【休止中】番長が異世界から来るそうですよ? (赤坂 通)
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キャラ設定みたいな物
番長詳細報告書


一巻終了に伴い、只の番長達の詳細置き場となりました。

その他オリジナルキャラについての詳細は別となります。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

初代箱庭番長

 

本名:不明

背中の文字:不明

所属コミュニティ:不明

 

所持ギフト:<????の黄金バット>

 

ギフト詳細:

<????の黄金バット>

・壊れない

 

 

詳細:

・数万年前、箱庭の黎明期に現れ箱庭を統一した。

・統一した、というのにその偉業についての情報がまったく残っていない。

・<人類最終到達地点><生命の極致>だと神々に称えられた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

二代目箱庭番長

 

本名:不明

 

所属コミュニティ:不明

 

所持ギフト:<????の黄金バット>

 

ギフト詳細:

<????の黄金バット>

・壊れない

 

 

詳細:

・初代番長が箱庭を去って数年後に現れた番長。

・箱庭のおよそ6割の生命を殺害した。理由は不明。

・彼もまた情報が少なく、不自然な形で書物などから消されている。

・幾度となく神々の手により殺されたにもかかわらず蘇り続けた。

・『光が吹き荒れ、風が形を為し現れた』などと言われているところからバットの効果、もしくはなにかしらの蘇生系ギフトを持っているものと思われる。

・<殺戮魔王>と呼ばれ、恐れられた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

三代目箱庭番長

 

本名:平坂 静

背中の文字:勇猛果敢

所属コミュニティ:マタニティ・レイ

 

所持ギフト:<逆境無類の黄金バット> <極光剣>もしくは<無限剣牢獄(パーマネント・シール)

 

ギフト詳細:

<逆境無類の黄金バット>

・逆境において無類の力を手に入れる。

・壊れない

 

<極光剣>or<無限剣牢獄(パーマネント・シール)

・極光を放つ無限の剣を召喚し敵を切り刻む。

 

 

 

詳細:

・数千年前に現れた女番長。

・数多の魔王、並びに<クトゥルー神群>の箱庭からの追放、及び討伐を為す。

・彼女が設立したコミュニティはメンバー二名という少なさにもかかわらず箱庭第二桁に所属するという驚異的記録を保持している。(平坂静と白夜叉の二名)

・神々や数多の聖人からの<聖人認定>をされる直前に失踪。以後どの時間軸においても観測されていない。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

四代目箱庭番長

 

本名:長井 番一

背中の文字:無し(浮き上がる模様だが詳細は不明)

所属コミュニティ:ノーネーム

 

所持ギフト:<    の黄金バット><解析中止(コード・エラー)

 

ギフト詳細:

<    の黄金バット>

・詳細不明、空白の理由はおそらく、どんな名前でも入る可能性があるため。

今は仮に<千変万化の黄金バット>とRSは呼んでいる。

・壊れない

 

解析中止(コード・エラー)

・詳細不明

・中止の理由は『邪魔をしている何かが消えれば解析可能』と判断されたため

 

 

 

詳細:

・番長必殺シリーズを所持。四十八個の必殺技群。全局面対応必殺の模様。

・身体能力は逆廻十六夜とほぼ同等。必殺技を含めれば超える。

・学ランがないと調子が入らないらしい。

・学ランには何か特別な恩恵が付与されているわけではない。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 




赤坂です。
前書きに書いたとおり、あるいは一巻舞台裏コーナーで触れたとおり、変更されました。
2017・3/28

詳細判明と共に随時更新します。
ではでは



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番長必殺一覧


1~10番台  ネタ要素満載、ほぼ全てを発声無しで使える。発声したほうが効果大。
11~20番代  発動することで自身の行動に追加の効果を発生させる。
21~30番台  自信への効果付与(エンチャント)系必殺。
31~39番台  雷属性のものが多い。遠距離攻撃系必殺が多い、気がする。
40~48番台  奥義系。ハイリスクハイリターンといった感じ。

※おおよその目安で、変な効果の必殺技が紛れ込むこともあります。

※基本的に番号が高いほど効果が強く、リスクが大きかったり(・・・・)します。

※作者が適当に「この式番でいいや」と入れてます。適当なんであんまり気にしないでください。





 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

     一式

 

ホームランバット

 

 

全 力 殴 打

威力増強用必殺

実際そこまで強くない。

ただいつもの一撃を強化しただけ。

ただし手加減するのも自由自在。

眼前3mmで止めるこ事も出来れば、出そうと思って出せる全力の一撃の二倍の威力まで出せる。

難点として敵が必要以上に吹っ飛ぶ。よって追撃が面倒。

 

 

 

 

     九式

 

超整理術(ハイパー・ソート)

 

 

別名を<異次元ポケット>。

番一の学ランとかから何でも出てくるのは大体これのせい。

明らかに手が見えている状況だと使えない。

テーブルの上の物をポケットに落とし入れる等では発動不可能。

手に持って、ポケットに手ごと突っ込む、なら平気。

膨らまず、何も入っていないようにしか見えず、他の人がポケットに手を突っ込んだ場合、もう何が入っているのかわからない。

最悪手を切って怪我する。

広げて中を見ようとした場合、突然謎の頭痛に襲われる。どうしようもない割れるような頭の痛みに襲われる。SAN値ゼロの様な。

 

 

 

     十式

 

眼前霧中ニツキ

 

 

ネタ。かも知れないがまぁまぁ使える。

現実だと使うときなんて殆どない。

およそ10mまでの視界を自分自身のみクリアにする。

土煙や霧、そういった視界を遮る大気をクリアにする。

人の位置や、隠れていたとしても煙の動きで見える。

なんと言えばいいか、ちょっと靄がかったクリアというか。

見えないを見えるにする程度。

終わった後、目が見開き続けて三分間みたいにしょぼしょぼする。

それだけ。

 

 

 

     十九式

 

砂塵砂楼(さじんさろう)

 

 

建物や砂の地面等を破壊したりしたときに何処からともなく必要以上に凄い量の土煙を立たせる。

湿気てたりすると使えない。草の地面とか森の中も使えない。

石造りとかコンクリとかめっちゃ立つ。木造は無理。

 

 

 

     三十二式

 

 

痺雷(ひらい)

 

一番最初に使った番長必殺。

というわけでもなく、発音してないだけで自動発動している必殺はある。

バットに雷を纏わせ、打ち出し当たった人を痺れさせる技。

威力の調節をミスすると爆発する。

威力高めると問答無用に薙ぎ倒し爆発する。

痺れは纏う雷の量によって変わり、黒ウサギの出した雷を吸って当てた場合、大体三分。

 

 

 

     三十六式

 

 

殺意奔葬(さついほんそう)

 

 

バットの届く範囲内に入った敵にゴングの音と共にノータイムで叩き込む必殺技。

番長必殺の発声とゴングの音の所為でバレやすい。

というかバレバレ。クソ雑魚必殺。

ただ予備動作なしで放たれるため避け辛いと言えば避け辛い。

バット範囲内の為、よほどのことがない限り避けられない。

とはいえ、全力を一瞬で出すため次の行動に移し辛いので肉を切らせて骨を絶つ戦法なら、むしろ番一にダメージを与えるチャンスとなる。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 




赤坂です。

何かし忘れてるなと思ったらこの一覧作るの忘れてました。
舞台裏で話しときながら何やってんだって話です。
必殺技開示と共に随時更新予定。
2017・3/30


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番長以外、他キャラ詳細

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

原作キャラの皆さん

 

・逆廻十六夜

 変更なし。特に変な力を新しく授かったりしていない。

 番一とケンカする可能性が目下一番高い。

 

 

・久遠飛鳥

 変更なし。なんだかんだ番一とは仲がいい。

 多分番一とケンカしたら消し飛ぶんじゃないですかね?

 

 

・春日部耀

 変更なし。多分一番<ノーネーム>内で番一と仲がいい。

 作者の予定だと一番不遇な扱いにされるので番外編で出番が増える予定。

 

 

・三毛猫

 出番があるかないかと問われると殆ど無い。悲しみのネコ。

 裏では番一が弄んでいるという設定がある。

 

・黒ウサギ

 ケツバット被害者一号。一号ということは二号がいるのかと問われるとまだいない。

 いつか耳を番一に引っこ抜かれそうで怖い。

 

・ジン=ラッセル

 番一にはリーダーというより<ノーネーム>の一員としか見られていない。

 番一による子ども扱いが酷くなっていくかもしれない。

 

・<ノーネーム>の子供達

 番一で遊ぶ子供達。全員が一丸となって番一に襲い掛かると番一を倒せるかもしれない。

 数の暴力は最強。

 

・レティシア

 番一が一巻最後まで名前を知らなかった悲しみのレティシア。

 次巻から出番が増える。

 

 

・白夜叉

 番長が異世界から来るそうですよ?において作者が一番便利に使う。

 権力があるって使いやすい!……怒られそう。

 <ノーネーム>外では番一がもっとも懇意にしている。

 番外で書かれるかは不明だが、作者の中で、番一と白夜叉が雑談をする場面、が多々想定される程度には仲がいい設定。

 

・女店員

 番一と入店を巡り合い争う。強い。

 一方的に番一を出禁にしたが、公式ではない。

 番一は笑って無視して入店していくがケンカが絶えない。

 

 

・湖の白蛇

 十六夜に倒された。いつかまた出てくる。

 

・グリフォン

 白夜叉とのギフトゲームで出てきた。こっちもいつかまた出てくる。

 

・ガルド=ガスパー

 全カットされ倒された。二度と出てこないかと思いきや、番外編で触れられる可能性あり。

 

・ルイオス

 無駄に主人公のようなセリフを吐いて、原作通りシーンカットされ負けた。

 作者的に男キャラでは一番好きかもしれない。

 チンピラ感や小者感が凄い。

 いつかまた出てくるんじゃないですかね?

 

・アルゴール

 拘束具解除され原作より強化された。

 そのぐらいしないと十六夜だけで十分になってしまう。

 

 

・<ペルセウス>の騎士達

 モブ。じゃあの。ルイオスが出てきたらきっとまた出れる。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ラプラスの小悪魔『RS』

 

・ラプ子RS。RSと呼ぶことを強要してくる系悪魔。

・原作のラプラスの小悪魔と違い、ナンバリングがⅠやⅡではなくRS。

・いつもふよふよ番一の後ろで見張るRS。

・白と黒を基調とした服。髪は紫。

 

 

作者による手書きRS.もっと上手くなったらもしかしたら書き直します。

 

【挿絵表示】

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




赤坂です。
新キャラ登場と共に、あとがき含め随時更新されます。
ではでは。  2017・3/28


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第一巻 YES!黒ウサギが・・・呼んでません!?
プロローグ


初投稿の上、下手くそな文章ではありますが、お付き合いいただけると幸いです。


 ―――その日はあまりにも絶好の昼寝日和だった。

 初夏の薫りに、暑すぎず寒すぎずそれでいてヒュウ、と吹く心地の良い風。

 ただし彼、(なが)()(ばん)(いち)はそんな事はどうでもいいという風に

 左肩に金属バットを担ぎ、平日の河原の道を、高校にも行かずにのらりくらりと歩いていた。

(あー暇だ。超暇。誰か俺と同じように暇を売り出しているに違いない)

 特にすることもなく歩き続けるのにも飽きてきたしいっそ河原に寝転んで惰眠を貪ろうか。

 と、そこまで考えた所でふと違和感を覚えた。

 

(なんかいつもより人が少ねぇな、もう少しは居てもいいもんだが……)

 

 平常であればジョギングをする人や釣りをしている人、寝転んでる人がいるべきである。

 が、今日に限ってそういった人々の姿は無く、閑散としていた。偶然とは言えないだろう。何年もその様子は人が変わろうと続いているものなのだから。

それでもそこまで気にせずに歩みを続け、気を緩めていたのは平和に染まりすぎたせいだろう。

(なんか面白いことでも起きねぇかな……)

 他愛もないことを考えながら大欠伸をする。

(ん……なんだ……眠い……)

 静かで誰にも会えずすれ違わない所為か、一層増して抗いがたい睡眠欲が長井番一に訪れていた。

(あー……俺らしくねぇ……)

 

 遠くで爆撃のような音と怒声のようなものが聞こえる。呵々大笑と笑う声が聞こえる。

だが意識をそちらに割けない。見ようとする意志が持てない。

 歩みを止められずに、本人も意識しないまま町中へと入って行く。

(あぁ……駄目だ……どっかで寝よう……そうだそうしよう……)

 

 閉じ行く意識、回らない思考。

 手紙を咥え走っていく三毛猫を蹴り飛ばしそうになりながらも、歩く。歩く。歩く。

(どうしたもんか……何処かの家にでも侵入して……)

 そう思えるほどに瞼は閉じ掛け、意識は朦朧とする。

 ふかふかの柔らかなベッドに倒れられたらどれほど心地良いのだろうか。

きっと何処までも穏やかで平和な微睡みがあるはずだ。

 

 歩き続けるうちに和風の屋敷の門の前に通りかかった。

(待てよ……俺の地元にこんな屋敷あったか……?)

 眠い目を擦りつつ見るが、屋敷の壁は昔からあるように思える程風景と一致している。

 だがそれよりも気になることがあった。

(今は初夏のはず……なんでこんなに蝉の鳴き声がある……?うるせぇ……)

 蝉時雨の五月蠅い音が彼の耳を打つ。

まだ目覚めた蝉も少ないはず。この大合唱は一体?

突然、屋敷の中から凛とした声が響いた。

『鬱陶しいわ、黙りなさい!!』

 聞こえてくる大声に眉を潜める。

 それと同時に止まる蝉時雨、番一の意識が少し戻り、そして唖然とした。

(―――もうなにがなんだかわからん……どうなってやがる)

 

 そう思う理由は簡単である。少し眠気が覚めた彼の身は、図書館の古臭い本の匂いのする本棚の棚の間にあった。

外の強い日差しからうって変わって薄暗い棚の間へ。

(夢でも見てんのか俺は……?)

 強く、瞬きを一つ。

 

 

(……ありえねぇ、ありえねぇぞ、これは)

 

 

 瞬き一つの間で、彼の体は図書館の椅子に座り目の前の机に、本が一冊置かれていた。

先程まで立っていたはず。だというのに違和感を覚えることもなく座っていた。

「……………」

 頭を掻き、頬を叩き、一度冷静になる。もはや眠気など覚めていた。

 

(冷静さを失うのは愚行だな。まずは状況分析するか……)

 ひとまず左手に握りしめている愛用の金属バットはあるのでひと安心する。

 あたりを見回し気配や声を探るが何も聞こえず人の姿も見えない。

(人の姿はない……気配もない、か。次は…)

 そう考え番一は立ち上がろうとするも、体は椅子から離れない。

 

(立てない……立とうとする意志が消される……ふむ)

 立ち上がろうと机に手を掛けるも自然と力を抜き、離れてしまう。

 冷静になる(まで)はよかった。が、状況はなにも変わらない。

 打つ手なし、と言わんばかりに本を見下ろす。

 

(読めと言わんばかりの本……さて、罠か。あるいは)

 ライトノベルのような本ではなく、どちらかと言えば重厚な本。純文学系の本よりは辞書に近いだろうか。

 本自体読むことの方が珍しい彼にとっては無縁な物(意味の無い物)

 背表紙には『箱庭番長伝説』と書かれており、

 表紙絵として『晴天の下、左手にバットを下げ旗を掲げる男の姿』が描かれていた。

()()のこの夢でも見ているような状況をこの本は変えてくれるのかね?)

 さも意味ありげに目前に置かれている、謎の本。

 意を決して、長井番一はその本の表紙を(めく)る、瞬間、番一の周囲は光で溢れ返り―――

 

 

 

 ―――視界が開けた。

 

 

 

 急転直下、その体は上空4000mほどの位置で投げ出されていたのだ。

 周囲にある気配は自身を除き、三つ。

 そして四人の体は自然の摂理に従い落下を開始する。

 三人が何かを叫んでいるし、落下の圧力が苦しいが―――どうでもいい。

 

 

 

「は…はは…はははははははははは!!」

 

 

 

 笑いが噛み殺せず長井番一は高らかに笑う。

 眼前には見た事のない風景が広がっていた。

 視線の先に広がる地平線は、世界の果てを彷彿とさせる断崖絶壁。

 眼下に見えるのは、縮尺を見間違うほど巨大な天幕に覆われた未知の都市。

 彼らの眼前に広がる世界は―――完全無欠に異世界だった。

 

「何かが起きてほしいとは確かに願ったが、ここまでするとは思わなかったぞ!!クソ野郎が!!」

 腹の底から振り絞り心の底から叫ぶ、信じてなどいない神へのその声は

 

 ―――――歓喜に満ち溢れていた。

 

 




……いかがだったでしょうか?
とはいってもまだプロローグ段階ではありますが(汗)
少しづつ少しづつ書いていくので長い目と生暖かい目で見守ってやってください。
    
      by書きたい時と書きたくない時が分かれすぎている赤坂


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第一話

 ―――箱庭二一〇五三八〇外門居住区画、第三六〇工房

「……うまく呼び出せた? 黒ウサギ」

「みたいですねぇ、ジン坊ちゃん」

 黒ウサギと呼ばれた一五、六歳に見えるウサ耳少女は、肩を(すく)ませておどける。

 その隣で小さな(たい)()に似合わないダボダボなローブを着た幼い少年がため息を吐いた。

「本当に何からなにまで任せて悪いけど……彼らの迎え、お願いできる?」

「任されました!」

 ピョン、と跳ねてから走りだし『工房』の扉に手をかけた黒ウサギに、少年は不安そうな声をかけた。

「彼らの来訪は……僕らのコミュニティを救ってくれるのだろうか」

「……。さぁ?ここまで来たら後は運任せノリ任せって奴でございますね。けど<()()()(いわ)く、これだけは保証してくれました」

 くるりと扇情的なミニスカートを(なび)かせて振り返る。

 おどけるように(いた)(ずら)っぽく笑った黒ウサギは、

「彼ら()()は・・・人類最高クラスのギフト保持者だ、と」

 

            ※

 

 上空4000mから落下した()()は、落下地点にあった緩衝剤のような薄い水幕を幾重も通ってから湖に投げ出される。……若干一名を除いて。

「きゃ!」

「わっ!」

「ぐおっ!」

「グボベラァ!!????」

 

 ボチャンと着水する三人。そして地面に頭から直撃する一人。水幕で勢いが衰えていたため三人は無傷で済んだが、地面に頭から落ちた一人はそうはいかない。

 着水した三人のうち二人はさっさと陸に上がり罵詈雑言を吐き捨て、一人は猫を助けていた。

「し、信じられないわ!まさか問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃ……あいつみたいにゲームオーバーだぜこれ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

「……。いえ石の中に呼び出されては動けないでしょう?それよりこの……地面に落ちた不運な方はどうしましょう?」

「石の中でも俺は問題ない。まだ動いてるし引っこ抜けばいいんじゃないか?」

「そう。それじゃぁ引き抜いて頂戴」

 二人の男女はフン、と互いに鼻を鳴らして服の端を絞りながら地面に頭から突き刺さっている人に近づく。

 

てい(・・)

 

「……そうだな。石の中に呼ばれた方が親切だ。石頭じゃなきゃ死んでるところだ」

 

「……。勢いが落ちていたとはいえ無傷ってどういうことなの?」

 そう、地面に頭から落ちた長井番一は傷の一つもなくどちらかと言えば土で汚れている方の被害が甚大だった。

 

 服の端を絞りながら近づいてくる少女と体を震わせて水を弾く猫。と、少女が呟く、

此処(ここ)……どこだろう?」

 その呟きに番一を引き抜いた男が番一を投げ捨てながら答える。

「さあな。まぁ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねぇか?」

「あり得そうだなそれ。地球だったら確か丸いはずだし」

 何にせよ、彼らが知らない場所であることは確かだった。

 

 適当に服を絞り終えた番一を引き抜いた男は軽く曲がったくせっぱねの髪の毛を掻きあげ、

「まず間違いないだろうけど、一応確認しておくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

「そうだけど、まずはそのオマエって呼び方を訂正して。―――私は久遠(くどう)(あす)()よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている(あな)()は?」

「……(かす)()()耀(よう)。以下同文」

「そう。よろしく春日部さん。そちらの地面に突き刺さっていたザ・番長という風な格好のあなたは?」

「俺は(なが)()(ばん)(いち)だ、見てくれの通り元の世界では番長をやってた。よろしく頼むぜ飛鳥」

「……。さっそく呼び捨て? まあいいわ。よろしく番一君。最後に野蛮で狂暴そうなそこの(あな)()は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で狂暴な(さか)(まき)()()(よい)です。粗野で狂悪で快楽主義者と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

「そう。取扱い説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

 

 心からケラケラと笑う逆廻十六夜。

 (ごう)(まん)そうに顔を(そむ)ける久遠飛鳥。

 我関せず無関心を装う春日部耀。

 ガハハと豪快に笑う長井番一。

 

 

 そんな彼らを物陰から見ていた黒ウサギは思う。

(うわぁ……問題児ばっかりみたいですねぇ……というより呼び出したのは御三人様じゃ……)

 召喚しておいてアレだが……彼らが協力する姿は、客観的に想像できない。黒ウサギは(いん)(うつ)そうに重くため息を吐くのだった。

 

            ※

 

 十六夜は苛立たしげに言う。

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねぇのか?」

「そうね。何の説明もないままでは動きようがないもの」

「……。この状況に対して落ち着きすぎているのもどうかと思うけど」

(全くです)

 黒ウサギはこっそりツッコミを入れた。

 もっとパニックになってくれれば飛び出しやすいのだが、場が落ち着きすぎているので出るタイミングを計れないのだ。

 

 

「それよりひとつ聞きたい、招待状ってなんだ?俺は夢みたいな、変な体験をしてその結果本を開いたらここに飛ばされた。さらに地面にぶつけられた。この怒りはどこに向ければいい?」

 

 

(おや……一人多いのはあの方ですか……それより()()()()()()()()()()()と……?)

「―――それなら、()()()()()()()()()()()()向けるといい」

 物陰に隠れていた黒ウサギは心臓を掴まれたように飛び跳ねた。

 

「なんだ?やっぱりあいつが俺を呼びだした奴か?」

「なに、貴方達も気づいていたの?」

「当然だ、俺はかくれんぼじゃ負けなしだぜ?ってか番長も気づいてたんだなそっちの猫を抱いている奴も気づいていたんだろ?」

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

「……へえ?面白いなお前」

「というより。あれは隠れているに含まれないだろ?『頭隠して(ケツ)バット』とは(まさ)にこの事だな、ガハハハハ!!」

「……。それを言うなら『頭隠して尻隠さず』だ。覚えておけ」

 軽薄そうに笑いつつ注釈を番一に入れる十六夜の目は笑っていない。四人は理不尽な召集を受けた腹いせに殺気の()もった冷ややかな目線を向ける。

 

「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼は黒ウサギの点滴でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いて頂けたら嬉しいでございますヨ?」

「断る」

「却下」

「お断りします」

(ケツ)バットフルスイング一発」

「あっは、取りつくシマもないですね♪若干一名様を除いて♪」

 バンザーイ、と若干冷や汗をかきながら降参さんのポーズをとる黒ウサギ。

 しかしその眼は冷静に四人を値踏みしていた。

(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。まあ、扱いにくいのは難点ですけども)

 黒ウサギはおどけつつも、四人にどう接するべきか冷静に考えを張り巡らせている―――

 と、春日部耀が不思議そうに黒ウサギの隣に立ち、黒いウサ耳を根っこから鷲掴み、

 

 

「えい」

「フギャ!」

 

 

 力いっぱい引っ張り引き抜こうとした。

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

「好奇心の為せる(わざ)

「自由すぎるにも程があります!」

「へぇ?じゃあこのウサ耳って本物なのか?」

 今度は十六夜が右耳を掴んで引っ張る。

「……。じゃあ私も」

「よしそのまま掴んでおけ二人とも。少し浮かしてくれると助かる。一発シバかないと気がすまん」

「ちょ、ちょっと待――――!」

 

 今度は飛鳥が左から引っ張り、番一が背後でバットをフルスイングの態勢で構える。

 左右に力いっぱいウサ耳を引っ張られ、キュートなお尻にも(ケツ)バットを撃ち込まれた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に()(だま)した。




―――はいどうも赤坂です。そして第一話目です。
いかがだったでょう?
本格的に始動していきますが、更新頻度はあまり高くないと思ってください。
気分が乗ると2時間程度で今回分ぐらいの量は書けますが…(汗)
誤字、脱字ありましたらお伝えください随時直していく予定です。


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第二話

細かく区切りながら投稿してしまい、申し訳ありません。



「―――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはこのような状況を言うに違いないのデス」

「いいからさっさと進めろ」

 

 半ば本気の涙を瞳に浮かばせながらも、黒ウサギは話を聞いてもらえる状況に成功した。四人は黒ウサギの前に岸辺に座り込み、彼女の話を『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。

 黒ウサギは気を取り直して咳払いをし、両手を広げて、

「それではいいですか、御四人様。定例分で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!

 ようこそ<箱庭の世界>へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者たちだけが参加できる  『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうと召喚いたしました!」

「ギフトゲーム?」

「そうです!すでに気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその<恩恵>を用いて競い合うためのゲーム。

そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できるために作られたステージなのでございますよ!」

 両手を広げてアピールする黒ウサギ。飛鳥と番一が質問するために挙手した。

 番一は飛鳥を(いち)(べつ)して先を譲る。

「あらありがとう。まず初歩的な質問からしていい?貴方の言う<我々>とは貴女を含めた誰かなの?」

「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、(あま)()とある<コミュニティ>に必ず属していただきます♪」

「嫌だね」

「誰かの下に付くのは嫌いだ」

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの<()()()>が提示した商品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております!」

 

「……<主催者>って誰?」

「様々ですね。暇を持て余した神々や修羅神仏が人を試すために試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力の誇示するために独自開催するグループもございます。試練として開かれるゲームの多くは自由参加が多いのですが<主催者>が神々や修羅神仏ですので凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし見返りは大きいです。<主催者>が次第ではありますが新たな<(ギフ)()>を手にすることも夢ではありませんコミュニティが開催するゲームの多くは参加の為にチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて<主催者>のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者の場合は結構俗物ね……チップには何を?」

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間……そしてギフトをか賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑むことも可能でしょう。ただしギフトを賭けた戦いに負ければ当然―――ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

 と、そこで番一が口を開く、

「ちょいと質問。俺らは才能があるから呼ばれた=才能を失えば強制送還だったりするのか?」

「いえ、そういったことはございません。負けて、才能を失ったとしてもまた別のギフトを手に入れられればいつか取り返すことも可能でしょう。

 才能を、ギフトを、失ったとしても自らが学び経験したことは残ります。チップの不要な修羅神仏のゲームの中の、知恵を競うギフトゲームでギフトは入手できますし失ったからと言ってそう悲観することはございません。力を蓄え……ギフトゲームで奪い返せば良いのです」

 黒ウサギが愛嬌たっぷりの笑顔で答える。

 

 飛鳥が再び問う。

「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらってもいいかしら?」

「どうぞどうぞ♪」

「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」

「コミュニティ同士のゲームを除けばそれぞれの期日以内に登録していただけばOK!商店街でも小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」

 飛鳥は黒ウサギの発言に片眉をピクリとあげる。

「……つまり『ギフトゲーム』はこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 お?と驚く黒ウサギ。

 

「ふふん?なかなかに鋭いですね。しかしそれは八割正解二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による(ぶつ)(ぶつ)(こう)(かん)も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか!そんな不逞な(やから)はことごとく処罰します。

 ―――が、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!一方の勝者が全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だということですね」

「そう。中々野蛮ね」

「勝てば官軍、負ければ賊軍という奴か。面白いじゃないか、ガハハハ!」

「ごもっとも。しかし<主催者>は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」

 

 黒ウサギは一通りの説明を終えたのか、一枚の封書を取り出した。

「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭におけるすべての質問に答えるっ義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな動詞候補である皆さんを()()までも野外に出しておくには忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話しさせていただきたいのですが……よろしいです?」

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 

 静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。ずっと刻まれていた軽薄な笑顔がなくなっていることに気づいた黒ウサギは、構えるように聞き返した。

「……どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」

「そんなものは()()()()()()腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃないんだ。世界のルールを変えるのは革命家の仕事であって、

 

 プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのはたった一つだけだ」

 十六夜は視線を黒ウサギから外し、他の三人を見回し、巨大な天幕で覆われた都市に向ける。

 彼は何もかもを見下すような視線で一言、

 

 

 

 

「この世界は……()()()()?」

 

 

 

 

「―――」

 他の二人は無言で返事を待ち番一は期待する目を向ける。

 番一には渡されなかった手紙だが、他の三人を呼んだ手紙にはこう書かれていた。

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる

 その(ギフ)()を試すことを望むのならば、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 我らの<箱庭>に来られたし』

 と。

 つまり全てを捨てるに見合うだけの催しがあるのかどうかこそ、四人にとって一番重要なことだった。

「―――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

 

            ※

 

 

 その後しばらくして、箱庭の内部にある黒ウサギの所属しているコミュニティに向け森の中を移動する五人の姿があった。

 少女二人は先頭を歩く黒ウサギの後ろに着き、男二人は最後尾で歩いていた。

 ―――と、突然十六夜が足音を殺し、黒ウサギの行く先である、箱庭への道とは真逆の方向に足を向け歩き出した。

 その十六夜の行動に、隣を歩いていた番一も気づき全く同じ動きで十六夜に続く。

 黒ウサギは上機嫌に跳ねながら今後のことを真剣に考えていたため十六夜と番一の行動に気づくことができず、飛鳥もまた音が立たなかったため気づかなかったが、

 ―――耀だけは二人の行動に気がついていた。

(……二人とも()()に向かうんだろう?……あっちは確か世界の果てっぽいのがあったはず)

 そこまで耀は考え付いていこうかどうか少し悩み―――無視することにした。

 その方が黒ウサギが気づいたときの反応が面白そうだからである。

 「あら?どうかしたの春日部さん?」

 飛鳥が何かを察したのか耀の方を向き尋ねた。

「……ううん、なんでもない」

 飛鳥には悪いがとりあえず誤魔化す、今は黒ウサギに気づかれてはいけない。

 「……? そう。それならいいのだけど」

 秘密の保持に成功した(?)耀は腕の中に抱いた三毛猫を撫でながら何もなかった風を装う。

(―――どんな反応が見れるんだろう)

 しばらく経った後の光景を想像しながら歩き続けた。




赤坂です。
第一話に少しミスがあったのでほんのりと直しました。
少しづつ番長の秘密については暴かれていく予定です。
今後もよろしくお願いします。


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第三話

 ―――場所は箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベッド通り・噴水広場前。

「ジン坊ちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

 ジンと呼ばれた少年がはっと顔を上げて、黒ウサギと()()()()を出迎える。

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

「はいな、こちらの御四人様が―――」

 

 クルリ、と振り返る黒ウサギ。

 カチン、と固まる黒ウサギ。

 

「………え、あれ?もう御二人いらっしゃいませんでしたっけ?バットを持って、怒りやすそうな、<ザ・不良>って感じのオーラを放ってる殿方と、ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から<俺問題児!>ってオーラを放っている殿方が」

「……あの二人なら、世界の果てっぽい所に向かって行ったけど」

 あっちの方に。と耀が指をさすのは上空4000mから見えた断崖絶壁。

 街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて二人に問いただす。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

「<止めてくれるなよ>と言われたもの」

 嘘である。

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

「<黒ウサギには言うなよ>と言われたから」

 これも嘘である。

 

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」

「「うん」」

 ガクリと前のめりに倒れる黒ウサギ。新たな人材に胸を躍らせていた数時間前の自分が無性に妬ましい。

 というよりこんな問題児ばかり掴まされる方が災難だ。

 ちなみに耀はひそかに心の中で、(……なるほど、こういう反応か)などと思っていた。

 そんな黒ウサギとは対照的に、ジンは蒼白になって叫んだ。

「た、大変です!<世界の果て>にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

「幻獣?」

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に<世界の果て>付近には強力なギフトを持ったものが居ます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ちできません!」

「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」

「ゲーム参加前にゲームオーバー……斬新」

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

 黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。

「ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御二人のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「わかった。黒ウサギは?」

「問題児様方を捕まえに参ります。―――<箱庭の貴族>と(うた)われるこのウサギを馬鹿にしたことを、骨の髄まで後悔させてやります!」

 悲しみから立ち上がった黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、(つや)のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。外門めがけて空中高く飛びあがった黒ウサギは外門脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くと、

「一刻ほどで戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」

 そう言って黒ウサギは全力で跳躍し、弾丸のように飛び出してあっという間に三人の視界から消え去って行った。

 巻き上がる風から髪の毛を庇うように抑えていた久遠飛鳥が呟く、

「……。箱庭の兎はずいぶん速く飛べるのね。素直に感心するわ」

「ウサギ達は箱庭創始者の(けん)(ぞく)。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限なども持ち合わせた貴種です。彼女ならよほどのことがない限り大丈夫だと思うのですが……」

 

            ※

 

 一方、黒ウサギから逃げる形で世界の果てへと向かった十六夜と番一は、と言うと。

「―――『試練を選べ』だと?―――ッハ!まずは俺を試せるかどうか試させろ!駄蛇がッッ!」

「良いぞー十六夜ーやれやれ―!ガハハハ!」

 十六夜は白蛇に喧嘩を売り。

 番一は声援を飛ばしていた。

 

 

 ―――なぜこんな事になっているのかは数時間前に戻る。

 

 

 黒ウサギの姿が見えなくなり数十分経つまで足音を殺し歩いた十六夜の後ろに付いて歩いている

 番一に何も言わずに、唐突に全力疾走を始めた。

「おお?足速いな十六夜の奴」

 そう呟いて番一は数瞬の後れを取ったにもかかわらず、自らも全力疾走し十六夜の後ろにピタリとついた。

「……。速いなお前。俺に追いつける奴がいるなんて思ってもいなかったぞ」

「ガハハハ!確かに十六夜の足も速いが―――俺の方が速い」

「―――ッハ!言ったな番長!!」

 十六夜はさらに加速する。木々を避け足元が不安定ながらも閃光のように駆け抜けていく。

 番一はあくまで追い抜く気はないというように軽々と十六夜の後ろについていく。

「どうした十六夜?―――まさかこれで終わりか?」

「……。お前マジでどういう体してんだ?」

 十六夜はそう言って()()()()()()()

「ついて来れるもんならついて来やがれ番長!!」

「望むところだ十六夜!!」

 

 

 

 ―――そして数分後。場所はトリトニスの大河。

「―――クソッタレ、終点だ番長」

「ここでいいのか?結局俺は引き離せなかったな。十六夜?」

「入り組んだ森を、力業で吹き飛ばしながら来るとか何でもありかよ。それと俺は景色を見に来たんだ、走りながらだと景色が楽しめないだろ?」

「卑怯汚いは敗者の(たわ)(ごと)ってな。それと景色を見るなら確かに歩きが適切だな」

 そう言いつつ大河に沿って歩く二人。

「……。いい景色だな。こう<異世界!!>って感じがいいぜ。ヤハハハハハ!」

「俺はあんまりこういったことに(ぞう)(けい)は深くないが……確かに綺麗だな。ガハハハハ!」

 そんな話をしつつ川上へと歩いていると、彼ら二人にどこからともなく声がかかる、

『ふむ……人間が此処に来るとは珍しい……何用だ?』

「―――そういう事はまず名乗ってから言うもんだぜ。ちなみに俺は十六夜様だ。覚えておけ」

「ふむ。俺も名乗るべきかね? 俺は長井番一だ。お前も姿を見せたらどうだ?」

『ッカ!私の名も知らずに此処へ来るとはいい度胸だな小僧ども!』

 そう言って大河から姿を現したのは身の丈三〇尺強はある巨大な白蛇だった。

「「()()()」」

 二人は揃って棒読みで驚く。

『いいだろう!知らぬというのなら私のギフトゲームで敗北の味と共に教えてやろう!

 ―――さあ何で争う?『力』か?『知恵』か?はたまた『勇気』か?試練を選ぶがいい!』

「『試練を選べ』だと?―――ッハ!まずは『俺を試せるかどうか試させろ』駄蛇がッッ!」

「良いぞー十六夜ーやれやれ―ガハハハ!」

 

 

 ―――そして時間は先程へと戻る

 

 

『ほう、『決闘』を望むか小僧!よかろう。泣いて謝るなら今の内だぞ!!』

「いいぜいいぜ……中々に楽しめそうだ。おい番長―――手出しすんなよ?」

「ああ、わかってる。これはお前が買った喧嘩だ。手出しなんて無粋な真似はしねえよ」

 そんな会話をしつつも十六夜と白蛇は戦闘態勢を取り、

 

 

 ―――問題児たちの箱庭来訪、初のギフトゲームが開催された。




赤坂です。
座右の銘は…無いです。
もし誤字・脱字ありましたらご指摘ください。


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第四話

 ―――世界の果て・トリトニスの大河。

 

 ギフトゲーム開始の宣言と共に両者元へ降ってきた羊皮紙、<(ギア)(スロ)(ール)>を十六夜は手で払い、一直線に白蛇へと駆け寄る。

 

『ッカ!ルールも読まぬ戯けがッッ!』

「『俺を試せるかどうか試す』なら殴り合いに決まってんだろ!」

 

 白蛇は口から圧縮した水球を弾丸のような速度で十六夜に向けて放つ。

 人の頭ほどもあるその球を、十六夜は最小限の動きで避け白蛇に向け跳躍し、その巨躯を蹴り飛ばそうと十六夜は体を(ひね)るも、

『愚直に突っ込んでくる勇気は認めよう!だが!』

 白蛇が叫び次の瞬間、十六夜の体は白蛇の尻尾により薙ぎ払われ、木に叩きつけられた。

「―――ッハ!その程度じゃ俺は倒せないぞ!駄蛇ッッ!!」

 

 そう言って駆け出そうとする十六夜に向け白蛇は水球を連射する。

「同じ技しかできないのか?さっき避けられたからって数頼みかよ」

 十六夜はあくまで避けに徹する。と、

『フン!私がいつコレしかできないと言った?』

 大河の水が浮き上がり、人間大の大きさの水球となり、十六夜の頭上や周囲に大量に落下する。

 いかに水といえど圧縮され、高質量になった水が直撃すれば並の人間は押し潰されるだろう。

「クソ。これ以上濡れるのは勘弁だ」

 十六夜は潰されそうなどとは考えず、単に濡れることの方を気にし、走って回避する。

 

 ―――先程から十六夜が執拗に避けているのは単に濡れるのが嫌なだけである。当たったところで決定打になり得ない以上、理由はそれしかない。

 

「十六夜ーそろそろ一発ぶちかましてやれー!」

 番一は呑気に十六夜に向け声援を送る。

「お前は濡れてないからわかんねえだろうけどな!濡れたガクラン程、最悪な物はねえぞ!」

 

 

『ゲームの途中に余所見とはな』

 

 

 一瞬、番一の言葉に気が逸れた十六夜が気づいたときには既に遅かった。白蛇は水柱を五本立て昇らせ、 それらを十六夜に集中させる、横に薙ぎ、縦に薙ぎ、逃げ場を封じた。

「ッッ!!」

 十六夜は気づいた次の瞬間には身を(かが)め左斜めに跳躍し間一髪回避するも、不幸にも直線上にいた番一へと水柱は殺到する。

 

「ぐえッッ!!??」

 気を抜いていたためにもろに直撃し吹き飛ばされた。

 水流は木々を薙ぎ払い、大地を揺らす地響きが広がった。

「ゲームに参加してねえ奴を巻き込んでんじゃねえ!!」

 そう叫び足元にあった石ころを蹴り上げて握り混み、第三宇宙速度などというバカげた速度で白蛇へ投げつける。

 白蛇は水柱を立て身を守ろうとするも、超速で飛来する石を止めることはできず、水柱は無惨にも割られる。

『グハァ!!!???』

 額に直撃し、白蛇が大河に向け横向きに倒れる。

 

 

 

 ―――そして次の瞬間。

 

 

 

「この辺りのはず……」

 微妙に真剣な顔をした黒ウサギが森の中から現れた。

 

「お?黒ウサギか。どうしたその髪の色」

 吹き飛ばされ木に打ち付けられ、天地逆で、つまり頭を支点にして木にもたれかかってる番一が尋ねる。

 黒ウサギの胸中に安堵が沸き上がる、ことはなく、散々振り回された黒ウサギは怒髪天を突くような怒りを込めて振り返る。

「もう、一体何処まで来ているんですか!?」

「ちょっと<世界の果て>まで、そう怒るなよ黒ウサギ、ガハハハハ!」

「ちょっと其処まで、ぐらいのノリで言わないでくださいっ!」

 とそこで黒ウサギは十六夜の姿を見る、心配は不要だったらしく、何処にも傷はない。どちらかと言えば番一の方が被害は大きかった。

 唯一濡れていなかった番一だったが今はびしょ濡れになっていたのだ。

「どうだ番長?濡れたガクランは」

「ぬ……確かに最悪だ、じんわりと中の服に染みわたっていく感じが特に」

 十六夜が番一に近づき声をかけ、ついでと言うように黒ウサギに話しかける。

「しかし良い脚だな。遊んでいたとはいえこんな短時間で俺らに追いつけるとは思わなかった」

「むっ、当然です。黒ウサギは<箱庭の貴族>と(うた)われる優秀な貴種です。その黒ウサギが」

 アレ?と黒ウサギは首をかしげる。

 

(黒ウサギが……半刻以上もの時間、追いつけなかった……?)

 

 黒ウサギは箱庭の創始者の眷属。

 それが示すのは生半可な修羅神仏では太刀打ちできぬほどの力を持っているという事。

 その駆ける姿は疾風より速く、本来であれば黒ウサギに気づかれることなく姿を消す事も、追いつけないなんて事も、あり得るはずが無いのだ。

「ま、まあ、それはともかく!十六夜さんと番一さんが無事でよかったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ。」

「水神?―――ああ、()()のことか?」

 え?と黒ウサギは硬直する。十六夜が指したのは川面にうっすらと浮かぶ白くて長いモノだ。

 黒ウサギが理解するより早くその巨体が鎌首を起こし、

『まだ……まだ終わってないぞ、小僧ォ!!』

 十六夜が指したそれは先程、彼がバカげた速度で石を投じて気絶させた白蛇は、この辺り一帯を仕切る水神の眷属だった。

「蛇神……!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!?」

 ケラケラと笑う十六夜は事の(てん)(まつ)を話す。

「なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか、上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ。 ()()()()()()()()()()()()()もらったのさ。結果はまあ、残念な奴だったが」

『貴様……付け上がるな人間!我がこの程度の事で倒れるか!!』

 白蛇の甲高い(ほう)(こう)が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が先程までよりも凄まじい勢いで 水柱を上げて立ち昇る。もはやそれは巻き込まれれば人の体など容易く引き千切る程の鋭さと勢いを孕んでいた。

 

「十六夜さん、下がって!」

 黒ウサギが庇おうとするが、立ち上がった番一がそれを阻む。

「下がるのはお前だ黒ウサギ」

「番長の言うとおりだ。これはアイツが売って、俺が買った喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」

 本気の殺気が籠もった(こわ)()だった。そもそもに黒ウサギは始まってしまったゲームには手出しができないと気付いて歯噛みする。

 十六夜の発言に白蛇は息を荒くして答える。

『心意気は買ってやる。この一撃を凌げば貴様の勝利を認めてやろう』

「寝言は寝て言え。決闘は勝者を決めて終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ」

 

 求めるまでもなく、勝者は既に決まっている。

 

 その傲慢極まりない台詞に黒ウサギも白蛇も呆れて閉口した。

『フン!―――その戯言が貴様の最期だ!』

 白蛇の雄叫びに応えて嵐のように水が巻き上がる。竜巻のように渦を巻いた水柱は白蛇の丈よりも遥かに高く舞い上がり、何トンもの水を吸い上げる。

 竜巻く水柱は計三本。それぞれが生き物のように唸り、蛇のように襲いかかる。

 この力こそ時に嵐を呼び、時に生態系さえ崩す、<神格>のギフトを持つ者の本気だった。

 竜巻く水柱は川辺を抉り、木々を捻じ切り、十六夜の体を激流に飲み込む―――!

 

 

「―――ッハ―――しゃらくせえ!!」

 

 

 突如発生した、嵐を超える暴力の渦。

 十六夜は竜巻く激流の中、ただ腕の一振りで嵐を薙ぎ払ったのだ。

「嘘!?」

『馬鹿な!?』

 驚愕する二つの声。それはもはや陣地をはるかに超越した力である。白蛇は全霊の一撃を弾かれ 放心するが、十六夜はそれを見逃さなかった。

「ま、中々だったぜオマエ」

 大地を踏み砕くような爆音。胸元に飛び込んだ十六夜の蹴りは白蛇の胴体を打ち、白蛇の巨躯は空中高く打ち上げられて落下した。その衝撃で川が氾濫し、水で森が浸水する。

 

 

 

 ―――かくして勝敗は決した。

 ―――問題児たちの箱庭来訪、初のギフトゲームは白蛇の敗北、十六夜の勝利で幕を閉じた。




赤坂です。
という訳で初の戦闘シーンですが・・・どうでしょう?うまく伝わりますか?
というよりこのペースだといつ一巻の内容は終わるのやら・・・
次の話でお会いしましょう!


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第五話

「クソ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代くらいは出るんだよな黒ウサギ」

 その十六夜の冗談めかした言葉は黒ウサギには届いていなかった。

 彼女の頭の中はパニックで、もうそれどころではなかったのだ。

(人間が……神格を倒した!?それもただの腕力で!?そんなデタラメが―――!)

 黒ウサギはハッと思い出す。彼らを召喚するギフトを与えた<主催者>の言葉を。

 

「彼らは間違いなく―――人類最高クラスのギフト保持者よ、黒ウサギ」

 

 黒ウサギはその言葉を、リップサービスか何かだと思っていた。

(信じられない……!だけど、本当に最高クラスのギフトを所持しているのならば……!私たちのコミュニティの再建も、夢じゃないかもしれない!)

 黒ウサギは内心の興奮を抑えきれず、鼓動が早くなるのを感じ取っていた。

「おい、どうした?ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」

「え、きゃあ!」

 

 背後に移動した十六夜は黒ウサギの腋下から豊満な胸に、ミニスカートとガーターの間から足の内股に絡むように手を伸ばしていた。

 

「な、ば、おば、貴方はおバカです!?二百年大事に守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」

「二百年守った貞操?うわ、超傷つけたい」

「おい十六夜、二百年守った貞操とか、二百年彼氏いない宣言だし触れてやるな」

「……そうだな、今はいいや。後々の楽しみにとっとこう」

「さ、左様デスか」

 

 ヤハハ、ガハハと笑う期待の新星達は黒ウサギの天敵かもしれない。

 そもそもにウサギという種は容姿端麗・天真爛漫・強靭不屈と言うどこかの愛玩趣味を詰め込んだような種族であり、今まで彼女を狙って襲ってきた賊は星の数いた。

 しかし身がすり合うほどの距離まで反応できなかった相手はいなかったし、ましてや腋の下から胸に触れる寸前まで接近を許したこともなかった。

 

「と、ところで十六夜さんその蛇神様はどうされます?というか生きてます?」

「命までは取ってねえよ。戦うのは好きだが、殺しは面白くねえ。<世界の果て>にある滝を拝んだら箱庭に帰るさ」

「おお、そういえば<世界の果て>を目指していたのだったな。白蛇との喧嘩で忘れてた」

 番一は本来の目的を思い出してうなずく。

「ではギフトだけでも戴いておきましょう。ゲームの内容がどうあれ、十六夜さんは勝者です。蛇神様も文句はないでしょうから。ご本人を倒されましたから、きっと凄いものが戴けますよー♪」

「あれか、修羅神仏との戦いでギフトを得るとかいう奴。・・・これが修羅神仏なのか?それにしちゃ手応えが無かったが」

「それはあれだろ?十六夜が強すぎるってだけだろ。ガハハハハ!」

「それもそうだな。ヤハハハハハ!」

 二人が笑う傍、黒ウサギは小躍りでもしそうな足取りで大蛇に近寄る。

 しかし突然二人の笑いが止まり立ちはだかるように黒ウサギの前に立つ。

 

 

「……ちょっと待て黒ウサギ。ひとつ聞きたいことがある」

 番一が尋ね、

「……オマエ、何か決定的なことをずっと俺らに隠してるよな?」

 十六夜が本題を伝える。

 

 

「……なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」

「違うな。俺が聞いているのはオマエ達の事―――いや、核心的な聞き方をするぜ。黒ウサギ達はどうして俺たちを呼び出す必要があったんだ?」

「それは……言った通りです。十六夜さんたちにオモシロオカシク」

「オモシロオカシク過ごしてもらう件じゃない。お前の事だ黒ウサギ」

「ああそうだ。俺も初めは純粋な好意か、さもなくば何処かの誰かの遊び心で呼び出されたもんだと思ってた。

 俺だって大絶賛<暇>を売り出してたわけだし、他の三人も異論を上げないって事は、箱庭に来るだけの理由があったんだろうよ。けど俺の目には―――黒ウサギが必死に見える」

 番一と十六夜の二人で黒ウサギを追い詰めるように繰り返す。

 

 その時初めて黒ウサギは動揺を表情に出した。

 瞳は揺らぎ、虚を突かれたように見つめ返す。

「これは俺の勘だが。黒ウサギのコミュニティは弱小チームか、もしくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねえのか?だから俺たちは組織を強化するために呼び出された。そう考えれば今の行動や、俺や番長がコミュニティに入るのを拒否したときに本気で怒ったことも合点がいく。―――どうよ?一〇〇点満点だろ?」

「っ……!」

「十六夜は頭がいいんだな。俺は黒ウサギが何か隠し事をしているところまでしか解らなかった」

「で、だ。この事実を隠していたということは、俺たちにはまだほかのコミュニティを選ぶ権利があるという事だと判断できるんだが、その辺どうよ?」

「…………」

「沈黙は是也、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ」

「早く自白したほうが楽になるぞ?」

 二人は川辺にあった手頃な岩に腰を下ろして黒ウサギの話を聞く体勢をとる。

 

 しかし黒ウサギにとって今のコミュニティの状況を話すのはあまりにもリスクが大きかった。

(気づかれるなら、せめてコミュニティの加入承諾を取ってからなら良かったのに……)

 一度加入したコミュニティからの脱退は簡単ではない。

 要するになし崩し的にコミュニティの再建を手伝ってもらおうとしていた。

 

 ……くじ運が悪すぎた。黒ウサギが相手にしているのは世界屈指の問題児集団なのだ。

「……さて番長。黒ウサギが固まったからお前に質問をする。回答を出してみてもらえるか?」

「俺の頭が悪いことを知ってか?まあいいぜ」

「質問は『黒ウサギがなぜ、俺らのコミュニティを選ぶ権利があることを秘密にしていたか』だ」

 

「ふむ……さっき十六夜の言っていたコミュニティ強化の為に、他のコミュニティに行ってほしくなかったから、か?衰退だとしたら再建の為。けど秘密にしてたって意味がない。コミュニティ加入後にすぐに発覚するからな。

 ……いや、待てよ。コミュニティ脱退にもし条件があるとしたら……確信はできないが回答としては『俺らになし崩し的に協力させるために黙ってた』が正解か?」

 

「おう回答ありがとな番長。十分だ。で、どうなんだ()(ウサ)()?」

 悔しいが大正解である。黒ウサギは心の中で降参する。

「……話せば、協力していただけますか?」

 二人は目を合わせて同時に応える。

 

「「ああ、面白ければな」」

 

 ケラケラと笑い合っているが二人の目は笑っていない。

 黒ウサギはようやく気づく。この二人は黒ウサギの話を聞くだけではなく<箱庭の世界>を見定めているということに。

「……わかりました。腹をくくって、精々オモシロオカシク、我々のコミュニティの惨状を語らせていただこうじゃないですか」

 

 コホン、と咳払い。内心ほとんど自棄っぱちである。

 

「私たちのコミュニティには名乗るべき名がありません。よって呼ばれるときは名無しのその他 大勢<ノーネーム>という蔑称で呼ばれます。」

「へぇ……その他大勢扱いかよ」

「<ノーネーム>よりは<ネームレス>の方が格好いいと思うんだが」

「それはさておき。次に私たちにはコミュニティの誇りである旗印もありません。旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」

「名刺みたいなものか。それで?」

 

「<名>と<旗印>に続いてトドメに中核をなす仲間たちは一人も残っていません。ぶっちゃけちゃいますとゲームに参加できるだけのギフトを持っているのはコミュニティ一二二人中黒ウサギとジン坊ちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」

「もう崖っぷちだな!」

「どん底じゃねえか!」

「ホントですねー♪」

 ガクリとうなだれる黒ウサギ。口に出してみると本当に自分たちのコミュニティが末期なのだなと思わずにはいられなかった。

「で、どうしてそうなったんだ黒ウサギ。託児所でもやってるのか?」

 黒ウサギは沈鬱そうに首を振り、

 

「いえ、彼らの親も奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災―――魔王によって」

 

「ま……魔王!なんだよそれ超カッコイイじゃねえか!」

「マオウ!?箱庭にはそんな素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?」

 二人の目はショーウィンドウに飾られる新しいおもちゃを見た子供のように輝いていた。

 

「え、ええまあ。ただお二人の思い描いている魔王とは差異があると……」

「そうなのか?けど魔王なんて名乗るってことは強大で凶悪で、全力で叩き潰しても誰からも咎められることの無いような素敵に不敵にゲスイ奴なんだろ?」

「どっちなんだ……『魔の限りを尽くす王』なのか『魔を総べる王』なのか……」

「……何を高度な考えしてるんだ番長」

「いや違うぞ十六夜。前者は不敵に素敵にゲスイ奴だが、後者は魔族の王ってだけだ、後者だったらいい奴の可能性もある」

「天災って言ってたし前者じゃね?」

「そうだな。で、どうなんだ黒ウサギ。魔王ってのは叩き潰しても問題ないよな?」

「ま、まあ……倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属させることも可能ですし」

「へえ?」

「魔王は<主催者権限(ホストマスター)>という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断ることはできません。その<魔王>のゲームに強制参加させられ……コミュニティは活動していくために必要なすべてを奪われてしまいました。」

 

 これは比喩ではない。黒ウサギ達のコミュニティはその地位も名誉も仲間も、すべて奪われたのだ。残されたのは空き地だけになった廃墟と子供たちだけである。

「もう一度コミュニティを新しく作り直すことは簡単です。ですがそれはコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私たちは何よりも……仲間たちが帰ってくる場所を守りたいだけなのですから……!」

 名も旗印もない。箱庭世界では信頼を得られないのと同義。周囲に組織として認められない。

 それでも、魔王との戦いで居なくなってしまった仲間たちが返ってくる場所を守りたい。

 蔑まれたとしても残したいと黒ウサギは誓ったのだ。

 

 だからこそ黒ウサギ達は、異世界から同士召喚という最終手段に望みを掛けていた。

「茨の道ではあります。けど私たちは仲間の帰る場所を守り、コミュニティを再建し、

 ……いつの日かまた名と旗を取り戻して掲げたいのです。そのためには皆さんの強力な力を頼るほかありません!どうかその力を我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか……!?」

「……ふぅん。魔王から誇りと仲間を……ねえ」

 深く頭を下げて黒ウサギは懇願する。しかし必死の告白に十六夜は気のない声で返す。その態度は黒ウサギの話を聞いていたとは思えない。黒ウサギは肩を落として泣きそうな顔になっていた。

(ここで断られたら……私たちのコミュニティはもう……!)

 黒ウサギは唇を強く噛む。こんな後悔をするなら、初めから話せばよかった。

 番一は岩から降りそっぽを向き、十六夜は足をけだるげに組み直し、たっぷり三分間悩んだ後、

 

 

「いいな、それ」

 

 

「―――……は?」

「HA?じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」

 不機嫌そうに言う十六夜。呆然と立ち尽くす黒ウサギは二度三度と聞き直す。

「え……あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございました?」

「そんな流れだったぜ。番長はどうなんだ?」

 そういってそっぽを向き続けている番一に十六夜が問う、

「いいんじゃねえか?底の底まで落ちたなら、後は上がるだけだしな」

「お、名言か」

「末代まで語り継げるほどの名言だな!」

「あ、あはは……」

「苦笑いしてないで、ほれ、あのヘビ起こしてさっさとギフト貰ってこい。その後は川の終端にある滝と<世界の果て>を見に行くぞ」

「は、はい!」

「なんかやる気出てきた。俺は先に行ってる!」

 番一はうきうきと走りだし、黒ウサギは蛇に駆け寄り、十六夜は嬉しそうな黒ウサギの背を見つめる。

 男二人の箱庭での方針は決まった。

 

 

 

 

 ―――彼女(黒ウサギ)の願いを叶えてあげよう。




赤坂です。
説明回ですね。飛ばした方は飛ばしたでしょう。
実際、原作を読んだことのある人なら飛ばしてもいい回だと思います。
次の話は女性サイドをやるかどうか悩みます。
自分は描かれなかったシーンを描きたいと思っていますので。
……どうしましょう。


11/26 一部表記間違いがあることに気づき訂正しました


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第六話

 ―――黒ウサギと十六夜は蛇神からギフトを受け取り世界の果てに向け歩き出す。

「見てください!こんな大きな水樹です!コレがあればもう他所のコミュニティから水を買う必要もなくなります!みんな大助かりです!」

「喜んでもらえて何よりなんだが、ひとつ聞いていいか?」

「どうぞどうぞ!今なら一つと言わず三つでも四つでもお答えしますよ~♪」

「それは三段腹なことだな」

「誰が三段腹ですか!」

 怒ったり喜んだりと(せわ)しないウサギである。

 

「どうでもいい疑問ではあるんだが。その水樹、そんなに欲しかったならどうしてオマエがこの蛇に挑まなかったんだ?俺の見る限りだと、お前の方がよっぽど強そうに見える。」

「その事でございますか。それは黒ウサギが<箱庭の貴族>と呼ばれるコトに由来します。

 ウサギ達は<主催者権限(ホストマスター)>同じく<審判権限(ジャッジマスター)>と呼ばれる特権を所持できるのです。

 <審判権限>を持つ者が審判を務めた場合、ゲームのルールは破ることができなくなり

 ……いえ、正しくはその場で違反者の敗北が決定します」

「へえ?それはいい話だな。つまり黒ウサギと共謀すればギフトゲームで無敗になれる」

「違います。ルール違反=敗北なのです。ウサギの目と耳は箱庭の中枢と繋がっております。

 つまりウサギの意思とは無関係に敗北が決定して、チップを取り立てる事が出来るのですよ。

 それでも無理に判定を揺るがすと……」

「揺るがすと?」

 

「爆死します」

「爆死するのか」

 

「それはもう盛大に。そしてここが先ほどの質問の答えなのですが<審判権限>の所持はその代償としていくつかの縛りがございます。

 一つ、ギフトゲームの審判を務めたその日より数えて十五日間はゲームに参加できない。

 二つ、<主催者>側から認可を取らねば参加できない。

 三つ、箱庭の外で行われているゲームには参加できない。

 ―――と、他にもありますけど、蛇神様のゲームに挑めなかった大きな理由はこの三つですね。それに黒ウサギの審判稼業はコミュニティで唯一の稼ぎでしたから、必然的にコミュニティのゲームに参加する機会も少なかったデスよ」

「なるほどね。実力があってもゲームで使えないカードじゃ仕方ないか」

 肩を竦めて川辺を歩きだす。向かうのは番一の走り去った世界の果てにあるトリトニスの大滝だ。身の丈ほどもある水樹を抱えた黒ウサギも、それに続いて小走りで追いつく。

「その、黒ウサギも一つ十六夜さんにお聞きしたいことがあります」

「おういいぞ。何でも来い」

「……十六夜さんはどうして黒ウサギ達に協力してくれるのです?」

「んー……。答えてもいいけど、ただ答えるのはつまらんな。

 ―――そうだ、黒ウサギはどうして俺が<世界の果て>を見たいかわかるか?」

 黒ウサギは大股で歩きつつ、大仰に考えたふりをして回答する。

「やっぱり面白そうだからでしょうか?十六夜さんは自称快楽主義ですし」

「半分正解。なら俺はどうして面白いと感じたんだろうな?」

 むむ~と今度は半分本気で悩む黒ウサギ。

 

「ハイ、タイムアウト」

「制限つき!?だ、駄目ですよ!ゲームの制限時間は最初に提示されない限り違反です!」

「マジか?じゃあ黒ウサギは爆死だな」

「なんで私が爆死するんですか!?」

 黒ウサギをからかいながら十六夜は川辺を突き進んでいく。

 十六夜・飛鳥・耀・番一の四人が箱庭の世界に呼び出されてから四時間が経つ。

 

 陽は徐々に落ちて夕暮れになろうとしていた。

 

「結局<世界の果て>が見たい正解はなんです?」

「簡潔に言えば<ロマンがあるから>だな。俺のいた世界は先人方がロマンというロマンを掘りつくして、俺の趣向に会うものが(ほとん)ど残って無かったんだよ。だからここじゃない世界なら、俺並みに凄いもの(・・・・・・・・)があるかもしれないと思ったのさ。だからつまり<世界の果て>を見に行くのは、生きていくのに必要な感動を補充しに来たってところかな」

「な、なるほど。十六夜さんはロマンのあるものを見て感動したいのですね」

「ああ。感動に素直に生きるのは、快楽主義者の基本だぜ?」

「そうですか……んん?あれ、じゃあ十六夜さんが黒ウサギに協力してくれるのは、」

「随分と陽が暮れてきたな。陽が落ちると虹が見えないかもしれないし、番長を待たせすぎて何か言われるのも(しゃく)だ、急ぐぞ」

 

 川辺を歩く速度を変えた十六夜に慌てて追いつく。日が暮れても絶景は絶景なのだが、十六夜は昼夜とも瞳に収めておきたいのだろう。沈む太陽を見つめながら十六夜は呟く。

「天動説のように、太陽が世界を(めぐ)ってるんだな……」

「分かります?あの太陽はこの箱庭を廻り続ける正真正銘、神造の太陽です。噂では、箱庭上層部で太陽の主権をかけたゲームがあるそうですよ」

「そりゃ壮大だ。ぜひとも一度参加してみたいね」

 それから更に半刻ほど歩いた二人はようやくトリトニスの大滝に出る。

 

 

 

「お……!」

 

 

 

 トリトニスの大滝は夕焼けの光を浴びて朱色に染まり、跳ね返る激しい水飛沫(みずしぶき)が数多の虹を作り出している。

 楕円形のようにも見える滝の河口は遥か彼方まで続いており、流水は<世界の果て>を通って無限の空に投げ出されていた。

 絶壁から飛ぶ激しい水飛沫に煽られながらも黒ウサギは説明する。

「どうですか?横幅の全長は約2800mもあるトリトニスの大滝でございます。こんな滝は十六夜さんの世界にもないのでは?」

「……ああ。素直にすげえな。ナイアガラのざっと二倍以上の横幅ってわけか。<世界の果て>の下はどんな感じになってるんだ?やっぱり大亀が支えているとか?」

 一部の天動説の下地では、世界は球体ではなく水平に広がり、大亀の背中に背負われているというものがある。十六夜はそれが気になったのだろう。

 

 十六夜が楽しそうに断崖絶壁に顏を覗き出す。下は奈落のように暗い場所を想像していたが、絶壁の下も夕焼けで染まった空が広がっている。

「残念ながらNOですね。この世界を支えているのは<世界軸>という柱でございます。何本あるのかは定かではないのですが、一本は箱庭を貫通しているあの巨大な主軸でございます。この箱庭が不完全な形で存在しているのは何処かの誰かが<世界軸>を一本引き抜いて持ち帰った、という伝説や、何者かにギフトの形で寄贈されたといった伝説もあるのですが……」

「はは、それはすげえな。ならその大馬鹿野郎に感謝しねえと」

 

 太陽が沈むにつれてより濃く朱に染まるトリトニスの大滝を眺めつつ、ふと思いついたように黒ウサギに問う。

「そういえば番長の奴はどこにいるんだ?先に行ったはずなのに何処にもいねえぞ。川辺に沿っていったのなら迷いようがないんだが」

「そういえばそうですね?番一さんはどこに行ったのでしょう?」

 そう言いつつあたりを見回すと、

 

 ―――おーい……。

 

「っ!?なんです?今の声は!?」

「番長の断末魔か?」

 そんな会話をしていると、

 

 ―――おーい……。

 

「また聞こえました!」

「そうだな。聞こえたな」

 十六夜の視線の先には、学ランが畳まれて置いてある。

 

 ―――おーい助けろー……。

 

「間違いなく助けを求めていますね。ですが聞こえている位置があり得ないと思うのですが」

「……。番長ならあり得るな」

 その声は、

「なんでトリトニスの大滝の中から聞こえるんですか!?」

 

 ―――おーい助けろー十六夜ー黒ウサギ―……。

 

 十六夜が再びトリトニスの大滝を覗き込むと。

 

 

「―――……。遡上する活きのいい旬の番長が一匹」

『うるせえ!?冗談言ってる暇があったら助けろ!?』

 

 

 十六夜の視線の先には遡上する鮭のごとく滝を昇る、番一の姿があった。

「そうですよ!助けないと!」

「……南無三」

「諦めないでください!まだどうにかして助ける手段があるはずです!」

仕方(しかた)ねえな……」

 十六夜は立ち上がり、番一の学ランを拾い、滝に向かって学ランを放る。

「って十六夜さん!?手向けの花のごとくガクランを放るなんてなに」

『ナイスだ十六夜ッッ!!』

 

 

 ―――次の瞬間。

 

 

 ズダンッッ!!

 

 

「ふう、良い滝だった」

「……。アナタは人間なのですか?どうしたらガクランを着るだけで戻ってこれるのです?」

 黒ウサギは唖然とした表情で尋ねる。

「学ラン着てないと調子が出なくてな……お前らが来るまで滝で泳ごうと思って脱いで遊んでたら、流されてな。どうしようもなくて待ってたわけだ。」

 そう応える番一に、十六夜が変なものを見る目で尋ねる。

「なら俺らが来てすぐに、なんで声を掛けなかったんだ?」

「そうですよ!あのままではどうなっていたか!?」

 黒ウサギも唖然とした表情から戻り、

 

 

「いや?なんとなく話しかけられる雰囲気ではなかったし?急ぐこともないなと思ってな」

 

 

 再び唖然とした表情に戻る。番一は水飛沫でずぶ濡れになった学ランを絞り、

「自業自得もあるが俺も濡れ濡れだな。クリーニング代は黒ウサギが持ってくれよ」

「……。え、ええ。とりあえず番一さまは無事?でしたし、十六夜さんも<世界の果て>見学は終わりという事で構いませんか?」

「いいぜ珍しいものも見れたし大満足だ」

 

 そう言った十六夜はふと思い出したように口を開く。

「とりあえずな、黒ウサギ。デタラメで面白い世界に呼び出してくれた分は働いてやるが、女性陣の説得には協力しないからな。(だま)すも(たぶら)かすも構わないが、後腐れないように頼むぜ。同じチームでやっていくなら尚更な」

「そうだな。せめて後腐れは無いようにして貰いたいな。内部分裂だけは避けたい」

「……はい」

 

 その言葉に黒ウサギは深く反省する。

 そう、彼らは同じコミュニティで戦っていく仲間なのだ。

 相手を利用するような真似をしては得られる信用も得られなくなる。

 コミュニティが大事だったあまり、その意識が黒ウサギの中で低くなってしまっていた。

 新たな同士である彼らには失礼極まりない話である。

(初めからちゃんと説明すればよかったな……ジン坊ちゃん、大丈夫でしょうか)

 

 

 ―――黒ウサギのその心の声はある意味では正解ともいえた。

 

 ―――なぜなら大丈夫とは言えないことが彼らに起きていたからである。




赤坂です。
結局、世界の果て見学ツアーを終わらせました。
なんでこんなに時間かかってるんでしょう?
とりあえず男性サイド……というか番長メインでやります。
前回、迷う必要はありませんでしたね。
女性陣の活躍が見たい方は原作か、他の人のところに行きましょう。
ではでは。


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第七話

 ―――日が暮れた頃、十六夜・番一・黒ウサギの三人は<世界の果て>から箱庭へと戻り、

 別行動をしていた、ジン・飛鳥・耀の三人と合流していた。

 場所は二一〇五三八〇外門・噴水広場前。

 

「ジン坊ちゃーん!御二人を連れて来ましたよー!」

「あ……く、黒ウサギ。お帰り。ええと……それは?」

「そうですよ!見てくださいこの水樹!十六夜さんがなんと蛇神様を打ち倒し、手に入れてくださったのですよ!これでもう水には困りませんよ!」

「へ!?ほ、本当ですか!?<世界の果て>に住む蛇神といえば神格持ちの(はず)

 普通の人間では倒せるはずが」

「黒ウサギが言ってたんだが、俺らは普通の人間じゃ無いんだろ?倒せても問題ない」

 十六夜が少し勝ち誇ったような表情で抗議する。

「ええとワタシ達の方は怪我はありませんでした……。番一さまが若干危なかったですが……」

「濡れただけだ。問題ない。ガハハハハ!」

 黒ウサギがヘニョリとウサ耳を落とす横、番一は笑い声をあげていた。

 黒ウサギはウサ耳をピン、と立て直してジンに尋ねる。

「ジン坊ちゃんの方は何か変わりはありませんでした?まあ起こるとは思えませんが!」

 黒ウサギがのんきな笑顔でジンに尋ねると、ジンは顔を逸らしながら答える。

「えっと……落ち着いて聞いてくれるかな、黒ウサギ?」

 

「……。何かあったのですね?大抵の事では怒らないと思うので正直にお答えいただけますか?」

 黒ウサギの笑顔が妙に怖い。ジン・飛鳥・耀は目を合わせて頷き、応える。

 

「……―――ガルドの奴に喧嘩を売っちゃって」

 

「明日<フォレス・ガロ>のホームに行き」

 

「……ギフトゲーム」

 

「……―――へ?」

 ジン・飛鳥・耀の三人は顔を逸らし、黒ウサギの顔を見ない。

「な……!?」

 ジンがソロソロと渡してきた<契約書類(ギアスロール)>を黒ウサギは奪い、声を張り上げる。

「な、なんで<フォレス・ガロ>のリーダーと接触して、喧嘩を売る状況になるのですか!?」

「しかもゲームの日取りは明日!?」

「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」

「準備している時間もお金もありません!」

「一体どういう心算(つもり)があってのことです!」

 

 

「聞いているのですか三人とも!!!」

 

 

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

 

 

「黙らっしゃい!!!」

 誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせていたかのような……いやさっきの頷きからして合わせていたのだろうが、言い訳に激怒する黒ウサギ。

 それをニヤニヤと笑ってみていた十六夜と、ワクワクソワソワした表情の番一が止めに入る。

 

「別にいいじゃねえか。誰彼構わず見境なく喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

「喧嘩を売られて、売り言葉に買い言葉で受けちまったなら、反省すべきだがな」

「お、御二人は面白ければいいと思っているかもしれませんけど……。

 ……このゲームで得られるのは自己満足だけなんですよ?」

 

 黒ウサギの見せた<契約書類>は<主催者権限>を持たない者達が<主催者>となってゲームを開催するために必要なギフトである。

 そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており<主催者>のコミュニティリーダーが署名することで成立する。

 今回の<契約書類>の賞品は、

 

 参加者(プレイヤー)が勝利した場合

 <主催者は全ての罪を認め、正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する>。

 これは<フォレス・ガロ>の犯した罪を裁くという事。

 

 主催者(ホスト)が勝利した場合

 <罪を黙認する>

 それは今回限りではなく、以後も継続という事。

 

 黒ウサギは手近な椅子に座り、三人に理由を問う。

「とりあえず、簡単でいいので何があったのか説明していただけますか?」

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

「……。そうでしたか。<フォレス・ガロ>の悪評は聞いてましたがそこまで酷いとは……」

 ―――半刻後、全ての事情を把握した黒ウサギが呟く。

 

<フォレス・ガロ>はもともと悪評の多いコミュニティであった。

 

 ジン・飛鳥・耀の三人は、<フォレス・ガロ>のリーダー、ガルド本人から真偽を聞きだし

 ―――隠され続けた罪を認めさせるために、ゲームを挑んだのだ。

 

「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。

 ―――だって彼らの(さら)った子供たちは……その、」

 黒ウサギが言い淀む。

「確かにね、黒ウサギ。彼らの攫った子供たちはこの世にはいないわ。

 その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。

 だけどそれには時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの。」

 

 箱庭の法はあくまで箱庭としないでのみ有効なもの。箱庭の外は無法地帯であり、様々な種族のコミュニティがそれぞれの法とルールの下で生活している。

 そこに逃げ込まれては、箱庭の法で裁くことは不可能であるが、ゲームの結果によって発生する<契約(ギアス)>の強制執行ならば追いつめられる。

 

「僕もガルドを逃がしたくない。彼のような悪人を野放しにはしておけない」

「……それにいつかまた狙ってくる可能性もある」

 ジンと耀も同調する姿勢を見せる。黒ウサギは諦めたように頷いた。

「はぁ~……。仕方がない人たちです。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。<フォレス・ガロ>程度なら十六夜さん一人いれば楽勝でしょう」

 それは黒ウサギの正当な評価のつもりだったのだが、十六夜と飛鳥、番一が怪訝な顔をして、

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

「当り前よ。貴方なんて参加させないわ」

「俺一人でも楽勝だぞ?十六夜だけ強いと思うなよ」

 

 フン、と鼻を鳴らす二人と見当違いな怒り方をする番一。

 黒ウサギは慌てて飛鳥と十六夜の二人に食ってかかる。

「だ、駄目ですよ!御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

「そういう事じゃねえよ黒ウサギ。あと番長は今度手合わせしてやるから黙ってろ」

 十六夜が真剣な顔で黒ウサギと番一を制する。

 

「いいか?この喧嘩は、コイツ等が売った、そしてヤツ等が買った。

 ―――なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、分かっているじゃない」

「扱いが酷すぎやしないか?なんで俺は喧嘩バカみたいに扱われているんだ?」

「……。ああもう、好きにしてください」

 丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力も残っていない。

 どうせ失うものはないゲーム、もうどうにでもなればいいと呟いて肩を落とすのだった。

 

 

 

            ※

 

 

 

 椅子から腰を上げた黒ウサギは、横に置いてあった水樹の苗を抱き上げる。

 コホンと咳ばらいをした黒ウサギは気を取り直して全員に切り出した。

 

「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎するために素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれども……不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。

また後日、きちんと歓迎を」

「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」

 

 驚いた黒ウサギはジンを見る。彼の申し訳なさそうな顔を見て、自分たちの事情を知られたのだと悟る。ウサ耳まで赤くした黒ウサギは恥ずかしそうに頭を下げた。

「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが……

 ―――黒ウサギ達も必死だったのです」

「もういいわ。コミュニティの水準何てどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」

 黒ウサギが恐る恐る耀の顔を窺う。

「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも……あ、けど」

 思い出したように迷いながら呟く耀。ジンはテーブルに身を乗り出して問う。

「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らにできる事なら最低限の用意はさせてもらいます」

 

「そ、そんな大それた物じゃないよ。……毎日三食お風呂付の寝床があればいいなって」

 

 お風呂という単語にジンの表情が固まる。

 黒ウサギが水樹を手に入れて水に困ることが無くなります、と喜んでしまうほど水の確保が難しい土地では―――お風呂というのは一種の贅沢品なのだ。

 

「それなら大丈夫です!十六夜さんがこんなに大きな水樹の苗を勝ち取ってくれましたから!

これで水を買う必要も無くなりますし、水路を復活させられます♪」

 一転して明るい表情に変わる。これには飛鳥も安心したような表情を浮かべる。

 

「私達の国では水が豊富だったから毎日のように入れたけど、場所が変われば文化も違うものね。今日は理不尽に湖へ投げ出されたから、お風呂には絶対に入りたかったところよ」

「それには同意だぜ。あんな手荒い招待は二度と御免(ごめん)だ」

「俺も結局濡れたしな……」

 

「あう……そ、それは黒ウサギの責任外……って番一様は自分が原因じゃ……」

「あ?やるか?黒ウサギ?(ケツ)バットかますぞ?」

「すいませんでした……」

 召喚された三人と、理不尽な怒り方をする番一に怖気づく黒ウサギ。ジンも隣で苦笑する。

「あはは……それじゃあ今日はコミュニティへ帰る?」

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら皆さんのギフトの鑑定を

お願いしに行きませんと。この水樹の事もありますし」

「……うん、わかった。僕は先に帰って水路の準備をしておくよ」

 

 十六夜達四人は首を(かし)げて聞く。

「鑑定?」

「YES。コミュニティ<サウザンドアイズ>に皆様のギフトの鑑定をお願いしに行きます。

<サウザンドアイズ>は特殊な(ひとみ)のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。

箱庭東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。

幸いこの近くに支店がありますし皆様もご自身のギフトの詳細は気になるでしょう?」

 

 

 そう言って、黒ウサギは四人を引き連れてサウザンドアイズへ向かう。




赤坂です。
次回以降で少しづつ<番長>について明かしていきます。
オリジナルストーリー少なくてすいません。
感想、誤字脱字報告、よろしくお願いします。
・・・オリジナルストーリーでもないのに感想は難しいですが。
ではでは。


11/29 誤字報告ありがとうございました。修正しました。


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第八話

 ―――二一〇五三八〇外門・ペリペッド通り夕暮れ。

 サウザンドアイズ七桁外門支店へと向かう道中。

 

「桜の木……ではないわね。花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 商店へ向かう通りは石造で整備されており、脇を埋める街路樹(がいろじゅ)は桃色の花を散らして新芽と青葉が生え始めている。

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくないだろ」

「……?今は秋だったと思うけど」

「桜は一年中咲き続けてるものだろう?別に不思議でもなんでもない」

 

 ん?っと噛み合わない四人は顔を見合わせて首を傾げる。黒ウサギは笑って説明した。

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系などとところどころ違う箇所(かしょ)があるはずですよ」

「番長の<桜が咲き続ける世界>みたいな、パラレルワールドってやつか?」

「近しいですね。正しくは立体交差並行世界論というものなのですけれど……」

「意味が解らんし、説明には時間がかかるんだろう?今度説明してくれ」

 番一は苦そうな顔で話を止める。すると黒ウサギが振り返る。どうやら店に着いたらしい。

 商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記されている。

 あれが<サウザンドアイズ>の旗なのだろう。

 

 日が暮れて看板を下げる割烹着(かっぽうぎ)の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを、

 

「まっ」

「待ったなしですお客様。うちは時間外営業は」

「邪魔するぞ」

「していませんっっ!!!」

 

 番一は滑り込みどころか真正面から、下げようとしている看板の下をくぐって入ろうとして……止められていた。

 流石は超大手の商業コミュニティ。押し入る客の拒みにも隙がない。

 

「……。流石だな。俺の<遅刻滑り込み堂々打ち崩し戦法>が通じないのはお前で二人目だ」

「というよりなんて商売っ気の無い店なのかしら。押し入る番一君も大概だけれど」

「全くです!閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!押し入る番一さまも大概ですけど!」

「文句があるならどうぞ他所へ。押し入ろうとしたのであなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

「出禁!?出禁にするなら押し入ろうとした番一さまだけにして下さい!私たちも巻き添えで出禁なんて御客様を舐めすぎでございますよ!?」

「失礼しました。では彼は出禁にして他の方は中で入店許可を伺いますのでコミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

「……う」

 一転して言葉に詰まる黒ウサギ。そんな会話の裏で番一と十六夜はというと、

 

「……。なあ十六夜、ふざけ半分で出禁喰らって黒ウサギが困ってるんだが」

「番長がフザけるから起きたことだ。反省してその技は封印しろ」

 

 ……ごく普通に会話をしていた。黒ウサギがアワアワと慌てていると、

 

 

 

 

 

 

 

「いぃぃぃぃぃぃやっほおおおぉぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギィィィィィィィィィ!」

 店内から爆走して着物風の服を着た真っ白い髪の少女に黒ウサギは不意打ち(もしくはフライングボディーアタック)を仕掛けられあわや大惨事となる

 

 

 

 

 

 

「なんだこいつ?」

 前に、番一が飛び出してきたその少女の襟元に右中指を引っ掛け、両足を軸に半回転し十六夜に向けて勢いを殺さずにそのままブン投げる。

 

 

 

 

 

「てい」

 番一が投げつけてきたそれ(・・)を十六夜はボレーシュートで黒ウサギに叩き込む。

 結局、黒ウサギは蹴られた少女と共にクルクルクルクルクと空中四回転半ひねりして街道の向こうにある浅い水路まで吹き飛んだ。

「きゃあーーーーーーーーーー……………!」

 ボチャン。そして遠くなる悲鳴。

 店員は痛そうな頭を抱えていた。

「なあ店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?」

「おう。俺もさすがに驚いた。別バージョンがあるなら見てみたい」

「ありません」

「「なんなら有料でも」」

「やりません」

 真剣な表情の二人に、真剣な表情でキッパリ言い切る女性店員。この三人、割と真剣である。

 直後、少女が再びくるくると縦回転して飛んできたので、

「ほっ」

 番一が右腕で抱きかかえるように受け止めた。

 さっきから右腕ばかりなのは、左手で常に金属バットを持っているからであり、打ち返さなかった分マシだと思ってもらいたい。

「グウゥゥ……!黒ウサギの豊満な触り心地から一転、筋肉質で固い触り心地が……ウゴゴゴゴ」

「ガハハハハ!鍛え方が違うからな!」

 

 そう言って番一は少女を降ろし、黒ウサギが濡れた服やミニスカートを絞りながら水路から上がり複雑そうに呟く。

「うう……まさか私まで濡れることになるなんて」

「因果応報……かな」

 耀の腕の中にいる三毛猫も賛成するようにニャーと鳴く。

 反対に濡れても全く気にしていない少女は大して怒ってもいないような声で、けれど笑っていない目で尋ねる。

「とりあえず先程ワシを投げた筋肉質な男と、ボレーキックをかましてくれたオヌシらよ。

 名乗れ、この恨み忘れないからの?」

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

「俺は長井番一様だ。名乗れというから名乗るがお前も名乗れよ?礼儀ってもんだ」

 ヤハハガハハと笑いながら自己紹介をする十六夜と番一。

 

「初対面の相手を投げ、蹴り飛ばす奴に礼儀を問われるとはな。私こそ<サウザンドアイズ>の

幹部様で白夜叉様じゃ!」

 ……白夜叉は小さい胸を張って堂々と名乗り、喋りだす。

「ふふん。お前たちが黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは……ついに黒ウサギが私のペットに」

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

 呵々(かか)と笑いながら白夜叉は店へ入ろうとして、女性店員に声を掛けられた。

「いいのですか?彼らは旗も持たない<ノーネーム>のはず。規定では」

「<ノーネーム>だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。彼らの身元は私が保証する」

 むっ、と拗ねるような顔をする女性店員。彼女にしてみればルールを守っただけなのだから気を悪くするのは仕方のないことだろう。

 六人は女性店員に睨まれながら暖簾をくぐった。

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 六人は店の外観からは考えられない、不自然な広さの中庭を進み、縁側で足を止める。

 障子を開けて招かれた場所は香のような物が焚かれており、風と共に六人の鼻をくすぐる。

 個室というにはやや広い和室の上座に腰を下ろした白夜叉は、大きく背伸びをしてから十六夜達に向き直る。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている

<サウザンドアイズ>幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

「その外門、って何?」

 耀が小首をかしげて問う。

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 外壁から数えて七桁の外門、六桁の外門、と内側に行くほど数字は若くなり、同時に強大な力を持つ。箱庭で四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠(かっきょ)する完全な人外魔境だ。

 黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図は、外門によって幾重もの階層に分かれている。

 その図を見た四人は口を揃えて、

 

「……超巨大タマネギ?」

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

「何処からどう見てもバームクーヘンだな」

 

 うん、と頷き合う四人。身も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。

 対照的に、白夜叉は呵々(かか)と哄笑を上げて二度三度と頷いた。

「うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側に当たり、<世界の果て>と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持つもの達が住んでいるぞ。―――その水樹の持ち主などな」

 白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹に視線を向ける。白夜叉が指すんのはトリトニスの大滝を住処にしていた蛇神の事だろう。

「ああ、あの十六夜が倒した蛇か」

「十六夜さんがここに来る前に素手で叩きのめしまして。この水樹は蛇神様から(いただ)いたのですよ」

 番一が呟き、自慢げに黒ウサギが言うと白夜叉は声を上げて驚いた。

「なんと!?試練ではなく拳で倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見ればわかるはずですし」

 

 

 神格とは生来の神様そのものではなく、種の最高ランクに体を変幻させるギフトを指す。

 

 ―――蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。

 

 ―――人に神格を与えれば現人神や神童に。

 

 ―――鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。

 

 更に他のギフトも強化されるため、箱庭にあるコミュニティの多くは各々の目的のため神格を手に入れることを第一目標とし、彼らは上層を目指して力を付けているのだ。

 

 

「ふむ、しかし神格を倒すには同じように神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがない限り不可能なはず」

「……なあ、あの白蛇の事を知ってるってことは知り合いか何かか?」

 番一がふと気になった事を白夜叉に聞き、

「んむ?知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 その言葉に十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。

「へえ?じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」

「ふふん、当然だ。私は東側の<階層支配者(フロアマスター)>だぞ。この東側にあるコミュニティでは並ぶ者が居ない、最強の主催者なのだからの」

 

<最強の主催者>―――その言葉に十六夜・飛鳥・耀・番一の四人は一斉に瞳を輝かせる。

「そう……ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私たちのコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

「無論、そうなるの」

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 四人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。白夜叉はその視線に高らかと笑い声をあげた。

「抜け目のない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

「え?ちょ、ちょっと御四人様!?」

 突然の展開に慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

「ふふ、そうか。―――しかし、ゲーム前に一つ確認しておくことがある」

 白夜叉は着物の裾から<サウザンドアイズ>の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し一言、

 

 

 

 

 

「おんしらが望むのは<挑戦>か―――もしくは<決闘>か?」

 ―――刹那、四人の視界は暗転した。




赤坂です。
投稿が遅れました理由はプロローグの後書きに完全回答があります。
もう少しペースを早めにした方がいいのかな、とか。
もう少し文章全体を長くした方がいいのかな、とか。
色々考えてます。感想やコメントいただけると発狂しながら取り入れます(多分)。
誤字・脱字も報告していただけると幸いです。
また次回お会いしましょう。
ではでは。


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第九話

「おんしらが望むのは<挑戦>か―――もしくは<決闘>か?」

 その言葉と共に四人の視界は暗転し、様々な情景が脳裏を掠める。

 

 ―――黄金色の穂波が揺れる草原。

 ―――白い地平線を覗く丘。

 ―――森林の湖畔。

 

 記憶にない場所が流転を繰り返し、足元から四人を呑み込んでいく。

 

 そんな折、番一はふと思い出す。

(この感覚……どことなくあの時(・・・)に似て―――)

 

 思考が追いつくより先に、四人は何処かへ投げ出される。

 

 ―――白い雪原と凍る湖畔、そして水平に太陽が回る世界だった。

 

「……なっ……!?」

 余りの異常さに、十六夜達は同時に息を呑んだ。

 

 遠く薄明にある星は只一つ。緩やかに世界を水平に回る、白い太陽のみ。

 まるで星を一つ、世界を一つ作りだしたかのような奇跡の顕現。

 唖然と立ち尽くす四人に、今一度、白夜叉は問いかける。

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は<白き夜の魔王>―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。

おんしらが望むのは試練への<挑戦>か?それとも対等な<決闘>か?」

 魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄みに、再度息を呑む四人。

<星霊>とは、惑星級以上の星に存在する主精霊を指す。妖精や鬼・悪魔などの概念の最上級種であり、ギフトを<与える側>の存在でもある。

 十六夜が背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。

「水平に廻る太陽と……そうか、白夜(・・)夜叉(・・)。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるってことか」

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄命に照らす太陽こそ、

私が持つゲーム盤の一つだ」

 

<白夜>フィンランドやノルウェーといった特定の経緯に位置する北欧諸国などで見られる、沈まない太陽の現象。

<夜叉>水と大地の神霊を指し示すと同時に、悪神としての側面を持つ鬼神。

 

 数多の修羅神仏が集うこの箱庭で、最強種と名高い<星霊>にして<神霊>。

 

 彼女はまさに、箱庭の代表ともいえるほど―――強大な<魔王>だった。

「して、おんしらの返答は?<挑戦>であるならば、手慰み程度に遊んでやる。

―――だがしかし<決闘>を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」

「…………っ」

 四人は即答できずに返事を躊躇(ためら)う。

 白夜叉が如何なるギフトを持つかは定かではない。だが勝ち目がないことだけは一目瞭然だ。

 しばしの静寂の後―――諦めたように笑う十六夜がゆっくりと挙手し、

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

 

 

 

 

 

 

「―――いいや?俺は<決闘>を(いど)みたいね」

 そう告げるのは、先程からずっと黙り込んでいた番一。

 その言葉に白夜叉は冷たい視線を送り、

「<挑戦>ではなく<決闘>とな?」

「ああ、<挑戦>じゃなくて、<決闘>だ」

 しかし次の瞬間に番一は訂正した。

「とは言っても?俺も勝てるとは思っちゃいない。だから一合だけ打ち合うことを頼みたい」

 バットを地面に置いて音高く両手を合わせて番一は頼む、

「売られた喧嘩。<挑戦>で俺は終わらせたくない」

 

 戦うなら、挑むのではなく。対等の立場でありたい。

 

 番一には勝とう(・・・)と言う意思はない。

 

 ただ、戦いたい(・・・・)という意思がある。

 

「なにゆえに、<決闘>を望む?」

 白夜叉の感情を殺した質問に、番一は地面に置いたバットを取り肩に担いで答えた。

 

 

「俺が<挑んで>殴るだけじゃ、アンフェアだろ?<殴り合って>こそ、対等だ」

「勝てないと悟った上で戦いに(のぞ)むのか?」

 

「殴ったなら、殴り返されなきゃならない。俺にとって勝ち負けは、その後だ」

 

 

<殴る者は、殴られる者の痛みを知れ>。

 

 

誰かの言葉を真似るように、そう番一は告げた。

(勝てないと悟ってなお―――対等でありたいと言うか)

 白夜叉は堪えきれえず高らかと笑い飛ばす。彼は久しく見なかった、―――本当の愚か者(勇気ある者)だ。

 

 

 笑いを噛み殺して他の三人にも問う。

「く、くく……して、他の童たちはどうする?」

「……二番手で名乗りを上げたらそれこそ笑われる。今回は黙って<挑ませて>貰うぜ、魔王様」

「……ええ。私も」

「右に同じ」

 苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜と、苦虫を噛み潰したような表情で返事をする飛鳥と耀。

「クソッ……こんなことなら俺が先に言えば良かった」

「まあ?俺だって最強の主催者だって聞いて勝てるかどうか考えていたが……

<どうでもいい、とりあえず戦おう>って思ってな」

 十六夜の呟く言葉に反応する番一。

 一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、心配事が本当になって怒る。

「どうしてこうなるのですか!?お互いにもう少し相手を選んでください!<階層支配者>に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う<階層支配者>なんて、冗談にしても寒すぎます!

それより白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

「なに!?元・魔王って事か!?」

「はてさて、どうだったかの」

「なんだ……ったく魔王なんて超素敵ネーミングの奴と戦えると思ってたのによ」

 

 ケラケラと悪戯っぽく笑う白夜叉と肩を落とす番一。

「さて、<決闘>とは言っても名ばかりで、命の奪い合いは無しじゃろ? どうしたものかの。一合というならお互いに一撃ずつ打ち込み打倒した方の勝ち、でどうか?」

「打倒ってのはどういう基準だ?」

「打倒というのは……そうじゃの『たたらを踏ませたら』でどうじゃ?」

「……たたらを踏むってのは数歩押し下がるであってるよな?」

 その言葉に十六夜が答える。

「合ってるぞ番長。―――つか俺もやりたくなってきたぞオイ」

「また今度にしてくれ、今回は俺だ。―――そんぐらいでいいんじゃないか?」

「ふむ……そういうなら良いが、簡潔になったの。ミスがないか不安じゃな」

 そう言って白夜叉が双女神の紋が入ったカードを取り出す。すると虚空から<主催者権限>にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ギフトゲーム名<決闘>

 

 プレイヤー <長井番一>

 

 主催者   <白夜叉>

 

 プレイヤー側勝利条件 主催者の打倒

 

 主催者側勝利条件   プレイヤーの打倒

 

 終了条件 両陣営のどちらかが打倒される

      両陣営のどちらかの降参

 

 ルール

 ※本ギフトゲームは両者対等の上で行われるものとします

 その一・先攻後攻を決め、互いに一撃のみ打ち込みあう。

 その二・相手に一撃を撃ち込むのは相手が静止している時とする。

 その三・攻撃は体のどこかで必ず受け、受け流す行為は禁止とする。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                            <サウザンドアイズ>印

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「いいな。よしやろう。今すぐやろう」

 読み終わるや否や、右手に唾を吐きかけバットを持ち替える。

「まあそう焦るな。……ここでは巻き込む可能性があるのでな。少し離れてもらえるかの?」

 十六夜達を少し離し番一から距離を取って、向き直る。

 

 

「さて、三度目の名乗りじゃ。私は<白き夜の魔王>白夜叉。先攻は譲ってやろう」

「俺は長井番一。<番長>だ。それなら先攻はありがたく戴いとくぜ」

 

 そこに元とはいえ、魔王として消えぬ覇気を纏った白夜叉の姿があった。

 番一もその威風堂々たる名乗りに負けじと名乗りを上げる。

 

 

 ―――一瞬<番長>という言葉に白夜叉は反応したが、番一は気にせずに話しかける。

「そういや、チップやら報酬やら決めてなかったが……どうする?」

「そうじゃのそれならそちらのチップは<私を投げた事への土下座謝罪>として、

 

―――私は報酬として太陽主権・<牡羊座>を賭けようかの」

 

 

 その言葉に黒ウサギが絶句する。

「しししししししし、白夜叉様!?いいいいいいい、一体どういうおつもりで!?<太陽主権>をこんな喧嘩に賭けるなんて!?しかもチップは<謝罪>!?ああああ、ありえません!!!!」

「良いのじゃ黒ウサギ。そもそもに対等が条件。手の抜きようがないようここまで出せば―――私とて手は抜けん」

「背水の陣ってやつか。確かに俺も謝るのは大嫌いだし土下座とか笑われそうだな。謝るくらいなら本気で挑む。

―――貰おうじゃねえかその<太陽主権>とやら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――番一がバットを構え、白夜叉が拳を構える。

 攻防は一瞬。(ただ)の一撃ずつで終わる。

 ヒュゥ、と風が吹いた瞬間、番一が吠える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞッッ!!!白夜叉!!!」

 

 

 

 番一が雪原を蹴り付け、十六夜を追いかけた時など比べ物にならない速度で白夜叉に迫る。大地を砕き、周囲一体が罅割れるほどの力で一歩を踏み抜く。

 一瞬で接敵。あと数歩。両手でバットを握りしめ、大上段に構え。ただ愚直に、振り下ろす。

 その一撃は、大地を砕き山河を打ち崩す―――一撃必殺の威力を秘めていた。

 

 

 

 ―――だがその光景は十六夜達の目にはなく、番一の光が集まっている(・・・・・・・・)背中に向けられていた。

またあれか(・・・・・)なんなんだあれ?)

 十六夜が心の中でそう思った次の瞬間。

 

 

 

 

 

「踏み込みが足りんわッッ!!!」

 

 

 

 

 ―――番一の振り下ろしたバットは、白夜叉の突き出した右の拳によって止められていた。

 バットを振りぬくことは叶わず、勢いで負けて押し返される。

 

 

 

「―――ッッ!?」

 番一は地面に足が着くや否や即座に後ろに跳び態勢を立て直す。

 

 

 

「受け流すのは禁止と書いたが、打ち返し禁止とは書いておらんからの」

 後ろに下がり、態勢を立て直した結果、静止した(・・・・)番一の前には左の拳を引いて構える。不敵な笑みを浮かべる白夜叉の姿があった。

 

 

 

 

 

「授業料替わりじゃ。受け取れいッッ!!!」

 打ち出された拳は番一の腹に突き刺さる。

鈍い音が響き、発生した衝撃が離れたところにいる十六夜達の髪を揺らした。

 

 

 

 ―――しかし番一は吹き飛ばされることも、たたらを踏むこともなかった。

 番一は衝撃の全てを受け止め、足腰を踏ん張り、残った衝撃が大地に伝わり、砕く。

 吹き飛ばすことを前提とした一撃を番一は踏ん張って(・・・・・)耐え切った。

「は、はて?結構強めに打ちこんだのじゃがの?吹き飛ばす事もできぬとは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、くくく、はははは……ガハハハハハ!!言っただろ?鍛え方が違う(・・・・・・)んだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 番一は三歩下がり、大仰に両手を上げる。

「ただまあ、白夜叉を倒せなかった時点で俺の負けだ。ほれ、数歩下がった」

 白夜叉は驚き、聞き直す。確かに一合だけだといったがここまであっさりと引き下がるとは思っていなかったのだろう。

「よいのか?引き分けにもできたはず」

「十六夜も言ってたんだが、<敗者を決めて戦いは終わる>らしいからな。それに」

 番一は両手をおろし苦々しい顔で告げる。

「俺の、少なくとも今打てる精一杯を打ち返された(・・・・・・)んだから、俺の負けだろう?」

「そうはいってもオヌシ。おそらく本気なんぞ出しておらんだろうに」

 

 

 ―――番一は確かに本気は出していなかった。全力を出しただけだ。

なにより、人前で軽々しく本気なんて出すべきじゃない。

 

 

「いいんだよ俺の負けで。さて、チップを渡さなきゃな―――さっきは投げてすまなかった」

 番一はバットを放り投げ頭を地面に叩きつけ、心の底から謝罪する。

「う、うむ。確かに謝罪を受け取った」

 

 

 番一の顔には敗北の色はなく、ただただ満足そうな顔をしていた。




赤坂です。
若干、深夜テンション入りながら書いたので誤字脱字が多い可能性があります。
目がしょぼしょぼしていて見落としている可能性も高いです。

―――全力オリジナルなんですけどどうでしょう?
(全部オリジナルとは言ってない)
後半スッカスカな感じが個人的にはありまして……。
行開け多すぎましたかね……。
感想、評価、誤字脱字報告。していただけると幸いです。
ではでは。


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第十話

やっとここまで来ました。


 ―――何処となく納得がいかないような表情で白夜叉は番一の謝罪の言葉を受け取り、十六夜達の方に向き直る。

「さて、と。お主らの試練も決めねばの」

 そう言って十六夜達に白夜叉は近づいて行き、番一は頭を掻きながら座り込む。

 

 白夜叉の背をボーッ、と眺めていると、彼方の山脈から甲高い叫び声が聞こえ、獅子と鷲を合わせたような鳥が飛んできて、白夜叉が再び羊皮紙を取り出し書き綴る。

 羊皮紙を受け取った直後に耀が手をビシ!と手を上げ、鳥?か何かに近づき、飛鳥と黒ウサギ、白夜叉は湖畔の近くに立ち、十六夜は番一の隣に歩いてきた。

 隣に立ってからしばらくの間、耀の動向を眺めてから番一に話しかける。

「……。なあ番長。本気じゃなかったのか?」

「ん。まあな、肩が暖まってなかった。あークソ、負けた負けた」

 負けたというも、番一はそれでも少し満足そうな顔をする。

 

「いやはや、俺の素の全力の一撃を受け止められる奴が異世界にいるとは思わなかった」

「へえ?番長のいた世界には普通にいたと。桜が咲き続けるとかいう話と一緒に今度話してくれよ」

「おう、わかった。それよりあの鳥……?はなんだ」

 二つ返事で引き受け、番一は十六夜に尋ねる。

 

鷲獅子(グリフォン)だそうだ。春日部のやつが張り切ってた。アイツ、動物全般と話せるらしい」

「まじか!?すげえなそりゃ。……俺のとこにも猫と話せる奴はいたが、猫限定だったしな……」

「―――番長のいた世界がどういう世界なのか、本気で気になってきたぞ」

「また今度な、と。飛んでったな。……どういうルールなんだ?」

「<グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う>、<力><知恵><勇気>の(いず)れかでグリフォンに認められれば勝利、だそうだ」

 ざっと十六夜が説明する、

 

「<勇気>、ね。そんな曖昧なもので戦いたくねえな。勇気の基準なんて人それぞれだろうに」

 

 そう言いつつ、飛んで行ったグリフォンを目で追う。

「そういえば番長。聞きたいことがある」

「なんだ十六夜、何でも聞け」

 十六夜は少し溜めてから問う。

 

 

「番長の背に集まってた、あの光はなんなんだ?」

 

 

 その質問に番一は(いぶか)しむような顔をして、

「……。何のことだ(・・・・・)?思い当たる節がないんだが」

「オマエが白夜叉に殴りかかる時に背中に光が集まってたんだが」

「光が集まるってどういう状況だよ?」

 

 番一は自分の身に起きることなどどうでもいい、というように立ち上がり歩き出しながら言う、

「まあギフト鑑定するとかなんとか黒ウサギも言ってたし、その時にわかるだろ」

 バットをグルグルと回し、肩に担ぎ、耀の方を見て驚く、

「うお!?グリフォンから落ちたぞ!?」

「春日部さん!?」

 皆が見守る中、彼方の山脈を廻り、帰ってきたグリフォンの背から耀は振り落とされていた。

 黒ウサギは即座に助けに行こうとし、手を十六夜に掴まれていた。

「は、離し―――」

「待て!まだ終わってない!」

 湖畔の上で振り落とされた耀は、次の瞬間体を(ひるがえ)し、慣性を殺すような緩慢な動きはやがて

彼女の落下速度を衰えさせ、ついには湖畔に触れることなく飛翔したのだ。

「…………なっ」

「おお、すげえな」

 番一以外の全員が絶句した。無理もない。

 先程までそんな素振りを見せなかった春日部耀が、湖畔の上で風を纏って浮いているのだ。

 ふわふわと泳ぐように不慣れな飛翔を見せる春日部耀に近寄ったのは、呆れたように笑う十六夜だった。

 

「やっぱりな。お前のギフトって、他の生物の特性を手に入れる類だったんだな」

 軽薄な笑みに、むっとした声音で耀が返す。

「……違う。これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」

「ただの推測だ。黒ウサギと出会ったときに風上に立たれたらわかるとか言ってたろ。普通の人間にはできない芸当だ、だとすると春日部のギフトは他種とのコミュニケーションだけではなく、他種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか……ってな。グリフォンのあの速度に耐えられる生物は地球上にいないだろうし?」

 興味津々な十六夜の視線を避ける耀。

 

「なあ白夜叉、宙に浮くのって凄いモノなのか?」

「そうじゃな。空を飛ぶ者は大抵の場合翼を持つ。驚くべきはグリフォンのギフトの特性を使用したという点だ。―――おんしの持つギフトだが先天性か?」

 番一の質問に白夜叉は答え、そのまま耀に話しかける。

「ううん。父さんにもらった木彫りのおかげ」

「木彫り?良かったらその木彫りというのを見せてくれんか?」

 頷いた耀は、ペンダントにしていた丸い木彫り細工を取り出す。

 白夜叉は渡された手の平大の木彫りを見つめて、急に顔を顰める。

 

「材料は(くすのき)の神木……中心を目指す幾何学線……中心に円状の空白……系統樹か?となると……この図形はこうで円状が収束するのは……」

 

 ブツブツと呟きながら鑑定をする白夜叉。

 

「いや、これは……これは凄い!!本当にすごいぞ娘!!これが本当に人造だとすればおんしの父は神代の大天才だ!まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは!コレは正真正銘<生命の目録>と称して過言無い名品だ!」

 

 興奮したように声を上げる白夜叉。耀は不思議そうに小首を傾げて問う。

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ?」

「そうじゃの、しかしこの木彫りはセンスが溢れとるの。

わざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。

再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化を遂げて進む円の中心、即ち世界の中心を目指して進む様を表現している。

中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか、生命の歓声が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成の作品だからか。

―――うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ!実にアーティスティックだ!

おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

「ダメ」

 耀はあっさり断って木彫り細工を取り上げる。

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

「それは分からん。詳しく知りたいなら店の鑑定士に頼むしかない。それも上層に住むものでなければ鑑定は不可能だろう」

「え。白夜叉様でも鑑定できないのですか?今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 グッ、と気まずそうな顔になる白夜叉。

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 ううむ、と唸り困ったように白髪を掻き上げ四人の顔を見つめる。

「どれどれ……ふむふむ……うむ、四人ともに素養が高いのは分かる。しかし何とも言えんな。

おんしらは自分のギフトの力をどの程度に把握している?」

 

「企業秘密」

「右に同じ」

「以下同文」

「説明不要」

 

「うおおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに」

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札張られるのは好きじゃない」

「説明不要なのは本当だぞ?微塵も知らんし想像もつかないからな!」

 ハッキリと拒絶する十六夜とそれに頷く二人、本当に微塵も知らない番一。

「何にせよ<主催者(ホスト)>として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには<恩恵(ギフト)>を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 白夜叉がパンパンと柏手を打つ。すると四人の前に光り輝く四枚のカードが現れる。

 

 

 

 逆廻十六夜の前にはコバルトブルーのカードが、

 

 久藤飛鳥の前にはワインレッドのカードが、

 

 春日部耀の前にはパールエメラルドのカードが、

 

 長井番一の前にはナイトブラックのカードが、

 

 

 

 それぞれの名とギフトが刻まれたカードを受け取る。

 黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で四人のカードを覗き込んだ。

 

「ギフトカード!」

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「果し状?」

 

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息が合ってるのです!?このギフトカードは顕現している恩恵を収納できる超高価なカードですよ!他にも―――」

「つまり。素敵アイテム、と」

「だからなんで適当に聞き流すのですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 黒ウサギに叱られながら四人はそれぞれのカードを物珍しそうにみつめる。

「本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは<ノーネーム>だからの。少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」

「……どういう事だ?」

「だから絵柄の文句は黒ウサギに言えと……」

 

 

違う。絵柄じゃない(・・・・・・・・・)この記載はなんだって(・・・・・・・・・・)聞いているんだ(・・・・・・・)

 番長がギフトカードを白夜叉に見せる、他の者も同様に覗き込み

 

「な……んだ?これは」

 一斉に息を呑む。

 

 ―――壊れたテレビのように荒く掠れた、意味を為さない文字が間隔を開けて絶えず変化をしていた。

 

 

 

 

 

 

    <領  争   読   >

    <箱   風   殴  >

    <世  漁  軸    >

    <星   庭   砕  >

    < 創   後    ん>

    <す    題   親 >

    <  え    物   >

    <解 事       止>

    <問    児   語 >

    <ら   黒   名  >

    <無  廃   黄   >

 

 

 

 

 

 そしてたっぷり一分ほど変化し続け、

    <解析中止(コード:エラー)

 と表示され、停止した。

「……なんじゃ、これは?」

「俺に聞くなよ。確かに俺は負けたが、さすがに壊れてるのはちょっと……」

阿呆(あほう)!!ワシがそんな物を渡すか戯けッッ!!……じゃがこれはおかしい。明らかに異常(・・)だ」

「ヤハハ、それなら俺のこれもレアケースなわけだ?」

 十六夜も白夜叉にギフトカードを渡す。

 

 

    <正体不明(コード:アンノウン)

 

 

「……いや、そんな馬鹿な」

 白夜叉は二人のギフトカードを持ち、悩む。

「<正体不明(コード:アンノウン)>に<解析中止(コード:エラー)>じゃと?いいやありえん、全知である<ラプラスの紙片>が

エラーを起こすなど……」

「何にせよ、鑑定は出来なかったって事だろ。俺的にはこの方がありがたいさ」

「まあ仕方がないな。諦めることにしよう」

 パシッとギフトカードを取り上げる二人。

 

(……蛇神を倒す童と、私の一撃でも倒れぬ童の二人にエラーか)

 

 本来神格保持者など、人間の手で倒せるはずがなく、神霊であり星霊でもある白夜叉の肋骨をへし折る勢いで振り抜いた一撃を耐えきるというのもまた、おかしな話ではある。

(強大な力を持っていることは間違いない……<ラプラスの紙片>の解析ギフトを無効化した?)

 

 修羅神仏の集う箱庭において無効化のギフトなど対して珍しくなどない。だが、それは単一の能力に特化した武装に限られた話。

 

 強大な奇跡の力を宿す者が、奇跡を打ち消す御技を宿しては大きく矛盾する。

 

 その矛盾の大きさに比べればまだ<ラプラスの紙片>に問題がある方が納得できる。

「一応聞いておくが、他の者には異常はないか?」

 白夜叉は念のために聞いておく。これ以上の厄介ごとは面倒だ。

 

「私は<威光>というものね」

「私は<生命の目録(ゲノム・ツリー)>と<ノーフォーマー>」

 

 飛鳥と耀が答え、白夜叉が安堵で胸をなでおろす。

 

「っとすまん白夜叉。もう一個だ」

 

 ……番一がもう一度呼ばねば、本当に安堵できていたであろう。

「……ハァ?今度はなんじゃ。おんしにも正体不明が来たか?」

「いや、違う。今度は脱字だ」

 そう言って見せてくるギフトカードには、

 

解析中止(コード:エラー)> <    の黄金バット>

 の二つの文字。

 

 

 

 

 それを見た白夜叉は今度は顔面を蒼白に染め、今にも泡をふき出さんばかりになっていた。

 

 

 

 

 

「―――――――――おんし、<番長>というのは言葉のアヤではないのか?」

「いんや?元の世界では名乗ってたし」

「……白夜叉様?」

 番一が答えた瞬間、ブツブツと何かを呟き始める白夜叉。

 

 

 またしてもたっぷり五分ほどして頭を掻きながら伝えた。

 

 

 

「今度腕利きの鑑定士を呼ぶ。必ず来い(・・・・)。命に代えてもだ」

 

 

 

 

 白夜叉は、戦う前よりもはるかに警戒心と殺気を(たぎ)らせて厳命する。

「……。おいおい、そりゃねえだろ?せめて説明ぐらいしてくれ。そんなにヤバいのか?」

 

「最悪の場合、箱庭上層の全てが殺しに来る」

 

 即答する白夜叉、その言葉に黒ウサギは唖然とする。白夜叉の目には冗談の色は微塵もない。

「だから説明しろ。ヤバいのは脱字か?黄金バットってやつか?」

 

「黄金バットじゃ。いいか、よく聞け。」

 

 白夜叉は息を吸い、恐怖に歪む声(・・・・・・)で、告げる。

 

 

 

 

 

 

 

「―――黄金バットを持つものは、一切の例外なく(・・・・・・・)<箱庭番長>(・・・・・・)を名乗る者だ(・・・・・・)……!!」

 

 

 




赤坂です。
やっとギフト出せましたよ!ええ、ようやくです!
……え?訳が分からんって?それなら変化する文字の中にネタを入れておいたんで探して見てください。
とりあえず、いったん10話で区切りがいいので……特に何もしません。
次の話は少し遅れるかもしれません。(当社比)
誤字・脱字ありましたら報告していただけると幸いです。
感想、評価。狂喜乱舞します。
ではでは。


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第十一話

 ―――<箱庭番長>、そう告げてから押し黙る白夜叉に十六夜は声をかける。

「……。箱庭番長ってなんだ?」

「番長だろ?」

「いや違う。俺が聞きたいのは、<番長がなぜそんなに恐ろしいのか>だ。黒ウサギはどうなんだ、何か知ってるか?」

「黒ウサギも初ウサ耳です……。そもそも、箱庭にも番長がいたのですね。白夜叉様」

「当事者なんだし俺も聞きたいな。白夜叉ですら恐れる存在ってどういうことだよ?」

 

「―――これ以上の情報は、下層の者には教えられん。詳しく知りたければ二桁まで上がるがよい」

 

 二桁。箱庭上層の中でも主神や星霊の集う、真の魔境。

 其処まで上がらねば、知る事すら許されぬ存在だと白夜叉は告げる。

 

「なるべく早く鑑定士を呼ぶ。そこのおんしも鑑定しなおすか?」

 そう言って十六夜を見る白夜叉、十六夜は(かぶり)を振り断る。

「いらねえよ。言った筈だ。他人に値札張られるのは好きじゃない」

「なあ。教えられんって言ってるが、俺の背中に光が集まるとかいうのは関係あるのか?十六夜に言われて超気になるんだが」

「……。スマンがまた今度だ。だが番長であるおんしには少しは語ってやろう」

 白夜叉はこれ以上の追及を逃れるように柏手を打ち、元の和室へと戻った。

 

 

 

            ※

 

 

 

 六人は暖簾の下げられた店前に移動し、耀達は一礼する。

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは番一くんのように対等の条件で挑むのだもの」

「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、恰好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」

「俺はしばらくはいいかね。お前らが挑むまで再挑戦は許され無さそうだしな」

 

「「「今後、抜け駆け禁止」」」

「おう。了解したぜ。ガハハハハ!」

 

「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ……ところで」

 白夜叉はスッと真剣な顔で黒ウサギ達を見る。

 

「おんしらは自分たちのコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」

「名前とか旗の話なら聞いたぜ」

 

「それを取り戻すために<魔王>と戦わねばならんことも?」

「聞いてるわよ」

 

「……。では、おんしらは全てを承知したうえで黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

 

 黒ウサギはドキリとした顔で視線を逸らす。そして同時に思う。

 もしコミュニティの現状を話さない不義理な真似をしていれば、自分はかけがえのない友人を失っていたかもしれない。

「打倒魔王ってカッコイイじゃん?」

「<カッコイイ>で済む話ではないのだがの……コミュニティに帰ればわかるだろう。それでも魔王と戦うことを望むというなら……そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」

 予言するように断言する。二人は一瞬言い返そうと言葉を探したが、白夜叉の助言には物を言わさぬ威圧感があった。

 

「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。おんしら二人の力では魔王のゲームを生き残れん」

 

「……ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。次はあなたの本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」

「私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い」

「おう。遊びに行くぜ」

「番長は抜け駆け禁止って言われたばっかだろ?俺が行く」

「十六夜こそ。次は私」

「あら。今喧嘩を売ったのは私よ?私が先でしょう」

 

「……ただし黒ウサギをチップに賭けて貰う」

「「「「よし、賭けた」」」」

「嫌です!それと私がなぜチップとして賭けられるんですか!?」

 

 怒る黒ウサギ、笑う白夜叉と問題児たち。

 店を出た五人は無愛想な女性店員に見送られて<サウザンドアイズ>二一〇五三八〇外門支店を後にした。

 

 

            ※

 

 

 白夜叉とのゲームを終え、噴水広場を越えて五人は半刻ほど歩いた後<ノーネーム>の住居区画の門前に着いた。門を見上げると、旗が掲げてあった名残のようなものが見える。

「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入り口からさらに歩かねばならないのでご容赦ください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので……」

 黒ウサギは躊躇(ためら)いつつ門を開ける。すると門の向こうから乾ききった風が吹き抜けた。

 砂塵から顔を庇うようにする四人、視界には一面の廃墟が広がっていた。

「っ、これは……!?」

 街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥と耀は息を呑み、十六夜はスッと目を細め、番一は表情を変えずに見つめる。

 

 十六夜は木造の廃墟に歩み寄って囲いの残骸をを手に取った。

 少し握ると、木材は乾いた音を立てて崩れていった。

 飛鳥と耀は崩れかけた廃墟に近寄り、見つめ。

 番一は黒ウサギの後ろでそんな彼らを見つめていた。

 

 

 ―――十六夜が手の中の木片を見つめ、黒ウサギに尋ねる。

「……おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは―――今から何百年前の話だ(・・・・・・・)?」

 

 

 

 

「僅か三年前でございます」

「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが(・・・・・・・・・・)三年前だと(・・・・・)?」

 

 そう、彼ら<ノーネーム>のコミュニティは―――まるで何百年という時間経過で滅んだように崩れ去っていたのだ。

 美しく整備されていたはずの白地の街路は砂に埋もれ、木造の建築物は軒並み腐って倒れ落ちている。

 要所で使われていた鉄筋や針金は錆に蝕まれて折れ曲がり、街路樹は石碑のように薄白く枯れて放置されていた。

 とてもではないが三年前まで人が住み賑わっていたとは思えない有様に、三人は息を呑んで散策する。

 

「……断言するぜ。どんな力がぶつかり合っても、こんな壊れ方はあり得ない。この木造の壊れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」

 飛鳥と耀も廃屋を見て複雑そうな感想を述べる。

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

「……生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」

 十六夜はあり得ないと結論付け、二人の感想の声も重い。

 

 黒ウサギは廃墟から目を逸らし、

「……魔王とのギフトゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間たちもみんな心を折られ……コミュニティから、箱庭から去っていきました」

 大掛かりなギフトゲームの時に、白夜叉の様にゲーム盤を用意するのはコレが理由だ。

 力あるコミュニティと魔王が戦えば、その傷跡は醜く残る。魔王はあえてそれを楽しんだのだ。

 黒ウサギは感情を殺した瞳で地面を見つめる。

 

 

 

 ―――そんな中、番一は何も言わずに本拠に向けて歩き出す。十六夜はその背中に声をかける。

「おい番長。オマエは何も思わないのか?」

 

 

「―――……なら言っとくがな」

 

 

 溜め息をつき、面倒臭そうに十六夜に向き直る。

 

「元の世界でもこういう光景は見たし、俺以上どころか人間辞めてるレベルで強い奴もいたからこういう光景も別段不思議でもないんだよ。超常現象なんでもござれすぎてな。そもそもここは、修羅神仏集まる箱庭だぜ?」

 そう言って再び歩き出す。

 

 

 その後ろに黒ウサギや飛鳥、耀は付いて行き、十六夜だけは瞳を爛々と輝かせる。

 

 

 そして期待に満ちた声で、呟く。

「<箱庭番長>に<魔王>―――いいぜいいぜ。想像以上に面白くなってきた……!」

 

 

 

            ※

 

 

 

 ―――<ノーネーム>・居住区画、水門前。

 五人は廃墟を抜け、徐々に外観が整った空き家が立ち並ぶ場所に出る。五人はそのまま居住区を素通りし、水樹を貯水池に設置するのを見に行く。

 

 貯水池には先客がいた。

「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調(ととの)っています!」

「ご苦労様ですジン坊ちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 先客は―――ワイワイと黒ウサギの元に群がる子供たちだった。

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

「眠たいけどお掃除手伝ったよー」

「ねえねえ、新しい人たちって誰!?」

「強いの!?カッコイイ!?」

「YES!とても強くて可愛い人たちですよ!みんなに紹介するから一列に並んでくださいね」

 

 パチン、と黒ウサギが指を鳴らす。すると子供たちは一糸乱れぬ動きで横一列に並ぶ。

 数は二十人前後だろう。中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。

 

(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)

(じ、実際に目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)

(……。私、子供嫌(こどもぎら)いなのに大丈夫かな)

(おお、いい動きだな。体育の授業みたいだ)

 

 三者三様の感想を心の中で呟く。子供が苦手にせよ何にせよ、これから彼らと生活していくのなら不和を生まない程度に付き合っていかねばならない。

 コホン、と仰々しく咳き込んだ黒ウサギは四人を紹介する。

 

「右から長井番一(ながいばんいち)さん、逆廻十六夜(さかまきいざよい)さん、久遠飛鳥(くどうあすか)さん、春日部耀(かすかべよう)さんです。

みんなも知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。

ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

 

「あら、別にそんなのは必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」

「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 飛鳥の申し出を、黒ウサギはこれ以上ない厳しい声音で断じる。

 今日一日の中で一番真剣な表情と声だった。

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で始めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事ができない掟。子供の内から甘やかせばこの子たちの将来の為になりません」

「……そう」

 黒ウサギは有無を言わせない気迫だけで飛鳥を黙らせる。今日までの三年間、たった一人でコミュニティを支えていたものだけが知る厳しさだろう。

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつけるときはこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

 

「「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」」」

 

 

 キーン、と耳鳴りがするほどの大声で二十人前後の子供たちが叫ぶ。

 四人はまるで音波兵器のような感覚を受けた。

「ハハ、元気がいいじゃねえか」

「そ、そうね」

(……。本当にやっていけるかな、私)

「元気なのはいいことだな。これからが楽しみだ」

 ヤハハと笑う十六夜、飛鳥の困惑する表情、耀の戸惑う表情、番一の期待する表情。

 さて、と黒ウサギは呟き、

「自己紹介も終わりましたし!それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので十六夜さんは屋敷への水門を開けてくださいな!」

「あいよ」

 十六夜が貯水池に下り黒ウサギは貯水池の中心の柱にピョン、と大きく跳躍する。

 

「ジン、本拠に帰ってからはコレの掃除してたのか?」

 番一はそんな光景を横目にジンに話しかけた。

「ええ。本拠と別館に直通している水路を掃除しました。今回開く水路はあくまで最低限です。この水樹ではまだ貯水池と水路を全部埋めることは不可能でしょうし。

……昔はあの台座に龍の瞳を水珠に加工したギフトを使っていたのですが、それも魔王に取り上げられてしまい」

「……それなら今まで水はどうしてたんだ?」

 周りの手持ち無沙汰な子供達が答える。

 

「みんなと一緒にバケツを両手に持って川から汲んで運んでました!」

「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外から水を汲んでいいなら貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」

「……。そうか、頑張ったな。これからはその心配はなくなるぞ!」

 そう言って胸を張る番一。子供達が感謝の声をあげる。

 

 

 

「……。番一くんが胸を張ってるけれど、あの水樹は十六夜くんが手に入れた物よね?」

「……。うん、そのはず。黒ウサギもそう言ってたし」

 ……その裏では女性陣が的確な指摘をしていた。

 

 

 

 

「それでは紐を解きますよー」

 黒ウサギが苗の紐を解くと、根を包んでいた布から大波のような水が溢れ返り、激流となって貯水池を埋めていった。

 水門の鍵を開けていた十六夜は驚いて叫ぶ。

「ちょ、少しはマテやゴラァ!!さすがに今日はこれ以上濡れたくねえぞオイ!」

 今日一日、散々ずぶ濡れになった十六夜は慌てて石垣まで跳躍する。

 

 封を解かれた水樹の苗は台座の柱を瞬く間に絡め、さらに水を放出し続ける。

「凄い!これなら生活以外にも水を使えるかも……!水仙卵華(すいせんらんか)などを繁殖させられれば……!」

 水樹は想像以上の量の水を放出し、一直線に屋敷への水路を通って満たしていく。

 

「水仙卵華ってなんだ。農業でもするのか御チビ(・・・)?」

 え?とジンは半口を開いて驚いた。花を知らなかった事ではない。

 何の前触れもなく『御チビ』という尊敬語と嘲笑を交えた、何とも言えない愛称で呼ばれたことに驚いたのだ。

 

「す、水仙卵花は別名・アクアフランと呼ばれ、浄水効能のある亜麻色の花の事です。薬湯に使われることもあり、観賞用にも取引されています。……確か噴水広場にもあったはず」

「ああ、あの卵っぽい(つぼみ)の事か?そんな高級品なら一個ぐらいとっとけばよかったな」

「水仙卵華は南区画や北区画でもギフトゲームのチップとしても使われるものですから、採れば犯罪です!」

「おいおい、ガキのくせに細かいことを気にするなよ御チビ」

 

 カチン、とジンは癪に障ったように言い返そうとする。

 しかし十六夜は右手を出してそれを制し、真剣な顔と凄味のある声で、

 

「悪いが、俺が認めない限りは<リーダー>なんて呼ばねえぜ?この水樹だって気が向いたから貰ってきただけだ。コミュニティの為、なんてつもりはさらさらない」

 

 ジンは言葉に詰まる。蛇神を打倒してこの水樹を手に入れたのは十六夜だ。大戦力だと期待していただけに、この言葉の衝撃も大きかった。

「召喚された分の義理は返してやる。箱庭の世界は退屈せずに済みそうだからな。

―――だがもし、義理を果たした時にこのコミュニティがつまらねえ事になっていたら、

……俺は躊躇(ためら)いなくコミュニティを抜ける。いいな?」

 

 真摯(しんし)とも、威圧的ともとれる不思議な声音で十六夜は語る。軽薄そうな態度に気を取られていたが、この男こそ四人の中で最もたる問題児なのだ。

 

 ジンは覚悟するように強く頷いて返す。

「僕らは<打倒魔王>を掲げたコミュニティです。何時までも黒ウサギに頼るつもりはありません。次のギフトゲームで……それを証明します」

「そうかい。期待してるぜ御チビ様」

 一転してケラケラと軽薄な笑いを滲ませる。ジンとしてはイラッとする呼び方だが、今はそれも仕方がない事だと言葉を飲み込む。

(初めてのギフトゲーム……僕が頑張らないと)

 水面に浮かぶ十六夜の月を見下ろし、ジンは一人で鼓舞するのだった。




赤坂です。
少し遅れました。申し訳ありません。
次回ですが・・・今回よりは早めに投稿しようとか思っています。
それと・・・ギフトゲームでも開催しようかな?なんて考えています。
ですが予定は未定です。本当に申し訳ありません。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。


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第十二話

 屋敷に着いた頃には既に夜中になっており、月明かりのシルエットで浮き彫りになる本拠はさながらホテルのような巨大さであった。

 

 耀は本拠となる屋敷を見上げて感嘆したように呟く。

「遠目から見ても大きかったけど……近づくと一層大きいね。何処に泊まればいい?」

「本来であれば、コミュニティ内の序列に従って上位から最上階に住むことになっているのですが……今は好きなところを使っていただいて結構でございますよ。移動も不便でしょうし」

「そう。そこにある別館は使っていいの?」

 飛鳥が屋敷の脇にある建物を指さす。

「ああ、あれは子供たちの館ですよ。本来は別の用途があるのですが、警備の問題でみんな此処に住んでます。一二〇人の子供と一緒の館でよければ」

「遠慮するわ」

 飛鳥は即答した。苦手ではないにせよそんな大人数を相手にするのは御免なのだろう。

 四人は箱庭やコミュニティの質問はさておき、『今はともかく風呂に入りたい』という強い要望の下、黒ウサギは湯殿の準備を進める。

 

 しばらく使われていなかった大浴場を見た黒ウサギは真っ青になり、

「一刻ほどお待ちください!すぐに綺麗にいたしますから!」

 と叫んで掃除に取り掛かった。それはもう凄惨なことになっていたのだろう。

 四人はそれぞれに宛がわれた部屋を一通り物色し、来客用の貴賓室で集まっていた。

 

 

 

            ※

 

 

 

「駄目だよ。ちゃんとお風呂には入らないと」

「……ふぅん?聞いてはいたが、オマエは本当に猫の言葉がわかるんだな」

 耀がニャーニャーと鳴く三毛猫と話している姿に十六夜は声をかける。

「うん」

 簡単な返事をする耀の腕の中で十六夜に向けて怒りを込めた鳴き声を出す三毛猫。

「駄目だよ、そんなこと言うの」

 傍目ではニャーニャー鳴いているようにしか見えない猫の声に反応する耀は不気味に見えたが、

「猫と話せる奴なら俺の世界にもいたしな……猫限定だったが」

 当然だ、という風に番一が反応するおかげで中和されていた。

 

「……いい加減気になるんだが、番長の世界はどうなってるんだ?」

「あ、それ気になる」

「私も気になるわね」

 三人に興味津々の表情で詰め寄られた番一は迷惑そうに手を振る。

「あー……。今度話してやる、暇な時とかに」

「ちょうど今が暇な時なのだけれど?」

 飛鳥が追い打ちをかけ、番長の世界についての情報を絞り出そうとするも、

 

 

「ゆ、湯殿の用意ができました!女性様方からどうぞ!」

 

 

 そんな黒ウサギの声が廊下から聞こえ、中断されてしまった。

「な?暇じゃないだろ。お先にどうぞ?」

「……。そうね、先に入らせてもらうわ。十六夜君もそれでいい?」

「ああ。俺は二番風呂が好きな男だから特に問題はねえよ」

「それじゃ行ってくる」

 女性二人は黒ウサギと共に大浴場に向かい、仕切り直しの様に十六夜は番一に話しかける。

 

「で、なんでそんなに話そうとしないんだ?」

「説明に時間が掛かるから、だな。だからこそ『暇な時間に』って言ってるんだ」

「女性陣の風呂という暇な今、話してくれよ」

「いいぜ。ただ―――時間がないからザックリと、な?」

 ゴホン、と咳払いをしてソファに座り直す。

 

 

「さて十六夜。何を聞きたい?」

「そうだな……番長が勝てない奴はいるのか?」

「いるぞ。それも割と多くな。そうだな……」

 んー、と番一は少し悩み、

 

 

「たとえば……商店街のパン屋の店長とかな」

「なんでパン屋の店長が強いんだよ」

 ガハハ!ヤハハ!と笑って十六夜が何かに気づいたように窓を見る。

 

「時間がないってのはそういう事か(・・・・・・)……」

「ん?やっと気づいたのか」

 番一は笑みを浮かべ、十六夜は笑いを止めて番一に言う。

 

 

「早く終わらせねえとな。行くぞ(・・・)

「ガハハハハ!外の奴ら(・・・・)と話しつけなきゃ風呂にも入れんしな」

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

 その夜は十六夜の月だった。

 黒ウサギ達に招かれた館を出た二人は、コミュニティの子供たちが眠る別館の前で仁王立ちするかのごとく腕を組んで立ち尽くしていた。

「おーい……そろそろ決めてくれねえか、風呂に入れん」

 ザァ、と風が木々を揺らす。一見して人の気配はないものの、番一は呼びかけ十六夜は面倒くさそうな顔をしながら立ち尽くす。

「ここを襲うのか?襲わないのか?やるならシバかれる覚悟で来いよ?」

 ザザァ、ともう一度だけ風が木々を揺らす。やはり誰かが隠れているようには見えない。

 

 

 

「……十六夜、やるか?」

「……おう番長、やるぞ」

 

 

 

 二人は石を幾つか拾い、木陰に向かって番一はノックし、十六夜は軽いフォームで投げる。

 

「ほっ!」

「よっ!」

 

 ズドガァン!と軽いノックやフォームからは考えられないデタラメな爆発音が辺り一帯の木々を吹き飛ばし、同時に現れた人影を空中高く蹴散らせ、別館の窓ガラスに振動を奔らせる。

 

 別館から何事かと慌てて出てきたジンが十六夜に問う。

「ど、どうしたんですか!?」

「侵入者っぽいぞ。例の<フォレス・ガロ>の連中じゃねえか?」

 

 空中からドサドサ落ちてくる黒い人影と瓦礫。

 意識のある者はかろうじて起き上がり、十六夜を見つめる。

 

「な、なんというデタラメな力……!蛇神を倒したというのは本当の話だったのか」

「ああ……これならガルドの奴とのゲームにも勝てるかもしれない……!」

 侵入者の視線に敵意らしいものは感じられなかった。

 

 番一はなんとなく侵入者に歩み寄って声をかける。

「お前らは人間……?いや、擬人化した動物?」

 侵入者たちの姿はそれぞれ人間とはかけ離れたものだった。

 

 犬の耳を持つ者、長い体毛と爪を持つ者、爬虫類のような瞳を持つ者。

 十六夜も番一と同様に物色するように彼らを興味深く見つめた。

 

「我々は人をベースに<獣>のギフトを持つ者。しかしギフトの格が低いため、このような半端な変幻しかできないのだ」

「へえ……。で、何か話したくて襲わなかったんだろ?ほれ、さっさと話せ」

 十六夜がにこやかに話しかける。侵入者たちは沈鬱そうに黙り込んだ後、意を決するように口を開く。

 

 

 

「恥を忍んで頼む!」

 

「断る!」

 

「<フォレス・ガロ>を完膚……って、え……!?」

 

 

 

 

 番一が話し始めた侵入者の言葉に即座にお断りする。

「おい、番長。やっと話してくれるんだから初っ端から断るなよ」

「えー……。どうせ言いたいことは

『自分らは人質取られててー、だから強いあんたに助けてほしくてー、お願い♪』だろ?

来た理由も『上の奴に言われてー、人質攫わないと俺らの人質助からないー』みたいな」

 

「その話し方やめろ気色悪い。で?どうなんだ」

 十六夜は無駄にキャピキャピした気持ちの悪い喋り方で話した番一の言葉の真偽を侵入者に問う。

「は、はい合っています……。どうしてそこまで御見通しで……?」

 

「むしろそれ以外に理由がないと思うんだが?」

「だな。とりあえずオマエら。その人質はもうこの世にはいねえから。はいこの話題終了」

 

「―――……なっ」

「十六夜さん!!」

 ジンが慌てて割って入る。しかし十六夜は神にも冷たい声音で接する。

「隠す必要あるのかよ。お前が明日のギフトゲームに勝ったら全部知れ渡ることだ」

「そ、それにしたって言い方というものがあるでしょう!番一さんもどうしてふざけていられるのですか!?」

「そりゃ俺には関係ないし、自分たちの責任だろ?」

「ああそうだ。殺された人質を攫ってきたのは誰だ?他でもないコイツらだろうが。なんで気を使わなきゃならない」

 もしも人質を救うために新しい人質を攫ってきていたのだとしたら……殺された人質の半数は彼らが殺したといっても過言ではない。

 

 

 と、そこで十六夜は妙案を思いつく。

 

 

(人攫いのゲスイ悪党……使えるか?)

 ふと番一を見ると、同じように暗黒に染まる微笑を浮かべてこちらを見ていた。

 

((よし))

 

 二人は出会って時間もあまり経っていないにもかかわらず、アイコンタクトで作戦を共有した。

 

 十六夜はまるで新しい悪戯を思いついた子供のような笑顔で侵入者の肩を叩き、

「<フォレス・ガロ>が憎いか?叩き潰してほしいか?」

「あ、当たり前だ!俺たちがアイツのせいでどんな目にあってきたか……!」

「そうかそうか。でもお前達にはそれをするだけの力はないと?」

 ぐっと唇を噛みしめる男たち。

 

「ア、アイツは魔王の配下。ギフトの格も違うし、俺たちがゲームを挑んでも勝てるはずがない!いや、万が一勝てたとしても魔王に目を付けられたら」

「その<魔王>を倒す為のコミュニティがあるとしたら?」

 

 え?と全員が顔を上げた次の瞬間、番一はジンの肩をガッチリと掴み、

「何を隠そう!このジン坊ちゃんが魔王を倒す為の(・・・・・・・)コミュニティを作る(・・・・・・・・・)と言っているんだ!」

「なっ!?」

 侵入者一同含め、ジンでさえ驚愕する。

 

 本来、ジンのコミュニティの趣旨は、

 コミュニティを守り、旗印と名を取り戻し、奪っていった魔王を倒すことである。

 

 しかし番一の説明では、

 全ての魔王を対象として、倒す事を趣旨としているコミュニティではないか。

 

 

「魔王を倒す為のコミュニティ……?」

「そう、魔王を倒すのさ。その傘下も含め全てのコミュニティを魔王の脅威から守る。守られるコミュニティは口を揃えてこういってくれ。

<押し売り・勧誘・魔王関係お断り。まずはジン=ラッセルの下にお問い合わせください>」

「じょ、」

 冗談でしょう!?と言おうとした口を番一は塞ぐ。十六夜も番一も何処までも本気である。

 

 十六夜は勢いよく立ち上がり、まるで強風を受け止めるように腕を広げ、

「人質の事は残念だった!けれど安心してくれ!明日、ジン=ラッセル率いるメンバーがお前たちの仇を取ってくれる!その後の心配もするな!なぜなら俺たちのジン=ラッセルが<魔王>を倒す為に立ち上がったのだから!」

「おお……!」

 大仰な口調で語る十六夜。それに希望を見る侵入者一同。

 

 ジンは必死に腕を振り払おうとするが、番一の馬鹿力に押さえつけられ声もでない。

「さあ、コミュニティに帰れ!そして仲間たちにこう叫べ!

『我らが英雄ジン=ラッセルが<魔王>を倒す為に立ち上がった』と!」

 

「ああ!ああ!必ず言うよ!明日は頑張ってくれジン坊ちゃん!」

「うおおおおおお我らがジン=ラッセルー!!」

 

「ま……待っ……!」

 当の本人のジンの叫びは届かず、ジン=ラッセル万歳と叫びながら走り去る侵入者一同。

 腕を解かれたジンはハイタッチをする二人の傍で茫然自失になって膝を折るのだった。




赤坂です。
大変遅れました。本当に申し訳ありません。
やるやる詐欺はいい加減にしろと、自分にも言い聞かせています。
それと活動報告の方に理由その他諸々を書いておきます。
ではでは。


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第十三話

 本拠の最上階・大広間に二人を引きずってきたジンは、堪りかねて大声で叫んだ。

 

「どういうおつもりですか!?」

「どういうおつもりも何も別に大した変化じゃないだろ?」

「<打倒魔王>が<打倒全ての魔王とその関係者>になっただけだ。

『魔王にお困りの方、ジン=ラッセルまでご連絡ください』

―――キャッチフレーズはこんなところか?」

「全然笑えませんし笑い事じゃありません!魔王の力はこのコミュニティの入り口を見て理解できたでしょう!?」

「勿論。あんな面白そうな力を持った奴とゲームで戦えるなんて最高じゃねえか」

「いい勝負ができそうだしな。俺も戦いたいぞ」

大広間にある長椅子に座った二人は、背もたれに踏ん反り返って戦いを希望すると口にした。

ジンは絶句し、問い正す。

「お……面白そう(・・・・)?では御二人は自分の趣味の為だけににコミュニティを滅亡に追いやるおつもりですか!?」

ジンの口調も厳しい。

 

しかしそんな厳しい口調に番一は即座に指を向けて反論する。

 

 

 

 

 

 

それは違うぜッッ(・・・・・・・・)!!」

 

 

 

 

 

 

「お、論破か?」

十六夜は軽薄な笑いを浮かべて、決まった……!とドヤ顔で拳を握りしめている番一に向かって 説明してやれ、とでも言うように顎をしゃくる。

「……何が間違っているんですか?」

「これはコミュニティの発展のための作戦だ、と言いたいんだよ。コミュニティの滅亡だ?

入ったばっかなのに潰れて貰っちゃ困る」

「作戦……?どういう事です?」

 

「ふむ。御チビ、先に確認しておきたい。御チビは俺たちを呼び出して、どうやって魔王と戦うつもりだったんだ?あの廃墟を作った奴や、白夜叉みたいな力を持つのが<魔王>なんだろ?」

 

ぐっとジンは黙り込む。名誉の奪還と打倒魔王を望んではいても、彼にはリーダーとして明確な方針があったわけではない。ジンは幼い知恵を駆使して答える。

「まず……水源を確保するつもりでした。新しい人材と作戦を的確に組めば、水神クラスとは無理でも水を確保する方法はありましたから。けどそれに関しては十六夜さんが想像以上の成果を上げてくれたので素直に感謝しています」

 

「おう、感謝し尽くせ」

「そういえば俺は何もしてないな……」

 

ケラケラと笑う十六夜と落ち込む番一を無視してジンは続ける。

 

「ギフトゲームを堅実にクリアしていけばコミュニティは必ず強くなりますし、力のない同士が呼び出されていたとしても力を合わせればコミュニティを大きくしていくことが出来ます。ましてやこれだけ才能のある方々が揃えば……どんなギフトゲームにでも対抗できます」

 

「期待一杯、胸いっぱいだったわけだ」

「今度活躍してやるから期待してくれや」

 

悪びれる様子のない十六夜と番一。ジンは我慢できずに口調を崩して叫んだ。

 

「それなのに……それなのに、御二人は自分の為だけにコミュニティを危機に晒し陥れるような真似をした!!魔王を倒す為のコミュニティなんて馬鹿げた宣誓を流布されたら最後、魔王とのゲームは不可避になるんですよ!?そのことを本当に貴方(あなた)方は分かっているのですか!?」

 

ジンは叫ぶと同時に大広間の壁を強く叩いた。よほど腹に据えかねたのだろう。

 

そんなジンを見つめる十六夜は軽薄な笑いを消し、今度は侮蔑するような目を向ける

 

「呆れた奴だ。そんな机上の空論で再建がどうの、誇りがどうのと言っていたのかよ。失望したぜ御チビ」

「な、」

「ああそうだな。ギフトゲームに参加して力をつけるだと?それは前提であって目標じゃないだろ。俺たちが聞きたいのは魔王にどうやって勝つか(・・・・・・・・・・・)だ」

 

番一が十六夜の言葉を代わりに続け、ジンは頭をフル稼働させて反論する。

「だ、だからこそ!ギフトゲームに参加して力を」

「じゃあ前のコミュニティはギフトゲームに参加して、力を付けていなかったのか?」

「そ……それは」

ジンは言葉に詰まる。十六夜と番一は間を置かず畳み掛ける。

 

「そもそも、コミュニティを大きくする事ができるのはギフトゲームだけだったのか?違うだろ」

「……。はい」

 

 

コミュニティを大きくするのは強大なギフトと、強大なギフト保持者。つまりは人材だ。

己の才を頼りに生きているギフト保持者が、名の売れたコミュニティに籍を置きたいと思うのは当然の流れである。

 

 

「俺達には名前も旗印もない。コミュニティの象徴出来る物が何一つないわけだ。これじゃコミュニティの存在は口コミでも広まりようがない。だからこそ俺たちを呼んだんだろ?」

「…………」

「今のままじゃ物を売買するときに、無記名でサインするのと大差ねえ。<サウザンドアイズ>が<ノーネーム>お断りなのは当然だろうよ。所詮<ノーネーム>は名無しのその他大勢でしかない。そんなハンデを背負ったまま、先代を越えなきゃいけないんだぜ?」

「先代を……超える……!?」

ジンはその事実に、金槌で頭を叩かれたような気がした。

箱庭の中で一目置かれるほど強大だった、先代のコミュニティ。

才も乏しく、身の上と成り行きだけでリーダーになったジンは<打倒魔王>と口にする事はあっても、十六夜の言葉こそ目を逸らし続けていた現実なのだ。

 

 

「その様子だと、ホントに何も考えて無かったんだなオマエ」

「…………っ」

ジンは悔しさと、言葉にした責任の大きさで顔が上げられなかった。

そんなジンの肩を番一は力強く握りしめ、悪戯っぽく笑い、

 

 

「名も旗もない―――ならリーダーの名前を(・・・・・・・・)売り込む(・・・・)。作戦ってのはこのこと事だ、ジン。」

 

 

ハッとジンは顔を上げる。そして二人の意図に気づく。

二人は侵入者に対して執拗にジンの名前と彼がリーダーであるということを強調していた。

それはつまり、

「僕を担ぎあげて……コミュニティの存在をアピールするという事ですか?」

「悪くない手だと思うんだが、どうだ?十六夜の案だが」

「俺が立案したわけじゃない。番長も同じことを考えてたんだろ?目が合った時になんとなく伝わったぞ」

「俺の単純明快な思考と同レベルだ、という主張か?」

「は……?喧嘩売ってるのなら、買うぞオイ」

「お、御二人とも落ち着いてください……」

先程まで凄まじい程の連携を見せていた二人が、急に険悪な雰囲気となってしまいジンは慌てる。

 

「確かに僕を担ぎ上げるのは有効な手段です。リーダーがコミュニティの顔役になって存在をアピールすれば……名と旗に匹敵する信用を得られるかもしれません」

たとえば白夜叉。彼女は<サウザンドアイズ>の一幹部にすぎないのに、その名前は東西南北に知れ渡るほどだ。

 

「けどそれだけじゃ足りねえ。噂を広めるには少しインパクトが足りない。だが<打倒魔王>を掲げたジン=ラッセルという少年が魔王の子分の一味に一度でも勝利したという事実があれば?

―――それは必ず波紋になって広まる。それに反応するのは魔王だけじゃない」

「そ、それは誰に?」

「<打倒魔王>を掲げた他の誰か、だろ?」

 

「ああ。魔王ってのは戯れに様々なコミュニティに戦いを挑むんだろう?だとしたら敗北した実力者たちが<打倒魔王>を胸に秘めている可能性は高い」

「ってことは今回の件は最高だな。喧嘩を売った<フォレス・ガロ>は魔王の傘下で。

しかも勝てるゲーム、かつ被害者は数知れず……名前を広めるには最高の条件じゃねえか」

 

少なくとも二一〇五三八〇外門付近のコミュニティには、小さいまでも波紋が広がるかもしれない。

「他の魔王を引き寄せる可能性は大きいかもしれない。けど魔王を倒した前例もあるはずだ。そうだろ?」

黒ウサギはこう説明していた『魔王を倒せば魔王を隷属(れいぞく)させられる』と。

これは魔王を倒したものの存在を証明しており、同時に強力な駒として組織に引き入れるチャンスでもあるのだ。

「まあ少なくとも人材は必要だな。俺や十六夜レベルとは言わないが、足元並み(・・・・)の奴は欲しいな。そもそもこの案に乗るか乗らないかはジン次第だが」

二人を見るジンの目には先程までの怒りはない。

 

作戦の筋は通っていた。だから賛成するのは簡単だったが、大きな不安要素があるのも忘れてはいけない。それを踏まえた上で、ジンは条件を出す。

 

「1つだけ条件があります。今度開かれる<サウザンドアイズ>主催のギフトゲームに、御二人のどちらかが一人で参加してもらってもいいですか?」

「なんだ?力を見せろって事か?」

「それなら俺が行くぞ。まだ活躍してないしな」

「それもあるのですが、理由はもう一つあります。このゲームには僕らが取り戻さなければならない、もう一つの大事なものが出品されます」

 

名と旗印。それに匹敵するほどの大事な、コミュニティの宝物。

「昔の仲間……か?」

「はい。それも元・魔王の仲間です」

 

十六夜は番一とジンの会話に危険な香りのする雰囲気を漂わせ始める。

「元・魔王の仲間か。これに意味することは多いぜ?」

ジンも頷いて返す。

「はい。先代のコミュニティは魔王と戦い勝利したことがあります」

 

「ってことはそんなコミュニティすら倒せる」

「―――そう仮称(かしょう)超魔王(ちょうまおう)とも呼べる超素敵ネーミングな奴がいる、と」

 

「そ、そんなネーミングでは呼ばれていません。そもそも魔王とは<主催者権限>を悪用する者たちの事ですから……噂では例外もあるようですが」

 

<主催者権限>そのものは箱庭を盛り上げる装置の一つでしかなかった。

それを悪用されるようになって<魔王>という言葉ができたのだとジンは語る……例外はあるようだが。

 

「ゲームの主催はその<サウザンドアイズ>の幹部の一人です。僕らを倒した魔王と何らかの取引をして仲間の所有権を手に入れたのでしょう。金品で手を打てればよかったのですが……」

「貧乏はつらいって事か。とにかくその元・魔王を取り返せばいいんだろ?」

「取り返してくるぜ。全力で」

ジンは頷く。それが出来るのならば是非にでもお願いしたかった。

「それが出来れば対魔王の準備も可能になりますし、僕も御二人の作戦を支持します。

ですから黒ウサギにはまだ内密に……」

「あいよ」

「おう」

 

二人は席を立つ。大広間の扉を開け自室に戻る時、十六夜はふと閃いたようにジンに声をかける。

 

「明日のゲーム、負けるなよ」

「はい。ありがとうございます」

「負けたら俺、コミュニティを抜けるから」

「はい。……え?」

 

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

 

「これはどういう状況だ……」

遅めの風呂に十六夜と共に突撃し、自室の扉を開けようとした瞬間、番一は何かに気づく。

 

 

既に月は燦然(さんぜん)と輝き、よい子はもうとっくに寝る時間だ。

 

 

であるからして部屋に入ろうとしている、今この状況は正しい事ではあるのだが、

 

 

 

 

 

 

「なぜ俺の部屋にすでに人がいる気配がする……?」

 

 

 

 

 

 

 

部屋の番号を先程から何度も確認する。

208号室……本館二階の八号室。間違いなく番一に割り当てられた部屋だった。

 

「女性陣は三階……男性陣は二階……まさか階を間違えた奴がいるのか……?」

 

中にいる誰かに気づかれないように小声でブツブツと呟く。

「ええい、此処に居ても寝られん!たのもーう!!」

バガァン!と扉を蹴破り開けると、

 

「……春日部?」

そこには番一のベッドに『スヤァ』を体現した寝方をしている春日部の姿があった。

 

「……ってか今の音で起きないとなると起こそうとするのは多分無意味か」

よっこらせ、と壁にもたれ掛かり番一は目を閉じる。

(はてさて、明日の朝どうなる事やら……)

 

 

 

異世界に投げ飛ばされ、森で鬼ごっこをし、大滝を遡上し、白髪ロリ(白夜叉)に喧嘩を売り、侵入者と対峙し、珍しく頭を使い……番一は疲れ切っていた。

 

 

 

(まあいい。明日の事は明日考えよう……おやすみ世界)

 

 

―――そこで番一の意識は途絶えた。




赤坂です。
今年最後になります。
今年の秋頃から始めた『番長が異世界から来るそうですよ?』は来年も続きます。
一巻の内容が終わるのいつなのでしょうね。
友人は四月ごろに二五話に到達し、まだ終わらないという予測を立ててくれました。
誤字・脱字・感想よろしくお願いします。
また来年お会いしましょう。
ではでは。


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第十四話

―――箱庭二一〇五三八〇外門。<フォレス・ガロ>居住区前。

飛鳥、耀、ジン、そして黒ウサギと十六夜と番一は<フォレス・ガロ>のコミュニティの居住区へと向かう道中に、黒ウサギから疑問の声が上がった。

 

 

「その……耀さん?なぜ番一様のバットを……」

至極当然の疑問に本来の持ち主である番一が答えた。

「そりゃ一撃必殺、必中必殺、見敵必殺じゃなきゃな。ガ……ガルなんとかって奴に素手で挑むのは危険そうだし」

「いつ貸すって言ったんだ?タイミングが無かった気がするんだが」

十六夜が気になったのはいつそんな話をしたのかという点だった。

というのも、朝起き出して顔を合わせてからは番一は基本十六夜達と共に行動していたからであり、十六夜がその会話を耳にしないのは物理的に不可能だからである。

 

「……今朝ちょっといろいろとあってな」

「……今朝ちょっといろいろとあって」

「……すげえ気になるぞ。オイ」

その質問には耀と番一の二人が渋い顔で避けるように答えた。

 

「何があったかは聞きませんが、いいのですか?」

「ガ……ガルなんとかって奴を袋叩きにして欲しいという俺の願いだ」

「あら。私には勤まらないと?」

飛鳥が若干不満そうに声を上げる。

「飛鳥よりか耀の方が力が強そうだったしな。お嬢様がバット持って襲ってくるというのも中々なものだが……」

「ヤハハ!今度そのシチュエーションも見てみたいな!」

「確かに。夜中に見たら怖いと思う」

「だな。ガハハハハ!」

高笑いする番一はしかし、いつも手にしている物が無いせいか手を暇そうにぶらつかせていた。

 

 

 

 

 

「あ、皆さん!見えてきました……けど、」

黒ウサギは一瞬、目を疑った。他のメンバーも同様。それというもの、居住区が森の様に豹変(ひょうへん)していたからだ。

ツタの絡む門をさすり、鬱蒼(うっそう)()(しげ)る木々を見上げて耀は呟く。

「……。ジャングル?」

「虎の住むコミュニティだしな。おかしくはないだろ」

「おかしいです。<フォレス・ガロ>のコミュニティの本拠は普通の居住区だったはずですし」

「……?なんだこの木。変だな」

番一が門に絡みつく木を触り首をひねる。その樹枝はまるで生き物のように脈を打ち、肌を通して胎動のようなものを感じさせた。

「うわ、気持ち悪い……お、<契約書類(ギアスロール)>貼ってある」

木を触っていた番一が声を上げる。門柱に貼られた羊皮紙には今回のゲームの内容が記されていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ギフトゲーム名<ハンティング>

 

・プレイヤー一覧:久遠 飛鳥

         春日部 耀

         ジン=ラッセル

 

・クリア条件  :ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

・クリア方法  :ホスト側が指定した特定武具でのみ討伐可能。

         指定武具以外での攻撃は<契約(ギアス)>によって無効化される。

・敗北条件   :降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

・指定武具   :ゲームテリトリー内にて配置。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下<ノーネーム>はギフトゲームに参加します。

                     <フォレス・ガロ>印

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ガルドの身をクリア条件に……指定武具で打倒!?」

「こ、これはまずいです!」

ジンと黒ウサギが悲鳴のような声を上げる。飛鳥は心配そうに問う。

「このゲームはそんなに危険なの?」

「いえ、ゲーム自体は単純です。問題はこのルールです。このルールでは飛鳥さんのギフトで彼を操ることも、耀さんのギフトで傷つけることも出来ない事になります……」

「ってことは、俺のバットも攻撃できないのか……残念だ」

「指定武具で打倒……<恩恵(ギフト)>ではなく<契約(ギアス)>で身を守られてしまいました、これでは神格でも手が出せません!」

「すいません、僕の落ち度でした。初めに<契約書類>を作った時にルールもその場で決めておけばよかったのに……!」

 

ルールを決めるのが主催者(ホスト)である以上、白紙のゲームを承諾するというのは自殺行為に等しい。

ギフトゲームに参加したことが無いジンは、ルールが白紙のギフトゲームに参加することが如何に愚かな事かわかっていなかったのだ。

 

「敵は命がけで五分に持ち込んだって事か。観客にしてみれば面白くていいけどな」

「気軽に言ってくれるわね……条件はかなり厳しいわよ。指定武具が何かも書かれていないし、このまま戦えば厳しいかもしれないわ」

そう呟く飛鳥は厳しい表情で<契約書類>を覗きこむ。

 

そんな飛鳥の表情を見た黒ウサギと耀は、飛鳥の手をぎゅっと握って励ます。

「だ、大丈夫ですよ!<契約書類>には『指定』武具としっかり書いてあります!つまり最低でも何らかのヒントが無ければなりません。ヒントが提示されてなければ、ルール違反で<フォレス・ガロ>の敗北は決定!この黒ウサギがいる限り、反則はさせませんとも!」

「大丈夫。黒ウサギもこう言ってるし、私も頑張る」

「……そうね。むしろコレぐらいのハンデがあった方が、外道のプライドを粉砕できるわね」

愛嬌たっぷりに励ます黒ウサギと、やる気を見せる耀。飛鳥も二人の(げき)で奮起する。

これは売った喧嘩で買われた喧嘩。勝機があるなら諦めてはいけない。

 

その陰で十六夜はジンに昨夜のことを話していた。

「この勝負に勝てないと俺の作戦が成り立たない。負ければ其処(そこ)までだ。勝てよ御チビ」

「……分かってます。絶対に負けません」

こんなことで(つまづ)くわけにはいかない。

 

その裏で番一は耀に話しかけていた。

「あ、バット使えないし返してくれ。いつかまたゲスイ奴と喧嘩する時に貸し出すからよ」

「……喧嘩することは前提なんだね」

はい。と言ってバットは番一の手に戻り、参加者三人は門を開けて突入した。

 

 

            ※

 

 

門の開閉がゲームの合図だったのか、生い茂る森が門を絡めるように(うごめ)いた。

「うお!?なんだコレ余計気持ち悪い!?」

「ゲームが始まりました!……ええと、この木はおそらく鬼化(きか)しているのかと」

「どういう意味だ、黒ウサギ」

気化(きか)?なんだ空気にでもなるのか」

「空気になる『気化』ではなく、鬼になる『鬼化』です。吸血鬼によって……吸血鬼?」

黒ウサギが門に絡む木を触りながら首を傾げる。

 

(鬼化……それもこんな範囲での鬼化なんて、彼女以外には)

 

「吸血鬼が何かしたって事か。なるほど」

番一が合点がいったという風に手を打つ。

「ってことは指定武具は銀かニンニクか十字架だな」

「……その中だったら『銀製の何か』が指定武具でファイナルアンサーだ。」

「YES。けれど『指定』としか書かれていませんし、棍棒(こんぼう)やただの銀の棒なんて言う可能性も……ってあれ?」

ふぐぐ、という表情で門を睨む黒ウサギが何かに気づき空を見上げ、

 

「どうした黒ウサギ?っておわっ!?なんだこれポストシュートのプロか!?」

 

そんな黒ウサギを見ていた番一のポケットに不自然に手紙が舞い込んだ。

「お、ポストシュートのプロは箱庭にもいるのか!」

「……番一様、どなたからです?」

黒ウサギが十六夜の言葉を避けるように番一に尋ねる。

「ん?おう」

「おい待て黒ウサギ。ポストシュートのプロについて答えろ」

そんな意図に気づいた十六夜は黒ウサギを問い詰める。

 

 

「……それはさておき」

「さておかねえよ。どうして避ける?」

 

 

「……。知りません」

「は?」

「ですから知らないのです。ええ、誰も。この箱庭にいる誰も不自然ポストシュートの犯人を知らないのですよ」

「……白髪ロリとかもか?」

「白夜叉様も困った顔でおっしゃていました

『手紙を書き終えて封蝋をして郵便屋に出しに行こうと立ち上がったら消えていた』

『何を言っているのか分からないと思うじゃろうが、私にもわからない』と」

「便利かつ快適だな。それ」

「ですが、きっちり郵便代+手数料を持って行かれるようです」

「ありがた迷惑だな。それ」

十六夜と黒ウサギの二人が話し込んでいる横で手紙を広げる番一。

 

「白夜叉からか。なになに……って!?マジかよ!?手配速すぎだろ!ゲーム開始したばっかで呼び出すなよ!」

「どうしました番一様?」

「白夜叉からの呼び出しで『鑑定人の準備が出来たから急いで来い』だそうだ!……ちょっくら行ってくる!」

 

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

 

タッタッタッ、と軽快なリズムで走りサウザンドアイズの店へと向かう。

「にしてもなんでこのタイミングかね……」

あまりにも運が悪い、というより仕組まれたんじゃないかと言うタイミング。

「っと、ここか」

サウザンドアイズ店前でブレーキをかける番一。

 

 

 

「って危ねえ!?」

 

 

 

キキーッ、と滑って速度を落とした顔面に箒がフルスイングで迫ってきたのを頭を後ろに反らすことによって避ける番一。

「チッ……ノーネームお断りで、貴方は出禁を喰らわせたはずです。帰ってください」

「お前、今舌打ち……まぁいいか。おーい白夜叉ぁー!入れてくれぇー!店員に止められるぅー!」

「店先で叫ばないでくださいっ!」

「そういうのはまずは自分の声を抑えてからだな」

 

ガハハハハ!と、笑う番一を睨む女性店員の背後の、暖簾(のれん)から声を聞きつけたからか白夜叉が姿を現した。

「おお、来たか番一。ほれ鑑定人が待っておるから早く入れ」

「ですが!」

彼奴(こやつ)は私が再鑑定させてくれと頼んだのじゃ。通してやってくれ」

女性店員を(さと)すようにそう言うと白夜叉は番一を連れて店内へと入る。

 

 

 

 

「今日は私室じゃないのな」

「昨日は店を閉めた後だったからの。ほれこの部屋じゃ」

白夜叉はそう言って妙にゴテゴテした扉を指す。

「ゴテゴテしてんなこの扉」

「盗聴、透視、その他諸々の情報漏洩(じょうほうろうえい)を防ぐギフト付きの特別製の部屋じゃの」

そう言って白夜叉がドアノブに手を伸ばすと白夜叉の姿が瞬きひとつの間で消えた。

 

 

 

 

「いや、ドアノブ触ればいいだけなのか?セキリュティザル過ぎだろそれだと?というかせめて 入り方伝えてから入ってくれよ……」

後にはどうすればいいのか分からずに立ち尽くす番一の姿が残った。

 

 

 

 

 




赤坂です。
遅れに遅れました。すいません。
2016年は基本多忙の身になりますので更新ペースは遅くなります。
……一月ぶりに途中で書き止めていた14話を書いていたら書き方忘れかけていました。

あ、新年あけましておめでとうございます(二月)
番長は今年も色々やらかすつもりではありますのでお付き合いいただければ幸いです。
このままですと、4月までに25話も行かない可能性も……。
隙を見て書いて行こうと思います。
誤字・脱字・感想、よろしくお願いいたします。

ではでは。


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第十五話

 ―――番一が扉の前に取り残された直後<サウザンドアイズ七桁外門支店>、応接室。

 

 

「さて、手紙にも書いたがもう一度言っておく『今回の鑑定は他言無用』だ。頼むぞ」

「……それは構いませんが。一体なんなんですか?わざわざ呼び出して他言無用だなんて、一体どんなゲテモノギフトを見つけたのですか?」

「ゲテモノ……まぁゲテモノといえばゲテモノかもしれんが、よく本人の前でそれを言えるの?」

 

 

 

 

「……?本人も何も誰もいないではありませんか」

 

 

 

 

 その言葉を聞いて白夜叉は振り返り少し驚いた顔をする。

「……いないではないか。何故あやつは入ってこんのだ?」

「……だからこそ聞いているのですが。入り方は教えたので?」

「入り方も何もドアノブを触れば……あ、登録を忘れておったかもしれん」

「登録式の鑑定部屋に呼ぶというのに登録を忘れないでください……新手のいじめですか?」

「どうするかの。確認に行くか、入ってくるのを待つか……」

「素直に迎えに行きましょうよ。さぁ!自分の非を認めるのです白夜叉様!」

「断じて認めん!私は間違っていない!登録忘れなどしておらん!」

「いいでしょう!数多の並行世界を渡り、数々の場面で『論破!』と叫んできた私の本気を見せてあげましょう!さぁ!『それは違います!』」

 

 

 

 

 

「……いったいどういう状況だ?入れないしどうしたものかと店中駆けまわって、やっと入れたと思ったら急に裁判か?」

 と、そんな状況に水を差すように番一が急に姿を現す。

「お、ようやく来たの番一。ドアノブを触るだけだったのだが分からんかったか?」

「いや、触ったが何も起きなかったぞ?店員に『登録無いと入れませんよ?』なんて言われて鼻で(わら)われたんだが」

「…………」

「オイ白夜叉そっぽ向いてないで早く鑑定してくれ。ギフトゲームの観戦に早く帰りたいんだ」

 

 

 

            ※

 

 

 

 場を仕切り直して番一はさっそく口を開く。

「それで鑑定人とやらは……その、これか?」

「これ、とはずいぶんな言い方ですね?まぁ許しましょう。謙虚なことで地元で有名ですので」

「地元ってどこだよ……」

 

「私も知らんな。とりあえず紹介するぞ。こやつが鑑定人の<ラプラスの悪魔>の子端末<ラプラスの小悪魔>ことラプ子で、

「『RS』です!他の凡愚たちと一緒にしないでください!」

 

 怒気を孕んだ声で即座に訂正するRSは怒鳴られてしょぼくれている白夜叉を無視して、 番一に向き直る。

「というか鑑定を始めますが、よろしいですか?というより始めますよ。私も忙しいのデス」

「お、おういいぞ。俺も急いでるし」

 

 コホン、と咳を一つして始める。

「ではまず、名前と、所持ギフトについて知っている限りをお話しください」

「なんかこう本格的だな……ええと、名前は長井番一だ。ギフトはなんちゃらの黄金バットと解析中止で、両方ともよく分からん。以上」

 

 

「殴りますよ?」

 

 

「殴るなよ。というか分からないから鑑定を頼むのであってだな」

 次の瞬間にはラプ子は摩訶不思議な物を見るような目で番一をじろじろと観察しながら白夜叉に話しかける。

 

 

「え?というより白夜叉様?この人本当に番長なのです?一目見て番長だと分かりましたけど、目を疑っていた私がいるのですが本物です?」

「紛れも無く番長だぞ。黄金バットも持ってるし、ガクランだし、私の一撃を耐え抜いたしの」

「そうですか。なんていうか『比較的常識人』で『まともな雰囲気』を醸し出しているのですが」

「どういう事だ?箱庭番長ってのは全員『比較的常識人じゃなく』て『まともな雰囲気じゃない』って事か?」

 

 そこまで聞いてラプ子RSは得心したように頷いた。

「なるほど。番一様はまだ箱庭番長について聞いていないのですね?」

「おう。白夜叉にも今度話す、みたいなこと言われただけだ」

「ふむ。番長であるなら話してもいいでしょうし、まず『箱庭番長』について語らないと鑑定も(はかど)りませんね。というより白夜叉様は上には報告したので?」

「しておらん。大事(おおごと)にする必要性が番一からは感じられんしの」

 

「確かにそうですね……。まず初対面で話が通じる時点で奇跡です」

 

「そのレベルなのか!?」

「ええ、そのレベルです。では語りましょう……といっても情報が消されすぎててわかるのは極一部ではあるのですが」

 

「大まかに説明すると、超人。この一言に尽きるでしょう。その全員が『黄金バット』と名の付くバットを下げ、学ランを着ています。長ランですね」

「これ、たまたま着てるだけなんだが」

番一の反応を無視してRSは続ける

 

 

「まずは一代目箱庭番長について。彼についての情報は全く持って残ってはいないのですが、当時から生きている私の友人のバ……、もとい天使に聞いたことがあります」

「今バカって言いかけたか?」

「ああ、あの歩くトラブルメーカーのことか……」

 白夜叉とRSは苦虫をすり潰したような表情をし、そんな顔でRSは応える。

 

「その天使は上手くも無い博打(バクチ)に浸って素寒貧(すかんぴん)になるのが上手でして……っと、話を戻します。

 彼、初代箱庭番長は数万年前、箱庭の黎明期に現れ箱庭を統一(・・・・・)しました。たった一つの旗印の下に当時、75億(・・・)もの人、英雄、神、魔王問わず全てを纏め上げた(・・・・・・・・)とのことです」

 

 

「化け物かよ……」

「ええ。私もそのバ……天使を締め上げましたが、事実のようです。そして彼(いわ)く当時の人々は彼をこう呼んだようです<人類最終到達地点>また<生命の極致>と。彼についてわかることは以上です。名前もわかりません。その巨大な規模のコミュニティについてもわかりませんし、記録もありません。それ以上はバ……天使は語ってくれませんでしたし」

「どんだけバカなんだその天使は……?」

 呆れ返るような番一の声を無視してRSは続ける。

 

 

「次に二代目箱庭番長。番長が恐れられるのは彼の所為です。彼もまた情報は少ないのですが、どちらかといえば残されていないというよりは消された(・・・・)というのが正しいでしょう」

「消された?何か不都合な点があるって事か」

「不都合というよりは、もう名前が書いてあるだけで、存在を証明する文献が残っているだけで、蘇るのではないか(・・・・・・・・)と思われたようですね」

(よみがえ)る?」

「ええ。一説によれば『光が吹き荒れ、風が形を為し現れた』と伝えられています」

 

 

「二代目箱庭番長は初代がいなくなり、旗本から数多の人々が離散しかけた時に神々が『無くしてなるものか!』と言わんばかりに頑張って離散を防ごうとしていた時に現れ、その目論見(もくろみ)をぶち壊した者……であってたかの?」

「はい。あっていますよ白夜叉様」

「ぶち壊したってのはどういう風に?」

 

「箱庭の生命の六割の殺戮(・・・・・)です。僅か一年で箱庭に住む生命の半数以上が殺され、離散を防ごうとしていた神々もまた数名を除き、全て殺害されました」

「待て待て待て。一年(・・)だと?それと75億とか言ってたよな。……あり得ないぞ?核兵器かなにかか」

そんな番一の言葉にRSは応える。

 

「ええ、一年です。私自身信じられなくて何十回も、様々な記録とも、証言とも照らし合わせて出した結論です。信じられるものですか75億の六割、45億もの人々をたった一人で殺す人間など」

「確かに、にわかには信じられん話だの……改めて聞くと恐ろしい物がある。さて、次は三代目じゃの!」

 末恐ろしい者だと身震いした白夜叉は三代目を出してウキウキとした声を上げる。

 

「三代目箱庭番長については……白夜叉様の方が語れるでしょうね。任せました」

「うむ!任された。三代目は情報が残っておるというか何を隠そう、私が相方として二人で箱庭中を駆け回って荒らしまわ……遊びまくったのじゃよ!」

「荒らしまくったんだな?」

「冗談はさておき。三代目だけは女性で。名前は<平坂(ひらさか) (しずか)>。番長というよりスケ番だの。私が<白き夜の魔王>として畏れられた後の事で、ざっと数千年前じゃ」

 と、そこで番一が言ってはいけない事(・・・・・・・・・)を口にする。

 

 

 

「白夜叉の年齢っ

「おっと!そこまでじゃ!残念だったの!」

 それを強引に打消し話をつづける白夜叉。よほど実年齢は知られたくないのだろう。

「というより女性に年齢を聞く時点でデリカシーに欠けています。猛省してください?」

「ご、ごめんなさい……」

 RSにも(さと)され反省の言葉を口にする番一。

 

「で、だ。静は学ランの背に<勇猛果敢>を刻み、その文字の通り、勇ましく、猛々(たけだけ)しく、思いきりがよく、勇敢であった。そして、彼女の持つ黄金バットの正式名称は<逆境無類の黄金バット>。

どういうものかと聞かれればこの一言に限る『無敵(・・)』だ」

「ギフトとしての効果は至って単純です。『逆境に身を置くほど無類の強さを得る』

そして『壊れない』」

「『壊れない』?」

 

「ええ。バカ天使……にも言質は取っています。歴代番長のバットは『如何なる扱いであっても壊れなかった』と」

「……。確かに結構無茶な扱いは俺もしてるけど壊れてないな」

 番一は自分のバットを持ち上げてしげしげと眺める。

「それともう一つギフトを持っていましたがギフト名の正式名称は不明です。名前が無いのもなんだ、という事で白夜叉様は<極光剣>もしくは<無限剣牢獄(パーマネント・シール)>と呼んでいましたよね?」

「うむ!その名前が一番よく表せておるしの!」

「どういうギフトなんだ?というか得物(エモノ)がバットと剣って番長っぽくねえな」

「具体的に言えば『極光を放つ剣を無尽蔵に生み出し、逃げられない剣の牢獄を作り上げる』といったところでしょうか」

 

「三代目が行ったことはその極光剣やバット、(こぶし)だけで、

『数多の魔王の撃破、及び最凶の神群<クトゥルー神群>の(ことごと)くの箱庭からの追放』

これらを成し遂げたことから静は数多の神群に聖人として認められるはずだったのだが。あやつはいざ聖人認定というときに姿を消して以降見つからず、別れの言葉も言えておらん……」

 

 何処か寂しげな表情をする白夜叉はしかし、

 

 

 

 

 

 

 

「アヤツの発展途上の胸も中々の揉み心地だったのだがの」

 そんなセリフのせいで寂しげな雰囲気を壊していた。

 

 

 

 

 

 

 RSがそんな雰囲気を戻すように番一に話を振る。

「そしてあなたが四代目です。どうです?歴代番長について聞いてみて」

 

 

「んー。情報不足でよく分からんし、どのくらい強いのかも予想がつかん」

「強さか……静が通常状態で番一の八人分くらいは強かったの。ギフトによって強さの上限が無いからそれ以上はどうともいえんが「ぬん!」と軽くバットを振るって外門を一個消し飛ばすくらいはしていたの」

「なにそれすげぇ」

「その点、番一様のギフトはどうなのでしょうね。ギフトカードは持っていますか?見てみたいのですが」

「おう。これだ」

 そう言ってナイトブラック色のカードをラプ子RSに渡す。

 

「<    の黄金バット>と<解析中止(コード・エラー)>……なるほど?」

 番一はふと十六夜の言葉を思い出し伝えておこうと思い口を開いた。

 

「そういえば十六夜の奴が俺の背中に光が集まるって言ってたんだが何かわかるか?」

「いえ、そもそも伝説の最強武装<ガクラン>などと言われていますが実際効力なんて何もありませんし、可能性があるとすれば<解析中止>のギフトでしょうが……多分違います(・・・・・・)

「わかるのか?」

 

「どう表現すればいいのかわかりませんが、逆光の向こうに何かがあるというかなんというか……<ラプラスの紙片>が解析中止だと判断した理由は分かります。その逆光のような何かが無くなれば解るのです」

「要するに?」

「理解が悪いですね『解るだろうけど邪魔されてよく解らないから今は一旦中止』ということです!」

 

「黄金バットの方はどうだ、ラプ子

「RSです!白夜叉様!そうですね名前を付けるなら<千変万化の黄金バット>でどうでしょう? 少なくとも番一様からは『白』でも『黒』でもない何かを感じますし。何よりこれは意図的な脱字です。エラーではありません」

「いいんではないか?どうじゃ番一」

「いや、俺は別にどうでもいいんだが……結局何もわからず仕舞いって事か」

 そう言って番一は立ち上がる。

 

 

「まぁ、解らないなら解らないでいいんだ。歴代番長の事を知れた点が収穫ってところか」

「行くのか番一。鑑定どころか考察程度しかしておらんのだが」

「もういいだろ。謎に包まれてるくらいがカッコイイってな」

 肩にバットを担ぎながら片手をひらひらと振るって番一は退室しようとし、振り返った。

「あ、そういえば俺が店に来てからどれくらい時間経ったかわかるか?」

どれくらい時間がったったのかを問う。

 

「ざっと4~50分くらいかの」

「簡単なギフトゲームだったら終わるくらいの時間ですね」

「マジかよ!急がねえと!」

 番一は慌ててドアノブを触り去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「してラプ子RS」

「なんです?」

「頼みがあるのだがの」

「いいですよ承りました」

「番一の監視を……って受ける気満々だったか」

「そもそも興味が沸きまくりですし。あそこまで変な人間そうそういませんよ」

「そ、そうか」

「ええ。ついでに歴代番長についても資料を漁っておくので、何か新発見や番一様について進展があったら『番長観察報告書』とでも銘打って報告します」

「すまんな。私も興味が尽きん」

「ええ。あ、白夜叉様はいい加減三代目について纏めておいてもらえます?」

「―――ああ。了解した」

 




赤坂です。
#四月までに25話とは(結局15話)
お久しぶりです。なんやかんやあって遅れに遅れました。
失踪はしていません。
今回は『歴代番長説明会』の予定だったのですが書きなおしたり、ゲームしたり、オシゴトしたりしてたら遅くなりました。
そんなことして長い期間が開いたら文体が迷子になったので『問題児』っぽくない文章です。
納得がいかない。
またいつか書き直すかもしれません(予定は未定)。
まぁ全部オリジナル文章だから許してヒヤシンス。
誤字・脱字・感想、よろしくお願いいたします。
ではでは。


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第十六話

―――二一〇五三八〇外門、噴水広場付近。

 

<サウザンドアイズ>を去り、町中を駆け<フォレス・ガロ>の本拠に番一は向かっていた。

 

「ギフトゲームはまだ終わってねえだろうな……!?」

番一はそう呟きながら一度通っただけでまだ不慣れな道を全力疾走していると、突風を巻き起こしながら建物の屋根を走り去る影を見つけた。

 

恐ろしい速度で首を振り返らせその影の後ろ姿を視認し、

「ウサ耳……黒ウサギか!?」

 

そう叫んだ次の瞬間には方向転換し、黒ウサギの隣にぴったりと付いて共に走る。

「どうした黒ウサギ。ゲームは?それと抱きかかえられてる耀はどうした?」

そう、突風を出すほどの速度で走る黒ウサギは多少の手当てはされているものの明らかに怪我をしている耀を抱きかかえていたのだ。

 

「ば、番一さま!ゲームは終了しました!耀さんが怪我をしたので治療の為に本拠に戻る所です!」

「マジかよ!?もう終わったってのかクソ!」

悔しがる番一を横目に黒ウサギは驚きの表情で番一に問う。

 

「え、ええ。というより結構全力疾走なのですが、なんでついて来られ

「ば、番長……」

 

と、そこで耀が辛そうな、小さな声で番一に話しかける。

「どうした耀!死にそうか!?死にそうなのか!?」

 

 

 

 

 

 

「……お腹空いて死にそう。串焼きのいい匂いがしたから買ってきて」

 

 

 

 

 

 

「お、おう。わかった」

「あ、お金渡しておきますね」

 

 

 

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

 

 

「それで?ゲームは結局どうだったんだ。ガルドはそんなに強かったのか?」

「ううん……どちらかというと……私の失敗」

番一はその後、串焼きを持って治療が終わった耀の見舞いに来ていた。

 

ちなみに、番一が買ってきた串焼きは六本であり、黒ウサギが渡したお金は精々、一~二本買える程度だったため黒ウサギが番一を不審な目で見ていたのは余談である。

 

 

「失敗って言うと?」

「……。独断専行、かな」

「独断専行して怪我しちゃ元も子もないな。ちゃんと仲間を信じて複数対一で戦うのが定石だ」

そう言って首を縦に振る番一に、春日部は質問を投げかける。

 

「番長は一人で戦うイメージあるけど、仲間を頼る事ってあるの?」

「そりゃあるさ。まぁ肩並べて戦える奴は少ないから基本は一人だが、さすがに五十対一とかそんな時は……俺でさえ友を頼ってた」

「その番長の友達って強いの?」

「おう!俺の目標だ。何時かアイツを叩きのめせるようになりたいんだが……アイツは理不尽の塊だからな……」

「理不尽?」

 

「ああ。例えばだが……おれが『百』強くなったらアイツはその間に何もせずに(・・・・・)『千』強くなる。……言ってて意味わからんがそういう事だ」

「何もしないで強くなるって、あり得るの?」

「まぁ普通に考えればあり得ない、が答えだ」

 

 

番一は腕を組んで悩む。

「……だが、アイツならやりかねないし、そもそもアイツに勝つには『初期ステータスの時点で圧倒的に勝ってなければ』勝てない……と思うんだが」

絞り出した回答に耀は首を傾げるので番一は肩を回して再び答える。

 

「あー……。要するに、アイツはおそらく『此方(こちら)の成長度合いに応じて自身を強化する』なんて ギフトでも持ってんじゃねえか?ってことだ」

そこまで聞いて耀は納得したように首を振る。

「つまり……番長じゃいつまでたっても勝てない?」

「……そうなるな。あーもうこの話は止めだ!この場に居ない俺の友の話してもどうにもならん!耀!今は安静にして寝てろ!じゃあな!」

苦々しい顔をしながらそう言い放ち、頭を掻きながら番一はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

そうして扉を開けて出たところで扉の横で体育座りで待っている黒ウサギに番一は声をかける。

「で?黒ウサギは何故扉の前で体育座りで待っているんだ?」

「番一さまに相談がありまして」

「おうなんだ?引き受けた」

 

「とあるギフトゲー……って引き受けたって言いました?相談前に受け入れ確定ですか!?」

番一は大仰(おおぎょう)に頷く。

 

「別に『生贄となり、超魔王復活の為の糧となるがいい!』とかどう考えても言わないだろ?だとしたら引き受けるでファイナルアンサーだ。内容をどうぞ」

「あ、はい。あるギフトゲームに参加していただきたいのです」

ギフトゲーム、と聞いて番一は首を捻る。

「どういうゲームだ?頭脳戦なら十六夜に任せた方がいいと思うぞ、俺は切った張ったぐらいしか得意じゃないんでな」

「ゲーム内容は正式発表がまだなので分かりませんが……賞品は旧ノーネームの仲間(・・・・・・・・・)で<サウザンドアイズ>主催のギフトゲームです」

「賞品だけ先出発表、か。開催日は?」

 

「そ、それもまだでして……ただエントリーが今日から開始なので後で行く予定です」

「ふーん……分からないことだらけだな。というか白夜叉に口裏合わせるなり手引きして貰うなり出来ないのか?」

「いえ、さすがにそこまでご迷惑をかけるのはどうかと。それにこれはギフトゲーム。戦いに(おもむ)かず、コネで賞品を手に入れたとしたら……」

「卑怯……ってよりかは<参加者(プレイヤー)>としてどうだって話か。いろんな方面に嫌われそうだしな」

「最悪の場合、噂が広まればギフトゲームの参加自体も断られる可能性まで出てきます。ですので自分たちの力で手に入れなければ」

「なりませんってか。了解だ。エントリーってことは受付で正式発表とかかね?こりゃ楽しみだ」

クツクツと番一は笑って歩き出す。

 

「十六夜にはもう話は通したのか?」

「はい」

「それならいいんだが。ゲーム中に暇だから雑談としてーとかじゃないよな。ちゃんと話して……」

「……。」

フイ、と顔を逸らして立ち上がり早足で立ち去る黒ウサギ。問い詰めるように追う番一の後ろ姿が其処にあった。

 

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

―――ノーネーム本拠、番一の部屋、数時間後。

 

「あー……なんでこうなるかね」

番一は部屋に戻るなり落胆したようにベッドに身を投げ出す。

 

 

 

結論としては―――ギフトゲームは延期となり、中止の線も有り得る、という事だった。

 

本来、ギフトゲームはコミュニティの名を以てゲームを開催する。それを延期、あまつさえ中止にするというのは名を貶める行為といっても過言ではない。

 

期待を募らせて参加しようとしたプレイヤーを裏切る行為は信用を落とすことに他ならない。

 

しかし……名を貶めても構わないと思えるほどの何か(・・)があって、中止にしても採算が取れるというのならば、あり得ない話ではないという事だ。

 

さらに言えば、<サウザンドアイズ>は群体コミュニティ。意思の統一が叶わないのも仕方がない事だろう。

 

 

 

「あーつまんねえ……白夜叉とのアレも負けたし……本格的に参戦できるのはいつになるのやら」

そう言ってゴロゴロとベッドの上で転がり、ふと夜空を見上げる。

「ほんと箱庭は夜空が綺麗だな……ってなんだあれ?」

 

見上げた夜空の月には翼を広げた人影(・・・・・・・)が写っていた。

 

「なんだあれは!?天使か!悪魔か!それとも神か!」

そんな歓喜の声を出しつつバットを引き寄せ窓を開け身を乗り出す。

「んー……あれは翼を広げた美少女?」

さらにその少女は巧緻に細工された柄を持つ鋭利な槍を持ち今、当に、眼下の、

 

 

「眼下の十六夜に投げつけそう!?ヤベえじゃん!いやヤバくねえな……」

 

 

即座に納得し直し、見守る番一。

 

投げられた槍は十六夜によって真正面から殴り返され、その少女に向かって槍を粉々に粉砕し第三宇宙速度もかくやという速度で打ち出した。

「いやあの美少女の方がヤベえ!?」

 

そして番一は窓枠を蹴り飛ばし、第三宇宙速度を超えた速度で少女の前に飛び出し大気を蹴り飛ばして(・・・・・・・・・)停止し、槍の破片を全て撃ち落とした。

 

「何やってんだっ十六夜ィ!?」

「レティシア様!」

 

番一が槍の破片を撃ち落とすとほぼ同時に同じく飛び出した黒ウサギが翼を広げたレティシアと呼ばれた少女の手から何かを掠め取った。

「く、黒ウサギ!何を!」

レティシアと呼ばれた少女は抗議の声を上げるが黒ウサギは意に介さず、掠め取ったソレ(・・)、ギフトカードを見つめ震える声で向き直る。

 

「ギフトネーム・<純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)>……鬼種は残っているものの神格が残っていない」

「っ……!」

さっと目を背ける少女。歩み寄る十六夜は白けたような呆れた表情で肩を竦ませる。

 

「なんだよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえの?」

「オイ待て!俺を置いて話を進めるな!どういう状況だこれは!」

そこで、番一は話を止め状況説明を申し出る。

 

番一にしてみれば、夜空を眺めていたら知らない誰かが空に浮かんで、十六夜と戦っていて、それを助けたかと思えば元・魔王だなんだと話していて、理解に苦しむ状況であった。

 

 

十六夜は頭を掻きながら提案する。

「まあ、あれだ。とりあえず屋敷に戻ってゆっくり話そうぜ」

 




赤坂です。
もっと長く書く予定でしたが眠気には勝てませんでした……。
小分けに分けすぎて話が進みません。(自業自得)
何時になったらルイ……何とか君は出てこれるのか。
地道に地味に少しづつ進んでいきます。……行く予定です。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。


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第十七話

 ―――ノーネーム本拠。中庭。

 

 番一に事情を話しつつ屋敷に戻ろうと歩く四人。異変が起こったのはその時だった。

 顔を上げると同時に遠方から褐色の光が四人に差し込んだ。

「あの光……ゴーゴンの威光!?まずい、見つかった!」

 焦燥の混じった声と共に、光から庇うように三人の前に立ち塞がるレティシア。

 光の正体を知る黒ウサギは悲痛な叫びを上げて遠方を睨んだ。

 

「ゴーゴンの首を掲げた旗印……!?だ、駄目です!避けてくださいレティシア様!」

 黒ウサギの声も虚しく、褐色の光を受けたレティシアは瞬く間に石像となって横たわった。

 更に光の差し込んだ方角から、翼の生えた空駆ける靴を装着した騎士風の男達が大挙して押し寄せたのだ。

 

「いたぞ!吸血鬼は石化させた!すぐに捕獲しろ!」

「<ノーネーム>もいるようだがどうする!?」

「邪魔するようなら斬り捨てろ!」

 

 空を駆ける言葉を聞いた十六夜は不機嫌そうに、尚且つ獰猛に笑って呟く。

「まいったな、生まれて初めてオマケ扱いされたぜ。手をたたいて喜べばいいのか、怒りに任せて叩き潰せばいいのか?」

「と、とりあえず本拠に逃げてください!」

 何も言わずにボケー、としている番一と十六夜を慌てて本拠に引っ張り込むと、空の軍団の中から三人が降り立ち石となったレティシアを取り囲む。

 十六夜と黒ウサギは扉の内側から外の様子を窺った。

 

「これでよし……取り逃がすところだったな」

「ギフトゲームを中断してまで用意した大口の取引だ。しくじれば<サウザンドアイズ>に我ら<ペルセウス>の居場所は無くなっていたところだ」

「箱庭の外とはいえ、相手は一国規模のコミュニティだ。もし奪われでもしたら―――」

 

「箱庭の外ですって!?」

 

 黒ウサギの叫びに、運び出そうとしていた男たちの手が止まった。

 邪魔者と認識していた<ノーネーム>の叫びに彼らは明らかな敵意を込めて見る。

 しかし黒ウサギは男たちの視線など気にも留めず、走り寄って抗議の声を上げた。

 

「一体どういう事です!ヴァンパイアは箱庭の中でしか太陽の光を受けられないのですよ!そのヴァンパイアを箱庭の外に連れ出すなんて……!」

「我らの首領が取り決めた交渉。部外者は黙っていろ」

 騎士は突き放すように語り、翼の生えた靴で宙を舞う。空には百を越す軍勢が待ち構えている。

 

 本来であれば本拠への不当な侵入はコミュニティへの侮辱であり、世間体的にもよろしくない。

 

 信頼が命の商業コミュニティ<サウザンドアイズ>なら、この様な暴挙を許す事は無いだろう。

 

 これは明らかに<ノーネーム>と見下した上での行為であった。

 

 

「こ、この……!これだけ無礼を働いておきながら、非礼を詫びる一言も無いのですか!?それでよく双女神の旗を掲げていられるものですね、貴方達は!!!」

 激昂する黒ウサギを<ペルセウス>の男たちは鼻で笑った。

「こんな下層に本拠を構えるコミュニティ如きに礼を尽くしては、それこそ我らの旗に傷がつくわ。身の程を知れ<名無し>が」

「なっ……なんですって……!!!」

 

 黒ウサギの堪忍袋がバチコン!と爆発する音がした。

 数々の無礼千万な態度や言動に、黒ウサギの沸点は一気に振り切れたのだ。

 

「フン。戦うというのか?」

「愚かな。自軍の旗も守れなかった<名無し>など敵ではないわ!」

「恥知らずめ。御旗の下に成敗してくれる!」

 口々に罵り猛る騎士達。彼らは旗印を大きく掲げると、陣形を取るように広がる。

 

 黒ウサギは侮蔑の言葉を聞き流し、騎士たちを睨むと、らしくない物騒な笑顔で罵る。

「ふ、ふふ……いい度胸です。多少は名のあるギフトで武装しているようですが?そんなレプリカを手にして強くなった気でいるのですか?」

「何だと!?」

 今度は騎士達が怒声を上げる。

 

 黒ウサギは髪を緋色に染め上げ、高く舞い上がらせ威嚇する。

「ありえない……ええ、ありえないのですよ。天真爛漫にして、温厚篤実。献身の象徴とさえ謳われた<月の兎>をここまで怒らせるなんて……!」

 

 瞬時に一体の空気が重圧に変わる。息を吸う事すらままならないほどの力が敵を襲う。

 

 黒ウサギが右腕を掲げると刹那、空気が裂けるような甲高い音が響き渡る。

 さながら雷鳴の如き爆音が響き、その右手に閃光のように輝く槍が掲げられた。

 

「雷鳴と共に現れるギフト……ま、まさかインドラの武具!?」

「あ、ありえん!最下層のコミュニティが神格を付与された武具を持つはずが……!?」

「本物のはずがない!どうせ我らと同じレプリカだ!」

 

 稲妻が迸る槍を逆手に構えた黒ウサギは、

「その眼で真贋を見極められないならば―――その身で確かめてみるがいいでしょ……って、え?」

 

 熱膨張した空気が雷鳴を轟かせ、黒ウサギの髪が緋色から蒼に染まった時、異変は起きた。

 

 

 

 

 

 

 雷光が(・・・)屋敷の方へ(・・・・・)と迸り(・・・)奪われていくのだ(・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「キレそう」

 

 其処には、地獄の底から響くような声で呟く紫電を纏うバットを携えた番一が立っていた。

 

 

「悪いな黒ウサギ、先に俺のストレス発散タイムだ」

 バットを逆手に持ち替え全ての雷光をバットの切っ先へと集中させる。

 

 

 

「おい番長。白夜叉と問題起こさないようにな……それと、スマンな蚊帳の外にしすぎて」

「殺しはしない。ただ、ちょっと派手に痺れて貰う」

 十六夜の注意に番一は青筋を浮かべた笑顔で応え、上空を睨み叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「番長必殺・三十二式…………『痺雷(ひらい)』!!!!」

 

 

 

 

 

 

 バットを振り抜き撃ち放たれた雷撃は、即座に撤退の判断を下し退却の為に背中を見せた軍団を捕える。雷撃は激しい爆発音と共に突き刺さり、騎士達数十名が黒焦げの瀕死となり力尽きたように落ち、運よく攻撃を回避できた者が力尽きた者を即座に抱えて逃げ出していた。

 

 

「あ。しくじった」

 

 

「オイ番長、なに取り逃がしてんだ。せっかく俺が我慢してやったってのに」

「論点そこです!?というか番一様、さっきのはどうやって私の槍から雷を!?」

「番長必殺シリーズの事か?あれは多大なる練習に基づいて行う必殺技で、俺の友人と作り上げた物でな……っとそれはいいんだ。後は任せたから俺はあいつらを追って締め上げて星の彼方まで殴り飛ばしてくる。んじゃ」

 

 

 そう言って番一は再び空を駆け軍団の去って行った方角へと廃屋の屋根を壊さないように、かつ全力で飛び抜け去って行った。

 飛びゆく後ろ姿を見るとまるで軍勢など初めからいなかったような星空が広がっていた。

 煙のように消えた百もの軍団。しかし黒ウサギの目はごまかせなかった。

「あれは……不可視のギフト!?」

「<ペルセウス>が俺の知るモノと同じなら間違いなくそうだろうよ……しかし箱庭は広いな。空飛ぶ靴や透明になる兜が実在しているんだもんな」

「番一様は追えるのでしょうか?」

追ったはいいものの、という風に呟く黒ウサギ。既に槍は仕舞われ髪も元の色に戻っていた。

 

「白夜叉と問題起こさないように、とは言ったがどうだろうな。ま、後を任されたんだ。事情を聴き出しておかないといけないし事情に詳しい奴はあいつら以外にもいるだろ?」

 黒ウサギは納得がいった様にポン、と手を叩く。

「他の連中も呼んで来い」

「え?で、でも昼間の事がありますし」

「なら御チビとお嬢様だけでもいい。どうもキナ臭い。最悪その場でゲームになることだってあり得る。頭数は居た方がいいだろ」

 ―――ま、そうなっても俺一人で十分だけど。

 とは思っても口にはしない。十六夜は空気が読める男だった。自称ではあるが。

 ジンは看病に残るといい、本拠に残り

 十六夜、飛鳥、黒ウサギは<サウザンドアイズ>二一〇五三八〇外門支店を目指すのだった。

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

 一方その頃番一は、

 

 

「逃がすと思ったか!クソどもが!」

『ひいいいいいいいいいいいいいい!!!????』

 

 

 姿の見えない空を飛ぶ相手を『なんとなく』と『こっちじゃね?』で追いつめバットを振り回し追い駆け回していた。

 

 

(って言っても、捕まえたところでどうするんだって話だし、面倒事起こすと怒られるし……ほんと災難だ)

 

 

 それでも追跡の手は止めず、ついに振り回していたバットが透明な誰かの背を捕えた。

「おっ、当たった」

 直後地面に叩きつけられ転がり建物へと当たり誰かが倒れる様子が見えた。

 

 

「さーてと、尋問の時間だ……って、あ?」

 気づけばそこは<サウザンドアイズ>支店の門前で、

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

 そこには例の無愛想な女性店員が待ち構えていた。

 

「その口ぶりだと前々から分かっていたような感じだな?とりあえずここに居る……居た、か」

 

 手を戦慄(わなな)かせて肩を落とす。撃ち落とした者は既に消えていた。

「ま、いいや。今回の件に関してはまるで何にも俺は知らないんだ事情説明を受けないとな」

肩を竦めて溜め息をつく番一に女性店員は

「事情も知らずに一人で来たのですか……?」

「後から来るであろう黒ウサギと十六夜は知ってるだろうが俺は巻き込まれただけだからな。邪魔するぞ」

 

 そう言って番一は一人、店内へと入って行った。




どうも赤坂です。
ペース上げてきました。きっとすぐ失速します。
ルイオス君、ついに(最後の最後に名前だけ)登場。
他の話で名前が出てたか覚えていない……。
あと二話か三話か四話か五話で多分きっとおそらく一巻が終わります。
出来る限り早く終わらせるつもりではあります。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。


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第十八話

 昔々、―――間違えました。そう昔でもなく今、目の前にルイオスという男がいます。

 彼は不憫でした。なぜなら彼は話し合いをする為に来たというのに、現れた話し相手は彼の事を(ことごと)く無視するからです。

 

「オイ待て!急に入ってきて誰だお前は!」

「茶が旨い」

「だから誰なんだお前は!」

「少しは落ち着かんか小僧!」

 

 ルイオスの至極当然な質問の声に白夜叉は露骨に嫌そうな顔を浮かべ注意する。

 当の本人ははルイオスの言葉を無視してなんとなくルイオスを睨みながら座り、白夜叉に出された茶を飲みつつ十六夜達を待っていた。

 

「この状況で落ち着けと!?急に変な格好で変な物持った男が来て座り込んで茶を飲んで睨んでくる状況で落ち着けと!?」

「許してやれよ白夜叉。コイツが誰かは欠片も知らないが、どうせ……溜まってるんだろ」

「ふむ、ならば仕方ないの。許そう。……トイレなら出て右じゃ」

「僕をバカにするのも大概にしろよ!?」

 

 立ち上がってそう叫んだ後、再びドカッと腰を降ろし不貞腐れた顔のルイオスは億劫そうに溜め息をついた。

 

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

 夜も更け、満天の星空、一晩遅れの満月が箱庭を照らしている。

 街灯ランプは仄かな明かりで道を照らしているが、周囲に人気(ひとけ)らしいものは一切感じられない。

 

「これだけハッキリ満月出てるっていうのに星の光が霞まないなんておかしくねえか?」

 夜空を見上げていた十六夜はふと思いついたように疑問を黒ウサギに投げかける。

 

「箱庭の天幕は星の光を目視しやすいように作られていますから」

「あら、そうなの?だけどそれ、何か利点があるのかしら?」

 

 太陽の光から吸血鬼など特定の種を守る、というのは理解できるが星の光を際立たせることに意味があるとは思えない。

 

「ああ、それはですね」

 焦るような小走りを止め、歩幅を緩めて振り返った黒ウサギの言葉は十六夜の言葉で上書きされた。

 

「おいおいお嬢様。間違いなく『夜に綺麗な星が見れますように』っていう職人の心意気だぜ?」

「あら、それは素敵な心遣いね。とてもロマンがあるわ」

「……。そ、ソウデスネ」

 

 黒ウサギはあえて否定はしなかった。納得したならそれでいいし、店先までほんの僅かだ。

 

<サウザンドアイズ>の門前に着いた三人を迎えたのはまたしても無愛想な女性店員だった。

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様と事情を知らない出禁の人がお待ちです」

「黒ウサギ達が来ることは承知の上、ということですか?あれだけの無礼を働いておきながらよく『お待ちしておりました』なんて言えたものデス……というか番一様がいるのですか?」

「事の詳細は聞き及んでおりません。中でルイオス様からお聞きください」

 

 定例文にも似た言葉にまた憤慨しそうになるが店員の彼女に文句を言ったところで仕方がない。

 店内に入り、中庭を抜けて離れの家屋に黒ウサギ達は向かう。

 

 

 中で迎えたルイオスが黒ウサギを見て不貞腐れ顔を笑顔に変え、盛大に歓声を上げた。

 

「うわお、ウサギじゃん!うわー実物始めて見た!噂には聞いてたけど、本当に東側にウサギがいるなんて思わなかった!」

 

「露骨にテンション上げたなコイツ」

 

「つ、つーかミニスカにガーターソックスって随分エロいな!ねー君、うちのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ?」

 

 番一のツッコミにやや調子が崩れるもののルイオスは地の性格を隠す素振りもせず黒ウサギの全身を舐めまわすように見ていた。

 というよりは何か話を振らないといい加減番一の視線に耐えられなかったのだろう。

 

「これはまた分かりやすい演g……外道ね。先に断っておくけど、この美脚は私たちのものよ!」

「そうだそうだ!この美脚『は』俺らのものだ!」

「そうですよ!黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!って番一様はなぜ『は』を強調したので!?脚以外は他人のモノだと!?」

 

 番一と飛鳥の若干言い直してからの突然の宣言に、慌ててツッコミを入れる黒ウサギ。

 そんな三人を見ながら、十六夜は呆れながらもため息をつく。

「そうだぜお嬢様、番長。この美脚は既に俺のものだ」

「そうですそうですこの脚は、ってもう黙らっしゃい!!!」

「よかろう、ならば黒ウサギの脚を言い値で」

「売・り・ま・せ・ん!あーもう、真面目なお話をしに来たのですからいい加減にしてください!黒ウサギも本気で怒りますよ!」

「馬鹿だな黒ウサギ」

 十六夜が肩を竦め番一と目を合わせて言う。

 

 

 

「「怒らせてんだよ」」

 スパァーン!とハリセン一閃。今日の黒ウサギは短気だった。

 

 

 

 肝心のルイオスは置いてけぼりを食らっている。

 

 五人のやり取りが終わるまで唖然と見つめ、唐突に笑い出した。

 

「あっはははははははははは!え、何?<ノーネーム>っていう芸人コミュニティなの君ら。もしそうなら纏めて<ペルセウス>に来いってマジで。道楽には好きなだけ金かけるのが性分だからね。生涯面倒見るよ?勿論、美脚は僕のベッドの上で好きなだけ開かせてもらうけど」

 

「お断りで

「男の俺にそれを言われても困るな……!」

 

 黒ウサギの言葉を遮って、満面の笑みを浮かべつつも目が笑っていない番一がそう答えるとルイオスは殺意を剥き出しにして睨んできた。

 

 そんな彼らの元に、外から店員の助け舟が出される。

「あの……ご来客の方も増えましたので、よろしければ店内の客間に移りましょうか?」

「そ、そうですね」

 一度仕切り直すことになった一同は<サウザンドアイズ>の客室に向かうのだった。

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 座敷に招かれた四人は白夜叉とルイオスに向かい合う形で座る。長机の対岸に座るルイオスは舐め回すような視線で黒ウサギを見続けていたが隣に座っている番一と目が合ってしまい苦虫を噛み潰した様な顔でそっぽを向いた。

 黒ウサギはルイオスを無視して白夜叉に向けて事情を説明する。

 

「では、説明を始めさせていただきます。

まず初めに<ペルセウス>の所有物であるヴァンパイアが<ノーネーム>本拠へ踏み込み同士に危害を加えようとしました。

次にそのヴァンパイアの捕獲に来た<ペルセウス>の方々による暴挙、及び暴言。

―――多々ありますが一例を挙げますと私達が許可を得ずに本拠へ入り込んだことを咎めた際に『こんな下層に本拠を構えるコミュニティ如きに礼を尽くしては、御旗に傷がつく』と言い放ちヴァンパイアと同じようにこちらに危害を加えようとしました

―――ペルセウスが私達に対する無礼を振るったのは以上です。ご理解いただけたでしょうか?」

 

「う、うむ。<ペルセウス>の所有物・ヴァンパイアが身勝手に<ノーネーム>の敷地内に踏み込んで荒らしたこと。それらを捕獲する際における数々の暴挙と暴言。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、われわれの怒りはそれだけでは済みません。

<ペルセウス>に受けた屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけるべきかと」

 

 

 両コミュニティの直接対決。それが黒ウサギの狙いだった。

 レティシアが敷地内で暴れ回ったというのはもちろん捏造だ。しかし彼女を取り戻す為にはなりふり構っていられる状況にはない。使える手段は全て使う必要があった。

「<サウザンドアイズ>にはその仲介をお願いしたくて参りました。もし<ペルセウス>が拒むようであれば主催者権限(ホストマスター)の名の下に」

 

 

「いやだ」

 

 

 唐突にルイオスは言った。

「……はい?」

「いやだ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れ回ったって証拠があるの?」

「それなら彼女の石化を解いてもらえば」

「駄目だね。アイツは一度逃げ出した。出荷するまで石化は解けない。それに口裏を合わせないとも限らないじゃないか。そうだろ?元お仲間さん?」

 

 嫌味ったらしく笑うルイオス。筋が通っているだけに言い返す事ができない。

 

「そもそもあの吸血鬼が逃げ出した原因はお前達だろ?本当は盗んだんじゃないの?」

「何を言い出すのですかッ!そんな証拠が一体何処に!」

「事実、あの吸血鬼はお前達の所に居たじゃないか」

 

 ぐっと黙り込む。それを()かれては言い返せない。黒ウサギの主張も、ルイオスの主張も、第三者がいないという点では同じなのだ。

 ……もしかしたら巻き込まれただけの番一が証人にできるかもしれないという淡い期待があるにはあるが最悪墓穴を掘る可能性もある。そんな賭けに乗るわけにはいかなかった。

 

 ルイオスはヘラッと笑って畳み掛ける。

「まぁ、どうしても決闘に持ち込みたいというならちゃんと調査しないとね。……もっとも、ちゃんと調査されて一番困るのは別の人だろうけど」

「そ、それは……!」

 視線を白夜叉に向ける。彼女の名前を出されては黒ウサギとしては手が出せない。

 

 三年間もの間<ノーネーム>を存続できていたのは彼女の支援があったからなのだ。

 今回の一件でさらなる苦労を掛けるのは避けたかった。

 

「じゃ、さっさと帰ってあの吸血鬼を売り払うか。愛想無い女って嫌いなんだよね、僕。特にアイツは体もほとんどガキだし―――だけど見た目はいいからさ、その手の愛好家に堪らないだろ?気の強い女を鎖で繋いで組み伏せて啼かす、ってのが好きな奴もいるし?太陽の光っていう天然の牢獄の下、永遠に玩具にされる美女っていのもエロくない?」

 

 ルイオスは挑発半分で相手の人物像を口にする。

 挑発に乗せられ案の定黒ウサギは耳を逆立て叫んだ。

「あ、貴方という人は……!」

 

「しかし可哀想な奴だよねアイツも。箱庭から売り払われるだけじゃなく、恥知らずな仲間の所為でギフトまでも魔王に譲り渡すことになっちゃったんだもの」

 

「……なんですって?」

 声を上げたのは飛鳥だ。彼女はレティシアの状態を知らなかったから驚きも大きい。

 黒ウサギは声を上げなかったものの、その表情にははっきりと同様が浮かんでいる。

 

 ルイオスはそれを見逃さなかった。

「報われない奴だよ。<恩恵(ギフト)>はこの世界で生きていくのに必要不可欠な生命線。魂の一部だ。それを馬鹿で無能な仲間の無茶を止めるために捨てて、ようやく手に入れた自由も仮初めのもの。他人の所有物っていう極めつけの屈辱に耐えてまで駆けつけたっていうのに、その仲間はあっさりと自分を見捨てやがる!あの女、目を覚ましたらどんな気分になるだろうね?」

 

「……え、な」

 黒ウサギは絶句する。そして見る見るうちに顔が蒼白に変わっていく。

 同時にいくつかの謎も解けた。

 

 魔王に奪われていたはずの彼女がこの東側に居る理由も、彼女のギフトが鬼種は残っているものの神格を失っている理由も。

 

 

 魂を砕いてまで―――彼女は仲間の下へ駆けつけようとしてくれていたのだ。

 

 

 ルイオスはにこやかに笑うと、蒼白な黒ウサギへスッと手を差し出す。

「ねえ黒ウサギさん。このまま彼女を見捨てて帰ったら、コミュニティの同士として義が立たないんじゃないかな?」

「……?どういうことです?」

 

「取引だよ。吸血鬼を<ノーネーム>に戻してやる。その代わりに、君が僕に生涯隷属するんだ」

「なっ、」

「一目惚れって奴?それに<箱庭の貴族>っていう(はく)も惜しいし」

 再度絶句する黒ウサギ。飛鳥もこれには堪らず長机を叩いて怒鳴り声を上げる。

 

「外道とは思っていたけれど、此処までとは思わなかったわ!もう行きましょう黒ウサギ!こんな奴の話を聞く義理はないわ!」

「ま、待ってください飛鳥さん!」

 黒ウサギの手を握り連れ出そうとする飛鳥。だが黒ウサギは座敷を出ない。

 

 黒ウサギの瞳は困惑し、申し出に悩んでいることは明白だった。

 

 それに気づいたルイオスは(いや)らしい目で()くし立てた。

「ほらほら、君は<月の兎>だろう?仲間の為に煉獄(れんごく)の炎に焼かれるのが本望だろ?君たちにとって自己犠牲って奴は本能だもんなぁ?」

「……っ」

「ねえ、どうしたの?ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろ?安っぽい命を安っぽい自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろ!?箱庭に招かれた理由が献身なら、種の本能に従って安い喧嘩を買っちまうのが筋だよな!?ほらどうなんだ黒ウサ

 

 

黙りな(・・・)

やかましいッッ(・・・・・・・)!」

 

 

 

 ガチン!と叫ぼうとしていた飛鳥と捲し立てていたルイオスの口が閉じる。横槍を入れるように叫んだ番一の怒声が原因だ。

 

「ホント、マジ、何が一番ムカつくってな、ルイオスだっけか?俺の眼ェ見て答えろ」

 長机に片足を乗せ、右手にバットを携えて番一は自分の眼を指して低い声で問う。

 

 

 

「お前、さっき自分で言った条件―――守る気あんのか(・・・・・・・)?」

 

 

 

 ルイオスは面食らったように吹き出し、目を逸らして(・・・・・・)御座(おざ)なりに応える。

「ハハハ、何を言うのかと思えばそんな事か。あぁうん守るよ」

 

 

 

 

「抜かせ嘘吐(うそつ)きが。口先だけの戯言で人の人生踏み荒らそうとすんじゃねえッッ!!!」

 

 

 

 ルイオスが答えた次の瞬間。長机が二つに割れ、神速で振り抜かれた番一のバットは、

 

「やめよ番一。この場は交渉の場だ」

 白夜叉の扇によってルイオスの眼前で受け止められていた。

 白夜叉と目が合うとバツが悪そうに番一はバットを戻し座り込む。

 

 

 

 

「ク、クソが!」

 意識を取り戻したようにルイオスは数歩下がり、動転して荒い息を抑え言葉を紡ぐ。

 そして取り出したギフトカードから、光と共に現れる鎌。

 番一に向け振り下ろされた刃を庇うように受け止めたのは、十六夜だった。

「な、何だお前……!」

「十六夜様だよ色男。喧嘩なら利子付けても買うぜ?勿論トイチだけどな」

 軽薄そうに笑うと、握った柄を蹴って押し返す。

 

「ええい、やめんか戯け共!話し合いで解決出来ぬのなら門前に放り出すぞ!」

「……。ちっ。けどその男が先に手を出したんだからね?」

 尚も殺気立つルイオス。黒ウサギが間に入って仲裁した。

 

「ええ。分かってます。これで今日の一件は互いに不問という事にしましょう。……後、先程の話ですが……仲間に相談する為にもお時間を下さい」

「オッケーオッケー。こっちの取引ギリギリ日程……一週間だけ待ってあげる」

 一気に表情を変えてにこやかに笑うルイオス。黒ウサギはそれだけ口にして座敷を出た。

飛鳥がその後ろを追いかける。

 

 と、そこで十六夜は呆れたように肩を竦ませた

「白夜叉は恵まれてるな。気難しい友人とゲスい部下に挟まれるなんてそう経験できないぞ」

「全くだの。羨ましいなら代わってやるぞ」

「今はいいや」

 そう言ってから十六夜はしばしばルイオスを見つめた後、落胆したようにため息をついて(きびす)を返す。

 

「―――ちょっと待てよ。今の溜め息はなに?」

 

「お前名前負けしすぎ、期待した俺が馬鹿だった……そういう意味さ」

「はっ。今なら安い喧嘩でも買うぜ?」

 

 鎌を構える。彼とて<ペルセウス>を率いている男。数多の修羅神仏を押しのけ五桁の外門に本拠を構えているのだ。その実力は並の人間とは一線を画す実力がある。先程は気圧されたし力負けしたしたかもしれないが、いざ戦えば自分が勝つと疑っていない。

 十六夜は片眉を上げて見つめ直す。だがやはり興味無さそうに座敷に背を向けた。

 

 

 

「で?なんでお前はまだ残ってんの?」

 一人残り座ったままの番一にルイオスは声をかける。

「ん?机壊しちまったから片づけ手伝おうと思って残ってる。んでもってお前の今言ったセリフはそっくりそのままお前に返すぞ」

 表情を変えずに番一がそう伝えると、ルイオスは手に持ったままの鎌を力を込めて握り、怒りを吐き出すように嘆息し足を踏み鳴らし座敷から出て行った。

 

 

 

            ※

 

 

 

 出て行ったルイオスの背中が見えなくなると同時に番一は話しかけた。

「で。話があるんだろう?止められた時に『私に良い考えがある』って顔してたからな」

「……ふむ、分かってくれて嬉しいの」

 そう言って懐から二枚の紙と二つの小さい鈍色のプレートを取り出す。

 

「これは<ペルセウス>への挑戦権を賭けたギフトゲームの詳細と、そのギフトゲームの開催場所の外門のナンバープレートだ」

「というと?」

「ええい、理解の悪い奴じゃの。よいか?挑戦権を得たコミュニティからの挑戦を<ペルセウス>は断れん。そういう決まりだからの。それを逆手にとって黒ウサギの凶行を止めるのだ。

―――今黒ウサギは『レティシアを救うために自分を犠牲にする』道を選ぼうとしておる。

それもこれも決闘に持ち込めず、このままではレティシアを取り戻せんからだ。

そこでもし『決闘へ持ち込める挑戦権』を得たら?黒ウサギは自分を犠牲にせずに済む。

つまりそういう事じゃ」

 

 

「それ俺が断ったら終わりだよな?まぁ断るつもりはないんだが」

「もし断った場合この机の弁償を盾にする」

「ちなみにお幾ら位で?」

「ざっと<ノーネーム>の生活費数年分位かの?この机なかなかいい素材を使って

(つつし)んで、お受けいたします」

 流石の番一もそれがどれほどヤバい事態を招くのかは解っていた。

 白夜叉から静々と紙とプレートを受け取る。

 

「まぁ私の私怨も含まれておるからの。最悪あの下種(げす)を張り倒せばチャラにしてやろう」

「私怨込みかよ!それもいいけどな。任せておけ。ガハハハハハ!」

 夜だという事も忘れて大声で笑い座敷を後にする。

 

 

「十六夜にも声を掛けておくが良い。一人では間に合わん可能性もあるからの。

……自分で言ったのだ!机の片づけをするが良い番一!」

 

 




赤坂です。
書き直しどこで番一を突っ込ませるか悩みに悩んでこうなりました。
冒頭の『昔々~』はとある御方に『導入部分どうすりゃええねん…』って愚痴ってたら貰ったネタです。(この場でお礼)
挑戦権のギフトゲームシーンを書くかどうか悩み中。番外編作ってそっちに書こうかなと。
(やるなら一巻終わった後になりますし、この夏を生き残れるかどうかで決まる)
……後書きじゃなくて愚痴になってしまった。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。


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舞台裏RS劇場

書く環境が変わって本編がどうにもこうにも書けません
来年の三月頃まで待ってくださいお願いします···
本当に申し訳ない;;
本編十八話終了時点直後、SideRSといったところです
どうぞ


 

―――<サウザンドアイズ>二一0五三八0外門支店、白夜叉の私室外。

 

番一が机を片付ける音を聴きながら扉の前で浮かぶラプラスの小悪魔、RSの姿があった。

 

「さてさて、鑑定が終わってからずっと見てはいましたが···ちょっと甘味を摘まみに、と目を離すべきではなかったと言うべきですね。何やら長井番一がやらかしたようですし」

 

そう小さく呟いてRSは小さな手で頭を掻く。

と、中から番一の声が扉に向けて掛けられた。

『ん?誰か今呼んだか』

『ええい!誰も呼んでおらんわ!早く片付けい!』

しかし即座に白夜叉に叱られ、すごすごと机の破片を片付ける音がした。

 

「さすがと言うべきか···恐るべき聴力ですね。犬並み、は言い過ぎですかね。っと離れなくては」

そう呟くが早いか、先程よりも更に小さな声で何かを唱え、RSの姿が消えた。

 

 

 

 

            *

 

 

 

―――数秒後、箱庭のどこか、上空。

 

そこには風に服を靡かせるRSの姿があった。

眼下に映る風景は箱庭東側外門のソレとはあまりにも違う。

 

「見つかるのも癪だと思い跳んだはいいものの、流石に遠くまで来すぎましたかね?」

そう呟いて虚空からティーセットを取り出す。

ティーセットはひとりでに動きRSの手の中へと運ばれた。

 

「さてさて、取り敢えず情報を纏めねば」

またしても何処からか紙束を取りだし、紅茶片手に眺め始めた。

 

 

と、今更だが彼女『ラプラスの小悪魔<RS>』について説明しておこう。

身長は大体7cm。白を基調として黒色の模様であしらったワンピースに、ゴーグルにも見える単眼。両の手足は黒い影のようなもので針の様に細く伸びている。髪は夜空を思い浮かべるような、黒。

 

服装や髪の色に違いはあれどほぼ全てのラプラスの小悪魔に共通する外見である。

だが彼女の言動は他のラプラスの小悪魔とは決定的に違う。

 

彼女<RS>は他のラプラスの小悪魔達に嫌われており、ほぼ絶縁状態であるということ。

ラプラスの大悪魔、ラプラスの小悪魔達が母さんと呼ぶ存在、に仕入れた情報を送りもせず、一人でその情報を溜め込んでいるということ。

ラプラスの悪魔のコミュニティから半ば脱退していること。

 

簡単に説明してしまえば『フリーランスのラプラスの小悪魔』というのが彼女の立場だろう。

なぜ許されるのかと聞かれれば、本家ラプラスの大悪魔をも超える情報量に、自分からは決して報酬を求めない姿、神軍ですら手玉にとる彼女についての噂が絶えず、RSのところへ白夜叉のように仕事を持ち込んでくる者がそこそこいるというのもそうだし、なによりラプラスの大悪魔が何故かその振る舞いを許しているからだ。

 

 

(とまぁ、私についてはもういいのですが···)

手に持っていた紙束を何処かへと消し、紅茶を少し飲んでため息を一つついた。

 

(何よりもまず言いたいことがひとつありますね)

 

 

 

「最初に作った報告書が雑すぎる!何ですかこれは。子供のお使いですか!?」

言うが早いか頭を抱えて呻き出した。紅茶の入ったティーカップは空で中でプカプカと浮いている。

 

「うぐぅ、我ながら酷い出来です···もうちょっと調べあげてから出すべきでした、というより即断即決で作った"アイツ"が悪···ゲフンゲフン、これは禁句でしたね」

 

頭を振って悩みだす。

 

「四代目箱庭番長、一代二代と情報は不自然といっていいほどに無く、辛うじて三代目のはありますが···もう数百年前のことですし、こうなってくると『カワイイ!』とかいって襲われるのを理由に逃げ回るべきではありませんでしたね」

その時の光景を思い出したのか一度身を震わせて続ける。

 

「四代目、長井番一について調べれば、なにかわかるのでしょうかね?今の時点ではやや情報不足が否めませんが。常人離れした身体能力、作っているのではと勘繰ってしまう謎の無知アピール、若干の情緒不安定···あれ?もしや彼は問題児というよりガイ···これは言うと色々な方面から確実に叱られますねゲフンゲフン」

 

RS以外誰も耳にしていないはずだけれども咳をして言葉を濁す。

 

「番長必殺シリーズとやらも存在するのでしょうし、そもそもあれギフトじゃないっぽいですし何でしょうねアレ」

悩み混むこと数分。RSはもう一度盛大にため息をついて結論を出した。

 

「直接本人に聞くのが手っ取り早いですね。こうしてはいられません。行きますか」

残っていた紅茶を飲み干し、ティーセットを消して、再び何か唱えて消えた。

 

後には紅茶の匂いを吹き消す、乾いた風だけが残った。

 

 

 

―――その数秒後、RSが番一を見失って、自らの失態嘆く、虚しい叫び声が響いた。




どうも赤坂です。生きてます。
前書きで言いたいことは大体言えたのでこっちではあんまり

と、もしかしたらちょこちょこっとこういう感じの投稿がされるかもしれませんしされないかもしれない、シュレディンガーの投稿に来年の三月頃までなります。

ではでは。


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第十九話

―――噴水広場を越えた先、ぺリベット通り。

<サウザンドアイズ>を出た番一は先に行った皆に追いつくため走っていた。

バットを肩に掛け、反対の手に握っているものは三枚(・・)の紙。そのうちの一つ紙切れともいえる小さな紙にはただ一言、

『任せた』

とだけ書いてあった。外門のナンバープレートは、ギフトカードに収納してある。

(いやいや、まさか白夜叉が手伝ってくれるとは思わなかったな。そこらへんは割り切ってるイメージがあったんだが……まぁありがたく貰っとくか、調べる手間が省けた)

と考えたところで、三人の声が聞こえ、後姿が見えた。

黒ウサギのウサ耳を飛鳥が掴んで引っ張って、黒ウサギがあられもない悲鳴を上げていた。

少し後ろでニヤニヤと見ている十六夜に番一が不思議そうに話しかける。

「……。なにやってんだ、どういう状況?」

「ん?おう番長か。なに、お嬢様と黒ウサギが遊んでるだけだ」

「へぇ……あ、そうだ。十六夜にちょいと話があるんだ」

「俺にか?体育館裏なら喜んでお受けするぜ?」

「いや、違うんだが……っと、帰った後でな」

二人の(たわむ)れも終わったようでいったん話を切り上げた。

今後どうするにしても、まずはジンや耀と話さねばならない。

四人は一度<ノーネーム>の本拠に戻ることにするのだった

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

―――それから三日後。黒ウサギはジンに謹慎処分を受けていた。

自室の窓に滴る雫を指でなぞりながら、雨の振る箱庭の都市を見る。

とはいえ、この雨。定期降雨……つまりは人工降雨であり、ありもしない雨雲を<ある>と錯覚させた上で降らせているものである。

はっきり言ってかなり無駄な高等技術である。水が欲しいなら外で雨が降ったときに天幕を開けるか、もしくは雨雲の演出なんてせずに水を撒けばいいだけだ。

これほどの奇跡の御技を趣味嗜好(しゅみしこう)で振るうことが許される懐の広さも、箱庭らしいのだが。

(まぁ、箱庭の機能なんて娯楽で設置される物が殆どですし、気にしたら負けかな)

雨風は風物詩を彩る大事なファクターの一つ。古来天運天災に身を潜める修羅神仏にとって、雨雲の有無というのは意味合いが大きい。

雷雲を伴う嵐なら、それは龍の仕業だと崇め、

お天気雨ならどこぞの僻地で魔法使いがチーズを作っている、

ということになる。

(そういえばレティシア様は雨が苦手でしたっけ。血の臭いが湿気と共に立ち籠めるのは宜しくない、とか何とか)

吸血鬼の癖になにを言っているのやら。思い出して黒ウサギは苦笑した。憂鬱(ゆううつ)そうに窓の外を眺めていると、コンコンと控えめなノックが響く。

「はーい、鍵もかかってますし中に誰もいませんよー」

「入っていいってことかしら?」

「そうじゃないかな?」

声は久遠飛鳥と春日部耀のものだ。

少しネタに走ったのだ。そうとられても仕方ないかもしれないが、『誰もいない』と主張して『入ってよし』と即座に判断するのはどうなのか。

「あら、本当に鍵がかかってるわ」

「ん……ホントだ。こじ開ける?」

がちゃがちゃとドアノブを回す二人。黒ウサギは観念して立ち上がった。

「はいはい、今開けます!御二人はもう少しソフトに、というかオブラートにですね」

「いっそ壊しましょう?」

「そうだね」

バキンッ!

「オブラァァァァァァァァアット!!」

「「五月蝿い」」

問題児相手には木製のドアノブはあまりにも無力だった。

黒ウサギは破壊されたドアノブを片手に、ウサ耳を垂れさせ、しくしくと泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 

流した涙もそのままに、自前の湯沸かし器でお茶を入れる。その間に二人は持ち込んだ布袋を小皿に広げる。中には手作りと思われるお菓子が入っていた。

「……まさか御二人が?」

「いいえ、コミュニティの子供たちが作ったのよ」

「『お願いですから黒ウサギのお姉ちゃんと仲直りしてください』って狐耳の女の子や他の年長組みの子が」

三人はなんともいえない複雑な表情を浮かべる。

思い返せば三日前。本拠に帰ってからジン、耀に事情を説明したところ、二人とも黒ウサギを引き止めた。

誰に悪気があったわけでもないがついカッとなって言い過ぎた。

飛鳥も参加して大惨事となり、結局、全員頭を冷やすために謹慎ということになったのだ。

傍観者に徹していた番一と十六夜は二言、三言二人で交し合った後、皆に「空気に耐えられないので遊んでくる」「ちょくら箱庭で遊んでくる」と言い残したまま二人共に一度も帰ってこない。

もしかしたら<ノーネーム>に愛想をつかしたのでは、と誰もが思った。

そんな剣呑(けんのん)な空気を子供たちは察したのだろう。

自分達で何かできる事を、と必死に考えた結果がこの小皿の上のお菓子だった。

「子供って卑怯だわ。あんな泣きそうな目でお願いされたら断れるのは鬼か悪魔ぐらいよ」

「ダメだよ飛鳥。きっかけをくれたんだからちゃんと仲直りしないと」

フン、と顔を背ける飛鳥となだめるよう耀。

それを見た黒ウサギは、困ったように笑った。

「そうですね……黒ウサギたちがしっかりしないと、コミュニティのみんなが困りますよね」

「そういうこと。だから他所に行かせるわけには行かないわ。このコミュニティの中心はジン君でもなければ私たちでもない。ずっと一人で支え続けた貴女なのよ、黒ウサギ」

「……はい」

任された子供達のこと。招き入れた皆のこと。

全てを背負っているのは他でもない黒ウサギ自身なのだ。

「……飛鳥から聞いた話だけど。黒ウサギの言う<月の兎>ってあの逸話の?」

「YES。箱庭の世界のウサギ達は総じて同一の起源を持ちます。それが<月の兎>でございます」

場の話題を変えるように、耀が黒ウサギに質問をした。

しばらく話し合い、次第に話の内容はどうすれば<ペルセウス>と血統に持ち込めるのかへと変わっていった。

 

 

―――降りしきる雨の中、バチャバチャと慌しく本拠に駆け寄る影と、黒ウサギの部屋の扉に移る影に気づくこともなく。

 

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 

「邪魔するぞ」

ドガァン!という激しい音と共に黒ウサギの部屋の扉が大破する。

同時に十六夜が袋を脇に抱えて現れた。

「い、十六夜さん!今まで何処に、って破壊せずには入れないのでございますか貴方達は!?」

最早(もはや)諦めていたが、開いているドアをわざわざ破壊して入ってくるなど嫌がらせでしかない。

しかしこの十六夜、悪びれるつもりなどまったくないように肩を(すく)ませた。

「だって鍵かかってたし」

「あ、なるほど!じゃあ黒ウサギの持っているこのドアノブはいったい何なんですかこのお馬鹿様!!」

ドアノブを力いっぱい投げつける。

十六夜はヤハハと笑いながら、脇に抱えている大風呂敷で受け止めた。

その大風呂敷を不思議そうな目で耀が見る。

「それ、なにが入ってるの?」

「ゲームの戦利品だ。―――その反応だと番長はまだか」

少しだけ広げて、耀に覗かせる。すると耀の表情が見る見るうちに変わった。

「――――――…………これ、どうしたの?」

「戦利品だって言って……る……?」

と、十六夜はそこまで言って口を閉ざし、そして(いぶか)しげに部屋の窓を見た。

黒ウサギも、耀もほぼ同時に振り返り窓を見て、飛鳥も一瞬遅れて釣られるように見る。

外から、ズドドドドド!という足音と共に声が聞こえてきた。

最大音量、まるでカラオケで歌のサビを歌うように、轟く。

 

 

 

 

 

 

「最後のぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!ガラスをぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「え、ちょ、それはほんとにやめ――――――!!!!!!」

「「「ブチ破れぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!!!」」」

 

 

 

黒ウサギが、察し、叫び。十六夜、耀、番一の声が重なる。

バゴォオン!という破砕音と共に番一が黒ウサギの部屋に飛び込んできた。

ガラスをブチ破るというより、窓ガラスのフレームごと部屋の壁が削り取られる形だった。

 

両手に窓ガラスのフレーム付きの壁を両手にもった番一がいい声で黒ウサギの顔を見て、告げる。

 

 

「ただいま!」

 

 

 

「何でですかあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」

 

「お帰り番長、俺の勝ちだぜ。ヤハハハハ!」

「なん…………だと…………!?」

十六夜が動じずに勝利宣言し、耀が間一髪で拾い上げたお菓子をパクパクと食べ、飛鳥がネタについていけず困惑しながらも皆のティーカップ等を安全圏に避難させていた。

窓と壁だったものを持っている両手をワナワナと震わせ、雨の入り込む、元あった場所から外に投げ捨て、がっくりと膝を突いて床を拳で叩いた。

「これじゃあ黒ウサギの部屋の壁を壊した意味がねぇ!!」

「この、この!問題児様ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

ウサーッ!!と髪を緋色に染めながら本気も本気で怒る黒ウサギ。

扉を失い、果てには壁まで持っていかれた。修理費は一体どうすればいいのか。

いや、それよりもなぜこんな傍迷惑(はためいわく)な登場をしたのか、もう何処から怒ればいいのかわからない。

 

 

「……とりあえず部屋、変えようか」

「……そうね」

 

ヤハハと笑う十六夜に悔しがる番一、傍らで怒る黒ウサギを横目に二人は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

―――それからしばらく経った後、<ノーネーム>貴賓室。

破砕音にジンが駆けつけたり、子供達が怖がっていたりしたが、少し目を離したら何故か壁もドア(・・・・・・・)も直っていた(・・・・・・)

全員で首をかしげたものの、とりあえず直ったことで黒ウサギの溜飲は下がり、若干キレ気味だが落ち着いてくれた。

 

 

「それで、結局御二人は……」

「おう、ペルセウスへの挑戦権を手に入れるために奔走してた」

「俺は攻略のための情報収集も兼ねてな」

貴賓室のテーブルの上には<ゴーゴンの首>の印がある(あか)(あお)の宝玉が置いてあった。

三日前、番一は十六夜に話を通し、二人で手分けしてこの宝玉を手に入れに行っていた。

その割には日にちがかかったのだな、と思い聞いてみると、

「ちょっと調べたいことがあってな、番長にハンデ代わりに帰らず調べてた」

十六夜はこう答え、

「攻略自体は一日どころか一瞬で終わったんだが、帰り道に迷って、何だっけな。……陸の、陸のなんたらっていう奴とオマケで戦ってた」

番一はこう答えた。

 

「え、陸の何たらってまさか陸の王者……!?」

「ま、それについては後でいいだろ。とりあえずこれで<ペルセウス>への挑戦権はそろったわけだし宣戦布告といこうや」

「……。おう番長絶対に言えよな。またのらりくらりと逃げんなよ?」

「いつ俺が逃げたよ?『暇な時に話す』って何度も言ってるだろ?」

黒ウサギが驚愕した目で、十六夜がイラついたような目で、番一を見ていたが、当の本人はなんら気にしない。

 

「とりあえず、二人とも」

「あのねぇ、十六夜君、番一君?」

耀と飛鳥が突然立ち上がって二人の後ろに立った。

「うん?なんだ」

「どうした?」

ゴツン!とチョップをそれぞれの頭に落とす。

「「次から一声かけること!」」

番一の頭に割と強めにチョップを落とした飛鳥が痛そうに手を揉んでいる。

 

「いや、悪かったな。今度から気をつける」

「ああ、次からは声をかけるぜ」

そう返した二人の言葉に黒ウサギが(次を想定しているのですか……)と心の中で呟くも頭を振って、宣言した。

 

「わかりました。ペルセウスに宣戦布告します。我等の同士・レティシア様を取り返しましょう」




……どうも赤坂です。
お 久 し ぶ り で す。
PCリセットしたり、登録した辞書が消えて作業効率がた落ちしたり。
久しぶりすぎて自分で書いたストーリーが思い出せず一回全話読み直したりして遅れました。
二月中に終わらせたい。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。


※3/12 ストーリー構成上でおかしかった点を修正


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第二十話

 ―――二六四七五外門・<ペルセウス>本拠。

 

 黒ウサギは夜遅く<ペルセウス>本拠へ赴き、ルイオスに

『コミュニティ代表者を交え、会談の場を設けたい』と伝えた。

 沈鬱(ちんうつ)そうな表情を装い伝えたその言葉は、表情も伴い取りようによっては『諦め』とも取れ、ルイオスにとって黒ウサギの言う

『会談の場を設けたい』=『黒ウサギ(自分自身)と交換にレティシアを返して欲しい』ともなる提案を断るはずもなかった。

 

 その翌日、白亜の宮殿の門を叩いた<ノーネーム>一同を迎え、謁見の間で両者は向かい合う。

 交渉の場に着いたルイオスはにやけた顔で黒ウサギに熱い視線を送り、番一の送り返す殺意とおもちゃを見る子供のような視線を受け、苦虫を噛み潰したような顔でそっぽを向いていた。

 

 そんな状況を無視して黒ウサギは切り出す。

「我々<ノーネーム>は<ペルセウス>に決闘を申し込みます」

「何?」

 ルイオスの表情が変わる。予想していなかった返答に眉を(ひそ)めるが、黒ウサギは続ける。

「決闘の方式は<ペルセウス>の所持するゲームの中で最も高難度の物で構いません」

「え?そんなつまらない事言いに来たの?決闘なんてしないって」

 ルイオスは拍子抜けしたように声を上げた。自分達が戦って負ける事などあり得ない、と思っている。

 だが、相手は<箱庭の貴族>。頭のおかしい男もいる以上ゲームを受けるのは危険でしかない。

 

 そもそも<名無し>と対等な決闘をするという事そのものが既に屈辱なのだ。

 ルイオスは決闘を拒否し、手のひらで払う仕草を向ける。

「それが用件ならとっとと帰れよ。あーマジうぜえ。趣味じゃねえけど、あの吸血鬼で鬱憤(うっぷん)でも晴らそうかな。どうせ傷物でも気にしねえような好色家の豚に売り払うんだし―――」

 ―――ドサッ、っと黒ウサギは、ルイオスの眼前に巨大な大風呂敷を広げる。

 風呂敷の中からは<ゴーゴンの首>の印がある紅と蒼の宝玉が転がり出た。

 ルイオスの傍で控えていた側近達は眼をひん剥いて叫び声をあげる。

「こ、これは!?」

「<ペルセウス>への挑戦権を示すギフト……!?まさか名無し風情が、海魔(クラーケン)とグライアイを打倒したというのか!?」

 

 困惑する<ペルセウス>一同。本来ならば、挑戦権を得たコミュニティが出た場合本拠に通達が行くのだが、気づいていなかったらしい。

 それもそのはず、ここ数日の書類は仕事をしないルイオスの所為で、執務室の中で山積みになっているのだから。

 

「ああ、あの大タコか。あれならヘビの方が数段マシだな」

「あー。あの、おっちょこちょいばあさん三人衆か。知恵が必要なゲームだったんだろうが、クリアは一瞬だった」

 このゲームは力のない最下層のコミュニティにのみ常時解放されている試練で、ペルセウスの武具のレプリカを与えるというもの。様式も調った、立派なギフトゲームである。

 ―――はずなのだが、番一の赴いたグライアイの試練は少し不備があったようだ。

 

 

 ルイオスは宝玉を見つめて盛大に舌打ちした。

 そもそも<ペルセウス>への挑戦権を与えているのは、ペルセウスの伝説を描きつつ、下層のコミュニティの向上心を育てるための物だった。

 が、ルイオスにはそんな立派な志などない。

 二代目以降から設置されたこの制度。無くそうと思った矢先にこの事態だ。

 ルイオスの不快感は絶頂に達していた。

 

「ハッ……いいさ、相手してやるよ。もともとこのゲームは思い上がったコミュニティに身の程を知らせてやるための物。二度と逆らう気がなくなるぐらい徹底的に……徹底的に潰してやる」

 華美な外套を翻して憤るルイオス。

 それを睨み、黒ウサギは髪を緋色に染め、宣戦布告する。

 

 

「われわれのコミュニティを踏みにじった数々の無礼。もはや言葉は不要でしょう<ノーネーム>と<ペルセウス>。ギフトゲームにて決着をつけさせていただきます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

契約書類(ギアスロール)>  文面

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ギフトゲーム名 <FAIRYTALE in PERSEUS>

 

 ・プレイヤー一覧:逆廻十六夜

          久遠飛鳥

          春日部耀

          長井番一

 

 ・<ノーネーム>ゲームマスター ジン=ラッセル

 ・<ペルセウス>ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

 ・クリア条件  :ホスト側のゲームマスターを打倒

 ・敗北条件   :プレイヤー側のゲームマスターによる降伏

          プレイヤー側のゲームマスターの失格

          プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 ・舞台詳細-ルール

 

 *ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

 *ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

 *プレイヤー達はホスト側(ゲームマスターを除く)の人間に姿を見られては(・・・・・・・)いけない(・・・・)

 *姿を見られたプレイヤーはゲームマスターへの挑戦権を失う。

 *失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけであり、ゲームを続行する事は可能である。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、<ノーネーム>はギフトゲームに参加します。

                     <ペルセウス> 印

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

<契約書類>に承諾した直後、六人の視界は間を置かずに光へと呑まれた。

 門前に立った十六夜達が不意に振り返る。

 白亜の宮殿の周辺は箱庭から切り離され、未知の空域を浮かぶ宮殿に変貌していた。

 此処は最早、箱庭であって箱庭でない場所なのだ。

 

「姿を見られれば失格、か。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」

 胸を躍らせるような声音で十六夜が呟く。

「まずは宮殿の攻略をしなければなりません。伝説のペルセウスとは違い、黒ウサギ達はハデスのギフトを持っておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が―――」

 黒ウサギが人差し指を立てて説明している途中でその指を番一に向けた。

 

「番一様、もしやと思いますが、便利な見えなくなる必殺技とかお持ちで?」

 思い立ったのは、黒ウサギの雷を吸い取った<番長必殺シリーズ>。

 記憶が確かなら<三十二式>といっていたはず。

 なら少なくともあと三十一個あるはず。もしかしたら姿が見えなくなるような、

 今この場で超便利で都合の良い様な必殺技が、あるとは思えないがもしかしたら

 

 

 

 

「あるぞ」

「「「「「ある!?」」」」」

 

 

 

 

 皆に驚かれたが即座に番一は言い直す。

「あー違う違う。あるにはあるが、真っ暗に近い影が必要だし、ろくすっぽつかえた物じゃない。何せ<八式>だし。ネタ満載の一桁台だし」

 あるにはあるようだが、そこまで便利ではないようだ。

 頭を振った番一は、やれやれというように肩を(すく)めて続ける。

 

 

「皆もご存知の<番長必殺シリーズ>。確かに四十八個ある必殺技だが?全局面対応用とは銘打ってはある必殺技だが?その実欠点が多い!知ってるだろ?」

 

 

「いえ、知りません」

「知らないわね」

「うん、知らない」

「初耳なんだが?」

「初ウサ耳です」

「あ、そういえば言ってねえや。数字が高いほど効果が強い、低いほどネタ度が高い。欠点が結構ある。その欠点はカバー可能っちゃ可能。程度か?使えない必殺に意味ないし、目の前のゲームに集中しようぜ」

 敵地門前でコントを繰り広げている場合ではない。

 話の種になってしまった番一が無理やり話を本筋に戻す。

「とりあえず、ジンが見つかったらアウトでしかも人数が限られてる。ってことは役割分担必須で、やる事は大きく分けて―――いくつだ?」

「まあ、そうだな。そもそも数人で挑むゲームじゃねえと思うし、役割分担は必須だな」

 まだまだ秘密を増やしてくる番一を十六夜が睨みながらも、話に乗った。

 コクリと頷いた耀が続ける。

 

「うん。まず、ジン君と一緒にゲームマスターを倒す役、次に索敵。見えない敵を感知して撃退する役割。最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割」

「索敵は鼻も耳も眼も良い春日部か、一度透明になった奴等を追った事のある番長だが……。

 あの日結局番長は追えたのか?」

 あの日、とはレティシアが連れ去られ、番一がハデスのギフトを使う<ペルセウス>のメンバーを追った日の事だろう。

「追えたには追えたが、確実じゃない。『たまたま』と『なんとなく』がうまく機能したってだけだ。確実なのは耀のほうじゃないか?」

「でも番一君も結構いい線行ってると思うけれど?耳も眼もよくない?」

「まあ確かに良いっちゃいいけど、俺は<ルイオスを袋叩きにし隊>のメンバーだし……」

「番一君……?」

 自身で話を戻した癖にまたコントを始めるのか、と、飛鳥が(あき)れ顔になった。

 

「私情を持ち出した番長には戦闘、索敵、囮、露払い、全ての役割を平等に押し付けるとして、 本格的な索敵は春日部。任せた。不可視ってだけなら臭いや足音は隠し切れないはずだ」

「えっ、ちょっと待て、それ不可能じゃねえか?見つかったらアウトなのにルイオス戦まで見つからずに囮もこなすとか」

 番一の抗議を無視して、十六夜の話にコクリと耀が頷く。それに黒ウサギが続いた。

「黒ウサギは審判としてでしかゲームに参加できません。ゲームマスターを倒す役割は十六夜さんにお願いします」

「あら、じゃあ私は番一君と一緒に囮と露払い役なのかしら?」

 

 むっ、と不満そうな声を漏らす飛鳥。

 だが飛鳥がルイオスを倒すに至れるかは未知数。何より飛鳥のギフトは不特定多数を相手にするほうがより力を発揮できる。

 そうだとしても不満な物は不満なのだ。

 

 少し拗ねた口ぶりの飛鳥を十六夜がからかう。

「悪いなお嬢様。俺も譲ってやりたいが、勝負は勝たなきゃ意味がない。あの野郎の相手は俺か番長が適してる」

「……ふん。いいわ。今回は譲ってあげる。負けたら承知しないから」

 飄々(ひょうひょう)と肩を竦める十六夜。だが黒ウサギはやや神妙な顔で不安を口にする。

「残念ですが、必ず勝てるとは限りません。油断しているうちに倒せねば、非常に厳しい戦いになると思います」

 五人の目が一斉に黒ウサギに集中する。番一が呑気な顔をして問いかける。

 

「つまり、一撃必殺・初撃決殺・見敵必殺スタイルで行くと?」

「ま、まぁそうなのですが。それが出来たら最高でしょう、ですがそう簡単に事が運べると楽観視は出来ません」

「だな。常に最悪のパターンを考えて行動する事が肝心だが……アイツそんな警戒が必要かね?」

「ええ。問題は彼自身ではなく、彼の所持しているギフトなのです。黒ウサギの推測が外れてなければ、彼のギフトは―――」

 

 

「隷属させた元・魔王様」

 

 

「そう、元・魔王の……え?」

 十六夜の補足に黒ウサギは一瞬、言葉を失った。

 しかし素知らぬ顔で十六夜は構わず続ける。

 

「ペルセウスの神話どおりなら、ゴーゴンの首がこの世界にあるはずがない。あれは戦神に献上されてる筈だからな。それにもかかわらず奴等は石化のギフトを使っている。

 ―――星座として招かれたのが、<ペルセウス>。ならさしずめ、やつの首にぶら下がっているのは―――アルゴルの悪魔、ってところか?」

 

「……アルゴルの悪魔?」

 

 十六夜の話がわからない飛鳥達は顔を見合わせ、小首をかしげる。

 しかし黒ウサギだけは驚愕したままで固まっていた。

 彼女だけが、今の答えに帰結する事の異常さに気が付いていたからだ。

「十六夜さん……まさか、箱庭の星々の秘密に……?」

 黒ウサギは信じられないものを見る目で首を振りながら問いかける。

「まあな。この前星を見上げたときに推測して、ルイオスを見たときに確信した。番長にハンデのつもりで、宝玉を手に入れて帰る前にアルゴルの星を観測して答えを固めたってところだ。機材は白夜叉が貸してくれたし、難なく調べらる事ができたぜ。―――まさか調べ事で数日潰しても番長とのレースに勝てるとは思わなかったがな」

 フフンと自慢げに笑う十六夜。ぐぬぬとした顔をする番一。黒ウサギは含み笑いを滲ませて、十六夜の顔を覗き込んだ。

「もしかして十六夜さんってば、以外に知能派でございます?」

「何をいまさら。俺は生粋の知能派だぞ?黒ウサギの部屋の扉だって、ドアノブを回さずに開けられただろうが」

「いえいえ、そもそもドアノブが付いていませんでしたから。扉だけでしたから」

 黒ウサギが冷静にツッコミを入れる。番一が負けじと声を上げる。

 

「俺だって、知能派だぞ!ドアの開け方だって叩き方だって知ってる!」

「お、そうか?じゃあ参考までに、方法を聞きたいもんだね」

 からかうように十六夜がニヤニヤした顔で、番一に尋ねる。

 

 番一は応えるように門の前に立つ。

「あれだ、既知の相手なら三回。階級が高い相手には四回かそれ以上。……今回は、二回だな」

 二回、お手洗いで行う回数。しれっと<ペルセウス>をお手洗い扱いする番一。

 

 

「そう、二回―――<ノック>をするんだ」

「あっ」

 察する一同。

 

 

 

 

 

「つまり、こうだな(・・・・)ッッ!」

 バットを構え、体を(ひね)り、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「番長必殺・一式……『ホームランバット』!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 バットを振り抜く。轟音と共に、白亜の宮殿の門は粉々に消し飛んだ。

 

「一回じゃない」

「あとルイオスの脳天に一回で、合計二回だ。きっと脳みその中は留守だろうがな。ガハハハハハ!」

 飛鳥のツッコミに冷静に返し笑う番一。吹き飛んだ門だったものの瓦礫(がれき)が宮殿に直撃し、深刻な崩壊音を立てているが、どうでもいい。

 振り返り、皆に告げる。

 

「さて、ギフトゲーム。開始と行こうぜ?」

 

 




赤坂です。
相変わらず、話が進まない。
それと十八話の終わりと十九話の始めが、読み直したらおかしかったので、修正しました。
明らかに出てる情報を出てないとして扱ってましたね。ハイ。
三月中に終わらせたい一巻。
ならゲームしてんなって話ですけど。
え?十九話で二月中に終わらせたいって言ってた?
一回全部読み直したとか言っててこの始末?

……誤字・脱字・感想いただけると幸いです。(逃避)
ではでは。


すみませんでした。


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第二十一話

 ―――ゲーム開始直後。白亜の宮殿内部。

 

  宮殿は五階建てのつくりとなっている。

 最奥が宮殿の最上階にあたり、進むには絶対に階段を通らねばならない。

主催者(ホスト)>側の人間がどれだけ配置されているかはわからないが、最低でも一つの階段を確保せねば次の階へは進めない。

 それが<ノーネーム>を阻む最大の難点だった。

 

 が、<ペルセウス>側は現在、階段を封鎖し守りの態勢に入る余裕すらなかった。

「誰か手を貸してくれ!こっちにまだ一人埋まってる!」

「もうゲームは始まってるんだ!敵が来る。埋まった者達は放っておけ!」

「通路が埋まってて配置に着けない!手を貸してくれ!」

 番一のゲーム開始の先制攻撃により、一階正面部分は半壊状態にあり、散弾のように撒き散らされた門だったものが宮殿に甚大な被害をもたらしている。

 本来であれば一糸乱れぬ統制を取れるはずであろう騎士たちは焦っていた。

 本拠を舞台としたゲーム。地の利は<ペルセウス>側にあるはずなのに、一瞬にして失った。

 ましてや勝利条件は単純明快。戦わずとも敵を見つけさえすればいい。瓦礫の立てた土煙と、大量の死角によって困難となっているが。

 

 そんな惨状を知らずに、最奥の大広間で玉座に腰掛けていたルイオスは既に勝ったつもりでいる。

 その胸中は挑戦を許した部下達に対する憤りで一杯だった。

(ふん……役に立たない奴ら。<ノーネーム>なんかに挑戦を許すなんて)

 どんなに従順でも、そんな無能は自分のコミュニティには必要ない。

 ゲームが終わり次第全員粛清してやる、と物騒に呟く。

 

 

 

 ―――把握はしていた。相手に回したのが問題児集団であるということは。

 

 理解できていなかった。名立たる英傑達にも劣らない世界屈指の最凶問題児集団だという事を。

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 正面の階段前広間を飛鳥に任せ、十六夜達は宮殿の奥へと進んでいた。

 奥は被害が少なく、騎士達には焦りも油断も見られなかった。

 宮殿の柱の陰に隠れ、耳を澄まして周囲の気配を探る春日部耀と長井番一。

 やや間があって閉じていた眼を番一が開き、耀も同時に反応し、二人で目配せをした。

「来たな。準備」

「兜は私が」

 短い言葉で伝え合い、行動を始めた。

 

 如何に姿が見えないと言っても、物音や臭いまで消せるものではない。

 五感が鋭ければ不可視のギフトにも対抗できるのだ。

 

 柱の影から番一が足音の方向に向けてバットを全力で投げつける。

「あぐりがっ!?」

 虚空に当たり、突き刺さるような鈍い音と共に不可視の敵が変な声を上げる。

 直後、耀が駆け寄り、すかさず後頭部を激しく強打する。

 騎士は何故居場所がばれたのかわからずに失神した。

 前のめりに倒れこんだ騎士から兜が落ちる。

 すると虚空から騎士の姿が現れた。その様子を見て耀が察する。

 

「これが不可視のギフトで間違いなさそう」

「……。そうっぽいな。ジン。被っとけ」

「わっ」

 番一が一拍置いてから駆け寄り、兜を拾い上げてジンに向けて放り投げる。

 そのまま兜はジンの頭にスッポリとはまり、ジンの姿は瞬く間に色を無くして姿を隠す。

 即座に番長が柱の陰に隠れる。必要以上な警戒は不可視のギフトを持っていないからだ。

 

 

 姿の消えたジンを確認して耀が二度三度と頷く。

「やっぱり不可視のギフトがゲーム攻略の鍵になってる。どんなに気をつけたところで姿を見られる可能性は排除できないもの」

「連中が不可視のギフトを限定しているのは、安易に奪われないためだろうな。なら最低でも後一つ、贅沢言えば二つ三つ欲しいところだが……」

 珍しく言いよどむ十六夜。確実に最奥に進む必要があるのはジン・十六夜の二人だけ。

 番一もいれば勝率はさらに上がるだろうし、耀もいれば文句はないのだが、欲をかいては仕損じることもある。

 

 番一が柱の影から耀に話しかけた。

「……。索敵に問題はなかったよな耀。一人でもいけるか?」

「え?うん。一人でも十分わかる」

 そう応えた後、番一は深呼吸して決断するように皆に伝えた。

 

 

「……。おし。なら俺がちょっくら全力で囮かましてくるか。見つかったらどんまい、見つからなければ万々歳。でかい音出して暴れ回って敵集めとくから、その隙に兜を集めてまわっとけ」

「いいのか番長?挑めなくなるぞ」

 十六夜が驚いたような顔で番一に向け声をかける。

「飛鳥だって面倒な役買って出てくれただろ?そも俺は全部の役割押し付けられてるんだし。  じゃあな。ガハハハハハハ!」

「あ、オイ番長!せめてもう少し作戦をだな!」

 制止の声も聞かず、番一は柱の陰から飛び出し駆け出した。

 

 ……その数分後、宮殿が爆砕される音が響いた。

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 ―――数分後、宮殿三階。四階への東階段。

 

 

<ノーネーム>が中央突破を図る可能性は低い。

 したとしてもバレた瞬間東西の階段、上階や階下から増援が来る。であるならば中央階段は多少は手薄でも構わないと<ペルセウス>側は判断するであろう。

 東西の階段であれば中央からもしくは階下から上階からの増援のみ。少なくとも挟撃は防げる。

 ならば攻めるべきは東西の階段。番一が他の皆を突破できるようにするならばそれが当然。

 囮として出来うる限り敵を引き付け守りを薄くする。

 その隙に皆を通す。これが最善。

 

 

 

 ―――知ったものか。正面で暴れて敵を全部集めよう。待ちを選ぶなら潰しに行こう。

 

 

 

「ガハハハハハハハ!オラオラ!どうしたこの程度かクソ共!」

 

 文字通り、暴れ暴れ回っていた。

 しかしその姿は誰の眼にも捉えられない。

「いやはや我ながら素晴らしい発想だな!土煙のおかげで不可視の敵が見える見える!」

 最初の爆砕、その攻撃により立ち込める土煙が視界を遮る。

 三階の中央階段を含めたかなりの範囲に煙が立ち込める。

 とはいえ、こうまで都合よく濃い土煙がたちこめるのには当然理由がある。

 番長必殺を使ったからである。

 

 

 番長必殺・十九式『砂塵砂楼(さじんさろう)

 

 効果は、砂や石造り、コンクリートの建物等を破壊したり殴りつけた時、必要以上に土煙が立ち込めるというもの。

 現代日本ではほぼ使い物にならない。というより使えない。砂の地面(グラウンド)に使うならまだしも建物に使えば警察案件だ。

 ちなみにゲーム開始直後の攻撃には使っていない。

 欠点としては水分が含まれている地面、たとえば草地や森の中、木造家屋などには効果があまり出ない。

 一階で飛鳥が水を撒き散らしているが、三階までは影響は来ていない。

 

 そして何故、敵に番一は見えず、番一に敵は見えるのか、コレもまた番長必殺である。

 

 

 番長必殺・十式『眼前霧中ニツキ』

 

 ふざけた名前とは裏腹に、今この状況。『砂塵砂楼』を使ったときぐらいしか(・・・・・)使えない(・・・・)必殺技(・・・)

 土煙を少し曇ったガラス越しくらいの視界で見ることができるようになる必殺。

 霧や煙を透視するこの必殺を使えば、透明化した敵なら土煙を押しのけるその体を目印に発見できる。

 欠点として使い終わった後、目が酷くシパシパしてしまうことだろうか。

 

(番長必殺の組み合わせが、全局面対応たる所以だからな!)

 透明化しているだけならば、その体は物理的に触れられる。

<ペルセウス>の所持している兜が、透明化(・・・)ではなく透過(・・)であったなら、ここまで不利にはならなかっただろう。

 

「ん。ざっとこんなところか。ホント都合のいいことは大体番長必殺で説明がつけられそうで怖いな。四十八個しかないけど」

 死屍累々。一人土煙の中で立つ番一は手の中で手に入れた兜をくるくると回す。

 兜を被り、姿を消し階段を上り始めた。

 

 ギフトカードをポケットから取り出し、じろじろと眺める。

「見つかってたら確か紋章が出るんだっけ?あれ、確認するのはギフトカードだっけ?」

 まあいいか出てないし、と呟いてギフトカードをポケットにしまい次の階へ向かった。

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 白亜の宮殿、四階。

 最奥に続く階段前にはたった二人の騎士が階段の前に立っているだけだった。

(まぁ油断させて不可視の奴等が襲ってくる算段だろうな)

 

 

 ―――ふとそのとき、隣からコツ、コツ、と息を潜めるように歩く一人分の足音がした。

 姿は見えない。

(おっと、見張りの交代か?なら潰しておくべきか)

 と、バットを振りかぶり、ピタッとその動きを止めた。

(いや、ジンとかだったらどうすんだって話か。まま、とりあえず)

 そのままバットを下ろし、階段前の騎士に突進する。

「見えてる奴から片付ける!あらよっと!」

 勢い良く振りぬき、二人纏めて壁に叩きつける。

 振りぬいた姿勢をそのままに、足に力を込めそのまま前転する。

 直後、番一がいた場所に複数の打撃跡が残る。

「っとと、あぶなかったな。兜を壊されるとこだった」

 兜を抑え、階段に上下逆さまに倒れこんだ体勢で呟く。

 その瞬間、短い悲鳴が重なり、天地逆の体勢の番一の隣にいくつもの『人型の穴』が開いた。

 

 昏倒し、砕けた兜を被った騎士達が姿を現す。

「誰だ?仲間割れじゃないだろうし」

「やっぱり番長か。囮ご苦労だったな」

 虚空から十六夜の声が聞こえた。それで納得のいった番一がぶつぶつと呟く。

 

「って、ああ。まぁそうか。威力的に十六夜しかねえか。てか気づけなかったな、歩法でも使ったのか?いやそれでも気づけるか……」

 番一が倒れた体勢のまま考え出す。確かに聞こえたのは一人分のはず。ジンは別行動なのか、あるいは片方を背負っていたから一人分なのか、あるいはあるいは……。

 

「答えは簡単。本物の兜を手に入れたってことだよ、番長」

「本物足音とか体温まで消しきるのか?ってことは俺が被っているのは偽物?」

「レプリカって言うのが正しいと思うが。詳しくはこの上にいる奴を叩きのめして聞けばいい」

 十六夜が、顔が見えないのでわからないがおそらく、不敵な笑みを浮かべて答える。

「ま、それが一番か。てか耀はどうしたんだ?」

「……本物持ちに奇襲かまされたあげく見られて失格、今は下で乱戦中」

「そいつは残念。飛鳥含め、今度面白おかしいギフトゲームでも探して主役にしてやらなきゃな」

 苦々しい声で告げる十六夜。出来るなら失格にはしたくなかったのだろう。

 

「それでは、行きましょうか。番一様は失格には?」

 階段を少し上った先からジンが、番一に問いかける。

「多分なってないはず。おそらく、きっと」

「それ失格になってる奴の言う事だぞ?」

 決戦直前に雑談をかましながら階段を上る。

 

 

 ゲームの終わりも、もうすぐだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。ジン」

「なんです?」

「ルイ……なんとかとの戦いの時、大してすることないだろ?」

「……まぁそうですね。御二人にお任せすることになるかと」

「だったらよ、この……この?あれ、どこにしま……あぁ出てきた出てきた。このミニゴングを鳴らしてもらいたい!」

 虚空から小さなゴングが出てくる。なんとなく自転車のベルに似ている気がするが気のせいだろうか。

「自転車のベルを改造して作ったもので……ってのはどうでもいいか。ルイ……なんとかの姿が見えて、俺が『番長必殺』って言ったら鳴らして欲しいんだ」

「『番長必殺』ですね。わかりました。気をつけておきます」

「一回だけでいい。鳴らした後は、戦闘に巻き込まれないように逃げとけ。

―――番長必殺大盤振る舞いだ」

「何するんだ番長?」

「たしか吸血鬼の少女が石にされてたろ?番長必殺に石になる状態を想定したのは殆ど無くて対策の仕方が無い」

「それで?」

「だから、石にする変なの使われる前に一撃必殺で決める」

「面白そうだから止めないぜ。それで終わったらどうせ二人じゃ過剰戦力だろうしな」

「使う必殺技も、初見でも何とか避けられるものだ。どうせ避けられると思って準備しとけ」

 

 

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 

 

 白亜の宮殿・最奥。

 最奥に天井はなく、まるで闘技場のような簡素な造りだった。

「十六夜さん、番一様、ジン坊ちゃん……!」

 最上階で待っていた黒ウサギは安堵したように三人の姿を見てため息を漏らす。

 眼前に開けた闘技場の上空を見上げると、見下ろす人影があった。

 

 

「―――ふん。ホントに使えない奴ら。今回の一件でまとめて粛清しないと」

 空に浮かぶ人影には、確かに翼があった。

 膝まで覆うロングブーツから、光り輝く対の翼が。

「まあでも、これでこのコミュニティが誰のおかげで存続できているのか分かっただろうね。自分達の無能っぷりを省みてもらうには良い切っ掛けだったかな」

 

 

 

「……なぁ十六夜。この規模の組織ってリーダーがどれほど優れてても、チームとして回してくの無理だよな。部下が有能じゃなきゃ潰れるやつだと思うんだけど。頭悪いのかなアイツ」

「思っても口に出すな番長。可哀想だr……そうでもないな?もっと言ってやれ」

「やーいやーい無能ー!ルイ……ルイ何とかー!」

 

 バサッと翼が羽ばたく。たった一度の羽ばたきでルイオスは風を追い抜き、落下速度の数十倍の勢いで十六夜達の数歩前に立った。

「散々言ってるようだけど、その威勢がいつまで続くかな?なにはともあれ、ようこ

 

 

 

 

 

 

 

「番長必殺!」

 カーンッ!

「三十六式『殺意奔葬(さついほんそう)』ッッッ!!!」

 

 

 

 炸裂音と、衝撃が闘技場を駆け抜けた。

 体の残像が残る速度で踏み出された一歩と、風を薙ぎ切り飛ばし振り抜かれ、天を指すバット。

 

 一歩分。たった一歩分。番一の叫びとゴングの音で仰け反った事がルイオスの命を救った。

 

 ルイオスの前髪の先の一部が持っていかれただけで済んだのは、悪運が強いおかげだろう。

 もし、動じなかったのなら。今頃ルイオスは頭と胴体を別れさせられていたかもしれない。

 

「外したか!やるなお前……!」

「オイ、番長。止めないとは言ったがせめてセリフぐらい言わせてやれ」

 軽く舌打ちして讃える番一。十六夜が思わず突っ込むが論点はそこじゃない。

 ルイオスは翼を羽ばたかせ空へ逃げた。

 

「クソ!ああそうかい!礼儀も知らない猿共(ノーネーム)なんかに丁寧に挨拶なんて何を考えてたんだが!」

 ルイオスは<ゴーゴンの首>の紋が入ったギフトカードを取り出し、光と共に燃え盛る炎の弓を取り出した。

 さらに首にかかったチョーカーを外し、付属している装飾を掲げた。

 

「そっちがその気なら手加減は無しだ……!」

 ルイオスの掲げたギフトが光り始める。星の光のようにも見間違う光の波は、強弱をつけながら一つ一つ封印をといていく。

 光が一層強くなり、ルイオスは獰猛な表情で叫んだ。

 

「目覚めろ―――<アルゴールの魔王>!!」

 

 

 光は褐色に染まり、四人の視界を染めていく。

 白亜の宮殿に共鳴するように甲高い女の声が響き渡った。

 

「ra……Ra、GEEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 それは最早、人の言語野で理解できる叫びではなかった。

 冒頭こそ謳うような声であったが、それさえも中枢を狂わせるほどの不協和音だ。

 現れた女は体中に拘束具とベルトを巻いており、乱れた灰色の髪を逆立てて叫び続ける。

 女は両腕を拘束するベルトを引き千切り、半身を反らせて更なる絶叫を上げた。

 黒ウサギは堪らずウサ耳を塞ぐ。

「ra、GYAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

「な、なんて絶叫を」

「……向こうのほうの空で何か落ちてんな」

 一人ケロリとした顔で女の絶叫を聞き流している番一は眼を凝らす。

 

「あれ?雲散らされてた?雲を落として、飛べないお前らを笑ってやろうかと思ったんだけど」

 空を眺めて呟くルイオス。先ほどの番一の攻撃が思わぬところで助けていた。

 

 

<アルゴールの魔王>と呼ばれた女の力は、このギフトゲームに用意された世界全てに対して石化の光を放ったのだ。

 瞬時に世界を満たすほどの光を放出した女の名を、黒ウサギは戦慄と共に口にする。

「星霊・アルゴール……!白夜叉様と同じく、星霊の悪魔……!!」

 

 

 ―――<アルゴル>とはアラビア語でラス・アル・グルを語源とする、<悪魔の頭>という意味を持つ星のこと。

 同時に、ペルセウス座で<ゴーゴンの首>に位置する恒星でもある。

 ゴーゴンの魔力である石化を備えているのはそういう経緯があるのだろう。

 一つの星の名を背負う大悪魔。箱庭最強の一角、<星霊>がペルセウスの切り札だった。

 

 

「今頃は君らのお仲間も部下も全員石になってるだろうさ。ま、無能にはいい体罰かな」

 不敵に笑うルイオス。何の防御もしていない黒ウサギや十六夜達が石化せずに済んだのは彼が こんなに簡単に終わらせるつもりがないからだろう。

 

「さて、とりあえずやることやったジンは後ろに下がってな」

「そうだな。守ってやれる余裕はなさそうだ」

 二人がジンの前に歩み出る。番一が肩を回しながら十六夜に話しかける。

「んで?十六夜はどっち()るんだ?」

「どっちも、って言ったら怒るか?」

 十六夜がニヤリとした笑みを浮かべて返す。

 

「怒りはしないがキレるな」

「同じ意味だろ」

 番一も同じ様な笑みで返す。二人でニヤニヤとした笑顔で応酬し、

 

 

 ―――同時に地面を砕き、駆け出した。

 

「―――はっ。いいよ、かかって来いッ!!!」

「ra、GYAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 輝く翼と、傷だらけの灰翼が舞う。

 

 ルイオスはアルゴールよりさらに上空に飛び、陰に隠れながら炎の弓を手早く幾度も引く。

 蛇のように蛇行する軌跡の炎の弓を、十六夜は気合の一喝で弾き、番一はバットで薙いだ。

()ッ!!」

「オラァッ!!」

 炎の矢を消し飛ばす、その一瞬の隙を縫うようにアルゴールが上空から十六夜に襲い掛かった。

「押さえつけとけ、アルゴール!」

「RaAAAAAAAaaaaa!!LaAAAAAA!!」

 ルイオスはアルゴールに十六夜を任せ、番一に向けて再び弓を引く。

 番一は舌打ちをしながら、降り注ぐ炎の矢を再びバットで振り払う。

 

 瞬間。翼を羽ばたかせ、<星霊殺し>のギフトを付与された鎌・ハルパーを持ったルイオスが一気に距離を詰め切り掛かった。

(所詮、只の金属の棒!ハルパーならバットごと切り捨てて……?)

 ガキンッ!と甲高い音と火花を散らし、バットと鎌が噛み合う。

「危ねえな!絡め手好きかよお前!?」

「くっ!?」

 少々予定が外れた。ルイオスは再び空に舞い上がる。

 

(何で切れなかった?まさか<金剛鉄(アダマンテイウム)>と同等かそれ以上の素材の特注品?いや、七桁の名無しにそんなものが用意できるはずが)

 

 と、そのとき耳障りな甲高い女の悲鳴(・・・・)が響いた。

「ハハ、どうした元・魔王様!今のは本物の悲鳴みたいだぞ!」

 獰猛な笑顔を浮かべた十六夜が、真正面からアルゴールを力技で捻じ伏せていた。

 更に腹部を幾度も踏みつける。闘技場全体に亀裂を発生させるほどの威力を秘めていた。

 

 

 

「……―――『アルゴール』!!」

 ルイオスはしばし逡巡するが、意を決したように再びチョーカーの装飾を掲げる。

 灰色の光が溢れ、アルゴールの拘束具が甲高い音を立て、弾け飛んだ。

 

 

 危惧した十六夜が即座に押さえつけにかかるが、遅すぎた(・・・・)

 アルゴールは数段加速した動きで十六夜を闘技場の壁へと殴り飛ばす。

 

「ぐっ!?余力有りかよ、楽しくなって来たな!」

 ぱらぱらと降る瓦礫を払いながら姿を現す。壁に陥没する勢いで殴られたというのに

無傷の様だ。

 

「出来ればしたくなかったけど、仕方ない。アルゴール、こいつ(番一)を処理しろ!」

「Ra、LAaaaaaaaaAAAAAAAAA!!GYAAAAAAaaaaaaAAAAAA!!」

 ルイオスが番一を指差し、叫ぶ。

 

「RAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 その声に反応し、身悶えする様に叫んだアルゴールが狂ったような荒々しい動きで天を仰ぐ。

 

 

 そして石化のギフトを解放し、褐色の光を闘技場中に放った。

 これこそアルゴールを魔王に至らしめた根幹。

 天地に至る全てを褐色の光で包み、灰色の星へと変えていく星霊の力。

 放たれる光は幾つもの光線の様相を呈していた。

 数十本に及ぶ光線が番一に集中する。道を塞ぐ様に、あるいは十六夜も巻き込むように、光線は十六夜にも迫る。

 

 

「番長!」

 十六夜が叫び、駆け出す。

 番一を心配したわけではない。ただ、二対二になるはずの戦場を、たった一瞬の油断で不利にしてしまったという責任があった。

 自分で請け負ったわけではないが、それでも一度相手にした敵をみすみす見逃し、その矛先が番一に向いた。

 

 

 ゲームが終わった後に愚痴を言われたくは無い。

 

 

 光は十六夜にも迫る。しかし、褐色の光は、

「―――……邪魔だッッ!!」

 

 振り抜かれた十六夜の拳により砕かれた(・・・・)

 ……比喩は無い。他に表現のしようもない。

 アルゴールの放つ褐色の光の一筋は、逆廻十六夜の一撃でガラス細工のように粉々に砕け散り、影も形も無く引き飛んだのだ。

 横向きに駆け、二本三本と褐色の光線を砕く。

 

 しかし、対極に居る番一に迫る光を防ぎに行くことは叶わなかった。

 

 

 

 

(石になった状態からの必殺技、殆ど無い。光線に対する必殺技、あるにはあるが無い。

どっちも(・・・・)条件が(・・・)整ってない(・・・・・)。マズい!)

 数瞬の焦り、致命的だった。

 対策も、対応も出来ぬまま番一の眼前に褐色の光が迫り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――雄雄しく全てを任せられるかのような、そんな誰かの声が聞こえた。

 

 

『ったく、もう少し史実を掻き乱すかと思ったんだが。ま、いいや。助けてやるよ。四代目(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 番一の背に光が灯る。褐色ではない、黄金に輝く光が。

 はたして、その光の集結が何を意味するのか。

 その真実は判らずとも、その効果だけはハッキリと分かる。

 四角い立方体の光の箱に包まれる番一が其処に居た。

 

 

 淡く灯る光は褐色の光を弾き、全てを霧散させる。

「こ、れは?てか、誰だ(・・)!?」

 

 

 

『コレに懲りたら、次は避けろよ?もう助けねぇからな。ワハハハハハハハ!!』

 一方的に言い切った誰かの声が(かす)れ、遠のくように消えるのと同時に背の光も、番一を守った箱もまるで夢のように掻き消えた。

 

 

 

「ば、馬鹿なっ!?」

 ルイオスが眼を剥き叫ぶ。叫びたくもなるだろう。

 階下から戦況も見守っていたジンと黒ウサギでさえ叫び声を上げていたのだから。

「せ、<星霊>のギフトを無効化した!?」

「あ、あり得ません!あれだけの身体能力を持ちながら、ギフトを破壊するなんて!?」

 

 番一が誰かによって助けられたのも、十六夜が砕いたのもほぼ同時。

 ルイオスには何が起きたかは分からない、だがどちらにも必殺の一撃を防がれた。

 事情も分からず、防がれたことだけを突きつけられたのは、二人を倒す手段を失ったと錯覚するには十分だった。

 

 

 

「ふざけてんじゃねえぞテメェ!!」

 風を切り、駆ける十六夜が力任せにアルゴールを殴り飛ばす。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!??」

 そのままアルゴールは第三宇宙速度にも劣らぬ速度で吹き飛び、

 

 

 

 

「……今は気にしても仕方ねえか。んじゃ、ホームランで決めさせてもらうかね」

 吹き飛ぶ、その先に居た、

 

 

 

 

 

「もう一回放つぜ?大盤振る舞いだからな!」

 番一によって、

 

 

 

 

 

「番長必殺・一式『ホームランバット』ッッ!!!!」

 打ち抜かれ、空を飛ぶルイオスに直撃した。

 

 

「ガッ!?」

「Gya……!?」

 ルイオスが、アルゴールが錐揉み状に回転し落ちてくる。

 

 アルゴールがクッションのように落ちたおかげかルイオスは大怪我を負う事は無かったが背中を強く打ったようで仰向けのまま(うめ)いていた。

 そこに二人が歩み寄り、上から見下ろした。

「「さて、続けようか?ゲームマスター。まだいけるだろ?」」

 挑発する二人。しかしもうルイオスの戦意は涸れていた。

 石化の光は防がれ、制空権を取っていても効果の無い弓の攻撃、ハルパーの一撃を防ぐバット。

 なにより既にアルゴールが動く様子がない。今もルイオスの下で痙攣している。

 

 黒ウサギがため息混じりに割って入る。

「残念ですがもうこれ以上は何も出てこないでしょうね」

「どういうことだ黒ウサギ。まだ変身の一つや二つ持ってるのが魔王って奴だろ」

「……拘束具に繋がれた状態で出てきた時点で察するべきだったのでしょうね。扱いきれていないのでしょう?ルイオス様」

「っ!?」

 ルイオスの瞳に灼熱の憤怒が宿る。射殺さんばかりの眼光を放つルイオスだが……否定する声は上がらなかった。

「拘束具を付け、力を抑えねば扱いきれず。それを外したことで力の一端を解放できたものの所持者の力と釣り合わずに、上限使い果たして力尽きている……ってとこか」

 失望したように呟く十六夜。それが真実だった。

 

 勝敗は決した。黒ウサギがゲーム終了を宣言しようとした、その時、

 

「ああ、そうだ。もしこのままギフトゲームで負けたら<ペルセウス>の旗印。どうなるか分かってるんだろうな?」

「な、何?」

 十六夜がこの上なく凶悪な笑みでルイオスを追い立てた。

 ルイオスが不意を突かれたような声を上げる。

 彼らはレティシアを取り戻すために旗印を手に入れるのではなかったのか。

 

「あれ、何すんの十六夜クン?」

「ああ、答えは簡単だ番長クン。旗印を盾にして即座にもう一度ゲームを申し込むんだ」

 何かを察した番一が茶化す。

「それで何を奪うんだい、十六夜クン?」

「そうだなぁ。次は<名前>を戴こうか」

 

 ルイオスの顔から一気に血の気が引いた。

 その時初めて周囲の惨状に目が行った。砕け壊された宮殿と、石化した同士達に。

 十六夜はルイオスを見下ろして吐き捨てるように言う。

「徹底的に貶め続けてやる。たとえ泣こうが喚こうが。コミュニティの存続を出来ないぐらい。徹底敵にだ(・・・・・)

「や、やめろ……!」

 認められない。認めてはいけない。ここで敗北を認めては旗印を奪われる。

 そうなれば<ペルセウス>は決闘を断れなくなる。

 ましてやこんな壊滅した状態で戦えるはずも無い。

 

 

「なら答えは簡単。死ぬ気でこの状態から勝ちをもぎ取ってみろ」

 番一の声に応じるように体を無理やり起こしたルイオスが再び翼を羽ばたかせ距離をとる。

 

 

「……『アルゴール』」

 呟くように装飾を握る。再び褐色の光が手から(こぼ)れる。

 アルゴールの体が震え、光と共に拘束具がその体を縛り付ける。―――再び、立ち上がった。

 

「―――あぁ、いいだろう。負けるかッ!負けてたまるかッッ!!行くぞアルゴールッッ!!!」

 輝く翼と、灰色の翼が羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 

 

 

<ペルセウス>に勝利した六人はレティシアを<ノーネーム>本拠の大広間に運び石化を解いた。

 途端に、問題児四人は口を揃えて、

 

 

「「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」」

 

「え?」

「え?」

「……え?」

「え?じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したのって私達だけじゃない?貴方(あなた)達は本当に くっ付いて来ただけだったもの」

「うん。私なんて力いっぱい殴られたし。石になったし」

「挑戦権の半分と、挑戦権の情報持ってきたのは俺……だし、ボスにトドメ刺したのも俺だし」

「オイ番長、トドメの話はもっと議論を重ねて判断するって決めただろ?とりあえず取り分はトドメ抜きで俺、番長、春日部、お嬢様。3:3:2:2でもう付いてる!」

 

「何を言っちゃてんでございますかこの人達!?」

 ツッコミが追いつかないなんてものじゃない。

 黒ウサギも、ジンも混乱していた。

 唯一当事者のレティシアだけが冷静だった。

 

「んっ……ふむ。そうだな。親しき仲にも礼儀あり。コミュニティの同士であっても忘れてはならない。恩義を感じるなら尚の事。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」

「れ、レティシア様!?」

 黒ウサギの声は今までに無いくらい焦っていた。尊敬していたコミュニティの先輩をメイドとして扱わねばならないとは、と困惑していると、

 

 

「なら、メイド服だな。ここに……オラァ!!!」

 ごそごそと学ランの内胸ポケットを漁った番一がその内胸ポケットから、驚くほど大量の、様々な色、装飾の付いたメイド服を取り出した。

「うお!?どこから取り出した番長!?」

「そうよ!番一君の体温で暖められたメイド服なんて着せないわ!」

「……っ!?」

 まだまだ続くメイド服の山に驚きを隠せない三人。

 

「ふっ、これぞ番長必殺最大にして最強の必殺技……番長必殺・九式『超整理術(ハイパー・ソート)』だ!」

 やいのやいのと騒ぐ一同。黒ウサギは力なく肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

 

 

 ―――それから三日後。

 子供達を含めた<ノーネーム>一同は巣移住の貯水池付近に集まっていた。

 その数百二十七人+一匹。数字だけなら中堅のコミュニティと言い張れる。

「えーそれでは!新たな同士を迎えた<ノーネーム>の歓迎会を始めます!」

 ワッと子供達の歓声が上がる。周囲には長机の上にささやかながら料理が並んでいる。

 本当に子供だらけの歓迎会だったがそれでも四人は悪い気はしていなかった。

 

 

「だけどどうして野外の歓迎会なのかしら」

「うん。私も思った」

「黒ウサギなりの精一杯のサプライズってところじゃねえか?」

「単にこの人数が入る部屋が無いだけだろ?」

「「「それだ!」」」

 既に料理に手を伸ばしている番一に賛同する三人。

 

 

 と、番一の肩にふわふわと串焼きが飛んできた。

「「「「!?」」」」

「おっと、コレは失礼」

 ふと空間が揺らぎ、そこから一つ目の手のひらサイズの少女?が現れた。

 

「何コレ、かわいいわ!」

「うん。かわいい」

「こう、ぷちっと潰さないか不安になるサイズだな」

「あれ?お前確かラプラスの小悪魔……だっけか。の『RS』か?」

 思い当たる節があった番一は名前を思い出す。

「ええ。そうです。ラプラスの小悪魔の『RS』です」

 

 

 自分の背丈ほどもある串焼きを器用に食べながら名乗る。

「へぇ?悪魔ね……」

 十六夜が(いぶか)しげな目で尋ねるが、それ以上は何も反応しなかった。

 

「まぁ用件は特には無いのですが、一応伝えておこうと思ったのでこうして姿を現したわけです」

 食べ終わった串を番一の学ランに刺し入れてふわり、と飛び上がった。

「ちょ、刺すなよ……」

 

 

 

「長井番一。私は貴方を監視しています。つきましては番長必殺について詳しく教えてもらえます?」

 表情は読めないが、その声はえらく平坦な声だった。

 

「それでは本日の大イベントが始まります!みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」

 会話を遮るように黒ウサギの大きな声が響く。

 RSも話を切り上げ空を見上げたので四人も釣られて空を、箱庭の天幕を注視する。

 

 その夜も満天の星空だった。空に輝く星々はこうも燦然(さんぜん)と輝きを放っている。

 異変が起きたのは、注目を促してから数秒後のことだった。

「……あっ!」

 星を見上げている誰かが、声を上げた。

 それから連続して星が流れる。それが流星群だと気づき、皆が口々に歓声を上げる。

 黒ウサギが十六夜達や子供達に聞かせるような口調できっかけについて語る影で、

RSが番一に耳打ちする。

 

 

 

 

「―――箱庭番長について、先日の件(対ペルセウス戦)で分かったことが多少あります。ですが、まだ全貌は(・・・・・)分かりません(・・・・・・)。協力して欲しいのですよ」

「……なるほど。必殺技と関係があるのかわかんねぇが、まぁいいか。公開したのだけ教える」

「未公開は自力で調べるか、使うのを待てと?」

「そうだな。そこは譲らん。絶対にだ。ストーカー行為は認めてやるよ。存分に見るといい」

 

 そう言って、両手を広げ、

 

 

 

 

「俺の、この箱庭での生き様―――そうだな、<箱庭番長四代目の物語>を。な?」

 そう、告げた。

 

 

 

 

 




赤坂です。
全部まとめました。小分けにすると絶対に三月中に書き終わらないと思いまして。
完徹して書いたんで誤字が多い可能性が高いです。
もしかしたら書き直すかも知れないけど多分しません。

すぐに舞台裏次回予告コーナー作ります。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。


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一巻舞台裏コーナー

赤坂「はい、どうも。赤坂です。舞台裏のコーナーです」

 

番一「んなこた分かってんだから早くしろ」

 

赤坂「……なるほど。では乾杯」

 

一同「「「「「乾杯!」」」」」

 

(がやがやと料理を取り分ける音)

 

赤坂「このコーナーはセリフのみで私が楽をするコー……ではなく、次回予告も含め作中で書かれる事が無いであろう話やら、補完、今後の予定等様々なことについて触れます」

 

十六「ここでは全員名前は二文字にされるのか?」

 

赤坂「セリフを縦ならびにしたいだけです。ただの気まぐれです」

 

春日「待って。私それだと名前が春日(かすが)になる」

 

赤坂「諦めて下さい。十六夜も夜が消し飛ばされるんで。耀、一文字は味気なくて」

 

飛鳥「その点、私は両方とも二文字だけど」

 

赤坂「あ、その場合私が呼ぶときの呼び方で明記します」

 

黒ウ「私なんて『くろう』にされるせいで、変換だと『苦労』にされるんですよ!」

 

赤坂「苦労詐欺(くろうさぎ)、黒ウサギ。なんてね。フフッ」

 

(フォークが赤坂に刺さる音)

 

 

 

 

           ※

 

 

 

 

赤坂「気を取り直して。では皆さん、思いつく限りで作中で書かれてない、明言されていないけれど、今後も明かされないだろう小ネタはありますか?」

 

番一「はい!なんで黒ウサギは問題児四人組の中、俺にだけ『様』付け?他は『さん』だろ?」

 

黒ウ「……痛かったのですよ。さすがに」

 

番一「……思い当たる節は、出会い頭のケツバットだな。あれについては反省も後悔もしてないけど、『さん』でいいぞ」

 

黒ウ「では、今後はそうします……」

 

 

赤坂「二巻目の内容からは変更ということで」

 

RS「では次は私です。ちょくちょく私出てますけど。私ってどういう立ち位置なんです?」

 

赤坂「メインヒロインのような何かです。ゼル伝のリ○クにとってのナヴィのような」

 

RS「なるほど?」

 

赤坂「二巻からはメインキャラとして参加します。その予定です」

 

飛鳥「そういえば一巻では私や春日部さんの出番が少なすぎるような気がするのだけど?」

 

春日「私の活躍場面も全部カットされたし」

 

赤坂「一度あとがきで触れたと思いますが、巻によってスポットライトが当たる人が変わります。今回は番長・十六夜ですかね」

 

 

黒ウ「そういえば、凄く後のことになりますが。九巻で私バンチョウについて触れているのですが……」

 

赤坂「あ、それがこの作品の生まれる理由です。それと白夜叉の

 

白夜「呼んだかの?」

 

赤坂「呼んでません。白夜叉の『下層には明かされない。二桁まで上がれ』はそのままの意味です。そこまで行ってようやくちゃんとした情報を手に入れられるという事です」

 

白夜「それでも殆ど情報はないし、隠蔽されてるから私も詳しくは無いがの。……まぁ一巻のラスト、二十一話で触れているとおり分かったこともあるが」

 

RS「それはまた番外で、ということで」

 

赤坂「今後、ストーリーが進めば明かされていくので。黒ウサギが知ってるのはノーネームの書庫になんとなく触れてる本があった、程度の認識です。詳しくは書かれていません」

 

番一「じゃあちゃっちゃと書いて明かしてどうぞ」

 

赤坂「許して……許して……!」

 

(ジャンピング土下座する音)

 

           ※

 

 

 

赤坂「では今後の予定です」

 

飛鳥「私の出番ね!」

 

番一「飛鳥が表紙の二巻か」

 

赤坂「まぁそれもなんですが、その前に」

 

(フリップを取り出す音)

 

赤坂「『番長が異世界から来るそうですよ?乙乙(だぶるぜっと)』を始めます」

 

番一「そんなものに手を出している暇があるのか?」

 

赤坂「さぁ……?どうだか。こっちでは原作短編やらオリジナルの話やら、白夜叉と三代目の話なんかもする予定(・・)です」

 

十六「予定は未定ってか」

 

赤坂「それとキャラ設定の役割の番長詳細報告書ですが、あれ本格的にキャラ設定に徹することにします。あとがきも消し飛ばすか、記念として残すか悩み中です」

 

RS「消していいのでは?」

 

赤坂「ではここで触れるのが最後ということで消しときます」

 

(赤坂の心は決意で満たされた)

 

赤坂「キャラ設定は残しておきます。それと番長必殺一覧も纏めます。私のメモ帳をコピペするだけですが」

 

春日「良く分からなかったら『○○式もっと詳しく書いて』って要求すると泣きながら赤坂が直してくれます」

 

番一「ようするに分かりやすくネタを消して纏めなおすって事か?」

 

赤坂「そういうことです」

 

飛鳥「……終わったかしら?」

 

赤坂「アッハイ。終わったので次巻予告行きましょう」

 

 

 

 

飛鳥「次巻。『番長が異世界から来るそうですよ? あら、魔王襲来……ホームラン?』でいいのかしら」

 

番一「結局俺じゃないか」

 

赤坂「番一・飛鳥がメインとなるはず。かもしれません」

 

十六「見切り発車過ぎる。ストーリーの筋書きとか無いのか?」

 

赤坂「ほぼほぼ原作通り進むイメージですね。番長が暴れまわりますけど」

 

春日「私メインはまた二年後かな?」

 

赤坂「ウッ!い、一巻も完結に結局一、二年かかっちゃったしなぁ……」

 

番一「さらに他のことにも手を出すと」

 

(赤坂の心が砕ける音)

 

 

ジン「で、では。赤坂さんが倒れたのでここら辺で締めくくりましょう!」

 

一同「「「「「ではでは!」」」」」

 

 




赤坂です。(二度目)
コレにて一巻本格的に完結です。
序盤のほうを書き直したい欲に駆られていますがしません。
ストーリーの整合性がどうしても取れなくなったら直します。

次巻の話はいつになるかは気分次第です。
他にも『こういったことをして欲しい』等あれば次巻から、もしくは一巻の続きとして追加します

ではでは。赤坂でした。


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第二巻 あら、魔王襲r……ホームラン?
プロローグ


―――20XX年・四月三日。ある学校の校庭。

桜舞い散る校庭に、二人の男の影があった。

長ランを靡かせバットを担ぎ、髪をオールバックにしている呆れ顔の男。

赤いカーディガンを羽織り、ジーパンを履いたラフな姿の何処か楽しげな顔で相対する男。

あたりに他に人影は無く、耳を澄ませば桜の木の葉擦れの音が薄く聞こえる。

あるいは誰かが傍から見れば、それは一触即発の状況にも見えただろう。

 

番長への下克上を挑もうとする様に見える男が懐から紙を取り出し、口を開いた。

 

 

「さて、番長。作った番長必殺シリーズを覚えるぞ」

「ふざけるな。あんな動き再現できるかよ」

 

即座に却下する番長風な男。

赤い服装の男がズンズンと番長に近づき、手に握ったバットを奪う。

 

「いいか?俺達の世界では(・・・・・・・)出来ると思えばなんでも出来る(・・・・・・・・・・・・・・)

番長風の男がバットを奪い返し、紙を受け取る。

「そうは言ってもよ。さすがに、さすがにさ。

雷を纏って電磁加速を人体で起こす、とか。

超空まで全力で跳んで、衛星を地面代わりに()んで星に帰ってきて全力降下粉砕爆砕大喝采、とか。

無理だろ。俺が死ぬって!?」

 

バットを奪い叫ぶ赤い服の男。

「威力<は>強いだろ!いい加減にしろ!」

 

バットを奪い返し叫び返す番長風の男。

「<は>ってなんだ<は>って!?俺の安全も考慮してくれ!」

 

二人でバットを奪い合い叫び合っているが、最終的に赤い服の男が奪い取り番長を引きずり倒して天を指差しアイ・ウィン……と呟く。

 

「あークソ取られた……。それならまずはお前がやれよ」

「ああ。わかってる。見せてみて、やらせてみて、誉めてやらねば人は動かじって昔の偉い人も言ってたみたいだしな」

「ええ……。マジで出来るのか?ありえないだろ」

「どっかの漫画で言ってたぞ『ありえない、は、ありえない』ってな」

 

桜舞う校庭の中心で、ニヤリと笑ったその男がバットを構え、優雅に舞う。

 

 

 

 

 

 

 

―――数時間後。校庭は破壊しつくされた。

大地は砕け、空からバラバラと小石が降り、砂埃が立ち込めあたりに落ちていた桜の葉が再び空を舞う。

 

 

「マジかよ……」

全ての番長必殺を額面通りの威力と効果で披露された。

唖然とする番長にスタスタと番長必殺を華麗に披露した男がバットを手渡す。

そして肩を叩き笑顔で言った。

 

 

 

 

「ね。簡単でしょう?」

 

 

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

 

―――箱庭二一〇五三八〇外門商店街。

時は進んで数ヵ月後。人通りが少しづつ出てくる、肌寒い時間帯。

朝の運動を終えた番一は、肩にRSを乗せて日課の散歩に興じていた。

 

 

「以上。俺が番長必殺シリーズを使えるようになった原点だ」

「いや、どういうことですか?」

至極全うなRSの突込みだった。

 

いつもの散歩中に、冗談半分でRSが『番長必殺って結局何です?』と聞いてみた結果返ってきたのは、使えるようになった経緯だった。

 

 

―――番長必殺シリーズは、恩恵(ギフト)ではない。

しかし、既存の物理法則にも則っていない。

人体構造上も、霊格や所持している恩恵も、番長必殺のような現象を発現出来るはずがない。

 

それがRSが把握している番長必殺である。

そもそも、番一がギフトによる能力でもなく身体能力で使えるというなら十六夜にも使えるはずで、それこそ『九式・超整理術』などはRSでも実現可能なはずだ。

しかし、番一がした動きを十六夜が再現しても、状況再現などを黒ウサギが手伝っても出来たためしがない。

 

とはいえ、番一はそんなことは大して気にしていない。

なにかしらの理由が、原理があって発動しているのではなく。

ただ、使えるから(・・・・・)使っている(・・・・・)のだ。

 

 

故に、番一以外には現状番長必殺は、他人が物真似のように再現は出来ても様々な手順を踏んで行わなければならず。

特定条件が必要なものは一部あるものの、ほぼ無条件で発動できる番長必殺は、それを知る人の間で問題視されている。

曰く『強すぎる。ふざけるな。こんな下層になぜいる』と。

下層になぜいる、は十六夜も陰では言われているようだが。

 

 

番一の弁解は作り上げた友人の言葉を借りて答えている。

 

『理不尽には理不尽で対抗しなきゃいけない。わかるか?これが理不尽だ(・・・・・・・)

 

 

「バットの空白部分についても、解析中止についても、背中の光とやらについても。わからないことだらけなのですが」

「まぁ、いつかわかるだろ。俺だって知らないけどな!」

RSがため息をつき、番一はガハハと笑いながら商店街を通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

所変わって、二一〇五三八〇外門居住区・<ノーネーム>農園跡地。

 

そこには農地の土をいじくるレティシアと黒ウサギの姿があった。

話の主題はやはり、農場の再生の方法についてだった。

 

わずかな時間で土地が死ぬほどの凶悪な力を持つ魔王。

局地的な現象ならまだしも、広域に及ぶ時間操作による土地の自壊ともなれば<星霊>級以上、星の運行を支配する力を持つ者の領域だ。

紛う事なき、箱庭<最強種>の魔王。

白夜叉レベルの実力者だということだ。

 

 

―――生来の神仏である<神霊>。

―――鬼種や精霊、悪魔等の最高位たる<星霊>。

―――幻獣の頂点にして系統樹の存在しない<龍種の純血>。

 

 

箱庭における最強種とはもはや、人智の及ぶ相手ではない。

しかもその最強種の中でも最高位ときた。外界ではお目にかかる機会すらないだろう。

 

「しかし、これほどの力を有しているならコミュニティの名前くらい聞けそうなものだがな」

「白夜叉様に聞いても東側のコミュニティではないだろうという程度です」

レティシアがぼやく様に呟き、黒ウサギが力なく返す。

黒ウサギが頭を振って気持ちを切り替えるように、力強く笑う。

「大丈夫でございますよ!私達には実力者が四人もいるのですから!皆様が力を合わせれば、この荒廃した土地を復活させることなど容易いのです!」

ムン、と両腕に力を入れる黒ウサギ。レティシアも笑って頷いた。

「……あぁ。主殿達ならば、この苦境も笑って跳ね除けてくれるだろう」

箱庭の外から来た、四人の新たな同士。

彼らならばどんな試練でも乗り越えられるだろう。

もう、かつての何も出来なくなったコミュニティではない。

 

「理想的なのはコミュニティ内で生活のサイクルが確立できることでございます。今は番一様に生活費の大部分を受け持って戴いているおかげで、多少の備蓄も出来ましたが、負担をかけ続ける訳にはいきません。更なる備蓄に、組織力も高める必要があります」

 

―――番一の日課の散歩は、商店街の店主達との週一回行われるギフトゲームのおまけのようなものであり、番一はそのゲームに勝っては負けてを繰り返していた。

勝利した場合、商店街の皆は数日分の食料を<ノーネーム>へほぼ無償で提供する。

敗北した場合、一週間の労働及び掃除や町内会の様々な仕事が番一を襲う。

 

それ以外にも多々ある細々としたギフトゲームに参加し、堅実に番一は<ノーネーム>の為に働いていた。

 

 

「……それもそうだな。まずは土地の再生。となれば南側で開催される収穫祭が目下の目標」

「YES!今は力を蓄えておく時期なのです!」

「だが北側の大祭はどうする?収穫祭まで時間もある。主殿達が聞けば喜ぶと思うぞ?」

うっ、と気まずい表情で黙り込む黒ウサギ。

 

蓄えは、一応ある。

だがそれを切り崩してもいいのかと聞かれると正直難しい。

ノーネームの主力組が行って帰れる分はあるが、それを使えば蓄えの殆どが消える。

祭りで開催されるであろうギフトゲームに勝てるならばあるいは採算がつくかもしれないが、ほとんど博打に近い。

 

眉を顰めて黒ウサギを見るレティシアに、ぽつぽつと諸事情を説明する。

 

レティシアもまた閉口し、苦笑と共にため息。

「……貧乏は辛いな」

「で、ですがもう少しの辛抱でございます!皆様達なら必ず収穫祭でギフトを」

「く、黒ウサギのお姉ちゃぁぁぁぁぁぁん!た、大変ーーー!」

叫び声に振り向く二人。本拠に続く道の向こうから、割烹着姿の年長組の一人―――狐耳と二尾を持つ、狐娘のリリが泣きそうな顔で走ってきた。

「リリ!?どうしたのですか!?」

「飛鳥様が十六夜様と耀様の二人を連れて……あ、こ、これ、手紙!」

パタパタと忙しなく二本の尾を動かしながら、手紙を渡す。

 

 

 

『黒ウサギへ

 北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。

 貴女もレティシアも後から必ず来ること。

 私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合

 四人ともコミュニティを脱退します(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 死ぬ気で捜してね。応援してるわ。

                        P/Sジン君は案内役に連れて行きます』

 

「…………、」

「…………?」

「――――!?」

たっぷり黙り込むこと三十秒。

黒ウサギは手紙を持つ手を震わせながら、悲鳴のような声を上げた。

 

「な、――……何を言っちゃてんですかあの問題児様方あああああーーーーー!!!」

黒ウサギの絶叫が一帯に響き渡る。

脱退とは穏やかな話ではない。

 

巨大な力を持つ新たな同士四人は―――世界屈指の最強問題児集団だったのだと。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、考えて欲しい。

 

リリは、飛鳥様が十六夜様と耀様の二人を連れて、と言った。

それならば手紙には三人、と書くのが正しい。

なのに手紙には四人(・・)と書かれていた。

 

 

つまりは――――――…………、

 

 

 

 

 




赤坂です。
新生活に慣れるまで書けませんでした(言い訳)

すぐに次を出します。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。

2017/10/11 一部文章を変更


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第一話

 ―――二一〇五三八〇外門・噴水広場。ペリベッド通り。

 

 RSと番一はなおも散歩を続けていた。

 今<ノーネーム>で何が起きているかも知らずに。

 

「―――で、そこで俺はこう言ってやったわけだ。『それは違うぜ!』ってな!」

「地元のお祭りで何故脈絡もなく裁判が起きるのですか?」

 くだらない昔話に興じていた二人は噴水の縁に腰掛ける。

 

「つってもよ。特に話すことなんかないだろ?」

「まぁそうなんですが……っと、祭りといえば北側の外門で行われる予定の『火龍誕生祭』はご存知で?」

「火龍誕生祭? なんだそれ。字面的にはもうまさに『龍、爆誕!』って感じが出てるけど」

「北側のフロアマスターの襲名が目的なのですが、大体合ってます」

「北側って事は移動手段が必要になるだろうし、それなら境界門になるだろうし。俺は参加できないな」

「……ノーネームに入れている大半のお金を返せと要求すれば行けるでしょう?」

 ニヤリとした笑顔を浮かべたRSに、嫌味はやめてくれと思い番一が顔を向けた瞬間、

声がかかった。

 

「番一君こんなところに!」

「おーい番長ー」

「やっと見つけた」

 飛鳥を先頭に十六夜、耀と続く問題児三人+十六夜により完全にキマって動けず喋れないジンがいた。

 

「どうしたよ、ゾロゾロと揃って。珍しいな」

「番一君!何も言わずに私の指示に従いなさい!」

「……何事だよ」

 番一が面倒そうな顔でため息をついて聞く。

 さし当たってする事も無いから指示を受けてもいいが、火急の用で、それによって問題解決が出来るときにしてもらいたい。

 これで理不尽な仕事だったり、金を出せだったら問答無用でシバく自信がある。

 

 

「『今日一日全力で、黒ウサギ率いる捕まえに来る人から逃げなさい』!」

「了解した!」

 

 

 二つ返事で番一は了承する。

 飛鳥の支配のギフトが働いたわけではないが、面白そうだと思ってしまった。

 何がどうしてこうなったのかは分からないが、逃げ回れということはそういうこと(・・・・・・)なんだろう。

 

 

「番一君も巻き込めたわ(・・・・・・)!早く行きましょう!」

「んじゃ白夜叉のところに行くぞゴラァ!」

「行くぜゴラァ?」

「行くぜコラ!」

 

 今日は飛鳥のテンションが高いのだろう。番一は疑問が湧き続けているが考える暇など無く、先導する飛鳥に皆が付いていく珍しい光景があった。

 

 

 

 

            ※

 

 

 ペリベッド通りを走り抜け、<サウザンドアイズ>の支店の前で止まる。

 桜に似た並木道の街道に建つ店前を、竹ぼうきで掃除していた割烹着の女性店員に一礼され、

「お帰りください」

「まだ何も言ってないでしょう?」

 門前払いを受けていた。

 

 どうもこの女性店員には嫌われている節がある。

 きっとファーストコンタクトに失敗したのだろう。

 飛鳥が髪を掻きあげ、口を尖らせて抗議する。

「そこそこ常連客なんだし、もう少し愛想をよくしてくれてもいいと思うのだけれど」

「常連客と言うのは店にお金を落としていくお客様のことを言うのです。何時も何時も換金しかしない者は、お客様ではなく取引相手と言うのです」

「そうか!ならなんだかんだ買い物してる俺はお客様だな!お邪魔します」

 あっさりと番一が納得し、そのままの勢いで侵入を試みる。

 何気なく店に上がり込もうとする番一の前に、大の字になって立ち塞がる女性店員。

 

 竹ぼうきを片手に八重歯を剥きながら唸り、叫ぶ。

「だからうちの店は!」

「しぃぃぃろやあぁぁぁしゃぁぁぁくぅぅぅん!あぁぁぁそびぃぃぃましょぉぉぉ!!!」

「やっふぉおおおおおおおおおお!ようやく来おったかおんしらぁああああああああ!」

 

 即座に番一が叫び、呼応するように和装白髪の少女が空の彼方から降って来た。

 嬉しそうな声を上げ、空中でスーパーアクセルを見せ付けつつ荒々しく着地をする、

 ところに番一が座布団を挟み込み、ボスン!と言う音を立て着地した。

 

 着地した和装の少女は白夜叉。<サウザンドアイズ>の幹部である。

「いちいちぶっ飛んで現れるな此処のオーナーは」

「…………。」

 痛烈に頭が痛そうな女性店員は、何も言い返せずに頭を抱えた。

 

 一番後ろで待っていた耀がポケットから手紙を取り出し白夜叉に見せた。

「招待ありがとう。けどどうやって北側に行くか分からなくて……」

「よいよい。全部分かっておる。まずは店の中に入れ。条件次第では路銀は私が払ってやる。……秘密裏に話しておきたいこともあるしな」

 スッと目を細める白夜叉。最後の言葉にだけ真剣な声音が宿る。

 座布団に正座して番一に持ち上げられていなければ、もう少し威厳が合っただろうが。

 

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

 

 五人は店内を通らず、中庭から白夜叉の座敷に招かれた。

 何せ店内は営業中だ。<サウザンドアイズ>は数多のコミュニティが集合して作られた軍隊コミュニティとして知られており、取り扱う品も様々。

 ギフトゲームで得た物品を換金、そのお金でコミュニティの生活用品を揃える者もいる。

 そこそこ大きなコミュニティならば、大量受注も受け付けている。

 ワイワイと賑わう喧騒を横目に、番一が呟いた。

「やっぱいつも賑わってんな。さすが大手コミュニティ」

「いつもってことは、番長はそこそこ来てんのか?」

 

「「茶飲み相手だ(し)」」

 

 十六夜の疑問に答える白夜叉と番一の声が重なった。

 

「……三時頃になるといつも見ないなって思ってたらそういうことか」

 

 十六夜の視線が若干冷めたが断じてそういう関係などではない。

 暇を持て余す二人が暇つぶしにお茶を飲みながら近況やら町の様子やらを報告している程度だ。

「いろいろ話してるんだよ。<サウザンドアイズ>が貨幣の流通のゲームで競い合ってるとか」

「なんだそのクッッソ面白そうな馬鹿げたスケールのゲームは」

 羨ましそうな声を上げる十六夜。

 その疑問についての答えは実に簡単なことだった。

 

 

 ―――大手商業コミュニティ間で行われている貨幣の流通のゲーム。

 全ての金銀銅の貨幣の価値・比重を同一のものにし、コミュニティの旗印を刻み込む。

 そのコミュニティでの購買は、そのコミュニティ発行の貨幣でしか支払いを認めなければ必然的にその貨幣が市場に流通する。

 より貨幣が流通しているコミュニティはそれだけ多くの支持を受けていることになる。

 それはそのコミュニティとどれ程の交流があるかの指針にもなる。

 

 超大手コミュニティにしか出来ない、真に大規模なゲームだった。

 

「なるほど、だから<ノーネーム>お断りなのか。貨幣の流通を淀み無く行うにも客は選ばなきゃいけないってことか」

「ん……まぁ、そうだな」

 適当に言葉を濁して話を切る白夜叉。本題に入りたいのだろう。

 白夜叉が上座に立てられた屏風の前に下ろされ、幼い顔に厳しい表情を浮かべ、カン!と煙管で紅塗りの灰吹きを叩いて問う。

「本題の前にまず、一つ問いたい。<フォレス・ガロ>の一件以降、おんしらが魔王に関するトラブルを引き受けるとの噂があるが……真か?」

「ああ、その話?それなら本当よ」

 飛鳥が正座したまま首肯する。白夜叉が小さく頷くと、視線をジンに移す。

 

「ジンよ。それはコミュニティのトップとしての方針か?」

「はい。名と旗印を奪われたコミュニティの存在を手早く広めるには、これが一番いい方法だと思いました」

 箱庭の都市は巨大だ。修羅神仏が闊歩するこの世界で、自らの組織の象徴(シンボル)

 ―――(すなわ)ち、<名>と<旗印>は、命ともいえる重要な物である。

 

 それを持たない<ノーネーム>は『打倒魔王』を掲げるという特色あるコミュニティを造ることで補おうと言うのだ。

 ジンの返答に、白夜叉は鋭い視線を返す。

「リスクは承知の上なのだな? そのような噂は同時に魔王を引き付ける事にもなるぞ」

「覚悟の上です。仇の魔王からシンボルを取り戻そうにも、今の組織力では上層にはいけません。決闘に出向けないのなら、誘き出して迎え撃つしかありません」

「無関係な魔王と敵対するやもしれん。それでもか?」

 上座から前傾に身を乗り出し、更に切り込む白夜叉。

 その問いに、傍で控えていた十六夜が不敵な笑みで答える。

「それこそ望むところだ。倒した魔王を隷属させ、より強力な魔王に挑む。<打倒魔王>を掲げたコミュニティ―――どうだ? こんなにカッコいいコミュニティは他に無いだろ?」

 

 

 茶化して笑う十六夜だが、その瞳は相も変わらず笑っていない。

 白夜叉は二人の言い分を噛み砕くように瞳を閉じる。

 

 瞑想する白夜叉ににRSが呟くように話しかける。

「……部外者ではありますが。私は賛成なのですよね。かつての白夜叉様(・・・・・・・・)の考えと、同様に」

 その言葉が切っ掛けだったように呆れた笑みを唇に浮かべた。

 

「それもそうだの。それと、残念なことに<打倒魔王>のコミュニティは、私がかなり昔に既に作った事があっての。二番煎じじゃ」

「それにこれ以上の世話は老婆心と言うものですよ白夜叉様。本題に入ってください。追いつかれますし」

 十六夜が不貞腐れた表情を浮かべた。その言葉(二番煎じ)が本当だとしたら先駆者にあの言い方は恥ずかしいことこの上ない。

 

「追いつかれる?よく分からんが……うむ。<打倒魔王>を掲げたコミュニティに、東のフロアマスターから正式な依頼がある。此度の北側開催の共同祭典についてだ。よろしいかな、ジン殿(・・・)?」

「は、はい!謹んで承ります!」

 子供を愛でる物言いではなく、組織の長を相手として言い改める白夜叉。

 ジンは少しでも認められたことにパッと表情を明るくして応えた。

 

「さて、では何処から話そうかの……」

「北側の、前フロアマスターが病気を理由に引退。その後継者、新たにフロアマスターになる火龍の誕生祭です。五桁・五四五四五外門に本拠を構える<サラマンドラ>のコミュニティ―――北側フロアマスターの一角。その祭典でいろいろと起こりそうでして」

 

 RSが何処から話したものかと遠い目をした白夜叉に変わって勝手に話した。

「う、うむ。まぁ合っておるが、話を取らないでくれ。正式な依頼の場じゃ」

「知りませんよ。遠い目をした貴方が悪いです。こちらは急いでいるのですよ」

「まぁ誰が話そうが俺はいいんだが、一角って事は複数いるのか?」

「うむ。北側には複数フロアマスターが存在しておる。精霊に鬼種、それに悪魔と呼ばれる力ある種が混在した土地ゆえ、治安がそれだけ悪いからの」

 番一の問いかけに白夜叉が答える傍で、ジンは悲しげに眼を伏せた。

「そうですか。<サラマンドラ>とは親交があったのですが……まさか頭首が変わっていたとは知りませんでした。それで新たに誰が頭首を?長女のサラ様か、次男のマンドラ様が」

 

 

「いや。頭首は末の娘の―――おんしと同い年のサンドラが襲名した」

 

 

 は? とジンが小首を傾げて一拍。二度ほど眼を瞬く。

 しかし次の瞬間、驚嘆の声を上げたジンは驚きのあまり身を乗り出す。

「サ、サンドラが!?え、ちょ、ちょっと待って下さい!彼女はまだ十一歳ですよ!?」

「ジンだって十一歳で俺らのリーダーじゃねえか」

「そ、それはそうですが……!いえ、だけど、」

「なんだ?御チビの恋人か?」

「ち、違っ、違います!失礼なことをいうのは止めてください!」

 ガハハヤハハと茶化す番一と十六夜。怒鳴り返すジン。

 

 全く関心の無い耀が続きを促す。

「それで、私達に何をして欲しいの?」

「今回の誕生祭だが、北の次代マスターであるサンドラのお披露目も兼ねておる。しかしその幼さ故、東のフロアマスターである私に共同の主催者(ホスト)を依頼してきたのだ」

「あら、それはおかしな話ね。北には他にもマスター達が居るのでしょう?ならそのコミュニティにお願いして共同開催すればいいじゃない」

「……うむ。まあそうなのだがの」

「よーするに幼いマスターをよく思わない奴等が居るって事ですよ。陳腐でダサい理由ですがね。共同開催の提案が白夜叉様のところへ回ってきたのも様々な事情があるのですが……」

 歯切れの悪くなった白夜叉の言葉をまたしても代弁するRS。

 途端に飛鳥の顔が不愉快そうに歪む。

 しかし、飛鳥が口を開くよりも先にRSがニヤリとした顔で告げる。

 

「それはまた後でにする方が良いかと。皆さん、来ますよ(・・・・)

 その言葉に即座に反応したジンが咄嗟に立ち上がる。

「し、白夜叉様!その事情とやらを、」

「ジン君!黙りなさい(・・・・・)!」

 ガチン!と勢い良くジンの下顎が閉じる。飛鳥の支配のギフトが作用したのだ。

 その隙を逃さず、十六夜が白夜叉を促す。

「白夜叉!今すぐ北側に向かいたい!」

「む、むぅ?別に構わんが、内容を聞かずに受諾して、」

 

「いいんだよ!その方が面白い!後悔は死んでからすりゃいいんだ(・・・・・・・・・・・・・・・)!」

 

 番一が続ける言葉に白夜叉は瞳を丸くし、呵々と哄笑を上げて頷いた。

「うむ。まさにその通りじゃな。飛び込んでみるのもまた運命。面白い、は大事だしの!娯楽こそ我々神々の生きる糧なのだからな。ジンには悪いが、面白いならば仕方が無いのぅ?」

「……!!?…………!??」

 声にならない悲鳴を上げるジン。暴れるが意味が無い。

 部屋の外からもドタバタと音がする。おそらく黒ウサギの追っ手だろう。

 

 しかし何もかも、もう遅い。

 白夜叉は両手を前に出し、パンパンと拍手(かしわで)を打つ。

「―――ふむ。これでよし。これで御望み通り、北側に着いたぞ」

「「「「―――……は?」」」」

 ジンを縛り上げながらも、素っ頓狂な声を上げる四人。それもその筈だろう。

 境界門へ移動して、北側に飛ぶならまだしも、部屋から一歩も出ることなく北側に着いた、しかも今のわずかな時間で?

 

 そんな疑問など一瞬で過ぎ去り、四人はジンを放り投げて店外へ走り出した。

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

 ―――東と北の境界壁。

 四〇〇〇〇〇〇外門・三九九九九九九外門、サウザンドアイズ旧支店。

 四人が店から出ると、熱い風が頬を撫でる。

 

 いつの間にか高台に移動した<サウザンドアイズ>の支店からは街の一帯が一望できた。

 

 眼下に広がるのは、赤壁と炎と、ガラスの街。

 

 ―――東と北を区切る巨大な赤壁。それが境界壁だ。

 その壁から掘り出される鉱石で彫像されるモニュメントに、削りだすように建築したゴシック調の尖塔群のアーチ。

 外壁に(そび)える二つの外門が一体となった巨大な凱旋門。

 遠目からでも分かるほどに色彩鮮やかなカットガラスで飾られた歩廊に飛鳥が瞳を輝かせる。

 昼間にも拘らず街全体が黄昏時を思わせる色味を放っているのは街の装飾のせいだけではない。

 境界壁の影に重なる場所を朱色の暖かな光で照らす巨大なペンダントランプが数多に存在しているためだ。

 

 キャンドルスタンドが二足歩行で街中を闊歩している様を見て、十六夜も番一も喜びの声を上げる。

「へえ……!98000kmも離れているだけあって、東とは生活様式が随分と違うんだな。歩くキャンドルスタンドなんて奇抜なもの、実際に見る日が来るとは思わなかったぜ」

「お、あっちにはもうお祭りの様子も見れるぞ!荒らさないとな!」

 胸の高鳴りが収まらない飛鳥は、美麗な町並みを指差して熱っぽく訴える。

「今すぐ降りましょう!あのガラスの歩廊に行ってみたいわ!いいでしょう白夜叉?」

「ああ、構わんよ。話は夜にでもしよう。暇があればこのギフトゲームにでも参加していけ」

 ゴソゴソと着物の袖から取り出したゲームのチラシ。四人がチラシを覗き込むと、

 

「見ィつけた―――のですよオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 ズドォン! と、ドップラー効果の効いた絶叫と共に、爆撃のような着地。

 大声の主は我らが同士にして追跡者・黒ウサギ。

 

 遥か彼方、巨大な時計塔から叫んだ彼女は全力で跳躍し、一瞬で彼らの前に現れたのだ。

 

「ふ、ふふ、フフフフ……!ようぉぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方……!」

 淡い緋色の髪を戦慄(わなな)かせ、怒りのオーラを振りまく黒ウサギ。

 怒り狂ったその姿は帝釈天の眷属たる月のウサギではなく、仁王のソレに近い。

 

「離脱!」

「逃げるぞッ!!」

「逃がすかッ!!」

「え、ちょっと、」

 番一が懐から丸い玉を取り出し地面に叩きつけ、煙と共に姿を消す。

 十六夜は隣に居た飛鳥を抱きかかえ、展望台から飛び降りる。

 耀は旋風を巻き上げて空に逃げようとするが、数手遅かった。黒ウサギは大ジャンプで耀を捕まえる。

 

「わ、わわ、……!」

「耀さん、捕まえたのです!!もう逃がしません!!!」

 どこかぶっ壊れ気味に笑う黒ウサギ。

「後デタップリ御説教タイムナノデスヨ。フフフ、御覚悟シテクダサイネ」

「りょ、了解」

 反論を許さない片言の声に、耀は怯えながら頷く。

 野生の直感が、普段の黒ウサギより数段バイオレンスだと見抜いたのだろう。

 着地した黒ウサギは白夜叉に向けて耀を投げ、即座に番一の発生させた煙を振り払う。しかしそこに番一の姿は無い。

 

「きゃ!」

「グボハァ!おいコラ黒ウサギ!最近のおんしは(いささ)か礼儀の欠いておらんか!?」

 

 白夜叉の抗議に聞くウサ耳は持ち合わせていない。

 

「あれ!?音も気配もなしに消えやがりましたよあの男!」

「私の素敵ウサ耳にも引っ掛かりませんか……!!白夜叉様、耀さんの事をお願いいたします! 黒ウサギは他の問題児様を捕まえに参りますので!」

 勢いに負けて白夜叉は頷いた。

「ぬっ……そ、そうか。良く分からんが頑張れ」

「はい!」

 いい声で返事を返し、展望台から飛び降りる。

 

 しかしRSはそれどころではない。以前の失敗を反省して常に位置を捕捉出来るように広げていた自身の探知から番一が完全に消失しているのだ。このままでは沽券に関わる。

「ちょ、これからが面白いってのに、私を置いていくとは、舐めてくれますね……!」

 

 瞬間、白夜叉の全身が強張り、幾多の経験を積んできた感が警鐘を鳴らす。下層には不相応な霊格の膨張による緊迫感が付近一体を包んだ。

神霊か、あるいは星霊か。それらの全力に匹敵するほどの超規模の瞬間的霊格の発現。

 耀もまた、感じたことの無い不思議な感覚に緊張する。

 

「来なさい!『R』!『S』!」

 

 弾ける様にRSを中心に広がった光が世界を白く染め上げる。

 直後、姿を現したのはRSに似た二匹の悪魔。

 RSとほぼ同じ大きさの二匹の悪魔はそれぞれが違う格好をしていた。

 

 細目のような一つ目に、ポニーテールの赤髪の、青を基調としたローブのおそらく腰に当たる部分にベルトを巻いた少女。

 髪で目を隠す、ツインテールで青髪、ゴスロリ服のようなひらひらした装飾の付いた、赤を基調としたローブを着た少女。

 

「ほいさ!何用です?」

「映画がいい所だったのですが……?」

「映画など捨て置きなさい!後で幾らでも見れます!『長井番一』を見つけ出しなさい!力の行使は認めません!」

「「了解!」」

「散ッ!!」

 

 三匹の悪魔がくるりと回転すると同時に姿を消す。

 嵐の様に去っていったRS達を、耀は目を丸くして見ていた白夜叉に尋ねた。

「……今のは?」

「RSの眷属の『R』と『S』じゃな。久々に見たの」

 

 

 

 鬼ごっこは、RSも巻き込んでの後半戦にもつれ込むのだった。

 




赤坂です。
すぐ(次の日)になりました。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは。

2017/10/11 一部変更


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第二話

―――<サウザンドアイズ>旧支店内。

捕まった耀は白夜叉と共にお茶を(すす)っていた。

場を移し、座敷の縁側で中庭の鹿威(ししおど)しを見つめていた耀は、事の経緯を聞いた白夜叉と歓談していた。黒ウサギが怒っている理由を話して少しお小言を戴いたが黒ウサギが悪い。お金が無いなら先に言って欲しい。隠していた事情は察していたが。

「それにしても驚いた。RSがあんな変な雰囲気だすなんて。さっきの変な雰囲気って霊格?」

「うむ。そうだ。増えたあの二人・・・・・・二匹? は、小端末ではなく化身とのことだから霊格を開放する必要があったのだ。久しく見ていなかったから忘れておったわ」

「それって白夜叉もできるの?」

「当然出来るぞ。霊格の規模が大きな者ほど開放した際の周囲への影響は大きい。あまりにも大規模すぎる……例えば私などは、下層に訪れるには霊格の規模を一時的にでも下げる必要が出る。現にそうだしの。対応を怠れば本人にその意思が無くとも天災になりえる。私とてそれは本望ではないしの。先程のは流石に問題があるが……」

そこまで聞いた耀は手を上げて白夜叉の言葉を再び遮りそのまま押し黙る。

徐々に言葉が尻すぼみになり、同じように黙った白夜叉の目が(いぶか)しむ物に変わった。

耀が口を開き、質問する。

 

 

 

「……さっきのRSの雰囲気って」

 

「……霊格の開放じゃの」

 

 

 

「……今、下の街って」

 

「……祭りの最中じゃの」

 

 

 

「最後にもう一つ質問いいかな。―――私達への用ってなんだったっけ?」

 

「おんしのような感のいい小娘は嫌いじゃよ……茶番はさておき、警報の一つも鳴っておらんし平気だと思うぞ。RSの事だ、おそらく何かしら対処でもしたのだろう。もし何か起きたとしたら全てあやつの責任にするしの」

扇子を開き、呵々と笑う白夜叉。

「それならいいんだけど。せっかくのお祭りがこれで中止になったら残念だし」

「なに、私が祭りに携わるのだ。何も起こさせんし、起きたとしても、何もさせん」

そこまで伝えてから、ふと思い出したように白夜叉は話を切り出した。

 

「そうじゃ。少し相談があっての」

「なに?」

「大きなギフトゲームがある、といったであろう。特におんしに出て欲しいゲームがある」

「私に?」

和菓子を食べ続ける耀に、自身の着物の袂に手を入れ一枚の紙を取り出し手渡した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ギフトゲーム名 <造物主達の決闘>

 

・参加資格、及び概要

          ・参加者は創作系のギフトを所持

          ・サポートとして、一名までの同伴を許可

          ・決闘内容はその都度変化

          ・ギフト保持者は創作系のギフト以外の使用を一部禁ず

・授与される恩恵に関して

          ・<階層支配者>の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

                         <サウザンドアイズ> 印

                         <サラマンドラ>   印

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「・・・・・・? 創作系のギフト?」

「うむ。人造・霊造・神造・星造問わず、製作者が存在するギフトのことだ。箱庭北側では苛酷な環境に耐え忍ぶために恒久的に使える創作系のギフトが重宝されておってな。その技術や美術を競い合うためのゲームがしばしば行われるのだ。そこでおんしの持つギフト―――<生命の目録(ゲノム・ツリー)>は技術・美術共に優れておる。人造とは思えんほどにな。壊れる心配の無い展示会に出しても良かったのだが、出場期限もきれておる上、インパクトに欠ける。その木彫りのギフトに宿る<恩恵>ならば力試しのこのゲームも勝ち抜けると思う」

「そうかな?」

「うむ。幸いなことにサポーター役として番一もおる。ルールは違えどこういった形式のゲームによく参加しておるから役に立つだろう。というより、本件とは別に祭りを盛り上げる為に一役買って欲しいのだ。勝者の恩恵も強力なものを用意する予定だが・・・・・・どうかの?」

番一がよく参加していると白夜叉が知っているということは斡旋しているのだろうか。

龍に興味が沸いて参加した祭りなだけにあまり気乗りがしないが―――と、ふっと思い立ったように質問する。

「ね、白夜叉」

「なんだ?」

 

 

「その恩恵で・・・・・・黒ウサギと仲直りできるかな」

 

 

幼くも端正な顔を、小動物のように小首を傾げる。

半ば冗談で脱退すると告げたが、あの怒りは本物だった。

白夜叉は、温かく優しい笑みで頷いた。

「出来るとも。おんしにそのつもりがあるのなら」

「そっか。それなら、出場してみる・・・・・・番長は誘わないけど」

いつもでてるみたいだしと呟きながら縁側から立ち上がる。

陽は昇りきり、昼を廻り始め、チンピラが空を舞っていた。

 

 

 

「いや穏やかな日常の風景じゃないだろうに。どういう状況なんじゃ・・・・・・」

 

 

 

            ※

 

 

 

―――東北の境界壁・自由区画・商業区。裏道。

 

番一は赤いガラスの歩廊から一本離れた裏手の道で暴れていた(・・・・・)

 

「誰にッ!断ってッ!ここでカツアゲしてんだゴルァァァァァァァァァァッッッ!!」

「「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」」

 

ポロシャツにサングラスに頬に傷という、異世界感の欠片も無いテンプレチンピラな二人組を速力全開の跳び蹴りで第三宇宙速度もかくや、という勢いで吹き飛ばす。

遠くのほうで致命的な爆発音と崩壊音が響き、空にチンピラが舞って出来た雲が見事な跡を残しているが、きっと生きているだろう。この箱庭でチンピラをしているくらいなのだから。

番一は付いた汚れを取るように足を振りながら絡まれていたお面屋台の老いた店主に話しかける。

「怪我とか、被害とか出てないか?じいさん」

「平気じゃよ。ありがとうの」

呵々と笑うその顔には絡まれたことへの恐怖といった雰囲気はなく、面白い展開に喜んでいる様子があった。

それはそれで肝が座っている感じがするが年老いている分経験も豊富なのだろう。そう考えておこう。

「そいつはよかった。んじゃ俺はこれで」

「少し待っとくれんか? いま礼を……」

そう言ってしゃがみ込み背を向けて、屋台の中にあった荷物を漁り始める老人。

その背に番一は苦笑いしながら声を掛けた。

 

「礼はいらねえぞ? 単に俺がムカついただけで」

「ほれ。オヌシ顔のお面じゃ」

「なんだコレ!?」

老人の手渡してきたのは精巧な番一の顔のお面だった。似すぎている。というより触り心地が人の、自身の顔を触るのと同じで純粋に気持ち悪い。一瞬で現れたところを見るにギフトによるものだろうか。それにしては需要が無さそうなギフトだ。何を考えて生まれたギフトなのだろうか。

鏡や絵以外の自身の顔を、苦い顔で見つめる番一。

 

「いいじゃろ。特別製じゃぞ?」

「あ、ありがたく戴いておく。何かに使えるかもしれないし」

長ランの内胸のポケットに納める。使い所はどこにあるのだろう。

黒ウサギに被せたら十六夜辺りが爆笑しそうだ。

以外と需要があるかもしれない。お笑い方面に。

「それじゃそろそろ……」

「おお、そうじゃもうひとつやろう!」

クルリと背を向けた途端にポン、と手を叩く老人。今度は何だと番一が振り向くとすぐ左斜め後ろに屋台から出てきた老人が立っていた。

「うお、急に移動した」

「ふむふむ。オヌシに予言をやろうかの」

老人は番一の胸ほどの高さしかない背を伸ばし、耳に顔を近づけると呟いた。

 

 

 

 

 

 

「展示場に向かうと良い。出会いがある」

 

 

 

 

 

 

頭にいくつもの疑問符を浮かべる番一。だが、それ以上老人は何も語らずに屋台に戻ってしまった。

 

「・・・・・・それはどういう」

頭上の時計塔が突然、爆発した。

 

 

いきなり何を言っているかわからないが、爆発したのだ。

撒き散らすのではなく、散弾のように降り注ぐ瓦礫は爆弾などによる爆発ではなく、人為的な力が一方向から何かを狙うために加わったことを物語っている。が、それは重要なことではない。

 

 

「じいさ……ん!?」

 

 

瓦礫老人と屋台に襲いかかるより早く反応した番一は即座に屋台の老人に声をかけようとし、屋台ごとその姿が無いことに驚愕する。

反応がその所為で遅れた。無闇に番長必殺に頼るわけにもいかず力任せに瓦礫を振り払う。

だが、その瓦礫の吹き飛んでくる勢いは番一の想定の数段上だった。

(やべ、やらかした)

咄嗟に考えられたのはそれだけで、番一は敢えなく瓦礫に呑まれた。

 

 

 

 

            ※

 

 

 

 

しばらくして、何事もないように街を歩く番一の姿があった。

呑まれた、などというが白夜叉の渾身の一撃を耐えきる耐久力を誇る番一には大して意味はない。

少したんこぶが出来ただけだ。

飛んできた瓦礫によって少し砂っぽくなったり、辺りが破壊された方が問題だった。

「さて、言われたままに来たはいいがどうしたものか」

辿り着いたのは洞穴の展示会場。天然の洞窟に手を加え会場にしたという洞穴は点々と灯る蝋燭によって薄明かるく照らされていた。

外にも中にも人は疎らに居り、そこそこ盛況の雰囲気を出している。

 

「出会い、出会いねぇ。好敵手ならいいんだがそうじゃないなら女か……?」

性に興味がないわけではない。ただ元の世界で彼の回りにいた女性の戦力と殺意が高すぎて、少し枯れているだけだ。

「ま、入ってみるか」

人の波に混じり、中へと進む。

 

両脇に飾られている色鮮やかなステンドグラスや様々な彫刻品を眺め、『ほう』や『へぇ』を雑に連発しながら進んだ先で大きな空洞に出た。会場の中心に当たるであろうその場所には、紅い鋼の大きな巨人像が鎮座していた。

 

「うおお!でけぇ!かっこいい!赤いとはわかってんなこれの作者!」

紅い鋼に金の華美な装飾。目測でも三十尺はある体躯。太陽の光を装甲に描き、堂々と屹立するその姿。

年頃の男子のように喜ぶ姿に周りの人々の目線が静かにしてくれ、と伝えるが番一には届かない。

ほえー、とした顔でうろうろと眺めていると人にぶつかってしまった。

 

「おぉっとぉ、これは失礼」

「ああいや、こっちからぶつかったんだし失礼した……って、すげえ服だな」

相手が即座に謝ってきたため、こちらこそと謝罪を返したがその言葉は相手の服への感想になってしまった。

 

―――奇妙奇天烈 摩訶不思議 奇想天外。

虹色ともまた違う、あらゆる色をパレットに乗せて撒いて無造作に描かれたような、それでいて絶妙に均衡の取れた不快感を与えない極彩色の服装。

展示場の展示物と言われても何も違和感が無いほどの珍妙な服を絶妙に着こなす姿はもはや変人にしか見えない。

着ている本人の顔にメイクをして、髪も染めてあればピエロで押し通せるかもしれない。

だが、見る者に感嘆の声を出させるほどに端正に整った顔と芸術品のような緑がかった黒い髪が異様なほどの存在感を放っていた。

むしろ、何故展示場に来てこの姿に気づけなかったのか。

 

 

「ぃーえいえ。構いませんよ。『私の服が目に入らぬほど』この作品は素晴らしいですし」

そう言う本人は番一の呟きへの当て付けのように私の服、というところを強調した。

「あ、いや、まぁ、いいんじゃないか。その服も、こう、個性的で」

歯切れ悪く誉めようとするがどうにも言葉が出てこない。そんな様子を見た極彩色の服の男は腹を抱えて笑いだした。

「ふふ、ははは!ぃーえいえ。構いませんよ。私自身を誉めるより、私の作品が誉められる方が嬉しいですし」

「作品? ここにあるコレか?」

そういって赤い巨人像を指し示す。

 

作成コミュニティの名は<ラッテンフェンガー>。作品名は<ディーン>

 

「ぃえ。違います。私のものは入り口からズラリと並んでいたステンドグラスですよ」

「あれか。たしかに色鮮やかで綺麗だったな!」

「お褒めいただき光栄です。ここにあるのは一部で、町中にもまだまだ沢山特別に展示させていただいてますので、よろしければ探してみてください」

そう言って口に人差し指を当ててウィンクを送ってくる。これで服装が極彩色ではないタキシード等で、ウィンクの相手が女性であれば傍から見て様になっただろう。

 

番一は笑いながらそのウィンクを流して話を続ける。

「ゲームみたいで面白いな。何かの縁だし、探してみるか」

「……ゲーム、なるほど。ならもう少し趣向を凝らしてみましょうか」

そう言うと極彩色の服の男は、番一の手を取り片目を閉じる。

 

「町中にあるステンドグラスをしっかりと見ていくと、私の名前がわかります。あなたにはこの祭りの終わりまでに私の名前を当てて頂きましょう」

 

「……ほう? ギフトゲームか」

「そうですね。報酬は私と友達になれる、で」

「しょっぱい報酬だが、挑まれたなら頑張るしかないな!もう少しここを回ったら行くか」

「それがよろしいでしょう。時間は有限です」

クスクスと笑った男は背を向けると人混みの中へ溶けるように消えていった。

 

 

 

しばらく他の作品を眺めて歩き、さぁ行くかと笑みを浮かべた瞬間、悲鳴が洞穴の中に木霊し、人々が一斉に駆け出した。

 

「うおっ!なんだよ今日は何が起きてんだ!ってうおおおおおお!!??」

 

番一の愚痴のような悲鳴は聞き覚えのある声が洞窟内に響くと同時に移動がスムーズになった人並みに押し潰されて消えていった。

 

 

 

 




赤坂です。
お久しぶりです(約四ヶ月ぶり)
全編を書き直したり、手直ししたりしました。
ストーリーに変更はありません、情報の量も変わっていないはずです。
細かな言動が少し変更されました。
ちびちびと再開していきます。
失踪はしないです。絶対に。
誤字・脱字・感想いただけると幸いです。
ではでは

2017/10/11 一部変更


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