に、脱帽と嫉妬してる」

 

「コツを掴んだからいけるぜ」

 

 いや無理だから、あいつのは知識とか見てどうにかなるもんじゃなく、独自の感性と理論で構成された技術だし。

 寧ろなんで不完全とはいえ出来てるんだよ、こいつを無能呼ばわりしてたやつの気がしれねえ(白目)

 

「くふふ! 探知でユーくんを出し抜けるなんて、せっちーの技はやっぱりすごいんだねー。

 さあそんなことは置いといてユーくん、デートとしゃれこもーぜ! 理子を見つけられなかったから、全部奢りで!」

 

「いつの間に勝負事になってたんだよ」

 

 あと原田をそんな風に呼ぶ度胸のあるやつ、お前だけだと思う(褒めてない)。

 

 まあ今回は負けた気がするので、素直に奢ってやるとしよう。

 

 

「わーこれキレ―! ユーくん、これ欲しい! 理子のコレクションにする!」

 

「それ同じの三つ目じゃなかったか、俺の記憶がたしかなら」

 

「いいものは何個でも欲しいんですよ! 保存用、布教用、観賞用って言うでしょ?」

 

「それお前の場合は漫画かラノベかゲームだろ」

 

 そもそも擦り減るくらいまで読んだり遊ぶ俺に言うな、本は消耗品だぞ(真顔)

 

 さて、理子の気の向くままに引っ張り回されているわけだが。お返しを渡すタイミングねえなあ、というか渡そうとすると「次あっち!」って言ってどっか行っちまうのだ。要らねーのかお前は(真顔)

 

「そしてここまで来てゲーセンである」

 

「新発売のア〇ちゃんを取るまで、理子は逃げちゃダメなんだ……!」

 

「節約からは逃げてるけどな」

 

「理子の辞書にそんなもんはぬえ!」

 

 知ってた、そして結局取るのに二千円かかった、最後にやった俺が。まあ本人嬉しそうだからいいけどさ、マジで人のサイフを容赦なく削るねあーた。

 

「くふふー♪ 楽しーなったら楽しーな♪ アリアんやユーくんと一緒に戦ったり、御南で騒いだりするのもいいけど、こうやって二人っきりなのもまた至福だよねえ」

 

「一番騒いでるのお前だけどな、大抵。

 で、理子。ホワイト」

 

「さー次どこ行こっかなー」

 

「よし、こいつはいらないってことでいいな」

 

「ごめんなさいふざけすぎたから捨てないで!?」

 

 海に用意したプレゼントを投げてやろうとしたら、全力で腕にしがみつかれた。涙目になるくらいなら最初からやるな。

 

「何がしたいんだお前は」

 

「え、あのいやー……改めて貰うとなると恥ずかしいっていうか、なんというか。

 あ、あれだよ、心の準備が必要だってこと! アンダスタン?」

 

「今思い付いただろその理由」

 

 大体準備も何も、お返し貰うだけだろうに。

 

「ユーくんのお返しはただ貰うには意味深すぎるんだよなあ……今日何回襲われれかけたの?」

 

「白雪に一回、マイシスターに一回、リサに二回」

 

 リサぇ……このエロメイド……とか理子が呻いてる。その手のことに一番積極的だからな、ウチのメイドは。体育倉庫に閉じ込められた時はもうダメかと思ったわ(遠い目)

 

「何その薄い本みたいな展開、詳しく。

 ……はっ! じゃなーくーてー! デート中に他の女の子の名前を出すなんて、りこりん激おこですよ激おこ! ぷんぷんがおーだぞ!」

 

「お前が話題振ったんだろ。ほら、もういいから貰っとけ」

 

「うわっぷ!? ちょ、押し付けなくてもいいじゃん! ユーくんのデリカシーなし!」 

 

「オメーにだけは言われたくない」

 

 素直に受け取ってれば、こんな渡し方しなかったわ。もう夕日が落ちそうなんだぞ、お月様がこんばんはするわ。

 

「いやそうだけどさあ……これ、懐中時計?」

 

「チェーン付きで携帯にも便利なサイズにしといた。邪魔にならない程度にイエローダイヤモンドも付けてみたぞ。

 あと、これも」

 

「……あ。これ、ロケット?」

 

「思い出は大切にするんだろ。ご両親か仲間か、好きな写真を入れるといい」

 

 こいつが写真撮るのは思い出作りが半分だからな。残り半分? スケベ心(真顔)。

 

 あとは理子の好物のチーズタルト、市販のより数倍は甘いやつ。正直、チーズ要素あるかは若干怪しい。

 

「……もー。手作りでこんなのとか、大切にするしかないじゃん。

 ありがと、ユーくん。末永く使わせてもらうね」

 

「寝ぼけて踏み潰すなよ」

 

「理子を何だと思ってるんですかねえ、こーの乙女心スルーマンは」

 

「三徹でゲームぶっ通した挙句、薄型P〇2を枕と勘違いしてぶっ壊した阿呆」

 

 うぐうとか呻いてるが、事実なので何も反論できない理子。しかも直したの俺だし、リサはご立腹だったからな。 

 

「と、とーにーかーくー! これはちゃんと大事に扱うから、大丈夫ですたい!」

 

「その返事で不安だよ、まあ壊したら直すからちゃんと言えよ。

 ……で、だ。理子」

 

「ひょえ? な、何ユーくん、急にマジ顔になって」

 

 なんだその声、始めて聞いたぞ。いつも自分からくっついてくる癖に、こっちから行くと固まるよなコイツ。

 

「バレンタインの返事、だよ。まさか忘れた訳じゃねえだろ?」

 

 ご丁寧にキスまでしてメッセージ渡してきたんだし。

 

「あ、うん、はい。もちろんです」

 

 何キャラだよそれ。

 

「「……」」

 

 そして何だ、この微妙な空気。カップル以外の野次馬が興味深そうに足止めてるぞ、こっち見んな。

 

「……ふう」

 

 まあ、躊躇しても仕方ないか。

 俺は息を吐き、口を開いてーー

 

「ちょ、ちょーーっと作戦タイム!」

 

 想いを告げようとしたら、アワアワした理子に手を突き出されて止められた。

 

「…………お前なあ」

 

「えっと、あの、そのーーごめんユーくん、後ろ向いて! 理子もそれまでに、心の準備を整えるから!」

 

「……まあ、いいけどよ」

 

 完全に出鼻挫かれた。そう思いながらも、素直に後ろを向く。まあ動揺したまま受け取るより、マシと考えーー

 

 

 

「そおい!!」

 

 

 

「は?」

 

 急接近してきた理子が背後から俺の腰を掴み、全力で空に放り投げられた。いやどういうことーー

 

 ドボン。疑問が晴れぬまま受け身も取らず柵を超え、頭から川に落ちる俺。三月半ばということもあり、中々冷える。

 いや違う、そうじゃない。

 

 『さ、サラダバー!!』

 

 水中だったが、理子が叫んでダッシュしていく音が聞こえた。魔術って便利だよな(二度目)

 

「…………いつぞやのお返しか、コノヤロー」

 

 周囲がざわつく中、ずぶ濡れの俺はさぞかし目が据わっているだろう。次はコンクリ漬けで沈めてやろうか、マジで。

 

 

 

「あーうー、やっちゃったよお……これもう絶対にダメな奴じゃん、やっとだと思ったのにい理子のバカあ……

 でも、でもなあ……」

 

 

 

おまけ 帰宅後の第三男子寮

「バカね」

 

「バカですね」

 

「バカだね」

 

「バカとしか言いようがないね」

 

「バカかと」

 

「理子様、愚かにも程があります」

 

「リサが一番辛辣辛辣ですねえ!? というか満場一致で理子がバカですか!?」

 

「バカ以外どう言えって言うのよ、このバカ。

 ジュンも大概だと思ってたけど訂正するわ、アンタの方が酷いわよ理子」

 

「恋愛ゲームなら、積み上げてきた好感度が一瞬で台無しにする最低最悪の選択肢ですね」

 

「理子さん、潔く腹を切りましょう」

 

「ユキちゃんの目が本気で怖いんですけど!?」

 

「当たり前でしょこの大馬鹿! 潤ちゃん不貞寝しちゃったんだよ、部屋に結界をガッチガチに張って、『起こしたら殺す』って張り紙まで張って!

 もう抜け駆けされたとか以前に、潤ちゃんが可哀想すぎるでしょ!? 出てこなかったらどうするの!?」

 

「ごめんなさいマジでごめんなさい白雪姉様、理子もさすがにあれは無いと思ってるんですホントです! 心の底から反省してます」

 

「謝るなら私じゃなくて潤ちゃんに謝りなさい!! あとあなたのお姉ちゃんじゃありません!」

 

「おー、白雪お姉ちゃんが長女と恋愛強者の風格を醸し出してる」

 

「……妹様、今後についてどう思います?」

 

「いやまあ、もうダメなんじゃないかなあ。

 ……と言いたいけど、お兄ちゃんのことだから明日にはケロッと顔出すかも」

 

「ご主人様の懐の深さは、底知れないですね……」

 

「まー聞いた限りだとお兄ちゃん、似たようなこと理子お姉ちゃんにやられてるからねえ。今回のが一番ひどいと思うけど」

 

 この後封じ布を吹き飛ばした白雪に、滅茶苦茶説教された。

 

 

おまけ2 次の日の朝

「あ……ユーくん、あの「はいドーン」ぬあー!? ちょ、暗!? 何被せたの!?」

 

「バケツね」

 

「バケツですね、灰色の」

 

「バケツ!? バケツナンデ!? ちょ、ユーくんとって、これ前が見えぬえ!?」

 

「うるせえ、今日一日はそれで過ごしてろ」

 

((((あ、まだ怒ってた))))

 

 

おまけ3 更に翌日

「にゅあああああ痛い痛い痛い!? ちょ、ヌエっち、足の小指は本当にダメだってえ!?」

 

「うふふ、次はどこにしますかねえ……」

 

「チクショウ恍惚としてて全く聞いてくれねえ! でもその表情も理子的にはおいしーー

 あちょ、耳に付けてるのは引っ張らないでーー」

 

「えい」

 

 

 みぎゃああああああ!?

 

 

「……ナニコレ、新手の拷問?」

 

「あ、ジュンお帰り。白雪からのお達しで、理子に罰ゲーム中よ。内容はメヌにお任せで」

 

「考えうる限り最悪の組み合わせだな、それでクリップまみれにされてるのかアイツ。

 うーん、その時々で一番痛いとこを的確についているところに、職人の技を感じる」

 

「どんな職人よそれ。まあ、我が妹ながらどうかと思う所業だけど……」

 

「あ、ユーくんボスケテ!?」

 

「あらあら、ジュンに助けを求めるなんてーー理子は反省の意味が分かってないようですね?

 では、もうちょっとレベルを上げていきましょうか♪」

 

「えちょ、ヌエっち待って、そこは捻じらないでえええええ!!!??」

 

「…………」

 

「引いてやるなよ、妹だろ」




あとがき
 理子ぇ……書いてみたら想像以上にひでえなこれ、どうしてこうなった(白目)
 
 というわけでどうも、ゆっくりいんです。罰ゲームで告白ドッキリってのはありますけど、それ以上に酷いんじゃないですかねこれ。皆さんやられたらどんな顔します? 私は真顔になると思います。
 
 ……という感じで、次回に続きます。まあ潤だし、どうにかするかどうにかなるでしょう。……マジでどうなるんだろ(知らん)







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第四章 受け取らなかった理由、受け取らせる方法

( ゚д゚)「まさかのちょうど百話目ですね。あ、理子さん誕生日おめでとうございます。」

理子「あーうん、ありがとー……」

( ゚д゚)「テンションが死んでやがる」

理子「そりゃ死ぬよ!? あの後ユーくんは普通に接してくれるから罪悪感沸くし、、アリアん達が時々すっごい冷たい目で見てくるんだよ!? 真正面から殴られた方が百倍マシだよ!」

( ゚д゚)「妖刃戦よりダメージ受けてますねこれ。まあ今回はリベンジマッチみたいなもんなんで、頑張ってくだせえ」

理子「……う、うん、頑張る」

( ゚д゚)(自信無くしてるじゃねえか)




( ゚д゚)「あ、これ最終話です」

理子「……え!?」




 

「や、遠山君。これから峰さんのところ?」

 

「おう、亮。理子が真っ先に名前出てくるのは何故か説明プリーズ」

 

「今日は峰さんの誕生日でしょ? 遠山君に会う前見かけたんだけど、ずっとソワソワしてたよ」

 

「子供かあいつは、ウチでもそんな感じだったけどよ」

 

 あと何かしたの? みたいな視線をやめい。

 

「何かあったの?」

 

「口に出すのはまだマシなのは、こいつがイケメンたる由縁。

 まああるにはあったぞ、ホワイトデーに」

 

 冬場に強制ダイビングさせらるとか意味分からんかったが。

 

 あ、忘れてた。ドーモ、トオヤマ=ジュンデス。あいさつがいつもと違う? 気にするなよ、スレイヤーが飛んでくるぞ(真顔)

 

 さて現在、亮が言う通り女子寮にある理子の部屋(そこで女子だけのパーティー開いてるとか)を目指してるのだが。なんでイケメンスマイルのまま自然に道を塞いでるんですかねえ、こいつは。

 

「亮、通れねえんだけど」

 

「ああ、ごめんね。ちょっと遠山君に用事があったからさ、逃げられる前にと思って」

 

「なんで俺が逃亡するの前提なんですかねえ。で、何の用だよ。理子に渡すプレゼントの運搬依頼か?」

 

 あいつ友人多いから山ほど貰ってるけど、いくら増えても喜ぶからな。お返しはそれ以上が主義みたいだが(中身の良し悪しは除く)。

 

「いや、遠山君に渡すものがあるんだ」

 

「あん? 俺?」

 

「うん、ちょっと失礼して。

 

 

 遠山潤、殺人未遂の罪で逮捕する」

 

 

「ーーーーあ?」

 

 何言ってんだコイツと目を向けてたら、マジで手錠をかけられた。ご丁寧に対超偵用のだな、これ。

 

「身に覚えがないんだけど」

 

「ーーーーえ?」

 

 オイなんて顔してんだコノヤロー。鳩がビーム喰らったみたいな顔しやがって。

 

「え、いやだって。……ホントにないの?」

 

「オメー俺を何だと思ってるんだ」

 

「限りなく黒に近いグレーを、平然と漂白出来る人」

 

 真顔で即答すんなし。というか犯罪者みてえな評価じゃねえか(今更)

 

「ーーよう遠山潤、久しぶりだなあ。不知火は足止めご苦労さん」

 

「スーツ姿の筋肉モリモリマッチョマンが気さくに話しかけてきた件について」

 

「は、相変わらず口の悪い奴だ」

 

「言っていい相手と悪いのの区別は付けてるつもりなんで。

 で、こんな色気のないアクセサリー付けさせてまで、何の用ですかい? 公安0課の皆さん」

 

 手錠を持ち上げながら軽口を叩くと、公安0課のエースである獅堂虎巌(しどうとらお)と(と愉快な仲間達。警察組織の癖して個性的過ぎるだろ)はあくどい笑みを浮かべる。

 

「もちろん、ウチにスカウトだ。去年は話の途中で逃げられちまったしな。

 しつこいのは嫌いだから一年待ったが、返事を聞きに来たぜ」

 

「( ゚ω゚ )お断りします」 

 

 公僕とか合うイメージが湧かねえよ。

 

「はは、清々しいほどつれねえなあ。まあ予想はしてたし、そのための手錠(そいつ)だ」

 

「ブタ箱に入れられたくなかったら、仲間になれと?」

 

「そーいうこった。嫌なら俺達を倒してから、無実の証明をするんだな。前者はともかく、後者は簡単だろ」

 

「ーーなんだ、そんなのでいいのか。それじゃあもちろん嫌だし、抵抗するわ」

 

「ほう、超能力でか? そいつ以外にも、対策として専門家も連れてきてるが」

 

 獅堂は余裕の笑みを浮かべているが、俺はそれに笑い返し、

 

「うんにゃ、違うな。

 

 

 風穴でよ」

 

 

「は? ーーうおおおおおお!?」

 

 

 関節を外して手錠を捨て、隙だらけな獅堂のどてっぱらに右ストレートをぶち込んでやった。10mくらい吹き飛んでいったわね。

 

「うっわ、人間とは思えないくらい固いし重いわね。何で出来てるのよアイツ、未来から殺人ロボット?」

 

「それを殴り飛ばすのも大概じゃないかな、神崎さん」

 

「あ、やっぱりバレてたか。いつから気付いてたの? 亮」

 

「違和感は最初からあったかな、親しい人間なら気付く程度の。

 一番分かりやすかったのは、殺人未遂の容疑を否定したことだけど」

 

「……アイツ武偵よね?」

 

「僕に言われても」

 

 まあたしかに、ジュンなら否定より「え、どれが引っかかった?」って真顔で言うわよね、何もなくても。うーん、やっぱりガワだけの真似じゃバレるわよね。

 

 というわけで理子が施した特殊メイクを落とし、身長等も元に戻してっとーー遠山潤改め、神崎・H・アリアよ。変装ってやっぱり難しいわ、アイツらよくなりきれるわよね。

 

 さて、ジュンが0課にストーキングされてるって聞いた理子(ヘタレ)に頼まれて、暇だったアタシが囮を買って出たんだけどーー

 

「おーいって。やってくれるじゃねえか、神崎の嬢ちゃんよお」

 

 ……色金パワーなしとはいえ、かなり本気で殴ったのにピンピンしてるとかなんなのよ、こいつ(吹っ飛ばした奴のセリフ)。

 

「……割に合う依頼かしらね、これ」

 

 まあママを助けてくれた借りを返しきれてないし、多めに見ておきましょうか。

 

 獅堂がやる気になり、アタシも拳を構える。ここまでしてるんだし、ヘタレたら風穴ジェノサイドするわよ、理子。

 

 

 どうも、遠山潤です。アリアと0課の人達が戦うのを尻目に、ビルを飛び移りながら理子の部屋に到着。白熱したバトルしてたから、道変えただけでも気付かれなかったかもしれん。

 

「理子―? お邪魔するぞー?」

 

 遊びかトークに熱中してるのか迎えが無かったので、勝手に玄関を開けて入ることにする。合いカギ渡されたから入るのは余裕、一年の頃に押し付けられたからな、何故か。

 

「あ、遠山様がいらっしゃいましたの!」

 

「主役の登場ですの!」

 

「何故誕生日になった人間を置いて主役なのか説明してくれ、島姉妹」

 

 ちなみに前者が妹、後者が姉である。ぱっと見はそっくりなんだよな、声もほぼ同じ声域だし。違うのは恋愛対象の性別と所属学科くらいか。

 

「火野さん、火野さーん? おーい、飛んでるけど大丈夫かー?」

 

「あああ、もう無理、幸せすぎぃ……はっ!? とと、遠山先輩、いつの間に!?」

 

「ついさっきだよ。すまんね、ロリ酔いしてる時に邪魔して」

 

「いやロリ酔いってなんですか!?」

 

 さっきまでのお前さんだよ(真顔)

 

「ユーくんおっそーい! 理子、待ちくたびれたんだよー?」

 

「わーるかったって。こいつを作るのに時間かかったんだよ」

 

「「「わーーーー!!」」」

 

 机の上に散らかった菓子類をどけて、持ってきてた箱ーー大量のデコレーションが施されたショートケーキを見て、合法ロリ三人が目を輝かせる。思った以上に作るの大変だったわ、過剰装飾は普段やらねえし。

 

「さっすがユーくん、主役は遅れてやってくるもんね!」

 

「お前さっきと言ってること180度変わってるぞ」

 

「麒麟的には、女装した遠山様も見たかったですの!」

 

「苺もですの!」

 

「あ、実はアタシも……」

 

「いややんねえよ」

 

 露骨に残念そうな顔すんなって、俺が悪いみたいだろ(白目)

 

「しまった、誕プレとしてお願いすれば良かった……!」

 

「お前たまには別のもの言えよ」

 

「愛をください!」

 

「投げたのはお前だろ」

 

「ぐぼあ!?」

 

 あ、死んだ。まだ引きずってるっぽい。

 

 まあそんなこんなでゲーム、漫画、コイバナなど、各々好き勝手に遊びながら理子を祝ってやる。多分一番幸せなの火野さんじゃねえかな、定期的にヘブン状態だったし。

 

「遠山様、ここからですの!」

 

「男を見せるですの!」

 

 帰り際のロリ姉妹にそんなことを言われたけど、前回見せようとしたら強制キャンセルされたんだよ(真顔)

 

「いやー、ひーちゃん(火野ライカのこと)顔が緩みっぱなしだったねー。大丈夫かな?」

 

「CVRトラップ的にはもうダメだと思う」

 

 あれは全身沼に浸かってるわ、しかも自分から望んで。

 

「……えーと、あのさ、ユーくん。二人っきりだね?」

 

「何だ今更、珍しいことでもないだろ。というかまだ気にしてんのか、ホワイトデーのこと」

 

「そりゃまあ……ごめんね? ホントに」

 

「いーよ別に、もう三回目だし」

 

「ぐふう!? 誕生日くらい理子をイジメるのやめない!?」

 

「自業自得って知ってるか?」

 

「そんな言葉で理子は自分を抑えられねえ!」

 

 知ってた。まあお詫びとして理子特製ホットケーキ(激甘)を食わせてもらったし、これで水に流そう。

 

「あ、そうだこれ。誕生日プレゼント」

 

「わっほい! ありがとユーくん! なにかなーなにかーーってあの、ユーくん? これって……」

 

「誕生石ってことで、カイヤナイトを使ってみたんだが」

 

「いやそうじゃなくて、そうじゃなくて!?」

 

「何だ、気に入らなかったか?」

 

 素材から用意して作ったんだが。まあデザインは俺の好みだしな。

 

「いや違うよ!? デザインも理子の好みだし、嬉しいんだけど、嬉しいんだけどこれは……」

 

 あーうー、うぼあーとか言いながら、理子は手にした小さな箱ーーその中に収まっている指輪を見て、変な声を上げる。

 

「……なんで指輪? アクセサリーは良く作るけど、ユーくん他人にあげるのはこれだけはやらなかったじゃん」

 

「前回本気度が伝わらなかったと予測したから、こっちにしてみた」

 

「いやそれわざと外してるよね!? 確かにこっちなら本気だって伝わ、る、けど」

 

 箱を両手で握りしめたまま、理子は赤くなって俯いてしまう。しおらしいと長子狂うんだが。

 

「理子」

 

「……っ」

 

 名前を呼ぶとビクリと肩を跳ねさせ、理子は座ったまま後ろに下がった。その分、俺が距離を詰める。

 

 下がり、詰める。続けていたら理子は壁際に追い詰められ、困惑と羞恥の赤い顔でこちらを見つめてくる。

 

「……あう。ゆ、ユーくん、近い……」

 

 音も立てず壁に手を付くと、理子は益々混乱した顔になる。こういうの壁ドンっていうんだっけ、別に追い詰めるつもりはないんだが。

 

 一歩でも動けば唇が触れ合う距離で、俺は口を開く。

 

「……怖いか? また失うのが」

 

「ーーーーっ」

 

 そう告げると、理子は再び顔を伏せーー泣きそうな声で、ポツリポツリと語り出す。

 

「……理子ね、子供の頃は本当に幸せだったんだ。お父様がいて、お母様がいて、友達もいた。お屋敷の中で何不自由ない暮らしをしていて、こんな日が続くことに何の疑問もなかった。

 ……でも、そうじゃなかった。二人とも死んじゃって、ブラドが来て、檻の中に閉じ込められて、形見のロザリオ以外全部失って。

 ……その時、思っちゃったんだ。幸せも隣にいる人も、当たり前に無くなっちゃうんだって。そう思うと、大事なものを持つのが、怖くなって……」

 

 ……ブラドが残した傷は、復讐を果たした今も深く残っている。理子にとって、幸せとは吹けば飛ぶような儚いものでしかないのだろう。

 

「ユーくんのことは、大好きだよ? 他の人にあげるのなんて、本音を言うならユキちゃんやリサ、めーちゃんにもあげたくないくらい独占したいくらい愛してる。

 一緒に依頼をこなして、ご飯食べて、バカやって、イチャイチャして、ずっと一緒にいたいと思ってる。

 ……笑っちゃうよね。もう抜け出せないくらい好きなのに、最後の一歩が踏み出せないんだからさ」

 

「……」

 

 泣き笑う理子の顔は、酷く美しくーー己の感情の矛盾を自覚し、苦しそうなものだった。

 

「でもね、ダメなの。ユーくんと恋人になれて死んじゃったりしたら、理子は耐えられないの。また不幸になるのがーーううん、違う。一人になるのが、怖いの。暗闇に戻るのが、怖いの。 

 だって、ユーくんーー理子が知ってる誰よりも、いつだって死んじゃいそうだもん。死ぬの、受け入れてるでしょ?」

 

「……そうだな、その通りだよ」

 

 潤という人間は、魔術師でも武偵でも、死を受け入れている。人を呪わば穴二つ、殺されたって文句が言えないのは当然だろう。

 自分だけは生き残る権利があるなどという傲慢は、持ち合わせていない。否定してもいいが、それは嘘よりも質の悪い空虚な言葉だ。

 

「……それに、ユーくんがどこまで愛してくれるか分からないもん。好きって想われてるとは想いたいけど、愛以上のものがあれば、そっちに行っちゃう気がする……

 ……う、ヒック。ごめんねユーくん、勝手に暴走して、勝手に決めつけて。でもね、理子はーー」

 

「理子」

 

「……? ユーくーーふみゃ!?」

 

 カーテンを閉めた部屋で静かに泣く理子に、出来るだけ優しく声を掛けーーその額に、デコピンしてやった。

 

「あうう、かなり痛いい……ユーくん、何するのさあ……」

 

「勝手に暴走した分だよ。……まあ、否定は出来んけどな。口でも行動でも、本当の意味で信頼されることはないだろうし」

 

「……」

 

 額を抑えながらも理子が申し訳なさそうな顔をしているが、積み上げてきたものによる自業自得なのだから、当然だ。

 

「……だから、俺はこれを持って証明としよう」

 

 亜空間から取り出したるは、魔術によって形作られた一枚の用紙。理子はそれを訝しげに見てからーー驚きに目を見開く。

 

「……ユーくん、これって」

 

「お察しの通り、『魂約(こんやく)』の契約分だ」

 

 対象二人が本心からの合意の元、魂の一部を共有することで力を得る契約術式、『魂約』。その代償は、『どちらかが死ねばもう片方』も死ぬという、神代のある戦乙女が造ったといわれる魔術式。名前を書く部分の片方には、俺の名前が刻まれている。

 

「……ユー、くん。どうして、ここまで」

 

「……ああ、そうだな。この選択は、非合理的だ。何せ強くなるとはいえ、死ぬ確率が格段に上がるんだからな。

 でもな、理子。俺はそんなリスクを背負ってでも、魔術師であった頃の自分に唾棄されようと。

 ・……お前の不安を殺して、その想いに応えてやりたい。いや、信頼されるために想いを伝えたい、って思っちまったんだよ。文字通り、命を懸けてでもな」

 

「……っっ!!」

 

 驚きと嬉しさ。そんな感情が混ざった目を向ける理子を見て、改めて確信する。

 

(ああ、そうなんだよな)

 

 バカキャラ演じて、実際バカやって、弱さにコンプレックス持ってて、それでも折れずに進んで、悪戯好きで、狡猾で、バトルジャンキーで、それでいて肝心なところでは億秒で、迫る癖に攻められると弱くて、矛盾だらけで弱い癖に、抗い続けてーー

 

 二年間。たったそれだけの期間だが、ずっと見てきたこいつ、峰理子にーーいつの間にか、魅かれてしまったのだろう。いいとこも、悪いとこも含めて全部。

 

「……っ」

 

「おっと」

 

 我慢できなかったのか、理子から抱き着いてきた。顔を胸に埋めたまま、ゆっくりと語り出す。

 

「……理子、不安ばっかりなっちゃうよ?」

 

「知ってる」

 

「独占欲、強いよ?」

 

「知ってる」

 

「大好きなユーくんを、疑っちゃうよ?」

 

「知ってる」

 

「……本当に、ユーくんをーー潤を愛しちゃって、いいの?」

 

「ーー愛していいし、愛させてくれ」

 

 理子の背中に手を回し、痛いくらい強く抱きよせる。小柄な体から伝わってくる鼓動は、おかしくなりそうなほど大きい。

 

「理子、好き、大好き、愛してる。だから、一緒にいよう。

 死ぬときは、一緒で」

 

「……うん、うん。理子も大好き、愛してる。だから、一緒にいたい。

 ……あは。なあんだ、こんな簡単に、言えちゃうんだ」

 

「肝心なとこで悩みすぎなんだよ、お前は。巧遅が過ぎるんだ」

 

「むー、しょうがないでしょ? ユーくんこそ、普段は思慮深い癖にいざって時は拙速なんだから」

 

「決断する時に止まってられないだろ」

 

 お互いに睨み合いーー同時に噴き出した。やっぱり、この遠慮なく言える距離感がいいんだよな。

 

「……うん、じゃあこれでカップル成立だね! 改めてよろしく、ユーくん!

 あ、でも一つだけお願いがあるんだ。魂約はしないで貰えるかな?」

 

「……あん? いいのか?」

 

「うん、いいの。りこりんはユーくんを独占したいけど、自由にも生きて欲しいと思う理解あるカノジョですから!」

 

「そりゃまた、寛大な恋人に感謝だな」

 

「くふふ、でしょー? だからその分ーーんっ」

 

 理子が顔を近付け、軽く唇を合わせる。魔術的な効果は何もないがーー

 

「ーー理子に溺れさせてあげる。潤がもっと好きになって、心の中にいつでもいて、求めずにはいられないーーそんな共依存の関係に、なろ?」

 

「……それは、怖いな。でも、何故かーー魅力的に思っちまう」

 

「くふふ、でしょでしょー。ダメになるくらい、ユーくんを愛してあげる」

 

「じゃあ俺は、溺れるくらい理子を愛するか。

 なら改めてーーこれからよろしく、愛する人」

 

「うー、らじゃ!」

 

 

おまけ 理子が潤にあすなろ抱きされた状態での会話

「ところでよ、恋人って何するんだ?」

 

「えーそれはあれでしょー。一緒にお買い物行ったり」

 

「いつも言ってるじゃん」

 

「ドライブしたり―」

 

「この間四国一周してきたな、バイクで一緒に」

 

「オシャレなカフェ行ったり―、ゲーセン行ったり―」

 

「甘味もハイスコア挑戦もやってるな」

 

「……ほとんど変わらないネ!」

 

「中々恋人にならなかった理由が分かった気がする」

 

「あ、でも一個明確に違うのあったよ!」

 

「というと?」

 

「えっちいこと! くふふー、りこりんは美味しいですよー?」

 

「……ふむ」グイッ

 

「ーーふえ? ユーくん、急にどうしーーんむっ!?」

 

「……ぷはっ。甘味とは違う甘さがあるな」

 

「ふみゅっ……にゅああ!? ゆ、ユーくん、何しゅるの!?」

 

「あーいや、その……何か急に愛しいというか、理子が欲しくなって」

 

「ふえ!? ……デジマ?」

 

「デジマ」

 

「「……」」

 

「……うん、なんかーーすっごく、理子が欲しい」

 

「あ、ユーくーー」

 

 

おまけ2 誕生日の後

「ううううう、ユーくんのバカバカバカ!! スケベ大魔神!!」

 

「スケベなことしたのはお互い様だろ。何故そんな蔑称を受けねばならないし」

 

「すーこーしーはー恥ずかしがれコノヤロー!! 大好き!!」

 

「はいはい、俺も愛してるよ」

 

「えへへー……」

 

(((チョロイ)))

 

「ほらほら二人とも、ご飯出来たよ? 今日はお赤飯にしたから」ニコニコ

 

「……ねえメヌ、白雪の笑顔がなんか怖いんだけど。というか人が武装検事に説教させてる間、何してるのよアイツら」

 

「ナニでしょうね。お姉様でも分かるくらいには、複雑なものが胸中で渦巻いてるようです」

 

「どーいう意味よそれ!? というかここでガチの修羅場起こるんじゃないでしょうね?」

 

「大丈夫ですよ。どうせ理子一人で終わるわけないですし」

 

「そんなどっかの落第騎士みたいな展開、ごめんなんだが」

 

「浮気はギルティだよユーくん!」

 

「同性限定とはいえお前が言うか。そもそも、俺に複数人を愛する器はねえよ」

 

「大丈夫ですよジュン、愛せるかじゃなくて愛され包囲網は決定事項ですから」

 

「妹も付いてくるよおにーちゃん!」

 

「ナニソレコワイ」

 

「むう……!」プクー




 あとがきは次の話に書きます。読んでくださり、ありがとうございました。


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あとがき いつから終わらないと錯覚していた?

作者(以下( ゚д゚))「というわけでどうも、作者のゆっくりいんです」

 

潤「どうも、最後の最後で偽物が出現した主人公? の遠山潤です」

 

( ゚д゚)「その?、最後まで取れないんですね」

 

潤「主人公とか柄じゃねえし、別に俺が話のメインって訳じゃねえしなあ。良くて語り部だろ」

 

( ゚д゚)「それどこの戯言使い? まあ緋弾のアリアの世界観じゃあ、歪すぎますけどねあなたは」

 

( ゚д゚)「さて、それはともかくーー終わりましたねえ」

 

潤「終わったなあ。まさか付き合ってエンド、なんてベタなラブコメみたいなオチだとは思わなかったが」

 

( ゚д゚)「改めて恋人になった訳ですが、心境をお聞きしても?」

 

潤「それ書き手(お前)が言う?」

 

( ゚д゚)「いや、潤含め皆さん私の想像なんぞ越えて動きますからねえ。気分的に私の立ち位置は、舞台装置ですよ」

 

潤「デウス・エクス・マキナ気取りかよ、きめえ」

 

( ゚д゚)「さすがに酷くね? 改竄の力なんてないから、良くて歯車ですよ」

 

潤「自意識過剰じゃなければ何より。で、話は戻るが。元々ここで話を終えるつもりだったのか?」

 

( ゚д゚)「ですね。そもそも書き始めの頃は極東戦役の真っ最中でしたし、緋々神の件が片付いたら原作終わるだろうタイミングに合わせるつもりでしたので」

 

( ゚д゚)「……まあ、まさか原作主人公が単位不足で留年&退学なんていう、誰が予想できるんだこれみたいな展開になりましたが」

 

潤「大怪我で半年入院とかの理由なら聞いたことあったけど、あれは始めてだったよな」

 

( ゚д゚)「原作者様が常識に囚われなさすぎてるんですよね」

 

潤「お前が言うと説得力ないな。

 で、複数フラグ立てといてまさかの純愛? エンドになった訳だが。これは予定通りだったのか?」

 

( ゚д゚)「ですね。ハーレムルートよりは一人の誰かを愛する方が、潤らしいですし。

 ……まあ、おまけのせいで不穏なことになりそうですが」

 

潤「んなもん未来の俺か自分の脳内に聞いてくれ。……と言いたいが、連載開始が四年半前なんだから別の構想なんて覚えてる訳ねえか、鶏以下の記憶力だし」

 

( ゚д゚)「おう事実を言うのやめろや。

 ……正直、良く完結まで持っていけたと思いますわ」

 

潤「飽き性のお前が続くんだもんなあ、それが一番の怪奇現象だろ」

 

( ゚д゚)「ほっとけい。まあちょっとした後日談……というか、終わりの話は書きますが、それ以上は蛇足になりますしね」

 

潤「フラグと設定が放置されっぱなしでこっち見てるぞ」

 

( ゚д゚)「全部回収できるなら苦労しませんよ、妖刃戦だって本当はもっと書きたかったけど、泣く泣く削りましたし」

 

潤「それはお前の描写不足だろ、俺の魔術師設定とかも理解されてるか怪しいし」

 

( ゚д゚)「反論できねえ。まあその辺も考えて、活動報告あたりで質問受け付けますかね」

 

潤「恋愛フラグ関係ばっか聞かれる未来を予測した。というか最終回ってことで、めっちゃ驚かれてたよな」

 

( ゚д゚)「あー、そうでしたね。進行編は普通に数字当てましたし、最終章って書いた方が良かったですかねえ」

 

潤「……オイ、章分けされてねえぞ」

 

( ゚д゚)「え?

 ……あ、ホントだ。意図せずサプライズしたつもりだったのがただの間違いという」

 

潤「お前後でギルティな」

 

( ゚д゚)「最後の最後で!?

 ……まあ、これ以上はくどくなりますし、終わりにしますか。本当はアンケートとかリクエストもやりたいですけど、Skimaの依頼とか賞用の作品書かないとですし……」

 

潤「それで理子の誕生日に間に合わせるため、三月後半からアホみたいな更新速度で完結させたという」

 

( ゚д゚)大破「もうやりたくねえです」

 

潤「余裕持ってスケジュール組めやアホ。

 ……さて、では改めまして読者の皆さん。この作品に最後まで付き合っていただき、ありがとうございました」

 

( ゚д゚)「応援の感想やこのキャラ好きです! 面白い! という意見をたくさんいただき、本当に嬉しかったです。

 この作品は終わってしまいますが、ハーメルンでの活動は続けていきますし、書きたい作品はまだまだありますので、別作品でまたお会いすることがありましたら嬉しい限りです」

 

潤「理子や他の奴らとは……まあ、なんとか上手くやっていくさ。どうせまだまだトラブルもあるだろうしな」

 

( ゚д゚)「ほっといても向こうからくるでしょうしね。それでは」

 

 

( ゚д゚)・潤「最後まで、ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

潤「なんて綺麗に終われると思ったか?」

 

( ゚д゚)「なんです潤、これ以上は蛇足になるって言った」

 

潤「ニューステイツ(アメリカ)編」

 

( ゚д゚)「……」

 

潤「メヌエットの帰郷編」

 

( ゚д゚)「……記憶にございません」

 

潤「記憶は無くても記録はあるんだよなあ」スッ

 

(; ゚д゚)「ちょ、それ私のHDD! どこから出したし!?」

 

潤「お前の記録媒体くらい引っ張り出すの余裕だろ」

 

( ゚д゚)「プライバシーの侵害ですよ!?」

 

潤「理子の恋人にそれを言うか。

 で、元々はこれやってからラストの予定だったよな?」

 

(; ゚д゚)「い、いや、前にも言いましたが、緋々神の件が片付いちゃったからカットでいいかと思って」

 

潤「本音は?」

 

( ゚д゚)「理子さんの誕生日に間に合わせるために辻褄合わせでカットしましたですハイ」

 

潤「素直でよろしい。まあそれはいいんだよ、ただもう一つーー兄貴とパトラの婚約報告はどうするんだ?」

 

(; ゚д゚)「……」

 

潤「あれやらないと、爺ちゃん婆ちゃんは兄貴のこと死んだままだと思ってるぞ」

 

(; ゚д゚)「……じゃ、じゃあ、蛇足ですけど小話にそれも追加します。時系列はずれちゃいま」

 

潤「それともう一つ」

 

『Nのメンバーと目的関連の設定』

 

潤「んで、Nのボスと俺に関わりあるよな?」

 

(; ゚д゚)「…………おま、おまあああああ!? なんでそれを見つけた!? 終わったじゃないですか、綺麗に終わったじゃないですか!」

 

潤「本性でたな、というか書きたいもの大量にある癖して何言ってんだ。というか俺まだシャーロックを殴ってねえ」

 

(; ゚д゚)「バラした理由それかい!? いやいや、まさかの進級してからの話やるの!? 多分ニューステイツとかメヌのも入れるから時間軸滅茶苦茶だし、展開も前よりトンデモだぞ!?

 ……構成的に1.5部くらいの量じゃん!?」

 

潤「いや寧ろオチまで考えたら二部だろ」

 

(; ゚д゚)「ロストベル〇クラスとか笑えねえんですけど!? というかお前、このまま続いたら確実に純愛路線崩れるよ!?」

 

潤「それ元々純愛なんてないんやって言ってるようなもんじゃねえか。もう嫉妬されたりボコられる覚悟はできてるよ」

 

(; ゚д゚)「潔いけど最低だなコイツ!?

 ……え、マジでやるの? ガチで蛇足だよこれ以降は?」

 

潤「今回ので執筆癖付いたんだし、いけるだろ。エイプリルフールだから許されるって」

 

(; ゚д゚)「午前中だけなんですけどね嘘吐いていいの!? というか完結って実績付けさせてくださいよ!」

 

潤「それが本音かい。

 ……説得するの面倒になってきたなあ」

 

(; ゚д゚)「オイマテその魔術陣は何!?」

 

潤「『続きが書きたくなる』精神状態になる干渉系。さー脳味噌いじられましょうねー」

 

(; ゚д゚)「ふざけんなやめろおおおおお!?」

 

 あああああああああ……!!

 

潤「……というわけで読者の皆様、騙すような形になっちまって申し訳ないが、蛇足ということで後日二部を始めると思うから、了承してくれると嬉しい」

 

潤「予定では書き飛ばしてた閑話、本編沿いって順番に書くと思う。以前の夏休み編やってから本編って感じだな。前と同じ形式になると思う」

 

潤「まあ他の作品も書かなきゃいけないのは事実だし、昔の話を修正するのも同時でやる予定だから前以上に気長に待ってて欲しい。修正は完結させるまでしないっていう作者の都合もあったからなあ。

 もちろん、ここで俺達の物語を閉じてもらっても構わさない。作者の言うとおり、ここからは二部という名の蛇足だからな。今まで以上に趣味に走った作風になるだろうし」

 

潤「それじゃあ改めて、ご視聴ありがとうございました。ここでも別でもまた縁があれば、物語は続くだろうさーー」

 

 

 

 作者の悲鳴をBGMに コロナによる退屈を殺せることを願って by遠山潤

 

 

 




(今更ながらの)追伸

潤「完全に鶏作者が忘れてたんだが、活動報告etcで質問受け付けてます。今更になって」

( ゚д゚)「本当に、申し訳ない」

潤「ネタ分かる奴いるのかそれ。というわけで、下に活動報告へのリンクを貼るので、良かったらそちらに聞きたいことを書いてやってください」

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=235861&uid=74852


4/8 修正しました


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小話 カワイくても区別はするべきだと思う

「ジュン、昼から出掛けますよ」

「んあ? 何よメヌ唐突に、欲しいルルブでも出たのか?」

「それは通販で確保してるから問題ないです。私が言うのはもう一つ、サーク「よーし俺ちょっと家出するわ」理子、かなめ」

「うっうー! ユーくん、お着替えから逃げちゃダメだよー?」ガシッ

「ふふーふ。メヌちゃんに声をかけられた時点で逃げなかったから負けだよお兄ちゃん」ガシッ

「HA・NA・SE! 何が悲しくて用もないのに女装するんだよ!?」

「お前に拒否権があると思って? そもそもあのゲームでキャラモデルにした人が会いたいって言ってたのは伝えたじゃない、忘れたの?」

「覚えてるから抵抗してるんですよねえ!? せめて女装しない権利を主張する!」

「却下です。二人とも、さっさと連れてっちゃって」

「「イエッサー!!」」

「マジで夾竹桃関連の案件ロクなのがねえなあ!?」


 あ、時系列は適当です。


「あ、こっちやでー! こんちは|茉凛《まりん)さん、お会い出来て嬉しいで!」

 

「初めまして乙葉まりあさん、早速ですが帰っていいですか?」

 

「なんやツレないなあ……でもそういうとこがモノホンの茉凛ちゃんみたいでええわあ! ウチ、あなたの大ファンなんやで?」

 

「それはどうも、あとさっきの発言は本心からですのであしからず」

 

「ジュン、逃げたらわかりますよね?」

 

 分かってるから逃げてないんだよ、逃げたら確実に、

 

 メヌがウソ泣きでチクる→キレたアリアにフルボッコされる→追い討ちでメヌに抉られる

 

 という、地獄コンボが成立するの分かりきってるし。俺だって命は惜しい、なのでプライドは捨てる(白目)

 

 というわけでどうも、現在乙山茉凛の遠山潤です。女装姿の名前は、いつぞやの(連行された)冬コミでやらされた男の娘シークレットヒロイン(公開されている)のものな。

 

 で、目の前にいるのはこのキャラのモデルとなったピンク(さすがにアリアとは違う人工色)ツーテールの髪と華奢な体格を、アニエス学園の制服に身を包んだアニメキャラみたいな美少女ーーっぽい愛嬌のある転装生《チェンジ》、乙葉まりあさん。俺みたいなパチモン女装とは違う、ガチで女子力の高い男の娘である。

 

「わあ、改めて近くで見るとホンマにキレイやなー。メイクさんの腕もええけど、素材もええ感じやねこれ」

 

「あの、そんな触られても困るんですが」

 

 集合場所が都内の駅前だし、車椅子のメヌを押してて両手が塞がってるから触られ放題+(い見た目は)美少女の三人組だから目立つんだよ。そこの女子、ハアハアしながらこっち見ーーいや女子かい(今更)

 

「えー? 減るもんやないし別にええやろ? メヌエットさんには茉凛さんを好きにしてええって聞いとるし!」

 

「……オイ、メヌ」

 

「作品のための尊い犠牲です。……その目をやめてください、さすがに怖いです」

 

「にゃははは。じょ、冗談やから落ち着いて、な? ウチもつい嬉しくて、初対面の人相手にふざけ過ぎたわ」

 

「……。何だ冗談か、驚かせんなよ」

 

 久々に『最合理性』で動くとこだったわ、アリアの折檻も忘れて。メヌが冷や汗かいてるし乙葉さんも青い顔してるし、ちょっと悪いことしたかね。

 

「すまんな。俺はそっち方面じゃないから、身の危険を感じるとつい身構えちまうんだ」

 

「そういえばジュン、これと記憶干渉だけはダメでしたね……かなめに感情を弄られても怒らなかったのに、変なの」

 

「お前目の前で自作シナリオを破られたらどう思う?」

 

「殺します」

 

 即答、そういうことだよ。

 

「二人とも、殺し屋もビックリな目をしてるんやけど……いや、ウチも茉凛さんに興味はあるけど、好きなのは女の子やから心配せんといて」

 

「「「!!」」」ガタッ

 

 オイそこの知らないおねーさん達、落ち着け。それはあなた達の望む百合空間ではないから。

 

 というかエルなど目じゃないレベルの完成度と感性なのに、好きなのは女子の方なのか。

 

「カワイイは正義やからね!」

 

「どこかで聞いたことありますね、それ」

 

「理子と会わせたらどうなりますかね、これ」

 

 決まってる、(ネタ的な意味で)爆発事故が起きる。

 

 

「……なんかジュンにバカにされてる気がする!? なんでだ!?」

 

 

「私はチョコケーキをお願いしますね、マリン」

 

「では私はこのショートケーキを」

 

「「ホールで」」

 

「んえ!? ちょ、二人とも食べ過ぎとか太るとかそういうレベルを超えてない!?」

 

「「?」」

 

「え、なにその普通でしょ? みたいな顔。カワイイけど、カワイイけど普通にエグイ量やないの!?」

 

 寧ろ控えてるレベルなんだけど、特にメヌは。店員さんが微妙に引きつった営業スマイルになってるけど、女子の甘味への胃袋は無限大なんだから気にしちゃだめですよ(←女装男子のセリフ)

 

「これが茉凛ちゃんの元の姿なんかあ。このイケメンさんがこんなキレイとカワイイ系を合わせた姿になるなんて、どんな魔法なんや?」

 

「魔法なんて単語を軽々しく使うものじゃありませんよ。私のは乙葉さんと違って体格を魔術で変えていますし、メイクは人にやってもらってますから」

 

 エルに施したこともあるし、自分でも出来なくはないが、腕前では変装の達人である理子の方が遥かに上だ。あいつの場合、魔術面さえ弄れれば本気でバレないレベルだからな。

 

「まりあでええよー茉凛さん、苗字よりも名前で呼ばれる方が好きやから。いやでも、やっぱりここまでなれるのはーーあれ、じゃあ声とか仕草は?」

 

「それは純粋にマリンの技能と記憶力ですね。服装に合わせた動きを心掛けているとか」

 

「……茉凛さん、毎回そんなことしてるん?」

 

「外見に反した動きをして怪しまれてしまっては、変装としては二流でしょう」

 

「いやまあそうなんやけど……茉凛さんを毎回こういう格好にさせたがる理由分かったわ。職人のこだわりというか、着せ替えがいがある感じやねえ」

 

「全く嬉しくないです」

 

「大丈夫です、そのうち女装を自分からするように洗脳(布教)しますから」

 

「……」

 

 不穏な言葉が隠れてると思うけど、敢えて突っ込まないでおこう。「ウチもこの格好ばかりに甘えてないで、色々カワイイのに挑戦せんと……」とかまりあさんが言ってるけど、対抗しないでいいから。圧倒的にそっちの勝ちでいいから。

 

「……それにしても」

 

「? なんですかマリア。そんなに見ても、お代わりは止めませんよ」

 

「それは別にいですよ。私だって好きに食べてますし」

 

「え、ホール平気で平らげて更にまだ食べるん……!? そんな暴飲暴食でなんで太らないんや……!?」

 

「「? 頭使った分補給してるだですよ?」」

 

「お、女の敵、いや理想形やー!!」

 

 騒ぐと追い出されるぞ、というかなんだ理想形って、片方男だぞ。

 

(メヌが積極的に人と会う……ですか。変わるものですね)

 

 アリアは感動で目を潤ませていたし(オメーも似たようなもんだったじゃんって言ったら殴られた、解せぬ)、「お嬢様が!?」「人と会いに!?」ってサシェさん、エンドラさんも二人で一人のリアクションしてたな。

 

 普通にしてたのは「子供は成長していくものなのよ」って微笑んでいたかなえさんくらいだったな。母は強し。

 

 まあ、ある意味一番変わったのはコイツなんだろうな。まりあさんとオススメの作品(百合か疑似百合)について話している姿なんて、初めて会った時からは想像も付かんかったし。

 

「……何ですかマリア、その親戚の小さい子の成長を見るお姉さんみたいな目は」

 

「具体的過ぎてどんなものを感じたんですかと言いたくなりますね」

 

「なーなー茉凛さん! 今メヌちゃんに聞いたんやけど、茉凛さんの知り合いにすっごい美人の人がおるって本当?」

 

「美人? ああ、原田のことですか。写真見ます?」

 

「うん、みーせーて」ピシッ

 

 ……なんか見た瞬間固まったけど、一体どうした。

 

「……なあ茉凛さん。これ、変装とかメイクしとるん?」

 

「いえ、これが普段着でノーメイクですね。写真写りは悪い方なので、実物はもうちょっと綺麗ですよ」

 

「……」プルプル

 

「……まりあさん? 大丈夫ですか?」

 

「……茉凛さん、ちょっとお願いしてもええ?」

 

 

おまけ 後日

「急に次の休みに呼び出すなんて、どうしたんですかね遠山君は?」

 

「……思い付かないな。まあ用事もなかったし、いいだろう」

 

「そうですね」(思いがけず、凍刃君と二人で出てこれましたし……遠山君、ナイスです!)

 

「……ん、来たか。……?」

 

「…………」ジッー

 

「……どちら様だ?」

 

「始めまして、ウチは乙葉まりあ言います! 初対面で言うことやないんやけど、あなたに惚れ込みました! お友達になってください!」

 

「……は?」

 

「は、はあ!? 遠山君、何とんでもない人連れてきてるんですか!?」

 

(またライバルが増えてーー)

 

「いや、そいつ原田や俺と性別同じだぞ」

 

「ーーえ!? ……ああ、凍刃君と同じタイプですか。それだったら納得しました」

 

「それで納得するのか」

 

 

 




あとがき
 はい、というわけで思い付き小話です。なんでこれ書いたかって? 4月4日は男の娘の日ってことを思い出して、アリア界隈からこの娘(♂)関連でネタが思い浮かんだので。

 というわけでどうも、ゆっくりいんです。連載完結からお久しぶりですね、お待たせしております。

 ……四日しか経ってない? ハハハ、ナンノコトヤラ。

 さて、今回はここまでです。今後もこんな感じのゆるっとぐだっとな感じで書いていくので、よろしければ読んでやってください。


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小話 特別を求めると大体変になる

 土曜がキスの日だったのをふと思い出したところ、思いついたので書いてみました。

ジャンヌ「遅いわ!?」

(作 ゚д゚)「あ、ジャンヌさんお久しぶりです。ツッコミのために出てきたんですか」

ジャンヌ「もう出たくなかったがな! 私の出番なんてこれで十分だ、帰る!」

(作 ゚д゚)「お前それでいいのか」

 
※時系列は付き合い始めてからです


『ユーくん左左! 左から敵来てる!』

 

「だから方角で言え! あと数!」

 

『9.75時方向からトゥー! 多分こっちに気付いてない!』

 

「分かりづら過ぎるなオイ!? よっしゃショットガンの餌食にしてくれるーー

 オイイイイイフルVPS装甲のエールウィン◯ムじゃねえか!? 理子援護、援護射撃ー!!」

 

『ごっめーんユーくん、さっきの遭遇戦で全弾使っちった☆』

 

「アホーーーーー!? だからEパックじゃなくてジェネレーター直結式にしろって言っただろうがあ!?」

 

『大丈夫だ、ユーくんにはまだチェーンマインがある、問題ない!』

 

「ヒートロッド感覚で当てられるかってビームの弾幕は死ぬわあっぶねえ!? チクショウホバーじゃ空戦型はキツイんだって! 

 理子ぉ、何か武器落ちてないのか!?」

 

『あったよ、マゼラ・トップ砲が!』

 

「結局実弾かよ!? ああもうそれでいいから援護ぉ!」

 

『うー、ラジャ! って直撃したあ!?』

 

「スゲーなお前!? よっしゃそれならトドメじゃあ!!」

 

『ちぇ、チェーンマインとビームサーベルの二刀流だとう!?』

 

 

『MISSION COMPLETE』

 

 

「『よっしゃあああああ!!』」

 

 ダブルキルという快挙を果たし、無事勝利! 思わず年甲斐もなくはしゃいじゃったぜ。あ、どうも遠山潤です(遅)

 

「あー、しんど……よく勝てたな」

 

 VRゴーグルを外し、大きく息を吐く。本日は翌日が憂鬱な日曜日、理子とゲームやってます。結構面白いんだよな、このPVPガンダ〇。

 

『ユーくんお疲れー。いやあ最後のは素晴らしいプレイでしたな! やっぱり近接系の機体もいけるんじゃないのー?』

 

 PCモニターの左上に映っている理子はよほど興奮したのか、赤い顔でニッコニコしている。そんなアイツにジト目を向けてやることにした。

 

「んなわけねーだろ、今回は偶然砲が直撃したからいけたんだよ。お前がビーム馬鹿撃ちしてなけりゃ、もうちょいマシな状況だったんだぞ」

 

『えー、ユーくんだってショットガン以外撃ち尽くしてたじゃーん』

 

「俺は全弾命中させたっつうの。というか低ランクの人間を高ランクに放り込むなし、しかも縛り付きで」

 

 俺が近接型、理子が射撃型オンリーとか普段と逆で辛すぎるわ、マジで。

 

『ユーくんやってないだけで十分戦えてたじゃーん。というかゲームも格闘出来ないって思い込んでるんじゃない?』

 

「残念ながら事実だ、あとで戦績データ見てみろ。勝率の差がえげつないことになってるから」

 

『よーしそれなら今度はグ〇カスタムで慣れーー』

 

 

 

「ってそうじゃねーーーーーー!!?」

 

 

 

「おうなんだ、急にでかい声出して」

 

 パウンドケーキをもぐもぐしていたら、隣の部屋で操作していた理子がVRゴーグル片手に部屋から出てきた。普通にうるせえ。

 

 出てきた姿はゴスロリ風ワンピという、清楚なんだか派手なんだか分からないけど女子力高い格好なのはさすがと言うべきか。扉開いて仁王立ちしてるためプラマイゼロだが。

 

「ユーくん!」

 

「はいよ、潤だけど」

 

 いきなり名前を呼ばれたので、とりあえず返事してやると、

 

「ユーくん彼氏!」

 

 などと分かり切ったことを言いながら魔術師を指さすんじゃありません。呪い返すぞ、ガチャ運が下がるのを。

 

「ヤメテ!? りこりん彼女!」

 

 今度は自分を指差す。うん、改めて言わなくても知ってるよ。よく付き合ってるよな俺達(マテ)

 

「なのに恋人らしいことを最近はほとんどしてない! どういうことですかマイダーリン!?」

 

「いやゲーム誘ったのお前だろマイハニー」

 

 俺、依頼でも受けようかと掲示板眺めてたところを「ゲームやるから出荷だよ~」って強制連行されたんだけど。

 

「だってイベント限定アイテムが欲しかったからしょーがないじゃん! でも終わった時にふと思ったんだよ、付き合う前とほっとんど変わってないなーって!」

 

「じゃあデートでも行くか? 確かゲーセンで槍メドゥー〇の新作入ってただろ」

 

「それ欲しいしユーくんからお誘い受けるのは嬉しいけど、違うのだよ! そういうのじゃなくてこう、恋人らしい特別なことしたいんですりこりんは! 

 昨日キスの日だったけど、思いっきりスルーしちゃったし!」

 

「いやお前がお気に入り絵師さんの巡回して、丸一日潰したからだろ」

 

「気付いたら午前三時だったぜ……」

 

「終わってるじゃねえか」

 

 こいつ何人の絵師さんに課金してるんだろうな。やりきった顔すんなし。

 

「とーにーかーくー! 不満はないけどこう、何かカップルらしく特別なイチャイチャがしたい! ユーくん何かないですか!?」

 

「何かって何だ。俺だってお前が初彼女なんだし、そんな急に出てくるかっての」

 

「むー!」

 

 むーじゃねえべ、頬膨らませてリスかお前は。

 

 両手で挟んで空気を抜いてやったが、上目遣いで不満を訴えてくる。こいついつも突発的だよな、思いついたら即無茶ぶりってか。

 

「……ふむ」

 

 吸い込まれるような理子の瞳とモチモチの肌、それを見てふと思いつきーー

 

「むー? どしたのユーくーーんみゅっ」

 

 手で顔を挟んだまま顔の高さを合わせ、唇を奪ってやった。

 

「……んっ。昨日がキスの日だって言うけど、別に今しちゃいけないわけじゃないだーーんむっ」

 

「んーー……♪」

 

 数秒だけ触れてから顔を離したが、今度は逆に理子の方から唇を重ねてきた。首に腕を回し、ぶら下がるような状態で逃がさないと言わんばかりに、目を嬉しそうに細めながら。

 

「んちゅ、んっ、んう……ユーくうん……」

 

 愛おしそうに俺の名前を呼びながら、理子は何度も触れては離れを繰り返してくる。声も、表情も、キスも、お互いを甘くとろかすようだ。

 

「……くふふー。じゃあユーくん、キスの日二日目ってことで、色々なキスしよ? キスだけで色々、ね?」

 

「……スイッチ、入っちゃったかあ」

 

「入っちゃいましたよー、ユーくんのお陰で。責任取ってね~?」

 

「そりゃあもちろん、仰せのままに」

 

 赤身が増した顔で、それでも無邪気に微笑む理子に、俺は肩を竦める。自分からやったことだし、これくらいは、な?

 

 しかし、付き合い始めてから理子はこういうことに尻込みするどころか、積極的になってきたよなあ。

 

 まあ俺も受け入れているあたり、変わったということなのだろう。偶にアリアが「余所でやれバカップルども!」ってローキック入れてくるけど、真っ赤な顔で。

 

 

「くふふ、キスのし合いっこだねーユーくん。その気になっちゃったら負け、でどうかな?」

 

「じゃあその手の欲求カットしておくかね」

 

「だーめー! それじゃあ勝負にならないでしょー?」

 

 場所は変わり、理子の部屋。俺たちはベッドーーではなく、壁の端に移動している。

 

「壁ドン、ねえ……そんなドキドキするのか、これ?」

 

「やってみないと分かりませんよーユーくん。ダメだったら盛大に笑ってあげますぜ」

 

「せめて慰めろよ。まあやるだけやってみるか」

 

 大きい音を立てながら壁を叩き、理子を見下ろす形で視線を合わせる。

 

「あっ」

 

「……」

 

 そのまま顎を掴み、潤んだ瞳の理子と唇を合わせる。

 

「んっ……支配欲を刺激される気がするな」

 

「ぷふう……これはこれで、いつものユーくんと違うからドキドキしちゃうなあ。

 ……理子のこと、好きにしちゃう?」

 

「それも悪くないけど、気付いたら逆に好きにされてそうだからパスで」

 

「むー、ユーくんノリわるーい。じゃあーーえいっ」

 

「おおうっ」

 

 壁ドンの状態から逆に胸を押されて床に倒れてしまい、そのまま腹の上に理子がまたがり、

 

「んー♪」

 

 両手で俺の腕を抑えながら身を屈め、唇を重ねてきた。上半身も触れ合い、彼女のいつもより早い鼓動が伝わってくる。

 

「……くふふ。この状態なら、ユーくんにしたい放題だねえ。どこにして欲しい?」

 

「ここまでするかね。楽しい?」

 

「うん、もちろん♪」

 

 いい笑顔で断言される理子に、この後めちゃくちゃキスされた。勝負の行方は……まあ、有耶無耶になったと言っておこう。

 

 

「……潤さん理子さん、私もいたのですが。大胆ですね、描かねば」

 

 余談だが、俺達が移動した後、部屋に唯一残っていたレキが顔を赤くしながらもイラストを描き、それを見た理子が「売って!」と交渉してたとかなんとか。自分のキスシーンなんて見たいのかお前(困惑)

 

 

 




後書き
 ナニコレクッソ甘い(口から砂糖を量産する音)

 どうもお久しぶりです、ゆっくりいんです。本当は遠山一家の再集結かコラボを描き始めようかと思ったのですが……前書きに書いた通り、キスの日が終わってからネタが降ってきたので書いてみました(遅)

 ……え、もう三日過ぎてる? な、ナンノコトカナー?(目逸らし)

 そ、それでは今回はここまでで。感想・誤字訂正・批評などいただけると嬉しいです。

 読んでくださり、ありがとうございました。
 




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IFキンジ話 義兄のツッコミは過激(物理)

作者(以下( ゚д゚))「はい、今回は『もしキンジがいたら?』というIF話です。
 普通いない方が珍しいんですけどね」

キンジ(以下キ)「……」

( ゚д゚)「どうしましたキンジさん」

キ「いや、一応本編終了したのに今更出番って言われてもな……」

( ゚д゚)「別作品では出番ありましたけどね」

キ「オイその話はやめろマジで。大体一年近く更新してないだろ亀作者」

( ゚д゚)「ガチ遅筆ですいません……」

キ「で、今更俺を出すのはどういう了見だ?」

( ゚д゚)「ちょっとしたテストを兼ねて書いてみました」

キ「なんか嫌な予感するな……まあそういうわけで約四ヵ月半ぶりの更新、良かったらどうぞ」

(; ゚д゚)「具体的な日数言わんといて!?」


「たでーま「キンジ! アンタ、アタシの奴隷になりなさい!!」――はい?」

 

 ……どうしてこうなった。

 

 えーとどうも、遠山キンジだ。……誰に言ってるんだろうな、これ。

今俺は、朝の武偵殺し(俺のバイクに爆弾が仕掛けられていた、クソが)で共闘したクラスメイトの女子、神崎・H・アリアにトンデモ宣言をされてた。

 

 『決まった!』みたいな渾身のドヤ顔すんなよ、意味分からねえから。あと人を指差すんじゃありません。

 

 で、タイミング悪く同居人にして同い年の義理の弟、アホ――もとい、遠山潤が帰ってきやがった。

 

 奴は扉開けた体勢のまま、日常ではまず聞けない言葉にしばし固まっていたが、

 

「……失礼しました。お二人とも、ごゆっくり「って待てお前えええ!?」」

 

 こいついち早く逃げようとしやがった!? 

 

 ドアの隙間に足を挟んで閉められないようにし、背中を向けた薄情な義弟の肩を全力で掴んで動きを止める。

 

 「え、何今の動き」とかアリアが驚いてるけど、今はあとだ。コイツ絶対誤解してるし余計なこと言うからな!(経験談)

 

「イデデデデ!? オイキンジ、脱臼するから離せ!!

 つーか空気読んで出てこうとしたのに何故止める!?」

 

「読んでねえから止めてるんだよ! いいからこっち来い、お前いた方が話早いんだから!」

 

「嫌だよ何が悲しくてお前らのそういう関係に首突っ込まなきゃいけねえんだ!? 

 というか女の好みそっちだったんだな!」

 

「どっちも違うわ! 俺とアリアは想像してるような関係じゃねえ!

 大体お前ここで離したらないことないこと言いふらすだろうが!?」

 

「人を詐欺師かマスゴミみたいに言うんじゃねえよ! 精々白雪と理子くらいだ――」

 

「オラア!」

 

「ヨーツンヘイム!?」

 

 確実に暴走する白雪と、喚くスピーカーになる理子とか最悪のチョイスじゃねえか!?

 

 逃げようと抵抗する潤の肩を外し、背骨に膝蹴りを追加でプレゼント。

 

 骨からしちゃいけない類の音が聞こえた気がするけど、潤なら大丈夫だろ(圧倒的謎の信頼)

 

「おおお、腰が、腰があ……キンジお前、そこまでやるか普通……」

 

「逃げなきゃここまでしなかったっつうの。ちゃんと(アリアが)説明するからこっち来い、あと交渉役してくれ」

 

「だが断――わーったよいるから桜花はヤメロォ!? 貸し一つな!」

 

「菓子一つでいいとは太っ腹だな」

 

「高級チョコのセット頼んでやろうかコラ」

 

「ふざけろ、お前俺より金持ってるだろ。

 ……っと、悪いアリア、待たせちまって。駄々こねてるけど、このバカも話に参加させていいか?」

 

「え、ええ。大丈夫よ、うん」

 

 ……しまった。いつものノリで潤をしばいたが、初見の人間から見ればドン引きの光景なんだよな、これ(一応自覚あり)

 

 まあ後ろで「おーいて、ちったあ手加減しろよ」とか言いつつ、バキボキ骨を鳴らしながら整体してる潤も原因だろうが。もうちょっとどうにかなるだろ、音。

 

 

「で、奴隷って何のことだよ」

 

強襲科(アサルト)でアタシとコンビを組んで」

 

 潤が淹れたコーヒー(客がリクエストした通りのもの)を飲みながら言ったアリアの要求は、シンプルなものだった。納得できるかは別だが。

 

「今朝の動きを見て確信したの。アタシについてこれるパートナーは、アンタしかいないって」

 

「……まあ、そういわれるのは光栄だが」

 テーブルから身を乗り出して真剣な目で見つめてくるアリアに対し軽く身を引きながら、世辞で返す。顔近いっての。

 

 ……思い出すのは今朝のこと。アリアと俺が偶然共闘した、バイクジャックの事件。

 

 完全武装したトラックに追われるわ、マイバイクが吹き飛んだと思ったら大量のセグウェイに撃たれるわで散々だった。……やめよう、思い出すと鬱になる。あと犯人見つけたら泣いても殴る(決意)

 

「しかし、なんで俺なんだ?」

 

 事件時に見たアリアの動きについていけるとしたら、三年の先輩でも一部、二年以下なら両手で足りる範囲だろう。

 

 逆に言えば、全くいないわけではないのだが。

 

「今理由を言ったじゃない。アンタ、話聞いてた?」

 

「難聴系ラブコメ主人公じゃないから大丈夫だぞ、体質と経歴はそれっぽいけドーベンウルフ!?」

 

「うるせえ黙ってろ」

 

「おおお、鼻があ……お前が話し合いに参加しろって言ったんだろ……」

 

 裏拳入れられた潤は鼻を押さえている。茶々入れろなんて誰も言ってねえよ。

 

「……ねえ、流石にやりすぎなんじゃない?」

 

「寧ろツッコミなしだと悲しむから、仕方なくやってるんだけどな」

 

「……」

 

「ドMの変態を見るような目はやめてくれないですかねえ神崎さん。俺はノーマルだから」

 

 どう足掻いてもアブノーマルだろ。というか裏拳喰らう直前に動いてダメージ減らしてる癖に、大袈裟なんだよこいつは。鼻血も出てないし。

 

「……まあ、あんた達がそれでいいなら、アタシから言うことじゃないわね」

 

「いや変態認定は良くないぞ」

 

「で、何が不満なのよ? キンジ」

 

「不満というより、理由もなしにコンビを組めっていうのは流石に無理があるだろ。お互いあの事件が初対面なんだし、信用も何もあったもんじゃない」

 

「武偵ならそれくらい知っておきなさいよ」

 

「……」

 

「スルーいくない」

 

 中々の暴論にどう返すべきか思いつかず横目で潤を見ると、しゃーねえなあとカップをテーブルに置き、口を開く。

 

「神崎さん、キンジは頼みごとをするなら、筋を通してくれって言ってるんだよ」

 

「スジ? スシの親戚か何か?」

 

「いや食い物じゃねえから、仮にそのスジなら肉系だよ。

 分かりやすく言うなら、理由だな。例えばだけど、神崎さんがいきなり見知らぬ生徒に話しかけられて、理由も告げずチームに入れって言われたらどう思うよ」

 

「ぶん殴ってから風穴開けてやるわ」

 

「血の気が多い回答をありがとう、鏡いる?」

「どういう意味――アタシがそういう輩と同じだって言いたいの!?」

 

 テーブルを叩いて立ち上がったアリアがツインテールを振り乱しながら、ツリ目で思いっきり睨みつける。今テーブル歪んだんだが、どんなバカ力だよ。

 

 今にもガバメントを抜きそうな剣呑さだが、その程度で怯むような遠山潤ではない。兄さんに悪戯して本気でどつき回される直前でも笑ってるからな、こいつ。

 

「Be cool,be cool。いきなり押し掛けてあんなこと言われたら、そう思われても仕方ないって話だよ。

 まあ、言い方が悪かったのはすまんかった。だが、キンジからはそう見えちまう以上、協力を頼むなら筋を通すべきだと思うぞ。相互不理解は不和を生むからな。

 Do you undeastand?」

 

「う……それは……」

 

(……相変わらず、口が上手いこった)

 

 例を出して分かりやすく伝え、敢えて相手を怒らせるようなことを言ってから素直に謝り、落ち着かせてから会話の主導権を握る。

 

 俺が言いたいこともしっかり伝えている辺り、真面目ならこいつに口で勝てないんだよな、真面目なら(大事なことなのでry)

 

「それに、頼み事をするならキンジにも利益をやるべきだろ? 相当厄介な案件だろうしな」

 

「……なんで分かるのよ、厄介事だって」

 

「いや分からなかったぜ? 今、神崎さんが口にするまではな」

 

「……」

 

 ブラフを掛けられたと理解したアリアが、むくれてそっぽを向いてしまった。そんな姿も絵になるんだから、美少女というのは本当に「やっぱお前そっちもいけるんじゃねえか」読心するなどつき回すぞ。

 

「そっちが何とは言ってないんだけどねえ」

 

「そっちって何よ?」

 

「いんや、ネコり言。

 で、改めて聞くけど。キンジをパートナーにしたい理由は何だ? 強襲科のSランクが二人とか、大抵の事件じゃ過剰戦力もいいとこだろうに」

 

「……」

 

 アリアは目を伏せ、黙ってしまった。待つ間にコーヒーを飲み干したころ、

 

「……言えないわ」

 

 ようやく顔を上げて、口を開いてくれた。答えは望んだものじゃなかったが。

 

「……それじゃあ、協力は出来ないな。理由も言えないのに協力するほど、俺はお人好しじゃない」

 

 女関連なら尚更な。口には出さず、付け足しておく。女絡みで破滅した話なんて、武偵じゃなくてもごまんとある。

 

「割とそういうとこあるけどなあ、キンジは」

 

 どっちの味方なんだ、お前は。

 

 余計なこと言う潤を睨みつけてやったが、当然のように素知らぬ顔でお茶請けのクッキーを喰ってやがる。実力はともかくメンタルでは勝ちようがないんだよな、こいつには。

 

「そういう訳で悪いが、他を当たってくれないか」

 

「……嫌よ、キンジが頷くまで帰らないから! 長期戦も想定済みよ!」

 

「ああ、そこのトランクって宿泊セットか」

 

「……はあ!? いや待て、女子が男子寮に泊まるなんて大問題だろうが!?

 オイ潤、暢気におかわり注いでないで何とかしろよ!?」

 

「いやあキンジよ、これお前がイエスマンになるまでどうにもならんと予測するぞ」

 

 神崎さん見てみい、と言われて顔を向ければ――

 

「……う」

 

 完全に決意した顔になっており、思わず唸ってしまう。こういう表情をする奴は梃子でも動かないのは、経験済みだ。

 

「いやそれよりも、女子が男子寮に泊まる方が問題だろ!?」

 

「アンタ達が女をつ、連れ込んでるのは調査済みよ!

 ……何してるのよ!? このヘンタイ、ケダモノ!」

 

「誤解を呼ぶ言い方するんじゃねえよ!? 俺は連れ込んでねえ!?

 オイ潤、いつもやってるのはそっちだろ!」

 

「ゲームソフトとお菓子のフル装備を持って突撃してくる理子に釣られた、俺は悪くねエンダーマン!?」

 

「どう考えてもお前のせいだろうがあ!?」

 

 手加減抜きで桜花の拳骨を落としてやった。凄い衝撃音が響いたが、こいつなら背が縮まるくらいだろ(真顔)

 

 というか最近覚えのない不躾な視線とヒソヒソ声はそういうことか!? 隠蔽くらいしっかりしておけよ、そういうの得意だろお前ら!

 

(白雪ですら時間になったら帰るのに、こいつはホイホイ女を招きすぎなんだよ!)

 

 いくらヒス的に耐性が出来たとはいえ、マジで勘弁して欲しい。こいつこそ尻軽かタラシの称号を受け取るべきだろ。

 

「白雪で比較してるあたり、もう抜け出せないところに来てるんだなっテラーバイト!?」

 

「だから妙な言い回しするんじゃねえよ!?」

 

「ちょっと、漫才始めたからって誤魔化されないわよ!?」

 

「いや漫才じゃないからな!?」

 

「真面目にツッコミ喰らうのも辛いものがあるんですがそれは」

 

 口を開けば余計なことしか言わないからだろ。そもそも手応えからして舌噛んでたのに、なんで普通に喋れてるんだホントに。

 

(ああもう、どうしたもんだか……)

 

 頭を抱えながら、俺は必死に考える。悪例がいる以上規則を盾にできないし、アリアはどうも男性に対する警戒心が薄いように見える。

 

 潤? こいつ恋愛とかには無関心かつ忌避感全開な癖して、貞操観念がゆるっゆるだから1ナノミリも役に立たん。

 

(考えろ、考えろキンジ。これ以上変な噂を拡散させないためには――)

 

 ヒステリアモードでもないのに、頭を全開まで回して――一つ、思いついた。潤を巻き込むが、まあこいつだしいいだろ(普段の恨み含む)。

 

「……なあアリア、お前は俺の腕を見込んで自分のパーティーに入れたいんだよな?」

 

「何よ急に。何度も言わせないで、アタシにはアンタが必要なの」

 

「……その言い回しは、勘違いする奴が出てくるからやめた方がいいぞ」

 

「?」

 

「え、お前がそれ言う?」

 

 アリアは不思議そうに首を傾げている。うん、俺以上にその手のことに鈍いのかもしれんなこの子。

 

 そしてそこのアホ赤髪、黙ってろ。俺は何も……してない(目逸らし)

 

「話す気がないならこれ以上理由は聞かん。だが、俺は実力が確かじゃない奴と組む気はない」

 

「へえ……言うじゃない。それなら、力を見せろってこと?」

 

 俺の目を見てその気になったのか、アリアは好戦的な笑みを浮かべる。小柄な癖に、そういう顔似合うな。もっとも、

 

「ああ、ただし俺じゃない。そこにいるアホ――じゃなくて、潤を先に倒してもらう」

 

「――はあ?」「あん?」

 

 二人揃ってぽかんとした表情になる。よし、意表は突けたな(違)

 

「……アンタ、正気? こいつ、強襲科じゃないでしょ? なのに戦わせるとか鬼なの?」

 

「なんだ、潤を倒せる自信がないのか?」

 

「――やっすい挑発ね、上等じゃない。じゃあアタシが二人とも勝ったら、アンタと、アンタの弟をドレイにしてこき使ってやるわ」

 

「……オーイお二人さん、盛り上がってるとこ悪いけど俺はやるなんて一言も「やるなら俺と白雪に媚薬を盛った一件は不問にしてやる」あれ最高にギリギリの展開で面白かったよナックルジョー!?」

 

「何も面白くないだろうがバカ野郎!? 二人っきりで放置しやがって、マジで大変だったんだからな!?」

 

「自制心と欲求の狭間で苦しんでる姿は最高に愉悦でした」

 

「煩悩の数だけ桜花を決めてやろうか?」

 

「普通に殺す気か!?」

 

「墓場に送ろうとした奴が何言ってやがる!?」

 

「人生の墓場送りとか寧ろ幸せだろ! ご祝儀は剛と連名で弾んでやるよ!」

 

「それ武藤に対する嫌がらせだろうが!?」

 

 あいつ白雪に惚れこんでるんだぞ!? 本人の口から思いの丈を聞いたら、血の涙を流しながら応援してたけど!

 

「いーだろ本気で嫌がったらやらねえから! というか桜花の構え取りながらこっち来んな!?」

 

「改めて反省してないのが分かったし、頷かねえ限り泣いてもボコるからな……!」

 

「あやばいこれマジでピンチだ」

 

 俺はいつだって(お前へのツッコミは)本気だよ。

 

「わーったよやればいいだろ、負けても文句言うなよ!?」

 

「手を抜いたりわざと負けても同じだからな」

 

「鬼か!?」

 

「鬼畜外道が何言ってやがる!?」

 

「アンタ達、いっつもそんな感じなの……?」

 

「いつもじゃねえよ、いつもじゃ。

 ……まあそんな訳でアリア、やること決まったからもうここに泊まる意味ないだろ」

 

「ジュンが逃げたらどうするのよ」

 

「地の果てまで追いかけてぶっ飛ばしてから連れてくる」

 

「……そ、そう」

 

「俺の兄は貞〇か青〇のようです」

 

 人を怨霊みたいに言うんじゃねえよ、お前の方が似合ってるだろ。

 

「でも、そう言ってキンジの方に逃げられたらたまったもんじゃないから、今日だけでも泊まってくわよ!」

 

(チクショウ、なんでそうなる!?)

 

「意味ねえ」

 

 納得させたと思ったら、肝心な部分が解決せずまた頭を抱えることになる。こいつ男女が一緒にいることの問題分かってないのだろうか。

 

「潤、この頑固娘どうすりゃ……オイ、メールしてないで何か案出せ、案」

 

「ちょい待ち、今解決するよう仕組んだから」

 

「は? オイちょっと待て、嫌な予感しかしな「キンちゃん、大丈夫!?」うお、白雪!?」

 

「お邪魔します!」

 

「お、おう。じゃなくてどっから入ってきたんだお前!?」

 

 朝と同じ巫女服姿――なのはいいのだが、何故か完全武装になっている白雪が潤の横に開いた黒い穴から出てきた。

 

 というかもう刀抜いて交戦準備完了してるし!?

 

「潤ちゃん、キンちゃんを誑かそうとした泥棒猫はどこ!?」

 

「目の前にいるピンクツインテール」

 

「天誅――!!」

 

「え、アタシ!? って危なあ!? いきなり何すんのよアンタ!?」

 

「黙れこの泥棒猫! キンちゃんを奴隷にするとかは、破廉恥なこと!

 逆だったら私も考えたけど!」

 

「何の話よ!?」

 

「やったなキンジ、愛の奴隷ゲットできるぞ」

 

「そんな趣味ねえよ!? なんで白雪呼んだお前!?」

 

「一番手っ取り早く解決出来る人材を選んだ」

 

 それ以上に混沌としてるだろうが!?

 

 刀振り回してアリアを追いかけている白雪の姿を横目に、やりきった顔な潤の襟首を掴んで全力で揺らす。

 

 もちろんこの程度では応えてないどころか、

 

「白雪ー、神崎さんここにお泊まりしてキンジをゲットしようとしてたぞ」

 

「このアバズレ(ピ――――)女が――!!」

 

「ホントなんなのよー!? というか(ピ――――)って何!?」

 

「そんな言葉口にするなアリア!? というか白雪、頼むから落ち着いてくれ!」

 

「いやあカオスですあだだだだだ!?」

 

「お前のせいだろうが愚弟!?」

 

 気分は観戦モードになってるんじゃねえよ!? 

 

 ヘッドロックを掛けるが、いてえいてえと喚くだけで止める様子はない。ホント何も考えてないのかこいつは。

 

 結局「もーキレた!」と叫びながら反撃を行ったアリアだが、バーサーカーモードの白雪に銃弾は切られるわ、刀は弾かれるわで散々な目に遭い、

 

「もうやだなにこいつー!?」

 

 と、半泣きになりながら部屋から出ていった。結果としては当初の目的を達成した、達成したけどな……うん(遠い目)

 

 余談だが、アリアのお泊まりセットはそのままになっていた。俺を心配した後謝り倒した白雪が、心底憎々しげながら回収していたが。

 

 ……切り刻んで返したりしないよな?

 

 

 

「ガルルルル……」

 

「めっちゃ唸ってるし睨まれてるんだけど」

 

「当たり前の自業自得だろ。ほら、潔く死にに行ってこい」

 

「完全に生贄じゃないですかヤダー!?」

 

 どっちかというとサンドバッグだろ(真顔)

 

 ドレイ宣言と白雪強襲から翌日、強襲科の訓練棟で唸りながら対戦相手を待ち構えているアリアに対し、逃げようとする潤をぶっ飛ばしてから引きずってきた。

 

 なんでこっち見た瞬間クラウチングスタートで逃げたんだ、このアホは。

 

「この鬼畜女タラシガリガリクン!?」

 

「誰が女タラシだ!? というかお前に言われたくないわ!?」

 

「俺だってねえわタコ! というか決闘始める前にダメージ与えるんじゃねえよ、お前負けて欲しいのか!」

 

 桜花抜きとはいえ全力で腹パンしてやったのに平然としてる奴が言うことか、それ。

 

「勝ってもらわなきゃ困るが、アリアに立てなくなるくらいボコられて欲しいというのも本音だ」

 

「真顔で言うなよ俺に恨み骨髄か兄弟!?」

 

 今までの所業を思い返せ愚弟(真顔)

 

「くぉらあ遠山弟、いつまでもくっちゃべってないではよリングに入れや!」

 

「グリフィンドール!? 腹の後に背中撃つのはやめてもらえませんかね蘭豹先生!?」

 

「お前がトロトロしてるのが悪いんやろが! はよ殺し合え!」

 

 強襲科の名物ゴリ、もとい女教師蘭豹先生に怒鳴られ、渋々リング内に入る潤。というか防弾制服越しとはいえ、M500で撃たれても平気なんだから文句言うなよ。

 

「ジュン、昨日はよくも恥かかせてくれたわねえ……!」

 

「俺じゃなくて白雪なんですがそれは」

 

「呼んだのはアンタでしょうがあ!? 風穴ボルケーノにしてやるから、覚悟しなさい!」

 

「ごめんそれどういう状態?」

 

「真顔で聞くんじゃないわよ!?」

 

 いやアリア、傍から聞いても意味分からんぞ。

 

 恥ずかしさと赤い顔を誤魔化すように、ガバメントを二丁構えるアリアに対し、潤はポケットに手を入れ、銃も取り出す様子はない。

 

「……何、アタシのこと舐めてるの?」

 

「レディーファーストってことで、お先にどうぞ」

 

「……ぶっ飛ばす……!」

 

 血管が切れるんじゃないかってくらい眉間にしわを寄せて睨みつけているが、照準は正確に潤を狙っている。

 

 挑発されても動作は冷静だな。……冷静だよな?

 

「よーしじゃあ、お前ら存分に殺し合えやあ!」

 

 蘭豹が天井に向けてM500をぶっ放して試合開始、と同時にアリアはガバメントを連射しながら自分も突っ込んでくる。速攻で決めるつもりか、潤相手なら悪くない判断だ。

 

 対し潤はポケットに手を入れたまま、ニヤリと笑い--

 

 

 ……この時、俺は失念していた。

 潤という男は格の上下関係なく用意周到であり、狡猾であり。

 --同時に、とんでもなくアホなことを大真面目にやるド阿呆だと。

 

 

「あポチっとな」

 

 発砲とほぼ同時、潤のポケットからカチリと小さな音が聞こえ--アリアの向かう先に、☆マークが付いた赤いトランポリンが出てきた。

 

「へ? --みぎゃあああああああ!?」

 

 突然出てきたそれに対応できず、思いっきり踏んでしまったことでアニメ声の絶叫を上げながら吹き飛んでいき--

 

 ゴン! とものすごく痛そうな音を立てて天井にぶつかり、タンコブをこさえたまま落ちてきた。

 

 --って、白目剥いてるじゃねえかアリアのやつ!? あれじゃあ受け身も取れな--

 

「--ほい、軟着陸っと」

 

 俺が慌てて駆け出そうとする中、銃弾を横っ飛びで避けた潤が、いつの間にか持っていた本が光ると、アリアがゆっくりと降りてきて事なきを得た。

 

 頭は漫画みたいなタンコブこさえたままだけどな。

 

 自分も着地し、本を仕舞った潤はこちらに向けてサムズアップし、

 

「勝った「アホかお前はあああああ!?」ゼベル!?」

 

 何渾身のドヤ顔で勝利宣言しようとしてんだよ!?

 

 衝動に任せて二倍桜花のドロップキックを決めた俺は悪くないと思う。

 

 急展開過ぎてポカンとしていた見学の生徒達が、桜花(ツッコミ)の威力(100m以上吹っ飛んだ、俺もビビった)に畏怖の目を向ける。

 

 それでも敢えて言おう、俺は正しいことをしたと(真顔)

 

「何してくれんだキンジゴラァ!? 胴体真っ二つに泣き別れするかと思ったわ!?」

 

「何してんだはこっちのセリフだアホ潤!? あのしょーもないトラップはなんだよ!?」

 

「前にノリと勢いで装備科の連中と作ったジャンプパッド(仮名)だよ!」

 

「んなもん作りも有効活用もするんじゃねえ!?」

 

 このアホに協力した装備科の連中、後で洗い出して〆てやる!

 

「武偵なら罠に引っかかった方が悪いんだからいーだろーが別に! 勝てっていうオーダーには答えただろ!?」

 

「勝ち方ってもんがあるだろうが! 力試しの決闘で堂々と罠を仕掛ける奴がどこにいるんだよ!?」

 

「ここにいるぞー!」

 

「胸張って言うんじゃねええええ!?」

 

 もう一回桜花で吹き飛ばした後、空中殺法(三十連撃)を決めた俺に非はないと思う。蘭豹は爆笑してたけど、あんたそれでいいのか。

 

 

 この後、医務室で目を覚ましたアリアに謝り倒したり、何とか事情を聞き出してパートナーの契約を結ぶことにした。俺としても、他人事じゃない事情だったしな。

 

「うむ、結果的にパートナー結成」

 

「さっすがユーくん、自らが悪役(ヒール)となることで二人の仲を進展させたんだね! やっるー!」

 

「あれは悪役っていうのかな……? というか、またキンちゃんの周りに泥棒猫が……」(黒いオーラ)

 

「いやそれ目的にはならんだろ」

 

「ユキちゃんのあれを見た後じゃねー」

 

「ちょっと待って理子さん、私のこと何だと思ってるの!?」

 

「「恋色バーサーカー」」

 

「え、潤ちゃんまで!?」

 

 ……当の本人は理子(バカ)と一緒に高みの見物してたけどな! というかそこまで考えてねえだろ絶対!(断言)

 

 あと白雪、あの状態のお前に関しては俺も擁護出来ないから(真顔)

 

 

おまけ

「アリア先輩に恥をかかせた卑怯者の遠山潤はここですか!?」

 

「……あー、えーと、すまん一年。俺は遠山キンジだが、潤に何か用か?」

 

「戦妹の間宮あかりです! 遠山潤がここにいるって聞いたので--

 ええ!? ちょ、遠山先輩なんで土下座してるんですか!?」

 

「すまん、ウチの愚弟がホンッとにすまん……俺があいつのアホさ加減を(悪い意味で)見誤ったばっかりに……」orz

 

「わ、分かりました、遠山先輩がものっすごく申し訳なく思ってるのは伝わりましたから! 頭上げてください!」

 

「寧ろ誠意しか伝わらなくて意味不明だケテルマルクト!?」

 

「お前のせいだろうがこのド阿呆!?」

 

「土下座の体勢から綺麗なサマーソルト!?」

 

「あ、間宮だっけ。このアホ気が済むまで殴っていいぞ」

 

「え、ええ……? いや流石にそこまでは、というか今ので結構なダメージ負ってるんじゃ……」

 

「妙な不意打ちかますんじゃねえよ骨格無視マン!」

 

「変なあだ名付けんなお笑いトラッパー!」

 

(あ、全然平気そう)

 

 この後戦姉妹の気が済むまで殴られた。

 

 




キャラ紹介
遠山キンジ
 今回最大の被害者(声帯的な意味で)

潤によって年単位で鍛えられて素で桜花が使えたり、アンベリール事件の真相と対策を義弟がしてメンタルは大分マシ(ついでに強襲科Sランクのまま)だが、代わりにアホコンビのストッパーとツッコミをする羽目になった。その苦労は推して知るべし。

理子は女子だが遠慮なくはっ倒す。本人曰く、「あれは女子じゃなくて理子という変な生き物だ」とのこと。

 ちなみに出演した感想は、「俺、本編出なくて良かったわ」とのこと。作者はお待ちしています。

「やめろ、フリじゃなくてマジでやめろ!?」


遠山潤
 今回最大の加害者。キンジ相手だとボケのストッパーが外れている模様。

毎度喰らっている桜花のツッコミだが、本人曰く「捌いてるけど痛いもんは痛い」とのこと。

 余談だが、キンジに吹っ飛ばされている光景は最早日常茶飯事であるも、ツッコミの威力に怯えるもの多数。


神崎・H・アリア
 今回最大の被害者(ネタ的な意味で)。

 ちなみに白雪がトラウマになり、潤は見かけたらとりあえずぶん殴るようになった。ヘイトが減ったよ、やったねキンちゃ(ry)


星伽白雪
 恋色バーサーカー。潤という情報源により、泥棒猫(という名のライバル)の排斥は順調に進んでいる模様。

潤と理子にはキンジとの仲を応援されているため、二人には割と寛容。


峰理子
 二大トラブルメーカーの一角。今作ではツッコミ役が一人増えているため、その暴走ぶりは察して欲しい。


後書き
 いやあ、思った以上に酷かった(書き終わってまず思ったこと)

という訳でどうも、本当にお久しぶりのゆっくりいんです。本編ではなくキンジが登場したらどうなるかな? というIF話を書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?

ちなみにこの話考えたの、数ヵ月前です。……うん、つまりそういうことだよ(何)

さて次回ですが、本編を進め……るのではなく、なんと久々のコラボ小説を書こうと思います! 詳細は次の前書きに書きますので、お楽しみに!

 それでは今回はここまで、読んでいただきありがとうございました。そしてお待たせして申し訳ありませんorz


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外伝 性癖ドンピシャの相手を前にしたら、人はどうなるか

作者(以下( ゚д゚))「マイメイン音ゲーのチュ〇ニズムで、緋弾のアリアがコラボしました。記念に一本書きます」

潤「正確にはAAだけどな。というか思い付きで書くのはいいけど、二章いつになったら始まるんだよ」

(; ゚д゚)「い、一応連載終了してるから更新は気紛れなんで……」(言い訳)

潤「元々亀な件」

( ゚д゚)「何も言えねえ。あ、今回後輩のオリキャラくん出ます」

潤「腐り果てかけてたネタを、ようやく引っ張り出すの巻」

( ゚д゚)「腐ってても使いようですよ、ええ」

?「酷い言われようだなあ……ちなみに作者さん、チュ〇ニズムの腕前は?」

( ゚д゚)「虹レート以外は人権ないとどこかで見たので、人権はありません」

潤「稼働初期からやってるんだけどな、こいつ」


「刺激が足りないのよ」

 

「何ぞい夾竹桃、呼んどいて藪から棒に」

 

「日常の緩やかな感じもいいけど、マンネリを防ぐためや関係が変わるため、劇的な展開が欲しくなる……そう思わない? 遠山潤」

 

「平穏が一番に一票」

 

「普段から馬鹿騒ぎやってる奴の意見とは思えないわね」

 

「基本俺は巻き込まれてるんですがそれは」

 

「巻き込まれ系主人公を装うのは無理があると思いますぜ、ユーくん?」

 

 お前にだけは言われたくねえよ、理子(お騒がせ筆頭)。あと見目麗しいのが揃ってるから目立つんだろ、俺と剛を除いて(適当)

 

 

 

「特に深い意味もなく貶された気がするぞ!?」

 

「急にどうしたの、武藤くん?」

 

 

 

 知らんな。幻聴だろ(真顔)

 

 というわけでどうも、遠山潤です。夾竹桃に呼び出されるとか嫌な予感しかしないので逃げ出そうとしたら、理子に連行されたでござる。冒頭のセリフからして、また変な事させられるんだろうなあ(白目)

 

「大丈夫、いつも通り女装してもらうだけよ」

 

「何も大丈夫じゃないんですがそれは」

 

「もしくはTS――性転換の魔術でもいいわよ。寧ろ、そちらの方が見てみたいわ」

 

「オイどこで知ったそれ」

 

「あなたの横にいる、金髪ツーテールの子からだけど」

 

「――理子?」

 

 多分表情が消えてるだろう俺に対し、理子は急に真剣な顔となって、

 

「いやあ、しーちゃんの美しさを広めないのはもったいないなあと思いましテリブルガン!?」

 

「よーし分かった、絶対言うなっていうのをフリと勘違いしたんだな? 胴体か頭か四肢か、好きなところに教え込んでやるから選べ」

 

「教え込むとかなんかエロイかん――あちょっと待ってユーくん、理子が悪かったからタスラムはやめてマジで」

 

「……目が怖いわよ、遠山潤」

《》

 そりゃ至ってマジだからな。ルガ―P08(タスラム)を額に突きつけられた理子は、珍しく青い顔になっている。どうした、妖刃の攻撃を避けられたお前なら余裕だろ?(満面の笑み)

 

「あっヤバイこれマジだ。きょうちゃんへループ!」

 

「……それ以上突きつけてると、理子を酷い目(意味深)に遭わせるわよ」

 

「お好きにどうぞ」

 

「……リサが酷い目に遭うわよ」

 

「オイそれは卑怯だろ」

 

「ちょ!? そこで一瞬の躊躇もなく引っ込めるのは酷くないかなユーくん!? 扱いの差にりこりん泣きますよ!?」

 

「泣いたらしばくぞ」

 

「自業自得だと思うけど」

 

「ビックリするくらい辛辣ぅ!?」

 

 人が隠すべきこと言ったんだから当然だろ。

 

「失礼しま……潤先輩と峰先輩、何してるんですか?」

 

 どうやって理子を■そうか考えていたら、第二音楽室(夾竹桃の作業部屋)に新しい客人が入ってきた。まあこいつの方がここをよく利用してるから、客人というのは適してないが。

 

「おう天音(あまね)、ちょっと待っててくれ。こいつシバキ倒すから」

 

「あまちー加勢して、このままじゃりこりんが酷い目に遭わされるの!」

 

「峰先輩なんですかその構え……相変わらず仲良しですねえ、お二人は」

 

「臨戦態勢の二人を見てそう言えるあたり、あなたも相当よね」

 

「佐々木さんと高千穂さんがじゃれ合ってるようなものじゃないかな」

 

 いやガチの戦闘一歩手前だよ(真顔)

 

 穏やかに笑っている白髪碧眼、美少年と美少女の要素を兼ね備えた(中性的とも言う)な顔立ちのこいつは、後輩の西儀天音(さいぎあまね)

 改造された制服も男女区別がつきづらいものになっているが、れっきとした? 男であり、

 

「とりあえず二人を落ち着かせてくれるかしら、天音」

 

「はいはい。曲はじゃあ、『奈落の花』で。La~~~~♪」

 

「……後で覚えてろよ」

 

「だが断る」

 

 天音の祖先は『楽士』と呼ばれる音楽家の一族であり、本人も高い技量を持つ『音使い』である。実際、ガチギレ一歩手前の感情が一瞬で落ち着いたからな。

 

「落ち着いたようで何よりです。それで、何の話を?」

 

「そうね、潤のせいで話が逸れてしまったわ」

 

 俺のせいかよ、どう考えてもこっちの不満そうに頬膨らませてるちび助のせいだろ。

 

「理子は悪くぬえ! ユーくんの女セントバーナード!?」

 

「やめーやマジで」

 

 これ以上TS話が広まるのはごめんなので、デストロイくん三号で顔面をひっぱたいておいた。ハリセンでへこまねえから、「おごごごご……」とか言いながら顔抑えんな。

 

「盛大に逸れたけど、刺激が欲しいから遠山潤は女装して、理子には変装してターゲットを誘惑して欲しいのよ」

 

「何言ってんだこいつ」

 

「……えっと、夾竹桃? 僕の耳には大分無茶苦茶なことを言ってるように聞こえるんだけど……というか女装って……」

 

 穏やかな顔がデフォの天音も、この要求には困惑、というか引いてるようだ。そうだよな、それが普通の反応だよな(慣れ切った顔)

 

「大丈夫よ、遠山潤に女装はお手の物だから」

 

「オイ俺が十八番は女装、みたいなキャラ付けやめろ」

 

「ユーくんは、理子が育てた」

 

「オメーが無理矢理着させてるんだろ毎回」

 

「でも慣れてきたし、段々快感になってるはずだよネ!」

 

「快感得てたらいよいよHENTAIじゃねえか」

 

「慣れてるのは否定しないんですね……」

 

「不本意ながらな」

 

 マジで何が楽しいんだ、マジで。文化祭以降やらせたがる輩がそこら中に増えてるし、やらねえよ(真顔)

 

「そろそろ帰っていいか」

 

「却下よ。ここで逃げたら欲求三千倍の媚薬を打ち込んでやるわ」

 

「それ効かねえようにしたんだけど」

 

「知ってる、だから改良したわ」

 

「さすがきょーちゃん、研究に余念がないね!」

 

「最近原稿勧めながら何やってるのかと思ったら、とんでもないもの作ってるね……」

 

「何なら試してみる? 天音でも構わないわ」

 

「絶対にノー」「いや勘弁して、死んじゃうから」

 

 (ほぼいつもの無表情だが)残念そうに指から出した毒を瓶に収める夾竹桃。チクショウぱっと見だがマジで成分変わって有効になってやがる、また耐性作らないと(イタチごっこ)。

 

 あと天音に使ったら冗談抜きで死ぬぞ、これ。

 

「さすがに冗談よ。あなたの女装は冗談でもなんでもないけど」

 

「……なあ天音、こいつの人格を真っ当なものにする歌唱ってないのか?」

 

「すいません潤先輩、試してみたけど無理でした。感覚としては馬鹿になったネジを手で戻すようなものですね」

 

「失礼ね、さっきの媚薬を適量にして、間宮ののかの前に放り出すわよ」

 

「やめてマジでやめてくださいお願いします夾竹桃さん」

 

「何だお前、かなめからそっちに移ったのか。告白して振られまでしたのに立ち直り早かったな」

 

「ちょ!? いやののかちゃんとはそんな関係じゃないというか、懐かれてるというか……その前に、なんで先輩がかなめさんの件知ってるんですか!?」 

 

 顔真っ赤にしちゃって、青春してるねえ天音。まあ、

 

「理子も知ってるよー。あとアリアんとユキちゃんとリサとヌエっちも、めーちゃんが話したからねー」

 

「か、かなめさん……何も潤先輩のグループに話さなくてもいいじゃない……」

 

「いや告白されて振ってしまったから、今後どういう距離で接すればいいか分からないって相談されたんだけどな」

 

「至極まともで健全な理由!? ごめんかなめさん、軽々しく吹聴したのかと思って!」

 

 いや普段のマイシスター見てたら妥当だぞ(ブーメラン)

 

 あと相談(というか協議)の結果だが、「変に意識せず前と同じように接してやれ」とは言っておいた。今も仲良いのを見るに、正解だったようで何より。

 

「……また話が逸れたわね」

 

「お前の脅迫でな。で、女装なら天音にやらせればいいだろ」

 

「え!?」

 

「さすがに本人が嫌がることは可哀想でしょう?」

 

「俺は可哀想じゃないってかコノヤロー」

 

「あなたを憐れむならジャンヌを憐れむわ」

 

 それ相当じゃねえか。というかそこの後輩は露骨にほっとすんなし、世話になった先輩のため尊い犠牲に「すいません無理です」ふぁっ〇。

 

「まあそんなことはいいわ、それでターゲットだけど」

 

「俺頷いてないんだけど」

 

 一応抗議したが、ガッツリ無視された。視線で天音に助けを求めるが、『こうなった夾竹桃は止められません』って返された。まあそうだな(白目)

 

「CVRに潜入とかかなー? いやあ、wktkが止まりませんなあ!」

 

「残念はずれ、間宮あかりのグループよ」

 

「「「……え?」」」

 

 

 

 ……皆さまこんにちは、佐々木志乃です。……誰に言ってるんでしょう、いやそんなことはどうでもいいのです。

 

「はあああ……」

 

 放課後になってから、何度目か分からない溜息を吐いてしまう。幸せが逃げてしまうと言われていますが、今の私は不幸の只中なのであまり関係ないでしょう。何故なら、

 

(あかりちゃんと、一緒にいられないなんて……!)

 

 強襲科の訓練で放課後も残るらしく、上目づかいで申し訳なさそうに謝るあかりちゃんは非常にそそる、いえ良いものでしたが……よりにもよって相手が神崎・H・アリア……!

 

(……まあ、遠山先輩よりはマシ……でもそういう問題じゃ……!)

 

 遠山潤。私達の一つ上の先輩で、男。たまに戦闘訓練や戦術について分かりやすく教えてくれる、男。

 

 そう、男なのです。あとあかりちゃんが敵視してるけど、実質餌付けしてる憎いあんちきしょう。

 

(予想外からのダークホース……! その気はない安全牌に見えますけど、男でも油断はしちゃいけないのよ志乃……!)

 

 いや普通男を警戒するだろとどこからかツッコミが聞こえた気がしますが、そんなことはどうでもいいのです(真顔)

 

 単純な能力なら私の方が上だけど、遠山先輩は非常に戦い慣れしている上に狡猾。神崎・H・アリアは単純に規格外だし、どうすればあかりちゃんを奪われないように――

 

「あうっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 なんてプラン――もとい考え事をしながら歩いていたのがいけなかったのでしょう。曲がり角から出てきた人とぶつかってしまいました。

 

「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか――」

 

「あ、ああいえ、こちらこそ気付かなくてごめんなさい。……あの、どうしました?」

 

 尻餅を付き、手を伸ばした相手――制服のタイからして同じ一年生だろう少女を見て、私は固まってしまいました。

 

 肩にかかった茶髪の先端を小さなリボンで結び、藤色の大きな瞳は動きを止めた私を不思議そうに見つめる、愛らしいながら意志の強い瞳。小柄でやや細身の体躯――

 

(こ、この娘は――)

 

「……えっと、あの。大丈夫ですか? ぶつかった時、どこか痛めました?」

 

「!?」

 

 固まったままの私を立ち上がって心配そうに、上目遣いで見つめてくる彼女に、動機が一気に上がるのを理解しました、してしまいました。

 

「…………う」

 

「あの、顔、真っ赤ですよ? 本当に大丈夫ですか? 保健室いきます?」

 

 彼女の指摘通り、私の顔は赤くなっていることでしょう。本当は心配してくれる相手にお礼の一つでも言うべきなのでしょうが、

 

「……違う、んです」

 

「え?」

 

 今の私に、そんな余裕はありませんでした。

 

 

 

「私はあかりちゃん一筋で、これは違うんだから―――――!!!!」

 

 

 

「あ、ちょっと――!?」

 

 ああごめんなさい見知らぬ人、変なこと言って。でも私はこの、胸の動悸が事実だなんて――あかりさん以外に好みドストライクの人がいたなんて、認めたくない、認めてはいけないんです!

 

 

 

「は、はー、はー……」

 

「あれ、志乃ちゃん? すごい汗掻いてるけど、大丈夫?」

 

「!? あかりちゃん!?」

 

「うん? 私だよ、志乃ちゃ「あかりちゃん!!」ふえ?」

 

「私は、あかりちゃん一筋ですから!!」

 

「??? えっと、よく分からないけど、私も志乃ちゃんが大好きだよ」

 

「――――カフッ!?」

 

「え? ちょ、志乃ちゃん、志乃ちゃーん!? しっかりしてー!?」

 

(ああ神様天使あかり様、こんな素敵な言葉をくださるなんて……一瞬でも他の人に惹かれそうになった罪深い私を、お許しください……)

 

「……何か見たことあるしょーもない展開だけど、なんだったかしらこれ……

 あ、白雪が潤とお風呂でハプニングやらかした時のだわ。締まらない顔で気絶してるし……ナニコレ」

 

 

 

「~~♪」

 

 どうも、火野ライカです。何だこの挨拶ってツッコミ入れるべきかもしれんが、今のあたしは自分の戦妹――島麒麟に会いに行くのが最優先のため、気にしないことにする。

 

「それにしてもあいつ、CVRの個室をわざわざ指定するなんて、何の用なんだか……」

 

 また変なことでもされるのかと思ってしまい、心が期待を――

 

(――って、何考えてるんだあたし!)

 

 武偵がハニートラップに引っかかるなど論外、ここは戦妹に主導権を握らせないよう警戒しないと。

 

 『もう手遅れじゃないかと』ってどこかで桜のツッコミが聞こえた気もするが、間違いなく幻聴なので無視に限る。というか最近、あいつの物言いが遠慮ないような――

 

「あの……」

 

「ん? ――!?」

 

 後ろから声を掛けられたので振り向き、我知らず動きを止めてしまった。

 

 あたしの前に立っていたのは、ドレスみたいなゴシックロリータ衣装を着込み、麒麟よりも更に小柄な少女。眠たげな半眼でこちらを見上げる姿は、

 

(アイドル級……いや、それ以上のめちゃくちゃカワイイ娘じゃねえか!?)

 

 思わず見惚れてしまうが、黙ったままでは不審がられてしまうため、平静を装って話しかけることにする。

 

「お、おうどうした。制服じゃないってことは、|武偵校≪ウチ≫に見学で来たのか?」

 

 訂正、ちょっと声が震えてた。いやだってこんなレベルの美少女、まず見られないし(本音)

 

「うん、そう……私、来年からここに、通う予定なの……でも、ここ、どこ……?」

 

「おいおい、迷子かよ……どこに行きたいか分かるか?」

 

「えっと……」

 

 その娘が言った場所は、今いるのとは正反対の位置にある棟だ。確かに初めて来ると間違いやすいからな、かくいうあたしもその一人だったし。

 

「場所は教えられるけど……一人で行けるか?」

 

「……分からない」

 

 自信なさげに眉を下げる姿も、また愛らしい。こういう可愛いのってずるいよなあ、ホント。

 

 ……まだ麒麟との約束には、時間があるか。

 

「しょうがねえなあ。案内してやるから付いてきな」

 

 ほら、と手を伸ばせば少女は素直に両手で掴み、

 

「……ありがと。『お姉ちゃん』」

 

 

 

(ゴフゥ!?)

 

 

 

 クリティカルな一言を吐かれ、心の中で吐血した。

 

(こ、この感情に乏しいながらも耳に心地いいロリボイスで、『お姉ちゃん』だと……!?)

 

「お、おおおう。じゃ、じゃあ行くか」

 

「……? お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だ、問題ない」

 

 必死に顔がにやけるのを我慢しているので、他人から見たらさぞ変に見えるだろう。こんな顔、知ってる奴に見られたら――

 

 

 

「お、お姉様……」

 

「……え? あ」

 

 

 

 思いっきり見られた。しかも一番見られたくない相手、戦妹の麒麟に。

 

 麒麟はあたしの顔を見て、次いで繋がれた手を、その先にいる少女を見て――

 

「お姉ちゃんの、友達……?」

 

 最後に首を傾げながらの言葉に、地震かと見まごう程震えだし――

 

「浮気はダメですのー!!」

 

「ちょ!?」

 

 正面から思いっきり抱き着いてきた。ちょ、色々柔らかかったりいい匂いがするから今はダメだって!?

 

「お姉様、麒麟より小さい娘をどこで誑かしてきましたの!? もう麒麟には飽きてしまったんですの!? ポイしちゃうんですの!?」

 

「いやちが、というか人聞きの悪いこと言うな! あたしはこの娘が道に迷ってるから案内をしようとだな!?」

 

「でもお顔がすっごくだらしなかったですの!」

 

「うぐ!?」

 

 事実なのでまったく反論出来なかった。こうなった麒麟は、納得するまで離してくれない。

 

 その後麒麟を説得している内、ゴスロリ少女はいなくなっていた。すまん少女、お姉ちゃんは自力で辿り着けることを、

 

「お姉様、お話ししながら他の女のことを考えるのは酷いですの!」

 

「イデデデデ、悪かったから耳を引っ張るなって!?」

 

 結局この後、むくれた麒麟の機嫌を取るため一緒にCVRの風呂へ入ることになった。麒麟の機嫌は直ったが、あたしの理性はギリギリだったとだけ言っておく。

 

 

 

「……いいものが見れたわ。これで乾桜もいれば完璧だったんだけど、これ以上は悟られかねないわね」

 

「酷いものだろ常考。これいじょう乾さんの心労増やすのはやめてやれ、その気はあるけど」

 

「でもこれで、あかりん達のルートが進むの間違いナッシング。イベントCGも回収ですよ回収!」

 

「雨降って地固まる、よ」

 

「雨というより落雷な件。というか理子、あのロリキャラは狙いすぎじゃね?」

 

「ライちゃんはあれくらいが逆にいいんですよ。ユーくんだってしののんにクリティカルヒットする姿だったじゃないですかー。演技もばっちりだったし!」

 

「不本意でもやるからには全力な主義だから」

 

「それだから毎回女装させられてるんじゃ……? あと潤先輩、穴埋めに僕がいかないと駄目ですか?」

 

「いざという時は頼む」

 

「……今度クレープ奢ってください、間宮さん達も含めて」

 

「パフェでもいいぞ」

 

「よっしゃあ!」

 

「創作に甘味は必須よね」

 

「座ってろ甘味至上主義と百合厨」




キャラ紹介
西儀天音
 遠山潤の後輩。いつかやるかもしれないAA作品の主人公で中性的な容姿、武偵とは思えないレベルの人格者で人気者。性別は世界線によってころころ変わる(マテ)

 夾竹桃とは言葉にしにくい関係、かなめは告白して振られた関係、ののかには懐かれてる関係。間宮あかりのグループに属しており、通信科として専らサポートに務める。

 『音使い』としての技量は高く、歌声一つで相手の感情や行動を操作できる。

 女装未経験。
 


あとがき
 酷いものを見た(オイ)

 はいどうも、ゆっくりいんです。AAコラボ記念ということで女装+変装したバカ二人に迫られる構図でしたが、いかがでしたでしょうか。

 そして新オリキャラのまともっぷりよ。かなめさんとはいざこざがありましたが、詳細はAA編を書くことがあれば判明するかと。予定? 未定です(オイ)

 感想・誤字訂正・批評などいただけると嬉しいです。それでは読んでくださり、ありがとうございました。 



蛇足(書き終わってから思ったこと)
潤「何で音ゲー要素入れなかったお前」

( ゚д゚)「この面子でどーやって連れてけと」

潤「そこに楽士がおるやん」

( ゚д゚)「あっ」

天音「……」


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小話 食材は合わせ方次第で天国にも地獄にもなる

作者(以下( ゚д゚))「鍋の美味しい季節になりました」

潤「そう言いながらこの話を出すのはどうかと思うが」

( ゚д゚)「お鍋の話ですよ?」

潤「闇って付く方のな」

( ゚д゚)「あ、時系列は文化祭終了直後です」

潤「今更過ぎね?」





「なんで、なんでよりにもよってこのメンツなのよ……!」

 

「あ、アリア落ち着いて、ね? きっと大丈夫だから……」

 

「アリア様大丈夫ですよ、幾らなんでもこの状況なら、理子様やご主人様でも……」

 

「だってこいつらよ!? メヌはともかく、他二人が致命傷通り越して即死級じゃない!?」

 

「劇物扱いされてる件について抗議せざるを得ない」

 

「りこりんとユーくんは上告を望みま~す」

 

「お姉様が苦悩する姿、いつ見てもいいですねえ。理子、写真お願いします」 

 

「食事前から堪能してるんじゃないわよメヌ!?」

 

 うまい、のかもしれない返しである。どうも、遠山潤です。

突然だが、東京武偵校には悪しき伝統と呼ぶべき文化がそこそこある。上級生が絶対的強者になる縦社会構造とか、戦略室とか。

前者に関しては色々やったのでほぼ機能していないが、その話はまた今度にでも。

 

 さて、今アリアが頭を抱えている原因だが。悪しき伝統の一つ、文化祭後に行われるチーム単位での鍋パーティー、『武偵鍋』である。

 

 一見すると、チームの結束を深めるための良い行事なのだが、

 

「なんで、『ハズレ』の食材を持ってくるのがこの三人なのよ!? よりにもよって!?」

 

「くじ引きだから致し方なーし!」

 

「別に食えないもんは用意してないから大丈夫だ、問題ない」

 

「ジュン、あんたクジに変な細工したんじゃないでしょうね!?」

 

「何故真っ先に俺を疑うし」

 

「お姉様、メヌの推理が確かなら、これは純粋なくじ引きの結果ですよ」

 

「くっ、アタシの勘もそうだって伝えてるわ……! 神は死んだのね……!」

 

「ダイスの女神は微笑んでそうですわよ、お姉様」

 

「それ厄神の類でしょうが!?」

 

「稀に味方するぞ、稀に。

 というか分かってるなら疑うのは良くないと思いまーす」

 

「どう考えても普段の行いでしょうが!? 少しは自覚しろ!?」

 

「自覚はしている」

 

「だが反省も後悔もしてないよ!」

 

「知ってたわよガッデム!!」

 

 中指立てないの、女子なんだから(違)

 

 さてアリアの言うとおり、武偵鍋はただの鍋にあらず。チームで『アタリ』と『ハズレ』の担当に分かれ、食材を持ってくるのだ。 

 

「そしてハズレ担当は私、遠山潤と」

 

「みんな大好き峰りこりんと!」

 

「お姉様大好き、メヌエット・ホームズになります」

 

「ノリと勢いで最悪にするジェットストリームアタックが揃うってなんなのよ!?」

 

 車椅子の上で微笑んでるメヌを中央に、左右でポーズを取る俺達にカリスマガードとなるアリア。ついに妹もヤベーの扱いするくらい追い詰められたか(原因の一角)

 

「だーから、普通に食べられるもの持ってきたっての」

 

「じゃあ何持ってきたか言いなさいよアンタ達!?」

 

「マーマイト」

 

「ジンギスカンキャラメル」

 

「アボカド」

 

 順に理子、メヌ、俺である。

 

「待って、もうツッコミどころしかないからちょっと待って、順番にコメントさせて」

 

 チョイスを聞いた白雪は盛大に顔を引きつらせ、味付け担当のリサは、どうにかして食べられるものにならないか苦心して調味料の選別に悩んでいる。

 レキ? 我関せずこの乱痴気騒ぎをイラストにしてるよ。

 

 感情が一周回って冷静になったっぽいアリアが、手で額を押さえながら一度深呼吸。一間開けてから顔を上げると、青筋を浮かべながらこちらを睨みつけてきた。

 

「まず理子! なんでよりにもよってそれ持ってきたのよ!? 

 しかもそれ、食材というより調味料の類でしょうが!」

 

「いやあ、アリアんとヌエッちも日本暮らしが長くなってきたじゃんじゃん?

 そろそろ故郷の味が欲しくなるかなーと、りこりんは思ったのですよ」

 

「その心意気が一番欲しくないもののせいで台無しじゃないの!? アタシ達(イギリス人)でも好み分かれるわ!」

 

「好き嫌いはいかんぞーアリア。それじゃあ大きくなれん」

 

「色金のせいで成長が止まってるって言ったのアンタでしょうがジュン! というか順番じゃないんだから黙ってなさい!

 あと理子、アタシがマーマイト嫌いなの知ってるでしょ!?」

 

「だから選んだので「風穴打ち上げ花火!!」ストライクノワール!?」

 

 蹴り上げで天井に吹き飛び、そのまま突き刺さる理子。スカートの中身見えるぞアリア(違)

 

「次、メヌ! 理子よりはまだ食材だけど、それお菓子の類でしょうが!?」

 

「以前試しに買ってみたのですが、ちょっと独特な味が合わなかったので……死蔵していたものを持ってきました」

 

「遠回しにまずいって言ってるでしょそれ!? 武偵鍋は不良在庫の処分セールじゃないのよ!」

 

 一発引っ叩かれるだけで済んだメヌ。「お姉様、ひどいです」と嘘泣きで頭をさすっているが、天井に頭から突き刺さった理子と扱いの差が凄い。 

 

「最後にジュン!」

 

「おう」

 

「……なんでアンタだけ、まともな食材持ってきたの?」

 

「素で言われてもこっちが困るんですがそれは」

 

 本気でこいつおかしくなったかみたいな視線を向けないでくれ、俺は正常だよ。

 

「そもそもハズレの条件は、『普通鍋に入れない食材』だろ。買い過ぎたから剛達のチームにも分けてやったし」

 

「いやまあ、そうなんだけど……

 アンタのことだから、バカ理子と合わせてドリアンか、最低でもくさやくらい持ってくると思ってたわ」

 

「シュールストレミングは候補に入れてたぞ」

 

「食べ物というよりBC(生物)兵器の類でしょうがそれは!?」

 

「ガスマスク装備なら大丈夫だ、問題ない」

 

「そんなもの用意する時点でおかしいことに気付け!?

 まあ、そっちが選ばれなくて良か――」

 

「じゅ、潤ちゃん、それ、それは本当に……」

 

「ご主人様、リサは、リサは……初めてご主人様を、恐ろしゅう思います……」

 

「……ちょ、ちょっと白雪、リサ? どうしちゃったのよ? 

 アボカドはまとも、というか美味しい食材じゃない」

 

 横にいた二人の取り乱しっぷりが怖くなったのか、恐る恐る声を掛けるアリア。無知は時に救いなんだよなー(確信犯)

 

 白雪とリサは一瞬顔を見合わせ、悲痛な覚悟を宿した顔で口を開く。

 

「あのねアリア、アボカドは色々な調理法があって、実際美味しいんだけど……茹でたりするのって、ないよね?」

 

「……そういえば、そうね」

 

「……アリア様、アボカドは湯煎するとですね……えぐみと食感が、凄いことになってしまうんです」

 

「……簡単に言うと?」

 

「クッソマズいです」

 

衛生兵(メディック)ーー!? ワトソンいないの!? リサが壊れたー!?」

 

「いや正常だから、お前が落ち着け」

 

 このメイドから出たとは思えないセリフだから、混乱するのは分かるけどよ。

 

「元凶はアンタでしょうが!? 理子とメヌ以上にヤバいもの持ってくるんじゃないわよ!?

 いいジュン、それ絶対に入れるんじゃないわよ!? 絶対よ!?」

 

「え、アリアが騒いでる間に投入しタングドシャ!?」

 

「何してくれてんのよアンタはああああ!!?」

 

 食材入れたんだよ(真顔)

 

 三〇の極で殴られて頭蓋骨が凹むレベルのダメージを受けたが、幸い鍋にはぶつからなかったのは僥倖。理子も穴から降りてきたし、調理開始だな。

 

「いっそぶち撒けた方が、幸せだったかもしれないわ……」

 

「食材勿体ないだろ」

 

「食べ物を冒涜してるのはどこのどいつよ!?」

 

「どう足掻いても武偵鍋はマズくなるんだし、それなら普段やらないようなことしてもいいかなーって」

 

「悪い意味で開き直んな!? バカかアンタは!?」

 

「どうもバッカでースワンレイク!?」

 

 今度はアッパーカットを決められた。頭の上下でダメージとか勘弁してくだせえ。

 

 そんな風にじゃれ合っていたら、鍋も程よく煮えたようだ。闇鍋形式なので、中がどうなっているかは分からない。

 

「うう、過去最低のものが出来たんじゃないのこれ……」

 

「かしこみかしこみ……天照大御神様、このような所業をお許しください……」

 

「主よ、これはリサがご主人様に認められる試練なのでしょうか……?」

 

「殉教者の列みたいですね、潤さん」

 

「俺は予防注射の列を思い出した」

 

 調味料がまともなせいか、異臭がしないのも不気味さに拍車をかけてるよな。

 

「どっちも嫌なものに自分から向かってるのは間違いないわね……

 とりあえず潤、今日一番の戦犯であるアンタが行きなさい!」

 

「俺『透視』と『暗視』の魔術使えるから、鍋の中身分かるけど」

 

「りこりんもー」

 

「前言撤回、アンタ達はこっちで選んでやるから大人しく座ってなさい!」

 

「炸裂掌音速返しのアリアさん」

 

「というかヌエっちやユキちゃんも同じの使えるよね~?」

 

「白雪は無条件で許すに決まってんでしょうが!」

 

「私は潤と理子の二人が食べるものを選別する使命がありますので」

 

「「解せぬ」」

 

「いい加減解かれアンタ達は!」

 

 なんでだよ、俺達は行事のルールに従っただけだぞ(真顔)

 

 さて、そんな感じで武偵鍋という名の闇鍋が始まったのだが。

「よ、良かった……普通のにたまーーうっ、これ……ちょっとマーマイトが掛かってる……」

 

「この白菜は……セーフ、セーフです! ご主人様、リサはやりました!」

 

「マーマイトをアクセントにした米沢牛もいけますね、これ」

 日頃の行いからか白雪は軽傷、リサはノーダメージで済んでいた。というかリサ、嬉しいのは分かったから尻尾振りながらこっち向かないの。

 メヌ? こいつ推理を使って自分からマーマイト混じりの牛肉食ってるぞ。実は珍味好きなのだろうか。

そしてお次は我等がツッコミの星、アリア「誰がツッコミ(物理)の化身よ!?」思ってねえです、そうだけど。

「うう、どれにすればいいのよ……」

 

「いつもの直感使えばええやん」

 

「全部で警鐘鳴らしてるから意味ないわよ!」

「アリアんならアタリを引いてくれるって理子、信じてるよ!」

 

「それネタ的にって意味でしょどうせ!? アンタ後で覚えてなさいよ!

 ……ええい、女は度胸! これよ!」

勢いよくお玉を鍋の中に突っ込み、出てきたのはーー

「白滝だな」

 

「マーマイトとジンギスカンキャラメルがたっぷり掛かって、変色してるねー」

 

「いやああああああぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 箸を持ったのとは反対の手で頭を抱え、絶叫するアリア。その悲鳴、今までで一番女子力高いぞ(オイ)

「ささアリアん、一気にグイッとどうぞ!」

 

「アンタ他人事だと思ってえ……

 でもそうよね、一気に食べた方が被害は少ないわよね……いただきます!」

 

 ラーメンのように一口で白滝を啜るアリア。ほとんど噛まずに呑み込む音がやけに大きく響き、

 

「うう、う……ううううう……」

 

「え、ええ!? アリア、もしかして本気で泣いてる!?」

 

「あ、アリア様お気を確かに! 今お水を……」

 

 口を抑え、唸るような泣いているような声を上げながら、大粒の涙をこぼしていくアリアに、白雪とリサ(良心コンビ)の献身によって何とか復活した。

 

「……ありがと、リサ。人ってあまりのまずさにも泣けるのね……」

 

 二度水を一気飲みし、落ち着いたアリアは遠い目になって語る。リバースしなかっただけ偉いと思うぞ(真顔)

 

「ねえジュン」

 

「どした、メヌ」

 

「泣いているお姉様を見たら、不覚にも興奮してしまいました。どうすればいいかしら?」

 

「もっと泣かせばいいんじゃないかね」

 

「りこりんもドキッとしちまったぜ……」

 

「――風穴じゃ済まさないわよジュン、理子?」

 

「「スンマセン調子に乗りました!!」」

 

 即座に土下座スタイルで許しを請う。レイプ目で拳を構えるアリアの姿には、流石に死の予感を感じた(震え声)

 

 さて次は、我等の食神にしてイラスト神、レキ様である。

「……」

 

 無言で掬い上げたのは、話題に上がっていたアボカド(茹で済み)だった。遂に来たか。

 

「――いきます」

 一部を除き固唾を飲んで見守る中、レキは一言だけ告げるとアボカドを口の中に入れ、

「――――」

「ちょ、レキ、大丈夫なの!? 見たことない震え方してるわよ!?」

 

 アリアの言う通り、正座したまま振るえるレキの姿はまるで携帯のマナーモード。ハイマキもビビってるのか助けようとしてるのか、横で固まってるし。

「……アリアさん。今、私は――

 

 

 初めて、怨みという感情を、理解したのかもしれません」

 

 

 俺の方を無表情で見つめながら、そんなことを宣うレキ。その目にはこの世全ての悲哀と憎悪が詰まっている、気がする。

あとアリア、「うんうん分かる、分かるわレキ……! あとでバカジュンとバカ理子はぶっ〇しましょう……!」って発言怖いからやめーや。レキも力強く頷くなよ、武偵法九条はどうしーー

「おおうレキ、いつの間に移動したんだお前」

 

「潤さん、あなたは私に感情を教えました。そのお礼を、存分に味わってください」

 

「それお礼参り的な意味だいでででで!? 腕を捻じるな腕を!?」

「にゅあああああ!? ヌエっち、小指はダメ、ダメだってえ!? というかなんで理子まで!?」

 

「いえ、お姉様に対する劣情を抑えるために、ちょっと」

 

「はっきり劣情とか言うんじゃないわよメヌ!?」

 

阿鼻叫喚を遠めに眺めてたら、拘束されたでござる。俺がレキに両腕を捻じられ、理子はメヌに小指が折れる瀬戸際まで曲げられてな。

「美少女にあーんしてもらえるなんて、アンタには夢のような光景でしょ理子? 喜びなさいよコラ。

 それじゃあーーはーい理子、Say ah(アーんして)♪」

 

「ちょ、アリアんあっついあふぃ!? せめてふーふーしてから食べさせて!? マズいのとあっついのがダブルパンチで理子の味覚を襲って――る、るるるるる!?」

 

 アリアが食ったのより倍以上の濃さとなった牛肉を、次々と押し込まれる理子。あ、味覚のダメージから言語機能がダメになってきたっぽい。

「拘束されながら青筋立てた相手にあーんしてもらえるって、あいつが初めてなんじゃないかね」

 

「潤さんも似た光景ですが」

「じゅ、潤ちゃんごめんね、でもあーんしてあげられるのはいいかも……

 じゃ、じゃあはい、あーん……」

「あーん」

 

 モテない野郎なら誰もが羨ましがる、美少女が顔を赤らめながらあーんしてくれる光景。差し出されてるのは湯煎したアボカドなので、ネタじゃなかったら好感度ガン下がりだけどな。

「……」

 

 咀嚼し続ける俺を、無言で見守る周囲。メヌは俺が醜態さらすのを楽しそうに見守ってるけど。

 横の理子は責め苦(食事)が終わったらしく、

「おおお、ジンギスカンの味と油とミルクの甘さとダシが最悪なフュージョンをして、理子のお口を蹂躙蹂躙してくるぅ……」

などとグルメリポーターみたいに詳細を語りつつ、床の上で亀みたいに丸まっている。だらしねえな。

「……んっ」

 

 パートナーが撃沈してる中、俺も噛み砕いたアボカドを呑み込む。

うん、えぐみと食感最悪、ついでにジンギスカンキャラメルも掛かってるなこれは。

 

「……うん、やっぱ当然ながら――マズいな」

 

「ちょっと待てえええええ!!? なんでアンタ平気そうな顔してるのよ!? 味覚遮断してるんじゃないんでしょうね!?」

 

 普通の顔してるせいか、アリアが即座に聞いてきた。顔に返答次第では〇すって書いてあるぞ、殺意が高すぎる。

「遮断してたら味のコメントしねえよ、嘘吐いても速攻でメヌにバレるだろうし。

 単純に対毒・劇物の訓練をガキの頃にやってたから、これくらいなら問題ないだけだって」

 

まあ平気というだけで、まずいものはまずいのだが。下限を知っている以上、アレよりはマシ理論で耐性出来てるんだよなあ。

「潤ちゃん、子供の頃にそんなことやらされてたの……?」

 

「いや、自主的に」

 

「「「自主的に!?」」」

 

「うん、鮒寿司(ふなずし)を大量に食ってたら、師匠に引かれた」

 

 異口同音のオウム返しで恐ろしいものを見る目になるアリア、白雪、リサ。あの時の師匠にそっくりだよ、メヌもマジかよって顔になっている。

そういやお前さん達良家の育ちだから、まずいものとはあんまり縁がないか。

余談だが、鮒寿司は滋賀県の名物料理で、塩漬けにしたニゴロブナを米と一緒に漬けて発酵させたものである。

ちゃんと手順を踏んでお茶漬けとかにすれば美味しいが、発酵したものをそのまま食うと――まあ、味覚と嗅覚に大ダメージとだけ言っておこう。茹でたアボカドよりはマシだけど。

 

「……メヌ、どう?」

 

「……少なくとも、嘘でも強がりでもないのは確かですわ、お姉様」

 

「そうよね、アタシの勘もそう言ってるわ。

 ……じゃあ潤、アンタ残りの分全部食べなさいよ!」

「はあ、まあいいけど」

 

 どうせ他の連中はほとんど手を付けないだろうし、捨てるのも勿体ないから食うつもりだったしな。

そして十分後。

「ふう、ご馳走さん」

 

 手を合わせる俺の前には、空になった闇鍋改め、武偵鍋だったもの。やっぱ三人前は多いよな、というかなんで三人前も作ったんだよ。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

 女子達は平然としている俺に引いているが、まずいもんはまずいんだって。

「ジュン……アタシは今初めて、アンタを心の底から尊敬してるわ……」

 

「こんなことで尊敬されてもねえ。劇物訓練すれば「「却下!(です)」」そうかい。

 んじゃ、普通の鍋準備するぞー。俺は十分だから、お前らで食いなさい」

「ホントにあんた、味覚と胃どうなってるのよ……?」

 

 そんな化物を見る目で見なくてもいいんじゃないですかねえ。

余談だが、アボカドをお裾分けしたチームから後で苦情が来たのは言うまでもない。

全部スルーしたけど。罠にはまる方が悪い(真顔)

「というかジュン、これ自分が平気なイベントだったから悪ノリしたわね?」

 

「私、勝ちの可能性がない戦いはしない主義でして」

 

goddamn(チクショウ)……! そういやバカに見えて計算高かったわね、アンタ……」

 

 

おまけ

「でも理子が調味料役じゃなくて、本当に良かったと思う」

 

「いあいあユーくん、りこりんだってスープくらいちゃんと作りますぜ?」

 

「隠し味にカテンフェ(砂糖の3500倍甘い)とペッパーⅩ(防護服前提の辛さ)考えてた奴が何言ってんだ」

 

おまけ2

武偵鍋の話を聞いた妹のコメント

「いやー……私その時転入してなくて良かったよ。

 というかお兄ちゃんが思った以上に飯テロ耐性高いみたいで、流石私のお兄ちゃん!」

 

「なんでそこで褒めるのよ。というか来年はアンタもやるんだからね、かなめ」

 

「あかりちゃんにハズレを押し付けられるよう創意工夫しよっかなー」

 

「アンタ友達を盾か何かと思ってるの……?」

 

「? 騙される方が悪いってのは、武偵の基本でしょ?」

 

「……ああうん、潤の妹だわアンタ」

 

「えへへー」

 

「褒めてないわ照れんな!?」

 

 




あとがき
( ゚д゚)「闇鍋をする時は、用法容量と限度を守りましょう」

潤「面白いは何よりも優先される」

( ゚д゚)「その結果がこの地獄絵図なのですが」

潤「まあ、食える範囲のものにしような」

( ゚д゚)「茹でたアボカドは、食える範囲のものなのか……?」

 という訳でどうも、ゆっくりいんです。最近寒くなってきたのと、久々に漫画を読んで思いついたので書いてみました。
 忘れていたネタの回収ともいう(オイ)

 ちなみにアボカドのネタですが、ある作家さんの実体験を参考にさせていただきました。食べる勇気? 作者はありませんし、鍋を囲む友人もいません(白目)

 さて、次こそは本当にコラボ小説を書いていきたいと思います。……並行で進めてますよ? ホントウデスヨ?

 それでは今回はここまで。感想・誤字訂正・批評などいただけると嬉しいです。
 読んでくださり、ありがとうございました。 
 



最後に

( ゚д゚)「食材で遊ぶのはマジでやめましょう」

潤「この話書いたやつが言うか」

( ゚д゚)「マズい料理は心を荒ませ、殺意の波動に目覚めさせます」

潤「サドンデスソースとぜんざい混ぜた春雨をクソ上司に喰わされて腹壊しかけたの、まだ恨んでるのかお前」

(## ゚д゚)「ははは、オコッテナイヨ?」

潤(ガチギレじゃねえか)




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小話 ちょっと上級者過ぎてドン引きです

作者(以下( ゚д゚))「もう久しぶり過ぎるので、リハビリがてら書いてみました」

潤「サボり癖、いい加減どうにかしろよ」

( ゚д゚)「どうにかしたいっす」

潤「ダメだこいつ、早くなんとか(処理)しないと。
 あ、アリアが話あるから校舎裏に来いって言ってたぞ」

(; ゚д゚)「ホントに処理じゃないですかヤダー!?」



「ねえ潤ちゃん、かなめちゃんが潤ちゃんのものを持っていってるみたいなんだけど……」

「え、今更?」

「え、知ってるの!?」

「マイシスターが俺の私物を新品と入れ替えてるのは知ってるし、向こうも俺にバレてるの前提でやってるだろ」

「なんでそんなうらやま、じゃなくてけしからんことを黙認してるの!? 妹とはいえ! 妹とはいえだよ!?」

「何で二回言ったし。いや、実害ないから放置でいいかなと」

「そ、それなら私が貰っても問題ないよね!? というかください潤ちゃん様!」

「いやそのりくつはおかしい」

 

 ツッコミ入れるのも面倒だから放置してるだけで、普通に窃盗なんだよなあ。

 

 どうも、遠山潤です。マイシスターすり替え事件が白雪に発覚したんだけど、俺からすれば今更過ぎる。だってあいつ、ここに越してきてから二日後にはやらかし始めてるし。

 余談だが、以前あいつの部屋に上がった時もそれらしいものはちらほらあった。何に使っているかは知らん、予測は出来るけど知りたくねえ(遠い目)

 

「と、とにかく! 兄妹とはいえ、人のものを盗るのは許されない所業です! 潤ちゃん、今からかなめちゃんの部屋へ向かおう!」

「押収した品を私物化しないって約束できますか白雪さん」

「……えっと……ダメ、かな……?」

 

 上目遣い+潤んだ瞳のコンボだからって、何でも通るわけじゃないぞ。

 余談だがあまりにも物欲しそうにしていたので、日々の感謝という名目で使わなくなったワイシャツをあげることにした。

 白雪は俺とシャツを交互に見て何度も頭下げた後、大切なもののように胸元で抱きしめてたが、

 

(……まあ、マイシスターよりマシな使い方であることを祈っておこう)

 

 後に『彼シャツ』として部屋着にしていた白雪を発見し、「どーして理子じゃなくてゆきちゃんにあげたのさー!? ああいうのは理子の専売特許でしょーが!?」とバカに詰め寄られるのだが、この時の俺は知る由もない。

 

 

 

 

 

「はーい。あれ、お兄ちゃんに白雪お姉ちゃん、どしたの?」

「御用改めだよかなめちゃん! 神妙にお縄につきなさい!」

「え、いきなりなに!? まさか携帯サイズの核融合バズーカ造ってたのバレた!?」

「そんなことはどうでもいいんだよ!」

「いや良くねえよ白雪さん?」

 

 こいつさらっと色金よりヤベーもん作ってるの自白してるんだけど。あ、あとで設計図貰わないと(似たもの兄妹)。

 

「ふふん、お兄ちゃんと私は麗しい兄妹愛に包まれてるからねっ」

「何に反応したのマイシスター、段々アリアみたいにバグり始めてきたな。

 あとお前との兄妹愛は麗しいじゃなくていやらしいだろ」

「愛があれば世界も救えるしなんでも許されるんだよお兄ちゃん?」

「愛で世界を滅ぼす輩もいるし世界の敵認定されることもあるんだぞマイシスター?」

 

 ある男には美少女にしか見えない異形とかな。あれはマジで世界終了のお知らせだけど。

 

「まあそれは置いといて。御用はなーに? 白雪お姉ちゃん」

「かなめちゃんがすり替えた潤ちゃんのしぶ「中に誰もいませーん!!」あこら、開けなさーい!?」

「開けないよ、絶対開けないよ! アレに気付いたってことは、絶対かなめ秘蔵のお兄ちゃんコレクションを持ってかれるってことじゃん!?」

「全部持っていくほど私も鬼じゃないです!」

「それ大分持ってかれるって意味じゃないですかヤダー!? かなめのヒス燃料はぜーったいあげないからね!」

「お前らよく当人を横にして欲望垂れ流せるな」

「手を出さないお兄ちゃんが何もかも悪い!」「それはそうだね!」

「いやそのりくつはおかしい」

 

 人を節操なしにしようとするのはやめてもらえませんかねえ。あとお前ら、俺が理子と付き合いだしたの知って「そんなの関係ねー!」あるわ、超あるわ。

 あとそこの女子達、「え、潤ったらまさか妹にも手を……?」「お兄ちゃんを取られて寂しいんじゃないかなー? かなめちゃん中々のブラコンだからねー」とか噂話してないで部屋に戻りなさい。あとかなめのブラコンレベルは中々じゃ済まねえから(真顔)

 

「ふんぬぬぬ……!」「ぬぎぎぎぎ……」

 

 しかし巫女さんと愚妹は引く様子なし。このままでは俺の風評被害が増すこと間違いなしなので、

 

「なあかなめ」

「なーにお兄ちゃん!? お兄ちゃんのお願いでも白雪お姉ちゃんを中に入れ「お土産に北海道産のキャラメルロールケーキがあるんだけど」わーい食べるー、お兄ちゃん大好きー♪

 ーーあ」

「とっかーん!」

「は、計ったなお兄ちゃん!?」

「今完全にIQ⑨になってたなお前」

 

 これで釣られるとか、お兄ちゃんお前の将来が心配になってきたわ。

 

「ふ、服だけじゃなく筆記用具やナイフまで……それにこっちはーー」

「あ、それは絶対にダメー!! お兄ちゃん抜け毛がすごい少ないから、手に入れるの苦労したんだよ!?」

「いや、こっちは取らないから大丈夫だよ」

「真顔で引かれた!? なんで!?」

「そりゃ引くだろ」

 

 そもそも白雪は好きな相手そのものにはともかく、物品にはそこまで執着しないし。髪とか爪はいくらなんでも対象外だろうよ。

 

「お兄ちゃんのすべてを愛するのが普通、というか勝手になるものじゃないの?」

「そこまで業が深いのはお前だけだよ」

「全部を……そうだよね、潤ちゃんが好きなんだから潤ちゃんのものすべてを愛するのは当然……」

「おい白雪、戻ってこい。それはかなめだけの理屈だから、非合理的な選択だから」

「非合理じゃないでーす妹が兄を好きになって一緒になるのは神代からの合理的な選択でーす!」

「神代の神と人に謝れマイシスター」

「伴天連だって親子でやっちゃったのを許されてたでしょ!?」

「ノアの箱舟のことならやむを得ない事情からだよ」

 

 例外を当たり前のように言うんじゃない、マッチポンプ臭いのは否定しないけど。いやなんの話だこれ。

 

「で、これどうするのよ白雪」

「潤ちゃん、自分のものが妹の元にあるのに冷静だね……」

「まあ物盗られるのなんて、理子で慣れてるし」

 

 借りパク状態のゲーム、何本になってるだろうな。「帰ったら理子さんも説教だねっ」って息巻いてるけど、アリアがボコっても治らないから無駄だと思うぞ(悟り顔)

 

「とりあえずーー焼くか」

「「ぜーーーーったいダメ!!」」

 

 指先に魔術の炎を灯したら白雪が羽交い絞めにし、かなめが矛先を逸らそうと指を掴んできた。うーんやわっこい、じゃなくてちょっと力緩めなさい、指が折れるから(震え声)

 

「いや処分する流れだったろ今のは」

「潤ちゃん、潤ちゃんは被害者だけどやっちゃいけないことはあるんだよ……!?」

「なにその現代の闇みたいな理論」

「お兄ちゃん魔導書燃やされたらキレるじゃ済まないでしょ!?」

「その例えは分かりやすいけど比較するもんじゃイデデデデ!? わーったよ焼かねえからいい加減離せ! 指が折れるわ!?」

「ーーは。お兄ちゃんの指を全部折っちゃえば動けなくなるし、ここに監禁できてハッピーエンドなのでは……?」

「お前その発想が末期だって自覚ある?」

 

 あとそれはメリーバッドエンドだ、お前の脳みそ的にはハッピーセットだろうが。

 

「傷ついた潤ちゃんのお世話が出来る……普段しっかりしてる潤ちゃんが弱った姿を私が癒して……キャッ」

「え、何。俺今後は白雪の強襲も警戒しないといけないの?」

「ふえ!? そそ、そんなことしないよ!? ただ、潤ちゃんが怪我して動けなくなった時のことを想像していたというか……」

「俺治癒魔術使えるんだけど」

「いつぞやの要領でお兄ちゃんが魔術使えないようにしてから、アリアお姉ちゃんあたりにボコってもらうようたのもっか?」

「完全にアリアの扱いが暴力装置な件」

「そうして私と白雪おねえちゃんがボロボロになったお兄ちゃんを看病して、なんやかんやで結ばれる(意味深)ことでハッピーエンドだね!」

「もうメリーですらないバッドエンドだよ」

 

 あと巻き込まれるアリアがかわいそうだからやめなさい。

 

「……」

 

 それと白雪、ちょっといいなみたいに顔を赤らめるんじゃありません。

 

「なんで俺、理子と付き合いだしたらより貞操の危機を感じなきゃいけないんだろうな」

「いやあ現実的に可能性が出来たというか、理子お姉ちゃんが先陣を切ってくれたから私達もいけるというか」

「いけねえよ、お兄ちゃんハーレムエンド迎えるつもりはないよ? もう節操なしじゃん」

「あの、潤ちゃん……もう、純愛一途ルートは無理だと思うよ?」

「まさかの白雪に言われた件。いやいや、無理ってことはないだろ?」

「……」

「うそん」

 

 そんな現実を受け入れてみたいな顔で首を横に振らないでくださいませんかね、白雪さん。

 

「だってもう、メヌちゃんがプラン建て始めてるし、私たちに反対する理由はないし……」

「つまりメヌをしばけばいいのか」

「その場合、お兄ちゃんには刺客としてアリアお姉ちゃんとリサお姉ちゃんが向けられます」

「勝算無さすぎる」

 

 物理的に勝てないのと立場的に勝てないのを同時に仕向けるとか、性格悪すぎるだろアイツ。愉悦ってる顔が想像できるなチクショウメェ!!

 

 

 

 

 

 一連の攻防を終え、部屋に入った白雪とかなめは正座で向かい合っている。俺はメヌのプランを何とか潰そうと策を練っているが、味方がいなさ過ぎてどうしようもねえ。

 

「それでかなめちゃん、潤ちゃんのものをコレクションして……な、何してたの?」

 

 声震えてるぞ白雪、あと私怒ってますみたいな顔してるけど、好奇心が隠しきれてないからね。

 

「お兄ちゃんを想ってヒスるための燃料兼宝物にしてました」

「どんな造語だよそれ」

 

 HSSはそんな呼び方しねえだろ、兄貴からも聞いたことねえぞ。

 

「え、素直に【風穴ァ!!】してる時使ってたって言った方が良かった?」

「言わない方が良かったし、知られない方がいいと思うぞ」

「妹の情事を聞いて興奮したお兄ちゃんは挙手!」

「四十六時中痴態を晒してる奴が何言ってるんだ」

「お兄ちゃんになら、特別に見せてあげるよ……?」

「嫌でも見せるだろお前」

「むー、お兄ちゃんノリわるーい」

 

 のったら乗られる(意味深)のが分かってるから乗らないんだよ。

 

「ははハ、ハレンチだよかなめちゃん!? 女の子がそんなこと言うもんじゃありません!」

「え、でも白雪お姉ちゃんも結構な頻度で「やめて、言わないで!? というか何で知ってるの!?」」

「情報は金に勝るってお兄ちゃんが言ってたからね!」

「その情報が金に勝るの嫌なんだけど」

 

 ドヤ顔すんなマイシスター、お前がやってるのはプライバシーの侵害だよ(超今更)

 

「ちなみに私はまイタガキシストモ!?」

「やめなさいっての品がない」

 

 懐から取り出したフライパンを0フレームでぶん回して痴妹の頭を引っ叩く。最近ハリセンくらいじゃ止まらないんだよな、俺の筋力じゃバカ共にダメージ与えられないし。

 

「何で止めるのお兄ちゃん!? 男も女も一皮?けば狼なんだよ!!」

「少しは淑女の皮を被りなさいマイシスター」

「皮被りとかエロく「ないです」むー!」

 

 むーじゃねえべ。分かりやすくほっぺた膨らませない、ただの下ネタだからな。

 

「で、かなめ。お前HSSの特訓なんてして何のつもりだよ」

「あれ、バレてた? さっすがお兄ちゃん、妹のことをよく分かってるね~」

「Gシリーズのプランに『双極兄妹(アルカナムデュオ)』ってのがあったからな。机上の空論だけど」

 

 俺はHSSを使える体質じゃないし、かなめは使えば弱くなるからな。そのお陰で迫られた時に苦も無く除けられるけど。

 寝込みを襲われた回数? 大分前に三桁突入したよ。その後にかあいいものセンサーが暴走した理子にお持ち帰りされるけど。

 

「いやあ、お兄ちゃんを押し倒すってだけで興奮しすぎてHSSになっちゃうから、もうちょっと耐えられるようにしないとかなあって」

「俺の妹がこんなに興奮しやすい訳がない」

「お、おし……!?」

 

 肉食すぎるかなめの発言に、白雪はこっちを見ながら顔を真っ赤にしている。そのままの純情な君でいてくれ、系統は似てる気がするけど。

 

「女子でも強くなれる派生なら、ベルセがあるんじゃないか?」

「それだと嫉妬狂いでお兄ちゃんの両手足を切り落としてから監禁しちゃうからなあ……」

「オイこの妹、二つ目の監禁エンドを平気で告げてきたぞ」

「両手のない潤ちゃん、私なしじゃ生きられない潤ちゃん……」

 

 怖いからトリップやめてくださいませんかねえ、白雪さん。いやもう手遅れだけどさ。

 

「とはいえ、どうせなら戦闘力も両立させたいのが本音でして。お兄ちゃーん、なんかアイディアない?」

「自分が襲われる可能性を増やせというのかマイシスター。

 まああれだ、母は強しっていうのを体現すればいいんじゃねえの」

「何だかんだ言いつつアドバイスはするんだね、潤ちゃん……」

「これアドバイスって言うのかね」

「母は強し、つよし、ツヨシぃ……

 はっ!? そうか、そういうことだったんだね!」

 

 ボケてるのかと思ったら、天啓を得たと言わんばかりの顔になるかなめ。なんだろう、すげー嫌な予感がする。

 

 

「私がお兄ちゃんのママになるんだよ!」

 

 

「お前何言ってんの?」

「大丈夫大丈夫、とりあえずお兄ちゃんの遺伝子と私のを掛け合わせて新しいお兄ちゃんを生む想像をすればいいんだから!!」

「ごめんガチで理解したくない」

 

 俺と交わって俺が生まれるってそれどんなホムンクルスだよ、こえーよ。白雪もどういう顔すればいいか分からなくなってるぞ。

 

「れ、レベルが高いねかなめちゃん……」

「ええ……」

 

 訂正、何で慄いてるんだよ白雪さん。

 

「そうと決まれば早速、私がお兄ちゃんのママになるんだよぉ!!」

「違う、そうじゃない。というか二回言ってどうするんだよ」

「とりあえずお兄ちゃん、膝枕してあげよっか?」

「お前の母親像は膝枕なの?」

「いやだってお兄ちゃん、赤ちゃんプレイしたらブチギレバーサーカーするでしょ?」

「当たり前だろ」

「え、そんなに怒るの潤ちゃん!?」

 

 だって馬鹿にされてるとかしか思えないし。

 

「この想像でもヒスれる気がしてきた」

「何がだよ、いや聞きたくないけど。というかその枕も俺のだよな」

「えへへ―、知ってるお兄ちゃん? 枕って匂いがいっぱい付くんだよ? 

 そしてかなめは、常人より鼻がいいからお兄ちゃんの匂いをいっぱい堪能するのです。はあー……」

「うぐぐ……」

「男の匂いを堪能されてもなあ」

 

 あと白雪さん、そんなぐぬぬ顔しないでください。リアクションに困る。

 

「はああ……これ、やっぱり本当に堪らないよお」

「本当にHSSになりかけてるじゃねえか」

 

 もうダメだなこの妹、ジスに預けて地獄の訓練にでも放り込むか。あとで電話したら『それくらいで改善されるなら苦労しねえよ』って返されたけど。さもありなん。

 なおこの後、かなめと白雪による俺の元私物を賭けた仁義なき戦い(by運ゲー)が開催された。せめて俺のいないところでやれよ。

 

 

 

 

 

「あ、お兄ちゃん。耳かきでもしてあげよっか?」

「……マジで強化に成功してるじゃねえか、HSS」

 

 これだから変態は恐ろ「ママー!!」何言ってんだこの恋人(バカ)

 

「ふふ、どうしたの理子お姉ちゃん?」

「妹が母親とかもう分かんねえなこれ」

「年下の姉とか母親は普通だよユーくん!」

 

 そんな普通、剪定事象でもねえよ。

 

 

 

 

 




キャラ紹介
遠山かなめ
 兄をオギャらせる想像をしていたら、本当にHSSの派生を発生させた
 この妹変態過ぎない? と思いながら書いていたが、原作読み直したら似たようなことしていた模様。流石にここまで赤裸々に語ってはいないが。


遠山潤
 盗難被害者で妄想の餌にされ、貞操を狙われる男。
 これでも恋人がいます。
 

星伽白雪
 潤はともかく潤の物品にそこまで執着はなかったが、今回の一件で地味に欲しくなってきた模様。
 なお、戦利品は主に服関係。奪われたかなめは本気で悔しそうにしていた。


後書き
 本作では実妹が一番変態と思っています。恥らいとか躊躇いが一番ないので。
 というわけでどうも、お久しぶりのゆっくりいんです。もう諸事情(仕事とか依頼とかゲームとか)で遅くなるのは確定事項レベルですね、いつも通り申し訳ないですorz
 今回は思い付きで書いてみました。思った以上に酷いことになりましたが……かなめならセーフと思ってしまうのは、何故でしょうか。

 感想・誤字訂正・評価などいただけると嬉しいです。それでは読んでくださり、ありがとうございました。 
 




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小話 増えることはあっても減ることはない

お久しぶりです(盛大な目逸らし)


 事の発端は休日の朝、珍しくゲームで徹夜してないメヌの一言から始まった。

 

 

「ジュン、デートに行くわよ。エスコートさせてあげるから、光栄に思いなさい」

「デートって事前告知も相手の合意もなしに行くものではないと思うんだが。

 あと何度でも言うが、俺恋人いるんだけど?」

「理子にはお姉様を貸してあげたから、問題ないわ。嫌々言いながらお姉様も準備万端だったし、ノープロブレムよ。

 ジュンの意見はまあ、聞かないであげる」

「あまりな扱いに納得したくない自分がいる」

 

 そしてアリアはツンデレかな? 

 流石にどうよと思って一応の抵抗を試みていたら、理子からメッセが。

 

『アリアんとデートいちきます!! ユーくん、浮気はダメだぞ?????』

 

 ?の多さがなんか怖い。

 

「同性とのデートってノーカンなん?」

「理子は気が多いから仕方ないのよ。独占欲は強めだから、恋人が他の女に会うのはいい顔しないけど」

「うーん、この理不尽よ」

 

 

 

 というわけでどうも、遠山潤です。現在メヌの希望で横浜に、人混みダメなくせして何故ここに来たし。

 

同人イベント(修羅場)で鍛えたから大丈夫です。それに、ここは穴場があるのよ」

「それ場所じゃなくて〆切が修羅場じゃね? というか穴場ってーーゲーセンやん、ここ」

「それ以外の何に見えるのかしら?」

「それ以外に見えないから疑問なんだけど」

「察しが悪い恋人には、星3つ減点です」

「誰が恋人じゃい。いや違う、その星なんなん。初めて聞いたんだけど」

 

 白のカーディガンに同色のプルオーバー、膝丈までのグレーのスカート、ブーツに黒のタイツという、一見すれば無害ないいとこのお嬢様みたいな格好のメヌ。

 そんな彼女が、楽しそうに星のカードを黒く塗りつぶしている。アリアの折檻(物理)より最低10倍は怖いんだけど。

 

「仕方ありません。察しの悪い恋人役に、小舞曲(メヌエット)のステップの如く順を追って説明してあげましょう」

「それよりその星について「私は理子やリサと一緒によくゲーセンへ行くのですが」」

 

 あ、これ答えてくれないやつですわ(白目)

 

「お姉様にやりすぎないよう止められているのです、「ただでさえネトゲで徹夜ばっかしてるんだから、無茶するんじゃないの! アンタ歯止めが効かないタイプなんだから!」と。

 なので、理子と行く時は必ずお姉様がついてきますし、リサにも止められるのです」

「シスコンに過保護属性加えてもいいと思うけど、アリアの発言は間違いなく正しい」

 

 あとお前、アリアの声真似上手いな。理子にやってやればよろこ「嫌よ、面倒臭い」さいで。

 

「ですが、そんな中途半端なのでは満足出来ません。はっきり言って、欲求不満で爆発してしまいそうです」

「よし、俺を犯罪者にしたくないなら言い方考えような?」

「だからジュン、私を十分に満足させなさい。お姉様への言い訳も考えて頂戴」

「さらっとハードモードな要求が追加された件。というかここ公共の場所だから発言」

「お前なら取り調べ相手を言いくるめるくらい、簡単でしょう?」

「まず取り調べを受けるような状態に、しないで欲しいんだよなあ」

 

 近くの女子高生達がこっち見ながらなんか言ってるし。違うぞ、年下の同級生に手を出す犯罪者じゃないぞ。こっち見んな(ガチ)

 

 

 というわけで、目的のゲーセンに到着。選んだのはオン(音)で対戦相手をゲキする音ゲーである。

 そういや理子も最近ハマってなこれ、お目当てのキャラゲットするためランキングに万単位で使ったとか言ってたっけ。

 

「まずはガチャよ」

「ここでもガチャなのか」

 

 ソシャゲと合わせて幾つ課金ガチャしてるんだろうか。大抵のことには寛容なかなえさんが相談するくらいだから、大概な額なんだろうけど。

 

「天井という良心が付いた以上、無心でお姉ちゃんの限凸が終わるまで回せばいいだけだわ」

「五十連以上回した後だと負け惜しみにしか聞こえないぞ」

 

 ちなみにお目当てらしい『お姉ちゃん』とやらは、まだ出ていない。毎回似たような光景を見ている気がする。

 

「……ジュン、ちょっと回して頂戴」

「オイ無心の回転はどうした」

「出ないとそれはそれで腹が立つのよ。あなた、良く理子のを代わりに回して物欲センサーを回避してるでしょう」

「確率が収束しただけだと思うけど」

「いいから回すっ」

「へいへい」

 

 大分ムキになっているし、ここでやるしかないか。といっても所詮は確率だし、押すだけの作業で何か違いがーーあ、二枚抜きした。

 

「…………星、一つよ」

「そんな顔で言われても」

 

 推しが出た喜びと、他人に引かれた悔しさが悪魔合体して、表現し辛い表情になってら。

 

 

 

「そいじゃあプレイどうぞ、お嬢さん(フロイライン)

「んっ」

 

 筐体前に車椅子を付けてやったのに、上目遣いで万歳するように手を上げてくるメヌ。

 

「……」

「ふふ、いい子ね。星1個、付けてあげる」

 

 周囲の目とか躊躇する心を即座に切り捨て、お姫様抱っこでメヌを筐体の椅子に座らせてやる。満足そうなのはいいんだけど、その星なんなのよマジで。

 

(しかし、軽いな)

 

 リサと白雪の食育で成長しているはずだが、羽毛のように、とまではいかずとも、最初の頃とほとんど変わってない軽さな気がする。あれだけ食ってるのに「……セクハラでお姉様に言いつけるわよ?」やめろください死にます(必死)

 

 足は治ってるから地力で立てる? そんなこと言うか無言で待ってろ、即座に星の負債を抱える上に(口で)切られるんだよなあ。

 

「それじゃあ、潤はこっちね」

 

 筐体に座らせたと思ったら、ポンと小さいお手手で隣の席を叩いてから手招きしてきた。

 

「え、俺もやんの?」

「当然。マッチングした方が稼げるし、他の人が来ないよう壁になりなさい」

「変なとこでコミュ障発揮するなお前。これ、あんまりやんないんだけどなあ」

 

 まあ変に絡んで口撃の犠牲者が出る可能性が高いし、大人しく横に座るとしよう。何か周囲から黒い声が聞こえてるけど、スルーだスルー。

 

「ノルマは最低百曲よ」

「マジで言ってる?」

「当然。お姉ちゃんと一緒に戦えるなら、百どころか二百でも余裕よ」

「メヌエットの愛が重くて怖い」

 

 推しがいるオタクって、みんなこんな感じなんだろうか。

 

 

 

 そして時は流れ、数時間後。

 

「腕、腕が痛いわ……」

「そら(百通り越して百五十曲もやれば)そうなるわ」

「ジュン、回復魔術掛けて頂戴……」

「治したら絶対同じことするから、却下」

「意地悪……じゃあせめて、マッサージ……」

「注文来るまでな」

 

 アリアの予感的中だな、俺も予測はしてたが。

 とりあえず、椅子越しにメヌの手や腕を揉んでやる。

 

「いった……ちょっと、優しくして頂戴」

「こっちの方が治り早いんだよ」

「……本音は?」

「少しは懲りなさい」

「今日のジュンは意地悪です……」

「キャラ変わってるぞ」

 

 そんなに痛いのイヤか、リハビリはへこたれずやってたのに。

 あと涙目で睨むな、俺が悪いみたいになるでしょうが。店員さんからこの女泣かせが! って視線を貰ってるから。

 

「ほら、ケーキ来たぞ」

「んっっ」

「お前ね……」

 

 抱っこの次はあーんを要求してきたぞ、こいつ。さっきと違って少し顔を赤らめてるけど。

 

「……腕が本当に痛いのよ。困っているレディに食べさせてくれるくらい、紳士なら当然してくれるでしょ?」

「紳士への期待値高すぎませんかねえ」

 

 一応抵抗するも、無駄だと悟ってブッシュ・ド・ノエル(1ホール)を食べやすい大きさに切り分け、メヌの口へと運んでやる。

 

「はい、あーん」

「あむ。……ふふ、合格ね。星一つ、あげるわ」

「そうかい、そりゃ何より」

 

 無邪気に笑うメヌを見て、店がお眼鏡に叶ったことを確信する。ダメだったら何されたんだろうな。

 

 しかし何というか、今日のコイツは幼いというか、歳相応の顔を見せてくる。こういうのも魅力的なんだろうが。

 

「……そういうこと思ってるから、たらしだのなんだの言われるのではなくて?」

「普通は口に出さないから察せられないんだよ」

 

 デフォで心読んでくるお前らが怖いよ、慣れたけど。

 

 

 

 山盛りのハニートースト、五段重ねのパンケーキも食べ尽くしてようやく回復&満足したメヌに指示され、次に向かったのは。

 

「ブティック?」

「ええ、女性もののね。お姉様の服を見繕いたかったのよ」

「それなら俺より女子メンツの方が良かったんじゃね?」

「男性からの視点も欲しかったのよ。ジュンはそういうの、ちゃんと助言もくれるでしょう?」

「センスの有無は知らんけどな」

「ダメなら減点するから大丈夫よ」

「だから何をだよ、こええよ」

 

 再度問うてみるも、メヌは最高に嫣然とした笑みで沈黙を貫く。ぜってえろくでもねえなこれ。

 

「ほらほら、一緒に選びなさい。今日のテーマは『大人の魅力』、よ」

「五十年くらい待てば身に付くんじゃねえの」

「お姉様に伝えておくわね」

「すいませんマジ勘弁してください」

 

 緋々色金の老化の鈍化を考慮して、肉体の成長具合から逆算しただけなのにボコられるとか勘弁過ぎる。

 

「青と白ならどっちがいいかしら?」

「お前の選んだセンスが最高のセンス」

「雑なオマージュしてると、本気で切りますよ?」

「すいません真面目にやります」

 

 というわけで、大人っぽいコーデ衣装を二人で幾つか見繕っておく。アリアは素材がいいんだし、着こなして黙って落ち着いてれば魅力を引き出せるだろう。

 

 

「落ち着かせないのはアンタ達のせいでしょうが!?」

「アリアん、またどっかから電波少女したの~?」

「それ意味違うでしょ。ジュンにバカにされた気がしたのよ、多分」

「むー。理子とのデートで男の名前を出す悪い子は、こうだ!」

「いやアンタの彼氏で、わひゃあ!? ど、どこ触ってんのよ!?」

「うへへ、良いではないか良いではないカルデア!?」

「やめなさいつってんでしょこのHENTAI!!」

 

 

 夜の街並みを眺めながら、ゆっくりとメヌの車椅子を押して歩いていく。

 

「ふふ」

「そんな嬉しいかね」

「ええ、ジュンがわざわざ選んでくれたんですもの。嬉しくないと言うのは、嘘になってしまうわ」

「妙に可愛らしいこと言うじゃないの」

「乙女は恋に夢見る生き物なんですよ」

「お前さんは(悪)夢を見せる側だろうよ」

「気分がいいので、星は引かないでおきます」

「そりゃどうも。それにしてもこの服、アリアにサイズ合ってるのか?」

 

 目算だが、アリアが着るにはややサイズが大きいものと予測できる。具体的には、目の前の車椅子少女が着るのにちょうどいいものだ。

 

「あら、それはそうですよ。だってこれはーー」

 

 紙袋を抱えたままのメヌが顔だけ振り向き、チェシャ猫のように目を細めながら、

 

 

「ジュンに私の魅力を教え込むための、勝負服なんですから」

 

 

「はい?」

「隙あり」

 

 反応が遅れた俺の意識を突くように、メヌは車椅子の上で背を伸ばし、俺の頬に柔らかな唇を押し付けてくる。

 

「あむっ」

「うおうっ」

 

 柔らかい感触を堪能する間もなく、一緒に耳も甘噛みされてしまった。変な声出ちゃったじゃん。

 

「うふふ、いい反応するわね」

「ビックリ半分だよ。というか、好意を伝えられた記憶がないんだが」

「好きではないと言った記憶もありませんよ? だからーー覚悟して、待っていてくださいね?」

「……お手柔らかに」

「嫌です。全力で堕としますから」

 

 肩を竦める俺に、夜のイルミネーションと同じ、輝くような笑みで拒否するメヌ。

 まったく、どうなっちまうのかね。

 

 

「ちなみにあの星、マジで何だったん」

「ヤンかデレかの分岐、よ」

「うわあ、詳細聞きたくない」

「おめでとうジュン、プラスになったからデレルートよ?」

「喜べばいいんかね、それ。ところで何故耳を噛まれたのか疑問」

「理子から、ジュンはここが弱いと言っていたので」

「あいつ彼氏の弱いとこ他の女に教えてんの?」

「誘導尋問は得意ですよ?」

「やめようね? お前さんがやると回避できるやつなんかまずいないんだから」

『疑ってすまん』

『? いいってことよ!( ^ω^ )』

 

 

おまけ

「というかお前ら、俺をハーレム状態にしようとするのなんなの?」

「ジュンは共有財産みたいなものだからよ。白雪も承認済みです」

「俺と現彼女の意見が無視されてる件について」

「理子は盛大にむくれてましたね。まあ、とっとと告白しないからこうなったと言ったら撃沈してましたが」

「もしくは俺が彼女作れば良かったか」

「何処の馬の骨かも分からない輩と付き合ったら、白雪が暴走して八つ裂き(比喩抜き)にしますよ?」

「なにそれヤバい」

 

 

 




キャラ紹介
遠山潤
 恋人が出来たのに、他の女から遠慮なくターゲッティングされている黒一点。
 メヌエットとのデートでは、今日は乙女な部分出してくるなーと思っていたが、告白は完全に予想外だった模様。


メヌエット
 傍から見ると脈絡なく告白したようだが、ジュンに好意を悟られないよう巧妙に隠していた策士。理由は「ジュンの間抜けな顔を見たかったから」。
 原作に比べ、色々育ってきて姉を追い越している模様(何とは言わない)
 

後書き
 改めてお久しぶりです、ゆっくりいんです。
 今後の展開のフラグ建築回でした(回収するとは言っていない)
 次回はようやく、二部開始のための話に入っていきます。


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第一話 まさかそんな関係になってるとか想像出来ねえよ

( ゚д゚)「……と言う訳で、今回より新学期が始まるまでの『春期休暇編』となります。
 今回は遠山家集合のお話ですね」
潤「お前前回の終わる終わる詐欺からどれくらい経っての新章よ」
( ゚д゚)アーアーキコエナーイ
潤「あとでアリア呼んでくるわ」
( ゚д゚)「やめてください死にます」



「まったく、金一が生きてるなら早く言わんかい潤。あいつもあいつで、顔も見せんからに」

「わーるかったって爺ちゃん。兄貴の仕事柄、秘匿義務があったんだよ。

 ところで、ジスとかなめも知ってたのに殴られるのが俺だけなのはなんでですかねえ」

「どうせお前が色々隠してたんじゃろ。昔から裏でこそこそやるのが好きだからな」

「決めつけは良くないと思う」

「いや自業自得だろ兄貴」「日頃の行いって知ってる? お兄ちゃん」

「オメーにだけは言われたくねえよマイシスター」

「ほれ、グダグダ言ってないで早く案内せい潤。あと隠してることあるなら、今の内に吐かんかい」

「養子入りして半年くらいで、負け続きだった競馬に馬のコンディションが分かるからって理由で未成年の俺を連れて行って、大勝ちした話とか?」

「ええ……ジジイそれは」「お爺ちゃん、それはちょっと……」

「ちょ!? アレはうまいもん食わせてやったから内緒にしておけって「お爺さん?」ち、違うんじゃ婆さん!?」

 

 爺ちゃんだって隠し事あるじゃん。あと競馬やった後に馬刺し食うのはどうかと思ったよ。

 どうも、遠山潤です。久しぶりに実家へ帰ったら爺ちゃん、兄貴が生きてることを武偵局の知り合いから聞いたらしく、何故か俺が鉄拳制裁を喰らいました。お陰でマンガみたいなたんこぶを頭にこさえています。

 

「あーいって。アリアみたいにバカ威力じゃないんだけど、爺ちゃんの一撃って衝撃を逃がしづらいだよな」

「お兄ちゃん、痛い痛いの飛んでけーってしてあげよっか?」

「舐めてんのかマイシスター」

「半ギレじゃねえか。兄貴の地雷がよく分からねえな……」

「年齢一桁台の扱いが嫌なだけだよ」

「兄貴、面倒くせえって言われねえか?」

「お前ほどじゃねえよマイブラザー」

「どういう意味だ!? つーか兄貴にだけは言われたくねえし、そこまでおかしくねえだろ俺は!?」

「「……」」

「オイかなめまでその微妙な視線やめろや!? おかしいだろ色々と!?」

 

 部下の好意に微塵も気づかない鈍感振り発揮して何言ってんだ。

 

「自覚ないって大変だねさっちゃん!」

「オメーにだけは言われたくねえよ峰理子!? つーかさっちゃんやめろって何度も言ってんだろ!

 ……いや待て、何でいるんだよ!? キンイチに会い行くんだから、お前関係ないだろ!」

「えー? ユーくんと恋人になったんだから、将来のお義兄さんに挨拶行くのは当然でしょ~?」

「……は? あれ妄言じゃなかったのか!?」

「おいぶっ殺すぞ愚義弟(ぐてい)」

「まだ弟じゃねえよ!? あんだけチャンスを不意にしてたんだから、誰だってそう思うだろうが!?」

「よーしその喧嘩高値で買った! 金一義兄さんに会った後りっこりこにしてやんよさっちゃん!」

「上等だコラァ! あとさっちゃん言うんじゃねえ!」

「みんな似たような反応するねー」

「一番酷かったのは、失敗するの前提で慰めパーティーの準備してたアリアだけどな」

 

 しかも完全な善意でやってたしな。「え、だって失敗するって普通思うでしょ!?」とか素で言ってたせいで、珍しくガチで泣きそうになってたし。

 

 そんなわけで、遠山家+おまけの理子(勝手についてきた)で金一の兄貴が住んでいるアパートに到着。そういや宣戦会議で顔合わせて以来か、あん時はパトラと一緒だったけどーー

 

「潤」

「お、金一あにーーき?」

「なんだ、鳩が鉄砲喰らったような顔をして」

「それ鳩死んでるやん。いやそうじゃなくて、指の」

 

 相も変わらず俳優顔負けのイケメンである我が義兄、遠山金一。

 左薬指に嵌められているシンプルな銀の指輪を俺が指差すと、兄貴は悪戯が成功した子供みたいな笑顔になり、

 

「ああ、これはな」

「いくらナルシストの塊だからって、女装した自分と結婚するのはどうかと思ウルキオラ!?」

「言うに事欠いてまず出てくるのがそれか愚弟!? お前は俺を何だと思ってるんだ!?」

「自分の女装姿でHSSになれるド級のナルシストで変タンホイザー!?」

「よーし十分に理解した! 一回死ぬまで殴らないとダメみたいだな、お前は!!」

「ちょ、ぶげ、冗談だ、がぼっ、から、落ち着、イオナズン!?」

「どう見ても本気で言ってただろうがあ!?」

 

 そりゃそうだろ、ちょっと誇張はしたけど(真顔)

 

「……なあかなめ。俺達、何しに来たんだっけか?」

「遠山家ではこれが日常茶飯事なんじゃないかな? さっちゃん」

「ロアナプ〇でもこんな肉体言語しかないコミュニケーションは取らねえよ。あとさっちゃん言うな」

 

 見てねえで助けてくれませんかねえ弟妹達。前に戦った起き抜けの時と違って、兄貴のコンディションがいいから殴られる一方なんだよ。

 

「……なんだか、出そびれてしまったのう」

「あれ? パトラだひっさしぶり~。何でここにいるの?」

「いや、それは妾が聞きたいのじゃが……来るのは遠山の人間だけではなかったのか?」

「くふふ、理子はユーくんと恋人になりましたので、遠山の人間みたいなものなのです!」

「………………幻覚の類は感じられんな。強力な自己暗示でも掛けたか?

 峰理子、辛いなら相談に乗ってやるぞ?」

「お前もかブルー―タス!? いい加減本気で泣くぞチクショウメェ!!」

 

 そこの恋人さん、彼氏が現在進行形でボコられてるんだから助けてくれませんかねえ。

 結局、兄貴の気が済むまでしこたま殴られた。ダメージない場所がねえや、クッソいてえ。

 その後、婆ちゃんの説教が終わった爺ちゃんが兄貴を殴ってたけど。兄弟揃ってタンコブ抱えるどころじゃない羽目になったし、ジスとかなめに笑われたよ。お前らも殴ってやろうか(八つ当たり)

 

 

 

「兄貴、氷嚢いる?」

「……どうせなら治癒の超能力で治してくれ。あと潤、面白い顔になってるぞ」

「魔術な。あと面白い顔はそっくりそのまま返すわ」

 

 引くほどのイケメンが台無しになってるぞ、割と遠山家ではよく見る光景だが。

 現在、俺達は金一兄貴とパトラ義姉さんーーマジで婚約してたらしいーーが住んでるアパートのベランダに出ている。中では姦しいガールズトーク中だし、真面目な話する空気でもなかったからな。

 

「爺ちゃんもそうだけど、遠山家は心配とか嬉しいとかの感情を暴力で表現しないといけない決まりでもあるのか」

 

 どこの世界に生存と婚約報告をした孫を殴る爺さんがいるんだよ。

 

「父さんはそうでも無かったぞ。まあ何かやらかして叱る時は、ゲンコツが飛んできたけど」

「結局鉄拳制裁やん」

 

 拳で語り合うのはジスだけで十分だよ。まず拳で語るなって話だが。

 

「まあ改めて、婚約おめでとう兄貴。正直HSS(女装)の件で結婚できるか怪しかったけど、大丈夫そうで安心したわ」

「もう一回殴られたいのかお前は。……まあ、ありがとうな」

「何よ、らしくねえ」

 

 兄貴が照れながらも素直に礼を言うとか、明日は槍の嵐か。

 

「お前が素直にさせない態度しかとらないからだろうが」

「ツッコミどころが多すぎるからな件。

 いやーそれにしても、やっと兄貴の財政管理を託せる相手ができたか」

「そこまで言われる「ほどだからな? 無駄遣いしない兄貴の支出が妙に多いから出所探ったら、喜捨しまくってた時の俺の気持ちを考えろよ」おい愚弟、何他人の預金覗いてるんだ」

「失踪してた間、預金の面倒見てたんだよ愚兄。文句なら金に信用のない爺ちゃんと、俺に託した婆ちゃんに言え」

「爺ちゃん……」

 

 頭抱えちゃったよ。まあ爺ちゃんの金遣いの荒さというか、ギャンブル癖の悪さは周知の事実だからな。流石に孫の預金を使うとはーーいやそこが信用ないから任されなかったのか。

 ちなみに兄貴が喜捨した金は各国の孤児院とか教育機関の活動資金ーーの予定だったんだが、何割かは現地のマフィアとか汚職企業の活動資金に流れていた。

 取り締まる側が犯罪者の活動支援をしてどうするんだよ。

 

「「遠山の一族は顔と力はいいんだけど、お金の扱いが下手だからねえ」っていう婆ちゃんのぼやき、何も間違いじゃないのが笑えないよな。義親父殿は堅実な分減らしはしなかったが、増やすのは致命的に下手らしいし。

 そういう意味で、パトラ義姉さんが兄貴の相手なのは安心だわ。アレだけど金銭管理はしっかりしてるし」

「人の嫁をアレ言うな」

「あの水着衣装は擁護出来ないと思うけど」

「……」

 

 何か言ってやれよ、目を逸らすな旦那さん。

 

「慈善事業は程々にしとけよ? 無私の奉仕も度が過ぎて、家族も犠牲にしたのに何も得られなかった『正義の味方』は、兄貴も知ってるだろ」

「……あれは創作だろう?」

「さて、どうだろうな? 事実は小説より奇なりって言うし。

 まあ何が言いたいかというと、優先順位を間違えるなってこと。新しい家族も出来るんだし、ちゃんと守れるようになれよお父さん」

「……ああ、言われなくても分かっているさ。お前こそ、惚れた女はきちんと守れよ」

「あいあい、言われずとも。ま、あっちは守られるなんて柄じゃないだろうけどな」

「それでも、守ってやるのが男というものだ。

 ああ、そうだ潤。ついでに『正義の味方』の役割も、祝儀代わりに受け取るか?」

「いらねえよ、柄じゃねえし。俺は俺の守りたいものしか守らん」

 

 うげえ、と手を振る俺に、だろうなと楽しそうに笑う兄貴。分かってるなら聞くなよ。

 

「なら、その役目はジーサードにでも譲るか。

 ……ん? 潤、さっき妙なこと言わなかったか?」

「兄貴の金銭感覚がガバガバってこと?」

「違う、そこじゃない。『お父さん』の部分だ」

「ん? 何かおかしいか? パトラ義姉さんが身籠ってるんだし、堕さなきゃパパになるだろうよ」

「ああ、それなら間違い無いな。そうか、俺も父親か……

 ……いやいやいや!? パトラが身籠ってる!? い、いつからだ!?」

「え、婚前交渉の具体的な日付を言えトラドラ!?」

「デリカシーがないのかお前は!?」

 

 聞いてきたのはそっちだろ。納得したと思ったら右フック入れて真っ赤になるとか、情緒不安定かよ(←元凶)

 

「ほら兄貴。爺ちゃんとジスが針の筵みたいな顔してるし、もう戻ろうぜ」

「いやお前、爆弾投げるだけ投げて放置するつもりか!?」

「知りませーんとりあえず殴ってくる兄のベイビーのことなんて何も言ってませーん」

「器小さいな愚弟!?」

 

 小さくしてんのはアンタだよ愚兄。

 

 

 

「ほほう、そんなことをお兄ちゃんが……」

「ユーくんしてる最中は結構意地悪なんだよねー。

 ……ま、まあ? 浮気者のユーくんが理子だけを見てくれるのは? 悪く無いなって思うのですよはい」

「お兄ちゃん大好きな妹を前にしてノロケですかコノヤロー」

「な、中々エグいことをするのうジュンは……アレか、ベットヤクザというやつじゃな」

「毎回カナおにぃえちゃんになってもらってる、パトラお姉ちゃんも中々だと思うけど」

「? 別に普通じゃろ?」

「わあ、自分の業の深さをさも当たり前のように言ってるよ」

「めーちゃんは人のこと言えないかなー」「お主にだけは言われたくないぞ」

「ダブル否定!? 何で何で!? 異性の兄妹が恋するなんて極々普通のことでしょ!? 一番近くにいるんだから!」

「「んなわけないでしょ(じゃろ)」」

「パトラお姉ちゃんのご先祖様だって従弟や自分の子供と(風穴ァ!!)してるじゃん!」

「ぶっ!? 何てこと言うんじゃかなめ!? 妾だってその時代の価値観は持ち合わせておらんわ!」

「何ちゅー話してるんだお前ら」

 

 ベランダで義兄弟の会話を終えたら、義姉妹共が人のR18な事情を語り合っていた。ジスと爺ちゃんが死ぬほど気まずい顔してるからやめてやれよ、前者は顔真っ赤だし。

 

「……兄貴」

「おう、悪いなジス「お前自分の彼女だろ止めろよ!?」いなかったのにどうしろっていうんだよ」

 

 そもそも言って止まるなら俺は苦労しないし、アリアはキレねえよ。

 

「兄貴ならどうとでも出来るだろ!? 死ぬほどどうすればいいか分からなかったんだぞ!」

「いや出来ねえから」

 

 下ネタ聞いたくらいで死なねえよ。まあ、聞かされる方の身にもなれと言いたいが。

 

「あ、ユーくんユーくん! あのね」

「女装プレイならやらんぞ」

「ちょ、何で分かるのさ!? さては心を読む程度の能力だなー!?」

「さとり妖怪みたいに呼ぶなし。パトラ義姉さんと話してる時点で予測できただけだ」

「妾としては一向に構わんというかやって欲しいんじゃが」

「美人美少女五姉妹の誕生だねおにぇーちゃん達!」

「半分弱は偽物じゃねえか。ジス」

「オイ俺を巻き込むんじゃねえよ!? キンイチにやらせとけ!」

「ほっといても金一の兄貴はやってくれるから大丈夫だよ。……兄貴?」

 

 また殴ってくるかなと思ったら、隣でプルプル震えていた。キレてるのは間違いないけど、怒りの方向がさっきと違うわ。

 

「……潤、いいか?」

「今更鉄拳制裁程度でどうこうならんし、どうぞ」

「分かった」

 

 言うが早いか、兄貴は理子とかなめの眼前に一瞬で間合いを詰め、

 

「「モモイ!?」」

 

 二人の脳天に拳骨を落とした。うわあ、クッソ痛そう。

 

「お前らそこに座れえ!!」

「うごご、いきなり殴るのはどうかと思うんだよ金一義兄さん……」

「ぬごご、家庭内DVだよ金一おにぇちゃん……」

「人のそういう事情を勝手に喋る非常識ぶりを見せたんだから、殴られて当たり前だろうが!」

「えーそういう事情ってなんのことー? ねーめーちゃん」

「ちゃんと言ってくれないと分からないですなー。ねー理子お姉ちゃん」

「ふんっ!」

「「ミドリ!?」」

「あいつ等もしかしなくても阿呆なんじゃないか」

「そりゃ自己紹介か兄貴?」

「お主も大概じゃぞ、ジュン」

「義弟と義姉が冷たい件」

 

 その後、二人は顔を真っ赤にした金一兄貴に人のそういうプライベートを暴露するんじゃない! とみっちり説教された。後で聞いたんだけど、パトラ義姉さんも叱られたらしい。

 

 

 

おまけ1

 数日後、遠山家のグループチャットにて。

『潤、やっぱり妹にならない?』

『やらねえって言ってんだろ阿呆姉貴』

 頑強に抵抗したが、結局擬似百合夫婦(予定)と恋人と妹によってジス共々女装させられたけどな。ファッ●!

 

 

 

おまけ2

『潤、子供のために今揃えた方がいいものって何かあるか?』

『いや気が早えよ』

 とりあえず、出産に関する本を幾つか薦めておいた。

 

 

 

 




登場人物紹介
遠山潤
 理子の恋人。他のメンツから貞操を狙われる包囲網に危機感を感じているが、恋人以外から「もう諦めて受け入れろ」と諭されている。
 養子になる以前、小さい子供(赤ん坊含む)の面倒を見ることが多かったため、育児は割と出来る。


ジーサード
 本作のニブチン代表。部下曰く、「あっちこっちにそういう女がいるけど、まるで気付く様子がないわねえ。まあそういうのもいいんでしょうけど」とのこと。


遠山金一
 いつの間にかパトラと婚約者になった潤達の兄。
 潤には本気で自分(カナ)と結婚する気だったのかと思われていた模様。
 婚前交渉(意味深)は義弟曰く、「多分定期的にやってる」とのこと。


遠山鐵
 潤達の祖父。ギャンブルにだらしないため、金銭面では妻から全く信用されていない。
 孫たちの女装については、「まあそういう時代か」と受け入れている。いや止めろよ。


遠山雪津
 潤達の祖母。お金にだらしない夫によく説教しているが、今もベタ惚れ(ガチ)のため、信用してはいないが甘い。
 孫達の女装については「華やかでいいわねえ」とニコニコしながら見守っている。


峰理子
 潤の恋人。同居人と仲は良いが、独占するのはまだ諦めていない。
 大体週三ペースで(銃声)


遠山かなめ
 「兄妹が恋をするのは世界の真理にして常識」と、割と本気で信じているヤベー妹。なお、サードとの血縁関係は考慮していない模様。
 ちなみに理子の惚気+夜のことは女性陣ネットワークに共有されており、潤の性癖とかプレイスタイル(意味深)は全員に知られている。


パトラ
 金一の婚約者。今も男嫌いだが、夫(予定)を女装させたら両方ともイケた模様(何とは言わない)。



後書き 
 どうも、いつも通り遅筆のゆっくりいんです。正直忘れ去られていたとしても、特に文句は言いませんし言えません(真顔)
 最後と登場人物紹介がシモの話になっちゃいましたが、まあ兄弟揃ってやってることはやってるんで……
 間が空きすぎて半分忘れてますが、次回も遠山家周りの話が続くと思います。良ければ付き合ってやってください。
 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

PS
 久しぶりに書いて、一話で多数のキャラを出すもんじゃない(戒め)
 


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