前世でも恋してた (結丸)
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森夏前世の章 1話 人身御供 その1
キャラの名前や設定、性格、年齢など、多くが帰られており、しかもほのぼの系
ではありません。
苦手な方は閲覧をお控えした方がいいです。
「フライト・エージェントっているじゃない?座席までジュース配りに来たり、高級そうなタバコやカバン売りに来たり」
風が時たま空に音を響かせるだけだ。
狼奈の年は20を過ぎたばかりに見える。
サイドアップにスタイリングした髪は、透き通るライトブラウン。
その髪を背骨辺りまで伸ばし、ヘアピンで前に止めている。
「ああいう言い回しって、昨今の差別防止の一環らしいけど実際んところ・・・」
どこか垢抜けた雰囲気を纏っているため、外見とのギャップを与える声だ。
が、しかし―。
「超ウケるんですけどぉ!」
それはただの思い違いというものだ。
「あれで差別がなくなる?ンなわけあるか!男尊女卑をするような輩はねぇ、
自分の席から添乗員のケツ見ながら「あのス○○ー、ソソるわ~」とか言うわけでしょ?
だったら、名称が変わろうと「あのフライト・エージェント、ソソるわ~」て言うに決まってんじゃない!」
そう言って笑う。笑顔が実に似合っていた。毒舌も美人ならば許したくなるらしいが、この少女もその類の容貌をしていた。
「誰も聞いてないわよね」
言いたいことだけ吐き出すと、少女は周囲に目を配った。
肝が据わっていないと言えなさそうな発言だったが、本人は至って小心者だったらしかった。
気持ちは分からないでもない。
社会生活を営む以上は、常にストレスを抱えているものである。気に入らない相手も、気に入らない思想もあるものだ。それを暴言を吐くことで発散することは、この少女にとって、他人との衝突を避けるための手であることは安易に想像ができよう。
それに異論を唱える者はあまりいないだろう。
しかし、今の声を人前で発してはいけない類のもので、特定の場所を必要とするものだ。
金輪際。一生。天地が上下逆になろうとも、人に聞かれることは避けたいと少女は思っていた。
だから、それをココで行っているというわけだ。
少女は、人の気配がないことに胸を撫で下ろした。
そうなるよう計算して、夕暮れの山の中で叫んではいるのだが、実はこの行動、予定外。
計算通りでありながら、突発的な実行なため、何が起こるか予測できないのだった。
「・・・・・・」慎重に視線をアタリに泳がす狼奈。
その視線は人を射殺せそうなほどに強い。
しばらく警戒していた彼女だが、ふっと肩の力を抜いて、嘆息した。
確かに人の気配はないようだった。
自分の
これが街中ならどうなっていたことか想像するだに恐ろしいが、少しはいてほしかったという背徳じみた気持ちも少し。
そうすれば、こんなことにはならなかっただろうにー。
左胸に手を当てる。
高ぶっている心臓はもはや落ち着く気は微塵も感じさせない速度で加速中だった。
(どうも、もう一人のワタシが悪ノリして、内臓と結託、血流という和音のテンポを不協っ
ぽく乱しているのだそうに違いない。―何イッてんの私。)言ってて、思わず笑ってしまった。
深夜の山中、薬でもキメてそうな表情の少女が一人、痴態を晒す。
建前。ストレス解消。
本当の理由。依頼を受けて出向いた山で道に迷い、心が原生林に帰りました。
遭難とも言う。
泣けるゼ。
「…あ、涙だ」
すでに夕刻。
本当だったら、電車に揺られている予定だった。
なのに、狼奈は、未だ山の中でさまよい続けている。
「主よ、哀れな子羊にどうか寛大なる慈悲を-」両手を合わせ、天を仰ぐ。自分で
言ってて締まらない光景だと思う。名前のせいだ。同級生の間でも何度ネタにされ
たことか。
結果としては、祈っても奇跡は起こらなかった。
時折吹く弱々しい風だけが、不運な迷い子を励ましている。
山は相変わらず黄土色の地肌を空に向けて晒し、深緑色した照葉樹の息吹たちを背
負って鎮座していた。
普段の狼奈なら、季節ごとに魅力溢れる神の創造物に感嘆の涙を流すところだが、
生憎、今は壮大な大自然に構っている暇などなかった。
むしろ早々に立ち去りたいわけで-。
にも関わらず、周りに見えるのは360度パノラマ大自然だった。
他に色が見当たらないのが問題だ。灰色がどこにもない。
目印が完全に紛失しているのだ。
行きは確かにあったのに、今は別のものに挿し変わっていた。
ホワイ?
ゆっくりと首を傾げた。
目印があった場所には、円柱形のシルエットの代わりに、見事な大木が屹立していた。
では、ここは通った道ではないのか。
(目印―井戸―が歩いてどこかに行ったという可能性・・・はないようですね)
考えてから、すぐ否定する。
もしそうだったら、ホラーではないか。今迷っていること事態もホラーと大差ない超自然現象なのに。
取り敢えず、不測の事態なので、常識は捨てる覚悟を決めた。
決めるや否や、大木の幹に頭突きをかます。
アイデアはすぐ浮かんできた。
「非情口を探さないと」方向性はあっているのに、状況を認識する能力と単語量が欠如した発言を、
整った唇が紡ぐ。
(あの目印がない今、出たとこ勝負、ですね。私、ファイトです)
「死ぬのは嫌!」
思考パターンは変わっているのに、出した結論はひどくアリキタリなものだった。
結果として―。
非情口を探しても、それらしいものは見当たらなかった。
時刻は7時をすぎた。休暇なら、決して悠々と登り続けていい時間帯ではない。
ポピュラーな歌を口づさみつつ、それでも少女は捜索を諦める様子はない。
「教~えておじい~さん~、帰り道~!!!!」わざとらしい大声で、
心細さを隠そうとしているのが丸わかりだったが。
せめて気分を明るくしようと楽しみの創出に努めたつもりなのに、しかし逆効果。
意志の強そうな瞳には苛立ちが更に募ってしまう。いつまで経っても、見慣れた光景は視界を横切らない。
なんか風まで強まってナイ?
思わず舌打ちを鳴らす。
しかも、先ほどから何かが眼前を飛んできていた。
砂か木の葉か知らないが、鬱陶しいことこの上ない。
髪が後れ毛を作って、首にもまとわりついてきた。
元来なら頬に心地よい春先の風が、今はこそばゆくて思考を何度も中断させる。
忸怩たる思いで意識下に「Shit!」
…追い出すのに失敗。
死ぬほど遣る瀬無くて、人肌が恋しくて、やけ酒一気飲みしたい気分上昇中。
しかし、そんな余裕はない。思わず沸いた自分の思考に嫌気が差した。
毒づきながら闇雲に捜索を続けることしばらく。
勝気を漲らせていた瞳は、あてもなく視線をさ迷わせるだけに変わっていた。
一旦捜索を諦めて、岩の上に腰をおろす。
探せるところは全て探していた。
水の流れる音を探した。人の靴跡を探した。もう一度人の手が入っている道だけを歩いた。
何も出てこない。
視線を下に向けると、
泥で汚れた自分の掌がある。痺れがひどい。
「ここで死ぬのも、神のご意思なのかもしれませんね」虚空に問いかけるが、当然、答える者はなかった。
狼奈は、都心で自営業をしている20過ぎの薬剤師だ。
野生の薬草を採ってきては、調合して安く売っている。
小さい頃はさして反映もしていない地方に住んでいたが、大学卒業と共に上京。
プロの退魔薬剤師免許試験に合格して今に至る。
学生の頃は委員長と生徒会長を兼任していた壬生寺のこと。
手先は器用な上、やることにもソツがないと周囲からは評判だ。
片手間に行っている副業で副収入も得られている。親のスネをかじってはいるが、
いつか独立するつもりでいた。
要するに、家計は火の車。経営状態は自転車操業である。
その日、仕事は滞りなく進んでいたはずだった。
優秀な情報屋のおかげで下調べは終わっていたようなものだし、仕事をするのに
何も問題はなかった。依頼はあるものの回収。依頼主は知人。場所は山の中。
あらゆる事態を考慮に入れ、目印となるものも用意したし、磁石などの必需品も
ばっちり備えた。
木々だらけで、方角を簡単に見失ってしまう道中のこと、その逸品は、迷わぬ先の杖に
なるはずだった。そこまでたどり着けば後はアレを保管容器に入れて下山するだけ。
岩に印をつけ、木にハンカチを縛り、方位を確認しながら、来た道を地図に書き込み
ながらの前進だったはずだ。
霧も出ておらず、空は快晴で、さきほどまで登山客すらいたというのに-。わざわざ
行き先を伝えながら歩きもした。
保険は十分、時間もたっぷり取って望んだ登山だったのだ。
だが、問題は下山時に起きた。
件の井戸が見当たらない。岩に印がない。ハンカチは何処へ?順路を示した地図も、地
形と現在位置が何故か合わない。そして、見事迷ってしまったわけである。
「思えば、ここまで続いたのが奇跡みたいなものです」独白が虚しく響いた。
経営は火の車で自転車操業だった。まさかこんな形で終わるのは意外だった。
つまり、人生も終わりだった。
「空がキレイね」
呆けた顔で呟く。
「本当だったら今頃、ミントティー片手に余暇を楽しんでたはずなのに、なんでこんなことに-」
そこのところを、しばし考え。
「もしやここは磁場がある山か何かなのかしら」
脳裏に、一度だけ研修で体験しに行った山が蘇る。
思い返せば、この山も大した気を孕んでいる気がするのだ。
「聞いたことのない山の名前だったし、もしここが未発見の霊山だったら-」
憶測に憶測を重ねていたが、この際論理的な矛盾は無視だ。
狼奈は、いつぞや電気屋のテレビで放送していたバラエティの崩落事故体験映像
を思い出す。
確かあの事故の奇跡の生還者は救出されるまで楽しいことを考え続けて、
助かったのではなかったか。
「つまり、救出された後は、急いで帰って発見者登録して、局でも呼んでTV出演すれば―美人製薬師として一躍時の人になれないかしら?」
狼奈はキャハーっと悶えるや、土をバンバンと叩く。その顔には満面の笑み。
湿った葉の裏にいたハサミ虫が何事かと驚き、指間をすり抜け逃げていく。
一通り笑って気持ちが正常に戻ると、夜の空が視認できた。途端に盛り返す絶望感。
「だぁかぁらぁ!どうやって見つけてもらうというのです!」体勢を変え、土の上に四足で着地する。
今や全身は、街中で喧嘩をする際のマウントポジションみたいな姿勢。
怒れる拳は、地面に容赦なく叩きつけた。
硬い地面は―ああ、なんということだろう。
ヒビが入っているではないか。本人には日常的なことなのか、気にした様子はない。
「なんで休みに井戸探し!?ねぇなんで?いえ確かに、山に来れるのは嬉しいですけど!」
「大体、アイツもアイツです!久しぶりに顔見せたと思ったら、こんな仕事押し付けるなどと。しかも、あの呼び方!変える気はないのでしょうか!」
少女の脳裏に、知り合いのすっとぼけた鉄面皮が浮かぶ。
「誰が壬生の雌狼、ですか!あれで褒めてるつもりなんだからまったく―」
斎藤一の通り名が由来だろうから、悪い気はしないが、乱暴だと言われてるようで癪だった。
「馬鹿だったわ!安っぽい言葉に釣られてせっかくの余暇を-!死ね!死んでくれ!あの時のわたし-あ、このままじゃどのみち死にますね…」
「でも、霊山…霊山ですか~-考えたら私などには勿体無い墓ですよね」グヘヘとグロッキーな笑みを浮かべ、壬生寺の思考は迷走する。「いいですね~、一攫千金…エヘ」
時間とエネルギーの完全な無駄遣いだった。
………
……
…
そんなこんなで、気づけば深夜。あの癇に障る風はやんだが、今度は空腹が半端ない。
「これからのことを考えないといけませんね」リュックを開く。
今までの様子が嘘のように、機敏な動きを見せる。
缶詰が出てきた。しかし、この先のことを考え、とりあえずしまう。特にツナ缶は暖を取るために必要だ。
次にテント、磁石、タオル、服の替え、水筒などを発見。
地形や季節も考慮に入れつつ、目をつむり、頭の中を整理する。
そしてエネルギー消費を抑え、適度に熱を体内に溜め、精神も疲労しない方法を選択。
数分も立たないうちにそれは現れた。
見慣れたビニールの袋だ。中から、短い銀色のポールと、カナヅチのような工具を取り出す。
最後に本体を取り出し、組立を始めた。
ちなみに表には、キャンピングセットの文字。
要は、テントを建てることにしたのだ。
完成したテントは、誇らしげに夜の山で屹立していた。
テントのチャックを降ろした途端、外の冷気がその中に優しく吹き込んでいく。
木の葉が中に入ってきてしまっている。一枚、二枚。三・・・急いで中に入って、
元の位置まで引き上げる。
自然、風が止む。
狼奈は床に座った。
これでしばらくはなんとかなるはずだった。こういうことにだけ準備のいい自分
自身に苦笑する。運も能力も中途半端なくせに、と。
「ノドの渇きはどうにもなりませんが」
ミネラルウォーターの封を開ける。
侵入を許した木の葉がゆったりとビニールカバーの床に着地していく。
それを見届けた狼奈は、寝袋をセットする。
早々に寝てしまえば、体力を使うこともない。
入口を開いた。
が―。
中に突っ込みかけた足が元の位置に戻る。
きっと鏡がここにあれば-。
そこには苦虫を噛み潰したような顔が映っていたことだろう。
「なんてこと―この手がありました」
しばし考える間があく。
しかし、決意の表情で、テントを後にした。
その後の行動も早かった。
今、狼奈の陰は背中が荷物の分だけ膨らんでいた。
それが一瞬で元の細身に変わる。
それに伴い、背中から一時も放さなかったリュックが、草を踏み潰す音が聞こえた。
狙い通り身軽になれたことを確認する。
これが命の代わりに得た代償となる。
暗闇を希望の色に照らしていく。
四方を一瞥して、光は消した。どこにも灯りは見えない。あてはない。
しかし、時間もない。
事は緊急を要するが、だからこそ無駄は事態を悪化させる。
事態は何かしらに進むかもしれないが、脱出は遅れる。
「あの野郎、帰ったら殺す!」自分に喝を入れた。言ってから、バチが当たらないか本気で心配した。
条件はサイアク。
まず、風が足りない。これじゃ犬一匹も飛ばせないだろう。
夜なので前に何があるのかすら分からない。
気が狂いそうだった。
だから、念じた。
誰もいないはずの闇に-。
(悪いけど、後押し頼んでいいですか?)
それに応えるように、人の気配が増えるのを感じた。
今日は、どうやら調子がいいようだ。
作戦を決行する覚悟は決めた。
後は時期をうかがうだけ―なのだが。
予想外なことが起きてしまうとは、さすがに考えていなかった。
「え、ちょ。
いきなり何する気ですか!?
まだ心の準備が…。
大体風の量が不足・・・
だから待てと…!
言ってんでしょ呪うわよ、この半端神!」誰かに抗議するように叫びだした声の返事は帰ってこなかった。
突然の浮遊感に、狼奈もそれどころではない。
彼女の体は、予定通り、見えない滑走路によって、飛行を成功していたのだ。
音速かと思われる速度で。
それにしても-、と狼奈は後に回想する。
彼の非常識さはわかっていたつもりだが…
本当に押されるとは思わなかった。
後はまともに声など出るわけない。
状況を強引に変えたのだから、少々の過酷さは覚悟していたつもりだった。
それでも息すら吐けないのは予想外。瞼が風で開けないのも計画にない。
風が一瞬嗅ぎなれた匂いを運んできた。
咄嗟の判断で手を顔の前にかざす。
間一髪-。
一瞬でも遅れれば失明していた。
無いはずの風があると気付いてすぐ、木の幹らしき感触が、手の甲へ軽い鈍痛を残して、前方へと飛んでいった。
速度はもはやジェット噴射並。これではせっかくの装備も役には立つまい。
現にハングライダーが風を受け止めきれず、ばたばたはためいていた。
流れ星-不吉すぎる-となった狼奈に運悪く出くわした鳥らしき影が落ちていく。
いつもなら、風景相手に自然観察と洒落込んでいる状況も、景色の移り変わりが速すぎて、今がどの辺な
のか憶測すらできないレベル。
それ以上気にするのを止めた。
心が現実を前にポッキリ折れる前に、考えるのを止めたほうが賢明だろう。
今は鳥の命より自分の命。
そのまま意識も飛ばしてしまいたかったというのが本音だが。
しかし、それだけはできない。
眼下に拡がる死の脅威。
どこに落ちようと無事では済むまい。
落下という物理法則は、何びとの生還も認めない。
狼奈は風と一体になり、しばらく滑空を続けた。
そして、希望の光が見え始める。
前方が妙に明るい。
狼奈が住む銀杏市の灯りが近づいてきているのだ。
このまま安全な場所を探せればこっちのものだ。
それを逃す手はないだろう。
速度がようやく緩やかになる。
助けはここまで、ということか。
落ちたらそれまで、ということでもあるらしい。
一生懸命事態打開に努める。
滑空と速度調整を慎重に繰り返しながら、眼下の様子を物色していた丹生谷の目が、一点を捉える。
「-あそこだ」
すぐに降下を開始する。
そこには月明かりに照らされた一面の湖。ここなら家に近いし、万一落ちても骨折ですむだろう。
湖らしき水たまりが狼奈を優しく迎えてくれている。そして、その周囲を囲むように密集するは空から眺
めた照葉樹。落下する地点から、取るべき体勢を予測する。
「つっても、湖にダイブなんて初めての…」ようやく落ち度に気づき、顔を青ざめても遅かった。周りの
草場と違い、微妙に暗かったことから、そこも湖だと思い込んでいた。
持っておいた石で慌てて確かめる。水音がしない。
何もしない。
焦って、悪足掻く。
やっぱり、しない。
しないものはしない。
後がなかった。
水面もなかった。
「やはりそうなのですね」諦めた。
「主よ、あなたの下に参ります」
縁起でもないセリフを吐いた狼奈は、草原に転がる自分を幻視して-。
「ぐはっ!!」
何者かの衝撃により蹴り飛ばされ、湖の中に水飛沫をあげながら墜落した。
中二の歴史がまた1ページ…。
「具合、どう?」
「あなたの顔見たら、また悪くなりそうです」
情報屋、
とある病棟の一室で、二人は顔を再び合わせた。
いつも鉄面皮の依頼人は言葉の裏に込めた皮肉など気にせずに、丸いパイプ椅子に
腰掛ける。縮んだ背に合わせようと、視界を下に降ろすと、彼女の両手に
バスケットが収まっていた。
「果物」
「あなたにしては殊勝な心がけです」
「すまなかった」
「治療費さえ出れば何も問題ありません」言外にこの怪我が依頼人の調査不足の賜物だと
非難してみたが、陸華はどこ吹く風。
「ビジネスに危険はつきもの」一切責任を取る気はないようだった。
「相変わらずマイペースなんですね」
狼奈は半ば呆れた風にそう返した。
「で、あそこは何なんです?地場の渦でもあるんですか」
「そんな報告は受けていない」
「飼い主さんはなんて」
「知らなかった、と」
「ま、無理もないか-」
プロの狼奈すら知らなかったのだ。素人なら知らない霊山の数は2桁ほど跳ね上がる計算だろう。
「私は治療費を出せないが-」
「その話はもういいですって」
「
「まぁ」思わず感嘆の声を漏らした。珍しいこともあるものだ。この手の仕事は、業界仲間同士が処理す
るのが通例で、依頼主が立ち回ることは滅多にない。
最後に運が向いてきた、と考えることにした。
「それはありがたい」そう返答する。
「もうすぐ着くと言っていた」
「ふ~ん」空返事をして、窓の外を眺める。
「何か気になることでも?」
「ん・・・?」
「助かったのは奇跡だと聞いた」
「落ちた場所が場所だからね~」
「こちらも最低限の誠意は示す用意はあるつもり」
「アンタが気にすることじゃないわよ・・・」そう口にした時だった。
「お待たせしました」
まだ声変わりもしてなさそうな初々しい声音が病室内に吹き込んだ。
初めまして、結丸です。
出してしまった・・・。
こんな異端を許してくれるのかと思いながらも、ものは試しです。
だって、出したかったんですもの!
前世ですよ!前世!
ロマンがあるじゃないですか?
それも、大好きな『中二病』で作ってみたいなぁ、って。
まぁ、ノリのいい方じゃないと難しいかもしれないですね。
さて、わかりにくい箇所も多いんですが、末永くお付き合いしていただけたら幸いです。
それから、質問、感想なんでも結構なので、またお願いします。
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