ガンダムビルドファイターズ Anything goes -エニシングゴウズ- (oyakata)
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本編
ガンダムビルドファイターズ AG 第一話「砕けた翼」前篇


機動戦士ガンダムのプラモデル、略してガンプラ。そのガンプラを戦わせて遊ぶ遊びを、ガンプラバトルと呼ぶ。

ガンプラバトルで強くなるコツは、ガンプラを動かすプラフスキー粒子の特性を良く理解し利用することだ。

ガンプラバトルは専用の装置の上で行う。粒子はその装置の上面から放出され、バトル中は装置の上全てが粒子で満たされた状態だ。

プラスチックに粒子が浸透していればしているほど、機体出力が向上する。

逆に言えば、機体に浸透している粒子を一気に放出して使い切ってしまえば、動かない木偶の坊になってしまう。

……そう、今の俺のストライクフリーダムガンダムのように。

 

「動け、動けよこのクソマシーン!」

 

迫り来る多量のミサイルに俺の視界は埋め尽くされ、無慈悲なシステムコールと共に、俺のストライクフリーダムガンダムの初陣は終了した。

 

『BATTLE END』

 

 

 

第1話「砕けた翼」

 

 

 

屋上前の扉がある階段の踊り場で、俺は腰を下ろして落ち込んでいた。

屋上は立ち入り禁止らしく、ここを通る生徒は滅多にいない為、一人になって落ち込むには持ってこいの場所だ。

「……はぁ」

俺の手には、先ほどまで激闘を繰り広げていたストライクフリーダムガンダムが握られている。

電光石火の超加速、高火力ビーム兵器、追随を許さない圧倒的手数。

どれを取っても最高のモビルスーツだった。それこそ、作中のような強さだった。

「30秒持たなかったけどね」

「うぐっ」

そう。そんな高出力な機動を行って、核を積んでいないストライクフリーダムガンダムが長時間の稼働に絶えられるはずがない。

すぐに残存粒子……機体を動かすのに必要な粒子量がなくなって、的になってしまう。実際なってしまった。

それが先ほど行われた『第一回部内対抗バトルロワイヤル選抜』の結果である。

「なんで俺が作ったストライクフリーダムだとこんなに稼働時間が短いんだ……と言うかそもそも、動きも悪いし狙いもつけにくいし!」

「作り手の技量が足りてないんだよ」

「そ、そりゃ俺はビルダーとしちゃ素人だけど、ストライクフリーダムだけはずっと整備してき……」

ふと、自分が今階段の踊り場で一人で落ち込んでいる最中だったことを思い出し、相槌の声の主を探して振り返った。

そこには、ガンダムホワイトの逆三角の布があった。

「……White!?」

「発音が違うよ1年。驚きを表すならホワイトじゃなくてホワットだよ」

「いやホワイトで合ってます……じゃなくてっ!」

そこにいたのは、少し小さめの学校の制服を着た女子生徒。

階段に座る俺の背後に立ち、見下ろすような体勢でこちらを見ていた。

そして、俺が見上げるような体勢で見ている。まぁそうなると当然、見える訳で、これは不可抗力だ。

「不可抗力だ!」

「うん、何がだい?」

良かった気が付いていない。

俺は慌てて腰を上げる。立ちあがる際に、上履きの色が青であることに気がつく。

上履きの色が青いのは2年生だ。ちなみに1年生である俺は赤、三年生は緑だ。

「せ、先輩、いつからいらっしゃったんですか?」

「先に居たの私なんだけど」

「そ、それは申し訳無いです」

人の気配を全く感じなかった。

本当に最初から居たのだとしたら、忍者か何かかもしれない。いや俺にだけ見える美少女幽霊かもしれない。

実際可愛い。顔立ちは……髪の短い王留美って感じだ。ティファ・アディールでも通じるかもしれない。

ちなみに先ほども気になったが、やっぱり制服が小さい。

膨らんだ胸部とかすらりと伸びた脚部の露出領域とかがいい具合にピックアップされている。体つきは……カガリ・ユラ・アスハくらいはあるかな。少なくともエルピー・プルよりはある。

「ところで、さっきのバトルだけど、ガンプラになにかあったの? 手に馴染んでないみたいだけど」

「先輩の制服もサイズが馴染んで……や、いや、なんでもないです。俺のストライクフリーダムが馴染んでないって、わかるんですか?」

「いつも使ってるガンプラじゃないでしょ、それ。ガンプラが真新しいのにアンテナやバックパックに干渉しない持ち方とかバトル中の装備の変更とかに慣れを感じたのに、出力が全く考慮できてない動きをしたり回避した先にある障害物にぶつかったり、全然制御できてなかったから……いつも使ってる同型の、違うガンプラを使ってるのかなって」

たった一度のバトルを見ただけで、そこまで推察されるとは思わなかった俺は驚いた。いや、高校ではこのくらい普通なのか……?

改めて、高校でのバトルが楽しみなってきた。

「流石ですね先輩、戦ってもいない相手のことをそんなに……」

「いや、戦ったよ?」

「え?」

「さっきのバトロワの最後にミサイル打ち込んだの私」

先輩は制服の襟に手を突っ込み、ザクウォーリアを取り出した。どこにしまってんだ先輩。

「ザクコマンドー。私のガンプラ」

ザクコマンドーと呼ばれたそのガンプラは、頭部と胴体、腕部がザクウォーリア、脚部がゲルググ、肩は見た事ないドラム缶のような形状になっていて、ミサイルポッドが付いていた。

バックパックはザクファントムのもののようだが、ミサイルポッド兼ジェットパックのついている所にサブアームが取り付けられており、盾が2枚くっついている。盾の裏にはミサイルポッド。

更に、大型のサブアーム……いや、2つ目の腕と称した方が良さそうな太さのアームが腰の裏側から伸びていて、機体の腰回りを覆っている。アームの外側には盾が付いていて、先端には2つずつビールライフルとガトリングらしき銃口がついている。

「これ、腰のサブアームの盾を外せばまだミサイルポッドくっつくようになってる。ちなみにバックパックの盾の裏には接近戦用のビールサーベルついてる」

「あぁ、なんか要塞落とせそうなザクがいるなとは思ってました……」

ゲリラ真っ青な脳筋ぶっぱなし戦法を行う色物ガンプラを披露して満足げな先輩は、俺の隣に来て腰を下ろした。

「さて、私は自分の手の内を見せた。次は一年の番だ」

「え?」

「一年が本来使っているガンプラの話をするんだよ。あんな無茶な動きについてこれるガンプラがどんなものなのか、気になる」

そこで先輩は初めて笑顔を見せた。

しかし、天使の微笑み的なものではなく……世界征服を企む、ロンド・ミナ・サハクみたいな微笑だった。

こんな顔をする人間がまともな思考をしているはずがない。

相手が男だったら俺は適当に言い訳して離脱していただろう。

が、女子とのおしゃべりと言う誘惑に負けて俺は腰を下ろしてしまった。まぁ下ろしてしまったんだから仕方がないから話そう。というか、実は誰かに話したかったんだ。

話して、俺の憤りをわかってほしかった。

「実は俺、昨日の朝、東京に来たんですよ……」

 

 

 騒音レベルの足音、子供の泣き声、響くアナウンス。普段はただ鬱陶しいだけのそれらを聞いて、俺は懐かしさを覚えた。

「懐かしいな、東京駅」

俺は3年ぶりに東京にやってきた。

小学生まで東京に住んでいたのだが、親の仕事の都合で中学生の間は少し都内から離れた所に住むようになり、東京の高校入学をきっかけに都内へ移り住むことにした。東京には年の離れたもう働いている姉がいるので、その家に世話になる。

本来なら昨晩の内に姉の家に到着して、今の時間には登校する予定だったのだが、落雷事故だかなんだかで新幹線が止まってしまい、到着したのが今になってしまった。

「ごめんお姉ちゃん、先に学校に行ってから向かうね」

と、姉に連絡を入れて学校へ向かった。

学校について、教師を見つけて事情を話す。

「トランクケースは校門付近にある警備員室の中に鍵付きの部屋があるから、そこに保管してもらいなさい」

そう言われてトランクを預け、ついでに制服に着替え、入学式とオリエンを終えた。

「はい、じゃあ気をつけて帰れよ。入学初日から補導されるようなことしたヤツは一年間ずっと日直にするからな」

中々に印象深いアリー・アル・サーシェス似の教師が去った後の教室が、妙にざわついている。

オリエン前に貰った予定表には、この時間帯は部活の見学時間とかいてある。すぐに姉の家に向かう予定だったが、ちょっと部活を見ていこう。

俺が入ろうとしているのは、模型部だ。

俺は小学校の頃、よくガンプラバトルの大会に出場していた。

引越し先には大会を開くような施設がなく、中学校が結構厳しめだったので学校の友達と放課後に、という機会も少なかった。

けれど、今は違う。東京に出たから親の目も遠いし、バトルできる環境がそこら中にある!

部活に入れば完璧だ、ずっとガンプラバトルのことを考えてられる!

よし、と意気込んだ俺は模型部の部室に向かった。

 

模型部の部室は校舎の3階にあった。

部室に入ると、30人程度の人間がそれぞれガンプラを作成している。一部は戦艦や航空機、フィギュアなんかを持っている人もいる。そして、やっぱりあった、ガンプラシミュレーター。

俺がシミュレーターがある環境に感動していると、部室の奥の準備室と書かれていた扉が勢いよく開く。

「都立大岩学園にようこそ一年生諸君!模型部部長のロックオン・ストラトスだ!」

パイロットスーツのコスプレをして登場した部長を名乗る男が登場すると、2年・3年と思しき部員が拍手を送った。

あぁ、こういう空気なのか。俺も他の1年にならって当たり障りのない拍手を送る。

「うむうむ、ノリの良い1年生ばかりで感心したぞ!ってなわけで早速だが君たちには明日、殺し合いをしてもらいます!」

そう言ってホワイトボードに『第一回部内対抗バトルロワイヤル選抜』と書き込んだ。

「今の君たちの実力を見る為だから全然緊張とかしなくていいぞ!もちろん第一回、第二回と続けて成長の見込みがあれば選抜メンバーに入ることもできる!」

そのセリフを聞いて、俺は愕然とした。そうだ、高校に入れば大会に出られると思い込んでいたけれど、模型部が人気の場合はメンバーが多すぎて実力が高いヤツしか出られない、なんて可能性もあるじゃないか!ってか実際そうじゃないか!

周りの1年からも、ガンプラまだ作ってねーよとか、未完成だから今回はやめとこうかなといか言う声が聞こえて来る。

ふふふ、ガンプラに関しちゃ俺は全然問題ないんだなこれが。

 

 俺が小学生の時から使っているガンプラは、俺が作ったものではなく、当時隣に住んでいた同い年の友達に作ってもらったものだ。

お互いにバトルの腕とビルドの腕を認め合った上で、二人で一人のファイターだ!とか言って遊んでいたのを覚えている。

俺自身が中学に入って知ったが、どうやら全国大会出場者からガンプラの作成依頼が来たこともあったらしい。

家族ぐるみの付き合いで、引っ越しするまではよくお互いの家を行き来していたのだが、俺が引っ越しをする際に俺にストライクフリーダムを手渡して、「ガンプラバトル、やめるなよ。やめなきゃ、いつかまた会える」と言われたのをよく覚えている。

実はその後、連絡がつかなくなり、今どこにいるのか分からないのだけれど……

「だから俺の使うガンプラは、お前のストライクフリーダムだけだ……お前のガンプラで、俺は勝つっ!」

決意を固めた俺は、部長熱弁のガンプラバトル模型部7か条を華麗に聞き流した。

 

 

 部長の終わらない熱弁を強制的に止めた顧問の先生の指示で、模型部一同は帰路につくことになった。

まさか模型部の顧問が担任のアリー・アル・サーシェス似の教師だったとは驚いたが。

校門に差し掛かると、見覚えのある人影が見えてきた。姉だ。

「迎えに来てくれたんだお姉ちゃ……」

ふと、いつもの調子で姉のことを呼びそうになり、口籠る。

ここは高校の校門で、周りにはまだ他の生徒が大勢いる。きっとここでお姉ちゃんなんて言った日にゃ周りにいるヤツらからシスコンと呼ばれ人気者になってしまうに違い無い。

精一杯背伸びをして、俺は呼んだこともない敬称で姉を呼んだ。

「あ、姉貴、ま、待ったぁ↑?」

うーわ上ずった、裏声出た、自分がキモい、死にたい。

そんな感じで片手を軽く上げたまま真っ赤になっている俺を見て、姉は肩から下げていた鞄を落とした。

「……ごめんなさいお父さんお母さん、弟がグレました……私の責任です、死んで詫びます!」

「ちょっとお姉ちゃん何でポケットからカッターナイフ出てくるのリスカやめてー!」

いきなりリスカ始めた姉を全力で押さえつける羽目になった。

そうだ、姉はこういう人だった。

ちょっとぶっ飛んだレベルで世間とズレてて、話し相手がちょっと態度悪いだけで自分のせいかもしれないと被害妄想止まらなくなってリスカしようとする身内に欲しくないタイプの人。

そんな性格でまともな仕事が出来るはずもなく、何をしているかと言うと、何とお笑い芸人をやっている。

高校の頃に渋谷で友人と今みたいなやり取りをしていた所を芸能事務所のマネージャーに目撃されたらしく、そのままのネタ、と言うか姉そのままのキャラクターでテレビに出ている。

外見は、黒髪のマユラ・ラバッツって感じで美形ではある。ちなみに相方の友人は……ビスケット・グリフォンをそのまま女性にしたような感じ。

バラエティ番組とかに呼ばれた時の死んで詫びる系のやり取りはネタだと思われているが、実は全部本気で言ってて、姉の友人も本気で止めている。

身内としては姉がテレビに出ているとハラハラして仕方が無い。

ちなみに結構売れている。

「よかった、グレたんじゃなくて恥ずかしかっただけなのね?いいのよ、お姉ちゃんに甘えても。そうだ、今夜は久しぶりに一緒にお風呂入る?」

「公衆の面前でそういうことを言わないで……」

「イヤなの?(カッターしゅぱっ」

「イヤじゃないですっ!」

周りの目が怖い。早くここから立ち去りたい一心で、俺は姉の手を取った。

「ほらお姉ちゃん、早く帰ろう。俺、腹減ったよ」

「まぁ、それじゃあ牛丼屋さんに寄って行きましょう。私料理できないから」

「今後の生活が不安になる情報だ!」

校門を出て少し歩いた所で、自分がトランクケースを持っていないことに気がつく。

「あ、トランク預けてたからちょっと戻って取ってくる」

「それなら、私が代わりに受け取っておいたわよ。警備員さんに姉ですって言ったら出してくれたの」

「え、本当?お姉ちゃんにしては…ゲフンゲフン、さすがお姉ちゃんだね!」

あのトランクの中には俺の半生を共にしたストライクフリーダムガンダムが入っている。早く出して破損していないかチェックしたり明日のバトロワのための整備とかしたい。

「それで、トランクはどこに?」

「……」

それまで饒舌にしゃべっていた姉が、突然無言になり周囲を見回している。自分の手を眺めたり自分の背後を確かめたり。

「……」

「……ま、まさか……」

「お姉ちゃん、どうしてトランク持ってないのかしら?」

「うおぉおぉおぉぉぉおおぉおぃ!?」

こうして俺は自宅から持ってきた半生を共にした相棒、使い慣れた道具、あと着替えとか携帯ゲームとかその辺全部失ったのだった。

 

「……ってことがあったんだ。ひどくない?」

話終わった俺は隣に座る先輩に同情を求めた。

「まさか原稿用紙10枚近い上京エピソードを聞かされた挙句、ガンプラの話が出てこないなんて思わなかったよ。私はガンプラの話を聞きたいって言ったんだよ……国語の勉強、しよっか?」

「まさか同情どころか相槌すら無いとは思わなかった!先輩冷たい!俺寂しいです!そんなこと言われたらガンプラどころじゃないです!」

俺はワザとらしく顔を覆って身体をゆすった。この拗ねかたをすると、自分も姉の弟なんだなと実感してしまう今日この頃。

「……はぁ、じゃあ聞くけど、結局トランクは盗まれたのかい?今日新造のガンプラを持ってきたってことは、昨晩慌てて買って作ったんだろうけどさ」

「ええ、窃盗です。俺が騒いでいた時に通りがかったおじさんが、トランクを車に積み込んで走り去るマスクの男を目撃したって言ってたんで」

「それが一年のものであると言う保証は無いじゃないか」

「金色に着色したガンダムトランクなんで間違いないかと」

「あぁ間違いないなそれは。そんなものを使う人間が近くに二人以上いるとは思いたくない。盗難届けは出したのかい?」

「出したけど戻ってくるとは思えないんです。金品目的じゃなくて、トランクが目当てかもしれないじゃないですか」

「……むぅ、それでは君の友人のガンプラは見られないのか」

「……残念ながら……」

俺は昨晩、姉に頼み込んで着替えよりも先にストフリのガンプラやら工具やらを購入してもらい、一晩で組み上げた。姉のお詫びに死ぬ病が発症したり姉の家がゴミ屋敷一歩手前だったりと忙しくて忘れていたが、半生の相棒を奪われた怒りは相当なものだ。

その上、自分の作成技術じゃかつてのアイツにすら到底及ばないと知って、絶望もしている。

中学3年間、アイツのガンプラを補修しながら技術を磨いたつもりだったけれど……

「まあ、無いものを見たいと我儘を言っても仕方がないわね。それじゃあ、始めましょうか」

「何をですか?」

「ついてくれば分かるさ、一年」

「……あの先輩、俺のことずっと一年って呼んでますけど、もしかして名前知らないんですか?」

「知ってるよ。ミズシマ・ユウジだろう。3年前のトーナメント小学生の部の優勝者チームに居た」

「え……そ、それ知ってて声かけたんですか?」

「そうだ。それで、ついて来るのか。来ないのか?」

「……行きます」

階段を下り始めた先輩の後を追って、俺は歩きだした。

 

 

 

後篇へ続く




読了お疲れ様でした。

はじめましてoyakataと申します。
ビルドファイターズの二次創作を書きたくなって投稿する場所を探してたどり着きました。

キャラクターやガンプラはオリジナルの設定で進んでいく予定です。
時間軸はビルドファイターズトライと同じ年と言っていますが、セカイら原作キャラクターが登場するかどうかはまだ未確定です。
原作では出来ないような設定の改造ガンプラを出していきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。

後篇は明日投稿予定です。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第一話「砕けた翼」後篇

閲覧ありがとうございます。

今回は無改造RGストライクフリーダム VS ザクコマンドー(ザクウォーリア改造機体)のバトルです。


 誰もいなくなった部室に、俺と先輩は戻って来た。

電気をつけて時計を確認すると、午後7時を指している。部活でバトロワを終えたのは午後5時半だったから、1時間半ほど時間が経過していたことになる。意外と長いこと落ち込んでいたらしい。

ガンプラシミュレーターの脇に置かれた机の上にある使用予約の表にさらさらとナガサキ・アンナと書き込んだ先輩はシミュレーターを起動した。

自分と反対側に立つように視線で促され、俺は流されるままにシミュレーターの前に立つ。バトル開始のアラートが鳴り、ガンプラが出撃する。

遮蔽物の無い荒野に降り立った二つの機影。

俺のガンプラは白に青に金と目が痛くなるような配色の機体、ストライクフリーダムガンダム。

先輩のガンプラは緑と灰色のもっさりした配色の機体、ザクコマンドー。

『ん、先ほどの乱戦では気がつかなかったが、それはRGなのか。よく一晩で作ったな』

RGとはガンプラの種類のこと。初心者向けのFG(ファーストグレード)、一般的な1/144のHG(ハイグレード)、1/60のMG(マスターグレード)など様々な種類があるが、RG(リアルグレード)は1/144のサイズでありながらPG(パーフェクトグレード)に負けずとも劣らないリアルなディティールと稼働領域を持つガンプラだ。

「いやまぁ、何とかしようと必死でしたし……それより、こんな時間にシミュレーターなんて動かして、何をするんですか?」

『見ての通りバトルだよ。君はもう愛機を取り戻せない。それならば、現状でどうにか戦えるようになるしかない。先ほどのバトロワのような状態では、選抜に選ばれる可能性はゼロだからね』

「ゼロっすか……」

絶望的な現実を突きつけられ、肩を落とす。しかし同時に疑問が湧いた。なぜこの先輩は俺にこんな時間に個人指導みたいなことを……?

「もう遅いですし、今日はやめませんか?先輩も女の子なんですから、あまり遅くなるのは親御さんも心配しますし……」

『親には遅くなると伝えてある』

「……え?」

『今日は一年のために尽くすよ。そう決めた』

「な、なんでそこまで!?」

表情が変化しないから分かりづらいが、どうやら今先輩は燃えているようだった。

なぜそうまでして俺を特訓したいのかは分からなかったが、そこまで言われたら付き合わないわけにはいかない。

……姉にメールで遅くなると連絡しておこう。

『そうだ、一年のガンプラが粒子不足で動かなくなるのなら、オプションで粒子貯蔵量の制限を廃止しよう。それなら一年のガンプラはずっと動ける』

先輩はコンソール画面を開いて、ガンプラに供給される粒子の限界値を無限に設定した。

これでエネルギー切れが起こらず、まさに核を積んだがごとく戦い続けられる。

『合図をしたら開始するよ。準備はいいかい?』

「準備はいいですけど……先輩、こんなルールで戦っていいんですか?先輩のザク、壊れても知りませんよ。ダメージレベルAになってるし」

『一年は私が負けると思っているのかい?有り得ないから安心して戦っていい』

「むっ、その台詞はちょっと刺さりますよ先輩。そこまで言うなら……俺が勝った時は俺の質問に答えてもらいますよ?」

俺はどうしてここまで俺にこだわるのかを聞き出そうと思い、条件を出してみた。

『構わないよ。何がいい?何でもいいよ』

「ん?今何でもって言った?」

『あぁ。この部に居る2年、3年の使用ガンプラの情報でも、ガンプラ作成に必要な知識でも、私の身体情報でも何でもいい。遠慮なく質問すれば良い』

「……ごくり」

『ではその代わり、私が勝ったら私の言うことを聞いてもらう。いいかい?』

「の、望む所ですよ!」

俄然やる気が出てきた俺は景気良く空に向かって一発、高エネルギービームライフルをぶっぱなした。

 

 

 戦闘が始まってすぐ、先輩のザクは姿を消した。

というより、先輩が打ち出した大量のミサイルの噴射と土煙でどこにいるのか分からない。

俺はミサイルを避けるために上空へ飛んだが、失敗だったかもしれない。

先輩に上空へ追いやられた可能性がある。

「エネルギー無限だから飛び続けられるけど……先輩もミサイル撃ち放題だよな……」

バトル中に出るビームや実弾兵器は、もちろん本物ではない。プラフスキー粒子が粒子変容効果を利用してプログラムに応じて物質化し発生させているものだ。

もちろん、地面も岩山も、土埃もそうだ。バトルフィールドにあるものは全て、ガンプラ以外はプラフスキー粒子。

なので、ミサイル何かの実弾兵器も残存粒子が無い今の状況では撃ち放題。

「でも、ストライクフリーダム射程範囲内だ」

俺はフィールドで一番高い岩山に立ち、二丁のエネルギービームライフルを構え、クスィフィアス3を展開した。

それを土煙の中へと出鱈目に打ち込んでいく。

その動きで、残存粒子が60%を切ったが、エネルギー無制限ルールの効果ですぐさま100%に回復する。

「本当にエネルギー消費が激しいなストライクフリーダムは……」

『RGだからね。中までプラスチックたっぷりだから浸透率が違う代わり、消費も激しいんだよ』

先輩からそんな通信が入ったのと同時に、煙の中からミサイルが飛び出してくる。

「回避するまでもない、ストライクフリーダムの射撃精度なら撃ち落とせる!」

俺は周囲にスーパードラグーンを射出し、オートでミサイルの迎撃を設定した。

8機のドラグーンが俺の周囲を飛び回りながらミサイルを完全に防いでくれる。

その間に俺はミサイルの発射地点に集中的にビームを撃ち込む。

「スーパードラグーンもエネルギー無限だから飛び続けますよ!さあ、どうします!?」

徐々に飛んでくるミサイルの位置が止まり、俺はその位置にビームを集中砲火する。数回撃ち込むと、煙の中で爆発が起きた。

「……ザクの爆発にしては規模が小さい……サンダーボルトのフィッシャー・ネス曹長じゃないけど、あれは機体の爆発じゃない」

モビルスーツが爆発したにしては小さな爆発。違和感を覚えて周囲を見回すが、追加でミサイルが飛んでくる様子はない。ドラグーンも反応していない。

けれど、バトル終了のコールは鳴らない。まだ先輩のザクは生きている。

レーダーで土煙が舞っている辺りを見るも、マーカーが表示されている様子はない。

「どこだ……?」

『ここだよ一年。レーダーに頼りすぎだ』

「!?」

通信に気がつきセンサーを見ると、ドラグーンを表す青いマーカーに混じって敵を表す赤いマーカーがある。

マーカーの方を見ると、ザクが俺の立つ岩山の足元、丁度死角になる位置に立っていた。

土煙に紛れて接近し、一気に山を駆け上ったようだ。

見ると、ザクの左肩のミサイルポッドが無い。先ほどの土煙の中の爆発は、カモフラージュに置いたミサイルポッドが爆発した時のものようだ。

『ドラグーンを展開した瞬間は自分の周りにマーカーが増える。その隙に懐に飛び込まれると、一瞬だが見分けがつかなくなると言うわけさ。一年は随分気がつくのが遅かったけどね』

ドラグーンを展開し始めたストライクフリーダムの懐に突っ込んでくるような無茶なことをする相手は今まで居なかった、なんて言い訳をしている場合じゃない。

「何はともあれ、姿を見せればストライクフリーダムには……」

『遠距離タイプの私のザクでは勝ち目が無いと?』

俺は右手のライフルをマウントしてビームサーベルを取り出し、振り下ろした。

サーベルはザクのバックパックから伸びるサブアームに取り付けられている盾に受け止められる。ならばと左腕のビームライフルを盾でカバー出来て無い足に向けた。

すると、その銃口に何かがぶつかって押し戻される。

見るとザクの右肩についていたミサイルポッドがパージされて飛んできて、ビームライフルの銃口にぶつかったようだ。

ぶつかったミサイルポッドは蓋が変形して、目の前でミサイルが零れ落ちる。

それに気がついた俺は戦慄した。

「やばっ、ドラグーンの攻撃対象……!」

俺の周囲を飛ぶドラグーンが、俺の目の前のミサイルを一斉に打ち抜いた。

至近距離で爆発し、俺のストライクフリーダムは爆風で体勢を崩し、岩山から落ちる。

同じことをやられては堪らないと、俺は慌ててブーストを吹かして機体を立て直し、ドラグーンの攻撃対象をミサイルから外してザクに設定しようとザクの姿を探した。

『バトロワの時も感じたが、やはり一年はあの頃とは違ってしまっているようだね』

ザクは、目の前に居た。

重そうなバックパックを外して身軽になり、ブーストを吹かして上空へ吹き飛ばされた俺の所へ飛んできたのだろう。

バックパックは岩山に無造作に置かれており、サブアームについていた盾を両腕に装着している。

その先端から、ビームサーベルが伸びている。

「速いっ……!」

ドラグーンのロックオンを行っている暇はなかった。慌ててヴォワチュール・リュミエールシステムを起動し、翼から青白い光を放ちつつ超速回避を行う。

迫り来る突きを身を逸らして避け、続いて来た振り下ろしを急降下を行って避ける。上空に来たザクに向かって腰に装備されているクスィフィアス3を打ち込んでやろうと体勢を変える。右腰にはまだビームライフルがマウントされているので左腰のみだ。

それをしっかり見ていたのだろうか、ザクはストライクフリーダムの右側に移動し、盾を前側に構えて接近してきた。

ダメだ、いくらこちらがヴォワチュール・リュミエールシステムで超速で移動できても、この距離で攻め続けられたらどうにもできない。

「キラ・ヤマトみたいな格闘戦は俺にはできない……組み合ったら負けるっ……!」

咄嗟に頭部バルカンでザクの盾を打ち接近速度を緩めた。

その隙に俺は更に上空へと移動する。

いくらスラスターが無限に使えても、ザクの推進力ではこの高度に来るまでに時間がかかるはず。

「このままこの距離でライフルを……」

撃とうとして、迫るアラートに気がつく。

慌てて右腕のビームシールドを展開すると、そこにビームが飛んできた。

「ど、どこから!?」

飛んできた方向を見てみると、そこは先ほどの岩山の中腹。先輩のザクの置いていった兵装があった。

それが、自動でこちらに照準を合わせてビームを打ち込んで来ている。

「固定砲台にもなるのかよっ!」

俺はドラグーンをマニュアル操縦に切り替え、3機のドラグーンで兵装を打ち抜いた。

ミサイルや敵機影などはオフセットで自動照準モードを設定できるが、敵が落とした兵装なんか自動で照準合わせられるように設定しているわけがない。

『システムの特性を理解し、相手がオートに頼っているかマニュアルで戦っているかを見極めて罠を仕掛ける。これが私の戦い方』

先輩の通信の後、真下から高エネルギー反応のアラートが表示される。

見ると、先輩のザクは先ほどの場所から動いていない。

代わりに、先ほどビールサーベルが出ていた盾の下が光っている。

恐らくZガンダムが搭載しているビームガン、もしくはΖΖガンダムに搭載されているビーム・キャノンのようなサーベルと兼用のキャノンなのだろう。

「しまった、回避間に合わない……!」

放たれた極太の光の柱。ヴォワチュール・リュミエールシステムを起動していたお陰でビームシールドの展開とポジション修正が間に合い防ぐことが出来たが、また体勢を崩されてしまった。

『まだガンプラに囚われているな、一年』

先輩の通信が入った直後、俺のストライクフリーダムが叩き落とされる。いつの間にか俺よりも高い位置に移動していた先輩のザクが俺のことを蹴り落としたようだった。

地面に落ちたストライクフリーダムを立ちあがらせようとするが、後から降下してきた先輩のザクに上半身を踏みつけられて起き上がれない。

「ぐっ……な、なんでザクウォーリアベースの機体がそんな高出力なんだ……!?」

『……ザクとは違うのだよ、ザクとは』

先輩の通信の声に違和感を覚えて、俺は足掻くのを止めた。

泣いているような、怒っているような、落胆しているような声だった。

『先ほども言ったが、私は一年のことを知っている。三年前、一年が小学校六年生だった時の大会を客席で見ていたからだ。実を言うと、私がガンプラバトルを始めたのは一年のファンになったからなんだよ』

先輩の言葉に、俺は固まった。先ほどの先輩の言葉では、情報として知っている程度だと思っていた。

まさかファンだと言うほど俺の小学生の頃の戦いを知っているとは思わなかった。

『だが、今の一年からは私がファンになった時に憧れた物が無くなってしまっている』

先輩のザクが俺のストライクフリーダムを押さえつける足に力が籠もり、機体が軋む。

『一年が大人にしてしまったと言うことなのだろうか……そうだったとしたら、私は悲しいよ』

「……大人に?」

『小学六年生の時の一年は、複数のガンダム作品を大量に見ていたかい?武装の名前を全部覚えていたかい?敵に合わせて武装を選んだりしたかい?一年が今やっているのは、まるでガンダムによる戦争だよ』

 

 俺は公式バトルから離れていた中学三年間、ずっとガンダム関連の作品を漁っていた。

ガンダムの出力、ザクのバリエーション、派生機体、宇宙世紀、コズミック・イラ、外伝、黒歴史……

プラモ化されているガンダム、されていないガンダム、限定品、フルスクラッチされた過去のガンプラ……

知識を付ければ、技術を付ければ、ストライクフリーダムを作った友人に追いつけるかもしれないと思っていた。

けれどそれが、俺に固定概念を作ってしまったようだった。

ザクウォーリアは出力が低いとか、キラ・ヤマトのストライクフリーダムならこう動くとか……そういう考え方だ。

今さっき疑問を持った"なぜ、ザクウォーリアがストライクフリーダムを押さえつけられるような出力を出せるのか?"と言う疑問も、そうした知識の中から生まれた疑問だ。

だが、その答えは簡単だ。今横たわっているのはストライクフリーダムでは無く、押さえつけているのはザクウォーリアでは無い。

俺が作ったガンプラと、先輩の作ったガンプラだ。

「……何がビームサーベルだ、何がドラグーンだ、何がビームシールドだ……大げさだな、ただのプラスチックの棒と板じゃないか」

そうだ、これはガンプラバトル。

ガンプラの出来と操縦技術の世界だ。

「……先輩」

『なんだい一年。もしかしてギブアップかい?』

「まさか。"俺のガンプラ"は、こんなものじゃない」

ストフリの挙動とかキラ・ヤマトの戦法とかヴォアチュールなんとかとかどうでもいい。

俺はカリドゥスを撃って無理やり浮き上がり、隙間ができた瞬間にザクの足から逃れた。

すぐさまクスィフィアス3を撃って牽制しつつ体勢を整えて、ビームサーベルを二振り取り出して柄を合わせて連結し振り回す。ザクは斬撃を警戒して少し距離を取る。

それを見た俺は、ビームサーベルをくるくると回して手から離し、空中で回転させてからキャッチし、さらに回転させてから地面に突き出した。そして、ピースを作ってやった。

『……良かった。一年はまだ子供に戻れたんだね。大人のままだったらどうしようかと思った』

「先輩のお陰ですよ。まるで三代目メイジン・カワグチみたいな台詞でした」

先輩のザクが両手を広げて首を振る。ヤレヤレのポーズだ。

『そんな大げさなことじゃない。私の我儘を一年にぶつけただけ』

「それじゃあ、先輩の目的は達せられた訳ですか?」

『いいや。私の目的は"六年生の一年と戦う"ことだから、むしろここから開始だよ』

「……さっきから言おうと思ってたんですけど、その六年生の一年って言うのややこしいんで止めませんか?」

『そうか。ではユウジで』

「……は、はい……えへへ」

『どうしたんだ突然微笑みを浮かべて。ちょっと気持ち悪いぞ』

「い、いや、女子に名前呼びされたの小学生以来だったもので……」

『そうか。では私は高校でのユウジの"初めての女"だと言うわけだな』

「……何だか言い方がイヤらしいですね」

『わざとだよ。ユウジが家に帰って私の台詞を思い出して悶々してもらう為に言っている』

「……先輩性格悪いですね」

『そうかな?ふふっ、そうだな』

シミュレーターの向こう側の先輩が、優しく微笑んだ。先ほどのロンド・ミナ・サハクみたいな微笑ではなく、言うなればラクス・クラインみたいな笑顔だ。

『……さて、では続きを戦ろう』

「はい!」

俺は小学生の頃によくやって友人に怒られていた技を使うことにした。

飛ばしていたドラグーンを自分の動きに追従するように変更し、拳を突き出すタイミングで一個ずつタイミングを少しずつずらして前に出るように指定する。

「うおぉおぉ、ドラグーン百烈拳!」

ザクに突っ込みながら拳を突き出し、打撃の壁を作り出す!

ザクは五発程度を盾で受け止めた後、慌てて後方へ下がった。どうやら防げないと判断したらしい。

すぐさまザクを正面に据えるように構え、クスィフィアス3を若干外側に広げて撃った。いや、撃ち続けた。

腰から伸びる2本の光が、ザクの左右を素通りする。

外れたのでは無い。左右への移動を阻んだんだ。そのまま俺はカリドゥスのチャージを始めた。

『甘いよ』

ザクがその場で反転して背面を見せた。

すると、後ろ腰に小型のミサイルポッドが搭載されていることに気がつく。

気がついた時には遅く、ミサイルが飛び出してくる。

「まだあんな所に武装を……!」

発射されたミサイルがストライクフリーダムを直撃。アンテナが折れ、咄嗟にカリドゥスを庇った腕は装甲が剥がれ、内部フレームがむき出しになってしまった。

クスィフィアス3も左側が折れてしまっている。

だが、まだ動く。

「カリドゥスチャージ完了、撃てぇ!」

極太のビームがザクを捉える瞬間、大きく飛翔した。ギリギリ足に掠ったようで、ゲルググ足のブースターが火を噴き、外れた。

「追撃チャンスだ、急加速!」

ヴォワチュール・リュミエールシステムだけでなく、ファンネルを肩装甲や脚部裏などの場所に押し付けて前進させ、前へと進む力を加える。

俺のストライクフリーダムはザクを追い抜いた。

『速いっ……!』

「必殺ビームサーベ……あっ」

俺はビームサーベルを取り出そうとして、地面に突き刺したまま置いてきたことを思い出した。

仕方がないので、ドラグーンを掴んで殴りかかった。

「……ファンネルクラーッシュ!」

打撃はザクの肩に直撃し、ドラグーンと共に割れた。

割れた肩の下から、未塗装の灰色の関節部が露出する。

「先輩、手抜きですか!?」

『ここは破損しないと見えない場所だからサボった』

そう言いながらザクは盾の下からビームサーベルを出して振り被る。

俺は再び周囲のドラグーンを掴み、それを受ける。鍔迫り合いのような状態になり、そのまま空中を飛行する。

打ち合い、互いの武器を消耗しつつ、バトルフィールドの空を舞った。

ザクは盾を、俺のストライクフリーダムはファンネルを全て砕いた所で、お互いが地面に着地した。

先輩のザクは両肩が砕け、足のバーニアがなくなり、頭にも凹みができた。

俺のストライクフリーダムは全てのファンネルと左羽、クスィフィアス3、カリドゥスも発射口を潰された。

両腕なんか完全に内部フレームだけになってしまった。

左腕は関節パーツにヒビでも入ったのか、もう動かない。

「最後まで……」

『全力で!』

互いに拳を握りしめ、頭部目掛けて殴りかかるが、直前で俺のガンプラだけが動きを止める。

何事かとステータスを確認すると、エネルギー残量が尽きていた。

エネルギー無限設定の為、すぐさま再供給されるはずだが、システムの最大回復速度を超えてしまったようだ。

「こんな時に……」

 

 

「おいこらぁ!誰だ、こんな時間まで残ってるのは!」

 

 

突然の怒号。驚いて振り返ると、そこにはアリー・アル・サーシェス……ではなく、アリー・アル・サーシェス似の教師が懐中電灯と鍵を持って扉の前に立っていた。

ずんずん部室に入ってきてガンプラシミュレーターの主電源を切る。

バトルフィールドに散布されていたプラフスキー粒子が光を失い、ガンプラが動きを止める。

「またお前かナガサキ。いつも19時以降のシミュレーター使用は俺に申請しろって言ってるだろ」

「はい、すいませんアル先生」

「いつにもまして棒読みだな……で、デートのお相手はお前か。何組の誰だ?」

「で、デートて……えっと、ミズシマ・ユウジです。先生のクラスの生徒です」

「チッ、俺のクラスかよ……」

アル先生はめんどくさそうにシミュレーターの上を見た。その瞬間、少し目を見開いて先輩のザクを手に取った。

「……おいナガサキ。お前、負けたのか?」

「まだ勝負ついてませんでした」

「……とりあえずお前ら今日はすぐ帰れ。あー、校門は監視カメラがあるから裏門から帰れよ。バレると担任の俺が注意を受けるんだ」

それだけ伝えると俺たちを部室から追い出し、顧問だから担任だからとか知るかとブツブツ愚痴を零しながら校舎の暗闇に消えていった。

俺は先輩に案内されて裏門と呼ばれる教員玄関口から学校を出る。

暗い夜道、先輩と並んで下校する。

俺は女子と下校したのなんて、これまた小学生以来なので、何を話したら良いのかわからなくなり、無言で歩いていた。口を開くとガンダムの話しかできないガンヲタである自分を少し呪う。

そんな時、先輩がこちらを向かずに話しかけてきた。

「ユウジ、今日の勝負だけど……引き分けってことでいいのかな」

「え、あ、いや、俺の負けでいいですよ。最後の最後、エネルギー切れで動かなかったんで、先生が止めてなければ先輩の攻撃が直撃してたはずですし」

「そう。それなら約束通り、私の言うことを聞いてもらっていいかな」

「そういえばそんな約束しましたね。勝負に夢中で忘れてました。何をしたらいいですか?」

「私のチームに勧誘したい」

「……チームですか?」

先輩の説明によると、この学校の模型部は部内で複数のチームを作っているらしい。

選抜大会も、今回は個々の実力を見るためにバトルロワイヤルになっていたが、次回からはチームを組んで戦い、最後に残ったチームがそのままトーナメント予選大会に出場するらしい。

逆に言えば、今回のバトルロワイヤルで互いの実力がわかったので、一年は同程度の実力者同士でチームを、優秀な一年は上級生からお誘いがあり、チームが作られるそうだ。

「……って、それだと開始30秒で堕ちた俺は……」

「たぶん、私以外は誰も誘わないと思う」

「先輩のチームに入ります!」

っていうかそれ以外の選択肢ないじゃないか。

しかし、部内であってもチームを組んで競わせるとは。アル先生はいい加減な性格に見えて、実はかなり厳しい教師なのかもしれない。

「……そ、それと、もう一つお願いを聞いてもらっていいかな」

先輩はピタリと立ち止り、すごく言い出しにくそうに目を泳がせ、唇を動かしている。

あまり表情の変化しない先輩だから凄くドキっとした。

そして絞り出すような声で、俺に告げる。

「ファンです……サイン下さい」

「え、今!?」

「あ、でも今、紙とか持ってないんで、えっと……じゃ、じゃあ私の体に直接……」

そう言いつつ先輩は制服の上着をたくし上げ始めた。

「だわぁ!?さ、サインなんていつでもしますからこんな所でそんなことしないで……ほ、ほら、人が来ますし」

そんなやりとりをしていたら、夜道の向こうから人が歩いてきた。

人っつーか、姉が歩いてきた。

「……ユウジちゃん……?」

「……お姉ちゃん……む、迎えに来てくれたのかな、あ、ありがとう。えっとこちら部活の先輩で、こ、これはその、サインを……」

「女の子の体にサインを……ユウジちゃんが変態になっちゃった……私のせい……(カッターすっ」

「お姉ちゃんのせいじゃないからってか俺変態じゃないって言うかカッター取り出すのやめてぇぇぇぇ!」

腹出してる先輩とリスカしようとしてる姉に挟まれ、俺は東京での生活に漠然とした不安を覚えた。

 

 

第1話「(物理的に)砕けた翼」 -完-




読了お疲れ様でした。

基本的にバトルのノリはこんな感じで進んでいくと思います。
泥臭いバトルとか機体特性が云々とかそういう感じでは無く、何でもアリでごり押したヤツが勝者って感じの話です。

次回更新日時は、たぶん来週の土曜とかになると思います。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第二話「憧れの翼」前篇

 模型部の部室に集まった部員は、軍服を来て整列していた。

誰かがこの状況を見たら異常だと思うだろうが、今は他の部活も各活動場所で活動中だ。

ここは校舎の3階で、3階に部室を持っている部活は模型部しか無い。

つまり実質上、他の生徒に見られる心配が無い部屋だと言える。

それを良いことに、今のような状況が出来上がってしまっているのかもしれない。

そんな異様な状況の中に、もちろん俺も居た。

「……先輩、これ何なんですか?部室に入ってきたらいきなりジオン軍服着ろって渡されて着ましたけど」

「朝礼」

「……もう夕方ですけど」

「それでも朝礼。何かお知らせがあると毎回これやるから」

俺の前に整列する先輩が身を捻って、後ろの俺に話しかけてくる。

……先輩、無表情だし出るところ出てるから軍服めっちゃ似合ってるなぁ。

昨日の丈のあってない制服も良いけど、こっちの軍服はぴったりフィットしてる。

「今日はチーム分けを発表するはずだよ。ユウジは私のチームに入るって昨日の夜部長に連絡してあるから大丈夫」

先輩のセリフが終わった直後、準備室から部長が出てきた。

3年生と思しき他の部員がそれを見て声を張り上げた。

「敬礼!」

2年・3年は慣れているのか、声の後にすぐさま敬礼ポーズをとる。俺を含め1年は少し遅れて真似をする。

部長ももちろん軍服を着ていた。"赤い軍服"を。

窓際、部員が整列している真ん前に立ち、手のひらを広げた。

すると、近くにいた女子生徒がクリアファイルをすっと差し込む。

「どうぞシャア少佐」

「うむ」

そして池田さんのモノマネで喋り始めた。

「諸君、昨日の作成行動、ご苦労。君たちには今日からチームを組んで動いてもらうことになった。組み合わせは自由、と言いたい所だったが、そう言うとなかなかチームを組まない生徒が毎年居てね。なので私の方で昨日のバトルロワイヤルでの戦闘データを参考にして、チームを作成した。既にチームを組む約束をしている者は従う必要はないが、特に予定がない者は、このチームで頑張ってくれたまえ」

部長めっちゃ声似てる。

正直内容が頭に入ってこないくらいクオリティ高い。

「初日のロックオンと言いシャアと言い……部長ってコスプレイヤーなんですか?」

「うん。でもこの朝礼とか初日の演説とか、やるイベントとか喋る内容は副部長が考えてるんだって。目立ちたがりだからノリノリでやってるけど」

「……もしかして部長、オモチャにされてるんじゃ……?」

「プロバカンダは必要なのだよ」

先輩すら認める道化っぷりを遺憾なく発揮する部長がシャアでは無くギレン・ザビに見えてきた。ちなみに先ほどクリアファイルを手渡した女子生徒が副部長らしい。そちらはキシリア・ザビに見えてくる。なんなのこのジオン系模型部は。

「ちなみに、この軍服は全部部長の手作りらしい」

「……え、全員分ですか?」

「そ。昨日のバトルロワイヤル、部長出てなかったでしょ?昨日ずーっと新入部員の分の軍服の丈合わせしてたんだって」

言われてみれば、渡された軍服が入っていた袋には俺の名前が書いてあったし、丈も完璧。着心地が良すぎて逆に気がつかなかった。

「では解散。来週の金曜日の第二回選考会に向け、各自励んでくれ給え」

いつの間にか部長の長ゼリフが終わり、整列していたジオン軍人がばらけ始めた。

「さてユウジ、早速だが着替えて校門に集合だ」

 

 

第2話「憧れの翼」

 

 

 ホビーショップアナハイム。

学校最寄りの駅から数駅離れた場所にある玩具大型量販店のチェーンストアだ。

この会社はガンプラバトルが流行し始めた頃、各店舗に必ず大型のガンプラバトルの装置を備え付けたことで大ヒットした。

豊富な品揃えもさることながら、定期的に人気のあるファイターを呼んで対戦イベントを行ったりしている。

イベントで長時間滞在することを考慮したのか、フードコートや本屋(ホビー雑誌やガンダム関連の書籍が豊富)、果ては床屋までもが併設するレジャー施設になっている。

中でも人気のあるコーナーは、購入したガンプラをその場で作れる工作コーナー。

ここにある工具は使い放題で、中学生以上なら(小学生も親同伴なら)缶スプレーやエアブラシを使って良いコーナーもある。

俺と先輩はその工作コーナーでRGストライクフリーダムガンダムの箱を開けていた。

「せ、先輩、あそこに飾ってあるガンプラ見てくださいよ!ガンプラ心形流の人の作品って書いてありますよ!あっちはアーティスティック・ガンプラ・コンテストの受賞作品みたいですよ!」

「田舎者丸出しだよユウジ。私は恥ずかしいから他人のふりをしてもいいかい」

俺は初めて訪れた大型ホビーショップに圧倒されていた。奥行きすげー、天井たけー、人ゴミやべー、品揃えやべー、自販機の数すげー、なんつーかー、東京すげー。

「ホビショアナハイムは全国チェーンだよ」

「で、でもこんな大きい店舗は東京だけですよ!俺の前住んでた場所の近くにもありましたけど、こんなに大きくなかったです」

「……まあ喜んでくれたのなら連れてきた甲斐がある。工具をトランクごと盗まれてロクなものが無いだろうから連れてきたけど、正解だったね」

先輩は子供みたいにはしゃぐ俺にラクス・クラインみたいな微笑みを向ける。その途端に羞恥心が湧いてきて、大人しく先輩の隣の席に座る。先輩の母性やばいです……

「で、早速だけどユウジに伝えなければならないことがあるんだ」

「ガンプラですよね。先輩の方も手伝いますよ」

俺はレンタルの工具箱の中からニッパーを取り出しつつ耳を傾ける。

来週の金曜日、つまり次の選考会はチームでの参加が義務付けれていた。公式大会と同じく、チームメンバー3人分のガンプラが揃っていることが選考会の参加条件になる。

今日は金曜日。あと一週間でガンプラを用意しなければならない。

先輩のザクは破損パーツの修復をすれば間に合うかもしれないが、俺のガンプラはほとんど使い物にならない。燃費が悪すぎる件の改善案、素組みして塗装、必要なら新しい武装の作成。一週間で足りるかどうか分からない。

「いやそっちも由々しき問題だが、もっと大きな問題があるんだユウジ」

「え?」

「メンバーが足りないんだ」

「……えっ!?」

驚きすぎて手に持っていたニッパーを落とす。

先輩は俺の前に一枚のプリントを見せた。それは部員のチームリスト一覧で、俺の名前は先輩の名前の下に確かに書き込まれていた。その上にも下にも、他の人の名前が無い。

「先輩のチームって先輩だけじゃないですか!」

「去年は3年生が5人も居たんだよ」

「それ今年は先輩と俺の二人っきりってことですよね!?」

「二人きりだなんて照れるじゃないか。まだ日は高いよ」

「騙されないぞぉ!そんな色仕掛けに俺は騙されないぞぉ!」

目をそらして眉をひそめ頬を染める先輩に人差し指を立てて抗議する。チームに入らないかと誘われたらメンバーがいると思うのが普通じゃないか!

「今からでもどこか別のチームに移籍を……」

先輩が持っているチームリストで空きのあるチームを探すが、どうやら全てのチームがぴったり3の倍数で揃っている模様。

どこにチームに入っても、高確率でイザコザが起こる。

と言うかそもそも2人余っていたと言うことか!

「あと一人どうにかして模型部に勧誘しましょう!ガンプラ作るのよりも急務じゃないですか!」

「いや、必要な人数は二人だ」

先輩は襟から服の中に腕を突っ込み、ガンプラを取り出す。出てきたのは黄と黒で塗装されたザクウォーリア。頭には鉢巻が巻かれていて腕組みをしている。

「私はビルダー志望だから公式大会でガンプラバトルはやらない!」

漫画だったら背景に"てやんでぃっ!"とでも表示されそうなドヤ顔を見せられて、俺は口を開けて放心するしかなかった。

 

 次の日、俺は先輩とホビーショップアナハイムで待ち合わせをしていた。

俺の家には工具が無く、先輩の家には俺が行きたくない(と言うか女子の家にガンプラ作りに行くとか虚しい)ため、工具が揃って広いスペースが確保できるこの店を利用することになった。

今後も利用することが多そうだ。

「部員の当てがあるからガンプラ作って待ってろって言ってたけど……どうするつもりなんだろ」

先輩は昨日の小粋なジョークの後、当てがあるから今日は帰ると言って立ち去ってしまった。その後、メールで今日この店で待っているようにと言う内容の指示があった。

俺は工作スペースの適当なテーブル席に座り、素組みまで終わっているストライクフリーダムガンダムを取り出して家から持ってきたガンプラのジャンクパーツをとっかえひっかえ持たせていた。

まだ具体的な改修案は出ていないが、何かヒントになるかもしれないと永遠と遊ぶ。そもそもRGなので腕の付け替えやバックパックの換装などの難易度が高い為、一週間しか無い作成期間でプロポーションをいじる改造は避けるべきだ。これがHGならなんとかなるかもしれないが、RGだとリスクが高すぎる。強度も問題になるし、何より俺自身が操縦できるかどうか怪しい。

まだ先輩にも言っていないが、ガンプラバトルを始めてこの方、ストライクフリーダムガンダム以外のガンプラでバトルをしたことが無い。

下手に機体を変える方がリスクが高い気がする。

そんな時、工作スペースの壁に取り付けられたモニターで"機動戦士ガンダムSEED DESTINY"の映像が流れる。何気なく眺めていたら、デュートリオンビーム送電システムでミネルバがインパルスガンダムに補給を行っているシーンが映る。

「あんな風に外部からエネルギーを補給できれば、俺のストライクフリーダムガンダムでも長時間機動が可能になるか……?」

と思ったものの、プラフスキー粒子はすでに空間に満たされている。その粒子の吸収速度を上回る消費をしているのだから、相当凝縮されたプラフスキー粒子を補給しない限り意味がない。

「……待てよ?」

そういえば、ストライクフリーダムガンダムに搭載されているヴォワチュール・リュミエールはどこからエネルギーを供給しているのだろう。

電磁推進システムはヴォワチュール・リュミエールの先駆型。つまりヴォワチュール・リュミエールを装備しているストライクフリーダムガンダムがエネルギー切れになるのはおかしいことだ。

これはガンプラバトル。実際に核があるわけでは無く、実際にエネルギーが遠距離から補給されているわけではない。

俺は慌ててスマートフォンを取り出し、ガンプラバトルにおけるヴォワチュール・リュミエールの扱いについて調べてみた。

結果、ヴォワチュール・リュミエールはストライクフリーダムガンダムの粒子放出量を格段に上げる装置であることが分かった。外部から供給されているのでは無く、本体内に残存している粒子を大量に放出することによって動きを強制的に上げるブースト機能だ。

「単純な強化装置ってことか……なるほど、前回どうして30秒程度で動けなくなったのか分かった」

思い返してみると、前回のバトルロワイヤルの時、ストライクフリーダムガンダムはヴォワチュール・リュミエールを使用した後に動きを停止した。あれは吸収速度を上回る放出を行ってしまった為だったのか。

「素組みでこれってことは、いくらか弄って出量を抑える必要があるのか……でもそれだと動きが鈍くなる可能性もあるよな」

今まで使っていた友人のストライクフリーダムガンダムはヴォワチュール・リュミエールをいくら使用しても停止することはなかった。恐らく、放出量と吸収量を均等に保つ絶妙な出力調整をしていたんだろう。

「……やっぱすげぇな、アイツ」

少し感傷的になって店内の様子を眺めていると、バトルシステムのモニター映像が目に止まった。

戦っているのは、グフとジ・Oだ。

グフは独特な改造が施されており、両腕のフィンガーバルカンを模した盾付きの兵装を自在に操り、バックパックから伸びる噴射装置で繊細な飛行を行う。なんてクオリティの高いガンプラなんだ。

「あのグフは……」

「あのグフはグフR35と言うラル様がご製作なされた特別なグフです」

突然話しかけられて驚いて振り返ると、そこにはクラウレ・ハモン……がジ・オリジンの劇中に着ていたドレスを着た中学生らしき金髪の少女が立っていた。金髪はヅラっぽい。

「この映像は他店の映像なのでここにラル様はいらっしゃいませんが素晴らしい方ですラル様はあのアリスタ事件にも深く関わっていらっしゃいましたし現在も聖鳳学園でガンプラバトル部の特別コーチをなさっているそうですわ」

「??????」

全く息継ぎせずに永遠と語りかけられて圧倒され、俺は声にならない声で答える。

それが嬉しかったのか、少女はさらに続けて語る。

「戦果も当然ながら何よりも素晴らしいのはそのお人柄で弱気を助け強きを挫き若きを導こうとするその精神こそ尊敬すべきものでありそれを全うするだけの技術力を持つ完璧なるお人こそがラル様であるとすれば私たちはただ崇拝するに足らず何らかの恩返しをしたいと考え日々訪れるであろう対面の時を夢見て日夜努力を惜しまない所存ですわ!」

ごめんちょっと何言ってるかわからない、と言う一言を言わせない迫力がある。なにこの子怖い。

あ、いつの間にか隣の椅子に座ってる。やめてー立ち去ってー。

「ちょっと聞いていらっしゃるのですか!?」

「あ、えっと、その、はい」

「よろしいですわ」

ラル様講座が再開される。しまった、今、色々なタイミング逃した。

そもそも聞いてないし早く立ち去って欲しいしそこ先輩座る予定だしっていうかこの子の声沢城みゆきに似てるなって言うか喋り方が移っちまってる!

「ちょちょちょ、ちょっと待って待って!」

「あらなんですの?」

「よ、良かった止まってくれた……えっと、俺、今ガンプラ作るので忙しいんで、あまり話しかけないでくれると助かるんだけど……あともう少ししたら知り合いが来るんで、席を開けてもらえると嬉しいんだけどな」

「そうですかそれは偶然ですわね私もここで待ち合わせをしているんですのよそれよりもガンプラを作成なさっていたのですかてっきりラル様の勇姿を御閲覧なさっているだけかと思いましたわ」

「そ、そうですか……」

ダメだ、話を聞いてくれても噛み合わない……先輩早く来て……

「ユウジお待たせ」

「せ、先輩!」

背後から声をかけられ、俺は満面の笑みで振り返った。

するとそこには丈の合っていない学校指定のジャージを着た無表情の先輩が立っていた。

「あれサオリ、もうユウジと話していたの」

「あら。それではこちらがアンナの仰っていたガンプラバトルのお強いユウジ様ですか」

「……!?」

会話の内容から察するに、先輩とこの少女サオリは知り合いのようだ。

どうやら先輩は俺だけでなくサオリもこの場に呼んでいて、俺たちを会わせるつもりだったらしい。

ということは……メンバーの当てって、この子……?

「申し遅れました私はイケガキ・サオリ、中学2年生ですわ」

では無いようだった。中学2年生では高校生の大会には出られない。

「俺は……」

「聞いていますわよユウジ様でしょう小学生の頃にガンプラの大会で優勝なされた実力者で私の友人であるアンナの想ぃぐふっ!?」

「サオリこれ欲しがってたグフ」

突然、椅子に座っているサオリの頭上にグフイグナイテッドの箱(の角)を落とす先輩。

サオリは落ちてきた箱をキャッチして愛おしそうに眺め始めた。

「さてユウジ、サオリに薬が効いている間に話しを進めるわ」

「グフが薬ですか……」

「猫にマタタビやるようなものだよ」

先輩は近くのテーブルの余っている椅子を持ってきて対面に座った。

説明によると、サオリは東京のショップファイターなら知らない人はいないほどの有名人であるらしい。

逆に、東京のショップファイターならサオリが知らないファイターはいないというほどの情報通でもあるらしい。

サオリならウチの学校の生徒でガンプラバトルを行うが、模型部に入っていない人物を検索できるという。

「そんな都合の良い人いますかね……いたとしても模型部にこないってことはあまりやる気が無い人なんじゃ……」

「それでも私たちにはそういう人しか居ない。趣味を強制するのは本意では無いけれど、私たちが選抜会に出るにはこれしか無い」

先輩はグフの箱を見て微笑んでいるサオリの肩を叩き、ポケットから折りたたまれたコピー用紙を取り出して渡す。

「サオリ、これ模型部の部員リスト。この中に居ない人で、ショップでバトルをやってたことのある人はいる?」

サオリはグフの箱から目を逸らし、リストの上から順番に名前を見ていく。ぶつぶつと何やら独り言をいいつつ最後まで目を通すと、人差し指を一本立てた。

「一名だけ半年前までこのショップに通っていたファイターがいらっしゃいません」

俺と先輩は顔を見合わせた。途端に真っ赤になってお互いにそっぽ向いた。先輩って意外とまつ毛が長い。

いやそうじゃなくて、先輩の人選は間違っていなかった。最初はなんでこんな変態……いや、変人に頼るのかと疑問だったが、その情報網は本物のようだ。

「それで、その人の名前は!?」

「あらユウジ様は情報をお求めですかそれなら私に勝って頂きませんと」

「……はぃ?」

「ガンプラファイターがガンプラ持って目と目を合わせたら最早戦う運命ですわこれはどの時代どの世界でも変わりませんことよ」

サオリはドレスのスカートの中からグフを取り出して微笑む。どうしてそんな所にガンプラ隠してるんだよ。

「いや、俺ら急いでるんだって……ってあれ、そのグフ……さっきの映像のグフと、同じ……?」

「お気づきになられましたね流石ですユウジ様これは私がラル様のグフR35を参考に仕上げたグフR35のコピーで名前は"グフS14"と付けましてS14はR35がラル様35歳に倣ってサオリ14歳から付けたものですわ!」

そのグフは先ほど映像で見たものと同じシルエットをしている。完成度は低いのかもしれないが、ラルのグフR35を再現しようとした努力がにじみ出ていた。

「……こういうガンプラもあるのか……」

俺は改めてガンプラの世界の広さを体感した。戦わせるため、飾るため、自分のため、他者のため。その全ての想いはガンプラに込められる。

「私がバトルするわサオリ。勝てば良いんでしょう?」

「せ、先輩!?」

俺がグフS14に夢中になっていたら、いつの間にか先輩がザクコマンドーを持って背後に立っていた。

俺の肩にポンと手を置き、まかせろと言わんばかりの気迫だ。な、なんか目が光って見えるんですけど……

「あらアンナ私のグフに嫉妬かしらユウジ様の視線を独り占めしてしまってごめんなさいね」

「潰す」

「せ、先輩、い、いた、痛いです先輩!?」

肩に置かれた手が強く握りしめられ、肩がメキメキ音を立てる。俺はあまりに痛みに涙目になって悶える。

な、なんか俺のせいで二人が争うみたいな形になってしまったような気が……

 

後篇へ続く




読了お疲れ様でした。

後篇から、先輩VSサオリのバトルが始まります。
2話と言えば、原作だとユウキ・タツヤと言うライバルと、トライではチームメイトになるコウサカ・ユウマと激しいバトルを繰り広げる話。
ファーストでもシャアと出会う話であり、ガンダムにおける2話がいかに重要な話数であるかが伺えます。
……それに比べて俺の書いた2話はサイコ女と嫉妬先輩のキャットファイト予定……

後篇は 11/29 投稿予定です。

追記:
お疲れ様です。ある事情から、更新予定の日どり変更します。後篇は12/2投稿予定です。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第二話「憧れの翼」後篇

閲覧ありがとうございます。

最初の予定よりも投稿が遅くなって申し訳ないです。

今回はザクコマンドー(ザクウォーリア改造機体) VS グフS14(グフR35+オリジナルブースター)のバトルです。


 ショップのバトルシステムの前に立ち、先輩とサオリは火花を散らしていた。

俺は先輩の横に立ってキョドっている。

「ユウジ、私がサオリのアホをぶっ飛ばして情報を聞き出すから応援して」

「は、はい先輩がんばってください!」

先輩はジャージの襟元から腕を突っ込んでザクを引っ張り出す。それは一昨日の夜壊れてしまったはずのザクコマンドー。

「せ、先輩もう修復したんですか!?」

「ユウジ。モビルスーツを運用する際、予備パーツでもう一機体分組み上げられるという話は多い」

「……え?」

先輩はハイネ・ヴェステンフルスみたいに得意げにニヤリと笑いザクコマンドーを台座にセットした。

そう、それは俺と戦った時のザクコマンドーと同じものだが、実は違う。

そのほとんどが、修復中のパーツと入れ替えられた予備パーツで組み上げられていた。

「基本的な設計はザクウォーリアとゲルググキャノン、あとちょっとのオリジナルパーツだ。今回はサブアームの盾が不足したからミサイルポッドを追加で装備したが、全てのパーツが容易に調達できるキットを使用している。だから、戦いの間に余計な心配をしないで済む」

この時、先輩が本当にビルダー志望で頑張っていることを知った。

補給・修復は確かに課題だ。ガンダム作品の中でも良く問題に上がる。それを補うために機体パーツを共通化した等の設定が多いが、それを実際に行っていた。

先輩が俺よりも一つ年上であるということを、強く実感した。1年後、俺はその領域に立っているのだろうか。

「ナガサキ・アンナ、ザクコマンドーで行く」

そんなことを考えていたら、いつの間にかバトルが始まった。

フィールドは廃墟。壊れたビルやガタガタのアスファルト道、高い塔や噴水広場などのオブジェクトが並ぶ空間だ。

その空間に、グフS14は居た。

『ぅおぉ~っほっほっほっほっほ行きますわよアンナ!』

「で、でけぇ声……」

結構離れているというのに、通信だけでなく肉声まで聞こえてくるくらいの大声。

笑い声と共に、グフS14が突っ込んでくる。背中には、グフR35には付いていない巨大な装置が付いている。それが高速移動を可能にしているようだった。

先輩のザクコマンドーは腰のサブアームを持ち上げ、左右合計8門の砲身で狙いを定め、撃つ。

グフS14は全てを避けることはできず、両腕の盾を使って防御を行いながらも近づいてくる。

「強引……!」

『もう私の距離ですわヒートロッド!』

グフS14が最小限の動作で腕を前に突き出し、ヒートロッドを射出した。構えから打ち出すまでの挙動が早い。

先輩はなんとか対応しようと、バックパックから伸びる盾を下ろして機体の前に出した。

だが、サオリが狙ったのは足だった。

ヒートロッドが盾の下を素通りし、ザクコマンドーの足を突き抜けて地面に刺さる。

『釘付けですわ覚悟なさいアンナ!』

「狙いは機動力を奪うことか……」

先輩は盾からビームサーベルを取り出し、釘付けにされた足を足首ごと切断してバックブーストで逃げる。

逃がさないと言わんばかりに追撃するグフS14。

だがこの距離は、先輩の距離だ。

先輩は舌なめずりをしつつ、コンソールでガンダムヘビーアームズの頭部が描かれているアイコンを選択する。

すると、ザクコマンドーに搭載されている全てのミサイルポッドが開いた。

「フルオープンアタック……!」

モビルスーツ単機から出たとは思えない量のミサイルが、グフS14に迫る。

後で先輩に聞いてみたところ、この時ザクコマンドーに積んでいたミサイルは156本らしい。

流石のサオリも焦ったのか、グフS14は立ち止まって飛び上がる。跳躍速度も早い。

先輩のミサイルは全て地面に落ち、土煙と瓦礫を撒き散らした。

『危うく私のグフS14が粉々になるところでしたわ』

上空のサオリがそんなことを言っている中、先輩は土煙の中に潜り込んでザクコマンドーのミサイルポッドを外し、廃墟の中に仕込み始めた。

「一昨日の俺とのバトルと同じですね」

「フィールドが荒野だったから土煙の濃い所に一個置いただけだったが、こういう遮蔽物が多い場所なら大量に仕込める。緊急用の背面のポッド以外は全て着脱可能に作ってあるんだ」

全てのミサイルポッドを遠距離で発射できるようにボタンも全て別々に割り振っているらしく、先輩のコンソールには大量のボタンが表示されていた。

先ほどのフルオープンアタックは、それらのボタンを一斉に押すための補助ボタンらしい。

「コンソールの配置やボタンの連動なんかも気にして設定したからね。操縦技術だけで切り抜ける強者もいるけれど……よし、準備できた」

先輩はザクコマンドーのモノアイで周囲を見回した。その時、俺はモノアイの色が銀色であることに気がついた。そして、カメラ越しに見る風景が妙にクリアなことも。

「これは……粒子変容塗料!?」

「あ、気がついたね。一昨日のバトルで私が土煙の中からユウジのストライクフリーダムの位置を明確に把握していたカラクリはこれ」

ザクコマンドーが見る風景には、土煙が一切写っていない。

粒子変容塗料はプラフスキー粒子の粒子帯を変化させることができる。

有名なのはニルス・ニールセン選手が7年前の世界大会で使用した戦国アストレイだ。戦国アストレイは刀に粒子変容塗料を塗ってあり、粒子帯をフィールド上の衝撃波や炎と同じにして、物体にして斬り裂いていた。

先輩のザクコマンドーのモノアイは、表面に粒子変容塗料を塗ることにより映るオブジェクトを本来のプラフスキー粒子に見える粒子帯に変更し、透かして見ることができる装置となっていた。

「カメラのピント調整みたいなインターフェースを使って微調整する必要があるから、移動中や攻撃中は使えない。けれど、お互いに姿が見えない状況ならかなり有用」

ザクコマンドーはキョロキョロと周りを見回し、一つの塔に目を付けた。その塔の根元を狙って、ビームライフルを撃ちすぐさま移動した。

ビームは見事に塔に直撃し、根元を失った塔が倒れ始める。倒れた塔は、丁度グフS14が対空している所に落ちてくる。

『倒れる塔に私のグフS14が巻き込まれると思いまして!?』

サオリは素早い動きで塔を回避し、根元付近から先輩が先ほどまで立っていた位置までに満遍なくバルカン砲を使って射撃する。

その内の一発がミサイルポッドに当たり、小さな爆発を起こす。

『……今のは……!』

サオリはミサイルポッドが設置されていることに気がついたのか、慌てて高度を上げる。

どうやら先輩の戦術を見抜いたらしい。先輩はそれを見て、軽く舌打ちをした後に煙から出て移動を始めた。

「サオリとは何度か戦ってるから、私の戦法に気づかれるのが早い……たぶん、もうこの一帯には降りてこないつもりだ」

設置したミサイルポッドを回収している内に土煙は晴れる。そうしたら、見通しの良い所を狙い撃ちされるだろう。

先輩は諦めたようにフルオープンアタックのコマンドを選択し、全速力でその場から移動を始めた。

グフS14は土煙の中から次々に撃ちあがってくるミサイルを避けつつザクコマンドーを追う。

『ちょこざいな罠に引っ掛かる私だと思いまして!?』

「くっ……サオリのグフ、前はあんなに早くなかった……背中の新作装備は何なの……?」

先輩はコンソールの中からガンダムヴァーチェの頭部が描かれているアイコンを選択する。

するとザクコマンドーの腰の装備のエネルギーが空になったと言う警告が表示され、装備が外れた。

どうやらあのボタンは装備のエネルギーを本体に送り、その後自力でパージするショートカットボタンのようだ。

パージ後のザクコマンドーのエネルギーゲインが、一桁増えている。

「あの装備に、こんなに粒子が……!?」

「反転して一気に距離を詰めて接近戦する。ユウジ、ちょっと動くから離れた方がいいかも」

先輩は深く息を吐くと、コンソールのレバーを全力で引っ張った。

ザクコマンドーは各関節から悲鳴を上げながら反転し、足のバーニアを吹かして進行方向とは逆に飛び上がる。

その衝撃で周囲のビルが倒壊する。

『来ましたわね』

グフS14は飛んできたザクコマンドーに臆して速度を緩めることなく、突撃してくるザクコマンドーを迎えた。

激突したのは、ザクコマンドーの盾とグフS14のヒートソード。

お互い、ヒビが入って今にも砕けそうだ。凄まじい速度で突っ込んだのが分かる。

「っつぁ!」

『そこですわ!』

盾を押し込みつつ空いた方の手でグフS14にボディーブローを叩きこむザクコマンドー。

ヒートソードを押し当てて盾を砕こうとするグフS14。

女子同士のガンプラバトルとは思えない、生々しい壊し合いが繰り広げられる。

その内、ザクコマンドーのバーニアが噴射を止め、落下し始める。

『今ですわ!』

グフS14は高度が落ち始めたザクコマンドーの頭上を取り、フィンガーバルカンを撃ち始める。

ザクコマンドーはそれを防ぐために頭上に盾を掲げるが、地面に到達する前に砕け散ってしまう。

もはやザクコマンドーを護る物は存在しない。

『終わりですわ!』

「それはこちらの台詞よ」

落ちるザクコマンドーを見下していたグフS14の頭上に、いつの間にか大量のミサイルがあった。

サオリはそれに気がついて盾を構えるが、全ては防ぎきれなかった。

降り注ぐミサイルは先輩のザクコマンドーをも巻き込んで、周囲一帯を爆破した。

「現実のミサイルポッドと違って、放置したミサイルポッドも粒子のチャージが完了すれば再装填される。油断したわねサオリ」

『ぐぬぬでもアンナのザクだってもう……』

ミサイルの爆風で吹っ飛んだ周囲一帯の土煙が晴れてくる。

そこには、ゲルググ足でしっかりと地を踏みしめて立つザクコマンドーの姿と、地面に伏したグフS14があった。

見ればザクの表面には焦げ目一つ付いていない。

『まさかミサイルを全部避けたと有り得ないエネルギーは使いきっていたはず!』

「エネルギー切れは演技よ。それと、ミサイルのパターンは全部頭に入っているの」

先ほどのエネルギー切れはフェイント。本当はまだ動けるだけのエネルギーを残し、あえて自分諸共ミサイルで爆撃した。

避けられる自信が無ければこんなこと出来ない。

『さすがアンナですわまさかこんな作戦で来るとは昨日までの私でしたらここでギブアップでしたわね』

「……!?」

サオリの通信越しの声が、まだ自信たっぷりであることに気がついた先輩は警戒した。

とは言ってもザクコマンドーにはもう緊急用の背後ミサイルポッド以外の武装が無い。

先輩は先ほどパージした腰の装備の場所まで移動しようとグフS14から視線を外した。

次の瞬間、グフS14の背後の装備が"羽ばたいた"。

「!?」

羽は既にグフS14を離れ、廃墟の向こうへ消えていた。グフS14はもう動いていないようだ。

「まさか、コントロールをブースターの方に移した……?」

先輩は見知らぬ装備を警戒し、腰装備を装着しようと右腕で拾い上げる。

その右腕ごと、装備が吹っ飛んだ。

「!?」

『拾い食いはお行儀が悪いですわアンナ』

見ると、廃墟のビルの反対側に例のブースターがいた。隙間からミサイルを撃ち込んだんだ。

「ビルの隙間を通せるほど正確な攻撃をしているってことは、接地してる……!?」

先ほど見たブースターは、グフS14の背中で羽ばたいていた。もしかしたら、鳥のような姿なのかもしれない。

「それなら飛び立つまでに時間がかかる……今なら!」

先輩は腕を失ったザクで廃墟に体当たりする。

廃墟はモビルスーツの重量に耐え切れずに倒壊を始め、反対側までも巻き込んで瓦礫を散らす。

ブースターが鳥型なら、飛び立つ前に羽ばたく必要がある。瓦礫を降らせた今なら飛び立てずに瓦礫に埋もれるはず。

しかし、明らかになった廃墟の向こう側にブースターの姿はなかった。

『ここですわよ!』

瓦礫から立ち上がったザクコマンドーの頭上から、ビームバルカンが降り注いだ。

まともに食らったザクコマンドーは肩の装甲が外れ、頭部も半壊する。

「さっきはミサイル、今のはバルカン……サオリが操っているブースターは、一体……」

『もう虫の息ですわね冥土の土産に教えて差し上げましょうこれがいつの日かラル様と共闘した日の為に開発した"イグナイトブースター"ですわ!』

廃墟の空を、羽の生えた4本足のブースターが飛んでいた。

頭(?)に当たる部分はグフイグナイテッドのバックパックで、羽もそれのようだ。

足の部分は、かつてアリスタ事件があった全国大会でレナート兄弟が使用したスコープドッグに似ている。

腹(?)部分にはミサイルポッドがついており、背中(?)に当たる部分にグフS14のフィンガーバルカン風のバルカン砲がくっついている。

見ると、倒れているグフS14のバルカン砲が片方だけ無くなっている。

なるほどこの形状なら、羽ばたいて飛ぶことも、四つ足で地を駆けることもできる。

「ブースター単体でこの火力……サオリあんた、このブースター単騎で出撃することを想定してるわね」

『ご名答ですわアンナこれはグフR35専用支援ブースターとしてふさわしいようにバルカン砲と盾のスペアを積み背面に付けば推進力の底上げや空中で左右への微妙なスラスター調整などが行えるんですのよザクとは違うのですのよザクとは!』

早口でまくし立てるのと同時にバルカン砲による威嚇とミサイルでの必殺を狙ってくるサオリのイグナイトブースター。

先輩のザクコマンドーは右腕を失い、両肩を損傷。頭部もかろうじてカメラが生きている程度で、歪んでしまって旋回しないであろう破損具合。

どう見ても先輩の負けは確定だ。

『もう降参してもよろしいんですのよー!?』

声高々に勝利宣言かますサオリと、頭の怒りマークが取れない先輩。あわわ、これリアルファイトにならないだろうか……

『そうそう色んな所に隠してあったミサイルポッドはもう壊しておきましたわよこの私に隠し事ができると思わないことですわアンナあなたの行動原理はお見通しですのよ!』

気がつくと、先輩がミサイルポッドを配置した場所から煙が上がっている。全て壊されているようだ。

「流石ねサオリ。あなたの新作ブースター、最高じゃない」

『あらあらこんな時に感想ですかもう諦めてしまったと受け取って構いませんね止めを刺して楽にしてあげますわ!』

イグナイトブースターがザクコマンドーの背後、少し離れた位置に飛行時の速度を落とさずに着地し、そのまま駆けて来た。

羽でラリアットして真っ二つにするつもりだ。

「先輩、逃げないと……」

「大丈夫だよユウジ。私のザクコマンドーはモビルスーツだ。宇宙世紀やコズミック・イラにおいて、モビルスーツがいかに優れた兵器であるか、こういう時に実感するよ」

迫り来るイグナイトブースターに対して振り向いたザクコマンドーの左腕には、グフS14のヒートサーベルが握られていた。

『いつの間に!?』

「サオリが私の可愛い可愛いミサイルポッドを潰している時、かな」

ザクコマンドーはヒートサーベルを、まるで野球バットのように後ろに振りかぶった。

目標はもちろん突っ込んでくるイグナイトブースターだ。

サオリはそれに気がつき慌ててブレーキをかけようと足を止めるが、慣性がそれを許してくれない。

「潰す」

『ぃいやぁあぁぁあ!』

先輩は大リーガー真っ青なフルスイングでイグナイトブースターをかっ飛ばした。

首部分と翼部分がもげて飛んでいき、フィールドの外に居るサオリの眉間に音を立ててぶつかる。

その瞬間にバトル終了を知らせるシステムボイスが流れ、先輩の勝利が確定した。

 

 

 

 工作スペースに戻った俺はサオリを必死に宥めていた。

「ほ、ほらコーラ買ってきたから機嫌直してくれよ……」

「あ、タオル買ってきたから涙ふくと良いぞ。もちろんハロプリントされてるやつだぞ」

「あ、いい工具使ってるなーアルティメットニッパー俺も欲しいなぁー」

バトルが終了した途端、先ほど饒舌だったのが嘘のように無言になり、涙だけが床を濡らすほど流れていた。

「っ……ぐっ……うぅ」

「え、えっと、あのえうあぉ」

俺が奇声しか発せないくらい切羽詰まった頃、先輩が俺の肩を叩いた。

「ごめんユウジ。サオリが負けたらこうなることすっかり忘れてた」

どうやらサオリは負けると毎回こんな風に号泣し、しばらく泣き止まないそうだ。早いところガンプラバトル経験者の情報を聞き出したいんだけどなぁ……

「こいつのこの負けず嫌いすぎて戦う相手が気を使う所が人気あるのよね。勝った時の笑顔にコロっと落ちるおじさん達のおかげで情報通になったみたいな所があるから、許してあげて」

「そ、そうなんですか……先輩、もしかしてサオリちゃんのこと嫌いなんですか?」

言い回しに作為的な部分を感じた俺はサオリに聞こえないようにこっそり聞いてみる。

先輩は腕を組んで少し考えてから、渋い声で答えた。

「利用価値がある時以外は喋りたくない」

大嫌いだそうだ。

「ふ、ふふ、ふふふ、あ、アンナ、さ、さう、流石、私のおしゃにゃ、おしゃ、おしゃにゃにゃじみで、です、わね」

「そういうのいいから、早く約束の情報を教えなさい」

先輩容赦ない。しかし、先ほどの早口とは真逆でしゃくりあげながら喋っているから区切りが多いが、これもこれで聞き取りづらい。

サオリは精一杯涙を堪えて、絞り出すように名前を告げた。

「……アシダ・カイトですわ」

「ご苦労様」

先輩はそれだけ言い残して立ち去ろうとする。

それを見たサオリはまたふぇぇぇぇと目に涙を溜め始める。

「……よしサオリちゃん、俺と一緒にガンプラ作ろう!サオリちゃんのグフS14も直すの手伝うよ!」

俺の言葉に一番反応したのは、先輩だった。

立ち去ろうとしていた足を止め、俺の方へ歩み寄ってくる。

「ユウジ―――」

「先輩はアシダ・カイトの勧誘の方、申し訳ないんですけどよろしくお願いします。サオリちゃんのことを抜きにしても、自分のガンプラを作らないといけないですし」

先輩は、まぁ確かに、としぶしぶ頷き、アンナに何か耳打ちしてから店を出て行った。

「……さてサオリちゃん、ガンプラ直そう」

俺はサオリのグフS14とイグナイトブースターの破損部位を確認しながら泣き止むのを待った。

しかし、無口で何でもそつなくこなしそうな先輩に、こんなに我儘な幼馴染が居たって言うのは意外だった。

いくら泣いても決して声を上げない意固地な所とか、そういう所は似ていそうというか、何とも不思議で微笑ましい感じだ。

「……ユウジ様ありがとうございますですが決して勘違いなさらないで下さい私普段はこんな失態……その……」

「おぉ、早口復活してるね。じゃあもう大丈夫かな?」

「……えぇご迷惑をおかけいたしました……その……ユウジ様はアンナのこと……」

サオリが何か言いかけた時、俺の背後でドサっと言う、何か大きなものを落とした音が聞こえた。

振り返ると、そこに姉が居た。

「え?お姉ちゃん、なんでここに……って言うかその大量の買い物袋は……?」

「お姉ちゃん、ユウジちゃんがプラモ好きだったからお店教えてあげようと思って近所にあるこの専門店見つけて、隣のスーパーで買い物したついでにちょっと覗いてみてたんだけど……まさかユウジちゃんが女の子をニッパーやナイフで脅して泣かせている所を見るなんて思わなくて……」

「……へっ!?」

俺+工具+泣いてる女の子=姉のリスカ案件。

「ごめんね、お姉ちゃんが構ってあげなかったからユウジちゃんが変態さんに……責任とって私が死ぬからユウジちゃんは全うな道に……」

「お店の工具でリスカは駄目だよお姉ちゃん!いや店のじゃなくても駄目だけども!」

俺は慌てて姉を押さえつけて買い物袋を抱え上げ、逃げるように店の出口に向かう。

「ユウジ様!」

「ごめんサオリちゃん、お姉ちゃんをどうにかしたらまた……」

「い、いえ今日はありがとうございましたもう大丈夫ですわ」

「そ、そう?」

サオリは少し躊躇い、スカートのポケットから一冊の手帳を取り出し俺に渡してきた。

手帳には"アイデアノート・アンナ愛しのユウジ様用♪"と書かれている。

「アンナからユウジ様がエネルギー管理で困っていると伺いましたので解決できそうな方法をいくつか考えてみましたのでこれを差し上げますのでご活用くださいませ」

それだけ伝えると、さっさと店から出て行ってしまった。

俺も死ぬ死ぬ喚いている姉を押さえつけて、後を追うように店から出るのだった。

 

第2話「憧れの翼」 -完-




読了お疲れ様でした。

サオリちゃんの登場と言うよりホビーショップアナハイムと言う場所の登場の方が重要な気がする2話でした。
原作で出てきたGミューズでも良いかなと思ったのですが、高校生が放課後にお台場まで行くのは不自然に感じたので、ちょっとオリジナルのチェーン店を作っちゃいました。

あ、ちなみにザクコマンドーもイグナイトブースターも実際に私が作ったガンプラです。

次回更新日時は12/9予定です。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第三話「深き者の翼」前篇

 マンションの一室、薄暗い部屋に置かれた机の上にあるモニターに、青白い光が煌々と灯る。

机の前には、無精髭を生やしたボサボサ頭の男が椅子に座っている。

床には空き箱やペットボトル、教科書や着替え、ガンプラなどが無造作に散らばっている。

だが男はそれらには目もくれず、青白い光の中に佇む少女達を眺めていた。

男の表情は恍惚としたもので、まるで恋人を眺めるかのような眼差しだった。

「はぁ、ヲ級たん……」

小さく呟いたその声に反応するものは、居なかった。

 

第3話「深き者の翼」

 

 うちの学校は制服が自由だ。

指定の学生服はある。たまに上着が違う生徒がいたり、冬はスカートじゃなくてズボンを履く女子生徒がいるらしい。

生徒手帳の校則の欄に、協調性よりも個性を尊重する云々書かれている。

だが……今目の前にいる生徒は、個性を尊重しすぎていると思う。

「廊下に貼ってあった席表によれば、あの最前列のがアシダ・カイトみたい」

「先輩……俺、あいつと関わりたくないです」

アシダ・カイトは、白い軍服のような服装で帽子を被り、机に座っていた。帽子の下から、アムロ・レイみたいな天然パーマの髪の毛が溢れている。

月曜日。サオリの情報を元に日曜日の間に先輩が行った調査で、アシダ・カイトが2組だと知った俺たちは、朝から先輩と2組の教室へ向かった。入り口付近には、まだ入学して間もない生徒たちが座る席に迷わないように席表が入り口付近に貼ってある。その名前を頼りに視線を彷徨わせて見つけたのが、ヘンテコなやつだったというわけだ。

「でも、あんな変な格好している天パ野郎に頼らなきゃいけないなんて……」

「抑えるんだユウジ。例えアレが変態でも、バトル中だけ我慢すれば何とかなる」

「でも変態かもしれませんよ」

「白ランは変態というのはラノベの常識だからな」

俺と先輩がアシダ・カイトがどんな変態かを想像で話し合っていると、背後から突然肩を叩かれた。

何事かと振り返ると、アシダ・カイトが立っていた。いつの間にか背後に回られていたようだ。

「お前、さっきから俺のこと見ていたよな。一体何者だ?」

「あ、あのえっと俺たちは……」

「俺たち?」

振り返ると先輩が居ない。逃げたのかよ先輩の薄情者。

「そ、その……アシダ・カイトさんだよね?」

「そうだけど……別に呼び捨てでいいぞ。同じ一年だろ?」

同じ一年に見えないくらい声が野太い……!

身長も大きい。180……もしかしたら190くらいあるんだろうか?

「おっと、すまないな。帽子を被ったままなのはマナーが悪いよな」

カイトが帽子を取ると、押さえつけられていた天パがボワンという音を立てたのかと思うくらいの勢いで膨れ上がる。アムロよりでかいアフロだ。

「あ、そのですね、今少しお時間よろしいでしょうか?」

「だからタメ口でいいって。要件はなんだ?」

「そのですね、ガンプラバトルなど、どうかなーと思いまして」

「ガンプラバトル?」

俺のセリフを聞いた瞬間、カイトの声色が若干低くなる。

「すまないな……えーっと……」

「あ、ミズシマ・ユウジです」

「そうか。すまないなミズシマ、俺はガンプラバトルはしばらく休憩中なんだ」

カイトは懐に手を突っ込んで、提督日誌と書かれた大学ノートを取り出した。

手渡され、パラパラと捲ると、数字がびっしり書き込まれている。

「これは……艦これのプレイ記録だ。俺は今、艦隊これくしょんってゲームにはまっていてな。他の趣味に手を回せないんだよ」

俺は聞いたことがないゲームタイトルに首を傾げ、改めてノートを見るが、どんなゲームなのか想像もつかない。

資源運用、遠征効率、建造レシピ、ドロップ記録……本当にゲームなのかこれ?

「ど、どんなゲームなの?」

「なんだ、ミズシマは知らない……あぁそうか、このゲーム18禁だからな。俺も父親のアカウントを借りてやってるし」

「……???」

俺の中の18禁のイメージであるアダルトでエロエロなギャルギャルの上の存在と、このノートがどうやっても結びつかない……

「まぁ、そういう訳で、申し訳ないけどガンプラバトルはできないわ」

それだけ言い残し、カイトは教室へ戻って行ってしまった。

「残念だったわね」

「……先輩どこにいたんですか?」

「すぐそこの女子トイレに逃げ込んだ」

悪びれもせず戻ってきた先輩は、俺にスマートフォンの画面を見せる。画面には、何やら武装した女の子の絵が表示されていた。

「これが艦これみたい。私も今気になって調べたんだけど」

どうやら先輩は女子トイレに逃げ込んで話を立ち聞きし、艦これについて調べていたようだ。

わかったのは、プレイヤーが提督となって艦を擬人化した女の子を出撃させるゲームだということだ。確かに面白そうだが、18禁要素も数字が出てくる要素も見当たらない。

「よく分からないけど……このゲームにハマっているってことは、もうガンプラバトルには戻ってこないんですかね」

「でも彼、休憩中って言ってた。完全に興味を失ったわけじゃなさそう」

先輩と一緒になって小さいスマホを覗き込み、検索して出てきた画像を眺める。ふと、俺は先輩とめっちゃ顔近いことに気がつく。先輩は気にしていないみたいだけど、なんかさっきの18禁の下りから頭の中にエロいことが過る。

俺は顔が赤くなってきたのを感じた。

「ん、さっきから黙ってどうしたんだいユウジ」

「い、いやその……こ、このキャラクターってフォビドゥンガンダムに似てるなーって思ってたんですよ!」

顔を見られないように画面に映っていたキャラクターを指差した。先輩の視線がそっちに移動する。良かった、顔が赤いのばれなかったかな。

「……ユウジ。それよ」

「え?え、ちょっと先輩!?」

先輩は顔を上げて2組の教室の中へと入っていく。突然現れた2年生に教室がざわつくが、御構い無しにカイトの元へ歩み寄った。

困惑する人々を前にして、先輩はスマホの画面をカイトの眼前に突き出し、告げた。

「これがあなたのガンプラになる」

「……は?」

「あなたにしか作れないガンプラを作って、私たちと一緒に戦いなさい。それがあなたがガンプラと艦これをやっていた意味になる」

その瞬間に予鈴が鳴り、学校中が騒がしくなる。

俺は慌てて2組の教室に入って先輩を引きずって脱出した。

「お騒がせしましたぁー!」

戻ろうとする先輩を押さえつけて2年生の教室のある階まで押し戻し、昼休みにもう一度行くことで妥協した。

ちなみに俺は遅刻した。

 

 

 放課後、俺と先輩とカイトは模型部の部室で長机に座っていた。

昼休みにカイトの元を訪れた時に放課後に部室に行くことを約束し、今に至るわけだが……どういう状況なんだろう、これ。

俺はこれから何が始まるのか分からずに視線を泳がせていると、先輩が口を開いた。

「それでアシダ・カイト、ガンプラバトルは……」

「カイトでいい。ミズシマたちのチームが人手不足で経験者の加入を望んでいることも理解した。それよりも、朝に先輩の言っていたことの続きが知りたい」

先輩はスマホを取り出し、今朝と同じキャラクターを写して机の上に置いた。

「今朝見せたこのキャラクター、空母ヲ級って言うのね。さっき改めて調べたわ」

「なんだ、名前すら知らなかったのか」

「えぇ。私にアイデアをくれたのは、ユウジだもの」

カイトが俺の方を向く。俺はローエングリンを撃たれた時のムルタ・アズラエルみたいな顔になって椅子ごと少し後ずさった。

「私が提案するガンプラは"ヲ級風ガンダム"よ。あなたがガンプラバトルを再開するなら、このアイデアでガンプラを作りましょう」

「ベースはフォビドゥンガンダムだけでカラーリング違いにするのか?」

「いいえ、フォビドゥンガンダムで使用するのは胴体と背面武装だけよ。主に使用するガンプラは、深海棲艦を海賊に見立てて宇宙海賊のダークハウンド。武装はダークハウンドのフックガンともう一つ、オリジナルで近接武器がいいかと」

「艦載機を積みたい。ファンネルとかドラグーンでそれっぽいものは作れないだろうか」

「着艦、もとい格納が難しいから、ファンネルミサイルなら可能かもしれない。大型化を考えなくて済む」

「胞子ビット、もといレギルスビットは……いや、そうするとレギルスのパーツを使用する必要があるな……」

「モデルが女性型だから他の細身のモビルスーツでもいいかなと思ったんだけど」

「いや、完成品を飾るだけならそれでいいが今回の目的はガンプラバトルだろう。武装にも比重を置かないと……」

カイトと先輩がいきなりガンプラ改造談話を始めてしまった。なんなんだこのスピード。

っていうかあれ、カイトは模型部に入るってことで良いのか?

「入部って言うことで良いのよね、カイト」

「良いに決まっているだろう。ヲ級たん風ガンダムを作ると言われて参加しないなど提督の風上にも置けないクソ提督だからな」

その後、今までカイトが作ったことがあるガンプラや操作した経験、得意な距離や癖なんかを話し合い、今からGミューズに行くかとかアナハイムにしとくかとか盛り上がりに盛り上がり、下校時間になってお開きとなった。

 

 

「じゃあなミズシマ、先輩。帰って艦これ終わったらジャンク漁ってみるわ」

隣の駅に住んでいるカイトを駅まで送って、俺と先輩もそれぞれの自宅へ向かって歩き出した。

駅前から少し離れた位置にある住宅街のマンションが、俺の家だ。まぁ姉のだけど……。

先輩の家は俺と同じ住宅街にあるって言ってたけど、詳しい場所は聞いていない。

「良かったねユウジ。カイトがチームに入ってくれて」

「……そ、そう……ですね」

「どうしたの?」

「その……カイトって、艦これ止めないんですかね」

「どうして?」

「それは……艦これするためにガンプラバトルを止めたのに、ガンプラバトルを再開しても艦これやるみたいだったから」

「そうね。それは、カイト次第なんじゃないな」

「……そうですね」

その後も、俺はカイトが苦手だと言い出せず、先輩の言葉に適当に頷いた。

カイトが何を考えているのかわからない。艦これというゲームが好きだと言っていたのに、突然ガンプラバトルを再開すると言い出すし、すぐに作りたいものの形を模索し始めた。

それなのに、艦これは続けると言っていたし、先ほどもガンプラよりも艦これ優先みたいだった。カイトがちゃんとガンプラバトルをやってくれるのかどうか、心配だ。

(……折角やってくれるんだから、文句を言っていられないか……はぁ)

俺は先輩が最初に言ったように、バトル中だけ我慢すればいい。そう思うことにした。

 

 

 それから金曜日までは一瞬だった。

矢のごとく過ぎ去るという表現が最も適切だろう。

俺はサオリの手帳を元にストライクフリーダムガンダムの細かい改修を、先輩は3人目が見つかるまではと言う条件付きで参戦すべく、ザクコマンドーを修復していた。カイトは模型部の部室には顔を出さず、家で作成しているらしい。下校時間にいきなり連絡が来て一緒にパーツを補充しに行ったり、昼休みや登校時間に構想を話したりと、いつ何をやったのか覚えていないくらい色々なことをやった。

気がつけば金曜日の昼休みで、放課後には選考会が始まる。

「カイト、準備はできている?」

「ばっちりだぜナガサキ先輩。名付けて"ティフシーガンダム"。ドイツ語で深海って意味だ」

「いい名前ね」

「まぁ今やってるソシャゲのキャラクター名パクったんだけどな」

カイトはしっかりとガンプラを完成させて持ってきた。

出来栄えを言うなら、先輩のザクコマンドーと並べても遜色がないくらい。少なくとも、俺の作成技術よりは上だった。

もちろん先輩もザクコマンドーを修復して持ってきた。これが今の俺たちのチームの最高戦力であることは間違いない。

「ユウジはスラスターの縮小化と関節部分の露出を抑えた感じね」

俺はサオリのアイデアノートを元に、粒子の放出を抑えて内部機構を制御するように細かな調整を加えた。これで長時間持ってくれればいいんだけれど……

「勝つぜミズシマ、ナガサキ先輩!」

カイトのやる気も十分だ。

唯一の懸念と言えば、まだ俺がカイトに対して苦手意識を持っていることだ。

俺は盛り上がる二人を見て漠然とした不安を抱えたまま、選抜会を待つのだった。

 

 

 結果、俺たちのチームは1回戦で敗北した。

敗因を一言で述べるなら、それは連携不足だろう。明らかに異色なティフシーガンダムが敵チームから総攻撃を食らい、それを守ろうとした先輩は最初に落ちた。俺は仇とばかりに敵に突っ込んでエネルギーが切れ、回復を待つ暇もなく落とされ、ティフシーガンダムもいつの間にか落ちていた。

「……くそっ」

俺たち3人は選考会が終わった後、逃げるように部室から出て屋上へと続く階段に来た。

3人共ずっと無言だったが、ここに来て初めてカイトが口を開いた。

「艦載機を飛ばす時間すら与えてもらえなかった……もっと改良が必要か」

「私もフォローが遅れたわ。ティフシーは艦載機を飛ばし終えるまでどこかに隠れるのも手かもしれないわね」

「そうだな……あぁちょっと待ってくれ、ソシャゲのスタミナ消費しちまうから」

カイトはスマホを取り出してゲームを始めた。先輩もそれを見て、自分のガンプラの破損箇所の確認を始める。ダメージレベルはBだったので、パーツが破損するようなことはなかったはずだ。

「……」

「ユウジ、大丈夫……?ずっと喋っていないけど」

「え、あ、うん……」

何だろう。何故か、悔しくない……負けたのに。大会出場が遠ざかったのに。何故か、負けて当たり前だったと納得してしまっている自分がいた。

相手チームは3人ともとても仲よさそうだった。連携も取れていたし、動きに絆のようなものを感じた。

それに比べて、俺はただ敵を攻撃していただけ……俺、どうしちゃったんだろう。どうしたいんだろう。

「……うし、終わった。じゃあ、反省会と改良案出そうぜ。どこでやろうか」

カイトはこの後どこかで落ち着いて話そう、と提案してきた。俺は何となく気分が乗らない。

「ごめん、今日はちょっと帰る」

「えー、悔しくないのかよユウジ。それとも何か用事でもあるのか?」

カイトのその言葉に、何故かとっっっっっっってもムカついた。

何でそんなにムカついたのか分からない。だから、思わず口走ってしまった。

「お前と一緒に居たくないって言ってるんだ」

その言葉に、カイトと先輩は固まった。それを見た時、俺の口は止まらなくなった。

何だよ。まるで俺がおかしな事を言っているみたいじゃないか。

「そもそもいきなりガンプラバトル再開するってどういうことだよ。一度止めたんだろ。大人しく止めてろよ。再開しても艦これは止めない、ソシャゲなんてやってる、目立つガンプラ作ったせいで標的にされるとかバカじゃないの。反省会?改良案?負けたのはお前のせいだよ!悔しくないかって?悔しくなんて無い!負けて当然なんだから!俺はお前のことを信用できない!何でそんなに不真面目にガンプラバトルができるんだよ!お前が何考えてるのかわっかんねぇんだよ!」

俺は一息で言い切って、そして後悔した。

けれど口から出たものは戻せない。

もう、話しかけることもかけられることも無いだろう。俺は俯いて階段から降りようとした。

その瞬間、体が浮き上がった。

カイトが俺の後ろ襟首を掴んで持ち上げたんだ。

そして引き寄せられ、そのまま抱きかかえられる。

「プロレス技ジャーマン・スープレックスは危険な技です。用法用量を守って正しくお使いくださいっとぉ」

「え!?うわ、うわわわわわ!」

そのまま体が空中に浮かび上がり、視界が天井に向き、そのまま地面に落下していく。

ぶつかる、そう思った瞬間に締め付けが緩み、カイト体の上に落下した。

「……!???」

「びっくりしたか?ブリッジ直前に体を寝かせて受け止めたんだ。中学の頃にクラスメイトにこれやったらめっちゃビビって泣いちまったやついるんだぜ」

何がなんだか分からない。というか何がしたいんだか分からない。

「ユウジ、今のタイミングで逃げちまったら、もう俺と話せなくなるだろ。そうならないように捕まえたんだ。せっかく綺麗に決まったんだからもう逃げるなよ」

「……なんだよその理屈……もう逃げないから離してよ」

「うーん、ミズシマの言う通り、俺たちに今必要なのは反省会じゃないみたいだな。よし、部室戻ってガンプラバトルしようぜ!」

「……艦これはいいの?」

「いいんだ!今日の放課後はガンプラバトルに使うって決めてたからな!」

カイトに離してもらい立ち上がる。このまま逃げようかとも思ったけど、思いとどまった。

先輩が階段の下段に立って、俺が逃げないようにしていたからだ。話し合え……ってことかな。

俺は振り返り、カイトに頭を下げた。

「……カイト、君……さっきはごめん。どうかしてた」

「さっきの暴言は今のジャーマン・スープレックスで勘弁してやるよ。さ、部室へ行こうぜ。そこでお前に俺が何考えてるのか教えてやるよ」

「……!」

頭を上げた時、初めてまともにカイトの表情を見た。

その顔は、眩しいほどの笑顔だった。

 

後篇へ続く




読了お疲れ様でした。

後篇はユウジVSカイトのガンプラバトルです。
考え方、生き方の違う者同士のぶつかり合い、みたいな感じの話をかけたらいいなと思っています。
と言うか、この前半もそういうテーマなんで話が重くなりそうだったのですが、カイトが舵取りをしてビルドファイターズらしさを保ってくれたような気がします。

次回更新は12/10になる予定です。
追記:
とある事情で12/10中にアップロードできなくなる可能性が出てきたので、一応12/12を目途に更新をかける予定に変更します。
追記:
予定よりも早めに投稿できました。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第三話「深き者の翼」後篇

閲覧ありがとうございます。

今回はストライクフリーダム(ほぼ無改造) VS ティフシーガンダム(ダークハウンドとフォビドゥンガンダムのニコイチ)のバトルです。


 部室に戻ると、反省会をしていた部員が何人か残っていたが、シミュレーターは空いていた。

俺とカイトはそれぞれ装置の前に立ち、互いのガンプラをセットした。

先輩は装置のコンソールを開き、ルール設定を選考会のままになっていた3VS3から1VS1に変更した。

「制限時間は無制限、フィールドはランダム、ダメージレベルはBで……」

「ナガサキ先輩、ダメージレベルはAに変更してくれ」

カイトは先輩にそう告げる。それを聞いた先輩は俺の方に視線を寄こす。

俺はカイトの顔を見る。カイトの顔は、先ほどの笑顔と違って険しいものになっていた。

真面目だ。今のカイトの言葉に、遊びは無い。

「……Aで」

「了解。ダメージレベルはAに設定。じゃあ、始まるよ」

先輩がコンソールを閉じると、すぐさまプラフスキー粒子がフィールドの生成を始めた。

場所は、多数のデブリが漂う宇宙空間。

「アシダ・カイト提督、ティフシーガンダム、着任します!」

「ミズシマ・ユウジ、ストライクフリーダムガンダム、行きます!」

互いに飛び出した宇宙空間。俺はすぐさまブーストを切り、ファンネルを周囲に漂わせ、構えた。

サオリの手帳を元に編み出した戦法は"待ち作戦"だ。

先ほどのバトルでは相手チームに放浪されて全然出来ていなかったが、エネルギーを極力使用せずに防御一択。

相手がストライクフリーダムのカリドゥス砲の射程範囲に入ったら、ファンネルで足止めして一気に接近して撃ちぬく。

火力だけなら、一撃で粉砕できる威力なのは確認済みだ。

『その作戦は俺に対しては悪手だと思うぜ?お前本当に俺のこと見てなかったんだな』

カイトから通信が入った直後、至近弾を食らう。背後から。

「何……!?」

慌てて振り返ると、そこには小さなビットが飛んでいた。

こんなヤツにビーム兵器を使用するのはエネルギーがもったいない。殴って破壊しようと接近するが、うまく避けられてデブリの影に消えてしまう。

「そうか、確かカイトのガンプラには艦載機……ビットが付いているんだ!」

思い出した瞬間、デブリの海の先でビットの中央に陣取っている黒いガンプラが見えた。

それを一言で伝えるなら、フォビドゥンガンダムのバックパック"ゲシュマイディッヒ・パンツァー"を持つダークハウンド。

本来盾の付いている部分にそれぞれ二門の砲台を付け、触手を連想させる白いアームがついており、杖に見立てた剣を所持している。

そしてその周りを、ひし形のビットが飛んでいた。

『さあ、どんどん飛ばすぜ!』

迫り来るビットを避け、俺はティフシーガンダムの死角になるデブリの一つにたどり着く。

死角に入れば猛攻も和らぐと考えて影に入るが、デブリに複数のビットが体当たりして砕いてしまった。

「なっ、そんなのアリか!」

『何でもアリだ!』

破壊されたデブリの向こう側を見ると、ティフシーガンダムは先ほどよりも近づいてきていた。

このまま飛び込んで間合いに入ろうかとも思ったが、周囲を飛ぶビットがいつでもこちらを狙える位置にいるため、迂闊に注意を反らせない。

距離を離さないように、ティフシーガンダムを中心に旋回移動を繰り返してビットの攻撃を避ける。

『なるほど、無駄撃ちするとエネルギーを消耗するから一撃に全てを賭けるって寸法か』

こちらの作戦がバレたようだ。だが、バレた所でやることは変わらない。

「少しずつ……旋回しながら近づく……!」

旋回してビットを交わしながら、徐々に距離を縮めていく。ティフシーガンダムもこちらに対して常に正面を向くようにしていたが、ある瞬間、方向転換が少し遅れてこちらに背を向けた。

「今だ!」

俺は旋回を止め、一気に距離を詰めた。アグレッサーのブリック軍曹じゃないが、振り返る1モーションの間に決着を付けるため、俺はカリドゥスのチャージを始めた。

だが、振り返ったティフシーガンダムが持っていた物に驚いて、思わず動きを止めてしまった。

「ど、どこにそんな物を……!?」

ティフシーガンダムは、いつの間にか頭身よりも巨大な剣を持っていた。

先端や剣の腹部分の所々に銀色に輝く刃が取り付けられており、斬るというより削るような仕組みだろう。

ティフシーガンダムは、その剣を振りかざしてきた。俺はヴォアチュール・リュミエールを起動させて背後に後退する。今のでエネルギーが減りすぎ、カリドゥスのチャージが止まってしまった。

「くっ……バトルが始まった時は持っていなかったのに……どういうことだ?」

ガンプラバトルの公式ルールでは追加投入は認められていない。

カイトがルール違反を犯したのだろうかと疑ったが、その剣の刀身を見て考えを改めた。

「これは、ビットが……くっついている?」

『全てのビットを連結させて巨大な剣にする武装、名付けて"神風特攻剣"!』

ティフシーガンダムは剣を、まるでバットのように構えて武器を見せびらかした。どうだと言わんばかりに見せつけ、満足したとばかりに剣を構えなおして、再び距離を詰めて来る。

これ以上エネルギーを消耗すると、カリドゥスを撃つ余力すら無くなる。

かといって受け止めるためにはビームシールドを展開する必要があり、これにもエネルギーが必要……

「なら、押し返すまで!」

『うおっ!?』

俺はビームライフルを剣に対して水平に構え、ライフルにめり込ませることで防御に成功した。ライフルは当然失われたが、元よりカリドゥス以外を撃つ余裕は無い。

「チャージが溜まってない……今撃ってもダメか……」

撃っても勝負を決められないと踏んだ俺は、蹴りを入れつつティフシーガンダムから距離を取った。安全な距離で、再びカリドゥスのチャージを始める。

『……なるほどね。一撃必殺以外は撃ち込まないってことか、頭が硬いねぇ。俺だったら攻めるタイミングだったぜ?』

カイトが挑発気味に通信を入れてくる。

無防備にも目の前で剣にめり込んだライフルを外している。その行為にイラつきを隠せず、俺は舌打ちをした。

『まぁ、俺だったらそもそも接近しないけどな。今のは遠距離でビットを撃ち落して戦力を減らすところだ』

カイトのいうことは最もだったが、エネルギー消費の激しいこのガンプラではその作戦を行うと先に限界が来てしまう。

『エネルギー不足だって言っても、全く消費せずに防御一択ってのはどうなんだ。俺ならデブリを砕いたビットの一つでも叩き落としたぞ』

確かに、先ほど無茶に突っ込んできたビットはその場で静止していた。少しでも攻撃にエネルギーを使えば、落とせていたかもしれない。

けれどそれではフルパワーでカリドゥスを撃てない。

『今さっきの接近の時だって、カリドゥスのチャージが溜まって無かったから引いたんだろ?チャージの必要が無いドラグーンで追撃することだってすぐ展開できるビールサーベルやビームシールドで斬り裂くことだってできたはずだ』

確かに、一撃必殺を当てることに夢中になって近接攻撃のチャンスを無駄にした自覚はある。

しかし、近接攻撃を行ったとして、それで相手の戦力を削げるとは限らない。

それこそ、今攻撃していたら途中でエネルギー不足になって反撃を食らう可能性もあった。

『まあ、俺は接近戦でも負けるつもりは無いけどな!』

「……さっきから俺が俺が俺がうるさいな!気にしていることを次々と……俺にとってのベストは今のタイミングじゃないんだよ!俺は俺なりの作戦があるんだ!」

俺は俺はとうるさいカイトのセリフにキレて通信に答え、一気に接近した。

距離が十分に縮まっていなかったので、回避されてしまう距離……のはずだった。

『うおぉ!?』

通信の気迫に気圧されたのか、カイトは回避行動が若干遅れた。チャンスだと睨んだ俺は攻撃では無く、胴体に組みつくことにした。

「今だっ!」

カリドゥスのチャージをそのままに、周囲にドラグーンを展開する。

俺を振りほどこうとするとドラグーンに撃ち抜かれ、このままでいたらカリドゥスで撃ち抜かれる。

これを避けるには、拘束しているストライクフリーダムの腕をこの場から動かずに破壊するしかない。

「捕らえたぞ、カイト!」

『まじかよ……ジャーマンの仕返しか!?』

カイトに言われて気がついたが、ストライクフリーダムが組みついた体勢は、奇しくも先ほどカイトにやられたジャーマン・スープレックスと同じだった。

「これが俺のやり方だ、カイト!」

『なるほど。しかと見せてもらったぜ、お前のガンプラバトル』

カイトがそう言った瞬間、ティフシーガンダムの剣がバラけた。ビットに戻ったんだ。

「しまっ……!」

『狙いはドラグーン!行けお前たち!』

バラバラに散ったビットが、周囲を包囲していたドラグーンを次々に落としていく。包囲が崩れた瞬間、ティフシーガンダムはストライクフリーダムにしがみつかれたまま、ブーストを吹かして脱出した。

そしてそのまま、大きめのデブリに突っ込んでいく。

「ちょ、ちょちょちょちょ!?」

『うおおおおお、銀河ジャーマン・スープレックスぅ!』

俺は逃げようとしてストライクフリーダムの両腕を離すかチャージ不足のカリドゥスを撃とうか迷って、思いとどまる。

(そうか、これが狙いか……!)

カイトは俺のストライクフリーダムが無駄撃ちすることを期待している。いや、無駄撃ちせざるを得ない状況を作っている。

カイトの戦い方が分かった。挑発して、誘って、弱点を突く戦法だ。

それなら、俺が対抗する手段は一つ。

『おら、ぶつかるぜ!』

カイトの宣言通り、ティフシーガンダムとストライクフリーダムはそのままデブリに突っ込んだ。

激しい音を立ててお互いのガンプラが叩きつけられる。ティフシーガンダムは頭部にバックパックがあるので破損は少なかったようだが、ストライクフリーダムは頭部がもげた。

だが、それでもティフシーガンダムを掴んでいた腕は放さなかった。

『なにっ!?』

「対抗する手段は一つ!お前の挑発や誘いに乗らず、最後まで意地を通すことだ!」

デブリに墜落してもなお腕を放さないストライクフリーダムを、無理やり振りほどこうともがくティフシーガンダム。だが、もう遅い。カリドゥスのチャージは完了した。

俺はトリガーを押し込んだ。

瞬間、デブリが爆発。否、デブリごとティフシーガンダムを撃ち抜いた。

全エネルギーを放出したストライクフリーダムは停止し、宇宙を漂う。

頭部を失い、カリドゥス発射時に腕も吹き飛んだ。飛び散ったデブリに当たったのか、翼も、周囲に飛んでいたドラグーンもボロボロ。エネルギーが再チャージされても、動かないだろう。ティフシーガンダムは胴体を失い、ビットも沈黙した。こちらも、動く様子はない。

引き分けだ。

 

 

 バトル終了のシステムコールの後、俺とカイトはシミュレーターの横に立って向かい合っていた。

シミュレーターの上には、お互いの破損したガンプラが置かれている。

「どうだミズシマ、俺が言いたかったこと、伝わったか?」

カイトが開口一番そう告げる。俺は正直に答えた。

「わからなかった」

「まぁそうだな」

「じゃあ何で聞いた!?」

ノリとテンションでしゃべっているようなカイトに、俺はたまらず突っ込んでしまう。

「お、やっと突っ込んだな」

「……ま、まぁ、カイトが”そういう奴”だってのが分かったから……」

そうそうそれそれ、とカイトは俺の肩を叩いて笑った。

「俺はそういう奴なんだ。そういう生き方してる奴なんだよ。お前は馬鹿がつく位に真剣にガンプラバトルやってるみたいだから、俺みたいなフラフラしてる奴のことを許せないのかもしんないけどさ」

カイトは壊れたティフシーガンダムを拾い上げ、苦笑した。

「安心しろよ。俺はちゃんとガンプラバトル、大好きだからさ」

そこまで言われて、俺は初めてカイトが言いたかったことが分かった。

俺がガンプラバトルに全力で取り組んでいるように、カイトも全力で取り組んでいるんだ。艦これだったり、ソシャゲだったり、ガンプラバトルだったり、その全てに。

俺の心配していた、いつかコロっと心変わりして止めてしまうかも、という心配は、不要だったんだ。

「……ごめん、俺はカイトのことを勘違いしていたみたいだ」

「おう、気にすんなよ!」

俺とカイトががしっと握手をして青春の一コマ的な雰囲気になった時、先輩がぼそっと呟いた。

「カプ成立……!」

俺はその意味が分からなかったが、カイトが青い顔して鳥肌立てて固まった。

恐る恐ると言った風に先輩の方に振り返る。

「ま、まさかナガサキ先輩……まさかのまさかと思いますがまさかまさか……」

「どうしたの。何に気がついてしまったのカイト」

「そ、その……腐って……」

「その先をユウジの前で喋ると絹江・クロスロードのようなことになる」

「あ、アイアイサー!」

絹江・クロスロードって真実に近づきすぎて殺されたキャラクターだよな?何の話だろう?

俺が話の詳細を聞こうと口を開くと、その口をカイトが手のひらで塞いで来た。俺は頭にハテナを浮かべることしか出来なくなる。

「よぉしミズシマ!俺のガンプラ直すの手伝え!お前のもの手伝うからさ!そうと決まればアナハイムにGOだ!」

先輩から逃げるように走り出したカイトに連れられ、俺は部室を後にした。

部室を出る直前に見えた先輩の顔は、とても良い笑顔だった。

 

第3話「深き者の翼」 -完-




読了お疲れ様でした。

ユウジとカイトの生き方の違いによる衝突と全て美味しく頂いている先輩の話でした。
書いている内に、ユウジの戦い方が初戦に戻ってしまっている気がして、修正しようかちょっと悩みましたが、ユウジの性格からして「楽しむ」と決めたバトルと「意地を通す」と決めた戦いで戦闘方法が変わるのはアリだと思ったので、こうなりました。

次回更新日時は12/23予定です。もしかしたらその前にガンプラ写真を投稿するかもしれません。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第四話「壊れた翼」前篇

 3回目の選考会が近づいたある日、俺たちはホビーショップアナハイムに来ていた。

「「ショップ大会?」」

カイトが持ってきたチラシを見て、俺と先輩は声を揃えて反応した。

「そう。今週末にここでやる大会なんだけどさ、選考会までにあと一人、集めなきゃいけないんだろ?だったら大会に出て強いやつと知り合うのが一番良いぜ」

そう言って、カイトは去年のものと思われる大会の映像をスマホを使って俺たちに見せてくる。

見せられた映像に出てきたガンプラは、どれもクオリティの高い作品ばかりだった。

しかもおあつらえ向きにこの大会、タッグバトル形式だ。これなら俺とカイトの2人でも参加できる。

けれど、2つ問題がある。

「カイト、部活の選考会なんだぞ?学校外の人にアピールしても仕方ないだろう」

「そこは抜かりないぜ。この大会、毎年ウチの学校から結構な人数出場するんだよ。もちろん、模型部に入ってないヤツも興味持ってる。当日見学に来るように、俺のクラスのヤツには声かけてあるぜ」

何やらチェックマークのついたクラス名簿らしきプリントをヒラヒラさせながら、得意げに語るカイト。

まさかカイトがこういうことに気をきかせられるヤツだったとは。天パで大柄だからガサツっぽい印象を受けがちだが、カイトは手先が器用で細かい作業が得意だ。

こういう大会を見つけてきたり、それを告知したりと行動も早い。頼もしい人がメンバーに加わったのだと、改めて実感した。

これで問題の1つは解決した。けれど……

「アピールできるの?」

先輩がズバっと切り込んできた。

そう。大会に出場する、アピールしたい人たちにアピールできる。そこまでは良い。

じゃあアピール"できるのか"という話だ。

正直言って、俺たちの……いや、俺の実力じゃ大会なんて出ても醜態を晒すだけな気がする。

「……アピールなんて無理なんじゃ……」

「おいおい、俺と引き分けたヤツが何言ってるんだよ!自身持てって!」

「そ、そんなことを言っても……」

「聞いた話だと、ナガサキ先輩とも引き分けたらしいじゃねえか!もう完璧だな!」

「な、何言ってるんだよ……先輩はビルダー志望だし、カイトだってブランクあったんだろ?そんな二人に引き分けた俺なんて……」

俺は東京に出てきてから二人相手に引き分け、それ以外の選考会では敗北しか経験していない。東京に出てくる前は負け知らずとは言わないまでも結構な実力者だと自負していた分、落胆も大きかった。

「……あれ。もしかしてミズシマ、俺とナガサキ先輩のこと、知らないのか?」

「え?」

カイトはスマホを操作して、去年の全日本ガンプラバトル選手権大会の参加選手の戦績表を表示する。

そこに、先輩の名前があった。

「……!?」

「ナガサキ先輩は去年の選手権の中高生の部のベスト4のチームに居た実力者だぞ?」

俺は絶句した。いや、うん。え……?

「ちなみに俺は……ほらこれ。自分で言うのは恥ずかしいけど、俺も中高生の部のベスト16だ。そういや、大会の中でナガサキ先輩とは会わなかったな」

つまり、二人とも、全国レベルの、実力者?

「小学生の部の優勝チームに居たユウジの方が凄い」

「え、そうなのか!?すまん知らなかったよミズシマ!お前もやるじゃねえか!」

……ちょっと待って。それはもう3年も前の話で、俺はこの3年の間は公式の大会に出てなかったわけで……

それに所詮は小学生の部。

中高生……高校生も出ている大会でベスト4とか16とか、もう何が何だかわからなくなるような凄さなんじゃないのか……?

俺は先輩とカイトの後ろから後光が差しているような錯覚に襲われた。

「え、え……先輩、なんで俺、先輩に誘われたんですか……?」

「私がユウジのファンだから」

「そ、そうですか……」

なんかとんでもない人に目をつけられてしまったのだと気がついた。もう遅いけれど……

「まぁつまり、ホビーショップの大会で動じる必要はない実力ってことだ。俺も、ミズシマもな!」

「実力じゃないの」

カイトのセリフが終わった瞬間、被せ気味に先輩が喋り出した。

先輩は少し険しい顔をしている。

「アピールするには、ただ実力があるだけじゃダメ。特にメンバーになって欲しい人を探すためなら、この人と組んで戦ったら楽しいだろうなと思わせる戦いにしないと。例えば、私のザクコマンドーを見て、どう思う?」

先輩はザクコマンドーを取り出す。

見た目から受ける印象は、とにかく重武装。全身火器。ミサイル乱発しそう。

「……一緒に戦ったら一緒に爆撃されそーだな」

「あっ、そういうことか」

カイトの呟きで、俺も気がついた。

そうだ、ザクコマンドーと"共闘するビジョン"が見えてこない。

どう考えても特攻役、もしくはゲリラ戦で一人で敵基地を制圧しそうな装備だ。

「そう。私はザクコマンドーをチーム戦を想定して作ったわけではないの。だから、ザクコマンドーで勝ってもチームに入りたいなんて言う人は出てこないわ」

俺はほぼ無改造のストライクフリーダム、カイトは改造機ティフシーガンダム。

カイトの方はまだ見た目も技も派手で面白いからアピールには向いているかもしれないが、俺のストライクフリーダムは……

「アピール不足、かも……というよりマイナスか」

そう、ストライクフリーダムはエネルギー燃費が悪すぎて長時間の稼働が不可能という致命的な欠点がある。

こんなヤツと共闘したいと思うヤツはいないだろう。

「つまり、このタッグ大会にメンバー探しをするために挑戦するには、ミズシマのストライクフリーダムを改修する必要がある。そう言いたいんだなナガサキ先輩は」

先輩は頷く。そうか、そういうことか……

俺がチームの足を引っ張ってしまう結果になってしまうのか。

「……わかりました!なら俺は全力で挑みます!」

「えっ」

先輩は、予想外という風な表情で俺の方を見ていた。見ていてください先輩、先輩に取り戻してもらった子供心フル稼働でなんとかしてみせます!

俺は財布を握りしめてガンプラの販売コーナーに走った。

 

 

 

第4話「壊れた翼」

 

 

 

 それから3時間後、俺は工作コーナーの机に突っ伏していた。

「……全く形にならねぇ……」

閉店時間も近づき、人もまばらになってきた。それが俺に更なる焦りをもたらしていた。

あれから、エネルギー不足を補えそうなガンプラを購入して、パーツを組み合わせたり無理やり接続したり試行錯誤を繰り返したが、いざ動かしてみると燃費が悪く、やはり実践で使えるレベルのものにならない。

「うぅう、子供心を取り戻そうとしても、余計な知識が邪魔する……」

俺は散らばったガンプラのパーツをなんとなく眺める。すると、それらのパーツがどんな機体のもので、どういう使われ方をするのか、わかってしまう。

自由な発想というのがいかに難しいかを思い知らされた。

「……そういえば、先輩とカイトは……?」

ふと、二人のことを思い出して周りを見回すが、どこにも姿が見えない。どうやら先に帰ってしまったようだ。もしかしたら声をかけてくれたのかもしれないが、全く記憶にない。

「……カイトってやっぱり凄かったんだな。あんなガンプラ、一週間で作っちゃうんだし」

改めて、二人が全国大会出場者であったことを思い出す。

1ランク下大会と言えども、俺も大会で優勝をした経験がある。けれどそれは、もう3年も前の話。

優勝した事実自体は今の俺の人生を大きく変えるものだったけれど、あの2人が戦っていたのはもっと上のステージだ。

そして、これから俺を待っているのは、そのステージでの戦いだ。

「高校生になったんだ。周りのみんな、あのくらいの実力を持っててもおかしくはない……」

選考会で戦った人たちのことを思い出す。彼らの実力だって高かった。俺と同じか、それ以上の人だっているだろう。

もう自分は特別ではなくなってしまったんだと言う、漠然とした不安感が、俺を押しつぶしそうになる。

「……ユウジ、ちょっと良い?」

「え?せ、先輩!?」

1人で悶々と考え込んでいると、いつの間にか背後に居た先輩に肩を叩かれて飛び上がる。

俺は慌てて席に座り直し、先輩も対面に座る。帰ったと思っていただけに、少しホっとした。

先輩は、ずっと待っていたけれど、集中しているようだったから黙ってお手洗いに行っていた、と説明し、戻ってきた時に俺が落ち込んでいる風だったから声をかけずらかったと言っていた。

俺は謝ろうとしたが、先輩はそれを制した。

「いやその。えっとね。さっき私が言いたかったことなんだけど」

「?一緒に戦ってみたいガンプラを作れって話ですか?」

「いやその。そういうことなんだけど」

先輩はしどろもどろ、いつもの調子からは想像できないほど言葉に詰まりながら話をしている。

何か言い出しづらいことを言おうとしているみたいだ。

はっ、まさか……俺が今作ってるガンプラが、この段階でもう不合格なんじゃ……

「すいません先輩!先輩の期待に添えるようなガンプラになるまで何度でも作り直しますんで……」

「え?あ、うん。じゃなくて、じゃないけど、そのね。ちょっと待って少し……」

「だぁぁああもうまどろっこしいな!」

「うわっ!?」

俺の背後で、野太い雄たけびが聞こえたと思ったらカイトが現れた。

「ナガサキ先輩が自分で言うから待っててって言うから待ってたが、これじゃ本当に閉店まで言い出せないだろうから俺から言いますよ!」

「え。ちょ、ちょっと待ってカイト……」

「駄目です却下です!」

カイトは止めようとする先輩のことを頭から押さえつける。何か、駄々をこねてグルグルパンチしてる子供を制している父親のような図だ……

と、なんとなく他人事のようにその光景を見ていた俺の肩を、カイトが掴んでくる。

「ミズシマ!お前、ナガサキ先輩にガンプラ作ってもらえ!」

「……え?」

「さっき相談を受けたんだよ、ナガサキ先輩に。元々、お前をチームメイトに誘ったのはお前のガンプラを作りたいからだって。ビルダー志望だから戦わないと言っても全然ガンプラのアイデアとか相談されなくて自分から言い出すのが恥ずかしいって」

カイトの台詞に合わせ、先輩が真っ赤になって行く。そ、そんなことを考えていたんだ……。

確かに考えてみたら変だった。ファンだから自分のチームに入って欲しいと言いながらファイターでは無くビルダーとしてやりたいと言っていると言うことは、つまりそういうことだったのだと今さらになって気がついた。

他のみんながやっているように、自分で作ったガンプラで戦うことが正しいんじゃないかと思い、誰かに頼ると言う選択肢は考えていなかった。

けれど、自分で作るのではなく、上手い人に頼むと言う選択肢もあったんだ。

それを思いつかなかったのは、たぶん俺にストライクフリーダムガンダムを作ってくれた友人の影響があると思う。

そいつ以外にガンプラ制作を頼む自分を想像していなかった。

……そうだ。今、俺の目の前に居るのは先輩とカイトと言うチームメイトだ。

頼って良いんだ。

「……先輩、お願いします。俺に出来ることは何でもします。俺のガンプラ、作ってください!」

「…………うん」

真っ赤な顔で頷いた先輩は、小さな声で返事した。

その時の先輩の表情が、どんなガンダムキャラにも例えられないくらい、可愛かった。

 

 

 

 翌日、俺は部室で先輩の作ったストライクフリーダムガンダムでバトルをしていた。それは素組みしたものにつや消しを吹いただけのものらしいが、やはり動きが段違いに良い。

シミュレーターの中に保存されている模擬戦用のモックを数体倒した所で、横に立つ先輩が、ダメか、と呟いた。

その瞬間、ストライクフリーダムガンダムはエネルギーを失い、墜落してしまう。

「あぁっ……」

「……やっぱり単純な効率強化だと限界がある……ユウジが小学六年の時に使っていたガンプラのクオリティに及ばないというのもあるけれど、今、私の技術力を向上させている時間は無い……次、これ試してみて」

「は、はい!」

昨日約束した通り、先輩は俺のストライクフリーダムガンダムを作ってくれてきていた。その数、10体。

なぜそんなにって、それぞれ微妙な違いがある。

塗装していないもの、塗装しているもの、つや消ししているもの、していないもの、メタリック塗装したもの、RG、HG、武装に手を加えたもの……

とにかく作れるだけ作ったと言わんばかりのストライクフリーダムガンダムを詰めたカバンを渡され、部活が始まってからずーっとバトルを続けている。

「うぃーっすってうわ、なんだその数のストフリは!?」

掃除当番で遅れて部室に入ってきたカイトが、この異様な光景を見て悲鳴に似た声をあげる。

「何って、データ収集よ。私、ユウジの戦い方の癖は3年前の大会のしか知らないから、今のユウジに合うガンプラを作るためにデータを取っているの」

「おぉ、面白そうだな!」

カイトは嬉々とした声をあげてカバンからティフシーガンダムを取り出す。

あぁ、カイトは止めてくれると思ったのに……もう俺、バトルしすぎて腕が痛い……

……そういえばカイトは艦これで確率や効率を考えたプレイをする人だった……

「さてユウジ、次はカイトとバトルしながらもう一周使ってみて」

「また最初から使うのか!?」

「受けて立つぜ!」

何度も何度も、それもストライクフリーダムガンダムだけを使ったバトル。すると不思議なことに、徐々に体が慣れてきた。ストライクフリーダムガンダム独特の動きやドラクーンの効率的な運用、エネルギー消費の少ない動きと激しい動き……もしかしたらこのデータ収集、俺の操縦技術の向上のためにやってるんじゃないかと思えてきた。

そうだ、考えてみたら俺は先輩とカイトの作るガンプラの凄さに圧倒されてバトルに消極的になっていた感がある。考えてみたら、前回の選考会の時だって、ガンプラを作るのに必死でバトルの練習までできていなかった。

そういう練習不足解消の意味も含めて、先輩はこういうことを始めたのかもしれない。

「……先輩」

「どうしたのユウジ」

「……ありがとうございます。俺のガンプラの為に、こんなことまで」

「ユウジの為なら何だってするよ」

「え?」

「あ。あーいやほらチームメイトだし。チームのためになることをするのは私のために繋がるし」

「……はい。それでも、ありがとうございます」

「う、うん」

俺は感謝の言葉を伝えて照れ臭そうに視線を逸らした先輩を見て、良かった、喜んでくれたんだなと思い視線をシミュレーターの方に戻した。すると、シミュレーターの向こうで苦虫を噛み潰したような表情をしたカイトがこちらを睨んでいた。な、なんだどうしたんだ?

「……なんでその空気になれるのにまだ告白してねぇんだよ」

「?」

告白って何を、と言おうとした瞬間、部室の扉が勢い良く開かれ、数人の模型部員が駆け込んでくる。

「ぱ、パーツハンターだ!アナハイムにパーツハンターが出たぞ!」

「!?」

駆け込んできた部員に、部長が駆け寄ってくる。ちなみに本日の部長はザフトの制服を着ている。声や髪型はアスランを真似している。マジで石田さんに似てるから驚き。

「被害者は!?うちの部員は無事なのか!?」

「それが、俺のメンバー二人が、パーツハンターだと知らずに挑んで犠牲に……」

「なんてことだ……ハンターは?去ったのか?」

「は、はい」

同じ部屋の中で行われているとは思えない世界での会話に、俺はただ呆然としていた。

そんな俺に、カイトが耳打ちをしてくる。

「お前は高校入学で東京出てきたんだっけな。知らないだろ、今のパーツハンター」

「い、今の?」

「数年前、ガンプラの所有権を掛けた勝負を挑み、勝利したら目の前で相手のガンプラを破壊して必要なパーツだけを持ち去る男が居た。そいつをパーツハンターと呼んでいたらしい。そいつは三代目メイジンカワグチに改心させられたって話なんだけどな。最近、そのパーツハンターと同じことする輩が現れたってわけだ」

カイトの説明と今の状況から察するに、そのパーツハンターがホビーショップアナハイムに出没してうちの模型部員が被害にあった、と言うことらしい。

「でも、アナハイムみたいな目立つ場所で……?」

「あぁ。野次馬に何か言われたら、気に食わないならバトルで勝ってみろと挑発し、さらに凶行を繰り返す。周りがその強さに恐れを抱いたらさっさと去ってしまう、ってヤツらしいぜ。確かに今まではアナハイムに現れることはなかったが……何か目的でもあるんだろうか」

カイトが疑問を口にすると、まるでそれに答えるように部長が叫んだ。

「なんだって!?そのパーツハンターが週末のショップ大会に出ると言っていたのか!?」

そのセリフの直後、部室内が先ほどよりもざわざわと騒がしくなった。

それはそうだ。犠牲になった部員は運が悪かった、俺は気をつけよう。そんな風に騒動を見ていた部員がほとんどだから、突然自分たちが出る大会にそいつがいると言われれば驚くだろう。

もちろん、俺もそうだった。

「うげー、マジかよー。当たりたくねぇな、ミズシマ」

カイトがそう言って俺の同意を求めたので頷こうとすると、先輩がニヤリと笑った。あ、ロンド・ミナ・サハク顔の方の微笑みだ。

「いいじゃない、パーツハンター。そいつを倒せば勧誘なんて入れ食い状態になるはず。積極的に狙いに行きましょう」

なんかとんでもないことを言い出したぞこの先輩!?

「狙っていきましょうって、FPSでヘッドショット狙うみたいな感覚で言わないでくれよナガサキ先輩。大体、俺らパーツハンターの顔知らないぜ」

「そうね、じゃあ聞きましょう」

先輩はそういうと、すたすたと部長の元に歩いて行ってしまう。そして開口一番、部長の隣に立つ駆け込んできた部員に訪ねた。

「パーツハンターの特徴を教えて」

 

 

 

 大会当日。俺たちは開会1時間前にアナハイムの入り口で受付を済ませ、フードコートで軽食を取りながらガンプラのチェックをしていた。

「カイトはティフシーガンダムに何か改修を加えたの?」

「あぁ。ビットに面白い挙動を追加したり関節を強化したりしてるけど、基本的な戦術は変わらないぜ」

「戦闘開始時に姿を隠してビットでかく乱、だね」

「あぁ。ミズシマはストライクフリーダムの"新しいシステム"を使ってとにかく近接攻撃か?」

「いや、そうしたいのは山々なんだけど……たぶんそれだとエネルギーが持たない」

「心配すんな、ビットで支援してやるからさ。なるべく2機同時に相手して俺を捜索させないようにしてくれればいくらでも援護できるぜ。それに、攻撃された方が有利になっていくだろ?」

「でも、パーツハンターの戦法も何も分からない状態だし……」

戦法について議論を繰り返していると、俺達に近づいて来る人影があった。

それは同じ模型部の部員。見れば、その内の一人は先日先輩がパーツハンターの特徴を聞いた人だった。彼は確か3年生だ。

と言うことは、後の2人がパーツハンターの犠牲者……。

「ようナガサキ。対戦表見たか?ミズシマとアシダってお前のチームだろ。最初に当たるの、俺の後ろの2人だぜ」

「パーツハンターは?」

「俺らに勝ったら、次に当たることになるぜ」

緊張が走る。

思ったよりも早い……一回勝てば、もう当たるのか……

「ねえ貴方」

後ろに控えていた2人が、突然俺の眼前のテーブルに手をついて話しかけてきた。

驚いた俺は身を引いて顔を上げる。

そこにあったのは、まるでシン・アスカの憤怒の形相のような顔だった。

「貴方達今、パーツハンターとのバトルのことを考えたでしょう?貴方達の相手は私らで、それで終わりよ」

「あぁ?どういうことだコラ」

カイトが額に青筋を立てて答える。

「言葉通り。貴方たち、パーツハンターの特徴を聞いてたらしいじゃない。狙っているんでしょう。パーツハンターを」

「ヤツらは俺らの獲物だ。リベンジして、ぶっ潰してヤツらのガンプラにも同じことをしてやる」

パーツハンターにやられたと思しき2人は、160cm台の女性と170cm台の男性の2人組だった。

女性の方はTシャツにジーパン、上着はチェックのシャツ。

男性の方は軍服みたいな迷彩柄のシャツに迷彩柄のズボン。そしてマスクをしている。

「パーツハンターを倒すのは私たちよ。これはリベンジ……復讐なのよ。だから一回戦、勝ちは譲ってもらうわ」

「へえ……望むところじゃねえか」

カイトは立ちあがり、テーブルに手をついている女性の腕を掴もうと手を伸ばす。

するとその腕を、マスクの男が逆に掴み、睨みつけてきた。

怒りの形相を浮かべる2人組。

俺らはこれから、この復讐鬼と戦うことになる。

 

 

 

後篇へ続く




読了お疲れ様でした。

後篇はユウジ&カイトVS復讐鬼2人組とのガンプラバトルです。
パーツハンターと言う単語が出てきましたが、これはガンダムビルドファイターズA(アメイジング)と言う、アニメ本編の前日請にあたる漫画に登場したキャラクターを指す名称です。
あの漫画はアニメの設定を若干補足してくれているので、かなり好きです。

次回更新は……年明けになるかもしれません。できるだけ早めに投稿できれば良いなとは思っています。ガンプラ写真もまだ投稿できてませんし……ガンプラ写真くらいなら、年内に投稿できると思います。つまるところ全然未定って感じです。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第四話「壊れた翼」後篇

閲覧ありがとうございます。
今回はタッグ大会一回戦です。

ストライクフリーダムコマンド(ストライクフリーダムのカスタム機)
 &
ティフシーガンダム(艦これのヲ級風ガンプラ)

 VS

ブレイヴGO改(金塗装のブレイヴ+武装変更)
 &
ゼクミーヌス(ゼクアイン+武装変更)


 俺とカイトはバトルシミュレーターの前に立った。先輩は観客席で見ている。

シミュレーターの向こう側にいるのは、同じ学校の生徒であり、同じ部の仲間であり、今は復讐鬼と化した男女二人。

「カイト、始まったらすぐに隠れられそうな所に避難して。俺はなるべく前に出て注意を引きつける」

「……大丈夫か?あいつらの顔見えるだろ。あの勢いで迫られたらたまったもんじゃねえぞ」

カイトの言う通り、対戦相手の二人はずっと険しい表情でこちらを睨みつけながら会話している。まるで俺たちが彼らの恨んでいるパーツハンターなんじゃないかと錯覚してしまうほどに。

「きっとアイツらは今、パーツハンターをぶっ倒すことしか考えてないんだろうよ。そしてそれを邪魔するやつらは同列の悪。そういう目をしてる」

俺は聖人でも、メイジンでも、ましてや善人ですら無い。だから復讐に取り憑かれて憎悪を剥き出しにするあの二人を見ても、恐怖しか抱けない。戦ってその地獄から救ってやろうとか、パーツハンターは俺に任せろとか、そういう格好良いことも言えない。

ただ、一つだけ感じることがある。

それは多分、ガンプラファイターなら誰でも持っている意地なんだろう。

「あんな状態のファイターを勝たせるわけにはいかない。勝っちゃダメだ。俺たちが勝とう、カイト」

「言うじゃねえか。主役はお前に譲るぜ、ミズシマ!」

シミュレーターからシステム音声でガンプラとGPベースのセットを促される。

俺たちは配置につき、それぞれのガンプラを出撃させる。

「ミズシマ・ユウジ、ストライクフリーダムコマンド、行きます!」

「アシダ・カイト提督、ティフシーガンダム、着任します!」

俺とカイトのガンプラが出撃した先は、海上だった。こちらとあちら、お互いにわずかに陸地があるようだ。

『キタぜミズシマ!俺は早速海中に隠れる。油断すんなよ!』

カイトがそういうと、ティフシーガンダムは水中へと消えていった。

俺は陸地でガンプラの各所の動きをチェックする。

このストライクフリーダムコマンド、通常のストライクフリーダムとの相違点はビームシールド発生装置が緑色に塗られ、ファンネルが黒くコーティングされていること。それ以外は稼働範囲や操作系統は通常と同じにしてある。

「この装備がどこまで通用するかは、やってみないと分からない……!」

ストライクフリーダムコマンドを飛び上がらせ、対戦相手の位置を確認する。まだ遠いが、レーダーには映っている。2機ともまっすぐこちらに向かってきている。

「これなら、両方一緒に相手に出来る……!」

俺はストライクフリーダムを敵機の方向へ動かし始めた。その瞬間、画面中央に警告マークが表示される。

咄嗟にブーストを吹かして急浮上する。すると、足元を極太のビームが通り去っていった。

「今のは……ガナーザクウォーリアのオルトロス高エネルギー長射程ビーム砲か?」

敵はガナーザクウォーリア。そう想定し、接近を急ぐ。遠距離攻撃を連発されては敵わない。回避にだってエネルギーは使用する。

「粒子エネルギー反応が増大……二発目か?」

ストライクフリーダムのブーストボタンに指を掛け、すぐに上昇運動が出来るように準備をする。

だが、目の前に現れたのはビーム砲ではなく、ガンプラ本体だった。

「き、金色のブレイヴ……!?」

それは一見すると金と黒で塗装されたクルーズポジションのブレイヴ。

ブレイヴと言えば、飛行モードであるクルーズポジションと人型に可変する細身で素早いイメージ……のはずだが……右半身に違和感があった。

右腕がガフラン、右ブースターの位置にオルトロス高エネルギー長射程ビーム砲、そして背後の太陽炉の真下に大きなエネルギータンクがくっついている。

飛行モード時に本体の前方に装着されているGNビームライフル「ドレイクハウリング」は銃口が既に無かった。

それが凄まじい勢いで突っ込んでくる。回避をしようと急上昇したが、読まれていた。

軌道修正して、体当たりしてくる。

そしてその勢いのまま、空中を引き回される。

「まさか、そのブレイヴは……!」

『そうよ。パーツハンターにぶっ壊された、私のブレイヴ!』

執念。その言葉がよく似合いそうな声色で入った通信に、俺は一瞬よりは長く竦み上がった。

剥がれたであろう塗装の上から塗られた塗料、砕けたであろうパーツの接着跡、欠けたままのパーツ、そして無理やり取り付けられた腕と武装……

復讐鬼。その名が相応しいガンプラだった。

『イシジマ・ユキ、ブレイヴGO改、推してくよ!』

「くっ……も、もう一機は……!?」

随分と上空まで押し上げられてしまって確認できないもう一機。レーダーを見ても反応が消えている。

ブレイヴを引き剥がそうとストライクフリーダムを操作しながら、カイトに通信を入れる。

「ごめんカイト、一機見失った!」

『おうミズシマ、こっちもすまねえ。そこ上空すぎて俺のカメラじゃ距離感が掴めん。なるべく高度を下げてくれると助かる!』

「了解!」

ブレイヴGO改の胴体を掴み、捻る。胴体は可変時の軸になる。ここを捻るとガンプラの上半身と下半身が歪み、体勢を維持するのも大変なはず。

そう思い、勢い良く捻りあげたら……装甲がベキっと言う嫌な音を立てて剥がれた。

「うわわわ!?ご、ごめん!?」

『……何を謝ってんの一年生。二年生として忠告してあげるわ、これはガンプラバトルよ。相手のガンプラを壊す覚悟が無いなら、とっとと場外にでも出なさい!』

ブレイヴGO改が、ストライクフリーダムを離さないように方向転換した。進行方向は、一番近いエリア端……場外。

俺の異変に気がついたカイトが通信を入れてくる。

『マジかよ……ミズシマ、踏ん張れ!』

「そ、そんなことを言っても、ブースターを使うとエネルギーが……」

『場外よりゃマシだ、吹かせ!』

俺は舌打ちをしてからブーストを吹かしてブレイヴGO改を押し返し始めた。

その推進力は凄まじく、減速の後、押し戻し始めた。

『な、なんなのその出力は!?』

「流石は先輩のストライクフリーダム……このまま一気に!」

腰からビームサーベルを取り出し、逆手に持って突き立てようと振り被る。

その瞬間、ブレイヴはクルーズポジションを解除してストライクフリーダムから離れた。

ドレイクハウリングを構えてこちらに撃ち込んでくる。

俺は構えを解いてビームを避け、ブーストを吹かして斬り込もうとする。

その瞬間、エネルギー残量が5%以下になり警告が表示されて著しく動きが鈍った。

ブースターが止まり、ビームサーベルが消える。それを見たユキは、笑いが混じった声で叫んだ。

『やっぱりエネルギー問題は解決していなかったのね!一年生にしては良い動きだと思ったけど、やっぱり最初の選考会の時のままね!』

勝利を確信したのか、ブレイヴGO改は背後からオルトロス高エネルギー長射程ビーム砲を取り出して構えた。

そしてすぐさまチャージが完了し、撃ち込んでくる。どうやら背後に増設されたエネルギータンクが、ビーム砲に急速にエネルギーを送る仕組みらしい。

だが今はその仕組みが"ありがたい"。

俺はコンソールから特殊兵装のウィンドウを開き、"test"と書かれた格好良さもへったくれもないボタンを押す。

「ストライクフリーダムコマンド……頼む!」

両腕のビームシールド発生装置を頭の前に出し、ビームに対して垂直に構えた。

その様子を見て、ユキはいくらビームシールドでも威力を殺しきれないと思っただろう。

だが、結果は違っていた。

ビームは完全に消え去り、無傷のストライクフリーダムがそこに居た。

更に、エネルギー不足で動きを鈍らせていた筈のストライクフリーダムは軽快に構えを解き、ドラグーンを周囲に飛ばして見せた。

「……成功だ……!」

今行ったのは、ストライクフリーダムコマンドの新装備"アブソーブシステム"。

システムそのものは7年前に考案されたものだが、使用が難しいこともありあまり普及していない。

だが、"敵の放ったビーム攻撃をエネルギーに変換できる"強力なシステムだ。

俺はそれをビームシールドの代わりに両腕に取り付け、エネルギー不足という欠点を克服すると共に強力な防御兵装にした。

『まさか……アブソーブで回復を……くっ、この泥棒野郎が!』

ブレイヴGO改がドレイクハウリングを撃ち込んで来る。吸収する要領が分かった俺は、そのビーム弾を全て腕のアブソーブシステムで吸収して見せた。

『……くっ』

回復させるだけだと気がついたのか、ブレイヴGO改はドレイクハウリングを下げてガフランの右腕を構える。

近接格闘で戦おうとしているんだろう。俺はドラグーンをブレイヴGO改の周りに展開する。

『うおぁあぁ!』

叫び声と共に、ストライクフリーダムに突っ込んでくる。俺はブレイヴGO改の頭部目掛けてドラグーンを突っ込ませた。

激しい衝突音と共にブレイヴGO改は動きを止める。

『なっ!?こ、このドラグーン、まさか近接用!?』

「……そうですよ」

俺はたっぷりと間をとって話しかけた。こういう時は、どうしても気が大きくなる。悪い癖だと思いつつも、こういうのもガンプラバトルの醍醐味だと考えてしまう。

「俺のストライクフリーダムコマンドの新装備は、アブソーブシールドと、このドラグーンフィストの2つです。この二つで、俺はイシジマ・ユキさんに勝ちます!」

俺は啖呵と同時にドラグーンフィストを次々にブレイヴGO改に叩き込む。ドラグーン百烈拳。小学生の頃の思いつきの攻撃を、こんな形で昇華できるなんて思ってもみなかった。

元々ドラグーンは消費エネルギーが激しい。空中に飛ばすときに内部に粒子を貯蔵させ、それを飛ばすわけだ。

ならば最初から粒子を割り振らず打撃用として用いれば良い。その発想に至った為、ドラグーンに薄いゴム皮を貼り付けておいた。これなら粒子を通さない為、粒子を用いた武器にも耐性ができる。

このまま押し切……

『……押し切られるわけにはいかないのよ!トランザム!』

赤くなったブレイヴGO改はガフランの腕からビームサーベルを出し、振り回す。無茶苦茶に振っているわけでは無い。

的確に、迫るドラグーンの軌道を逸らすように凪いでいた。

俺はその操縦技術に驚き、見惚れてしまう。その一瞬の隙を突き、距離を取られる。

ストライクフリーダムコマンドは近接戦闘用。慌てて距離を詰めようとブーストを吹かすが、トランザムを発動したブレイヴGO改は3倍の速度で移動している。常に一定の距離を保たれ、一向に近づけない。

しかし、ブレイヴGO改は徐々にその速度を落としていく。

それもその筈、元々ブレイヴGO改は各所が破損した状態だった。その状態で負荷がかかるトランザムを続けていたら……

「ユキさん、それ以上は……苦しいだけです」

『黙りなさい!対戦相手を心配するような言葉を吐くんじゃないわよ!』

ジョイントパーツが折れたのか、破損音と共にブレイヴGO改の左腕が外れて海へ落ちていく。

パーツをばら撒き、亀裂音を発しながらも動き続けるブレイヴGO改を、これ以上見ていられなかった。

『よそ見を、するな!』

「!」

視線を逸らした瞬間、方向転換してきて体当たりを食らう。その時の衝撃でブレイヴGO改の頭部が外れて、海へ落ちる。

ブレイヴGO改は再び一定の距離を離し、こちらを牽制し続ける。

『分かってるのよ、今の私のガンプラじゃ勝てないってことくらい!』

ドレイクハウリングを撃ち込んでくるが、全てアブソーブシールドで吸収する。ヤケになったのか、ドレイクハウリングをこちらに投げつけてくるが、ドラグーンフィストで吹き飛ばす。距離が、徐々に縮まる。

『でも、戦わないわけにはいかないの!パーツハンターを倒す機会があるなら、しがみつかなきゃいけないの!』

距離が縮まって射程に入ったことで、ドラグーンフィストが自動的にブレイヴGO改へと向かう。

ブレイヴGO改はガフランの腕から出したビールサーベルでドラグーンフィストを薙ぎ払うが、途中でサーベルの根元部分が外れる。取れたパーツは無残にも歪んでいた。

『……苦しいわよ。自分の相棒を、こんなボロボロにしてまで戦わせるのは……でも、戦わずに逃げるのは、もっと苦しいの』

「ユキさん……」

『……』

突然動きを止めたブレイヴGO改。オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲を構えて、チャージ時間もそこそこに撃ち込んできた。

「っ!?」

ストライクフリーダムの両腕のアブソーブシールドでそれを吸収する。

これ以上やっても、ただエネルギーを吸われるだけだ。だが、ブレイヴGO改はビームの放出を止めなかった。

「……まさか……!」

『ちゃんと受け止めなさい……一年生。それが勝者の義務よ。敗者の無念も、怨念も、怒りも、全部引き受けなきゃいけないの』

全てのエネルギーを撃ち尽くしたブレイヴGO改は、そのまま落下し始めた。海の中へと落ち、レーダーからも反応が消えた。

「……受け止める……」

俺は最大値を超えたエネルギーゲージを見つめ、コントローラーを握りしめた。

 

 

 その頃、カイトは水中で敵ガンプラと対峙していた。

相手は凄まじい速度で水中を移動し、こちらとの距離を測っているようだった。

「やばいな……ティフシーガンダムは水中に隠れることを想定しちゃいるが、水中で自在に戦うようには出来てねぇ」

海上戦闘を想定しており、水上に安定して浮く方法や深度の浅い海を移動する方法は持っている。

なので持っている武装は、空中にいる相手に有効なものがほとんどだ。

海中を移動する敵を探知する仕組みはあるが、戦闘は想定していない。

「マジで困った……一か八か、水中にビット飛ばしてみるか……?」

想像して、やはりやめた。水圧のせいでまともに航行できないビットは敵にとって良い的にしかならない。

ここでビットを減らされるのは、避けたほうが良い。

「くそ……待ってても仕方ない、こうなりゃヤケだ!」

俺はコントローラーからモードチェンジのボタンを押した。

背中の武装"WOヘッド"を頭部に被せ、ティフシーガンダムを水中、レーダーの示す深度まで下げて突っ込ませる。

「いざってなったらバルカンもフレスベルグもある!相手が水泳部じゃなきゃ意外と行けるんじゃねぇか!?」

俺はカメラをソナーモードに変更した。WOヘッドを被った状態で使用可能になるソナーモード。

これは原作機体には無い機能で、カイトが考えて、ナガサキ先輩と共に実装した物だ。

この状態は視界を完全に遮断する代わり、全ての情報をプラフスキー粒子の反射で表示する。

真っ暗な視界に、反応があった空間が白く光って表示される。

「行くぜ、アクティブソナー!」

ティフシーガンダムの周囲に、超音波を発生させる。超音波に触れた粒子が、カメラに白く表示される。

もちろん周囲の水もプラフスキー粒子なので反応するが、水の振動程度の反応は無視するように設定してある。水よりも大きい粒子、つまり敵ガンプラのような粒子を貯蔵している物体に当たった場合に反応するようにしている。

そしてやはり、同じ深度に光る影が映った。位置は、正面。

「よぉし……一気に撃ち抜いてやる!」

俺はフレスベルグをぶっ放した。全く気にしなくても良いと言う程ではないが、ミズシマのストフリみたいにエネルギーを気にするほどの消耗じゃない。

代わりにというか、これが普通だが、一撃で仕留められるくらいの威力は無い。直撃してもダメだろう。ましてや水中。水の抵抗が大きい為、更に威力が落ちるはずだ。

フレスベルグが水中に消えていった後、俺はパッシブソナーを付けた。

パッシブソナーは超音波を発するのではなく、周囲の粒子の動きを察知する。派手に水をかき分けて移動していたりすれば、それだけ多くの粒子が動く。それが白く表示される。

「お、居た居た……ってこっち向かってきてるじゃねぇか!?」

どうやらフレスベルグは外れたようで、凄まじい勢いでこちらに向かってくる。当たり前だが、こちらの位置がばれたということだ。

俺はカメラを通常モードに切り替えた。そこに映ったガンプラは、ゼクアインだった。

いや、ゼクアイン"だった"ガンプラ、と言った方が良いかもしれない。

アンテナが無いが、頭部や胴体、足などは確かにゼクアインだ。だが、左腕が得体の知れない巨大な爪のような武装になり、腰にはそれぞれ形違いのレールガンのような装備。バックパックには巨大なブースター。恐らく水中用だ。

そしてゼクアインの独特な両肩のラッチは外され、そこには大型のバーニアが取り付けられている。

「……な、なんだよそのゼクアインは……?」

『ゼクミーヌス……二日で仕上げた急造品だが、お前のヒョロっちいガンプラを潰すくらい訳無いぜ』

突然、相手が音声通信でなく映像付きの通信を送ってきた。

映っていたのは、マスクの男。

「よぉ、お前か……聞けばお前、俺らと同じ一年生らしいじゃねぇか。なんだぁ、二年生のお姉さまとタッグ組んでるから気が大きくなってんのか?」

『俺の名前はダイモン・トウキだ、アシダ・カイト。次にユキさんの話題を出したら即ぶっ潰す』

凄まじい眼力で睨みつけてくる。俺も大概人のことを言えないが、こいつ本当に高校一年生か?

迫り来るゼクミーヌスはティフシーガンダムの眼前で止まり、腰のレールガンを取り外す。良く見れば、そこには刃がついていた。銃剣だ。

まさかとは思ったが、このガンプラは水中近接用……ズゴックやゴックのように運用する想定で設計されている。

「なんて無茶な設計……もしかしてこのガンプラ、パーツハンターにぶっ壊されたのを改修して来たのか!?」

『そうだ。ユキさんも同じだ……パーツハンターをぶっ潰す為に作ってきた。お前らに、俺たちの覚悟を超えられるものか!』

巨大な爪を振り上げて殴りかかってくるゼクミーヌス。ティフシーガンダムを浮上させてそれを避けるが、空振りすることなく、そのままの速度で水中を航行し始めた。

バックパックのブースターからスクリュー音が聞こえ、肩のバーニアが角度を変えて進行方向を調整し、俺のガンプラの真下に張り付き、振り上げた爪を再び振り下ろそうとする。

『当たるまで何度でも振り下ろす!』

「うおぁあぁ、怖え!」

WOヘッドをバックパックに戻し、速度を上げて海上へと逃れる。勢いよく水上へと飛び出し、振り返る。

そこには、同じく水上に飛び出してきたゼクミーヌスの姿。

「空中まで追ってくるのかよ!」

『宇宙だろうが地中だろうが追っていく!そのための強化ブースターだ!』

空中に出た途端、ゼクミーヌスのバックパックの中で回っていたスクリュー音が消え、ジェットが噴射し始めた。

とてつもない接近速度で、あっという間に追いつかれる。

「くっ、サーペント!」

WOヘッドから伸びる白い触手、サーペントを操って爪を止めようとする。だが、その圧倒的な質量で弾かれ、サーペントで守った本体ごと吹き飛ばされる。

『甘い!そんな細いアームでは何も貫けん!』

銃剣を、ロクに構えもせずに撃ち込んでくる。狙いはデタラメだが、威力が高かった。掠っただけで肩マントのパーツに傷がついた。

まずい、直撃を食らったらパーツ破損じゃ済まない。

「艦載機、発艦開始!」

ビットを飛ばしてゼクミーヌスを包囲する。ビットは基本的に目標との距離を一定に保つように設定してある。

何も指定せずとも、その内の2つが対角線を描くようにビットからビームサーベルを出して突撃を行う。

待機距離まで移動したら別の2つが、同じことを行う。

これを繰り返すことで永遠に敵を牽制し続ける仕組みなのだが……

『邪魔だぁ!』

爪でビットを叩き落とし、レールガンで撃ち落とし、ビットを振り切る加速で包囲網を抜け、こちらに向かってくる。

力技……パワフル過ぎてこちらの戦法が一切通じていない。

「ウッソだろお前、それ壊れてるの直しただけじゃねぇのかよ!」

『そうだ!壊されたのを直して、強化したんだ!このガンプラなら、パーツハンターをぶっ潰せる!今度こそ、ユキさんを守る!』

爪を用いての打撃。防御の暇すらなく、まともに食らってボディパーツが破損し、海へ落とされる。

WOヘッドを被り、頭上からの攻撃に備えるが、放たれたのは"突き"だった。

爪の間に仕込まれたビームサーベルがWOヘッドを貫通し、肩を突き刺していた。

「マジ……かよ……」

『……お前、このガンプラ、本当に勝つために作ったのか?』

ゼクミーヌスが動きを止め、ティフシーガンダムを突き刺したままトウキが再び通信で話しかけてくる。いや、話しかけるというか、怒りをぶつけてきているような感じを受ける。

「はっ、楽しむために作ったに決まってるだろ」

『そうか。本気でやって悪かったな』

そのセリフは、カイトが遊びで戦っているんだと言っていた。

そして自分は遊びでやっているのでは無いと、言っていた。

カイトはそれが許せなかった。以前ユウジに偉そうに説教した時とは少し状況が違うが、つまりはそういうことだ。

「はっ、ガチ勢気取りかよ……エンジョイ勢だってなぁ、本気で遊んでんだよ!」

こいつに説教垂れても仕方ない。はっ倒して分からせる。

カイトはコントローラーから特殊兵装"FlagShip"を選択した。

その瞬間、ティフシーガンダムの周囲を金色の光が包む。突然ゼクミーヌスの爪の間から出ていたビームサーベルが消え、ティフシーガンダムは海から上がってくる。

『なっ、これは……粒子が変化している!?』

ゼクミーヌスが若干距離を取ると、ビームサーベルが復活した。それを見てトウキはそれが何であるか理解したらしい。

そう、FlagShipを発動するとティフシーガンダムは周囲の粒子は金色に輝く物質に変化させる。

……変化させるだけだ!

特に性能が3倍になったりしない!

だが、思わぬ副作用として、ビーム系に物質化している粒子情報までも上書きすることが分かった。

つまり、エネルギー物質完全無効果バリアってわけだ。まさか艦これのフラグシップを再現しようと思って作ったジョークコマンドがこんな性能を持つとは、思ってもいなかったが。

「どうだガチ勢……エンジョイ勢の本気、見せてやるぜ!」

俺はビットを呼び戻し、神風特攻剣を構築して斬りかかる。

ゼクミーヌスはそれを爪で受け止め、銃剣を突き刺そうとしてくるが、ティフシーガンダムのサーペントで剣を押さえ込む。

俺は空いている左腕で肩マントについているフックガンを取り出し、ゼクミーヌスの肩装甲とバーニアの間を撃つ。

するとフックが隙間を通過し、ワイヤーが引っかかる。

『お前、まさか……!』

「部位破壊だぜ!」

ワイヤーを思いっきり引くと、戻ってきたフックがバーニアと肩装甲の間を直撃。接続部分のジョイントを破壊した。

バーニアは海へと落ちていく。

機動力を削ぐしか、こいつのパワーに対抗する手段は無い。ならば、こういう戦い方をするしか方法が無い。

だが……それでも縮まらない差というものは、存在した。

『……俺のガンプラに何すんだぁああぁあ!』

突然出力が上がったゼクミーヌスの爪に押し込まれ、神風特攻剣ごと押さえ込まれてしまう。

左手の銃剣を海へと放り投げ、サーペントを鷲掴みにしてちぎられた。

「なぁ!?ど、どんな出力してんだよ!?」

『言っただろう……こんなガンプラ、潰すのは簡単なんだよ……!』

だが、そんな無茶な出力に、ガンプラは悲鳴を上げ始めていた。

各関節から嫌な音が聞こえているし、無茶をしている左手の拳パーツはヒビが入っている。

それでもゼクミーヌスは止まらない。サーペントをちぎった後は肩パーツを、腰パーツを、次々と剥いでいく。

『お前をすぐにぶっ潰してユキさんの援護に向かうんだ……ユキさんは、俺が守るんだ……!』

「何だよお前、随分焦ってると思ったら相方の心配かよ!目の前の俺に集中しろって!」

『黙れ!お前みたいな遊びでやってる奴に、俺の気持ちが分かるはずは無いんだよ!』

その叫びのあまりの迫力に、俺は黙るしかなかった。トウキの"本気"は、俺たちとは違う次元にあることを、理解したからだ。

トウキはガンプラバトルを遊びだと思っていないし、遊びでやっているわけではない。

トウキの言うとおり、こいつはユキさんを守る為にガンプラバトルをやっている。

その気持ちを超えない限り、俺がこいつに気迫で勝ることは無いだろう。

「……参ったなぁ。理屈じゃないってのは……すまねぇ、ユウジ」

俺が負けを覚悟した時、突然ゼクミーヌスの動きが止まった。

何事かと周りを見渡すと、上空にストライクフリーダムコマンドが居ることに気がつく。

まさかと思いゼクミーヌスを軽く押すと、四肢を力なく放り出して海へと沈んでいった。背中部分が大きく破損している。

この威力は、ストライクフリーダムのカリドゥスだろう。

『カイト、間に合って良かった。勝って来たよ』

「……あぁ、さんきゅーなユウジ」

ゼクミーヌスが完全に海に沈んだ時、システムコールが終了を告げ、俺たちの勝利が確定した。

 

 バトルフィールドが消え、装置の上にパーツが外れた4つのガンプラが残った。

この大会のダメージレベルはB。バトル中に破損しているように見えても、実際はパーツが外れるだけで済む設定だ。

……だったのだが……イイジマ・ユキのブレイヴGO改とダイモン・トウキのゼクミーヌスは、実際にパーツが欠け、プラスチックがひしゃげていた。

「……まぁ、あんだけボロボロの状態で戦えば、ね……」

「ユキさん、すいません……」

「泣くなトウキ。私たちはパーツハンターをぶっ倒すって決めたでしょう。私はそれを叶えるまで、バトルをやめる気は無いからね。その間、私を守ってくれるんでしょう」

「……はい!」

「ユウジと、カイトだっけ」

破損したガンプラを回収した二人が、俺たちに話しかけてくる。

バトル開始前とはまるで別人のような、優しい微笑みを浮かべている。例えるならそれは、スメラギ・李・ノリエガのような、大人の笑みだった。

「勝ったんだ。背負ってもらうよ。私らの……無念。パーツハンターの野郎に勝っても負けても、その無念だけは持ってってくれ」

そう言って俺たちの前から去る二人の背中を、俺は忘れないだろう。

後悔と無念と憎悪と怒りが混じった、その背中を。

 

第4話「壊れた翼」 -完-




読了お疲れ様でした。
今回は濃い話になったと思ってます。
ユウジは新武装を、カイトは新機能のお披露目でした。

ちなみにユキちゃんとトウキ君は幼馴染です。トウキ君は距離のある喋り方をしているように見えますが、人目のある所では敬語を話す癖がついているだけです。成人するころに結婚するんじゃないっすかね。リア充爆発しろ(どうした)

あ、ちなみにダメージレベルBなのにガンプラが破損したのはおかしいって思われるかもしれませんが、元々ボロボロで関節が外れかかっているような状態であったのを無理やり動かしていたのでそうなった、とかそういう解釈でお願いします。

次回はパーツハンター登場の予定です。ちなみに現段階でパーツハンターの人物設定は毛ほども決まっていません!(どうしよう)

あと、ほぼ同時にティフシーガンダムの設定も投稿されてると思います。
次回更新日時は1/24予定です。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第五話「壊れている翼」前篇

閲覧ありがとうございます。
今回はタッグ大会二回戦です。
今回は前篇でバトルです。対戦カードは以下の通り。

ストライクフリーダムコマンド(ストライクフリーダムのカスタム機)
 &
ティフシーガンダム(艦これのヲ級風ガンプラ)

 VS

レッドゲイザー(非武装状態の赤塗装のスターゲイザー)
 &
エニグマ(非武装状態のケルベロスバクゥ)


 ホビーショップアナハイムのフードコート。一回戦の試合に勝利した俺とカイトは、先輩と合流して昼食を取っていた。二回戦は午後から始まる。

昼食時、先輩は俺たちの試合の時間帯に隣のシミュレーターでパーツハンターが戦っていたことを教えてくれた。

「少し見たけれど、使っていたガンプラはスターゲイザーの改造機だった」

「もう一人は?」

俺の質問に、先輩は言葉を濁らせた。

帰ってきた答えは、想像もしていなかったものだった。

「機体登録名称は"エニグマ"。パーツハンターらしい……おぞましいガンプラだった」

先輩はスマホで撮影した試合の様子を見せてくれた。

そこには、無数のガンプラのパーツを組み合わせて作られている、ガンプラのような何かが写っていた。

ただ、試合の最後、相手のガンプラと相撃ちになって大破している。

いや、見方によっては、ストライクと一緒に自爆したイージスのように、わざとやっているようにも見えた。

「……惨いな」

「えぇ……これがパーツハンターと呼ばれている2人みたいね。倒せば、私たちのチームの宣伝になるわ。入りたいと言う人も来るかも」

そう。最初は俺たちのチームの宣伝が目的だった。

そのために派手で目を引くドラグーン百烈拳を戦術に組みこんだり、アブソーブシールドのような珍しい機能も入れた。

けれど、もうこの大会は"アピールのための戦い"ではなくなった。

背負ってしまった、イイジマ・ユキとダイモン・トウキの無念を晴らすための戦いになっていた。

それを感じているのは俺だけじゃないと思う。

カイトも先輩も、朝食を食べていた時とは全然違う表情をしている。

不安でいっぱいな表情だ。たぶん、俺もそうなんだろう。

「暗い!暗いぜ1年生チーム!」

突然声をかけられて驚いて顔を上げると、そこにはハイネ・ヴェステンフルスのコスプレをした部長が立っていた。

ってか声も西川さんに似せてる。池田さんと言い、石田さんと言い、部長の声帯どうなってんだ。

「あれ?部長さん、今日の大会には出場しないって言ってましたよね?」

カイトが疑問を口にする。そう、たしかに部長は今日の大会には出場していないはず。

だとすると、見学か応援だろう。

……そうだ、部長はパーツハンターにやられたイイジマとダイモンの2人のことを知っているはず。

その2人の応援に来ていたのかもしれない。

けど、俺達が一回戦で倒してしまったから、代わりに俺達の所に激励に来たのかも。

「あぁ。今日の俺はただの外野だ。だから主役のお前たちに声をかけるつもりはなかったんだが……ちょいと、その辛気臭い雰囲気が目についてな」

「え?」

「お前ら、イイジマとダイモンの仇を取ろうとか、あの2人の為にパーツハンターに勝とうとか、そういうことを考えているだろう」

ドキっとした。いや、状況から見れば俺たちがそう感じていると組み取ることは容易なんだろうけど、指摘されるとは思ってもみなかったからだ。

「ふふん」

突然、部長は懐からガンプラを取り出した。それはハイネカラーのディスティニー。

いわゆる限定品と言うヤツで、持っている人は極少数しかいない。

「うわ部長、それめっちゃレアなガンプラじゃないっすか!どうしたんですか!?」

カイトが席を立ちあがってガンプラを舐めるように見つめる。先輩も突然現れたレアなガンプラに視線が釘付けになっている。

「ははは、戦ってみたいか?この俺のディスティニーと」

「うおおぉ、めっちゃ戦ってみたいです!」

「お、俺も……!」

湧きあがる好奇心に耐えきれなくなった俺も、椅子から立ち上がって部長に近寄った。

その様子を見た部長は、ハイネを気取った爽やかな笑みでは無く、満面の笑みを浮かべて笑った。

「おう、大会が終わったらやろうぜ!ガンプラバトルする理由なんて、これだけで十分だからな!」

その一言で、部長が俺達に何を言いたいのかが分かった。

"責任感や義務感でガンプラバトルをするな"と言うことだ。

「朝、イイジマとダイモンにも言おうと思ったんだが、あいつらはもう前を見られない程に濁ってた。でもお前らになら、今俺の言葉が届くと思ったからな」

「部長……俺、俺は……勝たないと、と……」

「おぅユウジ。勝ちたいと思うことは大切だ。その気持ちは持っていけ。けど、その感情の前に"誰かの為に"をつけないようにな。戦いたい戦いを戦え。俺が言えるのは、これだけさ」

そう言うと、部長はハイネの仕草に戻ってその場を立ち去った。

不安でいっぱいだった俺達の表情から、それらが消えたことを、お互い顔を見合わせて確信した。

 

 

第5話「壊れている翼」

 

 

 2回戦。会場で待っていた俺とカイトの前に現れたのは、小柄で金髪の男と帽子を被った黒髪の女。

こいつらが、パーツハンターと呼ばれる2人組。

「はぁ!?またガンプラ壊した!?おぅお前大概にせぇよミズキぃ!」

「や~ん、怒らないでよぉシキっち~」

……だよな?

今、目の前でコントやってる2人組が、イイジマとダイモンのガンプラを破壊してパーツを持ち去ったにっくきパーツハンター……なんだよな?

カイトに確認した所、容姿は目撃証言と一致するらしい。

「ったく、ほら。これ使えよ。武装ほとんど無いけど、お前なら何とかなるだろ」

「や~ん、シキっち優しい~。あ~ワンちゃんだ~!」

シキっちと呼ばれる金髪の小柄男から手渡されたのは、首が一つだけのケルベロスバクゥ。

別に改造してあるとかではなく、二つの首が取れているだけ。つまり非武装状態と言う訳だ。

良く見ると両脇のブースター付きウィングも無い。

「一昨日ガンプラバーで勝負挑んできたオッサンのだ。そんときムカついてたからぶっ壊しちまった」

「いいよぉ~、何もついてなくて。このままで十分に可愛いし!」

会話を聞いて、ようやく彼らがパーツハンターなのだと理解できた。

だが、それと同時にこちらを完全に舐めて掛かっていることも分かった。

カイトは額に青筋立てて今にも殴りかかりそうだ。

「あいつら舐め腐りやがって……ミズシマ!ぶっ飛ばしてやろうぜあいつら!」

「う、うん。やってやろう、カイト!」

俺達は互いの顔を見合った。大丈夫。カイトは口ではああ言っているけど、ちゃんと楽しんでいる顔をしている。

たぶん、それもそうだ。

そんな俺達の様子を見たパーツハンターの2人が、こちらに声をかけてきた。

「随分と余裕だなオイ。お前ら、大岩学園の模型部だろ。そこの部員ぶっ飛ばしたから、てっきり警戒して来ると思ってたんだがな」

「いいよぉ~ミズキは楽しんでバトルする人好きだよ!」

2人の瞳には、俺達が知らない光が灯っているように感じた。

それは邪悪の化身だと思いたい俺達だけに見える光なのか、この二人と自分たちの圧倒的な実力差を感じ取って見える光なのか。

それは分からなかった。

『プリーズ セット ユア GPベース』

「あ~、時間だよぉシキっち!」

ミズキがパタパタと手足を振りながら持ち場へ走っていく。それを追うように、シキも歩きだした。

俺達も持ち場に付き、GPベースとガンプラを取り出す。

「ミズシマ・ユウジ、ストライクフリーダムコマンド、行きます!」

「アシダ・カイト提督、ティフシーガンダム、着任します!」

 

 フィールドはキャッスル。

中心に聳え立つ古城と深い地下洞窟空間が特徴的なフィールドだ。

SD系でなければ入り込めないような空間もあり、なかなかトリッキーな場所だ。

『くそ、海がねぇ。けどこれだけ遮蔽物が多い空間なら、ビットを使っての撹乱は有効的かもしれんな』

「じゃあ、カイトは今回もどこかに隠れる?」

『……いや。今回は敵が敵だ。一緒に行動しよう』

俺達は古城の扉を開いた。中は広く入り組んでいる為、扉を開けた途端に敵に遭遇する可能性もある。

なるべく開けた場所を選んで移動する方が良いだろう。

「カイト、待ち伏せする?」

『あぁ。このエントランスの階段下の影入ってビットを使って部屋全体を監視する。やつらが入ってきたらビットで攻撃仕掛けるから、その隙に肉薄してくれ』

「分かった。どっちを先に狙う?」

『エニグマだろう。たぶん、あの金髪の方がそれだ』

先輩の写真では、どっちがどのガンプラを使っているのかまでは分からなかったが、俺もそんな気がする。

シキっちと呼ばれたヤツがエニグマ使いで、赤いスターゲイザーを使っていたのがミズキ。今ミズキはケルベロスバクゥを使っているはず。

ストライクフリーダムとティフシーガンダムは階段下の空間に入り、ビットとドラグーンを部屋の死角に待機させた。

1分ほどして、扉が開いて2つのガンプラが姿を現した。

そこに居たのは、赤いスターゲイザーとケルベロスバクゥだった。

『エニグマが居ねぇ!?』

「まさか……あの赤いスターゲイザーはシキの方か!?」

意外だったが、躊躇っている暇はなかった。

カイトがビットによる攻撃を仕掛けたのと同時に俺は階段の影から出て突撃。ドラグーンも突撃させ、一撃必殺の威力をお見舞いした。

だが、ドラグーンは全てケルベロスバクゥの回転攻撃によって吹き飛ばされ、俺の突撃も赤いスターゲイザーの防御によって止められてしまった。

「くっ、カイト!ビットで支援頼む!」

『……ミズシマ、今、あのスタゲ……"拳で受け止めやがった"ぞ……』

カイトの指摘に驚いて赤いスターゲイザーを注視する。

良く見ると、赤いスターゲイザーにはヴォワチュール・リュミエールが付いていなかった。

まさか、あのスターゲイザー……

「き、近接格闘型!?」

気がついた時、スターゲイザーの拳がストライクフリーダムの頭部に直撃していた。

ふっとばされ、壁を突き破り、隣の部屋までふっとぶ。

『シキっち~、階段下の影が臭うよぅ』

『そーか、んじゃそっちゃ任せる。俺は今吹っ飛んでったヤツぶっ飛ばしてくる』

『あいあいさ~。あ、シキっち、レッドゲイザーの角が取れかかってるよ~』

『マジか。直しとくわ』

『うん!』

オープンチャンネルで会話するパーツハンター。どうやらカイトの居場所にも気づき、各個撃破で行くつもりらしい。

レッドゲイザーと呼ばれていたガンプラが、俺の目の前に現れる。

「カイト!そっちは大丈夫か!?」

『武装の無いケルベロスなんてバクゥ以下だ!すぐ倒す!お前の方は!?』

「……倒されないようにしてるから、早く来てくれよ!」

『了解!』

ガレキの中から立ち上がった俺は、迫りくるレッドゲイザーが入ってきたエントランスと真逆の方向へ飛び出した。

近接格闘型と戦っても勝ち目が無い。

アブソーブはビーム攻撃の吸収が行えるシステム。そして格闘型はビーム攻撃を持ち合わせていない。

つまり、格闘型とは手持ちのエネルギーのみで戦うしかない。

元々燃費の悪いストライクフリーダムでは、勝ち目が無い。

「加速しすぎてもヤバイ……ほどほどに反転して応戦する!」

俺は背後を確認する。そこには、走ってこちらに追いつこうとしているレッドゲイザーの姿があった。

「追加ブースターすら無いのかよ……!」

元々スターゲイザーについているふくらはぎのブースターのみを吹かして、こちらに追いつこうとしている。

そもそも、スターゲイザーは戦闘用モビルスーツでは無い。だから武装が少ないのは当たり前なのだが、ヴォワチュール・リュミエールさえ無い状態では攻撃手段なんて本当に殴るのみ。

そしてその殴るのみで戦う気でいる。

「パーツハンターなんて言うから、もっとめちゃくちゃな装備で来ると思ったら……実力派なのか?」

生じた疑問は、追いつかれたことにより消え去った。

俺はとにかく近づけさせないようにと、ドラグーンを飛ばした。

ドラグーンフィストと化したことでエネルギー効率が良くなったので、ドラグーンの運用だけでエネルギー切れになるようなことは無い。

だが、レッドゲイザーはそれを"しゃらくせぇ"とでも言わんばかりに殴って殴って殴り飛ばして、まるで何もなかったかのように俺の方へ迫ってきた。

「うわちょちょちょちょ!?」

慌てた俺は腰のビームライフルを取り出して構える。レッドゲイザーはそれを素手で掴んで取り上げた。

「やばっ……!」

俺は強打を警戒し、両腕を胸の前で合わせ、後方へ飛んだ。

次の瞬間、レッドゲイザーとストライクフリーダムの間にティフシーガンダムのビットが飛び込んできた。

突然のビットの出現にレッドゲイザーが動きを止め、警戒して引きさがる。

カイトだ。カイトが向こうのケルベロスバクゥを倒して、こちらに来てくれたんだ。

俺はカイトに向けて通信を飛ばす。

「カイト、助かった!早かったな!」

『……すまねぇミズシマ……背後に、気をつけろ』

通信が突然切れ、ビットが地に落ちる。

それがカイトが撃墜されたことを表していると言うことは、すぐに分かった。

カイトは負けたんだ。非武装状態のケルベロスバクゥに。

「……嘘、だろ……?」

『シキっち~、終わったよ~』

『おぅ、早かったな』

『えっへへ~、噛み噛みしてたら終わっちゃったよ~』

またもオープンチャンネルで聞こえてきた会話。

仲間がやられたことを告げられ、俺は冷静さを保つので必死だった。

「まずい……あいつらどっちもエネルギー武器を持ってない……こっちの粒子残量はそろそろ限界だ……!」

一か八か、ドラグーン百烈拳を叩きこんで圧殺できるか掛けてみようかと思案していると、レッドゲイザーが先ほど投げ捨てた俺のビームライフルを拾い上げた。

『そういや俺って遠距離武器持ってないんだよな。これ貰って行くか』

レッドゲイザーがビームライフルを構え、撃ち込んで来る。

俺は両腕を構えてアブソーブシールドを発動する。

ビームは掻き消され、俺の粒子残量が少し回復する。

「よし、ラッキーだ!」

『はぁ!?今何が起きた!?』

『ありゃりゃ!?面白い装備してるね!!』

『くっそ!』

シキはアブソーブシステムを理解していないのか、次々とビームライフルを撃ち込んで来る。

それを次々に吸収し、粒子貯蔵量がMAXになるまで回復した。

途中で弾切れになるかと思ったが、どうやらリチャージしてまで乱射してくれているようだ。

これならまだ戦える。

そう思った矢先、レッドゲイザーの横にケルベロスバクゥが居ないことに気がついた。

背後に気をつけろ。カイトの言葉を思い出し、慌てて飛び上がる。すると、真後ろにまで迫っていたケルベロスバクゥの突進をかわすことに成功した。

『避けられたワン!?』

『良い感してんじゃねぇか!』

飛び上がったストライクフリーダムに合わせるように、レッドゲイザーも飛び上がる。

今だ。俺はコンソールから特殊コマンドを入力する。

「ドラグーン百烈拳!」

先ほどレッドゲイザーに殴り飛ばされて周囲に散らばっていたドラグーンが、レッドゲイザー目掛けて突撃する。

ロクなブースターを積んでいないレッドゲイザーは空中で方向転換ができない。

直撃。全てのドラグーンがレッドゲイザーを穿つ。

だが……レッドゲイザーは無事だった。

角は折れ、太もものブースターカバーは破損し、腕が若干破損した程度で、まだ動いてる。

『あいつ……俺のレッドゲイザーに傷を……ふっざけんな……!』

『ありゃりゃ~、シキっちのガンプラを壊した人、外では見たの初めてかも~!』

『初めてだよド畜生!』

周囲に対空するドラグーンを、苛立たしそうに殴りつけるレッドゲイザー。

次の瞬間、思いっきり地面を蹴って跳躍してストライクフリーダムに迫る。

だが、俺は既にカリドゥスのチャージを終えていた。

『いっ!?』

「さっきドラグーン殴ってなけりゃ間に合ったかもな……?」

直撃。向こうから迫ってきていた分、威力も倍増しただろう。

直撃の瞬間、皮肉たっぷりの通信も入れてやった。

たぶんぶち切れしてるだろうが、これでミスを誘いやすくなったんじゃないだろうか。

そう思った瞬間、またもやケルベロスバクゥが消えていることに気がつく。

俺はブーストを吹かしてその場を離れる。

するとやはり、俺の居た場所にケルベロスバクゥの突進が通過する。どこからどう移動したのか分からないが、ケルベロスバクゥは天井を突き破って現れた。

あんなの予感してなけりゃかわせるはずがない。

『うっそ~、私の不意打ちを避けれたのもこの人が初めてぇ~!』

『くっそむかつく!ぶっ壊す!アレやるぞミズキ、離れてろ!』

カリドゥスを食らって地面に叩きつけられていたレッドゲイザーの各部のラインが、光り始めた。

黄色の光だ。

「な、なんだアレ……?」

『俺にこれ使わせるなんて大したモンだよお前』

レッドゲイザーから通信が入った。

そこに映っていたのは、傷だらけシキの顔だった。

「!?お前、それ……」

『お前だよ、お前の攻撃でこうなったんだよ。けど恨んじゃいないぜ。外部の人間にこれ試せるなんて思ってなかったからなぁ!』

レッドゲイザーが立ちあがり、とんでもない速度でストライクフリーダムの背後を取り蹴りつけた。

跳躍・反転・蹴り。その全てのモーションが見えなかった。

気がついた時には蹴られていた。

「なんだ……トランザムか……それとも、エグザムか……とりあえず距離を!」

相手の謎の出力アップの謎を考えながら、俺はとにかく距離を取ろうとブーストを吹かして移動する。

再びエントランスに戻ってきた。そこで見てしまった。

全てのパーツを余すところなく噛み砕かれて沈黙している、ティフシーガンダムを。

「……カイ、ト……」

これはガンプラだ。カイト本人は俺の隣に居るし、この大会のダメージレベルはB。試合が終わればパーツが外れているだけのガンプラが現れるだけ。

けれど……それでも……この破壊は、既にバトルの領域を超えている。

これでは、食い散らかされた獲物と変わらない。

『お!?動き止まった、今だぁ~!』

またもやどこから潜んだのか分からなかったが、階段の影に隠れていたケルベロスバクゥが不意打ちを仕掛けてきた。

オープンチャンネルが付けっぱなしで突っ込んで来ることは分かったが、通常なら向きまでは分からない。

避けようがないタイミング。けれど、何故かこの時の俺にはどこから来るのかが理解できた。

先ほどカイトと同じ所に隠れたからなのか、俺がニュータイプに目覚めたからなのか、別の何かなのか、それは分からない。

背後に迫ったケルベロスバクゥに、俺は裏拳を叩きこんだ。

そして振り向きざまに拳を振りおろし、落下するケルベロスバクゥに向かってドラグーン百烈拳を撃ち込み、カリドゥスを撃った。

『みぎゃっ』

短い悲鳴を上げて、ケルベロスバクゥからの通信が沈黙した。

ミズキが戦闘不能になったんだ。

『……マジかよ。あいつが負けた……?』

エントランスに現れたレッドゲイザー。その姿は先ほどよりも光り輝いていた。

黄色い光が全身を包み、炎のようになっている。

その異様な光景を見たら、普段だったら俺は警戒する。

だが……今の俺にそんな冷静さは無かった。

そしてたぶん、シキにも無かった。

「うわっぁああああ!」

『クソがあああぁ!』

殴りかかったストライクフリーダム。

その背後に迫るレッドゲイザー。

「!?」

何が起きたのかも理解できないまま、俺のストライクフリーダムは背後から貫かれた。

 

 

 

後篇へ続く




読了お疲れ様でした。

今回は前篇にバトルを持ってきました。
パーツハンターとの戦い、いかがでしたでしょうか。

シキが最後に発動した光は何なのか。
そして2人が言う"外"とはどういう意味なのか。
その辺、謎として楽しんでもらえたら良いと思います。

次回更新日時は1/31予定です。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第五話「壊れている翼」後篇

閲覧ありがとうございます。
予定よりちょっと早めに投稿できました。
今回は後篇でもバトルです。対戦カードは以下の通り。

ストライクフリーダムコマンド(ストライクフリーダムのカスタム機)

 VS

ダナジン(無改造)


 アナハイムのガンプラコーナーの端にある非常階段。

アナハイムはエレベーターやエスカレーターが充実しているので、わざわざ階段を使用する客は多くない。

たとえ今日のように大会が開かれてた日でも、利用客は居ない。静かな空間だ。

その非常階段に、俺たち3人は座っていた。

「……っかー、負けたな……」

カイトがそう呟いた通り、俺とカイトの二人は3時間前にタッグ大会2回戦で敗北した。

俺たちはその後模型部の部員に混ざって観戦していたのだが、俺たちを倒したパーツハンターは3回戦に勝利した後に行方不明になり、4回戦は不戦敗となった。

その後、ウチの学校の生徒ではない一般の成人男性のコンビが優勝者になった所で、大会はお開きになった。

客は散り散りになり、模型部の部員もバラバラになった。

ただ俺たちだけは、ここに集まった。なんというか、たくさんのことが起こりすぎて、一旦落ち着かないと、帰ることもできなかったんだ。

「とりあえず、ユウジ、カイト、お疲れ様。なんだか久しぶりに会話をした気分だわ私」

先輩が俺とカイトの肩に手を置く。なんとなくその行動が気恥ずかしくて、顔を背けてしまった。

お疲れ様、と言われたが、結局ロクな結果を得られていないからかもしれない。

1回戦は勝利したが、相手は部員。しかも相手が元々破損したガンプラで戦っていたので、むしろ目立ったのはイイジマとダイモンの側だった。

2回戦は非武装と格闘機を相手にしてKO負け。倒したのは非武装の方をギリギリ倒しただけ。

目立って派手なシーンは無かった。むしろシキ・ミズキの高い操縦技術の方が目立っていた。

完全な咬ませ犬状態で終わった大会。当初の目的"派手な戦いでアピールして新しいメンバーゲット"は果たせそうにない。

「俺ら頑張ったってミズシマ!元気出せ!」

「で、でもさ……」

「ユウジは頑張った。ガンプラの性能をちゃんと引き出してくれていたよ。ドラグーンフィストを使いこなしていたし、アブソーブシールドもちゃんと機能していた。負けたのは、相手の実力が勝っただけ。仕方ない」

先輩の励ましも加わり、何だかあやされているような気持ちになって慌てて返答した。

「そうですよね、俺頑張りましたよね。カイトもお疲れ様。先輩も、応援ありがとうございます」

そう言ってカイトの肩に手を置く。するとカイトは少し顔を歪めて身を竦めた。

手を置かれたのを嫌がったと言うより、痛みがあった……?

「どうしたんだカイト?」

「い、いや、どうも肩を痛めたみたいでな。夢中でやって肩に力入りすぎたかな」

「ちゃんとケアしておきなさい。深刻な怪我になると選手生命に関わるわ」

笑い飛ばすカイトを見てそれほど大した痛みではないことは分かったが、先輩も俺も軽く注意を促した。

「それじゃあ、メンバーについてはまた学校で考えましょう。今日は疲れただろうから、二人とも気をつけて帰ってね」

「先輩は帰らないんですか?」

「ちょっと試したいことが出来たから、ガンプラ買って帰るわ」

「俺も腹減ったからフードコート寄って帰るわ」

カイトと先輩、それぞれ思い思いの方向へと歩いていく。俺は何もする気分にもなれなかったので、そのまま帰ることにした。

いや、何もする気分になれないというか……無力を痛感して、落ち込んでいるというか……

そんな風に煮えたぎらない気分で歩いていたら、突然後方から声をかけられた。

「あれ~、白いガンプラの人だ~」

振り返るとそこにミズキが立っていた。

帽子をかぶった黒髪の、カイトのガンプラを非武装で打ちのめした恐るべき高速操縦技術を持つ化け物が。

「お、お前……」

「黒いガンプラの人は居ないの?あ、シキっちは一緒じゃないよ~」

ミズキは、まるで友達に話しかけるような距離感で会話を進め、いつの間にか目の前に近づいていた。

敵とまでは言わないが、気さくに話しかけくるような場面じゃないと思うのだが……

「最後の攻撃凄かったねぇ!私、外の人に不意打ち避けられたのも反撃食らったのも初めてだよ!やっぱり色んな所で色んな人と戦う方が楽しめるよねぇ!あ、握手して~」

「え?あ、ど、どうも?」

突然褒めちぎられて、何が何だかわからないうちに握手までしてしまった。

なんだこの展開。このあとツボでも売りつけられるのだろうか。

いやいや、でも本当に油断してはいけない。こいつはパーツハンターと呼ばれる人物。

ガンプラを平然と破壊する、もしくは破壊を楽しむ残忍な性格……

「ねえねえ!私も凄かったでしょ!速かったでしょ!いや~頑張ったんだよ四速歩行!あのまま戦いたかったんだけど、シキっちが"ノルマは達成した"とか格好つけてふらっといなくなっちゃうから出られなかったんだよぉ~!」

……残忍な性格……?

ちょっと疑問を押し殺せなくなり、俺は質問をしてしまった。

「ね、ねえ。君、パーツハンター……なんだよね?なんのためにガンプラを賭けて戦っているんだい?」

「ガンプラを賭けてガンプラバトルする人のことをそう言うんだよね?そうだよ!賭けて戦った方が相手が本気になってくれるからだよ!シキがそう言ってたし。外で戦う時はね、ガンプラはシキが用意してくれるんだよ」

質問の答えを聞いて、俺は確信した。

この子は、まだ引き返せる。

「ミズキ……さんって呼ばれてたよね?ガンプラ、自分で作ったことある?」

「無いよー?」

いや、入り口すら見ていないんだこの子は。

それをシキ……小柄な金髪の男が、利用しているんだ。

俺は使命感に駆られた。たぶんガンプラバトルに関わる者なら誰もが抱くであろう凡庸な気持ちだが、それに従わずにはいられなかった。

「そっちの名前はミズシマだっけ?あ、名前似てるね!」

「名前はユウジだよ。そう呼んでもらって構わない。ミズキさん、ちょっとこの後に時間ある?」

「あるよー」

俺はポケットからスマホを取り出して電話をかけつつ、ミズキを連れてガンプラコーナーへと引き返した。

 

 

 ガンプラコーナーに到着した俺は、工作コーナーに座る女の子に声をかけ……ようとして先に声をかけられた。

「あらユウジ様ご機嫌麗しゅう先の大会の映像見させていただきましたわまさかアブソーブシステムとはちなみにあのシステムはラル様が大活躍したアリスタ事件のあった世界大会でイオリ・セイが使ったのが元祖と言われており……」

「さ、サオリちゃん、ちょっと待ってくれないかな……その前に、さっき電話で頼んだことなんだけど」

「えぇ構いませんよ何を作りたいのですかグフなら完璧に教えて差し上げますわ」

会ったのは、ガンプラコーナーでグフを作っていた先輩の幼馴染のイケガキ・サオリ。

彼女には、ミズキのガンプラ作りのサポートを頼んだ。

ミズキは凄まじい操縦技術を持っていてバトルを楽しむことのできる子だ。

けれど、ガンプラを作ったことがなければ"ゲーム"をしているのと変わらない。

ガンプラバトルの持つ魅力に気がつけば、きっとパーツハンターなんて止めてくれる。

だから、ガンプラ製作を体験してもらう。ちなみに俺じゃあまり上手く教えられないから、オリジナルのガンプラを作れるほどの腕前を持つサオリに助けを求めたんだ。

「わ~そのドレス、クラウレ・ハモン?あ!髪までヅラだ!すごいすごい!」

「え?あ、あら貴方見所がありますわね私の仮装を一瞬で見抜くなんていつも身長足りないから気がついてもらえな……おほん……お好きなガンプラをお選びなさいグフ以外でも完璧に教えて見せますわ」

「いいの!?じゃあ私はこれがいいかな~!」

「ダナジンですか?また珍しいチョイスですわねいいですわ貴方が一流のダナジンマスターになるまで扱いて差し上げます!」

「お願いしま~す!」

なんとなくこの二人は相性が良い気がしたんだけれど……ビンゴだったかな?

とにかく、そうして始まったガンプラ講座だったのだが……始まって驚愕した事実があった。

「まずはガンプラをレジに持って行って会計してこないとね」

「え?ガンプラってお金払わないといけないの?」

「えっ!?お金持ってない!?」

「持ってるよ。クレジットカードだけど」

「クレカって……なんか黒いんだけど!?」

「と言うかガンプラって箱に入ってる時はこんな風に枠になってるんだね~」

「ランナー見たことないの!?」

「なんでAとかBとかに分かれてるの?」

「色ごとに成形するからだよ。ほら、クリアパーツとかポリキャップとか素材が違うものはまとまっているでしょ」

「本当だ~関節はこのゴムっぽいのなんだね~」

「ポリキャップ知らないの!?」

「説明書に写真とか絵が描いてある~」

「それすら!?」

ミズキは完成品のガンプラ以外に触れたことすらなかったらしい……今までガンプラバトルをしていたのが不思議だ……

とにかく、相当な時間(普通に作ったら1時間の所をたっぷり3時間くらい)をかけて、素組みのダナジンが完成した。

墨入れすらしていないから、ガンプラバトルで使ったら最低性能だろうけれど……

「じゃあ、じゃあ、早速だけどバトルしようよバトル!自分で作ったガンプラでバトルなんて初めて!楽しみ!」

完成したダナジンを持ち上げて嬉しそうにはしゃぐミズキ。

そんなミズキに、俺は言い放った。

「じゃあ、そのダナジンを賭けて俺のストライクフリーダムコマンドと戦う?」

「いいよ!」

俺の言葉を信じられないという風な表情で見たサオリ。けれど、俺が目配せをしたら事情があることを理解してくれたのか、黙ってシミュレーターの方へ移動してミズキのガンプラの登録を手伝ってくれた。

GPベースに登録された真新しいダナジンと、俺のストライクフリーダムコマンドのバトル。

正直言って、勝てる気がしない。あの高速の不意打ちに反応できたのは、極限まで集中力が高まっていたから。

今やれと言われてできるとは思えない。

けれど、ここで"勝たないといけない"。ここで勝たないと、ミズキを正しい道に立たせることはできない。

「ミズシマ・ユウジ、ストライクフリーダムコマンド、行きます!」

「ミズキ、ダナジン出ま~す!」

フィールドは宇宙。

遮蔽物が少ない分、不意打ちの心配は無いかもしれないけれど……

そう思った瞬間、正面にアラートが表示された。ダナジンによる長距離射撃といえば、ダナジンキャノンのはず。

ビーム系の攻撃だ。俺は咄嗟にアブソーブシールドを前に構える。

そこに現れたのは、ビームではなくダナジンの本体だった。

ものすごいスピードで顎部のビームスパイクを展開させて突撃してきた。これではビームスパイクを吸収できても質量で押し負ける。

俺は防御を解いて回避を行う。

『ドラゴンちゃんの攻撃はそう簡単には避けられないよぉ!』

回避を見越し、羽の角度を変えて突っ込む先を俺の方へ向けてきた。無茶な軌道修正に羽が軋んでいる。

俺は回避が不可能だと判断し、アブソーブシールドを構えて後方に加速した。同じ方向へ進めば、衝突の威力を下げられる。

だが、食らった衝撃は相当なものだった。

ビームスパイクを吸収して消すことには成功したので破損は無かったが、腕が若干凹んでいる。

『受け止め切られた!?すごいすごい……ってあー!頭が曲がっちゃったぁ!?』

通信でミズキが嘆いた通り、ダナジンの頭部は突撃の衝撃でストライクフリーダムコマンドの腕のように凹んで曲がってしまっていた。

いや、むしろダナジンの被害の方が大きい。ガンプラバトルにおける機体の性能差は出来栄えに左右される。

ストライクフリーダムコマンドの方が、頑丈だったということだ。

『うぅ~、よくもドラゴンちゃんを!』

その場で身を翻してダナジンスピナーで打撃を加えてくる。

俺はドラグーンフィストを射出し、迫りくるスピナーに対して打撃を叩き込んだ。

ドラグーンはスピナーを完全に止め、むしろ押し返すことに成功した。

それを見たミズキは接近しての格闘では勝ち目がないと悟ったようで、すぐに後退した。

つけっぱなしのオープンチャンネルからミズキとサオリの会話が聞こえて来る。

『くっそ~、なんであんなに強いの!?』

『出来栄えの差ですわね墨入れや部分塗装をするだけでも出力が段違いに向上するものですわ』

『ただ組むだけじゃないんだ……もしかして今まで私が使ってたガンプラにもそういうのがやってあったのかな』

『今使っているダナジンよりも強力であったと思うのならばそうなのでしょうガンプラの強さは作中設定に比例しませんから』

『……そう、なんだ……そんなに時間を掛けても、バトルで簡単に壊れちゃうなんて、寂しいね……』

よし、思った通りだ。ミズキにはちゃんとガンプラ作成に関する知識を与えれば、その破壊行為にちゃんと罪悪感を覚えてくれる。

これはダメージレベルBだから実際には壊れていないけれど、全国大会から上になるとダメージレベルA。実際にガンプラにダメージが出るようになる。

ミズキにはこのまま負けてもらって"ガンプラを破壊された人たちの気持ち"を覚えてもらおう。

そうすれば、きっとミズキはパーツハンターを止めてくれる。

『……でも、だからこそ本気になれるんだね』

『え?』

『……数時間、数日、数週間、数ヶ月かけた子が、一瞬で消えるかもしれない緊張感……これが本当のガンプラバトルなんだね』

おや?

『私すごくゾクゾクしてきちゃった……さぁ、もっと本気でやろうよ!』

『え?ミズキさん何をしていますの!?』

サオリの声の後、フィールド全体にノイズが入る。視界が歪み、次の瞬間に見えたのは破損箇所が治っているダナジン。

見ればストライクフリーダムコマンドの腕の凹みも治っている。

そして、画面中央に信じられないアラートが表示された。

"Damage Level Change A."(ダメージレベルがAに変更されました。)

「……は?」

『ミズキさん今のコマンドは何ですの!?バトル中にダメージレベルを変更する方法なんて聞いたことありませんわよ!?』

『へっへっへ~、デバックコマンドだよ!』

ダナジンは遠方から再び突撃を開始する。今度はビームスパイクだけでなく、両腕からビームサーベルも出している上に回転している。

見た目が凶悪すぎる。やばい。

俺は慌ててアブソーブシールドを前に出して防御したが、回転と突撃の威力は死なず、そのまま宇宙空間を引きずられる。

「うわ、ちょちょちょ……くっそ!」

ストライクフリーダムコマンドを後方に加速させて離れ、先ほど吸収できたビームスパイク分のエネルギーを消費してカリドゥスを撃ち込んだ。

回転しているせいで狙いが定まらず、頭を狙ったビームは逸れてダナジンの右腕に当たり、吹き飛んだ。

だがダナジンは止まらず、残った左腕のビームサーベルを突き立ててくる。

サーベルはストライクフリーダムコマンドの胴体を捉えた。だが、ガンプラの出来栄えの差のせいか、ビームサーベルは貫通することなく、プラスチックの表面を若干削っただけだった。

『むむ~、やっぱりこの子のパワーじゃ無理か~、なら!』

瞬間、視界からダナジンが消えた。

俺はレーダーを確認する。すると、反応が一つしかない。これは……

「……上か、下!」

『下でしたぁ!』

真下からダナジンスピナーによる薙ぎ払いが飛んでくる。

気がついたが対応が間に合わず、足に強烈な打撃を食らう。慌ててダナジンのいる方向を向くが、そこにダナジンはいない。

「また……今度は上か!?」

『今度も下でした!』

再び、足に強烈な打撃。

そこで俺は気がついた。ミズキは俺の方のレーダーに自分が写っていないことを知っているような口ぶりだ。

ガンプラバトルシミュレーターについているレーダーは、確かに共通機能。常に自分が中心になり、その四方にプラフスキー粒子を一定以上持っている物体に反応する。ただし水中や砂嵐の中、特殊な兵装等により精度が低下する可能性がある。

そのレーダーの仕様を完璧に理解し、相手のレーダーの現在の状況を把握している。

その知識を使って、この見通しの良い宇宙空間で"死角からの不意打ち"を成立させていた。

「無茶苦茶だ……!」

『難しいことじゃないよ~ただの隠れん坊だって!』

やはり凄まじい操縦技術。だがその凄まじい高速移動に、ガンプラの方が耐えられなくなってくる。

ダナジンスピナーと翼の酷使により、遂には稼働による負荷で関節部分が折れてしまった。

『うぐぐぐぐ、もう攻撃手段が無いよぉ!』

「情けない話だけど……これで終わりだ!」

満身創痍のダナジンに向かい、ストライクフリーダムコマンドのドラグーンフィストを叩き込む。

派手な爆発エフェクトがダナジンを包み込み、バトル終了のシステムコールが聞こえ、プラフスキー粒子の散布が止まった。

シミュレーターには、パーツが原型を留めない程にボロボロになったダナジンと傷だらけのストライクフリーダムコマンドが残った。

「……さて、これでミズキさんは……って、え!?」

シミュレーターの向こう側に立っているはずのミズキを見ると、ミズキはシミュレーターの上にいた。

上に乗っかっているのではなく、シミュレーター"跳び越えている最中"だ。

し、信じられないくらい跳んでるぞ……!?

そしてそのまま俺の目の前に着地し、俺にしがみ付いてきた。俺はミズキの体重を支え切ることができず、そのまま押し倒される。

「もう一回!もう一回やろう!」

「ちょ、ちょっとミズキさん!?」

「今のバトルで分かったの!ポリキャップの近くは補強しなきゃダメだし、威力の高い武器を作るには塗装とかしなきゃダメだって!私のダナジンすぐに直してくるから、もう一回やろう!」

目を爛々と輝かせ、再戦するまでにやるべきことを連ねている。今だ。今、このタイミングで言うセリフが、きっとミズキを正しい道に導けるのか決まる。

「……ミズキさん、忘れてない?ミズキさんのダナジンは、俺が貰う約束だよ」

「あっ」

その瞬間、希望に満ちていたミズキの表情が一気に真っ青に変わった。

よし。これでミズキにガンプラを奪われる気持ちを理解してもらえたはずだ。

丹精込めて作ったガンプラを奪われる気持ちを知れば、ミズキはパーツハンターを止めてくれるはず。

「じゃあ新しい子を作る!」

え?

「次はどの子がいいかな!もっと大きい子とかどうだろう!もっともっと戦いたい!合わせ目消しって言うのがあるってサオリちゃんに教わったからそれやってみたいな!あ、でも一日待たないといけないんだっけ……」

ミズキは目の輝きを更に強くして、俺に微笑みかけてきた。

……駄目だ。俺にはこの子を導けない。この子は、強すぎる。

奪われる側になったことが無いから、痛みを知らないのだと思った。

けれど違う。強すぎて痛みを感じないんだ。何度やられても立ち上がる強さがある。

ボロボロのガンプラでも強敵に挑む覚悟がある。だからこそ、シキのような強者の隣に立つためにパーツハンターになったのかもしれない。

俺では、正しい道を教えられない。いや、この子の歩む道が、俺の知る道とは違ったんだ。

「……ごめんミズキさん、もう俺はミズキさんとガンプラバトルをする資格が無い……」

「え?どうして?」

「……俺じゃあ、ミズキさんの前を歩けないから……」

俺はそう言い残して立ち上がり、傷だらけのストライクフリーダムコマンドを回収した。

ボロボロのダナジンはミズキの手に渡し、サオリにお礼を言って店の出口に向かって歩き出した。

ミズキが縋って何かを訴えてくるが、俺は何も返すことなく……いや、何も返すことができず、帰路についた。

 

 

 その次の月曜日。

俺は朝のホームルームで信じられないモノを目の当たりにした。

その日の放課後、逃げるように教室を飛び出し、模型部の部室へと駆け込んだ。

部室には既に先輩とカイトの姿があった。俺は腰を落とし、肩で息をするほど疲弊していた。

「はぁっ、はぁっ……」

「どうしたのユウジ。そんなに息を切らせて……」

「なんだ?まるで化け物から逃げてきたみてーな……表情……」

カイトが言った通り。俺は化け物から逃げてきた。だが、どうやら追いつかれてしまったらしい。

俺の後方を見た先輩とカイトの顔が固まったことからも明らかだ。観念して振り返ると、そこにはウチの学校の制服を着たミズキが立っていた。

「やっほ~。カガミハラ・ミズキ、大岩学園に転校してきました~。模型部に入部希望でーっす!」

 

第5話「壊れている翼」 -完-




読了お疲れ様でした。

パーツハンターのうちの1人、ミズキちゃんが転校してきました。
さて、どうなりますことやら。まぁ何も考えてないんですけどね。
いや、大まかには構想ありますが……既に最初の構想からズレているのでまたどんどん変わっていく気も……

と言うか書いていてめっちゃ可愛いですミズキちゃん。
特にイメージ固めずに書いていましたが、なんとなくCV佐倉綾音さんで想像してました。

ちなみにシキは柿原徹也さんですかね……フェアテのナツ寄りの声で。
あ、主人公のユウジは阪口大助さんです。銀魂の新八の声で。
雑談でした。

次回更新日時は2/7予定です。
●追記
諸事情により、更新予定日を2/14に変更します。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第五話「壊れている翼」後日談 「羽休め」

閲覧ありがとうございます。
今回は全然予定通りに筆を進めることが出来ず、予定を延ばしたにも関わらず数分オーバーしての投稿になってしまいました。

今回は、ちょっと次回(もしくは次々回)に新キャラが登場する予定なのですが、時間が無い状況で新キャラ+新ガンプラを制作している暇がなかったので、急きょ番外編としてオムニバス形式のキャラストーリーを書きました。

メインキャラであるミズシマ・ユウジ、ナガサキ・アンナ、アシダ・カイトの日曜日を描いた話です。時間軸は五話後篇の後の日曜日。五話の最後に月曜日になっていますので、少なくとも一週間が経過した状態の話です。
あ、六話はちゃんとその後の時間軸になる予定です。

では、お楽しみください。


 俺ことミズシマ・ユウジの日曜日の朝は姉の安否確認から始まる。

確か昨日は姉の相方であるイチジマ・カナさんとウチで酒盛りをしていたはずだ。

自室を出てリビングに入ると、カーテンの締まった薄暗い部屋で全裸で寝ている姉とカナさんが目に飛び込んできた。

二人が生きていることを寝息で確認した後、部屋の暖房がかけっぱなしになっていることに気がつく。しかもめっちゃ酒臭い。

俺は風呂場へ向かい、お湯が出ることを確認して適当な着替えを用意し、バスタオルを持ってリビングに戻る。

姉とカナさんにそれぞれ一枚ずつバスタオルを被せ、暖房を切ってカーテンを開けて窓を全開にした。

外は快晴で良い天気。日光が差し込み、風が吹き込んでくる。

最初に目覚めたのは、カナさんだった。

「っびゃあぁ!?」

奇声をあげて飛び上がり、かけてあったバスタオルで体を覆って風から身を守ろうとする。

が、地上28階の風は相当冷たかったらしく、耐えきれなくなって立ち上がった。

そこで俺はいつも通り「お風呂沸いてますよ」と告げる。するとカナさんはとんでもないスピードで風呂に逃げ込んだ。

よし。カナさんは風呂に入れば意識もはっきりするからこれで終わり。

だが、問題は姉だ。姉は寝起きが悪い。悪すぎる。

寝ぼけて襲われた時はマジでどうしようかと思った。

「……よし」

俺は気合を入れ、この時用に用意した音漏れの少ないヘッドホンを寝ている姉の耳に装着する。

コードが繋がっているのは、これまたこの時用に用意したレコーダー。中には姉の大嫌いなゾンビ映画の音源が入っている。

人が食われるシーンの音源のみを繋いだ大作だ。たっぷり20分ある。

再生ボタンをポチり。

俺はコーヒーを飲みながら朝食用に食パンを焼き、マーガレットを用意する。

カナさんは朝食は味噌汁だけなので、インスタントの味噌汁を用意。

姉はいつも食い損ねるのでカロリーメイトを持たせるつもりだ。

酒の空き缶だらけのテーブルを片付けていると、パンが焼き上がる。

そろそろ換気も終わっただろうと窓を閉めようとした時、姉が目覚めた。

目覚めて、足を斜め上にピンと伸ばして俺の膝裏を強打した。

「っぎゃー!」

「それは予想外!」

俺は危うく窓から落下しそうになって、慌てて身をよじって部屋の床に突っ伏す。

そして絶叫を続けて暴れまわる姉からヘッドホンを外し、朝の挨拶をする。

「おはようお姉ちゃん、嫌な夢でも見たのかな?」

「なん、あば、あぷぁ……あ、あれ……夢?」

ようやく目覚めた姉を起こして、風呂へ行くよう促す。入れ替わりでカナさんが風呂から出てくる。

そして俺はようやく焼きあがったパンを食べ始めた。

カナさんも用意されているインスタント味噌汁を見て席に着き、食事を始めた。

「さんきゅー。いやぁ、弟クンが東京来てくれてまじ助かったわぁ。朝のユウカをあんな見事に目覚めさせられるのは弟クンだけよ」

「毎朝戦争でしたから、実家でも」

「んー、弟クンは良いお嫁さんになるわー」

「やめてください」

味噌汁を飲み干して出勤の準備を始めるカナさん。

今日は日曜日だが、カナさんと姉はお笑い芸人。土日に仕事が入ることの方が多い。

用意を終えて、そろそろ出発の時間になる頃、姉がようやく風呂から出てきた。

既に俺が用意した服に着替えている。今日の仕事は屋外フェスティバルのステージでのコントだと言っていたから、暖かいセーターにロングスカート。

良かった、寝ぼけて全裸だったりパジャマに着替えたりはしていないみたいだ。

「ほらユウカ、行くよ」

「え、えぇ~、私朝ごはん……」

「はいお姉ちゃん、お弁当。水筒も用意してあるから行きの車で食べて」

「ゆ、ユウジちゃん、ありがとう……なんかユウジちゃんがどんどんお母さんみたいになってきてる……」

「お姉ちゃんまで言うか」

「ぶはっ!」

吹き出したカナさんと姉を家の外へ押し出して、リビングに散乱している服を集め始める。

ちなみに、東京に来るまで知らなかったことだが、カナさんの家は同じマンションの隣の部屋だった。

姉は実家に一人暮らしをしていると伝えていたが、家事のほとんどをカナさんがやっていた。

そして今は俺がやっている。

「……まぁ、料理なんてできないからインスタントか弁当だし洗濯物も乾燥機付きのヤツだから楽なんだけどね」

というかそうでなければ確実にパンクするレベルで3人とも家事ができない。

姉に至ってはする気がない。

さっさと洗濯機を回してガンプラを作ろうと思い、集まった洗濯物を持って脱衣所へ向かった。

手に持った洗濯物を洗濯機に入れて蓋を閉めた時、床に落ちている下着が目に入った。姉のだ。

「あれ、運んでる時に落とした……かな……い、いや、この下着は……さっき俺が用意したヤツ……」

俺は慌ててカナさんの携帯に電話する。するとリビングのカーペットの下からコール音。

めくってみると、姉の携帯も仲良く隣に落ちてましたとさ。

あ、これ詰んだわ。

「風邪引かなきゃいいけどな……」

現場に着くまでに気がついてコンビニかどこかで購入することを祈り、俺は自室に戻った。

自室に戻った俺は探し人掲示板を開き、自分の投稿にコメントがついていないかチェックした。

俺が投稿したのは、小学生の頃に交流のあった同級生の捜索依頼。ストライクフリーダムを作ってくれたヤツだ。

家族ぐるみでの付き合いだったこともあり、東京から引っ越した後も頻繁にやりとりしていた。だが数ヶ月経った頃から電話もメールも繋がらなくなり、父親が家を確認しに行った所、一家全員行方不明になったことが分かった。

どちらかというと裕福な家庭だったし、借金があったようにも怨みを買うような仕事をしていたわけでもない。

何か事件に巻き込まれたんじゃないかと、その時期に発生した災害状況を探ったが被害者の中に名前はない。

俺の家族はみんな心配したが、仲が良い家族というだけで捜索願は出せない。一応、警察に相談だけはしに行ったが、それから連絡は一度もない。

その頃から、俺はネットの掲示板を利用して目撃者を探し始めた。

中学3年間、色々なサイトに投稿したが、成果は出ていない。

今日もコメントは付いていなかった。

「……『ガンプラバトル、やめるなよ。やめなきゃ、いつかまた会える』……だよな」

引っ越しをする日、ヤツと交わした約束通り、俺はまだガンプラバトルを続けている。

いつかふらっと俺の前に現れて、凄く強いガンプラでバトルを挑んでくる。

そんな未来を空想する。

「さて、ガンプラ……調整しようかな」

俺はカバンからストライクフリーダムコマンドを取り出して、いじり始めた。

昼過ぎまでやって、昼食を食べるついでに新しいガンプラをチェックするためにアナハイムまで行く。

たまに先輩とかカイトとかサオリとかに出会って話すこともあるけれど、夜になったら家に帰る。

そうしたら姉たちが帰ってきて、また戦争になる。

これが俺の日曜日の過ごし方だ。

 

 

 

 

 私ことナガサキ・アンナの日曜日の朝は、両親のモーニングコールから始まる。

「「おっはよーアンナちゃーーん!!」」

「まだ四時だよお父さんお母さん」

と言いつつ起きていた私は自室から出て、親に導かれるままにリビングに降りていく。

両親との約束で、日曜日は家族と過ごすことになっている。

これが普通なのかどうかは分からないが、我が家ではこれがルール。

……まぁ、たぶん普通では無いのだろう。この取り決めがあるから、私は日曜日に友人と遊んだことがない。

友達とカラオケとか、ゲームセンターとか、そういう公共の娯楽施設に行ったことがない。

あ、そういえばこの前、初めて友人とガンプラショップに行ったのだった。

「それでアンナちゃん、今日は"例のアレ"を試してみようと思うんだけどどうだい!?」

「もう出来たの?」

「ばっちりよ!さあラボに行きましょう!」

ちなみに、両親と過ごすといっても、遊んで過ごすわけでは無い。

いや、遊んで過ごす日もあるが、基本的には"ラボ"での実験がメインだ。

父と母はとある研究機関の技術者。研究テーマは"プラフスキー粒子操作技術の転用"だ。

プラフスキー粒子の技術、特に現在世界中で稼働しているガンプラバトルシミュレーターに関する技術はヤジマ・エンジニアリングという会社が開発した。

その内容はプラスチックを動かし、粒子自身も様々な物質に変質することができるというもの。

その技術を転用し、他の分野にも役立てられないかと言う研究だ。

以前、PPSEという会社が独占していた頃に比べれば情報開示されている方だが、まだまだ可能性を秘めた粒子であることに変わりはない。

「粒子で満たされた状態という制約があるが、その中ならどんな物質にもなり得る凄まじい粒子だ!特に医療部門の発展には欠かせないだろう!」

というのが元医療器開発会社の父の意見。

「粒子を凝縮して固める技術はまだ見つかっていないけれど、それが出来れば軽量化と低コスト化も可能よ!持ち運びできるシミュレーターも夢じゃないわ!」

というのが元通信機器開発会社の母の意見。

そして常にこのテンション。二人ともショートスリーパーらしく、まともにベッドで寝ているのを見たことがない。

私もその毛があるらしく、特に高校に入ってから睡眠時間が減ってきている。

とまぁ、こんな両親の影響で私は小学生の頃、無感情無感動無気力な子だった。

そんな私に感情を、感動を、気力を与えてくれたのがガンプラバトルだった。

正確に言うと、中学一年生の時に見たミズシマ・ユウジのガンプラバトル。

生物のように生き生きと動くガンプラ、それを自在に操る少年、そしてその笑顔。

ガンプラに興味を持ち、少年に恋心を抱き、やってみたいと思うようになった。

私の中で、人生が変わった日だ。

ちなみに、それを両親に伝えた次の日に二人とも転職して今の会社に入った。

今思えば、両親が私の変化に合わせて仕事を変えたのかもしれない。

「さあアンナ!これが前に言っていた巨大モビルアーマー……ネオジオングよ!」

ラボと呼んでいる自宅の地下に入ると、巨大な赤いモビルアーマー、ネオジオングが置かれていた。

元々巨大な設定で、1/144サイズのプラモデルでも80cmを超える。

ラボに置かれていたのは、そのさらに倍程度の大きさがあった。

何をしようとしていたかというと……

「さあ!パワーアシストマシンネオジオングに乗り込むのよアンナちゃん!」

ということである。

最近の我が家の研究テーマは、長い入院生活などで筋肉の落ちた患者がリハビリをする際に使用するパワーアシストをガンプラで代用するというもの。

その試作第1号がこれだ。

私がネオジオングに乗り込むと、両親はシミュレーターを起動した。

この部屋の床は金網になっていて、下にはガンプラバトルシミュレーターが敷き詰められている。

つまり、この部屋全体がフィールドになる。

数分の時間を要して、部屋が粒子で満たされる。父親がゆっくりとコントローラーを動かすと、フィールドの中央にいる私が入ったネオジオングが、徐々に動き始めた。

「おぉ……成功だ!ネオジオングの起動に成功したぞ!」

「やっぱりアリスタ事件の資料を取り寄せた甲斐があったわね!プラフスキー粒子で満たされた空間内部でのコントロールの良い参考になったわ!」

ふわりふわりと浮きあがったネオジオングに乗りながら、私は感動していた。

その浮遊感は、体験したことがないけれども、無重力のそれに感じ、ただ重いだけだったネオジオングの手足が自分の手足のように動かせる。

これはガンプラバトルの根幹を揺るがす大事件……

 

 "バツン"

 

「あ」

「へ」

「ぇ」

突然部屋全体が暗くなり、プラフスキー粒子の放出が止まる。

家族揃って間抜けと言うよりは卑猥な感じにとぼけた声を漏らした後、浮力を失ったネオジオングは50cm程度の高さから落下した。

言うまでも無く、ネオジオングは大破した。私を乗せたまま、ガシャン、と。

「「あ、アンナちゃーーーーん!」」

宇宙世紀なら死んでいたであろうレベルの大破具合のガンプラの中に埋もれた私は、プラスチックのガレキから這い出してきた。

どうやら家のブレーカーが落ちたらしい。

母は慌てて私を助け起こして怪我を確かめ、擦り傷にこれでもかと消毒液を吹き掛ける。

父は家のブレーカーを上げに行って青い顔をして帰ってきた。

「どうしたの?」

「……ブレーカーのメーターが……振り切れてた……」

「「!!!???」」」

電気が復旧した後に確認した所、我が家で飛んでも無い電力が消費されたことによってセーフティーが発動して周囲一帯の電気が止まったとのこと。

そして我が家に見たことも無いような電気料金の請求書が届くことになった。

更に、ガンプラシミュレーターも全滅していることが後で分かった。

どうやら人力でアリスタ事件のような規模のプラスチックを動かすのは、まだまだ難しいようだ。

と、こんな感じで一日中バタバタしているのが、私の日曜日だ。

 

 

 

 

 俺ことアシダ・カイトの一日は、っつーかどこから昨日でどこから今日なのか分からないが、とにかく、俺の日曜日の朝は、艦これから始まる。

っつーか朝から晩までずっと艦これなんだけどな。

と言うと他に話すことが無いので、別のことがあった日のことを話すか。

その日、俺は新しいガンプラを買おうと思ってアナハイムとは別の小さなプラモショップに行った。

そこで俺は見たくない顔を見ちまうことになる。

「おっ、カイトじゃん。久しぶりだな」

「うげっ……シキ……」

ショップの中には、ガンプラを物色中のパーツハンター・シキが居た。

以前アナハイムで開かれた大会で戦って以来、街で目が合う度に挨拶をしてくるようになった。

と言うか、何故かこいつとのエンカウント率が異常に高い。

っつーかコイツ、こんなフレンドリーなキャラじゃなかったろ。

「お前さぁ……何で俺に声かけるんだ?ミズシマにもやってんのか?」

「しねぇよお前だけだ。ミズシマってもう一人のヤツか?あいつの顔も覚えてねぇわ」

「じゃあ何だ、お前俺に惚れでもしたのか?ホモか?」

「惚れてるって言えば、そうかもしれねぇな。ハハッ」

シキの意味深な笑顔にノンケの俺は寒気を覚えて慌てて店を出た。

するとシキは店を出て俺を追ってきた。

「逃げんなって。冗談だからさ」

「いやお前冗談に聞こえねぇよなんだよ気持ち悪いな」

「んなこと言わずにさ、来いよ。俺らの学園にさ」

実はアナハイムで試合をした日、帰りにフードコートで食事をしているシキを発見し、俺は興味本位で声をかけた。

シキは試合の4回戦の会場に姿を現さずに不戦敗となっていた為、何故かと言う内容の質問をした気がする。

だがシキは質問には答えず、俺を見て"お前もそうなのか"と言った。

そしてその後、出会うたびに自分の通っている学園に転校して来いと迫ってくるようになった。

「断るっつってんだろ。ガンプラバトルのために転校するとかバカじゃねぇか」

「珍しい話じゃねーって」

確かに、ガンプラバトルが強い選手は強い監督のいる学校……例えばガンプラ学園とかに転校する話は聞いたことがある。

でも、それはそういう次元の選手の話で、俺みたいな底辺ファイターには関係ないことだ。

……いやまぁ、全日本ガンプラバトル選手権大会の中高生の部ベスト16で底辺っつーのも嫌味っぽいか……

まぁでも、それこそ優勝候補とかでないなら同じこと。

それにガンプラバトルで強い奴が全員そういう学校に行っているわけでもない。

「そんなこと言わずにさあ、お前みたいな奴らには俺らの学園が必要なんだって」

「だからしつこいぞお前!正直俺お前らにボロ負けしたの根に持ってんだからな!」

「そいつはすまなかった。けどお前さ、あんなガンプラ使ってたら当たり前なんだって。ガンプラがお前向きじゃないんだよ」

「っつーかお前さ、俺誘うんだったら俺を負かしたカガミハラ連れ帰る方がいいんじゃないか?俺らの学校に転校してきてから俺らの部活結構めちゃくちゃになってるから、早々に引き取ってくれねぇか?」

「は?あいつお前らの学校に行ったのか?そいつはご愁傷様。あいつマジで学園に迷惑かけまくってたから居なくなって全員ほっとしてるんだぜ」

「ふざけんな引きとりに来い!」

「お前も一緒に来るなら引きとるぜ?」

「……はぁ」

無視だ無視。こういう奴のいうことは真に受けたら負けだ。

俺は買い物先をアナハイムに変更し、歩を進めた。流石に電車に乗ればついてこないだろう。

「なあ、さっきも言ったようにお前は使ってるガンプラが悪いんだって。絶対格闘タイプ使うべきだよ。俺のレッドゲイザー貸してやるよ、ちょっとやってみないか?」

「断る。お前それ誰かからハンティングした奴なんだろ」

「んなわけあるか。これは俺が作った」

「嘘つけVL壊れてるし絶対盗物だゾ」

「嘘じゃねーって!ヴォアは……その、なんだ……バトル中に間違って自分で壊しちまったから……カッコ悪いからつけてないだけだ」

「へっ!?直して使えよ!戦力大幅ダウンじゃないか!」

「いいんだよどうせ殴るだけだから!それに動き回ると邪魔なんだよあれ!」

「そりゃスタゲは格闘機じゃねえからだろ!人にガンプラ合ってないとか言っといてそりゃないだろ!」

「うぐっ、それを言われるとその通りなんだが……」

「なんだよ」

「……好きなんだよ、スタゲ。悪いかよ……」

「い、いや、悪くねえよ」

「……おう」

ようやくシキが言い淀んで会話が途切れた。

しつこく話しかけてくるからついつい応答しちまって、気がつけばずっと喋っている。

というかこいつ、パーツハンターのくせに饒舌だし、好きな機体があってこだわって使ったり、噂みたいな悪列非道な奴じゃないな。

どっちかというとヤンキーだこいつ。

ふと、視界の端に自販機が映る。俺は喋りすぎて喉が渇いていたことに気がつき、炭酸飲料を購入した。

「うげ、黒いのかよカイト。赤いのにしようぜ」

「はぁ!?お前このゼロの濃い味の良さを知らねぇのか!?」

「知らねえよ甘い方がいいだろ。俺は赤にしよっと」

「いや待て!お前に黒の魅力を教えるまで買うのは待て!」

「何でだよ俺は赤いのが好きなんだよ!」

「ゼロ飲んだことあんのかお前!」

「ねえよ!誰が飲むかそんなもん!」

炭酸一本でぎゃいぎゃいと騒ぎ、果てはちょっとした言い争いになり、結局お互いに好きなものを買う。

あれ、これ普通に仲が良い友達じゃね?

「なーなーカイトー、これどこ行くの?」

「……お前なぁ、行き先も聞かずにここまで来るとかバカじゃねえか?アナハイムだよ」

気がつけば俺たちは隣駅、アナハイムの最寄駅まで来ていた。電車に乗って。

「っつーかお前、アナハイム行って暴れるんじゃないぞ」

「誰が暴れるか」

「お前、自分がアナハイムでパーツハントして話題になってたこと知らないのか?誰彼構わず襲ってたんだろ」

「誰がそんな無駄なことするかよ。あれはコー……おっと。こりゃ言うなって言われたんだ」

「?」

「あー、ところで今日は何か買いに行くのか?」

シキが何か含みを持った返答をし、そのことをこれ以上追求するなと言わんばかりに話題を変えた。

どうやらシキにはシキなりにパーツハンターやってる理由があるらしい。

まあ、どっちにしろ関わりたくはないな。

「はー……ったく、マジで来ないわけ?俺らの学園に」

「行かないっつってんだろ」

「でも、来ることになる」

俺の後ろを金魚のフンよろしく付いてきていたシキが、俺を追い抜いて目の前で立ち止まる。

背が低いシキは俺を見上げる形になるが、まっすぐに俺を見つめる瞳が、自分の言っていることが正しいと主張していた。

その視線がなんだかとても嫌で嫌で仕方がないのに、目を逸らすことができなかった。

「お前は俺らと同じだ。いつか俺らと同じじゃない奴らとはいられなくなる」

「なんだよそれ」

「いつか分かる、そう遠くない未来だ」

シキはそう言って駅の方向に向かって歩き始めてしまう。

俺は思わず引き止めようとして手を伸ばすが、その必要は無いことを思い出し、引っ込めた。

去っていくシキから何故か目が離せず、俺はその日、アナハイムに入ることなく、家に帰った。

こんな胸糞悪い日曜日が、あった。




読了お疲れ様でした。

意外と濃い日常を持つ主人公ユウジ君と斜め上の両親を持つ先輩、そして意味深なカイトの話をお届けしました。

書き始めたら意外と長くなってびっくり。
……キャラ掘り下げる話しって、意外と楽しいですね。アンナ先輩の話なんかいっそシャワーシーン入れて先輩の肢体を描写しまくってやろうかと思ったんですが、長くなりそうなんで割愛してしまいました。
次にチャンスがあったら入れようと思います。いやマジで。

次回更新は2/21予定です。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第六話「蝕む翼」前篇

 その日、都立大岩学園の模型部の部室では選考会が開催されていた。

この選考会の成績が良い者は全国大会へ出場できる。もちろん、勝敗だけが全てじゃない。

撃墜合計や状況把握能力、チーム連携など様々な視点で考慮し、最終的なチームメンバーを決定する。

その為、基本的にチームは実力がバラけるように設定されている。

4月、新入生が入部した時点で3人チームを複数作って経験者と新人を均等に割り振った。

これで実力者は新人のフォローをしてチームプレイを覚え、新人は経験者に手を引かれ、全体的にレベルが上がる。

実際、4月から1ヶ月……今日までは順調だった。今日が終わると五月頭の大型連休。

その最終日に選考会を行い、各自が己の改善点を見つけて、休み中に克服してもらうと言うシナリオだったんだろう。

だがそれは、突如現れた悪魔によって蹂躙された。

悪魔の名前は、カガミハラ・ミズキ(パーツハンター)

 

 

第6話「蝕む翼」

 

 

 残骸に成り果てたガンプラの山に立つ、一体の龍。

その姿はまるで黒い衣を纏っているようで、心なしか足元から黒い霧のようなものが漏れ出ているように見える。

その異様な光景は、チームメンバーである俺たちにも恐怖を与えた。

『やったぁー!勝ったよ勝ったよ!ユウジ、カイト、見てた!?』

見た目に反し、無邪気にはしゃぐ通信をオープンチャンネルで垂れ流す狂気の龍。

それがカガミハラ・ミズキのガンプラ、エニグマだった。

彼女が大岩学園に転校してきてから、今日で丁度1週間。

転校してきた理由が、なんと俺に会う為だと言うのだから驚いた。

そんな理由で転校してくることもそうだが、それが軽くできるほど、ミズキの家が裕福だったということもだ。

ガンプラを購入した時に持っていた黒色のクレジットカードは見せかけでは無かった。

「ユウジのチームに入ってガンプラバトルやりたい!」

そして模型部に入部した理由はこれである。

模型部員からは、当然恐れられ避けられた。パーツハンターとして顔が割れているし、何より被害者が部内にいる。

当然のごとく、入部したその日にイイジマ・ユキとダイモン・トウキに廊下に呼び出された。

その際、ミズキが腕を離してくれなかったせいで、俺もその場に連行されたのだが……

「私はあんたを恨んではいないよ」

ユキの意外な言葉に、これからここが鉄火場になると怯えていた俺は理性を取り戻した。

「あんたは直接パーツを奪ったり挑発したりしてこなかったし、そもそもダメージレベルAでのバトルも同意の上だった」

ユキの話では、挑発してダメージレベルAの戦いと掛け試合を申し込んできたのはシキの方らしい。

ミズキは終始シキに指示されていただけで、別に恨みはないとのこと。確かに俺たちのバトルの時もそんな感じだったな。

「ユキさんと俺が望んでいるのは、再戦だ。個人を恨んでいるわけじゃない」

「転校してきたのがあっちの金髪だったら、わかんなかったかもしれないけどさ」

ユキとトウキはそう告げ、笑いあった。

二人の顔からは、余裕を感じ取れた。どうやら大会の後に気分を切り替えることができたようだ。

「え~、シキっちは高校には無理だよ~。小学生だもん」

「「「はぁっ!?」」」

「あ。今年から中学生だったっけ」

廊下中、いや学校全体に響くような大声をあげて仰天する俺たち。まさかあの金髪が中学一年生だとは……

「マジでか……中一のくせに金髪に染めてるのか……」

「あ、シキっちはハーフだからあの金髪は地毛だよ」

「しかもハーフ!あっはっは!トウキ!私らの宿敵はハーフの中一だとよ!あっはっはっは!」

ユキはどうにもツボに入ったらしく、腹を抱えて爆笑している。トウキは茫然自失と言った感じだ。

その後、選考会で再戦しようと約束をして、中々良い雰囲気で解散することとなった。

そしてその選考会が今日。

今さっき、ミズキの圧勝で終了したわけだが。

選考会が終わり、各自がシミュレーターから自分のガンプラを回収して作業台へ戻っていく。

そんな中、ミズキと俺の元に先輩が近寄ってくる。

ビルダー志望の先輩は、チームに3人目のミズキが入ったことで、今回から選考会には参加しないことになった。

そして見せたのが、あの実力だ。

チームの輪を乱すようなことやスタンドプレーをすることもなく、事前に決めた作戦通りに事が運び、圧倒的な殲滅力で相手チームを撃墜した。

それも、全試合全てにおいて。個人選手としてもチームメンバーとしても優秀すぎる。

「流石パーツハンターと呼ばれる存在ね」

「えっへっへ~。お褒めくださり光栄の極みですセンパイ!」

「……それはそうと、あなたは何でユウジにくっついているのかしら?」

「反応が面白いから!」

先輩の言う通り、ミズキは俺の腕に手を回してぴったりくっついていた。

これ、今日だけじゃなくて……毎日なんだよなぁ……

教室だろうが部室だろうが道端だろうが駅前だろうがお構いなし。駅前に止まっている黒塗りの車に乗り込むまで、ミズキは一日中俺の腕を掴んで離さない。

1、2日は嬉しかった。正直人生勝ったなくらいの気分だったけれど……3日目あたりから周囲の視線の方が痛くなってきた。

なぜひっついてくるか理由を聞いたら、「私にたくさんの初めてをくれたから」という聞く人が聞くとやばいセリフを吐くので振りほどくのが怖い。

初めてってのは全部ガンプラ関係なんだけどな。

「ユウジが迷惑そうな顔をしているでしょう。離れなさいミズキ」

「え~……ユウジぃ、迷惑なの?」

「えっ、ア、いや、その……」

正直、ミズキって良い匂いするし体温低いからあんま暑苦しくないし……と正直に言ったらミズキは喜ぶだろうが先輩とカイトで白い目で見られそうだし……って言うか先輩まで近づいてきてる……あわわわ。

「ナガサキ先輩もカガミハラもミズシマをいじめるのは止めてやれよ。こいつフリーズしてるぜ」

先輩とミズキにサンドイッチされていた俺を助け出してくれたのは、カイトだった。

ミズキは手を離し、先輩も体を引いてくれた。助かった……。

カイトが王子様に見える……。

「濃厚なホモの気配……!」

「どうしたんですか先輩?」

「ナンデモナイワヨ」

「え、なんで片言……」

「ミズシマ、それ以上は詮索するな。あ、そうそう。カガミハラ、あのガンプラ何なんだ?あの黒いマントみたいな奴」

「あれはマントだよ~?」

唐突に話題転換したカイトが疑問を発したエニグマの正体。それはミズキがタッグ大会の時に作ったダナジンを改修して作成したと言う、黒いマントを纏った紫色のダナジンだ。

本来翼がある部分にマントと鉤爪がついており、不気味さが増している。

「だなじん?だっけ。あれを改造したんだ。モデルはね~、シキが前にやってたモンスターハンターってゲームのゴア・マガラだよ」

「あぁ、確かに似てるわ」

エニグマを掲げて嬉しそうに眺めるミズキ。

普通の発想では出てこない、実際に布を使ったマントの作成。あまりガンダムに馴染みが無いミズキだからこそできたのかもしれない改造に、俺は感心した。

「納得いかねぇ!」

突然、部室に怒号が響き渡る。声を発したのは3年生のサカキ・シンジ。

シンジは模型部の中では少し荒っぽい性格をしていて、稀に部長と口喧嘩になっているのを見かける。

間違えていると思ったら誰の制止も聞かず意見を言ってしまう人だ。

……と、これだけ説明すると熱血漢に聞こえるが、実際の所は”気に食わなかったらとりあえず反発する”と言うはた迷惑な人である。

そして今もそれが発動しているようだ。

「ぽっと出てきてハイ圧勝?っざけんなそんなのアリかよ!俺のチームは今までずっと選考会で優勝だったんだぞ!それを毎回最下位だったチームが優勝?そんなのはチームの力じゃねえ、転校生一人の力じゃねえか!」

その通りである。と言うと俺とカイトの面目が立たないのであんまり強く言えない。

そしてそういう時に怒るのは、俺とカイトではなく、大体が先輩だ。

「私のチームに文句があるなら私が聞きます」

先輩はシンジの真正面に立って俺たちに背の影を落とす。身長差的に全然影落ちてないけど、気分的には悪漢に絡まれた女子高生を助けに現れたイケメン。

……ってあれ、立場逆じゃない?

「そうだよ!文句があるなら私が聞くよ!」

そして更に壁が増えた。いや、シルエット的な話で言うと二人とも山なんだけど。

ミズキの山は攻撃力高いからな。でも大きさは先輩の方が……

「おいミズシマ、鼻の下伸ばしてないで俺らも何か言い返さないと、このままだとマジでヒロインだぞ俺ら」

「カイトみたいなアフロヒロイン需要無いんじゃ……」

「何で俺を攻撃するんだお前は」

女子の後ろでこそこそ話をする俺らを見たシンジが更にボルテージを上げて詰め寄ってきた。

先輩とミズキを目の前にして立ち止まるが、サカキ・シンジの身長は無駄に2メートル。

なんでこの人模型部なんだろうと言わんばかりの威圧感に、流石の先輩とミズキも……

……引いてない!むしろ仰け反って見上げている!あ、胸が強調されて逆にシンジの方が照れ始めた!

「と、とにかく!俺は後ろの雑魚二人が優勝なんてのは認めない!再試合だ!再試合を申し込む!」

「お、いいねサカキ。お前の提案は毎回俺の好奇心を刺激する」

突然会話に藤原啓治みたいな渋い声が混じる。

声の主を探して入り口の方を見ると、そこには顧問の教師が立っていた。

ちなみに名前はアリガ・シンエモン。アリガ先生とかシンさんとか呼ばれている。シンエモンと呼ぶと反応してくれない。

そのアリガ先生が、いつも通り着崩したヨレヨレのスーツで部室に入ってきた。

「俺もそこの転校生の実力は計りかねちゃいたんだ。希望するって言うからナガサキのチームに入れたが……確かに強すぎるな」

「そ、そうでしょう先生!これじゃこいつが入ったチームが勝つに決まってる!」

「おいおいサカキ、常に強気なお前らしくねえな。”俺たちはミズキちゃんには絶対勝てないよぉ”って言ってるのと同じだぞ、それ」

「うっ……」

アリガ先生はサカキの肩をポンと叩いて、ミズキの前に立ちはだかった。アリガ先生は身長190cm。

サカキよりも小さいのだが、威圧感は段違い。見られただけでミズキは俺の背後に隠れてしまった。

ちょっと泣いてる。

「おぉ、すまねぇ。脅すつもりは無かったんだが……どうだいミズキちゃん、再試合しないか?今度は、バトルロワイヤルで」

ざわっ、と、部室が湧いた。先ほどまで負けて落ち込んでいた部員たちも、例外なく目を輝かせている。

これは、もうミズキが嫌だと言っても引けない空気じゃないか……?

「せっかく我が模型部に猛者が入ったんだ、ご指導願わせてもらえねぇか。な、ユウジ」

「え、お、俺ですか!?」

「お前、ミズキのコレなんだろ?いっちょ背中から出してくれねぇかな」

アリガ先生が小指を立てる。ワザとらしく古風なジェスチャーをするのはオヤジアピールなんだろうか。

いや、そういうことじゃなくて、俺はミズキの彼氏でもなんでも無い……!

でもここでそれを言っても解決しないのは明白。

「……はぁ。ミズキ……やる?」

「ユウジも出る?」

「え?いやまぁ、どうせ部員全員参加だろうから……」

「じゃあ、やる」

ミズキはエニグマを取り出し、笑顔で答えた。

 

 

 ランダムで選択されたバトルフィールドは森。

模型部員が操るガンプラが次々に地面に降り立ち、バトル開始のブザーが鳴った。

『よぉ、聞こえるか参加者諸君。オープンチャンネルから失礼する』

突然浮かんできた通信ウィンドウには、コンソールを握ったアリガ先生の姿が映っていた。

え?先生参加してる!?

『今回のバトルは選考会の一種だからな。評価の方法を発表する。撃墜した相手が今日の選考会で獲得した”評価点”の半分を、撃墜した奴のポイントとして加算してやるよ』

なんかとんでもないことを言い出した。評価点というのは、たぶんこの選考会における順位をポイントに換算したものだろう。

1位になったら何ポイントなのか、マイナスされることはあるのか。そういうのはわからないけれど、やはりそういう評価基準があるってことか。

そしてその点数の半分ということは……現在首位を走るサカキのチームを倒せば、高得点が得られるということ。

だが、首位を取っているのはもちろん”強いから”だ。

バトルロワイヤルだからといっておいそれとやられてくれるわけでは無い。

となると……

そう。今回ポンと優勝してしまった、前回まで最下位だった俺とカイト。

それを狙うのが最も効率の良いポイント稼ぎだ。

……あぁ、俺死んだな。

『悪く思うなよミズシマ!』

「っ、あれは……ゼクミーヌス!?」

木々をなぎ倒して現れたのは、近くにいたゼクミーヌス。ダイモンだ。

ゼクミーヌスは巨大な左腕のクローを振りかぶり、ストライクフリーダムの腕部を狙っている。

どうやら俺の武装はユキから聞いているようだ。アブソーブシールドを物理攻撃で破壊されてしまうと、俺のストライクフリーダムは直ぐにエネルギー切れを起こす。

何とか回避しなくてはならないと、腕を庇って咄嗟に引っ込める。

すると振りかぶられた腕がそのまま足を突き抜け地面に刺さった。

やばい、地面に固定された!

『このまま押し切っ……うがぁ!?』

勝ち誇った声で宣言しようとしたダイモンの声が、途中で途切れた。

何事かと視線をゼクミーヌスの頭部に向けるとが、そこに頭部は存在せず、ビーム跡で抉れた胴体があった。

これは、遠距離射撃で撃ち抜かれたのか?

俺も狙われるかもしれない。

足をビームサーベルで斬り、素早くその場を離れる。

すると先ほどまで俺が居た場所に極太のビームが飛んできた。

『ちっ、回避したか。中々良いカンを持ってるじゃあねぇか』

森の中から現れたのは、無数の砲門を持つティエレンだった。

声の主はサカキ。

「な、何だその武装!?大会規定に引っ掛かるんじゃ……」

『はっ!俺を誰だと思ってるんだ一年坊主が!ギリギリ引っ掛からない範囲でやってんだよぉ!』

凄まじい重武装にも関わらず、通常のティエレンかそれ以上の速度でこちらに接近してくる。

木々がなぎ倒され、土煙が上がる。

「う、うあわあああああ!」

俺の絶叫が、バトルフィールドに響き渡った。

 

 

 

後篇へ続く




読了お疲れ様でした。

タッグ大会も無事終わり、今回から選考会の話に戻ります。
何だかんだと言いながらキャラクターも増えてきましたが、まだまだ掘り下げられていません。
早くちゃんと活躍する場面を作って上げたいです。(と言いつつ再登場した瞬間に大破するダイモン君)

次回更新は2/28予定です。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第六話「蝕む翼」後篇

閲覧ありがとうございます。

今回はバトルロワイヤルと言うことで、色々なガンプラが乱戦します。対戦カードは……以下の通りです。お楽しみください。

ストライクフリーダムコマンド VS ティエレンフォートレス

ティエレンフォートレス VS ザクコマンドー

ティフシーガンダム VS エニグマ

ストライクフリーダムコマンド VS エニグマ


 去年の大会敗退後、俺は作ったガンプラにフォートレスの名をつけた。

理由は敗因にある。

去年の大会の選抜Bチームのメンバーは、俺ことサカキ・シンジと部長とナガサキ・アンナ。

俺は高機動カスタムを施したガンプラを使用していた。

部長は遠距離狙撃を意識したガンプラ、ナガサキは火力に重点を置いたガンプラだった。

バランスの取れたチーム編成で勝ち進んだが、ベスト4で止まったのは、対応力の無さが原因。

相手チームも同じような構成のチームだったのだが、敵はうまいこと位置取りを行い、こちらに不利な状況で1対1の状況を作り出した。

高機動の俺には火力型を、遠距離の部長には高機動型を、火力のナガサキには遠距離型を。

それから部長は1体のガンプラでマルチに対応できるよう、武装の換装システムを取り入れたガンプラを作っていた。

ナガサキは火力重視に加えてパージシステムやゲリラ戦術を学び、戦いに幅をもたせた。

俺はそんな2人を見て、自分のガンプラを高火力の面制圧能力に長けたガンプラに変えた。

2人とも1対1で負けたことが悔しかったのか、個と戦う際の武装は充実したが、チーム戦で多数の敵と同時に衝突した時には対応しきれないだろう。

だから2人が対応できないような敵が来てもそれから守ってやれるガンプラを作り上げたんだ。

高機動カスタムをずっと愛用してきた俺だったけれど、2人と一緒に大会に出て勝ち進むために、拘りを捨てた。

それなのに。

ナガサキはビルダー選考になるからと言ってチームを抜け、一年生とチームを組んだ。

部長は後進に道を譲ると言ってチームを抜け、コスプレ衣装ばかり作っていて選考会すら参加しない。

何なんだ。何なんだよお前ら!

もう諦めちまったのかよ!優勝する為に頑張ってきたんじゃなかったのかよ!

わかったよ。お前らは勝手に諦めてろよ。

俺は諦めねぇぞ……3年生は最後の大会だ。この大会は、選考会でぶっちぎりの成績を残してAチームに入って、優勝まで勝ち進んでやる!

それで道を諦めた馬鹿2人の目を覚まさせてやる!

そう、決めていた。それを、邪魔された。

カガミハラ・ミズキ。お前を倒さなきゃ、俺の夢は叶わない。絶対にぶっ潰す!

 

 

 バトルロワイヤルが始まって、既に5分が経過していた。

各自初期地点から随分と移動し、様々な場所で戦っている。

だが俺は、未だに初期地点からそれほど移動していない場所で同じ相手と戦い続けていた。

巨大なティエレン……ティエレンを縦に二つ連結したようなシルエットに無数のミサイルポッドと機関銃、ビームバズーカを持つ要塞のようなガンプラ相手に、苦戦を強いられている。

操縦者は、3年生のサカキ・シンジだ。

『いい加減に堕ちろ最下位が!俺はカガミハラをぶっ潰しに行くんだからよぉ!』

「くっ、近づけない……!」

戦い始めてから5分の間、一切途切れない砲火。使用する武装を適切に切り替え、使用していない武装はリチャージを行うことで途切れない砲火を作り上げているようだ。

ティエレンには腕がなく、その代わりに腕のあったところに大容量のミサイルポッドが複数連結されている。あれでは撃ち尽くすことはなさそうだ。

俺は偶に飛んでくるビーム兵器による攻撃をアブソーブシールドで受けて粒子を回復し、回避行動を続けている。

反撃の機会が訪れず、周りの木々が次々になぎ倒されていく。

先ほどからこちらを気にしている様子の別のガンプラもあったが、砲火が凄まじすぎて近づけず、諦めて他所へ行ってしまう。

助けは、期待できない。

『負け続けて避けるのは上手くなってるじゃないか!オラオラ攻めて来いよミズシマ!』

「そんなの……無理だって……おっと……分かってるんでしょサカキ先輩っ……!」

確かに、俺は攻撃を避ける動作が上達してきた。先輩のストライクフリーダム検証に付き合わされ、ここ一週間でストライクフリーダムを使ってバトルをした回数は100回を超えている。どのくらい動けば避けられるのか、最低限のエネルギー消費で済む動作は何か、体が覚え始めた。

けれど、それでどうにかなるのは回避だけだ。圧倒的物量による面制圧攻撃に対しては無力。

この戦いは最初から"戦いのフィールドが違う"。いくら熟練の兵士でも、1人では要塞を破壊することはできない。

『無理と分かっているならさっさとヤられちまえってんだよ!』

『それには及ばないよユウジ』

サカキのセリフに被り気味に通信を挟んできたのは、先輩だった。

次の瞬間、ストライクフリーダムとティエレンの間に照明弾が打ち込まれた。

視界が真っ白になり、何も見えなくなる。

光が晴れた時、ストライクフリーダムとティエレンの間に……ザクコマンドーが立っていた。

「先輩!?」

『ナガサキ!?』

ザクコマンドーはストライクフリーダムの方を見て、視線で逃げるよう促したように見えた。

「……先輩……ありがとうございます!」

俺は一切返事をしない先輩を不思議に思いながらも、その場を後にした。

 

 

 バトルロワイヤル開始から10分が経過した時、俺の目の前にナガサキが操るザクコマンドーが現れた。

なんだ。選考会に参加していないお前は……ガンプラファイターであることすらやめたお前が、俺の前に立ちはだかる理由はなんだ。

しかし、自然と頬が緩む。そういえば、こいつとガンプラを挟んで対峙するのは久しぶりだ。

「ナガサキぃ……久しぶりだな、お前とやるのは」

『そうですね。楽しみましょう、サカキ先輩』

「抜かせ!」

俺は全てのミサイルを打ち出した。

雨というよりも壁に近い密度のミサイルを打ち出し、ザクコマンドーを爆殺するつもりだった。

だが、そのミサイルの壁を、ザクコマンドーは抜けてきた。

壁の一部にミサイルを撃ち込み、そこをくぐり抜けることにより俺に近づいてきた。

今度は機関銃の連射。これこそ雨と表現するのに相応しい速度と密度を持つ攻撃だったが、ザクコマンドーの装甲が想像以上に固く、ダメージは肩のミサイルポッドを破壊しただけに留まった。

ならばと、俺は突進を開始した。ティエレンの足には装甲の代わりに近接戦用のニードルを取り付けてある。

重さでは勝っている。鋭角のニードルを突きさせば、一撃でガンプラを貫くほどの威力はある。

「これでぶっ壊れろ!」

『やっぱり突っ込んでくるんですね』

ザクコマンドーは突然武装をパージし、それをこちらに投げ込んできた。

ティエレンの足元に落下した武装を踏んで足を掬われることを恐れた俺は速度を落とした。

その瞬間、ザクコマンドーが高く飛び上がった。

「何っ!?」

『その図体では、間に合わないでしょう』

空中でバックパックについていた盾を構え、隠し兵装のビームサーベルを取り出したザクコマンドー。

俺は慌てて機関銃を向けるが、トリガーを引く前に頭上を取られた。

ズガンという音を立ててガンプラの上部に乗られる。

屈辱だ。高機動型を使っている時はこんなこと無かった。

「てめぇ、上に乗るんじゃねぇ!」

『サカキ先輩、やっぱりこういうガンプラ似合ってないですよ』

「うるせぇ!」

俺はザクコマンドーの足を掴んでやった。

『!?』

俺のティエレンには、隠し腕がある。大容量ミサイルポッドの中に隠された腕を解放し、上に乗っているザクコマンドーを引き摺り下ろした。

流石のナガサキも驚いていたようで、あっさりと引き剥がされる。

「俺はお前らが諦めちまった大会優勝を、お前らのバトルを無駄にしないために、このガンプラでやり遂げるんだよ!」

このまま近距離で機関銃を撃ち込んでやろうと銃口を向けるが、その瞬間に正面からミサイルによる攻撃を受ける。

別の敵が近づいてきたのかと視界を広く外に向けるが、誰もいない。

あったのは、さきほどナガサキがパージした兵装。そこからミサイルが発射されていたようだ。

「クソ、遠距離操作か!」

『餅は餅屋ですよ、サカキ先輩。火力支援とミサイル操作では私の方が先輩です』

気がつくとザクコマンドーは背後に回りこんでいて、腕の届かない位置にいた。

ティエレンのような巨大なガンプラは旋回に時間がかかる。

背後を取るのは定石だ。だからこそ、対策はしてある。

「そっちも"正面"だぜ、ナガサキぃ!」

『!?』

背面のティエレンの胸部付近のカバーが外れ、隠しカメラが機動する。

カメラに映るザクコマンドーに向け、隠し兵装であるヒートナタを取り出して斬り掛かった。

ナタはザクコマンドーの右腕と左足に突き刺さった。これで満足な機動はできないだろう。

「近接は甘いなナガサキ。ビルダーなんかに逃げたせいで、腕も鈍ってるんじゃねえか?」

『やっぱりサカキ先輩は近接武装の方が似合ってます』

「しっつけぇなお前は」

『……私も部長も、悪いことをしたと思っているんです』

ナガサキは声色低く語りかけてきた。なんだよその声と顔は。涙目になってんじゃないかお前。

『私がビルダーを選んで、部長もチームを抜けて、サカキ先輩はベスト4入りした世代で唯一残っている現役のファイターです。きっと、また好成績を残さないといけないと思いつめて、大好きだった高機動型のガンプラを封印して、火力支援型を使っているのではと……部長とこの前話したんです』

思いがけない言葉だった。

二人は全国優勝を諦めたから、俺のことなんて見ていない。そう思っていた。

とても、嬉しい。

けれど。

俺はここで喜んではいけない。

今の俺は、二人が諦めた夢を追う人間なんだ。夢を諦めた人間に慰められるわけにはいかない。

「っだからしつっけぇっつってんだ!俺は別に高機動型を封印したわけじゃねぇ!今は火力支援型を使っているってだけだ!」

『え?』

「今の俺のチームには、この構成が一番合ってるんだよ!だから高機動を使うべき時は、使う!」

嘘だ。意地を張っていた。

けれど今、意地を張る理由は無くなった。

だから精一杯強がって、この場を乗り切ろう。乗り切ったら、下手な意地なんて張らず、また研鑽を積もう。

夢のために。

「さぁて、そんじゃあ最後と行くかナガサキぃ」

『……はい。サカキ先輩が腐ってなくて良かったです。考えてみれば変な意地張ったり口が悪いのは元々でしたね。すいません』

「誰が性根が腐ってるだクソが!次に生意気言ったら後輩だろうと容赦しねぇぞ!」

『性根のことまでは言ってませんよ。思ってはいますが』

「ぶっ潰ーっす!」

俺の怒号とナガサキの軽口は、バトルロワイアル終了まで戦場で火花を散らし続けた。

 

 

 上空にコアスプレンダーが飛んでいるのが見えた。

恐らくアレは先生……シンさんのガンプラだろう。

詳しい話は知らないが、アリガ・シンエモンと言えばガンプラ界ではちょっとした問題児らしく、マトモに大会に出ないのに実力は相当上の方で、非公式で色々と伝説を残しているらしい。

今回も高校生に混じってバトルに参加したかと思ったらコアスプレンダーで高みの見物。噂通りマトモじゃなさそうだ。

「っつーか呼び方が色々ありすぎてわかんないんだよな……ナガサキ先輩とかガンヲタはアリー・アル・サーシェスに似てるからってアル先生って呼ぶし、上級生はみんなシンさんだし真面目や奴らはアリガ先生だし……っと、言ってる場合じゃないか。俺もそろそろ動かないとな」

俺はWOヘッドを開き、ティフシーガンダムを立たせた。

森が深いおかげで伏せればガンプラを完全に隠すことができたので、隠れて周囲の敵影を確認していた。

ビットが届く範囲を調査できればと思っていたが、思いの外フィールド全体を把握することが出来た。

今、フィールドの東側ではサカキ先輩とナガサキ先輩が戦闘中。何でナガサキ先輩が参加してるのかはわからないけれど。

俺の位置はフィールドの西側。丁度真反対の位置だ。参加者の大半が南の方に集中してるみたいで、そこでは反応が次々に消えていく。

北側には……

「おっ、イイジマ先輩とミズシマが居るな。近くに居るのは……カガミハラか?それと後3人か……」

レーダーを見て数を確認した次の瞬間、ミズシマとカガミハラ以外の反応が途絶えた。

一瞬で全て消えたとかならレーダーの故障かと疑ったかもしれないが、カガミハラに近い反応から、順番に一つずつ消えていった。

いや、一番遠かったミズシマが辛うじて残った、と言う感じかもしれない。

「……今、何が……!?」

フィールド北側に視線を向けると、禍々しい黒い霧が充満していた。

霧は木々の間を抜けてどんどんフィールドを侵食していく。

触れたらどうなるか分からない。俺は慌ててティフシーガンダムを上空へ飛ばした。

「ミズシマ、聞こえるか!?その霧なんだ!?」

『カイト!?そ、そうだカイト、今すぐフラグシップ化して!早く!』

「?お、おぅ!」

俺はティフシーガンダムの周囲のプラフスキー粒子を金色に光らせる効果エフェクトを発生させるFlagShipを起動した。

周囲が金色に光る。

その発光エフェクトが黒い霧に触れた瞬間、プラフスキー粒子が弾けた。

「な、なんだ!?」

『たぶんこの霧、カイトのフラグシップと同じだ!粒子を変質させてる!これで周りの人が全滅した!』

「全滅……!?」

恐らく、この霧の中に入るとガンプラを動かしている分の粒子までも霧になってしまうのだろう。

霧に飲まれたら、ただのプラスチックに戻りって終わりってことだ。

「なんでミズシマは平気なんだ!?」

『アブソーブシールドで霧になった粒子を吸収して動力にし続けてる!でも、あんまり長く持たない!』

そう言った瞬間、ミズシマとの連絡が途絶えた。と同時に、霧が揺らめいた。

俺は霧の向こうから何かが向かってくるような予感がして、WOヘッドを被って防御の体勢を取った。

次の瞬間、霧の中からエニグマが現れて俺をマントに包んで引き込もうとしてきた。

「うおぉ!?」

『あれ?動けるの?その光で防いでるのかな?』

無邪気なミズキの声が聞こえてきた。

エニグマはマントから黒い霧を吹き出してティフシーガンダムに吹きかける。まるで俺の光をかき消そうとしているみたいだ。

『ありゃりゃ、相殺されてる。同じ原理で光ってるんだ、それ』

「ちょちょちょっちょま、まっまっまっまままー!」

光と霧がぶつかった部分で連続して粒子が弾ける。まるで爆竹がずっと鳴り続けているような状況に、俺はどうにか離れようとブーストをふかした。

だが、爆竹の音は鳴り止まない。

エニグマが、ぴったり後ろを付いてくる。

「痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い……ってぇっつってんだろーが!」

『きゃあ!?』

叫んだ瞬間、フラグシップの光が強まり、霧どころかエニグマすら吹っ飛ばした。

俺は驚いて周囲を見回す。

光が、通常の3倍くらいの大きさになっている。こんな機能はつけていない。

「……でも、これなら押し返せっ……痛って……?」

体に違和感を感じ、腕をまくって見る。すると、肌に若干の火傷の後があることに気がついた。

まるで大量の爆竹を投げつけられたような状態だ。さっきまでこんなの無かった……

「……え、何これ?」

『よーし勝負だー!』

自分の体を見ていて、エニグマが迫ってきた際に反応が鈍る。

マントの中から伸びてきた爪が顔パーツに直撃した。

その瞬間、顔面に激痛が走る。

「ぬっぐ……何のぉ!」

俺は気合で操作パネルを操作し、ビットを呼び戻して神風特攻剣を作った。

いくつかは霧に触れてしまったらしく、本来の長さの半分程度にしかならなかったが、十分だ。

振りかぶってエニグマに向かって斬りつける。エニグマは回避のために身を引き、そのまま霧の中へと消えていった。

だが、今のこの状況ではカガミハラお得意の不意打ちは使えない。なにせ、近づけばその瞬間に爆竹が鳴るのだから。

「こりゃいい!お前の特技はお預けってことだな!」

『むむー、霧が出ればもっと不意打ちしやすくなると思ってつけたのにぃ~』

確かに、時と場合によるんだろうが、この霧は凄く有用な兵装だ。

カガミハラお得意の死角からの攻撃との相性も抜群だ。

だが、俺のように周囲の粒子に作用するような兵装との相性は悪い。

"霧になれ"と言う命令と"光になれ"という命令が重なった空間にある粒子は双方の命令を無視して透明になるらしく、その際に軽い衝撃波を発生させている。

プラフスキー粒子の特性をより深く理解した者が勝つ……まさにその通りの状況だなこれは。

「さあ、どっからでもかかってこいやぁ!」

『はい捕まえたー!』

「へ?」

ティフシーガンダムの背後から腕が伸びてきて、がっちりホールドされる。

見るとエニグマは霧を出していない。

『霧を出さなきゃいいだけで、霧なんて無くても近づけるしー?』

「し、しまったぁぁぁああぁあ!」

俺は叫びながらエニグマに霧の中に引きずり込まれた。

最初の方は爆竹の嵐に投げ込まれたような衝撃に襲われたが、そのうち周囲を漂う霧の量を捌ききれなくなり、沈黙した。

腕一本動かせない。敗北だ。

『にっひっひー、私の勝ちー』

「うぐぐ……体めっちゃ痛ぇ……」

どうやらこの霧はカメラ機能に回している粒子までをも侵食するようで、画面が暗くなっていく。

ブラックアウト寸前の世界に映るエニグマは、まさに悪魔のそれに相応しかった。

だが、視界が完全に黒に染まる寸前、霧の中で光る物が見えた気がした。

 

 

 カイトが負けていた。

かろうじてアブソーブシールドで生き繋いでいたストライクフリーダムを歩かせてカイトの居る場所に向かっていた俺の目の前に、ティフシーガンダムとエニグマが落ちてきた。

エニグマは動いている。ティフシーガンダムは沈黙している。

「やっぱり強い……ミズキ」

『ユウジ!まだ生き残ってたんだね!まだ戦えるなんて嬉しい!』

「……俺はちょっと苦しいかな……はは……」

無邪気に開戦宣言したミズキは俺に飛びかかってきた。まずい、今のエネルギー量じゃ瞬殺だ。

俺は慌てて反転して走った。

アブソーブシールドに触れた霧は粒子に変換される。だから走ってシールドに触れる霧の量が増えれば、その分回復速度が上がる。

『むむー、逃げるなぁ!』

「嫌だ、逃げる!」

『無理でーす!』

一瞬で近づいてきたエニグマに、背後からのしかかられる形で押さえつけられる。

そして霧を噴射されてしまう。

「うわああ!」

『ふっふーん。どう、私の考えた"黒蝕流"の威力は?強い?』

黒蝕流。たぶん、元ネタにしたっていうゴア・マガラの黒蝕竜って呼び名をもじった攻撃なんだろう。

そりゃあ強いよ、さっき俺の周りの人たち全滅したし!

でも、俺やカイトみたいにプラフスキー粒子を変換させる機能を持たせたガンプラならかろうじて耐えられることは分かった。

っていうか、そうでもしないと手が出ない。

「と言うか、この霧の量はおかしくない!?フィールドの1/4は侵食しているよ!?」

『粒子変容の基本が分かっていれば誰でも作れるマントだよー、こんなの』

エニグマは更に霧を吹き付ける。もうダメだ。腕一本どころかカメラ機能まで動きが鈍ってきた。

視界に映るエニグマが霞んでいく。

強い。このままでは、負ける。

でも、別に負けても俺の評価点がミズキに加点されるだけ。チーム内で点数が動く分にはあまり意味はなく、俺が倒されても大会出場の競争には関係ない。

カイトが負けたのだってそうだ。チーム内でのポイント移動ならそんなに心配することはない。

無い、けれど……

このままミズキに負けたら、本当に"ミズキの後ろの馬鹿"になってしまう。

踏ん張れ。踏ん張れなきゃ惨めで格好悪いだけだぞ。

「っこ、のぉおおおぉ!」

『うぇ!?なんで動けるの!?』

俺はアブソーブシールドを全開にして腕を突き出した。霧が吹きかけられ、その大半を吸収することに成功する。

漂う霧をかき集めていた時と違い、吹き付けられた霧を吸収した今、ストライクフリーダムのエネルギーは満タンに近い数値になっていた。

だが、この霧の中で行動し続ければ、また粒子がなくなってしまうだろう。

いっそのこと、全て吸収できたら……

「……そうだ!」

『うわっ!?』

俺は勢い良くブーストを吹かしてエニグマの拘束から逃れ、霧の中を両腕を前に突き出した状態で飛び回った。

若干消費量の方が吸収量よりも多いが、この霧全てを吸収した方が、事を有利に進められる!

俺はデタラメに、でもなるべく霧全体を吸い込めるように動きまわる。

……なんか今、自動掃除ロボの気持ちが分かった気がする。

全力でブーストを吹かしていたので、然程時間を掛けずにほぼ全ての霧を吸収することに成功した。

あと残っているのは、エニグマ本体から出ている霧だけだ。

「ミズキは、どこに……」

『ここだよぉー!』

エニグマは、俺の真後ろに居た。俺が霧を消した後に、再び霧を生成している。

いつの間に、と言う暇も無く追いつかれ、マントで覆われる。

霧がガンプラ全体を包み込むが、器用に腕の部分だけをマントの外に出してアブソーブシールドで吸収されることを防いでいる。

「うぐっ!?」

『いや~、勉強になったよユウジ。やっぱりユウジは私に色々なことを教えてくれるね。あんなお掃除上手だなんて思わなかったよ。だから今度は、掃除機の無い所を一気に染めてあげる!』

流石にこれは防げない。もうダメだと諦めた時、突然エニグマにビームが撃ち込まれた。

何事かと周囲を見回すと、ティフシーガンダム、ブレイヴGO改を含める、先ほど霧に飲まれた人たちのガンプラが周囲を取り囲んでいた。

『え!?何で!?ガンプラが動かなくなって、もうバトルから抜けたんじゃ……!?』

『画面にLOSEとは表示されていなかったからな。誰か霧を晴らしてくれるんじゃないかと、ずっと待ってたんだよ』

真っ暗な空間で、誰が助けてくれるかも分からない状態で、ずっと待機していたのか。

それは、みんな相当に辛抱強いな……!

『しっかし良くやったねミズシマ!お礼を言うよ!さあ、先ずはあのバランスブレイカーからやっちまうよ!』

「ユキさん……はい!ミズキ、覚悟!」

『えぇええぇ!?みんなで私狙うの!?なに、私そんなに悪者なの!?』

『ガチでモンスターなんだよお前は!』

ゴア・マガラ……いや、ミズキ・マガラを討伐すべく、ファイター……いや、ハンターである俺たちは連携しての攻撃を始めた。

エニグマが霧を出したら俺のアブソーブシールドかカイトのフラグシップで弾く。

遠距離でユキさんのオルトロスが唸り、近距離で他の3人の攻撃が炸裂する。

流石のミズキも多勢に無勢、数分の激闘の後、討伐となった。

って言うか1対6の戦力差で数分持つって……やっぱモンスターだな……

『ふえぇええぇもうやだぁあぁぁあ』

断末魔を上げて森へと落ちていくエニグマを見送り、俺たちは勝利を確信した。

そしてそれと同時に、再びバトルロワイヤルが再開された。

撃って撃たれて斬って斬られて、恐らく然程実力に差が無い、バトルロワイヤルらしいバトルロワイヤルが行われ、タイムアップで試合が終了した。

 

 

 バトルロワイヤルが終了し、部内では互いを励まし合う声や反省会を開く部員でごった返していた。

選考会終了直後の、ミズキの強さをどうにかしないと、と言っていた雰囲気はなくなっている。

何せミズキは倒されたのだから。倒せるのだと証明されたから。

たぶんアリガ先生はこうなることを見越してバトルロワイヤルを提案したのだろう。

ちなみに俺の戦績は討伐数0。

カイトは最後のバトル時に2人落として2。

ユキさんは俺たちと会う前も含めて6。

トウキは本当に最初に落ちたのでこちらも0。

ちなみにシンジ先輩は何故か乱入してきた先輩とずっと一騎打ちしていたらしく、最初のトウキを倒した1のみ。

だけど何か嬉しそうだった。

ミズキは霧で行動不能にしていただけだったので、討伐数は0。

実は落とされた人はあまり多く無いようだった。

「さすがアリ先生。ちゃんと一年生の実力も均等に上がってるのね」

「ははっ、フィールド上空から見させて貰ってたが、中々良い仕上がりだったぜ。特に、ミズシマ」

「え?俺ですか?」

バトル後に親しげに話していた先輩とアリガ先生に声をかけられ、少し驚きながら近づいていく。

「最初のバトルロワイヤルの日の夜、お前とナガサキのバトルを見て予感はしてたんだよ。お前は中々キレる選手になるんじゃないかってな」

「は、はぁ」

慣れない褒められ方をしてどう反応しようか困っていた所に、ミズキが飛んできた。人間魚雷とでも言わんばかりにえらくエグい角度で頭からわき腹に突っ込まれて俺は肺の空気を吐き出して悶絶した。

「ぅぐはぅっ」

「酷いよユウジー!私も最後まで戦いたかったよー!」

「お前みたいなマップ兵器を最後まで残しては置けないでしょ。ほら離れてやりな、ユウジが死にかけてるよ」

「うぅぅ、ユキが冷たいー!」

ミズキをひょいと俺からひっぺがしてくれたのは、ユキだった。

お礼を言おうとユキの方を向くと、ユキの向こうに死にそうな顔をしたトウキがいることに気がつく。

「え?ど、どしたんですかトウキさん!?」

「あー、トウキな。開始30秒でサカキの奴に撃ち抜かれてただろ?落ち込んじゃってさ」

「……俺は、ダメな男なんです……ダメ男なんです……うおおぉおおぉお」

「男泣き!?」

「あーもうみっともないんだから……ほら元気だせ」

右手でミズキを諌め、左手でトウキを慰めてる……ユキさんの姉御属性半端ない……

と、そんな感じでバトルロワイヤルの結果について話し合っていると、パンパンと乾いた音が部室内に響く。

アリガ先生が手を叩いたようだ。

「さぁーてぇ、今日の部活はお開きだ。お前ら忘れ物しないように帰れよ。楽しい楽しい、ゴールデンなウィークが待ってるぜ?」

アリガ先生のことセリフに促され、次々に帰り始める部員たち。

俺たちも挨拶をして、部室を去る。ふとカイトが居なくなっていたことに気がついたが、メールに「ブラウザゲームのイベント期間だから先帰る」と言う連絡が来ていた。

何も告げずにいなくなるのは珍しいが、まぁカイトだし心配ないだろう。頑張って、と返信しておいた。

学校を出て帰路を進むと、部員が散り散りになっていく。

俺と先輩は駅前の住宅街、ミズキは駅前に迎えの車。シンジは駅前のマンションに、イイジマとダイモンは駅の反対口に住んでいるらしいので、何となく固まって駅前まで歩いてきた。

このまま解散かな、という雰囲気になった時、ダイモンが声を上げた。

「皆さん、休みは予定あるんですか?」

ダイモンの質問に、みんなそれぞれの予定を告げていくが、特に大きな予定を持つ者はいなかった。

そこでダイモンは提案する。

「休み中、1日でもいいんで、遊びませんか?思えば4月の土日はずっと選考会の準備とかタッグ大会とかで全然遊べていなかったし、せっかく皆さんとも友達になれたので……」

「いいねぇ、私からも提案するよ。トウキお得意のボーリングにでも行くかい?」

「ぁ?ダイモンはボーリングやんのか。俺もやんだよ。もちろんスコア200以上だろうな?」

「え!?サカキ先輩もやるんですか!?い、いや、200なんてそんな……たまにしか行かないです」

「っしゃ勝負だ。おいナガサキ、お前も来い!いつだったかお前に教えるって言ったけど来た試しねぇだろ!」

「……シンジ先輩のボーリングって何だかねっとりしてそうで見る気になれないです」

「おいてめぇぶち殺すぞ」

「ユウジも来る?」

「うん。カイトにも連絡しておくね」

「聞いてんのかゴラぁあぁぁ!」

「ユウジ私も行く!何なら家にあるボーリング場でもいいよ!」

「家にボーリング場あるの!?」

ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、互いに休み中に遊ぶ内容で盛り上がった。

この時はまだ、休み明けに起こる大事件のことを、微塵も予感していなかった。

 

第6話「蝕む翼」 -完-




読了お疲れ様でした。

今回は予想よりも長くなってしまい、少し削ったり何だリして大変でした……
さて、実はここまでで1カ月。4月が終わり、5月が始まります。
さしずめ4月編とでも言いましょうか。
5月から新キャラが更に登場し、それで一応メインとなるメンバーが揃う予定です。

次回更新日時は3/13予定です。

追記:諸事情により更新が少し遅れます。16日には……なんとか……


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ガンダムビルドファイターズ AG 第七話「三つの翼」前篇

 午前7時半の大岩学園正門前。部活の朝練に来た生徒は既に中に入り、朝練のない生徒はまだ登校してこない時間帯。

そんな中途半端な時間帯に、門の前に立つ3つの人影があった。

「ここが大岩学園ネ」

「うむ」

「ダエータターク」

3つの影は門付近に居た警備員に話しかけ、自分たちが転校生であることを告げた。

確かに3人は違う学校の制服を着ている。だが、同時に3人、しかも見た限り知り合い同士で転校とは奇妙だ。

今日3人転校生が来ることは聞いていた警備員だったが、あまりに奇妙な3人に警戒する。

「ああ、心配しなくていいヨ。偽装とかそういうのじゃないカラ」

主だって喋っているのは、黒髪の長いポニーテールの小柄な少女で、少し訛りがある。聞けば父親が中国人なのだとか。

その後ろに、まるで付き人のように立っている二人も、同じく少女。

こちらがかなり不気味だ。何せ同じ顔をしているのだから。

「後ろの二人は双子なんだ。あ、私は姉妹とかじゃないヨ」

「左様。まあ姉妹のように育ったことには変わりないが」

「そうですね、パドゥルーガです」

侍みたいな応答とロシア語?での反応。ちょっとどころじゃなく不気味だ。

どちらも明るめの茶髪で、若干色白。聞けばロシア人と日本人のハーフなのだとか。

警備員はますます警戒したが、身分証や転校手続きの書類にも問題は無い。

門の中に通され、3人は堂々と校内へと歩みを進めていった。

「まずは顧問を抑えル」

「顧問はアリガ・シンエモンだったか。む、しまった。職員室の場所がわからないぞ」

「ニェトプラブレム、生徒手帳に校内見取り図がありますよ」

「でかしたハク。シロ、行くぞ」

「御意」

「ダー」

3人は上履きに履き替えて職員室へ向かい、席票からアリガ・シンエモンの席を発見した。

ホームルームの用意をしていた所へ突然現れた3人にクエスチョン・マークを浮かべるアリガ。

だが次のセリフを聞いた途端、それはエクスクラメーション・マークに変わった。

「私たち3人をこの学校の全日本ガンプラバトル選手権の出場チームとして登録しなさイ!」

 

 

 大型連休明けの放課後、突然集会を開くと言われて部室に椅子を並べて着席する部員たち。

もちろん、その中には俺や先輩、カイトやユキ、トウキ、ミズキ、シンジ、部長の姿もあった。

言われていた開始時間になった時、準備室の方からアリガ先生と3人の女子が現れた。

3人とも見慣れない顔だ。しかもそのうちの2人は同じ顔をしている。双子だろうか。

アリガ先生は気だるそうな表情で3人を部員たちの座っている前に立つよう促した。

「あー……この度ウチの部に3名の女子が加わることになった。名前はー……」

「イブサキ・スイランでス。1年生です、宜しくお願いしまス」

「カガ・ハク。2年生で御座る」

「ラズリシーチェプリスターヴィッツア、カガ・シロですー。ハクの双子の妹で、2年生です」

3人の自己紹介が終わると、部室内がざわつき始めた。

いや、そりゃそうだ。

なんというか、濃いんだもの。

ガンダム作品には良く3人チームで登場する強敵がいるけれど、なんとなくそんな雰囲気を持っている。

そこはかとなくトラブルが発生しそうな自己紹介に、部員一同身構える。

だがそんな身構えなど無意味であるかのように、スイランが話し始めた。

「さて模型部の人たチ!私たちがわざわざアリガ先生に頼んでこのような紹介の場を設けてもらったのは他でもなイ!私たちを全日本ガンプラバトル選手権の出場チームとして登録することへ依存が無いかどうかを聞きたイ!」

斜め上の発言がスイランの口から飛び出した。そのセリフを受けてまず最初に立ち上がるのは……

「ふっざけんな何だそりゃ!テメェら何者だか知らねぇが依存大アリだ!」

やっぱりシンジ先輩だ。けれど今回は全面的に同意見。いきなり転校してきて出場チームだなんて俺だって納得できない。

……けれど、3人の横に立つアリガ先生だってそんなこと分かりきっているはず。

それなのにこんな発言自体を許すということは、この3人がそう言うだけの何があるということ。

それがわかっているから、シンジ先輩も”何者だか知らねぇが”と付け加えたんだろう。

そしてそれを3人の口から語られるのを待っている。

けれど、回答は意外な所から与えられた。

「あいつら、去年のガンプラバトル選手権の西日本予選大会準優勝チームじゃないか?」

回答したのは、カイト。ガンプラバトル選手権とは、全日本ガンプラバトル選手権とは別の大会。

全日本ガンプラバトル選手権の方は日本で一番を決める大会だが、ガンプラバトル選手権は世界大会だ。

そのレベルは段違いで、各地で開かれる予選の時点で全日本ガンプラバトル選手権で優勝する実力が無ければならない。

つまり、その予選大会で準優勝ということは……

「なるほど。全日本ガンプラバトル選手権で準優勝する実力を持っていると言うこと、ね」

「だから選考会なんてやらなくても実力ははっきりしている。雑魚は引っ込んでいろ、というやつですね」

ユキとトウキが3人を睨みつけている。

つまり俺たちは、侮辱されたということだ。

けれどアリガ先生がその発言を許したということは、アリガ先生はそのつもりでいると言うことだろうか。

アリガ先生は無表情……というか疲れ切った表情で3人を見ているだけだ。

「そこのアフロさんの言う通りでス。私たちが出場すれば優勝は手堅イ。私たちが出ることに依存があるなら私たち以上の実力を持っていると言うことを示してくださイ」

そう言ってスイランは服の中からガンプラを取り出す。

付き従うように左右に立つハクとシロもガンプラを出した。

それを見た模型部員たちは椅子から立ち上がり、それぞれガンプラを構えた。

連休明けに突然道場破りのように現れた3人組を相手にしたバトルが始まった。

 

 

 結果、それはバトルにすらなっていなかった。

スイランのガンプラはティエレンの改良型、ハクはアストレイブルーフレームの改良型、シロはガンダムエアマスターの改良型。

最初に戦ったシンジ先輩のチームは、シンジ先輩以外の2人がアストレイに一瞬で落とされ、シンジ先輩のティエレンは弾幕を全てかいくぐって近づいてきたエアマスターに落とされた。

次に戦ったユキとトウキのチームは、ティエレンにパワー負けしたトウキが最初に落ち、エアマスターに速度で負けたブレイヴGO改が落ちて、もう一人がギブアップを宣言した。

最後に残った俺たちのチームも、真っ先にミズキを危険視した3人がエニグマを取り囲み、3方向から集中攻撃することで開始数分で落ちる。ストライクフリーダムはアブソーブシールドを使用した瞬間にビーム兵器を全く使わなくなり、エネルギーが切れた瞬間に叩かれ、ティフシーガンダムは隠れていた水辺に飽和攻撃を食らって轟沈。

他のチームも同様に落とされ、部の全チームと総当たりしたにも関わらず1時間程度で終了してしまった。

完全敗北。戦っている次元が違っていた。

「これで良いでしょウ?まだ私たちが大会出場メンバーであることに異議を唱える方がいるなら、選考会とやらで再戦を受けまス」

「……スイラン、そのように軽々しく挑戦を受けずとも良いのでは?我らの練習時間が減るだけだ」

「二エット、ハク。私たちは代表を譲っていただく側なんですからスクロームノスチでなければダメですよ」

3人は会話を続けながら、部室を去って行った。

まるで嵐のような1時間に、俺たちは疲弊し切っていた。

そんな俺たちに、同じく疲れ切った表情のアリガ先生が語りかける。

「あー……まぁそんな感じだお前ら。正式決定までにあいつらに勝つか、対抗できる実力だって証明できないとマジであいつらが出場メンバーになっちまう。あの3人、校長に話を通したみたいでな……俺でもどうにもできん」

アリガ先生の話によると、9月に開催される全日本ガンプラバトル選手権の出場メンバーは7月下旬に決定し、夏休みは強化合宿を行うとのこと。

選考会は2週間に1回。つまり、後6回の戦いの中で勝利しなければならないと言うことだ。

「……あんな化け物に、たった6回しか挑めないのに……それで勝てって……?」

誰か呟いたその言葉が、部室全体に伝播する。

無理だ、不可能だと、空気が語っていた。

これが大岩学園模型部崩壊のきっかけとなる事件となった。

 

 

 つづく




読了お疲れ様でした。

今回ちょっと諸事情で短めのお話の投稿になります。
諸事情と言うのはですね……最近、花粉が良く飛んでいるからです……
いや、ここ数日は天気が良くなかったので、その御蔭でこのくらいは書けた、と言うべきでしょうか……
私はくしゃみが止まらなくなるタイプでして、くしゃみのし過ぎて疲れきってしまい執筆する気力がなくなってしまい、大変でした……

次回更新は3/20予定です。たぶんガンプラの方の投稿になると思います。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第七話「三つの翼」後篇

閲覧ありがとうございます。

今回はバトルがありません。
前篇もちゃんとしたバトルシーンが無かったので、まともなバトルなしの話は意外と初めてです。


 次の日、部室に顔を見せたのは全体の半数ほどだった。

多少驚いたが、あんな事件があった後なのだから仕方がないかと、顔を出した部員たちでスイラン・ハク・シロへの対策会議を開いた。

終始無言だった部員が多数いたのが気になったが、やはりまだ戸惑いを隠せないのだろうと思っていた。

次の日、会議中に無言だった部員が顔を出さなかった。

出席した部員から欠席している部員の話を聞いてみたが、中には授業にすら出ていない生徒もいるようだった。

俺は心配になりアリガ先生に相談したが、先生はしばらく時間を置くべきだと言うだけだった。

不安が拭えないまま1週間が経過した。

部室に来るのは、俺を含めて8名だけになってしまった。

俺は部長として、どうしたら良いのだろう。

 

 

 スイラン・ハク・シロが模型部に入部してから1週間が経過した。

3人はこの1週間は転校で授業の進み具合を調整する補修を受けていたので、本日から部活に参加することになる。

けれど、部室には彼女たち3人を除いて8人の部員しかいない。

皆、目標を見失ってしまったんだ。あの3人の勝たないと大会に出られない。けれどそんなの不可能だ。だから大会には出られない。大会に出られないのならば、模型部員である意味がない。

恐らく大概の部員はそういう思考に陥って顔を出さなくなってしまったんだろう。

ガンプラバトルをするだけなら、模型部に入る必要はない。近所にあるショップに行けばいくらでもバトルが出来る。

悲しいけれど、今の時代の学校の模型部のメリットは参加条件が学生である大会への出場くらい。

それが無くなればこうなるのは仕方がない。

「……けど、こんな壊れ方……あんまりじゃないか……!」

俺はガラガラになった部室を見て、誰にともなく呟いた。

大会への出場意欲を持つ生徒が減って自然とこうなったのであれば仕方がない。それは時代の流れだ。

けれどこれは、あの3人組が故意に仕組んだ”乗っ取り”だ。

憤らなければならないと思った。

「ユウジ、部長が呼んでる」

ふと気がつくと、部室にいたメンバーが全員準備室の方へ移動し始めていた。転校生の3人を除いて。

俺は先輩の後に続き、準備室に入る。転校生3人はこちらの動きには全く関心を示さず、自分のガンプラをいじっていた。

準備室の中には部長が趣味で作ったガンダム作品のコスプレ服が入っているクローゼットとジャンクパーツが入ったプラスチックケースがいくつもが置いてある。

皆はそのケースに座るように促され、座る。

この場にいる8人は、俺、先輩、カイト、ミズキ、ユキ、トウキ、シンジ、部長。

呼び出した張本人である部長は立ったまま。そういえば、今日はコスプレをしていない。

「あの3人を倒す」

キャラを作っていない、素の部長は若干低めの声色で語り始めた。

現状チームとして維持できているのは、奇しくも俺のチームだけ。ユキとトウキのチームメイトもシンジのチームメイトも連絡がつかないらしい。

「現在我が部は、模型部残党VS転校生と言う構図になっている。これは転校生によって仕組まれたシナリオ通りの展開である可能性が高い」

部長は何故こんな現状に成ってしまったのかを探るため、職員室に何度か足を運んで情報を集めてきたと言う。

それによれば、転校生はこの学校に来て直ぐにアリガ先生の元を訪ね、そのまま校長の元へ行き自分たちの戦歴を語り”優勝の可能性が高い”と言うことをアピールしたらしい。

そしてその後、”現在の模型部の選考方法が転校生に優しくない”と意義を唱えた。

確かに今の模型部の選抜チーム決定方法では、4月の頭から選考会に参加していないと評価されづらい。

途中参加の生徒が確実に不利になる仕組みだ。

「アリガ先生はその時に選考会の仕組みを説明したらしい。途中参加の生徒でも評価点を分散してうまいこと平等になる仕組みを作ってあったらしいんだけれど……もう校長はその話を聞いていなかった」

この時すでに校長は”優勝の可能性の高いこの転校生を出場させる方法は何だろう”と思考するようになってしまっていた。

転校生の、というよりスイランと言う少女の仕業らしい。口が上手く、自分に有利になるようにうまいこと思考を誘導したのだろう。

アリガ先生が疲れ切っていたのは、そういうことだったのか。

「そういうわけで、今まで平等な条件で行われていた選考会は”有象無象VSエリート転校生”の構図に作り変えられてしまったって訳だ」

「先にアリガ先生を反論できないように校長を味方につけたのね」

「ッチ、中々頭がキレる奴らだ」

「……でも、実力は本物。小細工せず、堂々と選考会に参加してきても勝てなかった」

先輩の一言に、少し騒ついた雰囲気が再び落ち込む。けれど部長は、構わずに続けた。

「確かに、その場合は素直に諦めてしまったかもしれない。けれど、今はもう状況が違う。これは乗っ取り行為だ。戦いを挑まれたんだ。そして、今のままじゃ負けたままだ」

部長のセリフに、落ち込んだ雰囲気が再び騒つく。

……いや、先ほどの不平を吐き出す雰囲気では無い。もっと熱い空気が、準備室を満たしていくのが見て取れた。

「オルガ風に言うと、売られた喧嘩は買うことにする。やられっぱなしじゃガンヲタの名が泣くぜ。最初にも言ったけれど、今からあの3人を倒す方法を考える」

部長の瞳の奥に、確かに炎を見た。

俺たち8人は誰に言われたわけでもなくガンプラを取り出し、掲げた。なんかこういうノリ、本当にジオンっぽいよなと思いつつ、とても楽しい気分になる。

「鋼鉄の7人には1人多いから、鋼鉄の8人か?」

「オイ部長、それ最後ほとんど死ぬから名乗っちゃダメだろ」

「んー、他に8人の組織って何かあったっけトウキ?」

「たぶんガンダムだと無いですね……」

「8人将とかでいんじゃねーか?もしくは4天王2つ分とか」

「8人……4天王……なんだかポケットなモンスターみたいね」

「ジムリーダーかよ!」

皆で軽口を叩く余裕が出てきた頃、対転校生に向けた対策会議を始めた。

最初に話し合ったのは、チーム編成だ。

俺とカイトとミズキは元々チームだったから良いとして、残り5人の中から3人チームを作れば選考会で戦う回数が増える。

最初はユキとトウキのチームにシンジが入ることになる雰囲気だったが、突然部長が手を挙げた。

「俺も選考会に参加するよ。本大会の出場枠は後輩に譲るって決めたけど、これは部の存続をかけた戦いだから」

「マジかよ!んじゃあ、元Bチーム復活だな!おいナガサキ、テメェこの後に及んでビルダー志望だから出ないとか言わねェよな?」

「……言うつもりでしたが、言っても却下っぽいですね。わかりました、入ります」

先輩が、若干諦めた、けれど少し嬉しそうな顔で了承した。

元Bチームと言うのが何かわからなかった所に、カイトが耳打ちしてくれる。

「ナガサキ先輩がベスト4取った年は学校から2チーム出場してたんだよ。3年3人のチームがAで、2年と1年のチームがBってわけだ」

去年の選考会のチーム構成は人数自由だったらしく、先輩たちが選考会で優勝した際にチームには6人の部員がいたらしい。

そこで3人ずつに分かれて出場し、先輩たちBチームがベスト4になったということだった。

ちなみにAチームは序盤にガンプラ学園とぶつかって負けてしまったとのこと。

「Aチームの人は全員3年だったから、今はもういないってことか」

「そういうことだな。でも、Bチーム復活ってことは、ユキ先輩とトウキ先輩のチームは……」

「元Bチームが出るっていうなら私らはサポートに回るよ」

「練習相手、ガンプラ制作、転校生のデータ収集。バトル以外にもやることは多いですよね?」

ユキとトウキはやる気満々で返事をしてくれる。

大丈夫。きっと現状を打破すれば、他のメンバーも戻って来てくれるはずだ。

 

 

 次の日の放課後、俺と部長はホビーショップアナハイムを訪れていた。

目的はもちろんガンプラの購入。俺は未だ扱い慣れないガンプラを(と言うより以前使っていたストライクフリーダムに近づけるため)何かアイデアの種になりそうなガンプラを探しに来た。

部長は以前に使っていたガンプラではスイランたちに勝てないと推測して、新規で作成するとのことで、どうせなら一緒にと誘われた。

ガンプラの販売コーナーに入り、どんなガンプラを買うのかと聞くと、少し困った顔をしながら答えてくれた。

「言い方は悪いけど、メタを張るんだよ。一度戦っているのを見たからね、どんなガンプラが有効かはわかる」

そう言って幾つかガンプラを手にとって買い物カゴに入れていく。

ちなみに先輩たちはそれぞれ練習や調査のために別行動。先輩とミズキは一緒に来たがっていたが、ミズキは家の用事があるとのことで今日は学校を欠席。先輩はシンジ先輩に連れられて連携の練習中。先輩が人を殺しそうな目でシンジ先輩を見ていたけれど、大丈夫だろうか……

ガンプラのパーツをバラ売りしているコーナーに入った時、棚の向こう側に見覚えのある顔を見つける。

「あらユウジ様御機嫌麗しゅう本日はどのようなご用件でこちらにいらしたのかしら私はもちろんグフの作成ですがオリジン版のプロトタイプグフが見当たらず困っていまして」

マシンガントークと共に近づいてきたのは、先輩の幼馴染のイケガキ・サオリ。ここで何度も顔を合わせているので、お互い顔を見れば挨拶をする程度の仲ではあると自覚しているけれど……毎回この言葉の嵐には気圧される。

「どうしたんだミズシマ君……あぁ、イケガキちゃんじゃないか」

「あらトモリ様御機嫌麗しゅうお久しぶりですわね」

サオリと部長……本名ナツモリ・トモリが親しそうに挨拶を交わす。

2人が知り合いだったことに驚いたが、考えてみたらサオリの幼馴染である先輩と元チームメイトである部長なら知り合いでも不思議では無いのかと納得する。

「あ、そうだ。イケガキちゃんなら俺の今考えてるガンプラに良い武器とか思いつくかな」

「あら新作ですか高校の大会はもう出ないと仰っていたのにどういう心境の変化でしょう私でお役にたてる範囲でしたら是非ともお力をお貸し致しますわ」

「助かるよ。ミズシマ君もイケガキちゃんに相談してみると良い。イケガキちゃんはここいら一帯のファイターに顔が利くんだ。中々良いアドバイザーだって有名だしね」

「トモリ様お言葉ですがもうミズシマ様とは仲良くさせて頂いておりますし何度かご一緒にガンプラを作ったことも御座いますのよ」

「あぁ、そうだったんだ。ごめんね、余計なおせっかいだったかな」

「いっ、いえ……」

凄い。2人が揃うとマシンガントークが両方から飛んでくる。

部長の声はサオリと違って聞き取りやすく内容がすっと頭の中に入ってくるが、その代わり凄まじい情報量を一気に突っ込まれるような気がして疲れる。

喋り好きの2人の間に挟まれ、俺は目を回していた。10分ほど経って俺がようやく発した声は、こんな言葉だった。

「あ、あの、立ち話もアレだし、工作コーナーの方に移りません?」

2人とも、あぁ、そう言われれば、と言う感じの顔をして工作コーナーへ移った。

この人たち、放っておいたらマジでずっと喋っているんじゃないだろうか……

「それで、ミズシマ君はどんな改修をしたいんだい?」

「は、はい。俺はストライクフリーダムをもっと安定して動かせる改修を入れたいです」

工作コーナーのテーブルに座った俺たちはサオリにアドバイスを貰う為、それぞれが作りたいガンプラのイメージを話し始めた。

例の3人の話を交えて、有効なガンプラは何か、どんな武装が有利で不利か、いくつか案も出てきた。

けれどその内に、一つの結論に至った。

「ミズシマ君、ストライクフリーダム以外のガンプラにした方が良いんじゃないか?」

部長のこの一言に、俺は心底驚いた。

確かにこれまでの話の流れで、俺がストライクフリーダムを使うメリットが無いことは分かっていた。

ストライクフリーダムは、一騎当千を成し遂げ得るガンプラだ。

作中のような超起動を再現するため、複数の武装を使い分けトリッキーかつ不規則に行動することにより相手を翻弄し、大火力で一気に殲滅。

それがキラ・ヤマトの行った戦法。

だが、それを実現するために素組みのストライクフリーダムはエネルギー不足になりがち。

なので俺はビームシールドを犠牲にしてアブソーブシステムを使った長時間稼働を組みこみ、高火力の兵装をそのままにして、更に近接攻撃手段を増やすためにドラグーンの行動アルゴリズムを改良した。

だがそれは、1対1を想定した改良だ。

逆に今回のような3人がコンビネーションを用いて攻めてくる敵に足してはドラグーンは本来の使用方法に戻した方が良い。

けれどそれを行うとドラグーンに使用するエネルギーを余分に吸収する必要があるため、今のアブソーブシールドだけでは足りなくなる。

補う為にエネルギータンクを担ぐ方法もあるが、それでは機動力が落ちてしまう。

それならばストライクフリーダムを使うよりもダガーやストライクのようなエネルギー効率の良いガンプラを使用した方が良い。

SEED作品やガンダムタイプ拘らなければもっと選択肢は増える。

仲間であるミズキのエニグマとカイトのティフシーガンダムとの相性を考えることも重要だ。

だが、それでも俺は、その部長の言葉に対してこう返した。

「いや、ストライクフリーダムで行きます」

前にも言ったが、俺はストライクフリーダム以外のガンプラを使って戦ったことがない。

拘っているわけでは無かった。ただ、親友との約束をした時に使っていたガンプラだからと言う理由だった。

だから、別に機会があれば他のガンプラに変えても良いと思っていた。

思っていた、けれど……

今ここで使うガンプラを変えたら、それは逃げたことに他ならない気がした。

ストライクフリーダムを使って負けた相手に、ストライクフリーダム以外のガンプラで勝ったら、俺はもうストライクフリーダムを使ってはいけない気がした。

いつの間にか拘りを持ってしまっていたらしい。でもそれなら、俺は拘りぬいてやろうと思った。

「俺はストライクフリーダムで勝つ方法を考えます」

それを言った瞬間のサオリと部長の顔を、俺は忘れない。

サオリは"同志を見つけた"風な表情。部長は"こいつと同類か"風な表情。

あ、やべ。めんどくさいヤツ認定された気がする。

「ユウジ様私感動したしましたユウジ様のストライクフリーダムに対する熱意は本物ですわ私はユウジ様が素晴らしいガンプラを作れるように何でも力をお貸しいたします足りない知識必要なパーツ過去の作例なんでもご紹介いたしましょう!」

「ミズシマ君、拘りは大切だ。しかし必要以上の拘りは執着に変わる。今回は別に良いけれどあまり前のめりになり過ぎるのだけは勘弁してくれ。別に他人の主義に口を出すような真似はしたくないんだが手遅れになってからでは遅いからね……」

やっぱり予想通り、と言うか予想以上の量の言葉が返ってきた。

あぁもう、はやくガンプラ作らせてくれ……

 

第7話「三つの翼」 -完-




読了お疲れ様でした。

今回は各キャラに色んなフラグが立ちました。
この話を書いた一番の目的は、まぁユウジに新ガンプラ制作のフラグを立てたことですかね。
新、と言ってもストフリなのは確定的に明らかなのですが……どんなストフリになるのか、楽しみにしていてくださると幸いです。

次回更新日時は4/3予定です。
追記:リアル事情により更新日時を伸ばします。ちょっと4月に入って環境が変わったせいで執筆時間が取れないので、いつ更新できるか分からないのですが……気長にお待ちいただけると幸いです。


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ガンダムビルドファイターズ AG 第八話「受け継がれる翼」前篇

 スピーカーから流れた下校時刻を知らせるチャイム音を聞き、私たちは帰り支度を始めた。

ガンプラをケースに詰めて鞄に入れて、模型部の部室を出る。

「スイラン、いつまでこのような無駄な行動を行わなければならないんだ?」

「ハク、前にも言ったけれど、私たちは……」

「シロ、いいですよ。正直私も疲れていまス。真面目に部活に参加していないと、シュセキ率を理由に代表を取り下げられるかもと思い毎日部室で練習していますが、正直に言えば自宅の設備で練習したほうが効率が良いです」

「……?あぁ、出席率の事か。シュセキ率」

「う……また噛んでしまいましタ」

スイランは真っ赤になって俯く。スイランは父親が中国人で、実家が本場中国人向けの中華料理屋。

日本語よりも中国語を聞いていることが多かった環境の為か、句読点や促音が苦手だ。

「区切る溜めるの表現が難しいですね日本語は……」

「ミーラヤ、スイラン。とても日本語上手くなったと思いますよ~」

シロはスイランの頭を撫でる。それに倣うようにハクもスイランの頭に手を乗せる。

「うむ。シロなどはロシア語が混じるし、私はこの通り口下手。時代劇を見て日本語を覚えたせいで時折普段使わないような言葉が混じってしまうし……」

「私たち3人とも日本語は何か苦手意識があるんですよね~」

「ちょ、ちょとお前たち……わ、わ、やめ、ロ~」

スイランは双子に撫でまわされ、まるで猫のようにもみくちゃにされる。

身長差もあり、本当に愛でられているようにしか見えない。と言うか実際にされている。

「もう、前にも言いましたがガコウではこういう事はやめて。こういうのあんまり先生に見られるとマイナスの印象を……」

「リーブリッシュ!よいではないかよいではないか~」

「ほれ、もっと近こう寄れ近こう寄れ」

「悪代官とよろず屋かお前ら!やめてくレ~!」

シロとハクは、スイランにとって家族も同然。

スイランには5歳差の兄がおり、兄がガンプラバトルを始めた時に一緒に始めた。

しばらくは4人で遊んでいたが、兄には才能があった。

とある施設からスカウトが来て以来、一緒に遊ぶことは無くなってしまったが、スイラン達はガンプラバトルを止めなかった。

単にガンプラバトルが好きだったことと、止めてしまったら、兄との思い出が無くなってしまうような気がしたからだ。

「……グーグも、この場に居たら良かったのに」

「スイラン。義兄の話は、しないと約束しただろう」

「スタールシィブラットが部屋から出てこられるように、私たちが世界の舞台に立つって言ったのは、スイランでしょう?」

とある事件がきっかけで兄はガンプラバトルに恐怖を抱き、心を閉ざしてしまった。

今では……自宅に引きこもって部屋から出てこれなくなってしまっている。

そんな兄との約束である『いつか4人で全国へ』と言う約束を果たす為、私たちは乗っ取りのような手法でこの学校の代表を奪った。

私たち3人が全国へ行けば、後は兄が加わるだけ。この思いが勝手なお節介なのは分かっている。

けれど、私は家に帰ったら毎日欠かさず兄の部屋の前でその日の成果を報告している。

全国行きのチケットを手に入れたら、兄の部屋の前で、部屋を出て一緒に戦って下さいと言いたい。

「私の家族の問題に、シロとハクだけでなくガコウまで巻きこんでしまって、申し訳無イ気持ちで……」

「否、スイラン。ガンプラバトルは競技種目。より強き選手が上の舞台へ上がって行くのは当たり前のことだ。他者に罪悪感を抱く必要は無い」

「ハクはもうちょっと他人を気にした方が良い気もしますが、その意見には同意です。スイラン、私たちはスタールシィブラットの為に戦っているのでは無いですよ。私たちは、私たちが高みへ上る為に戦っているのです。何もおかしいことはありません」

シロとハクはスイランを抱き締め、スイランもその身を委ねた。

放課後の部室、夕日が赤みを失うまで、その抱擁は続いた。

 

 

 

 前回の選考会から2週間後の金曜日。

悪の三兵器、もとい悪の三女が転校してきてから初めての選考会が始まろうとしていた。

「あー……まぁ、出場チームが3チームだから、総当たり戦な。じゃま、頑張れ」

アリガ先生は頭をポリポリと掻きながらそう告げ、パイプ椅子に座って観戦モードに入ってしまった。

転校生に貶められ選考会の主導権を奪われてから、アリガ先生はずっとこんな調子だ。

顧問のアリガ先生がこんな調子じゃ、転校生を打倒しても選考会の主導権を取り戻すことは不可能なのではないだろうか。

「大丈夫。アル先生はチャンスを逃すような人じゃない。俺達が勝てば、校長に掛け合って今の状況を変えてくれるはずだ」

部長がそう言い、席を立つ。

最初は部長率いる元BチームVS転校生チームで戦う。

部長は、自分たちのチームが囮になって相手の手の内をなるべく引き出すから、俺達1年生チームに頑張れ、と言っていたが……

正直、部長達が負けたら俺達が勝てるとは思えない。

それほどまでに、部長たち3人は……強かった。

「凄いよね~。部長さんが本気で来た時なんか一瞬で吹っ飛ばされちゃったしー。ナガサキ先輩も、何でガンプラバトル止めたって言いだしたのか分かんないくらい強いよね」

ミズキが俺に話しかけてくる。

そう、俺とミズキ、そしてカイトのチームは2週間の間、元Bチームとずっと訓練していた。

ミズキ一強だった俺たちのチームは、初めて"チーム戦"を経験した。

役割分担、連携、指示、救援、支援……今まで何となくこなしてきた3対3が、常識から変わる程のものだった。

俺達からしたら、強さのその先に君臨する元Bチーム。

そのチームと、同じかそれ以上に瞬殺されて実力を測れなかった転校生チーム。

この試合をしっかりと目に焼き付けなければならない。

「ユウジ、始まるぞ」

「……うん」

カイトに促され、俺たちはシミュレーターの横に立った。

先輩達がガンプラを用意しているのが見える。見慣れたザクコマンドー、ティエレンフォートレス、そして部長の新作ガンプラ。

訓練中も何度かマイナーチェンジを繰り返し、完成したのは昨日の夜とのことなので、最終的にどんな風に仕上がったのかは分からない。

対する転校生チームも、ガンプラを取り出している所だった。

ティエレンタオツーの改造機、アストレイブルーフレームの改造機、ガンダムエアマスターの改造機。

以前の戦いでは細部を見る暇も無く落とされてしまった為、まともにそのガンプラを見たのは始めてかもしれない。

タオツーの改造機は、足をホバーに変更し大型のバーニアを背負った、オリジナルを超える近接特化のカスタマイズ。

ブルーフレームの改造機は、背中に大型キャノンを装備した中距離型のカスタマイズ……に見える。腰にはガーベラストレートに見える黒色の日本刀が装備されている。

エアマスターの改造機は、脚部がまるごとブースターになっており、空中戦闘特化型のようだ。ここからだと遠くて見えないが、自立も可能なようだ。

「さて、3人方。いきなりで悪いんだけれど、今回から選考会に参加することになった部長のナツモリ・トモリだ。よろしく」

「あら部長サン?今まで出場していなかたのね」

「ヴィルクリッヒ!スイラン、あの人は去年のベスト4の選手よ!」

「大会の最初の試合で1人で3体を撃ち抜いた猛者か。失念していた、この学校であったな」

3人は部長の顔を見て、去年の試合のことを思い出したようだった。

と言うか、部長って思っていた以上に凄い戦績持ってるっぽいな……

「挨拶も済んだし、始めようか」

プラフスキー粒子がシミュレーター上を満たし、6つのガンプラが降り立つ。

そこは荒野。

互いの姿が既に見えている状態からの戦闘開始となった。

まず最初に動いたのは、スイランのガンプラだった。

「いくよティエレンシェンフー! ハクとシロはカバー!」

「御意!行くぞガンダムアストレイムラマサフレーム!」

「ダー!ガンダムフォルトゥーナ、ゴー!」

弾丸のごとく、まるで弾かれたように前進を始めたスイランのガンプラ・シェンフーは、先輩のザクコマンドーに向かっていた。

ハクのガンプラ・ムラマサフレームは部長のガンプラに、シロのガンプラ・フォルトゥーナはティエレンフォートレスに。

どうやらこの中で最大攻撃力を誇るシェンフーが一機確実に仕留める間、他を抑え込むと言う戦法のようだ。

「最初に選んだのが私か。なるほど、私がどんなスタイルなのか分かっているみたいだ」

先輩のザクコマンドーは、長く戦場に留まりトラップを仕掛けたり味方を援護することに特化したガンプラだ。

それを早々に見抜き、最初に仕留めに行ったのだろう。

シェンフーの突撃に対し、先輩のザクコマンドーは……前進を始めた。

「回避しない!?」

「これが大会なら、ミサイル誘爆させて一緒に散っても良いのだけれど……今はユウジが見ているからね。情報を残して行かないと」

ザクコマンドーは突進してくるシェンフーに向かって、更に加速した。

ゲルググレッグのブースターの出力を限界まで高めて地面を蹴り、凄まじい早さで斜め上に飛び上がる。

それは突っ込んで来るシェンフーの、丁度頭上を飛び越える形となった。

「まさか自分からツコンで来るなんて……初めてだよこんなノ!」

上を取ったザクコマンドーは足元に向かって出鱈目にミサイルを撃ち込んで来る。

シェンフーは飛び越えられた瞬間に反転し、迫りくるミサイルを全て弾いて接近する。

「なっ、そんなに分厚い装甲をしているはず……違う、装甲で弾いているんじゃない……」

スイランはシェンフーの肩にあるピンポイントシールド、ビームライフルについているブレード、膝についているモールドなど、角度のついた部位で器用にミサイルの軌道を"逸らして"いた。

それを突進するのと変わらぬ速度でやってのけ、ザクコマンドーに迫ってくる。

「無茶苦茶な反応速度……これが"持ち味"と言う訳ね」

「まさかこんな考えなしな攻撃の為ニ正面から勝負を挑んだ訳じゃなイでしょう!」

シェンフーはブーストが切れて着地する寸前を狙いつつ、ビームライフルでザクコマンドーを狙う。

ザクコマンドーはシールドでビームを防ぎながらブーストを続ける。

しかし何の前兆もなく突然ブーストを切り、シェンフーの眼前に降下した。

「何ヲ!?」

「それじゃあパワーはどうかしら」

先輩は突進してきたシェンフーに正面からぶつかり、受け止めた。

互いのガンプラから激しくプラスチックが削れる音が聞こえる。

どうやら先輩はシェンフーの出力を見極めようとしているようだ。

「なるほド、勝負を完全に捨テ、データの収集に集中しようと言ウのね。なら、早々に決着を付けなくちゃ。思い通りにさせると後が怖イもの」

「思い通りにさせてもらうわ。その為の私だもの」

ガンプラの強さは、ガンプラの出来の良さで決まる。

いくら凝った改造をしても、いくら状況に合わせた改造をしても、合わせ目消しや塗装など完成度を上げる加工を行っていなければ出力が上がらない。

今のように両腕で組み合った状態であれば、その差が顕著に表れる。

そしてその結果、互いのガンプラのパワーは均衡していることが分かった。

「いいガンプラね、このザク」

「そっちも」

互い、手を離した瞬間から至近距離でのビームライフルの撃ち合いを始めた。

向けられた砲身を自分の砲身で押しのけ、向けられた砲身を腕で押さえこみ、新たに狙いを付け、半身ずらして回避して、再び砲身を向ける。

まるでダンスを踊っているような動きに、残り4人は手が出せない。

 

 

 

「チョルト……あれでは手が出せません。スイランが負けることは無いでしょうが……」

「手なんか出させねえよ!」

「むぅ、貴方もしつこいですねぇ」

フォートレスと対峙したシロのフォルトゥーナは、フォートレスの猛攻の中にあった。

圧倒的物量で範囲攻撃を繰り返すティエレンフォートレス。

そしてその全てを回避しているフォルトゥーナ。

互いの力が完全に拮抗しているスイランと先輩との戦いと違い、フォルトゥーナはフォートレスに一方に攻撃されていた。

だがその全ての攻撃を交わしている。

一見すればシロが苦戦しているように見えるが、サカキの目的はフォルトゥーナの実力を推し量ること。

フォートレスは自然回復のみだけで一切の隙無く範囲攻撃を繰り返すことができる。

だがそれではフォルトゥーナの実力を測ることは出来ないし、恐らく他の2人が応援に来てしまうだろう。

今回は勝利ではなく、相手の手の内を見ることに専念しようと、ナガサキも部長も決めていた。

だから恐らく2人は勝たない。このままでは応援が来てこちらが押し負ける。フォルトゥーナの実力が見えないままだ。

「それなら……こっちから仕掛けるぜぇぇぇぇ!」

サカキは継続攻撃を止め、全弾幕を撃ち出した。

まさに壁と言った物量のミサイルが、フォルトゥーナを襲う。

「ウージャス!!」

シロが悲鳴に近い声を出し、ミサイルの中に消えて行った。

これで敗北するならそれまで。けれど、この攻撃を何らかの方法で切り抜ける実力を持つならば、それがフォルトゥーナの実力だ。

「さあ、見せてみろや転校生……」

「あー、危なかった」

「……は?」

ミサイルの壁が通り過ぎた場所、先ほどと全く変わらない場所に、フォルトゥーナが居た。

恐らく、偶然にもミサイルが全て外れた。

そうとしか思えないような状況だった。

「では、こちらから!」

「ま、マジかよ!」

フォルトゥーナは急降下してフォートレスに迫ってきた。

逃げる時間はある。迎撃するエネルギーは残っている。けれどサカキが取った選択肢は、攻撃を受けることだった。

フォルトゥーナは急降下して迫ってきて、直前で大型スラスターを可変させ、そのスラスターで地面に立った。

そしてショートバレルのライフルを取り出し、フォートレスの正面に撃ち込んだ。

「まずは情報1つ……それがメインウェポンか!?」

「チョルト!?腕が……!」

至近距離まで不用意に迫ってきたフォルトゥーナを、隠し武装の腕を展開したフォートレスで掴みあげるサカキ。

ライフルの銃身を握られ、武装を手放すことになったフォルトゥーナ。フォートレスはそれを投げ捨てて再び腕に掴みかかろうとするが、フォルトゥーナは慌てて腕を引っ込めて飛行形態に戻り、空へと逃げた。

「チッ、まだ近接武装隠してんなアイツ……もう少しで暴けたのに……ここまで、か……?」

フォルトゥーナの接近を許してショートバレルライフルの直撃を受けたフォートレスは、足を破壊されていた。

もはや移動しながらの攻撃など出来るはずも無く、スラスターによって無理やり移動することが関の山である。

「まぁ、単騎とタイマンならティエレンフォートレスに機動力は関係ない。もうちょっと……手の内を曝してもらうぜ」

サカキがミサイルポッドにエネルギーをリチャージし始めたのを見て、シロはフォルトゥーナを旋回させ始めた。

「なんてめちゃくちゃなガンプラ……立ち止まったら危ない……なら、ヒットアンドアウェーですね!」

シロは旋回速度を上げ、徐々に距離を縮めてきた。

恐らく、捉えられない距離と速度を保ちつつミサイルでも撃って仕留めようとしているんだろう。

「ミサイルに自速を加えて射程を伸ばして、ギリギリこっちの攻撃が届かない距離から撃つつもりか……けどな、俺のミサイルの射程は!」

フォートレスの背面に搭載されているボンベから、大量のプラフスキー粒子が本体に流れ込む。

これがティエレンフォートレスの隠し玉、粒子補給。

バトル開始時からずっと溜めこんでいる粒子を本体にチャージし、各武装の性能を底上げする。

リチャージ時間が短縮され、瞬時に発射可能になる。

「食らいやがれ転校生!今度は運が良くても避けられねえだろ!」

フォルトゥーナがミサイルを撃ち込んできたのと当時に、フォートレスもミサイルを連射し始めた。

互いのミサイルがぶつかったりかすったりしながら、互いを破壊し合う。

……だが、サカキは直ぐに気がついた。

フォートレスのミサイルが、フォルトゥーナに1つも当たっていないことに。

フォルトゥーナは速度を落とさず、距離を変えず、まるで『当たらないことを知っている』ような気軽さで。

「どういう……ことだ……!?」

サカキの疑問の声が上がった直後、フォートレスの弾幕の中をすり抜けてきたフォルトゥーナのミサイルがフォートレスの頭部を破壊した。

 

 

 

 ハクのガンダムアストレイムラマサフレームの前に、部長のガンプラが立ちふさがる。

部長のガンプラは、斧を持った青いガンダムバルバトス。

青いムラマサフレームと向かい合うと、実によく似たシルエットになっていることが分かる。

「……ナツモリ・トモリ。貴殿の噂を耳にしたことがある。入念な調査、周到な準備、隙の無い戦術を持ってして作られる"対戦相手専用メタガンプラ"使いだと」

「……」

「だんまりか、まぁそうであろうな。拙者対策をしてきたと言うのならば下手に喋ればボロが……」

「んなもんはどうでもいいが……」

「?」

「無駄話をしていると、死ぬぞ?」

突然、目の前のガンダムが飛びかかってきた。踏ん張った訳でもなく、ブーストを吹かした訳でもない。

単に前に飛び込んできた。それは転ぶのとそう変わらない速度であった為、対応が一瞬遅れる。

「なっ!?」

「ぬぅおあぁああ!」

倒れながらも斧を前に出し、斬り掛かってくるガンプラ。

ハクは剣を引き抜き、斧を止める。

凄まじい勢いに数歩程後退を余儀なくされたが、何とか受け止めきった。

「ぬぅぅぅう、良い反応だ……楽しくなってきやがったぜええええ!」

「き、貴殿……それ何キャラだ……ガンダムバルバトスのパイロットに成りきっているのであれば、無口な少年のはず……」

「残念だったぬぁ!俺はこのグァンダムブァルブァトスグェーティアのパイルォットォゥ、バルバトスだぁ!」

ガンダムバルバトスG(ゲーティア)。それがこのガンプラの名前だった。

斧を振りおろす、振り下ろす、振り下ろす。およそ先ほどハクが言ったような知将である思えないような、力任せの攻撃。

だが、それを見たハクは苦虫をかみつぶしたような表情をした。

それはすなわち、その攻撃こそがハクが苦手とするものだったからだ。

「ふっふっふっふ、むぉちろん調べて来たぞ貴様の自慢の特技をな……対戦相手の攻撃を一目見ただけでコピーできる、らしいな」

「……左様。しかし、この攻撃では……」

「そぉう!俺の今の攻撃は……別に何か特別な事をしているわけではないからなぁ!」

部長の調べたハクの特技は、対戦相手の攻撃のコピー。

ガンプラのジョイントパーツを狙う銃撃や、粒子の特性を利用した目くらましなどの攻撃を"理解"して"返す"と言う特技だ。

時間をかけて身に付けた自分だけの特技を簡単に真似された相手は大抵その場で戦意を喪失し、そのまま敗北する。

だが、今の部長のような"何の仕掛けも無い攻撃"には、何も対策が立てられない。

部長の狙いはそれだった。

「悪いが、メタを張らせて貰った。貴様の言う通り、俺は対戦相手のことを調べ上げて専用対策ガンプラを作る男だ。今回もその通り、やってやったぜ!」

バルバトスGは斧と刀の撃ち合いを止め、ムラマサフレームに背を向ける。

背には緑色のマントパーツがあり、そのマントがガンプラを覆い隠す。

ハクは背を向けたバルバトスGに向かって刀を突き刺す。

しかしそこにバルバトスGはおらず、マントを突き刺しただけで終わった。

バルバトスGはマントから少しだけ離れた位置に、姿勢を低くして斧を構えていた。

「小細工をっ……!」

「悔しかったらぁ……貴様自身の技を見せてみろ……真似ばかりしていないで、貴様の実力をなぁ!」

部長は低い位置からの斬り上げで刀を弾き飛ばした。

ムラマサフレームは背中から刀では無くブレードを引き抜き、斧に応戦する。

そこから、ハクの様子が変わった。

「……全く、拙者に斬鉄を使わせるとは……これ以上は、拙者の方がボロを出してしまうかもしれんな……早々に、勝負を、付けさせてもらおう」

「ぬっ!?」

バルバトスGが撃ち込む斧が、ムラマサフレームの持つブレード斬鉄に弾かれている。

撃ち合っているのではない。ムラマサフレームの斬鉄は、全くブレていない。

ただ単に構えているムラマサフレームに、バルバトスGの斧が当たっているだけだ。

「これは……まるで大木に打ち込んでいるような、この感覚は……」

部長は気がついた。

この感覚は、出力差が違いすぎる場合のものだ。

大型のモビルアーマーにいくら撃ち込んでも簡単に壊れないようなもので、バルバトスGの斧では、ムラマサフレームの斬鉄にダメージを与える出力に届かないと言うことだ。

「馬鹿な……その剣は、ヴァリアブルフェイズシフト装甲でも積んでるっていうのか……!?」

「"素"が出ているぞ、ナツモリ・トモリ」

「クソ……これがお前の本当の技……いや、装備ってわけか……!」

これまでの対戦で、ハクは斬鉄を使用したことは無かった。この剣自体に、出し惜しみをするような要素は見当たらない。

つまり、今までこの剣を抜くまでも無い、と言う状態だったわけだ。

「とりあえず、装備を引っ張り出す所までは来たって所か……本当に、底が見えないな……」

「……なんだ、もう終わりか?」

ハクがそう呟くと同時にバルバトスGの斧が砕け散る。

何と言うことは無い。ムラマサフレームが、斬鉄を振り抜いた。それだけだった。

たったそれだけで、バルバトスGの斧は砕け散った。

「……ここまで、か……」

 

 

 結果、元Bチームは大敗を期した。

3人のうち誰も相手を落とすことが出来ず、恐らく実力を引き出すこともできずに。

「すまない、ユウジ君、カイト君、ミズキ君。有益な情報を引き出せたかどうか微妙な結果だった」

部長がそう謝る。俺たちは何と返せば良いのか分からなかった。

事実だけれど、それを咎めることも、慰めることも、正解では無い気がした。

その後、俺達は転校生チームと戦って、当たり前のごとく負けて、俺達と先輩たち元Bチームとの試合をして、また負けて、選考会は終了した。

選考会が終わると、転校生たちはさっさと帰ってしまう。

俺達も帰り支度を整え、部室を出る。

「ユウジ。私たち、ちょっと反省会をするから先に帰っていて」

先輩とサカキ先輩と部長が、俺達のチームに向かってそう言って、アリガ先生と職員室の方へと歩いて行ってしまった。

取り残された俺達は、誰も居なくなった廊下で、俯いていた。

「……なぁユウジ。俺達、頑張る必要、あるのかな……」

カイトが呟いた。それは明らかな弱音だったが、俺にはそれを諌めるだけの自信が無かった。

ミズキも俯いたまま、落ち込んでいるように見える。

俺は、何も言えずに2人を昇降口に促すことしかできなかった。

昇降口で靴を履き替える直線、俺は部室に工具箱を忘れたことを思い出す。

東京に来てからちょっとずつ買いそろえた工具が入った箱だ。

何かあると困るから取りに戻ろうと、2人を昇降口に待たせて部室に戻る。

すると、部室の近くの階段の方から話し声が聞こえてきた。

部室に入るのを止めて、俺は階段に近づいた。

声は、先輩たちのものだった。

「お前はバトルスタイル全然変わらねぇなぁ。キャラ成り切りしすぎてミスしまくるからミスの少ない軍人キャラに成り切ってたっつーのに、肝心な時になんであんなキャラにしたんだよ」

「いや、面目ない。とにかく相手の実力を引き出す為に強いキャラに成り切ろうとした結果でね」

「でも部長は役に立った。あのガンプラが持っているもう一本の剣の存在が分かった」

「ああ。ムラマサフレームは2本目の剣が本命。あの剣の出力は伊達では無かったし、やはり技術の物真似は侮れないだろう」

「一方でナガサキが戦ったシェンフーっつーやつの武器は、自身で磨き上げた超反射神経ってか」

「サカキ先輩がボロ負けしたフォルトゥーナは良く分からなかったですね」

「ぐっ……ナガサキてめぇ……いや、こればっかりは言い返せねぇ」

「……いえ。私も今のは意地が悪かったとほんのマイクロ思ってます」

「ちょっとにも満たないってかてめぇ。口が減らねぇ後輩だな」

「まぁまぁ2人とも落ち着いて……けれど、この情報だけで、1年生チームを勝たせられるだろうか」

部長の一言で、場が静まりかえる。

判明した情報は、恐らく転校生達の実力の一部。全てを引き出せたわけじゃないし、そもそも勝利へのヒントすら掴めていない。

「……まだ足りないと思う」

「あぁ。俺達が勝つ方法を見つけるんじゃねぇ。あいつ等が勝てるように、情報を引き出さねえと……!」

サカキ先輩は悔しそうな声と共に壁に拳を突き立てる。

後悔と焦りから来るその行動を咎められる人物は、そこには居なかった。

「あー、なんだ。お前ら、本当によくやってるよ。正直、頭上がらねぇわ」

ずっと黙っていたアリガ先生が、サカキの拳を下げながら言った。

その手は暴行を咎めるものではなく、慰めから来る行為だった。

「去年はあいつらのせいでマトモにやれなかったからな。俺も、力不足だった。許してくれ」

「アリガ先生……いいえ、先生はちゃんとやってくれたじゃないですか。俺達2年、1年生が大会に出て実績を残したことで、3年生だけが大会に出場できるって言うこの学校の制度を変えてくれた」

「あぁ。だから俺ら3人、アリガ先生の思いを継いだんだぜ」

「……1年でも2年でも関係無い。ガンプラバトルが大好きで、バトルに真剣で、本気で勝ちを取りに行ける生徒が大会に出られるように……アル先生は制度を作ってくれました」

会話を盗み聞きしていた俺は、カイトから聞いた去年までのこの学校の模型部の状況について思い出した。

一昨年まで、この学校は部活の公式大会に出られるのは3年生だけだと言う習慣があったらしい。

しかし、怠惰に部活を続けている3年生が出場できるのにやる気に満ちた1年・2年が大会に出られない状況を見たアリガ先生は、その習慣を排するために色々と頑張ってくれたと言う。

そして、そんなアリガ先生の働きかけで部長達……元Bチームの3人は出場できるようになったらしい。

元Bチームの3人はそのことに感謝し、それぞれ後輩を育てる為に公式大会から遠ざかると決めたらしい。

「アリガ先生の"受け継ぐ"と言う考え、俺達は指示します」

「あぁ。あの1年生達が大会に出られるように、俺ら"アリガ先生の指導を受けた生徒"があの勘違い転校生から情報を引き出すからよ」

「そう。大会に出るだけじゃ駄目。転校生たちにとって代わられたのなら、それはこの部活の死」

Bチームの3人はやる気に満ちた表情でアリガ先生にそう宣誓した。

それは先生を労う言葉と言うよりは、自分たちを奮い立たせるための言葉のように聞こえた。

「あー……そうだな。ありがとな、お前ら。けどな……」

アリガ先生は部長とサカキ先輩の肩を掴み、引き寄せる。部長とサカキ先輩に挟まれた先輩も一緒に引き寄せられ、3人がアリガ先生に寄り掛かるような体勢になった。

アリガ先生はそのまま壁にもたれかかる。

なにを、と部長達が声を上げる前に、アリガ先生は優しい声で語りかけた。

「辛いだろ?"導く方"ってのは。負けて悔しく無いはず無いもんな。ましてやお前らの年齢じゃ……」

廊下が、しんと静まりかえる。

ちいさく、鼻をすする音が聞こえた。

息を吸い込む音が聞こえた。

歯を、食いしばる音が聞こえた。

「……」

俺は部室に入ることを諦め、昇降口へと向かった。

この今の気持ちを、カイトとミズキに伝える為に。

それが今の俺の責務なんだと、そう感じたから。

 

 

 つづく




読了お疲れ様でした。

いや何かもう、相当長い間投稿できず申し訳無いです……
それもこれも全部リアル事情ってヤツのせいなんだ。
何だってそれは本当かい!?と言わんばかりに執筆時間が取れないので、今回の話も相当時間が掛かりました。

決して飽きた訳ではないし、ガンプラも作ってましたよ。え?ガンプラ作るなら小説書け?
……い、いや、どっちも止められないので……申し訳無いです。

あ、ちなみに登場した転校生チームのガンプラは以前に話をしていた友人による作品です。いずれ設定と共に写真を投稿する予定です。

次回更新は7/30目安です。かーなーり、執筆に掛けられる時間が不安定なのでどうなるか分かりませんが……
あ、でも時間が取れれば早めにガンプラの方の投稿をすると思います。


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設定
ガンダムビルドファイターズ AG 設定1「ザクコマンドー」


閲覧ありがとうございます。
予定よりも少し早目に投稿できました。

今回は作中に登場するガンプラ「ザクコマンドー(ザクウォーリア改造機体)」を実際に作ったので、写真付きでの設定資料の投稿です。

最初に断っておきますが、素人作品なので、ガンプラも写真も期待しないでください……あくまで設定資料!設定資料ですから!


●ガンプラデータ

要塞攻略型ザクウォリアー改造機

「ザクコマンドー」

 

[正面]

 

【挿絵表示】

 

[背面]

 

【挿絵表示】

 

 

・作成者:ナガサキ・アンナ

・操縦者:ナガサキ・アンナ

・武装

 -特殊兵装"グリーン・エーカーズ":4門のガトリングと4門のビーム砲が取り付けられた着脱を想定した腰装備。追加でミサイルポッドを取り付けれることができる。

 -対ビームシールド兼ビームサーベル:バックパックにサブアーム付きで装備された盾。グリーン・エーカーズのグリップを取りつけることでビールサーベルが出力される仕組みになっている。

 -各種ミサイルポッド:肩、背面、バックパック等に仕込まれたミサイルポッド。背面のもの以外は全て着脱可能になっており、自在に発射することができ、自動でリチャージされる仕組みで、破壊されなければ再度発射可能。

 -粒子帯調整カメラ:プラフスキー粒子の粒子帯を変化させて特定のオブジェクトを透過することができる。

・特殊コマンド

 -フルオープンアタック:フィールド上に残っている全てのミサイルポッドへ発射命令を送る。

 -武装パージ:特殊兵装グリーン・エーカーズに残っているエネルギーを本体へ送り外れるコマンド。外れたグリーン・エーカーズは再装備可能。その際、エネルギーを再転送する必要がある。

 

[フルオープンアタック]

 

【挿絵表示】

 

[武装パージ]

 

【挿絵表示】

 

 

●設定

 作中、ナガサキ・アンナが作成・操縦するガンプラ。スペアとして全く同じガンプラをもう二つ作成し、常に万全の状態で戦えるようにしている。

エネルギーを武装から本体へ送る、粒子変容塗料を使用する、と言った世界大会で通用するレベルの加工を施している。

 

 

●作成裏話

 あるガンプラを作成した際、パーツ取り用として購入したとある商品に大量に入っていたミサイルポッドを再利用できないかと考えて生み出したのが、ザクコマンドー。

とある商品とは、まぁ気づく人は気がつくだろうが、コトブキヤから発売されている”エクステンドアームズ03〈EXF-10/32 グライフェン拡張パーツセット”。

肩のパーツもそれを使用しています。

足をゲルググにしたのはもちろん、ザク足では自立しなかった為。このためにゲルググキャノン買いました。

ちなみに、腰の裏の武装がどうやってスカートについているかというと、タミヤセメントでくっつけてあります。

一番強度が必要な部分のため、もうそれしか無かった。

腰装備の隙間を何かで埋めようかとも思ったけれど、ここに何か挟み込んでパワーアップするのとかどうかなーとか適当に考えているので開けっ放しにしてあります。

 ちなみに、この機体は最初コズミック・イラに登場する機体として考えて作ったものでした。南アメリカ独立戦争の戦場で、壊れて放置されていたザクウォリアーを回収してミサイルポッドを乗せられるだけ乗せたものがこれ。

切り裂きエド率いる部隊で活躍したとか、逆に戦って良い勝負をしたとか、そういうことを想像して作り始めたものでしたが、足がゲルググになりコズミック・イラっぽくなくなり、バックパックに盾が付き急造っぽさがなくなり、もう何だこれ状態になってしまいました。

友人にも「誘爆怖くて乗れねえだろ」と言われたのですが、ビルドファイターズのガンプラってことにすれば誘爆の心配も無いしミサイル無限に撃てるし面白いんじゃないかってことで落ち着きました。

 

追記:12/14

アドバイス貰ってスミ入れしてみました。

本来小説を載せるサイトですので、ガンプラ写真の更新で新しく投稿するのはあんまりよろしく無い気がしたので、こっそり……ね!

 

[正面]

ただスミ入れしただけじゃ物足りないので、バックパックのミサイルポッドとシールドの位置を若干調整しました。

 

【挿絵表示】

 

 

[フルオープンアタック]

ミサイルポッドの中を赤く塗りました。もうちょっと重ね塗りして赤みを強くしても良かったかなーと思ったんですが、設定的には「壊れても良いような運用」をするので、ポッド一つ一つをそんなに作り込まない気がします。それよりも予備を大量に用意していそうな気がします。

 

【挿絵表示】

 

 

[武装パージ]

スミ入れ前にシールドが上向きになっていたのは、実はサブアームの保持力が弱っていた為、シールドが落ちやすくなっていた為です……しかし、若干軸を太くして(タミヤセメントを一塗りしただけ)保持力を上げました。

 

【挿絵表示】

 




読了お疲れ様でした。

素人作品ですが、いかがでしたでしょうか。
今後も登場するガンプラはどんどん紹介して行こうと思います。ちなみに既に登場する予定で作ってあるガンプラがいくつかあります(まぁ最初から小説に登場させようとなんて考えて作ってはいませんが)ので、そちらも本編で登場したら、紹介の方を書いていこうかなと思います。

あ、ちなみにこのガンプラ紹介とか章のレイアウト構成などですが、亀川ダイブさんの構成を真似させて頂いております。
この場をお借りして感謝申し上げます。m(_ _)m

次回はちょっと未定ですが、12/16には投稿したいと思います。


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ガンダムビルドファイターズ AG 設定2「イグナイテッドブースター」

閲覧ありがとうございます。
年明け一発目の投稿になります、あけましておめでとうございます(遅

今回は作中に登場するガンプラ「イグナイテッドブースター」を実際に作ったので、写真付きでの設定資料の投稿です。

注意書きですが、素人作品なので、ガンプラも写真も期待しないでください。
あくまで妄想設定資料ですので。


●ガンプラデータ

グフR35支援ブースター

「イグナイテッドブースター」

 

[正面]

 

【挿絵表示】

 

[待機]

 

【挿絵表示】

 

[背面]

 

【挿絵表示】

 

 

・作成者:イケガキ・サオリ

・操縦者:イケガキ・サオリ

・武装

 -3連式ミサイルポッド:ブースター腹部に搭載されたミサイルポッド。着脱可能だが、外れた後のポッドに発射命令を送るような仕組みは搭載されていない。

・特殊コマンド

 -ラブ合体:愛しのラル様のガンプラにパイルダーオン(合体)する為のコマンド。3mm穴、もしくは3mmジョイントがあればどこにでも合体してくるグレンラガン的合体方法。

 -ラブ分離:悲しいかな分離せざるを得ない状況になった場合にガンプラと分離するコマンド。ちなみに残存粒子を吸収して分離するため、設定値によっては本体はブースターに全ての残存粒子を吸われることになる。

 

[分離]

 

【挿絵表示】

 

[変形]

 

【挿絵表示】

 

 

●設定

 作中、イケガキ・サオリが作成・操縦するガンプラ。原作の登場キャラクター「ラルさん」に恋心を抱いており、そのきっかけが原作1期最終回の「アリスタ事件」で戦うラルさんを目撃したからという設定。

いつか同じような事件が起こった時にラルさんと共闘したいと妄想しており、それが形になったガンプラがこのイグナイテッドブースター。つまりは中二病である。

だが、ブースターの状態で戦えることを想定した為にブースターでは考えられない出力と機動性、そしてえげつないドレイン機能によってかなり優秀なガンプラになっている。

 

[合体]

 

【挿絵表示】

 

[飛行]

 

【挿絵表示】

 

 

●作成裏話

 原作で登場した様々なブースターが小箱になって発売されるのを見ていて、自分で考えたブースターが作ってみたいなと思ったのが制作のきっかけでした。

そこで目を付けたのがグフR35。グフがブースターの力によってグフR35になる、みたいな物を作ろうとして旧キットのグフを探したのですが、見当たらず。

その時に目についたのが、購入してあってまだ開けていなかったK9ドッグパック。

これまた家にあった、種死放送時に作成したグフイグナイテッドのバックパックを合わせたらいい感じにまとまりそうだったので、合わせてみました。

まぁ、裏話もへったくれもない思いつきで出来上がったものです。

ちなみに、恥ずかしながらこのグフR35は人生で初めて合わせ目消しを行ったガンプラです。盛大に失敗してますが……

もっと精進しようと思います。




読了お疲れ様でした。

年内に投稿するかも~とか言っておいてこんなに遅くなってしまうとは、不甲斐ないです。
実はちょっとリアル環境が変わったせいで、筆が遅くなってしまったもので……
と、愚痴はほどほどに、いかがでしたでしょうかイグナイテッドブースター。
いつのパーツか分からない部品を組み込んだので見た目少し汚いかな……と感じてはいるのですが……
よろしければ感想・批評・罵倒など頂けたら幸いです。

次回投稿は1月17日を目安にしています。


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ガンダムビルドファイターズ AG 設定3「ティフシーガンダム」

閲覧ありがとうございます。

今回は作中に登場するガンプラ「ティフシーガンダム」の設定資料です。

注意書きですが、素人作品なので、ガンプラも写真も期待しないでください。
あくまで妄想設定資料ですので。


●ガンプラデータ

艦これのヲ級風ガンプラ

「ティフシーガンダム」

 

[正面]

 

【挿絵表示】

 

[比較?]

 

【挿絵表示】

 

[背面]

 

【挿絵表示】

 

 

・作成者:アシダ・カイト

・操縦者:アシダ・カイト

・武装

 -WOヘッド:ヲ級風に塗装・加工されたフォビドゥンガンダムのバックパック。このガンプラはこのパーツを軸に構成されている。

 -フレスベルグ:WOヘッド前面に取り付けられている大口径ビーム兵器。フォビドゥンガンダムの物と全く同じ性能。

 -ビームバルカン:WOヘッドの両脇に取り付けられた武装。実は見てくれだけで射程も短く使いづらい上に存在を忘れられがちなファッション兵装。

 -サーペント:WOヘッドに4本ついている触手みたいな白い槍状の武装。敵を突きさすような出力は無いが、接近戦での牽制等に使用する際は役立つ。

 -フックガン:肩マントに取り付けられたワイヤーフックが発射可能な2丁の銃。ダークハウンドの武装と同じ性能。

 -艦載機:ビットとも呼ぶ。ビームサーベルが出力できる仕組みで、主に体当たりを行う。代わりは大量に作ってある。一度のバトルで持ちこむ数は8個。

 -神風特攻剣:右手に構えられた短剣の名称。艦載機が全て合体してくっつくことで大剣になる。

・特殊コマンド

 -ソナーモード:本来のソナーが音を用いるのに対し、プラフスキー粒子の振動を見てレーダーに表示するモード。

 -アクティブソナー:超音波を発してプラフスキー粒子の反射を確認する兵装。

 -パッシブソナー:振動しているプラフスキー粒子を確認する兵装。

 -FlagShip:周囲のプラフスキー粒子を金色に光る物質に変化させるだけの兵装。だが、副作用により周囲にビーム物質に変化している粒子を光に変化させてしまうため、アンチビームコーティングのような効果を持つ。

 

 

[艦載機]

 

【挿絵表示】

 

[合体]

 

【挿絵表示】

 

[神風特攻剣]

 

【挿絵表示】

 

 

●設定

 作中、アシダ・カイトが作成・操縦するガンプラ。ヲ級風のガンプラを作ることを目的として作られた為、全ての兵装が後付け設定。最大限に楽しむことを楽しむことを目的としている為、強いかどうかでは無く"っぽいかどうか"に重点が置かれている。

 

●作成裏話

 実はガンプラ制作を再開した最大の要因になったガンプラがこれです。

艦これにハマった時に、ヲ級がフォビドゥンっぽいと友人に話した時に、「作っちゃえばいいじゃん」と言われ、作っちゃったガンプラです。

実はそれがビルドファイターズの発表の数週間前で、作ってる途中でビルドファイターズの情報を見てちょっとおかしいテンションで作り上げた記憶があります。




読了お疲れ様でした。

ようやくこのガンプラを紹介できました。実はこいつだけは最初っから作成済みだったわけです。
と言うかこの小説自体、このガンプラが活躍する話を作りたいから考えた節があります。
……まぁ今回完全に負けてましたし……と言うか考えたらコイツ勝ったことねぇぞまだ!?
どういうことなの……
よろしければ感想・批評・罵倒など頂けたら幸いです。

ちなみに、本編4話後篇に登場したブレイヴGO改とゼクミーヌスは作成済みだったりしますが、こちら、実は本当に地震で棚から落ちて破損した古いガンプラを改修しただけだったりします……本当に塗装も剥がれているし繋ぎ目そのままだったりして、急造って設定ではあるけど、このままでいいのかな……と、ちょっと思案しています。

本編の方にも書きましたが、次回投稿は1月24日を目安にしています。


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ガンダムビルドファイターズ AG 設定4「ブレイヴGO改」と「ゼクミーヌス」

閲覧ありがとうございます。

予定より少し遅くなりましたが、今週も投稿できました。

今回は作中に登場するガンプラ「ブレイヴGO改」と「ゼクミーヌス」の設定資料です。

注意書きですが、素人作品なので、ガンプラも写真も期待しないでください。
あくまで妄想設定資料ですので。


●ガンプラデータ

改修ガンプラ

「ブレイヴGO改」と「ゼクミーヌス」

 

 

【挿絵表示】

 

 

[正面]

 

【挿絵表示】

 

[背面]

 

【挿絵表示】

 

 

・作成者:イイジマ・ユキ

・操縦者:イイジマ・ユキ

・武装

 -改良型オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲:ガナーザクウォーリアに装備されている長距離射程のビーム砲を改良したもの。後部に装備したエネルギータンクを用いることで急速チャージを可能とした。破損した右スラスターの代わりにもなる。

 -ドレイクハウリング:GNビームライフル。レールガンの役割を果たす銃口が破損した状態なのでエネルギーが拡散してしまうため、威力は低い。

 -ガフランの腕:手の平にビームサーベルを出力できる腕。ブレイヴで近接戦闘を可能にするため、ユキが取り付けた。

・特殊コマンド

 -クルーズポジション:手足を邪魔にならないように可変させて移動速度を上げる、いわゆる飛行モード。ただしブレイヴGO改は各所が破損している状態の為、ポジション変更を何度も行うとガタが来てしまうので最初の可変以降は変形を行わなかった。

 

[オルトロス構え]

 

【挿絵表示】

 

[ビームサーベル構え]

 

【挿絵表示】

 

 

●設定

 イイジマ・ユキが作成し、パーツハンターに破壊されて改修を加えたガンプラ。

最大の特徴は近接装備と遠距離装備が追加された所だが、GNドライブを1つ失いクルーズポジションへの可変も制限を受けてしまっている為、ブレイヴ本来の高い機動力を失っている。

しかし、機動力と引き換えに手に入れた本来のブレイヴに無い射程の武装は有用で、恐らくパーツハンターと戦った時よりも手ごわいガンプラとなっている。

ただし代わりに機体のバランスを著しく崩す結果となっており、無茶な機動を繰り返すうちに関節パーツの破損を引き起こしてしまった。

 

------------------------------------------------------------

 

[正面]

 

【挿絵表示】

 

[背面]

 

【挿絵表示】

 

 

・作成者:ダイモン・トウキ

・操縦者:ダイモン・トウキ

・武装

 -特殊兵装"紅爪(べにづめ)":トウキがジャンクパーツから作り出した怪力を生み出す左腕。中にビームサーベルが仕込んであり、出力することができる。

 -ソード:銃剣と呼ばれる。銃に刃が取り付けられたような形状で、近接と遠距離に対応できる。

 -マルチマウント:レールガンと呼ばれる。あまり出力は高くないが、近接での牽制や超至近距離での破砕目的に用いられる。

 -シンカータンク:バックパックに取り付けられた水中推進装置。スクリュー部分が破損することを前提にジェット噴射して地上で使用することもできる。

・特殊コマンド

 -なし

 

 

[紅爪構え]

 

【挿絵表示】

 

[ビームサーベル出力]

 

【挿絵表示】

 

[レールガン構え]

 

【挿絵表示】

 

 

●設定

 ダイモン・トウキが作成し、パーツハンターに破壊され改修したガンプラ。

元はただのゼクアインだった。破損したパーツを補う為に新たにゼクアインを購入しようとしたら品切れで買えなかった為、手持ちのパーツで改修した。

その結果、水中戦闘が可能な近接戦闘機となった。

ガンプラ名ゼクミーヌスは「ゼクシリーズのマイナスナンバー」と言う意味。

これはゼクシリーズがザクⅡのような汎用機を目指して設計されたと言う設定から、「設計思想に反したカスタム機体」と言う意味を込めている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

●作成裏話

 パーツハンターに敗北したキャラクターが復讐鬼になると言う設定に似合うように作成したガンプラですが、どちらも既に購入・作成していたガンプラでした。

ですが、どちらも既に破損しておりジャンクパーツの中に埋まっていました。

ある時、友人にジャンクパーツとしてゼクミーヌスについている左腕のパーツを貰い、インスピレーションの赴くままに作り上げたのがゼクミーヌスです。

ちなみにバックパックについているタンクはゾイドのシンカー(タカラトミー版)のものです。中には発泡スチロールが入っており、水に浮きます。

苦労したのはブレイヴGO改で、破損した腕をガフランの腕と取り換えただけでは全然強そうに見えず、どうしたものかとアレコレくっつけてオルトロスにたどり着きました。

どちらも「破損した物を無理やり動くように改修した」と言う、いわゆるリペア版なので、しばらくしたらユキとトウキにはちゃんとしたガンプラを作ってあげたいです。

 

※追記

投稿した写真を見たら未処理のまま残っている部分があったので、そこだけ修正した部分が写っている写真を追加で投稿。

 

【挿絵表示】

 




読了お疲れ様でした。

今回のガンプラはジャンクパーツの寄せ集めで作ったものです。
なのであまり綺麗では無いと言う自覚はありますが、愛は注ぎ込んだつもりですので、やはり紹介せねばと思い投稿しました。
よろしければ感想・批評・罵倒など頂けたら幸いです。

ちなみにゼクミーヌスの左腕をくれた友人がこの小説に使うガンプラを作ってくれと話したら本当に作ってくれました。もう少ししたら登場予定です。

次回更新は3月6日予定です。


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ガンダムビルドファイターズ AG 設定5「レッドゲイザーVer1.0」

閲覧ありがとうございます。

今回は作中に登場するガンプラ「レッドゲイザー」の設定資料です。

注意書きですが、素人作品なので、ガンプラも写真も期待しないでください。
あくまで妄想設定資料ですので。


●ガンプラデータ

近接格闘機

「レッドゲイザーVer1.0」

 

 

【挿絵表示】

 

 

[正面]

 

【挿絵表示】

 

[背面]

 

【挿絵表示】

 

 

・作成者:カザハラ・シキ

・操縦者:カザハラ・シキ

・武装

 -発光エフェクト:各部位のラインが発光し、背中に光の輪が出現することで出力が上がる。これはサイコシャドーの機能を応用した装置である。

・特殊コマンド

 -発光現象:発光エフェクトを使用した際に自動で発動する。発光した光は攻撃能力も無く、自在に操れるわけではないが、光量は操縦者の意思によって増減する。

 

[発光エフェクト]

 

【挿絵表示】

 

[旧エニグマと]

 

【挿絵表示】

 

 

●設定

 カザハラ・シキが自分の実力をフルに発揮するために格闘機として仕上げたスターゲイザーの改修機。

最初はスターゲイザーのカラーリングを変更しただけのものだったが、戦闘中にヴォアチュール・リュミエールを誤って破壊してしまい、仕方なく取り外した。

その代わりに発光エフェクトを実装したが、これは武装と言うよりも"シキ本来の力"を発現した際の副産物と言う捉え方もできる。

この光自体が何らかの機能を持っているわけでもなく、単に光るだけ。そう言う意味で言えば、ティフシーガンダムのFlagShipのような使い方もできるかもしれない。

 また、シキはこのレッドゲイザーを"好きだから"と言う理由で使用している為、シキ本来の実力を引き出すには大分役不足であるガンプラであると言える。

 

 

●作成裏話

 このガンプラは8年程前に作成したものをリメイクしたものになります。

当時は塗装を覚えたてだったので何度も失敗し、失敗し、まともに作り上げられた作品など数えるほどでしたが、これだけは上手く行ったので、とても気に入っていたのです。

ですが以前に不注意でヴォアチュール・リュミエールの根元部分をポッキリやってしまい、半月の状態でずっと飾っていました。

今回小説を書いている時にコイツのことを思い出し、新たにスターゲイザーを購入して1から塗装し直しました。でもヴォアチュール・リュミエールは付けず、格闘機と言う設定にしたのは……ちょっとやりたいことがあったからです。

と言うわけで、実はコイツはまだ未完成だったりします。詰まる所パワーアップ予定があるガンプラと言うことです。

セカイがビルドバーニングがトライバーニングを使うようになったように、コイツも何らかのパワーアップイベントを経て強化してやりたいと考えています。




読了お疲れ様でした。

今回はパーツハンターのガンプラの紹介でした。
最後の写真の頭が1つのケルベロスバクゥは、ジャンクパーツに入っていたのを掘り出してきただけだったります……

あ、ちなみにレッドゲイザー作成中に塗装ブースとエアブラシを購入しました。
赤色の大部分はエアブラシで、特定のパーツは筆塗りで塗装しました。
エアブラシを本格的に使用したのは初めてでしたが、楽しいですね!

よろしければ感想・批評・罵倒など頂けたら幸いです。

次回更新は3月27日予定です。


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ガンダムビルドファイターズ AG 設定6「エニグマ」

閲覧ありがとうございます。

今回は作中に登場するガンプラ「エニグマ」の設定資料です。

注意書きですが、素人作品なので、ガンプラも写真も期待しないでください。
あくまで妄想設定資料ですので。


●ガンプラデータ

謎の黒い霧

「エニグマ」

[正面]

 

【挿絵表示】

 

 

・作成者:カガミハラ・ミズキ

・操縦者:カガミハラ・ミズキ

・武装

 -黒い衣:エニグマ全体を覆う黒い布。特殊コマンド「黒い霧」を使用した際にガンプラを見え辛くするための武装。布自体に何か仕掛けが施されていると言うことは無い。

 -翼爪:エニグマのマントから突き出た爪。爪の間にはビームライフルの発射口が、爪の下にはビームサーベルの出力部が備わっている。

・特殊コマンド

 -黒い霧:エニグマのマントから放出される霧。霧自体に攻撃性能は無いが、霧はプラフスキー粒子を変換して生成される。霧で満たされた空間はプラフスキー粒子が薄くなり、相手ガンプラは思うように動けなくなる。

 

[武装展開]

 

【挿絵表示】

 

 

[隠ぺい状態]

 

【挿絵表示】

 

 

 

●設定

 ミズキが初めて作ったガンプラ「ダナジン」を改造して作られた、モンスターハンターシリーズのモンスター「ゴア・マガラ」をモチーフにしたガンプラ。

黒い霧を出して相手に悪影響を及ぼすと言う点ではゴア・マガラに似ているが、その霧の効果は別物。霧に包まれたガンプラは行動不能となり、一方的になぶられることになる。

凶悪な武装を持ったガンプラでそれだけでも脅威だが、ミズキ自身の操縦技術も高く、1対1なら常に相手の視界に入らず、改良されたレーダーでなければレーダーにすら反応しないように移動することが出来る。

これはミズキが少し特殊な境遇でガンプラバトルを覚えたことに起因する技術。

ちなみに、エニグマが紫一色なのはミズキが塗装が苦手である為である。エニグマと言う名前も、以前使っていたガンプラの名前をそのまま使用しているだけ。

武装やコマンドの名前も便宜上付けられたもので、ミズキは特にこれらに名前を付けていない。

これらから分かるように、ミズキはガンプラバトルを楽しんではいるが、ガンプラには思い入れがあまり無い。

ミズキが興味を持つのは、ガンプラバトルが強い人間。そしてその人間と共に戦うか、競い合うことである。

 

●作成裏話

 実は私はAGEを見ておらず、たまたまプラモコーナーに並んでいたダナジンを見た瞬間にいじってみたくなり、購入。

当時ハマっていたモンハンの中からゴア・マガラを選んでモチーフにして作成しました。

ちなみに、頭部のカバーが無いのは手違いで、本当はちょっと加工して角っぽくしたものがあったのですが……最近あった地震で落下してパーツが散らばった際に行方不明に……泣く泣く「カバーは無い」と言う設定に変更しました……秋葉原とかでダナジンの頭部だけ販売してないかなぁ……

実は本編で登場させる直前まで翼部分を何で表現するか悩んでおり、文字で表現する時に伝えやすい布、マントにすることを思いついて取り付けました。

まさか文章にすることを前提にガンプラを調整するとは思わなかったです。




読了お疲れ様でした。

今回は元パーツハンター、ミズキのガンプラの紹介でした。
実は随分前に完成していてしばらく放置していたのですが、写真撮影時に塗装ハゲが何か所か見つかり、隠し隠し撮影……時間がある時に塗りなおさなきゃ……

よろしければ感想など頂けたら幸いです。


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ガンダムビルドファイターズ AG 設定7「ティエレンフォートレス」

閲覧ありがとうございます。

今回は作中に登場するガンプラ「ティエレンフォートレス」の設定資料です。

注意書きですが、素人作品なので、ガンプラも写真も期待しないでください。
あくまで妄想設定資料ですので。


●ガンプラデータ

要塞戦車

「ティエレンフォートレス」

 

[正面]

 

【挿絵表示】

 

[背面]

 

【挿絵表示】

 

 

・作成者:サカキ・シンジ

・操縦者:サカキ・シンジ

・武装

 -12.7mm同軸機銃・4門:本来のティエレンに1門装備されている滑空砲。

 -16連ミサイルポッド・2個:機体前面に装備されたミサイルポッド。開閉式のカバーがついており、未使用時はカバーが閉じる。

 -10連ミサイルポッド・2個:機体上部に装備されたミサイルポッド。カバーは着脱式で、発射時にカバーをパージするとその後の戦闘中は開きっぱなしになる。

 -3連ミサイルポッド・2個:機体側面に装備されたミサイルポッド。他のミサイルよりも高威力でサイズも大きい。

 -5連ミサイルポッド・2個:機体背面に装備されたミサイルポッド。他のミサイルポッドよりも発射可能範囲が広い為、緊急時の迎撃や上空への攻撃などに使用する。

 -メガランチャー:機体の中央に装備された大型のビームランチャー。

 -ウィザードスパイク:ケルベロスバクゥのウィザードアタッチメントのスパイク部分を移植してきた近接装備。

 -スパイクアンカー:機体前面に装備されたワイヤー付きのアンカー。敵に突き刺して引き寄せる、近づいてきた敵を迎撃するなど、用途は多岐に渡る。

 -エネルギータンク・3本:プラフスキー粒子を溜めておく装備。バトル中はずっとチャージを行っており、ミサイル発射時にエネルギーが不足したりするとここから粒子を充填できる。

 -ヒートナタ:機体背面に隠し兵装として装備されている近接武器。

・特殊コマンド

 -永続制圧射撃:68発のミサイルを途切れることなく周囲に撃ち続けられるように設定されたコマンド。自動回復のみで撃ち続けることが出来るので、一度攻撃を開始されると周囲に近づくことは困難になる。

 -偽装解除:隠し腕と近接装備を解放するコマンド。隠しているのは相手を油断させる以外に運用コストを抑える効果がある。

 -粒子補給:戦闘開始時からチャージを行っているエネルギータンクの中からエネルギーを補給するコマンド。"全力補給"とミサイル発射に不足した分だけを補う"補てん補給"がある。

 -空間制圧爆撃:ガンプラ内の粒子全てを実弾兵器に変換して周囲全てを飲み込む。攻撃後、粒子再充填を行う為に20秒間完全停止する。

 

 

[永続制圧射撃]

 

【挿絵表示】

 

[偽装解除]

 

【挿絵表示】

 

[背面_偽装解除]

 

【挿絵表示】

 

[アンカースパイク]

 

【挿絵表示】

 

[補足]

 

【挿絵表示】

 

 

●設定

 サカキ・シンジが今年の大会の為に作った空間制圧能力に長けたガンプラ。途切れない火器による飽和攻撃、隠し兵装による近接攻撃能力、ブースターと複数搭載のカメラを用いた空間把握能力を持つ強力なガンプラ。

ただ、その機能てんこ盛りのガンプラを操作する難易度はかなり高く、シンジ以外に扱える人間はまず居ない。

元々は元Bチームであるナツモリとナガサキの2人と協力して戦うことを想定したガンプラだった為、機動力と隠密性を完全に捨てて囮兼壁役として機能することに特化した作りとなっている。

武装のコンセプトとしてはザクコマンドーに似ているが、ザクコマンドーに出来ない複数の敵に対して牽制を行う攻撃や高火力の一撃などを叩きこめるなどの特徴がある。

もし優位なポジションを先に奪われたとしても、その質量を生かして強引に体当たりを食らわして強引にポイント奪取を行うなどの荒技も可能な、正に『移動要塞』。

 ちなみにティエレンフォートレスの機体設定にはサカキが作った脳内設定が事細かく書き込まれており、随所にその影響が出ている。

以下、サカキの妄想設定。

 

ガンダム00の世界。

人類革新連盟がティエレンに出力制限をかけて大型パワーローダーとして使用しているとある未開拓の国で、戦線で使い物にならなくなったティエレンを買い取る民間業者が居た。

売られたティエレンは武装を取り払い、複数のティエレンを組み合わせて何とか使える程度にしてジャンク屋が販売していた。

目的はもちろんパワーローダーとして。建設で使う重機の代用、人間が立ち入れない山々での移動や運送など。

そんな商売が数十年続いた、ある日。

軌道エレベーターの一部が事故により大破。巨大な破片が2時間後にその未開拓の国のとある病院を直撃することが判明する。

その事実を知ったジャンク屋は、取り外した後に使えるよう整備して保存していた武装(犯罪)を改造したジャンクのティエレンに載せられるだけ載せ、病院の空に向かってぶっ放した。

無数のミサイルは見事に破片を砕いた。砕かれて粉々になった軌道エレベーターの破片で多少の損害はあったものの、死者は出なかった。

その功績を称え、国はジャンク屋から武装の没収と軽い刑罰を与えた後に国の英雄として表彰した。

その事実を忘れないようにと(客引き目的も兼ねて)、その時に使用したティエレンを塗装して非売品として店に飾った。それこそがティエレンフォートレスである。

実は緊急時には再び出撃できるように定期的に点検している。

 

上記の設定に真実味を持たせる為、ティエレンフォートレスは発売されているティエレンシリーズ全てのパーツを使用している。

 

 

●作成裏話

 着想から完成までに1年程度掛かったガンプラです。

いやまぁ、半年くらい放置していただけですが……。

最初はジャンクパーツをくっつけていたらティエレンが巨大な移動要塞みたいに見えてかっこよかったので、そのコンセプトで組み上げ始めました。

しかし気づいた時には全武装新たに購入していたと言う、何とも金のかかったガンプラです。

色はシタデルカラーのインキュビ・ダークネスのスプレーを使いました。銀の部分はリードベルチャ―で、赤の部分はメフィストン・レッドで筆塗りです。

ご覧になればわかると思いますが、パーツ数がめっちゃ多いです。塗装するだけでも疲れました……これ以上細かい色分けをする気力が湧かなかったと言う理由でこの色合いだったのですが、完成してみたら意外といい感じだったので気に入ってます。




読了お疲れ様でした。

予定通りの更新が出来ませんでしたが、何とか数日の遅れで済みました。
リアル事情の方も落ち着いてきたので、予定も立てやすくなってきました。
今後どうなってくるかは分かりませんが……
次回は8/12辺りを目標に頑張って行きます。

よろしければ感想など頂けたら幸いです。


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