オラリオに半人半霊がいるのは間違っているだろうか? (シフシフ)
しおりを挟む

極東編
1話:プロローグ「みょん?」


やあ、俺は転生者だ、何を言ってるか分からないかもしれないが転生者なんだ。

 

これからは銀髪のイケメンとして異世界でヒャッハーしようと心に決めて、こうして目を覚ました。

 

だが、何かおかしい。俺は自分の姿を確かめる、まずは手、細く白く短い(・・)触れたら折れてしまいそうな綺麗な手だ。次は身体、麻布のボロっちい服を着ており、未発達ではあるが女だ・・・。・・・既にいろいろとおかしいが、顔を確認しなければ。俺は近くにあった森に囲まれた湖をのぞき込む・・・んで顔は・・・幼いながら非常に整った顔立ちだ。白い肌、銀の髪、青い瞳。・・・・・・・・・妖夢?

 

いや、おかしいだろおぉぉぉォォ!!あれ!なにこれ!おかしくね?!俺さ言ったよね神様!銀髪で刀を使うキャラクターって言ったよね?!俺のイメージ的には坂田銀時だったんだけどおおおぉぉ!?しかもなんで子供状態なんだあああああ!

 

「みょおおおおぉぉぉん!」

 

鈴のような綺麗な可愛らしい声で俺は叫ぶ。

 

声可愛いなおいっ!嬉しくねぇよ!普通あれだろ?こういう声の人をヒロインとしてよこすとかさぁするんじゃねぇの?・・・ダメじゃん、俺をこの声にしちゃダメじゃん。・・・ったくどうしてこうなったんだ・・・

 

 

どうしてこうなったかは少し前に遡ることになる。

 

 

 

 

 

俺は何も無い所にいた、何も無いってのはこう・・・説明しずらいんだが、周りの何かを知覚出来ないって感じだ。でも何故か心地よかった、このまま消えてしまうのだろうとなんとなしに思っていた。

 

しかし、そこに何かが現れた、俺以外の知覚出来る何かは俺に話しかけてきた。

 

「゚з゚)ノ チィーッス、どうよ元気?おれ?俺はマジチョーイケテルって言うか神様だぜ?マジ元気だぜ?」

 

――・・・・・・は?何?てか誰?。目の前に現れたのは何かチャラチャラした男の人だ。

 

「誰とかないわー!俺だよ俺!忘れちゃった?・・・・・・初対面だっわウケるwwwwww」

 

――・・・あ、うん、そうですね、ところでここは?どうして俺はここにいるんだ?

 

「あれ?説明してなかったっけ?あー、悪い!!!お前死んじゃったわ!いやーなんて言うか・・・書類ミス?ってやつだ、うん。・・・・・・(๑>؂•̀๑)テヘペロ」

――つまりお前は神様で、書類ミスで俺は死んでしまったと?

 

「そうそう!いやー話が早いねーっ!ホントは死ぬ筈じゃなかったんだぜ?俺のミス俺のミスwww」

 

――ぶっ飛ばしてやろうか?・・・・・・・・・なぁ、俺の家族は・・・。そう、俺は家族四人で車に乗っていたはずだ、家族どうなった!?やっぱり死んじまったのか?!アンタの書類ミスで!?

 

「あれ、もしかして怒ってる?やだなーもうっ!死んだのは君だけさ!・・・えーっとマニュアルにはなんて書いてあったかな?んー何処だろ・・・あ、あったわー『間違えて殺してしまった時の謝罪方法』なになに・・・ほう、転生ねぇ・・・面白そうじゃないかぁ・・・どう?やるかい?」

 

――俺だけなんかい!どうしてだよどうして後部座席に座ってた俺だけピンポイントで死んでんだよ!・・・え?転生ってあの転生?

 

「そうそうそれそれ!やる?やっちゃう?俺はぜひおすすめするね!あ、ちなみに死因はポテチの爆発な。っとちょっと待ってな・・・なるほど『容姿や能力などの要望を、可能な限り叶える事』か。何かかなりたい者とかあ

る?」

 

―ぽ、ポテチて・・・。

 

その時、俺の脳裏に浮かんだのは戦い、厨二病(男の子)である俺らしいと言えば俺らしい。戦いと言えば剣だ、これは個人的な意見だが戦いはやっぱり接近戦の熱いものほど燃える。そして剣と言えば刀だろう、日本人だからね仕方ないね。

 

そして考える・・・どうせ生まれ変わるならかっこいい姿になってかっこよく戦って女の子にキャーキャー言われたいっ!と。思い浮かべるのはとあるギャグ漫画の主人公、銀髪で刀を持っていて目が死んでるけど戦うときはめっちゃ輝いてかっこいい。・・・おれ、転生したら絶対死んだ魚の目はしないように、しよう。

 

「決まった?一応言っとくけどさ、これ返却効かないからね?クーリングオフないよ?OK?」

 

――OK(ズドン)・・・えーっと、そうだな、金髪もいいけど、やっぱり銀髪かな、それで武器は刀を使ってる奴がいいかな。名前はg「OKOK!よくわかった!オレも実はそうじゃないかと思ってたんだよこれが!」・・・お、おう。

 

「よーっし!じゃあランダムで飛びますか!」・・・え?説明は?俺の容姿やら能力やら説明が必要だろうが!

 

「転生の旅へ1名様入りまーーーすっ!」ち、ちょま

 

光があふれる―世界は光に包まれ体が宙に浮くような感覚の後、・・・思いっきり地面に激突した。

 

 

 

そして冒頭に戻る。

 

なんで俺が妖夢になったんだ?絶対にあの駄神の趣味だろ・・・いや、嫌いじゃねえけどさー最後まで話聞けよ、だから書類ミスすんだよ

 

『魂魄妖夢』東方プロジェクトに登場するキャラクターで白玉楼の剣術指導者兼庭師。そして半人半霊という半分人間半分幽霊の幻想郷でも珍しい種族で、二刀流の使い手だったはずた。

 

そこまで思い出して俺は、ん?と疑問を浮かべる。

 

「・・・あれ?半霊が居ない・・・何処でしょうか」

 

キョロキョロと辺りを見渡してみると、視界に何かが映り込んだ。ふと考える、転生、世界の選択はランダム、・・・チュートリアル的な敵が出てきてもおかしくはない、むしろ何が現れるかでここがどこの世界かわかるかもしれない。

 

何が出てきやがるんだ?出来ればスライムとかわかりやすいのがいいけど。

 

視界に映り込んだ何かの方へゆっくりと振り向く、―そこには―俺がいた、そう、俺だ、俺としか思えない白いふわふわした何かだ。だがわかる、あれは俺の半身でもう一つの肉体なのだと。・・・って・・・。

 

「半霊じゃないですか!うわっ、触ってみたかったんですよね!何かひんやりしてるらしいですし!柔らかいのかな?」

 

俺は1人ではないと言う安心感と生で有名人を見たかの様に興奮しながら、やはり少し小さい半霊にしかし怖がらせないようにそ〜っと近づいていく。そして・・・ポム、ポムポムポムッ

 

「や、柔かいし弾力がある。・・・想像の斜め上を行きやがりました・・・なんだこれマシュマロみたいだ、しかもひんやりしてまする」

 

うわ〜、モフモフモフモフモフモフモフモフ

 

「・・・っは!・・・恐ろしいです、人を感触だけで魅了するなんて・・・。これを超える八雲藍の尻尾とは一体・・・。それにしてもここはどこの世界なんでしょう」

 

ここにいても埒があかない、少し動き回ってみるか・・・。と俺は歩き始める、目的地は無し。ぶらりと歩こう。旅のお供もいるしな(自分の半分)

 

「それにしても、なんで話し方がこうなんでしょうか?」

 

話してて違和感がすごわー。

 

 

 

 

 

 

「―ハァ・・・は、ハァ―――っ、ここは何処ですかあああああぁぁぁあ!」

 

3時間歩いても森は抜けねぇし!小鳥以外に生物すら見かけねぇ!体が小さいからか体力もねぇし・・・くっそ、このまま野垂れ死ぬのはゴメンだぞ・・・!

 

「うぅ・・・、あっ、そうだ!半霊!空を飛んで周囲を見てきて!」

 

どうやら迷ってしまったらしい俺は、なぜ今まで思いつかなかったんだ、と言いたくなるようなアイデアを実行する。

 

自分も飛ぼうとはしてみた、けどこの体じゃ飛べないらしい・・・。肉体年齢が低いのが悪いのか、実力が無くては飛べないのか・・・まだ不明だが、これでっ!・・・あれ?そう言えば半霊って話せないんじゃ・・・

 

しばらくすると半霊が降りてきた、・・・それだけだった。

 

ガーン!と落ち込んだ俺はもう歩く気力すら失った、とりあえず今日は疲れたから休もう。俺は近くにある大きめの木に寄りかかり、目を閉じた。

 

 

『お?』

 

何故だろう、目の前に妖夢がいる、いや、正確には更に幼い妖夢(幼)だ。非常に疲れているようでぐっすり眠っている。

 

『動けるのか?』

 

どうやらこの状態でも動けるようだ。

 

『変な夢だな、まるでついさっきまでの俺じゃないか。・・・・・・・・・あれ?半霊は?』

 

ぐるりと辺りを見渡す。それらしき姿はない。

 

『つまりは・・・俺が半霊?寝ると半霊として行動できるのか?・・・そうか、この状態で飛べば辺りの地形を見渡せる筈だ。』

 

そしておれは遠くにちいさな村を見つける。

 

『おお!村だ!・・・待てよ、随分と文化レベルの低そうな村だな、ぜってぇ電気とか通ってないよなあれ』

 

体が休息をとっている間に色々とまとめておこう、まずは、俺は転生者で、少なくとも外見は幼い魂魄妖夢だ。半霊もいる。わかっていることといえばここは巨大な森であり、小鳥が住み着いていること、森を抜けた先に文化レベルの低い村がある事。武器はない。・・・半霊はポムポムしていて弾力があり、ひんやりしていた事位だろう。

 

『正直な話、この世界が何処の世界なのか全くわからん、ヒントがすくなすぎる。だがそれも明日でさよならだ、村人に接触すれば何らかの情報が絶対に得られるはず・・・言葉は通じるよな?』

 

俺は一抹の不安を胸に体の元に降りていく。・・・なんだかうなされているらしい、俺が近づくとギュッと抱きしめられる。そして俺の意識は暗転した。

 

 

 

 

「あ、あの!すみません!えーっとですね、その、教えて欲しいことがあるんです」

 

あの後きちんと体に戻った俺は村の方角に足を進めた。今は村人にこの世界のヒントとなり得る都市の名前等を聞こうとしている最中である。

 

「お嬢ちゃん、1人でここまで来たのかい?よく来たねぇ、辛かったろう?。ささ、アタシんちにおいで、お腹減ったろう?」

 

いかにもなお婆さんに話しかけたのだがどうやらご飯を食べさせてくれるらしい。

 

おおっ!やったぁ。と思い付いていく、周りを見た感じどことなく大昔の日本の様な所だ。しばらく歩いていくと、どうやらお婆さんの家についたらしい、なかなか大きな家だ。

 

「さぁ、あがりなさい」

 

お婆さんがこちらに手を差し伸べる、俺はその手をとって家に入った。

 

「お、おじゃまします・・・」

 

家の中には囲炉裏やら釜やら置いてあり、日本をますます思い起こさせる。

日本語も通じているし昔の日本に飛ばされてしまったのかもしれないな・・・、それにしてもこの体は話しにくい、声帯が完璧じゃないのか?勝手に翻訳されて俺の荒々しい言葉では無くなるしな・・・。

 

「いいのよいいのよ、さぁ今からご飯を作ってあげるから・・・、そうねぇ・・・折角上がってもらったけど村を探検してきたらいいんじゃないかい?しばらくしたら戻っておいで」

 

「は、はい!いってきます!」

 

ラッキーだ、ご飯ができるまで何してよう、と思っていた所だったんだ。いい人だな、と思いながら俺は外に出る、村の広さは空から見た感じだとそこまで広くはなかったはずだ。俺はトコトコと歩いていく。因みに変な警戒をされない様に半霊は山に置いてきた。この世界に妖怪が居るのかは知らないし、妖怪の立場も解らない以上目立ちたくはない。・・・いや、最終的には目立ちたいけどさ、いい意味で。女の子から・・・俺が女の子じゃねぇか・・・、こうなったらイケ妖夢になるしかないのか・・・?

 

 

〜少女探索中〜

 

―探索開始―

 

獣耳っ娘発見

 

「みょん!」初めて見たよ生で

 

ケモ耳(おっさん)発見

 

「みょみょみょ?!」は、初めて見たよ生で・・・見たくはなかったが

 

人間発見

 

「良かったケモ耳だけじゃなかった」

 

獣耳っ娘に話しかけられる

 

「どこから来たの?」

 

「え?ええと、そのですね・・・と、遠くから?でしょうか」死んだらここ来たとか言えねーよ。

 

「ふーん」

 

「で、でわこれで」

 

お店発見

 

「おお〜、見たことの無いものがありますね」

 

「買ってくかい?」

 

「みょん!?す、すみません!お金無いです!」

 

「おっ、おい!どこ行くんだ!・・・逃げちまった」

 

畑を発見

 

「何を育てているのでしょうか?」芋か?芋なのか?

 

―探索終了―

 

〜少女帰還中〜

 

ふぅ、どうやらこの世界はケモ耳が普通に居るみたいだな、とは言え余り数は居なかった。村人40人中8人位だった、一家族らしい。

 

そして店に出ている商品や畑の作物も俺の住んでいた日本とは幾つか違うものがあった。しかしそれだけではどこの世界か解りかねるのでお婆さんからしっかりと情報を聞き出さなくてはダメだろう。

 

この体についていくつか分かったことがある、この体は非常に臆病だ、と言うか感情を隠さず表に出してしまう。そして感情に敏感だ、俺が少しでも怖いとか、嫌だと思うとすぐに声が出るし、足が震える。

 

う〜ん、困ったな。原作の妖夢はこんなんじゃなかった筈なんだが・・・俺のせいか?それとも剣を習う前はこんな感じだったのか?・・・そうだとしたらさっさと剣を習う必要があるな。

 

そんなこんなでお婆さんの家に到着。

 

「ただいま〜。って!人の家でした!すみません!おじゃまします!」

 

「ほほほっ。なに、自分の家だと思ってくつろぎなさいな」

 

「は、はい・・・」

 

めっちゃいい人やー、今晩のご飯はお米に川魚の塩焼き、漬物に味噌汁ととても和風だ。

 

「さぁ、お食べなさい」

 

「あ、ありがとうございます!・・・えと、頂きます。

 

パクッ・・・美味しい!」うまい!1日中歩き回った後の飯はうまい!

 

 

 

食事中だが聞きたいことは山ほどあるので聞いておこうと思う。

 

「あの、ここはなんていう国ですか?」

 

「ん?ここかい?ここはね、極東って呼ばれるかねぇ、お嬢ちゃんの国だと」

 

「私の国だと?ですか?(極東?俺の国?外見の事か?)」

 

「ああ、そうだよぉ。そう言えばアタシも聞きたいことがあったんだよ」

 

「みょん?なんですか?」

 

「お前さんはどうやってここまで来たんだい?」

 

「え?えーっと・・・」

 

やばい、俺は頭をフルスピードで回転させる。なんて言い訳すれば良いのか分からないのだ。このお婆さんは俺が外国から来たと思っている。正直に言うなら死んだらここにいました、だが・・・。あっ!ここはあれだ、両親がこう・・・な。

 

「お、お父さんとお母さんと妹と一緒に・・・今は・・・1人です」

 

別に嘘じゃない、俺は転生する直前まで父母妹俺の四人で車で移動していたのだから。正直な話会えるなら会いたい。死ぬ前に一言くらい言っておきたいものだってあるのだ。そう思うとどんどん悲しくなってくる。ああ、どうしよう、この体は自分の感情にすぐに反応してしまう、・・・ほら

 

「ウゥ・・・グスッ・・・ウ・・・ゥ」

 

「おやおや・・・悪かったねぇ、ごめんよぉ。アタシが面倒を見てあげられたら良かったんだけどねぇ・・・アタシも老い先短いのさ、この村から少し遠いんだけどね?『タケミカヅチ』って言う神様がいるんだよ、お前さんみたいな可哀想な子ども達を育ててくれるのさ、あのお方ならきっとお前を救って下さる筈だよ。さぁ、今はたっぷりお食べ。明日一緒に行こうねぇ」

 

「はぃ・・・ズーッ!・・・頂きます」

 

「強い娘だねぇお前さんは」

 

 

 

 

ご飯を食べ終えた俺はお婆さんと一緒に眠る事になった、誰得だよと思うかもしれないが今の俺に安心して一緒に眠れる人なんてこのお婆さんしか居ない。

 

「ーーースゥ―――スゥ」

 

「(眠ったかな?よしっじゃあ変わるか)」

 

山に置いてきた半霊を回収しようと思ったが念のためお婆さんが寝てからにすることにした。半霊が居ないとやっぱり心寂しいからな。

 

『・・・よし、山の中だ。』

 

俺は村の方へゆっくりとフワフワ飛びながら思考の海に浸かる。

 

『タケミカヅチ・・・か。しかも孤児を育てているとなると・・・この世界は「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」の世界の可能性が非常に高くなったな。』

 

しかし、まだ懸念すべき事は多数ある。

 

『ダンまちの世界だとして、妖怪はどんな立場なんだ?俺は半人半霊と言う種族として迎え入れられるのだろうか・・・。・・・ぜってぇ神様達がヒャッハーするな、これは。誰とは言わんが「うおぉーーー!なんやなんや!半分魂浮いとるやん!どうなってるん?!おもろいなぁ!」ってなるなこれは。』

 

フワフワしていると森を抜け、村が見えてくる。

 

『ん、ついたな、体はしっかり眠れているだろうか?前みたいにうなされていたらお婆さんびっくりしちまうよ。あれ、これ半霊が行ったらもっとややこしくなるか?』

 

俺はスゥーと体の寝ているお婆さんの家に近づき耳を澄ます。何処に耳があるんだとか変なこと言わないで。

 

「うーん、うーん」

「大丈夫かい?少し待ってなさい、お水持ってくるからねぇ」

 

どうやらうなされているらしい。昨日の感じからしてきっと半霊を抱き枕にしないとよく眠れないのかもしれない。

 

お水を水瓶に汲みに行くお婆さん、俺はその隙に壁をすり抜け体に近付く。(因みに壁抜けした瞬間ぞわっとした。)俺の意識は暗転した。

 

 

 

「・・・な・・・きな・・・起きな、お嬢ちゃん」

 

「う・・・うん?ふぁあ・・・みょん?」

 

朝か・・・、俺は眠く動かない体を無理やり起こし布団から起き上がる。どうやらお婆さんが起こしてくれたらしい。

 

「お嬢ちゃん、お前さんは妖怪なのかい?」

 

真剣な表情でお婆さんが俺にそう問いかける。

・・・そうか、半霊を抱きながら寝たから・・・。お婆さんに嘘はつきたくないな。

俺は正直に告白する。

 

「はい・・・そうです。」

 

バレてしまっては仕方が無い、追い出されるのも覚悟しなくては。・・・しかしお婆さんの言葉は俺の懸念を吹き飛ばす。

 

「やっぱりねぇ…」

 

「わかっていたんですか?」

 

俺が妖怪だと分かるような行動は一切していなかった筈だが、どうしてわかったんだ?

 

「はっはっは、伊達に長生きしちゃいないよ。しいていうなら勘さね」

 

「か、勘ですか・・・」

 

はっはっはと快活に笑うお婆さんに俺は女の勘ってすげえなと素直に感心するのだった。

 

「さぁ、朝食をとったらタケミカヅチ様のところに行くよ。ああ、そうだお昼ご飯も持っていかなきゃねぇ」

 

「はい!私も手伝います。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、桜花、命、千草ー。昼の鍛錬を始めるぞ〜。・・・・・・どこに行ったんだ?」

 

タケミカヅチは朝昼晩に鍛錬を行っている、そこで保護した子供たちにも自衛のためにと武術を教えたり鍛錬を共に励んだりしている。しかし、いつもなら庭先に集合しているだろう時間になっても子供たちが居ないのだ。彼らはまだ幼い、そう遠くには行っていないはずだが。

 

「タケミカヅチさま〜!手伝って下さい!!」

 

すると正門の方から声が聞こえてくる。この声は。

 

「桜花か。少し待っていろ!今からそっちに行くから!」

 

桜花は子供たちのリーダー的な存在だ、身長も一番高いし男気があるからだ。何より彼の槍裁きは目を見張る所があり、タケミカヅチも一目置いている。まぁ、タケミカヅチは子供たち全員を可愛がっているので皆不満はない。

 

「どうしたんだ?いつもなら庭先にいる時間なのに・・・何か見つけたのか?」

 

歩きながら正門のに近付く、きっと子供達が面白い物を見つけたのだろう。ついこの間は毒キノコを見つけてはしゃいでいた筈だ、いい機会だからとキノコについてほかの神たちが教えていたな。とそんなことを考えていたからこそタケミカヅチの驚きはなかなか大きかった。目の前に見える光景は決して毒キノコ等ではなく・・・。

 

 

そこには銀髪の幼い少女が血を流して倒れている光景だった。




こんな感じでいいのだろうか?

―追記―

妖夢の妖怪扱いは伏線です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話「早速修行です!」

2話です。

文字数は今くらいでいいのかな?


目の前の少女が顔を上げ、荒い呼吸をしながら振り絞るように声をだす。

 

「とう・・・賊が・・・ハァ・・・お婆ちゃんを・・・ウゥッ!助けて!お願いです・・・痛っ!」

 

腕と背中に斬られた様な傷がある、盗賊か・・・とタケミカズチは冷静に判断する。

 

「わかった。お前達はアマテラスの所に行って戦える者達を集めてくれ。命、この子の治療を頼む!・・・君、名前は?」

 

タケミカヅチは辺りの者達に指示を出し、傷だらけの少女に名前を聞く、名前とはそれだけで多くの情報をもたらすのだ。

 

「・・・魂魄・・・妖夢です」

 

「魂魄?」

 

聞いた事の無い名だ、不審に思うがしかしこの少女は嘘をついていない。つまり自分の知らない遠くの方から来たのだろう。

 

「治療道具を持ってきました!ええと「妖夢です」妖夢殿ですか!いま治療するので・・・」

 

命はテキパキと妖夢を治療するが、刀傷を見て顔を顰めている。こんな子供が傷を負うのを許せないのだろう。それはタケミカヅチも同じだった。

 

カチャカチャと使い込まれた装備を装備した男達4人が現れる、神ツクヨミの眷属達だ。上位の眷属は他の依頼のため出はからっている、だが盗賊が神の恩恵(ファルナ)を授かった戦士達に勝てる見込みはない。

 

「タケミカヅチ様!俺達も!」

 

子供たちのリーダー格である桜花が声を上げる、命や千草も頷いている。この子達はまだ神の恩恵を貰っていないが、盗賊相手なら十分に戦える。だがこの子達はまだ子供だ。一番年上の桜花でさえ昨年12歳になったばかりだ。

 

「ダメだ、お前達にはまだ早い、・・・いや、来たいなら来てもいいが足は引っ張らないでくれ」

 

真剣な声でそう指示すると桜花達は足早に駆けていった。

 

正義感の強い子達だ・・・きっとこの子が怪我をしているのを見ていてもたっても居られないんだろう。

 

「私も・・・行きたいです・・・っ!」

 

その声に驚いたのはタケミカヅチ本人だ、振り向いて確認すると妖夢はまるで刀剣のような瞳でタケミカズチを見つめている。治療したとはいえ激痛が体を襲っているはず、子供が耐えられる痛みではない。しかしその目には確かな覚悟が見えた、武神だからこそわかる刀の様に研ぎ澄まされた覚悟。

 

・・・この子は生まれながらの戦士なのか、止められないな、これは。

 

「・・・俺は別に構わない。だが・・・人の死を見ることになるぞ?」

 

だが子供に血なまぐさい現場を見せたくはない、それにきっと妖夢のお婆さんはもう死んでいるだろう。・・・いや、子供がこんな目をするならばそのお婆さんも・・・。

 

「っ!・・・でも、それでも行きます、一宿一飯の恩は返さなくては・・・!」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

ガシャガシャガシャガシャ。

 

鎧を着、刀や弓を持った集団が前を走っている。この人たちはアマテラスの眷属らしい、何故助けてくれるのかは分からないが今は少しでも戦力が欲しい。相手は確か十数人居たはずだ、それを半霊パンチで倒し切るとか無理だろ常識的に考えて。

 

こちらに来るまでに何が起こったかというと、お婆ちゃん(道中でお婆ちゃんと呼んでもいいと言われたため、呼び方を変更した。)とピクニック気分で山道を歩いていると、褌一丁で刃こぼれした刀を持ったHENTAI(盗賊団)に襲われたのだ、この体の戦闘手段なんて何もわかってない、しかしお婆ちゃんを置いていく事も出来ない。そんな理由で俺がとった攻撃が「半霊パンチ」だ。どんな技なのかは言うまでもないと思うが、半霊を操り相手にぶつけるだけだ。パンチなのかって?いいんだよ一応俺の体だし。第三の腕だよ第三の。

 

しかし、ポムポムしている半霊で倒せる筈もなく、俺達は囲まれてしまう。そこでお婆ちゃんがとった行動が、素早く動けない自分を囮に、俺に助けを呼んでもらうことだった。

 

俺が走り出すと同時にお婆ちゃんが小声でブツブツと何かを言い始めたが俺はそれに気を使っている暇はなく、俺を追い掛けてきたHENTAIに向かって半霊パンチを放ち、距離を詰められないように逃げていたのだがHENTAIは思った以上に足が早く背中と腕を斬られてしまった。

 

・・・と言った感じだ。傷に痛みは有るがそこまで深くはない、この体が特別痛みを感じにくいのかも知れないし、お婆ちゃんを助けようとアドレナリンが出てるのかもしれない。だが今はそんな事はどうでもいい・・・無事で居てくれよお婆ちゃん。

 

 

 

走り続ける事3分、正直こんなに短かったか?と言った感じだ、遠回りしていたのか追われていたため長く感じたのか。しかしそんな事はどうでもいいと思える光景が目の前に広がっていた。おいおい、なんだこれは。

 

「ここで・・・あっているのか?」

 

辺りの木々の至る所が焦げ、真っ黒けっけになってピクピクしているHENTAIが2人、いや2体。あのお婆ちゃんがやったのか?・・・まじかよ、あのお婆ちゃんファルナ持ってたの?あの時ブツブツ言っていたのは呪文か?

 

「はい・・・ですが・・・魔法を使ったのでしょうか?」

 

何となく隣のアマテラスの眷属の人に問いかける。

 

「その様でごザルな」

 

・・・濃い、キャラが濃い。すげぇ猿みたいな顔してるよこの人。

 

「お、お猿さん?」

 

やべぇぇぇ!声出たよ!出ちゃったよ!まじか!感情だけじゃなく心の声まで出ちまうのかっ!

 

「むむ!お猿さんではないでごザルよ!拙者は猿飛猿師(さるとびえんじ)でゴザる!」

 

なんだ猿か…びっくりさせんなよな。

 

「お猿さんでしたか、びっくりさせないでくださいよ。」

 

あ、また出た。

 

「・・・何故でごザルか?なぜなんでござろうか、なぜ・・・なぜ拙者はこんな顔に・・・子供なら許せる、しかし、何故大人まで普段から・・・」

 

地雷踏んじまった・・・ま、まぁいいよね。仕方ない、子供だから仕方ない、思った事が口から出てしまう事もあるさ。泣くなよ、生きていれば人生・・・いや猿生、いいことあるさ。元気だせよ。

 

「泣かないで下さいお猿さん、きっといいことありますよ」

 

「同情なんか要らないでござる・・・と言うかそれは最早止めを刺しているでごザル・・・。」

 

因みにこの間、盗賊達の足跡を発見し、追跡をしているのだからこの猿侮れない。

 

 

 

 

 

見つけた、やっと見つけた。良かった、まだ生きている。間に合ったんだ・・・いや、生きてるけどさ。

 

「ヒャッハー!汚物は消毒だー!逃げるんじゃないよ若造ども!そのねじれ腐った根性叩き直してやるよ!」

 

「アバー!」「グワー!」「アイエエエッ!ニンジャ!ニンジャナンデ!?」

 

そこにはHENTAI焼肉会場があった。お婆ちゃんの速さは俺じゃあ目線で追うことすら出来ない。

 

いや何でだあああぁぁぁあぁ!!何で勝ってんだよ!何で飛び跳ねてんだよ!あれ?俺いる?俺が助け呼ぶ必要あった?!お婆ちゃんの方が圧倒的に早いだろうがあぁぁぁぁ!

 

「な、何故母上が居るでごザルか?!」

 

お前の母親かよおおおおぉぉぉぉっ!似てねぇよ!お婆ちゃんどちらかと言うと大和撫子っぽい感じだよ!あれか!?お父さんが猿顔なのか?!いや猿だろ、ぜってぇ猿だろ!てかお前何歳だよ!猿顔で年齢わかりにくいんだよ!

 

「42でゴザる」

 

さらっと心を読むなあぁぁぁ!そして意外に歳行ってるうぅう!あれだよね!老け顔って年取ってから逆に若く見られるよねっ!何もんだよテメェ等ァ!

 

「ふぅ、久しく動いたもんだ、少しやられちまったねぇ。お?猿師じゃないかい、おお、妖怪のお嬢ちゃんも。どうしたんだい?アタシはタケミカズチ様のところに行けと言っただろうに。」

 

え?なに、そう言う意味だったのあれ?戦えないから味方よべとかじゃなくて「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」的な意味だったの?折ったの?フラグ折ったの?俺が斬られた意味とは・・・。

 

唖然とし、動けない俺を他所に会話は続く。

 

「久しいでごザルなぁ〜、母上元気にしていたでごザルか?ああ、これは丸薬でごザル。」

 

「あぁ元気だよ、こうして根性どころか男も曲がっちまってる阿呆共を燃やせる位にはねぇ」

 

な、何かいきいきしてるなぁー。こういうのってさ普通、こう、何ていうかあれじゃないの?お婆ちゃんがやられて「くっそおぉぉ!」とか何とかいって主人公覚醒するんじゃないの?現になりかけてたよね?そのフラグも微みょんに建ててきたよね?駄神か?あの駄神のせいなのか?どーせ今頃上で

「プギャプギャ━━━m9(^Д^≡^Д^)9m━━━━!!!!!!」とかなってんだよ、いつかぶっ飛ばしてやる。

 

という訳で無事に(?)俺はタケミカヅチの所に届けられた。いやさっき来たばっかだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いしますっ!私を強くして下さい!」

 

俺は今土下座している。なぜならそれは強くなりたいから、誰かが死んでそれで覚醒なんてテンプレをあの駄神は許してくれないらしい。ならば修行だ!という事で上のセリフに戻る。

 

「ああ、元より俺はそのつもりだったぞ」

 

タケミカヅチはいい笑顔で頷く。おお、さすが武神。いずれバイトする事になるとはつゆほども感じさせない神々しさだ・・・!

 

「有り難うございます!」

 

よし、明日から修行だ!頑張るぜ!っと、その前に皆に挨拶を―

 

「よし!そうと決まれば早速修行だ!」

 

・・・へ?

 

 

〜少女修行中〜

 

「あ、あの!こ、こうでいいんですか?あの?」

 

「隙だらけだぞ!」

 

「・・・へ?ゥッ!みょおおぉぉん!」

 

「刀の握り方が逆だ」

 

 

「くっ!こうなったら!破れかぶれです!」

 

「こい!」

 

「はぁああああ!」

 

「とうっ!」

 

「みょおおおおおぉぉぉぉ・・・・・・ぉおンッ!」

 

「力だけで振り回すな、円運動を意識しろ!」

 

 

 

ならば!回り込んで・・・っ!ここ!

 

「せいやぁっ!」

 

「甘い!」

 

「なんでぇー!ぐへっ!」

 

「相手の意表を突こうというその考えはいい、だが基礎もまだ出来ていないのにそんな事をしても殴られに行っている様なものだ。」

 

 

つ、つぎ、こそ、は・・・

 

「はあああああ!」

 

「重心を意識しろ、やり直し!」

 

「うみょん!!」

 

「・・・今日はもういいだろう、よく頑張ったな、妖夢。」

 

〜少女修行終了〜

 

 

タケミカヅチとの修行、もといサンドバック(おれ)が終わり、俺は傷だらけになってご飯を食べている。タケミカヅチさんマジぱねぇっす、容赦ねぇっす、仮にも女の子やで?子供やで?中身違うけど。てか強えよ、神威とか抑えてるくせに。体裁きだけで視界から消えるとか何者なの・・・。

 

因みに背中や腕を斬られていた筈の俺が何故その日のうちに修行何て出来たのか、と言うと、丸薬のおかげだ、「癒しの丸薬」はポーションのように体の傷を癒してくれるアイテムだ、違う所があるとすれば、ポーションは短時間で回復効果を表すが、丸薬はじわじわと回復する。丸薬の利点はたくさん持ち歩けることだ。瓶に入れなくてはいけない液体とその必要の無い丸薬では持てる数に差が出るのは当たり前だ。後は時間によって効果が下がったりしないって所か・・・カビるけど。

 

こんなの原作に無かったよな〜、と思っていたが、

どうやら猿が発現したスキルによって作られているらしい。因みに「癒しの丸薬」「力の丸薬」「護りの丸薬」の三種類がある。魔力を回復するやつはないのか聞いてみると「おおっ!それは盲点でござった!いや〜やはり子供は発想が違うでごザルなぁ〜」とか言われた。・・・うんまぁ生前もアンタの半分以下の歳だったけどさ。

 

因みに複数個同時に服用すれば効果は上がる、副作用として、「癒しの丸薬」は使えば使う程眠くなったりするらしい、体が傷を修復するのに集中し過ぎて眠ってしまうようだ。

 

ちなみに1つ使った位だと副作用はほとんど無く、夜にぐっすり眠れる位だと言っていた。

 

にしても色々とあったなぁ今日は、・・・お婆ちゃんレベル3とか、嘘だろおい。それが強烈すぎたわ。何あの三角飛び。腰を労われ!いやまぁ、あの動きのお婆ちゃんに1発当てた盗賊も凄いけどね、俺じゃ絶対当てる自信ないもん。

 

「「ご馳走様でした」」「ご!ごちそうさまでした!」

 

ご飯については一言でいいだろう。美味しかった。

 

「風呂なら沸いてるぞ、先に命達が入っていいぞ。」

 

そうだな、命達が入ってる間にタケミカヅチと話を

 

「はい!お風呂ですよ!お風呂!さぁ行きましょう千草殿、妖夢殿!」

 

・・・へ?

 

 

~少女入浴中~

 

な、何も覚えてねぇ、髪はサラサラになってるし、体から泥は落ちている・・・。入った筈だ、入ったはずなんだ。ずーーーーっと視界が真っ白だった。何故だ、何故なんだ。・・・まさか半霊・・・貴様か・・・?

 

〜少女入浴終了〜

 

 

 

「スゥー――スゥ――ん・・・―スゥ――」

 

で、だ。まぁ、なに?そうだよね、部屋とか一つまるごと貰えるわけないよね、知ってた。

 

今俺のいるところは女子部屋とでも言えばいいのだろうか、簡単に言うとここで保護されている女の子たちと同じ部屋になったのだ。

 

おかしいなー、猿?ぐっすり眠れるんじゃ無かったの?期待してたよ?命や千草と同じ部屋になったと聞いて眠れないかもと思ってた、でも猿の作った丸薬の説明を聞いて、丸薬のおかげで眠れると思った。・・・・・・・・・眠れねぇよ。眠れる訳ねぇだろ。

 

静まり返った中で寝息と寝返りの音だけが部屋に響く。

 

ああ、明日はキツイだろうなぁ。

 

 

 

 

 

―夢だ、夢を見ている。

 

 

 

―家族だ。父さんと母さんと妹が食卓を囲んでいる。とても楽しそうだ、幸せそうだ。見ているこっちまで幸せになってくる。

 

 

 

――写真立てだ。皆笑っている。俺も頬が緩む。だが・・・俺が居なくなっている。確かこの写真は家の近くの公園で撮ったものだ。大きな木をバックに、左から父さん、母さん、妹、俺の順番だったはずだ。・・・だが俺はいなかった。

 

 

 

―――食器棚だ。俺の箸がない。俺のお気に入りの茶碗がない。妹が学校で俺に作ってくれたマグカップもない。・・・俺が父さんと母さんにプレゼントしたお揃いのコップがない。

 

 

 

――――二階の俺の部屋だ。・・・いや、俺の部屋があったところだ。扉には『倉庫』と書かれている。中に入ると段ボールが積み上がっていた、この中にオレの物が入っているのだろうか?

 

 

 

―――――俺が居ない。俺は居ない。俺は・・・・・・「俺は」・・・・・・おれ・・・は?

 

 

 

 

「ッはぁっ!」

 

目が覚める。余りの悪夢に飛び起きてしまった、自分の生きた証が何も無い事が、誰の記憶にも残らない事が、こんなにも恐ろしいなんて考えたことも無かった。

 

外から入ってくる明かりはまだ弱い、月は沈んではおらず、太陽もまだ顔を出してはいない。この世界は日が落ちると殆ど同時に眠りにつく、寝たのは6時位だったか、今はきっと2時位だと思う。

 

俺は思わず半霊を呼び戻し抱き締める、心が落ち着く、ひんやりとした冷たさが心地よく、張りのある弾力の中に顔を埋める。

 

「少し・・・外の空気を吸いに行きましょう」

 

誰も起こさないように最新の注意を払いながら極力音を立てずに襖を開け外に出る。

 

雲の隙間から月が顔を覗かせ、世界を鈍く照らしている。夜風に吹かれ草木が葉を揺らす。銀色の髪もまた風に揺れていた。

 

「お父さん・・・お母さん・・・私の妹・・・。あれ?・・・名前・・・名前が?何?何だっけ?名前・・・私の家族の名前・・・。思い・・・出せない・・・。」

 

夜風が頬を撫でる、まるで慰めるように、嘲笑うように。そして気づく、俺の名前も思い出せない・・・。俺は魂魄妖夢の体に入った・・・誰なんだ?

 

「どうしたんだ?」

 

急に後ろから話しかけられる。さっきまでは誰も居なかった筈だし、起こさないように注意したんだけどな。振り向くとそこには桜花がいた。

 

「桜花?なぜこんなに時間に?」

 

「厠に行こうとしてたんだが、大丈夫か?」

 

かわや・・・?トイレの事だっけ?

 

「大丈夫です。直ぐに思い出せると思います。」

 

きっともう思い出せないだろうな、良くあるパターンだし。転生する代償に名前やら何やらを失うのは。

 

「・・・そうか。お休み、また明日もタケミカヅチ様が鍛えてくれるだろう。」

 

「はい、お休みなさい」

 

いい人だ、アニメとかだと活躍シーンが少ないけど。てか子供だけど。・・・もう十分だろう、俺も寝よう。

 

襖を開け、足音を立てないように布団に入る。

 

「どうかしたのですか?妖夢殿」

 

そう聞いてきたのは命だ、どうやら起こしてしまったらしい。

 

「えっと。両親の事を考えてまして・・・」

 

確か命は両親を失ってタケミカヅチに保護されたんだったか・・・見た目を幼いしまだここに来てからそう経ってないはず。じゃあこの話はしない方が・・・

 

「へぇー、妖夢殿の両親ですか。どんな方々何でしょう?」

 

命は至って明るい口調だ、そこに強がりは感じず本心から知りたがっているのだろう。だが申し訳ないが今はそんな事を話す気分じゃないんだ。

 

「・・・すみません、・・・名前が・・・思い出せないんです。いい人達・・・だった筈です。」

 

え、と小さな声が聞こえた。もうこの話はしたくなかった。命には悪いがもう寝かせてもらおう。

 

「ごめんなさい、お休みなさい。」

 

「す、すみません、辛いことを思い出させてしまって・・・親の居ない悲しみはわかっていたはずなのに・・・・・・お休みなさい。妖夢殿」

 

「いえ・・・お休みなさい命さん」

 

 

 

 

 

 

「止まるな走れ!」

 

朝起きると直ぐに修行だった、山道を駆け、縄で吊るされた丸太を木刀で叩き斬る。

 

「はい!」

 

返事を返す余裕があるのは桜花と俺だけだ。命と千草はハアハアと荒い息をしている。

 

「よし!素振り百回!」

 

「はい!」

 

き、きつい・・・。主に昨日山道を盗賊に追われながら走ったから足が筋肉痛だ。だがこの中で一番の年長者(精神面も)である俺がへこたれる訳には行かない!

 

 

 

「よし!朝の鍛錬は終了だ。」

 

やっと終わった、と俺達は荒い呼吸で空気を肺に入れる。

 

「妖夢、よく頑張ったな!偉いぞ!」

 

タケミカヅチが笑顔で俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。いきなりだったためバランスを崩しふらつく。

 

「お、おぉぅ、おっとと」

 

いきなり何するんだこの人、違うこの神。まさかロリコンなのか?

 

俺はジト目でジーっとタケミカヅチの顔を見るがタケミカヅチの頭の上には「?」とはてなが浮かんでいる。

 

・・・そうだった、この人天然ジゴロだった・・・。とりあえずお礼でも言ってささっと退散しよう。服も汗臭くなってるしさっさと着替えるとするか。

 

「ありがとうございます、では」

 

 

 

 

 

 

 

「妖夢殿!お塩を取ってください!」

 

「は、はい!」

 

今現在、俺達は調理場にいる、どうやら料理当番が決まっているらしく、今日は命さん達のようだ。俺はその仕事を手伝ったりしながら料理を覚える。

 

「妖夢殿!これは砂糖です!」

 

「ふえ!?すみません!」

 

 

 

「「いただきます!」」「いただきます・・・。」

 

手伝いとは何だったのか、修行中もそうだったが、生前と肉体の大きさなどが相当違うせいで色々と不具合が発生している。簡単に言うとすごい不器用になった。よく転びそうになるし距離感が上手く掴めず手が空を切る。そのせいでだいぶ邪魔してしまった。

 

・・・まぁ、生前身長180超えてたしな・・・。今何cmだ?150無いだろこれ。

 

「気にしないでいいぞ、他の者達も初めはそうだったからな。むしろうまいほうだぞ妖夢は、桜花なんかそれはもう・・・」

 

「や、やめてくださいタケミカヅチ様!男は料理なんて作れなくても良いんです!」

 

「考えが古いぞ桜花、料理ができた方が夫婦で助け合えるだろう?」

 

「そ、それはそうですが・・・。」

 

「プフっ・・・。「何がおかしい!命!」いえ、桜花殿の砂糖おにぎりを思い出してしまって・・・プふふ」

 

「砂糖・・・おにぎり・・・?」

 

あれ、なんだろう身に覚えがあるぞそれ、俺作ったことあるぞそれ。とてもじゃないが美味しいとは言えなかったよ?。

 

「よ、妖夢お前!お前まで俺を馬鹿にするのか?!」

 

「い、いえ・・・そんなつもりはプフッなくてふふ!」

 

「絶対に馬鹿にしてるだろぉ!?」

 

違うんだ、思い出し笑いなんだ、砂糖おにぎりをお父さんが間違って食ったことを思い出しただけなんだ。

 

「タケミカヅチ様」

 

後ろがギャーギャーとうるさいが、今はそれが暖かく感じる。此処はいい所だ、冒険者になるならばこの神のファミリアにしよう。

 

「ん?どうした妖夢」

 

タケミカヅチの顔を身長差のせいで見上げる形になる俺に、微笑ましそうに笑う顔を向けるタケミカヅチ。

 

「いいところですね・・・。ここは。」

 

思ったことをそのまま伝える。と言うかこれ以外に何も出てこなかった。

 

「当たり前だ、・・・これからはここにいる俺達がお前の家族になる、お前はいい子だ、この中で一番年上だし常識をわきまえ周りに気を使える。だが我が儘だって言ってくれないと俺達は困ってしまうぞ?子どもは子供らしく気なんか使わず飛び込んでくればいい。」

 

やはりいい神だ、我が儘か・・・何がいいかな。呼び方とか変えてみるか?

 

「では一つ・・・、そうですね・・・タケミカヅチ、カヅチ、ミカ・・・違うな・・・タケ、うんタケにしましょう。ではタケと呼んでもいいですか?」

 

「ハッハッハ!いいぞ!そうだな俺はタケだ!」

 

「あはははっ!ではタケ!早速修行です!」

 

「「切り替え早!!」」

 

桜花たちがなんか言ってるが知ったものか、確かタケミカヅチことタケは何年かすればオラリオに移動するはずだ、それまでに強く成らなくては・・・っ!打倒タケミカヅチ!!

 

「よし来い!」

 

「うおおおおぉぉ!吹き飛べタケぇ!」

 

「な、なんか傷つくぞ!てい!」

 

「みょおおおおおおおん」




次で極東は最後です。

4話からオラリオの予定。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話「家族ですから」

シリアス?シリアル?んなことよりモンハンクロス楽しいです!

あぁ^~エリアル双剣でぴょんぴょんするんじゃぁ^~って感じです。


いてぇー、やっぱり可笑しいよあの武神、なんだよそれ、縮地?縮地ですか?・・・俺に使うかそれ、初心者に使う技じゃないよねそれ・・・。

 

 

どうも、俺です。タケの所に住み着いてから早1ヶ月、毎日の様に修行という名のサンドバッグとして投げられたり吹き飛ばされたりしてます。・・・タケが言うには上達が速すぎて、こうでもしなくちゃ負けてしまう。とか何とか言ってるけど・・・勝てる気しねぇよ・・・。二ヶ月後くらいには「ふっ、残像だ」とかしてくるだろ絶対。

 

と、こうして少しテンションが下がっている訳だが・・・。一応タケに馴れたら年長者として皆の面倒を見てくれ、と言われているから色々とやる事はある。この1ヶ月でだいぶ体の動かし方もわかってきたし、家事にも馴れた。今日は俺達が食事当番だからこの後昼食を作らなくてはならない。

 

日頃の感謝としてタケの味噌汁にこの前はカラシを仕掛けたが、隠し味として捉えられたらしく、少し量を減らした方がいいと真顔でアドバイスを貰ったばかりのため、どうにか一泡吹かせてやれないかと日々模索している。今日はわさびを入れておこう。

 

 

「「「いただきまーす!」」」

 

全員が食卓につき、手を合わせ食材に感謝する。今日の献立はみんなで釣りに行った川魚の塩焼き、味噌汁にお米、それと漬けてあったナスなどの野菜の漬物だ。・・・我ながらとても美味しそうに作れたと思う。

 

「うん!この塩焼きはうまいなぁ!上手になったじゃないか妖夢」

 

タケがご機嫌に塩焼きを褒める、作った物を褒めて貰うのは意外と嬉しいものだ。しかし、本命は味噌汁。早く飲めー早く飲めー、と念を送りながら自分の無事な味噌汁を飲む、ちなみにこの味噌汁も俺作だ。千草や命が作った物でタケが苦しみ始めたらきっとあのふたりはあたふたするだろうからな。・・・とはいえ色々と手伝ってもらったけどな。

 

「有難うございますタケ、あの、その味噌汁も飲んでみてください」

 

「おう、わかった」

 

わさびの入れ過ぎで若干色が変わってるけど大丈夫だろう。タケは気づかない、確信している。

 

「ズズズー・・・ブホォッ!」

 

タケは味噌汁を口に含み、少し固まった後吹き出した。しかし、この程度で終わると思うなよタケ!貴様の優しさに漬け込む!

 

「ま、不味かったですか?私・・・頑張って作ったのに・・・」

 

・・・嘘はついていない、頑張って作ったぞ俺は、千草や命にバレないようにな!。

 

「ゴホッゴホッ・・・い、いや・・・大丈夫・・・美味い・・・ズズズー・・・グゥ・・・く。」

 

タケは優しいなぁー、だがその優しさは身を滅ぼすぜ?・・・うんうん!楽しんだ楽しんだ!・・・少しやり過ぎたと思う。反省もするしもうやることは無いだろう。しかし!後悔はしていなーい!ざまぁwww!

 

「ふふふ、いい気味です」

 

あ・・・。

 

「・・・・・・・・・妖夢・・・」

 

声に出ちまった・・・

 

「・・・は、はい?」

 

ゴゴゴゴゴとタケの背後が凄いことになっている・・・あっ、終わったな。と確信した瞬間である。

 

「俺は優しいからな、基礎トレーニング3倍で許してやる。異論はあるか?」

 

「ありません、すみませんでした・・・。」

 

 

 

トレーニングの内容はこうだ。

 

まずはランニングで足腰を鍛える、普段は20キロだから今回は60キロ・・・うん。

 

そして刀を素振り、普段は300回だから・・・900回・・・。でき・・・る。

 

そして組手・・・普段が三十分だから・・・きゅ、90分・・・。・・・こんなのできるか?うん。出来るな、出来るはずだこの半人半霊ボディなら出来る。きっと。多分。恐らく。

 

んな事を考えているとタケが話しかけてくる。

 

「妖夢、ちなみに言っておくが、組手の相手は俺だけじゃないぞ?」

 

は?・・・3倍って・・・タケも増えるの?

 

「タケが・・・増える?」

 

俺の言葉にガクッっとなったタケは気を取り直し説明する。

 

「はぁ、俺は増えない。・・・フツヌシが手伝ってくれる、3倍じゃなくて2倍だがまぁいいだろう。」

 

うん、それでいいです。フツヌシ・・・経津主か?なんだっけ?ほら、タケと一緒になんかやった神様だよね、わからんけど。

 

「ん、来たみたいだな」

 

タケが俺の若干上あたりを見ている、つまりは俺の後ろの方から来ているという事だ。俺は振り返り―何かにぶつかった。

 

「うわっ!なんですかこれは?」

 

ったく、なんでこんなところに壁があんだよ。

 

ポンポンと叩いてみるがなにやら暖かく、まるで人のお腹のようだ。

 

「ハッハッハ!お主がようむか?」

 

タケよりも身長が高く、肩幅等も大きいいかにもな大男が立っていた。

 

あれ?これ呼ばわりしちゃったけど・・・怒ってない?な、ならいいか。この壁がフツヌシなんだろうなきっと。

 

「魂魄妖夢です、よろしくお願いします。壁さん」

 

おいいいいいい!いやなんでだ!なんで壁さんなんだよ!?そこはフツヌシだろうが!フツヌシさんですよね?ってなるんじゃねぇんかい!

 

「だっはっは!これは参ったなぁ!壁さんだなんて初めて呼ばれた!コイツは強くなるぞ!俺の直感が囁いている」

 

豪快に笑うフツヌシは俺の事を褒めている。

 

いや、今の所褒める場所あった?無いよね?・・・神様ってやっぱり変わってんだな。タケは・・・変わっている所は特に・・・あ、天然ジゴロがあったか。

 

俺はタケをジーっとジト目でみるがタケは頭に?を浮かべるだけだ。

 

はぁ、こんな奴に命の心は既に奪われかけてるのか・・・。とりあえず、まずはランニングだ、さっさと終わらせて風呂を焚かなくてはいけない。

 

「では行ってきます」

 

 

 

 

妖夢の銀髪が見えなくなるまで見送る。

 

「ふう、行ったか・・・ははっ」

 

タケミカヅチは昼の事を思い出して笑う。

 

「む?どうしたタケミカヅチ。いきなり笑いだしおって気持ち悪い」

 

「いや、妖夢は何時も礼儀正しくてな、ずっと俺達に遠慮していたんだ。そんな妖夢がこんな悪戯をしてくれる様になった・・・俺は妖夢がだんだんと打ち解けて来ているのが嬉しいんだ」

 

この1ヶ月、妖夢は一切文句を言わず修行をし、家事を覚え、周辺の地理などを確認していた。外見に似合わない大人の様な立ち振る舞いはタケミカヅチに妖夢の過去を心配させていたのだ。

 

「真面目で真っ直ぐ、嘘が苦手で直ぐに口から出てしまう、そういう子供っぽいところも有るんだけどな。」

 

思い出すように空を見るタケミカヅチ。命から聞いた話だと両親の名前を覚えてないらしい、あのお婆さんの所にも一宿しかしていないらしい。一体妖夢はどのようにして生きてきたのだろうか?礼儀作法はしっかりしているし教養もある。剣の上達だって誰よりも早い。あのお婆さんは妖夢の事を「妖怪のお嬢ちゃん」と呼んだ。確かに妖怪として長年一人で生きていれば親の事を忘れたりは有るだろう、しかし妖夢は「多分・・・12?歳くらいです?」と言うのだからわからない。そういった諸々の事情を友でもあるフツヌシに話す。

 

「ほぉー。難儀じゃなー。・・・記憶を抜き取られたか、元々無いか・・・。それとも頭でもぶつけたか・・・ではないか?」

 

フツヌシはそんな仮説をたてる、そのどれもがタケミカヅチも一度は考えた物だ。しかしありえないと否定する。

 

「それはないだろう、わざわざ記憶を抜き取るなら全て抜き取るだろう、元々無いならばそれで悩んだりしないだろう、頭をぶつけた程度で記憶を失う程妖怪は弱くないぞ」

 

「むぅー?そうかぁ?」

 

どこか腑に落ちない、といったふうに顎に手をあて悩むフツヌシ。タケミカヅチはそれを横目で見ながら、考察する。それは妖夢の強さについてだ。

 

妖夢は武器を使った戦闘が上手い、これは武神である俺からするととても嬉しいことだが、妖怪としては異質だ、妖怪から見ると武器や武芸は弱者たる人間が強者たる妖怪に勝つために使う下賎な物だ。それを好んで使うなど、妖怪からしたら「私は弱いです」と言っているようなもの。こういった事が更に俺を悩ませる原因になっている。そう、まるで妖夢は人間の様に過ごしている。命達に合わせているわけではなく心から人間だと信じて生きている。

 

「人間の様に生きる妖怪は少なくは無い。だが人間として生きる妖怪は見た事がないのぅ。・・・まぁ変に深読みしても意味は無いっ!共に過ごせばわかる!全く、武神タケミカズチともあろう者が、なよなよしおってからに情けない。最も胸を張らんかい!」

 

俺の考えを読んだかのようにフツヌシがそう励ましてくる。

 

「そうだな、胸を張れ、か」

 

 

 

 

ブンッ、ブンッ!と空を斬る音が辺りに響く。

 

・・・826・・・827・・・828・・・。

 

そんな素振りを続ける妖夢を影から眺める者が二人いた。

 

「妖夢殿・・・大丈夫でしょうか」

 

一人は命だ。

 

「多分・・・大丈夫じゃないよ・・・」

 

そしてもうひとりは千草。2人は基礎トレーニング3倍の刑を受けた妖夢を心配してこうして様子を見に来ていた。その手にも妖夢と同じ刃の潰れた練習用の刀が握られている事から彼女達の今日の修行は終わったのだろう。

 

・・・829・・・830・・・831・・・。

 

妖夢はまるで人形の様に無表情で刀を振るっている。その表情は無理をしている様にも、していないようにもみえる。

 

「確か、この後妖夢殿は・・・」

 

命が眉を八の時にしながら心配そうな声で千草に確認をとる。

 

「うん、・・・タケミカヅチ様と、フツヌシ様に稽古を・・・」

 

うわぁ、と2人は同じような表情を浮かべる。妖夢の方を見るとその無表情は何やら考え事をしている様にも見える。

 

832・・・833・・・834・・・835・・・836・・・。

 

素振りの時に考え事をするのは命や千草にも心当たりがある、と言うか素振りの時は何か考えていないと、辛いだけで辞めたくなってしまう。それに考え事と言うのはあっという間に時間がすぎてくれる。

 

命は素振りの時は両親の事を考えてしまうし、何故か最近はタケミカヅチのことが脳裏に浮かぶ事もある。きっと恩を感じているからだと命は考えている。

 

千草もそれは同じで、両親のことを考えるし、頼りがいのある桜花の事も考える。

そうなれば妖夢が何を考えているか、それを想像するのは2人にはある程度容易で、仲間意識のようなものも芽生える。

 

「きっと、両親の事を考えているんでしょうね、妖夢殿も。」

 

「・・・うん」

 

・・・837・・・838・・・・・・っ!

 

その時、妖夢に今までにない動きが。

 

「「!」」

 

突如として右足を後ろに引き、刀を肩より上に上げ、切っ先を前に向けそこで止まる。そしてゆっくりと目を瞑る。

 

2人は幼いながらにその変化を敏感に察知する。先程まで機械的に振り下ろすだけだった妖夢が、鋭く尖った殺気をあたりに振りまき始めたのだ。

 

2人はその殺気に当てられ動けなくなる、それは口も例外ではなく、言葉を発する事も出来ない。何処ともわからないが全身から冷や汗が出始め、目を離すことが出来ない。

 

妖夢が動く、カッ!と目を開き、踏み込みと同時に振るわれた刀は空気を切り裂き、周囲の土を巻き上げる。命と千草は理解ができなかった。何故なら刀が3本に見えたのだ、人の目でギリギリ追えるか追えないかの一瞬で。

 

・・・841・・・842・・・843。

 

ブツブツと小さく妖夢の声がいくつか数を飛ばしているのがわかった、しかし、2人はそれに気を回す余裕など無い、今見た光景が何なのか、それを理解しようとして失敗していたのだ。

 

「な・・・、何が」

 

「わか、んない」

 

 

 

 

 

 

「・・・898・・・899・・・ハァ、900!」

 

つ、疲れた〜!なんだこれ!くっそ疲れるじゃねぇか!もう腕がプルプル所かブルブルいいそうだぜこれ。

 

刀振りながら、妖夢の「剣術を扱う程度の能力」がちゃんと俺にも適用されているのか考えていたんだ。でも、よく考えるとこの能力ってよくわからないんだよな、ただ単に剣術を使ってるからこうなってるならわかるんだけど・・・。

 

その、なんか試しにやったら・・・燕返し・・・出来ちゃったんだよね・・・。

 

い、いやほら出来るなんて思わないだろ?普通なら。なんとなーくFateの佐々木さんを思い浮かべて構え方真似して振ってみたら・・・出来ちゃったんだよね。流石に本物よりも遅かったけど出来た事に変わりは無い。

 

なんだっけ?なんとかゼルリッチとかいう現象起こしてしまった・・・。あれだね、俺って他の平行世界にも居るのね・・・知らなかった。

 

という訳なんだが、きっと原作の妖夢では決して出来ないであろう事を出来てしまったわけだが(佐々木小次郎を知らないから出来ないだけかもしれない)どうせこれもあの駄神の拡大解釈に違いない。unlimited blade worksの剣術版みたいな事になってるんだろこれ。・・・劣化版じゃねぇか…

 

まだわからない事だらけだが、オラリオに行くのは恐らく5年ほど後だ、それまでにある程度理解を深めておかなくては・・・。この後は神様ボコして(勝てる気がしない)神の恩恵もらってやる!

 

・・・ゾロとかの技も出来るのかな・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

痛ぇーー・・・、畜生、なんだあの2人、いや2神。ボッコボコにされたから仕返しにって燕返しをフツヌシにぶっ放したのに・・・いくら刀が短くて本家より回避しやすいからって・・・初見だよ?なんで避けるの?サーヴァントなの?カッコつけて「秘剣―――燕返しっ!!!!!」とかやったのに、oh…。タケの奴ぅ、避けられて驚いてる俺の腹にガチの蹴り打ち込んで来やがった。見えてたのに避けきれなかったぜぇ。

 

何故かあの後タケが無表情だったのは少し気になるな・・・顔色も悪かったし。

 

 

 

 

まぁ、そんな事より、この怪我をどうにかしないとな・・・、右の肋骨が幾つか折れちまった。

 

猿ー!猿ー!猿はおらんかー?

 

「ん?どうしたでごザルか?」

 

おお、やっぱり猿だな、えーと、何だったか・・・猿飛・・・猿師だったよね?

 

「猿師さん、治療をお願いしたいのですが」

 

俺は右の肋骨を抑えながら猿師にそう聞く。すると猿師は突如パァと顔を輝かせ。

 

「やっと!やっと!やっと名前を覚えてくれたでごザルか!顔の印象が強過ぎて名前が出て来ないと言われて来たこの拙者の!!」

 

と狂喜乱舞し始めた。・・・おい、早くしろよ。

 

「・・・はっ!拙者とした事が、感動の余り理性を失いかけたでごザル。さて・・・どれどれ見せて欲しいのでごザルよ」

 

俺は言われた通りに上の服をたくしあげる。大きな痣ができ、腫れている。

 

「ふむふむ、折れているでごザルな・・・。修行でごザルか?」

 

「はい、少しやりすぎまして。」

 

こうしてよく俺の怪我を見てくれるのは猿飛猿師、レベル2の【薬師】というスキルを持っている42歳、妻子ありの意外と凄い人だ。23歳の時にレベル2になり、【薬師】を発現、そこからは薬師として研究開発に没頭、数々の薬を作り出して来た。頼れるお医者さんって所だ。子供達からも「お猿さんみたいで怖くない」と評判がいい。本人はその度に泣いてるけどな。俺もこうして怪我した時は何時も頼っている、信頼出来る人だ。

 

「うーん、これは・・・癒しの丸薬では変な形に治ってしまう可能性があるでごザルから、固定して自然に治すかポーションを使うべきでごザルな。触ってみてもいいでごザルか?」

 

俺が頷いたのを見て、猿師は俺の肋骨付近を触り始める。眉間にシワがよっているところを見るときっと折れた肋骨何かが肺に刺さってしまっているのかも知れない。

 

「仕方ないでごザルな。・・・丸薬を飲むしか無いでごザル。それからしばらくの間は絶対安静でござるよ?」

 

そう言ってポーションと癒しの丸薬を俺に手渡した猿師はタケに話があると席をたった。俺はその場でポーションを飲み干し丸薬を噛み砕くだいた。・・・早く風呂の準備をしなくては。

 

 

 

 

 

「タケミカヅチ様」

 

閉じられた襖の向こうから俺を呼ぶ声がする、その声には聞き覚えがあった。猿飛猿師、だいぶ昔から此処に居る医者だ。

 

「何か用か?」

 

わかっている、そんな事聞かなくたって襖の向こうから聞こえてくる声には確かな怒りが含まれている。きっと妖夢の事だろう。

 

「・・・何故、あの様な子供にあれほどの一撃を加えたのですか」

 

その声は怒りに震えていた、普段の自分のキャラを見失うほどに。

 

「・・・はぁ・・・、後で謝らなきゃな。」

 

自分でも驚いている、明確な殺気を飛ばされ、見たことも無い現象を見せられ、挙句の果てに友が危うく殺される所だった。神威こそ使わなかったが肉体が許す限りの本気の一撃だったはずだ。・・・子供だと思って完全に油断していた俺が悪かった。

 

「・・・妖夢には先にファルナをさずけてもいいかもしれん。」

 

 

「・・・それについては私も考えておりました。・・・妖怪である以上人間より遥かに頑丈ですが、それでもあれは苦しいかと。」

 

「・・・どうすれば治る?」

 

「それについては心配する必要はないでごザル、ポーションと丸薬を渡しておいたでごザルからな。」

 

急にケロッとキャラを戻すのはきっと俺を気遣っての事だろう。

 

「そうか・・・恩に着る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、廊下を歩いていると妖夢を見つけた。

 

「妖夢」

 

風呂上りなのだろう、しっとりと濡れた髪で夜風を浴びている妖夢に俺は話しかける。

 

「ん?タケですか?」

 

大きな満月を背景に振り向いた妖夢はそれだけで完成された絵のようだ。月の光で銀色に輝く髪は風に揺られ、青い大きな瞳はまるで見た者を吸い込んでしまうのではないかと錯覚する。

 

「・・・ああ」

 

謝らなくては。嫌われてしまっただろう、俺は酷い事をしたのだ、猿飛の話では肋骨が3本砕けていたらしい。痛かったに違いない、妖怪だからといって痛覚がない訳では無い。

 

「すまん!」

 

俺は謝罪する、これは土下座と言う、最後の手段であり、最高の謝罪。

 

「ふぇ!?なななな!なんで土下座してるんですか?!」

 

驚く妖夢、しかし俺は顔を上げない、いや、上げることが出来ない。最悪このまま斬られても文句は言わない、俺はそれほど悪いことをしたのだ。

 

「お前に痛い思いをさせてしまった。・・・たかがワサビくらいで・・・大人げない・・・悪かった!許してくれとは言わん!だが・・・」

 

俺が言い終わる前に妖夢が言葉を重ねる。

 

「なんだ・・・そんな事ですか・・・。いいですよ、気にしてません。」

 

冷たい否定の言葉が、批難の言葉が降り掛かると思っていた。しかし実際には余りにあっさりとした暖かい許しの言葉。

 

「たかが1発蹴飛ばされた位がなんですか、『家族なら』その位たまにはあるかもしれません。」

 

な、ち、違うんだ、違うんだ妖夢、家族なら家族に向かってあんな蹴りは打ち込まない。・・・しかし否定の言葉が声に出ない。

 

「私たちは家族なんですよね?なら私は許します。家族なら言い合いだって喧嘩だって物の取り合いだってきっとするでしょう、でも、家族なら最後はきっと手を取り合って仲良く出来るはずです。」

 

違うんだ、世の中の家族はそんなに綺麗じゃない。

 

「本で読みました、例え血が繋がってなくても家族にはなれるんだって。えへへ、俺達がお前の家族だって言ってくれた時は嬉しかったです。」

 

違うんだ、妖夢の言う「家族」は決して殺す気で蹴りを打ち込んだりしない・・・、俺は、あの時確かに持てる技術をその一撃に込めていた。・・・当たる直前で妖夢が回避を試みなければ恐らくあそこで・・・妖夢は死んでいた。

 

「そんな顔しないでください、大丈夫です今までが違うなら私達で作ればいいんですよ。そうですねぇ・・・タケがお父さんで、命がお母さん、桜花が長男で、私が長女、千草は妹です。どうです?」

 

それは余りに甘く魅力的な誘い。しかしこんな俺に・・・と思う気持ちは無くならない。

 

「これから・・・作る、か・・・出来るだろうか・・・こんな俺に。」

 

「できますよ!皆タケを信頼してます。」

 

 

俺を励まそうとしているのだろう、妖夢は笑顔を浮かべそう言い切る。

 

「そう・・・だな」

 

そうだ、その通りだ、この子達に家族はいない、なら俺がなればいい。父親のかわりに俺がなればいい。形だけの家族ではなく、真の意味で家族に。喜怒哀楽を共に分かち苦楽を共にする。そんなファミリアを俺が作ればいい。

 

「そうだな!妖夢、もう一度謝らせてくれ、悪かった!この罪は必ず償ってみせる!例えどんな無理難題であろうとも、必ずやり遂げてみせる!」

 

「アハハ、またお願いを聞いてくれるんですか?」

 

「ああ!もちろんだ!」

 

「わかりました、約束ですね!」

 

「そうだな!」

 

「よし、明日は唐辛子を入れとこ・・・」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「はて、何のことでしょうか?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本編 迷宮都市オラリオ
4話「犬!」


第4話です!見ていってくださいな!


「うわぁぁぉあ!待ってください妖夢殿〜!」

 

薄明かりに照らされた洞窟の中で少女は叫ぶ。

 

「急いでください命!あっ後ろ来てますよ!」

 

「え?ひぃいいい?!」

ここはダンジョン。オラリオという迷宮都市の真下に存在するモンスターの巣窟だ。そんな所に2人の少女が元気よく走り回っていた。

 

「命!」

 

銀髪の妖夢と呼ばれた少女が黒髪の少女の名前を呼ぶ。

 

「な、なんですか!」

 

命は隣を走る妖夢の方を見やり、発言を促す。すると妖夢はニコリと笑ってこう言い放つ。

 

「こうして2人だけで走るのも楽しいですねっ!」

 

傍から見れば仲睦まじく走っているだけに見えるかもしれない。しかしその後には地獄、そう、一部の人間からすれば地獄の様な光景が広がっていた。赤い甲殻に身を包み、鋭い爪のある前足を掲げ、2人を追い掛けているのはキラーアント。硬い甲殻と鋭い爪、ピンチになると仲間を呼ぶ性質から『新米殺し』と呼ばれているモンスターだ。その数は余裕で20を超えているだろう。

 

「何処が2人なんですかぁ!?いや確かに2人ですけど!」

 

「あ、正確には1.5人ですね」

 

なんでこの人はこんなに余裕があるんだ・・・。と命は思いながら死にたくは無いので自身のステータスが許す限りの全力疾走をし続ける。幾つかの通路を曲がり上の階層への階段がみえてくる。

 

本来なら簡単に蹴散らせるモンスターだ、キラーアントが新米殺しであっても彼女達は新米では無い。しかし、状況が悪かった。命の刀は折れ、妖夢の長刀もヒビが入っている。

 

「あそこです!上に続く階段!」

 

命はそう叫び、横の妖夢の方を見る。その時。

 

「ブオオオオオォォォオオ!」

 

 

突如として本来此処には居るはずの無いモンスターの咆哮が空気を振動させる。それは牛人、所謂ミノタウロスと言う奴だ。

 

「な?!今のは?!って、妖夢殿?!」

 

その声に驚き妖夢の方を見やり異変に気付く、隣を走っていた筈の妖夢がいない・・・。これはまずいと考えた命は先程までの逃走と言う選択肢を一瞬で捨て去り、ブレーキをかけながら振り返る。しかしそこには妖夢はおろかキラーアントすら居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああぁぁぁぉぁぁぁ!なんで!何でこんなところにミノタウロスがあぁぁぁ!」

 

白髪に真紅の瞳を持った少年の名はベル・クラネル。現在は五階層にてミノタウロスに追いかけられていた。ミノタウロスの後ろにはキラーアントの大群。ベルはミノタウロスに追いかけられていた、と言ったが、実際には逃げるルートが同じ(・・・・・・・・)だっただけなのだ。もしかしたらダンジョン内で目立つ白色の髪をしていたから混乱した頭でそれを目標にミノタウロスは走っていたのかもしれない。

 

しかし、ベル本人からすれば二m以上の巨大なモンスターが自分を追いかけて来ている状況な訳で、冷静な判断など出来よう筈もなく、逃げようと躍起になっていた。

 

「助けてぇぇぇぇぇ!」

「ブオオオオオォォォ!」

 

ベルもミノタウロスも死の恐怖から逃れるために全力で走っている、次第にベルとミノタウロスの距離は近くなっていき、疲れて紅潮していたベルの顔は青ざめていく。

 

やがて、ベルは行き止まりにぶち当たる。

 

「ひ、ひいぃ!」

 

ベルは少しでも遠くに行こうと後ずさるが、後ろは壁。その事を確認し、認識し、ベルは腰が抜けてしまった。しかし。

 

「モ、モオォォォ!」

 

ミノタウロスは悲鳴のようなものを上げ、ベルの隣にバタバタと逃げ込む。この事にベルは再び悲鳴を上げるが、ミノタウロスの様子を見て恐怖より疑問が勝ったらしい。「なんでこうなってるの?」と言った顔をしている、しかし怖いものは怖い。もしかしたら自分に気付いていないのかもしれないと思い直し息を潜める。しかしミノタウロスが幾ら数が多いといえキラーアントを怖がるのだろうか?とベルは思う。

 

行き止まりで冒険者とミノタウロスが並んで怯えていると言う世にも奇妙な状況がここに完成していた。その時、キラーアント達が発生した恐らくは魔法と思われる光に貫かれ、吹き飛ばされ、砕かれいなくなる。そしてその惨状の元凶が現れる。

 

「ハァ―ハァ―やっと追いつきましたよ、フゥ。って・・・・・・随分と仲がよろしいようで、そのミノタウロスはテイムしたんですか?」

 

ハアハアと息を切らせながら銀髪の少女が1人と1匹の前に立ちはだかる。そしてこの状況にしばらく唖然としていた様だがジト目でベルに質問をしてきた。

 

ベルは誤解を解くためにブンブンと首を横に振り、ミノタウロスは生き残るためにブンブンと首を縦に振る。その様子に困った様な表情で少女はその背丈に合わない長刀を引き抜く。

 

「モォッ!?モォオオォ!!」

 

ミノタウロスはその様子に心底怯えたようで、尻餅をつき片手を前に出して「違う違う」と手を振る。よく見るとミノタウロスの体はあちこちに刀傷がある。

 

「・・・・・・私は人間側なので、そこの少年を信じる事にしましょう。それにミノタウロスの魔石はまぁまぁ高く売れます。」

 

「魔石」「高く売れる」と言う言葉を理解したのかはわからないが、自身の運命を悟ったらしいミノタウロスはブンブンとより激しく首を振る。まるでそれは「魔石なんて持ってない!」と言っているようでもあった。

 

ミノタウロスの意図が正確に伝わったのか少女は首を傾げる。

 

「魔石を持ってないと言いたいんですか?モンスターなのに?」

 

そうですそうですと言った感じで頷くミノタウロス、何だか可哀想に思えてきたベルは助け舟を出すか迷う。

 

(助けた方が・・・いやでもモンスターだし・・・)

 

そんな事を考えていると少女はしばらく悩んだあと、うん、と頷きこう言う。

 

「なら仕方ないですね。」

 

そう言ってヒュンッ!と刀を振り鞘に納める。

 

「あなたの体に魔石が有るか無いかなど、斬ればわかりますので。」

 

ズルッとミノタウロスが半分にずれ、灰になる。

 

「なんだ、やっぱりあったじゃないですか。」

 

平然と言い放つその表情は「何だよつまらない」と言っている気がした。だがベルは他にも言うことがあった。カッコよく決めた所を申し訳ないという思いもあったが。

 

「あ、あの、魔石を斬ったらお金にならないんじゃ・・・」

 

「あ」

 

それと同時に手に持っていた長い刀もポキッと折れた。

 

 

 

 

 

 

oh......どうも、俺です。現在ダンジョン内部、ベル君を襲う可能性があるミノタウロスさんを二匹ほど葬り、ベル君を救出、だが刀が折れた・・・。くそぅ、くそぅ!3万ヴァリスもしたのにぃ!・・・はぁ、残念だが安い刀だと様々な技には耐えられないらしい。ドラクエの真似して炎や雷や爆発やら纏わせてやってたのが主な原因だろうけど・・・。

 

しかも、魔石を斬っちゃうとか・・・はぁ、命にプレゼント買おうとしてたのに・・・。

 

取り敢えず目の前に居るこのベル君をどうにかしなくては。間違えて俺に惚れるとかあったら不味い、俺、心も魂も男なんで。取り敢えず名前を聞いて適当な話をしよう。

 

「あの、お名前はなんというのですか?」

 

うん、なんか白々しいけどベル君なら大丈夫だな。

 

「え!?えと!ぼ、僕はベル・クラネルです!」

 

お、おう。元気だなコイツは。こっちは色々とショック受けてるんだよ・・・もうちっと声のボリュームを・・・いや、何でもないです。

 

「た、助けていただいてありがとうございます!」

 

何度も頭を下げてお礼を言うベル。何だか俺が虐めている気分になるな・・・兎みたいだからか?

 

「いえ、礼には及びません。」

 

そう、この行動は自己満足だ。本来なら原作に介入などする必要は無い。だが、俺にも野望というか目的はある、ならベルの近くは何かと都合が良いのだ。だから万が一にでもベルが死ぬ可能性は排除しておきたかった。

 

「で、でも・・・武器が・・・」

 

ん?ああ、なるほど、ベルは俺の武器が壊れた事を気にしてるのか。何度も頭を下げていたのは武器が壊れた事に対する謝罪も込めていたんだな。

 

「大丈夫ですよ、この長さの刀は手持ちにはありませんが短いのならまだありますし。」

 

そういいながらも、俺の腰に刀は無い。だが、俺は刀を4本常に帯刀している。どこって?・・・もう一つの体の方に。

 

「え?どこに・・・」

 

「ほら、ここです」

 

困惑するベルの前で半霊の透明化を解除、そしてその中に手を突っ込み刀を一振り取り出す。

 

「・・・」

 

目を見開き唖然としているベルの顔は実に面白い、この時代にカメラがない事が悔やまれる、どうせ神様の一部は持ってるだろうな、似てる様な機能のやつ。

 

俺は折れた長刀を鞘ごと半霊に収納(どう見ても突き刺している)し、折れていない刀を二本装備する。もう特にすることも無いし命と合流してさっさとタケの元に戻ろう。

 

「ではこのあたりで、次からは気を付けてくださいね、ダンジョンは何処にいても安心は出来ませんから。」

 

「は、はい。」

 

その時、「ブォォオオオオオォォオォォァ!」と雄叫びを上げながら先程とは違うミノタウロスが頭を低くし突進してくる。

 

「ひ、ひいぃ!」

 

ベルが情けない悲鳴を上げる、しかし俺は動じない、もうすぐあの人達が来ても可笑しくない。素早くと返り血がかからないであろう場所に移動する。

 

ミノタウロスはベルの1m手前で体中に線が入り分裂、慣性が働いた肉塊と血液は慣性に従ってベルに降り掛かった。

 

ああ、ベル君が血を浴びるのは変わらないんやなって。

 

 

 

 

何が起きたんだ・・・。ベルは血だまりから這い出て前を見る、そこには先程の銀髪の少女ではなく金髪の少女がいた。

 

「・・・君・・・大丈夫?」

 

心配そうな声色で、ほぼ無表情で金髪の少女は手を伸ばしてくる。アイズ・ヴァレンシュタイン、ベルはこの少女を知っていた。

 

レベル5の冒険者で【剣姫】という二つ名がついている人物だ。街で度々話が上がる有名人。まだオラリオに来てから時間が経っていないベルでも知っている一般常識。

 

とはいえ、ベルか知っているのはここまで。ベルはお礼を言おうとするが声が出ない、心臓がミノタウロスに追われていた時よりも早く鼓動を刻む。

 

ベル・クラネルはダンジョンに出会いを求めてきた。それは強くなったベル・クラネルがダンジョン内で困っている美少女を救い、仲良くなって・・・を繰り返し自分だけのハーレムを作り出そう。という不純なものだ。

 

しかしこの現状はというと。今日1日で2回も美少女に自分が救われるという本末転倒な状態。なおかつ方や心配そうな表情?で、方や「コイツ大丈夫か?」みたいな怪訝な表情をしている。・・・しかも、腕組んでる。腕を組んでるほうの銀髪の女の子は確実にベルより年下だと思われる外見だ。

 

・・・結果、「うわわわああああぁぁぉァ!」と顔を真っ赤にして(物理的にも)変な声を上げて退散したのだった。

 

 

 

 

「逃げちゃった・・・」

 

しょぼーんと俺の隣で声を上げるアイズ、その顔はやはり無表情に近いがよく見ればきちんと感情を感じ取ることが出来る。

 

「ハハハハっ!見たかよアイズ!あのトマト野郎!」

 

あ、わんわんおだ!噛ませだと思ったらツンデレだったわんわんおだ!

 

「犬?」

 

そう言ってベートをみる俺の半人ボディ。おうふ、この癖治んねぇかな。よっぽど気を引き締めてるか、無駄にかっこつけてる時はならないんだけどなー。

 

「誰が犬だゴラァ!」

 

無論誇り高き狼人はその発言に怒るわけで、あ、やべえな。と思った瞬間。

 

「め!・・・小さい子をいじめるのはダメ」

 

ビシィ!と人差し指を立ててアイズがべートを叱る。め、女神か・・・?

 

「っ!うるせえぇ!この雑魚が悪いんだろうが!」

 

べートが地団駄を踏むようにしながら俺を睨む。・・・一応俺だってミノさん二匹灰にしたし・・・するつもりは無かったけどさ・・・。べつに雑魚ちゃうし。

 

「この子、ミノタウロス2体倒してた。・・・ね?」

 

おおう、わかってたのか。・・・にしても・・・あの尻尾や耳は柔らかいのか?それともゴワゴワしてるのか?・・・くっ!気になる!

 

「はい、倒しました。それにしてもその耳は柔らかいんですか?」

 

「誰が触らせるかァ!」

 

チッ、触らせてくれないか。まぁいいや。アイズに頼んでみよう

 

「アイズ、あの耳、触っていいですか?」

 

「いや何で呼び捨てぇ!?馴れ馴れしくしてんじゃねぇぞ雑魚がァ!」

 

「・・・ベート触らせてあげる・・・よ?」

 

「おい!アイズ!何でお前が決めてんだよ!」

 

そのツッコミにコテンと首をかしげるアイズ。ジーーっとベートを見つめる俺。

 

「・・・だぁ!うぜぇ!・・・ったくさっさとフィン達のところに戻るぞ」

 

二人の視線に耐え切れなくなったのか踵を返して歩き始めるベート。俺も命探しに行かなくちゃ行けないからついてこー。

 

「はい、そうですね」

 

返事も忘れない。常識だよね、フィン達か〜実際に見た事はまだ無かったなー。

 

「ガキが!テメェじゃねぇわ!来んじゃねぇ!」

 

なん・・・だと?

 

すると、アイズが小さく一言。

 

「・・・兄妹」

 

いやまぁ、銀髪だけどさ。

 

「ちげーからなアイズ?!似てるの髪の色だけだからな?!このガキ耳とか生えてねぇから!」

 

おんおん?耳はあるぞ?生物なめんなよ?

 

「む、耳はありますよ、耳は。」

 

アイズが頷きながら再び小さく一言。

 

「・・・兄妹。(キリッ」

 

「何で納得した?!今ので納得できるか普通!?そして何でドヤ顔なんだ・・・」

 

あ、尻尾がショボーンってなったぞ。まずいな、ベートのSAN値がやばいんじゃないか?急がなくては。

 

「全く、早く行きますよ?」

 

「何でテメェが仕切ってんだよ!」

 

 

 

 

 

命は妖夢を探して無手でダンジョン内を探し回りロキ・ファミリアの人達と遭遇、捜索依頼をだそうとしたところ丁度妖夢がアイズ達と帰ってきた。

 

「よ、妖夢殿!!大丈夫でしたか?!」

 

妖夢に駆け寄る命、妖夢は至るところに擦り傷がありだいぶ無茶をしでかしたのだとひと目でわかる。

 

「大丈夫ですよ命、そんなに無茶をした訳じゃないですから」

 

心配そうな命をよそにケロッとしている妖夢、命はホッと息をはき、下がった視線で妖夢の腰にオーダーメイドの長刀がなく、スペアの刀が二本ある事に気付く。

 

(妖夢殿、やはり無茶を・・・)

 

「命?早く戻りましょう、タケが心配して居間で眉間にシワを寄せながら正座して待ってるかも知れませんよ?」

 

そうですね、と苦笑しながら命は答える。すると妖夢は命を元気づけようとしたのだろう、笑みを浮かべ。

 

「帰りはロキ・ファミリアの人達が戦ってくれるでしょうしのんびり出来ますね」

 

と宣う。しかし命は真面目で義理堅く律儀な妖夢がそんな事を本気で思う筈がないと知っているので苦笑する。

 

そんな話をしていると一人の少年がやってくる。その少年を見た妖夢は

 

「・・・アラフォー?」

 

と息を呑む。命はその言葉に息を呑む。

 

(えぇーーー!?いやいや何を言っているのですか妖夢殿は!?失礼だと思いますよ?!流石に!どう見ても子供じゃ・・・あ、パルゥムの可能性も・・・ですが・・・これがアラフォーとは・・・?)

 

すると、少年はその言葉が聞こえたのか目を少し見開いたあとすぐに苦笑する。

 

「ハハハ、よくわかったね。僕はロキ・ファミリアの団長、フィン・ディムナだ。今回は我々のミスで君達を危険に晒してしまった。しかも、僕らが逃がしたミノタウロスを二体も倒してくれたと聞いたから何か恩返しをしたいんだ。・・・なにかあるかな?」

 

(あってるんかい!・・・思い出しました、フィン・ディムナ、【勇者】でしたね。・・・・・・え?ミノタウロス2体を私達が倒した?流石に無手じゃミノタウロスは倒せない・・・妖夢殿が?)

 

チラッ?と妖夢の方を見る、すると、こちらの視線に気づいたのか少し頷く。

 

(折れかけの武器でミノタウロス2体を倒すなんて妖夢殿じゃなかったら確実に死んでますよ・・・。ミノタウロスはパーティー組んでやっとの敵ですよ?・・・はぁ、同じレベル2とは思えない・・・。)

 

ジトーっと妖夢を見ている命だがとうの妖夢はそれに気づかず

 

「そんな、私はただ魔石が目当てなだけでしたから。お礼なんて」

 

とまるで「意外だ」と言わんばかりにフィンと会話している。

 

「謙遜は止してくれ、むしろ欲しい物が無いと言われてしまうとこちらが困るからね。」

 

「ああ、なるほど。立場って大事ですもんね。仕方ないです・・・命?なにか欲しいものはありますか?私は新しい刀を頼もうかと」

 

二人の会話についていけていない命はアワアワしながら何か無いかと考えを巡らせる。そして

 

「で、ではタケミカヅチ様達に何か土産を・・・」

 

「なら決まりだ、さぁ行こう」

 

とフィンが歩き始める、そのやや後ろにいた妖夢は小さい声で「その手がありましたか・・・」とか言っている。命とフィンはそれに苦笑し、ロキ・ファミリアの本隊に近づく、命と妖夢は礼儀正しく頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

どうも、俺です妖夢です。あの後ベートにちょっかい出したりアイズに構って貰ったりティオナやティオネと会話したりベートからかったり、命がそれを見て青ざめていたり、ベートをからかったりと色々あったが、俺は無事にロキ・ファミリアのホームに何故かあった無駄に長い刀を貰い、命はお土産(大量の食べ物)を貰いホームに帰った。

 

ちなみにタケはバイトをしていた様で留守だった。

 

 

 

 

 

 

俺が今向かっているところ・・・それは『豊饒の女主人』だ。この店を3行で説明するならばこうだ。

 

・料理がうまい!

・ただし高い!

・店員が全員女の人で可愛い!

 

無論俺の目当ても店員・・・という訳でもなく原作ではミノタウロス騒動が終わったあと、『豊饒の女主人』でロキ・ファミリアとベルが出会う(ベルが一方的に見ていただけだが)のだが、ちょっとそれを見てみたかった、というのもあるし、他にも色々と理由はある。

 

半霊を回収し透明化。そして、店内に入る、端の方で山盛りのパスタに目を白黒させているベルを見つける。

 

「いらっしゃいませニャー!お1人様ですかニャ?」

 

はい、と返事をすると猫耳の女性が俺を席に案内する。場所はロキ・ファミリアの面々が座る場所の近くの席だ。

 

適当に注文し時間を潰す。ベートの言葉はベル君の今後の成長のためには必須だ、いや要らないかもしれないけど。だから邪魔はしない様にしよう。終わったら躾が必要だと思うけどね。

 

飯うめぇ。以上。

 

「ご予約のお客様到着しましたにゃ~!」

 

そんな事を考えていると突如騒がしい空気が変わる。入口の方を見るとやはりロキ・ファミリアが来ていた。

 

各々が席に座り酒が行き渡ったところで、ロキが片足を椅子に乗せ、酒を片手に「皆!ダンジョン遠征ご苦労さん!今日は宴や!思う存分飲め~~!!」と言うと静かになっていた冒険者達は一気にテンションを上げる。

 

アイズ達もちゃんと居るな・・・む?あっやべ体が我慢出来ねぇらしい。

 

「犬!」

 

ビシィッ!とベートを指差すマイボディ。ちちょっと辞めて、計画が!確かに!確かに触りたいと思ったけど!わんわんお来たぜって思ったけど!

 

「誰が犬だァ!」

 

お、こっち来た。でも俺はそれをスルー。挨拶は大事、古事記にもそう書いてある。

 

「アイズこんばんは」ペコリ

 

ベル君がこちらを見ている事を横目で確認しアイズに話しかける。

 

「こんばんは・・・」

 

「おい無視かよ!てかさんつけろさん!」

 

なんだよーこっちはアイズと話がしたいんだよベル君が勇気を出せるように見本として話しかけようとしてるんだよなんだかまって欲しいのか?

 

「かまって欲しいのですか?・・・おて?」

 

「誰がやるか!この糞ガキがぁ!ぶっ殺すぞ!」

 

流石にこれは癪に障ったのかお怒りのベート。

 

「お?お?なんや!可愛い子やないか!こら!ベートやめぇや、みっともない。女の子に手ぇ出すなんて最低やで?」

 

おお、無乳ナイスフォロー!おっとこれは流石に言わせないぜ!

 

「テメェロキ!なんでそっちについてやがる!」

 

「あ?なんやこの駄犬!ウチは可愛い子の味方なんや!」

 

「ああ?この駄神がぁ!」

 

「なんやと!やんのかコラぁ!」

 

「やってやんよぉ!」

 

「二人とも・・・め!」

 

決まったー!アイズ・ヴァレンシュタイン選手の【め!】だーーー!両選手撃沈ーー!

 

「・・・すまん、ウチが悪かった。ちょっとばかし巫山戯が過ぎたわ」

「ハッ!気にすんな。俺だって本気でやるつもりは無かったしな」

「やっぱりツンデレやなー」

「黙っとけ」

 

とそんな会話をしているうちに俺はササッと自分の料理をアイズの隣に持ってきて(あと椅子も)座る。位置的にはレフィーヤとアイズの真ん中だ。

 

座ると強烈な視線を感じ、横を向く、レフィーヤが殺意にも似た波動を放っている。とりあえずコテンと首を傾げジーーっとその目を見つめ返す。しばらく見つめあっていたがやがてレフィーヤが頬を染めて目をそらした。

 

ちょろいな。さぁまだまだ宴は始まったばかりだ。

 




読んでくれてありがとうございます!

それで質問ですが設定集みたいなの書いた方がいいですか?

あ、あと「このキャラのこんな技を使って欲しい!」とかあれば教えてください!活動報告の方にお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話「おおー!さすがハイポーション!」

なんか変かもしれない!という訳で5話です、見ていてください。


「ねぇねぇ!君は何て名前なの?私知りたいなぁ!」

 

どうも、俺です。今話しているのはティオナです、抱きつかれてます。困ります。何が困るって、いろいろ困ります。中身男なんです。いや、でもね?普通に考えてみろよ?抱きつかれた時はこうしなさい、何て学校で習わねぇだろ?

 

「わ、私ノ名前ハ・・・」

 

やべぇ片言だ、中身が困ると流石にこうなるか。落ち着けー落ち着けーおれ!

 

「んん!私は魂魄妖夢です。この間はありがとうございました、ティオナ」

 

俺が冷静さを取り戻しお礼を述べると少し驚いたような顔をする。

 

「あー!覚えててくれたんだ!よかったー!よろしくね妖夢ちゃん!」

 

よ、妖夢ちゃんか・・・千草にもそう呼ばれてるけどやっぱりまだ少し抵抗が・・・。しかし、我慢だ!

 

「は、はい。よろしくお願いします。えと、何か御用ですか?」

 

出来れば離れてくれ!困ってるんだ、困ってます感を全開で出してるんだけど、あれ?この子って鈍感な子じゃなかったよね?わざと?わざとなのこれ?

 

「ううん!特に用はないよ!えへへー♪」

 

えへへーじゃねぇ・・・こ、断れねぇ・・・こんなの、こんなのって・・・。どうすればいいんだベル君・・・!

 

「全く、ティオナ、その子が困ってるわよ?」

 

ティオネさん!さっすがだぜ、バーサーカー!はよ!救出はよ!助けて、バーサーカー!

 

「ええ〜いいじゃん!ね!いいよね!」

 

うぐっ!ティオネさん・・・助けて・・・!レベル5の抱きつきは結構キツイ・・・!それと硬い、何がとは言わないが。

 

「た、たす・・・「団長?はい、アーン」「ははは、ティオネ酔ってるのかい?」・・・けて・・・は、くれなさそうです・・・。」

 

「んふふー」

 

そんなんで俺が苦しんでいるとアイズやベートがやってくる。まぁ、ベートがアマゾネス2人に話しかけると

 

「邪魔だ馬鹿ゾネス」

 

「はー?!いいんだよーだ!私のだもん!」

 

こうなる訳で。誰が誰のだって?流石に苦しいんだけど?・・・意識が半分位半霊の方に飛んでってるんだけど?

 

「そいつを寄越せ、俺とアイズはそいつに用があるんだよ」

 

面倒くさそうに頭を掻きながらベートにしては優し目に言葉をはく。ティオナはその事に若干驚き、拘束を緩める。・・・いや、解放してくれないの?

 

「・・・それでいいよ・・・」

 

アイズ妥協しないで!良くないの!全然良くないから!

 

「おいガキ。すこし話聞かせろ」

 

ベートが近くの席に座り、アイズは俺の隣に座った。

・・・いや、何話せばいいのさ?

 

コテンと首を傾げながらベートをみる。

 

「・・・はぁ、ガキ、自分のファミリアの名前言えるか?」

 

おんおん?コイツオレの事舐めてんな?言えるわ!言えないわけねぇだろ!中身あれよ!?もうすぐ20よ!?

 

「む・・・タケミカヅチ・ファミリアです」

 

ブスッとしながら答える。子供扱いは正直好きじゃないのだ、得することはまぁあるけどな。

 

「ベート・・・失礼・・・だよ?」

 

ほんとだほんと!全く。アイズを見習ってくれ!

 

「はっ!その程度で怒るようじゃまだ子供じゃねぇか」

 

ニヤケながらそう言うベート。てめぇも犬って言われたら怒るだろうが・・・。

 

「犬って言うと怒るくせに・・・」

 

小声でそう言う。いや、言っちゃった俺。

 

「ああ?やるのか?」

 

どうやらあの耳は飾りじゃなくとても耳が良いらしい。

 

「まぁいい、・・・お前、レベルはいくつだ」

 

およ?この世界ってレベルを他人に言うのはダメだった気がする・・・あれ?でもベル君エイナさんにステイタス見せてたし・・・レベルは別にいいのかな?ダメなのはステイタスだったか。

 

「2です。」

 

簡潔に答える。ササッと終わらせたいしな。

 

「いつレベル2になった?」

 

「少し前ですよ?」

 

「・・・わかった。わりぃな付き合わせて」

 

え、誰この人。あれ?こんな人だっけ?

 

「いつもの犬さんじゃ・・・ない?」

 

「・・・・・・一応。・・・一応言っておくがな・・・俺は狼だからな?犬じゃねぇから。それにいつもとか言ってるけどな、会ったのこれで2度目だぞ?」

 

まじで誰だこの人。まぁいいか。仕方ない、犬は辞めてやるか。でだ、そろそろ離して下さいティオナさん

 

「あの、ティオナさん?もう離してもらってもいいですか?」

 

「え〜〜。やだ!」

 

・・・はぁ。

 

 

 

 

 

 

 

宴会は続き全員が酒に酔い始めた頃。ベル・クラネルは店の隅でそれを眺めていた。否、ただ2人を見つめていた。

 

自分を助けてくれた銀髪と金髪の少女。銀髪の少女にはお礼を言った。でも金髪の、アイズ・ヴァレンシュタインさんにはお礼を言えなかった。自分から逃げてしまったのだ。

 

そんな時だ。この話が始まったのは。

 

「おっしゃあ!アイズ!ガキ!あの話を皆に披露してやろうぜ!」

 

「・・・あの話?」

 

「およ?」

 

コテンと首を傾げるヴァレンシュタインさんと妖夢さん。

 

「ほら、あれだ、ダンジョンから帰るときに逃げてったミノタウロス共!」

 

「ミノタウロス・・・17階層で逃がしたやつ?」

 

「それだそれ!5階層でアイズが最後の1匹を始末したやつ!」

 

「うん・・・覚えてる」

 

「それでよ!いたんだよ!如何にも駆け出しですっ て冒険者のガキがよ!兎みてぇに壁で震えてて顔も引きつっちまってよぉ」

 

狼人の男がニヤつきながら話す。その内容が僕の事を言っているとすぐにわかった。どうしようもなく恥ずかしかった。

 

「ああ、ベル・クラネルさん・・・でしたか?」

 

妖夢さん、名前、覚えてくれてたんだ。

 

「へー。どうなん?その子助かったんか?」

 

赤髪細目の恐らく神様だと思う人も興味を示している。

 

「ああ、アイズが間一髪の所で細切れにしてやったんだ」

 

「・・・」

 

「それでよ、震えてたガキがミノタウロスの臭っせぇ血と肉片をもろに浴びて・・・真っ赤なトマトみてェになっちまってよぉ!」

 

「うわぁ・・・」

 

「なっさけねぇよな~!ハハッ!」

 

「あれは突進の勢いを殺せなかった私が・・・」

 

ヴァレンシュタインさんが何か言おうとするが狼人の言葉で遮られる。

 

「それによ!その後、変な叫び声上げて逃げちまって・・・。ブハハッ!うちの姫さま助けたのに逃げられてやんの!」

 

それを聞いている人達は苦笑いをしている様だ。でも今の僕にはそれすら自分を嘲笑っているように聞こえた。

 

「いい加減にしないか、ベート」

 

怖かった、恥ずかしかった、情けなかった。顔が赤くなり、青ざめ、悔しさに歯を食いしばった。

 

怒りが湧き上がってくる。あの狼人に対してではなく自分に。弱い・・・自分に・・・。

 

「ベルさん?」

 

シルさんが心配している声が聞こえる、でもそれはまるで壁の向こうで話しているかのように不鮮明だ。

 

狼人の話は続く。聞くのが怖い、でも聞きたい。

 

「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱い雑魚に、第一級冒険者お前の隣に立つ資格なんてありはしねぇ、何よりお前自身が認めねぇ!」

 

 

「雑魚じゃあ、釣り合わねぇんだよ、アイズ・ヴァレンシュタインにはなぁ!」

 

僕は席を立って駆け出した。変えたい。この弱い自分を。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・てかさー、最早告白だよね?「どっちがいいんだ?」とかさ・・・酒は飲んでも飲まれるなって奴だな・・・見習わなくちゃ行けないな〜。まっ!俺酒飲めねぇけどな!いや飲めるよ?飲めるけど2口目辺りから意識がなくなるんだよ。・・・原作の妖夢はそんなこと無かったんだが、慣れるまでは時間がかかるのかな?

 

そう言えば・・・この世界来てからの年齢だと俺5歳だしな。この肉体の年齢は知らんが。原作の妖夢は60歳行かない位だったか?・・・そりゃあ飲めねぇわ。

 

んで。ガタッ!と立ち上がると同時に店内から逃げ出すベル君。

 

「おおう?なんや?食い逃げか?ミアたんの店でようやるわ〜、あとが怖いでぇ」

 

「・・・いたんだ・・・あの時の子・・・」

 

「おう?なんや?知り合いなんか?」

 

「・・・今の話の子、私・・・行ってくる」

 

アイズが走って店内から出ていく。

 

「・・・・・・あちゃー。・・・ベート・・・おすわり!」

 

ロキがベートを叱る、どこまで本気かわからないが。

 

しっかたねぇなぁベル君は・・・よし!俺が助けに・・・って、いま俺が行ったら逆効果だな・・・よし!やめよう。生き残れよ、ベル君。

 

ふっふっふ・・・さぁ俺の夢の為にもベートには犠牲になってもらおう・・・。と黒い笑みを浮かべ振り返ると・・・。

 

ベートぇ・・・。

 

ベートは縄でぐるぐる巻にされ天井から吊るされサンドバックにされていた。ティオナさん・・・嬉しそうね。

 

せっかくベートと戦う為に来たのに・・・意味なかったなー今回。タケとか桜花に変な疑いかけられながら、やっとこさ1人で夜外出出来たのにー。完全に無駄足だぜぇー。

 

「ベートと戦おうと思っていたのですが・・・残念です。なんかもうボロボロですし・・・。」

 

「う・・・うるぜぇ・・・黙っでろ・・・ごのグゾガギ・・・ガクッ」チーン

 

お前が黙るんかい。仕方ない、ポーション位使ってやろう。何処だったか・・・。

 

「・・・ポーションは・・・あっ、半霊の中か・・・。」

 

透明化な半霊の中に手を突っ込んでポーションを取り出す。まぁ、そんな事したら他人から見ると凄いことになってる訳で・・・。

 

「うおぉっ!?なんやなんやなんなんや!?それなんなん!?」

 

いや何回聞くの?!すごい食いつきだなおい!顔が必死過ぎで怖いんだけど!目がランランと輝いてるんですけど!

 

「神ロキ?!酔ってるんですか?ってそんな事よりポーションを・・・をー?」

 

・・・あっれー?吊るされてる人にポーションはどう使えばいいんだ?気絶してるから口からは無理だろ?体にかけようにも店内が汚れるし・・・。あっ・・・ケt

 

「んー・・・。あっ、ここですかね?」

 

ブスりッ!

 

「ぎゃあああああ!」

 

「あっ、治りました。良かったですね」

 

え?どこにどう使ったかって?んなもん知るか体が勝手に動いたからな、ホントダヨ?一瞬銀魂思い出してケツを思い浮かべたとかないからね?そしたら体が勝手に動いた〜とか、そんなんじゃないから・・・。ナイヨ?

 

「え、えげつねぇ事しよるわ〜。幼いって恐ろしいわ〜」

 

だよなー(棒)俺も全体的にロキに賛成だわー(震え声)

 

「ガッハッハ!元気でいいじゃないか!子供はそのくらいやんちゃな方がいいんじゃ!」

 

「そうは言ってもなガレス、流石にあれは・・・傷は治っているようだし・・・いいのか?」

 

「ハハハ、いいんじゃないかい?」

 

あれ〜?ロキって悪戯好きなイメージあったけど・・・あれ?この御三方の方が怖いんだけど?

 

まぁなんか面白いし・・・いいか別に!ん?なんかベートがピクピクして動かないな・・・不味いんじゃないか?

 

「フィン?ベートがぐったりしてます、ポーションの効き目が切れていたのかも知れません」

 

「ん、じゃあはいコレ」

 

「む?なんです?これは」

 

「ハイ・ポーションさ」

 

「おお!使った事が無かったのでわかりませんでした。では早速!」

 

【妖夢はハイ・ポーションを手に入れた。】

 

【妖夢は小走りでベートに近寄った。】

 

【挿した。】

 

「ぎゃあああああ!」

 

「おおー!流石ハイ・ポーション!」

 

「・・・今日もオラリオは平和やな〜って」

 

 

 

 

 

タケミカヅチ・ファミリアにて。

 

「妖夢殿・・・遅いですね・・・。大丈夫でしょうか・・・。」

 

私は命。大和命です。今日は珍しく妖夢殿がわがままを言ってひとりでご飯を食べに行ってしまったのです。

 

「一体・・・何が有ったんでしょうか、普段の妖夢殿ならこんな・・・」

 

私は普段の妖夢殿を思い浮かべる。

 

私からすると姉のような存在。・・・今では私の方が身長は高いですが。

 

外見は幼いのに文武両道、真面目で実直。しかし外見相応の行動や言動をする事も時々あり、嘘が下手糞ですぐに顔に出る・・・。それに私達が遊びに誘わないとずっと鍛錬してました。

 

鍛錬を怠らず、空いた時間に自主的にする時もあり、常に刀を帯刀していた、更にその剣は一つに縛られず、数多の剣技を操る。

 

数々の武神、軍神、戦神を退け、彼らの技術を驚くほどの速さで習得。この間約一年。

 

神の恩恵を授けようとしたタケミカヅチ様に反対し、神の恩恵無しで極東の様々なファミリアを訪問し道場破りならぬファミリア破りを繰り返す。この間約2年。

 

そしてその後神の恩恵を貰い私達と共にオラリオに訪れこうして暮らしている。

 

それでも尚、時々ひとりでダンジョンに行っては到達階層を更新し、毎朝太陽が登らぬ内から剣を振るい自らを鍛える。

 

妖夢殿は半人半霊、精神も肉体も人間よりも遥かに成長が遅く、人間で言うと今のところ妖夢殿は10歳そこらのはず。

 

妖夢殿は余りに大人びている。子供のような反応をするのは妖夢殿が安心している証拠。1度戦闘となればその表情はガラリと変わり、百戦錬磨、一騎当千、獅子奮迅。振るう刃は目で追えず、その瞳は刀のように冷たい。時に相手の弱点を正確に突く鋭い剣。時に荒々しくも繊細な剣。時にあえて隙を見せ、相手の行動を制限する剣。

たまに視界を覆うほどの大量の魔法の嵐を使ったり。

 

恐らく・・・貪欲なまでに力を求め自らを鍛えるのは妖夢殿の過去に関係しているのでは・・・私はそう思うのです。

 

でも、妖夢殿は優しく、賢明で、自らの力を決して自慢したりはしない謙虚な心の持ち主。戦闘では非常に頼りになり、でも普段は真面目さが空回りしたりする。

 

きっとそんな妖夢殿だからこそ胸に抱える感情も大きい筈・・・。思い詰めていたりしないでしょうか・・・。

 

「まぁ、大丈夫だろう。妖夢ならすぐに帰ってくる。俺の勘がそう言ってる」

 

タケミカヅチ様はそう言っているが顔は少し心配そうだ、タケミカヅチ様はなんだかんだ言って心配症なんです。

 

そんな時、玄関から誰かの声が聞こえてくる。それはうめき声の様なものであり、私の心配は妄想に変わる。

 

―もしかして、何か問題ごとに巻き込まれて怪我をしているのでは?!

 

だだだっ!と駆け出し玄関に直行する。そこに居たのは・・・。

 

「うぅーん・・・ヒックっ!・・・おひさひぶりでこざるぅ―」

 

猿だった。

 

「私の心配を返せええええぇえ!」

 

飛び蹴り、それは全力疾走から放つ究極の一撃(嘘)。いくら私の体重がそこまで重くないとはいえ150cmを超える物体が突撃してくれば当たったら人は吹き飛ぶ。

 

「んん?何のこぎゃあああああ!」

 

酔っていなければ避けられただろう。酔っていなければ。

 

ドカン!と玄関のドアと一緒に外に吹き飛んでいく猿、否、猿師。一体ドアに何の罪があったのだろう、日頃からこの家に入る人を出迎え、送り出す重要な役割を、ただただこなしていただけだというのに。

 

猿師は頭を振り苦笑しながら立ち上がる。

 

「・・・随分と激しい酔い覚ましでごザルなぁ〜、悪いのはどうやら拙者のようでごザルが。」

 

「おお!どうした、何しに来たんだ?」

 

タケミカヅチ様はどうやら久しぶりに会った知人に喜んでいる様子。

 

「これはこれはタケミカヅチ様、今日はコンバージョンの相談でごザルよ」

 

「お酒飲んだ帰りにですか?猿師殿・・・」

 

普通そんな人いませんよ?猿師殿はもう少し常識がある方かと思っていましたが・・・。

 

「申し訳ないでごザルなぁ〜、ディアンケヒト・ファミリアからの勧誘を断っていたらいつの間にか飲み屋に・・・ははっ!」

 

・・・・・・凄い人では有るんですけどね・・・。

 

「どうでごザルか、これから1杯」

 

・・・凄い人なんですよ?

 

 

 

 

 

 

 

(糞が・・・。俺が何をしたってんだ、ただ本当の事を言っただけだろうが。)

 

ベートは内心愚痴る

 

(雑魚はダンジョンなんかに潜らずに家で縮こまってりゃいいんだ。)

 

「ベート?大丈夫ですか?」

 

妖夢はベートの顔をのぞき込み安否を確認する。ベートはその刀身のような瞳をした妖夢に舌打ちをする。

 

(それにこのガキだ、馴れ馴れしい上に鬱陶しい。終いには俺の・・・・・・いや、何でもねぇ。・・・一応ポーションは効いたからな。)

 

「うるせぇ、見りゃわかんだろ」

 

突き放すように言葉を荒くする。しかしそれではこの少女を退かせるには足らないようだ。

 

「元気みたいですね、ポーションが効いてよかったです」

 

睨みつけても全く動じておらず、むしろニコニコと笑っていた。自分がした事に罪悪感はないらしい。

 

(ニコニコしやがって・・・わざとやってんじゃねぇだろうな?まぁいい。・・・そういやコイツ俺と戦いたいとか巫山戯たこと抜かしてなかったか?)

 

「おい、ガキ。さっき俺と戦いたいとか言ってなかったか?」

 

ベートがそう言うと妖夢の雰囲気が変わる。それはまるで抜き身の刀。チッ!とベート舌打ちをする。

 

「言いました。」

 

そう言う妖夢が放つ覇気は1級冒険者にも劣らない物だろう。

 

(どうしてこんなガキがこんな目をしやがる・・・。気に入らない。弱いくせに。子供のくせに。一体何があった、どんな事を経験すればそんな目が出来る・・・っ!)

 

「「「!?」」」

 

周りの人々が急に反応を示し、妖夢とベートの方に振り向く。

 

(・・・わざとか?)

 

「な、なんや?おいベート、何したん?」

 

「ああ?この馬鹿ロキ、俺がなにかした訳ねぇだろ。・・・戦いたいんだとさ、俺と。」

 

(コイツは馬鹿か?レベル2がレベル5の俺に勝てるわけねぇだろ。こんな雑魚を蹴っ飛ばしても何も変わらねぇ。)

 

「おいガキ、お前じゃ俺に勝てねぇよ、やめとけ怪我するぞ」

 

(ここで引かなかったら本当に馬鹿だな。引かなかったら1回実力の差を教えてやるか。)

 

「そうですね、私ではベートには勝てません。」

 

(は?何言ってんだこいつ、勝てませんじゃねぇんだよ。じゃあ何で戦いたいとか言ったんだ?)

 

「ですが・・・負けることもありません。」

 

「なに言ってやがる・・・。」

 

(どうやら本当に馬鹿らしい・・・、勝てないけど負けない?レベル2がレベル5に負けないって言いてぇのか?)

 

その会話を聞いたロキはすぅと目を開く。

 

「ふ〜ん。面白そうやないか・・・。でも待ってな妖夢たん、ここで戦う訳にはいかへんのや。ミアたんに怒られるで〜。怖いでぇー」

 

(ロキのやつ・・・何考えてやがる・・・。戦えってのか?)

 

「そうだよ、あたしは怖いからね。喧嘩がしたいなら余所でやってきな」

 

ロキとミアの言葉を聞いた妖夢の気配が元に戻る。それと同時に数人の冒険者がホッと一息ついたのがベートには音でわかった。

 

(・・・ハッ!雑魚どもがガキに気圧されてんじゃねぇよ・・・。そうだな、ロキの案に乗ってやるか、・・・明日明後日は特に予定もねぇしな。)

 

「明日か明後日だ」

 

「?」

 

ベートの言葉に妖夢は首を傾げる。

 

(何首を傾げてやがるんだコイツは・・・話の流れでわかるだろ・・・。)

 

「明日か明後日、俺達のホームに来い、そしたら遊んでやるよ、怖いなら来なくても良いけどな」

 

「!はい、わかりましたっ。では明日行きますね。・・・出来れば他の方とも手合わせを願いたいものです。では、私はこれで。主神が心配していると思うので」

 

といって足早に店から出ていった。

 

それにしても、とベートは思う。

 

「何もんだ・・・あのガキ・・・」

 

「なんというか・・・嵐のような子やったな・・・」

 

「ああ、そうだね。それにあの覇気。すごい子だ」

 

「そうじゃな。やはり子供はああでなきゃなぁ。うむうむ。」

 

「私もフィンに賛成だな、それとガレス、飲みすぎだ。お前の意見には賛成できん」

 

 

 

 

「あの子・・・私に似てる。」

 

そのつぶやきがベートには聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ今戻りました。・・・ん?命ー?タケー?・・・居ない・・・?」

 

あれー?おかしいなー。タケ達どこいったんだ?ま、まさか、俺がいない内に皆でご飯でも食べに行こうぜー!みたいな?oh…寂しい・・・寂しいが仕方ない。土産話は持ってきたし、帰ってきたら教えてあげよう。

 

「・・・・・・ご飯を食べに行ったのでしょう、せっかく土産話を持ってきたのに・・・。まぁいいです。」

 

少しションボリしながら明日の事を考える。ベートとの遊び(命懸け)が始まろうとしている。これは俺の目的でもあるがやはり少し怖い。今まで戦った事のある冒険者はレベル3が最大だった。どうにか勝つための戦術を考えねば・・・

 

「そうだ、まだまだ試していない技もある事ですし少し練習しましょう。明日はロキ・ファミリアで決闘ですから」

 

練習は大事だ!もう散々叩き込まれたからね、死にそうな思いもだいぶしたし。肋骨が折れた事とか両手じゃ数えきれないし・・・。そう言えば折れた、で思い出したけどさ、安っぽい刀じゃ色んなキャラクターの必殺技とか耐えられないんだよねー。燕返しが魔力消費無しだから使い勝手が良くてブンブン使いまくってたら刀身が射出されたんだよ、びっくりした。でも佐々木小次郎は刀身が射出されるような事無かったし、きっと何かコツがあるんだろ、まだまだ精進が必要だな。

 

「それにしても何で刀ってすぐ壊れるんでしょう・・・作り手の問題?・・・いや私の技量が無いせいか・・・。うーん、でも本気で技を使えないのは今後に支障が・・・デュランダルの刀が欲しいですね。一体幾ら位するのでしょうか」

 

デュランダルかーきっと高いんだろうなー300万ヴァリスとか?もっとか?まぁんな事より技だ技。

 

「まぁいいです。・・・最初は・・・龍巻とか?あ、一日一回しか使えない一刀修羅とか・・・そもそも使えますかね・・・これ。」

 

一刀修羅は使えないかもなー武器使った技じゃないし。試すにしても実験台が・・・お?そうじゃん、ベル君今ダンジョンで頑張ってるはずだ、まぁ、邪魔したら物語変わりそうだし上層で少し練習するだけにしよう。

 

「よし!行きますか!ってなんです?これは・・・置き手紙・・・タケの字ですね、なになに・・・・・・猿が来た?」

 

ファ?!まじか!猿きたか!え、なんで来たのさ・・・。てかタケ!お前まで猿呼びかよ!

 




大丈夫、お尻の傷も治ったさ、さっすがハイポーション!俺達に出来ねぇことを平然とやってのける!そこにシビれる憧れるぅ!!

次は戦闘・・・・・・しかし、これでいいのか?テンプレでいいのか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話「全員一気に戦いますか?」

『黄昏の館』

 

そこは都市オラリオ最北端にメインストリートから一つ外れた街路の脇にあるにある、ロキ・ファミリアのホームだ。

 

その黄昏の館にある訓練場の一角にそわそわとしている集団があった。彼等はタケミカヅチ・ファミリア。

 

(なんていう事だ・・・)

 

タケミカヅチは周りの団員と違い静かに目を閉じ、時間を待つ。しかしその思考は実に彼らしいものであった。

 

(猿師に半ば強引に飲みに連れていかれ・・・帰ってみると置き手紙。ただの置き手紙ならよかったんだが・・・。妖夢、お前ってやつは・・・本当に大丈夫なんだろうな?!)

 

タケミカヅチがこうなるのも仕方ないだろう、なぜなら手紙にはこう書かれていたのだ。

 

『明日ロキ・ファミリアで決闘してきます。初めてのレベル5で楽しみ。優しい人だから多分大丈夫。』

 

一体何処が大丈夫なんだ、とタケミカヅチは内心ため息をつく。ダンジョンに行くために急いでいたのか文章が簡素だが言いたいことだけはすごく良く伝わる文だ。

 

タケミカヅチ達の対面にはロキ・ファミリアの団員達が控えている。どうやらレベル1から2までの団員の様で戦いの勉強のために来ている様だ。

 

(妖夢は強い)

 

タケミカヅチは断言する。

 

(あいつなら同レベルの奴らには絶対に負けない、それどころか恩恵無しでレベル3を倒している・・・相手の油断とまぐれが重なってやっとだったが。)

 

妖夢は強い、それは力が特別に強いという訳では無い。妖夢の強さには幾つかある、まずは技量、剣を自身の体のように扱うその技量は凄まじく、タケミカヅチが修行開始二ヶ月目には搦手を使わなくては勝ちづらくなっていた程だ。

 

もう一つはその集中力。戦いに必要なものは沢山あるがこの集中力が無くては長時間の戦闘には耐えられない。無論例外もあるが。

 

(妖夢は丸一日戦い続けた時もあった。恩恵無しでだ。戦闘において集中が切れるのは死を意味する)

 

そして何よりもその『手札』の多さが妖夢の強さだろう。相手、場所、状況、時間帯。それらを吟味し最も扱いやすい武術、技を使用し戦うのだ、だから相手からしてみれば複数の剣豪と戦うようなものだろう。

 

(それに・・・どうやってるのか全くわからない謎の剣技とか使うしな・・・何をどうすれば平行世界から自分を呼べるんだ・・・なんだ燕さん斬ろうとしたら出来ましたって・・・)

 

(とりあえず、戦士としてはこれ以上無いほどの才能がある。でもなぁ・・・レベル5は流石に厳しい気がするぞ?)

 

「タケミカヅチ様、妖夢のやつ何だってこんな事に・・・」

 

タケミカヅチの隣で眉間に皺を寄せながら落ち着かなそうに周囲に目を配らせる桜花。

 

「心配なのはわかるが・・・信じてみよう。ま!そもそも負けてもいい経験になるだろ!妖夢が負けた事だって一度や二度じゃないしな。存外妖夢もわかってて挑戦してるのかもしれないぞ?」

 

「そりゃあ、そうかもしれませんが・・・」

 

桜花が納得いかないと言ったふうに顔をしかめた時、奥の扉が開かれ、ロキ・ファミリアの幹部と神ロキが現れる。

 

「みんなー!待たせたなぁ!」

 

ロキのその言葉にタケミカヅチは体を固くする、桜花もそうだ。千草と命は妖夢の付き添いで武器を選んでいる

ため、ここには居ない。居たとしたら「ひぅっ!」とか言っていただろう。・・・猿師はここには居ない、市場を調べに行った。

 

「うんうん、よう集まってくれた!今回は皆の勉強も兼ねてるからな。しっかり見とくんやで?」

 

「「「はい!」」」

 

ロキの言葉に冒険者たちはハキハキと答える。しかし

 

「もう、やめーやそういうかたいのはー。いくら他のファミリアが来てるとはいえ、そんな固いのはウチいややでー」

 

とプンプンと言った感じで腕を組み文句を言う、しかし言っていることはタケミカヅチにとってとても共感出来る事だ。言われた本人達は苦笑いしている。

 

(命達もそろそろ敬語は辞めてもいいと思うんだが・・・まぁ、本人達が真面目だしいい子だから仕方ないか)

 

「ロキ、あの事は言わなくていいのか?」

 

タケミカヅチが自分の家族についてあれこれ考えている時リヴェリアがロキに小声で囁く。

 

「んお?ああ!そうやったわー。・・・はい!ちゅーもくー!」

 

ん?とタケミカヅチは考え事から戻ってくる。双方のファミリアの団員達はザワザワしているようだ。

 

「実はな?いきなりレベル5のベートをぶつけたら危ないってリヴェリアが言うんよ、だからな、最初にレベルが一緒の皆に戦って貰おうと思ってるん。・・・どうやろか?いい経験になると思うで?」

 

ザワザワとロキ・ファミリアの団員達が違いに目配せしながら話し合う、内容は「誰が戦うか」だ。

 

「ちゃうちゃう、誰か1人やなくて、同レベルの全員や」

 

その一言にロキ・ファミリアの団員達は動きを止める。「は?何言ってんの主神様」と言った感じの顔だ。しかしロキ・ファミリアの団員達はすぐに冷静さを取り戻し、幹部達の方を見る。理由は簡単、普段ならこう言ったロキの発言はリヴェリアによって止められるからだ。

 

「ん、なんでこっちを見てるのかな?ロキが言っていることは本当だよ。」

 

団員達は驚くが反論はしない、団長が言うなら仕方ない、と思っているからだ。実際フィンが拘束している訳ではなく、団員達はフィンやその他幹部に特別な思い入れがある。それは尊敬であったり恋慕であったり、もっとも多いのは感謝だろう。そんな団長達が決めた事なら逆らう必要なんてない、それに同レベルが相手ならいい経験になるだろう。そう考えたのだ。

 

「・・・やる気になったな?よっしゃ!じゃあみんな準備してなー、まだ向こうも少し時間がかかる言うてたし。」

 

おう!とかはい!と返事をして団員達は各々の武器防具を装備しに動き出す。

 

そんな中ロキはふと思い出し隣のフィンに聞いてみる。

 

「・・・そう言えばフィン、妖夢たんにもこの事は伝えてあるん?」

 

「・・・さて、何のことやら」

 

「・・・悪いやっちゃなー」

 

「ハハッ!上に立つには色々と必要なのさ」

 

その声はタケミカヅチ・ファミリアに聞こえていたが誰も何も言わない。・・・よくある事だからだ。

 

(・・・厄介なことになったな・・・妖夢・・・がんばれよ!)

 

 

 

 

 

「うーむ、う~む。むむむむむ・・・」

 

どうも、俺だよ、妖夢だよ。今俺が唸っているここは、ロキ・ファミリアの使わなくなった武器や防具を保管している所だ。「この中から好きなものを選んで使うといい」とリヴェリアに言われ、選んでいるものの・・・迷う、使わなくなったとか言いながら選り取り見取りじゃねぇか・・・。

 

「はわわ・・・よ、妖夢ちゃん!・・・は、早くしないと皆待ってるよ!?」

 

千草が俺を急かす、わかってんねん、急がなきゃいけないって思ってんねん。ただ、俺ってば優柔不断だから一体どれを使おうか・・・刀しか使えないなら刀を選ぶんだけどな~、武器なら大抵使えるし・・・武神の稽古って・・・キツイんだぜ?

 

「ええ、わかってますが・・・ええい!なら全部持っていきます!」

 

もう考えるのなんて止めだ!これも、これも!これもこれもこれも!これもだぁ!剣!槍!斧!何だって来いやー!

 

「妖夢殿!半霊が針山みたいになってますよ?!」

 

「押し込めば大丈夫です!」

 

「一応自分の身体なんだよね!?」

 

「魂は死にません!」

 

うるせぇ!全部持ってってゲートオブバビロンごっこするんだい!できるか知らないけどな!最後はちゃんと返すけどね!

 

「もう時間か・・・あわわ・・・バタッ」

 

「千草殿!?しっかり!」

 

なぬ!?千草が緊張でぶっ倒れた!ポーション!ポーションは何処だ!

 

「待っててください!ポーションを・・・痛?!」

 

そういや針山になってたんだったあぁ!?いってぇ!刺さったよ!なんで鞘に入ってねぇんだよ?!

 

「妖夢殿?!そんな剣山に手を突っ込んだら怪我をってもう怪我してる?!」

 

落ち着け!落ち着くんだ俺!深呼吸だ!スーーハーーー。俺は冷静、俺は冷静!よし、まずは命を落ち着かせなきゃいけないな。

 

「命、まだあわわわわてる時間じゃあわわわ」

 

「妖夢殿落ち着いてください!」

 

ダメだあぁー!身体の方が落ち着いてねえぇー!

 

 

 

「落ち着きましたか?」

 

しばらくして皆落ち着いたので命に話しかけてみる。

 

「妖夢殿に言われたくはありませんが・・・妖夢殿があんなに慌てるのは久しぶりに見た気がします。」

 

すんません、ほんと、すみません。ってか、俺って結構普段から慌ててる気がしたんだがそんな久しぶりだったか?

 

「私は普段から慌ててる筈ですが・・・そんなに久しい事でしたか?」

 

その質問にうーんと腕を組みながら命は思い出そうと首を傾げ考える。

 

「うーん。恐らくは最後に見たのは二年前の神の恩恵を貰う時じゃありませんでしたか?」

 

ああ、あれは慌てたなぁ~。あんだけやったら初めからオールSになるんじゃないかな~とか、初めからレベル2とか3になってんじゃね?って思ってたのにステイタス全部10で、レベルも1だからね。慌てるよそりゃ。

 

「・・・お恥ずかしい限りです」

 

命はニコニコしながら昔を思い出すように少し上を向く。

 

「妖夢殿ってば「ええ?!どうして10なんですか?!タケ!どうしましょう!!今までの全部無駄だったんですか?!」ってタケミカヅチ様に泣き付いてましたもんね、ふふ」

 

「・・・懐かしいね、ふふふ。」

 

え、ちょ、おま。なんでそんな事覚えてんの?やめぇや千草も懐かしいとか言わなくていいよ!つか笑うな!・・・知らん!そんな奴は知らん!俺は変わったんだ!

 

「・・・ふむ、知らない人ですね!」

 

「ぶふっ、顔を赤くしながらでは説得力が欠片もありませんよっ!」

 

「あはははっ!」

 

「・・・・・・うぅ・・・。さ、さぁ!早く行かなくては皆さんに迷惑です。行きましょう。」

 

 

 

 

 

 

「ふむ、来たか」

 

訓練場の扉が開かれ、銀髪の少女が訓練場に入ってくる。リヴェリアはその姿を確認する。そして驚いた。

 

「ほう、武器を使わぬのか・・・それとも隠し持てるような小さな武器か」

 

ガレスがあごひげを撫でながら冷静に分析する、銀髪の少女、名前は妖夢だ。妖夢が着ているのは白いフリルの付いた白いシャツに、緑色のベストに緑色のロングスカート。単色で非常に目立つがまるで身体の一部のように完璧に着こなしていた。その姿に団員の一部が「おおっ!」と声を上げる。

 

「?・・・ベートは何処ですか?」

 

コテンと首を傾げ、フィンにそう聞く妖夢。それもそのはず妖夢はレベル2の団員達と戦う事を説明されていない。

 

フィンはニコリと笑い、説明する。

 

「実はリヴェリアがいきなりレベル5とぶつけるのは君の命が危ないと言うからね、初めに他の団員と戦って実力をある程度見極めようって事さ。」

 

実際にこんな事をいきなり言われたら怒っても仕方ないとフィンは思う。何せ本命は格上の相手、少しでも体力は温存しておきたいだろう。それなのに悪戯に体力を減らす行為など嬉しくもなんとも無い。しかし。

 

「なるほど、わかりました。・・・フィン、全員一気に戦いますか?」

 

「うん?」

 

フィンは内心、この子は何を言っているのだろう、と思った。全員?1人ずつとは言わないが・・・全員?20人程いるんだけど?と。

 

「いや、2、3人ずつの予定なんだ」

 

その方が見極めやすいし、団員達の経験にも繋がる。モンスターとの戦いはモンスター1に対し冒険者3にサポーターが加わり4人程がちょうど良い人数だからだ。断られたら仕方ないと、そう思って準備したのだ。なのに全員と同時に戦うなど考える訳ないだろう。

 

「そうですか・・・。」

 

と何だか悲しそうに返事をする。

この発言には対戦相手のロキ・ファミリアのレベル2の団員達からすれば挑発以外の何物でもない。団員達からは「あんの野郎・・・」や「団長を名前で呼ぶだと?失礼な!」とか「はっ!威勢だけはいい野郎だな!」「女の子でしょ!」だったり聞こえてくる。観客からもそれは同じだ、最も、観客の中で文句を言うのは1人しかいないが。「くぅぅ!なんで呼び捨てにしてるのよ!私の団長をー!」無論ティオネである。

 

「ははは・・・。それじゃあ、始めようか。」

 

フィンの乾いた笑い声という、戦いには相応しくないゴングで戦闘は始まった。

 

 

 

 

戦場は訓練場。対峙するのは武器をその手に持った3人の冒険者と、何も持たない1人の少女。周りのほとんどの観客からしてもこの勝負、どちらに転ぶかなど考える必要すら無かった。

 

緊張感が漂う中、妖夢は「あっ」と言って何か思い出したようにリヴェリアの方に向いた。

 

「武器庫の中身ほとんど持ってきてしまったんですけど・・・ダメでしたか??」

 

「は?」

 

リヴェリアは首を傾げる、この子は何を言っているんだ?と先程も言ったとおり妖夢は何も持っていない。恐らくはブラフだろう。そう思ったリヴェリアはとりあえず許可する事にした。

 

「ま、まぁいいだろう。それより早く戦わなくては日が暮れてしまうぞ?」

 

さっきのお返しだと内心ちょっとスッキリする。【ロキ・ファミリアのオカン】の二つ名は伊達ではない(嘘)、団員を馬鹿にするような発言は気に触るのだ。

 

「そうですね、リヴェリアの言う通りです・・・さぁ、行きますよ。どうやらモンスター戦を想定したスリーマンセルのようです。モンスターは待ってはくれません。」

 

しかし全くその嫌味に気がついていないようで、むしろ激励を受けたかのようにやる気に満ち溢れている。しかもフィンの意図をしっかりと把握しているのだから驚きだ。

 

「ああん?てめぇから来いよ!さっきから聞いてりゃ団長達を呼び捨てにしやがって!」

 

妖夢の発言に苛立ち、声を荒らげる冒険者の男。成人男性の怒声など妖夢くらいの歳の女の子が聞いたら震え上がり泣いてしまう事もあるだろう。しかし当の本人は首を傾げ「いいんですか?先手をもらっても」と全く怯えている様子はない。

 

「では行きます。まずは・・・これです!」

 

その時ロキ・ファミリアの誰もが目を見開いた。何も無い空間からスーッと1振りのロングソードが現れる。

 

「何しやがった!」「わからないが魔法かスキルだ!」「隠してやがったのか!」

 

冒険者達は三者三様の反応を見せ、左右に広がる、囲んで攻撃するつもりなのだろう。

 

ちなみに冒険者達の武器は、剣を持つ者が1人、斧を持つ者が1人、槍を持つ者が1人となっている。

 

妖夢は囲まれる前に行動を開始した。素早く前方に駆け出し、斧を持った冒険者に肉薄する。

 

「きやがったか!フゥン!オラァ!」

 

冒険者は大きく息を吸い、斧を上段から振り下ろす。当たればレベル2といえど無事では済まない全力の振り下ろし。

 

「シッ!」

 

ギイィン!と言う金属音が響く。それは振り下ろされる斧に妖夢が鋭い息と共に剣を打ち付けたからだ。

このまま力の押し合いになるかと思われたが妖夢は一瞬力を抜く。

 

「ぬおっ?!」

 

力を込めていた冒険者はふらつく、それは余りに致命的なミスだ。ふらついた冒険者に対し、妖夢は剣を斜めにし斧の刃を滑らせ冒険者の横を駆け抜ける。

 

「コッ!・・・ゴフッ・・・」

 

斧を持った冒険者は腹部を斬られ、血を吐き出し地面にドサッ、と倒れる。

 

それは一瞬の攻防。あまりにも一方的な戦いだった。

 

妖夢はヒュンッ!と血払いをし、2人の冒険者に振り向く。

 

「・・・さぁ、仲間の1人がモンスターにやられてしまいました。」

 

その眼差しは真剣そのもの、決して巫山戯ても慢心してもいない。あくまでフィンの「対モンスター戦の戦闘訓練」にそってモンスター役として戦っているだけの様だ。・・・もちろんモンスターがこれ程の技量を持っていたら酷いことになるのだが(何がとは言わない)

 

「糞が、舐めやがって!おい、連携するぞ。俺が右、お前が左だ!」

 

「おう!」

 

冒険者達は左右からの挟撃で妖夢を倒すつもりのようだ。

 

「オラオラオラオラ!」

 

「うおおおおおぉぉぉお!」

 

槍使いの連続突き、剣使いの連続切りを妖夢はロングソードで捌いていく。その表情は先程と何ら変わっておらず、ただ、真剣に真面目に攻撃を弾き、防ぎ、躱す。フィンを含む強者達にはその技量の高さがはっきりとわかった。しかしわからない者達もいる。

 

「おいおい!防ぐ事しかできねぇのか!」

 

と観客から野次が飛ぶ。しかし、よく考えてみて欲しい。レベル2の妖夢がレベル2の3人の冒険者と戦い、既に1人倒し、未だ無傷。

 

野次に苛ついたのか左手を上に上げ、右手で乱暴に剣を横薙に振るう妖夢、冒険者達はその攻撃を避ける。ここだ!と剣使いは思う。妖夢は剣を振り切っており、無防備だ。ここしかない!と剣使いは斬り掛かる。

 

「そこだぁ!」

 

しかし、そのわかりやすい隙はフェイク。意図的に作り出された隙だ。上げられた左手にはいつの間にかショートソードが握られていた。そしてそれは剣使いの攻撃よりも速く振り下ろされる。

 

「ガッ・・・・・・ハッ!?」

「なんだと!?」

 

肩から腹までバッサリと斬られ倒れる剣使い、槍使いは驚き2歩後退る。それは恐怖による後退では無く間合いを確保するためのもの。その判断はなかなかのものだが、レベル1の冒険者は自分の勝てない相手に出会ったとき、真っ先に逃げる事を教わる。それはどのレベルになっても同じ事だ。勝てなければ逃げる、それは生き残る術なのだ。

 

妖夢は駆ける。・・・冒険者は基本を忘れてはならない。仲間が2人倒れた時点、いや、1人が倒れた時点で逃げるべきだった。冒険者はモンスターを打倒する、 それは数々の英雄譚が証明している。それと同時にモンスターも人を殺す、それもまた歴史が証明しているのだ。

 

槍を構え、妖夢を貫こうと一気に前に突き出す。しかし妖夢はするりと躱し肉薄する。

 

「手合わせありがとうございました」

 

妖夢は駆け抜け、剣をヒュンッ!と血払いした。ドサッ!と槍使いは倒れ込む。

 

 

 

 

 

 

目の前で妖夢と名乗った女の子が自分のファミリアの子と戦っている。

 

「うっはー、何やねんあれ。」

 

現在の戦闘は6対1、6人による連続攻撃を妖夢は短刀2本で凌いでいた。

 

「なぁ?フィン達はあんな状況になったらどうするん?」

 

「ははは、まず、あんなふうに囲まれない様に立ち回るから、囲まれる事は稀だね。」

 

「んん?じゃあ妖夢たんは弱いんか?」

 

「いや、それはないね。わざと囲まれたんだ。」

 

「なんでや、アホなんか?」

 

ロキは戦闘している妖夢の方をみる。明らかに劣勢。フィンの言う通りだとしたら何の為に・・・。ロキは考えながらしっかりと試合を見つめる。時々ファミリアの子に声援も送る。

 

そこで戦況に動きが、攻めきれないことがわかった冒険者達は攻め方を変えるらしい。1人の女冒険者がバックステップで距離を取り、詠唱を始める。

 

「うお~!いけぇ~!魔法をうて~!」

「ロキ、はしゃぎ過ぎだ。」

 

しかし詠唱は中断される事になる。原因は不明だが急に詠唱をしていた女は何かに押されるように体制を崩した。そして詠唱への集中が切れ、暴発する。

 

「あちゃ~!何やっとんねん!」

 

後方で発生した爆発音にとっさに振り向く冒険者達。妖夢はその隙を見逃す程甘くは無かった。

 

「小太刀二刀流―――」

 

妖夢のその声に冒険者達は振り向き武器を構える。しかし、振るわれた刃はその目に捉えることは出来なかった。

 

「――回天剣舞六連!」

 

始動は右、そこから連続で切り刻む。それはまさに一瞬の出来事だった。5人の冒険者達は一斉に倒れ動かなくなる。

 

「・・・・・・・・・すまん。フィン、何が起きたか教えてくれ、ウチは神威使えへんから何が起きたかわからんかった」

 

「えーっと・・・高速で六回斬った・・・だけだね」

 

「いや、意味わからんから。レベル2やろ?あの子。速ない?確実にレベル2の動きやなかったで?」

 

「・・・速い。」

 

「アイズたん?もっとこう・・・ウチにもわかりやすくあの娘が何であんなに強いのかーとか・・・ない?」

 

「わからない・・・です」

 

何なんや、あの娘。ロキは視線を移す、その視線の先にはベート。

 

「なぁベート、どう思う?」

 

「知るか、あのガキがあいつらより強いだけだろ。まぁ、どうせ俺にゃ勝てねぇよ。」

 

それはそうやけど・・・とロキは呟き目を薄く開く。目の前で残りの十数人と戦い始めた少女は底知れない何かを秘めている。

 

「まぁ、頑張れ!応援してるでっ!」

 

しかし、すぐさま表情を元に戻し悪戯好きのする笑顔でベートに向き直る。

 

「うるせぇ・・・」

 

ベートはうざったそうに頭を掻いた。しかし、その目には確かな戦意が見え隠れしていた。

 

しかし、同時刻、女神が動き出す。

 




ふっふっふ、テンプレにはせんぞぉ!

コメント待ってます!・・・いや、コメントしずらいんだけどさ今回の話笑

ツッコミは多々ありそうですが・・・(震え声)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話「その首、七度は落としたつもりでしたが・・・」

戦闘多めの回ですよーー!7話ですよー。


「うふふ、頑張っているのね・・・あぁ、早くあの子達が欲しい・・・」

 

女神は見下ろす。オラリオの中心、雲をも貫きそびえるバベルの塔の50階から。

 

視線の先には町を走る白髪の少年。透明なその魂は女神でさえ今まで見たことが無かった。正確にはあの年齢になってもまだ透明である事を。

 

しばらく見つめていると少年は驚いた様に辺りを見渡し始める。

 

「勘がいいのかしら?・・・それとも臆病なの?」

 

ふふふ、と妖艶に笑いながら頬に手を当てる。

 

「あまり怖がらせるのもダメね、でも、安心して・・・いずれ私のものになるのだから」

 

それから女神は視線を移す。その先は神友のロキが拠点とする黄昏の館。そこでは銀髪の少女が冒険者達相手に大立ち回りを演じている。

 

「・・・初めて見た時は驚いたわ。まさか魂を侍らせる少女がいるなんて・・・うふふ、純真無垢な魂を持ち、英雄の様な巨大な魂を侍らせる・・・欲しい・・・欲しいわ・・・魂に物質を取り込むなんて・・・うふふ」

 

女神はソファに座りながら身を悶える。吐く息は次第に熱くなり2人の少年少女を想う。

 

「ああ・・・オッタル?あの子が欲しいわ・・・あの銀髪の少女。確か名前は魂魄妖夢だったかしら・・・何時でも構わないから私の前に連れてきてちょうだい?もちろんお礼はするわ・・・。怪我はさせないようにね?出来れば仲良くなりなさい」

 

後ろに岩のように立っていた大男、名前はオッタル。

 

「わかりましたフレイヤ様。必ず連れてきます。」

 

フレイヤと呼ばれた女神は微笑む。そこには愛が確かに存在した。

 

「期待してるわ、オッタル」

 

 

 

 

剣戟の音が響く。・・・どうも俺です!現在はロキ・ファミリアのレベル2の方々と訓練してます!黒いカチューシャも付けて気合十分!使用しているのは真剣です。いやーこの世界ってすげえよなーいくらポーションあるからってこれは・・・。いやまぁ既に10人くらい斬り捨てたけどさ、もしもの事を考えないのかね?あれか、普段は練習用の刃が潰れた剣を使うけど今回は俺の殴り込みだから真剣で斬っちまえって事か?

 

て言うかさ・・・。誰だよ!?!このなんか無駄にねっとりとした嫌な視線をぶつけて来るのは!?集中が切れたらどうすんだこのやろう!今12人同時に相手取ってんだよ!やめてよ!少しでも油断してら集団リンチだよ!

 

ああ!埒が明かないな、武器変えるか?でもどうやって、完全に取り囲まれたし。油断してたぜ、いや、広範囲技とか弾幕とかでどうとでもなるんだけどさ・・・それはベートにとっておきたいから使わないでおきたいんだよね。

 

前後左右から槍が突き出される。・・・ほら見ろこれだ、これ嫌なんだけど、何?耐久弾幕ですか?全く。攻めようにも盾構えられてると攻めにくい。

 

四方八方から迫る槍を捌きながら、どうにかこの現状を突破しなければと俺は考える。

 

半霊パンチを使って突破口を開くか・・・。ちなみに半霊パンチは最早初期の頃と比べるとプロボクサーのストレート位の威力はあると思う。だが所詮プロボクサーのストレートでは彼らメイン盾を突破出来ない、駄目だな。

 

取り敢えず魔法を撃とうとした奴は半霊パンチで詠唱を中断させてイグニス・ファトゥスさせてたら魔法を使って来なくなった。そこまではいいとしよう、半霊を真上に移動させ、視界を半分リンクさせて上からの目線で全体を確認しながら戦えるし。

 

何でこいつ等こんなに槍持ち出してくるの?嫌がらせなの?てか明らかに槍下手糞な奴らいるし。確かに状況や相手に合わせて武器を変えるのは一つの手だ。俺達にタケミカヅチ・ファミリアも色んな武器を教わった、具体的には刀、槍、弓等だ。他にも馬の乗り方とか素手での戦闘とかも教えてくれた。

 

とは言えそれらを使いこなせるようになるには結構な時間がかかった。初心者が、武器を持ってすぐさま熟達者にはなれないように。自分の得意な武器使わないと自分の強さが生かせなくなるだけだ。・・・フィンさん?わかっててやってるこれ?俺の落胆した態度が気に食わなかったの?いじめなの?

 

まぁいい。取り敢えず下手糞な使い方してる奴を狙ってこの包囲を抜け出すぞ!

 

「フッ!」

 

俺は左手に持っていた短剣を目の前の男に投げつける、それは見事に盾の隙間を通り男の脇腹に刺さり怯ませ、走り抜けながら刺さってる短剣を引き抜く。・・・よしここ!

 

「くそ!抜けられたぞ!」

 

俺は包囲から抜け出し少し走って振り向きざまにもう1度の短剣を投擲する、今度は二本同時に。それは盾によって防がれるが多少時間は稼げた。自分の上に居る半霊から武器を投下する、落ちてきた武器は・・・刀。・・・よし。反撃と行くか。

 

「反撃・・・開始です!」

 

 

 

 

「ゼェ・・・ゼエ・・・くっそぉ・・・こんな餓鬼にぃ・・・」

 

ドサッと重い音を立て、最後の1人が倒れる。あたりには5人の重傷者。ほかの6人は既に担架で運ばれていった後だ。

 

俺は血のついた剣を某黒の剣士の如くバツを描く様に血払いし、鞘に・・・鞘はさっき投げてしまったので半霊に直接収納する。まぁ、どうせ後で返すし、いや後で返すならちゃんと拾いに行かなきゃダメか。拾ってこよ。

 

投げた鞘はタケのすぐ近くにあり、タケが拾っておいてくれていた、流石だぜ!

 

「全く、妖夢、お前ってやつは・・・まぁいいか!どうだったオラリオ最高峰のファミリアの子供たちは」

 

なかなか出来る人達だったよ、タケが指導すればもっと強くなれるな。・・・俺が言うのもなんだけどさ、何だかタケがどんどん親バカになって来てるんだよなー。わざわざファミリア総出で見に来なくても・・・。こんな風になったのは確実に命と千草のせいだな間違いない!

 

「はい、なかなか出来る人達でした。ちゃんと武術を学べば更に強くなれると思います。・・・ところで、タケって所謂親バカですか?」

 

「ああ、そうだな。俺が教えればまだまだ強くなれそうだ・・・ん?皆妖夢を心配して来たんだそ?」

 

お、おう、否定はしないんだな・・・いや、嬉しいけどさ。

 

「否定しないんですね。いや、まぁ、その・・・嬉しいですが。」

 

いや~心配してくれる人がいるって素晴らしい事だよ。しみじみと思うね。

 

「ちょい待て!タケミカヅチ!妖夢たんの心は奪わせないで!この天然ジゴロ~!」

 

と叫びながらロキが走ってくる。いや、流石にそれは無いから。と思ってチラッとタケを見ると「奪わせない」の所で眉を顰めたのがわかった。え?なに、狙われてる?・・・いやいやいやいやまさかな!ハハハ!・・・ハハ?おーいタケさん?

 

「タケ?」

 

名前を呼んでみるとタケの表情は元に戻り「ん?どうした妖夢」と聞いてくる。「何でもないです」と返し。ロキの方に向き直る。余談だが神様の中で好きな神はタケはもちろんロキ、ヘスティアもヘファイストスも好きだ。だから自然と顔が笑顔になる。

 

「どうしたんですか?」

 

「うお!眩しい!その笑顔が!」

 

大げさなリアクションを取りながら目を細めるロキ。いや、元から細いから殆どわからなかったけど。

 

「ぐぬぬ・・・これをずっと見てるんかそこのジゴロは・・・くそう!まぁいいか!会いたかったで~!ごめんな〜」

 

何がぐぬぬだ。それよりホントに何しに来たんだこの神は・・・いや、会えるだけで嬉しいんだけどさ、有名人に会ったみたいで。スリスリするのはやめてくれくすぐったいから!

 

「やっ、やめてくださいくすぐったいですよ!あはは!」

 

「おん?ここがいいんか?ここか?それそれ!」

 

くすぐったいのを我慢しているとロキの背後からリヴェリアがやってくる。あっ(察し)

 

「いい加減にしろ」

 

ゴン!と頭に拳骨をくらうロキ。プシューと頭から煙を出して引きずられて行った。な、何がしたかったんだ・・・マジで。

 

ロキが居なくなったタイミングで命達が来た。

 

「流石です!妖夢殿!あの技は何と言う技なのですか!?」

 

命が目をキラッキラさせながら俺の両手を取りブンブン縦に振る。ちなみに新らしく技を見せる度にこうなるので最早恒例行事だ。

 

「ああ、流石は妖夢だな!」

 

っと男前にサムズアップを決めて来るのは桜花、因みに団長である。俺もサムズアップを返しておく。

(o´・ω-)b

 

「妖夢ちゃんやったね!」

 

千草がばっと抱きついて来る。いつものおどおどした雰囲気はない。かわゆいの~と頭を撫でていると、重大な事が判明した。・・・身長・・・負けてるかも・・・?

 

ガクッと項垂れる俺を見て千草は、あたふたしだし、タケ達は理由がわかったのか笑いを堪えている。いいしべつに。身長なんていらねぇし。てか今成長期だから。ここから30年40年くらいずっと成長期だから。全然悔しくないし。

 

そんなこんなでしばらくするとベートがやってくる。

 

「おいガキ、さっさとやんぞ。ガキに時間取られてる暇はねぇんだよ」

 

あれ?なんかやる気満々じゃね?まっ、戦えば良い経験値貰えそうだし、頑張るか。

 

よっしゃ!じゃあ、某騎士王の如く凛々しく行こうか!

 

「はい。べート、私は貴方に真正面からぶつかりましょう。ただ、見ての通り刃は潰れていませんので、痛くても我慢してくださいね?」

 

うんうん、なかなか凛々しいんじゃないか?・・・ん?これ挑発してるよね?

 

「言ってくれるじゃねぇか・・・ったく、フィンの野郎、何が親指が疼くだ、時間取らせやがって・・・しかたねぇ、俺も剣使ってやるよ、貸せ、なんでもいい。」

 

およ?挑発が・・・効かない?べートは何も構えず、のんびりとこちらに近づいてくる。勿論相手はレベル5、油断は出来ない。貸せってそもそもこの武器ロキ・ファミリアの物だし。・・・にしてもフィンまじ何者だよ・・・何時だろうか、初めてあった時?それとも酒場?

 

「えっーと何が良いですかね・・・ベートは肉弾戦が得意と聞き及んでますし・・・短剣の二刀流はどうです?」

 

俺がそう聞くとベートはケッ、生意気な奴だな、とか言いながら俺から武器を受け取る。

 

べートと俺は武器を構え、互いに隙を伺う。静かな緊張があたりを包む、その場に聞こえるのは円を描くように動く俺とべートの足音のみ。互いの闘気がぶつかり合い温度が上昇したかのような感覚にとらわれる。

 

それは一体誰のものだっただろうか、1滴の汗がぽたりと地面に落ち吸収された。

 

 

 

 

 

同時に地面を蹴る、そして轟音。先手を取ったのは俺だった。抜刀術、その中でも最速だと思われる一撃を叩き込んだ、・・・防ぐか、これを。

 

技の名は零閃、光の速さに届くとされた神速の抜刀。その性能を余りに発揮出来ないとはいえしかし、それは短剣をクロスさせ、ブーツを使う事でギリギリ防がれる。音速を超えるこの攻撃速度は予想外だったのかベートの顔が驚愕を表す。

 

ベートの横薙の蹴りを体を前に倒し、体勢を低くする事で躱し、再び腰の刀に手をかける。

 

「っ!」

 

咄嗟に横に転がる。空振りした筈の蹴りが驚異的なステイタスをもって帰ってくる。危なかったっ!隙を生じぬ二段構え?!

 

急いで立ち上がり、刀に手をかけ、機を伺う。べートはチッと舌打ちをして、こちらに向き直る。

 

「ったく避けてんじゃねぇよ、さっさと倒れろ・・・」

 

ふむ、ツンデレべート君のことを考えるならこのセリフはきっと「避けないでくれ、なるべく傷つけたくないから一撃で終わらせたいんだ」って感じか?・・・誰このイケメソ。てか、零閃初見で躱すとか何者よ・・・オリジナルよりも遅いとはいえ、少しは自信あったんだけどな。

 

「いくぞオラぁ!」

 

蹴りの三コンボ、ローキックからの蹴り上げ、からの踵落とし。それを刀で逸らし、ぎりぎりで往なす。往なしたところから返す刀で切り上げるが余裕を持って回避される。距離が離れた途端短剣による連撃、これは余裕を持って往なす。

 

むむむ、ただの攻撃じゃあ当たる気がせんぞ、しかし、燕返しはべートの場合ガード出来ちゃうからなぁ・・・。

 

じゃあ、何を使うか・・・ってあぶねぇ!やっぱ格闘相手は苦手だなぁ・・・近寄られると攻撃しにくいぜ・・・紅美鈴とかが相手だったら確実に負ける自信がある・・・だが、絶対にあのマシュマロは許さん!胸囲の格差社会とか言わせねえから!

 

ベートの嵐のような乱舞を懸命に防ぎ、躱し、受け流す。それでもステイタスの差は如実に現れ、蹴りを正面から受け止めた瞬間武器が砕け蹴りが腹に直撃する。

 

「グッ?!」

 

咄嗟に後ろに飛び威力を少しでも軽くする。しかし、流石はレベル5と言ったところか、たった一撃で壁まで吹き飛ばされて背中から激突する、受身こそ取れたが速く立ち上がらなきゃやられる

 

横に転がり立ち上がるとべートは既に剣を振りかぶっており、まさに絶体絶命。俺は踏み込んでスライディングでべートの股下をくぐる。

 

「どうした、さっきの技使わねぇのか?」

 

おんおん?使って欲しいのか?そんな挑発に俺が乗るわけ野郎オブクラッシャーぁぁあああ!

 

「シッ!」

 

即座に新しい刀を取り出し再び零閃、しかしベートは跳躍し、そのまま踵落しを繰り出す。んじゃもういっちょ!と零閃。また轟音が響き渡る。

 

ぶつかった時の感触が直に俺の手に伝わり、刀がもうすぐ壊れそうな事を認識する。

 

やばいな・・・、武器が耐えられないか・・・。やっぱり燕返し使っちゃうか?いやダメだ、昨日さんざんダンジョンで色々と技練習しただろ!よしそうだ、あれ使おうあれ。俺は半霊から剣を一本取り出し、構える。

 

「龍巻!」

 

これは海賊狩りと呼ばれた剣豪が使った技の一つ。回転するように斬る事で竜巻を発生させるなんかすごい技なのだ!

 

突如竜巻が発生し、ベートは様子見のために後ろに下がる、しかーし、これも計算どうり!今の内に魔法を唱えるぜ!

 

「【幽姫より賜りし―】「雑魚が!」っ!」

 

ダメっすわこれ、魔法唱えさせる気ねぇな・・・あれ?ベートって魔法吸収する靴じゃ無かったか?あれ?それともベートの魔法なのか?もしや俺の魔法バレてる?・・・動きながら魔法唱えればいいんだが・・・いや、出来るけどその間は若干戦いにくいし、そんな余裕は無い・・・てかベート龍巻突っ切って来なかった?!

 

んなアホな、レベル5ってここまで変わるのか・・・。チートや!チーターや!

 

ったく、攻撃する寸前までゆっくり歩いてる癖にいきなり速くなったりしやがって・・・こんな戦闘スタイルだったか?・・・もしかして・・・なめられてる?

 

「おいおいどうしたぁ!魔法使わねぇと勝てねぇのか?剣士さんよぉハハハ!」

 

あ、こりゃ舐められてますわ・・・でもあれやで?べート君、この身体な?まだ幼いせいで感情のコントロールとかめっちゃ難しいのだよ、今すっげェグツグツ言ってるからこれ以上はやめとけよ?折角対処しやすい技使って上げてるんだからさ・・・ん?零閃?・・・あれはーほら、ベートなら対処出来るっていうほら信頼?みたいな奴がどうのこうのしたんだよ。

 

「・・・」

 

ほら!どうすんだよ黙り込んじゃったじゃん!こうなるとコントロールほとんど効かねぇんだよ!てかむしろ体の感情に俺まで支配されかねないから!やめて!燕返しブッパウーマンされたいのかお前は!

 

「ハハハ!黙り込みやがった!そんな雑魚みてぇな技(・・・・・・・)使いやがってよぉククク」

 

(´^ω^`#)あ?やんのかこの犬っころが!こっちだってなぁ!ステイタスが低いせいで技のポテンシャル引き出せなくて悩んでんだよ!技自体は雑魚くねぇ!ぶっ殺す!・・・てあぶねぇ、・・・重症にしてやる!

 

「よく鳴く犬ですねぇ・・・!」

 

 

 

 

戦いを眺めるフィンは昨日の出来事を思い出していた。酒場での一件だ。

 

(あの一瞬、あの妖夢と言う少女の覇気を感じた時・・・親指が疼いた。)

 

それは悪い予感、レベル6のフィンが生命の恐怖を感じた瞬間だ、体は警告を表示してみせたのだ。この少女は危険だと。

 

(何とかファミリアの位置は特定できた・・・それに、彼女の過去の一端も。・・・姿形だけならそこらの女の子と判断も出来るけど・・・これは酷いなぁ。はぁ、・・・恩恵無しでレベル3を倒すってなにさ・・・)

 

ベートが妖夢を煽る。

 

「・・・」

 

ベートが挑発すると、妖夢は黙り込む。

 

「ハハハ!黙り込みやがった!そんな雑魚みてぇな技使いやがってよぉククク!」

 

ベートは更に挑発する、それはフィンが「彼女の事を知りたい」と言ったから、口では反抗してくるが、ベートはファミリアの仲間に優しい、だからなんだかんだ言って了承してくれる。

 

(気をつけるんだベート・・・彼女は油断していい相手じゃない・・・)

 

妖夢の覇気を感じたあの瞬間、確かにフィンには見えたのだ。100を越える英雄達が彼女の後ろに佇むのを。故にフィンは警戒する、あれほどの力を持つ少女は何を狙っているのか・・・それがフィンの気掛かりだった。

 

「よく鳴く犬ですねぇ・・・!」

 

何かが・・・変わる。妖夢の額に筋が浮かび、体全体で怒りを表していながらその目は氷のように冷たい。あの時よりも凄まじく濃厚な覇気を纏い、魔力では無い何かがこの場を染め上げていく。

 

「っ!これは!?」

 

ロキがフィンの隣で狼狽えるように目を開く。

 

(ロキ、貴女は知っているのか?なら早く言ってくれ、ベートに何かあってからでは遅いんだ!)

 

希望をかけてロキを見るが、目を開いたままアワアワしておりフィン目線に気が付いていない。

 

「あ、ありえへん・・・何をどうやったらこんなにつよーなるんや」

「ロキ!」

 

フィンの大声にロキはハッとし、説明を始める。

 

「あれはな・・・・・・霊力や」

「霊力?」

 

ロキの口から出てきた聞きなれない単語にフィンは聞き返す。

 

「人間なら誰しもが必ず持っている力、魂の力や、せやけど霊力は神の恩恵では強化できん。だから人間の霊力はほんの少ししか無い筈なんや」

 

ロキは説明を続ける、曰くこの世界には幾つかの力がある。神の力=神力。精神の力=魔力。魂の力=霊力。人外の力=妖力。下界において最も多いのが魔力。そこから妖力、神力、霊力、といった順番だ。そんな話をしていると神タケミカヅチがやってきて話を補完する。神々が降臨するより遠い昔には霊力を扱う巫女と言う存在がいた。その当時、極東は魔力よりも霊力が主流だったが神の恩恵で強化出来ない霊力は神の降臨と共に廃れていき、今ではほそぼそと受け継がれる程度だという。

 

(それがあの少女の強さの秘密?いや、ありえない。僕が見たものはそんなものじゃなかったはずだ。ただはっきりと感じた、僕以外は気付かなかったみたいだけど・・・これは仮説に過ぎない・・・けれどあの卓越した技術、技、駆け引き。どれをとっても僕らと変わらない、いや、それら技量だけでベートと渡り合えている。つまりは技量だけなら向こうが上。)

 

フィンは幻視した、妖夢の背後に桜吹雪と共に様々な刀剣を携えた剣豪達を。身の丈以上の長刀を、星の如く輝く聖剣を。それらを持つのは英雄。それは決して敵わないと直感的に理解出来るほど彼我の実力は乖離していた。

 

伏せていた目を上げ、戦場をみる、するとどうだろう、ベートが押されていた。だらりと刀を下げ、何の構えもせずに待つ妖夢にベートは攻め込めずにいた。

 

一気に踏みこんだ妖夢の首狙いの一撃をベートは後ろに下がりながらギリギリでガードする。その一瞬の攻防であったがフィンにはある事がわかった。遅れているのだ。ベートの反応が、刀が首に迫り、やっとガードする。そんな紙一重の攻防を繰り返す。ステイタスで強引に突っ込もうとすると一切避けずに首に刀を振るう。

 

妖夢の戦い方は一変していた。先程までは剛の剣とも柔の剣とも言える、速さと重さを重きに置いた剣術だった、しかし今はと言うと、まさに究極の柔の剣。攻撃を往なし、逸らし、受け流し、無駄を極力省いた首狙いの一振り一振り。フェイントを自然に取り込む事でベートを苦戦させている。

 

「ッチィ!見切れねぇ!」

 

よく目を凝らすとベートの首には浅く切れた後がついている。ベートはギリギリで攻撃を防ぎながら後退する、攻撃が止んだ一瞬でバックステップをとり、距離を離す。すると妖夢は再び刀をダラリと下げ、少し嬉しそうに口を開く。

 

「その首、7度は落としたつもりでしたが・・・流石ですね、ベート。」

 

「ハッ!タネはわからねぇがそれじゃあ俺の首は落ちねぇよ・・・。・・・随分と殺る気だな」

 

その返答に妖夢は花の様な笑顔を見せる。

 

「当たり前です!レベルが3つも離れているんですよ?殺す気で行かなきゃ拮抗すらできない。」

 

花の様な笑顔でそんな事を言うのだから恐ろしい。なので、と妖夢は続ける。

 

「これで終わりにしましょう。これがこの戦いで放つ最後の技。使うつもりはなかったですが、我が秘剣・・・というには実力が足りませんが・・・まぁいいですよね。貴方が馬鹿にした剣技、人間がその短き生をつぎ込んだ秘技・・・ご覧に入れましょう」

 

突如妖夢の斜め後ろの空間が歪み、尾を引いた白い球体が現れる。冒険者達にとってそれは余りにも見慣れない光景、この場の何人がこれが魂だとわかっただろうか、フィンを含め殆どの者は見慣れないそれが何なのか分からなかった。スキルか?魔法かも、と言う声が聞こえる。

 

ゆらゆらと妖夢の隣まで飛んできた半霊は、やがてゆっくりと形を変え始める。

 

そして完全に動きが止まった時、そこにはもう一人、目の赤い妖夢が立っていた。

 

今から放つは生涯を剣に捧げた(「今からブッパなすのは剣に生き)剣豪の秘剣(病に倒れた剣豪の秘剣」)

 

摩訶不思議な現象を見せられ固まる一同を無視し、妖夢達は構える。何故か重なる声は聞き取りやすい。

 

それは回避が出来ず、逃げられない(「それは防御が出来ず、防げない」)

 

謳い文句はデタラメで、聞いて呆れる程強力無比。防げず躱せないのならどうしろと言うのだろう。

 

故に必殺。躱せるものなら(「だから必殺。防げるもんなら)躱して見せよ」(防いでみろよ。」)

 

 

矛盾を求めるその顔は玩具を前にした子供のようで、見た者にある種の恐怖を植え付ける。

 

秘剣――――――|(「無明――――――」)

 

狼人の本能が警告の鐘をならす。避けろ!防げ!逃げろ!躱せ!全身の毛が逆立つ、逃げろ逃げろと騒ぎ立てる。

 

(うるせぇ・・・)

 

それを全て蹴り飛ばす。冒険者としての経験が、狼人としての誇りが、何より男としての矜持がそれを許さない。

 

(逃げれねぇなら逃げねぇよ。防げねぇなら防がねぇ!真正面から!ぶっ潰す!!)

 

―――燕返しっ!!(「―――三段突きっ!!」)

 

六本の斬撃が迫る。ベートは全力で地面を蹴る。進む方向は前。ただただ本気でひた走る。余りの脚力に地面は抉れ、ヒビ割れる。

 

「ウオォォォオオオオッ!!」

はああぁぁあああ!(「そこだあぁぁあああ!」)

 

両者の距離は瞬きの間に零となり激突する。あまりの衝撃に大地が吹き飛び土煙で視界は通らず、戦いの結果はわからない。どっちだ?この場の者達の考えは一つだけであった。

 

 

 

 

土煙は重力に惹かれ地面に戻って行く、次第に晴れていく視界の中には人影が二つ。影は動かない。

 

・・・暫しの間静寂が場を包む。観客の間を緊張が駆けずり回り冷や汗を誘う。どっちだ、どっちだ。まさか決着はつかなかったのか。憶測が飛び交う中、視界は鮮明になる。

 

立っていたのは・・・・・・赤い目の妖夢、そして・・・・・・ベートだった。

 




こんな感じでいいのかなー・・・未だに戦闘描写は本当に苦手で困る・・・皆さんにリクエストしてもらった技の数々をキチンと描写できるのだろうか・・・(´д`)

伏線を頑張って入れてみようとしているものの・・・ふむ、これでいいのか?って状態です。頑張る。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話「私は妹ではなくベートの友達ですっ」

次の話は少しいや結構遅れるかも?


赤い目をした妖夢が消えてゆく。その顔には先ほどの子供の様なウキウキとした表情は無く、能面のように無表情だった。

 

「・・・ゴハッ・・・!・・・くっ・・・」

 

ベートは我慢しきれず血を吐き出す。おもむろに脇腹を確認すると左側の脇腹は大きく抉れ、地面は血だまりになっている。ベートは傷口から視線を外し、周りからの視線を無視し、蹴り飛ばし壁に半ばめり込んでいる妖夢の元に歩いていく。

 

「・・・なか、なか・・・やるじゃねぇ、か・・・妖夢、だったか?」

 

どうやら気絶しているらしい。ベートの本気の蹴りを当たる直前で回避を試みていなければ今頃上半身と下半身はサヨナラしていただろう。

 

「・・・ハハッ、仕方、ねぇな・・・」

 

ベートは妖夢の奮闘を讃えるように笑い、ゆっくりと抱き上げた。

 

 

 

 

「みんなおきてー!ほらパパは仕事!もう、早く着替えなさい!貴女もよ、学校遅れるわよ?」

「ふぁ・・・おはよう、飯はなんだ?」

「時間が無いから昨日の残りよ、ほら起きなさい!」

「うぅん・・・あと5分・・・」

「1分2分3分4分5分!はい!五分たったわよ!」「それ5秒じゃん・・・」

 

―顔が乱暴に黒く塗り潰された名前もわからない俺の家族が幸せそうな朝を迎えている。・・・また夢だ、ココ最近見てなかったのにな。

 

「あぁんもう!ネクタイ曲がってる!・・・よし!さぁ、行ってらしっしゃい!」

「ありがとう。行ってくるよ」

「おかーさーん、私の筆箱知らない?」

「知らないわよそんなの、ほら、一緒に探してあげるから」

 

―いま、唯一覚えているのは声だけ。見ている夢は所詮俺の願望に過ぎない。ああ・・・早く目覚めてくれ・・・生き地獄は嫌いなんだ・・・。そして願う、どうかもう忘れませんように。

 

 

 

 

目が覚める。・・・知らない天井だ・・・なんだかんだデジャブになってるなこれ。この人生で既に12回目だぞ、知らない天井だ、やるの・・・。体を動かそうとすると全身から鋭い痛みが走る。グおぉあ痛てぇー・・・タケのアホぉ・・・。なんだよなんだよ、「自分がどれだけ無茶してるか自分で確かめるんだな」とか言って毎回最低限の治療しかしてくれないのはさー、ごめんなさいするとすぐに治してくれるけどさ?にしても

 

・・・・・・負けたのかぁ・・・思ってたよりショックだな、まぁ、一応脇腹は吹き飛ばしたし向こうも無事ではないだろう。

 

「ぅ・・・くっ・・・イタタ・・・」

 

つい声が出てしまう。雑ではあるが自分なりに体を調べてみると腹部に大きな痣が出来ていて、ここを蹴り飛ばされたのだとわかる。他にも腕には若干の違和感がある事、頭に包帯が巻かれていること、服が着せ替えられている事がわかった。おそらく治療をしてくれたのは命や千草だろう、アイツらには頭が上がらないですわこれは。

 

「ん・・・・・・んぅー・・・」

 

ん?なんだ?と首を横に向けると千草と命がベットにもたれかかる様に寝ていた。看病しててくれたのか・・・有難い事だな・・・。心配をかけたらしい・・・そりゃそうか、ハハハ。

 

とりあえず痛む体を無視し、千草と命に掛け布団をかける。しばらく眺めていたいがそれはレディーに失礼というもの、まぁ、俺もレディーだけどね?・・・何か自分で考えていて馬鹿らしくなるなこれ。とりあえず部屋の外に・・・

 

俺が部屋を出ようとすると丁度部屋のドアが開いた。入ってきたのは猿だ。あっごめん、ナチュラルに猿って言ってしもうた。

 

「猿」

 

「一言ぉ?!それだけでごザルが!?昔はお猿さんって言っていたでごザルよな?!ついに猿でごザルか?ただの猿でごザルか?拙者はひゅーまんでゴザル!!」

 

うぉぉぉー止めて!命達が起きちゃうだろうが!わるかった!猿って言ってわるかった!

 

「うわわわ!ごめんなさい!次からはお猿さんって呼びますから!」

 

「違う違う違うそうじゃ、そうじゃないでごザル!猿師でごザルよ!」

 

わかったようるさいよ何しに来たんだよ。俺がそう言うと猿師は(´・д・`)こんな顔しながら話し始める。

 

「ハァ――いいでごザルか?妖夢殿は無茶をし過ぎでごザルよ、タケミカヅチ様にあまり心配はかけてはいけないでごザル。」

 

うぁー、確に、言い返せないなぁ。迷惑をかけている自覚はある。でもさぁー、いや、言い訳じゃないよ?自分の憧れのアニメの技が使える、って言われて「戦いは好まない」とかなる?いや!ならねぇ!声を大にして言うね!バトルジャンキー?戦闘狂?いいじゃねぇか!かっこいいんだもん!技が!試さなくてどうする!?勿体ないじゃないか!だろぅ!?

 

「言い返すことは出来ませんが・・・私には憧れの英雄達が居ます・・・私はそれに近づきたい。例え頭がおかしいと言われようとも、私は戦います。・・・強くなりたいから。」

 

ファ!?なに?どう言う翻訳されたの?!メタい発言は全部都合のいい解釈されちゃうの?!

 

俺の固い決意を感じたのか猿師は黙り込む。

 

「ならば・・・相談するでごザル。拙者達は大人、妖夢殿は子供、なれば守るのは当然。・・・さぁ、まだ寝ていた方がいいでごザルよ?今からポーションを使うでごザルからな」

 

そう言って腰のポーチから猿師はポーションを取り出す。・・・あれ?この猿いい奴じゃね?・・・いや知ってたけど。そういえば猿って家族居たよな・・・極東に置いてきたのか?

 

はい、と返事をしベットに寝転がる。命達を起こさないように静かにだ。猿師は命達の状態に気付き、優しい笑みを浮かべる。

 

「・・・慕われているのでごザルなぁ・・・大切にするでごザルよ?」

 

「はい、家族ですから、何があっても守りますよ。・・・お猿さんのご家族は?」

 

俺が微笑みながらそう言うと猿は嬉しそうな笑顔で話し始める。v(´∀`*v)こんな感じの顔だ。

 

「家族・・・うんうん。素晴らしものでごザル。拙者の家族はオラリオに来ているでごザルよ?同い年の妻に、もうすぐ20になる娘でごザルな、ああ、後は母上も来ているでごザルよ」

 

うんうん、素晴らしいものだよなぁ!同い年の妻に20の娘か・・・流石はエリートだなぁ・・・え?お婆ちゃん来てるの?・・・まじかよまだあの人のレベル抜かせてねぇよ!あの三角跳びお婆ちゃんを超える日はいつになるやら・・・。早く会いたいな、でもまだ猿はこっち来てから1日しか経ってないし・・・。

 

「うんうん素晴らしいものです。・・・お婆ちゃんも来ているんですか!早く会いたいなぁ・・・。でもまだ引越しの途中ですよね、お手伝いに行かないと!」

 

恩は返す!何かあの時は返せなかったしな!引越しの手伝いなら任せろぉ!バリバリー!半霊を使えば効率は凄まじく上がるぜー!

 

「そうでごザルか!母上も喜ぶでござろう、ささ、早く飲んで速く治すでごザル。」

 

うおぉー!飲むぜぇー!超飲むぜぇー!丸薬もかじるぜぇ!

 

「ゴホッ!・・・ゲホッ!ゴホッ!・・・む、むせった・・・」

 

「焦りすぎでごザルよ、妖夢殿。ゆっくりと・・・そう、そうでごザル。」

 

い、勢い良く飲み過ぎた・・・身体が痛んでむせったぜ、にしても猿は本当に医者って感じだなー。信頼できるぜ。んな事を考えている間にも身体の傷は塞がっていく、ポーションと癒しの丸薬が効果を現し始めたのだろう。

 

よし、治療も終わったし行動開始だ!・・・何しようかな。ダンジョンに行くのもいいけどまずはベートの様子でも見てくるか!

 

「ありがとうございました、では少し行ってきますね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・とは言ったものの・・・ベートどこだよーここはどこだよー。なんか歩き回ってたら迷ってしまったぜ、そこらにロキの眷属の人たちは居るんだけど何故か話し掛けようとすると逃げちゃうんだよな。何故だろうか?ままさかベートが死んだとか・・・いや、だったら俺が無事じゃないか。ふっ、恐れを成したか人間よ・・・・・・。

 

・・・寂しい。話しかけても逃げられるってのはこんなにも精神的にダメージを負うものなのか、心も鍛えねばなぁ。いやいや待て待て、このままだとボッチルート確定じゃねぇか!俺友達とか1人しか居ねーぞ、ヤバイなこれは。・・・友達・・・?ハッ!カチューシャがねぇ!?

 

俺は頭につけていた黒いカチューシャが無いことに気が付く。実はこれは唯一の友達に貰ったものなのだ。

 

俺は全力で来た道を駆け抜ける。急げー!走れー!俺は曲がり角を90度直角カーブして先を急ごうとするが。

 

「みょん!?」

 

変な声を上げて通行人とぶつかってしまう。ここは黄昏の館、つまりはぶつかる人なんてほぼロキ・ファミリアの団員である。んでもってぶつかったのが・・・犬っころだ!じゃなくて狼だ!

 

「狼さん!?」

 

「ベートだ、いい加減名前覚えろ、馬鹿なのか?」

 

おんおんおん?やんのか?誰が⑨だ、一般的な数学なら余裕のよっちゃんだぞ!そもそもお前だって俺の名前覚えてないだろどうせ。

 

「甘く見ないでください!ちゃんとした教養はありますよ!そもそも狼さんだって私の名前覚えてないくせに。」

 

「ああ?舐めてんのかこのガキィ・・・。名前くらい覚えてるっつーの。確かぁ・・・こんぺいとうだったか?」

 

・・・マジで覚えてないのか?俺はジーーーーーーーーっとベートを無言でジト目で睨みつける。

 

「・・・あー・・・妖夢・・・だったか?ハッ!雑魚の名前なんて覚えにくいったらありゃしねぇ。」

 

なんだよ、覚えてんじゃん。しっかたねぇなぁ〜名前で呼んでやるよーはっはっはー!

 

「フフン、正解です。そこまで頼まれては仕方ないので名前で呼んであげましょう!」

 

俺は腰に手を当て胸を張りドヤ顔でそう言い放つ。するとベートはハァーと深いため息をつき、頭を掻きながら俺の頭に手を置く。

 

「・・・悪かったな、本気で蹴っ飛ばしてよ。ロキの野郎に謝ってこいって言われてな、部屋に行こうとしてたんだ。」

 

・・・・・・・・・・・・え?誰この人。俺は知らないぞ、こんな優しい人知らないぞ!あっ、まさかこれは認めてもらえたのか?何がとかはわからないけど。よし!ならばここで言おうか。ふっふっふ、許して欲しければ我が願い聞くがよい!

 

「意外です、ベートが謝るなんて。まぁ、この際それは置いておいて。許して欲しければ私のお願いを聞いてください」

 

「そうか、じゃあな。」

 

おいぃいいいいい!待って!まだ何も言ってないから!聞いて!聞くだけならタダだろうが!そんな難しいものじゃないから!簡単だからお願いしますー!

 

「うわー!待ってください!簡単なお願いですから!」

 

サササっ、とベートの前に回り込み頭を下げる。するとベートは面倒くさそうに対応してくれる。

 

「ったくこのガキはぁー・・・で?なんだよ」

 

や、優しい・・・ほんとにベートだよな?実は中身違う人とかないよね?ま、まあいいとして本題だ。

 

「お願いは二つあります――」

「じゃあな」

 

いや、だぁかぁらあぁぁぁあ!聞けえぇぇ!俺の話を聞けぇ!仕返しか?!酒場での仕返しなのかァ!?

 

その場を去ろうと踵を返すベートの前に再び周り込む。

 

「一つ目は私と戦った感想を教えてほしい、と言うものです。」

 

そう言うとベートはしばらく黙り込む。戦いを思い出し言葉を考えているのかもしれない。

 

「・・・てめぇは出し惜しみしすぎだ。最後の技、あれを最初からぶっぱなしてりゃあ俺を倒せただろ・・・舐めてんのか?」

 

うぐッ!・・・つ、次からは・・・って言いたいけど技を最後までとっておくのはこう・・・ロマンというかですね?様式美って奴で・・・。一応言うけど零閃とか音速より速い程度に速度落ちてるとはいえ切り札クラスよ?あれ。出し惜しみはしてないと思うのですよ私は。開幕でぶち込んだし。

 

俺がそう説明すると納得いかなかったようで少し不機嫌になった。こっちだって色々とダンジョンでイメージトレーニングをしてたんだから手抜きじゃないぞ!終始ベートに押されていた性で殆ど技使えなかったけどな!スキル使って初めて攻めれたんだ、やっぱりレベル5は化物ですわ。

 

「では二つ目のお願いは――――」

 

 

 

 

 

ロキ・ファミリアのとある部屋にて、ロキとファミリアの幹部達、そしてタケミカヅチと桜花、そして猿師が対面していた。

 

「まずは礼を言おう。妖夢と試合をしてくれた事に感謝している。」

 

タケミカヅチはそう言い軽く頭を下げる。桜花と猿師も軽く下げた。

 

「いやいや気にせんといてーや。ウチの子供達もいい経験になったやろうしなー。」

 

「そうはいかない、こちらの無理を受けてくれたのだから礼くらいはさせてくれ」

 

「いいんやって、こっちも下心満載やったし、寧ろこっちが礼を言わせてーや。べートがな?「あのガキには負けられねぇ!」とか言ってメチャンコやる気出してな?こっちとしては嬉しいことずくめなんよ。」

 

そんな事を話していると扉が開きアイズが入ってくる。

 

「あの子・・・起きたよ・・・?」

 

その言葉にタケミカヅチ達は何処かホッとした表情を浮かべ、ロキ達は驚いた様な顔をする。

 

「マジかいな、まだ運ばれてから1時間もたってへんで。妖夢たんは何処に行ったん?」

 

ロキがアイズにそう聞くとアイズは少し考え込んで話し出す。アイズは会話が少し苦手なのだ。

 

「・・・ベートと・・・ご飯食べに・・・2人で行っちゃった」

 

ショボーンとなるアイズをよそにこの場にいる者達は皆唖然としている。内容はそれぞれ違ったが。

 

「まさかあのべートが・・・」

「ありえん・・・」

「んなアホな、ついさっきまで斬りあってたやないか・・・」

「ハッハッハやはり子供はそうでなきゃイカンなハッハッハ!」

「ハァー、妖夢、お前ってやつは・・・がめついというか遠慮がないというか・・・」

「・・・千草に何ていったらいいんだ・・・」

「青春・・・でごザルな〜!」

 

フィン、ロキ、リヴェリアは純粋にベートがそういった行動に出ることに驚き、ガレスはなんだろう。タケミカヅチは妖夢の行動をある程度予測し、桜花と猿師は勘違いしている。

 

その様子を見たアイズは首を傾げ、内心で剣術について色々と聞きたかったなと思うのだった。

 

 

 

 

 

豊饒の女主人にて、べートは妖夢と食事に来ていた。

 

(どーして俺がこんな事を・・・)

 

べートはそんな事を思いながら目の前で目を輝かせながら夢中で話をする妖夢にテキトーに相槌をうっていた。

 

(こんな奴に一撃で脇腹持ってかれたのか・・・)

 

「それでですね、そこで私がズバッと切りつけて、そこを命が、あっ、命というのは今日来ていたポニーテールの子です。それで命が―――」

 

(はあああぁぁぁ・・・うるせぇなー、飯をくえ飯を、さっきから話してばっかじゃねぇか。周りからめっちゃ見られてんぞ)

 

ヒソヒソとベート達の事を話す声がしっかりとベートには聞こえていた。しかし目の前の少女は話すのに夢中のようでそれに気づいていない。

 

(はぁぁ、これで変な噂とかたったらマジぶっ飛ばしてやる。)

 

「ベート!ベート聞いてますか?」

「聞いてる聞いてる」

 

まず食え、そう言えば妖夢はちゃんと食べると思うのだが、ベートは何故かそう言わない。テキトーに相槌をうつだけだ。

 

「聞いてくださいよ!タケってば命の気持ちに全っぜん気付いてくれないんです!もう、鈍感とかそこら辺を超えていますよ!」

 

そして話はファミリア内の恋愛話しにまで変わり始めた所でようやく決心がついたのかベートは声を上げる。

 

「飯食えよガキ、冷めちまってるじゃねぇか。そんなんじゃ何時まで経ってもチビのままだぞ」

 

「みょーん、わかりましたー。・・・冷めてる」

 

しぶしぶといった風に食事に手をつける妖夢、ベートはまたため息を付く。

 

「あむ・・・もぐもぐ・・・それにしても意外ですね、ベートと食事を一緒にするなんて」

 

食べながら会話を続ける妖夢、別にマナーがなってない、とかベートは言う気は無い、もともと冒険者で食事のマナーを気にする人は結構少ないのだ。

 

「気まぐれだ、ちょうど12時近くだったからな」

「ほうれふか、でもうれひいでふ」

「アホ、話すか食うかどっちかにしろ」

「ふぁい」

 

 

 

どうも、俺です。今、ベートとご飯食べてます。・・・いやー・・・びっくりだねぇ、まさかベートから誘ってくれるとは。ホントだぜ?嘘じゃない。実は二つ目のお願いは俺と友達になってくれーっていうやつだったんだけど案の定断られ、「もう昼だしついでだ、てめぇも来るか?」という感じに食事に来ているのです。多分話しを逸らそうとしたのかな?あ、ちゃんとカチューシャは取りに行ったよ、そこでアイズに会ってご飯食べに行くことを話したんだ。

 

すると薄鈍色の髪をしたこの店の店員、シル・フローヴァがやってくる。・・・顔をニヤつかせながら。そう言えば俺ってこの人と話したことなかったなー。

 

「ベートさんベートさん、妹さんですか?うふふっ!」

 

明らかに違うよね、俺獣耳ついてないよね。何なの?アイズもアンタもどうして俺の頭に獣耳を幻視してるの?

 

「・・・・・・うるせぇな、あっち行ってろ」

 

否定しないのかよー!否定しなさいなベート君!なんだ、俺に猫耳いや、狼耳を着けろと?!

 

「あら?否定しないんですか?」

 

意外、と小さく呟くシルを他所にベートはうんざりとした表情でガクリと項垂れる。・・・あー、これは前と同じ\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!状態ですな。まぁ、SAN値っつーより怒る気力が無くなってるだけだろう。

 

「ええと、店員さんベートは疲れて反応出来ないみたいなので、それと私は妹ではなくベートの友達ですっ」

 

ふっ、先に周りに広げ、周辺から固めて行く感じで行くか(笑)冗談だけどさ。

 

「おい、誰がテメェみてぇな糞ガキと友達になったよ」

 

ひっでぇ!糞やて!糞付きやん俺!今まで付いてなかったのに・・・何が原因なんだ!全く、斬りあった仲だろ?戦う内に徐々に友情が芽生え戦いの後に握手して友達になる・・・王道だろう?俺はベートとそんな感じの友達になりたい!具体的には強敵(とも)になりたい!

 

「全く、斬りあった仲ではありませんか。得がたい強敵(とも)です。あっ、強敵と書いて友と読むほうですよ」

 

「はー、こっちはお前の愚痴聞いてうんざりしてんだよ、そういうウザイ奴は友になんかならねぇ」

 

な、なんだってーーーー!!orz

 

「みょーん!」ガクッ

 

俺達の最早軽い漫才じみた応酬にシルはたまらないと言ったふうに笑い出す。

 

「アハハッ!お2人は仲がよろしいんですね!」

 

「誰がこんな奴と!」

 

からかうシルとムキになるベート、きっと普段はこんな感じなのだろう。するとシルはミアに呼ばれ、厨房に入っていく。先程のショックが抜けきらない俺はテーブルに顎を乗せ腕を前に伸ばし「みょーん、みょーん」と言っている。いじけてますよーショックですよーとベートにアピール。フッフッフッ、子供が前でこんな事をしていれば大人ならばどうにか機嫌を取ろうと試みるはず!

 

「おいガキ」

 

ホラ来たぞ!ふん!誰が話すもんか!ちゃんと名前で呼んでくれないと返事しませーん。やーいやーいwww。

 

「・・・ふん!」

 

プイッと右を向く。お、おう、そこまでしなくてもいいんじゃないかい?ベートって意外と繊細だよ?

 

「・・・・・・・・・妖夢」

 

ベートは若干考える様にした後俺の名前を呼んでくる。意外と子供の扱いとかわかってるのかな?すぐさま返事を返す。

「はい?なんですベー―」

「子供かテメェは!!」

 

なんでさ・・・。

 

 

 

 

その後、俺はベートに燕返しや無明三段突きに付いての説明をした。ベートは疑問に思っていたらしい。

 

あれは多重次元屈折現象というとても凄い原理が使われていて、平行世界から自分を一時的に呼んでくる技なんだ!って説明したんだけどさ、何か可哀想な子を見るような目で俺の頭撫でて来たんだよね・・・なんだろう、くっそ心にダメージを負ったわ・・・。

 

「どうやって覚えた?」って質問に俺はちゃんと答えたんだよ。燕斬ろうと頑張ったら出来たらしい、自分はその姿を思い浮かべて素振りしたら出来たって。今度はシルさんに抱きしめられた・・・胸に無明三段突き食らった位にダメージ負ったわ。そのまま再びガクッとなってショボーンとしてたら帰る時間になってしまって黄昏の館まで戻ってきましたとさ!

 

「・・・・・・妖夢、ちゃんとお礼は言ったか?」

 

現在何故かタケが腕を組みながら俺の前で仁王立ちしている。お礼ってなんだ、戦ってくれたことか?・・・あれ、してないかも。しとくか、礼儀は大事だから。

 

「ベートありがとうございます、戦ってくれて。楽しかったですよ」

 

「ハッ!もう二度と自分より強い奴に挑まない事だな。まぁ、テメェが死んでも俺はどうでもいいけどな」

 

おお!ベートが心配してくれているぞ!ふむふむ・・・「お前が死ぬと目覚めが悪いから強い奴には挑むな、心配になるだろ」かな?ツンデレめ!男のツンデレとか誰得だよ!・・・だがなベートよ、俺はまだまだ強くならねばならんのよ。俺は英雄達の技を使える、でも、それは弱体化したもの。俺が強くならないと技本来のポテンシャルは引き出せない。故に俺は強くならなくちゃ行けないんだ、技の本来の持ち主に顔向け出来ないしな!

 

「心配してくれてありがとうございます。ですが私は強くなる為ならどんな強者にも挑むつもりです。・・・私にも目指す所があるので」

 

俺だって頑張れば一人でゴライアス位行けるさ。俺は覚悟する、どんな奴でも斬ってやる、と

 

「・・・ハッ!いい顔してんじゃねぇか、さっきまでみょんみょん言ってた糞ガキとは大違いだ」

 

うるせぇ、俺の意思じゃあどうにもならないのー、勝手にでてくるのー口癖なのー!てかナンパか?すみません、俺、心が男なんです。

 

「うるさい、口癖なんです。それとナンパはお断りです、お友達なら大歓迎ですよ?」

 

「誰がテメェなんかナンパするかよ!それに雑魚と連むつもりもねぇ!」

 

ほぅ?声優的にはロリコnげほごほっ、アクセラレータにそっくりなのに?違うのか・・・いや、安心したけど。

 

「では、また今度。さようなら〜!」

 

命と千草に目配せしてロキ・ファミリアの皆に手を振り自分達のホームに向けて歩き出す。少し遅れてタケや猿、桜花も横に並んで歩く。

 

「いや〜楽しかったですね。」

「はぁー色々と大変なんだぞ?もう止めてくれよ?」

「・・・んー」

「悩むな、桜花達がどれだけ心配したか・・・」

「むー・・・仕方ないですね・・・」

「いや〜青春でごザルな〜ブヘェッ!何でごザルか?!何が当たったでごザルか?!」

「秘拳半霊パンチです」

「アイエエェェ!半霊!?半霊ナンデ!?」

 

いや〜平和だなー・・・ベルは今何してるんだろ、リリと会うのはまだ先になりそうだし・・・モンスターフィリアはもう少しっつー事はダンジョンで頑張ってんのかな?

 

モンスターフィリア・・・変な花のモンスターが出て来きてティオナ達が苦戦する奴か・・・。頑張ろうか、目的のために。




使って欲しい技とかは活動報告の方へどうぞ!

コメント待ってますー(`・ω・´)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話「お猿さーーん!」

遅くなると言ったな・・・あれは嘘だ。直そうかと思ったけどまぁいいんじゃないかな、って思ったので投稿です。
・・・きっとボロクソ言われるんだろうなぁ(チラッ
コメント来るかなー(チラチラッ


(・・・対象を発見した)

 

ここはオラリオ中央通り、冒険者が多く利用するここは様々な店が建ち並ぶ。

 

そんな活気溢れる通りを外れ、脇道にそれた所で男は気配を消して潜んでいた。

 

男の名はオッタル。主神であり愛しきフレイヤの命令でとある少女を追っている。フレイヤの命令をわかりやすく解釈するなら「仲良くなって私の前に連れて来て、怪我はさせないでね」だ。

 

一切の間を開けず返事をしたものの、オッタルは少し、ほんの少しだけ躊躇していた。理由は簡単である、オッタルの外見は猪の耳を頭から生やした身長2mを超える筋肉質の大男なのだから。

 

(俺があんな小さな女子に話しかけてはファミリアの名が落ちるのでは?)

 

それが心配だった。この世界の神々は随分とアレな性格のものが多い、オッタルが少女に話しかけるシーンなど見た暁には大声で騒ぎ立てるに違いない。

 

(しかし・・・フレイヤ様の命・・・期限こそ無いが向こうが大人になるまで待つわけにはいかない。早く接触しなくては)

 

彼が追う対象は魂魄妖夢という少女だ。緑色のベストに緑色のスカート、黒いカチューシャとなかなか奇抜な格好をしている。その上髪の色が銀色なので発見はしやすい。

 

しかしやはりなかなか足が前に進まない、とりあえず今日は諦め、妖夢について調べておこう、とオッタルは行動を開始した。

 

 

 

 

「・・・」

 

千草達四人はダンジョンに向かっていた、しかし、普段なら千草達に対し優しく微笑んでくれるはずの妖夢は中央通りにはいってから終始無言だった。辺りを警戒しているその目は見ただけで物が切れてしまいそうだ。

 

(どうしたのかな・・・)

 

千草は心配になる、妖夢がダンジョン以外でここまで警戒するなどオラリオに来てからは初めてだったからだ。

 

(聞いてみようかな・・・でも少しだけ怖いし・・・いや、怖くないよね、妖夢ちゃんだもん!)

 

「・・・ね、ねえ妖夢ちゃん?どうしたの?」

 

勇気を出して声を掛ける、すると妖夢の表情はコロッと普通に戻り「む?どうしました?千草」と聞き返す。

 

「いや、何だかダンジョンの中みたいに警戒してたから・・・」

 

それを聞いた妖夢は若干苦笑いを浮かべなから話し出す。

 

「いや、何だか最近妙な視線を感じまして・・・剣客かと期待しているんですが、なかなか仕掛けてこないんですよ。」

 

「いや、仕掛けてこなくていいだろ。」ベシッ

「あいた!」

 

妖夢と桜花のそんなやり取りを聞きながら心配になって千草は辺りをキョロキョロと見渡す。命も「剣客」のあたりから油断なく視線を左右に動かし、桜花もツッコミを入れながらさり気なく警戒している。妖夢は打って変わって全くと言っていいほど何もしていないが恐らく半霊を使い空から確認しているはずだ。

 

「・・・とくに怪しいやつは居ないな」

「居ない様です」

「うん」

「・・・残念です」

 

 

 

 

 

 

 

「右に行ったぞ命!後ろに通すな!」

「はい!」

 

ダンジョンに声が響く。ここは十三階層、俗に言う中層だ。どもっす!おれっすよ!いまは少しでも経験値を集めるべく皆でダンジョンに来ているのだ。

ん?ステイタスの更新はどうしたんだって?・・・いや、忘れてた訳じゃないんだ。そう、おれは楽しみはあとにとっておくタイプでさ・・・。この後更新してもらいたいけど神様達の集まりがあるらしいしまだ無理かな、いやすぐ帰ってくるって言ってたし明日には出来るか。

 

「妖夢殿!左は任せます!」

 

はい、と命に返事をし、半霊から取り出した木刀に炎を纏わせ切りつける。いわゆる火炎切りだ。

 

「ギュアアア!」

 

とベル・・・じゃなくてアルミラージが悲鳴を上げて転がり回る、何故なら所詮木刀、鈍い音と肉が焼ける様な音が出るだけで一撃で倒すことは出来ない。無論、使い方にもよるが。今回はこれでいいのだ。

 

「千草、今です。」

「う、うん!」

 

そう、今回は千草の訓練が主な目的である、いずれ背中に斧くらってベル達を巻き込んでしまうからな、少しでも戦えるようにしとかないと・・・。

 

「やあああぁぁ!」

 

千草は気合と共に槍を突き出しアルミラージを倒す。実は1時間ほど前からこんな事をやっている。命と桜花が戦い、俺が弱らせ、千草が止めをさす。千草も武神の子、戦闘能力は決して低くはない、心が付いてきていないだけなのだ・・・いや、レベル1を中層で戦わせてる時点で心がどうとか言えないけどね。

 

「悪い!妖夢そっちにヘルハウンドが2匹行ったぞ!」

 

桜花がアルミラージ4匹を相手取っていた横をヘルハウンド2匹が通り抜けこちらに走ってくる。・・・まぁ、俺ら小さいもんな、そりゃ狙うわ。・・・でも今回は失敗だな。

 

めんどいから弾幕でサヨナラだ!オラオラオラオラ!

 

俺は木刀をテキトーにしかし繊細に振り回す。すると斬撃の軌跡は空中に留まった。そして一瞬強く輝いたかと思えば破壊の刃を周辺に撒き散らす。ズドドドドッ!という音が相応しいだろう。壁や床、天井にぶつかった弾幕は当たった場所を少し吹き飛ばす。

 

「うわ〜、やっぱ凄いなそれ。雑魚相手なら十分すぎるだろ」

 

フーハハハ!凄いだろー!まぁ、今のは特に技名とか無いただの弾幕だけどね。ある程度の霊力をこめてあるから威力はそこそこだ。

 

これから数日後には怪物祭が始まる、それまでに少しでも力を付けなくては。

 

 

 

「妖夢ーこっちだ来てくれ」

 

ここは俺達のホーム、最初オラリオに来た時、好きなように作ろうという話になったので白玉楼をイメージした庭がある。もちろん俺の我が儘で作ってもらった、自分でお願いした以上、自分で管理している、庭師の真似事だ・・・普通の庭師は二刀流で切ったりしないと思うが修行なので仕方がない。確か命はあの無駄にデカイ風呂を要求していたはず。お陰で立派なホームだ、俺達には不釣り合いな程に・・・そう、マネーが足りないのだよ。まぁ、んな事は置いといて。

 

「なんですかー」

「お、来たか。今のうちにステイタスを更新しておこうかと思ってな。服を脱いでくれ。」

 

お、来たかー更新。ベート戦楽しかったなーめっちゃステイタス上がってるといいなー。楽しみだぜ!

 

「はい!楽しみです!」

「おし、じゃあそこに寝転がってくれ」

 

俺は鼻歌でも歌いだしそうな気分で寝っ転がる。流石にスキルは増えないだろうな。アビリティが上がってれば嬉しいけど!

 

パァーと背後が光り輝く。ステイタスの更新が始まったのだろう。タケと他愛のない会話を楽しみながら終わるのを待つ。

 

「・・・!・・・・・・・・・よし、出来たぞ妖夢」

 

ん?終わったか、いやーどうなってるかねーおれのステイタス。ランクアップとかしてたら・・・いや負けたししないか・・・。

 

「ありがとうございます。見せてください・・・ふむふむ」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

【魂魄妖夢】

 

所属:【タケミカヅチ・ファミリア】

 

種族:半人半霊

 

【ステイタス】

 

Lv.2

 

「力」:F303→F352 +49

「耐久」:H150→G230 +80

「器用」:E423→D503 +80

「敏捷」:E415→E495 +80

「魔力」:F301→F326 +25

「霊力」:E408→E452 +44

 

アビリティ:集中 G

 

スキル

 

【半霊 (ハルプゼーレ)】

 

・アイテムを収納できる。収納できる物の大きさ、重さは妖夢のレベルにより変化する。

・半霊自体の大きさもレベルにより変化する。

・攻撃やその他支援を行える。

・半霊に意識を移し行動する事ができる。

・ステイタスに「霊力」の項目を追加。

・魔法を使う際「魔力、霊力」で発動できる。

 

【刀意即妙(シュヴェーアト・グリプス)】

 

・一合打ち合う度、相手の癖や特徴を知覚できる。打ち合う度に効果は上昇する。(これは剣術に限られた事ではない)

・同じ攻撃は未来予知に近い速度で対処できる。

・1度斬ればその生物の弱点を知る事が出来る。

・器用と俊敏に成長補正。

 

【剣技掌握(マハトエアグライフング)】

 

・剣術を記憶する。

・自らが知る剣術を相手が使う場合にのみ、相手を1歩上回る方法が脳裏に浮かぶ。

・霊力を消費する事で自身が扱う剣術の完成度を一時的に上昇させる。

 

【二律背反(アンチノミー)】

 

・前の自分が奮起すればする程、魂が強化される。強化に上限はなく、魂の強さによって変化する。

・使用する際、霊力が消費される。

 

魔法

 

「楼観剣/白楼剣」

 

詠唱①【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】

 

詠唱②【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】

 

 

詠唱「西行妖」

 

【亡骸溢れる黄泉の国。

咲いて誇るる死の桜。

数多の御霊を喰い荒し、数多の屍築き上げ、世に憚りて花開く。

嘆き嘆いた冥の姫。

汝の命奪い賜いて、かの桜は枯れ果てましょう。

花弁はかくして奪われ、萎れて枯れた凡木となる。

奪われ萎びた死の桜、再びここに花咲かせよう。

現に咲け───冥桜開花。西行妖。】

 

【ーーーーーーーー】

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

おー、だいぶ上がったなートータル358かー・・・・・・いや、上がり過ぎだろ・・・ベートさんマジパネェっす。俺もうレベル2なんだけど・・・なにこれレベル1の初めの頃の上がり方ですよこれ。耐久!お前だよお前!補正がある器用と敏捷なら分かるけど何でお前もめっちゃ上がってるんだ!そしてこれでもベルの方が圧倒的に上がるの早いっていうね・・・なんだ、オッタル辺りと殺し合えばいいのか?

 

「・・・結構上がりましたね・・・」

「不満か?」

「いえ、別に」

「嘘だな。」

 

むむむ、神様ってこういう時は不便ですなー。驚いてはいるけど素直に喜べん。負けず嫌いが嫌な面で出てきたなー。

 

「・・・」

 

うおおおおおおおお!やってやるぜぇ!って感じにめっちゃ気合が入った。もう怖いものなんてない。こんなに身体が軽いのは初めてだ!1週間位篭っててもいいかもしれないダンジョンに。あ、でも怪物祭があるからそれは止めといて、丸一日位なら・・・あ、ゴライアス辺りヌッ殺してこようか・・・いや、この間ロキ・ファミリアに殺されたんだっけ?チッ!・・・じゃあインファント・ドラゴンに「ドラゴン斬り×燕返し(ワイバーン返し)」という絶対ドラゴン殺すウーマンしてこようか・・・いやでもあいつ弱いしな・・・ミノタウロスは臭いから嫌だし・・・うーん、ベートでも倒しに・・・いや勝てねぇや。いやどうせなら到達階層更新・・・むむむむむ

 

「むむむむ」

 

悩む俺を見てため息を着いたタケはこう切り出す。

 

「行きたいなら行ってこい。俺は猿師とミアハ・ファミリアに行ってくる。」

 

ん?ミアハの所に行くのか、俺の頼みを聞いてくれるのかな?

 

「ポーションお兄さんのところですか?。何しにいくんです?」

 

いやなんだよその覚え方は。歌のお兄さんみたいになってるじゃねぇか。

 

「ほら、前に妖夢が言っていただろ?妖夢も来るか?」

「はい!もちろんです、暇でしたし」

「おう、じゃあ猿師呼んできてくれ。」

「は〜い、お猿さーーん!」

 

「とう!呼ばれて飛び出てお猿さんでごザル!」

「・・・・・・開き直ったんだな。」

 

ああ、開き直ったんだ。彼奴はな。オラリオに来てもお猿呼ばわりが無くならず・・・。いつかアイツが年取ったらシルバーバックって呼んでみよう。

 

「ササ、準備は出来ているでごザルよ!これは神ミアハと神タケミカヅチ双方のファミリアを豊かにする計画・・・名付けて!『ウキウキッ!極東の秘薬で大儲け!』作戦でごザル!」

 

うん。凄い分かった。要するに猿師の丸薬シリーズを売りまくるんだな。それとあれか?お前が猿だからウキウキッ!なのか?それともワクワクウキウキの方か?。いやどうでもいいけど。商品名はお猿印のきび団子だな。

 

「わかりやすい説明ありがとうございます。商品名は『お猿印のきび団子』ですね。」

「何故わかったでごザルか!?」

 

あっ、あってるのね・・・。安直過ぎて・・・ん?丸薬って結構硬かったけど・・・きび団子、団子?間違えて子供とか買ったり、いや性能的に子供の手の届く値段じゃ無さそうだな。無駄な心配か。

 

 

 

 

『青の薬舗』そこにナァーザ・エリスイスはいた。今日も今日とてポーションを作る毎日、しかも自分の主神がほとんど無料でそのポーションを道行く知人や新米冒険者に配ってしまうため、ファミリアの経営は火の車だった。

 

「はぁー。・・・おそい」

 

今この建物にはナァーザ1人だ、主神は友が来るから迎えに行くと言って先ほど出て行ったばかり。ならポーションを作っていれば良いのだがナァーザはその「友」がどんな人なのか、その人に勝手にポーションをあげたりしないかなどお金の心配ばかりだ。あわよくばポーションを買い取ってもらおう、と思っている。

 

最近はベルと言うカモ・・・少年がポーションを買ってくれるが全くファミリアのお財布事情は改善されないのだ。まぁ、たかが1人でファミリアのお財布が膨らむのなら相当な金持ちを捕まえなければ駄目だろう。

 

「妖夢くるかな・・・」

 

とはいえそんな事を考えても無駄だろう。少しでも部屋を片付けておこう。そう考えたナァーザはすぐさま行動に移した。眠そうな顔をしているが別に眠い訳では無い、こういう顔なのだ。眠そうな顔でテキパキと働くその姿は出来る女と言ったところだろうか。

 

「ナァーザよ、たった今戻った。」

 

低めの暖かな声が玄関から聞こえてくる。雑巾がけをしていたナァーザは身に付けていたバンダナとエプロンを外し、玄関に急ぐ。

 

「・・・おかえり・・・お友達は?」

 

一番気にしていたミアハは帰ってきたので次に心配すべきはその友人。一体どんな奴だろう、ミアハに色目を使うバカだったら追い出してやろう。そう思い目に若干力を込める。

 

「ああ、神友であるタケミカヅチとその眷属達だ」

「お邪魔します!」

 

ミアハの紹介で入ってきたのは小さな女の子だ、きっと眷属なのだろう。そう理解し、元気よく返事をする女の子に少し腰を落とし目線を合わせ、頭をなでる。ナァーザは子供が嫌いではない、但しパルゥムてめぇは駄目だ、なぜなら子供のふりしてミアハに近づく輩がいるから。ちなみにこの子は妖夢と言ってたまにここ青の薬舗にやって来る。

 

「わわっ!・・・あ、あの?」

「・・・久しぶり・・・ナァーザお姉さんだよ」

 

この子は冒険者だ。いずれはポーションが沢山必要になってくるだろう、是非!ここで買っていただきたい!ので良い印象を与えておくのも重要だ。

 

「・・・タケぇ~、助けて下さい、ナァーザに捕まりました。」

 

その声の後1人の男が入口から入ってくる。恐らくこの人がミアハの友達なのだろう。男は入ってきて早々ため息をつく。

 

「はぁ、すまない。俺の家族が迷惑をかけたな。」

 

ナァーザは、気配から察するにこの人も神様なのだろう、とそう確信しとりあえずはタケミカヅチと言う神と妖夢を案内する。玄関に猿が居たような気がしたが疲れが溜まったのだろう。しっかりと戸締りはした、鍵もかけた、これで誰かに話を聞かれる心配もない。

 

「・・・ここに・・・座っていて下さい」

「了解したでごザルよ」

「・・・・・・・・・え?」

「え?」

 

(・・・疲れの取れるポーションは・・・どこだっけ。)

 

―猿説明中―

 

「今回紹介するのはこちらの商品!でごザル!」

「ほう」

「・・・」

「癒しの丸薬!これを使えばほらこの通り!ゆっくりと傷を癒していくでごザル!」

「ふむふむ」

「・・・ん」

「え?お高いんでしょう?いやいや!そんなこたぁございません!なんと!なんとですね!今回こちらの商品を買って頂いたお客様には―――」

 

―猿説明カット―

 

(・・・なるほど・・・)

 

既に時刻は夕暮れ、ナァーザは目の前の猿人の男、確か名前は猿師と言ったはずだ。その男のプレゼンを聞き、ポーションとはまた別の有用性をしっかりと理解した。

 

「悪い話じゃ無いはずだ、少なくともそちらに利益はあるだろ?」

 

タケミカヅチの言葉にミアハはふむ、と言って目を閉じる、しばらく考えた後口を開く。

 

「だがやはり・・・こちらに利益が多くはないか?」

 

おいそこかよ。とナァーザは内心主神にツッコミを入れる。確かに好条件だとは思う。

ちなみに条件はこんな感じだ。

 

・まずアイテムを売るのはミアハファミリア、制作は猿師しか出来ないのでタケミカヅチ・ファミリア、猿師の娘が売り子として一人来る。

 

・団員が多いタケミカヅチ・ファミリアが材料を取りに行く。もちろん丸薬のみならずポーションの素材で何かあれば取りに行く。

 

・利益はミアハ・ファミリアが4、タケミカヅチ・ファミリアが6。

 

・変わりにポーションをタケミカヅチ・ファミリアの団員に安く売ってくれ。

 

これだけだ。ナァーザには正直目の前のコイツらは何がしたいんだと思ったが言わないでおいた。しかも妖夢に至ってはぐっすりと寝ている始末だ。タケミカヅチが言うには戦闘員しかいないから販売を任せたい的な事を言う。何故わざわざ私達を選んだのだろうか、ナァーザにはそこら辺の事情が分からない。ミアハとタケミカヅチは神々の会合でなかよくなったらしいが。

 

「だがよいのか?」

「ああ、金稼ぎは程々にしないと面倒くさいからな。主にギルドが。それにここで寝ている妖夢は戦うのが好きなんだ、販売員なんかやらせたらむくれて怒るだろうな。」

 

タケミカヅチが妖夢の頭を撫でながらそんなことを言う。・・・仲がいいなーとナァーザは少し羨むがこちらも決して仲が悪い訳では無い。進展が無いだけだ。

 

「・・・ここまでしてもらうほど恩を売ったつもりは無いのだがな・・・」

 

「そうか?妖夢が言うにはよくポーションをくれるそうじゃないか、お陰で助かった事もあるだろ。それに普段は余り我儘を言わない妖夢がどうしてもミアハの所が良いと言うからな。」

 

あ、やっぱりこの子にもあげてるんだ・・・。ナァーザは若干耳が垂れるのを意識して直す、ナァーザはシアンスロープなのだ。それにしても妖夢が言ったのか・・・。チラリと妖夢の方を見るがまだ寝ている。

 

「ふむ・・・信用が大事と考えてはいたが・・・こうなるとは予想していなかったな」

 

ミアハが感慨深いと言ったふうに呟く、ナァーザがジト目で見ている事には全く気が付かない。

 

「・・・もう少し考えさせて・・・そもそも売れるか分からないし」

 

嬉しいし願ってもない提案だが、一旦話はお開きにして色々と考えよう。極東では大ヒットしたらしいが、裏がある可能性だってある。ナァーザがそんな事を考えていると妖夢が起きる。

 

「ふあ〜。・・・終わりました?」

 

タイミングいいな、なんて思いをその場の全員が感じた事だろう。なぜなら半霊モードで妖夢は部屋の中を飛び回ったり外に出かけたりしていたのだから。気を見計らって戻ってきたのだ。

 

「ああ、もう少し考えてみるそうだ。・・・そう言えば引越しの手伝いをするんじゃ無かったのか?」

「・・・ハッ!!お猿さん!?早く行かなきゃ!」

「そんなに焦る必要はないでごザルよー」

 

騒がしい人達だ、ナァーザはそう思い耳を垂らすのだった。

 

 

 

 

 

 

どうもー俺ですよー。・・・何でミアハ・ファミリアにって?そりゃあよくポーションも貰うし買うし、いい人達だと分かっている以上ここしかないだろ!双方がお金を稼いで幸せになるのだ!て感じだ。

 

・・・てか既にタケに戦闘狂認定されていたでござる!なんてこったい!まぁ、否定はしないがな!にしても引越しの手伝い忘れてたよ、怪物祭に気を取られ過ぎたか・・・。

 

社会がどうのこうの何て知らん!15で死んでるから何もわからんのでそこら辺は猿に一任している。タケも戦闘のやり取りは出来ても商売は無理だ。

 

猿はディアンケヒト・ファミリアに売ろうと言ってきたが俺が一生懸命ミアハ・ファミリアが良いと思うと説得したのだ。体全体を使って表現しました、伝わってよかった。

 

あと2日で怪物祭、明日は引越しの手伝い・・・やってやるぜ!




ナァーザが出したかった、ただそれだけです。

早く例の紐さんを出してあげたい(願望)

ってそんな事よりお気に入りが1000を超えました!やったー!(≧∇≦)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話「斬れない物などあんまりない!」

今年最後の投稿です!来年もよろしくお願いします!


「〜〜♪〜♪」

 

機嫌良く鼻歌を歌いながら街中を歩く。目的地はホームから少し離れた一軒家、値段は600万ヴァリスほど。なかなか上等な家で、小さいが庭が付いている。妖夢は桜花たちと猿師の自宅を訪ねに歩いていたのだ。

 

「こんにちはー」

 

桜花が代表し玄関のドアを開け声をかける。すると「はーい」と若い女性の声が聞こえこちらに走ってくる足音が徐々に大きくなる。

 

「ああ、どうも!いつも父がお世話になっています」

 

どうやらこの人が猿師の娘さんらしい、あ・・・どうも!俺です!妖夢です!今は猿師の自宅に来ているぜ!中から出てきた猿師の娘さんは黒い髪を肩まで伸ばし薄い茶色の瞳をした美人さんだった。・・・ふむふむ、スタイルいいなー羨ま妬ましい。・・・てかやっぱり猿顔じゃないのね。

 

「いえいえ!猿師殿にはこちらの方がお世話になっています!」

 

命は首を横に振り、手を自分の胸の前でブンブンと振りながらそう言う、命の事だから言っている事はお世辞では無いだろう。・・・お婆ちゃんは何処だろう?

 

「あの、お婆ちゃんは何処ですか?」

 

む、そこ、落ち着きが無いとか言わない!五年ぶりに知り合いに会うんだぞ?なんて言うか微妙な緊張感があるんだ!

 

「あら?もしかして貴女が・・・ええ、お婆ちゃんなら中でお茶を飲んでいますよ、立ち話も何ですし中へどうぞ」

 

・・・・・・有り得ん、この淑女の父が猿だと言うのか?・・・否!断じて否!いやだって可笑しくね!?ごザルごザル言ってる奴の娘超まともじゃないですかやだー!てっきり「わちきは猿師が娘、〜〜でありんす」とか言うのかと・・・。あ、でもお婆ちゃんまともだったし猿師が異常だっただけか、まぁ三角飛びとかしてたけど。

 

「はい、お邪魔します!」

「「お邪魔します」」

「お、おお、お邪魔しますぅ・・・」

 

全員で元気よく返事して猿家に突入!ひとり若干声が小さかったがむしろ頑張った方なので褒め称えて上げてくれ!さぁ、果たしてどんな内装なのか・・・ってまだ引越し途中じゃん・・・内装は無いそうです・・・コホン、娘さんを先頭に少し廊下を進み目的の部屋までやって来る。この先にお婆ちゃんが・・・!襖を開け奥に入る。

 

「ズズーーゥ!ハァ・・・お茶は美味しいねぇ・・・うんうん。」

 

おおお!めっちゃお婆ちゃんしてるよお婆ちゃん!うんうん、お婆ちゃんはそうでなくちゃ!あんな無理して三角飛びとかしなくていいんだよ!そうやってコタツでゆっくりとしていてくれ、大丈夫、ミカンも煎餅も俺が買って来てあげるぜ!まだまだ恩は返せていないんだ。そんな事よりもお婆ちゃんだ!のりこめ〜^^と行きたいがやはりここは成長を見せる時、大人っぽく冷静に行こう。

 

「こんにちはお婆ちゃん。お久しぶりです。」

 

ふっ、見よ!どうだ!あの時から身長が2cmも伸びたのだ、凄いだろー!あの時とは違うのだよあの時とは!

(  ・ˇ∀ˇ・)アハ八ノヽノヽノ \ / \

 

「ほうほう・・・こんにちは、・・・変わらないねぇお嬢ちゃんは。」

 

ガビーン!一瞬で否定された!この間約2、3秒!

 

「ガミョーン!」ガク

 

ま、まあいい、成長とは身長だけが物語る物では無いのだよ・・・、そう、キビキビと働けばきっと成長に気づいてくれるはず!

 

「ハッハッハ、手伝いに来てくれたのかい?ありがとうねぇ、アタシも流石に腰に来てねぇ」

 

うんうん、俺達に任せておけ!・・・ってそう言えばお婆ちゃんの名前知らなかったな俺。聞いてみようか。

 

「はい!私達に任せてゆっくりしていてください!・・・そういえばお名前を聞いていませんでした、教えてくださいませんか?」

 

出来ればお婆ちゃんだけでなく娘さんや今ここには居ないようだが猿の奥さんの名前も知っておきたい。お婆ちゃんはニコニコしながら教えてくれる。

 

「そう言えばそうだったねぇ、アタシの名前は猿飛 陽和梨(さるとび ひより)だよ。よろしくねぇ、この子がアタシの孫で猿飛 純鈴(さるとび すみれ)だよ」

「うふふ、純鈴よ。よろしくね」

 

おおー!陽和梨お婆ちゃんか・・・なかなかいい響きじゃあないか!!それと純鈴さんね。うんうん、美人さんだ。名前から滲み出る美人さんだ。本当にエリートなんだな猿師って。妬ましくなんてないやい!純鈴さんを見る限り猿師の奥さんも綺麗な人なんだろうなー。

 

「ただ今戻りんした、ん?もしかして猿師の言っていた子供たちでありんすか?」

 

凛と響く高めの声、声だけで確信する、そう、美人だ、絶世の美女だ。お!の!れ!リア充めー!爆刺孔ぶっぱなしてやる~、なんてね。人の家族を引裂くような真似は絶対しないさ。俺は期待を押し込め振り返る、そこには―――

 

「ふふっ、私は猿飛 清美(さるとび きよみ)だ、以後よろしくお願いする。」

 

ゴリラが居た。

 

いや何でだあああぁぁぁあ!可笑しいだろぉおお!なんだよ美声のゴリラって!?いやゴリラである事を否定しようとは思わん!でも何で猿とゴリラからこんな美人が生まれるんだよ!何算?!足したの?!引いたの!?割ったのか!?√でも使ったのかああぁぁぁあ!?

 

俺は口を開いたまま固まる、仕方ないだろこれは。一体どこら辺が清美なんだ、清いどころか毛むくじゃらだよ、もうシンプルに剛力羅で良かったのでは?・・・いや、失礼すぎるな例えゴリラでもレディですからね、失礼は駄目だ(白目)

 

チラリと桜花や命、千草を見てみる、桜花も口を開いたまま固まっており、命はこんな失礼な事を考えてしまい申し訳ない、みたいな今すぐに土下座でもしそうな顔をしている。千草は・・・あ、倒れた。

 

~少女引越し手伝い中~

 

「これはこっちですか?」

「ああ、そうだよぉ」

「なあ、猿師さん、これは何処に?」

「ん?そうでごザルなー、そこに置いて欲しいでごザル。」

「ん、わかった。」

「ふふ、千草と言ったか、怖がらせて悪かった、スキルを使うとこの様な有り様になってしまうんだ。悪気があった訳ではないんだ」

「そ、そそうですか、ごごごめんなさい!」

「あはは、お母さん怖がってるじゃない、離してあげて」

「ほれほれ、お前さん達、子供たちばかり働かせるんじゃないよぉ」

「ああ、わかっている」

 

~少女引越し手伝い終了~

 

「終わりましたね。」

 

終わった、まさか丸一日使うとは・・・、家もなんだかんだ広かった、清美さんが「地下室でも作るか」とか言って床に穴開けたのはビビった。意外に丁寧に作っていて驚いたよ。どうやら地下室は猿師の研究室として使うために作ったらしい。まだまだラブラブのようだ。清美さんのスキルは解除され、黒髪ロングの美人さんに変化した。これも驚いた。もう何ていうか驚いてばかりだよ、もしかして猿も実はスキルで猿になってるんじゃ?

 

「ああ、終わったねぇ。さぁどうだい?タケミカヅチ様や、今夜はうちで夕餉を共にするのは」

 

おお?お婆ちゃんから夕食のお誘いが!やったー!お婆ちゃんのご飯は久しぶりだぞー!久しぶりに会ったお婆ちゃんの料理って美味しいイメージがあるんだよね、俺だけかな?タケぇ!もちろん食べるよな!?

 

「タケ!もちろん食べますよね!」

 

俺ははやる気持ちを抑えてタケに期待を込めた目をむける、命や千草も同じような眼差しをタケミカヅチに向けている。というか千草は清美さんに懐いたらしく抱っこされてる。

 

「ははは、そうだなぁー、桜花、団長であるお前に聞こう。どうする?」

 

タケは笑いながら桜花に話を振る。ニコニコしているしタケも賛成なのだろう。

 

「え!そこ俺に振ります?・・・俺は是非頂きたいですけど・・・」

 

よっしゃあ!!手伝いはまかせろーバリバリー!命達も頑張るぞ!

 

「よし!お手伝いしますね!命!千草!頑張りますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

バベルの塔にて、オッタルは女神フレイヤに呼び出されていた。

 

「うふふっ、オッタル聞いて?私いい事を思いついたのよ!」

 

(フレイヤ様のテンションが高い・・・可愛い・・・)

 

オッタルは仏頂面のまま、内心そう思う。一体我が女神は何をするつもりなのだろう、そんな事を一瞬考えるがすぐ様捨て去る、フレイヤが言う事がオッタルにとって全てなのだから。

 

「貴方があんまりにもシャイだから、仲良くなれるように考えたの。うふふ」

 

(笑う姿も美しい・・・しかし、・・・やはり見られていましたか)

 

「・・・お恥ずかしい限りです」

 

フレイヤの少女のような笑いはしばらく続き、やがて妖艶な微笑みに変わる。

 

「モンスターフィリアのモンスター達に銀髪の少女と白髪の少年を狙う様に命令するわ・・・そこでオッタル、貴方が少女を助けるの、そうすれば貴方も話しかけやすいでしょう?」

 

オッタルは頷く、しかし首を縦に触れない部分もあった。

 

「ベル・クラネルにモンスターを退けるだけの力があるかどうか・・・」

 

先程言った通りフレイヤの命令ならば即座に頷き決行に移すオッタルであってもフレイヤのお気に入りに何かあってはフレイヤが悲しむ可能性がある、そう考えモンスターを間引く必要性を感じたのだ。

 

「いいえ、必要ないわ。あの子には・・・そうねぇギリギリ倒せそうな子をぶつけて見ましょう」

「分かりました。」

「じゃあ妖夢の所に行ってらっしゃい?」

「?何故ですか?」

「戸惑うオッタルが見たいからよ?」

「・・・・・・かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

タケミカヅチ・ファミリアのホームの玄関先で全員が並んでいた。タケにここに並ぶ様に言われているのである。

 

「よーし集まったな、今日は怪物祭だ!ちゃんとチケットは取ってあるから皆でいくぞ!」

「「「おーー!」」」

 

皆、最低限身を守れる程度の武器を携帯し、防具などは外している。俺と千草のおかけで遠足のように思われるかも知れない、・・・そう、今日モンスターフィリアなのだ!俺は普段から防具なんて付けてないし武器も半霊の中だ、つまり俺は戦う準備万端なのである。しかしまさかチケット取ってあるとは・・・。

 

「おやつは500ヴァリスまでだぞ~」

 

遠足かっ!ここは乗ったほうがいいよな?

 

「せんせーバナナはおやつに入りますかー?」

「誰がせんせーだー、バナナはタンパク質が豊富で筋肉にいいからおやつには入りませーん」

「はーい」

 

のってくれたよ、入らないんだねバナナ。俺は隣を歩く千草を見る、いつもとは違い小さいリュックを背負っている千草は小学生みたいだ。・・・つまりは俺もそんな感じに見られているわけで・・・悲しい。

 

 

 

コロッセオのようになっている闘技場の中心で美しく着飾ったガネーシャ・ファミリアの団員がモンスターの攻撃をひらりひらりと躱しながら攻撃を加えていく。すれすれで避ければ避ける程観客の歓声は大きくなる。

 

命や千草、桜花までもその巧みな技に驚きの声を上げている。そんな中俺だけはそわそわと辺りを見渡し、耳を澄ませる。もうそろそろかな、まだかな?と。ここにいても歓声がうるさくて外の騒ぎは聞こえない、ならば仕方が無い、自分から外に出るしかないだろう。

 

「タケ?少しトイレに行ってきますね」

「ん、わかった。早く行ってこいよ?」

「はい」

 

薄暗い廊下を歩きながら武装を整えていく、背中に長刀を1、刀を1。まぁ、これしか武装する物はないが。外から騒ぎは聞こえない、まだ始まっていないようだな、少し安心した。

 

外に出る、沢山の出店が並び観光客で賑わっている。事件のキーとなるのは白髪の少年ベル・クラネル。探す―居た、200mほど向こう、僅かに白髪の少年が見える、まだヘスティアには会ってないようだ。もう少しで物語が進む、ここにいては邪魔になってしまうだろう、少し位置をずらそう。俺は回れ右をして歩いていく。―ゆっくりと魔法を唱えながら。

 

 

 

 

 

「グオオオオオォオォォオオオオ!!」

 

爆音と共に現れたモンスターの群れは雄叫びを上げる。何かを探すように左右を見渡したかと思えば不自然なほど全く同時に同じ方向へ振り向いた。彼らの頭の中にあるのは「小さな私を愛して」と言った銀髪の女神だけ。

 

「グオオオオォオォォオオオオ!!」

 

1匹を除いて全てのモンスターが一斉に走り出した。

 

「逃げましょう神様!」「え?ええ?!ベル君引っ張らないでおくれよ~!」

 

本来の歴史とほんの少しだけ変わってしまった物語、けれどベル・クラネルの物語は大きくは変わらないだろう。彼が英雄である事は紛うことなき事実なのだから。

 

 

 

(魂魄妖夢を発見した―これより護衛任務を遂行する。)

 

会場から出てきた妖夢をオッタルはすぐ様追跡していた。妖夢は何かに集中しているようでオッタルには気づいていない。

 

(何故人のいない所に・・・?・・・魔法?)

 

オッタルは辺りに人がいない事に気がついた、そして妖夢が魔法を唱えている事も。

 

(・・・まさか・・・・・・気づいているのか?)

 

人の居ない広場に向かおうとしているのだろう、妖夢の足取りは確かだ。

 

(もしも計画が魂魄妖夢にバレているのなら助けに出た所で意味は無い。むしろそんな出来レースを仕掛けたこちらに友好的な態度はしめさないはずだ。)

 

詠唱が終わったのだろう、無言で歩いていく妖夢を遠くの屋根の上から観察する、すると後ろから爆発音がした。始まったか、オッタルは後ろをチラリと確認して妖夢に向き直る。そして驚愕した、笑っているのだ。まるでこれから起こる事が分かっていたかのように。広場の中央に陣取り何かが来るのをじっと待っている。

 

(やはり・・・気づいていたのか・・・何故気づかれた?気付く要素など欠片も無かった筈・・・気付かれているならば俺が出るのは魂魄妖夢が危機に瀕した時だろう、例え命令をこなせなかったとしても死なれるのは困る。)

 

地響きが大きくなってく、モンスター達がこちらに向かって来ているのだろう。

 

「グオオオオオォオォォオオオオ!」

 

獲物を見つけたと喜びの雄叫びを上げ、種類に纏まりの無いモンスター達が妖夢を囲む。オッタルが調べた情報では魂魄妖夢の到達階層は17階層であり、それ以降のモンスターは知らないはずだ。

現れたのは巨体に似合わぬ俊敏さを持つバグベアー。トンボのような外見のガン・リベルラ。虎を模したライガーファング。170Cを超える身長を持つリザードマン。上級殺しのデッドリー・ホーネット、そしてミノタウロス2匹だ。

 

レベル2、いやレベル3でも1人では死を連想させるであろう面々が揃ってなお魂魄妖夢はわらっている。

 

(・・・どこまで知っているのだ、魂魄妖夢)

 

妖夢は手を目の前にかざす。すると魔力と霊力がそこに集中していく。

 

(なんだ?・・・魔力ではない・・・?)

「―に斬れない物など、あんまり無い!」

 

空が光輝き1振りの刀が現れる。そして辺りに霊力がまき散らされる、そして、妖夢の姿が霞んだ。

 

 

 

 

 

「急いで!ティオネ!」

「わかってるわよ!」

「お、お二人とも待ってください~!」

 

ロキ・ファミリアの第1級冒険者であるレベル5のティオネ・ヒリュテとティオナ・ヒリュテは突如逃げ出したモンスターを追って街中を走っていたのだが人混みに邪魔され見失っていた。レフィーヤ・ウィリディスも懸命にその後を追う。

 

「ったく!何なんなのよあのモンスターども!私らを無視しやがって!」

「なんか変だったね」

「はい・・・」

 

3人がキョロキョロと辺りを見渡していると光り輝く花びらのような物が空中に光っているのを見つけた。

 

「みてあれ!きっとあそこだよ!」

 

ティオナがそう叫び指さす。全員が頷きその方角を目指し走り出す。同じ轍は踏まない、人波に飲まれないように屋根の上を走っていく。

 

 

 

その同時刻アイズ・ヴァレンシュタインも光に向かって走っていた。アイズはギルド職員であるエイナ・チュールにモンスター達が同じ方向に走って行ったと報告を受け、行動していた。彼女の記憶の中に光る花弁を飛ばすモンスターは居なかった、つまりは誰かが魔法か何かを使っているのだろう。そう思い被害を減らすために走る。

 

「あ!アイズ!」

 

聞きなれた声がアイズの耳に届く。声の主はティオナだ。

 

「ん、ティオナ、どうしたの?」

 

そう聞いてみるがきっとティオナ達もモンスターを追っているのだろう。そうアイズは思う。

 

「えっとね、モンスターを追っかけてたんだけど見失っちゃって光が見えたからそっちに向かってる。・・・・・・ねぇ、アイズ・・・この感覚って・・・」

 

「・・・うん」

 

近づいて行くたびに強くなっていくこの感覚、それはほんの少し前にベートと妖夢が戦った時に感じたものだった。アイズは少し焦る

(あの子には聞きたい事が沢山ある・・・!)

 

「は、速く助けないと?!」

 

レフィーヤも何を言っているのか理解したようで焦り始める。アイズは頷き走り出す。ティオナ達3人もそれに続いた。

 

(待っていて・・・助けるから。)

 

 

 

 

 

バグベアーの首が地に落ちる。やや遅れて体も横たわった。

 

「まずは1体」

 

バグベアーの首を落としたのは柄に柔らかな毛がついた1振りの長刀、刃は鋭く、謳い文句の通りに斬れ無いものなどあんまりないと主張しているかのよう。妖夢は血払いし、構える。

 

「グワアァッ!」

 

妖夢は一切動いていないというのにリザードマンが血を吹き出して倒れ灰になる。その背後には赤い目をした妖夢が刀を振り切った体勢で笑っていた。

 

『これで2体。・・・包囲したつもりだったか?』

 

ニヤニヤとそんな言葉を残し消えていく。すると妖夢の隣に現れ刀を肩に担いだ。

 

「どうしましょうかハルプ」

『ハルプって・・・まぁ自分で自分の名前呼ぶよりいいか。・・・とりあえずうざったいトンボを落とそう。・・・落ちろカトンボ!』

 

ハルプはガン・リベルラに向かって弾幕を撒き散らす、避けようとするガン・リベルラであったが如何せん数が多く、簡単に羽を切り裂かれ墜落する。

 

「任せます!」

 

そう言って妖夢はライガーファングに向かって走り出す。

 

(・・・助けは必要ないか・・・しかし・・・あの魔法、いやスキルか?あれは危険だな。)

 

オッタルはその一方的な戦いを見て思う。何のスキルか分からないが分身出来るのであれば並大抵のモンスターなど相手にならないだろう。そして相手の後ろに分身が現れた事から暗殺にも使う事が出来るだろう。

 

『へいへい!任せておきな!これで3体。』

 

ガン・リベルラがハルプに切り裂かれ半分になる。

 

『おそろいだな♪』

 

陽気に笑うハルプに対し妖夢は真剣そのものだ、さっきまで笑っていたが。走って突っ込んでくる妖夢に対しライガーファングは爪を振り下ろす。それを楼観剣で受け流しながら横に跳ねる、振り下ろされた爪は地面を砕き動きを止める。

 

「4体・・・。」

 

そう言った瞬間ライガーファングの首が地に落ちる。横に跳ねた瞬間に切り落したのだろう。

 

『いやー、楼観剣切れ味すげー、張り合い無いだろ。予想より沢山モンスター来たけどよー?』

「もしかしたらあの蜂が強いのかも知れません。」

『・・・シルバーバックが見えねぇな・・・ベルの方に行ったか?』

 

(・・・!そんな事まで知っているのか・・・侮れんな)

 

オッタルが妖夢への警戒心を更に高めていると、人と思しき足音が複数広場に向かっているのをオッタルの優れた聴力が捉える。

 

(速い・・・音が軽いな・・・金属音もする、女冒険者か・・・)

 

「大丈夫!?助けに・・・あ、あれ?」

 

アマゾネスの少女が大声を上げると同時にミノタウロスの両腕と首が同時に吹き飛ぶ。血しぶきの中から妖夢が現れる。

 

「およ?ティオナにティオネ?それにアイズにレフィーヤも・・・どうしたんです?」

 

まだ敵が残っていると言うのに刀をしまいこちらに歩いてくる。無論モンスター達もその隙だらけの背中を狙おうと迫ってくる。

 

「危ない!」

 

レフィーヤが叫ぶ、デッドリー・ホーネット、そしてミノタウロスが妖夢の背後に迫っていたのだ、猛毒を秘めた毒針、あの細い体を破壊するには十分すぎる拳。そして妖夢はよそ見をしている、レフィーヤの敏捷では間に合わない、ギュッと目を閉じる。強烈な風が吹き荒れ―しかし恐れた事態は訪れない。

 

「・・・大丈夫?」

 

モンスター達は一瞬にして体中に線が走り、次の瞬間には細切れになった。そしてそれを行ったのはアイズだ。助けられた妖夢はと言うと若干残念そうな顔をしている。

 

「むー、振り向きざまにギガスラッシュでなぎ払おうと思っていたのですが・・・」

 

 

 

 

 

 

 

あー、アイズに獲物を取られたよ。俺ですよ。ったくさー花のモンスターと戦ってなさいよ、俺の獲物を取るんじゃないよー、タケに言われて17階層よりした行けないんだぞ!・・・あぁ折角20階層より下の敵と戦える機会が・・・いやまぁ助けてくれたのは嬉しいけどさ・・・。ん、所で花のモンスター以外ほぼ全部俺のところ来たけど・・・ちゃんと花のモンスター倒したのかな?アイズ普通に剣持ってるんだよね・・・。聞いてみるか

 

「アイズ達は他にモンスターを倒しましたか?」

 

アイズは首を横に振りティオナ達は互いに顔を見合わせた後首を横に振った。・・・へ?

 

「私達はモンスターを追いかけていたのよ、でも貴女とアイズだけで十分だったみたいね」

 

ティオネが呆れたようにそう言うがら俺は刀を抜き周囲を警戒する。アイズ達は俺の行動に違和感を覚えたのか周囲を確認し始める。

 

「・・・まだいるの?」

「音は・・・聞こえないけど」

 

アイズ達は俺の方を見る、そりゃそうだ、あの怪物が来ることを知っているのは俺だけで、奴は突然現れたし。・・・確か奴は魔力に反応してやって来るんだったか・・・つまり今さっきまで魔法を使っていたここに現れるのは当然と言うわけで―――。突如地面が揺れ始め、蛇のような何かが舗装された広場を突き破り現れる。

 

「蛇のモンスター!?」

 

来たか・・・相手は確か植物・・・なら・・・あの技だな・・・!

 

俺は再び笑みを深めた。

 




来年も頑張りますね!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話「スイッチ!」

投稿ですー、今回は戦闘多め!


うおおおおおおぉ!全開のあらすじぃ!猿家の引越しを手伝いに行った!久しぶりにお婆ちゃんに会った!綺麗な女の人とゴリラに出会った!あ、ついでにモンスター倒してたら花のやつが出てきた!以上!

 

 

―そう、今俺は花のモンスターと戦っている。名前は確か――あれ?ワカンネ。と、とりあえずまぁ置いておいてだな。・・・奴の性能についてだ、打撃は無効、魔力を感知する性質があり、無駄にでかい。まっ、触手をぶった斬ればいいだけの簡単なお仕事ですよ、ハハハ!・・・怪しまれるかも知れないが弱点は教えておこう、スキル的にも後で言い訳はできそうだしね。

 

「皆さん!あのニョロニョロに打撃は通じません!斬撃で戦って下さい!魔法を使おうとすると攻撃してきます!」

 

よし、言いたい事は伝えた、後はティオナとティオネ武器を・・・や、ヤバイそう言えば全部ロキファミリアに返しちゃったんだ・・・。が、頑張れ二人共。

 

「なんで知ってるのよ、ってか私達武器あずけてるから無いわ!」

 

でーすよねー、知ってた、まぁ俺とアイズがいれば――フブッ!!

 

 

「ウグッ!?――ガハッ!!」

「妖夢!?」

oh......よそ見してた・・・そういやコイツ50階層位のモンスターだっけ?わかんねーが不意打ちはどうなんすかねー、痛いなーこりゃあ。一撃で肋骨持っていかれたよ。あぁ・・・拝啓・・・顔も知らない両親へ・・ってんな事やってる場合じゃねぇ!俺は痛みを無視し、飛び起きる。

 

「大丈夫です、人間には206本ほど骨がある・・・らしいです。たかが1本ですよ」

 

ズキズキと痛みが体を走るが我慢出来ないほどではない。ドヤァ!

 

「ハッ!」

 

アイズが抜刀と同時に走り出し、触手による叩きつけや薙ぎ払いを回避し接近。一瞬にして切り刻む。

 

「おおー!もう私達要らないんじゃない?ティオネ」

「用心する事にこしたことはないわ」

 

そしてもう1本を斬り飛ばしたときアイズの表情が一瞬変わる。・・・なるほど、武器がもうダメか。変わろう。

 

「アイズ!もうその武器はダメです!変わってください!スイッチ!」

 

アイズの目が僅かに見開かれる。剣の状態を見極めた事に対してか、はたまた無謀に見える行為に驚いたのか、スイッチと言うただ俺の言いたかっただけのセリフに驚いたのか・・・前者だな。たぶん。

 

アイズと入れ替わる、推定レベルがどれくらいか分からないが正直攻撃が殆ど見えない、上空で待機させている半霊からの視覚情報が無ければ多分1発も避けれないだろう。

 

「くっ!」

 

直撃こそしないが奴が触手を叩きつけた時に瓦礫が飛んでくるのは正直面倒い、当れば怪我は必須だ、・・・だが俺は弾幕ごっこと言う遊びを知っている、やりたいけど他に出来る人が居ないのと、飛べないので半霊から撃ち出される弾幕をひたすら避ける自主訓練だったけど。まぁつまり飛んでくるの物を避けるのは得意な訳だ。

 

とはいえ、ほんの数十センチ横から飛来する瓦礫を避けきれる訳もない、かすり傷が増えていき、傷跡からは血がにじむ。

 

「はぁあ!」

 

こちらも隙あらば攻撃を加えていくが・・・表面を若干削る程度しか効いていない・・・。武器の質もステイタスも全く足りていないのだ。表面だけ硬いという可能性もあるか。・・・とはいえ普通の冒険者ならばここで諦めるだろう、自分の体力は削られ傷だらけになり、しかし自分の攻撃は通じないのだから。

 

「ちょ、ちょっと!逃げなさい!貴女死ぬわよ!?」

 

だが侮る無かれ、おれを「普通」にしてしまったらダンジョンはとうの昔に攻略完了してるぜ?俺は背中のもう一本の刀を引き抜く。

 

「・・・ふふ、試してみますか?」

 

フッフッフッ、植物に生まれてきた事を後悔させてやろう・・・。ほんの少しだけ怖いが仕方ない・・・クックックッ。食らうがいい自らをも焼く灼熱の剣、朧・焦屍剣をなぁ!更に!速攻魔法!煉獄切りを発動!チョー燃えるぜ!ウオォォォォアッチィィィイ!

 

右手の長刀で朧・焦屍剣、左の刀で煉獄切り。夢のコラボレーションってやつさね。・・・あ、熱くなんか無いんだからね!

 

「ぐあああああああああああっ!っく!」

 

ウオォォォォアッチィィィイ!かっこつけたけどやべー!・・・こういった炎を纏わせたりする技は魔力を消費する、つまりは奴のターゲットは俺に絞られる訳で、奴は触手の1本を俺に振り下ろす。俺は左にサイドステップして回避、そして弧を描くように右下から振り上げ触手を切断する。

 

「ええ?!魔法?!」

 

や、やべぇよこれ。煉獄切りだけで良かったかも知れない・・・いやでも斬った感じだと刀の切れ味が足りないな、朧・焦屍剣で強引に焼き切ってる感じだった、つまりは朧・焦屍剣が必要なわけで・・・やべえよ右手が美味しそうな音たててるよ!ジュージューいってるよ!

 

その時、蛇のような見た目をしていた触手が開く、人などパクリと一口で・・・ハッ!まさかパックンフラワー!?

 

「えぇ!?蛇じゃなくて花!?」

 

ティオネが驚きの声を上げる、さっきからいいリアクションですね。口の様になっている花が高速で俺を食らおうと突っ込んでくる。正直、コイツを倒すだけなら苦労はしないと思う。ただ現在の戦場がオラリオの街中である、という事が俺に広範囲攻撃をさせてくれない。長刀と刀を鞘に納め、刀の鞘を腰に移動させる・・・鞘が焼ける音がする。―先手は譲ろう、だが俺はその先をゆく。

 

「―奥義 天翔龍閃――」

 

この技を使う限り、俺は絶対に後出しで相手よりも速く打点を加えなければならない。・・・まぁ後出しジャンケンは最強って事さ。だが武器の切れ味が足りない以上ほかの何かで補う必要がある、まぁ焼き切るだけなんだけどさ。

 

「―【朧】っ!」

 

眼前に迫っていたパックンフラワーは真っ二つに斬り裂ける。・・・ドヤァ!合体技だぜドヤァ。とはいえこのままだと斬った触手にぶつかってどの道ヤバイ、なら・・・。某VRMMOの二刀流スキルを借りるとしよう。

 

「スターバースト・ストリーム!」

 

もちろん武器切れ味が足りない以上焼き切るという行為が必要なわけで振り切った状態から左手で背中のもう1本の刀を抜き放ち叫ぶ。ウオオオォォ!両手がアッツーい!!朧・焦屍剣でヒートブレードの如く赤く輝いているのにスターバースト・ストリームのエフェクトで青く輝きなんかもう凄いことになっているよ!

 

「はぁあああっ!」

 

バラバラに斬り飛ばした触手は近くにボトボトッと生々しい音を立てて落ちた。半霊でチラッと後ろを見ればティオナが唖然としているのが分かる、ふっ、俺に触れると火傷をするぜ?(現在進行形で火傷中)

 

後は本体を叩くだけ。本体はでかい花だろうか、変わった所は。・・・だがここで困った事が1つ。俺は武器を落していない、しかし最早右手に感覚は無くなっていて、いつ武器を落しても可笑しくないという事だ。左腕はまだまだ使えるし、幸いアイズの武器もまだ完全に壊れてしまった訳では無い。とはいえ不安要素はまだある、確か原作ではレフィーヤの魔法で一撃で仕留めていた、もしかしたら一撃で仕留めないとダメみたいなやつかも知れないし・・・あんまり原作から乖離させるのもあれだし、てことでレフィーヤに魔法をぶっぱなして貰おうそうしよう。あれ?なんか痛みのせいか上手く思考が・・・。

 

「レフィーヤ魔法を!一撃で倒せる魔法使ってください!時間は稼ぎます!」

 

そうだ、時間稼ぎが必要だな。スキルのお陰であらかたコイツの攻撃パターンもわかった、時間稼ぎならまだまだできそうだ。

 

「私達も!」

「ええ!任せてられないわ!」

「うん。」

 

おお!これは夢の共演ってやつかい?まさかオラリオ最高峰の冒険者達と一体のモンスターを相手にするなんて夢のようだ。だがこれでレフィーヤが魔法を詠唱するまでの時間を容易に稼げるだろう。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

暴風が吹き荒れる。ええ?!何事?!俺はアイズが血迷ったのかと思ったがそんな事はなく、俺とティオネが先程たっていた足元から触手が飛び出して来ていたのだ、ナイスだよアイズ!しかし真横で暴風なんか吹いたら軽い俺は吹き飛んでいく訳で、あ、ティオネさんも軽いよ?でかいけど。(何がとは言わない)

 

「あぐっ!いたたた・・・大丈夫?」

「うぅ・・・はい・・・大丈夫です」

 

俺を受け止めるティオネのさり気ない気遣いに感謝しつつ、レフィーヤに魔法詠唱をしてもらうためには時間を稼がなくてはいけない、アイズがエアリエルを使っている以上接近戦は無理だ、とか考えていうちにアイズの剣がぶっ壊れる。アイズは仕方なくエアリエルでぶん殴る事にしたらしい。

 

「【ウィーシェの名のもとに願う 】」

 

それと同時に詠唱が始まった、エアリエルとレフィーヤの魔法では魔力量に差がある。持続的に魔力を消費するエアリエルと、溜めてから放つ長文詠唱ではきっと奴の優先度は違うのだろう、急に目の色を変えて(目ってどこだろう)レフィーヤを狙い始める。・・・ここは俺に任せろ!

 

「させません!」

 

迫る触手を防ぐのは正直俺のステイタスじゃ無理だ・・・だがここには俺以外にも冒険者は居るのだ・・・。それは―

 

「――大丈夫か・・・名も知らぬ少女よ」

 

低い声が聞こえると同時に触手が粉々に切り刻まれる、男は身長2mを超える巨体で筋肉質、そして何より頭に二つの可愛らしい猪の耳を乗っけている。―そうティオn・・・オッタルだ。

 

え?

 

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。】」

 

詠唱は続く、確かに時間は動いている様だ、ただこの瞬間、目を瞑り一生懸命魔法を詠唱しているレフィーヤを除き、俺を含めて全員が固まった。誰もがこう思っただろう。・・・オッタルかよぉぉおおおおおお!?と。

 

「・・・騒ぎを聞きつけてな、もう一度聞くが・・・大丈夫か?」

 

殆ど一定の音程で俺の安否を事務的に聞いてくる、しかしその表情はどことなく俺の身を案じている様にも見えた、いやいや、自意識過剰だな。落ち着いてちゃんと返事しなきゃ。

 

「だだっだ大丈夫ですっ!?」

 

落ち着いてねぇ!?全く動揺を隠せてねぇよこれ!

 

「元気はある様だな、安心だ」

 

そう言って微笑むオッタル、どことなく無理をしている様に見えるが俺って外見子供だしな、安心させようと慣れないことをしているのだろう。や、優しい・・・。

 

「【繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか――力を貸し与えてほしい】」

 

・・・って詠唱の第一段階が終了したみたいだな、あと少し踏ん張れば・・・!俺が前に進もうとすると目の前に大きな手が。

 

「ここは俺に任せてくれないか?新人を護るのも俺の勤めだ」

 

オッタル・・・あんたいい奴だなぁ・・・。でもさ、首を突っ込んだのは俺なんだ、最後までやらせてくれよ。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風(うず)を巻け。】」

 

「すみません、私が始めた戦いです、私には終わらせる義務がある」

 

俺の言葉にオッタルは目を見開く。そして頬を緩めニヤリと笑う。

 

「・・・思い違いだったか?・・・いや、予想以上だな・・・名は?」

「魂魄妖夢」

「・・・魂魄妖夢、悪かったな、駆け付けるのが遅れた」

 

遅れてなんかないさ、むしろナイスタイミングだ、こうして会話をしている途中も大剣を片手で操り、レフィーヤに迫る触手を防いでいた。・・・強いな、まだまだ勝てそうにないわ・・・こりゃ。

 

俺は刀を構える、残る触手は2本、―あと1本くらいは持っていくか・・・。これはとある死神がつかった・・・いや、この技こそがその男がその男たる為の一撃。唯一の必殺技。膨大な霊力を使い斬撃を巨大化させる・・・ただそれだけの技だ。しかし、それゆえに強い。

 

「行きますっ!月牙ぁ――天衝っ!!」

 

オッタルの後ろから飛び出し、逆袈裟斬りの要領で放つ。霊力の斬撃は舗装された地面を抉りながら突き進み、触手を吹き飛ばし本体にもダメージを与え、奴は大きく怯む。今しかない。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】 行きます!」

 

レフィーヤの詠唱が完了した、後は放つだけだ。

「いっけえぇえ!レフィーヤっ!」とティオナが応援する。しかしその時だ、後は放つだけ、放てば勝てると確信していたからこそ俺は油断していた。

 

突如モンスターから細い触手が伸びてきて俺の四肢に巻き付き引き寄せる。細いと言っても俺の腕くらいには太い。っていやいや!そんなこと言ってる場合じゃねぇ!止めて!ランボーする気でしょ!

 

「くっ!これでは撃てません!」

 

レフィーヤが暴れようとする魔力を押さえつけながら叫ぶ。そこに極めて冷静な声が響く。

 

「撃て、【千の妖精(サウザンド・エルフ)】」

「な何言って!?」

レフィーヤが戸惑いそう言ったと同時にオッタルは駆け出す、いや、駆け出した。アイズをも超える敏捷で俺に接近し体にまとわりついた触手を俺に一切の傷を付けることなく切り払って見せた。カッコイイぞーオッタルー!

 

「なにをしている、撃て」

 

「は、はい!ウィン・フィンブルヴェトルっ!!」

 

時間さえも凍らせるその魔法は一切の慈悲なくモンスターを凍らせる。戦いは終わった、それを理解すると同時に両腕が今更のように痛みを訴えてくる。右腕は焼け爛れ、手のひらは一部が黒く染まっている。

 

なんて言うかオッタルマジかっこいいってのが俺の感想かな、強いし優しいとは・・・これで主神がフレイヤじゃなければ完璧超人なのに・・・いや、フレイヤだったからここまで強くなったんだろうけど。俺の元にアイズ達が駆けてくる。

 

「「大丈夫(ですか)?!」」

 

あったりまえよ、俺がこんなところで死ぬ玉だと思うか・・・って玉ねぇやおれ。とりあえず大丈夫と伝えておこう。しかし俺が何かいう前にアイズが口を開く。

 

「・・・【猛者】と知り合いなの?」

 

いやいや、俺そんなに顔広くないからね?せいぜいロキ・ファミリアとミアハ・ファミリアと買い物に行く街の一部くらいしか顔広まってないよ?まぁ、オッタルとは今知り合った仲ですかね?

 

「ええ、たった今知り合いましたよ?」

「あ、いやそうじゃなくて・・・」

 

俺の返答にティオナが「あはは・・・」と苦笑いしながらいつの間にか俺達の近くまで来ていたオッタルをチラリと横目で見る。流石のティオナもオラリオ最強さんの前では持ち前の明るさを発揮できないと見える・・・。

 

「あはは冗談ですよ、初対面です、知り合いに猪さんはいません。」

 

笑いながら怖い事言ってるよこの子、誰の子ですか?親の顔が見てみたいぜ!・・・ひ、ひっでぇ自虐ネタ・・・。

とりあえずお礼をしなきゃね、お礼は大事、乞食にも書いてある。

 

「ありがとうございます、アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤ、オッタルさん。お陰で助かりました」

 

俺は感謝の気持ちをこめた言葉に何故か口を開けたまま固まるティオナ、な、何だろうなんか変な事言ったかな?

 

「妖夢ちゃんが・・・さん付けした・・・?」

 

え?そこですか?別に付けて欲しいなら付けるけど・・・あ、いやここはあれだ特別扱いにしようかさん付け。んー、オッタルには勝てなさそうだし絶対に勝てない人にはさん付けとか?んー、それは嘗められてると取られるなー、じゃあ普通に何となくでいいか。いや、あれだな武人って感じもするし。

 

「んー、何となく付けてみたんですよ?なんか武人って感じですし」

 

ティオネがあー確かに、と呟く、アイズはオッタルの事をジーっと見ており、レフィーヤはあわわっと慌てている。そんなこんなしていると色々と人が集まってくる、それはギルドの人だったりこの場の者に関係のあるファミリアの人だったりただの野次馬だったりだ。そんな中誰よりも先に桜花と命に守られたタケが走ってくる。

 

「妖夢!大丈夫か!?」

 

なんかすっごい血相変えて走ってるんだけど!?あれ、これもしかしてもしかしなくても怒られる感じか?!い、いやだ!お尻ペンペンは嫌だぞ!!

 

「わ、わ、わわ!タ、タケおちおち落ち着いてくだしゃい!?大丈夫大丈夫ですから!お仕置きは止めてくださーい!!」

 

だ、誰かに助けを求めよう!こ、この中で1番頼りになりそうな人は・・・アイズは天然だからダメ、ティオネはバーサーカーだから参加してきそうだからダメ、レフィーヤは気が弱いからダメだ、ティオナは・・・ニヤニヤしてるからだめだ!命・・・はなんか眉毛がつり上がってるから無し!桜花は・・・目が合ったら微笑まれた、あれは頑張れよって言ってる目だ・・・。終わった、知り合い全滅だよ。流石にオッタルに頼むわけにもいかない・・・、甘んじて受けるしかないか・・・。

 

「た、タケ?お手柔らかに・・・」

 

「無事みたいだな、はぁ・・・言いたい事は沢山あるが・・・まずは状況を教えてくれないか?」

 

よ、良かった流石に状況を理解出来てないらしい。まあ、ある程度把握してると思うけどね。おれが状況を説明しようとした時

 

「・・・む」

 

あ、なんか俺の手をみて眉間に皺寄せてる。桜花たちもそれに釣られて俺の右手を見て息を飲んだのがわかった。・・・まぁ焼け爛れて一部黒くなってるからね、仕方ないね。ふっ、この程度の痛み表情には出さんよ。

 

「・・・・・・妖夢。・・・自身を傷つける技は使うなと言った筈だ。」

あー、こりゃ完全に切れたな、説教が何時間続くのか・・・。

するといつの間にかロキもやって来ていてこう切り出す

 

「ならどうや?ウチのファミリアで話さんか?なんかウチの子供たちが世話になったみたいやし・・・・・・猛者も含めてな」

 

と目を開いて言う、おお、こわいこわい。しかしオッタルは「フレイヤ様に呼ばれている、ここで失礼する」とクールに去っていった。どうやら今晩はロキ・ファミリアで食事の様だ、・・・何だかロキ・ファミリアとよく会うなー。とりあえずタケに謝らな、くちゃ?・・・あれ?な、なんだ世界が回る・・・

 

「タケごめんなさ・・・およ?な、なんで回る・・・むきゅう・・・」バタッ

 

おい!しっかりしろ!とか聞こえる・・・な、なんだ?マインドダウン?いや、魔力の消費はそこまで無かった筈・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し前に遡りタケミカヅチ達はいっこうにトイレから帰ってこない妖夢を心配し、オラリオの街に飛び出していた。

 

「遅い・・・遅すぎる。」

「では俺達が探してきましょうか?」

 

桜花がタケミカヅチにそう提案するがそれは止めた方がいいとタケミカヅチは思う、何故なら彼等がまだ挑んだことの無い階層のモンスターが多数だからだ。近くにいたギルド職員エイナ・チュールの話ではモンスター達は一斉に広場の方に向かったらしい。・・・光が見えた、とも言っていたから妖夢がいる可能性は高くなっていく。

するとエイナがタケミカヅチ達に声をかける。

 

「神タケミカヅチ。モンスターの討伐へはアイズ・ヴァレンシュタイン氏が向かいました、ですのでもうすぐ安全になるかと」

「そうか、じゃあ向かうぞ」

 

第一級冒険者が向かったならもう事件は解決しているだろう、ならば妖夢の安否が気になる。タケミカヅチはもう待っていられない、という風に駆け出す。桜花たちもそれを守るように走っていく。

しばらく走ると現場が見えてきた、エイナやその他ギルド職員、ロキ・ファミリアの団員などもどうやら向かうらしい。

 

 

 

「妖夢!大丈夫か!?」

 

タケミカヅチの視界に映った妖夢は全身すり傷だらけで服の至る所がボロボロになっていた、きっとアイズ・ヴァレンタインとやらが駆けつけるまで必死に戦っていたのだろう、タケミカヅチはそう思って少しだけほっとする。

 

「わ、わ、わわ!タ、タケおちおち落ち着いてくだしゃい!?大丈夫大丈夫ですから!お仕置きは止めてくださーい!!」

 

何故か妖夢はお仕置きされると思っている様だ、俺は褒めようと思ったんだけどな、と内心苦笑するタケミカヅチだが妖夢の右腕を見た瞬間思わず声が出てしまう。

 

「む」

 

焼け爛れ赤くなり、手のひらに至っては黒くなっている。焼けた皮膚はびらびらとめくれ非常に痛々しい。それで尚さも何事も無かったかのように振る舞う妖夢にタケミカヅチは深い怒りを覚えた。

 

「・・・・・・妖夢、・・・自身を傷付ける技は使うなと言った筈だ。」

 

分かってはいる。そう言った技を使わなければならない状況だったのだろう、見れば剣姫に猛者までいるのだ、きっと何かあったのだろう。それでもタケミカヅチは許せなかったのだ、ロキの提案が無ければそのままギルドの治療施設に強引にでも運び込みそのままお説教へと発展していただろう。

 

「タケごめんなさ・・・およ?な、なんで回る・・・むきゅう・・・」バタッ

 

突如妖夢はバランスを失ったかのようにふらつき倒れる。タケミカヅチは慌てて妖夢を抱き抱え込み、声をかける。

 

「おい!妖夢!しっかりしろ!大丈夫か!くそマインドダウンか?」

「しゃーない、ウチのファミリアに来てくれへんか?妖夢たんは乗り気やったみたいやし、アイズたんが妖夢たんのお陰や言うてたしな、ぜひ招待したい・・・・・・それに今回の事件・・・どうせあいつの仕業やろうし」

 

タケミカヅチはそれを聞きロキを睨む、いや、正確にはロキの言った「あいつ」を。話は聞きに行こう、妖夢を狙ったのか、偶然なのか。

 

「・・・わかった、手当てをさせてくれ。・・・ありがとうな、ロキの子供たち、妖夢を助けてくれて。」

 

妖夢には彼女達に何か礼をさせる必要があるな、随分と迷惑をかけているし、そう思い腕の中で眠る妖夢の髪をそっと撫でるのだった。

 




いやー物語が進まないねぇー。30話位でちゃんと終わるだろうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話『うん、死んでるな。俺は』

説明会?な話です。半人半霊や妖夢の使う技についての軽い説明的なものです・・・あ、荒れなければいいなー。

という事で12話です。


――ここは・・・・・・どこだ?・・・何も・・・見えない・・・ここは・・・あぁ、なるほど、あの駄神とあったところか・・・。

 

懐かしさを感じる空間に俺はいた、つまりは死んだのだろうか?あんな傷で死ぬほど耐久が低いわけでも心が弱い訳でも無いはずだが・・・。

 

「チョリーッス!どもどもー。ボクチン参上!」

 

―・・・さて、帰らせて?

 

「ファ!?それはないわー、神様に対してそれはないわー。」

 

―ワーカミサマダースゴイナーアコガレチャウナー。

 

「フッ、分かってくれたようだねっ!そうっ!ぼくこそは誉れ高き神!GOD!完全無欠にして最強!」

 

―存在自体が欠陥品だこの駄神。まじでなにしに呼んだんだよ。

 

「ふはははは、よくぞ聞いてくれた!そう、僕ちんがチミを呼んだのは君の・・・君のの・・・あれ?なんだっけ?」

 

―・・・・・・・・・(╬ ´ ▽ ` )おい

 

「ま、まぁあれだよ、ここから帰ればすぐに目が覚めるさ、・・・悪い夢も見ないだろ?」

 

―・・・お前・・・

 

「さぁ、頑張って物語を引っ掻き回して下さいな?そうじゃないとオレっちが楽しめない、って訳で言ってっしゃあぁい!あっ!思い出したらまたよぶからね!」

 

―え?いきなr

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・知ってる、天井です」

「!妖夢ちゃん起きた!」

 

あの駄神・・・。まぁいいか、にしてもデジャブだなー。目が覚めると自分の家じゃないのは。どうやら千草が誰かに伝えに行ったみたいだな。さっさと起きて顔を見せに行かなきゃ、タケも怒ってるみたいだし。体が痛いよー。

 

俺はいつの間にか着ていたパジャマみたいな奴をバッ!と脱ぎ捨て自分の洋服をとる、うわ、ボロボロじゃん、・・・どうするか。俺がそう悩んでいると足音が複数聞こえてくる。・・・ここで俺は失念していた、生前が男という事もあり、自分の下着姿を見られる程度どうという事は無い、そう思っていた。だけどよく考えれば相手からしてみればドア開けた途端下着姿の女の子がいる訳で。・・・そのことに気が付くのは大分あと。

 

「おーい、入るぞォ」

「おいおいべートそんな勝手に入ったらアカンで?妖夢たんやって女の子なんよ?」

「大丈夫だろ、そんな事頭に無いって顔してやがるし。入るぞ」

 

ん?べートとロキか、他にも足音はあったしみんな来たのかな?・・・まさか俺の御見舞に・・・嬉しい・・・なんだよべート、やっぱり俺達友達だったんだな!

 

「どうも・・・お世話になってます、それに、してもべートは何だかんだ言って、御見舞に来てくれるなんて・・・嬉しいですね、うんうん」

「悪ぃ出直す」

 

うん?どうしたんだ?俺は頭の上に?を3つ並べながら首を傾げる。それにしても体中が痛くて話しづらいなー。あ、そうだ、半霊モードで廊下に行って盗み聞きをしよう、あれなら怪我とか関係ないし。つーことで半霊に意識を移して壁抜けする

 

『何してんだろー』

 

と透明化しながら上から覗いてみる。すると何故がべートがorzしてた。そしてその肩にゆっくりと手を置くロキ。そして固く手を握りしめ「悪は滅ぶっ!」とか言ってるティオナ。

 

『え?何このシュールな現場、何だろう見ては行けない何か・・・なのかも知れない。』

 

恐らくはべートがティオナに腹パンされたのだろうが何故腹パンされるような事になったのか俺には分からない。この場にいるのはロキ、べート、フィン、ヒュリテ姉妹、アイズ、タケ、桜花、命、千草だ。

 

『どうしよう・・・ハルプモードで聞いてみるか?それとも普通に話しかける方がいいかな、いやでもハルプモードなら霊力の強化に繋がるしその方がいいか。体は傷だらけだし寝かせたままの方がいいだろ』

 

という事で実体化してみよう、とりあえず体は寝かせておこう、休ませておくのは大丈夫だからね。あ、やべここべートの真上じゃねぇか。

 

「ぐほっ!?」

「うわ何や!?上から妖夢たんが!?」

 

やっべー怒られるかな?まぁ、ツンデレべート君なら大丈夫な筈だ。あ、自己紹介とか必要かな?一応しておくか。

 

『あー・・・悪いなべート、少し降りるタイミングってか場所を間違えた』

 

ははは、と笑う俺を見てロキが固まる、べートも固まる。・・・まてよ、そう言えばこの形態ってきっとほかの人から見たらスキル又は魔法の何かだと思うんじゃないか?

 

『あー・・・俺は、いや、私の方がいいか?まぁ、同じ名前だと区別しにくいからハルプって名前を付けたんだが・・・聞いてる?』

 

なんかロキが嬉しそうにしてんだけど何んだろう、ろくでもないことの気がする。

 

「俺っ子きたーーーーーーー!」

 

ですよねー、まぁじゃあ俺でいいか。で、何をしに来たのか聞いておこうか。

 

『じゃあ俺で構わないな。で、何しに来たんだ?べートは入ってきたと思ったらすぐ出ていくし。』

 

俺の疑問にロキは疑問で返してくる。まぁ疑問だらけだろな、ロキがワクワクした感じになってるし。

 

「いや・・・何でもねぇよ」

「なあなあ!なんで話せるん?スキルやろ?」

『いや・・・なんかスキルとしてステイタスに出てはいるけど・・・これも俺の・・・あ、そうだなスキルだよ俺』

 

そう言えばこういう事は言うなってタケに言われてたんだった。あぶねぇ・・・あ、神の前で嘘はつけないんだった。チラッ?タケ怒ってない?

 

「うーん、嘘やないみたいやなー」

 

え?バレてない?何でだ・・・魂だよ?もっとわかり易い気がするのに・・・まいっか。ある程度説明はしておこうか。・・・タケがニヤってした、分ってたのか。

 

『わかった、ロキの事は好きだからな、説明してあげよう。俺はハルプ、妖夢の周りに浮いている白い球体、半霊が人間形態をとった時の名前だ。妖夢は体を休める為に寝ているぜ、何か言いたい事があるなら俺に言ってくれれば伝えておくよ。』

 

俺の説明にロキたちは「あの球体か」と頷き、本題へと入る。

 

「まぁ、何しに来たって言われても見舞いに来たとしか言うことないんやけどな」

『おー、嬉しい事言ってくれるねー。・・・でも流石に幹部全員来るなんて事は無いだろ?所詮レベル2の新米冒険者だぜ?』

 

俺がそう言うと全員から呆れた様な目を向けられる。え?なんで?事実だろうに。

 

「はぁ、ハルプ君、妖夢君がどんな事をしたのかわかっているのかい?」

 

『どんな事ってモンスターぶった斬っただけだろ?』

 

「その通り、妖夢君はレベル2でありながらレベル4、又はそれ以上に思われるモンスターに対して優位に戦って見せた、それがどれ程の事か・・・」

 

やれやれ、とフィンが額を押さえる。確かに原作ではステイタスが足りていないとシルバーバックにすらナイフが効かなかったしな、そう考えると凄まじい事かも知れない。・・・優位には立ってないけどな、気を抜けば即死だったし。1発目で死ななかった事がまず奇跡だ、頑張った。

 

『でも弱点を突いたし、そもそもそう言う技だからな、出来て当たり前だと思うぞ?』

 

「それもだよ・・・君はぼくたちですら見た事の無かったモンスターの弱点を初見で言い当てて見せた、それに君が繰り出すあの最早魔法としか言えないような剣技の数々・・・君は、君達は今やオラリオの神々の間でとても有名になっているよ。・・・特に特殊な性癖持ちの神に」

 

ま、まぁスキルですし?そういうスキルだからさ。てかあれだね、燕返しはどこの世界でも魔法扱いなのね、あれか、スターバーストストリームの無駄に派手なエフェクトのせいか?それにしてもロリコン神様から目をつけられたか・・・白楼剣で天界に強制帰宅させてもいいのよ?とりま簡潔に説明をバッ!

 

『相手の弱点がわかったのはスキルのおかけだ。それに剣技は剣技だろ。魔法はちゃんと他にあるぞ。あとロリコンは死すべし、天界への強制転送も辞さない。・・・ん?なんでみんな固まってるんだ?』

 

「・・・・・・・・・強制転送が出来るのかい?神を?天界に?」

 

『おう、多分出来るぜ、白楼剣に少しでも斬られたらサヨナラだ、まぁやったこと無いからわからないが』

 

「はぁ・・・ロキ、彼女の事は貴女に任せるよ、やっぱり僕には荷が重い」

 

「え、ちょ、え?嘘やろ?まじで?」

 

『な、なんでだ、俺何かした?フィン?』

 

「いや、何もしていないさ」

 

『解せぬ』

 

「それは僕のセリフだよ・・・」

 

何だろうこの謎の敗北感は・・・やっぱりコミュ力が足りなかったか・・・ぐぬぬ・・・ってのはまぁ冗談で、確かに一般人・・・では無いけど普通の感性をもってる人からすれば俺の使う技とかは理解不能なんだろう、いや、俺も理解不能なんだけどね?

 

「しゃーない、じゃあ・・・とりあえずお礼だけ言わせてくれ、ありがとうな、妖夢たんが居なければ街に被害が出ていたかもしれん。本当はギルドが言うことなんやけど、まる1日寝たまんまやったしウチから代弁って事で、それに魔力に反応するってのを教えてくれなければレフィーヤが危なかったかもしれへんし。ホンマありがとう。」

 

ロキが聖母のような微笑みを浮かべながらそう頭を下げる。頭を下げられる程俺が何かをしたという実感はないが、感謝されているのならそれを無碍に扱う事はできない。とりあえず頭を上げてもらおう、恐らくタケからお礼は言われていると思うが俺もお礼を言うべきだ。残念ながら俺個人からお礼と言っても渡せるものはほとんど無いが。

 

『とりあえず顔を上げてください、アイズ達が来てくれなかったら俺は死んでいました。お礼を言うのはこちらの方です、ありがとうございます。』

 

ビシッと頭を下げる、感謝の気持ちがこれで伝わればいいが・・・。そう言えば俺について知りたそうな感じだったし、これを機にいくつか教えてもいいかもしれない。

 

『お礼と言っては何ですが、俺・・・らの事、教えてあげようか?さっきも言ったが個人的にロキ達のことは好きなんだ。俺が使う技・・・少しだけお教えるよ』

 

「ええ?!いいっていいって!そんなん他人に教えたらアカンよ?好きって言ってくれるんは凄い嬉しいけど!」

 

俺がそう言うとロキは慌てたように首を横に振るがこちらとしてはそれ以外に特に渡せるものもないので・・・借りを作るのも何だかタケに迷惑になるし。

 

「・・・知りたい、私は、知りたいです」

「アイズたん!?」

 

アイズが反応したか・・・たしかアイズは強さを追い求めてる・・・だったか?なら技を知りたいと思うのも仕方ない、・・・ただ、教える事は出来ても俺以外に使えるかどうか分からないのが多いのが現状だ、明らかに物理法則に喧嘩を売った剣技など、能力なしに使えるとは思えない。

 

『・・・わかった、桜花達も来てくれないか?俺の使う技を小さい頃から見ているし、すぐに使える様になるかも知れないからね、アイズはレベル5らしいし皆に教えた技以外も覚えられるかも?』

 

「ああ、わかった。命、千草、準備してこい。ついでに猿師のおじさんから丸薬とか包帯の準備を頼んできてくれ、俺の装備も持ってきてくれると有難い。「はい!分かりました」・・・悪い、今はタケミカヅチ様の側を離れられないんだ、頼んだぞ」

 

桜花はロキ・ファミリアを警戒しているのだろうか?タケミカヅチの少し斜め後ろで守るように立っている、武器こそ持っていないがタケミカヅチ・ファミリアの団員は自分より高レベルの冒険者を圧倒するだけの戦闘技能を有している、冒険者と言うよりは武士の集まりみたいなものだし、とはいえこのメンツに攻撃されたら10秒と持たないだろうけど、俺も含めてね。ちなみに桜花達は俺の使う技の中で「人間の身体能力に収まる範疇」の技をいくつか習得している。今回はアイズに教える事になるから燕返しとか教えてみよう・・・武器が違い過ぎるからできそうにないな。

 

『・・・・・・とはいえ肉体の方は随分と疲れていてね、起きるのは随分と後になるだろうから、だから俺から説明するけど構わないだろうか?』

 

「うん、教えてくれるなら・・・別に気にしない」

 

つまりは普段の妖夢と言動が違い過ぎて違和感は感じてるのかな?仕方ないか、普段の方がおかしいんだし?謎の翻訳機能が付いてるからああなってるだけで普段はこんな感じの話し方だ。

 

『なら場所は訓練所でいいよな?今回話すのは俺の種族についての簡単な説明と俺の使う技についての説明だ。それでいいかなロキ』

 

「おお、平気やで・・・でもいいんか?大事な事なんやろ?」

 

『正直な話、アイズや他の人が同じ技を使えるという保証はない、・・・俺からしても実験、というか検証かな?が出来るなら利益もあるだろう、命の恩人であるアイズへの恩返しも出来て一石二鳥ってやつだよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練場の端、テーブルと椅子を並べ、簡単なお菓子が用意されている。そこで俺についての説明が行われようとしていた、俺の口から。

 

『俺、いや、魂魄妖夢の種族は半人半霊、長命種だ。半分が人間で半分は幽霊ってやつだ。人間と幽霊のハーフって訳ではないぞ。人間の体と魂の体を持っている、・・・生物・・・だと思う、そこら辺はわからん。で、人間の体が妖夢、そして魂の体が半霊だ、その半霊が人間の形をとった時がハルプだな。簡単な説明だがわかったか?』

 

俺の説明にある程度の理解は示したのか全員が返事をする、タケミカヅチや桜花達にはだいぶ昔に伝えたものだ。

 

「「「へー、なるほど」」」

 

『・・・わかってる?まぁいいが。』

 

「ちょ、ちょっと待ってほしいんやけど・・・妖夢たん何歳なん?それと半霊ってのが妖夢たんの魂なんか?」

 

その中で唯一ロキだけが少し慌てたように俺の話を止める。妖夢と半霊は同じだが完全に魂が半霊として浮かんでいる訳では無い。

 

『いや?半霊は半霊だ。それと年齢については・・・良く分からん。はっきりと言えるのは5年は既に生きているって事くらいか』

 

「へー、・・・ん?どういう事なんや?一つの生物が二つの体を持ってる、そんで魂も二つ?それって一つとちゃうやん。て」

 

『あぁ、二つで一つ、ならわかるかな?俺達は半人半霊だぜ?』

 

俺の説明に腕を組みながら?を浮かべるロキ、確かにややこしいかもしれない、てか自分でもよく分かってない。

 

「半分ずつってことかいな、わかりづらいわー。・・・幽霊って事は死んでるんやろ?」

 

『うん、死んでるな。俺は』

 

「妖夢たんは?」

 

『見りゃ分かるだろ?』

 

「生きてるか・・・、死んでるけど生きてるっちゅうことかー、何やねんそれっ!死んでもないし生きてもないってことやないか!」

 

ロキが半人半霊の矛盾に気が付いたらしく声を大きくする、んな事言われても一番困ってるのは俺だ。身長は少しずつだが伸びてはいる、つまり成長してる!生きている!・・・暴論だかまぁいいだろ。

 

『そうだな、でも成長してるし生きてるって事でとりあえず良いだろうん。』

 

「それって戦闘で致命傷とか受けたらどうなるの?」

 

さっきまで黙っていたティオナが若干難しそうな顔をして聞いてくる、死んでるなら死ぬのか、そう聞きたいのだろう。だが正直今までこれと言って死にそうになったことは無いしな、よく分からん。

 

『うーん、普通の人間より遥かに死にづらい体だからなー、首とか飛ばされない限りよっぽどの事がないと死なないと思うぜ?』

 

「ほえ〜」

 

分かってるのか分かってないのか・・・、上を向いてうーんと唸るティオナ。

 

「・・・なんて言うかほんまに凄まじいな・・・おい!タケミカヅチ、お前アルカナムとか使ってへんよな?」

 

「使う訳ないだろ?・・・あぁ・・・初めの頃は驚きの連続だった・・・」

 

「うわ・・・過去を覗いて帰ってけーへん」

 

ロキはどうやらタケがアルカナムを使ったのでは?と言うことを疑い始めたらしい・・・まぁ正直言ってこの世界で自然には絶対に発生したりしなさそうだしな半人半霊。神を疑うのは間違ってない。だが違うんだロキ、やったのは駄神だ、タケじゃない。てかタケもどってこーい。

 

『おいおいタケを疑うのか?一人ぼっちの俺達を助けてくれたんだぞ?』

 

「一人ぼっちなのに達って、・・・家族はおらんのか?」

 

そこは言わんでくれロキ、俺は0.5ずつなんだよ、合わせて1なんだよ察して。

 

『当たり前だろ、俺には家族がいた、って言う記憶しか残ってない。まぁ正確には声だけしか覚えてない。それに、今はそこにいるタケや桜花達が家族だ』

 

「あぁー、その、ごめんな?」

 

『幽霊に謝ってどうするんだ・・・、まぁ許すけど。』

 

そんな話をしているとアイズがもじもじしながら声をかける、きっともじもじじゃなくてウズウズしてるんだろう、早く技を教えて貰いたいけどロキ達と話してるから声がかけずらい・・・みたいな感じで・・・。

 

「あの・・・あの剣技の数・・・師匠は、いるの?」

 

「確かに・・・私達が見ただけでも結構な数あったけど、それだけ凄い師がいるって事よね?」

「あー!だねー!いないわけないかー!」

 

アイズの質問にヒュリテ姉妹が頷く、ここも俺の矛盾点か、技を沢山知っていて、それらを不完全とは言え使う、しかしそれを教えた人物はどこにも、それこそ英雄譚にも存在しない・・・当たり前だがな。

 

『・・・・・・うーん・・・それは・・・まぁ確かに師匠はいる・・・。』

 

ゴクリとアイズが唾を飲み込んだ、アイズからしたら気になるところだろう、強くなれる可能性、それを誰よりも追い求めているのだから。・・・ここをどう乗り越えるか・・・うーん、皆に最も伝わりやすい説明は何だろう、本から学びましたー、なんて言ってもこの世界の本に「るろうに剣心」とかあるわけないし・・・じゃ平行世界のせいにするか?平行世界からいろいろと教わってる・・・あれ、意外といいかも?俺って生前15のはずだが・・・この歳じゃ絶対知らないような技とか無駄に知ってるし、いやいや、きっと生前の俺はアニメが好きすぎてめちゃくちゃ色んなの見てたんだろ。・・・自分の記憶も大部失ってきたなぁ、あぁ、燕返しとか例を言えば勝手に理解してくれるかも知れない、だってみんな頭いいし。

 

『・・・平行世界だ』

 

俺は呟く、間を開ける事で相手はよく聞こうと意識を集中させる。とくにアイズ。

 

「平行世界やと?」

 

ロキは目をさらに細め話しを促す。

 

『そう、平行世界。もしもの世界だ。』

 

「もしもの・・・世界」

 

アイズが俺の言葉を噛み砕いて理解しようとしているのか顎に手を当てうんうん唸っている、説明は終わってないんだが・・・。

 

『例えば俺の使う【燕返し】って技があるだろ?あの同時に3つ斬撃を放つって技だ、一切のズレも無く同時に。例えば俺が【真上から真下に斬り下ろした】としよう、しかしその瞬間もしかしたら俺が【右に逃げられない様に右から左へ切り払う】可能性もあるし、【囲うように逃げ道を塞ぐ左からの斬撃】を放つ可能性もある訳だ、そういった可能性の世界、もしもの世界から斬撃を放った自分を連れてくる。それが燕返しのタネだ。・・・わかったかな?説明は苦手なんだ』

 

「いや、妖夢よりかよっぽど解りやすかった。」

 

『そ、そうか・・・やっぱり伝わってなかったか(小声)、コホン【無明三段突き】も平行世界から自分を連れてきて、三つの突きを一つに重ねて放つ技だ、似ているけど少し違う。同じ事をしている自分を呼ぶか、違う事をしている自分を呼ぶかってだけだけどね』

 

ふぅ、説明はこれくらいでいいかな?燕返しと無明三段突きはこんくらいだろ。これで分かってくれるはず。

 

「・・・つまり・・・つまりは妖夢たんは・・・いや、有り得へん・・・そんなんアルカナムを使わな、どうなってんのや」

 

ロキはわかったみたいだけど確に個の人間が使えるなんて可笑しいぐらいの意味不明な技だからな、何で燕切ろうとしたらできちゃうの?。

 

『つまりは妖夢の師匠はこの世界線には居ないって事だ、妖夢が使う技は他の世界からの借り物・・・いや、伝授された物だ。・・・まだまだ半人前だからな、オリジナルの半分も威力が出ない物が殆どだし速度もまだまだ・・・、幸い時間だけは腐る程あるからな、いつかは全て完成させるさ』

 

「なるほどね、君の背後に感じたのはその師匠達だってことか・・・考えても無駄だった訳か、対策の仕様が無い」

 

『ははは、生憎と手札は多い物でね。』

 

「実質無限やないか・・・」

 

確かにロキの言う通りだ、時間さえあれば波紋の呼吸とかやってみたいし、ほかの武器で使える技を試してみたいものだ、魔術とかも試したい!今はいろいろと忙しくてそれが出来ないが。

 

その後はアイズや桜花達に技を伝授しようとあの手この手を使ったのだが、ついぞ使える様になる人は出なかった、俺は反則級の剣術を扱う程度の能力があるからすぐ様真似できるものの、ほかの人には無いからね。仕方がない。そんな感じで暖かな時間(剣を振り回す)は過ぎ去りホームに帰る、帰り際にそろそろ遠征に行くことを告げられた、誘われたけどそれは断った、強いやつに会えるのは確かにソード・オラトリアだろう、でも俺はベル君の物語の方が好きだったりする。早くリリに会いたいとかそんな事は思っていない。断じて!思ったりなんかしていない!

 

まぁそんな事は置いておいて、きっと明日とか、今日かも知れないけどベルは装備をエイナと買いに行っている頃だと思う。俺も加熱した状態で無茶な振り回し方したから刀曲がっちまったし、買いに行こう。・・・よし、千草とか誘おうか、20万位持っていけば足りるだろ。・・・武器がすぐに壊れるせいで金が貯まらん・・・デュランダルの刀を手に入れるのはいつになるやら・・・。

 




今回からこの後書きで、何らかの解説が入るようになります。

【ハルプについて。】
・ハルプの肉体的なステイタスは妖夢と同じ。
・殺す事が出来ない魂であるため殺せない、しかし妖夢の耐久ステイタスと同じ数値がハルプにも存在し、耐久を超える程の攻撃を受けると半霊に戻る。
・ハルプの状態でも技や魔法の詠唱が可能。
・ハルプ形態をとっている場合、常に霊力を消費し続ける。
・妖夢の肉体では無いからか、翻訳機能が存在しない。
・ハルプと妖夢が同時に動き回るのにはいくつかのバリエーションが存在する。例、妖夢とハルプに意識を半々に分け行動。妖夢にのみ意識を向け、ハルプはリモートコントロール。逆も然り。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話「・・・・・心です」

遅れてすみません!

今回は千草が頻繁に登場しますぜ。これからはタケミカヅチ・ファミリアのメンバーが頻繁に出てくる事になります。


オラリオのとある高級料理店の二階に2人の神が顔に微笑みを浮かべながら同じテーブルに座っていた。否、微笑みを浮かべているのは2人だけ。

 

「いや〜、なかなかうまい酒やな〜。ま、神の酒(ソーマ)には敵わへんけどな〜」

 

「うふふ、本当にお酒が好きねロキは」

 

「まーなー、・・・あの後地下を探したけど何も見つからなかったし、ほかのモンスターは妖夢たんが倒してたしな」

 

「こんな時間に呼び出して・・・貴女の今日の出来事なんて知らないわよ」

 

「よく言うわ・・・犯人の癖に」

 

微笑みは一瞬にして消え去り真面目な表情になるロキ、それに苦笑する様にフレイヤは悪びれもなく答える。

 

「ええ、だって欲しくなってしまったのですもの・・・」

 

素直に犯行を認めたフレイヤにロキの瞳は開かれる。

 

「ウチの子に手ぇ出してみぃ、タダじゃおかんぞ」

 

「うふふ、そんなに怒らないで?貴女の子供たちは狙ってないわ」

 

「10体も街に放ちおってからに」

 

「・・・10匹?・・・私がお願いしたのは9匹よ?」

 

「嘘をつくな!あの花のモンスターやで?、妖夢たんの誘導が無ければ街に少なくない被害が出ていたかもしれんのや」

 

とぼけるフレイヤにロキは少し笑う、もちろん威嚇の為に。

 

「・・・花のモンスターなんて見ていないわ?でもオッタルをもしものために護衛に付けていたのだけれど・・・」

 

「ほらな、言うたやろタケミカヅチ、オッタルもフレイヤの差し金やって。」

 

「もうっ!何なのよ・・・いいじゃない欲しくなっちゃったんだから〜・・・」

 

「可愛い子ぶってもダメやで?でもそれが本当だとするなら・・・何やったんやあのモンスターは・・・」

 

「知らないわよ・・・」

 

そう言ってフレイヤは窓の外を眺める、冒険者達がダンジョンへ向かっているのか凄い人ごみだ、そんな中よく目立つ白髪の少年が歩いていく。そしてそれよりも10mほど後方を銀髪の少女が。

 

「・・・じゃあ、話しは終わりね、さようなら」

 

 

 

 

 

 

おっ買い物♪おっ買い物〜♪あ、どうも、俺っす。妖夢っす。いやー、武器がすーぐ駄目になるねー。もう俺泣きそう、お金が貯まりませーん!くっそなんだよー、デュランダルの刀って家より高いのかよ・・・、ぐぬぬ・・・タケが許可してくれないから深くまで潜れないんだよなー、勝手に行くのもあれだし・・・そもそも深く潜るとダンジョンに泊まらないと行けないからバレるし・・・はぁ、半霊あるからサポーターも必要ないから大分長い間潜れる筈なんだけどなー「お前は直ぐに武器を壊すからまだ深く潜るなよ?」とか言いやがってさー、心配してくれるのはいいぜ?でも、もっと信用して欲しいぜ。いや、俺のせいってのもわかってる、無明三段突きは一回使うだけで武器ぶっ壊れるし、朧・焦屍剣は使い続けてると刃が加熱されて柔らかくなって曲がるし・・・

 

「妖夢ちゃんギルド見えてきたよ!」

 

ん?ギルドはずーっと見えてたぞ?バベルの塔だしね。にしても千草と2人きり・・・デート・・・だと?いやまぁ特にドキドキとかしないけどさ、何たって家族ですから!

 

「ギルドはずっと見えてましたよ?・・・今回は2人きりですね、デートですかね?」

 

おーい、言わんでいいからそこ、何こいつとか思われちゃうだろ?常識的に考えれば女の子2人で歩いてるだけなのになんでデートになるんだよ。

 

「ででででっデート!?はわわ////」

 

・・・えっ?何こいつ・・・あ、いや何でもない、そうだよね、いきなりこんな事言われたらビックリするよねそうだよね。いやー千草は純粋だなー、よしよし。

 

「・・・よしよし、いい子ですね」ナデナデ

「はうぅ・・・」

 

お、よかった、何こいつ言わなかった。にしてもさー、何でも俺ってこんなに紙装甲なんだろう、鉄は愚か革すら使ってないからね、いや、タケミカヅチ・ファミリア全員に言える事だけどさ、一番重装甲なのは桜花だったかな?肩と腰を日本の武者鎧的な物で守ってたけど・・・何で胴体守らないの?馬鹿なの?死ぬの?死んじゃうよ?気を抜いたら即終了のダンジョンを舐めてるの?と言っている俺が一番紙装甲だよ?舐めてるよ?

 

・・・おれも、鎧とか来た方がいいのかなー、フルプレートメイルの魂魄妖夢とか誰だよって言いたくなるよね、うーん、やっぱり今まで通り「当たらなければどうということはない」戦法で行くしかないのか・・・いや待てよ、もしかしたら布装備だけどめちゃくちゃ防御力が高いものだってあるかもしれないじょのいこ、最悪無くてもオーダーメイドで作ってもらうかー。

 

ギルドホームに到着した俺達はそのままエレベーターにむかい、7階を目指す、そこには大手メーカーヘファイストス・ファミリアの新人達が作り出した鎧や武器が眠っているのだ、いくら新人だと言っても優秀な人は優秀なので凄い掘り出し物も見つかる。

 

無論、今回はその掘り出し物を見つけようとこうしてやってきた訳だ、資金は20万!20万だ!凄くね!?頑張って貯めてきたんだぜ?癖で魔石を斬ってしまうからなかなか貯まらなかった・・・すぐに武器が壊れるからなかなか貯まらなかった!そんな訳で壊れにくい刀を探そうと俺は辺りの商品を物色する、残念な事に俺に武器を見る目はあまり無い、直感的にこれいいんじゃね?ぐらいしか分からない。それに比べて千草は細かく色々な所をチェックして、俺に合った武器を選んでくれるのだ、素晴らしいと思わんかね?

 

「うーん・・・これはどうでしょうか」

 

なので武器は千草に任せた!だいぶ前だが初めて二人で来た時、「武器選びは千草に任せます」って言ったらめちゃくちゃ慌てて「妖夢ちゃんは鎧とか着ないんだから武器が全てなんだよ?じ、自分で決めないと!」って正論を言われたのだが、選ぶ目の無い俺ではむしろ危ないから「千草が選んでくれた物ならきっと大丈夫ですよ」って笑い返した訳だ、その日から俺の武器は千草が選んでいる、唯一違う物があるとすればオーダーメイドの長刀位だろうか。

さて、武器は任せるとして俺は鎧とか着てみようと思う、手短にそこらにあった革鎧を手に取り近くの着替え室で着替えてみる。・・・が。

 

「・・・ぶかぶか・・・まぁ当たり前ですよね」

 

そうなのだ、なかなか自分に合った鎧がない!パルゥムのコーナーにしか無いと言う現実、いいさいいさ!と見切りをつけてさっさとパルゥムコーナーに突撃、ハーフプレートを持ち上げ着替え室に。

 

「・・・・・・ピッタリ・・・」

 

少し歩いてみる・・・うわ、歩きづらいな、てか重い、ただ着てるだけで力と耐久のステイタスが上がりそうだ、どうせ鎧を着るなら命達と同じような武者鎧がいいと思うのだが、残念ながら武者鎧を扱う店は少ない、ヘファイストス・ファミリアならまぁ売っているだろう、・・・この階じゃ無くてもっと高い(値段が)所にあるんだろうけど・・・、つまりはオーダーメイドで作らないとダメかな。鎧を脱いで元の場所に戻し、千草の所に戻る。

 

「こっちは・・・だから・・・これは・・・だよね・・・ブツブツ」

 

あー、これは話しかけない方がいいかな?凄い真剣に考えてくれてるみたいだ・・・嬉しいねー。なんか良いの無いかなー、ん?こ、これは・・・兎鎧!?・・・雑に箱に詰められているということは・・・ベル君はもうすぐここに来るということか?

 

「あ、あれ?・・・僕でも手が届きそう・・・」

 

こ、この声は!?やばいどうしよう!どっかに隠れなきゃ・・・って何してんだろ、隠れる必要ないだろ、少し声をかけてみるか。

 

「おはようございます」

「ひぃ!?」

俺が挨拶するとベルはこっちがビックリするほど驚いて飛び跳ねる。その姿紛うことなき兎。じゃなくて何しに来たのか聞くか、知ってるけど。あ、もしかしてデートっすか〜?(*´σー`)

 

「何しに・・・あ、デートですよね、失礼しました」

 

「ちちちちち違うんです!?妖夢さん!?」

 

えー?ちがうのー?・・・ごめんお兄さんが悪かった。どうやらベル君は原作通りギルド職員のエイナ・チュールとデート、じゃなくて装備を選びに来たようだ、邪魔になってしまうのはどの道変わらないのでここは退散するとしよう。

 

「さようならー」

 

しかし!回り込まれてしまった!・・・おいこら何やってんだ兎、お前これから兎って呼ぶぞ?いいのか?君は優しそうなおねーさんがついてるだろうに・・・ハッ!まさか千草を狙って・・・?いや、有り得ないか流石に千草にまでフラグを建てていやがったら白楼剣でフラグを断ち切るしかない。

 

「よ、妖夢さんは何しに来たんですか?」

 

・・・・・・はぁ、冒険者が武具屋に来ていて何してるか何て一つしかないだろ?買うんだよ、武器と防具を。こっちは兎さんみたいに、むやみやたらに恋愛フラグなんて建ててないんですー。

 

「・・・はぁ、冒険者がここにいてする事は?・・・そう、武器や防具を買うことです。」

 

「あ、そ、そうですよね!すみませんアハハ」

 

笑って誤魔化そうとするベル君に俺はジト目で追い討ちをかける。恐らく俺に話しかけてきたのは自分よりも俺の方が武器とか選ぶのが上手いかも、って思ったのかも知れない。自分より詳しい人がいるなら教わった方が早いってのはわかるが・・・。俺無理よ?

 

「ジーーーー」

「アハ、ハ、ハハ・・・す、すみません武器の見方とかその、わからなくて・・・」

 

モジモジしながら言うなよ・・・なんて言うか・・・生まれてくる性別間違えてないか?変える?ねぇ変える?

とりあえず俺にもわからん、大まかな脅威度とかなら斬り合えばわかるけど・・・流石に店の商品でやったらダメだろJK(常識的に考えて。)

 

アドバイスか・・・まぁあれだ、要するに心だな心。自分が使いたいっ!って思ったものを使えばいいんだよっ!(。 ・`ω・´) キラン☆

 

「・・・心です」キリッ

 

「心?」

 

「そう、心。自分が使いたい、自分が振るいたい。そう思える武器を、防具を探せばいいんです。貴方なら簡単だと思いますよ兎さん」

 

うー、最後の・・・本気でやるのね兎さんて・・・まぁいいか、なんか目の前の白兔が赤兎になってるが知らん。ウィンクしたのが悪かったか?

 

「自分の・・・心・・・。あれ、妖夢さんは自分で選ばないんですか?」

 

ベルが目敏く千草を見つけたのか俺にそう問いかける、お前なぁ・・・千草だぞ?あんなにちっこくて(身長は負けてる)か弱い(外見的には同じ位か弱い)女の子(自分も)が選んでくれた物ならどんな物でも使ってやる!それが家族ってもんだろ!

 

「当たり前です、私は家族が選んでくれた武器を使いたい・・・そう心の底から思っています、だから千草に選んでもらってるんですよ。それに千草は目利きですから」

 

感動的だな・・・、いい翻訳だ、グーグル先生にも見習ってもらいたいぜ、そして猛烈に恥ずかしいなこれ、うんさっさと逃げよう。ちーぐーさー

 

「では。千草ー、見つかりましたかー?」

 

 

 

 

 

 

夕暮れ時、千草と妖夢は新たな刀を手に入れ、妖夢のステイタス更新の為にホームに向かっていた。

 

「〜〜♪」

 

「ご機嫌だね!」

 

手を繋ぎ鼻歌を歌いながらスキップする様に変える2人。

 

「はい!千草のお陰でいい武器が手に入りましたし!」

 

(妖夢ちゃんって毎回同じ事言ってるなー、そ、それにしても)

 

笑顔で頷く妖夢を余所に、千草はギルド7階での出来事を思い返す。

 

(「当たり前です、私は家族が選んでくれた武器を使いたい・・・そう心のそこから思っています、だから千草に選んでもらってるんですよ。それに千草は目利きですから」だって///!そんなふうに思ってくれるなんて・・・て、照れちゃうよ・・・)

 

「そうだ、寄り道をしましょう千草!」

 

千草は妖夢の提案に驚く、ステイタスの更新を楽しみにしている妖夢が寄り道をしようなどと言うとは全く思っていなかったのだ、思わず声が出てしまう。

 

「え?ど、どこに?」

 

(ま、まさか・・・ついさっきまで切れ味の確認ってダンジョンに行ってたのに・・・逆戻り?そ、それはちょっと)

 

妖夢は千草の考えに気づくこと無く歩き始める、しかしその方角はダンジョンのある方向ではない。その事にすこしホッとしながら千草は小走りで妖夢の後を追いかけ隣に並んで歩き始める。

 

「どこに行くの?」

 

「うーん、お、まだ残ってる。あ、千草はここで待っていてください!」

 

そう言って妖夢が入って行ったのは1件のアクセサリーショップ、その事に千草は驚愕する、いや最早ダメージを受けるほどのショックを受けた。

 

(あ、あれは〜〜!?『恋の装飾(ハート・アクセ)』!?ピンからキリまでアクセサリーの全てが此処にある!でお馴染みの?!そこで買った装飾品を異性にプレゼントする事で恋が叶うと言うあの?!な、何で妖夢ちゃんがあんなお店に!?ま、まままさか・・・桜花の言ったとおり妖夢ちゃんはべートさんの事を・・・あわわ・・・お、落ち着かなきゃ、深呼吸だ深呼吸だ、すーはーすーはー・・・で、でもでもいくら何でも妖夢ちゃんがプロポーズしたって年齢差的に・・・・・・よ、妖夢ちゃんの実年齢っていくつなの〜!ヤバイ!このままだと!何がやばいのかわからないけどやばいよ!?こ、こんな時に桜花が居れば!あー!桜花ー!たーすーけーてー!)

 

しばらく千草が百面相しながら慌てふためいていると妖夢が笑顔で帰ってくる。

 

「ちーぐさ!少し目を瞑って下さい!」

 

「ふぇ?!ちょ、ちょっと妖夢ちゃん!?」

 

口では何だかんだ言っているがしっかりと目を閉じている千草、妖夢は千草の頭を若干乱暴に弄り回し・・・。

 

「出来ました!おぉ・・・やっぱり千草は前髪を上げたほうが良いですよ?それは私からのプレゼントです」

 

そう言って千草から離れる妖夢、千草はおどおどしながら自分の頭に触れる、そこには大きめの赤いリボンが結び付けられていた。

 

「こ、これってっ!」

 

「はい、身に着けていれば幸運が訪れるそうですよ?」

 

「でっでも高いんじゃ・・・」

 

「?千草の命には変えられませんよ、ダンジョンではいつ死んでしまうかわからないですから」

 

千草の心配を余所に妖夢は首をかしげながら平然と言い放つ、千草は言葉に顔を赤くしながら消え入りそうな声でありがとうと礼を言った。

 

幸運のリボンは早くも効果を表したのか、夕暮れ時だった為赤くなった顔を不思議に思われる事も無かった。プレゼントは命や桜花、タケミカヅチにも渡されていた、どうやら全員違う物を渡された様だ、千草は桜花が自分とお揃いの物を付けたらどうなるのかな、と想像し吹き出すのだった。

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

【魂魄妖夢】

 

所属:【タケミカヅチ・ファミリア】

 

種族:半人半霊

 

【ステイタス】

 

Lv.2

 

「力」:F352 →D523+171

「耐久」:G230→E430 +200

「器用」:D503→ A836+333

「敏捷」:E495→A812 +317

「魔力」:F326→ E403+77

「霊力」:E452 →D552+100

 

アビリティ:集中 G+

 

スキル

 

【半霊 (ハルプゼーレ)】

 

・アイテムを収納できる。収納できる物の大きさ、重さは妖夢のレベルにより変化する。

・半霊自体の大きさもレベルにより変化する。

・攻撃やその他支援を行える。

・半霊に意識を移し行動する事ができる。

・ステイタスに「霊力」の項目を追加。

・魔法を使う際「魔力、霊力」で発動できる。

 

【刀意即妙(シュヴェーアト・グリプス)】

 

・一合打ち合う度、相手の癖や特徴を知覚できる。打ち合う度に効果は上昇する。(これは剣術に限られた事ではない)

・同じ攻撃は未来予知に近い速度で対処できる。

・1度斬ればその生物の弱点を知る事が出来る。

・器用と俊敏に成長補正。

 

【剣技掌握(マハトエアグライフング)】

 

・剣術を記憶する。

・自らが知る剣術を相手が使う場合にのみ、相手を1歩上回る方法が脳裏に浮かぶ。

・霊力を消費する事で自身が扱う剣術の完成度を一時的に上昇させる。

 

【二律背反(アンチノミー)】

 

・前の自分が奮起すればする程、魂が強化される。強化に上限はなく、魂の強さによって変化する。

・使用する際、霊力が消費される。

 

魔法

 

「楼観剣/白楼剣」

 

詠唱①【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】

 

詠唱②【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】

 

 

詠唱「西行妖」

 

【亡骸溢れる黄泉の国。

咲いて誇るる死の桜。

数多の御霊を喰い荒し、数多の屍築き上げ、世に憚りて花開く。

嘆き嘆いた冥の姫。

汝の命奪い賜いて、かの桜は枯れ果てましょう。

花弁はかくして奪われ、萎れて枯れた凡木となる。

奪われ萎びた死の桜、再びここに花咲かせよう。

現に咲け───冥桜開花。西行妖。】

 

【ーーーーーーーー】

 

【】

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「・・・と、トータル1000オーバー・・・だと・・・妖夢お前はどれだけ無茶したんだ・・・」

 

皆まで言うな、一番驚いてるのは俺だ。一体どこの主人公だこれぇ!?補正ってこんなに凄い物なんだね、今はっきりと認識したわ!そして耐久!お前毎回上がり過ぎだろ!?補正無いんだぞお前!?

 

「・・・・・・・・・」

 

ほら!驚き過ぎて声出てねぇもん!黙りこくってんもん!そりゃそうだよね、こんないきなり上がったらビビるよね。

 

ん?・・・何だこれ・・・G+?どういう事だろう、タケに聞いてみよう。

 

「・・・・・・」

 

おーい、聞いて?聞いてみよう?聞かなきゃ解らないから、そんなに目を見開いたままタケを凝視しても伝わらないから。

 

「いや、俺にもわからん。何故G+なんだろうな、上がっているならFと表示される筈なんだが」

 

伝わったー、すげぇなタケ、実は天然ジゴロじゃないんじゃないか?わざとなんじゃね?ハッ!まさか以心伝心、って奴か!?にしても何だったか・・・何かの作品でアルファベットに+がつく奴が・・・・・・・・・Fate?

 

まじかよ、もしそうだとしたら特定条件下でアルファベットの2倍になるんだよな?・・・ってGの2倍ってなんだよ、発展アビリティの数値とか知らねぇよー!あれか?SABCDEFGHIの十段階だとして、あれSってあったけ?まぁいい、十段階だとしたらGの位置は下から3番目、+が付いて2倍だとしたら下から6番目のD位の効果になるのか?・・・・・・え?やばくね?

 

ま、まぁ仮に2倍になるとしてもどうせ死にそうな時とかそんぐらいだろう。

時間が経ってちゃんと話せる様になったのでその事をタケに伝えておく、勿論仮説でしか無いが。

 

 

 

 

 

 

 

俺、魂魄妖夢の朝は早い、まだ日が登っていないうちに寝床から起き上がり水場で顔を洗う。そして刀を・・・あぁ、ちなみにこの刀の名前は天切(あまぎり)だ、随分と大層な名前だが刀としては申し分ない性能を持っている。それに愛がこもっている(真顔)

 

天切を持って庭に出る、服は寝巻きのままだ、だってどうせ汗かくし後で着替えるからね。そして素振りを始める、初めは垂直に振り下ろすのを繰り返すだけだが、そこから動きを加えていき演武の様に動き始める。命から「舞を踊っているかのようです」とお墨付きを貰っているから、もっと洗練させようと頑張っている。

 

ある程度体が暖まったら並行詠唱をしながら動かす。空想上の相手は取り敢えず人形だ。

 

「【我が血族に伝わりし―――】」横に切り払うと同時に飛び跳ね相手の横をとる。

 

最近になって挑戦している事が並行詠唱をしながら剣技を発動させる事だ、剣技の発動には結構な集中力が必要だ、発展アビリティのお陰である程度緩和されているが、並行詠唱と同時に行う成功率はまだ30%位だろう。これに関してはひたすら鍛錬あるのみ、と頑張っている。

 

「【―断迷の霊剣―】」袈裟斬りを放ち、首を狙う牽制の横振りを加え、一歩下がる。

 

どのタイミングで技を使うか、それも結構重要だ、変な所で使うと成功率は著しく下がる。

 

「【ーー傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。】」垂直に振り下ろし即座に切り上げ、そのまま肩まで刀を持ち上げる。切っ先は敵に、刃を上に向け水平に構える。

 

最もベストなのは詠唱が終わる直前だろうか、ベスト、と言うよりは成功率が高い場所だな、でも、やっぱり詠唱中に、相手との距離を離す牽制として使えた方がいいだろう。

 

「【―迷え、さすれば】ッ!あ、危なかった」

 

っぶねー、燕返しやろうとしたら魔力暴走しそうになったわー。ちなみに霊力は暴走しにくいみたいだ、霊力で唱える分には成功率は倍位だと思う。ただ、それに甘えているせいで魔力の項目がなかなか上がらない。今日は千草に選んでもらった天切を少しでも手に馴染ませようと使っていたが、いつもなら鍛錬の初めに楼観剣を召喚したりして魔力を消費させている。

 

てかさー、武器を召喚させる魔法なのに詠唱が地味に長いんだよね、もーいいじゃん【来い!】だけでいいじゃん、そう思わないか?アイズだって【目覚めよ】ってだけであんな強力な魔法使えるのに・・・。そうそう、買い物の後エイナに捕まって「もし良かったらベル君とダンジョンに潜ってくれないかな?無理だったらいいんだけど・・・レベル2の妖夢ちゃんが居れば安心できるから・・・」とかお願いされてしまった・・・なんで今頃思い出したんだろうか。

 

その後も何だかんだタケが起きて来るまで鍛錬は続いた。




【楼観剣】

魔法で作り出された剣。魔力か霊力もしくは両方を消費。詠唱にある通り斬れない物はあんまり無い、楼観剣で斬れない物は白楼剣で斬る。
非常に長く、背の低い妖夢からするとアンバランスだが、そこは技量でカバーしている。常時発動型の魔法、アイズのエアリエルと似た感じ。相手の攻撃で破損したとしてもすぐに修復される。


【幸運を呼ぶ赤いリボン】

妖夢が求めている様な効果は少ししかなく、ドロップ率アップの効果。

【恋の装飾】

色々なアクセサリーが揃うオリジナルのお店。非常に人気が高く、値段も高い。しかし鍛治スキルや神秘スキル持ちの職人が作り出したアクセサリーは様々な効果を現す。タケミカヅチと桜花、命には身体能力の向上、左から腕輪、ネックレス、髪飾りを渡した。

次回!特に言うことは無い!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話「え?そうなんですか?」

前書きに書くことが無くなってきたでごザル。

14話ですよー。戦闘はほぼ無しです、申し訳ない。・・・実は次回もほとんど無くってですね申し訳ない!


「バグベアーの爪が1、2・・・4、5。はい!目標数しっかりありますね、クエスト達成です!こちらが報酬になります」

 

「ありがとうございます。・・・15万ヴァリス・・・道中狩った敵の分もふくめれば・・・20万・・・」

 

可笑しい・・・魔石を斬らないように心掛けるだけでもこんなに稼げる額が変わるのか・・・、あ、妖夢です、最近はクエストを受ける方が稼げるんじゃ無いかな?って思ってたのに魔石を斬らないように頑張れば余裕で40万行けそうだなって思った妖夢です。現在は大体正午、ダッシュで19階層まで走って森の・・・迷宮の熊さんと戯れていたら5時間経ってた。あ、ちなみに行っても良い階層が25階層まで増えたぜ。

 

最近はグリーンドラゴンって言う宝石のなる木を守ってる木竜を倒す、もしくは目を掻い潜って宝石を貰えないかなーなんて思ってる。でも推定レベル4らしいしもう少し我慢しよう、もう少しステイタスが上がれば勝てそう。弱点はいくらでも突けるから後は相手の攻撃に対する対策をしなきゃなー、ぐへへ、あの宝石を半霊にいっぱい詰め込んでやるぜ。あと最近になって日課に加わった身体能力を強化する系統の技の練習も意外と楽しい。

 

でもカッコつけて「一刀修羅!」とか言ってる所を千草に見られた・・・死にたい。なんか起こりそうだったけど千草に見られた驚きと恥ずかしさですぐに止めたからまだわからないんだよなー。ちなみに5回目を見られたよ。・・・今までも技を使えば使う程、完成度とか上昇してきたから繰り返せば習得できる可能性が微レ存?

 

「ふむ・・・もう一回行ってきますか・・・ダンジョン」

 

日もまだ高い、目指せ40万!ふふふタケミカヅチよ!余りの大金にひっくり返るがよい!フーハハハはっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・つ、疲れた・・・19〜22階層位をえーと、月があそこにあるから・・・8時間位駆けずり回ってたのか・・・そして外に出るまでに追加で・・・結構潜ったな〜。だが40万はこえなかったぜ・・・精々25万が限界かも・・・大量の魔石とドロップアイテム・・・半霊に入り切らなかったぜ・・・レベルアップすれば半霊もでかくなるから入る量も増えるのになー。まぁ換金したし、きっと半霊の中は今やさぞかし黄金の輝きを放っているだろう、透明化してるからわからないか。

 

はぁ〜疲れた〜、大通りからだと遠いなー、脇道を使って近道しよー。「きゃっ!」ゴンッ!

 

・・・きゃっ?ごん?

 

「あっ、ごめんなさいお怪我は?」

 

やば、小さい子にぶつかっちまった・・・。・・・でも何でこんな時間にこんな女の子が・・・。赤っぽい毛のパルゥムか、暗くて色が良く分からん・・・まぁパルゥムなら大人の可能性もあるか。

 

「ごめんなさい!」

 

あ、走ってどっか行っちまった・・・ま、いっか。

 

・・・・・・・・・・・・いや、いやいや。あれ明らかにリリルカ・アーデさんだよね?どうする?追いかけるのもあれだよな・・・あ、てか何も盗まれて無いよね?!・・・そう言えば刀以外に特に金目の物身につけてないわ。カチューシャもちゃんとあるな。

 

そうか、そう言えばベル君とリリが出会うのはエイナとの買い物の後だったか・・・つまり昨日一緒に帰っていたりとかしたら出会えていた・・・くっ。

 

ま、まぁいいし?全然悔しくないから?千草たちにプレゼントを買えたんだから良し!ヴェルフ辺りと一緒に勝手にパーティーに・・・あでも桜花とか命が居るしなーパーティーに入るのは不味いかもな、でもエイナにお願いされているし・・・。ダンジョンで会ったら少し手伝う位でいいか。

 

何事も無くホームに帰った俺はタケに何故か叱られる羽目になった・・・まぁ殆ど1日中ダンジョンに潜ってたし・・・無断だったし・・・いけないのは俺だな。すみませんでした。とはいえ俺が稼いできた額には驚いてくれたので満足だ!無理をするなよ?と更に注意される事になったが。

 

 

 

 

 

 

時は遡り、正午のギルドホールにて。銀髪の少女はクエストを終え、大金を手にしていた。それを無遠慮に眺める2人の冒険者達が居た。彼らはコソコソと小声で話し合う。

 

「なぁ、知ってるか?」

「何がだ?」

「あそこにいるガキだよ」

 

そう言って銀髪の少女に指を指す男、それに対しもう1人の男は「あぁ」と言って自らが知る情報を話し出す。最も、その量はしがない冒険者が得るに相応しい少量ではあったが。

 

「あいつはコンパクっつー冒険者だ」

「コンパク?どっかで聞いたような・・・にしてもいけ好かない餓鬼だなぁ、すぐさま俺達を抜かしていきやがった」

 

彼らはレベル1、それも10年間にわたってそのレベルを更新出来ないでいる。そもそもこの世界でレベルアップできる人など1握りにも満たない人数なのだが。彼らは血のにじむような努力を続けてきたつもりだ、死にかけた事など一度や二度ではない。しかし、かのコンパクと名のる冒険者はたった2年でしかも子供の癖にレベルアップを果した。彼等が嫉妬してしまうとしてもそれは仕方が無いことだろう、人は自分に無いものを他人に求める生き物なのだから。

 

「・・・どうする?やっちまうか?」

「・・・そりゃあ俺達はベテランだが・・・あんな餓鬼に腹立ててる様じゃな・・・だが・・・」

 

話しが物騒な方向へと傾き始めた時、2人に背後から話しかける者が居た。旅人の様な格好をした優男だ。

 

「お二人さん、それは止めといた方が良いんじゃないかな?」

 

いきなり背後から話し掛けられればたとえ街中だろうと警戒はする、冒険者の自分達が気が付けなかったなら尚更だ。ファミリア全てが仲良しこよししている訳では無い、時に戦争遊戯(ウォーゲーム)として争い合う事すらある。主神同士の仲が悪ければ殺し合いに発展するケースすらあるのだ。流石にギルドホールでそんな事は起らないと思われるが。

 

「てめぇ・・・、ッ!アンタ・・・どこの神だ」

 

優男が纏う雰囲気は常人のそれでは無く神そのもの、それに気が付いた冒険者は言葉を少し和らげる、警戒は続けているが、すると優男はそれを無視し小声で囁くように男に告げる。ウィンクのおまけ付きだ。

 

「・・・彼女はあの【凶狼(ヴァナルガンド)】のお気に入りらしい」

 

「・・・ッ!」

 

息詰まる冒険者達。その一言は冒険者達の考えを改めさせるには十分すぎたのだ、何せ「自分よりも弱い者を認めない」とされる凶狼に認められたのだ、それはつまり・・・・・・冒険者達は自分がどのような事をしようとしていたのかはっきりと理解する、今まで10年間無事に何とか生きてきたのだ、ここで無駄にする必要なんてこれっぽっちも無い。冒険者達は互いに顔を見、肩を並べてダンジョンへと潜っていった。

 

 

この噂は瞬く間に広がるだろう。そう確かな確信を持って優男・・・男神ヘルメスは床を見つめる。いや、睨み付けているのだろうか…その表情は硬い、普段の爽やかな笑みを顔に貼り付けた優男の面影はなりを潜めている。

 

「(ウラノス・・・これでいいのかい?・・・彼女は異物(イレギュラー)・・・そう言ったのは貴方だ。・・・間違いなく彼女は「何か」に干渉されている)」

 

天を貫く塔の地下で、ダンジョンを静めている友を思いながら、しばらくしてヘルメスは普段の調子を取り戻したのか笑みを浮かべ、帽子を少し深く被り直し、そそくさとその場から歩き去る。

 

「(彼女は英雄に成れる可能性を秘めている・・・しかし・・・いや、そこをどうにかするのが俺達の役目か・・・・・・接触を計ろう)」

 

爽やかな笑みは変わらない、これは処世術、初対面で少女に出会うならこちらの方が印象はいい筈だ。食えない神と言われるヘルメスはオラリオの町に乗り出す。

 

「(情報はある程度既に集め終えた。・・・行動パターンを調べ偶然を装って接触しよう・・・神の間で彼女への接触は一部の例外を除いて禁止されている。尤も禁止されたのは最近で知らない神も居るだろう・・・守らない神も多いだろう。・・・アスフィに任せるのも有りかな)」

 

魂魄妖夢への接触禁止・・・それはウラノスからの御触れであり、曰く「彼女を刺激するな」との事、守ろうとしない神も多く居るが本人にはバレてないようだ。

 

「(禁止令を出したくせに・・・なんで噂をばら撒くかなぁ・・・更に注目を集めるだけだそ)」

 

と言うか既に神々の間で魂魄妖夢の知名度は非常に高い、アイズ・ヴァレンシュタインには及ばないものの僅か2年でレベルアップを果し、更にべート・ローガを重症に追い込んだと言われる噂、見た事も原理も不明な剣技。これだけの要素を持ちながら目立たない等有り得ない。神は三度の飯より噂が好きなのだ。

 

「(そう言えば・・・フレイヤがウラノスと接触していたらしいが・・・なにかするつもりなのか?)」

 

彼からすればフレイヤが動くというだけで不安になる。彼女の魅了は子供たちからすればとてつもない驚異だ、ヘルメス自身も本気の魅了などされればすぐにメロメロになってしまうだろう。

 

その事に少し身震いをし、自身のホームに戻る、優秀な秘書・・・アスフィ・アル・アンドロメダに相談事だ。

 

 

 

 

 

 

「エイナ、エイナ」

「ん?」

ギルド本部窓口で、エイナにが仕事をしていると、同じく受付嬢である同僚が声をかけてくる。なにかあった?と尋ねると彼女は「あそこ見て」と換金スペースを指さした。そちらに顔を向けてみると冒険者と職員が声高に口論しているのがわかる。

 

「ほらまた、ソーマ・ファミリアの冒険者だよ」

 

乱暴な怒声が押し寄せてくる、あれだけ大きな声で叫ばれれば耳を傾ける必要なんて無い。

 

「たったの12000ヴァリス?!ふざけるなっ!あんたの目は節穴か!こんな餓鬼があんなに稼いでるんだぞ?!舐めてんのか!?」

「あぁん?何年この仕事やってると思ってんだ!俺の目が狂ってるわけねぇだろ!」

 

冒険者は命懸けでダンジョンに潜り金を稼ぐ、どんな冒険者でも少なからず換金に期待しているのだ、期待よりも少なければ講義したくもあるだろう。しかし「また」なのだ。ソーマ・ファミリアが問題を起こしていると、ありふれた光景は度の過ぎたものとなるのだ。

連日連続、彼らの金への執着は尋常ではない。

 

そして声高に叫ぶ男に指を刺されるのは銀髪の少女。

 

「(うえっ?!妖夢ちゃん!)」

 

驚くエイナに友人であるヒューマンの同僚は不思議そうに話しかける。

 

「エイナどうしたの?そんなに驚いて」

「え?えと、あのー、コホン、私の担当の冒険者のベル君って居るでしょ?あの子はベル君を助けてくれた事があって・・・」

 

友人は、ああーあの白髪の子か、と納得し、妖夢の方を見る、妖夢はギルド職員の間でも結構有名なのだ、礼儀正しいし、何より稼いでくる金額が最近いきなり大幅に上がったからだ。ソーマ・ファミリアの冒険者と口論していた職員は「その子は関係ないだろ!」と妖夢を庇護する様に口論している。庇われている本人は「いえ、あの、その、ど、どうしましょう・・・これは私が悪いのでしょうか・・・」とお金の入った袋を抱えながら、口論する2人を交互に目で追いながら困っている。

 

「(はぁ・・・早まっちゃたかなー、ベル君大丈夫かな・・・取り敢えず妖夢ちゃんを助けないと)」

 

そう思い、エイナがカウンターから出て口論の場に向かおうとすると、水色が視界の端を通った。

 

「失礼ですが・・・そう言った口論に女の子を巻き込むのは止した方がいいのでは?まぁ、別に貴方達がどうなろうとどうでもいいんですけどね」

 

突如として口論に割って入ったのはメガネをかけた女冒険者【万能者(ペルセウス)】・・・名をアスフィ・アル・アンドロメダというレベル2、と言われている冒険者だった。最もヘルメス・ファミリアを疑う人は多く、そのレベルを偽っている人も居るらしいがエイナはその事を深く知らない。

 

「ああ!?何だてめぇは!」

「アスフィさん!」

「なっ!【万能者】だと!」

 

周囲がざわめく、レベル1の冒険者とレベル2のアスフィでは余りに実力差があり過ぎる、喧嘩沙汰に発展するのだろうか?そう周囲の者達が思うのも当然だろう。なにせ、アスフィは明らかに不機嫌だった。目の下には隈があり、疲れているのが丸わかりなのだ。

 

しかしその後もガミガミと2人を叱りつけるアスフィを妖夢は目が点の状態でポカーン見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ど、どうもぉ・・・俺です・・・な、何でか知らないけどアスフィと一緒です。豊穣の女主人で食事中なのです。

 

・・・えー、この状況は何なんだろうね、口論に巻き込まれたと思ったらアスフィに連れ回されてここにやって来てパフェを食べている現状・・・午後からのダンジョンは・・・まぁ時間はたっぷりある筈だ・・・帰してくれればな。

 

「あの〜アスフィ?何故私は連れ回されているのでしょうか?」

 

パクッとパフェを1口食べ「ん〜!」とほっぺを押さえていたアスフィは「ん?」と今気づいたと言わんばかりの反応を示し、話し出す。

 

「私の主神から頼まれまして。・・・確かに警戒心がまるで無いですし危険ですね・・・まさにエサです。少しは私が悪い人だ、とかお考えにならなかったのですか?」

 

正面切ってエサって言われた、悲しい。でも僕は負けないよ。アスフィは悪い奴じゃないってのは知ってるからな・・・全く知らないモブとかなら多少の警戒はした気がする。助けてもらったみたいだし一応お礼は言っておこうか。

 

「そうだったんですか、ありがとうございますアスフィ。」

 

ニッコリと笑顔で俺は頭を下げる。会えたことも嬉しいし、助けてくれるなんてとても嬉しい。いつもの2倍くらい良い笑顔だった事だろう。

 

「・・・はぁ、どういたしまして。にしても貴女も大変ですね、有名になる弊害ではありますが・・・なにもこんな子供に・・・あぁ、パルゥムでは無いですよね?」

 

言葉の後にまた1口食べるアスフィ、やめろ、その一言は俺に効く。・・・なんて言うかこう、凄いマナーとか厳しそうなイメージがあったがそんな事は無いみたいだ。・・・仕事のストレスでヤケになってる可能性は否定出来ないけども。

てか有名になってるのか?別に迷惑とか感じたこと無いよ?寧ろ換金の時とか普段なら優しい人は「君の主神が心配するかもしれないから先にいいよ」とか言ってくれるし。ロリコン神に会ったことも無いし。

 

「有名になった自覚はありませんが・・・皆さん優しいですし、変な神様にも会ったこと無いですよ?」

 

「え?そうなんですか?」

 

え?何?俺ってそんなにロリコン神から追いかけられてるの?俺の知らない所で追いかけっこ始まってるの?俺は鬼なの?強制帰還させればいいの?

コホン、旅から帰ってきたって言っていたしな、情報の食違いだってあるさ。うんうん。

 

「・・・・・・ではその・・・魂魄妖夢に近づくと筋肉質の大男に捕まって意識を失うと言う噂はご存知ですか?」

 

・・・は?え、怖いんだけど・・・いや、結果的に助けてくれてるのか・・・どうしよう「魂魄妖夢は俺の嫁!てめぇら手ぇ出してんじゃねぇぞ!」みたいなストーカーだったら・・・。筋肉モリモリマッチョマンの変態が俺を守ってくれているのか・・・とりあえずその謎の人物は「メイトリ〇ス」と名付けよう。

 

「・・・ふむ、その様子だとご存知ないみたいですね。なるほど・・・。納得がいきました、妖夢さん、この後ご予定は?」

 

妖夢さんって・・・何だか歯がゆいなー。すぐさまダンジョンに潜りたいが・・・なにか用があるのだろうか?

 

「えと、ダンジョンに行こうかと。」

 

「そうですか、わかりました。なるべく帰りが遅い時間にならないようにするといいでしょう。」

 

アスフィは「では、今回は私持ちで、また会えるのを楽しみにしています。」とクールに帰っていった。確か主神はヘルメスだったよな、アスフィは凄いいい人だったけど、ヘルメスもいい人っぽいな。

 

まぁ、いいか、ああ言ったんだし早くダンジョンに行ってこよう。

 

 

 

 

「うふ、うふふふっ」

 

雲の隙間から覗いた月が暗闇に包まれる室内を照らし出す。笑い声の持ち主は遥か下方に見える白い影に熱い視線を送っていた。

 

美しい肢体を黒いチャイナドレスに包んだ女神は月の光によって神秘的に輝いていた。女神は目をほかの所に向ける、そこには銀の影。複数の影と共に歩く銀の少し後方で神がまた1人捕まった。

 

「うふふふ、オッタルったらそんなにあの子が気に入ったの?妬いちゃうわよ?・・・もう冗談よ、アレンってばヤキモチさんなのね?」

 

クスクスと笑う女神、フレイヤ、一応オッタルの名誉の為にここに記すがオッタルはフレイヤの命令で妖夢を守っているだけだ。

 

それがわかっていてもアレン・フローメルは気に入らなかった、そんな任務なら自分でもこなせる、寧ろオッタルよりもバレずに行動できる自信があった。しかし、神とは性格が悪い・・・と言うより楽しい事が好きなので慣れない事をするオッタルを見れて、お気に入りの少女を同時に観察できるとなれば・・・この行動は当然とも言える。

 

「あぁ・・・そうだわアレン」

「なんでしょうか」

魔道書(グリモア)の在庫ってあったかしら」

「・・・調べさせますか?」

「ああ、いいの。そんなに急ぎじゃないから」

 

アレンはまさか・・・と疑うが、自らが慕う神を疑うなど言語道断とその思考を切り捨て、魔道書の確認をほかの者に任せる、現在はフレイヤ様の警護中なのだ、この場を離れるわけには行かない・・・つまりはここに居たいだけなのだが。

 

 

 

「(魂魄妖夢の護衛、もとい監視を続けて早数日、なるほど、彼女の性格はある程度把握出来た。)」

 

オッタルは腕の中で暴れる変態神をきつく抱擁する事で黙らせ、縄で縛ってそこに置く。

 

「驚くべき才能だな・・・」

 

流石フレイヤ様だ、オッタルは内心で更にフレイヤへの信仰を強め、妖夢を見る。

 

「(見初められたお前には強くなる義務がある。まだだ、まだ強くなれる。魂魄妖夢、お前の限界は遥か先だ)」

 

妖夢に心の中で激励を送り、その場を後にする。家まで護衛すればもう十分だろう、流石にプライベートな場所までは踏み込まない。なぜなら既に噂は立ってしまっている。

 

「(噂が広がれば神も手を出し難くなる筈だが・・・本人に気づかれてしまうのは不味い、社会的に不味い。)」

 

捕らえようとした神に「げぇ!ムキムキマッチョマンのロリコン!?」と言われたのは記憶に新しい、オッタルは自分の耳が垂れるのを自覚し意識的に治す。この後はフレイヤ様に会える、そう思えば帰る足は徐々に速くなっていった。

 

 

 

 

 

「ベル様ベル様!」

「ん?どうしたのリリ?」

「向こうから冒険者が来ますよ」

 

ベルが倒したモンスターからリリが魔石を取り出していると、リリの耳がぴくぴくと動き、冒険者の接近を知らせてくれる。

 

「流石だね、僕全然気が付かなかったよ・・・」

「シアンスロープですから」

 

えへん!と胸を張り、ささ、隠れましょう。とベルの手を引き近くの横道に隠れる。

 

「リリ?どうして隠れるの?」

「悪い冒険者に捕まると面倒くさいですから」

 

なるほど、そう呟きながらベルの心はほんの少し傷付く、憧れの冒険者は想像よりも綺麗では無かった、エイナに言われた事を思い出し、表情が少し歪む。足音は段々と大きくなってくる。そして話し声も二人の耳に届いた。

 

「なぁ妖夢、今日は13階層までだぞ?千草だっているんだからな?」

 

「もちろんです。千草が怪我したら悲しいですから、あ、桜花もですよ?」

「なんだよその「あ」は・・・」

「ご、ごめんなさい・・・私が弱いから・・・」

「千草は弱くありませんよっ、それにもうすぐランクアップしそうじゃないですか」

「そうだぞ?気にする事はない」

 

13階層、という事はレベル2、または熟練のレベル1。話だけでも自分達よりも強い冒険者だと言うことがわかる、しかしそんな事よりもベルは聞こえてきた名前に驚いていた。

 

「(妖夢さん?!)」

 

別に冒険者の知り合いとダンジョンで出会う事は珍しい事ではない。なら何故驚いているのか、それはある種の苦手意識。噂は確実に広まり、こうしてベルにも届いていた。曰くレベル2にしてレベル5と同等。曰くレベルを偽っている。そんな噂を聞いてしまったベルは妖夢にあった時どう接すれば良いのかわからなくなってしまったのだ。

 

「モンスターの死体?」

「そのようですね」

「で、でも魔石が残ってるみたいだよ?灰になってないし・・・」

 

シュルル、と武器を鞘から引き抜く音がする。

 

「・・・待ち伏せ・・・か」

「ええ、その可能性が高いかと」

「ど、どうしよう・・・」

 

ベルはその声に慌てる、過去にない程に慌てる。向こうは命の恩人なのだ、これでは恩を仇で返す事になってしまう。それだけは嫌だ、ベルはリリの静止を無視し妖夢達の前に飛び出した。

 

「すみません!!妖夢さ――」

 

そこまで言った所でベルの意識は途絶えた。

 

 




ハルプの!解説コーナー!!
『はい!今回も始まりました!解説コーナー!え?前回は居なかった?・・・さぁ!始めていきましょう!』

『ま、箇条書きなんだけどね。』

【白楼剣】

・魔法及び霊力で召喚可能。切れ味は一級品に劣るが物理的に斬ることの出来ないものを切れたりする。例として迷い等。
・霊体に対してとんでもない特攻を持っており、例えばダンジョンに幽霊のモンスターが居たとしても即サヨナラ!(例、レベル6の霊体のモンスターが居たとしても斬ったら即死、昇天とも言う)
・未だに出番が来ない可哀想な子。

【レベル2の稼ぎについて】

わからないから捏造した、反省はまだしていない。コメントを見て突っ込まれたら反省しようと思っている(真顔)

【次回予告】

今回に続き次回も戦闘が殆ど無い。次次回が戦闘回になる予定。その時妖夢が超強化されます(予定)

【修正しました!】

アスフィのレベルを隠蔽せずにレベル4と表記していましたが、レベル2に直しました。すまぬ。すまぬぅ・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話「みょおおおおおおおおん!?」

投稿ですー。

東方ヴォーカルを聞きながらバトルフィールドをやっていたら滅茶苦茶キルされたぜ・・・足音が聞こえん(当り前)

今回の話しは要らなかったかなー、と思うのですが15話です。


気を付けて、刀は急に、止まれない。妖夢、心の1句。

・・・いやー、まさかベル君が飛び出てくるとは・・・、捕まえてギルドに叩きだそうと思って逆刃にして無かったらベル君ゆっくり饅頭になる所だったぜ。桜花と千草も殆ど同時に反応していたけど、武器を振るのは俺が圧倒的に速かった、多分2人は誰なのかを確認しようとしたんだろう。ごめんねベル君。あ、ちなみに千草はリボンを頭の横に結んでいる。・・・前髪は下ろしている、恥ずかしいらしい。

 

「ナイスだ妖夢!千草、縄だ縄!」

「う、うん!待ってね今出すから!」

 

うん、まぁ今回はベル君が悪いよね?あんなん警戒するに決まってるじゃんよ、まぁ謝ろうとしてくれてたみたいだけど。・・・てか、この時期だと・・・リリも居る筈だよな?・・・どこだ?まさかベル君を置いて逃げるなんてことは・・・あ、有り得そうだ、まだ改心してないだろ確か。とりあえず近くにいるなら出てきてもらうか。俺は意識を研ぎ澄ます。耳を澄まし、呼吸を止める。

 

小さな、本当に小さな足音を捉えた。そこか!

 

「そこです!」

 

全力で走り、横道を壁を蹴って曲がり、リリの前に躍り出る。この間1秒くらい!

 

「ひっ・・・・・・!」

 

顔を真っ青にしながらリリが固まる。・・・?何で固まって・・・あ、勢い余って刀を首筋に押し当ててたのか、悪い悪い。・・・でも、リリの事を全く知らなかったら普通にこうしてるんだろうなー。そう言えば俺って原作知識が無ければリリの事を知ってる筈ないよな・・・なら合わせるか。

 

「何者ですか?兎さん・・・ベル・クラネルさんのお仲間ですか?・・・もし、貴女がベル・クラネルさんを利用し、私達に不意打ちをしようとしていたのなら・・・その首、ここに置いていって貰います。」

 

更にその顔を青くするリリ、フッふっふ、なかなかカッコ良く無かったか?兎さんって言ったところを除けばなかなか良かったよね?あ、そう言えば今正に利用するだけ利用しよう、みたいな感じで行動してるんだっけリリは。なるほど、図星だったからより青くなってるのね。

 

「わ、私は・・・リリルカ・アーデです・・・べ、ベル様のサポーターとしてここにいます・・・その、冒険者様を罠にかけようとか思っていなくてですね、中層に向かうと声が聞こえたので道を譲ろうと・・・ですが途中から冒険者様方が警戒し始めたのでベル様が謝りに行こうとしたのです。」

 

リリの頬を1滴の汗が伝う、ごめんなリリ、一応初対面なんだよ、俺が出会ったリリはパルゥムなんだ。・・・まぁ、リリの話しを信じたい、と言うか信じてるが、初対面の俺は警戒するだろう、きっと。

 

「それが真実であると言う証拠は?」

 

首に添えられた刀がカチャリと音を立てる。

 

「・・・ベル様に、聞いていただければ良いかと・・・」

 

うんまぁこれくらいかな?ごめんなー、本当はやりたくなかったんだよ?ホントだよ?初対面でリリ呼びは可笑しいだろうしリリルカって呼ぼう、リリって呼んでくださいって言われたら呼ばせてもらおうか。

 

「それもそうですね、すみませんでした。リリルカ」

 

俺が刀をしまうと、安心したのかその場にへたり込むリリルカ、・・・何か俺が悪いみたいじゃないか・・・知っていてやってるから俺も悪いのはわかるけど。

 

それにしてもバックパック・・・てかそのデカイリュックサック凄いな、主に見た目が。・・・あの中入ってみたいなー。って、早く2人の誤解を解かなくては。リリルカ、少し失礼するぞ。

 

「え?ええ?!何ですか!?」

 

よっこいしょういちっと、意外と軽いな、まだ余り潜ってないのか?・・・ええい暴れるな!持ちづらいだろ。

 

「暴れないでください。持ちづらいです。」

「持たないでくださいよ!?」

「腰を抜かしてる様に見えますが?」

「ッ!リリは大丈夫です・・・下ろしてください。」

「下ろしますよ?ベル・クラネルさんの所についたら」

「・・・もう勝手にしてください・・・」

 

勝ったぜ。

 

 

 

 

 

ベル様が走っていく、憎い冒険者達の元へ。止めるために手を伸ばしたが振り払われてしまった。

 

「すみません!妖夢さ――」

 

一瞬ベル様の声が聞こえると同時にドサッという何か重い物が地面に崩れ落ちる音が聞こえた。殺られた、そう思った。彼は十分稼いでくれた、なら速くここからずらかろう、急いでは駄目だ、追いつかれる。静かに、ゆっくり・・・。

 

「そこです!」

 

声が聞こえ振り返る――否、振り返る間もなかった。首に冷たい何かが当たる。

 

「ひっ・・・・・・!」

 

息が詰まる、こうして武器で脅された事など1度や2度ではない、もはや慣れたとすら言っていいかもしれない。首筋に押し当てられた刀など怖くは無いのだ、目、その目が私を恐怖させる。どんな刃よりも鋭い光を放つ目。

 

「何者ですか?兎さん・・・ベル・クラネルさんのお仲間ですか?・・・もし、貴女がベル・クラネルさんを利用し、私達に不意打ちをしようとしていたのなら・・・その首、ここに置いていって貰います。」

 

そう言ってニヤリと口の端を上げる。そうか、斬り落とされたのだ、私などどうでもいい、そう言っている。彼女の中では既に私の首が落とされるのは決定事項に違いない。ただ、自身が無実である事は証明したかった、無視されても構わない、聞いているなら答えてやる。震える声を振り絞り、ことの経緯を説明する。

 

「わ、私は・・・リリルカ・アーデです・・・べ、ベル様のサポーターとしてここにいます・・・その、冒険者様を罠にかけようとか思っていなくてですね、中層に向かうと声が聞こえたので道を譲ろうと・・・ですが途中から冒険者様方が警戒し始めたのでベル様が謝りに行こうとしたのです。」

 

汚らわしい冒険者め、お前達さえ居なければ私は・・・そう思ってしまう。・・・なのに、何故この後に及んで生きたいと願ってしまうのだろう、何故今になってベル様の顔が脳裏にチラつくのだろう・・・アイツも他と同じ筈なのに・・・。嫌な汗が頬を伝う。

 

「それが真実であると言う証拠は?」

 

ニヤリとした笑みを消し、眼光がより鋭利になった。ここだ、ここで全てが決まる。だが私が何を言った所で信じはしないだろう、ならばどうとでもなれ、次の私はもっと良い私の筈だから。私は思考を投げ出した。

 

「・・・ベル様に、聞いていただければ良いかと・・・」

 

思考を投げ出し、出て来た言葉はそれだった。

 

「それもそうですね、すみませんでした。リリルカ」

 

先程までの鋭さはどこへ行ったと言うのだろう、目の前に居るのはただの美少女だった。首や心臓を貫くかのような殺意は消え、武器はしまわれた。突如足元がおぼつかなくなる、安心して力が抜けてしまったのだろう。

 

少しの間お互いに無言になる、不思議そうに私のバックを眺める少女、彼女がヨウムだろうか?だとしたらベル様に言っておこう、豊穣の女主人の他にヨウムなる冒険者の元にも連れて行かないでくれと。

 

しばらくしてハッとなった少女は急に私を抱き上げた。

 

「え?ええ?!何ですか!?」

 

思わず声が出る、バックを眺めていた事から、中身を盗んで行くかも、と予想していたのに・・・まさか私ごとだなんて予想外だった。必死に抵抗を試みるものの、その

身体のどこにそんな力があるんだと言いたくなる様な力だ、レベル2と言う推測は当たっていたらしい。

 

その後も「持ちずらい」と言われたり、持つなよ、と言うツッコミを「腰が抜けている様に見えたから」とお前がやったんだろと言いたくなる様なセリフを吐きやがりましたので、もう煮るなり焼くなり好きにしてくれと抵抗を止めたのだった。抵抗を止めた時凄いドヤ顔をされたのが気に食わなかった。

 

 

 

 

水中から浮き上がる様に意識が戻る。

 

「・・・様・・・ベル様!起きて下さい!速くしないとリリの首が危ないんです!」

 

リリの・・・首が?何を言っているのだろう・・・確か僕は妖夢さんの誤解を解こうと・・・。ベルはそこまで思い出し、別の可能性に気が付く。もしかしてモンスターに襲われているのでは、なぜなら記憶は横道から飛び出した所で終わっているからだ、ここがダンジョンならモンスター襲われる可能性は非常に高い。

 

「リリ!?大丈夫!?」

「ひゃい!?だ、大丈夫です・・・」

 

驚くリリを自分の背後に回し、周囲を見渡す。そしてこちらから一歩離れた位置で妖夢達がこちらを見ており、モンスターの死体がいくつか増えている事に気がついた。

 

「ち、違うんです!妖夢さん達の邪魔をするつもりは無くて!罠とかそういうのじゃないんです!?」

 

顔を真っ青にしながら慌てたように一気に話すベル、それに妖夢は苦笑する。

 

「ええ、わかっていますよ。リリルカに聞きましたから。ベル・クラネルさんは恩を仇で返す人では無いと思いますし」

 

ベルは「は、はい・・・すみませんでした」と謝り、自らの未熟さを恥じる、あんなに一瞬でやられてしまうなんて・・・あの人にはまだまだ遠いな、ベルが若干頬を染め俯いていると腕を組み静観していた桜花が口を開く。

 

「解せないな」

「え?」

 

解せない、つまりは自分の潔白は証明出来ていないのだろうか、ベルは不安になり桜花を見上げるが、それに対し桜花は困ったように笑った。

 

「はは、いや違う。お前の事じゃない・・・いや、お前の事か?まさか妖夢がフルネームで、しかもさん付けする人物が居るとはな・・・」

「え?え?」

「みょん?ベル・クラネルさんの呼び方は案外適当ですよ?兎さんって呼ぶ時もありますし」

「え?えぇ・・・」

 

誤解が解けたことは嬉しいが色々と悲しいベルだった。

 

 

 

 

 

 

 

最近・・・命とダンジョンに潜っていない・・・あ、俺です。最近は修行やダンジョン潜りでプライベートな時間が無いぜ、命との会話がご飯の時と寝る時ぐらいしか無くなってしまっている。寝る時は俺、命、千草で川の字に寝ているんだが・・・どうやら最近命はこっそり1人で特訓をしている様だ。何でもタケミカヅチにダンジョン内での使用を制限された魔法・・・フツノミタマだったか?それの詠唱を練習しているらしい。

 

・・・詠唱文の暗記とか結構キツイよねー、そう言えば俺の魔法の【西行妖】とか1回も使ったこと無いなー。どんな魔法何だろうね、・・・・・・即死魔法とか?いや、死にたくなる魔法?なんだそれ(笑)

 

こうしちゃ居られねぇ!俺も魔法の特訓だ!ただし西行妖テメェは駄目だ、何が起こるかわからん以上街中では使えない、怖くて使えない。

 

庭先に出た俺は魔法を唱え、楼観剣を呼び出す事にした。きちんと魔力を使って発動だ。

 

「【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】来いっ楼観剣!」ドヤァ

 

もう一度言おう、斬れない物などあんまり無い!あんまり!・・・恥ずかしいわっ!詠唱にそれを入れるんじゃないよ、詠唱にそれ入れたら言いたくなくても言わなきゃいけなくなるだろが!恥ずかしくて街中で使った時めっちゃ小さい声で唱えたからね?

 

今日は1日中フリーだ、最近はダンジョンに通いつめていたし少しは休め、そう言われたのでこうして真昼間から修行しています。暇だわー・・・あ、そう言えばミアハ・ファミリアとかどうなったのかな?見に行ってみようかな?・・・ふむ、ならば適当に手土産でも買っていくか。

 

 

という訳でミアハ・ファミリアに来た、自分のお気に入りのいちごケーキを片手に。どういう訳か猿・・・猿師と純鈴も一緒だ。

 

「さぁ、行くでごザルよ!いい返事が聴けるといいでごザルな〜」

「そうね、でもお父さん焦ったらダメよ?」

 

2人の会話を聞きながら俺は扉を開ける。来店を知らせる鈴が鳴り、カウンターに座っていたナァーザは耳をピクッと動かした後こちらを向いた。

 

「妖夢・・・と猿師さん、と誰?」

 

可愛らしく首を傾げながら純鈴を見るナァーザ、俺がことの経緯を説明し、納得したのかお茶を出すために奥に入っていった。

 

ここから先は拙者に任せるでごザルよ、と猿師が言ったので俺は早速ケーキを頂くことにした。ま、俺のお小遣いで買ったやつだから誰も文句は言うまい。・・・で純鈴?そんなにチラチラ見てないで食べたいなら食べたいと言いなさいな。

 

「純鈴?食べてもいいですよ?」

「本当?ありがとうね」

 

 

その後も話は続き、どうやら依頼を受けてくれるらしい。それと、次いでにデュアル・ポーションを作りたいとナァーザが言ったので、俺が行く!という前に猿が口を開く。

 

「そうでごザルか!拙者もそのデュアル・ポーション手伝うでごザルよ、いや〜新薬が生まれるのでござろう?これでまた救われる命が増えると言うもの、さぁ善は急げ、でごザル!」

 

 

〜少女卵強奪中〜

 

「えっと誰が行くんですか?」

 

「頑張って」「ファイトでごザルよ」「気をつけるのだぞ」

 

「ですよね、知ってました。・・・この肉団子の入った鞄を持って走り続ければいいんですよね?」

 

「うん」「そうでごザル」「そうだ」

 

「・・・斬っちゃだめですか?」

 

「生態系が壊われる」「弱体化しているからこそ、安いコストで売れるのでござろう?弱体化していなければ奴らはレベル4相当でごザル」

 

「そう、ですよね」

 

「「ギャオオオオオオオオオオオオオ!」」

 

「みょおおおおおおおおおおおん!」

 

「ゴーゴーゴー!」「前進前進前進!」「確保ぉ!」

 

「「ギャオオオオオオオオオオオオオ!!」」

 

「「みょおおおおおおおおおおおん!?」」

 

「撤退撤退!」「もういいぞ妖夢よ!」「秘技!煙幕の術!」

 

「こほっゲホッ!お猿さん!タイミングが速いですっ!?」

 

「も、申し訳ないでごザルよ!やっぱり20年のブランクは大きいでごサルな〜」

 

「しみじみしてる場合じゃない、速く逃げるよ・・・」

 

〜少女卵強奪完了〜

 

 

 

・・・はぁ、丸一日使ったぜ・・・、疲れた。あの後、猿師、純鈴、ナァーザ、ミアハの4人は早速デュアル・ポーションの作成、研究、意見の交換をするためにミアハ・ファミリアに向かった。もう夜で、真っ暗だ。今夜の夕食当番は桜花だったか・・・桜花の料理は繊細さは無いものの、豪快な男料理って感じで食べごたえがある。猿師の作る栄養食よりは絶対に美味しいだろう。

 

「速く帰らなくては・・・」

 

はぁ、オラリオから出るための手続きが結構長かった、予想より遥かに長かった。近道するかー、タケって心配すると変に行動力が高くなるからなー。俺が横道に曲がり、小走りで急いでいると、ふと視線を感じた。

それも真後ろから。―敵?それともロリコン神か?

 

ゆっくりと振り返る。そこには筋肉質の大男が―――。

 

ええぇ・・・「〇イトリクス」ってお前だったのか・・・オッタル。・・・イケメン度が増すと同時にストーカーロリコン疑惑が浮上したぞ。俺は一応刀を意識しつつ声をかける、まぁ、意識した所で反応する前にやられると思うけど。

 

「これはオッタルさん、私に何か御用ですか?」

 

俺がそう言うとオッタルは若干疲れた様な雰囲気を出しながら近づいてくる。

 

「・・・魂魄妖夢、余り夜遅くに出歩くな。」

 

お前は俺の母親か、・・・まさかそれだけではあるまい?

 

「それだけでは無いのでしょう?」

 

「あぁ、これを渡したくてな」

 

そう言ってオッタルは一つの本を俺に渡してくる。・・・なになに、『コボルトでも分かる魔法習得術』?・・・え?あの〜これって・・・え?なんで俺に?ベル君は貰ったの?あ、ベル君はゴブリンでもわかる方か、いやそうじゃなくてだな、つまりは俺ってフレイヤに狙われてるの?厄介だなぁ。

 

「これは・・・・・・・・・私は狙われている、と。なるほど、厄介ですね」

 

勝手に口から飛び出た言葉にオッタルは僅かに驚いた様な気がするが、まぁいい。何故これを俺に渡したのか、それが重要だ。俺はベル君と違って魔法は既に持ってる、しかも二つ。何故今になって渡しに来たのだろうか?スロットは確かにあと一つ空いているが。

 

「何故これを?魔法はすでに持っています。」

 

俺の言葉にオッタルは無言で答える。いや、何ですか?何が言いたいんだよ。そう思ったら口を開いた。あ、考えてたのか。

 

「強くなれ、魂魄妖夢。お前にはその義務があり、それを成す力がある。・・・これは俺からの個人的な贈り物だ。」

 

え?・・・個人的な贈り物?あれ・・・魔道書(グリモア)ってヘファイストス・ファミリアの1級品と同等何じゃ・・・や、やべぇ・・・こんな物をポンッとくれるオッタルの財力がやべぇ!

 

「え?!えっと、こんな高い物受け取れませんよ!!」

 

そうだそうだ!受け取ったら後が怖いだろ!負けないぞ、その誘惑には負けないぞ!

 

「受け取ってくれないのか?ふむ・・・それでは無駄な出費になってしまうな。俺はお前の為にと思って買ったのだが」

 

・・・こ、コイツ・・・確かに勿体無いけど、同じファミリアの人に渡せばいいじゃんか。あー、でもなぁ、前は助けてもらったし無碍にもできないし・・・でもフレイヤに追いかけられるのは嫌だし・・・ぐぬぬ。こ、ここは取り敢えず話を逸らして考える時間を稼ごう。

 

「・・・何故オッタルさんは私を守るのですか?」

 

その質問にオッタルは思案する様に目を逸らす。

 

「確たる証拠など無いが・・・フレイヤ様より命じられた時、俺がお前を守るのは命じられたからだと思っていた。だが、お前を見守り、近付く不審な輩を止めている内に何かが変わったのだろう。」

 

オッタルは少しの間目を閉じ、話し始めると共に目を開く。

 

「俺は常にお前を守る事は出来ない。そして困難は常に付きまとう、お前の行動、性格を考えればこれからも厄介事に巻き込まれるのだろう。」

 

オッタルはその言葉と共に魔道書を差し出す。

 

「冒険をしろ、魂魄妖夢。危険を犯せ、死中に飛び込め、でなければお前は強くはなれん。お前は―――俺と同類だ。」

 

真剣な表情でそう言い切ったオッタルに、俺はどうする事も出来ずポカンとしていた。何も言うことが出来なかった。

 

何が変わったんだよ、母性でも目覚めたか?・・・まぁいい、取り敢えず魔道書は要らないと言わなきゃ・・・ん?なんか重い・・・え?なにこれ、ふむふむ『コボルトでも分かる魔法習得術』?

 

ハッとして辺りを見回す、思考が停止していた時間はほんの僅か、しかしオッタルの姿は無い、思考が停止している間に手に持たせ、そして帰ったのだろう、全速力で。

 

んー、あの野郎め・・・まぁ仕方ない、俺の為に買ってくれたのなら読んでやろう。あんなに頼まれたから読むんだからな?ホントは読むつもりは無かったんだからな?仕方なく、そう仕方なくなんだ。・・・つってもこの場で読んだら誰に何をされるかわかったものじゃない、家に帰ってからにしよう。

 

 

 

 

 

 

夜は深く、街は眠る。明かりは月の光のみ、薄暗い世界の中で俺はそっと本を開く。ドキがムネムネでパルプモードなのに手汗が出そうだ。体は既に就寝中。ベル君と違って値段知ってるからな〜、ゴクリと唾を飲み込み、文字を目で追う。

 

『魔法は先天系と後天系の二つに大別することが出来る。先天系とは言わずもがな対象の素質、種族の根底に関わるものを指す。古よりの魔法種族はその潜在的長所から修行・儀式による魔法の早期習得が見込め、属性に偏りがある分、総じて強力かつ規模の高い効果が多い』

 

文字の間に数式の様な何かが走っている、恐らく詠唱式だと思う。読んでいるうちに頭に叩き込まれているのだろう。

 

『後天系は『神の恩恵』を媒介にして芽吹く可能性、自己実現である。規則性は皆無、無限の岐路がそこにはある。【経験値】に依るところが大きい』

 

なるほど、後天系がヒューマンとかでエルフとかが先天系なのか、・・・確かにリヴェリアなら恩恵無しでアホみたいな強力な魔法撃ちそうだなぁ。

 

『魔法とは興味である。後天系に限って言えばこの要素は重要だ。何事に関心を抱き、認め、憎み、憧れ、嘆き、崇め、誓い、渇望するか。引き鉄は常に己の中に介在する。『神の恩恵』は常に己の心を白日のもとに抉り出す』

 

己を白日にねぇ・・・最早己なんて見失いかけているが・・・ちゃんと発動するよね?・・・あ、どうなるんだろ?妖夢の顔が出てくるのかな、それとも「俺」?自分の顔なんてこれっぽっちも覚えていないが。

 

『欲するなら問え。欲するなら砕け。欲するなら刮目せよ。虚偽を許さない醜悪な鏡はここに用意した』

 

見た事の無い複雑怪奇な記号群が現れ、それを認識した途端、俺の意識は強引に引きずり込まれた。

 

ページをめくる。そうすれば【落書き】が現れる。

 

―おお、・・・ん?何も始まらないぞ?

 

しかしいつまで経っても原作の様な変化は訪れず、声が聞こえてくることも無い。

 

『・・・・・・・・・』

 

顔も身体も真っ黒に塗り潰された幼稚園児の落書きの様な何かは話さない、否、話せないのだろう。

 

――おーい!あのー?始めないんすかー?白日に晒し出してないやん。

 

『うおおおおおぉぉぉ!弾けとべぇ!?』パリーン

 

―うおぅ!?

空間に突如ヒビが入り、駄神飛び込んでくる。

 

『やーやー、HELLOハロー。いやー、やっとこさyouに教えたい事を思い出して・・・・・・どういう状況だい?』

 

―俺が聞きたい。魔道書に取り込まれて自分の知らない自分を見せられると思っていたらそんな事は無かった、うん、それだけ。

 

『あー・・・ご愁傷さま?』

 

―・・・怒るぞ?俺今でも怒ってるからな?記憶の事とか体の事とか。

 

『ハハハ。さて、どうやらそこの真っ黒黒助は自己表現が出来ない様子じゃぁないか。どうだろうか、ここは俺っちに任せるってのは?』

 

―やだ。嫌な予感しかしねぇ、絶てぇにお前に頼むと碌でもない魔法掴まされるわ。じゃが丸君召喚魔法とかな。

 

『おおぉ!イィじゃないかじゃが丸君召喚魔法www!あれだねぇ、アイズヴァレンシュタインを餌付けできるねぇ!』

 

―いらんがな。・・・まぁ、終らせないとここから出られそうに無いし・・・致し方が無い。

 

『酷い言い草だねぇ、こんなにも素晴らしい神様が見てやろうと言っているのにwww』

 

―何処がだよ!書類ミスで麗しい少年をころがしてるんですけど?!しかも転生体もミスったろ!?女だよ女!なんでだよ!男にしてくれよぉ!

 

『まぁまぁそんなに怒るなってwww・・・いい思いもしたろ?ドュフフwww』

 

―うるせぇ!!さっさと始めるぞ!

 

『あいあいー、・・・ん?「駄神でもわかるグリモア講座」?ほー凄いものもあったもんだぁ・・・じゃあここにあるとおりに進めるよー・・・・・・チミにとって魔法って何だい?』

 

―え?えー、魔法か、俺にとっての魔法・・・そうだなぁ・・・強くなる為の力・・・かな。

 

『強くなる為の力・・・かな(イケボ)www』

 

―笑うなぁ!お前が言えって言ったんじゃんかよぉ〜!このバァカ!

 

『クフフwww・・・君にとって魔法って?』

 

―無視ぃ!?え、ええと、何かを成す為の原動力。

 

『其方にとって魔法はどんなもの?』

 

―ねぇさっきから遊んでるよね?呼び方で遊んでるよね?・・・魔法は救済。不可能を可能にする力。

 

『魔法に何を求める?』

 

―力だ、誰かを助ける力。速さがなくては間に合わない、強さが無ければ立ち向かえない、だから力が欲しい。

 

『それだけか?』

 

―あぁ、それだけだ。生憎と英雄の一撃は腐るほど持ち歩いてるものでね。俺は自分を、自分の大切な人々を忘れてしまった。・・・自分を守る価値などない・・・ならば他人を守ろう、友人を守ろう、新たに得た家族を守ろう、自分の全てを掛けてでも。それを行う力には価値がある。故に欲する。

 

『・・・もしもそれを成すだけの力が既にあるとしても?』

 

―勿論、少しでも可能性はあった方がいいからな。

 

『・・・成程。やはり・・・お前は愚か者だ』

 

―あぁそうさ、だが――

 

それがお前だ(それが俺だ)

 

 

 

 




次回!戦闘回と言ったな・・・あれは嘘だ(真顔)

【魔道書】

説明文は原作のまんまです。・・・一体どうして駄神が現れたのだ?答え、指が滑った。

【天切】

千草が妖夢のために選んだ刀。掘り出し物という程でもないが妖夢にあった物が選ばれている。
切れ味より耐久性を優先させた打刀である。
3万ヴァリス。

【新しい魔法】

・・・一体どんな魔法なんだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話「教えてあげましょう兎さん、私は対人特化なんです」

16話ですよー春ですよー・・・え?冬?・・・あ、はい。

今回は何だか短いですよー(なお次話は1万2千文字を超えている模様)批判が増えそうで怖いですよー:(´◦ω◦`):ガクブル


「よ――ようむ!妖夢!」

 

タケの声で目が覚める。・・・数百回と見た天井だ・・・。って睡眠貪ってる場合じゃねぇ!更新更新更新!更新だタケ!ステイタス!ステイタース!

 

「タケタケタケっ!更新です更新!ステイタスを更新ですよっ!」

 

「うおぉ!?朝っぱらからテンション高い!?」

 

「むむむ、そんな事を言ってる場合じゃないですよ!更新するんです!」

 

「わ、わかったわかった。・・・少しは落つけ、なんだ?いい夢でも見たのか?」

 

良いか悪いかで言われれば良い夢だと思う。黒いシルエット君は若干怖かったし、駄神はいつも通りウザかったし。・・・あれ?いい夢か?これ。

 

「はい!多分、恐らく・・・きっと・・・?」

 

俺のそんな返答にタケやいつの間に居たのか知らないが桜花達も笑っている。

 

「ウフフ、確に目が覚めると夢の内容を忘れてしまう事ありますよね!でも何故そんなにステイタスを更新したいのですか妖夢殿」

 

笑いながら聞いてくる命、誰もがこの瞬間を楽しんでいるのだろう、もちろん自分もだ、いや、誰よりも楽しんでいる自信があるね!俺はグリモア・・・と言ってしまうときっとタケが青ざめて泡を吹きひっくり返ってしまうので辞めて、夢の話しをする。

 

「魔法が発現しそうなんです!」

 

・・・おい?夢、夢の話しをしようよ、夢の話しを。ストレートだねぇ、まぁ夢の内容は忘れたと捉えられてたし寧ろ好都合だけど。

 

「魔法が?」

「ほんとなの妖夢ちゃん?!」

「それは本当ですか妖夢殿!!」

「ハハハ、まだ寝惚けてるのか?」

 

あれー?おかしいな、タケが遠い目をしながら現実逃避してるように見える・・・いや、そんな訳ないか。ホントだぜ!きっと凄い魔法が・・・だ、大丈夫だろうか?駄神の事だし本気で「じゃが丸君召喚魔法」とか送ってきそうだ。少し怖いが仕方がない、さっさと更新だ!

 

「そうと決まれば早速更新です!」バッ!

 

「グハァッ!?」

 

ん?なんだ今の重々しい打撃音は

 

「桜花のエッチぃ!!」「桜花殿の不埒者!」

「・・・俺が・・・何、したって、言うんだ・・・」ガクッ

 

・・・見てはいけない物を見てしまったようだ。

 

「妖夢殿!あれほど言ったのに何故守れないのですか!」

「そうだよ!男の人の前で服を脱いじゃだめだよ!?」

 

えー?別に桜花は家族だから問題ないだろ、このファミリアでは女の子の方が強いんだ・・・あ、そう言えばべートが前にもこんな風に・・・何時か謝っとこう。

 

「家族だから平気ですよ」

 

俺の言葉に2人ははぁとため息を着く、するとタケがそんな様子を微笑ましそうに見ているのが俺達の目に映った。

 

「「タケミカヅチ様のぉ・・・!」」「ん?どうしたんだ命、千草」

 

「「すかぽんたん!!」」「なんでoぶべらっ!」

 

・・・こうして平和な1日は始まったのです。はい。

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

【魂魄妖夢】

 

所属:【タケミカヅチ・ファミリア】

 

種族:半人半霊

 

【ステイタス】

 

Lv.2

 

「力」:D523→D530+7

「耐久」:E430 →E436+6

「器用」: A836→A853+17

「敏捷」:A812→A863 +51

「魔力」: E403→E420+17

「霊力」:D552→D570+18

 

アビリティ:集中 G+

 

スキル

 

【半霊 (ハルプゼーレ)】

 

・アイテムを収納できる。収納できる物の大きさ、重さは妖夢のレベルにより変化する。

・半霊自体の大きさもレベルにより変化する。

・攻撃やその他支援を行える。

・半霊に意識を移し行動する事ができる。

・ステイタスに「霊力」の項目を追加。

・魔法を使う際「魔力、霊力」で発動できる。

 

【刀意即妙(シュヴェーアト・グリプス)】

 

・一合打ち合う度、相手の癖や特徴を知覚できる。打ち合う度に効果は上昇する。(これは剣術に限られた事ではない)

・同じ攻撃は未来予知に近い速度で対処できる。

・1度斬ればその生物の弱点を知る事が出来る。

・器用と俊敏に成長補正。

 

【剣技掌握(マハトエアグライフング)】

 

・剣術を記憶する。

・自らが知る剣術を相手が使う場合にのみ、相手を1歩上回る方法が脳裏に浮かぶ。

・霊力を消費する事で自身が扱う剣術の完成度を一時的に上昇させる。

 

【二律背反(アンチノミー)】

 

・前の自分が奮起すればする程、魂が強化される。強化に上限はなく、魂の強さによって変化する。

・使用する際、霊力が消費される。

 

魔法

 

「楼観剣/白楼剣」

 

詠唱①【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】

 

詠唱②【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】

 

 

詠唱「西行妖」

 

【亡骸溢れる黄泉の国。

咲いて誇るる死の桜。

数多の御霊を喰い荒し、数多の屍築き上げ、世に憚りて花開く。

嘆き嘆いた冥の姫。

汝の命奪い賜いて、かの桜は枯れ果てましょう。

花弁はかくして奪われ、萎れて枯れた凡木となる。

奪われ萎びた死の桜、再びここに花咲かせよう。

現に咲け───冥桜開花。西行妖。】

 

【ーーーーーーーー】

 

 

「???」

 

覚悟せよ(英雄は集う)

 

超短文詠唱。

補助の詠唱が必要。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

・・・うん?どういう事だってばよ?タケ写し忘れか?魔法の名前がわからないじょのいこ。

 

「タケ?魔法名が分かりませんよ?」

 

「さぁな、初めからそうだったぞ。・・・にしてもほんとに発現していたとは・・・」

 

まぁ、魔道書(グリモア)読んだしね?・・・詠唱が短い・・・来たな、これは来たわ。やっと戦いの途中で使いやすそうな魔法来たわ。・・・でも【覚悟せよ】・・・か、自分に言ってるのか、相手への注告なのか・・・。補助の詠唱ってなんぞ、魔法名も解らないんじゃあ困るな〜。

 

「まぁ魔道書(グリモア)読みましたし、当たり前ですよね!」

 

その時、世界が凍った。・・・おいぃ、やっちまったよ・・・そういうのは言わなくていいの!気が緩んでたぜ・・・。

 

魔道書(グリモア)を・・・読んだ?妖夢が・・・?」

 

額から冷や汗が垂れる、少しづつではあるもののタケからゴゴゴゴゴッ!と凄まじい怒気が。

ああ、終わったな。・・・だが何もせず怒られるつもりは無いぞタケ!これはオッタルに貰ったんだ!

 

「これはオッタルさんから貰ったんです・・・よ?タケ?あの少し落ち着いて・・・」

 

タケの目から光が消えた、全員が呼びかけ何とか光を取り戻したモノの「うおぉぉあぉあ」とか言いながらゴロゴロと転がり回ってしまう。・・・やっちまったZE☆次オッタルにあったら値段聞いとかないとな。俺が返してみせる!

 

「私がちゃんと返してみせますから平気ですよ!」

 

んな事より魔法がどんなものかが大切なんだ!

 

「それでは魔法の研究ですっ」

「「切り替え速!」」

 

 

 

 

庭先に出た俺は刀を抜き心を静める、イメージは暗い湖面、波紋は生じず、風もない。よし、行くぜぇ。

 

「【覚悟せよ(英雄は集う)】!」

 

この魔法に名前は無く、どんな効果が有るのかも不明。けれどきっと悪い効果ではないはず、それだけは何となくわかった。何だかんだ言ってあの駄神はこういう時は裏切らないんだ。そう、こんな風に。

 

――――――――――ん?あれ?何も・・・おきてねぇ・・・。

 

「よ、妖夢殿?何か・・・起きました?」

 

緊張した面持ちでこちらを伺う一同に俺は錆び付いた機会のようにギギギと振り返る。

 

「な、何か起きました?」

 

質問に質問で返した俺に待っていたのは痛すぎる沈黙だった。

 

あ、あ、あの野郎おおおおおおおおおおぉお!いつかぶった斬ってやる!!覚悟しとけよぉおお!

 

 

 

 

 

 

魔法の研究に丸一日費やした俺は次の日ロキ・ファミリアに向かっていた。理由は簡単、俺の中では魔法=リヴェリアという計算式が完成しているのだ。とりあえず魔法の事ならリヴェリアに聞こう、そういう訳でロキ・ファミリアに向かっているのだ。

 

そして俺の目の前には2人の門番が、2人とはもう顔見知りと言っても過言じゃ無いだろう、ほら、コッチに手を振ってるし。勿論俺も振り返して事情を説明する。

 

「なるほどな、わかった少し聞いてくるよ。少しの間待っててくれ」

 

ロキ・ファミリアの中での俺の立ち位置は客人、しかし俺が無理を言って普通に接するように言ったのだ、一回目来た時は無愛想、出ていく時は緊張した面持ち、2回目来た時はうわ、きたよ、て感じだったし。こっちの方が絶対にいい。だいぶ仲良くなれた気がする。ま、名前とか「門番さん」だけどね。もどって来た門番と話しをしていたのだが、どうやらアイズ達はダンジョンらしい、夕方には帰って来るらしいが、・・・どうしようか、ダンジョンでも行こうか。ちなみにべートは居るらしい、けど魔法は得意分野じゃ無さそうだしいいや(謝る事が頭からすっぽ抜けている)

 

 

 

 

 

俺がダンジョンに向かっていると広場に目立つ白髪の少年を見かけた。ベル君だ。・・・うーんと、確かそろそろゲドとかそこら辺の奴らに話し掛けられる所かな?だって奥の林みたいな所にリリと・・・狸みたいなのいるし。

 

ここはあれだな、平然を装ってだな、こっそり近付いて後ろからサクッと、・・・っていやいや別にどうせアイツら死ぬしわざわざ殺さんでもいいか。それにまだ人殺ししたこと無いしね、これからもしたくないさ。

 

という訳で現在高速で対象に接近中。おーっとベル選手怒りをあらわに相手を睨みつけた!そしてゲド選手が凄みを利かせ・・・ようとして吹っ飛んだぁぁあ!

 

「ぐへぇ!」

 

・・・あ、ヤベ。

 

「よ!妖夢さん!?」

 

「貴方は何も見ていない、いいですね?」

「あっはい、じゃなくて!何やってるんですか!?」

 

えー、これは、その、致し方のない犠牲、つまりコラテラルダメージというものであり・・・とかふざけている場合ではないのでーうーん、多分傍から見たらカツアゲされてるように見えなくもないか?白々しいが仕方ない、純粋なベル君なら騙される筈だ。ごめんよ!

 

「いえ・・・その、恫喝され金品を取り上げられているのかと思いまして・・・違いましたか?」

 

その一言にベル君はビクッと肩を震わせる。そりゃそうだ、まさに目の前でカエルの如くひっくり返っているゲコ、もといゲドはリリルカから金品を奪おうとしているのだから、それもベル君を使って罠にはめようと。

 

「ちち、違います!そう言うのじゃなくてその話し掛けられただけと言うか・・・その」

 

あちゃーベル君、そんなんだからリリルカに疑われてまうのよ?男なら本当の事を言いなさい!(自分の事は棚より上に上げたぜ)まぁいいか、リリルカが来るまで待って・・・うわ、ベル君の後ろにいるし・・・気付けよベル君。

 

「ベル様?」

「うわぁ!?・・・ってリリか、ビックリしたよ!大丈夫だった?」

 

べるくーん、冷や汗が出てるぞー、後ろめたい事を隠してますって顔が言ってるぞー。

 

「リリは大丈夫です、ベル様、冒険者様と何かお話しなさっていたのですか?」

 

リリルカはしゃがみ込みゲドの頭をツンツンして「コイツと何か悪い事話してただろ、おん?」と言外に主張している。ベル君、ここでキチンと言わないと駄目だぞ?

 

「ベル・クラネルさん、何があったのか説明しなくてはリリルカの信用を失いますよ?」

「うっ、それは・・・嫌です。」

 

ベル君は考え込むように黙り込む、きっとどんな風に説明したら良いのか、とか、話していい事なのか、とか考えているに違いない。まぁいいか、リリルカとお話しをしていよう!

 

「・・・リリルカ?何があったのか説明してくれませんか?」

「それはリリも聞きたいです、何でこの人は此処で寝ているんですか?」

 

ゲドを今度は足でチョンチョンとつつき「どないすんねん、これでもっと追いかけられるかもしれんやろ」と俺に訴えかけるリリルカ。すまん、止まれなくて膝が首に横から入ったんだ、・・・つかコイツ良く気絶で済んだよな。でもほらそれだと俺が悪い奴になっちゃうし、ベル君を助けようとしたんやで?って事にしとこ。

 

「ベル・クラネルさんが恫喝されている様に見えたので助けに来たんです・・・少し・・・やり過ぎましたけどね」

 

「少・・・し・・・?泡吹いてますけど?」

 

「・・・・・・・・・少し、力加減を間違えました。」

 

何故だ、なぜそんなジト目で俺を見ているんだリリルカ・アーデ、なんだその残念な他人を見る目は、普通はありがとうございますじゃないの?雇い主助けたんだよ?いや別に襲われてた訳じゃないけどさ。そんな話をしているとベル君はゴクリと唾を飲み込みこちらを向く。・・・ほう?話すのかな?

 

「何があったかはいえません!」

 

・・・はい?おいおい少し見損なっ「でも!」・・・でも?

 

「・・・事情を話すことは出来ないんです、けど、助けて欲しいんです。」

 

不安げな瞳が俺を見る。

助けて欲しい?・・・ベルなら余裕で勝てそうだけどなぁーアイツら、・・・いや、もしかしてあれか、今回のみならずああいう輩から守って的な?

 

「無理を言っている事はわかってます!でも・・・」

 

拳は固く握られておりきつく瞑られた瞳は何を見ているのか。・・・・・・ふむ、ここはカッコよく行く所じゃないか!?よっしゃー!来たぜー!イケ妖夢降臨!まずはフッ、と笑ってだな・・・。

 

「握った拳を開いてください、それでは障害を跳ね除けることは出来ても大切な者の手を取れません。瞑った瞳で見るのは何ですか?暗闇?過去の自分?・・・目を開いてください、貴方が見るべきはそんな物では無いはずです。」

 

ドヤァ・・・。自分でも何を言ってるかわからなくなりそうだったがそこは置いといて。ベル君は手を開き、目を開いた、そこにあったのは覚悟。リリルカを助けたいという願い、助けるという決意。・・・いい目をしているじゃないか。

ならば教えてやろうベル・クラネル。俺は対人特化だと。ドヤァ

 

「教えてあげましょう、兎さん、私は対人特化なんです」

 

 

 

 

 

僕はリリとダンジョンに向かう為、いつもの広場に来ていた。円形広場には武装した戦士達が集まり賑やかだ。

 

集合場所を探してみたけどリリの姿が見えない、まだ来ていないのかな・・・?

珍しいと思いながらバベルまで赴こうと歩き始めた所で偶然リリを見つけた。涼し気な木陰の下で冒険者らしき男達と共に。

 

『・・・・・・いいからっ・・・・・・寄越せっ!』

『もうっ・・・・・・ない・・・・・・ですっ!本当に・・・』

 

言い争う声が少し離れた僕の元にも届いてくる。焦った僕は彼らの見えない広葉樹を避けてリリを助けるべく飛び込もうとした。

けど。

「おい」

「!」

肩をつかまれる。この前に路地裏で出会った冒険者の男だった。どうやら人違いをしているようでリリをあの時のパルゥムだと思っている様だ、半ば反射的にそう言い、しかしバカにされてしまう。まるでお前は騙されている、そう言っているかのようだ。鵜呑みにはしないけど。

 

「それよりお前、俺に協力しろ。・・・・・・タダとはいわねぇ、報酬はやるしアレから金を巻き上げたら分け前もやる。・・・・・・あのチビをはめるんだ」

 

驚き言葉を失っている間も男の話は続く、普段通りを装ってダンジョンに潜り、リリを襲うらしい・・・巫山戯ている、寒気と嫌悪が体中を駆け巡る。拳を・・・握りしめる。

 

「何で、そんなことを言うんですかっ・・・?」

「よぉく考えろ、はいって言えやぁ金が手に入る、しかもアレはただの荷物持ち(サポーター)だぜ?」

 

沸点が限界を超えた、怒りが僕の体を支配する。

 

「絶対にっ、嫌だっ!」

「糞ガキがぁ・・・ぐへぇ!」

 

男の凄味を利かせた顔が一瞬にして真横に押しやられた。驚ろき男から目を外して、先程まで男が立っていた所を見る。そこには妖夢さんがいた。

 

「妖夢さん!?」

「貴方は何も見ていない、いいですね?」

「あっはい、じゃなくて!何やってるんですか!?」

 

陽の光を受け輝く銀の髪を、そよ風に揺らしらしながら少し引きった顔でそういう妖夢さんに僕は驚く。何でここに妖夢さんが?妖夢さんの顔を見た途端、首が痛み出す、怪我をしているわけじゃないけどアレは痛かった。ステイタスを更新したら凄い耐久が上がってたし。それに今膝蹴りをぶち込まれた男も首をやられている、泡吹いてるし。

 

妖夢さんは少し困った様な考える様な素振りを見せ、しかし答えてくれる。

 

「いえ・・・その、恫喝され金品を取り上げられているのかと思いまして・・・違いましたか?」

 

僕は慌てる、妖夢さんは鋭い、あの時の反射神経もそうだけど。でもこの件は関わらせちゃいけない、金品を取り上げられそうなのはリリのほうなんだ、・・・けど、そんな事を妖夢さんに言ってどうなる、一応この子だって僕より年下なんだ。

それにリリの事情は僕もハッキリ知ってる訳じゃないし、余り人には知られたくない筈だ。けれど体はビクッと反応してしまう。

 

「ちち、違います!そう言うのじゃなくてその話し掛けられただけと言うか・・・その」

 

我ながら言い訳がへただなぁ・・・、でも何とか誤魔化さないと。心なしか妖夢さんの目が座った気がする・・・ナァーザさんみたいだ・・・。

 

「ベル様?」

「うわぁ!?・・・ってリリか、ビックリしたよ!大丈夫だった?」

 

そんな後ろめたい事を考えていると突然後ろから声を掛けられる、何時からここに、とか、どこまで聞いていた、とか気になるけど、それよりもリリは大丈夫なのか、その思いの方が先に来た。

 

「リリは大丈夫です、ベル様、冒険者様と何かお話しなさっていたのですか?」

 

何とか誤魔化さないと、男の意識が有るのか確認したリリはこちらを見上げてくる、・・・疑いの目線。どうしよう、そう思っていた僕の元に声を掛ける人が居た。

 

 

「ベル・クラネルさん、何があったのか説明しなくてはリリルカの信用を失いますよ?」

 

妖夢さんだ、どこか心配そうな表情で僕とリリを見比べている、やっぱり鋭い、僕やリリの表情だけでこうやって判断出来ているんだと思う。リリからの信頼を失うなんて嫌だ、絶対に。

 

「うっ、それは・・・嫌です。」

 

でも、神様やエイナさんの注告が頭をよぎる。でも、それとともにリリと一緒に潜ったダンジョンの日々も流れてくる。リリはファミリアに問題を抱えているらしい、助けてあげたい、けどどうすればいいんだろう?さっきは怒りに任せて攻撃しそうになったけど、冷静に考えればまだ人と戦うのは怖い。

 

でもやっぱりリリに嫌われる方が僕は怖い、きっと神様達が言う事は正しいんだろう、その通りにすれば失敗なんかしないんだと思う、でも、僕が助かってもリリはきっと酷い目に会う、それだけは駄目だ、それだけは認めたくない。リリは僕を助けてくれた、何度も。今度は僕が助けないと。

 

僕はリリと話す妖夢さんに向き直る。全部を伝える事は出来ない、リリのプライベートな事だから、でも、僕だけじゃ守れるかわからない。男として恥ずかしいけど、リリを助けられるならそんなの気にしない。

 

「何があったかはいえません!」

 

妖夢さんが顔を顰める、一瞬だけど目が鋭くなった。僕はでも!と話しを続ける。

 

リリが驚いているけど気にしない、今は妖夢さんに伝えなくちゃいけないんだ。速く言わなきゃ前みたいに一瞬でやられちゃうから。

 

「・・・事情を話すことは出来ないんです、けど、助けて欲しいんです。」

 

なんて自分勝手なんだろう、助けて欲しいなんてリリには言われていない、事情を知らない人に事情を教えずに助けてもらおうなんて。

 

「無理を言っている事はわかってます!でも・・・」

 

瞳を固く瞑り、拳を握る。きっと断られる、まだ数回しか会っていない、しかもこの前は疑われて死にそうになったんだ。僕に対する信用なんて妖夢さんからすれば全く無いはず、ミノタウロスに追いかけられる弱っちい冒険者で、武器防具の選び方もわからなくて・・・1人じゃ何も出来ない。それが悔しくて目を瞑った。

 

フッ・・・と鼻で笑うのが聞こえた、あぁ、やっぱり無理か・・・。そう、思った。けど、聞こえてきたのは否定の言葉でも嘲笑の言葉はでも無かった。

 

「・・・握った拳を開いてください、それでは障害を跳ね除けることは出来ても大切な者の手を取れません。瞑った瞳で見るのは何ですか?暗闇?過去の自分?・・・目を開いてください、貴方が見るべきはそんな物では無いはずです。」

 

あぁ、そうか。僕は弱いから笑われたんだ。恐怖と不安から逃げようとしていたのかも知れない。妖夢さんはそれを笑ったんだろう。優しい言葉とは裏腹にその目は鋭い。見定めようとしているのだろう。

 

・・・・・・拳を開く。リリと手を繋いで帰った日を思い出して。目を開く、一緒に冒険したリリの喜怒哀楽の表情が見える気がする。

・・・曇らせたくない。ここで退いたら曇ってしまうかも知れない、思い出が、僕の意地が、リリの笑顔が。・・・覚悟は決まった。

 

肩に鞘ごと引抜いた刀を乗せ、ニヤリと笑いながら妖夢さんは言い放つ。

 

「教えてあげましょう兎さん、私は対人特化なんです」

 

 




戦闘?・・・ゲドと戦ったでしょ?いやぁ・・・ゲドは強敵でしたね。


【原作との違い】

・アイズが未だにダンジョンの中に居る。
・ベル君が隠さずに伝える・・・伝えてないけど。
・妖夢が付いてくる。半霊も憑いてくる。
・ゲドさんが首に飛び膝蹴りを受ける。

【オッタル】

(`・ω・´)「今日も警護に向かうとするか」
5分後
(´・ω・`)?「む?ロキ・ファミリアに向かったぞ?」
数分後
(`・ω・´)「次は広場か・・・ダンジョンに向かうようだな」
数分後
( ・`ω・´)「あれは・・・!ベル・クラネルか、仲良くしてもらえるとフレイア様も喜ぶだろう。・・・む、いきなり見知らぬ冒険者に膝蹴りをかましたぞ?・・・神タケミカヅチよ・・・きちんと教育出来ているのだろうな?」
数分後
( ・´ー・`)「ん?あぁ、アレンか・・・何?フレイア様が?分かった今から向かう。あと俺はロリコンじゃない、フレイヤ様一筋だ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話「撤退してください!敵、最大推定レベル4!」

17話です!

リリの心理描写が原作のほぼパクリでござるな!マジ土下座orz!


リリルカ・アーデは唖然としていた。広場でカヌゥ達と会ってしまったのは不幸だっただろう、しかしそんな事は良くあることだ。しかし、これはなんだ。魂魄妖夢と名乗ったあの冒険者は目の前でニコニコとしながらベルやリリと話していた。

 

「それでですね?タケが命に髪飾りを付けてあげたんですよ、そしたら顔が真っ赤になって・・・アハハ」

「へ、へぇ〜、とても仲が良いんですね妖夢さんのファミリアは・・・は、はは」

「あったりまえですよっ!なんて言ったって家族ですからね」

 

別に何の変哲も無い会話であるものの、問題はそれを行いながらモンスターを片手間に屠っている所だろうか。例えレベル2であったとしても上層のモンスターの攻撃が全く効かないなんて事は有り得ない、ある程度の警戒はして然るべき事なのである。

 

近づくモンスターは何故か吹き飛ばされる様に壁にめり込み、それでも生きているモンスターは額に刀が突き刺さる。他にも急に曲がり角から戦闘音が聴こえたかと思えば赤い眼をした妖夢が出てくるのだ。リリの頭は少々、いや結構混乱していた。噂は聞いた事がある、リリはベルよりも遥かに多くの情報を持っている事だろう。

 

これでもしレベルを偽っていないのだとしたら・・・リリはため息をつく、むくむくと少しづつ嫉妬の念がこみ上げてくる。ベルに続いて現れた冒険者らしからぬ妖夢、リリは混乱し始めているのだ。「私の知っている冒険者」では無いふたりを前に。そもそもあの時と違いすぎる、首をはねる直前まで行ったというのになぜ今度は守ろうとするのか。

 

「リリ?元気が無いけど、どうしたの?」

「リリは元気ですよベル様!」

 

若干ヤケクソだがリリは笑顔をベルに向ける。チラリと妖夢に顔を向ければ・・・心配そうな表情でリリを見ている。やりずらさを感じながらリリは倒されたモンスターから魔石を切り出す。妖夢が「斬奪!」とか言って目にも止まらぬ速さでモンスターを切り裂いたかと思えば魔石をモンスターから素手で引き抜き、握りつぶしたのは見てない振りした。ついでに潰してしまうのは予定してなかったのか「みょん!?」とか言っているのも無視した。

 

 

 

 

 

 

 

くっ・・・壊してしまった・・・雷電のあのカッコよく相手の脊髄みたいなの引っこ抜くのを真似しようとしたのに・・・真似し過ぎて最後までやってしまった・・・oh・・・

 

そしてベル君、そんなにキラキラした目でこっちを見るんじゃない、失敗したからね?いや、成功だけど失敗って言うか・・・ああ!もうどうでもいいや!さっさと進もう、・・・・・・あれ、俺が加勢したらリリのイベント潰れるんじゃ・・・。今の内に別れておくか?カヌゥ達を懲らしめれば良いんだよな?いや待てよ!?カヌゥ達ってミノタウロス戦の伏線だったよな!?ど、どうすれば・・・!

 

「あのー、妖夢様?妖夢様が付いていて下さるのなら11階層に向かっても宜しいのでは無いでしょうか?」

 

様?!あ、いやそこじゃねぇな。・・・11階層だとぅ?別に敵じゃないが・・・ベル君達は大丈夫なのか?エイナさん辺りに注告されてそうだが。

 

「エイナ辺りから何も言われてませんか?あなたのアドバイザーの断りもなく連れていくのは・・・」

「だいじょうぶですよ!妖夢さんが入れば百人力ですっ!」「そうですよねベル様!妖夢様がいる限り階層主も雑魚同然です!」

 

へへへ、そうかい?そうかなぁ・・・そうかもなぁ・・・。よし、仕方ないねぇ連れてってやるよ!

 

「エヘヘ、わかりました。そこまで言われては連れて行かないわけには行かないですよね」

 

ハッ!・・・の、乗せられた・・・?くっ、俺とした事が・・・!

 

「ちょろいですね(小声)」

 

ちょろいって言われた!?(半霊をリリルカの近くに配置していた)ぐぬぬ・・・まぁ、仕方ねぇな、大物が出て来たら俺が対処するから安全・・・って訳でもないがベル君達なら雑魚は対処できるはず。

 

 

 

 

 

10階層。霧に包まれており視界が悪く、葉の落ちた枯れ木が点在する荒地の様な場所だ。ダンジョンはここからが本番だろう、何せここから「大型モンスター」が出現する様になるのだ。

 

――――そして、世界の異常(イレギュラー)とは本来の歴史に干渉すれば、する程不測の事態を引き起こす物である。ベル・クラネル達は本来の歴史より早く11階層に到達する。大きな影は現れた冒険者をゆっくりと眺める。冒険者が持つ「魔石」を探して。・・・そして目に入るだろう、大きな大きなリュックサックが。モンスターはほくそ笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

いやー、原作とそれたなー少し、オークはバゼラートを手にしたベル君に戦い方を教えながら、弾幕で援護したらすぐ終わった。・・・ぐぬぬ・・・俺もファイアボルトみたいなの欲しかったなぁ。

 

「やっぱり妖夢さんは凄いですね!」

「さっすがです妖夢様!妖夢様おつよーい!!」

 

そしてこれだ、ベル君に悪気は一切無く、リリルカは可愛いから許す。結果・・・どんどん魔石がリリルカのリュックに入ってゆく。

 

「むぅ・・・良いように使われてますねぇ・・・」

「ええ?!そ!そんなことないですよっ!」

「そうですそうです!妖夢様がお強いからベル様の出番が無いだけで」

「酷いっ!?」

 

そんな会話をしている内にドスッドスッと速めの足音が複数、それにいくつかの羽音も聞こえる。

 

「・・・来ましたよ。ベル・クラネルさんは私の横に、リリルカは後ろに下がって下さい。大丈夫です、安全は保証しますよ。」

「はい・・・!」

「わかりました!」

 

リリルカの周りに半霊を配置、近づく敵に体当たりしてもらおうか、ここら辺の階層なら2、3回体当りすれば倒せるからね、オークは倒せないけど。ベル君には対空を主にやってもらう、速いうちに飛んでるやつを落さないと面倒くさいからね。俺はと言うとコイツら倒しても経験値殆ど貰えないからオーク相手に時間稼ぎだ。ちなみに敵の構成はオーク6、インプ8、バットパット15だ。・・・あれ?普通のパーティなら死んでるよね?これ。随分急いでやがるな、そんなに殺したいのか?

 

ま、どの道6体はめんどいから適当に間引くが、2匹は残しておこう。

 

「オーク6!インプ8!バットパット15です!気をつけてくださいベル様!」

 

リリルカの声が響く、状況判断は凄いな。普通ならこんなにモンスターが現れたらビビって声でないと思うがなぁ。

まぁ、こっちも指示を飛ばさなきゃな。

 

「ベル・クラネルさんとリリルカはバットパットを倒してください。超音波には気をつけてください、集中を乱されますよ!」

「「はい!」」

 

戦闘が開始される、オークやインプ達は走っているがその速度は遅い、俺から近付いて倒しに行こう。俺がヘイトを稼げばベル君達が戦いやすくなるだろう。バットパットの超音波は『集中』のアビリティを持つ俺には効果が薄い、『集中』は文字通り集中力を高めるだけだ、だけどそれ故に汎用性は凄いあるけどね。

 

「フッ・・・!」

 

タケに教えてもらった移動法に縮地が存在する、流石武神、色々と知っていた。とはいえいくらこの体が武術に高い適性を持っていたとしてと剣術以外だと熟練度の上昇は比較的緩やかだ、コツは掴んだけど縮地はまだまだ完璧とは程遠い。進むだけなら出来るんだがなぁ・・・タケ何なの?何で縦横無尽に動けるのさ・・・。いやいやそんな事を言ってる場合ではないね。

 

一瞬にして6体の内、先頭を走っていたオークに肉薄する。・・・何の技使おうかな、、うん、シンプルにこれでいいか。

足のバネを最大限に使用し真上に跳躍する。落下の速度、体重など、全てを利用した振り下ろし、そう、るろうに剣心の龍槌閃だ。

 

「龍槌閃!」

 

「オオオォォォォオォ・・・ォ・・・」

 

哀れ!オークは真っ二つ!吹き上がる血を綺麗に躱しながら他の5体も確認する、自分との距離は大体5m位だろうか。

 

「ファイアボルトおおぉぉおおおっ!」

 

唐突になんの脈絡もなくいきなりイナズマ状の火炎がダンジョン内を明るく照らし出す。流石に対人戦に強いと言われる魔法なだけはある。燃えてカスみたいになってしまったバットパットが空中から落ちてゆく。リリも懸命にクロスボウガンによってベルを援護している様だ。

 

「「キィキィキイイイィィキキィキー!!」」

 

・・・一言言わせて欲しい。ちょーうるせぇ(怒)超音波は聴こえないけど鳴き声がうるせえ。

 

「キィwwwキキwwwギャギャギャwww」

 

インプのウザさがヤバイ。何だか駄神を思い出すからやめて欲しい。一気に駆け抜け、切り裂いていく。

 

「ギウゥャ!」

 

なるほど、確かに常人では集中を乱され隊列が崩れパーティが全滅、なんてこともあるだろう。

・・・だが断る!私の集中力は53万です。

 

そんな事を考えながらオークが振りかぶった瞬間に間合いを詰め腹を掻っ捌く、魔石ってのは人型なら大抵胸の位置にあるからね、胸以外を斬ろう、お兄さんとのやくそくだぞ!・・・ちなみに桜花からのアドバイスの受け売りだ。

 

横薙に払われた天切は何の抵抗もなくオークの下っ腹を切り裂き、返す刀で逆袈裟斬りを放つ。灰になって消えていくオークを尻目に素早くバックステップを踏み、オークの攻撃を回避、回避できた事を確認した瞬間に踏み込み一閃。足を斬り飛ばし、低くなった首を切り落とす。

 

右足を軸にくるりと反転、何故か逃げようとしているオークに向かって燕返しを放つ。明らかなオーバーキルだが致し方なし。

 

敵の航空戦力は残り6体、適当に弾幕をばら撒き相手の移動を制限。そこにベル君のファイアボルトが直撃し、全てが地に落ちる。さぁ後はそこの2体だけだ。頑張ってベル君!

 

「ベル・クラネルさん、後はその2体だけですよ、頑張ってください」

「はい!」

 

ベル君は元気よく返事すると共に駆け出していく、大型モンスターは最初緊張する筈なんだがなぁ・・・ま、人の事言えないけどね。

さて、周りを見て警戒だ。グルリと辺りを見渡している時、リリルカが魔石を取り出しながら何やら考えているみたいだ。見張りは半霊でやるとして取り敢えず聞いてみるか。

 

「リリルカ?何か考え事ですか?」

「うわっ!?な、何ですか?」

 

ひ、ひでぇ・・・そ、そんなに嫌われることしたかなぁ・・・。

 

「あ、ああ・・・そうです、少し考え事をしていました。」

「考え事?」

 

何だろう、どうやって俺らを騙すか・・・なんてことでは無いと信じたいね、そう思っているとリリルカはおもむろにリュックを下ろし、中から肉団子みたいな奴を取り出す。そう、モンスターを引きつけるあれだ。

 

「これはモンスターを引き付けるためのアイテムです、これを使えば先程のように多くのモンスターが集まってくる筈です。」

 

む?じゃあさっきの大群はリリルカが呼んだのか?何の匂いもしなかったけどなぁ、半霊からもリリルカを・・・その、あまり褒められた事では無いが監視していたからね、肉団子を撒く様な行動はしてなかった筈。

 

「む?ではさっきの大群はリリルカが呼んだのですか?」

 

「いえ、違いますよ妖夢様、でも妖夢様が居るならこれを使って狩りの効率を上げるのもいいかもしれません。」

 

リリルカの表情に変化は無い、・・・まぁ騙すつもりはない筈・・・あのイベント変えちゃったしな。ま、信じてみよう。ベル君が来てからでいいか。あー・・・念のため俺が預かっとこう。何が起こるか分からない以上リリルカ達に危険が及びそうなら、これを使えば囮になれる。

 

「ではリリルカ、それを私に渡して下さい。」

「・・・そうですよね、わかりました。どうぞ」

 

ん?なんだ、何か表情が曇ったぞ・・・あ、説明不足だったか!?

 

「リリルカ!違います!リリルカを信用していない訳ではなくてですね、その・・・何かあった時モンスターの注意を惹き付けられるそれが有れば囮をやりやすい、と言いたかったんですっ!」

 

俺は大いに焦りながら、具体的には首を横に振りながら腕を振り回している。我ながらオーバーリアクションだ。だがちゃんと解ってくれたみたいだ。リリルカは目を見開き固まっている。そして、その口からは酷く小さな声が響く。

 

「貴女は・・・わかりません・・・なんで私を守ろうとするんですか・・・」

 

何故ってそりゃあ・・・。けど、本来ならリリルカの事なんか全く知らないからなぁ・・・どう答える?ベル君には「女の子だから」なんて言うチート級の言い訳があるが・・・俺無いしなぁ。

 

「理由なんてありません。貴女が知り合いだからです」

 

そうとしか言えない、と言うかそれ以外に説明なんてしようがない。果たして誰が君の生まれも人生も知っているから変えに来た、なんて言えるだろうか、どう考えてもストーカーである。

 

「そう・・・ですか・・・」

 

な、なんだこの空気、俺のせいだよね?何とか場を盛り上げねば!そう俺が焦り始めた時、ベル君の声がその場に届く、とても嬉しそうな声だ。

 

「やったよリリ!僕1人でもオークを倒せたよ!!」

 

飛び跳ねる様に駆けてくる微笑ましいその反応にリリルカはニコリと笑う、サンキューベル君!リリルカの相手は任せた、俺には荷が重いぜ。

 

その後肉団子を受け取った俺はリリルカの提案通り11階層に到着し、奥に向かおうと歩き出す。・・・その時だ、えも知れぬ悪寒を感じたのは。

 

目を見開き振り返る、視界に映ったのは・・・・・・紅一色。

咄嗟に反応し身を捻りながら零閃を放つ。結果は轟音。ただ1回の衝突で地面は罅割れる。

 

不利な体勢から放ったため押し負け後方に転がるようにして吹きとぶ、不味い・・・、こんな奴が11階層に居るなんて知らねぇが・・・リリルカ達が死ぬ・・・!

 

『逃げろ!リリルカ!ベル・クラネル!』

 

リリルカの周囲を飛んでいた半霊をハルプモードに移行させ意識を分割、ハルプを通して叫ぶ、しかし、神の悪戯なのかダンジョンの悪意なのか・・・上層に上がるための階段の方からモンスターが産まれ出てくる。先程とほぼ同数か。

 

『ちぃっ!!』

 

本体が全力で駆け出しバットパット達を撃ち落としオークを薙ぎ払う。しかし、再び悪寒。俺は直感に従い近くに居たリリルカを抱き上げ後方に跳躍、瞬間、先程までリリルカが立っていた場所が文字通り吹き飛ぶ。まだ半数以上敵が残っている、そして問題の奴は未だに速くて紅いって事しかわかっていない。

 

妖夢がベル君を守ってるから俺はリリルカを守るしか無さそうだ。ていうかどこ行きやがったあの紅いの?

 

周囲を警戒しながらゆっくりと退る、しかし奴は現れない、ビキビキという音とともにモンスター達が生まれ出る。・・・これは・・・疲労させるのが狙い?・・・モンスターが?そんな知能を持っているのか?そこまで考えて思い出す、知能を持つモンスターは確に存在している事を。

だがここに居るなんて有り得るのか?

 

近寄るモンスターを斬り飛ばしながら考える、この状況で考え事が危険である事はわかっているが例え俺がやられてもハルプモードが切れるだけなので大丈夫、本体の方で全力で警戒中だ、簡単に言うと右脳と左脳で違う事をしてる感覚に似ている。

 

「よっ!妖夢さん!?ドドドどうなってるんですか!?」

 

ベル君やリリルカが慌てふためき叫ぶ、そりゃそうだこんな状況で冷静に居られるのならとっくにレベル2とかになってるだろう。

 

「すみません!説明は後!と言うより私にもわかってません!」

 

意識を本体に移し、説明する、ハルプを囮として少し前方に進ませる。2人を守るだけなら片方だけでも事足りる・・・かも知れない。

 

紅い残像と銀の閃き。飛び散る火花と爆音。そして僅か3秒でハルプがやられる。・・・ファ!?いや、意識無しの状態だったから単純な戦闘しか出来ないけどレベル2を倒せる位の強さはあったはずなのに・・・。

 

だが十分に情報は得た、得物は大剣で、刃渡りは180、体格は4m。太刀筋は乱雑で力任せ。スピードとパワーを高水準で備えていると思われる。戦法はヒットアンドアウェイ。俺の原作知識にあんなモンスターは居ないし新種、もしくは魔石を食らった何らかのモンスター。恐らくは後者、何故ならスキル刀意即妙(シュヴェーアト・グリプス)で読み取った感じだとオークのそれに酷似しているから。

 

「――――グルル」

 

・・・・・・・・・つまり・・・通常の3倍はあるとみていいかもな、赤いし。いや紅いけど。速すぎクソワロタ、声が一瞬しか聞こえなかったよ。まさか飛べたりしないよね?「飛べないオークはタダの豚だぜ」とか言わないよね?推定レベル3〜4、・・・殺れないことは無い・・・が、少々枷が重すぎる。此処は撤退してもらおう、他の人達が襲われる可能性は高いが今の所狙いは普通のモンスターと同じだと思う、まぁ要するに出会ったら頑張れとしか言えないな。

 

「撤退してください!敵、最大推定レベル4!」

「よ、4!?」「な、なな、何が・・・ッ!何やってるんですかベル様!早く逃げますよ!」

 

俺が今やれる事は枷を外す事、・・・つまりはリリルカ達をここから逃がす事だ、彼らが逃げてくれれば戦いやすくなる。半霊から全力で弾幕をばら撒き彼らの進路を作り出す。

 

「さぁ!早く逃げてください!」

 

俺の大声にベル君は目を見開く、それは「妖夢さんは行かないの?」と考えているのだろう、案の定「妖夢さんは逃げないんですかっ!?」と声を張り上げる。安心して欲しいなベル君、俺はスキル構成的に長期戦になればなるほど強いんだ。まぁ時間稼ぎならいくらでも出来るさ・・・だから助けを呼んで欲しいかな。出来ればレベル5位の人。

 

「時間を―っ!?くっうぅ!稼ぎ、ますっ!助けを呼んできてっ!ください!」

 

口を開いた瞬間を狙い霞むほどの速さで大剣の突きを放つ〇ャア専用オーク、剣技掌握(マハトエアグライフング)が無ければ即死だった・・・反応できたと言うことは恐らくは初めに俺を吹き飛ばした一撃はこの突きだったのだろう。突きを天切を横から押し当てる事でギリギリ逸らしたものの左肩を掠める、そしてあろう事かそのまま慣性を無視して横に薙ぎ払って来た、吹き飛ばされる訳には行かない俺は天切を斜めに傾け逸らす、しかし圧倒的な膂力を前に逸らしきれず右の頬を薄く斬られる。

 

・・・大丈夫、これなら勝てる。

 

そんな保証は全くないがそう信じる。牽制の為に袈裟斬りを放つ、後方にスライドする様な変態機動で回避される、距離が離れた途端先ほどと同じく突きを放ってくる。これを刀を横から押し当てる事で凌ぐ、そして再び薙ぎ払い、斜めに傾け逸らしながら屈み、こちらも横薙ぎの一閃、それを跳躍して回避したオークは大剣を渾身の力を込めて振り下ろす。振り切った後で動けない俺は自分に半霊をぶつける事で真横に吹き飛び回避。すぐさま立ち上がりオークを中心に反時計回りに駆ける、そして一気に接近。オークは迎撃しようと構える、その後頭部に半霊エルボーを加え一瞬気を逸らす、そして一閃、腹部に1本の線を刻んだ、が、それだけでは倒せない様で大剣を乱雑に振り回す事で俺との距離を置こうとする、勿論あんな嵐みたいな所に突っ込む訳にも行かないので後方に退る。

 

・・・ふぅ、この間約5秒・・・何あのオーク・・・本当にオークかよ。

 

互いに武器を構え、相手を見る・・・いや、あんにゃろ何処を見て・・・ッ!まさかリリルカ!

 

奴が見ているのはリリルカだった、それがわかったのなら全力で守るしかない、オークとリリルカの距離は20m程、余り離れていないのは仕方ない、撤退するように言ってからまだ殆ど時間たってないから。

俺は縮地を全力で使ってオークとリリルカの間に入る。オークから10mほど離れた所だ。今にも走り出しそうなオークに弾幕をばら撒く。真正面から放たれた弾幕をオークは避け無い、否、避ける必要も無いんだ、傷一つついてないから。

 

オークが残像を残しながらリリルカに突進する。マジかよトランザムじゃねぇか!速い、速すぎる!刀を正面に構え攻撃を防ごうとするが、真横にスライドする様な変態機動で俺を躱しリリルカに直行する。間に合わない・・・それは駄目だ。「安全は保証します」そう言ったのだ、断言した、約束した、なら守らなきゃ。

 

その時、時間が遅くなった。自分もオークの動きも勿論遅くなる。

 

!?なんだ?・・・いや、これは・・・集中か、よし、これなら・・・間に合うかもしれない。だが、間に合ってもあの攻撃をまともに受け止めては武器がもたない・・・けど!これで!

 

「【幽姫より賜りし

、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】

【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】――」

 

オークの振り下ろしを天切で受け止め、斜め横に逸らすようにして防ぐ、しかし天切は大きくひび割れる。ひび割れた天切を横に構え放つ、妖夢のスペルカードの1つ。

 

「剣伎「桜花閃々」ッ!」

 

高速で接近し霊力を纏わせた天切で一閃、そして後ろに駆け抜ける。それはオークの大剣を弾き、よろめかせる、斬撃から僅かな間をおいて桜色の軌跡から大量の桜色の弾幕がばらまかれる。それと同時に砕ける天切。大丈夫、詠唱は終わっている。

 

「来いッ!私の剣!」

 

霊力と魔力が渦を巻くように集合し2振りの剣を作り出す。気分はfateのアーサー王の換装シーンだ。目の前に切っ先を下に向け浮かぶそれらを握りしめる。

 

オークがこちらを向く、今までその目は邪魔なゴミを見ているかのようだっだ、だが今は違う。まぁ、俺を殺さなきゃリリルカが食べにくいとわかったのだろう、大剣を構えた。それでいい・・・。リリルカに貰った肉団子を自身の真上に投げ―抜刀。真上で切り裂かれたそれは俺に降り掛かった。

 

覚悟完了。俺はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

走る、走る、走る。やっぱり私はついてない、そう思いながらけれど足は止まらない。前方の壁が罅割れ、モンスターが現れる。けれど足は止まらない。

 

「ファイアボルトオオオォォォォオォ!!!」

 

ベル・クラネル。今の私の雇い主で、冒険者。後方から轟音が鳴り響く、金属音、爆発音、風切り音。振り向いて見る。飛び散る火花と土煙、魔法の光と銀色の煌めき。そこに居るのは魂魄妖夢、ベル様の命の恩人で現在進行形で私とベル様を助けようとしてくれる謎の多い冒険者。

 

走る、走る、走る。妖夢様が戦って居るのは推定レベル4のモンスター、それに対して妖夢様はレベル2。勝てない、そう思った、けれど噂が本当ならば勝てるかも知れない、今朝とは真逆の事を考える。何故ならあのモンスターから舐める様な視線を感じるから。

 

妖夢様が負けてしまっては私が殺される。それがわかっているからこそ、可能性を信じる。・・・けれど死んでしまえと思う自分もいる。きっと死んでしまえば自分はもっといい自分になれる。

なのに足は止まらない。あぁ、なんて意地汚いんだろう、まだ生きたいと言うのか、・・・・・・全てを諦めたと言うのに・・・。希望を、見出してしそうになった、ベル様に、妖夢様に。私を助けたい、助けよう、そう言って行動してくれる人が居た、それが嬉しかった。それが暖かかった。

 

けれど.騙されてはいけない、彼らは冒険者なんだ、そう、冒険者。

手の中にあるアイテムを意識する。念のためにいくつか残しておいて正解だった・・・大丈夫、きっと1秒位は稼いでくれるだろう、・・・・・・これは裏切りじゃない、報復だ。これは叛逆じゃない、復讐だ。

 

だから転んだ。わざとらしく荒い息をしながら。そしてアイテムを投げる。

 

「きゃ!・・・はぁ―はぁ・・・ベル様、リリはもう動けません。」

「リリ!?くっ!ハァ!」

 

紫紺に輝くナイフを振り回しベルは応戦する。此処は10階層、霧に包まれている。アイテムに釣られやって来るモンスター達に囲まれているベル様はきっとこちらに気が付かない。・・・ベル様が死んでしまうかも知れない、妖夢様が死んでしまうかも知れない。何故かそんな事が頭をよぎる。――だからなんだ。

 

走る、走る、走る。

 

「くそっ!リリッ!?リリ!何処なの!返事してリリ!!」

 

暖かい何かが頬を伝う、否、伝ってなんかない。視界がぼやける、否、ぼやけてなんかない。呼吸が苦しい、否!疲れているだけだ!

邪魔な思考を振り払い走る、走る、走る。

・・・振り返らない、振り返ればきっと止まってしまうから。

 

 

 

 

なんで、なんで・・・。私は止まってしまった。あと少しなのに・・・止まってしまった。

 

目の前に居るのは1人の男、ゲドだ、私から金を奪われた冒険者。

 

「泣いてやがるのかぁ?ハハハッ!なんだよぉ!そんなにあのガキが気に入ってたのかぁ!」

 

こりゃ傑作だぜ、と笑う男、そして通路の奥から更に人が歩み出てくる。そして確信する、絶対に味方ではないと。

 

「やぁゲドの旦那ぁ・・・くくく」

 

カヌゥだ、私から金を搾取し、嗤う冒険者。汚い笑みを浮かべ私を見る。

 

殴られ蹴られ魔石も魔剣も奪われた、涙は出ない。

更に人が来る。その手に瀕死のキラーアントの子供を持って。

 

「てってめぇ!裏切ったのか!」

「裏切り?何の事やら・・・俺達は手を組んだ覚えは無いですぜぇ?なぁ?お前ら」

「糞が!」

 

横道に駆け込み逃げようとするゲド、けれど通路からはぎゃあああああと言う悲鳴だけが聞こえてきた。

 

「残念だったなぁアーデぇ・・・」

「おい!やべぇぞ、早く逃げよう」

「ああ、分かった。最後くらいしっかりと支援してくれよ?サポーター」

 

カヌゥたちが去ってゆく。

 

「・・・は、はははっ」

 

笑いが止まらない、私は最低だ。・・・暖かかった。ベル様の隣は暖かかった。なのに・・・裏切った、裏切ってしまった、ベル様は違うとわかっていたのに!

 

キラーアントに囲まれる、体は傷だらけで動こうとしない。・・・きっとベル様も妖夢様も・・・私のせいで・・・やっぱり私はいらない存在なんだ、入れば周りを不幸にしてしまう。

 

キラーアントが顎を開いた、あぁ食べられちゃうんだ・・・なんてザマなんだろう・・・本当に・・・救いようがない・・・・・・。目を閉じる。未練はある、やり残した事もある、夢も目的もあった。

名前を呼ばれたかった、誰かに頼ってもらいたかった、必要とされたかった、利用されるのは嫌だった、私は私じゃない誰かになりたかった。・・・あぁやっぱり救いようがないなぁ・・・ごめんなさいベル様、ごめんなさい。

 

「神様・・・どうして・・・リリをこんなリリにしたのですか」

 

これでやっと辛い人生が終わるんだ、それだけが唯一の・・・・・・・・・唯一の・・・救い。

キラーアントが大きく見える。・・・最後が迫っていた。

 

「・・・寂しかったなぁ・・・」

 

自分の口から転がり出た言葉に驚いた。それは本音、目を背け聞こえない振りをしていた自分の本心。慣れてしまったけど・・・ずっと寂しかった。

 

――これで――やっと―――やっと・・・リリは死んでしまうんですか?

泣き笑いを浮かべた。

 

「ファイアボルトオオオオオオオオオオオ!!」

 

空気を揺るがす大音量で聞き慣れた声が響く。そして熱が周囲を焼き払う。緋色の焔が、ルームを染め上げた。

 

「・・・え?」

 

 

 

 

リリルカ達が逃げ始めてから4分ほどたった頃。タケミカヅチ・ファミリアのホームでタケミカヅチは猿師と縁側でお茶を飲んでいた。話す内容はもちろん自分の子供についてだ。他にもミアハ・ファミリアとの商いの話であったりととても有意義なものだ。

 

「いや〜、ウチの純鈴はいいお嫁さんになるでごザルよ〜」

「ハハハ、何を言うかと思えば。そんなこと言ったら俺のとこの命も千草も妖夢もいい嫁さんになるさ」

「そうでごザルかぁ?妖夢殿は包丁で家ごと斬ってしまいそうでごザルがなぁ!ハハハハ!」

「炊事洗濯家事全般に戦闘も出来る、ちょっと抜けてる所もあるが真面目で裏切らない。・・・フッ、我が子ながら完璧だな!しかもこれらの条件が3人ともしっかりと備わってるからな!」

「ふむ、抜けてる所もあると言っているのに完璧でごザルか・・・なるほどこれが親バカか」

 

そんなふうに親馬鹿共が娘自慢に花を咲かせていると目の前の地面から白い何かが飛び出してくる。

 

「「!?」」

 

驚く2人を他所に白い何かは形を変え、人の形をとる。

 

『タケ!不味いことになった!桜花達はどこだ!?』

 

大声を上げたのはハルプ、その表情は焦っているのがハッキリと分かった。どうやら桜花達を探しているようでタケミカヅチは詳しく聞き出そうと問いただす。

 

「ハルプか、一体何があったんだ?」

 

そしてその後に放たれる言葉に2人は唖然とする。

 

『ッ!?くそっ!悪いタケ、こっちに集中力を裂いてる余裕はない!手短に言うぞ!ダンジョン11階層に推定レベル4のモンスターが現れた!今は俺が食い止めているがどうにか援軍を呼んでもらいたい!お願いだタケ!絶対に命達をダンジョンに行かせるな!』

 

ハルプは一方的にそう叫び半霊となって地面に消えていった。タケミカヅチは額に手を当て天を仰ぐ。数時間前から共に居た猿師も同様だ。

 

「なんてこった・・・あいつらもうダンジョンだ・・・」

「と、取り敢えずは・・・ギルドに・・・・・・。いや、ロキ・ファミリアに行くでごザルな」

「そうだな、俺がそっちに行く、猿師、お前はギルドに行ってきてくれ」

「妖夢殿は何時まで持つでごザルか?」

「敵にもよるが・・・15も打ち合えばまず負けは無いだろう・・・無論、一対一ならだがな。」

「なるほど、ならば早くせねば」

 

 

 

「リリィィィィィィィィ!!」

 

火炎は絶え間なく放たれた、キラーアントを焼き付くし、紫紺のナイフと短刀を振りなおも突き進むその白炎は私の前で止まる。

 

「リリ!!大丈夫、ねえ!?僕のことわかる!?」

 

初めは誰かわからなかった、けれどすぐにわかった、綺麗な白い髪をしていたから。喉が詰まる。痛いくらいに私の肩を握りしめる、慌ててレッグホルスターから取り出したポーションが口元に寄せられる。咳き込みながらも一口飲み、質問に答える。

 

「・・・ベル、様?」

 

「そうだよっ無事だよね?」

 

こちらを安心させようとしているのか涙ぐみながら笑い聞いてくる。胸が・・・痛い。

 

「いつもみたいに待ってて?」

 

ベル様は最後にそう言い残し立ち上がる、柑橘色のポーションを飲み干し右腕を前に構える。

 

敵は30匹を超える。今でも正面からじゃきっと勝てない。・・・が、今は魔法があった。

 

「ファイアボルトオオオオオオオオオオオ!」

 

圧倒的な数の差を、魔法の恩恵が覆す。

 

気づいた時にはベル様と私の2人だけになっていた。

 

「・・・どうやって、ここまで」

 

死んだと思っていた、私のせいで。何かが溢れそうになるのを堪える。

 

「いやぁ、モンスターに集られちゃったんだけど、ほかの冒険者が助けてくれたみたいでさ、よく見えなかったし何か罵倒された気がしたけど・・・。だからすぐにリリを追えたんだ。」

 

いやぁ、と何でもないように苦笑いするベル様に私の何かが切れた。

 

「どうして」

 

小さく呟いた言葉を正確に聴き取れなかったのかベル様は「何、リリ?」と聞き返してくる。

 

違う、他に言う事が有るのに

 

「どうしてですか?なんで見捨てようとしないんですかっ?まさか騙されていた事に気が付かなかったんですか?」

 

ええぇ?と間抜けな顔をするベル様に私は声を荒らげてしまう。違うのに、言いたい事はそんな事じゃないのに。

 

「ベル様は馬鹿なんですか!間抜けなんですか!阿呆なんですか!」

「あほっ?!ちょ、リリ落ち着いt」

「無理です!!リリは換金の際お金をちょろまかしました!分前も調子に乗って沢山もらった時だってあります!ポーション代もその他アイテムの金額も倍以上吹っかけました!」

 

止めて・・・違う、なんで、なんで「ありがとう」が出てこないの?私の声は止まらない。

 

「わかりましたか!?リリは悪いヤツなんです!嘘ばかりついて雇い主を裏切る最低なパルゥムなんです!それでも私を助けるんですかっ!」

「うん、助けるよ」

「どうしてっ!?」

 

息を切らし問い詰める、私は何を期待しているのだろう、心臓が壊れたみたいに激しく動機する。

ベル様はニコリと笑って口を開く、その口から目が、耳が離せない。

 

「女の子だから」

 

言葉に出来ない感情が体を支配する、理解出来ない感情が爆発した。

 

「ばかぁっ!ベル様の馬鹿あぁ!!またそんなことを言っ「でもね」ッ!?」

 

喚く私を無視してベル様は呟く、けして大きくない声だったにも関わらずしっかりと聞こえた。

 

「僕はリリを守りたかったんだ。リリにいなくなってほしくなかったんだ。リリが居ないと出来ない事ばっかりだからさ。・・・妖夢さんに言われなきゃ気付けなかったけどね」

 

アハハ、と照れくさそうに笑う。涙が止まらない。我慢出来ず声を出して泣いてしまう。

 

「困った事があったら言ってね?ちゃんと、助けるから」

 

ああ、私は救われ(死ね)なかった。けれど救われてしまった(受け入れてもらえた)。自分が大嫌いな自分の事を。

 

「ごめっ、ごめん・・・ごめん、なさい・・・!」

「・・・うん」

 

私は泣き続けた、・・・・・・・・・「ありがとう」そう言えなかったけれど、ちゃんと心の底から想っています。

 

きっと・・・この感情は・・・・・・・・・。




次回はいつになるやら・・・!頑張るぞい!


【紅いオーク】

紅の豚ゲフンゲフン。赤い彗星ゲフンゲフン。トランザムゲフンゲフン!な存在。
力と敏捷に全振りしたレベル4クラス。

武器は冒険者から奪った大剣。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話「この魂魄妖夢に!斬れない物など全くない!」

遅くなってごめんなさいっ!18話ですー!

今回は戦闘シーンばっかりですぜ!ちゃんと書けているか非常に不安ではありますが!

どうか暖かい目で見てくださいな!orz


時間は妖夢が紅いオークと出会った少し後まで遡る。

 

 

 

俺、ベート・ローガは暇を持て余していた、遠征が終わったばかりだというのに馬鹿ゾネス姉妹とアイズは再びダンジョンに突撃しちまったからな。

 

初めは付いていこうとした俺だったが武装は手入れに出してしまっていたし、ロキに「いい機会やし休んどき〜」と言われて休暇を貰っている。

 

「(はぁ・・・暇だぁ・・・そういや今朝妖夢の奴が顔出したらしいな、何しに来たんだか・・。)」

 

俺が危惧していた事はやはり起きた、そう、「噂」だ、なんでも「ベートはロリコン」だとか「凶狼(子連れ狼)」とか言われている始末・・・、別に他のファミリアの奴に何を言われようと気にしないが、やはり仲間に言われるときつい物がある。特にあの馬鹿の2人組には色々と言われてる、いつかぶっ飛ばしてやる。

 

少し街にでも繰り出すか、そう思って準備を進めていた時だ、黄昏の館が騒がしくなったのは。

 

「なんだ?」

 

怪訝に思い自分の部屋からでて騒ぎの中へと向かっていく。そこには妖夢の主神が――冒険者相手に大立ち回りしていた。俺は見なかった事にして体を180度回転させる・・・が、逃げる事は出来ず、呼びかけられる。

 

「おいっ!そこの銀髪!あぁとベート・ローガだったか!?妖夢が大変なんだ!!クエストを出す!助けてくれないか!」

 

俺は耳を疑った、1級冒険者である俺にクエストを寄越すって事は、相当な一大事なのだろう、だがアイツはタダの雑魚じゃねぇ。それが大変?クエストを出す程の何かに巻き込まれたか?まさか、フレイア・ファミリアが関係してたりするんじゃねぇだろうな・・・。

 

「何があったんだ?少なくとも雑魚に殺られるような奴じゃねぇだろうあの餓鬼は」

 

「詳しくはわからないがどうやら強化種が現れたらしい、11階層で推定レベル4のモンスターと戦っているらしいんだ、現状頼めるのはベート、お前しかいない。頼めるか?」

 

強化種・・・、あぁなるほど、そりゃキツイな。何せ常識が通用しない相手だ、ゴブリンですら強化種は化け物みたいに強くなる。

まぁ、むしろファミリア間の抗争とかじゃなくて良かったか。つっても簡単にクエストを受けるわけにもいかねぇ、それこそ噂が更に大きくなっちまう。俺だけが言われるならまだしも、ロキ・ファミリアそのものに嫌な噂が立つかもしれねぇ。

 

「なんで俺なんだ、別の奴に頼めねぇのか?アンタの所の冒険者じゃ駄目なのか?」

 

「俺のファミリアの主力は妖夢達なんだ、それにベート、お前には妖夢が一際懐いているからその方がいいと思ってな。ロキに伝えてくれないか?」

 

なんだそれ、まぁ、どうでもいい。ギルド間のクエストなんてめんどくせぇ。

 

「あぁそうかい」

 

「あっ!おい待ってくれ!助けてくれないのか!?」

 

「ああ?んなもん――――」

 

 

 

 

 

 

 

「ベル様・・・」

 

ダンジョンの七階層、ベルとリリはゆっくりと上を目指していた。もちろん妖夢の助けを呼ぶ事を忘れている訳では無い。ポーションが品切れとなり、リリの怪我が治りきっていないのだ。

 

「どうしたの?リリ」

 

ベルがリリの方を向いて首をかしげる、するとリリは頬を染め俯く。

 

「な、何でもないです・・・」

「そう?ならいいんだけど・・・怪我は平気?」

「大丈夫です、それより妖夢様を助けなくてはいけません。」

 

そんな会話をしていると、前から3人の冒険者が歩いてくる。そしてベルとリリはそんな冒険者の中に知り合いが居ることがわかった。桜花と千草だ。

 

「ん?あぁ、ベル・クラネルか。ってどうしたんだ!?」

 

桜花達はベルが「お姫様抱っこ」しているリリを発見したのか駆け寄ってくる。

 

「桜花さんに千草さん!実は「ベル様!」ひょえ!?何リリ!?」

 

驚くベルを尻目にその耳に小さな声でリリは囁く。・・・少し耳が赤くなっている、両者とも。

 

「妖夢様が戦っているのはレベル4です、あの冒険者様方が向かっても無駄死になるだけです。」

 

ベルはその言葉にハッとしたように目を見開く。あの僅か数十秒で妖夢の異常さを思い知ったばかりなのだ。とてもでは無いが目の前の彼らがあの戦いについていける様には見えない。

 

そんな時ベルがギョッとする事が起こる。頭に百合の髪飾りを付けた黒髪のポニーテールの女の子、命だ。

 

「妖夢?妖夢殿に何かあったのですか?」

 

き、聞こえてた〜・・・。と顔が引き攣るベル。リリはすぐ様次の案を思いついた様でその質問に答えた。

 

「実は・・・」

 

今日1日の出来事を都合の悪い事以外伝えるリリ、どんどん顔を険しくする桜花と命、どんどん青ざめていく千草。

 

「・・・という訳でし「助けに行かなきゃ!」」

「千草殿?!」「おい!千草!」

 

突然大きな声を出して走り出す千草、止めようとする2人に振り返り早口で話す。

 

「妖夢ちゃんが助けを呼んでない訳ないよ!きっともうハルプで呼んでる筈なの、きっとベルさんやリリさんに助けを呼ぶように言ったのは2人を逃がすためだよ!」

 

その説明は命と桜花を納得させるには十分だった様で、2人は頷き千草と共に走り出す。リリとベルはその展開の速さについていけず唖然としていた。二人からしてみれば「助けを呼べるのは自分達しか居ない」と思っていた。

 

「色々とあったけど、妖夢さんには感謝しないとね?・・・リリ、取り敢えず上に行こうか」

「はい、そうですね」

 

2人はギルドに急いだ。ー

 

 

 

 

汗が地に落ちる、血しぶきは舞、肉片が踊る。壁、地面、全てが赤く染まったここは11階層。数十体のモンスターが鳴き声を上げながらある一つの方向に駆けてゆく。

 

煌めく銀閃、舞うは銀色、纏うは緑。ただ、ただひたすらに2本の刀を振り続ける。その目に迷いは無い。

 

必要最低限の力で持って完璧にその大軍を捌いていく。しかしそれは長くは続かない、何故なら相手はただの大軍ではないのだ、敵には将がいた。この部屋の様に紅い将が。

 

紅いオークが叫び声を上げると周辺のモンスター達の動きが良くなって行く、そう、これは指揮。モンスター達は鬨の声を上げながら二つの刀が織り成す斬撃の嵐に盲目的に突撃していく。モンスターを斬る度に、死に際に放つ最後の抵抗が妖夢の体に擦り傷を付けてゆく。

 

「はぁ!はぁ!ッ―!」

 

肩で息をしながら楼観剣と白楼剣を振り回す妖夢、既に洋服の至る所に血が付いている、最早どれが自分の血でどれが返り血なのかもわからない。しかしそれでも撤退と言う考えはないのか10階層に上がるための階段前から動かない。

 

逃げ道はすぐ後ろ、されど退かず、その目はただただ冷酷に目の前の異型達を睨むばかりだ、間合いに入った瞬間にモンスターの体はその数を増やしていく。

 

壁と言う壁が、床という床が、罅割れ抉れモンスターを吐き出してくる。妖夢が魔石を切り裂いていなければこの場は全てモンスターの死屍で埋まっていただろう。

灰がつもり、血を被さり固くなる。

 

「ブヒイィィィイイイイ!!!!」

 

再び金切り声のような咆哮、それに応えるように百にも及ぶモンスター達が咆哮を上げる。

 

「オォォオオオオ」「ギャギャキキキキ!!」

 

強大な個を倒すなら、さらに強大な個をぶつけるか、数で押し潰すしかない。しかし、例えばここにいるのが妖夢ではなくアイズやベートなら、この数で押す、などという戦法は何の意味も持たない。強力すぎる個に数で挑んでも無駄なのだ。しかし妖夢は違った、妖夢は強く無かったのだ。レベルはたったの2、数で十分に押しつぶせるレベルだった。

 

「はあぁっ!」

 

たった一振りで3体の首を跳ね、二振り目で魔石を切裂く。

ここで、きっと疑問に思うだろう、「何故、技を使わないのか」と。それは簡単だ使いたいが使えない、それが答え。技を使うには何らかの構えや隙が生じてしまうのだ。敵の数は無限に近く、何の考え無しに突っ込んでくる敵に隙を見せたら最後、数で押されて圧殺されてしまう。

 

かれこれ既に戦闘開始から40分が経とうとしていた。

 

妖夢の剣は速く鋭い。・・・しかしそれがいつまで持つかはわからない。

 

そして―――――「銀」は躍り出る。

 

 

 

 

 

 

私達はダンジョン内を走る、何故か行く先々モンスター達は全て潰れたような破裂したような惨めな姿になっていた。だがこれは妖夢殿の戦闘の痕跡では無い様に見える、何故なら痕跡は下に向かっていくからだ。

 

「命!どうだ?妖夢は見つかったか?」

「いえ!まだです!」

「千草は?」

「見て、ない!」

 

少し息を切らしながら十一階層を目指す、妖夢が逃げている可能性も考慮し、有り得ないとは思いながら軽く周りに目を走らせながら移動する、最もその走りは千草に合わせているものの相当な速度である。

 

もうすぐで、そう思って速度を上げる、けれどそれは防がれてしまう。モンスターの壁に。

 

「くそっ!命!千草!戦闘態勢だ!」

「はい!」

「うん!」

 

待っていてください!妖夢殿!

 

 

 

 

 

迷いを切り捨てる。俺です、白楼剣を振っているおかけで常に迷いを切り捨てる事が出来る。

 

つまりは自身に迫る最も危険な物を斬り落とし、戦闘に支障が出ないものを無視する、断捨離が出来るのだ。そんな訳で戦っているが・・・見てくださいこの死屍累々、もう腕に力が入らなくなってきたぜ・・・!

 

だが此処を引けばベル君達が危ない。せめてあと2時間は稼がないとな。

 

「グワァァア!!!」

 

ひぃーまた増援ですか、まったく邪魔くさい!薙ぎ払いてぇー!月牙天衝で薙ぎ払いてぇ!ギガスラッシュも可!

 

タッタッ・・・ん?何か背後から足音が・・・まさか助けが・・・いや、敵の可能性も・・・。

 

そんな足音を奴も感じ取ったのか叫び声をより大きくする。そして奴自身も動き出した。これは・・・不味い!

 

「プギィ!!!」

 

低い爆発音をたてて地面が陥没する。咄嗟に避けて居なければ即死だろう。そのまま振り上げ、楼観剣でガード、しかしガード事吹きとばされ空中へ、奴は腰を落とし身体をひねる。一撃で殺るつもりだっ・・・!俺は首を捻る事で回転を加えながら落下する。奴がタメている間にこちらも大技をぶち込む!本来とは撃ち方が全然違うが・・・・・・!

 

自分の体に半霊を上から直撃させ落下速度を加速させる。それと同時に楼観剣を逆手に持ち構える。

 

「!?」

 

余りに急な加速、それに驚いた奴の動きが僅かに遅れた。とった!

 

そう、思っていた。

 

「キキキッ!」

 

バットパットの体当たり、威力も速度も弱い、ただ空中で当たれば機動をずらす事くらいは出来た。

 

「なっ!?」

 

アバンストラッシュは狙った頭部から逸れ左腕を吹き飛ばすだけに終わった。そして・・・次は奴のターンだ。左腕を吹き飛ばされて尚その腕を振り抜いた。

 

二刀を交差させガードするも・・・それは殆ど無意味だった。ガードの衝撃で両腕がへし折れる。そのまま振り抜かれ吹き飛ばされる。折れた腕と2本の刀が盾となり下半身とサヨナラはしないですんだものの、壁に叩きつけられ、腰と背骨がイカレタ。おうふ、体が動かないぜ・・・・・・現実逃避は止めようか、状況は・・・両腕は死に、背骨と腰をやられたせいで下半身は動かない・・・白楼剣と楼観剣はさっきの一撃で吹き飛んで俺から離れた事で消えかけている・・・と。あー・・・終わっちまうかな、これは・・・。

 

・・・いや、終わらないさ。こんな所で終わってたまるか。

 

現実を見据え状況を理解すれば自身の身に迫る危険を明確に理解した。そしてそれを脱するには気合などではどうにもならないと理性では分かっていた。

 

「ぅ・・・うぅ・・・う、動け・・・動いて・・・!」

 

弱々しい呻き声が口から漏れる、紅い絶望が目の前に迫る。リリルカ達は・・・無事に帰れたかな?・・・オークは己が得物を振り上げる。諦めが・・・自分を支配しようと魔の手を伸ばす、それを意思で斬り伏せ相手を睨む。そして

 

――――――――――紅いオークは横に吹き飛んだ。

 

「ぇ?」

 

そこには・・・銀狼が立っていた。

 

「ったく、これだから雑魚がでしゃばるのは嫌いなんだ」

 

べ、ベートーベン・・・あれ?違ったかな?どうやら頭を打ったらしい。にしても・・・これで助かったかな。どちらにしろチョーーーカッケッーーーー!!!

 

しかしそんな甘い狼ではなかった。

 

「口開けろ雑魚が」

 

強引にポーションと思われる液体入の瓶を口に突っ込まれる。俺はケホケホッと蒸せりながらもそれを飲み干した、これは・・・万能薬?みるみるうちに体中の傷が塞がっていく。潰れた両腕をその腕で整えるベート。そしてこちらに意地悪な笑みをして話しかけてくる。しかしその目は真剣だ。

 

「選べ、このまま俺に助けられるか、自分で立ち上がってアイツを殺すか」

 

・・・ベートの奴・・・解ってて言ってるだろ・・・。

身体に走る痛みを無視して立ち上がる。そうだったな、アンタはそういう奴だったな、ベート。

 

「おら、行けよ。相手さんも待ってるぜ?」

 

ニヤリと挑発的な笑みをこちらに向け顎で敵を指すベート、片腕だけのオークなどいくらレベル4だとしてもベートには敵わないだろう。

 

「フゴッ!ブルルルルル・・・フーッ!」

 

恥ずかしいな、こんな姿を見せることになるとは・・・。家族と友達以外には情けない姿は見せないぞ、なんて思っていたんだが・・・これは頑張ってベートと友達にならねば。

 

「お恥ずかしい姿を見せましたベート。絶対にお友達になってくださいね」

 

そう告げて消えかけている白楼剣と楼観剣に手を向ける。すると刺さっていた両方の剣が消えて手の内に

現れる。くるりと回し、構える。

 

「この2振りに・・・この魂魄妖夢に!斬れない物など全くない!」

 

第2ラウンドの火蓋が切って落とされた。

 

 

全力で走り、牙突零式を放つ。変態起動で躱され後ろに回り込まれる。回転斬り、跳躍で回避され振り下ろしが迫る。右足を軸に半回転、鞘に刀を納め零閃。轟音。さっきとは逆でオークが空中に浮かんだ。それに奴の大剣を半ばまで断ち切った。足元まで潜り込み、真上に向かって月牙天衝、大剣を盾に防ごうとするオークの真上にハルプを登場させ月牙天衝。

 

霊力の暴風が吹き荒れる。しかし奴は避けて見せた、下からの月牙天衝の方が僅かに到達が早く、大剣に月牙天衝が当たった瞬間大剣を蹴って横に逃れたのだ。

 

オークとは思えない身軽さ、敏捷で残像を作りながら回り込んでくる。白楼剣で迎撃する、これで腕を盾にしてくれれば楼観剣で首を跳ねる。が、白楼剣の特徴を先の戦闘で理解しているのか防がずに突進してくる。上に待機させていた半霊を反転、全力で自分の胸にぶつけて後方に飛び退く。

 

呼吸が難しいが気にしない。オークはそれを見て飛び退き半ば折れた大剣を再装備する。弾幕が効かないことは分かっているので刀しか無い、何の技を使うべきか・・・そこまで考えてなかったふと思い出す。最近自分の背中に書き込まれた魔法があるではないか、と、考えろ、どうすれば使えるのか。自分はこと魔法をどういう物だと理解している?・・・自分を強くする魔法だ。・・・視点を変えろ。どうすればいい?どうすれば・・・気が付ける?使ってみればわかるかもしれない。

 

「【覚悟せよ(英雄は集う)】ッ!!?」

 

背中が熱い焼けるように熱い。背中を何かが蠢く様に、這い回るような、そんな感覚。これは・・・二律背反?

 

ステイタスが・・・動き始める。そして頭に声が響く。

 

―――「ぽいすー^^」

 

・・・刀を構え、こちらを伺うオークと向き合う。やはり魔法を唱えただけじゃあ無理らしい。

 

―・・・「こほん。・・・ぽいs」やらんでいい!

 

オークは地面を這うような低さから切り上げを放つ、真横にステップを踏み回避、振り上げてガラ空きの胴体に斬撃を・・・と思わせての1歩タイミングを遅らせた袈裟斬り。オークは無難に大剣を盾に使い俺の攻撃をガード、そのまま大剣を蹴り上げる。俺はその大剣に飛び乗り空中へ。

 

―「おお〜。あ、そうそう最近さ〜仕事の方がキツくてね?もう俺っちやってられなくてさ!なぁ聞いてる?」

 

五月蝿い駄神を無視して刀を最上段に構える。オークは右肩を引き、突きの構え。

 

―「まぁいいか、で、君の魔法の事何だけどさ?」

 

とても気になるがとりあえず狩る!オークの背後に半霊をハルプとして召喚、んで『ツインスタップ!!』両手の刀で連続突きを放つ。馬鹿め!そいつは囮だ!後ろを向いてハルプを薙ぎ払ったオークの頭を蹴り飛ばし後ろに跳躍。

 

―「さあ!詠唱するんだ!」

 

いや!なにをだよ!?魔法の事なんも説明してねぇよ!馬鹿じゃねぇの!?だから仕事でミスるんだよ!?

 

―「やりたいことを言葉に!僕も手伝うからさ!」

 

やりたい事?・・・と、とにかくステイタスの差が埋められるものが欲しい!一刀修羅とかさ!

 

―「おっ!いいねぇ!ジャが丸くん召喚魔法も捨てがたいけど。さぁ詠唱だ!」

 

うるせぇ、ジャが丸くんは置いておけ。

 

「【男は卑小、(此度)刀は平凡、(修羅は顕現す)才は無く、(修羅)そして師もいない。(一刀にて山、切り崩し)頂き睨む弱者は落ちる。(頂きは地へと落ちる。)その身、(時過ぎし時、)その心、修羅と化して(男、泥のように眠る)】」

 

異変を感じとったのか紅いオークは突貫してくる。だが――もう遅い・・・余りにも、遅過ぎる。

 

「一刀―――修羅ァァアアア!」

 

 

 

 

戦いは加速する。妖夢全身の擦り傷から血が溢れ出す、目は充血し赤く輝いていた。踏み込んだだけで地面はひび割れ双方の距離は零となる。ベートは目を見開いた、なぜならその初動を彼は捉えられなかったのだ。

 

戦場の至る所で炎が煌めき、吹雪が吹き荒れ、竜巻が起き、地面が盛り上がる。

 

壁は穿たれ、地面は抉れ、天井は崩落する。見る見る間にオークの身体は斬られ突かれ焼かれ冷やされとひどい有様になってゆく。時には三つ同時、時には九つ同時に刀が振るわれる。腕がもげ、足がもげ、腸がこぼれ落ちる。

 

 

 

 

やがてオークは息をするだけの肉塊となり果てる。残り斬るところは首か魔石か。鼻から、口から血を流しながら刀を掲げる。狙いは首、そして一切の迷いなく、それを振り下ろす。

 

勝者は魂魄妖夢。

 

圧倒的だった、1分にも満たない僅かな時間で格上を削りきった。切り倒してみせた。ベートは動けないでいる、目の前の存在に、触れてはならない様な、そんな気がしたからだ。

 

しかし、ベートは歩き出す。なぜか、妖夢が倒れてしまう、そう、思ったから。歩きは徐々に走りに変わり。

 

倒れる妖夢を受け止めた。

 

「ベー・・・ト。」

 

緑色の服は血に濡れて最早緑ではない。彼女の手は小刻みに震えており、そして武器を取り落とす。そして徐々に呼吸すら浅く、小さくなってゆく。武器が弾けるように桜色の光になって消える。

 

彼も、彼女も知りはしないが。あの魔法は「デメリットが存在する技をデメリットを更に大きくする事で完全再現する」魔法なのだ。魔力を使う行為ならば使用する魔力はより大きくなり。肉体に負担をかける行為ならばその負担はより大きく。

 

唯でさえ肉体に負担のかかる一刀修羅はその負担を更に倍近くまで引き上げられ肉体を破損させたのだ。

 

「おい!くっそ!」

 

ベートは焦り、ポーションを妖夢に振りかける。そして抱き上げ上層に駆け出そうとする。

 

「妖夢殿〜!何処に居られますかー!」「妖夢ー!返事しろー!」「妖夢ちゃ〜ん!どこなのー?!」

 

ベートの耳が誰かの声を捉えた、僅かに逡巡した後、そっとそこに妖夢を横たえた。そしてバレない内にと下層に向かって駆け出す。

 

「妖夢?!」「妖夢ちゃん!?」「妖夢殿!?」

 

自分らしくない、そう思いながら。

 

「(はぁ・・・何やってんだか・・・)」

 

何故か意気消沈している自分を自覚し、呆れながら12階層に向かう。きっと彼らは上の階に向かうだろう、それに下にはアイズ達が居る。なら下に向かってアイズ達と合流しよう。

 

そう考えたベートは気が付かない。あの瞬間、ベートすら捉えられない速度を出された瞬間に、無意識に妖夢を認めてしまった事を。

 

故に、変わるだろう。強者と弱者という関係から、1歩だけ。けれど、その1歩は大きな前進である。




【オッタル】

(´・ω・`)「ん?誰だあの猿顔は」

ヾ(゚Д゚*)ノウキー「大変でごザルっ!大変でごザルっ!強化種が出たでごザルよっ!」

(`・ω・´)「ほう、強化種か・・・珍しいな最近は出てきていなかったのに」

ヾ(゚Д゚*)ノウキー「妖夢殿のお知り合いは助けて欲しいでごザル!妖夢殿か今は時間稼ぎをしてるでごザルよ!」

(´°Д°`)「え?」

ヾ(゚Д゚*)ノウキー「どなたかー!どなたかー!助けてはくださりませぬかー!」

(`・ω・´)「フレイヤ様に報告だ!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話「うあぁ・・・世界がまわるぅ・・・」

友達の家に泊まりに行くと必ずオールになるのは何でなんでしょうね(笑)

という訳で遅くなりました19話。ご覧下さいな。


妖夢殿が傷だらけで倒れているのを見つけ、急いでホームに戻ってから数日が経つ。けれど未だに妖夢殿は目を覚まさない。

 

「妖夢ちゃん・・・」

 

妖夢殿の傍らで千草殿は萎れた花の様に元気が無かった。私がどうにかしなくては。けれど、そう思う度にどうすればいいのかわからなくなる。妖夢殿を喜ばせるには、元気になってもらうにはどうすればいいのだろう。料理を作る?・・・どんな料理でも、それこそ失敗した料理でも喜んで食べてくれるのでこれはありかも知れない。でもそれだけでは駄目だろう。もっと何か無いものか・・・。

 

花を買ってきたが妖夢殿が目覚めなくて枯れてきてしまった、手入れはしているのだが・・・庭の手入れなど、そういった物が趣味である妖夢殿が萎れた花何て見たらきっと悲しむ、後で買い直しておかなくては。

 

ああ、そう言えば今日はベル・クラネル殿が御見舞に来てくれる日でしたか、タケミカヅチ様の予測では今日辺りに起きる・・・との事でしたが・・・。とりあえず消化に優しいものと、花を買ってこなくては。む、そう言えば千草殿とタケミカヅチ様と一緒に折った千羽鶴を飾りましょう。タケミカヅチ様桜花殿はイレギュラーの情報説明の為にギルドに飛び出されている。本来なら妖夢殿が行くべきなのですがこの通り半霊を抱き抱えたまま目が覚め無いので、主神であるタケミカヅチ様と団長である桜花殿が呼び出されたようです。リリルカ殿も殿とベル・クラネル殿、後はベート・ローガ殿も呼び出されたらしい、前者お2人はわかるのですが、何故ベート・ローガ殿まで?考えても答えは出ない、さ、買い物に行ってきましょう。

 

 

 

 

買い物から帰ってきた私は千草殿と桜花殿と共に昼食を作っております。ちなみに桜花殿は私が買い物を終えた時たまたま会ったのでこうして一緒に帰ってきた、そんな感じです。

 

そろそろベル・クラネル殿達が到着する筈、妖夢殿が言うには凄い殿方との事ですが・・・この間見た時は余りそういった物は感じませんでした。しかし、妖夢殿の事です、きっと私には見えていない事も見えているのでしょう。

 

「千草殿、そこの塩を取ってください」

「ん、はいっ」

「あ、命、そこのやつ取ってくれ」

「どうぞ」

 

ふむ、8割方完成ですか。手を洗い、手を拭いて、エプロンを外し畳む、頭の三角巾も外して、居間のテーブルを布巾で拭く。座布団を少し多めに準備し、コップとお茶を準備する。

 

そんな時、玄関の方から「す、すみませ〜ん!」と控えめなオドオドした声が聞こえてくる。ベル・クラネル殿が来たようだ。

 

「ベル君!しっかりするんだベル君ッ!相手になめられていいのかい!」

「え?!そ、そんな!違いますよ神様!命の恩人にお礼を言いに来たんです!?」

「え!?な、何で言ってくれなかったんだベル君ッ!?」

「えええ!神様が『僕は君の事はちゃんとわかるのさ!』って言ったんじゃないですか!」

「ナンテコッタイッ!」

 

・・・とても賑やかな方々デスネ妖夢殿。とりあえず上がって貰おうと、私は玄関に「はーい」と返事をしながら駆けていく。すると

 

「き、君が妖夢君かい!?わ、悪気は無かったんだよ許しておくれ!」

 

と目をグルグルの渦巻きの様にしながらいきなり謝ってくる。私が違うと言う前に

 

「違います神様!その人は命さんですっ!」

「あわわわ!ごめんよ!」

 

賑やかだなー、と思っているとその2人の後ろにリリルカ殿がいる事を発見する。すると向こうもこちらが気付いた事が分かったのかベル・クラネル殿の後ろからちょこんと出て来て

 

「お2人が騒がしくて申し訳ありません命様、妖夢様はいらっしゃいますか?」

 

と首をかしげながら可愛らしく聞いてくる。・・・しかし当の私はそれどころでは無かった、「様」など付けられた事はなく、それもいきなりだったので随分と慌ててしまった。止めてもらおうとしたのだがリリルカ殿に結局は宥められ、こちらが折れることに。

 

「妖夢殿はまだ目を覚ましていませんが・・・タケミカヅチ様の予測では今日、目が覚めるとの事です。・・・おもてなしの準備をしていますので是非上がっていってください。」

 

そう言うとベル・クラネル殿は「え?いいんですか?・・・お、おじゃまします」とキョロキョロしながらも家に上がる。

 

「あ、靴は脱ぐようにお願いします」

「へ!?は、はい」

 

 

3人を居間に案内し、待っているよう伝えた後、私は妖夢殿の元に立ち寄った。

 

「妖夢殿。失礼します」

 

普段から同じ部屋で生活しているがこういった礼儀は忘れない。千草殿や妖夢殿も入る時はちゃんと確認を行う、一番最初にこれを始めたのは妖夢殿だったはず。

 

妖夢殿は未だに半霊を抱えたまま眠ったままだった。そんな妖夢殿の隣りに正座し、話しかける。

 

「妖夢殿、ヘスティア・ファミリアの皆さんが来ていますよ」

 

すると「ん・・・」と眉を顰めた妖夢殿、そろそろ起きそうです、無理に起こすのは止めた方がいいと言われているので報告だけにしておこう、そう思い立ち、立ち上がる。

 

「・・・うぅ・・・幽々・・・子・・・様ぁ・・・おじいちゃ・・・ん・・・何処なの・・・?」

 

・・・昔から・・・何度も繰り返されるこの寝言・・・これが聞こえてきたのならそれは目が覚める前兆。起きた時、本人は覚えていない様ですが。・・・心が痛む、けれど私では何も出来ない。それがもどかしい。

 

「妖夢殿・・・・・・もっと私達を頼ってください・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「し・・・しょ・・・・・・ししょう・・・・・・師匠おきて・・・」

 

ん?・・・誰だ?俺弟子なんて取った覚えはないぞ?つかもっと寝かせろ、クソ眠いんです起きたくないです。と言うか瞼が開かねぇ・・・。体も力入んねぇし・・・寝よ。

 

「・・・・・・」

 

・・・もう行ったかな?よしよし、これで眠れる。と、思っていると俺を師匠と呼ぶ誰かは何を思ったのか俺の瞼に手をかけてグイッと強引に開かせた。

 

「いだだだだだだだ!痛い!痛いですよ!」

 

抗議の声を上げながら、目の前の人物を睨む、そこには

 

「師匠・・・おはよう・・・こんにちは?」

 

アイズ・ヴァレンシュタインがいた・・・。え?オラが師匠でっか?・・・ファ!?いやいやいや可笑しいだろ!どう考えても可笑しいだろう!?アンタレベル幾つだよ!5だろ!?いや今は6かな!?俺2!3倍だよ3倍!逆だろ!どう考えても逆だろ!

 

「お・・・おはようございま、す?」

 

はーい!絶賛混乱中ですっ!なんだ、何かしたっけ!?確かに1度教えたことはあったよ?でもさ、違うよね、順序とか過程を吹き飛ばして急に何の了承もなく弟子が出来ているよね、何なの?エアリエル使ったの?その魔法は現実すら吹き飛ばすの?

 

「みんな、待ってます・・・行こ?」

 

たどたどしい!いまいち距離感掴めてねぇじゃねぇか!敬語なのかタメ口なのかしっかりしろや!首を傾げるな人形みたいで可愛いですねっ!はいおしまい。もう気にしてはイケナイ、オラリオは常識が通用しないんですね!(*`・∀・´*)こちーや!

 

動けないのを察したのかオレはお姫様抱っこで連れていかれる。どうやら気配から察するに10人くらいは居るのかな?居間に入ると沢山の視線を感じた。やめい、こっちみんな恥ずかしいだろ。

 

「妖夢さん!?だ、大丈夫なんですか!?」

 

とベル君が目を見開いて前のめりに聞いてくる。止めなさい、服が料理に付いてるぞ。そしてチラチラとアイズを見るな、俺が心配なのかアイズに抱っこされてるのが羨ましいのかどっちかにして下さい。

 

「えぇ、まぁ・・・あの、服が料理に付いてますよ?」

「ふえあ!?ごめんなさいっ!」

「わわわっ!ベル君誰がそれを洗うと思っているんだい!?」

「今週は僕ですよっ!?」

 

ははは、賑やかでいいねぇ。・・・てか何なの、この大所帯は・・・べート達は居るしベル君達も居るし・・・てかヘスティアって初対面か、おれ。ロキが居ないのは何でだろうか、あれかな、ヘスティアが居るからかな?

 

「妖夢君妖夢君!君なんだろう?ベル君やサポーター君を助けてくれたのは!話しは聞いているぜ!」

 

よいしょ、と立ち上がりトテトテと走ってきて俺に顔をグッと近づけ聞いてくるヘスティア。揺れる(確信)

 

「という訳で今日は親睦を深めようじゃないかッ!・・・ベル君をどう思う?(小声)」

 

いやいきなりそれ?!もう少しさ、親睦を深めたいならさ、やっぱり手順って物がさぁ・・・いやもういいよぉ。話すの結構きついんだから程々にしとこう。

 

「ベル・クラネルさんですか?・・・うーん、何でしょうね、強くなれそうとは思います」

「アア?そんな雑魚がかよ、オメェの目はどうなってんだ?」

 

俺が正直に答えているとべートが首突っ込んできやがった、むむむ、悪いワンちゃんだな。ゆけっ!アイズっ!

 

「・・・わかった!」「は?ちょ、おまっ妖夢グハァッ!」

 

「レ、レベル6を顎で使うなんて・・・!妖夢君は恐ろしいね・・・でも、僕もベル君を馬鹿にされるのは嫌だな!わかったかい?べート君!」

 

へ!知るかよ!とわーわー騒ぐべート、それを止めさせようとするティオナ、家がギシギシ言い始めてるけど大丈夫かなこれ。

 

「妖夢。皆お前を心配して集まってくれたんだぞ?ははは、驚いているのはわかるけどな、ちゃんとお礼を言ったほうがいい」

 

そう言って俺の頭をワシワシと撫でるタケ、うーむ、今言おうと思ってたのになぁ・・・何だか改めて言うとなると恥ずかしいな。まぁべートには絶対にお礼言わなきゃ駄目だろうな。

 

「・・・べート・・・あの、助けてくれてありがとうございます!私の為に万能薬まで使って下さるなんて、やっぱりべートはいい人だったんですね!」

 

俺は正直に思った事を口にした、しかし、

 

「「「「「え?」」」」」

 

とみんなの反応はおかしなものだった。べートは何故か汗がダラダラと垂れている。

 

「ベート?どうしたんですか?何処か体調が悪いんですか?もしかしてあの万能薬は私には使ってはいけない物だったんですか?べート?べートー!おかしいですね、おーい!」

 

アイズの膝の上からべートに話しかけるもののべートは全然反応してくれない。まさか嫌われてしまったのだろうか?

 

「だぁ!!なんで言っちまうんだよ!妖夢!」

 

へ?

 

内心間抜けな声をだす俺、べートは頭を抑えて机につっ伏す。するとタケが面白そうにくつくつ笑いながら経緯を説明してくれる。どうやら俺とべートの間に噂が流れているらしい、どんな噂なのかは教えてくれなかったがまぁ何となく予想はできる。

 

「べートはな?「ああやめろ!タケミカヅチ!」ギルド間のクエストは手続きが面倒だからと言って報酬も受け取らずに武装もせずに万能薬だけ持って妖夢を助けに行ったんだ。」

 

ま、マジかよべート超イケメンじゃないですかヤダー!つうかよ、なんだよお前らいつの間にか呼び捨てで呼び合ってるの?なんかいいなぁ男の友情的な?

 

「そうだったんですか・・・ありがとうございますべート!」

 

ずるいジャマイカ!俺も!俺ともそんな感じに友達になってくれ!

 

「ではお友達になりましょう!」

「お、おう・・・へ?」

 

何だか周りからひゅーひゅー!とかこのロリコンめっ!とか聞こえる、べートがプルプルしてる。あ、これ怒るな。

 

「ざっけんじゃねぇ!この馬鹿ゾネス!!!」

 

余談だが、アイズは俺に技を教えてもらう為には弟子になる他ないと思い、弟子にしてもらうにはどうすればいいのか考えて、結果、この様にストレートに思いを伝える事にしたらしい、・・・ストレートすぎませんかねぇ?目が覚めたら弟子が出来ていたとか何事よ・・・。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで宴会は続き、途中から現れたロキやフィンとも会話をかわした。ちなみに俺はロキに捕まり、膝に強制的に座らされたがまぁ特に不満は無かった。にしても体が全く動かん、筋肉痛を超えたなにかだよこれは。

 

「なーなー、ようむたんわのまへんの?」

 

呂律が回っていないロキが酒臭い口を近づけながら聞いてくる。すごい酒臭い、そう言えば酒樽を持ってきてたね。つか飲めませんっ!飲んだことないし!

 

「無理ですよロキ、私は飲んだことありませんし」

 

断る俺に対しロキは「えーやんえーやんのんでみーよ」と勧めてくる。そして目の前にグラスが置かれ酒が注がれる。酒独特の香りがツンと鼻をつく。・・・ゴクリと唾を飲み込む。生前も現在も酒なんて飲んだことは無かった・・・俺は正直に言うと酒に弱い人だと思う、けどこの半人ぼでいならきっと多分恐らく大丈夫なはずだ、よし、1口、一口だけ飲んでみよう!

 

タケ達がわーわーと楽しそうに飲む中俺はそっと自分の口にグラスを近づける。それを見ているのはロキだけだ。・・・・・・・・・ゴクゴク・・・がシャン!。

 

「む、むきゅ〜・・・」

 

グワアァァ〜!喉が焼ける〜・・・しこうがままならなひ。めはまわるー。

 

一口飲んだ瞬間大きな音を立てて机につっ伏す。大きな音に全員が反応してこちらを見る。タケが最も早く反応した。

 

「へ?妖夢お前飲んだろか!?ば、馬鹿!お前の年で飲んだら駄目ラロ!」

 

酔っているのか若干呂律が回っていないがロキよりはマシだ。他にもみんなが何か言ってるがよく聞こえない。「ふわぁタケが二人に見へふ」

 

「ハッハッハ!酒で目回してやんのっ!」

 

おのれべート・・・絶対に酒に強くなってやる・・・ので寝ます。

 

「クククッ!やっぱりお子様じゃねぇか!ダッハハハッ!」

 

・・・いいぜ・・・その勝負・・・乗ってやる!

 

「まられす!まら飲めます!べートには負けまへんっ!」

 

 

 

 

 

 

魂魄妖夢が強化種に襲われている。猿顔の男がギルドに持ってきた情報は俺を驚かせた。その情報の正確性を猿顔の男に問うと男は本人から救助を要請されたらしい。

 

すぐさまフレイヤ様の元に向かった俺はその情報を伝え、救助するか否かを問うた。結果は

 

「好きにしなさい?オッタルはあの子に「冒険をしろ」って言ったんでしょ?これは冒険じゃないの?」

 

そう言った、しかし・・・どうしたものか、こうしている間にも魂魄妖夢が死ぬ可能性は高い。死んでしまえばフレイヤ様が悲しむのは確定。しかしただ助けるだけでは駄目だとも思う、ならば手は出さずこっそりといつも通り見守ろう、死にそうになったのなら助ければいい。そう思い俺は行動を開始した。

 

 

 

魂魄妖夢は強い、目の前の戦いを見て、そう再認識させられる。紅いオークの攻撃を、受けるのではなく往なす。その技量の高さは目を見張る物があった。圧倒的なステイタスの差を技量で埋めるとなれば、それはどれ程の鍛錬を積んだのだろうか。

 

しかし、ステイタスの差とは簡単に超えられるものではない、魂魄妖夢は次第に劣勢になってゆく、そして打ち上げられた。助けに行こうと足に力を入れたが魂魄妖夢は諦めていないらしい、逆手に変えて腰だめに構える、そしてスキルと思われる白い球体を自身にぶつけ加速、しかしバットパットの妨害により腕を吹き飛ばすだけに終わる、そして・・・致命傷を負った。

 

助けに行こうとする前に俺の横を誰かが駆け抜ける。べート・ローガだ。その顔には焦りと不安がありありと浮かんでいた。

 

彼が行くのならもう大丈夫だろう、俺が今いったところで何か出来る事が増えるわけでも無い、そう思って俺はその場をあとにした。

 

 

そして現在に至る。現在俺はタケミカヅチ・ファミリアのホームの前にいる。なんでも今日は魂魄妖夢の生還祝いだそうで彼女の知り合いの殆どが来ているらしい。

 

・・・そう、完全に入るタイミングを逃したのだ、初めから何食わぬ顔で入っていれば、と少し後悔している。だがフレイヤ様はどうしてもこの宴会に俺を突っ込みたいらしい。しかしどうやって入ればいいのだろうか?俺のような男が急に来て向こうは驚いたりしないだろうか・・・いや酒が入っている今がチャンスなのだろうか、こうして思考している暇があるなら考えずに突撃した方がいいのではないかとも思う。しかしファミリアの顔として余り変な真似は出来ないのだ。しかしフレイヤ様の命・・・ぐっ・・・どうすれば。

 

そんな事を考えていると小さな人影が扉を開けて出てくる。若干ふらついているため酔っ払いだろう。

 

「うあぁ・・・世界がまわるぅ・・・」

 

・・・魂魄妖夢だ、魂魄妖夢が酔っている。これは由々しき事態だ、あんな小さなうちから酒など飲めば身体の成長に大きく影響してしまうだろう、身体だけではない脳や心の発達にも大きな影響を及ぼすかもしれん、誰だ魂魄妖夢に酒を飲ませたやつは。流石に武神タケミカヅチではないだろう、彼は魂魄妖夢を大事にしているのは分かっている、もしや神ロキか?あのお方は酒好きと名高い、それに絡み酒がうざいと評判だ。彼女が居るのであれば押し切られ飲んでしまう可能性は否定出来ないな、しかし、普通に考えて小さな子供に酒を飲ませるというのはどうなのだろう、倫理観とか大丈夫なのか?いやはや心配になってきたな、魂魄妖夢の周りの環境が徐々に悪くなっているのかも知れん、いや、沢山の人と触れ合うというのは人格の形成に大きく貢献することはわかっているが。・・・少し、話が逸れたようだ。

縁側に座る魂魄妖夢に歩いて近づく、向こうもこちらに気がついたらしい、少し、目がトロンとしているが。

 

「魂魄妖夢、大丈夫か?」

 

とりあえずは安否を問おう、先日の死闘もそうだし現在の酔いもそうだ。

 

「ふぁ?オッタルさぁん?だぁいじょうぶれすよぉ・・・」

 

駄目そうだ。眠いのかウトウトしている。先程も体が痛そうなぎこちない動きをしていたし、肉体的疲労が残っているのだろう。これは寝ていた方がいいな。

 

「魂魄妖夢・・・眠った方がいい、疲れているのだろ?」

「ほぁ?何れわかるんれすか?」

 

寝ぼけ眼をこちらに向け不思議そうに尋ねる魂魄妖夢。任務とはいえ普段から彼女を観察している俺だ、分からないわけが無い。・・・が正直にそんな事を言えばフレイヤ様への不信が高まるかもしれん。故に言うことは出来ないが・・・どうするか。

 

「・・・戦士の感だ。それに歩きも不自然だった」

「ほうなんれすか・・・凄いれすね・・・」

 

コックリコックリと首が安定性を失って来た、そろそろ寝てしまいそうだ。俺がホーム内に連れていけばいいのだろうか?しかし入ったら絡まれて出てこれる気がしない。しかし、それがフレイヤ様の命である以上行かなくてはならないだろう。そう考えた俺が行動に移そうとした時、座っていた太ももに何かを感じた。・・・む?

 

「スゥ―スゥ―ー」

 

静かな寝息を立てて俺の膝を枕に魂魄妖夢が寝ていたのだ。いつの間にかこの間も見た白い球体を抱いている。

 

「・・・これは・・・任務を遂行できそうにないな」

 

起こすのは駄目だろう、と言うか俺のような者が触れたら色々と問題になりそうだ。俺としてはどうでもいい事だが神々からすれば面白いようだ。解せぬが仕方ない。フレイヤ様の顔を汚すわけにはいかないのだ。

 

「スゥ―スゥ――」

 

その場に聞こえるのは宴会の賑やかな騒ぎ声と魂魄妖夢の静かな寝息だけとなった、ふむ、どうしたものか、このままでは魂魄妖夢が風邪をひいてしまう。しかし先も言ったが触れるのは不味い、誰か出てきてはくれないだろうか、出来れば酔っていない冷静な判断が出来る人物が良い。そのまま数分が過ぎて

 

「妖夢殿〜?何処ですか?」

 

と、とても良いタイミングで誰かの声が聞こえてくる、声音からして酔ってはいないだろう。探しているようなのでこちらから教えてあげるとしよう。

 

「魂魄妖夢ならここだ、眠っているぞ」

「ヒャイッ!?」

 

どうやら驚かしてしまったらしい、確かによく考えれば小さな女の子を探していたら筋肉質の大男が返事を返してきたのだ、俺でも驚くかも知れない。

 

「すまない、驚かすつもりは無かった。魂魄妖夢の生還祝いと聞いてやって来たのだが・・・この通り膝で寝てしまっている。」

 

俺の言葉を驚いた姿勢のまま聞いていた少女は落ち着きを取り戻し近づいてくる。ふむ、歩き方に隙が無いな、流石は武神の子等という事か。あまりジロジロ見るわけにもいかない為、すぐに視線を合わせる。

 

「そうだったのですか、ありがとうございます。」

 

そう言って少女は頭を下げる。

 

「このままでは魂魄妖夢が風邪をひいてしまうだろう、中に連れていった方がいい。」

「はいっ!・・・あの、オッタル殿は中には来られないのですか?」

 

む、やはり行くしかないか・・・べート・ローガが居るらしいのだが・・・面倒だが仕方ない、暴れるのなら大人しくさせるだけだ。精一杯の笑みを浮かべ頷く。印象とは非常に大きい、印象を柔らかくするためには笑みが一番だ、・・・実はこれもフレイヤ様に練習させられたのだ、しかもフレイヤ様の前で・・・・・・。

 

「よいっしょっ・・・ととと、あの!ではこちらへ!」

 

ふむ、久しぶりに賑やかな酒だ、心ゆくまで・・・とは言えないが、少しは楽しんでこよう。




オッタルの部分はやりたかっただけで余り関係ないのですスミマセン!

ステイタスは次回公開です。更にチートは加速するのです。

【妖夢に使った万能薬】

何の許可もなくべートが持ち出した物、恐らく私物。この世界の万能薬は高級品である。
魔道書に万能薬・・・金のかかる女、魂魄妖夢。

【ししょー】

妖夢の技に惚れ込んだアイズは弟子になる事を決意、しかし上手く伝えることが出来ず、寝起きの妖夢に対していきなり師匠呼びをしてしまった。
妖夢は酒の席で何とか理解した模様。


【べート】

U・д・U「おい、なんだこの・・・なんだ?」

U・x・U「流石にこれは無いんじゃないか?お?」

ティオナ「ねぇねぇべート!妖夢ちゃんの生還祝だって!べートは行くの?」

U ̄ー ̄U「ああ?行くわけねえだろ?勝手に行ってこいよ馬鹿ゾネス」

ティオナ「うわーそんな事言うんだ、もういいもん妖夢ちゃんに言っちゃおー」

U・д・U「は?なんであのガキに言うんだよ?」

ティオナ「へっへーんだ!妖夢ちゃんにべートの事言いつけてやる、あんな事とかこんな事とか」

U゚Д゚U「おいおいなんだよそれ!なんだよあんな事とかこんな事って!?」

ティオナ「じゃあね〜!先言ってるね〜!」

U゚Д゚U「ま、待てっ!こんの!」

ロキ「お?べートも行くんか?ウチは酒を買ってくるからな〜。あ、これ持ってって!」

U・д・U「お、おい、こんなに沢山何に使うんだ?」

ロキ「何って・・・ナニやろ?」

U ̄ー ̄U「そうか、鍋だな。あぁ・・・先っいってる・・・(諦め)」

フィン「じゃあ僕はロキを手伝うから、アイズと先に行っててくれ。」

U・ω・U「わかった、ガレスは?」

フィン「ガレスも僕と一緒だ、リヴェリアもね」

U ̄ー ̄U「あいよー、先いってる。」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話「私はあなた方を守りたいんです」

なんとー、いうーことでしょーう。・・・テスト期間だ・・・。

投稿が著しく遅れるやも知れませぬ。

あっ、それと挿絵を書いた(テスト勉強中に集中が切れたので)んですが・・・次の話の奴ですけど・・・載せますか?要らないなら載せないですが・・・あ、勉強中に書いたのでノートですけどね描いた所が。

絵は上手くないよ(小声)


「おーい、起きろ妖夢。ステイタス更新するぞ」

 

宴会の翌日、俺、タケミカヅチは妖夢のステイタスを更新するために妖夢達の部屋を訪れた、二日酔いなのか、まだ反動が残っているのか、8時になっても妖夢は起きなかったので少し罪悪感はあるものの叩き起す。

 

「は、はーい・・・あぅ・・・頭が・・・」

「まったく・・・これからは気をつけろよ?」

「はい、わかりましたぁ・・・」ガクッ!

 

全く・・・無茶しないで貰いたいのだがな・・・。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

【魂魄妖夢】

 

所属:【タケミカヅチ・ファミリア】

 

種族:半人半霊

 

【ステイタス】

 

Lv.2→3

 

「力」:I0

「耐久」:I0

「器用」:I0

「敏捷」:I0

「魔力」:I0

「霊力」:I0

 

アビリティ:【集中:E+】【剣士:I】

 

スキル

 

【半霊 (ハルプゼーレ)】

 

・アイテムを収納できる。収納できる物の大きさ、重さは妖夢のレベルにより変化する。

・半霊自体の大きさもレベルにより変化する。

・攻撃やその他支援を行える。

・半霊に意識を移し行動する事ができる。

・ステイタスに「霊力」の項目を追加。

・魔法を使う際「魔力、霊力」で発動できる。

 

【刀意即妙(シュヴェーアト・グリプス)】

 

・一合打ち合う度、相手の癖や特徴を知覚できる。打ち合う度に効果は上昇する。(これは剣術に限られた事ではない)

・同じ攻撃は未来予知に近い速度で対処できる。

・1度斬ればその生物の弱点を知る事が出来る。

・器用と俊敏に成長補正。

 

【剣技掌握(マハトエアグライフング)】

 

・剣術を記憶する。

・自らが知る剣術を相手が使う場合にのみ、相手を1歩上回る方法が脳裏に浮かぶ。

・霊力を消費する事で自身が扱う剣術の完成度を一時的に上昇させる。

 

【二律背反(アンチノミー)】

 

・前の自分が奮起すればする程、魂が強化される。強化に上限はなく、魂の強さによって変化する。

・使用する際、霊力が消費される。

NEW・発動中ステイタスの強制連続更新。

 

魔法

 

「楼観剣/白楼剣」

 

詠唱①【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】

 

詠唱②【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】

 

 

詠唱「西行妖」

 

【亡骸溢れる黄泉の国。

咲いて誇るる死の桜。

数多の御霊を喰い荒し、数多の屍築き上げ、世に憚りて花開く。

嘆き嘆いた冥の姫。

汝の命奪い賜いて、かの桜は枯れ果てましょう。

花弁はかくして奪われ、萎れて枯れた凡木となる。

奪われ萎びた死の桜、再びここに花咲かせよう。

現に咲け───冥桜開花。西行妖。】

 

【ーーーーーーーー】

 

 

「???」

 

【覚悟せよ】

 

超短文詠唱。

補助の詠唱が必要。

・技の完全再現。

 

覚悟せよ、代償は存在し、得るのは力。過ぎた力は肉体を滅ぼし、過ぎた欲望は魂を穢す。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な!?・・・ステイタスが既に更新されている(・・・・・・・・・)?。

 

「タケ?どうかしたんですか?」

「い、いや・・・何でも、無いぞ?」

 

なるほど、これが二律背反(アンチノミー)か・・・。

 

「アハハ、もしかしてタケも二日酔いですか?」

 

この時俺は理解したのだろう、妖夢が如何に無茶な事をやってのけたか。きっと俺は感覚が麻痺していたに違いない。たかがレベル4、そう思っていたのだろう、レベル5と戦える妖夢ならと、そう思っていたのだろう。だが忘れてはいけなかった。べート・ローガは最後の一瞬しか本気を出さなかった事を、レベル4が相手でも紙一重を繰り返し、不意を突いてやっと倒せる事を。

 

妖夢は天才だ、それは胸を張って豪語できる。きっとこと剣において右に出る者はこのオラリオに片手の指ほども居ないだろう。

そう、妖夢は天才だ、だが、果たして今回の戦いは・・・後先を考えず全てを出し切る様な戦いは天才の物だろうか、違う。・・・それだけ追い詰められたのだろう、後先を考える暇もない程に。

 

こんな小さな体でよく頑張った、こんなに細い腕でよく耐え凌いだ。褒める言葉はいくらでもいるある、けれど言葉が出ては来ない。

三ヶ月にも満たない時間でレベル2からレベル3へ、二つ名が与えられる前にランクアップ・・・余りにも速すぎる。

 

俺は妖夢を抱きしめた、その顔は以前よりやつれている、妖夢が使った技は以前から庭で一人練習していた「一刀修羅」という物らしい、その日1日の全てを1分に凝縮する技だそうだ。だがそれにしては余りに反動が強すぎた、技が失敗したのかはわからない。だが、2度と使わないで欲しい。

 

「ふぇ!?なな、何を!?」

「すまないな妖夢、俺が不甲斐ないばかりに・・・!こんな、こんな短期間でのレベルアップなんて・・・すまん!悪かった!」

 

心から謝罪する、アルカナムを使う事の出来ない俺ではきっと何の役にも立たないだろう、だが、出来ることは何だってやろう、死地に赴こうとするのなら全力で止めよう、共に泣き、共に怒ろう。そんなことしか俺には出来ないのだから。

 

「・・・タケは不甲斐なくなんて無いです。タケや命達が居なければ私は此処には居ません。・・・私はあなた方を守りたいんです、そのためには力が必要です、速さが、鋭さが。」

 

まるで、子を宥める母のように、妖夢は俺を抱きしめ返し、暫くしてその顔を上げ、凛とした表情で話し出す。

 

守りたい、そう語る妖夢の目は何処までも―――刀の様だった。

 

 

 

 

 

 

どれどれ〜?どれだけステイタス上がったかなー。

 

・・・あれ?・・・あの?・・・まだ、二つな・・・貰ってない・・・よ?あ、あれ?これいいの?俺まだ酔ってるのかな、ははは。ステイタスが、可笑しいなぁ。

 

「・・・・・・」

 

た、タケの表情筋がピクピク引き攣ってる・・・!怒られるか?これは怒られるのか?!と、思っていた俺は急に抱き締められる。

 

「ふぇ!?なな、何を!?」

 

驚く俺を無視してタケは話し始める。嗚咽が混じってるのは気のせいではないと思う。

 

「すまないな妖夢、俺が不甲斐ないばかりに・・・!こんな、こんな短期間でのレベルアップなんて・・・すまん!悪かった!」

 

く、苦しい・・・おいおい仮にもレベル3ですよ?!どんな力で抱きしめてるのタケ!?し、しかしなんだ・・・突き放すのは何か違う気もする・・・取り敢えず勘違いしてもらう訳にはいかないので弁解しよう。

 

「・・・タケは不甲斐なくなんて無いです。タケや命達が居なければ私は此処には居ません。・・・私はあなた方を守りたいんです、そのためには力が必要です、速さが、鋭さが。」

 

ふふふ、真剣な目をして真剣な声音で話せば大抵どうにかなるもんさ、まぁちょっと14歳病が入ってる気がするが本気でそう思っているんだけどね。

・・・にしても抱き締めたのは余計だったか?アニメでよく見るからやってみたんだけどな。

 

「で、では。そろそろ約束の時間なので行ってきますね!」

 

そう言って俺はその場を後にした。この後はベル君達と訓練なのだ、メンバーは俺達タケミカヅチ・ファミリアとヘスティア・ファミリア、それにアイズ何かが来る事になっている。あれだ、原作で言うとベルとアイズの秘密の特訓だ。・・・・・・ごめんなベル君・・・アイズと2人きりになれなくなってしまった。ちなみに場所は此処の庭である、フッフッフッ、庭を破壊なんてしたら俺は怒るぞ、此処に越して来てずーっと手入れして来たのだから壊されたら怒るぞ。

 

「おーい!妖夢早く来いよ!みんな待ってるぞ!」

 

俺が庭に出ると桜花が俺を呼んで手を振っている、辺りにはベル君やリリルカ、アイズや命達がこっちを見ているのが分かる。

 

「はい!今行きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜訓練初日〜

 

「そこっ!」

 

カンカンと軽い音が響く、それは2振りの木刀がぶつかり合う証拠だ。命が素早く振り下ろした一撃は、しかし妖夢に防がれる。

 

「シッ!」

 

鋭い息と共に命に一撃が迫る、妖夢の横薙ぎの一閃だ。命はそれを見事に往なした後返す刃で斬り返す。そんな攻防が1通り続いた後互いに後ろに飛び退く。

 

「・・・では、行かせていただきます・・・!」

 

命が腰を少し落とし、刀を顔の横まで上げ、刃を上に向け刀の峰に手を添え、構える。―命が習得した技の一つだ、その名を牙突壱式、破壊力はオリジナルに遠く及ばない、妖夢にも及ばないものの、その威力は十分にモンスターを倒せるだけはある。

 

「牙突――壱式ッ!!」

 

気迫と共に駆け出す命、視界が狭くなり妖夢を貫こうと加速する。しかし、それを妖夢は縮地用いて一気に近づき自分の木刀の柄を命の木刀の切っ先に押し当てる事で技の発動を阻止する。

 

「っ!ならば!」

 

命は妖夢の腹を蹴り距離をとる、そのまま時計回りに走って接近、逆袈裟斬りを放つ、妖夢はその攻撃をひょいひょいと躱しながら無色透明な半霊よる体当たり攻撃を放つ。

 

「くっ!?」

 

しかしその不意打ちは命が全力で体を後ろに倒す事で回避される。命は勢いのまま後方宙返りをして体制を整える。命は内心焦る、何故ならついこの間よりも遥かに速かったからだ。

 

「(普段より・・・速い!?・・・まさかレベルが!?)・・・行きますっ!」

「どうぞご自由に・・・来れるものなら、ですが!」

 

そんな挑発と共に空中に半霊が姿を現し弾幕を放つ。雨のように降る弾幕を素早く左右に動く事で掻い潜りながら妖夢の方へと命は走る。そこに妖夢はまだ間合いに入っていないと言うのに刀を横に振るう。その行為に命は目を見開き跳躍した、途端に3列の弾幕が斬撃の軌跡から放たれる。着地と同時に前転し受身をとり、更に接近する。

 

「届いたっ!」

「お見事です・・・が!まだ終わりません!」

 

命が間合いに妖夢を捉えた、が、それは向こうも同じ、再びつばぜり合いからの連撃が始まる。

 

突然だが現在の訓練内容を説明すると、妖夢とアイズがレベルが1番高いため受ける側、その他メンバーが一人ずつ攻撃側をすると言う物だ。つまり1VS1の実戦形式の訓練となっている。つまりアイズも現在誰かを教えている・・・と思うのだろうが・・・どうだろう、アイズの近くには死体の山・・・否、気絶したベル、桜花、千草、そして何故かリリが積み重なっていた。一番長く戦えたのは桜花だ、時間にして10秒、千草は3秒、ベルとリリは1秒ともたなかった。

だが決して彼女を責めないで欲しい、真面目にやった結果がアレなのだ。本人は申し訳なさそうに縁側にちょこんと座り緑茶を啜っている。何故か和菓子ではなくジャガ丸くんが隣に山積みになっているが。

 

再び2人の距離が離れた時、互いに構えが変わる。

 

妖夢は刀をぶらりと下げた、構えなどない無形の構え。それに対し命は腰に佩く様な居合の構えだ。

 

「では行きますよ命!」

「・・・はいっ!」

 

〜訓練2日目〜

 

「さあ来てくださいベル・クラネルさん!」

 

妖夢の一言にベルはゴクリと喉を鳴らし構える。

 

「私はアイズの様に優しくはありませんよ。――――気絶しない様手加減しますね?」

 

つまりボコボコにされる!?ベルは本能的に理解する、でもここで引くわけには行けない、とベルは前に駆け出した。

 

「うおおおおおぁ!」

 

ベルの武器はナイフとバゼラートに重さや長さが似ている木刀だ。それに対し妖夢は未だ武器を抜かない・・・木刀を腰に引っ掛けているままだ。

 

「ハッ!やっ!てぇいっ!」

 

ベルの連撃を、僅かに体を逸らすことで避けていく妖夢、目は真剣だ。体の使い方の癖や、攻撃する際の隙の出来方など、細かい所までしっかりと確認しつつ、自分も新しいレベルに体を慣らそうと確認をする。

 

「くっ、当たらない!」

 

ベルの攻撃はヒュンヒュンと空を切るばかり、ベルとリリ以外は気付いたが、常に妖夢は間合のギリギリに位置を調整しているのだ、武器が当たると思わせてそこは間合いの外。

 

「頑張ってください、器用値が上がりますよ。それと力み過ぎです。」

「はいっ!ファイアボルトオオオオオォ!」

 

余りに唐突な魔法、速攻魔法のファイアボルトだ、ちなみにこの訓練は「不意打ちも戦法の一つ」であるため、いつでも使っていい事になっている。

しかし、ベルは大きな間違いを犯した、それはベルの手が花壇に向かって向けられていた事だ。唐突に放たれた魔法を思わず躱してしまった妖夢は驚き振り返る。

 

「か、花壇が!半霊!」

 

妖夢の指示に半霊何のタイムラグもなく反応すると雷炎を追い越して花壇の前に浮遊し、形を変え始める。

 

『反射下界斬ッ!』

 

赤い目をした妖夢、つまりハルプが放った斬撃は白い円盤状の物体を作り出し見事ファイアボルトを跳ね返した。・・・結果。

 

「ケホッ・・・すみません・・・妖夢さん」

「こちらこそ・・・さて、耐久力を上げましょうか」

 

ベルは自身のファイアボルトが頭上を通りすぎ(カスっていた気がするが)見事なアフロヘアーになってしまった。引きった笑みを浮かべた妖夢にその後ベルはボコボコにされたが。

 

ちなみにアイズの方はと言うと・・・やはり人が積み上がっていた。

 

その後は全員が起きてから(ベルのアフロヘアーはいつの間にか治っていた)は技の練習につぎ込んだ、この前ロキ・ファミリアで訓練した時とは違い、それぞれ違う技を教えられる事になった。

 

ベルは小太刀二刀流の回天剣舞・六連や、キリトのスターバースト・ストリームなど、命や千草はるろ剣の技を、桜花はムシブギョーの富嶽鉄槌割りやその他剛の剣を。

アイズは滅界やクレイモアなど。全員がそれぞれの技を妖夢に教わりながら日は流れた。

 

 

 

そして今日、僕は外壁の上でアイズさんと2人きりだ。・・・どうしてこうなったんだと内心ドキドキしながら緊張する、妖夢さんたちとの訓練はすごい厳しかったけど楽しかったとも思う。妖夢さんが相手だと全身痣だらけになってやっと気絶、という流れなのにアイズさんが相手だと一瞬で気絶する、妖夢さん達も思わず苦笑いしていたし・・・、でも妖夢さんは押されていたけど普通に5分以上戦ってたし・・・いや、あの人が可笑しいだけかな?

 

「・・・どうしたの?」

 

そんな事に現実逃避しているとアイズさんが話しかけてくる、ドキッ!と心臓が飛び跳ねる。アイズさんは天然だからなぁ・・・今日の訓練は訓練になるのだろうか・・・。

 

「だ、大丈夫デス・・・」

「・・・行くよ」

「はいわかrマシタッ!」

 

うぐっ・・・意識が飛ブ・・・。

 

 

目が覚めた僕はアイズさんに膝枕されていてとても驚いたが今はもっと驚いている。何があったかを簡単に説明すると、「寝るのも訓練zzzzzz」だ。

天然のアイズさんの事だから多分眠くなったんだと思う。そして―――。

 

『やれーーー!そこじゃーーー!ベルーーー!キスじゃ!ちゅーじゃよーーー!』

『駄目だよベル君!そんな事はこの僕が許さない!君がキスをしていいのは僕だけだ!』

『何じゃとこのチビスケ!男のロマンが分からんのか!』

『フンだ!わかりたくなんかないね!いいかいベル君?そんな事はやっちゃ行けないんだ!』

『おいおいアンタら何やってんだよ・・・おいベル・クラネル?コイツらはほっといてちゃんと昼寝の訓練しとけよ?ダンジョンなら本当に必要だからな?』

『なっ!?なんで妖夢くんがここに!?てか口調が男らしい!』

『男の娘か!?・・・いや俺っ子じゃな!?いいぞー!ベルーーー!ハーレムは順調のようじゃなーーー!』

『おんおん?誰がハーレム会員だこのボケナス、俺がこんな色欲野郎について行くわけn』

『『色欲何かじゃないやい!(色欲の何が悪い!英雄は欲を好んでこそじゃろうが!)』』

『お、おう・・・まぁ、ベル・クラネル・・・気にしたら負けだ。』

 

・・・とこんな感じの謎空間が僕の頭の中に生成されている。・・・おじいちゃん・・・神様・・・何やってるんですか……。

 

 

 

 

 

 

俺だよー。いやーベル君もなかなか筋がいい・・・。と、タケに呼ばれていたんだったか・・・何じゃろな?

 

「タケ?入りますよ?」

 

麩を開けると既に布団が敷かれており、その隣にタケが正座して待っていた、・・・なんか犯罪臭がしそうな光景ではあるもののもはや慣れたので気にしないぞ。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

【魂魄妖夢】

 

所属:【タケミカヅチ・ファミリア】

 

種族:半人半霊

 

【ステイタス】

 

Lv.2→3

 

「力」:I0→52

「耐久」:I0→43

「器用」:I0→H 123

「敏捷」:I0→H 108

「魔力」:I0→10

「霊力」:I0→22

 

アビリティ:【集中:E+】【剣士:I】

 

スキル

 

【半霊 (ハルプゼーレ)】

 

・アイテムを収納できる。収納できる物の大きさ、重さは妖夢のレベルにより変化する。

・半霊自体の大きさもレベルにより変化する。

・攻撃やその他支援を行える。

・半霊に意識を移し行動する事ができる。

・ステイタスに「霊力」の項目を追加。

・魔法を使う際「魔力、霊力」で発動できる。

 

【刀意即妙(シュヴェーアト・グリプス)】

 

・一合打ち合う度、相手の癖や特徴を知覚できる。打ち合う度に効果は上昇する。(これは剣術に限られた事ではない)

・同じ攻撃は未来予知に近い速度で対処できる。

・1度斬ればその生物の弱点を知る事が出来る。

・器用と俊敏に成長補正。

 

【剣技掌握(マハトエアグライフング)】

 

・剣術を記憶する。

・自らが知る剣術を相手が使う場合にのみ、相手を1歩上回る方法が脳裏に浮かぶ。

・霊力を消費する事で自身が扱う剣術の完成度を一時的に上昇させる。

 

【二律背反(アンチノミー)】

 

・前の自分が奮起すればする程、魂が強化される。強化に上限はなく、魂の強さによって変化する。

・使用する際、霊力が消費される。

・発動中ステイタスの強制連続更新。

 

【唯一振リノ釼デ有ル為ニ(ただひとふりのつるぎであるために)】

 

・一刀流の剣術を使用中である時全ステイタスがアップする。

・一念を貫く間は効果がある。

・想いの強さで効果が向上。

 

【弍刀ハ壱刀ニシテ弍刀ニ有ラズ(にとうはいっとうにしてにとうにあらず)】

 

・二刀流の剣術を使用中である時全ステイタスが大幅にアップする。

・戦う意志が存在し、意志が統一されると効果発動。

 

 

魔法

 

「楼観剣/白楼剣」

 

詠唱①【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】

 

詠唱②【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】

 

 

詠唱「西行妖」

 

【亡骸溢れる黄泉の国。

咲いて誇るる死の桜。

数多の御霊を喰い荒し、数多の屍築き上げ、世に憚りて花開く。

嘆き嘆いた冥の姫。

汝の命奪い賜いて、かの桜は枯れ果てましょう。

花弁はかくして奪われ、萎れて枯れた凡木となる。

奪われ萎びた死の桜、再びここに花咲かせよう。

現に咲け───冥桜開花。西行妖。】

 

【ーーーーーーーー】

 

 

「???」

 

【覚悟せよ】

 

超短文詠唱。

補助の詠唱が必要。

・技の完全再現。

 

覚悟せよ、代償は存在し、得るのは力。過ぎた力は肉体を滅ぼし、過ぎた欲望は魂を穢す。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

「「「ファ!?新しいスキルが二つ!?」」」

 

き、今日もオラリオは平和です。

 

で終われるか!馬鹿なのしぬの!?訓練するまで無かったじゃないですかヤダー!なにがトリガーになってんだよ!?てかタケは更新の時に知覚できなかったんかい!

・・・ってそうか、アンチノミーで強制的に更新されたから神が汲み上げないと行けないスキルは出て来なかったのか!なるほど納得した。どうやらタケも同じく納得したようだ。・・・良かったアンチノミーのせいでタケの存在意義がーとか言う独り言はもう聞かなくて済みそうだ。

 

「ふっ・・・」

 

なんか嬉しそうだなタケwww。・・・にしてもいきなり和風だね!?なんか命達は皆和風なスキルなのに俺だけドイツ語って言う若干の疎外感を感じていた矢先にいきなり和風だね!?嬉しいから許すけど。

 

「よしっ!ダンジョン行ってきます!」

 

俺は駆け出した、ダンジョンに向かって・・・!

「じゃあ・・・俺も出掛けるか」

ん、タケも出かけるのか。最近よく出かけてるけど・・・どこいってるんだろうな?バイトかな?ま、いっか、ヨッシャー!金を稼ぐぞー!

 




次回!神様視点その他諸々!

後書きに書く事が無くなりかけているぜ!

【反射下界斬】

魂魄妖夢の原作技。相手の魔法や弾幕を跳ね返すことが出来る。発生は一瞬なので使いやすい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オラリオ編:戦争遊戯
21話「これ下さい。お幾らですか?」


前書きに書くことがなくなってしまった!

おはこんばんにちわシフシフです。21話ですよ。

うーん、真面目にあらすじとかにしますか。


レベルが3に上がり、体慣らしを兼ねてアイズ、ベル、命、千草、桜花、リリルカと実戦形式の鍛錬を行う。

そしてギルドからの呼び出しに買い物ついでに出向くのだった。


ここは天界からほんの少しズレた所にある色々とズレた神が住む特殊な領域―――――――そう、僕だよ。

 

やぁみんな。僕だよ☆ミキラッ!・・・HAHAHA、そんなに喜ばないでおくれよ・・・僕だよ☆。え?うざい?この僕が?完璧で最強で最かわっ☆な僕が?そんなバナナ、どうやら少し君の観点はズレているようだ、この僕がウザイだなんて・・・┐(´∀`)┌ヤレヤレ。

 

巷では僕の事を駄神なんて呼ぶ酷い奴がいるけど君達は違うと、ボクは知っているからね、・・・さて、何でこに呼んだかって事なんだけど・・・まぁ一言で言うなら・・・最近・・・僕の出番が少ない・・・!そしてボクは思った!なら呼べばいいじゃないかと!☆HA・HA・HA☆そんな目で見るのは止してくれよHoney、私の様なGENTLEMANにその様な視線は頂けないな、このgreatでperfectなGODであるこのあたすを崇める時は何というか静かで、救われてなきゃあいけないんだ。

 

まぁ本題に入るとそろそろ不味い事になって来ているんだよ。オラリオの神々が彼を狙っているんだ。

 

え?完璧なのに情報が遅いって?何を言っているだチミは、私は彼をこの世界に送る前からこうなる事を望んでi知っていたのさ!え?確信犯?いやいや確神犯ですぜデュフフww

まぁ狙わないわけないよねー、僕は狙わないよ?僕ならもっと・・・そうだなぁ・・・リヴェリア・リヨス・アールヴみたいな子がいいなぁ、うん。

 

そんな事より、僕は力が弱くてね、この世界だと彼以外に干渉する事が出来ないんだ。この前なんて魔道書に彼が吸い込まれていた時オイラが会いに行っただろ?魔道書の問答を終えて、僕が彼の能力について教えてあげようと思ったらそこに居なくてさー、ウチはあの本が焼かれて捨てられるまでずっと閉じ込められていたんだよね〜。彼が中に居たから入れたのにねー。

 

まぁ彼以外に干渉できない以上神々の突撃を止めることは僕には出来ない・・・俺っちがもう少し力が有れば出来たんだけどね、あと10年若ければのう。それで・・・多分神々は君たちに醜態を晒すはずだ・・・怒らないでやってくれないかな?一応神だし・・・俺もね?

 

さぁ、じゃあ見てみようか彼の記録を。

 

 

 

 

 

『こちら「(ブラボー)」・・・目的地に到着――どうぞ』

『了解だ。こちら「(アルファ)」、各員に告ぐ、・・・・・・死ぬなよ!』

『「(チャーリー)」了解!』

『「(デルタ)」了解!』

『「(ブラボー)」了解!』

 

神々が街をゆく人々の間を縫って、特殊部隊の様に進軍する。実は彼らは「魂魄妖夢を見守り隊」の中の精鋭部隊なのだ。そもそも魂魄妖夢を見守り隊とは妖夢を観察しニヤニヤするだけの会だったのだが・・・欲望とは満たされると次のステップへと移行するものである、そのため・・・もはや見守るなんて甘っちょろいこと出来るか!と行動を開始する者達があとを絶たない。しかしながら今の所全てが穏健派の武人オッタル(フレイヤに無理矢理会員にされた)と守護神タケミカヅチ(そもそもこの会を開いた張本人)によって防がれている。

 

しかし、度重なる突撃(チャージ)のすえ彼らは神業とも言えるチームワークを手に入れたのだ。

 

現在の配置はA、Cが地上正面。Bが屋根の上を。Dが遠い所から双眼鏡を覗きながら一定距離を保って屋根の上を着いてくる。

 

離れている彼らが会話をし、高いレベルでの連携を取れているのはひとえに彼らの持つ通信機のお陰だろう。なんとわざわざそれだけの為に【神秘】をもつ冒険者に大金を積んで作らせたのだ。

 

HQ(本部)HQ(本部)!』

『こちらHQ・・・どうしたA?』

 

彼らは特殊部隊、そう、バックが居るのだ。HQ・・・つまりは「魂魄妖夢を見守り隊」の過激派の連中だ。

 

目標を発見!(魂魄妖夢)繰り返す!目標を発見!』

『おお!デカした!行け!捕らえろ!』

 

Aが興奮した様子で声を荒げ、本部に発見の有無を伝える。Aの目線の先にはステイタスの更新が終わり、ダンジョンへ肩慣らしに向かおうとテクテク歩く妖夢の姿が。

 

しかし・・・。『アルファー!チャーリー!逃げろー!奴だ!奴が来tグワァァァア』

『畜生!Dが殺られた!・・・あぁ・・・見える・・・ここから・・・Dが・・・くそっ!逃げろ!逃げろおおぉおお!』

 

アブシッ!と変な声が聞こえた所で通信が途絶える、AとCは顔面蒼白となり駆け出す・・・しかし、さすが変態神(ロリコン)と言ったところか、逃げる方向は妖夢がいる方向だ、彼らは賭けに出たのだ、オッタルに捕まりボコボコにされるか、妖夢に触れてからボコボコにされるか。実に賢い選択だろう、オラリオ最強の恐怖に負けず、自分の欲望を優先したのだから。もちろん、結果など言う必要すらないだろう。

 

そしてHQでは、特殊部隊が殺られた瞬間から撤退の準備を始めていた。毎度毎度場所が変わるHQ・・・今回はダイダロス通りのボロ屋に場所が指定されていた。何故毎度毎度場所が変わるのか・・・それは・・・こういう事だ。

 

「・・・見つけたぞ・・・貴様ら・・・!」

 

背後にゴゴゴゴ!と文字が浮かんで見えるほどの圧倒的な殺気と怒気を携えて、ボロ屋の扉を蹴破ったのは・・・タケミカヅチだ。神々達は大混乱だ、タケミカヅチは基本的に優しい、そのせいで天然ジゴロとか言われてしまっているのだ、しかし、彼は自分のファミリアの団員に手を出そうとすると武神・・・いや、鬼神のような形相でボコボコにしようと迫ってくる。現在のオラリオでタケミカヅチに勝てる神は武神や軍神入れたとして居ない、つまり・・・虐殺だ。

 

「逃がさん!毎度毎度場所を変えやがって!ドンだけ執拗いだお前達は!」

 

そう言いながら神々達に正義の鉄拳を振りかざす。ドゴゥッ!ボゴォッ!と決して体から鳴ってはいけないような音を出しながら吹き飛ぶ変態神達。縮地や跳躍術を持つタケミカヅチからは決して逃げることは叶わない。タケミカヅチは優しい・・・決して気絶しない程度の威力で気絶するまで投げる蹴る殴るの暴行を加えてくるのだ。

 

「アブシッ!オブジェッ!フンドゥシッ!」

 

謎の奇声を上げて倒れる神々。その中央で仁王立ちし、満足げに頷くタケミカヅチ。

 

こうして妖夢の日々の平和が守られている事を妖夢はまだしっかりと認識していない、でも、二人からすれば別にそれでいいのだ。恩を着せる為にやっているのでは無いのだから、片やフレイヤの命、片や父親として。2人は今日も魂魄妖夢を付け狙う変態神をシバキ倒すのだった。

 

 

 

 

 

『グ・・・・・・うぁー・・・生きてるか?アルファ・・・』

 

Dからの通信がAの元に届く。その他メンバーにも届いているだろう。

 

『あぁ・・・何とかな・・・、なかなか・・・やるじゃないかあのムキムキ野郎・・・』

 

気絶するまで首を絞められて尚ストーカーを止めないのだから彼らも凄い。そしてやられる回数を重ねる事に首を絞められて落ちるまでの時間も伸びているのだ。いつかはオッタルの手加減が出来なくなるかもしれない。

 

『なぁ・・・提案があるんだけどよ・・・』

『ん?誰だ?』

『Cだよ、いま真面目な場面だろうがふざけんなよ』

 

けして真面目な場面などではないのだが彼らの目は、声は真剣そのものだ。Cには何か作戦が有るのか無線の奥でニヤリと笑った。

 

『団員達を集めて襲わせよう!』

 

最早手遅れである。『それだ!』『その発想はなかった!』『なん・・・だと?』と一様に反応を示すバカ達。しかし、現実は甘くなかった。

 

『いや、でもさ、勝てなくね?誰かレベル4とか居る?』

『『『居ない』』』

 

そう、勝てると思われる団員が彼らの中には居なかったのだ。

 

『だよなー、だってレベル4のモンスターに勝ったんだろ?』

『え?レベル3じゃねぇの?』『はい?レベル5だろ?』『あれ、俺はモンスターの大群と戦って殲滅したって聞いたぞ?』

 

誰も彼もが別々の情報を提示する、しかしその殆どはヘルメス・ファミリアによって操作された物だ。

 

『おうふ、情報操作されてやがるのか・・・ヘルメスかウラノスだな?問い詰めても絶対吐かないと思うけど』

『これじゃ迂闊に攻めれないな、下手すれば団員は全滅、俺達はタケミカヅチ達によって駆逐される。』

『うーん、真正面からはキツイかもなー、・・・奇襲は?奇襲はどうだ、ダンジョンから帰ってきて疲れている所を集団で襲いかかるってのは!』

『天才か!』『勝った!第三部完!』『奇襲するのは構わないが・・・別にお触りしてしまってもいいのだろ?』

『いやいや、オッタルがいるだろ、どうするんだよ』

『神に祈れ』『俺が!俺達がガンダムだ!』『神じゃないのかよお前ら!?』『ゼロは何も教えてはくれない』

『さっさと準備するぞ?!』

 

 

 

ドモドモ、オレです。ダンジョンに行くつもりだった俺は天切が折れている事を思い出す、そしてそのままUターンしてホームに帰った後お金と千草、あとは命を連れてギルドに向かった。何だか酔っぱらい達がうんうん唸りながら道端で寝ていたが、まぁオラリオでは結構常識的だ。ホームに帰った時に桜花から「ギルドが妖夢を呼んでるぞ?・・・もし行きたくないなら俺に言ってくれ。」と心配そうに頭を撫でながら言われたので心配させない為にもさっさとギルドに向かおう。レベルアップの報告も済ませないと。あとはレベルアップの参考書的な奴も作るんだったか・・・まぁ先に武器だよね。

 

ギルドに着いてバレないようにコッソリエレベーターに近づき上に上がる。エレベーターが稼働した時点でバレたがニコニコと手を振ったら振り返してくれたのできっと問題ない。

 

 

さぁ!やって参りました、ヘファイストス・ファミリアの武具屋!いやー!どれもこれもいい品ばかりですねー!今回は6階にいますよー、ここは少々お高い防具が揃っておりますー、更になんと極東の出身者もいるとの事で武者鎧も作れるそうです!(千草調べ)

 

そう・・・遂に僕も鎧を着る時が来たっ!俺もね常々思ってたのよ、防御力が足りねぇと。この前だってそうだろ?一撃受けただけで戦闘不能になっちゃったし・・・。極東の鎧にするのは皆とお揃いだからってのも有るけど、先手必勝を掲げる極東の戦士達は盾を持たない、だから頑丈な鎧を着て両手で武器を持って突撃する、つまりは相当に頑丈なものもある筈だ。確か紙や布で出来た物や、鉄や銅を使った物など種類も色々と会ったと記憶しているから・・・でもどうせなら鉄がいいよね・・・あ、そう言えば特別な鉱石ってダンジョンで掘れるんだっけ?いつか掘りにいこうか。

 

「妖夢ちゃん!こんなのはどう?」

 

千草が鎧の籠手を持ってくる、色は命や千草と同じ赤、おお、いいんじゃないかな?何で籠手だけ?って思ったけど普通に考えれば全部なんて持ってこないよな。

 

「おお!いいんじゃないですか?お揃いの色ですね」

 

流石千草だ、と賞賛し、受け取ろうと近づいた所で命が籠手を持って現れる。

 

「妖夢殿!これはいかがですか!」

 

目をキラキラさせながらグイッと近付けてくる命、きっとこれだ!って奴を見つけたんだと思う。色は白。

 

「半霊と同じ色ですね、これもいいかも知れません。」

「そうですか!じゃあ早速・・・」

「私のが先だよ命ちゃん!」

「な!なんと!先を越されていたとは・・・」

 

・・・眼福がんぷく・・・。どうしようか、まさか二人共いい物を見つけて来るなんて・・・、どちらも捨て難いけど・・・両方付けたら凄い事になりそうだしなぁ・・・代金と見た目が。

 

「はやくはやく!そこの試着室で着よ!」

 

千草に腕を引っ張られて試着室へ、鎧着るのとか子供の時以来だなぁ・・・あ、殆ど変わってなかった・・・。

 

 

 

こ、こんな感じか・・・?ちゃんと着れてるかな?うーむ、後ろの方とか解らないからなぁ、ま、千草がやってくれたし平気か。タケミカヅチ・ファミリアの伝統なのかなんなのか分からないが胴体を守らないのは何でだろうか、と思ったが正直鎧に身を包むより素早く動けた方が俺達タケミカヅチ・ファミリアは強い。なので鎧を付けるにしても肩や腕を守る袖、腰から太腿を守る草摺や、射向草摺などの攻撃の起点となる部分のみを守っている。なんていう脳筋集団なんだ・・・守ったら負けって言ってるよね。

 

赤い袖と射向草摺を普段の洋服の上から装着する。ちなみに選んだ鎧は大鎧と呼ばれる大型で重装甲な鎧だ、これは本来馬上で使う物で、徒歩戦闘には向いていない、けど胴などの、動きを制限する物を着けていないため、戦闘には支障もない。

 

「おお〜!似合ってるよっ!」

「む、むむむ、・・・で!ですがきっとこっちの方が!」

 

出てきた瞬間命に肩を押され試着室へ。そして数分後白い袖と射向草摺を着けて再登場。

 

「ほら!どうですか千草殿!」

どうして命が自慢げなんだ・・・。

「ぐぬぬ・・・」

何がぐぬぬだ千草。・・・ふぅ、まあいいか。いや〜平和って素晴らしい!防具選ぶ平和って何だとか言わない!

 

「では両方の色を使いましょう!白地に赤をアクセントとして加える感じで・・・」

 

俺はそう言って近くにあったテキトーな白主体の鎧を指さす。俺の提案に命は嬉しそうに、千草は渋々と言った感じで頷いた、きっと自分の選んだ色が主体の方が良かったんだろう。俺は袖と射向草摺と草摺とを持ってカウンターへ向かう。

 

「これ下さい。お幾らですか?」

 

そう言ってカウンターにそれらを乗せる。すると店員はニコニコとしながら鎧を手に取り少し眺めた後値段を教えてくれる。

 

「ふむふむ・・・製作者はアイツか、なるほど少しは腕も上がったなぁ。ああ悪かった、値段は8万ヴァリスだよ。」

 

高い、説明不要。・・・嘘だろ・・・これ一式買ったら幾らになるんだよ・・・。仕方ない、金は払ってやる!くそう、折角のお金が・・・。あと12万しか残ってねぇ・・・

 

「毎度あり〜。」

 

店を後にした俺達は2つ隣の店に入る、ここは猿師の奥さんの清美さんに教えてもらった所だ。素手で戦うのに何でこんな店を知っているのだろうか?

 

「いらっしゃいー、まぁ見ていきな。ここではオラリオには余り出回らない武器が置いてある・・・値段も、安い。」

 

店主の言う通り何だか珍しい武器が沢山ある。極東の刀などはもちろんあるが・・・傘の先端に槍、いや、槍の先端に傘か?あれは・・・盾に斧がくっ付いてるのか、そこはスパイクにしとけよ。・・・とかよく分からん武器が沢山だ。

 

「え、えーっと・・・その、妖夢ちゃん?ほ、本当にここから探すの?」

 

千草が引いてる・・・俺は若干興奮してるぞ、だってロマンだろ?実用性なんて投げ捨てたロマンの武器たち・・・いいじゃないか・・・!

 

「もちろんです!さぁ!頑張りましょう二人共!」

 

 

 

 

しばらく店を探索し、剣の扇や魔石を動力にして回転するドリルみたいな槍や2本の剣の柄の部分を押し当てると合体する剣など、・・・俺は見ているだけで満足した。

 

「み、見つけたよ〜」

「見つけました〜」

 

2人が俺の元に目を回しながらやって来た。その手にはお互いに1振りの刀が握られている。2人の話によるとこれだ!と手に取った結果、同じ物を選んでしまったらしい。しかし、その商品は夫婦剣との事で2振りで1つらしい。そのせいで買う人が現れずお値段が下がっているらしい。何故夫婦剣が残るのか・・・オラリオの民達は分からんなぁ。もちろん欲しいです!

 

「12万3千ヴァリスです」

 

た、足りねぇ!どうしようこのままでは働かされるぞ!

 

「はいどうぞ!」

 

おーっとすかさず千草がヴァリスを出したー!命が目を見開いているー!そして千草は振り返りドヤ顔だー!命が崩れ落ちたー!・・・何やってんねん。でもありがとうな。

 

「ありがとうございます千草。命もですよ」ヨシヨシ

「えへへー」

「う、うぅ・・・妖夢どのぉ〜」

「あ、あはは」ヨシヨシ

 

おい、止めなよ、店主見てみろって、すげぇ困ってんから。刀を差し出した格好のままずっと待ってるから。眼帯に禿頭な顔で困ってるから!そして何より恥ずかしいからっ!てか外見的には俺が1番年下よ?!

 

「あー・・・この刀は黒い方が黒糖。白い方が砂糖だ。・・・本当だぞ?」

 

オラリオの住民達の考えってのは「実用性重視」だから中二病とか男のロマンとかそういった物はそこまで追い求めない筈なんだけど・・・ここはどうやら神々に毒された職人達が作ったロマンが置いてあるお店らしい。武器の名前は随分と甘そうだけど。

 

お店に対する知識がより集まった所でお礼を言って店を出ようとした所、店主から声が掛かる。

 

「ああ、そうだ、それにゃ特別な属性が付与されていてな、互いに引き合うんだ、離れたくねぇってな。」

 

は?えっ!?そんなっ、え、こんな値段でいいの?もっと高くなくていいの?驚きがハッキリと顔に出ていたのか店主は禿頭をかいて苦笑しながら教えてくれる。

 

「仕方ないだろ・・・セットで買わないと値段が上がる、しかもこんなイカレた店で売ってんだ、誰も買いやしねぇよ。嬢ちゃん以外にな」

 

さり気なくディスられたがまぁいいか、ラッキーラッキー、こんないい物が手に入るなんてなかなか無いぞ!

 

「はいっ!ありがとうございましたっ!」

 

さぁ後はギルドでお話を聞くだけだ!

 

 

 

 

ギルド職員のジジ・ルーシャが自分の担当冒険者である魂魄妖夢を連れてロイマンの元へやって来た。ジジは綺麗な礼をして部屋を退出する。

 

「君が魂魄妖夢かね?」

 

ロイマン・マルディールはブクブクと太った身体を揺らし、目の前ソファーにちょこんと座る小さな少女に問いかける。妖夢は「はい!」と元気よく返事を返した。

 

「本来では私がやる事では無いのだがね・・・まず、何処で【血濡れのオーク】と出会したんだ?」

 

その問に対し、妖夢は以下のような説明をした。

曰く十一階層で不意に現れた。

曰く体は赤よりも紅く、目は光っていた。

曰くとてもはやく、残像を作り出す程だった。

曰く冒険者のものと思われる大剣を振り回してきた。

曰くベート・ローガが助けに来なければ絶対に死んでいた。

 

「・・・ふむ、ベート・ローガ所は初耳だな・・・。なるほど、君のような小さな子があれほどのモンスターから生き延びた理由は分かった。」

 

しかし、彼女も、ほかの者達も、果てはベート・ローガ本人さえ「妖夢が倒した」と言ってはばからない。レベル2がレベル4を倒す?何を言っている。ロイマンは鼻で笑う。そもそも耐久が違い過ぎて攻撃が通るはずが無いのだ。魔法を使ったのか?

 

「魔法は使えるのか?」

 

これはご法度、冒険者のステイタスを聞くのはあなたの弱点を教えて下さいと言っているようなものだ。これは取り敢えず聞いてみただけで本当に答えてくれるとは思っていない。そもそもこんなチビでもそれくらいはわかる筈。

 

「はいっ!楼観剣と白楼剣を召喚できます!」

 

コイツは馬鹿なのか、ロイマンは妖夢の評価を下げる。しかし、仕方ないだろう。彼女は権力に慣れていない。つまりは・・・

 

「(き、緊張する!!!)」

 

まともな思考が出来ていなかったりする。その後も妖夢は致命的な部分だけは隠し通すことに成功し、殆どを正直に話してその面会は終了した。

 

魂魄妖夢は正式にレベル3となり、1冒険者としての地位を僅かに高めた。年齢に似合わぬ実績、外見にそぐわぬ実力。・・・ロイマンはそういった情報が書いてある資料をしっかりと読み、机に置いた。彼から見れば妖夢は所詮子供だった。ロイマンは妖夢を追い出すように部屋から退出させた。

 

しかし、ギルドや一部の情報通な神や冒険者からはロイマンは「魂魄妖夢を部屋に連れ込んだデブ豚」や「ロリコンの恥」と悲惨な二つ名を増やす事になった。彼の名誉の為に言うと、彼は手を出したりしていないし、そもそもボンキュボンなお姉さんしか興味が無かったりする。

 

『おのれおのれおのれおのれおのれおのれ!ロイマンの豚やろう!』

『おおおおおおお落ち着けA!』

『まだあわわわわてる時間じゃななななない!』

『C!D!B!お前らも落ち着けよ!』

『Bはお前だろうが!?』

『ぶち殺すっ!』

『止めて!天界に送られたら地獄の様な仕事が待ってるぞ!』

『・・・やっぱり半分殺す!』

『そういう問題じゃないからっ!?』

 

 

 




挿絵、載せておきますね^^{IMG15948}

批判・・・待ってます(ガクブル)

【オリキャラ:ジジ・ルーシャ】

キャット・ピープルの女性、毛並みは茶色。
共通語が不自由で特徴的な訛りを持つ。次回、次次回と登場が確定しているキャラクター。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話『鼻唄三丁 矢筈斬り――――ってな。』

遅くなってすみません!

お絵かきアプリで挿絵を描けるか頑張っていましたぜ。後書きに載せときますね。

今回から完全オリジナルストーリーに突入!いやぁ桜花さんやタケミカヅチ様をちゃんと書けるか心配でございます。


ギルドから帰ろうとする妖夢達を1人のギルド職員が止めた。彼女はエイナチュールと同じく冒険者の対応を任された職員だ。名前をジジ・ルーシャ。キャットピープルの女性で、魂魄妖夢の担当を任された者だ。

 

「気をつけて帰りナヨ?」

 

独特な訛りのある話し方と他のアドバイザーに引けを取らない美貌は冒険者達からの人気を集めている。

 

「はい、わかりましたジジ。それでは」

 

ペコリと頭を下げる妖夢とそれに続いて頭を下げる命と千草、そんな光景に小さくため息をつくジジ、彼女は少し怒っていた。なぜなら妖夢は「頑張りすぎている」とジジは考えている、レベル2になってから3ヶ月もしない内にまたランクアップ・・・・・・、異常だ、あまりに異常。過去に「冒険は駄目ダヨ」と伝えたジジであったがもしや聞こえていなかったのではと思ってしまう。

 

しかし、そんな怒りも妖夢が生きているからこその物だ。妖夢が死んでしまったのなら怒りではなく悲しみが先に来てしまう・・・・・・死んだ者に憤るには余りに同じ事を経験し過ぎたからだ。ジジは20を既に超え立派な大人のキャットピープルだ。誰かが死ぬ経験などそれこそ片手では足りなかった。

 

彼女の怒りの理由は他にもある。三ヶ月に1度位の頻度で開かれる神々の集会、そこではランクアップを果した冒険者達に神々から二つ名が送られるのだ。ランクアップを果した冒険者なら誰もが憧れ、それを得たのなら誰もが胸を張る。

 

しかし、担当のアドバイザーには仕事があった。ダンジョンでの出来事を担当冒険者に聞いたり、担当冒険者の話題を集めたり・・・・・・つまり、二つ名を決める為の元となる情報を集め、資料を作らなくてはならないのだ。

 

ジジはコツコツとその仕事を全うし、レベル2になった妖夢の資料は完成しかけていた。しかし、ランクアップ。本人から聞いた時、喜びに溢れたものの、仕事を思い出し、呻いた。ジジがどんな仕事をしているのか知らない妖夢は心配そうに「大丈夫ですか?ジジ」とジジを見上げていた。

 

「はぁ・・・・・・私も頑張ルカ」

 

そう言って仲良く並んで帰る3人組の背中を少し眺めた後踵を返し、カウンターへと向かう。

 

「ジジさん?どうかしたんですか?」

 

彼女の後輩に当たるエイナ・チュールがジジに話しかけてくる。きっと疲れが顔に出ていたのだろうとジジは気を取り直しエイナの隣の席に座った、何時もならここはミイシャというエイナの友人が居るのだが今日は非番らしい。

 

「実はネ・・・・・・妖夢がランクアップをしてタヨ・・・あぁ、仕事がまた増えタ。」

 

また、と言うのはジジが妖夢の担当である事が関係している。妖夢をつけ狙う神々がオッタルやタケミカヅチに秘密裏に倒されていたとして・・・・・・接触を禁じているギルドからすればそれは違法行為、度が過ぎれば罰せられるのだ、ジジに。そう、仕事は増えた、オッタルやタケミカヅチが倒した神を縄で縛って持ってきたのならささやかな報酬を用意し、神をウラノスの変わりに叱らなければならないのだから。しかし、神は一筋縄では行かない、時折ジジにセクハラを行おうとする時だってある。そのせいか彼女の腰には常にナイフが備えられている。

 

「あー、その、大変そうですね、アハハ。」

 

困ったような笑顔でジジを励ますエイナ。その笑顔に励まされながら仕事に就くのだった。

 

 

 

 

仕事もある程度の区切りがつき、しかし、もうすぐで開催される集会にはこのペースだと間に合いそうに無いので家に持ち帰ることにしたジジは帰路に付くために準備を始める。

 

制服を脱いで、普段着に変わる。これが彼女のスイッチになっている。どっと疲れが増したかのような感覚にため息をつきながら家路につく。

 

夜も遅い、魔石灯が照らす街中をジジは急ぐ。・・・・・・なぜなら何か嫌な予感がするからだ。音に対して敏感なキャットピープルの耳は、夜目が利く目が、警戒してキョロキョロピクピクと辺りを警戒する。

 

しかし、――――――その警戒網をいとも容易く突破する者達が居た。

 

『シュコー……シュコー……こちらΑ……シュコー……ターゲットを発見シュコー……警戒されているが気付かれてはいないようだ……どうぞ』

『こ、ら……B、通信……が悪い……少しせっ……んする。ど、ぞ。』

『了解だ、Bは通信状況が良くないらしい。機器の故障のようだ、だが問題は無い……任務を遂行する。』

『こちらD、了解』

 

そう特殊部隊(ロリコン神)だ。彼らはその神業レベルのチームワークやステルス技能を持ってしてジジに接近する。彼ら特殊部隊を目以外で知覚するには恩恵による援護が無ければ無理だろう、なぜなら神ならば無意識に辺りに漏れ出てしまう神威を完全に封じ込める事に成功しているのだから。

 

そもそも、ジジを誘拐しようと言う考えに至ったのは、妖夢を襲う算段を計画している最中Dが不意に「そうだ!妖夢たんと仲が良い人を人質にすれば俺らの好きに出来るんじゃね!?」と言ったことである。

彼らは様々な考えを約0.1秒の間に巡らせ、神からの啓示を受けたかのような衝撃を受けた。そして誰もが声を揃え言ったのだ。

 

「「「「「「「「それだ!!!!」」」」」」」」

 

最早手の施しようがない。

 

ジジは辺りを見渡し何もいない事を確認した後自分の家に向かって小走りに走る。ジジ位の年頃ならヒールを履いていてもおかしくは無いのだが警戒心の強いジジはちゃんとした靴を履いている。

 

しかし、その程度計算されていた、前方にあった街路樹から黒いローブの男が音を立てずに飛び降り着地する。

 

「うわっ・・・・・・誰でスカ?私に何か用?」

 

それに驚くジジは目の前の男から目を離さないようにしながらナイフに手をかける。しかし。そのナイフはあるべき場所になく、ジジの首に押し当てられていた。

 

「ひっ!」

 

息がつまり、恐怖に足が震え出す。幾ら冒険者を見てきたとしても実践など全く経験が無い。それこそ命の取り合いなど。

 

『シュコー……シュコー……ジジ・ルーシャか?』

 

ポタポタと液体が地面に落ちる、それは血ではない、水だ、近くの用水路に隠れていたのだろう、そこまで考え彼女は恐怖をより強めた。水場から上がる際に一切の音を立てなかったその技術に。

 

「そ、そうデス・・・私は何か恨まれるような事をしましタカ?」

 

ジジには身に覚えがなかった、私は何か彼らを怒らせるような事をしたのだろうか。とジジは考えを巡らせる。しかし、何も思い浮かばない。あるとするならば告白され、しかし断った冒険者位だろうが……彼らはダンジョンから帰ってきていない……3年ほど。

 

『シュコー……いや、恨んではない……シュコー』

「では、どうシテ・・・・・・」

『全ては我らが手中に魂魄妖夢を収めるため……フッ!』

 

ジジの意識は此処で一旦区切られた。

 

 

 

 

 

妖夢、命、千草はホームに向かって歩いていた。そこに会話は無い。新しい装備を身につけ、新しい武器を手に入れて、話題は多いだろう、それほどホームまでの距離がある訳でもない、話しなど幾らでもできる。

 

しかし、彼女達もまた、嫌な気配を感じ取っていた。

無言なのは牽制なのだ、「私たちは警戒しているぞ」と言う警告。では彼女達は自分達が誰に追われているのか知っているのかと言われれば答えはNO、しかし、オラリオの常識として「闇討ち」は存在する。夜、不自然な視線を感じたのなら、それは生命の危機だ、故に警戒を最大限まで引き上げる。

 

 

『あーあー。こちらB……通信器が直ったみたいだ……予定通り行動を開始する』

『了解……少し待ってろ……今団員に指示を出す。』

『……あぁそうだ、Α?アドバイザーは捕らえられたか?』

『こちらΑ、もちろんだC。ではB、Cとともにミッションを完遂してくれ。』

『『了解』』

 

 

警戒する妖夢達の耳にいくつもの足音が届いてきた。それぞれが戦闘態勢を取る。

 

「対象、人型!予測・・・・・・約15!」

 

命が足音の重さ、数でおおよその人数を把握すると妖夢たちに知らせる。魔石灯により明るかった周囲が魔石に矢が射られ、月明かりだけとなった。しかし、夜空は雲に覆われている。明かりは無い。

 

「―――シッ!」

 

不意に、鋭い呼吸が。それと同時にビチャビチャと何やら液体が滴り落ちる様な音が辺りに響く。

 

「ぐ、糞が・・!」

 

そんな声と共に誰かが倒れた、低い男の声。敵が倒れたのだと聞く前から知っていた命と千草は見えない虚空へと何の躊躇いもなく刀を奮った。すると風切り音と共に何かが斬れた。

 

「な!・・っ!」

 

驚きの声が上がる。まさか、見えているのか、と。しかし、彼らの戦法は確かに彼女達の目を封じる事に成功している。魔石灯に照らされ明るかった場所からいきなり暗くなった為、目が慣れるまで少しの時間が必要だった。普通の冒険者だったなら、奇襲だとわかっていたとしても、いや、だからこそ慌てふためき適当に武器を振り回すだろう、しかし、彼女達は違う。

 

武神の子、それが彼女達だ。足音、呼吸音、衣服の擦れる音すらも、その耳は聞き逃さない。

 

「―――ふっ!」

 

千草の振り向きざまに放った突きは見事に男の脇腹を貫く。命の放った袈裟斬りは綺麗に男の肩から脇腹を切り裂く。妖夢が振るった刀は見えなかった、特別速かった訳ではない、その刀は黒く、闇夜に紛れていたのだ。腹を横一文字に斬った。

 

「ぐあぁ!」

「こんの、糞ガキィ!」

 

呻き声を意識から外し、足音に集中していた3人は素早く移動し互いの背を守れるように固まる。そして、やっと妖夢が口を開く。緊張が走る場面では常に妖夢が軽口や冗談めかした言葉で緊張を和らげてくれる。

 

「命に千草、目は馴れましたよね?」

「はい、無論です」

「うん。大丈夫」

 

口元を緩め、しかし、意識は引き締める。突然飛来する矢を命が切り落とした、どうやら襲撃者達は飛び道具を使うことにしたらしい。飛んでくる矢や、ナイフを弾きながらじりじりと下がる妖夢たち、周囲に家は無いものの、少し進めばそこには住宅地が存在している、そこまで行けば襲われる心配はないだろう。近道をするために妖夢達は路地の方へ走る。

 

『シュコー、シュコー、どうだ?シュコー……順調か?』

『あぁ、順調だ、もう少しで裏道に入ってくれる。』

『そうか。もうすぐこちらも予定の位置につく。』

 

妖夢達が逃げ込もうとしている路地には無数の影が、屋根、ゴミ箱、小屋の中、至る所に冒険者。否、ロリコン共が隠れているのだ。事案だ、これは事案だ。

 

「そっちに行ったぞー!」「追えー!」「射て!うてぇーー!」

 

妖夢を殿に矢を弾きながら路地に走る。そして路地以外に逃げられないように扇状に広がって追いかける男達。

しかしそこで男達は不意に後ろから気配を感じた。

 

『〜〜♪〜〜〜〜♪』

 

鼻歌が――その場に響く、鈴のような可憐な声が。聴く人が聴けば分かるだろう、その曲は魂魄妖夢のテーマ曲「広有射怪鳥事~Till When?」である事を。しかし、この世界にその歌を知る人は1人しか居ない。

 

「命、千草、行きますよ!」

「はい!」

 

妖夢達が逃げるのをちらりと確認した男達が振り向くとそこには妖しげに目を赤く光らせる妖夢にそっくりな女子。もちろん邪魔されてはたまらない、と冒険者の一部が赤い目の妖夢の足止めをしようと立ち塞がる。

 

『ーーー♪〜〜〜♪』

 

刀を自らの腹から引き抜いて、薄く笑う。鼻歌はまだ止まらずに流れていた、そんな綺麗な鼻歌に一瞬気を取られながらも構え直す、しかし、その時にはもう彼女は後ろにいたのだ。そして―――その場の全員が突如吐血し、倒れた。

 

『鼻唄三丁 矢筈斬り―――ってな。』

 

とある骨身の海賊兼音楽家?が使う、摩訶不思議な斬撃、歌に魅せられたのなら・・・・・・そこはもう、黄泉の国だ。

今回は手心を加えてもらえた様ではあるが、もし、次があるのなら、生命は無いに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

路地裏に駆け込んだ俺は突如現れた何故か麻縄や目隠しを手に持った男達に囲まれてしまった。やばい、と内心思う。とにかく千草達を守らなくては。

 

「命!千草は任せますっ!足止めは私が!」

 

ここで俺がコイツらを引き付けて時間を稼ごう、そうすれば千草達は逃げれる筈だ。てかオッタルさんまだですか!?

 

「・・・・・・く、はい!」

 

命が逃げ道と俺の顔を見合わせ・・・迷った末逃げる事を選択した。

 

「必ず助けを呼んできます!」

「ええ、お願いします――フッ!」

 

会話をそこそこに男達に突っ込む、コイツら怖い、なんか息荒いし、まさか、アスフィやオッタルが言っていたのはこいつらなのか?

 

「デュフフコポォwwwオウフドプフォwww フォカヌポウwww」

 

ひいぃぃぃいい!?怖い!怖いよこの人達!?白楼剣!白楼剣を呼ばなきゃ!太刀筋が寝ぼけてしまう!というか、近づきたくねぇ!!

 

「デュフフこぽぉ王府度プふぉふぉかぬぽうwww」

 

未だによくわからない言語で笑う?男達。それに思わず突撃をやめて一歩後ろに下がってしまった、すると男達は一歩間を詰めてくる。

 

「デュフフww幼女でござるwww幼女でござるぞぉwww某のインスピレーションがフルパワーでござるwww」

「ポカヌポォwww吾輩のブラック・ロード・ランスが研ぎ石を求めておるわwww」

「おいそのマッキーしまえよwww」

 

だ、だめだ、こいつらに正面から突っ込んではいけない!ま、迷うな!恐怖を切り捨てろ!で、でも勝てる気がしないよ!お、おのれ・・・・・・捕まったら乱暴されるぞ!○○同人みたいに!

 

「わ、【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。】」

 

なので捕まらないように魔法で応戦しよう接近戦だけど。目を閉じて詠唱を開始する。

 

一工程、白い光の粒子が周囲を舞い始めた。

 

「お?おっ?何でござるかwww魔法少女でござるかwww」

「大丈夫だ、吾輩の守備範囲は広いぞwww」

「僕と契約して○○○になってよ!」

 

「【傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。】」

 

二工程、白い光の粒子は掲げられた俺の右手に渦を巻くように集中し始める。

 

「おおー!すごいでござるなwww止めないとまずいのでは?www」

「大丈夫だと言っただろう?吾輩は受けるぞwww」

「おうふ、強気な子もタイプだぜwww」

 

そして、三工程。光は実体をもってその手の中に顕現した。

 

目を、開く。

 

「【迷え、さすれば与えられん。】白楼剣ッ!」

 

何も無い所で袈裟斬りに白楼剣を振り下ろす。思考がすっきりした、今俺のやることはコイツらを止めること、二人の元に行かせないことだ。

 

「お、おおぅ怖い目だ、流石にびびってしまうでござるよwww」

「くっ、ふぅぅ!!・・・・・・だ、だめだ、既にやばいぞ吾輩は!」

「おいドM、なんで立候補した。このバカwww」

 

そんな会話を聞く必要は無い、俺は突撃し、八芒星を描く様に斬撃を放つ。これは原作妖夢のスペルカード。

 

「人鬼「未来永劫斬」ッ!」

 

ガガガガガガガガガガガガガッ!

 

と鈍い音と共に狭い路地裏に桜色の八芒星が幾つも咲き誇る。

 

「あぶっフブッ!がハッ!ヘムッ!」

「あっ!くっ!はぁっ!!ふぅ」

「いだだだだ!アダっ!あふん!」

 

ふぅ、60回位切った気がする、これだけやれば倒せたはず。・・・・・・は?

 

「いやぁ痛かったでござるなwww」

「ま・ん・ぞ・く!したぞ!吾輩はwww」

「痛てぇ、すげぇ痛てぇ。でもまぁ耐えられないほどでもないか」

 

なん、だと?平然と立ち上がりやがったぞ!?そういえば、手応えが変だったな、ガガガッ!って言ってたし、まじかよ、あれに反応して来たってのか?それとも頑丈な装備を着てるのか?どう見てもパンツしか履いてないんだけど!?よく見ると怪我してないんだけど!?

 

「「「これがギャグ補正の力だっ!」」」

 

もう月牙天衝ブチかまそうかな、とか光が消えた目で考えていると遠くから悲鳴が聞こえてくる。女性・・・・・・それも若い。まさか・・!

 

「ふっ!どうやら作戦は成功したらしい。」

「そのようだな。では向かうとしよう。」

「おいおい、斬られたんだぞ?もうちょっとゆっくりしてこうや」

 

え?何この人達、急にイケボになったんだけど。急に真面目になったんだけど。今なら死ぬ?今なら殺せる?あ、白楼剣握ってr斬る!

 

射殺す百頭(ナインライブズ)ッ!」

「え?」

「へ?」

「Why?」

 

低い悲鳴が、路地裏に響いた。

 

 

 

 

 

 

「うふふ・・・・・・みんな我慢が出来なくなってしまったのね。」

 

銀色の長髪を靡かせて、バベルの塔の最上階の窓辺に立つ女神、フレイヤは笑った。

 

「あの子には子供達を送ったけれど、この子にはどうしようかしら?」

 

アイズとベルに刺客を送ったフレイヤ、しかし、同時刻に起きた神々の違反に、出せる手札がもうなくなってしまった。

 

「オッタルはダンジョンに行ってしまったし・・・・・・これは見ている事しか出来ないかしら?それとも私も出向く?いいえ、駄目ね、我慢すればする程、手に入れた時の快感は凄いもの。」

 

唇に手を当て、妖艶に微笑む。頬は赤くなり、息は荒い。興奮した眼差しは銀と白に向けられている。

 

「あぁもっと、もっと強くなりなさい。・・・・・・私に相応しい、強き者になってちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 

 

ぞわり。と悪寒が俺の足元から駆け上がってくる。以前も感じたこの感覚。オッタルの行動から見るに俺はフレイヤに気に入られてしまったらしい。

 

首から下が地面に埋まってしまった変態達をそのままに、俺は悲鳴の方へ走る。さっきの声は恐らく千草だ、くそが、千草に何かあったら犯人は粉微塵にしてやる。

雲間から月が覗き、星星がその姿をちらつかせている、明るくなった路地を俺は走り抜ける。

 

路地を曲がり、砂煙を巻き上げながらブレーキを掛け止まる。剣戟の音がする、まだ戦っているようだ、つまり千草が斬られたのか?・・・・・・おのれゆ"る"さ"ん!

 

剣戟の方へ走る、曲がるのが面倒だったので跳躍し、屋根の上に。すると、屋根の上から下に向かって矢を放つ奴等が見えた、恐らく矢を向けているあの場所に命達が居るに違いない。

 

「はあぁぁあ!結跏趺斬ッ!」

 

Xを描く様に斬撃が相手に向かって飛んでいく。それを何度も放ってゆく。相手もそれに気がついたようだが反応が遅れた、体に×を刻まれて下に落ちてゆく。

 

倒し損ねたひとりの足を斬り飛ばし顔を踏みつけ跳躍。上から見る事で戦況がよく見える。・・・・・・命が、敵に囲まれ必死に応戦していた。

 

「千草が……居ない!?」

 

その事に驚愕を覚えながら相手の上をとった、今は何よりも敵を倒す事が優先だ、上空に待機させた半霊から弾幕をばら撒きながら俺は落下しながら回転し、斬撃を放つ。

 

「くっ妖夢殿・・・・・・!申し訳ありません!千草殿が、攫われてっ!」

 

悔しそうに顔を歪めながら相手の攻撃を捌き、隙を伺う命。それよりも命からもたらされた情報が俺を一瞬混乱させた。

 

「千草が誘拐?!なぜ・・・・・・!いえ、それよりもまずは此処を乗り越えましょう。」

 

千草を救うにはコイツらは邪魔だ、ならば斬る。それだけ!

黒糖を高々と最上段に構える。ステイタスの上昇を感じる。スキルが発動したらしい。発動条件がいまいちピンと来なかったがまぁいい。

 

「去ね・・・・・・私達の前から!断命剣「冥想斬」ッ!」

 

霊力と剣気によって形成された炎の様な巨大な刃が刀に宿る。やり方は簡単だ、霊力を練り合わせ刃を形成し、剣気で固定する。そうする事で霊力と剣気で出来た巨大な刀となる。でもこの技は消費が重い、この一段階上の技があるがそれはもっと重い。

 

「撤退だ!撤退しろ!」

 

光り輝くその剣は辺りを眩く照らし出し、幻想的な雰囲気を醸し出す。しかし、見とれるのはあまりに危険、そうはっきりとわかる程の危険性を秘めている、撤退しろという命令はすぐさま行き渡り撤退をしようと背を向ける。

 

そこに、断命の剣が振り下ろされる。

 

敵を吹き飛ばし、一直線の道が出来た、呆然としている命の手を引っ張りそこを駆け抜ける。千草を探さなくては!

 

 

 

 

しかし、その日千草を見付ける事は叶わなかった。俺は命と共にホームに戻ってきた。互いに会話は無い。今はもう朝になっている。

 

「申し訳ありません、妖夢殿・・・・・・私が、不甲斐ないばかりに・・・・・・」

 

命が拳を指が白くなるほど強く握り締める。その顔には悲壮な決意が垣間見える。このままだと命が1人で突撃しそうだな、どうにかしなくちゃな。

 

「命、今回の件は命のせいではありません、謝るのは私です、殿はハルプに任せるべきでした」

 

俺の言葉に命は目を見開き、歯を食いしばる。

あれ、やばいな、今のは地雷を踏んだっぽいぞ。

 

「そう、ですか。やはり私はまだ・・・・・・妖夢殿の足を引っ張っている。」

 

命はそう小さく呟き、頭を下げてから部屋に戻った。やってしまったぜ・・、全然足とか引っ張って無いんだけどなぁ・・・・・・とりあえずタケに報告しなくては。




【オッタル】

(。+・`ω・´)シャキーン「よし、早速護衛に赴くとしよう。」

フレイヤ「あら、少し待ってオッタル、白髪のあの子の事で相談があるのよ」

(´。・ω・。`)「わかりましたフレイヤ様。して、如何様な相談で?」

フレイヤ「実はね?あの子が燻ってるみたいで・・・・・・どうしたらもっと輝けるかしら?」

(`・д・´)「それはトラウマを解消するしか有りませぬ。」

フレイヤ「トラウマ?」

(・ω・)「ええ、あの者はミノタウロスに含む物がある様子、つまりそれが壁となっている。強くなる為にはその壁を崩さなくては。」

フレイヤ「なるほどね・・・・・・それも、貴方がいう『冒険者は冒険しなくては成らない』かしら?クスクス」

(〃・ω・〃)「少し、大きく出過ぎました。ですが、そのとおりかと。」

フレイヤ「ねぇオッタル?じゃあ彼に見合う特別なミノタウロスを用意してもらえないかしら?」

( ー`дー´)キリッ「わかりました。フレイヤ様の御心のままに。」


戦闘シーンを描いてみた。色付きだよ!でも作者は目が少々特殊で正確な色を見分けられないから多分色が変だよ!気にしないでね!

【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話「私は!家族の為なら神様だって殺して見せる!」

今回と次回は視点変更が多めです、読みづらいかも知れませんがご了承下さいな。

それと支援絵ありがとうございます!これからも募集していますので是非是非書いて下さると嬉しいです!


暗く、ジメジメしたその空間は一般的に地下室、と呼ばれる場所だ。しかし、その様は一般的なものとは大きく異なっていた。

 

鋼で出来た扉、金属で所々補強された壁。そして部屋の中心には大きな檻。壁には先の丸まった槍や茨のような鞭が備えてある。

 

灯りは檻の周りに設置された燭台の小さな蝋燭のみ。そして、そんな空間の中心で1人の少女が恐怖に震えていた。

 

「・・・・・・・・此処は・・・・・・どこなの?」

 

大人しそうな外見と線の細い肢体。彼女の名は千草。タケミカヅチ・ファミリアの1人だ。服は所々切り裂かれた様に破れ、血に濡れている。不自然に傷だけが治っている事からポーションが使用されたのだろう。

 

暗闇は目を潰し、されど他の感覚を研ぎ澄まさせる。小さな下卑た笑いが外から入ってくる。乾杯や、やったな。と喜びを表す言葉が溢れている。その事に千草は更に恐怖する、千草とて無知ではない。冒険者にとって「未知」とは明確な「死」の危険を伴う最大の敵なのだ。

 

「私は・・・・・・ううん、平気。きっと助けに来てくれる」

 

思考を振り払い、希望を灯す。家族が助けに来てくれる、そう思うだけで千草の顔色は幾分もましになった。

小さく拳を握り、よしっ、と自分を励ました後檻から抜け出せないか鉄格子をひとつひとつ探り始める。

 

調べた数が20に届きそうな時、笑い声が近づいて来ているのを鉄格子を調べるのに集中していた千草の耳は辛うじて聞き取る事が出来た、驚いた千草は咄嗟に寝ているフリを決めこむ。

 

ガチャりとドアが押され動き、キーと言う耳障りな音を立ててゆっくりと開く、どうやら相当な重さ、厚さを持った扉の様だ。

足音と共に部屋に誰かが入ってくる、足音の数からして2人、重さからして男、それも相当な大男だ。千草の体に緊張が走るが呼吸を乱さぬよう、浅く小さく寝息を立てる。

 

「まだ・・・・・・寝てるな。行くぞ―――おい、早く行こうぜ」

「まぁちょっと待てよ、本当に寝てるのか確かめてみようぜ」

「あぁ?知らねぇよオラぁガキに興味はねぇ。酒が無くなる、テメエに付き合う理由なんざ本当はねぇんだ、先に行ってるぜ」

「へへっおうよ・・・・・・さて・・・・・・くくく、いやぁ主神様には感謝しねぇとなぁ」

 

扉が閉まる音と共に下卑た笑いと視線が千草の全身を舐めるように這い上がってくる。千草は今更ながらに思う、どれだけの時間気絶していたのかと。恐怖が足元から再び駆け上がってきた。もしかしたらもう何日も経過しているのではないか、もしかしたら捜索も諦めてしまっているのではないか。不安は新たな不安を呼び、妄想は恐怖を加速される。

 

思わず、目を開けてしまった。

 

「ひっ・・・・・・!」

 

つい、恐怖が声となって出てしまう。ニタリと顔を歪ませる肥えた腹を持つオークに良く似た大男がこちらを舌舐りする様に見ていたからだ。

 

「おぉ?起きたか、どうだ嬢ちゃん、そこは気に入ってくれたかい?ひひひひ」

 

千草は転がるようにして男の反対側の鉄格子まで下がる。それに対して男はゆっくりと立ち上がり壁にかかった槍を手に取る。

 

「いししししっ!」

 

笑いながらゆっくりと檻の周りを回る男、それと対角線上を維持しながら檻の中を回る千草。そして時折放たれる槍をギリギリで躱していく。

 

躱していく事で思考がまた冷静になってくる。千草は昔、タケミカヅチや妖夢達とこの状況に似た訓練をした事があった、最も、この様な悪趣味なものでは無かったが。

 

「ふっ!」

 

突き出された槍を避けて横から蹴りを入れる。すると槍は鉄格子と触れ合い梃子の原理によって大きな力が生じる。千草が見た目通りの力しか持たないのであればただの無意味な抵抗であっただろう、しかし彼女はレベル1の中ではトップクラスのステイタスを誇るのだ。そんな千草が蹴りを入れたなら・・・・・・。

 

「うぐッ!?」

 

梃子の原理によって大きな力が加わり、槍は半ばから折れ、男は横に大きな音を立てて吹き飛んでいく。千草はその隙に逃げようとするものの鉄格子は全く傷ついていない。今の騒ぎによる物か、部屋の外が急に騒がしくなった。

 

「(どうしよう・・・・・・バレちゃう!どうにかしなくちゃ・・・・・・!)」

 

折れた槍をとりあえず拾い、武装をする。何か武器になる物を持っていると言うのは心を落ち着かせる。

ドタバタと複数人の足音が近付いてくる。

 

「糞ガキがぁ・・・・・・!」

 

万事休す、そう思った千草であったが。事態は大きく変化する事になる。

 

「ふがぁ!?」

 

再び男が吹き飛んだのだ。駆け込んできた者達の手によって。肥った男に蹴りを入れた黒髪の青年は千草に背を向け、傷だらけのまま声を発した。

 

「千草―――助けに来たぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も開け始め、外は明るくなって来た。私は、千草殿を・・・・・・千草ちゃんを助けなくてはならない。自分が弱いのは知っている、足でまといなのはわかっている。でも出来ることだってある筈だ。私のスキルなら千草ちゃんを探せる、時間が惜しい。今すぐにでも探しに行くべきなはずだ。

 

私は自分の布団に色々と私物を詰め込んで人の形にする。・・・妖夢殿に迷惑をかけるわけにはいかない、私が千草ちゃんを助ける!

 

私はスキルを発動し、朝日が登り始めた街に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

「千草がさらわれました」

 

歯を食いしばるようにそう言う妖夢に俺とタケミカヅチ様は顔を顰める。命達の帰りが遅いからとタケミカヅチ様と心配していた時、ふたりは帰ってきた。

 

「・・・・・・どんな奴だった」

 

タケミカヅチ様は低い声で呟く、ハッキリとした怒りを感じた。それは俺も同じだろう、気が付けば手を強く握り込んでいた。

 

「わかりません。ただ数が多くて、あ、パンツ一丁の人達もいました」

 

後半部分でタケミカヅチ様がガクッと体制を崩しかける。しかし、妖夢の表情は真剣そのものだ。・・・・・・にしてもパンツ一丁って・・・千草がとても心配になってきた。

 

「なぁ妖夢、相手がどこのファミリアか解らないのか?」

 

俺は妖夢に相手のファミリアを知っているか訪ねてみる、何か特徴的なものを身に纏っていたりすれば・・・・・・ってパンツ一丁か。

 

「わかりません桜花。ただ、麻縄や目隠しを持ってました」

 

後半部分で俺はガタッと立ち上がる。まずい、非常にまずい。千草が広い意味で不味い。冷や汗が垂れる、今すぐにでも自室に戻り武装の最終確認をして置かなければ。

 

「待て桜花、一人で行く気か?場所もわからないのに?・・・・・・命のスキルなら捜索は幾らか楽になる筈だ。だから少し待て。」

「でも!・・・・・・いえ、わかりました。」

 

自分の感情に任せて突っ込むなんて余りにも愚策だ、それくらいわかるのだかいても立っても居られない。だが此処は我慢だ、機を逃せば千草を救う事は出来ない。

 

「妖夢、お前ももう寝るといい。よく頑張ってくれた」

 

タケミカヅチ様が妖夢にそう言う、妖夢は俺達の中の最大戦力だ、恥ずかしながらレベルも抜かされてしまったしな、とにかく今は休んでもらわなくては。

しかし、妖夢の表情に変化は無い。・・・・・・俺にはわかった、タケミカヅチ様もわかったと思う。これでも5年間一つ屋根の下暮らしているのだから。怒り。それが妖夢の表情を支配していた。

 

「必ず救います。」

 

目が薄暗い部屋の中で不気味な程光っている。自身に向けられた殺気でないのに全身が粟立つような感覚におそわれる。・・・・・・妖夢は・・・・・・殺しも厭わないかも知れない。それは、俺達が止めなくては。

 

「妖夢。いいか、お前が手を汚す必要は無い。お前が殺すと言うなら俺が変わりに殺してやる、俺が変わりに汚れてやる。だからそう気負うな」

 

家族の為ならどんな罪でも背負う覚悟だ。俺達の絆はどんな物よりも硬い。俺はそう信じている。信じているからこそ何でも一人でやろうとする妖夢を放っておけない。

しかし――妖夢は少し俯き黙り込む。

 

「・・・・・・・・・・・・私は」

 

正座し、膝の上に置かれていた手を握りこみ、妖夢はガバッと顔を上げ、立ち上がり口を開く。

 

「私は!家族の為なら神様だって殺して見せる!」

 

な・・・・・・!・・・・・・神殺しは大罪だ、何よりも重い大罪。それをやろうってのか?!

覚悟が違い過ぎた、俺は思わずそう思う。上げられた顔はよく見れば片方の目が赤くなっている。強がりではない、本気で言っているのだと理解出来てしまう。

俺は・・・・・・背負えるだろうか、神殺しの罪を。

 

 

「よ・・・・・・妖夢・・・」

 

タケミカヅチ様が妖夢を止めようとするものの、妖夢は身を翻し部屋を出ていってしまう。その背中は薄暗い部屋の中で輝きながら蠢いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

タケに報告を終えた俺は部屋に戻る。すると命はもう寝てしまっているようだ。・・・・・・疲れたのかな、命は眠れない夜を過ごすものと思っていたけど。・・・・・・うーむ、寝れないなぁ。しかし、家を飛び出すのもタケに迷惑かけるし・・・・・・あっ!半霊あるじゃん!行ってきます!

 

『さーて、誘拐犯はどこかな?見っけたら弾幕を撃ちまくってやる。』

 

そう意気込みながら空を散歩する。

 

『いや〜空飛ぶのは気持ちいいな、ってそんな事を言ってる場合じゃねぇや。うーん、やっぱり人探しと言ったら探偵!探偵と言ったら聞き込み!よし!早速聞き込みに行くぞ!』

 

まずはどこにしようか、そう考えた俺はふよふよとロキ・ファミリアの方に飛んでいく。何故ロキファミリアなのかと言われてもこれだ!という理由は無い、なんとなくロキ・ファミリアに行こうと思っただけだ、アイズやベートを驚かすのも良いかもしれない。

 

ま、そんな余裕はないので協力してもらいたいだけなんだけどね。

 

そんなこんなでロキ・ファミリアの上空にやってきた訳ですが・・・・・・よし、突入!!

 

『ベートはどこかな〜アイズはどこかな〜♪』

 

ああ、楽しみで堪らない。千草をさらった奴の首をはねてやるぞ。早く見つけないとな、そのためには人手が必要だ。命が居れば捜索も楽になるかも・・・・・・でも命のスキルは精神状態によって大きく左右されるからなー範囲が。

 

『ん?おおここだ、スルリと抜けて・・・ボフンと参上!』

 

ベートの部屋を見つけた俺は壁をすり抜けハルプモードに変更、霊力を消費するが本体が寝ているため特に問題は無い。ハルプモードになった為、しっかりと声が出るぞ。ベットを覗けばベートが寝息を立てている。

 

『おーい、ベートー!おーきーろー!』

「んあ?誰だ?・・・・・・ウオオィオ!?!?」

 

怪訝な顔でこちらを見て1秒程後背筋と腹筋、全身のバネを使って飛び跳ね着地、一瞬にして戦闘態勢を整えたのはさすがと言えるだろう(上から目線)

 

『ウオオィオ!?!?だってプークスクス!』

 

俺がベートの真似をして笑っているとベートは落ち着きを取り戻したのかこちらをじーっと半目で見たあと溜息を着いた。

 

「ハルプテメェどうやって入って来やがった」

『ん?普通に壁抜けて来たけど?』

「それは普通じゃねぇだろ・・・ったく何の用だよ」

 

ベートが頭を掻きながら俺に用を聞いてくる。早くしようぜ。

 

『いやなに、昨日夜中に襲われてさ、千草が攫われちゃったんだ。何か知らない?そう言う事をしたりする神とかさ』

 

俺の言葉にベートは「あー・・・なるほど」と呟いた後ベットに潜り込んだ。

 

「それはてめぇらの事情だろ、俺にゃ関係ねぇ」

 

そう言って寝ようとしやがる。ゆるさん!寝るのは許さんぞぉ!俺は寝てるがお前は寝かせんっ!という訳で再び半霊モードになってベートの隣に着地、そしてハルプモードに変更!時間が惜しい、さっさと教えてくれ。

 

『なーなー、良いだろ?知ってる事を教えてくれるだけで良いんだよ。お願いベート!友達だろ?』

「ベットに入ってくんじゃねえよ!?つか誰が友達だこのガキ!」

『あっ、そう言えば伝言があったな。「この前はすみませんでした。ベートは男の人なのに目の前で服脱いでしまってごめんなさい!」だってさ。』

 

いや、俺だけどね。我ながら白々しいがそこは気にしない。

 

「今更っ!?遅いわボケ!てか別に気にしてないからな!?」

『そりゃそうだ、普通なら気にするのはコッチだしな。』

「てめっ・・・!」

 

と、賑やかに馬鹿騒ぎをしていると誰かが走ってくる音が聞こえる、ベートも聞き取っていた様で少し慌てているようださっきから「早く透明になれよ!バレるぞ!」と小声で叫ぶという器用な行為を繰り返している。ふっ、その手には乗らんよ!

 

俺はさも当然のようにベートのベットに潜り込む。ベートのベットって変な響きだな。するとドアの奥から声がする。

 

「ちょっとー?ベート五月蝿いんだけど!遠吠えは止めてくれない?」

「ああ?うるせぇ馬鹿ゾネス!!こっちは色々とめんどくせぇ事になってんだよ!」

「はぁ?何が面倒臭いってのさ、いい?入るよー!」

「はぁ!?バッ!やめろ入んな!」

「うわぁ!?な、何さ!・・・・・・なんか隠してるでしょー、ふーん、ねぇ、何隠してるの?」

「何も隠してねぇから!さっさとどっか行けよ。」

 

おおー!速いなベート、扉が開いてティオナが中を覗く瞬間を一瞬にして間合いを詰めることで防いだぞ!

 

あっ、てかティオナ達にも手伝って貰うか、その方が早く解決できそうだ、ティオナー。まずは挨拶だ、挨拶は大事、古事記にもそう書いてある。

 

『おはようございます。』ペコリ

 

俺はドアノブと壁に手をかけ中を覗かせないようにしているベートの腕の下をくぐり抜けティオナの前に躍り出る。

 

「うへぇ!?よ、妖夢ちゃん!?ベート・・・・・・なにしたの!?」

 

うん?妖夢ちゃん?・・・・・・あぁなるほど、声同じだからな、そんでもって挨拶は敬語で言ったから妖夢に思えるのも頷ける。しかも頭下げたから目が見えなかったのか。ぞじで抱ぎじめないでティオナ・・・!ぐ、ぐるじい・・・。

 

「なにもしてねぇ!!てかよく見ろ妖夢じゃねぇよ!」

「え?・・・あっ、えーっと・・・ハルル?」

『く、苦しかった。俺はハルプだって。妖夢は就寝中だ』

「あ、アハハ〜ごめん間違えちゃった」

 

 

ティオナにも、ベートと同じような説明をし、事情を聞いてもらったのだが何も知っている事はないそうだ。それはベートとも同じようで、ただそう言う神ならロキが詳しいかも知れないと教えてくれた。やっぱりなんだかんだ教えてくれるベートはツンデレだ。

 

「にしても凄いね!壁をすり抜けられるんでしょ?」

『ああ、まぁね。』

「はぁ・・・・・・なんで俺まで・・・」

 

2人に連れられ、長い螺旋階段を登ってロキの部屋の前までやってくる。

 

「ロキ〜!入っていい?・・・・・・んー、やっぱり寝てるか」

「はぁ、当たり前だろ今何時だと思ってんだ」

「んー、4時?」

「真面目に答えんな、ロキが起きるのは大抵10時以降だろ」

『ロキそんなに起きるの遅いのかよ、俺なんて年中無休だぜ?』

「そりゃスキルだからな」

『あ、でもソウル・ダウンすると寝るわ。』

「あぁ?ソウルダウンだ?」

『おう、マインド・ダウンの霊力版だよ』

「そか、霊力がねーならお前はその見た目保てないんだったか」

 

そんな会話を互いに交わしながらロキの部屋に。普段ならこんな不法侵入はしないのだが今は仕方がない、緊急事態だからな。では、お邪魔させてもらうとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウチが貴重な悦楽である睡眠を心ゆくまで堪能していると扉が開く音がした。何や、ウチの子が入って来たんか?恩恵は・・・二人やな、ベートとティオナか・・・・・・この2人がどうしてこんな時間に来たんやろうか?

 

でも起こしてくれるまではゆったりしよ、ベートとティオナの事やから昔みたいに喧嘩でもしてベソ掻きながら

ウチに審判を頼みに来たのかもな〜。

 

『おーい、ロキ?起きてるのか?』

 

んん?んんん?あれ?こんな声やったかなティオナ。・・・・・・いや、話し方はベートやから・・・あれ?もしかしてウチ夢見とるんと違う?何や、夢か〜びっくりしたわ〜。

 

『ベート、ティオナ。やっぱり寝てるよロキ』

 

んん?んんん?おかしいな、3人もおったかな?恩恵は・・・・・・2人しか居らんな、つまりウチの子じゃないっちゅう事やな?こんな時間にお客さんかいな、なんちゅう礼儀知らずな奴やねん、起きて文句を言ったろうか!

 

ウチはうっすらと目を開けまずは礼儀知らずな顔を見てやろうと行動に移したんや、でもな、そこには俺っ子なハルプたんがおったんよ。

 

「うおっ!?なんでハルプたんがこないなところに!?」

『うおっ!?ビビった!あっ、おはようございます。で、なんで抱きしめるんすかね?』

「おはようございます・・・ってちゃうねん!どうしてここに居るん?ウチと一緒に寝るか?」

 

まさかハルプたんとは思ってなかったせいで驚きの声を上げてしもうた。ハルプたんも肩をビクッってさせて驚いてたな、ウシシ、可愛ええやないか、そう思って抱きしめ頬をスリスリする。一緒に寝よ!そして結婚しよや!

 

『また今度な、今は緊急事態なんだ。』

 

微笑みながらのまさかのOK、ウチは嬉しさの余りガッツポーズを取りながら天井を見つめる!ん、で?緊急事態って、何のことや?

 

視線で話の続きを促すとハルプたんは真剣な顔になる、よく見れば殺気すら発っしてるな。

 

『昨晩、俺達が歩いていた時に謎の集団に襲われちゃってな。千草が攫われたんだ』

 

ハルプたんは眉間にシワを寄せながらそう言った。確か千草って子は前髪を下ろしていた子やと思う。絶対に前髪を上げたら可愛いとウチは断言するで。

 

・・・・・・にしても、遂に我慢の限界か。ま、フレイヤの所のオラリオ最強が頑張ったお陰で随分と長く持ってくれたが・・・・・・。取り敢えず敵方の最大レベルに妖夢たんは並んだ訳やし・・・ウチらは手伝う必要は無いな。

 

考え込むウチの内心を見抜いたかのようにハルプたんは口を開く。

 

『情報だけでも良いんだロキ、どこのファミリアが襲ってきのかとか知らないか?』

 

「・・・・・・ウチやって神、面白いことは大好きや。だからこそ、このおもろい情報はタダでは渡せん・・・・・・そうやなぁ、なんかと交換と行こうや」

 

きっとそれはとびきりな秘密を教えてくれるはず、ウチはほくそ笑みながら返答を待つ、するとほとんど待たずに返答が来た。

 

『わかった。じゃあ、そうだな・・・・・・・・今はダメだが俺を好きに使っていいぞ?ハッ!お触りは駄目だからな!』

「乗った!秘密とかどうでもええわ!さぁ!早く隣おいで!」

『今はダメって言っただろ!?』

 

ヤッター!やっぱり妖夢たんもハルプたんも最高やわ!顔を赤くしてカワエエ!ベットの横をバンバンと叩くがハルプたんは来てくれへん、なんやケチぃ。別にええやないか!ま、仕方ない、少しの間楽しみに待つとしよか。1日ウチの専属メイドにしたるわー!

 

「じゃあ教えたる、・・・・・・・・・エロスや」

 

ウチは人差し指を立て、ハルプたんに顔をさりげなく近づけて答えを教えたげる。エロス・ファミリアに行けば直ぐに千草たんともあえるやろ。にしてもアイツも馬鹿なやっちゃなあ・・・・・・性癖が異常な子の地位を上げる事でまともな子が苦悩する姿が面白い、なんてやってる内に自分が感化されてロリコンになるとか・・・。愛の神の癖して愛が捻くれ曲がって横道にそれてんねんな。

 

『エロス・・・・・・エロースか・・・・・・ありがとうロキ、この恩は必ず。』

 

エロスの奴の名を少しくり返し、ビシッとお辞儀をするハルプたん。よくエロースなんて知っとったなぁ、もう結構古い書物にしか書いてへんでエロースなんて、オラリオに来てから「エロースまじエロスwww」とかほかの神々から弄られてる内に一般的な呼び方がエロスになってもうたし本人も気に入ってるからなぁ。博識なんやね。

 

『では、失礼しました。・・・じゃあなベート、ティオナ』

 

ボフンと言う音と共に白い球体になり白い尻尾を引きながら壁に消えていったハルプたん。

 

「じゃあなー!今度は一緒に寝よーなー!」

 

むふふ、これは一波乱あるで〜!この恩は必ず、の所の目!あれは確実に何人か殺しそうやなぁ、おぉ怖っ!いゃぁ、楽しみになって来た!よっしっ!寝よ!

 

「んじゃお休みな〜」

 

でもな、ハルプたん。神は1人や無いで。

 




最初の千草のシーンだけ時間軸が少し違います、わかりずらかったらごめんなさい!

【ベート】

U ̄ー ̄U「寝ていたら隣にガキが寝ていた、何を言ってるかわからねぇと思うが俺も何が起きたのかわからなかった。」

ティオネ「・・・・・・へぇ?そういう趣味だったのね。」
ティオナ「・・・・・・怖い、もしかして噂に聞くHENTAI?」

(U´^ω^`U#)「このバカゾネスども・・・・・・!!」

ティオネ「いいアイズ、あれが《狼》よ。幼気な少女を襲う獣」
アイズ「そういうのは・・・いけない事だと、おもう。めっ!」

(∪︎×ω×∪︎)「・・・・・・・・・もう勝手にしろよ(泣)」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話「答えて下さい。敵か、味方か。」

ストックが無ければ即死だった。くそう、リアルが忙しくて(ゲーム)執筆時間がガガガ!




俺が朝目を覚まし、居間へ向かうと妖夢とタケミカヅチ様が何やら話し込んでいた。聞き耳を立てることになってしまうがその雰囲気から俺は中に踏み込めない。

 

「敵がわかりました。エロス。それが今回の敵方の神の様です。」

 

妖夢が誰かを明確に「敵」と表現するのを聞いたのは初めてだった。それ程に妖夢は怒り、憤っているんだろう。それは俺も同じだが、俺は団長だ。こういう時こそ冷静にならなければ。

 

意を決して居間に入る。

 

「「おはよう(ございます)桜花」」

 

タケミカヅチ様と妖夢がこちらを向き同時に挨拶をしてくる。もちろん俺もそれに返し、空いている座布団の上に座る。

 

「妖夢、ソイツのファミリアが千草を攫ったのか?」

 

俺の言葉に妖夢は頷き、タケミカヅチ様が眉をしかめて腕を組む。タケミカヅチ様の様子に妖夢が少しばかり苛立ちを見せる。また、珍しいものを見た。

 

「今すぐにでも仕掛けるべきですっ」

 

妖夢はもう我慢の限界の様だ。だが妖夢もタケミカヅチ様の子なら昼間から攻めるのは得策ではない事を知っている筈。個人の技量が向こうを上回っていたとしても、先の闇討ちの様に数で押されては敵わない。

 

「妖夢、落ち着いてくれ。俺だって千草を助けたいが、それは今じゃない。」

「今です!今動かなくては何が起こるかわかりません!」

 

こちらの説得も妖夢の気持ちを変えるには至らない。いや、白楼剣を使ってさっさと決心しない程度には理性も残っているのだろうか。

俺は頭を掻き毟る。エロス・ファミリアの等級はDだ、対して俺達タケミカヅチ・ファミリアの等級は妖夢がレベル3になった事でE。こちらには俺、命、千草、妖夢、猿師さん、純鈴さんの6人しか団員が居ない、猿師さんの所の奥さんやお婆さんはアマテラス・ファミリアのままだ。

対してエロス・ファミリアは団員が40を越える。純鈴さんは戦闘が得意ではないから戦えない・・・・・・。

 

妖夢やタケミカヅチ様は目を瞑って考え事をしている様だ、きっと戦力云々に関してはとっくに気がついてるだろう。

 

「・・・・・・闇夜に乗じるしか無いでごザルな。」

 

不意に上から聞きなれた声がしたので上を見てみると天井の板を外し、猿師さんが顔だけ出していた。

 

「ネズミも間者も居ない綺麗な天井裏でござった。」

 

ツッコミを入れようかと思ったがその一言で思いとどまる、猿師さんなりに警戒してくれているんだろう。

 

「ありがとう猿師、・・・闇夜に乗じる、か。」

 

タケミカヅチ様はそうつぶやいた後、暫く唸るように考え込み、ようやく答えを出した。

 

「とりあえず情報が足りないな、俺と桜花はギルドに、妖夢は手分けして知り合いを訪ねてみてくれ。猿師は全員分の紺色の装束を準備してくれ。出来るなら鎖帷子も欲しい。」

「はい!」

「わかりました。」

「了解でごザルよ」

 

よし、行動開始だ。まずはタケミカヅチ様と共にギルドに向かおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おすおす、俺っす。タケに特攻を許可されなかったぜぃ。戦いとかになると急に冷静になるんですからあの人は。

 

にしても命起きねぇな、普段ならとっくに起きてるのに。起こしてやるか。

 

「命ー、朝ですよー。」

 

呼び掛けるが身じろぎ一つしない命。んん?反応が無いぞ?・・・・・・チッ。

 

掛け布団をバっと放り中を見ればそこには命の私物やらが山となっている。

1人だけで突撃してしまったようだ。面倒臭いな、コレは。半霊で探すしかないか〜。

 

半霊を飛ばし、命捜索に当たらせる。

 

俺は徒歩(全力疾走)で、そうだなぁ、ミアハのところにでも向かってみるか?

 

そう考え走って中央通りを抜けようとすると。

 

「あ!妖夢だニャ!こっち来るニャー!」

 

と誰かが俺を呼ぶ声がする。人混みをすり抜けるように走っていた俺は立ち止まりあたりを見渡す。しかし残念かな、いや、無念と言っておこう。俺の背は低い。周りには大人の冒険者達がダンジョンに向かって歩いている為視界は最悪だ。

 

恐らくだがあの特徴的な声や語尾からしてアーニャと推測するが、豊穣の女主人はこっちの方角だからこっちかな?

 

人波に抗い、時に人の股をくぐり抜け、何とか豊穣の女主人に到着する。するとアーニャが膝を折り曲げ視線を合わせてくる。

 

「おっすニャー。今時間あるかニャ?」

 

時間的な余裕はあるが、精神的には余裕は無い。だけど聞き込みが俺の担当である以上酒場の店員達の情報網を頼るのも悪くは無い、それどころか一気にいい情報を得られるかもしれない。そう考えた俺は二つ返事で了承し、アーニャについて店の中に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

微笑みを浮かべるのは優男。その真正面には水色の髪の女性。ヘルメスとアスフィだ。彼等はここ、豊穣の女主人でとある情報収集に乗じていた。

ギルドからの手紙にはギルド職員が攫われてしまったこと、それと攫われたギルド職員の名前や外見的特徴などが記されていた。要するにヘルメス達のミッションはジジ・ルーシャの救出だ。そして、まずは情報収集に、とヘルメス達は此処を訪れたのだ。

 

夜は酒場に早変わりするこの店も、今はお洒落な喫茶店だ、厳つい冒険者達の姿は見受けられない。いるのは精精少し裕福な一般人程度だろうか、若い女性が多くこの店の戦略がしっかりと客を捕まえていることが伺えた。

 

談笑する高めの声が店の中を飛び回る。話題は「冒険者の誰々様がカッコイイよね!」等のやはりこの店に来るような若い年頃な話が多い。

 

それにしてもとヘルメスは思う。

 

「(アスフィ・・・・・・だいぶ疲れてるようだな)」

 

「どうかしましたか?」

 

アスフィの顔を見つめていたヘルメスにアスフィは少し首を傾げながら聞いてくる。そんなアスフィは目の下にやはり隈ができ、その端整な顔立ちを曇らせている。オラリオに帰ってきてから少し経ち、色々な手続きも終わり、余裕は戻ってきているもののこうしてまた新たに事件が発生し、その余裕も失われた。

 

「いや、やっぱり綺麗だな〜ってね」

「はぁ」

 

「(ギルド職員の誘拐・・・・・・全く、何故踏みとどまれ無いかなぁ)」

 

ギルドとは中立に位置する立場である、どのファミリアにも近過ぎず、遠すぎずを維持し、ダンジョンを監視する巨大な組織。

 

そう、巨大な組織なのだ。ギルドとは言わば人々の生命線であり、それが無くなれば物流は滞り、モンスターが跋扈し、人類の生存が危うくなる。ヘルメス・ファミリアなどの様々な職種に手を伸ばす者達でも無い限り、ギルドが無くなれば生活は危うくなるだろう。魔石を還元するのもギルド、ダンジョンを封じるのもギルド、街の治安維持もギルド。ギルドとはこのオラリオの中心なのだ。

 

では、そんなオラリオの心臓たるギルドの血液たる職員が攫われたとなればギルドが騒がない筈が無い。故に、ギルドから信頼を置かれる彼らに依頼が来たのだ、ギルド職員を取り戻す、その為に彼等はここにいる。

 

とはいえ、実は既に此処での情報収集は終わっており、帰ろうとした所を店主であるミアに「冷やかしかい?」と凄味のある笑顔で問われてしまい、疲れているだろうアスフィに甘いものをと少し休憩していたのだ。

 

「お一人様ご来店にゃ〜〜!」

 

そんな時、店員のアーニャが元気な声で店に入ってくる、コツコツと木の床を叩く軽快なリズムが彼女がご機嫌であることを表している。

 

「ヘルメス様、さっき話に出てた妖夢が居たから連れてきたニャ!」

 

アーニャがヘルメス達の方へ向き、そう言って入口の方を指さす。ヘルメスは一瞬だけ顔を険しくしかけたがすぐに微笑みに戻す。攫われたのは妖夢の担当アドバイザー。その部分を恐らく聞いていたのだろうアーニャはヘルメスが頼んだ訳でもないのに妖夢を目ざとく探し出し、連れてきたのだ。

 

ヘルメスは帽子を少しかぶり直してアスフィの方を少し見る。アスフィは入口の方を向き、硬直していた。否、警戒をしていた。

 

コトン。小さな軽い足音が店内に響いたと同時に、店内は静寂に包まれる。魔力とも違う、不思議な力が圧力をかけるかのように店内を制圧する。

 

ヘルメスは入口に立つ人物をその視界に収める為に首をそちらに向けようとして――――――――首に冷たさを感じた。

 

「私を探していた、そう聞こえましたが?」

 

ピッタリとヘルメスの首には白い刀が押し当てられている。血が出ない絶妙な力加減だ。ヘルメスは冷や汗を垂らしながら思う。

 

「(あれー?おかしいな、アスフィから聞いた話しと全然違うんだけど)」

「答えて下さい。敵か、味方か。」

「(おいおいアスフィ?助けてくれよ〜)」

 

カチャリと刀が鳴る、しかしそれはヘルメスに押し当てられている白い刀では無い。

 

「くっ・・・・・・!」

 

アスフィの首にも又、刀が押し当てられている、こっちは黒だ。アスフィは動けない。それがわかったヘルメスはとりあえず誤解を解く為に口を開く事にした。

 

「お、おいおい。俺は敵じゃないぜ?それに君だって攫われた人を探してるんだろ?」

 

やや引きっつた表情で両手を顔の位置まで上げて無抵抗をアピールする。ヘルメスは妖夢の行動を見て、恐らく彼女もこの事件を追っていると当たりをつけたのだ。そしてそれは見事、的中している。

 

空間を圧迫していた霊力は薄まり消えて、首に当てられていた刀は鞘に音を立てずに収まる。誰の物とも解らない安堵の溜息が漏れる。それに続き椅子の引かれる音がして、ヘルメスの対面のイスに妖夢が座る。

 

「味方でしたか、すみません。危うく斬って捨てる所でした。所でエロス・ファミリアについて、何か知っている事は有りませんか?」

 

今でも危ういです、内心そう思うヘルメスだったがエロス・ファミリアの名前が出た事で真面目な顔になる。アスフィも同様だ。

 

「なぜ、エロス・ファミリアについて聞くのです?」

 

アスフィが妖夢に聞く。恐らくジジ・ルーシャを探しているのだとは思うが聞いてみるに越したことは無い、そう思ったのだろう。

 

「千草が・・・・・・家族が囚われているからです。」

「なに?あぁ!そういう事か・・・・・・!」

 

ヘルメスはへなへなと机に倒れ込み、頭を押さえる、彼の中で今回の事件が一つに繋がったのだ。

 

「あんのロリコン神達め・・・・・・!」

 

攫われたのはジジだけでは無い、中央通りの花屋のおばさん等の一般人等も含まれる。しかし、それらは全て妖夢と一定以上の親しい関係の者達なのだ。

 

攫われた人々の年齢外見性別がてんでバラバラだった為になかなか核心に到れなかったが、そこに妖夢と言うピースをはめ込めば全ては繋がった。つまり、大きな獲物を釣るために、大量の餌を用意しようということなのだろう。

 

「何か知っているんですか?」

 

前のめりになり聞いてくる妖夢、その目は確かな決意と期待にみちている。

 

「あー、実は攫われたのはその千草って娘だけじゃない」

「・・・・・・」

「君の担当のジジ・ルーシャ、花屋の店員、防具屋の店番をたのまれていた少年とか、そんな人達だ。・・・・・・俺の予想だと君の知り合いだよね?」

 

はい。そう答えた妖夢の眉間には皺がより、少しだけ落ち着きが無くなる。助けにいきたがっている、誰が見てもわかるほど、先程とは違い狼狽している。

 

「何があったのかな?教えてくれるかい?っと、こんな所でする話じゃないか、場所を変えよう。アスフィ何処か良いところを知らないかい?」

「ギルドの話しならばギルドが一番なのでは?」

「それもそうか。よし、妖夢ちゃん、ギルドに向かおう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここも・・・・・・違う。

 

私はオラリオを走り回る。私のスキル【八咫白鳥(ヤタノシロガラス)】は同じ恩恵をその背中に持つ者を感知するスキル・・・・・・その効果範囲は本人の、つまりは私の精神状態などが大きく関わって来る。

 

今の私はどんなに贔屓目に見ても落ち着いてるとは言えない。効果範囲は狭いだろう、でもそれでもいい、手当り次第調べていけば良いのだから。

 

ステイタスによる補正を受けている私の肉体は一般人に比べるととても強靭だ、勿論、タケミカヅチ様の子である以上、恩恵など無くても一般人を超えると自負している。

 

それでも、疲れはジワジワと私を追いかけてくる、いや、追いかけてくるのは疲れだけではないようで、不安、焦り。そう言った物が私をはやし立てる。

 

「早く、早く見つけなくては」

 

不眠により集中力は著しく落ち込み、けれどそれを気力でカバーする。石畳を蹴り、ひたすらに探し回る。

ふと思う、妖夢殿達は何をしているのか、やはり私の様に探し回っているのか、それとも作戦を練っているのか。・・・・・・後者だと思う、タケミカヅチ様はこういう時、冷静になれるお方だから。きっと桜花殿も妖夢殿も焦燥を感じながらも冷静に判断を下そうと頑張っているいのだと思う。

 

そう思うと申し訳なくなる、でも、ここで動かなければ駄目なのです、冷静な判断が出来ていないことは百も承知、でも、それでも私は動かなければ。

きっと私が残っても喚き散らしてしまうに違いない、私は頑固とよく言われるから。

 

うまく回らない思考の中、突然、反応を捉える。同じファミリアの仲間、その反応を。

 

目の前には小さくも豪華な門がでんと構え、石で出来た巨大な建築物が。それは中世の砦に似た外見で、しかし、城壁が無い簡素な建物だ。

 

「・・・此処に・・・・・・千草殿がッ・・・・・・!!」

 

体中を支配する物があった。そしてそれを私は知っている。憤怒、それが沸き上がってくる。

 

―――戦う時は常に冷静になれ、怒りは力を強くするが技のキレを鈍らせる。

 

タケミカヅチ様との訓練、その時の一言を思い出す、冷静にならねば。そう思うほど怒りは強くなっていく。

 

「千草殿ッ!助けに来ました!」

 

気が付けば私はドアを蹴破っていた。ドアが大きな音を立て吹き飛び、酒場のようになっていたホールの真ん中にぶち当たる。

 

どよめきが起きる中私は素早く敵勢力の確認を済ませる。

 

「(1――5――9―12!)」

 

12人の冒険者がこちらを目を見開いて立ち尽くす中、その場に千草殿がいない事を確認し、抜刀。切っ先を敵方に向け、宣言する。

 

「私の名はヤマト・命!千草殿は返して頂くッ!」

 

相手が武器を抜いた瞬間腰を落とし、切っ先を敵に向けたまま顔近くまで刀を上げ構える。特殊な歩法は用意ず、突撃する。

 

「牙突一式ッ!」

 

金属で補強された革の盾を容易く突き破り、敵の腹を穿つ。これで1人!振り向きざまに袈裟斬りを放ち、さらに身を翻して逆袈裟斬りを放つ。振るわれた凶刃は2人の男を肩から腹から切り裂き地に伏せる。

 

うめき声をあげながら倒れる男達を意識の外に置き、戦える者達を睨みつける。

 

「――――次は、どなたですか?」

 

私の問に答える者はない、瞬く間に3人の仲間を倒された相手はどうやら怯んでいる様だ、それを見た私は畳み掛けようとするものの。奥の扉が開き、そこから答えが帰ってくる。

 

「ふむ、ならば自分がお相手仕ろうか。」

 

低い声を発したのは灰色の髪をした、顔に大きな傷をおった隻眼の大男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドに到着した俺達はカウンターに押しかけ、そして上に話を通してもらい、割と待たされてから奥の部屋に案内された。

 

「どうもタケミカヅチ様、私はロイマン、ロイマン・マルディールです。お待たせして申し訳ありません」

 

手をコネコネしながらロイマンに進められるがまま豪華なソファに腰掛ける。

 

「で、お話し、との事でしたが・・・・・・無論、誘拐事件の事ですな?」

「ああそうだ、何か知っていることはないか?」

 

ロイマンは難しそうな顔をしながら腹を摩り、悩ましそうに答える。

 

「うーむ、千草と言う少女については何も知りませんが・・・・・・攫われたのは魂魄妖夢の担当アドバイザーや中央道りの人々など、年齢も性別もバラバラである事はわかっております。それと、恐らくは複数のファミリアの犯行かと・・・・・・現在ヘルメス様に捜査を依頼しております」

 

げぇっ!?ヘルメスだと?!・・・・・・まぁ、確かにそういうことに関しては腕は確かだが・・・・・・。ん?待てよ?複数のファミリアの犯行?妖夢のアドバイザー?・・・・・・狙いは千草じゃなくて妖夢だったか、いや、両方と言う可能性もある。

 

「エロスファミリアだけでは無いのか・・・・・・。」

 

桜花が顎に手を添えながら考え込んでいる、全員を救う為にはやはり数が足りないかもしれない、もしエロスの拠点に千草が居なければ奇襲した所で意味は無い、報告を受けた共同犯の守備が固くなるだけだ。ヘルメスの奴と協力するのは余りやりたくないが、目的が同じ以上は協力するしかないか。

 

「他には何か?」

「いえ、現在は捜査中です。報告があり次第お伝えしましょうか?」

「ああ、お願いする。」

 

その後は何やら媚を売られたりした、恐らく猿師の丸薬が市場に出回り、経営が落ち着いたからだと思うが・・・。

 

そうしていると職員がドアをノックし入ってくる。

 

「失礼いたします。ヘルメス様がお見えです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっす俺だよ。現在はギルドでタケと桜花と合流して情報交換をしようとしているところだな。

 

「タケ、そっちはどうでしたか?」

「千草に関する物は無かったが、妖夢のアドバイザーも攫われたらしい。」

 

どうやらタケもジジについては聞いているみたいだ。

 

「多分だが・・・・・・妖夢、お前を誘い出すための餌として、な。」

 

桜花が眉間に皺を寄せながら腕を組んで悩ましげに唸る。

 

「あれ?これもしかして俺達要らなかったんじゃないかい?」

「ヘルメスは黙ってろ。あ、やっぱり知ってる事は全部吐いてもらうぞ」

「アスフィ、なんか俺だけ扱い酷くない?」

「気のせいだと思いますが?」

 

ごめんなヘルメス、今は構ってられないからさ。で、早く情報を教えてくれよ。

 

「命はどうしたんだ?てっきり妖夢と一緒に行動してると思っていたが」

 

桜花が命がいない事を不思議に思ったらしい、表情が険しいから多分可能性に至っていると思う。

 

「命は今私が探しています。」

「・・・・・・そうか、わかった。」

 

後で桜花には胃薬を送ってやろう、猿特製の奴。

 

「ん?妖夢ちゃん、こんな所で話し込んでいていいのかい?その命って子を探しに行かなくても?」

 

うん?だから探してるって。ってああそうか、半霊知らないのかヘルメス達は。って視界に捉えたか、命は・・・・・・ふぇ!?戦ってるよ・・・・・・あの子はもう・・・。取り敢えずタケ達に伝えなくちゃ。

 

「探しています、というか今まさに見つけました。」

「?」

 

不思議そうにするアスフィとヘルメスを尻目にタケ達は表情が険しくなる。

 

「命は今――――単騎特攻を仕掛けています。」

 

タケと桜花が目を見開く。そして頭を抑えた、それも同時に。親に似るってのこういう事なのかね。

 

「まじかよ・・・・・、警戒が強くなる・・・いや、妖夢を誘い出す餌だとするならどの道変わらないか」

 

・・・・・・まじかよ・・・オラリオ腐ってんなぁ・・・・・・。命止めなきゃ警戒が強く・・・いやもう戦ってるし意味無いか

、トホホ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんぬっ!」

 

隻眼の大男、名をキュクロ。大剣の二刀流と重装鎧と言う此処オラリオでは珍しい戦闘スタイルの重戦士だ。

そして、レベルは3。【隻眼巨神(サイクロプス)】の二つ名を持つ割と有名な男だ。

 

「うぐッ!?」

 

彼の放った大剣の横凪を屈んで避けた命は流れる様に続いた回し蹴りを腹に受け、自分が蹴破った扉を越えて外に転がり出る。

 

「なっ・・・・・・!」

 

辺りを見渡すと数十人の完全に武装した男達が。命は素早く立ち上がり刀を構える。

 

「悪いな。主神の(めい)であるゆえ、此処を通す訳には行かん」

 

右の大剣を肩に担ぎ、もう片方の切っ先を命に向け、キュクロは立ち塞がる。

 

「貴方は・・・・・・貴方方は何がしたい・・・・・・。なぜ、千草殿を攫うのですか」

 

命の睨みながらの問いかけになんら動じることも無く、キュクロは語る。

 

「知らぬ。知る必要も無い。自らの役目は貴様らをここより先に通さぬ事、時間を稼ぐ事。」

 

故に語ろう、そう言ってキュクロは昔話を始める、しかし、そこに一瞬たりとも隙は見いだせず、命は周囲の冒険者を警戒するしかない。

 

「我が主神、エロス様は自分を拾い下さった恩神だ。病により片眼が腐り落ち、最早死するまで残り僅かとなった時、かの御仁は現れた。持てる技術全てを使い、自分を救ったのだ。」

 

だからこそ、かの御仁が如何なる目的を持とうとも、従い、その剣となるのが我が喜びにして生き様。そう語るキュクロの目は命の目を睨みつける。

 

「貴女も武人と見受ける。尋常な果し合いは出来ぬが、理解して貰いたい。」

 

キュクロは頭を下げる、その思いが命には理解出来た。例えばタケミカヅチ様が何かをしろと言うのならきっと何に変えても私達は行動に移すのだろうと。だが、それでは千草はどうなるのだ。

 

命は構える、家族に降った不条理を切り裂くために。キュクロも構えた、大剣に自らが崇める神への恩義を乗せて。

 

「「いざ、参るッ!」」

 




【???】

(´^o^`)デュフフコポォ オウフドプフォ フォカヌポウ「いやぁwww遂に拙者のファミリアの大将が現れたでござるなwww」

v( (゜) ▽(゜) )vイイッ!もっと殴ってッ!「ククク・・・まだ吾輩の動く時ではない。」

( ▔・ω・▔ )俺だけ特徴がない「てめぇ強くないだろ、それよか俺達の団長の方が強いだろ、常識的に考えて。女だしな、団長」

(´^o^`)v( (゜) ▽(゜) )v
「なん・・・・・・・・・だと?」


【団長】

エロス→キュクロ
???→???
???→???

特殊部隊の神は4人だが、内ひとりはレベル3以上の冒険者が居ないため、さんかしていない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話『若奥様とかどう?』

遅れてごめんなさいっ!インフルエンザ治りやした!そしてストックも回復だ!

今回はセリフが多いです。過去最高に多い。そして変態だ(泣)

神様好きの人には申し訳ない内容となっています。先に誤っておきますね、許してヒヤシンス。



ギルドの一角、ギルドによって用意されている防音が施されたこの一室で俺達は話し合っていた。

 

「タケ、どうしますか?」

 

真剣な表情でタケミカヅチ様に問う妖夢、タケミカヅチ様はため息をついた後、妖夢の目を見つめ返す。

 

「敵の数は?」

「外に20。囲まれています。」

 

その雰囲気から何らかのスキルによるものと当たりをつけたのか、ヘルメス様とアスフィさんも真剣な表情になった。

 

「敵の武装は」

「剣槍弓盾・・・鎧も全部バラバラです」

「そりゃそうか・・・・・・冒険者だもんなぁ・・・・・・状況は?」

 

マジか、と俺は頭を抱えたくなる。こんな真昼間にそんなに残っているのかと。普通ならこの時間帯はダンジョンの中でモンスターと戯れている筈なんだけどな。攻めるなら早朝か真昼間か真夜中が良いと俺は踏んでいたんだが・・・・・・猿師さんはここまで読んで夜襲を勧めたのだろうか?

 

「状況を見るに恐らくは待ち伏せですね、私達が来るのを待っていたのでしょう。・・・あっ!今戦闘が始まりました!・・・上手い・・・命が押されている・・・・・・」

 

命が押されている?じゃあ団長が相手なのか?たしかエロスファミリアの団長って・・・

 

「なぁ妖夢ちゃん、相手の武装は無骨な大剣二刀流だったりするかい?」

 

ヘルメス様の言葉に妖夢はキョトンとした後頷く。ヘルメス様は帽子を軽く押さえつけ、真剣な声色で説明を始めた。

 

「やっぱりか・・・・・・彼の二つ名は単眼巨神(サイクロプス)、ダンジョンで取れる希少鉱石を惜しげも無く使った重装鎧と大剣を操る重戦士さ。それに・・・・・・魔法がえげつないと神々の間では有名だよ」

 

ヘルメス様の言葉で俺の記憶はしっかりとキュクロを思い出させる。たしかその魔法は相手のステイタスを下げる効果があったはずだ、他にも何か効果があるらしいが秘匿されている。

 

「そうなんですかタケ?」

「あぁ・・・・・・下手を撃てば一級冒険者ですら苦戦を強いられるぞ。絶対に魔法を使わせたら駄目だ。」

 

タケミカヅチ様の言葉に俺も妖夢も気を引き締める。

 

「・・・タケ、命が危険です。助けに行きましょう」

 

妖夢が目を瞑り集中し、命現状を報告してくる。現在妖夢はタケミカヅチ様からのゴーサインを待っているのだろう。しかし、今助けに行くのは無理だ。何せ複数のファミリアが絡んでると思われる現状、派手に動くのは不味い。警戒を強められたら夜襲すら意味をなくす。

 

「妖夢、今回の事件は複数のファミリアが絡んでいるんだ、派手に動くわけには行かない。・・・・・・そうだな、ハルプを使って命の救出を試みてくれないか?」

 

ハルプなら殺られたとしてもこちらに何のデメリットもない、と言うか死なないしな。囮、偵察、殿、何を任せても平気な便利な奴だ。とは言えそれも妖夢本人の体である以上余り捨て駒のように使うのは頂けない。だが状況が状況だ。使えるものは何でも使ってやる。

 

「了解です桜花。タケ、いいですよね?」

「あぁ。命まで奪われるわけには行かない」

 

それに、と俺は思う。命の魔法、フツノミタマは対人戦で切り札になり得るほどの魔法だ、詠唱が長い以上発動できるかが勝負の鍵となる、・・・家族であると同時に貴重な戦力だ。千草を助ける為にも失う訳にはいかないだろう。

 

「では、意識の殆どを移すので体は任せますね」

「ん?それはどういう事だい?遠くから物をみるとかそういうスキルじゃないのかい?」

「全くお前は・・・人のスキルとかステイタスを詮索するんじゃない!」

「あれ?・・・なんだか平気そうですよ?」

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

2本の大剣による暴風が吹き荒れる。路面を整えるタイルが捲れ吹き飛び、時間と共に累積された砂が巻き上がる。スキルによって強化されたレベル3最高峰の筋力ステイタスが織り成す破壊の嵐は周辺を更地に変えんばかりだ。

しかし、そんな嵐をギリギリで凌ぐ少女、命は必死になって攻撃を凌ぎ続けていた。攻撃を凌ぐ最中、命は探し続けていた。「台風の目」を。

台風には目がある、それは唯一の安全地帯、雨に降られず、空は澄み渡る。そんな台風の目を探していたのだ。

 

「(このままでは・・・!私は何も・・・できない!)」

 

しかし、台風の目は見つかることは無い、なぜなら台風の目とは嵐の中心に存在し、その中心にあるのはキュクロただ1人。安全地帯は存在しなかった。

 

2振りの大剣の連撃は命を見事に牽制し、ステイタスの差は命に防戦以外の選択肢を与えない。

 

「ぐっ・・・!」

 

攻撃を防ぐ度に命の愛剣は悲鳴と共に火花を散らし、耐久度を失っていく。キュクロの攻撃を受け止め防ぐのでは無く、往なし、逸らす事で防ぐ技量の高さはあるものの、やられてしまうのは時間の問題だろう。

 

「ふんっ!」

 

右の大剣の振り下ろしを左に小さく飛び跳ねることで躱し、左の大剣の横薙ぎを刀を斜めに構える事で往なす。普段ならば、ここで返す刀で斬る所なのだが、レベルが高い冒険者とは恐ろしいもので、先程振った左の大剣が既に命に向けて振るわれているのである。それを屈んで回避すると待っているのは蹴り、体を後ろに思い切り倒し蹴りを躱せば、身をひねった両手の大剣による切り上げが迫る。

 

しかし、命は原作とは違い、新たなスキルを得ている。そのため、体を後ろに倒しているがために見えない筈の大剣を・・・・・・直感的に知覚し、刀で受ける。

 

「ぐうぅ!」

 

キーン、と甲高い音を立て、刀が後方に飛んでいく。刀を見送っていた目がキュクロを再び捉える時には既に大剣が眼前に迫っていた。しかし、それは慣性を無視するかのように命の首元で止まり、剣圧による風が命の髪を靡かせる。それに続き低い声が耳に届く。

 

「太刀筋、体さばき、感のよさ。なるほど、確かに強者だ。しかし・・・如何せんこのステイタスとは邪な物だ、生命を救われたとは言え、それだけで勝負がついてしまうなど。」

 

戦いに勝ち、しかし何故か悔しそうにキュクロは失った片目を撫で唸る。

 

「無粋な物ではあるが、元より尋常な勝負ではない、主神の命を守る為には必要な物だ、自分は貴方を通す事は出来ぬ、故に退け。ここで折るには惜しい剣だ。」

 

キュクロは何処までも武人であった。彼に命じられた命令は「誰もここから先に通さない事」だ、しかし、彼は気が付いている。誰よりも主神に信仰を捧げ、誰よりも主神の為にと身を粉にして働いたのだから。

 

エロスの目的、それは主神の目についた何者かを誘い出すことであると。しかし、キュクロに命じられたのは通さぬ事。エロスは昔ほどキュクロを愛して等いないのだ、それに気がついて尚、彼は主神の為にと剣をとる。

 

恩義に報いるため、忠を尽くすため。

 

故に死ぬまで、戦う術を失うまで、彼、キュクロは戦うだろう。それが彼の生きる理由であり、活力となるのだから。例え、それが捨て駒の役割だとしても。

 

「我が生命・・・全て、捧げます。それが、如何なる行いの為であっても。」

 

 

 

 

 

 

 

 

私は・・・・・・1人でホームに向かって歩いている。そう、1人で。

 

私には千草殿を救う事は出来なかった、情をかけられ見逃されたが結局の所私は馬鹿なのだと思う。

 

私のせいで更に警戒が強くなってしまうかもしれない。タケミカヅチ様が恐らくは立てているであろう計画に支障をきたすかもしれない。

 

思い上がり過ぎたのだと、そう、認識させられた。私の力では、私の想いでは、彼の恩義の剣を越えることは出来なかった。

 

『なぁ、大丈夫か?』

「うわぁ!?」

 

唐突に横から響いた声に思わず驚きの声を上げてしまう。そこにいたのは、妖夢・・・ハルプ殿だった、昔はハルプ殿の状態でも普通に妖夢殿とお呼びしていた為に今でもよく間違える。

 

「平気・・・・・・です」

 

本当は泣き喚きたいほどだ、千草殿を救えぬこの身の未熟さを嘆き、結果として更に救える可能性を減らした頑固な頭を掻きむしりたい。

 

『そうか。』

 

それだけ言って、ハルプ殿は私の隣を歩く。何があったか聞かないのだろうか?少なくとも、叱られると思っていたのに。

 

『何も言わなくても良いぞ。見てたからな』

 

両手を頭の後ろで組み、空を見ながらハルプ殿はそういった。その言葉に私は思わず顔を背けたくなる。恐らく、ハルプ殿、妖夢殿は私の想いを汲んで見守る事にしたのだと思う。昨日の私の言葉も関係しているのだろう。そう、理解し、恥じらいが私を襲う。

 

「何も・・・・・・出来ませんでした・・・」

 

拳を強く握りしめる。何度もエロス・ファミリアの方を向き、歯を食いしばる。

すると、私の頭に少しヒンヤリとした手が乗せられる。

 

『あー・・・まぁ・・・なんだ?まだチャンスはあるんだし今度は一緒に助けに行こうぜ?1人じゃ出来ないことも人数増えれば出来るだろうしな』

 

私の頭を撫でながら気恥しいのかそっぽを向くハルプ殿。身長が私よりも低いので手を伸ばして頭を撫でるのが微笑ましい。銀色の毛並みの小動物は居ただろうか?

 

『おい、なんだその小動物を見るかのような目はっ。俺が小さいんじゃない、命がデカイんだ!』

 

撫でていた頭から手を離し、地団駄を踏みながら講義するハルプ殿。その姿にほんの少し癒される。

 

『うぉ!?お、おい・・・。あーもう・・・好きにしろぉ・・・全く・・・』

 

気が付くと私はハルプ殿を抱きしめていた。悔しくて涙が出てしまった。妖夢殿だって本当は、桜花殿だって本当は私の様に突撃しようとしたに違いない、だって皆そういう人達だから。武神の子でありながら、割と向う見ずで、情に弱くて・・・。

 

自分勝手な私に腹が立ち、悲しくなり、許せなくなる。

 

『まぁ、何にせよ、命まで連れて行かれなくて安心したよ。』

 

けれど、こうして私を想ってくれる人達がいる、なら私はその気持ちに応えねば。千草殿を共に救い、少しでも恩を返さなければ。きっと、私がどれだけ恩を返そうと

返し切れないほどの恩を貰ってしまうのだろうけど。

 

 

 

日は――――まだ高い。

 

 

 

 

 

 

 

『ククク・・・そちらの状況はどうだ?D・・・いや、―――ヘカテー。いやはや、人に全ての富と豊かさを与える女神が・・・・・・我々と同類だとはな、ククク。』

 

エロスは神秘によって作られた通信器を使い、女神ヘカテーと会話をしていた。

 

『あの豊かさの欠片もない胸部に豊かさを与えたい。そもそも女魔術師の保護者とか言われる位には女好きだ。そして豊かさがないあの胸部を自らの手で豊かにしたいだけだ。』

『このwwゲス野郎ww豊かじゃないとか連呼するんじゃありません!』

『野郎じゃねぇから!』

 

話しの内容は幼女の何たるかを延々と語り続ける変態的内容だったため割愛するが、しばらくすると彼らは真剣な声色になった。

 

『今朝、襲撃があった。』

『早いな、奪い返しに来たか』

『ああ、だがどうやら馬鹿な奴が1人で突っ込んで来たらしくてな。ククク、惨めにもキュクロに一太刀も浴びせること無く帰っていった。』

『そうか、で、どんな奴だった?』

『サイドポニーの黒髪和風美少女だ。』

『な ぜ と ら え な かっ た!』

『胸が・・・・・・デカ過ぎたんだ』

『あぁ・・・そうか・・・大きかったかぁ』

『いや、真面目に話そう。』

『そうだな、・・・・・・いつごろ襲撃があると思う?』

『今日の夜か・・・明日の朝か、だろうな』

『ふむ・・・どうするんだ?ただ攫っただけでは犯罪だぞ?』

『え、今更?』

『え』

『・・・・・・戦争遊戯(ウォー・ゲーム)の景品にすればいいんじゃないか?』

『景品にか、なるほどな。勝てば攫われた人々は解放、負ければ攫われた人々は解放されるが魂魄妖夢は我々のものになるわけか・・・他の奴いらないし』

『そうだ、前に話し合った1ヶ月ローテーションだ』

『では何日宣言するんだ?戦争遊戯は』

『奇襲をかけられると面倒だから早めにしておく事が望ましいな。』

『相手が乗ってくると思うか?』

『ククク、あのタケミカヅチの事だ、乗ってくるだろうよ。それにキュクロの奴も言っていたぞ?「レベル2とは思えぬ技量」とな。』

『まさかレベル2を我々の団長らと戦わせるのか?いや、流石に乗ってこないんじゃ・・・』

『果たしてそうかな?対人戦特化ファミリアと言われているあのタケミカヅチ・ファミリアだぞ?』

『乗ってくるか、あの男なら』

『うむ、乗ってくるだろう。』

 

会話は続き、捕虜の管理についての話に変わった。

 

『そういえば、タケミカヅチの所から攫った・・・・・・あの子は何だったか』

『千草だ』

『そう、千草。その子はどうなってる?』

『キュクロの魔法で一時的に石に変えている。戦争遊戯になったら解くつもりだ』

『お、おぉ、流石【単眼巨神】やる事がえげつない。・・・・・・にしたって、追っ手を気にしてわざわざ捕虜を入れ替えたってのに、予想外に早くバレたな』

『キュクロは扱いやすくて助かる。あぁ、そうだな。何らかのスキルと見るのが一番だろう。ギルド職員の方はどうだ?』

『エンに面倒を見させている。ギルド職員に変な真似は出来ないからな。スイートルームだ』

『え?・・・変な真似は・・・できない?』

『え?』

『い、いや、何でもない。所でエンって【魔鉄淫獣】の?』

『やめろォ!エンちゃんをそう呼ぶんじゃない!あの娘気にしてんだぞ!悪口とか陰口とか耳に入ると泣きべそかいて私の部屋来るような子なんだぞ!「でも、団長になったから頑張らなきゃ・・・!」とかいって頑張ってんだぞ!やめたげてよお!』

『えぇ・・・俺の知ってる淫獣じゃない。』

『だって淫獣じゃないし。命名式のときたまたまお前参加してなかったけどさ、そもそもあの娘はファミリアで生まれた子でな、その母親に名前をさずけてくれとか頼まれて、特に何も思い浮かばなかったから天界の下僕の淫魔のエンプーサをちょこっと区切って名前にしたのは良かったんだが・・・それをネタにされてな?』

『話が長い、やり直し。淫獣じゃなかったかぁ・・・』

『なんで少し惜しそうなんだ』

『まぁ、何にせよさっさと動くか』

『そうだな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うっすうっす、俺だよ~、ハルプだ。今は命とギルドに向かって歩いてる所だな。泣き腫らして赤くなった目を少し俯くことで隠しながら命は俺の隣を歩いてる。

 

「あ、あのハルプ殿・・・タケミカヅチ様は・・・お怒りになってはいなかったでしょうか・・・・・・」

 

どうやらタケたちが怒ってないか心配してるらしい。

 

『怒ってないよ?アチャーて感じだったけど、』

「そうですか・・・」

 

それきり命は口を閉じ、何やら考え事をしている様だ。

 

『命、俺達にはタケと猿と桜花って言う三参謀がついてるしさ、考えるのはあの1人と1匹と1神に任せよう。』

「!?・・・はぃ、そ、その何故考えていることが・・・。あっ、それと人は2人です、1匹はいません」

 

ふっふっふ、今のは場の雰囲気を持ち直すための必殺猿師弄りだ、命も少し微笑んでくれたし。

 

『だって命の顔に書いてあったぜ?』

「顔にですか?」

『そうだそうだここら辺とかな?』

「ふぇほふっへたを弄らなひれふらさい」

 

このもちもちのほっぺため!そんな感じで暫くじゃれ付き、命の緊張も解れた頃、ようやくギルドに到着した。にしても反撃を受けてほっぺを揉みしだかれるとは思わなんだ。

 

ギルドに入り、冒険者達がたむろするホールを抜ける。もうすぐでギルドの遮音室につくだろうか、そんなあたりで命が再び話しかけてくる。

 

「あの、タケミカヅチ様はどのような会話をしておられますか?」

 

緊張のせいか堅苦しくなってるが仕方ないか、ヘルメスの前に体を無防備に晒すのも良くないとタケが言うので意識は1割くらい残してある。つまりはタケたちの会話もずっと聞こえていた訳だ。

 

『今は・・・―――』

 

ここで俺のこの分身時の意識についての軽い説明をするとだな、うーん、普通ならマリオゲームをする時は一つのコントローラーでマリオを1人で操作するだろ?意識を半分づつ割いて行動する時はコントローラーを1人で二つ使ってマリオとルイージを同時に操作し、動かしてるイメージだな。 まぁ要するにすっごい厳しい!でも今は肉体の方に割いてる意識は1割くらい、殆ど寝てるのと変わらないんだけど耳とか鼻は効く感じかな?だからこうして話だけは聴くことが出来る。

 

「いや、タケミカヅチ。夜襲は止したほうがいい」

「どうしてだ?ヘルメス。納得できる理由をくれ」

「行動は早いにこした事はないかも知れないが、もうすぐ彼らも動くだろう」

「動く?・・・・・・まさか、本当に動くのか?」

「あぁ。・・・ギルドが完全に彼らに敵対する前に、彼らは何らかのアクションを取るはずだ。要するに、自らの罪を少しでも軽くして、なおかつ妖夢ちゃんを手にいれられる方法を。」

「・・・・・・戦争遊戯(ウォー・ゲーム)か。」

「可能性は高いね」

 

・・・・・・マジかぁ、戦争遊戯かぁ・・・夜襲でチャチャッとはダメなんすかね?

 

『―――て感じだな。』

 

とりあえず会話の重要な所を命に伝える

 

「そう・・・・・・ですか。・・・戦争遊戯・・・。妖夢殿はあっ!すみません!ハルプ殿はどう思いますか?」

 

これには思わず苦笑い。ふふふ、わざわざコッチを向いて頭を下げる辺り実に良い子だと思います。俺も命を見習って頭を下げる時はしっかりと下げてますぜ。少しいじってやるか、ウシシ。

 

『ぶーぶー!折角名前貰ったのに間違えるなんて酷いぜ、もう命もなんかあだ名つけてやろうかな!』

「ぇ!えぇ!ご、ごめんなさいハルプ殿〜!」

 

いや〜ほんとに見事な弄られ役ですわ〜w。ふむ、どうしてくれようかあだ名。・・・・・・うーん、若奥様?とかどうだろう。きっとタケと結婚するだろ?

 

『若奥様とかどう?』

「ふえ!?わ、わかおくさまでですすか!?・・・い、いえ、ハルプ殿にあだ名をつけてもらえるのならそれはたいへん嬉しいんですが・・・そのぉ、若奥様は恥ずかしいと言うか・・・」

 

命が顔を赤らめてモジモジして居るのを無視し、遮音室のドアを開く。

 

『よっ!若旦那!』

 

と、命に聞こえる様に大きくアピール。命が硬直したのが気配でわかる。

 

「若旦那!?ってハルプか、よっ!命も来たな?」

『あり?よくかん考えたら若くないなタケ』

 

そこかよ、と言うタケにアハハーと頭を掻いて笑うことで誤魔化す。「し、失礼しますう・・・」と命が消え入りそうな声で入ってきて、ドアを閉めた。

 

『旦那、命じゃないですぜ、若奥様ですぜ』「ひゃい!?」

「若奥様?なんでまた、確かに命はどこに出しても文句を言われないだろうが、まだ少し・・・もう少し後でも・・・」

『惜しい?』

「・・・くっ、俺も子離れの時なのかっ!!」

『ですよねー、そっちですよねー』

「ん?違ったか?」

『いや、いいと思うぞ!』

 

俺がサムズアップするとタケは頭に付いた「?」をそのままにいい笑顔でサムズアップを返してくる。桜花が少し呆れてるのはいつもの事だ。しかし桜花よ、貴様も鈍感野郎である事に違いは無いぞ!千草をしっかり見ろこのヤロー!羨まおめでとう!

 

「ぁ・・・ぁ・・・・・・ぇ?よう・・・ぇ?・・・2人?・・・あるぇー・・・双子だったっけ?アスフィ・・・」

「わ、私が会ったときは1人でした・・・」

 

ん?あぁ、ヘルメス達が居たんだったか。なら自己紹介しておこう。

 

『よっ!ヘルメス。「呼び捨て!?」ん?いつも呼び捨てだろ?まぁそんな訳で妖夢の超万能型汎用スキル事、半霊ハルプだ!よろしくなっ!』

 

ニッコリ笑顔のダブルピースを喰らえ!・・・はっ!なるほど・・・こういう事をするからロリコンに目をつけられたのか・・・!ハルプはまたひとつ物事を学んでしまったか・・・ふっふっふ、これはもう天才を自称しても良いのでは?。・・・まぁ、嘘ですが。

 

「・・・よ、よろしく、お願いするよ」

「あ、でもこの笑顔は確かに妖夢さんにそっくりですね」

 

うんうん、やっぱり自己紹介は大事だよね!良かったぜ、極東で古事記読んでおいて正解だったな!これでヘルメス達が味方として戦ってくれたら嬉しいな!だってアスフィ4レベだし。いや〜これが肉体の方だったら口が滑って言っちゃうところなんだろうけどハルプモードだと口が滑りにくくていいね。

 

ではボフンと掻き消え、肉体に意識を全載せだ。

 

「ん、ん〜っ!・・・さて。どうですかヘルメス、私達と一緒に戦ってはくれたりしませんか?」

 

伸びをしてヘルメス達に向き直る、いや、流石に無理だな、アスフィのレベル偽ってるんだし。

 

「ああ〜それは遠慮したいかな?タケミカヅチの所と違って俺達はあんまり戦闘には向かないからさ」

 

いや〜ごめんね?と両手を顔の前で合わせて軽い調子で謝る。むむむ〜、嘘をつくとはなっておらんなぁ、まぁいいけど。

 

「嘘つきはよくありませんね、まあ、構いませんが」

その言葉の後、急にヘルメスの顔が一瞬だけだが固まった、ふふふ怖かろう、なに、俺が一番怖いぞ?この体だと油断するとすーぐ思った事言っちゃうんだから。

 

「・・・どうしてそう思ったんだい?」

 

ヘルメスは追求してくる、神である以上、こちらの嘘は見抜ける、そう踏んだのだろう。・・・ふふふふ、だがこちらには手段が有るのだよ。透明化している半霊を頭部に合体!冷たい!気持ちイイ!

まぁこうすることで俺の声は多分ハルプ形態と似た状況になるのだろうと予測している。テスターのタケが言うには嘘かどうかわからなかったらしい。必殺とぼける!

 

「え?合ってました?」

「・・・・・・アハハ、いやー確かに戦闘が得意な子達は居るんだけどね、対人戦は余り経験が無いんだ。だからごめんね妖夢ちゃん、俺達は別の方法で解決策を探してみるよ」

 

そう言って俺の頭を撫でた後、ヘルメスは用があるらしく、その場を去った。うむぅ、頭を撫でられるのは別に嫌じゃない、俺の身長が撫でやすいのはわかってるからなっ、だが出来ればこのリボン付きのカチューシャは触らないで貰いたいなぁ・・・、まぁ潔癖って訳でもないからいいけどさ。

 

「そんじゃ妖夢達・・・猿師と合流したら取り敢えず準備だけはしておこう、何かあればヘルメスが伝えてくれる手筈になってる。」

「「「わかりました」」」

 

俺達は一旦ホームに戻ることにした。夜襲をかけることに変わりは無い、タケの顔を見ればそうわかる。とりあえずあのキュクロって奴を倒せば千草は救えそうだ。・・・頑張るぞ。




此処でキュクロのステイタスを紹介。オリキャラなので強めに作ってしまうのは良くあることですよね。

キュクロ
エロス・ファミリア
二つ名【単眼巨神】
【ステイタス】
レベル3
力A
耐久A
敏捷C
器用D
魔力B

使用武器
大剣×2

【発展アビリティ】
狩人、耐異常、鍛治

スキル

『鍛治巨人の槌』(キュクロープス・ハンマー)
・鍛治スキルの補助
・槌を持つと筋力、器用が上昇

剛力豪腕(ライストリューゴーン)
・筋力強化
・怒りの丈により筋力の超大幅強化

魔法

『魔化石眼』(キュクロ・キュベレイ)
【矗立する巨人、硬直する人々。終わりの時が来た。赦しを請え、眼に映る己を見つめろ】

・視界に捕らえた者のステイタスダウン。ステイタスがFを下回ると石化する。
・射程、範囲は視界に比例する。
・魔力消費が膨大。
・使用すると一時的に瞳孔が拡大される。


特に隙もなく、格下には圧倒的強さを発揮できるいいキャラクターになったと思ってます。瞳孔が拡大されるのはメリットもデメリットもありますが。

インフルエンザの時にちょびちょび書いてたので誤字脱字が多そうです、見つけたら教えてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話『手加減なんて要らねぇ全軍でかかって来やがれ!』

ヒャッハー投稿だー!最近暖かくなってきましたね。

そんなわけで26話です。




真夜中、エロス・ファミリアの門前で、2人の男が座り込んでいた。

 

「・・・いい月でござるなぁwキュクロ団長w」

 

何時ぞやのスリー変態の1人とキュクロだった。二人は肩を並べ座り、話していた。

 

「あぁ・・・いい月だ。そろそろエロス様も出発なさるだろう」

 

そう呟くキュクロの隻眼は月では無く、闇夜の街を睨んでいた。

 

「デュフフwww警戒しすぎでござるよwww今朝攻めてきたんだから今日はもう来ないでござるよwwwきっと」

 

おどけた調子でそう笑いかける男冒険者。キュクロはフッと笑い、肘で男の脇腹をつつく。その様は長年の友人が見せるものであった。

 

「相変わらず嘘が下手だ、お前のスキルを知らないと思ったか。警戒し過ぎているのはお前だろうに」

「おっとこれは予想外ぃ!拙者のスキルは有名でござったかwww」

 

おどける男のスキルはシリアスを破壊する事で効果範囲内の物理的、魔法的なダメージを無効化または軽減する物だ。つまり彼がふざけてシリアスが壊れているのなら奇襲をかけられても大丈夫。と言う事だ。

 

2人がそうして警戒を続けていると、ふと、キュクロが失った片目があった凹みをまるで痛覚があるかのように歪める。

 

「来るぞ・・・!」

 

手に持った大剣を真後ろに薙ぎ払う。金属音と共に舌打ちが響いた。その声は高く、少女である事が伺えた。月明かりに照らせれ見えたその人物は魂魄妖夢だ。

 

「はぁ!」

 

白と黒の斬撃がキュクロに襲いかかる、それを片方の大剣で防ぎながら、もう片方の大剣で叩きつける様に斬り掛かる。キュクロが防御に使っていた大剣を蹴り、後方に跳ねた妖夢から眩い弾幕が放たれ、キュクロの視界を埋め尽くす。

 

「ぐぅ!?」

 

目潰しを兼ねた面制圧弾幕、諸事情により光に弱いキュクロは思わず目を覆ってしまった。しかし長年の勘を頼りに大剣をクロス状にガードさせる事で追撃の刺突を防いだ。

 

「こっちだ!そこは任せるぞ妖夢!」

 

若い男の声と共に数人が奥へと走っていく、桜花と命だ。しかし。

 

「簡単には通せないよぉwデュフフwそこの黒髪サイドポニーの娘も可愛いでござるなぁw」

 

おどけた調子でホームの入口に立ち塞がり、男冒険者はロングソードと盾を構える。・・・念入りに可愛らしい女の子が盾に描かれている、いわゆる痛い盾だ。

 

「邪魔だ!」

 

桜花が頭の上で槍を回転させ、遠心力と共に振り下ろす。男はそれを盾を斜めに構える事で横にそらし、ロングソードを盾に添える様に構え、突きを放つ。桜花は半歩下がり回避し、突きを主体に攻める。

 

「おっほっ〜上手いなぁwwwもうっ!やめて!拙者のライフはゼロよ!w嘘だけどもwデュフフwww」

 

巫山戯て挑発する男に腕を翻す様にして放たれた槍の振り上げが男の手を思い切り叩く。「なに!?」と驚いたのは槍を振るった桜花だ、本人は腕斬り落としたつもりだった攻撃、しかし、結果は

 

「あいた〜!武器を落とす所でござったw危ないw危ないw。でもでも?平気でござるよ?拙者、耐え忍ぶ事は得意でござるもんでwww」

 

手を摩り、痛いの痛いの飛んでけ〜☆。と思わず攻めの手が鈍るほど男の周りだけシリアスがシリアルになってしまっている。しかし、2人の間に飛び込んで来る者が居た。

 

「桜花殿!此処は拙者に任せるでごザル!」

「猿師さん!」

 

猿だ。・・・猿師だ、クナイを片手に持ち、もう片方の手をレッグポーチに入れて中腰に構える。

 

「おお〜?キャラ被りでござるか!!」

「残念でごザルが、拙者は十年以上前からこの語尾でやって来ているでごザル故・・・・・・同じキャラは許さんでごザルよ」

 

2人の間に何かしらの火がついたのか、同時に駆け出し、互いの得物が火花を散らす。

 

桜花達は猿師は平気と判断し、ファミリアの中に駆け込もうとするが、突然何かが目の前に回り込んでくる。

 

「通さぬと、行ったはずだ・・・!」

 

キュクロが筋力で強引に慣性を殺し、大剣を振り下ろす。咄嗟に命が前に出てその攻撃を防ごうとするものの、大きく後方に吹き飛ばされた。

 

「ぬぅうううん!」

 

嵐の様な斬撃を桜花が必死になって槍で捌く。キュクロは頑丈な鎧である事をいい事に、強引に一歩前に出る。槍を使わせれば妖夢でも勝てない筈の桜花が押されてゆく。桜花は迫る右の大剣を穂先でたたき落とし、左の大剣を石突で叩きあげる事で逸らすが、間合いを確保する為に徐々に後ろに下がってゆく。

 

「此処は通さぬ。ここの門番は自分だ、故にこの生命ある限り通せんぼさせてもらう。」

 

キュクロが肩に大剣を担ぎ、そう言って仁王立ちする。両の大剣を伸ばせば、建物の入口よりやや広く、キュクロを倒さずに中に入るのは困難だ。妖夢がすぐ様追いつき、攻撃を放つが防がれる。妖夢は大剣の攻撃を避けるために下がった。

 

「退いてください。殺しますよ」

 

妖夢が冗談とは思えない低い声で脅す。

 

「退かしてみろ、殺してでもな」

 

それにキュクロは静かに答える。互いに睨み合い、武器を握る力を強くする。すると外野で戦っていた猿師と男冒険者に決着が着いたらしく、男冒険者が苦しそうに喘ぎながらキュクロの隣に落ちてくる。

 

「ぐはっ!・・・ぐ・・・・・・ど、毒を、使うと、は・・・・・・やるなア、イツ・・・」

 

男冒険者の口調は変化しており、スキルを発動させる余裕も無いようだ。

 

「ふっふっ、やはり猿顔でなければごザルはつけてはならないのでごザルよ、もしくは忍者である必要があるでごザル。両方が揃った拙者はまさに相応しい!・・・・・・少し悲しいでごザルが。」

 

勝ち誇った猿顔で猿師が軽やかにタケミカヅチの横に着地を決め、胸を張る。キュクロは男冒険者の様態を危険だと判断したのか片方の大剣を地面に突き刺す。

 

「・・・時間は掛けられんな。友が心配であるし、・・・・・・我が主がこの騒動で起きてしまうやもしれん。決めさせて貰う」

 

そして、魔法の詠唱を始めた。

 

【矗立する巨人、硬直する人々。】

 

低い声が魔力に乗り辺りにこだまする。桜花が目に見えて慌て始め、素早く妖夢達に指示を飛ばす。

 

「撤退するぞ!あの魔法は危険過ぎる!」

「で、ですが!」

 

命が躊躇するなか猿師が素早く撤退する。妖夢も後ろ髪を引かれる思いでその場を後にする。

 

「いいから速くしろ!」

 

桜花の怒声で命は悔しそうにしながらも撤退を始める。

 

【終わりの時が来た。赦しを請え―――】

 

詠唱が終わる前に、素早く桜花達は撤退した。それをキュクロは見送る。そんなキュクロの隣に、エロスがやって来た。顔などを見られないようにローブの様な物を来ている。

 

「逃げられたか、だが良くやってくれたなキュクロ」

 

エロスはそう短くキュクロを褒め、ギルドの建物に向かって歩き始める、しかし途中で立ち止まり呟く。

 

「戦争遊戯を始める、頑張れよキュクロ。俺のためにな」

 

キュクロは跪き頭を垂れ、エロスが見えなくなった所で気絶した男冒険者を担ぎ上げホームへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神会(デナトゥス)とは、神々の会合を意味する言葉である。冒険者達からすれば、「命名式」という印象が強いだろう。3ヶ月に1度行われる神会(デナトゥス)はランクアップを果たした冒険者に二つ名を授ける為に神たちが意見を出し合うのだ。

しかし、神会(デナトゥス)は3ヶ月に1度開かれるもの以外にもある、そもそも、3ヶ月の月日を必要とするのはギルド職員たちの書類整理なのである。神会は神であれば誰でも好きな時に開く事が出来、神であれば誰でも参加可能である。もっとも、余程神々の興味を引く内容でなければ人数は集まらないだろうが。

 

そして、此度神会(デナトゥス)は開かれた。開いた神はエロス、内容は「戦争遊戯(ウォー・ゲーム)を開催する、ルールを決めたいから集まって決めよう」というものだ。神は大いに沸いた。なにせ久しぶりの戦争遊戯(ウォー・ゲーム)だったからだ。ファミリア間の抗争は度々あった、しかし、それは「日常」であり、神を惹き付ける力は余り無い。しかし、「戦争遊戯(ウォー・ゲーム)」にはあるのだ。神々の代理戦争であるそれは原始的な力で全てを決め、勝者が讃えられ、敗者は白い目で見られる一種の競技。それこそが戦争遊戯(ウォー・ゲーム)である。初めにルールを決め、自らの条件を提示する。その時提示した条件が勝利の報酬なのだ。「俺が勝ったらお前のファミリア俺のもの!」と言う条件すら可能である。いや、もっと恐ろしい事だって行える。「粛清」「処刑」「追放」。勝者こそが王であり、敗者はその生命すら税として支払は無くてはならない。

 

血なまぐさく、しかし、だからこそ面白い。娯楽に飢える寿命の無い欲望の怪物(オラリオの神々)達はこの神会(デナトゥス)に涎を滴らせ集まっている。

 

 

 

「いや〜!まさかウォー・ゲームになるなんてな〜!ウチ、てっきり妖夢たんがその日の内にエロスの所壊滅させてまうかと思っとったわー」

 

ウシシシ、とロキは笑う。薄く開かれた目はそれが実際に起こりうるかも知れないと想定していたのだろう。

 

「うへ!?何を言ってるんだいロキ、そんなの無理に決まってるだろう?」

 

ヘスティアはそんな悪戯女神に驚きつつ、反論する。あんなに小さな子では無理だと。

 

「へっ!このドチビ。脳に行く栄養が全部その乳に向かったんやないか?妖夢たんは少なくとも技量だけなら1級冒険者と並ぶかそれ以上や。」

 

ええ?!と驚くドチビことヘスティアにロキは無い胸を張り、自慢げに自らの席に腰を下ろす。

 

「最近仲がいいわね貴女達、何かあったの?」

「「仲良くなんて無い(わ!)!」」

 

鍛冶の女神へファイストスが二神に問いかけると同じタイミングで二神は反論する。

 

「ボクはロキとは違ってタケ達が心配で来たのさ。妖夢君にはベル君が助けられてる、だから何かあれば心配なんだ」

 

ヘスティアのロキとは違っての部分にロキが反応し、声を荒らげる。

 

「ウチやて妖夢たんが心配なったからこうしてきてんやろうが!」

 

しかし、それはへファイストスの頬を緩めるだけだった。

 

「ふふふ、やぱり仲良くなってるじゃない。」

 

ニコニコ笑うへファイストスとウガー!と睨み合う二神。そんな会話が繰り出されている時、会場の扉が開き、エロスが入ってくる。その格好は普段通りの豪華な物だ。

 

「エロい!エロスぎる!」

「ヒューヒュー!」

「エロースマジエロスw」

と男神達がからかう中を悠々と進み、エロスは席に着いた。

 

しかし、からかいの声は次に入ってきた男神を見た瞬間静まり返る。入ってきたのはタケミカヅチだ。誰が見てもわかるくらいに「キレて」いた。

あーあー、と頭をかきながらタケミカヅチは空いた席、エロスの対面に位置する席に腰下ろす。

 

「おお、こわいこわい。余り歓迎はされていないみたいだね?」

「当たり前だ犯罪者」

 

今にもタケミカヅチの怒りが爆発するという時、このままでは会議が始まらないとロキの一喝が入る事によりその場は静まった。

 

「おっし、じゃあウチが仕切っていくで?まずは対戦形式をどうするかやな」

 

戦争遊戯(ウォー・ゲーム)を行う際、幾つかの形式が存在する。時々行われるのが、両者のファミリアの中のもっとも強い者を選出し合い、1対1や3対3などの少数で戦う『代表戦』だ。

 

「代表戦をするならこちらは3人だそう。」

 

エロスが不敵な笑みを浮かべ足を組む。

 

「おお?エロスそれはどういう意味や」

「共に事件を起こした二神の団長達も連れてくるということだ」

「うわせっこ!」

 

ロキの質問にエロスは悪びれもなく答える。最早勝った気でいるのだろう。

そして『総力戦』これは文字通りその神がもつファミリアの全戦力をぶつけ合うもの。そして、『総力戦』は防衛側と攻城側に別けられ、戦闘を行う『攻城戦』や、平地で団員を並べ、正面からぶつける『平地戦』がある。

 

「ならエロス、総力戦にするならどうすんのや?」

「ふむ・・・考えては居なかったが・・・・・・まぁ、流石に三つのファミリアが手を組んでタケミカヅチの所が勝てるとは思えないからな、俺のファミリアだけになるだろうな」

「やっぱりせこいなー」

 

ふん、何とでも言え。とエロスは腕を組む。これ以上は受け付けないというアピールだ。

 

「さて、タケミカヅチ。此処に来たということは勿論戦争遊戯(ウォー・ゲーム)を受けるのだろう?これから団員を奪われる悲しい奴だからな、戦う方法はそちらに任せよう。だからまずは私の条件を示そうか。」

 

そう言ってエロスが出した条件は「俺が勝てば魂魄妖夢は貰う。ただし、他の攫われた人々は返す。」とそれだけだった。

 

「・・・・・・・・・なぁ、ハルプ。どうするか」

 

不敵に笑うエロスを無視し、虚空にタケミカヅチが話し掛ける。すると、何も無かった筈の場所から少女が現れた。

 

『そうだな、まずはソイツ殺そうタケ』

 

 

 

 

 

 

 

 

うっすうっす、俺です。半霊です。今はタケの頭の上にぽふんと乗って会議を聞いてる最中です。

 

 

っぜー、まじうぜぇー。なにあのドヤ顔!なにあの偉そうな態度!むかつくわ、今すぐ斬りに行きたい。錆び付いて切れ味の落ちた刀で斬り裂いてやりたい。

 

もうこれは殺すしかありませんわ。そんなこと思ってたらタケが合図を送ってきた、合図ってか話し掛けてきただけだけど。

 

『そうだな、まずはソイツ殺そうタケ』

 

ハルプモードにモードチェンジ。流石に武装はしないが武器なんて無くても物は斬れる。俺の武装は常に万全なのだ。

 

「お!?ハルプたんやないか!でもいくらスキルっていっても此処は入っちゃダメやろ?」

 

ロキがニコニコと手を振ってくるので目礼で返し、エロスを見る。・・・・・・表情が緩んだ・・・きしょいな。

 

「殺すな、お前達が殺したら大罪だ。」

 

・・・・・・むー、へいへい。タケに頷いて返事を返し、タケの斜め後ろで待機する。

 

「で?ハルプ、どっちがいいと思うって?」

 

タケが俺達に問いかける。そう、俺達、だ。妖夢を通して命や桜花、猿師に伝えている。話し合いの結果から見ると桜花が『代表戦』を推していて、命と猿師が『総力戦』を推してる感じかな?

 

俺が推すのは総力戦だな!全員五体満足では返さん。

 

『多数決なら総力戦の攻城戦、でもって攻め側。少数意見を敢えて選ぶなら団長戦だな』

「まぁ、そうか」

 

俺とタケの会話を聞いていた神達が盛り上がる。まぁ、流石に総力戦を選ぶとは思わないか。でもこっちの方が勝ち目がある。代表戦だと詠唱の長い命の魔法は使いにくいし、個々のステイタスに差がある分勝つのは困難だ。攻城戦なら奇襲その他戦術が使用可能になるし少数の理を活かしやすい。

それに・・・俺の魔法もあるしな。

 

『エロス・・・。少し頼みがある』

 

タケはわかってると思う、俺が何を言うか。・・・確かに、バカな事を言おうとしてるのはわかる。でも、許せないんだ、軽い冗談を交えて笑いあっても。千草が居ない、唯それだけが何よりも許せないんだ。それだけで、何もかもが色褪せる。全てが抜け落ちていく夢の様に、現実までもが悲しくなっちまう。

 

「ほぅ?どうしたのかな?少し力加減をして欲しいのかな?」

 

こちらをみて笑う整った顔立ちのエロスが恐ろしい。家族を奪っていく悪魔に見える。もはや声すら忘れた生前の家族の記憶を奪った駄神よりもタチが悪い。恐らくあれのお陰で俺はショックも少なく済んだし、すぐに前に進み始めることが出来たんだろう、許せないが、同時に少し感謝もしてる。タケ達に出会えたのは駄神のお陰でもあるわけだし。・・・・・・まだ防げるからこそ、防ぐんだ。もう失うのは嫌なんだ。失いたくないから力を求めたんだ。失わない為には迷わず力を振るうさ。

 

『手加減なんて要らねぇ全軍でかかって来やがれ!アンタだけじゃない。他の二神も合わせてな!』

 

左の手の甲から黒糖を引き抜きエロスに向ける。これは宣戦布告だ。いったい自分がどんな奴らに手ぇ出したのか、脊髄の中まで教えてやらァ!

 

「ぉ・・・・・・ぉお、これは参った。そうだな、君を手に入れる可能性がより高まった訳だ。いや、君ではなく、君の主かな?」

 

タケが黒糖をそっと押し、武器を下げるように伝えてくる。俺はそれに従い、黒糖を腹に沈める。大口きって宣戦布告したあたりから神々の興奮が凄い。熱気で部屋の温度が少し上がったきがする。

 

『伝えろエロス。万能薬はありったけ用意しておけよ変態共。五体満足で居られると思うな?ってなぁ!』

「ヒューヒュー!カッコイイぞ嬢ちゃん!」

「俺!俺那珂ちゃんのファン止めて妖夢ちゃんのファンになりますっ!」

「なんでやっ!那珂ちゃん関係ないやろ!じゃあウチディアベルはんのファンやめます!」

「なん(ry」

 

 

お、おお?なんかわからんけど応援してくれるのか?それは有難いが・・・。

 

「攫われた家族を取り戻すため立ち上がる小さな剣士・・・!くー!カッコイイな!」

「応援するぞ頑張れ白髪の嬢ちゃん!」

『いやこれ銀髪!』

 

そんなんで周りが盛り上がっていると。ロキが不意に声を上げた。

 

「でも場所はどうするんや?」

 

それなら俺が考えてあるぜ、原作でも使ったあの場所があるだろ。生憎とワラワラと数が多いに違いないし、きっとすぐ様完成するだろう。

 

『オラリオの近くに少し崩れた砦があったよな?彼処をアンタらが直せば使えるんじゃないか?』

「なるほどなぁーあそこがあったか。」

 

とロキが納得を示し、エロスが頷く事で会場は決まった。

あとはこちらの要求だけだな。

 

『タケ』

「あぁ、・・・こちらが要求するのは「何でも構わん」ん?今何でもっていったか?」

「あぁ、何でもだ。それこそ私の命ですら。だがお前の団員を全てよこせ、俺が勝ったらな。」

 

んだとコイツはぁ!追加してきやがった!俺だけに飽き足らず家族にまで薄汚い触手を伸ばすつもりか。

 

「いいだろう」

『タケ!?』

「いいんだ、お前達の実力は俺が誰よりも知っている。・・・・・・勝ってこい。」

 

そう言ってタケは俺の目を見つめ、頷く。その顔には確かな確信と信頼があった。

へへへ、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。よし、やる気がさらに上がってしまった。あいつら全滅させるぞ!

 

「あぁそれと、人質になっている千草と言う子は石化している。石化しているあいだは記憶も無いし安全だ。安心しろ」

 

「・・・・・・・・・・・・話は以上だ、俺達は帰る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖夢!」

「およ?」

 

この声は桜花だ、何か用かな?俺は武器を研ぐのに忙しいんだけどな。

 

「本当に大丈夫なんだろうな?」

 

と桜花は若干心配・・・いや凄い心配そうに聞いてくる。何故だろうか?作戦はさっき練ったし、1番勝てる可能性が高いのに。

 

「何が心配なんですか?みたいな顔してるが・・・、お前に負担がかかり過ぎてる。それはわかってるんだろうな?」

 

むー、とは言え対大軍なんて俺と命しか技無いし、そもそも街中じゃ無ければ広範囲技も使えるんだ、確かに消費はデカいが、そこは猿師の丸薬でカバーはある程度できる。

 

「平気ですよ、私なら」

 

安心させようと微笑むが、なにやら余計に心配させたみたいだ、桜花の顔が引きつった。

 

「お前は・・・もう少し俺らを頼れ。少なくともレベル3の1人は俺が受け持つから。な?」

 

俺は桜花の魔法は苦手だ、あのビリビリは攻めにくくて仕方がない。確かにレベル3なら桜花も倒せると思うけど・・・桜花には千草を救いに行ってもらいたいなぁ。

 

「桜花は千草を助けに行ったほうがいいと思います。」

「それはさっきも聞いたぞ。だがな?お前に負担がかかり過ぎて潰れでもしたら全てが終わる、わかってくれ」

 

・・・・・・確かにそうだけど、・・・・・・これは俺の我が儘だったな、結果的に救えないんじゃ意味無いか、復讐なんて下らない事は斬り捨てよう。

 

「・・・・・・わかりました。では1人、任せます」

 

桜花に頭を軽く下げ、再び研ぎ石で黒糖と砂糖を研いでいく。・・・引き合う性質のせいでめっちゃやりにくいけど。おい砂糖こっち来んな、いま黒糖研いでるからっ!

 

「あぁ・・・悪いな」

 

桜花がそれだけ言ってその場を後にする。ちなみに俺がいるのは庭にある池の辺だ、このあとはステイタス更新があるから、タケに呼ばれるまでこうして準備をしている。

 

ヘルメスからの連絡だと3日後に戦争遊戯が始まるらしい、随分と早い、砦の修復の手を抜くのか、それとも【鍛冶】スキル持ちの団員が多く居るか。ギルドにあった記録にはスキルの項目は無くて人数しかわからなかった。

 

合計で230人越え、内9割がレベル1だし勝機は十分にある。弾幕は同格と格下に効果的だ、雑魚は薙ぎ払ってしまおうか・・・でも消費を抑えるなら接近戦をするべきか?・・・武器の耐久が無くなるかそれだと。

 

・・・西行妖・・・、でも使えるかわからない不確定要素を入れたくないなぁ・・・今まで使って来なかったつけが回ってきたか。

 

まぁどちらにせよ、正面から俺が突撃し、他の3人が横から千草を救出する。言うは易しって奴だけどさ。

あの後で決まったらしい今回のルールは、そうだなぁ、ケイドロ?ドロケイ?みたいなルールだった。ロキやフレイヤが対等に戦える様にと意見をいって男神達がそれに賛同したらしい。つまり特別なルールが適応された訳だな。

砦の中に捕まった人々が砦の中にバラバラに隠されていて、その中から千草を救い出せば俺達の勝ち、逆に全滅もしくは3日経つとこちらの負けというルールだ。勿論3日なんてかけるつもりは無い。1日目で勝負を決める、命がいる以上こちらが有利、砦に入る事さえ出来ればこちらの物だ。だから精一杯暴れて注意を引き、団長達を誘き出し時間稼ぎ、倒せれば倒す。・・・っと、研ぎ終わったな。うん、いい感じだ。

 

「妖夢、こっちに来てくれ。」

 

タケの声だ。俺ははいと返事をしてタケの方に走っていく。ステイタスの更新、少しでも数値が上がっていて欲しいな。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

【魂魄妖夢】

 

所属:【タケミカヅチ・ファミリア】

 

種族:半人半霊

 

【ステイタス】

 

Lv.3

 

「力」:I52→H180

「耐久」:I43→H112

「器用」:H123→E473

「敏捷」:H108→D502

「魔力」:I10→H105

「霊力」:I22→G266

 

アビリティ:【集中:E+】【剣士:H】

 

スキル

 

【半霊 (ハルプゼーレ)】

 

・アイテムを収納できる。収納できる物の大きさ、重さは妖夢のレベルにより変化する。

・半霊自体の大きさもレベルにより変化する。

・攻撃やその他支援を行える。

・半霊に意識を移し行動する事ができる。

・ステイタスに「霊力」の項目を追加。

・魔法を使う際「魔力、霊力」で発動できる。

 

【刀意即妙(シュヴェーアト・グリプス)】

 

・一合打ち合う度、相手の癖や特徴を知覚できる。打ち合う度に効果は上昇する。(これは剣術に限られた事ではない)

・同じ攻撃は未来予知に近い速度で対処できる。

・1度斬ればその生物の弱点を知る事が出来る。

・器用と俊敏に成長補正。

 

【剣技掌握(マハトエアグライフング)】

 

・剣術を記憶する。

・自らが知る剣術を相手が使う場合にのみ、相手を1歩上回る方法が脳裏に浮かぶ。

・霊力を消費する事で自身が扱う剣術の完成度を一時的に上昇させる。

 

【二律背反(アンチノミー)】

 

・前の自分が奮起すればする程、魂が強化される。強化に上限はなく、魂の強さによって変化する。

・使用する際、霊力が消費される。

・発動中ステイタスの強制連続更新。

 

【唯一振リノ釼デ有ル為ニ(ただひとふりのつるぎであるために)】

 

・一刀流の剣術を使用中である時全ステイタスがアップする。

・一念を貫く間は効果がある。

・想いの強さで効果が向上。

 

【弍刀ハ壱刀ニシテ弍刀ニ有ラズ(にとうはいっとうにしてにとうにあらず)】

 

・二刀流の剣術を使用中である時全ステイタスが大幅にアップする。

・戦う意志が存在し、意志が統一されると効果発動。

 

 

魔法

 

「楼観剣/白楼剣」

 

詠唱①【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】

 

詠唱②【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】

 

・魔法の武器を作り出す

・発動後、解除するまで魔力及び霊力消費

・魔法の媒体になる

 

詠唱「西行妖」

 

【亡骸溢れる黄泉の国。

咲いて誇るる死の桜。

数多の御霊を喰い荒し、数多の屍築き上げ、世に憚りて花開く。

嘆き嘆いた冥の姫。

汝の命奪い賜いて、かの桜は枯れ果てましょう。

花弁はかくして奪われ、萎れて枯れた凡木となる。

奪われ萎びた死の桜、再びここに花咲かせよう。

現に咲け───冥桜開花。西行妖。】

 

【ーーーーーー、ーーーーーーー、ーーーー。

ーーーーーーー、ーーーーーーーーーー。

ーーーーーーーーーーー、ーーーーーーー。

ーーーーーーーーーーーーーーー、ーーーーーーーーーーー。

ーーー、ーーーーーーー】

 

・召■魔法

・魔力■び■力の■消費

・隠■■詠■あ■

・■■■■■■■

・■■■■■■■■■■■■■■

 

 

「???」

 

【覚悟せよ】

 

・超短文詠唱。

・補助の詠唱が必要。

・技の完全再現。

 

覚悟せよ、代償は存在し、得るのは力。過ぎた力は肉体を滅ぼし、過ぎた欲望は魂を穢す。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

何かタケがボーっとしながらステイタスを俺でも読めるようにコイネーつまり共通語に直してくれている訳だが・・・・・・やっぱり千草の事とか気になるんだろう。何時もより時間かかってるし。

 

「っと、危ない危ない」

 

とタケがハッとして何やらステイタスを消し始めた。

むむむ?なんだ、何か隠してるのかタケ!と俺は素早くタケから奪いステイタスを見た。しかし流石はタケミカヅチ、俺が奪う瞬間にめっちゃ腕動かしてぐちゃぐちゃにしたきがする。

 

「ちょ!ま!まて妖夢!」

 

タケが何かを言っているが俺の目はステイタスに釘付けだ。

 

 

〜ステイタス鑑賞中〜

 

 

 

ぎゃああああ!?急に魔法の説明が増えた!?タケさん今まで何隠してたの!?くっそ真っ黒で読めねぇ!なんて書いてあるんだタケ!

 

「みょおおおおおおぉん!?タタタタケ!何か!何か黒いです!」

 

いや違うだろおお!何が書いてあるかを聞くだろ普通!

 

「あわわわわわあわわわてるな妖夢」

「もちつけ!もちついてくださいタケ!」

「何でもない、何でもないんだ少し緊張した、そう緊張してただけで手元が狂っててて」

「タケぇぇえ!気を確かに!何が見えたんですかぁ!」

「オレハナニモミエテナイ・・・イイネ?」

「アッハイ」




うーむ、魔法を少し早く出しすぎたかなと思っておりますが・・・まぁここら辺でやっとかないと結局使わずに終わってしまうなんてこともあるかもしれないので(使う場所は既に決定済み)やはりここら辺で書いておこう、と書いた訳です。
魔法についてはタケミカヅチが今まで隠してきた設定です、今回は千草の事を考えていた為にそのまま書いてしまい、そこを妖夢に取られて見られてしまったと言う訳です。

戦争遊戯については幾らかオリジナル設定が含まれていますが気にしたら負けです。
原作通りの場所なのは、周りへの被害を考えると西行妖の詠唱すら出来ないですからね、主人公の性格を考えると。だから原作通りの場所になっております。準備期間が短いのは鍛冶師のキュクロさんが頑張ったからだと思われます。

そして何と次回はほのぼの回、ロキ・ファミリアと訓練的なパートになっております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27話「うーん、じゃあステイタスが欲しいです」

☆難☆産☆(次の話が)


今回は息抜きみたいなものです。

いやぁ、ゴライアス戦の伏線を入れるためだけに考えたオリジナル・・・・・・ふっ、なかなかキツイぜ・・・。



アイズは遠征の準備に勤しんでいた。五十階層までの地図はサポーターとして着いてきてくれる団員が持ってくれるらしい、らしいとついているのは彼女が滅界と言う技の練習に励んでおり、話しを少ししか聞いていなかったからだ。

 

「武器は、良し。ポーションも、良し。予備の剣も、良し。・・・・・・・・・ジャガ丸くんが、無い・・・・・・。」

 

アイズはすっと6000ヴァリスを持って立ち上がり、早朝の街へと繰り出す。しかし待つのだアイズよ、まだジャガ丸くんの店舗はやっていないぞ。とそんな感じな事がアイズの頭の中を過ぎり、アイズはガーン!と衝撃を受けつつも黄昏の館に戻ってくる。

 

アイズの荷物は少ない。それは彼女の武器が不壊属性(デュランダル)である事も関係しているのだが、アイズがダンジョンに持っていくものは剣と回復薬、そしてジャガ丸くんだけなのだ。ちなみにジャガ丸くんには行きのモチベーション維持用と帰りの御褒美用の二種類を選ぶ傾向があり、行きはジャガ丸くん小豆味、帰りはジャガ丸くん小豆味である。

 

「あっ!アイズ〜!えいっ!」

 

ショボーンとしょぼくれていたアイズにティオナが飛びつく。そのスピードたるや矢の如しであったがレベル6となったアイズは膝の動きだけでその勢いを殺し、どうしたの?と質問する。

 

「それはこっちのセリフだよ〜♪・・・なんか元気無さそうだけどどうしたの?」

 

そんなティオナにアイズはどう説明したものか考える、ジャガ丸くんを買いに行きたいのに売っている店舗がそもそも開いている時間では無い、この損失感をどう説明すれば良いのだろうか、アイズはそこで思考のジャガ丸海でサーフィンを始めた。

 

「・・・妖夢ちゃんの事?」

 

その様子をどう捉えたのかティオナは妖夢の名を口に出す。現在オラリオで最も話題となっているのは妖夢とエロスの2名だ。街ゆく人々はエロス連合とタケミカヅチファミリア、どちらが勝つか、単眼巨人と剣争乱舞のどちらが勝つか、とワイワイと話し合っている。ちなみに剣争乱舞とは未だ二つ名を持っていないレコードホルダーの妖夢にオラリオの人々が勝手につけた通り名の様な物だ。

 

「ししょー?」

 

アイズは困惑した。彼女の頭の中ではジャガ丸くんの波に乗っていたら急に妖夢が現れたのだから。しかし、妖夢の単語で噂話などがしっかりと引き出しから引き出され、戦争遊戯の事を言っているのだと導き出す。

はて、そんな話題の話だったか、そうアイズが思っている間にもティオナは心配そうな声色でアイズに抱きつく。

 

「妖夢ちゃんはさ・・・・・・家族を、亡くしちゃって、その時の記憶も無くて・・・・・・。やっと心を許せる人達を見つけて、なのにその家族が誘拐されて・・・。かわいそうだよ・・・・・・」

 

妖夢本人ではなく、そのスキルであるハルプから語られた情報。しかし、スキルであるからこそ遠慮せずそういった事が言えたのだろう。それら全てが本当ならば、妖夢の内心は一体どうなっているのか、それを考えただけでティオナは涙が溢れそうになる。

英雄譚を好み、そういった他者の気持ちになって物事を考える事の出来るティオナだからこそ、妖夢の心情を思いこうして泣いているのだ。

 

長い付き合いであるアイズにそれがわからない筈がなく、ティオナの手を握りしめ、安心させようと頷いてみせる。しかし、助ける訳には行かない、とアイズは考えていた。それを妖夢は望んでいないし、助けを求められた訳でもない。だから言うのだ。

 

「ししょーなら、大丈夫だよ?」

 

大した根拠の無い、けれど確信をもった言葉。

 

「・・・・・・うん。でも助けなくていいのかな」

 

その言葉にアイズは答えない。返答に困った訳ではなく、ティオナなら答えにたどり着けるだろうと判断したからだ。

 

「ねぇアイズ。もし、もしもね?妖夢ちゃんが助けてって言ってきたら助けてあげたいの。」

 

アイズはティオナの言葉に強く頷いた。理由は幾つもある。エロスに奪われては今の師と弟子の関係が続かないかもと言う物も含まれている。だがそれよりも、自分に懐いてくれる子供を見捨てるなどと言う選択肢はそもそもアイズの中に存在しなかったのだ。

 

「信じて、みよう?」

「うん・・・わかった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!?戦争遊戯だァ?」

 

ロキ・ファミリアのホーム『黄昏の館』で、ベートが驚きの声を発した。その声の大きさに思わずティオネは耳を塞ぎ、ティオナは目を回す。

 

「うっるさいわねこの駄犬!」

「アア?んだとこの馬鹿ゾネスが!」

 

ティオネのクレームに対し吠えるベート。なぜ会話が一瞬にして喧嘩へと発展するかは置いておき、ティオナが2人に呼びかける事で一旦静かになる・・・両者とも牙を剥き出しにしてグルル、フシャー!と唸っているが。

 

「しかもね?エロスファミリア合わせて三つのファミリアが手を組んでるみたいで・・・・・・妖夢ちゃんが欲しくて我慢が出来なかったってロキが言ってたんだけど・・・。」

 

ティオナの言葉にベートは顔を顰める。優秀な人材を見つけ、しかしそれが既に他のファミリアに入って居たとて、それを何らかの力で奪うのは神々の間において別段珍しくはない。金で買収される事だってある。

 

「チッ、雑魚共が・・・」

 

ベートが顔を顰めたのはそういった団員の引き抜きなどでは無い。個人の実力を重視する実力主義者のベートからすれば、数で押し潰そうと言うエロス達の考えが気に食わないだけなのだ。

 

「あの子、大丈夫かしらね?」

 

ティオネも腕を組みながら心配そうに呟く、ティオナもそれに続いて心配そうに唸る。

 

「知るか。少なくともアイツは数で囲まれた位で死ぬ奴じゃねぇ」

 

ぶっきらぼうに言ってのけるベートは妖夢に事象崩壊現象という現象を引き起こした無明三段突きによって脇腹を吹き飛ばされた事がある。既に万能薬によって後も残らずに治っている脇腹だが、「レベル2にデカイ一撃を貰った」と言う治せない傷をベートの心に残している。

 

しかし、それは同時にある種の妖夢に対する「信頼」をベートに与えているのだ。

 

「いくら油断してたつっても、俺に一撃入れた事に変わりはねぇ。もしも群れていきがってる雑魚どもに負けたなんて言いやがったら・・・・・・」

 

ベートはここから先は言うまでもないと言葉を切る。レベル5に重傷を負わせる者が、どうしてレベル1〜3の烏合の衆に負けようか。つまりベートはそう言いたいのだ。

 

「ふーん、ベートは信じてるんだね!私も信じてるよ!」

 

ベートの言葉にティオナが意外そうに感心の声を上げ、賛同する。ティオナやティオネはベートと仲が悪い訳では無い。少なくとも互いの実力は認め合い、チームとして行動を何年も共に出来る程には仲良しだ。

 

「ふふ、そうね。でもベートがそんな事言うなんて意外かも」

 

ティオネがそう声を発する時には既にベートは自室に向けて歩き始めており、2人はそれを見送る形となった。歩くベートの後ろ姿を見て、2人はある事に気が付く。しかし声にはせずに目配せで互いに確認しあい、小さく笑う。なぜならベートの尻尾が何時もより元気に振られていたからだ。本人は気づいているのかいないのか、2人の微笑みに見送られ、ベートは自室に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武器も良し、研ぎ石でしっかり研いだし刃がぐらつく事も無い。防具も良し、しっかりと身にまとい少し動いて様子を確かめた。

 

おっす!俺だよ。今俺はいつも通りの格好でロキ・ファミリアに向かっている。理由は簡単だ、ベート達と戦って少しでも経験値を得るため、なんだか利用してる様で申し訳ないが後で何か手伝ったりして恩返しをさせてもらおう。

 

「こんにちは。門番さん」

 

俺は門番の人に挨拶をする。以前来た時と同じ人だった。門番の人は挨拶を返すと少し怪訝な顔をする。・・・あぁなるほど。多分俺が助けを求めに来たと思ってるんだな?

 

「大丈夫です。助けを求めに来た訳では無いですから。ベート達に会いに来ただけですよ。」

 

アドバイスを貰いに。そう付け加えニコリと笑う。作り笑いは苦手だがこう言った場面では必要だと思ったので少し練習したのだ。そのせいでタケが心配したのはいつもの事。

 

「ははは、わかった。じゃあ聞いてくるから少しそこの奴と待っててくれ」

 

と門番の人(男)は門番の人(女)を指差し館の中へ入っていく。

 

「そこの奴だなんて失礼しちゃうわ?ねぇ」

 

少し拗ねている門番の人にそうですねと返事をし、少し笑う。・・・・・・・・・もうダメかもわからんね。千草と2日間も既に会っていないんだ、これは所謂禁断症状って奴かもしれない。

 

「おーい?妖夢ちゃん?ロキ様が入っていいってさ」

 

門番に言われてハッとする、わかりましたと答え門番に続いて黄昏の館の中に入った。向かう先はロキの場所だ、この前ベートの部屋にハルプモードで押し入った事がタケにバレて次からはロキに声をかけてから入るように言われたのだ。

 

ロキの部屋はこの館の天辺にある、だから階段を登って行くわけなんだけど、登ってる途中にロキとの約束を思い出す。1日なら好きに俺を使って良いよって約束だ。たしかエロス倒したらとかそんな時期だった気がするからまだ平気かな?

・・・・・・戦争遊戯まで残された時間は今日を入れて3日、その間にどれだけステイタスを上げることが出来るかが勝負を有利に導く筈だ。命や桜花も後から来るからそれも伝えなくては。

 

コンコン、とドアをノックする。

 

「ロキ?妖夢です。入ってもいいですか?」

「おお!来た来た!もちろんや!入ってきーや!」

 

うわ、扉越しにわかるテンションの高さ。ロキはロキなんだなぁ。扉を開けようとしたら勝手に開いた。「みょん?」と口からこぼれる。ドアノブから目を上げると物凄い近くにロキの顔が。

 

「みょん!?」

 

ひぃぃ!?びっくりした・・・・・・。

 

「なんや、緊張してるんか?ウシシ、妖夢たんでも緊張するんやなぁ?」

 

何故か手をワキワキしながらニマニマしながらロキがゆっくりと迫る。何してるんだろうか、ロキは。まぁいいや取り敢えず部屋に入ろう。

 

「なんやと!?」

 

スルリとロキの脇を抜ける。どういう訳か捕まえようとして来たが様々な歩法を扱える俺を捕まえることはできない。

 

「あの・・・・・・何してるんですか?」

 

首を傾げながらロキに聞く。ロキが「なんでもないで」と少ししょんぼりしながらも自分のベットの上であぐらをかいた。

 

「んで、妖夢たんは何しに来たん?」

 

ロキが酒瓶に手を伸ばしつつそう聞いてくる。

 

「私はベート達に私達の模擬戦の相手になって貰いたくて来ました。タケがまずはロキに挨拶をするんだぞ、と言っていたのでまずはロキに会いに来ました。」

 

ふーん、とロキが頷き「いいで」と笑って答えてくれる。俺は嬉しくなって飛び跳ねたくなる気持ちを抑え、ありがとうございますと頭を下げる。すると

 

「ありがとうございますのギューは無いんか?オラリオでは常識やで?」

 

初めて聞いたぞそんなの。と内心は冷静にツッコミを入れたものの、肉体とは正直な物でバッと駆け出しロキに抱きつく。それにしてもオラリオにそんな常識があったとは驚いた。

 

「ありがとうございますロキ!!」

「・・・・・・もう、死んでもええわ・・・。」

「ダメですよ!戦争遊戯が終わったらまた来ますから!」

「うんうん、せやな。ウチ生きるで。そして妖夢たんをぐひひ」

 

抱きついた後すぐ様部屋を飛び出していたので最後の方でロキが何か言っていた気がするが、まぁいい。今は少しでもステイタスが欲しいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「「「お願いしますっ!」」」

 

ベート達の前で、妖夢、命、桜花が頭を下げる。場所は何時ぞやの訓練場だ。

 

「・・・うん。わかった。」

 

アイズが頷き訓練用の武器を取りに倉庫に行こうとするが、それを妖夢達が止める。どうやら実戦形式が良いようだ。

 

「ったく・・・・・・いいかテメェら、俺達はもう直ぐ遠征に行かなきゃならねぇ。まぁ軽い遠征だから直ぐに帰ってくるが・・・・・・何時までだ?」

 

「戦争遊戯が始まるのは2日後です。今日を入れて3日。その間に少しでも強くなっておきたいんです!」

 

妖夢が真剣な目で訴えかける。ロキからの許可も得たと言う妖夢を無碍に扱う事も出来ない。ベートは仕方なく、と言った風を装い妖夢の前で屈み目を合わせる。

 

「仕方ねぇ、やってやるよ。・・・・・・言っとくが負けたら承知しねぇぞ?」

 

そう言って妖夢の頭にポンと手を乗せ撫でる。すると妖夢は顔を輝かせついさっきロキから教わった「ありがとうございますのギュー」を実行した。

 

「ありがとうございますベート!」

「ぬぉ!?何やってんだテメェは!」

 

え?ロキから教わったオラリオ流の感謝の表し方ですよ?と首を傾げる妖夢を見た彼らのロキに対するヘイトが上がったのは言うまでもない。

 

そうして模擬戦闘は始まった。ベートやアイズ達が防御に周り、妖夢や桜花達が攻撃をする。しかし勿論隙を晒せば鋭い反撃が飛んでくる。

この日は日が暮れるまでひたすらに模擬戦が続いた。しかし、ベート達はダンジョンに遠征に行くために、つぎの日は模擬戦に付き合えない事も、途中から現れ見学していたフィンに妖夢達は告げられる。

 

「ハァ・・・ハァ。わかりました、ありがとうございます。」

 

息切れを起こす妖夢、しかし、キチンと礼をする事を忘れない。命も何とかついてきたものの、今は地面にへたり込んでいる。桜花は意地になってるのかまだ立っているが疲労の色が濃い。

 

「ハァ―ハァ・・・。おいこの糞ガキ・・・流石に、殺す気で来るのは、どうなんだよ・・・・・・。」

 

ベートが息切れを起こし、汗だくになっている。アイズやティオナ達も少なく無い切り傷を全身につけ疲労している。

 

「す、すみませ、ん。少し、いや結構八つ当たりしちゃいました」

 

妖夢の増える斬撃や純粋に速過ぎる斬撃は流石の第一級級冒険者でも対処するのに大変な苦労をした様だ。

 

「ししょー・・・・・・うん、何か、掴めた気がする。」

 

アイズがグッと拳を握り、よしっ。と何やら意気込み立ち上がる。

 

「あ・・・・・・あの。そっちに、ジャガ丸、君買ってあります」

 

疲労のせいか座り込んでしまった妖夢は土産にジャガ丸君小豆味を買ってきた事を思い出し指指す。アイズがハッとした表情になる。どうやらジャガ丸君を買いに行っていない事を思い出したらしい。テクテクと歩いてジャガ丸君に誘われていくアイズはピタッと立ち止まり振り返る。

 

「ししょー、ありがとう、ございます?」

「アイズ復活速いよ〜、うぅ疲れたぁ!」

「本当に、疲れたわ。でもこれなら平気そうね。」

 

負けてしまうかも、と言う懸念はどうやら彼女らから無くなった様で、皆安心した様な表情になる。しかし、万が一がある為に、決して油断はしない。妖夢は3人に微笑みながらも内心戦意を高める。

 

 

 

 

模擬戦が終了した後も、妖夢は訓練場で武器を振っていた。イメージを構築し、それに沿って剣を振る。妖夢から少し離れた壁には刀、片手剣、両手剣などの様々な武器が掛けられている。妖夢はそれらを手に取ってはそれぞれ型に沿って振る事をを繰り返す。これらは途中からやって来て見学していた猿師が買って来た物だ。猿師の独断で買われたそれらは千草が選ぶものよりも幾らか劣る物の、それなりの性能はあった。よく武器を壊す妖夢殿は沢山持ってた方が良いでごザル、との事だ。

 

黙々と武器を身体に馴染ませていく妖夢をフィンやロキ、アイズは見学していた。

 

「・・・・・・綺麗だ。振り方に無駄がない。武器によって重心も重さも振り方も違うのに、これはすごいな」

 

フィンは妖夢を賞賛する。ロキもそれに同意の意を表し頷く。アイズがコクリと頷く。

 

「どれだけ武器を振ったらああ成れんのやろうな?」

「さて、僕にもわからないよ。・・・まるで体の1部だね。」

「フィンやてそうやろう?」

「ハハハ、僕なんてまだまださ。さっきの戦いもこっそり見てたんだけど桜花君の槍さばきは目を見張る物があるよ」

 

へー、と答えるロキ。彼女はどうやら桜花には余り興味がないらしい。いや、ロキの場合は美少女好きなだけかも知れないが。アイズはコクリと頷く。

 

「なぁなぁ、命たんはどうやったん?」

「んー、彼女は・・・・・・迷いがあるね。いや、焦ってるのかな?他の二人も焦っているけど、命ちゃんは焦りが動きに出てるよ」

「そうかー、まぁ、それが普通やと思うけどなー。」

 

3人はそうやって会話をしながら妖夢の鍛錬を見学し続ける。後1時間もすればタケミカヅチが妖夢達を迎えに来る筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふっ!はっ!・・・あ、俺っす。妖夢です。今は両手剣を振っております。両手剣は止めない様に動かし続ける事がコツだ。1対多数の戦いで最も有効的と考えられていたとか。重いしリーチ長いし動かし続けるなら隙も少ない。アニメとかだと溜め斬りみたいな必殺技が多いけど、神の恩恵とか何かで相当身体能力上げてないとワンテンポ送れるから一般的な兵士は真似しちゃ駄目だぞ?止まっちゃうし。俺との約束だ!

 

「なーなー、妖夢たん。両手剣で何か技は無いんか?」

「およ?」

 

なんだなんだ?ロキとフィン居たのか、全く気が付かなかったぜ。

 

「両手剣の技ですか・・・。色々と有りますが・・・一応燕返しもこの剣で出来ますよ、初動が遅いですし、円運動が刀と勝手が違うので難しいですが。」

 

刀で使う技を他の武器で再現するってのは中々難しい、西洋剣を使う技を刀で再現するのも難しいのだ。そもそも振り方も特徴も全く違うしね。両手剣での燕返しは正確には「出来ない事も無い」って感じだ。両手剣って言うとSAOの技とかあるなぁ。

 

「ほーー、すごいなぁ。じゃあオリジナルの技とかあるんか?」

 

へ?オリジナル?・・・・・・・・・か、考えたことも無かったぜ。そもそも技の数々を完全に再現出来ていない状況で新しい技に浮気だなんて出来ない!とはいえ魅力的な提案だ。戦争遊戯が終わったら完全再現出来ているいくつかの技を改良してみるのも良いかもしれない。

 

「残念ですがオリジナルの技は無いんです、今は知っている技を扱えるように成るので精一杯ですから。」

 

そうかそうか、とロキは頷き俺の頭を撫でる。うむ、なんだか子供扱いされているが仕方ないな、俺、子供だし。ん、タケが来たっぽい?

 

「おーい、桜花ー、命ー、妖夢ー!そろそろ帰るぞー!」「拙者は!?」「お、猿師居たのか。じゃあ帰るぞ」「拙者は拙者の扱いに哀哭を禁じ得ない」

 

アハハ、猿師は本当に元気だな、あれで45歳とは思えない。俺ははーいと返事をして走り出すが、ロキにお礼を言っていない事を思い出しUターン、ロキに抱き着いてお礼をした後、フィンにも同じく礼をしようとしたらとてつもない殺気を感じ、再びUターン。タケの所に逃げるように駆け出す。女とはモンスターよりも恐ろしいのだと、俺はこの時知識だけでなく実体験で知ったのだ。

 

 

 

 

 

 

ホームに帰って来た俺達は早速ご飯の支度を始める、何時もなら賑やかなこの時間は緊張と静寂に包まれている。むむむ、やっぱり好きじゃないなこの雰囲気は。悲しいし、食欲も失せるってもんさ。何か話しをしたいな、何か話題は無いだろうか・・・・・・。

 

「タケ?・・・・・・最近何かいい事って有りましたっけ?」

 

おおぃ、重いよマイボデイ。このタイミングで聞く事じゃないよ。

 

「最近か・・・・・・いや、特に」

 

ですよねー、うわー、何か更に嫌な空気になっちゃったよ俺泣きそう。うわ、やばいぞ体が反応したぞ、これは泣いてしまうパターンですか!?

 

「・・・・・・・・・泣いてるのか?」

 

くっ!おのれ天然ジゴロ!こういう時だけ敏感に反応するのかっ!普段なら気が付かないだろ多分!

 

「こういう時は、気が付くんですね、ヒッグ、普段なら、気が付かないのに・・・ウゥ。」

 

あ、そこ言います?言っちゃいますか。実際タケの前で泣いた事なんて多分1、2回しか無いぞ、タケのお尻ペンペンは痛かったなぁ。

 

「・・・・・・・・・今まで、気が付かなかったのか?俺は。妖夢が泣いていたのに?」

 

ん?いや、気が付いてたぞ?だってタケに尻叩かれて泣いてたし。それで気が付かないならお前は変態だタケミカヅチよ。

 

「悪かった。・・・当然かも知れないな。お前の過去に何があったかは俺にはわからないが・・・・・・俺でそれを埋め合わせる事が少しでも出来るように、俺は努力するよ。」

 

う、うわ、すごい真剣な顔で仰ってらっしゃる。現実逃避しなければ惚れる所だったぜ流石は天然ジゴロ。まぁ流石に惚れるのは嘘だけど。

 

「タケ・・・」

 

え、何この雰囲気、何が始まるんです?こんな人目のある台所で、一体何が始まるんですか!?

 

「なんだ?欲しいものが有るなら言ってくれ」

 

・・・・・・ふぅ、助かったぜ。ええと欲しいものね?欲しいもの。うんうん、早い所話しの起動を逸らさねば。

 

「うーん、じゃあステイタスが欲しいです」

「ハハハ、それは妖夢の努力次第だな」

「ですよねー。」

 

 

 

 

 

「ま、まさか妖夢殿は・・・・・・!そんなぁ、私では・・・ぐ、しかし、いや、でも、うぅ・・・」

 

1人勘違いを起こしている人もいるが気にしてはいけない。




【ベート】

U・д・U「ほんとにやんだろな?」

妖夢「はい!お願いします!」

U・д・U「・・・・・・」

妖夢「ロキにはキチンと了承を得ました!命と桜花も一緒です!」

ティオナ「いよっーし!頑張ろっか!」

アイズ「ししょーの技を、盗む(`・ω・´)」

U´・Д・`U「お、おう。じゃあやるか。」


妖夢「行きます!燕返しっ!」

(U ゚д゚)「いきなりかよっ!?」

アイズ「ーー!」

U・д・U「アイズナイスカバー!」

妖夢「九頭龍閃っ!」

(´°Д°`U)「さらに増えやがった!?」

ティオナ、ティオネ、アイズ「っ!?」

※全員で固まってギリギリガードしています。

妖夢「―零閃!」ハルプ『零閃!』

ティオナ「ふぇあ!?」

妖夢「牙突・六刃」ハルプ「牙突壱式!」命「牙突壱式!」桜花「牙突弐式」

(U^ω^)ビキビキ「こ、こいつらぁ・・・!好きなだけ技ぶっぱなしてくるだけじゃねぇかああああ!」

こんな感じのが丸1日続いたのだと思われます。


遅れてごめんなさいー!


追記

挿絵載せときますねー。くまみこのトレースです。


【挿絵表示】



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話「――なぜです」

まさか、まさか、こんな失敗をしているとは・・・。
なんと、完成していない奴を投稿しており、何故か完成しているやつが手元に残っていると言う事態が発生していました。おうふ・・・。

ええー、追加されているのは、神様の視点、それに対する妖夢の視点。
ジジの視点。ベル君の現状等です。

割と重要な部分がごっそり三千文字抜け落ちているという悲しみ・・・なぜコメントで触れられないのかなー、と思っていたら未完成のを投稿していたと言う現実。あぁ!もう何やってんのさ!としょんぼりしてます。(´・ω・`)


「ここに、500万ヴァリスがある。これが俺達の全財産だ。」

 

地面に突き刺さる剣が描かれた旗をはためかせる極東の建築物。タケミカヅチ・ファミリアのホームだ。そこでタケミカヅチの声が響いた。

 

「そ、そのような大金何につかうのですか?」

 

命がタケミカヅチに尋ねる。

 

「必要な物をありったけ集めるんだ。武器でも防具でもアイテムでもいい。少しでも有利になる必要がある。」

 

タケミカヅチがそう言って胡座をとき立ち上がる。

 

「俺も戦いたいが・・・・・・流石にレベル3の冒険者は部が悪い。」

 

刀を手に取り、しかし再び元の位置に戻すタケミカヅチ。いくらタケミカヅチと言えど、人とほとんど変わらない身体能力では出来る事とできない事がある。

 

「いえ、タケがレベル2を倒せる時点でおかしいと気が付くべきそうすべき。なんで技の大半使えるんですか」

「レベル3倒してるお前には言われたくないな、あと使えるのは俺が剣神でもあるからだ」

「あれは向こうがドヤ顔して油断してたからですよ、剣神ずるいです」

 

さて、とタケミカヅチが話を戻す。

 

「取り敢えず何が必要だ?」

 

何が必要かと聞かれると各々が必要な物を上げていく。

 

「武器はお猿さんが選んでくれたので沢山あります、鎧もお猿さんが鎖帷子を買ってくれましたし、充分かと。」

「まだ丸薬が足りないでござるな。力、護りの丸薬が少ないでごザル。癒しの丸薬は売りに出している物を持ってくれば足りるでごザルな。」

「え、ええと。・・・・・・矢の補充くらいしか思いつきません」

「そうだな、千草を助けた後の千草の武器が必要だ。攫われた時に紛失しているみたいだしな。猿師さん、いい弓は売ってなかったですか?」

「ふぅむ、弓でごザルか・・・・・・少なくとも拙者が立ち寄った店には東洋弓は無かったでごザル」

「・・・あー、つまり、特に必要なものは無い?のか?」

「うーむ、そうでごザルなぁ・・・素材はあればあるだけ色々な薬を作れるでごザルが・・・」

「よし、ありったけ買おう!」

「いやいや、作るの拙者と娘だけでごザルよ!?多く買っても無駄でごザル!」

 

とは言えもう殆どの準備は終わっている。この後、妖夢達は少しでも経験値を稼ぐために模擬戦を繰り返す。ダンジョンで何かあっては困るのでダンジョンには行かないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずはインナーを着て、その後鎖帷子を着て、んでもってその上から何時もの洋服を着て、更に鎧を付ける。うわー重装備だな(錯乱)

 

ん?おっすおっす!妖夢ですよ。今日は本番です、戦争遊戯です。千草を救ってエロスの首を跳ねる日です。くくく、異界の剣士を甘く見たその驕りを首ごと改めさせてくれる・・・・・・なんか俺悪役みたいだな。

 

うっし、ええと?太ももに専用レッグホルダーをつけまして、その中にポーションを入れる。ポーションの内訳はハイポーション3、マジックポーション2の計5本。え?少ない?・・・半霊の中には沢山あるから大丈夫ですぜ。

 

で、腰に小さめのポーチをつけます、ここには丸薬の他に『危ないお薬』が入っています。大量に摂取すると死ぬぞ、毒だからね。

・・・って危ないな、同じ場所に入れたら間違えて俺が食べちゃうだろ、うーん、取り敢えず毒薬は半霊に突っ込むか。

 

丸薬の内訳は癒しが6、力が4、護りが4、あとよくわからないが危なくなったら飲めって渡されたヤツが1。あぁそれと魔力を回復するやつもだ。毒薬を抜いたから空きが出来たな、投げナイフでも突っ込んどこう。半霊にも突っ込んで・・・まぁたハリネズミ、いやモーニングスターみたいになってるなハハハ。

・・・・・・これで半霊パンチを撃てば凄まじい威力になるのでは・・・?

 

「おーい、妖夢、命、準備は出来たか?」

 

タケの声が玄関の方から聞こえてくる。俺は命の肩をとんとんと叩き一緒に向かう。タケたちと合流した俺達はホームの前に来ていた馬車に乗り込んだ。

 

そして町中を馬車が駆け抜ける。周りからは歓声が上がる。

 

「頑張って〜!変態なんかに負けたらだめよ〜!」

「いけいけ!フォーーーー!」

 

そんな人たちに俺はニコニコと手を振りながら答える。

 

「行ってきまーーす!」

 

さぁ、なんだか緊張してきたぞ。たくさんの人に見られる事も考慮しなくちゃいけないのかな?でも千草を助けなきゃいけないのにそんな事を考えていられるかね?答えはNO。流石に広範囲破壊兵器妖夢マンに成らねば時間かかるし。あっ、ウーマンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、命です。妖夢殿が私のすぐ後ろで着替えをしている。私も早く準備をしなくては。キチンとサラシを巻いて、インナーを着る。その上から鎖帷子を着込み、更に水色の着物を羽織る。そしてハードアーマードの甲羅で作った肩盾を装着し、残雪・・・は私の愛剣の名です。その残雪を腰に佩く。

 

・・・既に緊張でいっぱいいっぱいだ。千草殿は石化され身の安全は保証されているらしいが、それを鵜呑みには出来ない、ですから妖夢殿も桜花殿も1日目で決めるつもりの様だ。猿師殿が購入なさった装束を3人分サーポーターバックに詰め込み、その他ポーションなどの薬品も詰める。

 

この戦争遊戯における私の役割は千草殿の捜索。私がしくじれば見つからない可能性がある、とても重要な役割だと、私でもわかる。気持ちをリラックスさせなくては・・・。

 

「おーい、妖夢、命、準備は出来たか?」

 

タケミカヅチ様のお声がして、思考の海から引き上がる。肩を妖夢殿がとんとんと叩いてくれた、もう馬車は来ているらしい。

 

馬車に乗った私達はオラリオの方々に熱い声援を貰った、ジンと来るとはこういう事を言うのだろうか。まさか応援してもらえるなんて考えてもいなかったのだから。

 

「行ってきまーーす!」

 

妖夢殿が大きく手を振り、声を張り上げる。これから沢山の「人間」相手に戦うとは思えない程自然だ。そして、私は見てしまった。

 

妖夢殿の目が何処までも鋭利な色を帯びていることに。

 

私が言うのも何だがこのままでは妖夢殿は一線をこえてしまう。そう思ったのだ。私は体が勝手に動くのを感じた。自然とタケミカヅチ様と桜花殿の方を向いてしまう。二人の顔色は良くなかった、そしてその目は、妖夢殿をしっかりと捉えていた。

 

「みょん?タケ?桜花?どうかしましたか?私の顔になにか付いてます?」

 

ぐるり。と妖夢殿が振り返る。視線に気がついたのか、それとも雰囲気でわかったのか。

 

「もぅ、どうしたんですか?緊張するのはわかりますが緊張のしすぎは逆効果ですよ!」

 

頬を膨らませ、腕をブンブンしながら妖夢殿が私たちを見ている。いつも通りの妖夢殿だ。私は少し安心し、その緊張を和らげる。

 

「そうですよね。緊張は少量がいい。」

 

コクリと妖夢殿が頷き、そのまま馬車に揺られる。しばらく進むと門が見えてきた、あそこから外に行くには色々と手続きが必要なのだ。

タケミカヅチ様が馬車から降りる。タケミカヅチ様は残念ながら戦いに参加する事は出来ない。

 

「妖夢、それに桜花達もだ。・・・・・・殺しはするなよ?」

 

タケミカヅチ様が表情を引き締め、そう仰った。私と桜花殿が頷こうとした時、その場の雰囲気が変わった。妖夢殿の目によって。

 

「――なぜです」

 

戦争遊戯に真剣に取り組もうとしていたその目が文字通り真剣(・・)な物へと変わった、不用意に触れれば手が切れてしまいそうな程に、更に鋭い光を纏っていたのだ。

 

「お前達が――――俺の家族だからだ。」

 

ですが、タケミカヅチ様は退かない、その剣を硬く握りしめてみせる、例えその手が出血を強いられようとも。妖夢殿の目が大きく開く。

 

「殺すな。絶対だ。・・・・・・・・・・・・あー、なんだ、頑張ってこい、お前達なら負けないさ!」

 

タケミカヅチ様が頭を掻きながら激励する。キョトンとしたままの妖夢殿と私たちを乗せ、馬車は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弓兵!点検はおわったな?」

「「おう!」」

 

キュクロの張りのある声が砦にこだまする。砦の外壁の上、人が通れるスペースには弓やクロスボウ、その他長距離武器を持った冒険者がずらりと並ぶ。

 

彼らの手に握られるその武器達はそれほど大層なものではないが、神の恩恵によって強化された肉体から放たれる矢は速く重いだろう。

 

「号令があるまで撃つんじゃないぞ!」

「「おう!」」

 

日は高く上り、広い草原を明るく照らし出す。しかし、その草原にはタケミカヅチ・ファミリアの者達は見受けられない。彼らは更に奥の森の中に拠点を構えたようだ。

 

「歩兵!しっかりと武装はしているな?」

「「おう!」」

 

キュクロは門前に固まらせた30人の近接武器を持った冒険者に確認をとる。裏や中庭、砦の内部にまで冒険者達は配置されている。こっそり忍び込むのは不可能だろう。少なくとも正面からは。

キュクロは頷き、踵を返し建物の中へと入って行った。

 

 

 

「皆さん!しっかりと魔力を蓄えましたか?ポーションももった?」

 

砦の二階に高い声が響く。廊下では右足を鋼鉄の鎧に包み、体をローブで覆った冒険者、エン・プーサが指揮を執っていた。桃色のウェーブのかかった肩まで伸びた髪を後ろで縛ってポニーテールにしている。そんな彼女が指揮を任されたのは魔法使い達だ。

 

「「はいっ!」」

 

全三階からなるこの砦、1階、3階を護るのは【単眼巨神(サイクロプス)】。2階を護るのが【魔鉄淫獣(リリス・アイアン)】。そして遊撃を行うのが【爆裂劫炎(ボンバー・フレイム・ボンバー)】のダリルだ。

 

エン・プーサのよく通る高い声が廊下に響く。

 

「キュクロさんの号令が聞こえたら詠唱を開始します。それぞれ詠唱文の長さが違うと思うので無理に合わせようとはせず、好きに撃っていいそうです。あ!それとしっかりと緊急時の武器は持ちましたか?」

 

それぞれが腰につけた短剣やメイスを見せ、エン・プーサはふぅと安心する。

 

「エン団長はしっかりと持ちましたか?武器」

「え?・・・・・・あ、ああぁえとこれはええと。・・・忘れてました・・・」

「団長ぉ・・・」

「ふえぇごめんなさいごめんなさいっ!」

 

どうやら本人が忘れていたらしく、エン・プーサをエンと呼んだ同じファミリアの団員に短剣を手渡され、目の端に涙を浮かべつつペコペコと頭を下げる。そんな団長らしからぬ姿にエロスファミリアの者達もキョトンとしている。

 

「ってそんな事を言っている場合ではありませんでした!誰か遠距離攻撃に備えるため、戦士を数人連れてきてください。ダリルさんのところからです!・・・あ、後私の武器も・・・そのぉ、持ってきて頂けると嬉しいかなと・・・思います」

「「・・・はい」」

 

 

 

 

筋骨隆々の肉体に、赤い髪をオールバックにした上裸の男、種族はウェアウルフ、名前をダリル。そんなダリルの元に1人の女魔法使いがやってくる。

 

「あぁん?どうしたんだてめぇ?何か用かよ。」

 

強面の顔が女冒険者にグイッと近付き、悲鳴を上げさせる。所謂強面の部類であるダリルは女冒険者には刺激が強すぎだ。

 

「だぁまれ黙れ、うっせーな。テメェみてぇな小便クセぇガキにゃ興味ねぇよ。」

「なっ・・・!」

 

いきなりの物言いに女冒険者は言葉をつまらせる。反論しようと口を開きかけるが、それをダリルは手を翳し止める。

 

「わあってる、どうせ盾が欲しいんだろ?好きなだけ連れてきな。どうせ役にゃたちゃしねぇよ。」

 

しっしっと手をふり、ダリルは冒険者を追い払う。空を見上げ、拳を打ち鳴らし、ニヤリと大きく笑う。

 

「いやぁ・・・悪趣味な主神に感謝しなきゃなぁ・・・!俺の強さを見せつけて、んでもってさっさっと何処か手短なファミリアに移ろう。・・・ここぁ少し・・・いや、だいぶ居づらいからな。」

 

彼は所謂飽き性だ、例えどれだけの恩があろうとも、金を積まれようとも、面白くないのならすぐさま何処かへ移るだろう。現に彼は3回のコンバージョンを果たしている。赤い耳をピクピクと動かし、伸びをする。

 

「あのベートが認め、主神に目を付けられる子供・・・さぁて、どっから来るかねぇ・・・敵さんは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!タケミカヅチぃ〜!こっちやでー!」

 

バベルの塔の天辺付近に神々が集まっていた。それは戦争遊戯を鑑賞する為である。戦場から遠く離れたこのバベルの塔に神々が集まるのは普段は封じられている神威を限定的に解放することを許されるからだ。

 

「よっ、ロキ。それにヘスティアにミアハ。」

 

タケミカヅチが心配さを隠しきれないといった表情でロキの元にやってくる。

 

「おいおい!君らしくないじゃないかタケ。君は信じているんだろう?君の子供たちを。」

「あぁ信じてる。それでも親として心配はするだろ?」

「ほーんま親バカやなぁ。」

「うむ、だがそれも良いではないか。」

 

神々が会話をしているとアナウンスが響く。

 

『さぁさぁ!皆様やってきました!来ちまいました!ウォーーーーゲーーームダーーーーー!』

 

ガネーシャファミリアの団員の威勢のいい実況が始まる。彼らの合図で神威をわずかに解放するのだ。

 

『いやー!ついに始まりましたね戦争遊戯、皆さんはどちらに賭けたかな?私ならばタケミカヅチ・ファミリアですかね!なんてったってその方が面白い!どうですかガネーシャ様!』

『俺がガネーシャだ!』

『頂きました「俺がガネーシャだ!」だぁー!素晴らしい。なんともコメントに困る返答ありがとうございますガネーシャ様!』

『俺がガネーシャだ!』

『はい、うるさい。では神々の皆様!神威を解放してどうぞ!』

 

少々うるさいくらいにテンションの高い実況がバベルの塔のみならずオラリオ全体に流れる。するとそれを合図まるでテレビの様に戦場となる場所を映し出す鏡のような物が無数に浮かび始めた。

『よーしよし!これで誰でも見られますね!やりましたねぇガネーシャ様!』

『俺が!ガネーシャだっ!』

『緊張してんのかな?』

 

鬱陶しいとすら言える実況だが、その熱気は見ているもの達にも伝わり、その興奮をより高めてくれる。

 

「・・・ついに、始まるんだね・・・。」

「うむ、そうであるな。だがタケミカヅチよ。どのタイミングで攻め込むのだ?」

「日が暮れたらだ」

 

タケミカヅチ達の会話に耳をすませていた神々が「え?」と声を上げるだろう。なにせ・・・・・・まだお昼時なのだから。

 

「お、おいおい・・・じゃあまだしばらく始まらねぇのかよ」

「えー・・・どうする?準備段階を見るってのも面白いかもしれないけどよー」

「はっ!まさかお着替えシーンが!?」

「なん・・・・・・だと!?それならば仕方がない!全裸正座で待機せねば!」

「殺すぞ」

「マジすんまそん」

 

男神達の何時もの戯言を至極真面目に受け取り威圧するタケミカヅチに他の神々が呆れていると、早速戦場の様子が映し出される。それぞれ見たい所見たい場面を見れるのだが、タケミカヅチのそれに映し出された映像はやはり妖夢達だった。

 

 

 

 

 

 

「お、桜花殿・・・こちらは見ないでくださいね」

「見る訳ないし見てもどうにも思わない。」

「ハルプも着替えさせておきましょうか」

『ほいっ!完了!』

「「速!?」」

『あ!桜花振り向いたらいけないんだぞ?』

「え?あ、あぁ悪い。」

 

 

森の中に拠点を構えている俺達は着替えに勤しんでいた。猿師が買ってきてくれたあの装束に着替えているんだ。夜襲をかける上でこれはあった方がいいだろう。

 

にしてもハルプの着替えは楽でいいな、装束を半霊に突っ込んで、着替えるように念じればあら不思議、着替え終わった妖夢が出てくるんだからな。

 

という訳で妖夢本体たる俺も着替えなくては・・・・・・・・・視線を感じるぞ?・・・あぁなるほど。神達か・・・。

 

「どうやら見られているようです」「桜花殿!?」

「いや見てないぞ俺は!!」

「いえ、神々がこちらを見てます」

 

絶対にエロスだけには見られたくない。ので俺は念のために持ってきたキャンプ用のテントをハルプ形態に移行させた半霊と協力し建てる。その中で俺と命は着替える事にした。つっても服脱いでもインナーと鎖帷子あるから見えないんだけどね?

 

なぜかロキが泣き叫ぶ姿を幻視したが多分気のせいだろう。

 

全員が着替え終わり夜襲の準備は整った。あとは夜を待つだけだ。

 

 

 

 

 

神々はビビっていた。

 

「嘘だろ?・・・・・・なんで見てる事がバレたんだ・・・これじゃあ俺達までぶった切られるのでは?」

「こんなの普通じゃ考えられない!」

「き、きっと目がいいんだよ」

「現実を逃避したらだめだ。逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!」

「高度な柔軟性を維持しつつ(ry」

「そんなんじゃ俺、オラリオに居たくなくなっちまうよ・・・」

 

 

オラリオから遠く離れた地を神威、つまり神の力をもって観察しているのだ。それに気がつける等、最早神業に等しい。

 

「ハハハ!さすがは妖夢!俺の子だな!」

「うわ!タケミカヅチのテンションが上がりおった!にしても見れへんかったかぁ。」

 

神々の視点は妖夢達からキュクロ達へと移ろう。強固な砦に守られるこちらは圧倒的に有利。しかし、数や地形の有利をステイタスで強引に押しつぶすのが冒険者だ。砦など魔法を防ぐ盾位に考えた方がいいだろう。

 

「ほー、なんや、宴なんか開いてんのかい。こんな真昼間から」

 

聞く人が聞けばお前が言うなと答えるだろうセリフだが、ロキの表情は面白そうに笑っている。ロキの目線の先、砦の中には木製のテーブルが並べられ、そこに沢山の料理が並ぶ。酒を喰らい、食い物をつまむ。まるでそれは敵が攻めてこないと知っているように。

 

「・・・・・・夜襲、バレてんな。コレは」

 

ロキは口元を三日月の様に歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジジ・ルーシャは激怒した。なぜ私が誘拐犯に料理を作っているのかと。

 

「どうして私がこんなことしなきゃいけないのヨ。」

 

ぶつくさ言いながらも一人暮らしの長さ故に素早く料理を作っていくジジ。

 

(毒トカあればいいのにナ・・・)

 

しかし残念かな、ジジはアドバイザーであるからこそ、沢山のスキルにアビリティを知っている。【対異常】や【毒耐性】など、毒に有効なスキルは数多い。それにステイタスを持っているだけでも毒や病気に強くなるのだ。

 

「変な気は起こさないで下さいよジジさん」

 

後ろから男の声。実はもう既に2時間ほどこうして同じキッチンに居る、彼は監視役だ。ジジが毒を入れたり、逃げ出したりしないよう入口近くで見張っている、そこだけ見ればまともなのだが・・・なぜ妖夢の絵が描かれた盾を持っているのだろうか。

 

(はぁ・・・逃げ出す隙を作るためにこうして料理を作る事を選んだノニ・・・まぁ、見逃してくれなイカ)

 

「それハ、こっちのセリフ。変な気は起こさないデ」

「ははは、流石にそれはないっすよ。俺なんて下っ端の下っ端。まぁこれでも最古参メンバーなんですがね・・・」

 

やれやれ、と肩をすくめるその姿にジジは思うところがあった。

 

(確カ・・・初期メンバーは3人だったカナ?ならその1人?・・・・・・・・・あぁ、思い出しタ、主神の趣向が変わってファミリア内の地位が団長を除いて総入れ替えしたんダ。)

 

ファミリアを共に築いたメンバーを下っ端の下っ端にするなんて、ジジはわずかに同情する。

 

「可哀想だけド、私は何も出来ないヨ。コンバージョンをおすすめするヨ」

 

ジジの言葉に男は自嘲気味な笑みを浮かべる。

 

「いや、いいんだよジジさん。俺達が作っちまったファミリアだ。・・・・・・最後まで見届けるさ」

 

ジジは諦めが見て取れるその姿に彼は他の奴らとは違うのだと思い至る。逃げ出すために協力を要請できるかもしれないと。

 

「・・・最後まで見届けるなラ、私をギルドに早く返した方がいイ。今の監視は貴方だケ、あなた次第できっとファミリアも」

 

そこまで言ってジジの口は塞がれる。男の手が強引にその口を封じたのだ。

 

「やめるんだジジさん。もう遅いんだよ。・・・・・・ジジさんは知らないと思う、いま、ウォーゲームが始まってんだ。ジジさんの担当冒険者のちびっ子がジジさん達を救おうと向かってくる。・・・ジジさんは助かるさ、きっと助けに来てくれる。・・・・・・だから俺はこのファミリアの最後を見届ける。」

 

そこには決意した男が居た。負けると確信した男が居た。覚悟を決めた男が居た。

 

「キュクロも、アイツらも同じ気持ちだろうよ。・・・アイツの見込みだと攻めてくるのは夜だ。」

 

ジジは鼓動が速くなるのを感じた。戦争遊戯が始まっている、そして、自分達を助けるために行動している妖夢にジジは感謝と共に不安を覚えたのだ。

 

「ん、料理が出来たか。じゃあジジさん、俺がそっちを運ぶから、それよろしく。」

「ん・・・わかったヨ」

 

少しくらい優しくしてもいいのだろうと。彼らに同情してしまう自分に苦笑しながらも、次に作る料理は力を込めようと密かにジジは思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが戦争遊戯に思いを馳せる中。ダンジョンで物語は進む。うさぎは牛を倒し、それを冒険者達は見届けただろう。世界最速兎の誕生の瞬間だった。




こんな凡ミスを・・・すみませんでした(´・ω・`)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話「覚悟せよ、我が剣が届くこの場において、例え千の矢が降ろうとも無傷なり」

闇が地を空を覆う。光を放つのは人が住む町や村のみ。この広大な草原を闇夜に紛れて進む者がいた。装束は綺麗に闇に同化し、遠めに見れば決してそこに人が居るなどと思わせない。そして―――。

 

「たのもーーーーーー!!!」

 

大声を張り上げた。更に光り輝く光弾をばら撒き自身がそこにいるのだと主張する。砦から外を監視していた冒険者がそれに気が付かないはずが無い、敵襲を知らせる為に大声で叫ぶ。冒険者達が騒がしく動き始めた。

 

「・・・・・・我が名は魂魄妖夢!!タケミカヅチ・ファミリアが一番槍!!我こそはと思う者よ、前に出てください!」

 

顔や頭を覆っていた布を放り、銀髪青目の少女が現れる。冒険者達はその姿を確りと認識し、それが敵であると判断した後、それぞれが武器を構える。号令があれば何時でも出れる。そんな冒険者達の間を縫ってキュクロが姿を現した。

 

「すまぬがそちらの戯言に付き合う気は無い。自分等が受けた命は此処を三日間守り抜く事、貴様らを此処より先に通さぬ事よ。わざわざ出向く必要もない」

 

あくまでも任務を優先させるキュクロに妖夢が少し顔を顰めた。それをキュクロは見逃さないだろう。

 

「誘い出しは無駄だ、それくらいわかっているだろう武神の子」

 

統率が取れているキュクロの配下は動かずに門を守る事に集中しているが、それを我慢出来ない者も居るのだ、いや彼の仕事がそれである以上仕方がないが。

赤い影が砦の城壁を飛び越え妖夢から20mほど離れた地点、砦の門前に着地する。

 

「・・・呼びかけに応えたのは1人だけですか・・・しかし今の跳躍、並の冒険者ではありませんね。」

 

背に背負った2本の刀を腰に移動させつつ妖夢がその人物をそう評価する。

 

「いゃあ、まさか正面から来るたァ思わなかったぜ?」

 

赤髪に狼の耳を生やし、上半身は裸。左手に剣、右手に槍を持った戦士が長髪的な笑みを浮かべ顔を上げる。僅かに周辺の温度が上がったかのような印象を受けさせる男だ。

 

「名を聞きましょう。」

 

「ハッ!いいねぇ。俺は【爆裂劫炎(ボンバー・フレイム・ボンバー)】・・・・・・まぁこう言えばわかるだろ?」

 

妖夢の問答に槍をくるりと回し脇に挟んだダリルは快活に答える。妖夢が少々苦々しく眉を顰めた。理由は言わずもがな、二つ名である。

 

「さぁてヤルか、嬢ちゃんッ!!」

 

何の合図もなく、ダリルがその槍を投げる。髪の色と同じく赤い槍はしかし妖夢の黒糖による零閃に弾かれる。妖夢が身体を左右に揺らし、一気に接近する。

 

「イイねぇ!」

 

それに口元を歪めさせながらダリルも応じ駆け出す。2人の距離は瞬く間に0となり、互いの剣が交差する。・・・弾かれたのは妖夢、体重体格筋力の違いが妖夢の身体を後ろに押しやった。

 

「おぉらよぉッ!!!―――ハハッ!やるじゃねぇか!」

 

よろめく妖夢にダリルが右手の剣による全力の薙ぎ払いを放つ。しかし、よろめいたのはブラフ。隙を作りそこを攻撃させるための誘導にほかならない。透明化している半霊を自らにぶつける事で通常では有り得ないような動きで後に跳ね、すぐ様斬りかかる。それを見たダリルがそれを賞賛しつつ、続く回し蹴りで黒糖を迎撃する。よく見れば頑丈な金属で足を守っている事がわかる。

 

足から受けた衝撃を独楽の様に回りながら吸収したダリルは驚異的な跳躍力で飛び跳ねる。妖夢の頭上を通り過ぎ、落ちている槍を拾う。互いの距離が再び離れ、しばし睨み合う。ちょうどその時、砦の左手から3人の影が忍び込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・よし、ここから行くぞ」

 

紺色の装束に身を包んだ桜花と命、そして猿師は鉤爪の付いたロープをそれぞれ持ち、砦の壁を見上げる。松明の光をどうにか躱し、ここまでたどり着いたのだ。

 

「始まってるみたいだな・・・」

「はい・・・」

 

桜花と命が妖夢が戦っているであろう方向の空を見る。光り輝く弾幕が時折空へと登っており、戦闘を伝えている。

 

「お二人共、今がチャンスでごザルよ」

 

一足先に壁を登り終えていた猿師が偵察を終え、桜花達に手招きをする。

3人が壁の上から見た光景は、誰1人として人員が配置されていない中庭だ。

 

「まぁ!・・・罠でござろうな。では拙者は役割を果たすとするでごザルよ。いやぁ拙者技量はないでごザルが対人戦は得意でごザルからな?全然心細いとかそんな事はないでごザル。」

 

ちらっ?と桜花達を見た後観念したように中庭に降りる猿師。桜花達を先に進ませるにはここで更に気を引いてもらうしかないからだ。

 

「すみません猿師さん・・・!此処は任せます」

 

聞こえるかもわからない小さな声で桜花はそう告げた後素早く移動し始める。命も何も言わずに頭を下げた後それに続く。1人になった猿師は己が禁忌と定めたある粉末を取り出すだろう。

 

「はぁ・・・薬とは名ばかりの、火がつくから『火薬』等とは流石に拙者も安直だと認めざる負えないでごザルな」

 

この世界で初めて火薬を作り出した男、猿飛猿師。しかし、それが有する余りにも暴力的な性質に、彼はそれを禁忌とし、使う事を避けてきた。まぁしかし、彼の過去にはその火薬をフル活用しなくては生き残れない程の冒険談があるがそれは置いておく。

 

丸薬の形をしたそれを複数掴み放り投げる。そしてそこ彼は『忍術』(何故かステイタスにはニン=ジツと表示される)を放つ。すると火薬は熱に反応し大きな音を立てる、そして勿論多数の冒険者達が現れるだろう。

 

猿師は俯き動かない。神々がその実績を称え、その名を世界に轟かせ、恐らく最も多くの人々を病から救った男・・・・・・【猿顔薬師(モンキー・F・ドクター)】、不治の病を治し、不知の病見つけた男。デュアンケヒトが金貨の山を使って勧誘を試みた人物。

 

「いやぁ〜、戦闘は得意ではごザラんからなぁ〜。・・・・・・20年のブランクを埋めなくては」

 

冒険者達が襲いかかる。例え妖が跋扈する極東を妻の不治の病を治すためだけにたった1人で旅し生き抜き治療法を確立したとしても、その名を世界に轟かせようとも。たった1人の個人を特定するだけの知識が冒険者達にあるとは限らない。

 

冒険者達の攻撃が当たる直前、不自然な程に濃い煙がその場を包んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

おっす、俺だ。今・・・なんて言うか残念な二つ名を持ってる全く知らない奴と戦ってます。なかなか強いけど、残念かな、俺と数合渡り合ったら俺の勝ちです。・・・って慢心はダメ、慢心はダメっと。

 

「やるじゃねぇか!オォラヨッ!」

 

身体を回転させ槍を薙ぎ払うボンバーさん、俺は身体が地に付くほどに前傾させ接近、でもって急停止。俺の鼻先を剣が通り過ぎる。

 

「っ!?・・・・・・へぇ、もう俺のリーチを見切ってやがるのか」

 

まぁスキルのお陰で割と簡単に見切れます。槍は2m15センチ、剣は刃渡り70センチ。初めに槍を投げる事で剣使いに見せかけているが、本当は槍の方が得意で、剣は槍を使う時に発生する隙を潰すためのサブウェポン。魔法を持ってるのかわからないが、今すぐにでも殺れるな・・・・・・って違う違う、戦闘不能にするんだった。それにしても本当にキュクロの奴は何してんだ?なんで弓撃たせないんだろ?ボンバーに当たるからかな?

 

「ええ、貴方が槍使いである事も」

「・・・ハハッ!コイツぁ驚いた。・・・・・・・・・手加減は無用か?嬢ちゃん」

 

へ?手加減してたの?そいつは驚いた。まぁこっちも半分しが出してないけどね、物理的な意味で。あ、本気的な意味だともっと出してない。あくまで様子見に徹してるからね、下手したら弓が雨となって飛んでくるし。

 

「手加減してたんですか?・・・まぁ、こちらも半分しか出してませんが」

 

思わず滑った口元を片手で抑えつつ、チラッとボンバーを見る。そこにはありありと歓喜が顔に出ていた。・・・・・・ロリコンかな?ロリコン死すべし慈悲はない。

 

「なら本気で来いッ!!」

 

凄味のある笑みを浮かべそう言ってくるボンバー。だがコイツ単体に全力出すとか後々響くので嫌です。

 

「嫌です」

 

あ、おい。そこだけ抽出するんじゃないよ。可哀想だろ。

 

「ハハハッ!なら本気を引き出してやらぁ!」

 

なんか元気になり、突撃して来るボンバー。実は頭の中もボンバーしてるんじゃないかなこのボンバー。

 

滴水成氷(てきすいせいひょう)

 

黒糖を上に放り投げ、空いた手で砂糖を握る。そして放つはブラック・ブレットに登場する天童式抜刀術の一の型の1番。抜刀術とは何だったのか問い正したくなる・・・え?なぜ?だって射程・・・6m超えるんだぜ?この技。

 

「ングっぅ!?」

 

肩から血を吹き出しながら横に跳ねるボンバー。まぁ相手からしたら遠くで幼女が刀を鞘から引き抜いたら自分の身体が斬られてるんだから困りものだよな。シュルルンと特徴的な音を立てながら黒糖が砂糖目掛けて落下してくる。それを片手で掴みくるりと回り鞘に収める。・・・なかなか決まったんじゃね?さらにさらに。

 

結跏趺斬(けっかふざん)

 

×状に放たれる剣気がボンバーを切り裂く。何とか回避しようと試みたようで、右脇腹を切り裂くに終わる。

にしても淡々と技名を呟きながら圧倒するなぁ、我ながら怖いぞマイボディ。

 

「ぐっ・・・急に変な技(・・・)使ってきやがって・・・!」

 

あ?今何つった?俺の尊敬する剣豪の技を?変な技?確かに、確かに変かもしれない、なぜならそれは俺が使っているからだ。オリジナルに届いていないからだ。俺を馬鹿にするなら許すが技を馬鹿にしやがるとは・・・・・・ゆ"る"さ"ん!

 

俺は唐突に走り出す。否、たった数歩で距離を詰める、縮地だ。ボンバーの予想を上回る速度だったようで目を見開く、でも口が笑ってんのが怖いなこいつは。

 

「ハハッ!本当に半分も出してなかったかっ!」

 

ん?あぁなるほど。確かにそう見えても不思議ではないな。俺は身体能力を隠していたとかそんな事はなく、ただ歩法を使っただけなのです。

 

漸毅狼影陣(ざんこうろうえいじん)

 

前へ後ろへ横へ斜めへ。縮地多用し、限界までオリジナルに近づける。まるで瞬間移動の様に姿を霞ませながら戦えている事でしょう、と希望を持ちつつ。でもなんだかんだ言って割と防がれてるなぁ、まぁベートには効かなかったし、多数に囲まれる冒険者からすれば割と防ぎやすいのかなぁ。いや、やはり俺の鍛錬不足か。

 

「はや・・・ちぃ!!」

 

負けるか!自分に負けてたまるか!とどんどん速度を上げていく。残像でろ残像。縮地の使い過ぎで地面が酷いことになっていて走りづらいが仕方が無い。

 

頬や腹、肩や額。喉や太股に傷が入っていく。ボンバーが対応出来ない速度に到達したようだ。技も終盤、ラストの1振りまで後少し・・・っ!?

 

俺は悪寒を頼りに後方に反射下界斬を放つ。すると数本の矢が慣性を無視して反転し、撃った張本人達に突き刺さる。やばい、技が止まったっ!前方に飛び跳ね転がる。ほんの少し遅れて俺の耳に槍を振るった音が。

 

「くっ・・・!」

「撃てっ!」

 

反射下界斬が消えた瞬間、キュクロの声が響いた。弓が雨の如く降りかかる。とっさにボンバーの位置を確認するがなんとギリギリ槍が届かない程度の至近距離に居た、やばいなこれは!どうにか切り抜ける手段は・・・あ!あれがあるか!

 

「【覚悟せよ】【我が剣が届くこの場において、例え千の矢が降ろうとも無傷なり】―領域ッ!」

 

即興だけど何とか発動してくれっ!すると頭に自分を中心とした半径3mの範囲全てが手に取るようにわかるのがわかった。つまり成功。

 

槍が、矢が、その範囲に計62。それら全てを――――一息のもと切り払った。魂魄妖夢――無傷。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バベルの塔で神々は鑑賞する、しかし、そこにあるのは熱狂では無い。純粋な驚きと畏怖。

 

「なんなんだ・・・ありゃ」

 

神々の目の前の鏡には妖夢が刀を抜くとほぼ同時に血を吹き出し横に跳ねるダリルが映っていた。

 

「みえねぇー、何が起きたよ、見えた?」

「いや?何も。」

 

神々の疑問をよそに次はクロス状の斬撃が飛び、ダリルが脇腹を斬られる。

 

「おぉ、今のは見えたな」

「おぅ、なんとか見えたな。光ってたしな」

 

そして瞬間移動の如く高速で動き始め・・・・・・神々の目では捕らえられなくなった。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

更には不意打ちの弓矢を察知し、『反射』し、それが撃った張本人を貫く。

 

「・・・・・・」

「・・・」

 

更に更に・・・同時に迫り来る矢と槍を、無傷で凌いだ。なんと1歩も動かずにだ。

 

「・・・ブクブク」

「・・・ホーホケキョ」

 

「フッハッハッハッハ!さすが妖夢!!俺の子だな!」

「タケミカヅチのテンションが壊れとる・・・」

「ミアハ薬は無いのかい?こう・・・熊とか眠らせられそうなヤツ」

「残念だがそのような持ち合わせは無いのだ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜花と命はどうにか誰にもバレずに建物の中に侵入した。此処は一階の端の方だ。

 

「命、スキルを」

「はいっ」

 

命がスキルを発動させ、千草の捜索にあたる。その間桜花は命を守りながらジリジリと砦内を探索するしかない。

 

廊下を進む。

 

「お、おい!援護が必要らしいぞ!さっさと行くぞ!」

「はぁ?何言ってんだ、おれらひは酒を飲んでんだよー、今は休憩時間だろぉー?」

「そうらそうら!弓撃ってれば倒せるってー、ヒック」

 

ッ!と急に聞こえた声に驚き桜花達は壁に背をつけて隠れる。残念だが廊下に隠れる場所などなく、こちらを通ったらバレるのは確実。

 

「だぁ!ほんと役に立たねぇな!はっ倒すぞ!?前衛部隊がほぼ全滅(・・・・)してんだよ!!」

 

会話を盗み聞きし、情報を得る。どうやら戦闘は激しさを増しているようだ。

 

「(流石だな、妖夢は)」

「(ええ、そうですね)」

 

妖夢ならば有象無象に囲まれようと切り抜ける所か返り討ちにして全滅させてしまう事も想像に難くない。

 

「早く中庭に急ぐぞ!」

 

「「・・・・・・・・・・・・はい?」」

 

え?中庭?と2人が困惑する。中庭といえば数分前に別れた猿師がいるはず。ならば猿師が前衛部隊を壊滅に追い込んだというのだろうか?

 

「「・・・まっさかぁ〜。・・・」・・・と、言いきれないのが怖いな、あの人は」

 

彼との何でもありの模擬戦を行った事を桜花は思い出す。近づいた瞬間煙が放たれ目を使えなくされたのは予想外だった。だが今回は目潰しではなく、最悪毒物や劇薬の類を使っている可能性がある。・・・そう考えれば全滅もおかしくは無いと思ってしまうのだ。

 

「まぁとは言え、猿師さんの負担を増やすわけにも行かないか・・・・・・」

 

耳をすませる。どれだけ人数がいるかをある程度予測しておく事は奇襲の際に必要だ。命も桜花の小さな呟きに小さく頷き、刀に手を添える。

 

「あぁクソッ!・・・はぁ、なぁジジさん何とか言ってやってくれ」

 

「「!?」」

 

ジジ、その名前が聞こえ、いざ飛び込もうとしていた2人が止まる。何故ならそれは妖夢の担当アドバイザーの名前だからだ。

 

「え、私ガ?・・・・・・私、人質ですヨ?」

「あーまぁそうなんだが・・・・・・そこをなんとか」

「えぇと、頑張っテ?」

「「「「「「行ってきます!うおおおおおお!!!」」」」」」

 

ダダダダダダダダッ!とでかい音を響かせ、10人程の冒険者が走って行った。どうやら酔っ払っていたみたいで桜花達に気が付かなかったようだ。

 

突入するならば今がチャンス。・・・・・・しかし、桜花はGOサインを出さない。今か今かとウズウズしている命の頭に手を載せ、先に進む事を伝える。命が「えっ?」という顔をしているがそれは意図的に無視された。

 

現状ジジを助けるメリットは特にない。千草を救い、砦から逃げ出せばどの道全員が助かるのだから。

 

桜花達はそのまま進み何やら騒がしい2階へと足を踏み入れた。

 

「―――お待ちしておりました。タケミカヅチ・ファミリアの皆さん。」

 

そこには桃色の髪を風に靡かせ、巨大な大鎌を持った女性がただ1人立っていた。その唇が妖艶に歪む。

 

 

 

 

 

 

 

・・・っ!なかなかしぶといなぁ!。あ、俺だよ俺!まだ戦闘中ですわ、ぐぬぬタケに殺すなって言われてるから死なないように致命傷だけは避けてるんだけど・・・・・・そのせいでなかなか倒れない!

 

「うおおおおおおおらああぁっ!」

 

槍が連続で放たれる。それを正面に構えた刀で横に弾き凌ぐが、弓がちょいちょい飛んできで移動が若干制限されている状況・・・、んでさぁ、・・・・・・2階の方、【魔道】の魔法陣が若干見えてんだよなぁ・・・・・・長文だよな、絶対に長文詠唱だよな!くっそ広域殲滅魔法とか反射下界斬じゃ跳ね返せねぇよ・・・。

 

それにキュクロの魔法も怖い、射程がわからない以上詠唱を始めた時点で止められる程度の位置をキープしてるが・・・・・・。もうハルプモードで後ろからザックリイクか?いやいや、それは最後の手段だろう。本当に手に負えないなら後ろから斬る。

 

「だがまずは・・・貴方が邪魔ですッ!龍巻ッ!」

「なっ!?ぐぅ・・・!」

 

ボンバーが龍巻で切り刻まれた後空に吹き飛ぶ、ふっ、浮いたな。ならばコンボを・・・をッ!?

 

「やらせんぞ・・・!」

 

ドボンッと地面が凹み、土煙が立ち上る。・・・大剣が飛来した、持ち主と一緒に。

 

や、やばいなぁ。今ので倒せなかったのは不味い。回復されてまた出てくるのは面倒いぞ・・・。

 

「邪魔を・・・」

 

コイツを先に倒した方が良い。何とも言えない直感を感じつつ、逃がしたボンバーを横目で見ながらキュクロに言う。

 

「いくらでも邪魔をしよう・・・3日耐え忍ぶことが自分の託された命であるが故に。奴を失えばこちらの戦力は大きく落ちるからな・・・失う訳にはいかん」

 

・・・んー、やっぱり武人・・・。ならばソナタのお生命で慰めさせてもらおうか、とか言ってみようか。あ、でも殺しちゃいけないんだった。

 

「・・・その目・・・やはり武人か・・・。」

 

キュクロが片方しかない目を使ってこちらを見ている。やばいな魔法とか発動してないよね?てか全軍でかかって来いよ・・・全く、ハルプモードを敵陣ど真ん中に突入させるぞ?

 

「いざ・・・勝負・・・!」

 

いきなり突っ込んでくるキュクロに、俺はとりあえず対処しなくちゃならない。・・・まぁ取り敢えずは目を潰そう。

 

「魂魄妖夢・・・参るッ!」

 

大剣の大振り、残念だがそれは知っている手札だ。俺は跳躍しキュクロの頭上で体を捻り一線。避けなければ頭が二つになるだろう一撃は首を傾けたキュクロによって肩部分の鎧に掠るだけに終わる。

 

トスッと音を立て着地し、飛んでくる矢を切り落としながらキュクロに向かって走る。

 

結跏趺斬(けっかふざん)!」

「先程見たぞ・・・!」

 

クロス状に放たれた斬撃を片方の大剣で横薙に振り払い消滅させ、残る1本で俺を一刀両断しようと振り下ろす、それに対し俺は小さく飛び跳ね、そこに半霊をぶつけ真横にスライド。あの血濡れのオークだかなんだかからアイデアを得た移動法だ。

 

そのまま黒糖を振り、脇を斬る・・・否、斬れない、アダマンタイトやオリハルコンを使ったその鎧は残念な事にただの掘り出し物では歯が立たない。

 

「ちっ・・・」

 

思わず舌打ちをし、後ろに下がる。時間はあった。もっと強い武器を買う時間は・・・。けれど買えなかった、変えたくなかったから。この二振りは千草と命と一緒に選んだものだから。レベルに似合わない貧弱な装備だが・・・・・・愛があるからね、問題ない。

いや、問題は全く解決してないんだけどさ。・・・うーむ・・・タケが怒るよなぁ、自分が傷付く系の技は・・・あぁ制限が多いなぁ。

 

ハルプを使えばいくらでも奇襲はかけられる。そろそろ奇襲をかけるべきか?・・・・・・ふむふむ、完璧に俺に注目してるな、照れるぜ。キュクロと俺の壮絶な接近戦に目が釘付けって感じか。よし、とりあえず半霊を魔法使い達の後に送っておこう。

 

・・・にしてもこの硬直状態ですよ・・・・・・、殺していいならとっくに終わってるんだがなぁ・・・さっきのボンバー。

 

 




すまない・・・闇討ちはハルプ君の仕事なのだ・・・つまり、次回。

今回の妖夢のお仕事は敵の注意を引きつけること。残念ながらレベル3の3人がかりで戦わないと妖夢は倒されない模様。

レベル3冒険者の魔法のヒント。
エン・プーサ、制圧系。痛そう(小並感)

ダリル・レッドフィールド、一撃必殺系。当たらなければどうということは無い(小並感)

キュクロ
石化の魔眼。危ない((小並感))

誤字脱字、質問等ありましたら教えてくださいな。

【オッタル】

(´・ω・`)「・・・・・・何がどうなっている・・・?」

( ´・ω) (´・ω・) (・ω・`) (ω・` )ダヨネー。(戦争遊戯を見る観客達)

(´・ω・`)「・・・・・・なるほど、戦争遊戯か。うむ。」

(状況を理解。画面を確認。妖夢発見。)

( ゚д゚)「・・・・・・ぇ(フレイヤ様の願いを叶えるため自分なりの考えでベル・クラネルを強くしようと思っていたら魂魄妖夢が戦争していた、何を言っているかわからないと思うが、俺も何を言っているかわけがわからないよ。)」

(´ー`*)「あぁ・・・いい空だな・・・」


オラリオは今日も平和です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話『家族はいるのか』

テスト期間だー、辛いよー(´・ω・`)

30話だよー、記念に何かー、と思ったけどー、特に何も無いよー(´・ω・`)






淡い光を放つ遠見の鏡に、少女は映っていた。ただ少女が映っていたのならまだ理解が出来る。しかし、神々は、いや、オラリオの人々は目を摩った。それが現実であると信じ難かったから。

 

 

 

光が視界を覆う。

 

「くっ・・・!」

 

やばい・・・!もっと早く妨害するべきだったか!?

 

火、氷、雷、ありとあらゆる魔法が飛来する。球状だったりビーム砲みたいなものも多い。魔法が大砲の一斉射撃の様に降り掛かる。

 

「反射下界斬!」

 

幾つかの軽い魔法を反射したものの反射下界斬によって生まれた反射板はすぐ様耐えきれずに崩壊する。やばいよやばいよ、リアルガチだよ。・・・うぅ俺です。半霊で攻撃しようとした瞬間魔法の攻撃来ました。

 

なん・・・とか躱して・・・るよ?!のわぁ!?キュクロが来る!

 

「ぬぅん!」

「うぐっ!」

 

キュクロの攻撃を何とか防ぎ、しかし吹き飛ばされ地面を転がる。何らかの魔法のせいか・・・地面が凍っててちべたい。俺はすぐ様立ち上がり、結跏趺斬を放ちながら後退する。

 

・・・・・・・・・仕方がない。強行突破だな。その方が注目も集められるだろ・・・!とりあえず門を吹き飛ばす!

 

「月牙ァ――――」

 

最上段に構えた黒糖に霊力が集まる。砦に焚かれた松明意外に殆ど明かりのないこの場所で、霊力のほのかな光がよく目立つ。

 

「!?総員頭を伏せろ!!」

 

キュクロが危険を察知したのか撤退を命じる。こんなに早く撤退を判断できるのは素直に尊敬するが、・・・避けてくれよ、当たると死ぬぞ。

 

「――天衝ッ!!」

 

巨大な霊力の斬撃が地面をゴゴゴと破壊しながら門へと迫る。キュクロは横に大きく飛び込む事でそれを回避した。

 

そして、着弾。門は1発で半壊。・・・あるぇえ?割と硬いな・・・んじゃもう1回!

 

「む・・・もう1度です・・・!月牙―――天衝ッ!」

 

2度目の月牙天衝で門が爆発するかのようにバラバラになり地面に散らばる。頭を庇って地面に伏せていた冒険者達の声が聞こえてきた。

 

「あ!有り得ない!・・・あんな短文詠唱で門を吹き飛ばしたってのか!?」

「くっそ!魔力のステイタスが高いなら有り得なくはないがたった2発だと?!」

 

おぉ、驚いてる。まぁ当然か。でもネタバレしたらもっと驚くだろうな、「これは剣技です」なんて言っても絶対に信じてもらえないわ。ちなみに霊力を隠す必要は無い。なぜなら鏡でみてる神様達は霊力とか魔力を感じ取ることはできないし、バレないのです。

 

「でも・・・」「でも?」「つおい幼女とか・・・滾るな!」「おうともよ!さいっこうだぜ!」

 

ダメだこいつら早く何とかして殺さないと。

 

「おのれぇ・・・!」

 

キュクロが立ち上がる。さきほどの衝撃から素早く行動に移せるのも賞賛に値する。変態たちはしらん。・・・が、手遅れだ。

 

「きああああああああ!」

 

甲高い悲鳴がひとつ、夜空に響く。風により雲が流され月がその顔をのぞかせた。

 

キュクロが目を見開き後ろを見る。そこには。

 

『俺―――参上!!』

 

ハルプが女冒険者の背中を切り裂き、2階から蹴落とし、他の冒険者に切り掛るシーンだ。

 

くくく、いまの土煙に乗じてハルプモードにしてやったぜ。んでもってキュクロが俺(本体)に突っ込んできたらハルプを戻し、本体で撃退、キュクロとの距離が離れたら再び半霊をハルプモードにして魔法使い達を斬る。俺だからこそ出来る酷い戦い方だ。

 

 

 

 

『とうっ!牙突壱式!』

 

気分は新撰組。女冒険者の腹のど真ん中をブチ抜き、その後にいた壁役の冒険者の肩を貫く。・・・そして横に斬払う!ステイタスに任せ思いっきり!腹が裂かれ臓物がこぼれる。耳を塞ぎたくなる悲鳴と呻きを無視して次の相手へ。

 

「壁役!何やってんださっさと防ぎな!」

 

荒々しい命令に冒険者達が従い、盾役が前に出てくる。俺は半霊化し、一瞬にして盾役の後ろへ回り込む。ふっ、新撰組の俺には盾など無意味・・・。

 

「な!?」

『終わりだ・・・!』

 

驚いてる所悪いが俺は再びハルプモードに移行し、全力で回転斬りを放つ。しっかりと霊力も込めている。つまり。斬撃によって盾役が背中を斬られ地に伏せ、斬撃の軌跡が輝き大量の弾幕を360度にぶっぱなす。弾幕が通路の壁や床を破壊しながら冒険者達を飲み込んでいく。

 

すこし、ほんの少しだけやり過ぎたかもと思ってしまった。なんでって?だって霊力を結構込めたから死にはして無いけど(死んでないといいなぁ)手足がいたるところに落ちてる。弾幕に貫かれモゲたんだろう。まぁ正直ざまぁって言いたいね。皆を攫うのがいけないんだ。てか魔法を唱えてる奴らもいたみたいで自爆していった。自爆で死んだとしても俺が殺したわけじゃないから、のーかんですよね?タケ?

 

・・・ふむ、どうやら魔法使い達は全滅したらしい。うっと、キュクロが・・・あれ、撤退した?いや、こっちに向かってくるのか?ふぅむ・・・よし、とりあえず少しでも戦力を削ろう。俺は2階から飛び降りながらクルクル回り、下にいた冒険者に斬りかかる。左肩に命中し、腕が取れる。無くなった肩を右腕で抑えながら叫ぶ冒険者に対し、俺は屈んで膝裏を斬る。

 

『そこで寝てろクズ』

 

そいつの頭を蹴っ飛ばしこちらに凄い剣幕で走ってくるキュクロに俺は両手剣をぐるりと回し、構える。これはアイズに現在進行形で教えている必殺技・・・その名も滅界、とんでもない速度で突きを放ち、不動明王が象られるとか言うすごい技だ。だが負担が大きい。が、ハルプなら何の問題もないので使います、まぁ痛みは感じるんだけどね?

 

『滅界!!!!!』

「なに!?」

 

なに?!大剣2本をクロスする事で防いだだとぉ!?まぁ・・・そうだよね、オリジナルに全く届いていないこんな俺の攻撃なんて・・・防ぐの簡単だよねそうだよね・・・はぁ。腕痛いよー、もう本体に帰る。

 

キュクロが何とか俺に到着しそうなところでポン!と半霊になり透明化する。キュクロがなに!?とか言ってるが知らん。俺は痛かったんだ。

 

 

 

ふう、半霊が帰ってきたので俺は悠々と歩きだす。崩れた門を踏み越え砦の中に入っていく。キュクロがめっちゃこっち睨んでる。ぐぬぬ、負けないぞ。とにらみ返す。こうやって巫山戯てないと怒りに身を任せそうだ。

 

するとキュクロが俺に背を向け歩きだす。そして怪我をしている冒険者達を数人担ぎ建物の中へ。

 

「・・・ほえ?戦わないんですか・・・。まぁいいです、どうせ後で斬りますし」

 

負け惜しみっぽいセリフを吐きながら中に入る。多分俺が門を跨いだからプランBとかそんなんに移動したんだろう。ん?なんか上の方からずがががが!と音がするぞ?ちょっち行ってくるかの!

 

 

 

 

 

 

 

 

バベルの塔の天遍にて。

 

「・・・・・・・・・・・・うん。・・・・・・なんでロキがあんな事言ったのかわかった気がするよ」

 

目から光が消えたヘスティアがロキを虚ろな目で見つめる。

 

「やめい気色悪い。そんな目で見るんやない、そして乳をこっちに向けるな!」

 

ロキが適当に受け流そうとしたがボインアタックは必中なので間に受ける。するとタケミカヅチが画面から目を離さずに溜息をつく。

 

「はぁ・・・ごめんな妖夢。戦いづらいだろうに・・・苦戦を強いるような事を言って済まない・・・。だがこれも妖夢のため・・・!心を鬼にするのだタケミカヅチ!」

 

「「「「「「「一体・・・どこら辺が苦戦なんだ?」」」」」」」

 

神々が孤軍奮闘、獅子奮迅、の無双の働きを見せる妖夢を苦戦していると言うタケミカヅチ(親バカ)に疑問の目線を集中させる。

 

「はぁ?わからないのか?・・・・・・おれが誰も殺さないように、と言ったから手加減してるんだ。だから苦戦している。わかったか?」

 

タケミカヅチの言葉に神々達は驚くよりも呆れが先に来た。一体どの辺がレベル3なのか。レベル4とか5とか言われた方が納得できるというものだ。

 

「言葉として理解出来ても・・・この映像を見せられると・・・理解出来ないや」

 

ヘスティアが死んだ目で画面を見る。そして、それに他の神も続く。しかし、大抵の神はその目をキラキラさせながら見ている。

 

画面には何も無い所から途端に目の赤い妖夢が現れては一瞬で手足を吹き飛ばし冒険者達を無力化していく姿が。決して高速過ぎて途端に現れているように見えるのではなく、どう考えても妖夢は2人同時に存在している。ここにいる神の大半は神会に参加していたのでハルプを知っているが、知らない神々やオラリオの民達は酷く困惑している事だろう。

 

画面から『オラオラオラオラ!オラぁ!』と言う音声と共に血が吹き上がり手足が踊るショッキングな映像が流れている。誰もが思っただろう。

 

(これ例え攻撃で死ななくても出血死で死ぬんじゃ・・・)

 

しかし、それを口に出すのは無粋というもの、家族を攫われた恨みを堪え、あえてそれで済ませているのだからこれ以上は言うまい。

 

「・・・たしか、ハルプがポーションをできるだけ用意するように、と言っておいたはずだが・・・」

 

タケミカヅチのその呟きの意味を理解したものは割と多い、つまり、「治す手段は用意したんだから頑張れ。即死してないなら治せるだろファイト」だ、やはり彼もキレてる、それがこの場にいるもの達の見解だ。

 

 

 

 

 

 

 

桜花達は1人の女性と対峙していた、名前をエン・プーサ。レベル3の冒険者だ。・・・緊張をしているのか、目がぐるぐるになっているが。

 

「うふふ・・・貴方達はナニがお希望なのでしょうか?」

 

巨大な大鎌の柄の部分を太股ではさみ、唇に人差し指をあて、頬を少し赤らめながら問いただす。やはり目がぐるぐるだ。彼女は彼女なりに二つ名に恥じぬ様に頑張っているのだろう。

 

「・・・俺達は千草を助けに来た。お前に付き合ってる暇はない!」

 

桜花が若干半目になりつつ、そう答えると何故だかエン・プーサは慌て始める・・・顔を真っ赤に染め上げアワアワと。

 

「そ、そんなぁ・・・つきあう・・・突き合うなんて・・・!」

「え、いや違うんだが・・・違わないか?」

 

何を勘違いしているのか、もう魔鉄淫獣になりきっているようで、脳内変換で変な言葉に聞こえてしまうのだろう。なんと哀れな。そんな風に桜花が捉えていると。

 

「う・・・でも私には・・・主神様がいるし・・・・・・ッ!!」

 

狼狽えながらも何らかの覚悟を決めたのか、キリッと表情が固くなる。桜花と命がそれに合わせ武器を構え直す。

 

「コホン。・・・イクわよ?その槍で私を貫いて見なさいな!」

「命!先に行け!・・・さて、ではお相手は僭越ながら俺が努めさせてもらうぞ」

「ええ♪」

 

目のぐるぐるは無くなり、しっかりと前を見据える。役がハマったという事なのだろう、桜花の槍を持つ手に力が入る。

 

「シッ!」

 

鋭い呼吸と共に槍が繰り出される。エン・プーサはそれを大鎌を回転させ大きく逸らし、自らも回転する事で遠心力を高め振り下ろす。桜花は逸らされた槍の石突を地面に打ち込み前方に飛び回避する。

 

「(・・・不味いな・・・)」

 

桜花は内心で焦る。大鎌の薙ぎ払いが迫る、胸が地につくほどに低く屈んで回避する。

 

「(鎌の形状的に防ぎづらい・・・!)」

 

迫る大鎌を槍で叩き落としながら、桜花は後退する。室内という事もあり、槍が少し扱いにくいのだ、しかしその程度で戦闘が行えなくなるほどタケミカヅチ・ファミリアはヤワではない。

 

石突きが床を叩き音を出す、繰り出される連続突きをエン・プーサは小さな切り傷を作りながらも防ぎ切る。

 

「白兵戦は得意でないと見た、・・・・・・行くぞ・・・!」

「あらあら、お盛んね。体が持たないかも」

 

互いに軽口を、槍と大鎌がぶつかり合う。槍がエン・プーサのローブを貫きひん剥く。足こそ武具に覆われているが、上半身は下着も同然だった。彼女の為に言うのなら、この格好は彼女の趣味ではなく主神の趣味だ。

 

「キャッ!・・・変態さんなのかしら?」

 

片手で胸を抑え、上目遣いで睨む。桜花が思わず目をそらしたのは仕方の無い事だ。

 

「変態さんにはお仕置きが必要ね?・・・ブツブツ」

 

ブツブツと小さな声で何やら言い始めたエン・プーサ、足元には魔法陣が。桜花はそれが魔法の詠唱だとすぐ様気がつき止めようと走るが・・・

 

千刃(ブレイド)。」

シンプルな名前がつぶやかれ、魔法は発動する。エン・プーサの足が地面に叩きつけられた瞬間剣が地面から飛び出してくる。

 

「ぐっ・・・!」

 

足や肩を切り裂かれながらも桜花は何とか直撃だけは避けてみせる。するとエン・プーサが飛び上がり鎌を天井に叩きつけた。剣が雨となって降り注ぐ。槍を使い懸命に防ぐが・・・・・・飛び上がったエン・プーサが地面に着地すると同時に剣が再び地面から飛び出す。上と下からの攻撃が桜花を襲う。

 

「ぐっ!!ちぃ!」

 

回避し続ける事は不可能でその身体に傷をつけていく。

 

「頑張って♪頑張って♪」

「畜生がぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『で!でたぁーーーー!魔鉄淫獣の千刃だーーーー!お仕置きやったーーーー!あっ・・・あの魔法はどんな魔法なんですか?!さぁあなたの出番ですよガネーシャ様!』

『俺がガネーシャだ!』

『ズコーーーー!』

 

実況がオラリオに響く。街の人々は映像に釘付けになっている。殆どの者がその手に何やら紙を握っている事から『賭け』をしているのだとわかる。戦争遊戯ほど大きな娯楽は無いのだからそれも仕方がない。

 

『えー、では私から。あの魔法は彼女が装備しているあのブーツ、もしくは鎌が刺さっている場所から一定範囲内好きな様に剣を生やし飛ばせるものらしいです、凄いですねぇ!』

『あぁ、ガネーシャだな。』

『ガネーシャが動詞になった!?』

『俺が!俺達が!ガネーシャだ!』

『もうわけわかんねぇよこの人!?俺はガネーシャ様じゃねぇよ!?』

 

そんな実況を聞きながら、桜花を写した画面を見るのは、ロキ・ファミリアの団長。フィンだ、つい先程ダンジョンから出てきたばかりだ。アイズ達がベルをギルドに届ける間、フィンはこうして映像を見ていたのだ。

 

「んー、平気そうかな?妖夢くんの話を聞く限りだと・・・何らかの魔法もあるらしいし、あのままでも十分に時間は稼げるだろうね。」

「そうだな、問題あるまい」

 

独り言に返事を返したのはリヴェリアだ。緑色の髪を靡かせ共に映像を見る。

 

「だが・・・余り余裕もなさそうだ・・・。」

「うん、そうだね」

 

ふたりが視線を移した先、幾つもある映像の中の1つ、そこには目覚めた千草が檻から出るために檻を調べている最中だった。

 

 

 

 

 

 

 

『オラオラオラオラァ!吹き飛べ消え去れ居なくなれ!せいっやぁっ!ていっ!はぁっ!』

 

バッサバッサとザコ敵を切り倒し、俺は奥へと進む。なんだこいつら・・・武術の一つも学んでねぇのか?何も出来ずに斬られていく盾役とか・・・。

 

「くっ!くるなぁぁ!?この化物ぉ!」

『ああん?なんだって?俺が化物?よくわかってんじゃねえか!』

「ギャアーーーーーー!」

『うるさーい。』

 

だいだい何なんだこいつらは、人の事を化物とか言いやがって。・・・ん、確かに攻撃しても防がれ躱されて、追い詰めたと思ったら消えて後ろに現れて、なおかつ理解不能な技を使って盾ごとぶち抜いてくる・・・ふむ。確かにこりゃあ化物だ。

 

「あ、あくまたん・・・」

『残念天使だよ☆』

「グボアーーーーー!」

 

おうふ、なんて悪寒のするセリフなんだ。これは悪魔ですわ。

 

「もうダメだァ・・・おしまいだァ」

『おう、そうだな終いだ』

「ぐふっ・・・」

 

何やら絶望しているようなので肯定してあげた、慰めになるかと思ってレイピアで腹と肩を貫きショートソードで足を切り飛ばしてやった。安心したように気絶している(乱視)

 

ああ〜怒りが収まらないんじゃあー。ん?女か・・・若いな、15、いや16くらいか。

 

「ひっ・・・・・・や、止めて・・・!私は主神の命令だから仕方なくやっただけなの!だからお願い助けて・・・!私は悪くないのよ!」

 

・・・あ?結局やったなら同じだろうが・・・!何自分だけ助かろうとしてやがんだコイツは。命乞いなんてしやがって。

 

「あ"あっ!・・・・・・ぐ・・・痛い、痛いよぉ・・・」

 

女の腹の真ん中にレイピアが突き刺さる。まるで自分の体じゃないかのように、自由が効かない。体が勝手に動く、・・・背中がやけに熱い、怪我はしていないはずだが。

 

「止めて・・・痛いよ・・・助けて・・・」

 

イラつき、それが体を蝕んでいく。女の苦痛の呻き声が耳にこだまする。口が、勝手に動き出す。

 

『家族はいるのか』

 

俺の言葉に一筋の光を見たのだろう。女は必死になって言葉を紡ぐ。

 

「いる!いるわ!だから止めて!私には家族が!家族が悲しむからやめ」

 

俺はショートソードを女の肩に突き刺した。よろめきながら女は壁にぶつかった。

 

「ああああああッ!?・・・ぅ・・・いだい・・・痛い・・・なん、で?」

 

『家族がいるってのに・・・・・・こんな事をしたのか?』

 

思い出せない。なにも。家族はいた。あぁそうだ、居たんだ、そう・・・・・・居たはずだ。顔も、声も、何もかも既に覚えていないけど、「家族が居た」と言う事実だけは『知っている』。

 

「う、うぅ、もう許して・・・どうして私がこんな・・・」

 

なのに・・・なんで・・・コイツは・・・。人から奪っておいて自分は助かろうとして・・・いや、違う、さっき言ってだろ、コイツはやりたくてやった訳じゃないって。

 

『ふざけるな・・・!何が許してだ!人の家族を奪っておいて・・・!』

 

意志とは関係なく、体は動き言葉が発せられる。ショートソードがさらに食いこんだ。悲鳴が響き渡る。

 

「謝るからっ!もうやめてっ!」

 

『お前は知っているか?ふと気がつけば見知らぬ土地にいる寂しさを。知っているか?気がつくと失われている自分の記憶を。恐怖を!』

 

知らないだろう、知っているわけがない。知っているはずが無い。家族の顔が思い出せないのが・・・・・・どれだけ悲しいか。

 

『知らないだろ、この恐怖を。記憶の中の家族の顔が無い恐ろしさを・・・!』

 

知らないんだ、家族の笑顔を。

 

「う・・・ああああああ!やめで!じにだぐない!!」

 

ミシミシと音を立てていた肩をショートソードが貫き後ろの壁に剣が突き刺さる。悲鳴が響き渡る。腹を貫いたからなのか、口から血が流れてくる。

 

『それなのにお前達は奪うのか・・・?また、俺達から?俺が何をした?お前達の家族を皆殺しにでもしたのかよ?・・・してないだろ』

 

震える声で俺は気持ちを吐き出す。怨みは深い、自分でも気がつかないほどには。いや、妬みなのか?羨み?

『なんで・・・・・・家族がいるのに・・・・・・俺に無いものを持ってるのに・・・・・・俺の・・・大切な家族を奪おうとするんだ・・・・・・。』

 

・・・・・・俺はほんとに何やってんだ・・・・・・、こんな奴に何いってんのさ。こんな奴はどうでもいいんだ、早く助けに行かなきゃ。タケと約束しただろ。

 

『あぁ・・・くっそっ!』

 

足を女の胸元に押し当て、レイピアとショートソードを力任せに引っこ抜く。叫ぶ力も残っていないのか呻き声が少し上がっただけだ。・・・このままなら死ぬな。・・・・・・・・・タケとの約束だ、それに八つ当たりしちまったしな。

 

『・・・・・・・・・・・・俺はお前を殺しはしない。・・・そういう約束だからだ。・・・・・・・・・ポーションをやる、だから死ぬな。お前には(・・・・)家族が居るんだろう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オラオラオラオラァ!吹き飛べ消え去れ居なくなれ!せいっやぁっ!ていっ!はぁっ!』

 

バベルの塔の天遍の一室、神々が集まるそこに映像が流れていた。ハルプが駆け回りながら敵をいとも簡単に切り倒していく。廊下は呻き声を上げる五体不満足の人で埋め尽くされている。

 

「おっ、恐ろしいわ〜 。容赦ないなぁ〜」

 

ロキがこの場のすべての神物の内心を代弁する。

 

「くっ!くるなぁぁ!?この化物ぉ!」

『ああん?なんだって?俺が化物?よくわかってんじゃねえか!』

「ギャアーーーーーー!」

『うるさーい。』

 

ちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返す。もちろん素手で引きちぎるのではなく、様々な武器で四肢を奪ったり壁に貼り付けにしているだけである。ただ、それを行うのがどう見ても幼女な事がただひたすらに異常であった。

 

「(妖夢・・・・・・やはり、悩んでいるのか?人との付き合いに・・・)」

 

タケミカヅチが思案する途中でも進撃は止まらない。

 

「あ、あくまたん・・・」

『残念天使だよ☆』

「グボアーーーーー!」

 

人差し指を顔の横でピンと立て、首を傾けながらニッコリと笑い、斧を振り下ろすハルプ。哀れ、冒険者は両足を失った。

 

場面は進み女の冒険者が追い詰められる。

 

「ひっ・・・・・・や、止めて・・・!私は主神の命令だから仕方なくやっただけなの!お願い助けて・・・!」

 

女の必死の弁解に神々達も「いやぁあの子ついてねぇなあ」と同情気味だ。しかし、ハルプは何の躊躇も無くレイピアを腹に突き刺した。

 

「あ"あっ!・・・・・・ぐ・・・痛い、痛いよぉ・・・」

 

痛みに声を上げる女、しかし、ハルプの表情は暗い。憎々しげに女を睨む。

 

「止めて・・・痛いよ・・・助けて・・・」

 

「うわぁー・・・ハルプたんまじ激おこやな。」

「うわぁようじょつよい、そして怖い」

 

「(妖夢・・・)」

 

更に事は進み。

 

『家族はいるのか』

 

ハルプは問いかける。タケミカヅチがピクっと反応した。タケミカヅチの目が見開かれる。ハルプの語る内容がタケミカヅチの心を突き刺したのだ。

 

 

『家族がいるってのに・・・・・・こんな事をしたのか?』

『ふざけるな・・・!何が許してだ!人の家族を奪っておいて・・・!』

『お前は知っているか?ふと気がつけば見知らぬ土地にいる寂しさを。知っているか?気がつくと失われている自分の記憶を。恐怖を!』

『知らないだろ、この恐怖を。記憶の中の家族の顔が無い恐ろしさを・・・!』

『それなのにお前達は奪うのか・・・?また、俺達から?俺が何をした?お前達の家族を皆殺しにでもしたのかよ?・・・してないだろ』

『なんで・・・・・・家族がいるのに・・・・・・俺に無いものを持ってるのに・・・・・・俺の・・・大切な家族を奪おうとするんだ・・・・・・。』

『あぁ・・・くっそっ!』

『・・・・・・・・・・・・俺はお前を殺しはしない。・・・そういう約束だからだ。・・・・・・・・・ポーションをやる、だから死ぬな。お前には(・・・・)家族が居るんだろう?』

 

 

ハルプの声だけがタケミカヅチの耳にこだまする。まだ、彼女を救えていないのか、救う事は俺には出来ないのか。タケミカヅチは悔しそうに拳を握る。

 

「あぁ・・・・・・・・・すまない、妖夢・・・!俺は・・・俺が不甲斐ないばかりに・・・」

 

タケミカヅチが罪悪感に潰されそうになっていると、ヘスティア達がその背中にポンと手を載せる。ヘファイストスが口を開いた。

 

「あの子の事情は知らないけど、・・・・・・貴方が頑張らなきゃダメよ?まるで八つ当たりだけど・・・・・・そうね、なんて言えばいいのかしら、そう、人の温もりを求めてる・・・・・・そんな感じかしら。」

 

ヘファイストスが顎に手を当て、そう助言する。しかし、その内容はタケミカヅチも理解している。不器用なタケミカヅチにそんな器用なことを期待できるかは別として。

 

「ああ、わかってる・・・。わかってはいるんだ・・・」

 




最後の方の心理描写がなんか変ですかね?物足りないような・・・しかし、私の技量ではこれが限度か・・・。

誤字脱字ありましたら報告ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31話「『偽・秘密勝利剣ッ!』」

いやぁ、テスト期間だと執筆が進む進む。
という訳で31話です。後書きに命と猿師のステイタス載せておきますね。次回は桜花のステイタスを載せようかな?


砦内、1階。鈴のような可憐な声が響く。それも2つ。そして小さな悲鳴と共に誰かが逃げ出した。

 

『むむ!?あれはセイバーッ!』

「なんですって!?ホントですセイバーッ!」

 

妖夢とハルプが目をギラギラと輝かせ・・・・・・・・・剣を持っている者を優先的に狙い突っ込んでいく。

 

 

うっす。俺です。暗い雰囲気を吹き飛ばすためにはやはりこれだよね、そう、ネタに走るっ!というわけで謎のヒロインXの真似をしているわけです。っは!あんな所にショートソード持ってるやつが!おのれセイバー、こんな所にもいたのか・・・!

 

「ハルプハルプッ!見てくださいあの通路の右横側、盾持ちの後にセイバーが!」

『おおぅ!?なぁんだってぇ!おのれセイバー!ポコじゃか増えやがって許さん!』

 

清々しいほどの一人芝居にスパルタクスさんもニッコリ。ってあの人は常に笑ってるか。

 

「『セイバーッ!!』」

 

「「きゃーーーーー!(ぐわーーーーー!)」」

 

刀をクロスを描くように振り、切り捨てる。そしてくるりと回し鞘に収める。

 

「『フッ』」

 

つよい(確信)

 

「まぁ、何を隠そうと最強のセイバーは私です。ほかのセイバーが適うわけもなし・・・。」

 

『ふっふっふ、そう、俺こそが最強のセイ・・・・・・バー・・・・・・え?俺だよ最強は!』

 

「みょん?またハルプがみょんな事を・・・やれやれ、と言うやつです」

 

『な、なんですとぉ!最強は俺なんだよ!だって1番倒してるぜ?今回!こーんなに!』

 

「ふふ、まだまだですねハルプは」

 

『なにおぅ?』

 

「ふっ、教えてあげましょう。確かに今回は貴方の方がたくさんの敵を切り倒しています、しかぁし!まだ戦いは終わっていな いのです、つまりはまだ勝負はついていません!」

 

『な、なるほど・・・!ならば勝負だ妖夢!どちらが多く倒せるかな!』

 

「ちっちっち・・・、ダメですねハルプは・・・どちらがセイバーを多く倒せるか、それが戦いなのです。」

 

『おおお、なるほど。納得しました隊長っ!』

「ふふふ、ではセイバー3カ条!」

 

『ふぇ!?』

 

「その1!」

 

『え、ええと・・・け、剣を使う!』

 

「その2!」

 

『う、うぅ・・・強い!』

 

「そのいきです!その3!」

 

『とっても強い!』

 

「その通りっ!」

 

「『・・・じゃあ・・・やりますか』」

 

俺達は、剣を持ち、狼狽える魔法使い達を尻目に2人・・・正確には1人で文字通り一人芝居を演じる。 そして!ぐるりと首を回転させ魔法使い達をギラギラの目で見つめる。ひっ!とか悲鳴を上げているぞくくく、あ、やばいなその方向に目覚めたりしてしまうかもしれない、少し手を抜こう。

 

「うおおおおおおおおおお!最強のセイバーは私です!なのでセイバーは全員死ね!そしたら私が最強なのですっ!テッテレー!」

 

両手を天高く掲げローマのポーズ。威勢よく雄叫びを上げながら走り出した挙げ句これですか(笑)

 

『うおおおおおおおお!お!お!?いいこと言うじゃん!そのとおり!最強は1人でいいんだ!よっし、剣持ってる奴が居たらこれからは取り敢えず斬りかかろうそうしよう!ジャジャジャーン!』

 

同じくローマポーズ。手を抜いた結果がこれだよ(呆れ)

 

皆にはナイショですよ!(『皆にはナイショだぞ!』)

 

ローマポーズから武器を体の後ろに構える。残念ながら俺の持ってる剣は聖剣じゃないからビームは出ない。しかし、再現は可能だ。黒糖と砂糖を手に持ち、断迷剣「迷津慈航斬」を発動する。二刀から霊力が爆発的に放たれる、それを後ろに向けて放ちながら一気に飛び出し、セイバー達との距離を一瞬にして詰める。そして斬撃の連打。

 

「『偽・秘密勝利剣(にせものっ!ひみつかりばー)ッ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

「いや皆見てっから!!秘密でも何でもねぇからァ!」

 

ベートがツッコミを盛大に入れる。付近の観客達が一斉に振り返る。その様子をティオナがお腹を抑えながら片方の手でベートを指差し笑いを堪えようとしているが全く堪えられていない。

 

「ププププププw・・・・・・ぶっwww」

「こらやめなさい汚い。」

「だって・・・ふ・・・ふふ、ベートが・・・尻尾が・・・ぶふぅ!」

「んだとォ!」

 

てめっ!とベートが飛びかかりきゃー!とティオナは逃げ出した。それをティオネは溜息をついて見送る。そして画面に再び視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

「ハルプ!そっちに行きました!」

『わかった!俺はこっちから追っかけるからそっちから行ってくれ!』

「わかりました!」

 

1階を制圧中の儂じゃ。ハルプじゃよ。お、いたいた、壁を背に震えながら数人のザコ敵がこっちに武器を構えている。どうやら本体が向かった方向とは繋がってなかったみたいだ。

 

『さぁて、83人目だな。一応聞いてやる・・・・・・何処なら切り落として良い?』

 

首を傾げニッコリ笑う下衆サービス。3人のうち1人の膝が笑い始めた。

 

「く、くるなぁ!!!!【風よ狂え!吹き荒れ敵を穿て!】ウィンドスピアー!!!」

 

むむ?魔法か。ふむ、此処は一本道、そして目の前はザコ敵と壁、後ろに逃げればいいのだろうが、魔法は既に放たれている。そして通路は割と狭い。つまりは避ける事は無理ぽという事か・・・。はっ!これは罠だったのか!

 

「よし!掛かったぞ!消えてなくなれ!!」

 

槍のように先端を尖らせた風の魔法が俺に迫る。跳ね返す事も簡単だが・・・、真正面から打ち破るってのもまた一興だろう。ある程度こちらの技の威力を減らしてくれれば向こうも死なないだろ。てか消えてなくなれって・・・あ、俺はハルプだから別に消えても良いやって考えなのか・・・。ゆるさん、これも俺の大事な肉体?なのだ。

 

『眼・耳・鼻・舌・身・意、人の六根に好・悪・平、またおのおのに浄と染、一世三十六煩悩・・・・・・』

 

魔法の風槍が眼前に迫る。逆巻く風が髪を靡かせ視界を悪くする。しかし、俺は動かない。ただ真っ直ぐにそれを見つめ・・・時を待つ。そして。

 

三十六煩悩鳳(さんじゅうろくポンドほう)ッ!!』

 

海賊狩りの一撃が魔法の風槍とぶつかり合い凌ぎを削る。砦を構築する岩石の破片が風と共にまき散らさせる。一瞬は拮抗したものの、あっさりと風槍は散らされ魔力に戻る。三十六煩悩鳳が飛来し・・・・・・3人のザコ敵に当たることは無かった。1人の男が盾を構えそこに立っていたからだ。

 

「ふぃ〜危ない危ないww、いやぁ久しぶりでごさるな、某、驚いちゃったwww。一体全体どんな魔法なんでせう?あれれ、魔法じゃないかもしれないでせう、なにせ魔力感じなかったでせうからね!あぁ!そうそう!某、一人称を変えたんでござるよw被るのは御免でござるからね!」

 

ウザっ。何コイツ、なんで妖夢盾持ってんの?なんで妖夢が盾に描かれてるの?ロリコンなの?ロリコン死ぬの?殺すよ?ロリコン死すべし慈悲はないよ?それと何なのその話し方、真似なの?マイボデイの真似なの?そんなふうに聞こえてたの?発音悪いの?死ぬの?殺すよ?

 

『うん、うん。そうだな。殺そうコイツは』

「あっれれぇ?おっかしいぞ〜?」

 

刀と盾が衝突する。ステイタスの差は埋められず、某野郎は後ろに押し出される。おりゃおりゃ!と刀を叩きつけるが盾の使い方が無駄に上手くてうざい、そして自分が描かれているのもうざい、なんて言うが攻撃がしづらい。

 

『はぁぁあ!』

 

大振りの横薙で切り払った後弾幕が相手を襲う。横薙の斬撃を防いでも弾幕が来るので踏ん張って耐えるしかない。その瞬間俺は回り込んでぶった斬る。

 

「あふんw、痛いなー。でもでも?そんな柔な一撃では?某、傷つかないというか刺激が足りないというかww」

 

う、うっ・・・うっざーーーい!!何なんだこいつ、煽ってんだろ、しかも攻撃効かねぇし・・・!

 

「くらえ!某の愛の抱擁を!」

 

当たるかボケ、と横にステップ踏んで避けた後ガラ空きの首に全力で砂糖を振り下ろす。・・・ムカつくなぁ!

 

「おー!痛い!おー痛いよー!」

 

首を押えながらヒゲダンスみたいな動きでそこら辺をうろうろしている。ちなみに3人組はいつの間にか居なくなっている。隠し扉か・・・?

 

『邪魔すんなよ、なんていうか・・・戦う気あるのか?』

 

コイツの相手をするのがめんどくさくなって聴いてみる

、なんていうか殺意とかそういう類を感じないからね。

 

「もちもち、もちでござる。たたかうでござるよー。なぁに、ここをまもるのはすくないじんいんでござるので。」

 

・・・・・・うざいよ。なんかウザイよ。なんで拙いんだよ話し方。ぐぬぬ、しかし殺せない。殺したいけど殺せないし、約束してるから殺しちゃダメだし・・・時間もない、此処はコイツを無視して進むべきだな。

 

『サラダバー!とうっ!』

「へ?」

 

唐突な話の変更、行動の変化にさすがのアイツもついてこれなかった、まぁ当たり前だよね、今からまさに戦闘が始まります!って時に急に逃げるんだから・・・しかも半霊形態になって壁抜けしながら。てか噛んだんだけど、さらばだーがサラダバーになったんだけど!?

 

まぁいいか、取り敢えず本体を目指して一直線に進みますか、向こうは特に異常なく至るところにあるドアを開け千草を搜索してるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バベルの塔。ヒロインXの真似をし、キャッキャとはしゃぎながら剣を持っている冒険者を追いかけ回し挙げ句の果て切り捨てる、というなんとも世紀末的な風景を作り出している妖夢達を神様達は口をあんぐりとあけたまま見守っていた。

 

「・・・・・・とんでもないな・・・。あれって魔法じゃないんだろ?」

 

男神の1人がタケミカヅチに尋ねる。もちろん三十六煩悩鳳や秘密勝利剣の事だ。それとハルプの事でもある。

しかし、タケミカヅチは男神の問に答えず満足げにフッ、と笑う。

 

「ウザっ!?独り占めはやめろよ!俺は知りたいんだ!」

「しらん、教えて欲しければ首出せ首」

「理不尽!?」

 

タケミカヅチはどうやら妖夢の秘密を教える気は無いようで、適当に誤魔化す。しかし

 

「やぁタケミカヅチ。俺には教えてくれるよな?協力関係だし」

 

と優男の笑みを浮かべたヘルメスがタケミカヅチの肩を叩く。タケミカヅチは素早く立ち上がったかと思えば重心移動と僅かな動作で加速、ヘルメスの後ろに回り込み腕をつかみアームロックをかける。

 

「いだだだだだだだ!」

「「「「それ以上はいけない」」」」

 

全員からの静止の声にタケミカヅチはアームロックを解除する。ヘルメスが「いてて」と腕をさすり、タケミカヅチの隣の席に腰掛ける。

 

「おい」

「なんだい?」

 

いやおかしいだろ、なぜ今の流れで俺の隣に座るんだ。タケミカヅチがそう言うと、ヘルメスは折れずに尋ねてくる、ほかの神に感づかれないように顔は画面に向けたまま、小声でタケミカヅチのみに聞こえるようにだ。

 

「彼女について、魂魄妖夢について教えてくれないか」

 

今までに無いほどに、真剣な声音でヘルメスは言った。

 

「・・・・・・・・・今は無理だ、いつか、な。」

「あぁ!ありがとうタケミカヅチ、やっぱり君はイイヤツだな!」

 

少なくとも、妖夢はヘルメスを邪険に扱っていなかった、そう記憶しているタケミカヅチはしぶしぶといった風に小さく頷く。

それを少し後ろから、銀色の女神が眺めているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒い息づかいが廊下に響く。私の呼吸音だ。桜花殿と別れ、私はスキルを発動させながら走り続けている。

 

「はぁ――はぁ――(・・・正面右横、扉発見・・・!)」

 

しかし私はそこに目もくれず通り過ぎる。なぜなら千草殿の反応がないからだ。私のスキルなら間違えるはずがない・・・・・・精神状態は比較的落ち着いている、範囲は十分に広いはず・・・。

 

「ッ!(魔力反応?・・・・・・左!)」

 

足音を消し、通路を左に曲がる。奥の部屋から魔力と詠唱の声が聞こえる。扉の横に張り付き、耳を澄ませる・・・ポーションがどうとかそう言う会話だ。スキルによる反応は無し、つまり千草殿は居ない。しかし、魔法は厄介だ。発動されれば形勢が逆転しかねない、止めるか・・・止めないか。

 

腰に佩いた愛刀の残雪に触れて、心を落ち着かせる。妖夢殿はいった、「刀を持っていると落ち着にます」と、当時の私は余り理解していませんでしたが・・・冒険者になって初めて自分の身を守る武器がどれほど安心感を生むのかを理解した。

 

「【―〜―ー~】」

 

ゴクリと唾を飲み込む。詠唱は聞こえにくく何を言っているかわからないがなんとなしに詠唱はまだ終わらないのだと理解する。・・・相手が剣士ならば多少は楽になるのですがね。

 

中の人物が安心しきった瞬間を狙う。―――3――2――1――今ッ!

 

勢いよく壁を蹴り飛ばし踏み込む、刀を体と平行に構え、弓を引くように引き絞る。妖夢殿に教わった技の中で私が最も得意とする技。・・・牙突シリーズ。

 

「牙突壱式!」

 

視界に赤い髪が映る。肩や腹を怪我しており、回復魔法による回復を試みたようだ。驚愕に目を見開いているその背中に、全力で技を叩き込まんと迫る。

 

「御免ッ!はぁああ!」

 

しかし、片腕の力だけで赤いウェアウルフは横に飛び跳ねた。だがこの技は次に繋げることが可能な技だ、横に跳ね未だ空中で回避のできない相手に派生した横薙で斬りかかる。

 

「ちぃ・・・!」

 

腹を薄く斬られ殴りかかってくる赤いウェアウルフ。・・・赤髪のウェアウルフで、今回の敵側・・・最早誰かはわかったも同然。ダリル・レッドフィールド。手負いの今が止めを指すチャンス。

レベル3の豪腕を体の軸を左右にずらしながら躱し、滑るように横をすり抜け壁を蹴り飛ばし斬りかかる。相手が回し蹴りを放ち、私の攻撃を逸らすが、腹部の痛みが堪えたのか狙いが甘く私の顔の横をすり抜ける。

 

「そこぉ!」

 

その隙を逃がさず傷を負っている脇腹に拳を打ち込む。呻き声をあげ、思わず腹を抑え屈んだ顔にローキックを御見舞する。頭から壁に衝突した相手に止めを刺そうと走った瞬間悪寒が走った。

 

地面を全力で蹴り、後方にはねる。

 

自分がつい先程までいた場所から数本の剣が生えていた。なぜ剣が・・・?いやそんなことより、将の首にばかり気を取られていた私は他にも人が居ることを忘れていた、しかも魔法使い。これは不味い。

 

「【――光よ、優しき温もりと生命をここに】ライト・ヒーリング」

 

回復魔法・・・!いつの間にか長めの詠唱を許してしまったらしい。ダリル・レッドフィールドが傷を失って立ち上がった。

 

「―――よぉうし。反撃だ、嬢ちゃん」

 

勢いを吹き返したダリルの体から火の粉が。周囲の空気すら揺らめいている。私の肌を熱が撫でる。何らかのスキルが発動しているのか・・・。

 

「(・・・・・・熱い・・・!)」

 

思わず目を覆い後ろに後退する。相手の武装は剣、ならば私や妖夢殿は適正持ちだ、大抵の場合は「わかる」。剣神でもあるタケミカヅチ様の家族として共に鍛錬を積み、技を磨いたからなのかわからないが私は『剣神眷属』というスキルを発現させた。勿論桜花殿や千草殿もそれぞれ別のスキルを発現させている。

 

っと、現実逃避をするのはやめましょう。今は目の前の敵に集中しなくては・・・。

 

 

体から火の粉を舞わせ、ダリルが歩を私に向けて進める。その表情はひとえに「面白そう」だけだ、恐らく奇襲してきた私がどれだけの力の持ち主なのか、気になって仕方が無いのだろう。

 

「ハァっ!」

 

気合いと共に一歩踏み出す。しかし、ダリルは後ろに下がり攻撃をかわした。・・・なるほど、間合いに入らないように警戒している。

 

「・・・嬢ちゃん、名前は?」

 

剣を肩に担ぎ、そう聞いてくる。此処は素直に答えるべきだろう。

 

「私の名前はヤマト・命。剣神タケミカヅチの子です。」

 

私が刀を正面に構え、どんな攻撃にも対応しようと身がまえれば向うは何がおかしいのかくつくつと笑っている。

 

「くっくっ、なるほどなぁ、剣神、武神・・・んでもって雷神か。ハハッ!こいつぁ、骨が折れそうだ」

 

嬉しそうに笑いそう答えるダリル。ですが、弓神に軍神を忘れている。いや、知らないだけかも知れませんが。

 

「いえ、骨を折るなど・・・・・・切り落とすのでご心配なく。」

 

戦闘前の口上は大切な勝敗を決める要素だ、相手が冷静さを失えば良し、作戦を練る時間を得られれば良し、自分を有利にする為に必要なもの。

 

「ああそうかい!」

 

一気に突撃してくるダリル、剣と刀がぶつかり合い火花を散らす。火の粉が顔を撫でる、熱が皮膚を焦がす。詠唱がない、スキルか・・・・・・桜花殿の魔法よりは我慢が効くがまともに目を開けていられない・・・!

 

「ぐっ・・・!」

 

がむしゃらに放つ袈裟斬りは体を捻って回避され、捻った動きに合わせた肘打ちが私の横っ腹を強く打つ。続けて振るわれた剣を刀で逸らし、返す刀で手首を狙う。

 

「へっ!あぶねぇじゃねえか!」

 

セリフとは裏腹に笑顔を深くするダリル。いつの間にか火の粉は煌々と輝いて見える程にその数を増やし、近付く事すら億劫になる。振り下ろされる剣はまるで加熱されているかのようで赤々と輝く。

 

「くっ!(当たっては・・・いけない!)」

 

まともに当たれば最後、溶断される。妖夢殿が使っていた技に似たものがある、朧・焦屍剣だ、妖夢殿は自分の手が焦げるほどだったが・・・神の恩恵の援助を受け手に入れた力だからなのかその体が焦げることは無い。

 

「なにか・・・対応できる技は・・・」

「ンなもんあるかよぉ!」

「え!ぐうぁ!」

 

回し蹴りを躱した私の頬を剣が掠める。肉が焼ける音がして視界がふらつく、痛みが全身に駆け回った。

 

「ハッ!なんだ嬢ちゃん、あのコンパクって奴より弱いじゃねえか・・・やめだやめ、つまらねぇ。・・・ったくにしてもよ、何だってキュクロの野郎は最奥で待ち構えるとか抜かしてやがんだ・・・」

 

ダリルがまるでわざと私に情報を教えるかのように、比較的大きな声でそう呟く。最奥・・・そこに、千草殿は・・・。

 

「追ってくるなら構わねぇぜ?あぁそれと、嬢ちゃん達が探してるヒタチってヤツはそこには居ねぇ、探し出して全員で俺らを倒しに来いよ。」

 

待ってるぜ、そういい残し魔法使いとダリルはその場を去った。千草殿はそこには居ない、この情報を信じていいのだろうか・・・?・・・!今の情報の通りなら桜花殿と戦っていた女の人も最奥に向かったのだろうか?・・・・・・桜花殿と合流しよう、妖夢殿か居てくれるといいのですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁクソ、エン・プーサに逃げられた。壁やら床やら天井から剣が突き出て道を塞いでいったんだ。

 

まんまと逃げられては妖夢に示しがつかないな・・・、仕方ない、千草の捜索を優先しよう。取り敢えず妖夢か命と合流しよう、あとは猿師さんと合流して最奥に向かうしかないな。待ち構えているところに向かうのは気が引けるが。

 

「ササッ!サササッ!チラッ?はっ!桜花!」

 

・・・・・・何故が擬音を口で言いながら妖夢が曲がり角から頭だけ出していた。どう見ても頭が横向きなんだが・・・体はどうなってんだ。とっとっと、と走ってきて妖夢は首を傾げる。

 

「どうしてここにいるんです?しかも傷だらけじゃないですか」

「どうしてお前はほぼ無傷なんだよ・・・。てかどうしてって・・・千草を探すために決まってるだろ」

 

ですよねー、の頭の後ろを掻き笑う妖夢。なんていうか緊張とかそういうものが全部吹き飛ぶなぁ・・・いかんいかん、気を抜いたら最期だ。

 

「妖夢」

「みょん?」

「エン・プーサが最奥に待ち構えている、他のみんなと合流し次第行くぞ」

「え?プーサン?・・・はい!行きましょう」

 

ボケをかまし、しかし真面目に見つめる俺に気づいて妖夢も真面目に戻る。すると腕を組み顎に手を当て考え始めた。

 

「では・・・キュクロも・・・。一旦命に合流しましょう。どっちに行きました?」

「こっちだ!ついてきてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

廊下を妖夢と駆け抜ける。曲がり角をいくつか曲がると足音が正確にこちらに向かって走ってくる。命がスキルを使ってこっちに来てるのだろう。

 

「桜花殿!妖夢殿!」

「命か!」

 

俺達は合流し、情報を交換し合う。一階二階共に千草は居なかった。なら3階しかない。・・・そう言った時だ。妖夢が目を見開き、見たものを伝えてくれる。

 

「1階で敵を追い詰めた時、気が付いたら居なくなっていた時があったんです!」

「隠し扉かっ!良くやった妖夢!」

 

なるほど、隠し扉か・・・本気で3日間隠し通すつもりだったか、だが妖夢が1階には千草はいなかったと・・・。

 

「地下室・・・でしょうか」

 

命が小さく手を上げ意見する。なるほど、確かに有り得るな。

 

「あ、なんか人員は少ないとか言ってましたよイタ盾さんが」

 

イタタテさん?極東人か?・・・妖夢にさん付けで呼ばれるとはな・・・相当な人物なんだろう、少ない人員で守りきれると思う程には強いはずだ・・・。

 

「よし、なら猿師さんと合流し次第そこに向かおう、案内してくれ妖夢!」

「はい!」

 

 




名前:ヤマト・命

【ステイタス】
レベル2
筋力D
敏捷C
耐久D
器用B
魔力E
発展アビリティ【耐異常】

スキル
『八咫黒烏』(ヤタノクロガラス)
・効果範囲内における敵影探知。隠蔽無効。
・モンスター専用。遭遇経験のある同種のみ効果を発揮。
・任意発動(アクティブトリガー)
『八咫白鳥』
・効果範囲内における眷属探知。
・同恩恵を持つ者のみ効果を発揮。
・任意発動(アクティブトリガー)

『剣神眷属』
・剣系統の武器、魔法に適性をえる。
・自らに降りかかる凶刃に直感的な反応が可能になる。
・剣を持つことでステイタスが上昇する。


【備考】

幼い時から妖夢と共に育ち、共に武芸を学んだ姉妹のような少女。正確は真面目で実直。妖夢の存在により原作よりも早い段階でレベルアップを果たしておりステイタスも恐らくこの時期なら原作よりも高めである。妖夢に対して尊敬と同時に劣等感も若干だが抱いている。


名前:猿飛 猿師

【ステイタス】
Lv.2
力F
耐久E
器用S
敏捷A
魔力B
アビリティ【薬師】:S
スキル

『鳥獣戯画:猿』
・器用と敏捷に向上補正
ちなみに奥さんは鳥獣戯画:ゴリラ。
・獣化。全ステイタス一時的上昇。獣化は任意発動。
・獣化する事でステイタスを更に上昇させる。
『応病与薬』
・病、怪我に対する認知速度、及び精度の向上。
・確信的な直感で薬を制作出来る。



魔法
『檻猿籠鳥』(かんえんろうちょう)
【自由は奪われた、折の中にて余生を過ごせ】
【羽ばたく事を望む鳥は、籠の外を睨むばかり】
・束縛魔法、対象を魔法の檻に閉じ込める。
対空、対地の二種類あり、双方とも小型の敵しか捕らえられない。

『ニン=ジツ』

火吹きから身代わりまでいろいろと出来る。

【備考】

極東のとある戦闘一族の1人。元アマテラスファミリア。妻子を持つ成功者でエリート。唯一の弱点が猿顔である事。彼のおかげでタケミカヅチ・ファミリアは貧乏では無くなってきている。幼い時から父や兄と共にモンスター退治に出かけ、少しづつ強くなったものの、戦闘に才は無く、強くなってゆく兄に嫉妬し、グレてしまう。しかしそこで医学に出会い、医学の道を進む事になる。18の時に現在の妻、清美に出会い交際をスタート。

しかし、清美は当時は不治の病とされた病気にかかっており、余命は余り無かった。猿師は治療法を探すために極東中を探し回り、その間たくさんのモンスターや妖怪と出くわし、しかし、2年間探し回り遂に治療法を見つけて見せた。その事が評価され20の時レベルアップを果たす。

性格は温厚で、常にニコニコしている。「ごザル」と語尾に付けるのは子供の診察の時に緊張を解くために使っていたのが染み付いてしまったもの。真剣になったり、怒ったりすると素がでる。

ちなみに『猿でもわかる医学の入門編』やそれに続く中級編、上級編はオラリオにも売っているベストセラーである。猿曰く「進歩しすぎた【薬師】は【神秘】と変わらない」らしい。

【戦闘力】

本編でも語られている通り、20年のブランクがある為戦闘はあまり得意では無い。しかし経験だけは無駄に豊富である。忍術、と呼ばれる物を使い、攻撃することが出来る。同じものを三角飛びお婆ちゃんも使う。
しかし、彼の恐ろしさは薬師Sという化け物じみたアビリティである、魔石に干渉する薬物を作り出したり、身体能力を爆発的に上昇させたりする危ないお薬も作れてしまう。条件が揃えばどんな相手にも何もさせず殺す事も出来る。(例、ある程度の広さの密室である事など)

PS、ヒロインX使いやすいですよね、俺のクイックパーティーのメインです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32話「大丈夫ですよ。ほら、この通り」

もうすぐ終わるぞ戦争遊戯!次回で決着かな?

という訳で32話です。


猿師は死に体となっている冒険者達を治療していた。廊下は死体かと見間違えてしまうのではと思う程には息が浅い者達が倒れ伏していたのだ、その者達のものと思われる手足と共に。

 

 

(これは・・・ひどいですね。まぁ、自業自得の一言に尽きるのですが。)

 

「大丈夫でごザルか?・・・少し、失礼するでごザルよ」

「ぅ・・・うぅ・・・・・・」

「大丈夫、死にはしないでごザル」

 

患部に適切な治療を施し、冒険者が持っていたポーションを振りかける。じゅくじゅくと嫌な音を立て傷口が修復されていく。下級ポーションに見られる効用だ。

 

(・・・・・・エロスは、万能薬を用意しなかったようですね)

 

猿師はそう判断し、少しだけ目の前の患者を憐れむ。安物のポーションでは傷口しか塞げない。つまり失った手足は生えてこない。そして、1度治ってしまえば、万能薬で再生させることも不可能。しかし、だからと言って治療を施さなくては出血で死ぬ。さらに「殺さない」事が条件であるから、死なせる訳にもいかない。

 

(この惨状を見るに、妖夢殿は怒り狂っていると見えますね)

 

猿師はほっと一息ついた。なぜなら手足を失った者は全体の4割程で済んでいるからだ、猿師本人が戦った相手は何も出来ずに神経系を麻痺させられ地に伏せているか、爆音で気絶している。

もちろん妖夢も全員の手足を奪った訳では無い、中には腹をぶち抜かれるだけで済んだ者もいる。

 

(はぁ・・・隠れていればいいものを・・・なぜ立ち向かうのか・・・いえ、この者達が邪な思い・・・「どさくさに紛れて触れるかも」とか考えていたのだとは思いますが・・・あぁ、なるほど、触ろうとした者達が手足を失ったのやもしれないですね)

 

急に助ける気が失せ始めた猿師だが、医者として見捨てるわけにもいかないし、主神から死なせないように言われている。心を鬼にして治療を進める。

 

すると後ろの方から足音が。

 

(怪我人たちに殆ど見向きもせずこちらに走って来ている事を考えれば、恐らくは全員が合流したのでしょう。)

 

「お猿さーーーーん!どーこですかーー!」

 

高く、幼さの残る声。それが妖夢のものであると瞬時に理解し、立ち上がり、笑みを浮かべ視界に入るのを待つ。

 

「あっ、妖夢殿、ほら、あそこ!」

「みょん?どこです?・・・あ!いました!」

「おお、本当だ」

 

3人が姿を現した。

 

(ふむ・・・妖夢殿は煤けているだけ、命殿は顔に酷い傷を、桜花殿は浅いが無数の傷。・・・敵はなかなかに強大なようですね)

 

「おー、お揃いで、どうかしたでごザルか?」

 

「どうしたもこうしたも・・・・・・・・・それは?」

 

妖夢が猿師の足元、治療が施され気絶した冒険者を見る。その目は物を見るように無感動で、ちょっと気になったから聞いてみた程度の思いなのだろう。

 

「これは冒険者にごザルな、怪我をしていたので治療をしていたのでごザルよ。なにせ殺さぬ事が条件でござろう?」

 

桜花と命が頷き、しかし、妖夢は首を傾げる。

 

「出血多量で死んでしまった場合・・・私が殺した事になるのですか?」

 

妖夢を除く3人がガクッとなる。

 

「え、ええそうでごザルな。なぜなら出血多量の原因は妖夢殿になるでごザルから」

 

すると妖夢は少し青ざめアワアワし始める。

 

「さ、逆刃刀にして全身の骨を砕く方針にしておけば・・・」

(そ、それはそれで面倒臭いですよ。治療時間が伸びる・・・。)

 

「今更感が凄いな・・・全く」

「しかし逆刃刀・・・その考えはありませんでした。流石ですね妖夢殿!」

「命殿・・・」

「っとそんな事はどうでもいい、千草が地下にいる可能性があるんだ。猿師さんも来ますか?」

 

(あ、どうでもいいんだ。)

 

猿師は考えるまでもなく即答した。

 

「いえ、拙者は治療を進めるでごザルよ。でなくてはドクターの名が泣くでごザル。その前にまずは3人を治療するでごザルよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下、そこへ行くには隠し扉を通らなくては成らず、通路を通るには罠を回避しなくてはならない。罠、と一言に言ってしまうとどんなものかわからないだろう、槍が壁から飛び出たり、曲がり角から矢が飛んできたりと、原始的だが効果的な物が沢山ある。毒霧を出すと言う案も出たが、地下でそれを行うなどとんでもないと却下されている。

 

そして、地下では盛大に酒盛りが行われていた。以前に記した通り、エロス・ファミリア等では変態、変人の地位が高い。故に地下に隠れつつ酒をお腹いっぱい飲んでいるのだ。

 

「ガーーーーっハッハッハ!」「ぶっハハハハ!そうだ!そのとーりだ!」「んでよぉ・・・それでよぉ」「はぁ!?すげぇなそれ」「デュフフw」「やったーー!俺の勝ちだぜ!」

 

此処が見つかるわけがない。巧妙に隠された扉に、罠だらけな通路。本来ならば牢獄として使われていた地下の大半を埋め立てたのだ。完璧な隠蔽と思われた。

 

「おい!てめぇ!そろそろ確認の時間だろぅ?言ってこいや!」

「チッ・・・・・・わかったよ・・・」

「あぁ?なんだその口の聞き方はよぉ!」

「ぐへへ、まぁ落ち着けよ。おい、俺もついて行くからな。」

「・・・・・・さっさと行くぞ。・・・酒、俺の残しとけよ!」

「ハッ!ならなくならねぇうちにサッサと戻ってくるんだな!」

 

酒を飲み大声で笑っていた髭面の男が体格の良い男に荒々しく言葉を吐きつける。髭面は冒険者歴3年。体格の良い男は冒険者歴15年、そして、エロス・ファミリアが設立されたのは十五年前。一対一なら勝てるだろう、しかし、ここで逆らえば集団リンチに会い死ぬだけだ。

悔しそうに力強く拳を握りしめる。思わず舌打ちをする。激昂する髭面だったが、太った男に宥められおとなしくなった。

 

通路を移動した彼らはわざわざ鋼で作られた一室にたどり着く。

 

「おい、開けろ。」

 

太った男が指図する。男は渋々といった風にその無駄に厚い扉を押し開く。

 

中には檻の中で気絶する少女が。周りには槍や鞭が立て掛けてあり、とてもじゃないが趣味が良いとは言えない。

 

「まだ・・・・・・寝てるな。行くぞ―――おい、早く行こうぜ」

 

素早く済ませよう。そう思った男は大した検査もなく、踵を返すが、太った男は

 

「まぁちょっと待てよ、本当に寝てるのか確かめてみようぜ」

 

と醜悪な笑みを浮かべ部屋に残る事を選ぶ。

 

「あぁ?知らねぇよオラぁガキに興味はねぇ。酒が無くなる、テメエに付き合う理由なんざ本当はねぇんだ、先に行ってるぜ(下衆が・・・!)」

「へへっおうよ」

 

今ならコイツを殺せる。そう思った男だったが。悔しそうにその場を後にする。・・・暫く通路を進んだ時だ、不意に、騒がしい声が一段と大きくなった。

 

通路を駆け抜け、男が見たものは―――視界いっぱいに広がる槍の矛先だった。

 

 

 

 

 

 

ど、・・・・・・どうも・・・俺です・・・妖夢です。通路を先行したら死にかけました、どうしてくれるんだ、いやまぁダメージは負ってないけどね。しかし、流石はハルプ。死にかけた後ハルプを先行させた。意識を移さなければただの人形みたいなものだし、それをちょっと念じて操って通路を進ませたんだ。そしたらあるわあるわ罠の数々。目の前で自分の姿した奴が串刺しにされていく様を見るのはもうごめんです。さらに死ぬ度に霊力払って人形にしてるからね、戦闘開始から20分位かな?もう霊力が半分近く減っちゃったよ。

 

「大丈夫か?」

 

通路から罠が無くなって暫く進むと、桜花が心配そうにこちらを見て、聞いてくる、顔色に出ていたかな?

 

「大丈夫ですよ。ほら、この通り」

 

両腕でガッツポーズを取ると、そうか、と桜花は小さく笑い前を向く。そしてその視線の先には扉。そして奥からは大きな笑い声が響いている。・・・・・・千草に変な事をしていたらコロス、ゼッタイニコロス。・・・タケも許してくれる筈だ。

 

扉に張り付いた俺達は目配せをする。・・・わかった、半霊を使って偵察だな。半霊を透明化させ、壁を通過する。視界を半霊と共有すると、そこには元気に酒盛りをするクソ豚共の姿が・・・、ふむ、可笑しいな、オークの方が可愛く見えてきたんだが・・・。

 

「敵対勢力36人、構成・・・歩兵30、砲兵(魔法使い)が3、弓兵が3。・・・・・・・・・行けます。」

 

俺の声に2人が頷く。

 

「魔法は使用しますか・・・?」

 

通路に俺の声が反響し、みょんに・・・妙に緊張が高まる。実は気分はゲームによくあるナレーターだったりする。ああいう落ち着いた声があると緊張と同時に集中力が高まるよね。

 

「いや、いい。まだ魔力は温存しておこう。」

 

了解だよ桜花。俺は命と頷き、刀に手を掛けた。半霊を移動させる、豚達から見えない位置、机の真下に移動させ、ハルプモードに変更。意識を半分移し待機する。

 

桜花がカウントする。

 

 

 

1!

 

『ぜぇええええろおおおおおお!』

中からの大声と共にドアを桜花が蹴破り命と俺が突入する。縮地を用いて動揺している敵の間を駆け抜ける。その際ハルプも同じように駆け抜けていた。

 

癖で血払いをした後くるりと回してさやに収める。するとドサドサと豚共が倒れていく。逆刃刀で頭をぶん殴ったのです。

 

「て!てきしゅうだーーーー!」「な!?なんでだ!ここは安全なんじゃなかったのかよ!?」「くっそ!ここで3日間飲んで食ってりゃ終わるんじゃなかったのか!?」

 

・・・・・・なんだコイツら・・・、流石に呆れて言葉も出ねぇわ。命の話だとあのボンバー・・・ダリルだっけ?がヒントくれたらしいけど。もしかしてコイツら代わりにぶっ殺して的な意味だったのかね?

 

「はぁあ!」

「ぐうあああ!」

 

桜花と命の連携に何も出来ずに豚共が倒れていく。豚肉は好きだがコイツらをさばいて食べる気にはならないな。っとおらよ!

 

「なに!?ぐへっ!?」

 

後ろから近づいていた奴の頭に刀を振り下ろす。哀れ、頭がかち割れることはなく気絶した。

 

そんなこんなでワイワイやっていたら途中で桜花が

 

「こっちに道が続いてるぞ!行ってくる!」

 

と言って行ってしまった。むむむ、敵を引き付けておけば良いのですな?

 

「行きますよ命!」と桜花の入っていった通路を背に立ちふさがり、唯一の出口・・・俺達の入ってきた場所にハルプが待ち構える。

 

「ひぃいい・・・あ、でも真剣な目も可愛い・・・」「それな」「禿同」「あ、見ろよ、ちょっと赤くなってんぞ」

「か、かわええ」「(結婚しよ)」「(ファミチキください)」

 

・・・・・・こ、こいつらの精神力は一体どこから来てるんだ・・・。そして最後の奴は何してんだよ。

 

「お、おい!出口も塞がれてるぞ!」「なん・・・だと!?」

 

へへへ、驚くがいいわ。部屋の隅でガタガタと震えながら命乞いでもするんだな、まぁ無駄だけどね、殺さないし。

 

「これは・・・・・・まさか・・・」「あぁ・・・・・・まさかだ」「「「「逆監禁プrアベシッ!」」」」

 

フー!フー!お、思わず弾幕を放っちまった。魔力で放ったから丸薬で回復は出来るけどこんな安い挑発に乗ってしまうなんて・・・。ま、まぁ俺とハルプの2倍か弾幕だったからもう動ける奴居ないみたいだけど。

 

あぁ、SAN値が削られるなぁ。取り敢えず桜花を追いかけるぞ。

 

「ひゃっ!?妖夢殿何を・・・!」

 

俺は命を抱き上げる。所謂お姫様抱っこです。そんでもって全力で縮地を使い桜花に追い付こうと頑張る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通路を走る。妖夢は言った、「千草は桜花が助けてください。」ってな。なら、期待に応えなきゃならない。なんで俺が、と言うのはわからないが、家族として、団長としての俺の顔を立ててくれているんだと言うのは理解している。敵は全くと言っていいほど居なかった。通路の入口付近に居た1人くらいだ。走っていると扉が見えてくる。あそこか・・・!

 

扉は微妙に開いている。このままの勢いで蹴り開くぞ・・・!

 

俺の蹴りで扉は勢いよく開いた。そして、中には折れた槍を手に檻の中にいる千草、そして怒りを顕に槍を持った太った男。やる事は決まった、このままの勢いで・・・蹴り飛ばすッ!!

 

「ふがぁ!?」

 

蹴り飛ばした相手を警戒しつつ、千草の前に立つ。まずは安心させてやらなきゃな。ずっと寂しい思いをしていたろうに。

 

「千草――――助けに来たぞ」

 

「ぇ・・・ぉ・・・桜花・・・なの?」

 

千草が驚いているのが声音でわかる。そして、怯えているのも。

 

「ぐっ・・・糞が・・・!アイツらは何をやっていたんだ、役立たず共が・・・!」

 

コイツが、千草をこんな目に合わせたのか・・・。ゆらゆらと怒りが魔力になって体から発せられる。実はずっとストレスが溜まってたんだ、エン・プーサの魔法はうざったくて、千草が攫われたってのに3日も待たされて・・・・・・!あぁ、許せないさ、妖夢の気持ちが痛いほどわかる、こんな奴らに、千草は、妖夢は、命は渡せねぇ!

 

「【剣の上にて胡座をかけ――】」

 

俺は、魔法を唱える。冷静に考えるならこんな所で切り札を切るべきじゃない、でも、それでもコイツだけは許せない。

 

「ひっ!!・・・ま、まて、話せばわかる。それに俺は命じられていただけで・・・本当だ!信じてくれぇ!?」

 

目の前の何かがなんか言っているが、そんなことはどうでもいい。俺のストレスを発散する為にちょっと協力してもらうだけだ。

 

【――眼前の敵を睨め。汝が手にするわ雷の力なり】―――――武甕雷男神(ライジンタケミカヅチ)ッ!!」

 

放たれた魔力は雷となり、俺の体や、武器を覆う。部屋がバチバチと青白い光を放つ雷によって照らさせる。

 

「ひっ!ひぃぃい!?」

 

両腕で顔を隠し、怯える男。俺は、そいつに槍を軽く突き刺した。

 

「あばばばばばばばざばばばばばばば!?!?!」

 

感電しのたうち回る男を蹴り飛ばし、気絶した事を確認する。魔法を解除し、千草に向き直る。

 

「ぁ、あの、桜花・・・!なんだよね?」

「あぁ、・・・千草、無事でよかった。」

「ぅぅう、桜花ぁ!」

「うおっ!?・・・はは、こりゃ参った」

 

飛びついてきた千草を受け止める。魔法を解除しておいて良かった。それと同時に妖夢が命を抱えて飛び込んできた。

 

「妖夢ちゃん!?」

 

千草が顔を真っ赤にして俺から飛び退いた。・・・少しだけ傷ついたぞ、千草が最近俺を避けるなぁと思ってたが・・・今回ので昔みたいに戻ると思ってたんだけどな。やはり難しいな女の子って・・・。

 

「おお!千草!お久しぶりです!会いたかったですよ!千草成分を補充しなくては!」「ふぎゅっ!?」

「ふえ!?」

 

妖夢が抱き抱えていた命を喜びのあまり放り投げ、命が面白い声で呻く。そして妖夢が千草に抱きついた。まるで姉妹・・・いや、姉妹だな。

 

「ふふふ、良かったみんな揃って・・・ですよね桜花殿」

「あぁ、そうだな。命は投げられたし良かったな、うん。」

「そんな!?」

 

全員が笑う。あぁ・・・良かった。本当に。

 

だが、まだ終わってない。

 

「妖夢、千草に弓を」

「はい!ええっと半霊から取り出して・・・はいどうぞ!」

 

絶対に半霊に入る大きさじゃないが、和弓が半霊から取り出される。まぁ容量を超えるとハリネズミみたいになるけど。

 

「ありがとう妖夢ちゃん、私も頑張る!」

「はいっ!」

 

今までのあらましを千草にカクカクシカジカと話した。さて、強敵との戦闘だが・・・戦う必要は無い。勝利条件は千草を救うこと。この砦から逃げ出せは俺達の勝ちだ、既に勝ちは確定したも同然、奴らは最奥に居て、俺達は地下、すぐに逃げられる。

 

「さて!あとはキュクロ達を倒すだけですよ!私たちに手を出した事を後悔させてやりましょう!」

 

・・・この調子だと戦うんだろうなぁ。なら俺が誰か引き受けなきゃな、相性的はキュクロだが、妖夢が戦いたそうだし、エン・プーサかなぁ・・・やだなぁあの魔法・・・いや待て、俺の雷なら・・・良し。

 

「・・・わかった、妖夢の意見を採用しよう。俺がエン・プーサを受け持つから妖夢はキュクロとダリルをハルプを使って受け止めてくれ。千草は援護、命は遊撃だ!」

 

「「「はいっ!」」」『おいちょっと待って猿はどうするんだ?』「「「あっ」」」

 

あ、・・・忘れてた。・・・ふむ、猿師さんなら誰か頼めるか・・・?妖夢の負担を減らせるならそれに越したことはないが・・・。

 

「そうでごザルなぁ〜、あのダリルと言う男なら拙者と相性が良いでごザルな」

「そうか、なら猿師さんにはダリルをたの・・・・・・たの・・・・・・」

「「「「『ファッ!?』」」」」

 

いいいいつの間に隣に!?さすが忍者の直系。恐ろしい。そういうスキルを持ってるのか?すごい驚いたんだが・・・。

 

「お、ぉぉ・・・驚きました。・・・あっ、そうだ正面戦闘ならフル装備の方がいいんじゃないです?この装束だと防御力低いですし」

「そうだな、ならとってこれるか?」

『おう、行ってくるぜ』

「頼んだハルプ。」

『へへへ、任せときなよっ!』

 

妖夢の目から光が消えた、ハルプに意識を殆ど移したようだ。会話は聞いていると思うからこのまま作戦会議だな。

 

「じゃあ、猿師さん。なんでダリルを受け持つと?」

 

「ふむ、それは簡単な話でごザル。奴が火を使うなら、それを利用するまで。・・・ふっふっふ、薬品は火にあてると凄いです・・・ごザルよ?」

 

「(今口調が・・・)」「(怒ってるのかな)」「(え、そうなのですか?)」

 

「ふふは!それで、戦法としては、ひたすら逃げつつ奴の火の粉に引火させるだけでごザル。そうすれば勝てるでごザろう。あぁ、合図をするので息を止めるでごザルよ?死ぬかもしれないでごザルから。」

 

こわっ、と誰もが思ったと思う。悪の科学者って感じだ。すごい下衆顔を浮かべている。

 

『とってきたぜ!』

「「「速っ!?」」」

 

「え、ええと・・・そうだな、解散!各自装備を整えよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砦三階、最奥と呼ばれたそこに、3人の人影が、1人は正面の扉を凝視し、大剣を床に突き立ており、1人は暇そうに槍の手入れを。もう1人はブツブツと何事かを呟きながらどうしようと頭を抱えていた。

 

「はぁ・・・・・・早く来ねぇかなぁ・・・ったくそう思わねぇか?魔鉄淫獣?」

 

ダリルがエン・プーサへ話しかける。

 

「ひうぅ、そ、その名前はやめてくださいよぉ・・・!」

 

エン・プーサが両腕を使って顔を隠す。先程までは「あらお兄さん?顔が怖いわよ?」と強気だったというのに。

 

「あぁ?さっきまでの威勢はどこに行きやがったよ」

 

そこをダリルが突くと

 

「へうぅ!やめ、やめてこないで!怖いですぅ」

 

と、両腕を顔の前でブンブン振って無駄な抵抗を試みる。

 

「いや俺動いてねぇからな、キュクロはどう思う

よ?」

 

ダリルはエン・プーサにツッコミを入れ、今度はキュクロに聞いてみる。

 

「向かってくるだろうな、最大限の装備、最大限の警戒と共に。」

 

ただ真面目に、しかめっ面でそう答える。それにダリルは少し嬉しくなったようだ。

 

「へぇ・・・!逃げねぇってか、あの嬢ちゃん達はよ」

 

キュクロは頷き、しかし、と自分の考えを述べた。

 

「・・・逃げたとしても、それは彼女達の勝利。自分から送れる最大の敬意と賞賛を述べ、そして罰を受けるのみ。」

 

「ハッハッハ!アンタに送られても嬢ちゃんは喜ばんだろうさ!」

 

キュクロが真面目に答えたと言うのにダリルは笑う、ウェアウルフの彼だ、そこら辺はヒューマンとの考え方が少し異なるのだろう。

 

「あぁ、そうだろう。その通りだ。・・・だが・・・聞こえたのだ、あの時確かにな。」

 

「聞こえた?何がだよ」

 

「叫びだ、心の叫び。剣を介して伝わるものは多い。」

 

キュクロの言う聞こえた物、それは心の叫び、失われる記憶、奪われた家族。その怒りは、全ては剣に乗って揺らめいている。

 

「ハハハハ!そいつは愉快だな!んで?どんなもんだのさ」

 

ダリルがまるで信じていないのか再び笑いながら話を促す。エン・プーサはガタガタ震えながらも内容自体は気になるのか耳を傾けている。

 

「怒り、憎しみ、悲しみ、不安、疑問、混乱。全てが入り混じったような混沌。・・・・・・詳しくはわからぬ、難問を解くにはこの頭では無理であろうよ」

 

エン・プーサが悲鳴を上げながら床に転がった。

 

「へぇ・・・そうかよ。ま、暇つぶしにはなったわ、俺も小難しい事は苦手なんでね」

 

そんなエン・プーサを横目に見ながらダリルは少しだけ表情を濁らせた。

 

「ひっ!!来ます来ます!来ちゃいますよ!どうしましょう!なんだかさっきより増えてるんですけど!」

 

床に転がっていたからだろうか、エン・プーサが複数の足音を聞き取った。

 

「あたりめぇだろ、あっちは誘拐されたヤツを助け出して全戦力で来てんだからよ」

 

ダリルは悲鳴を冷静に受け流しやれやれと肩を上げる。

 

「ふえぇぇ、もうダメだぁ・・・おしまいだァ・・・キュクロさぁん助けてぇ!」

 

キュクロに助けを求めるエン・プーサ、しかし、キュクロの返答は真面目なもの、しかし、その隻眼は優しげにエン・プーサを見る。

 

「自分は主に命じられた、故に、此処で戦う。・・・・・・・・・お前達の主神はお前達に・・・「死ね」と命じたか?」

 

しかし、その表情はすぐさま凍ったようにしかめっ面に戻った。2人はそれに当てられたように凍りつく。「死ね」果たしてそれは命令なのだろうか?戦争に兵を出すのは確かに「死ね」と命令する事だ。しかし、これは戦争遊戯、あくまで遊戯なのだ、死ななくてはならない理由がキュクロにある訳もない、そして何より、キュクロの主神は愛の神、ならばなぜ愛するファミリアの団員に死ねと命じるのだろうか。

 

「・・・・・・いや、言われちゃいねえよ。」

「い、言われてないです・・・うぅ」

 

二人の神は聡明でも無いが確かな愛を注いでいた、必ず帰ってこいとそう言われ送り出されたのだから。

 

「・・・ならば立ち去れ。自分は、お前達の死を甘んじて見過ごせる程の賢者では無いのでな。」

 

キュクロが遠い目で何処かを見つめる。その虚ろな片目は一体「いつ」を見つめているのだろうか。それは苦しくも順風満帆な日々を送っていたファミリア設立当初か、エロスに救われたその瞬間か、その両方か。

 

「・・・・・・な、なら!キュクロさんは死んでも!自分が死んでもいいって言うんですか!?」

「よせ魔鉄淫獣・・・」

「キュクロさん!」

 

エン・プーサが必死になって止めようとする、しかしダリルがその腕を掴み止めさせる。男の矜持、それを邪魔する事は出来ないのだ。

 

「・・・・・・死に様こそが生き様と、自分はそう信じている。」

 

キュクロは呟く。ぇ、と小さくエン・プーサの声が響いた。

 

「死を直面した時、人の奥底の物が垣間見得るだろう。・・・ならば、自分のそれは、一体どの様な物なのだろうと思ってな・・・。

自分は忠義の戦士、忠に生き、忠に死ぬのだと。・・・あぁ、昔ならば一遍の迷いなく、そう言いきれたのだろう。」

 

キュクロは目を固く瞑り、大剣の柄を握りしめる。それは不甲斐ない自分を責めるものであり、自分への怒りの表れだった。

 

「・・・自分は、貫けるだろうか。自らの生き様と定めたこの道を。あの者達を見て、自分の心は僅かに揺すられた、揺すられてしまった。疑問を持ってしまったのだ、忠義とは・・・盲目的に絶対な信頼を寄せ、有無を言わずに従う事なのか・・・とな。だから気づいた、主を正さず、いや、正そうとせずこうなってしまったのは他でもない俺のせいなのだと。」

 

握り締められた剣の柄から血が垂れている。どれだけ強く握りしめているのだろうか、それが過去への悔しさの現れだった。

 

「だから、俺達を巻き込みたくねぇってか?」

 

キュクロの内心をしっかりと理解したダリルはニヤケ顔でそう問いかける。

 

「あぁ」

 

キュクロは閉じていた隻眼を開き頷いた。あぁ、どうか逃げてくれ、俺と共に戦う等と言わないでくれ。失った目の奥が疼く。しかし、キュクロの願いは届かない。

 

「はっ!やなこった!俺は俺の道を行く、勘違いすんじゃねぇぞ??今回はたまたま道が一緒なだけだ。あの世まで一緒はゴメンだぜ」

「そ、そうですよ!私も戦いは嫌いですし苦手ですが!皆さんが見ているんです!がんばりますっ!」

 

1人は自らの欲望のため、キュクロの提案を蹴った。1人はその優しさ故にキュクロと共に戦うと残った。キュクロは床を見つめる。

 

「・・・・・・・・・・・・あぁ・・・・・・やはり、ままならぬな・・・」

 

その呟きが2人に届く事はなかった、扉が開き、妖夢達が入ってきたからだ。

 

覚悟は出来ていた。何時か死ぬのなら主の為に。

 

「いざ―――――この命を捧げん・・・・・・!」

 

小さく・・・・・・嘆いた。







誤字脱字があったら報告お願いします!

ハルプ『それじゃあ次回予告をやってくぜ!』

(`・ω・´)(U ^ω^)「わー、パチパチ(棒)」

ハルプ『次回!決意を決めたキュクロ達の前に現れた妖夢一行!放てキュクロの邪気眼!危ない!石化したら負けちゃうぞっ!勝つんだ妖夢!勝つんだ俺!』

U・д・U「なぁ、もう帰っていいか?」
(´・ω・`)「俺も帰っていいだろうか、あくまで魂魄妖夢の護衛役なのでな、スキルに構っている暇はない」

ハルプ『ガビーーん!!・・・・・・ぐすん、寂しくなんかないやい!とりあえず次回も楽しみにしててくれよな!』


【キャラ紹介】

名前:カシマ・桜花

【ステイタス】
レベル2
力B
耐久A
器用B
敏捷B
魔力C
発展アビリティ
狩人G
スキル

『剣座不動』
・耐久上昇、耐久ステイタスに成長補正。
・敵の標的にされやすくなる。

『勇往邁進(ゆうおうまいしん)』
・自身の鼓舞。
・決断する勇気を得る。


『雷神眷属』
・雷の魔法に適性を得る。
・雷属性に対する耐性を得る
・雷の起動を読む事が出来る。

魔法
『武甕雷男神(ライジンタケミカヅチ)』
【剣の上にて胡座をかけ、眼前の敵を睨め。汝が手にするわ雷の力なり】
・武器、肉体に雷属性を付与。
・耐久、敏捷、筋力に補正。
・肉体に雷ダメージ
・雷の解放(任意)。

【備考】

幼い時から妖夢と共に育ち、武芸を学んだ兄妹の様な存在。高ステイタスなのは妖夢との訓練の賜物。情に厚いが、必要な時は冷徹な判断を下せるタイプ。妖夢達を妹の様に可愛がっている。

【戦闘力】

高いステイタスと高い技量で相手を圧倒するまさにタケミカヅチファミリアの代表者、最も得意な武器は槍と素手である、これは妖夢に対抗する為に必死に練習したからであり、槍なら妖夢を圧倒できる程の技量を持つ。パワーファイターであるものの、ステイタスに振り回されることは無い。なおタケミカヅチファミリアの団員は全員ステイタスに振り回される事は無い。パーティーで行動する際は団長としてしっかりと采配をとる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33話「―――【咲いて誇るる死の桜。】」

これで戦争遊戯編はラスト。次の話が戦争遊戯の事後処理&オッタルパート。



芽吹く桜、散るのは何か。





砦の三階、最奥と呼ばれるそこは無数の柱で囲まれ、上から強引に蓋をしたような形状をしていた。定期的に補充、交換されていた松明は消え、外は暗闇に包まれる。生温い風が運ぶ臭いが、足元でどれだけの戦闘があったのかを知らせてくれる。

 

一方的な蹂躙。

 

なぜ、どうやって攻撃されたのかも解らず、理解出来ず冒険者達は倒れていった。その胸に秘めたる物が何であれ、もたらされた災いは余りにも血なまぐさいものだった。

廊下を転がる手足。新鮮な色をした肉片。折れた剣や断ち切られた盾が無造作に転がる廊下は正しく戦争の爪痕を残している。

 

しかし、それを起こしたのは小さな少女。

 

多種多様な武器を使いこなし、冒険者達を圧倒し、家族を救い出した。

 

オラリオの民達はそれを畏怖し、称えた。圧倒的な戦力差を押し返すその武力、圧倒的な剣技。

 

最奥の扉が音を立て開く。

 

「・・・決着をつけに来ました」

 

妖夢の静かな決意の言葉にオラリオが湧き上がる。逃げれば勝ち、しかし、逃げずに勝つつもりなのだと。

 

「あぁ来ると思っていたぞ・・・・・・終わりにしよう」

 

キュクロが頷き、大剣が床から引き抜かれる。建物内を照らす魔石灯の光を受け、大剣が妖しく輝く。ほぼ同時にその場の者達が己が得物を抜き放つ。

 

刀、槍、剣、クナイ、大剣、弓、鎌。

 

それぞれの刃が相手を討ち取らんとその鋭さを主張する。自分を使えと持ち主に語りかける。

 

 

 

 

 

 

 

オラリオにて、実況のテンションは天元突破していた。

 

『キィィイタァァアア!ラストバトルダァァォアアアア!』

『オオオオ!レェエエエ!ガァアアア!・・・・・・ガネーシャだッ!』

『言いたいだけじゃねぇかアンタ!それはさておき見逃せない展開となってきましたぁーーー!これは・・・どう動くと思いますかガネーシャ様』

『ふむ・・・『あれ予想と違う!?まさか真面目か!?』まぁ・・・ガネーシャだな』

『予想通りッ!!・・・えー、ふむ、ふむふむ・・・え、なんで自分で言わないんですかガネーシャ様・・・え?俺の顔を立てるため?・・・くっ、嬉しい限りです!』

『ぇ・・・言ってなi』

『さぁ!これより始まるのは雌雄をかけた最!終!決!戦!団長3人VSタケミカヅチ・ファミリア!!』

『・・・(´△`)↓』

『ええ!その通りですガネーシャ様!初めは大きく開いていた人数差が此処に来てひっくり返りました!えぇ!ええそうですね、まだ戦いの行方はわかりません!

 

ね!ガネーシャ様!』

『俺が!ガネーシャだ!(ヤケクソ)』

 

そんな実況を聞き流し、アイズは画面に映る妖夢を見ていた。最近は忙しいとアイズは思う。

 

(ベルにししょー、見るものが多い)

 

ミノタウロスとの激闘、その果ての勝利。

 

その背中に刻まれたステイタスはアイズが見えた所までなんとS評価。ついこの間までベートに馬鹿にされる様なひよっこだったと言うのに。

 

(一体・・・どうすればあんなに早く強くなれるの?)

 

そして、目の前の画面に映る妖夢。その技は洗礼されており、一振り一振りが芸術のようだとアイズは思う。自らが師と呼ぶその少女は、戦場にありながら手を抜いて相手を圧倒するだけのチカラを持っていた。

 

(欲しい。)

 

アイズは思うのだ。妖夢の技、それを自分が完全に物にした時、さらなる高みえと自分は到れるのだと。だからこそ応援する。ダンジョンに行きたい気持ちを抑え、妖夢を見守る。

 

(頑張ってししょー)

 

アイズは無表情で御褒美のじゃが丸君を齧るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

風が前髪を揺らす、戦意が空間の温度を上げている。・・・どうも、俺だよ。まさに最終決戦と言ったところかな、全員がフル装備で、武器を抜いて睨みを利かせている。動けば・・・戦いが始まる。

 

「とりあえず形だけ聞いておきます。降参しますか?」

 

本当に形だけの降伏勧告。ダリルがニヤリと笑う。キュクロはその表情を更に険しく。エン・プーサも少しオロオロしているが降伏には応じない。

 

「・・・まぁ、予想通りですが。」

 

情報の共有でわかったこと。とりあえずキュクロは石化の魔法、エン・プーサは剣が飛び出る魔法。ダリルが炎を纏うスキルを持っているらしい。武器も見ればわかる。とりあえず俺がキュクロとダリルを受け持つ・・・。

とりあえずハルプと俺で突撃かな。魔力を感じないからまだ魔法は唱えていないはずだ。

 

では―――行きますっ!(『んじゃ――行くぜ!』)

 

地を同時に蹴り、距離を詰める。俺が狙うのはキュクロだ。キュクロは片方の大剣を盾にする・・・だがその行動は既に知っている。胸が地面に付くんじゃないかと思う程に前傾し横を駆け抜ける。ブレーキを掛けながらキュクロの首に向かって刃を奮った。

 

しかし、キュクロは大剣を軸にくるりと周り回避する。そしてその回転のままに大剣で薙ぎ払う。それを往なし、返す刀で足を。だがこの刀だと鎧を抜けない。硬質な金属音に弾かれるように身体を後方にのけぞらせる。大剣が顔のスレスレを通り過ぎる。仰け反った勢のままサマーソルトの要領でキュクロの顎を蹴り上げる

 

「うぐッ!!」

 

そのままポーチからナイフを三つ取り出し投げる。全部弾かれる。・・・硬いな、鎧。楼観剣使おうか?そんな事を考えながらナイフを詠唱しようとしているエン・フーサに投げつける。「ひっ!」と言いながらギリギリで回避した。

 

「・・・!」

 

キュクロが2振りの大剣を上段から振り下ろす。横方向にステップして回避、飛び散る礫を無視し肉薄。すり抜け様に切り払う。火花が散るだけで肉体にダメージは無い。やはり露出している顔か腕の関節部、膝の裏じゃないと有効打は無さそうだ。少なくともこの黒糖&砂糖じゃ。互いの斬撃がぶつかり床がひび割れ互いに後ろに跳躍した。

 

「おわっ!?よ、妖夢っどけっ!」

「ひぁわわわ!」

 

ふえあ!?痺れる・・・!・・・桜花に突き飛ばされた。何が起こってるんですかい?俺はいつの間にか桜花に嫌われてしまったのだろうか。と思っていたら、俺がさっき着地した場所からちょうど剣が飛び出してくる。流石桜花だ、自分ひとりでいっぱいいっぱいだろうに俺を助けるなんて・・・。

 

「ありがとうございます桜花!」

「なに、さっきのお返しだ・・・よっ!」

 

こちらに顔を少し向けニッ、と笑ったあと槍を使って果敢に攻めかかっていった。俺も負けてられないね!

 

「手加減など無用、来い魂魄妖夢!」

 

来いと言われたのでナイフを投げると同時に走り出す。・・・無手で、なぜなら黒糖を放り投げたからだ。「なっ」と戸惑いの声を上げるキュクロを他所に、『よっ!』とハルプが両手剣をこちらにぶん投げる。クルクルと横方向に回転しながら飛んできた両手剣を確りと見極めキャッチし自分も逆らわずに回る。そしてそのままの回転を利用しフルスイング。斬れないなら殴ればいいじゃない。昔から重戦士には打撃武器が有効だと決められているのだ。え?両手剣は打撃じゃないって?重けりゃ打撃になるんだよ、気にしてはいけない。

 

予想外の攻撃にキュクロは大剣を盾にしようとして、しかし、少しだけ動きが遅れた。――一撃目。ガギイィィン!と耳が痛くなる大きな音が鳴り響く。鎧にクリーンヒットした。

 

「うがっ・・・!」

 

少なくとも体重が180は超えるであろうキュクロが真横に吹き飛んでいく。神の恩恵様様ですね。吹き飛んだキュクロに弾幕を放ちつつ接近。

 

素早く立ち上がったキュクロが弾幕に飲み込まれる。ガン!ギン!ゴン!カンカンカン!と金属音が連続で響く。最後の3回が何処ぞのアイドルの解体音とかに聴こえたが気のせいだ。

 

「ぬぅおおおおおおおおおおお!」

 

弾幕をゴリ押しで突き破ってキュクロが突貫してくる。互いの距離が一瞬にして縮まり、肉薄する。大剣では不利と判断したか蹴りを放つキュクロ。しかし残念かな。ベートで鍛えられている俺に蹴りは愚策。しかもそんな隙だらけの蹴りなんぞ・・・・・・ベートの足元にも及ばないな。

 

「な!」

 

回避し膝の裏に両手剣を叩きつける。両手剣や片手剣は刀と違い「斬り裂く」物ではない、「叩き切る」物だ。まぁつまり切れ味は悪い、これ安物だしな。膝裏に強烈な一撃を受けてキュクロが転倒する。そのお腹を跨ぐようにして首元に両手剣を突き付ける。

 

「私の勝ちで「妖夢避けろッ!!」・・・ッ!?」

 

勝利を確信したその瞬間身体を衝撃が襲った。

普段の俺は半霊を使い上から俯瞰する事で死角を作らないように視界を確保している、だからなのか、その一撃に気が付けなかった。

 

「ぐ・・・・・・うぅ!」

 

脇腹を、地面から突き出た剣が貫いていた。痛みが動きを悪くする。そんな俺を立ち上がったキュクロが見下ろす。

 

「勝利への確信はその動きを緩慢にし、勝利と言う美酒はその思考を鈍らせる。・・・迂闊であったな。」

 

ふんっ!と言う気合いと共に俺は蹴り飛ばされ壁に叩きつけられる。桜花と命、それに千草に猿師の声がする。いてて、頭打った・・・。

 

「卑怯などと言うまいな?。元より我ら外道の輩、幼子相手に手を抜く事など出来まいよ。・・・剣を突き立てるのでは無く、端から貫くべきであったな。」

 

あぁ、確かに・・・・・・カッコつけるのやめときゃ良かった。さっさと意識を奪わなかったから・・・。

 

キュクロを守るように満身創痍なダリルとエン・プーサが立ちはだかる。魔法を使うつもりなのだろう。石化、そんなものを使われては確実に負ける・・・。

 

 

 

 

 

 

では―――行きますっ!(『んじゃ――行くぜ!』)

 

妖夢とハルプが飛び出していく。それを妨害しようと動くエン・プーサに桜花は予定通り一直線に突っ込んだ。一切の手加減無しに全力の一突き。当たりどころが良ければミノタウロスすら一撃で屠る。レベル3と言えど耐久のステイタスが低いエン・プーサでは耐えきれないほどの一撃だ。

 

放たれた突きを横目で確認し、慌てながらもしゃがみこみ回避。鎌ごと回転しながら立ち上がる。本当にやりにくい相手だ。と桜花は内心愚痴る。

 

「わわわっ!な、なんで・・・・・・あっ!(さっきの人だ・・・どうしよう、不本意とはいえ色々言っちゃったし、絶対に怒ってますよあの目は、うぅ、怖い、でもヘカテー様の為にも頑張らなきゃいけない。けど怖いなぁ、早く二人の元に逃げたい・・・!」

 

(・・・いや、声に出てるんだが・・・。って違う、コイツのペースに呑まれるな!)

 

桜花は連続で突きを繰り出し、相手に合流を許さないように少し位置を調整する。

 

「はうぅ・・・こ、こうなったら魔法を・・・【地は震えふひっ!!】な!ナイフが飛んでくる!?どうしよう逃げられないよぉ・・・こ、こうなったら!私は強い・・・私は強い・・・・・・・・・」

 

(ナイスだ妖夢!魔法の詠唱を止めたぞ!・・・はぁ?・・・何なんだよコイツは。私は強いって・・・あぁ、なるほど、自己暗示の類か。戦いにおいては重要だがやり過ぎて慢心になるのは危険だから程々に)

 

「スーパーガーール!」

 

(って何か妖夢が昔言ってたネタがっ!?何をやっているんだ妖夢はっ!?)

 

思わずツッコミを入れようと妖夢の方を向く桜花、しかしそこには真面目に戦っている妖夢の姿が。

 

(・・・あれ?普通に戦ってるぞ?聞き間違えか・・・?)

 

「うふふ・・・うふふふふ?嫌ね、私とヤッテいる最中なのに、他の女の方を向くの?つれない殿方は嫌いよ?私」

 

(・・・・・・・・・へ?)

 

唖然とする桜花。蠱惑的な雰囲気でポーズをとる何か。その場に流れる不思議か空気。戦闘とは何だったか、こんなピンク色な背景がありそうな物だっただろうか?

 

「【千刃】!」

「おわっ!よ、妖夢っどけっ!」

 

(俺としたことが・・・!あんな物に引っかかる何て!)

 

飛び出してくる剣を内心泣きそうになりながら回避する。団長なのに女の誘惑に動揺してあまつさえ魔法を使わせてしまうなんてと桜花は自分を叱咤する。

 

(俺はもうダメかもしれない。色んな意味で。しかもぶつかってきた妖夢を守る為とはいえ突き飛ばした・・・。)

 

「ありがとうございます桜花!」

「なに、さっきのお返しだ・・・よっ!」

 

 

妖夢の感謝と純粋な尊敬の目線に耐えきれず、桜花はさっさとエン・プーサとの戦闘を再開させる。

 

「どうだ。少し・・・ゲームでもしないか?」

「あらら?私との運動じゃあ物足りなかったかしら?それとも新しい趣向を試してみたいのね・・・?」

 

互いに一歩も譲らず激しく切り結ぶ。弾かれると同時にそう提案する桜花にエン・プーサは首をかしげた。

 

「お前の魔法で俺を貫けたらお前の勝ち。俺の魔法でお前が貫かれたら俺の勝ち。・・・・・・悪くないだろう?」

 

そう言うとエン・プーサが、うふふと笑う。

 

「悪くない・・・?いいえ悪いわ?」

 

そう言ってエン・プーサは片足を持ち上げる。魔法を放つ気であることは明白。

 

(・・・やっぱり乗らないよな・・・魔法の詠唱時間稼ぎは出来ないか・・・多少の消耗を視野に入れて部屋に入る前から魔法を使っておくべきだったか・・・。)

 

桜花は片手を上げ、千草に合図する。千草が弓を構え出番を待っているのだ。

 

(まぁ・・・それだって予想通りだ)

 

「だって・・・・・・悪者ですもの、私達。都合のいい事しか受け付けないわ?」

 

足を振り下ろすほんの少し前に桜花が上げた手を振り下ろす。不思議そうに首を傾げるエン・プーサ。

 

「【穿て、必中の一矢。】――「!?」」

 

確かにその耳に届く細く高い声。放たれるのは弓神を模した回避困難な一撃。そして、それを放つのは千草。

 

「【弓神一矢(ユミガミノイチ)】ッ!!」

 

真っ直ぐに凄まじい速度で放たれたそれはエン・プーサに迫る。しかし、驚きのままに叩きつけた足から魔力が地面に浸透し、大量の剣が地面から飛び出す。それは宛ら防壁のようだ。しかし、まるで意思を持っているかのように矢は剣を回避(・・)しエン・プーサの肩に突き刺さる。千草が持つスキル『千里眼』によって壁を作られた所で見えなくなる訳では無い、そして、【弓神一矢(ユミガミノイチ)】、あの魔法は矢の威力と速度を上げつつ矢の起動を操作する事が出来るようになる魔法だ。弓が一番得意な千草うってつけの魔法だ。

 

「いっ・・・・・・・・・!?」

 

よろめくエン・プーサ。勿論そこがチャンスである事がわからないほど桜花は馬鹿じゃない。その隙に魔法を唱える。

 

「【剣の上にて胡座をかけ、眼前の敵を睨め。汝が手にするわ雷の力なり】」

 

魔法とは形勢を逆転させる切り札だ。隙が大きいだけに得られるメリットも大きい。

 

「【武甕雷男神(ライジンタケミカヅチ)】!」

 

素早く詠唱を行う。桜花がこうやって詠唱するのは妖夢と昔からやっていた事だ。どれだけ早く、どれだけ噛まずに言えるかで勝負をし、途中で参加した千草が常に勝ってきた、アイツだけ超短文詠唱だからな・・・。

雷を身に纏う。神経や筋肉が電気により活性化し、身体が動かしやすくなる。肉体へのダメージも存在するがスキルで押さえ込む。

 

剣が飛来する。桜花から数m付近まで近付いた瞬間バチッと言う音に続いて桜花が回避する。

 

バチバチ、バチバチと何かが弾けるような音を上げながら隙間などほとんど無いであろう剣の沸き立つそこを駆け抜ける。電気を周囲に流す事で自分に近付いた剣を察知し、回避しているのだ。

 

「くっ・・・!当たりなさい!」

 

天井や床から剣が沸き立つ様に飛び出す中を雷を纏った桜花と千草の放つ矢が突き進む。傍から見れば無謀な突進。見るものが見れば確信を持った追撃。

 

「なら・・・これで!」

 

千草の矢は魔力に反応し、回避行動を取るのだと予測したエン・プーサは自らの手で鎌を振るい、矢を切り落とそうと振り下ろす。それは確かに正確で矢を打落す事が出来たように思えたが、矢はエン・プーサの太股に突き刺さっていた。

 

「いっ・・・つぅ・・・!・・・!?!?」

 

痛みに耐えかね視線を外した為に桜花の攻撃に対応出来ず肩を貫かれ、蹴り飛ばされ吹き飛ぶエン・プーサ。転がりながら体勢を立て直し鎌を地面に突き刺しブレーキとして停止。肩を押さえつつ、キュクロに馬乗りになっている妖夢の方に視線を少し向けた。

 

「ごめんなさい、ビリビリは私には合わなさそうだわっ!」

 

と鎌と足を地面に叩きつける。剣が地中を移動し妖夢に向かっている事に雷の機動から桜花は気がつき叫ぶ。

 

「妖夢避けろ!!」

 

しかし、叫び声よりも早く飛び出した剣が妖夢の脇腹をを貫く。そして立ち上がったキュクロが妖夢を蹴り飛ばす。

 

「くっそ!」「「妖夢殿!?」」「妖夢ちゃん!」

 

 

 

 

 

俺だ!砂糖を使ってダリルと戦闘中。槍が物凄い速度で突っ込んでくる。槍の攻撃は刀や剣と違い、線ではなく点だ。まぁ簡単に言うと防ぎにくい。でもまぁ知ってる攻撃は通用しないぜ。

 

『ほっ、よっ、みょん!』

 

武器がぶつかる度に火花を散らす。そしてどんどん熱くなるダリル。誰だよこいつに変な二つ名付けたヤツ、修造に変えるべきそうすべき。

 

槍をしゃがんで回避し、弾幕を放てば右手に持った剣で撃ち落とされる。そして爆音。ドドド!って感じの小さな爆発が連続で起きている感じだ。理由は俺の後でウキウキしてる猿師、爆薬を丸薬の大きさに固めた物の様で、本来はニン=ジツで引火させる見たいだが、今回の敵は勝手に燃えてるので楽そうだ。でも、その、俺も若干巻き込まれていると言うか・・・その・・・でも楽しそうだし仕方ないか。

 

「チィッ!!クソが!やりズレぇ!」

 

ヤケクソになって来ているダリルを俺が正面から相手取り、命が弓を使って矢を放つ。それを迎撃しようとしたダリルだが、目の前で爆発した爆薬に視界を奪われ、矢が耳を削いでいった。

 

「があぁぁア!」

 

痛みに悶えたダリルを置いて、俺は本体の要求した両手剣を『よっ!』と放り投げる。本体が黒糖を高く放り投げる。それと同時に俺はダリルの元に走り出し、一閃。槍で防がれるが砂糖を滑らせるように動かし裏に回り込む。すると勿論ダリルは背を取られないようにこちらを向くわけで。

 

「あがっ!?」

 

と後頭部に黒糖の柄の部分が直撃する。惜しい!即死コースだったのに!・・・いや危なかった!?

 

向かってくる黒糖を掴みとり黒糖と砂糖を持ってジャンプ斬りだ!弍刀ハ壱刀ニシテ弍刀ニ有ラズ(にとうはいっとうにしてにとうにあらず)のスキルが発動したのか、ステイタスの上昇を感じる。

 

「ぐおっ!?」

 

ぶつかりあった衝撃で火花と火の粉を散らしながらザザー!っと滑るように押されて行く。そして、それを見た猿師が飛び蹴りをダリルの横っ腹に決め、ダリルが呻きよろめく、そこに更に追撃をしようとしたが

 

「クッソガアアアァァアア!」

 

と更に熱くなった。熱い、暑い。やめて欲しいなアイツだけでこの部屋の温度が10度以上熱くなってるよ。まぁ、怒りたい気持ちもわかるよ?ほぼ完封されてんもんな、俺だって何も出来ずに10割削られたら台を叩くぞ。バン!バン!

 

「その顔うっぜえぇんだよォ!!燃やし尽くしてやる!」

 

な、なんですとぉ!この超絶美少女ハルプ君になんと言う暴言!許せん!・・・う、うん恥ずかしいし辞めよう。てか何だよあれ、剣と槍に火の粉が集中したと思ったら何かすっごい燃えてる!これは便乗せねば!

 

『いいねぇ!炎対決だっ!どっちが熱いか勝負だな♪』

 

ニコニコと笑いながら朧・焦屍剣と火炎斬りを同時に使用する。レベルも上がり、耐久ステイタスも上がったから結構耐えられる。めっちゃ熱いけど。

 

「な・・・うそだろ?・・・は、はは。何でも有りってか・・・最高におもしれぇ!!塗り潰してやらァ、俺の炎がなァ!」

 

剣戟の音があちこちで響く中、俺達は炎のゴウッ!て音が。

 

『焼け死ぬんじゃないぞ?俺達はお前達を殺しちゃダメなんだ。タケとの約束でな。だから加減するけど・・・・・・死ぬなよ?』

 

大事な事なので二回言いました。死なれると困る、主に俺のお尻が。約束を破るとお尻ペンペンが待っているのだ、言っておくがヤラシイ物じゃない。そんな生易しいものではないんだ・・・思い出すだけで痛くなってくるが・・・。

 

「ハッ!たりめぇだ!」

 

一気に熱量が上昇する。そして一気に接近してきた。お互いの炎がぶつかり合い、火の粉と火花を激しく散らす。互いの熱が重なる事で最強に見える、だって命の矢が熱で弱くなってダリルの皮膚に弾かれたぞ。

 

度重なる斬撃、互いにしっかりと足を固定し、全力で切り結ぶ。時間にして10秒。斬撃にして数十。互いの武器が全力でぶつかりあった。でも、少し俺は詰が甘かった。相手はスキルで、神の恩恵で炎を出している。武器に対する負担も少ない。それに比べ俺はどうか?武器そのものを強引に加熱させている、つまりは脆くなっている訳で・・・。

 

『だよな・・・!』

 

レベル3が織り成す全力の剣舞に耐えきれず、黒糖と砂糖が弾ける。やっぱり砂糖逹は熱に弱いか・・・!

 

ダリルの追撃に備えようとした時、ダリルがバックステップでキュクロに合流した。本体がだいぶ痛い一撃を貰ったらしい。取り敢えず本体に戻ろうか、死角があるとエン・プーサの魔法が厄介だからね。

 

俺は楼観剣と白楼剣を魔法で作り出し、妖夢に渡し、半霊に戻る。意識も妖夢に戻した。

 

 

 

 

 

 

妖夢は痛む脇腹を楼観剣を持った手で押さえ、キュクロを睨む。

 

「お前達は強い、互いを信頼しているのは勿論だが、個々の技量が飛び抜けている。」

 

だからこそ、とキュクロは繋げた。

 

「勝って示さなくてはならないのだ、我が主に。」

 

大剣を自分の左右に突き刺し、失った眼を片手で覆う。

剣が山となりキュクロの背後にそびえ立つ。左右と背後からの攻撃を防ぐ気のようだ。

 

「主に忠義を示すために、お前達を供物として捧げん!」

 

何が起ころうとしているのか、その場にいた皆がわかった。魔法を使う気なんだと。桜花の一声に千草の魔法により強化された矢が放たれる。それに合わせ命も矢を放つ。

 

「させねぇよ。」

 

劫炎が立ち上がる。矢がすべて消え去った。再び全身に炎を纏ったダリルが立ち塞がる。そして詠唱が始まった。

 

「【矗立(ちくりつ)する巨人、硬直する人々。終わりの時が来た。赦し(ゆるし)を請え、眼に映る己を見つめろ】」

 

「貫きなさい、串刺しにして高々と持ち上げるのっ」

 

剣が乱立する。誰かを狙うのではなくランダムに適当に、至るところから剣が飛び出して接近を許さない。

 

(不味い、不味い、不味い!ここまで来て・・・!やっと助けたのに?あんなに斬ったのに?こんな所で負けちゃうのか・・・?)

 

【魔化石眼】(キュクロ・キュベレイ)ッ!!」

 

(嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!)

 

――否定する。魂は奮起する。負けてなるものか、終わってなるものかと。

 

――否定する、己の敗北の『可能性』を。家族の終わりの『可能性』を。

 

――ゆらり。身体が不意に動いた。口が何かを紡ぐ。それは言いなれない物で、彼女彼からしたら異音に違いない。されど、親しみ懐かしみ、暖かくも冷たい響き。

 

(タケとの約束を破ってしまうかも知れない・・・・・・けど、ここで何かしなかったら何もかも・・・また!失う!!!)

 

楼観剣を逆手に持ち、地に突き刺した。目を閉じる。そうすることが酷く自然に感じた。

 

「――ッ!!【亡骸溢れる黄泉の国――】」

 

――肯定せよ、自身の勝利を。確定せよ、勝利の『可能性』よ。

 

ステイタスが下がる。足から石化していく。千草が再び石化した。命が既に首まで石化してきている。桜花すら腰周りまで石化が進んでいた。

 

「―――【咲いて誇るる死の桜。】」

 

魔力と霊力が楼観剣を起点に嵐のように吹き荒れる。石化されているが故に、その場に踏みとどまれる。キュクロ達がまるで壁に押されるかのように下がっていく。ダリルの炎がかき消される。

 

石化が進行していく。命が完全に石化した。桜花が口元まで石化し、目を見開いて妖夢を見ている。妖夢の腰まで石化が進行する。

 

「―――【数多の御霊を喰い荒し、数多の屍築き上げ、世に憚りて花開く。】」

 

大量の魔力が、霊力が一挙に収束していく。するとどうだろう、まだ魔法を唱え終えていないというのに楼観剣を抜き、キュクロ達を指し示す。

 

「あ――ガアアアアァァアァアア!?!?」

「ぐぅ――がはっ!?ぐうぉああ・・・ゴフッ!」

「きゃぁぁあああ!!」

 

突然叫び声を上げ全身の血管を浮き上がらせながらのたうち回るキュクロ達。血を吐き、地を這い、もがく。

 

(雑音がうるさい・・・。ノイズが走る・・・!魔力も霊力も足りない・・・視界がぼやける・・・)

 

「【嘆き嘆いた冥の姫。】」

 

キュクロ達の体から桜の木の枝が飛び出してきた。果たしてそれは何処から生えたのか、肉か、血管か、心臓か脳か。赤々と血を滴らせ、生命を求め枝葉を伸ばす。人がまるで盆栽のように変化していく。

 

しかし、枝の動きが止まる。妖夢が完全に石化したのだ。しかし、悲劇はここからが本番だった。

 

――ノイズ――――が走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ここは――?何処だ?また、アイツの所か?

 

しかし、そこは日本の庭園の様な場所。けして何も無いただの空間ではない。初めて見るのに、懐かしい。

 

――?違うのか・・・。

 

「ゆゆこさま〜!」

「あら〜妖夢っ!可愛いわねぇ・・・食べちゃいたい!」

「幽々子様、お戯れを。」

「わかってるわよ妖忌、そんなに怒らないの」

 

――!?!?これは!?・・・・・・妖夢の・・・過去?

 

視界が加速する。そして再び屋敷に。

 

「そうなの、強くなりたいみたいだから。」

「そう・・・・・・。可愛い子には旅をさせろ、と言いたいのね?」

「そうよ、何か良いところ知らないかしら」

「そうね―――――」

 

視界が加速する。何も無い空間に到達する。

 

「やぁ君か。どうしたんだい?」

 

駄神がおどける様に笑う。まるでわかっていたように。

 

――え、・・・?

 

「・・・ん?混乱してるのかな?大変だねぇ、まあ俺ほどの神様になれば余裕だけどね」

 

胸を張り、自嘲気味に答えた。

 

「・・・・・・ごめんよ、助けるのが遅れたみたいだ。それと、もう君達の勝ちみたいだよ。そろそろ体に戻ってあげるといい。君、の・・・家族が心配しているよ?」

 

そして心配層に、割れ物を扱う様に優しく語り、笑う。それは何かが壊れるのを酷く恐れているようで・・・。

 

―あ、あぁ、そうだな。わかったありがとう・・・。

 

腑に落ちない、疑問が増えるばかりで解消されない。確かな頭痛を感じながら俺は、肉体に戻された。

 









はい!・・・伏線をいくつか作って戦争遊戯は終わりですね。西行妖については次回に少し解説があります。そしてお待ちかね次回はオッタル&ベートが登場!オッタル視点も有り!この小説のヒロインの1人であるオッタルさん出ますよ!(謎のオッタル推し)

そして2人の団長のステイタスも公開します

名前 ダリル・レッドフィールド

二つ名【爆裂劫炎(ボンバー・フレイム・ボンバー)】

ステイタス
力B
耐久D
敏捷A
器用C
魔力G

使用武器
左:槍
右:剣

発展アビリティ
【狩人】【火耐性】

スキル

紅焔憤怒
・戦意や怒りで感情が昂ると発動。
・火の粉を纏う。
・感情の度合いで効果が上昇。

戦闘傾倒

・戦闘になると敏捷が上昇する。
・理性を失いやすくなる。


エン・プーサ
【魔鉄淫獣】

【ステイタス】
レベル3
力C
耐久H
敏捷C
器用A
魔力A

使用武器
大鎌


【発展アビリティ】
魔道、吸魔

スキル

魔法浸透
・持続的使用前提
・物に魔力を馴染ませる。
・魔力に馴染んだ物体は杖の変わりになり、魔法の制御を助ける。

魔法

『千刃』(ブレイド)

【地を震わせる怒り、打ち据える鉄。貫け剣(つるぎ)よ、突き刺せ剣(けん)よ。】

・短文詠唱
・使用者の一定範囲に魔力をばらまく
・剣を出現させる。


さて、彼らはほんとに使い捨て位の感覚で作りましたが・・・何時か再び会える日はあるのかな? あ、あとこの人もですよね!


黒ひげのような男と言われている彼。

レベル2
力G
耐久C
敏捷F
器用D
魔力i

発展アビリティ【狩人】

スキル

「絶対的平和空間」(ハッピー×3)
・シリアスを破壊する事で発動。
・シリアスを破壊した時、ほぼ全ての攻撃によるダメージを無効化、若しくは大幅に軽減する。
・スキルが発動している際は致命傷を受けない。

【備考】
エロス・ファミリアの最初の3人の内の1人。1人はキュクロ、最後の一人は桜花に槍で瞬殺された人。根は真面目で良い人。スキルの都合上おふざけが必要で、話し方は黒ひげを参考にした。

「拙者」「ござる(ごザル)」が被っているというだけで闘争心に火がつき猿師と戦い、毒物で不意を突かれ敗北。以降は一人称を「某」に変えた。


名前すらないモブだと言うのにこの待遇よ・・・名前とか募集してみようかしら?絶対に『ティーチ』になりそうだ、やめておこう。いやむしろもうティーチで良いんじゃないかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34話「私たちの勝ちです。」

キュクロ達はどうなってしまうんだ!


というわけで34話ですー。












「あぁあああああああああああああ!!!」

 

木が、体を裂いて現れる。血肉を突き進み、その顔を外に顕にした。

血が溢れ出す、木に恵みを与えんと献身するように。肉が、骨が、血管が見える。

 

「と・・・まぁれぇええええええ!」

 

キュクロが地面をのたうち回りながら全力を眼に込める。石化すれば、止まる筈。あまりの激痛に思考がままならない中、すべてを注ぎ込む。

 

「あぁああああああああああ!!!」

 

絶叫、激痛。それが誰のものであるかも既にわからない。叫び声が反響し耳を打つ。わかるのは身体が痛いこと。死が、迫っていること。

 

足が裂けた。腕が裂けた。腹を突き破り木の枝が生えた。刀すら防ぐその鎧をいとも容易く押しのけ隙間から顔をのぞかせる。

 

妖夢の口までもう少し、もう少しで石化する。もうすぐで痛みから開放される。その一心で、瞳に魔力を込め続ける。

 

魔法陣が張られたその眼から―――枝が伸びる。

 

「ぐっおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

咆哮する。それは忠義の叫びでも戦士の雄叫びでもなかった。死に逆らう生物の慟哭。すべての魔力を使い果たし

 

 

――――――石化が完了した。

 

 

そして、爆音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血の生臭い匂いが鼻腔をくすぐる。赤がそこには広がっていた。血の湖に倒れるのは3人の冒険者。

 

「なに・・・・・・が・・・・・・?」

 

桜花が困惑の声を洩らした。石化が解け目の前を見たら血の海。それ程に凄惨な光景が広がっていた。部屋はあちこち罅だらけ。何が起きたのか・・・それを説明するのは簡単だ。

 

まず、魔法とは詠唱が終了して初めて効果を発揮する。だからこそ長文詠唱は隙が大きく、短文詠唱は使い勝手がいい。

 

しかし、現に【西行妖】は超長文詠唱であるにも関わらず、その効果を詠唱途中(・・・・)にも発動させた。この時起きた効果が『対象からランダムで枝葉を発生させる』と言うものであった。しかし、これはあくまで前段階、本来の効果とは異なるが・・・今は置いておこう。

 

今回の詠唱は失敗(・・)した。キュクロの魔法によって石化した為に、詠唱は強制的に破棄された。では魔法の詠唱が失敗すると何が起こるだろうか。・・・それは魔法暴発(イグニス・ファトゥス)、魔法の詠唱途中の制御の失敗の際に起きる爆発現象。

 

本来ならば魔法爆発の発生は術者を中心としたものだ。本人の魔力を使い発動をさせようとしているのだから当然なのだが・・・・・・今回は違う、今回爆発した物・・・それは楼観剣と発生した桜の枝葉だ。

 

楼観剣は魔法の媒体になる、それはある種の安全装置であり、詠唱の起点。大量の魔力と霊力が1度楼観剣を通る事で西行妖はその『縁』を強くし、再現される。そして、最終的な魔力と霊力の塊は木に姿を変え、敵を内側から食いちぎった。

 

そして、失敗。魔力爆発が起きたのは楼観剣と桜の枝。つまり肉体から生えた桜の枝葉が爆発したのだ。体を内側から突き破り顔を出した木の枝が体内、体外で爆発した。枝葉は見た目と違い大量の魔力と霊力を保有していた為に、その威力は凄まじい。その威力たるや耐久のステイタスが一番高いキュクロが死にかける程、耐久が低いエン・プーサに関しては生きているのが不思議なレベルだ。

 

しかし、それ程の爆発を前に妖夢達は無傷だった、なぜなら石化していたから。哀れな事に、勝利を確信したキュクロ達を襲ったのは盛大な自爆に他ならない。もしも石化をしていなかったら結果は違ったのか・・・そんな事は無い。

 

失敗は必然であったのだ。そもそも、この魔法を使うには魔力も霊力も足りないのだから。現在のレベルでこの魔法を使うには最低二つの詠唱が必要で、最終段階まで発動させるには・・・・・・四つ以上の詠唱が必要だろう。

 

「ぁ・・・・・・・・・・・・・・・が・・・・・・・・・ぃ・・・た・・・かハッ!」

 

呻き声が痛々しい程に響く、猿師が治療を施している。いや施そうとしている。

 

「・・・これは・・・丸薬ではどうにもならないですね」

 

猿師が呟く。その視線の先には体の至るところが抉れているエン・プーサの姿が。太股、腹から枝が生え、それが爆発したのだろう。太股は骨が丸出しで、腹は内蔵が殆どやられている。神の恩恵が無ければ間違いなく即死であった。

 

「ぐ・・・お・・・ぉ・・・が・・・は、・・・ぬぅ!」

 

キュクロが呻き声を上げながらうつ伏せになり立ち上がろうともがく。しかし、誰も武器を構えることは無い、無理なのだ。膝から下を失ってしまっては立ち上がる事なんてできるわけが無い。出血が多すぎるためか、半分失った顔を蒼白にし、もがく。

 

「少し大人しくしていなさい。治療はすぐに行います」

 

猿師が強めの口調でそう言った。実は彼だけが石化から逃れていたりする。猿師が危ない時に飲めと渡した薬は石化の解除薬であった。だからこそ爆発のあと素早く治療に移れたのだ。

 

「・・・・・・は!妖夢殿は!?」

 

命が妖夢を探して妖夢が居たところを見れば、そこに妖夢が倒れている。駆け寄って様態を確かめる。気絶しているだけの様だ。近くに半霊が浮かんでいる。

 

「良かった・・・気絶してるだけだね」

 

千草が凄惨な光景に顔を青ざめさせながらも妖夢を心配して駆け寄る。しかし、妖夢の顔に手を触れようとしたその時!

 

「ハッ!ここあぎゅ!?」

 

はっ!ここは!。そう言おうとして千草とおデコを激しくぶつけ悶絶する。

 

「「あいたたた・・・」」「ふふ、何をやっているのですか」

 

一瞬にしてシリアス&SAN値ピンチ状態を吹き飛ばした妖夢は、しかしシリアスに戻る。テクテクとキュクロの前まで歩いていく。

 

そして刀を首元に突きつける。

 

「私たちの勝ちです。」

 

キュクロは答える。その半分しかない顔に苦悶と恐怖の表情を浮かべながらも、どこか満足げだ。

 

「そして、・・・我々の敗、北だ・・・。忠義すら、貫けぬ自分に、勝機な、ど元、より、無かっ、たか・・・」

 

息も絶え絶えに、笑う。恐怖を押し殺して虚勢を張る。

 

「ええ、私も驚きました。もうすぐ負ける所でしたから。」

 

ニコリと笑い、キュクロの元にポーションを置く。半霊からゴロゴロとポーションが出てくる。妖夢はそのうち1本を使い魔力と体力を回復させた。

 

「自殺なんて考えないで下さいね。舌を噛み切るならポーションを口に突っ込みます。腹を切ろうものなら傷口に強引にそそぎ入れますので」

 

そう言って妖夢は立ち上がって命達の元に向かう。しかし、キュクロはその背中に声を振り絞る。

 

「自分の・・・腰、に。万能薬が、ある。自分はもう、いい。2人に、飲ませてやってくれ・・・!」

 

無事な方の腕で万能薬を取り出し目の前に置くキュクロ。妖夢は頷き半霊を使って万能薬を回収し、猿師の前に落とす。

 

「・・・・・・・・・死ぬ、事すら、許され、ぬか・・・。あぁ・・・・・・・・・ままならぬ、な・・・ぁ・・・」

 

何処か遠くを見つめ、嘆いた後にガシャンと重い金属音がキュクロの限界を周りに告げた。

 

「さ、全部終わりました!帰りましょう!」

 

おー!と3人が手を掲げる中、猿師と桜花がガクッ!となる。

 

「怪我人の手伝いとかしないのか?」

「え?・・・する必要、あったんですか?」

「・・・・・・まぁ確かに気持ちはわかるんだが・・・」

「いやぁ済まないでごザルなぁ、中庭に転がっている五体満足な冒険者は・・・あと1日は起きないでごザルな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだよ、あれ。

 

誰のものとも解らない一言が、その場のタケミカヅチ以外の内心を代弁していた。

 

「ふぅ・・・良かった。誰も死者は居ないな」

 

タケミカヅチが安心した様に息を漏らす。視線がタケミカヅチに集中する。

 

「なあタケ、あれは何だったんだい?なんで安心しているんだい?あんな濃厚な『死』の気配なんて僕は知らない。まだ死神の方がましだよ」

 

ヘスティアと思いは同じなのか大多数の神が頷く。タケミカヅチは首の後ろを解しながら言うか言わないか迷う。

 

「タケミカヅチ教えてくれ、アレは何だ?」

 

ヘルメスが何かを焦ったように真剣な表情で問いただす。タケミカヅチはどう説明すればいいかを少し考え、しっくり来たものを声に出した。

 

「あの魔法は西行妖。最後まで発動すると相手は死ぬ」

 

至極真面目な表情でそんな事を言ってのけるタケミカヅチ。誰も笑わない、誰も話さない。何故ならば感じたのだ、『あれは神をも殺しえる(・・・・)』と。枝葉が生えた瞬間に悪寒が背中をなで回し、舌が体を這うように全身が硬直しかけた。超越存在である『神』が、だ。

 

「いや〜良かった・・・、発動しなくて安心したぞ・・・魔力が足りないとはいえ妖夢の事だ、発動しても可笑しくない」

 

タケミカヅチは力が抜けたように椅子に凭れ掛かる。

 

「人殺しにする訳にはいかないからな」

 

しばらくしてタケミカヅチは立ち上がる。

 

「さて、エロス共に要求を叩きつけてやろう」

 

疲れた様なその背中を誰もが目で追い、話し掛けることは無かった。タケミカヅチが居なくなってしばらく無言であったがロキを筆頭に少しずつ会話が増える。

 

「はぁ、また妖夢たんはウチの度肝をぶち抜いていくなぁ。あの死の気配、ウチら神やからこの距離でも感知できた、多分子供達は感知してへんやろうな。」

 

「その方が良いだろう。・・・あの者達は逆に近過ぎて感知出来ないだろうな」

 

「うんそうだね。危険はあるけど・・・まだ使えないんだろう?タケの事だ、きっとしっかりと言い聞かせてくれるさ」

 

 

 

 

 

 

 

オラリオの頂上。銀色の女神フレイヤはタケミカヅチが出ていった後すぐさまその場をあとにし、ここ自分の部屋に戻ってきていた。

 

「あぁ!欲しいわ!あの娘が欲しい・・・!」

 

恍惚とした表情で自分を抱く。月に照らされる艶かしい肢体は男達の目を釘付けに来て余りある。

 

「・・・はぁ・・・オッタル」 「はっ」

 

岩男の様に待機していたオッタルがフレイヤの隣まで来て言葉を待つ。

 

「接触して。どうにか彼女を私の物にしたいの、けど・・・」

 

と従者にどんな難題を出せば困惑し迷いながらも愛おしく努力するのかを考える。そして、結局はこれが一番だろうと選択した。

 

「怪我をさせないで仲良くなって連れてくるのよ?」

「・・・はっ!」

 

オッタルが部屋を出ていく。オッタルはどうやって仲良くなろうとするのか。どんな愛しいすがたを見せてくれるのか。

 

「うふふ・・・全部、楽しみだわ・・・」

 

 

 

 

日が登り初め、人々が新たなる朝に活動を開始し始めた時。再び街中に映像が流れた。人々がその歩みを止め映像に見入る。そこにはタケミカヅチとエロス連合の姿があった。

 

 

 

 

俺は目の前に居る神達を睨む。エロス、ヘカテー、ダイチャン。すべてが戦争遊戯に参加したファミリアだ。そして、千草を攫い妖夢を辱めようとしたクズどもである。

 

さて、条件は「何でも」だった筈だ。どんなものを要求しようか・・・金、武器防具、人員。その位か?いや、まぁとりあえずコイツらは天界に吹き飛ばすとして・・・あー、でもそれで諦めがつかないから天界から手を出されるかも知れないな。

 

ふむ、人員か・・・・・・デュアル・ポーションや猿師の丸薬とかの採取が現状余り無いからな。クエストを出すのも良いがやはり自分のファミリアで取りに行けたほうがいいだろう。よし、人員は決定か。いや待て、妖夢の武器を作れる人物が必要か・・・?キュクロを・・・いや、あいつがコンバージョンするとも思えないな。

 

ん・・・長々と思考していたらどんどんアイツらの顔色が悪くなっている。ざまあみろと言っておくか。

 

・・・まだか?妖夢のヤツ遅いな。うーむ、他に奪えるものって何かあるか・・・?

 

『とーーーうっ!』

「うおっ!?」

 

ってハルプか。

 

『よしっ!タケ!アイツら殴っていいか!?いいや限界だ殴るね!』

「いや待て待て待て!!!」

 

どうどう、落ち着けハルプ。飛びかかるんじゃない。ここは互いの意見の交換を先にしてだな。

 

『フー!フーー!』

「猫かお前は」

 

思わずツッコミを入れてしまった。だが・・・ふむ。殴る、か。死なない程度に痛めつけてオラリオから追放させるか、うん、これ最高だな。

 

「決まりましたカ?・・・・・・ではどうゾ」

 

「こちらからの要求は・・・・・・まず、ファミリアの全財産をこちらに渡すこと。」

 

うぐっ!と声がする。

 

「ま!まて。まず、と言うことはまだあるのか・・・?」

 

は?何を言ってるんだコイツは・・・数なんか指定されてないだろ。

 

「数に制限を設けられていないからな。財産、と言うのはヴァリスは勿論、人員も含む、しかし人員に関しては欲しい者だけ貰う。勿論お前達のホームも財産の内に入るぞ。そもそも、「協力をしたのだから我々も罰を受ける」と言ったのはお前達だろう?本来はエロスだけで良かったんだがな」

 

エロス達の顔が蒼白になっていく。

 

「そして、エロス達はギルドからの罰金を自分で働いて返すこと。罰金以外の事は知らん、ギルドに聞け。あぁ勿論お前達の団員は残りたいものがいるならそいつと働くといい。まぁ恐らくだがダンジョンは使えなくなるだろう。がんばれよ。そして、ギルドの許しが出なかった場合は・・・オラリオからいなくなれ、永久に」

 

エロスが白くなった。燃え尽きてしまったらしい。

 

『それと!俺とタケはサッカーがしたいぞ!』

 

エロス達が「えっ?」と疑問符を頭に浮かべ・・・少しだけ希望を持ったようだ。・・・哀れな

 

『だからお前達ボールな!!』

 

あんな物を蹴ったら汚れると思うんだが・・・。まぁ、仕方ない。のびのびと成長するにはやっぱり運動は大事だからな。よし、お父さん頑張っちゃうぞ!妖夢から昔教わったファイヤートルネードを使う時が来たか・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっすおっす!妖夢だぞ。今日はパーティーをする事になっているんだ!何のパーティーかと言うと、勿論千草を取り戻せたこと、戦争遊戯に勝ったことだな!

 

・・・・・・・・・いや、うん。

 

「あっ!てめっ!俺の肉だぞそれ!」

「へへーん!早い者勝ちだもーん!あーむっ!ん〜美味しー!妖夢ちゃん料理上手だねー!」

「このバカゾネスがァァ・・・!」

「あれれ?もしかして妖夢ちゃんの手料理が食べたかった?あー、ごめん、気がきかなくて」

「よし!ぶっ殺す!!!」

 

・・・・・・あ、えっと・・・。

 

「うんまーーーーー!妖夢たんの料理うんまーーー!こっちは?!「あ、わ、私ですっ。肉じゃがです」うまあっ!千草たんのもうまいな〜!」

「はいっ♪団長あーーん」

「ティオネ、酔ってるのかい?」

「うふふ?まだお酒は出てきてませんよ?」

「・・・・・・あ、アハハ(ダレカタスケテ)」

「ガッハッハッハ!旨いな!やはりこうでなくてはいかん!酒!酒はまだか!?ぬぉおお!酒!飲まずにはいられない!」

「全くお前達は・・・今回の宴はタケミカヅチ・ファミリアの・・・ん?どうしたアイズ」

「ん、取って」

「あぁ醤油、だったか?癖になる味だな。ほら、これでいいか」

「うん」

 

・・・・・・な、なんか・・・入りづらいというか・・・なんというか・・・命も千草も桜花も苦笑いしてるし・・・。

 

「妖夢?食べなキャ、大きくなれないヨ?」

「え?あ、はいいただきます」

 

余計なお世話じゃボケ。身長とかきにしてないですぅー。全く・・・。

 

ドンドンドン

 

ん?お客さんかな?

 

「少し見てきます。」

「うん、行ってらっしゃイ」

 

はぁ、まだ増えるのか、いやいや、そんな事考えたらダメだ。美味しいって言ってもらうのはすごい嬉しいし、祝に来てくれてるんだからそりゃもう飛び跳ねたい程嬉しいけど・・・・・・戦争遊戯の後のいろんな手続きが必要で、疲れていて眠いのです。ちなみにロキ・ファミリア、ミアハ・ファミリア、ジジさんと色々な人が来ている。ヘスティアはベル君の看病に向かったらしい。

 

「今出ますー!・・・はい、どちら様・・・・・・で、すか?」

 

そこには壁・・・・・・オッタルが立っていた。

 

「みょぉおおおおおおおおぉおおおん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふむ、どうしたものか。俺はこうしてタケミカヅチ・ファミリアの前で立ち往生していた。現在は正午、とてもじゃないが酒盛りには早い。しかしだと言うのに中からは喧騒の声がチラホラと・・・・・・。やはり、危ないのではないだろうか、あの中に突撃し、制圧する自信はあるが魂魄妖夢を守り切れる気がしない。

 

しかし、フレイヤ様の命令である以上入らねばならない。とりあえずベート・ローガその他ロキ・ファミリアが居るのはわかる、飛びかかってきた場合の正当防衛は声高に主張するとしよう。

 

さて、玄関の前まで来たものの、このドアを叩いた時誰が飛び出してくるのだろうか・・・。あの命という少女であれば楽なのだがな・・・。クンクン・・・ふむ、酒の匂いはしないか。強くなるには肉体の成長は必要不可欠、あの歳で酒は早すぎる、今回は見張りとして俺が隣の席を陣取るとしようか。フレイヤ様に見初められたのだから強くなってもらわねば困るのだからな。

 

俺はドアをノックする。ふむ、タケミカヅチ様でもいいだろう、あの神とは気が合う。特に戦いの話になれば丸1日話せるだろう。

 

「今出ますー!」

 

む?この声は・・・魂魄妖夢か?・・・しかし、なぜだ?今回の宴の主役は魂魄妖夢その他タケミカヅチ・ファミリアなのではないのか?・・・いや、極東の文化を詳しくは知らないが家の主が出なくては成らないというマナーがある可能性もある。

 

「はい、どちら様・・・・・・で、すか?」

 

ガラガラと音を立て開いた引き戸、初めは正面を向いていた為に俺と解らなかったようだが、少しずつ顎を上に上げ俺と目が合った。俺は要件を伝えるために口を開こうとしたのだが・・・。

 

「みょぉおおおおおおおおぉおおおん!?」

 

と元気に腕を振り上げて仰天するものだから思わず口を噤んだ。さて、どうするか。このままでは今の叫び声で人が集まってくるだろう。何か勘違いされている可能性があるためそれを早急に解消する必要があるな。

 

「・・・魂魄妖夢。戦争遊戯、おめでとう」

 

緊張を解くには笑顔。本に書いてあったそれを試す。これで無理ならば日を改めよう。

 

「おおおおおおおお・・・・・・お?・・・・・・オッタルさんでしたか・・・はぁドキッとしちゃいました」

 

本に書いてあったことは本当だったらしい。先人は偉大だな。そして魂魄妖夢のセリフはそのまま返したい所だ。ドアを開け、挨拶をしようとしたら大声で叫ばれる俺の身にもなって欲しい。ドキリとしないはずが無い。よし、手土産を渡してそのまま中に入れてもらおう。

 

「つまらないものだが手土産を。」

 

「あっ!ありがとうございますっ!」

 

手土産に飛び付いて中身を見たくて仕方ないのだろうチラチラと俺の手にある袋を見る魂魄妖夢。はぁ、不安になってきた、例えば俺が今回の戦争遊戯の主犯のような者であった場合、何も出来ずに捕まってしまわないだろうか?そんなヘマをするならばフレイヤ様も唯では置かないはずだ。

 

「あ!どうですか?一緒にパーティーしませんか?」

 

おっと、考え事をしていたら魂魄妖夢がそう言っていた。願っても無いことである以上ニコリと頷く事にした。魂魄妖夢もニコニコと人懐っこく俺の手を取り中に案内してくれる。・・・無理をしているようにも見えるな、作り笑いでは無いが、疲労が濃い。

 

「おっ!酒や酒や!飲むデー!超飲むday!」

「おいロキ、まだ昼間だぞ?主神たるものもう少し他ファミリアの中くらいでは遠慮をだな」

「何を言うてんねん!ウチはもう2時間我慢しました〜!もうええやろ?なぁええやろ?」

 

・・・害悪を発見。・・・しかし、かのロキ様はフレイヤ様のご友神。口頭で注意するしか無いか。しかしリヴェリア・リヨス・アールヴとは気が合いそうだ。何故だろうか?まぁいい、協力を要請し酒を魂魄妖夢から遠ざけねば。

 

「ん?・・・の!のわぁあ!オッタルやん!」

「あん?・・・うおっ!?オッタル!?」

 

オッタルだ、オッタルだ、と俺を見る者達を意図的に無視し魂魄妖夢に話し掛けることを優先する。

 

「魂魄妖夢、俺はどこに座ればいい?」

「みょん?・・・んー、空いてる所なら何処でも平気ですよ?」

 

ふむ、どこでも構わない。ならば予定通りに魂魄妖夢の隣に座らせてもらうとしよう。

 

「みょん?隣ですね」

「ん?あぁ。向こう側は少し、な。」

 

俺の視線の先には牙を剥き吠えようと構える犬が。魂魄妖夢は何かを察したようで「なるほど」と手を打った。

 

賑やかな宴、しかし、その空気に馴染めないのか魂魄妖夢は静かに料理を摘むだけだ。ほかのタケミカヅチ・ファミリアの団員は既に馴染み始めており、気が合う者達と酒を煽り、料理を口に運んだ。

 

・・・・・・ふむ、あの戦いは相当に堪えたようだな。自らが持ち得ない物を持つ者が、やっと手にいれた者を奪う、そしてそれを取り戻そうと奮起し、敗れそうになり、父と仰ぐ主神の約束すら破りかける。

 

幼い体にはさぞ負担になった事だろう。思い悩み、宴に参加する気分では無いことはわかるが・・・ふむ、気の効く所を見せ、友好度を稼ぐか。騙すようで悪いが、命令なのでな。

 

「疲れているか?魂魄妖夢。」

「へ?・・・・・・まぁ、それなりには。疲れてますね」

 

他人に指摘された事で更に疲れを認識したのだろう、更に疲労の色が濃くなった。当たり前だ結果的に見れば全体の6割以上は魂魄妖夢の活躍なのだから。

 

「ならば寝るといい。」

「え!?で、ですが、皆さんにせっかく来ていただいたのに」

「あぁ、そうだな。妖夢、寝てきていいぞ。」

 

!・・・タケミカヅチ様か、驚いた、気配を消して居るとは・・・。何時頃から聞いていたのだろうか。いや、そこよりも魂魄妖夢は遠慮が過ぎる。もしもこんな下らない事で体調を崩すような事があれば笑い者というものだ。

 

「えっと・・・では、お言葉に甘えて。・・・タケ、ハルプを呼んでおきますね、あっちの形態なら眠りながらでも平気ですし」

「おう!お休み妖夢。」

「おやすみなさいタケ、それとオッタルさん」

 

そう言って奥の部屋に入っていった魂魄妖夢。

「何やなんや?」とロキ様の声がする。ふむ、状況の説明は俺がしておこう。

 

「あぁ、魂魄妖夢は『おっす!妖夢は疲れが溜まってるから俺が変わりに参加するぜ!なんて言ったって今回のMVPはこの俺!のはずだからな!』・・・」

 

ふむ、スキルの、確かハルプだったか。それにセリフを取られたな。にしたって飽きれるほどに似ているな、目の色と話し方、立ち方や態度位しか違いが無い。

 

『なぁなあ!ベートにアイズにオッタル!!俺の大!活躍は見ててくれたか!?』

 

・・・現実から目を背けていてな、見ていない。とは言えんな。現に俺が見ていたのは魂魄妖夢の方だけだ、スキルの方は見ていなかった。ぴょんぴょんと飛び跳ねベートの隣に正座し、目を輝かせながら感想を聞くハルプ。しかし何故だろうか、やはり、疲労が見える。・・・スキルにも疲労はあるのだろうか・・・?それともスキルの持ち主の疲労が反映されているのか?

 

「いや全く」

『ええ!?嘘だろベート!本気か!?俺あんなに頑張ったのに!?』

「なんでテメェらなんか見なきゃ行けねぇんだよ」

『そ、そんなぁ・・・うぅ・・・でも仕方ないよな。・・・ベートも忙しいよなぁ。・・・はぁ』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ!うるせぇな!見てたよ、少しだけだが見てた!」

『え!?本当かベート!!やったぁ!ベートぉ!』

「のわっ!?危ねぇ!?」

『さすがベート俺の友達!』

「だからてめぇと友達になった覚えはねえ!抱きつくんじゃねえ!」

『ならなろう!今すぐなろう!ちなみに抱きつくのはロキが感謝の印だって言ってた!・・・って妖夢か言ってたぞ!オラリオの常識なんだろ?郷に入っては郷に従えっていうじゃんか!なっ!ロキ?』

「ロォォキキキィィ!」

「違う!違うんや!堪忍してや!!」

 

はぁ、平和だな・・・。

 











『【西行妖】の仕組み。』
※これはあくまで魔法の【西行妖】の説明です。本来の西行妖とは異なる点が多く、オリジナル設定の塊です。

・妖夢が詠唱を開始、魔力/霊力を楼観剣へ。
・楼観剣に一定量チャージ。
・楼観剣を起点に魔力/霊力を放出。
・放出された魔力/霊力に触れると身体に種が植え付けられる(範囲内に存在するなら強制)。
・楼観剣で指し示すことにより種と楼観剣の間に魔力/霊力のラインが通り、大量の魔力/霊力が種に移動。
・種が育ち枝葉を生やす。
・育った枝が肉を押しのけ外に顔を出す。
・失敗した場合、枝と楼観剣が爆発。
・成功した場合、は木が成長し、正常に魔法が発動。

こんな感じです。描写しきれなくてすみませぬぅ。

小ネタ。
・身体の中に植え付けられた種は時間が経つと消える。
・仲間にも容赦なく植え付けられる。
・対人戦を目的としていないため人に使うと、通常なら6割以上詠唱した時点で恐らく死ぬ。理由は言わずもがな。
・1度指し示されると回避不可。指し示されなければ種は芽吹かない。
・現状、魔力/霊力が足りず最後まで詠唱が出来ない。
・数種類の魔法と数種類の詠唱を合わせなくては使えない超超長文詠唱魔法。
・西行妖・・・いったいどんな効果なんだ。

『エロス達に課せられた罰』

・ファミリアのホーム、団員を含む全ての財産を没収。内何割かはギルドに流れる?
・ハルプとタケミカヅチのボールにされる。(この際のポーション代は自腹、エロスの。)
・ギルドからの借金を神自ら働いて返す。コンバージョンを望まず、残った団員は共に働いても良い。ただし一攫千金を狙えるダンジョンの使用は禁ずる。
・借金を返済し終えた時、ギルドからの許しが無ければオラリオを永久追放。

シフシフ「やりすぎた気はしている、後悔はしていない。でもほら、ゆるゆるの優しい条件だと思うのですよ」

『四天王(3人)の怪我の箇所』

キュクロ・・・目、片腕、両足、腹から枝が生えて爆発、比較的表面部分に枝が現れた。片目から生えた枝のせいで顔の表面半分を失う。意識もなんとか保っている。

ダリル・・・腕、肩から腹にかけて沢山。足の甲。から枝が生えてきており、爆発の衝撃で悲惨な事に。意識を失った。

エン・プーサ・・・腹、太もも。深い所から枝が生えてきた為、1番爆発のダメージが大きかった。生えた本数は一番少ない。





『オッタルについて』

リヴェリアリヨスアールヴは「オカン」そしてこの小説のオッタルは「オカン」。オッタルは何かを感じ取り、協力関係を結ぼうと思ったが、寝かせた方が早いと結論付けた。・・・そのままお話してた方が好感度は上がったのでは・・・?とあの後考えたのは内緒。

『ベートについて』

妖夢が友人のベートの為にと、特別に作った肉の煮込み料理をティオナに食べられる。そして怒る。その点を弄るとキレる。本人は割と楽しみにしていた模様。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オラリオ編:真!タケミカヅチ・ファミリア/ダンジョンの悪意
35話「二つ名なんてどうでもいいのです!プリンこそ至高!他は邪道ですっ!」


しばらくは平和な日常パート。

そして漸く二つ名が付きます。どんなやつか予想できたかな?

ステイタスは変更点があった場所だけです。




ワイワイガヤガヤと、ギルドは普段よりも賑やかだった。冒険者が沢山押しかけているのだ。

 

「はい、そうですね、ええ、ですが・・・」

「はい?いいエ、・・・そうでス」

 

エイナ、ジジ、ミーシャの3人は仕事に追われていた。ギルドにある掲示板、そこにはダンジョンでの出来事の他にファミリアの勢力状況などが記される。つまりそこに冒険者が集まるのは必然であり、今日はそれが躊躇だった。

 

原因は三日前に終了した戦争遊戯。コンバージョンを申し出る者、冒険者になりたいとやって来る者。皆その目を輝かせカウンターに押しかける。

 

「おわっ!うおっ!?あ、危ない・・・!?」

 

そんな人混みに揉まれる兎。それを目にしたエイナは頬を緩ませる。エイナが対応していた男がそれをみて惚けている。

 

 

しばらくして、ようやくベルはエイナの元にやってきた。行列に列んで順番を待っていたのだ。

 

そしてエイナに告げられる衝撃の事実。

 

「僕っ!レベル2になったんですよ!!」

 

それは悲鳴と共にその場にいた者達に共有された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは俺が庭で朝の鍛錬をしていた時のこと。千草の悲鳴が響き渡った。けど、その悲鳴は恐怖と言うよりも喜びの悲鳴だった。まさか桜花が告白でもしたのか?

 

「どうかしましたか千草?」

 

走って千草の元まで行くと上半身を裸にした千草と、普段通りのタケの姿。ステイタスの更新には上脱がなきゃ行けないからね仕方ない。

 

「みてっ!見て見て!私もついにレベル2だよっ」

 

なん・・・だと・・・!?

 

「うおおおぉ!やりましたね千草!」

「「バンザーイバンザーイ!」」

 

と喜ぶ俺らだが、タケの顔が険しい。なんでだろうか?

 

「くっ・・・・・・神会の日に・・・レベルアップだと・・・いや、隠蔽すればまだ先延ばしにできるはずだ・・・」

 

・・・あぁなるほど。命だけでもキツいのにそこに俺と千草まで加わればそりゃあ胃が大変な事になりますよね。わかります!

 

「どんな二つ名を貰えるんだろう!可愛いのが良いなぁ」

「そこはタケに頑張って貰うしか無いですね」

「うぐっ!」

 

純粋な喜びと高まる期待。そして悲鳴を上げるタケの胃、なるほど、神とは何とも大変な仕事ですね。にしても・・・・・・二つ名かぁ、嫌な予感しかしないな。ハルプで乱入しようかな・・・。

 

ん、タケと目が合った。

 

「「無難な物を勝ち取ろう(って来てください)」」

 

互いにぐっ!と親指を立てて誓い合う。ただし、1人でも救えない者がいた場合は諦めて全員恥ずかしい名前で我慢しよう。見るに耐えない。

 

「あぁ・・・そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神会、偉業を達成しランクアップを果たした物に、二つ名を授ける儀式。・・・と一般的に解釈されているがその実冒険者に恥ずかしい二つ名を付けて楽しむ娯楽である。

 

「くっくっく、今回は豊作だと聞いている。楽しみだぜ」

「あぁ楽しみだ。」

 

涎を滴らせ神々がにやける。そんな中タケミカヅチは口元を引き締めガチガチに固まっていた。

 

「なぁタケ、ずいぶんと緊張しているじゃないか。緊張するだけ無駄だろう?そんな姿勢を見せていると狙われるぜ?」

 

「そんなことを言われてもな・・・俺のファミリアからは3人も参加するんだぞ・・・?」

 

「へ!?3人もかい?・・・って戦争遊戯でランクアップをしたのか」

 

「あぁ、桜花、千草、が戦争遊戯でランクアップした」

 

「あれ?妖夢君はどうなんだい?」

 

「妖夢は三ヵ月前にレベル2になっている、そして10日ほど前にレベル3になっている」

 

「・・・は、ははは。・・・人のファミリアの事は言えないけど・・・妖夢君も大概だね・・・はは」

 

「・・・・・・ん?待てよ?ベルクラネルだよな、ヘスティアの所は。・・・冒険者になってからどれくらいだ?」

 

「・・・一ヶ月半・・・かな。」

 

「そうか、互いに頑張ろうなっ!ほんとっ!頑張ろうな」

 

そして、この日同盟が2人の間で結ばれた。

 

 

 

「さーて!今回の司会はウチが努めさせてもらいます。ロキやでー!」

 

ロキが名乗りを上げ、ヘスティアが「うっ」と唸る。神々が軽い拍手をした後ロキは満足げに資料を手にその場を仕切り始める。

 

「何か手元の資料で報告がある奴はいるか?いないんやったら次に行くで」

 

ロキの後に続いて神々は近況報告や噂話を披露していく。

 

「いや〜、あのタケミカ何とかとか言う天然ジゴロロリコン過保護ファザーの所に移りたいとか、そういう団員が出てきてさー」

「「あー、確かに確かに」」

「でもさ?親の心境としてはさ、あんまり拒否したくないじゃん?だけど主力が抜けるのはなー、やっぱりダメッて言うかー?心が痛むぜ・・・」

 

戦争遊戯が世間に与えた影響は強い。数値的な戦力差は勿論、傍から見れば幼い女の子が家族の少女を救うべく立ち上がり、家族と共に囚われの少女を救い出したのだ。

英雄譚の様なその戦いは見るものを釘付けにし、その姿に憧れを抱かせるには十分すぎるものだった。神様達は言う「これがギャップだ」と。

 

その後はラキアの軍がどうのこうの、隣の田中さんがどうのこうの、と、たわいの無い報告が進み。ついにお待ちかねの時間がやってきた。

 

「さて・・・・・・準備は出来たか?」

 

ゴクリ、と新参者達が唾を飲む。

 

「ホームの隅で痛い名前に喜ぶ団員を見る準備はOK?」

「「「OK!!!」」」

 

始まるのは地獄。ここで付けられた痛々しい名前は、その者が新たにランクアップするまで変わることは無い。つまり、ダークフレイムマスターとかエターナルブリザードとか、そういった名前を眷属が誇り、自慢してくる苦行に耐えねばならない。ランクアップするまで。そして一般的にランクアップをするのには早くて数年かかる。

 

「ほい!まずはコイツや!んーと?」

 

 

 

 

その後は痛々しい名前が飛び交い、自らの眷属に付けられた名前に神が悲鳴を上げる、それだけが繰り返された。そして。

 

「ぐぅふっふぇぅへ!タァケェミィカァズゥチィ・・・きぃさまぁの番だぞぉぉおおお!」

 

憎悪がタケミカヅチに向けられる。それは明らかな嫉妬。なぜならば、タケミカヅチのファミリアには『美少女』が沢山いる。

まずは命、年齢の割に発育が良く、神々にささやかな人気を博していたが、この場の神々にもしっかりと知れ渡った。手元の資料には似顔絵が付いており、その絵は非常に精巧だ。

 

そして千草、普段は顔を前髪で隠しているが、時々見える素顔は非常に整っており、庇護欲を刺激すると、男神女神問わず一定の人気を誇る。

 

極めつけは妖夢だ。整った顔立ち、少し雑に整えられた美しい銀色の髪。全身緑と言う奇抜な格好でありながら驚くほどに似合っている洋服。あざといリボン付のカチューシャ。

 

ついでにハルプ。妖夢と同じ外見。しかし話し方に大きく違いがあり、妖夢が丁寧に接するのと違い、ハルプはずいぶんとフレンドリーだ。口調も男らしく快活。妖夢もハルプも老若男女問わず高い人気を誇っている。

 

さらに戦争遊戯でタケミカヅチ・ファミリアの女性陣を知らないものは殆どいなくなった為に、人気は爆発している。

 

・・・つまり。

 

「だけどなぁ・・・・・・あの子達が恥ずかしい名前で喜ぶのは・・・・・・見てられねぇよぉ!!大人として恥ずかしくなってきちゃうだろ!!俺この前落とした財布わざわざ手渡ししてもらっちまって・・・・・・」

 

意外と有利に進んでいる。このまま行けば無難な名前を勝ち取れるかも知れない。タケミカヅチが内心で期待を強くする。

 

「だぁがしかしっ!貴様はタケミカヅチっ!どうせこの3人のheartもゲットしてんだろぉ!糞が!このロリコンが!」

「そうだそうだ!万死に値する!妖夢たんに斬られろ!」

「つけちまおうぜ!はっずかすぅぃ二つ名をヨォ!」

「やめっ、ヤメロォーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「【俺達の嫁(マイ・ワイフ)】っ!!」

「「「それだっ!」」」

 

剣事典(マイ・ワイフ)っ!」

「ルビが被ってんじゃねぇか!」

 

剣閃百花(ソード・オブ・ラビリンス)

「おお!中二っぽい!」

 

「やめろ、やめてくれ・・・お願いだァ・・・」

「まだだ!まだ俺のターンは終わってないぜ・・・!ドロー!14歳スピリット!効果により二つ名を特殊召喚するっ!」

 

タケミカヅチが絶望に暮れた時、1人の女神が助け舟をだした。

 

 

 

「その辺になさい。貴方達はあの娘が可哀想とは思わない?・・・・・・誇れる物を付けてあげてね?」

 

「「「「はい!フレイヤ様!」」」」

 

それは美の女神フレイヤ。タケミカヅチは予想通りといえば予想通りの展開にホッと一息ついた。

 

そして導き出された答えは・・・・・・

 

 

「【剣士殺し(ソード・ブレイカー)】魂魄妖夢

【✟絶影✟】ヤマト・命

絶弓(ベリー・キュート)】ヒタチ・千草

雷鳴電槍(ケラヴノス)】カシマ・桜花。これで決まりやな、異論はないか?」

 

「「「「「「ないっ!」」」」」「ある!」「ないなわかった。」「そんな!?」

 

誰かが叫ぶ。これが神の所業なのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タケミカヅチはホームに戻り、暗い顔で妖夢達に対面した。緊張の面持ちで正座し座る家族にタケミカヅチは神会で起こったことをほぼ全て語った。

 

「・・・・・・という訳なんだ。」

 

タケミカヅチが暗い声でそう答えると、千草と命、桜花が目をキラキラとさせて、何かを噛み締めるように瞳を閉じる。

 

「「「かっ、カッコイイ・・・」」」

 

 

そのつぶやきに妖夢とタケミカヅチはずっこけた。

 

 

 

 

 

 

いや、それにしてもさ・・・嫌味か!?剣士殺し(ソード・ブレイカー)って何だよ。嫌味だよね?普段から武器をポキンポキンへし折ってる俺への当てつけだよね?

 

どうも妖夢だよっ!こんにゃろうこんな二つ名つけやがって・・・、あれだよね?これって毎回この二つ名で呼ばれるんだよね?毎回毎回「武器をよく折るヤツ」って呼ばれるんだよね?!最悪だろ・・・厨二病云々じゃなくて普通に恥ずかしすぎるだろ、二つ名呼ばれる度にショックを受けるわ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ほらみろ!身体が硬直してんぞ!なんだよこれはって理解に苦しんでるぞ!反応に困るよなこれは。だがタケの手前こんな事を口走るわけにも行かない。やはり多少の気遣いをするべきか・・・

 

「・・・あー・・・そのぉ・・・・・・か、カッコイイ・・・んじゃ・・・ないですかね・・・。グスン、どうせ私なんて武器をすぐに折っちゃう悪い子ですよ・・」

 

あぁ、もう悲しみが全力で表現されてるぅ!感情の制御が難しい!なぜなら俺も悲しいからだよ!

 

「そ、そのような事は・・・妖夢殿の技が強すぎるだけで・・・」

 

気を使う所か使わせてるよ。どうすんだよ俺の肉体の心の剣は既にひび割れた後にへし折られてるよ。治らねぇよ、接着剤なんかで治る程やっすい心してないからね、これはよっぽどすごい何かが必要だよね、そう!例えば壊れない剣とかさっ!!

 

「妖夢そう落ち込むな・・・。プリン、買ってやるからさ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・プ、プリンだと・・・?今プリンと言ったか桜花・・・?あの柔らかな質感に確かな弾力を持つ高級デザート・・・の、プリン・・・だと?このオラリオに置いて、最高品質を誇るプリンと成ればその値段は跳ね上がり・・・・・・ご!5千ヴァリスぅ・・・(エコー)。

 

「そ、それはまことですか!!」

 

くっ、涎が止まらねぇ・・・。しかしだ、しかし。あのプリンの柔らかさ、スプーンを入れた時の弾力・・・そしてあの優しい甘さ・・・。喉を通るつるんとした喉越し・・・ゴクリ。・・・これほどの誘惑に勝てるだろうかいいや勝てない!(反語)この誘惑に勝つには白楼剣を抜かざる負えない!いや!抜く!

 

「お、おいおい。涎を拭けよ。ほら、お金渡すからプリンでも何でも買ってこい」

 

「おお!ありがとうございます桜花!さぁ命に千草!二つ名なんてどうでもいいのです!プリンこそ至高!他は邪道ですっ!ゴーゴー!行きますよ!」

 

さあ早く進むんだ!ハーリーハーリー!プリンは待ってはくれないぞ!値段の割に売り切れるの速いんだから!どこの世界でもプリンは人気なんだ!

 

 

「・・・・・・妖夢は5千ヴァリスで立ち直る。これはメモしといた方がいいですねタケミカヅチ様」

「あぁ、ベートにも教えといてやろう」

「え?教えるんですか?買収されて情報とか漏らしてしまう可能性が」

「いや、流石に・・・・・・無いとは言いきれない・・・それにしても凄いステイタスだな・・・」

 

 

Lv.3

 

「力」:H180→F365

「耐久」:H112→G218

「器用」:F473→B748

「敏捷」:E502→B795

「魔力」:105→E404

「霊力」:266→D580

 

アビリティ:【集中:D+】【剣士:G】

 

【半霊 (ハルプゼーレ)】

 

・アイテムを収納できる。収納できる物の大きさ、重さは妖夢のレベルにより変化する。

・半霊自体の大きさもレベルにより変化する。

・攻撃やその他支援を行える。

・半霊に意識を移し行動する事ができる。

・ステイタスに「霊力」の項目を追加。

・魔法を使う際「魔力、霊力」で発動できる。

・ハルプで戦闘を行った場合も経験値を得られる。

 

 

「上がりすぎだろ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルはボロボロになった装備を更新すべくギルドの7階に来ていた。

 

(ヴェルフ・クロッゾさんの防具は売ってるかな)

 

前回の買い物で目を奪われた兎鎧。それの製作者「ヴェルフ・クロッゾ」防具に詳しくないベルでもわかる確かな腕を持つ鍛治師。ベルは期待に胸をふくらませエレベーターに乗り込んだ。

 

「・・・・・・うぇ!?」

 

視界の下方向に映る銀色の髪の毛。誰か子供が乗ってるんだろうと当たりをつけたものの。ギルドに通常子供は来ない。だからこそチラリとその人物を見たベルは驚いた。

 

「妖夢さん!?」

「・・・ん、なんです。」

 

そこにはほっぺたを膨らませコチラを睨む可愛い顔が。

 

(って!いやいやいや!確かに可愛いけど!この人を怒らせるとやばい!?てかなんで怒ってるの!!?)

 

その身に確かな危機感を覚えベルは1歩後ずさる。しかし此処はエレベーター、逃げ場などない。

 

「ど・・・・・・どうか、したんですか?」

 

ベルは恐る恐る聞いてみることにした。どうにか解決しなくては、そう思ったからだ。

 

「・・・別に。何でもありません」プクー

(あ、明らかに怒ってるよ・・・。僕もよく言われるけどもしかして妖夢さんも顔に出やすいのかな・・・?)

 

此処は話題を変えるべきだ!とベルは話題を探す。

 

(前回ここで出会った時は防具の探し方を教わったんだったかな。きっと妖夢さんも武器か防具を探してるんだ)

 

そして、ベルは武器や防具の話をしようと思い至るが・・・それはちょっとした地雷であった。

 

「あ、アハハ。実は僕装備がボロボロ(・・・・・・・)になっちゃって買いに来たんですよ。いや本当、こんな簡単に壊しちゃうなんて鍛治師さんに申し訳ないですよね」

 

頭の後ろを掻きながら情けない笑い方で妖夢に話をふるベル。しかし、妖夢は拳を握りこみ、プルプルと震えている。

 

「そう・・・ですよね。・・・鍛治師さんに申し訳がたたないです。・・・すぐに武器壊すし、プリンは買えませんでしたし・・・すぐに武器壊すし・・・」

 

(武器壊すしって二回言った!?)

 

「ハハ、ハハ・・・そうですよ、私は悪い子ですよ。鍛治師さんの仕事を徒に増やす悪い子ですよ・・・せっかく千草達が選んでくれたのに簡単に壊す薄情者ですよ・・・」

 

ベルは妖夢の落ち込みようにドン引きしつつ、小さな女の子が落ち込んでいる姿にいてもたってもいられなくなる。

 

「そ!そんなことないですって!妖夢さんはレベルが高いから武器が付いてこれないだけですよ!」

 

ベルの励ましに妖夢は顔を上げジト目でベルを見た後「はぁ」とため息をこぼし、続けた。

 

「武器は悪くありません。使いこなせば木の枝だって敵を殺せる武器になる。つまりは私の技量が圧倒的にたりない。簡単な話です、修行あるのみですよ」

 

(へぇ、木の枝で・・・え!?木の枝ってあの木の枝・・・?普通に考えて振ったら折れちゃうよね?!)

 

ベルはダンジョンに潜っていたため、戦争遊戯を観戦していない。しかし今回に限りベルの言う木の枝であっている。西行妖ではない。

 

エレベーターがカチャーンと言う音と共に8階に着いたことを知らせてくれる。

 

(僕は此処で降りるけど・・・妖夢さんはもっと下かな?僕と話してたら8階に来ちゃったけど)

 

と思ったベルだが、妖夢は同じく8階で降りた。

 

「え?妖夢さん此処で降りるんですか?」

「はい。今は暇なのでベル・クラネルさんについて行ってみようかと」

 

ベルは妖夢さんも子供っぽいところが有るんだなぁと意外に思い、ニコリと微笑む。それは妹に対する笑みのような柔らかい笑みだ。妖夢はそれを一瞥するとくすっと笑う。

 

「変な顔ですね」

 

「ひどいっ!?」

 

8階を歩き、ヘファイストス・ファミリアの経営する武具屋に向かう。

 

「おお〜、だいぶ品揃えが変わってますね」

 

ベルが妖夢に話しかける。しかし返事はない。「ん?」とベルは周囲を探すと妖夢は何故かカウンターの方を見つめている。そこからは喧騒の声が。

 

ベルがそちらに向かってみると、防具の入った箱を手に赤髪の短髪の男が店主に抗議しているようだ。そして、ベルはその男の手荷物に見覚えがあった。

 

白い、兎のような鎧だ。ベルはハッとして耳を澄ませる。

 

「なんであんな隅っこに置くんだ!」

「今は戦争遊戯の影響で売れ行きがいいんだ、なら売れる商品を目立つ所に置いた方がいいだろう?」

 

どうやら男の作った鎧を何処に置くかで言い争っているようだ。

 

(あの人が・・・ヴェルフ・クロッゾ・・・さん?)

 

ベルが話しかけるか迷っていると、横からツンツンと誰かに指で触られた。ベルが横を向くとそこにはやはり不機嫌そうな妖夢が。

 

「行かないんですか?随分と物欲しそうに眺めていますが」

「えっ・・・・・・は、はい!」

 

ベルはそう言ってヴェルフ・クロッゾに話しかけた。そして兎鎧を購入し、ヴェルフに連れ出された。・・・何故か妖夢も一緒に。

 

 

 

 

 

「はて、私は何故此処に連れてこられたのでしょうか」

 

妖夢がブスッと顔を不満げにしかめながらヴェルフに問いかける。

 

「まぁまぁ、そんな事より俺はヴェルフ・クロッゾ。よろしくなみょんきち!」

 

ヴェルフはそんな表情を気にもとめず笑う。しかし、そんな事よりも妖夢には気になることが。

 

「"みょんきち"・・・?わ、私の事ですか?」

 

戸惑い焦る妖夢に「ははは、気に入らなかったか?俺はいいと思うんだが・・・どう思うベル」「え!?ぼ、僕に振りますかそこ・・・ええと・・・本人が決めるべきかと・・・」と話し合う2人。

 

「気にいらない・・・いいえ、あだ名は初めて付けられた気がします。みょんきち・・・悪くは無いですね。・・・良くもないですけど」

 

テンションが低かった妖夢が若干テンションを取り戻す。

 

「おっ、だいぶ元気になったみたいだな。この前の戦争遊戯と違い過ぎて別人かと思ってたぜ」

 

ヴェルフがそう言うと妖夢は気恥ずかしそうに顔を逸らす。ぷいっ、と言う効果音が似合うくらいにわかりやすく背けるのでベル達は思わず笑ってしまう。

 

そして和気あいあいと束の間の笑いを楽しんだ後、ヴェルフは真剣な顔で2人を見る。

 

「なぁ、俺と専属契約結ばないか?」

 

ヴェルフは少し緊張しながらもそう言い切った。

 

「専属契約?」

 

ベルが頭に疑問符を浮かべながら首をかしげる。そこに妖夢から補足が入った。

 

「冒険者に対して絶対数が少ない鍛治師は貴重な存在です。さらに冒険者の武具以外にも一般の方の生活用品なども鍛治師は制作しています、ここまではわかりますか?」

 

妖夢の説明を聞き、なるほど、と理解したベルは頷く。

 

「そのように仕事が沢山ある中で、『貴方の依頼を優先します』と言う契約です。もちろん変わりに珍しい素材や、それに見合う対価を払う必要はありますが、ギブアンドテイクと言う関係を作れるのです」

 

「なるほど・・・ってええ!?僕なんかいいですって!妖夢さんに付いてあげてください!」

「それはどういう事ですか!!私が使うとすぐ壊れるからと!?そういう事ですか!?」

「ひいいぁ!?違います!」

 

遠慮が一瞬で言い合いに変わる。ヴェルフは目を点にしながらも、しばらくそれを見つめ・・・大きく笑いはじめた。

 

「な何がおかしいですか!」

 

「いや、はは、何でもないんだ・・・くく。それにしても、みょんきちは結構説明上手いな、驚いたぞ。」

 

ヴェルフは話しを逸らす。クロッゾ。その名を聞いて、なおかつ専属契約をしようと持ちかけられて、大した反応もしなかった2人に、ヴェルフは驚いたのだ。

 

「ぐぬぬ、話しを露骨にそらしましたね・・・。まぁいいです。私が説明上手なのは練習しているからですよ。もうすぐ私達のファミリアに入りたいと言う人達がきっと来ます。何人か、まではわかりませんが。入ってきた後輩に教えられないと言うのは恥ずかしいですから。」

 

「なるほどな、良かったじゃないか」

「ホントですよ!羨ましいなぁ・・・!」

 

ファミリアの団員が増える、それは一般的には朗報で、喜ぶべき事だ。しかし妖夢は表情を曇らせる。

 

「私はファミリアを家族だと思っています。いえ、きっと今居る皆をファミリア(家族)だと思っているんです。ですが・・・人が増えたらそれは・・・・・・いえ、すみません。何でもないです。」

 

妖夢はこう言っているのだ。ある日突然父親が「家族が増えたぞ」と名前も顔も知らない、年齢すらバラバラな集団を連れ帰ってきたとして、それを家族と呼べるのか。そう言っているのだ。

 

だが、彼女は断らない。それは『家族』だから。妖夢は人手が増える事で何が起こるか、それを理解出来ていた。猿師の仕事ははかどり、ファミリアは豊かになり、きっとタケミカヅチも笑ってくれると。ならば疑問等必要無かった。少なくとも、理性ではそう思っている。

 

「そうか・・・・・・確かに、みょんきちみたいな歳だとキツイかもなぁ」

 

「そこ、子供扱いをすると斬りますよ」

 

「ひどいっ!?」

 

「専属契約については願ってもない事です、タケに聞いてみますね」

 

「おう!!」

 




『英・・・雄・・・?』

あんなむごたらしい戦いをして、英雄扱いっぽい感じ一般人に見られている理由は、エロス連合が一般人にもわかりやすい完全な悪役であったこと。妖夢達の目的が人の救出だったこと。少人数で僅かな時間で攻め落としたことなど。

『二つ名』

言わずもがなヒロインXの真似のせいである。剣士殺すと笑ながら突き進む様はまさにバーサーカー。いや、セイバーだったか。ちなみにソードブレイカーとルビつけたのはゴブニュ。


『プリン』

妖夢の好物の1つ。とても美味しいが高級品。現実でも昔は高級品だったらしい。最も高いもので5千ヴァリス。プリンをあげると簡単なお願いは聞いてもらえる。
はよ、タケミカヅチはよベートに教えてあげて!



質問、誤字、脱字などお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36話「私はリリルカの事、好きですから」

「専属契約?」

 

タケが疑問符をつけながら首を傾げる。

 

「いったい誰と結んだんだ?」

 

どうやらタケは誰と専属契約を結んだのか気になる様子。まぁ一番重要な所だからね。

 

「ヴェルフと言う人ですよ」

 

ふむ、と言って目を閉じ、しばらく考えるタケ。ダメなのかな?

 

「まぁいいか。実は直接契約をしたいって鍛治師達が沢山居たんだがな・・・」

 

え"・・・・・・で、でも、原作キャラのヴェルフの方が思い入れがあるし・・・それに、並の鍛治師よりも腕はいい。ネーミングセンスが無いだけで他は良いんだよ他は。

 

「ええ、すみません。とりあえずハルプでヴェルフには連絡しておきます。・・・・・・今日のこの後の予定は・・・」

「・・・外に押しかけてきた彼等の処理・・・だな。」

 

おうふ、ですよね。・・・現在、俺達タケミカヅチ・ファミリアは四つのホームを持っている。エロス、ヘカテー、ダイチャンが使っていたホームだ。売っても良かったんだが、俺が持ちかけた提案に皆が乗った事で売られずに済んでいる。

 

持ちかけた提案と言うのは、『住み分け』だ。俺達は今まで通り此処に住んで、これから入る人達は他のホームに住む。だいぶ飛び地だから大変ではあるが・・・。最初は近くの建物を購入しようと思っていけど、近くの空き家が無くてこの案になった。

 

ファミリア内の地位的な意味でいうなら此処は幹部の家みたいな感じかな?

それぞれの建物の規模を考えるに最大で1000人位の団員が入れるんじゃないかな、嫌だけど。流石に人数多すぎるのは困る。なぜって、ファミリアのランクが上がりすぎるとギルドに支払う金額が大きくなるから。

 

現在の総資金は戦争遊戯で勝利し、エロス達から奪った・・・勝ち取った5億ヴァリス、人質を救ったことでギルドからのお礼のお金2千万ヴァリス。後は元からあった500万ヴァリスだ。あとはヴァリスに換金されていない宝石とかも全部売れば1億は稼げそうだ。

 

そんな事を考えながら外に出てみる。

 

うへぁ、なんじゃこりゃ。

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ヒソヒソ、ウマウマ。視界に広がるのは人、人!人!人しかいない!んー、殆どが冒険者、かな?武器持ってるし鎧着てるし。・・・おっ、あの人はきっと薬師志望だろう、白衣着てる。てかおい、俺を指さすんじゃない、失礼だろ。

 

「おいみろ!」「うわぁすげぇ、初めて生で見た」「可愛いな」「でも強いんだろ?」「そりゃもうすごい強いぞ」

 

とかなんとか言ってるよ。少し恥ずかしいな、まぁいいか、じゃあ始めよう。

 

 

「では皆さん。キチンと1列に列んで下さい。」

 

ザワ、ザワザワ・・・。と人の塊が動く。最前列が一列になれば、後ろの人達が自惚れじゃなければ俺を見ようと列を外れる。それに釣られて・・・と言った感じで列は一列になかなかなってくれない。

 

とりあえずしばらく待ってみることにしたが・・・全然一列になってくれないので部屋に飾ってある模擬刀を引き抜く。・・・一列になった。模擬刀の力ってすげー。まぁ列んでくれたのでニコリと笑っておく。・・・あれ?なんかさらに綺麗に列が・・・。ま、まぁいいか。

 

「はい、綺麗にならべていますね。では三人ずつ入ってきて下さい」

 

 

その後は俺、タケ、桜花、猿師の四人で面接官をやって、命と千草、それと応援に駆けつけてくれた清美さんが外で列を管理してくれている。

 

うーむ、公平な目で見なきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つ、疲れたー。思ってたよりも多かったよ・・・。

 

「はぁ・・・疲れたな。」

 

タケもぐったりしている。疲れるよな、ひたすらやって来る人のやる気とかを聞いて質問を重ねる・・・1日で終わらせようとか無茶にも程があるってもんだよ。

 

「お茶を入れました、どうぞ飲んでください」

「ありがとうございます」

 

流石は命、気が利くね。にしても今回面接に来た人は200人を超えた、俺の予想では二三人だと思ったんだけどね。だってキュクロ達の怪我凄かったからさ、てっきり街の人からはドン引きされてると思ってたぜ。

 

ちなみにタケのお眼鏡に叶ったのはその内の80人位かな?そこから更に皆で篩をかけて少なくするらしい。

 

あ!そうそう!ダリルが来てたぞ!ビックリしたよおれ!ワンコが増えるのかー、でもワンコはベートが居るからね、あとジジさんも。猿とゴリラも居るし、猫は・・・・・・クロエさんか、あとオッタルは猪だろ?んー?あと居ないのは・・・って何やってんだ。

 

それにしてもダリルが来たのは意外だったなぁ、万能薬効いて良かったね。キュクロは「罰は受ける、それがなんであれ、悪を悪と認め事を起こしたのだから。」とカッコよく言っていたなぁ。万能薬使わないでエン・プーサとダリルに渡したのは個人的に凄い好感が持てたぞ。

 

にしてもやりすぎた気がしなくもない、いや、あれをやってなければ俺達が負けてたんだけど、それでもキュクロを見ると少し申し訳なくなる。謝ったら怒りそうだから言わないけど。

 

「さて・・・どう振り分けるか・・・。剣の館、弓の館、雷の館。此処にバランスよく振り分けたいな。」

 

タケがうむむ、と悩み始める。昔、まだこのホームを改造してない時は『仮住居の長屋(タウンハウス)』って呼んでいたけど、今は『武錬の城(ぶれんのやかた)』って変わってる。折角人が増えるなら変えようってなったからだ。

 

武錬の城は正直数十人が暮らすには狭い。一世帯が丁度いいくらいなんだ、だからここには振り分けない。

 

剣の館は元ヘカテー・ファミリアのホーム。弓の館が元ダイチャン・ファミリアのホーム。雷の館が元エロス・ファミリアのホームだ。剣の館と雷の館が北西方面、弓の館が東方面にある。

 

振り分けは本当に難しいな。最初は適当に振り分けるしかないだろう、性格とかわかってからじゃないと困ることも多そうだ。まぁ、性格はタケがある程度見抜いてるはずだから平気かも?

 

お金は取り敢えずあるから設備を揃えてあげる事も考えないとね。

 

 

タケが相変わらず唸っている。お盆を抱え正座している命と、千草と話し合う桜花。そしてそれを見る俺。・・・・・・ふふ、こんな時に感じるなんてな。・・・・・・・・・・・・守れてよかった、この光景を。この関係を。

 

「どうかしましたか妖夢殿、わらっていますが」

「えへへ、いいえ?何でもないですよ♪」

「ははは!なんか変だぞ妖夢」

 

こんなふうに皆で悩んで、皆で話して、皆でご飯を食べる。当たり前だけど、何よりも尊いもの。何よりも貴いもの。何よりも守りたかったもので、どんな物よりも大切なもの。

 

 

 

 

 

 

そして、守れなかったもの。失ってしまったもの。忘れてしまったもの。

 

 

 

けれど、こうして再び手に入れた。だから、守る、だから、無くさない、だから忘れない。だから俺は誓おう、何に変えても、この『絆』を守り抜くと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バベルの前、広間になっているそこで俺はベルとヴェルフ、あと多分リリルカも来るらしいので、噴水の近くでその三人を待っていた。

 

「・・・・・・」

 

ふむ、なんだろうか、この視線の数々は・・・。俺が視線の方向に顔を向ければ、視線は無くなるんだが・・・。てかさ、誰も周りにいないんだけど?遠くから俺を見てるだけで誰も近寄ったりしないんだけど・・・え?これ俺が悪いの?俺なんかしたの?

 

「・・・・・・」

 

は、早く来てくれヴェルフ達。そんな事を思っていると人混みの奥に大きなバックが見えた。おそらく、いや絶対にリリルカだ。

 

「ッ!!」

 

俺は全力で縮地を使用し、人混みを飛び越え、リリルカの前に着地する。

 

「へあ!?」

 

驚きの声を上げるリリルカ。そのリリルカを抱えた後再びさっきの位置まで跳躍して戻る。

 

「な!?ななななな!?何をするですか!・・・・・・って妖夢様!?」

 

「リリルカ、遅いです。待ちくたびれましたよ私は」

 

驚くリリルカにニヤリと笑いかける。悪戯が成功した時って嬉しいよね。後でどうせ怒られるとわかっててもさ。

 

「妖夢様が早すぎるんですよ!私はポーションやその他アイテムを補充していたのです。」

 

そう言われてしまうと何も言い返せないな、年甲斐もなく楽しみにして早起きしてしちゃったんだから仕方ないだろ。

 

「極東には早起きは三文の徳、という諺があります。早起きはいい事です。鍛錬も出来るしお料理も時間があれば豪華にできます」

 

「は、はぁ」

 

「まぁ今回は早く起きすぎただけですけど」

 

リリルカがガクッ!となった。カワイイやつめ。ほっぺとかつんつんしても良いかな・・・?いや、だめなきがする。

 

「ツンツンしないでください妖夢様」

 

っは!馬鹿な・・・考えるよりも先に体が動いていた・・・だと・・・?まさかリリルカのほっぺは半霊、藍の尻尾に次ぐ癒しポイントだという事か・・・!藍の尻尾触ったことないけど・・・!

 

 

 

 

「「「「い、癒される・・・」」」」

 

 

 

はっ!?・・・周りからの視線がすっごい優しくなった。いや、今までも微笑ましい物を見るような目線だったけど・・・ってああそうか、傍から見たら幼女がほっぺツンツンしてじゃれあってるだけだもんな・・・恥ずかしっ!止めよ。

 

「あっ!リリー!」

 

おーい、とベルが走ってくる。どうやら1人のようだ。そして、周りの人の視線に怯えるようにキョロキョロしながらくる様はまさに兎である。

 

「ベル様おはようございます!」

 

えへへーとリリルカがベルに近づいていく。ふむ、正しく女の顔だな。まじパルパルだわ、畜生爆発しやがれ。

 

「おはようリリ!妖夢さんもおはようございます!」

 

まぁしかし、この兎は爆発させないでおいてやろう。・・・・・・貴様を爆発するのは最後にしてやる・・・的な?

 

「はい。おはようございます、ベル・クラネルさん」

 

ベルが微妙な笑顔で俺を見ている。なんだ?礼儀正しい挨拶だと思ったが。・・・あぁ、なるほどな。もっと可愛くやらないといけない的な感じか・・・・・・ちっ、ハーレム主人公が・・・!

 

「ヴェルフさんがまだみたいですけど・・・」

 

ベルが周囲を気にしながらそう零す。ふっ、まだまだだな。俺は既にヴェルフを視認している・・・上から。

 

「ヴェルフなら北東方面から来ました」

「へ?」

 

ちなみに俺が向いている方向は西だ。なのに東からヴェルフが来ている・・・だなんて何言ってんだコイツって感じだろうな。

 

「ほら、今まさにコチラに声をかけようとしています。」

「おーい!ベルー!みょんきちー!」

 

うそ・・・。とベルとリリルカの声、くっくっく、この私に死角など存在し得ないのだよ。

 

「ん?どうしたんだよ驚いた顔して?まぁいいぜ、さぁダンジョンに行こうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やってきました11階層!」

 

ヴェルフの威勢の良い声がダンジョンに小玉する。ここは11階層、霧に包まれる洞窟みたいな所だ。入口であるここは霧がほとんどないが、少し進めば霧に囲まれる。

 

しかし、俺とベル達の表情は浮かない。なんといっても此処は今までで一番死にかけた場所だ。べつに俺が弱すぎてオークに殴り殺されそうになったとかそんなんじゃない。オークの強化種、推定レベル4の怪物に襲われて、どうにか勝ちを勝ち取った、苦い思い出のある場所だ。

 

リリルカがこちらをチラチラと見ている。

 

「大丈夫ですよリリルカ。私はあの時より少しばかり強くなりました。・・・次はしっかり守ります」

 

安心してくれリリルカ。囮殿何でもござれ、俺に不可能は無いんだ。リリルカが安心するように笑いかける。

 

「ッ――!」

 

リリルカの顔がひきつる。・・・そうか、俺に対する罪悪感が抜けていないのか・・・。んー、どうすれば良いかなー、まぁ思ったこと言うくらいしか思いつかん。

 

「貴女達が生きていてくれて、私は嬉しいです。守ると約束した者を守る事が出来て、しかもランクアップまで出来ました。正に一石二鳥!」

 

リリルカが目を見開く。俺にはこんな事しか言えないが、それでも少し位の助けになるなら。喜んでしようじゃないか。

 

「だから大丈夫ですよリリルカ。」

 

壁にヒビが入る。ボロボロと壁が崩れ始めモンスターが生まれてくる。刀に手を掛ける。ベル達が漸く異変に気が付いた。刀を鞘に納める。

 

 

 

モンスター達がバラバラになって灰となる。全員が異変に目を見開いた。

 

「私はリリルカの事、好きですから」

 

照れくさい。けど、本当のこと。原作に登場したキャラに嫌いなやつは居ない。原作キャラだから、と言う差別をするつもりは無いけれど、初対面の人よりも好印象なのは仕方ないと思うのです。

 

 

 

 

 

 

「やってきました11階層!」

 

名前も知らない冒険者。彼はベル様が連れてきた新しい仲間、らしい。まだどんな人物なのかわからないが、少なくとも嫌な奴ではないかと。

 

ゴクリ。自然と唾を飲み込む。以前ここに来た時は大変な目にあったものだ。"血濡れのオーク"推定レベル4のオークの強化種。紅い身体に冒険者の物と思われる大剣を持ち、襲いかかってきた怪物。

 

チラリと妖夢様の方を見る。油断なく周囲に気を配り、直接手を出す事はせず、私の護衛役をしてもらっている。すると私が見ている事に目敏く気が付いた様で花のような笑顔をコチラに向ける。

 

「大丈夫ですよリリルカ。私はあの時より少しばかり強くなりました。・・・次はしっかり守ります」

 

「ッ――!」

 

妖夢様は知らない、私が何をしたかを。その事実が私の心をチクチクと突き刺し、罪悪感を生み出していく。

私はベル様を囮にしたのだ。自分が生き残るために、少しでも時間を稼げるだろうと。

でも、この人は・・・・・・そんな事も知らないで、レベル2でありながら格上のモンスターに私とベル様を逃がす為に全力で戦った。そして打ち勝った。

 

そんな英雄の様な行動を、私は裏切り、逃げ出したのだ。ズキズキと傷口が痛む。

 

「貴女達が生きていてくれて、私は嬉しいです。守ると約束した者を守る事が出来て、しかもランクアップまで出来ました。正に一石二鳥!」

 

思わず目を見開いた。ここまでストレートな言葉はベル様を除いて聞いたことが無かったから。罪悪感は消えないけど、それでも嬉しかった。

 

しかし、お礼を言おうと、謝罪をしようとしたその時だ。

 

「だから大丈夫ですよリリルカ」

 

壁が喜びの雄叫びをあげ、モンスターを吐き出したのは。

 

「――!」

 

妖夢様危ない。そう言おうと息を吸い込んだ時、大量の血しぶきと灰に視界が覆われる。

 

「私はリリルカの事、好きですから」

 

わかっていたんだ。そう確信する。私が逃げ出すことも、私がベル様を囮にすることも。何もかもわかっていてそれでも許した。

普通なら有り得ないはずなのに、ストンと胸の中に落ちた。それが何よりも正しいのだと理解出来た。口が油の塗られた機械のように滑り出す。

 

「・・・・・・私もです。妖夢様」

 

固まっていた頬が動き出す。傷口が塞がり、痛みも無くなった。妖夢様が笑う、私も笑う。なぜなのかはわからないでも、何故だか嬉しかったのだ。妖夢様について理解出来たような気がして・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルフ達の経験値が貯まらないと言う理由で、俺はほぼ見学だった。んで、俺達は小休憩を取ることにした。全員で座ってシルさん特製だというサンドイッチを広げた。そして、自己紹介を始めることにしたんだ。

 

「ぼ、僕はベル・クラネルです。ええと武器は短刀と短剣で・・・・・・魔法はファイアボルトです。あ!よろしくお願いします!」

 

あ、そういう自己紹介なのね?てか俺は完全な臨時パーティーだぜ、魔法とか教えなくていいぞ?いやベルのは直接見てるけど。一応忠告しておこうか

 

「私は臨時メンバーです、ベル・クラネルさんの魔法は知っていますが、リリルカとヴェルフは秘匿されて結構ですよ」

 

なんていうか緊張するな、口調がいつもより硬い気がする。やっぱり主人公勢だからかな?

 

「俺はヴェルフ・クロッゾ。ヘファイストス様の所で鍛治師をやってる。よろしくな!」

 

おう!よろしく。と頷いてリリルカの方を向く。するとリリルカは困惑したような表情を見せた。

 

「『クロッゾ』・・・?あの魔剣鍛治師の家名・・・・・・?」

 

あ〜・・・そういやこんなイベントありましたね。少し時間軸はずれてるが。ヴェルフの方を向くとバツが悪そうに後頭部を掻いている。

 

「え・・・クロッゾって?」

 

ベルが俺とヴェルフとリリルカの顔を順番に見ながらヴェルフの家名について尋ねる。俺の出る幕じゃなさそうだ。

 

「知らないようなのでお教えしますね。クロッゾ家は王家に魔剣を献上する事で貴族となった名門鍛治一族です。クロッゾの打つ作品はすべてが魔剣だったと言われており、その威力は海すら焼き払ったそうです」

「う・・・海を・・・?」

 

驚きリリルカの方を見るベル、それにリリルカは真面目な顔で頷く。

 

「ですが、ある日を境に信頼を失い没落したと・・・」

 

リリルカがそこまで言うとヴェルフが髪をかきわけた後首を振った。

 

「おいおい、辛気臭い話は止そうぜ?それに今はダンジョンに潜ってるんだ、どうでもいい話なんて止めてモンスターを倒そうぜ?なっ?」

 

そう言ってヴェルフは大刀を地面に突き刺した。おい、やめろ土がサンドイッチに入ったらどうする。てか俺も欲しいな大刀。壊れなさそう。ここ大事。俺がジーと見ているのに気が付いたのかヴェルフが大刀と俺の顔を交互に見た。

 

「使いたいのか?」

「というか同じような物が欲しいです」

 

間髪入れずに答えた。ヴェルフが苦笑いしている、だって仕方ないじゃないか。壊れない武器、むかーしからずっと探してきたし。お金は沢山手に入ったけど・・・ファミリアの団員に使うだろうし。

 

「わかったわかった。みょんきちの頼みとあらば作ってやるよ!まずはそれに使う材料からだな。」

 

ふむ、材料か。モンスターがドロップするレアイテムは鍛治師が加工すると強力な武具になる。ふむ、なら今度狩りに・・・いや待てよ?今までで取ってきた物を使えば良いのでは?あ、待てよ待てよ?確か・・・ベル君をギルドに届けたベート達は俺達とパーティーをしてその後再び遠征にでかけたから・・・。今は三十階層位か?そこにハルプを向かわせて素材を・・・・・・・・・いや、いきなり強い武器持っても驕りになるだけだからやめよ。

 

「はい!・・・あっ、そう言えばリリルカと私が自己紹介してませんでしたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃地上では、タケミカヅチ・ファミリアに入りたいと言う者達の『第2波』が訪れていた。タケミカヅチは猿師の特製胃薬を飲み、耐えしのいでいた。

 

「お茶です」

 

命が渡すお茶で喉と心を癒し、持ちこたえる。今日だけで一体何人の面接をしたか。それを考えようとして止めた。子供たちの為に、父として主神として全力で働こう、そう誓ったタケミカヅチはめげない負けない泣いちゃダメと己に言い聞かせ踏ん張る。

 

なぜこんなに人が来るのか、それは戦争遊戯による知名度の上昇、ファミリアの女の子が可愛い。など以外にも団長イケメン、主神がイケメンなどの要因も大きい。さらに『武神』に鍛えてもらえると言う理由で強さを求める者達が。『猿顔薬師(モンキー・F・ドクター)』に薬学を教えて貰えると言う理由で医者や薬師を目指す者達が。

 

更に資金難に陥っておらず、ホームには有り余る程の空きがあり、自分の部屋を用意できそう、と良いことばかりなのだ。勿論いきなり団員が増える以上不安定になるが、都合の悪いことには人は目を瞑る。

 

「取り敢えず非戦闘系の人達を優先で行こう」

 

目の下の隈を隠さず独り言のように呟く。手元には冒険者達がそれぞれ持ち寄ったプロフィールのような物と、ギルドから送ってもらったコンバージョンをする者達の詳細な資料が山積みとなっている。

 

「これは波に乗るまでは大変でごザルな・・・」

 

疲れたような声で、天井から落下するように登場した猿師はかすれた笑いを零す。すぐさま命が死んだ目で「お茶です」とお茶を差し出した。それを受け取り、命に疲れを取る薬を渡した猿師はタケミカヅチに向き直る。

 

「拙者と純鈴だけでは教えきれないでごザル、講師としてミアハ・ファミリアにも要請を・・・・・・と思ったでごザルがそれでは向こうの仕事が滞る・・・・・・デュアンケヒト・ファミリアに頼もうにもコチラは仕事の報酬とは別に色々と要求されそうでごザルからなぁ・・・」

 

猿師が自問自答を繰り返し、あれじゃないこれじゃない。とやっている間に桜花が汗だくで駆け込んできた。

 

「はぁ―――組手、は。・・・この人数相手はなかなかにキツイ・・・・・・です、タケミカヅチ様・・・はぁ、はぁっ!」

 

どうやら冒険者希望の者達相手に組手を行っていたようで、しかし、数が数だ。流石の桜花もスタミナが切れた様だ。

様だ。

 

「ダリル、が。・・・手伝ってくれてるからまだマシですが・・・」

 

命が「お茶です」と差し出したお茶を一気に煽り、ダリルが手伝ってくれている事を報告する桜花。すると千草が駆け込んできた。

 

「はぁ、はぁ。タケミカヅチ様!食料やその他備品の調達で報告です!「お茶です」あ、ありがとう命ちゃん・・・。そ!それで北のメインストリート近くの商店街と契約を結ぶか否かと言う判断をお願いします!」

 

タケミカヅチは決意する。

 

「もう・・・・・・募集は締め切ろう」

 

「お茶です」

「あぁありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルフ達とのダンジョンを終え、意気揚々と帰宅する。いや〜特に何もしてないけどお話は楽しいよな!リリルカと話しながら時折弾幕で援護してサーポーターとして頑張りました!リリルカと勝負になったけどね。まぁ勿論負けた。割と手加減が難しい。

 

「ただ今帰りましたー」

 

ん、居ないのか?すごい静かなんですけど・・・?

 

いくつかの襖を開けて奥に進む。そして、ガサッという音を聞き取った。後ろか。後方に進んでいくとそこはタケの執務室的な役割を持つ居間だ。

 

そこには――――書類の山に圧殺されかけている家族の姿が・・・。

 

「みょぉおおおおおおおん!?!?」

 

今日も、平和・・・です?!

 




現在、活動報告にてファミリアに入った団員達の名前などを募集しています。

三つの館のリーダー的ポジションにおさまる3人の名前や性別などを読者の皆様に考えてもらいたいのです。

他にもエキストラの名前を募集します。セリフの中や地の文に登場する可能性があるだけなので活躍の場面はほとんどありません。

リーダー達の性格やステイタスは既に考えてあります。活動報告に大まかな物が載っているのでそこを見てください。

ここからは暫くファミリア内でのゴタゴタを描いていくつもりなので、登場する事は多くなると思います。ぜひ考えた物を教えてくれると嬉しいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37話「なのでそのケーキは・・・・・・・・・いら・・・・・・いらな・・・・・・くっ・・・・・・いりません!!!」

地下深く、太陽の光など一筋すら届かぬそこで、戦闘の激音が響いていた。

 

「うぉおおおおおお!」

 

地面が爆ぜ、モンスターが粉砕される。舞う、銀の軌跡。それは剣の光であり、また、銀狼の残光であった。

 

「ギュイ!」「ブウォ!」

 

速く疾く、時間すら置いていくのではと思う程に夙く。苛烈に過激に激情に任せ、しかし技を失わず冷静でいる。

 

「何をやっとるか、アイツらは・・・どうしてこうなっておる?」

 

ガレスがフィンの元にやって来て開幕そういった。フィンは肩を竦め疲れた笑みを零す。

 

「ダンジョンで彼らをああいうふうにさせるだけの人物に出会ったのさ。」

 

フィンの言葉にガレスは目を見開く。それも嬉しそうに。

 

「おほ〜、惜しいことをしたのぉ、そんなに生きの良い者が中層に居たか・・・」

 

髭を撫でながら大きな武器をドスンと地面につける。フィンは苦笑いしながら首を振る。

 

「いや、上層さ。」

「なんと!」

 

上層の冒険者が?と続けるガレスにフィンは頷いた。

 

「しかも、その後地上に出れば妖夢君の戦争遊戯だ・・・・・・わかるだろう?」

 

ガレスがそれを聞いて大きく頷いた。

 

「うむ!たしかにのぅ。あれは滾った!」

 

そして「がっハッハッハ」と大きく口を開いてわらう。すると後ろから足音がし、リヴェリアが現れた。

 

「自分が冒険者(・・・)だと思い知らされた。・・・か?」

「うん、そうだね。僕らは保身に長けすぎた。」

 

そう言ってモンスターを粉砕するベート達の方を見やる。

 

「ガッハッハッハ!やはり若者はこうでなくては行かん!縛られ動けなくなる前に動いておくのが一番じゃな!」

「ふっ、あぁそうだな」

「んー、ベートは縛られそうにないけどね」

「そうか?ワシはあの娘の尻に敷かれると思うんじゃが・・・」

「「ないな(ないね)」」

「そうかのぉ」

 

 

 

 

 

 

 

 

うっす!俺っす!妖夢っす!現在一番大きな剣の館にやって来ているぜ!なぜなら・・・・・・・・・模擬戦だ!

 

 

え?早い?まだ心の準備ができてない?しらん、斬るぞ。

 

と言うのは冗談だ。今は剣の館に全団員が集合している。その数なんと138人!応募してくれた人は三百人ほど居たらしい。「あの人達のところならなってもいいかな」と一般人の人も来てくれたらしい。全員を受け入れることは出来なかったけど、それは仕方ない。

 

んで、この人を三つの館に振り分けなきゃいけないわけだ。だからこの人達の中から才能がある人、元から強い人を厳選するために模擬戦、というわけだね。

 

勿論戦いたくないって人達もいる、それは薬師志望だったり、アイテムの作成がしたい人達だな。そういう人達は既に横手に並んで見学だ。

 

実力がわかってるダリルは見学だ、凄い悔しそうにしてたけど。

 

 

 

 

 

 

風が吹き抜ける。雨が最近降っていないため、風に攫われ砂埃が舞う。そんな中庭の中央に人の壁に囲まれる者がいた。魂魄妖夢、このファミリアを率いる幹部の1人にして最強戦力。

 

「さぁ、どうぞ武器を持ってください。」

 

何も無いはずの虚空。そこから剣の切っ先が現れ、カチカチと音を鳴らし揺れたあと、そのまま落下し地面に突き刺さる。それが何度も続き、少し経った頃には地面には剣や槍、短剣や斧などの武器の数々が。

 

ゴクリ、と誰もが唾を飲む。目の前の小さな少女が無双の働きで戦争遊戯を勝利に導いたのだ。緊張しないわけがない。張り詰めた空気、それを切り裂くかのような鋭い目線。

 

―――武器を取れば斬られる。

 

そう予感させた。誰も動けない、鋭い視線だけが注がれている。殺気を放っている訳では無い、剣のようなその目だけで、この場の冒険者見習い達をせき止める。

 

「・・・・・・来ないのですか?」

 

その一言ですべてを悟る。あぁ、これは試されているのだ、と。厳しい審査を乗り越え合格かと思いきや、再びの篩。ここで動けなければきっと落とされてしまう、ならば前に進むしかない、死地へと進んで剣の柄を握り込むのだ。

 

ザッ。

 

一人の足が前に出た。誰もがその人物に注目する。特にこれと言った特徴もない青年だが、彼には有るのだろう、『冒険者の資格』が。無謀に挑み未知と戦う挑戦者の魂が。

 

妖夢が口元を歪める。少しだけ嬉しそうに笑ったのだ。

 

やはり。これは試練なのだ。前に進むものがいて喜んでいるに違いない。青年に続き1人、また1人と歩き出した。

 

柄を握り込む。これを抜けばきっと自分を出迎えるのは模擬刀の一閃。

しかし、だとしても青年は躊躇わない。彼は憧れたのだ、魂魄妖夢のその姿に。家族1人を助けるために数百人に挑むその胆力に。

 

ならば、立ち止まる訳にはいかない。壮絶な覚悟を決め、抜き放ち一閃が来る前に走り出す。

 

「うぉおおおお!」

 

咆哮を上げ斬り掛かる。何の技術もない力任せの一撃。難なく往なされ足をかけられ転ばされる。

 

「お見事。その挑む気持ちを忘れてはいけませんよ。」

 

そう言って青年から視線を外し、再び集団に向き直る。が、青年は諦めてはいなかった。今度は後ろから、と、飛びかかろうとした瞬間一閃、何が起きたのかもわからずに意識を吹き飛ばされる。

全員が後ずさる。なぜなら首を打ったその一撃が視認できなかったからだ。勝てるわけが無いと、決めつけ場を放り出そうとする。

 

「自身よりも強者が現れた場合、逃げるのが最も生存率が高いです。」

 

唐突にそう言ったあとカエルのように伸びている青年を指さす。

 

「無謀と勇気は別物です。彼は勇気を振り絞ったのかも知れませんが、死にに行くことを冒険とは言いませんよ。なので、まずは生き残るための戦いを知りましょう。」

 

そう言って刀を構えた。誰かが「えっ?」と疑問の声をその口からこぼした。

 

「来ないなら私から行くまで・・・・・・行きますよ?武器を取らねば防ぐ事も出来ないと思いますが」

 

その後の出来事はただひたすらに蹂躙されるだけだったので割愛しよう。

 

 

 

模擬戦が終了し、誰もが痛む体に悲鳴を上げながら中庭に居た。するとどうだろうか、妖夢、命、千草、純鈴の四人がいくつかの薬品を手に現れた。

 

「ごめんなさい、少し強くやりすぎました・・・。はい、腕上げてくださいね、あっ、お腹を出してください」

 

先程と打って変わって優しげな美少女となった妖夢に団員達は目を白黒させる。どっちが本当の妖夢なのかわからなくなってしまった。入念に痛めつけたかと思えば、甲斐甲斐しく治療をする。まさに飴とムチという物なのだろうか。正確には模擬刀と薬だが。

 

男女の区別なく、分け隔てなく接する妖夢達に、早くも団員達は様々な感情を抱く。恋慕、尊敬、感謝、憧れ。ついていけば強くなれるという確信。

 

それぞれが胸に思いを秘め、それをやる気に変えて奮起しようと心に誓う。

 

ー―少しでも、彼らの役に立てるように全力で頑張るんだ。

 

それが彼らの共通意識であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルフに再び呼び出された俺とベル君はギルドでヴェルフの到着を待っていた。どうしてって?だってヴェルフの家知らないし。工房の場所もわからん。でも多分武器を作ってくれるんだと思うからデッドリーホーネットの毒針を持ってきた。パイル、って言われるくらい太くて長い。しかも毒が凄いんだ。『上級殺し』と言われるくらいには強い。

 

そんな毒針を持って、正確には半霊に入れて待っているとヴェルフが来た。

 

「よぉ!みょんきちにベル!待たせちまったか?」

 

笑顔で片手を上げて挨拶をするヴェルフに俺も挨拶を返す。すこしたわいのない話をした後ヴェルフの工房に向けて歩き出す。北東のメインストリートを進んで行くとそこはあちらこちらから鉄を打つ音が聞こえる。

 

「こっちだ!行くぞ!」

 

鉄を打つ音で声が届きにくいからか大声で会話する。ヴェルフについていくと、1軒の小屋が。煙突や、その頑丈そうな作りから鍛冶場である事がわかる。

 

「ここですか・・・?」

 

ベルが物珍しそうな眼差して小屋を見つめる。

 

「おう、ヘファイストス様のご好意で全員が鍛冶場を持てる。それで腕を磨けって事だな」

 

男らしく笑い、「入れよ」とドアを開けて中に誘導される。中は本当に鍛冶場です、って感じがする狭いスペースに武器や素材が沢山ある。

 

「おお!」とベルが興奮しながらあたりを見渡す。俺もこういった所に入るのは初めてなので失礼にならない程度にあたりを見渡した。

 

「悪いな汚くて、少し我慢してくれ」

「いえ、大丈夫です。」「はっはい!」

 

ヴェルフがカチャカチャと色んな道具を準備する。汚い、と言われてもピンと来ないな、寧ろ工房なのに綺麗すぎたら本当に仕事してるのかよ?ってなると思うんだ。それに鍛冶場は汚れてる方が味が出てカッコイイと思うんだよ。

 

「どんな物が欲しいんだ?ベルには装靴を作ろうと思ってるんだが、何かこだわりがあるなら言ってくれ。」

「ん、んーと・・・」

 

ヴェルフに言われてベルがそこら辺に座りながら考え込む。ふむ、俺も考えるとするか。こだわり・・・・・・胴体は守らない、とかか?でもこだわりと言うか胴を守ると動きにくいだけ何だけど。

 

「私は戦闘スタイルの関係で胴体に鎧をつけません。動きにくくなるのは死活問題ですから。あとは・・・・・・少しでも壊れにくい刀が欲しいですね」

 

と言うか早くヴェルフのレベルを上げて、『鍛冶』スキルをとってもらって速攻でランク上げて『不壊属性』を武器に付与できるようにしてもらって俺の武器を作ってもらわなくちゃ・・・!

 

ヴェルフが何故か意外そうな顔をしている、まぁそりゃそうか。大事な臓器が沢山詰まっている胴体を守らないとか普通なら有り得ないもんな。

 

「あの、この大剣使っちゃダメですか・・・?」

 

ベルが壁にかけてあった大剣を指さす。ふむ、確かに強そうだけど・・・俺的にはベル君はナイフとかの方が素早さを活かせていいと思うんだけどね。

 

「それか・・・?別に構わないけど、売れ残りだぜ?」

「でも僕、これ使ってみたいです」

 

ベル君が大剣を手に取りワクワクした顔で素振りを一度する。チラッとヴェルフを見ると動きが止まっていた。2度目の素振りを終えた後にベルも気がついたらしい。

 

「・・・・・・?どうかしましたか?」

 

ベルを見つめていたヴェルフがベルの声かけに口端を緩める。その後俺を見る。俺は首を傾げるしかない、だって笑われるようなことして無いし。

 

「お前達は魔剣を欲しがらないんだな」

 

にっと笑うヴェルフ。きっとこっちが素の笑い方なんだと思う。「えっ?」と困惑するベルにヴェルフは更に笑を濃くして続けた。

 

「いや、魔剣じゃなくて売れ残りの武器を欲しがるなんて思って無くてな。それにみょんきちは頑丈な刀が欲しいって言ってきた。」

 

うん、壊れないのが欲しい。(切実)

 

「で、なんて聞いたんだ?ヘスティア様から俺の事」

「え・・・!すっすみません!神様は多分僕のことを心配して、それで」

「いや、良いんだ、寧ろいい神様じゃないか。悪かったな・・・試すような真似をして。」

「え?」

 

ヴェルフが意地悪な笑を浮かべてベルに問い詰める。ベルは兎のようになっている・・・元からか。てか試すって?・・・・・・・・・あっ、これあのイベントですか。いや〜武器にしか頭が行ってなかったな。

 

「ベルが俺の、クロッゾの事を知って態度を変えるか・・・少し気になった。謝る。」

 

申し訳なさそうに頭を下げる。・・・あれ?俺は?

 

「私には何も聞かないんですか?」

「ん?・・・てか、みょんきち、お前実際魔剣要らないだろ?」

「それはそうですが・・・」

 

俺の問にヴェルフはニヤニヤと笑ながら鎚で自分の肩を叩く。つまりあれか、俺はそもそも警戒されてなかった・・・?いやでもさっきは「お前達は魔剣欲しがらないんだな」って言ってたよな?あるぇ?まぁいいか。要らないのは事実だし、欲しいとしたら千草に渡したい。あっ、そういう意味か?

 

「悪い、話がそれたな。んで、さっきから気になってたんだが・・・ベル、それってドロップアイテムか?」

「へ?」

 

ヴェルフがベルの腰に着いた変色したミノタウロスの角を目ざとく見つけた、流石職人、素材には敏感か?

 

「なんならそれを使おう。ミノタウロスの素材は何でも武具に使えるからな」

「お、お願いします!」

 

ベルがミノタウロスの角を渡す。むむ、抜け駆けは許さん。ミノタウロスの角を受け取ったヴェルフの横にデッドリーホーネットの毒針がズドン、と突き刺さる。ヴェルフが青ざめた、ベルも青ざめた。・・・すまん、そう言えばヴェルフ達が掠ったら毒でサヨナラだわ。次からは気をつけよう。

 

「こ、これは・・・デッドリーホーネットのパイルか?」

「はい。これで大刀作りましょう!大刀!」

「おっ、おう・・・わかった!任せとけ!」

 

 

それからはいろんな話をした。初代クロッゾは精霊の血を身に受け、その後の家系は精霊の血を引いた事。魔剣が打てるようになって王国の貴族になったこと。そのおかけで戦争では負けを知らなかったこと。そしてそれが驕りに変わった事。

 

「・・・・・・『クロッゾ』は思い上がったんだ、魔剣は自分達の力だと錯覚してな。―――だから呪われた。」

 

暴れ回った王国は、森を焼き、エルフの里を焼いた。

 

しかし、それが大きな間違えだったのだ。

 

「精霊は自然豊かな場所に住む。魔剣で山は抉れ、湖は干からび無くなり、森は焼き払われた。・・・エルフ同様、精霊も居場所を奪われた。」

 

エルフは、精霊は怒り狂った。

 

「エルフの矛先は王国へ、精霊達の怒りは『クロッゾ』に向けられた。そしてある日、戦争中に魔剣がすべて途端に壊れたんだ。そして戦争に負けた。」

「それが・・・精霊の呪いですか・・・?」

「きっとな。それと同時に『クロッゾ』は魔剣を作れなくなった。」

 

クロッゾの没落の理由。それは魔剣を打てなくなったから。魔剣に頼りきっていた王国が戦争で勝てなくなった時、クロッゾは捨てられた。

 

ふむ、でもヴェルフだけは打てる、と。何でだろうか・・・?

 

「嫌いじゃなかったんだ、煤まみれになって爺の助手まがいのことをやるのはさ。」

 

ヴェルフは片手のハンマーを弄びつつ続ける。

 

「けど・・・、俺に魔剣が打てるとわかると魔剣を作ることを強要された。栄華を取り戻すためにってな」

 

一呼吸おいて、ハンマーを確りと握り込む。職人の顔になった。

 

想いを叩きつけるように、鍛練を開始した。凄まじい金属音、狭いから音が反響して耳が痛くなる。

 

「違うんだよ、武器ってのは政治の道具じゃない、成り上がる手段じゃない!武器は、使い手の半身だ・・・!」

 

小さく振り下ろしてるのに衝撃音は甲高く大きい。思わず耳を塞ぎかけた俺は悪くないはず。

 

「使い手が、たったひとりで窮地に立たされていたとしても。武器だけは裏切っちゃいけない。柄をつかまれた時から、そいつと武器は一心同体なんだ」

 

加熱されて赤くなった角が見る見るうちに形を変えていく。

 

「鍛治師はそんな作品を作り出さなきゃいけない。俺は魔剣が嫌いだ。大っ嫌いだ。あの力は人を腐らせる。そして使い手を残して必ず砕けていく」

 

ヴェルフの告白は俺も共感出来ることが多くあった、武器っていうのはやっぱり命を預ける物だ。武器が無くても戦えるとは言え、武器が無くなれば結局は戦闘能力が落ちる。相手は人じゃなくてモンスターだ、腕でガードなんて出来る時は限られる。

 

「俺は魔剣は打たない。打ってもそれは売らねぇ!」

 

俺は、ちゃんと使い手になれているだろうか。どんな武器も壊してしまう俺は。

 

いや、なって見せよう。武器を壊さない、半身を壊さない剣士に。技量を磨き、力を付け、経験を積む。今はそれしか出来ないけど、それをやっていけばきっと壊さないようになる。技を磨くんだ、オリジナルに届く様に。抜かせるように。

 

 

 

 

 

 

その後は少し話しをして、受け取る日にちを確認したあと、俺は先に帰ることにした。ファミリアでやる事はまだ沢山あるからだ。

 

「ありがとうございますヴェルフ!今度取りに来ますね!」

「おう!みょんきちもまたな!」

「はーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で武錬の城に帰って来た俺は、早速タケの所に向かう。玄関で靴を脱いで揃え、護身用の短刀を腰から外し廊下を進む。

 

襖を開けてタケの部屋に入る。

 

「タケ、ただ今もど・・・・・・・・・」

 

俺は絶句した。もう心理描写になるくらいには絶句した。

 

なぜ。

 

なぜみんなでケーキを食べているのか。俺は小一時間問いただしたい。

 

「まて!泣くな妖夢!そんな泣きそうな顔をするんじゃない!」

 

誰が泣いているもんか、タケがなんと言おうと俺は泣いていない。泣きそうなだけだ。なぜ俺が除け者にされたかを考えなくては・・・・・・やはり1人だけ内政に余り関わっていなかったからだろうか・・・。でも、俺が口出しするよりもタケ達に任せた方がよほど・・・あぁそうか、人手が足りないんだから2人分の働きができる俺が必要だった可能性が高いな、うぅ、今回は俺のせいみたいだ。

 

「ごめんなさいタケ、私だけ好きな事をしていました。これからは私も幹部であると言う自覚を持って確りと取り組みます!。」

 

そうだ、タケ達が疲れ果てるほど仕事してるのに俺だけぶらぶら街歩いたりヴェルフの所で武器を見ている場合じゃなかった!

 

「なのでそのケーキは・・・・・・・・・いら・・・・・・いらな・・・・・・くっ・・・・・・いりません!!!」

 

くそう!いらないから!全然欲しくないから!だったら?武器振ってた方が楽しいし?強くなれるし?ケーキなんか食っても強くなれないからね、欲しくなんか無いから、そもそも?俺の魂は男ですから、甘いものなんて食べるわけないじゃないですかやだーー。

 

見くびってもらっては困るな、俺は剣士、団子よりも戦いが好きなのだ。ケーキなんかより力の付きそうなお肉の方が断然好きだから、全く欲しくなんか無いんだから!!!

 

「妖夢ちゃんあ〜〜〜」

「ん!!」

 

美味い!口の中でクリームとスポンジが蕩け、中にある果物の酸味がそれを引き立てている・・・・・・!あぁ・・・・・・幸せ・・・・・・っておいぃぃいいいいい!?おのれ孔明(千草)謀ったな!?美味しいなんて絶対に言わんからな!

 

「美味しい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅん」

 

クソがァ!体は正直ですねっ!我慢したけど出来ませんでしたァ!なんだよ、知らねぇよこんなケーキ。少なくともオラリオに売ってるケーキじゃないな・・・?

 

「これは何処のケーキなんです?」

「あぁそれは」

「命ちゃん!!」

「ぁ・・・す、すみません千草殿」

 

なん・・・・・・だと・・・?千草が大声を出した・・・?やばいぞこれは、たかがケーキで内部抗争か・・・?不味い・・・ケーキは美味しかったけどこれは不味いぞ。

 

「それは千草の手作りなんだ」

 

おおおっとタケミカヅチ選手爆弾を投下だああ!千草がタケミカヅチ選手を睨みつけているぅ!

 

「お、おい千草どうしたんだ・・・?」

 

更に千草がタケミカヅチ選手の胸ぐらを掴みかかるぅ!どうしたと言うんだ千草選手キャラがぶれているぞ!

 

「秘密って言ったのに・・・言いましたよねタケミカヅチ様」

 

おーーっとまさかのタケミカヅチ選手は秘密をばらしてしまったらしいぞーー!?

 

「お、おう・・・妖夢の誕生日が近いから練習「ふんっ!」クワラバッ!」

 

決まったーーーーー!千草選手の腹パンだーーーー!これには思わずタケミカヅチ選手もノックダウンだーー!物理的な破壊力と、外見的なギャップ、そして愛する子供からの手痛い攻撃という一撃に三つのダメージを重ねた強力な一撃が刺さったーー!

 

「済まない・・・・・・すまない・・・・・・ガクッ」

 

謙虚に逝ったぁぁぁあああ!タケェエエエエエ死ぬなぁあ!生き返ってくれぇええ!

 

「がふっ、やめ、妖夢、振り回す、な、ちょ、ちょま」

 

さて、チーンとなってるタケは置いておいて、ふむ、もうすぐ誕生日だったか・・・。まぁ、誕生日って行っても正確な日にちはわからないからタケたちど出会ったその日を誕生日って事にしてるんだけどね。にしても・・・

 

「千草ありがとうございます!私嬉しいです!」

 

千草たんマジ天使、略してTMT。爆発物に少し似てるが大丈夫、リア充じゃないから爆発しない。

 

「そ、そんなに抱きつかないでよ妖夢ちゃん」

 

ふふふ〜そんなに顔を赤くしちゃってさ〜、これは久しぶりに皆で一緒の布団で寝るか!うん!そうしよう!

 

「今日は3人で一緒に寝ましょう!どうです?久しぶりに!」

「私は構いません!」

「わ・・・私も!」

 

 

 

 

 

 

「きょ・・・今日も・・・・・・平和・・・です」チーン

「大丈夫ですかタケミカヅチ様・・・」

「桜花・・・・・・女の子って・・・・・・わからないな・・・」

「いや、流石に今回のはタケミカヅチ様が悪いと思いますよ俺」

「は、はは・・・・・・四面楚歌・・・か・・・」ガクッ

 




募集しているキャラクターは次の話から出てくる予定です。6月10日まで募集してるのでご協力ください。

活動報告にて募集しているのはリーダーの募集と、通常の団員の募集です。

性格やスキルは既にこちらで考えてあるので、外見、性別などを皆さんが考えて下されば嬉しいです。

もし性格やスキルを考えてくれた中にシフシフが「これいいなぁ」と思ったものがあればそれらも組み込む予定です。

ファミリアを賑やかにしたいのでよろしくお願いします。

誤字脱字報告お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38話「うー☆」

キャラ設定、ご協力感謝します!

今回採用させていただいたのは、
零崎妖識さんの『リーナ・ディーン』【属性過多】
終焉齎す王さんの『アリッサ・ハレヘヴァング』【黄金の鉄の塊】
小岸さんの『クルメ・フート』【料理長】

に決定いたしました!他にも沢山の意見があってとても嬉しかったです!

今回はリーナ・ディーンしか出てきませんが、次の話ではアリッサとクルメも登場します!

後書きに挿絵載せておきますね!御三方のイメージにあっていれば良いのですが・・・。


俺は命とギルドに来ていた。理由は簡単だ、ファミリアの団員達の報告だ。何処の誰が俺のファミリアに入ったのか。その詳細をつたえ、ファミリアのランクを適正な物に更新するのだ。

 

「・・・・・・というわけだ。ジジさん、あとは任せた」

「はい、おまかせくだサイ、神タケミカヅチ様」

 

ぺこりと頭を下げたジジさんを見送る。ランクの設定などはギルドの仕事。つまり報告が来るのは今日じゃない。・・・・・・Dランクまでならやっていけそうだが・・・それ以上となると厳しいな。

 

「よし、行くか。」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

そして次は商店街にやってきた。こことも契約を結ぶつもりだ。左右に並ぶ沢山の店。果物、魚、その他諸々。色鮮やかな人々の営みの場だ。

 

「おっタケミカヅチ様じゃないか!どうだい!今日の野菜は大きいよ!」

「おいおい!そんな物は買う必要ありませんぜ!こっちの魚を見てくれよ!こんなに生きがいい!」

「何を言うか!見てくれよお嬢さん、この新鮮な肉を!」

 

景気のいい声が俺達に商品を自慢してくる。うむ、どれも美味しそうだ。残念だが今日は買わないんだけどな。

買えないことを伝えその場を後にする。

 

「命、後どれくらいだ?」

「ええと・・・千草殿の地図によれば・・・あと数分と思われます」

 

命に後どれくらいなのかを聞くと裾の部分から1枚の地図を取り出した。オラリオの地図は元からあったはずだが、わざわざ簡略化されたものの様だ。千草らしい細々とした丁寧な作業はこういう時ありがたい。

 

「わかった。」

 

うーむ、だが何も話さないで歩くってのも命に悪いなぁ。なにか話題は・・・・・・腐るほどあるか。

 

「・・・命、団員が増えたが・・・・・・どうだ?」

「どう・・・と言いますと?」

 

命がこちらを見上げてくる。ふむ、どう・・・か。妖夢は賛成をしていたが内心は難儀していたと思う。桜花は純粋に戦力や働き手が増える事に喜色を示した。千草もそうだ。『家族』としての関係が変わらないなら、人が増えても構わない。それが概ねの感想だろうか。

 

「人が増える事に対して忌避感はあるか?」

 

俺の問に命は眉を顰める。すこし俯いて歩くその様は深く物事を考えているのだと、わかりやすく教えてくれる。このままだと人にぶつかるかもしれないから俺は正面を向いて歩く。

 

「・・・・・・・・・ない、とは言いきれません。ですが嬉しくもあります。」

「・・・・・・そうか。なら安心だ」

 

俺は父親に成らなくちゃならない。だが、それは妖夢達4人に限られた話じゃないと、俺は思う。俺のファミリアに入った奴らは皆俺の子供だ。そして、俺はその父になりたい。

 

「あっ!見えてきましたよ!」

 

命が元気に指さす。俺のために気を使っているんだろう、悪い事をしたと思う。こういう所を治せればなぁ。

 

「おう!じゃあ行くか!」

 

まぁ、何にせよ、今のファミリアの地盤固めを終わらせなきゃな。

 

 

目の前にあるのはこの商店街を仕切っている石造りの建物だ。街でいうところの市役所の役割があるらしい。店を構えたい時はここに申請し、ギルドと相談して成立するとか。まぁあとはファミリアと商店街との契約もここで行う。

 

契約っていうのはそれ程深い物じゃない。月幾ら払うからこれだけの食糧を送ってくれ、というそれだけの物だ。とは言え食糧とは集団で生活する時、とても大切な役割を持つ。説明は省く、簡単に言えば「腹が減っては戦は出来ぬ」だな。

 

・・・と、なると。各館にも料理人が必要になるのか・・・料理人を雇うのも良いが・・・やはり料理を自分達で出た方がいいだろう、ダンジョン内で不味い飯はひどい士気低下を引き起こしそうだ。料理担当とかが居てもいいか・・・。

 

「おおぉ、ようこそおいでくださいました!タケミカヅチ様・・・」

 

さて、妖夢たちのためにも交渉を開始するか・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが、そこにはあった。

 

男が、女が、老いが、若いが。

 

すべての武をかけて戦った・・・

 

それは―――――――――役職決めである。・・・なーんて、何言ってんだが・・・。おっす、俺だよ妖夢だよ。現在、俺の目の前では乱戦が勃発している。理由は簡単だ。おれが

 

「この中でリーダー的なポジションやりたい人はいますか?」

 

って聞いたらこれだ。よほどリーダーがやりたいらしい。まぁ参加してない奴らもいるんだけどね。

 

「ほあぁ〜。・・・・・・・・・ねもいー。寝ていいかな僕ー?」

「いや、知らないけど・・・君は?どこ出身?」

「zzZ」

「寝てるぅ!?速い!速すぎ!」

 

うーん、叱った方が良いのかな。喧嘩は良くないよな。というわけで模擬刀抜刀。・・・・・・あれ?メッチャ静かになったぞおい。流石模擬刀先輩。

 

「ぉ、ぉぃ・・・」「なんだよ」「妖夢様が話すぞ・・・静かにしろ」「わかってるって」「あぁ困った顔も可愛い・・・」「やめろっ困ってるよお前のせいで」

 

・・・・・・な、なんだろうか。なんて言うか尊敬?されてる気がするんだけど、悪くは無いけど非常に対応に困るよ。と、とりあえず困った時は笑っとこう。

 

「え、えへへ。とりあえず喧嘩はやめましょうかっ。」

 

「おお!」「喋ったぞ!」「ふつくしい」「抱いて!」

 

・・・・・・・・・・・・うぅ・・・やっぱり苦手だ。てか最後!おま、おま女だろ!くっそ、なんて言うかあのロリコン共を思い出すなぁ!これはもうキリッとして睨みつけて駄目なことは駄目と教えなきゃ。

 

「そういう反応は対応に困ります。そしてエロスを思い出すので不快です。以後気をつけるように。」

 

「「「「「はいっ!」」」」」「Zzzzzz」

 

どうしよう素直なのはわかったけど視線が眩しい・・・!

 

「ははは!それもそうですよね!流石の妖夢様でも苦手な事はありますよね!」

「あぁん?何言ってんだよアンタ!妖夢さんに苦手なものなんザあるわけないだろ!」

「そうよそうよ!料理洗濯魔法に戦闘!何でも出来るんだからっ!」

 

いや、会ってから2日のくせに俺の何を知っているんだこいつらは・・・はぁ。あーワイワイガヤガヤとうるさいなーー!と俺が腹を立てていると肩をトントンとつつかれる。だれだ?

 

「ククク!おいおい嬢ちゃん。流石のアンタでもこういうのは辛いかよ?」

 

む。ダリルか・・・。なんだいなんだい、そんな意地悪い笑い浮かべやがって。

 

「うるさいです。お座り。」

「はははっ!俺は犬じゃねぇぞ?」

「ぇ・・・・・・?」

「・・・は!?まじで犬扱いだったのか俺!?」

 

あはは、ダリルの顔ウケルわwww。と小さく笑っていると、なにやら狂気的な視線を感じた。

 

「「「「「「パルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパル」」」」」」

 

こわっ!ナニコレ怖っ!なんか一部の団員たちの信仰が狂気的なんですけどーーー!?なにこれ呪術?呪いの類ですか!?

 

「お、おいおい。悪かったって・・・・・・用事があったんだ。じゃな」

 

一転してドン引きした様に顔を引き攣らせ、ダリルは持ち前の跳躍力で壁を飛び越え消えた。

え?ちょ!嘘だろダリル!?おーい!どこいくねーーん!

 

・・・や、やばい。ダリルが居なくなっちまった・・・この中で俺はひとり寂しく何か凄い奴らと一緒になるのか・・・?それは不味い、ええと、この中にレベル高いヤツは・・・・・・・・・あ!あいつかな?!確か似顔絵があったはずだ!紙を取り出して・・・・・・ふむふむ、合ってるな!話しかけよう!

 

「すみません『リーナ・ディーン』ですか?」

「Zzzzzz」

 

話しかけたがリーナからの返事がない。ただの屍の様だ。おいいいいいいいい!?嘘だろ!?仮にも幹部だよ俺!?確かに同じレベルだけど!冒険者歴としてはそっちの方が先輩だけど!それでもさ、コンバージョンしてきたファミリアの幹部にそれは・・・・・・あぁ、心が折れそうだ。

 

リーナ・ディーン。白髪のエルフで【幻影姫(ファンタズマゴリア)】の二つ名をもつレベル3。純魔法職のようだ。・・・・・・髪の毛ボッサボサで寝てるけどな、立って寝てるけどな!

 

「・・・・・・ぅ・・・・・・ん・・・・・・ふうあぁ・・・。あ、おはよござます。」

 

てきとぅ!挨拶が適当すぎるわ!挨拶は大事なんだぞ!挨拶を蔑ろにすることは最大の侮辱なんだぞ!古事記にも書いてあるんだぞ!

んんん、しかしだわからないなら確りと教えてあげなきゃな。

 

「挨拶は大事な事ですよ?しっかりとしましょう。では先ずは私から・・・・・・こんにちは、リーナ。」

「そんな事よりおうどん食べたい」

ぶち転がしたろうかぁ?こんのやろう・・・!!

 

はぁ、いや、イラつくだけ無駄か。この人はこういう人なんだろう。ステイタスだけ見るとすごい強いんだけどなぁ。

 

うう、やっぱり俺には人の上に立つ能力はないらしい。桜花ならすぐに纏め上げるんだろうけどな・・・。こうなったら破れかぶれだ!

 

「【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】こい!白楼剣!」

 

せいや!と軽く振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖夢の雰囲気がガラリと変わった。いや、その場の空気すら変わったかもしれない。魔法の詠唱と剣の1振りで。

 

「そこに列びなさい」

 

青く輝く目に気圧された、団員達はまるで心臓を鷲掴みにされたかの様に体が強ばるのを感じただろう。

団員達が横一列に並ぶ。

 

「ふむ・・・・・・。それでは状況の説明を開始します。」

 

妖夢が抜き身の刀を持ったまま団員達の前に立つ。いつの間にかリーナも列んでいる。

 

「私がこの手に持っているのは『白楼剣』です。人の迷いを斬る事が出来ます。そして今、私は私の迷いを斬りました。・・・わかりますか?」

 

団員達が頷く。そこには僅かな恐怖と確かな羨望があった。

 

「つまり、斬りたいと思ってしまったら最後、貴方達は切り裂かれます。」

 

が、僅かな恐怖は確かな恐怖と変わった。この人が白楼剣なる物を抜いたらやばい。それが団員達の新たな知識だ。

 

「・・・・・・ふむ、怖がらせてしまいましたか。恐がらなくてもいいです、確りと話を聞いてくれさえすれば何もしません。」

 

誰かがほっと一息ついた。なるほど確かに先程から殺気は放たれていないな。と一部の実力者は思う。しかし、刀を抜いたまま言うセリフではない。

 

「その調子です。いま、貴方達はリーダーを必要としています。理由は私達幹部と拠点が離れているからです。離れている事に対する理由の説明は省きます。必要ありません。」

 

妖夢が淡々と機械のように説明をつづけていく。

 

「私達は常に最前線に向かう事になるでしょう。その為、ホームに残り、事務作業をする人物が必要です。そして、その人物は担当のホームの人員の統率、主神への報告、相談、連絡等を行わなくてはなりません。」

 

目だけは相変わらず鋭いが、口元を緩め微笑む。

 

「今現在、混乱が抜けきっておらず大変かとは思います。しかし、リーダーになった者にはある程度の報酬が与えられる筈です。」

 

おお!と声を上げる団員達。報酬が何であるかは不明だ、決まってすらいないかもしれない。それでも報酬と言う言葉に人は弱い。妖夢が刀を消した。雰囲気が変わる。

 

「リーダーの方に雑務を押し付けるようで申し訳ないですが・・・・・・よろしければ誰がやってくれませんか?私も出来る限りはお手伝いしますので。あ!それとこれを言っていませんでしたっ!・・・コホン。・・・これからは皆さんで仲良くしましょうね!」

 

ニッコリ笑ってそう言い切った妖夢。しかし、彼女は知らない。それは『劇薬』だ。折角いい感じに収まっていたというのに。『お手伝い』『仲良くしましょう』など・・・リーダーになれば憧れの幹部達に会える可能性が高くなるという事、さらには報酬が貰える。

 

やっぱりリーダー最高じゃないか!!

 

となるのも仕方がないだろう。このファミリアのアイドル兼最高戦力と縁を結ぶチャンスに団員達は飛びついた。

 

もちろん一部の団員たちは参加していないが。

 

「も、もうどうすれば良いんですか・・・・・・」「zZzzZ」

 

再び始まった『リーダーの席争奪戦』に妖夢は「うー☆」「うー☆」と頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ・・・あれから数日たったのに、どんよりとした気持ちを溜息として吐き出しながら俺はヴェルフ達が居るであろうギルドのロビーに向けて歩いていた。武器を受け取る為だ。本当はそのまま付いていきたいんだけど、ロキとの約束を果たさなくちゃいけないからな。

 

「Zzzz・・・はっ・・・Zzzzzz」

 

原作ではエイナに心配されていたが、まぁサラマンダーウールを買わないと絶対にダメッ!って言うんだろう。いや、時間的に既に言われた後か。

 

「Zzz・・・ふぁ・・・zzz」

 

今日がベル達にとって初めての中層進出か。あんまり深い付き合いがある訳じゃないけど、それでも嬉しくもなるな。

 

「うへへ・・・zzzもうおうどんたべれらいぃ・・・zz」

 

・・・・・・・・・・・・。

 

「Zzzzz」

 

・・・・・・・・。いや、わかるよ?皆が何を言いたいのか。それはわかる。痛いほどわかるんだ。「お前なんでいるんだ」だろ?うん、大丈夫だよ、俺が一番思ってる。

 

はぁ・・・俺の隣に・・・と言うか俺にもたれ掛かってるのは『剣の館のリーダー』リーナ・ディーンだ。なんでよりにもよってこいつなのか?・・・・・・いや、語ると長い。俺の苦悩が滲み出るだけだ、止めようよ、ね?・・・簡単に言うなら「勝った奴がリーダー」となって、こいつが圧勝した、腐っても、いや。寝ていてもレベル3って事だな。ダリルが居ればダリルになったんだろうけど。

 

ちなみにこの人は別に俺達と同行するわけじゃない。ギルドにリーダーとして向かっているんだ。向かってるように見えないけどな。スキルとアビリティのせいで眠気に常に襲われるとか言ってたけど・・・ホントかなぁ。

 

「ほら、着きましたよ!もう、私の威厳とか何にもないじゃないですかぁ・・・!」

 

不満げな声が出てしまう。仕方ないなこれは。するとリーナは起きたようで目をゴシゴシと擦り、ん〜〜!と伸びをした後こちらに向き直る。

 

「ありがとうーございます〜。むにゃむにゃ」

 

絶対思ってないだろ。

 

「じゃー」

「え、あ、はい。」

 

・・・・・・悔しくなんかないし。この外見に威厳もクソも無いのはわかってるし。きっと妹とか娘とかそんな目で見られるんだろうなぁ!って!ずうっと!思ってたし!

 

ぷんスカと怒りながら俺はギルドに入っていく。外見について嘗められるのは好きじゃないんだ。アイツが俺を嘗めてるのかって言われるとNOなんだけど、態度がどうしてもそう見えちゃうよな。

 

中を進んで地下に降りる。地下は広間になっていて、そこにダンジョンの入口があるんだ。バベルはダンジョンの蓋の役割をしてるからね。おっ!ベル達だ!向こうも気がついたみたいだ。

 

「あ!妖夢さん!」

 

ベルの大きな声にその場の全員が振り向く。勿論ここにいるのはベル達だけじゃないので、周りの冒険者も振り向いた。確かに今までも人に興味深げに見られる事はあったけどさ・・・そんなにまじまじ見ないでもらいたいな。

 

「ははは、何だか随分と疲れてるな?ほら、みょんきちの剣だ」

 

ヴェルフが笑いながら俺の頭をポンポンと叩く。内心げんなりしながらも剣が貰えるのならばとやる気を出す。

 

「ありがとうございます」

 

ふむ・・・

 

「鞘から抜いても?」

「おう!」

 

鞘から抜き放つ、いや、抜こうとする。・・・・・・背伸びしないと全部抜けないかも・・・、押さえてくれるのは嬉しいんだけどヴェルフ?何故に縦に押さえた?俺の身長じゃ抜けない事わかってるよね?笑ってるもんな?

 

「ヴェルフ?」

「ん?どうしたみょんきち」

 

ニヤケながらどうしたみょんきちじゃねぇんだよこの野郎。武器を渡さないとはどういう了見・・・・・・あっ、お金渡してなかったか!

 

「すみません!お金渡してなかったです!」

 

焦りながらお財布を取り出して・・・いくらなのか知らないや。

 

「あの・・・おいくらですか?」

「いや、金はいい。デッドリーホーネットの素材を使ったのは初めてでな。すこし失敗しちまったんだ。」

 

ほえ?・・・・・・やっぱりただの虐めじゃねえか!

てか失敗って?なんだろう、抜いたら折れてるとか?

 

「毒針を利用した訳だ、つまりその刀も毒性をもっている・・・が、加工の際その毒性が落ちた。」

 

申し訳なさそうにヴェルフが頭を掻く。なーんだ、そんだけか。

 

「なんだ、それだけですか。良かったです、ヒビが入ってしまったとかじゃなくて」

「・・・いいのか?」

 

え?そりゃいいだろ。毒なんか廻る前に殺すし。

 

「毒が廻る前に殺すので大丈夫ですよ?」

「アッハイ」

 

なんで退いた、言え!。てかここ武器の名前はなんて言うんだろう?

 

「この刀の名は?」

 

俺が聞くとヴェルフはニヤリと口元を歪め、凄い自慢げに腕を組む。その表情からは有り余る自信の程を感じさせた。

 

大蜂大刀(デッパチ)だ。」

「「えええええええええええええ!?」」

 

一応言っておくと叫んだんのは俺じゃなくてベルとリリルカだ。もっとマシな名前をつけられないんですかっ!とリリルカが抗議している。

 

でも、俺はこれで構わない。ヴェルフのさっきの顔は覚えてる。きっと長い時間をかけて悩んだ末に出した答えなんだろう。なら、否定しない。それに、割とこのネーミングセンスは好きなのだ。

 

「ありがとうございますヴェルフ。大蜂大刀(デッパチ)、気に入りました。」

「「え、えぇ・・・」」

 

さて、そろそろ引き留めるのも可哀想だな。別れの挨拶をしてその場を去ろうとするとヴェルフ達に止められる。

 

「なぁみょんきちは来ないのか?」

「ええ、用事があるので申し訳ないですが付いていけません。それに、私がいる事に慣れると地力がつきませんよ?」

 

それもそうですが・・・とリリルカは心配そうに呟く。

 

「大丈夫ですよ、ベルさんはレベル2ですし。それに、今日は桜花たちがダンジョンに潜るはずです。ダンジョン内で出会ったら助けてもらって下さい」

 

俺はニコリと笑って手を振りその場から離れた。

 

ロキにはエロスの事を教えてもらった借りがあるからな、早く返さないと。寿命が無限の神でも、忍耐強いとは限らない筈だ。

 

俺は来た道を戻り、ロキ・ファミリアへと向かおうと思ったのだが、1度弓と雷の館にも顔を出してから行こう。俺が1日いない程度で何かあるわけでもないと思うけど、念の為ね。

 

 

 

弓の館に着いた。ここは元ダイチャン・ファミリアのホームだ。長細い形状で、地上1階、地下に二階広がっている。色は緑を基調としていて、東のメインストリート方面に存在する。

 

ここは・・・・・・千草が担当してリーダー決めを行ったはずだが・・・大丈夫だろうか?とっても心配になってきたぞ。

 

 

と、思っていたんだけど・・・拍子抜けだ。門番の話だとどうやら団長と出かけたらしい。リーダー達も強さを見るためなのか連れていかれた。との事。なるほど、ダンジョンでモンスターとどれくらい戦えるか、とか状況判断とか見るんだろう。

 

あー、俺もリーナの実力をしっかり見ておくべきだったかなぁ。まぁいいか。取り敢えずこのままロキ・ファミリアに行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

「妖夢たぁぁぁああん!!!!」

 

ロキ・ファミリアに着いた時、俺を出つ迎えたのはロキの熱い抱擁とほっぺにチューだった。酒臭いのを警戒して息を止めたけど、意外にも香ってきたのは花のような匂いだった。てか止めてくれロキ、キスなんてされた事無かったんだが?ほっぺでも初めてなんだが?

 

「顔赤くしとる・・・かわええ・・・もうウチの子にならへん!?」

 

きつく抱きしめないでくださいな。ティオナと違って筋力が無いから痛くないけど、やはり元男として困るものもあるのだ。

 

「今日1日はロキの子供でいいですよ」

 

元からそういう約束だしね。・・・・・・あれ?お触り禁止って言ったはずだったけど・・・抱擁とキスはお触りだよね?まぁ別に嫌じゃなかったしいいか。

 

「ほんまか!?いよっしゃあああ!我が世の春が来たぁああああ!」

 

そ、そんなに喜ぶ場所だったかな?取り敢えず俺が何をすれば良いのか聞いてみよう。

 

「ええ。それで私は何をすれば良いのですか?」

 

俺が問いかけるとロキがピタリと止まる。そして真顔になってこちらの目を正面から見つめる。・・・・・・え、なんだろう実は秘密裏にすごいミッションを!?

 

「何って・・・ナニやろ?」

 

と思っていた時期が私にもありました。半霊で軽くジャブを打ち込む。どれくらい軽いかと言うと軽く投げられたボールに当たるくらいの軽さだ。

 

「や、優しい・・・・・・ウチの薄汚れた心が洗い流されてゆく・・・」

 

お、おう・・・半霊って浄化効果なんて無いはずだけどな・・・?

 

「えっと、それで私は何をすれば?」

 

するとロキはニヤニヤ笑いながらそれはそれは嬉しそうにこう言った。

 

「勿論妖夢たんとハルプたんをウチ専属のメイドにした後はホーム内はもちろんオラリオ中を練り歩きウチとの仲の良さをアピールしつつ合意の上でラストはニャンニャンして(ry」

 

何言ってるかわからないが、要するに俺はロキの身の回りの世話をしつつ、ロキの傍に常に付いていれば良いらしい。

 

「1部承諾しかねますが、ロキが喜んでくれるなら私頑張りますね!」

「天使や・・・天使がおる・・・・・・悪かった、下賎な考えを巡らせ欲望に溺れようとしたウチが悪かったんや・・・・・・。」

「?なんだか今日のロキは面白いですね、何時もはクールビューティって感じでかっこいいのに」

「フェ!?・・・・・・・・・クールビューティでカッコいい・・・?ウチが・・・?」

「?」

「貴女が神か・・・」

「いえ?ロキのメイドですよ?」

 

 

 




リーナ・ディーン

【挿絵表示】


アリッサ・ハレヘヴァング

【挿絵表示】


クルメ・フート

【挿絵表示】


武器紹介

〈大蜂大刀(デッパチ)〉

デッドリーホーネットのパイルから作られた大刀。
大刀の割には短めであり、体格の小さい妖夢でも扱いやすい様にと言うヴェルフの職人魂が込められている。

モンスターの素材はモンスターの特徴を色濃く残す。そのためこの大刀はその刃に毒を滴らせている。しかし、加工の熱によるものか、毒性は低めになっている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39話『・・・・・ぐぬぬ・・・』

ダンジョン「お前達は逃がさん、絶殺(ぜっころ)だ」

ダンジョンさんの殺意がMAXになっているようです。

新キャラ達の強さが伝わるかどうか・・・・・・不安じゃのう。


東の空に輝く太陽がオラリオを照らし出す。1日の始まりに人々は既に活気付き、多くの人が街路を行く。

 

「朝からすまんなぁ、ファイたん。押しかけるような真似して」

「何時もは1人だし、こうして誰かと朝食ってのも良いわ」

 

北西と西のメインストリートの間の区画に建つ館では二柱の女神がすこし遅めの朝食をとっていた。朱色の髪を揺らすロキ、紅髪に眼帯を纏った女神ヘファイストスは微笑する。銀髪のメイドが物音をいっさい立てずに料理をテーブルに並べていく。

 

「ウチのとこの遠征に鍛冶師貸してくれてありがとうなー、ほんま助かったわ」

「気にしないで。深層のアイテムを優先的に分けてもらってるだけで充分だもの。それで、遠征はどうだったの?進展はあったのかしら」

 

ロキからの感謝の言葉を受け止め、唐突に消えたり現れたりするメイドに目を白黒させながらも質問を投げかける。

 

ロキ達の他に人はいない。時折消えるメイド以外に動く者はロキ達のみである。ナイフとフォークを動かす。

 

「今回はいろいろとハプニングがあったんやけど、「次は頑張るっ!」って意気込んでたし、次の遠征で到達階層増やしてくると思うで」

「そう」

 

ロキは手に持ったナイフとフォークを目を瞑りロキの斜め後ろに控えていたメイドに渡す。するとメイドは慣れた手つきで素早くステーキを切り分け、ロキの口へと運ぶ。グラスに入った透明な水を口の中に流しこむ。

 

「ねぇ、ずっと気になっていたんだけど・・・・・・。その子・・・えっと・・・【剣士殺し(ソード・ブレイカー)】よね?」

 

ガシャン!と厨房の方から音がした。目の前のメイドの顔が真っ赤に染まり、顔よりも赤い瞳を涙目にしてヘファイストスを睨みつけた後、霧のように消えていく。下界の子供たちは神が授ける所謂「痛い名前」に感激し、それを誇りに思う。それを考慮し、ヘファイストスは躊躇いながらも二つ名で呼んだのだが、どうやらメイドは二つ名に不満があるようだ。

 

「あ〜あ、ファイたんやってもうたな。今の娘は妖夢たんやないで、ハルプたんや。神の恩恵から生まれたスキル、つまりは感覚もウチらに近い・・・・・・かもしれん。だから二つ名で呼ぶと怒るで。ちなみにハルプたんと妖夢たんは知識の共有も出来るらしくてな?妖夢たんも二つ名で怒るで」

 

うしし、と笑いながら、切り分けられた肉を口に運ぶロキ。しかし、困ったように頬をかくその仕草が、ロキも同じ轍を踏んだのだと理解させる。

 

「いや〜そのせいなのか全然話してくれへんのや・・・もうウチダメかもわからん・・・」

 

弱気になるロキをよしよしと呆れながら撫でるヘファイストス。しかし、妖夢は怒っているのではなく、紅魔館の瀟洒なメイドを参考に行動しているだけで、話しかければしっかりと返事を返すつもりなのだ。

 

「それにしても、なんであの子がメイドなんか?コンバージョンはありえないだろうし・・・」

「それはなファイたん・・・・・・」

 

ヘファイストスは妖夢達がロキのメイドをやっている事に対する疑問をようやく吐き出した。ロキがいい笑顔で答える。

 

「二人が両想いやからやねん」

 

厨房でガクッ!と音がした。ロキが小さく「聞こえてもうたか?」と厨房の方に首を回し確認する。しかし妖夢が出てくる事はない。ヘファイストスが唾を飲み込む音がロキの耳に届く。

 

「なんやファイたん、そんなに緊張せんでも・・・・・・」

 

ロキか振り返るとメイド服姿のハルプがロキを睨んでいた。

 

「はっハルプたん!?」

『ロキ・・・・・・!』

 

上擦った声で悲鳴のような歓声のような声を上げたロキにハルプは睨みをきかせ、両手を握り込んでいる。

 

「な、なんでや本当の事やろ?ウチは妖夢たん達が好きで、妖夢たん達はウチの事好きって言ってくれたやん」

 

ロキの必死の弁解にハルプは項垂れる。そして漸く口を開いた。

 

『それはそうだけ・・・ですけど、やはり、そういう言葉で表されると恥ずかしい物があります。どうかお戯れを』

 

彼女は瀟洒なメイド、間違ってもタメ口など許されない。意識してそれを直しロキに注意するハルプ。ロキは寧ろハルプが言葉を発した事が嬉しいようで全く気にせず、下げられたハルプの頭を撫でる。

 

『・・・・・・ぐぬぬ・・・』

 

やるせない思いを抱きつつ半分ずつの1人はロキに奉仕するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗いダンジョンの中を進む1団、タケミカヅチ・ファミリアの団員達だ。団長と幹部三人、そして弓と雷のリーダーの6人で中層を楽々と進んでいた。現在は十四階層を進んでいた。

 

全員がサラマンダーウールを身につけ、周囲を警戒しながら一定のペースで進む。

 

団員たちの構成は、前後衛共に務まる桜花、命、千草、猿師、純粋な前衛のアリッサ・ハレヘヴァング、遊撃兼サポーターのクルメ・フートだ。

 

桜花が先頭に立ち、猿師が最後尾を進む。ここまで殆どトラブルもなく進めている、しかし桜花達に慢心はない。

 

「きゅいいぃ?!」

 

ダンジョンの横道から唐突に飛び出してくるアルミラージを桜花の槍がいとも容易く貫く。レベルが3に上がったとは言え、防御力に乏しいタケミカヅチ・ファミリアの団員達は中層でも油断はできない。

 

「ふぅ。特に問題もないな。飯にするか」

「はいっ、私が作るよっ!」

「あぁ、頼む」

 

桜花の声にクルメが応え、素早く料理の準備が行われる。赤いフードから可愛らしい顔を覗かせながらクルメは材料を取り出した。

ダンジョンの中だと言うのに料理をのんびり作れる理由は一帯のモンスターを狩り尽くしたからだ。油断なしにモンスター達を屠る桜花達にダンジョンは諦めて他の冒険者にモンスターを差し向けたらしい。

桜花がそんな事を考えながらも警戒を緩めないでいるとアリッサが桜花を呼ぶ。

 

「団長、警戒は私が。」

 

アリッサ・ハレヘヴァング、彼女は全身を鎧に包み込み、盾を持った重戦士だ。敵の攻撃を引きつけ、時間を稼いだり、その筋力を利用して攻撃を繰り出す。道中でその実力を見ていた桜花は頷き警戒をアリッサに任せた。

 

背中のリュックから鍋を取り出したクルメは持ってきた食材を入れて鍋を火にかけて、鼻歌を歌いながらぐつぐつと煮えさせる。香ってくるいい匂いにモンスターが釣られないとも限らない、と真面目で堅物なアリッサは考え、より一層注意を払う。

 

何事もなく時間は過ぎ、料理が完成する。全員で同時に素早く食事を済ませる。

 

「・・・!うまい!」

「ええ本当に!」

「うん!」

「・・・・・・!これは、美味しいです。」

「美味でごザルな」

「おお~っ!ありがとうございますっ」

 

5人のそんな反応にクルメが顔を輝かせ、嬉しそうにスプーンを進めた。依然としてダンジョンにこれといった動きはない。食事と合間に行われる会話のみが音としてそこに響いていた。

 

 

他に音はない。

 

 

 

「・・・・・・おかしい。」

 

ポツリと桜花が呟き立ち上がる。周りの団員達がそれに習って立ち上がる。

 

「どうかしたのですか」

 

一転してキリリと眉を引き締めた命があたりを警戒しながら確認する。彼女のスキルには遭遇したモンスターを記憶し、範囲内に入れば知覚出来るようになるスキルがある。それを使用し、しかし何も知覚出来ずにいた。

 

「わからん・・・・・・・・・だが余りに静か過ぎる」

 

冷や汗が頬を伝う。声が反響し響く中、一切の音を発せずダンジョンはその牙を今か今かと研ぎ澄ます。

 

無音の空間は獲物を狙い息を潜める猛獣を思い起こさせた。桜花が槍を手に取り構える。アリッサが盾を構え、前方に注意し、命が千草を守るように動く。

 

千草を中心とした五角形の陣形で意識を研ぎ澄ます。

 

「命!どうだ!」

「いえ!何も反応は・・・・・・・・・っ!!来ます!」

 

最も高いステイタスを誇る桜花の耳が、ズシリ、と重い足音を捉えた。桜花は急いで命に確認を取ると同時に槍をその音の方角に向け、足に力を込める。

 

「何かが・・・来るぞ・・・・・・!」

 

目線の先、十字路のようになっているその場所。右側の通路から

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォオオオオアッ!!!!!」

 

ソレは現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タケミカヅチは前方をげんなりした表情で見つめる。そこには爽やかな微笑みを浮かべるヘルメスの姿が。

 

「・・・・・・何しに来たんだ・・・?」

 

ファミリアの主神をひとりにするわけにはいかないので、残っている最高戦力のリーナとダリルが側近としてタケミカヅチのすぐ近くに控えている。最も方や柱に寄りかかり赤い槍を研ぎ、方や山のように積み上げた食料を貪りながらであったが。

 

「なにって酷いな。俺はタケミカヅチに会うためにわざわざ出向いてやったんだぞ?」

「そうか、じゃあな」

 

おどけるヘルメスにタケミカヅチは立ち上がり突き放す。なぜならヘルメスはタケミカヅチを馬鹿にする神の1人だからだ。「そんなひどいな!?」と縋るヘルメスにタケミカヅチ角髪頭を掻いた後再び座り込んだ。

 

「俺が来たのは他でもない。・・・・・・でもタケミカヅチ、そこの2人が居ても平気なのかい?」

 

ヘルメスが未だにモキュモキュとご飯を頬張るリーナ。その目に鋭さを湛えにらみ返すダリルを見る。ダリルは今しがた変わった雰囲気や、少し前の会話等からある程度内容を察したようだ。彼が追い抜こうと目標に定めた宿敵の内容であると。

 

「構わない。コイツらは俺の家族だ。ただ背中に文字を刻んだだけの関係じゃ無い。俺のファミリアに入ったらなら、俺はソイツの父親なんだ」

 

それらに一切の巫山戯も虚言も含まれていない。そう判断したヘルメスは開き掛けていたその目をニッ、と戻した。

 

「じゃあ聞くけど・・・・・――――――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――来たぞっ!!」

「はっ!」

 

桜花が右方向に飛び跳ねる。アリッサが前に出て盾を構えた。そして轟音。

 

「ブオオオオオオオオオォォォオオオオ!!!!」

 

現れたのはただのミノタウロス。

 

の筈だった。

 

「ぐっ!?うおぉ!!!」

 

振り切られる豪腕。全身金属鎧(フルプレートメイル)を着込み、大盾と大きな斧を持ったアリッサがただの膂力で宙に浮く。その筋力はやはり怪物その物。ただ、ひとつ違うとすれば―――――ミノタウロスはこれ程までに力強くは無い。

 

「ぬっ!?ぐうっ!!」

 

レベル2最高クラスの耐久、筋力が役に立たない。着地狩りの突進を踏ん張り受け止める、にも関わらず押されていく。

 

「ぐ・・・・・・なっ!?」

 

アリッサが驚愕の声を上げた。盾が掴まれた、丸太のような指が盾をアリッサから引き剥がそうと力む。

 

「させるかっ!」

 

桜花が雷の様な素早さで接近し、盾をつかむ腕にその槍、〈針槐(ハリエンジュ)〉を振り下ろす。既の所で腕を引き離し、回避するミノタウロスは3歩ほど下がると頭を低くし突進の構えを取った。

 

「【穿て、必中の一矢】『弓神一矢(ユミガミノイチ)』ッ!!」

 

突進が始まるその瞬間、眉間に向けて以前より速くなった矢が放たれた。ミノタウロスがそれを角で弾こうと頭を振る。が矢はあらぬ方向へと機動を変え、横っ腹に突き刺さる。

 

「ンブゥォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

怒鳴り散らす様に咆哮し荒々しくラッシュの様に拳を連続で振り回す。それを桜花が槍で防ぎ、往なし、受け流す。激流に逆らっては力尽きる、ならば流れに乗って進むまで、穂先で受け流し、石突きで顎をしたたかに打ち据える。

 

「―――ッ!!」

 

声にならない悲鳴を上げたミノタウロスの頭に槍が振り下ろされる。角で迎撃したミノタウロスだが角ごと頭部の半分近くを切り落とされる。止めを放とうとしたその時。

 

壁が、天井が、罅割れる。

 

「「「「――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!」」」」

 

怪物達の産声が爆音となって空間を押し出した。

 

「・・・ッ!!」

「・・・まずい・・・!」

「これ・・・は」

「数が多すぎる・・・それに毒薬はダンジョン内では危険でごザル・・・」

「どうするの!?」

 

声にならない悲鳴が、言葉にできない絶望感が全員を支配する。壁が、床が、モンスターで埋め尽くされている。後ろも前も横も真上も。

 

桜花は選択を、迫られる。

 

(どうやって切り抜ける?!・・・・・・最も成功率が高いのは・・・・・・・・・一点突破か・・・)

 

選択の余地などなく、はじめから選ぶものは1つ。怪物達が壁を作り囲うなら、それを突き崩し突き進むだけ。単純で明快。

 

しかし、それゆえに難しい。

 

「俺が前を切り開く!命!アリッサ!殿は頼む!」

 

スキル『勇往邁進』によって活力を得て突き進む。払い、突き、叩き、吹き飛ばす。空を飛ぶモンスターは千草が射落とし、後ろから来るモンスターをアリッサの斧が叩き切り、命の刀が切り裂く。クルメが器用に味方の邪魔にならないように動きながら敵を攻撃する。猿師のクナイや手裏剣がヘルハウンドなどの厄介な相手を牽制をする。

 

「オオオオオオオオオオォォォオオオオオオ!!!!」

 

しかし、暴風のように両腕を振り回しモンスターを吹き飛ばしながら片方の角を失ったミノタウロスが迫る。それはさながら津波を割って現れる怪物。唐突に現れたそれに気が付けた者は全員、動けた者は1人。

 

「がっ!?」

 

命に迫る豪腕をその身で防いだアリッサの全身鎧は大きくひしゃげ、余りの衝撃に内臓をやられたのか血反吐を吐きながらモンスターの中に吹き飛ばされる。

 

「くそっ!!」

 

相手が強化種である事など、初めの一撃で気がついていた、だからこそ一点突破で早急にこの場から離れようと踏んだのだ。だが1人が分断された。桜花が踵を返す。後ろを走っていたクルメが「あぶっ!?」とぶつかるのを危うく回避する。

 

「命!先頭は任せた!俺はアリッサを連れて後から追い付く!!」

「桜花殿!?」

 

桜花がモンスターを切り飛ばし、その中を突っ切り命達の視界から消えた。残った中で最も強いのは命だ、経験で言うならば猿師だが、ダンジョンの経験ならば最も長いのは命だ。

 

「命ちゃん!」「命殿!」「命さん!」

 

団員からの指示を求める悲鳴。武装を弓から刀に持ち替え、前衛として戦う千草、二刀の小刀で何とかモンスターを押さえ込む猿師、双剣と巧みな歩術でどうにか前線を維持するクルメ。命の動悸が速まる。まるで早鐘の様に高らかに鳴り響くそれを強引に押し殺し。命は臨時のパーティーリーダーとして決断を下す。

 

「撤退しますっ!!」

 

悲痛な表情で言い切った。体は桜花が消えた方向を向き、刀はやるせなさに震えていても、団員を守るための判断を下してみせる。

 

「よくぞ仰られた・・・!!お見せいたそうか、忍びの忍術を・・・!」

 

飛び掛ってきたアルミラージを高速の回し蹴りで頭蓋ごと破壊した猿師が、その手を重ね、数回の印を結ぶ。 普段は常に笑顔である筈の猿顔に笑みは無く

 

「【自由は奪われた、檻の中にて余生を過ごせ】『檻猿籠鳥(かんえんろうちょう)』ッ!!」

 

有るのは怒りだった。

 

超短文詠唱から放たれる小型結界。対象の動きを強制的に止める魔法の檻。小型のモンスターしか捕まえられずとも、その効力は絶大だ。そして、それで終わることは無い。

 

「フッ!!」

 

竹で出来た筒を紐で複数個つなげ合わせた様なそれは、竹の中心部に炸薬を配置し、その周りに金属片や爆薬が詰められている、所謂「手榴弾」、それを複数個つなげ合わせた物をモンスター達の中央に放り投げ、そこに糸の繋がったクナイを投げつける。

 

「燃えつきろ、それがお似合いというものですよ、怪物達が」

 

炎が糸を取り込むように高速で手榴弾へと向かい・・・・・・そして爆発。薬師Sが作り出した火薬の類はその限りない火力を存分に引き出し、モンスター達を粉砕し焼き尽くした。

 

「今です!」

 

黒い煙と肉が焼ける匂いが鼻をくすぐる中、命は後ろ髪を引かれる思いでその場所から撤退を始める。しかし、黒煙を突き破り、大量のモンスター達が突撃してくる。

 

「走って!」

 

命の悲鳴とも取れる声に、団員達は応じる。

 

――が風を切って石斧が飛来する。そして「あ」と言う声と共に倒れ込み地面を滑る音が。命は振り返る、声で誰がやられたかわかったからだ。

 

「千草殿!!」

「任せてくれでごザルよ!」

「救出は私が!」

 

猿師とクルメが素早く動き、石斧を肩と背中から生やした千草をクルメが抱え上げる。猿師が小刀二刀と忍術でアルミラージやヘルハウンドの大群を押し留める。上の階層に行くための坂道までほんのわずかと言うところでモンスター達が追いすがってくる。

 

「くっ・・・!猿師殿!早く上に!」

 

十三階層へと続く坂から命が声を投げかける。しかし、猿師はモンスターに囲まれ満足に動くことが出来ない。敏捷値と器用値に偏ったステイタスを持つ猿師では満足に動けなければ戦闘力は大きく低下する。

 

「それはこっちのセリフでごザルな。」

 

跳躍しモンスターの顔を蹴り命の前まで来た猿師は助けようと向かってきた命の胸に蹴りを打ち込み、坂の方へと吹き飛ばす。ヘルハウンドが腰を高く上げ頭を下げる、ブレスの予備動作だ。並の上級冒険者が灰しか残らないとされるブレスの一斉砲火。

 

ハッと顔を上げ命が猿師の方を見る。

しかし、そんな危機的状況に猿師は命に背中を向け、モンスターに取り囲まれながら片手をヒラヒラと揺らし、手を振った。

 

「命さん!!」

 

命の手をクルメが取り、強引に駆け出した。そして、命達の背に爆音と熱風が激しくぶつかった。

 

「猿師殿!!!!」

 

涙に顔を濡らしながら、けれど命達は走り出した。生き残り、伝えなくては。助けを呼ばなくては・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜花はモンスターを倒しながら、タケミカヅチとの会話を思い出していた。それは廊下ですれ違うほんの一瞬の会話だった。

 

――

「なぁ桜花、少しいいか?」

「?どうかしましたか」

「怒らないでくれよ?」「はい」

「俺は、お前達を家族だと思っている。血が繋がっていなかろうと、な。・・・だからこそ、ファミリアに入ったヤツらは全員俺の子供と思う事にした。」

「!」

「だからな、助けてやって欲しい。団長として、時には冷酷な判断も必要だろう。だが、少しでも助ける努力をしてやってくれ。頼む・・・。」

「・・・・・・はい。」

「そうか・・・・・・ありがとう桜花」

―――

 

 

「うおおおおおおおおぉぉおおおお!」

 

ダンジョンの中は壮絶な戦いが繰り広げられるコロッセオ。勇ましい雄叫びが人魔問わず発せられる。

 

斬る、払う、薙ぎ、突き刺し、蹴り飛ばす。正に無双の働きでモンスターを倒しながら、桜花はどうにかアリッサの元に辿り着く。

 

「手を伸ばせ!」

「っぅああっ!!」

 

痛みに悶絶しながらも桜花が差し伸べた手を何とか掴むアリッサ、そして腕力だけで引っ張られる。その痛みにヘルムの中の顔を歪めながらどうにか立ち上がった。

 

「オオオオオオオオオオ!!!」「ぎゃぎゃーーー!」

 

モンスター達の雄叫びが心を摩耗させる、囲まれているという状況が戦意を萎えさせる。アリッサが息を呑む。先程の一撃で体が形を保っている事が奇跡的だったのだ。だからこそ自分達がこの場から生きて帰れる未来が見えなかった。いや、雄叫びと状況が勝利を見えなくさせている。

 

「――ーお前は、俺が守る。だから―――」

 

しかし、目の前の男、桜花は見据えていた。勝利へと続く活路を。その背中があまりに大きく見えて、アリッサは目を細める。心が憧憬の鐘を鳴らした。

 

「お前は俺を守れ!」

「っ!もちろんっ!!」

 

アリッサは立ち上がる。こんな所で倒れていては一向に彼に追いつけない。斧の柄を握りしめ、盾を構えた。詠唱を開始した桜花を守るために。

 

「こっちだっ!!!!!お前達の敵はここにいるぞ!!!」

 

大きく叫ぶと同時に盾を斧で思い切り叩く。金属同士が強くぶつかりあい甲高い音を響かせ、モンスター達の狙いがアリッサに移った。

 

「【剣の上にて胡座をかけ、眼前の敵を睨め。汝が手にするわ雷の力なり】『武甕雷男神(ライジンタケミカヅチ)』!!!」

 

短文詠唱が完了し、雷を纏った桜花は敵を薙ぎ払う。その勢いは正に雷の様で、圧倒的なステイタスがモンスター達をあっという間に葬り去っていく。斬られれば死ぬ、触れれば痺れて動きが止まりそこを突かれ死ぬ、逃げようにもステイタスが更に上昇した桜花から逃げられるはずも無ければ、そもそも逃げる事などモンスター達の頭になかった。

 

時間にして数分、ミノタウロスを含めた数十体のモンスターの殲滅に成功した桜花は魔法を解除し、アリッサをお姫様抱っこしながら全力で上を目指した。全員を救う為に。

 

「こ、これは・・・・・・!団長・・・!」

「嫌だとは思うが少し我慢しろ・・・!!」

「・・・・・・・・・了解。」

 

 




アリッサさんの強さが伝わるかな?という訳でまとめて見る。

・普通のミノタウロスと外見が全く変わらない強化種の一撃(ある意味初見殺し)を体を浮かせられるが無傷で耐える。
・着地狩りの突進を押されるが受け止める(ミノタウロス系の必殺技が突進)。
・強化種ミノタウロスの奇襲に反応して身を呈して命を守る。
・その一撃を受けても死なない。
・内蔵がやられているのに立ち上がれる。

・・・・・・・・・原作的に考えると凄い強いです、レベル2の耐久じゃないなぁと思いましたが、『タケミカヅチ・ファミリアなら仕方ないね!』で終わらせたい。



ハルプ『そんでもってここでいきなりのリーナ・ディーンさんのステイタス紹介っ!!アリッサじゃないんかい!』

名前リーナ・ディーン

レベル2

ステイタス
力G
耐久G
敏捷E
器用H
魔力A

発展アビリティ
【魔道D】・・・魔法の効果上昇
【睡魔B】・・・寝た時の魔力回復量が上昇する。眠くなる。

スキル

『魂癒食事』(ソウルフード)
・食べ物を食べることで微量だが魔力を回復する。
・回復量は食べた量、味、本人の好みによって変化する。

『魔力同調』(チューニング・スペル)
・魔法の効力を高める
・お腹が減りやすくなる。

『鬨声詠唱』(バトル・クライ)
・魔法の効果範囲を広める。
・魔力消費が少し上昇する。

『魔法』

【阿弥陀籤】(あみだくじ)

【千差万別魔の嵐。月。火。水。木。金。土。日。雷。風。光。闇。毒。酸。何が当たるか知る由もなく。引かれた線の導くままに】

・無作為選択魔法
・十三種類の中からランダムで選択され発動する。
・更に魔力を使用し、ランダム要素を追加する事で効力が上がる可能性がある。
・ランダム要素は『魔力/5×変数1~3×レベル』の計算をおこなう。


・月・・・光及び魔法を反射する鏡を生み出す。
ランダム要素『鏡の耐久力』

・火・・・所謂ファイアーボールを放つ。
ランダム要素『火力』

・水・・・癒しの効果を持つ水を湧かせる。勿論飲める。
ランダム要素『水の量、回復量』

・木・・・地形操作、植物を自在に操れる。何も無いところから生やすことも可能。ただし土の上じゃないと無理。
ランダム要素無し。

・金・・・アイテム探索魔法。魔石やドロップアイテムが光る。ランダム要素なし

・土・・・地形操作、土や岩を操れる。
ランダム要素なし。

・日・・・お洗濯がはかどる。寒さに強くなる。
ランダム要素『陽光の強さ、耐寒性』

・雷・・・電撃を放ち攻撃できる。電撃は近くにいる生物に向かっていき連鎖する。
ランダム要素『連鎖数、威力』

・風・・・自身の後ろの方から風を吹かせ、矢や敵の魔法を逸らす若しくは到達を遅くする。移動速度が上がる。
ランダム要素『風力、移動速度』

・光・・・光の玉がフワフワと周囲を浮かぶ。個数はランダム。そしてその玉を操れる。威力は半霊パンチの2倍位。
ランダム要素『光玉の数』

・闇・・・暗視状態を味方に付与し、敵を盲目状態にする。
ランダム要素『効果時間』

・毒・・・毒液を霧状に噴出する。風に吹かれると自滅するかもしれない。
ランダム要素『毒性の強さ』

・酸・・・強酸性の液体をボール状にして放つ。
ランダム要素『酸性の強さ』

【天之狭霧神(アメノサギリ)
/国之狭霧神(クニノサギリ)】

【平の原にて吹き溜まり、空に架かりて天に座せ。
汝は彼方、我は此方。虚(ゆめ)と現(うつつ)を別け隔てよう。
我が閉ざす。我が隠す。我が別つ。我が偽る。
その名は霧。我が御名也。
汝等、甘い虚に身を任せ、其を現と心得よ。
我が名はサギリ!
天之狭霧神(アメノサギリ)
or
国之狭霧神(クニノサギリ)】

・長文詠唱
・霧が発生するor結界を張る。
・霧の中の人間の願望により効果を変化させる。
・結界はある程度の融通が効く。

ハルプ『うん、すごい魔法の数だね!スロット的には二つしか使ってないのがもうね・・・・・・てかさ、これ電撃とか引いちゃったら前衛が全滅するのでは・・・?』
リーナ「・・・その時はその時~。まぁ、うどん食べて元気だせよ~」
ハルプ『!?・・・・・・・・・で、雨と国の狭霧は普通に使いやすそうだな?』
リーナ「結界は食べ物の確保に役立つよー。まずは結界で食べ物と僕を囲みます~、そしたら霧を出します~、僕は【沢山食べたい】って願うの~、するとzzzzzzz」
ハルプ『すると・・・・・・・・・ぇ?寝てる・・・。』
リーナ「はっ!・・・すると食べ物が増えるの~。んー、お団子いる?」
ハルプ『いる。モキュモキュ・・・・・うまし!』
リーナ「うまし!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40話「『主人公が出ないとかシフシフお前・・・』」

いやぁ。40話になりましたね、記念すべき40話・・・・・・何かやろうか、なんてそんな事は無かった。

ダンジョン「・・・・・・・・・・・・今ですっ!―――――――└( ・´ー・`)┘」




ベル達は初めての中層に心を踊らせると同時に、緊張もしていた。

 

「ここが中層か・・・」

「はい、上層よりも暗いですね」

 

至るところに岩が転がり、壁も床も岩で構成されている此処は十三階層。ここからが中層の始まりだ。

 

「十三階層はルームとルームを繋ぐ通路が長いようです、安全に戦うには素早くルームに到達しなくてはなりませんね」

 

リリの説明を聞きながらベル達は頷く。こういった通り道に陣取ると、何処から湧くかわからないモンスター相手に後手に回る可能性が高い。退路を絶たれ、無限に湧くモンスターとの戦闘・・・・・・そこまで考えてベルは身震いした。

 

「モンスターに合わないうちに前進しましょう。ヴェルフ様、一本道ですがガンガン行きましょう。」

「わかった、はぐれるなよリリスケ」

「たった今一本道ですって言いましたよね!?」

 

緊張を他愛のない会話で解しながら一列になって中層を進んでいく。そんな一行の身を包むのは『サラマンダーウール』だ、精霊の護符、つまり精霊が魔力を編み込んで制作した特別な装備品だ。

 

「リリはこんな立派な護符を着れる日が来るなんて夢にも思ってませんでした。ありがとうございますベル様!大切にしますね!」

 

ベルはそんなリリに苦笑いだ。ベルはそのサラマンダーウールは割引してもらった物だという事を伝えるが、それでも値段は軽く0が五つ並ぶ程。

 

「こんなヒラヒラした服が上級鍛治師の防具を凌ぐ耐火性ってんだから困りものだよな・・・ったく、本当に精霊って奴は」

 

精霊に若干の拒否感を持つヴェルフはそう口にする。

 

「ですがありがたいです。これで全滅の憂いは大分なくなりました」

「・・・・・・ヘルハウンドだよね?」

「はい」

 

『ヘルハウンド』【放火魔(バスカヴィル)】の異名を持つ犬型のモンスターだ。並の防具を容易く溶かす火力、決して低く無い身体能力。群れに遭遇し、一斉放火されれば僅かな灰しか残らない。

 

十三、十四階層における死者の大半はこのヘルハウンドによる焼死だ。レベル2にランクアップした冒険者ですらことごとく焼き尽くされる。

 

「十分に承知してるとは思いますが・・・」

「わかってる、ヘルハウンドが出たら優先的に倒す、だろ?俺だって火葬はゴメンだ」

 

中層と上層の違い、それは身体能力だけではない。モンスターが明確な飛び道具を使ってくる事、モンスターの湧きが早いことなど、難易度が急に上昇する。

 

「・・・・・・来た!」

 

ベル達がタタッタッタ、という軽い足音を聞き取った。

 

「早速か・・・」

 

現れるのは黒一色に真っ赤な両目を爛々と光らせるモンスター・・・ヘルハウンド。

 

「よし―――行くよ!」「おう!」「はい!」

 

ベル達が選んだ行動は速攻。戦闘態勢に移られる前に倒すこと。これは妖夢から学んだ事だ、準備をさせてはならず、相手の行動が限られているうちに最大火力を叩き込む。モンスターにはほぼ確実に効く攻略法だ。と教えられている。

 

「キャィィイン?!」

 

一切の迷いなく突貫してきたベル達になす術なくヘルハウンドは八つ裂きにされる。

 

「うーん、これってさ・・・・・・」

 

ベルはその戦果に唸る。

 

「チームワークが磨けないような・・・」

「確かに、な。」

 

中層以降、チームワークは何よりも大事だ。個々がいくら優れていようと、死ぬ時は一瞬だ。だからこそ団結し、互いの死角を無くす必要がある。

 

「ハハハ・・・妖夢さんは魔法も反射できるし・・・1人で何でもできちゃうから・・・」

「みょんきちは凄いよな」

「はい!流石は妖夢様です!」

 

三者三様に妖夢を褒める。そのままに通路を進んでいくと再びモンスターが現れた。名前をアルミラージ、白い兎が二足歩行している様なモンスター。特徴的なのはその額にある角だろうか。

 

「あれはベル様!?」

「違うよっ!?」

 

どこら辺が!?やっぱり白いから!?とベルがツッコミを入れる。

 

「ベルが相手か・・・・・・冗談キツイぜ・・・」

「いや完璧に冗談だから!!」

 

巫山戯ているとアルミラージ達は近くの大岩を砕き、破片の中から天然武器を取り出した。片手でも装備ができる石斧。

 

三人VS三匹、しかし、1人が1匹を受け持つ何て愚策はしない。三人VS1匹を三回繰り返す。

 

「いくよ!」「おう!」「それにしても可愛いです。ベル様みたいで殺す事に抵抗が・・・」「まだからかうの!?」

 

計六つの影が正面からぶつかりあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゅいいいい!?」

 

悲鳴が響く。悲鳴の元は刀で斬られたアルミラージだ。命達に追いついたアルミラージは10数匹で同時に攻めかかり・・・・・・その数を減らしていた。

 

往なし、逸らし、受け流し。返す刃で切り裂いていく。攻めているのはモンスター、攻められているのは命達、しかし、殺られているのはモンスター達だ。

 

命の一刀が素早く生命を斬り飛ばし、クルメが巧みに敵の動線から逸れてすれ違いざまに首を一突きする。このまま行けば・・・・・・そう命が考えた時、それはやってきた。ゴゴゴゴゴ、と何かが高速で転がってくる。それはハードアーマードと言うアルマジロの様なモンスターだ、命や妖夢の鎧にも使われている非常に頑丈な体を丸め、高速で転がることで冒険者をぺしゃんこにする。

 

それが2体。

 

「不味いかも!?絶対美味しくない!」

 

クルメがフードの奥の顔を青ざめさせ、少し飛び跳ねるようにして背負う千草の位置を調節する。歩術を利用する時に落ちないようにするためだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

命が固まる、いや、ハードアーマードを見据える。クルメが慌てて命呼ぼうとするが

 

「牙突―――」

 

命が右足を後ろに下げ、体を横に向け、刀を体の横に水平に構え、重心を下げる。放たれるのは命の最大火力。ゴロゴロと岩を砕き、砂埃を巻いあげ迫るハードアーマードにその切っ先が唸りを上げた。

 

「零式ッ!!!」

 

放たれる一突き。全身全霊を乗せた最高の一撃は高速回転する硬質なその装甲をいとも容易くぶち抜く。しかし、残りの1匹が迫る。命は肩盾を前に構え、踏ん張る。

 

「ううぅ!っ・・・!」

 

周辺を破壊しながら迫るハードアーマードの突撃を1人で押さえ込む。肩盾とハードアーマードの装甲がぶつかりあい火花を散らす。回転に巻き込まれないよう全身の筋肉を使って反抗する。盾を持ってくるべきだったと後悔する、回転する装甲に触れた腕の肉がごっそりと持っていかれた。

 

「ぁあああっ!!」

 

力任せに腕を振り抜く。ビキリ、と罅割れた音が耳に届くが意識的に無視する。ヒビが入ったのは利き腕ではない。なら、まだ戦える。命は壁にぶつかりもぞもぞと体制を立て直すハードアーマードに駆け寄ると「はぁ!!」と装甲の隙間に突き刺し、魔石を破壊する。

 

「命さん!!」

「クルメ殿!どうかしましたか・・・・・・・・・っ!」

 

クルメの声に振り向くと、クルメが指を指していた。そこは自分達が走ってきた一本道、桜花達が追いついたのか、そう期待した命は裏切られる。

 

「ヘル・・・ハウンド・・・!!」

 

黒い()そう見えてしまうほどに数が多い。

 

「撤退します!!!」

 

命の判断は速かった。黒一色の群れを見て、クルメの顔を視認し、判断を下した。逃げる、他に道は無い。

 

 

走って、走って、走った。後ろから追いすがる無数の足音から逃げる為に。けれど・・・・・・・・・・・無情にも、クルメの体力が切れた。ステイタスの中で、体力を決めるのは耐久だ。元摂食障害であるクルメは尚更スタミナが無かった。

 

「はぁ―――はぁ―――!」

 

荒い息遣いとじんわりと服を濡らす汗が体力の限界をこれでもかと伝えていた。

 

「バウッバウ!ウォオオオオオオオン」

 

獲物の衰弱を見て、命と千草から垂れる血液の匂いを嗅いで、猟犬(ヘルハウンド)達がその勢いを更に増した。

 

不味い、不味い、不味い!命は酸素の足りない頭で懸命に策を練る。しかし・・・・・・策は無かった。顔を二つの意味で青くしながらも最後まで足掻く。体力の無いクルメから千草を受け取り、走る。

 

(諦めて・・・なるものか・・・・・・!)

 

 

 

すると

 

 

 

 

「ヴェルフ避けて!」

「うおっ!?」

 

2匹のアルミラージに集られそうになったヴェルフに大声で知らせ、ベルは屈んだヴェルフの上を越え、横斬りに次ぐ蹴りの一撃。一連の動作で2匹のアルミラージを行動不能にしたベルは冷や汗をかいた。疲れが、影のように付きまとってきている、次第に濃くなるそれをベル達ははっきりと自覚していた。

 

そんな時、ベルはとある人物を視界に捉えた。

 

「・・・命・・・さん・・・・・・?」

 

ルームをベル達目掛けて一目散に走ってくる命達にベルは首をかしげ・・・・・・その後に蠢くものを見て青ざめた。

 

「逃げて下さい!!!ベル殿!!リリルカ殿!!」

 

目を涙に濡らしながら、命は懸命に叫ぶ。後ろに大凡20匹のヘルハウンドを連れて。目の前のアルミラージを倒したヴェルフが振り向き目を見開く。リリが驚きつつも冷静に支持を下した。

 

「おいおいおいおい!!冗談だろ!?」

「退却します!!ヴェルフ様っ右手の通路へ!!命様も早く!」

「はいっ!」

 

ベルが残りのアルミラージを蹴り飛ばし、強引に通路を確保する。邪魔しようと飛び出た最後の1匹を息を切らしながらクルメが一閃の元、魔石を破壊した。

リリの指示の元、素早く冒険者達が通路になだれ込む。

通路を駆け抜けるが、ステイタスの低いサポーター、息切れを起こし青ざめるクルメ、怪我を庇いながら千草を背負う命。逃げられる道理などなかった。

 

(追いつかれる・・・!なら!)

 

「っ!?ベル様!!」

「おいベル!」

「ベル殿!?」

「先行って!」

 

判断は一瞬だった。反転し、モンスターに向き合ったベルはその左手をモンスターに向け、叫ぶ。

 

「【ファイアボルト】!」

 

放たれる雷炎の数は三つ。瞬く間に通路を駆け抜け制圧する。モンスター達の断末魔が響く中、ベルは炎の前に立ち尽くした。通路の奥に人が居たなら巻き込まれる事は必須。間違いなくダンジョン内における違反だったが、仕方が無いだろう。そう思いヴェルフ達を追おうとして、聞こえた音に目を見開いた。

 

 

 

炎の壁を突き破り、大量のヘルハウンドが飛び出してくる。ベルは肩越しに、自分を食らおうとその顎を大きく開く無数のヘルハウンドを目撃する。

 

(反転が・・・・・・間に合わない・・・・・・!殺られる!)

 

「うぅっおおおおおおおおおっ!!」

「グオオア!ギャン!?」

 

唸る様な咆哮と共に何かがベル達の後ろから残像を作るほどの勢いで突貫してきた。ヘルハウンド達が串料理の様に一気に貫かれ、壁に縫い付けられる。そして、それら全てが魔石を殺られたのか灰に姿を変え崩れていく。

 

ヘルハウンドを貫いたままの姿勢で、肩で息をする男。着物に和鎧、そして何故が鎧を着た戦士を肩に抱えている。そして、その顔を上げた。

 

「間に合ったか、命達!」

「桜花殿!!ご無事でしたか!!」

 

命が駆け寄る。ベル達はそれを見て思い知る。自分達よりも数段上の実力者たちが、ここまで追い詰められている『中層』、その恐ろしさに。

 

「これが・・・・・・中層」

「っ!!ベル様!まだ来ます!」

 

壁がひび割れる。モンスターの手足が壁から突き出てきた。

 

「どうやら・・・本当に俺らを返す気は無いらしいな・・・・・・。命、猿師さんは?」

「・・・ヘルハウンドの炎に飲まれて・・・そこからは・・・」

「・・・・・・・・・・・・そうか。おいベル」

「は、はい!」

 

天井がひび割れる。

 

「協力して上を目指す、いいな?」

「は、いっ!?」

「なっ!?」

 

そして、床が・・・・・・・・・抜け落ちた。

 

「落ち!落ちる!?」

「くっそ!?」「ベル様助けてください!!」

「くっ・・・・・・桜花殿!クルメ殿!!アリッサ殿!どうかご無事で!」

「うぉおおお!?南無さん!!」

「落ちる~!!鍋の中身が―!!」「鍋など捨て置け!体制を整えろぉ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン上層。一人の男が衣服と思われるものを纏い、血の後を全身にこびりつかせながら、フラフラと上を目指して歩いていた。

 

「〈火防の塗り薬〉が無ければ死んでいましたね・・・・・・。それにしても・・・・・・戦闘の痕跡が殆ど無い・・・。命殿達は地上に出られたのだろうか・・・」

 

元は藍色だった装束は焦げ破れ、ただのボロきれの様な状態になっていた。猿師は足を引きずりながら、仲間達想い、しかし、生存を優先する。

 

〈火防の塗り薬〉はそのままに炎から身を守る塗り薬だ、他にも火傷に塗ることでそれを効率よく治すことが出来る。そこに〈癒しの丸薬〉を使う事で傷口自体は一切無い。しかし、失った血液や、体力は回復出来ない。勿論ほかの薬で血液も体力も戻す事が出来るが、生憎とクルメの持つバックにそういった物は入っている。

 

あの後、毒薬を散布し、毒消しを飲んで何とかモンスターを殲滅した猿師は、道行く敵を倒しながらここまで歩いてきていたのだ。しかし、もう手元に薬も薬を作る材料も無い。

 

(たとえ、命殿達が上に戻れない状況だとしても、私がタケミカヅチ様にお伝えすればまだ助かる可能性は・・・・・・)

「くっ・・・!」

 

可能性は、低い。

 

中層で行方不明になったとしたら生存は絶望的だ。まだ、そうと決まった訳では無いが、有り得るものとして考える。違うのであればそれでよし、だがもしそうだったなら手を打たねば手遅れとなる。

 

「早く・・・・・・お伝えせねば・・・・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

床が抜け落ち、落下した僕達はどうにかその命を繋いでいた。神の恩恵が無ければ絶対に死んでいたと思う。

 

「ゴホッ・・・ゴホッゴホッ・・・クソが・・・・・・!!大丈夫か、お前達・・・?」

「は・・・い・・・。」

 

桜花さんがあまりの土埃に咳をしながらも、皆の安否を確認する、命さんが返事をした。鎧の人も片手を挙げて応え、赤いフードの女の人も岩に寄りかかりながらくたびれた表情で手を挙げた。・・・・・・そうだリリとヴェルフは!?

 

「リリ!大丈夫!?ヴェルフ!生きてる!?」

「リリは大丈夫です・・・・・・」「勝手に・・・殺すな、ベル」

 

二人の名前を叫びながら辺りを見渡すと、リリは大きなバックがクッションになる形でどうにか怪我はないみたいだ、ヴェルフもこれと言った外傷は見受けられない。僕はホッと安堵の息を漏らす。

 

「お前達、さっさと移動するぞ。さっきは壁も天井もひび割れていたんだ。早く動かないと降り注ぐぞ」

 

桜花さんの言葉に僕達は顔を青くする。なにせ降ってくるのは岩だけじゃない、いや、岩だけでも即死級の脅威だけど、更に大量のモンスターが降ってくる何て考えたくもない。

 

「は、はい!」

「ベル様起こしてください!」

 

桜花さんに返事を返し、バックのせいでひっくり返っているリリを助け起こす。けどリリならスキルのおかけで普通に動けるんじゃ・・・まぁいいか。

 

「悪いな、クルメ」

「いいよアリッサちゃん、気にしなーい気にしなーい」

「あ、アリッサ・・・ちゃん?」

 

アリッサと呼ばれた人は鎧がお腹の部分だけ罅割れ欠けている。1体どれだけの攻撃を受ければああなるのか僕にはわからない。けれどあの損傷具合を見る限りだと大型のモンスターの一撃をもらったんだとおもう。と言うか、女の人だったんだ・・・胸の部分が大きく膨らんでるからわかったけど、さっきまではそんな事を気にしている間もなかった。

 

クルメさん?がアリッサさんに肩を貸して2人で歩く。それをぼんやり見ていたらリリが僕の太股をガシガシと肘でつついてきた。そうだった、早く移動しないと。

 

「ごめんリリ、早く動かなきゃね」

「そうですよベル様、女の人を見ている場合ではありません!」

「あ、あはは」

 

 

 

暫く移動して、僕達は休憩を取ることにした。怪我の治療やアイテムの整理、情報の整理が必要だったから。

 

「申し訳ありません、ベル様、桜花様。落下の衝撃でポーションが・・・」

「そんなに落ち込まないでリリ、大丈夫だから」

 

リリのバック入っていたポーションの殆どが割れてしまっていた。リリが項垂れるのをなだめて自分のレッグポーチに入っているポーションも目の前の風呂敷に出す。

 

「僕はこれだけです。」

 

デュアル・ポーションが1、普通のポーションが2。他のは割れてしまった。寧ろよくこれだけ残っていたな、と思う。下手すれば一つもないなんて事になりかねない。それでは生存は絶望的だ。

 

「そうか、これだけあれば十分だな。」

 

けど、桜花さんは満足気に頷いた。そして、腰から袋を外し、風呂敷に置く。なるほど、と僕は思った。

 

「これは〈癒しの丸薬〉だ。瓶に入ってないからな、割る心配はない。いや、割れても問題ないか」

 

ニッ、と笑みを浮かべる桜花さん。〈癒しの丸薬〉それは現在オラリオで唯一猿顔薬師(モンキー・F・ドクター)と言うタケミカヅチ・ファミリアの団員が作ることの出来る特別な回復薬だ。

 

ポーションと違って液体じゃないから瓶が要らない、割れても別に問題は無い、沢山持てる、とメリットが多い事で高値で売れる薬なんだけど・・・正直僕にはまだ手が届かない。飴玉サイズの薬1粒が数千ヴァリス。安く思えるかも知れないけど、この薬はポーションと違って即効性じゃない。

 

でも、こう言う状況だととても心強い。僕達の顔色が明るくなる。

 

「ですが、あの落下時間だと・・・・・・ここは・・・・・・」

「ん~?16、15?階層位かな・・・?」

 

クルメさんが細い手を顎に当てながら首を傾げ、そういった。本当によく生きてたな僕達・・・。

 

「リリスケ、本当よく生きてたなお前。」

「はい、どうして普通に歩けてるのか不思議でなりません」

 

不思議そうに首を傾げるリリに鎧の下からアリッサさんが答えを教えてくれる。

 

「私のスキルに味方の耐久を上げる物がある。それのお陰だろう」

「なるほど・・・」

 

便利なスキルだなぁ、と思いながら、それが無ければ僕達も怪我をしていたんじゃないかと身震いする。お礼を言って頭を下げるけど、アリッサさんは片手を少し挙げてそれを止めた。無口な人なのかも知れない、でも悪い人じゃないと言うのはわかった。

 

「では治療を行いましょう」

 

命さんが自分の腕の治療を終えて、アリッサさんの治療に移った。僕らも軽い怪我を負ってるから治療を行った。

 

「さて、どうするか」

「上に戻るのか?」

 

治療も終わり、桜花さんとヴェルフがどうするかを話し合う。僕はすぐそばで会話を聞いてるだけだ。アリッサさんが周囲を警戒している中、話は進む。

 

「・・・・・・・・・十八階層」

「ん?何か言ったかリリスケ?」

「十八階層はセーフポイントと呼ばれる階層です。」

 

リリが真剣な顔つきでセーフポイントと口にした。セーフポイント、エイナさんの話だとモンスターが産まれない階層なんだとか・・・・・・行ったことは無いけど、確かにそこに行けば安全なのかも。

 

「・・・階層主はどうするつもりだ小人族」

「む、私にはリリルカ・アーデという名前があります!」

「・・・・・・誤解を招いたな、名前を完全に記憶していなかった。謝ろうリリルカ・アーデ」

「別に構いませんが・・・・・・階層主・・・ですか」

「ああ」

 

アリッサさんが言う『階層主』、ダンジョンのとある階層に存在するほかのモンスターを凌駕する強さを持った強者。ファミリアが一団となってやっと倒せるかも知れない・・・くらいに強い怪物。

 

「それをこの人数で打倒できるか?私では5分程しか耐えられんぞ」

 

あ、5分も耐えられるんだ。

 

と思ったけど口にはしない。だってタケミカヅチ・ファミリアの人だし、普通と違うのは覚悟していた。

 

「俺達なら倒せるかも知れないが・・・・・・千草がな・・・」

 

千草さんは未だに目を覚まさない。大量に出血したからなのかも知れない。たしかに、1人動けない状況で階層主は危険だ。

 

「ですが、今ならあるいは・・・」

「どう言うことリリ?」

 

リリが顎に手を当て考え込む。集めた情報を整理整頓し、断捨離して導き出している。

 

「階層主の再出現は一定間隔です。ロキ・ファミリアがゴライアスを討伐してからまだ・・・・・・いや、ギリギリ出現していないかも知れません!」

「なるほど・・・・・・」

 

全員がリリの提案に考え込む。現在は恐らく15~16階層。

 

「上に戻る道は地図も無ければそもそもどこに落下したのかもわからない以上難しいな。」

「下に行くなら、縦穴に飛び込むだけで済みます。」

「なら、決まりだな。さっきみたいに強化種が襲ってこなければ問題なく行けるはずだ」

「桜花団長桜花団長、そういう事を言うと実際に起こるって私の元主神さま言ってましたよ?」

「おいおい、やめてくれよクルメ。縁起でもない・・・」

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオォォォオオオ!!!!」

 

「・・・・・・縁起でも・・・ないなぁ」

「ほら!見ましたか桜花団長!やっぱりなんか来ました!」

「そんな事を言っている場合では・・・!」

「迎え撃つぞ!」

 

 







『桜花は鬼畜』

ハルプ『桜花は鬼畜、はっきりわかんだね』
桜花「な!?俺なにかしたか?!」
ハルプ『内蔵をやられているアリッサを肩で担ぐとかおま、おま殺す気か?絶対に痛いぞ?』
桜花「いや、アレは仕方ないだろう。あのままじゃあ、ベルがやられていたし」
ハルプ『・・・・・・せやな。その場にいない俺がなにか言うなんて可笑しいよな。はい、帰ります』


【挿絵タイム】

ハルプ『説明しようっ!』
妖夢「説明しましょう!」
ハルプ『挿絵タイムとは!』
妖夢「新たに仲間になった新キャラ3人の」
ハルプ『イメージが固定されるように』
妖夢「シフシフが頑張るコーナー!」
ハルプ『ワーパチパチ!』
妖夢「初回にして最終回!?」
ハルプ『なんと!終わってしまうのですか!』
妖夢ハルプ「(^q^)」


アリッサ

【挿絵表示】


クルメ

【挿絵表示】


リーナ

【挿絵表示】


作者の一言。
【鎧が描けないよ・・・・・・。誰か描いてください(唐突なむちゃブリ)】

あ、そうですそうです。一度試してみたいことがありまして、「殆どセリフだけ」のお話し(番外編:デート的な物)とかどうですかね?本編には絡んでこないと思いますが。

べートとオッタルとのデートなんておもろいかもな(小声)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

41話「私、私の・・・せいで・・・・・・っ!!みんなが・・・・・・!」

ベート×妖夢のデート編は執筆中。ふっ、やはりデート的なものはとても苦手じゃ。まぁデートと言うよりは友人同士の休日的なものになってるけど・・・仕方ないよね。うん。そもそもデートなんて言葉の綾だしね、両者とも恋愛感情なんて抱いてないから仕方ないよね。(全力の言い訳)


ということで41話です。

ダンジョン「そこだ!いけ!君に決めた!」





『黄昏の館』ロキ・ファミリアのホームであるその建物で、俺は働かされていた。

 

「どうぞ」

「おう、ありがとうな」

 

ロキにキンキンに冷えたビール・・・?みたいな奴を渡す。正確な名前はわからない、エールとかの方が近いのかな?

 

「なぁなぁ、妖夢たん。」「はい、なんですかロキ」

「実はな?遠征に付いていけないレベルの低い子達を鍛えて上げて欲しいんやけど・・・ええかな?」

 

むしろそう言うのを期待してたかな、俺は。このメイド服はさっさと脱ぎさりたい、メイドです、とは行ったけどまさかサイズぴったりのメイド服を渡されるとは思わなんだ。

ちょっとロキが怖くなったぞ?

 

「ええ、大丈夫ですよ。・・・・・・あ」

 

くっそ、大蜂大刀の性能チェックも兼ねようとか思ってたけど・・・・・・毒あるんじゃんこの刀。仕方ないね、訓練用の剣とかでいいか。

 

「どうかしたんか?」

「いえ、専属鍛治師に作ってもらった刀が毒を持っているので・・・・・・訓練用の剣はありますか?」

「もちろんあるで!なぁウチも見学してええか?」

「はい!・・・あ、すみません。私のファミリアの団員達も鍛えたいので、合同訓練と言うのはどうですか?」

「おっええなぁ!!そうしよそうしよ!タケミカヅチにも言っといてなー」

 

という訳でロキと別れ、以前から怪我した時に世話になってる部屋へ、ここに俺の荷物が置いてある。そして着替えるついでに半霊をタケの所に飛ばす。タケには比較的近い弓の館に行ってもらって訓練の話しをしてもらおうかな・・・・・・あー、でも迷惑になるかなぁ、でも団員を育てるためなら協力してくれるかも。

 

そんでもってタケが弓の館に行ってる間に、半霊で雷と弓の団員達にも知らせようという訳だ。

 

『と、言うわけなんだよタケ』

「ははは、急すぎて驚いたが、いいだろう。任せてくれ」

『ありがとうタケ!それじゃあ!』

「おう!」

 

よし、次は雷の館だ。ここは確か・・・アリッサって人がリーダーになったんだったかな?

 

『おっす!みんなを集めてくれるか?』

「ハハハハルプさん!?どうして・・・・・・ってはい!わかりました!集めておきますぅ!」

『お、おう・・・』

 

なんだか本当にやりにくいよな。憧れとか尊敬の念を送られるのってホントに困る。命とかが俺が技使う度に同じような眼差しとか送ってきたけど、それはあくまで技に対してだったから、俺も同じく技に尊敬と畏怖を送る仲間として見れた訳だけど・・・。やっぱり尊敬されるような人物に成らなきゃいけないのかな?

 

「集めました!」

『ありがとう、じゃあ俺が来た理由何だけど―――』

 

 

さて?次は剣の館ですよ・・・・・・。リーナは嫌いじゃないんだけど・・・ペースに呑まれると言うか何というか。まぁ取り敢えず門番に到着を伝えようか。ポン!とハルプにチェンジして前に降り立つ。

 

「・・・・・・・・・!??!?!?」

『あー・・・・・・驚かせてごめんな?みんなに用があるから中庭に集まってくれ』

「・・・・・・・・・・・・っは!わ、わかりました!」

 

・・・・・・今のヤツヘカテーファミリアの元団員か・・・俺と、目が合ったら少し青ざめたな。・・・きっとヒロインXごっこした時に斬り捨てたんだろう、ごめんなー。

 

ま、何もせずに待ってるわけにも行かないか。リーナの所に向かってみよう。

 

二階の執務室、本来ならば団長室と呼ばれるそこは結構な広さがある。大きな机、無数の棚、大きな本棚、床に山積みになった紙束などの設備の他に、報酬として欲しい設備が与えられている。と言っても上限は勿論あるけどね。【勝手に入らないでね。byリーナ】と書かれてるから仕方なく扉を開けて入ることにする。

 

『よう、仕事は・・・・・・・・・やってないな?』

 

大きな机の上は綺麗に片付けられていた。そして真ん中にドドン!とその存在感を発揮する「うどん」。そしてそれを頬張るリーナ。

 

「ふご?ほういへはふふはんはほこひ?」

 

どうしてはるぷさんがここに?

 

『どうして俺がここにって?お前の監視に決まってるだろ』

 

もちろん嘘だ。

 

「ふう!?ほんは!ほふはなひもひへなひ!」

 

はぁ!?そんな!僕は何もしてない!だろうか?

 

『いいから、取りあえず先に飲み込め。』

 

おれが言うと「はひ」と言った後、確りと汁まで飲み干してリーナはこちらを向いた。こいつめ・・・。

 

「で、何かようなのー?僕は悪い事はしてないよ?」

『そうだな、何もしてないな』

「むむむ、それは心外だ。僕はこう見えて仕事を終わらせてから確りとご飯を食べているのー。」

『ほう?本当か?』

「ホントだよー。」

 

そう言って立ち上がったリーナは俺から見て右奥の棚に向かう。仕事の成果を見せてくれるのだろうか。

 

「ここらへんに~、あ、あったあった。」

 

といって取り出したるはお菓子の詰め合わせだ。うん、殴っていいかな?

 

『リーナ?殴っていいかな?』

「ん?ダメだと思うよ?」

『・・・落ち着け、落ち着くんだ俺・・・』

「そうかー、反抗期なのか。情緒不安定なんだね!どうだろう!うどんでも食べないかっ!!」

 

目を><こんな感じにしてサムズアップしてくるリーナ。もう呆れてしまったのでさっさと本題を伝えて団員たちを借りていこう。流石にリーナを連れていったらロキ・ファミリアの人の鍛錬にならないかも知れない・・・・・・いや、回復魔法使えるし連れてくか。

 

『もういいや、本題を伝えるのがめんどくなったから取り敢えず付いてきてくれ』

「わかった~。取り敢えずお菓子を持っていこーう!・・・・・・飴ちゃんいるかい?」

『いる(即答)』

「うましっ!」

『うましっ!』

 

なんだかんだ言って付いてきてくれるのか・・・結構素直なんだな。

 

 

 

 

 

ハルプで連絡を取っている間に着替え終え、訓練用の武器をロキ・ファミリアの団員と共に用意した俺は何時もの中庭、訓練場に移動する。

 

「さて、皆さん武器は用意できました。後は心意気だけです、訓練とは言え舐めてかかると斬ります。それくらいの覚悟を持って頑張ってください。」

 

全員が神妙な顔付きで頷く。俺のファミリアの皆が来るまでは暫く時間がかかる、それまで暇だから戦ってよう。

 

「さぁ!何時でもどうぞ!」

「・・・・・・、・・・うおおおおお!」

 

目配せしあって同時に攻めてくる冒険者達。その速度がとても遅く感じる、斬り倒すような事はせず、当たる直前でわざと一瞬剣を止めて「本当なら斬られているぞ」と認識させる。それを数回繰り返し、まだ突撃してくる奴の剣を弾き、蹴って転ばせる。

 

突き出される槍を剣の横っ腹で滑らせ、振り下ろされる斧を柄で横にずらす。放たれた先の丸まった矢を素手で捕まえ、盾を構えた捨て身の特攻を横に回避すると同時に足をかけて転ばせる。

 

砂を投げ付けて目を潰そうとしてきたが、砂を全部切り落としてやった。・・・まさかこんな事に【集中】の+が働くとは・・・。

 

まぁ何にせよ、無傷で凌ぎきったわけだ。てかいつの間にかタケ達も合流して、タケ本人も攻撃に加わってくる。初めはなんで神様が・・・邪魔だよ・・・みたいな雰囲気だったロキ・ファミリアの団員達は思い知る。

 

「ふん!はぁあ!せぇい!」

「はっ、ふっ、せいっ!!」

「「燕返し!!」」

 

唯一まともに斬り結べたからだ。唖然として武器を取りこぼすやつまで居た始末だ。逆に俺達のファミリアの団員達は『タケミカヅチ様なら仕方がない』と諦めているらしい。ふふん、自慢の父親が畏怖の目で見られるのは心地がいいな!・・・凄い必死に食らいついくるから少し恥ずかしいけど・・・・・・多分「父が子に負けるわけには・・・!」とか思ってるんだろうけど・・・。

 

おっ?

 

「ふむ、じゃあ僕が治してあげるしか無いか【千差万別魔の嵐。】」」

 

綺麗な声と共に二重の魔法円が敷かれる。リーナを中心に一つ、それを囲むようにもう一つ。

 

「【月。火。水。木。金。土。日。雷。風。光。闇。毒。酸。】」

 

ひとつひとつの属性を謳う度に、外側の円の縁にポッと様々色の灯りが灯る。内側の円から外側の円へ13本の線が伸びる。

 

「【何が当たるか知る由もなく。】」

 

伸びた縦線に、横線、斜め線等が不規則に引かれていく。

 

トン、とリーナが内側の円から伸びる1本の線を叩いた。

 

「【引かれた線の導くままに】あーーー。」

 

導火線に火がついたように、キラキラと小さな光を放ちながら、線の上を光が進む。真っ直ぐ進み、横に曲がって、また進み、横に曲がり、進み、曲がり―――

 

阿弥陀籤(あみだくじ)』」

 

赤い光へと辿りついた。

 

「ごめんね?」

「へ・・・あっつううううういいっ!?!?」

 

可哀想に・・・・・・あの魔法は阿弥陀籤、そう、あみだくじだ。何が起きるか大分わからない魔法、いや何が起きるかはわかるんだけど・・・・・・ランダム性が高くて今みたいに攻撃魔法が発動したりするんだ、回復したい時に。

まぁ詠唱が進むとある程度何が選ばれるかはわかるらしいんだけどね。

 

「あはは~、もっかいいこう、もっかい。・・・・・・・・・阿弥陀籤!」

 

再び詠唱し、発動したのは『水』つまりは回復だな。透き通った綺麗な水が冒険者の背後に湧き上がる。それを傷口にかければ良いわけだ。え?使いづらい?でもアレは1度発動すると自然に蒸発するまではずっと存在し続けるから強いと思うぞ。

 

「うし!やったね~!」

「あ、ありがとうございます・・・」

 

ニコニコとリーナが喜ぶ、それを治療されていたロキ・ファミリアの団員がどぎまぎしながら頭を搔く。

 

うん、やっぱり良い奴なんだな。

 

「さて、全員揃ったようですし、始めましょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン16層。そこで、ベル達は死にかけていた。いや、最早『壊滅』と言っても良いだろう。

 

初めに倒れたのはリリルカ・アーデだった、最も低いステイタス、小さな体躯。スキルによって重量の枷から解き放たれていたとしてもこの重圧と疲労からは逃れられ無かった。

 

次に倒れたのがヴェルフ・クロッゾだ、ヘルハウンドの放つ火炎放射を彼の『ウィル・オ・ウィスプ』と言う相手の魔力を利用し魔力爆発を起こす特殊な魔法が幾度となく防いできた。

しかし、ヴェルフは鍛治師だ、「戦える鍛治師」とは言えど、その魔法の特性から習熟は困難だった。故に【魔力】のステイタスは伸びていない。すぐに精神疲弊が起き、力尽きた。

 

そして、あの時以来目を覚まさない千草。

 

そんな3人を引きずるように運びながら、モンスターと出逢えば誰か1人が動けない3人を守るために残り、残りの4人がモンスターと戦闘を行った。

 

ベル・クラネルも疲弊しきっていた。度重なる戦闘、何処から現れるかわからない恐怖。初めてくる階層への不安、仲間が倒れていく寂しさと焦り。それらすべてがベル・クラネルの心を体を摩耗させる。手足が棒の様でまともに動かなくなってくる。

 

疲弊しているのはベルだけではない。命も桜花もアリッサもクルメも全員が全員疲れに動きを鈍くしていた。全員鎧はボロボロで衣服は破れ素肌が覗いている。

 

度重なる戦闘は確実に疲労を強いる。常に戦い続けている桜花の槍がわずかに震えていた。アリッサの鎧の音が、時折そのリズムを崩し、クルメは歯を食いしばりながら進んだ。命は最早スキルを使う精神力も残っていない、これ以上使えば命も精神疲弊を起こすだろう。

 

「はぁ―――はぁ―――はぁ――」

 

互いの間に会話は無い、ただひたすらに十八階層を目指す。

 

「ブオオオオオオ!」

「―――アアッ!!」

「――!?」

 

現れたミノタウロスをクルメがレベルに相応しくないほどの急加速で切り裂く。無数の斬撃がミノタウロスを輪切りにして見せた。

 

フラリ、とクルメの体が揺れる。受け止めようと桜花が動くも、クルメは倒れる寸前で急加速、再び現れた新しいミノタウロスを微塵切りにする。

 

「・・・・・・進むぞ。」

 

リリルカを肩に乗せヴェルフを脇に抱え、桜花が言った。桜花は気がついていた、自分に負担がかかっているとを。それは意図してそうしていたのだがそれがクルメに気を使わせ、率先して戦闘を行わせるに至っていると。

 

「・・・はい」

 

だが、だからと言って倒れた者達をクルメに任せるわけにもいかない、力のステイタスが低いクルメにはすぐさま限界が訪れるだろう。だからこそ、余裕のある俺が。桜花は千草を背負いながら返事を返した命の頭を励ますように撫で、クルメに礼を言う。

最早返事を返す気力すらないのだろう、クルメは俯きフードで顔が見えないが小さく頷いた。既に限界など越えていた。

 

目の前に有るのは『17階層』の入口。

 

「ここを・・・・・・越えれば・・・・・・!」

「17・・・階層・・・!」

 

力を振り絞る。ここさえ通り過ぎれば安全なのだ、ならここに全てを賭ける。

 

「来るなよ・・・・・・ゴライアス・・・」

 

口には出さずとも、常に頭にあった階層主の名前。まだだ、まだ、間に合うはずなんだ。言い聞かせ、目を逸らす。

 

そして、17階層へと踏み込んだ。

 

 

 

 

 

―――慈悲は、無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣戟の音が空に向かう。本来ならば1日の始まりを告げる訓練の音は、こうして夕方まで止むことは無かった。

 

「シッ!!!」

「が――!?」

 

鋭く吐き出された息と刃の軌跡。夕暮れの光を反射し描かれた弧は冒険者の首を強かに打ち据え地に伸ばす。攻めかかる冒険者、彼らの額には玉のような汗が例外なく浮かび、その衣服を濃く染めた。

 

「とうぉりやぁ!!」

「――。」

 

素人同然の力任せの振り下ろし、だがそれが振り下ろされるには余りにも長過ぎる猶予がある、振り上げ、振り下ろす。それだけの動作の合間に彼は何度でも殺されていて然る可し。それだけ離れた力量差、指で刃の腹をトンと叩き逸らす、そして振り上げられた足が脳天に軽く打ち込まれ、冒険者は倒れる。

 

戦い、怪我をし、倒れ、治され、休み、戦い、怪我をし、倒れ・・・・・・・・・幾度となく繰り返される厳しい訓練に団員達は音をあげない。

 

それは意地だから。「タケミカヅチ・ファミリアがへばらないなら負けられない。」「ロキ・ファミリアの奴らになんか負けてたまるか」張り合いは互いを高みへと導き、次第に団員達に、「技量」が付いてくる。

 

「うぉおおおお!妖夢様の為にも俺たちゃまけられねぇんだ!!!」

「うるせぇ!!お前達にゃ絶対に負けないからなぁ!!!」

「はい、両成敗です」「「チーン」」

 

さて、そろそろ良いでしょう。妖夢がそう言ってポンポン、と手を叩く。その額に汗は見えない、タケミカヅチ・ファミリアの団員達が絶望したかのような表情で力なく倒れ伏す。妖夢はその光景に目を白黒させながら驚き、あわあわと慌てふためく。

 

「くっそーー!妖夢さん全然汗かいてねぇよ!」

「やっぱり俺達じゃ汗かくほどの相手じゃねえってことだよ・・・・・・」

「ちきしょー、なぁ?でも俺の攻撃は結構いい線いってたよな?」

「んなわけあるか、一瞬でやられただろ」

 

汗をかくという事は運動で体が温まり、それを冷やすためにかいた、という事だ。つまり自分達が全力で頑張れば妖夢に「運動」させることが出来ると踏んだが、今の自分達では運動にすらならないと痛感しただけに終わった。

 

妖夢にもその意図が伝わったようで照れくさそうに頭のカチューシャのリボンを弄る。

そのあざとい姿に何人かが憤死した。妖夢は運良く見ていなかったが素早く団員達によってお仕置き+再教育+お片付けが行われた。かれらは言うだろう「Yesロリータ、NOタッチ」と。もっともそれは神の言葉だ。彼ら的に言い直すなら「妹を見守る様な気分で遠くから見守る事こそが至高。触れては成らないし、話し掛けるなんて畏れ多い」と言ったところか。このルールはつい最近出来たもので全ての館で共有されている。

 

「俺、レベル2なのに・・・」「私も」「アタシだって・・・」

 

ロキ・ファミリアの団員達も結局無傷で終わらせた妖夢に畏怖の念を送った。ロキ・ファミリアが見事な連携で襲いかかったが、『領域』を第三魔法で使用され、全て防がれ反撃を受けて吹き飛ばされた。

 

「妖夢たんはほんますごいな~!ホントにな~!」

「あぁそうだろう?なにせ、お!れ!の娘だからな。」

「・・・・・・ほんま欲しi」「俺の!娘!だからなっ!!」

「・・・・・・ケチぃな、けっ!!」

「あ、あはは・・・やめてくださいよタケ、ロキ、皆が見てますよ?」

「・・・悪かったな。だが妖夢はやらん」「・・・ふん!ええわ、別にこれからも妖夢たんとは仲良くするしな!」

「・・・・・・私は2人が仲良くしてくれた方が嬉しいです」

「ロキ、今日のお前は美しい。」「せやな、カッコええでタケミカヅチ。」

「プフッ・・・・・・なんだかおかしいですアハハ!」

 

幸せを謳歌し笑い合う。

 

そんな時だ。幸せな光景を噛み締める妖夢の元に、何かが降り立った。そしてそれは跪き話し出す。いや、耐えきれず膝をついた。

 

「・・・火急、の用があり、ます。」

 

急いできたのだろう、その体は傷だらけ血だらけ煤だらけ。最早原型を留めていない服装に、荒い呼吸に掠れた声。これでは誰なのかを特定できない。

 

はてさて何を嘯くか、見慣れない輩に皆が警戒する中でタケミカヅチとロキ、そして妖夢だけは警戒を解いていた。

 

そして、そのボロ切れの様な何かは俯いていた顔を上げ、妖夢とタケミカヅチが最も恐れることを口にした。

 

「・・・ダン、ジョン中層にて、拙者以外の、消息が不明です。速やかに、救助部隊、を編成し、中層に向かう事を進、言いたします。」

 

ボロきれの中から覗く顔は猿師の物に他ならない。だが、そんな事よりもタケミカヅチと妖夢は浮き足たつ。

 

「何があった猿師ッ!!詳細を伝えろ!!」

「教えてください!何処ではぐれたんですか!?」

 

修羅の如き顔に変貌したタケミカヅチと妖夢に団員達は後ずさる。

 

「詳細、等は後ほど。まず、は戦力を集める事かと」

 

襟首を掴まれ空中に吊るされても猿師の表情は変化しない。「ちっ!」とタケミカヅチが猿師を離しギルドに走る。

 

「妖夢!好きに行動していいぞ!!俺はクエストを発注してくる!!」

「・・・・・・・・・・・・あ、あぁぁ・・・・・・」

「・・・妖夢・・・?」

 

明らかに妖夢の様子が変化した。頭を抱えわなわなと震え始め、大粒の涙をこぼし始めたのだ。

 

「私、私の・・・せいで・・・・・・っ!!みんなが・・・・・・!」

 

その姿は余りにも痛々しく、見ている者達の同情を誘った。この場にいる者達の殆どに初めて見せる『孅い』姿。剣士としての姿では無い、少女の一面。

 

「よ、妖夢たん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、妖夢たん・・・」

 

俺のせいで、俺のせいで、俺のせいで!!俺のせいで・・・・・・。皆が・・・皆が死んじゃう・・・!!

 

嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 

俺が・・・・・・俺が原作の流れを忘れてたせいで・・・・・こんな・・・・・・。っ!

 

違う、そうじゃない。原作通りなら、桜花も命も千草も、皆帰ってこれたんだ。

 

じゃあ、何が違う?何が違ったからこうなった?

 

 

俺だ。

 

 

他でもない俺自身が、俺の介入が、変えてしまったんだ。全てではなくて、ほんの少しを変えてしまった。

 

「私が、ロキと遊んでなければ・・・」

 

もし、もしも、間に合わなかったら・・・

 

もし、皆が死んでしまったら。

 

それは、全部俺の・・・・・・俺のせいだ。

 

俺がロキと遊んでなければ、俺があの時ベル達とダンジョンに潜っていれば。

 

「私が、一緒に行かなかったから・・・」

 

てが、震える。体が震える。手も足も頭も、氷みたいに冷たくなってる・・・・・・。

 

嫌だ、考えるのが怖い。考えたくない・・・っ

 

―――「そうだね、『また』家族を失えば、きっと君の精神は壊れてしまうよ」

 

嫌だ、失うのが怖い。壊れるのも怖い。、

 

―――「けれど、いいのかい?君が何もしなければ・・・・・・」

 

嫌だ、守れないのは嫌だっ。なんのために、今まで強くなろうとしてきたと思ってるんだ、なんのために、武術を学んで、技を鍛えたと思ってるんだ・・・・・・。何もしないなんて・・・そんな事できない

 

―――「・・・・・・そうか。諦めていないんだね。・・・・・・それは、いい事だ。」

 

助けなきゃ・・・!向かわなきゃ!きっとまだ生きてるはずだ、猿師が生き残ってるなら大丈夫、そう、大丈夫な筈だ・・・。それに死体を確認した訳じゃない。深呼吸をして、少しでも落ち着かなくちゃな。

 

「グスッ―――スゥ――ハァ――。よし。」

 

―――「・・・そうだなぁ・・・・・・ヒントをあげよう。・・・・・・原作通りに進めたまえよ、それが1番『可能性が高い』よ」

 

・・・・・・・・・・・・あれ、駄神いつの間に・・・?ま、いいや、ありがとう!!行ってくる!!

 

「ヘスティア様の元に向かいます!リーナ!ダリルを呼んでください!行きますよ!」

「う、うんわかったよ」

「お、おい待て妖夢、俺も行く。」

 

 

 

 

 

―――「・・・・・・・・・ありがとう・・・か。気が付けよ愚か者。俺は完全無欠でパーフェクトなGOD(駄神)だぞ。全くもって・・・・・・特に無いニャンw!!かっこつけようと思ったけどこっから先はおもいつかぬえ!www

んじゃ帰ろ。

 

 

・・・・・・やはり、無意識に使うか・・・・・・・・・その異能を・・・・・・。」

 

駄神の言葉は、彼の耳には届かなかった。











ぐぉおおおお!主人公の内心を毎度の事キチンと描写できない私の無能っぷりよ・・・・・・。おかしいなぁ、なんでなんや・・・・・・。

それと異能・・・一体どんな能力なのか・・・!実は主人公は能力の二つ持ち、ただし片方は主人公は知らない。私は知ってる。









ハルプ『さぁ!お待ちかねの時間だっ!キャラクターのステイタス紹介だぞ!今日はクルメ!』
クルメ「よろしくお願いします!妖夢ちゃ・・・さん!」
ハルプ『ハルプ何だけど・・・』
クルメ「えっ?・・・・・・ほんとだ目が赤い!ごめんなさい!」
ハルプ『まぁいいけどさ、相手を混乱させられるのも俺の強みだし。』
クルメ「アハハ・・・。」
ハルプ『それと、なぜに「妖夢ちゃん」と言おうとしたのかね?』
クルメ「ええと・・・・・・少し、間違えちゃったのです」
ハルプ『ほう・・・罰として後で美味しい料理を作るように』
クルメ「アイアイサーー!」
ハルプ『ガクッ!(いや、男だけど・・・魂は男だけど外見は女の子ですよ!?そこはサーじゃないだろう!)ま、まあいいか。取り敢えず本編ではまだ出会ってないけどよろしく。』
クルメ「よろしくお願いします!」


クルメ・フート

ステイタス

力G
耐久H
敏捷F
器用S
魔力G

発展アビリティ 料理:G
スキル

『足掻餓鬼』
・極限状態における生存能力の超上昇
・身体能力、力・耐久・敏捷に低下補正
・精神疲弊(マインド・ダウン)が起こらなくなる。

『頂仰少女』
・器用に高補正
・料理行動の成功率上昇

『神託味覚』
・嗅覚、味覚の強化。
・直感的に正解を導き出す(料理限定)
・任意発動(アクティブトリガー)

【魔法】
『紅閃駆動』(クリムゾン・スプリント)

【赤より紅きその光、我が獣に(四肢に)宿りて力で満たせ。】

・超短文詠唱
・全行動における超加速。
・敏捷値超上昇。
・効果中は速度が上昇し続ける(魔力消費)


ハルプ『うん。実にえげつないな。極限状態ならマインド・ダウンせずに魔法で加速し続けるのか。女の子らしい料理系のスキルが多いのに急に戦闘系か・・・・・・』
クルメ「速いは正義ですよ!ただし!煮込み料理にはちゃんと時間をかけてあげましょう!」
ハルプ「おう、前にベートに作ったしな、それくらいはわかってるぜ」(なお、ベートは食べていない模様)
クルメ「で・・・・・・・・・おふたりはどの様な関係で?」
ハルプ『ん?そりゃ友達だろ。』
クルメ「え?」
ハルプ『え?』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編:ベート・デート?

ほとんどセリフだけ。戦闘は無し、のはず。


登場キャラはベートと妖夢と店員、店主だけ。(と、ハルプ)



完全な息抜き回です。見ていってくださいな。





ロキ・ファミリアにて

 

べート「(あー暇だ。暇過ぎて死ねる。適当にダンジョンでも行ってくるか?)」

 

???「おじゃましまーーす!」

 

べート「(ん?誰か来たのか?)」

 

妖夢「べートー!!おはようございま―す!」ガチャ。タッタッタ

 

べート「んあ?なんだ妖夢か。なんか用かよ」

 

妖夢「はいっ!えへへ~、実はですねぇ~?」

 

べート「ったく持ったえぶらねぇで言えよ。うぜえから」

 

妖夢「そんな!?・・・まぁ仕方ないですね、実はっ!今日暇なので一緒にあそびましょう!!」テッテレー

 

べート「あぁ?なんで俺がてめぇなんかとあそばなきゃならねぇんだ?俺は忙しいんだよ(暇だけどな)」

 

ハルプ『なんでとは何だ!俺達はお友達!ならば遊ぶことに何ら不自然なことはない筈!そしてべート、貴方は寝癖&パジャマ状態でどこら辺が忙しいんだっ!さぁ!遊ぼうぜ!』ポンッ!

 

妖夢「そうですよ!ならば多数決にして決めましょう!べート!」

 

べート「ああ!?んなもんこっちが負けるに・・・(ん?待てよ・・・アイツらって二人揃って一人分なんだったか?)お前ら二人共手を上げても勝てねぇじゃねえか」

 

ハルプ&妖夢『「はっ!しまった!」』

 

べート「お前ら馬鹿だろ」

 

妖夢「なんですとぉ!」

ハルプ『ち、ちげーし?馬鹿じゃねーし?』

 

べート「おう、そうだな(棒)」

 

妖夢&ハルプ「『ぐぬぬ・・・』」

 

ハルプ『ま、まぁそんなことよりもっ!遊ぼうぜべート!』

妖夢「そうですよ!べート!」

 

妖夢&ハルプ「『遊ぼうよー!』あそびましょうよー!」(上目遣いでべートの服を引っ張る)

 

べート「やーめろ、やめろ。引っ張んじゃねぇよ、ガキか」

 

妖夢「まだ子供です」

ハルプ『ガキじゃねーし。大人でもないけど・・・で?遊んでくれるのか!?』(期待の眼差し)

 

べート「あー・・・?つったてってガキが遊ぶ物なんてねぇぞ、ここ。」

 

妖夢「やったーー!!」(べートの周りを飛び跳ね始める)ハルプ『遊んでくれるのやったー!!』(べートの周りを走り始める)

 

べート「うわ邪魔クセぇし目障りだな」

 

妖夢&ハルプ「『スッ(姿勢を正してべートの前に綺麗に並ぶ)』」

 

べート「どんだけ遊びてぇんだよ!(呆れ)」

 

妖夢「さてさて?どうしますか?遊びに行くんですか?それともホーム内で遊ぶんですか?」

 

べート「んなもん・・・・・・(外に出かけりゃ変な噂が立ちかねねぇ。・・・が、中で面倒見ててもバカゾネスがうるせぇ・・・・・・外だな。)外行くぞ」

 

ハルプ『おお!?やったー!どこ行くんだ?どこどこ?』

 

べート「はぁ、ガキの面倒は大変で困る・・・」

 

ハルプ『うるさいやい!俺はべートと遊ぶの楽しみにしてたんだからな!!オラリオ初の友達なんだからな!』

妖夢「そうですそうです!!オラリオ初ですよ初!私達はとっても寂しい思いをしてきたんですよ!」

 

べート「ああ?だからハシャグのは仕方ねぇってか?」

 

ハルプ&妖夢「『うんうん』」コクコク

 

べート「・・・・・・悪かった。やっぱりガキだわ。それとお前らとダチになった覚えはねぇ」

 

ハルプ『(´・ω・`)』

妖夢「(๑ŏ _ ŏ๑)」

 

べート「・・・・・・ほら、行くぞ」

 

ハルプ『.*・゚(*º∀º*).゚・*.』

妖夢「(≧∇≦)」

 

べート「(コイツら表情豊か過ぎるだろ)単純すぎだろお前ら・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

べート「っつーわけで、中央広場(セントラルパーク)に来たわけだが・・・どこに行きたい?」

ハルプ『ガサゴソ(鞄の中を探している)』

 

べート「・・・・・・お前鞄要らないだろ」

 

ハルプ『俺だって鞄を使いたくなる事くらいあるさ。んで・・・これがタケが作ってくれた地図だ。これで行く場所探そう!』(ベートに手渡す)

 

べート「・・・・・・しゃあねぇか。(歓楽街に近づかいないように厳重に注意書きが書いてあるな・・・・・・【エロスみたいな奴らに会うぞ、行かない方がいい】か。確かにな、間違えてこっち行ったらめんどくせぇか。しっかり見とかねぇと)」

 

妖夢「どこに行くか決まりましたか?」

 

べート「あぁ、取り敢えずギルド行くぞ」

 

妖夢「え?いきなりダンジョンですか?」

 

べート「ちげぇよ、ギルドには色々と店が出店してんだ、そこ行きゃなんかあるだろ。無かったら店員に聞きゃあいい」

 

妖夢「なるほど・・・流石はべートですねっ!」(尊敬の眼差し)ハルプ『ジー・・・・・・後で触らせてもらおう(小声)』(べートの耳を凝視しながら)

 

べート「常識だろ流石に・・・てかハルプてめぇ今何か言っただろ」

 

ハルプ『♪~ <(゚ε゚)>なにもー、いってないよー』

 

べート「なぁ、あいつ置いてこうぜ」

妖夢「そうですね」

ハルプ『おっそうだな』

ベート「いやお前だよ」

ハルプ&妖夢「『えっ!?』」

ベート「いや、だから・・・はぁ、くだらねぇ。わかった悪かったな」

 

 

 

 

 

妖夢「へぇー!こんな所があったんですね!私達は装備品の所しか行ったこと無かったので初めて知りましたよ!」

ハルプ『ほえ~。色んな服があるんだな・・・・・・』

 

べート「らしいな。ロキがアイズ達を連れてたまに来てるらしい。・・・俺も始めてだぞ来たの」

 

妖夢「なんだか今日のべートは優しいですね」ニコニコ

ハルプ『ホントだよなっ!こっちの方がお兄さんみたいでカッコイイと思うぜ?』ニヤニヤ

 

べート「あ?いつもお前らが煽ってくるからだろうが」

 

妖夢「あはは、すみません。これからは自重します」

 

ハルプ『と、思っていたのか!痛いっ!?』

 

べート「流石に呆れるわ、ほら、さっさと服選んでこい。」

 

妖夢「え、ど、どうしましょうかハルプ・・・・・・私お金が・・・」

 

ハルプ『自問自答かよ・・・・・・持ってるわけないだろ?一番よくわかってるよねぇ?』

 

妖夢「そうでした」テヘペロ

 

べート「・・・・・・・・・はぁ・・・・・・ほらよ」(財布を投げ渡す)

 

ハルプ&妖夢「『!?!?』」(まさか飛んでくるとは思わずあたふたしながら受け取る)

 

妖夢「こ・・・これは・・・・・・明日は黒竜が攻めてくるんですね・・・・・・」(歓喜)

ハルプ『違う・・・ペロッ・・・これは・・・青酸カリっ!』(歓喜)

 

べート「・・・俺は隣の店行ってるぞ」

 

ハルプ&妖夢「『はーい!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

べート「はぁ・・・・・・・・・。(疲れるが暇つぶしにはなるか・・・・・・)」

 

店員「いらっしゃいませ~」

 

べート「おいアンタ」

 

店員「はい、如何がなさいましたか?」

 

べート「何でもいい、子供でも楽しめる場所とか店とか無いか?チビ共が遊びたいってうるせぇんだ」

 

店員「あー・・・どうでしょうか・・・・・・オラリオには余り子供用の遊具などは有りませんからねぇ・・・・・・甘いお菓子等を販売しているところは知っていますよ?」

 

べート「ならそれでいい、教えろ」

 

店員「かしこまりました、ええとロキ・ファミリアのべート・ローガさんですよね?なら・・・・・・そうですね、豊穣の女主人のすぐ近くに甘味処が有ります。極東出身の店主とエルフの奥様が経営しています。子供に人気の和菓子と奥様が使う氷魔法のアイスクリームがとても人気となっています。」

 

べート「わかった。」(少しヴァリスを渡す)

 

店員「ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

べート「・・・・・・(おっせぇなぁ・・・・・・。何分待たせんだよ・・・帰るぞ)」(店の前で立ってる)

 

妖夢「べート?」(ちょこんと柱の影から顔を出す)

 

べート「・・・終わったか?ホントテメェら女は着替えが長い・・・例外はバカゾネスの妹位か。ほら、さっさと行くぞ」

 

妖夢「えと、その・・・あのぅ・・・」モジモジ

 

べート「ああ?なんだよ、置いてくぞ?」

 

妖夢「そんな!でも、似合ってるかわからなくて・・・・・・私、お洒落なんてしたこと無くて・・・」

 

べート「知らねぇよ。着たいもん着てりゃいいだろうが」

 

妖夢「それはそうなんですが・・・・・・店員さんが手助けしてくれたのですが・・・」

 

べート「店員が決めたらならそれでいいだろ、行くぞ。ってかハルプの奴はどうした?」

 

妖夢「ハルプは店員に言われる前に着替えましたから、私のセンスのまんまです。今は私の後に居ますよ」(まだ柱の影から顔を出したまま)

 

ベート「そうか、じゃあ先に行ってるぞ。」

 

妖夢「まっ、待ってくださいっ!!」(出てきた)

 

ベート「へぇ?割りと似合ってるじゃねぇかよ。意外とセンスはあるんだな。てっきり戦い意外は出来ねぇのかと思ってたぜ。」

 

妖夢「そんな事ありませんよ!料理とかもできますっ!と言うか前私の煮込み料理食べた筈ですよね?」

 

ベート「煮込み料理・・・?・・・あー・・・悪ぃ、あれは俺が食う前に馬鹿ゾネスに食われた」

 

妖夢「みょーん!なんで早く食べないんですか?ベートは狼さんだからきっとお肉が好きなんだと思って作ったんですが・・・」

 

ベート「んあ?あれ俺の為に作ってたのか?」

 

妖夢「当たり前じゃないですか、だってベートの前にしか置いてないですもん」

 

ベート「いや、流石にそこまでは覚えてねぇが。そりゃ悪かったな。少し癪だが確かに旨そうだった」

 

妖夢「えへへ~お友達に褒められるのは嬉しいですねぇ・・・」

ハルプ『えへへ~』

 

ベート「いや、なんでお前まで照れてんだよ。てか照れてんじゃねぇよガキが。」

 

ハルプ『ガキじゃねーし!スキルとしては2歳だけどっ!』

 

ベート「ガキどころか赤ん坊じゃねぇか!だっはっはは!!コイツは傑作だな!!」

 

ハルプ『うがーー!!!』

 

ベート「しかも服装は適当か?」

 

ハルプ『ちちち、違うもん!妖夢が外服で俺が部屋着を選んだだけだし!』

 

ベート「ぶっ!!違うもん!だってよwマジで赤ん坊だな!」

 

ハルプ『うがーー!!!』(飛びかかる)

妖夢「みょーーーーん!!!」(斬り掛かる)

 

ベート「いやなんでだっ!?」(全回避)

 

ハルプ『うぎゅ!?』(壁に激突)

妖夢「みょん!?」(商品棚を斬る)

 

店員「?!」

 

ベート「あーあ、知らねぇぞ俺は」

 

ハルプ&妖夢「『なんでさ!?』」(同時に振り返る)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖夢「本当にごめんなさい、ベートにばかりお金を使わせてしまって・・・・・・お財布忘れているとは思って無くて・・・。」

ハルプ『ベートと遊べるからってはしゃぎ過ぎて鞄なんか用意した結果お財布を置いてきたんだよ・・・ごめんな?』

 

ベート「別に構いやしねぇよ、特に使う用事もねぇんだ。」

 

ハルプ『うぅ、持つべきものは友だなぁ・・・ありがとうございますベート』

 

ベート「・・・チッ、ダチじゃねえっつてんだろ」

 

ハルプ『ふっ、口ではそう言っていても尻尾の方は・・・・・・なにっ!?少ししか動いていないだとぅ!?』

 

ベート「少しも動いてねぇから!!お前の目ん玉節穴かよ!」

 

ハルプ『魂に向かってなんて口を!目なんかこの形態の時しかないからっ!』

 

ベート「いやそういう問題じゃねぇだろ!・・・あぁ!止めだ止め。テメェ楽しんでやがるな?」

 

ハルプ『ベートと喧嘩するの楽しいぞ!』ニコニコ

妖夢「はい!こうしてじゃれあうのは楽しいです。ポチって呼んでも「良いわけ無いだろうが」・・・ですよねぇー」ショボーン

 

ベート「ほら、着いたぞ。ここが・・・・・・『笑う甘味処』?だってよ。」

 

妖夢「へぇ~面白い名ですね、極東の人ですかね?」

 

ベート「ん、なんでわかったんだ?店主は極東出身らしいが」

 

妖夢「甘味処、なんて極東でしか言いませんよ?こっちでは普通にお菓子屋さんでしたし。」

ハルプ『なんだ、ベートも来たことないのか。』

 

ベート「へぇ。ま、俺もさっきの所の店員に聞いただけだからよ。甘くて旨いものがあるって聞いただけだしな(アイズに教えたら喜ぶだろうか)」(尻尾活動開始)

 

妖夢「尻尾が・・・」

ハルプ『逆流する・・・!!(しません)』

 

ベート「・・・」(尻尾活動停止)

 

ベート「入るぞ」

 

ハルプ&妖夢「『おっー!』」

 

 

 

 

 

ベート「別に内装は極東風って訳でも無いみてぇだな」

妖夢「そうですね、こっちの形式みたいです」

 

店主「いらっしゃいっ!何名さまだい?」

 

ベート「3人だ。」

 

店主「あいよ!ささ、こっちの席に座りな。」

 

妖夢&ハルプ「『はーい!』」

 

ベート「はしゃぐな、ガキか」

 

ハルプ『甘い食べ物のためならばガキになる覚悟だ』

妖夢「もうガキと呼ばれてしまってもいいという覚悟です」

 

ベート「逆に考えろ、もう、ガキだったってな。」

 

ハルプ&妖夢「『うがーー!!!』」(抜刀)

 

ベート「やめろ、帰るぞ」

 

妖夢&ハルプ「『スッ』」(姿勢を伸ばし席に着く)

 

妖夢&ハルプ「何をしているんですか?(『何してんだよベート?』)早く席に着いてください(『早く椅子に座れよ』)マナーがなってませんね(『マナーがなってないな』)

 

ベート「てめぇらぁ・・・・・・!!」

 

店主「はっはっは!いいじゃねえかよ兄さん。子供は活発じゃねぇとなっ!・・・ん?よく見りゃあ戦争遊戯の嬢ちゃんたちかっ!?よく来てくれたな!!」

 

妖夢「っ!!―――。・・・・・・よく来ました。」

ハルプ『きゅ、急に近付くなよ・・・斬りそうになるだろ』

 

店主「お、おぉすまんな。(こわっ、一瞬で刀に手をかけたぞ今・・・・・・)・・・あー、兄さん、がんばれよ。」

 

ベート「・・・・・・はぁ・・・・・・トラウマになってるのか?ああいう奴らの事がよ」

 

妖夢「・・・。」

ハルプ『・・・さぁな。そんな事より早く美味しいものを食べようぜ!』

 

ベート「チッ。わかった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・おっ、これなんていいんじゃねえか?『わらび餅』だってよ」

 

妖夢「ほぅ、なかなかお目が高い・・・美味しいですよ。」

ハルプ『と言うか、美味しくない和菓子なんて珍しいからな』

 

ベート「へぇ。んじゃあ俺はこれで良い。早く決めろよ?」

 

ハルプ『えっとね~、ん!俺これにする!三色団子!』

 

ベート「三色団子か・・・三色ってのは色だよな?わざわざ見た目にまでこだわるのかよ。見た目よりも味だと思うけどな。」

 

ハルプ『ふっ、まだまだだなベート。和菓子とは見た目と味を高い水準・・・それも最高水準で揃えた究極の菓子。・・・・・・その分高い。』

 

ベート「そうか・・・・・・はぁ!?高っけぇ!」

 

妖夢「えっと、・・・じゃあ私はソフトクリームで。・・・安いですし」

 

ベート「あぁ?遠慮はすんじゃねぇ。おっさん!「どうしたよ!」適当に幾つか頼む「おうよ!」」

 

店主「合計で13000ヴァリスだ、少し待ってな!最高の出来をお届けするぜ」

 

妖夢「い、いいんですか?結構な値段になりましたよ?」

ハルプ『俺達は別に構わないけどさ・・・・・・』

 

ベート「テメェら第一級冒険者舐めてんだろ。深層のモンスターなんて1匹殺すだけで幾ら貰えると思ってんだよ」

 

妖夢「うーん、言ったことが無いのでわかりませんが・・・相当な値段なんでしょうね・・・武器とか大変だってゴブニュのおじさん言ってましたし」

ハルプ『でも俺は知ってるぜ?ベートは余り武器壊さないんだろ?なぁなぁ、俺にも教えてくれよ武器を壊さない戦い方。いいだろ?』

 

ベート「うるせぇな。戦い方くらい自分でなんとかしろ。それと俺は武器壊さねぇように手加減とか作戦とか考えて戦ってんだよ。あの馬鹿ゾネス共とは違ってな」

 

ハルプ『ベートって頭脳派なのか?』

 

ベート「んなわけあるか」

 

妖夢「じゃあ犬派ですか?猫派ですか?それとも兎派?」

 

ベート「そりゃ犬か猫だろ。なんでそこに兎を入れたんだよ。1匹だけ草食じゃねえか」

 

妖夢「クスクス、特に理由はないですよ?でも兎って言った時ベート耳がピクッてしましたよ?何かありましたか?例えばアルミラージに手痛い反撃を受けたとか」

 

ベート「・・・・・・チッ。けど!まだテメェには負けねぇからな!。お前は出し惜しみするからな、速攻決めれば勝てる。」

 

ハルプ『ほぅ?その言い方だと長期戦では俺達に分があると?』

 

ベート「あぁそうだよ。分がわりぃ。テメェのスキルは知らねぇが、長期戦に向いてるのは前のオークの時にわかった。」

 

妖夢「ふっふっふ、ですが私には瞬間火力もあって「あいよ!お待ち!」あ!ありがとうございます!」

 

店主「お会計は後で構わないよ。旨いもんをたらふく食って好きなだけ話してからな。」

 

妖夢「はい。そうしますね、ベート私の話は終わってませんよ!私には瞬間火力もあって長距離攻撃手段もあるのですから!」

 

ベート「ん、旨いな・・・」

ハルプ『聞いて上げろよ・・・うましっ』

ベート「なんだようましって」

ハルプ『リーナの・・・あ、リーナって人の口癖?かな?まぁ真似してるんだよ』

ベート「あー、なるほど。ガキだから真似したい年頃か」

 

妖夢「聞いてくださいよ!」

 

ベート「あぁ?知ってんだよお前の戦い方なんてよ。」

 

妖夢「え?なんで知ってるんです?」

 

ベート「模擬戦もあるが戦争遊戯も少し見てたしな・・・・・・手、抜いてただろ。」

 

妖夢「う・・・はい、殺さないよう厳命されましたから」

 

ベート「殺すより酷えことしてたけどな、冒険者としては致命傷なんてレベルじゃねぇぞ」

 

妖夢「ええ、それに関しては私も反省してます・・・・・・せめて逆刃にして全身を砕くべきだったです」

 

ベート「人はそれを反省と呼ばない」

 

ハルプ『えー?ダメか?・・・・・・なら手足だけ潰して』

 

ベート「ガキがいっちょ前に殺しだとかそういう手段を考えてんじゃねぇぞ。お前らみたいな奴に刀持たせるとか危なくて仕方ねぇ」

 

妖夢「むー・・・酷いです」

ハルプ『俺達はガキじゃねー。今何歳か知らないけどもしかしたらベートより歳上だからな!?俺らの種族は外見からの年齢凄いわかりづらいけど』

 

ベート「おう、2歳だろ?」

 

ハルプ『うがーー!!!もう直ぐ3歳じゃボケー!!』(ベートの前にある和菓子を奪う)

 

ベート「ハハハ!キレるとこそこかよっ!って!てめっ!それは反則だろ!」

 

ハルプ『勝てばよかろうなのだぁぁあああ!』モグモグ

 

ベート「それ俺の食いかけだからな!?」

 

ハルプ『友達、良いヤツ、気にしない』ガシャンガシャン

 

ベート「なんで片言なんだよ!」

 

妖夢「全く、何を、しているんですか、お茶が、冷めてしまいます、よ」ウィーン、ガション、ウィーン、カシャン

 

ベート「お前もかよっ!?」

 

 

ベート「一旦落ち着くか」

妖夢「そうですね」ハルプ『うん』

 

ベート「ふ~。甘いもんは余り食ってこなかったが・・・なかなか旨いじゃねぇか」

 

妖夢「当たり前ですよ、甘い物は美味しい。これは世界の定義です」

ハルプ『そんでもって俺らの燃料です、やる気のな』

 

ベート「まぁもうしばらく甘い物はいらねぇや。もっと肉が食いてぇ」

 

ハルプ『前に作ってやったのに』

 

ベート「そうだな、じゃあ・・・・・・またくれよ」

 

妖夢「?」

 

ベート「またお前らの料理、作れよ。あれは悔しかったからな。あの時より旨くつくれよ?あの馬鹿ゾネスに自慢してやる」

 

妖夢「(え、誰やねん)」

ハルプ『(知らん人だろ)』

 

ベート「・・・・・・・・・テメェら・・・俺が折角たまには優しくしてやろうかなんてくだらねぇ事考えたのによぉ・・・!もうわかった、テメェらには一片たりとも優しくなんてしねぇからな。」

 

ハルプ『よかった・・・甘い物食べたせいで思考まで甘くなってしまったのかと・・・』

妖夢「病院の手配はしなくてすみそうですね」

 

ベート「よし殺す。ぜってぇ殺す!!」ガタッ

 

ハルプ『逃げるぞ!』妖夢「了解!」ガタッ

 

店主「お、おいおい、おだいを払っておくれ」

 

ベート「あぁ!?・・・・・・チッほらよ。」店主「毎度ありー!」

 

ベート「あんにゃろう・・・もういねぇじゃねえか!!」

 

ハルプ『じゃじゃーーん!!!』(唐突に後ろから現れ背中にぶら下がる。)

 

ベート「ぬぉ!?くそっ離れろ・・・!」

 

妖夢「とうっ!」(外から走ってきてお腹にヘットダイビング)

 

ベート「ぐはっ!」

 

妖夢「ふっ、我らに敵う者はなしっ!」

ハルプ『アサシンと思ったうぬが不覚よ』

妖夢&ハルプ『「正面から!正々堂々不意打ちだ(です)!」』

 

ベート「がっつり後ろから不意打ちしただろハルプっ!!」

 

ハルプ『私はスキルなのでカウントしませんよっ?』(目を瞑る事で妖夢の真似)

 

ベート「いやわかるからな?!」

 

ハルプ『えっ!?なんでわかるんだ!?』

 

ベート「いや服装考えろよ!!わからないわけねぇだろ!?」

 

ハルプ『はっ!』妖夢「これは盲点でした!?」

ハルプ『いつも同じ服の弊害がこんなところで・・・』

 

ベート「やっぱり馬鹿だよな!!お前ら馬鹿だ!」

 

妖夢「むー!馬鹿って言った方が馬鹿なんですよバーカ!」 ハルプ『アホー!ドジ!マヌケ!犬!』

 

ベート「てめぇらの方がよっぽどガキじゃねぇか!それと犬じゃねえ!狼だ!」

 

ハルプ『じゃあ耳触らせてくれ!』

 

ベート「じゃあってなんだよじゃあって。」

 

妖夢「お願いします!」ハルプ『お願い!』(目をギュッと瞑り祈る様に両手を組んで頼み込む)

 

ベート「・・・話が噛み合ってねぇじゃん・・・・・・・・・・・・・・・チッ・・・・・・少しだけな(これだからガキの世話は大変なんだ)」

 

ハルプ『ぇ・・・・・・』妖夢「う、うそ・・・・・・」

 

ハルプ&妖夢『「うぅ~~~・・・・・・やったぁーーーー!!!」』

 

妖夢&ハルプ「『妖夢さん!ハルプさん!大勝利~~!!』」(桜セイバーの真似)

 

 

~少女モフモフ中」~

 

ベート「くっ・・・やめっ・・・くすぐってぇ!ちょ!も、もういいだろ!?そろそろやめろ!」

 

妖夢&ハルプ『「嫌です(迫真)」』

 

妖夢「しっぽ!尻尾ふわふわ!」

ハルプ『お耳ふわふわ!』

 

ベート「やめっ、止めろぉーーーー!」

 

ハルプ&妖夢「『この後めちゃくちゃモフモフしたっ!!』」

 




妖夢

【挿絵表示】


ハルプ

【挿絵表示】



ふっ、本当は服の色とか地の文で入れたかったけど色盲なので一体何色なのかわからないという現実。シフシフの目に万能薬はよ。

ちなみにトレース元は両方ともセイバーさん。背景は適当にGoogle先生が見つけてくれたものを使用。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

42話「はっ!全身全霊で頑張ります!」

42話ですー。始めは少しギャグ。その後はずっとシリアス?

そして、アリッサさんの掘り下げ回。こんな感じのイメージだけど平気なのかな?と少し心配。


青の薬舗にて、ヘスティアはベル救出部隊を編成すべく動いていた。集まったのは・・・・・・意外にもヘルメスとその団長アスフィだけだった。

 

「レベル2が1人だけ・・・・・・こんなことを言うのは君に失礼なのはわかってるけど、少し心許ない・・・・・・どうにかならないのかい?」

 

ヘスティアはベルとそのサーポーターであるリリを思い、顔色を悪くする。不安ではあるが、与えた神の恩恵が未だベルが生きているとヘスティアに教えてくれる。だからこそいつこの反応が消えてしまうか気が気でなかった。

 

「大丈夫だよヘスティア。実は頼もしい助っ人を呼んでるんだ。」

 

今は来てないけどね。そうヘルメスが続けたが、ヘスティアの顔色が優れることは無い。今すぐ助けに行ってもらいたいのだろう、ヘルメスもそのつもりだ、と言うよりも、ヘルメスも行くつもりである。これはアスフィも知らない事だが。

 

「じゃ、じゃあ作戦とか教えておくれよ!じゃないと僕は不安で・・・・・・」

「作戦も何も、ダンジョン潜って探して助ける。それだけだろう?」

「それは・・・そうだけど・・・」

 

ヘスティアが項垂れる。作戦、そんなものこんな人数で出来るわけがなかった。助っ人なんて1人か2人だろう。どこにいるかわからないベル達をその人数で探す?絶望的じゃないか。とヘスティアは内心愚痴る。

 

「それじゃあ、俺達は「失礼しますっ!!」あがっ!?」

「ふぇっ!?」

 

薬舗を出ようとしたヘルメスがドアノブに手を掛けたその時、やけに焦った声と共に勢いよく開かれた扉がヘルメスの顔を殴りつけた。

なぜだ、とヘルメスは思った。この扉は外から押して開く物ではない。外から入るためにはドアを引っ張って開ける必要があるはずなのに、なぜ俺が顔をやられるんだ・・・。ヘルメスがピクピクと痙攣する中、扉を持った妖夢が慌ててそれを壁に立て掛ける。

 

「と、取れてしまいました・・・・・・ってそんなことよりも!」

 

ガバッ!と凄まじい勢いで妖夢は接近しヘスティアの前に進むと残像が残るのではと思う程の速度で土下座した。

 

「すみませんでしたッ!!」

「こ!これは!タケミカヅチ秘伝の『土下座』!?」

「今回の件は全部私の責任なんです!!私があの時ついて行っていればきっと・・・!何事もなく・・・っ!!」

 

妖夢の懺悔に、ヘスティアは身に纏う雰囲気をガラリと変える。子供をあやす慈愛の女神から、子供を叱る慈愛の女神へと。

 

「なにが、あったのかな?僕にも教えてくれると嬉しいよ妖夢君」

「はい・・・」

 

妖夢は涙目で語り出す。

 

曰く、こういう事が起こるのは予想していた、しかし、想定とは状況が異なっており、こうなったのは自分が彼らについていなかったせいなのだ。

 

曰く、未然に防ぐ手立てはいくらでもあった。けれど、ロキと遊ぶという事に目を囚われ、それを見過ごした。

 

だから、無償で救出に参加する。全力で探し回るので信じて欲しい。

 

それが土下座しながら妖夢が語った事だ。神は「嘘がわかる」だからこそ、妖夢が嘘などを一切ついていないことがわかってしまった。

 

「聞きたい事は山ほどある・・・・・・でもありがとう妖夢君。これだけ戦力がいれば・・・救出出来るはずだよ。君には期待してるよ妖夢君!」

「はっ!全身全霊で頑張ります!」

 

ヘスティアが土下座している妖夢の頭をポンポンと叩く。その表情はまさに女神であった。そしてそれを差し置いてコソコソと話すヘルメス達は肩をつかまれる。

 

「なぁ、ヘスティア。悪いが・・・・・・俺もついて行かせてもらうぞ。こいつを放っておく訳にはいかないと武神の感が言ってる」

「は、はは何のことかな?」

「とぼけるのか?いま「俺も潜る」って言ってたよな?」

「それは本当かい!?なら僕も連れていけ!」

 

肩をつかまれ動けないヘルメスに大きな胸を揺らしながらヘスティアが駆け寄り掴みかかる。ヘルメスが大きく溜息をついた。

 

「わかった・・・・・・けど、ギルドにバレたら終わりだという事を理解しといてくれよ?」

「わかっている。それに、お前達を守る位なら俺にも出来る」「わかってるさっ!・・・そうだね、タケがいれば戦力的にも安心できるよ!」

 

おう、と返事をしたタケミカヅチはアスフィを中心に話し合いをする妖夢の元に向かう。そして、後ろからその頭にポンと手を乗せる。

 

「妖夢、お前だけのせいじゃないぞ。大丈夫だ、アイツらはまだ死んでない。俺の与えた家族の証(ファルナ)は消えちゃいないからな。・・・安心しろ。」

 

そう言ってタケミカヅチは妖夢を抱き締める。妖夢は目を見開いた後、抱きしめ返した。しばらくそうした後、タケミカヅチは体を離し、妖夢の目をまっすぐ見つめる。

 

「・・・よし、いい目だ。・・・行くぞ。」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン中層、十五階層。俺達はそこを神の体力に合わせて進んでいた。

 

「リーナは後衛として俺の後ろに行け!ダリルは遊撃!妖夢は前衛を努めるんだ!猿師無理はするな、ヘスティアの護衛を努めろ!【万能者】は自分のスタイルで戦闘を行なえ!そして・・・・・・アンタも遊撃だ!」

「はい!」「了解でごザル!」「おうよ!」「はーい」「・・・」

 

軍神でもあるタケの素早い指揮が俺達に向かって飛んでくる。体が素早く反応し、前衛として機能する。ミノタウロスの攻撃を大刀で滑らせ、そのまま首を跳ねる。よし。

 

ダリルが火の粉を散らしながら壁や天井を蹴り加速、ヘルハウンドの群れを蹴散らす。

 

「【千差万別魔の嵐。月。火。水。木。金。土。日。雷。風。光。闇。毒。酸。何が当たるか知る由もなく。引かれた線の導くままに】――よしっ。いいの引いたよ~『阿弥陀籤』っ!!」

 

ダンジョンの壁や床が生きているようにうねり、ガバッ!と上にいたハードアーマードを取り込む。そしてゴキッバキッゴリッ・・・・・・と粉々に粉砕した。『土』を引いたようだ。

 

「・・・・・・フッ!」

「ぎゅういいいいいぁ?!」

 

緑色のフードで顔を隠す正体不明の冒険者、そうリュ・・・・・・謎のエルフ戦士Rさんだ。小さく息を吐き、木刀を振るう、するとアルミラージが半分になった。・・・・・・まさかここまで太刀筋が綺麗とは思はなかった。

 

「あ、圧倒的だね・・・・・・、これが上級冒険者か・・・・・・」

「ふっ、嘗めるなよ。妖夢を見てみろ。必要最低限の動作で即死の一撃を正確に決める、もう教えることなんてほとんど無いなぁ。少し悲しいぞ。」

 

タケの言葉にヘスティアが乾いた笑いをあげてテクテクと俺の後ろを歩く。ちなみに神達はローブを着込み、傍から見てもわからないように偽装している。

 

飛びかかってきたアルミラージを貫手で貫き、魔石を破壊する。

 

ヘルメスとヘスティアがドン引きしてる気がするけど気のせいだろう。だってタケだって同じことしてるし。・・・あれ?これってタケの方に引いてるのかな?・・・まぁいい、どんどん進んでいこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

17階層。そこには『嘆きの大壁』と呼ばれる巨大な壁が存在する。それは唯一『ゴライアス』を生み出す特別な場所だ。

 

桜花達が17階層に足を踏み入れた。

 

壁は静かに佇む。

 

ゴクリと息を飲んだ桜花達は急いで移動を開始した。大丈夫、そう自分に言い聞かせて。

 

ざっ、ざっ、ざっ、。

 

重々しい足音だけがその巨大なルームに響く。不自然なほどの静かさは最早慣れたものだ。静かになれば何かが起こる、ここ数時間で学んだダンジョンの悪意。

 

「命・・・ふたりを頼む。」

「はい」

 

パラパラ、パラパラパラパラ。

 

二人の声に反応したのか、それともルームの中央付近まで来る事を待っていたのか、一切の凹凸のない嘆きの大璧が壊れ始める。ヒビが入っていく、桜花はその奥に人の形を見た。人にしては余りに大きすぎる影を。

 

「・・・行けぇ!!」

 

桜花が叫ぶ。命がヴェルフとリリルカを抱え歩き出す。ベルとクルメもそれに続いた。

 

「私も残ります団長」

「アリッサ?!」

「私は盾だ。ならば守るまで。団長貴方はファミリアの要。失う訳にはいかないでしょう。・・・・・・誓います、この身に変えても守り抜くと」

「・・・・・・あいつらが逃げる時間を稼ぐだけでいい・・・そうしたら逃げるぞ。それと自分の体は大切にしとけ。」

「・・・了解。」

 

ボロボロの2人が武器を構える。

 

「―――ォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

大地を揺るがす咆哮をあげ、壁を破壊しゴライアスが飛び出してくる。全長七mにも及ぶその巨体は飛び出すと同時に殴りかかってくる。推定3~4レベルの巨人の一撃。まともに喰らえば即死、掠れば瀕死。

 

「ぁぁぁあああっ!!」

 

しかし。それを受け止める。踵が地面にめり込み、衝撃を後ろに逃がした為に後ろの地面が吹き飛ぶ。既に横に移動していた桜花が針槐でゴライアスの足を思い切り斬り払う。

 

アリッサは力任せのゴライアスの一撃を足を踏ん張り耐える。桜花は少しでも移動力を無くすために足に集中的な攻撃を加える。

 

「ぉぉおおおおっ!!」

「ゴァ――――――ァァアっ!!!」

 

雄々しい雄叫びと共に桜花の連撃がゴライアスの右足に集中的に突き刺さり、その痛みにゴライアスは咆哮し怒りを表す。そして連撃が襲いかかる。右、左、右、左。丸太よりも太い腕が何度も何度も振り下ろされる。ジグザグに退り、何とか躱し切る桜花。

振り下ろされた拳で大地が割れ、破片は巨岩となって襲い来る。その速度は大したものでないが、その質量故に当たればタダでは済まない。

 

「無駄だあああ!!」

 

アリッサの叫びと共に起きたのは金属音と破裂音。飛来した岩にその盾を振り抜き、岩を破壊して見せた。

桜花が素早く後方を行く命達を確認する。・・・・・・もうすぐで18階層に行けそうだった。

 

「撤退するぞ!!」

「・・・ぐっ!了解!」

 

撤退を開始した桜花達だが、ゴライアスが攻撃してこないことに気が付いた。ラッキーと思うことにした桜花だが、極度の疲労が、緊張が解けた油断が、目標を目の前にした安心感が、その予兆を見逃させた。

 

「ォォオオオオオオオアアアアッッ!!!!」

「なっ」

 

跳躍。七mを越える巨体が、宙に浮く。振り向く桜花だったが、あまりに遅すぎた。慣性、重力、速度、筋力、重心を利用した正に一撃必殺。当たれば肉片すら残らないかもしれない。

 

だが―――「【―――すべてを守らんと決意する。故に、我こそは】」

 

詠唱は完了していた。

 

 

「『唯一無二の盾(デア・シールド)』ッ!!!!」

 

アリッサの体が光り輝く。それはステイタスの更新の際に発生するそれと類似していた。『耐久』と『力』のステイタスが一時的に倍増する。

スキル『鎧身壱色(がいしんいっしょく)』によって鎧の重量分だけ耐久と力を増加させ、『守護盾堅牢(ガーディアン・ウォール)』が仲間を守る為にと耐久を大幅に上昇させる。

 

警戒を怠らず、守ると誓った桜花を警護し続けたアリッサは見事最適なタイミングで魔法を発動させた。

 

今、この瞬間だけは、彼女の耐久力はレベル4すら越える。

 

「ぐぅううううぅうう!!!!」

 

受け止める。巨人(ゴライアス)が誇る最大の一撃を、小さな体躯の騎士が。

 

「―!?」

 

ゴライアスの目が驚愕に見開かれた。拳を引き、再び殴りかかろうと構える。アリッサは肩をダラリと垂らし肩で息をしていた。もう二発目は防げないだろう。モンスターとしての本能が目の前の獲物の限界を知らせていた。

 

「ゴアァアアアアア!!!!!」

 

振り下ろされる豪腕。舞い上がる土煙。そして、静寂。ゴライアスは勝利を確信した。また1人、新たなる冒険者を打ち潰したのだ、ならば入口を睨み再び獲物がやってくるのを待とう、と土煙から背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は騎士(ヒーロー)になりたかった。弱きを助け強きをくじく、そんな騎士(ヒーロー)に。

 

私の名はアリッサ・ハレヘヴァング。何処にでもいる夢見る1人の人間だ。

 

身体はある時から成長を止め、150前後からは本当に止まってしまった。私の夢見る騎士(ヒーロー)とは背が高く、大きな盾と強力な武器、そして頑丈な鎧で人々を守り、モンスターを倒す。そんな人物。

 

身長が伸びない事は残念に思うが、それでもこの夢を諦めることはできなかった。

 

私は田舎者だった。英雄譚に出てくる騎士(ヒーロー)に憧れ父に作って貰った木刀を振る毎日。小さな頃の私はそれで本当に騎士(ヒーロー)になれると思っていたのだから、可笑しな話だろう。だが、そんな時、私は田舎にやって来た冒険者から神の恩恵について学んだのだ。

 

神の恩恵・・・それがあれば私は強くなれる。魔物から人を守る騎士(ヒーロー)に。

 

そこからの決断は速かった。私は父に無理を言って村を飛び出した、僅かなヴァリスと愛用の木刀を持って。その時の私はまだ12そこら。小生意気な夢を語る小娘でしかなかったのだろう、相手にする神など居なかった。

 

けれど、路頭に迷う私を拾ってくれた神がいた。名前をエロース。

彼は「仕方ないな、なら私のファミリア(エロース・ファミリア)に来るといい。入るかどうかは君しだいだけどね。」と優しく笑いかけ、手を差し伸べてくれた。その一瞬は未だに忘れることはないだろう。

 

エロース・ファミリアに入団する事になった私はエロース様の言いつけをしっかりと守る事を誓った。・・・幼稚な騎士の誓約、の、真似事ではあったが、エロース様は真剣な顔で頷き幼い私に付き合ってくれたのだ。

 

しばらくファミリアでの生活を楽しんだ。冒険者になった実感はまだ沸かなかったが、冒険者相手に組手を行うのは楽しかったのだ。

 

そして、私は騎士(ヒーロー)に出会った。

 

その人は硬く大きな鎧を着込み、巨大な大剣をなんと2本も同時に扱う巨漢だった。もちろん場合によっては大きな盾も装備した。

 

キュクロ・ギルバートそれが私の出会った騎士(ヒーロー)の名だ。

 

私がサポーターとして遠征に付いていくことになった時、二十二階層で遠征隊は極度の混乱に陥った。陣地の制作中にモンスターに襲撃されたのだ。

しかし、死者は0。私はただ怯えて盾を構える事しかできなかった、けれども騎士(キュクロ)は違った、大きな大剣を振り回しモンスター達を蹴散らしていった、私が狙われた時はその鎧を使い攻撃を防いでくれた、デッドリーホーネットの毒針を大剣で弾き、接近して倒した後、怯え動けない私に手を差し伸べてくれた。そして

 

「よく耐えたな、偉いぞ」

 

と低い声で不器用に私の頭を撫でたのだ。

 

これは、私の人生を大きく変えた転機なのだろう、と今なら思う。あの時、あの瞬間に私は誓ったのだ。

 

『人を守れる力強い騎士になろう』と漠然としていた目標が絞られた。毎日ダンジョンに潜った、毎日怪我をし、毎日木刀を振るった。ヘトヘトになって帰ってくると、何時もエロス様とキュクロ団長が待っていてくれた。

 

だからこそ私は7年もの間ダンジョンに殆ど毎日潜り続けていたのだろう。ヒーロー(キュクロ)に追い付くために、彼らを守れるようになるために。

 

・・・・・・けれど、現実は非情だった。私が18階層にあるリヴィラから、ある年からホームに戻ってもエロスはステイタスの更新以外であまり私と話さなくなった、団長も物悲しげに私の肩に手を置くだけだった。

 

なぜ?

 

その頃の私はそれを疑問に思いながらも、私のいない間に何か良くないことが起き、それのせいでエロス様がへそを曲げてしまったのだろうと解釈した。そしてその様な事態がこれ以上起きないようにより一層鍛錬を積もうと。

 

レベル2になっても私は呑気にダンジョンへ潜り続けた。知らないファミリアの人達と臨時のパーティーを組み、誰も死なせなかった事から【全身甲冑の守護騎士(フルメタル・ガーディアン)】と言う二つ名を授かった。ほかの冒険者と比べるとシンプルな物で少し期待はずれだったが、『守護騎士』と言う単語は私にピッタリだと思った。

 

気分を良くした私はダンジョンに潜り続けた。人を守り続けた。

 

けれど、・・・・・・・・・恩人(神)たちは(キュクロ、エロス)守れなかった。

 

戦争遊戯が始まったのだ。

 

けれど、私はその戦争に参加していなかった。なぜならばダンジョンに潜っていたから。上の情報など、やって来る冒険者がもたらすものしか知りえなかったのだから。

 

そして、私が戦争遊戯の事を知ったのは戦争遊戯が始まった後だった。戦争遊戯中はほとんどの冒険者がダンジョンから出てそれを見ていたからだ。守るパーティーが居なければ私も地上に出るしかなかった。

 

しかし、私が参戦したからと言って守れたのか?と聞かれれば答えは不可能と言うしか無い。あれ(妖夢)は無理だ。守る守らないの領域じゃない。防げない攻撃からどう守るというのか。

 

私が守れなかったのは『ファミリア』その物だ。

 

私は、私の目を、耳を、そして頭を疑った。恩神(エロス)ヒーロー(キュクロ)が妖夢を手に入れるために色々やったのだ、と隣で観戦していたパルゥムに聞いたからだ。妖夢相手に戦うファミリアを見てしまったからだ。

 

そして、ヒーロー(キュクロ)が壮絶な戦いの末妖夢に敗れた時、私は居ても立っても居られずにギルドに駆け出した。

 

ギルド職員に私がエロス・ファミリアでダンジョンに潜っていて何が起きているのか詳細を知らない事を明かした。するとギルドはエロス・ファミリアの詳細を私に教えてくれた。それは最近になって露見した情報らしく、神ヘルメスが集めたらしい。

 

曰く、エロス・ファミリアは数年前からオラリオ郊外より幼気な少女を『購入』し、様々な行為に及んでいた(・・)

 

曰く、その少女達は極一部しか確認出来なかった。それも全てが15、16歳以下の年齢だった。

 

曰く、ファミリアには巧妙に入口を隠された地下に続く扉があった。中には血が付き乾いた壁や床があった。

 

曰く、今回はそれが更にエスカレートした結果で、他ファミリアの少女を攫い、妖夢を手に入れるための餌とし、それでも足りないと踏んだのかギルド職員にすら手を出した。

 

出てきたのはヒーロー(キュクロ)の英雄譚等ではなく、大罪人(キュクロ)の犯罪歴。

 

信じられなかった。私と過ごした日々は?なぜ私の頭を撫でてくれたのか・・・・・・何もわからなくなってしまった。唐突に目標を失った私は深い怒りをおぼえた。

 

理解してしまったのだ。私は欺かれていたのだと、違和感は覚えていた、ダンジョンから数ヶ月ぶりにホームに戻る度、女の団員が他のファミリアにコンバージョンしてしまっていたのだ。

 

それでも私は・・・・・・目を背けた。私の中の英雄(ヒーロー)はキュクロ団長で、私の中の恩神(エロス)は誰よりも優しい神だったのだから。

 

だが、いや、だからこそ。私は怒ったのだろう。目を背け、現状を変えようと動かなかった私に。

 

戦争遊戯が終わって、私はすぐ様キュクロ団長の元に向かった。そして問いただしたのだ、なぜ、と。顔の半分を包帯で隠し、片腕と両足を失ったキュクロ団長は静かに答えてくれた。

 

「・・・・・・自分にとっての誓いとは、永遠の忠誠を示し、剣として盾としてエロス様の為に戦う事だった。

だがな、自分はそれを守れなかった。ずっと昔から守れていなかったのだ。・・・忠義の騎士、忠を尽くす戦士。そう言われることを誉れとし生きてきた。全てはエロス様のため、全てはファミリアの為に・・・などと。」

 

聞きたくはなかった。けれど聞かなくてはならないだろう。だから、ガントレットが凹むほど拳を握りこみだまって聞いた。

 

「自分はな、殺して来たのだよ。『不要』となった少女達をな。エロス様と他の大多数の団員達が蹂躙の限りを尽くした哀れな者を【ファミリアの為に】と殺して来たのだ。

事が露見すればエロスの名は地に落ちる。それはならぬと『正義』を『忠義』で押し殺し、『心』を『理性』で包み込んでな。

俺は、忠義の騎士でも、忠を尽くす戦士でもなかった。病入膏肓(エロス・ファミリア)を隠し通そうとする哀れな大罪人でしかなかった。」

 

団長が憑き物がとれたような顔で片目から涙を流しながら語る。私はそれを聞き、動けなかった。

 

 

私は・・・・・・・・・・・・何も・・・・・・守る事など出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・サ・・・・・・リッサ!・・・・・・アリッサ!!」

 

・・・桜花・・・・・・団長・・・???

団長・・・?・・・・・・・・・そうか、私は・・・タケミカヅチ・ファミリアに・・・・・・。

 

全てを、私が、償わなくては。

 

――――誓いを、此処に。







ハルプ『さーてさて?今回もやっていきましょー!今回はこの人!アリッサ!』
アリッサ「アリッサ・ハレヘヴァングだ。よろしく頼む。」
ハルプ『おう!よろしくな!・・・・・・なんだか初めてまともな人な気がするぜ?』
アリッサ「それは・・・・・・褒め言葉として受け取っておこう。よろしく頼む。」
ハルプ『うん!』




アリッサ・ハレヘヴァング

二つ名全身甲冑の守護騎士《フルメタル・ガーディアン》

ステイタス

力A
耐久S
敏捷C
器用C
魔力G

発展アビリティ
【敵愾心集中】D
・敵対した対象に狙われやすくなる。

スキル

『鎧身壱色』(がいしんいっしょく)
・鎧適正。
・鎧の重量の分だけ筋力を増加する
・鎧の重量分の数値、耐久を増加させる。

闇力(ダークパワー)

・絶望的な破壊力も誇る破壊力を持つことになった
・破壊力ばつ牛ン
・闇属性エンチャントを付与できる。
・任意発動

守護盾堅牢(ガーディアン・ウォール)
・味方と認識した者の耐久力を向上させる。
・広範囲または高威力の攻撃に味方が狙われた時自身の耐久力を大幅に向上させ、敏捷値も増加する。

【魔法】

『唯一無二の盾』(デア・シールド)

【闇と光よ我が剣に集え。騎士はその剣を真紅の空へと掲げ、すべてを守らんと決意する。故に、我こそは】

・耐久力の倍増。
・筋力の倍増。

『誓約《ゲッシュ》』

【誓いを此処に。
我が魂に刻むは、呪い。
祖は誓約、破らぬ限り、力と為りし呪いなり。
されど誓約破りし時、破滅の呪いが降り掛からん。
我が刻む誓いは『―――――』なり。
此処に誓約は成された。】

・長文呪術
・『』の内側が誓約の内容
・契約の内容に沿った効果を得る。
・魔力のステイタスが高ければ高いほど誓約の融通が効く。



ハルプ『硬ったあああああああああああああい!説明不要!俺よりもレベル低いのに俺より固くなる・・・ずるい』
アリッサ「すまない。」
ハルプ『ぐっ・・・!素直に謝られると何も言えない・・・!』
アリッサ「すまない。」
ハルプ『お前はすまないさんか!・・・ん?ダークパワー?・・・・・・唯一無二の盾・・・・・・ブロントさんじゃね(小声)?』


――――――――――――――――


という訳でいかがでしたか?コメント、誤字報告待ってます。・・・支援絵とか描いて欲しいな(小声)載せていいなら載せたいな(願望)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

43話「複合剣術―――天翔光龍十閃」

スマホで執筆をしていたシフシフはスマホが直るまで執筆をできなかった。しかし、こういう時のためのストックなのです( ー`дー´)キリッ

前半ギャグ、後半シリアス?

ダンジョン「ゆけっ!ゴライアスよ!あの銀髪を倒すんだ!」




知らない天井だ。僕はそんな事を思いながら、瞬きを繰り返す。・・・布地なんだ・・・テントの中なのかもしれない。

 

意識もはっきりとし始めた頃で・・・・・・

 

「リリ!?ヴェルフ!?~~~~~~~~~!?」

 

ふたりが無事なのかを確認しようと飛び跳ねようとして悶絶する。腕や足、腹や腰など、痛めつけた場所は多くて悶え苦しむ。きっと今ほかの人が僕を見たら芋虫みたいだと思うに違いない。

 

「大丈夫?」

 

ぇ―――今の声って――。いやいや、まさか。遂に僕は幻聴まで聞こえ始めたのか。

声のする方に頭を向け、目を開く。そこにはちょこんと僕の頭の横に座っている金髪の美少女。

 

「あ、あわ、あわわ!?」

「・・・・・・・・・大丈夫?」

 

見られてた。芋虫みたいなのが見られてた!?本物だよね!?アイズ・ヴァレンシュタインさんに見られてたよ!?幻覚であってくださいっ!!

 

「どど、どうしてここに・・・?」

 

冷静さを取り戻すべく頬を殴り、アイズさんに震える声で尋ねる。

 

「遠征の帰り。・・・ここ十八階層に留まってた。」

 

シャキン、とじゃが丸君を取り出したアイズさん。やっぱり天然なんだな。と思った僕は悪くないはずだ。差し出されたじゃが丸君を受け取り、そんな可愛らしい姿をどきどきしながら見つめる。首をかしげるアイズさんを見て、僕は思い出した。

 

「―っ!?リリ達は!?桜花さん達は何処に!?」

 

立ち上がり――立ち上がろうとして手をついた僕の手は、命令に従わずに力無く折れる。もちろん関節のとおりに。「うわっ」と声を上げながら前に倒れ込む。

 

「うぷっ」

 

僕を受け止めたのはアイズさんの胸。よかった胸当て着けてて。つけてなかったら僕はきっとロキ・ファミリアにフルボッコにされた後ゴライアスの口に放り込まれるに違いない・・・・・・って良い訳ないだろ!?

 

「ゴメンナサイッッ!!」

 

妖夢さんの1振り位の速さをイメージして仰け反る。もちろんの事身体は痛い、でもそれよりも僕は命を優先した。

ふざけんな馬鹿野郎死にたいのか!と抗議するように身体は痛み、仰け反った体を支えるだけの力が無くて後頭部を強打する。人生山あり谷ありと言うことばが有るらしいけど・・・・・・。僕の【幸運】って機能してるのかな・・・。

 

「~~~!ん?」

 

好きな人に情けない姿を晒しながら、髪の毛の先に触れた感触に違和感を覚えて我慢しながら体を起こす。そして後ろを向くとヴェルフとリリが寝かされていた。

 

「リリ!?ヴェルフ!!」

「リヴェリア達が治療してくれたから・・・大丈夫。でも・・・君の怪我も大変だったよ・・・?」

 

安定した呼吸と殆ど治っている怪我に安心して、ほっと一息ついていると「平気?」と僕の前髪をかき分け僕の頭に巻かれていた包帯をなでる。僕は全身を真っ赤に染めながら思考がショートした。

 

そのまま見つめあってるよりも外に出た方が良いと思う。リリ達はちゃんと寝かせてあげたいから。この場を切り抜ける為の言い訳に仲間を使った僕はアイズさんに連れられてテントの外に出た。

 

「わっ・・・・・・」

「フィン・・・・・・団長に、連絡するように言われてるから、ついてきて」

「はっ、はい!」

 

視界に広がる大規模な野営陣地。開けた森の1角のような場所に天幕が設置され、中心に空間を作っている。

そこにいる冒険者達は皆鋭く強い光を放つ武具を身につけていて、やっぱりロキ・ファミリアは凄いと僕は再認識させられた。

 

「―――」

「チッ」

 

・・・・・・僕に突き刺さる視線が痛い。なんていうか敵意を感じる。・・・やっぱりアイズさんに看病されていたのが原因なのだろうか・・・それともさっきのが見られていたのか・・・。

 

現実逃避に上を見上げる。暖かな木漏れ日が差し込むこの場所に僕は酷く戸惑った。太陽が有るのかも、なんて考えてしまう。

 

困惑する僕を見て何を思ったのかアイズさんはこちらをじっと見たあと

 

「・・・・・・寄り道、する?」

「え、あ、はい!・・・え?は、はい。」

 

咄嗟に返事をしてしまったけど良いのかな?進路を変えて野営地から離れていく。

 

ダンジョンの中に『森』がある。その事に驚きながらキョロキョロとあたりを見渡しアイズさんに続く。すると更に驚く物に遭遇した。

 

水晶だ。足元に生える小さな物からまるでミノタウロスが使っていた大剣の様な大きさのもの。それよりもさらに大きな物までもある。色んな形の水晶が森のあちこちから生えていた。

 

さらに進むとそこには。

 

「・・・凄い」

 

そこには地上なのかと見間違えるほどの大草原。視線を移せば湖が。

 

「上のも、全部クリスタル。・・・・・・時間がたつと光は消えて、夜もやってくる・・・。」

「と言うことは・・・今は朝?昼?」

「ん・・・・・・朝?・・・・・・お腹は・・・お昼。」

 

え、えと・・・・・・今は、昼らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十七階層。俺達は遂にそこに到達した。そして、目の前にそびえるのは一体の巨人。

 

「ォォオオオオ!!」

 

雄叫びを上げ、拳を打ち鳴らす。階層主に相応しき威圧感を持っている。

 

「ほぇ~。あれがゴライアスですか・・・・・・生で見るのは初めてですね」

「ああそうだな、俺も初めて見る。」

 

ゴライアスをタケと眺め、若干現実逃避しながらそんなことを言っていると、ゴライアスが飛びかかってきた。おお!まさに必殺の一撃ってところかな?・・・・・・・・・地面についてる少量の血が皆の物であるなら・・・容赦なんてしないぜ?いや、訂正しようか、元から容赦なんてするつもりもない!

 

「ゴォオオオオオオオオオオ!!!アアアッ!!!」

 

野太い気迫と共に放たれた一撃。皆が回避に徹する中。俺だけは全く動かない。

 

「ちょ!タケミカヅチっ!早く逃げる様に言うんだ!」

 

ヘルメスが焦ったようにタケに警告する中、俺は腰に回した白楼剣に手をかける。俺は思ったわけだ、零閃十機編隊と天翔龍閃を合体させたら最強なんじゃないかと。だってさ、光に近い速度の斬撃が後出しで放たれた後、発生する真空領域やら何やらで掃除機のように相手を吸い込み、そこにまた光速に近い斬撃が打ち込まれ・・・の繰り返しで相手をサイコロステーキに変えられる・・・・・・と思ったんですよ俺は。うーん、名前どうするか・・・・・・天翔光龍十閃・・・?天翔龍零閃十機編隊?まぁ前者で行こう

 

「複合剣術―――――【天翔光龍十閃(あまかけるこうりゅうのとうせん)】ッ!!」

 

迫る腕が刃の届く距離に入る前に左足を前に踏み出し、抜刀とほぼ同時にゴライアスの握りこまれた手の指が全て吹き飛ぶ。抜刀と殆ど変わらない速度で納刀。抜刀により弾かれた空気が真空領域を作り出す、ゴライアス本体には効果が薄いが吹き飛んだ指が吸い込まれ俺の後方に飛んでいく。【集中】が発動しているようでスローモーションの世界の中、痛みに目をゆっくりと見開くゴライアスに二回目の抜刀。指が無くなった手が真っ二つに。発生した真空領域による吸い込みを利用しつつ縮地を使って納刀と同時に前進。3度目の抜刀。引っ込めようとゆっくり動く腕が横に斬れて裂けるチーズのようになった。まだだ。4度目の抜刀で脛から下を斬り飛ばし、発生した吸い込みが脛から下をこちらに吸い寄せる。納刀。5回目の抜刀で飛んできた足を吹き飛ばし、接近。納刀。6回目の抜刀で腹筋の一番下を綺麗に斬るが、上半身が浮かぶことは無かった。ゴライアスの目が完全に見開かれる。7回目の抜刀が左肩を吹き飛ばし、納刀。飛んできた左腕を8回目で吹き飛ばし、納刀。9回目で魔石に到達し真っ二つに。納刀。最後の十回目で余計だけど首を飛ばす。これで終わりだ!

 

「――アアアアアァァァァ――!?」

 

ゴライアスが灰になって消えていく。・・・ふっ、実にあっけないな。多分ゴライアスは1発目を知覚するので精一杯だっただろう。オリジナルの零閃には遠く及ばない速度ではあるけれどマッハは余裕で越えてるからな。てかまぐれっぽかったけどそれを防ぐレベル6よ・・・・・・あれ?まぐれっぽかった?・・・下手すればあの場で殺してた!?・・・よし、零閃は模擬戦に使うのはやめよう。今更感が凄いけど。

 

「ぁ・・・・・・ぁぁ・・・・・・ぇぇ・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「は、ははは・・・・・・・・・」

 

ん?なんだ?なんでみんなそんなポカーンとした表情でこっち見てんだ?ゴライアスなら倒したけどなぁ。

 

「どうしたんです?ゴライアスなら倒しましたよ?ふふっ、結構本気出しちゃいました。でもなんだかあっけなかったですね」

 

今回でひとつ分かったとすれば複合剣術はえげつないって事かな、この調子ならクロゴラさんとか余裕じゃ?・・・・・・・・・・・・あれ?駄神って「原作通りに進めるといい」的なこと言ってなかった!?俺が瞬殺したらまったくもって原作通りじゃないんじゃぁ・・・・・・。ま、まぁ仕方ないよね。やってしまった物は仕方が・・・・・・どうしよう、もしこれで実は桜花達死んでましたとか言われたらその場で自害するわ。

 

ん、そういえば駄神って「物語かき回して来い」的なこと言って俺をこの世界に放り込まなかったか?気が変わったのかな?まぁ神なんてみんなそんなもんか。コロコロ変わるんだろう。

 

「うそ・・・・・・だろ・・・?階層主だぞ・・・ありゃ。」

「僕達は夢を見てるのかもね、ねぇダリル僕の頬を抓るか激辛料理をちょうだいだだだだだ!?。」

「癪だが夢じゃねぇな・・・」「そうだね・・・痛いね・・・」

 

あのふたり仲いいなぁ。じゃなくて・・・そうか、俺が階層主瞬殺したから驚いちゃったのか・・・。ちゃんと今初めて試したんだってこと言っとかなきゃな。

 

「初めての組み合わせでしたが上手くいって良かったです。技の説明いりますか?」

「いや、いらないよ。俺達じゃあ何も見えなかったし」

 

むむ、俺が懇切丁寧に教えてあげようと思ったのにヘルメスは聞きたくないらしい。まあ仕方ないか、見えないんじゃ聞いてもわからないだろう。

 

それにしても・・・・・・体感的にもう夜か。

 

お願いだ、神様仏様駄神様、誰でもいいからとにかく皆を死なせないでくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとに・・・・・・夜が来た・・・・・・」

 

僕は少しづつその明度を落としていく水晶に見とれていた。まさか本当に夜が来るなんて・・・・・・信じていなかった訳では無いけど、にわかに信じがたかった。

 

「よっ!ベルは十八階層(ここ)初めてらしいな」

「あっ桜花さん、起きたんですか?」

 

僕が水晶に見とれている間にボロボロの服を纏った桜花さんが前に来ていた。そういえばタケミカヅチ・ファミリアの人達は同じテントには居なかったな、なんて今更思い浮かぶ。

 

「はは、俺は気絶してないぞ?気絶してるお前達をアイズさんと運んだのは俺達だしな。まぁ・・・アリッサとクルメが倒れたが・・・。あの2人は大丈夫か?」

 

やっぱりレベルが高い桜花さんは気絶してなかったみたいだ。確かに服はボロボロだし、包帯を巻いていたとしても1番軽傷だった。僕は桜花さんに促されるままテントの奥に入る。

 

2人はまだ眠っていた。2人の首元に手を当て小さく頷いた桜花さんは「大丈夫だ、安定してる」といってテントを出ていった。アリッサさんやクルメさんの看病だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は自分達に貸し与えられたテントに向かう。どうやら夕餉の準備を始めたらしいロキ・ファミリアに模擬戦で時たまあった事のある人達を見つけ軽く挨拶をしておく。妖夢には感謝しなくちゃならないな、ロキ・ファミリアと懇意にしておいて正解だった。敵対していたらこんな待遇は受けられなかっただろう。

 

テントの幕を開けて中に入る。先ほどのベル・クラネルと何ら変わらない簡易テントだが、もちろんメンバーは違う。入口から見て左からアリッサ、クルメ、千草が眠っている。呼吸の邪魔にならないように命が鎧などの武装は取り除いてある。

 

「あ、桜花殿。ベル殿達の方はどうでしたか?」

「あぁ、大丈夫。問題なかった。」

「はぁ、良かったです・・・・・・私が巻き込んでしまったので後で謝らなくては」

「あぁ、そうだな。その時は一緒に謝ろう。」

「・・・・・・すみません」

「構うもんか」

 

深く反省している命。だが、あの状況なら最も正解に近かっただろう。どのみちあのままではベル・クラネル達はモンスターにやられる可能性があった。強引にでも突破して良かった筈だ。

 

「それにしても猿師さんが気になるな、こっちに来てないとなると地上か?」

「・・・・・・・・・すみません、私がしっかりしてれば・・・・・・」

「いや、あの人なら大丈夫だろう」

 

根拠は無いがあの人ならそう簡単には死なないだろう。恐らく助けを呼んでいるか、個人的に捜索に乗り出すだろう。そう言う人だからな。

 

命の頭を安心させるように撫で、クルメとアリッサの様態を見る。フードも兜も外させているが・・・・・・良かったのだろうか?何か事情があって隠していたなら他人に見られるのは不味いだろう。

 

「―わ・・・私、が。―――守らねば――なに、もかも・・・・・・――」

 

アリッサが魘され始めた。何の夢を見ているのかはわからないが彼女の過去に起因する物なんだろう。しかし、守らねば・・・か。アリッサらしい、とまだ言える程知ってる中では無いが・・・彼女らしいとは思う。

 

「アリッサ!おーい、アリッサ!アリッサ!」

「団、長?」

 

俺の呼び掛けにアリッサは反応を示しその目を薄らと開ける。状況を確認する様に虚ろな目であたりを見渡し、砂金のような髪を揺らす。安全を確認し安心したのかアリッサはこちらをまっすぐ見つめてくる。金と銀の混じり合う不思議な目が。

 

「団長ご無事ですか?」

「おいおい、初めの言葉がそれか?」

 

起きて初めにすることが味方の生存確認とは・・・二つ名に恥じない凄い人だな。俺は安心させる為に笑いながらアリッサの頭をなでる。

 

「!?!?!?」

 

するとアリッサが目を大きく見開いた。そして再びあたりを確認し始める、今度は高速で。

 

「―――よ、鎧が!?無い・・・!?」

 

どうやら俺が触れた事に慌てたらしい。・・・そうか・・・そんな嫌か・・・鎧ないと触られたくもないか・・・・・・いや、それでいいんだ。俺は団長、たとえ嫌われても全員守る心意気で行く(泣き)

 

「だ!団長!・・・っ!ん"ん。・・・団長。私の鎧が見当たりません。あれが無くては皆さんを守る事など・・・それに、余り素肌を晒したくない。」

「鎧なら砕けている部分が多かったからな、たまたまそこにいたヘファイストス・ファミリアに直してもらってる。」

「・・・了解。」

「あぁそれと・・・気にしなくてもいいと思うぞ。」

「―――――っ。」

 

っておいおい、何言ってるんだ?アリッサがなんで隠してるかも知らないのに無責任な・・・・・・。駄目だな、こんな奴じゃ。このままだとファミリアを纏めるなんて到底できない。

 

「あー・・・悪かった。考えなしの言葉だ、気にしないでくれ。じゃあ俺は外に行ってるな」

「――――了解。」

 

明らかに怒ってんもんなぁ・・・・・・。金と銀の視線を背中に受けながら俺はテントを出た。

 

「桜花ぁぁあ!命ぉお!!千草ぁあ!!」

 

響き渡る小さな女の子の叫び声。けど、俺には聞き覚えのある声だった。

 

「――妖夢?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴライアスの灰の中からドロップアイテム〈ゴライアスの硬皮〉を手にいれた俺は魔力と霊力の消費は押さえるべきと判断し白楼剣を消し、大刀に切り替える。はやる気持ちをどうにか抑え、急ぐ足を叩いて正し、怯える心にムチを打ってゆっくりと進んでいく。

 

―――怖い。

 

それが俺の正直な感想だ。

 

―――もし、死んでしまっていたら。

 

それが何よりも怖かった。自分のお粗末な行動でまた(・・)家族を失う、それは嫌だった。

 

一歩を踏み出すのが恐ろしい。けれど立ち止まっているのも立っていられなくなる程に怖い。刀をしまおうとするが手が震えて上手く入らない。仕方ないから抜刀したままで歩く事にした。

 

「妖夢・・・・・・」

 

タケの声が聞こえる。心が暖かくなる。安心感が背中から全身に広がるようで・・・・・・けれど、踏み出す度に恐怖は足元から忍び寄った。

「・・・・・・・・・・・・大丈夫、です。・・・・・・・・・・・・どうであれ、覚悟は・・・出来ています。」

 

―――嘘を付いた。

 

けれどこれはタケを騙そうとした物じゃない。自分を勇気づける為の嘘。そうだ、覚悟は出来ている、しなきゃいけないんだ。自分の我侭でこうなっているのだから、責任をとらないと。全てを背負わないと。

 

一歩、一歩と踏みしめていく。下へ降りる坂、十八階層へと続くそこに迫る程に冷や汗が溢れ出る。血の気が引く。歯がカチカチと目障りな音を立てる。

 

―――進まなくては。進んで、見なくては。

 

生きているのか、死んでしまっているのか。怪我をしているのか、それは致命傷なのか。

 

「大丈夫?」

 

リーナが心配そうに俺の背中をなでる。やめて欲しい、今はそんなもの要らない。

 

「大丈夫です。」

 

そう言ってその手を振り払う。・・・・・・我侭で、傲慢で、嘲って、本当に自分はダメなやつだ。本当に自分は嫌な奴だ。家族を守るための力を・・・まともに扱う事も出来やしない。

 

元からここに、オラリオに来たのは、来た目的は家族を守る事だった。

 

強くなり、地位を得て、誰からでも守れるように、そう考えて・・・・・・。

強くなって、地位も得て、団員も得たのに・・・・・・これじゃあ・・・俺は何もできてない。

 

守りたい人から自分から離れてどうするんだ・・・!力に驕って、信頼と言う言葉を隠れ蓑に桜花達を送り出し危険に晒したのは他でもない自分じゃないか!!

 

刀を持つ拳を握り込む。柄の部分を構成する木材が変な音を立てて形を変える。

 

―――もうすぐ逢える。

 

だから、足を前に出す。

 

―――大丈夫、きっと生きている。

 

そう信じて足を出す。

 

―――誰も、欠けてない。

 

歯を食いしばり前に出る。

 

―――また、一緒に笑える。

 

涙を拭いて全力で駆け出した。

 

―――大丈夫、可能性は・・・・・・生きている。

 

 

 

俺は坂道を全力で駆け抜ける。何度も転びそうなった。でも耐える、この先に行けば会えるかもしれないから。

 

「おい!妖夢」

 

ダリルの静止を無視してステイタスが許す全力で。

 

そして十八階層に辿り着き叫んだ。

 

「桜花ぁぁあ!命ぉお!!千草ぁぁあ!!」

 

肺活量が許すまで何度でも、何回も。ここまで来て脚がすくんだ。呼べばきっと来てくれると、そう思ってしまった。情けない、本当に情けない。甘えてばかりで本当に子供だ。

 

音に集中する。【集中】のアビリティが発動したのか、森のざわめき、動く動植物の音を耳が捉える。聞こえろ、聞こえてくれ。お願いだ・・・!!

 

―――返事は・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おーーい!妖夢ーー!」

 

―――来た!!

 

捉えた。桜花の声。間違えるはずもない、5年間も一緒だったんだ、間違える訳もない。俺は声の方に振り向いた。そこには

 

「妖夢!!来てくれたか!」

 

そこには元気に笑ってくれる桜花が居た。俺の目から涙が溢れ出る。言葉に出来ない、体が震えて喉から声が満足に出てこない。

 

「おぉかぁぁあ!!」

 

足がさっきまでと違って軽く、早く動く。

 

―――生きててくれた。

 

「おっ!?お、おい・・・・・・ははは、泣いてるのか?」

 

―――笑ってくれた。

 

「ごめんなさいっ!わだしのせいでっ私のせいで!」

「いいや、お前のせいじゃない、俺が退き際を間違ったんだよ」

 

―――頭をなでてくれた。抱きしめてくれた。

 

「でもっ・・・でもっ!!」

 

涙が止まらない。言いたいことが言葉にならない。

 

「ハハハ、・・・・・許すさ、それが【家族】だろ?」

 

―――許してくれた。家族と言ってくれた。

 

気持ちを抑えられない。

 

「生きててくれてありがとうございますっ!笑ってくれてありがとうございます!話してくれてありがとうございますっ!!」

 

止めどなく溢れてくる涙を両手を使って拭う。髪がぐしゃぐしゃになろうと構わない。ただ、今この気持ちを伝えなきゃ・・・!

 

「――あぁ、どういたしまして。」

 

安心感と安堵が体を占拠する。立っていられなくなってその場にヘタり込む。拭いても止まらない涙が地面に吸い込まれていく。

 

でも、聞かないと。どうして桜花一人なのか。2人は無事なのか。

 

「桜花・・・・・・2人は・・・生きて、いますか?」

 

唯これだけの文章を口から出すのが精一杯。【集中】が発動し、遅くなった世界の中で、無限に思われるその時間の中で、桜花の言葉はやけに大きく耳に届いた。

 

 

 

 

 

「生きている。誰も、死んでない。」

 

 

 

 

 

―――・・・良かった。

 

心の底からそう思った。膝を抱き、顔を埋めて嗚咽をもらす。

 

「うぅ・・・ぅぅ・・・・・・良かった・・・良かった、ですっ!」

 

あぁ、本当に、本当に良かった。誰もが死んでない。誰も欠けてない。誰も失ってない。誰も忘れられない。

 

「妖夢、顔を上げろ。そんな姿、千草達が見たら驚くぞ?」

「はい・・・・・・はいっ・・・・・・わかって、ます。・・・ぐすっ、大丈夫です。・・・嬉しくって、涙が止まらなくって・・・・・・」

「―――ありがとうな、助けに来てくれたんだろ?」

「はい、はいっ。助けに、きましたっ!」

 

桜花の言葉に顔を上げて、テントを目指す。

 

 

 

 

良かった、また、会える。生きている【家族】に。

 

 

 

 

 

 

 





次回!シリアル!!メインヒロイン(べートとオッタル)も登場!?そして壮大に何も始まらない!さらには水浴びっ!!(ここまでネタバレ)

なお、スマホが(ry



ハルプ『ハルプの!』
リーナ「僕も!」
ハルプ『えぇ?!えと、ハルプと!』
リーナ「リーナの!」
ハルプ&リーナ「『技紹介コーナー!』」
ハルプ『このコーナーでは!技と技を合わせて使う複合剣術を紹介していくぜ!今回はこの技!【天翔光龍十閃(あまかけるこうりゅうのとうせん)!』
リーナ「おぉ〜、あの技だね!ずばば!ざざん!って感じの!」
ハルプ『お、おう。あの技はまず零閃十機編隊っていう本来なら光速に近い速度で放たれる居合切りの連続技に、天翔龍閃っていう居合切りを合体させたんだ。』
リーナ「ふむふむー、全くわからーん。どうだろう、このままうどんを食べに行くというのは?」
ハルプ『何しに来たのさ』
リーナ「出番を得に」
ハルプ『あったよね?』
リーナ「あったけど?」
ハルプ『・・・・・・・・・・えっと、それで、対人戦なんかで使ったらゲームでいう10割確定の台バン性能の技だな。現実でいうなら一発目で首持っていけるから100割ですわ。100割ってなんだよ』
リーナ「ゲーム?」
ハルプ『気にしたらダメですよ。』
リーナ「・・・・・ふむ、聞いてみてもよろしくて?」
ハルプ『うどん、食うか?』
リーナ「口封じか、チュルチュルモグモグ、ふっ!ズズズーモグモグ、そのていどでモグモグ、ゴクリ、プハー。この僕の口を封じられるかなー?」
ハルプ『ふむ、あと5つもあったんだがな。うどんは効かないなら仕方ないか』
リーナ「負けました美味しいですありがとうございます!」
ハルプ『単純かっ!』
リーナ「で?僕の過去編はやらないのかい?」
ハルプ『めたい、めたすぎる。』
シフシフ「本当はやりたいんですよ。クルメもリーナもダリルもキュクロも。あと猿師も。けど、本編に入れる場所がないんですよねー。かくなら番外編になるかな?、」
リーナ「なれっ」
ハルプ『俺達の出番がなくなるだろいい加減にしろ!』
クルメ「なれっ!」




誤字脱字報告お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

44話『「そぉおおおい!!!」』

テストも終わって自由の身になりやした・・・・・という訳で投稿です。息抜き回ですよー。

え、水浴びの挿絵?そんなものは無い(T∩︎T)

誤字脱字報告お願いします!


涙をぬぐい、桜花の後に続く。後ろからタケ達が追い付いたのがわかる。

 

すると前方からも誰かが来る。足音は結構重い・・・・・・命達じゃないな。なんて思っていると現れたのはロキ・ファミリアとベル達だ、はぁ!?どうしてベートが!?だってベートって解毒薬取りに地上に行ってるんじゃ・・・。

 

「ベート!?どうしてここに!?」

「あぁ?なんだ妖夢か・・・・・・・・・泣いてんのか?」

 

あわ、あわわわわわわ!?な!泣いてねぇし!・・・くっそ、友達にこんな姿は見せられない!怪訝な顔で聞いてくるベートに俺は両手を振りながら抗議する。

 

「なななな何言ってるんですか泣いてなんてません!」

「・・・悪かったな。今のは意地悪だったか」

 

とニヤニヤとベートが言う。おかしい、なぜにやつくんだ。笑いやがったら斬ってやる!

 

「なにせ、全部聞こえてたからよぉ!くくく」

「・・・・・・グスン・・・だって・・・・・・皆が死んじゃうかと・・・思って・・・」

「・・・・・・お、おい・・・・・・悪かった悪かった。謝るから泣くな。ちょっとからかっただけだろうがよ・・・」

「今のはベートが悪いよねー」

「そうね、今のはベートが悪い。ていうか普通に考えてそんなこと言わなくないかしら?」

「・・・・・・チッ、悪かったよ。」

 

うう、斬ってやるからなベート!体の機嫌が治ったら斬ってやるからな!

今はそんなことはどうでもいいんだ!早く命達を確認しなきゃ!

 

「グスン、では、私は命達をみてきますね!・・・えいっ!」

「いてぇ!?てめぇ!何しやがる!」

「仕返しですバーカ!」

「妖夢が・・・バカって言った・・・だと・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロキ・ファミリアの顔なじみ達に挨拶をしながらテントに向かう。場所はその時聞いた。

少し大きめのテントで、入口にロキ・ファミリアの団員の女性が立っている。見張りをしてくれてるのかな?ならありがたい。

 

「こんばんは。命達に会わせてもらいたいんですが」

「と言いながら既に入り始めているのはどうしてなの」

 

見張りを躱して中に入った俺は絶句した。

 

千草が寝かされており、それを囲むように命とその他二人がいたからだ。

 

「ち―――!千草ぁ!?」

 

一瞬息をつまらせた俺は一気に走り出す。千草千草千草が大変だぁ!?

「よ、妖夢殿!?」「なっ!?」「えっ?」

 

驚く3人を無視して千草をゆする。

 

「千草!千草が!し、死んでる!」

「いやいやいやいやいや!死んでないですよ妖夢殿!!」

「落ち着け死んでなどいない!」

「ほら、雲菓子でも食べて落ち着いて!」

「モグモグ良かった千草死んでなかったモグモグ」

「「「単純か!?」」」

 

おんおん?単純とは失礼な。千草と命と桜花とタケさえ生きてれば問題ないのだ・・・・・・あり?単純だ。

 

「まぁでも、本当に良かったです!生きていてくれてありがとうございます命ぉ!!」

 

思わず命に抱きついた俺は「よ妖夢殿?!」と慌てるのを完全に無視して命が生きている実感を得るべくスリスリする。・・・・・・くっ!負けた。何処がとか言わないけど負けた。だが許す!今の我はすこぶる機嫌がいいのだ!

 

「じゃあお猿さん呼んできますね!千草は安静にしておいてください!」

「いや、揺すったのは妖夢殿で・・・いや、もういいか。」

 

テントから離れた俺は猿師を呼ぶべく大声を張り上げる。

 

「おーさーるーさーんー!!」

「ササッ!と現れ、サルッと去る!それが拙者猿飛猿師!」

 

おおー、凄いな(棒)何故か上からボテッと落ちてきた猿師に苦笑しながら訳を話す。しかし猿師は千草の怪我自体は知っていたようで既に治療用の薬品を持ってきているらしい。流石だ。

 

再びテントに入り千草の服を脱がせ傷が見えるようにする。傷自体はほとんど治っている、後は何かやることあるのかな?そんなことを考えながら見ていると猿師はわざわざ説明してくれた。

 

「傷自体はほとんど治っているでごザルから、後は気付け薬を使うだけでごザルな。少々匂いがキツいでごザルから気を付けるでごザルよ?」

 

そう言って薬を鞄から取り出した猿師は千草に服を着せてその口に薬を注ぐ。

 

「ん!?ゴホッ!ゴホケホッ!コホッ・・・な、なに・・・?え!?ここは!?地上!?ひっ!猿!?」

「拙者は患者には寛容でごザルゆえ、このような反応をされたとしても、決して、決して責めも怒りもしないのでごザルよ」

「・・・・・・キレてます?」

「キレてません。」

「・・・・・・キレてますね(小声)それにしても千草ぁ!!」

 

今度は千草に飛び付いた俺はギュッと抱き締めスリスリする。・・・・・・ふっ、負けてない・・・・・・ような?

 

「よ、妖夢ちゃん、み、みんな見てるから止めようよっ」

「およ?」

 

千草がそう言いながら俺の頭をペチペチ叩く。後ろを向いてみれば確かに「皆」見ているな。いつの間に集まったのだろうか、と冷静に考えて・・・現実逃避しているが顔が熱い。

 

「妖夢ちゃんよかったねー!顔赤いっ!」

「感動的ね、私ちょっと涙が・・・・・・」

「ベル様っ私もギュッってしていいんですよ?」

「へ?なにいってるのリリ」

「よっみょんきち久方ぶりだな!」

 

ティオナ、ティオネ、リリルカ、ヴェルフ、ベル。後は他の皆もテントの中を覗いていた。 

 

「~~~~~~っ!!みょおおおおおおおおん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖夢達がやって来た。なので一緒にご飯を食べよう・・・・・・となったのはいいんだけど・・・・・・。これは、どうなのかな。

 

「あわてないでねー!ちゃんと並んでください」

 

確か、あのフードの女の子はクルメと言ったかな?彼女は凄いな、ダンジョンにある僕らが採った素材でここまでの料理を作るなんて。

 

っと、現実逃避はよそう。・・・・・・彼女、魂魄妖夢だ。今は赤面しながら神タケミカヅチの後ろに隠れて辺りをうかがっている、そんな可愛らしい姿を見せているが・・・・・・彼女を見ているだけで親指が疼く。

 

これが何を表しているのかわからないが、決して良くはないはずだ。団員たちを率いる立場としては今すぐ彼女達を此処から遠ざけたいが・・・・・・それはベートやティオナ達を見る限りだと無理かもしれない、いや、僕が言えば渋々従ってはくれるだろう。でも結局人目のつかない何処かで待ち合わせたりする、なら僕の目の届く範囲に置いておく方がいいのかな。

 

「オーイ、妖夢これ食うか?ハニークラウドっつてな、今までは毛嫌いしてたが前にお前と食いにいった和菓子みたいなもんかと思って食ったんだけどよ・・・・・・甘過ぎて食えたもんじゃねぇ。」

『ぷるぷる、僕は悪い魂じゃないよ、ぷるぷる』

「うおぉぅ?!いつの間に横に居やがった!」

「アムアムオイシイアリガトウゴザイマスベート」

「お?お、おう。・・・・・・いや声ちっさ!」

 

いつの間にあんなに仲良くなっていたのやら。初めはあれだけ警戒していたベートがなついている。別に困ったことじゃない、ファミリア同士の付き合いもとてもいいし、猿師さんの薬で既にファミリアの団員達の解毒も済んでいる。それに彼女はロキのお気に入りでもある。

 

彼女は誠実で人柄もいい。彼女のスキルであるハルプも明るく快活ではあるけれど分別は確りとわきまえているし、ん?ハルプはスキルと言うが・・・・・・性別はあるのかな?それとも妖夢君と同じなのかな?

 

『どうかしたのか?』

「ああ、妖夢君とハルプ君につい・・・・・・いつからそこに?」

 

『ん?今さっき』と答え隣に座るハルプ。本当に厄介だ、全距離に対応できてなおかつ強く、更には目と耳が遠くまで物理的に届くんだから。しかも、半霊になれば透明化してしまえばまともに見つけることは不可能。

 

『で、俺と妖夢がどうかしたのか?』

「んー」

 

きょとんとしながら聞いてくるハルプ。ここは下手な嘘はつかずに行こう。なんだかんだ言って彼女達は鋭いからね。

 

「いや、君達の強さについて考えていたのさ。」

『なるほどな、でもまだフィンの方が強いぜ?そんな考えなくてもいいんじゃないか?』

「はは、まだまだ、じゃなくてまだ、か。そうだね僕もすぐに抜かされるかも知れないか」

『おう!すぐに追い越してやるぜ』

 

疼く親指を後ろに然り気無く隠し笑う。本当に彼女達には抜かされてしまいそうで怖いな。まるで複数の英雄を束ねたような、そんな力を感じさせる彼女達に僕は笑うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いと高き空へ、ただ一つ伸びる白亜の塔、バベル。その頂上付近で銀の女神がその口元を歪める。

 

「オッタル」

 

高く美しい艶のある声が壁に控える大男に投げかけられた。銅像か石像の様に微動だにしなかった大男は「はい」と短く返事をした後、女神フレイヤの隣に跪く。

 

「私ね?なんだか嫌な予感がするのよ。」

 

オッタルの猪耳を愛おしく撫でながらフレイヤはそう言った。オッタルは不要な発言はせず、フレイヤの続きを待つ。

 

「だからねオッタル。ダンジョンに行って欲しいの。もしそこであの子にあったら・・・よろしくね?」

 

手に持ったベル・クラネル救出を要求するクエスト用紙をオッタルに見せながらフレイヤは妖艶に笑う。クエスト用紙を見た途端苦々しい顔をしたオッタルを可愛らしいと思ったからだ。

 

「お願いね?」

「かしこまりました。」

 

短く、ただハッキリと返事をしたオッタルは無手でダンジョンへと向かっていく。事実、彼に武器が必要となるのは深層のモンスター位のものだろう。

 

「冒険をしたか・・・・・ベル・クラネル」

 

オッタルの満足気な呟きは誰にも届く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水浴び、ですか?」

「うんっ!そうだよ!みんなで行こ〜!」

 

俺は思わず困惑の声を上げた。片手を振り上げはしゃぐティオナはまだ返事もしていないというのに俺の片手をとって走り出す。千草の看病もあるし余り行きたいとは思えない俺は断ろうとするが。

 

「ええ?ちょっと!ま、まってください!」

「大丈夫大丈夫!もう千草ちゃんも命ちゃんも向かってるから!」

 

どうやら千草達は既に水浴びに向かってしまっているようだ。よく良く考えればお風呂好きというか綺麗好きな命が断るわけも無いよね、と考えて諦める。

 

目隠しはあったかな・・・・・、ないか。

 

 

 

 

 

 

 

水がキラキラと輝く。滝から落ちる大量の水が大きな音を立て、水を泡立てた。いや~いい風景だなぁ。木も有るし。うん。

 

「ジー・・・・・」

 

あの、アイズさん?どうしてこちらを凝視していらっしゃる?なに?背中?背中みたいの?嫌だよ?

 

「ササッ」

「ススッ・・・・・ジー・・・・・」

 

え?な、なんですか?なんで追いかけてくるんですか?なにか話がおありでございましょうか?

 

「・・・・・」

「ジー・・・・・」

 

ど、どうすりゃいいの?俺わかんねぇよ?こんな天然な子の対処知らねぇよ?てかもう普通に見ちゃってんよ。良かったわ女湯とか勇気出して行ったおかげもあって結構慣れてるわ。いやそうじゃねぇよ。どうすんだよどうして俺から目を離さねぇんだよ、子守?子守ですか?誰が子供じゃボケ!

 

「アイズ、なにかようですか?」

「ん、別に。ジー・・・・・」

 

ぇぇ・・・・・誰か助けて。って感じに助けを求めて周りを見ると肌色が沢山あった。なんでみんなはしゃいでんの?水の掛け合いですか、女3人寄れば姦しいって奴だね。3人所じゃないけど。

 

「ねーねー!そこの鎧の人は入らないのー?」

「む、私は警護にあたる、安心して入っていてくれ。」

「おー・・・・・でも匂いとか気になったりしない?」

「私はここに来て長い。水浴びせずに数日過ごす程度ざらにあった。私は気にならんな。・・・・・しかし、そうだな。皆が出た後一人で行くとしよう。」

 

アリッサがそう言って木々の方を見据える。そして、俺の正直な感想は。・・・・・そ、その手があったか!である。はぁマジやっちまったな。俺も警護に当たりますとか言っておけばよかったぜ、そうすりゃこんな謎の状況にならずに済んだのに。まてよ?ハルプで逃げれるのでは?

 

いや流石俺。もう天才を自称しよう。よし、じゃあ半分の意識には犠牲になってもらうとして俺は逃げよう。という訳でハルプがポンっと登場し、サッと顔を森に向ける、ふふふ、これでまるであたりを警戒しているようにしか見えないはず・・・・・。

 

「・・・・・ねぇ、少し気になるのだけれど」

 

と、いきなりなんだろうか、ティオネが豊満な胸を揺らしながら歩いてきたと思えば隣に座る。その顔は不思議そうにこちらを見ている。

 

「どうして貴女もあのスキルのハルプも恥ずかしそうにしてるのかしら?」

 

ひっ!?バレてる!?だだだだ、駄菓子菓子!!こんな時のための言い訳は用意してあるのですよぅ!

 

(あの・・・・・そのぅ・・・・・)わ、私胸小さいですしっ!比べてしまうというかですね!・・・・・は、(恥ずかしいです)・・・・・」

 

見たか!嘘に少し真実を混ぜるとバレにくいというが!真実を真実のまま伝えることでそれは紛れもない真実となって・・・・・なんだろう、言ってて虚しくなってきたわ。

 

「あぁー、なるほど。でも気にしたらダメよ?だってまだまだ若い、と言うか子供だし。私の妹を見てみなさい、ほら、あんまり変わらないでしょ?」

「ひ!ひどい!」

「事実じゃない。」

 

ふっ、見たか。鮮やかに艶やかに話の内容をそらして見せたぜ、心のダメージと引換にな。ふっふっふっ、受けた傷は深い、だが、あえて言おう。死なやす、だと。こんな場所で実は中身男なんすよ、なんて言った暁には社会的に死ぬだろ。うん。

 

「ねぇねぇ!服着たままだけどいいの?ハルプは。」

 

ん?・・・・・あぁ、なるほど。ハルプが服きたまま水に浸かってるのか。

 

『あぁ、大丈夫だぜ?中に着替えは入ってるからな、着替えは一瞬だ。』

「ほえ〜そうなんだぁ〜!」

 

よくわかってない顔をしているティオナに苦笑する。ハルプの着替えは楽ちんだ、なんせ服を半霊に突っ込んだ後その服を意識してハルプモードになれば着替えられる。鎧を半霊に仕込んどけば瞬時にフルアーマーハルプガンダムになれるぜ。まぁこれが結構難しくて・・・・・『フルアーマーがフッ!?』って鎧の肩の部分がのどに突き刺さったりした事もある。

 

「ええ、そうなんです。」

 

とりあえずこの時間が過ぎることを願おう。

 

「あ、そうそう妖夢ちゃん!このあとリヴィラに出かけるんだけど一緒にどう?」

「リヴィラですか、はい、ご一緒しましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

べートは駆けていた。ダンジョンの18階層の森の中を。

 

(ちぃ!あの兎野郎とヘルメスはどこに行きやがった!)

 

どうやらベルとヘルメスを追っているらしい。鼻をひくつかせ、耳をぴくぴく動かして辺りを探すべート。しかし残念かな。ヘルメス達は既に木の上で、尚且つ忍び足で逃げている。

 

が。

 

「うわぁあああ!!」

 

小さいベルの悲鳴の後に続いた僅かな水の音。

 

(随分遠いが、見つけたぞ!)

 

「待ってろよ兎野郎・・・・・!!」

 

べートがレベル6にすら追いすがる圧倒的な敏捷で森の中を狼の如く駆け抜ける。獲物を捕らえんとする凶暴な形相で音の発生地へと飛び出した。

 

「・・・!!!」

 

1面に広がる、肌色。白い者から褐色まで、べートの目に飛び込んでくる。しかし、それを完全に無視したべートはベルを探すべく辺りを見渡す。

 

「糞が!あの兎野郎はどこに行きやがった!」

「などと意味不明な供述をしており、容疑を否認しています。」

 

べートの声に素早く妖夢がつなげる。多くの少女が体を隠す中、アマゾネスと妖夢は別段隠すこと無く平然としている。

 

「あぁ?んだようるせぇな!いや、てめぇ!あの兎野郎知らねぇか!?」

「知りませんよ?」

「ちっ!逃げられたか・・・・・!悪かったな邪魔して。くそ、どこ行きやがっ・・・・・っ?!」

 

ベルが居ないと知ってその場を離れようとするべートは持ち上げられる。そう、警護していたアリッサに捕まったのだ。

 

「さて、どうするか、この覗き魔を」

「っざっけんな!覗いてねぇだろ!つか事故だし興味ねぇ!」

「などと、やはり意味不明な供述をしており、容疑を否認しております。」

 

やはりと言うべきかべートのセリフに合わせて妖夢が繋げる。

 

「ははーん。べート、あんた興味無いとか言ってるけど、本当はアイズの裸見に来たんでしょ。」

「うわー、振り向いてもらえないからってうわー」

 

(嘘だろおい。アイズいるのかよ!?)

 

「おらぁ!!」「ちっ!逃がすか!」

 

拘束を弾き、逃げようとするべート。がしかし、アリッサに足を掴まれコケる。

 

「ぐほっ!」「逃がさんぞ。」

 

どけ!とアリッサをガシガシ蹴るがアリッサは余りダメージを負っていないようだ。べートが手加減しているのとアリッサが特別硬いからだろう。

 

「俺はあの兎野郎を追いかけなきゃいけねぇんだよ!」

 

べートがそう言ってアリッサを振りほどいた。周りが「呆れた、まだ言い訳するのね」などと言っていると妖夢が「なるほど・・・・・」と言って続ける。

 

「実はべートは男の人が好きだったんですねっ!」

 

とてつもない爆弾だった。辺りが静かになる。

 

誤解にも程があった。なぜならべートの頬は多少なりとも赤くなっていたし、女子達の水浴びを邪魔した事も謝っている。そして極力そちらを見ないように気を使っているというのに。

 

(んなわけあるかよ・・・・・)

 

べートの尻尾が力なく垂れ、耳がフニャりと萎れる。「ほほぅ、それは興味深い。」とさり気なくヘスティアの後ろに隠れているリーナが悪ノリする。

 

「えっ!?べートってアイズが好きなんじゃなかったの!?えぇぇえええ〜〜〜っ!?」

「こら、やめてあげなさい。まぁ、男が好きなら一緒に水浴びしても平気なんじゃないかしら?心は女かもしれないし」

 

素のティオナ、悪ノリするティオネ。ちなみに、本人達の目の前である。

 

「ふむ、男色を好むか・・・・・変態め。どうやらあの少年の為にも逃がすわけにはいかんな。」

「違う・・・・・俺は男なんざ好きじゃねぇ・・・・・何一つあってねぇよ・・・・・」

 

SAN値がピン値になってしまったべートは項垂れる。しかも、この事態を引き起こした本人である妖夢は非常に困惑した表情であわあわしているのだからべートは救われない。それとべートの好きな人はアイズである。

 

ちなみにアイズは顔を赤くした後ゆっくりと体を水に沈めた。いくら天然であろうとも、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 

 

 

 

 

 

という訳でアリッサに捕まってティオネ達の協力の元木に吊るし上げられたべートの耳を弄っている最中であります。

 

「ふふ、やはりなかなかの感触・・・・・流石はべート。」

「俺はこの怨みをぜってえに忘れねぇ。覚えてろよ妖夢・・・・・!」

「はいっ!この感触は覚えておきます!」

 

ちなみにアイズと俺、千草を除くほとんどの女性陣から1発か2発全力の蹴りを入れられたべートはもうそれはそれはひどい有様だった。ティオナとティオネは全然身体隠してなかったのに・・・・・。

べートの身体が緊張しているのは何時ぞやのポーションをべートのケツに突っ込んだ時を思い出したからだろうか。あれは、悪かったと思ってる。

 

「じゃあポーションを使いますね!」

「お、おおいおい!やめろやめろ!勿体ないだろ?な?やめておけ、やめろよ?!」

 

やるなって言われると、やりたくなるよね。人の摂理、心理、そして本能だと思うんだよ。それにほら?目の前に怪我人がいて、助ける手段が有るのなら尽力するべきだと思うのです。

 

「大丈夫大丈夫、かけるだけですよ!前のあの時はお店が汚れない様にしようと思っただけですから!」

 

という訳で別段ふざけることなくポーションをぶっかける。べートがすっごい不安そうな顔したのが面白かった。

 

「ぶはぁ!!顔にかけるやつがあるか!?」

 

あります。私です。

 

「いや、でもお洋服が汚れちゃいますし」

 

そう、顔にヴァリスはかからないが服にはヴァリスがかかるのだ。まぁべートイケメンだしお金になるかもね、週刊誌的なものあったら。

 

「別に気にしねぇよ!」

「アイズが気にするかもしれませんよ?・・・・・・・・・・べート、臭い、です。とかそんな感じで。」

「ぐっ・・・!あぁ!わあったよ、ありがとなっ。・・・・・後で同じことしてやるクソちびが・・・」

 

べートの叫びに待ってましたとアイズを引き合いに出す。するとべートは唸った後、おとなしくなった。恨み言呟いてたけどね、俺は聞き逃さなかった。なぜなら半霊はべートの顔のすぐ横を浮かんでいたからだ。

 

『・・・・・ふむ』

 

ハルプモードになって耳を触る。モフ、モフモフ。・・・・・ふむ。

 

「おい、てめぇ何してやがる。」

『で?俺達のどこがちびだって?』(妖夢合流)

「は?・・・お?おいなにやって・・」

『「そぉおおおい!!!」』

「ギャアアアアアアアアア!!!!!」




次回!ついにあの男が登場!それとリーナさんの過去回?

クルメさんはその次の回かな、と思ってます。


それにしても、スマホがあの世にぶっ飛んだせいで今後の予定が纏められていたメモ帳がお亡くなりになってしまった・・・・・(T∩︎T)

しかし。失踪はしないぞ!なぜなら二期も既に決まっているのだから!。゚(゚`ω´゚)゚。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

45話「・・・私のように守れなくなってしまいますよ」

今回はほのぼのですよ!ええ!

後書きに挿絵あり。


森に水音が響いていた。滝から落ちる大量の水が打ち付けられ音を立てているのだ。

しかし、その音の中に異音があった。自然のものでは無い水の音・・・水浴びをしているのだろうか。もうアイズ達は水浴びを終えた筈だったのだが。

森を抜け、水場に出るとそこには1人の女性が水浴びをしていた、砂金の如く煌びやかに光る髪、女性の冒険者としては余りに鍛えられた身体、そしてその身体は古傷が目立った。

一体どこのファミリアだろうか、背中の神の恩恵にはロックが掛けられており、そこから見定める事はできない。

まぁいい、声をかけて一緒に入らせてもらうとしよう。

 

「っ!そこにいるのは誰だ・・・・・」

 

女性は振り向かずにこちらを警戒する。よく見ればすぐ近くに斧が置いてあった。そして盾も。・・・・・なるほど、タケミカヅチ・ファミリアの・・・・・。

 

「ロキ・ファミリアのリヴェリア・リヨス・アールヴ・・・・・【九魔姫(ナイン・ヘル)】の方がわかりやすいか?」

「・・・・・・・・・・そうか。」

「ふふっ、隣、いいか?」

「好きにするといい。だが、余りこちらは見ないでくれ」

 

やはり、アリッサと言う冒険者であっているらしい。【全身甲冑の守護騎士(フルメタル・ガーディアン)】だっただろうか二つ名は。時折噂を耳にするが・・・・・中でも面白いものは素顔を見ると死ぬ、だとか殺しに来る、何てものもあった筈だ。しかしなぜ、顔を隠すのだろうか。

 

「なぜ顔や体を隠すのか聞いてもいいか?」

 

体に関してはある程度わかるが。にしても、ティオナ達にも見習ってもらいたいな。

 

「・・・・・。身体は、まぁわかるだろう。女子にしては醜いものだ。だが顔を隠すのは・・・・・笑うなよ?」

「笑ったりしないさ」

 

そうは言ったが・・・・・改めて身体を見てみる。ポーションと言う便利な物がありながら古傷が残るとは・・・・・自然回復によって傷が塞がればポーションは効果が無い・・・・・つまりは自然回復するまで傷を塞がなかった、もしくは塞げなかった。塞ぐ暇が無いほどに緊迫した状況だったか?

 

「・・・・・物語のなかに出てくる騎士は、兜をかぶる物だろう?」

「・・・・・それだけか?」

「あ、あぁ。それだけだ。」

 

話が続くものだと思って尋ねれば、本当にそれで終わりらしい、チラリと横を見れば顔を赤らめている。頑丈な鎧の中身は真面目で頑固なだけの女の子、という訳か。

 

「かっ、顔は見るなと・・・・・!」

「ふふふ、まぁまぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

べートの1件が終わり、ヘルメスがリンチにあった。何故かリューに連れてこられたベル君が土下座したが、リリのビンタにきりもみ回転して森に消えた。

 

なんでもアスフィに追いかけられたためヘルメスと逃げたが、はぐれて迷いに迷った挙句リューの裸を目撃、原作の流れで仲直り、そうして帰ってきたらビンタ。

 

ベル、逃げちゃ、ダメだよ。逃げたら確信犯だろうが。

 

まぁそんな事はどうでもいいんだ。今からみんなでリヴィラに向かう事になっている。リヴィラっていうのは何とここダンジョン内に存在する街の事なんだ。世界で一番低い位置にある街だな。

 

 

ただし、感想を言うならば「クソみたいな街」と言う他ない。もう昔の話だが、まだ癖で魔石ごと切り裂いていた時、何度かここに立ち寄ったが、もうほんと高い!世界一低い街のくせに物価がクソ高い!!

 

ほんと高いんだよ。刀が折れたから仕方なく適当な剣でも見繕って地上に戻るか、なんて思ったらさ、ただのショートソードが5、6万ヴァリスだぜ!?もうブチ切れて虚刀流でモンスターぶち殺しながら帰ったわ!!

 

しかも実力重視のここは小さい俺を鼻で笑ってきやがる、うがーー!!ってなって虚刀流でモンスターぶち殺しながら帰ったわっ。

 

さらに来る度に「おっ、あの頭のおかしい子だ」って言われんだぜ?そりゃ素手でモンスター殺しながら帰ったら頭おかしく見えるわ、てめぇらのせいだかんな!?って虚刀流でモンスター殺しながら帰ったよ。

 

と、嫌な思い出しかない。おかげで虚刀流の熟練度凄い上がったけどさ。

 

んでだ、じゃあ何しに行くんだよ、って思うだろ?ふふん、べートと遊ぶなんてことは無い。そう!親孝行の時間だーー!!いや、家族旅行の時間だ!!!

 

「と、言うわけなので皆で行きましょう!!良いですよね?良いですよね!」

 

タケと桜花に確認をとる、千草と命には水浴びの時に言ってある。ちなみにティオナも一緒に来ることになった、そしてアイズも。なんだか修学旅行みたいだ。

 

「あぁ、俺は構わないぞ。桜花はどうだ?」「俺も大丈夫です。」

「ホントですか!?よしっ!じゃあ行きましょーー!」

 

わざわざ鞄を用意して忘れ物、なんて失態は起こさない。必要な物は半霊にぶち込む、この手に限る。もう外ではティオナ達が準備を終えて待っているだろう、素早く大蜂大刀を背負い、半霊から取り出したナイフを太腿のポーチに入れる。回復アイテムの確認も忘れない。

 

「?妖夢、どうしてそんなに重装備なんだ?」

 

タケが不思議そうに聞いてくる。

 

「タケ達を守るためですよ?」

「リヴィラってそんなに危険な所なのか?」

「はいっ、人の足元を見てショートソードを5万ヴァリスで売りつける悪い所です!!」

ほんとは違う。この後はボルドだかウラドだか知らないが、そんな奴がベル君を教育(暴力)をしようと企み、そこにヘルメスが加わって本当に実行してしまうんだ。そうして戦いが起こり、ヘスティアがそれを止めるべく神威を発する。すると黒いゴライアスが出てくるわけだな。

 

で、俺のミッションは原作通りに事を進めること、らしいけど・・・・・俺は嫌だなぁ。だって黒いゴライアスだろ?クロゴラさんだぜ?俺とか言う異分子が入り込んだ世界で、イレギュラー扱いのクロゴラさんがまともな訳がないと思う。あの時は駄神に分かった、なんて言っちゃったが、ただ素直に従うだけで良いのだろうか、とも思う。

 

とくに、もしも強化クロゴラさんだった場合、桜花達が死ぬ可能性が高い。それはそれは高い。桜花達も原作より強くなってるけど、強くなったクロゴラが出たとしたら無理だと思う、てか俺も無理だと思う。一撃で死ぬ未来が見えるぜ。

 

そんな訳でどうにかしたいんだけど、全く持って方法が思いつかない、普通に主犯を殺すだけでいいのかな?それともヘルメス達が合流するのを阻止する?いや、冒険者達の争いが起きたから神威を使ったんだから、つまり争いをヘスティアが止める前に、終わらせれば良いのかな?

 

むむむ・・・・・まぁとりあえず戦力をタケの周りに集められた。これでタケが攫われる可能性は限りなく無くなったと思う。

 

ヘスティアも気になるが・・・・・とりあえずベル君に何か言っておくか。

 

「さ、行きましょうか!」

「おう。」

 

・・・・・まてよ?なんでわざわざ原作通りのメンバーで戦おうとしてるんだ?いるじゃん、べートとか。味方に引き込もうぜ!!よっしゃ、勝ったな、リヴィラ行ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

「ここが・・・・・リヴィラ」

 

ベル達が感動してる横で俺は辺りに目を光らせる。そんな俺の様子に何人かは気がついただろうが、何か言われることはなかった。

 

各々が街の探索に乗り出そうという時、俺はベルの肩を叩く。

 

「?・・・妖夢さん?どうかしたんですか?」

 

きょとんとしてベルがこちらに振り向き、尋ねる。さて、どんな言葉をかけようか。・・・・・なんていう無計画。だが、仕方ない。とりあえずヘスティアが危険に晒されるかもしれないからちゃんと見ておくように言っておこう。

 

「ベル・クラネルさん。私や緑のローブの・・・ベル・クラネルさんは知っていると思いますが、リューは神の護衛を任されています。しかし、見ての通り今貴方の主神は一人で走っていっています。」

「え、えと・・・・・」

「・・・・・・・・・・決して、人とは善人だけでは無いです。貴方の大切な人を守りたいのならしっかりと見ていてあげてください。・・・・・・・・・・・・・・・私のように守れなくなってしまいますよ」

 

うぅ、人のこと言えねぇ!!言ってて恥ずかしくなったので全力でタケ達の方に走ろう!と思ったけどそれはそれで恥ずかしいのでくるりと踵を返し、堂々とタケの元に向かう。

 

なんだかとってもシリアスな感じだったけどそんなことは無い!

 

 

 

 

 

 

 

「ここが・・・・・リヴィラ」

 

木造の建物が立ち並ぶ、水晶が至るところから生えた街。リヴィラ。僕らはそこにやってきた。そんな美しい外観に見とれている内にみんな、好きな方へと歩いていく。僕も何か探してみよう、と歩き出す。

 

すると誰かに肩をつかまれる。小さな手だ、リリかと思って振り向くと、そこには少し暗い顔をした妖夢さんが。

 

「?・・・・・妖夢さん?どうかしたんですか?」

 

大丈夫ですか?と続けようとして、やめた。僕を見上げるその目が、悲しみに満ちているような気がしたから。何か、重要なことを言おうとしている、それだけははっきりと分かった。

 

「ベル・クラネルさん。私や緑のローブの・・・ベル・クラネルさんは知っていると思いますが、リューは神の護衛を任されています。しかし、見ての通り今貴方の主神は一人で走っていっています。」

 

僕が黙ったのを見て、妖夢さんは話し始める。妖夢さんがリューさんの事を知っていて驚いたけど、神様達の護衛だったんだ・・・・・神様は僕らを探しに来たって言ってたけど、多分妖夢さんは桜花さん達を探しに来たんだろう。

 

「え、えと・・・・・」

 

僕が何か言うまいか迷っていると、妖夢さんは神様の方から視線をもどし、僕をまっすぐ見つめる。その目に、僕はドキリとした、前に感じだ時と同じ、首筋に刀を添えられた様な感覚。文字通り真剣な目。

 

「・・・・・・・・・・決して、人とは善人だけでは無いと知ってください。貴方の大切な人を守りたいのならしっかりと見ていてあげてください。・・・・・・・・・・・・・・・私のように守れなくなってしまいますよ。」

 

話すことはそれだけだ、そういうように妖夢さんは踵を返し、歩き出す。その背中が寂しく見えた、その歩き方がどこが覚束無いような、そんな気がした。

 

――私のように守れなくなってしまいますよ―。

 

その言葉は妖夢さんの過去に起因する物なのだろうか、・・・・・ただ、妖夢さんの言う「私」に僕は違和感を覚えた。・・・・・前を歩いていく姿を見る限りだときっと気のせいなのだろう。

 

妖夢さんは神様を守るようにと言った、だから僕は神様の後に付いて行く。神様が守れなくてアイズさんに追いつけるわけがないから。

 

「神様?」

「ふぇあうわ!?どどど!どうしたんだい!?僕は何も高いものなんて買っていないよ!?」

「あはは、お金にも少し余裕が出来ましたし、いいと思いますよ」

「ほ、本当かい?お金を稼ぐのはベル君なんだぜ?」

「はいっ」

「・・・・・うう、僕は君みたいな子を持てて本当に嬉しいよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は―――――――マッスルだった。

 

波打つ背筋、そそり立つ大胸筋。八つに割れたダイヤの如き腹筋。握られた拳は血に濡れており、その凶悪な眼は目の前の兎を睨みつける。

 

「きゅ・・・・・きゅう、きゅ」

 

風を殴るような音と共に兎が消える。その凶暴な拳にかき消されたのは誰から見ても明白であった。もっとも、その場にその男以外存在しないのだが。

 

「はぁ――――やっとついたか」

 

十八階層入口から見える広大な森と、少し顔を出した大きめな水晶を目に男は言った。その男の名は、オッタルと言った。

 

 

 

 

 

フレイヤ様からの「お願い」で俺はダンジョンに潜っている。理由としては何やら嫌な予感がするとの事だ。そして、見せられたクエスト用紙・・・・・そこにはベル・クラネルが行方知れずな事、救助隊を編成したいこと等の情報が書かれていた。しかし、俺が向かった時には既に救出隊は青の薬舗にはいなかった。

 

無駄足を踏まされた、と言うよりも、フレイヤ様のお願いに遅れるのはならないと全力でオラリオを駆けることになった。

 

なぜ駆けたかと言えば、俺の任せられた任務として『魂魄妖夢』の護衛があるからだ。任されたもの全てをこなせないようではオラリオ最強などと名乗ることはできない。

 

俺がオラリオ最強であるのは全てフレイヤ様のためだ。

 

いや、今はその事はおいておこう。タケミカヅチ・ファミリアを訪ねた俺だったが、そこは蛻けの殻だった、開け放たれた玄関や襖。何があったのか想像出来なくもない。勝手ではあるが中に上がり、素早く周囲を確認した。そこに武器の類が・・・・・部屋の奥に飾られていた1本の刀が無いことを見て、俺は確信した。

 

「タケミカヅチ様が、出たか。」

 

武神にして軍神、さらには戦神にして剣神。武人として憧れを抱く1柱。フレイヤ様には悪く思うが、武神の武、直に見たくなった。

 

ダンジョンに向かったであろう彼らを追い、俺はダンジョンに向かったのだ。

 

そして、今に至る。水晶の生える森を抜け、リヴィラに到着したのだ。・・・・・ここに来るのは何年ぶりだろうか?ダンジョンへの遠征も、やらなくなって久しい。まぁその分フレイヤ様に近付けると思えばなんともないが。

 

「・・・・・!?!?!?ぉ、【猛者】・・・・・!」

「ほ、本当だ」

 

畏怖の念という物は伝わりやすい。周囲からひしひしと伝わるその感情に少し呆れを持ちつつ進む。魂魄妖夢を見習って堂々としていればいいものを。魂魄妖夢は俺に勝てないとわかった上であの態度なのだから、肝が座っている。

 

店の前を歩いても、話しかけられることは無い。店としてどうなのかと思うが、それが自分の立ち位置なのだから仕方がない、強くなればなるほど俺の友好関係は狭まってきているからな・・・・・フレイヤ様から魂魄妖夢と仲良くなれなどの命を下された時、それはそれは戸惑ったものだ。

 

「そうなんですよ!で、それでリーナがっ」

「えぇ!?僕はちゃんと仕事したよっ!お菓子も食べたしご飯も食べたけど!」

「まぁまぁ落ち着いて・・・・・」「そうだよぉ・・・・・」

「そのせいで書類にうどんの汁がついてましたよ!」

「な、なんと・・・・・僕の技術を持ってしてうどんとはかくも強き・・・・・」

「いや、何言ってるんだ。」

 

ふむ?この声は魂魄妖夢とタケミカヅチ、あと命と千草、だったか、ほかのひとりはわからんな。接触してみよう。

 

「・・・・・久しぶりだな」

「だから!私のプリンまで食べr痛いっ!?なんですかこの壁!痛いじゃな・・・・・みょおおおおおおおおん!?」

 

一体、何度驚かれるのだろうな。俺にぶつかった魂魄妖夢は俺の腹筋をぺしぺし叩き、既視感に襲われたのだろう、少しづつ顎を上げて俺と目を合わせ、叫んだ。やはり嫌われているのだろうか?それは困るのだがな・・・・・。

 

「なななななしてオッタルさんがここに!?」

 

俺が魂魄妖夢に話しかけると大体驚かれるのはなぜ、いや、既にわかりきっていることではあるのだが。これではイマイチ仲良く慣れているのかわからんな。

 

「俺も一介の冒険者だ、別に不思議では無いだろう。・・・・・それにしても何をしているんだ?」

 

ダンジョンにいるのは予想通りだったが、なぜこんなに賑やかにリヴィラを観光しているのだろうか。よく良く見れば【大切断】などのロキ・ファミリアもいる。・・・・・ふむ、しかし、潜っていた期間を考えるに遠征は失敗したと見える。

 

「なるほどぉ、えっと、私達は今リヴィラと十八階層を観光しているんですが、オッタルさんはどこか良いところ知りませんか?」

「ふむ・・・・・」

 

正直聞かれても困る。十八階層などまともに探索したことすらない。モンスターが沸かないのであれば居座る必要すらないと無視してきたからな。まぁギルドの情報のままであれば言えるが・・・・・流石にそこはもうまわっているだろう。

 

「思い当たるものは無いな。ここに長居したことも無い。」

 

「うーん、そうですかぁ・・・・・このあとの予定は?無いのでしたら一緒にどうですか?」

 

む、願ってもない誘いだな。ここは素直に受けておくとしよう。あぁそうだ、笑顔も忘れてはいけないな。

 

「フレイヤ様からのお暇を頂いていてな。時間は存分に余っている、同行させてもらおう。」

「おー!やりましたっ!オッタルさんげっとです!」

『ポケモン!ゲットだぜ!』

「「「「ポケモン?」」」」

 

ポケ・・・・・なんだそれは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、街をめぐり、十八階層を探索・・・・・下見して、1日が終わろうとしていた。・・・・・のだが!

 

「むっふっふ。わかってないなぁー」

 

なんと、貸し与えられたテントにはタケミカヅチファミリアの女性団員達が集合していたのだっ(あとリリルカも)!イカれたメンバーをしょうかいするぜぃ!まずは俺!そして命!千草!リリルカ!アリッサ!リーナ!最後にクルメ!

 

見事に女しかいない!助けてタケミカヅチ様!

 

まぁんなことは置いておいて、みんなで円を描くように布団を敷いて寝っ転がっているんだ。真ん中に空いた空間にランプが置いてあってそれがみんなの顔を照らしている。・・・・・そう、これは、言わゆる女子会とかそういうやつだ。泊まりになると必ず発生する恋バナとかそういう奴を話す為の場。

 

正直に言おう、俺には荷が重い。反対したらリーナがニマニマしながら俺の布団に入ってきた。

 

「好きな男性はいるのかな?僕に教えてー!」

 

きゃー!とか言ってるリーナに極寒零度の視線を向けながら、俺も少し考えてみる。・・・・・ふむ、居ないな。恋愛対象は居ないわ。

 

「いないです。(キッパリ)」

「そ、そんなー!そんなことないでしょ!?僕は知っているよ!ベート・ローガをみる妖夢ちゃんの目は乙女のものだと!!」

「気のせいです(キッパリ)」

「ふっ、照れ隠しなんて無駄だよ妖夢ちゃん。僕には解る!」

「なんなら白楼剣使いましょうか?同じ事言うはずですが。」

「ふん!ならやってみるといい!」

「ーーー白楼剣!!・・・・・・・・・・恋愛対象は現在確認できません。古今東西何処にも居ないことを保証いたします」

「くっ・・・・・・・・・・リーナ・ディーン・・・・・敗れた、り。」

 

白楼剣をしまってリーナをドヤ顔で見る。

 

「なんなのさそのドヤ顔は・・・・・」

 

ショボーンとなってしまったリーナに苦笑しながらもう寝てしまおうと考えていると。

 

「なら!他のみんなにはいるだろぉ?僕に教えてくれよー!」

 

リーナが布団の中でもぞもぞ動く。やめろ、俺の布団で暴れるな。てか寝ろよ。お前のスキル眠くなるんだろ?寝ろよ!

 

「わ、私は、い、いませんよ?(命)」

「私だっていないよ・・・・・うん。(千草)」

「私は・・・・・居ないな、うむ(アリッサ)」

「え?居ないよ?(クルメ)」

「言えないです、でも妖夢様がいえと言うなら・・・・・(リリ)」

 

・・・・・・・・・・あれ?割といるやん。あれだよね、最初の2人は確定として、アリッサさん居そうな雰囲気だよね、居るのかな・・・・・まぁ普通に考えたらいてもおかしくはないんだけど。いや、年齢はわからないけど居ない方が可笑しいのでは・・・・・?

 

「なん・・・・・だと・・・・・?!誰一人として居ないって言うのか・・・・・!」

 

え?コイツ全くわかってねぇじゃん。僕にはわかるんじゃなかったんかい。

 

「くっ、恋愛経験零の僕には到底わからないことだけど・・・・・ホントにいない?」

 

と上目遣いで聞いてくるリーナ。一緒の布団に寝っ転がってるのに上目遣いとは、コヤツ、出来る・・・・・(何が)

つか恋愛経験零ですか・・・・・(呆れ)エルフだよな?この中で一番年上だよね?なんでないのさ。

 

「そんな疑惑の目を向けないでー。僕はね、美味しいご飯と安らかな睡眠しか興味が無いんだ。」

「ふむ、それで行き遅れたと」

「行き遅れてないし!僕らエルフの寿命は長いんだぞ!」

 

でもさ、俺のイメージにあるエルフって「私達エルフ以外は下等」みたいな考えの触れたら怒る潔癖症、ってイメージなんだけど・・・・・リーナは全然そんなことないよな?なんでだろうか、少し気になったので聞いてみることにしよう。

 

「リーナ、私の中でエルフとは高慢で他種族を認めない。というイメージがありますが・・・・・リーナはそんな事がありません。なぜですか?」

 

俺が聞くとリーナは少し黙り込む。・・・・・やばいな、地雷だったか?なんて思っていたがリーナはこちらを向いて俺の目を青っぽい緑の目でジッと見つめる。

 

「話しても面白いものじゃないと思うよー?それでも聞くのかい?」

 

俺がうなづくとリーナは微笑みながら話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の名前はリーナ・ディーン。何処にでもいる普通のエルフ・・・・・・・・・・なんて、高等なものでは無い。まず、そうだなー、・・・・・僕には両親が居ない。母親は僕を産んで暫くして、父親はその数日後に妖怪に襲われて死んでしまった。

 

極東ではエルフは珍しい、だから僕の両親が移り住んだ村では結構冷たい目で見られていたらしい。僕の元主神達が言うには父も母も「エルフらしい」人達だったらしい。エルフは他の種族を見下し、壁を作る。だからこそ冷たい目で見られてしまったのだと思う。

 

じゃあそんな2人の忘れ形見がその村で大切に育てられるのか、と言われるとそんな事はなかった。

・・・・・僕は墓地に置かれた。

 

 

僕は世界を知らなかった。・・・・・迫害、虐待。僕が受けたのはそれだ。暴力が毎日降り掛かった。意味も分からない言葉が僕に浴びせられた。投げ渡される食べ物はカビの生えた物ばかり。きっと不味かった筈だ、でも、僕の中の食べ物はそれだから、何も思わなかった。

 

なぜ、どうして。そんな事を考えるだけの知識なんて持ち合わせて居なかったのだから。

 

忌み子、と言うものを知っているだろうか。極東では白髪の子供は鬼の子として忌み嫌われる。そして誰がやったのか、私の髪を白く染め上げた。

 

虐待は酷くなった。その村の周辺は土が痩せこけていて、余り作物が取れなかった。きっとそういう事もあって僕はストレス解消の為の道具だったのだろう。

 

そんな僕にとって、唯一の救い・・・・・いや、安息かな?だったものは眠りだった。眠ると不思議な夢を見たんだ、見た事もない美味しそうな料理、ふかふかなベット、雨風を完全に防げる立派なお家。

 

けれど、そんな毎日を送るうちに、転機が訪れる。村に神様が訪問したんだ。名前をクニノサギリ様とアメノサギリ様と言った。

 

極東の神様達は社と言うものを持っている場合が多い。社はオラリオで言うホームだ、違うとすれば一つの社に複数の神が居る所だろうか。

そして、僕の事を見た2柱は言ったんだ。

 

―ずいぶんと哀れな子が居るではないか―

―どうしたのだね、なぜ、そのような有様になってしまったのだ―

 

初め僕は彼らが何を言っているのか分からなかった。

 

―ふむ、なるほど、この子は保護した方がいいと思うぞ?―

―あぁ、賛成だ。社に空きはあるー

 

ポカンと見上げる僕の頭を撫でようと手を伸ばした。殴られると思って目をつぶった僕に神々は顔を見合わせ、眉間にシワを寄せた。

 

―理解したぞ哀れな子よ、人の手を恐れる捨てられた子よ。悪意しか知らぬ見識狭き子よ―

―なれば我らが隠そう、悪意から、妬みから、視線から。その心が歪まぬうちに、真実を知らぬ内に―

 

そう言ってもう1度手を伸ばす。

 

―我らが手を取るがいい。我クニノサギリ―

―我らの名を刻むがいい。我アメノサギリ―

――我らは隠す神、我らは遮る神――

―無辜の忌み子よ、その手をこちらに――

 

僕は目の前の光景がしんじられなくて、それでも、何故だか手を伸ばした。たぶん、変われるって何となしに思ったんだと思うけどね。

 

(は・・・・・・・・・・ぃ)・・・・・」

 

呻き声の様に絞り出した僕の声に、神々は微笑み、僕の手を握り込んだ。その四つの手の暖かさに初めて僕は涙を流したんだ。

 

―名は、なんと言う?―

 

名前、名前。聞かれてすぐに答えることが出来なかった。名前は知っていた、教えてもらえたのだ、村人達に。

 

「てめぇの名前はリーナ・ディーンだ、覚えとけよ?ハッハッハっ」

 

そこまで思い出してようやく口にする。

 

(りぃな・・・・・でぃーん)・・・・・りぃな、でぃーん」

 

――リーナ・ディーン、我らがお前を守り抜こう、これは神と子との契約である。――

 

僕、リーナ・ディーンはその日、初めてこの世に生を受けた。

 

二神に連れられ歩く。体の節々がいたんだけれど、止まれば何をされるか分からないから我慢していた。そうして社に着くと、僕を出迎えたのは拳では無く笑顔だった。

 

「アメ様また1人見つかったんですね?」

「おう嬢ちゃん、そんな警戒しないでくれよ」

「そうそう!私達だって捨て子なんだから」

 

困惑した。笑顔とは僕を殴って、僕が呻く姿を馬鹿にするためのものでは無かったのか、と。嘲笑うという行為を知っていた僕は純粋な満面の笑みを初めて知ったのだ。

 

自己紹介を済ました僕は女性陣にお風呂に連れ込まれた。今まで麻のボロボロの衣服しか来てなかった僕は初めて服を脱がされた。怖かった、何かまた痛い事が起こるのだろうと身を縮こまらせた。

 

僕の身を襲ったのはアッツイお湯。まぁ多分本来ならそこまで熱くないお湯なんだろうけど、お湯なんて初めて浴びたし、体は冷えていたしね。とても熱く感じたんだよ。

 

そして全身を洗われて・・・・・垢だらけの傷だらけな僕の身体は綺麗になったんだ。

 

女性達の拘束がなくなった僕はその場から逃げ出そうとしたんだけど、疲れのせいでへたりこんでしまった、そしてそのまま湯槽に連れていかれたんだけど・・・・・熱くて熱くて、傷口もお湯がしみて痛かったし。

 

その後僕は疲れでそのまま気絶するように眠った。折角のふかふかの布団は意識の無いまま初体験を迎えてしまったよ。目が覚めた僕は周囲を1通り確認して、何時もの墓地前じゃない事に驚き、布団に寝ていた事に仰天し、服の肌触りの違いにひっくり返った。

 

何が起きたのか本当にわからなかった、身の回りの事が何もかも変化してしまったのだから。部屋を探索するうちに僕は人影を部屋の隅に見た、驚き警戒し下がったが、向こうも警戒して下がるではないか、不思議に思って首を傾げると、向こうも首をかしげた。困惑しつつも1歩足を前に踏み出すと向こうも足を1歩踏み出した。僕は悲鳴をあげて後ずさった、もちろん向こうも後ずさったよ。

今ならわかるけど、あれは部屋にあった鏡だったんだ。

 

僕の悲鳴に人がやってきた、僕はあぁ、またあの痛い事が起きるんだ、と半ば諦めて大人しく座り込む。けれど僕の周りにやってきた彼らは優しくこえをかけてくれたのだ。

 

「大丈夫!?何かあったの!?」

「おいおい平気かよ?」

「大丈夫かい?」

 

この日から僕は少しずつ人に心を開いていった。

 

 

そして何年か経って、僕は人が大好きになっていたのさ。

 

「ご飯美味しい!お布団ふかふか!!遊ぶの楽しい!!みんな優しい!!ご飯美味しい!!大好きっ!!」

 

うん、確かそんな事言った気がするよ、恥ずかしいね。

この頃から食い意地張ってたんだねぇ。まぁ初めて美味しいご飯を食べた時はいきなり変わった食事に体が対応出来なくて吐いちゃったけどね。

 

僕の好きな遊びは蹴鞠とカルタ、そして阿弥陀籤だったかな。阿弥陀籤は遊びじゃないけど遊びに使ってたんだよ。

 

あぁそれと、僕の地毛は明るい緑なんだけど、神様達が

 

――見識を広く持てリーナ、白い髪は忌み子の証などではない。そもそも、鬼に白髪の者など少なかろうよ――

――何、その白さを誇りにしろ。それはリーナ、お前が決して悪意に屈せず守り抜いた純真さなのだから――

 

と言ってくださったんだ、そこから僕は自分で白髪に染めてるんだよ。白、かっこいいだろう?

 

うーん、もう言うところはないかな?・・・・・・・・・・あ。あとね、僕の魔法は僕が一番懐いていたアメノサギリ様とクニノサギリ様が由来の魔法なんだ。僕の唯一の誇りかな?強いよー。

 

あと僕は霊力がそこそこあって、巫女として2人の給仕係に務めていたりしたね。

 

むむむ・・・・・言いたくないところは飛ばしたけど、概ねこんな感じかな。・・・・・ほらね?聞いても別に面白くなかったでしょ?

 

じゃあ僕のお話はここでおしまいっ!




そういえばコメントで何故水浴びの挿絵がないんだ・・・・・!と要望があったので15分で描いた(トレース)


【挿絵表示】


・・・・・私の中ではこんなイメージ。でも実はこの人150前後しか身長無いというね。三リーダーの中では一番背が高いのはリーナ。

そして、こちらは完全におまけ。


【挿絵表示】
妖夢


にしてもリーナさん・・・・・これでよかったかなぁ。一体リーナさんはおいくつなんだろうか。

誤字脱字報告お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

46話「もう、突っ込みどころ満載過ぎて追いつきません、思考が」

今回はクルメさんの昔話。


クルメさんがおもーい話によって暗くなった雰囲気を変えるために色々と盛って頑張る話。

明るい話だよ!やったね!


リーナの過去話を聞いた俺は戦慄した。

 

「ふむ・・・・・それは・・・・・災難だったな」

「えぇ、さすがにリリも同情してしまいます」

「リーナ殿・・・・・」

「リーナさんにそんな過去が・・・・・私の話言いづらくなっちゃった、あ、アハハ・・・・・」

「あわわ・・・・・はわわ・・・・・」

 

え?え?なに?え?・・・・・嘘だろぉぉおおお!?あんな飄々として眠い眠い言ってた奴が、え??なんですか!?眠くなってしまうスキルはその時の影響ですか!?食いしん坊なのはその時の反動ですか!?ヤベーよ、もう今までみたいにちょっと冷たく出来ねーよ、同情MAXだよ。お仲間だよぉ!

 

「ご、ごめんなさいリーナ。辛い事を思い出させて・・・・・ごめんなさい。」

 

必死に謝るしかねぇ!まじすみませんでした。軽い気持ちで聞いてごめんなさい!くっそ、なんで俺は学習能力がこんなにもないんだ!うがー!もっとさぁ、人のこと気にかけなきゃだめじゃないか!

 

「んふふー、じゃあ慰めに妖夢ちゃんを抱き枕にして寝るねー!」

 

いやっふーー!とか言ってるリーナ。うわー、うわー、何か強がってるように見えちまうよあの話の後だと、つかそうとしか見えねぇよ。とりあえず頭撫でておこう。タケに頭撫でられると落ち着くしな。うん。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、アハハ。どうしたのさ・・・・・よ、妖夢ちゃーん、おーい・・・・・・・・・・・・・・・そんなに優しく撫でるとリーナさん怒っちゃうぞ?・・・・・・・・・・もぅ・・・・・優しいんだね・・・・・」

 

ん?あ、やべぇ、ボサボサだけど髪の毛サラサラやなぁーとかいい匂いするなぁとか、家族がどうのとか思ってたらいつの間にか話が進んでる。・・・・・ふぁ!?抱き枕にされる筈が俺が抱きかかえている!?何が起こっているのかわからないが俺にも訳が分からないよ!

 

「いい匂いだねー、食べてもいい?」

「ダメです。私は食べれません、食べるなら半霊にしてください」

『そうそ・・・え?俺食われるの!?』

「アハハ、励ましてくれてるのかなー?かっわいいー!」

『おいまて何故に俺をモフる』

 

むなしい一人芝居でどうにか励まそうと試みる俺氏。その甲斐あってかリーナは少し目元と頬が赤いが機嫌は良さそうだ。そのことにほっと一息付き、リーナの頭をなでる。・・・・・うーん、家族が居ない、それを聞いただけでここまで態度が変わっちまうかー、俺って単純だねぇ。

 

「えーーっと・・・・・わ、私は寝ちゃいますねっ!!」

「いえ、次はクルメの番です」

 

逃がすか。眠ろうとするクルメに待ったをかけて止める。ギギギと振り向いたクルメにニッコリと笑いかける。リーナをよしよししながらだ。

 

「えっと私はその話すことでもないというか、そんなに大それた事はしていないんですよはい。リーナさんのお話の後だと話しづらいというか、インパクトがありすぎて私が話す場面じゃないと思うのです、はい。」

 

冷や汗を垂らしながら必死に逃れようとするクルメ、しかし、俺の燕返しからは逃れられない。・・・・・あれ、俺結構乗り気だったんだな?

 

「どうぞ!お話してください!」

「私も聞きたいです!(わくわく)」

「僕もー!(特に理由は無いっ)」

「失礼ながら私も(この雰囲気を変える一手を・・・!)」

「ふむ・・・・・(これは私も話さなくてはならないのでは?)・・・・・無理強いは良くないと思うが(それに、なんだか可哀そうだし)・・・・・」

 

アリッサを除き皆がクルメの話に興味を示す。いや、アリッサも興味がないってわけじゃないだろうけど。ふむ、たぶん優しいから守ろうとしてるんだな!

 

「え、えぇ・・・・・わかりました・・・・・うぅ私の味方はアリッサちゃんだけなんだァ・・・・・」

「泣くな、親しくなるチャンスだろう?

・・・・・と言うよりもいつから私はお前と仲良くなっていたんだ・・・・・?(小声)」

 

未だに鎧を脱がないアリッサ・・・・・いや、鎧が治ったから寧ろ嬉嬉として着ていたような・・・・・?まぁそんなアリッサにクルメはガチンと音を立て抱きつき話し始める。

 

「私は・・・・・5年くらい前から冒険者をしていたんですが・・・・・あっ!生まれも育ちもオラリオですっ」

 

焦りながらわたわたと説明するクルメに皆が癒されている中、本人は必死に話を続ける。

 

「それで、えと、冒険者として3年目、私はレベル2になり、【料理】のアビリティを手に入れたんです。・・・・・はい。」

 

・・・・・ん?終わり?あー。あれだな、こっちからも質問しつつ話を進めていこうか。ふむ、まぁ冒険者としてはどうしてランクアップしたのか、って所からかな。

 

「クルメ、お前はどうやってランクアップしたんだ?」

 

と、思っていたら唯一の味方アリッサからの支援が。さすがやでアリッサはん。乗っとこ。

 

「えぇ!とても気になりますね!」

「うん!私も気になる!」

「失礼でなければぜひ!」

「うんうん。リーナさんも気になるz」

「ちょリーナ様寝ないで下さい!」「はっ!」

 

くくく、食らうがいいこの集中砲火!・・・・・ま、待てよ・・・・・?なぜクルメはあの場所で話を切った?・・・・・そう、きっと他者には言いたくないことに違いない!危なかった・・・・・また同じ過ちを繰り返すところでしたわ。

 

「クルメ。言いたくない事であれば無理に言う必要はありませんよ?私達だって言いたくないことの一つや二つあると思いますし」

「いえ!暗い話でもないですしお話しますっ」

 

わたわたと胸の前で手を振りクルメはランクアップについて話してくれる。

 

「私は・・・・・とある御方、そう『伝説の料理人』と名高いあの御方のサポーターとして・・・・・四十三階層に出向いた時です」

 

ぶフォ!!・・・・・へ?四十三階層?いやいや、その伝説の料理人の頭を疑っちまうんだが?Lv1のサポーターをどこに連れていってんだよ!?一瞬のミスで即死だぞこら!・・・・・いや、それをなせるだけの力があったのかもな。

誰もがクルメの爆弾発言に絶句する中話は続く。

 

「とても長い長刀を使う居合い板前。どんな奴でも揚げてやるぜと言わんばかりの火力を持つシェフ。全てをこなす最強の主婦・・・オバチャンの3人で構築された怪物料理集団・・・・・それが私の師匠です。」

 

・・・・・・・・・・・・・・・いや、いやいやいやいや。・・・・・え?

 

おかしくない?世界観がおかしくない?板前?ワザマエなの?シェフ?揚げるのに火力なの?焼くんじゃないの?200℃超えると油って引火するよね?

そしておいオバチャンっておいおま、オバチャン・・・・・オバチャンかぁ・・・・・なるほど(納得)

 

「そ、それで・・・・・どうしてLv2に?」

「・・・・・あれはーーーーそう―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

四十三階層、そこに銀閃が煌めいた。

 

「致命――微塵切りッ!!!」

 

僅か数秒で放たれた斬撃の数は十を超え、その巨体の至るところに傷をつける。

 

「キャイイン!ハァハァ、グゥオオオォォオオオン!」

 

目を斬られたのが余程痛かったのか途轍もない巨体を持つ狼型のモンスター【ベオウルフ】はその場から悲鳴を上げ飛び退く。そして肝が潰されるのではと思うほどに恐ろしい唸り声と共に飛び出した。

 

「ほぅ?アレを耐えるとは・・・・・なかなかに肉質は硬いな・・・・・まぁいい。ワインにでも漬け込めば多少は柔らかくなるだろう?」

 

ド派手な赤い着流しに黒染めの鞘に収まる長刀。長い黒髪を束ね後ろに流す女性、そうこの人物こそ、板前だ。

 

板前は腰を落とし、先ほどと同じ構えをとる。そして、その板前の後ろには金髪の幼い女の子―私です、クルメです。―が。板前は引くに引けず、迎え撃つ形で対峙していたのだ。

 

「ふぅん!!」

 

再び高速の抜刀斬り。しかしそのうち命中したのは1発のみ。唸りながベオウルフは板前を中心に回り始める。

 

「ちぃ・・・・・学習するか、食材の分際で」

「(しょ、食材じゃないような・・・・・ふぇえ、怖い!怖いよぉ!)」

 

ベオウルフが恐ろしく長いその牙を見せつけ、警戒し―――一気に飛び掛かってくる!

 

「グゥウアアァウ!!」

 

バンッ!と言う音がする程に強く噛み付いてきたベオウルフをどうにか私を抱えながら回避した板前、しかし、完全に回避する事はできなかったらしく、その肩に大きな傷を負ってしまった。

 

「・・・・・料理は死と隣り合わせだ。この程度でくたばってしまえば料理人失格だ・・・・・」

「(いや・・・・・私の知ってる料理人じゃないよぉおおおおおおおお!)」

 

内心を恐怖とカオスにめちゃくちゃにされた私は内心で叫びまくるが顔は恐怖で凝り固まっていたし、そんな事に気を向ける余裕なんてこれっぽっちも無かった。

 

「大丈夫かい!?アタシが来たからにはもう好きにはさせないよ!!・・・・・あらやだ、凄い可愛いワンちゃんじゃない。どうしたのよこの子、あら~可愛いわぁ~」

「ワシが来たからには安心せい!とおっ!あいたっ!?・・・・・逝ったわ、今ワシの足の親指が旅に出たわ。遠い遠い方に旅に出たわい。」

「むっオバチャンにシェフ・・・・・どうしてここに?」

「あらっ、忘れるなんて酷いじゃない。貴方がクーちゃん連れてどっか行っちゃうから追いかけてきたんでしょ?それにしても可愛いわねぇこの子。雄かしら雌かしら?」

「あ~ぁ、ワシの指が・・・・・はうぅ!?・・・・・・・・・・こ、腰が天に召されてしもうた・・・・・ワシ、もう、動けない。」

「・・・・・・・・・・来なくて良かったんだがなぁ・・・・・」

 

圧倒的カオス、敵がいるというのに井戸端会議の如く話し始めた3人に私は全くついていけず、ポツン、と取り残されていた。

 

すると。

 

ズンズン、と肩を押される。そして生暖かく臭い息が私を包み込む。流れでる恐ろしい声。私はギギギギと錆び付いたお人形のように振り向いた。

 

「グルルルルルルゥ。パクッ」

「――――――ッ!!!!」

 

それはもうびっくりして固まってしまい、そのまま胃の中へ。中は臭くて暖かくて真っ暗でした。そしてヌメヌメしていて・・・・・・・・・・うぅ・・・・・吐きそう。

 

「なっクルメ!」「あら?クーちゃんが居ないわねぇ」「は!?ひへはがはふへた(入れ歯が外れた)」

 

私が食べられたことに気がついた板前たちは武器を抜刀し、突撃していく。

 

「きっさまぁぁあ!クルメを吐き出せ!私ですらまだ人は食べた事が無いと言うに!吐き出せ!今すぐに吐き出せ!」

 

オラオラオラオラ!と逆刃で殴りつける板前。鑑賞するオバチャン。メガネをおっことして探し続けるシェフ。

 

「オラオラオラオラ!ははは、ククク、ハーハッハッハっ!今の内に沢山叩いておこう!肉質が柔らかくなり美味しくなる・・・・・!ジュルり」

 

その後ベオウルフは私を吐き出し逃げていった。狂気に当てられ流石のモンスターも逃げたしたようだ。板前は

非常に残念そうな顔でそれを見送った後私に声をかけた。

 

「大丈夫か?・・・・・所で、食われた感想を教えてくれないか?もしかしたら料理のアイデアにつながるかもしれんからな」

「・・・・・き・・・・・・・・・・気持ち悪かっゴホゴホオェェェェェ」

「あらあら、大丈夫?もぅ、仕方のない子ねぇ。さっ、地上に戻りましょうか!」

「おお!あったぞワシのメガネ!・・・・・くくく、さぁベオウルフよワシの妙技を見せて・・・おや、ワシの恐ろしさに逃げ帰ったか・・・・・」

 

 

その後、その時のショックで食べ物を受け付けなくなってしまった私を3人は交互に美味しいものを持ち寄り回復させようと努めてくれた。

 

「安心しろ、お前を食べたりしないさ。今はな。さぁ食え、そして肉をつけろ」

 

と優しい言葉もかけてもらった。この言葉は今もよく覚えています!

 

 

 

 

 

「そんなわけで私はこうして元気に冒険者を続けているんです!」

 

・・・・・やべぇよぉ・・・・・どこからツッコミ入れりゃァいいんだ・・・・・突っ込みどころ満載なんてレベルじゃねぇぞ・・・・・何で料理人が戦ってんだよ「〇リコ」かよ。何で1人しかマトモに戦ってねぇんだよ・・・・・ジジイはよく四十三階層まで降りてこれたな?てか最後のセリフ絶対に食うつもりだったよ、性的に所か物理的に食らうつもりだったよ!

 

「もう、突っ込みどころ満載過ぎて追いつきません、思考が」

「・・・・・え、ええ。もう何が何だか・・・・・」

「Zzzzz」

「リリには理解できませんでした。どうなったらそうなるんですか」

「・・・・・それは、その、料理人、なのだろうか?」

「うんっ!料理人だよアリッサちゃん!」

「・・・・・!・・・・・そ、そうか(目から光が消えている・・・・・!)」

 

えっ、えっと料理人に憧れたんだよな?クルメはそういう奴らを見て憧れたんだな!?

 

「はい、そうですね。私の憧れです。ゴブリンを高級ステーキ以上にしてしまうあの腕前・・・・・恐るべき腕前でした・・・・・!」

 

は、はは。すごいな(困惑)

 

「そういえば妖夢ちゃ・・・妖夢さんも板前さんとだいぶ似てる気がします!」

「無いです(即答)」

「はやい!でも刀だし、居合使うし、料理上手ですよね?」

「モンスターを調理する趣味はないですよ・・・・・」

「美味の探求ですよ、間違えてはいけません」

 

あぁ、影響されてしまったんやなって。

そういえば話を聞く限りだと料理人冒険者なのに包丁とかそう言う武器使わないんだなぁ、なんでだろ?

 

「そういえば包丁などを武器として使わないんですか?料理人ならそういったものでモンスターを直接料理!みたいな事をするかと思いましたが」

「馬鹿なの?」

「へ?」

「料理人にとって調理器具とは命!魂!相棒!そんな大切なものを戦いに?んなことできるわけないじゃない!もし刃がかけたら?もし蓋に穴が開いたら?・・・・・そう、すなわち料理の失敗を意味する・・・・・ので!使いませーん!!」

 

キャラがぶっ飛んだぁあ!クルメ選手のキャラが場外へと飛び出したぁー!

 

「あ!ちなみに3人はオラリオの外に旅に出ましたよ!なんでも世界の料理を研究しに行ってくるとか」

「そ、うですか・・・・・」

「・・・・・・・・・・はいっ」

 

うん、まぁあれだ。さっきのようなしんみりとした空気ではなくなったな、うむ。・・・・・反応に困るのは変わらねぇよぉ・・・・・。

 

「みょーん。もう寝ますか?」

「僕はもうZzzzzはっ。先に寝てるねzzz」

 

あっはい。・・・・・本当に抱き枕にするのね。

 

「ジー・・・・・」

「ジー・・・・・」

 

ん?なんだ?何でリリルカと千草はこっちを見ているんだ?

 

「どうかしましたか?」

 

とりあえず何か用があるんだろう。そうおもってきいてみる。

 

「妖夢様妖夢様、私達は仲を深めるべきです。なので私もご一緒してもよろしいですかっ」

 

・・・・・はい?ご一緒?どこに?何しに?

 

「わ、私は、その、き!気絶してる時に怖い夢見ちゃって・・・・・一緒に寝たいなー・・・・・とか、思ったり・・・・・」

「リリは強行軍の疲れが出てしまって・・・・・」

 

あー、なるほどね。一緒に寝たいのか。・・・・・じゃないが?もう入り切らないんですが、リーナのせいでもう布団いっぱいいっぱいだよ。

 

「千草様、ここをこうして・・・・・こうです」

「うんわかったよリリちゃん!こうやって・・・・・こうだね!」

 

と、ふたりは協力して素早く俺のところに布団をくっつけた。

が。

 

「ぐぬぬ・・・・・どい、て、下さい千草様・・・・・!」

「そっちこそ・・・・・!」

 

何故か押し合いっこをしてる2人。おーい、千草、何で拮抗してるんだよw頑張れ!

ちなみにリーナが寝てるのは俺の左側だ。そして取り合っているのは右側。どうやら俺の右側で寝るのはどちらかを争っているらしい。

 

「な、なんで押しきれないのっ・・・・・!」

「ふふふ・・・・・!千草様を荷物と仮定することで私のスキルを発動しているのです・・・・・!」

「そんなのってありなの・・・・・?」

「女は使えるものは全て使うんです!」

「!・・・・・・・・・・ならっ!!」

「なっ!?」

 

リリルカの力を利用して千草が背負い投げをかます。しかもしっかりと怪我をさせないようにしてあげる千草マジ天使。

 

「・・・・・くっ、負けましたっ!!」

「強敵だった・・・・・でも、勝ったよ!」

 

そしてキラキラと眼差しを向けてくる千草に俺は苦笑しながらその日は眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血にまみれた巨狼がその顎を大きく開いた。

 

「ひっ―――ッ」

 

私は小さく声を上げることしか出来なかった。それが私に出来た最善策。強い者に危険を知らせるための、自分を助けてもらう為の行為。しかし、むなしくもその口は閉ざされた。閉じられた口に生え揃っていた牙が私の足を引きちぎり、私は激痛に白くなる視界の中胃袋に叩き落とされた。足の断面が胃酸に触れ焼けるのような音を立てる。

 

「ぁあ!・・・あがぁ――ぁぁあ!!!」

 

いきたまま食われるのか、激痛で思考がままならない中、それだけはたしかにわかった。私を【死狼(ベオウルフ)】から守るために勇敢に戦った3人のうち、既に2人が死に絶えた。1人は牙に噛み砕かれ、1人は爪で乱雑に首をかき切られた。

 

「は・・・・・ハァぁ・・・・・!!うぁああああぁぁああああ!!!!!?!!」

 

そこまで思い出し、ふと横を見ればそこには女性の顔が苦痛に歪んだまま溶け始めていた。ここは、地獄だ。何よりも恐ろしい地獄に違いない。

 

痛みと恐怖と絶望と。震えは収まるどころかどんどん大きくなる。すると大きな慣性の動きを感じ、胃の中を転がり回る。死体が私と共に胃酸の海を転がり回り口や耳、鼻にまでそういった諸々が入り込んでくる。

 

「やめて・・・・・もうやめてよ・・・・・なんで、なんで殺してくれなかったの・・・・・?」

 

なぜ、生きたまま私を胃袋に入れたんだ。そう怒りがふつふつと湧いてくる。表面の皮膚がほとんど溶け始めていた私は死体と共に飲み込まれた1本の剣を手に持ち、思い切り胃袋に突き刺した。

 

「■■■■■■■■■―――――ッ!!!!」

 

ベオウルフが転がり回る。胃の中の私も転がり回った。それでも、刺して、刺して、刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して刺して。刺し続けた。

 

「はぁぁぁぁああああああ!!!!はぁっ!!!」

 

外から聞こえる気迫に、まだ最後の1人は生きているのだとわかった。そして、その気迫の篭った一撃がベオウルフの腹を強打したのだと。

刀ですら歯が立たない強靭な皮膚と毛皮を持つベオウルフに、柄の部分を使った打撃を思い切り打ち込んだのだ。

 

そして―――――空を舞う。大量の胃液と共に吐き出され地を転がる。顔を上げ見たものは刀を支えに何とか立つボロボロで血だらけなの女性の姿。彼女が『伝説の料理人』。名前も知らないが私を助けるために尽力してくれている料理人。

 

「・・・・・終わったか・・・・・・・・・・あぁ・・・・・ぁぁぁああああああ!!・・・・・ぁぁ・・・・・翁、婆や・・・・・すまん・・・・・私の力が及ばぬばかりに・・・・・ぐっぅ・・・・・!!」

 

肩から、頭から腹から血を流し、しかし修羅の如き顔で立ち上がる。そしてこちらを見た。その顔に思わず殺されると思ってしまった。

 

「女子よ、生きろ。死なせはせんぞ・・・・・!お前という若き芽を守るために、我が祖父達は死に絶えたのだ・・・・・!生きろ・・・・・いいな?・・・・・生きろ!いいな!!」

「は・・・・・ぃ」

「そうだ。それでいい・・・・・。貴様を地上に連れていく。決して殺さぬし決して死なせはせん。爺と婆やの分も生きねばただでは置かんからな・・・・・!」

 

修羅に連れられ私は地上へと帰った。しかし、待っていたのは平和な日常ではなかった。

 

私が肉体に受けた傷は万能薬ですぐさま消えた。しかし心に受けた傷は全く癒せなかったのだ。

 

口にものを含めば吐き出し、固形物は喉を通らず、吐き続けて透明な液体が出るだけになっても吐き続けた。決してご飯が不味かった訳では無い、むしろ美味しすぎる程であった。

 

だが、ものを口に含むと蘇る記憶・・・・・胃袋の中で見た死の光景。私の胃の中もああなっているのではと不安になり耐えられない吐き気をもよおす。

 

「食え、食わねば死ぬぞ。意地でも飲み込め。」

「でも・・・・・でも・・・・・!!」

「いいか?世の中極論で言うならば食うか食われるかだ。食われれば死ぬし、食えば生きれる。だがな、その輪から外れたものは死ぬ以外の道を失う・・・・・故に食え。」

美味しいのに食べたくない。どうしても食べ物を前にすると前の出来事が脳裏にはっきりと浮かんだ。体を生暖かい液体が包み、激痛と共に溶かしているような感覚に襲われ、体の末端から冷たくなっていく。

 

「・・・・・・・・・・ならば・・・・・そうだな・・・・・クルメ、料理を作ってみないか?お前自身の手で。そうすれば何か変わるやもしれん」

 

震える手で料理を口に運ぼうといつも通りの挑戦をしていたその時、私は初めて名前で呼ばれた。そのことに驚いてそちらを見れば料理を作ってみないか、と誘っているではないか。私は全力で頭を横に振った。食べることすら出来ないというのに料理なんて作れるわけがない。

 

「黙れ。物は試しと言うだろう。やってみないことには何も変わらん。」

「・・・・・はぃ」

 

この日から私は料理をしっかりと学び始めた。そして、その深みにハマっていったのだ。食事も少しではあったけれど喉を通るようになり始め・・・・・数年もすれば人並み以下には量を食べられるようになった。

栄養失調で何度も死にかけたけど、今ではそれもいい思い出だ。そして―――私は今でも覚えている。私の料理を食べたあの人が

 

「―――美味しいよ、クルメ。」

 

少し、笑ってくれたのを。

 

 




次回!

仲間集め!集結する最高戦力。

ベートのデレ。


誤字報告お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

47話『だから、守って欲しいんだ』


タイトル通り、ハルプ形態で助けを求めるお話し。

そういえばタイトルつけたんですよね。妖夢かハルプのセリフを抜き出してタイトルにするって事にしたんですが・・・・・どうです?



テントの中を外と隔てる布切れの僅かな隙間から光が差し込み、再び世界に朝が訪れたのだと知らせてくれる。

 

あぁ、そういえば此処は地下深く。届いているのは太陽の光ではなく水晶の輝きだったか。

 

ふわぁ~・・・・・おはよ。おれだよ。

 

「ふぁ・・・・・ぁ・・・・・ふぅ。ん~~っ!!」

 

朝目が覚めたら布団の中で、ゆっくりと伸びをする。仰向けになり、手を組んでバンザイをして両腕を伸ばします。息を吐きながらその状態を5秒間続けて、そのあと力を抜く。朝イチで伸びをすることによって、体に「動き出すよ」とサインを送くる。体が準備するので体を傷めにくなる効果もあるらしい。

 

朝一に全身を伸ばすことで血流が良くなってそれだけで代謝が上がり、ダイエットにもなるとか、伸び万能説を唱えたい。

 

起き上がろうとして何かに引っかかる。ん?と思いながら見てみれば千草とリーナが俺に絡みつくように寝ているではないか。

 

「・・・・・ふふっ」

 

起こそうと思って手を伸ばすが、その手を二人の頭に置いて撫でる。もう少し寝かせてあげたかったからだ。・・・・・もうすぐで黒いゴライアスとの戦闘が始まる・・・・・なら、少しでも準備しておかないとな。という訳でハルプモードになって行動を開始する。肉体の方ももう少し寝ておこうか。

 

『うっし、行くか。』

 

本体が寝ている間に、実は全ての館を巡ってタケミカヅチ・ファミリアの精鋭を集結させようと行動した。結果として戦闘を行える、もしくは自信があると言ったレベル2が15人、サポーターとしての能力が期待できそうなレベル1が8人。それぞれ限界までポーションと武器を持ってもらった・・・・・人と、そしてモンスターとも戦うことになる。

 

まずはベートの元に向かう。友人でもあるベートはレベル5。単身で通常のゴライアスを子供扱い出来ると思う。ならば戦力として捕まえないわけには行かない。どんな手を使ってでもコチラに引き入れる。

 

それとオッタル、ある程度の友好関係は築けていると踏んでの彼だ。こちらを監視もとい護衛している彼だが戦力としては何よりも上だろう。・・・・・例え協力してくれないとしても、俺がピンチになれば助けてくれる可能性が高い。利用するようで悪いが家族のためだ。駄神は言った、「原作通りに進めた方が可能性が高い」と。あの時俺が考えたのは桜花たちを救えるかどうか・・・・・つまり、下手に俺が手を出して黒いゴライアスの出現を未然に防いだ場合・・・・・何か桜花たちが死ぬ事態になる、という事なのだろう・・・・・例えばウダイオスの白バージョン的な何かが出てくるとかね?

 

・・・・・・・・・・・・・・・必要なら【西行妖(切り札)】を切るつもりだ。魔法を吸収できるベートが居れば多少は安全になるかもしれない。だがそれ以外の冒険者達はまだ魔法の効果が完全にわかっていないから危険に晒される可能性が高いな。判明している特性だけでもえげつないのに。

 

ベートと数人の男性冒険者が泊まっているテントに俺はたどり着く。そして入口に垂れている布を押上げ中に入った。・・・・・今は4時くらいか。

 

『ベート。起きてくれ。ベート。』

「ぅ・・・・・ぅあ?・・・・・・・・・・ん、・・・・・んだよ、もう少し寝かせろ・・・・・」

 

ベートを揺するが耳がピクピク動いて、尻尾を2回振ったが起きてくれない。ふむ・・・・・。俺は一つ思いつき、ベートの耳に口を近づけた。

 

『ポーション挿すぞこら』

「・・・・・っ!?誰d『大声は出すな。』てめっ・・・・・妖夢、じゃねえなハルプか、何しにきやがった・・・寝かせろ」

 

眠そうにあくびをした後布に包まる狼、の、ケツを蹴り飛ばし起こす。怒鳴ろうと開けた口を抑え要件を伝える。

 

『ベート。ここは人が多い。少し離れたいんだ・・・・・来てくれないかな』

「・・・・・てめぇ・・・・・何考えてやがる」

『・・・・・大事な要件なんだ、来てくれ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前を歩く銀髪のチビ・・・・・ハルプに続いて歩いていくと、むしろ巨大水晶の近くの開けた場所でそいつは止まった。

 

なんでついてきちまったかなぁ・・・・・。

 

頭をガシガシと掻く、理由なんてわかってる。『来てくれ』そういったアイツの目が確かに「怖がっていた」からだ。

 

・・・・・何を怖がってんのかわからねぇが、取り敢えず俺を連れてくるだけの事なんだろう。自慢でも自惚れでも無いが、アイツらは俺に懐いている。昔から何故か子供にはなつかれやすいが・・・・・それとはまた少し違う感じだったか。まぁだから俺を頼ろうってのはわからなくもねぇ。

 

どんな敵に対しても恐怖を抱かず戦っていたアイツらが怖がるとすれば「仲間の死」か「家族の死」くらいだろうが、こんな雑魚どもの溜まり場(リヴィラ)であのタケミカヅチ・ファミリアの団員を殺せるとは思えねぇ、それに幹部になった・・・確か、桜花、命、千草・・・だったか?を倒すのは正直あり得ねぇだろうな。

 

じゃあ何に怖がってんだよアイツは・・・・・なんだ、家族が死ぬ怖い夢でも見たか?

 

『・・・・・・・・・・なぁ、ベート』

「んだよ、さっさと要件いいやがれ」

 

立ち止まってから何も言わずに止まっていたハルプが口を開いた。考えてもわからねぇなら聞くしかない。

 

『俺が今から言う事は、その・・・・・あり得るかもしれない可能性の話だ。』

 

俺に背を向けたままそう話し始めたハルプ。そして、俺は思い出す。

いつだったか、デカ花野郎と戦ってぶっ倒れた妖夢は俺達のホームに運ばれた。そして、ハルプがお礼にと秘密を俺達に話した。もしも、という可能性の世界から技を学び扱うのが自分の秘密、そう言っていたハルプだ・・・・・何かが起ころうとしてんのか?

 

「おう、聞いてやる。」

『・・・・・・・・・・今日、神ヘスティアが攫われる。』

「!」

『そして、ベル達は攫った奴らと戦うだろう。そして、ヘスティアはそれを止めようと神威を開放する。』

「・・・・・・・・・・たとえ、それが起こるとして、何が起きる?タケミカヅチ達が巻き込まれて死ぬってのか?」

『・・・!・・・・・ダンジョンは神を嫌っている、憎んでいる。だから殺しに来る。』

「はぁ?」

 

何を言ってやがる?ダンジョンが神を憎んでいる?・・・・・・・・・・いや、なるほどそういう考えもあるか、あのロキがダンジョンにコッソリ入らねぇのは疑問だったからな。人の身にまで力を落としているならバレねぇって事か。つかなんでそんな事知ってんだ。

 

「なんでわかる」

『・・・・・平行世界だ』

「まーたそれか。んで?平行世界ならどーなんだよ?」

 

信じていない振りをして聞いてみる。

 

『・・・・・・・・・・言っていいのかわかんないけど・・・・・黒いゴライアスが落ちてきて、ここが壊滅する。死者は0名』

「・・・・・はぁ?誰も死なねぇならなんで『ここが、その世界じゃないからだ。』!・・・・・それで?」

『死者が0名の世界でないならば死者が出るかもしれない。それが何人かもわからない、誰が死ぬのかも、そもそも黒いゴライアスが落ちてくるのかもわからない。・・・・・未知だよベート。冒険者が何よりも怖がるものだ。』

 

そうか、だから可能性の話だって言ったんだな。

 

『だから、守って欲しいんだ』

 

ハルプらしくない、弱々しい表情。だがわかる、なんでか知らねぇがわかった。男の矜持に似た何かだってのは。

 

「・・・・・アイツらを守ればいいんだな?」

 

コイツは家族を守ろうとしている。だが、そこに自分が入っていねぇ、妖夢すら入っていねぇ。自分達が死んでも家族は守る。そう思ってるみたいだが・・・・・。だっせぇなぁ。

 

『!!・・・協力してくれるのか・・・・・?』

「あぁ?うるせぇ。ダ・・・・・いや。何でもない。」

 

ダチだろ、そう言いかけたが止める。今コイツは下心を持って俺に対応している。それは俺が実力者で知り合いだからだ。まだ俺が声を大にして「友達」だと言っていないからだ。でも、ここで言えば『友達を危険に晒すなんて』とかほざくに決まってる。

 

妖夢が死んでもどうでもいい・・・・・なんて事はもう言えなくなっちまった。今更気がついたが、もうアイツらの事を仲間だと思っちまってる。

誰にも進めない道を1人で歩くアイツの姿勢を好ましいとすら思っちまってる。がむしゃらに力求めて踏ん張る姿が昔の何処ぞの誰かさんに重なりやがる。

 

「あ~あ、めんどくせぇ」

 

―――だが、おもしれぇ。

 

戦ってみたくなった。天才剣士が恐れるその何かを見てみたくなった。そこでこのチビ助が何をするのかを。その為なら、こいつの場所を護るくらい片手間にこなしてやらァ。

 

『ご、ごめんな?でも、ベートが居てくれた方が皆が助かる可能性が高くてな?だから・・・』

「わあってるよ、でしゃばんなガキ」

 

にやりと笑って頭を叩く。『ふぎゅ!』と変な声を上げた後頭を押え、俺を睨む。

少しだけ試したくなった事がある。コイツの芯はしっかりしてんのかを、確かめたくなった。だから揺さぶる、コイツの甘えがどれくらいなのかを。

 

 

『なんで叩くんだよ!俺は真剣なんだぞ!わかってんのか!』

「ははは!ざまぁねーなぁ!てめぇは布団に包まって明日が来るまで怯えてやがれ!」

『なにおぅ!!』

「だからよ」

『・・・だから?』

 

 

「―――――――俺が全部、終わらせてやろうか?」

 

ニヤニヤと笑うのを止めて、本気であるとわからせるために真顔で正面から見つめる。この手の提案は前に1度弾かれた。紅いオークとの戦いでぶっ倒れた妖夢に同じ事を投げかけた時に。

コイツがスキルであったとしても、記憶の共有をしてる以上は考え方も似てくるだろう。現に、今までコイツらが意見の本筋を違えた所なんて見た事はねぇ。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・例え・・・・・例えお前が本気で言っているとしても、その提案には頷けない。』

「・・・・・どうしてだ?」

『・・・・・・・・・・はは、かっこ悪いだろ?・・・・・家族守る為に強くなったんだ。なら、家族守るために使いたいだろうが。』

 

そう言ってニヤッと笑った。

 

「そうかよ。まぁ、そう言うと思ってたけどな」

『おう?以心伝心か?遂に友達になるか?』

「はっ!抜かせガキ」

『むむむ、き!きっと俺の方が年上だし!』

「うるせぇ2歳児」

『んだとゴルァア!』

 

なら、構わねぇ。俺はアイツの家族を守って、アイツがその何かと戦うんだろう。少しばかり気に入らねぇが、獲物を奪うのは無粋ってもんだしな。ま、殺さなきゃ守れねぇようなバケモンだったら俺も参加するが。

 

・・・・・安心しろよ、例えテメェが死んじまっても守り切ってやる。

 

襲いくるハルプのわざとらしい幼稚な突撃を軽く躱しながらテントに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ、はぁはぁ・・・・・うぐ、・・・・・おのれベート、一瞬でもカッコイイとか思った俺が馬鹿だった。だけどまぁとりあえず仲間に出来たかな。

 

んで、オッタルだけど・・・・・護衛対象である俺と、監視対象である俺とベルがいるから多分ここに残るはずだ。なのでスルー!

 

という訳で次に落とす城は・・・・・ふむ、・・・・・ふぃん?かな?

 

と思ったわけでやってきましたフィンのテント!デカイ(確信)まぁそんなに大きさは変わらんけど。

 

バサッと布を押しのけ中に入る。

 

「ん?誰だい?」

 

っと。流石は団長、もう起きてたか。本来なら桜花たちも起きてる時間だけど、強行軍のせいで疲れが溜まってるんだろう。まだ起きる気配はない。

 

『こんな早くにごめんなさい。ハルプだよ』

「・・・ええと、何か用かな?」

『あぁ、用がある。・・・・・とても大事な話なんだ。それこそ、ここ(十八階層)にいる全ての冒険者に関わることだ』

「・・・・・・・・・・で、それは一体?」

 

謝罪から入り、すぐさま本題へ。声を落とせばほかのテントには聞こえないだろう。

 

『もう既にベートには言ってあるんだけどな・・・・・。これは可能性の話なんだが――――』

 

 

 

 

 

 

「すまない。首を縦に振る事は出来ないよ。」

 

断られた、あっさりと。

 

「僕には団員たちを守る義務がある。なのにわざわざ事態が起こるのを見過ごせと?何が起きるかわからないというのに?」

 

反論の言葉が出てこない。原作の流れを壊したところで結界が悪い方に転ぶとは確定していないんだ、所詮可能性に過ぎない・・・・・けど、その可能性を無視出来ない。

 

「君を見ているといつも指が疼く。危険だ、離れろ。そう僕に伝えてくるよ。」

 

・・・・・きっと、フィンの予感は正しい。・・・・・もしかしたら何をしても、どんな選択肢を取っても危険かもしれない。イレギュラーが混ざり込んだ世界だ。原作と最早乖離が過ぎている。本来ならいない人が居すぎている。

 

「だから僕の個人的な感情では団員たちを君に貸す事は出来ない。」

『・・・・・そう、だよな。』

「だけど。」

『?』

「自らの意思で残る、そういう者達がいるなら、僕は止めないかな。・・・・・僕は後ろで指揮をとる、けど現場での判断は各々だ。ベートの様に残る人がいるなら僕は止めない。」

『フィン・・・・・ありがとう・・・・・!』

「けど、僕はもちろん参加出来ないよ。ファミリアの団員たちを地上に送り届けないと行けないからね。」

『うん!ありがとうございます!』

「ははは、僕にお礼を言われても・・・」

 

フィンに要請を取り付ける事は出来なかったけど、各々の意思を尊重してくれるらしい。なら早速アイズ達にも助けを求めるべきだろう。

 

『ありがとうフィン!!』

「うわっ・・・ははは驚かせないでくれよ、まいったな」

 

フィンに一瞬ではあるがハグをしてすぐさまテントを飛び出す。

 

さぁ次は・・・取り敢えずアイズに助けを求めるとしよう!一応弟子らしいし、きっと助けて・・・でも待てよ?師匠のくせに弟子に助けてって言うのか・・・・・うぅ、しかし恥など捨て置け!家族のためならなんじゃらほいってんだ。

 

と!言うわけで到着!

 

「アイズ?誰か来たみたいだよー?」

 

おっと、ティオナの声だ。ここは中にいきなり入らずに外から声をかけるべきか。

 

『ハルプだよおはよう。アイズに用があって来たんだけど・・・・・いや、他にも揃ってるならそのほうがいいか』

「う?妖夢ちゃん、じゃなくてハルプか!声おんなじだからわかんないな~、入っていいよー」

 

ティオナの声に従い中に入る。そこにはちょこんと座るアイズと寝っ転がって足をパタパタしているティオナ、少女座りするティオネがいた。なんて言う恐ろしい空間か、この狭い空間に合計16レベルも居るなんて。

 

「ししょー?どうかしたの・・・?」

 

アイズが首を傾げこちらをジッと見つめてくる。ティオナ達も同様だ。ティオナが少し驚いた表情をした。

 

「・・・・・なんか、ハルプ焦ってる?」

『!!・・・・・俺って焦ってる様に見える?』

「あー、うむ!多分ね!」

 

励ましてくれてるのかな?まぁ同情してくれた方がコチラとして嬉しい限りなんだけど・・・・・。利用するようで罪悪感がひしひしと湧いてくるけど仕方ない。

 

『実はな・・・・・―――』

 

~魂事情説明中~

 

「かくかくしかじか」

「「「まるまるうまうま」」」

 

~魂説明終了~

 

 

「いいよ。」

 

はっや。即答ですか。

 

『疑わないのか?』

「ししょーだから」

『あー、それは妖夢の事だろう?』

「ししょーは沢山いてもいいと、思います」

『お、おう。』

 

謎理論に押されるが負けるなハルプ少年(少女)

 

『本当にこれが起きるかなんてわからないんだ。所詮ほかの世界ではこうなった、だからこっちの世界はこうなるかもしれない、ってだけの推測に過ぎない。』

「信じる。」

『・・・・・・・・・・ありがとう』

 

無条件の信頼。・・・・・きっついなぁ。利用しようとしてるのにこれはキツイ。分かっててやってんなら俺の師匠になってくれよ。

 

「私は無理ね」「え!?」

「だってそうでしょう?遠征の荷物とかどれだけあると思ってるの?団長だけじゃ守りにくいでしょうが。・・・・・地上に帰ったらまた潜ってきてあげるわよ」

『ありがとうティオネ!』

「はいはい、わかったから抱きつかないの」

「私も行くよ!楽しそうだもん!」

『ありがとうティオナ!』

「あれ?私には抱きつかないの?」

『・・・・・仕方ないなぁ』「酷い!?」

 

よしよし、沢山仲間が増えてきたぞ・・・・・!これなら並大抵の敵が現れた所で撃退できるはずだ!!

 

さて、少し戦力を整理しておこうか。

 

まず仲間になるかは不明だけどLv7がオッタル1人。確定してるLv6がアイズ1人。確定してるLv5がべート、ティオネ、ティオナの3人。Lv4はリューとアスフィを巻き込むつもり。Lv3が取り敢えず4人Lv2以下は沢山ってところか。

 

過剰戦力・・・・・だといいんだけど・・・・・。なんでここまで不安になっているのだろうか?

わからない。そう、だから怖いんだ。「原作とは違う」それだけでここまで恐ろしくなる。

 

・・・・・・・・・・この中から死者が出ないとも限らない。すべては可能性の話。故に断言できない。何が起こるかなんてわからない。ダンジョンが押し潰れて全員死ぬかもしれないし、突然床が最下層までぶち抜けて落下死するかもしれない。可能性は0じゃない。

 

・・・・・不安を和らげなきゃな。俺がいざと言う時に動けないなら意味がない。

 

さて、どうするか、・・・・・鍛錬でもしようかいつも通りに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で俺が目を覚ますと、既にアリッサと命が起きていた。・・・・・そして、まだ俺はリーナと千草に引っ付かれたままだ。

 

「はぁ、わざわざ二度寝までしたのにまだくっ付いてますか。」

 

呆れた溜息と同時にニヤリと頬を緩める。が、やめた。

 

「起きないのなら・・・いや、やめておきましょう。」

 

今のうちに寝てもらった方がいい筈。全力全開で頑張れる状態にした方がいい。

 

「おはようございます妖夢殿。ふふ、随分と微笑ましい状態ですが」

「むむっ」

「おはよう妖夢・・・さん、か?・・・・・慣れないな」

「おはようございます。命にアリッサ。それと、私の事は妖夢、で構いませんよ。」

「すまない、これからはそうさせてもらう」

 

命達と爽やかな挨拶を交わし、2人に手伝ってもらいながらどうにか拘束から抜け出した俺は早速鍛錬に向かう為に入口の布を押したのだが・・・・・何かにぶつかった。

 

「どうかしたのですか妖夢殿」

「いえ、壁が・・・・・」

「・・・はっ(これはまさかまたオッタル殿が!)」

 

既知感に襲われながらも布をどかせばそこには―――

 

「よう、妖夢。」

 

ベートがいた。

 

「あ、ベートですか。良かった。「お?」いえ、何でもないですよ」

「違うんかい!・・・こ、コホン・・・オッタル殿は何処に?と言うか叫ぶのはオッタル殿だけなのですね・・・」

 

ふぅ、ベートで助かった。これでもしオッタルだったらまーた叫び声を上げるハメになって千草とリーナが起きてしまう。

 

「あっ、そうですそうです。ベート私達と鍛錬に行きませんか!」

「いや。まてよ昨日ハルプが―」

「早く行きましょう!」

「おっおい!押すんじゃねえよ。」

『鍛錬だ!鍛錬の時間だ!(・・・・・てかベート、みんなの前でそういうこというなよ。感づかれるだろうが。流れに持っていくには皆に知られるわけには行かないんだよ)』

「(そういうことかよ・・・・・悪ぃな)」

「いえいえ。・・・・・アリッサはどうしますか?」

 

ベートと帳尻を合わせ、着いて来るのかわからないアリッサに予定を聞く。このまま鍛錬につい来るのか、自由に動くのか、一応上司として聞いておかねば。

 

「む、・・・・・・・・・・いや私は少しばかり用があってな。」

 

とのことだ。まぁいいか。さて、鍛錬に赴くとしようじゃないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し遡り・・・・・・・・・・夜。リヴィラにある酒場で人々は盛り上がっていた。

 

「あんのガキィ・・・・・どうやってここまできやがった!どんなインチキをすりゃここまでこれる!あの短時間でヨォ!」

 

怒りに任せ拳を叩きつけたテーブルは粉みじんに吹き飛んだ。店主からの怒声を無視して冒険者――モルドは憤る。ベル・クラネル。魂魄妖夢。どちらも自分よりも後に冒険者になり・・・・・自分を片や軽く超えていき、片や既に追いついている。解せない、それが彼らの感想だ。

 

「・・・・・・・・・・潰すか」

 

誰もが声を潜めた。聞こえた単語に興味を持ったからだ。

 

「やめとけよ、ここまで来れたってんならそれだけの実力はあったんだろ?」

「テメェ知らねぇのか?あの野郎は【剣姫】と一緒にいやがった!・・・・・糞が、一体どんな手を使いやがった。」

 

 

徐々に過激な方に会話が傾いていく。殺す。までは行かないが、それでも「冒険者ってものを教えてやる」程度には過激になっていった。そして

 

「その話し・・・・・聞かせてもらったよ。」

 

原作通り、神ヘルメスが現れ、事態は妄想から現実に変わった。現実味を帯びてしまった。透明化できるヘルム、神をさらい、人質にする計画。

 

不備はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

「そうか・・・・・・・・・・貴様ら・・・・・外道の類いだな?」

 

彼らにとって馴染みある、鋼鉄の騎士がそこに立ちはだかった。





さてさて、話しを進めていこう!過去編に話を割いたので加速の術でござる。

さて、何かもうメンバーがえげつなくなってますなぁ。こんだけ強いのがいれば黒いゴライアスとかまじ余裕のよっちゃんだぜ。

次話、アリッサとモルドとベルが主役。え?妖夢達?あぁ、少しだけ出てくるよ(めそらし)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

48話「――始まりましたか。」


いやぁー、アリッサさんを使いやすくして良かった。

友達とのラインの一幕。

シフシフ「アリッサさん使い易すぎて笑える」

友人H「ほう?」
友人M「アリッサ?」
友人M「女?」

シフシフ「女だよ」
友人M「使い易い女か・・・」

と言うのがありました。友人Mはアリッサさんきダークパワーで潰されるがよろし。



頑強で堅牢な鎧に身を包み、屈強な体と不屈の心を持つ。

 

それが騎士。それがヒーロー。

 

弱気を助け、悪しきを挫く。

 

それが騎士。それがヒーロー。

 

それこそが私の目指す物。私の到達点。

 

故に。

 

「他者を陥れ、自らの醜い虚栄心を満たそうなどと・・・・・!恥を知れ!!」

 

私は憤りを覚えた。何度も何度も、目の前に群がるこのアホどもを守ってきた。この鎧で、この盾で、この体で。

 

何故、私の願いは届かないのか。

 

弱気を助け、悪しきを挫く。それだけの理想を何故叶えられない。何故裏目に出る。何故私はいつも守れない・・・・・!

 

理想(キュクロ)騎士(ヒーロー)ではなかった。少女を虐げ処理した盲目の下郎・・・・・。私は少女達を知ることも無く、守る事もできなかった。そして、その間この様な輩を守ってきたのか・・・・・!!

 

「てめぇは・・・・・アリッサか!オメェら!武器をとれ!コイツは止められねぇぞ!」

「「おう!」」

 

あぁ、なんという無様か。私程騎士という言葉の似合わない女も居ないだろう。だが、だとしても。私は理想を追う。

 

「私に命が、意志がある内は!貴様らにこれ以上の悪行はさせん!!」

 

私は誓ったのだ。守る、と。一度は守った者達を一度の間違いから斬り捨てるなど。それは騎士では無い。許し、道を正し、前に立ち導くのもまた騎士。

 

「その腐った性根、私手づから叩き直してくれる!!」

 

来るがいい、騎士はそう易々と倒せる者では無いのだとこの身をもって教えてやろう!

 

「ぉぉおら!!」

 

降りかかる二対の凶刃。片方を盾で防ぎ、片方を斧で弾き、柄で鼻面を殴りつけ壁まで吹き飛ばす。狭い室内であれば私の方が有利だ、味方がいない以上スキルの大半が発動しないが、それでもこの程度ならば必要ない!

 

「ダァァァアクッ!パワァァアア!」

 

闇属性を腕に付与し、振り下ろされたメイスを手で弾き、斧で槍を逸らす。盾で複数の攻撃を受け止め、押し返す。バランスを崩した相手に拳を打ち込めば、殴られた相手はバランスを失った様にふらつき倒れる。

 

「ちぃっ!!知っちゃあいたがコイツはやりずれぇな!!」

「そこぉぉ!」

 

盾を構えた突進。数人を吹き飛ばし机を薙ぎ倒す。横薙ぎに振るわれた斧槍を斧を手放した素手で受け止め。強引に奪い取ったあと面の部分で殴りつける。

 

「ぐぼぁ!!」

 

吹き飛んだ男が周りの男も巻き込みカウンターを破壊する。さすがの私も無傷では無い。たったこれだけの戦闘でも既に3箇所鎧に傷がついた。

 

「どうした・・・・・この程度か?この程度の実力で、この程度の想いで貴様らはあの少年を痛ぶろうと考えていたのか?」

 

距離を置き機を伺う彼らに話しかける。

・・・・・・・・・・彼らの一撃には確かな「誇り」があったからだ。重みの無い誇りの無い一撃を放ってくるようであれば言葉など無く容赦なく叩きのめしている。

 

「わかるだろ?アリッサ。アイツらは異常だ。俺達は何年かかった?此処(Lv2)に至るまでにどれだけ時間をつぎ込んだ!?・・・・・許せねぇ、どんなインチキ使ってやがるんだ・・・・・?教えてくれよ?知ってんだろ?なぁ!」

 

・・・・・そうか、そうだったのか。恥ずかしい事に私は少しばかり彼らを見誤っていたらしい。彼らは確かに外道に近い事をしようと企んでいた。だが、彼らにもまた「正義」があったのだ。人が長い時間をかけてたどり着く昇華(ランクアップ)と言う進化にことなげもなく辿り着く彼女らに対し、疑問、疑惑を抱いた。そしてそれを見定めようとしたのだろう。

 

だが。

 

だとしても。

 

それが私の仲間を傷付けていい理由にはならない。

 

「私は5年かけた。お前はもっとかかったな。」

「あぁ!そうだ!わかるだろ?奴らの異常さが!?」

「あぁ、知っている。彼女は異常なほど強いからな。」

「なら!」

「だからなんだ。」

「なっ・・・・・!」

 

「私は誓ったのだ。彼女らを守ると。道を外したのならば手を差し伸べ、道を違えたならば強引にでも連れ戻すと。この心に、この身体に確かに誓った!」

 

それはお前達にも誓ったことだ。

 

この者達は悪ではなかった。それは素直に嬉しい。命を危険に晒してまで、身体に消えない傷を幾つも負ってまで守り抜いたのが悪人だった、では笑えない。今きっと私は笑っているのだろう。

 

「これで終わりにしてやろう・・・・・!」

「糞が・・・・・!やってやんよ・・・・・!」

「「行くぞ!!」」

 

両者同時に地面を蹴り、互いの距離は瞬く間に0となり・・・・・「ストーップ!!」待ったが掛かった。

 

 

 

 

 

 

やれやれ、と肩を上げて首を横に振る。ヘルメスは目の前で起きている喧騒に「まいったなぁ」と声を上げた。

 

「なんでここに来たんだろうか、うーん、俺達もバレてるよねこれ」

「おそらくは。」

 

うわー、とめんどくさそうに椅子に凭れ掛かる。自分のすぐ隣のテーブルを砕いて冒険者が吹っ飛んでいく。りヴィラの冒険者の攻撃の悉くが盾に防がれ斧で弾かれ、そして殴られる。

 

「・・・・・可笑しいよな、たった1週間位タケミカヅチの所で学んだだけでああなるんだろ?本人の飲み込みが早いのも有るだろうけど、やっぱり武神だよなぁアイツも。」

「あの神ほど武神が似合う方も早々いないと思いますが・・・・・」

 

荒削りではあるが、確かにアリッサの「武」はタケミカヅチの技術が垣間見得る。なるほど、確かに単純な防御力ならタケミカヅチ・ファミリアトップと言うのも頷けた。

 

「困ったなぁ。どうするアスフィ?」

「どうするもこうするも、私ははじめから反対していましたが」

「でもなぁ、彼には一度人の悪意を知ってもらいたいんだよ」

 

吹っ飛んできた冒険者にアスフィが蹴りを放ちほかの方向に吹き飛ばし、また座る。アスフィは「はぁ」とため息をつきながらヘルメスど同様に机に突っ伏した。

 

「もうテキトーでいいのでは?」

「それじゃあ何も起こらないでしょー、絶対に。」

 

戦いは熾烈を極め、いよいよ最後の一撃、という所まで来てしまっている。そして、両者の距離が0となり・・・・・なる前にヘルメスが待ったをかけた。

 

「ストーップ!!はいやめ!ダメだダメ!」

「なっ・・・・・神ヘルメス、それは私達に対する愚弄か!この者達も私も、自らの矜持を持って戦って」

「はいはい、見てご覧よこの店を!」

 

抗議するアリッサにヘルメスは芝居のような大袈裟な動きでアリッサの視線を店内に移させる。そこには壊れたテーブルが幾つもあり、カウンターはひしゃげ、沢山の酒があった棚は落ち、酒は大半が割れていた。

 

「こ、これは・・・・・・・・・・」

「全く、これは酷いな。喧嘩は外でやるのが酒場のルールって物じゃないのかな?」

 

壁に寄りかかる様にして立ち、帽子を片手で弄びながらニヤリと笑うヘルメス。アリッサは自らの齎した破壊に少しばかり戸惑っているようだ。

 

「熱くなるのは構わないよ、俺もそう言うのは好きだからね。カッコイイと思うし、見てて楽しい。でもっ」

 

と壁から離れアリッサの元まで歩く。そして肩を叩いて

 

「他人に迷惑かけるのは騎士じゃ無いだろう?」

 

と帽子をかぶって外に出ていった。そして、アリッサを除いた冒険者達は理解する。

 

(((((なんかソレっぽい事言いながら逃げたぞ!)))))

 

一方アリッサは自らの至らなさを恥、冒険者達一人一人に謝った後、店主に必ず弁償すると伝え、店をあとにした。そして最後に

 

「もう変な事は企むなよ、あ、あと皆の方からも店主には謝っておけ。弁償は私がする・・・・・」

 

と少し気まずそうに言って帰っていった。

 

 

 

 

 

 

「糞がっ!」

 

バン!とモルドが壊れたテーブルを蹴り飛ばす。

 

「良い子ぶりやがって!」

 

まぁまぁ、落ち着けよモルド。冒険者達がモルドを宥めようとするがモルドは落ち着きを取り戻さない。

 

「あの女・・・・・!俺の名前を呼ばなかった・・・・・!糞が、忘れたなんて言わせねぇぞ!」

 

憎々しげにモルドが唸る。その姿に誰かが「うわー、始まったよ」と降参のポーズをとる。

 

「糞が・・・・・昔は一緒につるんでた癖によぉ・・・・・!」

 

アリッサは此処リヴィラを拠点に活動していた。そして、編成に不安のあるパーティーや、新米達に付き添い守る事を己の使命とし、行動していた。

そして、モルドは時折アリッサと共にダンジョンを巡った事があった。アリッサが防ぎ、モルドが討つ。即興のコンビネーションは何時しか確りとした連携になり、ミノタウロスですら無傷で倒せる様になった程に。

 

――モルド、良い一撃だった!代われ!――

――おうよ、任せた!――

 

(あの時、確かに感じたんだ。戦う事に対する喜びをダンジョンに潜る喜びを。)

 

一般的に、ダンジョンとは死窟だ。潜れば最期、恩恵無しの人では戻ってこれないとされる。勿論士気など本来であれば上がるはずなど無い。いつ死ぬかわからない、何処から敵が出てくるかわからない。いつ崩落するか、何が起こるのか、何もわからないこの迷宮で士気を保つには・・・・・願いが、野望が必要だった。

 

ダンジョンとは、(いのち)を捨てる場所だ。何よりも大切な生命を削り捨て、代わりに金や名誉や女を得る。強さもまた得られる物の一つだろう。故に人は死窟に潜る。

 

しかし、目標を見失った時、立ち止まってしまい停滞した時。士気は失われる。惰性で潜れるほどダンジョンは甘く無い。野心が、野望が欲望が。それらがあって初めてダンジョンに挑む理由となるのだ。

 

そして、彼もまた停滞した者の1人である。伸び悩むステイタス、上がらないレベル。どれだけ潜っても、どれだけモンスターを屠っても。経験が周囲のモンスターを難なく倒せるようにしたとしても。足りないステイタスがより深みを目指すことを妨げる。なまじ利口であったがために冒険(無謀)を犯せない。

 

そして、冒険(無謀)を犯さない者を神は認めはしない。ランクアップには冒険と言う行為(神が認める偉業)が必要なのだ。

 

故に、停滞する。命を放り捨てられない臆病者達は(眼識を持つ者)どうしてもそこでつまづき諦める。例外は存在するが、多くはこれに当てはまった。

 

ランクアップをすると言うことは『神に近づく』という事だ。つまりは人を辞めていくこと。だからこそ形はなんであれ強い意志が必要なのだ。

 

(俺よぉ、楽しかったんだよ。数人のパーティーだったが20階層まで楽々と進出出来たじゃねぇか・・・・・)

 

――くっ、この武器ではリーチが足りんか!――

――代われアリッサ、俺なら届く・・・・・おらぁっ!!――

 

この男にとって、最近まで出来ていた生きがいとでも言うべき物、それは仲間。ファミリアと言う壁を越え、ダンジョンを征するために協力する仲間。素顔も知らず、素性も知らず、けれど背中を預け命を預ける事を良しとする仲間。

 

――ふっ、まだまだ・・・・・だな、お互いにっ・・・・・!――

――・・・・・ぐ、あぁ、そう、だな。・・・・・くく、負けねぇぞ?――

――ふふふ、抜かせモルド――

 

それはなんと美しい物だろうか。モンスターに挑み襤褸切れの様になりながらも互いを支え共に歩む仲間は、彼にとって、モルドにとって命を捨て去る価値のあるものだった。

 

(なんで、なんで名前を呼びやがらねぇ!忘れちまったのか?この俺を?)

 

だからこそ、なのだろうか。モルドから見たベル・クラネルは【剣姫】に取り入り、ロキ・ファミリアに媚を売り諂い、おこぼれに預かる乞食にしか見えなかったのだ。

 

(お前は・・・・・産婆にでも成りやがったのか?あんなガキ共を守るために強くなったってのかよ)

 

許せない。彼の矜持が、彼の理想が、彼の想いが。努力も無しに強くなっていくベル・クラネルを許せない。

 

「あぁ?」

 

そんな時、ヘルメスが座っていた席に1枚の紙切れを見つけた。

 

「何だ・・・・・?」

 

開いてみるとそこには

 

“計画はそのまま実行してくれ。君の宿泊している宿にハデスヘッドは届けておくよ。君達の味方ヘルメスより”

 

と書かれていた。急いで書いたのか少し汚いが問題なく読める程度だ。

 

モルドは紙切れを強く握りつぶした。その目に確かな光を湛えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘスティアがいない。ベルもいない。その声が耳に入り、俺は立ち上がる。

 

「――始まりましたか。乖離は・・・・・無さそうですね」

 

今は、まだ。そう内心で付け加え、隣に腰掛けていたべートを見る。

 

「わかってるっつの、見逃せばいいんだろ?ダンジョンからの撤退に手間取ってましたってな。」

 

肩を竦めおちゃめな事言ってるべートの頭を撫で・・・・・ようとしたら手で弾かれたので少しムスッとしながら俺は桜花達の元に向かう。・・・・・桜花達は事態に焦っているようだ。

 

「!!みょんきち!ヘスティア様とベルが居ないんだ」

 

ヴェルフが俺の肩を掴んで揺する。やめて欲しい。酔うぞこら。

 

「えぇ、話しは聞いてましたから・・・・・私も見ていません。」

 

事務的に答える。けど怪しまれないように顎を片手で抑えながら考えるふりをする。

 

「みんな!これを見て!」

 

千草が少し離れた場所から走って来る。そしてその手にはヘスティアの香水やポーションなどのアイテムがあった。・・・・・原作通りだ。

 

「・・・・・・・・・・誘拐、って事か。」

「神様に手を出すなんて、恐れ知らずだね。敵さん。僕ならやらないよ、こんなこと」

「ベル様・・・・・。いえ、まずは作戦を立てましょう!」

 

うーむ、俺はどうにか話の内容から逸れたいなぁ。つっても、不自然になるのもダメだろう?仕方ない、普通に桜花達について行くか。

 

「作戦はこうです。リリが――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――僕のせいだ僕のせいだ!)

 

森の中を疾走する白い影。紙に書かれた場所に、焦燥にかられ走る。

 

(僕が目を離したから!神様は・・・・・!妖夢さんは忠告してくれたじゃないか!どうして見てなかったんだ!)

 

――なんで、僕はこんなに弱いんだ。

 

焦りと自分に対する怒り、忠告をくれた妖夢への申し訳ないという気持ちを綯い交ぜにして走る。

 

僕は坂を駆け上り、巨大水晶が生える広場へと飛び出した。

 

「なっ――」

 

僕の視界に広がるのは・・・・・モンスターでも美しい光景でもなく・・・・・ニヤニヤと悪どい笑みを浮かべた冒険者達の集団・・・・・約50人。

 

「来たかリトル・ルーキー・・・・・一人で来たんだろうな?」

 

広場の中心に立ち、腕を組む男にに僕はと小さく頷く。

 

(何が起きるかわからない・・・・・けど、妖夢さんの言うことを信じるなら・・・・・)

 

――決して、人とは善人だけではないのです――

 

なら。きっとそうなんだ。うまく理解出来ていないがそれでも淡い想像は出来た。・・・・・いや、きっと希望を持った。悪くてもこの程度と、勝手に僕のものさしで計った。

 

「早速本題から入るがよぉ、俺はとある人物に見世物(ショー)を頼まれていてよ。お前は神様が救いたい、俺は観客を盛り上げたい・・・・・どうだ?双方の利害は一致してるだろぉぅ?」

「見世物って・・・・・一体?神様は何処に」

 

見世物、それは結局見れなかった怪物祭の様な物だろうか・・・・・と現実逃避をしかけ、しかし振り払う。

わかってる。彼らの言う見世物は僕なんだ。

 

「なぁに、こういう事だよ糞ガキがぁ!!」

「なっ」

 

大剣が轟音と共に地面に叩きつけられる。風が吹きすさび、土煙が視界を完全に封じた。

 

相手が何処にいるのか見渡してもわからない。・・・・・不味い。僕は冷や汗をかいた。

 

「おらァ!」

 

土煙を割って飛び込んでくる()、僕は余りの不意打ちに対処出来ず顔を思い切り殴られ吹き飛んだ。

 

「がハッ!」

 

態勢を起こし素早く立ち上がる。僕を殴りつけた冒険者の男は拳を摩りながらニヤリと笑う。

 

「透明化?ハデスヘッド?・・・・・くだらねぇ。そんな物に頼ってコイツを打ちのめした所で満足できるかよ」

 

そう言ってやけに真剣な顔で、拳を構え直す。

 

「来いよ新入り、冒険者ってもんを教えてやる・・・・・。」

 

口の端に流れた血を拭い、僕も拳を構えた。すると向こうは怪訝な表情を浮かべた。

 

「おいガキ、なんで武器を構えない」

「貴方が、武器を持っていないからです。」

「・・・・・そうか、嘗めてる見てぇだな冒険者をよぉ。」

 

ダンッ、と地面を蹴り前進する冒険者。僕は真横に飛び跳ね回避し、拳を振り切った相手に蹴りをうちこむ。

 

「――へぇ。やるじゃねぇかよ」

 

しかし、僕の蹴りを素手で掴み防がれた。

 

「目の前に立ちはだかるもんはよぉ!全部モンスターだと思って戦いやがれ糞ガキがぁあ!」

 

力のステイタスに大きな差があるみたいで、僕は片手で持ち上げられ地面に叩きつけられる。そして、巨大水晶の方に放り投げられる。

 

「ぐはっ!・・・・・くっ」

 

肺の空気が全部抜ける。呼吸ができない。それでも立ち上がり、拳を構えた。相手は大柄だ、懐に入り込めば・・・・・

 

そう考えた僕は態勢を限界まで低くして突貫する。

 

「!?速ぇ!」

 

殴り込み、しかし押しつぶそうと前進して来る冒険者に回し蹴りを打ち込み、その反動で後ろに跳んで距離をとる。

 

(気になることがある・・・・・神様は何処なんだ。見世物なのに神様が居ないならここではないどこかに?目の前の人を倒せば教えてくれるのか?本当に?)

 

「考え事をしてる余裕があるとはなぁ!」

 

鈍い音と共に蹴りが僕の腹にめり込む。そして上空に吹き飛ばされた。周りの見学者達がざわめく。

 

「はっ、ガキが。これで終いだ・・・・・!」

 

このままでは負けてしまう。それは僕にもよくわかった。でも、魔法をあの人に撃つことがはばかられる。妖夢さんやアイズさんには回避されるとわかってるから撃てる、けど、目の前の人は多分躱せない。まともな呼吸も出来ないままにそう思う。

 

でも、神様が。・・・・・神様を助ける方法はまだわからないけど、でも、僕は彼を倒す事でしかきっと情報を得られない!なら、使うしかない!

 

決断は早かった。

 

空中で首をひねり、角度を変える。手を自分の真下にいる冒険者に向けて―――叫んだ。

 

「【ファイアボルト】ぉおおお!」

 

放たれる赤い雷炎、その数3。冒険者は目を見開き・・・・・直撃した。

 

「ぐぉおおあ!」

 

激しい炎に襲われながら炎の中から飛び出してくる。鎧の毛皮が使われている部分がちりぢりになりながらも大きなダメージは無いらしい。着地したあと冒険者を見ればその手には1振りの大剣が。・・・・・防がれた。そう理解して驚く。対人戦に滅法強い筈の魔法が防がれるなんて・・・・・。

 

「・・・・・アイツなら、無傷で防ぐんだろうな。」

 

そうつぶやく冒険者。その顔は何故か嬉しそうだ。僕は思い出す、相手を信用する、と言うのも対人戦の駆け引きにおいて大事だと妖夢さんに勧められた本で読んだ。

彼ならこの程度防いでみせるはず、と言うように自分の最善、最高の一手が常に防がれると考えた上で行動するようにする、相手を常に自分よりも高く見てそのうえで戦術を考える。そうする事で自身の慢心を無くし、冷静に戦える・・・・・らしい。

 

なら、僕は目の前の冒険者を信用してみることにする。周りの喧騒の声も、剣戟の金属音も、僕の耳には入らない。

目の前の彼を倒さないと・・・・・!それしか考えてなかった、恐らく彼もそう考えている筈だ。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

魔法を連射して、炎が消えない内に走り出す。向こうが大剣を抜いたならこっちも、とヘスティアナイフと牛若丸をその手に持って突撃する。

 

「ぉおおら!!」

 

ファイアボルトを大剣で縦に切り裂いた冒険者。僕は切り裂かれた炎に飛び込み、裏に回り込む。炎で僕は見えてない。けど、きっと彼にはバレてる筈だ。ならまだ斬りかからない。

 

「【ファイアボルト】ぉお!!」

 

真後ろからの至近距離魔法速射。それは冒険者の背中に吸い込まれていき着弾。炎が広がり視界が埋め尽くされる。でも。彼ならまだ終わらない筈。

 

駆け出して炎に飛び込む。炎を振り払おうとした大剣の横振りをヘスティアナイフで受け流し、ガラ空きの脇腹を牛若丸で切り裂き、そのままの勢いで転がるように離脱する。でも。まだ彼ならきっと。

 

体を翻し背中から地面を滑るようにしながら魔法を連射する。

 

「【ファイアボルト】ぉお!!」

 

脇腹を抑え火傷と出血の痛みに顔を歪めている冒険者に僕は止めと言わんばかりに魔法を打ち込んだ。

 

「【ファイアボ――ルト】!?「そこまでだベル君!!」」

 

探そうとしていた声が耳に入り、思わず魔法を中断しかけ適当な方向に放つ。僕の目線の先に神様がたっていた。

 

「神・・・・・様?」

 

 





さてさて、色々と動き出しましたが・・・・・。

ベル君もだいぶ強くなってしまっていますね!まぁアイズと妖夢に扱かれてますから仕方ない。

そして意外に思った方も多いと思いますがモルドさん。

これは単に作者の趣味です。若い男女がなんかすごい力とか使って強敵を倒すよりも、オッサンが地に足踏ん張って泥臭く頑張る方がカッコイイと思ってます。

あ、ちなみにこの後モルドさんは気絶してしまうので次話には出てこないです。

気になるところ疑問や感想はコメントしてくれると嬉しいです!

誤字脱字報告待ってます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

49話「血祭りです」

お待たせしましたー!リアルが忙し過ぎて時間ないですね執筆の・・・・・。

前回のラストの妖夢視点とその後を収録。
さて、現れるのは・・・・・?


原作通りのタイミングで始まったショー。俺達はそれの邪魔はさせないと言わんばかりの冒険者達を目の前にしていた。

 

「き・・・・・き・・・・・」

 

カチャカチャと鎧の音がアリッサから鳴り続けている。どうやら小刻みに震えているらしい。はて、何かあったのかな?対人戦が苦手とか?・・・・・いや流石にないか。

 

「貴様らぁぁぁあ!!言葉で理解できない獣がぁぁあ!止めろと言われてなぜ止められんのだ!良いだろう!もう二度と悪さを出来んように潰す!」

 

ふぁ!?めっちゃキレてる!?「覚悟しておけアホどもぉおおおおおお!」うお!?1人で突撃していきやがった!!

 

「やべえぞ!アリッサの姉御がキレてる!」

「射て!撃ちまくれ!」

「大盾構えて突っ込んでくる重戦士に弓なんか効くかよ!?」

「魔法使えよ魔法!」

「ダアアクパワアア!」

「「ぐはぁぁ!?」」

 

・・・・・もうアイツだけでいいんじゃないかな。

 

「俺達も続くぞ!アリッサを孤立させるなよ!!」

「「「「応っ」」」」「えっあっはい!」

 

皆やる気満々だ。俺もやる気は有るけど戦いを長引かせる必要があるから手を抜かなくては・・・・・。普段の俺なら殺すは気が引けるなーとか思いながら殺しに行くんだろうけど今回も不殺主人公を貫くのです。

 

「おーい、待ってくれ!俺も行く!いや行かせてくれ!」

 

ん?後ろから声が・・・・・と振り向いてみれば何やらタケミカヅチ様が刀を持ち出して嬉しそーにこちらに走ってくるではないか。もうおしっこちびりそうです。嘘だけど。

 

「タケ、自重してくださいよ?」

「んん?わかってるさ。・・・・・で、これは何の祭りだ?」

 

と、俺に聞いてくるタケ。

んん?あれ、タケは何が起こってるか知らないのか?・・・・・あー、何かそういえばオッタルと話しをして来る的なこと言ってたような・・・・・。まぁ祭りとして例えるなら血祭りです。

 

「祭りですか?・・・・・えぇ血祭りですね」

「そうかそうか、血祭りか!・・・・・ん?」

 

タケの顔に冷や汗が浮かぶ。

 

「はい」

「・・・・・ん?」

 

タケ?目を擦ってもほっぺを引っ張っても耳をほじっても事実は変わらん。

 

「血祭りです」

 

血祭り、それは血が出る祭りである。まぁ殺し合いとか、一方的な虐殺の時に使うよね。

 

「えぇ・・・・・。あー、これは俺が叱った方がいいか・・・・・何かこう【リヴィラの街頂上決戦!最強の漢は誰だ!】ー、的な催しだと思ったんだがなぁ・・・残念だ」

「やめてください。例えあったとしてもタケが参加したら人が勝てるわけないじゃないですか。だいたい九頭龍閃放ってもガードしてくる癖に・・・・・」

 

ずるいぜ。何なんだよ。「武神だから《武》に絶対的な適性を持っているからなっ(ドヤァ」じゃねぇんだよぉ。しかも「しかも剣神弓神でもある以上更に飛躍的に上昇するからな」とか言ってくるし。九頭龍閃とか射殺す百頭とかを普通に防ぎ切るからなタケは。「九本同時に斬撃が来るなら九本の刀を持ち出して防げばいい。殆ど同時に放たれる九つの斬撃ならば全てに対応しきればいい」とかとんでも理論を平然と言い切るし。平行世界から自分を連れてきてガードしてくるとかやめてください。・・・・・俺も出来ない事は無いんだけどね、分身ガード。

 

「こらー、やめなさーい」

 

タケが本気で思ってるのかわからないような声で叱る。何と凄いことに命すらタケの話を聞いてない。

 

「やめないとおこっちゃうぞー。タケさんはこわいんだぞー。」

 

棒読みすぎる5点(百点満点中)

 

「タケさんは温厚で優しいが怒るとやばいんだぞー、ホントだぞー」

 

スッ。とタケが動いて相手方の冒険者の鳩尾に攻撃した。音もなく冒険者が倒れる。

 

「ほらー、やめなさーい。悪い子にはお仕置きだぞー。」

 

再びタケが動く。だと言うのに誰もタケの方を向かないのはタケが歩術で人の意識の外側を行っているからだろう。ほら、まばたきの瞬間に動いたりするやつ。

 

冒険者がまた1人倒れた。そして、2人もやられれば流石に気がつく。

 

「うぉ!?なんだこの神!?どけ!邪魔だ!雑魚は引っ込んでろ「あ"?」ひいぃ!?」

 

するとタケは雑魚、という言葉に反応したのか低い声を出し、変なポーズをとる。はっ!あれはタケと昔遊んでたJOJOごっこ!?やめるんだタケ!

 

「てめぇは俺を怒らせた―――オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――おらァ!!」

 

身体能力を人間並みにまで落とした武神による力任せの攻撃(・・・・・・)。結果は言うまでもなく・・・・・

 

「いて!いててて!痛てぇいてぇやめ、やめろって悪かった俺が悪かった謝るから神様さんよ、やめろやめろ、俺らはあんたを殴ったら重罪なんだよやめろよ殴るぞ」

 

もちろん効かなーい。まっ、相手の攻撃をそのまま受け流したりする技術は残ったままだからね。だから力は無くても普通に勝てる、筈だ。

 

ん、だが待てよ?このままだと普通に殲滅されて終わりなのでは?・・・・・・・・・・・・・・・た、タケに神威を少し出してもらう他ないか、一応ヘスティアはリリが連れてきてくれるだろうけど。

 

まぁタケに神威を出させるのは簡単な筈だ・・・・・あそこに居る冒険者達の内数人殺せば神威を出してくれるはず。いや、殺そうとして、タケに止められて、それでもなお殺そうとした場合は神威を使ってくれるかもしれない。反抗期なのか!?とか言って落ち込みそうではあるけど。

 

「【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】

 

皆さん――下がってください。魂魄妖夢推参・・・・・推して参る。」

 

俺の詠唱を聞いて桜花達が「えっ」と困惑の声を上げた。まあそりゃそうだ、楼観剣を抜くなんて余程本気の場合だけだったし。あとは刀が無い時。

 

「はあぁ!!」

「ぐうぉおぁ!」

 

ただの上段からの振り下ろし。盾を構えた冒険者Aだが、楼観剣に斬れないものはあんまり無いため盾ごと切り裂く。右の肩から左の太腿まで思いっきり斬られた冒険者は血の海に沈む。

 

「なっ・・・・・!」

 

アリッサが硬直している。それに気が付いたが無視して次の冒険者Bへ。悲鳴を上げて斬りかかってきたが、適当に振りすぎだ。横を駆け抜け楼観剣を腰に呼び出した鞘に納める、すると冒険者Bは腹から血を吹き出して倒れる。俺は鞘に納めた楼観剣を鞘の中で霊力を放出し、鞘を後ろに飛ばす事で加速しつつ強引に抜刀術を繰り出し冒険者Cの首を―――はねそうになったので少しだけしたにずらして鎖骨のやや下辺りを横一文字に斬る。

 

左横から襲いかかってきた冒険者Dの攻撃を避け、そのまま跳躍、回転しながらその頭上を飛び越え着地と同時に納刀。冒険者Dの右腕が骨まで断ち切られる。悲鳴を上げてのたうち回ろうとする冒険者Dの後頭部を蹴り飛ばし気絶させた後魔法を詠唱しようとした詠唱者Aに高速半霊パンチを8発かまして気絶させ、それと同時に突っ込む。盾役が数人前に出て大盾を構えるものの、残念なことに楼観剣に斬れないものはあんまり無いため、数人全員が盾ごと横一文字に腹を裂かれ倒れる。

 

「やめろ、やめてくれ妖夢・・・・・!その者達は・・・・・!」

「知りません。」

 

腕を半ばまで断つ。足を半ば断つ。鎧も盾も関係なく斬り捨てる。束になろうと関係ない、全員まとめて切り裂くだけだ。1人、また1人。時には数人同時に斬られて倒れる。

 

「やめろっ!!いい加減に・・・・・!」

 

アリッサが俺を押さえ込もうとして飛び交ってくるが縮地を使って一瞬で懐に潜り込み蹴り飛ばす。

少し心が痛むがこちらにも理由はある。

 

「がハッ」

 

壁に叩きつけられたアリッサだが気絶していないようだ。さすがの耐久力だな、今それを発揮しなくてもいいんだけど。

 

「な、何故・・・・・」

 

ふむ、何故、か。まぁ理由はあるがそれは言えない。ならばほかのわかりやすい理由が必要だろう。そしてそれはもう考えてある。

 

「何故?・・・・・簡単な話ですよアリッサ。目の前で知り合いが見知らぬ輩に襲われていたら助けるでしょう?」

「だ、だが彼らは私にとって・・・・・!」

「知りません。少なくとも私は彼らを知らない。ベル・クラネルさんを開放する気が向こうに無い以上殺してでも助けます。」

 

知り合い>他人。これはほぼ全ての人間に当てはまる優先度だと思う。だから理由になってくれるはずだ。

 

「お、お前達やめるんだ!命が惜しければやめてくれ!」

 

アリッサが冒険者達に悲痛な叫びで訴える。どうやら彼らとは知り合いらしい。真面目で優しいアリッサの事だ、彼らを守ってそこから仲良くなって何度かダンジョンを探検でもしたのだろう。うん、でもまぁ仕方ないね。桜花達が死ぬよりは全然ましだ。

 

「止められるかよ!!今モルドは戦ってんだよ!」

「そうだ!俺達にだって冒険者だっていう自覚も誇りもあるんだ!」

「漢の邪魔はさせねぇぞ!」

「「「うおおおおおぉおおおおぉぉおお!」」」

 

冒険者達は全員武器を高く掲げる。―――阿呆め。

 

「天童式抜刀術零の型一番―――――――――――螺旋卍斬花(らせんまんざんか)ッ!!」

 

縮地を用いて一瞬にして加速し、並み居る冒険者達の間を斬撃を行いながら駆け抜ける。

 

「タケミカヅチの子を前に隙を堂々と晒すとは・・・・・貴方方は弱い(・・)ですね。彼我の力量差もわかりませんか?それともわかった上でのあの行動でしょうか?」

「てめぇ!いつの間に後ろに?!」「なんだとぉ?へ!ガキが、てめぇは帰ってお母さんにミルクでも飲ませてもらいな」

 

“お母さん”の部分で頬が引きつったのがわかる。気にしてはいけない。そう言い聞かせて落ち着かせる。

 

「ま、待ってくれないか妖夢。彼らは決して悪い奴らではない、今回は悪戯が過ぎたが見逃してやって欲しい」

 

アリッサが必死になって俺を止めようと俺の肩を掴んで俺の前に出てくる。が、俺はアリッサを横に押しのけた。

 

鳴り響く金属音。それはコケたアリッサからなった物ではなく、アリッサごと俺を倒そうとした冒険者・・・えと、何人目だ?まぁ冒険者Eが振るった剣を防いだのだ。

―――もういいか。俺は螺旋卍斬花を発動させる。

 

「螺旋卍斬花・開花」

 

この技は好きなタイミングで相手をバラバラに出来る・・・・・というわざだ。さっき切り裂いておいたので全員バラバラになる・・・・・のは自重した筈なので死者は出ないはずだ。

 

数十人の冒険者達が一斉に全身から血を吹き出して一声も発すること無く倒れた。

 

うむ・・・・・上出来かな?

 

「お・・・・・お前は・・・・・貴女という人は!!」

 

お?・・・・・ふーむ、そうだな。アリッサも利用していこう。まずは考え方の違いから説明してやればおそらくは・・・・・

 

「アリッサ、貴女と私では考え方が違う。貴女は騎士なのでしょう?」

 

騎士になりたい、とか言われた事はない気がするが、在り方からして騎士っぽいし、まぁ概ね間違ってはいない筈。

 

「・・・・・ああ」

「なら、私は人斬りです」

「!!」

 

合ってたぜドヤァ。まぁ私にかかれば余裕のよっちゃんですからふはは。さてと、騎士と人斬りの違いを教えてやるとしよう。

 

「貴女は騎士だ、眼下に震える無辜の民達が居るのならば、守る為にその身を晒すのでしょう。・・・・・しかし、私は人斬りです。他者を斬り殺してでも自分の目的の為に突き進む・・・・・。」

 

家族を守る。それが目的だ。その為に人を殺してでも神に神威を放出してもらう必要がある。・・・・・アリッサとは相容れない考えだろう。きっと彼女ならばすべてを救える算段を立てる為に努力するはずだ。

 

「貴女のそれは傲慢です、アリッサ。私のそれは強欲でしょう。アリッサの考えは間違っていません、そして私は私の考えも間違って等いないと考えています。」

 

アリッサが助けようとしているのは殆ど全部。俺が助けようとしているのは家族だけ。家族以外なら死んでも構わない・・・・・あー、どうだろうか、友達のべートとかは悲しむかもな。でも、それだけだろう。

 

俯いて震えているアリッサ。しかし、顔を上げてコチラを睨む。いや、ヘルムのスリットからコチラを射抜く視線に確かに睨まれたと感じた。

 

「私は・・・・・傲慢でも構わん。だが、それと同時に強欲なのだろうな。・・・・・これ以上彼らを傷付けるのならば、私は妖夢、貴女と戦わなくてならない!」

 

盾を構え、斧を握りしめ、そう言い切ったアリッサ。

よし、これでいい。身体が冷めるのを感じる、これからしようとする事に対して体が準備を整えた。

流石にタケもアリッサが生命の危機に陥れば開放するだろう。いや、する。そう確信した。

 

楼観剣が水晶の光を受け輝く。

 

圧倒的にこちらが有利だ。負ける理由がそもそも存在しない。楼観剣ならばステイタスによる不利など覆せる。レベル差と言う隔絶した「差」をも斬り捨てる。鎧も耐久も武器も身体もその霊魂すらもただ一刀で斬り捨てるのがこの武器だ。そういったものを持っていないアリッサに負ける可能性など無いに等しい。

 

「残念です。貴女の在り方は気に入っていたのですが。さようならアリッサ・ハレヘヴァング。」

 

鮭飛びと呼ばれる縮地の上位互換を使用して一瞬にしてアリッサの裏に回る。アリッサはコチラを見失っているようでまともに動けていない。いや、【集中】の倍化が発動しているのだろう。ゆっくりの世界の中、俺は全力でアリッサの首にその刃を振るった。

 

「そこまでだ妖夢」

 

余りに鋭利な殺意、いや、神威が一帯を蹂躙する。それによってもたらされる恐怖や混乱などを意識的に斬り捨て、刀を止める。・・・・・・・・・・ふぃー、危なかった、あと1センチも無いぜ首まで。それにタケの神威怖すぎか?おしっこちびりそうだったぞ・・・・・。

それに、どうやらヘスティアも神威を開放したようだ・・・・・ん?つかヘスティアいつの間にいたの?

 

「刀をしまえ、妖夢」

 

命令口調でタケが俺に威厳のある声と共に近付いてくる。もちろん俺としては武器をしまう事は魔力の無駄であるため賛成なのですぐ様しまう。

 

計画通りだ・・・・・と悪い顔をしようかと思ったが余りにもそんな空気ではないため自重する。今思うと辺りは血の海でそこに数十人の冒険者が倒れている、ワァオ、何たるネギトロめいた現場か、これを起こしたニンジャのカラテは実際凄い。

 

タケに顔を叩かれた。タケに殴られるのは好きじゃない。でも俺がやった事はそれをされて当然なのだろう。理解できるが納得したくない・・・・・なんて、わがままだよな。

 

「いいか、妖夢。アリッサも家族なんだ、俺の。」

 

タケは俺の肩をつかんで腰を屈め、俺と目を合わせながらそう言った。否定しようと口から飛び出そうになる言葉を理性で押さえ込む。

 

「俺の家族であるお前ならわかってくれるだろう?」

 

あぁ、わかるよタケ。家族の家族は家族ってことだろう?・・・は、ややこしい。俺の家族はタケミカヅチ・ファミリアの初期メンバーだけなのだ。そう簡単に、それも、同じファミリアに入ったのだから家族だ、なんて軽い。軽すぎる。

 

「えぇ、わかりますタケ。何を言いたいのか、私がどうすれば良いのかも。その上で、それを理解した上での行動でした。」

「妖夢・・・・・・・・・・」

 

悲しそうに顔をするタケ。やめてくれ、そんな顔しないでくれ。タケ達の為にやってる事なんだ、そんな顔をされたら何かを間違えてしまうかもしれないだろ。さて、ネタバラシだ、まぁ俺も何が起きるのかわからんのだけども。

 

「ですが。これでいいのです。」

 

大地が揺れる。

 

「なっ!そこまでの刺激は・・・・・!」

「これは!!」

「嘘だろ!?何やってるんだウラノスは!」

 

天井が、壁が・・・・・・・・・・・・・・・ダンジョンが揺れていた。絶叫していた、歓喜に打ち震えていた、復讐に待ち焦がれていた。

 

「これが・・・・・・・・・・1番家族を守れる可能性が高い。」

 

ひび割れる天井、落ちてくる水晶。出来る事はやった。ゴライアスに襲われて死ぬ可能性が高い冒険者達は斬り、怪我をさせることで後ろに下げるたし、重要な戦力は確保した。俺自身のコンディションも良い。

 

不備は無いはずだ。あとは・・・・・何が落ちてくるか、だな。

 

「先に謝罪を。アリッサ、先程はすみませんでした。必要な事であったとはいえ貴女の矜持を踏みにじった・・・・・ごめんなさい」

 

返事を待たず少し前に進む。ここは原作通り高い丘になっている。

 

 

―――――――落ちてきたのは――――――

 

黒いゴライアスだった。

 

 

 

よっし!思わず内心でガッツポーズを取る。これでタケ達の生存率は上がった。それも大幅に。あのゴライアスのステイタスが原作より強かったとしても関係ない。魔石の位置は知っているし、戦い方もわかる。俺1人でも倒せる程度だ。いや、関係あるか。強すぎて俺じゃ歯が立たない可能性がある。

 

「よお、やっとじゃねぇか。ったく待たせやがって・・・・・・・・・・おい、そこのうさぎ野郎!」

「ひゃい!?」

「何なよなよしてやがんだよだっせぇな。おら、行くぞ」「はい!?」

 

べートを先頭にアイズやティオナ達がやってくる。そしてべートはヘスティアと感動の再会っぽい感じで抱き合ってたベルの襟首を持ち戦場に飛び出そうとする。

おい待てやめろ。ベルくん死んだらとんでもない事になりそうだ。

 

「べ、べート。少し待ってください!作戦を立てるべきで」

「■■■■■■■■■■■■■■――――!!!」

「っ!!反射下界斬!!」

 

黒いゴライアスが咆吼を放つ。ハウル、と呼ばれるそれは最早通常の物ではなく余りに濃縮された魔力により物理的な破壊力を持つ音の塊。

それを反射するべく反射下界斬を放ったが・・・・・容易く破壊される。

 

「―――ったく初っ端から俺の出番か?にしてもスゲェ咆吼だな」

 

多少威力の落ちたハウルにべートが蹴りを合わせ、べートの特殊なミスリル製ブーツ、フロスヴィルトがその特性である魔力吸収を遺憾無く発揮しハウルを無効化した。

 

「・・・・・ありがとうございます。やっぱりべートを連れてきて正解でしたね。」

「なっ」「うそっ」「おー」

 

誰もがべート達の登場に目を向き、声を上げる中、黒いゴライアスがこちらにその巨軀で森を薙ぎ払いながら突進してくる。しかし、こちらとて何も考えていない訳では無い。剣技で戦うことも考えているが、まずは長距離からの攻撃で仕留められないかを確かめるべきだ、仕留められたならそれに越した事は無いのだから。

 

「皆さん、離れていてください。本気を出します・・・・・別に、私が倒してしまっても構わないのでしょう?」

「うそ今のは本気じゃなかったの?」

 

恐らくさっきの戦いを見ていたのだろう、ティオナが驚く。鮭飛びは結構本気でした。本気でやらなきゃタケが反応してくれなさそうだったし。そしてセリフは言いたかっただけだ。

 

「【覚悟せよ(英雄は集う)】」

 

魔法の起動文を詠唱する。英雄の技を魔法として扱うための魔法。それがこの魔法なのだろう。背中が加熱されステイタスが光を放つ。今から行うのは・・・・・最高にカッコよくて尚且つ強いやつだ。

 

「【体は剣で出来ている(I am the bone of my sword. )】」

 

きっと元の世界の人なら大体がしっているだろう某弓兵の大魔術。

 

「【血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood.)】」

 

発音に気をつけて一言一言を紡ぐ。背中に刻まれた恩恵が魔力回路の代わりにでもなるのだろうか、なんて考えているがそういうわけでもなさそうだ。

 

「妖夢・・・?その技はなんだ?俺は聴いたことないぞ?」

とタケがこちらにも質問してくる。ふふふ、ならば答えてやろう、詠唱が終わったらね。ん?だが待てよ・・・・・?

 

「【 幾度の戦場を超えて不敗 (I have created over a thousand blades. )】」

 

確か無限の剣製って心に心象風景が必要で・・・・・え、えと、まてよ?もしかしてこれって魔法で【完全再現】した場合・・・・・・・・・・

 

「【 ただの一度も敗走はなく(Unknown to Death. )】」

 

心の中に全く思ってもいない心象風景を刻まれた挙句使い勝手もわかっていないのに最盛期の無限の剣製が俺の中に生成されて

 

「【 ただの一度も理解されない(Nor known to Life. )】」

 

全身から刀剣の類を噴出させながら死んでしまうのでは?

 

「妖夢殿?平気なのですか!?顔が青ざめていますが!?」「妖夢ちゃん!?ががが、頑張って!」

 

・・・・・いやいや、そげな馬鹿な。デメリットがほぼ倍になるんだから剣の数が増えてぐちゃぐちゃになるんだよ。・・・・・じゃねぇだろぉおおおお!現実逃避してる場合じゃねーんだよ!!どうすんだよ?!。

 

「【彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う( Have withstood pain to create many weapons.)】」

 

はっ!・・・・・詰んでる・・・・・。魔法を中断すれば俺は練り込まれた魔力と霊力の爆発により死亡!魔法を発動させれば剣でグサグサになって死亡!

 

「【故に、その生涯に意味はなく (Yet, those hands will never hold anything. )】」

 

ああ!終わった!すっげぇダサいところで終わってしまうぅ!ヤバイどうしよう!?少しでも確率のある方にするしかねぇってやばいよもう詠唱が

 

「【その体は、きっと剣で出来ていた (So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS. )】!!」

 

はい終わったーーーーー!俺の人生終了ぉおおおお!我が生涯に一片どころかめっちゃたくさん悔いありぃいいい!

 

心の中に作られた心象風景はその身体との拒絶反応を引き起こし・・・・・剣を術者の内側から解き放った。

 

きゃぁぁあ!やめてくれ!殺さないでぇえええ!

 

剣は――――――――飛び出てこない。

 

あり?おかしい・・・・・失敗はしてないはずなのに・・・・・

 

チラッと半霊を見てみた。本当になんとなく、見てみたんだ。すると―――――――そこには――――――

 

剣を全身から飛び出させた半霊が浮いていた。

 

いやそっちかよぉおおおおおおおおおおお!!?!?なんでだっ!なんでそっちなんだ!普通はコッチの体から飛び出るよね!?背中からこうババっと飛び出てくるよね!?どうしてだよ、どうして全体から飛び出してきてんだよシュールだよ半霊危機一髪だよ黒髭が裸足で逃げ出すよ!フレイルもしくはモヤッ〇ボールだよ!!

 

・・・・・はぁ、いや、良い。これでいいけど・・・・・戦力も減らなかったし・・・・・

 

って!そういえばゴライアス来てたやん!そして固有結界は発動してないし!?

 

――I am the bone of my sword.(――我が骨子はねじれ狂う)――」

 

急いで弓と偽・螺旋剣Ⅱを作り出す。どうやら固有結界を展開する事は出来ないっぽいが武器を作る事は可能らしい。

そして弓に矢ではなく剣を番えると宝具はその姿を変え、矢のような形となって発射を待った。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!!」

 

放たれる宝具。真名を開放した事により周囲の空間をもネジ切りながら突き進む。その速度はマッハを軽く超えた。放った衝撃で俺の目の前と後ろの地面が少し吹き飛ぶ。

 

カラドボルグは恐ろしく正確に、原作通りの魔石の位置を射抜いた。まだだ。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!」

 

途轍もない爆発が十八階層で発生した。







さぁ、絶望的な状況へようこそ。



と言うことで始まるのか!?誤字脱字、コメント待ってます!


【オッタル】

( ¯•ω•¯ )「魂魄妖夢と十八階層を探索した後、こうして森の奥の巨大樹の上から魂魄妖夢を観察していたのだが・・・・・」

(`•ω•´)「どうやら神ヘルメスがベルクラネルに悪戯をするらしい。彼もまた見初められし男の子(おのこ)、フレイヤ様にあだなした神ヘルメスにはキツイ仕置が必要なようだ。もちろん、経験としては良いものだろうから止めはしないがな」

(╬ ´ ▽ ` )「さて、言い残す事は無いですかな神ヘルメス」

ヘルメス「まじすまそ」

(´・ω・`)「(コイツ全く反省してないな。)」

ヘルメス「ははは、そんな顔しないでくれよ。・・・・・彼には人の悪意を知ってもらう必要があるのさ」

( ・´ー・`)「それは分かっている。そういう物も俺が用意する手筈だったのだが・・・・・まぁ仕方ない」

しばし見学

(´ω`)「なかなか成長しているじゃないか。うむうむ」

( ゚д゚)「むむ!?魂魄妖夢が戦闘を開s終わったぞ・・・・・速いな・・・・・」

タケ神威開放

( ・ ω ・ს )「こ、これが武神の神威・・・・・俺が、無意識に一歩下がった・・・・・だと?他の者達に関しては最早動く事すら出来ずに居るじゃないか・・・・・」

地震発生

(´°Д°`)「(お?おお?揺れているだと?)」

黒いゴライアス登場

(´・ω・`)「なんだ、ただのモンスターか」

偽・螺旋剣Ⅱ

(°_°)「・・・・・・・・・・?何が起きたんだ今のは・・・・・いや、剣が矢のように変化したと思えば空間をねじ切りながら進み・・・・・何故か爆発した・・・・・ふむ、興味深い。」

ヘルメス「え、そこ!?俺にいたっては矢を放ったところ見えなくて爆発した事しかわからなかったぞ!?」

(´・_・`)「む?」



∑(*´°ω°`*)「なん・・・・・・・・・・だと・・・・・・・・・・?」



※顔文字は過剰表現であり、実際のオッタルは顔色を一切変えておりません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

50話「『頑張るぞー!おー!』」

シリアス!!!生きていたのか!!!






と思っていたのか!!!

今回はリーナが活躍してますねぇ。あとはアイズが遂にあの技を・・・・・


 

 

 

 

 

 

 

 

 

煌々と燃ゆる焔と濛々と天井へと伸びる煙、そして余りの威力に大きく抉れた大地が今起きた超常現象の非常識さを物語っていた。

 

爆風によりなぎ倒された木々、爆発により吹き飛んだ岩が十八階層を蹂躙する。人よりも動物的な本能の強い獣型のモンスターは我先にと爆心地から遠ざかった。

 

未だその威光を弱めない青い猛火が茫然としたまま動けない冒険者達を照らし出す。そこに有るのは恐怖ではなく疑問だ。何をどうしたらこうなるのか、何がどうなったのか。レベルの差により見えたものも違ったであろう冒険者達の思いは見事に一つだった。

 

((((((((もうコイツだけで良いんじゃないかな))))))))

 

弓を放った姿勢から変わらず佇んでいた妖夢が、未だに吹きすさぶ爆風の余波にスカートを靡かせながら振り向いた。

 

「・・・・・少し威力が出ませんでしたね。やっぱりイメージ力がバトラーのサーヴァントには劣るようです。劣化版の劣化版ですねこれでは・・・・・」

 

そんな事を宣う妖夢であるがこの場にいた一同は最早呆れるしかない。あれ以上の威力を求めて何がしたいというのか。タケミカヅチでさえ頭を押さえて苦笑いしている。

 

「んだよ・・・・・俺いらねぇじゃん・・・・・つまんねーことしやがって」

 

べートが不満そうに目の前の石をける。ティオナは未だにポカーンと炎を見つめており、アイズはポケーと眺めている。ダリルが苦々しく笑い、その背中におぶられていたリーナは爆発で目が覚めたようだ。千草とクルメ、リリルカは驚いてひっくり返り、ベルとヘスティアはアングリと口を大きく開け目を見開いている。

 

蹴られた石が高台になっているその場から落ちていき・・・・・・・・・・・・・・・それを目でおっていたべートは気が付き、目を見開いた。

 

「やろう・・・・・あれで生きてやがんのか?」

 

・・・・・・・・・・未だ衰えぬ猛火を突き破り黒く太い巨腕がコチラに伸びていた。その表皮は高温に耐えられず絶えず溶け続け、しかし赤黒い燐光を発しながら再生を繰り返す。溶け、治りを繰り返しながらその黒い巨人は立ち上がって見せた。

 

腹に空いたはずの風穴は既に塞がっており、爆発で弾けとんだ筈の四肢は健在だ。その目は爛々と赤く輝き、今も尚苦しみを与え続ける原因を作り出した銀髪の少女へと憎しみと害意を持って向けられていた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■―ッ!!!」

 

猛火を背に赤黒い燐光を放ちながら黒いゴライアスは絶叫する。その姿は威圧感に溢れ、並の精神を持つならばその威風を目の当たりにしただけでもたちどころに気絶してしまうだろう。

 

「馬鹿な・・・・・魔石は打ち抜いた筈だったのに・・・・・」

 

妖夢が顔を顰めながら目の前で起きあがった黒いゴライアスを睨む。するとそれを挑発とでも取ったのか黒いゴライアスは黒い残像を残し加速、その剛腕を戦艦の主砲の如く勢いで撃ち放った。

 

「【平の原にて吹き溜まり、空に架かりて天に座せ。

汝は彼方、我は此方。(ゆめ)(うつつ)を別け隔てよう。我が閉ざす。我が隠す。我が別つ。我が偽る。

その名は霧。我が御名也。汝等、甘い虚に身を任せ、其を現と心得よ。我が名はサギリ!

国之狭霧神(クニノサギリ)】。」

 

それは正にまぐれに過ぎない。リーナが何となしに防御結界を張っておこうと詠唱をしていた矢先にたまたま黒いゴライアスの攻撃が飛んできたのだ。張られた結界の効果は「物理ダメージを大幅に軽減」するという物。結界はリーナの裾の中から取り出された複数のお札が場を囲むように展開され、結界を成していた。

 

大きく威力を削られたその豪腕は尚も人を殺す事など容易だろう。しかし、この場に居るものでこれを対処できない者など1人として・・・・・ヘスティアを除いて居ない。

 

「神様っ!!」「うわあ!?」「ひぃ!!」

 

ベル、ヘスティア、クルメが悲鳴やら何やらを上げつつ拳から逃れようと横に回避する中、ひときわ大きな声で雄叫びを上げるものがいた。

 

「いっくよぉおおおおおおおおおおおおぉ!!」

 

黒いゴライアスの豪腕と余りに頼りない華奢なティオナの腕がぶつかり合い・・・・・黒いゴライアスの腕がはじけ飛ぶ。

 

「いよっしゃああああ!」

 

勝利の雄叫び、しかし、その破壊された腕が数秒と待たぬうちに完治する。

 

「あ、あれぇ?」

 

そして横薙ぎの1振り。「あぶ!?」と声を上げながら自らに急速に迫る一撃に身を固くするも、大きな金属音とその衝撃がその一撃を防いだ事を物語る。

 

「・・・・・ぐっ・・・・・リーナ!結界は正常に稼働しているようだ!」「おー、それは良かった。僕も援護するから頑張ってね!」

 

いつの間にかアリッサが大盾を構えティオナの盾となっていた。振られた豪腕の威力を物語るように、アリッサの踵が地に埋まっている。

 

「おー!ありがとう!えと、名前なんだっけ?」

「ぐっ・・・!いいから早くそこから退いてくれ!」

「え?あぁ!ごめんごめん!!」

 

ティオナがその場をどくとアリッサが飛び跳ね後方に下がる、いつの間にか振り上げられていたもう片方の腕が数秒前までアリッサ達のいた所に振り下ろされる。

 

「チィ!おいべート・ローガ!」「あぁ?!んだてめぇ!」「ダリルだ!ここからあのデカブツを遠ざけねぇと不味い!」「わあってんだよ糞が!」「なんで喧嘩してるのー?」「「黙れ白エルフ!!」」「リーナさんだし!リーナお姉さんでも可!」

 

凄まじい呼吸音の後、3人に向けて咆吼が放たれる。三方向に飛び跳ね回避した3人はそれぞれ行動を開始した。

 

「来い赤野郎!」「ちっ!俺の提案だろうが!」

 

ダリルとべートが黒いゴライアスを引き離すべく黒いゴライアスのすぐ近くをわざと通過していく。黒いゴライアスもそれに気がついたのか拳を振り下ろす。が、その時結界がダリルを中心に張られた。リーナの投げたお札がダリルの元へと向かったのだ、結界の効果は「敵対者の行動を鈍く」する物だ。べートは持ち前の敏捷を持って回避できるとしても、ダリルはレベル3、とてもでは無いが回避などできない。

 

これまでの数10秒の攻防で黒いゴライアスの推定レベルは4〜5程度、最悪の場合6レベルであると予測される。リーナはその事も踏まえてダリルの方に結界を張ったようだ。

 

「ははっ!こっちだ黒ゴキブリ野郎っ!」

「■■■■■■■■■■―!!!」

「・・・・・はは、地雷踏んだか?」

 

黒いゴライアスが「ゴキブリだとこらぁぁぁ!」と言わんばかり咆吼を連射する。「ぬぅうううあ!!」とダリルがボールの様に地面をはねながら吹き飛ばされていく。残念な事にリーナの張った結界は敵対者の動きを遅くする物で敵の魔法攻撃は遅く出来ない。

 

「ちっ!あの野郎役立たねぇじゃねえか!」

 

黒いゴライアスの連続攻撃をどうにか回避し続けるべート。流石はレベル5最強も名高い戦士と言ったところか。そして。

 

「――!!??」

 

黒いゴライアスが横転する。足元を見れば金と銀の影。妖夢とアイズだ。それぞれがそれぞれの武器で片脚ずつ斬り飛ばした。驚くべきはその断面、まるで豆腐でも斬ったかのように美しく斬られている。

 

「魔法・・・・・うてぇ!!!」

 

リーナの勇ましい掛け声で魔法を使える冒険者達が一切に魔法を放つ。原作と違い、魔法を放てる冒険者の数は余りに少ないが。リーナ自身も魔法を使ったようで小さな太陽とでも言うべき炎の玉が放たれる。

 

火、氷、雷、幾つもの魔法が立ち上がろうとする黒いゴライアスに襲いかかった。しかしまるで鬱陶しいと言わんばかりにそれを跳ね除け既に再生を終えた足で立ち上がる。

 

「うっそ、僕の魔法も効かないか・・・・・ランダム入れるしかない?」

 

リーナ・ディーン、オラリオ最高の【魔道】アビリティランクを誇る超一流の魔法詠唱者。並のモンスターならば軽く屠るその魔法を持ってしても黒いゴライアスには痛みを一時的に与えるに留まるようだ。しかし、彼女とて全力では無い、全力の魔法ならばダメージを見込めるとリーナは確かに確信した。

 

「でも・・・・・」

 

少しばかり分が悪い。結界を神々と自分を含めた後衛職、そしてサポーターを守るために1つ。ダリルを援護するために1つ発動している。高い【魔道】アビリティがもたらす「魔法の安定力増加」による恩恵が結界の二つ同時維持と言う見方によれば明らかな異常行為を発生させ、その上で更に他の魔法を放って見せている。

 

先天的な魔法適性を持つエルフである事を含めても、かのリヴェリアに劣らない確かな猛者であると見るものが見ればわかるだろう・・・・・もっとも本人がこうである以上気が付く人は少なそうだが。

 

「ん〜。まぁ火力なら妖夢ちゃん居るし僕は守りに徹しようかなー。」

 

今は温存する事を選んだようでリーナは更に妖夢へとダリルと同じ結界を展開する。そんな時だ、再び大きな揺れがあったと思えば上層に繋がる坂道が落石で塞がれてしまった。命と千草が驚きの声を上げたことによりその場の全員がそれに気がつけた。

 

「どうしよう!?あ、どうしましょう!?」

 

千草が助けを求めるようにタケミカヅチを見る。撤退を考えていたタケミカヅチ達神々は唖然としながらも行動を開始した。

 

「千草!奴の目を狙ってくれ!桜花と命は周辺の警戒!猿師!倒れている冒険者達を頼む!」

「「「はいっ!」」」「わかったでごザルよ」

 

そう言ってタケミカヅチは

 

 

 

前線に飛び出した。

 

「いやちょっと待てタケミカヅチぃいいいいいい!?」

「タケェ!?」

 

ヘルメスとヘスティアの叫びを背に受けながらタケミカヅチは黒いゴライアスに向かって走っていく。

自らが倒すべく最大の()が自分に向かって走ってきているのを視認した黒いゴライアスはタケミカヅチに向かって咆吼を連射した。

 

「神は人の身にまでその身体能力を落としている・・・・・」

 

タケミカヅチが迫る咆吼の砲弾を睨みつけながらそう言葉にし・・・・・

 

「つまり!当たらなければどうということはない!!」

「いやその理屈は可笑しい!!」

 

当然の如く回避しながら黒いゴライアスへと駆けていく、ヘルメスの常識的な叫びを無視して。ちなみにタケミカヅチはどうやって回避しているのか・・・・・それは所謂「見てから回避余裕でした」というやつだ。すなわち、魔力が口内へと溜まり、咆吼として打ち出されるそのわずかな時を見定め着弾点から体を逸らしただけに過ぎない。

 

元気に飛び出していったタケミカヅチは置いておくとしてサポーター達にもやる事はあった。

 

「みんな!ポーションをありったけ集めて来るんだ!リヴィラから取ってきてしまうんだ!」

「そ、それは窃盗では!?」

「今はそんな事考えている場合ではありません!妖夢様のあの攻撃を耐える化物ですよ!?」

「た、確かに・・・・・!!」

 

ならば仕方ないとリヴィラの街に数人が走る。しかし、その時だ。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■ーーーー!!!」

 

目に数本の矢が突き刺った黒いゴライアスが天高く咆吼を上げた。魔力の込められたソレは音速で飛翔し―――――天井に着弾。着弾点から罅が伸び・・・・・割れ目からモンスターが降り注ぐ。それは正に地獄絵図だ、十八階層を埋め尽くさんとするかのようにボタボタとモンスターが落下してくる。

 

「くっ・・・・・!俺達で前線を構築するしか無い!クルメ!アリッサ!それとマシューは怪我人を連れて後方に下がってくれ!お前達も頼む!」

「了解だよ団長っ!」「はっ!お任せを。」「た、退却ぅ!!」

 

桜花を筆頭に十数人の冒険者が神々の元に雪崩込もうとするモンスターを押し止める。数の差は甚大で身体能力の差はあまり無い、絶望的な状況のはずだが、モンスターの動きには特徴があった。二つに別れるのだ、流れが。

 

それはアリッサと桜花の持つスキル又はアビリティ。モンスターからのヘイトを集めると言うある種自殺スキルだが、モンスターの動きがわかれば動きやすくなる。冒険者は各々の武器を持って迎撃に全力を注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クソッ!どこにある!?

 

「■■■ーーーー!!!」

 

天高く掲げられた拳がブレて一瞬にして叩き付けられる。スキルの【集中】の2倍化とリーナの結界が発動してなければ避けることも出来ないだろう。

 

そんな中俺は未だにわからない魔石の位置に酷く狼狽していた。

 

斬っても斬っても魔石の場所がわからない。いや、違う。わかるんだ、魔石の場所は。でもそこを狙って斬った時、その場に魔石が無い。手応えは有るのに無くなってほかの場所に反応が出る。

 

・・・・・・・・・・動いている?魔石が?

 

「真・刹那五月雨切り!!」

 

連続で切り裂き、魔石の位置を【刀意即妙】(シュヴェーアト・グリプス)によって特定する。次は・・・・・・・・・・首か。

 

沢山の魔石を持っている。という説は無しだ。同時に斬っても一つしかわからなかったしな。やっぱり動いてるのだろうか。魔石が動くとか・・・・・でもゴライアス系統の魔石はとても大きかった気がする、どうやって動いてる?まさか魔石を斬られても欠片が寄り集まって再び魔石を形成している?

 

「はあぁ!!」

 

不用意に近付いてきたモンスターを斬り捨てながら考える。どうすればコイツを倒せる?そんな時だ、あの声が聴こえてきたのは。

 

――「やぁ。難儀しているね?うんうん、それもまたアイカツだね。」

 

殺したくなってきたので近くのモンスターに八つ当たりで首を刎ねる。

 

――「少しヒントあげようか?それともじゃが丸君揚げるかい?」

 

斬る、斬る斬る斬る。モンスターをぶっ殺す。何故ここまでイラつくのだろうか、傍観者気取りのセリフがイラつくのかな。

 

――「ほんとにかい?なら僕も君たち目線で話すか・・・・・くっ!なんて恐ろしい魔物なんだ!?ひいぃ!?もうダメだ・・・おしまいだぁ・・・」

 

もっとウザいんでやめて下さい殺したくなるので。

 

――「ははっ!ワロス。この僕を殺すなんて一年早いね!」

 

早いな!?びっくりするぐらい早いな!?

っと止まるわけには行かない、目の前に立ちふさがるモンスター達を斬りながら進む。黒いゴライアスの咆吼は近くのモンスターを投げつけて威力を軽減したところを反射下界斬で反射しているが、焼け石に水だなこりゃ。

 

てか早くヒント教えろよ!!

 

――「ふむ・・・・・まず、雑魚モンスターは無限湧きだ!!これは面白いね!沢山斬れるな!良かったな!」

 

良かねーわ!全然良くねーよ!俺の求めてるヒントと違うんだよ!どうやったらあいつ殺せんの!?

 

――「えーー、魔法使えばーー?ハナホジ。あー。そうそうモンスター達はある程度の数に減らしとかないとレベルの低い彼らは全滅しちゃうぞ☆」

 

なんだと!?まじかよ!!ハルプをまわすしかないか?

 

――「ガタッ!ハルプを回す!?・・・・・あ、もうこんな時間か!急がないとカプ麺が!」

 

テメェ!!おいこらぁ!!くっそ逃げやがった!?何やってんの!なんで神様カプ麺なんて食べてんの!?

 

ああーー!もうどうでもいい!おのれシリアスブレイカー!!・・・・・とりあえずモンスターをどうにかしなくちゃな・・・・・!!この黒ゴライアスを倒すには俺じゃ火力が足りない、もしくはこれはイベント戦闘的な物でベルクラネルしか倒せないのかも知れない。

 

ならベル君が英雄ビーム打つまでの時間を稼ぎながらモンスターを減らし続けるのが俺の仕事ってわけか・・・・・!

 

つっても、そういった戦闘じゃない可能性もあるんだよな?普通に絶対にしにましぇーん的なゴライアスの可能性だ。不死身の階層主とか何それ怖い。

 

「二手に分かれます!」

『おうさ、俺は右やるね!』

「あ、じゃあ私は左ですね!」

「『頑張るぞー!おー!』」

 

とりあえずやる事はわかった。黒いゴライアスを足止めしつつベルのビームを当てればいい。そのための舞台装置的な役割をこなす。それだけだ。

 

「はあぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

「アイズ!!」

 

黒いゴライアス・・・・・変異体?特異体?強化種?ししょーの話だと神様の力に反応して呼び出された「悪意及び害意」の塊、もしくは「殺意と怨み」の塊・・・・・だったかな。

 

ティオナの声に頷いて私は後方に跳ねる。目の前に大きな拳が突き刺さり地面を砕いた。

 

ししょーはすごい。私達でも速い、と思う攻撃を華麗に躱してモンスターを斬り捨てて戦場を駆け回っている。お陰で私達は階層主に集中出来る・・・・・けど・・・・・

 

決定力が欠けている。

 

私達には階層主を一撃で倒せる手段がない。ししょーもそれを理解してるんだと思う。さっきまで分かっているかのように特定の場所を狙っていた。「斬った相手の弱点がわかる」そうししょーは前に言っていた。

 

つまり、判明した弱点をすべて斬ったのに、あの黒いゴライアスは死ななかった?

諦めた?

ううん、違う。何かわかったんだと思う。

 

「ッ!!」

 

剣を振るい、足を斬り飛ばす。フラ付き、倒れる前に足が再生し体勢を直しながら踏みつけてくる。回避は出来る。けど、埒が明かない。ししょーは何を見つけたの?

 

「オラよぉ!」

 

ベートが黒いゴライアスの咆吼を吸収して威力の上がったブーツで蹴りつける。黒いゴライアスの膝が真逆に曲がってその後吹き飛んだ。

 

「いっくよぉおおおっ!」

 

ティオナのパンチがもう片方の足を吹き飛ばした。大きな音を立てて倒れる黒いゴライアス、チャンス。頭を吹き飛ばしたら倒せる?ししょーは頭を狙ってなかった、でも、1度はやってみるべき。

 

「・・・。」

 

風で加速する全力の一撃。それが私の本気の技・・・・・だった。でも、今は違う。ししょーとの修行の成果を見せる時が来た。

 

あの辛い修行を思い出す―――剣を振るう、けれどじゃが丸は食べない。剣を振るうけどじゃが丸は食べない。

 

辛かった。でも、楽しかった。最後にじゃが丸食べた。

 

まだ完璧じゃない、ししょーには遥かに劣る。けれど、見失いかけた「上」が見えたっ。これが、私の学んだ、新しい、一撃!

 

滅界(リル・ラファーガ)ッ!!!!」

 

速度が足りない、なら、加速するだけ。威力が足りない、なら、速度を乗せるだけ。再現できていない?なら、全力を注ぐだけ。

高速で突きを放ち続ける。時間的には一瞬で、私は笑うピエロを象ったその突きを放ち切る。

 

凄い大きな音と共にゴライアスが弾け飛ぶ。頭だけ吹き飛ばすつもりだったのに、殆ど全身が消えちゃった。・・・・・でも、別に、倒してしまってもいいと思うし・・・・・、!!?

 

「倒せ・・・・・ない?」

「うっそ!?あれで倒れないの!?」

「おいおい・・・・・マジかよ?」

 

起き上がった。赤く全身を輝かせながら。まるでそれが当然と言った風に。それよりも赤く光る目が、私を睨みつけた。

 

・・・・・なるほど。ししょーがどうして周りのモンスターを優先したかわかった。

 

「あれは・・・・・死なない・・・!!」

「ちっ!めんどくせぇ・・・・・アイズ!ティオナ!この雑魚の相手は任せられるか?」

 

ベートが悪態をつきながら聞いてくる、それにティオナと頷くとベートは踵を返してモンスターを倒し始めた。

 

・・・・・そういえばモンスターもずっと降ってくる。

 

昔ロキが言っていた「無限湧き」?このままだと前線が危ないからベートはみんなを助けに行ったんだね。なら私は全力を尽くしてこの黒いゴライアスを止めなきゃ。

 

ズキズキと痛む右腕を耐久のステイタスで押さえ込み、黒巨人を睨んだ。ニヤリと笑った、そんな気がする。

 

振るわれた拳を剣で打ち払う。時間は稼ぐ、ししょーが何とかしてくれるかも知れないから。

 

 

 

 

 

 

リン――リン――リン。

 

握り込んだ拳が光を集めている、鈴が鳴るような音が鳴り響く。此処はまだリーナさんの結界の中。僕は、僕はまだ此処から出られずにいた。

 

(何やってんだよ、僕は・・・・・。皆、戦ってるのに)

 

けれど、理解もしていた。僕の持っている技ではこの攻撃でしか、あの黒いゴライアスにダメージは与えられない。いや、ダメージを与えたとして倒せるかわからない、アイズさんの攻撃でも妖夢さんの攻撃でも死なない敵を僕が倒せる訳がない。

 

(でも、それでも。)

 

リン―リン―リン。

 

鈴の音のペースが早まった。いつもとは違う反応に少し驚きつつも、こんな事もあるんだなと納得して、少しでも早くチャージしようと念じる。

 

「グルルルルゥアアゥ!!」

 

うなり声と共に結界の中にバグベアーが入ってくる。大丈夫だ、見えている。駆け出し、斬り裂く。ヘスティアナイフと牛若丸の二刀流で喉を突き刺し斬りおろす。

 

「【燃え尽きろ、外法の技】ウィル・オ・ウィスプ!!」

「■■■■■■!?」

 

咆吼を撃とうとした黒いゴライアスがヴェルフの魔法で阻害され咆吼の為の魔力が口内で爆発した。

 

「おー!すごいね君の魔法!僕関心しちゃうよ〜。僕の天敵かっ!?」

 

リーナさんがそれを見て興奮気味に話す。彼女の後ろでは傷付いた冒険者達が猿師さんによって治療されていた。ああやって調子のいい事を言っているのは皆を励まそうとしているんだろう。

 

(はやく、たまれ!お願いだから僕にも戦わせて!)

 

リンリンリン。

 

さらに早くなる音色。僕の腕は隠しきれない光を放っていた。リーナさんが袖で口元を隠しながら僕腕を見て目を細めた。

 

「・・・・・君のそれは凄いね。もう僕の本気と同じだけの威力があるよ。」

「―――ありがとうございます。」

 

その言葉で僕の心は決まった。お礼を言って、崖の前に立つ。腕を真っ直ぐ伸ばして狙いを定める。頭を吹き飛ばしても治る、ならはずさないように体を狙うしかない。

 

「よぉし、リーナさんもこの波に乗っておこうっ。【平の原にて吹き溜まり、空に架かりて天に座せ。

汝は彼方、我は此方。(ゆめ)(うつつ)を別け隔てよう。

我が閉ざす。我が隠す。我が別つ。我が偽る。

その名は霧。我が御名也。

汝等、甘い虚に身を任せ、其を現と心得よ。

我が名はサギリ!

天之狭霧神(アメノサギリ)】!!」

 

鈴の音が止まる。僕の体が薄い霧に包まれる。

 

「こ、これは?」

「それは君の願いを叶えるもの、君の想いを力にする魔法だよ。願い給え、其方の虚を現と成すこの魔法に。願え、『倒したい』と。」

 

突然真剣な表情になったリーナさんに驚き、僕は目を見開き、強く頷く。これが僕に放てる最高の一撃。

 

(・・・・・僕は・・・・・僕はアイツを倒したい!)

 

偽らざる僕の今の願い。霧が風に巻かれ望遠鏡の様にゴライアスを映す。円を描くように、狙いを定めろと言っているかのように。光がより強くなる。

 

(倒せ!倒せ!倒せ!)

 

望遠鏡の先、第一戦級冒険者と互角もしくはそれ以上の力で暴れ回る巨人を睨みつける。放て放てと急かす心を押さえつけ、しっかりと狙いを定める。その時―――

 

黒いゴライアスの赤い目と目が合ったような気がした。

 

「ッ!!避けろぉおおおお!!!【ファイアボルト】!!!」

 

一瞬の硬直の後、放たれる極太の光。黒いゴライアスが飲み込まれ・・・・・・・・・・視界が白く染まる。




次回:チート(誰がとは言わない)が・・・・・・・・活躍する。

今回のピックアップと言う事で
リーナのドヤ顔をドゾ。

【挿絵表示】

ちなみにかかった時間は15分。
シフシフ「トレース・オン。」


―追記―

描写はされていませんがリューやアスフィーも勿論戦ってくれています。黒いゴライアスとではなくモンスターとですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

51話「おおー!流石ですタケ!」


―――――その時、物語は狂い始める。傍観者は語る、自らが傍観者では無いと。




















閃光が煌めいた。轟音が轟いた。彼方にそびえる壁が吹き飛んだ。巨人は光に飲まれた。

 

「これが・・・・・英雄願望(アルゴノゥト)・・・・・か。『彼』は持っているのかな?スキルではなくその心に」

 

その一撃は黒い巨人を屠るのに十分な威力であった――――――――――――――本来ならば。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーー!!!」

 

否。本来であっても一撃では屠れなかったかもしれない。だが、それでも止めを刺す時間は稼げたが・・・・・今回は違う。これは本来の歴史ではない。これは結果は同じでもその過程は異なる物語。

 

否。結果は変わるだろう。異分子の異端者の、僅かな選択肢のズレが、何もかも変えてしまうのだろう。例えばベル・クラネルが死ぬ、などの本来ならば有り得ない現象を引き起こす。

 

しかし、まだ、大丈夫だ。まだ、藁のようなか細い希望ではあるが、結果は変わっていない。・・・・・何も変わっていない・・・・・!

 

「あぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

彼は溜息をついた。それはやっとの想いで繋いだ何か。求め続けている結末を見据える彼の想いの現れ。

裏切られ続け、求め続ける者の悲鳴。求め続けた末路。

けれど彼は信じ続ける。誰よりも怨みながら信じる。

希望を捨てず。望みを捨てず。決して心折れず―――――嗤う。

 

その視界に銀色の少女を映しながら。

 

「変えてくれるかい?君は、[運命]を・・・・・・・・・・。家族を救うその運命を・・・・・・・・・・。僕を・・・・・俺の願いを叶えておくれ・・・・・」

 

いと高き空、天界と呼ばれるそこ――――――よりも遥かに高いそこで彼は―――――駄神と呼ばれる彼は呟いた。

 

その目に光は無い。その目にはなに映っていない。ただ、過去の違う未来を見据えていた。

 

「そのうえで・・・・・・・・・・僕のために死んでくれ」

 

狂気。それが、彼を覆う全ての感情だった。怪しく暗く輝いた、気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウッソだろお前・・・・・。クロゴラさんは立ち上がった。立ち上がっちゃった。

 

どうすんだよこれ・・・・・・・・・・明らかに原作と大して変わらない威力だったよ?リーナの魔法で強化されたみたいだけどさ、凄い威力だったよ?

 

英雄ビームで死なないとかどうすりゃいいのさ。なに?完全な不死身なの?くっそ、魔力の無駄だな、楼観剣消そう。大蜂大刀でいいや。

 

大刀になった方がリーチが下がるというね、まぁそれはいいとして大刀でぶった斬る。掠らせるだけでも毒でだいぶ弱ってくれるからとても使いやすいなこの刀。名前が面白いが俺とて伊達に〈砂糖・黒糖〉の2本を使っていた訳では無い。

 

まぁつまりはキラキラネーム的な奴にはなれてる。てか慣れた。なので変とも思わない。そう、決して「どうせすぐ壊れんだから名前なんてどうでもいいよね」なんて考えている訳では無いのだ。

 

「はっ、ふっ、せぇい、とおっ、やぁ!」

 

1振りにつき1体。バッサバッサとモンスターを斬り捨てていく。リーナの結界も相まってもはや作業に近いが、それでも油断すると死ねる。耐久はそこまで高くないのだよ俺は。

 

油断はしてないが、【集中】のスキルは汎用性が異常に高いからな。倍化してなくても戦いながら考え事する余裕はできる、さて、現実逃避はやめてクロゴラさんの対策を考えなくてはならない。

 

するとドーン!と土煙が舞う。ファ?なんて思っていると土煙の中から人影が、そう、ムキムキマッチョマンの変態・・・・・略してオッタルだ。え?略してない?知らない。

 

「並々ならぬ事態と見た。俺も参戦しよう」

「遅いです」

 

おせえよ。って言ってしまった!まぁいいか。オッタルが来れば百人力だな!

 

「黒いゴライアスを任せてもよろしいですか?」

「あぁ、任せておけ・・・・・!」

 

襲いかかるモンスターをオッタルはワンパンチで塵にして黒いゴライアスに向かって跳躍した。まさかの一飛びだ。おい、ここから黒いゴライアスまで80mはあるぞ・・・・・。

 

そしてー、姿勢を整えー、パーンチ!おーっと黒ゴラさん吹っ飛んだー!!

 

・・・・・もうアイツだけでいいんじゃないかな。

 

 

「うおーーー!どけどけ!俺にも戦わせろ!ふっ!せいっ!」

 

・・・・・・・・・・はい?タケさん?何してんの?なして刀を持ち出してモンスターと戦ってんのかな?なんで平然と多次元屈折現象使いながら戦ってんの。なんで並の人間程度の身体能力でモンスターに囲まれて余裕で突破できんの?

 

なーんてツッコミを入れてみたがまぁ前からなので別に驚きはしない。レベル2の冒険者が束になっても勝てないしねタケには。タケミカヅチ・ファミリアでタケに勝てるの桜花と俺だけだし。あ、命何度か勝ってるか。

 

うわー、すげー、タケが沢山見える。キシュア・ゼルリッチ様様だな。

 

「おっ、妖夢いいところに!」

 

戦闘中であると言うのにタケがこっち見て手を振ってくる。ちなみにそんなタケの周りには剣を振るうタケが。・・・・・あるぇ?タケさんそんなにキシュア・ゼルリッチ上手くなってたの?俺抜かされてる・・・・・。ま、まま負けてたまるか!

 

「ぐぬぬ、久しぶりに燕返しウーマンになる時がしましたか・・・・・」

 

というわけで・・・・・ソイ!(燕返し)ソイソイソイソイソイ!!!

 

敵が多いい?刀増やせよ!敵が素早い?刀増やせよ!!敵が強い?刀増やせよ!

 

なんて完璧な理論なんだ。

 

と、思っていたら何処からか赤い光が空に打ち上がり・・・・・地上へと降り注ぐ。そして爆発の連続。ハルプが宝具を使って爆撃したようだ。まぁ意識の共有はしてるから知ってるけどさ。

 

にしても、まじで便利だよね。一気に敵倒せるし。もはや広域殲滅魔法と何ら変わりはしないよね。

まぁ唯一の不便があるとするならば消費魔力も二倍近く上がってる事か・・・・・。レッグポーチから精神を癒す、つまりは魔力回復の丸薬を3つ取り出しボリボリと噛み砕く。この丸薬も食べすぎると眠くなるから注意だ。

 

三つ食べたのでなかなかの速度で魔力が回復していく。残念な事に霊力の回復手段は持ってないのでしばらくは魔力で頑張るしかない。よしよし、これで魔力の数値も上がっていくな。

 

「じゃ俺行ってくるから!」

「はい!行ってらっしゃ・・・・・いやいやいや!待ってくださいタケぇ〜!」

 

 

 

 

 

 

『ちぃ、限りがないなぁ!』

 

でも、魔力とか使うのは憚られるし・・・・・うーん、1回ベルとかリーナの所戻るか。千草もいるしね!

 

干将・莫耶をトレースして振り回しながら進む。物理と魔法防御アップは心強い。怪異に対しても強いらしいけどそれはオリジナルの話だ。この剣は巫術とかに使えるらしいが・・・・・あれ?そういえばリーナって巫女もやってたような・・・・・聞いてみるか。

 

『そいや!っととと!おっす、元気かな?』

 

1度半霊化して崖を飛び上がり、空中でハルプモードになって着地。みんなに元気か確認するが・・・・・ベル君がぐったりしてる。

 

「おー、ハルプ君じゃないか、僕は元気だよ?」

『そうかそうか、良かった。ベル・クラネルは今の攻撃でぶっ倒れちまったか。』

「そうだねぇ、今のでも倒せないと見ると・・・・・」

 

リーナが袖で口元を隠しながらクロゴラさんを見る。

 

『ああそうだな、俺と妖夢のスキルで判明してる。アイツは死なないぞ。既に二十回は魔石斬ったし。』

「!!・・・・・うへぇ・・・・・もうリーナさん寝ていい?」

『ダメですー、ダリルも起き上がって戦ってるしみんなの援護お願いな』

「わかってるよー。でももう三年分は働いたと思うんだよね!何か美味しいものが食べたいなぁ・・・・・(チラッ」

 

そう言ってリーナはクルメの方を見る。するとクルメはビクッと肩を震わせたあとしわたわたと慌てだし、すっコケた。

 

「ぷっ・・・・・クルメ?もう少し落ち着いていいよー?僕も少し巫山戯ただけだから」

「ごごめんなさい・・・・・料理器具は全部ロキ・ファミリアの2台で・・・・・で、でも!器具が無くたって料理はできます!頑張ります!」

「おっ、いいねぇリーナさん期待しちゃう!」

 

転んだクルメをリーナが起こし、ほのぼのと会話が続き、クルメが何処かに消えたかと思えばモンスターの死骸を持ってきた。ミノタウロスだ。

 

『・・・・・』

「・・・・・」

「美味しいものいっぱい作りますね!」

『まぁ、ほら、あれだよ。・・・・・胃に入れば同じだろ?』

「はは、た、食べてみたかったんだよね、その、ミノタウロス。僕ウレシイ」

 

引くな。リーナ。負けるな。リーナ。俺は魂だからね食べなくていいんだ。

 

「すみませんリーナさん!火、起こしてくれませんか?」

「え、あーうん。火ぃでろぉ、火ぃでろぉ――――――――阿弥陀籤!」

「冷たいっ!?」

「あっごめんよ少年!」

 

リーナの魔力が減っていく・・・・・。やばい笑うな俺。てか俺がやった方が早いな・・・・・。そして水を引いた事により発生した回復の水がベルにぶちまかれる。ベル君起床。

 

『ほら、火炎切り』

「おー!ありがとうございます!」

「うぅ、僕の存在価値って・・・・・」

『あー・・・・・面白さ?』

「ひどいよぉ!!」

 

さて。ほのぼのしてる場合ではなかった。援護しなきゃ、モンスターを減らす。それが俺のミッションだからな。崖際まで歩き

 

『トレース・オン。』

 

弓を作り出し手に持つ。更に通常の矢を沢山作り出す。因みに弓そのものも宝具である。矢を3本ずつ番える。そして息を整え――――――――放った。

 

連射する。放った直後から手のひらより矢を取り出し番え、放つ。命中力なんて知るか、そもそも俺には千里眼なんてないのです。・・・・・の、割には命中してるけど・・・・・まぁモンスターなんて腐るほどいるし適当に打ってもあたるか。

 

当たると同時に矢が爆発する。宝具のランクにしてE、俺が投影したからE-。それでも壊れた幻想によってなかなかの威力になる。・・・・・お、魔力が・・・・・丸薬を本体が使ってくれたんだね。

 

「うは〜、ほんと妖夢ちゃん達は規格外だねぇ〜。」

『一般から見ればお前も規格外の1人だぞ』

「そんなことないよ〜僕の仕事は寝ることだからね!」

 

んなあほな。一時的ではあるけどモンスターの数が激減した。・・・・・まぁどんどん降ってくるけど。

 

『とりあえずここは任せるぞ。』

「・・・・・あの黒いゴライアスは、倒せないみたいだけど・・・・・何か方法はあるの?」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ある、かも?』

「なら信じよーう。」

 

いや、かもっていったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

足を振り抜く。黒野郎の咆哮を吸収した蹴りで雑魚共を蹴散らす。

 

糞が、何体殺しても減りやしねぇ。

 

どうすりゃモンスターを止められる?未だに上から降ってきやがって。雑魚冒険者だったら落ちてきたモンスターにぶつかればその時点で死ぬじゃねぇか。

 

・・・・・中央付近に集中的に降ってきてるからまだましだがよ。

 

「■■■■■■■■■――――ッ!!」

「っ!ちぃ!!」

 

殴りかかってきた黒野郎の攻撃をギリギリで躱し、盛り上がった地面が爆発するように弾け飛ぶ。岩や土の塊に当たらねぇように黒野郎の腕を蹴って後方に飛ぶ、飛びながら着地地点のモンスターを蹴り殺し、着地。止まればまた攻撃が飛んでくる以上走ってなきゃ行けねぇわけだが・・・・・。

 

「オオオラァァア!」

 

全力で加速して、蹴りをぶち込む。足をへし折り地面に倒す。だがすぐに起きやがる。

 

・・・・・限りがねぇ。

 

チラリと後方の雑魚冒険者達を見る。殆どの奴らが息を荒くし、汗を滝みたいにかいてやがる。

 

不味い。

 

殺しても代わりの居るモンスター共と違ってこっちに人員はいねぇ。モンスター側は常に疲労のない状態での戦闘だが、人間側は常に敵と戦い続けている。

 

疲労に、人間は勝てない。

 

もう既に数人の奴らが崖上に運ばれていってる。疲れが集中力に綻びを生まれさせ隙を作らせちまう。ポーションは体の傷は直せても体力までは戻らねぇからな。

 

そこら辺はあの猿顔のおっさんがどうにでも出来そうだが・・・・・いや、流石にそれはやばい薬になっちまうか?

 

にしても・・・・・犠牲者が0の世界ではない、か。確かにこりゃあ俺達がいなけりゃ確実に死人が出てるな。

 

「助太刀しよう。」

 

あ?

 

「■―――――――――――――!!!!」

 

黒野郎が吹き飛んだ。つか空を飛んだ。ただ1発の殴りで。

 

「【猛者】・・・・・!!」

 

巨体が宙を舞い、轟音を立てて落ちる。どんな筋力してやがんだこいつ!

ドサッとすぐとなりに着地したオッタルに戦慄した自分が情ねぇ。

 

「ここは任せておけ【凶狼(ヴァナルガンド)】前線が崩壊する前に立て直してやってくれ。」

「チッ・・・・・1人で任せられるか?」

「フレイヤ様の名前に誓おう」

「そうかよ・・・・・アイズ!ティオナ!前線立て直すぞ!」

 

後方に下がりながらモンスターを薙ぎ払う。俺達の前にここらのモンスターは塵も同然だ、体力なんて使わずとも殺せる。風で吹き飛ぶ塵みてぇにモンスター達がボロボロと崩れ去る。

 

その時、誰かがモンスターを切り払って飛び出してきた。

 

「―――!タケミカヅチ!?」

「ふっ。今この時だけは1人の戦士だ。」

 

フッ。じゃねぇんだよ!神狙いだっつってんだろうがっ!?馬鹿なのか!?戦闘狂(妖夢達)の育ての親はやっぱり戦闘狂ってことかよ!糞が、行かせるわけには行かねぇ!ハルプとの約束を破る訳にはいかねぇんだ。

 

「バカかテメェは!!止まれ!」

 

俺の横を通り過ぎようとするタケミカヅチの肩を掴もうと、いや確かにつかんだ。が・・・・・

 

「無駄だ、男とは止まらぬものよ」

 

とか何とか言ってすり抜けやがった。訳が分からねぇ。

 

「あぁクソ!アイズ!雑魚どもは任せた!あのバカ止めてくる!!」

「頑張ってねーー!」「任せて」

 

あぁめんどくせぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

神は、そこに立った。凡そ人の中の最高峰、オッタルの隣に。

目の前に矗立する黒い巨人を睨むこともせず、自然体で眺める。

 

「・・・・・神タケミカヅチ。下がるべきでは?」

「ははは、俺を誰だと思ってる」

「魂魄妖夢の父であり、武神です」

「だろう?ならば下がれないな。」

 

いや、そこは娘の為にも安全な所に居た方が良いのでは、オッタルはそう考えたがタケミカヅチのその目をみて考えを改めた。

父としての威厳を示す、というのもあるのだろう、しかし、武神として、戦神として戦いを挑みたいのだろう。

そしてオッタル自身、それを止める理由はなかった。

 

(武神の武・・・・・この目で確かめねば。)

 

巨人は足元に居座る外敵を睥睨し、拳を後方に引き絞った。対するタケミカヅチは左足を僅かに後ろに下げ、構える。巨人と神との一騎打ちが今――――

 

「■■■■■■――!!」

 

始まった!

 

打ち出される渾身の一撃。巨体故にうち下ろす形となるそれが生み出す破壊力は想像をゆうに超えるだろう。階層を抜くかも知れない。そう思わせるほどのものだった。

 

そして、轟音が鳴り響く。土煙が舞い上がり視界を失わせ、岩が石ころの様に飛んでいく。

その様は必殺と呼ぶに相応しい、怪物の全力の攻撃は見ている者達の背筋を凍らせ、足から力を奪う。階層のほぼ全域(・・・・・・・)に地割れが広がった

 

どうなった?などと聞く必要すらない。意味すらない。あれが直撃したらオッタルとてその魂を身に留める事は出来ないであろう。

 

「た、タケっ!!」

 

悲痛な声がオッタルのすぐ近くから響く。オッタルがやや右下を見れば、胸元で両手を組み涙ぐんでいる妖夢が。・・・・・返事は無い。誰もが顔を手で覆った。

 

「そんな・・・・・そんな・・・・・」

 

首を横に振り、後ずさる。ここは危険だ、ここには居られない。そう理解していたから。これが出来レースだと理解していたからだ。ニヤニヤと妖夢が笑う。

 

ゴライアスがその顔をにやりと歪めた。そして目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「力だけか・・・・・怪物に相応しいな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抑えていた。たった1本の腕で、比べるまでも無く細いその腕で、あの一撃を。

オッタルは目を見張った。あの一撃を自分は防げ無いと思っていたからだ。

 

「だが、武神である俺にとって力ほど御しやすいものは無い」

 

その整った神々しい顔を、ほんの少し自慢げに、もっと詳しく言うのなら娘にカッコいいところを見せることができた微笑ましい喜びの顔で、驚きに顔を歪めるゴライアスの赤い双眸を睨んだ。タケミカヅチが行った事は簡単だ、【受け流した】唯それだけである。層を抜くほどの威力を秘めていた一撃の威力を階層全体に流す事で崩壊を防いだのだ。

 

「有難い授業だった。さて、授業料はおいくらかな?」

「■■■■■――――ッッッ!!」

 

タケミカヅチの挑発にゴライアスは再び拳を打ち込んだ。それは先と同じ一撃。怪物故に低い知能は最大の外敵を前に、最高火力以外の選択肢を取らない。故に。

 

「そうかそうか、値段は――――――――」

 

振り下ろされる巨腕。それに完璧なタイミングで手をピタリと押し当て――――

 

「腕1本だな?」

 

その破壊力をそのままゴライアスに返した。

自らの誇る最大の一撃が生み出したその破壊力はゴライアスの腕を吹き飛ばし、よろめかす。

 

「剣聖の斬撃も、英雄の光線も効かんとなればいよいよもって()の番かと思ったが・・・・・早とちりか。」

「■■■■■■■」

 

無駄だ、そう言わんばかりに唸り声を上げ身体が修復されていく。

 

タケミカヅチは顎に手を当てて考える。そして黒いゴライアスに背を向け歩き始めた。無視をするなと言っているかのように腕を薙ぎ払う。

 

「ふんっ・・・・・お下がりください。」

 

しかし、それは先程よりも威力が無く、オッタルに止められた。

 

「あぁ、倒す方法は一つだけ理解出来た。・・・・・妖夢、少し来てくれ。」

「もうっ、タケは何で我慢出来ないんですかっ!少し、いえ、結構心配したんですよ!!」

「ははは、まぁ倒す方法はわかったからな。それをこっそり教えてやろう!」

「おおー!流石ですタケ!」

「かっこいいか?」

「カッコいいですよ!」

 

賑やかに、しかしもどかしく感じたのか妖夢にお姫様抱っこされてタケミカヅチが森に消えていく。

 

そんな姿を見送ってオッタルは自分の足元を見た。・・・・・靴が地面を滑った後。ゴライアスの攻撃にオッタルは押された、力で負けた。

 

誰が聞いても、誰が見ても、彼を嘲る所か英雄として称えるであろうそれをオッタルは許せなかった。フレイヤ様の最高の戦士。それを自負し、そしてそうあろうとする彼はこの程度で下がるべきでは無いのだ。

 

「・・・・・ぅ、・・・・・うぉおおおおおおおおおお!!!!!」

 

自分を下がらせた巨人に賞賛と強い怒りを覚え、オッタルは襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、森の中まで来たけど・・・・・。

 

『ういっす、合流したよタケ』

「それで、どのような方法であれを倒すのですか?」

 

タケは若干ジト目でこちらを見ているが無視する。何故ならば勝手にゴライアスに突撃していったアホパパにカッコいい描写など許さないという硬い決意によるものだ。

 

「・・・・・魔法だ」

「魔法?」

 

霊力の消費を抑えるべくハルプを半霊に戻す。確か・・・・・駄神も魔法について軽く言っていた気がする。何だかんだ言ってヒントくれるんだからアイツもイイヤツだよな!

 

「そうだ・・・・・・・・・・【西行妖】を使えば倒せるだろう。」

「西行・・・・・妖・・・・・。」

 

未だ1回しか使ったことの無い俺の魔法。不安も多いが、それしかないらしい。たしかに、あれなら倒せるかもしれない。・・・・・成功した事はないけど、やってみるしかない。

 

「あれを唱えるには魔力も霊力も足りません。使うなら・・・・・」

 

俺の魔力全てと霊力全てをかけあわせても足りない。要求量が多すぎるんだ。・・・・・でも、手はある。

 

一刀修羅。それが詠唱を可能とするはずだ。身体能力も魔力も十倍近く引き上げるあの魔法なら。

 

「・・・・・一刀修羅か?」

「・・・・・はい。」

 

タケもわかっていたらしい。しかし、その顔は不安げで、俺を心配してくれてるのがよくわかる。・・・・・嬉しい。でもだ、さっきまさに無茶をしたタケの言うことなんて聞くもんか。

 

俺が殺らなきゃ、タケたちが死ぬ。

 

今はいい、今はまだ上手くいっている。でも、いつかは限界がくる。疲労やマインドダウン、集中力の低下が躊躇に現れ始めた時には、きっと前線は崩壊し、モンスターの波に飲まれ沢山の冒険者達が死ぬことになるだろう。それだけなら別に構わない、でも、その中には『家族』がいる、だからこそ、俺が殺らなきゃいけない。殺せるのが俺だけなら、俺しか殺せないなら、殺るんだ。殺って、皆で家に帰る。

 

事を起こしたのが自分なのだから、自分でけじめ付けたいしね。

 

「行きましょう――ッッッ!!??」

「□□□□□□□□□□―ッ!!」

「タケっ危ない!!!!」










次回、『詰み』

お楽しみに!


えー、ここで、全く関係ないけどアリッサさんの挿絵です。どのくらい関係ないかというと、そもそも装備が違ったりします。いずれ装備する装備的な何か。


【挿絵表示】



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

52話「生存率が一番高い?これの何処が!?」



詰み。果たしてそれは何を表しているのか。

戦いの終わり?

否。

戦闘は終わらない。恐らく、永遠に。

故に。

詰みなのだ。

彼が魔法を紡ぐまで、この戦いは詰み続ける。












森の先、聳える壁から水晶が伸びて来た。それも音速を超える速度で。狙いはタケミカヅチであり、それは完全な不意打ちであった。

 

「ぐぅうう!!!」

『タケこっち来て!』

 

しかし、その攻撃に妖夢が刀を合わせ、ハルプがタケミカヅチを抱き上げ全力で撤退する。

 

「ぐっ!!」

 

刀を合わせ防ごうと力んだ妖夢であったがいとも簡単に吹き飛ばされる。地面を数度跳ねるようにし森を抜けたあと地面を滑りながら着地する。

 

「■■■■■■■■―!!!」

「っ!?危なっ・・・・・がはっ!?」

 

しかし、着地したそこに待っていたのは黒いゴライアス。横から殴りつけられ妖夢が吹き飛んでいく。防御に使った大刀が破壊されたのかキラキラと光を放っていた。

 

「ぁ・・・・・か・・・・・はっ、い、痛ぁ・・・・・」

 

壁にめり込むように激突した妖夢が高くなった視点から戦場を見渡すと・・・・・・・・・・衝撃の事態に気がついた。

 

「ぇ・・・・・?ゴラ、イアスが・・・・・2体(・・)・・・・・?」

 

黒と白。

 

相反する色が目に入る。錯覚等ではない。見れば互いに違う特徴は見られるからだ、黒いゴライアスは別段何も変わっていないが、白いゴライアスは背中から大小の水晶を生やしている、最も大きな水晶で2m程だろうか。更には足や腕など攻撃や防御に用いる部分も水晶に包まれていた。

 

「かはっこほっ・・・・・まだ、行けます。」

 

喉につっかえる痰の絡んだ血を吐き出し、妖夢が埋まり込んだ壁から出ようと身動ぎすると、2体の巨人はその首をグルリと妖夢に向けて反転させた。そして

 

「■■■■■■■―ッ!」

「□□□□□□□――ッ!」

 

同時に咆哮を放った。その光景にやや慌てながらも虚刀流で邪魔な岩を切り裂き、どうにか脱出する。そして先程まで埋まっていた場所が轟音と共に吹き飛ぶ。

 

「・・・・・水晶を、扱えるみたいですね、白いゴライアスは」

 

頭から血を流し、少し呼吸を乱しているが妖夢はまだ動ける。妖夢の見る先には咆哮により抉られた壁と、その中央に大きく聳える水晶。水晶は先程まであそこにはなかった。・・・・・つまりは白いゴライアスは水晶を使って攻撃してくるのでは。と妖夢は考えた。そして、それは当たっている。

 

「・・・・・スペアの刀で事足りるわけありませんが・・・・・魔法のタイミングを逃す訳にも行かないですし・・・・・」

 

戻ってきた半霊から適当な刀を取り出し装備する。ステイタスの大幅な上昇が見込める二刀流だ。漲る力を感じながら、妖夢は戦場に飛び出した。

 

綺麗。

 

そう言って差し支えないだろう光景が広がっていた。水晶がこれでもかという程乱立しているのだ。今太陽が出ていると伝えてくれるそれらは光り輝き、階層中を照らし出す。

 

そして悲惨。

 

眩い光は容赦なく冒険者達の視界を奪った。見えなくなった訳ではなく、視界が狭くなってしまった。それに障害物としても有効だった。水晶が有るだけで弓や魔法の攻撃は躱されやすくなってしまう。

そして、水晶の真下から地が赤く滲んでいることから、あの水晶は突き出てきたのではなく、降り注ぎ突き刺さったことがわかる。

 

――――――――現在、死者5名

 

 

秒間2発の間隔で放たれる咆哮が巨大な結界に阻まれている。リーナの張った結界だ。今までとは違い円形では無いため新しい物だろう、効果は恐らく「結界に触れた物の魔力を解く」などのものと思われる。魔力による攻撃は通さないが、先程のように魔力と関係ない水晶柱は防げないらしい。

最も現在はその驚異となる咆哮は全て妖夢へと向かっているが。

 

「【国之狭霧神!!】」

「リーナ・・・・・ありがとうございます。」

 

妖夢が吹き飛ばされてから既に詠唱を始めていたのだろう、妖夢に結界が展開される。妖夢の場所からではリーナが豆のように小さく見える、それでもリーナが珠のような汗をかきながら懸命に魔法を制御していることが伺えた。

決して聞こえないであろう音量でお礼を述べる。そして低い体制で構え、攻撃が来るのを待った。

 

「■■■―!!」「□□□□□□□□□――――ッッッ!!」

 

単発の咆哮と、薙ぎ払うようにして放たれる結晶咆哮(クリスタル・ハウル)とでも言うべき咆哮。

 

「くっ!」

 

真横に回避し、咆哮は躱した。しかし、下から津波のように、剣山のように突出して来た結晶を防ぎ切れず全身を切り裂かれる。肩や腕、腿や頬、脇腹等に傷を負ったまま妖夢は構える。

 

「剣伎「桜花閃々」!!」

 

紡ぎ使ったのは元から持っているオリジナルの技。霞むほどの急加速で接近し、通った道筋は斬られ大量の桜弾幕を撒き散らす。

 

「転生剣「円心流転斬」!!」

「□□□!?」

 

一瞬にして距離というアドバンテージを埋めた妖夢は白いゴライアスの足元で刀を構えていた。技名を叫ぶと同時に技を繰り出す、連続斬りからの斬り払い。斬り払いながら横に抜け、黒いゴライアスが白いゴライアスに重なるように移動する。こうする事で1体1の状況を作り出す。

 

「断迷剣「迷津慈航斬」!!」

 

両足を斬られ転んだ白いゴライアスに霊力をつぎ込む事で巨大化させた刃が襲いかかる。魚を3枚におろすように横薙ぎに振るわれた巨大な刃は白いゴライアスを真っ二つに切り裂いた。

 

「これで・・・・・!!」

「■■■■――!!」

 

露出した魔石に止めの一撃を加えようとしたその時、黒いゴライアスがまるで仲間を守るかのように強引に割って入った。後方に一旦下がった妖夢だが、白いゴライアスは既に全回復して立ち上がっている。

 

「くっ・・・・・霊力をだいぶ使ったのに・・・・・!」

 

黒と白の都合4本の巨腕による大砲連射を縮地や鮭飛びでなんとか躱しながら、妖夢は考える。

 

「(アイズ達は何処に・・・・・?)」

 

いま白黒ゴライアスと戦っているのは妖夢だけだ。・・・・・そして気が付くだろう、天井から降り注いでいたモンスター達が、先程白いゴライアスが現れた壁からも溢れ出ている。

 

壁と天井からのモンスターの大量発生に、第一線級冒険者達が対処に駆り出される事態となった。最早それはモンスターの川。妖夢から見えるだけでも既に300は軽く越えているだろう。

 

援護しなくては、そう思い弓を創り出すも、白と黒のゴライアスの猛攻が援護射撃をさせてはくれない。このままでは物量で押し潰される。

 

妖夢はガリッと歯を噛み締める。

 

「生存率が一番高い?これの何処が!?ぐっ!」

 

よそ見は出来ない、自分が死ねばこのゴライアス達は家族の元へ突撃し、前線は簡単に崩壊するだろう。ハルプを援護に出すかを考えた妖夢だが、今このタイミングで意識の分割は「痛い」。

相手はレベル5、もしくは6。それが2体。対して妖夢のレベルは3。

 

戦力差は・・・・4倍、なんて簡単なものでは無い。まずこの世界において自分よりもレベルが高いモンスターは倒すことが出来ないのが常識だ。

 

さらに、数の差も2倍だ。

 

それを1人でどうにか抑えている現状は正に奇跡だろう。その中で意識まで半分にするなど正気の沙汰ではない。

 

しかし、援護しなくては高レベルの冒険者達はこちらに駆け付けることが出来ず、魔法の詠唱を始められない。魔法が発動できなければあの黒いゴライアスは殺せない。魔法を発動できれば白いゴライアスも倒せる可能性がある。

 

つまり、今この現状は・・・・・・・・・・詰んでいる。しかし、まだ解消できる詰みだ。どうにかしてモンスターを一時的に減らしさえすればいい。

ただそれだけのこと。

 

しかし、魔法を放つには霊力と魔力が必要だ。現状全く足りていないその二つが。無駄遣いは出来ない、一刀修羅で十倍近く増やすとしても、増やす前の数値が小さければ意味は無いのだ。

故に多くの魔力や霊力を使う広範囲攻撃も使うのは気が引ける。

 

「うわっ?!」

 

白いゴライアスの攻撃を回避するが、その拳は水晶に覆われていた。着弾と同時に周囲に鋭く尖った水晶がショットガンのようにまき散らされる。自分に当たりそうな水晶を全てたたき落とすが、これでは反撃が出来ない。さらに、黒いゴライアスの攻撃が。

 

「埒が・・・・・明かない!」

 

再び連続の攻撃を受け、妖夢の姿が土煙に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおぉおおおッ!!」

「はあああああッ!!」

 

槍を、斧を、一心不乱に振り回す。敵、敵、敵、敵、敵。眼前に広がるすべては異形の怪物。自らの持つ得物をただ振り回し続ける。体は既に傷だらけ、腕は微かに震え、握力が失われ始めている。

 

「グルルルゥルルウオオオオ!!」

「右翼を援護してくれ!!お願いだぁあ!」

「リーナぁぁあ!!援護を頼むッ!!」

「た、助けて団長!!やっ!やだ!!きゃぁぁぁぁあ!!」

「!?くそ!誰が穴を埋めろ!!マシュー!!」

「は、はいぃ!?」

 

飛び交う怒号、飛び交う悲鳴。やや弧を描くように1列に並ぶ戦列。そこに津波のように押し寄せるモンスター。また1人、戦列から孤立し、モンスターに貪られた。

 

「すまんっ・・・・・!!」

 

タケミカヅチもまた、刀を全身全霊で振るっていた。その身に傷は無くとも、消えていく自身のさずけた神の恩恵に心を酷く痛めた。

 

「千草っ、大丈夫か!?」

「う、うん。・・・・・まだ、まだ撃てるよ!」

「・・・・・頼むっ!」

 

タケミカヅチを除く殆どの冒険者が傷を負っている。モンスターに引っ張られず、深い傷を負った者は猿師によって傷を癒されている。

 

「アリッサ!!まだ行けるか!!」

「ぐぅっ・・・・・!!あぁ!まだ行けるぞ団長!!」

「わかった。・・・・・全員!!堪え忍べ!!」

「「「「「おう!」」」」」

 

そんな時、モンスターが吹き飛ぶ。それは希望の降臨だった。金、銀、黒など、様々な色が舞い踊る。

 

高レベル冒険者、彼らの登場だった。

 

あっという間にモンスターの大群が崩壊し、一時的にこちらまでの到着に空白ができる。

 

「おう、わりぃ、遅れた。」

「いや、ありがとうベート・・・・・助かった」

「助けにきた、よ?」

「みんなー!だいじょーぶー?助けに来たから安心してねー!」

「皆さん戦列を崩さないで。行きますよアスフィ」

「はぁ〜。疲れますが、非常事態ゆえ仕方ありませんね。」

「死なないモンスターは珍しい、骨が折れるな」

 

【凶狼】【剣姫】【大切断】【疾風】【万能者】【猛者】。なんと言うメンバー。国でも落とすのかと言いたくなるほどの面子だが、それが何よりもその他冒険者からすれば嬉しかった。

 

気が付けば再びモンスターが眼前まで迫っている。大半を片付けても一言交わせばいつの間にか大量に現れている。

 

【不死の階層主】と【無限に湧く怪物】。決して、先程並べた冒険者達に劣らない最悪。

 

「ったくよぉ。・・・・・ん、死んだか、何人か。」

「・・・・・あぁ。」

「へっ、雑魚が。「なんだと貴様!」黙れ鎧女。・・・・・てめぇら、提案がある。リヴィラまで撤退して籠城するんだ、そうすりゃお前らだけでも生き残る位できるだろ。」

「さっきまでは戦力不足でな、足を止めて受け止めるしか方法がなかった。だが、今なら撤退もしやすくなっただろう。」

「まて貴様!先の発言を撤回しろ!」「だーまれ黙れ。モンスター来てんぞ」「ちぃ!どけぇ!!ダァァクパワァー!」

 

闇の波動の様な物がアリッサから前方に広がり、モンスター達が眩暈を起こしたようにふらつく。そこに高レベルの冒険者達が飛び込み、敵の前線を粉々に打ち砕いていく。

 

「撤退だぁあ!!撤退しろ!!リヴィラまで戻り立てこもるぞ!背を向けるなよぉ!」

「た、退却ぅ!!!リヴィラまで退却ぅ!!陣形は崩すなぁ!!」

 

これを機と見たタケミカヅチのよく通る声が冒険者達に指示を飛ばす。隣にいたマシューがその大きな声で全体に更に指示を飛ばす。

 

総勢30名程の冒険者達がリヴィラへと撤退を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険者達が移動を始めたのを見た猿師は、座り込み目を閉じ、珠のような汗をかきながらも魔法を制御し続けているリーナに声をかけた。

 

「大丈夫でごザルかリーナ殿。」

 

返事は無い、荒く細かい息遣いと、胸の前で祈祷のように握りこまれた両手がわずかに震えるのみ。

 

「・・・・・そうでごザルか。さて、拙者は患者を運ぶとするでごザルか。」

 

地面に寝かされている冒険者は数十人。彼らはリヴィラの者達とモンスターにやられたタケミカヅチ・ファミリアの者達だ。もうすぐタケミカヅチを先頭にここまで戻ってくるであろうが、少しでも多くの患者を移動させておいた方がいいだろう、そう考え患者達に近付くと。

 

「まって・・・・・、猿師、さん。僕、頑張る、から、あと少し、もう少しこっちにみんなが来ればっ・・結界は外しても平気な筈・・・・・!

大丈夫、もう誰も!死なせないから・・・・・!」

「・・・・・・・・・・・・・・・信じましょう。その心意気。拙者、猿飛猿師――――」

 

バキバキ、と壁が割れる。何かが生まれでるのだろう。猿師達のすぐ後ろの壁だ。

 

「微力ながらこの力を尽くしましょうぞ。」

 

出てきたのは十数体。眠っている冒険者を殺すには少々多すぎるが下の戦いを見ていると少なく感じてしまう。飛びかかってくるモンスターに何らかの薬を投げつけるとモンスターは鼻を抑え転がり回る。そこに忍術を放ち、爆発。

 

クナイを投げつけ、短刀で斬りかかり、蹴りあげ空中に吹き飛ばしたところに忍術で追い討ち。少しだけぎこちないものの、その戦い方には年季が入っており、頼りがいがあった。

 

3匹のミノタウロスが同時に猿師に襲いかかる。ミノタウロスの攻撃が確かに猿師に当たったと思われたが、そこには「ハズレでごザルよ(笑)」と書かれた可愛らしい猿の絵が落ちているだけだ。

 

ミノタウロスがそれを理解し、探そうとした時、背後から猿師が短刀を持って飛びかかる。首を刺し、そこから抉り、殺す。ほかの2体にクナイをなげ、そのクナイには毒が塗られていたのかミノタウロスは体を震わせながら倒れた。

 

「ふぅ・・・・・ガリッボリっ。不味いでごザルね」

 

脇腹をやられているのか血が滲んでいる、丸薬を噛み砕き、リーナの元へ。

 

「これを舐めるでごザルよ。魔与の丸薬でごザル」

「ん、あり、がとう。・・・・・不味いね、これは」

 

汗に濡れた顔で、ニヤリと笑う。状況と味、両方不味かったからだろうか。そして、リーナが目を開く。

 

「よし、一つ解除!ふあぁ〜疲れたぁ〜。・・・・・よし、次も解除。ふぃー、だいぶ余裕が出来たよ。四つ程度なら話す余裕もあるしね。さて・・・・・僕はまた魔法を使うよ。みんなが来たら呼んできてくれないかな」

「・・・・・承知したでごザルよ」

 

しかし、開かれた目に余裕は無い。猿師は理解した、彼女は今、トラウマを行おうとしているのだと。

 

「・・・・・頑張るねぇ。彼女も」

「そりゃそうさ、ヘルメス、僕だって戦える力が有るなら戦っているよ」

「ヘスティアが?ははは!・・・・・マジで?」

「なんて失礼なんだ君は!?」

 

 

 

 

 

 

 

いったぁ・・・・・・・・・・・・・・・、ちくしょう・・・・・。

 

また壁に叩きつけられ、俺は呼吸が出来ずに苦しんでいた。

 

おうふ、息が、出来ない・・・・・!

 

叩きつけられた衝撃が強すぎて肺から空気が抜けてしまった。俺は刀をふってどうにか脱出したが、片腕が折れている。

 

やばいかこのままだと。けど、ここを降りる直前タケ達が後退してるのが見えた。・・・・・少しだけ希望が見えてきたな。

 

あの撤退をどうにかして成功させればオッタルもベートも参戦できる。それまで、どうにかしてゴライアス達のヘイトを稼がなくちゃ。

 

本体はだめだ。片腕じゃあ出来ることが限られる。・・・・・霊力の消費があるけど、ハルプで行くしかないか。

 

『うっし・・・・・こっちなら怪我しても関係ないからな。』

 

本体を木に寄りかからせて戦場に飛び出す。

 

『そぉぉおい!!』

 

唐突に飛び出してきた俺に反応が遅れたのか、鈍い黒いゴライアスの腕を切り落とす。が、白いゴライアスの超反応で殴られて吹き飛ばされる、が、空中で半霊化し、黒いゴライアスの頭上でハルプ化、落下速度や重量も加えた龍槌閃で頭から足まで切裂く。

 

ほんの数十秒だが黒いゴライアスは再生に時間をかけることになる。だから今の内に全力で白いゴライアスを再生中の状態にすれば援護ができるはずだ。

 

『断迷剣「迷津慈航斬」!かーらーのー!空観剣「六根清浄斬」!!』

 

断迷剣で刃を巨大化させて、空観剣で分身。全員で巨大化した刀を思いっきり振り下ろす。両手両足、首胴体を全部吹き飛ばす。よっし!今しか援護できない!

くるりと反転しながら弓と矢を作り出す。

 

『・・・・・はあっ!!』

 

40本。多次元屈折現象を利用し4人で放つ、合計160本の矢が階層中にばら蒔かれ、モンスターを貫き、そして爆発した。

 

『よし!これであがっ!?』

 

後ろから黒いゴライアスに殴られた俺はポンッと言う呆気ない音で半霊に戻される。つまり、妖夢は1発でも直撃すれば即死って訳だ。

 

ハルプ化しながら2体の正面に位置取る。場所的にタケ達は俺の後ろの方角にいる事になる。つまりベート達援軍が来るのは後から。

 

出来れば、もうそろそろ俺は戦線を引いて魔法を詠唱したい、だってそうしないと倒せないらしいし、とりあえず本体に戻って動き始める。

 

どうやらこちらの思惑は皆にも伝わったらしく、ベート達がこっちに向かってくる。そして数秒で俺の元まで到着する。

 

「妖夢!!無事か!?」

「はいっってええ!?ベート!?本物ですか!?」

 

ベ、ベートが俺を心配してるだと!?ありえない・・・・・これは白ゴライアスの新しい技に違いない。

 

「あわわわ、白いゴライアスは幻術を使うのですか?!あのベートが人の心配をするなんて!?」

「ああ!?何言ってんだボケ!自分の傷見てからいえ!」

 

おっと、たしかにそうだった。全く言い返せないぞこれは。もうボロボロですからねははは。・・・・・血が入って片目が使えなかろうが片腕が使えなかろうが関係ない、魔法さえ使えば倒せるなら、殺るしかないんだ。俺が、俺しか出来ないから・・・・・!!

 

「ししょー、これ」

「あっ万能薬ですか、ありがとうございますっ」

 

あ、はい。全ての怪我完治ですわ。俺の決意を返せ。そしてベートてめぇにやついてんじゃねーぞ!まぁいい!本当にいいとして、こっからは少し皆にも説明しなきゃいけないな。

 

「・・・・・・・・・・極めて重要な話があります。これはあの不死を殺せるかもしれない、いえ、絶対に殺せる方法の話です」

 

誰かがゴクリと唾を飲んだ。あれだけの化物を殺せる何か、それを俺が持っているからなのか、それともだただ単に緊張からなのか。

 

「・・・・・それで、その殺す方法ってのは?」

「ししょーのスキルでわかったの?」

 

はい。と答えてゴライアス達へと向き直る。2体のゴライアスはオッタルが1人で受け持って時間を稼いでいる。

 

「私の魔法です。私の魔法ならあの二体を殺せます。」

「魔法・・・・・もしかしてっ!あの木を生やす魔法!?でもあれって相手から木を生やすだけじゃないの?」

 

ティオナが速攻で正解を当ててくる。流石ですわ。だけど、恐らくこの魔法の真の効果は・・・・・「相手は死ぬ」だと思う。

 

「この魔法は、まだ成功した事がありません。戦争遊戯の時は詠唱が途中で中断されて爆発してしまったのです。」

「・・・・・え?・・・・・あれって失敗だったの。」

「はい。効果はタケが私に隠しているのでわかりませんが・・・・・恐らく名前を冠する物から考えるに、相手を殺す。という効果でしょう。タケもこの魔法なら奴らを倒せると言ってくれました。」

「・・・・・じゃあ私達はししょーが詠唱している間守ればいいの?」

「はい。・・・・・ですが、先程も言ったように、まだ詠唱を最後までしたこともないのです、何が起こるかはわかりません。」

「んなもんその場その場で対応するしかねーだろ。ガキは難しく考えないで詠唱しやがれ。」

「ふふ、わかりましたベート。うっかり巻き込んでもベートのせいですね!」

「はぁ!?巻き込まない努力をしやがれ!」

「・・・・・はいっ」

「お、おう。」

 

 

・・・・・だが、この魔法を使っても良いのだろうか?ゴライアスが倒せる。それしかわかっていない今、他に何かを失うかも知れない・・・・・いや、だが、それでも・・・・・

 

詠唱しなくては。












いやー、まだまだ戦闘は続くのです。ここでゴライアス達についてまとめておきましょうか。まぁ本文で登場したものだけです。登場してない能力は?で書きます。

【黒いゴライアス】

・高ステイタス
・魔石を砕かれても破片や魔素が収束し凝縮され、再び魔石となる。
・魔石が移動する。
・超再生
・???

【白いゴライアス】

・高ステイタス
・結晶を纏っている
・結晶による追加攻撃及び長距離攻撃。
・咆哮が結晶属性
・???

となっています。まぁ見ての通り白いゴライアス通称シロゴラさんは不死身ではありません。

それとリーナの実力について

リーナ「ほいほい、僕だよ、リーナだよ」

リーナの最大結界展開数・・・・・同時に制御できる結界の数は6個です。はい、化け物です。

リーナ「化け物では無いよー、可愛いエルフちゃんですよー」

【魔道】のアビリティを持っていると、魔法の安定性と共に破壊力が増すのです。
が、リーナはそこに加え、霊力による安定化も合わせています。はい?と思う方も居るでしょう、ですが相当前に主人公が霊力の方が扱い易く爆発しにくいと説明しているので、裏付けになる・・・・・かな?と思ってます。

リーナ「凄いだろぉ!」ドヤァ

つまり少量の霊力も練り込むことで魔法の安定力を増加させています。霊力が生まれつき高く、巫女として生活した事もあるリーナが考え付いた運用方法です。
しかし、そもそも魔力に霊力を混ぜるという方法事態が難易度が高い事、霊力を扱うには才能が必要な事としっかりとした扱い方を習う必要がある事、極東を除いて一般的に霊力と言う概念が知られていない事など、結果としてこの方法を使うのはリーナだけです。

リーナ「ふふん、つまり僕は最強ってことだねッ!」

ただし弱点として制御数が増える事に負担が増えていくため、5つ以降は最早話すのも辛い状況になります。

リーナ「それは・・・最強故のハンデと言うか・・・・・」

次の話ではもっと負担が増えることでしょう。

リーナ「ぇ?・・・・・」

最強ですから問題ないそうです。

リーナ「・・・・・Zzzzz」
ダリル「逃げたっ!?」



それと遅くなって申し訳ありません、リアルが忙しく執筆の時間が取れませんでした。

誤字脱字の報告、コメント募集してます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

53話「【汝の命奪い賜いて、かの桜は枯れ果てましょう。】」

さて、お待たせしましたです。53話です。




戦闘は激化していく、逃れえぬ戦火から逃れようと冒険者達は行動していた。目指すは丘の上、怪我人たちを回収し、そこから更にリヴィラを目指すのだ。

 

丘の上から白い長髪のエルフ、リーナが手を振っている。すると何処からか美しい雨が降り注ぎ、見る見るうちに冒険者達の怪我を治していく。

 

「もうすぐだ!!命!ダリル!モンスターは来ているか!!」

「はい!ですがまだ遠い!!」

「わかった!よしお前達!リヴィラはもうすぐだぞ!!」

「「「おう!!」」」

 

リヴィラまでだいたい1キロも無いだろう、丘に寄って怪我人を助ける事も踏まえれば時間は50分程か。怪我人が多い以上部隊の戦闘はガタ落ちする。桜花の額を疲れとは別の汗が流れる。

 

しかし、丘の上、リーナがドヤ顔で出迎えている事に希望を得て進む。何かを企むその顔に全てをかけるのは余りに危険だが、どの道危険な事に変わりはない。

 

「リーナぁ!なにか秘策はあるのかぁ?!」

 

大声でリーナにその心を聞く桜花。するとリーナは裾で口元を隠しながらニヤニヤしている。その堂々たる様と不敵さに、冒険者達は勇気付けられる。「リーナの元に行けば助かる」と希望に縋った。

 

そのまま歩いて数10秒もしない内に殿を務めるダリルと命が警告を飛ばしてくる。

 

「モンスター、来ますっ!!」「団長!来やがるぞ!!」

 

桜花がけが人を背負いながら後ろを見る、そこには木々の間を駆け抜ける無数の影。正に津波と言って差し支えないその濁流に冒険者達は浮き足立つ。

 

「全員!迎撃体制!!少しずつリーナ達の元へ向かうぞ!」

「「「了解です!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

めいいっぱいのドヤ顔を披露し、胸を張っていたリーナは桜花達がモンスターに襲われ始めリーナを見ていられなくなった辺りでへたり込む。

 

「はぁ――はぁ――はぁ、っ。」

 

リーナの限界は近かった。例え薬で魔力を得ようとも、その薬の副作用はリーナにとってあまりに重い。普段から常人ならばすぐに寝てしまいそうな程の眠気に襲われているのだ、そこに薬による眠気が加われば目を開けることすら辛いだろう。

 

「もう少しの辛抱でごザルよ」

「リーナちゃん、これご飯だよ。」

 

彼女の左手の小指は焼け爛れていた。自ら燃やしたのだ。眠気に逆らうために痛みを自らに与え、アドレナリンを分泌させ意識を覚醒させる。荒業だが効果は確かだ。

 

「うん、美味し、いよ。僕の好みを知ってるね?」

 

少し青ざめた顔でしっかりと肉を噛み締める。リーナは食べる事で魔力を回復できる。故に食べなくてはならない。例え空腹で無くとも、唯一彼女だけに許された回復方法なのだから、有効活用しないはずが無い。精神的に疲れていると食欲が無くなるように、精神力を魔力に変える事で魔法を放つこの世界において、今の彼女は食欲なんてものは全くないだろう。

 

吐き出しそうになりながらも懸命に胃袋に押し込んでいく。

 

「う、うぅ・・・・・ごめんなさい、私がもっと美味しく作れば・・・・・」

「今の彼女には例え極上の甘味でも地獄でござろう・・・・・クルメ殿のせいではござらんよ」

「・・・・・はい。」

 

料理を食べ、丸薬を噛み砕き、マジックポーションをあおる。それを見守り、2人は己の無力さを味わうことしか出来ない。すると、クルメは何かを思いついたのか猿師の前に移動し、両手を胸の前で組みお願いのポーズを撮った。

 

「私も前線に行きます!なので力を上げるお薬を下さい!」

「し、しかし・・・・・」

「生存能力だけなら誰にも負けません!」

「ぇ、えぇ・・・・・拙者に言われても困るでごザルよ。戦場に赴くは自分の好きにすると良いでごザルよ。ほら、力の丸薬でごザル」

「はいっ!行ってきます!」

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁぁぁああああああ!!!」

「くっそ!!カルロが殺られた!」

「クソモンスターがぁぁあ!よくも俺の友をぉ!!」

「ぐっぅ!?だ!だれか!?たすけてくれ!肩を!肩をやられた!」

「畜生!何なんやアイツらはよぉ!!ぬうあ!?」

「き、キバオウ!!あがっ!」

「でぃ!?ディアベルはぁぁあん!!!」

 

前線は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。ゆっくりと後退しつつ襲い来るモンスター達と応戦する冒険者達だったが、度重なる戦闘は容赦なく冒険者達の体力と集中力を奪っていった。

彼らは弱い訳では無い、寧ろ、タケミカヅチ達に僅か十数日とは言え鍛えられたのだ、同レベルの冒険者達と比べれば明らかに強いだろう。なかでも「幹部」と「リーダー」は頭1つ、いや、2つも飛び出る逸材だろう。

 

現に、幹部の3人とリーダーの2人は獅子奮迅の働きを見せている。

 

雷が戦場を行き交い、唯の剣技で数体のモンスターが肉片となり、弓が中でも危険なモンスターだけを正確に射抜き、スキルで味方を強化しつつ斧を振るい、紅い輝きを放ちながら戦場をかける。

 

しかし、それはいつまで持つかわからない。

 

「□□□□□□―!!」

 

遠くに見える白いゴライアスが頭を押さえて屈んだと思えば、力を解き放つように雄叫びを上げた。すると体の至るところから生えていた破城槌の様な水晶が飛び散り、意志を持っているかの如く冒険者達に飛来する。

 

「【弓神ノ一矢】!!」「【国之狭霧神】!!」

 

しかし、放たれた魔法が水晶を打ち砕き、展開された結界がその他を防ぐ。1度目の水晶攻撃は不意を突かれた為に防ぐ事が出来ず、数人の冒険者が死んだ。が、それを無駄にせずに予備動作を確認していたリーナと千草は水晶攻撃に素早く対処を行った。

 

よって死者は0。あくまでも今の水晶による死者は、と言う数値だが。現在の全体での死者は約10人と言ったところか、約、が付くのはモンスターの波に連れ込まれた為に死んでいるところを確認出来なかったからだ。

 

「あと少しだ!!ふんばれお前達!」

 

ベート達がモンスターを蹴散らしているお掛けでモンスターの数は相当少なくなっている。だが、一般的に考えるならとんでもない数が押し寄せていた。

士気がガラガラと音を立てて崩れていく。疲労が限界を越えた冒険者が倒れていく。

 

「くっそ!!・・・・・ここまでなのか!?」

 

誰かが叫ぶ。自分の死を受け入れる事など出来ないのだろう、必死に群がるモンスターに剣を振るっていた。

 

そんな時だ。

 

夥しい数の矢が紅い輝きを放ちながら戦場に降り注いだのは。

重い音と共にモンスターが地面に貼り付けにされ、息絶える。だがその程度でモンスターの大群は止まらない。息絶えた同胞を踏みしめ獲物目指して前進する。だが、モンスターに突き刺さっていた矢が妖しく輝けばそれは中規模の爆発を引き起こした。

 

中規模と言えど数が数だ。戦場を一瞬にして変えて見せた。そしてモンスターが一気にその数を減らしたこの瞬間を見逃す彼らでは無かった。高レベルの冒険者達が一気にゴライアス達の元へと突貫する。

 

「今だ!総員全力撤退!!」

 

タケミカヅチの怒声で冒険者達がモンスターに背を向けて走った。なりふり構わぬ全力疾走だ。桜花がタケミカヅチを抱き上げ、クルメ、命、ダリル、アリッサの4人が殿を務める。

 

「ハァァア!!ガァァア!!ウゥゥウアア!!」

 

クルメが紅い光を纏って獣の様にモンスターに襲い掛かり、正確に肉質の柔らかい場所を狙い、無駄なく殺していく。命がボロボロになりながらも刀でモンスターの団体を吹き飛ばす。アリッサがモンスターの攻撃を受け止め、ダリルが最大火力で焼き切る。

 

そうしてやっとタケミカヅチ達一行は丘の上に到着した。

 

「よく、来たねみんな。みんな大好きリーナさんだよっ。さぁさぁ!早く!」

 

ひいひいはぁはぁと息を上げながら転がり込む。そしてリーナが魔法陣を展開し、詠唱をする。ほんの少しの後、結界が作動した。冒険者が「たすかったぁ」と安堵のため息をついて座り込む。

 

「おーい、この結界はモンスター防ぐやつじゃないよー?やられちゃうから早く防衛してねー!」

「「「「はぃ!?」」」」

 

予想外の裏切りに安心しきっていた冒険者達は慌てふためく。

大急ぎで冒険者達は防御陣形をしき、モンスターに備える。殿を務めていた4人が戻ってきてリーナは再び結界を作動させた。効果は「外からの物理現象の無効化」だ、勿論限界は存在するが、この階層のモンスター程度なら無効化は容易だろう、勿論階層主を除いて。とどのつまりモンスターを防ぐ結界なのだが・・・・・。

 

防御陣形を敷く冒険者達の後方、覚悟を決めたような真剣な顔をしたリーナは1人頷く。その手に微かな震えを宿らせて、再び魔法を紡ぐ。

 

「【平の原にて吹き溜まり、空に架かりて天に座せ。】」

 

魔法陣が足元に展開される。桜花がその様子に気が付き振り返り「リーナ?」と怪訝な表情でリーナを見る。リーナはそれを無視して詠唱を続けた。

 

「【汝は彼方、我は此方。虚(ゆめ)と現(うつつ)を別け隔てよう。】」

 

リーナの真剣な表情に何かを感じ取ったのか桜花はニッと笑い前を向く。眼前に広がるのは丘を駆け上がってくるモンスターの群れだ。そして遠くに見えるのは巨人に立ち向かう勇者達。

 

「【我が閉ざす。我が隠す。我が別つ。我が偽る。

その名は霧。我が御名也。】」

 

魔法陣が一際大きく輝く。

 

「【汝等、甘い虚に身を任せ、其を現と心得よ。

我が名はサギリ!】――――魔法陣起動停止。」

 

「―――二重詠唱始動。【平の原にて吹き溜まり、空に架かりて天に座せ。

汝は彼方、我は此方。虚(ゆめ)と現(うつつ)を別け隔てよう。】」

 

リーナの足元に展開されていた魔法陣が浮かび上がりリーナの背後にてその動きを止める。そして、再び足元に魔法陣が展開されていた。

 

「【我が閉ざす。我が隠す。我が別つ。我が偽る。

その名は霧。我が御名也。】――方位固定、座標登録」

 

再び始まった詠唱に驚く間もなく、モンスターの群れが結界に衝突した。大きな音と共に結界にヒビが入る。

 

しかし、そのヒビは即座に修復され――と言うのを繰り返す。ヒビに驚き武器を構えていた冒険者達はホッと胸を撫で下ろした、体力が限界を迎えていた者は地面に崩れ落ちるようにして寝転がる。リーナの嘘に気が付いた者達はリーナの方に呆れながらも嬉しそうな表情を向け・・・・・固まる。リーナの口元や鼻から血が垂れていたのだ。

 

「・・・・・っ魔法陣解凍!魔法陣同調!・・【汝等、甘い虚に身を任せ、其を現と心得よ。我が名はサギリ!】・・・・・並行処理開始。・・・・・ゴブッ・・・・・ゴホッゴホッ・・・・・っ!」

 

リーナの背後に浮かび固まっていた魔法陣が再び動き出し、二つの魔法陣が重なり合う。凄まじい光と魔力風が辺りを蹂躙する。度重なる吐血の果てに、魔法は完成する。

 

「【天之狭霧神(アメノサギリ)国之狭霧神(クニノサギリ)】!!」

 

結界が2箇所に展開される。「外と中を区切る」ただそれだけの効果を持つ結界が丘とリヴィラに展開された。そして、その結界の中が霧で満たされる。冒険者達は僅かな動揺の後、大人しく指示を待つ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・っ。これを、使えば転移が、出来るんだ、けど・・・・・問題が少しあって・・・・・」

 

口元を拭い、青ざめた顔を晒しながらリーナは言葉を紡いでいく。転移と言う単語にリーナのやりたい事を理解した桜花を筆頭とする冒険者達は僅かなざわめきすら止めてリーナの声に耳を傾けた。区切られた事で外の声すら届かなくなった結界内、リーナは息を整え話し出す。

 

「皆が一つのことを願わないといけない、皆がリヴィラに行きたいと願わないと魔法は正常に発動しないんだ。・・・・・僕はこの方法で昔仲間を殺してしまっている。だから、お願いだよ、確りとリヴィラに行きたいと願うんだ。」

 

「お待ち下さいリーナ殿、願いが纏まらなければ・・・・・失敗した場合はどうなるのですか?」

 

命がリーナに尋ねる。リーナは僅かに間を置いてそれに答えた。

 

「願いによって変わるけど・・・・・例えば皆が【リヴィラに行きたい】と願っている中で誰かが【オラリオの街に行きたい】と願うとすると、不十分な転移が成される・・・・・まぁ簡潔にいうなら身体の何処か飛んでいく事になるよ。」

 

想像してしまったのか少し青ざめる命、話を聞いた誰もが頭の中で必死にリヴィラを思い浮かべる事になったのはラッキーだっただろう。

 

「・・・・・・・・・・よし、皆の願い、確かに聞き届けたよ。・・・・・・・・・・転移!!」

 

眩い光に包まれ・・・・・・・・・・忽然と冒険者達が丘から消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぉぉおおおお!!」

 

オッタルの雄叫びと共に放たれた拳が黒いゴライアスを粉々に粉砕する。

 

「・・・・・これで30回・・・・・やはり死なないか」

「あぁ、死んでねぇな。むしろ再生までの時間が短くなってやがる」

 

粉々になって十秒もせずに黒いゴライアスは再生を終えて再び襲いかかってくる。

 

「ちぃ!危ねぇじゃねえかよっ!!」

 

目の前の地面を黒いゴライアスが打ち据え、陥没する。ベートはそれを躱し、その腕を駆け上がって頭を吹き飛ばした。

 

「■■■■■■■■―!!」

 

二秒もせずに頭の再生を終えた黒いゴライアスが両腕を振り回し暴れ回る。空中にいたベートは向かってくる腕を蹴りながらどうにか回避に成功し、着地する。

 

何度も繰り返し行われる攻撃を見極め、オッタルが黒いゴライアスの腕を掴む。

 

「ぬぅぅうおおおおおおおお!!」

 

体を捻り渾身の力を込めて黒いゴライアスをリヴィラとは逆方向に投げ飛ばす。そこにベートの追撃、更にその飛距離を伸ばし、黒いゴライアスは壁に埋まり込む。

 

「へっ!馬鹿力じゃあ黒野郎に負けてねぇなオッタル」

「それほどでも無い」

「・・・・・ちっ」

 

 

 

「□□□□――――!!!」

 

一方変わって白いゴライアスと戦っているアイズ達はと言うと、結晶咆哮や結晶攻撃に肝を冷やしていた。攻撃の度に発生する広範囲への水晶の散弾がアイズ達の接近を容易では無くしている。打ち払う事は容易だがその為に足を鈍らせれば追撃が飛んでくる。どうにもうまく懐に潜らせてはもらえなかったのだ。

 

「また咆哮!?ひょぇえ!」

「・・・・・魔力は無限?」

「その様ですね・・・・・忌々しい。」

「はぁ・・・・・どうしてこのメンツが居るのに私まで・・・・・大体私は前線で戦うタイプではないのですが・・・・・」

 

前衛・・・・・つまりは壁役が居ない現状で咆哮は驚異だ。攻撃職と支援職しか居ない状況ではまともに戦線の構築など不可能。故に攻め続ける以外に優位を勝ち得る事はできないのだが・・・・・上記の通りの状況であり、アイズ達は二の足を踏んでいた。

 

「・・・出るっ」

「お?じゃあ私もっ!」

「皆さん行きましょう!」

「はぁ・・・・・タラリア!!」

 

誰もが突撃する為に体を屈めた時、怪我人たちが居る丘から強い光が発せられた。

 

「え?」

 

そして間を置かずリヴィラが光り輝く。それは転移が成功した証。それを知らないアイズ達からすれば異常事態ではあるが目の前のゴライアス達を無視するわけにもいかず意識をゴライアスへと戻す。

 

「よぉし!行くよぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬱蒼と茂る森の中、小さな水晶がそこかしこに見え、タケが受け流した衝撃により地割れが所々に見えるその場所に俺は1人で立っていた。自分がこれから使う魔法は【西行妖】。俺が知っている知識だけでも恐ろしい物だとは推測できる。

 

魂を喰らい、花を咲かせる桜。

 

例えば、その通りの魔法だったとして・・・・・・・・・・使っても平気なのか?それがわからない。ただ、確実にあの2匹を殺す事は出来るだろう・・・・・けど、家族も死ぬかもしれない。これが俺を未だに前へと進ませない。

 

進んでも家族をころすかもしれなくて、進まなければ家族を殺してしまうかもしれない。

殺さなければ死ぬ、殺しても死んでしまうかも知れない。

 

先が見えないと言うはここまで恐ろしいものだったのか、そう思わずにはいられなかった。今までは違ったんだ、原作と言うわかりやすい目標があった。けれど今は違う。

 

どうすれば皆を助けられる?・・・・・それは知っている。

 

どうすれば皆が死なずに済む?・・・・・それは知らない。

 

ゴライアスと言う脅威から家族を助ける事が出来ても、西行妖から家族を守れるかがわからない。自分が家族の死因になるのは嫌だった。

 

でも、それと同時にモンスターに殺されるよりは自分で殺した方が・・・・・なんてくだらない考えも浮かぶ。

 

結局の所、何もわからないんだ。転生者としてのアドバンテージを失った今、俺は僅かな可能性に賭けるしかない。全力で家族が死なないことを祈るしか方法が無いんだ。

 

「スゥ―――――はぁ。・・・・・よし。」

 

深い呼吸をして気持ちを整える。大丈夫、行ける。そう心で言い聞かせる。

 

「まずは・・・・・楼観剣を呼びますか【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。】」

 

魔力を使って刀を呼び出す。ふわりとスカートが花開くように舞うが、血に濡れている為かやや重い。

 

「【霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】」

 

急速に収束した魔力が1本の刀に変わる。柄に馬の尻尾の様な毛を生やし、鞘からは1本の桜の枝。刀身だけでも180近くある。

 

「・・・・・やっぱり少し恥ずかしいですねこれは・・・・・」

 

だが、まだ終わりではない。最後まで詠唱するにはまだまだ魔力も霊力も足りないのだ。ガリッと丸薬を噛み砕き、魔力を回復していく。

 

「【覚悟せよ(英雄は集う)】」

 

あの技は1人だと詠唱出来そうに無いからハルプと意識を半々にして詠唱をすることにする。

 

「【男は卑小、(『此度)刀は平凡、(修羅は顕現す)才は無く、(修羅)そして師もいない。(一刀にて山、切り崩し)頂き睨む弱者は落ちる。(頂きは地へと落ちる。)その身、(時過ぎし時、)その心、修羅と化して(男、泥のように眠る』)】」

 

俺しか出来ないのだろう同時詠唱。まぁ2つ口があるならできるかもだけどな。詠唱が完了して、後は解き放つだけ。【西行妖】の詠唱文を頭に思い浮かべて、確りと覚えていることも確認した。よし、使うぞ。

 

「────一刀修羅。」

 

小さく呟く。全身の筋肉が悲鳴を上げ激痛が体を駆け巡る。だが、それよりも力が漲る高揚感が上を行く。力も耐久も敏捷も魔力も霊力も、全てが十倍近く跳ね上がる。

 

今しか、この1分間しか魔法は使えない。息を吸い込む。

 

「【亡骸溢れる黄泉の国。】」

 

詠唱を始めると共に手の中にあった刀をクルリと下に向け地面に突き刺す。

 

「【咲いて誇るる死の桜。】」

 

上を向く柄の毛に両手を置いて目を閉じる。ハルプは余計な霊力を食うため消しておく。

 

「【数多の御霊を喰い荒し、数多の屍築き上げ、世に憚りて花開く。】」

 

魔力や霊力が恐ろしい速度で体からなくなっていくのが解る。

 

─────────ノイズが、走る。

 

またか・・・・・・・・・・・・・・・うるさい黙れ(・・・・・・)

 

そう思った物の意識は俺の意思を無視して白く濁っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「しゅぎょうですか?」

「ええ、そうよ。修行よ」

 

銀髪の余りに幼い少女が金髪の美女の元にとてとてと歩いていき、そう聞いた。恐らく修行の事について言われ、やって来たのだろう。

 

「なにをするんですか?」

「うーん、妖夢ちゃんは何がしたいかしら?」

「わたしはゆゆこさまとあそびたいですっ!!」

「うふふ、そうよねぇまだあそびたい年頃よね」

「?」

「こっちの話よ」

 

────────ノイズが、走る。眩暈がする。

 

 

「・・・・・剣をもて。」

「ぅうぅ・・・・・もうやだよぉ・・・・・」

「ふん、その程度か。」

「それくらいにしてあげなさいな妖忌。」

「これはこれは姫様。・・・・・いえ、姫様を守る者としては剣位はまともに使えるように成らねばなりますまい。」

 

 

 

────────ノイズが、走る。頭痛がする。

 

 

「ほら、ここはこうするんだ。やってご覧なさい」

「こ、こうですからんさま?・・・・・わ、わかんないです。」

「そこの記号が間違っているな、初歩的なミスはしっかりと治していこう。」

「は、はいっ」

 

 

────────ノイズが、走る。吐き気を催した。

 

 

気がつけば俺は荒い息をしながら膝を付いていた。全身から血を流しているが、力は削られていない・・・・・まだ、1分も経っていなかったらしい。

 

・・・・・何が見えたんだよ・・・・・あれは・・・・・何なんだ?体の記憶・・・・・?いや、それは無いはずだ、だって駄神が用意したものの筈で・・・・・。

 

いや、そんな事を考えている暇はない!魔法を使うんだ。

 

「【嘆き嘆いた冥の姫。】」

 

目を開き楼観剣を地面から引き抜き、ゴライアス達に向ける。

 

「「■□■□■―――――――!!!?!?!?!」」

 

相当離れているはずのここまで届く2匹の悲鳴。前回はここまでしか詠唱できなかったけど、今回は更に先を詠唱する。

ゴライアスの体中から桜の枝が生えているのがここからでもわかる。

 

「【汝の命奪い賜いて、かの桜は枯れ果てましょう。】・・・・・う!?がっ・・・・・は!?」

 

唐突な激痛に思わず声を上げる。モンスターか!?と後ろを向いてみたけどそこには何もいなくて・・・・・視界の端に桜の枝が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

──────それは、俺の肩から生えていた。

 














全く関係ない話しますね、要らない人は飛ばしてください。

最近友人達とアリアンロッドというTRPGにハマっており、めちゃくちゃ楽しいです。何故か女キャラにされたけどね。

プレイヤーは3人で、全員が初心者で、火力特化のツインテールサムライ(男)とショタホムンクルス魔法使いとステゴロゴリラ神官仮面(女)と言うなんかすごいメンツです。

サムライのプレイヤーが記念すべき初ダイスをファンブルと言う奇跡を起こしたり、二回目のセッションでレベル1のゴーストが回避を3回クリティカルしたせいで危うくサムライが死にかけたり、魔法使いは魔法使いでダメージの出目がめちゃくちゃ低かったり、とわちゃわちゃやっておりますw
私の神官キャラレベル2なのに何故かレベル5のダークエレメンタルとタイマンで四ターンだか五ターンだか殴り合いを続けたりしてました(笑)
と言うかゴーストの3連クリティカルが無ければタイマンを続けること無く余裕で倒せてたんですけどねぇ・・・・・
その時の会話が
サムライ「しかたないボルテクスアタック使うわ・・・・・よっし!出目高い!死ね!ゴースト!」
GM「コロコロ・・・・・」
シフシフ「クリティカルっ!クリティカルっ!(ワクワク)」
GM「あっ・・・・・」
サムライ「嘘だろ?!」
ショタ「マジかよぉ!!」
GM「クリった・・・・・(3回目)」シフシフ「きたぁーーー(ガッツポーズ)」
サムライ「・・・・・・・・・・(絶望)」
ショタホムン「はぁ!?なんか細工してない!?」
GM「してないよ、自分のサイコロじゃねぇし細工も出来ない」
シフシフ「つか俺も見てたし。このゴースト絶対にハサン先生だろw風避けの加護持ちだわwww」
ショタホムン「魂だけの状態でこれとかwwwつか風避けって風だけだろ?あっ、俺の風魔法避けてたな二回目」
シフシフ「FateGOだと回避3回なんだよ」
サムライ「はぁ・・・・・」

その後、ゴースト(レベル1)倒した時。

全員「いよっしゃぁぁぁあ!!!!殺したぁぁぁあ!」
(ハイタッチ)
ショタ「後は雑魚だけだな!(HP3)」サムライ「雑魚だけだわ!!(HP1)」シフシフ「そうだな!(HP7)」
シフシフ「はよ援護してくれ、俺ひとりで雑魚(レベル5)受け持ってんだから!」
ショタ「マジゴリラじゃん」
シフシフ「俺いなかったら崩壊してるからな!?」
サムライ「あんな雑魚余裕だしさっさとやろうぜ」
ショタ「お前の攻撃じゃあいつの物理防御抜けねーし」
サムライ「やれるだけやってみるね・・・・・クリティカル!いけー!ダメージは〇ダメージ!」

とリプレイにしても良かったのでは思うくらいには白熱の戦いだった。終わったあともずっとゴーストの話だった
全員「他愛なし、他愛なし、他愛なし」
GM「悪かったって・・・・・」

まぁその日オールだったんで記憶はやや曖昧ですがwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

54話「【────────冥桜開花。西行妖。】」

あー、速く先に進みたいよーー。挿絵を一ヶ月位前から用意してるのにー。そんな欲望を焦らしながら今日もチマチマと鬱展開を書いてゆくのです。あ、ご安心を、この話は確か鬱展開じゃないので・・・・・。

次回以降は絶対にベル君を活躍させてやるんだ!頑張れハーレム主人公!

うーむ、後は何を書こうか・・・・・あ、全く関係ないですがFGOでカルナ来ました。結構前ですけどね。友人と一緒にガチャを回していて

シフシフ「おっ、金色のランサーだ」
サムライ「えっマジで!?」
シフシフ「分かったぞ・・・・・これはフィン君だ!!フィンの宝具レベルが3になる時が遂に!」
シフシフ&サムライ「うぉおおおおおおおお!?」
パァーーーーンキラキラ
シフシフ「カルナか・・・・・(しょんぼり)」
サムライ「えっカルナァ!?!?」
シフシフ「カルナかぁ・・・・・フィンとエリーと李書文とその他ランサーで素材全滅してるわー、育てなくていいか。」
サムライ「!?」

そんな感じのことがあって何ヶ月かたった今もカルナはレベル1ですw友人には1年後にはレベル2にするから。と言っておいたのでセーフのはず。

宝具レベルだよな?宝具レベルだよな!?とか言われた気がしなくもないけど僕はミキシンボイスを聞いていたのでわからなかったよ。そう、全てはフィン君が美し過ぎるせい・・・・・。

そして、明日からは旅行なので更新は遅くなるでしょう、多分。さらに!夏休みの宿題もやっていないので遅くなるでしょう、多分。さらに!特にないです。










あ、それと沢山死ぬので苦手な人は注意してくださいね。















殺気。それは人を殺そうとする気配。激しい憎悪。害そうとする気持ち。

 

しかし、果たしてそれはここまで・・・・・空間を埋め尽くすほどの物だっただろうか。

 

「■■■■■■■■!??!」

「□□□□□□□□!???!」

 

白と黒のゴライアスから枝葉が伸びる、そして、そのひとつひとつから途方も無い殺意を感じるのだ。

 

「ぉ・・・・・ぉぃ・・・・・ありゃあ・・・なんだ、よ。」

 

ベートは後ずさった。そしてその自分の行動に驚愕し、枝葉を凝視する。

 

「うそ・・・・・でしょ?戦争遊戯の時は何ともなかったのに・・・・・?」

「あれは・・・・・不味い・・・・・!」

 

ベキベキと音を立てゴライアスの体内でナニカが蠢いている。そして何処か1点が盛り上がるとブチブチと肉を引き裂きながら顔を覗かせるのだ。また、1つ枝が生えた。

 

ゴライアス達はその余りの殺気と激痛に最早動こうという決意すら失ったのだろうか、その動きは鈍く、叫び声を上げるのみだ。だが、その叫び声には意味があったのだろう、モンスター達がその進路を変更し、ゴライアス達に向かって走り出した。

 

「ぎゃあぎゃあ」「グォォオオオオガァァア」

 

しかし、ゴライアス達に近づいた地点・・・・・妖夢から見える地点に入った途端、走っていたモンスター達はその動作に異常をきたし飛び跳ねるようにして転がり回る。その身体からは枝葉が伸びている。

 

「か、数に制限は無い・・・・・のですか?」

 

アスフィが何とか言葉を絞り出す。リューも驚きに目を見開いており、その足は僅かに震えている。こうして話している間にもモンスター達は苗床となり、地面をのたうち回る。

木々は恐ろしいほどの速度で伸びていく。まるで、破壊し尽くされたこの階層の森が再び蘇ろうとしているかのように、モンスターの肉体と妖夢の魔力霊力を栄養に空を目指す。

 

やがて、ゴライアスの体から生えた木々に変化が訪れる。伸びていく木々が少しづつ進路を変えて体を縛り始めたのだ。

 

そう、まるで「逃がさない」と言っているかのように。抱きしめるように、死の抱擁が行われる。

 

ギリギリ、ギチギチ、ブチブチ。

 

締め付け、締め付け、引きちぎれる。肉に枝葉が食いこみ、再生する事で腕の中に枝が埋まり込む。まるでゴライアスの肉体が膨張するかのように膨らみ・・・・・再び芽生えた枝が体を縛る。

 

枝が増え、苗床が増える程に殺意が強くなっていく。大凡人が持ち得る殺意ではなく、正に人外のソレだ。殺す為に在り、殺す為に生きる。殺す事で活き、殺さなければ死ぬ。それがコレなのだろう。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」

「□□□□□□□□□□□□□□□□□□!???!」

 

黒いゴライアスが漸く動き出した。死んでなるものか、我が宿敵を殺すその時まで決して死んでなるものか。その目には死への執着が見て取れる。絶対的な死を前に、自らの目的を思い出したのだろう。体内から発せられるその圧倒的な憎悪に魅入られたのだろう。

 

暴れだす。

 

木々を引きちぎり、自分の体を引きちぎり、増幅された殺意と憎悪の限りに暴れだす。目的は殺す事、自分を殺してでも殺さなくてはならぬと奮起する。

 

しかしゴライアスの目は曇っていた。最早殺すべき物など見えてはいなかった。ただ目の前に動く全てを殺す事しかわからなかった、解ろうとする事が出来なかった。殺意に、憎悪に後押しされたその意思は、意志は「ダンジョンの真意」では無いだろう。

 

モンスターはダンジョンの意思を継ぎ、生まれ落ちる。それは神殺しの意志。生まれて初めて持つ感情が殺意であるならば、それは本能であり、神殺しこそが本懐、喜びなのだろう。

 

だが、それすらも塗りつぶす。

 

「本能すら塗りつぶし」殺すことしか考えられなくする。そこには「自分」すら入っているのだろう。その命尽きるまで殺し続けるだろう・・・・・自分を殺してでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

殺意の波動はリヴィラにも届いていた

 

誰もが打ち震えた。

 

目を見開き口を開けガタガタと震えた。

 

泡を吹き倒れる者も居た。

 

余りの殺意に殺されたと勘違いし、生命を失う者もいた。

 

失禁する者もいた。

 

武器を抜き構えるも目を血走らせる者もいた。

 

訳の分からない支離滅裂な言葉を吐き散らし暴れる者もいた。

 

「皆!自我を確りと持て!惑わされるな!」

 

しかし、そうはならない者もいた。

 

「神谷殿!勝殿!気をしっかりもって!」

「なんと悍ましき気か・・・・・気の病に効く薬は持ち合わせて無いでごザルよ・・・・・」

「あわわわ、あわわわわわわ!み、みなさん!頑張って!」

 

意思の強いもの、レベルが高い者。そういった者達は耐え抜ぬき、他者を介護する。足の震えが止まらずまっすぐ歩けなくても、腕や指が恐ろしさにまともに動かなくても、それでも誰かのためにと行動した。

 

何故、彼等は動けたのだろうか。

 

それは勇者だからでも無いし、はたまた特別強かった訳でもない。・・・・・そう

 

「家族の魔法でくたばるなんてごめん被るぜ・・・・・!」

「私が死んじゃったら妖夢ちゃんが悲しむから!」

「この程度・・・・・耐えられなければ妖夢殿の家族とは言えないです!」

「ごザル!」

 

そんな、他愛の無い理由・・・・・――それも家族愛が起こした奇跡なのだろう。

 

「お前達、よく言った!・・・・・・・・・・行くぞ!タケミカヅチファミリア最強の俺達が!」

 

タケミカヅチが堂々とそう宣言した。死よりも深き死を前に生きるという意思を勝ち取った家族達の頭を撫で、先頭に立って走り出す。

 

「「「はいっ!」」」

 

3人もまた、走り始めた。その顔には確かな決意の証が見て取れる。すると後ろから誰かが付いてくるのがわかった。

 

「待てよ、俺も行く。」「団長、タケミカヅチ様、お供します。」「僕も、行くよ。」

 

自分の体を槍で切り裂き、激痛によって理性を保ったダリル、呪術によって理性を失わなかったアリッサ、結界でも張ったのか比較的症状の軽い3人も付いてくるようだ。

 

「・・・・・ふっ、良いだろう!行くぞ!!」

 

タケミカヅチがニッと笑いそのまま恐らくは妖夢が居るであろう地点へと向かっていく。そこに団員達も続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐっ・・・・・魔法が、制御・・・・・出来てない・・・・・のか??

 

肩から生えた枝が少しづつだが伸びている。周りを見てみると自分の足元からも小さく木が伸びているのがわかった、つまり・・・・・やばいってことだ。

 

「ぅぐっ・・・・・・・・・・いっ・・・・・痛い・・・・・けど頑張らないと・・・・・!」

 

詠唱を続けるんだ・・・・・そうしないと全て無駄になる。全てまた失う。それだけは嫌だ、嫌なんだ。・・・・・詠唱を続けよう。

 

「【花弁はかくして奪われ、萎れて枯れた凡木となる。】・・・・・ぐぎっ・・・・・アァ!・・・・・痛、い・・・・・」

 

ミシミシと骨が軋む。肩の中で、木が成長して骨を捻っているらしい・・・・・痛すぎて声を抑えられない・・・・・。でも、後少し、あと1文で魔法は撃てるんだ、・・・・痛みに下げた顔を上げ、ゴライアスを睨む。

 

「「□■■□■□■□■□■□■■□■!!!?」」

 

拗られ潰れ再生し捻られる。突き破り再生しお覆い隠し引きちぎる。締め付けられ腕がへし折れて固定され再生して変形する。

 

折られて変な形で固定された腕が天を崇めるように掲げられている、再生能力の高さが自らの肉体から自由を奪っていく。見ていられないほどに悲惨で、自分もこうなるのかと思うと吐き気すらする。でもそれで・・・・・・・・・・自分が死ぬ事で家族を救えるのなら、喜んで死んでやるさ。

 

「【奪われ萎びた死の桜、再びここに花咲かせよう。

現に咲け─────────】」

 

──────────ノイズが、走る。額が罅割れる様な感覚が俺を襲った。

 

「また・・・・・ですかっ・・・・・!」

 

視界が暗転し、光景は一変する。

 

 

 

 

和式の広大と言って差し支えない大きな屋敷に、俺は立っていた。・・・・・立っていた。そして、目の前には俺・・・・・なのかな、まぁとにかく妖夢とお爺さんがいる。恐らくは妖忌だろう。

 

「妖夢よ、こちらに来なさい。」

「はい、おじいちゃん。」

「・・・・・お爺様、と呼ぶ様に言ったはずだろう?」

「あ、・・・・・おじいさま。」

「ふむ、まぁ良いか。幽々子様がお呼びだ、失礼の無いようにな。いいか?ゆ ゆ こ さ ま・・・・・だぞ?前のように「ゆゆこ!」などと言ってはならんぞ?」

「は、はい・・・・・ごめんなさい」

 

どうやら本体は幽々子のの事を呼び捨てにしたことを叱られているようだ。・・・・・しかし、何故今更こんなものを見るんだ?・・・・・って!?こんなことしてる場合じゃ無いだろ!速く戻らないと!!くっそ!どうやってもどんだよ!

 

「およ?」

「どうした、妖夢」

「いえ、いまだれかいたような・・・・・?」

「儂が感じられなんだ、恐らくは妄想だろう」

「そんなことないよぉ!ぜったいにいたってっ!」

「これっ、口調を直さんか!」

「ごごごめんなさい!」

 

あ、危ない・・・・・隠れなかったらバレて・・・・・いや、俺幽霊だしバレないんじゃ・・・・・あ、でもあの世界だと簡単にわかるか、見えるもんね。

 

じゃなくてだな、はよ戻らないと・・・・・!

 

「幽々子様、失礼します」

「あらあら〜妖夢も来たかしら?」

「どうやらそのようね、・・・・・ねぇ幽々子、ちゃんと話しは通してあるの?」

「もちろんじゃなーい!妖夢の為を思ってるんですもの!」

「・・・・・・・・・・伝えてないわね?」

「えーっと、どうだったかしら妖忌」

「私は何も伺っておりませんが?」

 

大人3人の会話に付いていけずにキョロキョロする本体。俺もキョロキョロしてるけどな、出口探して。・・・・・と言うか、出口探してるけど・・・・・出口なんてあるのか?

 

「妖夢。こっちに来なさい?」

「は!はい!ゆゆこさま!」

「ねぇ、こんな言葉知ってるかしら?『可愛い子には旅させろ』って」

「し、しってますです!このあいだゆゆこさまからききました!」

「ほら〜!ね?私伝えていたでしょ?」

「それは伝えたとは言わないわよ・・・・・」

「だからね・・・・・」

 

ザ、ザザと急に映像が砂嵐のように不鮮明になっていく。

 

「あ■たを───────」

 

ノイズが、走る。意識は濁り、渦巻きのようにうねった。そして気がつけばまた、森にいた。

 

「───ぁ・・・・・ちか、らが・・・・・」

 

そうしてまた気が付いた。身体に力が入らない、魔力も霊力も底をついた。

魔法はあと1文残っているのに、ここで、終わる?そんなの、嫌に決まってるだろ・・・・・!まだ、終われないんだ、動けよ、俺の口。動かせよ・・・・・動けよ!!!

 

───否定する。魂は奮起する。負けてなるものか、終わってなるものかと。

 

「ぁぁぁ・・・・・ァァァォ・・・・・!!!」

 

精神疲弊がなんだっ!魔力がないから何だってんだ!

 

────否定する、己の敗北の『可能性』を。家族の終わりの『可能性』を。負けという『結末』を。

 

こんな所でおわれるか!動かしてやる!抗ってやる!

 

「こん・・・な・・・・・・ろで・・・・・!お、わ、ないっ!!」

 

─────ぐらり。身体を強引に動かした。口が何かを紡ごうとぎこちなく開く。それは言えるはずの無いもので、他の誰が聞いても異音に違いない。されど、強く謳うのだ。

 

「・・・・・・・・・・ぁぁ!」

 

必要なら持っていけ!魂だってくれてやる!記憶だって力だってくれてやる!だから、だから!今は動いてくれ!俺は、俺はただ・・・・・

 

────肯定せよ、自身の勝利を。確定せよ、勝利の『可能性』よ。

 

「──────」

 

俺は・・・・・家族を助けたいんだ!!!

 

────肯定せよ、『家族の生存を』。確定せよ、生存の『可能性』よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【────────冥桜開花。西行妖。】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、余りに唐突な変化であった。気が付けば天井を覆い尽くさんばかりに枝葉を生やした巨大な大木がゴライアスが居た場所から伸びていた。

不思議な事に先程までの殺気はなく、辺りを静寂が包んでいる。

 

カチカチと金属の音がした。そして力無く地面に倒れる誰か。

 

「終わったんだ・・・・・やっ、やっと・・・・・は、ははは、ハハハハハハハハハハ!やったんだ!勝ったんだよ俺達は!!!あの化物に!」

 

武器を取りこぼし、地面に横たわり笑う。自分が生き残った奇跡に、何よりも深い感謝をして、木々に覆われた天を拝む。

 

「そうだ、そうだ!俺達は生き残ったんだぁ!!!」

「いやっふぅぅぅぅぅうううう!!!」

「祝杯だぁぁぁあ!祝杯を上げろぉおおおお!」

 

それに習うように人々は喝采を上げた。手放しに喜んだ。

 

だが。

 

彼らが、

 

手放した、

 

武器には、

 

血が、

 

赤い血が、

 

滴っていた。

 

「─────────ぇ?」

 

重い音を立てて誰かが倒れた。理由は一目瞭然だろう、誰でも分かることだ。今倒れた彼は

 

─────自害したのだ。

 

「ゴブッ・・・・・ガッ・・・・・な、なん・・・・・・・・・・で・・・・・」

 

誰もが疑問を口に倒れていく。目を見開き、自分で突き刺した心臓や首を抑えながら地に沈んで海を作った。

 

なにも人間だけが死んでいる訳では無い。モンスターもまた、自らの魔石を砕き、灰となって消えていく。

 

「どうなってやがる!?おい!誰か!俺の腕を止めてくれぇ!!!??」

「やめろ!!??死にたくない!死にたくないんだぁぁぁああアア!!!」

「糞!糞が!クソッタレめェ!!あのガキ!あの銀髪のガキがぁぉあああ!あいつが!アイツが俺らをゴバッ!・・・・・ごろず・・・・・ぜっだいに・・・・・・・・・・」

 

誰もが死んでいく。原因を理解したものは深い恨みとともに。理解出来なかったものは恐怖と疑問と共に。

 

高レベルの冒険者も決して例外では無い。

 

「くそっどうなってんだ!アイズ!やめろっ!!」

「やめっ、たい!けど!勝手に・・・・・!」

「ティオナ!テメェもか!!」

「ア、イズを、助けて、上げて・・・・・!」

「自分で自分の首絞めながら何言ってんだ!!オッタル!手伝え!」

「わかって・・・・・いる・・・・・!!」

「・・・・・!!・・・・・お前もかよ・・・・・!糞が!あのガキぃ!納得いく説明出来なかったら殺す!!」

 

剣で胸を刺そうとするアイズ、自分で自分の首を絞めるティオナ、自分の首に飛びついてくる自分の手を強引に足でへし折り耐え抜いたオッタル。

 

「ぐっ・・・・・体が・・・・・!?」

「ま、まちなさい!そのアイテムは自爆用・・・・・!」

「ぬぅん!!」

「「ぐほっ」」

 

何やら危険な物質を取り出したアスフィとリューをオッタルは蹴り飛ばして気絶させた。すると腕の動きは自然に戻り、動かなくなる。

 

「・・・・・みたか、ベート・ローガ・・・・・」

「ああ、気絶させりゃイイんだろ?・・・・・悪ぃな、アイズ。」

「・・・・・うん。」

「わ、たし、には、ないの?」

「るせぇ、バガゾネスが。」

「ごふっ」

 

アイズとティオナを蹴って気絶させたベートはオッタルに向き直る。

 

「てめぇも、腕治ったらまた襲ってくんだろ。そのままにしとけ」

「あぁ」

「・・・・・・・・・・なんで俺だけ効いてねーんだ・・・・・?」

 

そう疑問に思いつつ、「家族を守る」という妖夢との約束を守るべく、ベートは走り出す。

 

「ひでぇな・・・・・こりゃあ」

 

右、左、どこを見ても、何かが死んでいる。木も、土も、モンスターも、人も。

死が平等であるならば、ベートが生きているのは可笑しいだろう。では、何故ベートは生きているのか。それは「魂魄妖夢と約束したから」に過ぎない。家族を守るには人手が必要なのだ・・・・・故に生かされた。ただ、それだけのこと。

 

無意識にベートだけを対象から外した魔法は未だに未完成だ。よく良く見れば、滴った血や、砕け散った魔石の魔素などが巨木に吸い寄せられている。

 

そして、木々の半ば、うごめく4本の腕と少しだけ突き出ている顔がゴライアス2匹の生存を伝えていた。

 

タケミカヅチは言った、「剣聖の斬撃も、英雄の光線も効かんとなればいよいよもって神の番かと思ったが・・・・・早とちりか。」と。神で殺せないのならば残ったものは怪物のみ。目には目を怪物には怪物を。

 

圧倒的な生命力と圧倒的な殺傷力がぶつかり合う。その余波だけで人は死んでいく。自らの命を絶ってゆく。

 

 

 

 

ここは、地獄だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────ノイズが、走る。

また、か、今度はどんな映像だ・・・・・?

 

「チョリーッス」

 

・・・・・・・・・・ん?

 

「んん?」

 

・・・・・いや、違うだろ、流石に。今はお前が出てくる番じゃないだろう?

 

「え?マジで!?」

 

見慣れた顔、聞き慣れた声。時折話すだけなのに、どうしてか近くに感じられるそんな奴。神様だってことしかわからない謎の変人・・・・・変神。

 

「まぁまぁ、そう褒めなくても何も出ないぞっ!アハハハハハハ!今日は伝えたいことがあったんだよぉ!気になるだろう?本当にいいことさ!何たって君の能力とかそこらへんのはなしだからねぇー、聞きたい?聞きたいだろう?教えてあげよう!もちろんこの僕がね!ではでは?何から聞きたい。ふむふむ、そうかそうか、まずは君の家族の安否が知りたいんだねぇ?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もちろん!生きているともー!君が行った魔法は君の感情に従いギリギリ家族は殺さないように動いたようだよ!ハハハハハハ!良かったねぇ!他に知りたいことは無いかい!うんうん!そうかそうか、どうして僕がここに居るのか、だろう?そんなこと聞かないでくれよ照れちゃうぜ・・・・・!簡単な話しだろう?君に教えてあげたいことがあったのさ!そう、きみのまほうのことだよ!え?能力の事?今じゃなくても別に平気だろ?そうそう、今知るべきものを知るのが先決さぁ。じつはねぇ?君のあの魔法ね、続きがあるんだよ!www何その顔ー、まるでもう魔力も霊力もないから魔法使えねーじゃん!って考えてそうだねー!!ぷゲラ。・・・・・君は言っただろう?魂だろうがくれてやるってね。まぁ僕は是非とも欲しいところどけど、それはまた今度にしとくよ。あ、魂の話しはまだ続くんだけど、魂を削って霊力にする事は可能だとも!そうすればきっと隠し詠唱も謡えるねぇ!」

 

い、今の量を一息で・・・・・?流石は神様・・・・・。

 

「そう褒めるなよ!照れないぞ!かぁ!しかも僕が別に神様って理由でもないし?全然違うし?べっ、別に神様何かじゃないんだからねっ!勘違いしないでよねっ!・・・・・さて、隠し詠唱なんだけど、君は・・・・・・・・・・知っているだろう?いや、知ってない可能性はあるけど、知っている可能性の方が高いね、今は気が付かないだけでもしかしたらきがつけるかもしれないね。」

 

・・・・・引いたわー。てか、起こしてよ!このまま寝てても分からないだろ?

 

「えー、起こしてしまうのー?僕、寂しいよぉ?」

 

うるせぇ、永久に一人になってろ。

 

「んだとぉ!ボッチの僕への当てつけかぁ!?」

 

あー、はいはい。

 

────ノイズが、走る。

 

目が覚めて、見たものはタケ達の心配そうな顔だった。

 

「妖夢・・・・・大丈夫か?」

「妖夢殿?」「妖夢ちゃん!」「妖夢・・・・・」

 

上半身を起こそうとして失敗する。力が入らない。・・・・・一刀修羅の弊害だろう。指先一つ動かないんだから困るなこれは。でも、みんな生きてた。生きてくれていた。

 

「み、んな・・・・・良かった・・・・・」

 

涙が勝手に零れ落ちる。その涙の流れに惹かれるように横を向き、目を見開く。

リーナとアリッサとダリルが倒れていた。

 

「あー、それは俺達で意識を刈り取ったんだ。何故か俺達は喰らわなかったからな」

 

タケが頭を掻きながらそう言う。

 

「そう、ですか、・・・・・なら、あと、一仕事ですね・・・・・」

「お、おい!もう安静にしておけ!」

 

タケの静止を聞かず、強引に立ち上がろうとする。どうやら肩に生えた桜の枝は肩を伝って腕まで侵食したらしい、右腕は不自然に膨れ上がり腫れ上がり青くなっている。デコボコだ。

 

それでも、動くんだ。激痛が走った。まだ神経が通ってんのか、なんて少し意外に思いつつ、慌てて手を貸してくれた命に支えられながら立った。

 

詠唱は知っていた。だから手伝ってもらうんだ。

 

「ありがとうございます命」

「よ、妖夢殿、安静になさった方が・・・・・」

 

いつから知っていたのかわからない。けれど、知っている。

 

「大丈夫です、私はまだ動けます」

 

使うにはまだ、足りない。だから、集めないと。

 

「まだ・・・・・・・・・・動けるんです」

 

咲かせるんだ、西行妖を。

 

まだ花は・・・・・100個も咲いてない。あれを満開にしないと、最後の詠唱は出来ない・・・・・。

 

「あの木を、咲かせます。そうすれば・・・・・終わらせられる・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 










次回予告!!ベート激おこぷんぷん丸!!妖夢の\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!で更に追い討ちのゴライアスのポカヌポゥ。死ぬな妖夢!半分死んでっけど!
さらに遂にあの場所へ!ははは、滅茶苦茶だぜ。

・・・・・もう少し真面目にやるか・・・・・ネタバレにならない程度に・・・・・( ・´ω・`)


──自らの手で命を絶つ冒険者達。「助けてくれ」そう言って目の前で死ぬ「弱い」者達に、「強い」ベートは憤慨する。
冒険者は怪物と戦う、たが、彼の前で死んだものは何に殺された?・・・・・自分だ。怪物ではない、自分自身に殺せれた。理不尽にどうすることも出来ず死に絶えた。それがベートには許せない。
怒れる銀狼は少女へと吠える─────。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

55話「・・・・・ごめんなさい!」

英雄、ベル・クラネルのSAN値を削る戦いが・・・・・いま、始まる。

なんと遂にあの人達が本格的に・・・・・?










妖夢のいる森とは別方向、リヴィラの街のやや中央付近、ヘスティアは必死に叫んでいた。

 

「ベル君っ!!ベル君っ!!返事をしておくれ!!」

 

しゃがみ込むヘスティアの目の前にはベルが倒れている。西行妖とはある種の『魅了』だ、魅了に対する耐性を持っているベルならば耐えられる。いや、抗える、と言った方が正解か。

 

ベルは目を閉じ、小さく息をして寝かされていた。

 

「・・・・・ベル、君っ・・・・・」

 

涙がポタポタとベルの頬に落ちる。落ちた涙はベルの頬を伝い、地面を湿らせる。しかし、ベルは目覚めない。

 

ザッザッと足音がして、ボロボロのヘルメスが隣に座り込む。

 

「はぁー・・・・・つっかれた・・・・・もう動きたくないかなー」

「お疲れヘルメス・・・・・どうだった?」

「オッタルと協力してどうにかって感じかな」

「オッタルも平気だったんだね・・・・・」「いや、オッタルも両腕を自分でへし折って耐えた感じだったよ。・・・・・本当にえげつないなぁ、まだ背筋が凍ってるよ」

 

はははと乾いた笑い声をヘルメスがあげて、やがて真剣な顔でベルを見た。

 

「ベル君・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────地獄を、見た。

 

死ぬ、死ぬ、死ぬ。人が死ぬ。

 

死ぬ、死ぬ、死ぬ。怪物が死ぬ。

 

死ぬ、死ぬ、死ぬ。何かが死ぬ。

 

ここは地獄だ───────。

 

木が生える。その枝を揺らして花を咲かせて、喜んだ。

 

死ぬ、死ぬ、死ぬ。人が死ぬ。

 

死ぬ、死ぬ、死ぬ。怪物が死ぬ。

 

死ぬ、死ぬ、死ぬ。何かが死ぬ。

 

あぁ、──────此処は地獄だ。

 

 

「・・・・・ここは?・・・・・っ!?待って!ここどこ!?戦いは!?」

 

僕はあたりを見渡す。薄暗くて、肌寒い。オラリオにこんな所は無かったはずなのに・・・・・。

 

「・・・・・墓?見たことないお墓だ・・・・・」

 

墓を見つけた僕は墓に近づく。灰か埃を被っていて字が読めない。誰のお墓なんだろうか?

 

──リリルカ・アーデ。かの可憐な少女、ここに眠る。

 

「ひっ!?・・・・・り、リリ?」

 

墓の名前を覆う埃をどかせば、そこにあったのはリリの名前だった。

 

「あ、有り得ない・・・・・!!こっちは!!?」

 

────ヴェルフ・クロッゾ。血に呪われた男子、ここに眠る。

 

ヴェルフの名前だ・・・・・。有り得ない、有り得るはずが、無い。だって、皆生きてて・・・・・!

 

「う、嘘だ、嘘だあ!」

 

僕は何も信じたくなくてその場を駆け出した。これは幻だ。これは幻想だ。夢だ、悪夢なんだ。覚めろ、覚めてくれ─────!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁっ・・・・・は、え?」

 

走って。走って、走って。僕はいつの間にか大きな木の前にいた。首を後ろに傾けても一番上まで見通せない、そんな大きさの木。

 

ふと、頭をよぎる近視感。僕は、ついさっきこの木を見た事がある?ような気がした。その時

 

「あら?あらあら?あらあらあらあら?」

「ひっ!?」

 

人の声がして振り向けばそこには綺麗な女の人が。着ているのは和服だっただろうか、でも、そんな人が何でこんなところに?

 

「あら〜。随分と綺麗なのね。・・・・・でも。少し濁りかけているかしら?いえ、違うわね、怯えてる」

「な、何を?」

 

「いいえ、こっちの話よ」と女の人は言う。そうだ、元の場所に変える方法を聞かないと。

 

「あっ!あの!・・・・・ここから出るにはどうすれば・・・・・」

「・・・・・」

 

僕がそう聞けば、女の人は驚いたように口元を隠し、しばらくの後ジト目でこちらを確認し始めた。何処か驚いているようにも見える。

 

「・・・・・・・・・・魅了されてないのね・・・・・珍しい・・・・・でも、こんな事今まで無かったし・・・・・いいえ、そう言う力を持っているならそうなのかもね・・・・・」

「え、あ、あのぉ?」

 

気まずげにもう1度質問しようとしたが、女の人は身を翻し去っていく。

 

「え?!ちょ、ちょっとま「ここにあるわよ〜?」ここって!?」

「ここよ、この墓地に。誘われた者達は墓に埋まるの、そうして西行妖に食われるわ。・・・・・まぁ、封印されているから食べられるまではすごい時間がかかるでしょうけどね」

「どうやったら助けられますか!?」

「お墓に埋まっている子達は『誘われている』だけよ?死んでなんて居ないの。死んだと勘違いして嘆いている哀れな子達。・・・・・貴方は誘われたけれど平気だったおかしな子、でも、貴方なら・・・・・救えるのではなくて?」

 

そう言って唐突に女の人は『消えた』。僕は背筋が凍るような感覚に震えながらも、リリ達の墓を目指した。あの人の言うことが本当ならリリ達は死んでない、・・・・・?・・・・・西行妖・・・・・?えぇ!?

 

 

 

 

 

「迷いなさい、戸惑いなさい。鵜呑みにしてはダメなのよ?────迷わなければ、もう戻れないのだから───。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界がぐらつく、視界がぼやける。足が思うように動かなくて、眠気が頭に霧をかけたように不鮮明だ。でも、それでも動かなきゃ。

 

「よ、妖夢・・・・・俺達は何をすればいい?」

 

薄い膜を隔てたような不思議な感じで声が俺に届いた。何をすればいい、か。・・・・・簡単だ・・・・・モンスターを殺せばいい。

 

「殺す、それだけです・・・・・殺してください・・・・・モンスターを・・・・・はぁっ!!」

「妖夢殿・・・・」

 

足を踏み込む。力を込めて体を倒す。グニャりと曲がりかける関節を意志の力でどうにか固定し、地面をけって駆け出した。

 

「はぁぁぁ!!」

 

盆栽の様に木の一部となっているモンスターを無視して新たに湧いて、西行妖の効果で自殺したり殺しあっているモンスターに切りかかる。

 

左手に持っている楼観剣で倒していく、何故か楼観剣が消えないが、今はそれでいい。魔石を切裂く度に、キラキラと輝きながら魔素が西行妖へと消えていく。床にたまった血溜まりが地面を滑るように西行妖へと吸い込まれて行く。

 

階層中の水晶が少しづつ光を失っていく。

 

「・・・・・ダンジョンからも力を奪っているのか?」

 

恐らくタケの仮説は正しい。全てから力を奪ってでも咲こうとしているんだ。

 

「はぁっ!!」「やぁーーっ!!」「おぉおっ!!」

 

命や桜花、千草が武器を手にモンスターを倒していく。キラキラと光が西行妖に溜まり、魔石を1つ砕く度に花が1つ咲いてゆく。

 

「これでは何時間もかかってしまいます・・・・・!」

 

命が悔しそうにそう言った。わかってるんだ、それくらいは。あたりを見渡す、倒れている冒険者達はそれこそ殆ど全員、だと思う。多分立っているのは俺達だけだろう。

・・・・・っ!?ベート・・・・・?

 

「ベート・・・・・?」

「え?」「ふぇ?」

 

視界の端に一瞬映った銀の影。多分ベートだ。・・・・・そうだ、これだ、これなら、もしかしたら・・・・・!!!出来るかもしれない!!

 

「ベート、ベートを呼んでください!!今すぐに!!出来る、出来るかも知れないです!!」

「わ、わかった!命!千草!タケミカヅチ様と妖夢の護衛を頼んだぞ!」

「「はい!」」

 

西行妖の桜を咲かせるには魔素が必要だ。魔素ってのは魔石を砕く時の他にも魔法を放った後も発生する。つまり、俺が何を言いたいのかというと、全員で魔法を撃ち込んで魔素を大量に生み出せば咲くのを早められるかも知れないってことだ!

そんでベートにはやってもらうことがある、ベートのブーツで西行妖を蹴りつけて力を吸い取る。吸い取っている間はその分だけ弱体化してる事になるからその間は体の自由が多少は効くはずだ、そうして魔法の詠唱を行って・・・・・待てよ、いや、大丈夫だ。ゴライアス達が暴れだしたとしても、その魔法で吹き飛ばせばいい。・・・・・!!その時の攻撃でアイツらの魔石を吹き飛ばせれば・・・・・!!行ける!倒せるぞ!

 

「・・・・・ここにいたのかよ」

「ベート!良かった!貴方が居なければ終わっていたかも知れません!分かったんですよ!」

「・・・・・」

「ベートが倒れていなくて本当に良かったです!さぁ作戦を」

 

 

 

 

 

「てめぇ、巫山戯てんのか?」

 

 

 

 

 

ベートが呟いた。

 

「な、何言っているんですか?巫山戯てなんかいません!」

 

無表情でベートが俺に顔を近づける。

 

「妖夢、てめぇ、自分がどんな顔してるか、わかってんのか?」

「え?」

 

俺の顔?俺の顔がどうしたってんだ、いや、違うだろ、そんな事はどうでもいいんだ、今は早く西行妖を発動させなきゃいけないんだ!

 

「なんで、そこまで怯えてやがる(・・・・・・)

「───ッ!!」

 

怯えてた?俺が?

 

「何が怖い、何を恐れてる。お前の顔は勝ち筋を見つけた顔じゃねーぞ。まるで───────」

 

止めろ。言うな、それ以上は言わないでくれ。いや。まて、なんでそんなことを思う?・・・・・可笑しい、おかしい、なにかがおかしいんだ。

 

「───迷子のガキじゃねぇか。親とはぐれて、帰り道もわからねぇ、誰かに聞こうにも怖くて話しかけられねぇ。・・・・・そんな顔してんぞ、お前。」

「な、何言って・・・・・そんなわけ・・・・・」

 

触れて初めて気がつく。笑ってるつもりだったのに、俺の顔は引きつっていた。タケを見ても、命を見ても、千草を見ても、桜花を見ても、俺の顔は引きつったままだ。

 

「・・・・・殺しそうになったから罪悪感でも感じてんのか?ハッ!だっせぇなぁ!一度やったんだ、最後までやって見せろよ。じゃねぇと、アイツら(仲間)にやった分だけ返してやる!」

 

ベートは唾を飛ばしながら俺に怒鳴りつける。罪悪感?・・・・・感じているのだろうか、俺は。でも・・・・・ベートに怒られるのは仕方ない事なんだ、俺のせいでこうなったんだから。それくらいは受けて当然、いや、寧ろ死んで詫びる位は必要なのかもしれない。でも、まだ死ぬ訳には・・・・・

 

「冒険者はなぁ!!雑魚どもを守る為にいんだよ!モンスター共から守る為によぉ!殺してどうすんだこのバカが!!守るのは自分の家族だけかよ!?そいつらは俺に託すんじゃ無かったのか!?テメェだけで守れたじゃねぇか!!雑魚共を殺しまくって、助けられたじゃねぇか!!罪悪感?ハッ!笑えねぇ!くっだらねぇ冗談なんて捨てやがれ!・・・・・・・・・・テメェは殺したんだ、理不尽に、一方的に。

自分の目的のためにな、知らなかったじゃすまねぇんだぞ・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・知らなかった?いいや、知っていたんだ。初めから、この魔法の名前を見た時から、きっと、こうなるって知っていた。

 

「殺しきれんだろうなぁ?!おめぇのその作戦で!!俺が命張る意味はあんだろうなぁ!?家族家族って家族だけ助けてほか全部を見捨てたりしねぇよな!?おい!なんか言えよ!」

「ベート、止めろ。」

「うるせぇ!アイツの魔法で何人死んだと思ってる!助けようとした俺の前で何人自殺したと思ってる!!助けてくれって叫びながら自殺した奴らの事を考えて言ってんのかよタケミカヅチ!!」

 

・・・・・・・・・・俺は、間違ってたのかな。ベートは、きっと正しいことを言ってるんだろう。でも、もうこれ以外に倒せる方法なんて・・・・・思いつかない。

 

「あの魔法しかあいつらは殺せないんだ!」

「わからねぇだろうが!!まだ、まだ何か」

「もう遅い!・・・・・アレは俺の指示だ。全ての責任は俺にある。」

「あぁ?んだと・・・・・てめぇ、そういや魔法の効果を隠してたんだってなぁ!!」

「ああ、隠さなければならないものだった。」

「なんて書いてあったんだよ!!言えよ!」

 

止めてくれ、止めてくれ・・・・・。なんで喧嘩するんだよ、早く、少しでも早く終わらせないと・・・・・もっと死んじゃうだろ・・・・・?そしたらもっと怒るだろ?

 

「・・・・・記憶だ」

「あぁ?記憶だ?」

「妖夢の記憶に関するものが書かれていた。」

「それの何処が──────ッ!?」

 

「「■□□■□■□■□■□■□□□■□■□!!!」」

 

ゴライアス達が叫ぶ。殺してやる、殺してやるって叫ぶ。木が軋むような音を立ててポロポロと少しだけこわれる。首から上だけまともに動くようになったゴライアスが俺の方を向いて咆哮を放った。

 

殺意。それが俺に向けられた。ゴライアスから、ベートから。

 

それが怖くて、痛くて、でも、仕方なくて。諦めちゃ駄目なのに力が入らなくて、動けなくって・・・・・・・・・・

 

「妖夢っ!!」「おい糞ガキ!!」

 

咆哮が、魔力を込める事で物理的な威力を持った咆哮が俺を殴り付けた。お腹にめり込んで内蔵が壊れるのがわかる。ゆっくり、ゆっくりと。【集中】の2倍化が発動して、痛みを長く永く味わっていく。血がこみ上げてくる、口から零れでた。肋骨が粉々になる、肺に刺さった。

 

────あぁ、死んじまった・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ。・・・・・どこだ、ここ・・・・・。リリ達の所に帰れない?」

 

僕はあの後走り続けた。でも、どこもかしこも墓墓墓、変わらない景色に僕は迷い始めていた。墓もあいうえお順で並んでるわけじゃ無いみたいだし・・・・・

 

─────────()

 

「!?・・・・・泣き声?女の子の泣き声がする・・・・・?」

 

僕の耳に入り込んできたその声に僕は向かっていく。僕と同じように誘われたけれど墓に入らなかった人なのかも知れないし、リリ達が目覚めたのかもしれない。

 

「はぁ・・・・・っ、どっちだ?」

 

耳を澄ます、声は・・・・・聞こえた!

 

───────(じゃった)

 

「こっちだ!」

 

声は中央から聞こえてきていた。中央には葉のない巨大な木・・・・・多分封印されている西行妖だと思うけど・・・・・そんな方向になんで・・・・・っ!もしかして食べられそうになってる!?急がなきゃ!

 

───(しんじゃった)

 

!?・・・・・やっぱり勘違いしてる、死んでないって言わないと。僕は遠くに見え始めた女の子に向かっていく。髪の毛の色は・・・・・銀?

 

銀って・・・・・妖夢さん?

 

「しんじゃった、しんじゃった、しんじゃった、しんじゃった。・・・・・私、死んじゃった。」

 

両手で顔を覆い、指の隙間から涙がポタポタと垂れている。経ったまま西行妖に背を向け、泣いている。その姿に僕はとても悲しくなって・・・・・少しして話しかけた。

 

「妖夢さん、妖夢さんは死んでなんか無いですよ、これは西行妖のせいで」

「西行妖・・・・・?あ、あ、あぁ!・・・・・ごめんなさい!」

「え?」

ごめんなさい(ごめんなさい)ごめんなさい(ごめんなさい)ごめんなさい(ごめんなさい)ごめんなさい(ごめんなさい)ごめんなさい(ごめんなさい)ごめんなさい(ごめんなさい)ごめんなさい(ごめんなさい)ごめんなさい(ごめんなさい)ごめんなさい(ごめんなさい)!!」

「・・・・・!?」

 

思わず顔が引きつった。まるで呪詛のように謝り始めた妖夢さんに僕は体まで固まってしまった気がした。小刻みに震えて謝り続ける妖夢さんを僕は哀れんでしまった。

 

「妖夢さん、顔を上げてください。」

 

妖夢さんは顔を上げない。

 

「妖夢さんは僕に言ったでしょう?「・・・目を開いてください、貴方が見るべきはそんな物では無いはずです。」って。」

「・・・・・ぇ?」

 

妖夢さんが顔を上げた。・・・・・僕はあの言葉に励まされた。僕は彼女を励ます事が出来るだろうか・・・・・?

 

「妖夢さん、目を開いてください。こんな所にいたら謝ったって伝わりません!」

「で、でも、死んじゃって・・・・・」

「死んでませんよ!妖夢さんは死んで何かいません!」

「えぇ?」

「西行妖のせいで死んだって勘違いしちゃってるだけです!」

 

僕は口が下手だ、言いたいことを言えてる気がしないけど、それでも、あの戦いに勝つには妖夢さんが必要なのは何となくわかる。だから、って言うのも勿論あるけど、僕は妖夢さんを助けたい。助けなきゃいけない、そんな気がするんだ。恩返しの思いもある、けど、泣いてる女の子を助けようとしないのは間違ってると思うから。

 

「・・・・・妖夢さん、行きましょう。皆を助けるんです!!」

 

どう言葉をかければいいんだろう、妖夢さんは涙に濡れた顔で困惑した表情をしている。・・・・・ふと、妖夢さんの隣を見れば、長い刀が地に刺さっていた。記憶のピースが重なりあう。

 

「妖夢さん、その刀・・・・・その刀のもう片方!白楼剣は!?それがあれば皆を助けられるかも!」

 

白楼剣、たしか・・・・・・・・・・あれは・・・・・!

 

「白楼剣・・・・・知ってます、何処にあるか、知ってます・・・・・」

「妖夢さん!?」

「向こう、向こうの屋敷に・・・・・っ!?頭が!?痛い・・・・・!!ノイズが・・・・・!」

「ここで待ってて下さい!僕が白楼剣を取ってきます!!」

 

僕が白楼剣を取ってくれば妖夢さんを助けられるかもしれない!

 

走る、走る、走る。妖夢さんが指さした方向へと。

 

──リリルカ・アーデ

 

「っ!?」

 

急ブレーキを掛けて立ち止まる。視界の端に確かに見えたリリの名前。でも今は白楼剣を取りにいかなきゃ・・・・・。・・・・・!!

 

「ベル様・・・・・?死んで、しまったのですか?」

 

後ろからリリが話しかけてくる。・・・・・なんで?目が覚めて・・・・・?

 

「ベル・・・・・お前まで・・・・・糞が・・・・・アイツのせいで・・・・・」

 

ヴェルフまで・・・・・?

 

「まっ待って!二人共死んでなんか無いから!」

「「「「アイツのせいだ、アイツのせいだ」」」」

 

墓からボコボコと冒険者達がはい出てくる。口々に恨みの言葉を呟きながら辺りを見渡す。僕の声が届かない・・・・・!!

なんで急に目覚めた?妖夢さんがこっちに来たことで西行妖が少し目覚めたとか?それとも単純に妖夢さんへの恨みで目を覚ました??

 

「ベル、アイツは・・・・・魂魄妖夢は何処だ!!」

「うっ!ヴェルフ落ち着いて!!」

 

駄目だ、このままじゃ・・・・・!!ごめん!ヴェルフ!

 

「ぬうぉ!?べ、ベル!!」

「ごめんっ!!」

 

ヴェルフを蹴り飛ばし、僕は走る。そんな時中央の木が軋むような音を立てた。

 

「「「「あそこかっ」」」」

 

冒険者達が中央に向かって走り出す。ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!早くしないと、早くしないと!速く!速く!速く!!

 

「こっちへ来なさいな」

「ふぇ!?う、うわああああ!!!」

 

 

全力で走っていたその時。不意に足元が開いて、目玉だらけの空間に僕は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅう・・・・・痛たた・・・・・っまた気絶!?僕気絶多くない!?」

「うふふ、目覚めて一言目がそれなのね。」

 

目を開いて知らない天井であることを確認して、起き上がると腰を打っていたのか若干痛い。そしてこんな大切な場面なのにまた気絶だよ・・・・・と自虐してたら良くわからないけど綺麗な女の人達に囲まれていた。

 

「ファ!?ふぇ!?」

 

クスクス笑う彼女達だけど、僕は木の天井であることを思い出した。あの場所で天井があるなら妖夢さんの言っていた場所の可能性も高いんじゃないか、そう思って僕は急いで体制を直して向き直る。

 

「こここ、こんにちは!あ、いやおはようございます?」

「えぇ、こんにちは。焦らなくても良いのよ?」

「ほら、お茶上げるわ」

「あ、ありがとうございます・・・・・ってさっきの着物の人!?」

「あら~バレちゃった?」

 

いや、目の前にいればそりゃあバレるでしょ。なんてツッコミは押し込んで、僕は早速本題へと入ろうとする。

 

「そ、それで、妖夢さんの為に白楼剣を貸していただきたいんですけど・・・・・いいですかね?」

 

あんまり美人なものだから正面から見ていられなくてチラチラと地面と顔とを交互に見る。クスクス笑っていた声は止まり、怪訝な雰囲気が僕の肌を刺した。

 

「・・・・・妖夢?・・・・・あぁ・・・・・そういうこと。」

「あらあら〜」

 

妖夢さんの知り合いなんだろうか?でも、それなら貸してくれる可能性も上がるかも。

 

「・・・・・えぇ、イイわよ?」

「ホントですか!?」

「ええ・・・・・・・・・・貴方が英雄であるならね。・・・・・妖忌」

「・・・・・へ?」

 

ガラッ、と襖が開いた。そっちを見れば白髪混じりの銀髪の男の人が立っていた。見れば手には刀を持っている。

 

「準備は出来ております。・・・・・さぁ、来い。」

 

その目が余りに鋭くて、僕の心臓が縮み上がるかと思ったけど、妖夢さんは今不味いことになっている、此処で止まるわけにはいかない。

 

「・・・・・はいっ!!」

 

廊下を歩き、橋みたいな奴を渡って、縁側を進み、中庭へと出る。ここまで来るだけでも少し時間がかかった。どれだけ広いんだこのお屋敷・・・・・。ってかさっきから見える白い浮かんでるのってやっぱり魂!?怖い!!ハルプさんは人の形に成れるから怖くないけどやっぱり不気味だよぉ!

 

「・・・・・・・・・・好きな得物を取れ。」

「は、はい!」

 

棚のような物が中庭に用意されていた、そこには刀を初めとした様々な武器が担い手を待っていた。

この中から武器を?僕の武器は・・・・・な、ない!?どうやら何処かで落としたらしい・・・・・。

 

「・・・・・ふむ、短刀か・・・・・それも2本。」

「はい・・・・・妖夢さんから教わったスタイルです・・・・・」

「ほう?それは期待しても宜しいかな?」

「ゴクリ・・・・・はいっ!!」

 

・・・・・戦いがはじまる!












はい、という訳でいきなり東方世界に突入しました。ここで西行妖について、

この魔法【西行妖】の効果は『自殺させる』ではありません。あくまでもオマケの効果です。対象を内部から引き裂き、更に締め付けて血を絞り取るのもオマケ効果です。

体が勝手に動いてしまうと言う状況ですが、食らった人によっては個人差がありますよね、それは現世にどれだけ執着しているかにより症状に変化が現れているのです。
オッタルの様にとてつもない執着(フレイヤ様prpr)があるならば、自分を殺す前に腕をへし折るなりして防ぐ事が出来るわけですね。ですが気をつけないと自分で舌を噛みちぎるのであまり話さないことをお勧めします。

もちろん他にも防ぐ手立てはあります、あくまでもオマケ効果なので結構防げる人は居ます。それと神様には自殺効果は聞きません。

ダンまち世界で言うならば呪術に近い特性を持っている西行妖ですが、それを考えて作ったりしてはいないので・・・・・呪術め・・・・・妖夢のステイタスが完成した後に原作で現れおって・・・・・。付けたかったなぁ。寧ろ西行妖を呪術に・・・・・まぁもう遅いですが。

呪術に似た特徴は「本人の意思に関係無い」強制的なデバフ付与ですね、無意識的自殺行動、そして魅了。死ねばそのまま“魔法の西行妖”に食われ、死なずに気絶すれば他世界に引きずり込む。

絶対に殺してやるぅ!と言う意思を感じますね!

ですがご安心を。まだ本命は残ってます。

オマケ「西行妖を発動するまでに必要な詠唱、必要な過程」

まずは妖夢の第一魔法【白楼剣or楼観剣】の楼観剣を詠唱。

【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】

唱え終わったら薬で魔力回復。そして第三魔法を詠唱。

【覚悟せよ《英雄は集う》】

第三魔法の効果を発揮させるために、行いたい技を詠唱文に起こし詠唱します。同時詠唱が必要なのでハルプを召喚。技は「一刀修羅」を選択

【男は卑小、刀は平凡、才は無く、そして師もいない。頂き睨む弱者は落ちる。その身、その心、修羅と化して。
《此度修羅は顕現す、修羅、一刀にて山、切り崩し、頂きは地へと落ちる。時過ぎし時、男、泥のように眠る》】

詠唱が終わったならば制限時間1分以内に第二魔法【西行妖】を詠唱しましょう。

【亡骸溢れる黄泉の国。
咲いて誇るる死の桜。
数多の御霊を喰い荒し、数多の屍築き上げ、世に憚りて花開く。
嘆き嘆いた冥の姫。
汝の命奪い賜いて、かの桜は枯れ果てましょう。
花弁はかくして奪われ、萎れて枯れた凡木となる。
奪われ萎びた死の桜、再びここに花咲かせよう。
現に咲け───冥桜開花。西行妖。】

さて、まだまだ続きます。ここからは花を咲かせなくてはいけません。魔石を1つ砕けば1つ花が咲くと考えてください。
そして、満開まで咲いたら隠し詠唱です。

はい、無理ゲー臭がすごいですねぇ、だって一刀修羅のデメリットを2倍にして受けている状態ですから。



それと。

─────此処は地獄だ。の部分は冥界の事を指しているのでは無く、戦場を指してます。わかりづらいので一応。

さて、冥界からの脱出をしなければゲームオーバーです、主人公はアテにならないぞベルくん!頑張って妖忌を倒すんだ!

・・・・・ちなみに本気の妖忌はこの小説の妖夢でも無理ゲーなので気をつけるんだぞ!

なんだか批判が多そう・・・・・なので、明日続きを投稿します、連日投稿だぜ。

誤字脱字報告、コメント待ってます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

56話「・・・・・ごめんなさい。」

連日投稿だぜ!ま、今日で終わりだぜ!多分夏休み最後の投稿ですかね?








あぁ・・・・・死んでしまった。

 

思い返す昔の事を。タケの味噌汁に辛子ぶち込んだり、ワサビを色が変わるまでぶち込んだり・・・・・タケに投げ飛ばされたり、色々したなぁ。命達と同じ部屋にされた時はしばらく眠れなかったっけ・・・・・いつの間にか眠れるようになったけど。

 

あぁ・・・・・約束、守れなかったなぁ・・・・・。

 

命達が遊びに誘ってくれて、ついて行けばそこには春姫が居て、皆で走り回ったり隠れんぼしたりして遊んだんだ。そこで「お友達になりましょう!皆様!」って春姫が言って・・・・・初めての友達ができて・・・・・なのに・・・・・その後どうなるか知ってたのに・・・・・俺は何も出来なくて・・・・・約束したのに・・・・・必ず助けに行くって言ったのに・・・・・。黒いカチューシャだって春姫からの初めてのプレゼントだったのに・・・・・。

 

なんで、俺は・・・・・こんなにも弱いんだよ・・・・・。

 

もう嫌だよ、家族の為に強くなったつもりだったのに・・・・・全然強くなんてなれてなかった・・・・・ただの強がりだったんだ。

 

「「「殺す・・・・・殺す・・・・・殺してやる」」」

 

・・・・・皆が来た。目を血走らせて、怨みを込めて、殺意を放ちながら。・・・・・でもそれは、正しい事なんだろう、俺は何もかも間違ってたんだから。

 

「殺すも何も・・・・・もう死んじゃってるじゃ無いですか・・・・・」

 

思わずそんな事が口から零れる、小さい声だったから彼らには聞こえなかったみたいだけど。まぁでも、これから皆にボコボコにされるんだろうな、俺の右腕みたいに。・・・・・なんで死んだのに腕治ってないんだろう、まぁ痛みを長引かせる罰かなんか何だろうけど。

 

「妖夢・・・・・」

「・・・・・アリッサ・・・・・ごめんなさい」

 

アリッサが目の前に立っていた。鎧全体に傷が入り、ヘルムは凹んでいる箇所まである、・・・・・こんな人まで殺してしまったのか・・・・・。

 

「貴女のせいではない貴女は己の全てを注いだのだろう?」

「頑張ってこれでは・・・・・意味がないです、ごめんなさい」

 

そう言うとアリッサが若干ムッとした表情をする。ヘルムの下だからムッとしてるのかもわからないけど、それでも何となくそう思えた。

 

「そんな事を言うな。何の為に私が来たのかわからなくなるだろう。」

「・・・・・ごめんなさい」

 

アリッサもベルもやっぱり変わった人だ。こんな俺に何の価値があるってのさ。・・・・・わからない、あいつらの考えている事がわからない。こっちに殺意を向けてる冒険者達の方がわかりやすいよ。

 

「貴女達は・・・・・わかりません、理解出来ないです・・・・・なぜ、私なんかを・・・・・」

「理解などしなくていい、わからなくてもいい。私は、助けるよ。この魂に誓ったのだから。」

 

アリッサはそう言って俺の前に仁王立ちする。そしてフッと笑った後「死んでまで被る必要もあるまい」とヘルムを脱ぎ捨てる。

 

「私の名はアリッサ・ハレヘヴァング!!魂魄妖夢を守護する者なり!!」

 

砂金の様な煌びやかな髪を靡かせ、アリッサは堂々と宣言した。アリッサのアビリティも相まって敵意がアリッサに集中した。

 

わからない。本当にわからない。なんで、俺の前に立つ?なんで敵意を一挙に引き受ける?敵意を向けられるのはこんなにも辛いのに、どうして平然としてられる?わからない、わけがわからない。

 

「・・・・・妖夢、顔を上げろ。ふふっ、何も敵だらけという訳でも無いらしいぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・ぇ?」

 

言われて伏せていた顔を上げれば、そこには見た事のある者達がいた。なんで・・・・・アイズ達まで?嘘だろ?

 

「ししょー。助けに来た、よ?」

「私もー!ティオナヒリュテ参所ー!」

「おお!それいいねっ僕も僕も!リーナディーン参所ー!」

「わわわっ、これは私もやるべき所かも?・・・・・んん!クルメフート参所ー!」

「あぁ?俺はやらねぇからな?」

「「「「・・・」」」」

「・・・・・わあったよ!やりゃあ良いんだろ!?・・・・・だ、ダリルレッドフィールド参所ッ!!」

「リーナさんはドン引きだよ」

「何でだっ!?」

 

み、皆死んじゃったのか・・・・・。でも命達は居ない・・・・・。良かっ・・・・・───家族家族って家族だけ助けてほか全部を見捨てたりしねぇよな!?おい!なんか言えよ!───ッ!!・・・・・そうだ、良くないんだよ。

 

何にも・・・・・よく何かないんだ・・・・・。

 

「ほら見ろ!ダリルのせいで泣いちゃったよ?僕は悲しいなぁ!」

「いや違うだろ?!俺は特に何もしてねぇからな!」

「特に何もしていないから失望した可能性も・・・・・」

「うるせぇ!もうリーナテメェは黙ってろ!!」

「僕は死ぬまで口は閉ざさないのさっ!!」

「死ねっ、今ここで死ねっ!」

 

・・・・・何なんだよ、ベルと言いリーナ達と言い・・・・・もう死んじゃってるって言ってんのに・・・・・なんでまだ生きてるみたいな言い方をしてんだよ・・・・・──俺達が意識を刈り取った───・・・・・そうか、タケが気絶させたんだっけ・・・・・

 

ん?という事は・・・・・西行妖に肉体を操られた奴は気絶させるとこっちに来ちゃうのか?

 

なら、俺に出来ることとすれば・・・・・ちゃんと元の世界に返してあげるくらいか。俺は確実に死んだしな。あの感覚的に絶対に死んだよ多分。・・・・・肋骨とか治ってないしな、うわ、気が付いたら途端に痛くなってきた。死んでも痛みって感じるんだな・・・・・。

 

「お前達・・・・・お前達は、殺されたんだぞ!?そのガキに!悔しくないのか!?恨めしくないのか!?」

 

誰かが人ごみの中から声を上げた。・・・・・そう、そのとおりだ、普通ならああやって俺を罵倒するべきなのに・・・・・。悔しくないのか?

 

「あぁ?うるっせェな。寝言は寝て言え」

「ふむ、忠告しておくと、向こうから見たら同じく見えているだろうな」

「うるせぇよアリッサ。アイツらはまだ支配下にあんだろ?」

「そうなる・・・・・筈だが・・・・・」

「ししょーも?」

「・・・・・わからん、あの金髪の女性は大雑把な答えしか渡してこなかった」

 

・・・・・何が何だかわからないけど・・・・・金髪の女性?誰だよ。ここは東方の世界って事は知ってるけど・・・・・あ、紫かな?・・・・・んん??ちょっと待って・・・・・混乱してるぞ?支配下?よし、少しアリッサに聞いてみるか。

 

「アリッサ、その金髪の女性・・・・・扇で口元を隠したり、日傘を差したりしてませんでした?」

「むっ、知り合いか?・・・・・少し元気を取り戻したか」

 

やっぱりそうか、なら、希望が見えてきたかも?ベルは白楼剣がどうのこうの言って走っていったし。あの時またノイズが走って妖忌と妖夢の談話が見えたせいでベルがなんて言ってるかわかんなかったけど励ましてくれたんだろう。

 

「やるべき事が、少し見えてきました。ありがとうございます皆さん。」

「チッ、なんだよ勝手に立ち直りやがった」

「くっ、リーナさんのモフモフアタックは封印かっ」

「よ、よかった、私の料理は流石に食材ないと出来ませんから・・・・・」

「ししょー、もう平気?」

「おおー!立ち直れたの?」

 

いいや、そんなことは無い。多分俺は死んでるだろうしな。でも、だからこそみんなの為に動こうと思った。皆を生かして返さなきゃベートに更に怒られると思うしね。

 

「ベル・クラネルさんが来るまで私達は全力で時間稼ぎです」

「「「「「はい!(うん!)(おう!)」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂利が敷き詰められた中庭、見渡せば桜が生えていたり、苔が敷きつめられ花まで植えれている。川が通り、そこに橋がかかっている。・・・・・妖夢さんのホームで見た景色と似ている。それを更に大きくしたような場所だ。

 

そこで僕は老剣士と対峙していた。汗が頬を伝い顎まで届いて落ちる。対して向こうは目を瞑ったまま全く動かない。1秒が1分にも感じる時間の中で、僕は両手に持った短刀を意識する。

 

思い出せ、どう戦うのかを。右手の短刀を前に構えて、左手の短刀をそこに添えるように構える。

 

そして前傾姿勢になって胸が地面に付くかどうかのスレスレを駆ける!

 

「はあぁ!!!」

 

先ずは左手、軽く振り牽制、後に右手の短刀を深く振り下ろす。でも。

 

「ぐあっ!?」

 

薄く目を開いた妖忌さんは左手の短刀を刀の柄でずらし、右の一撃をそのまま刀で受け止め、がら空きになった僕の腹を蹴りで撃ち抜く。

アイズさんの回し蹴りに迫るほどの前蹴りに僕は何mも後ろに吹き飛んでいく。

 

「ぐッ!!」

 

吹き飛びながら体勢を直して着地と同時に左横に飛び跳ねる、先ほど着地した場所には蹴りを振り抜いた妖忌さんの姿。危険を感じてバックステップを踏む。が

 

「遅い」

「かはっ」

 

妖忌さんは真後ろに居た。肘打ちが背中に突き刺さり無様に転がりながら数m転がった。

 

「負ける、訳には・・・・・!!」

 

立ち上がって走る。走って走ってすれ違いざまに脇腹を狙うけど刀で短刀を受け止められそのまま滑らせるようにはねあげられて胴体ががら空きにされる、不味い!と思っ時には既に斬撃を放つ体勢になっていて、急いで短刀をクロスさせてガードする。

 

「ううぅぅ!?」

 

その斬撃の余りの重さに僕は驚きが隠せない。両手がビリビリする。・・・・・違う、重いんじゃない、斬撃の力を僕の両手に流してきた・・・・・!!

彼我の力量の差に、更に汗が垂れる。魔法を使うしかない!

 

「【ファイアボルト】!!」

 

牽制の一撃。雷炎はその名前に違わず凄まじい速度で妖忌に迫る。僕はそれを放つと同時に走り出す。が、妖忌さんは刀をファイアボルトに合わせて滑らかに円を描く様な動作をした。

 

「えっ!?」

 

刀に炎を纏わせ最上段に構える妖忌さん。か、刀で魔法を受けとめて・・・・・いや、刀で魔法を奪った!?

 

「魔法まで心得るか、なるほど、確かに器だな。だが────力とは全てが諸刃であると知るがよい」

 

はあぁ!!!と言う気合いと共に僕のファイアボルトがその威力を何倍にもして僕に迫ってくる。

 

「速いっ!!ぐぁぁぁあ!!・・・・・ぐぐぅ・・・・・!?」

 

全身を焼かれながらも防ぎ切る。炎を振り切り周囲を見渡すも妖忌さんは見えない。しかし、突如右頬に蹴りを受けて吹き飛ぶ。

 

「けほっけほっ!・・・・・ど、どこに・・・?」

「目の前だ」

「───ッ!!【ファイアボルト】!!」

「ほう・・・・・」

 

急いで立ち上がれば目の前に立っていた妖忌さん、僕は驚きながらも真下にファイアボルトを打ち込んだ。その熱量に身を焼かれながら、今度は立ち止まらず走り出す。

 

炎を抜けて急ブレーキを掛けながらUターン。腕を構えながら妖忌さんを探す。

 

「でぇぇあああッ!!」

 

真上から声がして僕は咄嗟に上にファイアボルトを放つ。

 

「ふんっ!」

 

ファイアボルトを今度は真っ二つに切り裂きながら妖忌さんは斬りかかってくる、僕は短刀を両方クロスさせてガードする。

 

「ぐ、ぐ・・・・・ああぁ!!」

 

一瞬の硬直の後地面に足をつけている僕の方が力を込めやすいから上方向に吹き飛ばそうと力む。けれどその力を利用してそのままの高さで回転してそのまま回転斬りを放ってくる。

咄嗟に放った蹴りがたまたま妖忌さんの刀の鍔の部分に命中して刀の軌道を逸らす。バランスを崩した妖忌さんに僕は右の短刀を胸元に構え、左手を柄に添えて一気に突き刺そうとする。

 

「見事!だが・・・・・!」

 

妖忌さんは刀の切っ先を地面に押し付け、─多分感覚的に霊力だと思う─爆発させた。そんなのあり!?と思った僕だけど、そんな事を考える暇も無く連撃が僕を襲った。

 

「まだ若いなっ!!」

「ごふっ・・・・・!!」

 

刀を最上段に構えた妖忌さんに合わせて短刀をクロスさせれば、それはフェイントで前蹴りが僕のお腹に命中した。ほとんど食べてなくて良かった・・・・・!

 

蹴られてよろめいた所に回し蹴りが放たれる。でも、それはアイズさんで学習したっ!!後ろに大きく仰け反るようにしてスレスレで躱してそのままサマーソルトキックを顎に叩き込んだ────筈なのに、僕の足は顎のやや手前で妖忌さんの手に捕まった。

 

「うわっ!?」

 

そのまま持ち上げられて宙ぶらりんになる。でも、お腹ががら空きだ!!

 

「【ファイアボ】「若い。手が単純に過ぎる」ガハッ!!」

 

と思っていた僕の顔に蹴りがうちこまれて、逆刃にした刀で下から刈り上げるように振るわれて上に更に吹き飛ばされる。空中で何回も攻撃を食らって、俗に言う空中コンボを受けて僕は地面に叩きつけられる。

 

「・・・・・ふむ、まだ立つか」

「・・・・・・・・・・負けられ、ないんだっ!負ければ、僕は・・・・・リリともヴェルフとも会えなくなっちゃうから!・・・・・負ければ、妖夢さんを恨んでしまうかも知れないから!!」

 

僕は、妖夢さんの涙を見た。妖夢さんの決意も見ていた。妖夢さんがどれだけ家族を愛しているかも知っているつもりだ。それを、勘違いで終わらせたくない!!勘違いで泣かせたくない!!

 

「【ファイアボルト】!!!」

「単調よな」

 

ファイアボルトの7連射。それと同時に走り出す。目指すのは懐。僕の武器が最も効果を発揮する距離。

 

──リン、リン、リン

 

7連射された雷炎を妖忌さんは全て刀に這わせ巨大な炎剣へと変化させる。それでも、僕は止まらない。ただ真っ直ぐ走る!!!

 

───リン、リン、リン

 

「青いな、青すぎる。────だが、それでこそ男の子(おのこ)だ。」

 

振り下ろされる炎剣。まだ多少の距離があるのに肌が焼けそうだ。止まらずに走り続ける。正面から突っ込む!!

 

「終わりだ──」

 

炎が壁のように僕に迫った。ここだ、ここしか・・・・・無いっ!!4秒チャージの英雄願望!!

 

「【ファイアボルト】ォオオオ!!!」

 

白い光が放たれる、それは小さいが確かに炎の壁を貫いた。開けた視界の先驚きに軽く目を見開く妖忌さんの姿、行ける!!!!

体を炎に焼かれながらどうにか妖忌さんの懐に潜り込めた。

 

「───────ここは、僕の距離だ!!!」

 

体をひねり、構える。妖夢さんに教わった。僕の必殺技!!!

 

「小太刀二刀流───────!!!!」

「来るかッ!!」

 

僕の動きに合わせ体勢を変える妖忌さん、受け流す気なんだ。でも、止めない!!

 

「回転剣舞六連!!うっらァァアアアア!!」

 

始動は右、に見せかけた左。左から順番に六連続の斬撃を放つ。

 

「甘いわっ!!」

 

刀と短刀が連続でぶつかりあって甲高い音を連続して響かせる。だけど、まだ、こっちには手が残ってる!!

 

「【ファイアボルト】おぉお!!!!」

「ぐっ・・・・・!!」

 

ファイアボルトを放ちながら、回転剣舞六連をもう1度放つ。手が焼けて嫌な匂いがするがそのまま押し切る!!!

 

───リン、リン、リン

 

5発目を放つと同時にしゃがみこみ足払い、小さな跳躍で回避した妖忌、足払いの回転に合わせて最後の6回目を放つ!一秒チャージの英雄願望!!

 

「うらぁぁぁああああ!!」

 

振り切る、全力の一撃。攻撃が妖忌さんに吸い込まれていく。その刹那の世界で妖忌さんが─────笑った気がした。

 

「ぐっ────はぁっ!!!」

 

炎で加熱された刃が妖忌さんの腹を横一文字に切り裂く。そのままの勢いで更に回し蹴りを叩き込んで壁に叩きつける。まだだ!

 

「【ファイアボルト】ォォオオオオ!」

 

全力でファイアボルトを叩き込む。10発のファイアボルトが妖忌さんに殺到し、爆発。

 

「はぁはぁ・・・・・はぁ。」

 

チラりと女の人たちを見る。するとニコニコとしながら頷いてくれた。

 

「合格ですわ。お疲れ様、ベル・クラネルさん、それと妖忌。」

「え?」

 

妖忌、と名前を呼ばれると同時に煙の中から無傷の妖忌さんが現れる。

 

「いやはや、手加減をして戦うなど・・・・・何十年ぶりかわかりませぬな・・・・・いやぁ良い経験になった。」

「ど、どうしてこんな事を?」

 

て、手加減してアレなの・・・・・?と少し絶望しつつどうしてこんな事をしたのか気になった僕は聞いてみる。

 

「あら、そんなの決まっていますわ。─────ただの暇つぶしですわっ。うふふ」

 

金髪の女の人が扇で口元を隠しなが笑う。何故がどっと疲れが体に・・・・・いや、英雄願望のせいか・・・・・?。

 

「所でお主、ベルと申したか」

「は、はい!!」

「孫は元気か?もう、儂心配なんじゃが・・・・・」

「・・・・・へ?」

 

妖夢さんのおじいちゃんだったの!?妖夢さんは・・・・・!・・・・・・・・・・・・・・・元気では無いと思う。

 

「げ、元気では無いです・・・・・」

「な、なん・・・・・だと・・・・・な、なぜ白楼剣が必要になったのか分かるか!?」

「ええと、踏ん切りを付けるため・・・・・?」

「ええい!急いで持っていけ!!ほれ!ここにあるから!」

「ははい!(うわあぃこの人親バカだぁ!!)」

 

「あ、ありがとうございます!!」

「馬鹿者!遅れたらどうするんじゃ!急げ!!」

「は!?はいいイィ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走る、走る。妖夢さんの元へ。刀を抜こうとしてみたけれどまるで抜かれたくないって言ってるみたいに拒否された。

 

鞘に入れたまま走る。西行妖が見えてきた。禍禍しいその全容が初めて見えた。天にまで届くんじゃないかって思うくらい大きい。

 

その根本、戦闘は始まっていた。でも、妖夢さんの味方は僕だけじゃないみたいだ。アイズさんやティオナさんもいる。あとはタケミカヅチ・ファミリアのリーダーの人たちも居る。良かった!間に合った。

 

───リン、リン、リン

 

え!?英雄願望が発動した!?鞘ごと光る白楼剣に驚きながらも走っていく。

 

───リンリンリン

 

鈴の音が早くなり、僕の鼓動も速くなる。冒険者達が波のように妖夢さんに襲いかかっている。妖夢さんはほとんど動けないみたいで西行妖に背を預けている。

 

「妖夢さぁぁぁあん!!」

「ベル・クラネル、さん!!」

 

僕が大きく叫べば妖夢さんは青ざめ暗い顔でこちらを向き、顔をぱあっと輝かせる。

 

「急ぎやがれ!!!」

 

ダリルさんが火の粉を大量に発しながら槍と剣で冒険者達を近付けないように頑張っている。他の人もみんなそうだ。殺さないように気をつけながら必死に戦っている。僕が、変えなきゃ。冒険者同士で戦っている暇はないんだから!!

 

鈴の音は止まらない、僕の足も止まらない。僕の思いも止まることは無い!僕はみんなを助けたい!!救えるものは全部すくってみせるんだ!

 

冒険者達を押しのけ飛び越えくぐり抜ける。

 

「ベル、お前は・・・・・!それでいいのかよ!」

「目を覚ましてヴェルフ!!」

 

掴みかかってきたヴェルフの顔を殴りつけて吹き飛ばす。後で、謝るからっ!

 

最後の1人を押しのけて、僕は妖夢さんの目の前に立っていた。

 

「はぁ・・・・・はぁ。持って、来ました。」

「はい。ありがとうございます。ベル・クラネルさん!」

 

妖夢さんは僕の手に自分の手を被せるようにして添えた。そして、体内の木のせいでブクブクと不格好な手で鞘から刀を引き抜いていく。

 

鈴の音が鳴り響く───白く輝く刀がその光をどこまでも届かせていく。

 

「皆さん!!気をしっかり持って!此処にいる人は誰も死んでなんかないんですッ!!」

 

僕は全力で叫ぶ。誰も死んでなんか居ないんだ。ここに居る人はみんな誘われただけ、だから、それをしっかりと認識してくれれば・・・・・!

 

「認識、させる必要は、ありません・・・・・迷わせれば、それで、良い・・・・・!」

 

妖夢さんがそう言った。迷わせればイイ?・・・・・そうか、確か白楼剣は迷いを断つ剣だったはず・・・・・今思うとどうして魔法の筈の白楼剣が実在してるんだ、とか疑問は山ほどあるけど、それは後で聞けばいい。

 

「死んでない──?どう言う意味だよ、ベル」

「リリにもわかるように言ってください!」

 

リリとヴェルフが抗議して、他の冒険者達も頷く。

 

「皆は西行妖に誘われただけなんだ!死んでなんか無い!皆は気絶しただけなんだ!」

 

ざわめきが大きくなっていく。迷いが、生まれていく。もう十分だと思ったのか妖夢さんが頷く。

 

「ベル・クラネルさん、これは断迷剣です。それを貴方の力で増幅させる・・・・・!」

「ベル、でいいですよ」

「・・・・・ベルさん、行きますよ!」

「はい!」

 

2人で一つの刀を持って、高々と掲げる。光が薄暗い世界を蹂躙していく。誰もがその光から目を背けた。僕と妖夢さんはそんな暖かな光に包まれながら、もう1度頷き合う。

 

──振り下ろされる断迷の一刀、英雄が放つ決別の一閃。

 

「「はああぁぁぁああああ!!!!」」

「戻れぇえええええええええ!!!」

 

───誰もが手の隙間から見えたその光に目を細めた、その光は、確かに生命の輝きを放っていた。抗い難い欲望が心を支配する。『生きたい』と。

 

僕は全力で叫んだ。全力で振り下ろした。強い光で何も見えなくなって──────────気がつけば

 

「ベル君!!!目が覚めたんだね!!!」

 

戻ってきていた。













うへあ。主人公の隠された能力がチート過ぎて精神を追い詰められないジレンマ。ぐぬぬ、あんなのあるのにどうやって心折ればいいんだ・・・・・!

まぁそんな事はどうだっていい重要じゃない(結構重要)
今回は主人公が立ち直り、ベルくんが頑張って妖忌にかって、白楼剣をゲット!そして現世に戻ってくる。と、非常にあっさりした終わり方をしたわけですが・・・・・。

ベルと妖夢がやった事は「生きているか、死んでいるか」で迷わせて、「死んでいる」と言う迷いを斬り落とし、「生きている」としか思えない様にした訳ですね。

もちろん本当に死んでいたらこんな事やっても意味無いですが、ヴェルフ達は死んでいた訳では無いためゴリ押しでどうにか帰還。

でも、西行妖は未だにあるので目が覚めた瞬間自分の腕が襲いかかってくる悲しみ。次回はそこを何とかしつつも頑張っていくのです。

うーむ、妖忌VSベルの部分アッサリし過ぎたかなぁ・・・・・。一応妖忌は空間斬ってベルの後ろ行ったりしてた訳ですが・・・・・まぁとっても力を抜いて手加減してたし仕方ないか・・・・・。どのくらい力抜いてるの?と言われると・・・・・マシンガンに向かって横一列に戦列組んで近づく位ナメぷ。・・・・・でもそれで勝った人居るから歴史って怖いよね。事実は小説より奇なり。

それと全く関係ないけどクルメさんの挿絵どぞ。相当前に書いたやつですが・・・・・。


【挿絵表示】


ちょこっとグロいかも?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

57話『やめろ、その二つ名は俺に効く』

夏休み最後と言ったな?あれは嘘だ。

これで夏休み最後です。


「ベル君!ベル君やっと起きてくれたんだね!」

「神様・・・・・はい、帰って来ました!」

 

聞きなれた高い声に僕はほっと胸を撫で下ろす。でも、と気持ちを切り替えて僕は神様の肩を掴んだ。

 

「ひょい!?ななな、ベル君・・・・・!そ、そうか!戦いは男を昂らせて・・・・・つ、遂に」

「神様!」

「わわわ!い、いいともっ!どんとこい!」

「ステイタス!更新しましょう!」

「・・・・・・・・・・へ?」

 

神様はポカンとしている。なんでだろう、確かに戦闘中だからステイタスの更新は大変だと思うけど今しか無いと思うんだけど・・・・・。

 

「・・・・・うーん・・・・・平気かな?まぁ大丈夫だろう、よし、上着を脱ぐんだ!」

 

周りに沢山人いるんですけど。だけど一大事なのでそこは目を瞑った。

 

「はい!」

「・・・・・」

「ど、どうしました?」

「うへぇ・・・・・」

 

神様がまるで家に出てきたゴキブリを見た時のような声を出した。いや、潰した時の声かな。な、何だろう僕は何か変なことしたかな・・・・・?

 

「ら、ランクアップおめでとうベル君」

「えぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────っ!戻ってきた?!あ、あれ?俺はてっきり死んだものと思ってたけど・・・・・?暖かい?・・・・・誰かに背負われてる?風が強い・・・・・速いな・・・・・タケでも無いし桜花でも無さそうだ。

 

「ベー・・・・・ト・・・・・?」

「!?起きたか!!ゴライアス共が砲台みたいになりやがって・・・・・!!」

 

ベートにおんぶされてる!?・・・・・ふむ、苦しゅうない・・・・・いや、くっそ痛いけど・・・・・やめて、肋骨ボッキボキだから、内蔵ブッチブチだから・・・・・。腕グッチャグチャだからぁ!苦しいからァ!

ってそんな事考えてる場合じゃねえ!

 

「ベー・・・ト、作、戦を・・・・・」

「なんだ!早く言え!!」

「あの、木を、ブーツで、蹴って・・・・・!魔法、だから・・・・・少し、吸い取れる、はずです・・・・・そうすれば効果が、一時的に弱まって・・・・・みんなで、魔法を撃って、花を咲、かせれば・・・・・勝てます・・・・・!!」

 

痛い痛い・・・・・ベートもっと優しく・・・・・なんて出来る状況ではないのは知ってますけどもね!!

 

「・・・・・わかった。だがな、お前に従うのは今回までだぞ・・・・・!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・・・友達も・・・・・終わり、ですか?」

「降ろすぞ!」

 

ベートが俺の事をゴライアスが見える位置に降ろす。むー、友達に関してはノーコメントのようだ。泣くぞ?・・・・・なんていう資格は無いのだけど。

 

「おい!妖夢!お前は全員に知らせとけ!」

「・・・・・」

『俺が頑張るぜ。・・・・・霊力が無い・・・・・急がないとな』

「あぁ」

 

ベート・・・・・まぁ霊力が無いのはホントなんだ全力で走るぞ。

 

ベートが西行妖に向かって走っていく。

 

『ベート!準備が出来たら合図を送る!空を見て光弾が上がったら蹴ってくれ!』

「あぁ!!」

 

俺はリヴィラに走っていく。全力の全力だ。風のように走るのだ、サラマンダーより速いのだ。

約1分、誰にも邪魔されずに真っ直ぐ走るとここまで早く着けるのか・・・・・。まぁ殆どのモンスターが盆栽みたいになってるし、新しく生まれたモンスターもみんな殺し合ってるからね。

 

「ハルプさん!!」

 

おお?ベル君じゃん。ってなんで動けるんだ!?西行妖効かないのかよスゲーな主人公!

 

『おう!ベルも・・・・・いや、流石英雄ベル・クラネル。動けるんだな?』

「はい!ってええ!?」

『気にすんなよっ!さぁ!動けるならみんなに声かけてくれ!妖夢さんから合図が出たら魔法を撃ってくれってな。』

 

驚くベル君の背中をぺしペし叩きながら笑いかける。・・・・・少しでも緊張取らなきゃな。失敗は許されないから・・・・・。そこから少し走って、リヴィラに到着する。

 

「ぅぁあ!!また腕が勝手に動く!?ひぃい!また此処に戻ってきちまったのかよぉ!?死にたくないぃぃ!!」

『おーい、大丈夫か?』

「ひぎゃあああ!?【剣士殺し】!?」

『やめろ、その二つ名は俺に効く』

 

どうやら結構な数が生きてるらしい。・・・・・起き上がらない奴は・・・・・死んじまった様だ、さっきの世界にも居なかったし、直接魔法の西行妖に食われたんだろうな。・・・・・俺のせいでな。うー、ベートの馬鹿。ベートのせいだぞ、ベートが何も言わなけりゃ罪悪感なんてきっと無かったのに・・・・・。

 

『みなさん!よく聞いて下さい!西行妖の効果範囲内で気絶したりするとまたさっきの場所に誘われてしまいます!気絶はしないで下さい!縄か何か持っているなら俺に渡して下さい!手を拘束します!!』

「こ、此処に紐・・・・・が・・・・・!あ、あぶね!?やめ、ちょ、やめて!首、首危ない!?俺の手止まってぇ!!」

『ほいほい、大丈夫か?』

「お、おぉ。ありがとう妖夢さん!」

 

丁寧な口調にすると妖夢に間違われる不具合、まぁどっちでも実際同じだしな、むしろ本体が感謝された方が都合はいいけど・・・・・。と、暴れる冒険者を縛りながら考えていると同じく動いている小さな影が目に入る。

 

「おお!妖夢君じゃないか!ん!違うハルプ君だ!」

『ヘスティアか!これ渡すからみんなを縛ってくれ!あ、魔法を使える奴がいるならソイツだけ別にしといてな!』

「うん!ヘルメス達にも言っておくよ!」

『サンキュー!!』

 

1人、また1人と縛り上げていく。舌を噛みきらないように猿轡的な物も噛ませる。その間本体には丸薬を貪って貰って魔力と肉体を回復だ。・・・・・痛みとかのリンクはしないけど、何となく違和感は感じるんだ、今はジワジワと傷が治ってるからそのせいだな。

 

 

 

 

 

一方本体の俺はと言うと、激痛に苦しんでいた。忘れてた、今自分の身体が悲惨な事になっていることを・・・・・!

 

「ぐ・・・・・が・・・・・・・・・・ぃ、た、い・・・・・!!」

 

薬効きすぎぃ!!痛い痛い!ぽ、ポーションは・・・・・ぜ!全部割れてる!!これだから瓶はダメなんだよぉ・・・・・。ぐぐぐ、ハルプがみんなに知らせてくれてるからって気を抜いたら凄い痛くなってきたよ・・・・・。

 

「───────ハッ!!」

 

うわっ!?・・・・・・・・・・あ、アリッサがなんか起きた・・・・・。そう言えばアリッサ達の近くに降ろしてもらったんだった・・・・・。

 

「ぁ、アリッサ・・・・・お、おはよ、ござい、す。」

「よ、妖夢・・・・・貴女は何を巫山戯ているんだ・・・・・待っていろ今楽な体勢にする。」

「あ、ありがとうございます」

 

アリッサの手を借りて寝かされる。痛いのには変わりはないけど、それでもだいぶ変わる、これならそこそこ話せそうだ。・・・・・それにしたってあんな事したのに・・・・・優しいんだな。

 

「私は・・・・・貴女にあんな事、したのに・・・・・優しい、んですね・・・・・」

「優しい?フフッ違うな。私は強欲なんだ、一度守ると決めたなら最後まで守るさ。」

 

・・・・・この人、生まれてくる性別間違えてないかな・・・・・

 

「です、が・・・・・私は許されないことを、してしまった」

「・・・・・そうだな。そうだろう、だが私は仕方が無いとも思う。貴女があの魔法を唱えなければもっと・・・・・それこそ全滅も有り得た。」

 

アリッサは優しく俺に語りかける。少し形が変わったガントレットをはめた手で俺の頭をそっと撫でる。

 

「・・・・・私は、自分の力不足を実感したよ。いざ強敵と出会った時、私は何も出来ない。私は・・・・・貴女が少し羨ましいよ、妖夢。」

 

悔しそうに、口惜しそうにそう呟くアリッサ。

 

「私の、力は誰も守れません・・・・・。私は私の欲望しか守れなかった。いえ、まだ守れていません。戦いは、終わってないんですから」

「嘘だな。貴女の力は人を守れる、現に多くの人は貴女に救われている。力など使い方次第で傷つけもするし癒しもするんだ、あまり思いつめないでくれ。思いつめすぎて失敗すれば死んだ者達が報われない。」

 

互いに互いの目を見つめる。いや、アリッサは睨み付けている。真剣な目で、心の底から俺の為を思って言ってくれている。

 

「本当に、優しい人ですね・・・・・殺してしまわなくて良かった・・・・・」

「ふふ、死んだかと思ったがな。敵対など考えたくもない」

「ごめんなさい・・・・・焦りすぎてました」

「いや、いい。私にも生き急いだ時はあった。」

 

なんだよこの包容力。もう何言っても許してくれるんじゃないかなこの人・・・・・。男だったら絶対に惚れる人続出だろ・・・・・。

 

「それにしも、なんで、動けているんですか?」

「ん?私か?・・・・・恐らくは私の呪術による物だな。」

「呪術・・・・・ですか?も!もしかしてそれを使えば皆を」

「いや、無理だ。この呪術は私しか効果を及ぼさない。」

「・・・・・そうですか、いえ、ごめんなさい。」

 

そうか、呪術か・・・・・人のみに許された業、だったかな。デバフが多いイメージだけどデバフ無効もあるのか?

 

「ぅ、ちょ、た、す、け、て、っ!」

「「ん?」」

 

はっ!!リーナが貧弱な筋力ステイタスで自分の首を絞めている!!!凄い!迫力がない!!でも耐久も無いから本人は凄いピンチだ!!

 

「待っていろ!今助ける!奇絶させて「気絶指せるとまたさっきの場所に!」あ、危なかった。待っていろ今手を縛る」

 

〜騎士救出中〜

 

「ふぁ〜助かったよぉ。よぉし!結界張って効果を減衰させてやるぞぉ!」

「え?!リーナそんな事までッ!痛たた・・・・・」

「安静にしていろ・・・・・」

「は、はい。」

「回復させようか?」「止めを刺す事になりかねん、止めておけ」「酷い!?リーナさんのマジカル☆パワーを信じていないねッ!?」

「では結界を頼む。・・・・・後ろでダリルも苦しんでいるしな」

「な・・・・・助・・・・・お前・・・・・」

「わた、しも・・・・・助けて・・・・・」

「い、いかん!クルメ大丈夫かっ!」

「い・・・・・や、俺・・・・・ふざけん・・・・・な!!」

 

 

 

 

 

リーナが魔法を詠唱し、アリッサがリーナの裾の中に手を突っ込んで御札を取り出して展開、展開する対象をアリッサにして、アリッサを中心に結界が張られた。

 

「ハァ────ハァ────あ、アリッサ・・・・・激しい・・・・・」

「いや、何を言っているんだ貴様は」

 

何故か顔を赤らめているリーナ、おいダリル火の粉出てるぞ。なんでコイツらはこんなにギャグ時空にいるんだ?クルメを見習え、クルメはいっつもシリアス・・・・・ミノタウロスを料理してたわ・・・・・。

 

「・・・・・ぐぐぐ・・・・・きっついなぁ・・・・・結界の維持が凄い難しいよ・・・・・」

「だろうな、戦争遊戯の時だって俺の炎をかき消して吸い取りやがったからな。」

「なる、ほどね・・・・・!魔素を奪っていく訳か・・・・・!」

 

俺が説明しなくても勝手に理解してくれる有能さを急に見せ始めたぞ、有難い。正直な話し、巫山戯た思考してないと意識が飛びそうでヤバイ俺氏。

激痛が意識を保たせてくれるかと思ったら、激痛で意識が飛びそうになってるんだよね、やばいわこれは。

 

「ダリル、ポーションはないか?」

「ねぇ、全部割れてる」

「これだから瓶は・・・・・流石は猿師殿と言った所なのだろうなぁ。」

 

そういや、猿師大丈夫なのかな!?さっきの世界居なかったけど・・・・・。もしかして死んじゃった?

 

「猿師殿と呼ばれたら、現れてあげるが世の情・・・・・そのぉ、登ったはいいでごザルが降ろして欲しいでごザル」

「・・・・・さ、流石は猿師殿・・・・・」

 

えええええええええ。へいぜんと現れたー。木々の隙間からニュルっと出てきたー!マジかよ、西行妖の支配下に無かったのかな?・・・・・ん?両腕が?

 

「いや〜忍びとしての鍛錬がこんな所で役に立つとは・・・・・・・・・自分の肩を手を使わずに外す訓練とかいつ使うのなんて思ってたでごザルが・・・・・役に立つもんでごザルなぁ」

「流石は猿師殿・・・・・」

 

うん、アリッサが猿師を慕ってるのはよく分かった。まぁ世界規模で人救ってるからなぁ猿師、こう見えて・・・・・。

 

───────ノイズが、走る。

 

あぁ、意識が・・・・・遠のいていく・・・・・。唐突過ぎるだろ・・・・・ハルプモード切れたし・・・・・

 

また此処か、白玉楼なんだろ?分かってるって。で、どうせ幽々子やら妖忌やらが出てくるわけだ。今はそんなことしてる暇ないんだって、きっともうすぐ始まるってのに・・・・・

 

「妖夢〜?よーうーむ〜♪ねーえー、聞いてる~?」

 

おーい、妖夢さんやーい、幽々子様が呼んでるぞー出てこーい。・・・・・・・・・・ん"?な、なんで頬っぺを突かれているんですかね?

 

「あら〜こっち向いたわ〜!!可愛っ!」

 

おまかわ。じゃなくてだな・・・・・なるほど、今回は妖夢視点って事か。話せるか?・・・・・無理だな。話は出来そうにない。俺はあくまでも傍観者って事か。

 

「ゆうこさま?」

「違うわよ〜。ゆ、ゆ、こ!ゆゆちゃんでもいいわよ〜!!キャーー!」

「ゆ、ゆ、こ!」

「そうです、幽々子です!はっ!笑ったっ・・・・・もう死んでもいい・・・・・」

「死んでますよ幽々子様」

「もうっ妖忌は分かってないわねぇ、半分死んでる癖に!」

 

うーん、話してる間に辺りを見渡してみたけど・・・・・脱出口てきな物は無いね。駄神なら何とかしてくれるかな?おーい!だしーん!

 

───「幽々子様マジかわゆす、か( ゚д゚)わ( *゚д゚)ゆ(*´д`*)す」

 

・・・・・ダメだな。使い物にならねぇわ。意識から除外しとこ。

 

「ねぇねぇ、この娘が大きくなったらどうするのかしら?」

「剣を学ばせ、儂の後を継がせます。」

「あらあら~、それって私の剣術指南役って事かしら?」

「えぇ、庭師でもありますがな」

「嬉しいわ〜」

「ゆゆこ!ゆゆこ!」

「そうよ〜、幽々子よ〜!」

 

うっ、・・・・・視界が白く・・・・・時間が飛ぶのか・・・・・?

───「おや、なんだ少しは理解してきたかい?幽々子様可愛いよねぇ・・・・・おい、妖忌場所変われ!」

 

ふぅ、場所は変わってないけど・・・・・時間は変わったらしい。目の前には全く変わらない幽々子が居て、なんかよく分からないけど目元を赤くした妖忌、そして俺の隣には紫がいる、もうね、ダメな予感しかしないね。八雲紫が関わってる時点でね、うん。

 

「─────いいのね?」

良くないです。

「ええ、妖夢の為ですもの。」

「はい。」

「・・・・・はぁ、親バカって怖いわねぇ・・・・・頑張ってね妖夢ちゃん」

「は、はい・・・・・え、えと、わ、私はな、何をすれば?いいんですか・・・・・?」

 

テンパる妖夢。涙ぐむ親バカ2人、1人も親いないけど・・・・・そして呆れた様にため息つきながら妖夢の頭を撫でる紫。・・・・・一体何が始まるんです?

────「第三次老人大戦だ」

強そう。

───「おっ、反応してくれた。いやーこのぷぅわぁふぇくとな僕を無視するなんて・・・・・君もなかなかに罪な男だね☆」

 

うるさ、何この駄神。・・・・・てかさ、この映像ってもしかしてお前が見せてるの?ずっと気になってたんだけど。

 

────「・・・・・・・・・・・・・・・いいや?違うとも。君が見て、僕がそれを共有しているに過ぎない。・・・・・つまり、僕の覗き見だね☆!」

 

・・・・・なぁ、その僕って言い方止めない?リーナと被っててリーナが可哀想になってくるんだけど・・・・・神様なんだから儂とかなんかあるだろ?

 

────「嘘やん、付き合いの長い僕を差し置いて女を取るのかい・・・・・?儂、泣いちゃう!」

 

早速変えてんじゃねぇか!!・・・・・でもあれだな、儂って言うだけで凄いジジイなイメージ湧くね。でもその方が偉そうに見えるよ、やったね!

 

─────「え、あ、そ、そう?いやー、やっぱっそうかー。偉そうに見えちゃうかー。っかー!!でも仕方ないよね、儂、神様だからキラッ☆」

 

あ、うん。それで、どうすればここから出られるのかな?

 

─────「出るのか?・・・・・あ、出るのかい?今いい所なのに?このまま先を見れば、きっと君にとって」

 

あーもう面倒いから出してくれ!早くしないと大変な事になってるかも知れないだろうが!正直我慢の限界だよー!あれだ、あれ。トイレ我慢してていざ間に合ったわいいけどズボン降ろすのに手間取ってる時のあの焦りと似たぐらい焦ってる。

 

─────「それはピンチだ・・・・・。まぁ今の君にその覚悟がないなら仕方が無い。でもいいのかい?今を逃せばきっと嫌なタイミングで見ることになってしまうけど・・・・・」

 

それって俺だけに纏わることなんだろ?なら後回しだ。今は他の皆を優先する。まずは助けられるだけ助けてそして謝らなきゃいけないんだから。

 

─────「そうか・・・・・それもまた選択の一つだろう。よっし、じゃあお繰り返してあげよう。儂のパワーは凄いぞぉ!ちちんぷいぷいw目覚めろw目覚めろwハァぁぁぁあwww」

 

いや巫山戯過ぎだろぉおおおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石は猿師殿・・・・・」

 

私がそう思ったままの言葉を口にすると、後ろで寝息がスゥと聞こえた。各々が猿師の登場に反応を示す中、私は後ろを向く。

 

「────────────」

 

小さな、それこそなぜ聞き取れたのか分からないほどに小さな息。まるで死んだように眠っている妖夢に、私は鳥肌が立った。

 

「よ、妖夢・・・・・寝てしまったか?」

 

またあの薄気味悪い世界に連れ込まれたのだろうか?私がそう思った時、リーナの結界の中だから大丈夫と判断したのか肩をしっかりと嵌め込んだ猿師殿が私の隣にしゃがみこみ、妖夢の容態を確認する。

 

「・・・・・やはり、《一刀修羅》を使ったのでごザルね・・・・・」

「な、なんだその一刀修羅というのは?」

 

私が声を少し荒らげながら尋ねる。妖夢が死んでしまわないか気が気でないからだ。彼女は私にとって恩人なのだ、死んでもらうわけには行かない。

ダリルやリーナも真剣な顔で耳を傾ける。クルメも心配そうな表情で安否を気にしている。

 

「一刀修羅、それはその日1日の生命力をたった1分に凝縮し身体能力を格段に、それこそ10倍近く上昇させる秘技。」

 

ゴクリ、と唾を飲み込む。そのような事をすれば・・・・・何故動けていたのだ?普通なら動けるはずがない・・・・・。

 

「しかし、それを行うには何かが足りないようで、妖夢殿は本人の第三魔法を用いてそれを行ったのでごザル。第三魔法、それはデメリットを倍にする事で本来成し得ない事を成す魔法。」

「つ、つまり・・・・・」

「そう、2日分の生命力を注いで初めて本来の一刀修羅・・・・・1日分と同じ性能を発揮できるのでごザルよ」

「1日ぶんはドブに捨てちまうわけか・・・・・」

「体力の大幅な損失、大量の出血、魔力枯渇、精神疲弊、霊力枯渇、筋肉破損・・・・・。と、何故今さっきまで動いていたのかが分かりません。・・・ごザル」

 

それほどの重症で動いていたのか・・・・・?気力だけで?・・・・・そんな状態だというのに、他人の心配をして・・・・・?

 

「・・・・・妖夢・・・・・貴女と言う人は・・・・・」

 

そっと妖夢の頭を撫でる、あどけない、けれど血に濡れた顔。見れば肩の鎧も腰の装甲も殆どが破損し、無くなっている。洋服だって緑だった筈なのに今は赤が目立つ。左手は戦う意思の現れなのか未だに武器を手放していない。

・・・・・右腕は不自然な程膨れ上がり、時折蠢いている、肩から生えている桜の枝を見る限り、木が中で蠢いているのだろう。激痛のはずだ、耐えられるものでは無いはずだ。それなのに私に謝罪を述べ、反省し・・・・・他人を心配して、他人を預けられる信頼できる医者がやって来て初めて気絶した。

・・・・・やはり、羨ましいよ。私ではそんな事は出来ないだろう。貴女を守るなんて烏滸がましい事を言ったかもしれない。だが・・・・・このあどけない寝顔を歪める痛みから、守りたいと願っても構わないだろう?

 

「凄い奴だろ?妖夢は」

「・・・・・団長!無事でしたか」

 

突如頭の上から声を掛けられた。低めの男性の声、桜花団長の声だ。どうやら彼も西行妖の支配下には無いらしい。結界の外、木の上から話しかけらているから。

 

「妖夢から話は・・・・・聞いてないよな。モンスターを出来る限り倒すんだ、・・・・・俺も詳しくは聞いてないんだがモンスターを倒して魔石を砕けば西行妖の花が咲く、満開にすると何か出来るようになるらしい。・・・・・いや、お前達は妖夢をリヴィラに連れていけ。そして結界で皆の安全を確保してくれ、ハルプ達の仕事量を減らしてやらなきゃな。」

 

じゃあ任せるぞ!そう言って桜花団長は木から木へと飛び移り未だに同士打ちを続けているだろうモンスター達の元へと向かっていった。

 

「ええ、凄い人ですよ妖夢は・・・・・。私では遠く及ばない・・・・・。」

 

と言うか、団長は平気なのだろうか、明らかに怪我だらけだったのだが・・・・・いや、しかし、団長からの直々の命令だ、妖夢を連れてリヴィラに向かおう。たったの1キロ程度だからな。

 

「行くぞ。」

「おうよ」

「Zzzzzはっ!寝てないからね!」

「はいっ!」

「ごザル!!」

 

リーナ・・・・・寝るのはどうなんだ・・・・・この状況でまだ暴れられると大変なんだが・・・・・。

 

「う、うぅ、・・・・・アリッサ、鎧、痛いです・・・・・」

「もう目が覚めたのか?・・・・・もう少し寝ていろ、西行妖の支配下には無いから安心してくれ・・・・・」

「いいえ、いいんです。皆が、頑張ってる、のに私が寝てる、なんて・・・・・」

 

私の背中で楼観剣を左手で持ちながら、妖夢はそう言う。・・・・・本当にかなわないな・・・・・気絶してもすぐ様戻ってくるのだな、家族のために・・・・・か。私もこの戦いが終わったのならば1度家に戻ってみるのも良さそうだ。驚くだろうか、母は、父は。立派になったと言ってくれるかもしれないな・・・・・まだ外面だけのハリボテだが。

 

・・・・・・・・・・・・・・・私は成れるだろうか。自分の全てを使い尽くし、それでも尚、誰かの為に戦えるだろうか。

 

もし、成れるなら。全てを使い尽くしてでも誰かの為に戦える騎士になれたのならば。私は・・・・・私は胸を張って過去(キュクロ)に向き合えるだろうか。

 

「おい、アリッサ速く動け」

 

・・・・・ふっ、迷っている暇など無かったな。成るんだ、ここを超えて。

 

「あぁ、わかっている。」

 

 

 







なんだが久しぶりに勘違いっぽい擬きを書いた気がします。次回明かされますが、ずっと勘違いは続いているのです。

という訳で次回。ケッチャコ・・・・・決着です。

次回予告。

───彼女は立ち上がる、肉体はボロボロで精神は不安定。けれど、それでも立ち上がる。紡がれる最後の詠唱、戦いはここに終結する。しかし、それは始まりでもあったのだ。疑惑は確信へと変わり、彼は叫ぶ。



コメント待ってます。誤字脱字の方もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

58話【────────血染花・禍津桜木西行妖】

遅れてすみません。アリアンロッドのGMやったり、アリアンロッドのシナリオ作ったり。アリアンロッドのシナリオをリプレイで纏めたり。友達がGMでダブルクロスやって、ヴラド三世をやってカズィクルベイでヒャッハーしたり。普通に忙しかったりで投稿が遅れました。

それと、今日友人から「お前明日誕生日だろ?」と言われてしばらく固まった後誕生日を思い出したり、誕生日を思い出すと同時に、今日が小説投稿し始めて1周年であることに気がついたりしましたwww。

これからも頑張っていきますので、よろしくお願いしますー!


ガシャガシャと音が鳴る、皆の身につけた装備が音を立てている、俺はアリッサにおんぶされながら森を抜けていた。

 

時折こちらに飛んで来る咆哮を歯を食いしばりながら反射下界斬で威力を軽減し、一瞬遅くなった咆哮を避けてまた走る。ハルプを召喚してまた活動に当てさせて、()は朦朧とする意識に必死にしがみついていた。

 

「もうすぐリヴィラだ!」

 

アリッサの声が耳に届く。だが、やけに遠い・・・・・。目が開かない。

 

「起きろよ妖夢!着いたぞ!」

 

暫くしてダリルの声が聞こえ、必死に目を開ける。どうやら寝かされていたようだ。視界の端ハルプ()が皆に説明して、桜花達もそれに協力して説得をしている。

 

頑張って、私。もうすぐ、終われるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は団員達の整理整頓を行っていた。魔法職はリーナの近く、前衛職は桜花の近く。って感じでな。

 

『皆!準備はいいか?』

 

おうっ!と重なった声が俺の背を押す。その事に思わず頬がニヤける。なんだかゲームの最終局面でこういうのあるよな。なんて気楽に考える。・・・・・本体の方にも意識を半分割いている筈なのに、殆ど反応が帰ってこなかった。チラリと本体の方を見るが眠っている様に見える。

 

いや、俺にはわかる、眠っているんじゃなくて、瞼を開く力すら無いんだ。

 

『敵は黒白ゴライアス!だけど倒すのはあっちのモンスター達だ!魔石を砕け!灰にしろ!倒せば倒すだけ俺達の勝利は近付くぞ!・・・・・行くぞぉおお!』

「「「「おおおおおおお!」」」」

「前衛職総員!俺に続けぇえええええ!!!」

 

俺の左右を冒険者達が駆け抜けて行く。俺は刀を指し示し方向を指定する形だ。桜花を先頭に駆け抜けて行く冒険者達の背中を見送りながら、俺達は俺達でやる事があった。

 

『さて、魔法職の皆・・・・・・・・・・頑張ってくれよ!!』

「「「「「はい!」」」」」

「お任せを。・・・・・妖夢殿と休んでいてください。此処は私が率います」

 

俺は激励して、命にその場を任せる。もう、霊力が無くなってしまう、完全に尽きる前に空に向けて1発の霊力弾を放った。キラキラと輝き天井に向けてゆっくりと進んでいく。

 

ふぅ・・・・・・・・・・・・・・・後は任せたよ、皆。

 

俺の腕や足、お腹とかが、白い煙の様なものを出しながら消えて行く。

 

「・・・・・ご武運を。」『若奥様こそ。』

 

 

 

 

「そそそ、その名前はっ!!・・・・・・・・・・行ってしまいましたか。・・・・・では圧力が弱まると同時に縄を解除します。・・・・・3・・・・・2・・・・・1・・・・・今っ!」

 

私はバッと駆け出し、刀を振り回す。10人も居ない魔法詠唱者の腕を縛っていた縄を切り落とし、自分も魔法を放つ準備に素早く入る。

 

「詠唱────初めぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

「────弱まった!!全員!体勢を整えろ!正気を取り戻すぞ!!!」

 

殺しあっていたモンスター達が一斉に俺達の方を向く。だが、だからなんだと言うんだ。妖夢は振り絞っている。自分の生命力も、魔力も、霊力も、何もかもを。

 

俺が、負けるわけにはいかない。これでも団長なんだ、団長が気弱になる訳にはいかない。ここを突破されれば、魔法職の盾に成れるのはアリッサだけだ。だから此処を突破される訳にはいかない。

 

「───死んででも、此処を死守するぞ・・・・・!!」

「「「「おうっ!!!」」」」

 

誰もが低く吼えた。誰もが決意を眼に秘めた。生きてやる。殺して、生きてやる。今いる全員で生きて帰ってやる。その為に、死んででも此処を守り通すと。

 

「「グゥオオオオオオオ!!」」「ギャァァアギャギギャ!」「オオオオォォオオオオ!!!」

「総員!!己の全てを振り絞れ!!」

 

 

 

 

 

 

 

私に、何が出来るだろう。虚空に問いかけても答えは返ってこない。

 

私は落ちこぼれだ、桜花も命ちゃんも妖夢ちゃんも。私よりも強くて、なんだって出来る。私が皆より上手いと言えるのは弓位。でも、それはスキルとか魔法の結果。きっとそれが無かったら負けてしまうと思う。

 

今。私は役立たずだ。弓ではあのゴライアス達にまともなダメージなんて与えられないんだから。

 

それでも、それなのに。

 

『千草、大丈夫。・・・・・居てくれるだけでも俺は心強いし、千草の弓は絶対に弱くなんか無い。・・・・・俺は行かなきゃ行けないからもう行くけど・・・・・思いつめないでくれよ?そうだなぁ、もうテキトーに全力で魔法使いまくってくれれば良いと思う。言い方は少し悪いけど信用も信頼もしてるし、頼りにしてるからな』

 

照れくさそうにそう言うハルプちゃん。私は、良いのだろうか?あんなに強い人に頼られて。私は────。

 

ううん、ダメだと思う。だから、此処で示すんだ。私は役立たずでもちゃんと出来る事はあるって。気を使われずに済むように、強くなるんだ。

 

「【穿つ、必中の一矢】」

 

引き絞り、魔力を込める。願いを込める。

 

そして、放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「【掛けまくも畏(かしこ)き――】」

「【平の原にて吹き溜まり、空に架かりて天に座せ。】」

「【誓いを此処に。】」

「【人よ強くあれ、何よりも儚き定命の人よ】」

「【深闇より暗き黒い剣、鮮血よりも紅き赫い剣。】」

「【響き渡る鎚の音、静寂を生む人々】」

 

殆ど同時に詠唱が始まり、魔法陣が展開される。水晶がいたる所から生える冒険者の街、リヴィラから。様々な色で構成された無数の魔法陣だ。

 

「【いかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ、】」

「【空に架かりて天に座せ。汝は彼方、我は此方。】」

「【我が魂に刻むは、呪い。】」

「【人よ輝け、何よりも強く刹那の輝きを。】」

「【深き大いなる龍脈を貫きし汝の銘において】」

「【高らかに宣言せよ。判決は下る───】」

 

リヴィラを覆う結界の中、魔法を学び、魔法を扱う彼ら彼女らは懸命に魔法を詠唱していた。西行妖の効力により、魔法の詠唱難度は上昇しているからだ。そして何よりも自分の命が掛かっている。失敗する訳にはいかない。

 

「■■■■■■■■!!」

「【穿つ、必中の一矢】弓神ノ一矢(ユミガミノイチ)!!」

 

時折放たれる咆哮、防御結界など張られていない此処にそんな物が打ち込まれれば壊滅は難くない。かん高い風切り音と共に飛来した魔法の矢がそれを相殺する。

 

「──────ふぅ。・・・・・此処は、殺らせない。」

 

静かにそう言い切った千草。その後ろ姿は決して気弱な少女とは思えない。確かな戦士がそこにはいた。

 

「【尊き天よりの導きよ。卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力(しんりょく)を。】」

「【汝は彼方、我は此方。虚(ゆめ)と現(うつつ)を別け隔てよう。】」

「【祖は誓約、破らぬ限り、力と為りし呪いなり。】」

「【人よ貫け、何にも負けぬその信念を掲げ。】」

「【我ココに戦に誓わん】」

「【汝罪深き咎人成り、悔い改め改心ならず、故その身無窮に等しき苦痛を与えん。】」

 

魔力の高まりが否応にも理解できる。汗が命の頬を滑り首を撫でて服に染み込む。謳うは武神の伝説、願うは勝利。心に確かな勝利を思い描き、妖夢を想った。

 

「(力をお貸しください・・・・・!!)【救え浄化の光、破邪の刃。払え平定の太刀、征伐の霊剣(れいおう)。】」

「【我が閉ざす。我が隠す。我が別つ。我が偽る。】」

「【されど誓約破りし時、破滅の呪いが降り掛からん。】」

「【人よ叫べ、自らの存在を主張せよ。】」

「【我等が前に立ち塞ぐ全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、】」

「【此処に神判はなった。】」

 

やがて、力の高まりは最高と呼べるまでに達する。紡がれる無数の祈りは今───一つとなった。

 

「【今ここに、我が命(な)において招来する。天より降(いた)り、地を統(す)べよ――神武闘征(しんぶとうせい)】」

「【汝等、甘い虚に身を任せ、其を現と心得よ。

我が名はサギリ!】」

「【我が刻む誓いは『汝らの守護』なり。】」

「【人よ誓え、何にも屈せぬと。】」

「【等しく永劫の眠りを与えんことを。我が振るい、汝が奪え。生命の理を───】」

「【天より墜ちる怒槌が汝を打ち砕かん。】」

 

最後の一文が紡がれ、今正に魔法が放たれる。狙いは暴れる事で西行妖から逃れようと踠く2体のゴライアス。しかし彼らは逃げられない。

 

「『フツノミタマ!』」

「『霧之狭霧神!』」

「『誓約(ゲッシュ)』」

「『不屈栄光(ペルセヴェランテ)!』」

「『赫剣猟犬(フルンディング)!』」

「『神判の日(オーディール)!』」

 

天から光の柱がゴライアス達の足元に展開された巨大な魔法陣を貫く。超重力の結界が西行妖ごと階層を落としかねない程に押しつぶす。

霧がリヴィラを包み込んだ。

アリッサの鎧が一瞬神聖文字に覆われ、次の瞬間には妖しげな光を放つ。

術者を中心とした半径二十五メートル範囲に眩い波が走ったと思えば足腰は確りとし、力が漲った。

赫い巨大な猟犬が現れたと思えば空中で回転し、巨大な剣となる、そして杖の動きに従って、ゴライアスに向けて突撃していった。

フツノミタマの光柱に沿うように光が差し込めば、何処からか現れた隕石がゴライアス達に降り注いだ。

 

しかし、この程度で終わる筈もなし。

 

「【千差万別魔の嵐。月。火。水。木。金。土。日。雷。風。光。闇。毒。酸。何が当たるか知る由もなく。引かれた線の導くままに】魔法陣停止。」

 

「【闇と光よ我が剣に集え。騎士はその剣を真紅の空へと掲げ、すべてを守らんと決意する。故に、我こそは】『唯一無二の盾』(デア・シールド)

 

妖しく輝く鎧、その隙間から光が漏れる。タダでさえ強化されたステイタスは2倍化される。

 

「これならば・・・・・防げるか。」

 

「【千差万別魔の嵐。月。火。水。木。金。土。日。雷。風。光。闇。毒。酸。何が当たるか知る由もなく。引かれた線の導くままに】魔法陣同調。同時処理開始。─────『阿弥陀籤!!』」

 

魔法陣が2つ現れリーナが腕を大きく広げれば、彼女の頭上に光の玉が約・・・・・900個現れた。一つの紫の魔法陣が弾け、白い光の玉は紫色に変色した。

 

「────あんまり効果は無いかもだけど一応僕のとっておきさ・・・・・!毒+光の弾幕に飲み込まれろ・・・・・!!」

 

紫色の奔流が龍の如く唸り、尾を引きながら飛んでいく。命中した場所が弾け変色し紫色になる。毒の強さがありありと伺えた。

 

「「□■■■□□■□□■■□!!!」」

 

身動き一つ取れず悲しげな恨めしげな叫び声を上げ、ゴライアス達は更に痛めつけられて行く。

最早客観的に見るならば虐めや拷問と変わらないが、それを行ってなお倒れず、なお折れない殺意は此処で絶やす他ないのだ。

 

魔素が、花を咲かせていく。

 

ポッ、ポッ。と花が咲いていく。一つ一つは可愛げのある花弁でも、それがこの異様な戦いを生み出す結果となっている事に違いはない。

 

花が咲く。冒険者達はそれを見ながらいくつもの思いを心に秘めていた。

 

禍々しく、神々しく、可愛らしく咲く花は、魂を吸い咲いた妖しい花だ。けれど、魅入られる。

 

魂が、心が魅入られるのだ。受け入れ難き「死」を、危ないもの見たさで心が吸い寄せられる。

 

心を律しろ、自分を見失うな。隣に居る者にそう叫び、自分も叫び返される。でなければ見失う、生きる意味を見失う。それほどに甘美で妖艶な誘いだ。

 

「ウゥゥウアアアア!!!」

 

紅い光を残しながらクルメが駆け抜ける。モンスターが桜に魅入られている隙を突いて殺しまくる。喉を、魔石を、脳を、心臓を。刺して、斬って、砕いて、潰す。

 

「おおおおおお!!!」

 

雷を纏い、電光石火の如く速度で槍を振るう。桜花の乱舞がモンスターを打ち砕いた。槍を頭上で回し、地面に突き刺せば雷は周囲のモンスターに落ち、内部を破壊し尽くす。

 

 

 

「く、っそがぁぁぁあああ!」

 

ベートもまた、奮戦していた。蹴りつけたその瞬間、自身に流れ込んでくる悪意の塊。心がそれを拒絶し、身体が西行妖から離れようと動く。

 

しかし、それを意志の力でねじ伏せた。

 

「俺は、負けられねぇんだよ!破るわけには行かねぇんだよ!!テメェを此処で抑えなきゃならねぇんだ!!」

 

彼の身体を抑えたのは約束。家族を守ってくれと言う彼女らとの約束だ。自分が引けば魔法は放てない、魔法が放てなければ花は咲く速度を著しく落とし、自分が離れれば冒険者達は自殺を始めてしまう。

 

足から這い上がって来る絶望を、毛を逆立て鳥肌を立てて尻尾をピンと張りながら、けれど足は離さなかった。

 

「・・・・・テメェの全部、貰ってやる・・・・・!!」

 

震える声で吠えた。

 

「そして後で全部あのガキに返すっ!!」

 

足に力を込める。仰け反っていた身体を前に倒し、西行妖を睨みつけた。可視化出来るほどの禍々しい奔流が発生し、心を蝕もうと流れ込む。しかし、それすらブーツが吸収して行く。

 

「負けねぇ・・・・・俺は負けねぇぞ。」

 

強く、吠える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼんやりと見える冒険者達の後ろ姿を見ながら俺は自問自答を重ねる。心の奥底へと潜っていく。いや、沈んでいる。やがて意識を失って暗転した。

 

身体が動きません、どうしたらいいですか?

そんな物は分からない。

どうして動かないんでしょう?

一刀修羅を使ったから。

どうして使ったんでしたっけ?

使わないと魔法を使えなかったからだ。

 

いま、何が起きているんですか?

西行妖を咲かせようとみんなが頑張っている。

今は何をしているんです?。

皆が頑張る中何も出来ずに動けないでいる。

今、みんなは何を求めてるのですか?

わからない。

今出来る事は何ですか?

・・・・・立ち上がって最後の詠唱をする事。

なんでしないんですか?

動けないからだ。

 

───身体が動きません。どうしますか。

どうすることもできそうに無い。

本当に?

本当に。

ではここで諦めますか?

諦めたくない。

どうして?

皆が諦めていないから。約束も残っているから。

じゃあ、なんで皆諦めないと思うのですか?

・・・・・・・・・・わからない。

本当に?

本当に。

生きたいと思ってますか?。

思ってる。

本当に?

本当だよ、家族が悲しむだろう?

そうですね、悲しむと思います。自分はどうでした?

・・・・・覚えてない。忘れちゃったよ。

 

 

─────家族が危険です。けど、身体は動かない。どうすればいいのでしょう?

・・・・・どうにかするしかないだろ。

だからどうやってやるんですか。

気合いだよ気合い。古来から気合で出来ないものは無いって決まってんだよ。

気合じゃどうにもならない事も多いですよ?

おっと、心は硝子だぞ。

頑張れば動けますか?

頑張らないと動けないだろ。

踏ん張るんですか?

そうだよ。

実とか出ないです?

何言ってんのさ・・・・・。

真似をして笑わせてみようかと。

それで笑うのは小学生までだよ。

 

 

─────皆の声が聞こえますね。

いや、俺には聞こえないけど・・・・・

難聴ですか。

違いますけど。

皆立ち上がるのを待ってますよ。

俺の事を?

はい。

・・・・・。

眠気が覚めてきましたね、いつも見たいに笑ってください。

デュフフww

・・・・・。

正直すまんかった。

 

 

────もう目覚めそうですか?

わかるのかよ。

はいっ。同じですから、私達。

うーむ?今更だけど違和感が・・・・・。

もう動けそうですか?

・・・・・あぁ、動けそう。

なら動いてください、いつも見たいに私を導いて。

今頑張ってる。

そう、じゃあ頑張って下さい。私も頑張ります。

あぁ─────────────「ぅ・・・・・あ、ぁ。」

 

身体を動かしていく。指先、手の平、手首、腕、肩。順番に少しづつ。激痛でめまいがするけれど、立つことが出来た。まだ終わってない。

 

花は・・・・・もうほとんど咲いている、良かった、間に合った。咲かせた時何が起きるか分からない。だから、少しでも早く詠唱を行いたかった。

 

西行妖の前まで行こう。じゃないと駄目な気がするんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

私の後で物音がした。私が弓の構えを解いて振り向けば、妖夢ちゃんが刀を杖にして立ち上がっていた。目は虚で光なんて無くて、荒い小さな息がその苦しさを伝えていて・・・・・。

 

血が抜けて青ざめた顔で、でも諦めてなくて、1歩、また1歩と歩いて行く。転びそうになりながらも刀に寄りかかり耐える。

 

覚束無い足運びは見ている私の不安を煽った。何処からか鳴り響く鐘の音が私を焦らせる。

 

「ハァ──────ハァ──────」

 

必死に、西行妖を目指して歩いて行く。躓いて、ふらついて、転びそうになりながら。1歩、歩く度に呻き声を上げながら。鐘の音がなっていても、不思議と声は全部拾えた。

 

「諦め、たくないっ・・・・・私の、せいで、こうなったなら・・・・・諦めちゃ、ダメ、だからっ・・・・・!!」

 

自分を責めて、誰かの為に。その姿は痛々しくて、見てられなくて。なのに、見てしまう。私は思わず走り出した。

 

「─────千、草?・・・・・ありがとう、ございます。」

 

私は妖夢ちゃんに肩を貸す。こうした方いい、そんな気がしていても立ってもいられなかった。妖夢ちゃんが少し笑う。・・・・・でも、その笑顔が消えてしまいそうなものだったから私は涙が出そうになる。こんなになってまで戦おうとしているなんて、私じゃ絶対に無理だ。

 

「私も、手伝うからっ、頑張って妖夢ちゃんっ・・・・・」

 

喉を迫り上がる何かのせいで上手く声をかけられない。つっかえてしまう言葉を飲み込んで今は妖夢ちゃんを支える事に集中する。

 

「私も、手伝います千草殿、妖夢殿」

 

命ちゃんもやって来て私とは逆側の肩を支える。

 

「命、ありがとう、ございます」

 

苦しそうに一生懸命言葉を吐き出す妖夢ちゃんに命ちゃんは涙を流していた。でも話し方は変わっていない。

 

「えぇ、行きましょう妖夢殿。」

 

ゆっくりだけど、でも確かに1歩ずつ、西行妖に近づいていく。呆然と私達を見ていた皆も魔法をまた撃ち始めた。

 

「もう、すぐ、ですね・・・・・」

「はい・・・・・」「うん・・・・・」

 

妖夢ちゃんが首をゆっくりと上げて西行妖の頂上を見る。もうすぐ満開だ、妖夢ちゃんを支えていないと・・・・・。

 

「■■■■■■■■■■■■!!!」

 

黒いゴライアスが最後の抵抗とばかりに暴れだす。木を破壊し、自分の腕を引きちぎり、身体が壊れるのを無視してでも抜け出そうと試みる。そこには必死さが滲み出ていた。死にたくないんだ、ゴライアスも。さっきまでとは違うゴライアスの動きにそう思う。

 

「満開!満開でごザルよぉーーー!!!」

 

猿師さんがそう言って指を指す。

 

そこには幻想的な光景が広がっていた。

 

満開に花開いた桜は枝を広げ、階層を覆い尽くさんばかりに咲いていた。

上を見上げてみれば、何処を見ても桜が見える。

 

美しくも恐ろしい。そんな雰囲気。妖夢ちゃんの方を見れば、目を大きく開いてそんな光景を見ていた。

 

「千草・・・・・命・・・・・離れていて、下さい。」

「え?で、でも・・・・・」「妖夢殿!私達を頼って下さい!」

 

桜から目を離さずに、妖夢ちゃんが私と命ちゃんを弱々しく押しのけようとする。でも今離せば妖夢ちゃんは倒れてしまうかもしれない。離すわけにはいかない。命ちゃんも同じ考えだったみたいで説得しようとしている。

 

「嬉しい・・・・・です、けど、死なせたくない。」

 

妖夢ちゃんが眼に光を取り戻して私たちの目を正面から見つめた。そこにあったのは深い決意で、真剣な目。私はこの目に弱い。カッコイイと思うし、邪魔しちゃダメだと思っちゃうから。

 

「妖夢、殿・・・・・わかり、ました・・・・・。」

 

命ちゃんが震える手で妖夢ちゃんの服を握りしめていたけど、それを離して転ばないか心配そうにしながらも少しづつ後ろに下がる。転びそうなったら飛び出して止められるように、そう思ってるんだと思う。私も同じように離れていく。

 

「ありがとう、ございます。二人とも。」

 

そう言って妖夢ちゃんは私の方を振り向き笑った。そして西行妖に向き直り楼観剣を地面に突き刺して柄に両手を乗せる。

 

リーナさんの魔法で風が強く吹き始めた。妖夢ちゃんのスカートがはためき、髪が乱れる。鐘の音の感覚が早くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楼観剣を突き刺し柄に手を乗せる。妖夢は目を瞑ったまま暫し佇む。脳裏に浮かぶ記憶の数々。タケミカヅチ、桜花、命、千草・・・・・。

 

目を開いた。背後からは未だ魔法が放たれ続けている。

 

全ては妖夢にかかっていた。妖夢がどのような選択をするかで全ては変わる。ほんの少しして魔法の音は無くなった。誰もが、妖夢ただ1人に注目していた。

 

詠唱が始まった。

 

「──────【揺蕩うなかれ、流離うなかれと、乞い願う。】」

 

思えば、彼女の道筋は一直線では無かった。ブレて、外れかけて、けれど、戻ってくる。そして、願って来た。家族の為になりたいと。

 

肩に生えた桜の枝が急激に成長し、西行妖に向けて根を伸ばしていく。根は妖夢の身体を抉り足を突き抜け地面を進む。

 

「【我が腕に抱かれて、汝の罪は赦されましょう。】」

 

決して、赦されぬ罪を犯したとしても。彼は止まらない。止まることを許されない。記憶を失い、自己を消され、けれど、貫こうと足掻く。

 

謳う声は高く天使の様で、服を、髪を靡かせ歌う姿は女神の如き美しさ。桜の様に妖艶で、目が離せない。

 

「【例え死して骸と還ろうと、私の愛は色褪せず。】」

 

例え何時か死のうとも、決して恨まず共に逝こう。彼女はそう決意した。失われた記憶、感じることの出来るもう1人の自分。決して見捨てたりはしない。

 

まるで逃がさないと言わないばかりに妖夢の周りから桜が生え、優しく包み込んでいく。足、腹、首を優しく締めていく。「やめなさい」と母が優しく子に語りかけるように。

 

「【血の通わぬ死体の体であろうとも、傍に寄り添い共にあろう。】」

 

1度は死んだこの命。例え魂だけとなろうとも、手にした唯一の安らぎ(家族)は決して失う訳にはいかない。見つけた唯一の温もり()は決して色褪せさせはしない。彼は、願う。『大切な人の生存』を。

 

締められた妖夢が宙に浮く。持ち上げられた身体は一切の抵抗をせず、その顔はむしろ笑顔であった。

それを目撃した人々は思う、アレではまるで・・・・・生贄じゃないか、と。人々の目にはこう映る、自分達の為に犠牲になる事を何ら苦とは思わず、むしろ受け入れ笑っているのだと。

 

「【──────────血染花・禍津桜木西行妖】】」

 

紡がれた最後の詠唱。その瞬間妖夢の顔が恐怖と怒りと悲しみと、何より深い後悔に歪んでいた事を、同時に放たれた極光により誰も見る事は叶わなかった。

 

 

名前が告げられると共に木は脈打った。ベル・クラネルの放った極光が黒いゴライアスを消し飛ばし、砕かれた魔石は西行妖に吸収されてゆく。

 

極光が消えた頃、階層中に広がっていた根は暴れだし唯でさえひび割れていた地面は悲惨な有り様となり、最早無事なのはリヴィラだけだろう。いや、唯一妖夢の周りだけ根っこも木も生えていた。

 

「何とか戻ってこれたか!!はぁ・・・・・はぁ。」

 

ベートが脈打つ大地を蹴りながらリヴィラに帰還する。

 

やがて西行妖は黒いオーラの様なものを放ち始めた。極光に飲まれず生きている白いゴライアスが悲鳴を上げ続けている。自分に何が起きるのか、察したのであろう。

 

階層が崩壊しかねない、そんな揺れになったときだ。西行妖が一際大きな揺れを放ったと思えば停止する。

静まり返る階層に響くのは白いゴライアスの悲しげな鳴き声だけだ。

 

伏せていた頭を上げて、冒険者逹は西行妖の方を見る。そこで衝撃の光景を目の当たりにした。

 

 

 

 

少女だ。少女が西行妖に向けて歩いて行く。

 

ゆったりとした服を着た少女が西行妖に近付くにつれて、まるで西行妖が「恐れている」かの様に震え始めた。根が地面から顔を出し少女を殴りつけるが、まるで幻覚であるかのように突き抜ける。

 

ふと、少女が妖夢の方を向いて微笑む。

 

【────────────────────!!!!】

 

西行妖の声にならない悲鳴が鳴り響く。そして、その小さな手が西行妖の幹に触れた時─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────西行妖は消滅した。ゴライアスも、ダンジョンの一部すらも巻き込んで。

 

一帯全てを殺して消えた。ダンジョンすら殺して。もう、2度とあの場所が再生する事はないだろう。ダンジョンを人に例えるならばあの場所は壊死したのだから。

 

しかし、まだ、おわっていない。西行妖が消えたと言う事は階層中に広がっていた根も消えた事になる。階層を支えていた根が無くなるという事は即ち・・・・・崩壊だ。

 

だが、先にも言った通りリヴィラは一部を除いて安全である。・・・・・西行妖の根や枝に覆われていた妖夢の周辺を除いて。

 

「──────妖夢・・・・・!!!!」

 

タケミカヅチが誰よりも先に我に返り妖夢に手を伸ばした。

 

「・・・・・・・・・・タケ・・・・・私は・・・・・・・・・・」

 

地面が崩れる。妖夢の周りだけ、綺麗に。

 

「掴まれ!!!!」

「・・・・・ぁ・・・・・」

 

伸ばした手は届かない。落ちてゆく、そう思った時だ。

 

『受け、取れ・・・・・タケ・・・・・!!』

「ああ!!」

 

現れたハルプが妖夢の背を蹴りタケミカヅチへとパスする。・・・・・そして、ハルプは先の見えない暗闇へと落ちて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処までも、落ちて行く。

 

落ちて。

 

墜ちて。

 

堕ちて行く。

 

『俺は・・・・・・・・・・お、れは・・・・・妖夢じゃ・・・・・無かった・・・・・・・・・・ッ!!何もかもッ間違っていたッ!』

 

悲鳴は、届かない。

 





次回はほのぼの回()

投稿は・・・・・1週間後・・・・・に出来たらいいなぁ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

離別の始まり
59話「まだ、大丈夫ですよね?」



1週間後に投稿、そう言ったな?・・・・・間に合わなかったよ・・・・・。

しかし。約束通りにほのぼの要素も含まれているのですっ。さらに!ほのぼの要素を加速させる挿絵を・・・・・!

妖夢
【挿絵表示】


ハルプ
【挿絵表示】








時は西行妖発動直後まで遡る。

 

突然、昼下がりのオラリオを襲ったのは猛烈な殺意だった。恩恵を持たない誰もが震え上がり座り込む中、冒険者や神々は足元・・・・・ダンジョンを見つめていた。

 

「こ、これは・・・・・まさか使ったんか?そんな事態になってもうたんか・・・・・?」

 

ロキもまた、足元を見つめている者の1人だ。ロキの頭の中にはありありと木に体を抉られ貫かれも悶え苦しむ団員達が浮かんでいるのだから、心配で仕方が無いのだろう。幸いにもオラリオに届いたのは殺気だけであり、効果範囲外であった為に犠牲者は出ない。

 

とは言え不意に襲ってきた殺気は街中を混乱させた。多くの者達が肩身を寄せ合い震えている。

 

「やぁ、ただいま。ロキ。」

「フィン!どうなってるんや?遠征はもうおわったんか?」

 

原作とは違いベート達が解毒薬を取りに戻っていないため、ロキの驚きは大きい。それと同時に深い安堵を得たロキは思わずフィンに抱きつく。フィンはされるがままにして、しばし待つ。

 

「・・もういいかな?」

「せやな、何があったか話しーや。」

 

真剣な目でロキはフィンを見つめる。フィンは包み隠さず妖夢から話されたことを語っただろう。御贔屓に捉えるなら人命救助の作戦。けれど、未然に防ぐ手立てなど、それこそいくらでもある。

 

「・・・・・・・・・・なんで妖夢たんはその方法を取らなかったんや?」

 

何かが引っかかる。ロキの知る妖夢は決してお馬鹿さんでは無い、そもそもゴライアスが出現しないようにする事くらいは出来そうなものである。なのに、それをしない。敢えて出現させる。・・・・・なぜ?

 

「死ぬかも知れないから死地を呼び込むって、何がしたいねん。」

「不器用では無いはずだけれどね。」

 

2人が頭を捻っていると、「失礼します!」と聞きなれはしないが知っている声が聞こえた。ハーフエルフのギルド職員エイナだ。ハァハァと少し息を切らしており、走ってきたのが伺えた。足が小刻みに震えているのは何も疲れだけでは無いのだろう。恐怖を耐えるだけで精一杯な人が多い中、普段通り動けている方だと言える。

 

エイナは少し息を整えた後話し始めた。

 

「ギルドは捜索及び救出隊の編成を開始しています。現在はガネーシャ・ファミリア、フレイヤ・ファミリアその他5つのファミリアが参加しています。」

 

エイナの表情をロキは細い目で舐めるように見る。そこにあったのは純粋な心配だけ、この殺気の中、人を想う気持ちだけで耐えたのだと当たりをつけロキはニンマリと微笑む。フィンからアイズ達3人が残っている事を聞いていたので渡りに船と団員達をフィンに選ばせる。

 

「・・・・・ふむ、こんなものかな。編成は完成だ、みんなポーションその他アイテムの確認、装備の確認を済ませたらダンジョンの入口へ来てくれ。集団で動けば更に街の人々を混乱させることになる、なるべくバラバラに集まるように。」

「「「「はいっ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間を戻そう、時は戦いが終わった瞬間へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()は誰かに抱きとめられています。誰なのでしょう・・・・・・・うっ・・・・・ノイズが・・・・・なるほど、タケミカヅチ様ですか。呼び方はタケ。

 

「妖夢!大丈夫か!!」

 

私は思い出しました。自分が誰で、どうしてここに来たのか。何もかも。・・・・・・・・・・・・・・・私に憑いていたあの子がいない。それが、途轍も無く悲しい、寂しい。まるで心にポッカリ穴があいたみたいです。

 

身体が痛い。どうしてここまで無理をしたのかな・・・・・そっか、大切だったんですね。

 

記憶が流れ込んできました。それは失った後に手にした記憶でした。2人で手に入れた記憶です。

 

「・・・・・タケ・・・・・」

 

一言呟くだけで心が染みていく。染みて痛いけれど、少し心地よい。けれど、やっぱり足りない。

 

「妖夢・・・・・良かった・・・・・!」

 

ガバッと私を抱きしめるタケ。どうやら気がついて無いみたい、私は貴方の知る妖夢では無いのに・・・・・。

言いたいけれど声が出ない。もう何も残っていないみたいです。指先すら動かない・・・・・呼吸が浅くなっていく・・・・・意識が・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────嘘だ。

 

目の前に流れる光景は過去。けれど俺の物じゃない。

 

─────嘘だ。

 

「みょおおおおおおおおおん!!」

 

空を落ちて、地面に迫る。けれどそれは『俺』では無い。

 

────嘘だ。

 

光が『誰か』に迫る。

 

「ひ!?お化け・・・・・!?あわわわわ!どどどうしたら!」

 

『誰か』は光が怖いのか両腕を振って退けようとする。けれど光はその『誰か』の周りを回って何かを伺っている。

 

「ひぃいいいい!乗っ取られる~!?」

 

───嘘だ!

 

光がより一層強く輝いた時『誰か』は半霊を光に向けて突撃させた。

 

「お願い!半霊!!」

 

そして空すら覆う程の輝きの後。『俺』は気を失い落ちていく・・・・・。

 

──有り得ない。瞞しだ。

 

目が覚めた俺は近くの湖に近づいて身体を確認し始めた。

 

「みょおおおおぉぉぉん!」

 

鈴のような綺麗な可愛らしい声で『俺』は叫ぶ。

 

──違う、違うんだ。俺は・・・・・奪って無い。

 

 

 

 

『嘘だ!!』

「「「「「「「?!」」」」」」」

 

 

かけられていた布団を弾き飛ばして起き上がる。そして気がついた幾つもの視線。

 

振り向いた先にいたのはモンスター。リザードマンにアラクネ、ハーピィにガーゴイル。それらがこちらを警戒していたり、好奇の視線を向けている。

 

『・・・・・・・・・・何だ、お前達。』

 

顔が引きつっているのが分かる。だが受け入れたくない。

 

「グルルル」

『話せるなら話せ。話せないなら敵だと判断する。』

 

声が、今までに無いくらい怒りを帯びている。思考はこうして冷静なのに、なぜ身体はここまで怒っているのだろうか。・・・・・身体は無いか。

 

──ピシリと罅が入る。

 

「「「「・・・」」」」

 

モンスター達は何やら視線で意思の疎通をしている様だ。やはり『異端児(ゼノス)』であっているようだ。ゼノスはモンスターでありながら人の様に言葉を操りそして暮らす事の出来る極小数の特異体。

 

そんなゼノスの内1匹が前に出る。リザードマンだ。

 

「あー。オレっちはリド。宜しくなっ」

 

ビシッと親指を立ててこちらに恐らくだがウィンクするリド。

 

『・・・・・』

「驚くのも無理はないけどよ、話せって言ったのはそっちだぜ?」

 

それもそうだ。なぜ言葉が出ないんだろう。・・・・・・・・・・そもそも何で俺はモンスター何かと話そうとしてるんだ?地上に戻らなきゃ・・・・・・・・・・地上に戻って何になる。

 

──ピシリ。罅が入る。

 

地上に俺の何がある?・・・・・家族?いや、違う。それは瞞しだった。嘘だった。幻だった。皆・・・・・『俺』の事なんて見てくれてなかった。

 

──ピシリ。メリメリ。広がっていく。

 

「お、おい・・・・・大丈夫か?」

『ん?あぁ、大丈夫だよ。俺の名前はハルプ。宜しくな!』

 

なら、作ればいい。失ったならまた・・・・・すべてを奪われたなら、また、つくればいい。何度でも何度でも繰り返せばいい。

 

「おう!宜しくハルっち!」

『ハルっち?ははは、宜しくなリドっち!』

 

──自己否定は精神の崩壊を引き起こす。

 

俺は魂魄妖夢じゃない。タケミカヅチ・ファミリアは魂魄妖夢の家族だ。俺の物じゃない。・・・・・俺の物だった筈なのに・・・・・今は、違う・・・・・。

 

──罅が広がっていく。

 

「マタ厄介ナモノヲヒロッテキタナ、リド」

「グロス、そんな事言うなよ。ハルっちだって嫌がるぜ?」

 

・・・・・厄介か、確かにそうだ。俺は厄介な何かなんだから。妖夢からすれば厄介なものに違いない。

 

『いや、グロスの言う通りだよ?俺は厄介者なんだから。』

 

痛い。何が痛いのかわからないけど。何故か痛い。

 

『俺なんかを助けてくれてありがとうな?助けたくないって思う奴も居たと思う、ありがとう。』

 

頭を下げて、・・・・・この後はどうすればいいんだっけ。わからない。俺はどう動けばいいんだ。

 

「いいんだよハルっち。よぉし!皆で宴と行こうぜ!」

「「「わぁぁあ!!」」」

 

様々な鳴き声が反響しあって耳に届く。

 

「笑ってくれよハルっち!皆で楽しもうぜ!」

『わかった!』

 

そうか、わらえばいいのか。なら、笑おう。自分の無様さを嗤おう。嘆くな、笑え。後悔するな・・・・・笑え。

 

「・・・・・泣いてるのかハルっち。」

『嬉し涙だよ。』

 

俺はいつの間にか出ていた涙を拭う。目の前にセイレーンや、ハーピーなどが降り立ち自己紹介を重ねていく。歌って踊って、食べて飲んで。

 

「いやな事なんて忘れちまえばいいんだぜ!」

『あはははそうだな!』

 

わすれよう。全ては嘘だったんだから。夢だったんだから。

 

───ヒビが広がる。

 

「・・・・・ハルっち」

『ん?どうしたリド』

「ははっ、何でもないぜ」

『そか。で?どうだよ味は』

「さいっこう!何でこんなに料理旨いんだ!?」

『・・・・・さてな、忘れちまった。』

 

俺の名前はハルプ。魂魄妖夢などでは無いし、ほかの何者でも無いはずだ。

 

───ヒビが、広がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下深くで宴会が開かれた。そして、地上でも宴が開かれたのだ。ギルド職員は大量に持ち寄られた仕事の処理に大忙しであり、今回の騒動の罰はまた後日に受けることになるだろう。なら宴やっちゃおう!と言う安直な考えにより、宴は始まったのだ。発案はロキ。

 

「ん〜!飲めや!歌えや!チキチキ!宴会ターイムー!」

 

イヤッフゥゥウーーー!!と歓声があちこちから上がる。死傷者は沢山でた。しかし、それよりも生きて帰ってこれた事、それ自体が嬉しくてたまらないのだ。

 

「のめのめーー!!」

「一気!一気!」

「ゴクゴク・・・・・ぷはァ!」

「ヒューヒュー!」

 

そんなめでたい宴会の中、妖夢はキョロキョロしながら両手を胸元で合わせ、モジモジしている。傍から見ても全くと言っていいほどにこの場のテンションに合わない。

 

それもそのはず、記憶があっても実体験が伴わないのであれば、混乱は避けられない。

 

「おい妖夢」

「ひゃい!」

 

そんな様子の妖夢に勿論皆気が付かない訳が無い。笑い合いながらも、誰が励ましに行くのか相談していたのだ。妖夢以外からすれば、妖夢の挙動不審は今回の戦いによる死傷者が原因だと思うだろう。ベートもそう思って話しかけた・・・・・のだが。

 

「・・・・・俺は謝らねぇぞ。間違った事は言ってねぇからな。テメェもうじうじしてねーで切り替えろ。」

「は、は、はひ!」

 

あわあわ、わたわた、と慌てながら頭を下げ、ベートが、踊る猿師に目を取られた隙に「タケぇ・・・・・」とタケミカヅチの後ろに隠れて、服を掴んで顔をタケミカヅチの背中に押し付ける。

 

「おっ?妖夢どうした?膝座るか?」

「・・・・・はい」

 

タケミカヅチの後ろからチラチラと頭を出しては宴会場を見ていた妖夢だが、タケミカヅチにそう言われて、タケミカヅチの胡坐で出来た窪みにすっぽりとハマる。

 

「しおらしい姿も最高だぜ」

「しょぼーん、としているのもポイント高いな」

「何言ってるんだよ何時も最高だろう?」

「「「それな」」」

 

一部のファンの言動に妖夢がビビっているとタケミカヅチが睨みを効かせて一掃する。妖夢は小さな体を更に小さく縮めてフルフルと震えている。

 

「なー、ベート何したん?遂に襲ったか?」

「はぁ、全く君は・・・・・」

「愚かな・・・・・」

「はぁ!?どうしてそうなんだよ!?言っとくけど俺は何も間違った事はしてねぇからな!?」

「最初は皆そういうんやで?」

「「「経験者は語る」」」

「なんでや!?」

 

そんな会話を聞いた皆の視線がベートとロキに集中する。集中するきっかけを作ったフィン、リヴェリア、ガレスは何処吹く風だ。

 

「みろ、アレが我らが妖夢様を泣かせた男だ」

「あぁ、アレが我らが妖夢様を泣かせた男か」

「うむ、アレが我らが妖夢様を泣かせた狼だ」

「獣・・・・・ケダモノだわ・・・・・」

 

 

悪ノリに悪ノリが重なって最早ベートが可哀想である。

 

「おい!妖夢お前も何か言いやがれ!テメェのせいで俺が被害被ってんだぞ!」

 

ベートの悲痛とも言える叫びに妖夢ビクッと肩を震わせたあと、ビクビクしながら言葉を紡いでいく。

 

「え、えと、ベートさんは皆の為に・・・・・」

 

「「「「「「「ベート・・さん?」」」」」」」

 

「へ?(妖夢)」

「なん・・・・・だと・・・・・?(タケ)」

「さん・・・・・・・・・・だと・・・・・?(桜花)」

「ありえへん、冗談やったけど本当に・・・・・(ロキ)」

「嘘・・・・・(千草)」

「なななななな!?(命)」

「ちょ、ちょっと待て、なんで俺を見てる?なんだその疑いの目は。おい!冗談は止めろ!(ベート)」

 

妖夢の悪気のない・・・・・と言うかこれが普通なのだが、敬意を表した言葉は皆の確信を突いた。

 

疑惑は確信へ。狼は違う意味の狼へ。多少の哀れみの視線は容疑者へと向ける侮蔑の目へ。圧倒的精神的リンチを受けたベートの耳は垂れ下がり、SAN値はゴッソリと減り、尻尾は力なく地面に垂れる。しかしそれは、周りから見たら犯人が捕まる瞬間の諦めきった姿にしか見えず、すぐ様ロープで縛られ天井に吊るされた。

 

「俺は・・・・・悪くねぇ・・・・・妖夢が悪いんだ・・・・・」

「コイツ挙句の果てに妖夢のせいにしたぞ・・・・・」

 

同じ同族だとしてもこれは庇いようが無い、ダリルは一瞬にして見捨てる事を選び、妖夢を庇う。

 

アリッサは妖夢を救えなかったと嘆き、orzとなった後、妖夢の前で土下座を始める・・・・・ちなみにタケミカヅチ直伝だ。

 

命や千草などは事情を知っているため苦笑いであるものの・・・・・

 

「おのれぇ!妖夢に何をしたァ!渡さん!お前なんかに妖夢は渡さないぞおおおおお!・・・・・妖夢、お父さんに言いなさい、何があったか言ってみなさい」

 

同じくあの場に居たタケミカヅチは全力で妖夢を抱きしめながらベートを睨みつけていた。どうやら酒が入っているせいで話しの根幹を聞いていなかったらしい。

 

「お前もかよ・・・・・」

 

最早ベートに何かをする気力は残されていなかった。更に、その誤解を完全に解くことが出来る筈の妖夢は、まさに混乱中であてには出来ない。

 

「そおりやぁあ!!」

「グボァ・・・・・!」

「悪!即!殴!」

 

ドゴォ!と人体から出ては行けない音がなってベートが気絶する。それを行ったティオナはご満悦である。

 

目の前で繰り広げられる奇々怪々で騒然とした抗争に妖夢は目を白黒させて驚いている。

 

(これが・・・・・あの子が作った光景なんですね。)

 

そう思って、少し沈む。今はどこにいるのだろう、なぜ、自分の隣にいてくれないのだろう。記憶を失ってから、ずっとずっと隣で、時には前で導いて居てくれた彼は。

 

(私が・・・・・守ります・・・・・!)

 

この光景を、この絆を、決して壊しはしない。自分を偽る必要などない、彼の居場所を、帰る場所を守らなくては。

 

真剣な目で妖夢はそう思う。しかしだ、その真剣な目をどう捉えたのか、人々は左右に別れ、ベートへと続く道が作られた。妖夢は立ち上がり確かな足取りでベートの元へと歩く。

 

「神判の時やな。堪忍せぇや(ロキ)」

「殺れ、妖夢(タケ)」

「あわわわわ(命)」

「キュー〜バタッ(千草)」

 

妖夢はベートの前で座り込み、逆さになった顔に視線を合わせる。スカートの中が見えないようにしっかりと折りたたんでいる。タケミカヅチが後ろで「おぉ」と謎の感動をしている中、妖夢は口を開いた。

 

「ベートさん、貴方の言葉は間違ってません。私が悪かったんです。人を殺めるその行為が間違っていない筈が無いんです」

 

「あ、やっぱりそっちか」と言った空気が流れる中、妖夢はそれを気にせず口を動かした。

 

「私は確かに間違っていました、けれど、この景色を、この光景を見るためには・・・・・必要な事だった。そう思います。」

 

妖夢に確信などない。あったのは彼だ。いつも助言をくれる彼は必ず正解を掴んできた。だから、今回も。そういった思いが妖夢にはあった。

 

「私はこの光景を守りたい。私達が作り出した絆を壊したくないです。」

 

守ると決めたなら守りとおす。それが庭師。

 

「だから・・・・・ごめんなさい。私達はベートとの絆も大切です。これからも友達でいてくれますか?」

 

緊張の一瞬。妖夢の勇気を振り絞った言葉は、確かにベートに届いていた。何時から目を覚ましていたのだろうか。気絶していたはずのベートの目は確かに開かれていて、目は鋭く光っている。・・・・・逆さに吊るされてるが。

 

「・・・・・ハッ!下らねぇ。そんなのテメェの好きにすりゃあ良いだろうが。」

 

答えはYes。妖夢がホッと胸を撫で下ろす。ロキ達が若干の困惑から目覚め、その隙を狙って事情を知る命と千草が説明に走り回る。

 

「なるほどなぁ・・・・・結局妖夢たんが全部良い話しに待ってったなぁ。」

「流石ですよね、ふふふ」

「退却ぅ!」

「りょうかい!」「了解!」「敵の潜水艦を発見!」

「ダメだァ!」「ダメだァ!」「ダメだァ!」

 

一転して明るい空気に包まれるホーム内、その事に妖夢はもう1度ホッと胸をなで下ろす。

 

「まだ、大丈夫ですよね?」

 

下を向いて、遠くを見る。そこに、彼は居るのだろうか。妖夢にそれを知る術は無い。何故なら彼からは何も伝えて来ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねェ、ハルプは知ってる?上の階層ガ壊れちゃッタ事。」

 

酒をみんなが浴びるように飲む中、そこそこに控えていたレイが俺に話しかけてきた。

 

『まぁ・・・・・知ってるな、うん。』

 

壊したの・・・・・俺、なのか?いや、妖夢?・・・・・どっちだよ、わからねー。

 

「おぉれちの!ゆめはぁ!ちじょうにでてぇ!がぁんばるっ!?ことぉ!」

 

ブッサイクな歌で夢を語るリドに合わせて、巨大なフォモールから小さなゴブリンまで踊る。俺は遠巻きに眺めている形だ。

 

「ねェ。私達は地上二デレると思う?」

 

そんなこと聞かれても正直困るのだが、地上で暮らしいていた俺に聞いてみたいと思う気持ちもわからなくも無い。

 

『質問はYesだ。いつか出られるだろうし、俺が今すぐ出してやることも出来る』

「本当に?」

『まぁ結果は・・・・・会話の成立すらせずに殲滅されるだろうけど』

「そうかァ・・・・・」

『手伝ってあげるから皆で頑張ろうな?』

「ソウね。」

 

真実を伝えてあげながら、自分に出来ることを考える。壊した十八階層を利用できないだろうか?

十八階層は大穴があいて、恐らくセーフティーエリアとしては使いものにならない筈だ、そしてゼノスの存在を人に良いものとして知らしめるなら、それ相応の利益やら利点を見出してやる必要がある。

 

・・・・・とは言え、少し休みたいかな。

 

疲れたからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で眠る少女の様な外見をした何かをゼノス達は見つめていた。いや、正確には、その頬を走るヒビを見つめたいた。

 

「ハルっち・・・・・なにかあったんだろうな」

 

見つめていた殆どが頷く。彼女は元気で明るい少女である、それは出会って数分で理解出来た事だ。モンスター相手にも明け透けに接してくれる、理解者。

 

「デモ・・・・・理解されなかッタ。」

「アァ、恐ラクハナ。」

 

地上の話をされる度にこちらが痛くなるほどに顔を歪ませるのだ。まるで自分のすべてを奪われた、とでも言うかのように。

 

ガーゴイルのグロスがハルプを抱き上げる。誰もがその行為に驚く中、グロスが歩いていく。

 

「ちょ!おいグロス!どうするつもりだ!?」

「・・・・・ワカラナイカ。崩壊ヲ我々デハ止メラレン。コノ者ハ・・・・・何処カニ捨置クシカアルマイ。」

「止めろ!もう少し様子を見るんだ!」

「殺サナイダケ有情ダト思エ!」

「あと少しでいいんだ!ハルっちが協力してくれれば俺達は地上に・・・・・!」

「無駄ダトナンド言エバイイ!!」

 

2匹が争う中、ハルプはグロスの腕の中で額をグロスのお腹に押し付けるようにして眠っていた。グロスはそれに気がついたのか、少し戸惑う。

 

『ぃや、だ・・・・・・・・・・置いてかないで・・・・・皆・・・・・。』

 

ポロポロと涙が零れでて、眠っているのに泣きじゃくるハルプは、余りに幼気でグロスは唸る。やがて尻尾でハルプの頭を一度撫でた後、踵を返してリド達の元に進む。

 

「ハァ・・・・・見捨テルノハ苦手ダ・・・・・」

「慣れないことしようとするからだ、ははは」

 

レイがハルプの涙を拭い、その両翼で優しく抱きとめる。ここは、ハルプにとって楽園の一つになり得るだろうか。





次回はさらにほのぼのです!只の買い物パートなのでね。シフシフ嘘付かない。

今後のプロットは決まってはいますが・・・・・しばらくはほのぼのパートを続ける必要があるのです。なので活動報告とかで募集してみようかな?と思ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

60話「リーナ?仕事は良いのですか?」

前半少し、中盤に少し、シリアスが含まれています。ご注意を。

ハルプ視点になったら途端にシリアスになるのでこれからは注意してくださいな。次話ではシリアス要素が完全に死んでいるのです。
リーナさんを動かし回るだけで文字数が凄まじく伸びる。オッタルと同じく話させるだけで文字数が稼げるいい子です。

誤字脱字、コメントお願いします。














□名前 魂魄妖夢

□二つ名【剣士殺しソード・ブレイカー】

□Lv.4

□ステイタス

 

「力」:E412

「耐久」:C605

「器用」:B701

「敏捷」:C620

「魔力」:E404

「霊力」:S912

 

 

□発展アビリティ

【集中:C+】・・・・・集中力を上昇させる。「+」・・・アルファベットの位を倍にする。

【剣士:F】・・・・・剣士としての技量を上げる

【乖離:I】・・・・・繋がりの脆さを表す。数値が高ければ高いほど対象との乖離が広がっていることを表している。

 

 

□スキル

【半霊 (ハルプゼーレ)】

・アイテムを収納できる。収納できる物の大きさ、重さは妖夢のレベルにより変化する。

・半霊自体の大きさもレベルにより変化する。

・攻撃やその他支援を行える。

・ステイタスに「霊力」の項目を追加。

・魔法を使う際「魔力、霊力」で発動できる。

・ハルプで戦闘を行った場合も経験値を得られる。

・半霊に別意識の介在を確認。自立した行動を取る。

 

【刀意即妙(シュヴェーアト・グリプス)】

 

・一合打ち合う度、相手の癖や特徴を知覚できる。打ち合う度に効果は上昇する。(これは剣術に限られた事ではない)

・同じ攻撃は未来予知に近い速度で対処できる。

・1度斬ればその生物の弱点を知る事が出来る。

・器用と俊敏に成長補正。

 

【剣技掌握(マハトエアグライフング)】

 

・剣術を記憶する。

・自らが知る剣術を相手が使う場合にのみ、相手を1歩上回る方法が脳裏に浮かぶ。

・霊力を消費する事で自身が扱う剣術の完成度を一時的に上昇させる。

 

【二律背反(アンチノミー)】

 

・前の自分が奮起すればする程、魂が強化される。強化に上限はなく、魂の強さによって変化する。

・使用する際、霊力が消費される。

・発動中ステイタスの強制連続更新。

 

【唯一振リノ釼デ有ル為ニ(ただひとふりのつるぎであるために)】

 

・一刀流の剣術を使用中である時全ステイタスがアップする。

・一念を貫く間は効果がある。

・想いの強さで効果が向上。

 

【弍刀ハ壱刀ニシテ弍刀ニ有ラズ(にとうはいっとうにしてにとうにあらず)】

 

・二刀流の剣術を使用中である時全ステイタスが大幅にアップする。

・戦う意志が存在し、意志が統一されると効果発動。

 

【怪異異能】

 

・『剣術を扱う程度の能力』を持っている。

・─────────程度の能力を持っている。

・それらが合わさり『剣技剣術を模倣し扱う程度の能力』となっている。

 

 

□魔法

 

「楼観剣/白楼剣」

 

【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】

 

【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】

 

・魔法の武器を作り出す

・発動後、解除するまで魔力及び霊力消費

・魔法の媒体になる

 

詠唱「西行妖」

 

【亡骸溢れる黄泉の国。

咲いて誇るる死の桜。

数多の御霊を喰い荒し、数多の屍築き上げ、世に憚りて花開く。

嘆き嘆いた冥の姫。

汝の命奪い賜いて、かの桜は枯れ果てましょう。

花弁はかくして奪われ、萎れて枯れた凡木となる。

奪われ萎びた死の桜、再びここに花咲かせよう。

現に咲け───冥桜開花。西行妖。】

 

【揺蕩うなかれ、流離うなかれと、乞い願う。

我が腕に抱かれて、汝の罪は赦されましょう。

例え死して骸と還ろうと、私の愛は色褪せず。

血の通わぬ死体の体であろうとも、傍に寄り添い共にあろう。

血染花・禍津桜木西行妖】

 

 

・召喚魔法

・魔力及び霊力の超消費

・解放詠唱あり

・対象は死滅(消滅)する。

・記憶を知り1人は二人となる。

 

 

「???」

 

【覚悟せよ(英雄は集う)】

 

・超短文詠唱。

・補助の詠唱が必要。

・技の完全再現。

 

─────────────────

 

「終わりましたか?」

 

鈴のような声がタケミカヅチに投げ掛けられる。タケミカヅチはその声に暫くして再起動した。今見たものをそのままに伝えるべきなのか、迷ってしまったからだ。

 

(こうなることは、ある程度予想していたが・・・・・・・・・・想定を遥かに超えてるな・・・・・。)

 

まさか人格が二つもあったなんて。まさにタケミカヅチの想定外だった。いや、正確には人格も魂も二つあったのだが。

 

「タケ?」

 

目の前の【少女】をタケミカヅチは見る。上半身は裸で、背中をこちらに向けて布団に寝そべっている。

 

(・・・・・・・・・・お前は・・・・・妖夢なのか?俺の知る、あの?)

 

答えなど出ない。どちらかが本物、偽物、なんて簡単な話ではないのだろう。タケミカヅチは迷いに迷ってステイタスの紙を妖夢に渡す。しかし、見られたくない場所は全て修正して渡した。

 

「ありがとうございますタケ!」

 

ニコニコと笑う妖夢。タケミカヅチは優しく微笑むが、その目は鋭い光を僅かに帯びている。

 

(・・・・・字が読めていない?・・・・・試してみるか)

 

「妖夢、少し読んで見ろ。凄いことになってるぞ」

 

勤めて明るく声をかけるタケミカヅチ。その様子に妖夢は一瞬固まったあと、視線をさまよわせて慌て出す。

 

「えっと・・・・・その・・・・・す、凄いですねっ」

 

あはは。乾いた笑いがタケミカヅチの疑念を確信へと導いた。

 

「妖夢・・・・・何か隠してるな?」

 

妖夢はタケミカヅチの言葉にただただ恐縮するばかりだ。

 

「お前は・・・・・妖夢なのか?」

「はい・・・・・ただ、記憶が戻って混乱してるだけで・・・・・」

「真実か。だが・・・・・隠しているな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・タケなら信頼できますし、話しておきます。私は───────貴方方の知る『魂魄妖夢』ではありません。」

「そうか・・・・・」

 

妖夢の真剣な顔を見て、タケミカヅチの顔に皺がよる。

 

(解決を急がなくては。)

 

彼は招集を決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッザッザッと音がする。私は刀を振るう。

 

「よーうーむーどーのー!」

「なんですかーー!」

 

私が武錬の城の中庭で鍛錬をしていると、命が私の名前を呼びながら走ってきました。今日も笑顔が素敵な命ですが、私に何のようでしょうか?

 

「妖夢殿!お買い物に行きましょう!」

「お買い物ですか?」

「はい!」

 

どうやら命は私とお買い物に行きたいようです。確かに記憶を辿れば、あの子は良く命たちとお買い物に出かけていたようです。・・・・・ふふ、ずいぶんと楽しい記憶ですね。みんな笑顔です。

 

「わかりました、行きましょう。」

 

私も微笑んでまずは館の中に入ってお財布を取りに行きます。・・・・・あの子がいないとこういう所が不便ですね。今まではあの子が持っててくれたのですから・・・・・早く帰ってきて欲しいです。

 

「・・・・・?妖夢殿、半霊にしまってあるのでは?」

「あはは、家族でのお買い物ですから。たまには、って事ですよ」

「なるほど。では皆さんも呼んで参ります!」

 

命は今日も何だか嬉しそうですね、まぁあれ程の戦いの後ですから喜びたいのもわかりますが。

 

・・・・・ここ数日間である程度は慣れてきました。皆さんの呼び方にも気を付けて、変な言動を取らないように頑張っています。タケには事情を話してあるので少し重荷が取れた気分です。

 

「いやっほー!リーナさんだぞー!妖夢ちゃんがお買い物に行くと聞いて!」

「リーナ?仕事は良いのですか?」

「ふっ・・・、大人の女に出来ない事は無いのよ・・・・・。」

「甘い物要りますか?」

「欲しい!」

「・・・・・大人?」

「それは言わない約束さ!」

 

いつも通りのリーナさんに若干苦笑いな私ですが、事務仕事の殆どはリーダー達がやってくれているので邪険には扱えません。それに扱う気もありませんし。なので大福とお茶を準備して、リーナさんが待っている縁側へと向かうとリーナさんは当然のように寝ています。

 

「・・・・・リーナ、起きてくださーい。大福食べちゃいますよー」

「Zzzz・・・・・コレは・・・・・甘い香り・・・・・!リーナさん覚醒!僕の大福はどこー?」

「ここにありますよ。」

「・・・・・なんだか妖夢ちゃんの方が大人に見える・・・・・!負け・・・・・た・・・・・だと?」

 

大袈裟な反応に私が苦笑いしていると、ザッザッと足音が聞こえてきました。なかなかに重量感のある音なので男の人でしょう。

 

「んあ?なんだ、リーナこんな所で何やってんだ」

「リーナさんは休憩中〜。僕の生命を補充しているのさ」

「あーそうかい。でだ、妖夢、俺と戦おうぜ!」

 

火の粉を散らしながらやって来たのはダリルさんです。家が燃えるのでやめていただきたいのですが、感情によって発動してしまうらしいので無理だとか。つまり火の粉を出してない普段は凄い落ち着いている、ということなんでしょうか?

 

「申し訳ないですダリル。私達はこれからお買い物に行くことになっているんです。あっダリルも行きますか?」

「はぁ?買い物だァ?・・・・・おれはパス。んな事より鍛錬積んでるわ」

「そうですか・・・・・なら仕方ないです」

 

ダリルさんはそう言って少し肩を落としながら何処かに向かいました、恐らくはダンジョンでしょう。

 

「よーうーむーちゃーん!」

 

すると再び私の耳に声が届きます。この声は千草ですね、いつも可愛らしく、私に甘えてくる妹みたいに思える少女です。おっと、他にも居るみたいですね。

 

「妖夢ちゃん!皆呼んできたよ!」

「本当ですか?ありがとうございます千草。」

「呼んだのは私です千草殿!」

「まぁまぁ、喧嘩はよせ。折角タケミカヅチ様から許可を頂いたのだ、仲良くしよう。・・さて、ここにいる皆が今日買い物に行く者達だ。」

 

仲睦まじくじゃれ合う2人を嗜めるアリッサさん。まるでお母さんですね、それかお姉さん。クルメさんは居ないようですが・・・・・お店の準備に忙しそうだから仕方が無いですね。

 

「クルメは店を構える為に精を出している、来れないが許してやって欲しい」

「はい、理解しています。」

「それから、クルメからの伝言だ「私のお願いを聞いてくれてありがとうございますっ」だそうだ。」

「いえ、お金は余っていましたし、欲しいものを与える、と言うのがリーダーに対する報酬ですから。」

 

そう、クルメさんはお店を欲しがった。リーダーとしての仕事や、ダンジョンの探索が入る為、毎週2日間しか開かない特別なお店の予定です。【料理】のランクも高いですからきっと人気のお店になります。その時の収入はタケミカヅチ・ファミリアに少し入れると言っていました。

 

「よぉし!皆行こー!私が寝ない内にzzzz」

「こら」

「あいたぁ!?」

 

言ったそばから・・・・・いえ、言いながら寝たリーナにアリッサがチョップを入れて目覚めさせ、みんなで歩き始めます。

 

「お買い物・・・・・上手くできるでしょうか・・・・・」

 

私個人として初めてのお買い物です!ワクワクしますが・・・・・少し緊張しますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?・・・・・18階層で街を作る・・・・・?ハルっち正気か?」

 

どうも俺だ、ハルプだ。目が覚めたらグロスの隣でぐーすかぴーしていた俺は、自分がいつ眠ったのか覚えて無くて若干混乱したが何とか持ち直した。そんでもって昨日のお話の続きとなったわけだが・・・・・。

 

『そうだ、18階層は床が抜けちまって、今はセーフティーエリアとは呼べない。分かるよな?』

「アァ、ダガソレデモ多クノ冒険者ハオトズレルダロウ。」

『うん、だから街を作るんだよ。街を作って俺達が安全だって教えてやればいい。生憎と俺は人間に顔が効くからな。』

「・・・・・フム・・・・・」

 

アルミラージを抱き抱えてモフモフしながらの会議。簡単な話し、崩壊したセーフティーエリアを俺達で建て直すことが出来れば・・・・・ある程度の認識の改善が出来るかもしれない。最悪俺が全部テイムしましたー!っていえば何とか・・・・・

 

『悪くは無いと思うんだよ、冒険者達は寝床が戻って嬉しいし、俺達は人と触れ合えるから嬉しい。もちろんそこに行くまでに大変だと思うけど・・・・・。』

 

皆がうーむ、うーん、と悩んでいる。それもそうだ、だって今まで隠れて暮らしていたんだから。

 

いきなり変えるのも大変だよなー。とアルミラージの頭を撫でてモフモフする。

 

「なぁ、ハルっちはそれでいいのか?」

『ん?何でだ?』

「いや、そのぉ・・・・・ここに居る理由は地上に有るんだろ?」

 

リドが心配したようにコチラを見る。固まったのがわかったのかアルミラージもコチラを見上げている。体が痛い。まるでヒビでも入っているかのように。

 

『そんな事か、心配すんなってリドっち。まずは恩返し、だろう?』

 

ニヤリと自分では男前だと思う笑みを浮かべて親指を立てる。

 

リドは少し迷ったみたいだけど、困ったように笑った・・・・・と思うんだけど、表情わかりにくいな。

 

「やるだけ、やってみるか!」

『おう!』

 

どうやらやる気を出してくれたらしい。俺は嬉しくなって今すぐ修繕に向かいたいくらいだが、ここは我慢だ。まず色々と決めなきゃいけない事は多いのだから。

 

「反対ダ。」

 

そう、一つ目は意見の一致。慎重な奴。大胆なヤツ。色々といる中でこの案を納得させるのは厳しいかもしれないけど、頑張るしかないな。

 

『なんで反対なんだ?』

「ナンデダト?・・・・・人ハ決シテ我々トハ共存出来ナイ、最早ワカリキッタ事ダ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・何故だろうか、それを否定することが出来ない。そんな俺の態度をどう取ったのかグロスは「フン」と踵を返して歩き出す。話しても無駄だってことなんだろう。

 

『で、でも・・・・・』

 

何とかして引き止めなきゃ、そう思う俺の心を見透かしたように、グロスは立ち止まり呟く。決して大きくなかった声、でも、確かに聞き取った。

 

「オマエガ一番ワカッテイルダロウ。」

 

否定が出来なかった。俺の居場所は地上には無い。地上に夢を見る彼等とは根本的には違ったんだ。地上を見たことが無くて、そこでの暮らしを夢見る彼等と、地上を知ってそこで暮らして、でもそこから追いやられた俺じゃあ。

 

「ハルっち・・・・・あいつだって悪い奴じゃないんだ・・・・・許してやってくれないか?」

『・・・わかってるよリド。』

 

彼らの願いを叶えてやりたい。なぜそう思うのか・・・・・それはきっと、友情とかそういったものが欲しいんだ。叶えた結果貰える彼等の喜びの感謝の気持ちが、きっと欲しいんだ。

 

『少しづつでも進めていこう。』

「・・・・おう。」

 

そう言って歩き出す俺の耳には、確かに氷が罅割れるようなパキッという音が聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は今、バベルの塔に来ています。お買い物ですから、きっと可愛い洋服とかを買うのかと思っていたんですが・・・・・流石は冒険者です、真っ先に選ぶのは武器と鎧なんですね。

 

「妖夢殿!!!これは如何ですか!?」

 

お店に入ると同時に駆け出した命と千草、そして数分もしないうちに防具や武器を私の前に持ち寄ります。そして「ぐるるる」「ふしゃー!」と争うんです。正直これを見ているだけで1日を終わらせられるほどに面白いですが、それは可哀想なので私も真剣に2人の持ってきたものを吟味します。

 

「ふむふむ・・・・・」

 

今回の命が持ってきたのは1振りの剣。剣の内側に穴が幾つも開いているようです・・・・・相手の剣を捕らえて奪う目的なのでしょう。しかし、私が戦うのはモンスターのはず、このような剣を持ってこられても・・・・・。

 

しかし、あの子と私の記憶には確かに驚く程に対人戦の記憶が多いのです。それこそモンスターよりも戦ってる気がします。なので命はそれを踏まえて持ってきたのでしょう。

 

こう見えて剣選びには自信があります。あの子と記憶を取り戻す前の私は苦手だった様ですが、伊達に剣に囲まれて育った訳では無いのです。という訳でこの剣の切れ味は非常な悪い事がわかります。

 

「切れ味が悪そうですね・・・・・」

「妖夢ちゃん!!これは!?」

 

私が残念ながら、と命に返すとしょんぼりしながらも、すぐ様再起動して次の物を探しに向かってしまいます。そうすれば入れ違うように千草がやって来て今度は軽そうなバックラーを渡してきました。

 

ふむふむ、バックラーですか。小さくて使いやすいバックラーですが、盾としても、武器としても使える優秀な装備です。小さいので盾として使うには若干の練習が必要ですが、どうやら私はタケに教えこまれているようで使い方も完璧です。

 

しかしながら私には盾の善し悪しなんて分かりません。正直中身とか見ないとわからないと思うんです。なぜ千草は見抜けるのでしょう・・・・・あ、透視能力がありましたね・・・・・!ならば信用度は高いでしょう、うん、高いはずです。

 

「これは買いですね!」

「いー!ヤッッッターーー!!」

 

そ、そこまで喜んでいただける様な事なのでしょうか?対照的に、地面に座り込み体育座りしながらへのへのもへじを描く命。私は若干苦笑いですが、そんな命の姿も愛おしいと思います。

 

「ねーねー!妖夢ちゃん、これはどうかな?」

「みょん?」

 

呼ばれる声に振り向くと、リーナさんが私に向かって「ちょいちょい」と手招きしています。何か面白いものでもあったのでしょうか?

 

「どうかしましたか?」

「これこれ!面白そうじゃない?リーナさんは好きなデザインだよ!」

 

そう言って指さすのは・・・・・なんでしょうか?・・・・・えっと・・・・・竹槍の先端が・・・・・タケノコ?

 

「えーっと・・・・・タケノコ?ですよね?でもタケノコって竹の先端には生えない筈じゃ・・・・・」

「いいじゃん!美味しそうだもん!」

 

あ、そこですか。リーナさんの人間性を再確認しながら、乾いた笑いを上げる。

 

「・・・・・ふむ・・・・・どうだ?これは・・・・・うーむ。少し装甲が薄いか?・・・・・しかし、これ以上に重厚な鎧は此処には無いし・・・・・」

 

リーナさんが竹の子やりの購入を検討している中、するりと抜け出した私は、何やら唸っているアリッサさんを見かけました。どうやら自分の求める性能の鎧がこのお店には無いようです。すると私の脳裏を一人の人物がよぎります。ヴェルフ・クロッゾ。どうやら魔剣鍛冶師で、腕は非常にいいようです。更には私と契約を結んでいたらしいです。

 

それは不味い、と千草の方を見ますが、バックラーを嬉しそうに抱き抱えていて、とてもでは無いですが「契約していた鍛冶師を思い出したからそれは要らない」なんて言えません。バックラーの事は仕方ありませんが、アリッサさんの鎧や、私の他の装備はヴェルフさんに頼むとしましょう。・・・・・呼び方はヴェルフ、ですね。なんであの子は人を呼び捨てにする事が多かったのでしょうか?

 

「アリッサ?」

「む?妖夢か、どうかしたか?」

「いえ、アリッサが鎧で悩んでいるようなので、ヴェルフの元に行けば解決できるのではと思いまして。」

「ヴェルフか、あの時鎧を手直ししてくれた」

「・・・・・そうです、その人ですよ」

 

記憶を辿ればどうやらアリッサとヴェルフは顔見知りのようです。円滑に進められそうで良かったです。結局このお店ではバックラー(2万ヴァリス)竹の子槍(6万ヴァリス)その他研ぎ石など(5万ヴァリス)を買い、終了です。

 

「ではヴェルフの元に向かおうと思うのですが宜しいですか?」

 

少々丁寧に言葉を選びます。ですがそれだと違和感を与えてしまうので、少しだけいたずらっぽい笑みを浮かべておくと、お巫山戯してるんだな、と思ってくれます。実際はまだ記憶の整理がついてないので中々砕けた感じに出来ないだけですが。

 

「リーナさんは満足してるから何処でもいいよー!」

 

と竹の子槍をもって御機嫌なリーナ。・・・・・先端が欠けてますが・・・・・食べれたんですか?それ。

 

「私も異議は無いです。」

「私は妖夢ちゃんとお出かけなら何処でもいいよ!」

「むしろお願いしたいくらいだ。彼の腕は信頼できる。」

 

命は微笑みながら、千草は抱きつきながら答えてくれます。アリッサは少し頭を下げてますが、鎧で顔が見えないのでどんな表情なのかはわかりません。喜んでくれているといいのですが・・・・・。

 

「では行きましょー!」

「「「「「おーー!」」」」」

 

平均身長が150に届くか届かないか、と言う低身長組である私達を街ゆく人々が微笑ましく見ていますが、この時の私は気がついてません。アリッサが「人の視線が怖いな。この中に敵が混じっていたら・・・・・守れる、守るぞ絶対」と小さく決意しているのを聞いて初めて気がついたのです。

 

さて、この中でもメキメキと成長して、私達の中でも最高の身長とプロポーションを誇る命、まるでお姉さんです。実年齢では私が大きく勝りますが、あの子が居なければ私の精神年齢は外見相応、つまり私は家族の中では妹という訳ですか・・・・・。あっ!お母さんかも!

 

さてさて、そんなことを言っている間にいつの間にかヴァリス・・・・・じゃなくてヴェルフさんの工房にやってきました。カンカン!と速いリズムで金属音がします。仕上げの最中でしょうか?

 

「失礼します。妖夢です。ヴェルフ今時間空いてますか?」

 

音がやんだ所を話しかけ、ヴェルフさんに確認をとると、間もなくして工房の扉が開き、ダリルさんより来い紅い髪のヴェルフさんが顔を出しました。

 

「よお!みょんきちか!・・・・・あー、この前は悪かった・・・・・!」

「「「「「みょんきち?」」」」」

 

私を含め全員が頭にはてなを浮かべます。が、少し記憶を辿れば、ヴェルフさんが私の事をみょんきちと呼んでいたことにたどり着きました。

 

「あ、はい。私みょんきち。です?」

「ほんと悪い。怒ってないか?」

「怒るようなことしたんですか?」

「・・・・・あぁ。」

 

首を傾げる私と、頭を下げるヴェルフさん。記憶を辿れば・・・・・おぉ・・・・・ど、どうやらヴェルフさんは私を殺そうとしてたみたいですね、原因は私の様ですが。勘違いって怖いんですね。

 

「えっと・・・・・何も無かったんですよ。アレは夢みたいなものですし」

「そう言ってくれると助かるっちゃあ助かるんだが・・・・・納得がいかないんだよな。」

「えと、じゃあ皆の武器とか鎧作ってくれます?」

 

私がそう言えばヴェルフさんは顔を輝かせて頷きます。

 

「あぁ!任せておけみょんきち!」

 

その後はみんなで、あーでもない、こーでもないと話し合い、それぞれの鎧や武器を決めたのです。

 

 

「全部完成させるのは・・・・・3日くらいかかっちまうんだが・・・・・いいか?」

「はい。・・・・・はい?え?大丈夫ですか?速すぎませんか?」

 

ちょっと何言ってるか分からないので思わず聞き返す。五人分の新装備を3日?食わず寝ずでずっと打ち続けるつもりでしょうか?

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

これが鍛冶馬鹿と言うものですか。

 

「は、はい、分かりました。」

 

本人が大丈夫だと言うのなら大丈夫なのでしょう。私達は次の場所に向かいます。次は食事に向かうようですね。どこに行くのかを話し合いながら、取り敢えずは中央広場に向かいます。そこからならどこの方面にも行けますからね。

 

「う〜ん、じゃあ・・・・・クルメちゃんの所に押しかけるというのは!?」

「仕込みの邪魔をするつもりか?」

「僕は、あの子の料理を!また!たべたいっ!」

「力説しなくていい。」

 

竹の子槍を振り回す危険人物なリーナさんは、アリッサさんに頭をこずかれて「うにゃぁ!?」とへんてこな悲鳴を上げて、命の裏に隠れます。何を隠そう命はこの中の最高身長、技量だってアリッサさん、よりも上です。いくらか技も使えますし、アリッサさんに負ける事は無いでしょう!家族贔屓なんてしてないですよ!

 

それにしても・・・・・クルメさんの料理ですか・・・・・記憶にはあるんですが、舌には残っていません。是非とも食べてみたいです・・・・・しかし、今しがたアリッサさんの言ったとおり、邪魔をするわけには行きません。どうしたものでしょうか・・・・・。

 

「うーん、みんなでクルメちゃんのお手伝いして上げれば食べられるんじゃないかな?」

 

と千草。

 

「ふむ、それもアリかも知れませんが、私達には【料理】のアビリティが有りません。邪魔なだけでは?」

 

と命。

 

「命殿の言う通りだ。・・・・・それに、私は余り料理が得意では無くてな・・・・・」

 

とアリッサさん。

 

「ふっ。僕に全てを任せれば何かすごい料理を作れるよ!」

 

とリーナさん。取り敢えずリーナさんは置いておくとして、クルメさんの工房に押しかけるのはやはり気が引けます。あの子が帰ってきて、のんびりする時間があったらお邪魔するとしましょう。

 

「豊穣の女主人でいいんじゃないですかね?」

 

私は記憶を辿り、割と利用していた施設を発見しました。あの子は可愛い子が沢山で最高!との評価を下していましたが・・・・・若干気になります。なので皆さんに提案をした次第。

 

「私は妖夢ちゃんと一緒なら大丈夫!」

「ファミリアも潤ってきましたし、多少の贅沢は問題ないはず。」

「豊穣の・・・・・?あぁ、マシューがよく連れていかれる所か。」

「あるぇ?リーナさんは無視なの?リーナさんの手作り料理は無視?ねーねー!・・・・・僕は、負けないぞ。皆から冷たくされたって負けないからなぁ!」

「はぁ、お前は何と戦ってるんだ。」

 

まぁそんなこんなで豊穣の女主人に突入です。

 

「いらっしゃいませにゃ〜!ニャニャ?妖夢ちゃんではありませんかニャ。何名様ニャ?」

 

ニャーニャーと言っている猫さん、名前は・・・・・え?クロエ?アーニャ?・・・どっちですか?

 

「えっと5人です。」

「了解ですにゃ!5名様ごあんなーい!」

 

 




後書き〜。

次回はリーナとクルメが主役?なお話です。グルメリポートさせようとしたら何か違った。何を言ってるかわからないと思うが俺も何を言ってるのかわからない。

全く関係ない落書き攻撃。

色無し白黒ダリルさん。と言うかほんとに落書き

【挿絵表示】


ドーナッツ齧るリーナさん。

【挿絵表示】



あ、ちなみに最終西行妖は、即死耐性無視、蘇生不可能、消滅。の効果です。ゴライアス如きでは耐えられない一撃。

即死を強引に押し付けて、その上蘇生されないように消滅させる。というかんじですね。

ジョジョのあの人とか、アインズ様とかの方がお得感がある。だって発動早いもの。


あとステイタス高すぎねぇ?って思った方。アンチノミーが発動していたので無駄なく経験値を使えているためめっちゃ伸びてます。ランクアップ自体は最後の詠唱する前にしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

61話「おサボリは駄目ですよ!めっ!」


遅れました。そして次も遅れます。修学旅行だからね、仕方ないね。

なんと・・・・・今回の話、シリアス要素が何も無いです。

リーナとクルメが多く出てきます。


どもども、僕はリーナ。ファミリア内では「リーナさん」と呼ばれているよ。そんな僕の趣味は食べることと寝る事。ギルドからのお触れでダンジョンは暫く使えないからね、僕は最近になって増えた仕事をするのです。

 

そんな僕は今日も今日とて書類整理。なので棚からお菓子を取り出しますー。僕は書類整理が苦手ではないんだけど、スキルの性で眠いんだよねー。

 

むー、バトルロワイヤルで勝った人がリーダーなんて・・・・・僕は「やったっ。僕はならなくて済むじゃん!」とか思ってたのに・・・・・結界に篭ってたらいつの間にかみんな同士討ちして僕だけ残ってたからね。「これでいいのかなー」と言ってたら妖夢ちゃんは良いって言うし。

 

「バリバリ。もしゃもしゃ。♪〜〜♪」

 

まぁでも割と楽しいんだよ、これが。ぬふふ、この『必需品』の欄にこっそりとお菓子を追加しておくのは本当に楽しいのさ。そして『食糧』の欄にもお菓子をたっぷり・・・・・ふふふ、ふふふふ、フハハハハハハ。お菓子三昧、ウマ味重点。リーナさんのパラダイスはここにあった。誰にも邪魔されず、誰も咎めない。だって仕事はしてるもの。

 

「僕の♪楽園〜♪お菓子ー沢山ー♪ふんふん♪」

 

極楽気分で書類整理をしていく。僕らリーダーが書類を整理しまとめ、ある程度目を通す。そしてその最終確認を幹部の人が行って、最後に主神が目を通すって流れなんだけど・・・・・あれ?書類取りに来るのっていつ「失礼します」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・リーナ?なぜお菓子を机に広げているんです?」

「(や、やばいぞ。どうやって言い訳しようか・・・・・よし、いつもの常套手段でいこう。)糖分は頭に良いらしいんだ。だからこうして糖分を取ることで・・・・・」

「それ、甘く無いですよね。」

「は、は、ははは、何言ってるのさ妖夢ちゃん!心頭滅却すれば塩味もまた甘しという言葉を知らないのかね?!」

「知らないですね。・・・・・はぁ、またサボリですか?私も手伝ってあげるので一緒に頑張りましょう」

「天使・・・・・!圧倒的天使・・・・・!」

 

そんなこんなで圧倒的天使さが露見した妖夢ちゃんと書類整理を行っていく。

 

「パク。・・・・・もしゃもしゃ。」

「あの?まだ食べてるんですか?」

「もうすぐ無くなっちゃうね」

 

ふふふ、ご安心を。僕は準備万端だからね。なんとこっちの棚にも・・・・・あった。

 

「はい、お菓子追加!」

「そのお金はファミリアのお金ですよね?」

「・・・・・・・・・・でも、ほら、あの、モチベーションの為には!必要と言うか?」

「それもそうですね、なら無駄にしないように。」

「・・・・・ごめんなさい。もう僕悪い事しないよ!」

 

なんだこの天使は・・・・・!なんか逆に申し訳なくなる。悪い事なんてしてないけどね!お菓子を食べながら一緒に書類整理をする僕ら、そこに「トントン」ってドアをノックする音が。

 

「クルメだよ、リーナ入っていい?」

「いいよ〜」

 

どうやらクルメちゃんみたいだ。小さくて細くて可愛らしいという人形さんみたいな娘だね。料理が得意でまさに女の子!って感じなんだけど、戦闘方法は荒々しくも繊細、と言うなんかすごい人だね。

 

「お邪魔しま・・・・・・・・・・した。」

「あっ・・・・・わ、私は嫌われてるんでしょうか・・・・・」

 

うん、でも今みたいに人見知りな所があってね、僕やアリッサには友人として接してくれるんだけど、幹部の人達には、尊敬が勝ってしまって上手く話しかけられないみたいなんだよねー。

 

「クルメちゃーん!入ってきなよ〜。お菓子あるよー!てかクルメちゃんのお料理食べたいよー!」

「そうですよ〜!私も是非!」

 

互いに目配せして頷き合う僕と妖夢、そうして呼びかければドアが少し開いてチラッとフードを被ったクルメがコチラを覗く。あれで隠れてるつもりなのかな・・・・・?

 

「ほ、本当ですか・・・・・?でも今はまだ下準備も終わってない・・・・・です、よ?」

「はい、私はクルメのお料理を是非とももう1度食べたいのです。前に食べた料理は即興なのにとても美味しかったですからっ」

 

にこやかに微笑みながら妖夢ちゃんが、クルメちゃんに話しかける。クルメちゃんは嬉しそうに顔を赤らめてフードの両端を掴んで引き下げ顔を隠す。この光景を見られる僕は幸せ者だ。だって食べ物に困らなくて、雨風が凌げて、なおかつこんな微笑ましい物が見られるなんて、僕は幸せだよ。仕事だって適度にサボれば「サボリはダメです」あ、読まれた。

 

「おサボリは駄目ですよ!めっ!」

「ブッ」

「うわ!?リーナ大丈夫ですか!?」

 

腰に手を当て、前のめりになるように僕に顔を近づけた後、人差し指を立てながら「めっ」とは・・・・・恐れ入ったよ。鼻血出た、どうしよ。

 

「ええええと、は、はゆかちは何処に・・・・・ありました!リーナ動かないでくださいね・・・・・よーし、大丈夫ですか?」

 

か、噛んでる・・・・・可愛い。そしてハンカチ持ち歩いてるなんて女子力高い・・・・・可愛い。わざわざ拭いてくれるなんて健気・・・・・可愛い。

 

「ブッ!・・・・・だ、大丈夫れす」

「ままた鼻血が!?リーナ〜!大丈夫なんですか!?変な病気とかですか!?流行病?お医者さん、いやお猿さん呼んだ方が?!」

 

慌てる姿もグッチョブだぜ・・・・・あぁ、綺麗な光景が見える。

 

「リーナ!リーナーーー!!」

「Zzzzzzzzzzzzzzzzzzz」

「って寝てる!?」

 

はっ。ここはどこ僕は僕。なんだ、何時もの部屋か。すぐに寝てしまうのは悪い癖だねー。ん?

 

「リーナ?本当に平気ですか・・・・・?」

 

な、ん、だ、と?目をうるうるさせながらこちらをのぞき込んでいるだと・・・・・?なんだ、この破壊力は・・・・・?僕の火+風+霧之狭霧よりも破壊力高いぞ・・・・・!!

 

「うんだゐじょうぶ・・・・・今魔法で回復するから」

 

鼻を押さえて血を止めようと頑張る。

 

「【千差万別魔の嵐。月。火。水。木。金。土。日。雷。風。光。闇。毒。酸。何が当たるか知る由もなく。引かれた線の導くままに】・・・・・あっ」

「「あっ?」」

 

選ばれたのは、『日』でした。

 

「「う、うわぁ〜・・・・・あったかい」」

 

ね、眠い・・・・・これは凶悪過ぎるんだよ・・・・・ぽかぽかして・・・・・眠く・・・・・

 

「Zzzzzz」

「リーナー!鼻血出しながら寝ないでくださいぃ!!書類が!書類が!」

「「Zzzzzz」」

「クルメぇ!なんで一緒になって寝てるんですかぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーナ「ハァイ!という訳でやって来ましたオラリオの街中っー!」

 

クルメ「ごめんリーナちゃん、話の前後が見えないよ・・・・・」

 

リーナ「そうー?僕とクルメと妖夢ちゃんがお仕事して、その後のご飯でしょう?」

 

クルメ「私まで仕事巻き込まれたし、妖夢ちゃーさんは今居ないし、私のご飯食べたいんじゃ無かったの?」

 

リーナ「細かいことーは気にするなー!急に台本形式になってるとか気にするなー!僕はキニシナイよ!」

 

クルメ「何言ってるのか分からないよ?もう、で、何処に行くの?」

 

リーナ「ふふんっ。食べ歩き歴何年を誇る僕に任せなさい。」

 

クルメ「(年数覚えてないんだ・・・・・)」

 

リーナ「そうだなぁ・・・・・zzz・・・・・蜂蜜亭なんてどうかな?」

 

クルメ「今寝た?「寝てないよー」・・・・・そ、そう、で蜂蜜亭って?私行ったことないなー。」

 

リーナ「あはは。うーん、クルメが行ったことないのは外見からでもわかるね。」

 

クルメ「外見?むー!痩せてるってこと?私だって頑張ってお肉つけようとしてるんだよ!?」

 

リーナ「違う違うー。イシュタル・ファミリアが経営してるんだよー。僕は常連さんだけど、クルメはそもそも歓楽街に行ったことないでしょ?」

 

クルメ「か、歓楽街?・・・・・確かに行ったことないけど・・・・・平気なの?変な人に声かけられたりしない?」

 

リーナ「するする、こうみえて僕は美人だからね!すーぐ声かけられるよ?でも筋力が低くたって仮にもレベル3だったし、ビンタで一撃だね。」

 

クルメ「なるほど・・・・・」

 

リーナ「クルメだってもうレベル3でしょーう?」

 

クルメ「そういうリーナはレベル4でしょ?」

 

リーナ「えっへん!そうだよ!」

 

クルメ「もう結構歩いてるけど・・・・・うわぁ、見えてきた」

 

リーナ「美味しそうな香りでしょ?」

 

クルメ「う、うん。確かに」

 

リーナ「ふふん。リーナさんは大人だからね。こういうのもスルー出来るのさっ!」

 

クルメ「ちょちょ!リーナー!どこ行くの!?」

 

リーナ「はっ!釣られるところだった!おのれ何て巧妙な罠・・・・・!」

 

クルメ「な、何やってるのぉ・・・・・?」

 

リーナ「危ない危ない・・・・・」

 

 

モブA「お?おい見ろよ、あそこに上玉がいるぜ?(クルメとリーナは非戦闘用の服なので気づいていない。)」

モブB「おお!エルフじゃねぇか・・・・・。こんな所歩いてるなんて・・・・・誘ってんだよな?」

モブC「隣のガキはダメだな。細すぎる。折れちまいそうだ」

モブA「そういうアレ何じゃねぇか?」

 

 

リーナ「不穏な空気だねぇ。」

 

クルメ「どうするの?逃げる?」

 

リーナ「料理を前に、逃げてはならぬは、食う者の運命(さだめ)よ」

 

クルメ「・・・・・ゴクリ。確かに料理を作るものとして逃げる訳には行かないかも・・・・・!」

 

 

モブA「なぁ!誰が話しかける?(小声)」

モブB「お前行けよ」

モブC「何で俺なんだよ、お前行けよ。」

モブA「へっ童貞どもが、俺が行ってくるぜ」

モブBC「(お前だけじゃん童貞・・・・・)」

 

 

モブA「やぁ、お嬢様方?こんな所でブシュッ!?」

 

リーナ「あ、腕が滑った。」

クルメ「あ、足が滑った」

 

モブA「て、テメェら・・・・・何しやがる・・・・・!」

 

リーナ「あれ?倒れないね、恩恵持ってたか。」

 

モブA「この俺を誰だと思っブルワッハ!」

クルメ「あ、今度は手が・・・・・」

 

リーナ「もう話さなくていいよー。〜〜〜阿弥陀籤!・・・・・あり?回復しちゃった」

 

モブA「へっ馬鹿め!行くぜアガパァ!?」

 

クルメ「あ、・・・・・えっと、膝が滑った?」

 

 

モブBC「(帰るか)(だな)」

 

 

モブA「もう許さなぇ!」

 

リーナ&クルメ「いや、諦めてよ」

 

モブA「うぉおおおおおペプシッッ!?」

 

リーナ&クルメ「!?」

 

謎の仮面少女「大丈夫ですか、御二方。此処は危険につき、去ると宜しいかと。」

 

リーナ「(えっ、誰?イシュタル・ファミリア?)」

 

クルメ「(助けてくれたんだ、優しい人だなぁ)」

 

リーナ「えっと・・・・・名前は?」

 

謎の(ry「名乗る名など持ちえておらぬ故、名乗る事は出来ませぬ。では。」

 

リーナ「えー。・・・・・誰なんだろう。」

 

クルメ「カッコよかったね・・・・・」

 

リーナ「え・・・・・?仮面が?」

 

クルメ「違うよ登場の仕方とか色々と。」

 

リーナ「さっきのモブ君、きりもみ回転しながら三回転捻りしてゲッタンしながら飛んでいったけど・・・・・カッコよかった?」

 

クルメ「そ、それだけ私達のために全力を出してくれたってことで・・・・・ね?」

 

リーナ「ははは、まぁなんだね、到着したよー。」

 

クルメ「うわ〜ここが蜂蜜亭かぁ・・・・・あまーい香りがするね!」

 

リーナ「でしょう?此処は蜂蜜を使った料理や、お酒何かが楽しめるよ!・・・・・お金払うと蜂蜜を他の使い方出来るらしいよ。」

 

クルメ「最後の説明は要らなかったかな・・・・・」

 

店員「いらっしゃ〜い。あらあら?もしかしてリーナ様?」

 

リーナ「そうだよ〜。今日は同じファミリアの娘を連れてきたんだ。」

 

店員「そうなの〜。いらっしゃいませ、お嬢さん。」

 

クルメ「は、はいっ・・・・・。えと、リーナ?」

 

リーナ「うん?何?」

 

クルメ「平気だよね?大丈夫だよね?」

 

リーナ「心配しないのー。・・・・・もしものことがあればっ、僕が店ごと吹飛ばすからっ」

 

店員「止めて、それは止めて。んん、では2番席にお座り下さい」

 

リーナ「おー、いつもの場所だ。空いてたんだね」

 

クルメ「2番席?・・・・・あの隅っこの席?」

 

リーナ「そのとーり。人からの視線も集まりにくいし、目立たないし、外の景色も見えないし、最高の席さ。全く・・・・・どうしてこの店はここにあるのかなぁ・・・・・せっかく美味しいのに・・・・・。」

 

クルメ「あはは・・・・・。仕方ないよ、だってイシュタル・ファミリアの派閥なんでしょ?ここからお店動かせないんだと思うよ。」

 

リーナ「それはわかってるけどさー・・・・・。よしっ気を取り直して注文だー!」

 

クルメ「おー!。で、オススメは?」

 

リーナ「オススメは何とお肉料理です!」

 

クルメ「おー、そう来たかぁ。」

 

リーナ「おろ?わかってた?」

 

クルメ「予想はしてたかな。蜂蜜にはお肉を柔らかくする効果があるんだよ♪。蜂蜜はね?成分の殆どが糖分で出来てるの、だから浸透性が高くてお肉に溶け込んで硬くなりにくくしてくれるんだよ♪それでねそれでね!」

 

リーナ「はーい、ストップ。どうどう。落ち着いてクルメ。」

 

クルメ「今からいい所なのに・・・・・(๑ŏ _ ŏ๑)」

 

リーナ「あはは(長くなるのでカットってやつだよクルメ・・・・・)後はデザートかな。」

 

クルメ「・・・・・蜂蜜酒は?」

 

リーナ「ミード?ミードも美味しいよね」

 

クルメ「蜂蜜酒の作り方なんだけどね?」

 

リーナ「ちょ」

 

クルメ「蜂蜜酒って言うのは最古のお酒って言われてて、お水と蜂蜜だけで出来るんだっ。浸透圧が高い蜂蜜はお酒の為の微生物が増えにくいから、お水で薄めるんだよ♪後は1週間もしない内に完成するよ!ちなみにここに生薬とかハーブを加えたものをメセグリンって言うよ!」

 

リーナ「へ〜。メセグリンかぁ。飲んでみたいかも。」

 

クルメ「そうそう、作る時に酵母を入れてあげると失敗しにくくなるんだよ。」

 

リーナ「ふむふむ、ならクルメのお店でメセグリンとかを出せば売れるのかな?」

 

クルメ「うーんどうだろうね・・・・・ソーマ様が作るお酒には負けちゃうし・・・・・」

 

リーナ「目標高すぎでしょ・・・・・神酒と比べたらそりゃあ霞むのは仕方ないよ。」

 

クルメ「目標はどこまでも高くなきゃ駄目でしょ!料理人だもん!」

 

リーナ「料理人とは一体・・・・・いや、余り外れてもないか。」

 

店員「ご注文はお決まりかしら?」

 

リーナ「うん、僕は決めてあるよ。ねぇねぇ、メセグリンってあるのかい?」

 

店員「はい、ありますよ。当店自慢のブレンドです。心も体もスッキリ爽快夢見心地のハーブ入です」

 

クルメ「それダメなやつだ。」

 

リーナ「ちなみにそれ飲んだ娘って今どうしてる?」

 

店員「娼婦として日々精進してます」

 

リーナ「これアカンやつや。生薬じゃなくて性薬交ぜちゃったか・・・・・」

 

クルメ「ごめん何言ってるかわからない。」

 

リーナ「じゃー・・・・・普通のミードと蜂蜜漬けのチキンでお願い。」

 

クルメ「あ、私もそれでっ。」

 

店員「はい。・・・・・えっと年齢は・・・・・」

 

クルメ「お酒飲める年ですよっ」

 

店員「申し訳ございません。かしこまりました。」

 

リーナ「むふふ、楽しみだねー。」

 

クルメ「うん、だけど良かったのかな?」

 

リーナ「ん?何が?」

 

クルメ「いや、アリッサちゃんとか皆を誘わなくて・・・・・」

 

リーナ「いいのいーの。たまには少人数の方が話せる事もあるんだよ〜。てかアリッサ連れてきたら色々と問題が起きそう。」

 

クルメ「この不埒者めが〜!ってさっきの男に人をボッコボッコにしそうだね・・・・・」

 

リーナ「絶対に「ダァァアクパワァァア!」ってやるね、僕にはわかるよ」

 

クルメ「うわぁ・・・・・。あー。でも妖夢さんとか連れてこなくて良かったね」

 

リーナ「え?どうして?」

 

クルメ「いや、多分普通に「何ですか?え?はい分かりました」とかそんな感じでついて行っちゃいそうでしょ?」

 

リーナ「そして惨死体が3体・・・・・」

 

クルメ「うん・・・・・。」

 

リーナ「くふふ、まぁ人殺しを好んでやったりしないからだいじょーぶでしょう。千草ちゃんは絶対に攫われるね」

 

クルメ「ブッ!失礼だよリーナちゃん・・・あは、でも、わかるかもっ」

 

リーナ「命ちゃんも連れてかれるね。帰ってこれるだろうけど」

 

クルメ「真面目だし素直だしね〜」

 

リーナ「あとは・・・・・クルメは臆病だから平気かな、いざとなったら速いし」

 

クルメ「酷いなぁ、リーナちゃんだってお菓子で釣られそうじゃんっ」

 

リーナ「僕は釣られたふりして全部貰ってから逃げるから平気だよ〜」

 

クルメ「嘘だー、足遅いじゃん」

 

リーナ「ふっふっふ〜。体に纏うように物理反射の結界を張っておけばいいのさ」

 

クルメ「・・・・・それってお菓子持てないよね?」

 

リーナ「・・・・・・・・・・・・・・・お、お菓子は・・・・・自分で買うよ」

 

クルメ「それが一番だね。・・・・・経費で買ったりしてない?」

 

リーナ「ギクリ。」

 

クルメ「(口で言うんだ・・・・・)」

 

リーナ「そんな事があろうはずがございません」

 

クルメ「ダウト。」

 

リーナ「ぐへぇ。でもモチベーションの為には必要な事で・・・・・」

 

クルメ「リ〜ィナ〜ァ?ダメだよ?迷惑かけちゃ。あんなにボロボロになってまで戦ってくれるんだから、私たちは守ってもらってるんだよ?」

 

リーナ「うぅ、確かに前衛は大切だよね・・・。わかったよ・・・・・お菓子を半分に減らそう」

 

クルメ「(無くさないんかいっ)」ガクッ

 

リーナ「そう言えばクルメ、レベルアップしたけど、何かステイタスに変化はあった?」

 

クルメ「うん!あったよ!私ねっ、新しい魔法覚えたんだ♪名前がね、大禁呪大飢饉って言うの!」

 

リーナ「おめで・・・・・ん?なんか凄いえげつない名前聞こえたけど幻聴かな?」

 

クルメ「大禁呪大飢饉っていうの!多分私がお腹減ってる時期の事が魔法になったんだと思うよ」

 

リーナ「ははは・・・(飢饉かぁ・・・・・嫌なものだよねアレは・・・・・)所でどんな効果なのさ?」

 

クルメ「えっとね、呪術でね。無差別の超広範囲なんだけど、ステイタスの大幅ダウンと、お腹が空いて喉が渇くって効果の付与だったと思うよ。」

 

リーナ「ぶはっ・・・・・それってお店作った時に使えば大儲けじゃんっ!」

 

クルメ「ひ、酷いマッチポンプだね・・・・・」

 

リーナ「でも戦闘じゃまともに使えないし・・・・・僕が対魔力結界を張らないと味方もその状態になっちゃうからね・・・・・」

 

クルメ「う、うん。」

 

リーナ「で、どんな詠唱なの?」

 

クルメ「えっとね、こんなの。【飢餓(きが)飢饉(ききん)に飢える飢民(きみん)よ。飢寒(きかん)の冬、希望は無く飢乏(きぼう)だけがそこにある。飢渇(けかつ)は終わらぬ。決して満たされぬ。されど鳴蝉潔飢(めいせんけっき)の心もて、饑神(ひだるがみ)に捧げよう。動けぬ痩犬蒼空(そら)望め、恨めしき鳥願う。不毛不動な餓鬼(がき)達よ、それそこにこそ餌はある─────大禁呪大飢饉】ってやつ何だけ──────」バァァン!ギュイィィン!

 

クルメ「─────ど?」

 

リーナ「ふぉぉおおおおお・・・・・お腹、が、減った・・・・・っ!もう・・・・・だめ・・・・・ぽ・・・・・。」

 

クルメ「は、発動しちゃったぁ!?」

 

 

その日、オラリオ全体が赤い光に包まれたかと思えば、誰もがお腹を空かせて付近の店に駆け込んだ。

 

お店は潤ったのか?否。店を動かすべき店員達も皆、お腹を空かせてしまったのだから。

 

まさに大禁呪。たった1人の人間が街を一つ飢饉に陥れたのだ。

 

クルメ「や、やばい・・・・・!私がなんとかしないと!!!」

 

こうして、クルメの料理店は飢えた人々を助ける救世主として堂々たるデビューを果たした。

 

赤い光を纏い、獣のような唸り声を上げながらも恐ろしい手際の良さで料理を作るクルメに飢えた人々は歓声をあげながら飯をくらった。

 

そんな時、地下では・・・・・

 

 

「うぉおおおおお!腹減ったァ!飯!飯作ってハルっちー!!!」

「私も!」「俺も!」「グ・・・・・タエラレン・・・・・」

 

『お、おいおい・・・・・わかったから大人しくしてくれよ?今作るから。』

「エプロンなんて要らねぇよハルっちー!早く早く!」

『馬鹿っ、食中毒になったらどうするんだ、衛生に気を使うべきなんだぞ?』

「ギュルルルルルルル・・・・・腹がなってるぜ・・・・・星が見えてきた・・・・・星ってこんなに明るいんだな・・・・・綺麗だ・・・・・」

「ホントウダ・・・・・」「キレイだね・・・・・」「キュウ・・・・・」

『おおおい、待ってろ!今作ってるから!』

 

 

お腹が減らないハルプが必死に働いていましたとさ。










盛大なマッチポンプ。効果が切れるまではお腹減ってるのでたべても食べてもお腹減るのです。
オラリオ全域のみならず、19階層まで届いちゃったぜ(筆が滑った)まぁいいか(目逸らし)良くないけどいいよね?(現実逃避)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

62話「お父さん!帰りましょう!私達のお家はこっちですよっ!」


遅れて申し訳ないです。シフシフは焼き土下座も辞さない覚悟。

今回の内容は

幻想郷視点

本編、鬼ごっこ

となっております。シリアスです。え?鬼ごっこなのにシリアス?だって?そうです、シリアスですよ。シフシフはもう嘘はつかないのです。

え?幻想郷視点?ネタですよ、ネタ。


では、楽しんで読んでいただければ幸いです。










此処は幻想郷。全てを受け入れる残酷な世界であり・・・・・・・・・・同時に微笑ましい場所でもある。これは第1話の幽々子達の視点である。

 

「ねぇ、妖夢ちゃん平気かしら?」

 

「はぁ、幽々子。貴女は何時まで同じ事を呟くの?」

 

「幽霊ですもの、一つのものに囚われやすいの」

 

「はいはい。わかったわ。」

 

「見せてくれないの?」

 

「何が見せてほしいのかしら?」

 

「意地悪なのね」

 

「気が利かないのよ。」

 

片や口元を扇で隠し、片や頬を膨らませ講義する。ちなみに時間は大きく遡っている。具体的には妖夢をダンまち世界に送りだしてから数分後だ。

 

「私は妖夢ちゃんがどうなったか知りたいのよ」

 

「まだどうなったもこうなったも無いわよ。今送ったばかりでしょうに。」

 

「分からないわよ?何かに襲われてるかもしれないじゃない」

 

「可愛そうな妖夢。信用されてないのね」

 

「信用しーてーるーわ〜っ」

 

「ジタバタしてもダメよ。あの子のためなのでしょう?」

 

「じゃあ今から私のため。」

 

「・・・・・。」

 

紫は呆れた目線を幽々子に送る。そして扇子をパチン!と閉じて、幽々子の頭に振り下ろす。

 

「いでっ!何するのよ〜!痛いじゃな〜い!」

 

「プッ・・・・・。はぁ、ほら、匂いを嗅いでみなさい?」

 

「わぁ、凄い加齢臭!ウッ!?いった〜い!!」

 

「私の匂いじゃない!付け加えれば私は臭くないわよ!桃みたいな香りでしょ!?」

 

「ババくさ痛い!?」

 

「いい加減怒るわよ?」

 

「(。í _ ì。)ハーイ」

 

なかなか話が進まないものの、幽々子は仕方なさそーに匂いをかいだ。すると・・・・・

 

「∑(๑º口º๑)ゴハンノニオイ!?」

 

と一気に駆け出しヘッドスライディングで座布団に飛び込み、宙返りしながらキチンと正座して座る。

 

「 (๑`•ㅁ・´๑)✧早く座りなさいよ紫。」

 

「コ、コイツ・・・・・!!」

 

「怒ったって体力の無駄よ。今は食べる時。蓄える時なのだから。」

 

「殴っていいかしら?」

 

「暴力は何も生まないの。産むのは卵だけにしなさい紫」

 

「産まないわよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くの時がたって、2人は再び会話していた。

 

「さて!紫!本題に行くわ!」

 

「帰りたくなってきたのだけれど」

 

「なんだかんだ言っても付き合ってくれる紫ちゃんマジ天使」

 

「はいはい、で、覗き見したいんでしょう?」

 

「話が早い。」

 

二ターと笑みを深めた幽々子にものっそい呆れためを向けて、紫は隙間を開く。そこに映るのは妖夢の姿。アワアワアワアワアワアワ。ひたすらに慌てふためきながら森の中を悪戯に徘徊している。

 

幽々子が何やら真剣な眼差しになった。それに、紫もだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ねぇ、紫」

 

「えぇ、わかっているわ。」

 

大妖怪の確かな覇気。もしも近くに人間がいたならばひっくり返って泡を吹いたあと、吹いた泡の勢いで空を飛べただろう。それほどの真剣さ。・・・・・先程までのギャップを含めてのものだが。

 

「「か、可愛い・・・・・・・・・・!!」」

 

「いつまでも眺めて痛い・・・・・!」

 

「可哀想でしょうが。とは言え、あの子のためなら私は何もしないわ?約束通り10年後に迎えに行けばいいんでしょう?」

 

「ええ!そうよ。・・・・・そうなの、そうなんだけれど・・・・・あー!可愛い!抱きしめたい!と言うか抱きしめる!」

 

「させるか」

 

「くっ!なんてこと!私を止められるのはりょうりだけなのよ!」

 

「幽々子様、デザートです」

 

「٩(๑>؂<๑)ハイ!」

 

「「(ちょろいな)」」「(美味いな)」

 

3人がそれぞれそんなことを思いながら、隙間から妖夢を眺める。

 

「ん?」

 

幽々子が何か異変に気が付いたようで、小さく疑問の声を上げた。妖夢がキョロキョロとあたりを見渡したあと、まるで初めて出会ったかのように半霊を撫で回したりし始めたのだ。

 

「・・・・・これは・・・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いえ・・・・・いいの。」

 

その後妖夢は木に寄りかかり、眠りについた。半霊を抱きしめて身を小さくする妖夢に、妖忌はハンカチが手放せない。

 

「ふむ、半霊を抱いて寝る癖は治ってませんなぁ。治すように言ったのですが」

 

「あら、良いじゃない、そういう所も可愛らしいわ。ね?幽々子」

 

「ええ。(気のせいかしら?)」

 

何故か頭から離れない違和感に、幽々子は何時までも首を傾げる。そして、その様子を紫はしっかりと見ていた、腹に抱えた爆弾は幽々子にとって余りに大きいネタだ。ここぞという時に爆発させたい。と言うか仕返ししたいのだ。

 

「(気が付いたかしら・・・・・出来れば気が付かないで欲しいのだけれど)」

 

「ねぇ、紫。」

 

「何かしら?」

 

「やっぱり臭くない?」

 

「・・・・・殺されたいのかしら」

 

「死ねるのかしら?」

 

「無理でしょうねっ」

 

互いにさぐり合う大妖怪。その横で妖忌だけは全力で妖夢に声援を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────本編───────

 

 

夕暮れ時、妖夢は走り回っていた。理由は言わずもがな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鬼ごっこである。

 

鬼ごっことは。鬼役と人役に別れ、追いかけっこを行う遊びである。単純だが、それゆえに戦術も多い。さらに言えばこう言った街中での鬼ごっこは、地形や時間帯によって逃げやすさ、隠れやすさが変化する。

 

単純だから、難しい。難しいから面白い。

 

だが・・・・・・・・・・例えば鬼ごっこの鬼が武神であったなら、こんな事もあるかも知れない。

 

「みょおおおおおおおおん!!」

「フハハハハフハハハハ!!待てぇい!待て待て!」

「縮地やら鯨飛びやらを使いまくって!なにが!鬼ごっこですか!鬼は縮地なんかしません!」

「ハーッハハッハ!勝てばよかろうなのだぁあ!」

 

ビュ!と言う音と共に、タケミカヅチが妖夢の肩を触ろうと縮地を使用するが、妖夢は大きく跳躍し、家の壁を蹴り屋根へと着地する。

 

「はぁ、はぁ!」

「妖夢ちゃんこっち!早く早く!」

「千草ぁ!お前もいたか!捕まえるぞぉ!」

「ひやぁ!?あぶなぁ!?」

 

イナズマを描くようにビュンビュン縮地を使用して、縮地の筈なのに、よく分からないけれど3次元移動をしてくるタケミカヅチ。本人曰く「空気も蹴れれば地面と変わらない」との事。

 

千草と妖夢がギリギリで屋根から飛び降りて路地を駆け抜ける。

 

「はぁはぁ、千草!あと、何人、残って!ますか!?」

「ひゃ!あ、後は!多分!5人!っんあ!!」

「逃げるの上手いなお前達!お父さんは嬉しいぞ!」

「「ひぃいいい!」」

 

妖夢は身体能力が無ければ捕まり、千草はその持ち前の視力が無ければ対処出来ない。ギリギリの戦いの中、絶望は訪れる。

 

「「!?」」

「ふっ。リーナさん登場!僕の結界で動きを遅くしてあげたよ・・・・・!」

 

鬼ごっこ。これには沢山の種類がある事をご存知だろうか?そう、例えば凍り鬼。捕まればそこに固定され、助けてもらうまでは動いてはいけない、という鬼ごっこ。

 

いま、妖夢達が行っている鬼ごっこは『増え鬼』又は『増殖鬼』と呼ばれる鬼ごっこだ。要するに、鬼に捕まった人は鬼となり、後半になればなるほど鬼が増え、生存が難しくなる鬼ごっこ。主に人数が多く、ゲームが終わらない可能性がある場合に用いられる。

 

そう、リーナもまた『鬼』。身体能力が低い彼女が鬼にならないはずが無い。何故ならば、勝たなかったら罰ゲーム。買った場合は御褒美が待っている。負けられない戦いはいくらでもあるのだ。

 

「よぉくやったぁぞぉ!りぃなぁ!」

「あっ、タケミカヅチ様まで遅くなってる。」

「ふぅっ、たぁけもおぉそぉくぅなぁってるなぁらぁ、わぁたぁしぃのぉほぉうぅがぁはぁやぁいぃはぁずぅ!」

「にぃげぇるぅなぁぁ!」

「にぃげぇまぁすぅよぉ!ちぃぐぅさぁ!」「りょぉうぅかぁいぃ!」

「しゅぅくぅちぃ!」「しゅぅくぅちぃ!」

 

全体的にスローモーションになった3人がスローモーションで駆け抜ける。リーナは頭に汗を浮かべてそれを見守った。

 

「ぷはぁ!抜けた!逃げますよ千草!」

「うん!」

「まぁてぇ!くっぅそぉお!うぅごぉきぃがぁ・・・・・!くっ!抜けたか!差をつけられたな・・・!はぁ!」

 

何とか抜け出した3人が再び鬼ごっこを始めた。なんと三人全員が縮地を使用して駆け回るという暴挙。

 

「しつこ過ぎる・・・・・!なにかまく方法は・・・・・!」

「妖夢ちゃん!これを使って!!」

「・・・・・これは?!」

 

千草が胸元から丸い球体を取り出し、妖夢に渡す。

 

「煙玉ですか!」

「正解!」

「タケ!プレゼントです!」

「おっ気が利く・・・・・ん?」

 

ぼフン。という音と共にタケミカヅチが煙に包まれる。今だ!と全力で逃げる妖夢と千草。ちなみに命はとっくに捕まっている。

 

「はぁ!はぁ!どうして、こんなことに、なったんだっけ?!」

「そんなの!分かるわけ!ありませんよ!」

 

本人達は良く知っているが、思い出したくない。この久しぶりキッツイ修行と化した『戯れ』は、元はと言えば妖夢が提案したのだ。ただ単純に「タケミカヅチに甘えたい」が故に。

 

 

 

 

時は遡り、午前。

 

タケミカヅチを除き、妖夢達は居間に集まり会議していた。

 

「・・・・・という訳なのです」

「「「なるほど」」」

 

妖夢は語った。せっかく生きて帰ったのだから、親孝行も兼ねてタケに甘えましょう!と。そこから即理解、即会議である。タケミカヅチ大好きっ子の4人組は、アーでもないこーでもないと案を提示していく。

 

「やっぱり鍛錬じゃないか?タケミカヅチ様だし、喜んでくださるだろう」

「桜花殿、それでは甘えられていません」

「・・・・・確かに、鍛錬で甘えさせてくれる神では無いからな」

 

桜花は鍛錬を推した。しかし、武神が鍛錬で甘えさせるなど有り得ないと提案は蹴られる。

 

「ならば将棋は如何でしょうか皆様」

「軍神相手に将棋ですか・・・・・勝てる気がしませんね」

「む・・・・・確かに・・・・・」

 

軍隊の戦いを駒を用いて再現する将棋では、軍神が甘えさせてくれるとは思えない。と命の案も蹴られる。

 

「うーん、一緒にお買い物?」

「ん、悪くは無い。が、何だか甘えられてないような気がするな・・何でだ・・・?」

「買うのが私達だからでは?」

「そ、そうか?」

「甘えると言うか、貢ぐというか・・・・・」

 

お買い物。本来なら父や母に欲しいものをせがみ、買ってもらうのは「甘え」だろう。だが、残念なことに金を稼いでいるのは妖夢達だ。これでは「甘える」という行為とは違うだろう。

 

「むー、もう鬼ごっことかで楽しく遊ぶしかないのでは?」

「鬼ごっこかー、そうは言ってもな、どこでやるんだ?」

「え・・・・・ま、街中とか?」

「街中って・・・・・」

 

うーむ、うーん、えーっと、とそれぞれが唸る。いざ甘えようと思った時一瞬にして甘える案が出る人物達では無い。なにせ皆真面目で実直なのだから。良くも悪くも「いい子」なのだ、タケミカヅチに迷惑になるような行為が簡単に出てくる訳では無い。

 

甘えるとは迷惑をかける事だ。それゆえに絞り出せない。

 

「くそー、どうする?」

「うーん、やっぱり鬼ごっこでいいのでは?」

「隠れんぼとか?」

「タケミカヅチ様の身体能力でそれはきついだろう。」

「え?(鬼ごっこ提案を思い浮かべながら)」

「え?(タケミカヅチの移動速度を考えて)」

 

その後もグダグダと考えて、結果的に「鬼ごっこ」に決まったのだ。

 

 

 

 

 

 

そして、今に至る。

 

「ふっ!あれで撒けたと思ったか!武神舐めるなよ!」

「油断も慢心もせずに全力でやってこれなんですが!?」

「そうですよ!?」

「隙あり!」

 

律儀にもツッコミのために若干後ろを向いて速度が落ちた2人にタケミカヅチが迫る。

 

「うわっ」

「千草!?」

「貰った・・・・・!」

 

千草がタケミカヅチを避けるために踏みしめた屋根がズボりと抜ける。もちろん千草は一瞬動けなくなり、タケミカヅチがそこにタッチする。

 

「ひゃ・・・・・!あ、あわわ、あわわわわわ・・・・・!?」

「おっと、すまん。落ちるのを防ごうとし」

「きゃぁああ!」

「アベシッ!!」

 

それ以上落ちるのを防ごうと両手を伸ばしたタケミカヅチ、しかし、運が良かったのか悪かったのか、片手が千草の胸に触れ、逆鱗に触れたようだ。レベル3の殺人的ビンタが迫り・・・・・いや、完全に命中し、その衝撃を首だけでほとんど殺しきって吹き飛んでいく。

 

「千草が・・・・・やられた・・・・・?くっ!千草!あなたの勇姿!忘れません!」

「お願い忘れてぇぇえええ!」

 

真っ赤になって体を抱きしめる千草を置いて、妖夢は夕日に光る涙を散らしながら駆け抜けていく。

 

(捕まる訳には行かない・・・・・!・・・・・ん?てか何で私は鬼ごっこ何かに興じて・・・・・?いや、私が提案したんですけどね?絆は大切です、でもそれよりもハルプを探した方が問題の解決は早急に行えるはず・・・・・。ハルプを通して説明してもらえば全て解決する筈なのに。)

 

「余所見とは余裕だな、妖夢。」

「なっ・・・・・!」

 

いつの間にか。目の前にいる。そんな恐怖に晒された妖夢は固まる。その硬直にタケミカヅチが顔をしかめた。・・・・・前までは、このようなことが起きてもすぐさま行動に移せた筈だからだ。前とは違うと、知識だけでなく実感もした。

 

「・・・・・。」

 

何も言わず肩にタッチする。妖夢は捕まった。あっさりと。

 

「つ、捕まってしまいました・・・・・。あ、アハハ。」

 

少しだけ怯えたような顔でタケミカヅチの顔色を伺う妖夢。その事にタケミカヅチは申し訳なくなって、急いで表情を戻す。

 

(受け入れなくてはならない。目の前にいるのが俺達の知る妖夢でなくても、妖夢である事に違いはない。受け入れるんだ。)

 

タケミカヅチの頭にむかしの記憶が蘇る。妖夢はタケミカヅチこう言った。

 

────

 

「私たちは家族なんですよね?なら私は許します。家族なら言い合いだって喧嘩だって物の取り合いだってきっとするでしょう、でも、家族なら最後はきっと手を取り合って仲良く出来るはずです。」

 

「本で読みました、例え血が繋がってなくても家族にはなれるんだって。えへへ、俺達がお前の家族だって言ってくれた時は嬉しかったです。」

 

「そんな顔しないでください、大丈夫です今までが違うなら私達で作ればいいんですよ。そうですねぇ・・・タケがお父さんで、命がお母さん、桜花が長男で、私が長女、千草は妹です。どうです?」

 

──────

 

(俺は・・・・・この後約束したんだったか。家族だと。・・・・・なのに俺は、アイツの心情を無視してファミリアを大きくした。ファミリアが大きくなって安定すれば、きっとみんな喜んでくれると、そう思っていた。)

 

タケミカヅチは拳を握り込む。血が出るほどに強く、握り込む。妖夢が目を見開いてタケミカヅチの顔と手を交互に見比べる。

 

「た、タケ?」

 

(けれど違ったんだな。・・・・・小さくて良かったんだ、狭くてよかったんだ。・・・・・苦肉の策だったんだろうな、ファミリアの分割は。あれすら俺は蹴りかけた。非効率だし、面倒だったから。・・桜花たちは、そんな妖夢の考えを察して無理にでもあの案を通したんだろう。)

 

「俺は・・・・・ダメな父親だな。娘の気持ちもわからないなんて・・・・・」

 

タケミカヅチは沈み込む。子は親に似るという言葉がある様に、彼は真面目で実直だ。しかし、沈み込むタケミカヅチの頭を妖夢がそっと抱きしめた。

 

「そんな事はありませんよ。貴方は私達のお父さんです。私も、あの子も、タケ以外のお父さんは知りませんから。」

「どういう、事だ?」

 

妖夢はタケミカヅチの頭を抱きしめながら悲しそうに、懐かしそうに言葉を紡ぐ。

 

「私にも居ないんですよ。お父さんが。知らないんです、顔も声も、何も。居たと言う事実が有るだけです。あのこと同じ、あの子も何も思い出せないんです。」

 

ふふ、と妖夢は少しだけ嬉しそうに笑った。

 

「一緒、ですね・・・・・少しだけ嬉しいと思ってしまいました。でも、あの子は嫌がるかな・・・・・」

「そんな事は無い、ハルプならきっと『一緒だな』と笑ってくれる。」

「あはは、そうですね。きっと、そうですよ。」

 

さて、と妖夢はスカートが花開くように、くるりと回りながら1歩下がる。そしてタケミカヅチに手を差し伸べた。

 

「お父さん!帰りましょう!私達のお家はこっちですよっ!」

「は、ははは・・・・・。適わないな、全く。妖夢は妖夢だ、昔も今も変わってそうで変わってない。」

「むー。なんです?それは。なんだか褒められている気がしません!」

「ははは!悪い!お願い聞くから許してくれ!」

「えへへ、はい!了解です!味噌汁にトウガラシ入れときます!」

「いや何で!?懐かしいけどな!?」

 

夕日が沈む。けれど、人の営みは終わりはしない。きっと朝まで騒ぐのだ。隣の家がなんだ、モンスターがなんだ。自分の武勇を大げさに語り、誰かの痴態を笑う。

 

この街は楽園だろうか?

 

その問に多くは頷くだろう。けれど、頷かない者も確かにいる。

 

見えているのは表舞台のみ。見えない裏は悪が好きなだけ蠢いている。

 

この街は楽園だろうか?

 

この問にあるものは首を振った。此処は魔境だ、魔物が常に足元に居て、冒険者達はいがみ合う。殺し合い等いくらでもあるのだ、楽園な筈がない。

 

 

 

 

 

「とっ、殿方の鎖骨ぅ〜〜〜ッ!?!?」

 

・・・・・果たして彼女にとって此処は楽園か否か。鎖骨を見るだけで気絶するほど男に耐性のない娼婦は1人の人物を待ち続けていた。

 

気絶した彼女はいつも同じ夢をみる。初めは気絶する前に見た男との秘め事をする夢、そしてその後必ずこの夢を見るのだ。

 

「春姫、ですか?」

「はい、わたくし、春姫と言います。・・・・・おっ!お友達になってくだしゃい!」

 

それはとある少女と彼女・・・・・春姫が少女の友達になった日の夢だ。

 

「・・・・・どうしてですか?まだ出会ったばかりですが。」

「わ、わたくしっ!お友達が欲しくて・・・・・!」

「友達とは絆を結んで初めて出来るのです。・・・・・焦らずゆっくりと仲良くなりましょう!」

 

焦る春姫を宥めて少女は優しく微笑む。頭を撫でられる感覚に春姫はその表情をだらしなく崩す。赤くなる顔に少女が眉を八の字にまげて「しかたない」とでも言うように笑う。

 

「は、はい・・・・・。今日は何をしますか?」

 

ハッとして恥ずかしくなった春姫は少し間を置いて真面目な顔で話しかける。それに対し少女は微笑みを隠さずに対応する。外見では殆ど変わらないような少女が、まるで大人のようでかっこよく見えた。

 

「今日は、そうですね・・・普段は何をしてますか?」

「えっと、お化粧の練習とか・・・・・」

 

え、私やったことないですそれ・・・・・と小さな呟きが聞こえた。だから春姫は教えてあげることにしたのだ。

 

「なら、わたくしが教えて差し上げます!」

 

そこから彼女達の友情は始まったのだ。恥ずかしがって逃げようとする少女をどうにか説得したり、頑張って捕まえたりして、教えて、教わった。

 

「これは・・・・・カチューシャですか・・・・・」

「はい!・・・・・わぁ、とってもお似合いですね!」

 

黒目がカチューシャに目をつけた少女にそれを贈り物にしたりもしたのだ。春姫にとって最も幸せな時期だった。命、千草、桜花、そして少女。

 

「ほ、本当ですか?」

 

腕を後ろで組んで、恥ずかしそうに春姫をみる少女。

 

夢は、ここで変化する。

 

家からの勘当。そして乗せられる馬車。ほんの小さな出来事で、春姫は少女と達とお別れをしなくてはならなくなった。

 

馬車を見送るものは少ない。命に千草、そして桜花の3人だ。「友達」の3人だった。春姫は少し沈んだ。

 

少女は・・・・・「友達」には無れなかったのだろうか、私が嫌いだったのだろうか。そんな思いが離れない。

 

カタガタと揺れる馬車内で涙をこぼしていた時、その声は聞こえてきた。

 

「・・・・・・・・・・むです!・・・・うむです!」

 

揺れる車内を四つん這いで突き進み、外に顔を飛び出せば、馬車に追いつこうと走る少女の姿が。

 

「妖夢です!魂魄妖夢!私の名前です!春姫!」

 

はしりながら、息も絶え絶えで必死に名前を叫ぶ。そんな妖夢に春姫は涙を流す。

 

やっと教えてくれた、と。

 

「・・・・・覚えました。覚えました!妖夢様!」

 

春姫がそう言えば、妖夢は安心したように速度を緩める。そして、声が聞こえる内にと、大声を張り上げる。

 

「私は!あなたの事!お友達だって思ってますから!」

 

妖夢そう言って大きく手を振る。春姫は涙を袖で拭って手を振り返す。

 

「「また会いましょう!」」

 

簡単な約束を一つ残したままに、馬車は走り続ける。

 

 













さて、なんだか伏線が増えてきましたね。可笑しいなぁ、なんで回収しようとすると増えるのか・・・・・。

次の話はハルプ視点、からのタケミカヅチからの妖夢の説明会となっております。

ハルプの能力が唐突に明らかになりますよ。強引です。どんな能力なのかある程度バレてそうですけどね。

コメント、誤字脱字報告、募集してます!シフシフのモチベーションの為にも一肌脱いでくだされ٩(´✪ω✪`)۶


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

63話『・・・・・限界だ・・・・・!早く・・・・・!』

遅くなって申し訳なぃです・・・・・、え?待ってなかった?ですよね。

シリアスです!危険!シリアスです!

迷いに迷って迷走した結果こんな形に・・・・・前半駄神様の視点です。

シフシフ調べでは最もシリアスなキャラな駄神様・・・・・でも株は上がらないんだろうなぁ。










おっす、オラ悟空。現在ダンジョン探検中です。十八階層です。大きな穴が空いています。一体誰がこんなひどいことをしたんだ。まったく、親の顔が見てみたいぜ。・・・・・割とマジで。

 

「ふぇー。やっぱスゲーなこりゃあ・・・・・。再生してねぇぞ・・・・・」

「周りが少シ残ってル位ダネ・・・・・」

 

うむ。そうなのだ、まるでドーナッツ。

 

さて、リヴィラのあった場所に偵察に訪れている俺たちなんだが・・・・・冒険者が居ないな。まぁあれだ、ダンジョンはいるなよー、って言われたんだろう。好都合好都合。

 

『さて、始めますか。邪魔なものをどけるぞ』

 

まずは掃除からだな。廃材を穴に投げ捨てて、まだ使えそうなものは脇に寄せる。リド達もやってくれているようだ。

 

『これはーOK、これはーダメー。』

 

選別選別、要らないものはどけて欲しいものを残すのです。・・・・・とは言え、これじゃあさすがに足りないからどっかから木、若しくは石を持ってこないとな〜。十九階層が木で出来ているって言っても取り出したり切り出すのは骨が折れるからなぁ。

 

「ん?」

 

ん?リドがなんか見つけたかな?

 

『どうしたリド』

「・・・・・死体だ」

『へ〜。』

 

なんだ、死体か。

 

え?死体?

 

『え?死体あったの?』

「あぁ。冒険者だな。ハルっち、知り合いか?」

 

リドがちょいちょいと手で俺を呼ぶ、その事に若干嬉しさを覚えながらも、死人が出た要因である俺は若干足が重い。

 

『んー。違うな。こんな人知らない。』

「背中の文字読めるか?」

『読めるぞ』

「読メルんだ・・・・・」

 

なになに・・・・・?・・・・・わぁお・・・・・。タケミカヅチ・ファミリアやん。・・・・・・・・・・タケ達は元気かな?うーん、ポーション掛けてみる?胸元から取り出したりますはポーション!サラサラー。サーッ!(※液体です)

 

「うぅ・・・・・・・・・・ぅ・・・・・・・・・・ぅ?」

『おぉ?生きてたのか?』

 

死んでねーのかい。・・・・・しかし何故?何でこいつ死んでないんだろうか。

 

「アンタ・・・・・幹部の・・・・・?」

『・・・・・・・・・・名前は?』

「譲二だ・・・・・、っっ!!!おい後ろ!!」

 

譲二?じょうじ・・・・・テラフォーマーか・・・・・?何たる名推理か。さすが俺。

 

『後ろのモンスターはテイムしたんだよ。最近はダンジョンにこもってモンスターと戯れてるのさ。』

「て、テイム・・・・・だと?・・・・・確かに鎧も着てる、本当なのか?だったらもっとわかりやすい印をつけてくれ・・・・・。」

 

無理だよ、テイムしてねーもん。

 

『今は訳あって地上には戻れないんだが・・・・・まぁ手前までは送れるぜ、送ってやろうか?』

 

「あぁ、頼む。死にたくないからな・・・・・」

 

ドクン。不可思議な程に大きい脈動(・・)が俺の胸から響く。これが・・・・・恋?な訳が無い。・・・・・痛い。何故か胸が痛い。

 

「どうした?」

「グルル?」

 

ドクン。ドクン。・・・・・あぁ、苦しい。目の前の生物(人間)を見ていると、とてつもなく苦しくなる。何故か、何故か分からないけど・・・・・憎いと思ってしまう。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・離れろ。早くここから居なくなれ。』

「は、はあ?送ってくれるんじゃ・・・・・ッ!!」

 

刀を首筋に押し付ける。・・・・・違う、首を切り落としそうになったからギリギリで止めたんだ。

 

『速く・・・・・行けっ・・・・・!』

 

頭が痛い。心が痛い。身体が痛い。目をカッと見開いて力を込めて耐え忍ぶ。

 

「わ、わかったから、な?武器をしまってくれ」

『・・・・・限界だ・・・・・!早く・・・・・!!!』

「うぉおお!?」

 

立ち上がって一歩後ろに下がった譲二に刀を振り下ろす。ギリギリで回避した譲二は転がるように逃げていった。遠のく譲二を見て、未だに憎しみが心で燻っていた。

 

「ハルっち・・・・・?大丈夫か?」

 

大丈夫だ。平気。問題ない。そう言い聞かせる。

 

───罅割れる音が耳にこだまする。

 

『少し、一人にさせてくれ・・・・・』

 

そう言って中央に空いた穴に飛び降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼はダンジョンを下へ下へと降りていた。少しでも地上から離れたかったのだろう。敵意を持って襲いかかるモンスターを、見向きもせずに呆気ないほどに簡単に切り裂き進んでいく。それを駄神と呼ばれる僕は眺めていた。

 

独り言も無い。眼は常に地面を捉え、足取りは幽鬼のようだ。時折地面に落ちる涙は煙となってフッと消えるのを繰り返す。・・・・・崩壊が予想よりもはやい。速すぎた。

 

『俺は・・・・・・・・・・・・・・・何なんだろうな』

「ギャオオオオ!!」

 

彼の問いに答えたモンスターは8等分に切り分けられ地面に身体をボテボテと転げる。その問に、僕は答えなくてはならない。

 

「答えてほしいかい?」

 

質問に質問で返してんじゃねぇ。そんな雰囲気を出しながらも、何処か嬉しそうに彼は僕の前を進み始める。恐らく、今も変わらない関係が嬉しかったのだろう。

 

「君はね・・・・・僕なんだよ☆」

 

彼は僕だ、僕が作り出した『自分』。いや、正確には作り出した『自分達』の集合体。

 

『・・・・・。』

 

ヤケクソで作り出した試作品。数千の魂を一つの核に定着させた・・・・・まるで玩具みたいなものだ。

 

「・・・・・?・・はっ!・・・・・君はね・・・・・儂なんじゃよ」

 

ここまで崩壊が早まるとは思っていなかったけれど、それも継ぎ接ぎだらけ魂ゆえなのかもしれない。

 

『いやそこじゃねぇよ!?』

 

勝った!第3部完!と喜ぶ僕に彼はため息をつく。冗談は顔だけにしやがれ、と僕に呟いた。

 

「プププまだ気がついてないのかい?pgr。」

 

僕は、彼の心を傷付けなくてはならない、傷をつけて、心を剥き出しにし、引き出さなくては。彼は、自分の能力に気が付けなければ・・・・・少なくとも数日と持たないだろう。

 

『あぁ?何が言いたいんだよ・・・・・』

 

彼が僕の意味深な行動に不信感を抱いている。僕は「やっとネタバラシだねぇ。」と語り始める。

 

「僕は嘘なんてついてないんだよ。君は僕。僕は君。より正確に言うなら僕が『オリジナル』で君は『クローン』だ。君は僕が作り出した僕って訳さ。」

『はぁ?わけわかんね。ちょっと病院いって来いよ』

 

ごもっともだな意見。・・・・・信じたくない、信じる理由もない。だから彼は僕の話を足蹴にして話題を変えようとする。しかし、僕はニマニマしながら話を続ける。

 

「そう簡単に分かってもらっちゃ困るのさ!」

 

これは本心だ、大変だったのだから。一つが限度の魂を、数千個繋ぎ合わせるなんて、考えた僕は頭がおかしい。

 

「ねぇどんな気持ち?ねぇねぇどんな気持ち?自分の体が妖夢だと思ってたらしいけど!!」

 

煽る。僕の得意な技だ。彼と僕の間にある確かな、同族嫌悪がそれを助長する。

 

「ねぇどんな気持ち?ねぇねぇどんな気持ち?自分の意思で動いてると思ってたらしいけど、ねぇどんな気持ち?勘違いに気が付けずに5年も無駄にしたのってどんな気持ち?プププwおもろ過ぎて腹ねじれるわwpgrポカヌポォwww」

 

出来るだけ全力で煽る。嘲る、罵る。

 

『・・・・・何、わけわかんないこと・・・・・』

 

彼は混乱しているようだ。自分は妖夢の体を乗っ取っていたのでは無かったのか、と。まぁそう考えるのも仕方のないことだ。魂達の共存のために魂達の自己記録を抹消したのだけれど、その際に、魂を傷付けないように長い時間を使った。

 

そして彼は空っぽ。彼が入り込んだ事で記憶が吹き飛ばされた妖夢も空っぽ。空っぽ同士の彼らが共に歩み、共に学び、共に過ごした。それらは全て無意識の領域であったから、彼は気がつけなかったんだろう。

 

「自分が能力をちゃんと使えば避けられた未来だったけど、家族と別れちゃってどんな気持ち?自分の能力が『剣術を扱う程度の能力』だと思ってたみたいだけど、ねぇどんな気持ち?」

 

彼の能力は「可能性を操る」事。僕が生前から持っていた唯一無二にして万能の力。

 

『お前・・・・・流石に怒るからな?』

 

怒っても何も出来ないしさせないけどね、と子供の喧嘩みたいな考えを巡らせてしまう。

彼は僕を少なからず信用している。信頼も多少しているだろう。だが、限度はあったようだ。

 

「君の能力教えてほしい?ねぇ教えてほしいだろう?」

 

『あぁ、教えてくれよ。スッゲー前から引きずってるそれをさ。』

 

彼は苛立たしげに問いただす。

 

「君の〜能力わ〜↑デデデン。『可能性を操る程度の能力』でーぇす!人であったころから僕が持っていた唯一の異能。それがこれだ。チートだろう?でも君はそれを初めから持っていながら、まともに使うことも無く、ただイタズラに時間を浪費し、家族と定めた者を傷付け!そして人を殺した。更には家族を家族と呼べなくなってしまった。自分で決めつけてね。・・あぁ!哀れ・・・・・悲しよね?なぁ、悲しいよねぇ?ククク、フハハ・・・・・ズーッ!ペッ」

 

僕に言われて彼は狼狽える。今まで僕は彼の味方をしていた、けれど今は単純に彼を煽って、いびって蔑んでいるだけだ。信頼していた、信用もしていた。そんな者から唐突な敵意。彼の罅が広がっていく。

 

でも、彼は分かっている。僕が本当はそんなことをするヤツではないと。だからこそ、心の底で「きっとタチの悪い冗談だ」と願っている。

 

自分が言うことを聞かなかったから、きっと見捨てられたんだ。そう彼は考えた。なにせ、この世界の歴史・・・・・原作をめちゃくちゃに改編することを僕が彼にお願いしていたのだから。

 

『で、でも、俺だって一生懸命・・・・・っ!』

 

 

 

 

「はっ!死者が生者を語るな。」

 

 

 

 

思わず声が低くなる。侮蔑の言葉と蔑みの視線を向けてしまった。彼の心の底から湧いて出た真摯な言葉に、嘲笑で返してしまう。まぁ、わざとだけど。

更に彼の心が悲鳴をあげる。

 

生者と死者。明確に分けられた見えない『何か』。生物が生まれた瞬間から死に始めるように、死んだものは死んだ瞬間に生きるために進み始める。

 

彼は死者である。生きていた事など無く、魂を作り、それを妖夢の中に送り込んだだけ。故に、死者でありながら生きる為に進むことを許されなかった魂だけの塊。

 

「運命を変える可能性を持っているくせに、それを行おうとしない愚か者め。なぜ分からぬ、何故こなせぬ。・・・・・使えないものは消える運命だ。昔も今も、そうやってきた。お前は何人目だったか・・・・・一兆?一京?一咳?それとも不可思議だったか?」

 

僕の言葉は続く、彼の頬を涙が幾つも幾つも伝っていく。ヒビが広がり、嗚咽が漏れる。

今が畳み掛ける時だ、限りなく崩壊に近づけて無意識的な危機感を呼び起こせ・・・・・!

 

「何回やっても、何度作っても、どこの世界に送っても。お前は運命を変えることが出来なかった。何パターンも試した。何回でも壊した!だが!・・・・・お前は成果を持ち帰らない。

 

お前は無能だ、何も出来ない何も救えない何も変えられない!・・・・・使えない、情けない、つまらない!」

 

彼の罅が広がっていく。魂とは精神である。精神にその比重を全て傾ける彼の精神崩壊は・・・・・即ち消滅である。だからこそ、むき出しになる。

 

「死んでしまえ。消えてしまえよ。もう誰もお前を必要としてなんかいない。お前が家族だと思ってた奴らだって、お前じゃなくて妖夢を見ていたんだからな。お前はおまけ、金魚の糞と一緒だ!」

『ぅぅ・・・・・ぁぁ・・・・・』

 

痛みに身体を抱きしめて小刻みに震える。ポタポタと涙を流しては身体をうずくめる。

 

嘘だ。そう叫びたくて、彼は顔をあげる。

 

「僕はね・・・・・」

 

全部タチの悪い冗談なのかも、と言う希望に彼はすがる。けれど、それは止めを指すための一言だった。

 

「君みたいな奴が大っ嫌いなんだよ。」

 

良く聞こえるように耳元で。僕の声が響いた。彼の涙が止まる。震えを止まる。全力で無けなしの力を振り絞る。・・・・・どうだ?・・・・・と思った僕の首が飛ぶ。そこには刀を振り切った彼の姿があった。

 

『・・・・・殺ス。オマエだけは絶対に!』

 

成功だ・・・・・!

可能性を操作し命中していない事にした僕は無傷だ、そこにに彼は飛びかかってくる。

 

「笑わせるなよ紛い物。お前は俺を倒せない。」

 

地下深く、超常の戦いが巻き起こった。可能性を操作し彼の足元の地面が吹き飛ばす。彼が上方向に吹き飛ばされ、態勢を立て直すも、一瞬にして魔力で地面に叩きつける。

 

「お前は本来この世界に無いものだ。」

『黙レ!!!!』

 

地面蹴り、斬りかかろうとした彼は地面を蹴れない・・・・・・・。彼が地面を蹴ること、その可能性を1にしてやったのだ。

 

『!?グッ・・・・・!!』

 

前のめりになった彼が地面に手をつこうとして失敗する・・・・。顔から地面に突っ込み、あわてて顔を上げるが彼だが、僕ら彼の足元の地面を砕き、彼を更に下へと落とす。。

 

『くソが・・・・・!何がドウなってる!?』

 

目を血走らせ辺りを警戒しながら彼が怒鳴る。片目だけが血走りながら執拗に僕を追いかける。

 

「これがお前と俺の力だよ。いや、その末端の末端。基礎の基礎だ。可能性、それは全てに存在する。そして、それを操れるのが俺だ。」

 

つまり・・・・・。と僕は続け、彼を指さす。劣化し、初めての認識した能力ではどう足掻いても僕に勝つことは出来ない。

 

「お前は動けないし攻撃もできないし回避も出来ないし戦うことすら許されないのさ。」

 

 

 

 

 

 

 

同じような一方的なイジメが数10分続た。俺が動こうとしても動けず、ケタケタと笑う駄神。 ぶち殺したいが、まともに行動出来ない。けど、まだ何か突破口がある筈だ!

俺の目を見た駄神は俺の考えに気がついたのか、やれやれと、肩を竦める。

 

「無意識に使うなよなぁ。無意識に使う能力って恐ろしいんだぜ?・・・・・まぁ、確かにこの能力にも弱点はある。・・・・・可能性には0%と100%が存在しない。いや、

存在はしているけれど、自然には発生しない。つまり僕はね、1%から99%までしか操れないのさ。

それと、この能力は他の能力に引っ張られる性質があるからねぇ・・・・・君は妖夢の能力に引き寄せられて、本来の能力の性能を引き出せていないしね。」

 

俺は混乱する。駄神から敵意を感じなくなったからだ。冷静になり、そして、訳の分からない話そのものにも混乱した。

 

可能性を操る?さっきは何となく聞き流したが・・・・・今まで喰らった変な攻撃もそれって事か?それを俺がもってる?訳が分からん。

 

「あ、今の戦闘は軽いデモンストレーションだからね、深く考えなくていいよ。君はすごい能力を持ってる。・・・・・・・・・・ただ、それだけの事さ。」

 

俺は眉間にシワを寄せながら、武器をしまった。ウザイし、殺したいが、倒せないなら一旦引く。タケに習ったことはしっかりと覚えている。だから、ここは引く。

 

「付け加えるなら、僕が言ったことは全て本当だ。何もかもが、本心からの言葉さ。」

 

うるせぇ、ぶち殺す。俺は霧のような煙をだし、半霊に姿を変え、その場から撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ、なんとかなったかな?彼は無意識に能力を使って抵抗してきた、やはりだ。今までの彼もそうやって必死になった。

 

「・・・・・・・・・・ハァ・・・・・死ぬかと思ったよ?」

 

僕も、彼も。

 

「・・・・・・・・・・もう時間が無いなぁ・・・・・死ぬまであと何年か・・・・・。」

 

僕は後、何年耐えられるのか。彼の心は何時まで持つか。

 

「強引にやり過ぎたかな・・・・・?崩壊寸前だけど・・・・・いや、この僕なら何とか立ち直ってくれるだろう。」

 

時間が無いとはいえ、些か急ぎすぎた。応急処置にも程があったけど、彼の可能性は操作できた。これで彼の精神が崩壊する可能性は大分抑えられただろう。彼が無意識に抵抗したせいで底まで下がらなかったけど。

 

「最悪、自分の力でどうにもならなくても、繋いだ絆がどうにでもしてくれる。・・能力は明かした、後は、それをうまく扱ってくれることを、願うばかりだ・・・・・。」

 

僕は笑う。自分の目的に最も近い彼が【英雄】になる未来を思い浮かべて。

 

そして。その上で死んでくれ。必要なんだ、【英雄の魂】が、自分自身が英雄となった【英雄な自分の魂】が。僕の目的を達するために、必要なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タケミカヅチ・ファミリア・・・・・武錬の城。その1室に、今、この世の最大戦力が集まっていた。

 

「・・・・・」

 

タケミカヅチが集まった面々を眺める。まずは神からだ。ロキ、ヘスティア、ミアハ、ヘファイストス、そして自分。

次に冒険者・・・・・唯一の7レベルオッタル、6レベルのフィン、ガレス、リヴェリア、アイズ。そして原作よりも早く6レベルとなったベート、ティオネ、ティオナ。タケミカヅチ・ファミリアの幹部、リーダーの全員。そしてベルやリリ、ヴェルフだ。

 

長四角に並べられた長机を囲むように座る全員からは並々ならぬ、警戒が伝わってくる。

 

「な、なぁ、タケミカヅチ?何が始まるんや?」

 

タケミカヅチは答えない。沈黙を守り、何かを見定めている。その様子にこの場のもの達はザワつく。

 

しばらく目を閉じて、ざわつきに耳をすませていたタケミカヅチは口を開いた。

 

「一つ約束をして欲しい。」

 

張りのある声に油断していた者達の肩が飛び上がる。

 

「約束とは・・・・・何なのだ?」

「そうや、内容にもよるで」

「何か・・・・・あったんだね?」

「私なんの関係も無いんじゃないかしら・・・・・」

 

神々がそれぞれの反応を示す中、冒険者達はゴクリとつばを飲み込む。

 

「実はな・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ゆっくりと溜めて、視線を集める。誰もが耳を傾けたその時を狙ってタケミカヅチは言い放つ。

 

「妖夢が記憶を取り戻した。」

 

タケミカヅチは眉間にシワを寄せ、真剣な目で睨むようにして全員を見た。信用できるか否か、それはこの先にかかっている。

 

「・・・・・・・・・・なんで、そんな顔をしてるんや?記憶が戻ったのはええ事なんやないんか?」

「・・・・・・・・・・まさか・・・・・失う前の記憶だけなのか?失ってからの記憶が、ない?」

「!?そんな事・・・・・有り得るね・・・・・」

「なるほどね、溺愛してたものね・・・・・」

 

若干違うのでタケミカヅチは言い直す。

 

「いや、記憶はある。だが、これまでの約6年間の記憶と、失う前の数十年の記憶が混ざり合い、混乱しているらしい。」

 

タケミカヅチの言葉に誰もが「なるほど」という顔をする。完全に理解出来ずとも何となく解ったのだろう。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ハルプの事を、覚えてるよな、皆」

 

タケミカヅチが何故か心配そうに聞いてくる。

 

「当たり前です。忘れるわけがありません」

 

命が誰よりも先に答え、タケミカヅチは口元を緩める。

 

「良かった。なら話を進めるが、妖夢には二つの人格があった。わかるな?」

 

部屋の皆が頷く。

 

「しかし、俺達は違った。一つの人格しかないと思っていた。」

 

頷く命達。「ん?」と首を傾げる他の者達、早速話についていけなさそうになる者達が出てくる中、タケミカヅチは話をやめない。

 

「妖夢からの説明でな、意識を半分に割いたりすることでハルプを操作する事が出来る。意思は一つしかない。と言われていたんだ。スキルとして現れた時はなるほど、としか思わなかったが。」

 

タケミカヅチの話しの途切れたところでロキが手をあげる。

 

「待つんやタケミカヅチ。じゃあウチらが見てきた妖夢たんが、妖夢たんで、ハルプたんは妖夢やない。つまりはウチらが見ていた2人が真実で・・・・・ん?あかん、わからんなってきた。」

 

頭を抑え始めたロキの様子にタケミカヅチが苦笑する。

 

「俺だって頭を何度も抱えたさ。・・・・・記憶が戻った原因は妖夢の魔法だ。それを発動したショックによって記憶が戻った。が、それと同時に、一つの身体に共存していたハルプが弾き出された。・・・・・最近、ハルプを見てないだろう?それについて尋ねてもはぐらかされた筈だ。」

 

「そこで」とタケミカヅチが話を進めていく。

 

「妖夢に対する認識を再確認すると共に、今までの印象を教えてあげたい。さらに言うとハルプが居なくなった要因を探り、ハルプ自体も見つける。・・・・・協力してくれ。頼む。」

 

タケミカヅチが頭を下げる。同じ神々だけでなく、子供たちにまで。その強い意思のこもった頼みを蹴るものは居ない。

 

「はい!もちろんです。今まで家族として生きてきた全てを教えてさしあげます。少し驚きましたが、ハルプ殿だって共に暮らしてきた家族ですから」

「うん!私も!頑張りますタケミカヅチ様!」

「ははは、当たり前だよな?」

 

桜花の言葉に口々に賛同の有無を伝える皆。しかし、ベートだけがそっぽを向いている。

 

「なんやベート、なに拗ねてんねん」

「あぁ?うるせぇな。」

 

ベートは悔しがっていた。実は最近ハルプを探して街をウロウロしていたりしたのだ。妖夢にあってそれとなく聞いてみても、残念ながらはぐらかされた。妖夢が乗ってきそうな「戦闘訓練」に誘ってみたりしたが断られた。歩き方、座り方、身振り手振りに違和感を感じていた。さらには「ベートさん」と1度でも呼ばれている。

 

これ程にヒントがありながら、なぜ自分は『友人』の異変に気が付かなかったんだろう。自分に出来た小さな友人の扱いに、困りながらも少しの楽しさを同時に感じていたのだ。

それに、『友人』である。ベートに出来た友人なんて片手でかるーく収まってしまう。

 

と言うか妖夢とハルプだけだ。

 

そんな友人だ、助けたいと思うし、頼りにされたいとも思う。だからこそ悔しい。頼られた時は「面白いやってやる」と思った。妖夢が人を殺してしまった時は「ふざけんな」と怒った。

 

なぜ、自分の元に来ないのか。ベートは悔しがった。自分に頼ればいい。友人なのだから。言えないことはある、それはベートにも分かっている。だが、頼って貰いたかった。ベートは自分が強いと自負している。逆境にあって耐え忍ぶ術も知っている。

 

だから、自分の前位には現れてもいいのではないか。そう、考えてしまった。

 

だから、悔しい。ここまで譲歩している自分が恨めしい。自分とはこんな人間だったのか、と問いただしたい。そんな気持ち。

 

「・・・・・うるせぇよ。手伝うのは構わねぇ。やってやる『ダチ』だからな。」

 

なぜ、同じファミリアの「仲間」でも無いのにここまで協力しているのだろう。

 

「・・・・・けどよ、第一線の冒険者動かすんだ。分かってんだろうな?」

 

恥ずかしいからキツく当たる。困ってるタケミカヅチに報酬を所望する。

 

「あぁ、わかっている。」

 

短く本気で言われた言葉にやるせなくなるベート。自分は、まだまだガキなんだなぁ、と思い知る。

 

「ふふふ、青春やなぁ」

「あぁ、そうだね。」

「うむうむ。若いもんはこう出ないとな。」

「・・・・・相手は子供だが・・・・・それでいいのかお前達は」

「テメェら後で殺す」

「・・・・・え?私もかベート。」

「そうだババァ!殺すからな後でまじで!」

 

早速始まった喧騒。けれどこれも照れ隠し。わかっているからこそ、タケミカヅチは微笑んだ。

 

「妖夢、ハルプ・・・・・お前達の帰る場所はここにある。決して無くなったりしないぞ。な、お前達」

 

「「「はい!」」」

 

つぶやきに命達が一斉に返事を返す。

 

夕暮れ時、陽が地平線に沈もうとする中で会議は行われる。題材は『妖夢について』。

 

満足気に頷くタケミカヅチ。微笑む皆。しかし、ここに妖夢の姿は無い。彼女は今、オラリオの街を練り歩いているのだろうか?

 

否。その背には刀を背負い、防具を外し、紺色の装束に着替え、時を待っていた。数日前から始めたこの行為。しかし、それを止める時はまだ先だろう。

 

仮面を顔につけ、髪を束ねる。

 

人知れず、戦いは進む。

 














はい、そうですよね、言いたいことはありますよね。

え、チートですか?はい、チートです。割と初期からずーっと使っていた能力です。いろんな場面で使ってましたよ、ほら戦争遊戯とかそれ以前の強敵とかの場面で、「いや絶対死ぬだろ、その攻撃くらったら」という場面があったでしょう、なのに肋骨1本とかで済んでいたりしたのはこの能力を無意識に使っていたからなのです。

能力的には万能だけど運要素が常に絡む使いにくさ。けど純粋に強いのです。



ちなみに駄神様とタケミカヅチ(本気)だとタケミカヅチが勝ちます(確信)


なんと言うか、今回は批判が多そうですね、怖いぞ。

コメント、誤字脱字報告、お待ちしております。次回はリクエストにあったアリッサとモルドが偶然再会したら、と言うのが前半にありますので、おたのしみに。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

64話『ここか?ここがいいんか?うししし。』


どうも、シフシフです。64話です。ほのぼの多めです。しかし、やはりほのぼのが苦手なシフシフなのです。すまぬ・・・・・文才無くてすまぬぅ。自分の小説見直すと句読点とか抜けまくってて笑えます(直せ)

あと、ラストに挿絵載せます。妖夢です。次話にはハルプを載せるつもりです。両方、所要時間は30分~五十分位なのでクオリティはお察し。









【リクエスト】『再会』

 

 

 

 

私は今、暇をしている。1日の鍛錬は終わらせたし、これ以上やっても意味が無くなるだろう。・・・・・しかし、現在ダンジョンは入ることが出来ない。それにギルドからどんな要求をされるかわからない状況だ。ギルドから完全に目をつけられている私達タケミカヅチ・ファミリアは、目立つ行動を慎まなくてはならない。

 

「ふむ・・・・・」

 

もう既に書類整理も終わらせてあり、武器の手入れだって終わってしまった。やる事などそれこそ鍛錬しか・・・・・。

 

「いや、皆に会いに行くのも手か?」

 

一人で暇ならば2人。そういう訳だが・・・・・確かリーナとクルメは居ないはずだ。またオラリオを巡っているとか。

 

「まて。一人で飲む酒もいいものだ。」

 

そうだ、私はチビチビと一人でよく飲んでいたじゃないか。そして、その周りで冒険者達が騒ぐ。喧騒を肴に酒を飲むのはなかなかに楽しいものだった。まぁ最終的に私が止めるのだが。

 

「・・・・・行くか。・・・・・む、そうだ」

 

すこしお洒落というものをして見るか?今の今まで騎士甲冑ばかりだったが、町娘のような格好ならば知り合いにもバレることは無いだろう。うむ、なかなかいい考えだ。

 

 

 

 

 

 

そん理由で私は豊穣の女主人へとやって来た。ここは女性ばかりが店員であるから、女性も来やすい。もちろんそれら目当てに男性も多いが。

 

「いらっしゃいませー!」「いらっしゃいにゃー!」

 

軽く頭を下げて店にはいる。普段ならば奇怪なものを見る目が今日は無い。その事に気分を良くしながら席に向かう。

 

「店は初めてかい?」

 

おっと、店主ですら気付かないか・・・・・。うむ。うむうむ!・・・・・楽しいな。・・・・・っていかんいかん。返事を返さねば。っ!そうだ、声でバレる可能性があるな。ふむ・・・す、少し高めに出してみるか?

 

「あ、あぁそうなんだ。」

「ははは!緊張してるんじゃないよ!ここでは好きに飲んで、好きに食って、好きに騒げばいいのさ。もちろん器物損壊させたらぶちのめすけどね!」

「あ、あはは」

 

な、なんだこれは・・・・・!めちゃくちゃ恥ずかしいぞ・・・・・!?私が私じゃないみたいだ!

 

「で、誰か連れを待ってるのかい?」

「連れを?」

 

なぜそのような事を聞くんだ?

 

「随分とお洒落しているじゃないかい、男を待ってるんじゃなかったのかい?」

「なっ!?」

 

た、確かに・・・・・これはリーナに強引にプレゼントされた、お洒落な洋服セット・・・・・そう見えるかもしれない。しかし私に男の伴侶など居るはずも無い。

 

「図星じゃないか。まぁゆっくりと待つんだね。これはサービスだよ。」

「え、いや!ちがっ!!・・・・・行ってしまった・・・・・。」

 

そう言って美味しそうなツマミを置いて言った店主。

 

・・・・・ま、まぁ勘違いが起きただけ、実際に待っている訳でもないし・・・・・待てよ?これはもしや誰も来なかった場合・・・・・「あぁ、フラれちまったんだね」とか店主に言われるのではなかろうか?最悪だな・・・・・どうにかして回避を試みて・・・・・いや、どうやって回避するんだ。

 

「ご注文はお決まりかニャ?」

「む・・・・・取り敢えず水を1杯」

「了解ニャ」

 

くっ、どうする?どうすればいい・・・・・!

 

「いらっしゃいませー!1名様御来店ー」

 

ん?と私がふりむけば、入口には見知った顔が。名前はモルド、私が守ると誓った人の一人だ。彼もあの戦いを生き延びたのか・・・・・よかった。・・・・・私は守ると、そう大口を叩いた。しかし、人は死んだ、私の目の前で水晶に押しつぶされた、咆哮で砕けた。

 

やはり、やるせない。もっと、もっと良い結果があったのではと悔やむ気持ちが湧いてでる。もっと強ければ彼らを救えただろうに。

すると、モルドは周囲を見渡したと思えば私の隣に座った。急いで視線を逸らし、前を向く。

 

「なぁ、嬢ちゃん。」

 

私はチラリとモルドを見る。・・・・・失念していた。あの時、あの戦いの時に、モルドは私の素顔を見ている。西行妖と呼ばれる木が存在する不思議な世界で、肉体の無い、けれど肉体のある、そんな不思議な世界で私の顔を見たはずだ。

 

「・・・・・だんまりかよ。」

 

話せばバレるだろう馬鹿者め。

 

「まぁいいさ。・・・・・俺はよ冒険者なんだ」

 

知っているとも。初めは随分と荒れていたからな。

 

「だがよ、夢があるんだ」

「・・・・・?」

「へへ、気になるかよ」

 

横を見ないで前だけ向いて、モルドは語る。気を利かせた女将が度の低い酒を私たちの前に瓶ごとグラスと一緒に置いた。

 

「俺はさ、こんななりだが・・・・・騎士になりたかった」

「・・・・・!」

 

モルドが・・・・・騎士に?

 

「憧れてるやつがいたのさ、つえぇんだよソイツは。折れねぇ、曲げねぇ。仲間の為に傷ついて、平気な顔して強がって。盾になって怪我してもよ、次の冒険の時ゃあケロッとして鎧着込んでやがる。」

 

ふむ、驚いたが・・・・・モルドにもそのような奴が居たのだな。

 

「追いつこうと必死になったさ・・・・・けど、追いつけねぇんだ。どれだけ手を伸ばそうとも、アイツだけ先に行っちまう。アイツが憧れた『騎士』ってやつに俺もなりたかったんだがよ・・・・・」

「・・・・・・・・・・!」

 

き、騎士に憧れた者が・・・・・3人・・・・・?!騎士サークルとか作れるのではないだろうか!?円卓、円卓の騎士、円卓会議・・・・・くぅ!カッコイイなあ!

 

「・・・・・そいつがよ、嬢ちゃんに似てんだよ。」

「!?」

 

ば、バレているのか!?いや確証をえている訳では無いはず・・・・・

 

「はは、なわけないか。悪いな、こんなオッサンの語りなんざ聞かせちまってよ。」

「・・・」

 

ふぅ、よかった、バレていないようだ。・・・・・まてよ?似ている?私に?なおかつ騎士が好きで、モルド達を庇ったりして戦う・・・・・??み、身に覚えがあるぞ?

 

「名前は・・・・・?」

「そいつの名前か?てか、やっと話したな嬢ちゃん。まぁいいさ、ソイツの名前はアリッサ・ハレヘヴァング。俺の知る中で最高の盾で、最高の女だ。」

「っ〜〜〜〜〜!!!」

 

へ?え?あ、え?ええと、ん?!・・・・・あ、あわわわわわてててるななな!!何かが可笑しいろ!何かが!こんらの何者かの陰謀にきまつまてふ!

 

・・・・・くっ落ち着け私!思考すら噛むな!

 

こ!これはもしかしてプロポーズなのか!?(上擦った声)

い、いやしかし・・・・・私にはそんな考えはなくてだな。

 

「どうした嬢ちゃん、酒が回っちまったか・・・・・?」

 

なにが、どうした!だ!貴様のせいだぞモルド!危ない・・・・・私のキャラが崩壊する前に止めなくては・・・・・!

 

「ど、どんな所が最高?」

「えぇ?そりやぁ硬いだろう?まずはな、そして割と繊細で割と可愛いものが好きで、料理だって不味くはねぇ。それによ、最近知ったんだが、飛びっきりの美人でな」

「も!もう止めていい!」

「そ、そうか?」

 

くっどうする!?変なことを言えばその場で叩き潰して、ざんねんアリッサだ!とやるつもりだったが・・・・・!か、顔がヘルハウンドのブレスを受けたかのようだ!

 

「って、今の声・・・・・!?」

「そ、そうだ。私だ。ひっ、久しぶりだな」

 

店主!なぜそんな微笑ましそうに見ている!そしてモルド!貴様のせいだぞこの、この!この空気は!

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(白目)」

「な、なんだ、なんで気ぜつした。おい!起きろ!・・・・・起きろと言っている!」

「あだぁ!?いっでぇ!?」

「あのような事を言って!何が目的だ!」

「若い子がいたから雰囲気作りに利用しただけだからな!」

「本人にやってどうする!この愚かで不埒でどうしようもない奴め!」

「やめ!やめろ!店が壊れるだろうが!」

「はぁ!はぁ!くっ、確かにそうか・・・・・仕方ない、諦めるとしよう。しかし、許せんな。若い娘に手を出すだと?・・・・・はぁ、キュクロを見習ってもらいたいな、少なくとも手は出さなかったというのに。」

「あぁ?知るかってんだ。なんならお前でもいいんだぜアリッサ」

「・・・・・。」

「アリッサ?無言は肯定と取るぞ?うん?」

「はぁ、貴様は・・・・・これほど言って諦めないか、そうか、世のためだ殺すしかない」

「え?ええええちょっと待とう!少し待とう!それ刃物だからな、刃物だからな!!」

「てぇええええい!」

 

 

・・・・・2時間後

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・もういいだろうアリッサ・・・・・」

「あ、あぁ・・・・・流石に堪えるな。・・・・・・・・・・ふふ、だが、久しぶりに友とこうして駆けっこと言うのも、なかなか粋なものだな。」

「ヒールの癖に俺より速いとかマジで怖いからな?」

「これすごい走りにくいぞ?」

「そんぐらい見りゃわかる。・・・・・それによ、その格好。もしかして俺たちの知らない所ではよ、あんなふうに普通の女の子だったりしたのか?」

「いや、今日が初めてのお洒落だったな」

「・・・・・ほう・・・・・?アリッサの初めては俺だったわけだ」

「いや、リーナというエルフの女性だな」

「あ、はい。」

「それと、貴様の誘いだが、断る。なんだいきなり「妻になってくれ」とは。流石の私も呆れたぞ?」

「いやぁ、独身は辛いからよ」

「ふむ・・・・・そうだな、桜花団長を倒せたなら。でどうだ?」

「無理だろ、あのタケミカヅチ・ファミリアだぞ?あんだけ騒動起こしたと思ったら今度はダンジョンを崩壊させたらしいじゃねぇか」

「な、なんの話かわからないな」

「バレバレ過ぎるだろ、少しは隠せ。」

「ふふ、善処する。・・・・・さて、私はもう帰ろう。」

「そうかい、・・・・・じゃあな」

「あぁ。・・・・・どうだ、また一緒に冒険に行かないか?」

「・・・・・おう。」

 

日も暮れ始め、2人は別々の方向へ歩き始めた。けれど、その心の奥底には同じ思いがあった。

 

名を・・・・・騎士道。

 

片方のそれは柔く歪んでいるものの、それゆえに折れることは無い。

片方のそれはひたすらに固く、硬く、堅く、難く。決して曲がらず、折れず傷つかない。

 

2人の騎士見習いは歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【本編】

 

 

 

「さて、妖夢について話し合っていこうか。」

 

そう言ってタケミカヅチが胡座をかく。それに合わせるように各々が楽な体勢になって寛ぎ始める。此処は武錬の城の1室だ。

 

「ふむ・・・・・誰から語りたい?」

 

タケミカヅチがニヤリ、と笑を深めた。そうこの顔は「俺がが誰よりも妖夢について知ってるんだぜ?」という余裕の表情だ。その表情にイラッと来た者多数。

 

「まずはウチからやな!」

 

ロキがテーブルをバンッ!と叩いて名乗りを上げた。その表情やいかに、「お前が知らない妖夢を私は知っている」とでも言わんばかりだ。

 

「ほう・・・・・?で、お前から見た妖夢はどんな感じなんだ?」

「まぁ、一言で言えば『しっかり者の甘えん坊』やな。」

 

その言葉に部屋の大多数が頷いた。タケミカヅチはまだ余裕の表情だ。しかし、ロキがニヤリとその口元を歪める。

 

「ふっ、タケミカヅチぃ、妖夢たんとハルプたんの『メイド服姿』・・・・・見たことないやろ・・・・・?」

「メイド服姿・・・・・・・・・・だと・・・・・?」

 

ばか・・・・・な。とタケミカヅチが大げさに驚く。いや、本気で驚いているのだが、喜劇でも観ていると錯覚する位には大袈裟に驚いた。

 

「可愛かったで〜!もう抱き締めたい!いや抱きしめた!舐めたいとすら思ったで!」

「おい誰かこいつ殺せ」

「わかった」

「ベート!?やめ!やめぇ!あぎゃぁぁぁあ!」

 

両肩を抱きしめグネグネし始めた魑魅魍魎は、狼にムシャリと殺られた。どうやらタケミカヅチの機嫌を損ねる、若しくは妖夢に何らかの劣情を抱くと死ぬシステムのようだ。そんな空気が産まれ、次に手を挙げたのは・・・・・リーナだ。

 

「じゃ、次は僕の番ね。あ、僕は剣の館のリーダーになったリーナ・ディーンです、よろしくー。」

「「「「よろしく」」」」

 

自己紹介も兼ねてリーナが笑顔で挨拶すれば、好意的に挨拶が返ってくる。

 

「僕から見た妖夢ちゃん達は、そうだねぇ・・・・・zz。っ!強くて、可愛くて、若干怖いところも有るけど、優しい子かな。そう思うよね?」

「おい、なんで俺に振るんだよ。つか今一瞬寝たよな」

「だってダリル敵対した人代表でしょう?それと寝てないから」

「え、なに、俺そういう区切りだったのか?」

 

タケミカヅチがリーナからの印象に、ふむ、と頷く。しかしだ、簡潔すぎて何だかなぁと思い始めた。とことん聞きたいのだ。

 

「リーナ。どんなところをそう思ったんだ?」

「んー?えっとね、じゃあ強さについて。まずは単純に戦闘力が桁外れって所かな」

 

そう語るリーナはやや苦笑いだ。それもそのはず、あのゴライアスを1人で葬り去るレベル3なんて可笑しい話なのだから。部屋の大半は乾いた笑いと共に頷く。

 

「それに、アレだけ傷だらけになっても立ち上がるのは凄いよね。僕じゃあ絶対に真似出来ないよ。」

 

傷だらけになっても動けるものは居るだろう。現に、ここに何人と居る。しかし、魔力が完全にカラになり、魔力枯渇を起こしている状態で、尚且つ霊力枯渇までしており、筋肉の断裂が発生して動けるなんて正直ワケワカメなのだ。・・・・・実は倒れている間にスキル【二律背反(アンチノミー)】が発動し、レベルアップした事で、ある程度回復し、動けるようになったのだが・・・・・それを知っているのはステイタスに触れたタケミカヅチだけだ。

 

「確かに・・・・・私も、きっと無理」

 

アイズがリーナの言葉に頷いた。アイズが肯定した事にロキがギョッとした。リーナはみんなの反応を見たあと話し出す。

 

「それに、妖夢ちゃん達は人を動かす力があるよね。可愛いのも有るけど、何でか協力したくなるんだよ。それも強さの一つかな、と思うね。」

「・・・・・・・・・・意外だな、割とよく見てるじゃないか。書類は酷いのにな」

「主神様、それは言わない約束でしょう」

「初耳だなぁ?」

 

人を惹き付ける力、それが妖夢にあるのかは分からない、しかし、人々を動かして来たのは確かな事だ。

 

「あと、可愛さについてなんだけどね、水浴びした時とか・・・・・・・・・・あっ、そう言えばあの時ベート覗ききたよね」

「おい誰かそいつ殺せ」

「承知した」

「てめっ余計な事・・・・・!オッタルやめろ!あれはわざとじゃなっグァァア!!」

「あー、じゃ、じゃあ、僕はこれくらいで。」

 

ベートがイノシシタックルを喰らい消し飛んだことは置いといて、次のチャレンジャーは・・・・・オッタルた。果たしてタケミカヅチからの死刑宣告から逃れられるか・・・・・!

 

「俺はフレイア様の命により、魂魄妖夢を常に監視していたのだが・・・・・」

「おい誰か「タケミカヅチ様お静かに」・・・・・はい。」

 

早速ギルティしようとしたタケミカヅチを、若奥様こと命が止める。既に尻に引き始めているのでは?と数人が思っただろう。

 

「俺から見た魂魄妖夢は確かな戦士だ。剣に生き、忠義に生きる確かな剣士だ。お前達を誰よりも愛していたのが見ていてわかった、魂魄妖夢の強さは剣技だけでは無い「家族愛」もその強さに含まれているのだろうな。」

「・・・・・言ってることはスッゲーまともなのに【猛者】が言うとスッゲー変に聞こえんだけど、俺のだけか?」

「いや、ベート。ウチもやで」

 

オッタルが「家族愛」という単語を言った瞬間、部屋の空気が「誰この人」となったのは言うまでもない。しかし、よく良く考えてみれば【猛者】の素顔なんて知る由もなく、割とロマンチストということで収まった。

 

「・・・・・とは言えやはり極めつけはあの「武」だな。正直な話し、九つ同時の斬撃は防げるとは思えない」

「ほほう?ほうほう?なら妖夢に負けるってことか?オラリオ最強が?(嬉しそう)」

「否、断じて否。俺はフレイア様がいる限り最強でなくてはならない。負けはしない、防げずとも喰らいながら殺せばいいだけのこと。」

「やりそうでゾッとするよ。」

 

謎の火花がタケミカヅチとオッタルの間で散る。妖夢とオッタルの戦闘を想像したフィンが肩を竦めて苦笑いする。ヘスティアが、ベル君にはこうなって(戦闘狂)ほしくないと心の底から思った。

 

「はっ、妖夢とハルプが一緒なら18っつの同時斬撃だがな。耐え切れるわけがないな。」

「俺の耐久ステイタスを嘗めないで頂きたい」

「ふん、馬鹿め。妖夢の魔法で創り出される楼観剣はステイタスを無視して攻撃してくるからな。耐久のステイタスなんぞ役に立たん」

「ほう・・・・・ならば殺られる前に殺るだけだ」

「お二人共、そこまでです」

 

やはり命に止められるタケミカヅチとオッタル。落ち着けさせるためなのか、お茶が用意されていた。用意周到な女、命。もはや熟年夫婦である。

 

「は、はい!つ、つぎ、わ、わ私言います!」

 

大人数の前で緊張し、噛みまくっている千草だが、尊敬し家族的な意味で愛している妖夢の事とあれば、緊張なんて何のその。今ならきっとゴライアスも1人で倒せる・・・・・位の勇気を振り絞れる。

 

「えっと、妖夢ちゃんは気遣いができて、よく周りを見ていて、頭も良くて、私の知らないことをいっぱい知っていて、でも私とか命ちゃんが知ってることを知らなかったりして・・・・・えっと、だから・・・・・えーっと・・・・・と!とにかく凄い人なんです!」

 

「「「「「かわいい」」」」」

「おい、テメェら口に出てんぞ。タケミカヅチ、殺すか?」

「そんな簡単に人を殺すなんて許せない。誰か奴を殺せ」

「お前!おま!棚に上げやがってぇえええええ!ホブゥ!?」

「悪!即!殴!・・・・・正義は必ず勝つっ・・・・・!」

「良くやったでティオナ!偉いぞ!」

「いえいえ!そんな!あはははは!」

「(υ´• ﻌ •`υ)ナンナンダコイツラ・・・・・」

 

千草の、顔を赤くしオドオドしながらの一生懸命さが伝わる演説的なそれに、だらしなく一部の者達が顔を緩め、それを咎めたベートがお腹に拳を受けて大切断されたが、そんな事はどうでもいい。

 

「・・・・・流石俺の娘だな・・・・・。好評が多い!」

「では、次は私から言おう。」

「お、アリッサか。いいぞ」

 

心の底から嬉しそうに、妖夢の評判を喜ぶタケミカヅチ。そこにやはり鎧姿のアリッサがくぐもった声と共に、手を挙げた。

 

「私は弓の館のリーダーを務めている、アリッサ・ハレヘヴァングと言う。守る事しか脳がない私だが、以後よろしく頼む。」

 

リーナを見習い、立ち上がると皆に自己紹介をするアリッサ。ガチャガチャと鎧が鳴るが、今日は結構軽装な方だ。簡単にいうと追加装甲を外している。

 

「私が思う妖夢は、非常に鋭く、敵に無慈悲である。・・・・・まさに刀の刃のような人だと思う。しかし、

彼女は同時に『活人剣』で有るのだろう。誰かのために戦えると言うのは誇るべき事だ。・・・・・それに、最後の瞬間を見ただろう?自分が死ぬかもしれないと言うのに笑っていた。我々の為に死ぬ事を躊躇わなかった。

まぁ、私を殺そうとした時も・・・一切の躊躇いも無かったのだがな。・・・・・ふふ。」

 

少し可笑しそうに笑うアリッサ。それにタケミカヅチが苦笑いを浮かべる。アリッサが言いたい事がわかったのだろう。

 

「あの時の悪寒は凄まじいものだった。瞬きする間もなく、気が付いたら妖夢は私の後ろにいて、刀は私の首に触れていた。タケミカヅチ様が止めていなければ私は死んでいた。・・・・・そんな無慈悲な彼女が、最後は我々の為に命を張ろうとしたのだから、変われる勇気も有るのだろうな。」

 

アリッサが自分の首を撫で、そう言うと、タケミカヅチは神妙な顔付きで頷く。

 

「なるほどな・・・・・。」

「まぁ、今じゃ中身が変わっちまったんだろ?」

「おい、ダリルを連れ出せ」

「へ、いいのかよ?俺を本気にさせればこの家が燃え」

「【阿弥陀籤】・・・水!」

「つべたぃ!?おま!何でこういう時だけピンポイント・・・・・!!あびゃぁ!?」

 

アリッサがもう言うことは言った、と言った感じで座ると、タケミカヅチが顎を撫でながら考え込む、ダリルが少し暗くなった雰囲気を打破するために、濁流と化し、犠牲となった。

 

さて、そんな会話を続けていた時だ。とっ、とっ、とっ。と廊下を誰かが歩く音がした。この場にいるのは冒険者、その足音を会話しながらでも完璧に拾っていた。

 

「・・・・・」

 

静まり返る室内。とっとっ。と言う音は依然続いており、やがて、部屋の前で止まった。妖夢かもしれない。と誰もが思う。別に本人が居ても良いのだが、さっきまでいなかった手前、聞かれるのは少し恥ずかしい。

 

「・・・・・・・・・・誰だ?」

 

タケミカヅチが部屋の外、襖の奥へと声をかける。すると・・・・・

 

「拙者でござるよ〜(小声)・・・・・あれ、拙者混じったらいけない雰囲気でごザルか・・・・・?」

「お前かい!」

 

現われたのは猿、もとい猿師。ドッ!と笑いが起きた。ナイスタケミカヅチ!とタケミカヅチのツッコミを讃える声もある。

 

「いやー、笑っていただけたようでなによりでごザルな〜」

 

そう言って猿師が後ろ手で襖を閉める。そして普段よりも足音を立ててタケミカヅチの隣りまで進み、座り込む。誰もそれを気にしたりはしない。機嫌が良いのだろう程度にしか思われない。

 

そして、その閉められた襖の奥、足音を立てないように妖夢が通り過ぎる。

 

(すみません猿師さん・・・・・わがままを聞いていただいて。)

「行ってきます」

 

妖夢は小さくそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭が痛い。ガンガン響いて視界も良くない。そして何より・・・・・めんどくさい。何に対してもやる気が出ない。気だるい。

 

『ここ何階層だよ・・・・・』

 

駄神にひたすら落とされるいじめを受けたせいで、今自分が何階層かわからん。いつか殺す。絶対に殺す。

 

何回目かわからない階層の変化にため息をつく。

 

19階層は木でできてるからわかりやすいはずなんだけどな・・・・・。

 

「ぎゃぁぁぁおおおおお!」

『うるさーい。頭に響くだろ死ね』

「ぎゃぁぁぁ。」

 

名前も知らないモンスターが襲ってくるが、ウザイので斬る。・・・・・まぁ知らないってことは確実に25階層よりも下な訳で・・・・・。18より下は下層だから、もう下層ってわけだ、相当落ちたぞ?多分30階層位かな?。

 

てか何だよ、『可能性を操る程度の能力』って。チートかよ、チートだよ。でもどうやって使うんだ?駄神は「無意識に使うなよなぁ」って言ってたし・・・・・うーん、使ったことあったかなぁ。

 

『はぁ・・・・・めんどくさいなー。もうここら辺で寝ようかなー。』

 

そんな事を独り言を呟きながら進んでいると、何やら鎧の音や、複数の足音がした。・・・・・重いな、人じゃない。人じゃないのに鎧着てるのか、『異端児』だよな。うん、連れてってもらうか。

 

『ういっす。もしかして同士かな?それともタダのモンスター?』

「・・・・・!?」

 

俺が急に飛び出していきなりそういうもんだから相手は固まってしまった。でもあれだね、蜘蛛人間だね、いや、女郎蜘蛛?まぁとりあえずアラクネってやつだ。なんだっけ、原作だと・・・・・ラーニェ・・・・・的な名前だった気がする。んでもって横の黒鎧がオードリーだったかな?

 

『ん?その風貌、もしかしてリド達が話してた・・・・・えっと、ラーニェとオードリー?』

「・・・・・私がラーニェだ。そしてこいつはオード。貴様は・・・・・新入りか?」

『おう!俺ハルプ!宜しくなラーニェ!オードリー!』

「・・・・・」「オードだ。と言いたいらしい。」

 

おや、オードだったらしい。それにしても2人とも顔が見えん。鎧のせいだな。鎧といえばアリッサのイメージだったが、鎧はやはりいいものだ。見る分には凄いカッコイイ。でも、着るのは面倒臭い。

 

はっ!そうだ、能力を扱えるかやって見よう。うぉ〜!だんだん俺を連れていきたくなーる、連れていきたくなーる!みょんみょんみょんみょん・・・・・。ちなみにこのみょんみょん言ってるのは、能力を波紋上に拡げているイメージだ。

 

『そっか、わかった次は間違えないぞ。ところでさ、迷子になって帰れなくなっちゃったんだけど・・・・・背中乗せて?疲れた。』

 

俺が能力の使用をイメージして、上目遣いでそう言えば(体格的にどう頑張っても上目遣いだ)ラーニェは少し考えたあと、後ろに控えていたペガサスをちらりと見る。するとペガサスはそれに嘶きで持って答えた。

 

「乗っていいらしい。お礼はしっかりと言うのだぞ?」

『えー、俺ラーニェが良かったなぁ。ま、ありがとうな!ペガサス号!』

「私は乗り物では無いぞ。」

『乗りやすそうだったよ?』

「それでもだ」『そっかそっか』

 

まったく何なんだこいつは。とラーニェが呟く。あたすですか?あたすはハルプです。・・・・・能力、使えたのかな?わかんねー。使い方わかんねー。

 

ペガサスの首をナデナデしながら階層を進む。天井は割と高いからフワフワと浮かびながら進んで行く。撫でているとヒヒィン!と嘶いて、具合を教えてくれる。

 

『ここか?ここがいいんか?うししし。』

「ブルルル!ヒヒィン!」

 

時折モンスターが攻撃してきたものの、あっさりと異端児の皆に消し炭にされてしまう。なかなか強くて正直驚いている。でもなぁ、技術が足りないな、これは俺が教官となって教えてあげるしかないな!

 

さて、少し楽しみができたところで

 

「着いたぞ」

『ありがとうな!』

 

目的地に到着した。さて〜、リドになんて謝ろうか・・・・・。の、能力が可能性操るものなら、こう、なんて言うか、怒られない道もある・・・・・?いやまてよ、なぜ怒られると考えているんだ。むしろ心配されて終わるだけだろうに。ふむ、ええっとだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オラリオにて、闇は蠢く。彼らは『イケロス・ファミリア』、原作において『怪物趣味』をこじらせた者達が異端児を捕らえ、犯し、売り払う外道の衆。そして、その趣味は変わらない。

 

彼らは今、又と無いチャンスを得ていた。

 

「ダンジョンを封鎖する」そうお触れが出され、ダンジョンに入る者は居なくなった。極僅かな調査員だけがダンジョンに潜っている。

 

ダンジョンの入口はギルドの者達に封鎖されている、これでは怪物を捕らえる事は出来ない・・・・・筈だった。しかし、イケロス・ファミリアにはダンジョンに続く秘密の入口があったのだ。

 

ダイダロス通りから地下に降り、迷宮のように広がる地下を進み、そこに足を踏み入れる。十八階層、森が広がり、水が川や滝を形作り、水晶が乱立する。そんな場所。しかし、彼らにも予想外な事が起きていた。

 

「おーいおい、なんだぁ・・・こりゃあ」

 

壁はヒビ割れ、中央は消えてなくなり大穴が空いている。天井にあって輝き、階層中を照らしていた巨大な水晶たちは尽くが無くなっていた。薄暗くなった十八階層でイケロス・ファミリアの団員たちは、何が起きたのかわからずに困惑するしかなかった。

 

「まぁ。なんだ、取り放題なのは変わりないな。」

 

ゾロゾロと階層をすすむ彼ら。そしてその姿は下の階層へと消えて行った。

 

 

 

 

 

物事は地下だけで進むのではない。地上・・・・・いや、更に上でも物語はすすむ。

 

「ベル・クラネルか・・・・・欲しいな、欲しい。愛でたい。なぁ、そう思わないか?ヒュアキントス?」

「はっ、御心のままに。」

 

恋多き神、アポロンはほくそ笑む。白いうさぎのようなベルを、その腕に抱くことを思って。ヒュアキントスが、黒い長髪を靡かせて、その場をあとにした。

 

 










ども、シフシフです、読んでくれてありがとうございます。

そして挿絵をスッと出して行くスタイル。
シフシフ「トレース・オン」(参考はセイバー)


【挿絵表示】


今後の展開はワチャワチャする予定ですが、11巻読んだら変わるかな?って感じです。早く読まねば・・・・・(使命感)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

65話『ははは、リドっち頑張って』

夜、暗闇が街を支配する。暗がりで巻き起こるのは欲望の円舞曲。娼婦が男を誘い、男は金を払って館に入る。路地裏では何やら薬の取引が成立したようで、下品な笑いが反響する。

 

そんな場所で、剣線が走った。横、縦、斜め。肉を断ち、骨まで断ち、時折剣とぶつかって火花を散らす。壁には斬痕が目立ち、地面は抉れた部分が多い。

 

「・・・・・っ!!」

 

髪を結い、狐の仮面を付けた忍装束の少女が、都合30人からなる冒険者と戦闘を行っていた。彼女はどうやら盗人のようで、娼婦でもあり、冒険者でもあるアマゾネス達と一進一退を繰り返す。

 

振るわれた刀が、長髪のアマゾネスの指を全て斬り飛ばした。長髪のアマゾネスが悲鳴をあげて後ろに下がる。開いてしまった隙間を、熟練兵を思わせる連携ですぐさま塞ぎ、全方向からの攻撃で仮面の少女を仕留めようとする。

 

しかし、それらの攻撃全てを防ぎ、受け流し、斬り返す。攻めているはずなのに、自分が傷を負っていくと言う嫌な状況に、アマゾネス達は余裕を失っていた。

 

「糞ガキが!おらぁぁあ!・・・・・がぁ!?」

 

痺れを切らしたアマゾネスの1人が少女の死角から攻める。しかし、大声をあげた事で気が付かれたのか、神速と言って差し支えない回転斬りが放たれた。銀閃の後、臓物をぶちまける。

 

「畜生!1人やらr・・・・・が・・・・・!」

 

勝てない───そう理解し、短髪のアマゾネスが増援を呼ぼうと、少女から目を離した。

その一瞬。腹を刀が貫いた。

 

布面積が極端に少ないその腹部を、赤が占めていく。目をカッと開き苦しむアマゾネスに、仮面の少女は蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

既に戦闘開始から十分が経過した、しかし、未だ仮面の少女は無傷、息を切らす事すらしておらず、刀を構えて悠然と佇んでいる。

 

強者でありながら慢心無し。仮面の奥に見える青い目は、どこまでも鋭い。アマゾネス達は、自身の首と心臓に刀が添えられたような、そんな悪寒を感じ、一歩下がる。

 ────下がってしまった。

 

士気の低下を感じ取ったのか、少女は一瞬にして加速した。それは、この場にいる誰もが、知覚することの出来ない速度。

 

気がつけば少女は後ろに居た。慌てて振り向こうとアマゾネス達が体勢を変えれば・・・・・地面に倒れていた。斬られたのだと気が付くのに数秒必要だった。

 

「ま、て・・・・・貴様・・・・・何者、だ・・・・・」

「・・・・・」

 

傷がやや浅かったアマゾネスは、少女に問いかける。アマゾネスの問いに、少女は無言で答えた。

そのアマゾネスは気が付いた。少女の手には血が付いていない刀。つまり、血すらつかないほどに、鋭く、速い攻撃だったのだ。そ

 

「こた、えない、気か・・・・・!ならっ・・・・・!!」

 

口端から血を流しながら、アマゾネスは隠し持っていたナイフを少女に向けて投げつける。命の危機に瀕した際の、限界を超えた高い筋力で、ナイフは投げられた。寸分違わす少女の心臓へと、風を切りながら突き進む。

 

(勝った・・・・・!)

 

そう確信し・・・・・期待に裏切られる。

キイイイイイイィィィィィン・・・・・と甲高い音が谺響する。心臓に突き刺さると思われたナイフは、その姿を二つに変え、地面に金属音と共に転がった。

 

「なん・・・・・だ・・・・・と・・・・・」

 

必死の抵抗虚しく、アマゾネスは出血により気を失った。狐仮面の少女は、そんなアマゾネス達にポーションを振りまき、死なない程度に傷を癒し、その場を後にする。

 

「やはり、慣れません。記憶にあり、経験があるとは言え・・・・・知らない剣技を扱うのはちょっと不気味です。魂魄流ではなく、タケミカヅチ流とでも言うのでしょうか?」

 

首を傾げながら裏路地に消え、やがて足音もしなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十八階層、大穴が空いたこの場所で『異端児』達は集まっていた。

 

 

 

「本当にやるんだよな?」

『おうっ、頑張っていこうぜ!』

「ハァ・・・・・貴様ハ楽観的過ギル。少シハ慎重ニナルベキダ。」

『貴様じゃない、ハルプだっ。覚えてよ』

「ウム・・・・・」

 

さて、瓦礫は除けたし、あ、俺です。ハルプです。今は十八階層で街づくりやってます。ふむ、まず必要なのはやっぱりお家かな?

 

「家かラ作るノ?」

『うーん、そうだな、それでいいかも。・・・・・ごめん、偉そうに言ったけど街の作り方なんてわからないんだ。あはは』

 

俺が知ってれば楽なのにな・・・・・。可能性の能力だろ?ならさ・・・・・こう・・・・・『俺が知っている可能性』的な感じで使えないかな・・・・・う"ぇ!?

 

 ───能力を使用。検索中、可能性世界から自身の知覚領域を選択───

 

な、なんだ?検索中?霊力が・・・・・少しづつ失われて・・・・・?これが、能力?

 

───発見確率22%。内蔵されたエネルギー源から霊力を選択。霊力70%に低下。

 

と急に声というかなんと言うか、変な感覚と共に、俺が胸を押さえると、『異端児』達が心配そうにこちらを見る。大丈夫だ、と手で制する。

 

───失敗。検索出来ませんでした。内蔵霊力及び、魔力による可能性増加(ブースト)が可能。

 

不思議な感覚だ、なにも知らないはずなのに、何かが頭に引っかかる。まるで、初めから知っていて(・・・・・・・・・)、今思い出せそうになっているかのようだ。不思議な感覚に従って、霊力を送り込む。

 

──可能性の増加(ブースト)を確認。内蔵霊力53%へ低下。

 

ううっ・・・・・一気に霊力持っていかれた・・・・・。燃費悪過ぎだろ・・・・・!

 

───再試行中。並行世界の自身の深層意識まで侵入。知識を開示。発見率80%まで上昇。

 

え?アレで80%まで?いや、寧ろ多いのか?てか失敗したらまた霊力使うのか?わからないことが多すぎる!

 

───成功。該当あり(ヒット)、並行世界より自身の情報を構築中・・・・・・・・・・・・・・・。

 

オッケイ!成功見たいだ。でどうなるの?

 

「ハルっち?大丈夫か?」

『あ、あぁ、平気だよ。今思い出せそうなんだ』

 

リドが心配してくれた。俺の肩を優しく掴んで顔をのぞき込んでくる。表情は分からないが、心配してるのは伝わってきた。

 

───構築完了。情報を開示。意識を確りと持つ事を推奨。

 

ドクン!と体全身が震えるような感覚と共に、知識が頭に入り込んできた。視界が・・・・・暗転する。

 

 

 

 

パイプ、土、重機。それらが置かれているこの場所は・・・・・工事現場?

 

「あぁ!これはそっちだ!えぇ?あーそれはそっち!違う!そこじゃない!おい!聞いてるのか!」

 

やべっ人がいる!・・・・・あれ?平気だぞ?殺したくならない。・・・・・?なんだ、何だがあの人見てると・・・・・他人な気がしないんだが・・・・・いや、そうか、『俺』なのか!?俺にあった他の可能性ってわけだ!・・・・えぇ・・・・・工事のオッサン?

 

 

 

「ハルっち!」

 

うぅ・・・・・頭痛てぇ・・・・・でもどうやら俺は、工事のオッサンになった可能性があるらしい、そっから知識を逆輸入した・・・・・のかな?どうせなら美少女が良かったぜ・・・・・あ、今か。まぁいいや、返事してあげないとな。

 

『大丈夫、問題ない。うん、多分。』

「余計心配になるんだが」

 

・・・・・なんか怖いな、知らない知識が入り込んでくるって。まぁいいや。取り敢えずは拠点になる建物と、資材置き場から作っていこうか。何をするにも下地からってことだな。

 

『よし、まずは俺達の拠点になる建物を作るぞ!』

「いきなりだな!?」

『いちいち19階層とか行ってたら時間かかるだろ?いつ冒険者達が帰ってくるのかわからないのに。』

「それもそうか・・・・・そうだな!よし!みんなやろう!」

 

リドの声に、やる気のある異端児が声を上げる。いやっほー!はははは、とみんなで笑って、さらに小さくまとまった、肩がぶつかるレベルで小さく。

 

『よし、まずは飛べる奴らで上から・・・・・あ、俺飛べたわ。行ってくる』

 

ドロンと半霊モードになる。リド達がアングリと口をあけて驚いている。ふふふ、幽霊として驚かれるのはいい事のはず。ピキ

ふむふむ、上にやって来たが・・・・・こりゃ酷いなぁ。街を作るにしたってさらに小さいものになっちゃうなぁ。

 

でも、彼処にアレを作って、そこにこうだろ?あそこの途切れちゃった川を引いてきて・・・・・ふむふむ、よしっOK!するするーとリド達の前に戻って、ポンッ!と人間型に変身。

 

『よっす、大体決まったぞ!・・・・・どしたの?』

「は、ハルっち・・・・・形が変わって・・・・・」

『ふっ、姿形が変わるモンスターだっているんだし、気にすんなよ。』ピキ

 

こっち来て〜、とみんなを誘導して、リヴィラ跡地の奥側。抉れた洞窟がある、宿屋になっていたところだろうか。ここを市役所的なもの、そしてしばらくの拠点にする。壁に同化させる感じで作るんだ。モンスターが湧かない性質が変わってなくてよかった。

 

『木を使って行こうかな、集めるか。』

 

────ひび割れが・・・・・止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖夢とハルプ。二人は1人。・・・・・それは、昔の話だ。今は半人と半霊。それぞれ別の個として、別の目的を持って動いている。心の底で、合流して再び暮らす事を望みながら、「会いに行こうとする事」が出来ない。

 

何故か、それは・・・・・無意識的な能力の使用にあった。制御出来ていない故に、ハルプが無意識にその可能性を遠のけたのだ。

 

会いたくないのでは無い。合わせる顔がない。自覚はしていないが・・・・・それでも能力はそれを本人の願いとして発動した。

 

故に、妖夢は・・・・・・・・・・今日も、二人になってしまう前に、ハルプが元より計画していた活動を続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、私です。妖夢です。なかなかあの子が帰ってこなくて心配ですが・・・・・帰ってきてくれると信じます。

 

もう朝ですね。私はいつもの日課であった鍛錬を終わらせ、居間で寛ぎます。

 

さて、今日もイシュタル・ファミリアに襲撃を掛けましょうか!・・・・・え?どうして、ですか?簡単な話です。相手が人数で勝っており、質もある程度あるならば、小数である事を活かした暗殺、奇襲ですね。さらにこちらが質で勝っている現状、あえて殺さず医療費を使わせたり、襲撃に備えるために準備させることで消耗させる作戦なのです。

 

死人が出なければギルドも派閥同士の小競り合い程度に思ってくれるはずです。どうにかしてあの子の友達である春姫さんを助けなくてはいけません。

 

・・・・・?あの子を助けてから一緒に行けばいいのでは?

 

「妖夢、最近なんだか考え事をしているみたいたが・・・・・大丈夫か?」

 

っと、タケが話しかけてきました。心配そうです。

 

「タケ・・・・・大丈夫ですよ、少しあの子のことを考えていたんです。」

「・・・・・。そうだな、お前が行きたいと言ったら、みんなで行こう。」

「・・・・・?はい、そうですね。」

 

タケは・・・・・このもどかしい気持ちをわかっているのでしょうか?・・・・・きっと分かっているのでしょう。私がやっていることもきっと気が付いている。目的は知らないと思いますが・・・・・知られたら命や千草が勝手に動く。だから、知られるのはダメです。

 

「最近は・・・・・よく、刀を研ぐんだな。」

「手入れは重要ですから。」

「そうか・・・・・。あー、全く・・・・・」

 

タケが頭をガリガリと掻き、隣に座り込んだ。

 

「妖夢、何が目的だ?巷では噂が流れまくってるぞ。『お狐様』ってな。イシュタル・ファミリアは色んなファミリアと繋がっている。変な挑発は止めるんだ。」

「『お狐様』?」

 

私がお狐様について聞けば、タケは詳しく話してくれました。要するに、狐のお面を付けた剣士が、イシュタル・ファミリアに襲撃してボッコボコにした後なにもせずに帰っていく事から付けられたとか・・・・・。

 

肩慣らしの意味もあったので・・・・・特に欲しいものもないですしね。物取りはしないですよ?最終的に人を攫うだけです。・・・・・む?もっと酷くなってる・・・・・?

 

「はぁ、相談しろ相談。いいか?俺たちは家族だ。その関係は変わらないし変えさせない。・・・・・俺達はお前の力になれる。」

 

タケが私にそう言った。心配そうな目で私を見ていた。・・・・・いや、違いますね、私も見ていますが、私を通してあの子の面影をみている、探している。

 

あの子のために、結果的に私の為に、タケは協力しようとしてくれているのですね。なぜ、悲しいと思ってしまうのでしょうか・・・・・。記憶のせい?

 

「そう・・・・・ですね・・・・・」

 

ですが・・・・・やはり巻き込めない。

 

「でも、大丈夫です。巻き込みたくありません。」

 

あの子が帰ってきた時に、全員で出迎えるためにも、誰1人として欠けてもらいたくない。

私達は『家族』です。最も信頼できる人達です、だからこそ、私は彼らを頼れない。あの子の計画にも、秘密裏に助け出すとありました。・・・・・私はバレてしまいましたが、あの子ならきっと完璧にこなすのでしょう。

 

「・・・・・そうか。」

 

タケがどこか悔しそうにしながら居間を出ていきました。私はその後ろ姿を見送ったあと、私も居間を出て自室に向かいます。

 

そして、廊下を進んでいた時です。

 

「妖夢殿、少しお話があります。」

 

命が私に声をかけました。嫌な予感がしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはとある酒場。僕はレベルアップを祝う為に、リリとヴェルフと共に、酒場にやって来た。

 

「「「かんぱーい!」」」

 

飲めや歌えやと酔っ払った男の人達が騒ぐ中。僕達は祝杯を上げる。

 

「「レベルアップおめでとう!」ございます!」

「ははは、なんだか照れくさいなこういうのは!」

「照れなくても良いんですよ、もっといい装備作ってくださいね。ベル様の為に」

「分かってるさ。いい装備作ってやる!」

「私はベル様と妖夢様のファンですから、ヴェルフは準備役です。はい、ベル様あーん」

「分かっちゃいたが酷いな!?」

「いいいや、僕はいいよ?ヴェルフにしてあげなよ、ヴェルフのお祝いなんだし・・・・・あむ」

 

そんな感じで賑わっていた時だ、酒場の一角からこんな話が、わざと聴こえるように放たれた。僕は思わず身を固める。

 

「あの【リトル・ルーキー】って奴、マジで調子乗ってるよな〜。【ソード・ブレイカー】のお零れで強くなった様くせによ!マジでむかつくわ〜」

 

ほんとほんと、とそれに続くように僕の悪口は続く。でも、確かに僕は調子に乗ってるかもしれない。僕の周りは強いひとばかりで、なんで僕があの人達の中に平然と混ざっているのか・・・・・悪口を言われるのも分かる。あの人達は凄いから、みんな憧れたりしてるんだ。

 

「・・・・・ベル、言われてるぞ。俺が言い返して来るか?」

「いや、良いよ。僕は気にしないから。」

「ベル様が気にしなくても私は気にしますっ!フシャー!」

 

僕に悪口を言う彼らは彼らは、僕達の話を聞いていたみたいで、舌打ちを一つついて、また話始めた。

その内容に僕は目を見開いた。拳を強く握りしめる。

 

「それによ、あの【ソード・ブレイカー】とか言うガキ、魔法でモンスターごと人を殺したらしいぜ?」

「マジかよ、最低だな。もう名前【生物殺し(ライフ・ブレイカー)】とかに変えていいんじゃね?ははははw

チビのくせにあんな大口叩いてよぉ!もって2ヶ月だな!どうせすぐ死ぬよw」

 

僕は椅子を後方に吹き飛ばし立ち上がる。僕に対する悪口なら我慢できた。でも、恩人を嗤う者に対して我慢する必要はあるだろうか?いや、無い。

僕は彼らが立ち上がる前に、間合いに入る。

 

「妖夢さんを・・・・・!馬鹿にするなっ!」

 

立ち上がり、振り向いた瞬間を狙う!

 

所謂・・・・・昇竜拳。ハルプさんから教わった体術。一撃で顎を粉砕する。さらに勢いそのままに、空中で回転し、ほかの男にかかとをぶち込む。これが竜巻旋風脚!

 

一瞬にして2人が倒され、最後の1人は慌てふためいていた。そこに僕が更に回し蹴りを打ち込もうとした時、その蹴りが止められる。

 

「止め、無いか・・・・・!」

 

黒い長髪の男の人だった。両手を使い、更には腰を落とし、僕の回し蹴りをギリギリ押さえ込んだ。僕が力を抜けば、男の人も手を離し、喧嘩にタンマが入る。

 

「この事はギルドに報告させてもらう。・・・・・いくぞおまえたち。」

 

男の人が冒険者達に撤退するよう命令し、僕を睨みながらギルドに報告すると脅した。僕達は反論しようとしたけど、それを聞く前にヒュアキントスは店から居なくなる。

 

「何なんですかアイツら!ベル様にあんな事言ってボッコボコにされたらギルドに言い付けるなんて!本当に冒険者ですか!男ですか!?」

「リリスケ、お前の言う通りだ!髪長いし女だなあいつ!」

「ヴェルフ様の頭は少しおかしいんじゃないですか!?アレが女に見えるとか全ての女を敵にする発言ですっ」

「あ、すまん。」

 

僕は拳を握りしめる。

 

僕は、どうしたら良いのかわからない。尊敬する妖夢さんを助けたいのに、何をすればいいか分からない。尊敬するハルプさんの力になりたいのに、どうしたらいいのか分からない。

 

(でも、馬鹿にさせたら駄目なんだ・・・・・!)

 

それだけはわかっている。帰ってこれる場所を作らなくてはならないのだ。・・・・・自分を救ってきたのは誰か。そう問をかけられたなら、ベルは1人1人の名前を答えるだろう。その中には、妖夢とハルプの名前が確かに存在する。だから・・・・・今度は僕が助けなくちゃ。

 

英雄、ベル・クラネルは、どこまでも純粋にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

十八階層、そこに俺は居る。なんと、みんなの拠点が完成したのだ。木材を使った頑丈な家だ。

 

「ふぃ〜・・・・・疲れるな、こりゃあ。」

『重機が要らないのはイイけど、その分疲れるなぁ』

「人間すげー・・・・・町作るのって骨が折れそうだ・・・・・」

『ははは、リドっち、頑張って』

 

さらに、今回は外からの侵入を防ぐ外壁を、コンクリートでつくってみようと考えた。材料も手分けして集めておいたから、既に集まっている。なので、まずはセメントから作っていこうか、得た知識を元にするなら・・・・・っと。

 

セメントの原料は、石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料、せっこう。こいつらを使って調合して、作る訳なんだが、ただ混ぜるだけじゃ作れない。こいつらを粉砕して、高温の釜とかに入れるんだが・・・・・ふむ、出来れば1300℃以上欲しいんだよ。いや、1400は欲しいかも。

 

火炎切りとかじゃ限界があるからなぁ。・・・・・はっ!3000℃出るって謳ってる剣あったじゃん!あの、あれだ、落第騎士の英雄譚の・・・・・ラーヴァデイン?ラーヴァテイン?わからんが、あれだあれ。あれ召喚しようぜ。・・・・・そういえば、初めてunlimited blade worksを使った時にさ、半霊からめっさ剣飛び出てたけど・・・・・もしかして?

 

I am the bone of my sword.(我が心象は捻じれ狂う)───妃竜の罪剣(レーヴァテイン)!!』

 

おお・・・・・出来た!凄いぞ?!俺、無限の剣製使えちゃったよ!?

てかラーヴァテインでもラーヴァデインでも無かったよ!リヴェリアのレア・ラーヴァテインに引っ張られたよ!

 

「は、ハルっち!平気なのかそれ!?」

『凄いだろー!この剣!』

「ちげー!体だよ身体!」

『へ?』

 

頭を傾げて下を向けば、お腹や足から剣が生えている。うん。まぁあれだね。衛宮士郎にだけ許された魔術をさ、勝手に使ったらこうなるよね。更には自分のものにしようとするとか、こうなって当たり前だよね。

 

『ゴフッ・・・・・!へ、平気じゃないや。』

 

耐久力を平然と突破されました・・・・・なので、1回半霊形態に体を戻します。そして人の形になります。はい、怪我が消えました。・・・・・万能ー!

 

『OK、治った』

「有りかよ・・・・・。っ!」

『ん?どったのリドっち』

「え、あ、何でもないぜ?」

 

変なリドっち。まぁいいや。さてと、続きをしますかねぇ。えっと、そうそう、加熱するんだよね。釜使って。・・・・・釜準備してねーわ。むー、とりあえず皆には1度休むように伝えとくか。

 

『えっとね、取り敢えず今日はもう休もうか。皆好きに動いていいよ?あ、集合場所はこの家ね!』

「ん?ハルっちは来ないのか?」

『あー、コンクリートって言うのを作るんだけど、1日では作れないからさ、先に作っておいて、後で使おうと思って』

「こんくりーとか、無理しないでくれよハルっち」

『おうおうわかったよ』

 

ムウ、ココニ住ムノカ?いいじゃんかグロス。と会話が聞こえる中、俺は作業を開始する。

 

投影だー!釜だ!レーヴァテインをファイヤー!・・・・・お?本人は燃えないのね。良かった良かった。

そんなこんなでクリンカって言う塊まりができる。丸いやつだな。これを砕いて粉にすれば、セメントの完成だ!

 

 

 

閑話休題

 

それにしても・・・・・もう2日経ったんだな。早い(確信)

まぁ明日の予定も完成したし。俺も寝よー。・・・・・そう言えば俺って寝る必要あるのかな?ま、いっか。

 

『グーロースー!一緒に寝よーぜー!』

「マタオマエカ、自分ノ部屋ハ作ッタダロウ?」

 

最近はグロスと寝るのが日課となった。おじいちゃん見たいで新鮮だったからだ。うへへ。

 

『1人じゃ寂しいじゃないかっ!お願いっ!このとーり!』

「・・・・・ハァ・・・・・勝手ニシロ。」

『いやったー!うわーい!・・・・・おやすみ。』

「・・・・・オヤスミ」

 

グロス硬いなー、石だよ石。流石ガーゴイル。ふへへ、こんなコンクリート作ってやるぜ。二百年くらいの寿命のやつ。ふわぁ・・・・・眠い。

 

 

 

 

 

 

『───スゥ────スゥ───』

「・・・・・寝タカ。」

 

グロスがのっそりと起き上がる。石でできた体でありながら、音をたてず滑らかに動いた。そして、ハルプの上に覆いかぶさるように、その石の顔をハルプの顔に近づける。

 

「・・・・・罅ガマタ、広ガッタナ。」

 

そう言ってハルプの頬を人差し指で撫でる。感触は・・・・・絹のように滑らかで、決してひび割れている様には思えない。

 

「割レテイルノハ表面デハナイ・・・・・カ。」

 

グロスが心配そうに覗くハルプの顔は、片目だけが開いたままだ、片目に光は無く、そこから中心に罅が広がっていた。呪いの刻印の様に、そのヒビは身体を蝕んでいた。

 

「ヤハリ、我々デハ、コノ者ハ救エナイ。リド・・・・・オ前モワカッテイルダロウ?我々デハ、ハルプノ心ノ支エニハ成レン」

 

グロスはもう1度、ハルプの頬を撫でる。

 

「オ前ハドウシタイ・・・・・」

『──スゥ───スゥ──』

 

グロスの問いに、ハルプは応えない。その暗くなった瞳が、ただひたすらに虚空を眺め続けていた。

 

 








スッ。
【挿絵表示】


壁|ω・`)チラッ

イメージ出来ただろうか・・・・・?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

66話『あ、おはようっ。今日は張り切ってるぜ!』


シリアスー。

・・・・・バトルフィールド1が楽しい。











「妖夢殿、少しお話があります。」

 

命がそう言って切り出してきました。私は無言で命の方を向いて、目を正面から見つめます。

 

「・・・・・知っているのですか、妖夢殿は。・・・・・知っていたのですかっ!」

 

命が焦燥に駆られた様に、私に詰め寄ります。

 

「なんの話しですか?」

「・・・・・春姫様を覚えておいでですか?・・・・・知りませんか?」

 

詰め寄り問いただし、けれど、私の中身があの子ではない事を思い出したのか、命の勢いが鈍る。私が春姫を知らない可能性があったからでしょう。

 

「知っています、狐人の春姫。極東で友になった少女です。」

「!!・・・・・妖夢殿は、春姫様がイシュタル・ファミリアに居ることを知っていたのですか?」

 

知っていました。知らされました。あの子は初めから知っていて、私はそれを知っただけ。けれど、知っていたことに変わりはありません。

 

「知っていました。」

「っ!な、なら『お狐様』の話しはしっていますか?」

「タケから聞いています。」

 

私が目を逸らしながらそう言えば、命はぐいっと顔を近づけてくる。

 

「『お狐様』ですよね!?妖夢殿がそうなんですよね!?」

 

命が私の肩を掴みます。少し怖いけど我慢します。

 

「命、落ち着いてください。」

「落ち着いてなんていられません。」

 

命が私を睨み付けるように、正面から私の顔をのぞき込みます。その目は不安に曇り、けれど、覚悟をした目でした。私は・・・・・どうすればいいのでしょうか。

 

「命が慌てても、何も変わらないでしょう」

「・・・・・!・・・・・それは、分かって、ます。」

 

今の言い方はダメでした。アレでは傷つけてしまう。

 

「命、私に任せてはくれませんか?」

 

記憶にあるのは、命の「自爆」。イシュタル・ファミリアの戦闘になれば、それこそ自分の(いのち)を投げ捨ててまで、春姫を救おうとするでしょう。それは、許容出来ません。

 

「なぜ・・・・・ですか?」

「・・・・・命?」

 

命が俯いて涙を流す。私には何が何だか分かりません。何がいけなかったのですか?あの子なら分かるのでしょうか?

 

「なぜ・・・・・頼ってくれないのですか?私が力不足なのは分かっています、でも、それでも・・・・・」

 

私を見ながら、私以外を見ていた。命は私ではなくて、あの子を見ている、そう思いました。私は、頼られるようなことをしていない。頼ることもしていない。だから、命の心情を察することは出来ない。記憶はあっても、所詮は記憶。むしろ記録と言ってもいい、そのくらい・・・・・希薄なもの。

 

「わかりません・・・・・分からないんです。」

「そう、ですよね。失礼いたしました妖夢殿。」

 

私は、皆と仲良くしたい。だから、傷つけたくない、傷つけたくないから危険な事から遠ざけようとした。

・・・・・けれど、その結果がこれだ。

命が去っていく。その背中は寂しげで・・・・・・・・・・やはり、決意に満ちていた。

私は・・・・・どうすればいいんですか?なにを、どうすれば。わからない、なにも、わからない。あの子がいないと、わからない・・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

命です。私は、知ってしまいました。春姫殿が何をしているのか。

娼館、イシュタル・ファミリアが経営するそこで、春姫殿は働いていたのです。なぜ私がそのような事を知っているのかと言うと、いざという時のため、オラリオの詳細なマップを制作し、逃走経路の確保をしようと考えていたからです。逃げられないにしても、防衛に向いた場所をさがしていました。

 

そして、大凡のマップを作り終わった時、後回しにしていた場所を思い出した。私にはまだまだ歓楽街なんて早いと思い、後回しにしていました。けれど、いずれは通らなくてはならない道。故に、私は歓楽街の詳細な情報を得ようとマッピングを開始したのです。そして・・・・・店先で見世物の様に座っている春姫殿を見つけた。

 

声が出ませんでした。再会が・・・・・こんな形になるなんて、思ってもいなかった。

 

私は逃げるように駆け出した。もう、見ていられなかった。ショックが強すぎました。

 

そして、マッピングしている最中に聞いた『お狐様』、その行動を追うと、何か引っかかるものを感じたのです。

 

襲撃しておきながら、殺さず、盗らず、むしろ死なない様にポーションを使う。

 

腕試しなのか、他に理由があるのか。分かりませんが、目撃者の証言で、私は犯人が分かってしまったのです。

 

刀の二刀流。狐のお面。これだけで、私はその秘められたメッセージに気が付きました。

 

妖夢殿が、春姫殿を救おうとしているのだと。

 

ならば、私も行かないわけにはいきません。同じファミリアであり、家族であり、春姫殿の友人である者として。

 

故に、私は妖夢殿に会いに行きます。部屋から出てきた妖夢殿に私は声をかけます。

 

「妖夢殿、少しお話があります。」

 

無言でこちらを見つめる妖夢殿、その目は「関わるな」と言っているようでした。

 

「・・・・・知っているのですか、妖夢殿は。・・・・・知っていたのですかっ!」

 

思わず掴みかかってしまいました。私は、妖夢殿の力になりたい。友を救うために力を使いたい・・・・・焦ってはいけないと思っても、体は落ち着いてはいられなかった。

 

「なんの話しですか?」

 

妖夢殿が眉を顰める。少し気圧された、でも、それでも聞かねばなりません。

 

「・・・・・春姫様を覚えておいでですか?・・・・・知りませんか?」

 

覚えているか、そう問いて、思い出す。・・・・・もう、あの時の妖夢殿では無いと。覚えているはずですが、もしかしたら、と言う不安がつきまとう。

 

 

「知っています、狐人の春姫。極東で友になった少女です。」

「!!・・・・・妖夢殿は、春姫様がイシュタル・ファミリアに居ることを知っていたのですか?」

 

覚えています、では無く、「知っています」。その一言が、妖夢殿が変わってしまったことを主張する。

 

「知っていました。」

「っ!な、なら『お狐様』の話しはしっていますか?」

「タケから聞いています。」

 

淡々と、機械のように無表情で答えていきます。でも、今のは嘘です。目を逸らしました。確信を持って問いただす。

 

「『お狐様』ですよね!?妖夢殿がそうなんですよね!?」

 

 

「命、落ち着いてください。」

「落ち着いてなんていられません。」

 

睨みつけるような視線になっている事は分かっています。ですが、落ち着いていられる状況では無いのです。早く、あの場所から春姫殿を救い出さなくては・・・・・!

 

「命が慌てても、何も変わらないでしょう」

「・・・・・!・・・・・それは、分かって、います」

 

そんな私の内心を見抜いたのか、妖夢殿がそう言いました。確かに、その通りです。だからこそ、妖夢殿と協力して何とかしようと持ちかけて・・・・・。

 

妖夢殿の表情が初めて揺らぎました。私が落ち込んだ事に気がついたのでしょうか。私を心配する様な顔で私の顔をのぞき込む。

 

「命、私に任せてはくれませんか?」

 

・・・・・耳に響く。その言葉を聞きたくはなかった。その、否定の言葉を耳にしたくはなかった。私は役にたたないのだと、そう言われているように思えたから。

分かっている、分かってはいる。それが、否定でも拒否でもないことは。私を心配し、私の為を思って、自分を犠牲に最善を選ぼうと努力していることは。

 

分かっている。・・・・・けれど、困難を共に乗り越えるのが家族ではないのですか・・・・・?なぜ、私達を頼ってはくれないのですか?

レベルも違います、才能だって差があります。努力だって妖夢殿の方がしてきた筈です。

 

でも、それでも・・・・・その隣を歩きたいと、遠い昔に思ってしまったから・・・・・!それを、今でも思っているから!

 

「なぜ・・・・・ですか?」

「・・・・・命?」

 

妖夢殿が不安げに私を見ます。その顔に、私の限界は超えた。

 

「なぜ・・・・・頼ってくれないんですか?」

「わかりません・・・・・分からないんです。」

「そう、ですよね。失礼いたしました妖夢殿。」

 

私は・・・・・「子供」だ。妖夢殿からも、そう思われている。実力も、思考も、子供だった。

唯のワガママでは無いか、今の私は。

強くも無いのに、危険な戦いについて行こうとする足でまとい(・・・・・)、足にしがみついた重り。私は、妖夢殿に背負われた赤子でしかないんだ。

 

なら、私も自分の足で歩こう。妖夢殿の隣を歩むなら、後ろ姿を眺めるだけではダメだった。そうだ、なぜ、今まで気が付かなかったんだ。

 

隣を歩む?

 

───否。

追い越すつもりでいかなければ、けして、追いつけない!

隣に立つなど夢のまた夢!隣を歩むなど、果ての幻想!

でも、それでも叶えてみせる。

私は、私の方法で、妖夢殿のお役に立って見せます。

見ていてください妖夢殿。私は、もう子供ではありません!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛い。頭が、痛い。手が、足が、体が、顔が、目が・・・・・痛い。いたい。イタイ・・・・・。

 

どうして、こんなに、痛いんだ・・・・・?何があった・・・・・?寝てるあいだになんか起きたか・・・・・?踏まれた?グロスの寝返りでやられた?

 

薄らと目を開ける。入り込むのは数を減らした水晶の光だけだ。暫く見つめていると、ようやく視界が開けてくる。

 

天井だ。見覚えがある天井だ、自分で作ったんだからそれもそうだ。体の調子を確かめなくては。

 

まずは指・・・・・動く、痛いけど問題ない。次に腕・・・・・動く、けれど痛い。足・・・・・問題はなかった、痛いだけだ。そうやって少しづつ体を動かしていく。

 

『ぅ・・・・・いてて・・・・・』

 

起き上がろうとして失敗する。痛くて動けなかったんだ。仕方ない、使うか。『可能性』の能力を。

 

うし、『体が動かせる可能性』くださいな。

 

───能力を使用。

 

うぐっ・・・・・痛い・・・・・頭に響くなぁこれ。

 

───61%の可能性で行動が可能です。使用エネルギーに霊力を選択。

 

ブーストしますー。ブーストブースト。61%じゃ、外れそうだぜ。99まで上げてしまおう!

 

───可能性増加(ブースト)を確認。内蔵霊力81%に減少。

───行動可能な可能性80%。

 

あるぇ?100にするつもりだったのに。やっぱり80までしか行かないのか?まだあんまり使ったことないし、はっきりとしたことは言えないけど。

 

───施行開始・・・・・・・・・・成功。

 

体がふと軽くなる、そして不自然に動き始めた。

 

『おっふ、痛い・・・・・』

 

イメージとしてはマリオネットだ。動かない体を能力を使って強引に動かしているに過ぎない。『自分がこうやって動いただろう』と言う可能性を持ってきた・・・・・のかね?

 

『ん〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!』

 

思いっきり伸びをする。しばらく体を動かして慣らす。グロスが隣に寝ていて、むにゃむにゃと寝返りを打った。可愛いな、てかモンスター全体的に可愛いよな。こう、わかるかな。つぶらな瞳に可愛らしい体躯。あ、ちがうな、モンスターが可愛いんじゃなくて、『異端児』が可愛いのかっ!

 

そんなこんなで心を癒しながら、部屋を出る。そして朝食を作り始めた。なんと素材は頑張って探してきたのです、皆が。

すまねぇ、家づくりに夢中だったんだぜ・・・・・。

 

そうだ、どうせなら料理が得意な『俺』から知識もらっていいものを作ろう。えーっと『料理が得意な俺がいる可能性』・・・・・でいいのかな?

 

───能力を使用。検索します。平行世界の自分から知識を選択。・・・・・36%の可能性が存在。

 

頭がクラっとするのは少し困る。

 

───内蔵エネルギー源から霊力を選択。霊力81%。

 

・・・・・ほほう、なかなか可能性あるじゃーないですか。ブーストですね、ブースト。

 

────可能性増加(ブースト)を確認。霊力、72%まで減少。

────80%まで可能性が上昇。

────知識領域、深層意識から『料理』についての情報を構築中。

 

うむ、やっぱり可能性は80%までみたいだね。まぁ十分だね、こんだけでも強いと思う。

 

────失敗(ファンブル)

 

あり?失敗したな・・・・・。もっかい!ブーストも!

 

────能力を使用。確率80%。霊力65%まで減少。

────成功。情報を開示(インストール)。衝撃に備えることを推奨。

 

ガン!と頭を殴られた様な感覚と共に、記憶や知識が流れ込む・・・・・!頭が割れそうなほどに痛かった。意識が・・・・・消えた。

 

 

 

 

トントン、ジュージューと料理を作っていく。メインは完成したけど、野菜も取らねば。野菜というか果物だけどね。それをスライスして並べて見栄えもよくしないと。いやぁ・・・・・あの後気絶して2分くらい無駄にしたぜ。

 

「ふわぁ〜・・・・・お、ハルっち、おはよう」

『あ、おはようっ。今日は張り切ってるぜ!』

「おお!スゲーうまそうじゃん!」

 

だろだろー?モンスターの〇〇や○○○を惜しみなく使い、植物、例えば果物をこれまた山ほど使ったのだ。

 

そんでもって分かったこと。食べ物が足りない。今までリヴィラは、その食料事情を地上からの物資運搬と、十八階層で取れる植物などで賄ってきた。でも、今回はそれも難しい。物資の運搬なんて出来るわけもなくて、この階層は8割がた崩壊し、再生もしない。だから食べ物を得るには更に下のセーフティーエリアに行くか、もしくは各階層を回って少しづつ集めるしかない。

 

「ハルっち?」

 

じゃあどうするのって言われたら、自分達で自給自足するしかない。と答えるのです。

この階層に生える水晶が太陽の役割を果たす事は分かっている。なので、それを使って畑を作るしかないだろう。・・・・・問題は「種」が無いことだ。

 

「おーい、ハルっちー」

 

まぁここはフェルズって奴が来るのを待つしかない。まぁ直接あったことないけどね!いずれ来るだろう。なので来た時に頼めるように畑だけ作ってしまおう、と言う考え。我ながら天才か!?

 

「お、おーい、返事してくれよー、悲しくなるだろー」

 

む、だがしかし、今度の問題は水か・・・・・水は壁側に多くあって、滝になってて、下が滝壺になってるのが多い。リヴィラにもあるにはあるが、規模が小さいから人の生活用だろうか?

 

「おーい・・・・・あれ、もしかして俺嫌われた・・・・・?」

 

大規模で畑とかに使うなら・・・・・奥の方か。いや、そもそもジョウロとか使えば近くに水場はなくても平気か。いや、でも疲れるしなぁ。みんなに苦労をかけるわけには行かない。でも遠くになると飛行系モンスターに襲われる・・・・・。

 

「・・・・・・・・・・ハルっちー、おーい、あ、みんな起きたかおはよう」

「オハヨウ。・・・・・コレハ?」

「おはヨー?あら?どう言ウ状態?」

「わからん、なんか考え込んだら自分の世界に入ったらしい」

「・・・・・ソウカ。・・・・・食べテモイイノダロウカ?」

 

はっ!飛行系モンスター!?そうだった!ドーナッツみたいになっちゃったから飛べる奴らは下から上がってくるんだよな・・・・・対空設備も備えとかないと不味いな。とは言えそんな技術知らないし・・・・・あ、そこは能力使えばいいのか!万能ですな。俺ってもしかして凄い?

 

「うまっ!!なんだこれ!?フェルズが持ってきたやつよりうまいぞ!?」

「・・・・・・・・・・!!!旨イナ」

「うん!おいシイね!ん?あ、ラーニェ!おはよう!」

「あぁ、おはよう。・・・・・この者はどうしたんだ?」

「考え事だ。・・・・・それにしてもラーニェがハルっちの計画に乗るなんて驚いたぜ」

「乗ってなどない。賛同した覚えもない。決して反論しようとしたら部屋も何もかも用意されていて対応に困ったとかそんなんじゃない。」

「あぁ・・・・・把握。なんでか知らないけど好み知ってるんだよな、ハルっちって。扉を開けたら自分にとっての天国、出たくなくなるのも分かるぜ」

「だ、だから違う!」

 

今のうちに使うか?いや、でもそれだと早すぎるよな・・・・・?ん?防衛設備を優先した方がいいのか?それとも他の設備を優先した方がいいのか?

むむむ、ダンジョンと言う特異な環境だからなぁ、要するに敵国に四方囲まれてる中に、街作ろうぜ!ってやってる訳だからなぁ。防衛優先?でも人が来た時に警戒されるんじゃないかな?

それに・・・・・人を見るとまた襲いかかるかもしれない・・・・・あ、能力使って襲わない様にすればいいのか。万能だな!

 

うーむ、どうしよっか。今日は家とか店とか作っとく?あ、井戸を優先させようか?いや、建物が密集し始めてからでも井戸は遅くないか。

 

・・・・・あれ?グロスにフィアにラーニェまで来てるぞ?

 

あっ!ご飯食べてんじゃん!早いよ!まだみんな起きてないのに!?待って待って!

 

『わわわ!待って待って!みんなが降りてきてからにしないと!』

「「「「?」」」」

『みんなで「頂きます」ってやってからたべるんだよ。』

「へえ、そうだったのか」

『うわっ取ったやつは皿に戻したらだめだって!』

「お!?悪い!」

 

もう!どうするのさ!あぁでもマナーとか教えてないし俺のせいじゃん!

よっし!決めた!マナーも教えるし、戦いも教える!てか教えられそうなことは全部教えてやる!

 

『決めたぞ。決意したぞ。俺がおしえられるものはぜんっっっぶ!教えてやる!』

 

確定事項です、変更は許しません!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い空間。ここはギルドの地下だ。静寂に包まれたそこに、溜息が大きく響く。それが誰のものだったか、黒い外套に身を包む男、フェルズは理解していた。

 

「・・・・・また異分子か?」

「あぁ、やってくれた」

 

フェルズが見上げた先、そこに神は居た。名を、ウラノス。ギルドを作った神であり、ダンジョンを鎮めるため祈りを捧げる神だ。

そんな神、ウラノスが額を抑えている。頭痛でもしているのか、それとも何か頭を痛めるような事件が起きたのか。真意は定かではないが、何かが起きているのだろう。

 

「今度は何をしたと言うんだ?」

「・・・・・」

 

黙り込むウラノス、それは言いよどんでいるというよりも、どう伝えればいいか、少し困っていたのだ。正直に伝えたら、フェルズはどんな顔をするのだろうか。

 

「街を・・・・・異端児(ゼノス)の街を、十八階層に作っている。」

「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」

 

だから、なんだと言うのか。フェルズはポカン、とその骸骨の顔を傾ける。確かに、異常な行動だとは思うが、だからなんだと言うのか。

 

「違和感は抱かなかったか?・・・・・フェルズ、お前はここ最近、異端児達に会いに行こう、と、そう思ったか?」

「・・・・・いいや。思っていない・・・・・おかしい、思わないはずがない・・・・・何せ、きな臭いファミリア達が動いている。ッ!!!その事を伝えなければ!そう思っていた!」

 

ウラノスが感じた違和感。それは「行動の制限」だ。異端児の事を考えようとすれば、他の何かが起こり、思考が途切れる。いや、止められる。

 

「今だ。」

「・・・・・今?」

「ほんの数分前、この事実に気がついたのだ。」

「・・・・・!」

「異分子の能力は不完全なのか、隙が生まれた。そこに強引に神威を割り込ませ、どうにか我らは支配下から抜け出したが・・・・・」

「なにが、どうなっている?」

「世界事改変されている。異端児の元に人類が向かわないように、動かされているのだ。思考が異端児に向かっていかないようにされていた。」

「ウラノス、そんなことが可能なのか?」

「分からん、が、それ以外に説明が出来ん。なにせ、半人すらその影響下にある。」

「私はどう動けばいい」

「接触してくれ。どうやら畑を作っているようなのでな、何か植物の種でも持っていくといい。」

「・・・・・あ、あぁ。」

 

ウラノスが語ったそれは、世界規模の認識阻害だ。人も、神も、魔物でさえ、今は異端児に気が付けない。しかし、それも所詮可能性。気が付く可能性も残されている。ウラノスはたまたま運良く抜け出せただけだったのだ。

 

「・・・・・南瓜か?芋か?・・・・・人参?」

「色々持っていってやれ。それと、くれぐれもいざこざは起こさないように頼む。」

「あぁ、分かっている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□名前 ハルプ(妖夢と同じ部分は省略)

□二つ名

□Lv.4

□ステイタス

 

「力」:D501

「耐久」:B702

「器用」:C622

「敏捷」:C656

「魔力」:D511

「霊力」:A862

 

 

□発展アビリティ

【集中:C+】・・・・・集中力を上昇させる。「+」・・・アルファベットの位を倍にする。

【剣士:F】・・・・・剣士としての技量を上げる

【怪異:G】・・・・・ランクが高いほど、理性が人から離れている事を表す。ランクに応じてステイタスが妖夢を基準に考えて上下する。

 

 

□スキル

【半人 (ハルプ・ブラオト)】

・意思疎通が出来る。

・自身の戦闘力が半人にほぼ依存する。

・魔法を使う際「魔力、霊力」で発動できる。

・半人で戦闘を行った場合も経験値を得られる。

・半人に別意識の介在を確認。自立した行動を取れる。

 

【怪異異能】

 

・『剣術を扱う程度の能力』を持っている。

・可能性を操る程度の能力を持っている。

・それらが合わさり『剣技剣術を模倣し扱う程度の能力』となっている。

 

□異能

 

『可能性を操る程度の能力』

 

・20〜80%までの可能性を操ることが出来る。本来ならば1〜99%まで操れた。妖夢の能力にこの能力が引っ張られた為、とてつもなく劣化した。

 

 

『無限の剣製?』

 

妖夢の第3魔法によって、ハルプの魂に強引に生成された固有結界、世界を塗り替えることは出来ない。

無限の可能性を内包した世界であり、オリジナルの3割劣化した物が作れる。

無限の可能性とは、例えば、その剣を見た事が無くても、「持っている可能性」があるならば持っている。と言う謎の理論。

 

オリジナルの無限の剣製を、可能性の能力が、自分の魂に合うように変化させた姿。新たな異能であるのだが、本人は気がついていない。

 

〈獲得したスキル〉

・【建築】

・【料理】

 

追加されたスキルについて。

スキルと言うよりは、その事に対する知識、経験、記憶。

ハルプの魂は、自身を定義付ける殆どを抹消されており、そのお陰で妖夢の魂と限りなく自然に癒着、融合した。つまり・・・・・?

 

 







余りにも遅い対応。フェルズ頑張れ。

次回はシリアル寄り。ほのぼのとしていきたい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

67話『『『ふぅ、終わったぜ・・・・・!』』』


・・・・・ふぅ。11巻を読みました。いやぁ、異端児のみんなが死ななくて良かった・・・・・!










おっ母さんのためーなら、えんやこーら!おっす!ハルプだぜぃ!

現在!剣の代わりに鍬を持ってます!耕してます!

畑は結局、ジョウロを使って水撒きすることになったぜ。今のところ種はないんだけど、まぁ仕方ない。

あ、そうそう、すぐに回復しちゃうダンジョンをどうやって耕すんだよ!って思っただろう?俺は思った。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ぇ?俺、目が可笑しくなったか?」

「・・・・・いや、可笑しいのはアイツだろう」

「・・・・・・・・・・モウ歳カ・・・・・」

 

けど、地質調査を進めていたら分かったこと、それは西行妖が発動した地点、大穴が空いたそこ、の!ふちだ。縁だよ?周りの部分。そこの部分は再生しないことが分かった。ある程度掘り進めると再生する場所がある。

まぁ要するに余波で死んだ部分が残ってた。

 

「ふ、増えてないか?ハルっち増えてないか!?」

「3人二見えルね」

「あぁ、3人だな。3人で鍬を振っている」

「呼吸ガ乱レヌナ・・・・・。」

 

その土を運んで大きな畑とした訳です。え?死んだ土で出来るのかって?死んだのはほら、ダンジョンだけだったんだよきっと。ダンジョンが意思によって再生してるなら、その意思が死んだ部分はダンジョンの管轄外。意思が死んだ土は、ただの土みたいだ。よく分からないけどね。

 

「お、俺達も働かなきゃな!」

「私には関係ないな。他の同法達を探してくる」

「ウム、少シ見回リニ向カウトシヨウ」

「私も手伝います!」

「フィア、お前ハーピィだけど、鍬持てるのか?」

「水撒き、出来るの」

「まだ水撒きしないぞ」

「ショボーン」

 

まぁ、使えるんだから使っちゃう。肥料を撒きます。肥料の中身はモンスター。・・・・・や、野菜が生臭くなりそうだなぁ・・・・・。まぁむしろ異端児の皆も喜んでくれるだろう(目逸らし)

 

『『『ふぅ、終わったぜ・・・・・!』』』

 

良い汗をかいた!2人の俺を呼ぶ実験は大成功だった。

 

『ありがとな、俺』

『おう、大変だろうけど、頑張ってくれ!』

『じゃーなぁー!』

 

俺Bと俺Cが帰って行った。今のは可能性の能力で何が出来るか、色々と考えていたら思い付いた。平行世界かれ自身を呼び出して仕事したら効率良くね?と言う案の元試したものだ。

あれね、傍から見ると俺ってなかなか可愛らしい顔してんのね。

 

「帰って行った・・・・・!」

「おぉ・・・・・すごい」

 

あ、みんながこっち見てる。うへへ、褒められてしまった。よし、このままの勢いで作っていこう。つぎは防衛だな。

 

まず用意しましたのは、丸太。・・・・・丸太は持ったかぁ!!

 

はい、この丸太を両サイド尖らせます。刀で。

 

『はぁ!!』

 

四方向、斜めに振り下ろしてとんがらせる。そして持ちます。ジャンプします。振り下ろします。突き刺さりました。ふぅ・・・・・あと数百回これを繰り返します。壁を作るのです。

 

「簡単そうだな!手伝うぜ!」

『おっ!ありがとリドっち、じゃあこっち側お願い!』

「おうっ!あ、フォー!こっちだ!手伝ってくれ!」

「フォ?フーフー」

 

そぉい!(突き刺した)おりゃりゃ!(斬り落とした)そぉい!(ry。おりゃりゃ(ry。

 

なんと、たった15分で完成した。・・・・・感慨深いなぁ(錯乱)フォモールのフォー君、力強すぎやしませんかね?おかげであっさりと完成だ。・・・・・むむむ、何だかなぁ。

 

あっ、入口ねーや。あはは、これは酷い。えっと・・・・・ここかな。

 

『ふっ!!』

 

横、縦、横、縦。斬り割いて入口を作る。もちろん上の部分も落っこちたから付け直す。門みたいに形を整える。あとは・・・・・そうだ。

 

「ハルっち?次は何するんだ?」

『こうやって尖らせた丸太を交互に斜めに組んで・・・・・簡易バリケードだ。』

 

×の形を作るように、尖らせた丸太を組む。いくつか作って、支柱として1本を、並べた×に通す。そうすることで敵の進行を止める簡易バリケードが完成する。

 

これを並べておけば弱いモンスターは少し止められるかもしれない。うっし、後は防衛兵器ですな。対空用の武器が必要なのです。

 

能力かもーん。えっとね・・・・・バリスタとかでいいかな?あれって攻城兵器だったけど、あれくらいじゃないとモンスター殺れなさそうだしな。よし、『バリスタの作り方』を知ってる可能性ください!あるかな?

 

───能力を使用。検索を開始。

──0.1%の可能性の存在を確認。

 

知らなっ!?全然バリスタの作り方知らなかったんだね俺!?いや確かに知らなかったけども!

 

─────エネルギー源に霊力を選択。

────現在、霊力97%。

───検索中。・・・・・失敗(ファンブル)

 

そうだろうねッ!!いや、早いよ!?ブーストするまで待ってよ!?

 

───可能性の増減が可能。

 

わかったから、ほら、ブースト。

 

─────可能性増加(ブースト)を確認。

────可能性が80%まで増加。

───霊力が著しく低下。残り霊力2%。

 

う・・・・・・・・・・・・・・・!やべぇ、全部抜けるような感覚したぞおい。死ぬかと思った・・・・・!

 

────検索中・・・・・該当あり(ヒット)

───知識領域から情報を構築。

──構築完了。情報を提示(インストール)。衝撃に備えてください。

 

うあっ!?頭がぁ〜!いーたーいー!割れる割れる!冗談じゃなくて・・・・・!まじで・・・・・痛い!

 

 

 

流れ込んできたのは、様々な兵器の設計図。人を殺すことだけを考えた沢山の・・・・・狂気の兵器達。

引き金を引くだけで、一人死んだ。あっさりと、何の感慨も無く。

 

 

うぐっ・・・・・頭ぁ・・・・・。だが、バリスタの作り方がハッキリと分かったぜ。・・・・・つってもさ、素材、足りないよね。鍛冶できないし。あ、能力使えばいいのか!

って足りるか!霊力足りません!今にも底をつきそうです。今日はダメだな・・・・・大人しくお店とか作っておこう。

 

『お店・・・・・つく、ろうか・・・・・』

 

ふぉお・・・・・霊力が・・・・・無くなる・・・・・!俺の身体は、半霊に、霊力で肉付けしてあるんだ、つまり霊力を消費する。霊力が無くなると・・・・・真っ白ボールになってしまう。

 

「ハルっち無理するなよ?」

『うん、お言葉に甘えるよ。』

 

そう言ってポンっ、と半霊に戻る。

ふぃあぁ・・・・・暫く浮かんでよ・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

命を追って私は走る。既に命を見失っていて、何処にいるか分からない。けれど、イシュタル・ファミリアに向かった可能性が高いです。

私は、いつもの装備を取り出しました。狐お面に忍び装束。素早く着替えて、走る。屋根の上を跳び、路地裏を駆け抜けます。

 

今はまだ、日が出ている。いつもなら夜に襲撃をしますが・・・・・そのような事は言ってられません。命に何かあれば、私はあの子に顔向けが出来なくなってしまいます。

 

前方にアマゾネスを発見しました。2人組、のんびりと歩くように見せかけていますが、その実警戒を怠っていない。ここ数日の私の襲撃のせいですね、精神をすり減らして警戒を続けているようです。

 

路地を横に曲がり、左右の建物の壁を蹴って、屋根に登る。そこから足音を立てずに走り、空中に躍り出る。下には先程のアマゾネス。空中で刀を閃かせる。

 

「あぁ、それで・・・・・ん、なにかs」

 

刀が陽の光を反射させ、アマゾネスの目を一瞬焼いた。異変に気が付き振り向けば、私はその背後に立っている。

 

「あ、ぁぁ・・・・・!き、貴様っ!」

 

先が無くなった肩を押さえ、フラフラと後に下がる。もう1人のアマゾネスが素早く、私と腕無しの間に入り込む。

さて、仲間を呼ぶまで待ちますか。少しでも命の元に向かう数を少なくしたいです。

 

「『お狐様』だぁ!みんな武器を持てー!」

「フッ!!」

 

鋭く息を吐く。地面が割るほどの踏み込みをもって、背後に回り込む。そのまま袈裟斬り。1人が血を吹き出す前に、刀の勢いを殺さずに回転斬り。一瞬にして制圧した私は、続々と群がってくるアマゾネスに刀を向ける。

 

「ちっ!二人やられてる!」

「取り囲め!逃がすわけにはいかないよ!」

 

そう言って、槍や剣を取り出したアマゾネスに、私は言い放つ。・・・・・ちょ、ちょっとくらいカッコつけたい時もあるのです。出来るだけ声を低くして・・・・・

 

「他愛無し。その程度、囲いとは言えぬな。」

「なんだと」

 

と、と言い終わるか言い終わらないか。私は地を蹴る。鮭跳びと呼ばれる跳躍術、性能的には縮地の上位互換とされるこれを使って、真後ろに飛び込む。囲いを突破して、悠々と歩く。

 

声は無い。既に地に伏せたアマゾネス達を置いて、私は歓楽街を練り走る。命はどこでしょうか?そう考えた時、地面を踏み締める重い音がその人物の訪れを告げた。

 

「ゲゲゲゲゲ!見つけたよぉ!」

 

あ、カエルだ。・・・・・カエル?いや、人?・・・・・カエル?

醜い形相に体躯。ヒキガエルと見て間違いない。

 

「カエル・・・・・?」

「誰がカエルだい!今からアンタをぶちのめしてやるよぉ!」

「カエル・・・・・。カエルは焼くと美味しい・・・・・と読んだことがあります・・・・・が、今は時間が惜しい」

 

という訳で、こちらに向かってくる大斧を持った巨大なヒキガエルを迎え撃つ事になった私は、即効で片付ける事にした。

・・・・・切り倒したアマゾネス達の油が刀を濡らす、そこに「妖術」を使って刀に火をつける。この妖術はこの世界の物ではなく、私がやって来た世界の妖術だ。

 

「燃え咲かれ轟炎。・・・・・猛ろ!終の秘剣・火産霊神!」

 

あの子ですら持っていない、扱う事の出来ない妖術を駆使して、技を再現する。

逆巻く火炎が竜巻を形作る。霊力で炎を制御してなお、劫炎の威光は暴れ狂う。

 

「な、なんだそりゃあ!?」

 

カエルの突進が止まる。ですが、私の一撃は止まらない。薙払う!

放たれたのは炎の津波。炎の音で、声も、建物の崩壊音も閉ざされる。

刹那の無音。

1拍置いて轟く爆音。

残されたのは私と、壊れた刀。

ふっ、ソード・ブレイカーの名は伊達ではないのです。

 

さて、命を探さなくては。火災により、煙と炎に蹂躙される歓楽街を、命を探すために進もうとしたその時だ。

 

 

霊力を根こそぎ奪われるような、いや、確かに奪われる感覚が私を襲った。

 

・・・・・うぐっ!?れ、霊力が・・・・・!?ななな、無くなってしまいます?!こんな所で倒れたら目も当てられません!出来るだけ早くホームに帰らねば!あぁごめんなさい命!また来ますから!

 

なんて、間が悪い。助けたいのでは無いのだろか?なぜ、こんな事を・・・・・?

 

私はあの子の思考が読めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎が未だ燻る地、イシュタル・ファミリアが統治する歓楽街の1角で、瓦礫が蠢いた。瓦礫を突き破り、腕が飛び出す。

 

「ゲホッ、ゲホッ、あのクソブスがァ!!!ふざけやがって!アタイの美しい顔になってことをしやがるんだい!殺してやる!殺してやるぅ!」

 

醜い、蛙だ。焼け焦げて尚、耐久のステイタスに助けられ立ち上がる。その顔は憤怒の情に塗りつぶされ、作られた握り拳は血が滲んでいる。

 

「殺してやる・・・・・!絶対にだ!あのブッサイクな顔を踏み潰して、ぐちゃぐちゃにしてやるぅ!」

 

自分が世界で誰よりも、何よりも美しいと信じて止まない蟾蜍は半壊した斧を掲げ、大声で叫んだ。

見れば、沢山の娼婦や、その他人員達が消火活動に勤しんでいた、蟾蜍・・・・・フリュネ・ジャミール【男殺し(アンドロクトノス)】は鼻を鳴らしてその場を後にする。

 

今は蓄える時期だ、武器を研ぎ、お狐様が来るのを待つ。

 

「奴はまた来る、それまでに武器を新調しなきゃねぇ。」

 

フリュネはほくそ笑む。あの計画が完成すれば、恐らく対等に戦えるだろうと踏んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い部屋、天幕で区切られたベッドの中で、2人はもつれ合う。

神、イシュタルは最近の鬱憤を男に向けて発散したあと、立ち上がった。男は立ち上がらなかった。

 

イシュタルの最近の悩み、それは『お狐様』だ。突如現れ、ファミリアの団員達を傷つけ、帰って行く。

 

彼女は何者なのか?そう、「彼女」という事しか分からない。銀髪である事は判明しているが、そもそも銀髪なんてオラリオには有り触れた髪色だ。

 

イシュタルは考える。

イシュタルはフレイヤ・ファミリアに喧嘩を売ろうとしていた。とあるアイテムを作り、全ての団員のレベルを上げ、奇襲と物量による各個撃破を繰り返すつもりだったのだ。

 

もしも、それがバレていたとしたら?この『お狐様』が、あのフレイヤの気まぐれな「警告」だとしたら?説明がつくか、と言われれば微妙なところだ、とイシュタルは首を捻る。しかし、他に何か原因があるか、と言うと特に考えられるものは無いだろう。

 

イシュタル・ファミリアはその内容の関係上、敵が少ない。何せ娼婦だ、娼館だ。様々なファミリアの男達、男神が利用する。弱みを握られては敵対も出来ないというもの。

 

イシュタル・ファミリアを利用しない男神と言えば、タケミカヅチやミアハ位のものだ。あの2人は年朴仁だからな。イシュタルはそう考えたあと、再び首をひねった。

 

フレイヤが『お狐様』を送り込んでいるならば、やはり、少しおかしいように思える。敵対者を送りこんで警告するのならば、もっとわかりやすい人物を使うべきだ。例えるならばオッタル、アレンなど、ファミリアの代表格を動かせばいい。もちろんそれによって他のファミリアにも動向がバレる訳だが。

 

そこを考慮した?・・・・・しかし、あの様な剣士がフレイヤ・ファミリアに居たかわからない。

・・・・・あるとすればフリュネか。とイシュタルがベッドに腰掛ける。

 

フリュネは薬を使って男をダメにする、故に、ファミリアと敵対する可能性はあった。・・・・・もしくはあの『お狐様』の私怨と言う線もあるか。

 

例えるなら、あの『お狐様』に男がいたとして、それがフリュネにダメにされたとか。

 

それだったらどれほどいいか。とイシュタルは倒れ込む。柔らかな羽毛がそれを受け止めた。

イシュタルがその顔を青ざめさせたのは、『お狐様』によって齎された被害、その総額だ。

 

既に万能薬を50個、ハイポーション200個、ポーションが数えたくないほど、コネやツテを使って優先して購入させてもらっている。更には武器が破壊された為に、新しく購入。建物が破壊されればそれの修繕。

ついこの間には一区画が燃やされた。

 

さらに言えば万能薬の買い占めなどは、要ら無い争いを引き起こす。今でこそダンジョンが封鎖されているため目立ったイザコザも無いものの、だからこそ今のうちに溜めておこうとしているファミリアも多い。

 

市場では既に、多少の口喧嘩が起きている。

イシュタル・ファミリアの信用が堕ちるのだけは避けなくてはならなかった。

 

総被害・・・・・考えたくもなかった。しかし流石は大規模ファミリア、まだ財政は破綻していない。

 

イシュタルは頭を抱えて悶える。たった1人にどうしてここまで手を焼くのか。もう自分が魅了した方がいいんじゃないか、何度もやろうとしたが、団員達が全力で止めに来た。

 

「常識が通用する相手じゃない」「訳が分からない」

「気がついたらやられていた」「何が起こったかわからなかった超スピードとか剣技とかそんなチャチャなもんじゃ断じてねぇ!」

 

などと、喚き散らし、昨日はファミリア最強のフリュネが全身大火傷して帰ってきた。次は殺すと息巻いていたフリュネ、正直そこまで見ると・・・・・イシュタルは勝てる気がしなくなってきた。・・・・・しかし、あのアイテムを得るには、まだ時間がかかる。

 

はぁ。とため息をついて、イシュタルは再び立ち上がった。男は立ち上がらなかった。

何にせよ、対策は取らねばならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とぉぉう!ハルプ参っ上っ!復活ですぜ復活ぅ!えっと、今俺の霊力どのくらいなんだろうか。どうやったら分かるんだ?念じてみるか?

 

みょんみょんみょんみょん・・・・・!はっっ!!

 

特に何も起きませんな、やはり効果音がいけないのか・・・・・。

 

まぁ、能力使ってみれば教えてくれるしね、さてさて、今度は鍛冶の知識を得るのです。剣以外でも、無限の剣製あるから作れるんだけど、それだと消費重いし、嫌なので一から作ります。

『鍛冶が出来る可能性』。・・・・・まぁありそうだよね。ほら、鍛冶チートとかあるじゃん、たまに。

 

───能力を使用。検索開始。

────30%の可能性を確認。

 

ほほー、30%ですか、なかなかなかなか。

 

───エネルギー原から霊力を選択。

────現在、霊力45%

─────検索中・・・・・該当あり(ヒット)

──────知識領域から情報を構築。

───────構築完了。情報を提示(インストール)。衝撃に備えてください。

───霊力、42%に低下。

 

 

 

 

 

金槌が鳴る。鉄が弾け、我が身を叩けと、赤く主張する。

煌々と輝き、熱を排出する炉。垂れる汗が視界を塞ぐ。それを拭う事すら忘れただ無心に振り下ろす。

雑念は不要。

必要なのは集中力。

持ち上げ・・・・・振り下ろす。

それを繰り返す。

ひたすらに、永遠に。

 

 

 

 

 

・・・・・成功したようだ、ラッキーだな。・・・・・消費が少ないな、いや、今までが可笑しいのか?

わからないが、まぁいい。

 

作り出すのは炉、金槌、鉄床。石炭みたいな奴がダンジョンでも取れたから、それを使ったり、魔石放り込んでみたり、ヘルハウンドに着火を手伝ってもらった。

 

そして無心で打つ。

握りしめた金槌を振り下ろす。奏でられる金属音。

 

カン。カンカン。(心が割れる音がする)

 

振り上げ、振り下ろす。無心で、ひたすらに。

込める想いは金槌に乗せ、自分の心は湖面のように無表情に。

 

カンカン。カンカン。カン。(何かが入る音がする。)

 

アダマンタイトと金槌がぶつかりあう。それらを受け止める鉄床が放つ大喝采。

そして、それに隠れる異音。

 

カンカンカンカンカンカン!(いのちが軋む音がする。)

 

彼は気が付けない。自らが壊れて行くことに。気が付いたとしても、それに抵抗しない。なぜなら──

 

カンッ!カンッ!カンッ─────!(これは───摩耗の音色だ──)

 

いま、何時だろうか?少し天井を見上げれば、結晶が薄暗くなり始めている。推定だが、5時間ほどか。しかし、お陰でバリスタのパーツ各種や、生活には欠かせないその他諸々を作り上げることが出来た。鍛冶はやはり面白い。生き甲斐にしてきた事はある。

 

・・・・・!?

 

いやいやいや、生き甲斐どころか初めてですがな。自分にノリツッコミとか・・・・・世も末だなおい。

 

んで、まぁバリスタの各部位と、矢・・・・・と言うか銛?を作ったので、各地に配置していこうかな。

 

少々空を飛んで、上から街を見ていこう。

 

まず、リヴィラ(仮)は壁側に沿うように作られている。完全に壁と同化している大きな建物が、市役所的なもの・・・・・になる予定の俺達のマイハウス。

 

そこから直線に進めば噴水(予定地)があって、そこを中心に十字路になっている。十字路と言っても、マイハウスから直線に進む道はドーナッツホールに続いているので危険だ。羽を持ってる奴専用飛び降り口になりそう。

 

んで、全体を囲む様に丸太で壁を作り、その壁を守る様に、組まれた丸太がバリケードを形成している。

出入口は十字路の右と左に一つずつ。上(ドーナッツホール行き)にも一つ。下側(マイホーム)は壁なのでもちろん無い。

 

うむ、取り敢えず、マイホームの上に一つ仮設置しておこう。

それと、三つの入口の左右に櫓を立てて、底にも設置かな。合計七門。・・・・・むー、心許ないなぁ。

・・・・・巨大な矢を飛ばす兵器で、翼を持つ小型、中型モンスターに対処出来るのだろうか。そう思った俺は、持てる知識を最大限に使用して、こうした。

 

じじゃん!バリスタの左右に小型のボウガンを取り付けた!なんとこのボウガン、連射できます。なんとなんと!毎分80発!ふふふふ、フハハハハ!フーはっはっはっは!・・・・・普通の矢が足りない・・・・・。

 

あ、そうそう、このボウガンやバリスタ、はては矢なんだけど、希少金属(アダマンタイト)を、使って金属部分は作ってある。それに、五十階層以降に居るらしい、デフォルミス・スパイダーの糸を使って弦を張っている。

 

矢には幾つか種類もあって、通常の矢(アダマンタイト製)、毒矢(デッドリー・ホーネットの針)、対空用の横方向に広い鏃の矢など、無駄に種類を作ってしまった。でもデッドリー・ホーネットの針を使ったのは失敗だ。なにせ、数が集まらない。絶滅する勢いでリド達が狩り尽くそうとしているけど、集まりは良くない。

ちなみに異端児の中にはデッドリー・ホーネットの子もいるんだけど・・・・・別に怒ってはないらしい。目覚めた瞬間命を狙ってきたのは同族だったらしいし、その関係かな。

 

毒針とは逆に、フォー君に頼んだ、アダマンタイト集めは凄い集まる。俺が無限の剣製で作った巨大なツルハシを怪力で振り回し、壁を 粉☆砕!して大量に持ってくる。ちなみにアダマンタイトかどうかを判断するのは、赤い帽子を被った、ゴブリンのレットだ。あとグロスも時たま見てくれる。

 

「なぁハルっち!コイツ使えるか?」

『どうかしたか?・・・んんっ、リドっち、それって?』

「ダンジョン・フライだぜ。明かりに使えるかと思ってな」

『あぁ、あの何もしてこないやつか・・・・・明るいな。うー、なんでおもいつかなかったかなぁ。こいつ入れば建物内も明るくなるのに!』

「ははは、ハルっちにも分からないことはあるんだな!」

『うー笑うな笑うなっ!割とショックなんだぞ!』

 

だけど、これで明かりは手に入ったな。街灯にも使えそう・・・・・か?死んじゃうかな?

 

『そいつって何食べるんだっけ?要らないなら街灯にも使えそうだけど・・・・・』

食料庫(パントリー)って知ってるだろ?あそこにある水晶の木から取れる樹液を、モンスターは食うんだ。」

『なるほど・・・・・』

 

つまりそれを定期的に補給してあげれば街灯としても使えるわけだ。いいねいいね!まさにダンジョンの街っ!て感じだ!

 

『よしっ!沢山の生け捕り確定で!』

「自衛能力が無い自分を恨らんでくれ、ダンジョン・フライ」

「・・・・・!!・・・!、!、?」

 

俺とリドがダンジョン・フライについて話しあっていると、オードと、グロスがやって来た。オードは鎧を着ているので、ガシャガシャと音を鳴らしている。両手を使って何かを伝えようとしているオード。わかる、分かるぞ・・・・・!

 

『お腹減った?』

「!!」ガクッ

「防具ヲ新調シタイラシイ。ヤッテクレルカ?」

『はっ!?そうだった!防具とか武器が最優先じゃん!!ごめん!今作る!』

 

俺としたことが・・・・・こんなところを忘れるとは。防衛兵器よりも主武装を整えるのが先だった!

待っててくれよみんな!

 












妖夢→VSイシュタル・ファミリア

ハルプ→作ろう異端児の街

ベル→VSアポロン・ファミリア

ハルプサイドのこの字面のほのぼのさ。やってる事は少し物騒。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

68話『その名デ、呼ブな・・・・・!!』

テスト期間で執筆が全く進まない・・・・・!これ以上日にちが開くのはダメだろう、と、ストックを消費する事に・・・・・。
そして、話はあまり進まないんだ。済まない。






はぁ、はぁ、はぁ・・・・・鍛冶って大変ね。うん、もうマジでキツイ。腕あがんねーわ。半霊に戻るか、よっこいしょ。んで、ハルプに戻ると。

 

うっしゃー!復活!体力全回だぜ。ほんと酷いなこのボデイは。

 

あ、そうそう、やってた事のまとめね。えっと、あの後俺は、ウォーシャドウのオードに似合う、黒い全身鎧と剣と盾をプレゼントした、もちろんアダマンタイトだ。

 

そしたらみんなもやって来て作ってくれって言ってくれた。頼られるって素晴らしい!んで、張り切ってたんだ。

リザードマンのリドには、胸当てと額宛て、各種プロテクターに、サーベルとシミターを作った。サーベルは斬れ味よりも、頑丈さを重視した作りにした。でもなかなか切れるぞ。シミターは斬れ味を重視、ある程度は硬い。サーベルで防いでシミターで決める、って感じだ。

 

 

ガーゴイルのグロスには張り切って鎧を作ってあげた!ガントレットにプレートメイルと、もうほとんど全身鎧だ。さらに、巨大なハルバードを制作。リーダーっぽい立ち位置にいるし、豪華な装飾も施した。重めに作ってあるから一撃必殺も夢じゃない!更にさらに!尻尾の先端にも斧を取り付けるロマン。

防御力を上昇させて、攻撃力も大幅に上がったはず!

 

 

ゴブリンのレットには、アダマンタイトで作ったチェーンメイルと、薄めのハーフプレートメイルを。武器はショートソードに、ナイフだ。それと小盾も。ちなみに、小盾って言ってるけど、ゴブリンだから身長が低いレットが持つと、普通の盾に見える。

 

アラクネのラーニェも、張り切って作ってしまった。脚1本いっぽんを覆う、アダマンタイトの鎧・・・・・!カッコイイぜ・・・・・!人間部分の胴体はしっかりとプレートメイルで覆い、関節部分は動きやすいように多少の空間を確保しつつ、何とかプロテクターを取り付けた。

蜘蛛の方の身体の、お腹?は巨大な盾で防御。乗りやすいように座席を作ろうとしたら怒られた。

槍は長い奴をいっぽん。短いやつを1本つくってあげた。ついでに剣も。

 

フォモールのフォーには手こずらされた。身長大きいから、鎧も大きいよ・・・・・。

んで、特質すべき点は、おっきい盾かな?あとメイス。フォー君用のメイスは凄い大きい。だって俺よりでかい。俺1人ではどうにも出来なくて、リドとグロスに手伝ってもらう事になった。

盾もそうだ。疲れた。

 

他のみんなにも細々とした防具やら武器を作り、後で使い方の基本や、応用を教えるつもりだ。

 

さて。そんなわけだけど、今はそれどころではない。

 

 

愚者(フェルズ)が来た。

 

 

「・・・・・これは、凄いな」

 

黒衣に身を包んだ男が、開口一番そう言った。やばい、緊張するぜ。てかアニメ化されてないからフェルズがどんな骸骨なのかわからないぞ?アインズ様みたいな骸骨なのかな?普通の人骨?

 

「ジロジロ見られても困る。既に私の事は知っているようだが・・・・・はて、会ったことが?」

『いや、初めましてだな。フェルズ』

「・・・・・自己紹介はまだだと思ったが・・・初めまして、魂魄妖夢。いや、その半身よ。!?」

 

気が付けば刀を抜いていた。カチカチと震える刀は、フェルズの首近くで止まっていた。身体が痛い、全身に電流でも流されているかのようだ。

 

『その名デ、呼ブな・・・・・!!』

 

左手で、右手を押さえ付け、刀を下ろす。頭痛がする、何故だ、なぜ、名前如きで反応する?俺は違うんだ、アイツじゃない。魂魄妖夢では無い。別の人間だ。

 

──ヒビが伸びる音がする

 

そう理解したはずだ、なぜ、なぜ嫌悪を抱く?なぜ、裏切り者だと考える?なぜ、奪い返さなくては、と考えている?

違う、そうじゃないだろう・・・・・?!

荒くなった呼吸を押さえ付ける。

 

「・・・・・わかった、ではなんと呼べばいいかな?」

『ハルプでいい。』

 

心を落ち着けなくては。俺は深呼吸して、落ち着こうとする。フェルズは落ち着くのを待っててくれるみたいだ。そのことに安堵する。今のでヘタしたら殺しにかかってきてもおかしくなかった。負けるつもりは無いけど。

 

『落ち着いた、ごめんな?なんか、身体がおかしくてさ』

「・・・・・いや、いいとも。そう言えばコレを。」

 

そう言ってフェルズが取り出したのは・・・・・袋だ。

 

『もしかして・・・・・』

「そう、そのもしかしてだ。・・・・・落ち着いたようだな」

 

手渡して貰おうと思ったけど、いつあの発作が起こるかわからない。なので投げ渡してもらった。

中身は・・・・・種だ。

 

『おお〜!ありがとうフェルズ!!』

 

思わず駆け出して手を握る。そして上下にブンブンと振った。今の衝撃のせいなのか、顔を覆っていた布が取れる。

・・・・・あ、危ない。発作起きなくてよかった。

握ったまま固まって、チラッとフェルズの顔をのぞきこむ。と言うか、顔をあげれば覗き込んだことになる。

 

見えたものは、骸骨の顔。血の気が引くのがわかる。

 

ま、まるで死神・・・・・!魂の天敵じゃん・・・・・お、お化け・・・・・怖い・・・・・!

 

『・・・・・ッ!!・・・・・みょぉん・・・・・バタッ』

「ぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武錬の館に妖夢は駆け込んだ。霊力が切れる前に如何しても伝えなくてはならなかったからだ。

 

「タケ!命は居ますか!」

「どうしたんだ妖夢、命ならだいぶ前に出掛けたぞ?」

「くっ・・・・・やはりあの場に残ったままですか・・・・・。」

「・・・・・あぁ・・・・・そういう事か」

 

タケミカヅチは何か思い当たったのだろう。頭を抑えて空を仰ぐ。そして、それを辞めた様に、妖夢の肩を強く掴んだ。

 

「桜花と千草を呼べ。」

 

その言葉が意味するところを妖夢は理解していた。少数精鋭。情報の漏洩が無いと確信できる、信頼出来るメンバーでの・・・・・総力戦。

 

「・・・・・はい。行ってきます」

 

真剣に頷く妖夢。もう霊力の現象は止まっていた。ハルプが半霊形態となり、霊力の消耗を止めたのだろう。

魔力はまだ、潤沢にある。・・・・・戦闘の続行は出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆炎が上がった。建物を吹き飛ばし、瓦礫が降り注ぐ。降り注いだ燃える瓦礫は他の建物を破壊し、燃やす。

 

──妖夢殿だ。

 

唯の一撃で、この夜の地獄のように変化した歓楽街。

そこを、私は物陰を縫って進んでいた。

 

「向こうだ!急ぐぞ!」

 

バタバタと忙しなくアマゾネスや他種族の娼婦達が、私が身を隠した木箱の前を通り抜けていく。私は居なくなった時を見計らい、身を踊らせて駆け抜ける。

しかし、全てが上手くいくわけではなかった。時折、少し遅れてきた者達等に姿を見られる。

 

「だ!誰」

「───!!」

「ぁぎゃあ!」

 

そんな時は叫ばれる前に攻撃し、気絶した所を物陰に運び込む。私はそんなことを繰り返してどうにか進んでいた。・・・・・こうして私が無事に動けているのは妖夢殿のお陰なのだと、思い知る。

 

壁を蹴り、屋根を進む。バレそうになれば、躍り出て斬り倒す。このまま中枢部に侵入し、身を隠して潜伏するつもりだ。そうして春姫殿に接触し、説得した後連れ帰る。

 

「!!」

 

屋根を進む私は風切り音を耳に捉えた、咄嗟に飛び跳ね飛んできた矢を弾き落とす。飛んできた方を見れば数人の敵。それぞれが弓を持ち、矢を放ってきた。

 

「ふっ───!」

 

全てを弾きながら全力で接近する。敵は腰が引けていた。不利を悟ればすぐ様にげるつもりなのだろう。だがやらせない。私の新しいアビリティ【縮地】は、縮地の完成度を上昇させる物。

これで私も真に迫った・・・・・!

 

「ほかの奴らに伝えてくる!」

「足止めは任せな!」

「頑張って!」

 

1人が屋根から飛び降りようとした、その時を狙う・・・・・!

屋根の瓦を粉々に吹き飛ばし、私は縮地を使用する。一瞬にして世界が縮む。距離を0にする程の勢いで、私は逃げようとした相手の前に回り込んだ。

 

「速いっ・・・・・!」

 

そして──

 

「秘剣──燕返し!!」

 

漸く修得した秘剣を閃かす。1人ではなく3人を一気に狙う。二兎追うものは一兎を得ずと諺にあるが、離れた力量差は諺を踏みにじる。言葉も無く3人が地に伏せた。

少し深く斬りすぎた。

 

───妖夢殿には及ばない・・・・・!

 

だが、構わない。死にはしない筈、今は春姫殿が優先だった。

 

再び飛来してきた矢、今度は遠い。豆のように小さく見える場所からの攻撃だった。いつバレたのかはわからないが、どうやら見つかってしまっているようだ。

 

「・・・!」

 

顔に刺さる寸前に、矢を掴む。それだけで矢は止まる。

私は止まらない。相手までの距離は・・・・・200メートルほどか。なら─────8歩で事足りる・・・・・!

 

「壇ノ浦───」

 

1歩、一つの家越えて。2歩、広場一つを飛び越える。3歩、炎を突き抜けて。残りで距離を踏み越える。8歩絶刀!

 

「八艘飛び!!!」

 

逃げようとした相手を弓ごと斬り裂く。やはり妖夢殿の方が上手くできる。

腕を吹き飛ばされ気絶した相手を尻目に、私は素早く行動を開始する。逃げるように見せかけるのだ。

 

しばらくして、私は隠れることに成功した。追手はいない。ずっと激しく鼓動していた心臓を宥めて、私は休む事を選択した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン十八階層。階層の殆どが壊れ、吹き抜けとなっているこの場所に、その怪物達の住処(モンスターハウス)はあった。

フェルズを見てひっくり返ったハルプはそこに運ばれていたのだ。

 

ハルプを心配した異端児達とフェルズは、ハルプが寝ているベッドを囲んでハルプが目を覚ますのを待っていた。

 

ハルプが目を開ける。しかし、その視線が最も先に捉えたものは骸骨の顔。フェルズの空洞となった目が、ハルプに暗闇に吸い込まれるような感覚を覚えさせる。ハルプが目を大きく見開いた。

 

▽死 神 か ら は 逃 げ ら れ な い !

 

「大丈b」『ふぇあ!?お化け!・・・・・ガクッ』

「えぇ・・・・・」

 

大丈夫か?そう聞こうとしたフェルズ。その後に顔についての説明や自己紹介をしようとしていたのだが・・・・・ハルプは気絶した。

 

フェルズは肉のない肩を落とす。先程まで自分の首に刀を押し付けていた人物とは思えなかったからだ。とは言え、思い当たる節もある。ハルプが潜った事のある改装に、スケルトン系は出てこない。出てくるのは40階層以降なのだから。

 

しかし、それにしたって酷すぎやしないか。それがフェルズの気持ちだった。

確かに怖がれるのは分かっていたのだが、それでもここまでとは予想出来なかった。

 

本来の『彼』(ハルプ)はお化けが嫌いではない。むしろ様々なラノベやアニメで可愛く描かれるお化けには期待すらしていただろう。それにスケルトン等のアンデッドに「カッコイイ」や「ロマン」を感じるタイプの人間だった。

 

しかし、何の因果か妖夢とほぼ融合を果した彼は、お化けが大の苦手になっていたのだ。1度ゼロに戻され、妖夢と融合する事で自己を形成したハルプからお化け嫌いが無くなる事は、能力を使うまでないだろう。

 

「起きろ。起きろー。」ペシペシ

『う、ぅ〜ん・・・・・ん?ヒャイ!!?』ガクッ

「・・・・・あと何回やればいい?」

「「「起きるまで」」」

「拷問か?私と彼女に対する拷問か?」

「・・・・・」ヒョイ

「・・・・・被れと?フルフェイスヘルメットを被れと?」

「・・・・・」コク

 

オードが自分の黒いヘルムをフェルズに渡す。被れ、そうすれば驚かない。そう言っているようだ。

フェルズは暫し躊躇したあと、ウラノスからの「いざこざは起こすな」と言う忠告を思い出す。

そして、嫌々ながらにソレを被った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぅ、うぅん・・・・・。怖いのヤダ。目を開けたくない。流石に3回もやれば分かるぞ。目を開ければフェルズがいる・・・・・絶対にそうだ。そして気絶するのは目に見えているんだ。目を開けないという勇気。

 

「起きろハルプ。フェルズには顔隠してもらったから」

 

嘘だな。嘘に違いない。骸骨如きに怖がる俺を笑ってるんだ!絶対にそう!そう考えると恥ずかしくなって来るな・・・・・でもどうせ目を開けたら骸骨だぜ?

 

「ハルプ、目をギュッて瞑ってるネ」

「可愛いな、だが、起きろ」

 

ラーニェとかが何か言ってます。ですが俺には聞こえないのです。

 

「・・・・・お!き!ろ!」

『あだだだだだだ!?痛い痛い!』

 

目がぁー!目がぁー!強引に開かされたぁ!もうお婿に行けないよ・・・・・あ、お婿は無理だったわ・・・・・。

 

俺の目の前には、鎧姿の皆と、頭に南瓜ヘルムを被ったフェルズ。おお、怖くない。

 

『おぉ、怖くないぞ・・・・・寧ろ可愛い・・・・・。絶対に取らないでね、いいな?』

「あぁ。」スッ

「やめろフェルズ」

「・・・・・あぁ」

『ねぇ今外そうとしたよね?今外そうとしたよね?!イジメだー!こんなの意地悪だー!』

 

あまりにも酷い仕打ち。仕返しも辞さない。どんな仕返しをしてやろうか?例えば・・・・・俺も骸骨になるとか!・・・・・効かないよな、うん。

 

「まぁそんなことはどうでもいい」『良くない』ムスッ

「・・・・・話しを進めよう、良いかな?」『良い』ムスッ

 

ムスッとします俺。目覚めは最悪でございまする。俺フェルズ嫌いっ、骸骨なんてカルシウムとコラーゲンを失ってスカスカになればいいんだ!

 

「・・・・・では、この街についてだ。」

『・・・・・なんだよ、文句でもあるのか?』

 

流石に子供っぽいと思うから、態度は改めよう。で、このリヴィラに付いてときたが・・・・・止めろとか言うのかな?だったら敵対・・・・・かなぁ。それは嫌だけど、異端児の皆の願い事は叶えてあげたい。その土台でも下地でもいいから作ってあげたいんだ。力になりたいんだ。

 

「文句では無いが・・・・・目的を聞きたい」

『地上進出。人間との関係の改善。市民権の獲得。進出した後の差別意識の改善。・・・・・これは、この街は地上進出までの架け橋だ、ここで冒険者達と関係を持って少しずつ意識を改善してもらうんだ。』

 

難しいことは分かっている。でも、そうしたい。障害は多いし大きい。溝も深い、距離だって離れてる。でも、やれるだけやってやる。

 

「・・・・・そうか、異端児(ゼノス)達を思っての事なんだな?」

『だったらなんだよ。可笑しいって言うのか』

「いや・・・・・違うとも。だが、一つだけ言わせてくれ」

『・・・・・?』

「ありがとう。心の底から感謝する。」

『!!』

 

顔が火照るのを感じる。口元がにやつくのが抑えられない。俺ってこんな奴だったか?能力のせいなのか?わからないけど、わかることがある。・・・・・褒められた。それが嬉しい。

 

『そ、そそそそんな事言ったって何も出ないからっ!!ぜ、全部本当はお、俺の為にやってる事だし?変な勘違いされると困るんだよ!このバカ!骸骨!』

 

俺は何を言っているんだ(困惑)

言ったし、勘違い起きるような事何も言ってないし。なんたよ、誰得だよ俺のツンデレとか。いや、エセツンデレやん?ツンもないしデレもないやん?しかも気にしてそうなこと言っちゃったし・・・・・。

 

「そうか・・・・・ならば喰らえ!秘技ヘルメット外し!」

『みょぉぉン!?!?』ガクッ

「・・・・・少しは慣れてくれないと私が心にダメージを負うな・・・・・」

 

怖い・・・・・チーン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、案内するから・・・・・着いてきてね』

 

フェルズは目の前を歩く赤い目の少女、ハルプに付いて行く。左右に視線を振りながら、時折ハルプに目を向けると面白いように肩を跳ねさせ震え出す。

 

(・・・・・・・・・・・・・・・覚悟はしていたが・・・・・覚悟はしていたんだが・・・・・)

 

ここまで露骨に怖がられると悲しくもなる。覚悟が即効で揺いだ。

 

『あ、あんまりコッチ見ないでくれよ・・・・・その・・・・・いや何でもない。』

 

のくせ強がっているから見ていられない。フェルズは頭が痛くなる思いだった。フェルズがハルプに連れられ進んでいると、噴水広場予定地に着いた。

 

「ここは?」

『ここは噴水広場予定地だ。噴水あったら街っぽいだろ?』

 

フェルズが尋ねると嬉しそうに答えてくれるのだが、顔を見ると怖がられる。子供とはやはり難しい、とフェルズが内心で嘆いていると、リド達がやってくる。やはり武装は変わっており、その強さはレベル4よりも遥かに勝るだろう。

 

「リド、それにラーニェ。聞きたかったんだがその鎧は?」

「あぁこれか?ハルっちに作ってもらったんだぜ」

「私もだ、これで更に戦えるだろう。・・・・・この後はハルプが鍛錬を教えてくれる手筈だったのだがな」

 

む、それは済まなかった。とフェルズが謝ればラーニェ達は分かっていたように頷きそれを許した。

 

「・・・・・ぶっ!はは、ハルっち、まだフェルズが怖いのかよ?」

『ここここ怖くないわボケ!気絶して無いだろ!』

「フェルズ、行け!」

『や、止めるんだ。いいか、それはいけない。フェルズ、賢明なお前なら分かるはずだよせやめろ絶対だぞ』

「私は愚者なのでね、決して賢明などではないのだよ。という訳で・・・・・秘奥義!ただのフード外し!」

『ギャー!』

「・・・・・ふっ(ココロが・・・・・)」

「「「なか良いなコイツら・・・・・」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オレ、フェルズ、ダイキライ。』

 

ガクガク震えて、グロスの石の翼の後ろに隠れるのはハルプだ。グロスはなんて言うか・・・・・そう、父性が刺激されていた。

 

『グロス、助けて。』

 

うるうるした目でグロスを見上げるハルプ。だが、グロスにも『顔』という物がある。ようするに他人から見た印象の様なもの。

それが理性となり、ハルプを意識の外側に置こうと尽力するのだ。

 

『おじいちゃん・・・・・!お願いっ!』

「・・・・・!フェルズ、貴様ハ罪ヲ犯シタ・・・・・!」

 

が、直ぐにんなもんは壊れた。おじいちゃん。いい響きだった。リーダーとして支持を仰がれることは良くある。しかし、「おじいちゃん」だ。そんなことは言われたことがなかった。

なにせ「おじいちゃん」だ。一瞬にして可愛い孫が出来たグロスがデレデレになるのも時間の問題と思われる。

 

「いや、可笑しいだろう!?」

 

翼を大きく広げ、背にハルプを乗せたグロスは飛んだ。追いかける標的はホネホネ野郎である。

ホネホネ野郎ことフェルズは自らに襲い来る理不尽から全力で逃げる。

人は神や怪物を「理不尽」と呼ぶが、フェルズはこうも思った。

子供のお強請りも「理不尽」なんじゃないかな、と。

 

『いいぞー!行けー!食らえー!弾幕アタック!』

「何なんだその技!?私の発明と同じ事を素でやってるのか!?」

「捕ラエロ!」

「ま、まて!待つんだお前達!私が何をしたというんだ・・・・・!」

「ハルっちの服を脱がせた。」

「それか・・・・・!だが初めに言っておくぞ!私にアレは無い!よって邪な感情なんて欠片も・・・・・!」

「知ラン!」

「知らん!じゃないが!?」

 

フェルズはハルプのヒビが気になり、気絶している間にどの程度ヒビが拡がっているのかを確認しようと服を脱がせた。が、服を脱がせている途中でハルプが目覚め、困惑していたハルプと暫し固まったまま見つめ合い・・・・・そこにグロス達がやって来て・・・・・という感じだ。

 

決して、フェルズにいやらしい考えがあった訳では無い。むしろ欲しかったが、最早性欲なんて無いのだ。アレも無いし。声が低く無ければ、ローブの関係上男なのか女なのかも分からない。

 

 

 

そして1分もしない内に非殺傷弾幕で転ばされた跡、異端児からの軽めの総攻撃を受け、フェルズは倒れた。

 

「お、可笑しいだろう・・・・・可笑しいだろう・・・・・?」

 

私が何をしたというんだ。そんな言葉を飲み込んでフェルズは立ち上がる。

 

視線の先にはフェルズで遊ぶのに飽きたのか、異端児(ゼノス)達と異分子(ハルプ)が戦闘訓練をしている。火花が舞って、銀線が走る。

 

『ほらっ、よっ!』

「グルァ!」

 

超硬金属製の剣による振り下ろしと、これまた超硬金属製のサーベルの振り上げがぶつかり合う。大量の火花と共に、力で劣っているハルプが上空に打ち上げられる。

 

「くらえっ!───カァ!」

 

リザードマンのリドの放つ火炎放射。ヘルハウンドの火炎ブレスと比べれば、火力と範囲で勝り、射程で劣る炎の息吹。ハルプの視界を易々と炎が埋め尽くし、空中にいるハルプが逃れる術は少ない。

そんな攻撃にハルプとった行動は一つ。避ける必要など欠けらも無い、跳ね返せばいい。

 

『反射下界斬!!』

「ぬぅおっ!?マジかよ!」

 

振るった剣に従うように、霊力で作られた反射盤が形成させる。それはリドの火炎放射を容易に反射した。リドは驚きながらも飛び退いて躱しきる。

リドは飛び退いた勢いを、膝を曲げ体を前に傾ける事で打ち消しそのまま弧を描く様にハルプに向かって走り出す。

 

「ウゥラァッ!」

 

身体能力でハルプを超えるリドが、ハルプが地面に着地するほんの少し前にシミターを横に振り抜いた。

手加減無しの本気の一撃。当たればハルプの耐久力では間違いなく一撃だろう。

 

『いいねぇ、でも・・・・・』

「!?」

 

ハルプは風を唸らせ迫る一撃に剣を叩きつけると、体を捻って回転させシミターの一撃を乗り越える。着地しリドの懐に潜り込んだハルプが加速する。

 

『技が足りないな』

 

リドは咄嗟に反撃しようと振り上げた腕を降ろした。・・・・・首元に剣を突きつけられた、リドの負けだ。

 

「こりゃ・・・・・参ったなぁ・・・・・」

『へへん、こう見えてなかなか出来るぜ?』

 

終始、ハルプが圧倒した。

今までハルプの実力を見た事が無かった異端児達は、その強さに思わず唸る。

 

『よぉし、来い、お前ら。強くしてやるぜぃ?』

 

鍛錬が始まった。









ハルプほのぼの。
命暴走。
妖夢達その対策へ。

そんな回。今まで活躍の場が無かった命さん、でも割りと強いのです。



【リメイク版の提案】

ところで話は変わりますが、読んでくれるか不安ではありますがリメイク版でも作ろうかと思うのです。迷走がヤバイのです。今までまともな修正を行わなかったツケが回ってきたようですね。

リメイク版では【極東編】を増やして、オラリオ偏は確りと整理し、順番の入れ替えをしてわかりやすくしたい。あとほのぼのとギャグを増やしたいなぁと思います。
オリキャラの方々は使うかも知れない・・・・・位のイメージですね。

こちらのバージョンを投げ出す形になるかどうかは未定です。続き気になる!という人がいるなら・・・・・と言うくらい。

リメイクに関する事で何かあったら活動報告とか個人メッセージを下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

69話「い、今まで何処に行っていたのですか!?」


シィイイイイリァアアアスッッッッ!!

お久しぶりです、シフシフです(賢者モード)

やっとこさ産まれました。しかし、面白いかと言われると何とも言えない。なにせ暗い。シリアスは苦手ですね!
リメイクの方はシリアスなんて最初以外する気は無いですから、そっちでシリアル分を補給しつつ、こっちではシリアスをするのです。きたるハッピーエンドに向けて。

・・・・・辿り着けるかな?


「作戦はこうだ」

 

桜花が人差し指を立てて、そう話し出す。内容はイシュタル・ファミリアとの抗争。

私から春姫の事を聞いたタケを含めた3人は、一瞬にして目の色を変え、戦闘を是とした。

 

しかし、私が行ってきたゲリラ戦法は少々荒すぎる。あのまま続ければ、ファミリアの立場は更に危うくなり、下手を打てば崩壊しかねないとのこと。

 

よって何らかの方法で、公的な戦いに持ち込む。・・・・・か、ばれる前に終わらせるかの二択となる。

 

そして、自体を重く見たタケは後者・・・・・先手必勝、見殺必殺、疾風迅雷。出来るだけ速く、出来るだけ正確に、何もかもを嵐のように終わらせる事にしたようです。

要するに、ゴリ押しです。

ゴリ押しを甘く見ることなかれ。かの聖女ジャンヌ・ダルクが最も得意とした戦法なんです。

 

「装備はどうするんだ?」

「恐らくヴェルフに頼んだ者が出来ているかと。」

「なるほど・・・・・悪いな、巻き込んじまって」

 

桜花が私に申し訳なさそうに言います。私を巻き込んだと思っているようです。巻き込んだのはむしろ私なのですが。

 

「いえ。家族の頼みとあれば。・・・・・取りに行ってきますね。」

 

家族・・・・・ですか。・・・・・会話がうまく繋がりませんね。困りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『んー・・・・・うーん・・・・・』

 

どーも、俺ですハルプです。フェルズから貰った種を植えて、懸命に育てております。

んが!が、だ。やることが消えたぜ!

 

─────頭がいたい。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

 

リドは俺の隣で寝てる。はぁはぁ言ってるけどヤらしいこと何も無いぞ?

あるのは疲労だけだな。

 

「なんで、ハルっちはピンピンしてんだよ・・・・・」

『いや〜それほどでも?』

「回答に、なって、ない・・・・・ぜ」

 

あ、死んだ。まったく不甲斐ないやつだなぁ。こんなにも俺が全力で鍛えてあげてるのに!

大体、この体は疲労も何も無いんだ、俺が頭の中で「この位動いたら疲れる」って記憶してるから疲れを覚えたりするけど、そんなの無視しちゃえば疲労なんてこれっぽっちもなかったぜ。

 

────体が痛い。

 

あれだな、アンデッドと人間の軍隊だと、アンデッドの方が強いって言われるアレだな、疲れず眠らない軍隊は怖いよね。

 

「キュイ!キュイキュイ!」

『おー?どうした、ん?ご飯?ご飯食べたいのか?おーおー、いいよいいよ?何がいい?』

「キュー!キュキュ!」

『・・・・・なんて言ってる?』

「何でもいいってさ」

『ほー、何でも・・・・・・・・・・骨は?』

「キュイ!?」

「フェルズじゃねえか!!」

 

いけなかったのか?フェルズじゃ。

あんだけ動き回る骨だぜ?骨密度半端ないな、カルシウムもたっぷりに違いない。

 

─────痒い。痛い。

 

まぁいいか、適当に作ってやろう。

 

「んめー!」

「うまーい!」

「ウム」

 

という訳でカットだ。俺が作った飯・・・・・と言うか焼肉は大変評判が良かった。

 

─────・・・・・。

 

流石に獣に近いっすねぇ。肉を食らう姿はまさにモンスター!

 

『がルルルー』

「キュイ?」

『・・・・・何でもない。・・・・・っ!?』

 

意識が・・・・・落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚める。

 

何故、目がさめた?俺は寝てなんていないはずなのに。寝る必要なんてないのに。寝落ちなんてありえない。

 

ココはどこだ?あたりを見渡せば俺の部屋だ。俺達が自力で作り上げた場所だ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・体が、痛い。どうしようもないほどに。ごまかせない位に。

 

思考だってままならない。ならば、きっと俺は倒れて寝かされたんだろう。あぁ、困ったぞ。まだ、やることは腐るほど残っているのに。

 

──────────。

 

・・・・・ッ!!

 

呼んでいる。誰かが、俺を。

いや、違う呼ばれてなんていない。俺が・・・・・聞いただけだ。誰の声かなんて分かりきっている。命だ、ミコトの声だ。

 

───────。

 

戦っている。それだけは分かった。けれど何故?ダンジョンは封鎖されている。だから命は戦う相手なんか居ないはずじゃ・・・・・人?人が相手なのか?なんで?・・・・・あ、あああ・・・・・そうだ、そうだった。約束だ、約束があった。

救うと誓った約束だ。

 

『・・・・・ァ』

 

忘れるなんて、俺は酷いやつだ。でも、まだ取り戻せる。

立ち上がろうともがく。・・・・・ぽろりと体から欠片の様なものがこぼれ落ちる。それは・・・・・皮膚のようなものだった。しかし霊力となって消えていく。

 

なるほど・・・・・もう・・・・・時間が・・・・・無いのか。

 

りかいできるのはそれだけ。鈍る思考力のなかで、剥がれ落ちたその場を見る。黒く、何処までも深そうな暗闇が・・・・・皮膚の剥がれた腕から覗けた。

 

これが・・・・・俺か。これこそが俺の正体か。

 

 

 

 

 

 

ふと、体から光が伸びているのに気がついた。

伸びる光の糸を見つめる。今までもあったが、無視をしていたものだ。多分・・・・・妖夢との繋がりだろうか。なら・・・・・これを斬れば・・・・・。

 

[ああいや違う、そうではない。私がやるべき事は別の事であるはずだろう。異端児の皆を救い、人を追いやり地上に楽園を築くのだ。]

 

〈いやいや、何を言ってるんだ僕は、やるべきなのは人を助ける事だ。命達が困っている。異端児なんて所詮モンスターだ、今すぐ斬り殺して助けに行こう。〉

 

違う・・・・・違う違う!!全部違う!

 

【我々は全ての調和こそ使命。全てを無に返せば誰も死ぬことはない。そしてそれを出来るだけの力はあるはずだ。】

 

《儂は嬉しいぞ、このまま行けば開放される。》

 

ああああああ!うるさい!うるさいうるさい!!!

能力を使って技能を得る度に、知らない俺に出会ってしまう。知らないうちに俺が増えている。

 

怖い。恐ろしい。

 

でも・・・・・それで、も、やる事だ、けは分かっ、ている。

 

全部、助けるんだ。

 

[愚かな。]《愚か者め。》【愚者め。】

 

それを出来る力があるんだから、やれる所までやらないと。

 

〈力がなんのためにあるか分からないのかい?僕らが生きるためにあるんだ、自分から死を選ぶつもりかい?〉

 

やだ、死な、ない。全部救って、生き残、る。

 

《無理だ》【不可能だ】[出来るわけがない]〈せめて実現可能な事にしてくれ。〉

 

無視をしよ、う。頭の隅に追いやるしかない。どうにしても、助けることに変、わりはないんだか・・・・・ら。

 

─────能力を使用する。

 

もしも・・・・・・・・・・俺が・・・・・・の・・・・隣にいたら・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦火が上がる───。

 

火の手だ。

 

風に撫でられ煽られて、街を燃やし人を焼き・・・・・肺を焦がす。

 

スゥ・・・・・。

 

お面を着けた妖夢が息を吸い込んだ。鼻腔をくすぐる焦げ臭い匂いに、自分達が起こした惨状を理解させられる。

 

戦いが始まってから既に10分ほどが経過しただろうか。

ふと、後ろに気配を感じ振り返る。

 

「・・・・・!ハルプ・・・・・?」

『・・・・・』

 

振り向いた先に居たのは・・・・・怪物だった。

全身に黒い罅割れが走る、銀の怪物。

 

腰まで伸びた長い髪は、まるで蛇のように蠢いていた。髪の隙間から覗く眼は赤く、しかし光をともしていない。服装は完全に裸だ。

 

『たす・・・・・けなきゃ・・・・・』

「い、いままでどこに行っていたんですか!?」

『・・・・・けなきゃ・・・・・』

「・・・・・ハルプ?」

 

妖夢の呼びかけに、ハルプは答えない。ただ、ゆっくりと前に進んでいく。妖夢の横を通り過ぎ、そのますすんでいくのだ。

妖夢が慌てて追いかけ、その肩を掴もうと手を伸ばす。が・・・・・。

 

「!?・・・・・手がすり抜けて・・・・・?まさか、いや、そんな・・・・・!」

 

答えないのではなく、聞こえていないのだ。ハルプに今、言葉は届かない。激痛に思考は歪み、溢れ出すかのように増えた意識は歪んだ思考を砕いていった。

 

「私との縁が崩れている?い、いえ、まだ繋がりは認識できています・・・・・。ならば、崩れ始めている・・・・・」

『声が・・・・・聞こえる・・・・・・・・・・こっちか・・・・・命・・・・・今、助け・・・・・・・・・・る・・・・・』

「命?命がそっちにいるんですか!?」

 

ハルプがゆっくりとした動作で、首を動かしとある方向を見る。その方角には大きな建物・・・・・現状最も守備が固い相手の本拠点。

ハルプはその方角から命の戦いを感じ取ったのだ、そして・・・・・世界は歪み出す。

 

「!?」

 

ピキリ、と音が鳴る。

 

空間にヒビが走る。

 

ハルプと言う存在にノイズが走り──────。

 

「ハルプ!!!」

 

妖夢が叫び手を伸ばす、今、見逃せばきっと・・・・・次に会う時には後悔をすると分かったから。

 

『助ける。俺は、皆を・・・・・助ける』

 

そんな言葉と共に、大気が揺れ始める。

 

──────────!

 

ガラスが割るかのような破砕音と共に、ハルプが消え失せる。

 

まるで、初めからそこには何も無かったかのように。

 

「そんな・・・・・・いえ、まだ決まった訳ではありません。命の所にいるなら・・・・・」

 

妖夢が焦りを顔に浮かべながら、崩れた屋根を走って言った。

 

辺りは静まり返り、倒れ伏したイシュタル・ファミリアの団員と、瓦礫しか残っていない。

そんなところへ、一つの足音。

 

「ふむ、どうしたものか・・・・・」

 

筋骨隆々な男、最強の名を欲しいがままにする戦士。そして魂魄妖夢の守護者。

 

真名をオッタル。

 

「取り返しがつかなくなる前に止めねばなるまい」

 

既に人は捌けさせた。妖夢達がしでかした事と広まれば、それこそ守る守らないの範囲では無くなってしまうからだ。

 

「・・・・・行くか」

 

彼もまた、建物に向かって走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ・・・・・頭痛がする。

能力を使って戦場に飛び込めば、大剣が俺に振り下ろされる。

 

でも、当たらない。

とても邪魔だ、凄い邪魔だ。オレには行きたい場所がある。

 

そう、それは家族の場所。

腕を振り払う。人間が弾けた。

 

家族・・・・・?人間の、家族だ。そう、家族だ・・・・・?

 

まて、何だ。それは。家族?家族・・・・・本当に?本当にそうだったか?人間だったか?本当に?

 

あぁ・・・・・頭が痛い。

矢が雨となって俺に降り注ぐ。見れば沢山の人間が居た。何か喚いているが・・・・・聴き取れない。耳はもう・・・・・使えないようだ。

 

だが、腕は動く。足は動く。目もまだ・・・・・なんとか見えている。痛いが、それは関係がない。

進もう。・・・・・でも何処に?何をしに俺はここへ?

 

目の前で黒が踊った。白い仮面を付けて、武者鎧を着ている。

 

あぁ、そうだった。この人間だ。この人間を助けようとしていたんだ。名前は・・・・・名前は・・・・・。・・・・・記憶が混乱している。名前はもう思い出せないだろう。

 

黒髪の人間に矢が飛来する。

 

俺は腕を伸ばしそれを受け止めた。

・・・・・痛みは、無い。どうやら痛覚も亡くなったようだ。

 

はて、痛覚など俺にあっただろうか?魂の体にそれは必要だっただろうか?

 

あれ?まだ痛い。腕は痛くないのに、頭が・・・・・痛い。

 

黒髪の少女が口を動かしている。「ありがとうございます」だろうか?

なら、お礼は返さなければならない。礼儀だ。

・・・・・礼儀?

 

『・・・・・ぁぁ。気にすんな・・・・・』

 

情けないが、声もいずれ出なくなるだろう。

でも、仕方の無いことだ。

俺の業が招いた事なのだから。

 

────能力を使用する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助ける、それが俺の目的だったはず。しかし・・・・・何を助けるのだったか。

 

『・・・・・ぉぁぁ!!!』

 

なら、行動しなくては。腕を動かし、近くの敵を捕まえる。

 

そして地面に叩きつけた。

熟れたトマトのように、人間は破裂する。

ぁ・・・・・れ?確か・・・・・人は殺しては行けないって・・・・・誰かが・・・・・お父さんが言っていた?お父さんって?

 

・・・・・うるさい、人間たちが騒いでいる。口の動きは・・・・・なんで、こんな所に、モンスターが・・・・・だろうか。

 

そう・・・・・か。俺は怪物になったのか。なら、きっと、人間をころすのは当たり前のことで・・・・・いや、違う。

 

人は、殺しては行けない。モンスターであるならば、尚更のはず。みんなが言っていた。みんなが示してきた。人と生きるために。太陽を、見るために。

 

そうだ、だから・・・・・えっと・・・・・?

殺さずに倒せばいいのか。

 

長くなった腕で、薙ぎ払う。人間達が飛んでいき、気絶したように見える。

頭から血を流しているものもいるように見えた。

 

視界が赤く染まる。目が使えなくなるのも時間の問題だろう。

 

─────能力を使用する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転移した先で、あらかた倒しただろうか。いや、1人残っている。黒髪で白い仮面を付けた人間だ。あれを倒せば全部か。

 

・・・・・何故だろう、黒髪は俺を攻撃してこない。でも倒さないと進めないから倒すために攻撃をする。

 

・・・・・あれ?俺は何をしに来たんだっけ?

確か・・・・・誰かを助けに・・・・・。

 

そう、確か・・・・・金髪の獣人だったはずだ。なら、この黒髪は障害だな。

 

黒髪は既に満身創痍だ。

俺の攻撃を何度か受けているのだから仕方がない。・・・・・いや、どうして動けるのだろうか。俺の攻撃を受けた人間は今のところ全員倒れているのに。

 

手応えが軽いのが分かる。

 

そうか、うまく当たっていないのか。

 

────能力を使用する。

─────命中率95%

 

うん、これでよく当たるはず。

思い切り振り上げた腕を、一気に振り下ろす。・・・・・これでは死んでしまうのではないだろうか?いや、軽いし平気だろう。

 

けど、攻撃が当たる瞬間に、残念な事に何かに邪魔をされてしまった。

 

何も分からないうちに全身が切り刻まれる。

 

・・・・・?軽くなった?

体が軽くなった、頭痛が少しだけ引いた。

・・・・・なんで?

 

頭に響く声も・・・・・減った?

 

「ハ・・・・・プ・・・・・!」

 

・・・・・声が聞こえる。耳が聞こえる?

 

もっと、斬ってもらわないと。

 

・・・・・?大人しくしていると、斬られない?

なら、暴れよう。

 

『──────────ォオ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

いっぱい暴れた。めいいっぱい。

 

いっぱい斬られた。体が軽くなっていった。

 

「はぁ────はぁ・・・・・まだ、動きますか。繋がりが薄れる速度が尋常ではありませんね・・・・・!っ!あの子以外を斬り捨てるのは骨が折れますっ」

 

聞こえる。しっかりと聞こえる。

もう体は自由に動く、頭痛も・・・・・大分良くなった。

 

『・・・・・・・・・・あぁ・・・・・助けなきゃ』

 

そう、俺のやることは命を助けること。

そのためには目の前の銀髪と黒髪を倒さないといけない。

特に銀髪は危険だ、あの刀は魂を切り刻む。

・・・・・?

 

確か・・・・・その刀を持っていたのは・・・・・なら、アレが妖夢なのか?

まぁいい。どうでもいい。

 

「ハルプ!!!聞こえているでしょう!?私達は敵ではありません!!」

『────がァ!!』

「ぐっ!!妖夢殿!本当にこの方はハルプ殿なのですか!?」

「はい!!断言します!」

 

・・・・・?ハル・・・・・プ?

あ、あぁ・・・・・聞いたことがある。その名前は・・・・・知っている。

俺だ、俺の名前だ。俺は・・・・・なにをしている?

 

まて・・・・・妖夢だと?あの妖夢か?・・・・・・・・・・俺から全てを奪った奴か?

なら・・・・・倒さないと。

 

「なっ・・・・・!」

「妖夢殿!」

 

避けられる?なら・・・・・当てる!

長く伸びた腕が、有り得ない角度で曲がる。

まるで関節がいくつもあるみたいだ

 

「うぐっ・・・・・カハッ!」

 

妖夢の首を掴んだ。そのまま高々と持ち上げる。

俺の勝ちだ。取り戻せる。何もかも・・・・・!

 

「お辞め下さいハルプ殿!」

 

命?何をしている?なぜ、俺に刀を向ける?

俺は、前のようになろうとしているんだ。前のように・・・・・家族になろう。

 

「ぅ・・・・・が・・・・・ぁ!」

 

妖夢がジタバタとあばれている。

うん、もう少しだ。もう少しで・・・・・っ!!

 

「ぉおおおおお!!!」

 

稲妻が走った。

なんだ?・・・・・槍だ。

槍が俺のお腹を貫いていた。

 

槍を引き抜いて放り捨てると、それを稲妻がキャッチした。

 

稲妻が変化したと思えば、槍を持った男が現れた。黒髪だ。・・・・・命?違う。命は女のはず。

 

「桜花殿!」

「助けに来たが・・・・・なんだアレは」

「ハルプ殿です、ですが・・・・・自我を失っているようで・・・・・」

「・・・・・マジかよ。とにかく妖夢を助けるぞ」

「千草殿は?」

「こちらを俯瞰出来るところに待機している」

 

桜花?千草?・・・・・桜花、千草、命・・・・・そうだ、そうだった。3人揃って家族だった。

 

助けるのは・・・・・誰だっけ?金髪の・・・・・人?獣?モンスター?

頭が・・・・・痛い。もっと、斬られないと。

斬られると楽になるんだ、少しだけ、楽に。

 

 

 

 

 

「俺も手伝おう」

 

 

 

 

・・・・・!?

 

声がして振り返ると、妖夢を持っていた腕が斬り飛ばされていた。

 

『ぁ・・・・・ああ』

 

妖夢が・・・・・離れていく。苦しかったのだろうか、咳き込みながらヨロヨロと。

惜しい。でも、嬉しい・・・・・?

 

「オッタル。お前達の守護者だ」

 

オッタル・・・・・誰?

知らないから、要らない。

腕を叩きつける。・・・・・あれ?腕が受け止められた?

 

「─────故にこそ」

 

体が宙に浮く。持ち上げられた?いや・・・・・投げられる。

 

「お前を倒そう。そうしなければ・・・・・お前を守れそうにない」

 

背中から地面に打ち付けられる。

 

あぁ・・・・・こいつは強いな。それは分かる。でも・・・・後方から・・・・・もっと強いのが来てる気がする。

・・・・・タケ?かな。

 

『──────────アァ!!』

 

タケが来る前に。倒してしまおう。そして、褒めてもらうんだ。

あれ?褒めてもらえるのか?

 

・・・・・分からない。でも・・・・・褒められたいなぁ。

 

・・・・・ゾロゾロと・・・・・人間が集まってきた。

 

 





【オッタル】

( ・´ー・`)「む?なんだ・・・・・魂魄妖夢に動きが?」

|・ω・`)フムフム「・・・・・なぜ歓楽街に?」

( ゚д゚)「まさか・・・・・」

(°д°)「いや、そんな事は・・・・だがもしもそんな事があればフレイヤ様がじっとしているかどうか・・・・・」

o(・`д・´。)「い、急ごう。取り返しがつかなくなる前に」




( ゜Д゜)「・・・・・散々イシュタル・ファミリア虐めた後、家に帰った・・・・・だと?」

(o´Д`)「何がしたいんだ・・・・・魂魄妖夢は」


数日後


( ・´ー・`)「む?動いたか。またイシュタルファミリアを斬るのか。フレイヤ様の敵だし問題ないがな」

ハルプ登場。本編。

:(´◦ω◦`):「・・・・・なんか、変わったな。とりあえず助けよう」


( ー`дー´)キリッ「故に、お前を倒そう(ry」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

可能性の獣
70話『ァア───────!!』



話しは殆ど進まないんじゃ。









────剣戟が高鳴る。

 

火の手が上がり、赤々と照らされる歓楽街で、その戦いは巻き起こっていた。

 

一対十、圧倒的な戦力差。

しかし、かけ離れた技量と経験が、ジリ貧程度にその差を埋める。

 

「くらいなぁ!!」

 

アマゾネスが鬼気迫る表情で、その戦斧を振り下ろす。盛り上がる筋肉が、その一撃が全力である事を物語る。

 

「──────シッッ!」

 

対するは仮面の少女。

振り下ろされる斧に対して、取る行動は、受け。

攻撃が遠心力によって最大の威力を持つ前に受け止め。

 

流す。

 

そして鋭い気合と共に、受け流した勢いで刃は跳ねる。

 

────狙いは腕。

 

「うぎゃ・・・・・!!!」

 

第二肩関節から先を吹き飛ばす。思わず後ずさるアマゾネスに仮面は追撃を打ち込む。

 

跳ね上げられた刀は、勢いを殺さずに振り下ろされる。

 

狙いは足。

 

「いぎっ!?」

 

足を斬られ、アマゾネスは転がるが・・・・・なにもアマゾネスは1人ではない。

 

「っ!」

 

槍が迫り、矢が飛来する。

残念な事にそれに対応できない仮面ではない。

それら尽くを撃ち落とし、弾く。

 

決して千日手にはなり得ない。このまま時間さえかければ勝つのは仮面だ。しかし、アマゾネス達にも切り札はある。

フリュネと呼ばれる戦士だ。

彼女さえくれば・・・・・仮面は押し負ける。

 

「みんな!あのお狐様を止めな!時間を稼ぐんだ!」

勇ましいそんな声に、仮面が小さく舌打ちする。

状況は芳しくない。

早期の救出を狙っている以上、足止めされるのはごめん被りたいからだ。

 

しかし、背を向けて走ろうものなら的にされる運命、ならば立ち向かわなくてはならない。

正面からの突破は難しい。なにせ包囲網は既に完成し、ジリジリと迫られているのだから。

 

なにか、そう、あと何か一つの出来事で・・・・・状況は一転する。

 

 

 

 

───故に(だからこそ)

 

────故にだ。(成し得るために)

 

─────『ソレ』はそこに現れた(彼は此処にやって来た)

 

 

 

 

放たれる矢の雨。防ぐことは不可能では無く、例え防げずとも被害は軽微に済ませられる。

そんな攻撃の時、まさにその瞬間に。

 

「・・・・・!!」

『・・・たす・・・・・・ける・・・・・』

 

不意に横から伸びた腕が、仮面に当たるはずの矢を全て受け止めた。

長い銀髪を靡かせた・・・・・少女とも少年ともつかない顔つきの人。

細く長い腕を銀の輝きを放つ鏃が貫き、仮面に無念を伝えている。

 

「・・・・・助太刀、感謝!」

『・・・・・ぁぁ・・・・・気にするな』

 

突如現れた謎の人物に、相手方が気をそらされた。

 

ここだ、ここしかない!

 

仮面が突き進む。縮地を用いて加速したその速度は音速の壁を突破する。蹴られた大地がめくれ上がり、衣服が破れることすら考慮せず、指揮系統を食い破る。

 

「牙突────一式!!」

「なっ!?」

 

───銀閃の牙が舞う。

 

一瞬の間を置いて・・・・・リーダー格が地に伏せる。

 

「てっ、撤退するよ!みんな逃げろ!」

 

娼婦たちが逃げていくのを尻目に、仮面は振替る。

 

「ふぅ・・・・・どなたかは知りませんがありがとうございまー・・・・・す?居ない?」

 

振り向けば先程の人は居なくなっていた。

とは言えここは戦場、誰が居てもおかしくは・・・・・いや、おかしい。

仮面は思う。

 

あれは誰だ?

ファミリアにあんな人は居ないはず。であればイシュタル・ファミリアなのか?いや、ならばこちらを助けるのはおかしい。

 

では、一体誰?と仮面が考えた時だ。

 

「はぁ、はぁ、命!」

 

鈴のように可憐な声が耳を打つ。

ドキリと心臓が怯えた。何せ、仮面・・・・・命は勝手な行動をしたのだから。

 

「妖夢殿・・・・・」

 

なにを言われるか。何であれ、覚悟は出来ている。

命は刀を鞘にしまい、静かに立つ。

しかし、妖夢から出てきた言葉は予想外のものだった。

 

「命!ここにハルプが来ませんでしたか!?」

 

失踪したハルプを見たか。

命の答えはNO。見たのはハルプでは無かったように思えるからだ。

横に首を振る命に、妖夢はより一層慌てふためく。

 

「えっと、知らない人は来ませんでしたか!?」

「は、はい。来ました。先程助けていただいて・・・・・」

「それです!その人がハルプです」

「・・・・・へ?」

 

2人は互いに見たものの情報を共有し、再び発生した巨大な音の発信源へと急ぐ。

 

「それにしても、なぜハルプ殿が!?」

「わかりませんが・・・・・助けると呟いていました。春姫か命、あるいは両方のために来たのかと」

「・・・・・!!そう、ですか・・・・・」

 

事実、ハルプはその2人を助けるために来た。

しかし、その意識は蹂躙され、最早「助ける」と言う目的すら忘れかけている。

 

だが、それでもと。

 

彼は抗い、前に進む。

 

耳が聞こえずとも、目が見えなくなろうとも、例え体が動かなくなろうとも。

 

「・・・・・見えてきました。くっ、不味いです、あのままでは・・・・・」

「あのままではどうなるのでしょうか!」

「ハルプが消えます」

「っ!どうすればいいんですか?!」

「私が不意を付いて攻撃するので、命はハルプに話しかけてみてください。さっきは通じたんです、なら次もまだ・・・・・」

「わかり、ました・・・・・」

 

遠くに見える銀の異型。

鈍りそうになる足にムチを打ち、二手に別れ崩れかけた街を往く。

しかし、妖夢が視界から消え、命が一人になった時、再び包囲された。

 

「はぁ・・・・・はぁ、逃がさない。みんな、殺るよ!!」

「面倒な・・・・・」

「ここまでされたんだ、やり返さない訳が無いでしょ!!」

 

再び始まる剣戟。

 

しかし、それは怪物を誘う泣き声のようで・・・・・。

 

「───がっ・・・・・!!!!」

 

突如、なにかが割るような音がして・・・・・一人の娼婦が壁にめり込んだ。

 

『ァア───────!!』

 

空間がひび割れた。まるで世界が壊れるように。

そこより現れるのは・・・・・銀の髪をうねらせる巨躯。黒銀の獣。

 

───太古の昔より繰り返される・・・・・怪物による猛威が振るわれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───腕が薙ぎ払われる。

私はそれをしゃがむ事で回避し、後方に跳ねる。反応が遅れた者が捕まり、空高く放り投げられた。

 

・・・・・本当に、あれはハルプ殿なのだろうか?

 

その巨躯は禍々しい。体長は2mを超える。腕は地につく程に長く、腰のあたりまで伸びた髪は風もないのに揺らめいている。

身体中に不自然な黒い罅の様なものが蠢いていて、酷く濁った赤い目が髪の隙間から覗いていた。

 

『・・・・・』

 

私はハルプ殿だと思われるモンスター・・・・・いや、人・・・・・なのでしょうか。なんと区別すれば良いのか分かりかねますが、ハルプ殿に攻撃出来ない状態です。

 

!!・・・・・向こうも首を傾げています。私が攻撃しないことを不思議に思ったのか、はたまた私を思い出してくれたのか・・・・・。

 

『────────────ァァァア!!』

 

突如、体を屈めたと思えば跳躍した。その高さたるや・・・・・私が体を仰け反らせ無ければならないほどで・・・・・つまりは私の真上。

・・・・・確実に殺しに来ている!

 

「くっ・・・・・!!」

 

咄嗟に体を投げ出すように横に跳ねる。

そして爆音。

跳躍から繰り出された振り下ろしは易々と地面を陥没させた。当たれば私など一溜りもないだろう。

 

「ハルプ殿!どうか気を確かに!」

「ハルプだって!?アンタらのお仲間かい!?ならさっさと大人しくさせ───」

 

イシュタル・ファミリアの団員が私にそう言いかけ・・・・・吹き飛ばされる。

ハルプ殿は・・・・・普段なら生命は奪わない。暴走しているいまでも・・・・・奪ってはいない、偶然かどうかは分からない。だとしても、はやく、止めなくてわ。

 

「全員!撤退だ!ギルドに応援をっ・・・・・!ま、まって、いや、おねが」

「ちょっ、ちょっとまって、助けて!誰か!見てないで助けなさい!!いや、いやぁあああ!!」

 

一人、また1人と倒されていく。

思い返すのは・・・・・あの戦いだ。

痛感した無力感。救おうともがいても救えない理不尽。

もう・・・・・あんな思いは御免こうむる!

 

「1人でも・・・・・!」

『────────ァァアァァア!!!』

 

─────1人、極東の武士は獣に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は真夜中。時間軸はやや遡る。

街は静まり返り、起きている人はほとんどいないだろう。

起きているとするならば・・・・・そう、例えばこんなサボり魔と、それに付き合わされる真面目な奴。

 

「ふあぁ〜・・・・・ねむいよぉ・・・・・僕、もう寝たい・・・・・」

「ダメだ。・・・・・リーナ、貴女が仕事をサボるからこうして夜遅くまで仕事をしているのだぞ?ほら、私も手伝うから、早く終わらせてしまおう」

「うぅ、その優しさが僕の逃げ道を塞いでるよ・・・・・」

 

仕事をサボってサボってサボり続けた結果の今。

むしろ、アリッサが手伝う必要は無いのだが・・・・・恩を返すためにとアリッサはやって来た。

 

「・・・・・うぅ、明日はいっぱい寝てやる」

「明日は明日で仕事はあるぞ。手早く終わらせ、その後に寝る方がいい」

「そんなぁ・・・・・リーナさんもう限界だよ!これは全部スキルが悪いんだ!」

「サボりもか?」

「・・・・・ぃぇ」

 

しょぼくれるリーナの態度に、アリッサは「ふふっ」と小さく笑いながら、パラパラとリーナが書いた報告書に間違いが無いかを確かめる。

 

不備は無し。

 

ほっと一息ついて、リーナに「少し茶でもいるか?」と伝えようと振り向いた時だ。

 

「・・・・・!」

 

リーナの目が、冷たい光を灯していた。

 

「・・・・・なにか、起きる・・・・・?」

 

それはいわゆる勘。

 

その普段と比らべるまでもない真剣な表情に、アリッサは体を固くする。

 

「皆を起こして、なにか・・・・・なにか起こるよ」

「・・・・・分かった。」

 

人々が動きはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁっ・・・・・!!!」

 

ハルプ殿の一撃を受け流しきれずに壁に叩きつけられる。

あぁ・・・・・私では、やはり力不足。・・・・・辺りを見渡せば・・・・・地に倒れ伏せた敵。

状況だけ見るならば、敵を倒しただけに思える。

・・・・・けれど、ハルプ殿は私も狙っている。

 

先程は助けていただいたが・・・・・最早そんな理性すら残っていないのだろう。

いや、だが周囲の倒れた人達はみな気絶しただけだ、とすれば僅かに理性は残っているのだろうか?

 

「・・・・・っ!!」

 

再び振り下ろされる腕を、何とか躱す。

単調な攻撃故に、回避しやすいが・・・・・守るために盾となったりと、相当にダメージを負ってしまった。

 

『・・・・・?』

 

ハルプ殿の動きが止まって・・・・・?・・・・・っ!!!

 

なにかが、おかしかった。次の攻撃は回避出来ないと直感的に、本能的に分かる。であれば・・・・・受け流す、受け流せるのだろうか?

 

・・・・・無理だ。受け流す事は出来ない。

即座に否定して、受け止めるために姿勢を変える。

そんな時。

 

「────はぁぁあああっ!!」

「妖夢殿!」

 

振り下ろされた腕が私に当たる前に、妖夢殿が突如斬りかかった。

助けが来たのだ。自分の無力さを痛感し、しかしやはり・・・・・気持ちが安らぐ。

 

腕がはねとばされたにも関わらず、何事も無かったように、腕があるハルプ殿。

そう、先程からこれだ。

敵方のアマゾネス達が渾身の一撃を加え、腕を吹き飛ばしたとしても、何事も無かったかのように、吹き飛ばされた筈の腕で薙ぎ払われた。

 

「すみません遅れました!カエルさんに捕まってました!」

「カエル・・・・・?」

 

恥ずかしながら妖夢殿が来てくれた事で緊張がややほぐれました。

妖夢殿が詠唱を開始。手中に現れたのは白楼剣と楼観剣。

 

そして─────

 

「──────フッッ!!」

 

視界から掻き消える程の速度で加速しました。縮地を超える縮地。鮭跳びによる高速移動。そしてそこから放たれる無数の斬撃。

魂殺しと強制成仏の二振りを使って。

 

『ァァァア!!??』

 

斬られたハルプ殿の体から、キラリと光る欠片のような物が空に飛んでいきました。中には途中で消える物も。

 

「はぁぁあああ!!」

 

それが何であるか・・・・・なんとなしには理解出来ました。

 

魂。幽霊であるハルプ殿には絶対に必要な物・・・・・であるはず。それを躊躇なく斬り捨てる妖夢殿。

きっと、それに足る理由があるはず。

 

「くっ・・・・・!そこっ!!」

 

でなければ・・・・・あれほど辛そうな顔はしないでしょう。苦虫を噛み潰したかのような顔は。

 

「ハルプ!話を聞いてください!ぐッ!!」

 

時折ハルプ殿に声をかけるものの、一切の返事は返ってきません。お返しにと言ったふうに更に加速した一撃が迫ります。

 

剣閃は積み重なり、やがてハルプ殿の動きが止まりました。

 

「止まった・・・・・?」

「ハルプ!聞こえますか!?私です!妖夢ですよ!!」

 

妖夢殿の必死の呼びかけに、ハルプ殿はゆっくりと首を傾げる。なにかを不思議に思っているように見える・・・・・っ!!

 

『───────ォオ!!』

「また暴れだしました!!」

「・・・・・ハルプ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暴れ狂う銀の巨躯。

 

「はぁ────はぁ・・・・・まだ、動きますか。繋がりが薄れる速度が尋常ではありませんね・・・・・!っ!あの子以外を斬り捨てるのは骨が折れますっ」

 

身に纏うのは黒い業。

 

『・・・・・・・・・・あぁ・・・・・助けなきゃ』

 

零れでるのは傲慢な悲想。

 

「ハルプ!!!聞こえているでしょう!?私達は敵ではありません!!」

 

声など聞こえている。

 

『────がァ!!』

 

それでも尚、やらねばならぬと獣は考えた。

 

「ぐっ!!妖夢殿!本当にこの方はハルプ殿なのですか!?」

「はい!!断言します!」

 

激化する戦闘。無雑作に振るわれる一撃は、まともに受ければ命の保証は無い。

 

躱し、斬り、避けて、斬る。

 

その巨躯を構成する魂の欠片を斬り飛ばす。

妖夢は気がついていた。なにせ、自分の半身に大量の魂が詰まっていたのだから。

 

斬り続ければ、いずれハルプは正気を取り戻す。

そろそろだ。これだけ斬れば、ハルプが表面に出てくるはず。

 

そう思い・・・・・油断した。

 

「なっ・・・・・!」

「妖夢殿!」

 

振り下ろされた腕を躱した妖夢だったが、腕は途中であらぬ方向へと曲がり、妖夢の首を掴み高々と持ち上げる。

 

「うぐっ・・・・・カハッ!」

 

今までは見えなかった、確かな殺意。殺してやると言う憎しみ。手と半霊を通して伝わるそんな感情に・・・・・妖夢は抵抗する意思を削がれた。

 

足をばたつかせ、首を絞める手を引き剥がそうとするものの、ビクともしない。

 

「お辞め下さいハルプ殿!」

 

妖夢の意識に靄がかかる。

 

「ぅ・・・・・が・・・・・ぁ!」

 

妖夢の死を予感し、命が走り出す。

こんな所で躊躇している自分はやはり未熟だと、そんな思いを懐きながら。

 

 

 

 

「──────ぉおおおおお!!!」

 

 

 

 

しかしその時、稲妻が黒銀の巨躯を貫いた。

 

「桜花殿!!」

 

命は叫ぶ、自らの団長の名を。

頼もしく皆を引っ張るそんな名を。

 

稲妻が収束し、人の形となり桜花が現れた。背を2人に向けて、獣の前に立ち塞がる。

 

「助けに来たが・・・・・なんだアレは」

 

険しい顔つきで桜花が獣を睨む。

獣は無傷だ。貫かれた腹は依然そこにある。

 

「ハルプ殿です、ですが・・・・・自我を失っているようで・・・・・」

「・・・・・マジかよ。とにかく妖夢を助けるぞ」

「千草殿は?」

「こちらを俯瞰出来るところに待機している」

 

とは言え、未だに妖夢は捕まったまま。いざ助けようと槍を構える。

体に纏うのは紫電。自らの神の名を背負う、神降ろし。

雷の武士が地を蹴る、そんな瞬間に────

 

 

 

 

 

「─────俺も手伝おう」

 

 

 

 

 

「「?!」」

 

誰もが声の方向に振り向く。

 

しかしそこにあるはずの影は無く、獣の後ろで大剣を振り切った姿勢で佇んでいた。

 

その速度は紛うことなきレベル7。誰もが見失い、口を開けざるおえない。

 

『ぁ・・・・・ああ』

 

獣が残念そうに妖夢を見る。妖夢は咳き込みながらも、震える手で刀を構えた。いや、震えているのは手だけではない。心も震えている。

 

最も親しいと思っていた、自分にとってこの世界で絶対的な家族だと思っていた存在からの否定、拒否に挫けそうになっている。

 

「オッタル。お前達の守護者だ」

 

簡潔に告げられる名前、妖夢ははっとオッタルを見た。オッタルのその顔には確かな・・・・・失意があった。

 

獣は首を傾げる。そんな様子に苦笑いを浮かべつつ、オッタルは掻き消える。僅かな差をもって地面が吹き飛んだ。

 

「─────故にこそ」

 

いつの間にかハルプの真後ろに居たオッタルがハルプに背負投げをぶちかます。

 

「お前を倒そう。そうしなければ・・・・・お前を守れそうにない」

『──────────アァ!!』

 

大剣の一撃と、黒銀の右腕がぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オッタルと獣がぶつかった同時刻。

彼らは歓楽街・・・・・陥落街へとやって来た。まるで戦争でもあったのかといわんばかりに、荒れ果て、滅びの匂いを漂わせる。

本来ならば色気と金の匂いで噎ぶ程であるはずなのに。

 

「・・・・・り、リーナさん。本当に、行くんですか?」

「うん」

 

クルメが金の瞳を揺らしながら、白銀のエルフへと尋ねる。行かなくてはならないと分かっていながらも、この光景を前に逃げ出したくなってしまう。

そんなクルメの内心を理解して、リーナは頷く。そして、こう続けた。

 

「行きたくないなら我慢しないでいいよ?」

「い、いえ!頑張ります!」

 

2人はずらりと並んだタケミカヅチファミリアの後方に居た。

最も先頭では、ダリルとアリッサが身振り手振りを交えて作戦を話し合っている。

 

「いいかテメェら!この中で何が起きてるかはわからねぇ!目下の目標は消火だ!燃えねぇ自信がある奴は俺に続け!生存者を探すぞ!」

「「「「おう!」」」」

 

ダリルは自身の火耐性を活かすために、火の中を進むようだ。

数人の耐久に優れる者や、サラマンダーウールを纏った者もダリルの近くへと集まる。

 

「アリッサさぁん!えっと、武錬の城には誰もいなかったです!」

 

てってけと走ってきたマシューが、タケミカヅチ達が居ないことをアリッサに告げる。アリッサはその報告に頷き、話し始めた。

 

「いいか皆よく聞け!この奥で幹部達が戦闘を行っている可能性が高い!私達はその援護を行うぞ!可能であれば敵対ファミリア団員を拘束する!いいな?」

「「「「おう!」」」」

 

アリッサが盾を高く掲げ、団員達が得物を掲げる。

 

「─────あぁ、そうだマシュー」

「はい?」

 

アリッサが、忘れてたと言わんばかりに軽く言葉を紡いだ。

それはマシューのことを信頼しているからなのだが・・・・・

 

「ギルドが感付くだろうから、止めてくれ」

「・・・・・は!?」

 

本人からすればたまったものではないだろう。

 

「いざ──────突撃ぃ!!」

「待っってぇえええ!置いてかなぃでくださぁぁい!!」

 

1人ボッチになったマシュー。頑張れ。

 

 

 







次回、物語がぐっ!と進む・・・・・!予定。

ついでのマシューの活躍をドゾ。



【マシュー】

ヾ(・ω・`;)ノ「あわわ・・・・・どうしよう」

( ¬_¬u)「足止めなんて出来ないよ・・・・・」

ロイマン「そこのお前!何をしている!」

(°Д°)ピャッ!「は、はいぃ!」

ロイマン「何をしていると言ったんだ」

( ̄▽ ̄;)「(まずい、考えろ、考えるんだ)」

ロイマン「答えられないことがあるのかね?例えばこの惨状のように」

(`・ω・´)キリッ「私達はタケミカヅチ・ファミリアです!」

ロイマン「・・・・・ほう?」

(`・ω・´)キリッ「人命救助のために来ました!(嘘じゃないよ!)」

(; ・`д・´)「ところで、ロイマン所長。歓楽街は・・・・・その、好きですか?」

ロイマン「大好きだ(即答)」
その他ギルド員「(冷たい眼差しをしている)」

(`・ω・´)キリッ「僕もです(行ったことはないけど)」

ロイマン「ふむ・・・・・そんな体でかね?」

(;^ω^)「(身長が)小さい子が好きなアマゾネスもいるんですよ(震え声)」

ロイマン「ふん、まぁいい。皆!人命救助に取り掛かるぞ」

ヾ(・ω・`;)ノ「お、お待ちください!」

ロイマン「なんだね」

ヾ(・ω・`;)ノ「えっと、よく考えてみてください。この歓楽街を運営してるのは何処でしたか?」

ロイマン「それはもちろんイシュタル・ファミリアだ」

(`・ω・´)キリッ「であれば、可笑しいとは思いませんかね?」

ロイマン「・・・・・確かに。あれだけの規模のファミリアはほとんど無い。例え真夜中だとしても消火活動が出来ないわけがないな。」

(*´∀`)-3「その通りです。つまり・・・・・」

ロイマン「ファミリア間の抗争・・・・・という訳か。・・・・・タケミカヅチ・ファミリアとイシュタル・ファミリアの、な。」

ヾ(・ω・`;)ノ「違います違いますぅ!」

ロイマン「何が違うのだね?」

(`・ω・´ )キ、キリッ「確かに、タケミカヅチ・ファミリアは沢山の問題を起こしてきましたが、今回は違います!」

ロイマン「というと?」

(`・ω・´)「思い出してみてください。タケミカヅチ・ファミリアがどんなファミリアか」

ロイマン「問題児(即答)」

(´;ω;`)「そうですけどぉ・・・・・そうじゃなくて、どんなことに特化しているか、ですよ」

ロイマン「なるほど・・・・・対人戦、か」

(`・ω・´)キリッ「その通りです。幹部の皆さんやリーダー格の皆さんはレベル差があっても勝てる化け物達です。絶対に、『両成敗』してくれますよ!」

(※マシューは全容を理解していません)

ロイマン「ふむ・・・・・このままでは職員が怪我をおう所だった訳だ、君には、いや、君たちには感謝しなくてはな、ありがとう。名前は?」

.*・゚(*º∀º*).゚・*.「マシューです!(助かったぁ!)」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

71話『アハハ!死ねぇ!』


遅れてすみません!テスト期間で執筆してませんでしたー!しかし無事?終了。










地上での騒動が起きたほぼ同時刻。

 

十八階層に、戻ってきた者達がいる。

灰水晶のゴーグルを掛けた赤い目の男。ディックス・ペルディクスと、その仲間達だ。

彼らは異端児を求め、下層まで下っていたのだ。

 

「・・・・・おいおい、なんだぁありゃあ、リヴィラもう治ってんのか?ギルドからのお触れはどうしたよ」

「さぁな、わからねぇ。行ってみるか?」

 

ディックスと眼帯の男が話し合う。ディックスは品定めするようにリヴィラと思しき場所を眺める。

 

「まるで要塞だな・・・・・?」

「たしかに。今までにないくらい、デケェし頑丈だな」

「こりゃあ少し様子見かね?」

 

ディックスはそう言って、笑みを深めた。

 

──────怪物の、匂いがしている。

 

ならず者の集団が・・・・・異端児街(ゼノス・タウン)へと進軍を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愚者、フェルズは考える。

・・・・・いや、思い返す方が正しい。

 

ひび割れた少女は語った。

 

───これは、未来の話しだ。

 

口元に笑みを作り、人差し指で、「しー」と指を立てながら。悪戯好きのする顔で、ネタバラシだと口にした。

 

───いつになるかは分からない。本当ならもっと後。でも、今起きるかも知れないぜ?

 

語られた内容は【イケロス・ファミリア】との抗争。異端児達の危険。

 

両手を後ろで組んで、口笛を吹きながら、少女は語る。

 

───まっ、俺が居れば安心だけどなっ!

 

愚者には分かった。それが、強がりであると。

愚者には分かっていた。自らよりも、その少女が如何に愚かな者であるかを。

 

すでに、体は限界を超えていた。

 

すでに、心は限界を迎えていた。

 

すでに、理性は臨界点を突破した。

 

そんな、そんな愚者(少女)に、フェルズは一瞬の間を置いて、頷いた。

 

────その時は頼む。

 

と。そんな時は来ないだろうと理解しながら。

だが壊れかけた愚者は、フェルズの内心を読んでいたらしい。

 

────なぁ。もし、もしもだ。俺がその時『居なかったら』・・・・・皆を頼むよ。

 

自嘲気味に笑う少女に、フェルズは答える。

 

────その時は任せてくれ。

 

愚者と愚者の愚かな誓い。

 

守ってくれと任された。この骨身をすり減らしてでも出来ることがある筈だと、フェルズは動き出す。

 

愚者は今一度─────賢者となる事を選んだ。

 

教えられた敵の手札。

 

【呪詛:《フォベートール・ダイダロス》】

 

理性ある怪物を、理性無き怪物に変える呪い。

なるほど、確かに厄介だ。と賢者は思う。だが、今の賢者には時間がある。

それがどれだけあるのかは分からないが、それでも猶予が残されている。

 

つまるところ、こちらの勝ちだ。

 

これだけは絶対に覆らない。

 

否。覆させない。

 

フェルズは手元を見る。小さなバッチの様なものがいくつも転がっている。

【対呪術】のバッチ。アンチ・カースの神秘を秘めた、賢者渾身のマジックアイテム。

 

「これで、全員分か・・・・・」

 

それらを握りしめ、フェルズは上・・・・・天上を見上げた。 ゴツゴツとした岩肌しか見えないが・・・・・その先を眼球無き眼で見る。

 

少女は今、どうなっているのだろう。

 

「フェルズ・・・・・」

「リドか、どうした?」

「ハルっちは・・・・・何処に行っちまったんだろうな」

「さてな、分からない」

 

すでに、戦闘態勢は整っていた。誰もが少女の作り出した鎧に身を包み、武器を手に持っていた。

希少金属で作られた・・・・・並の冒険者では見ることすら叶わない武具の数々。

更には、賢者のアイテム。

 

「・・・・・なぁ、フェルズ、もし、もしさ」

「なんだ、リド改まって・・・・・」

 

 

 

 

そして、図った様に・・・・・物語は進む。

 

 

 

 

「アオーーーーーン!!」

 

ヘルハウンドの遠吠えが響き渡る。

 

「っ!!敵襲か!?」

「そのようだ、行くぞ!!」

 

理性ある怪物達が、動き出す。

その動きは洗礼されていて、無駄がない。鍛えられた足腰は血を砕きながら疾走する。

 

───冒険者達は理解するだろう。

 

自分達が如何に卑小で、矮小で、か弱く、愚かな生き物であるかを。

口元から零れるのは唸り声では無い。

 

───冒険者達は恐怖するだろう。

 

自分達と同じく知性を持ち、理性をもち、技をもち、策を持つ怪物に。

自分たちの上位互換に。恐れ戦くだろう。

 

「───狂え【フォベートール・ダイダロス】!!」

「来るぞ!!全員バッチを掲げろ!!」

「「「「「おう!」」」」」

 

───冒険者達は戦慄するだろう。

 

「なっ─────!?」

「なんだこいつら!?つえぇ!!」

 

並の攻撃が効かぬ鱗の上に、より堅き鎧を纏う巨躯に。

喉を引き裂く強力な爪が、より鋭き金属で覆われていることに。

───冒険者は諦観するだろう。

 

その動きが自らの常識を遥かに上回ることに。

自らの策が何一つ通じぬ事に。

武で、知恵で、数で・・・・・全てにおいて上回られていることに。

 

「一気二畳ミ掛ケルゾ!!」

 

 

─────蹂躙が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い地下室で、春姫は塞ぎ込んでいた。

 

上では殺し合いが始まっている。

その原因が自分であると、何となく・・・・・分かっていたからだ。理由は分かっていた。

 

聞こえてしまったからだ。

記憶よりも低くなった、今でも鮮明に思い出せる友の声が。

 

「命・・・・・ちゃん・・・・・」

 

今の姿を見られたくなかった。

 

汚れてしまった自分を、友がどう見るのか分からなかったから。

軽蔑されたら・・・・・。それが嫌だった。

 

(わたくし)は・・・・・」

 

その時、足跡が響く。こちらに向かってきているようだ。春姫はビクリと耳を動かし、近くの木箱の影に体を隠した。意味が無かったとしても、気分的にはマシになる。

 

「春姫!!どこだい!?」

「アイシャ様!」

 

扉を蹴り開けたのはアマゾネスのアイシャだ。春姫の面倒を良く見てくれる姉のような存在。

 

「逃げるよ!ここはもうダメだ、フリュネの奴もやられた、私達は裏からこっそり逃げる。リーシャとイライザが時間を稼ぐから・・・・・ほら、さっさと立ちな」

「は、はい!」

 

身支度の必要は無い。持っていくものなんて何も無いのだから。

春姫は立ち上がり、差し伸べられた手を・・・・・・・・・・掴もうとして躊躇した。

 

「何やってるのさ!早くしない奴らが・・・・・春姫?」

 

本当に、この手を取っていいのだろうか。

友達が助けに来てくれているのに?

 

春姫は目を震わせる。

 

見られたくは無い。

でも、会いたい。

 

「春姫!はやくしな!」

 

信頼する女性か・・・・・約束を守ろうと奮起する友人か。

 

「私は・・・・・!」

 

春姫は考える。考えて、考えて、考えて・・・・・!

いざ、決断しようと言う時。

 

「春姫!早くしなっ!敵がいつ来ても可笑しくは」

「アイシャ様!」

 

そうアイシャが言い終わる前に、春姫の忠告が届く前にアイシャの真上、天井が崩壊する。

 

「きゃっ・・・・・!アイシャ様!」

 

砂煙で視界が通らない。着物の裾で口元を隠し、アイシャの名前を叫ぶ。

 

煙の中からは・・・・・一つの人影が。

 

「アイシャ様!?」

 

黒く、大きな・・・・・人影が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなが、俺を斬り付けてくる。

 

どうして?

 

どうしてだろう。

 

「ぉおおおおら!!」

 

赤く光る熱そうな槍をダリルが打ち込んでくる。

それを避ける。でも

 

「そこぉお!!」

 

避けると桜花の攻撃が当たってしまう。

痛い。痛いよ。

 

どうしてこんなことになってるんだっけ?・・・・・思い出せ・・・・・。

よく考えるんだ。えっと・・・・・みんながいる。タケミカヅチ・ファミリアのみんなだ!

おおおお、なんか、みんないるねっ!嬉しいなぁ!

 

「動きが止まったぞ!警戒しろ!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・あっ!わかったっ!俺わかったよっ!

 

これ修行だな?!うんうん、そうかそうか。模擬戦か。

模擬戦でも俺相手なら真剣でも平気だもんね。

 

『アはっ・・・・・アはハハハは!!』

 

もー、なら、ちゃんと言ってよね、もう、困ったじゃないかー。しかし、ふふふ、なるほどなるほど?確かにダリルは俺と戦いたい的なことを言っていた気がするぞ?むっふっふっー!いいねいいね!

 

「気を付けろよ、何が起きるかわからん!」

『どうシタの?ダレがくるの?アハハ』

 

いひひー、みんな気を付けろよー?おれ強いからなぁ?よし、少し場面の確認でも済ませようか。誰がいて誰が居ないかだね。

 

『エッとー、桜花いるね、ミコトいるね、千草は・・・・・あレ?見えないなぁ。タケもまだか。むむむ?模擬戦ナノにー。』

「模擬戦・・・・・?」

『うん!・・・・・って、銀髪?そんナ人居たっけ?新しイ子かな?』

「・・・・・ぇ?」

『他には・・・・・ワンチャン居るだろー?オ?アレはリーナじゃなイカ?!なんか久しぶりなキがするゾ!・・・・・で、隣のちんまいのは新人か』

「新人!?私はクルメですよ!思い出して!」

『知らなーい!アははは!冗談ダヨ!』

 

クルメ、クルメ、クルメか。うん、確か・・・・・えと、料理が上手な娘だった気がするぞぅ?まぁ、いいか。明言しなければ忘れてるとはバレないはずー。

 

・・・・・にしても、銀髪の娘は誰だい?なんだか、俺に似てるような・・・・・。はっ!?まさか俺のコスプレ・・・・・?そんなに俺は人気になってしまったか。まぁ、仕方ないね。

 

『よぉうし、ダリルぅ、攻撃するぜエ?』

「ほ、本当に・・・・・───なんだな?」

『?』

 

・・・・・ん?なんか、聞こえなかったぞ?

 

「遠慮なく、行かせてもらうぜ───!!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・んん?やっぱりなんか・・・・・ってあぶねえ!?

 

『あぶナァイ!ソラよっ!』

「うおぉ!?模擬戦とか言ってガチの威力じゃねぇか!?あ、いや、そうかそういう事か!」

 

なんかよく分からん!でもやる事はわかるぜ!

うん、ぶっ殺す!

 

『アハハ!死ねぇ!』

「死ぬかバーカ!」

 

避けるなー!

─────能力を使用する。

─────命中する可能性82%

 

「へっ、当たるわけぬぇえうあ!?」

「だ、ダリル!!」

 

ふふふふふふははははは!避けられると思っていたのかね?!

 

「正気になってないのか!?」

「はい、意識が表面に出てきていますが・・・・・まだです」

「・・・・・妖夢、頼むぞ」

『おう?任せとケ!』

「・・・・・え?」

 

はっはー!この妖夢様に任せておきたまえよ!

およ?全員で来るんですか?いいぜいいぜ、受けて立つぜ。

 

「俺から行く。ほかの者達は連携を崩さずに来い。魂魄妖夢しか有効打は与えられん」

「おう、任せるぞオッタルさん。千草ぁ!リーナぁ!援護は任せるぞ!」

「行きましょう桜花殿、オッタル殿」

 

うん?オッタル・・・・・?聞いたことあるような・・・・・思い出せん。・・・・・・・・・・・・・・・思い、出せない?なぜ、どうして?俺頭でも打ったのか?

 

『!?』

 

オッタルって言ってたヤツが、ブレた。その瞬間、俺の身体には無数の線が走る。

斬られた。見えなかった。でも・・・・・効かない。

 

斬られた傷を即座に能力を使って修復する。が、その瞬間には既に他のみんなが波状攻撃を仕掛けてきていた。

対処はできる。

何のために俺は強くなったと思っているんだ。

その程度・・・・・・・・・・・・・・・何の、ために・・・・・強く?

 

矢を掴み。槍を逸らし、刀を躱す。

なんでかわからない。考えるほどに分からなくなる。

 

「ぉおおおおお!」

「はぁああああ!!」

 

槍の連続突き、刀の流麗な連撃。それらを全て往なす。

・・・・・うん。技は忘れてないみたい。何を忘れたのかな?

 

「・・・・・ちぃ!さすがに───か!正面からじゃまともに攻撃が入らん!」

「ええ、流石───殿です」

 

・・・・・・・・・・・・・・・さっきから、誰なんだ。誰の名前を言っているんだ。俺の名前、忘れたのかよ。忘れたのか?本当に?俺の名前を?・・・・・巫山戯てるんだよな?

 

『アアァァああ!』

 

技も無い。予備動作なしの薙ぎ払い。だが、命が刀を当てることで受け流した。たたらを踏む俺の腹に槍が突き刺さり、持ち上げられる。そのまま振り回されて近くの家に投げ飛ばされた。

 

『イテテ・・・・・ん!?』

 

起き上がった瞬間に、矢が雨のように降り注ぐ。

両腕を盾に防ごうとするが、矢が腕を避けた。・・・・・千草の魔法だ。

 

──【剣の上にて胡座をかけ、眼前の敵を睨め。汝が手にするわ雷の力なり】──

 

矢を引っこ抜いていたら、詠唱を許してしまった。桜花の魔法は厄介だ。雷を纏う以上、攻めても守っても強い。

 

「【武甕雷男神(ライジンタケミカヅチ)】!!」

 

雷を纏った桜花が高速で突っ込んでくる。でも、単調だ。迎撃のために腕を溜める。が・・・・・腕は無い。

 

『みょん?』

 

腕が宙を舞う。腕から白い光が空に消えていく。・・・・・ダメージを受けたらしい。

 

「そこぉ!!」

 

斬ったやつを殺そうと振り向けば、桜花の突きが腹を突き破り俺を瓦礫に押さえつける。

あばばばば!じびれる・・・・・!!

すぐさま半霊形態になって抜け出した。ん?

 

・・・・・・・・・・・・・・・そうか。やっと違和感に気が付いた。

 

俺、今半霊なのか。

そうか。

気がつければ、なんということは無い。

そりゃそうだ、真剣使った模擬戦、しかも集団戦となれば生身でやったら死ぬもんな。半霊でやるのは正解だろう。

 

半霊形態から人型形態に戻り、ズシンと音を立てて着地。

腕を伸ばして命を捕まえようとしたけど、命はスルリと避けて俺の腕を斬り飛ばす。

無駄だ。

と、再生使用としたら、御札が飛んできて腕の断面に張り付いた。・・・・・治らない?

 

少し、焦りが生まれた。

 

『上手いナ・・・・・!』

 

オッタルが再び消える。無数に体に走る斬撃、浮かぶ体。ふわりと地をけって銀髪の娘が俺を斬りつける。

ブワッと白い光が俺から噴き出した。

 

『あが・・・・・・・・・・おま、ぇ・・・・・!』

 

何かが・・・・・抜けた気がした。

何か、忘れた気がした。

 

アイツに斬らせては行けない。

アイツを生かしては行けない。

思い出さなくては行けない。

 

『ぁあああああああああ!!!』

 

捨て身。死なないのだからそんな言葉は意味無いが・・・・・技を捨て防御を捨て、殺すために走った。

 

目を見開く少女、その顔を潰そうと拳を振り上げ────振り下ろす。

 

『おオラァっ!!』

「「「「妖夢!!」」」」

 

衝撃が伝わってきた。金属音が鳴り響く。・・・・・ちっ。

 

「すまない。遅れたな。妖夢、状況の説明を」

「アリッサ・・・・・はい、状況は『今は皆デ模擬戦中。何か良くワカラないけど・・・・・色々とオカシイ。』・・・・・」

「・・・・・なるほど確かに」

 

どうやらアリッサが来たらしい。後ろからボロボロの団員達も着いてきている。アリッサがいなければアイツら死んでたな。・・・・・ん?模擬戦じゃないのか?あれ?模擬戦は真剣でも良くて・・・・・死なないから俺が敵役で・・・・・?

 

いかんいかん。考えると分からなくなる。落ち着け。

・・・・・やはり止められたのは子供を殺そうとしたからだろうか?

なら仕方ない。と言いたいところだが・・・・・あの子に斬られると俺は記憶が薄れるっぽい。他のみんなはそれを知らないようだ。俺に似てるし、もしや誰かが変装してるのだろう。

 

という事は・・・・・策略?俺を嵌めるための罠?

 

『・・・・・アリッサ、そいつカラ離れた方がイイ。』

「・・・・・断る」

『・・・・・ぇ?』

 

はぁ?な、なんだアリッサ・・・・・アリッサまでもう敵なのか?

 

「私は、この者達を守らなければならない。・・・・・・・・・・だが」

 

アリッサが話している途中、団員の1人がおれに向けて魔法を放った。

金属音がまた鳴って・・・・・アリッサが防いだ。俺を庇った形になる。

 

「・・・・・貴様に対しても誓約(ゲッシュ)が働いている。つまり、私は全員を守らねばならない」

『・・・・・なるほド。大変だナ。』

 

おい、嘘だろ・・・・・!とか、何やってるんだ、とか聞こえている。

だが、俺はそうは思わない。なにせゲッシュだ。破ると痛い目にあう・・・・・と思う。ならこうするしかないだろう。

 

「アリッサ聞いてください!白楼剣で斬らないと───は正気にならないんです!」

『またそレか。なんだ、忘れたノか?俺の名前』

「え?何を言って」

 

はぁ・・・・・イライラする。名前を呼んでくれないのはムカつくぜ?

それに・・・・・さっきから妖夢妖夢って、俺じゃなくてあの女の子に言ってるし・・・・・俺だぞー、おーい。

 

『・・・・・君、名前は?』

「・・・・・・・・・・魂魄妖夢」

『へぇ。一緒だ』

「は、はい?」

 

同姓同名ってのは、有り得ない。何せ、魂魄なんて家は無い。

・・・・・うむ。じゃあやっぱり、偽者か。

 

『ッルァ!!』

 

予備動作なしで殴りつける。流石に偽者は反応出来なかったらしく、凄まじい速度で吹き飛ばされた。が、それを合図にしたように、他のみんなが俺に襲いかかる。

 

「なっ・・・・・馬鹿者!くっ!」

 

アリッサが俺に叱咤を飛ばし、命に戦線から引き剥がされた。1体1ではアリッサは命に勝てない。イイヤツだったよアリッサ。

多分忘れない。

 

オッタル達の攻撃を受けたり防いだりしながら・・・・・記憶を探る。

 

俺の目的は何だったか、だ。

 

そう、確か誰かを助けるために来たんだ。

 

そうだ、そうだった!なんかスッと出てきたけど、俺こんなことしてる場合じゃ無いんじゃないか?!

でも・・・・・誰だっけ?誰を助けようとしてたんだ?

 

確か・・・・・・・・・・・・・・・春・・・・・姫っ!?

 

視界が回転する。首を斬られた・・・・・?!

回転する視界の中で、血だらけの偽者が映る。その目は悲しそうで、決意に満ちていて・・・・・怯えている。

 

再生して・・・・・再び考える。

 

確か・・・・・・・・・・・・・・・?

 

わからない。分からなくなった。

 

『てんめェ・・・・・!!!!』

 

グツグツと怒りが湧いてくる。なぜ、邪魔をするのか。殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい。

 

この邪魔者を殺さないと進めない。

これは模擬戦などでは無かった。

 

皆は騙されている。誑かされただけ。殺しては行けない。

 

『ぶっ殺す!』

 

──────能力を使用する。

 

「・・・・・っ!!これは・・・・・!」

 

──────命中率92%

 

「お、おい妖夢!これはどう言う事だ!?」

 

──────他世界接続。

 

「空間が割れていく?」

 

──────座標変更。

 

「ごめん皆!!僕の詠唱じゃ間に合わない!」

 

──────状況変化。

 

「皆さん固まって!!!早く!!」

 

──────現象設定。

 

『殺ス!!』

 

──────全行程省略。発動を確認。防壁消失。転移開始。

 

 

世界が──────音を立てて割れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








誤字脱字、コメント、待ってます!


何となく次の展開とかバレてると思いますが、そこは仕方ない・・・・・超展開なんて私には無理だ( ˘•ω•˘ )


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

72話『さぁ、戦おうか』

サブタイトル詐欺







何もかもが崩れる様な、そんな感覚が私を襲った。足元がおぼつかなくなり、冷や汗が出るような浮遊感に襲われる。

背筋に冷たいものが走り、このままでは死んでしまうと錯覚する。いや、それが錯覚だとは言いきれない。

 

ぐわんぐわんと歪む視界。分からなくなる上下左右、前と後ろ。

 

吐き気すら催す不思議な感覚は、【集中】のスキルによって引き伸ばされた体感時間のせいで1分ほどに感じた。

 

実際は10秒あったか無いかだとは思いますが。

 

「────はぁっ!・・・・・はぁ、はぁ」

 

体に自由が戻り、荒く息を吸う。不意討ちを警戒して辺りを見渡して・・・・・

 

───目を疑った。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

辺り一面、視界の続くどこまでも。地平線の彼方まで・・・・・・・・・・草一本生えていない荒野だった。

 

「こ、ここは?」

 

空を見れば、雲すら無い。

 

少し、息がしにくい。酸素が薄い様ですね・・・・・。しかし・・・・・1体何が起こっているのでしょうか。

 

私は情報をまとめることにする。

 

私、いえ、私達は正気を失ったハルプを助ける為に、ハルプと交戦。

ある程度戦闘を続けていると、ハルプがやや正気を取り戻した。

ですが、その状態が1番危険でした。技を取り戻したハルプは戦闘を模擬戦と認識し、私達を殺すつもりで攻撃してきた。

 

・・・・・あの時のハルプは自分に都合の良いように解釈していました。模擬戦という殺さないようにする戦いだと認識していたはず。

なのに、私達を殺そうとする・・・・・やはり完全に戻った訳では無かったようです。

 

あと、他に気になるとすれば・・・・・私やクルメさん、後はオッタルさんを忘れている節がありました。

・・・・・いえ、言葉を濁すのは辞めましょう。少なくとも「私は」確実に忘れられていた。

 

・・・・・悲しいですが、理由が分からない以上仕方ありません。

なにせハルプの現状は、魂がハルプに集まりすぎて起きた暴走の筈。ハルプ以外を取り除けば全ては丸く収まる筈なのです。

・・・・・なにか見落としがあるのでしょうか・・・・・。

 

私は色々と考えながら、少しづつ歩みを進めます。

 

どれだけ歩いても、景色は一向に変わりません。

ここは何処なのでしょうか?

 

『お?よう妖夢!ひっさしぶりだなぁ、元気だったか?こんなの所で何してんだよ?』

 

!!!

 

私は突如聞こえてきた私以外の私の声に、咄嗟に振り向き刀を向ける。

 

そして、また、目を見開いた。

 

『お、おいそれ白楼剣だろ?落ち着けって、俺を成仏させに来たのか?』

 

そこにはハルプが居ました。

本来の、ハルプが。

黒いヒビが無く、巨大化も異形化もしていない。私と瓜二つのハルプが。

 

驚いた顔をして、両手を上げて安全性をアピールしています。

 

「・・・・・ハルプ、ですか?」

『ハルプ、ですよ?』

 

・・・・・本物です・・・・・間違いなく。し、しかし、どうして?

・・・・・まさか、この場所と何か関係が?

 

「ここは何処ですか。答えてください」

『おおう、いつに無くキツイっすね。・・・・・忘れたのか?』

「私はこんな所知りません」

『こんな所って・・・・・オラリオだぜ?元、が付くけど』

「・・・・・え?」

 

お、オラリオ?この荒野が?

まさか幻覚が見えている?まだ正気では無いのでしょうか?

 

『・・・・・本当に覚えてないんだな。いいぜ、説明してやるよ。オラリオがこんな風になっちまったのは俺達のせいだ。俺達が歴史に干渉しすぎた結果、縒り戻しが発生した。ベル・クラネルが大して強くないころ・・・・・たしか・・・・・戦争遊戯の頃だ。いきなり黒龍が襲来した』

「黒龍が、ですか?にわかには信じられませんが・・・」

 

黒龍と言えば・・・・・確か四天王てきなポジションで、最強のファミリア二つを滅ぼしたんでしたよね?

 

『お前マジで言ってるのか?ま、まぁ、若しかしたら記憶消されてんのかもしれないから、話すよ?』

 

ハルプが眉を寄せながら、けれど話してくれます。

 

『その黒龍襲来によってオラリオは消滅。モンスターが大量に湧き出した。戦争遊戯によってオラリオから離れていたアポロン・ファミリアとヘスティア・タケミカヅチ連合は共同戦線を張ってモンスターの群れと正面衝突。

初めは良かったが、所詮は雑魚の寄せ集め。強力な個体が現れてからは簡単に崩壊した。』

「そ、それってみんな死んでしまったってことですか!?」

 

えっと、戦争遊戯と言うと・・・・・確か今の時期の筈です!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今の、時期・・・・・?

 

『まぁ話を聞けって。タケや命、桜花たちの奮戦によって時間が稼がれ、お前だけは元の世界に戻した。・・・・・俺も行けってタケに言われたけど紫って奴に「お前はダメだ」って言われてここに残された。んで、死なない俺は全力を尽くしたが・・・・・この有様さ。タケは死に、神の恩恵は消えた。アポロンは最後まで引きこもってたが死んじゃったから人間の負け。モンスターが世界の王者となった訳だが・・・・・俺は死なない。だから、時間をかけて全部殺した』

 

コイツは、ハルプじゃない。いえ、ハルプです。ですが・・・・・私の知る(・・・・)ハルプではない。

 

『その後はずーっと、こんな感じさ。人間探してあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。紫って奴の目論見だと、俺の精神が崩壊して半霊の中から居なくなれば回収するつもりなんだろうけどさ?崩壊なんてしませんよーだ。』

「そ、そうでしたか。人は居ましたか?」

 

・・・・・!そうだ、私以外の皆さんはどうしたのだろうか?・・・・・なぜ、この事を一番最初に考えなかった?おかしい、あの子の記憶が有る以上、皆さんは相当優先度が高いはず。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁ。何で戻ってきたんだ?』

 

ハルプが俯いてそう言います。

顔が見えなくて、何を考えているか分からない。答える必要があるのは確かです。

 

「気が付いたら、ここに居ました」

 

嘘偽りなく伝える。でも、何かを間違えた。

 

『・・・・・』

「ハルプ?」

『・・・・・だよ』

 

黙り込むハルプを、私は見ていることしか出来ない。そして、長い間溜め込まれた激情が爆発しました。

 

『なんで、逃げたんだよ。どうして・・・・・どうして一緒に戦ってくれなかったんだよっ!!!お前が居たらもっと戦えた!!もしかしたら何人か救えたかもしれない!!みんな死ななかったかもしれない!!なんで、なんでお前だけ逃げたんだよ!?逃げるなら皆を連れて行ってくれれば良かったんだ!!俺は行けなくてもいいよ・・・・・!でも・・・・・皆は・・・・・死んじゃうんだぞ・・・・・?』

「・・・・・」

『答えろよ、妖夢・・・・・』

 

知らない。私はその歴史を知らない。私はこのハルプの知る妖夢ではない。

だから・・・・・答えられない。

 

『・・・・・そうか、そうだよな。はは、悪かった』

 

ハルプが2歩、3歩と、覚束無い足どりで後ろに下がる。

 

『全部、無駄だったよ・・・・・。誰も、生きてなんかいなかったよ』

 

その姿は私の知るハルプと比べて・・・・・あまりにも小さく見えた。心が弱っているとすぐに分かった。

 

「ハルプ・・・・・ごめんなさい。きっと、私は貴方の知る妖夢ではありません」

 

助けたいと思った。けれど、それが無理な事も分かっている。

何が起きたのかは分からない。けれど、他のハルプと会うという現象に出会っている。

もしも、これがハルプの能力なら・・・・・紫様が拒んだのも理解できる。単純に、強すぎる。決して一個人が持っていいものではない。

 

『そう・・・・・か。お前、妖夢じゃないのか・・・・・他の奴か、そうか、そうか・・・・・』

 

ハルプの手から・・・・・刀が伸びる。

私はゴクリ、と唾を飲み込んだ。

 

『なら・・・・・死んだっていいや』

 

戦闘が・・・・・始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如足元が崩れる様な、そんな感覚が私を襲った。

背筋に冷たいものが走り視界が歪む。

握り締めた千草殿の手の温もりだけが、確かに感じ取れた。

 

「・・・・・・・・・・ぅ・・・・・ぁ?」

 

冷たいものが頬に当たる。雨だ。雨が降っている。空全体を見渡しても雲一つ無いと言うのに。

 

「う、・・・・・うーん・・・・・命、ちゃん?」

「起きました千草殿・・・・・なにか様子が変です」

 

千草殿を庇うようにしながら、辺りを見渡す。

凍っているのだ、大地全体が。

霜柱によって押し上げられ、凍っている部分がキラキラと光っている。

天気は雲一つない晴天。ただし雨は降っている。

 

・・・・・意味が分からない。

 

霜柱なら日光と雨で溶けてしまう筈だし、そもそも空の何処にも雲がないのに雨だなんて。お天気雨にしたって強すぎる。さらに言えば気温が高い。

 

一歩進む度にザクザクと音が鳴る。

 

「ここ、どこ?」

 

千草殿が心配そうに私に尋ねる。とは言え、私とて何も分かりません。

 

・・・・・ん?あれは、何でしょうか?

 

「千草どの、あちらに見える影は何でしょうか。千里眼で確認しては頂けませんか」

「う、うんっ!えっと」

 

遠くに小さな影が見える。蜃気楼が発生しているようで私では目視しきれない。なので千草殿に千里眼で確認してもらう。

 

「え!?」

「ぬわ!どうしたのですか千草殿!?」

 

いきなり肩をビクッと跳ねさせた千草殿に、私が驚いてしまう。一体何が見えたのでしょう。

 

「えっと・・・・・その、ハルプちゃんが・・・・・居るよ?」

「・・・・・戦闘準備を整えましょう」

「あ、待って待って!!黒い傷は無いし、モンスターみたいにはなってないよ!」

「それは真ですか?」

「うん、信じて」

「・・・・・はい。信じます。疑ってしまい申し訳ない」

 

千草殿に謝罪した後、ハルプ殿がこっちに向かってくるとの事なのでもしもの為に武器を確認する。

 

・・・・・武器に破損は見られません。

とは言え、仮に戦闘になったとして。私では数秒しか持たないでしょう。千草殿には逃げてもらいたいのですが・・・・・。

千草殿を疑っている訳ではありません。こういう時に私は油断してしまうので何時も足でまといになってしまう、なので練習を兼ねてです。ほんとに。

暫くすると、ハルプ殿が目の前にやってきた。傷は無いし、妖夢殿と同じ姿だ。違うとすれば服装でしょうか。何やら大きなリックを背負っています。

 

『やぁ、こんなところで何をしているのかな?』

「は、ハルプ殿・・・・・!!」

 

正気を取り戻したのですね!!と、私が感動し、千草殿も嬉しさに喉を詰まらせる。

しかし、ハルプ殿は何やら不思議な顔をしている。

 

『ハルプドノ?ふむ、halbはドイツ語だとして、ドノ・・・・・は do no だろうか・・・・・いや、可笑しいか。だとすればハルプ、が名称で、ドノは敬称の殿だと見るべきだね。しかし、ハルプ・・・・・半分と言うか意味だが・・・・・半人前という事を表しているのか?それともこの世界特有の役職、若しくはこの外見年齢を指す単語なのか・・・・・ま、いいか。所で君達、そんな半人前のハルプ殿に、何か用かな?』

「「人違いでした!」」

 

だ れ で す か!?!?

私たちの知るハルプ殿ではない!!

 

『おや、そうかい?それは失礼した。ふむ・・・・・それにしても人違いでした、か。ならばやはり人名。そして人名にハルプの名付けると言うことは、ドイツ人ではないな。恐らくは日本人特有のセンスだ。彼らはとりあえず響きさえよければなんでもいいからね。・・・・・さて、初めに戻すよ?君達は何故こんなところに?』

 

なんというか・・・・・独り言が凄まじいです。思った事は全部出てきているのではないでしょうか。

 

「気が付いたら、ここに居ました」

『ほほう?気が付いたら、か。その気が付いたら・・・・・というのが物理的なものなのか、表現の問題なのか・・・・・気絶などをしていつの間にかここに居た。という状況なのか、私のように特に物事を決めずに進み、流れ着いたのが此処でした。というものなのか。

ふむ・・・・・前者と見るが、どうかな?』

「は、はい。あってます」

『おお、それは良かった。』

 

ニコニコと笑いながら、リュックを下ろす。

そして手際よく折り畳みのテーブルや椅子を用意し、ティーセットやら薪やらを整えていく。ふとした瞬間、屋根が出来上がっていて雨が当たらなくなった。

 

「わ、わ・・・・・凄い・・・・・」

『ん、ありがとう。好きに寛いでくれ。人と会うのは久しぶりでね、こうした機会にはなかなか恵まれないんだ。世界を探検し、誰も行ったことのない場所へ行く・・・・・なかなか楽しいものだよ』

「ぉ、おお・・・・・?」

 

・・・・・巫山戯ているのかと、思っていましたが・・・・・本当に私の知るハルプ殿では無いようですね。

 

『あぁ、そうだ。こうして会ったのも何かの縁だし、名前を聞いても良いかな?』

「あ、私はヤマト命と言います」

「えっと千草、だよ?」

 

私たちが自己紹介をすると、ニコニコとしていた顔がいきなり真顔に変わった。

 

『・・・・・・・・・・聞いたことがある気がするな。もしや以前会った事があるかな?』

「・・・・・あなたに会ったのは初めてです」

 

唐突な変化に戸惑いつつ、返答していく。

 

『ふむ。「あなた」か。詰まるところ、僕以外の誰かには会ったのだろう?それは誰か・・・・・そう、「ハルプ」と呼ばれた人物だ。そして・・・・・それはボクと同じ姿をしていた。・・・・・そうだね?』

「は、はい」

 

話しが早い。うんうんと頷きながらニコリと笑う目の前の人物に、私はまだ理解が追いつかない。

 

『あぁ・・・・・思い出した。ハルプ・・・・・か。原罪(オリジナルシン)の魂から君達は送られて来たのか。ふふ、刺客かな?』

「よ、よく分かりませんが戦う気はありません!!」

「う、うん!戦わないよ!?」

 

お、おりじなる・・・・・わからん!

とりあえずハルプ殿を知っているようですが、私達と敵対しそうな雰囲気。どうにか止めないと。

 

『そうなのかい?じゃあ質問を重ねよう。君が最後に見た「彼」はどんな状態だった?心的な物でもいいし、肉体的な事でもいい』

「は、はい。あれは─────」

 

私は10分程の時間を使い説明をした。千草殿が合間合間に足りない部分を付けたし、殆ど全ての情報を伝えたと思われる。

 

『・・・・・ふむ。狂乱・・・・・暴走・・・・・なるほど理解した。更に記憶の欠落も見られる、と。制御不能になったか、哀れな奴』

「・・・・・助けられますか?」

『ん?当然さ。・・・・・あ、でも白楼剣と呼ばれる剣が無くちゃ無理だ。あとそれを使える人物が居ないと無理だね』

 

どうやら白楼剣と妖夢殿で救えるのは確実な様子。良かった・・・・・

 

「います!」

『ならば良し。さぁ帰りなさい!と言いたいところだけど、残念。どうやらこの世界の基点として、ボクが選ばれているらしい』

 

どうやって帰れば、と聞こうとしたその瞬間。

 

「─────ッ!?」

 

ドクン、と心臓が高鳴る。悪寒に襲われ、直感に従いしゃがみ後方に飛び退く。

 

『だから、ボクを倒さないと帰れないよ』

 

ハルプ殿は、刀を振り切っていた。反応が遅れれば死んでいた。千草殿も確りと回避できている。

若干戸惑いつつ刀の柄に手を掛け、睨みつける。

 

『さぁ、戦おうか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に訪れる浮遊感。内蔵が浮かぶような感覚の後、俺はそこに居た。

 

「・・・・・」

 

妖夢が新調してくれた新しい槍、銘は「束丸(たばねまる)」。・・・・・なんと言うか、面白い名前だが・・・・・妖夢達の友人だというヴェルフ・クロッゾが作ったものだ。使用した感覚としては、俺の腕の長さや身長に合わせてあるのか使いやすい。

 

「・・・・・」

 

さて、現実逃避は辞めにしよう。

俺は、夕暮れ時なのか茜色に染まっている辺りを見渡す。

 

「!?」

 

一面──────死体だらけだ。

 

「・・・・・何がどうなってる」

 

恐らく、なんて付ける必要は無い。これは幻だ。

なにせ・・・・・地面を埋め尽くす死体が全部・・・・・妖夢な訳が無い。空に浮かぶ首の折れた死体達が妖夢である筈が無い。

それら全てが虚ろな表情で倒れている。

 

俺の足元もそうだ、俺が踏みつけているのもそうだ。

 

だから、これは幻だ。

 

でなければ・・・・・耐えられない。

 

「うっ・・・・・」

 

吐き気を催した。

よくみれば、全ての死体が、何処か違った。死に方が違った、怪我の位置が違った。全部違った。

 

吐くことは出来ない。たとえ幻だとしても・・・・・そんなことは出来ない。

 

俯いて、耐える。目を開けば必ず目が合う。

 

目眩がした。幻だと理解しているのに、ショックが大きすぎた。

 

フラフラと後ろに下がる。嫌に柔らかい足元に足を取られながら下がり、首を吊った妖夢にぶつかった。

妖夢の虚ろな目が俺を責めているように思えた。

「なんで踏むの」「なんで助けないの」「桜花助けて」と。

 

目の前が歪む。耐えられない。

 

俺は───意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こりゃ、ねぇだろ。

 

水、水、水水水水水水水水水水水水水!!!!

俺の足元の小島以外、全っっっぶ!海ぃ!!!

 

巫山戯てやがる、なんだよこりゃぁ、俺はアイツと戦ってたんじゃなかったか?

 

「・・・・・あぁクソ!!」

 

拳を地面に叩きつける。やり場の無い怒りが炎となって身体が燃え上がる。

 

「もー、そんなに怒らないでよー、同居人の気持ちにもなって?」

「っるせぇ!なんでテメェはそんなに余裕あんだよ!?」

「何も出来ないからでしょ?」

「っ・・・・・あぁ、そうだな」

「じゃ、私寝るね」

 

寝んのかよ・・・・・。不貞寝か?ったく。

 

お?オッタルが帰って来た。物凄い速度で泳いでやがる。

 

「おーい!どうだった?!」

 

そうやって叫ぶと、オッタルは一旦潜水し、イルカみてぇに飛び跳ねて俺の目の前に着地した。

 

「何も無い。少なくとも1時間ほど進んだが・・・・・」

「そうか・・・・・」

 

2人で落胆し、寝ているリーナを見る。

海水で濡れて、肌に張り付いた水色の着物。エロい・・・・・と言いたい。巨乳だったら言ってたが。

 

『はろ〜、はわゆ〜、はいふぁいんせんきゅ〜』

「あ?」「む?」

 

小島の横を・・・・・・・・・・・・・・・サングラスに花柄の水着を来たハルプが流れて行った。

 

「あ?」「む?」

 

変な声しか出ねぇ・・・・・え?何あれ。何だあのシュールな光景は・・・・・

 

「・・・・・オッタル」

「分かっている」

 

オッタルが完璧な飛び込みで海に消え、ユラユラと流れていたハルプが『うへぁ!?』と言って海に沈んだ。

そして再びのドルフィンジャンプ。

 

「連れ帰ったぞ」

『ぺ!ぺーっ!けほけほ、しょっぱいよぉ・・・・・目に入った痛い・・・・・みんな酷いよぉ・・・・・』

「・・・・・ぇ、こんな奴だったか?」

「・・・・・わからん」

 

涙目で俺を見上げながら抗議してくるハルプ。俺は普段のアイツと違いすぎて困惑しか出来ねぇ。

 

『もうっ!折角の海水浴なんだよ?!折角プカプカしてたのにっ!!あれ楽しいんだよ?!邪魔したらダメじゃん!』

「いや知らねぇよ!!」

『ひぃ!ご、ごめんなさい!!あ、あれ?俺の浮き輪無くなっちゃった!?』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・ぇ、こんな奴だったか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・わからん」

 

や、やべぇぞ、なんて言うか・・・・・調子が狂うぞ。

なんて思ってたらハルプがオッタルの手から抜け出してリーナの元に。

 

『おねーさん!おねーさん起きて!!あの2人怖いよ!!助けて!』

「んだとゴラァ!?」

「むにゃむにゃ・・・・・なーにー?・・・・・へ?ハルプちゃん?」

『助けて!!あのおじさん達がいじめて来る!』

「なんだって!?よぉしおねーさんに任せなさい!!」

 

いや、少しは疑えよ少しはおかしいと思えよ何一瞬でそっちに回ってんだよ。捕まえろよ結界の出番だろうこのバカエルフバーカバーカ。

 

「な、なんだぁ?僕をひたすらコケにしている気配が・・・・・!」

「バカかてめえは。そいつがおかしい事くらい気がつけよ!!」

「何を言うんだ!!可愛いは正義!厳ついのは悪だぁ!」

「何その理論!?」

「身体中に刺青がある時点でダメですー、怖いですー、厳ついですー!」

『そうだそうだー!』

 

こ、この、糞ガキどもが・・・・・!

ビキビキと怒りが炎に変わる。ハルプが面白いくらいにビビっている。

 

『は、はわわ・・・・・』

「おー、ありがとう。よく考えればダリルの炎なら着物乾くね。よいしょっと・・・・・」

 

・・・・・何でこいつは服脱ぎだしたんだよ?呆れた、もう阿呆らしい・・・・・。怒るだけ魔力の無駄だな。

 

「ダリル?ほら、早く炎だしてよ」

「・・・・・今ので呆れて怒りも消えたわ」

「ロリコンかな?僕の貧相な胸に興奮したのかな?」

「んだとぉ!?ぶっ殺すぞ!!」

「おー、燃えるねぇー」

「て、めぇぇ・・・・・!!!!」

 

俺が火の粉を撒き散らしながらリーナを追いかけていると、ガシャン!と言う金属音が聞こえてくる。

 

「「「『!』」」」

「はぁ、はぁ・・・・・はぁ」

 

そこには金属鎧の女・・・・・アリッサが、気絶したクルメを抱いて息切れを起こしていた。

あの女の事だ、クルメを抱いて、なおかつ全身鎧のままここまで泳いで来たに違いねぇ。化物かよ。

泳げない俺からすれば確実にバケモノだな。

 

『任せて俺はライフセイバーの資格を持っています!・・・・・・・・・・あかん、こりゃ死んでるわ・・・・・』

「な、本当か!?」

『ぇ、あああ、ごめんなさい、生きてますよ・・・・・?でも水を飲んじゃってるみたいなので今から出させますね?』

「・・・・・・・・・・た、頼む。・・・・・ん!?」

 

アリッサがハルプを見て固まった。そりゃそうか。

 

『にしても、鎧のまま泳ぐなんて命知らずなんですね。よいしょ、よいしょっと』

「けほっけほっ・・・・・は、はぁは、ぁ・・・・・ここは・・・・・?」

『ここは・・・・・えっと、小島?だよ?』

「そうです・・・・・か!?」

『ふぇ!?』

 

・・・・・・・・・・・・・・・にしても、どうなってんだ、こりゃあ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・わからん」

「考えるだけ無駄だな・・・・・」

「あぁ」












今回の話で出てきたおかしな世界のまとめ。文章で出てきたものをまとめただけです。

一つ目の世界。
何処までも荒廃しており、草木は無く。雲もない=海や川も無い。酸素も少ない。
ハルプの性格は殆ど一緒。けれど絶望状態。
一人称は「俺」
妖夢が担当。難易度イージー


二つ目の世界。
雲一つ無い快晴で大雨、気温が高く蜃気楼が発生している。大地は凍り、霜柱が地面を持ち上げている。

ハルプの性格は知的で温厚。即断力に優れ、理解力も高い。その分他人を置いてきぼりにして物事を進める。
ダンまち世界が出典では無い。
一人称は「ボク」
命、千草が担当。難易度ノーマル

三つ目の世界。
夕暮れ時、茜色に染まっている。
地面は妖夢の死体で埋め尽くされており、空中は首を吊った妖夢が沢山ぶら下がっている。

桜花が担当。難易度???


四つ目の世界。
一つの小島を除き、海。季節は夏。

ハルプの性格はお調子ものだけど臆病。荒っぽさが無く、可愛らしい性格。
一人称は「俺」
オッタル、ダリル、リーナ、アリッサ、クルメが担当。
難易度ベリーイージー

本来の世界。
担当は・・・・・・・・・・。
難易度???


誤字脱字、コメント待ってます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

73話「コホン。えっと、桜花」


下に進むにつれ、シリアスが強くなっていきます。

桜花視点オンリーです。






背中に何かを感じる。・・・・・布団か?

 

目を開けようとして、止めた。

あの光景が広がっていると思うと、目を開ける勇気が出ない。

 

 ギシ

 

目を閉じた暗闇の中、すぐ近くから何かが軋むような音が聞こえた。

モンスターか?いや、なら襲われている筈だ。

じゃあ、なんだ?この幻を見せている奴の正体・・・・・って言ったらハルプなんだろうが・・・・・ハルプが居るのか?

 

「・・・・・」

 

起きたことを悟られないように、出来るだけ睡眠時の呼吸に近づける。

 

そして、薄らと目を開けた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・束・・・・・か・・・・ルフ・・・・・ては、まと・・・・・で、ね・・・・・」

 

小さな明かりに照らされ、作業机に向かう少女がいる事が分かった。椅子に座っているが、髪が床に付いている。束丸を見ているようだ。

髪が長いとなると、やはりハルプか。

 

「・・・・・?」

 

少女が振り返る。俺はすぐに目を閉じて寝た振りを続ける。顔の確認は出来なかった。

 

「起きた・・・・・?」

 

ハルプがこちらに気がついたのか、ゆっくりと歩み寄ってくる。・・・・・この状況で勝てるか?槍はさっきの作業机の上だ。素手なら俺の方が強い自信はあるが・・・・・

 

早鐘のように心臓が鳴る。気が付くなと祈る。

 

「・・・・・おはようございます。桜花」

 

バレている!!!

布団を吹き飛ばし、ハルプに掴みかかる。

このまま投げ飛ば──────は?

 

目が・・・・・青い(・・)

 

「よ、妖夢・・・・・なのか?」

「はい」

 

眼帯に、長いボサボサの銀髪。服はよく分からない。色んな服を縫い合わせて作ったのか、混沌としている。

さらに、よく見てみれば片腕が無い。何があったんだ?

 

「生きていてくれて、ありがとうございます。桜花、あなたを見つけた時、私は、私は本当に嬉しかった・・・」

「あ、ああ・・・・・俺も、だな」

 

訳が分からない。俺の知っている妖夢と違いすぎた。

 

「・・・・・どうかしましたか?」

「え、いや・・・・・成長、したんだな」

 

・・・・・外見の年齢は18歳位だろうか?俺と対して変わらないように見える。・・・・・これも幻覚か何かだと思う方が自然だ。

 

「そうですか?ありがとうございます」

「なぁ、ここは・・・・・どこなんだ?」

 

一見、襲ってくるようには見えない。だから、少しでも情報を集める事にする。

 

「・・・・・私は・・・・・廃棄場と呼んでいます。が、正直よく分かりません。わかる事といえば、その人が攻撃を躊躇する者達に姿を変えたナニカが襲いかかって来る所です」

「・・・・・それが本当なら、お前と俺は見てるものが違うのか?」

「・・・・・はい、恐らくは。・・・・・桜花は何に見えますか」

「俺は・・・・・妖夢に見える」

「・・・・・!!あ、あ、ありがとう、ございます」

 

妖夢が頬を赤くして髪を弄り始める。視線を不自然にチラチラと向けてくる。

・・・・・やばいな、これは怒らせたかもしれない。さり気なく束丸を手に取っておく。

 

「なぁ、妖夢・・・・・」

「は、はい。何ですか?」

「えっと・・・・・お前のレベルは?」

 

聞けるうちに聞いておこう。戦いになった時が怖いからな。

・・・・・にしても、立派に成長したんだなぁ。あんなに小さかった妖夢が、こんなに伸びるのか。

 

「えっと・・・・・もうずっと更新出来ていないのですが・・・・・」

「最新のものでいいぞ、俺も一緒に戦う奴の能力は知りたいしな」

「・・・・・!!い、一緒に、戦う・・・・・!!こ、コホン」

 

妖夢がクルッと背を向ける。髪の毛が大きく動く。俺は一瞬、回転斬りが来るのかと思って武器を構えてしまったがすぐに構えを解く。

 

「一緒に、一緒に、一緒に・・・・・!やった!やりましたよ!仲間です、仲間が出来ましたっ!でもでも、どうしましょう。一緒に動くとしても、私は片腕しか無いですし、庇って戦うのは無理です。いやいや、桜花ですよ桜花!あの桜花が来てくれたのです。百人力です。無双なのですよっ。いや、でも・・・・・しかし・・・・・!(小声)」

 

妖夢は背を向けながら何やら呟いている。

俺を殺す算段でも考えているのか?絶対に怒っているぞアレは。

ご機嫌取りは苦手だが・・・・・やるしかない!

 

「妖夢・・・・・?」

「ははい!?」

 

うぉお!?絶対に怒ってるじゃないか!?今凄い振り向き方したぞおい!目が!目がなんか凄いぞ、殺意は無さそうに見えるけど妖夢だからな、わからん。殺意無く殺しに来るかもしれん!

 

「えっと、その・・・・・」

 

 なんか考えろカシマ・桜花・・・・・!!こう、妖夢が喜びそうな・・・・・

 

「綺麗に、なったな?」

「──────っ!?」

 

妖夢の顔が物凄い速度で真っ赤に染まった。

・・・・・なんだ、何が気に触ったんだ・・・・・!?妖夢といい、千草といい・・・・・外見について褒めると怒るのか女性は?!ヘルメス様は嘘を言っていたのか!?

 

「アリガトウ、ゴザイマス・・・・・!」

 

お、お礼・・・・・?

効いたのか?世辞ではないし、本心だが・・・・・効果あったのか・・・・・?

 

「それで、その・・・・・レベルは?」

「タシカ、・・・・・コホン。最後の更新では8レベルでした。そこからは時折二律背反(アンチノミー)が発動していますから・・・・・もしかしたらもっと上かも知れません。」

「は、8か。そうか・・・・・」

 

よぉし、戦うのは無しだ!!

戦闘になったら確実に目で捉えることすら出来ないな!

 

「ひ、低かったですか?」

 

低い訳ないだろ!?なんで青ざめてるんだ!?

 

「いや、俺の倍あるぞ!うん、凄い強いな。頼りにしているぞ!!」

「た、頼りに・・・・・してる・・・・・!!」

 

妖夢が再びぐるっと回る。俺は無理だとは思ってもとりあえず槍を構え、すぐに戻す。

 

「は、はわわ・・・・・!!頼りにしているって!頼りているって!!やりました!やりましたよ幽々子様〜!私、今、頼られています!!ふふふふふ、桜花君、私に任せておきなサーイ!守ります守りますとも!(小声)」

 

不味いな、レベル8とか何をやっても勝てる気がしない。

どうする・・・・・、逃げるか?ちなみに俺は家の中の扉付近にいる。若しかしたら逃げられるかもしれん。・・・・・家の中のからは、だけどな。

 

はっ、そうだ!ヘルメス様が言っていたことを思い出したぞ!タメ口で話すことで距離を縮められると!

 

「なぁ、妖夢」

「はい!何ですか?」

 

ニコニコと笑いながらこちらに振り返る妖夢。・・・・・くっ!笑顔とは本来攻撃的な(ry

ひ、怯むな。よく見ろ、可愛い顔だろ?そう、そうだ落ち着け・・・・・タメ口で話そうぜ?って言うだけなんだからな。よ、よし。

 

「俺達は今、2人きりだ」

「はい」

「なら、分かるだろ?」

 

妖夢が首を傾げ、暫く考える。妖夢なら分かるはずだ、チームワークを深めたり、そういった効果は。

 

「──────ふぇ!?え、ええ!?えっと!?おおおお桜花、落ち着いてください、本気ですか!?」

 

何やら妖夢が慌てている。なんだ、なんか間違えたか?

わからん・・・・・わからないものは置いておいて、本気であることを伝えなくては。このままだと殺される。だから仲良くならないといけないんだ。

 

「本気だ」

 

真面目に、真顔で心を込めて言った。

 

「ぅ・・・・・うぅ・・・・・」

 

妖夢の顔が真っ赤に染まり、頭から蒸気が噴き出している。

ま、ずい。これは・・・・・沸点を超えたな。

 

「で、でもですよ?ご飯はあまり取れませんし、私が戦えなくなってしまえば殺られてしまいますし。そ、そもそも出来るかも分からないですし・・・・・」

 

ご、ご飯?戦えなくなる?わ、わからんが、タメ口はそんなに嫌なのか?

でもハルプは出来ていたんだ、妖夢にも出来るはず!

 

「出来る(迫真)」

 

そう、出来るんだ。タメ口くらい出来るさ。俺達の仲だろう!?

そんな思いを胸に、祈るように目をつぶった。

 

「わ、わ、わかり、ましたっ!!」

「違うぞ」

「え?」

「ですますは要らない。タメ口だろ?」

 

よし!やったぞ!!了承したぞ妖夢が!!命が繋がった!!

と、喜んだのもつかの間、妖夢がまた髪を踊らせて後ろを向く。

 

「どどどどどど、どうしましょう幽々子様〜!?タメ口ってことはアレですよね!?夫婦なら、敬語は要らねぇぜ、って事ですよね!?あわわわ、でも私にできるでしょうか!?むりむりむり、絶対に無理です!!そ、それに・・・・・こ、子供なんて・・・・・まだ私には早いというか、いや、でも欲しくないわけでは無いのですよ?この惑星の総人類2人ですし、3人とか4人とかにしたい気持ちはありますが!!・・・・・うぅ、うぅぅ!・・・・・き、決めましたっ!女、魂魄妖夢!今日、大人になります!見ていてください幽々子様〜!!(小声)」

 

お、妖夢が立ち上がったぞ?

 

「コホン。えっと、桜花」

「なんだ、妖夢」

「〜〜!!・・・・・ぇっと・・・・・あなた?」

「ん?なんだ?」

「〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

え、なんだ?どうしたんだ?そんなにタメ口は嫌なのか?ならやめさせた方が良いのか?ヘルメス様、分かりません俺。

 

「えっと、覚悟は、出来てるから・・・・・その、初めてだから、優しくして欲しい・・・・・な?」

「あぁ、分かってる。初めては何でも怖いからな」

 

覚悟を決める必要があるのか・・・・・。そんなに怖いか、タメ口。まぁ、出来るだけ優しい口調を心がけよう。

まぁそれに、俺も初めてゴブリンと戦った時は怖かったからな。命や千草にバレないように気を引き締めてた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・んん!?

 

「ちょ!まっ!?妖夢なんで服を脱いで!?」

「ぇ、あっすみま・・・・・ごめんね!着てる方が良かった?!」

「お、おう!着ててくれ是非!」

「う、うんっ!!・・・・・桜花って変態なんだね・・・・・着てる方がいいなんて」

「・・・・・ふん!?」

 

まて、まてまて待て!?何かがおかしいぞ!?

なんで服脱ぎ始めたっ!そして着てた方がって、そりゃそうだろうけど・・・・・もしや話がズレてる?

 

「ま、待てよ。落ち着いて聞いてくれ、妖夢」

「な、何かな?」

 

はぁ、顔が熱い!

とりあえず誤解が生まれていたとしたはそれを無くさなければ。

 

「えっと、俺は・・・・・お互いタメ口にしようって言いたかったんだが・・・・・り、理解してくれたと思って話を進めてしまった、んだ、が?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

妖夢さん?あ、殺される?これ殺される?

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!なんだ、そんなことでしたか・・・・・分かりました。わかった桜花。あー恥ずかしかったっ!!もう、なんでもっと早く言わないの?」

「ぃあ、す、すまん!」

 

俺は咄嗟に土下座した。敏捷値が許す限界までの速度で土下座した。

また、俺はやってしまった!何故俺はこうも意思疎通が出来ないんだ・・・・・団長失格だァーーー!!!

 

「ふふ、いいんだよ。私だってずっと1人で寂しかったしね。・・・・・でも、桜花には帰るところがあるんでしょう?私も協力するから。」

「・・・・・・・・・・良いのか?」

 

初めから、全部分かっていたのか。

そう思うと、少しやるせない。妖夢を助ける事は出来ないのだろうか?

 

「うん。生きてほしいから。あと、出来ればもう、ここに来たらダメだよ?」

「・・・・・お前は」

「桜花・・・・・期待させないでね。」

「・・・・・すまん。」

 

儚げに笑う妖夢。変わり果てた姿だが、中身はそう大きく変わっていないらしい。なんだかんだ言っても他人を優先する。

 

・・・・・助けたい。

 

その思いはある。だが、それが無理な事もわかる。

なにせ目の前に居るのは妖夢だ。俺の何十倍も強い。それを、俺が助けられるか?足を引っ張り、助けてもらって・・・・・終わるのか?

 

ダメだろう?それじゃあ男じゃない、そうだろう?

 

俺は誰だ。カシマ・桜花だ。タケミカヅチ・ファミリアの団長だ。

 

目の前の女の子は誰だ。魂魄妖夢だ。タケミカヅチ・ファミリアの団員だ。

 

なら、どうするか。

そんなの、一つしか無いだろう!

 

俺は意を決して妖夢に話しかける。

 

「妖夢」

「なに?桜花」

「期待はするなよ?」

「・・・・・・・・・・ありがとう」

 

ニッと互いに笑い。妖夢が扉に手をかける。

 

「行くよ」

「あぁ」

 

扉が開き・・・・・外の世界へ飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死屍累々。

その言葉こそ、この光景を最も的確に表せる言葉だろう。

強烈な腐臭と、最悪な悪路。

一歩踏み出す事に、嫌な音が響く。

 

「うぅ、やっぱり慣れないな」

「我慢するしかないよ。桜花の視点だと私が踏まれてるのかぁ・・・・・やっぱりおんぶしようか?」

「いや、それじゃあ咄嗟に反応出来ないだろ?」

「それもそうだね」

 

俺はこの光景に慣れることは出来そうにない。

そう言えば、妖夢にはこの光景はどう見えているのだろう?

 

「なぁ、妖「しっ、静かにして」・・・・・!」

 

妖夢に聞こうとしたら、何かが見えた。人影だ。この世界には夕方しか無い。そのせいか遠くの人影は発見しやすい。

 

「・・・・・どうする?」

「先手必勝だよ」

「敵じゃない可能性は?」

「・・・・・わからない。でも、どれだけ頑張っても対話出来なかった。もしかしたら向こうから見たら、私達は化け物なのかも。でも、それを考えたら動けないから」

「・・・・・そうかわかった。じゃあ先手を打とう。俺が囮になる、妖夢は側面から叩けるか?」

「もちろん」

 

作戦は簡単に。難しくする必要は無い。妖夢のレベルは8。俺と合わせようとしたらお互いに足を引っ張り合うだけだ。

 

「おーいそこの人!!!」

 

デカイ声を上げ、両手を振って人影にアピールをする。その瞬間後ろで風が巻き起こり、妖夢が消えた。

人影はこちらに走って来たが、突然、首が上に飛んだ。

 

「終わったよ」

「うぉ!?速いな・・・・・!」

 

一瞬で後ろ(・・)に走り、大きく遠回りをして、一気に接近。通り過ぎざまに首を刎ね、俺の隣りに駆けてきたのだとか。説明が無ければ全く分からなかった。

 

・・・・・妖夢が強くなるとこうなるのか。

 

「進むよ」

「渓谷だったか」

「うん。そこに・・・・・罅がある」

「・・・・・罅?」

 

その罅に辿り着けば帰れるのか?

 

「・・・・・・・・・・そこに飛び込めば帰れる。迷いがあると無理だと思うけど・・・・・」

 

そう言って妖夢が申し訳なさそうに呟く。

 

「いや、いいさ」

 

先へ、先へと進む。似たような出来事が何度か続き、山が見えてきた。

腐臭が増した。骨が目立ち始めた。

 

「・・・・・来る!!」

 

突如、地面から飛び出してきた。

 

「ぅぁあああああ!!!」

「ちぃ!」

 

妖夢だ。妖夢にしか見えない!?血走った目で、必死に、刀で攻撃してくる。

 

「退いてええ!!!!」

「おち、つけ!!」

 

攻撃を槍で逸らし、受け流す。

 

「シッ───!!」

 

そこでタタラを踏んだ妖夢の首を妖夢が刎ねる。自分でも何がなんだかわからない。だが、その時・・・・・

 

 ─────妖夢と目が合った。

 

「────────桜・・・花・・・?」

「!!」

 

ぼとり。と落ちた首は、目を大きく開けて驚いたままの顔で固まっていた。

足が、震え始めた。息がしにくい。

 

「聞いたらダメだよ、なんて言われたのかわからないけど・・・・・最期にあぁやって言葉を残していく。それで、私たちの心を折ろうとしてくるんだ」

「・・・・・わかってる」

「なら・・・・・いいけど」

 

まだ、死体の上を進む。

数分おきに、奴らは来た。最期に嫌な言葉を呟いていく。

 

「なん・・・・・で?」

「桜、花・・・・・?」

「死にたく・・・・・ない」

 

聞きたくない。聞きたくない。聞きたく無い!!

聞くに耐えない、俺を攻める非難の声が俺の心を掻き毟る。

自分がどこを向いているか分からない。

 

「・・・・・桜花、ごめんね。こんなところに連れて来ちゃって・・・・・全部倒してからにした方が良かったよね。」

 

違う。俺がカッコつけたから。早く帰ろうと焦ったから。

 

「全部、全部私が倒してくるから。」

 

危険だ。そんな一言すら出てこない。喉が干からびたようだ。

 

「桜花はここで寝てていいよ。安心して・・・・・きっと、何とかするから」

「いや、まて、俺は───がっ!?」

 

頭に強い打撃を感じ・・・・・意識は遠のいた。

・・・・・妖夢が山へと走っていくのが見える。そして、それを追う津波のように人影が向かっていくのも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、目が覚める。

 

 ──────夕暮れだ。あの世界だ。

 

夢ではない。夢ではないのだ。幻など無かったのだ。

 

「・・・・・」

 

膝に手を置き、立ち上がる。槍を片手に、グチュグチュと音を立てながら山へと進む。

妖夢はいなかった。だが、仕方ないだろう。俺はやっぱり足でまといだった。

 

 

 

 

 

 

道中、敵はいなかった。

新鮮な死体は、妖夢が倒したものだろうか。

 

「・・・・・・・・・・」

 

やがて、階段(・・)が見えてくる。下へと続く階段だ。死体が掻き分けられ、クレーターのようになったな場所。ここの中心が渓谷。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

不気味な音を立てながら、下へと下っていく。

沢山の死体が転がっていた。骨や腐肉ではなく、新鮮で、さっきまで生きていた肉。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

クレーターを回るように緩やかな階段。

クレーターの中央を見遣れば、死体が積み重なっていた。

 

 ──────その近くに、刀が突き刺さっている。

 

 白楼剣だ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

後悔が、胸を締め付ける。

なぜ、俺はあの時・・・・・と。

男では、無かったのか、俺は。こんなことになるなら・・・・・。

悔しかった。虚しかった。何も出来なかった。助けられなかった。

 

「なんで、なんでお前は・・・・・!!」

 

本当に、なんで・・・・・俺は・・・・・!!!

涙が溢れそうになる。堪える。死体をかき分け、ボロボロの少女を見つけ出す。

 

(おう・・・・・か・・・・・)

 

妖夢が小さく声をだす。か細く、擦り切れている。体は傷だらけだ。足も、片方無い。

 

「俺の・・・・・ためか?これは・・・・・俺のためなのか?」

「・・・・・」

 

妖夢が微笑み、頷いた。

頬を、1滴の涙が流れ出す。

 

「─────────ッ!」

 

感情が溢れ出す。

どうして、自分はこんなにも情けないのか。

どうして、こんな奴が団長なのだろうか。代わりはいくらでもいた。適任な奴は他にも居た。

 

だが、俺がなった。なってしまった。

 

情けない。だが、言わなきゃならない。団長として、家族として。

 

「あり、がとう・・・・・!!本当に、ありがとうっ!!」

 

鼻水を拭い、涙を払う。妖夢を抱き上げ抱きしめる。

 

「ごめん、ごめんな。本当にごめん・・・・・!」

 

軽かった。凄まじく軽かった。片手と片足を失った彼女は、人とは思えないほどに軽かった。

 

(いい、から・・・・・はやく、)(いって・・・・・ぇ?)

 

俺は、首を振った。

きっと、まだ助けられる。これならまだ、万能薬で・・・・・助かる。

情けない・・・・・本当に情けない。俺は、妖夢の決意を踏みにじろうとしている。でも、嫌だった。もう、目の前で死んで欲しくなかった。

 

だから、抱き上げた。

 

「まだ、諦めるなっ!!」

 

だれの口から、こんな言葉が出るのだろう。

少なくとも、妖夢は諦めなかった。諦めていたのは俺だ。俺の方だ。だから、この言葉は・・・・・俺に対するものだ。

 

(・・・・・)(あり、がとう。桜花は、優しいね)

 

違う。俺は優しくない。俺は、弱い。これも逃避だ。最悪の結果から逃れようと、もがいてるだけだ。助けてくれた恩人の恩を踏みにじっているだけだ・・・・・!

 

・・・・・俺は、俺達は渓谷の淵に立った。

強風が吹き荒れ、俺達の髪を靡かせる。奥底は見えない。どれだけ高いのか。本当に元の世界へ繋がっているのか。

そんな疑問が浮いては消えを繰り返す。もし、繋がっていなくても・・・・・妖夢を信じる。

 

「・・・・・行くぞ。妖夢」

「・・・・・」

「妖夢?」

 

ぐったりと、妖夢は動かない。

心臓が脈を打つ。激しく大きく。

まだ、大丈夫だといい聞かせ・・・・・

 

(ごめんね。・・・・・ごめん)

 

そんな小さな言葉に押され、踏み出した。

 

 ─────止めなくてはならない。

 

そうだ。止めなくてはならない。

 

俺がするべきはハルプを止めること。元の世界に帰ること。

意識が定まる。目的が決まる。何をすべきかもわかった。

 

「妖夢、お前も、助けてみせる!!」

 

 ────大きく地を蹴り、罅に飛び込む。

 

 

 

の、だが・・・・・。

 

 

 

『いよっとぉ!そうはさせないぜぇ!!』

 

衝撃が、体を襲う。










さて、最後の最後で現れた『』さん。
次回も桜花パートでいいのかな?ほかの人挟んだ方がいいかな?わからん!
まぁ、そこら辺は何となくで決めていきやしょう。

誤字脱字報告、コメント待ってます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

74話「今─────行きます!!」


遅れましたー!しかし、次話は完成済み。
割と急いで作ったので変な場所があるかもです。











「糞が!!!」

『したいの?』

「ちげぇわ!!」

『お、おう』

 

あぁくそが、調子が狂う。何なんだこいつ!!!!

 

『ねーまってよー、俺とお話しようよー!』

「だからしねぇって言ってんだろ!!」

 

ウザイ、とてもウザイ。ずっと付きまとってこうしてお話しよーとか言いやがる、ぶっ飛ばしてぇ・・・・・!!でも攻撃効かないんだよこいつ!!巫山戯てんだろ!?

 

『おーねーがーいー!おにーいーちゃーんー!』

「誰がお兄ちゃんだ!死ね!!」

『死んでますっ!』

「じゃあ生きろ!!」

『はいっ!!』

「なんでだッ!!」

 

はぁ、こいつの近くにいると凄い疲れる・・・・・。

だいたい、なんで俺に付きまとってんだよ!?ほかの奴のとこ行けよ!!

 

「おい、なんで俺に付きまとってんだ」

『みんな泳ぎに行っちゃったし寂しいかなって思って!』

「思って!じゃねぇんだよ!!ウザイ!離れろ!」

『えー、近くに居たらダメなのー?』

「駄目だ。来んな、寄るな、俺の視界に入るな!」

『・・・・・!なるほど!』

 

あ?・・・・・・・・・・・・・・・なんでコイツ俺の後ろに回り込もうとしてんだ?まさか、俺の視界に入るなって言ったからか?おいおい、その前の2つ、前の2つを無視すんなよ!?来んな寄るなって言っただろぉ!?

 

『うわっぷ、あっぶない。視界に入る所だった・・・・・ふぅ』

「ふぅじゃねえんだよ!!!!ウザイわっ!!ぶん殴るぞ!」

『殴ってもいいよ?それで寂しくなくなる?』

「だ、か、らぁ!あぁ〜うぜぇぇ!!!」

 

あぁ色々とキツイ、ストレスがヤバイぞこれは。なんだ、俺は子供が好きじゃないんだ・・・・・くそ、俺が泳げたらこいつから逃げれたのに・・・・・

 

『えへへ、ねえねえ?俺の事、嫌いじゃ無いんでしょ?』

「あぁ!?」

『だって炎出てないもん。それ怒ったら出るんだよね?』

「ちっ知るか」

 

お前は好きじゃあない。つか、アイツも好きでは無い。何時か超えたい相手だ。・・・・・それにそっくり、というか別のアイツらしいが、戦闘力も対して無いらしいからコイツを倒した所で俺の目的は達成なんざされねぇ。

 

だから、いち早く元の世界に帰らないと行けねぇ訳だ。

 

・・・・・。

 

「おい」

『ん?なになにっ、遊んでくれるの!?』

「遊ぶかバカ。・・・・・どうやったらこの世界から出れる」

『まだ遊んでくれないかー。えっと、この世界から出るには~・・・・・ふむふむ、なるほど、はぁ~、みょん?』

「・・・・・?」

 

ハルプの野郎が何やら考え始めた。アイツと比べて天然さが増しているが、若しかしたらあいつよりも頭がいいのかもしれねぇ。

 

『わかんない!!』

「わからんのかいっ!」

 

ダメだァ・・・・・つかえねぇ・・・・・!!

 

『ねーえー!遊ぼーよー!お兄ちゃんー!』

「だからお兄ちゃんじゃねえっつってんだろ!!」

『じゃあオジサン?』

「お兄ちゃんで良しッ!」

『やったぜ!』

「しまったっ!?」

 

もう嫌だァ・・・・・猛者(オッタル)、帰ってきてくれぇぇぇえええ!!!

 

『じゃあさっ!遊んでくれたら教えてあげるよ?』

 

ハルプが両手を後ろで組んで、ニヤニヤしながらそう言った。

俺は思わずハルプを凝視する。

 

「てめ、さっきは分からねぇって・・・・・・」

『遊んでくれなきゃ言わないもーんだ!』

 

畜生が・・・、だけど、その程度なら─────いや待て待て、どの程度か分かってないんだけど!?あっぶねぇ、若しかしたら世界一周クロールとか言われるかもしれなかったぞ!?

 

だ、だが、そうでもしないとここからは出られないだろうな。

 

いっちょ頑張ってみるか。死ぬ気でな。

 

「いいぜ、やってやる──!!」

 

その後、死ぬほど水泳した。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は今泳いでいる。

というか、潜水してる。ブクブクと泡を吐きながら潜っているけど、わかった事が一つある。

 

この世界にはモンスターが居ない。

 

潜って浮上してを繰り返しているのに、小さなモンスターすら見当たらないのだ。

 

ふむ。と僕は考える。

仮に、この世界を抜け出すためにはあのハルプちゃんを倒す必要があるとして・・・・・。

恐らく身体能力は高く無い。それどころか戦闘を行った事があるかも分からない。

 

だが、僕たちにはあの子を倒す決定打が欠けている。

一応どうにかする手段はある。オッタルさんやダリル達皆があの子の腕や手を吹き飛ばして、僕の結界に入れてくれれば封印できる。

 

ただ、封印して倒した事になるのかよく分からない。

さらに言えば倒した所で出られない可能性もある。だからこの事は相談してないし、実行には移せない。

 

「ブクブク・・・・・ぷはぁ!うっへ〜、塩辛いね」

 

着物を着ては泳ぎにくいから脱いでいる。一応サラシを巻いてる。下着は履いてなかったから、クルメちゃんから短パンを借りた。

クルメちゃんと身長が近くて助かったなぁ。流石に、いくら僕の体が魅力的で無いにしろ、男の人からしたら目の毒だろうしね。

 

「リーナさーん!!」

「お?クルメちゃんどしたのー?」

 

クルメちゃんに呼ばれて、そっちに泳いで行くと、何やら下を指さしている。

 

「何かあったの?」

「はい!何か、家みたいな物が」

「家・・・・・?」

 

なぜ家が海の下に・・・・・?

誰かが作った?それとも海に沈んだ?どちらにせよ、注意する必要がある。

 

「2人だけは危険だね。少なくとも、アリッサを連れていこう」

「そうだね、じゃあ1回島に戻る?」

「うん。入れ違いにならないようにしようか」

 

僕達は一旦小島に戻る事にした。

 

 

 

 

さて、小島に戻ってきた僕達だけど・・・・・どうやらダリルは散々遊ばれたみたいだね。疲れた顔して1本だけ生えてるヤシの木のに寄りかかっている。

 

「り・・・・・な・・・・・たす、けてくれ・・・・・」

「何があったんだろう」

「狼にも天敵はいるって事でしょ」

 

呆れた目をしながらダリルを助け起こす。ダリルが珍しくお礼を言ってる。

 

『おっ帰り〜!!待ってたよ待ってたよ!!ねねね、ご飯にする?俺魚とってこようか!?』

 

すると、水着のハルプが走ってきて抱き着いてくる。可愛い。

だが、それが不安だ。

 

「うん、ただいま~。ありがとー、1人で平気?」

『うんっ!まっかせてよ!いってきまーす!あっお兄ちゃん皆に手出しちゃだめだからなっ!』

「だすかっ!さっさと行け!」

『いひひっ、はーい!いってきまーす!』

 

なにせ、おかしい。見送りながらそうおもう。

 

僕が、僕らがこの状況下でこの娘に対して心を開いている(・・・・・・・)。普通なら有り得ない。

 

暴走したハルプちゃんの攻撃なのか、魔法なのかよく分からないけど、何らかの方法でこんな場所に飛ばされた。

そして、これだ。

 

僕らに良く懐き、慕い、甘えてくる。

 

「今戻った。む、ハルプはどこかに出かけたのか?」

「あぁ、魚を取りにな」

「そうか。」

 

こんなの警戒するに決まってるだろう?心は開かれてしまったようだけど、それとこれとは別だ。

 

みんなは警戒してないのかな?いや、アリッサとオッタルなら警戒はしてるかも。

 

「ねぇ、皆。少し聞きたい事があるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、皆。少し聞きたい事があるんだ」

 

突然、真剣な声音で白髪のエルフ・・・・・確かリーナ・ディーンだったか。が、話しかけてくる。

 

俺としてはこの場所から一刻も早く戻りたいのだが、現状、戻る手段は謎だ。今しがた出掛けて行ったスキル・・・・・では無かったのだった。

今の彼女に名前があるのかは不明だが、仮称はとりあえずハルプとする。

 

ハルプがこの場所からの脱出方法を知っているとしたら、どうにかして協力を得なければならない。なにせ、ハルプはあのハルプと同じ様に通常攻撃は何一つとして効果が無い。・・・・・・ややこしいな。元のハルプをA、こちらのハルプをBとしよう。

 

通常攻撃が効かない以上、俺でも対処できん。魂魄妖夢の持っていた白楼剣と呼ばれるもので無ければ有効打は得られないのだ。

 

「おい、オッタル聞いてるのか?」

「む・・・・・」

 

どうやら話しは始まっていたらしい。全く聞いていなかったな、素直に謝っておこう。

 

「すまない、考え事をしていた。もう1度お願いしたい。」

「「「おぉ」」」

「・・・・・どうした?」

 

俺が謝ると、何故か3人は驚いたような顔をした。何故だ、何が間違った・・・・・いや、俺の立場による落差(ギャップ)か。アリッサと呼ばれた鎧姿の女は特に何も言っていないな。

 

「いや、お前って謝るんだなぁ。って思った」

「だ、ダリルさん!もう少し言葉を、ぉ」

「ねぇねぇ!もしかして猛者に謝られた人って貴重なんじゃないかな!」

「・・・・・話しとは?」

 

あ、ごめん。とリーナ・ディーンは話し始める。

ふざけた調子とは打って変わって真剣な顔になる。

 

「みんなは、あの娘に付いてどう思う?」

 

リーナ・ディーンが思い切り突っ込んだ話題を出した。

ふむ・・・・・。

 

「アイツか?あー・・・・・どうだろうな」

「えっと、可愛くていい子だと思うよ?」

「・・・・・・・・・・。」

 

む、アリッサ・ハレヘヴァングも悩んだか。

リーナ・ディーンも同じ様な意見なのだろう。

 

───────信用出来ない。

 

その一言に尽きる。だが、信用を得て協力を要請しなければならないのは確実だ。

・・・・・騙されている可能性を考慮せねばならないがな。

 

なにせ、こちらに交渉の材料は何一つない。嫌だ、と言われればその瞬間詰む。

 

「まだ、何とも言えないな・・・・・」

「あぁ、俺もそう思う。まだ暫くは様子を見よう」

 

協力を仰ぐために親身になるのが正解なのか、それとも蹴り飛ばしてでも離れるべきか・・・・・・。

 

「あぁ、そうだな・・・」

 

ダリル・レッドフィールドのそんなため息が、深く印象に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ夜が開けぬオラリオで、一人の男が裏路地を急いでいた。

 

「(本当なんだろうなっ・・・・・?)」

 

這う這うの体で逃げ出したと言うアマゾネスから聞いた、タケミカヅチ・ファミリアとイシュタル・ファミリアの抗争。

銀髪の怪物との戦闘。

 

話に出てきた「ハルプ」と言う単語。

 

「っ・・・・・!!」

 

鼻に付く血と焼け焦げた臭い。

 

「嘘じゃねぇみたいだな」

 

男、べート・ローガはイシュタル・ファミリアの本拠地────歓楽街へと躍り出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、戦おうか』

 

その一言の後、ハルプちゃんから放たれる殺気は大きくなった。

 

振り抜かれる斬撃。

 

それに私は反応できない。どれだけ目が良くても、体がついて行かないなら意味は無い。

 

私は弱い。みんなに比べれば、とても弱い。

 

「──────っ!!」

 

命ちゃんが私を押し退け、刀で斬撃を受け止める。

 

『おや?反応出来ないと思ったのに、変だね。うん、変だよ。君はアレだろ、分かるんだろ?』

 

そう言ってニヤリと笑うハルプちゃん。怖い。

 

「はい・・・っ、勘ですっ!」

 

命ちゃんが眉間にシワを寄せ、鍔迫り合いから押し込む。

ハルプちゃんは『おっとと』と笑いながら押されていく。

 

「千草殿っ!援護をッッ!!」

 

命ちゃんが私の名前を呼ぶと、一気に踏み込んだ。

そうだ、私も自分の仕事をしなくちゃ。

 

「───はっ!!」

 

刀ごと押されてたたらを踏んだハルプちゃんに、私の矢と命ちゃんの刀が迫る。

 

『ふむ、なら────こうか!』

 

えっ嘘でしょ!?

ハルプちゃんは片手で持った刀で命ちゃんの攻撃を受け流して、もう片方の手で私の矢を掴んじゃった。

 

『そして、こうだね』

 

受け流されて前のめりになる命ちゃんに、掴んだ矢を振り下ろす。

 

「命ちゃん!!」

「くっ!?」

 

私は咄嗟に叫び、命ちゃんは応えてくれた。体を捻り、回避しつつ、裏拳をハルプちゃんに叩き込む。

よしっ、顎に当たったよ!!

 

『うおっと、びっくりした』

「く、やはり効きませんかっ」

 

大急ぎで飛び退く命ちゃん。それに合わせて私も弓で援護する。

残りの矢が・・・・・・あと3本しか無い。無駄打ちは出来ない。それに、私の役目は戦場を見渡して援護すること。集中しなきゃ・・・・・・!

 

『はっ!てやぁ!!』

「く、そこっ!!!」

 

斬撃の応酬が始まった。斬り掛かって、防いで、斬り返す、それを繰り返す。私の弓の腕じゃ怖くてここには打ち込めない。けど、タケミカヅチ様のお力を借りれば・・・・・・!

 

「【穿つ───────】」

 

スキルの千里眼を発動して、ハルプちゃんの動きを読む。大丈夫、行ける!

 

「【必中の一矢】っ!弓神ノ一矢!!!」

 

私の放つ全力の一撃。魔法の力で加速して私の思うように動く矢は、頭めがけて飛んでいく。

 

『当たらないよ。』

 

ヒョイっと言った感じで首を傾げて避けようとするハルプちゃん。私は矢に命じる。横に曲がれ、と。

 

『!?』

「そこぉ!!」

 

矢が耳から耳へと突き刺さり、命ちゃんの一撃がお腹を一閃。

 

普通なら勝った。

でも、私達は知っている。

 

『ふむ、いい連携だね』

 

────無傷。

 

こんなの、勝てるわけない。絶望的な戦況に私達が挫けそうになった、そんな時。

 

「────え?」

 

─────雷は落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・』

 

───────自己問答はままならない────

 

───思考を何かが妨げている────────

 

─────────記憶があやふやで不鮮明だ─

 

─今、俺は何をしている───────────

 

─────ブレる思考、思い通りにならない体─

 

───えっと、俺は、確か──────────

 

──────ここは、そう、オラリオで────

 

──頭痛が酷い。頭が欠けたみたいだ─────

 

────────────足音。2つ?────

 

「───か。久しぶりに会えたと思えば、随分と大きくなったな」

 

───────知っている───この声────

 

『タ、ケ?』

「あぁそうだ。お前の父、タケミカヅチだ。」

 

─────嬉しさ(悲しさ)が込み上げてくる──────

 

『嬉し、い。会い、たカッタ』

「俺もだ。なぁ───、今までどこで何をしてたんだ?」

 

─どうして誰も俺の名前を呼んでくれないの?─

 

─────────────忘れたの?────

 

───思い出せない?────なんで?────

 

──苦しい──怖い──悲しい──悔しい───

 

「泣いているのか?俺でよければ話を聞こう。いや、聞かせてくれ。俺はお前の父だ。子供を救う義務がある。」

 

─────欲しい──────────────

 

─────────呼んで欲しい───────

 

───名前、呼んでほしい──────────

 

『名前、呼んで、欲しい』

 

────不思議そうな顔────懐かしい───

 

「───」

 

───聞こえない──────────────

 

『違う』

 

─────聞こえない、呼んで貰えない────

 

「───?」

 

─やだ────忘れないで──────────

 

『それじゃ、無い』

 

───────────────俺は─────

 

───────俺の名前は──────────

 

 

 

「────妖夢」

 

 

 

─────ドクンと、体が脈打った──────

 

──体が暴れ出す─────怖い───────

 

「そうか・・・・・・なら俺も禁忌に手を染めよう。お前だけを先に進ませはしない。家族なら・・・・・・肩を並べて歩かないとな」

 

───────勝手に、タケを攻撃する────

 

「いいかよく聞け。掟と言うのはな、大事な時に破るためにあるッ!!」

 

─視界が白く染まる─────────────

 

─────────嫌だ、戦い、たく無い───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春姫は人生で最大のピンチを迎えていた。

砂埃の中、人影がモゾりと動く。いや、もはや人影ですらない。

 

翼が生え、尾が生え、低い唸り声は春姫のか弱い心臓を締め付ける。

 

そこにあったのは暴虐の化身。地上でひとたび力を振るえば殺戮の嵐となるであろう地下の王者達。

そんなものを前に、春姫の呼吸は止まりかけた。

 

だが、声を出さなかった事、砂埃で匂いが分かりづらかったこと、幸運などが幸いして春姫は気が付かれていない。

 

「みんな無事か?」

「キュイ・・・・・・」「ウー!」

「外二追撃二出タノハ我々ダケダ、誰モ減ッテイナイ」

 

するとなんて言うことか、春姫の前でモンスターが話し始めた。

 

「!?・・・・・・こんっ」

 

春姫は目の前が暗くなるのを感じ、意識を手放した。

脳を守るための自衛だが、この状況は良くないだろう。傍から見たらモンスターの餌だ。

 

「・・・・・・声がしたと思ったら気絶してるし」

「キュイ?」「ウー?」

 

そんなモンスター達・・・・・・ゼノス達は春姫に気がついた。気絶の仕方が妙に艶かしいが、モンスターである彼らには特に問題は無い。

 

しかし、彼らが強引に入ったからだろうか、石造りの地下室は崩壊寸前となっていた。

 

「おい!?崩れる!あの子を助けるぞ!」

「イヤ待テ危険ダ!リド!!!!」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」

 

リドが春姫を抱え起こし、グロスが続く。ウーウーと鳴く不思議な箱とアルミラージがあとを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肉を突き破る生々しい音が、静けさのみが残る荒野に響いた。

日が決して眠らぬ不可思議な世界で、黄昏に照らされたシルエットは浮かび上がっていた。

 

『・・・・・・かハッ』

 

ハルプが血をはきだした。けれどそれは地面に触れる前に気体となって消え失せる。

 

「─────終わりです。」

 

妖夢の楼観剣がハルプを貫いている。

 

『・・・くっ・・・・ま、だ・・・・・・!!』

 

ヨロヨロと、貫かれたままに進む。諦められなかった、認められなかった。

 

「もういいんですよ。もう、戦わなくていいんです」

 

妖夢はそんなハルプを抱きとめしゃがみ込む。

悲しさを隠しきれず滲み出たような、そんな顔をしながら、自らの膝の上に力なく倒れる相棒の顔を覗き込む。

 

『──────』

 

声を殺し、ハルプは泣いている。魂故に涙など出ない。

キラキラとハルプの末端が光りの粒子となって消えていく。白く、大きさも様々で────美しかった。

 

『ごめ、ん』

 

核を破壊されもはや崩壊を待つのみとなったハルプは、絞り出すようにそう言った。

過去を振り返り、様々な後悔が襲ったのだろう。全て、自分が悪かったのだ。

 

「いっ、いえっ、ありがとうございますっ!」

 

涙ぐみ、つっかえながらも妖夢は礼を言った。ここまで来れたのは貴方のお陰だと。自分としてでは無く、目の前の彼の知る妖夢の代わりに、そう言った。

自分ならきっと、そう思っているはずだ。そう考えて。

 

『・・・・・・・・・・・・じゃ、あ。最後、に。全部、教える、から・・・』

 

その言葉を噛み締めるように目を閉じたハルプは、少し間を置いて目を開く。そこには優しげな笑みがあった。彼の中で全ての決着が付いたのだろう。

 

自身の能力の全てを明かし、目の前の自分の知らない彼女を助ける為に、彼は最後の力を振り絞る。

 

『俺の能力は─────────』

 

 

 

 

 

ひときわ大きな白い光が、ポゥ・・・と空へ飛ぶ。

光りの粒が空に無数に浮遊していた。

 

地上には妖夢が1人立っている。

 

「・・・・・・」

 

その顔には確かな覚悟が刻まれていた。白楼剣を召喚し、楼観剣を握り直す。

 

能力に対する対処法は理解した。

 

ならば斬る、斬って助ける。

 

「今─────行きます!!」

 

息を整え、白楼剣を天に向け構える。白い光りが妖夢に寄り添う様に集まり────白楼剣が眩い光を纏った。

高まる魔力と霊力、そして妖力。スカートがふわりと浮かび、柔らかなボブカットが力の高まりに呼応するように動く。

 

「断迷剣──────」

 

迷い込んだ世界の迷宮に、出口のない迷路に出口を穿つ。

練り込まれた力の全てが白い光となって立ち上る。

 

「──────迷津慈航斬!!!」

 

 

白く長い光の柱が────世界を絶つ。

 

 

 

 

 

 

 









誤字脱字、コメント待ってます。


次回は桜花パート。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

75話『おうっ!俺様登場、真打登場!桜花の悲鳴を聞きつけて、土壇場修羅場にいざ参上!!やって来ましたハルプさん!!』


タイトルが長い!
桜花殿超強化でごザルよ。変なところあったら言ってください。
次回でこの章は最後ですよー。


『いよっとぉ!そうはさせないぜぇ!!』

「っがは!?」

 

何かが体にぶつかり、俺は吹っ飛び転がった。

俺の体に抱きつくそいつは、銀色の髪の毛をしていた。

敵か?という疑問はすぐ様取り除かれる。

 

腹部に痛みが走り・・・・・ハッとした。

 

「ハルプ!?」

『おうっ!俺様登場、真打登場!桜花の悲鳴を聞きつけて、土壇場修羅場にいざ参上!!やって来ましたハルプさん!!』

 

俺から飛び退き、ハルプはそう啖呵を切る。

銀色の鎧を身につけ、その手には白楼剣。・・・・・そうか、俺は白楼剣で斬られたのか。

 

『さてさてさーて?悪い子にはお仕置きが必要だよな?』

「・・・・・ぅ、そ・・・?」

 

なぜかぼんやりとしている頭でそう考える。

妖夢は傷ついた体を抱き締めるようにハルプと対峙していた。その目が、絶望に暮れていた。

 

お仕置き?まさか、妖夢を殺す気なのか!?

止めないと不味い!!

今更ながらにそう思い、叫ぶ。

 

「待てハルプ!!それは」

『チッチッチ、言うな。分かってらぁ!』

 

そう言って楼観剣まで取り出したハルプ。絶対に分かってないだろ!!

妖夢は最早動く事すらままならない筈だ・・・・・!諦めるな・・・・・まだ、届く!!

 

────体が雷を纏う。詠唱無しで使う魔法。

 

助けなくてはと言う感情が、限界を超えさせた。

縮む視界。全てが引き伸ばされる様な状態で、俺はハルプに攻撃した。

 

『なにー?!』

 

ひねりを加えた一撃。今の俺に許された全力。

怪物を殺すための槍。

その一撃はハルプに直撃し、爆発。

 

「妖夢!無事か!!」

「だ、め・・・・・白楼剣、をつかっ、て・・・・・」

「そうか!!白楼剣!」

 

ボロボロの妖夢にそう指示される。そうだ白楼剣なら魂を斬れる!!

辺りを見渡し、地に突き立つ白楼剣を見つける。雷を纏ったまま急行。白楼剣を握ろうとしたが・・・・・それよりも先にハルプが掴んでいた。

 

くそ!速い!

 

俺を見上げ、真剣な顔でハルプは言う。

 

『・・・・・桜花、白楼剣は魂魄の血筋しか使えない。止めるんだ、凄い痛いぞ』

「・・・・・・・・・・俺は、妖夢を助ける」

『にしし、ならやめときな?』

「いう、事を、聞いたら・・・・・ダメ!」

『テメェ・・・・・ふざけ』

 

幻の正体がハルプなら、切り倒してでも進まなくてはならない。

だから・・・・・!

 

「ふんっ!!」

『ちィ!!』

 

発勁で吹き飛ばし、白楼剣を掴む。

その瞬間、視界が点滅した。

それが拒絶反応だと気がついたのは痛みを認識してからだ。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!?!?」

 

 

視界が点滅し、体はおぼつかない。

思考だって、上手くいかない。

 

だが、守るべき者が後ろにいる。

 

ならば、立つ。

 

単純化した思考で、そう願った。

 

「ハルプ・・・・・お前を、斬る!!」

『あ、あっれれ〜?正義の味方参上とか言ってたのに・・・・・なんか俺、悪者みたいになってんじゃん?おかしいなぁー』

 

斬る。真っ直ぐ、全速で、単純に。

考えるな、斬ればわかる。妖夢だってそう言っていた、あの時は「んなわけ無い」と言った。

ニヤニヤと笑うハルプに、俺は全力で斬りかかった。

 

「ぉおおおお!!」

『っ、マジかよ!白楼剣振り回せんのか桜花!?何ですか、気合いですか!?気合いの力ってスゲー!』

 

ハルプが俺を避けて妖夢に向かおうとする。だが、俺はそれより早くハルプの前に立ち塞がる。体が異様な程に軽い!!行けるか・・・・・?!

 

『はっやい!?おいおい!?桜花お前そんな速くなかった筈じゃ・・・・・!?』

 

俺の全力の攻撃は、全て受け流される。

雷を纏っていると言うのに、鎧のせいなのか全く効いていない。

魔力の全てをつぎ込んででも、加速する。

 

『桜花聞け!』

 

速く。

 

「聞かん!!」

 

速く!

 

『なんだとぉ!?』

 

速く!!

 

「ぉぉぉぉおおお!!!」

 

全力の振り切り。死体と血煙が巻き上がる。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・おい、桜花。話を、聞け』

「はぁあああ!!」

『あぁクソが』

 

ハルプが指を鳴らした。隙だらけだ!俺の全力をかけて・・・な!?

 

 

─────俺は空を見上げていた。

 

なにが、起きた・・・・・?

咄嗟に周囲を見渡す。ハルプがこちらを見下ろしている。

 

『話しを聞けって、言ってんだろ?』

 

苛立ち、俺の腹を小突く。痛みは無い。それどころか、少し嬉しそうに見える。俺を無力化できたから、楽に殺せると、そういう事か・・・・・!

 

『白楼剣握って尚且つ魔法まで使うとか、魔力枯渇すんぞ?』

 

他に勝つ方法なんてないんだ、なら、これでいい。

俺は立ち上がろうとして失敗する。

 

『はぁ、止めないか。ならいいさ、そこにいろ』

 

ハルプが右手に白楼剣を持ち、妖夢の方へと歩いていく。止めなくては。

 

「待て!ハルプ・・・・・!くそ、なんで動かないんだ!?」

 

ハルプが白楼剣を掲げる。

妖夢が儚げに、こちらを見て微笑んだ。

 

─桜花は悪くないよ─

 

そう、口が動いた。

 

「クソがっ!!」

 

動け、動けよ!?お前は何がしたいんだカシマ桜花!!助けたいんだろ!?妖夢を助けたいんだろ!!!

こんな情けなくて良いのか!?団長ならもっと・・・・・!

 

──夢想するのは過去の妖夢達。

 

黒いゴライアスとの死闘。あの時、あの2人は身を呈して戦った。体を張ったんだ。

なら、俺も。団長の俺も──────!

 

「─────体をはれぇええええ!!」

 

──何が壊れた音がした。

 

『────っ!!』

「はぁ、はぁ・・・・・殺らせないぞ・・・・・」

『ははっ・・・・・1%を超えやがった』

 

ハルプがため息をつきながら笑い、2歩ほど退る。そして刀を構えた。

 

(だめ、です)(・・・・・逃げて)

「もう、俺は逃げたくない」

 

もう、逃げられない。これ以上は。

槍を構えハルプと対峙する。

 

『運が無いな、俺は。でも・・・・・』

 

物理的な圧を感じるほどの、殺気が俺を押し退けようとする。足に力を込め、睨みつける。

 

『勝てないぞ、桜花じゃ』

「ッ!!」

 

神速の一撃。

刀同士がぶつかって火花が散る。というか、火花しか見えない。

速すぎる。防げたのは単なる偶然。構えていたら、そこに当たった。ただそれだけの事。

 

「ぐふっ!!がっ!」

 

吹き飛び死体の山に突っ込む。

 

『はっはっは、桜花、諦めてくれ。これはお前の為なんだぞ?』

 

まだ、遅い・・・・・!!

魔力を雷に返え、更に速く。

 

『おー速いねっと!!』

「んぐぁっ!!」

 

蹴り。

俺の全速力はあっさりと蹴り破られる。・・・・・だがやられっぱなしになる訳がない。タケミカヅチ様に鍛えられたんだ、まだ、何とでも・・・・・!

 

『───ありゃ?』

 

蹴り飛ばされる衝撃と勢いを利用し、逆に投げ飛ばす。

そしてそこに袈裟斬り。大量の白い光が空へ飛ぶ。

 

『あぁ───痛い。とても痛い。まぁだが、嫌いじゃない。どうせ消えるなら、最期くらいは、一人くらいは・・・・・助けたいからなッッ!!』

「ぐっ・・・・・!!ぁあ!!」

 

ぐらりと揺れながら立ち上がったハルプは、陰鬱とした表情から一転、烈火の様な表情で、そう叫ぶ。

 

そして俺は反応すら許さず、吹き飛んでいた。

 

「ぐ・・・・・」

 

立ち上がり、ハルプを見る。その顔は、何処か覚悟を決めていた。

 

『立て桜花。お前はきっと、違う道を歩める。なら、餞別だ。ここで今のお前の限界まで、強くなれ。そうすりゃあお前は俺を殺せるさ』

「上・・・・・等ッ!!」

 

白楼剣を握りしめる。熱をあげて反発する白楼剣により手の表面は焼け爛れ、白楼剣とくっ付いている。だが、好都合だ。これなら疲れで落とすことも無い。

 

雷を滾らせて、構える。

ハルプも自然体で構えた。

 

俺は雷に全神経を集中する。

 

ハルプが地を蹴る音、それよりも速く、バチッと雷は反応した。それに従い、俺は屈む。頭の上を白楼剣が通り過ぎる。

 

『!』

 

驚いた顔のハルプの顔を狙い、突き上げる。

顔をそらされ回避、蹴りを放つハルプだが、バチッと雷が反応する。

 

「おおぉぁ!!」

 

雷は金属に反応する。雷を纏い、雷の動きが分かる俺は、鎧を着て刀を振るうハルプの動きを、接近された瞬間、ほんの一瞬だけは理解できる。

 

バチッ、バチッ、バチッィ!!

 

音が響く。剣戟が鳴る。何かが潰れる音が響く。

 

剣圧は風を巻き起こし、剣閃は光を乱反射した。

 

互いに、傷が増えていく。

 

圧倒的なステイタスの差を、魔法でどうにか埋めながら、俺は薄氷の上の戦いを繰り広げた。

 

右から来る。下に屈む。蹴り上げが来る。後ろに退る。振り下ろしだ。刀を水平にし、流す様に受ける。

 

頬を刀が滑る。吹き出す汗、流れ出る血液。それらを雷て吹き飛ばし、俺は白楼剣を奮った。

 

小さく、傷付けた。白い光が少し飛ぶ。

 

戦いの中、ハルプの顔は百面相を繰り返した。

 

嬉しそうだったり、陰りを見せたり、楽しそうにしたり、悲しそうにしたり。傷付けられれば少し怒り、俺を傷付け「してやったり」と自慢げな顔をする。

 

でも、常に、笑っていた。

 

不思議な感覚だった。手に汗握る、一瞬の油断も出来ない戦いなのに、意識だけは、それを少し離れた場所から見ていた。

 

俺は今、目の前の少女を・・・・・ハルプを、別の誰かだとは思えない────

 

「がはっ!!」

 

突如、腹部に重い一撃を受けた。思わず膝をつき、白楼剣を杖にして体を支える。

 

『────これはとある男の話だ。』

 

ハルプは突然、そう語り出した。

 

『男はとあるファミリアの団長だった。皆からの信頼は厚くく、実力もあって人望もあった。責任感も強く、常に苦悶していた。』

 

何処か遠くを見るように、悲しげに二刀を消し去る。

 

『ある日、その男の家族は気が狂ってしまった。それをどうにかしようと、その男と家族は立ち上がった。ファミリアの者達はそれを知らなかった、けど、感じ取って協力した。集結するファミリアの面々に、その男は感動して、狂った家族を救おうとみんなを鼓舞した。』

 

気が付けば鎧も消え、普段の服装となったハルプは、ゆっくりと俺の方に向かってくる。

 

『だが、狂った家族は不思議な力を持っていたんだ。男達は皆、不思議な世界に飛ばされた。荒野の世界、矛盾の世界、死体の世界、孤島の世界。男は死体の世界に飛ばされた。』

 

ハルプの話に、聞き覚えがあった。だが、確信は出来ない。立ち上がろうと踠くが、上手く力は入らない。

 

『男は絶望した。どこを見ても、知っている顔ばかり、どこを歩いても、愛する家族を踏みつける。心が変な音を立てた。男は気絶し、暖かな布団で目を覚ます。そこには家族が居た。姿こそ変われど、変わることのない家族が。』

 

語り部口調になり、ハルプの話しは進んでいく。そして、進めば進むほど、俺に当てはまっていく。

 

『家族は男に協力した。元の世界に帰るために。しかし、男はその家族も助けようとした。心が折れそうになる旅を続けた。やがて、心は折れた。家族はそんな男を心配し、命を捨てて戦った。』

 

妖夢を見る。出血が酷いのか、目は虚ろとなり、今にも死んでしまいそうだ。どうにかして動かないと、助けられない。

 

『男は悲しんだ。男は感謝した。男は・・・・・家族を信じた。─────────そして、裏切られた。』

 

ハルプの声が低くなる。憎々しげに妖夢を見た。

妖夢が、少しだけ、身じろぎしたように見えた。

 

『罅に飛び込めば、元の世界に帰ることが出来る。男は家族を信じ、飛び込んだ。そして』

 

ハルプが叫ぶようにして、手に刀を作り出す。

・・・・・帰れるのか?話を聞いて、少し迷いが生まれた。

 

『また、繰り返した!!!』

 

怒り。堪えようのない怒りが、ハルプを支配している。それがはっきりと分かる。

俺はひたすらに困惑していた。

 

『男の心は砕けた!!なんど罅に飛び込んでも、元の世界には帰れない!!帰ることが出来ない!何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!!!・・・・・家族を踏み付け、2度と会うことは無いと、そう思った。』

 

疲れたように、息を吐く。

 

『・・・・・・・・・・俺が、そいつを見つけた時、もう・・・・・ダメだった。廃人だ。義務感、罪悪感、正義感、猜疑心、疑問、疑惑・・・・・ありとあらゆる感情が、そいつの心を粉微塵に砕いちまった。』

 

ハルプの目が、赤く輝いて見えた。

 

『だから、変えに(助けに)来た。お節介と言われようが邪魔だと斬られようが知ったことじゃねぇ。俺は助ける。タイムパラドックスで俺は消えるだろうけどな、だからこそ殺されるつもりで助ける!!』

 

ハルプが俺を捉える。俺は・・・・・目をそらした。どうすれば良いのか、分からなくなってしまう。

 

俺は、妖夢を信じてきた。なら、信じきるべきだと、俺の心は言う。

だが、理性が待ったをかける。ハルプの情報に嘘は見られない。

 

『桜花、お前は─────砕けてくれるなよ』

 

ハルプが妖夢の元に歩いていく。ゆっくりと、しかし、確かな足取りで。

 

俺は、まだ、迷っている。

 

情けない。俺はダメなやつだ。どうして、こんな。

 

自分を責める。責めてばかりで進まない。

 

だからダメなのだと、理解しているのに進めない。

 

ハルプが何かに気が付いたように、固まった。

 

『・・・・・・・・・・お前妖夢じゃないな。いや、妖夢だけど、俺が混じってる』

 

そんな声を聞いて、顔を上げる。どういう事だと聞こうとしたら、ハルプは妖夢の顔から眼帯を引きちぎる。露出する、赤い瞳。

 

『・・・・・貰ったのか。』

「・・・・・」

 

ハルプの問に、ゆっくりと妖夢は頷いた。

 

『・・・・・後悔は、あるか』

「・・・・・」

 

妖夢は上半身を起こすのも辛そうにしている。だが

頷く。

 

『その目が、この世界の基点になっている。・・・・・渡してくれるか?』

「・・・・・」

 

・・・・・妖夢は首を横に振る。

もしも、その基点とやらが無くなれば帰れるのだとして妖夢も助けられるのだろうか。

 

「ハルプ、その基点を壊せば、助かるのか!?妖夢は!」

『あぁ』

 

突如降って湧いた朗報に、浮き足立つ。俺は気が付けばハルプを信用していた。

 

「妖夢!その目を、諦めてくれないか?お前を助ける最後のチャンスなんだ!」

 

俺は妖夢に駆け寄る。いつの間にか、体は動くようになっている。

妖夢は悲しそうに目を伏せる。顔は血が足りないのか青白くなっていた。体は震え、もう助からないかも知れない。

 

「何でだ妖夢、俺は・・・・・・・・・・お前を、助けたいんだ」

(ごめん、なさい・・・)(やっと、見つ、けて・・・)(離したく、無くて、)(騙して、ずっと、一緒にって、)(思って・・・・・)

 

ポツポツと、消えそうな声で明かされる妖夢の心境。

長年一人でいて、大切な誰かに似た何かを殺し続け、やっと、やっとの事でであった家族は・・・・・すぐさま帰ろうとしていた。

 

だから、離れたく無かった。

 

仮に家族の元の世界に自分が行ったとしても、邪魔になるだけだ。

 

だから、止めようとした。でも、帰ろうとする家族は必死で、自分がその立場だったらと考えて・・・・・止めることが出来なくて・・・・・少し魔がさして騙してしまおうと考えた。

そうすればずっと一緒にいられると思ったから。

 

 

ゆっくりと途切れ途切れに語られる妖夢の心境に、俺は様々な気持ちを抱いていた。

 

騙されたのか、と言う確かに落胆もあった。けれど、それは些細なものだ。

根底にあった守りたい、助けたいと言う想いは曇らない。

 

「・・・・・居てやるさ、ずっと。だから、行こう。」

 

俺がそう言って笑い掛ければ、妖夢は目を見開いて・・・・・涙を流しながら笑った。

 

「ありが、とう・・・・・!」

 

妖夢は必死に声を絞り出しそう言って、俺に抱き着いた。

その背中を確りと抱き締め返し、ハルプを見る。

 

『やれやれ、なんだかなぁ・・・・・必死こいて助けに来たのにねぇ。お前ら帰ったら俺消えんだぞっ!うあー、そうやってイチャイチャすんなよ!!』

「ありがとう、ハルプ。助かったよ」

 

ハルプにお礼をする。こいつがいなければ、俺は絶望していたのだろう。そう思うと、感謝の気持ちが溢れ出す。

 

『はぁ〜・・・・・死んでしまえ、この朴念仁が。』

「なんでだ!?」

 

 

 

その後、ハルプが妖夢から赤い瞳、基点を取り出し、破壊。

すると、地面を覆い、空から垂れ下がる死体たちが光となって消えていく。

 

「「うわぁ・・・・・」」

 

ハルプから治療を施された妖夢は、少し元気を取り戻し、窶れた顔も、少し良くなった。そしてこの光景に感嘆のため息をつく。

そして、ハルプから色んな話を聞いた。

 

ハルプの能力の話し。

基点について。

世界の脱出方法などなど。

 

話し終えて、ハルプは腕を組んで頭を悩ませる。

 

『・・・・・むー、気に食わん。俺だけ消えて、みんな無事とか・・・・・許さん!という訳で桜花!勝負だ!!俺の技色々と教えてやんぜ!!』

 

まだ教えてくれるのか。と少し笑う。するとハルプは『何笑っとんじゃー!』と飛びかかってくる。

ハルプは消えてしまうのだという。だが、俺は心配してなかった。ハルプ本人も決して深く考えている様子もない。

 

ハルプは言った

 

『消えるっつっても、未来から来ただけだし?例え消えたとしても?この時代の俺はいる。そして、俺よりも長くお前達と居てくれる。なら、いいじゃん?ね、ね、いいよね?』

 

なんだか最後の方が心配そうだったが。

 

 

 

 

『うし、じゃあ、やるぜ?』

 

ハルプは刀を肩の上まで水平に上げている。

あの構えを俺は知っている。「燕返し」だ。決して回避の出来ない魔剣。

 

『最後に、教えてやるよ』

 

ハルプがそう言うと、ふと、出来る気がした(・・・・・・・)。そうか・・・・・これが、ハルプの能力か。体験してみて分かる、理不尽さ。

 

「『秘剣──────』」

 

俺だって何度も練習した。追いつくために、追い抜くために。

ハルプが優しげに笑う。

 

過去に何度も何度も反復練習をくりかえした。

結局出来なかったが・・・・・今なら、行ける!いや、やらなきゃならない!!ハルプの意思を無駄にしないためにも。

 

「『燕返し───!!』」

 

合計にして六つ。俺に向かってくるのは三つ。そのどれもが即死の一撃。俺は三つを全て防御に使う。

 

『じゃ、終いだ。終わらせろ、桜花!!』

「・・・・・応!!」

 

三本の刀を三本の刀で受け流す。

受け流し、開かれた中央。ハルプへの最短距離。

 

即座に弓を引くように刀を構え、魔力の殆どを雷に変え、雷を全て刀に纏い・・・・・放つ、文字通りの全力。

 

「牙突────雷式!!」

 

 

───俺はきっと、この日の事(悪夢)を忘れない

 

 

─────選択(間違い)を、忘れない。

 

 

─────後悔(悲劇)を、忘れない。

 

雷の閃光は弾け、大量の光が飛び散った。

残心も程々に、倒れるハルプを受け止める。

 

『いいね、良い、一撃だ。桜花・・・・・団員たちが、お前を待ってる。皆、あの時、傷を負った。多くの者が、血を流した。帰ってこなかった奴らが居た。だから、お前が助けるんだ。桜花、俺の歩んだレールから抜け出した、お前にしか頼めない。』

 

ハルプが俺の手を掴む。俺も握り返した。

 

「俺を誰だと思ってるんだ?」

 

ニッと笑って、ハルプに問いかける。

 

『ムッツリの意気地無しの情けない団長様、だろ?』

「うぐっ・・・・・そ、そうだな!!そうだよ、悪かった!!・・・・・だから、変えてくる。助けてくるよ」

『ふふ、あぁ、任せたぜ。』

 

ハルプが手を翳す。すると、空間が捻じれ、トンネルようなものが出来上がる。これを通れば、次の世界だ。

 

『これを、持っていけ。ほかの世界に行くのにも、帰るのにも必要だ。・・・・・でも、帰るときは、そこにいる俺を倒すしか無い』

 

ハルプが俺を呼ぶ。手を差し出してきたから、手を受け皿のようにして待っていると、べちょっと目玉が落ちてきた。驚いたが、先の妖夢を見ていたからか、やり方は分かる。

 

「すぅ─────ありがとうな」

『おう!』

 

俺は自分の左目を引っこ抜く。

 

「んぐっ・・・・・・・・・・ぁぁ!い、てぇっ・・・・・!!」

 

そして、そこに赤い瞳を嵌め込んだ。

 

『それでそれは、お前のものだ。消えないし、無くならないよ。・・・・・頑張ってくれよ?桜花』

「あぁ────任せろ」

 

 

 

───────()よ、唸り轟け(鳴り響け)

 

 

 

「────待たせたな、お前達。」

 

俺が辿り着いた世界は────矛盾の世界だった。

 

「桜花殿?!」「桜花!!」

 

 















次話は既に書き終わっているのです。頑張るのです。

コメント、誤字脱字報告いつでも待ってます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

76話「『ただいま!!お父さん!』」


次回からは前の様な感じです。
この話は二週間前くらいに書き終わってましたが、これでいいのか不安。

久しぶりに描いた挿絵どぞ(本編とは一切関係がありません)。挿絵というか練習のやつ?


【挿絵表示】












雷と共に現れたのは桜花殿だった。

 

「行くぞっ!!」

 

桜花殿は瞬時に周囲を確認し、状況を判断。後に即行動に移した。

雷を身に纏うと私の目では追えないほどに加速し、瞬時にハルプ殿を斬り裂いた。

 

しかし、斬撃はハルプ殿には効かな───い?

 

『うぐぁっ!?き、君は、魂魄の・・・いや、違うな、君は違う。そうか、強引に使っているのかっ。腕が使えなくなっても知らないぞ君っ!』

「かまわんッ!!」

 

桜花殿の斬撃が増える(・・・)。回避困難な無数の攻撃に、ハルプ殿は劣勢となっていく。斬撃が当たる度に、白い光が飛んでいく。ハルプ殿の忠告の一切を無視して斬撃を重ねる。

 

妖夢殿の時と同じで、効いている。

 

「───────援護します。来い、楼観剣!!」

 

突如響くやや低い落ち着いた女性の声。そちらを振り向けば、長い銀髪を靡かせた眼帯の女性。青い目が私たちを一瞬捉え、ニコリと微笑む。

 

「雨ですか、なら──攻式一の型 車軸の雨」

 

空の模様を確認し、両手で楼観剣を構えた女性は楼観剣に水を纏わせる。そして───突撃していた(・・)。先の桜花殿よりも速く加速した。

 

『何!?』

「そんな技もあるのかっ!」

 

ハルプ殿の胸元を貫き、吹き飛ばす。桜花殿がニヤリと笑って後方に下がり、刀を構えた。両手で、さっきと同じような構えだ。

 

「攻式一の型 車軸の雨・・・・・・だったか。よし」

『うぐ・・・・・・全く酷いものだね、なんの名乗りも無しにコレとは』

「名乗る名も無いでしょう?なら、斬ります」

『蛮族め』

「生憎お化けは嫌いですから」

 

女性とハルプ殿が武器を構えて牽制し合うなか、桜花殿は水を刀に纏おうとして断念し、雷を纏って突撃した。

女性は水を操るような剣技で、水の壁を作ったりして戦況を変えていく。

 

「千草殿、我らも参戦・・・・・を!?」

「桜花が女の人を連れて、桜花が桜花が・・・・・・ブツブツ」

「ま、不味い・・・・・・」

 

千草殿が錯乱しているので元に戻してもらおうと桜花殿を見るが、女性と完璧な連携で立ち回っている。見る者にはわかる動きだ。以心伝心、一蓮托生。お互いを完全に信用しているからこそ出来る動きだった。

 

千草殿ならもっと分かるだろう。目がいいし、その、桜花殿を見てきましたから。

 

「ブツブツ・・・・・・ブツブツ・・・・・・」

「ち、千草殿御免!」

「あうっ!?」

 

千草殿に峰打ちを決め沈ませる。後ろから弓矢を射られてはたまらない。

今は色恋沙汰に現を抜かしいている時では・・・・・・っ!?そ、そう言えばタケミカヅチ様はどちらに!?

 

「早く帰らねば!!助太刀します!!」

 

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ僕達はあの子が戻ってくる前に、もう1度探索に出かけよう」

「いいの?ご飯取りに行ってるって・・・」

「事態は急を要する、食事は後でもいいだろう」

「そ、そうですねっ!」

「俺はいい」

「無理なだけでしょ?」

「うるせぇ」

 

アイツらが皆海に出掛けていく。俺は泳げない、だから島に残る。

 

・・・・・・行ったか。

 

「もういいぞ」

『うん』

 

透明化(・・・)していたハルプが姿を現した。傍から見ても落ち込んでいるのがよく分かる。

ったく、馬鹿な奴だ。やめとけって言ったのによ。

 

「・・・・・・気は済んだか?」

『うん・・・ありがと』

「はっ、ざまあみろ。」

 

なにがみんなの気持ちが知りたいだ、信用されてるわけねぇだろ。

 

「俺達はな、他のお前を知ってんだ。お前は外見以外、ソイツと違う。それだけで冒険者って奴らは怖いんだよ。俺らからすればお前は、知人に化ける怪物でしかねぇ。・・・・・・よく覚えとけ」

『ごめん、なさい』

 

そう言って座り込む。

・・・・・・はぁ、なんだかなぁ。

 

「で?おい、どうすれば帰れるんだ?」

『・・・・・・本当に帰っちゃう?』

「当然だろ」

『うぅ、そうだよね。』

「むしろ何で帰らないと思ったんだお前は」

『だって嬉しかったし・・・・・・』

 

嬉しかったし、じゃねぇんだよ。

 

「俺達は帰らないといけねぇんだ。理由はそれぞれ違うだろうが、みんな理由がある。それをテメェの感情で決めつけんな」

『うん、分かったよ。みんなが戻ってきたら帰してあげる』

「おう」

『だから・・・・・・その、もう少しだけ、みんなと一緒にいてもいい?』

「・・・・・・おう、それなら文句は言われねぇだろうよ」

 

はぁ、これだからガキは嫌いなんだ。

 

「次は海か!!」

「そのようですね!」

「桜花が、桜花が・・・・・・」

「千草殿!?どうか抑えて・・・・・・!!」

 

!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一撃が大地を揺らす。

 

「─────っ」

 

だがそれは決定打になり得ない。どれだけの攻撃力で殴りかかろうと、それは自らに牙を向くだけだ。

タケミカヅチはハルプの攻撃を受け流し、戦闘を行っていた。

 

「──────シッ!!」

 

タケミカヅチの斬撃。流れるような動作から放たれる完璧な一撃だ。あまりに美しい太刀筋は基本的でありながら、ハルプの能力による束縛から外れて見せる。

 

つまり、ハルプは避けることが出来ない。

 

可能性を知覚し、目視し、操作する。それこそがハルプの能力。世界の増減とも言える規格外を斬り捨てる。

ハルプが三手先を読むのなら、タケミカヅチの全力の剣技は三十手先を行く。

 

『───────!!!』

「この程度」

 

声にならない叫び声が周囲の空気を弾き、衝撃波として放つ。

タケミカヅチはそこに合わせ、発勁を打ち込んだ。達人の域をはるかに超える神は音速に届いた衝撃波を簡単に打ち消す。

 

力と力がぶつかり合い、ソニックブームが周囲を蹂躙する。

 

「はあぁ!!」

『ぬぅあっ!』

 

タケミカヅチは今、「権能」を使っていた。

 

神々は地上で権能を振るう事を許されていない。いや、自らで制限をかけた。人のように振る舞いたい、そう思ったから。

 

しかし今のタケミカヅチは「人」では無い。紛れもない神である。

─────だが、それ以前に1人の父でもあった。

 

「─────────!!!」

『──────────!!』

 

タケミカヅチが解放した権能、それは「全てを斬る」剣神としてのそれだ。

 

タケミカヅチはハルプの能力を斬りながら(・・・・・)戦っている。そうしない限り、彼の攻撃が届くことは無く時間稼ぎにしか・・・・・・否、時間稼ぎにもならないからだ。

 

『──!?』

「無駄だ。諦めろ・・・・・・!!」

 

タケミカヅチが刀を振るう。そうすれば可能性は斬られた。

 

「お前が俺の可能性をどれだけ下げたとしても、関係はない」

『ナ、何でだよ!?』

 

歩ける可能性、進める可能性、動ける可能性。全てを弄られ最低まで下げられてなおタケミカヅチは歩き、進み、動く。

 

「簡単な話だ────斬り落とした。」

 

仮に、歩けない可能性を99%にされた時、タケミカヅチが歩ける可能性は1%。では、99%を切り落としたらどうなるだろうか。

残るのは1%。つまるところ────100%、確実に歩けるのだ。

 

「子はいつか親を超える。だが、それは今では無い。」

『うグッ!』

 

深々と体を斬られ、ハルプがよろけながら後退する。タケミカヅチの全てを斬るという権能は、魂に対しても例外では無い。

魂も────いや、死という概念ですら斬ろうと思えば彼は斬るだろう。

 

「今のお前は何だ。武士でなければ剣士ですら無い!」

 

ハルプの能力はいわゆるチートだが、タケミカヅチのチートはその上を行く。

 

「技は無く、あるのは本能任せの暴力のみだ」

 

完璧なフェイントから、刹那の間に斬撃が飛ぶ。数にして二十。正面から放ったというのに、全方位から斬撃は迫る。

 

『クソがァ!!!』

 

とは言え、タケミカヅチとて無傷ではない。ハルプの攻撃のすべてを防ぐ事はしていなかった。戦闘に支障が出ない場所への攻撃は無視して、少しでも多くダメージを与えようと刀を振るっていたからだ。

 

防御を捨てた攻めの型。先手必勝を地で行くその戦い方は、怪物に対しては有効とは言えない。

如実に現れる耐久力の差がタケミカヅチに傷を負わせていく。

 

「ぐっ・・・・・・!!」

『そこだぁあ!!』

 

ハルプの叩きつけが地面ごとタケミカヅチを吹き飛ばす。

吹き飛ばされ、地面を滑るタケミカヅチ。それを追って跳躍し、全力の振り下ろしが放たれる。

 

「ぉぉおお!!」

『っにぃ!?』

 

地に足がつかない状況での受け流し。困難を極めるその行為を武神は成す。受け流した勢いのままに立ち上がり、刀を振るう。

 

幾度と無く斬撃が煌めく。

 

「お前の能力は通用しない。俺は俺だ。ありとあらゆる世界があろうとも、この俺は変わらない。お前の父である俺は、変わってなどやらん!」

 

彼の身体能力は人間レベルまで下げられている。なぜその状態で戦っているのかといえば、それは父親だから。父親としての姿で勝ちたいのだ。この勝負の勝ち、それは妖夢の生還まで戦うことだ。いつ帰ってくるかなど、分からない。しかし、魂を斬れば正気に戻りかけることも分かっている、故に攻める。

 

「どれだけの俺が居て、その全てがお前に負けたとしても・・・・・・俺は負けない。故に効かん!」

 

どれだけたくさんの負ける可能性(負けた可能性)があろうとも、自分(・・)は負けない。

屁理屈でも嘘っぱちでも無い。単なる意地。単なる気合い。

他の可能性が無いのなら、今こそが全て。自分が負けなければ負けない。それだけの話し。

 

『がハッ!!ぐぇッ?!グぁっ!?!』

 

暴走し能力が強化されてなおハルプは劣勢であった。瞬時に手足が寸断され、首が飛ぶ。

残る魂で身体を再構成し、立ち上がる。が、繰り返される。

 

「────どうした、立て」

 

タケミカヅチが介錯をするかのように、膝をついたハルプの横に立つ。すると

 

「タケミカヅチ様!!」

 

突如上から声が降り注ぐ。そして体にかかる液体。見る見るうちに体の怪我は無くなり、体力も戻って来た。

 

「猿師!?何をしている!早く春姫を」

「春姫殿はモンスターに連れ去られたでごザル!!」

「なっ!?」

「ご心配召されるな!信じ難い事ではごザルが、彼奴等には理性と知識がある模様でごザル!!まずはハルプ殿を元に戻すことを優先しましょうぞっ!!」

 

そう言って猿師は屋根から飛び降り、タケミカヅチの隣に着地する。どうやら猿師は既にゼノス達と遭遇したらしく、会話の後に信用する事にしたようだ。猿師の珍しい言葉遣いに「ふっ」と笑い、ハルプを見る。

黒々とした罅は未だ痛々しく、赤く点滅する目は確かにタケミカヅチを捉えていた。

 

「どうやら、本当らしいな」

「なぜ信用を?とてもではござらんが、信用には値しない情報でごザルよ?」

「ハルプが動かないなら、恐らくタダの怪物では無いのだろうよ。さて、待たせたな妖夢。行くぞ!!」

『うるせぇバーか!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬撃が世界を断つ。私は元の世界に戻ろうとしていた。

 

「【幽姫より賜りし、汝は妖刀、我は担い手。霊魂届く汝は長く、並の人間担うに能わず。――この楼観剣に斬れ無いものなど、あんまりない!】・・・・・・楼観剣。」

 

武器を作り直し、戦いのために準備を整える。

 

「【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】・・・・・・白楼剣。」

 

いざ元の世界・・・・・・いや、元の世界・・・・・・ではないですけど、あの子のいる世界に戻ろうとして、あの方に出会いました。

 

「今なら帰ってこれるわよ?」

 

「いえ紫様。私はあの子を助けます」

 

「あなたがあの世界で邪魔者だとしても?」

 

「・・・・・・はい。除け者だろうと構いません」

 

「あなたの努力全てが間違っているかもしれないわよ?」

 

「それでもです」

 

「そう、なら頑張りなさい。幽々子もあなたを応援しているわ」

 

「はい・・・・・・頑張ります。」

 

 

白く染まる視界の中で、そんな会話を一瞬交わす。

遠くに景色が見えてきた。もうすぐです、今行きますよ。

 

 

「おおおおおおおおおおおおおお!!!」

『あぁぁああああああ!!!』

「まだ、だぁあ!!」

『いイ加減にっ!!吹き飛べぇえええ!!!』

 

斬撃の痕から私は飛び出した。目に入る光景はタケとハルプの一騎打ち。

その近くでは猿師さんが倒れた団員たちを助け起こしています。

 

「てめぇら生きてるか!?」

「『「!?」』」

 

空間が歪み、ダリルさんがリーナさんとクルメさんを抱いて現れ、その後からオッタルさんがアリッサを抱いて飛び出してきました。クルメさんが青ざめています、余程酷い世界だったのでしょう。

 

桜花たちは?と思っていると、同じ場所から桜花達が現れます。

少し負傷が目立ちますがまだ、誰も死んでないようです。

・・・・・・よかった。

 

「タケ!!今行きます!!」

「その声、妖夢かっ!」

『あぁ!?』

 

あの子が私の方を睨みます。その視線の強さに、少したじろぐ。でも、その程度で止まっていてはきっと何も出来ない。

私も睨み返して刀を抜きます。

 

「はぁ」

 

あの子は一つ、勘違いしている。だから、それを分からせてあげるんです。じゃないと、きっと消えてしまう。だから私が助けます。今までずっと助けてくれたから、そのお返しに。

 

「きっと、私が話を聞けと言っても聞かないのでしょう?なら嫌でも聴けるようにしてあげましょう」

『何ぃ?!テメェぶち殺すゾ!!』

 

あの能力に対する対処法は三つ───一つ、知覚されるよりも早く動くこと。知覚されればきっと干渉される。だから、それよりも速く動けばいい。二つ・・・・・・能力を使わせないこと。

知覚されずに動くことは困難を極めます、なので能力を使わないように挑発しましょう。

 

「ハルプ!?おい何がどうなって!」

 

皆が私を見ています、出来れば何も言わないで欲しいです。ベートさんがやって来ましたが、周囲の状況を見て、冷静になったのか何かを堪えるような表情をして踏みとどまった。

内心でホッと溜息をつき、続ける。

 

「出来ますかねぇ?だって、能力に頼ってるヘナチョコじゃあないですかぁ。クスクス」

『て、テメェえ!!』

 

ハルプと高速で剣戟を交わし、煽る。

 

「悔しかったら人間形態になって刀で戦えばいいんですよーだ!バーカバーカ!」

 

わ、我ながら相手を煽るのは苦手ですが、理性が欠けてる今なら効くはず───!!

 

『イイぜ、乗ってやる!!』

 

ハルプが元の姿に戻りました。恐らくは無意識のうちにやったのでしょう。しかし、罅は依然そこにあり、消えかけていることに違いはないのでしょう。

 

それにしてもさすがあの子です、こんな幼稚な挑発に乗るなんて。

 

「皆さん武器を構えて、決着をつけます!」

「「「「「おう!」」」」」

 

こちらの戦力は多いですが、ハルプに有効打を与えられる人は少ないです。

先の戦いを見る限り、私、タケ、桜花が確定していますが・・・・・・ん?え?誰ですかあの銀髪の女の人?

って、今そんなことを言っている場合では無かったです。

 

「タケ、桜花、行きますよ!!」

「任せろ」

「ふっ、なぁにあと数時間は戦えるぞ!」

 

タケ、無理しすぎです。ですが、下手を撃てばそうなることは確実。短期決戦で行きましょう。

 

『準備は出来タかよ?』

「はい」

 

返事をするのが早いか否か、私は地面を蹴って正面から斬りかかる。桜花とタケがそれぞれ真横に跳んでから前進、ハルプは私の攻撃を刀で弾くと、蹴りを打ち込んでくる。

 

「っ!」

 

蹴りを身体を捻って回避し、肘で顎を打つ。しかし打撃は距離を離すための手段でしかない。

桜花が到着し一閃。大量の火花が散る。

 

防がれた。

 

桜花が目を見開き、伏せる。ハルプの反撃が髪を掠めて風を巻き起こした。

たたらを踏んだ桜花をタケが押して助け、そのまま攻撃する。私もそれに合わせて斬撃を打ち込む。

 

『グぎっ!?』

 

──!?

 

タケの攻撃がハルプの防御を無視して腕を吹き飛ばす。今更気が付きましたが、神威が凄いです。

 

「ぉおおおお!!」

 

無数の斬撃がハルプを切り裂きます。ですが、一撃で吹き飛ばせる魂の量が少ない。強制的に魂を成仏させる白楼剣の方がやはり適している。

 

『っざけんなァ!!!!』

 

ハルプが叫ぶ。両手に楼観剣を召喚し、突貫してくる。構えも振りも無茶苦茶です。持っている武器が楼観剣で無ければ容易く受け流し斬りかかれるのですが。

 

「無駄だと言っているだろ!」

 

えぇ!?

 

た、タケが楼観剣を・・・・・・う、受け流した?タダの刀で?え、えぇ・・・・・・?

 

っとと、そんな気を取られている場合ではありません!タケはもう何してもいいや位の気持ちでいろと記憶が言っています。

 

「俺が抑える!お前達で斬れ!!」

「応!!」

「は、はい!」

『ぐぬぬぅうううう!!』

 

冷静さを失っているハルプは未だに技らしきものを使わない。

チャンスは今しかない!

 

連撃、連撃、連撃。

 

斬撃、斬撃、斬撃。

 

雷撃、神撃、剣撃。

 

「「「はぁああああ!!!」」」

『────!?』

 

肺の中の空気が無くなるまで斬り続ける。肺の中の空気が無くなってもなお、斬り続ける。無呼吸で斬る。

 

「はぁ、はぁ、んく・・・・・・どうですか」

「はぁ、キツイが、まだ、行ける」

「俺・・・・・・も、まだ、行け・・・・・・る・・・・・・」

 

ドサり、と桜花が倒れました。恐らくは魔力枯渇でしょう。みんなを助けるために魔法を使い続けたようですから。銀髪の女性がササッと桜花を助け、避難させる。・・・・・・ほんと誰なんですかアレ。

 

「2人だけだが、行けるか?妖夢」

「はい。大丈夫です」

『まだ!まだだ・・・・・・!』

 

私たちが戦意を新たに武器を構えれば、目に光を取り戻しかけたハルプがぬるりと幽鬼のように立ち上がります。まだまだ戦えそうですね。

 

「死者と、生者の、違いだな」

「体力の差、ですか」

 

呼吸を整える時間は無さそうです。少し不味いかも・・・・・・とその時

 

「妖夢、魔法をよこせ」

 

スタっと私の横に降り立ったのはべートさんだ。そして理解しました。べートさんのブーツは魔法を吸収してその効果を得る事が出来る特別なもの。そして、私の白楼剣と楼観剣は魔法で作り出したもの。

 

「なるほど!分かりました。どうぞ受け取って下さい」

「おう。俺がアイツをブチのめす。お前らは息整えてろ」

 

ニヤリとハルプを見据えて笑うべートさん、それに応えるように、ハルプも微笑む。

 

「何時ぶりだ?こうして向かい合って武器構えんのは」

 

まだ妖夢がレベル2だった時、2人は・・・・・・厳密には3人は戦っていた。

状況は異なるが・・・・・・再戦だった。

 

あの時、妖夢達は自分が負けたと思った。

あの時、べートはこれが勝ちだとは思わなかった。

 

べートがスゥっと目を細め、懐かしむように言う。

 

「あの日以来、お前を忘れたことはねぇ。その糞ガキ面を思い出さねぇ日は無かった。まさかダチになるなんざ思ってもいなかったがよ・・・・・・お前をぶちのめす日が待ち遠しかったんだ。」

 

ようやく来たぜ、その日がよ。そういったべートさんの闘士が燃え上がる。目に見えると錯覚するくらいには。

 

力強く地を蹴った。互いの間を瞬時に埋め尽くし、蹴りを放った。強制成仏の力を持った蹴りはハルプにダメージを与えるに足りる物だろう。

 

「ダチだ何だと散々騒ぎ立てやがって・・・・・・!いざと言う時には頼りもしねぇ!このザコがッ!テメェの小せぇ背中で全部背負えると思ってんじゃねぇぞ!!だから暴走なんてすんだよバカが!」

 

捲し立てるように言葉と連打がハルプに降り掛かる。技術を失ったハルプではその殆どを防げない。

 

『まだだァ!!う"っ!?』

「ザコが!」

 

2本の刀を回避して、膝蹴りからのサマーソルト、背中から落ちるハルプにかかと落とし。地面に叩きつけられ、跳ね上がった身体を蹴りあげ、ローキックで吹き飛ばす。

建物の残骸にめり込んだハルプに全速力での前蹴り。ハルプが建物を突き破って吹き飛んだ。

 

『うっ・・・・・・おえぇ・・・・・・!ク、ソが!』

 

白い光がボロボロとこぼれ、その目が怒りに燃えた。

 

「おいおい、どうしたんだ?レベル2の方が強かったじゃねぇか!ははははは、弱くなったなァ!」

『んだとぉ!?俺は強くなったんだ、家族を救う為に!!友達を助けるために!』

「はっ!今テメェが刀をどんな奴らに向けてんのか、分かってんのか?」

『うるさい!』

 

ハルプの攻撃の合間を縫うようにべートさんの打撃が打ち込まれていく。ハルプが何度も半霊に戻り、復活を繰り返す。

 

「オラァ!!」

 

べートさんの蹴りがハルプの頭を消し飛ばす。

 

「妖夢、準備は良いか」

「はい、もちろんです」

「行くぞ!」

 

タケと共に前進する。ハルプの首が元通りに再生し、楼観剣でべートさんを攻撃している。べートさんはギリギリで躱しながら、反撃を試みている。

 

「────桜花閃々!!」

 

加速しつつ足元を斬り払う。が、回避される。やはり私と同じスキルは持っているようです。

自分が使用した剣技は本能レベルで理解しているようですね。

 

『くそ、くそくそ!なんで邪魔するんだよ!!ふざけんなよ!』

「!」

 

ハルプの声が安定した・・・・・・?いや、正気にはまだ至っていないはず。

 

「父だからだ」

「ダチだからだ!」

 

固まった私とは別で2人は苛烈な攻めでハルプを攻撃する。必死な表情でそれを防ぎ、タケの蹴りで後ろに転がる。

すると立ち上がったハルプの顔は一変していた。

 

『いやだ、戦いたくなんかないんだ。お願いだ、どっか行ってくれよ』

 

ハルプがオロオロと目を揺らしながら、少し後ろに下がる。しかし

 

『うぐっ!?』

 

と呻きながら頭を押さえる。表面がポロポロと床に落ち、光になって消える。もはや体の殆どは底が見えない黒い何かが露出していた。

 

「不味いです」

『もう─────嫌なのに、くく、ははは・・・・・・』

 

ハルプが可笑しくてたまらないと言った風に笑い出す。

 

・・・・・・。

 

一瞬で決めるしか無いようです。予想以上に、時間が無い。

 

「一瞬で決めます」

「あぁ、止めなければ不味そうだ」

「任せとけ」

 

打てば響く。その言葉のように間髪入れずに返事が来る。

ハルプを助けたいという強い想い。それが2人を動かすのでしょう。

見ればべートさんのブーツは至る所に傷が入り、出血している箇所も多い。やっぱりあの子は愛されているのですね。

 

ならば、なお更に。

この自体を引き起こした私が止めなくては。

 

「──────手出しは無用です。」

 

「私」はこの人達とは無縁だ。

けれど『私』はこの人たちの家族。

 

「なっ?!」

「おいガキ!何言って」

 

だから「私」は『彼ら』を斬ろう。これは私にしか出来ない事なのだから。私がやらねばならないことなのだから。

 

「私は斬る。斬らねばならぬ。斬れぬものなど無い。斬れない等は有り得ない。斬れぬなら────死ね!」

 

過剰なまでに自己暗示を重ね、神経を集中する。世界が伸びるような感覚と共に、詠唱を開始する。

 

「【覚悟せよ(英雄は集う)】───」

 

自らの腹を捌く覚悟を持って、自らを死の淵に置いて刀を研ぎ澄ます。

 

「【男は卑小、刀は平凡。】」

 

今詠うこの法は、弱者が強者を穿つ逆転の術。

 

『【此度、修羅は顕現す】』

 

ハルプが詠唱を開始した。どうやらあの子も私と同じ考えのようだ。

 

「【才は無く、そして師もいない。】」

『【修羅、一刀にて山、切り崩し】』

 

私とは真逆、恵まれずに育ち、決して折れなかった1人の剣士の運命・・・・・・それを詠唱にしたもの。

自分に出来ないことを可能とする魔法は、きっと叶えてくれるだろう。

 

「【頂き睨む弱者は落ちる】」

『【頂きは地へと落ちる】』

 

思い出せ、かの技の名を。そして斬れ、我が半身を蝕む邪なる霊を。

我らが血族に伝わる魔を払う霊刀よ。迷い断つ剣よ。

 

「【その身、その心、修羅と化して】」

『【時過ぎし時、男、泥のように眠る】』

 

私は迷った───────故に力を貸すがいい!

 

『一刀修羅ァア!!』

 

発動し加速する。私に向かって一直線に。勝利を確信した笑みだった。

 

あの子は強い、あの子は私よりもきっと凄い人物だろう。

 

だが、私は────その上を行ってみせる!!いや、行きたい!!

 

 

願って口にする。

 

 

「───【我が身に羅刹の()を刻む】!!」

『!?』

「一刀──────」

 

あの子がブレーキを掛ける、もう遅い。

 

「羅刹ッ!!!!」

 

世界が止まる。

 

一刀修羅の強化倍率を数百倍にまではね上げる。全てを一瞬にかける無謀な技。ですが神の恩恵を受けた者が使えば・・・・・・!

 

私が地をける。あの子は無反応・・・・・・いや、違う。動いていない。

単純に私が速すぎた。速度が上がったのに加え私の身体能力も引き上げられている。それによって普通に感じているのだろう。今はきっと、私は光に近い。

 

「未来永劫斬!!!」

 

技に込める想い、これから先も共に居たいからとこの技を選んだ。

斬って斬って、斬る。自分の身体中から血が噴き出す。

 

あの子への対処法、三つ目──それはトライ&エラー。

あの能力は1%以下から99%以上までを自由に操れるという物、但し、0%と100%にはならない。

 

だから速く無数に無限に、その小さな数字を引くまで攻撃をし続ければいい!

 

あの子の罅をなぞるように全てを斬り裂く。ありとあらゆる、私の覚えうる全ての技を叩き込む。

 

「はぁああああああああああああああああ!!」

 

私の体感で1分ほど。現実の時間では恐らく───1秒未満。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!!!」

 

最後の一撃を放ち、ハルプの胸を撃ち抜いた。

 

凄まじい脱力感が私をおそう。血も足りなければ、霊力も魔力もなにも足りない。意識が薄れそうになるのを気合いで耐えて、あの子に向き直る。

 

『な・・・・・・?』

 

あの子の罅が私に斬られて白くなっている。私はゆっくりと白楼剣を鞘に─────納刀する。

 

『俺の・・・・・・負け?』

 

ふらりと倒れそうになるハルプを抱きしめる。

 

弾けるような音と、白い光。眩い光景に皆が思わず顔を隠す。

私はそれを受け入れて目を瞑った。

 

 

 

 

何も無い白い世界。そんな世界に、一人の少女が見えた。こちらに必死な顔をして手を伸ばしている。

 

ハルプ()、聞こえますか?」

意識が鮮明になっていく。それにつれて自分が何をしてしまったのか、少しずつ思い出していた。俺が家族にしたことを思うと最悪感が湧いてくる。俺は差し出された手を取れない。

 

「私はあなたが好きです。だから、また一緒に暮らしましょう」

 

聞きなれた可愛らしい声は俺に届いている。

 

「私は───────あなたと家族になりたいんです」

 

妖夢が少し緊張した様にそう言った。

 

無理だろそんなの。俺は否定する。

俺は妖夢を憎んだんだ。当たり散らしたんだ。妖夢に家族を奪われたってな。何度殺そうとしたか俺でもわからない。一方的なものだった。

 

「私はきっとあなたを悲しませたと思います。だから、謝ります。予想ですが、私に取られてヤキモチを焼いた・・・・・・なんて感じじゃないですか?だって、私ですから。きっとそんな事のはずです」

 

・・・・・・。

 

「あなたは私です。二つの体を共有する、運命共同体ですっ」

 

強風に耐えるように、少しづつこちらに近づいてくる。多分、俺が嫌がると風が強くなるんだろう。

 

「ええっと、その、言葉選びが下手でごめんなさい。要するにですねっ、全部勘違いなんですよハルプ!私たちの些細なすれ違いなんです!」

 

・・・・・・勘違い?

 

「私はあなたの家族を奪ってなんていません。あなたは奪われてなんかいません。というか、奪えません。私はあなたの家族からすれば異物も良いところですよっ!全然お話できなくて、相当頑張って漸くマシな感じになりましたが・・・・・・未だにギクシャクするんです!早く帰ってきてくれないと皆さんが可哀想です!

あなたが誰に何を吹き込まれたのか分かりませんが、そんなの嘘です!!私は家族を奪えないです、そこまで器用なこと出来ません!」

 

風が止む。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、そうか、駄神か。アレの差金だったのか。いや、うん、確かに少し考えればそうかも・・・・・・。能力でやられてたのかも知れないな。そう考えると・・・・・・いや、結局やったのは俺だ。

 

「えっとあと言うべきことは・・・・・・。えっとあなたは私に罪悪感を感じているようですが」

 

何でわかるんだよ?

 

「そりゃあ、同じ体です。分かりますよ。この間までは分かりませんでしたけどね」

 

あぁ、共有してんのか、分かった。・・・・・・確かに流れ込んでくるな。変な気持ちだ。そうか、繋がってるからすんなりと信じられるんだな。

 

「〔家族なら言い合いだって喧嘩だって物の取り合いだってきっとするでしょう、でも、家族なら最後はきっと手を取り合って仲良く出来るはずです。〕・・・・・・覚えてますか?あなたが私を通してタケに言った言葉です」

 

やめろよ、恥ずかしい。あの時はきっと、なんか焦ってたんだ。

 

「そのあと、あなたは言いました。血が繋がっていなくても家族にはなれるって。私達は血は繋がっていません。あなたには血も流れていません。ですが、魂が繋がっています。これって凄い事ですよねっ!」

 

・・・・・・。

 

「だから、その・・・・・・。私はあなたの事を家族だと思っています。記憶が無くなって、右も左も何も分からなくって・・・・・・そんな私の頭の中に響いてきたあなたの言葉は、声は、私を常に勇気づけてくれました。あなたの言葉にしたがって、あなたと一緒に生活して、とても楽しかった、です。嬉しかっ、たです!」

 

おい、なんで泣いてるんだよ。不安になるだろうが。

 

「私は記憶を取り戻してしまいましたが、それでも、あなたの声が無くては不安になります。まだ、分からないことだらけです。文字だって少し不安がありますし、この世界の常識を私は即座に思い出したりは出来ません。出来ないことがいっぱいです。きっと、あなたが居ないと、私は生きていけません。死んでしまいます」

 

そんな大げさな・・・・・・妖夢なら生きていけるだろ。俺なんか邪魔なだけだよ。散々邪魔をして、みんなを傷つけて、迷惑かけて、ほんと、どうしようも無い奴なんだよ。俺なんかいたら、死んじゃうぜ?

 

「嫌です。離れたくないんです。それに、あなただって私が居ないと死んじゃいますよ?」

 

なんでさ。

気がつけば妖夢は俺の目の前まで来ていた。

 

「だってあなたは私の半霊ですから、私から遠ざかれば死んじゃいますよ」

 

そうか・・・・・・いいだろ?俺がいなくなれば「ダメですっ!」何でだよ?

 

「半人半霊はどちらかが欠けたら死んじゃいます。だから居なくならないでください!置いていったら泣きますからね」

 

う・・・・・・マジで?

 

「はい。そうです!泣きます!」

 

・・・・・・嘘ついてない?

 

「ついてません!・・・・・・付いてないですよね?」

 

俺に聞くなよ。でもそうか。嘘ついてないか。・・・・・・なんか、アレだな。・・・・・・この感じ、久しぶりかも。

 

「・・・・・・そうですね、とても、久しぶりです。とても温かいあなたの声です」

 

やめい、恥ずかしい。泣くぞ

 

「えへへ、皆待ってますよ?」

 

えっい、いや、俺はほら・・・・・・合わせる顔がないし?

 

「ふふん、いい方法を知っていますよ私は!」

 

デデーンじゃないが、それはどんな?

 

「半霊形態でふよふよすれば顔は見られません!!」

 

物理的な意味!?

 

「霊的ですっ!ドヤァ」

 

妖夢お前・・・・・・。

 

「だから」

 

だから?

 

「居なくならないでください。私とあなたで半人半霊、運命共同体の2人で一つです。だから、共有しましょう。嫌なことも辛いことも何もかも、全部半分こですっ!他のみんなが欲しがったら少しおすそ分けしてあげて、それで一緒に過ごして・・・・・・!」

 

いい考えだな。うん、いい考えだよ・・・・・・でもさ、俺は、間違えたんだよ。何もかも。間違えたんだ。

初めから俺は・・・・・・此処にいちゃいけなかったんだ。

 

「えっ、そんなこと・・・・・・」

 

無いって言えるか?

 

「そんなことは・・・・・・」

 

ほら、言えないだろ?

 

「なら、皆さんに聞けばいいんです!」

 

みんなに?

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

2人の詠唱が交わる刹那、誰もが妖夢の敗北を幻視した。同じ魔法、けれどハルプの方が僅かに早かったからだ。しかし、結果はどうか。

 

「は、速い・・・・・・!」

「何も見えなかったぞッ?!」

 

オッタルとべートですら、「速く動いていた」と言う事実しか分らない程だ。

 

 

妖夢が崩れ落ちるハルプの体を抱きとめる。地面に座り込み、抱きしめる。

涙がボロボロと溢れ出し、ハルプの頬を濡らしていく。

誰も、妖夢を目で追えなかった。気が付けばこの状況であったのだから。

 

ハルプの体からは白い光が一つ、また一つと空へ飛んでいく。

 

「私は、今までのように・・・・・・一緒に笑って、鍛錬して、ご飯を食べて、探検して、遊んで・・・・・・ずっと一緒がいいんです。私には居場所がありません。貴方が居ないと、ここには居られないんですっ。」

 

光を失ったハルプの赤い瞳に、小さな光が灯る。

驚いたように目を見開いていく、ワナワナと震えながら、小さな手が妖夢の頬を撫でる。一刀羅刹で噴き出した血が、綺麗に拭われる。

 

「だからっ・・・お願いです。一緒に・・・・・・!」

 

少しすればハルプの表情は柔らかくなり、目から涙が零れた。

 

『ダメだろ、俺が、ここにいる、のは』

 

2人の表情は同じように曇る。

妖夢は皆を見渡した。その場にいた皆はその視線に視線を返す。妖夢は息を飲む、2人が最も恐れた質問をしようとしているから。

 

 

 

「私が、私たちが、半人半霊がオラリオに居るのは、間違っているでしょうか?」

 

 

 

妖夢はそう切り出した。不安げに目が揺れ、服を力を込めて握りしめる。ハルプが目を閉じ、衝撃に備えた。

確かに、彼女達が起こした事件は凄まじく、街に不利益をもたらす事も多々あっただろう。

 

だが、ここは迷宮都市。ありとあらゆるものが行き交う世界の中心である。何があっても、誰がいても、間違ってなんかいない。タケミカヅチはそう思う。だから口にした。

 

「間違いなんかじゃない。お前達がいなかったら俺達はきっと此処まで強くなれなかった。・・・・・・いや、違うか。此処まで幸せにはなれなかったよ」

 

タケミカヅチが微笑む。妖夢がホッとしたようにハルプのお腹に顔を埋め、ハルプが片腕で顔を隠した。鼻をすするような音が聞こえる。

 

「ハルプ、聞きましたか?私達は、居ていいんですよ?」

『うん・・・・・・うん、聞いたよ・・・・・・聞いたっ!』

 

嗚咽混じりに行き場を失っていた2人の少女は泣いた。この一言でどれだけ救われただろうか。

 

「なら、お願いです───私も、家族に入れてください」

 

妖夢がハルプにそういった。聞き取りにくい掠れたような囁き声で。

ハルプは泣きながら、口元だけをニヤリと笑らわせた。

 

『おい、おい。俺は、大黒、柱じゃないぜ?』

 

妖夢が顔を綻ばせる。そして少しの緊張と共に、再びタケミカヅチを振り返る。

 

「いい、ですか?」

 

涙に濡れたその顔は、酷く儚げで美しい。その一言にはハルプと妖夢の二人分の万の意味が込められている。

タケミカヅチに視線が集まった。タケミカヅチは深い溜息をつき、切り出した。

たった一言、呟く。ニッと男前に笑いながら。

 

 

 

 

「おかえり。待ってたぞ」

 

 

 

 

家族の帰還を喜ぶ、父の声。

 

「お前達。ほら、言うことがあるだろ?」

 

安心したような声音で、いつものように笑う。そして両手を広げた。

妖夢とハルプの顔がパァと輝いた。

 

「ほら、行きますよハルプ!」

『うぅ、わかってるってっ』

 

 

妖夢に助け起こされるようにしてハルプが立ちがり、手を繋ぎながら走って、タケミカヅチ抱き着いた。

 

「『ただいま!!お父さん!』」

『あとごめんなさい!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!こ、ここはどこでしょうか?(わたくし)はモンスターに出会って・・・・・・」

「お?起きたか、待っててくれ、今は話に行ける様な雰囲気じゃあない」

「ウム、シバシ待テ」

「は、はい。」

 

暗がりで顔は見えないが、状況的には自分を助けてくれた冒険者だろう。そう決まりをつけ、春姫は例を言う。

 

「助けてくださりありがとうございますっ!」

「おう気にすんな!」

「ウム」

 

振り向く蜥蜴人と石竜の顔。

 

「コンッ!?」

 

春姫は気絶した。

 

「・・・・・・おいおい」

 

 










目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会
77話「口答えはラメれふ!私のお願いなんれすからね!」




ほのぼーの。こっから先はシリアスなんてないハッピーエンドまっしぐら。







俺はアタフタしながら姿勢を正す。髪型も直して、服装も直そうと自分の体を見て・・・・・・固まる。

ぺったんこの胸、綺麗な肌。何も隠さないあられもない姿・・・・・・裸っ!?

 

『は、は、・・・・・・はわ・・・・・・!?』ポフン

 

ななななんでこんな格好に!?おおお落ち着け、半霊に戻るぞ!!セーフ!セーフだよな!?三秒ルール!・・・・・・あ、あれ?もしかしてずっと裸だった!?

 

か、顔が熱い・・・・・・!

って、いやいやいや、何を俺は言っているんだ?俺は元男、裸なんて恥ずかしくないもん!という訳で再び人型に戻る。着替えも忘れないぞ。短パンに白いTシャツ、そして青いパーカーを装備。べートと出かけた時の格好だ。

 

『コホン・・・・・皆には沢山迷惑を掛けたと思います、いや沢山迷惑を掛けました。ごめんなさい!罪は償います、一番下っ端だと思って何でも言ってください!』

 

そう言って頭を下げる。記憶があったり無かったりで上手く謝罪の言葉を並べる事が出来ないけど、それでも自分がやった事は迷惑で危険であったと理解している。

何をしてでも償おうと、そう考えていた。

 

「「「「ん?」」」」

 

団員たちの一部がそういう。なんか知ってるネタだなおい!?

 

「ほほう・・・・・・続けて?」

『えっとつまり、頼まれたら断らないって事です。あ、でも俺に出来る事だけだよ?あとは人道的にダメなやつはダメだけど・・・・・・』

 

頼まれたら断らない。一部の団員たちが浮き足立つ。

俺は若干怯えながらみんなを見る。これで納得してくれないならどうすればいいか分からない。納得してくれただろうか・・・・・・?ならいいんだけど

 

「ぅ、あの、とりあえず、休みませんか?」

 

すると妖夢が辛そうに手を上げる。あんな技を使った後だ。凄まじい疲労だろう。俺は特に問題ないけど。・・・・・・俺のために使ったんだよな!?俺のせいじゃん!

 

『うわ、ごめんな妖夢俺なんかのために』

「いいんですよ、と言うか私の為ですから」

「ふぅ、終わったな。・・・・・・取り敢えず帰るか!」

「「「おう!」」」

 

タケの一言で、皆帰宅の準備を始めた。と言っても皆武器と少しのアイテムを持っているか居ないか位の装備だ。準備は数分程度で終わった。

あとその・・・・・・みんなが「何してもらおうかなぁ!」とかわざとらしく大きな声で言うから、だんだん怖くなってきたぞ。

 

「ふぅ・・・・・・暴れましたねぇ」

『そ、そうだな・・・・・・ごめんなさい・・・・・・』

「ふふふ、許しませーん!」

『ごめんなさい!?』

 

妖夢が振り返り歓楽街を見る。最早そこに歓楽街は無く、あるのは廃墟だけだ。残骸には微かに残り火があって暖かい。俺の心にはとても冷たいですわ。ヒヤッとした気持ちになる。

 

『あ、そう言えばイシュタルはどうしたんだ?』

 

俺はふと思い出す。そういえばあの神様どうしたんだろうか。

なんて思っていると、猿師が参上した。

 

「拙者が薬で眠らせたでごザル!はっはっは、あの瞬間の拙者の働きぶり・・・・・・正しく忍びでござったな!にしても美しい御方でござった」

 

猿師はその瞬間を思い出しているのか興奮気味だ。若干魅了に掛かっている様だ。恐らくは遠くから見たのだろうが、それでも掛かってしまうらしい。

と言うか、神様って薬で寝るのね。・・・・・・ポーション効くのかな?使ってるとこ見たことないけど。

 

「ほい」

「はっ!?拙者は何を興奮して・・・・・・」

 

タケやって来て手刀を振るうと、魅了が斬られて猿師が正気に戻る。困惑して目をぱちぱちしている猿師は正に猿といった感じ。

 

「猿師、イシュタルは今どこにいる?」

「こっちでごザル」

「私も行きます」

『妖夢は休んだ方がいいんじゃないか?』

「平気では無いですね、だからハルプ、私を操作してください」

『へ?』

「私の身体を操れば動けます!」

『いや、強引に動かしたら痛いと思うんだけど?』

「構いません!」

『頼まれたら断らない!いくぜ!』

 

猿師の案内で俺たちは進む。妖夢が半霊(おれ)を抱きしめながらタケの後ろを進み、タケは真剣な顔をして歩く。

 

うん、今俺に発言力は無いので何も言わないことにするけどさ、あのー、春姫は?春姫助けるのが目的なんじゃなかったっけ?

 

はっ!そうでした・・・・・・じゃないぞ?

 

 

 

 

 

比較的無事な建物が多く残る区画を移動中、裏路地から

ちょいちょいと手招きする鱗付きの手が見えた。リドだ。

俺は妖夢の身体を操作しつつ、妖夢にそのことを告げる。リドの事はどうやら知っているらしい。良かったぁ、いきなり殺されたら泣くぞ。

 

「あっ、タケ!少し用事があるので先に行っていてください」

「ん?分かった」

 

タケは俺達が何をしたいのか分かったらしく、頷いて先に進んでいった。横道にそれ、薄暗い路地の中に向かうとリドとグロスは春姫を守っていた。この2人も懐かしく感じるな。

 

「よ、妖夢様・・・・・・!!」

 

春姫が怯えたように2人を見ている。しかし、妖夢は俺と脳内会議中。

会議と言っても、なんて話しかける?的なものだ。

 

「おい、グロス。平気なのか?(小声)」

「大丈夫ダロウ、タブン(小声)」

 

しばらく思案したあと、妖夢はニコリと笑う。

 

「春姫、無事でしたか?助けに来ました」

 

シンプルイズベストだ。わかりやすく行くことにした。

 

ホッとした様に溜息をつき力を抜く2人、何が何だか分からず困惑する春姫。

そんな春姫に手を差し伸べる妖夢は、少しいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 

「怖かったですか?」

「は、はい」

「ふふふ、実はこの子たちは私のお友達なんですよ!」

 

いや俺のだからね!?あげないからね!

え?私達は2人で1人なんですから、2人の友達?今の「私」は「私達2人」をまとめて言った?分かりづらいわ!

 

「「!?」」

「そうだったのですか!申し訳ありませんリド様グロス様!私、誤解しておりましたっ!」

「「「信じるの早っ!」」」

 

単純か!?このこの将来が不安なんですけど!?

 

 

ちなみにイシュタルは切り捨てられる事なく、オラリオ郊外に追い出されたらしい。

タケ曰く、「なんか神威全力で放出して魅了してきたから斬った。しかし神を斬ってしまうとお叱りが増しそうだからとりあえずゲンコツして街から追い出した」らしい。さり気なく酷い事してるなぁ。何時かできるようになりたいぞ。

 

まぁそんなこんなで家に帰ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達の家が目の前にある。でもどうしても玄関前でとまってしまう。

 

「どうした?」

『いや、その・・・・・・』

「・・・・・・?あぁ、そういう事か」

「なるほど」「了解です」『へ?』

 

「「「「「おかえり、ハルプ!」」」」」

『っ!おうっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから少し、大体2日位だけど俺はそれこそ馬車馬のように働いた。みんながみんな俺に頼み事をしてくるからだ。多少後悔したが、みんな満足してくれたようで何よりだ。

タケもギルドからの追求を逃れたらしい。どうやったのか気になったから聞いてみたら、「アイツらが暴れるぞ多分」と言ったら「よし居ていいからとりあえず暴れさせるなよ!?」と返事が返ってきたとか。

・・・・・・まぁ許されやすくなるように可能性操ったんすけどね。

 

 

そんな訳でよっす!俺だっ!

 

「ハ〜ルプっ♪えっへへ〜」

 

なんだかこんなやり取りも久しぶりだな。うん、で、だ。どうしてこうなった?

どうして妖夢は俺に抱きつき頬をすりすりしてくるんだ!?擽ったいよ?!

 

「ハルプがいなくて私すっごい寂しかったんですよっ!だからもうはなしましぇん!」

 

いや、うん。予想・・・・・・と言うか答えはあるんだ。うん、宴会だね。酒だね。酔ってるねっ!

妖夢のおバカ!なんで酒飲むの!?弱いんだからさ、俺の記憶に存在する魂魄妖夢と違って君は若いの!分かる!?多分俺の知識に居る魂魄妖夢は50代だぜ?!

 

いや、いいんだよ?「お願いですっ!ハルプと一緒にご飯が食べてみたいです!」って言ってくれたからさ。俺、すごい嬉しかったよ?求められているというか、居場所があると言うか・・・・・・うん、でもね?体に悪いよ?成長を妨げられてペチャパイが2度と大きくなれない事態にだね?

 

『でも、ほら』

「口答えはラメれふ!私のお願いなんれすからね!」

『・・・・・・はい』

 

お願いなら仕方ないね、うん。一緒にご飯食べようって言ってたけど、お酒しか飲んでないんじゃないかな妖夢君。宴会だー、飲めー!からのこれですよね?宴会始まってからまだ10分経ってないですよね?ぶっ潰れてるの君だけだよね?

 

「わっはっはっ!!流石に早すぎるやろ!!妖夢たんお持ち帰りしよ!」

『と言うか、なんでロキがいるの?』

「なんでって・・・・・・ハルプたん、壊したんやろ?べートのブーツ」

『うぐっ・・・・・・ごめんなさい』

「だ、か、らぁ〜、お願いしに来てしもうてんな〜?うしし」

 

うう、ロキが俺をいじめる。しかしめげるな俺。やったのは俺なんだからな。

して、お願いってなんだろう。許してくれるかな?

 

『お願いって何?』

「え、まじで聞いてくれるんか!?ネタやないの?!っしゃー!!!」

 

何でも来いやー!俺に出来そうになければやらないからね。

 

「とりまウチと結婚しようか」

 

ニコニコと笑いながら言うロキ。俺は別に構わないけど、妖夢が困るだろう。これ以上迷惑をかける訳にはいかない。

 

『俺は良いけど妖夢が多分ダメっていうよ』

「ええの!?ハルプたんはええの!?」

『結婚するだけだろ?判子ポンで終わりじゃん』

「その後の生活は入ってへんのかい!!」

 

当然だろ。やだもん。

 

「えー、じゃあなぁ〜・・・・・・は!分かったでぇ!ウチも家族に入れてーなっ♪」

 

家族って・・・・・・そんな簡単にほいほい行けるわけ・・・・・うーん・・・・・・タケと結婚して夫婦になれば・・・・・・いける?

 

『タケと結婚したらいいと思うよ?』

「無理やな」

「へっくしゅん!!・・・・・・なんだ?」

 

即答!?ま、まぁいいけど。

うわ、タケがくしゃみしたせいで千草含めた小心者達が飛び跳ねたぞ。マシューが気絶した・・・・・・!?なぜ!?

 

「にしてもウメェな!!」

「ぁ、ぁ、ぁり、がとうござ、います!」

 

とべートの声。それに応えるように各ファミリアの団員たちが声を上げる。

ふっふっふ、当然。なにせクルメの全力料理だぞ。俺は幽霊なので食べても意味無いし遠慮しておくが、とても美味しいに違いない。あとべート、クルメ狼苦手だから止めとけ、料理されるぞ。

 

「っ、そういや、おいハルプ!」

『ん?どうしたべート』

「お前、俺に飯作ってくれるんじゃ無かったか?・・・・・・ん?いいんだよな?お前があの時は中身で・・・・・・?そんでいまは中身が違くて・・・・・・いや、中身は一緒だけど、おぉ??」

 

ややこしくてすまぬ。にしても料理のこと覚えてくれてたのか!ふふふふ、任せておけべート。正直クルメに勝てる気がしないがなっ!!公開処刑かっ!まぁけど、お願いされたら仕方ない。

 

『いいぜ、作ってやるさ!濃いめがいい?薄いほうがいい?』

「あー、濃いのくれ。今は塩分が欲しい気分だ」

『あいあいさー。でもなべート』

「あ?んだよ」

『その、クルメの後じゃ多分物足りないぜ?』

「うっせーな、さっさと作れよバーカ」

『わ、分かった』

 

そうだよな、別に怒られる理由でもないし、不味かったら不味かったで仕方ないよね。うん。とりあえず後でバカにするとして、頑張るぞい。

 

という訳で厨房に突撃した俺は忙しく働くクルメに事情を説明。すると快く厨房を使わせてくれることに。とは言えクルメも手を止める訳には行かないから2人で使うぞ。

 

「わぁ、凄いですっ。手際が良いですね!」

『そうか?まぁ昔からやってるしな!妖夢の体使ってたけど』

「へぇ〜そうなんですね。私も大分前からやってます」

『おう、クルメ自身から聞いたぜ?ほら、ゴライアスとの戦い前にさ』

「あれ、えっといつからお2人に?」

『ゴライアスとの戦いの後からだな』

「・・・・・・最近の事なのに、何だか遠い昔を話してるみたいです。」

『そうか?』

「はい、だってあの時はこんなふうに一緒に料理するなんて思ってませんでしたから」

 

クルメと話ながら、料理を作っていく。確か牛の煮込み料理だった筈。角煮だったかな・・・・・・あれ、あってるよな?

 

「そう言えば、今回の騒動って結局目的は何だったんですか?私が聞いた限りでは誰かの救出が目的だったらしいですけど」

『んー?あぁ、それね、宴会会場の奥の方、タケの隣りに居た金髪の狐人いただろ?あの子を助けに行ってたんだよ。・・・・・・俺のせいで破茶滅茶だったけど・・・・・・』

「わわわっ、ごめんなさいっ!そんな顔しないでください!?」

 

そこから春姫の話しをして、昔の話をして、気がつけば料理は完成していた。本当はもっと時間かけたいけど、べートは待ってるし時間は無い。

さてさて、運びますか。

 

『よいしょ』

「!?」

 

とりあえずは体に閉まっておこう。・・・・・・ん?

 

『ん?どしたの』

「今どこに料理を!?」

『え?身体の中』

「なんて勿体無い・・・・・・!!」

 

あー、もしかして身体の中に色々と入れるの見たことない?戦争遊戯でも刀出したりしてたんだけど・・・・・・まぁ魔法で作ってるようにも見えるか。

 

『あ、安心してくれ。中身空洞だから。しかも汚れも無いし清潔!!料理の味は落ちないぜ!』

「おーーー!凄い!一家に一台欲しい!!」

『俺は家具じゃないぞ!?』

 

歩けて戦闘できる冷蔵庫とか、確かに便利だね!!だが俺は嫌だぞ!お腹いっぱいまで食べ物詰められるとか嫌だぞ!!

ヒャッハー最高の調理器具だァーとか言いそうなクルメから逃げるように俺はみんなの所へ。

 

『べートー、ほら、出来たよー』

「おぅ!はっはっはっ、でよぉ、そんとき妖夢がさ」

「「「うんうん」」」『お?何の話?』

 

べートの所に行ったら何やら話し込んでる。しかも俺達の話だ。なんだろ

 

「なんか無駄にカッコつけてよ、これは決して避けれない魔剣!とか決して防げない魔剣!とか言っててよぉ!しかもそれがマジでさ、ビビったけど行くしかねぇ!って突っ込んで蹴り飛ばしたんだ!」

「「「おぉ!」」」

 

うげ、べートとの初戦の話しか。あれ痛かったよなぁ・・・・・・。多分妖夢の「痛い」って思考が俺に流れてきてたんだろうけど・・・・・・。

 

「ありゃ痛かったぜ?なにせよ、レベル2に脇腹片方持ってかれたんだぞ?!何なんだよアイツら、今戦ったら確実に俺が・・・・・・いや、まだだ!まだ負けねぇからな!!」

『べート、おーい!!作ったよ!!』

「うおぃい!?居たのかよ!」

 

居たよ、少し前から居たよ。てか返事したよね?

 

『ほれ、今から出すから』

「あ?どこからっておい!?」

『じゃじゃーん、どうだ?美味そうだろぅ?』

「いやお前、腹から出すなよ・・・・・・」

『えぇ、だって人間形態だと他に出せるの胸かお尻くらいだぞ大きさ的に』

「「「「「ゴクリ」」」」」

「おいテメェら後で外な」

「「「「「「へっ!?」」」」」

『あ、あと頭からも行けるな』

「それはそれで見たくねぇ」

 

それもそうか。冷めないようにとの配慮だったけど、確かに食べる側からすれば少しアレだな。次は気をつけよう。

そして、べートが1口パクリと食べる。

 

「・・・・・・旨い」

『おー、良かったぜ。もし不味いとか言われてたら若干凹んだぞ?』

「ハ~ル〜プ〜置いてかないでくだしゃい~」

『わー、はいはい、分かったよ妖夢』

 

妖夢が抱きついてきたので介抱しつつ座り込む。肩に頭を乗せて「ふふふ」とか笑ってる妖夢はとりあえずそのままにしておこう。うん。

 

「・・・・・・大変だな」

『そうかな?割と楽しいよ。みんなに頼ってもらうってさ』

「へぇ」

 

その後もべートと他愛の無い話しを続けていたのだが、なんかみんなが遠慮している節がある。もう少しこっちに話しかけに来ると思ってたんだけど・・・・・・自惚れてすみません!

 

「聞いてよ妖夢ちゃん!」

「はひ、なんれふか」

「もうっ、桜花がね!桜花がさぁ!!」

「しょうれふか、大変れすね」

 

お?なんか千草も酔ってるね。お酒は早いと思うんだけどなぁ。

話しの桜花君はどこかね?っと見てみると、タケの近くで酒を飲んでいた。その隣には大人妖夢の姿が。

なるほど把握。千草ちゃん嫉妬ですね?

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

タケが大人妖夢にそう切り出している。

 

「はい。私はレベル8。このファミリアに居てはファミリアランク的にも不味いです」

「そ、そうだな・・・・・・」

「とは言え、偽装するとしても、これ以上の問題はファミリア存続に関わります」

「うぐっ・・・・・・!」

「もうすぐ家宅捜査の様なものがはじまるんでしたよね?ギルドの方から。そうなれば私の存在は露見します」

 

お、おう。すごい真面目な話しているんですが?

てか、そうだよな・・・・・・タケとか権能使っちゃったし不味いよな。ほとぼりが冷める前に問題起こしたし、ギルドも本格的に動くよね。

 

「結論から言えば、私はこの国をでて修行を積もうと思います。」

「・・・・・・・・・・・・。」

「そうか、悪いな」

「いえ、私の決めた事です。桜花には何度も止められましたけど、これもあなた方の為ですって言ったら諦めてくれました。」

「・・・・・・桜花、ありがとう。約束を破らせるようで悪い!」

「いえ、いいんです。時折顔を出すと言ってありますから」

 

ほほー、どうやら話は付いていたみたいだ。俺が口を出す必要なんて無いね。そもそも何を言うかとか考えてなかったけど。

 

なーんて思っていると大人妖夢は俺の方に来る。ちょ、妖夢離れて、え?嫌です?わ、分かったけどさ・・・・・・今話すみたいだからさ、少し・・・・・・は、はい。分かりやした、

 

「少し良いですか?」

『おう、何でも言ってくれ』

「できるだけ、甘えさせてあげてください。私は貴方と一つにはなれなかった未来です。本来ここにいるのはおかしい瞞しです。だから・・・・・・」

『うん、分かったよ。約束する。』

「ありがとうございます。」

 

そう言って頭を下げて、宴会に溶け込んでいった。やっぱり妖夢は妖夢だな。優しいし。

 

「そう言えばタケミカヅチ、知っとるか?ドチビの所の戦争遊戯」

「なに?戦争遊戯がまたあるのか」

 

え、戦争遊戯・・・・・・ってあれか!ベル達の!まぁでもベル君強くなってるし平気だろうん。

能力は結構使えるようになってるし、ベル達を強くすることも可能だぜ。

 

「そうや。でもな、あまりにも差があらへんか?ってなってな、オラリオ郊外からの冒険者ならヘスティア陣営に付いていい、なんて非現実的な許可は降りとったけど、まぁ無理やろうな」

 

うんうん、確かに普通に考えたら無理だよね。ヘスティアファミリアにそんな外との交流なんて無いし。じゃあどうなるの、ってなるけど、そこでリューさんですよ。

 

「ふむ、なら俺達が参戦することは出来ないか」

『俺はスキル扱いされてるけどダメか?』

「うーん、分からへんけど、妖夢たんの所属はタケミカヅチ・ファミリアやし、無理やと思うで」

『そうか、分かったよ』

 

頼まれたら参加しよ。あ、鍛えてって言われたら全力で鍛えよう。

 

「ハーループー!たすれてくらさいー!」

『はいはいー。ほら、千草やめなー』

「だって、だってぇ・・・・・・」

『ほら、後で桜花一緒に殴ろ?』

「うん・・・・・・」

「なんでだ!?」

 

 

 

 

 

その日、ベルが訪ねてきた。

まぁ最も、起きてるやつなんか俺しか居なかったけどな!

俺のやったことをまとめようか。

ベートとロキをロキ・ファミリアに送り届けた。

裸踊りを使用とした命を取り押さえ気絶させ寝かせた。千草が包丁を取り出そうとしたので寝かせた。

妖夢が抱き着いてきていい加減イラついたので寝かせた。

タケが酒に酔って刀を振り回すご乱神となり掛けたので寝かせた。

ダリルが燃え始めたので寝かせた。

リーナが結界に閉じこもってたので狡いな!と寝かせた。

クルメは普通にご飯食べてて別段悪い事して無かったけど寝かせた。

アリッサはそもそも来てなかった。

 

・・・・・・あれ?寝かせてばかりだわ。そして数人ごめんよ。

 

そんな死屍累々の様を見、酒のむせ返る匂いを嗅ぎ、ベル君が変な顔をしている。それが面白くって俺は少し笑う。

 

『ふふ、どうした?何か変なものでも見たか?』

「え、あっ、いやぁ楽しそうだなぁ、なんて」

 

そう言えばベルは今回の事件を何も知らないのだったか。じゃ、いつも通り行きましょか!

 

『そか、で要件は?鍛錬に付き合え?一緒に戦え?ファミリアに来い?』

「な!?何で知ってるですか!?」

『なっはっはっ、俺はなんでも知ってるのさー!嘘だけどね。ロキから聞いただけだよ』

「そうだったんですか・・・・・・アイズさんがもうすぐ遠征に行くらしくて・・・・・・い、いえ!その、ダメならいいんです。でももっと強くなりたくて・・・・・・」

 

ベルが俺の目を真っ直ぐ見てくる。俺が前に言ったことは覚えてるらしい。俺からすると少し黒歴史だが、まぁそれで此奴が成長したなら俺ってイイヤツ。

 

『いいぜ』

「分かってます、無理な事を言ってるって事は・・・・・・え?」

『いいぜ?俺でよければ好きに使ってくれ』

「つつつ、使うなんてそんな!!」

『おいおい、俺はスキルだぜ?使われてなんぼなんだよっ』

「あいたぁ!?」

 

俺はベルの背中をベシッ!と叩く。さてさて、では・・・・・・地獄のメニューを開始するとしようか!!!

 

尚、タケミカヅチ直伝《レベル4のお前達鍛錬コース》を受けろ!







【挿絵表示】


頑張るぞい!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

78話『ドヤァ』

シリアスじゃないって素敵。とても筆がスムーズにすすむ。
リアルが忙しすぎてまともに時間取れないというのに、投稿できる程度にはスムーズ。

懐かしい感じが出せてるかな?













『っと言う訳で、なんとハルプさんは真夜中にも関わらず人目の少ない城壁の上に連れてこられたのでした』

「人聞きが悪い!?」

『はっはっは、安心したまえ。本気で行くから』

「えぇ・・・・・・」

 

よっすよっす。俺だ。ハルプだ。あの後ベルに連れられて城壁の上までやって来ましたぜ。

 

「・・・・・・行きます」

『おう』

「───ッ!!」

 

時間が惜しいと言わんばかりにいきなり突撃するベル。確かに速い、だけどそれだけだ。

 

『よっと』

 

獣の如き敏捷性、とでも言うのか。ひっくい姿勢で走ってきて足を取りに来た。

俺は楼観剣を鞘にいれたまま地に叩きつけ跳躍、空中で体を捻り、その反動で鞘がすっぽ抜けで刃が剥き出しとなる。

そのまま真下を通るベルを切付ける。

 

「ッ!?うわっ!」

 

練習用に渡していたナイフが真っ二つに斬れてベルがスッコケる。あー、あれだな。楼観剣はやっぱりダメだね。ちなみに殺さないように振ってるから安心してくれベル君!

 

『楼観剣はまだ早いか、じゃ、やっぱり白楼剣だな』

「す、すみません」

 

詠唱して白楼剣を召喚。同時に楼観剣を消しておく。白楼剣なら切れ味は並。むしろこの世界なら鈍らの部類に入る。

更には斬ると迷いを斬れるという性質を使って、踏み込む勇気を与えたりと模擬戦にはもってこいだ。

 

『どぞ、待っててあげるから好きに来ていいよ?』

「はいっ!【ファイアボルト】!!」

『反射下界斬!』

 

いきなりブッパですか!いい戦術だけど一回ポッキリの使い捨て戦術だぞそれは。奇襲に失敗した時点で次に続けよ?

 

「──ッ!」

 

爆炎の中からベルが飛び込んでくる。あちゃー、自分が食らってたら意味無いぞ?・・・・・・いや、俺達も前やってたけどね!

 

『リーチ短いんだから、飛び上がったらダメだ、ろっ!』

「あがっ!」

 

 

白楼剣を真っ直ぐ突く。ベルのお腹をブチ抜いて背中から刃が伸びる。そのまま何か行動を起こされる前に蹴り飛ばす。

ついでに死への迷いも斬ってやった。これで怪我も気にせずやって来るはず。・・・・・・あれ?さっき言ったことの逆やってるよ俺。

 

「【ファイアボルト】!!」

『単調だ。もっと工夫しろ』

「───くっ、わかってマブっ!?」

 

ファイアボルトを反射下界斬で真上に逸らす。斜め下から掬い上げるような一撃を、反射下界斬の切り上げの勢いのままに半歩横に逸れ、ガラ空きになったベルの腹に回し蹴りを叩き込む。

 

「・・・・・・行きます」

『当然だな』

 

数m城壁の上を転がるベル。だけどすぐさま立ち上がってくる。ベルには幾つかナイフを渡してあるから、多分投げてくるかな。

 

「はぁ!!」

 

うん、やっぱり。ベルは1本のナイフを投げ───?!

うっは、それよりも速く走って来た!!

 

『いいねぇっ!!』

 

ベルの横薙ぎを白楼剣で弾き、飛んできたナイフを左手で掴む。素早く逆手に持ち替えてベルに振り下ろす。

 

「っ!ここだ!」

『おおっ!?』

 

振り下ろしを完全に無視して俺にタックルを食らわせるベル。肩甲骨の間にナイフを刺してあるので、後は柄の部分を押してやれば肩甲骨を外せる、まぁ流石に万能薬は持ってきてないから骨折まではしないようにしないとな!

 

「はぁ、はぁどうですか!!」

『うーん、幼女にのしかかる変態さん?』

「え・・・・・・?うわぁっ!?ごごごめんなさい!!」

 

おいおい、バカベルめ。相手が幼女で同じこと言われたら同じように下がるのか?

 

『そこで逃げるなよ。その撤退はお前だけでなくお前の味方を危険に晒す。つまり、リリとかヴェルフが死ぬぞ』

「っ」

『わかったらとどめを刺すまでは油断するな。いい?』

「はいっ!」

『隙あり!』

「そげぶっ!!」

 

まだまだ青いな!というか、お腹ぶち抜いたんだからさ、もう少し痛みを感じる素振りをしてください?俺なんか困るんだけど。罪悪感を感じるんだけど?

 

『お腹平気か?』

「痛いですけど、不思議と」

『この剣の力だな。迷いを断てる』

「迷いを?」

『そ、だから俺に突撃する時怖くないだろ?』

「・・・・・・確かに。凄いですねその剣!」

『へへ、そうか?そうだろ!』

 

さーて、もっともっと続けるぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも!私ですっ。妖夢ですよっ!

 

私は何とも頭の痛ーい朝を迎えつつ、障子を開いて朝日を浴びます。脳裏に過ぎるハルプの感情の波から、ハルプが戦っていると私には分かるのです。

じゃあハルプに連絡してみますか!みょんみょんみょん・・・・・・!繋がれぇ〜。

 

 

もしもーし、えっと、誰と戦ってるんですか?え、ベル・クラネルさんですか?あー、そう言えば戦争遊戯の時期でしたね。はい、はい。ふむ、ダンジョンにアイテム集めに行こう、ですか?

えっ!?ドロップ率80%上げたらどうなるのかの検証ですか・・・・・・?ずるくないですかね、怒られません?

平気ですか、ならいいんですけど。

 

誘えるやつは誘ってほしいですか、分かりました。幹部のみんなで行くのもいいかもしれませんね!あ、やっぱりそう思います?ですよねっ!じゃあ連れていきます!

へ?あぁ分かってますよそんな事。もちろん皆さんの予定を優先です。はい、はい。大丈夫ですよ、平気です。

 

私ですか?私はこの後皆さんの朝ごはんを作って軽く掃除や洗濯をしておきます。あはは、そんなお礼だなんて。いつもの日課ですし?鍛錬はダンジョンでできそうですから。

 

「ふあぁ〜。・・・・・・おはよう、妖夢。あー、今何時だ・・・・・・」

 

あ、タケが起きました。・・・・・・。はい、分かりました。10時頃にセントラルパークですね。了解ですっ!

 

「おはようございますタケ。今日もいい天気ですよ!」

「んん〜っ!はぁ!・・・・・・そうだな!いい天気だ!!」

「では私は朝食を作ってきますから、もう少ししたら皆さんを起こしてあげてください」

「あぁいつも悪いな」

「いえいえ、いいんですよ。私がやりたいだけですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

了解ですーっと。

 

「・・・・・・どうでしたか?」

 

ベルが若干不安げにそう聞く。

 

『いいよーってさ!』

「やった!リリも喜んでくれますね!」

『そうだな、リリ可愛いし抱きしめたいな!』

「はいっ!・・・・・・はい!?」

 

なんだよ、抱きしめたいだろ?

 

『さて、ダンジョンに行く目的は分かるかね少年!』

「は、はい!モンスターを倒す事で経験値を得ます!」

『正解だ!だが今回の目的はそれだけでは無い!』

「え、そうなんですか?」

『そうなんです。・・・・・・時にベル・クラネルさんや。』

「は、はい。何ですかハルプさん」

 

なんか妖夢に「ずるくね?」って感じで言われたせいで不安になった俺はとりあえず尋ねる。

 

『君さ、スキルのせいでモンスターからアイテムが沢山ドロップするとしたら、嫌かな?』

「いえむしろ嬉しいです!え!?まさか、ハルプさんが・・・・・・!」

『ドヤァ』

「キラキラ(尊敬の眼差し)」

 

良かった欲まみれだ!良くないけどな!

 

「あっ!いましたベル様〜って妖夢様!?」

『ん?』

「あ、リリおはよう!」

「あ、はい。おはようございますベル様!」

『おはよう!』

 

リリが俺に驚いてる。・・・・・・そう言えばリリとはハルプ形態で話したことほぼ無いな。というか、あったか・・・・・・?

 

「えっと、妖夢様のスキルの・・・・・・」

『ハルプって言うんだ。よろしくねリリ。妖夢からはよく話を聞いてるぜ?』

「そ!そうですか?うへへ、妖夢様が・・・・・・」

 

あれ、俺の思ってた反応と違う。まさか・・・・・・!当初の目的だった「イケ妖夢」計画がこんな所で効果を・・・・・・?まぁ、あの計画は即潰れたけどな!

 

「えっとねリリ、このハルプさんがアイテムドロップ率をあげるスキルがあるみたいでさ、一緒に集めてくれることになってるんだ」

「おぉ、それは素晴らしいですっ!ベル様も時折美味しいお話をお持ちになりますね!リリ感激です!」

「いやぁそれほどでもないよ」

『褒められてねぇぞ?』

「え!?」

 

おっと、思わず2人の惚気に入ってしまった。すまぬ。

今はまだ7時頃だからなぁ、よし、ショッピングと洒落こもうか!

 

『みんなが揃うまで時間があるし、とりあえず腹ごしらえでもするか!』

「はい!」

「え、ベル様食べてなかったんですか?」

「えっと、うん、これからだね」

『そうそう、俺を人気の無い場所に連れ込んでな。朝ごはんを頂こうとしたらしいけど』

「なんで!?」

「ベル様・・・・・・リリは、リリは悲しゅうございます」

「話し方が可笑しいよリリ!?」

 

いえーいとリリとハイタッチを交わし、豊穣の女主人へと歩いていく。

 

「まっ、待ってくださいよ!!リリ僕は何もしてないからね!?」

「分かってますよベル様ー」

「棒読みッ!?」

 

 

 

 

暫く歩いて豊穣の女主人へと到着した俺達。朝昼はカフェ、夜は酒屋へと変身するこの店は昼夜問わず人気を誇る。なにせ、皆美人だしね。

 

「あっベルさん!おはようございます!」

「シルさん!」

 

パタパタと走ってきたのはシルだ。愛嬌を振りまきながらベルの手を取る。あ、リリがほっぺ膨らませてる。

 

「それに、リリルカさんも妖夢さんも。お久しぶりですねっ」

「そうですね、ささ、ベル様早く中に行きましょう!」

『よっすシル!あと俺は妖夢じゃないぞ?』

 

この身体だと初対面かな?多分。あ、シルが「えっ」て顔してる。なはは、驚いたか。

 

「あぁえっと、この人はハルプさん。妖夢さんのスキルです」

「あ、戦争遊戯に出ていたあの」

『そうそう、それだよ。あ、俺はご飯食べても意味無いから冷やかしになっちゃうけど・・・・・・平気か?』

「大丈夫ですよ!」

 

「3名様ごあんなーい」というシルの声。店の奥からは「ハイニャー!」「はーい」と言う返事が届く。

 

「行きましょうベル様、ハルプ様」

「うん」『あいよー』

 

店の中は夜来た時と殆ど同じ内装であるものの、壊れやすそうな花瓶などの小物が増えて飾られている。

ま、1度この時間帯も妖夢の体で来たことあるけどね。ヘルメスに刀を突き付けた時とか。

 

「おー、白髪ニャ!恋人!」「こらこら、静かになさい」「そうです、シルに悪い」

「もぅ!みんな止めてよ!あっ、ごめんなさいあはは」

「ぃ、いや、あはは・・・」

 

ベルとシルが顔を赤くして良い雰囲気だ、ただ、ベルが頻りに自分の足を見てる。多分リリがゲシゲシ蹴ってるのだろう。

 

「ベル様のバカ」

『アホ、ドジ、マヌケ。ウナギ』

「最後のは何!?ウサギじゃないんだ!?」

『ははは!ごめんごめんっ!ウサギねウサギ』

「いやそういう事じゃないよ!?」

 

いやー、揶揄いがいがあるね。リアクションが素晴らしいです。

 

おっ?・・・・・・妖夢からか。なんだね?はいはい、なるほど・・・・・・春姫が使うならどんな武器ですか、か。うーん、和服だし、薙刀なんてどうだろう。武錬の城の倉庫に幾つかあったはずだぜ。戦争遊戯の時の余りが。

 

うん、そうだね。薙刀なら横に構えて回るだけで人間程度なら両断できるし、少し重めの奴でいいと思うぞ。仮にも恩恵を受けてる身だしね。

 

はいはい、防具かぁ。余ってるっけ?あっ、各館に行けば多分あまりはあるよ。お下がりになっちゃうけどな。いいか聞いてあげてな。いきなりオッサンの加齢臭の鎧はきついだろうし、OK?了解ー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は朝ごはんを作り終え、テーブルへと運んでいます。

1度料理をお盆ごと下に置き、襖を開くと部屋は既に片付いていて、皆起きていました。

まぁ、少し具合が悪そうな人はいますけど。

 

「おはようございます皆様。朝食を運んできますから、暫く待っててくださいね」

「はい・・・・・・」「うぐ・・・・・・頭が・・・・・・」

「あはは・・・」

 

全く、飲み過ぎなんですよ!私なんてコップ1杯しか飲んでませんからね!さすが私偉いです。

お酒は飲んでも呑まれるなです。

 

「妖夢様、妖夢様!」

「みょん?春姫どうしましたか?」

(わたくし)もお手伝い致します!」

「そうですか!ありがとうございます春姫!」

 

話しかけてきた春姫を仲間に加え、家事をこなしていくのでした。

 

 

色々と準備していれば10時が近付いてきました。既に皆さん揃っています。

今回付いてきてくださるのは~、デデン!

 

命!千草!春姫!の3人ですっ!!タケが付いてこようとしましたが命が止めました。タケ、最近枷を外し過ぎな気がします。もう少し落ち着きましょう。

 

「装備、良し。妖夢殿、我々の準備は完了しました」

「うん、準備万端だよ!」

「は、はははい!わた、私も出来ております!」

 

肩と腰に鎧を付けているのは私、命、千草の3人。

確りと革鎧を着ているのが春姫です。着ていると言うよりは着られているですが。

和服も脱いでいるので、その抜群のプロポーションが遺憾無く発揮されており、私と千草は遠い目でそれを眺めましたが・・・・・・それは置いておき、なかなか見ない姿なので記念に記憶に焼き付けておきましょう。

 

「はい、分かりました。では行きましょう!中央広場へ!」

「「「はい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

『という訳で全員揃いました』

「揃いましたね」

『うんうん、じゃあ早速向かう訳だけど、皆バックパックとかは持ったかい?リリのだけじゃ足りなくなるかもしれないからな』

「「「「はい!」」」」

「おう!もったぜハルの助!」

『ハルの助!?』

 

今回の参加メンバーは、タケミカヅチ・ファミリアからは俺&妖夢、千草、命、春姫。

ヘスティア・ファミリアからはベル、リリ。

ヘファイストス・ファミリアからはヴェルフが参加することになった。

 

7人だな、頭数的には8人だけど。あとハルの助はどうなのさ。

 

「ダメか?」

『まぁいいか。んじゃお前はヴェルターすオリジナルな?』

「ヴぇ、ヴぇるだー・・・・・・なんだって?」

『冗談だよーだ!』

 

全く、ヴェルフのネーミングは相変わらずだなぁ。

 

「「「「「「(可愛い)」」」」」」

 

・・・・・・なんか四方八方から変な視線を感じる。前にもこんなことあったね。

 

・・・・・・あぁ、そうか。男達は身長高くて、女の子で身長高めなのは命と春姫だもんな。後は小学生か中学生程度の身長。ふっ・・・・・・(泣き)

 

「まぁまぁ、そう泣かないで下さいよハルプ」

『泣いてねぇし?全然(震え声)?泣いてねぇから?身長なんて知らねぇし?関係無いから?』

「あははっ気にし過ぎですよ!」

「そうだぞ!まだまだ伸び盛r」

「『・・・。』」

「か、刀を、降ろそうか。な?」

 

貴様には持たざる者の悩みなど分かるまい、ヴェルフクロッゾぉ!

 

「「「「「「「ざまぁwwww」」」」」」」

 

なんか神の視線を感じるけど無視だ無視!

 

「では参りましょう皆様方。予定通りの陣形で構いませんか?」

 

と命が手を挙げてそう言った。ちなみに予定通りというのは盾役として命が最前線、その後にヴェルフ。攻撃役として俺&妖夢とベル、後衛に千草、リリ、春姫だ。

 

「あの、ベル様」

「ん、何?」

「この戦力・・・・・・改装主でも倒すんですか?」

「た、確かに・・・・・・どうなんだろうね」

 

ん、なんかベル達がコソコソ話してるな。まぁいいか。ダンジョンに入ったらそれぞれ軽く自己紹介でもして、仲良く行こう。の、前に。

 

────能力を使用する。

 

えっと、こういう時はどういうプロセスだったか・・・・・・

使用、行動選択、エネルギー源選択、可能性提示、可能性の増減、エネルギー消費、発動。だったかな?

 

────ドロップ率上昇。

────霊力を選択。

────ドロップ率5%

────可能性の増加。5%→80%。

────霊力92%→82%。

────発動。

 

うっわ!・・・・・・うぐぐ・・・・・・!っはぁ、なんか凄い変な感じだ!

体が引き伸ばされたような感覚がしたぞ!?ビックリしたなぁ!?

 

平気?ねぇねぇ妖夢!俺平気か?なんか罅入ってたらしいじゃん暴走してた時!平気?罅無い?無い?よかったぁ。

 

『よっし、出発!』

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳でダンジョン一階層にやって参りましたー。

さて、チーム分けだね。

 

『よぉし、じゃあチーム分けだけど』

「あ、私ハルプと一緒がいいです」

『ん?それだと戦力が・・・・・・』

「(ゼノスですよ、ゼノス。十八階層に街作ったんですよね?)」

 

あぁ、そうか、気にしてなかったけどまだベル達はモンスターと仲良くするなんて考えたこともないはず。なら一足先に向かわないとな。

 

『そうだな。なら俺と妖夢は2人で、あとはみんなで動いてくれ。ふふふ、どっちのチームが多いか勝負だ!!』

「あ、あのぅ」

『ん?なんだねベル・クラネル君』

「ハルプさんと離れたら効果ないとか無いです?」

『大丈夫だよ。お前達が倒した敵からはアイテムが落ちやすくなってる(はず)』

「おお!(尊敬の眼差し)」

「ドヤァ」

 

妖夢がドヤ顔すんだ、そこ。

異論があるか聞いたけど、特に無いそうなので良し。あるとすれば若干リリが文句を言ったかな。「サポーターとして〜」ってね。まぁ?俺様の体はバックパックの代わりになりますし?

さらに言えば今回はバックパックを沢山体に詰めてますし?一杯になったら外に吐き捨ててを繰り返し凄まじい量のアイテムを獲得してやるぜ。

 

「ハルプ、私達も勝負ですよッ!!」

『なぬ!?りょ、了解です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

せいやー!とうりゃぁー!

 

って感じで虐殺しつつ、一直線に十八階層を目指して突撃!

ゴライアスは当然まだ居ないので17階層はスルーだ!いても弱いしな!

 

「はぁ、はぁ壁抜けはズルイですよぉ~」

『床抜けしないだけ優しいと思うの』

 

壁抜けして全力で進む俺に何とか追いつこうと必死になってた妖夢は結構ヘトヘトだな。むしろよく付いてこれるなぁ。

 

「もう、ハルプが地形覚えてなかったら私迷子ですよ!?分かってるんですか!」

『あはは、ごめんごめん。』

 

にしても、やっぱりすげー光景だ。あの十八階層が真ん中に穴空いて、んで持って砦がある。そう、砦だ。あの時の俺は人間と共存するとか言ってた癖に作ってたのは対人間の砦。

ギルドがダンジョンを封鎖してくれて良かった。

 

『りーどーー!おーーいっ!』

 

俺が大きな声をあげれば、モンスタータウンは騒がしくなる。ゼノスのみんなが動く音や、鳴き声だろう。

みんなが健在だということに嬉しさを覚え、俺は進んでいく。

ベル達には申し訳ないけど、人類と怪物の共存、それの最初の1歩になってもらおうかな。

 

「ようハルっち!」

 

俺達が門に近付くと、上から声が掛かる。アダマンタイトの鎧を纏った蜥蜴人。リドだ。

分かりづらいけど、嬉しそうに笑っている。

 

「それと、あー、なんだったか」

「妖夢です。魂魄妖夢」

「妖夢・・・・・・ヨっち?」『ブフッ』

「笑わないで下さいよ!無理に考えなくて大丈夫です。呼び捨ててください」

「おう、わかったぜ」

 

リドがニッと笑って、尻尾を振ると、門が開いていく。「『おー』」と声をあげる俺たちの前には、一列に並んだゼノスの姿が。

グロスとラーニェ、フォーが一際目立つ。絶対強いぞ。アダマンタイトの鎧と武器を持った怪物だからな。アステリオスが居ないのは修行中だからかな?

 

「ようこそ!我ら異端児によって再び蘇った『怪物の街(リ・ヴィラ)』へ!」

『ただいま。そしてようこそ妖夢。』

「おー!何だか感動です!」

「そう言ってもらえると嬉しいな!」

 

 

そのままリヴィラ・・・・・・じゃなくて、リ・ヴィラを案内してもらうことに。案内はなんとラーニェだ。蜘蛛のお腹部分に乗っけてもらった!乗せないと言われてたけど、まさか乗せてくれるとは。

 

・・・・・・クモの背中?って確か・・・・・・精器が付いてんだっけ?

あ、触ったりはしないから安心したまえよ妖夢君。やめよう?そういう気を飛ばすのはやめよう?

 

「まずはこの門だ。お前が居た時は開閉機能は無かったが、フェルズの提案によって付けさせて貰ったぞ」

『おー、結局付けたんだな』

 

まぁどの道、レベル3あればジャンプで飛び越えられるけどな。いや、筋力が鍛えられてるなら2レベルでも行けるか。

 

「あとは商店だが『へ?』・・・・・・なんだ、何かおかしかったか?」

『いや、もう作ってるのかーってな。もう少しあとだと思ってたわ』

「ふふ、フェルズがもう少しでギルドのお触れが無くなると言っていたからな。急遽冒険者が喜びそうな物を掻き集めたんだ」

『へー、んで商店を開いたと』

「そう。金銭を私達はあまり持っていないのでな。その代わりとして魔石を貰うことにしたんだが・・・・・・どうだろうな」

『強化種を警戒されそうだけど・・・・・・まぁ平気だろ。てか平気にする』

「!・・・・・・それは頼もしいな?」

『ワイルドだろぅ?』

「いや、別に」

 

にしても成程、商店とは名ばかりの簡素なテーブルに直接素材が置かれているが・・・・・・深層でしか手に入らない素材や、レアで入手が厳しいものまで、多種多様なアイテムが揃っている。

ポーションなんかもあるけど・・・・・・劣してるな。大方冒険者の死体などから頂戴したんだろうけど。

 

『・・・・・・ポーションとかはやめといた方がいいかな』

「どうしてだ?」

『出どころ聞かれたらなんて言うつもりだ?』

「亡くなった冒険者から・・・・・・はぁ、確かにそれもそうか。冒険者の役には立つが、私達のイメージの改善とは言い難いな」

『そうそう、人間ってのは我儘でね。どうせ「ポーションをとる前に助けてやれよ!」とか言うに決まってる。だからそういったものは置かない方がいい』

「すまない、参考になる」

 

ラーニェが綺麗な顔を困り顔にしつつ、俺の頭を撫でる。よし、もっと撫でていいぞ。

 

「他にはあるか?」

『あとは防犯かな』

「それは私たちが居るのだから平気だと思うが?」

『厳しく言うが無理だな。こんな野ざらしじゃあ小悪党も防げないぞ。しかも、例え相手が泥棒だろうと街中でモンスターにやられたー!って叫べば俺達の評判は悪くなる。だから盗まれないよう、盗ませないようにしなきなゃならない』

「そうか・・・・・・なるほどな。つまり私達はまともに交戦することすら出来ないと」

 

ふ、やはり人は面倒くさいな!俺もその1人に入ってたけどね?

はい、なんですか妖夢さん。はい、私会話に入れないんですけど?うーんまぁそれはほら、会議に一般人が入るのは・・・・・・は、はい。そうだね、俺達は2人で1人だもんな。分かってるって。

うーん、仕事取られたくないんだけどなぁ?

 

「あとっ!私からの提案ですが一ついいですか?」

「む、すまない。聞かせてもらえるか?」

「はい!印象を良くするにあたり、外見はとても重要な要素です。モンスターと同じ外見をもつあなた方は人間側からすれば受け入れ難い外見です。なのでそこを変えていきましょう!」

『ズバッと言うなぁ。オブラートに包みたまえよ?』

「わかりやすく簡潔に!ですよ!」

 

ラーニェも渋い顔をしているぞ妖夢殿よ。

けどまぁその点は気にしていたみたいだな。奥の店で機織り機の音がする。妖夢もそれに気がついたのか、言わなくてもよかったか!みたいな感じだ。

 

「それについては私達でも話し合ったんだが・・・・・・なかなかどうして決まらないものだな」

『うーん、とりあえず布面積を狭くすると男は雑魚に変わるぞ。ちょろいぞ』

「・・・・・・あまり肌は出したくないのだが・・・・・・」

『ですよねごめん。なら・・・・・・うーん、とりあえずは全て布で出来たものを着て、雰囲気を和らげよう。俺の作った鎧なんて着てたらそれこそ怖がっちゃうよ』

 

ふむふむ、ラーニェやレイのドレス姿なんて人気出そうだ。モンスターフィリア大発生によりオラリオは秩序崩壊!なんて事にはならないだろう多分。それに手を出したら手痛いしっぺ返しが来るだろうし。

 

「テキシュー!バリスター!」

 

バシュバシュバシュ─────ッ!!

 

うお!?バリスタがいきなり連射されたんですけど!?

ラーニェさん説明はよ。

 

「どうやら飛行能力を持つモンスターが来たらしいな。穴が空いて以降、飛べるモンスターはこの階層に来れるようになってしまっている」

「ひゅー、ひゅー!(口笛を吹こうとしている)」

 

妖夢、誤魔化すの下手かお前。

 

『ま、俺の作ったバリスタが役に立ってるわけだ!良きかな良きかな』

「あぁ、威力も精度も高い。・・・・・・問題は槍の補給が間に合わんことか」

「あぁ・・・」

『ま、そこはしゃーない。撃ったやつ拾ってくるなりして節約しかないな』

 

 

そんなふうにラーニェと話しながら進んでいると、リドとグロスが出迎えてくれる。

 

「コノ建物ヲ覚テイルカ?」

「俺達が最初に作った場所だぜ!」

『うん・・・・・・覚えてるよ。懐かしいな、本の数日前まではここに居たのにさ』

「へへへ、なんだ、なんか嬉しいな!グロス!」

「フン、スグニデモ冒険者ガ来ルダロウ。準備スルゾ」

「な〜んだよグロス〜!素直じゃないなぁ!」

『あはははは、さすが2人は仲いいね』

「おう!」「ハァ」

 

くくく、いやぁ、やっぱりこういうじゃれ合いは傍から見ても楽しいなぁ。そう思わない?だよね、やっぱり楽しいわ。・・・・・・へ?

 

「ハルプーーー!!スリスリさせてくださーい!!」

『えっちょまって!?あはははは!!擽ったい!やめっ、やめてっ!あはははは!?』

 

なんで俺たちまでやる必要がぁぁ!?

 

私がしたいんですって君ね!?やめっ!脇わやめろぉおおおおおおおお!!!!

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

79話「あわわわ・・・・・・!お、おばっ──みょん(気絶)」

ダンジョン十六階層。

ダンジョンが解禁されてからというもの、冒険者達は挙ってダンジョンに飛び込むような事をしていない。

 

ギルドからのダンジョン進入禁止のお触れ、それは冒険者達を警戒させるには十分なものだった。しっかりとした準備を整えるべく、多くの者は未だ地上にいる。

 

そう、極小数・・・・・・ベル・クラネルを初めとした彼らは(妖夢達を除いて)誰よりも先にここ十六階層にたどり着いたのだ。

 

「はぁ〜、ベル様ぁ〜!リリは幸せですっ!まさか、まさか魔石とドロップアイテムだけでこのバックパックが埋まるなんて思ってませんでしたよー!」

「リリ、はしゃぎ過ぎたよッ!!け、警戒しないとっ!?」

「おおおい、落ち着け、落ち着けベルそれにリリ助。帰ったらあれだぞ、半分くらいは俺に渡せよ?防具も武器も作ってやるからな!な!」

 

リリはホクホク顔で幸せそうに歩き、ベルは興奮気味にそれを窘め、ヴェルフは欲を漲らせている。

 

「・・・・・・なんだかズルしてるみたいだね(能力って凄いなぁ)」

「それは・・・否定できませんが、スキルの様なものだとハルプ殿も言っておられたので問題ない、かと?(なぜ春姫殿に隠すのでしょうか?)」

「よく分かりませんが、アイテムが沢山貰えるのは喜ばしい事なのでは無いのでございますか?」

「うれしいよ?嬉しいんだけど。もう持ちきれないよ」

「そうですね、それに魔石やアイテムを落としっぱなしにしたら強化種が生まれてしまい危険かと」

「なるほど・・・・・・流石は命様と千草様っ!」

「「様!?」」

 

そんな!様だなんて!!と命と千草が慌てながら春姫に抗議する。

 

「おっとと」

 

命がバランスを取るためにたたらを踏む。命は両腕まで使って魔石とアイテムを抱えている。

なにせ10体倒した内、8体程はアイテムを落とすのだ。持ちきれなくなるのは必然だった。

 

なので今は出来るだけモンスターに会わないように慎重に進んでいる。十七階層にはモンスターは階層主のお陰もあってかあまり沸かない。

 

「ベル様、帰ったら何をお買いになられますか?」

「うーん、ヴェルフが装備は作ってくれるって言うし・・・・・・やっぱり拠点が壊されちゃったから、お家かな?」

「ですよねっ!ならやっぱりリリは大きな家がいいです!あ、やっぱり小さな家で静かに暮らすのもいいかもしれない(小声)」

 

ビュン!

 

今後手に入れるだろう大金に胸を躍らせる各々の前に、銀の閃光が横切る。それもとんでもない速度で。

 

『いやっふぅぅぅーーーーーーー!!!』

「待ってくださーーーーーーーーい!!!」

『オラどけモンスター!!あっ魔石と素材は置いていけ!!』

「ぐぬぬぬ!負けません!負けませんよぉ!」

 

妖夢とハルプが追いかけっ子をする様にダンジョン内を駆け回る。そして壁にヒビが入れば壁ごとブチ抜き、通路にモンスターが居ればすれ違いざまにぶった斬る。

 

もはや乱獲だ。素晴らしいのはそのコンビネーション。前に出た方が倒したモンスターのドロップアイテムを後ろにいる片方が回収する。あれだけ高速で動きながら素材を置きっぱなしにはしていないのだ。

 

『バックパック一杯だろ!?ほらよっと!』

「ありがとうございます!じゃあこれどうぞ!」

『はいはいー!っと、そらよ!!』

「右です!」『そいやっさ!あ、上お願いね』「勿論ですっ!」

 

バックパックを交換し、その途中でモンスターを刈り取る。

余りの神業にベル達がポカーンとしてると、2人はベル達に気が付いた。

 

『あっ!妖夢妖夢、千草達いたぞ』

「あ、ホントです!千草ー!命ー!春姫ー!」

 

壁を蹴り方向を転換、飛ぶような三歩で跳躍、くるりと回って綺麗に着地を決める。そしてフィニッシュのポーズ。「『ブイッ!』」とピースを決めた。

 

『おお皆、荷物1杯だな!』

「はい!僕達も沢山ドロップして、ハルプさんのお陰ですよ!」

『ははは、それほどでもある!』

 

ハルプのしてやったりと言った顔に、ベルが答えればハルプは自慢げに無い胸を張る。

 

『よし、じゃあ進もうか。妖夢、バックパックあといくつ持てる?俺もうパンパンなんだけど』

「戦わなくていいならあと四つは行けますよ」

『うーん、どっちがいい?俺も腕とか使えば四つ持てるけど。妖夢戦いたい?それとも荷物運びながらお話したい?』

「お話し!お話しがいいです!あでも戦いたい・・・い、いえやっぱりお話しで!」

 

ハルプと妖夢は話し合い、どちらが残るか話し合う。結果としては妖夢が残ったようだ。妖夢はニコニコと笑いながら命達やリリルカ達と話し合う。

 

賑やかに話しながら、彼らは新しくなったリ・ヴィラへと向かっていくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はほんの少しの疲れを感じながら十八階層への坂を下っていく。下るにつれて背中が汗ばんでいく。

思い出したんだ、あの日の事を。じんわりと冷たいものが体を這う。首を振ってそれを払い、僕はみんなを振り返る。

 

「みんな、行こう!」

「はい!」「おう!」

 

リリとヴェルフがいつもの様に返事を返し、命さんや千草さんも頷いてくれる。春姫さんはドキドキしてるのか不安そうだ。

 

「そんなに緊張しなくても・・・・・・と言いたいですけど、無理な話ですね。私も若干緊張していますから」

 

妖夢さんが困ったように笑う。その笑顔に一瞬ドキッとしてしまったけど、リリに蹴られて正気に戻る。

 

「よ、よし!」

 

自分を奮い立たせ────「じゃあ誰が一番速く降りられるか勝負しましょう!!」「畏まりました!」「えっ!?わ、わかったよ!」「コンっ!?」──へ?

 

バッ!と駆け出す妖夢さんたち。目を点にして呆ける僕ら。 ってこんなことしてる場合じゃない!

 

「行くよリリ!」「はいっベル様!」

「・・・・・・。はっ!いや待てよお前ら!?」

 

駆けていくにつれ、徐々に明るくなる。数秒の事だったけど、その中で僕は思う。

僕の目の前を走っている妖夢さんや他の人達に追い付きたい。超えたい。追い越したい。

 

負けたくない。

 

「僕がっ!!勝──!!」

 

本気で走る僕を嘲笑うように、妖夢さんが掻き消える。確か「縮地」という技術だったはず。

それに続くように命さんと千草さんも掻き消えた。

 

「は、はや?!」

 

僕が到着した時には既に、妖夢さん、命さん、そして千草さんが居た。僕は4位だった。縮地って凄い・・・・・・。

自惚れてたのかな、千草さんには負けないと思ってた。ごめんなさい。

 

「1位です!」

「妖夢殿、ずるい」

「速いよ、もう」

 

うぅ、若干、なんて言うか男としてのプライドのようなものが砕かれた。変なところで驕ってたらしい。こう言ったところで自覚できてよかった・・・・・・。

 

「───────」

 

最後に春姫さんがハァハァ言いながら辿り着き、誰もがそれを讃えた。そして、高台となっているこの場から・・・・・・戦地を望む。

 

 

「穴?」

 

 

春姫さんが呟く。よく響く高い声、妖夢さんがそれに頷き話し出す。

 

「たった一つの魔法がこの光景を作り出しました」

 

階層の中央、そこから総面積の半分程の巨大な穴。そこへ川が流れ落ち、滝を作る。今までのような水浴びが出来る場所は殆どない。

 

「沢山の犠牲の上に咲く、酷く醜い桜がこの光景を生み出しました」

 

木々も全くと言っていいほど生えてないし、本来なら至る所にあった水晶も今は疎らにある程度だ。

階層そのものも薄暗くなってしまった。あの魔法がどれだけ規格外なのか、この光景を見れば分かる。

 

「魔法とは・・・危険なものばかりです。春姫、貴女の魔法もです」

「私の・・・・・・?」

「はい」

 

神様は言っていた。

「あの魔法は、ダンジョンを殺したんだ。一部だけとはいえ、ダンジョンを」

ダンジョンは生きている。だから壊れても治るし、モンスターが生み出され続ける。

でもあの穴の部分は治らないしモンスターも生まれない。完全に機能を停止しているんだ。

 

「だから、確りと考えてください。それを隠して生きろとは言いません。それを独占するつもりも有りません。貴女の自由です」

 

妖夢さんがニコッと笑う。どこか無理をしているように見える。けど、多分平気だ。よく分からないけどそう思う。

 

「さーて。右手をご覧くださーい!なんと、街です!」

 

妖夢さんがコホン、と咳払いをして明るい声を出す。

え?街?

と僕らが振り向けば、そこには本当に街があった。この間来た時とは違ってとても頑丈に見える。

でもどうして・・・・・・?ダンジョンは封鎖されていたんじゃ?

 

『おーい!みんなー生きてるかー?』

「ハルプさん!?」

 

遠くからハルプさんが岩の竜・・・・・・たしかガーゴイルに乗ってやってくる。

テイムしたのかな!?

 

「えええどういう事ですか!?」

「わわわ、分かりません!」

「妖夢ちゃんたち何したの!?」

「あっ!グロス様!」

「「「グロス様!?」」」

 

慌てふためく僕達を見て、ハルプさんが『ふふふ、ははは、はーっはっは』と笑い、頭をグロスと呼ばれたガーゴイルに叩かれて『むわー!』と地面に落ちる。

 

何やってるんですか・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おのれグロス。ゆるざん!俺のかっこいい登場を無駄にしやがってーー!

俺は頭を押さえつつ、グロスの上にもっかいよじ登る。グロスが身動ぎするがその程度で落ちる私では無いわ!

 

『みろ!俺の友達だっ!』

「友達!?」

 

ドヤ顔で宣言しつつ、グロスの頭をベシベシ叩く。

ぬおわっ?!落ちるか馬鹿め!

 

「どう見ても抵抗されてるのですが・・・・・・」

『いや、普通に考えて頭乗られたら嫌だろ?そういう事』

「グルルルル!」

『いやですー!降りませんー!』

 

リリに指摘されたけど、そもそもテイムしてないし。抵抗されるのは当たり前だ!!

だがそもそも「乗っていい」と言ったのはグロスだ。何処にという指定が無かったから頭を選んだのに。

 

『とりあえずさグロス、もう演技しなくていいよ?』

「・・・・・・」

「「「「?」」」」

 

みんなが「えっ?」て感じでこちらを見ている。ふふふふ、驚く顔が目に浮かぶぜ・・・・・・。

 

「良イノカ?」

「「「「!?!」」」」

 

グロスがそっと呟くと皆が驚く。ぷくく・・・・・・やばい、面白すぎる。特にベル君っ口がっ!あが〜って開いてるっ!

 

「い、いま・・・・・・話して・・・・・・?」

「うそ・・・・・・モンスターが?」

 

笑うな、笑うな俺っ!!

 

「プクッ・・・・・・ふふふ」

『妖夢さんッ!?笑うなよそこで!!ここ真剣な場面だからね!?』

「で、でもっ!あは、ベル・クラネルさんが・・・・・・ごめ、ごめんなさいっ!」

 

妖夢が「耐えられない」と言ったふうに笑いだす。やめろォ!俺だって笑いたいんだぞ。でもアイツらからしたらとんでもなく重要なことなんだぞ!?

元から「魔物?あぁ、どうせ話すんでしょ?ファンタジーだもんね、知ってる知ってる」みたいな価値観してた俺と、「え?なんで話さないの?」みたいに思ってたお前とじゃ全然違うんだぞ!?

 

・・・・・・確かにそうですねって妖夢ぅ、え?妖怪みたいなやつが多かったからどうせ話す奴らも多いだろって思ってて知ってる人も多そうだなって?でも俺の知識が流れ込んできた時に、知ってる人は少ないと知って驚いた?

 

うん、だから価値観の違いはあるし、結構大きいよ?

 

アイツらからしたらアレだ、目の前に落ちてる導火線に火のついた爆弾が「ボク、アンゼン、ダヨ!!」って言ってるようなもんだ。

それは確かに怖いですね?そうそう怖いよ。とても怖い。

 

「ぇ、えっと妖夢、さん。これは・・・・・・どういうことでしょうか?」

 

目を点にしてる千草達を除き、リリが俺たちにそう聞いてくる。ふふふ、流石はリリ。お目が高い。1歩足を後ろに下げた所とかイイね。警戒は重要。

 

『その通りだ、リリルカ。そう、今貴様が想定した最悪─────────モンスタートラッ「えいっ」あだっ!?』

 

いっでぇ!?・・・・・・俺はお化け、痛くない!

 

「もう全く。リリルカと仲良くなれたかもっ!!って喜んでた癖に、そうやって好感度をわざと下げるような事しないで下さい!」

『おいおい、本人の前でそれを言うか?それじゃ俺が素直になれないツンデレみたいじゃーないか』

「それでいいのでは?」

『良くないわっ!』

 

くそぅ、なんか生暖かい目が向けられてるんですけどぉ?どうすんのさこれ。

 

「えっと、その、どう説明すれば良いんですかこれ?」

『・・・・・・あ、もしかして前まで説明下手だったのって妖夢のせい?』

「うぅ、すみません」

『いいよいいよ』

 

よし、ここは圧縮言語を使うしかないな。まぁ圧縮言語と言うよりは能力によるテレパシー的なものなんだけど。

 

うぉー、みょんみょんみょん・・・・・・!

 

 

 

「「「「「「なるほどぉ」」」」」」

「す、凄いですね。良く分からないうちに全員が理解しましたよ、何したんですか?」

『能力で理解させたのさ!』

「万能ですねぇ」

『ねね、罅とか無い?』

「はい、ありませんよ。綺麗なお顔です」

『ふぅ良かった』

 

どうやら能力は完璧とは言えないまでも扱えるようにはなった。今のところ罅とかも見られないし。

 

「それにしても異端児(ゼノス)ですか・・・」

「う、うん。モンスターなのに人と同じ心を持つ」

「あー、あれだな。モンスターと戦うのが少し億劫になった」

「!?も、もしかしてさっき戦ってたモンスターの中にも?」

 

強引ではあるが、ゼノスがどんなものか理解したベル達は、先ほどの戦いで殺していたのでは?と僅かな罪悪感に捕らわれている。ま、ゼノスが生まれる可能性とか低いし、平気だろ。

 

『いや、それは無いと思うぞ。ゼノスはモンスターからも攻撃されるからな』

「モンスターからも?」

『外見以外は人間扱いなんだよ、ゼノスの皆は』

 

モンスターからも狙われるという事で、ベル達からの憐憫?の気持ちが強くなったように思える。よしよし、このまま味方に引き込むぞー。って、そう言えばガネーシャと接触してないな俺。後で行くか。

 

「・・・・・・」

 

ベルが考え込んでいる。多分「助けてあげたい」って気持ちと、今までの常識がぶつかりあってるんだろうなぁ。にしし、少し卑怯な言い方をしようかね?

 

『ベル、お前は何になりたい?』

「え?」

『お前は何になりたいんだ?』

 

俺はニヤニヤしながらそう言う。だって結果はわかってるので。

 

「えっ!?えっと、そのぉ、あはは・・・・・・」

『なに?』

「っ!」

 

誤魔化そうとするベルにグイッと顔を近づけつつ首を傾げる。上目遣いも忘れないぞっ!くくく、やばい楽しい。ベル君真っ赤だぞはっはっは!

 

「え」

『え?』

「英雄・・・・・・です」

 

頭から煙を吹き出しながらそう言ったベル。よしよし、ここで「アイズさんの旦那様ぁ!」とか言い始めたらどうしようと思った。

 

『そうかそうか』

 

嬉しかったのでそれをアピールしつつ、話を進めていく。

 

『じゃ、質問だ。お前の目の前には沢山の誰かが乗った船がある』

「ふね?」

『そう、嵐が海を怒らせて今にも沈んでしまいそうだ。君にはそれを救うだけの力があった。助ける?助けない?』

「助けます!」

 

ベルはすぐに答えた。

 

『では、そこに乗っていたのがモンスターだったら?』

「え、えっと・・・・・・・・・・・・助けません・・・・・・」

 

グロスの方を伺いつつ、正直に答えた。ここで助けますとか言ったら信用無かった。

 

『そうか。じゃあ、そのモンスターが意志を持っていて、ベル・クラネルに「助けて!」と言ってきたら?』

「!?」

 

ベル君の顔が若干歪む、想像したのかな?いや、それとも?

 

『こわい、たすけて、だれか。って叫んでいたら?』

「・・・・・・助けます」

「ベル様?!」

『そうか。その結果人々がベル・クラネルを蔑むかもしれないぞ?』

「っ!・・・・・・それでも、助けたいです。助けてって言ってるなら、助けられる力があるなら、助けてあげたい」

『・・・・・・ありがとな』

「で、でも、なんでこんな質問を?」

 

ふふふ、待ってましたその疑問!!!止めの一撃をくらえぇ!・・・・・・なんか俺悪役!?

 

『──────俺も異端児(ゼノス)だからさ』

「「「「「!?」」」」」

 

今まで静かに聞いていた皆もその目を見開き驚いている。

まぁこれで・・・・・・自惚れでなければ仲良いし?味方になってくれんじゃね?みたいな?

 

「ハルプさんが・・・・・・」

「ゼノス、だって?」

『おう、だからさ仲良くしてもらいたいんだ。俺と仲良くなれたんだし、他の皆とも行けるだろう?因みに言っておくけどな、異端児としては俺が一番酷いんだぞ?それと話せているんだから他の奴らとも行ける!』

「ええぇぇえ?!だってハルプ様はスキルで・・・・・・!?」

「確かにそうだ」

『────あれは嘘だっ!』

「「「えぇえ!?」」」「コン!?」

 

ハッハッハッハー!俺はスキルでは無かったのです!ちなみに!スキルだよって言っても嘘だと思われないのは、確かにスキルでもあるからだー!ずるい!ややこしい!

 

 

まぁそんなこんなで、リ・ヴィラに入った冒険者諸君。皆には俺が魂だけのへんちくりんであることは教えた。驚いていたけど、モンスターが話した事に比べると納得が言ったらしい。よくわがんね。一応秘密にするように言っておいた。

 

そんな皆が俺と妖夢がニヤニヤ見守る中、心を持ったモンスター、ゼノス達と触れ合っていく。ベルも良いけど、リリがとても面白い。

嫌だ。と顔に出しているくせに、アルミラージが来たら周囲を見渡し、誰もいないことを確認した後、良い子いい子と撫でている。微笑ましいなぁ、という訳で霊体化からの実体化からのリリの頭をナデナデ。

 

「ひゃいっ!?ハルプ様!?」

『ナデナデ〜』

「や、やめて下さいっリリは子供では───。」

 

子供ではないと言おうとしたのだろうか?周りに人が居ないことをもう一度確認し、安全と判断したのかアルミラージを抱っこしながらこちらを見る。

も、もっと撫でてって事かな!?可愛いなおい!

 

「こ、こ、子供ではないので・・・・・・その、やめて下さい」

 

涙目で凄い残念そうに言ってらっしゃる?!なんだそれ破壊力あり過ぎかよ!?

俺の撫でる手が止まらねぇえ!

 

「ズルイですよハルプ!!私も撫でさせて下さいっ」

「なっ!?」

『えへへ~可愛いなぁ〜』

「ホントですねぇ〜」

「ちょ止めてくださ」

「キュイー」

「ひゃ!首を舐めないで!」

 

ぬししー。とイチャイチャしていると、リドが走ってくるのが見えた。仕方なくリリを解放してあげる。リリは顔を真っ赤にしつつも、満更では無さそうだ。

 

「ハルっち!頼まれてた材料は揃ったぜ!」

『お?本当に?』

「あぁ、フェルズが何とかしてくれた」

『あはは、伝説の賢者さまがまさかカレーの買い出しかぁ、後でお礼しなくちゃな。よぉし、そんなことよりも宴だぁ!!』

「そんなことって・・・・・・宴って!それに伝説の賢者って!!もう色々ありすぎてリリはパンクしそうです!!こんなのおかしいです!」

 

リリが悲鳴をあげるが、そんなことお構い無しに物語は進むのです。

 

 

 

 

 

宴の末、皆そこそこ仲良くなった。命とレイが歌を歌っているし、フォーの肩に春姫が乗せられて慌てている。でも楽しそうだ。ベルはリドと話し合いながらお酒を飲んでいるし、ヴェルフはレッドと鍛冶について話し合っている。レッドには鍛冶の技を軽く教えておいたのだ。さす俺。付け焼き刃だがそもそもの製法が違うのだろう、ヴェルフとの会話も盛り上がっている。

リリはいわゆる「カワイイ系」のモンスターに群がられて嫌そうにしているが幸せそうだ。千草がラーニェ達お姉さんに捕まり可愛がられている。

 

「・・・・・・ありがとう。私ひとりではこの様な光景は永遠に作れなかっただろう」

 

俺達はと言うとフェルズと話している。保護者視点で遠目から3人で眺めてるのだ。

 

「そんな事ありませんよ。ね?ハルプ」

『おう!そうだぜ?本当はこの後ベル達が結局はこの光景を作る事になる。・・・・・・俺達はそれを早めただけだ』

 

やってる事は手柄の横取りなのだ。誇ることでは無い。それに?もうすぐ戦争する少年にいきなり背負わせるわけですから?なかなかに悪役な俺。え?それって私も含まれますか、だとぉ?答えはyes!

 

「そうか・・・。だとしても、私は感謝するよ」

『そっか。なら、受け取っときますぜ?』

「あはは」

 

あ、そうだ。ガネーシャに話通してあるのか聞いとこうか。まぁ、話してあるんだろうけど確認だ。

 

『なぁ、話は変わるけどさ。ガネーシャに俺のことって言ってある?勝手に動いちゃってるから話付けとこうと思ってたんだけど』

「あぁ詳細は省いたがタケミカヅチファミリアに内通者が居るとは言ってある」

『なんで詳細省いたんだよぉ』

「むしろわかりやすいと思ってね」

「『確かに・・・・・・』」

 

ローブで隠れた骨の身がカタカタと笑う。おい笑うな。

フェルズが嬉しそうな雰囲気のままこちらを向く。

 

「『ひゃ怖い!!』あわわわ・・・・・・!お、おばっ──みょん(気絶)」

『よ、妖夢!?気をしっかり!ここここ、怖くねぇよっ!フェルズイイヤツだから!ここ、こわ、怖くないよぅ?!』

「・・・・・・」

 

ああぁ!?精神がやっぱり妖夢に引っ張られる〜!妖夢が怖がることにより、怖がる精神は2つ。つまり2倍の恐怖なのだ!!

妖夢のお化け嫌いがここまでとは、このハルプの慧眼をもってして見抜けなんだ・・・・・・。

 

「はぁ、とりあえずありがとう。そしてなんか済まない」

『た、たやまる必要はニャきってっ(謝る必要はないって)!!』

「噛みすぎだろう・・・・・・」

 

俺達のやり取りを見ていたのか場が笑いに包まれる。そんなことよりも妖夢を助けて。

 

この後ベル達VS戦える異端児(ゼノス)&タケミカヅチ・ファミリアの連合チーム(フル装備)との全力訓練が始まるのだが・・・・・・それは割愛します。ちなみに成長する可能性を80%引き上げておいた。

結果だけ言うならベル達の耐久ステイタスとかが凄まじく上がったことだけは言っておこうかな?

 








コメントくだされ〜_(:3」∠)_




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

80話『好きだぜ、妖夢』


ハーメルンがどんどん便利になって行くが対応しきれない無能作者のシフシフです。

タイトルぅ!べ、別に告白なんかしないんだからね!!(大嘘)







ここは十八階層の街、リ・ヴィラ。

理性あるモンスター、異端児(ゼノス)が暮らす街である。

堅強な外壁に覆われ、飛来するモンスターを撃ち落とすべく巨大なバリスタが設けられている。

そんな要塞とも言える場所でベル達は

 

───────────倒れていた。

 

「もぅ・・・・・・むり、です」

「あぁ限界、だ」

「なんで・・・・・・リリ、まで・・・・・・」

 

心身ともに限界、ポーションなんてもう飲みたくない。見事な水っ腹になった3人は、傷だらけの体をどうにか起こす。

その視線の先、無数のゼノスたちがその身に纏っていた鎧を外し休息を取っている。

 

『なんだよ情けないなぁ。もっと頑張れよー』

 

ひぃひぃと言うベルの顔を覗き込むようにしながらハルプがそういう。整った顔立ち、あどけなさが残る顔が目の前に現れ、ベルはひっくり返る。最早叫ぶ体力もない。

 

『おーいー』

「や、やめて、くだ、さ」

 

ハルプがベルの肩をつかみ前後に揺らす。

 

「お願い、です」

『なら仕方ないな』

「それでいいのかよ・・・・・・」

 

頼まれたら断らないっ!とドヤ顔で宣言。グロスとフォーがやって来て三人を回収する。

 

「俺達は物かよぉ」

 

もうヘトヘトとヴェルフが泣き言をあげながらリ・ヴィラへと連れていかれたのだった。

 

 

 

 

 

 

時はほんの少し進む。ベル達がダンジョンを出て、自分のファミリアに帰った頃。

俺は1人、ガネーシャ・ファミリアへとやって来ていた。

 

というか、ガネーシャの部屋の前にもう来ていた。入口から入るのは警備がいてめんどいのでね。俺に人権はねぇ!つまりルールなんて知らねぇ!・・・・・・相手になんか言われたらルールを強要してやるぜ(ゲス)

 

コンコン、とドアをノックすると「誰だ?」と返事が返ってくる。ドアを開けて中に入る。ちなみに人型になっているぞ。

 

『よっす、俺だよガネーシャ!』

「ほう、お前は確かタケミカヅチの・・・・・・。なるほどな」

 

あれ?俺がガネーシャだ!じゃないのか。まぁそこはいいか。

 

『話が早くて助かるぜ。勝手に進めちゃってるけど、止めないのか?』

「あぁ、むしろ礼を言うぞ。まぁもう少し相談は欲しかったが」

『あはは、悪い』

 

俺が笑っているとガネーシャは真剣な顔を崩さずに尋ねてくる。

 

「お前は、異能──いや、権能を持っているらしいな」

『──────何処まで知ってる?』

「ウラノスの知るうるまでは、とだけ言っておく」

『そうかい。で、俺の権能で何がしたいって?』

「どうか──────」

 

なぜ俺の能力について・・・・・・?神なのだから俺の能力よりも万能であるはず。まぁ、地上で使うと天界行きだから使いたくないとかなら分かるけど。

・・・・・・いや、よく考えれたならなるほど。語る必要も無い。

まぁ?そんなことは知った事じゃないですよ。

 

『断る』

「ま、まだ何も・・・・・・どうしてもか?」

『うん、だめー』

 

残念ながら時間は無いのだっ。そもそも?俺はガネーシャが内通者だから挨拶をしに来ただけだ。俺は頼まれた事を断らないっと言ったな?あれは本当だ。でも他に先約があるのでダメデース。

 

「だが」

『でももう決めたことだからな』

 

ゼノスは危険じゃない。ゼノスは人類の友人である。そう認識させる、いや、そうである世界(・・・・・・・)の考え方だけを持ってくる。そうだった事にする。

 

俺が・・・・・・ほかならない俺自身が異端児の夢を叶えるには、もうそれしかないのだ。

だから、やろう。妖夢からの許可ももらっている。

 

「何時やるんだ?他に誰が知っている?」

『やること全部終わらせてからかなぁ。・・・・・・タケミカヅチ・ファミリアの主神、幹部含めた1部。ヘスティア・ファミリア全員。それが原因と結果を知る人になるかな?』

 

・・・・・・うーん、ベート達にもしらせる?でもべート許してくれないだろ多分。まぁ、いうだけ言っておこう。今はまだ早いけどな。

 

『うんまぁ、べートとかにも言っておくかな。そんなことでよろしく』

 

俺は呆れたような視線を背に受けつつ、その場をあとに・・・・・・する前に

 

『あ、神様神様、お名前教えてよ』

「俺か?俺がガネーシャだ!」

『知ってた』

「だろうな」

 

うん、やっぱりこのセリフ必要だよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ってきた俺は、早速妖夢に捕まった。

 

「ハルプハルプ!和菓子を買ってきたんですよ!ほら、べートと行った所です」

『おお!ホントか!いいねぇ』

 

楽しげに、はしゃぐようにして妖夢は俺の肩を掴んで飛び跳ねる。満面の笑みにこちらも嬉しくなる。なんて言うか、心がぽかぽかする。変な気持ちだな?悪い気はしないけど。

 

・・・・・・でもそんな気持ちも、長くは続かないだろう。

 

俺はもう──────長くない。

 

残念だけど、仕方ない。自業自得だしね。

・・・・・・妖夢は知ってるのかな?知ってるよなぁ。

 

複数の魂が寄り集まり形成されたのが俺だ。だけど今の俺は「俺」と言う意識を形成する欠片(コア)が一つ残っているだけに過ぎない。

魂とは消耗品だ。緩りと燃える蝋燭のように徐々になくなり、やがて消える。俺の状態は砂上の楼閣、風前の灯。

 

別れは決して遠くない内に来る。

 

別れに関しては妖夢も同じだ。正確な時期は不明だが八雲紫が迎えに来るらしい。その時まで例え俺がまだ居たとしても、憑依なんて明らかな境界が存在する以上切り離されて消滅してしまうだろう。

 

・・・・・・だから楽しむだけ楽しんで、出来るだけ頑張ろう。

 

「ハルプ、何を考えてるんですか?────もう、無粋です。ブスですっ」

『おまっ、俺に言ったらそれこそ凄まじいブーメランだろ!?同じ顔の奴にブスって・・・・・・!』

 

可愛いだろ!いい加減にしろ。我らは2人で1人、可愛さは2乗だぁ!2倍ではない!

 

「やめてくださいよー恥ずかしいですよ」

 

顔を赤くして手をひらひらする妖夢。

ふっふっふ目指せ黒龍討伐、目指せ世界最強の剣士!そして・・・・・・うーん、アイドル?それは嫌だな。

 

「ハルプ」

『なにさ?』

「最後まで一緒ですよ。絶対です。約束ですからね?」

 

桜を象った和菓子を食べながら、妖夢が笑う。それにつられて笑ってしまう。やっぱり妖夢は凄いな。俺も頑張らないと。

 

『そうだな。一緒だ』

「あ、そう言えば・・・・・・明日は私達のこちらでの誕生日でしたよね」

『おう!そうだぜ!いやぁ楽しみだなぁ』

「で、明後日って・・・・・・戦争遊戯ですよね」

『おう!ははは、なんか忙しいなぁ』

「ですね、でも」

『楽しいからいっか!』

「ですねー」

 

妖夢が俺の膝に転がってくる。猫かお前は。その頭を撫でサラサラの髪の毛の感触をたしかめながら、思い馳せる。

 

もし理想の世界になったら・・・・・・皆は喜んでくれるのかな。異端児と人間が手を取り合える様になったら、皆笑ってくれるのかな。

 

分からない。でも、俺は知っている。

 

 

──────可能性は0では無い。

 

 

希望はある。夢はある。理想はある。

 

想いはあった。羨望はあった。幻想はあった。夢想はあった。

 

なら俺が変えよう。

それが全て、あの駄神の思い通りだとしても。

そんなこと、知ったことではない。俺は俺の思うように生きる。

俺は皆のためにと思ったのだから、決して間違ってなんかないだろう。それに────

 

「────スゥ────スゥ────」

 

たとえ俺が間違ったとしても、きっと妖夢が止めてくれる。だから、俺は皆のために全てを出し切ろう。

 

『好きだぜ、妖夢』

 

そして、もしも全てを出し切って。皆の願いを叶えた後でほんの少しの力が残っていたなら。

きっと、きっと妖夢の願いも叶えてみせる。

 

「ハル、プ────」

『ごめんな。何時も、後回しでさ』

「えへへ・・・・・・」

 

俺のために一緒にいてくれる妖夢を最後にしなくてはならない。そんか自分の情けなさに、思わず笑ってしまった。きっと今、情けない顔をしてるんだろうなぁ。

でも、俺の顔は妖夢の顔なわけで?情けない顔はしないようにしないとな!

ふふ、よぉし、妖夢の寝顔を確りと目に焼き付けるとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誕生日当日。俺と妖夢は武錬の城から追い出された。き、嫌われたわけじゃないからな!?

誕生日パーティーをするにあたり、準備に時間がかかるからそれまで暇を潰しておけってことらしい。

 

「えっと、どうします?」

『うーん、例の件をべートに言うにしたってなぁ、誕生日に言うのも嫌だし』

「ベル・クラネルさんも戦争遊戯の会場にもう向かっていますからね」

「ダンジョンは・・・・・・帰ってくるのが遅くなりそうなのでダメ、と」

 

でもやることがないんだよなぁ。タケミカヅチ・ファミリア総出で準備するらしく、誰も暇な人はいない。ヘスティア・ファミリアも居ないとなれば・・・・・・そう

 

『べートだな』

「べートですね」

 

さて暇つぶし兼、思い出作りに行きますか!!

 

 

 

 

 

『「と、言うわけなのですよ」』

「いや揃えても無駄だからな?」

『遊んで!』「下さい!」

「分割すんな」

「『遊んで(ください)よぉ〜』」

「腕を引っ張んな!!」

『じゃ尻尾』「あ、私耳で」

「触んなっ!」

 

何だよー、折角のモフモフが・・・・・・。ダリルと違ってべートのはモフモフなんだぞー。ダリルはなんて言うか乾燥していてなー、硬いからなー。

 

「・・・・・・」

「あ?なんだいきなり黙り込んでよ」

 

うん?なんです妖夢さん。え?尻尾が?・・・・・・ゆ、揺れてる!!耐えてる!耐えてるよあれ!!実は割と喜んでるじゃんべート!!

 

『べート・・・・・・この変態っ』

「見損ないました。変態さんだったんですね」

「なんでだっ!?」

『やーいへんたーい』「へんたーい!」

 

ナイス妖夢、さすが俺達のコンビネーションだぜっ!打てば鳴るって奴だな。

べートはべートで顔を若干赤くしてる。ふふふ、案ずるなかれ、あれは恥ずかしがっているのではない。キレてるのだ。

 

『ふっ、逃げるぞ妖夢!』

「もちろんですともっ」

「逃がすかぁ!!!」

「『わーい!鬼ごっこだぁーー!』」

 

縮地使ってガッツリ逃げると諦めてしまうかもしれないので、捕まるか捕まらないか位を維持して逃げるのです!

 

『やーい!レベル6が4を捕まえられないのかよー!』

「犬さんこっちら、骨なる方へ!わんわんわんですっ」

「テメェらぁあああ!ぶっ殺す!」

『俺は死なんぞー!』「死ぬのは嫌ですー!」

 

いやぁ、ベートってやっぱりイイヤツだよなぁ。なんだかんだで遊んでくれるしっ!!

どうせ怒ってるのも周りからの視線を気にした演技だろうしな!

 

・・・・・・おや?演技の可能性が3%しかねーぞ?ガチギレですか、やばいな。妖夢に伝えておこう!

 

「ぇ」

 

逃げながら妖夢が「マジですか」って顔でこちらを見ている。yes。と頷く俺。さて捕まれば最後、あんなことやこんなことをされて死ぬ。具体的には蹴られて蹴られて蹴られる。

 

「待てこらぁ!」

「待てと言われて誰が待ちますかっ!───っ不味い!」

『くっ、頼みは断らないっ!』

「は、ハルプ!!」

『先に行けっ!!────必ず、生きて会おう!!』

「ハルプッ!────もう、失敗してますそれ」

『あはは!確かに!!』

「オラァ!!」『グボァ!?』

「あーーーー!ハルプの頭が消えた!」

『復活!逃げるぞ妖夢。俺は待った!』

「おお、その手が!」

「どういう理屈だ!!待て!」

『はいっ!』

「犬かてめぇは!」

『わん!わんわん!意味はオマエモナっ!だぜ!』

「ぶち殺す」

『きゃいーん!』

 

あはは!さすがべート楽しいぞ!

という訳で仕返しに尻尾を掴む、そしてねじる。

 

「いっでぇっ!!」

『ふっふっふっ、我が対尻尾神拳、尾捻りを受けよ』

「受けたわ今っ!!」

 

如何にも怪しい動きで手を動かす。180度を左右の手で描くようにかくんかくんとムーヴ。そしてイザ鋭角から放たれる一撃は────『痛いたいやめてべート、やめよう。もうやめておこう。ね?やめよう?』

 

「はぁ・・・・・・初めからやめろ馬鹿が」

「ホントですよ、全くハルプは」

『裏切りっ!?』

「いやお前もな?」

「えー」『えーじゃないが』

 

うわー、と妖夢がわざとらしく項垂れる。俺も真似する。・・・・・・凄まじい勢いでこの場の空気がやる気なさげな感じになる。もうこのまま寝ようぜ。って感じだ。

 

『ういーべート、ベット借りるね』

「あ、私も」

「おう。・・・・・・は?」

「わー、べートの毛落ちてますよ、クスクス」

『笑うなよ妖夢、可哀想だろ。男ってのはいつ禿げるか分からないんだぞ!ブッ!』

「笑ってるじゃないですか」

『だ、だって・・・・・・お前想像してみろよ、禿げたべート』

「そ、そんな・・・・・・失礼ですよ・・・・・・ブッふ!!や、やめてください!強引にイメージを共有しないで下さいよー!みょーん!!」

 

ふふは、や、やばい。べートが禿げたらとか、かんがえるだけで、笑いが止まらないっ。

 

「テメェら・・・・・・もういい、俺はどっか行くわ」

 

え?どっか行くの?ダンジョンに行くのもまだ先なのに?・・・・・・あ、なるほど俺たちが寝ること自体は許してくれたのか!ありがとうべート!だがな、俺達はべートとの思い出作りに来たのだ。逃がさん。

 

『えー、べートも一緒に寝よーぜ!友達と寝るの憧れてんだよ!』

「あぁ?あの狐女と寝りゃあいいだろ」

『男友達とは寝た事ないだろ?だからだよ』

「知らねぇよ・・・・・・。それに俺ァ眠くねぇんだよ今は」

『いいだろー?』

「テメェなぁ!さっきは人の事変態だなんだ言ったくせによぉ!」

『あれは巫山戯ただけだろ?』「そうですよー」

「あぁ・・・・・・コイツらホント疲れる・・・・・・」

 

はよーはよー、とべートを急かしつつ、妖夢とキャッキャと笑う。あー妖夢可愛い癒させるわ〜。ここにべートのモフモフが追加される事により至福の空間となるのです。

 

「俺は行かねえからな、ガキだけで寝てろ」

『はぁ、聞きましたか妖夢さん』

「ええ聞きました」

『どうやら我々の事を意識し過ぎて来れないらしいですよ』

「どうやらそのようで」

「・・・・・・(イライラ)」

『変態を否定してましたがこれは・・・・・・』

「・・・・・・ですね・・・・・・」

「なぁ、追い出すぞ?」

「『すみませんでしたー!』」

「変わり身速いなっ!?」

 

ははー!とダブル土下寝。おやすみべート。

 

「あ、二時間くらいしたら起こしてくださいね!」

「俺は母親か!」

『べートが母親・・・・・・アリだな』

「無しだ!!」

『ははは・・・・・・』

 

眠いぃー。なんで魂なのに眠くなるんだ。ま、いいか。寝ることは精神を癒す云々があるし。寝よう!

 

『おやすみ、べート』「おやすみなさい」

「・・・・・・おう」

 

深い眠りに落ちていく中で俺は・・・・・・久しぶりにあの夢を見た。

 

 

 

 

 

 

ロキ・ファミリアの1室、べートに割り当てられたそこでハルプと妖夢は眠っていた。幼くあどけない寝顔は見ていて愛らしい、思わず起こしたく無くなる程に。

 

そんな寝顔を見て癒されるロキを含めた女性陣。べートは自分の部屋が占領されている事実に何とも言えない悲しみを覚えつつ、アイズが来てるし良いかな、と限界まで前向きに考えようと努力をしていたりする。

 

「はぁ〜可愛え〜な〜!やっぱり貰わへん?ウチ貰ったらあかんかな」

「流石にダメでしょ。ねぇアイズ、正面から妖夢ちゃん達に私達勝てるの?」

「・・・・・・無理、勝てない。ししょー達が本気を出したら目で追うことも出来ない」

「マジか、そんな強くなったん?」

「あぁ、魔法を使われたら何も見えねぇ。姿が消えるとかそういうもんじゃなくてよ、速すぎて視界から消えやがる」

「無理ゲーやんかそんなん。魔法いくつ持ってんねん」

 

ロキ達が2人の異常さを再確認していた時だ、穏やかな眠りを貪っていたハルプが薄らと目を開く。未だ微睡みの中にあるハルプにロキが手をワキワキさせながら近づいていく。

 

「ウシシ・・・・・・ハルプたん起きてーな」

 

ロキがいざハルプの平たい胸に触れようというとき、その頬を涙が伝う。

 

「!?」

「あー!ロキ泣かせた!」

「ちゃ、ちゃうって!ウチや無いって!」

 

『ん・・・・・・』

 

その喧騒によってか、ハルプは覚醒する。ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。その頬に涙の跡は既に無い。ハルプの身に起こる現象のほぼ全ては、霊力による再現・・・・・・つまり幻だ。霊力となって空に溶けて消えた涙をハルプが目にすることは無い。

けれど、それをたしかに見ていた者達が居る。皆不安げにハルプを見ていた。務めて冷静であろうとしたべートも動揺を隠しきれてはいない。

 

『あ、おはよう。なんだ皆来てたのか』

 

ハルプが穏やかな声でそう言った。いつもの様な元気ハツラツといった様子ではなく、何方かと言えばお淑やかな声音だ。

 

「ぉ、おう。おはようさん」

 

ロキが不思議な緊張とともにそう言うと、ハルプは不思議そうに首を傾ける。

 

「なんだ、夢でも見てたのか?」

 

べートがそう聞けば、ハルプは少し考える様な動作をした後、顔を綻ばせる。

やや閉じられた瞳に、柔らかな微笑み。そしてゆっくりとした動作で隣にねる妖夢の頭を撫でる姿は、少女の外見である筈なのに聖母の様な雰囲気を醸し出す。

どこか神聖な雰囲気に呑まれたロキ達は無言でそれを見つめていた。

 

『夢か。そうだな、夢を見たよ。内容は何も覚えていないけど・・・・・・確かに、幸せな夢だった』

 

微笑みをそのままに、ハルプはべートを見上げる。その顔は幸せと言うには少し暗く見え、例えるならば憑き物が取れたようなそんな顔だった。

 

「そうか、よかったな。所でタケミカヅチ・ファミリアから使いが来てるぞ」

『本当に?もう準備出来たのか・・・・・・』

「何かやるのか?」

 

どこか2人に深い信頼関係を見たのか、べートとハルプの会話を邪魔しないロキ。そしてロキが話さないならと様子を見守る他の面々。

しかし、べートの質問に対する回答でその静寂は破られる事となる。

 

『誕生日なんだよ、俺と妖夢の』

 

静かな部屋に響く言葉。知らされる真実。誕生日、それは1年というサイクルの中で最も重要なイベントの一つである。特に、知り合いのものとなれば尚更だ。

 

「・・・・・・はぁ!?なんで何も言わねぇんだよ!何の準備もしてねぇぞおい!」

「そうやそうや!!言っててくれればウチもなんか準備したのに・・・・・・ええいこうなったら今からでも遅くない!行くでぇ!!」

「私もなんか買ってくるー!」

「・・・・・・じゃが丸くんっ」

「いやアイズ貴女・・・・・・ま、いいか。じゃあ私も行ってくるわね」

「待て俺も行く!!」

 

僅か数秒の出来事であった。慌ただしく何処かへ駆けていく。止める暇もなかった、とハルプが呟く。その顔は嬉しそうで、笑顔を我慢出来ないと言うかのように、笑みが深まる。

 

「持つべきものは友人知人、ですか?」

『うん、そうだな。おはよう妖夢』

「おはようございます、ハルプ」

『さて、みんな行っちゃったけど、帰るかっ!』

「はいっ」

 

何時もの元気を取り戻し、ハルプと妖夢が手を繋いで歩いてゆく。

 

 

その日、オラリオは平和であった。ギルドから「十八階層」の調査をするため、冒険者は十七階層以降に進まない様にとのお触れが新たに出され、多少のブーイングがあったことや、その調査に選ばれたのがタケミカヅチ・ファミリアであったなど、確かに世界は動いていく。

 

「ハルプ?」

『なに?』

「えっと、私もですよ?」

『?』

「あはは何でも無いですっ」

『んー?へんな妖夢』

 

 

 

 

───ハッピーエンドは覆らない。

 

遠い何処かで、名も無い誰かは北叟笑む。

 

「あぁ、よかった、本当に。───後は待つだけでいい。それまで何としても生きなくちゃね」

 

嬉しそうに、救われたように、誰かは笑った。

 

「可能性は引き当てた。遂に、遂に終わるんだ。やっと、救えるんだ・・・・・・!」

 

笑う。笑う。嗤う────────────









小ネタ。

・妖夢がすぐ寝る理由───一刀羅刹で消費した分が回復しきっていない。

・ハルプが寝る理由────妖夢に引っ張られた。

・ハッピーエンドは覆らない───予め宣言しておくぜ!ハッピーエンドだ!

・笑う誰か。───1体何神様なんだ・・・・・・?

・シフシフ───コメントと誤字報告で生きている。

・挿絵無し────犬耳ハルプを描こうとしたけど、タッチペンが破壊されたのでまた今度。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

81話『がっ頑張るます!』 「噛んでますよハルプっ!?」


FGOの報告。
茨木童子が2レベになったゾイ。あともう少しでヘラクレスの絆が10に・・・・・・!
あとスパルタクスがスキルマになったゾ。・・・・・・ランスロバサカが宝具3に・・・・・・

バサカ、楽しい。



そして内容は進まぬぇ・・・・・・!




俺達の誕生日パーティーは盛大に開かれることになった。

本当は家族だけの小さなパーティーにする予定だったけど、ファミリアの団員達が黙っていなかったらしい。一気に人手が増えた事で夕方に終わるはずの準備がおやつの時間には完了してしまったとか。

 

武錬の城は色紙やら花々で色とりどりに飾られている。城の中庭、鍛錬を積む場所である筈のそこは、即席にしてはよく出来たテーブルや椅子が幾つか、如何にも数合わせですというようなテーブル達が無数にあった。

 

とは言え、我らがタケミカヅチ・ファミリアは団員数三百人近い大規模ファミリアである。武錬の城に入り切る訳ない。まぁなので武錬の城から最も近い剣の館にも会場は設けられた。

 

まぁ、そんなこんなで俺と妖夢は・・・・・・なんて言うか罪悪感を感じていた。もちろん、嬉しさの方が上なんだけど。

 

『ど、どうしよう妖夢・・・・・・こんなにお金使わせちゃうとは思わなかったよ俺!!』

「わ、私もです!何ヴァリスかかってるんですかねこれ。私達で稼ぎきれる金額でしょうか?!」

『ええっと、この前のベル達との乱獲で得たのが二百万くらいだろ?アレを何回も続ければいいってことだ!』

「そ、そうですね!行けますね!」

 

2人でワタワタしながら、会場の裏で待機させられている。なんか一言言わなきゃいけないらしい!!どうしようなんて言えばいいんだー?!

分からないですよー!じゃないよ妖夢!もちつけ、考えろ、まだあわわわてるようなあわわ

 

「慌ててるじゃないですかっ!」

『落ち着けとか無理ですぅ!』

 

さらに、神力つかって生放送するらしいぜ!馬鹿なの!?恥ずかしいんだけど!!嬉しいけどさこんなに手間とお金かけてくれてさ、嬉しいよ?もう心臓があったら飛び出るくらいには嬉しいけどさ!大袈裟じゃない?ただの誕生日パーティーだよ?!

 

「て、照れますねっ」

『うん・・・・・・やばいね』

 

お互いに赤面しつつ、顔を見合わせる。妖夢が何か我慢しているような顔をしてるな。・・・・・・トイレか?

 

『トイレ行っておくか?』

「トイレじゃないですよ!うー・・・・・・えいっ」

『ひゃい!?』

 

う、うぉわぁ!?は、は、恥ずかしさがっ!!一気にぃ!感覚共有はやめてくッッ!?

 

「は、恥ずかしさも半分こですっ」

『倍になってますがそれは!?』

 

顔が焼け爛れるんじゃ無いかって位に赤くなってしまう。どうしてくれんじゃー!つかなんでだ!?前までこんな感じにはならなかったのに!!

 

「わ、私、上がり症なんです!」

『マジかよぉ!』

 

そこまで共有ですかぁ!?うわー血管がドクドクいってるのが感覚共有で分かってしまう・・・・・・妖夢の心臓バックバクじゃないですか、凄いなこの感覚。俺心臓無いから余計にはっきり感じるぜ!

よし!どうにか安心させてあげなくちゃな!男として!

 

『まぁ、あ、安心しろよ。おおお俺がいるんだぜ?』

「・・・・・・そうですね!安心です!」

『お、おう!・・・・・・その、自信ないけどなっ!』

 

なぁに、始まりの一言くらい余裕ですわ。まじ、マジ余裕だから?つか、今までモンスターと戦ってて余裕なんだから、困難で緊張とか有り得ねぇし?

ただ話して終わりなんだから余裕に決まってらぁ!!

 

よし!行けるな(慢心)

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、オラリオは久方ぶりとなる大賑わいをみせていた。「妖夢達の誕生日やるぜ!」という声明に「おっいいねぇ。俺達もお祝いしてやろう!」と我先にと商人達が便乗し、店には良い品が安価で並び、道では看板娘たちが大声で客寄せをしている。

最近では仕事が無い冒険者達も、思わず財布の紐を緩めているようで、商人達の顔も明るい。

 

個人の誕生日に人々が便乗を重ねた結果、お祭り騒ぎになった今回をきっかけに後のオラリオでは「昨年のMVPを獲得した冒険者の誕生日」を盛大に祝う祭りが毎年恒例となったのだがそれはおいておこう。

 

人混みに溢れる街中を駆け回る影が無数、それは妖夢達の知人や友人であり、若しくは少しでも妖夢達にお近付きになりたい者達であった。

あっちへ行ったりこっちへ行ったり、妖夢に合いそうな物を選ぶ者がいれば、個人的な趣味で選ぶ者もいる。

 

「おいテメェ!それ寄越せ!!」

「あぁ!?なんだテメェは!これは俺が妖夢様に・・・っ!!べ、べート・ローガっ!?しゅ、しゅみましぇん!!命だけは・・・・・・!」

「取らねぇよ!?おい店主、これ幾らだ」

「3万ヴァリスです」

「よし、ほら受け取れ」

「毎度ありー!」

 

「へい店主ー!そこの、そこの服をーくれやー!」

「はいはいロキ様、落ち着いて。どうぞ、こちら8万ヴァリスとなっています」

「ええでええで!むしろ安く感じるわ!」

 

各々が思い思いにプレゼントを選ぶ中、空中に神力によって作り出された映像が浮かび上がる。

そこに映っているのはタケミカヅチ・ファミリアの本拠地、武錬の城だ。

 

「やっべぇ時間がねぇ!あぁくそ!何やりゃあいいのか分かんねぇ・・・・・・とりあえず手当りしだいに持ってくか!」

 

べートがそれを見て慌てたように駆け出した。もう時間が無い、友として実際に会って祝わなくてはいけない。そう思ったべートだが、他人に何かをプレゼントすると言う事自体の経験が少ない上、相手は女の子だ。何をあげればいいのか完全に不明。アイズならとりあえずじゃが丸でいいのだが・・・・・・。

 

下手な鉄砲数打ちゃ当たる。それを信じ、べートは目に付いた女物っぽいものを買い漁り武錬の城へと急いだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

空中に映し出された武錬の城、その映像にようやく2人の姿が映し出される。妖夢とハルプだ。2人とも普段の緑に統一された服ではなく、妖夢は白のワンピース、ハルプは黒のタキシードだった。

「おお」という声が上がる中、妖夢は顔を真っ赤にしてハルプの後ろに隠れる。ハルプは余裕ありげに胸を張り立っているが、その目はぐるぐると渦巻いていて誰が見ても緊張していることが伺えた。

 

一生懸命に背伸びをする子供のようでたくさんの者が癒される中、スピーチは始まった。

 

『み、皆様。今回は俺・・・私たちの為に誕生日を祝ってくれてありがとうございます。今回は妖夢が恥ずかしがって話せないので俺・・・私が話します!』

 

ハルプが話し出すと、妖夢がうんうんと頷きながら両手を胸の前でギュッと組んで応援している。

その様はオラリオ全域に生放送されているのだが、2人は知らない。知っているが、オラリオ全域に流れてるとは思っていない。

 

『え、えっと・・・わ、私達がその、何歳かはちょっとよく分かんないんですが。このオラリオに来てから3年目です!色々お騒がせしましたが、今日も元気ですっ!(いや・・・何言ってんだ俺ぇ・・・・・・!)

 

自分が何を言っているのか分からなくなったのか顔が赤くなっていくハルプ。それをみて絶望したような顔になる妖夢。小さく呟いた言葉もしっかりと神力(マイク)は拾っている。

 

『えっと、そのぉ・・・・・・うーんと。な、なぁ妖夢!どうすればいいんだ!?もう俺わかんなくなってきた!!』

「は、ハルプ!素が出てますよ!と、と言うか私にも分からないですよー!」

『え、え、えっ!でもほら、お礼は言ったし、迷惑かけたことも言ったし、後なんかあるかな!?』

「あと何かですか!?みょ、みょーん分かりませんっ!こ、こうなんかアレですよ、これからも頑張りますみたいな!」

『がっ頑張るます!』

「噛んでますよハルプっ!?」

『みょーん!もう無理逃げよう妖夢!恥ずかしくて死ねる!』

「私のセリフです!」

 

限界は早くも訪れ、ハルプが両腕をバタバタさせて妖夢を呼べば妖夢もアワアワと慌てふためき、あーでもないこうでもないと慌てた結果、「頑張ります」という一言すら噛み、恥ずかしさが限界を超えて逃げ出した。

「可愛いなー」と言う思いがオラリオを一瞬だが一つにした。

 

そのあとをタカミカヅチが引き継ぐ。内容としては集まってくれたことに関する礼、そしてこれからも妖夢達をよろしく頼む、とのことだった。

 

 

 

 

 

 

「ふえええぇぇん、無理です!私たちには荷が重いですぅー!」

『そうだそうだ!あんなに人いるなんて聞いてない!しかも放送って!俺を殺す気か!?』

「ハルプ死なないじゃないですか!」

『恥ずか死ってやつだよ!』

 

2人がスピーチを終えたタケミカヅチに詰め寄り飛びかかり、胸板をポカポカ叩いたり服を引っ張ったり抗議する。これがロキであれば「天国やー」となっただろうがそこはタケミカヅチ。

 

「わ、悪かった!こんなに広まるとは思ってなかったんだ」

 

決してわざとでは無い。酒に酔ったヘスティアや、それを共に介護していたミアハに妖夢たちが誕生日であるとこぼしてしまった、ただそれだけなのだ。だがそれは広がっていき・・・・・・。と言うのが現状。

 

『わざとじゃないのか?』「ですか?」

 

ハルプと妖夢が上目遣いでタケミカヅチを見上げる。潤んだ瞳がタケミカヅチの良心をチクチクと刺激する。下手なことは言うまい。そう決めたタケミカヅチはコクリと頷く。

 

「あぁ」

『「・・・・・・じゃあ、許す(します)」』

 

ハルプがそう言って隣の妖夢の目から涙を拭き取る。妖夢はなされるがままだ。

 

『もう、どうするんだ?みんな見てるってことはさ、見たいってことだろ?スピーチはもういいけど、誕生日会の様子は見たいんだよな』

「まぁ、そうなんでしょうね」

「まぁな」

『うーん、普通に楽しめばいいんだよな。うん。・・・・・・白楼剣使って迷い切ろうぜ!』

「おー!名案です!」

「『【我が血族に伝わりし、断迷の霊剣。傾き難い天秤を、片方落として見せましょう。迷え、さすれば与えられん。】────白楼剣』」

 

結局は白楼剣に頼る事にした2人、お互いに迷いを切り落とし、にっと笑う。

 

『覚悟、完了!』

「なんの覚悟か分かりませんけどねっ!」

 

 

 

 

しばらくしてさっきの格好のまま会場に俺たちはやって来る。僅かにざわめく参加者達。

 

「妖夢ちゃーん!誕生日おめでとー!」

「ハルプ殿もおめでとうございます!」

「おめでとうございます!良き誕生会に致しましょう!」

 

命と千草と春姫が駆け寄り、俺達に抱きついた。なお、春姫と俺の身長差があり過ぎたせいで胸に埋まったのは仕方の無いこと。けして恨んでいない。いないったら無い。

 

「ありがとうございます!」

『ふごふごふごふごー!!!(俺じゃなきゃ死ぬよねこれ!)』

「わ、も、申し訳ございませんっ!?」

『ははは、ありがとう・・・・・・』

「?」

 

和気あいあいとした姦しい様子に、男達はあと1歩を踏み出せず、今か今かとタイミングを見計らっているらしい。安心しろお前達、俺も今すぐそちらに加わりたい。なんて思っていると現れるのは彼女達だ。

 

「おめでとー!リーナさんは君らの誕生をお祝いする気満々だよー!」

「私もだ。貴女方の誕生を祝ってささやかながらプレゼントを用意した」

「私なんかが烏滸がましいですけど、おめでとうございます!もう少しでメインが出きるので期待しててくださいっ!」

「うわー!みんな綺麗な格好してるねー!あっ、やっほー!私も誕生日プレゼント買ってきたんだ〜。おめでとうっ!」

「もうティオナ、置いてかないで。妖夢ちゃん達誕生日おめでとう」

「ししょー、私もじゃが丸く「あ、アイズさん!ダメですよ言ったら!あ、おめでとうございます!」レフィーヤ・・・そうだった。おめでとう、ししょー」

「ふふ、皆一様に浮かれているな。おめでとう妖夢、今日を楽しむといい」

 

錚々たる面子だなぁ。では!僭越ながら私、不肖ハルプが彼女達の説明をバッ!

 

弓を射たならオラリオ一位。団長の色恋沙汰を見逃さない!鷹の目の持ち主【絶弓(ベリー・キュート)】ヒタチ・千草ッッ!

可愛いぞっ!!

 

弓盾剣槍隠密に魔法、何でもござれのサムライニンジャ!堅実実直、真面目です!【✝︎絶影✝︎】ヤマト・命。

うん可愛いぞっ!

 

胸がデカァォアイ!説明不要!くそぅ!何が俺らを分けたんだ!サンジョウノ・春姫っっ!

やっぱり可愛いぞ!

 

オラリオ最多の魔法を扱う事で有名!最高の魔法詠唱者と名高い女!但し仕事は勘弁な!睡眠惰眠春眠、とにかく眠るぜ兎に角食うぜ!【幻想姫(ファンタズマ・ゴリア)】リーナ・ディーンっ!

真面目にやれば強いんだ!真面目にやらないだけで!

 

謎の大飢饉からオラリオを救った激ウマ料理人─食材は不明(モンスター)─!マッチポンプはわざとじゃないぜ【朱色の閃光(ヴァー・ミリオン)】クルメ・フートっ!

若干人見知りがあるがとりあえず料理の話をすれば仲良くなれるぞ!・・・・・・勢いについていけるならなっ!

 

硬い固い堅いの三拍子!とりあえず居たら安全圏、味方絶対守るウーマンこと【全身甲冑の守護騎士(フルメタル・ガーディアン)】アリッサ・ハレヘヴァングっ!

性格は頑固?いいえ、割と柔らかい!胸もな。腹は硬いぞ。

 

褐色黒髪貧乳怪力!とあるファミリアを泣かせ続ける問題児【大切断(アマゾン)】ティオナ・ヒュリテっ!!

抱きつかれると痛いので気をつけるべき。

 

の、姉であり某ショタアラフォーにゾッコン、ヒュリテ姉妹の大きい方こと【怒蛇(ヨルムガンド)】ティオネ・ヒュリテっ!!

抱かれると幸せになれると思うよ。そのまま絞め殺されそうだけど。

 

俺の一番弟子?正直レベルで負けてるので弟子な気しないぞ!【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインっ!!

1日20個のじゃが丸くんを与えることで手なずけることが出来ます(未検証)

 

レズっぽいチョロイン、リーナの魔法をパクったら強そうだと思います。【千の妖精(サウザンド・エルフ)】レフィーヤ・ウィリディス!

正直全然絡みがないぞ。話したのいつだっけ?

 

お母さん!【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴっ!

ふむ、お母さん度では命を圧倒しているなー。

 

「ふふっもう、ハルプっ、やめて下さいよぉ、笑っちゃいますっ!」

『えぇ、いいじゃん。わかりやすいだろ?』

「いや、わざわざ私にそれを言う必要は無いのでは?」

『んー、気分!』

「ですよねー」

「「「「「「「「?」」」」」」」」

 

まぁ、そんなことよりもお礼をいう方が先だぜ!

うん、だろ?なんて言う?・・・・・・ふむふむ、こういう場合は普通にありがとうでいいのか。んー、うん。別にそれで険悪なムードにはならないみたいだな。よし。

 

『みんなプレゼント用意してくれてありがとうな!』

「あッ先に言うのはずるいです!ありがとうございます皆さん!!」

 

「あったりまえだってぇ〜」とリーナやティオナがいう中、ええいままよ!と男達が突っ込んでくる。・・・・・・ふっ!残念だったな妖夢!俺は逃げるぜ!

俺は半霊になって透明化、空中に避難した。

 

「えっ!?」

 

ふふっふっ、我が魂は世俗には浸からぬのよ・・・・・・。実は一気に来たからビビっただけだぜ。しかし、感覚共有をしていない今、妖夢には分かるまい。

 

「いや、してますからね!?」

「妖夢様受け取ってください!」「おめでとうございます!」「おいそこのアンタ!約束守れよ!」「そうだ!プレゼントは最後だろ!」「わー!」「わー!」

 

はーはっはっ!みろ、眼下に蠢く人々をぉ!妖夢がもみくちゃにされてるな。良かった飛べて。それにしてもプレゼントは最後に渡すらしいから楽しみだぞ!

俺のところに人が詰め寄ってくる?HAHAHAっ!半霊って最強だわー、だってふよふよ浮いて上から見下ろせばいいんだからな!しかも透明!

 

「あ、ありがとうございます。ありがとうございます!」

 

え?なんです?ずるい?いやだなぁ妖夢さん、俺は自分に出来る方法で逃げ出しただけだよ?・・・・・・え?逃げるのはダメ?・・・・・・お願い!?わ、分かったぜ仕方ない。

 

妖夢にせがまれたので人型になる。すると目の前には男の子。と言っても俺よりも歳上っぽい外見だがね。

 

『あー、うん。何かな?』

「は、ハルプ様!ぼ、僕、同じタケミカヅチ・ファミリアで」

『うぃ、知ってるぜ。ライ君だろ』

 

うん、名前は知ってるぞ。何してんのかは知らないけど。確か一番最初に剣を握った子だよな、沢山人が入ってきたとき。・・・・・・・・・・・・ほほう?猿師の元で勉強している可能性がすごい高いな。・・・・・・いや、タケミカヅチ・ファミリアに入ったらほぼ確実に薬師やってるのか。それはすごい。

 

「!?きょ、恐縮です!その、ファンなんです!サインくださいお願いします!」

『おうっ!・・・・・・ん?名前書けばいいのか?』

 

へー、俺も遂にサインを書く時代か〜。サインねサイン。ん?名前・・・・・・ハルプ・ゼーレ?それとも二つ名?いやまぁ、二つ名はコロコロ変わるしね、名前だろ。

 

「二つ名でお願いします!」

『うぐっ・・・・・・【剣士殺し(ソード・ブレイカー)】っと、ほいよ。これからも薬師として頑張ってくれ』

「あ、ありがとうございますぅ!!」

『はっはっ気にすんな』

 

まさかそっちとは。・・・・・・ん、俺から二つ名のサイン・・・・・・?二つ名は妖夢と共有してるってことは、なるほど。2人からサインをもらったも同然と。やるじゃねぇか。それによく考えたらギルドの方の記録には二つ名はしっかりと記録されるからな!

 

おれも!わたしも!と俺にも人が群がってきた。とはいえみんな一言言うだけなのだけど、数が数だった。

うーむ!俺の考えてた誕生日ではないね、まぁこう言うのも新鮮でいいけどさ。

 

「おいハルプ!」

『ん?おぉ!ベート!!来てくれたのか!?』

 

やった!ベートが来たぞおい!よく来たな友よ!歓迎するぜ、盛大にな!

ということでてってけ走ってベートに飛び付く。が、ベートは俺を避ける。

 

「あはは、だろう?ベル君はってえぇ!?うべぇっ!?」

『わーヘスティアだー、ごめんな?あっもしかしてヘスティアもプレゼントを!?』

「へ?え、えっと、ととと当然じゃないかっっ!!」

 

あ、持ってないパターンですね。にしてもべート避けるなよなー。どうやらヘスティアは隣にいた人と話していたらしい。

む?ヘファイストスか!ニコニコとこっち見てる。

 

「おいハルプ、向こうの財布事情も考えてやれ馬鹿が」

「うぐっ!君、割とぐさっと来たぞぅ」

『べートが、優しい・・・・・・だと?・・・・・・彼女でも出来たのか?』

「出来てねぇよ!?」

 

おーべートがまさかのフォローに回った。まぁトドメを刺したみたいになったけど。にしても・・・・・・あんなにも稼いだのになぁ、数百万円ヴァリスも稼いだんだぞ?少しくらい・・・いや、仕方ないか。勝手に期待するのもひどい話だろうし。

 

『そっか、ごめんなヘスティア勝手に期待してさ。来てくれてありがとう!それだけでも十分に嬉しいぜ!!』

「・・・・・・!そうかそうか、やっぱりハルプ君は良い子だね。所でタケはどこにいるんだい?」

『タケか?タケなら多分奥の建物だぜ』

「それは本当かい?なら行ってくるよ!あっ誕生日おめでとうっ!ベル君達が来れない事を残念がっていたぜっ!みんな気持ちは同じだからね」

『おう!』

 

ヘスティアが走っていく。バインバイン揺れる。くそう。

 

「・・・・・・あー、おいハルプ」

『ん?なんだよべート』

 

べートがなんか話しかけづらそうに頭を掻きながらチラチラとこっちを見る。

ほほぅ?なるほどなるほどー!くっくっく、分かりましたぞ。

 

「なんだ、その・・・・・・」

『なにさ?』

 

俺は首を傾げ、べートを見上げる。べートから見れば上目遣いになっているはずだ。さらにっ!出来るだけ可愛く・・・・・・・・・・・・・・・・・・?今更思ったが揶揄うのはいけないことなのでは?

 

「っ!・・・・・・誕生日おめでとう。ま、依然ガキのままだけどな」

『んだとぉ!?仕方ねーだろ!妖夢は長命種なんだぞ!?俺に至っては死んでっからな!このっ!』

「いでっ、いででで!?やめろ馬鹿がぁ!」

 

俺が猛抗議して割と力を込めてべートの胸を殴りまくる。

 

『くっくっくっ、やめて欲しければ・・・・・・そうだな、うーん』

「考えてねぇのかよ!?」

『う、うーん。何がいいかな?』

「はぁ?」

『あっ!耳!耳触らせて!』

「させるか!」

『あー待ってよ耳ー!』

「俺の本体は耳か!?」

『尻尾忘れるなよバカ!』

「バカはテメぇだ!」

 

ぐ、ぐぬぬ!届かない!

つま先立ちしながら懸命に手を伸ばすがべートのお腹辺りまでしか身長が無い俺では体を仰け反らせたべートの耳を触ることなど到底不可能!・・・・・・ふっ!だがべートよ、我らを侮ったな!我ら個にして群(2人)、つまり、俺は囮だァ!!

 

「セイバーっっ!!」

「なにィ!?」

 

謎の掛け声と共に妖夢がワンピースのまま突貫!ベートはさすがの速度で反応するが、残念なことに妖夢に耳を捕まれる。痛そう(他人事)

 

「いてぇよ馬鹿が!」

『尻尾ががら空きだぁ!』

「あってめっ!」

 

俺たちがベートにじゃれついてるのを見たヘファイストスら観客が爆笑するなか、俺たちの手は止まらない。

 

「あぁーー!うぜぇ、今ここで殺す!」

『いいね!かかってこい!』

「望むところです!」

 

遂には堪忍袋がちぎれたのか、ベートが怒る。放送されるのは嫌なようで顔が赤い。怒ってるのも関係してると思うけど。

 

『この前は負けたが、あれは半分しか本気出して無かったからだ!』

「その通り、私たちは二人で一人です!」

『宣言するぜ。俺たちはオラリオで一番強い!!』

「かかってきなさいベート!やっつけてあげます!」

 

俺と妖夢の宣言で観客が「おぉ」とどよめき後ろに下がる。簡易的な闘技場が完成した。

ふっ、なぜ戦うことになったのだろう。まぁ嬉しいからいいけどな!!

 

「いいぜ、やってやる。全力でなァ!!」

 

戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ!ねぇっ!どうしてなのよオッタル!?」

「い、いえ、ですから・・・・・・フレイヤ様が誕生日会に向かった場合、多くの者はフレイヤ様の魅力に骨抜きとなり誕生日を祝う事を忘れてしまう筈です。・・・・・・はっきり申し上げるなら2人に嫌われます」

「うぅ、そんな・・・・・・そんなの嘘よ・・・・・・じゃ、じゃあ何か私から個人的にプレゼントを贈るわ。オッタル、届けてくれる?」

「はっ。お任せ下さい」

「ええっと、どうしようかしら。グリモアはもう要らないわよね?じゃあ・・・・・・」

「あのふたりは不壊属性の武器を求めていました」

「それは確かなの?」

「は、魂魄妖夢の護衛を行っていた際、そう言っていたのを確認しております」

「流石よオッタル!!愛してるわ!」

「ありがたき幸せ(フレイヤ様可愛すぎる・・・・・・)」

 

 






【猫耳】

妖夢「・・・・・・こんなの、屈辱です。ニャー」
ハルプ(半霊形態でも猫耳っぽい何かが出てきて喜んでいる。)

【挿絵表示】




コメント下さい!(懇願)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

83話『私以外のセイバー死ね』 「・・・・・・この時を待っていました」

ベートVS妖夢&ハルプ!
突如始まった戦闘、そして閃くハルプの案とは・・・・・・!

てな感じの今回、なんと・・・・・・話が全く進みませんでしたっ・・・・・・!



よっす俺だ。ハルプだぜ!

 

今俺達はべートと戦うべく準備を進めている。当然だけど、真剣は許可されなかったぜぃ!なので長めの木刀を1本だ。妖夢は平均的な長さの木刀を2本持っている。べートの方も分厚い革のブーツと、短い木の剣を2本腰にさしているな。

 

《さぁ今まさに戦いか始まろうとしています!突如始まってしまった一騎?打ち!明日に備えた発声練習代わりに、我々が実況致します!》

《俺が、ガネーシャだ!》

 

無駄に声がでかいなぁ実況。ま、良いけどね?

 

「ハルプハルプ」

『はいはい何です?』

「どんな風に攻めますか?」

『ガンガンいこうぜ?』

「なるほど、ノープランですか。だがそれがいい的な感じです?」

『なぜバレたし?』

「そりゃあ、私達ですから(ドヤァ」

 

かわいい(自画自賛)。さて、どうしようか?とりあえず開始早々燕返しは確定として、無駄に技が多いせいで迷うぜ。修羅に羅刹は論外だ。この後も誕生会は続くしな。火炎系もダメだ。台無しになる。

あ、そうか。よぉし、妖夢にこの案を教えておこう。みょんみょんみょんみょん・・・・・・!

 

『見てください妖夢っ!あの犬人間、剣を持っていますよ!もうセイバー、セイバー確定です。どうせビームも撃てるんでしょう?!』

「いや撃てねぇよ!?」

「もぐ、あ、このアンコ美味しい」

「お前は何食ってんだ!」

『私以外のセイバー死ね』

「・・・・・・この時を待っていました」

 

よしよし、俺がXでそっちがオルタな。うんうん、え?糖分補給したい?今あげたじゃん。もっと?仕方ないなぁ。ならば我が秘蔵の和菓子をあげよー。つい最近買ったやつじゃないかですか?はいそうですよ!

 

《さぁ、もう準備は終わったようです。ガネーシャ様、この戦い、どうなると思いますか》

《俺g》

《なるほど。確かにそうですね。今【凶狼】と対峙している【剣士殺し】は未だに実力が不明な点が多いですからね。試合の行方は分からないと・・・・・・ありがとうございますガネーシャ様!》

《俺が・・・・・・ガネーシャだっっ!!》

《やけくそ!?》

 

俺は追加でもう1本木刀を貰ってきた。妖夢は2本の木刀を柄の部分を合わせ、妖術で固定した。妖術って便利っすね!

にしてもなぁ、ちょっとつまんないよね。思い出になりそうな事しようぜ?例えば?例えばかぁー、罰ゲーム?

 

「ぇ」

 

いいね罰ゲーム。あれだな、良くある「俺に勝ったら〜〜」ってやつだ!いいね、ワクワクするぞ!

 

『べー・・・セイバー』

「あん?なんだよ、怖気付いたか?」

『いえ、私が勝った暁にはセイバーたる貴方は私のお願いを叶える必要がありますよね』

「はぁ?」

 

べートは怪訝な顔をする。まぁ、そりゃそうよな。

 

『ですから、古き式たりと同様に・・・・・・勝った方が負けた方に命令する。生殺与奪の権限を与えられるというやつです』

「なるほど、別に構いやしねぇさ。だけどよ、俺が勝ったら何されるか分かったもんじゃねぇだろ?辞めとけ辞めとけ」

「そうでs」

『妖夢何を怖気付いているのです?これに勝てればオラリオの甘味は全てべートの奢り、挙句の果てにはひたすら褒めちぎって貰うことも不可能ではないのですよ?』

「・・・・・・・・・・・・」

「おい妖夢、んな馬鹿な考えはやめ・・・・・・ねぇのかそうか」

 

武器を構える俺と妖夢。

 

『さぁ、年貢の・・・いいえ、甘味の納め時ですよ銀セイバー・・・・・・犬セイバー?』

「許して欲しくければ、高級老舗店の和菓子を用意することです。たんまり、それはもう、沢山!」

「・・・・・・あー、テメェらに命令だァ?得にな・・・・・・よし決めた。いつも思ってたが決めたぞ。あと、俺は高級老舗店なんざ知らねぇ!」

 

べートが不意打ち気味に一気に駆けた。それも全力だ。けど───────修羅使ったあとの妖夢の方が速い。

それに俺の能力があらかじめその行動を予期していた。そしてその情報はリアルタイムで妖夢に送られている。つまり。

 

「────チィッ!」

「甘い、です」

『セイバーッ!』

 

斜めからの侵入、鋭角から放たれた蹴りは当たればタダでは済まされない破壊力をひめている。だけどまぁ見えているし知っているなら俺達はどうにでも出来る。

妖夢が両刃剣となった木刀で受け流す。受け流しながら回転した両刃剣がべートに迫る。

さらに、縮地で即座に裏に回り込んだ俺が掛け声と共に攻撃する。Xを描くような乱暴な左右の袈裟斬りだ。

 

擬似的な燕返しとなった三方向からの斬撃。べートも囲まれた事を即座に悟って行動に出ていた。

両刃剣では咄嗟に破壊力が出ないと踏んだのか、べートは体をよじり両手の短剣で俺の二撃を防ぎ、ブーツで妖夢の一撃を防ぐ。

 

とはいえ、予想通りだ。

 

短剣に弾かれるようにして俺は後ろに跳ねる。そして空中三回転ひねりを加え着地、と同時に縮地。べートの正面に現れ、即座に縮地で後方に飛ぶ。べートは超高速で反応したが、俺が縮地した事で避けられる。

 

「っ・・・・・・!」

 

攻撃が外れた事でスキだらけになったべート。そこを逃がす妖夢ではない。

両刃剣から霊力を放出。さらに縮地を合わせ凄まじい速度でべートへの距離を0にし、すれ違いざまに斬り裂く。硬いものどうしがぶつかり合い、何かが壊れたような音がした。むむむ。

 

「っぶねぇ!流石にやるな」

『そちらこそ』

「今のは決めたかったです」

ギリギリで短剣を体の間に割り込ませることに成功させたべート、しかし、防ぐために使った短剣は片方が使い物にならなくなっている。

止まっていては攻撃される可能性がある。だから、疲労を感じない俺は無駄に大げさに駆け回ったり縮地を使ったりしてべートに嫌がらせをする。

感が鋭かったり警戒心が強い人ほどこれは嫌がると思う。

 

「チィ、目で追うのがやっとか・・・・・・!どこから」

「私を忘れてはいけません」

「っ、分かって『忘れんなよ?』ッ?!」

 

隙を見せれば一瞬にして挟み撃ち。俺と妖夢のコンビネーションが光るぜぃ。これならやれるかな。

 

「なっ!?ま、だっ!」

 

しかし、べートは刹那の時間で対応して見せた。短剣で妖夢の両刃剣を逸らしその中央、柄に当たる場所を妖夢の手ごと鷲掴みにする。そして自身の方へと思いっきり引っ張る。そしてそれと同時に後ろに倒れながら妖夢の腹を蹴りあげる。すると、妖夢はべートの後方・・・・・・つまり俺の方へ飛んでくる。

 

うまい。と俺は思った。

これなら俺は避けるか抱きとめるかの二択を迫られる。どちらにせよ、ギリギリ立ち上がるだけの時間は稼げるだろう。

 

─────俺が人間ならなっ!

 

俺は人型状態から半霊状態へと移行っ!そして即座に人型状態にシフト!こうすることで妖夢が俺をすり抜けるぜ、ちなみに、妖夢とはリアルタイムでやりとりしているのでこちらの策はすべて理解しているのです。

 

『おらよッ!』

「チィ!!」

 

最短最速、俺の選択は突き。木刀でも突きなら人を殺せてしまうが、そこは手加減するのでセーフ。とはいえ相手はべート、当てるためにはこれでも足りないだろう。

コン・・・・・・!と木刀と木の剣の子気味のいい音が鳴る。

防ぎますよねぇ・・・・・・ならっ!

 

『んっ!!』

「んぉ!?」

 

木刀を滑らせてべートの懐に、入ろうとしたら邪魔するために剣を下に押し込んでくるべート。でも残念。

 

「チィ、またか!」

 

ポンと半霊!シュンと人型!この切り替えながらの戦いは霊力をそこそこ持っていくけど、それに見合うだけの強さがあるのです。

そして〜?俺が消えたということはだ、妖夢が来るのです!

 

「────妖夢リアクター臨界点突破」

「っ!?」

『ブフッ・・!!』

 

妖夢リアクター!?もう少しなんか無かったの!?無かった!?分かった分かった!面白いから見てますね!

べートが妖夢から逃れるために後方へ跳ぶが、妖夢は両刃剣から霊力を爆発させるかのようにたっぷり使って加速。

 

「素粒子に帰れ────!!」

「ぐっ!なっ!?」

 

う、うわぁ、凄まじい連撃だァ。両刃剣の唯一の利点、手数が多いと言う長所を活かしたんだな。『頑張れー頑張れー!』と応援しつつ、恐らく吹き飛んでくるだろうべートをボコるために木刀を構えておく。

 

偽・黒竜双剋勝利剣(クロス・カリバー)!!」

「ぐぉおおおお!?」

 

べートの短剣が完全に砕かれる。既にブーツも壊れてるな。そして、そんなべートが俺の元に。むふふ。いいぜ、見せてやる。

 

『───犬とが犬とか犬とか消し去るべしッ!』

「くっそぉ!?」

 

べートは空中では動けない。なら、もうあとは調理するだけでさぁ!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!

 

『だけど実は犬派です!偽・無銘勝利剣(ヒミツカリバー)!!』

「ぐああああぁぁぁ────────ごフッ!」

 

空高く吹き飛んだべートが地面に落ちる。

 

『この戦い─────』

「我々の勝利だ、です」

 

周囲から拍手喝采が起る。いやぁ〜ありがとう。と2人で声援に答える。そして集中力の全てをべートに注いでいたから、今更ながら実況が聞こえてきた。

 

《決まったァああああああ!!思わず目を背けたくなるほどの連撃だぁぁああ!!どうでしたかガネーシャ様!》

《うむ!思わず見とれてしまうほどに見事だっ!》

《凄い!素晴らしい!ガネーシャ様、ここは賞賛としてあの言葉をっ!!》

《うむ。素晴らしい戦いだった》

《いやちげぇよ!!!俺がガネーシャだっ!でしょう!?》

《俺が・・・・・・いや、俺達がっ!!》

《え、なにこれ、俺もやらないと行けないやつなのこれ・・・・・・あぁ分かりました分かりましたよ!そんな捨てられた象みたいな顔しないでください!せーの!》

《ガネーシャだぁ!!》

 

うわー、みんな拍手してる。みんなガネーシャ好きなんだなぁ。実況は大いに盛り上がったみたいだな。

ふっふっふっ、俺も楽しかったので嬉しいな!

 

「あ"あぁ〜〜、糞が、ハルプの野郎・・・・・・攻撃は物理的に当たらねぇ、どんな威力だろうが殺せねぇ・・・・・・くっそ、どうすりゃ勝てんだこのルール(模擬戦)で」

『はーはっはっ!!ハルプさんの大勝利〜!!』

「妖夢さんの大勝利〜!!」

「あーはいはい!テメェらの勝ちだよちくしょうが!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ふぅ、何とか波は越えたか。ヘスティアには感謝しないとな)

 

とタケミカヅチは安堵のため息をこぼす。押し寄せる神々の対応をヘスティアに助けられながらもどうにか終え、ようやくの自由だ。

 

(後は妖夢達の誕生会を見守りつつ、俺も品をいつでも渡せるようにしておかなくては)

 

タケミカヅチが思い馳せながら耳を傾ける。妖夢達とべートの戦いのラスト、実況の声は届いていた故に結果は知っていた。

と言うか、このオラリオであの2人を倒せる人物など恐らくは居ないと踏んでいるタケミカヅチからすれば気にすることでもない。怪我をしたら困るというのは親心。勝てるから心配など不要と思うのは師だからだろう。

 

「いや〜、ほんま、妖夢たん達はおっかないわ〜」

 

美しいドレスで着飾ったロキが、グラスを片手にタケミカヅチの隣に立つ。その顔はべートが負けて悔しい、と言うよりも「これは勝てなくても仕方がない」と諦めたような顔をしていた。

仕方のないことだ、とタケミカヅチは満足げに笑う。ハルプを倒すには「魂」を殺す、もしくはそれに近いことをしなくてはならない。

 

そしてそこに加わるのが「異能」だ。可能性と言う確かに存在するが目視できない、いや、完全な知覚は不可能な筈の領域──他世界、多次元にまで及ぶ──を知覚し、操ると言う規格外な存在だ。

仮に、それらを扱うのが本当の意味でひ弱な少女だったとすればまだ良かったのだ。

 

しかし、現実とは()()なもの。

 

そんな能力を持った少女らが、オラリオにおいて恐らく最も高い技量、最も多岐にわたる手札を持っている。

レベル6が一方的にしてやられるように、これではきっとかの最強、オッタルでも勝てないだろうとロキは睨んでいた。

実際ロキは気がついていた。ハルプは未だに手を抜いていること、いや、それでは少し語弊がある。

 

ハルプは()()は出している。

 

しかし、()()は出していない。

 

果たして全力を出したならどれほどの事が出来て、それを使った場合あの戦いはどんな展開を迎えていたのか。ロキは、いや、全ての神々は興味をそそられていた。

 

「剣の技量でアイズたんを越え、本気を出せば誰も目で追えんって、ほんま何なんやろうなぁ」

 

疑りの声と目線、けれどそこに疑問は無い。あるのは悪意のみ。追求されてタケミカヅチが困るのを見て自己満足するためだけの言葉だ。

それが分かってか分かっていないのか、タケミカヅチは胸を張って答える。

 

「俺の子だ」

「はぁ、タケミカヅチならそう言うと思っとったわ」

 

呆れ果てるロキを尻目に、何かに気が付いたのか「ふふふ」とタケミカヅチが堪えるように笑う。彼らしくないとロキがタケミカヅチを見れば、タケミカヅチが見ていたのは妖夢達だ。

妖夢達はべートの腕や尻尾を引っ張ったり、ガレスのヒゲを触らせてもらったりしている。

その顔にあるのは笑顔だ。

ただ、本当にそれだけの事がタケミカヅチにとって嬉しかった。

 

妖夢達の顔はいままでなんど曇っただろう、タケミカヅチといえどその全てを記憶している訳では無いが少なくとも、これ以降妖夢達の顔は曇らない。きっと笑顔だ。

確かな確信と共にストンと胸の中に落ちたその考えにタケミカヅチは笑ったのだ。

 

「なー、そろそろあの子達・・・・・・いや、ハルプたんについて話してくれへんか。何がどうなってるん?」

 

ロキがそう言って目を細める。疑っているというよりは、いつまで隠しておくつもりなのか、と問うような眼差し。恐らくタケミカヅチを除き最も詳しいであろう自分でさえ、知らないことは多すぎる。今の今までは他のファミリアだから仕方ないと過度な詮索は避けてきたが、ベートが完全に負けたのを見てそれも限界を迎えたのだ。

 

「あー!俺も聞かせてくれよタケミカヅチ!」

「げっ、ヘルメス・・・・・・」

「ボクも!ボクも知り合いぞタケ!」

「ヘスティアまでか・・・・・・」

 

それに便乗するように近くを通りかかったヘスティアとヘルメスが近寄ってくる。それに続くようにしてヘファイストスやミアハもやって来た。

 

「はぁいや、まぁ信用できるなら話していいとは言われてるんだ」

「えっ!?タケミカヅチ、お前俺のこと信用してたのか!?」

「お前が驚くんだなァ・・・・・・!お前に関してはハルプから許可を貰ってる。貰ってなければ言わん」

「まったまた〜そんなわけないだろう?え、本当なのかい?」

 

心底嫌そうにタケミカヅチはヘルメスを見るが、どうやらヘルメスはハルプに信用されているらしい。なんでこんなやつ、と思わないでもないタケミカヅチだったが、娘の頼みだ。と割りきることにした。

時折神の鏡に映し出される妖夢達を見ながら、小さな神会が開かれる。

 

「と言うか、このメンバーやと誰が1番あの娘らと仲ええの?あ、タケミカヅチ以外やでっ」

 

神会最初の一言はロキが切り出した。

 

「うーん、どうだろう。ボクはあんまり話す機会は無いけど、よく懐いてくれてるとは思うね!」

「あー、俺はどうなんだ・・・・・・?刀向けられた事はあるけど・・・・・・なんで信用されてるんだ?」

「ねぇ、私に関しては殆ど話していないんだけど。本当にいいの?ここにいて」

「ふむ・・・・・・共に薬の素材を取りに行ったりはしたか。だが、基本的にあの子達は人に懐きやすいと思うのだが」

 

そりゃあロキだよ!と言ってもらいたかったロキは「うーむ」と唸る。確実にこの場のメンバーでタケミカヅチの次に接触する機会が多いというのに。ここは断言して欲しかったロキであった。

 

「えっと、話していいんだな?」

 

タケミカヅチがやや疲れたように言うと、神々は頷く。

「はぁ」とため息を付いて、映し出されたハルプ達をチラリと見る。

するともう既にメインの料理が出来たのか、各々がテーブルに付いていた。妖夢がキョロキョロと誰かを探している。探されているのは十中八九自分だろう、とタケミカヅチは理解する。

とは言え、と視線を神々に戻せば、その眼差しは好奇心に輝き決して逃がさないという鋼の意思を感じる。主にロキから。

 

「では話すぞ。そうだな例えば────?」

「───待って!!!」

 

突如バァン!と襖が開き大きな声が。そこから姿を現すのは荒い息をした銀髪。ローブを纏い、顔全体を覆うだろう仮面を付けている。その溢れ出す神威からもそれが誰であるか理解できないものは居ない。

 

「はぁ、はぁ、私もっ!私も混ぜて!!」

 

荒い息を整えようと頑張りながら、女神は仮面を外す。現れたるはそう─────フレイヤである。

 

「お願いっ!お願いよタケミカヅチ!私も!私も混ぜてッッ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぇぇ」

 

両手を組んで全力で懇願するフレイヤに、タケミカヅチは恐らく神生(じんせい)で最もドン引きした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

う~ん、タケはどこに行ったのでしょう。会場には居ないのでしょうか?いないとすれば室内ですが・・・・・・みょん?神威らしき気配が多数・・・・・・なるほど、会議ですかね?ならそっとしておきましょう。私たちが割り込んでも意味無いでしょうし。

 

え?どうせなら乗り込もうぜ!ですか?ダメですよハルプ、話の邪魔をされたら嫌でしょう?

ふふ、そうですよね。なら辞めておきましょう。

 

所で、ですがハルプさん。今回の料理、クルメさんの全力らしいですねっ!もう私実はヨダレが垂れそうで・・・・・・あ、すみません。ハルプは食べないんでしたか。

・・・・・・食べなかったら悲しむか、ですか?それは、まぁ、私なら悲しいですね。私と、そしてハルプの為を思って作ってくれた料理です。私とハルプが食べないのなら何のために作ったか分からないでしょう?

 

あー、でも無理をするのはダメですかねー、ハルプの分まで私が食べちゃうのもいいかもしれないですねー。え、な、何ですか?いえ?別に?そんな事ありませんよ!?わ、わわ私はそんな大食いではありません!!その、ちょっと、育ち盛りと言いますか・・・・・・そ、そりゃああと数10年育ち盛りですけどっ!

 

う、うー!いいじゃないですか食いしん坊でっ!!と、と言うか、多分そこまで食べれませんから!お腹いっぱいになるまでですから!!ぶ、ブラックホールじゃないこと祈る!?もぅ!私は幽々子様ではありません!!

 

「妖夢さん?えっと、もしかしてお気に召しませんでしたか?」

「え?あ、あぁすみません。ハルプとお話してて・・・・・・もう、ハルプってば酷いんです。私が食いしん坊なんじゃって疑うんですよ!そりゃあ美味しい料理があったら食べたくなるじゃないですか!」

 

私がハルプと、テレパシーで話し合っているとクルメさんが不安そうにこちらを覗きこんでいました。咄嗟に対応し、ハルプへの不満をついでにぶつける。ごめんなさいクルメさん。

 

「あはは・・・・・・あの、ハルプさんは食べてくれますかね?」

 

やはり料理の事らしい。ハルプは、食べなくていいので食べない、と言ってはいるのですが何だかんだ食べ物には興味を引かれるらしく、今もチラチラと見てはいます。でも手を出してないので迷っているのでしょう。

 

「食べるようにお願いしてみては?きっと喜んで飛びつきますよ。口実を探しているだけだと思うので」

「わ、わかりましたっ!」

 

思ったことを口に出し、クルメさんを送り出す。

ふむふむ、どんな反応をするんでしょうか。こっそり見ましょう。

 

「あ、あのっ!ハルプさん!」

『ん?どしたのクルメ』

「こ、ここ、これ食べてくださいっ!!」

 

なんか初恋っポイ雰囲気!?クルメさんどうしてそんなに緊張を・・・・・・?

 

『ぇ、で、でもさ、ほら俺はご飯食べなくてもいい体だから皆が食べた方が・・・・・・いや、でもあれか、妖夢も言ってたもんなぁ。・・・・・・なぁ、食べてほしいのか?俺に?どうしても?』

「はいっ!!」

『ようし、分かった!』

 

うーん、割と普通ですね。ちゃんと対応しましたし。ちなみにメインは鳥料理のようです、丸焼きに見えますね。・・・・・・な、なんの鳥なのかは聞かないでおきましょう。はい。

 

『パクッ。・・・・・・・・・・・・』

「ど、どうです?」

『うーーーまーーーーいーーーぞーーーー!!』

 

唐突な咆吼!?美味しさの表現のために叫んだ!?うわっ、皆さんこっち向いた!?・・・・・・あ、全員お肉に手を・・・・・・

 

「「「「うーまーいーぞーー!!!」」」」

 

感染!?

え、ど、どうしましょうか。なんか皆さん狂ったように食べ始めたんですけど・・・・・・変な成分入ってませんよね?

 

「よ、妖夢さんも食べて見てくださいっ!」

「あ、はいっ!パクッ・・・・・・!」

し、しまった!?食べてしまいま・・・・・・こ、これは・・・・・・!しっかりとした歯ごたえの中に柔らかさが内包されていて、噛むとジュワッと肉汁が・・・・・・!そ、それに何ですかこのタレ!甘辛いタレが中まで染み込んでいて・・・・・・も、もうお肉が何であろうとこの際どうでも良いのです!と言うか叫びたい!食レポなんて私の柄では無いのですぅ!

 

「みょーーーーーーーーーん!!!!!」

 

なんで私だけ違うの!?

 

 

 









ふっ、何故戦闘を入れたのかって?

ハルプの喜ぶ事ってなんだろう→家族と団欒するのが1番好き、戦闘大好き→戦闘でいいんじゃね(おぃい!?)→戦闘にしよう!

こんな、何も考えていないことがバレてしまうような脳みそですまない。
ちなみに、べートがどれだけ頑張っても、フル装備でも負ける模様。
fate世界とかに突っ込んでも多分ギル様とかしか対処出来なそう。いや、探せばいるのだろうけども?・・・・・・カルデアにでも突入させてみるかっ!番外編として考えておこう(書くとは言っていない)

そして久しぶりに描いたフルカラーの妖夢&半霊をドゾ。

【挿絵表示】


遠目に見ると良い感じ。近くで見ると「(´<_` )フッ」。

誤字脱字、コメント待ってますー!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

84話「『た、タケだコレェ!?』」

遅れて済まない。

バトフィ、TRPG、テスト、あとは進路云々でおくれました!
国家資格も取れて満足。でも上を目指すのです!








既に日は沈みかけており、茜色の空が広がっていた。誕生会は既に終盤、いよいよプレゼントを渡す時間が近付いてきた、とプレゼントを用意したもの達は不思議な緊張を胸に秘めていた。

 

「千草殿ー、少し手伝っていただけると」

「うん!今手伝うね」

 

そんな中、一部の者達は後始末に追われていた。

そう、酒に飲まれた大人達の運搬である。酒は夜に振る舞うと言う予定であったが、持参した物については取り締まって等いないわけで、飲んだくれはこうして伸びているのだ。

もちろん、酒の力で肥大化した自信のままに妖夢であったり、アイズであったりにちょっかいを出す猛者(オッタルではない)もいたが、尽く半死半生の身となったのはいうまでもない。

 

「うぃーひっく、もう、飲めねぇ。俺の、負けだ、ぜ」

「ふっふーん、リーナさんに勝とうなんて100年早いんだよ。まぁ、僕は鋼鉄の胃袋を持っているからねっ!」

「リーナ殿、ダリル殿をこちらに」

「うっ、急に二日酔いがっ!!」

「運んで下さいね」

「有無を言わさぬぅ!怖いなー、命ちゃん怖いなー」

「こ、怖くなど無いはずですっ!」

「可愛い(可愛い)」

 

処理班がワイワイと騒ぐ中、この男、オッタルは若干挙動不審だった。

 

 

 

 

さて、どうしたものか。魂魄妖夢の誕生会に突入したはいいものの。

未だに魂魄妖夢に挨拶すら出来ていないぞ。と言うか、べート・ローガが全力でこちらを威嚇しているせいなのだが・・・・・・。あの男を下すことは可能であるが、その結果が問題だ。べート・ローガを倒すと魂魄妖夢が悲しむかも知れない。それに、会場が壊れてはこちらのプレゼントを渡せない危険がある。渡せなければフレイヤ様に見せる顔が無い。

 

む?ハルプ・ゼーレがべートの元に走っていくぞ。そして、両腕を頭よりも上に上げた。腕をしっかりとのばしている。Yの様な状態だ。

 

『ん!』

 

そして小さくぴょんぴょんと飛び跳ねている。ふむ、何を意味しているんだアレは・・・・・・。む、べート・ローガが少し困ったような顔をしているな。そして周囲をチラチラと見渡した。ちなみにだが、俺は全力で建物の影に隠れているのでバレることは無いだろう。

 

『んー!』

 

目を輝かせながら、再びぴょんぴょんと飛び跳ねるハルプ・ゼーレ。ふむ、べート・ローガは何かに気が付いているようすたが・・・・・・なっ!?

 

「ったく、なんで俺がこんな事・・・・・・」

『へへっ、負けたべートが悪いんだぞ?ほら耳ー、耳かしてー』

「触んな。おい、触んなって!」

『頭に顎乗っけてもいいぜ?』

「乗せねぇよ、馬鹿が」

 

馬鹿な・・・・・・!ハルプ・ゼーレを抱っこして膝に座らせた、だと?フレイヤ様がやってみたいしちゅえーしょんNo.10に入る行為・・・・・・!

ちなみに、No.1は「ママ」と呼ばれる事らしい。フレイヤ様可愛すぎる。結婚しよう。

 

っ、思考が脱線した。

だが、これはチャンスだ。ハルプ・ゼーレが膝の上にいて、尚且つべート・ローガの耳を触っている。まるで錠前の様にべート・ローガは捕まっているのだ。

ならば挨拶をしに行ってもべート・ローガが暴れることはあるまい。

 

さぁ、行こう。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

『おっ!オッタルだ!!まさか俺達の誕生日を祝ってくれるのか!?』

「あ、ああ。そうだ。おめでとうハルプ・ゼーレ。そして魂魄妖夢にもおめでとうと伝えておいてくれ」

『おうっ、俺から伝えておくぜ!』

 

キラキラと目を輝かせて腰を浮かせ、テーブルに前のめりになるようにこちらを身を乗り出し訪ねてくる。

プレゼントの中身が知りたくて堪らないのだろう。

 

「プレゼントについては、フレイヤ様の許可をもらい俺の独断と偏見で選ばせてもらったとだけ言っておこう」

 

そう言ってニコリと笑う。これだけでも警戒はされないだろう。べート・ローガが凄まじい顔をしているが無視だ。

 

『おー!いいねいいねぇ!』

 

まぁ、魂魄妖夢に対するプレゼントだが。2人で使うように言えば問題は無いだろう。

 

「一つしか無いから魂魄妖夢と相談して使ってほしい」

『OKだぜ!ふふ、なんだろうな。べートわかるか?』

「わかんねぇ、つかオッタル、笑顔が似合わな過ぎるだろ」

「・・・・・・フレイヤ様には褒めていただいたのだがな」

「からかわれてんじゃねぇの」

「(可愛いから許す、いや許させてくださいフレイヤ様)・・・・・・かもしれんな」

 

ところで、プレゼントを渡す時間は何時頃なのだろうか。出来れば素早く渡して帰りたいのだが。

 

『誕生会の終わりにプレゼントを渡してくれるらしいぜ!楽しみだな!あと、誕生会が終わったら宴会らしいぜ!』

 

・・・・・・顔に出ていたか?まあいい。それにしても、既に数名が酒に潰れていると言うのにまだ飲むのか。

まさか魂魄妖夢は飲んでいないよな?速い時期に酒を飲むと成長が・・・・・・

 

『うーん、妖夢が酒とか飲んじゃったら不味いなぁ。お酒ビックリするくらい弱いからなぁ。一口でバタンキューだぜ?』

「出来れば止めておいてくれ」

『だなー、オッタルも来るのか?』

「挨拶だけはしておこう」

『そっかー、少し残念だけど無理強いはしないぜ』

 

べート・ローガが凄まじく居心地が悪そうだな。ふむ、関係改善のために助けてやるか。・・・・・・だがどうすれば、ふむ。肩車でもしてやれば喜ぶかもな。

 

「どうだハルプ・ゼーレ。肩車でもするか?」

『えっ?いいの!?するする!』

「はは、よし来い」

 

俺はしゃがみ、ハルプ・ゼーレは俺の肩の上に乗る。俺の頭を抱き込むようにして。

視界の両側を足が塞ぐが、まぁ支障はない。多少無茶な動きをしても落ちる事は無いと思うが、心配なので足は掴ませてもらおう。

 

『おー流石オッタルだー!身長高いなー!』

「オッタルってこんな奴だったっけ?つか、おいハルプ・・・・・・いや、何でもねえや。解放されたならそれでいいや」

 

俺は少し速度を出して中庭を走る。俺の上でいやっふぅー!と両腕を上げてハルプ・ゼーレが叫んでいた。

すると

 

「ずるいですー!私もっ!私も混ぜて下さーい!」

 

魂魄妖夢が駆けてきた。頭の上から『おっ、やっと来たか』と声。どうやら来ることが分かっていたらしい。少し時間を潰しておいて正解だったか。

 

『悪いな妖夢、オッタルの肩車は1人用なんだ(チラッ)』

「みょん!?そんなぁ!私も肩車して欲しいです・・・・・・(チラッ)」

「そうは言ってもな。ハルプ・ゼーレの言う通り、肩車は一人しかできない(チラッ)」

「いや、やらねぇからな?」

「「「(じー)」」」

「(無視)」

「グスン」

「わあったよ!!やりゃあいいんだろやりゃあ!!」

「そうです。やればいいんです(ドヤァ)」

 

腰に手を当て、えっへんと胸を張る。俺の上でハルプ・ゼーレはやれやれとリアクションしていた。

べート・ローガは怒りが湧いているのか凄まじい形相で妖夢を肩の上に乗せた。

 

今頃、街中の神々が神の鏡からヤッカミを飛ばしていると思うと胃が痛い。

 

「誕生日おめでとう魂魄妖夢」

「ありがとうございますオッタルさん!」

 

さて、目的も達した。あとはプレゼントを渡し、帰るだけだな。

このあと、2人は肩車したい!と色んな者達にとっかえひっかえ肩車されていたが、まぁ些細な事だろう。太もも辺りを掴み変な顔をしていた者達は「悪!即!斬!」と言う声とともに現れた仮面を付けた謎の人物、タケマンに斬り伏せられたりもしていた。

タケマン・・・・・・一体何者だ・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おぉう!遂に、遂に!誕生プレゼントの時間ですよーー!!

ふっ、前回の誕生プレゼントは刀だったからな!即壊れたけど。・・・・・・あれは泣いた。

 

今回は何だろな?へ?お洋服がいい?んな馬鹿な!!やっぱり武器だろ!

はい?甘い物?妖夢君よ、とりあえず甘いものって言っておけばいい的なアレかな?かな?

 

「妖夢殿!ハルプ殿!まずは私達から受け取ってください!私からは髪飾りをっ!!」

「おっ!お揃いですね、ハルプ!」

『おー!いいねぇ。ありがとう命!「ありがとうございます!」』

 

巫山戯ていたら始まってた!!命からは髪飾り、俺と妖夢に色違いの同じものだ。青を基調としたものが妖夢、赤を基調としたのが俺だ。

 

「次は私だね!はいこれ!」

「これは・・・・・・!」

『長い靴下?』

「ニーソックスって言うんだよ。気に入ってくれると嬉しいなっ」

「ありがとうございますっ!私全然お洒落したことないのでっ!!」

『おう!ありがとな千草!』

 

白のニーソックスを千草から貰ったぞ。えっとね、太ももの部分に来るところに緑のリボンが付いてるな?ふむふむ、これを着た妖夢ね、良いかも!似合うと思うぜ!

 

「むむむっ、そのような物を買っていたとは・・・・・・」

「ふふふ、今回は私の勝ちかな命ちゃん」

「な、負けてなどおりませんっ!!髪飾りとて妖夢殿達をより輝かせてくれるはず」

『いや、俺を輝かせる必要はないんじゃ』

「「ある!」」

『お、おう』

 

いやー、この争いも懐かしいぜ・・・・・・。

 

「妖夢様、ハルプ様。私からの贈り物はこちらでございます。お気に召していただければ嬉しいのですが・・・・・・」

 

春姫が緊張した面持ち、具体的には耳がパタンと閉じられて尻尾がピーンとなってる。で箱を渡してくる。

 

「中身は何でしょうか?」

「わ、私とっ!お揃いの着物でございます!」

「『着物!』」

「お嫌いでしょうか?」

『いや全然嫌いじゃないぞ!そういや俺たち着物あんまり来たことないよな?』

「ですね!ありがとうございます春姫〜!」

「あ、あわわ!だ、抱き着っ!人の目があるので!?」

『俺も〜!』

 

春姫に抱き着く俺たち。ちなみに以前の経験から学び後ろからだ。ふっ、妖夢よ前から抱き着いた弊害・・・・・・SAN値チェックを受けているな?無様!

なんて思ってると桜花が俺の頭を後ろからポンっと叩く。「お、桜花」と千草が反応したから分かったぜ。

 

「あー、なんだ。邪魔して悪い。よく分からなかったから俺目線で選んだんだが・・・受けとってくれ」

『おぉー!』

「みょん?」

『魔剣だよ魔剣、ま!け!ん!』

「へっ!?そんな高価なものを!?」

 

やったー!魔剣だー!使わないで取っておこう(固い決意)

ナイフみたいな外見してるな。色は黄緑?なんの魔法入ってるのかな。

 

「中には治療の魔法が入ってるんだ、お前達には攻撃系の魔剣は要らないだろう?」

「ありがとうございます桜花!」

『桜花〜!ありがとーー!』

 

まさか治療系とは。嬉しいぞこれは!とりあえずは桜花に抱き着いておこう。ロキ直伝オラリオ式のお礼を使うのだ!

 

「お、おいおい。はははそんなに嬉しいか?少し安心したぞ」

 

うむうむ、回復ね回復。俺が持ってれば妖夢が危険になっても確実に使えるからいいねぇ。

とその時、不意に上から黒い影!な、なんだ!!

 

「タケマン参上!!」「うぉ!?」

「『た、タケだコレェ!?』」

「はーっは!否!俺は~!!タケマンッ!!」

 

否!の部分で後ろを振り向き、タケマン!!の部分でこっちをビシぃっ!と振り向くタケマンことタケ。耐えろ、俺。耐えろ妖夢。

 

「ぷっ、く、ふふ、・・・・・・はぁ。セーフ!」

『アウトだよ!!』

「みょん!?」

 

妖夢が両腕を水平に切る動作をする。俺はその頭にチョップを入れる。あまりにも素早く流れる様な動作で放たれたそれは必中の一撃ぃ!

 

「ん?まぁいい、さぁ!俺からのプレゼントだっ!」

 

コント無視されたね。まぁいいか。

そう言ってタケから渡されたのはっ・・・・・・!?

 

「ふははは!タケマン仮面と同じ仮面、そしてマントだ!!」

『おー!早速付けるぜ!!』

「ぇ、えぇ・・・・・・」

「みよ!俺が、タケマンだ!」

『みよん!俺がハル、ハル・・・ハルマンだ!』

「当然のように人様のネタを!?そしてウーマンの方があってますよ!」

「『我らこのオラリオの平和を守る正義の味方!!』」

「いや何で息ピッタリなんですか!?」

「『タケ(ハル)マンならこう言うと思った』」

「以心伝心!?」

 

仮面は俺達タケミカヅチ・ファミリアのマークが付いてる。正直に言うとダサい「ガハッ!?」。マントは割とカッコイイと言うか、マントは全部かっこいいと思うの。

 

「よ、妖夢にもあるぞ」

「えー、は、恥ずかしいですよ」

 

あ、着るのね。別に今着なくても良いのに。ノリいいなぁ。

 

「へんっ!しんっ!!とうっっ!!」

 

てってれー!と妖夢が仮面とマントを付ける。うん、あれだな。傍から見ると変なやつだわこれ。

 

「・・・・・・だよな」

『あ、タケも思った?あと自然に思考読むなよぉ』

「うむ」

「え、私は何のために」

『犠牲になったのだ、犠牲の犠牲にな』

 

妖夢が羞恥に悶える中、さてさて次は?と思っているとアリッサ達が目の前に来る。

 

「まずは私から渡させてもらおう。どうぞ、御二方」

「これは・・・・・・!」

『鎧だな、鎧』

 

渡されたのは鎧だ。と言っても、腕と肩と胸と足、この4箇所を守る目的のものの用で、そこまで重くは無いな。お腹あたりは守らないんだね。

 

「2人に足りていないのはやはり防御力だと思ってね。こうして鎧を用意した。恥ずかしながら全身鎧は準備出来なかったがな・・・。そうそれと、この鎧は私とクルメからのプレゼントだ。気に入ってくると嬉しい」

 

と、アリッサ。まぁ全身鎧は高いから仕方ない。あと、俺にはいらないのだけれども。まぁ有難いので貰っておくぜ。

 

「えっと、すみません。私は食材の買い付けなどをしていて買いに行く時間が無くって、それでアリッサさんがお金を少し負担してくれるなら2人のプレゼントとしようって」

『流石アリッサ。面倒見が良いな〜』

「にしても、鎧ですか・・・・・・私っ、西洋鎧は初めてなので大切にしますね!」

『俺も!』

「ふふっ大切にするのは構わないが、いざと言う時には壊れてくれないと困るな」

 

身を守るためだし仕方ないか。にしてもあれだな!妖夢のが壊れたら俺の貸してあげるよ!的なことが出来るなサイズ同じだし。えぇ?すぐに伸びる?身長が?ははは、ワロス。

 

「んも〜〜っ!!!」

『痛い、痛い、いてててて、妖夢止めて止めて悪かったから!!ポカポカ殴らないで!!』

 

そこまで怒らなくてもいいだろぉ!?俺達身長一緒なんだからさ!!

 

「ふっふっふっ〜、身長でお悩みのようだネ!そんなこんなでリーナさん登場っ!!」

 

お?リーナが両手を上げてピョーンと現れる。この人何歳なんだ?

あれ、リーナの後ろにべートが・・・・・・。

 

「おいエルフ、どけ。俺が先だ」

「はい?何を言っているのかな狼君。僕が先に名乗りを挙げたのだから僕の番だよ」

「うるせぇ、俺が先だ」

「ふふふ、なるほど。でも君はトリを飾った方がいいんじゃないー?だって友達だろう?」

「いや、俺が先だ」

「自信が無いのは分かるとも。僕だって同じさ!もしプレゼントをあげた時にションボリされたらどうしようって考えている」

「っ」

「それに、君は突然の事で特別な何かを選べなかった。なのに他の人は彼女らの為を思った一品をそれこそ金額の有無に囚われずに選んでいる」

「・・・・・・」

「むふふー、いいかい狼君?必要なのは量でも値段でも無いんだ。その人に対する気持ち、それだけあれば充分なんだよ。友人として誰かと付き合うなら忘れない事だね」

 

り、リーナ・・・・・・!そんなに考えていてくれたのかっ!!うんうん、嬉しいぞ俺達は!べートも気にしなくていいんだぜ!だって友達からなら何もらったって嬉しいんだからなっ!

 

「─────んで、そんだけ語っておけば自分の粗末なプレゼントは価値あるものに見えるって寸法か?」

「─────ふふふ。さぁ、どうだろうね(震え声)」

 

・・・・・・。

 

「えっと、僕からのプレゼントはってハルプちゃん、そんなに無表情だと僕プレゼント渡すの怖いなー」

『最後の一言が震えなかったら信じていた』

 

騙されるところだったぜ。妖夢気をつけろよ、世の中はこんな奴ばっかだから!うん、いい返事だ。

 

「いやぁ、ごめんよ〜。でもなかなか決心がつかなくてさー」

「決心、ですか?」

 

リーナの言葉に妖夢が反応する。決心かなんだろ?

 

「うん。極東に行ってきたんだ。何年ぶりか分らない里帰りだよ。知り合いなんて誰も居なかったけどね」

『・・・・・・まぁ長命種だからなー、仕方ないと言えば仕方ないのか?』

「ちょちょ、ハルプ!『わかってるよ』そ、そうですか?」

 

リーナの語る内容は、俺たちにも当てはまる物だ。仮に、別れが来ないとしてこの世界に残ることになっても・・・・・・恐らくこの中のメンバーで生き残っているのはエルフ達と神位のものだろう。

まったく、湿気た話しやがってさー。誕生日なんだから軽く流させてもらった。この方がリーナも楽なはず。

 

「あはは、ありがとう2人とも。コホンっ!という訳で!!私からは()()の日本酒を()()持ってきたよ!一緒に飲もう!」

 

秘伝・・・・・・?沢山・・・・・・?

俺は少し前のリーナのセリフを思い出す。

 

───むふふー、いいかい狼君?必要なのは量でも値段でも無いんだ。その人に対する気持ち、それだけあれば充分なんだよ──

 

おいぃぃぃいいいいいい!!!!

 

『リーナ!?お前さっきの話何だったの!?値段や量じゃ無いって何だったの!?』

「あれは友人としてだからねー、僕は僕の価値観できめるのさっ!!」

「あと私はお酒弱いので・・・・・・」

「そいつの事だ、お前が酔っちまえば後は全部自分が飲めるって魂胆だろ」

「はぁ全く、そんな分けないだろう(震え声)」

「「『・・・・・・』」」

 

なるほど、友人としてではなく、カモとして俺たちを見てるんすね。

 

「カモ、ですか」

「最低だなこの白エルフ」

「ぇ、ええ?みんなでお酒飲んでワイワイすれば喜んでくれると思ったのになぁ」

 

んじゃ。ベーとだな!

 

『「(キラキラとした眼差し)」』

「て、テメェら・・・今の話聞いてわざとやってやがるな?」

「バレてますよハルプ」

『可笑しい、べートの奴やけに鋭いぞ』

「殴りてぇ」

 

そう言いつつも、べートはプレゼントを取り出した。うん、プレゼントというか、サンタさんの袋だな!!

 

「ほらよ」

 

照れているのか、べートはそっぽを向く。尻尾が不安そうに垂れているのが面白い。笑いそうなのをこらえ妖夢を見ると、なんと青ざめている。

な、なんでだ?

 

「は、ハルプ・・・!私達、か、カモとして見られてますよべートに!」

『ぶぐっ!!・・・・・・ぷくく、そ、そうだなっ!べ、べート最低!この変態っ!!』

 

や、やばいっっっ!笑い死ぬっっ、なんでっ、なんでこんな場所で変に天然なの妖夢!!

 

「いやなんでだっ!?おい白エルフテメェのせ、もう居ねぇ!?「さーらばー!」逃げてやがる・・・!」

 

はぁ、はぁ、耐えるんだ。妖夢が両手を胸の前で組んでべートを見上げている。というか身長差的にそうなっちゃうんだけど。

 

「べ、べートはお友達ですよね?私達のことをカモとか思ってないですよね?」

「あ?思ってねーわバカ」

「よ、よかったぁ。ハルプ聞きましたか!セーフでした」

『でもよくよく考えると俺達って小さい女の子で、べートは傍から見るとその純情を惑わす狼で、このように両手を組ませた上で懇願させるようなド畜生ってわけだよな。しかもその娘に戦いで負けるというね』

「お前、言い方ってもんがあるだろ、あとあのルールで勝てるわけがっ何だこの視線は!?」

 

べートが会場中から避難の目線を送られている。吹き出しそう(真顔)

ロキが爆笑しながらタケを後ろから羽交い締めにしている。タケ、怖いです。刀を持って暴れないでください。

 

『はははそれにしても沢山買ったなぁ、別にテキトーなの1個でも良かったんだぜ?』

「あぁ?テキトーに選んで来ただろうが」

『買いすぎだ。お前達ロキ・ファミリアと言っても金が有り余ってる理由でもないだろう?俺にこんなに買うくらいならロキに何かを買ってあげた方がいいんじゃないか?』

「・・・まぁ確かにな。じゃあ今更聞くがよ、何だったら喜んだ」

「既に嬉しいですが、コレ一つ、と言われるのならやはりアレでしょう」

『だな』

「アレ?なんだよ。・・・・・・もしかして尻尾と耳とか言わないよな?」

「バレてますよハルプ」

『可笑しい、べートの奴やけに鋭いぞ』

「はぁ、いつになったら飽きるんだ」

「死ぬまで?」

「片方死んでんじゃねーか」

『べートが死ぬまでだろ多分』

「まじかよ・・・・・・」

 

はははは、我が魔の手からはモフモフは逃げられんのだよ。妖夢もそう言っている。2人でべートにお礼を言った時だ。

 

「次は俺から渡そう」

『うおっ!びっくりした』

「てめ、オッタル!!」

 

ぬるっと、現れたのはオッタル。手には白い布でグルグル巻の・・・・・・刀かな?

 

「時間も押している手短にすまそう。これはゴブニュ・ファミリアで制作してもらっていた刀だ。名は〈刄軍・無銘の太刀〉。お前達が前々から欲しがっていた不壊属性(デュランダル)の武器だ」

『「へ?」』

「「「「「「おぉおおお!!!」」」」」」

 

今までで最も高いプレゼントに会場が沸く。

でゅ、デュランダルだとぉ!?え!?ちょちょちょ、ちょっと待ったァ!!え?ほんとに?

 

「疑う必要は無い。本物だ」

「こ、これが・・・・・・刄軍・無銘の太刀ですか」

『刃渡りは160cmか、重心は刀身の中央辺り、刃は滑らかな弧を描いてるな。うむ、問題ない』

「なんで偉そうなんですか!?」

『感動してた』

「なるほど」

 

俺たちをイメージしたのかな?やや黒に近い緑の鞘が渋くてよろしい!!

 

「ふぅ、気に入ってくれたか。では、俺は帰る。誕生日を楽しんでくれ」

「あ、はい!ありがとうございます!」

『ありがとうな!!』

 

ふらっと現れて去っていくその背中にかっこよさを覚えるぜ。しかも・・・・・・こんなに高いものをくれるなんてな!

 

「高いものですね」

『うん』

「・・・・・・た、高いですよね」

『うん。高いな、凄まじく』

「大丈夫ですか?」

『ぜんぜん大丈夫じゃない。すこし胃が痛い』

「胃、あるんですか?」

『無いですぅ・・・・・・』

 

こんなに、プレゼント、貰うんなんて、思ってなかった、助けて。

俺が今までにやったことって、そんなに評価されることじゃないと思うんだけどっ!!罪悪感が凄いんだけど!!

 

「妖夢さん!ハルプさん受け取ってください!」

「俺も俺も!」

「私も受けって!」「むしろ私を!」

「僕のプレゼントを〜!」

 

わ、わ、ありがとうございます!まって、もうべートので1杯で受け取れない!!入り切らないぃい!!溢れちゃうから!!

 

「うわっハルプなんか背中から出てますよ!!」

 

ひろって!というか持ってて!助けて!

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

 

「オッタルお帰りなさい!どうだったかしら?喜んでいた?」

「はっ、感動し言葉が変になるくらいには」

「よっし!!会いに行ってもいいかしら?!」

「いえ、そういう問題では無いです」

「がびーん!なんで!?なんでなの!?私は何時になったら会いに行けるの!?」

「(フレかわ)」

「答えなさいオッタル〜〜!!」

 






ア「ししょー、プレゼントどうぞ?」
妖「あはは!じゃが丸くんですかアイズらしいですね!」
ハ『だな!』
ティ「(あれ・・・・・・なんか最初よりも減っているような・・・・・・あぁ、アイズ食べたな)」
ハ『あれアイズ?ほっぺになんか付いてるぞ?』
妖「じゃが丸くんじゃないですか」
ア「た、食べてないよ」
妖、ハ「『嘘だ!!』」
ア「(´・ω・`)」



次回からはベル君無双。やっと物語が進むのです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

85話『大丈夫だよ、負けるわけ無いじゃん』


今回は予告通りベル無双。原作でアポロン・ファミリアが何人くらいだったか忘れてしまったので、とりあえず300人位だろ!ってやってます。


原作とはだいぶ違います。そして速い。サラマンダーよりもずっとはやーい!です。




────僕は弐振りの魔剣を手に、城壁の前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開戦を告げる銅鑼の音が、彼方より響き渡る。

制限時間は三日間。

アポロン・ファミリアVS純ヘスティア・ファミリアの戦争遊戯。

3対100ですら生温い数の暴力だった。ヘスティア・ファミリアから出場したのは団長ベル・クラネル、団員のリリルカ・アーデ、ヴェルフ・クロッゾの三名のみ。アポロンが出した“ハンデ”の一切合切を蹴った結果だった。

 

「ベル・クラネルさんは大丈夫でしょうか」

 

綺麗に掃除が終わり、普段と変わらない姿を取り戻した武錬の城にて妖夢は隣りに座るハルプへと問いかける。問いかけられた本人は『んー?』と聞いているのか聞いていないのか分からないような返事のあと

 

『大丈夫だよ、負けるわけ無いじゃん』

 

と言ってニシシと笑う。その表情からはベルが負ける事など少しも疑っていないのだろう。「ならいいのですが」と妖夢は不安げに神の鏡からベル達の様子を覗いた。

 

「二人共、ただいま。どうだ、ヘスティアの子は」

 

ギルドから戻ったタケミカヅチが二人の頭を撫でる。帰ってきた事には気が付いていたのか、さして驚くことも無く「『おかえりなさい!』と返す2人。

 

「えっと、1人で戦うみたいで少し心配です」

『ずるいよなぁー、俺達もああやって戦いたかったぜ。あっ、やっぱ今のなし!皆で戦う方が楽しかったっ!』

 

それぞれ反応を返す。タケミカヅチも少し嬉しそうだ。彼も彼女らもこんな会話を望んでいたのだから。

 

「タケ、命達は何処へ?」

「うん?あぁ、はははっ!確か広場で賭け事があってな、ベル達にお小遣いを全額注ぎ込んでくるらしいぞ」

『うへぇ、忘れてたぁ、俺もつぎ込めば良かったぁ』

「お前はベル達の勝ちを疑ってないんだな?」

『当然だろー、だって並のレベル4より強いだろアレ』

「私達は負けませんけどね!」『並のって言ったろ?』

 

命達の所在を聞き、項垂れるハルプ。しかし、タケミカヅチの問いにニヤリと笑う。タケミカヅチは知らないが、ベルのステイタスは現在全てB以上となっている。今までの貯金を踏まえ、なおかつアイズ+妖夢+ハルプ+ゼノス達に今迄扱かれてきたのだ。その技量も並大抵では無い。

 

『それに、俺の能力でほとんど結果出ちゃってるし』

「どんなですか?」

『それを言っちゃあつまらないでしょ?』

「確かに」

 

ハルプの能力でもその結果はほぼ判明しており、余程の奇跡が無い限りはひっくり返ることはない。

 

『うーし、戦いが始まるまで少し投影でも、やってよーか』

「えー、またヒビ入ったらどうするんですか」

『もう、ひび割れませんー』

「えー怖いですよー。やめましょう!」

『おだまり!アタシャ、和菓子を錬成するんだよ!』

「何故に口調が!?それよりも和菓子も出来るんですか!?ならぜひ!」

『・・・・・・あれ?俺の心配よりも和菓子が勝った・・・・・・?』

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

 

 

 

 

 

森の中、僕はリリとヴェルフと話していた。

 

「本当に、お1人で大丈夫ですかベル様」

「うん」

「俺たちに遠慮なんて要らないんだぞ?」

「ありがとう。でも、僕はやるよ。やらなきゃいけないんだ」

 

そうだ。僕は沢山の人に手を貸してもらった。アイズさんに鍛錬をお願いしたし、妖夢さんとハルプさんにも、ゼノスの皆にも手伝ってもらった。

 

「今の僕なら、あの青年(ひと)に負けない」

 

これは驕りじゃない。これは嘲りじゃない。確かな自信だ。これだけしてもらって負けましたじゃ済まされない。

 

「はぁ、こういう時のベル様は頑固ですからね。リリは諦めました」

「そうだな。っと、ほら使え。時間が無くて弐振りしか作れなかった」

「っ、あ、ありがとう。でも、いいの?」

「ダチのためなら意地も捨てるさ」

 

ヴェルフから渡された2本の魔剣。紅の剣と紫の剣。聞かされる内容は、紅は紅蓮の炎、紫は紫電を飛ばす魔剣だそうだ。

ただこれはただの魔剣じゃない。伝説の『クロッゾの魔剣』だ。分厚い城壁も壊せるはずだ。

 

まだ昼間だ、奇襲には向かない時間だけど、僕はこの時間を選んだ。見てもらいたかったんだ、僕の戦いを。少しでも成長したと思ってもらいたくて。

 

 

「─────じゃあ、行ってくるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んあ、なんだぁ?おいお前ら、なんか1人で来たぞ」

 

城壁の上、見張りとして配置されている男達はベルの姿を捉える。1人で歩いてくる白髪の少年。2本の剣を背にし、腰には2本の短剣。体はサラマンダー・ウールを着けている他は速度を落とさない為なのか最低限の箇所を守っているだけだ。

ぷふっ、と誰かが笑う。それに釣られるよように誰もが笑い始めた。

 

「だははははっ!!なんだアイツ!自殺志願者か!?おいお前ら!弓!弓構えろ!はっはっは!!」

 

小汚い笑い。構えられる弓。城壁の上だけでも100を超える人数だ。降り注ぐ矢もそれと同じだけの量があるだろう。100の矢を切り落とすなど、普通に考えて不可能だ。

勝利を確信した彼らの行動は速かった。裏からの侵入を危惧し数名を残し、素早くベルの見える城壁の上に集まり弓に矢を番えると、ベルが有効射程範囲に入るのを待ったのだ。

 

「なんだ?何してやがるあの白髪」

 

それにたいして、ベルの対応は─────一撃だった。

両腕を上げ、背に背負っていた2本の魔剣を引き抜き、同時に思いっきり振り下ろす。

紅蓮の炎と天を轟かす紫電が同時に放たれた。ベルの狙いがわかった時には既に遅い。集まっていた故に逃げる事すら覚束なかった彼らは一瞬にして吹き飛ばされることになる。

 

「「「ぐぁあああ!?」」」

「なんだ!どうした!!」

「ま、魔剣です!『クロッゾの魔剣』です!!」

「な、なんだとぉ!?」

 

城壁の一部と上に乗っていた冒険者の殆どを一撃で打ち倒した、それを確認したベルは一気に駆ける。草原を白いうさぎが凄まじい速度で走っていく。オラリオ全体が今の一瞬で湧き上がる。

 

「クソ!全員早く立て!リトルルーキーが来るぞぉ!」

 

最前線で指揮を執る皮装備の冒険者に、煙の中からベルが躍り出る。その手にはヘスティアナイフと牛若丸。

 

「─────シッ!」

「あがっ!?」

 

鋭い息と共に、紫紺と紅の光が踊る。一切の容赦なく放たれた2連撃は皮装備の冒険者の首と太股を切り付ける。さらに「はぁ!!」と言う掛け声とともに放たれた回し蹴りが皮装備の冒険者を吹き飛ばし、数人の冒険者を巻き込んだ。

 

「おのれ!させるか!!」

「っ、ふっ!!」

「なっ!ぐぼうっ!」

 

それを見た武者鎧の冒険者がベルを仕留めるべく槍を突き出すが、ベルはそれを牛若丸で逸らしながら一気に接近、飛び上がるようにして膝蹴りを打ち込む。さらに踞ろうとする武者鎧の冒険者を蹴り空中に駆け上がり、体を空にて反転しながら回転させ

 

「【ファイアボルト】ぉおおお!」

「ぐぁあああ!!」

 

魔法を連射する。その数12。360度へと放たれた雷炎は無詠唱だと知らない冒険者達を抵抗させる間もなく飲み込んで行く。

 

「っ!!」

 

着地すると同時に、そこ目掛けて炎を切り裂きながら飛び込んでくる複数の矢。2本を躱し、3本を弾く。そして駆ける。

 

「な、なんだコイツ!本当に()()()()かぁ!?」

 

一瞬にして肉薄したベルは油断なく一閃、弓を破壊した勢のままに回転。そしてニ閃。相手を装備事切り裂きながら移動する。飛び込んでくる矢を近くの冒険者を盾にする事でやり過ごし、冒険者を投げ飛ばして弓兵の動きを止め、近寄って短剣を突き刺す。

 

「ぐっ?!クソが!しね!!」

 

腰から短剣を引き抜いた冒険者が、自分にのしかかるベルを斬ろうと短剣を振るう、それを顔のギリギリで防いだベルは男の顔をぶん殴り気絶させ、次へ。

やたらと飛んでくる矢を全て避けるないしは弾き、ベルは縦横無尽に暴れ回る。

 

「く、矢が切れた!」

 

その言葉を待っていたかの如く、ベルは城壁を駆け上り喉元を切り裂くと同時に蹴り落とす。

 

「【ファイアボルト】!」

 

城壁の上を撫でるように雷炎が襲いくる。逃げられないものはそれに飲み込まれ、逃れたものは城壁の内へ。そしてそこにも雷炎は迫った。

 

「何なんだよあれ!?無詠唱だってのか!?」

「ぐぁあだれか!回復をたのギャァ!」

「お前ら!全員で囲め!!」

 

少しでも隙を見せた者からベルにやられて行った。低い姿勢で弐振りの短剣を構え、ベルは油断なく周囲を睨む。ジリジリとベルを囲むようにして動く冒険者相手にも、睨みを解かず動かない。

 

やがて包囲は完成し、冒険者達の余裕が取り戻される。

 

「へ、疲れて動けなくなったか」

「お前らやっちまえ!!」

「「「「「「うおおおおおお」」」」」」

 

全方位から迫る剣、槍、斧、槌、それらをベルは躱し、逸らし、流し、反撃を加えていく。

 

「っ!」

 

多少の傷をベルが負う中、冒険者達の勢いは止まらない。増援が駆けつけ、その包囲はさらに分厚くなる。跳躍しても逃れられない程の厚さだ。勝利を確信した冒険者達の攻めは更に凶悪となり・・・・・・ベルが動く。

 

「【ファイアボルト】おおおおおお!!」

「自爆だとぉ!?」

「「「ぎゃあああ!!」」」

 

自爆覚悟の魔法。自分の足元に十発。サラマンダー・ウールによって軽減されるが、それでもその威力は並外れている。多くの冒険者を巻き込むが、それで全員が倒せる訳では無い。

 

「自爆とかするか普通!?」「待て!奴がいない!!」

「なにぃ!?」

 

冒険者達は魔力の高まりを感じた。その方向は──上。

 

「─────行っけぇえええええええ!!!」

 

振るわれるのは2本の魔剣。紅蓮と紫電が咲き誇る。

冒険者を直接狙うのではなく、その足元へと。魔剣は主に従いその効果を存分に発動させた。

 

極光。からの爆音。

 

「はぁ、はぁ・・・・・・よし、次だ」

 

土煙が晴れ、立っているのはベル1人。

開戦から10分とせずに、アポロン・ファミリアの3/4が倒れた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルくーーーん!!イイぞーーー!やっちゃえーー!」

「そこよー!キャー!」

「ふ、フレイヤ!?興奮しすぎじゃないかい!?」

「何よ、いいじゃない」

「「「「そうよそうよ」」」」

「むむむ、ボクのほうが応援してるんだからな!ベルくーーん!!!!」

 

ギルドの上、神々の住居となっている其処から神々はこの戦いを俯瞰していた。

 

「なんだあの冒険者、無詠唱かよ!」

「欲しいな!うん欲しい!!」

「魔剣とかセコ過ぎィ!」

「というかあの動き、本当にレベル2かよ!?」

 

ベルのレベルは3だが、ハルプ達が起こしたゴタゴタやアポロン・ファミリアからの攻撃によりギルドへの報告はまだ済んでおらず、この場にいる者でレベルが3になっている事を知っているのはヘスティアのみだ。

 

「おいドチビ!なんやベル君また強くなってるやん!」

「そうだろうそうだろう!・・・・・・原因を考えると喜べないけどネ・・・・・・」

『おおっとぉ!?決めたーーー!!レベル2の冒険者6人を同時に倒したぁー!凄い!凄いぞベルクラネル!!』

「おぉ、今の回転剣舞六連やないか!使えたんやなぁ」

「か、カッコイイ・・・・・・さすがベル君だ!」

 

ヘスティア達の応援はベルには届かないが、確かにその心には届いている。

 

「(頑張ってくれよ、ベル君っ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───はぁ、はぁ。

 

とベルの荒い息だけが響いている。あと何人くらいだろう?そんな疑問が湧いては消える。

分からないが、進むだけだ。ベルに見えて来たのは螺旋階段だ。この先にヒュアキントスはいる、そうベルは理解した。

 

「──────よし、行こう」

 

リン、リンと鳴る腕、英雄願望を込めた一撃で塔ごと吹き飛ばす。少しでも多くのダメージを与える腹積もりだった。

 

「はぁぁぁッッ!!」

 

20秒チャージのクロッゾの魔剣。魔剣の破壊を代償に放たれるその破壊力たるや、上階のみならず─────塔ごと綺麗に吹き飛ばした。

ただ、奇跡的にヒュアキントスは直撃を避けており余波で空を舞っていた。「ぐぅあああああ」と言う悲鳴が昼の空に谺響する。

 

だが、ベルにはハルプからの教えがある。

それは『相手を信じろ。自分が使うその手は完全に対応されると考えて動け、自分の術の何もかもが相手にとって取るに足らないと思い込め。そんで、限界を超えて相手の予想を超えてやれ!───まぁあんまり俺はやってないけどネ!』と言うものだ。最後の方は小さくて聞こえなかったが、それは教訓としてしっかりとベルに刻み込まれている。

 

吹き飛ぶ瓦礫を蹴って跳ぶ。まるでそれは空を飛んでいるかのごとく。

 

「ぎ、ぎざまぁぁあ!!」

「まだ、行ける!」

 

それは誰に対する言葉だったか。ベルはヒュアキントスの言葉を完全に無視してかかと落としを叩き込む。ヒュアキントスが急降下する。この時点でヒュアキントスの敗北は確定したようなものだが、ベルはまだ「ヒュアキントスに逆転の手があると信じている」、故に、まだ攻めの手を緩めない。

 

「【ファイア────】」

「ま"、ま"っでぐれ"ぇええええええ」

「【───ボルト】ッ!!!」

 

放たれるその数───15。明らかなオーバーキルである。

 

「い"、い"やだぁぁぁぁあああああ!!!!!!」

 

だが、まだ終わらない!ヘスティアとの思い出の教会!妖夢達の誕生会に参加出来なかった事!他にも諸々!たくさんの恨みをここにぶつける!

ベルのそんな思いは確かに届いた。背に回される手、壊れていない紫の剣。

 

「これで────────終わりだッッ!!!」

 

城の残骸に叩きつけられたヒュアキントスに、その紫電は落雷として轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

ベルとヒュアキントスとのラストバトル?に神々は──

 

「「「「「「「(さ、殺意パネェ)」」」」」」」

 

────ドン引きしていた。

確かにド派手だった。そこに文句はない。だが、伝説と歌われるクロッゾの魔剣をたかが一人の人間に使うか!?と言うのが彼らの認識だ。

 

一撃目でオーバーキル。空中からのかかと落としでオーバーキル。そこからの魔法連射でオーバーキル。からの魔剣でオーバーキルだ。

 

「ベルくーーーん!信じてたぞーーー!」

「す、素敵っ・・・・・・!」

「やばい、ウチここに居たらアカンやつと思われるわ。退散しとこ」

 

惚気けるヘスティア、濡れるフレイヤ、逃げるロキ。三者三葉の反応に呆れるほかの神々。

 

『っっったぁ!!見事にベル・クラネルがヒュアキントスを討ち取ったーーー!!』

『(観客達の歓声)』

 

実況も余りの仕打ちに一瞬硬直したが、それを「ため」という事にして一気に場を盛り上げた。神の鏡の奥、ベルは堂々と片腕を上げる。

そこへリリルカ・アーデとヴェルフ・クロッゾがやって来て、リリルカはベルに抱きつき、ヴェルフはベルの肩をバン!と叩く。

・・・・・・古城は全壊していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『その為の右手』

「みょん?何言ってるんですか?」

『何でもないです』

 

いやぁ、酷いね。なんでああなったんだベル君。と言うかあの場所も不憫だよなぁ。だって、エロス達が直して、俺達が半壊させて、アポロンが直して、ベルが全壊だろ?つか、ベルさん?少しは手加減しても良いのよ?何人か死んだんじゃないかな俺が居なかったら。いや、俺の能力は完璧じゃないから何人か死んだかも知れんけどさ。

 

全く、なんで俺がベルの敵さんのお生命を守らなきゃーいけないんですかー?

もっとこう、明らかにベルが負けそうなのに対して俺が能力を使って勝てるようにするとかさぁ、したかったなぁ。

ま、現実なんてこんなもんよ。あ、待てよ?確かベルにも経験値ブースト掛けた気がする。・・・・・・うん、掛けてるね!ふふふははは、ベルは儂が育てた。

 

「むむむ、それにしてもズルイです!ベル・クラネルさんはあんなに思いっきり暴れてっ・・・・・・!!」

『確かになぁ、俺達も広範囲技ブッパしてぇ』

「やめろ、オラリオが無くなる」

「流石にそこまでの火力は、ねーハルプ」

『え、出るぞ』

「ぇ」

 

ふっふっふ、つか?私と妖夢の全力を合わせればタケの権能にすら迫るしぃー!ホントだかんな。

 

『さて、ベル達が凱旋するまで何するかー』

「もぐもぐあ、もう1個作れます?」

『あいよー、ほれ三色団子』

「・・・・・・なんだろう、俺はこれを受け入れ始めている。当然のごとくハルプの手のひらから三色団子が生えてくる現実を受け入れ始めているっ!!」

「正直ハルプって何でもありじゃないですか」

『使いこなせないけどなー、所詮人間ですしおすし』

「にん・・・・・・げん・・・・・・?」

『お前俺を泣かせたいの?』

 

そういえば俺さ、最近妖夢に距離を感じます(唐突)。私、気になります!なになに?嫉妬なの?俺の能力にたいする嫉妬なの?

え、違う?じゃ何さ。

 

「私が、その・・・・・・少し気になるのは」

『気になるのは?』「ん、何の話だ?『たぶん能力の話』ほう」

 

妖夢がもじもじしてる。でも直接伝えてこないのは、口頭で伝えたいからなんだろう。うんうん、偉いね。

 

「私とハルプは魂レベルでの融合を果たしていますよね」

『うん、いきなり難しい話でビックリだよハルプさんは』

「えへへ、ハルプの記録を見て少し勉強しました」

『はうっ!その笑顔120え〜ん!』

「ミスタードーナっハッ!?も、もう!茶化さないください!」

 

あ、すみません。

 

「ハルプの能力、可能性を操るという能力は非常に強力ですが・・・・・・私の能力と合体したせいで最高のポテンシャルを出せません。ほら、アレです、片足捻挫したまま戦ってる感じです」

『お、おう。具体的に来たねいきなり。・・・・・・あーあれだよ?俺は気にしてないからねそこら辺。正直皆と過ごせるだけで充分だし?』

「嘘です」

 

なにおう、なぜバレたし。・・・・・・つっても、まぁ「君には〜〜という能力がある!」って言われたら「うおぉ!使うぜー!」ってなるよな?んで持って「あ、8割しか使えねぇから」って言われたら「おうふ」となるのは当然だ。でもさ

 

『でも、こうしていられるのは限られた時間だ。だから、制限がある方が特別感があって良い。・・・・・・なんてのはダメかな?』

 

いいと思うぜ俺は。だって、いつまで一緒に居られるか分からないんだし。ずっと完璧だったらなんかこう、印象に残りづらいだろ?

 

「で、でも、私のせいで弱くなってしまったんですよ?」

 

うーむ、そんなに見上げられてもなぁ。こればっかりは妖夢の見方のせいだよな?

 

『そこはほら、視点を変えてみろよ』

 

妖夢が「?」と首を傾げる。サラサラの銀髪が動いて青い目がこっちを凝視する。視点って言われたから目に集中したのか、面白いなやっぱ。ふっここはカッコよく決めてやるぜー!

 

『─────だからこそ妖夢のおかけで幸せになれた、ってな!』

「っ!」

『はい、今の結論な!この話オシマイ!!さぁ、買い物行こうぜ!あいつら帰ってきたら喜ばせてやろう!』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は、は、恥ずかしいぃぃい!?!何言ってるの俺!?なにが『だからこそ妖夢のおかげで幸せになれた』だよ!!バカ!はずかしいわ!!やばい死ぬ!成仏する!!思わず背を向けちゃったけど振り返れないぞコレェ!

 

『・・・・・・!!!』

「(照れてるな)」

「(・・・・・・て、照れてますね)」

「(妖夢、お前もだぞ?)」

「(は、はひ)」

 

ひ、ひぃなんか話してるよ!聞こえないくらい小さいけど話してるよ!どうせ「プゲラ、何今の言葉をウケるんですけど」とか言われちゃってるんだよぉ!

 

『よ、妖夢、しゃん、お財布って何処だったっけ!?』

 

あばばばばばば!舌噛む!舌噛む!俺の舌ってどうなってるの!?なんで幽霊なのに口から声出るのぉ?!今更すぎるか!!

 

「は、ハルプの中ですよ?」

『ソウダネ!ソウダッタ!!』

 

デスよねー!知ってました。スゲェ困惑した感じだったジャン!やばいもうダメだサヨナラ昇天します。

 

「めっ、目がっ、グルグルにっ!はっ、あははっ!止めてっ下さいハルプっ!!あはははははは!!もうっ可笑しいっ」

 

なっ!こ、こっちは真剣なのに!

 

『そ!そんなに笑う事ないだろ!!恥ずかしかったんだからさ!お前言えるのかよあんなセリフ!!』

 

転げ周りやがってぇ!!ぐぬぬぬ!!タケ!なんか言ってやれよぉ!・・・・・・な、なんか瞑想してる。

 

「──心頭滅却、明鏡止水───」

『おい、堪えてるだろタケ、おい』

「ブフっ!!・・・・・・・・・・・・つつかなければ、笑わなかったのにっ!!」

『うるせカミーユ』

「カミーユ?」

『ほかの世界の人。それよりも笑うなよー!』

「すまん」

『むー、許す!』

「ハルプちょろいですね」

『妖夢は甘いのに釣られるのでもっとちょろいですね』

「むむむ」『むふふ』「ぐぬぬ」『くくく』

 

ハッ!口で俺に勝てると思わぬ事だな妖夢!ふはははははははははは!(低レベル)

 

「う、うがー!」

『ふはは、へっ?うみゃーー?!』

 

ヒィ!?白楼剣!?白楼剣ナンデ!た、助けてー!

 

「ははは、仲良き事はって奴だな」

 

なんでさ!?








誤字脱字、コメント待ってます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

86話「おんぶ!おんぶですよ!」


遅れてすみせん!
でも、書き溜めていたので次の話は既に出来ております。

今回はややシリアス。
次回はギャグ。


 

 

戦争遊戯はヘスティア・ファミリアの勝利で終了した。

ヘスティアがアポロンに原作通りの要件を言い渡し、アポロンはオラリオを追わる運びとなる。

 

それから1日経って、ベル達はオラリオに帰ってきた。

 

 

 

 

僕らの目の前で門が開かれる。

馬車に乗せらた僕ら。行きと違って豪華な馬車で、天井も壁もない。皆から見えるようになっているらしい。

妖夢さん達もこの馬車に乗ったのかな。

 

「キャー!」「うぉー!」「いいぞリトルルーキー!!」

 

馬車が進めば一気に歓声で溢れかえる。恥ずかしさと嬉しさで手を振り返せば黄色い声が大きくなった。

少し、いや、かなり・・・・・・にやけちゃうな。

 

「うぅ、リリは何もしてないので場違い感が・・・・・・」

「おうリリ助、奇遇だな俺もだ」

「そんなことないよ。リリは僕にあの城塞の正確な地図を渡してくれたし、ヴェルフは魔剣を作ってくれた。それがなかったら負けてたよ」

 

ニヤケ顔で締まらないけど、僕は2人にそう言った。これは偽らざる本心だ。2人が居なければきっと、負けている。だから笑ってほしいし胸を張ってほしい。

 

「ほら、皆に手を振ろうよ!二人共!」

「・・・・・・はぁ、わかりました!こうなったらヤケですよ!」

「あー、なんだ。魔剣の宣伝みたいになっちまうな・・・・・・まっ、仲間にしか作らねえからなぁ!!」

 

二人も手を振る。集まった観衆の中に見覚えのある人たちを見つけた。皆僕らに手を振っている。

あ、アイズさんだ・・・・・・!手を小さく振ってる!か、可愛い・・・・・・!痛っ、リリ蹴らないで!

 

「皆様〜!ベル様のお帰りですよ〜!」

 

凄い笑顔で僕の足を蹴ってる!!

 

あ、タケミカヅチ様達だ。桜花さんも居る。・・・・・・あれ、妖夢さんたちは・・・・・・来てくれてないのかな?

 

「みょーん!見えません!!皆さん背が高すぎます!タケっおんぶ!おんぶですよ!」

「肩車の方が良いんじゃないか?」

「じゃあそれでお願いします!」

「人が沢山いらっしゃいますね。これ程の活気とは思いませんでした」

 

あ、なんか一瞬聴こえた・・・・・・。そうか、背が足りない、うっ!?悪寒が!?

 

『──────』

 

は、ハルプさん!?半霊状態で僕の頭で何を!?

 

「あ、ハルプ様!ベル様の頭の上で何をされているので?」

「頭を冷やせって事じゃないか?」

「あぁ、なるほど。確かにベル様はあのような無茶をしないようこれからは気を付けないと行けませんね」

「ゴ、ゴメンナサイ・・・・・・」

 

うぅ、確かに。冷たい・・・・・・。

 

そんなこんなで僕らのパレードも終わり、神様と会って新しいホームの前までやって来た。

 

「見てくれよベル君!ここが僕らの新しいホームさ!」

「おお!」

 

凄い大きい!あの教会の比じゃない!二人も驚いている。

 

「な、なぁおい!鍛冶場とかあるのか!?」

「だ、ダメですよヴェルフ様!お金の管理はリリがします。もう少し落ち着いて」

「いいじゃないかリリ君!パーっとやろうパーっと!」

「もうヘスティア様まで・・・・・・!」

「あはは・・・・・・」

 

僕らが今後についてホームの前で語り合っていると、複数の足音が聞こえてきた。神様を除いたみんなが振り向くとそこにはタケミカヅチ・ファミリアの皆さんが。

 

「ベル・クラネルさん!戦争遊戯での勝利、お見事でした!」

「ベル殿、此度の戦。正しく獅子奮迅の働き、見ていて胸が高鳴りました!」

「す、凄かったよ。1人で倒すなんて」

「おう、こんなにでかいホームなんて凄いじゃないかベル!」

「私からも賛辞を贈らせて下さいませ!」

「うむ、ヘスティアも漸く報われたな?」

 

皆さん口々に僕らを褒めてくれた。一つ一つにお礼を返して、ハルプさんがいない事に気がついた。いつの間にか頭の上からも居なくなっていたし。

 

「あの、妖夢さん。ハルプさんはどこへ?」

「ハルプならゼノスの皆さんへ戦争遊戯の結末を話に行きましたよ。あと、リ・ヴィラでパーティーしようぜ!との事でした」

「ん?ぜのす?何のことだい?」

「「「「「「「「あ」」」」」」」」

 

そ、そう言えば神様に言ってなかった・・・・・・!

 

「あぁえっと、その・・・・・・!」

 

僕はしきりに妖夢さん達の方を見て確認する。すると、こくりと頷いてくれた。

 

「じ、じつは・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達はヘスティア達の新たなホームにやって来て、んでもって、連絡ミスを発見したわけだ。ヘスティアに伝えてなかったのかぁ。

 

「言葉を話すモンスター・・・異端児、か。話してくれてありがとうベル君。それに皆も。ボクを少なくとも信用してくれた訳だろう?」

『俺はバッチシ信用してたぜ?ヘスティアは余程の事が無い限りは味方になってくれるしな』

 

その確率なんと96%!ちなみにベルは99%だ。何だかんだ言って味方になってくれるのだ。

ヘスティアは両腕を組んでアレを揺らしながら少し不満そうだった。

 

「ごめんなさい神様!伝えるのすっかり忘れてて・・・・・・」

「まぁ戦争遊戯の事もあったんだ。ヘスティアを守るために必死で忘れてしまったって所だろう。そう怒らないでやったらどうだ?」

「そうだね。でも、ボクに内緒で危険なことに手は出さないでおくれよ?今回の事だって表に出たら不味いものだ」

 

うんうん、確かに。みんな怪物愛好家って言われちゃうしな!

それは困る。でもレイとかラー二ェとか可愛いし、分からなくもないんだよなぁ。ほら、日本人って雑食ですし?

え、何です妖夢さん。お化けと結婚なんてあるんですか!ですか、うーん、ありそうだけど、あったかなぁ?そこまでは記憶に無いな。能力使えば調べられるぜ?あ、そこまではしなくていいのねわかった。

 

『あーでもあれだ。ヘスティア達に強力してもらいたいのはゼノスの皆と仲良くなる事だけなんだ。だからまぁそこまで危険じゃないと思うぞ』

 

それも少ない時間だ。

 

『ま、ここで話すのもなんだ!ダンジョン行こうぜ!あと試したい事あるからみんな来てー!』

 

え?と皆が言いつつ、こっちに寄ってくる。あ、そう言えば猿師居ないなぁ、最近ずっと工房に閉じこもってるし仕方ないか。

ん!?猿師からプレゼント貰ってない!?(忍者らしくポケットにこっそり入れてもらったが、名前とか無かったので猿師だとは思っていない)くっ、出番が減って腹を立てたかっ!

 

『あー、えっとね、この間色々あって十八階層からオラリオまでワープしたんだけどさ』

「「「「えぇ?!」」」」

 

いやまぁあそこらへん迄しか記憶無いんだけどね?でも出来たしみんな連れてこーという訳です。

 

『いちいち歩くの面倒いしワープしようぜ!』

「えぇ、危なくないですか?」

「そ、そうです。危険な行為は避けて順当に一階層から下った方が・・・・・・」

 

うん、まぁ断るよね!じゃ、発動しマース。

俺達がリ・ヴィラにいる可能性を利用するのです。パーセントは〜、92・・・・・・お?

 

「ぉ?」

『はっはーん、なるほど』

 

桜花の目ん玉、ほかの俺に貰ったらしい目が光る。すると、99か。うん、随分と上がるなぁ。補助してくれるのかありがとう桜花!・・・・・・あ、本人の意思で動く訳じゃないのね。

んじゃ、とうちゃーく!

 

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

さて着きましたリ・ヴィラ!見よこの堅牢なる砦を!!

 

「え、え!?ええぇ!?」「な、なにがどうなってんだぁ!?」「は、はわわ?!」「コン!コン!?」「な、なんと!」「おいおい、俺達神まで平然と連れてくなよ」

『ベルうるさい』

「僕だけ!?」

 

あいあいー、各々リアクションしてる間に俺はグロス達に話つけてこよー。

え?何どす妖夢。説明はよ?ハハハ!

うん、入ってきていいよー。あ、グロスみっけた。

 

『よっ、グロス!』

「!?」

『あはは!人間様の団体ご招待って奴です!まぁ、前回から2人増えただけだけどな!あ、3人だった』

 

桜花忘れてた。話をすんなり信じてくれたから何かもう一緒に行ったのかと思っちゃったよね。

 

「ハァ、ダカラト言ッテモウ少シ大人シク登場出来無イノカ」

『無理だな!驚かせるの楽しいし。で、準備は出来てるか?』

「ウム」

『良かった。ありがとう皆』

「礼ニハ及バン」

 

広場の方ではフォーが大きなテーブルを運んでいるな。あぁ、三人増えたって言ったから追加したのか。早い。

お?知らないゼノスも増えてきてるのか。ひぇっ!?す、スケルトンいるじゃん!か、か、カッコイイよね。うん!妖夢のせいで怖いけど!

 

『し、知らない奴も増えてるんだな!』

「ム、怖イカ?」

『怖くないやい!かっ、カッコイイし!』

「呼ブカ?」

ぁ、後で良いです・・・・・・

「ハハハ」

 

ぐぬぬ、グロスめぇ笑いやがってぇ。仕方ないだろ!怖いんだから!全部妖夢のせいだからな!俺じゃないからな!

はぁ、もういいしー、みんな呼んでくるもんね。

 

 

『おーい、準備出来たってさー!』

「「はーい」」

「な、なぁハルプ!本当にモンスターが話すんだよな?なんかイザ出会うとなると少し緊張が・・・・・・」

『桜花・・・・・・お見合いじゃないんだからさ』

「ボクもその気持ちわかるぜ!桜花君!」

『ヘスティア・・・・・・ベルという者がありながらお見合い気分とは・・・・・・』

「そっち!?」

 

始めてくる人達は皆ソワソワしている。タケはそこまでソワソワしてないようだ。

軽く2人をからかって緊張を解してやって、門を開ける。

 

「これは・・・・・・凄いな」

「うわぁ」

 

門の先はズラリと左右に並んだゼノス達が作り出す花道。・・・・・・もしこれがモンスターだったら処刑場だけどネ!

更に、その直線状の建物・・・・・・最初に作ったあの場所の上でハーピィやセイレーン達が歌を歌う。美しい音色に背を押され、ふらつく用に入ってくる。

 

『此処は人の心を持つ者が集う土地、蔑まれた我らが作り出した未来永劫の共存の街。ようこそ、リ・ヴィラへ』

 

誕生日の日に着ていたタキシードに早着替えして、深々と礼をする。俺の後ろでゼノスの皆も礼をしたようだ。ザッという音がした。

 

『まっ、気楽に行こうぜ?何せお祝いだからな!』

 

ニンマリ笑って雰囲気をリセットする。つか、最近パーテーばかりでせうな。ま、楽しいから俺は全然構わないぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなでワイワイ盛り上がっていると、この階層に新たなる人が侵入したことを俺は感じ取った。この気配はべートだ。うん、どうやら上手くいったらしいぜ?

 

『んーじゃちょいとー、そうだなぁ用を足してくるぜ!』

「いや、ハルっち出ないだろ」

『再現は出来るぞ。ほら』ジャバー

「しなくていいわ!!」

 

ま、霊力だから消えるけどね。

さて、そのまま抜け出した俺は入口でポカンと口を開けて目を擦っているべートを発見。ちなみにべートが此処に来る可能性は弄ったが、どういう理由でここまで来たのかは不明、候補は沢山あるけどね。

 

『いよっす!べートどうしたんだ〜?もしかして俺が恋しくなって迎えに来てくれたりっ!?』

「・・・・・・・・・・・・ハッ!な、何だあれ?!」

『ふっ、無視とは・・・・・・悲しい』

 

べートは俺を無視した。俺は大ダメージを受けた。割と捨て身のセリフだったのに・・・・・・。

 

「おいハルプ、あれか?お前らが調査云々ってのはよ、罰としてリヴィラの再建やるって事だったのか?」

『あー、なるほどぉ、そういう考えもあるのね!』

「おい・・・・・・じゃあ何なんだ」

『アレが友達のハウスね・・・・・・』

 

なんだこいつ、と小さく呟くべート。悲しい。でもそうかーその案いいね。俺達タケミカヅチ・ファミリアはギルドからの罰としてリ・ヴィラの復興を行い、それを成し遂げた。しかし、そこで人と同様の意思を持つ異端児(ゼノス)と出会って保護した。

んで、防衛など彼らの功績は凄まじく云々、人類にとっての云々・・・・・・と重ねてやれば違和感なく操作できそうだ。

 

『べート、ありがとうな。悩んでた事が解消されたぜ!』

「ぁ、あぁ?」

『ほら、お礼にキスしてやる。どこがいい?』

「地面ッ!!!」

『ブフっ!?うぇー、バッチぃ』

 

うんうん流石べートだ。俺が最近やり始めたロリコン検定をあっさりと躱して行きやがるぜ。お陰で俺と妖夢からの好感度はすごい上がっていくのだよ。

妖夢はチョロインだからなぁ。俺?能力封印してからドウゾ。ちなみに俺を封印したら他の俺が来るぜ。無限ループだな!え?一人ください?欲しいのか・・・・・・?

 

「おい、あれ何だよ。早く答えろ」

『ん、あれは・・・・・・俺の()()()()()()の家?かな』

「はぁ?どういう事だよ」

『見ればわかるさ。つか、見てもらわないとべートを呼んだ意味が無いからな』

 

俺がニヤリと笑えばべートは「は?」って顔をしてる。そりゃそうだ、べートからすれば何らかの理由でダンジョンに潜っただけだからな。多分暇だったとかそこら辺だろ。

 

『ほら、手ぇ貸せって!行くぞ!』

「はっ?おい引っ張んな!」

 

いやぁ、手を繋ぐなんて友情ですねぇ!え?妖夢何?カップル?ハハハ、そういうのは男女でやるもんだぜ。ぇ、ハルプは女の子でしょだと?何を言っているんだ君は。俺は両方付いてないぞ!つまり無性!

と言うか状況をよく整理しろ妖夢よ、お化けに手を掴まれて引っ張られてるんだぞ!

 

「ヒィッ!」

「おい今の妖夢の声か?」『だな』

 

今の怖がる要素ありましたか・・・・・・?

まぁんな事たァどうでも良い。扉を開けて広がる景色。唖然とするべート。

 

『ようこそ!化け物の俺を筆頭に作り出した化物の街!みんな俺と同じで人間の感性を持ってるから安心してくれ!』

「─────ッ!」

 

飛び出そうとしたべートより早く俺がそう言うと、べートは急ブレーキを掛けて止まり、振り返る。

 

「お前と、同じ?」

『そうだ』

 

俺の声が真剣味を帯びたのに気が付いたのか、周りで楽しんでいたゼノスやファミリアの皆も振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 

ハルプの奴に案内されてリヴィラの扉を開けば、そこは魔物の巣窟だった。だからハルプを守るために動こうとすりゃあハルプに止められちまった。何故かその言葉がやけに気になって足が勝手に止まった。

モンスターが作り出した街?いや、それよりもコイツは自分がモンスターだって言いたいのか?そんなことはねぇ、そう言いたかったがそれより先にハルプは話しを始めた。

 

『俺が死んでいるのは知ってるよな』

「ぁ、ああ。知ってる、だがよ」

『同じだよべート』

 

まるで俺の思考を読んだように、先に回られて潰される。

言い返そうとするが、その表情をみて固まっちまった。なんつう顔してやがんだコイツは・・・・・・。

 

『俺は死者。そして憑依者だ。この世界にとっても、半身たる妖夢にとっても、俺は紛れもない異端者だぜ?本来居ては行けない()()()だ』

 

気楽そうな顔で重い事を言いやがる。さっきまで楽しそうに俺のこと引っ張ってたくせによ。

 

『まぁあれだ。簡単に説明するとさ、ここに居る奴らは異端児(ゼノス)って呼ばれてるんだ。ダンジョンで冒険者に殺されたモンスターや、モンスターに殺された冒険者達の()()()()()()ってやつだ』

「「「「「「「「!」」」」」」」」

 

は、はぁ?なんだそりゃ、意味わからねぇ。ここで死んだ奴はモンスターになるってことか?ふざけんな、何のために戦ってると思ってんだ。

 

『人同然の心を持ち怪物の体を持つ故に異端。人間からもモンスターからも攻撃され、寄る辺は同じ同類のみ。そして、望むものは人間との交流だ』

「・・・・・・!」

 

何を考えてやがるんだハルプは、人間とモンスターが交流?無理だろ。コイツらにどんだけ殺されてると思ってんだ?

 

『べート、お前には異端児と怪物の違いがわからないかもしれないけど、俺には確かにわかる』

 

真剣な目で俺をまっすぐ見つめてくる。どうせ意見は変えねぇだろうが取り敢えず俺の考えを言ってやるか。

 

「違いなんて無ぇ、モンスターはモンスターだ!言葉を話そうと感情を持とうと知った事じゃねぇんだよ、こいつら(モンスター)は今まで何千何万と人間を殺してんだ!」

『魂だ』

「あぁ!?」

『異端児には魂があるんだ。モンスターには無くて、お前達人間にあるもの。その魂が』

 

いや、んなもんわかるかよ!?魂とかお前以外見たことねぇよ!

 

『俺はどうだ、べート?』

 

は?・・・・・・た、魂だな。だから何だって言うんだよ

 

『俺には体がない。血がない。魂だって欠片しか残ってない。俺は数十人を殺したし、沢山の人を傷つけた。ここに居る誰よりも怪物で、ここにいる誰よりも危険な存在だ』

 

いや、だがよ、性格っつーか心があんだろ。それに、あれは仕方ない事だったじゃねぇか、何掘り返してんだよ。

 

『そうだよ、心だよべート』

「っ!テメェ・・・・・・」

 

そんな顔で見んじゃねぇ。糞が・・・・・・誘導しやがって?

 

『お前達には心がある。その心が俺を許したんだろ?アレだけ暴れて迷惑かけた俺を友達だって言ってくれたんだろ?だからさ、頼む!』

 

ハルプが地面にしゃがみ込んで両手を付いた。

・・・・・・おいおい、何だってお前は・・・・・・。

 

『友達になってとは言わないからさ!頼む、殺さないでやってくれ!』

 

・・・・・・俺にだけ言ってどうすんだよ。ギルドとか他の冒険者も・・・・・・って、ギルドがこいつらに頼んだってことはグルか。まぁ、こいつの事だ、何だかんだ後のことも考えてんだろ。俺に伝えたのも多分・・・・・・友達だから教えてあげよう、みたいな感じなんだろうなぁ・・・・・・あー、なんだ、いきなり冷静になったせいで疲れたぞおい。どうしてくれんだよ。

 

『・・・・・・!』

「おい、何時まで土下座してんだ」

『べートがわかったって言うまで!』

 

へぇ。と思わずニヤリと笑っちまった。だがそれも仕方ねぇと思うんだよ、何せこいつはずっとこのままでいるらしいからな?今までの仕返しが出来るってことじゃねえか!

 

「おー?俺が「わかった」って言うまでか、そうかそうか。んーじゃ、疲れたし酒でも飲むかな!おい、そこのモンスター、酒寄越せ」

「は、ハイ」

「うっ、何だこりゃつえーな。飲めねぇ奴の方が多いだろこれ」

「そうデショうか?」

「あ?うるせーな独り言だよ来んじゃねえ」

 

なんだこのセイレーン、来んじゃねぇ。俺はハルプに聞こえるように言ってんだお前じゃねぇ。

なんだ?モンスター共が、いや、異端児だったか?そいつらが顔見合わせて・・・・・・牙を向いた、な。なんだ、キレさせたか?おい待てよ、殺さねぇって約束しちまっ・・・てないな。わかったって言ってねぇからな。

殺したら嫌われるよな?・・・・・・あぁクソが、俺ってこんな奴だったか?女々しいぞおい。

 

「チィ、めんどくせぇなぁ・・・」

「なぁべートさんよ、こっちの酒はどうだ?!」

「んだよリザードマン、殺んのか!」

「やるのはこっちだぜ?」

 

と言って片腕をクイッと酒を飲む風に動かす。こいつら酒飲んでんのかよ!って周りで飲んでたなそういや。ちくしょう周りの警戒怠るとか俺大丈夫かよ・・・・・・

 

『ぁ、ぁれぇ?俺って放置なの?』

「おいテメェ何顔上げてんだ?俺がわかったって言うまで下げてんだろ?!」

『う、うん。うぅ、思ってたのと違うぅ

「まぁまぁ、ンなことより飲めって!んで話し合って飯食ったらいいんだよ!」

『そ、そんなっ!リドっち酷い!』

 

あーぁ、下らねぇー!何でこうなんだよ全くよ。ダチがギルドにひーこら言わされてると思って手助けに来りゃあ、異端児だのなんだのって、疲れるわっ!理解したというよりも流れに身を任せたな俺・・・・・・。信頼って奴なのか、妥協?・・・・・・わかんね。

まぁ目的聞いたら「わかった」って言ってやるか。

 

「おいハルプ、お前、これから何すんだ?」

『んー、革命?』

「はぁ?戦争でも起こす気かよ」

『世界規模での認識改変・・・・・・って感じ?』

「て感じ?じゃねぇ、スケールが違い過ぎて分かんねぇ」

『くっ!わかったって言ってくれるかと思ったのに!』

「言うかよバーカ!」

 

言えなかったじゃねぇかコイツ。なんだよ世界規模の認識改変って、何言ってるかさっぱりだわ。

 

「そりゃ危険なのか?」

『・・・・・・20%の確率で失敗する』

「高ぇな!?しくじるとどうなんだよ」

『何も起きない!(キリッ』

「起きねぇのかよ!?」

 

クソ、リアクション取っちまった。

 

「成功すると?」

『みんなハッピー!!』

「いやわかんねぇよ!?」

 

わかったって言えねぇ!わざとやってんだろハルプ!意地か?意地の張合いなのかァ?

 

『──みんなが異端児を仲間だと認めてくれる世界になるって事さっ!』

「ほー、そうかよ。いいんじゃねぇの?」

『うんうんっ!そうだろ?!なぁなぁなぁわかったよな!(期待する目)』

「言わねぇからな?」

『ズコー!!』

「それ自分で言うんだ!?」

『あっわかったぜ!少し動くなよぉ──みょんみょんみょん・・・・・・!』

「うお!?な、なんだこれっ!?」

 

ご、強引に理解させられた・・・・・・!?初めからやれよ!!絶対楽しんでただろ!!

 

『ねっ!ねっ!?わかっただろ!?』

「わかっ────らねぇ事がまだあるぜ。の、前にだ。おいそこのスケルトン」

「───ん?私か?」

「そうだよ、来い。こいつの弱点とか知らねぇか?」

「なるほど、私のようなオバケが怖いらしい

「マジかよ、どっちかって言うとあいつのがソレだろ」

 

ちっ、まー、なんだ。義理を通してダチに大事なことを伝えてくれるってのは、悪い気はしねぇな。だがそうか・・・・・・オバケか・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「おいハルプ」

『は、はひ!なななな、なんれしょう!べぇとしゃま!』

 

くくく、怖がってやがる!スケルトン系統で囲んでやったらすぐこれか。フェルズとか言うスケルトンに教えて貰ったが、これはいい。仕返しが出来て満足した。

 

「何で俺にこの事を伝えたんだ?伝えなくても変えられたんだろ?」

『ええええっと、そそそそ、それはっ!』

 

ぶっ!が、我慢しろ俺。ハルプの奴っ、涙目で周囲を見回してやがるっ!!ヤベェ面白ぇ。いつもの生意気な態度が嘘みたいだぜ。

 

「きゅー・・・・・・」「妖夢殿!?」「はっ!妖夢ちゃんが倒れた!水!水ぅ!」「「妖夢様!?」」

 

・・・・・・振り向いたら妖夢がぶっ倒れてた。ハルプの目が一瞬怪しく光ったな今。なんかしたろコイツ。

スッ、と俺が右手をあげるとスケルトン共が一歩ハルプに近づく。

 

「で?なんだよ」

『べべ、べートはたた大切にゃお友達でッ!』

 

そういやこいつの涙とかって霊力での再現なんだよな?つまり演技の可能性もあんのか。

つーわけで手を振り下ろすとスケルトンが一気に近づいた。

 

『────────────〜〜〜!!!』

 

ぶっ、ははは!!!声が出てねぇぞハルプおい!

 

『うぅ、もうやだよぉ・・・・・・タケぇ、たしゅけてぇ!』

「ばっ!おまっ!タケミカヅチは反則だr」

「──────────ッ!」

「グホッ!?いつ、の間に・・・・・・」

「認識の合間を縫った。────それだけだ」

「わけわかん・・・・・・ねぇ・・・・・・」ガクッ

 

 

 

 

 

ちなみに、ハルプの奴が姿勢を変えられたのは俺が目覚めてから数分後だ。

シクシク泣きながらも土下座を続けていた(めっちゃ周りから慰められてた)からこれは不味いと思った俺は近づいたんだが

 

「わかったわかった、わかったから泣くなバカ」

 

って言ったらあんにゃろう

 

『うぅ、べートっ!不能になれぇえええええ!』

 

とか、叫びながら、俺の・・・・・・股間を、蹴って、行きやがった・・・・・・!

く、クソが・・・・・・うずくまってるせいでまるで土下座みたいになってるじゃねぇかっ!!

 

「み、てんじゃねぇぞ!」

「アレハ、見テイテ恐ロシイナ」

「大丈夫かよべートさん」

 

優しい目してんじゃねぇ・・・・・・!!ハルプのやろう何時かぶっ殺すっ!!

耐久のステータスがしっかりと股間にも適応されていて助かったと心底思った、この屈辱は絶対に返すっ!!

 

 

 










次話は今日の17時に投稿します。
連続投稿は久しぶりですねー、そして、次回の後半はギャグです。今更ですがキャラ崩壊注意です。



次回!
『さぁ、変えよう。何もかも、俺達の思うがままに』

誤字脱字報告、コメント待ってます!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

87話『さぁ、変えよう。何もかも、俺達の思うがままに』

ふざけてしまってすまない。








「・・・・・・大丈夫みたいね」

 

幻想郷を少し越え、冥界の白玉楼にて──八雲紫は呟く。その視線の先には─────

 

「ふぁ~、妖夢、妖夢は何処に・・・・・・!!」

 

鼻血を吹き出して倒れた妖忌が居た。白い敷物は真紅に染まり、香り立つ鉄は興奮の証だ。

 

「親バカって怖いわねホント」

 

この場に幽々子がいたのなら「お前もな」と言われそうなセリフだが、紫は「はぁ」と溜息をつきさも嫌そうに能力を使用。即座にその血を掃除する。

 

「・・・・・・」

 

チラリ、と先程、いや6年ほど前から開きっぱなしのスキマを見やれば其処には妖忌が求めてやまない妖夢の姿が。

妖怪に良く似た、けれど全くの別物であるモンスターと仲睦まじく話し合って宴会を開いているようだ。恐らく、妖忌は孫娘の和気あいあいとした「女子らしさ」に頭をやられ鼻血が止まらなくなったのだろう。

 

「哀れね・・・」

 

その言葉が指したのは妖忌かそれとも妖夢か、はたまた妖夢に取り付く悪霊か。

 

「迎えにはいつ行こうかしら」

 

妖夢が悪霊に取り憑かれたと知った幽々子の慌てふためく様は非常に美味しかったが、それとこれとは別だ。友人との約束は守らねばならない。

あの悪霊が妖夢を殺そうとしている訳では無いと知った幽々子の顔も紫は大変気に入った。

 

「たしか妖夢の記憶が戻ってから周りとの関係を上手く構築出来たらよね?ある意味残酷だけど、お化けの考えることはわからないわ」

 

幽々子の提出した条件に文句を付けず、従ってあげる紫。妖怪なのだから仕方ないとは言え、他人の感情がどうこうするのを見ていたい。そんな気持ちは確かにあった。妖夢は失意の中どう思うのか、見てみたかった。

 

「さて────────」

 

紫は立ち上がり、くるりと背を向け歩き始める。そしてスキマが開きそこへ入っていった。

 

「────女狐め。幽々子様の友でなければ斬り殺しておったわ」

 

妖忌はパチッと目を開き、そそくさと身支度を整える。彼の紫に対する好感度はここ数ヶ月で一気に下がっている。何故ならば妖忌が「妖夢に会いに行く!」という度に全力で止められるからだ。

 

「もう、儂我慢できそうにないんじゃが・・・・・・おぉ妖夢よ、どうか早く帰ってきておくれ!そして儂「おじいちゃん!ただいま!」って・・・・・・!ブホォ!(鼻血)」

 

愛情は鼻から出る。

 

「イイ!可愛いっ!!ハウッ・・・・・・!?」

 

腰痛は腰からくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁて!じゃあやりますか!』

 

宴会の途中でハルプが立ち上がってそう言いました。今回は私もお酒を飲んでいません。当然ですね、飲むと倒れますから。

 

「本当ニ変ワルノカ?」

「キュー」

「心配でスね」

 

異端児の皆さんからも心配する声が。不安と期待が綯い交ぜになっているようです。

 

『まーかせろ、俺を誰だと思ってる?最強の能力を持った最強の男!!』

「「「「「「男?」」」」」」

『言うな、傷つく』

 

ふふ、皆に言われて上を向いちゃってます、涙まで演出して割と緊張してますね?誤魔化すの下手ですよー?ほら、タケも笑ってます。

 

「こ、これから世界が変わるのですね」

「そそ、そうらしいよリリっ、僕、実感がわかない」

「おう、俺もだ」

「春姫殿、良く見ておいて下さい!きっと凄いですから!」

「うんうん!」

「然様でございますか!私、より一層胸が高鳴って参りました!」

「おいおい、プレッシャーをかけてやるなよ。ハルプが困るだろ」

 

・・・・・・ハルプ、固まってますね。

私はハルプに近づき、トントンと肩を叩きます。するとハッとして再起動しました。プレッシャーで押しつぶされてましたねこれ。

 

『よぉし、行くぜ、うん。いくぜ』

 

ハルプは体の中から水晶を取り出しました。宴会をしていても食べることが出来ず雰囲気を楽しむことしか出来なかったフェルズさん、それを察して頼み事したハルプとの共同戦線です。

 

『あー、もしもし、俺だよー』

〈私だ〉

『お前だったのか』

〈?〉

『何でもない。で、どうだいそっちは』

〈ウラノスとの話しはついた。これより30秒後に、世界全体に異端児の存在は広まるだろう〉

『どうやってやるんだ?』

〈ウラノス本人が語ることになっている、先程の手はず通りの内容だ〉

『そうかそうか、ありがとな、じゃあ合わせるから』

〈頼む〉

 

むー、ウラノス本人の声となれば皆さんの信用も跳ね上がり、可能性も多少上がるのでしょう。ハルプが言うには全員に異端児の事を意識させなければイケナイらしいです。まぁ、認識を変えるんですから、知らなければ意味無いでしょうからね。

 

「・・・・・・」

「おいタケ、そこまで緊張しないでおくれよ。隣にいるボクにまで緊張が移ってしまうよ」

 

タケ・・・・・・なんだか嬉しいですね!皆が私たちを見守ってくれる。私たちを信じてくれている。気持ちのいいものです。暖かいです!

 

『さぁ、変えよう。何もかも、俺達の思うがままに』

「はい」

 

ハルプがニッと笑って私に手を伸ばす。私はその手をしっかりと握った。

 

『理不尽なんてぶっ飛ばす、常識なんて覆す!』

 

緊張した顔付きで、けれど確かな意思を感じさせる言葉で、宣言する。

 

『準備はいいな?』

「はいっ!」

 

2人で深呼吸する。すって、吐いて。すって、吐いて。時間が来るまで待って、待って、待って・・・・・・。

 

『────よし』

 

目を瞑っていたハルプが小さな呟きと共に目を開く。私も予定通りに感覚共有をして、念のためこの暖かな感情を送る。緊張が少しでもほぐれるように。

 

『───権限を行使する!』

 

世界は──────音を立てて崩れだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もちろんいい方向に!

 

「ふぅぁ~、おはようございますぅ」

 

あれから数日、私達はのんびりとした日々を過ごしています。オラリオは今日も平和ですよ。以前とはガラッ!と変わりましたがね。

 

『おっ妖夢起きたか!なぁなぁ早く早く開店一番で店入るんだろ!?』

「あぁー、そうでしたね。フッ!!」

 

パチン!とほっぺを叩いて気合い充分!眠気はサヨナラしちゃいます。そして顔を洗って急いで着替え。

 

「んー、どうですか?」

『おー似合ってる、流石だな!』

「えへへ、ありがとうございます」

 

私は誕生日の時に貰った猫耳フードのパーカーに、ミニスカート、そしてニーソックスと言う出で立ちです。対するハルプは、両腕、腰、足を鎧で覆っており、ワイシャツ、丈の短いブレザーに私とお揃いのミニスカート。それと白いマント。そして、私たちの頭には命に貰った髪飾りを付けてます。完璧です。

 

『武器はどうするか』

「あ、私はナイフで」

『OK、じゃあこれねー』

「ありがとうございます。ハルプは刄軍・無銘の太刀で良いですか?」

『いいぜ!』

 

お互いに見せ合いっこして、変な所が無いかを確認。OKですね、可愛いハルプです。

ぇ?そ、そんな、恥ずかしいので褒めないで下さい!

 

『うむうむ、じゃ、行こうか!』

「ええ、行きましょう!」

 

ハルプが差し出してきた手を取って、歩き始めます。目指すはクルメのお店。異端児の皆さんを呼んであるので、貸し切りです!

あ、そう言えば異端児の呼び方を変えようって街の皆さんが騒いでましたが、あれはどうなったんですか?

え"・・・・・・魔人(デビルマン)にしようって神々が神会を?やめて上げてください。

 

さて、町中を歩く私たちですが、以前との違いはすぐにわかりました。

 

「キュイー!」

「うふふ、可愛いー」

「キュ!キュー!」

 

アルミラージを撫でる女性。

 

「いやっほぉー!!たっのしーー!」

「待テ、危険ダト言ッテイルダロウ!」

「嫌だ!おれはグロスさんの背中で滑り台するの!!」

「私もー!」「僕もー!」「わーわー!」

 

子供たちがガーゴイルにじゃれ付いていたり。

 

「ははー!アンタやるな!」

「まだまだだなモルドっち!」

「そらよっ!!」

「へへっ!」

 

リザードマンが模擬戦をしていたり。

 

「デは行きまスよ、~~♪~~♪」

「「「「~~♪」」」」

 

広場の音楽隊にハーピィーやセイレーンが加わっていますし。

 

「ヒヒィイン!!ブルルル」

「おおっと、すまねぇ!流石に重過ぎたか!?」

「ブルルル!」

「おっ?軽すぎるってのか!いいねぇ!そう来なくっちゃな!」

 

ペガサスやユニコーンが荷馬車を軽々と運んだり。

 

「よっ!いい飲みっぷりだ!」

「おいアンタ、俺と力比べしねぇか?」

「カードで勝負だ」

「へっ、飲み比べなら負けねぇぜ!」

 

酒場では赤帽子のゴブリンが勝負事で無双していたり。

 

「賑やかですねぇ」

『あぁ───────良かった』

 

およ?っと、ハルプの方を見れば、慈愛の眼差しをしていました、ちょっとずるいと思ったのは内緒です。私にはまだあんな顔はできそうにありませんね。

 

「あっ!妖夢さーーん!ハルプさーん!」

「えっ何処ですか!?あっ!妖夢様ーーー!!」

「っておい!お前らいきなり走らないでくれよ!!」

 

なんて言ってたらベル・クラネルさん達が走ってきましたね。ハルプはその表情を何時ものニヤケ顔に変えると『リリルカー!』とリリルカさんを抱き留め、ベル・クラネルさんを回避しました。「あ、あはは」とベル・クラネルさんが残念そうにしてます。フォロー必要ですね。

 

「こんにちはベル・クラネルさん!いいお天気ですね!」

「はいっ!それに、街も賑やかです!」

 

実に嬉しそうにベル・クラネルさんは笑った。私やあの場所に居た人々はハルプの能力の対象からは外してもらっていますから、変わる前を知っているので喜びも増します。

 

「おーい、フォー!そっち運んでくれー!」

「フォォォオオオ!」

「いいぞ!おおおお、すげぇ!何個運ぶんだよ!?はっはっは!」

 

・・・・・・ほんとに、いい景色です。

 

『さて、リリルカ成分も補給したし行くかな』

「え、ずるいです私も補給したいです。リリルカ、来てください」

「────は、はいっ!」

「おいリリ助、顔真っ赤だぞ」

「ヴェルフ様は黙っていてください!」

「イッテ!イッテ蹴ること無いだろ!」

 

ハルプもそう思いますよね?

 

『うん。最高っ』

「これを私達が作り出した、なんて少し信じられません」

 

ハルプが変えることが出来たのは約90%の人類です。つまり、残り約10%の人類は異端児を嫌い、攻撃してきます。この街でも同様に、異端児を怖がり隠れてしまう人や、夜に闇討ちしようとする人が居るはずです。

 

『それを止めるのが俺達の役目ってこったな』

「ですね」

 

残りの10%は、私達や異端児の皆さんの努力で埋めて行くしか無いようです。でも、この光景を見たあとなら頑張れます。だって、楽しいですから!

 

『よーし、ほら行くぞ』

 

なので美味しいご飯を食べて力を蓄えなければっ!

 

『・・・・・・食いしん坊(ボソッ』

「違います!!」

 

もう、デリカシーがありませんねハルプは!

 

 

 

 

 

 

塔の最上階附近、フレイヤは俯いていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オッタル」

 

小さく呟かれる名、すぐさま帰ってくる返事。ただならぬ雰囲気の中、フレイヤは顔を上げる。その頬には1滴の涙が。

 

「なんで、なんで私は地上を歩けないのぉ・・・・・・!」

 

そして、フレイヤは物凄い情けない声を上げた。

 

「もっ!申し訳ありません。ギルドがフレイヤ様の魅了を警戒し、異端児などへの影響を恐れているようなのです、今しばらく我慢を」

 

オッタルはキュン死しそうになり止まった心臓をぶん殴り再起動させると、フレイヤに事の事情を説明する。しかしその程度でわがまま女神☆フレイヤちゃん!が黙る訳もなく。

 

「無理っ!もう無理よ!だって私いっっっっぱいっ!我慢したものっ!そうでしょ!?ねぇねぇそうよね!?」

「はぅっ!?・・・・・・はい、フレイヤ様は凄まじい苦痛の中耐え忍んでおります」

 

オッタルの胸に飛びつきスリスリしながらの全力の媚び売り。オッタルの心臓が3度止まり再起動するを繰り返す。

 

「お願いっ!なにか一つでいいから叶えてオッタル!」

「(幼児退行したフレイヤ様かわゆす)わ、分かりました。何がよろしいですか?」

「あの2人と交流したいわ!!」

「よろしいので?魅了されてしまっては・・・・・・」

「大丈夫よきっと!うん、平気よ!私の感が言っているわっ!」

 

腰に手を当て自信満々に人差し指をオッタルに向ける。そこには美の女神ではなく、お預けをくらい続けた小動物のような美女がおりましたとさ。

 

「(キャラがブレてるフレイヤ様可愛い)畏まりました、では連れてまいります」

 

オッタルは飛び出した。妄想したのだ。妖夢とハルプに直接会い、蕩けるフレイヤの顔を。

 

───────見たい(迫真)

 

もうオッタルは止まらない。まさに猪だ。魔猪(マチョ)だ、マッチョだ。

 

予め聞き及んでいる。まだ時間は速いが、クルメ・フートが開く店にて異端児と落ち合うことを。ならば、そこに向かうまで!

 

「ん?っ!?走らないで下さイ!うぁぁああア!」

 

猪の疾走に巻き込まれた妖夢の担当職員、ジジが跳ねられ空を飛ぶ。しかし、そこはオッタル。吹き飛んだジジは空中で回転を繰り返し、ギルドに配置されたソファーにボフッと落ちて無傷。

 

「な、何ガ・・・・・・?」

 

ジジは困惑とともに、バラ撒かれた書類を回収するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よーっおっし!貸切!』

 

いっちばーん!俺達の勝ち!ココをキャンプ地とする!

 

「これからは事前に言ってくださいよ、楽しみにしてくれ人も増えて来ましたから」

 

クルメが眉毛を八の字にして、困ったようにいう。確かに予約とかしとけば良かった。でも、ほかのお店でもみんなこうやってたからいいのかと思った。

 

『まぁまぁ、いいじゃねーか!許せ!』

「酷い!?」

「立場の乱用はやめましょうかハルプ」

『ちっ、反省してまーす!』

 

妖夢に怒られたのでやめます。

 

「あはは、私じゃなかったら止めないんですか?」

『えー?他にはタケとー、命とー、千草とー、桜花が言ったら止めるぜ!』

 

巫山戯てたどたどしい口調にしてキリッとキメ顔。妖夢が吹き出し、クルメが苦笑いしてる。

 

『さぁクルメ!喜べ沢山来るぞお客が』

「えっ、本当ですか?どんな人ですか」

『異端児のみんな!』

「おー、仕入れたんですね!?」

『食材じゃ無いぞ!?』

「わ、えっと冗談です」

『え、何そのブラッドジョーク。おっそろしいわ』

 

こわっ!あれ、妖夢がお腹抱えてる。ふむふむ、クルメさんは料理になると怖いですよね?確かに、でも笑うほどでは・・・・・・

 

「えっと、何時頃に異端児の皆s」

 

クルメがなにか言おうとした瞬間、店の扉は開け放たれ、雪崩込むようにして異端児の皆がやってくる。

 

「いやぁ~、つっかれたーー!」

「ハァ、子供ノ相手ハ疲レル(チラッ」『おい何で俺見たおい』

「朝の歌は良いデすね〜」

「カタカタカタカタ」

「『ひぃいいい!人骨ぅ!?』」

「カタカタカタ・・・・・・」

「おいハルっち!骨皮っちを虐めるな!」

『皮要素はどこに・・・・・・?』

 

骨しかねぇじゃん。皮要素は・・・・・・バッ、馬鹿な、頭皮が少し残っているだと・・・・・・!?このハルプの慧眼を持ってして見抜けなんだ・・・・・・。

暫くワイワイと料理がくるまでの時間を楽しんでいると、新たな来訪者が

 

 

「いやっほーっ!僕が来たぞクルメっ!喜びたまえっ!」

 

と、全力で扉を開け放ち現れたリーナ。そこに集中する俺達の視線。

 

「ふぇっ!?驚いたよ、開店からそこまで時間は経ってないのに凄まじい繁盛ッ!!」

 

だがまぁ、異端児に対する警戒は無くなった上、リーナの性格上ビビるはずもなし。するりとレイの横に座り、ぐでッとテーブルに突っ伏す。

 

「いやぁー、いい高さだよねココ。寝るのに最適、流石クルメだよスヤァ…」

「速?!」

 

のび太に迫る程の就寝速度、だと?

ガラガラガラ。

お、また誰か来たな?

 

「ふ、外まで声は聞こえていたがまさかこれ程までとはな。妖夢、ハルプ、邪魔するぞ」

『邪魔をするなら帰ってーな!』

「こらこら、ダメですよハルプ」

 

いや、言わなければならない気がしてね、仕方ない。

お?アリッサがクルメと話してるな、ふむふむ、外に貸切の看板でも立てておけば?って話か。確かにねー、あ、でも貸切になんてされると思ってなかったからそんな看板の用意ないのね。すまねぇ、ならば俺が作ってやろー。

 

『任せろー!』「バリバリー!」『妖夢止めてっ!』

 

失敗しそうだからやめて!

素早く店外に出て、素早く看板を設置。内容は《タケミカヅチ・ファミリア&ゼノス宴会中につき、貸し切り》だ、完璧だな。これで入ってきたら空気が読めないに違いない。

 

「む」

 

お?男の人の声だ。俺が振り向けば、看板をじっと見ている人物が。ムキムキで猪耳、武器は特に付けてない。うん、オッタルだな!

 

『へっへー、悪いが貸し切りだぜ!いくらオッタルと言えど!この場には入れられないのでーす!』

「そうか・・・・・・では少し外に来て話をしないか?魂魄妖夢にも用があったのだが」

 

あ、そうなんだ。にしても俺達に話って何だろな。

 

『あれ、そうなの?わかった、待っててー。おーい、妖夢ー、俺達にお客さんだぜー

剣客ですか!?今行きます!

あらやだ、戦闘狂?

 

血の気があり過ぎてお母さん悲しいわ。え、お母さんはどちらかと言うと私?ないわー、妖夢がお母さんとか、ないわー!良くて妹かなっ!

ぇ、なんで白楼剣を詠唱し始めたんですか?やっぱり・・・・・・行動力、ですかねぇ。

 

「ぐぬぬ、よしんば私が母でないとしても・・・・・・」

『世界、1位です』

「・・・・・・?何の話だ」

「いえいえ、お気になさらず」

 

オッタルの困惑顔を初めて見た妖夢はSANチェックです。成功?では減少値は0っすね。

 

「そうか、では来てもらいたい所がある」

 

へぇ?

 

─────────。

 

なるほどねー、妖夢、お手柄だぞ!

 

「みょん?」

 

白楼剣は消さないで背中か腰にさしとけよ?魅了されて目がハートの妖夢とか見たくないぞ俺は。

 

「あっ」

 

どうやら俺の言葉の意味に思い当たった様子。ふむ、フレイヤだろー?どうする、白楼剣で魅力は弾けるだろうが、好きにやられるのもアレだしな。・・・・・・オッタルと仲良しアピールをして嫉妬させるというのはどうだろう。

 

「ふむふむ」

 

やるか?よし、決まりだな!

 

「あの、オッタルさん」

「・・・・・・なんだ?」

「一つ・・・・・・お願いがあるんです」

 

両腕を後ろで組んで、上目遣いでそういう妖夢。ナイスだ、それで落ちねぇ大人はいねぇ!オッタルも多分断れないはずだっ!

 

「ということなんですが」

「辞めといた方がいいだろうな」

『ですよねー』

 

やっぱりグラサン掛けて三位一体団子三兄弟作戦はダメだったか・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、フレイヤは自室でそわそわしていた。待ちに待った日が来た。もう正直手に入らなくても良いとすら思っているが、でもお触r、触れ合いたいものなのだろう。

 

「ソワソワ、ソワソワ」

 

ソファーに座ったと思えば立ち、鏡の前でスカートをパンパンと叩きシワを伸ばし、ほっぺをムニムニして可愛らしい表情を作る。

 

「はぁ」

 

胸を抑えて時が来るのを待つ。化粧でもするか、服を変えるか、髪型は平気か、どんな話をすればいいのか、開口一番は何を言うか。

フレイヤの目がグルグルになっているがお愛嬌だ。

 

「えっと、そうね、これはここよねっ、うん」

 

言い聞かせるように、全く関係の無い物を動かしては元の場所に戻す。

そしてコンコン、とノックが。

 

ぃっ、入っていいわよっ!」

 

飛び跳ねそうになる心臓を抑え、上ずった声でそう言う。初対面だから、出来るだけ、好印象を・・・・・・!

フレイヤの視線の先、扉は開いて行き・・・・・・銀髪がちょこんと顔を出す。

 

「はうっ!」

 

そして、次に青い目が、恐る恐るといった様に部屋の中を覗き悶絶するフレイヤを見て、扉の奥へと戻った。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

嫌われたか?いや、それよりもこの距離で見れた青い目にキュン死しそうだ。フレイヤの脳裏にはもうまともな思考は残されていなかった。

 

「ぇ、えっと、その、入っても大丈夫ですか?」

 

鈴のような高く可憐な声。既に鼻血が吹き出そうだが、美の女神がそれではダメだ、と己の矜持と鋼の精神(笑)で持ちこたえたフレイヤ。

 

「えっと~、その、魂魄妖夢、です。あの、なにか御用ですか・・・?」

 

手をお腹の前で握り合わせ、キョロキョロと怯えたようにあたりを見渡しつつ、時折恥ずかしそうにフレイヤを見る。

その姿、普段と違う格好も合わさり、フレイヤはゆっくりと後ろに倒れた。その表情は聖母のそれだ。

変態ゆえのキュン死なのだが、今までの我慢を認められたのか奇跡は起こる。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

と妖夢がフレイヤの元に駆け寄ってくる。フレイヤの隣りにしゃがみこみ膝立ちする妖夢。猫耳パーカーにミニスカート、ニーソックスという出で立ちはフレイヤには眩しすぎた・・・・・・。

 

「だ、大丈uブッ!?」

 

薄らと目を開けて弱々しい感じを作りつつ横を見れば、なんと色白の肌と、白いニーソックスが生み出す絶対領域が。いやそれだけではない、防御の緩いミニスカートに守られていたはずの、全体神聖不可侵領域まで見えてしまったのだ。

 

 

吐血。鼻血。

 

それは─────感謝であった。

 

フレイヤを包み込む満足感、達成感、充実感。

 

「白、さい、こ・・・・・・ぅ」

 

フレイヤの意識は実に30分後に目覚めることなる。その時には既に妖夢たちの姿は無く、フレイヤはいつまでもそれが夢では無いか、オッタルに問い続けたと言う。

 

「うぇえええぇぇん!絶対に嫌われたわよあんなのぉぉおおお」

 

自覚があるだけ、マシという事なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、おかしい」

「え?どうしたんですかアイズさん」

「・・・・・・何でもない」

 

賑やかとなった街を見て、何かが引っかかる。

 

────どうして自分は異端児(モンスター)を見て、何も思わないのか。

考えるほどに、頭が痛くなってくる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何でもないよ」

 

すこし、頭を冷やしたくなった。







キャラ崩壊が激しすぎる・・・・・・!
これが、可能性の能力・・・・・・!
そう、全てはハルプのせいだったんだよ!!
はいはいハルプハルプ。

という訳で、とても平和な世界になりました。
強引なのは否めないですが。能力が不完全で過去には戻れない以上、こうするしかハルプには無かったんや!

誤字脱字、コメント待ってます!!



余談。

そして2期を待ち望んで下さる人がいるようで、私は感激しております。

次に2人が行くならどこだろうと、軽く考えてみたら、
東方?ヒロアカ?ブリーチ?オーバーロード?フェアリーテイル?fateシリーズ?・・・・・・どこに入れても楽しそうです。能力的にはどの様な作品であれ最低限戦えるとは思いますが、悩ましいですねぇ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

88話『やだっ私の消滅率、高すぎ!?』

執筆が加速する。
何となく今後がわかる回。

最近FGOやってないなーと思う今日このごろ。男性の水着鯖でも追加されれば変わったと思うのたが。
最近はスカイリム楽しいです。mod楽しい・・・・・・。
あとミトラスフィア?というのもスマホでやってますね。割と楽しい。







 

夜の街を駆ける。左右を高速で流れていく景色を無視して、左右に目を光らせる。

異常がないかを、必要以上に確認する。

 

私は何故か、異常があって欲しいと思ってしまっていた。

 

きっと、この考えは間違えている。異端児と呼ばれる彼らは安全なのだ。本能と、経験がそう言っている。

でもダメだった。もっと別の感情が私を突き動かしていた。

 

「なにか・・・!なにか・・・・・・!」

 

─────っ!

 

突如私の耳に飛び込んでくる絹をさくような悲鳴。私は一気に跳躍し起動を変えるために詠唱する。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

体に風をまとい、空中で進行方向を変更する。 屋根を走り、声の方へ。

そしてダイダロスに差し掛かり、私の目に入った光景、それは。

 

────男に連れ去られようとしている異端児の姿だった。

 

グッ、と()()()()()

 

「ッ!」

 

違う!止めては行けない!

あの子を助けるのが私の役目のはず。

 

「たすけっ」

「静かにしろ!!」

「ぃ、嫌────────ッ!」

 

目が合った。ヴィーヴルの少女だ。額にある赤い宝石はキラキラと輝いている。人攫いはどうやらあの宝石を欲しているらしい。

 

「たすけて・・・・・・!」

 

私に向けて伸ばされる手。

まだ、私は動けないでいた。爪も、鱗も、皮も何もかもが破格の値段で取引されるヴィーヴル、しかも異端児となればとんでもない価格になるのだろう。狙われるのは当然だ。

 

だから、なんだろう?

 

「なんで、助けに、行けないの・・・・・・?」

 

足は動いてくれない。何かがずっと引っかかっている。もっとよく考える時間が欲しい。なにか、ヒントが欲しい。

 

「おぃ!暴れんじゃねぇ」

「もう、止めて!」

「!」

 

男がヴィーヴルの長い髪をを引っ張ると、ヴィーヴルは怒ったのか背から翼を生やし・・・・・・暴れた。いや、あとから思えば暴れようとしただけだった。それでも

 

──気がつけば私は飛び出していた。

 

「────キャッ!」

 

振り抜いた剣は・・・・・・ヴィーヴルの翼を半ばまで断っている。

自分自身、何をしているのか理解出来なかった。顔から血が引いて、足が震え出す。それをバレないように抑えながらヴィーヴルを見据えた。

 

「な、なんで・・・・・・?」

 

困惑の声と目線。痛みに耐えて歪む顔。それらを引き起こしたのは他でもない私だった。

 

「ぁああ、あいつに襲われたんだ!!」

「ち、ちがう、やってない・・・・・・」

 

思考が定まらない。

人は襲われたと言う。

異端児はやって無いと言っている。

人が異端児を攫おうとしたのを見ている。

異端児が人を傷つけようとしたのを見た。

 

「・・・・・・」

 

私がするべきなのは今している事じゃ無いはずだ。

異端児がした事は攫われないように抵抗しただけ。わかってる、けど、なんで────私はヴィーヴルに剣を向けているの?

 

「逃げて」

「あ、あぁわかった!ありがとう()()()の姉ちゃん」

「・・・・・・!」

 

ヴィーヴルが斬られた翼を抱きしめながら、1歩、2歩と退いていく。

そう、それでいい。今の私は、何かが可笑しいから。

 

私がした事は確かな悪事だ。人攫いを助け、被害者に怪我を負わせる。

本当に、どうちゃったんだろう。

 

『よぉー!アイズ。なぁにしてんのっ?』

「っ!」

 

私は真後ろから聞こえた声に振り返る。そこには、ししょーが立っていた。両手を頭の後ろで組んで、寛いでいた。ニコニコしている何時もの表情。全部、見られてた?

 

『まいっか。やあや嬢ちゃん久しぶり!』

 

ししょーは私の隣を通り、ヴィーヴルの元へ。久しぶり、ということは知り合いなんだ。より一層私の血の気が無くなっていく。

 

『どうした、その傷。まるでぶった斬られたって感じだな?』

 

その言葉に、ビクリと私は怯えることしか出来なかった。『ん?どしたアイズ』とししょーは何でもないかのように振り向き、視線を戻す。

 

『あーあ、酷い傷だ。ま、安心しろよ?何たってこっちには猿師が居る。異端児用に改良したポーションもあるんだぜ?』

「う、うん。ありがとうハルプさん」

『いーのいーの、可愛い後輩の為、ハルプさんは一肌脱ぐのですよ?』

 

『脱ぐ肌無いけどな!』って戯けるししょー。もしかして気が付いていないのだろうか、見ていなかったのだろうか。それとも、私から言い出すのを待っているのだろうか。

 

『にしたって、ひでぇな。ほぼ全ての都市で()として認められた異端児を斬るなんて。まぁ、モンスターを斬ったつもりなのかも知れねーけどさー?』

 

ししょーの言葉が私を刺す。

そうだ、正式に人として認められた異端児達。それを斬るという事は・・・・・・

 

『これじゃあ()()()()()()()()()()()()()、全く、アイズもそう思うだろ?』

 

モンスターと変わらない。

その言葉に思考が真っ白になった。視界がぐらつく、足の震えが酷くなる。ガクガクしてる、全部、何もかも。

 

『おぇ!?な、なにぃ!?何が起きたの!?』

「そ、その人に斬られて」

『マジかよっ!!』

 

声が遠くに響く。いつの間にか倒れていた私の視界は真っ暗になった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイズ、アイズっ起きてよー!」

「アイズさん!目を覚ましてください!」

 

私が目を開けると、そこにはティオナとレフィーヤがいた。心配そうに私を覗き込んでいる。その目がどこか私を責めている気がして不安になる。

 

「・・・・・・おはよう。どうしたの?」

 

夢・・・・・・では無い。それは私が一番わかってた。

 

「ぜーんぜん起きてこないから、起こしに来たらレフィーヤが部屋の前でウロウロウロウロしてて、そんで入ってみたらアイズが魘されてたの」

「ウロウロだなんてそんな!!アイズさんの部屋の前を通ったら」

「部屋の外までは聞こえなかったよーだ。もしかしてぇ、侵入する気だった?」

「違いますぅ!?」

 

何時もの2人だ。話は伝わってないみたい。・・・・・・ししょーのおかげだろうか。後でお礼と謝罪をしよう。あと、相談。じゃないと、私は・・・・・・おかしくなりそうだ。

 

「ごめん、その、じゃが丸くんが食べられなくなる夢を見てた」

「ガクッ!なんて平和な夢!!あーでも私もおっぱいが大きくなる夢をみて朝絶望したよね」

「関係なくないですかそれ」

「持つ者を姉に持った持たざる者は辛いのっ」

 

2人は私を心配してか元気付けようとしてくれている。

だから少し笑って、平気な事をアピールする。

 

「えへへ~少しは調子が戻ったねアイズ」

「よかったぁ~」

 

2人も笑ってくれて、朝食・・・・・・時間的にはお昼ご飯を食べに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やぁ!俺です。ハルプでーす!今は何と・・・・・・深夜。

アイズがやっちまった後の場面に遭遇し、アイズが気絶しそれをロキ・ファミリアのアイズ部屋にバレないように侵入し寝かせた後だ。

うん、もうね、うん。そうかー、トラウマかー!って感じだ。盲点って言うか、考えてなかった。俺って無能。能力強くても使いこなせないなら意味無いよなぁ。

 

「もう、大丈夫だよ?」

 

とは言え、隣を歩くヴィーヴルの子、あ、勿論原作に登場するあの子だぜ。そう、ウィーネだ。

登場する期間を早めて、ベルが華麗に救出していたのです。・・・・・・本当は俺が助けて餌付しようとか思ってた訳ではない。断じて!

 

『そうか?なら、離すぞ』

 

あー、ウィーネの手が離れていくー、そんなー、最近は妖夢としか繋いでないから久しぶりの感覚なのにー。

まぁ、仕方ない。この子は既にベルに攻略されている。今更何をしたってもう手遅れなのだよ。

この思考読まれたら妖夢がいじけそうだ。

 

しばらく歩くと猿師の店、タケミカヅチ・ファミリアが経営する販売所に着く。当然だがもう誰も起きてない。なので俺が侵入し、《ゼノス用のポーション1個買っていきます。ハルプ》と置き手紙と2000ヴァリスを置いて回収。

そしてそれをウィーネにつかってあげる。痛そうに顔を顰めたけど、その効果は凄まじい。見る見るうちに治っちまった。回復の魔剣を使うってのも良かったけど、アレは妖夢の為に取っておくのだ。

 

「ありがとうね、ハルプさん」

『いいんだぜ。困った事があったら何でも言ってくれよな』

 

ウィーネから事情は聞いた。異端児を狙う人攫いはここ最近何件かある。今まさに注目の的となってる異端児を攫おうとか、目立ちすぎるとか思わないのかねぇ。

ま本題はそこじゃなくて(こっちも本題ではあるけど)アイズな訳だが、どうやら男がウィーネを攫おうとしているのを見ていたらしい。助けてと叫んでも助けにこないから男の仲間だと判断して、抵抗を試みた。けど、抵抗しようとしたらアイズに斬られてしまった、と。

 

『運が悪かった・・・・・・で済ませたくはないな』

 

アイズも何だかんだ色々抱えてるらしいし?確かー、なんだっけ、妖精だか精霊だかの血が流れてるんだったか。レベルアップが早いのはそれが影響してるとか。

・・・・・・それに遅れているとはいえついて行ってるべート達も流石だなぁ。

 

「うん・・・・・・ごめんね」

『謝る必要は無いんだぜ?ウィーネは被害者、発見が遅れた俺が悪い。とりあえずはアイズ達と話してみるさ』

 

その後も謝ったりしてくるウィーネを撫で回したりしてじゃれ付き、武錬の城へと辿り着く。異端児の皆は俺達のタケミカヅチ・ファミリアの剣、弓、雷の館を拠点として利用してもらってる。勿論ダンジョンの中にはリ・ヴィラや隠れ里もあるが。

 

『んじゃ、よく寝ろよ?おやすみー』

「うん、ありがとう。おやすみハルプさん」

 

ういうい、とウィーネの睡眠を見届ける。

 

『・・・・・・』

 

現状、深い所にいる異端児達が地上に来るのが困難だ。弱い奴らを守りながらの行動が難しいからだな。だからギルドとグロスやリドが協力して、隠れ里の場所を把握、特定し救出部隊が編成される予定だ。当然、俺達もついて行く。

その間の異端児の監視と護衛はタケミカヅチ・ファミリアの子達のリーダー達を筆頭として夜間、早朝を中心に行ってもらうつもりだ。正直、リーナが寝そうで怖いが・・・・・・まぁ、リーナの所にはダリルがいるし、平気かな。

 

うーん、この救出部隊、今のところ・・・・・・俺達とガネーシャ・ファミリアだけなんだよな。いや、勿論ガネーシャ・ファミリアが居るのは良い、とても心強いが・・・・・・うーん、アイズとかにも頼んでみるか?勿論タケとガネーシャにも相談するけど。

 

アイズは刺激しない方がいいかなぁ?まぁ付いてきたいって言ったら迎え入れようか。

にしても!この救出任務、めちゃくちゃ時間かかるんだよねぇ、ガネーシャ・ファミリアのほら、あの実況の人が言うには「最悪の場合は1ヶ月ほど掛かる」らしい。

もうね、お迎えが来ないか心配で仕方ないよね。必死に能力使って紫と消滅を遠ざけてるけどさ。

 

ぐぬぬ、具体的に何ヶ月俺は動けるのか知りたい。10年後に動けている可能性は0なのはわかってるが、なんて言うか、それ以上絞るのが怖くてしてない。・・・・・・しなきゃダメだよなぁ。

うう、あれだ医者に余命宣告される怖さを知れたかもしれない。

 

く、仕方ない。まずは・・・・・・ご、5年位?いいか、これは紫が来て離れ離れになる可能性ではなく順調に妖夢と生きていけたら、俺は何年もつのかだぞ。よぉし、行くぜー!あ、細かい数値はめんどいからどかそう。

 

──────0%

 

無慈悲ッ!!

 

くっっっ!!わかっていたとも、分かっていたさ!!そうだよなぁ、もたねーよな!

じゃ3年位ならどうだ、これなら0.1%位あってもいいんじゃないか?

 

──────0%

 

グハッ!

 

ごほ!ど、どうしてだ・・・・・・!ま、マジかよキツイなおい!えっどうするの、もう俺は明日生きてるか不安になってきたよおい。ええい、こうなったら敢えて少ない日を指定して安心を得ようそうしよう!

 

明日!

 

──────88%

 

・・・・・・あれ?結構消滅しそうじゃない?しかも俺が操れる領域じゃないし・・・・・・怖っ!!

ふ、2日後・・・・・・なんてどうでしょう。

 

──────86%

 

あー、はい。そっすか、1日ごとに2%下がるんすね、分かりましたははは!

って笑えるかぁ!?マジかよ予想以上に少ねぇよ!?下手したら1ヶ月ほど無駄にしそうだよ!いや無駄じゃないけどさっ!

い、いや(震え声)まだ希望を捨てるな。可能性を信じるのだ・・・・・・。

3日後!

 

──────84%

 

はぁぁぉぁぁあ↑!!!

不味い!!これはまずいですぞ!!

4日後!

 

──────82%

 

嫌ぁぁああ↓!マジですか!?ガチですねこれ!やべぇよ、凄いやばいよリアルガチだよ!

え、待ってね?だって、88÷2とか、44だよ?俺1ヶ月と2週間ちょいしか生きられねええええええ!?

 

い、いや待て・・・・・・違う、下手したらもっと低いぞうむ。44日の間、俺の「消滅しない可能性」は無くならない、とは言え「消滅する可能性」は常にある。下手すれば明日で俺消えるぞこれ!?6日目から俺が可能性を操って80%に固定したとしてだ。俺は20%の確率で消える危険性が・・・・・・!

や、やばい。毎日5分の1の確率を引いたら消える・・・・・・6日間は退かして、38日の間に5分の1を引く確率ってっ!?少しでも安心がほしい!細かい数値もカモン!

 

──────99,99%

 

あぁぁぁ!!やっぱり見ない方がよかったーー!?

 

い、いや待て!まだだ、まだ終わらんよ!!俺には桜花と言う男が居たじゃないか!桜花が居てくれれば、まぁ正確には目があればだけども!俺の可能性は6~10%ほど引き上げてもらえるはずだ!!よし、90%にすれば何とか・・・・・・えっとー、ここがこうしてー(計算中)。

あれ?・・・・・・99%から抜け出せなくね?能力カモーン。

 

──────99,03%

 

『やだっ私の消滅率、高すぎ!?』

 

オワタ!

 

『はぁ』

 

ま、巫山戯るのはいいとして、少しでも出来ることをしなきゃな。能力を使うのはいいけど、使い続けると妖夢の霊力が枯渇しちゃうしなぁ。暴走してる時は魂を燃やして強引に動いてたから使えたけどさぁー。もう燃やす魂ありませんし?

 

むー、紫が来る可能性を退かしてこれかァ・・・・・・。

 

『世知辛いなー』

 

ま、んな事言っても変わりませんしー?

 

『よっしゃ!皆が起きるまでに家事を終わらせるぜ!』

 

今、真夜中だけどなっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美味しそうな匂いが鼻腔を擽り、私は目を覚ます。時間は・・・・・・5時位かな?

 

「ふ、あぁ~・・・・・・ぁ・・・・・・んん~!」

 

大きく伸びをして、暫くボーっとする。この時間はなんて言うか心地いい。寝相ではだけていた着物を脱ぎ、何時もの水色の着物に着替える。

 

「んー、むにゃむにゃ・・・・・・妖夢殿ぉタケミカヅチ様ぁ・・・・・・」

「ふふ、ふふふ・・・・・・妖夢様ぁ、お待ちになってくだしゃいぃ・・・・・・」

「あはは・・・・・・」

 

2人とも寝言が凄いなぁ、もしかして私も言ってるのかな寝てる時。あれ、妖夢ちゃんがまだ寝てる?珍しい、いつもは誰よりも早く起きてるのに。──?

 

「ハ・・・・・・ル、プ、行かな・・・・・・い・・・・・・で?」

「!!」

 

妖夢ちゃんが魘されてる!と、とりあえず皆起こした方がいいよね!!

 

「起きて~~!!朝だよっ!」

「はっ!」

 

命ちゃんが流石の速さで目覚めると同時に後転からの倒立を決め、キメ顔をしてから着替えようとタンスへ向かう。その時だった。

 

「ハルプッ!?」

「コンっ!?」「「わ!?」」

 

バッ!と布団を吹き飛ばして、乱れた衣服も気にせず妖夢ちゃんが走っていった。・・・・・・襖が勝手に全部開いたんだけど、妖術って奴なのかな・・・・・・?

 

「ってそんなこと考えてる場合じゃなかった!妖夢ちゃんが大変なのっ、魘されていたし今も普通じゃなかった!」

「ええ、把握しました。これはただ事ではない・・・」

「えっ?えっ!?な、何が起きたのでございますか?」

 

春姫ちゃんの手を強引に取って「コンッ?!」私達は走り出す。騒ぎを聞きつけて桜花も来たっ!でも今は見惚れてる場合じゃない。

 

「何があったんだ!?」

「妖夢ちゃんが悪い夢を見たみたいで、ハルプちゃんの所に走っていっちゃった!」

「わかった、早く行こう!!」

「お、お待ち下さい~!き、着物がぁ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふーん、ふんふ~ん、ふふふーん、っと。いいねぇ、今日もハルプさん制作の味噌汁は会心の出来ですわ。クックック、これを飲んだ彼奴等の蕩けた顔が目に浮かぶわい。

どれどれ、味見でも─────

 

「ハルプッ!?」

『ブフォッ!?ゴホッゴホッ!って何故むせるし』

 

俺はむせる物ないじゃないか!え、なぜ味が分かるの?・・・・・・考えたらSAN値へりそうなので辞めるの。

じゃなくてだね?何かさ、パァン!パァン!って音がこっちに迫ってるんだよね。ダダダダダダ!って足音も迫ってんだよね。

 

はっ!!ま、まさか・・・・・・俺がウィーネをおとそうとしたことがバレてヤンデレと化した妖夢さんが俺を殺しに・・・・・・!?そんな可能性はあるんですか!?

 

───────0.0001%

 

あんのかよ!!小さくて助かったわ!!

 

「ハルプッ・・・・・・!」

『お、おはよー。何か、様かな?』

 

あの、服装酷いっすよ?前とか丸見えっすよ?腰の紐解けてるし、足だって股間ギリギリですやん。これが俺と同じ顔と身体でなければエロかったのになー。

 

「うあああぁぁん!ハルプぅうううう!」

『お、おいィ?!』

 

えぇ!?なんかフラつきながらこっち来たと思ったら抱きついてきたんですけどぉ!?何があったの本当に!?

めっちゃ泣いてるんですけど!!

 

『落ち着け落ち着け・・・・・・何があったんだよ、命に甘いの食われたか?』

「うわああぁん!」

 

えええぇ・・・・・・どうすればいいのさこれは。めっちゃお腹に頭グリグリされるんだけど、可愛いなおい。とりあえずいい位置に頭あるし撫でるだろ?あとは・・・・・・あっそうか!抱きしめるんだな!そうだな!俺もやってもらったし!

考えたなら即行動。両腕で妖夢の頭を包むようにして抱きしめ、左手で背中を擦り、右手で頭を撫でる。そんで頰っぺまで頭に付けるようにして密着する。うわっ、石鹸の匂いだ、いいね。・・・・・・俺そういや風呂入ってねーな最近。

 

『ほら、落ち着いてくれよ。平気平気、怖くなんかないぜー。いい子だいい子だっ』

 

出来る限り優しい声で、そういう。・・・・・・なんか、こうしてくっ付くこともあんまり無かったし、嬉しいなっ!

喜びも苦しみも分け合おうって話だったもんな!なので感覚を共有する。

 

『妖夢とこうしてると落ち着くし、あんまり無いから嬉しいな!妖夢はどうだ?』

「うぅ、ぅ、ぐすん・・・・・・うれ、しいです」

『そうかそうか。じゃあさ、なんで泣いてるのか教えてくれるか?』

「はい・・・・・・」

 

妖夢はそう言って、鼻をすすりながら顔を上げる。それに合わせて俺も位置を調整しつつ、妖夢の着物を確りと直してやる。視界の端に皆が見えるけど、今は無視だ。

妖夢は顔を真っ赤に染めて、涙をいっぱい溜めて俺を正面から見る。鼻水も出てるな。

 

『あぁ、もうお前は・・・・・・』

「んぐっ、ぅ・・・・・・あはは、ごめんなさい」

 

体から取り出したハンカチで顔を拭い、綺麗にしてやると妖夢もようやく笑顔を見せてくれた。やっぱり笑ってなきゃ駄目だぜ?俺達の可愛い顔が台無しだっ!自分を含めると恥ずかしくて死にそうだが。あ、死んでた。

 

「あの、ハルプ」

『なに?』

 

不安そうな顔でそっと俺の手を両手で包み込む。俺はニッと笑って妖夢の手を上から更に包んだ。

 

「き、消えちゃ嫌です・・・・・・」

『っ!』

 

そ、それは・・・・・・仕方ない、で済ませても良いのか?

俺が逃げ道を探していると妖夢は畳み掛けるようにして言葉を紡ぐ。

 

「居なくなっちゃダメです。1人は嫌ですっ!一緒じゃないと怖いですっ!!」

 

・・・・・・。

俺は黙り込んだ。何て言えば良いのか、本当にわからなくなってしまったからだ。

 

「お願い、します・・・・・・!」

 

絞り出すような声で俺に縋り付く妖夢。

俺は妖夢の願いを叶えて上げたい。けど、今の俺ではもう叶えることができそうにない。

事実を言うことは簡単だ、妖夢は傷付き、けれども前に進むだろう。仕方ない、と自分の心を切り離してでも納得してくれるだろう。

 

「お願いしますっ・・・・・・!!」

 

でも、きっとそれじゃ駄目だ。

せめて希望を与えてやらなきゃいけない。

目標がなければ惰性になるだけだ。

でも嘘も駄目だ。

妖夢は頭が悪い訳じゃないし、いずれ気が付く。

そうすれば結局は傷付くだろう。出来るだけ、傷付かない方法を探さないと───!

 

『・・・・・・』

 

俺は能力を起動させ、ありとあらゆる可能性を探り続け

 

 

 

───────やがて一つの可能性を見つけた。

 

 

 

「うぅ、っ、すみ、ません。こんな、こと言ったってっ!困るっだけですよねっ!ごめんなさい、あはは、私、悪い夢見ちゃってっ!」

『・・・・・・』

 

泣きながら謝る妖夢を見て、俺はそのおでこにデコピンをかましてやった。必死になって納得しようとしてるのが嫌だったからだ。

 

「いたっ?!」

『ブッ!あっはっはっ!今のリアクション最高だぜ妖夢!』

 

ほーんと、こんな簡単な事に気がつけないなんてなー。やれやれってやつだ。俺は随分と視野が狭くなってたらしい。

 

でも気がつけた。

 

 

別に()()()()()()()()()()()()

 

 

────未来の話をしてやればいい。

 

 

 

 

 

 

ハルプが消えてしまう夢を見ました。だから私は不安になってハルプの元に駆け出した。不安で不安で仕方なかったからです。なのに、必死になって訴えてるのに、仕方ないって思ってるのに。私のおでこにデコピンをしてきました。しかも、本気で。

 

『─────妖夢、杞憂だぜそりゃあ』

「ぇ?」

 

でも、額を押さえて蹲っていた私の頭上からそんな一言は降り注いだのです。思わず顔をあげれば、ニンマリと笑うハルプ。

 

『あーあ、せっかく拭いたのにまーた涙で濡れちまってるじゃん』

 

ニヤニヤと笑いながら私の顔をハンカチで拭う。泣かしたのはハルプなのにまるで私が悪いかのように言ってきます。

ニヤニヤとした顔を変えないで真剣な眼差しで私を見つめいます。

 

『いいか妖夢。例え俺が消ちまったとか、お前が元の世界に帰ったとしてさ』

 

考えたくない事をさも当然の様に言い放つ。けれど、こう言うのなら何かまだ・・・・・・なんて、期待してしまいまうのは、私の悪いところなのでしょうか。

 

『お前と俺がまた出会う可能性は0じゃない。だから──────────約束だッ!!』

「約、束・・・・・・?」

 

ハルプは両腕を大きく広げ、大げさに語ってみせる。笑顔で、自信満々に。目は爛々と輝き、その顔が私に希望を持たせてくれる。

 

『たとえ何年、何十年、何百年!何千年、何万年、何億年っ!何兆年掛けてでもっっ!』

 

大きな声でそう言って、ウインクとピースをするハルプ。その姿は不安なんてこれっぽっちも感じていないかのようで。

 

『────俺はお前を探し出す!!んで、ずーっと一緒に居てやるぜっ!』

「───────はいっ!!」

 

ずっと、一緒。

 

その言葉が私の中を反復し・・・・・・感極まった私は息を詰まらせながらも何とか返事を返す。溢れ出す涙を拭きながらハルプに飛び付いて抱きつく。

 

不安が無くなった訳では無いですが、それでも、笑顔になれました。取り繕った笑顔ではなく、心の底からの笑顔です!それだけ私にとってその言葉は嬉しかったんですっ!

 

心が、体が暖かい。

 

『あー、恥ずかしかったっ・・・・・・!』

「えへへっ嬉しかったですよハルプぅ!ぽかぽかですー!」

『ははは、おーい、幼児退行してますよー妖夢さん』

「えへへ、大好きですよハルプ!!大好きっ!」

『うぇっ!?お、おう!あああ、ありがとうな!お、お俺もだぜ!?って何言ってるの俺ー!?』

 

よかった!私達は両想いですね!

 






ハルプ『変えられないものもあるんやなって』

気がついたら砂糖を吐きそうになっていた。何を言ってるか分からないと思うが、俺も何を言ってるか分からない。
誤字脱字、コメント待ってます!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

89話『「─────英雄『永劫天翔斬』!!!」』

遅れ過ぎた()

専門への願書云々や文化祭の準備云々その他バイトなどで書く時間が無かったでござる。

本当に申し訳ない。


さて、感動的な場面もおわりっ!

妖夢達は朝食を取って栄養を付けなければ行けない。生命の営みだな、うん。

 

「よし、食べるか。頂きます!」

『「「「「「「頂きます!」」」」」」』

 

俺と妖夢、命に千草、桜花にウィーネに、最後にタケだ。みんなで食卓を囲む。ウィーネがいるからか、新鮮さを感じる。

 

『くっくっく』

 

俺が悪い笑みをしながらタケを見る。するとその視線に気がついたらタケがジト目で俺と味噌汁を交互に見やる。

 

「・・・・・・入ってないよな?」

『味噌は入れたぜ?』

「ええい、ままよ!」

 

タケは昔のことをおもいだしたのか警戒しながらも、一気に飲んだ。

あー!勿体ないなー。力作なのにぃ。ま、おかわりはあるからいいけどね。

 

「・・・・・・!美味いな!」

『当然だろ?』

「いやぁ、疑って悪かった」

 

そう言ってタケが次なる料理に手を伸ばす。時間がめっちゃ余っていたから春巻きを用意していたのだ。とうぜん、中身には辛子と山葵を練り込んだ具が詰まっている。加熱されると山葵の辛さが落ちてしまう・・・・・・故に!可能性の能力を使い中身を入れ替えておいたのさ!!(無駄遣い)外はホカホカ!中は生!喰らえぇえええ!

 

「んぐっ!?」

『かかったな馬鹿め!』

「くぁw背drftgyふじこlp;@:「」!?」

「「「タケミカヅチ様!?」」」

 

ふはははははは!わざわざオーバーリアクションありがとう!!

ん?どうした春姫、なんでプルプル震えてるんだ?あー、あれかタケが面白すぎて、けど食事中だから笑わないように気をつけてる的なアレか。我慢しなくても良いのにな。

 

「くぁw背drftgyふじこlp;@:「」!!」

「いやお前も食ってたんかいっ!!」

「くぁw背drftgyふじこ(ry」

「ウィーネ!?今までのやり取りを見て何故食べた!?」

 

うわぁ、大惨事だよ!やったぜ!そして桜花ナイスツッコミ!

 

『フハハハハ!』

「フハハハハ、じゃないですよハルプ!もしかしてこの春巻き全部辛いんですか?!」

『あれっれ~?妖夢さん、辛いの苦手なんですかぁ~?』

 

なんか妖夢が不安そうなのでからかってみる。多分、食べるんだろうなぁ。

 

「そ、そんなことはありません。ま、全く!タケもウィーネも修行が足りないのですよ!「ま、まへようふ!これはひけはい!」パクッ」

 

くくく、本当に食べてしまったのかい?

 

「─────────────!?」

『あー、可愛そーに』

 

この後全員に追いかけられることになったけどそれは置いておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆様に集まって頂いたのは以前お話していた、異端児救出作戦についてです」

 

ギルド前の開けた場所で貰った鎧を着てマントをはためかせる銀髪の少女、妖夢はギルドへと繋がる階段を数段登った所から目の前に集まっている者達へと語りかける。

この場に集まっているのは過剰戦力とでも言うべき面子だった。

 

タケミカヅチ・ファミリアの幹部。

 

ガネーシャ・ファミリアの精鋭達。

 

ロキ・ファミリアの主戦力。

 

フレイヤ・ファミリアからオッタルが1人。

 

そしてその他サポーター達だ。

誰もがこの救出作戦の狙いを理解出来ている訳ではない。しかし、彼らの上層部とでも言うべき知識層は理解していた。

 

いまだに立場がやや低い異端児をオラリオの主力が救い出すこと、また、異端児への不安や反感を持つ者達へのアピール。そして複数のファミリアが協力体制を敷く事で異端児を狙う者達への牽制にもなり得る。

 

「(それと、炙り出しの意味もあるだろうね)」

 

妖夢の説明を聞きながら、フィンはそう考えていた。今回の作戦には複数のファミリアが絡む。しかもそれはオラリオの主戦力と言っても過言ではないメンバーだ。

つまり、地上でコソコソと隠れている連中が動くチャンスである。

 

「(戦力は確かに減るけど・・・・・・彼らなら問題は無いだろう)」

 

フィンは残してきた団員を思い、そう判断する。それに対人戦に特化したタケミカヅチ・ファミリアがいるのだ。問題は無いだろう。動くかは不明だが、フレイヤ・ファミリアの4人もいる。

 

「(・・・・・・対人戦に特化とはなんなんだろうねホント)」

 

少し頭痛を覚えたフィンは直ぐにその思考を止めて、話に集中する。

 

「今回、私達か向かう場所は深層です。孤立した異端児が確認できた場所は三十七階層から五十階層の安全階層(セーフティエリア)までの範囲です」

「(白宮殿(ホワイトパレス)周辺か。というか、範囲広いな・・・・・・これじゃあ本当に1ヶ月掛かりそうだね)」

 

フィンは頭を抱えつつ、どうせならもっと探索をするべきだったとため息をつく。しかし、ロキファミリアの目的は『攻略』、けして『探索』ではない。ギルドからの支援で最短ルートを絞ってもらい、未開の地を切り開く事だ。

 

「(今思えば全てはギルドが仕向けた事だったか。・・・・・・なぜ隠していたんだろうか?)」

 

まぁいいか。そうため息をついて・・・・・・自分を抱きしめるティオネをどうやって引きはがすが考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンの中をけたたましい音を立てながら、大規模な冒険者の集団は進んでいた。その中腹あたり、サポーター集団の中に、僕は居た。

 

「緊張するね、リリ」

「そうですね、いきなり深層ですから」

「とはいえ、俺達も関係者だからな。ほっとく訳にもいかないだろ」

「ヘスティア様も妖夢様達の所で預かって頂ける様ですし」

「あはは・・・神様完全に子供扱いされてたよね」

 

タケミカヅチ様に連れていかれる神様、それを笑顔で迎え入れるタケミカヅチ・ファミリアの団員達。

その顔は何処か、会いに来た孫に接する祖父母の様な優しさに満ちた顔だった。神様は怒ってたけど、平気かな・・・・・・。

 

「よっと!にしても、こんなに食料が必要なんてな」

「文句を言わ無いで下さいヴェルフ様、何せこの規模ですから」

「確かになぁ」

「あっ!ちゃんと研石などは持ってきていますか!?稼ぎ時ですからね!」

「へへっ、抜かりはない」

 

2人の話に耳を傾けながら進んでいると、十七階層にやって来る。嘆きの大璧が修復されているのが見える。ゴライアスは中にいるんだろうか。

 

「止まれー!止まれー!一旦停止しろー!」

 

前から後ろへ止まるようにと号令がかかる。少し耳をすませればパキパキと音が聞こえている。

 

「ゴライアス、だね」

 

ゴクリと唾を飲む込む。これだけの戦力がいて勝てない訳は無いけど、やっぱり緊張する。

最前列では妖夢さんとハルプさんが・・・・・・準備運動をしている。もしかして2人だけで?

 

「ゴォォオオオオオオアアア───!!!」

 

壁を突き破りゴライアスが吠える。

 

『行くぜ妖夢!』

「はい!」

 

でも、その瞬間には妖夢さん達はゴライアスの顔の前まで跳んでいた。

 

『コイツは未来へ託す永劫の剣だ!!』

「我らが絆、とくと見よ!せーのっ

『斬空天翔剣!』

『「(プラス)!」』

「人鬼「未来永劫斬」!」

「『(イコール)!』」

 

仲良く交互に息ぴったりに叫ぶ。

 

 

『「─────英雄『永劫天翔斬』!!!」』

 

 

 

 

未来へ託す永劫の剣、そう叫んで放たれた技。2人は僕の目では追えないほどの速くなり、斬撃による閃光だけが残されていく。

 

「────へ?」

 

誰かの気の抜けたような声が響いた。ゴライアスは出てきた瞬間の姿勢から一切動けておらず、その体には斬撃の軌跡を象る光が未だ消えずに有ったからだ。

 

『「──お前はもう、死んでいる」』

 

同時に着地し、同時に刀を鞘に収める。そして、大火の花は咲き誇った。

一体今の瞬間で何回斬ったのか、組み上げられたブロックのようにゴライアスの体が崩れ、盛る炎に焼かれて灰となる。

 

『ふっ、完璧だな斬奪も完璧に「ハルプ危ない!」え?────ふぎゅ!?』

 

ドヤ顔と共に振り返ったハルプさんの上にゴライアスの魔石が落ちて来て、ハルプさんがそれに押し潰されて可愛い・・・・・・と言うよりも情けない声を上げた。

 

「す、すっげぇぇぇぇぇぇええええ!?」

「なんだ今の!?何も見えなかったんですけどぉ!」

「カッコよすぎワロスw」

「えええ、しかも魔石もちゃっかり回収してるし」

 

けど、それよりも先ほどの技がみんなの印象に残ったみたいだ。みんな口々に妖夢さん達を讃え、ハルプさんが魔石を体の中に取り込んでいく───え!?

 

「か、体より大きいのを飲み込んじゃったよ・・・・・・」

「ベル様、言い方がスケベです」

「なんで!?」

「そうだぜベル、デリカシーが無いな」

「そんな!?」

 

リリ達はもう「あの2人なら何やってもおかしくない」と思っているのか、落ち着いているけど僕やほかの人達は今の光景に驚いてばかりだ。

 

ドヤ顔で歩いて先頭に付くハルプさん、その隣をニコニコしながら歩く妖夢さん。レベルは近くてもやっぱり遠い存在だなぁと僕は思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は今、ししょーの後ろを歩いている。

薄明かりに照らされた空間、ここが十八階層だとわかる人はどれくらいいるのかな・・・?

 

「ンー、話で聞くよりも・・・・・・随分と凄いね、これは」

「そうだな。本来ならばもう修復されていてもおかしくは無いほどに時間は経っている」

「とんでもないのぉ」

 

リヴェリア達も冷や汗を浮かべている。たぶん私達が説明したあの戦いを思い出したんだと思う。

 

『でさ!そこで博士が出てきてさ“本当に申し訳ない”って言うんだよ!』

「えーなんですかそれ。誠意の欠片も感じないんですが・・・・・・」

『そうなんだよなー、閉所恐怖症の主人公にひどい仕打ちだよな』

「ご飯食べ辛すぎませんか?」

『やっぱり妖夢食い意地張ってない?』

「張ってません!だって首の後ろですよ!?」

『俺は平気ー』

 

ししょー達はよくわからない話をしてる。話に混ざりたい人達は話が終わるのを待ってたけど、語られる内容が面白かったからか聞きに徹していた。メタ〇マン、面白そう。

 

でも、この場所でする話なのかな。

 

「おい、てめぇら案内しろ案内」

「『はーい』」

 

べートに言われてししょー達が他のタケミカヅチファミリアの人と走っていく。と、思ったら全員が加速してリヴィラに消えた。縮地って凄い。

 

「あはは、相変わらず、非常識だね」

 

フィンが冷や汗をかきながらなんとも言えない、という目でそれを見送ると、言い終わるか終わらないかのタイミングでししょー達が戻ってくる。

 

「着いてきてくれるゼノスの方々の選出は完了です、リドとラーニェが来てくれるので間違いは無いでしょう」

『うむ。苦しゅうない』

「なぜハルプ殿が満足気なので?」

『なんとなくだけど?』

「自由かお前は」

『そう、実は俺、自由の女神なのよね』

「嘘ですね」

『はい』

 

真面目な顔でおかしなやり取りをする、みんなの緊張もなかなか解れている。

ししょー達を見ていると、守りたくなるような不思議な感覚がするのに、それと同時に背中を預けてみたいと思える不思議な感覚もある。

 

『ん、なんだよーアイズ、笑うなんて珍しいな?』

 

私と目が合ったししょー。ニッと笑って指摘されて、私は自分の頬が緩んだことを自覚する。最近はゼノスの事で気に病んでいたからか、久しぶりな気がした。

 

「うん。ししょー達、面白いよ?」

『ははは、有難う存じます。さて、一応確認しておくけど、誰も怪我人とかいないよな?』

 

ししょーの一言でみんなは点検を始め、ものの数分で万全である事がわかった。そして、彼らもやって来た。

 

「ハルプ、妖夢。準備は整っている」

「ハルっち、悪いな俺達のために」

 

ゼノスだ。

 

アダマンタイトを一切惜しまず使われた鎧に身を包んでいる。手に持つシミターも純アダマンタイト製なのかな?はっきり言って、私達遠征隊の上位に位置する装備だ。

 

「ん、これか?これはな、ハルっちに作ってもらったんだぜ!」

 

私の視線に気がついたのか、リザードマン・・・・・・確か、リド、は誇らしげ?に説明してくれる。ししょー、鍛冶も出来たんだ。本当に凄いね。

 

『おいー、秘密だろそれー』

「あ、そうだったか?」

「はぁ全く、早く行くぞ」

 

ラーニェと呼ばれたのはアラクネのゼノスだ。『よっと』とその上にししょーが乗る。講義するアラクネにじゃれ付きながら運んでもらうようだ。ししょーは疲れないんじゃなかったかな?

 

「ハルプ、ズルイです。私も乗ります」

「なっ!待て妖夢、私は元から許可など出していない!」

「私は、ダメ・・・ですか?」

「うぅ・・・はぁ仕方ない。いいぞ、乗れ」

「『わーい!』」

 

・・・・・こうして見ると、子供なのにあんなに強い。私の脳裏に昨日のししょーの言葉が蘇る。

 

「モンスターと、変わらない・・・」

「ん?どうしたのアイズ」

「ん、何でもないよ」

「アイズ?」

 

私はまだ、立ち直れそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うい!俺です、ハルプでーす!今はなんと37階層!いやぁ、敵の歯ごたえも多少は上がり、とても楽しいですはい。

今宵の楼観剣は血に飢えておるわ。

 

「─────────!」

 

ウダイオスさんです。帰りに復活すると面倒いので、可能性操って出てくるようにしました。出てきました。以上。

 

「あの、ハルプ」

『何かな妖夢』

「えっ、あの・・・・・もしかしてこれは胴体の魔石は狙ってはいけないお約束的なあれですか?」

『いや?動くから当てにくいだけだろ多分』

「・・・・・えっと、無明三段突きお願いできます?」

『余裕のよっちゃんですね』

 

そうなんだよなぁ、弱点丸出しなんだよねぇ。鮭跳びでウダイオスの真後ろに回り込む。ぐっと姿勢を落とし、加速する。

 

『────一歩、音超え』

 

1歩目で音を超える。使う武器は戦争遊戯の時に余ってた槍です。刃があって振り回して戦えるなら剣、いいね?

 

『2歩無間』

 

1歩目から3歩目まで、全ての音が重なるほどの速度で突っこむ!ダメージは気にしないです!

 

『3歩絶刀────!』

「─────!!」

 

ウダイオスは威嚇をしている。俺ではなく、妖夢に。

 

『無明三段突き!!!』

 

 

 

 

 

あれから更に下に下がる。

 

『いやぁ、強敵でしたね』

「一撃だったよ・・・?」

『この俺様に一撃必殺を使わせたのだから、強敵なのさ』

「頻繁に使われてますよね、ハルプ殿」

『あれ?そう考えると皆強敵じゃね?やべーわー、つれぇーわー』

「ふぅ、なかなか、疲れてきたな」

 

あぁ、そうだ。俺は疲れないけど、みんなは疲れるんだった。ここまで潜ってくるのは初めてだし、疲れるのは仕方ない。周りを見渡せば、命も千草も桜花も疲れた顔をしている。

 

『みんな、五十階層まではあと少しだ。頑張れー』

 

ラー二ェの上から言うだけ。おい、ティオナヒリュテ殿、何故そのように羨ましそうな目でこちらを見ていらっしゃる?ダメだよ?乗せないよ?

 

バロールを倒した辺りからは他のファミリアに戦闘は任せている。そしてそこにちゃっかりタケミカヅチ・ファミリアも入ってる。縮地のお陰で速度だけなら余裕で付いていけるからなぁ、桜花達。ま、問題はステイタスが足りないのと武器が弱いのとでダメージがほぼ入らなかった事か。

 

だけど、ダメージが入らないと見るやすぐ様魔法を使い始めた。皆知らない間に相当強くなっていて驚いたぜ。

 

桜花は他の俺から目ん玉もらったせいなのか、危険察知能力がとんでもないくらいに上がっている。20体ほどのモンスターに囲まれたのに、傷一つ負わずに凌ぎ、凌ぎながら詠唱を完了させて雷で薙ぎ払ってた。文句を言うと、モンスターが現れるのわかったなら突っ込まないで欲しい!!死んだらどうすんの!?泣くぞコラァ!

 

命も並列詠唱をいつの間にかものにしていて、詠唱しながら戦っていた。んでもって足りない火力を補う為なのか、縮地で天井に着地、からの天井を蹴り飛ばし急速落下。そこで布都御魂剣を発動。範囲を狭める方法を見つけたのか、命を包み込む程度のサイズになっていた。光の剣と一体化したように命が超加速しながら突撃し、モンスターをぶち抜いていた。ただ、見ていてとても心配だったよ・・・・・・。あれ一歩間違えたら死ぬよね!?止めろよ命!!

 

千草も凄かった。どうやってるのかわからないけど、初めて見るはずのモンスターなのに一撃で魔石を撃ち抜いていた。一射確殺でバッタバッタと射抜いていく様はとてもカッコよかった。しかも矢が変態軌道を描くお陰で前衛が居ようと関係なし。面倒な魔物から魔石を射抜かれて死んでいく。不安にならないって素敵。流石千草!さすちぐ!

 

ベート達も流石の高レベルって感じで安定した戦いだった。派手さは無かったけど、皆にも見習って欲しかったね。率先して突っ込んでいくタケミカヅチ・ファミリアの面々に唖然としてたけど・・・・・・仕方ないんだ、戦は華だから・・・・・・。

 

ただ・・・・・・アイズが心配だ。突っ走って行く癖に、刃が鈍い。反応が一瞬遅れてるんだ。千草が全力でフォローしていたから良かったけど、下手を打ったらダメージを受けてたぜ。

まだ、気にしてるんだろうなぁ。

 

アイズが間違えてリド達を斬らないようにする為にアダマンタイトの武具を付けてもらったけど、今の所は大丈夫なようだ。

 

「ハルプ、暇ですッ!」

『いや、俺は暇じゃないよ?思い返すだけでソワソワとした気持ちが止まらないよ?暇が欲しいですよ?』

「なるほど・・・・・・ならば食らえ!感覚共有ー!」

『の、のわぁー!────あー、暇だわー。ってなるかぁ!!』

「う、うぅ、とても心配になってきました!命の技怖すぎますぅ!」

『暇じゃなくなって良かったね!?』

 

最近の妖夢は何だかんだ言いながら俺にくっついてくる。可愛い。しかし、俺だ。はっ!・・・俺は、ナルシストだった・・・・・・?(今更感)

ラーニェの上でも俺の隣に座ってるし、手を握ってくるし。チラッ、って見ると「なんですか?」って顔を覗き込んでくる。可愛い。

 

「ジー」

 

え、なんすか妖夢さん。なんでそんなにガン見してくるんですか?え、なに?マジで何?なにか付いてる?あ、もしかして体から剣とか餅とかはみ出て来てる?容量限界来てる?

 

「えへへー」

 

上目遣いでガン見からの照れ笑いだとぉ!?コフッ!!・・・・・・何なのだこれは、一体、どうすればいいのだ!!思わず半霊に戻っちゃったぜおい!

 

──笑えばいいと思うよ☆

 

はっ!?こ、この嫌らしくも憎たらしく無駄に爽やかで胸糞悪いゴミの様、あゴミに失礼か(大声)、な声はっ!!

 

──そう、僕だよっ☆

 

うぜぇええええええええ!罵詈雑言並べたつもりなのにスルーするあたりがうぜぇええええええええ!!

 

──うざいうざいも好きのうち・・・・・・僕だよ☆

 

いや、無いから(断言)

 

──久しぶりだね。

 

だな。ところで、僕って使うなよって話したよね?何使ってるの?死ぬの?

 

──あ、そうだった。コホン。改めて・・・・・・儂じゃよ♡

 

オロロロロロロロロロロロロロ!なんだこれ、なんだこれ・・・・・・死にたい。これが俺の大元ってんだから最悪だ。最早消滅したい。

見たくないわー、話したくないわー、黒歴史のノートが話し出して、つらつらとポエムを母親に聞かせていくかのような気分だわー。

 

──まぁまぁ。自虐はそこまでにしたまえ。

 

お前のせいでこうなってんだよなぁ。で?何のようだよ、駄神。まさか、もう回収しに来たよー、とかそういうオチ?

 

──まっさかー。君は儂の願いを叶えてくれた。だから、この世界に現界していられる間は好きにしていい。儂が来た理由は君を褒めるためだ。

 

褒めるぅ?うげぇー、気持ち悪い。自分に褒められるとか死ぬわ。カッコイイ必殺技を自分で考えて褒めちぎるくらい恥ずかしいわ。

 

──んー、確かに。じゃあ、お礼をしよう。

 

御礼ぃ?信用できねー。

 

──ありがとう。お陰で、俺は漸く目的を果たせる。

 

急に真剣だな。その目的ってのは何なんだ?

 

──・・・・・・俺の目的は家族の救済。俺の能力のせいで死んだ家族の蘇生、いや、やり直しか。

 

!!

 

──能力でどうにでもなると、俺は思ってたさ。けど・・・・・・このザマだ。神に上り詰めたせいで、俺は【英雄】になれなくなった。

 

お、おう・・・・・・英雄ねぇ。

 

──英雄で無ければ0と100を変えることは出来ない。神になれば全部いけると楽観視した俺の落ち度だった。

 

いや、神になることを楽観視とは言わねーよ普通。つか、駄神の言う英雄ってどんなヤツなの?俺はなれたんだろ?

 

──うん。君は英雄だ。定められてしまった運命を変えた魂。それが俺の求めた英雄さ。

 

へー。でもあれだぞ?俺お前に魂あげるつもりないからね?

 

──あぁ、平気だよ。()が英雄になったのだから、俺にもその可能性が発現する。

 

えーっと、つまり自分で何とかするってことか。

 

──うん。

 

・・・・・・もしかして、それ言いに来ただけ?

 

──yes

 

お前・・・・・・俺と妖夢の時間を返せ

 

──安心せよ、ワシが時を止めた

 

「ハルプー?おーい!起動してくださーい」

 

止まってねぇーじゃん!!

・・・・・・ってもう居ねぇ!?

 

『あ、あぁうん。起動したよー』

「急にどうしちゃったんです?」

『ちょっとエヘヘの破壊力があり過ぎて成仏しかけたわ』

「みょん!?ご、ごごごごめんなさい!消えちゃ嫌ですー!」

『はいはい、わかってるわかってる』

 

・・・・・・駄神との関係は終わるのだろうか。まぁ、その方がいいんだろうけども。

 

 

 

 

「あぁ、来たのか。でも、もう少し待ってくれよ。君の行く末を暫く見ていたいんだ。・・・・・・ありがとう」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

90話『アイズ!?つ、潰れりゅ!?』

お久しぶりです。シフシフですよ!
お待たせしましたー!・・・・・・待ってる人は居たのだろうか?

進学云々でリアルが大変でした。あとは、友人とのバトフィの分隊が楽しすぎたのが悪い。
しかし進学先も決まり、最早後顧の憂いはないのです。

さて今回のタイトル、大分ほのぼのの雰囲気がしておりますが・・・・・・すまない、シリアスなんだ。ほのぼのも有りますよ?合間合間に。

あともう少しで完結ですので、もう暫くお付き合い頂けると幸いです!





「──────────見付けました」

 

女性は鈴のような声でそう言った。銀の長髪を靡かせ、その手には桜の紋様が刻まれた刀。

片目には黒い眼帯を付け、その青く、清い隻眼は鋭く目の前の破滅を見据えていた。

 

「あなたを飛ばせる訳には行きません。また、繰り返す事になる。数多の私達が繰り返した結末を」

 

破滅は首をもたげ、赤い瞳がその青い隻眼を見返した。

その破滅もまた隻眼。

 

「私が観てきた未来を。故に」

 

過去に英雄とでも呼ぶべき人類らの意地が貫いた片目、完全に潰れたその目は今も尚、当時のままに壊れている。

 

「───その翼、斬らせていただきます」

 

赤と青。隻眼は─────駆ける(飛翔)

 

片やオラリオ二大ファミリアを壊滅させた怪物。

片や古今東西の誰もが成し遂げていないレベル8の到達者。

 

その戦いの衝撃は、世界を僅かに揺らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駄神との会話を終えた俺は、妖夢や命と話しながら下へ下へと進んでいく。一先ず五十階層まで進む。五十階層はセーフティーエリアなのでモンスターは湧かないからだな。

 

「あと少しだね」

「えぇ。あと、地上が心配です」

「そうだな、何も無ければいいが」

 

桜花達がそんな話をしている。ちなみに千草もラーニェの背中に乗り、寛いでいた。初めは遠慮していたけどな。

 

けど俺は何か、引っ掛かりを感じていた。何だったかわからないが、大変である事はわかる。

顔ではニコニコと笑い、皆の話に頷く。当然だが話しは聞いているし、時折返事も返すのだ。命が繰り広げる春姫の会話は聞いていて楽しいし、命のタケミカヅチ自慢は微笑ましい。

 

だからこっそりと可能性を調べ続けていた。妖夢は霊力が減る事でそれに気が付いたのか、「心配」だ、と感情を俺に送り付けて来ている。

紫が来る可能性はまだ低い。俺が消えてしまう可能性は80%から変化無し。この場にいる人たちの死ぬ可能性は一番高くて10%も無い。

 

何が起こるんだ・・・・・・?

 

「そろそろ五十階層だ!みんな警戒を怠るな!」

 

五十階に入ってしまえば安全だ。だからそこまでの道は尚更警戒しなくては行けない。

意識を周囲に向けて、気を取り直す。

 

『あとは能力使いまくって捜索だな。妖夢、相当負担になるけど、いいか?』

「はい。好きに使ってください。あっ、でも動けなくなるまでは使わないでくださいね!」

『わかってるよそんくらい』

 

妖夢と軽くやり取りをしながらラーニェの上から飛び降りる。そんで妖夢に手を差し出せば妖夢も手を取って下りてくる。

 

「まずは拠点の設置ですよね」

『おう。んー、俺はとりあえず先に探してくるよ』

「えー、じゃあ私も行きたいです!」

『えー、俺1人じゃないと壁抜けが・・・・・・』

「壁なんてぶった斬りましょ!」

『その手があったか』

 

やだこの娘脳筋。

私はそんな子に育てた覚えはありません!

あと。妖夢さん?腕に抱き着くのはなぜ?

 

「ハルプは私の物です、と言うアピールですよ」

『ん?俺が妖夢の物なのは当然だろ、何を今更言ってるのさ』

「みょーん、恥ずかしげも無く・・・・・・。そう言う事ではなくですね他の人がハルプを狙っているかも知れないですから布石を」

『いやー、狙われるのはお前だと思うよ?俺』

 

え、ならギューッっとしてください?何でさ。

あぁ、うむ。そうね、はい。確かに取られたら嫌だな。凄い嫌だ。・・・・・・考えれば考えるほど嫌だな!

 

『ギュー!これでいいか?』

「はい!OKです!じゃあ、暫くこのままでー」

『いや、時間があんまりないからね?急ぐぞ』

「みょーん、そんなぁ」

 

すまぬ妖夢。俺だってそうしていたいのだよ。また後でな。

 

「「「キマシタワー」」」

「おい、何をしてるんだお前ら。早く準備しろ」

 

・・・・・・ナイス桜花。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから大体1週間ほど経っただろうか。俺達は少しづつ階層を上に上げていき、隠れ里を見つける度に拠点をそこに移動させ、地上へと近づいていた。

 

『・・・・・・』

 

けど、俺は未だに違和感が拭えなかった。

すでに30匹程のゼノスを保護し、探索は順調だった。

 

「あの、ハルプ・・・・・・何か困っているなら私に相談してくださいよ?」

『あぁ、わかってる。けど、なぁ、説明出来ないんだよなぁ』

 

チラリと視線を向ければ不安そうな顔の妖夢。そしてその後に同じような顔をした命や千草の姿が。

顔に出ていたのかも・・・・・・俺が不安にしてどうするんだよ全く。

 

「おい、ハルプ。こっちに居たのか」

 

べートだ。片耳を畳んだまま、こっちに来た。

 

『どうした?』

「あー、なんだ。ちょっと来て欲しいんだが・・・・・・」

 

非常にバツが悪そうに頭を掻く。尻尾も揺れてない。

俺と妖夢達で顔を見合わせ、とりあえず行ってみることにした。

 

「あっ、私もいいですか?」

「・・・・・・わかんねぇ、とりあえず来てくれ」

 

わかんねえしか言わないな、男ってみんなそんなもんだよな!

んー、誰かが呼んでるんだろうけど、誰かな。フィン、はちゃんと説明してくれるだろうからバツが悪そうにはならないかー。

 

「ハルプハルプ、どう思います?」

『ん?どうって?』

 

妖夢が小声で、尚且つワクワクした顔で俺に尋ねてくる。

 

「ほら、もしかしたらもしかするかも知れませんよ!」

『んー?』

 

何のことだ・・・・・・?わがんね。能力使うっぺよ。

────

ふぁ!?いやいやいや、告白される訳ねーだろ妖夢さん!何を考えていらっしゃるの!?

 

『ないないない!と言うか、告白されたらされたでどうするんだよ?(小声)』

 

お父さん、許しませんよ!その若さでお付き合いなんて!

 

「みょん?みょーん・・・・・・みょん?」

『考えてなかったんかい!!』

「みょん!?」

 

こてんと首をかしげた後目が点になる妖夢に思わずツッコミを入れる。

もうみょんしか言えないようにしてやろうか!!

 

え?それは嫌だ?・・・・・・まぁ許してやろう(上から目線)

 

「おい、お前ら。着いたぞ」

「『みょん!』」

「は?」

『すまん、何でもない』

 

おっと、着いたようだ。・・・・・・テントだね。誰の?べートの?え、連れ込む気かな!ヤベェ、刀研がなきゃ。去勢しなきゃ。

 

「お、おい、なんだ?なんか全身の毛が逆立つんだが!?なんかやばい事考えてんだろハルプ!」

『・・・・・・去勢?』

「ヒッ、やめろ!何でそうなるんだ!」

『べートのエッチ、変態』

「なんでだ!?」

 

いや、特に理由は無いっす。能力使ったらどうやら、そういう事をいたすつもりでは無いらしいし。まぁ、1%未満ではあるが可能性があるからなー、一応警戒。

 

『HAHAHA冗談冗談』

「わ、笑えねえよ・・・・・・」

「むー、ずるいですハルプ!私もお話ししたいですよ!」

『おっと、すまぬ。この場は譲ろうぞよ』

「わーい」

 

んで?このテントは?って聞こうと思ったら布が擦れるような音と共に、中からアイズが出てきた。

アイズかー、アイズだよなぁー。うん、能力使うべ!

 

「・・・・・・べート、ありがと」

「──おう、んじゃ、俺は帰るわ」

「みょん!?私とのお話は!?」

「また後でな」

「そんなー!」

 

───さて。なるほどね?アイズがしたい事も分かったが、うーん、どないしようか!正直、倒していいのか、倒してはいけないのか分からんなぁ。

 

「あの、ししょー『分かってるよ』!?」

『わかってる。だからほら─────』

 

召喚した白楼剣を抜く。迷いは断った。よもやこの太刀筋に狂いは無い。

 

『胸、貸してやる───!』

「───うん!」

 

 

 

 

 

 

 

「え、え?な、なに、え?何が起きているんですか!?あの!あのー!私にも説明を下さーい!」

 

どうも!妖夢ですよ!何と今、戦闘が勃発しそうな雰囲気です!

べートからの告白か!っと思っていたらまさかの戦闘です。しかもアイズと。

 

何でですか!?

 

「ハーループー!教えてくださーいー!」

『あぁもう分かったから引っ張らないでくれよー、ほれみょんみょんみょん・・・・・・』

「みょんみょんみょん受信中、受信中・・・・・・」

 

なるほどぉ。

アイズはハルプの能力によって異端児を受け入れたものの、記憶や体験から本当に受け入れていいのか迷っている、と。

ウィーネを切ったりしてしまったらしいですね。うーむ、ごめんなさいウィーネとアイズ。

これに関しては私達が悪いですからね。

 

まぁそれで、アイズはハルプと戦って気持ちに整理をつけさせるつもりのようですね。

むむむ?でもこれって負け確定の負けイベントですよね、ハルプを倒せるのは私かタケか桜花だけですし。

 

「──────行くよ」

『─────何処からでもどうぞ?お嬢さん』

 

武器を構えたアイズが腰を落とし、ハルプが不敵にニヤリと笑う。ふっ、私の外見ながらカッコイイ顔ですね!私はあんなふうにカッコつかないですから残念です。・・・・・・ハルプから、イラ付きを感じます。能力を使ったのか霊力も減りました。何が悪い可能性でも見たのでしょうか・・・・・・。

 

「ッ───!!」

 

地面を蹴ったアイズが加速する。

流石にステイタスが違いますね。場所は一応、皆さんに迷惑が掛からないように拠点から離れた場所ですので、好き勝手暴れられるというものです。

 

アイズは直線的に突撃する訳では無いようで、走りながらもやや左右に揺れて体を固定しません。突きなどを警戒した動きという事でしょう。

 

「はぁ!」

『─ハハッ』

「っ!?」

 

大した妨害もなく、アイズがハルプの眼前へ。しかし、ハルプが笑うと同時に、アイズの攻撃が()()()。まるで始めから別の場所を狙っていたかのように、ハルプとは違う場所を斬撃が通り破壊する。

 

「ならっ、これで!」

 

うーん、アイズの連撃が襲いかかってますが、当たりそうにありませんね。全部掠りもせずに空ぶって壁や床を破壊するばかりです。

恐らくはハルプが『当たらない可能性』とかそんな感じの可能性を操っているのでしょう。引き上げる場合は80%までのはずですから、5分の1の確率で当たる筈なんですけどね・・・・・・。

 

うわわ、私の霊力がいきなり結構持ってかれたんですけど!?何が起きてるんです?

 

『ほらほら、頑張らないと、怪物は待っててはくれないんだぜ?』

 

あ、あれれー?ハルプさーん!なんかノリノリではありませんか?なんか、並行世界から沢山武器持ってきますけどー、え?ゲート・おぶ・ハンレイ?何ですかその語呂の悪さは・・・・・・。

 

『くらえー、当たれば痛いぞ!・・・・・・多分な!』

「──────っ!」

 

うわー、酷い。弾幕ごっこってこれより数多いんですよね?・・・・・・私、少しだけ将来が怖くなってきましたよー。というか、突然武器が現れて飛んでいくとか、オリジナルより恐ろしいんですけど?王様の方は少なくとも撃たれるまでに武器は見えたのに・・・・・・。

こうなったらアイズを応援です!チート野郎を倒せー!アイズ頑張れー!おお!すごい凄い!凄いですよアイズ!あれだけの攻撃を弾いたり避けたりしながら一気に距離を詰めました!

 

「やっとッ!届いた───!」

『はぁ?何言ってんだ』

「─────えっ?」

 

ハルプまで僅か1歩と言う距離まで迫った時、途端にその距離は離される。地面がボロボロで良くわかりませんが、恐らくは始めの位置まで戻っていますね。

霊力、霊力が持ってかれますぅ・・・・・・!もう少し加減を!加減をぉー!

・・・・・・ん?あの手に持っているのは白楼剣!?加減なんて斬り捨ててる!?

 

「遠い・・・・・・でも、私は、知りたい」

『何を?』

「どうしてししょーはそんなに強いの?なんでモンスターを庇えるの?私はモンスターと同じ見た目の異端児を見るとどうしても怖くなる。・・・・・・どうして、かな」

 

──むむむ、なんだかいきなり難しい事を言い始めましたよ。

なぜ庇えるのか、ですか。

 

ふむ・・・・・・私からすれば外見が恐ろしいのは半ば当然でしたからね、むしろモンスター話さないものと言う認識に驚きました。確かに低級の妖怪も話せない子はいますが、要するに異端児は妖怪で言うところの中級とか上級なのです。

 

言葉が通じ、対話が可能性なのなら、それが助けを求めているなら・・・・・・助けるのが当然だと、私は思います。

 

が、これはアイズが求めている答えでは無いでしょう。

 

ハルプは、なんと答えるでしょうか。少し、いえ、とても気になります。

 

『言ったって解らないと思うけど?それでも知りたいのか?』

「・・・・・・うん」

 

ハルプが眉間に皺を寄せてそれを揉みほぐす。そして腕を組む。

なんだか考え込んでいますね。わからせる方法を探しているのでしょうか。

 

『お前にも、家族って奴があっただろう?』

 

開口一番、ハルプはそう言います。

ハルプの「家族」という物に関する執着を私は知っている。魂から滲み出すように溢れているのです。タケを、命を、千草を、桜花を、そして私を守ろうという意思。

 

その中に、異端児(彼ら)も入っているのでしょうか?

 

「家族?」

『あぁ、家族だ。誰よりも心を許せて、誰よりも失いたくない存在。・・・・・・何よりも大切な者達。俺にはそれが()()()()。記憶にあったそれらは全部が本物で、けれど偽物だった。家族は俺を知らず、俺は家族を知らなかった』

 

白楼剣を握る力が強まり・・・・・・白楼剣が消えていく。辺りに散らばった武器も消えていきます。ハルプが戦闘態勢を解除しました。

 

『だけど、俺はこの世界で・・・・・・俺を家族と呼んでくれる人達に出会った。それがタケ達だ。どこから来たのかも解らず、無茶をしでかすし意味不明なことを言うし、訳分からん行動だってする俺を、受け入れてくれたんだ。・・・・・・家族に血は関係ない。家族に記憶は関係ない。家族に外見は関係ない。壁は、要らない。───俺はそう言った、タケもそれを認めた』

 

自分の手を見て、声を震わせる。

 

『・・・・・・それなのに、俺は勝手に壁を作った。自分は人じゃ無いから。自分は生きていないから。自分には「自分」が無いから。・・・・・・俺は逃げた。痛みを無視して痛くないふりして、そして出会ったんだ』

 

震えが消える。微かに伏せられていた顔が上を向く。

 

『異端児は俺を受け入れた。刀を向けて、斬り捨てようと血走った目を向けた俺を・・・・・・。俺を仲間だと言ってくれた、彼らは家族だ。ダンジョンと言う母胎から産まれた家族。そこの中に俺を入れてくれた』

 

その目には優しさと決意が見て取れます。

 

『・・・・・・だから庇うんだ。だから守るんだ。だから、戦うんだ』

 

目が鋭く変わり、手に楼観剣が現れていく。

 

『─────アイズ。もしも、お前が異端児を殺すと言うのなら、お前が異端児を傷付け痛め付けるというのなら────俺はお前の首を刎ねる』

 

・・・・・・ハルプ?

ハルプの周りが歪んで見える。可能性を操っているのでしょうか?

 

「私の、家族は・・・・・・」

 

アイズが沈痛な面持ちになって、ハルプと同じように手を見る。

 

『そこに異端児は関係ない。異端児は人類の味方だ。寄り添っていける隣人だ。分かってくれ、アイズ』

「・・・・・無理、だよ。頭では理解していても、心が、否定する」

『じゃあ、なんで俺は受け入れたんだ?』

「それは・・・・・・」

『外見が人だからか?言っておくが俺は人じゃない。考え方や感性すら人とはズレている。お前は化け物を師匠と仰ぎながら、その化け物の家族は化け物だからと殺すのか?戦う意思のない者達をその手に入れた力で、暴力で薙ぎ払って、何が変わるんだ』

 

うわ、うわわ、段々低い声になってますよハルプぅ!

 

みょぉん!?

 

ひ、罅が!不味いですよハルプ!ど、どうか安静に!!もう、魂欠片しか無いんですから!暴走したら止められませんよ!!

 

『お前と、お前が憎むモンスターの何が違うんだ?』

「っ!」

『一方的に家族を奪っていったモンスターと、何が違うんだ?』

「そ、それ、は」

 

狼狽えるアイズが、1歩後ろに下がりました。

その額には玉のような汗が浮かび、青ざめた顔は過去を思い出してのことでしょうか。

 

『────アイズ、お前は人間だ』

 

ハルプが退るアイズを追いかけるように少しづつ前進する。その目は真剣そのもので、何よりも鋭く感じさせる。まさに、斬り込む寸前。

 

『お前には理性があって、知性があって、何かを受け入れることの出来る心がある人間だ!』

 

青ざめたアイズは更に1歩、また1歩と退がります。

 

『アイズ』

「っ!!」

 

アイズの背中が壁にぶつかる。ハルプがそこにつめよる。

すると、グニャり、とハルプの体が歪み、黒い肌が露出する。

 

あの時の、あの姿になろうとしているのでしょう。

 

「は、は、はっ・・・・・・!」

 

恐怖のせいか、短くか細い息。見開かれた目。

 

 

『許してくれ。俺はお前に───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────悪夢を見せる』

 

 

 

 

2mを超える巨体が、アイズを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────夢を見た。

 

 

金髪の少女と女性がいる。

 

 

ああ、この瞬間を私は知っている。

 

 

目の前にいるのが誰か、私は知っている。

 

 

見たくない。見たくない。見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない見たくない!!

 

 

がしり、と突然肩を掴まれる。

 

 

振り払おうとしてもそれは振り払えない。これは、恐怖だ。

 

 

目をつぶる。

 

 

悲鳴が聞こえる。破壊される音がする。何がが壊れる音がする。

 

 

聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない無い。聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない!!!

 

 

どれだけ必死に耳を塞いでも、どれだけ大声をあげてかき消そうとしても、女の子の泣き声だけが耳から離れてはくれない。

 

 

心の底から叫んだ。

 

 

あらん限りの力を込めて叫んだ。

 

 

止めてくれとあらゆる感情をねじ込んで喚いた。

 

 

泣き声が消える。

 

 

ゆっくりと目を開ける。

 

 

少女はもう、泣いていなかった。

 

 

ぶかぶかの鎧を着込み、大き過ぎる剣を両手で持って、心を空にして立っていた。

 

 

違う。

 

まだ、泣いている。

 

心の底では泣いている。

 

でも、それを誰も知らない。知っていても詮索をしない。私が話すまで、ずっと待っていてくれている。

 

私は話さない。

 

ただただ同じことを考えていた。ただ、強くなる事を望んでいた。

 

それを誰も咎めない。止めない。注意はしても対立はしない。

 

自暴自棄になったようにダンジョンに突撃し、死にものぐるいに強さを求め、ファミリアに何度も何度も迷惑をかけて、その度に謝りながらも、心のどこかで反省はしていなくって・・・・・・。

 

 

なのに、私の周りには仲間が集まっていた。ファミリアとは家族だと豪語する神様が居た。

 

 

 

 

 

 

────気付けば私は一人じゃなかった。

 

 

 

 

 

 

『家族、いるじゃんか。なんで即答しないんだよバーカ』

 

目から流れ落ちる涙も拭かずに振り返る。そこには不貞腐れたように床を蹴るししょー。

目を合わせるとべーと舌を出してくる。

 

『・・・・・・いま、お前が見ている人達がお前にとっての家族ってやつなんだよ。太陽みたいにポカポカだろ?』

 

家族。その言葉の暖かみを私は意識した事が無かった。本当に、太陽みたいに暖かい。

 

『過去を見ていても何も変わらない。前を向いて、今と未来を見てればいい』

 

ししょーが微笑みながら、私に手を伸ばす。ししょーの後ろには黒い巨人。その深い黒がししょーが人間ではないと深く理解させてくる。

 

 

 

もう、恐怖は無かった。強迫観念は無かった。

 

 

 

この手を取ることが、私の、過去との決別への一歩になるのだろう。

 

 

 

『──歩こう(行こう)、アイズ。人は立ち止まらなけりゃ何処へだって行けるんだ。過去の事を水に流せなんて言わない。だから、まっずい過去は旨いじゃが丸くんと一緒に食っちまえばいい!』

「──うん!」

 

 

万感の思いを込めて頷く。1歩、また1歩と進んで、その手を握る。

ししょーの目が細められ、嬉しそうに笑う。

 

────────。

 

 

ふと、女性の声が耳を打つ。

声に従い、振り向けばそこには・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「お母、さん?」

 

 

 

 

 

 

微笑みを浮かべた私の両親が、肩を抱き合いながら手を振っていた。

 

涙が、また、溢れ出す。

 

「お父、さん。・・・・・・うん、行って、くる!」

 

黒い腕が私とししょーを包み込み────

 

 

 

────目が覚める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アイズー、起きろー。ほれ、手ー使いな』

 

寝ぼけているのかぼーっとしているアイズに手を差し伸べる。

すると、ビックリするぐらい可愛い微笑みと一緒に俺の手を握り、上体を起こそうとする。のですが、あっし、今アイズさんに見とれてたせいで力入らなかったんすよ。

という訳で『ぬわ!?』とアイズのお腹にストン!

 

「ありがとう、ししょー」

『ほふいはひまひて(どういたしまして)』

 

なして抱き締める?俺は抱き枕ではないのよ?

ひっ!?よよよ妖夢さん!?え、なに!?布石が意味なかった!?

どいうこと・・・・・・あのっおやめ下さい!!そのなんとも言えねぇ恐ろしいヤンデレオーラをしまって!!やだぁ!俺はヤンデレの妖夢なんて認めないぞー!

 

「うぅーー私も混ざりますぅーー!!人に心配かけて許しませんからねハルプ!これからはお風呂もおトイレも一緒に行く事っ!夜凄く怖いんですからねっ!逃げたら許しませんよ!?分かりましたかーー!?」

『ふぎゅう!?た、たしゅけて!あいじゅの胸当てがいだい!』

 

ぐぁああ!?妖夢まで飛び込んできた!?

 

ん?俺幽霊じゃん。痛み感じねぇわ。

 

「2人とも、可愛い」

『アイズ!?つ、潰れりゅ!?』

 

ぐぅ!?ま、不味いです!やめろアイズぅ!中の物が出ちゃう!!武器とかお金とかご飯とかその他もろもろが出てくるぅ?!

 

「いいですか!?良いって言いってください!!」

『分かった!分かったから!言いから!行くから!!』

 

なんでこうなるんだ!?もっとこう、シリアスな終わり方は出来ないのか!?

うう、まぁ、一件落着ということで早くフェードアウトすれば何とか・・・・・・

 

『って、終われるかぁあ!HA☆NA☆SE!』

「そんなの次の話に任せましょう!」

『なんてことを仰るのです妖夢さん!?くっ、助けてくれ!べートぉおおお!』

 

あれ?よく考えれば美女と美少女・・・・・・美幼女?に上下挟まれてるとか天国じゃね?当たってるの鎧とまな板だけど。硬ってーなぁ(嘲笑)。

ふぐぅ!?肘打ち!?あっ、ちょ、俺の饅頭がどっか吹っ飛んだんですけど・・・・・・。

 

い、いやぁ〜今日も、オラリオは平和ですね(満面の笑み)

 

痛い!!妖夢痛い、やめて!あっ、ちょっ、そこは殴ったらアカンところ!やめ、やめろぉおおおおお!!!

 

「鉄拳、制裁!!」

『くわらばーーーーー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





と、いうわけでアイズ編?的なのは軽く、終わらせてしまいました。
一体全体、ハルプは何の可能性を操りまくっていたのか・・・・・。

残念な事に、ハルプ君には自分の能力を万全に使うだけの技能はありませんし、アイズを説得するコミュ力も無かったので・・・・・・なんか、こんな感じに?
どうでしたか?久しぶりの小説だったもので、なんだか・・・・・・うん。みたいな感じです。
アイズの話に関しては捏造だらけです。詳しくは知らないんだ・・・・・・いいかい?これは平行世界だ。むつかしく考えてはいけないよ。啓蒙を高めるんだ・・・・・・!


り、リハビリをしなくては・・・・・・!

オリ小説でも書くか・・・・・・。
いや、脱線するフラグですわ。やめよう。せめてこちらを終わらせてからにしよう。そうしよう。

お久しぶりの皆様、コメントお願いします!私に、養分を!(媚び)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

91話『馬鹿な、学習・・・・・・だと!?』

もうすぐで終了なのです。

最後までお付き合い下さい。あと、最後の方にオリジナル展開があります(今更感)


やぁ、酷い目にあったハルプだぜ。

まぁしかし?簡単には転ばないハルプさんは妖夢にしっかりと「お返し」しましたからご安心を。

 

え?妖夢?妖夢なら俺の隣で寝てるよ。・・・・・・気絶してるね、うん。

何をしたのかと言うと、まぁくすぐり地獄を味あわせてやった。後悔はしていない。

 

・・・・・・途中で感覚共有されて俺も地獄を見たぜ・・・・・・思い出すだけで口元が笑っちまう。

しかし肺活量無限の俺に隙は無かった。んで、先に根負けした妖夢がぶっ倒れたわけだ。妖夢は脇と足の裏が弱すぎる。

 

え、アイズはどうしたのかって?アイズなら俺の隣りで寝てるよ。

 

知らん間にな!

 

いつの間にか寝てるよ・・・。2人を回収して帰らなきゃなぁ。

 

────ピキ。

 

む?壁にヒビが?

 

あっ、そうか、ここセーフティエリアでも無いし、普通の階層なんだ。モンスターくらい湧くよネ!

いやいや!もしやゼノスの可能性も有りますかもよ?ワクワク、ワクワク。

 

「キシャェエエエエエエエ」

『キャァァァァァァシャベッテナーイー!』

 

現れたよくわからんモンスターを即瞬殺。仕方ないね。

よーし、2人を引き摺って帰るぞー。

 

ん?しかし待てよ、俺。思い出すんだ男の俺!

今の状況を見てみろ、俺。美女と美幼女が並んで寝てるんやで。据え膳だよ据え膳。くっくっく、もう2人ともあられのない姿は見ちゃってるんだよなぁ、別に脱がしたところでっていう。

 

『よっこらしょ』

 

右肩に妖夢、左肩にアイズをのせる。

おっとと、バランス悪いなおい。うーむ、とりあえず気絶させてしまった謝礼として我が秘蔵の饅頭を贈呈しよう。ちなみに一つ500ヴァリスの高級品なんだぜ?

 

しっとりした食感に、噛むと溢れてくる餡子。粒餡もこし餡も好きなので両方用意するのです。残念な事に温かいお茶は手元にない、が、それは用意すればいい話し。

 

俺の能力って、やろうと思えばお茶会セット的なのも用意出来そうだしなぁ。万能だな!

 

「おい!ハルプ、そこに居たのか・・・ってぇ!?お、おい!アイズと妖夢はなんで気絶してんだ!?」

 

お、べート!べートじゃないか!助けてくれなかったべートじゃないか!・・・・・・助けられるわけねーけどな!

 

『あー聴くな。お前の夢を壊す事になる』

「いや、聞く。何があったんだよ」

 

ほほう、なかなか踏み込んできますね?・・・・・・はっ!ま、まさか友人から親友にクラスアップして、「隠し事は無しだぜ」まで来たってことか・・・・・・?!

な、なら仕方ないかな。うん。別に親友っていいよねとか思ってねーし。

べートになら話してもいいかなーってだけだし。というか!話しちゃいけない様な内容は無いし!

 

という訳で、限界まで神妙な顔をする。

べートもゴクリと喉を鳴らして真剣な顔になった。

 

『─────こちょこちょしてたら気絶した』

「・・・・・・は?」

『ブフォッ!ぶくくく!むりむりむり!何その情けない顔!!くくくっ、ダメだろずるいって!尻尾、尻尾ダラーんってなった!あは、あははははは!』

「てめっ、笑うな!!」

『ご、ごめん。くくっ、ひ、ひぃー!あは、くく・・・・・・ぶっ・・・・・・。ふ、ふー、ふー。OK、収まった。・・・・・・コホン。これで嘘は何も言ってないあたりが情けないね本当に』

 

べートが怒り心頭といった顔をしたあと、ふにゃりと力なく腕をだらんと下げる。

おやおや?もしや意中の人と友人に何かあったかと全力で心配していたのかな?

うんうん。わかるよその気持ち!いやぁ、気持ちの共有って素晴らしいね!

 

「おまえらなぁ・・・・・・ほら、行くぞ、みんなお前ら探してんだからよ」

 

うげ、マジか。べートのせいにしよ。

 

『えー、連れてきたのべートじゃん。俺達悪くないもんねー』

「はぁ!?おまっ!フィンに言われて戻ってみりゃあ居なかったじゃねーかテントに!」

 

・・・・・・せやね。もうあれだ、言い訳できないな。だが!ここで諦める俺じゃねー!友人との絡みはくだらないものが何だかんだ一番楽しいんだ!!

 

『みょん?』

「覚えてません。みたいな顔してんじゃねーぞ!蹴るぞ顔」

『アイズでガード安定ですね』

「それは蹴れねーな。後が怖い」

 

ほー、即答とは。熱々ですね?

 

『ほっほー?それはコッチの意味で?それとも姉妹の報復的な意味で?』

「あぁ?・・・・・・後者に決まってんだろ?」

『にひひー、隠さなくても良いのにー。全部お見通しなんだぜ?友達だからなっ!』

 

あぁ、早く地上に戻って春姫に絡みたい。絡みに行きたいのに色々と大変で絡めてないー。妖夢はそこそこ話せているらしいけど、じっくりコトコト煮込むが如く、のんびりと話は出来ていないらしい。

 

「うっせぇな、ほら行くぞ」

 

ちぇー、ノリ悪いなーべート君よ。

・・・・・・くく、悪いことを考えてしまったぜ?

 

『重いからアイズ持ってね。へいパース!』

「はっ?はぁ!?ちょちょっ、ちょ!!あっぶねぇな!気絶してんだろ?!もっと丁寧に扱え!!」

『あ、アイズに関しては寝てるだけです』

「はぁ!?」

 

いやぁ、べート弄りは楽しいなあ!

でもなぁ、今はイケメンのべートも、いずれは狼耳オジサンに変わっちまうんだもんなぁ・・・・・・時間ってやつはどうしてこうも残酷なんだぁ!

 

「・・・・・・」

『あの、べート?なんだかカチコチだぞ?体の動きとか、違和感だらけだぜ?・・・・・・あっ、察し』

「うるせえ!!ちげーよ!ちげーからな!いいな!?」

『おれ“じゅんすい”なイイコだから、なーんにもわからなかったよ?おとこのひとの身体なんて構造すら分からないよ。うん!』

 

ボク、純粋!飴を渡されたらホイホイついて行っちゃうぞ!

・・・・・・手を出したら手が無くなるぞ☆妖夢に手を出したら首が無くなるぞ☆あと、魂と存在も。

 

「てめぇな、違うつってんだろ。いいか、よく考えろ・・・・・・このまま俺達が拠点に帰ったらよ、絶対に色々言われるよな?馬鹿ゾネスとかによ。最悪気絶してる妖夢を見たらタケミカヅチ・ファミリアの奴らも食ってかかってくるに決まってる。そんで、結局俺がボコられるんだ」

『馬鹿な、学習・・・・・・だと!?』

 

あだっ!?頭殴るなよ。痛くはないけどさ、ビックリするだろ。それにしても、固くなってたのは恐怖からか。まぁ、あんなボディブローとか喰らいまくってたらそりゃぁ嫌になるよね。

 

「あー、だからギリギリまでは俺が運ぶ、そこからはお前が運んでくれ。いちいちやられるこっちの身にもなれよ」

 

おー、もしかしてこれってお願いかな?

 

『ねぇねぇべート、それってさ、俺に対するお願い?』

「あぁそ・・・・・・まて、それって回数制限とかあるのか?これに使うのはもったいねぇ気がする」

 

なんだ、違うか。

 

『んー?制限なんて決めてねーですぜ。いや待てよ?友達は10回、親友は無限、家族も無限ににしよう!』

「他人は?」

『あー、他人かー。1回?』

「そうだな。・・・・・10回か、あと何回だ?」

 

えっと、2回位しかベートのお願い聞いてないぞおれ。つまり8?

うぅ、と言うよりも!さらっと親友じゃないって言われたー!悲しい。

 

『・・・・・・8回位かな。ぷんすか!』

「そうか・・・・・なんでキレてんだよお前・・・・・・」

 

知らねーよーだっ!

それにしても、ベートは俺に何を頼むつもりなんだろうか・・・・・はっ!わかったぞぅ!アイズが振り向くように可能性弄って!とかかな!?

 

「なぁ、ハルプ」

『なぁに?』

 

にまにま。とベートの顔を見つめる。ぐふふ、どんどん顔が歪んでいくぞベートォ、明らかに頼み辛い内容だったんだなぁ?

 

「・・・・・いや、何でもねぇ。お前、表情変わりすぎだろ」

『はは、やっぱりそうだよなぁ。アイズ振り向かせて、なんて言えないよな!』

「んなもん頼まねぇわ!バカかてめぇは!ったく、早く行くぞ。途中までは運んでやるから」

『え?運ばせて下さい?いいよいいよ』

「だー!もうてめぇは一々突っかかってくんじゃねぇ?!」

『だが断る!』

 

ベートとの関わりが結構なくなるぞそんな事したら。だからヤダネ!

 

「はぁ」

『ため息つくと幸せが逃げるぞー』

「るせぇ」

 

やっぱり楽しいなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私ことヤマト・命は突如行方不明となった妖夢殿達を捜索していた。アイズ殿と一緒という事なので万が一の事は無いでしょうが、それでも心配になってしまうのが人の情というもの。

 

私は心を鎮め、スキルの範囲を限界まで拡大する。ここは34階層。私のレベルでは気を抜いたら何時死ぬかわからない場所だ。

 

すぐ後ろに千草殿と桜花殿が居ることを確認しながら、慎重に進む。

 

そうして暫く進んでいると妖夢殿の反応を捉えた。

 

「見付けました!」

「でかしたぞ命!」

「流石だね命ちゃん!」

「それほどではありません」

 

褒められるのは嬉しい事ですが、まだまだ精進が必要です。私の魔力がそれこそ無尽蔵に潤沢ならば、常日頃からこのスキルを使用して位置把握に務めるのですが・・・・・・。

 

『ただいまー』

 

少し走っていくつかの通路を抜けた先に、ハルプ殿を見付けました。・・・・・・おや?なぜベート殿が居るのでしょうか。

それに、何処か焦ったような顔をしていますね。

 

・・・・・・っ!妖夢殿とアイズ殿が背負われている!?

 

「な、何があった!?」

「ご説明を!ハルプ殿!」

「あわわわ、待ってて今みんなを呼んでくる!」

「待て!行くんじゃねぇ!!」

「ひぃう!?」

 

一人で走ろうとした千草殿をベート殿が厳しい声で止めました。そこにはやはり、焦りが含まれている。

まさか、あのお二人が倒れるような相手が・・・・・・?

にしては服は汚れていない、いったい何が・・・・・・。

 

「おいハルプ、お前余計な事は言うなよ?」

『それってお願い?』

「・・・・・・おう」

 

益々不安にさせるような事を・・・・・・。

・・・・・・!分かりました、命、わかってしまいましたよ。

 

「ハルプ殿、折り入ってお願いがあります」

『ん?なに?』

「何があったのか、懇切丁寧に、正直に申してくださいませんか」

「なっ!待てハルプ!」

『OK!家族の願いが優先だからな!』

 

なぜベート殿が焦るのですか?

ちらり、と桜花殿達を振り返るも皆首を傾げてしまいます。

 

『大丈夫だよベート。懇切丁寧に正直に言うから、ベートを陥れたりはしないさ!』

「ホントだろうな?」

『おう、誓うぜ』

 

ほっとしたようなベート殿。いったい何があったのか・・・・・・

 

『じゃあ、教えて上げるよ。それが──────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、はぁ。こちょこちょですか・・・・・・」

 

そうです、こちょこちょですよ命。全く、ハルプってば一切容赦しないんですから。

もう気絶した振りしてずっと運んでもらうんですからね。

 

『そうだぜ。ここだけの話、妖夢の弱点は脇と足の裏だ。そこを責められると妖夢は笑い転げて動けなくなる』

「なるほど。つまりそこを重点的に攻めれば勝てる、と」

 

いや、何が勝てるんですか?どんな戦いなんですか?そんな戦いしましたか私達。してないですよね?こちょこちょ対決なんてしてないですよね?

 

「な、なんだか楽しそうだね。でもここってモンスター湧く場所だよね?」

『そうだな。だけど、俺が居るんだぜ?モンスターなんか湧かせませんとも!・・・・・・1匹湧いたけど』

 

チートずるい。私も他にお願いしてみますか・・・・・・例えばお菓子沢山とか!・・・・・・く、食いしん坊じゃ無いですからね!

 

「なるほど、何と言うか・・・・・・一発拳骨だなこれは」

『えぇ!?桜花なんでなんで?!俺ってば呼ばれたから付いていっただけなのに!』

 

やっちゃえ桜花!ハルプは悪い子ですからね!私なんて強引に連れてかれましたからね!・・・・・・あれ?ついて行ったんでしたっけ?

 

「誰に呼ばれたんだ?」

『ベートに呼ばれたんだぜ!』

「おまっ」

「・・・・・・ベートさん、何かしたか」

「ちげぇって、俺はアイズにコイツらを呼ぶように言われたんだよ!」

 

あらら、桜花から謎のオーラ的サムシングの力を感じます・・・・・・。ゴゴゴゴぉ、って感じですね。

怒りの桜花、鉄拳は誰に飛ぶのか!

 

「なんでそこでアイズさんが出てくる?」

「知らねぇよ、だから探し回ってたんだろうが」

「はぁ・・・・・・なるほど、もしかしてあれかハルプ。模擬戦でもしてたのか?」

『おっ、いいね桜花!冴えてるよ!』

「茶化すな。どうなんだ?」

『はい!ハルプは答えますよぅ!ズバリ、命の奪い合いをしておりましたー!』

「「「「はぁ!?」」」」

 

えぇ・・・・・・もう少しオブラートに包みましょうよハルプ・・・・・・あぁそうか、懇切丁寧に正直に、でしたね。

 

『まぁ俺死なないし?正確には殺し合いじゃ無いけどな!奪われる可能性があったのはアイズだけだ』

「てめぇ・・・・・・!」

「待ってくれベートさん。・・・・・・ハルプ、何でそんなことをしたか、答えてくれるか?」

 

・・・・・・あの、ハルプ?なんか喜びの感情が流れて来てますが。怒られて喜んでます?それともみんなの顔が見れて嬉しいんですか?

 

『いやぁ、なんか愛されてる感じがしてイイね!んで、答えな訳だが─────アイズはゼノスを受け入れる事が出来なかった』

「「「「!」」」」

『だから、決意を固めさせた。意志をねじ曲げた。過去と別れさせた』

「なるほど、な」

 

ハルプの真面目モードです。出来れば正面から見たかったですね。横顔をチラッと見でもすればバレちゃいますし、耳を澄ませておきましょう。

 

『だからもう安心していい。アイズがゼノスを殺して犯罪者になる事は無いぜ。もし俺の言葉を聞かず、過去を捨てられず前も向けないのなら───その首を刎ねるつもりでいた』

 

は、ハルプぅ、正直に言い過ぎですよ!ベートに嫌われますよ?折角のお友達なのに。

 

「おい」

『ん、何?』

「アイズは平気なんだな?」

『おう。・・・・・・寝顔、見てみたか?』

「あぁ?───────チッ、ありがとよハルプ」

『へへへ、幸せそうに寝てるだろ?起こしてあげるなよ?』

「お前さっき投げたけどな」

『まじスマソ』

 

んー、めでたしめでたし?ですかね。

 

「まぁ、それとこれとは別の話だ。さぁ、ハルプ。拳骨だ」

『桜花!?』

「ハルプちゃんがみんなに心配かけるからだよ!3人でこの階層を歩くの怖かったんだからね!」

『うぐっ!で、でも同時にいい思いを出来たんじゃn』

「〜〜〜!!」

『いだだだだ』

「おっ、おい千草!?何をしてるんだ!」

「ハルプ殿・・・・・・意地悪が過ぎますよ。反省してください」

「全く・・・・・・タケミカヅチ様に言って叱ってもらうか」

「そうだねそれがいい!」

「申し訳ありませんハルプ殿、庇い立ては出来ないようです」

『えーー?!やだやだやだお尻ペンペンは嫌だ!』

「なら拳骨だ。いいか?」

『うぅ、はぁい』

 

ゴツン!と聞いてるこっちが痛くなるような音が響きました。

恐ろしいですねぇ。

 

「で?妖夢、お前は何時までねているつもりなんだ?」

「あれ?バレてました?」

 

流石桜花ですね。私の「おやすみの術」を見破るとは・・・・・・!

 

「はぁ。全く、ほら帰るぞ」

『妖夢ー、起きてんなら言ってくれよなぁ』

「見抜けなかったハルプにはお仕置きです。このまま運んでください」

『なんで!?』

「んふふ〜、ひんやりしてて気持ちいいからですよ」

『俺は保冷剤じゃないんだけど?』

「今は私の保冷剤で車ですね!」

『・・・・・・まぁいいよ?お詫びにあげようと思ってた高級饅頭あげないからな』

「なっ!?そ、それとこれとは話が別ですよ!」

『別じゃないしー、対価なら今まさに払おうとしてるじゃん?運んであげる上に冷やしてあげるんだぜ?』

「ぐ、ぐぬぬ・・・・・・」

 

ん?これって饅頭かハルプを選べって事ですよね?なーんだ簡単な話じゃないですか!答えなんか一つしか無いですよ。

 

「みょん♪」

『あ、あるぇ?妖夢ー、降りないのか?』

「饅頭かハルプか、問われれば後者と答えますよ。当然です」

『一瞬迷ってたよな?』

「いえ、違います。ノリでぐぬぬって言っただけですもん」

『ふーん、そっか』

 

あはは、ハルプ、口元がにやけてますよ?嬉しいんですか?嬉しいんですよね?なら、私も嬉しいです!

 

「・・・・・・」

「っ!千草殿、落ち着いください!お二人の邪魔をしてはいけません!」

 

あー、千草から混ざりたいオーラが出てます!ハルプ、混ぜてあげますか?

ふむふむ、なるほど。可能性的には何もしなくてもほぼ確実に混ざってくるんですね?じゃあイチャイチャしてましょう!

 

え?イチャイチャじゃない?家族のスキンシップ、ですか。なるほどこれは家族のスキンシップだったんですね!

ふむふむ、イチャイチャは男女間で使う言葉なんですか!じゃあ私達とベートとかそういう事ですか?

 

それも違う?じゃあ何なんです?

あれは友人間でのスキンシップですか。なるほど。それをわちゃわちゃって言うんですね!分かりました!

 

「ほら、二人とも混ざってこいよ」

「な、なにをぅうわっ!」「きゃっ!」

『うおっと!っとと・・・・・・セーフ!』

 

おぉ、本当に来ましたね。ハルプナイスキャッチです。しかし、なぜ私を上に投げたのですかハルプ・・・・・・。

 

『よいしょっと』

「・・・・・・ナイスキャッチです」

『くくく、膨れるなよ妖夢』

「むー」

 

ハルプは変な時に意地悪ですねホント。照れ隠しですか?

 

『まぁね』

 

ぐぬぬ、ウィンクとは・・・・・・可愛いと思ってしまった私の負けですね。

それにしても、ナルシストの様で変な気分です。ハルプ、外見ちょっと変えたり出来ないんでしょうか。

 

『変えられたら変えるんだけどなー、男とかに』

「内緒のお話ですか?」

「ずるいよ二人とも!私達も混ぜてよー!」

『良いぜ。いやぁ、両手に花ってやつだな!』

「背中に私ですね!」

『背後から操る悪役かな?』

「それは前までのハルプ殿のポジションでは?」

『・・・・・・心が抉れた、墓穴ほったァ』

「あ、あはは・・・・・・」

「ざまぁ、ですよ。私を投げたからいけないのです」

 

そんなこんなでハルプとお仕置きという名のじゃれあいを続けていると、キャンプ場が見えてきました。ちなみに、ハルプの両サイドに千草達、背中に私、両腕でアイズを装備中ですね。ふふん、軽いでしょう!

先に報告に戻っていた桜花のお陰か、皆さん集合していますね。むむ、ティオネ達が走ってきます。

 

「アイズ〜!もうどこいってたの?!」

「全く、心配させないでよね」

 

みょん?起きてましたっけ?

 

「うん、ごめんね」

 

あれぇ?

 

『おい、なんでお前らは寝てる振りをするんだ?』

「ししょー、冷たくて・・・・・・気持ちよかったから」

『・・・・・・やっぱり俺は保冷剤なんだなー』

 

クスクスと皆さんが笑う中、ハルプは腑に落ちないような顔をしながらも、口の端っこがにやけていました。

・・・・・・それにしても、ハルプは浮かない顔をしていましたが・・・・・・問題は解決したのでしょうか?

 

「全く、勝手な行動はよすんだアイズ。・・・・・・ハルプ君も頼むよ?」

「うん。・・・・・・ごめんなさい」

『はーい。任せとけ!』

 

ニコニコと笑いながら親指を立てるハルプ。

うーん、どうやら平気そうですね?結局、何だったんでしょうか・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の奥の少し開けた土地で、眼帯を身に付け銀の髪を腰まで伸ばした女性、平行世界からやってきた大人の妖夢は溜息をつく。

 

「はぁ。なんで─────」

「すぅ──すぅ────」

 

彼女の目の前には少女が眠っている。彼女らの前にはある切株の上に並んだ木皿の数から見ても、山ほどの食材を喰らい尽くした事は想像に難く無い。

 

「なんでこの世界線に限って、ゼノスなんですか?私の決意は何のために・・・・・・」

 

幸せそうに眠る少女は黒い髪で片目を隠した姿をしている。そう実はこの少女、黒竜なのだ。赤黒い角のような物も頭から生えているし、尻尾っだってある。翼は小さい小悪魔の様なデフォルメされた可愛らしいものになっている。

 

「うぅ、ハルプの能力はチート過ぎます!と言うか、こういう事をするなら先に言って下さいよ!旅に出た意味がぁ〜」

 

妖夢は力なく項垂れる。おのれハルプぅと呻きながら木皿を片付けて

 

「むにゃむにゃ」

 

と眠る擬人化黒竜を見る。あどけない寝顔は数刻前の死闘が嘘のように感じる程だ。

 

「・・・・・・なぜ人の姿に?ハルプの趣味ですか?それとも強いと人に近づくとか、あるんでしょうか・・・・・・そう言えば妖怪も強い方は人の外見でしたね」

 

ふと、妖夢は考えてしまった。この黒竜の面倒を見るのは誰なのか、と。

 

・・・・・。

 

「ぇ、もしかして私が最後まで面倒を見なければならないパターンですか?嘘でしょう?・・・・・・片腕しか使えないんですけど、面倒見きれますかねぇ」

 

不安だなぁ、と呟きながらも満更では無さそうな妖夢。しかし、再び考える。

 

「・・・・・・一応ハルプに伝えた方がいいですよね?そうすれば桜花達にも会えますし。ついでに足りないものはハルプに貰いましょうか。チートですし、何とかなるでしょう。チートですし」

 

片付けを終え、ぐいっと背伸びをする。そして背負った楼観剣を確認し、服をポンポンと叩いて身だしなみを整える。片手で結える髪型は少ないので自然そのままで。

メイク道具などは何も無いし、準備は完了!

 

「と、言いたいのですけど・・・・・・この子、連れて行って良いんですかね?みんな攻撃してくるのでは・・・・・・まぁ外見的には人間ですから平気かも?」

 

「よっ」と人化した黒竜を担ぎ、歩き出す。

目指すはオラリオ、家族達が暮らす迷宮都市。

 

この妖夢は知らない。

オラリオでは異端児が既に受け入れられており、異端児を担ぎ上げて移動する輩がどのように見られるかを・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「おいっそこの貴様!」

「みょん?」

「その少女を離せっ!」「アリッサさーん!竜族と思しき少女を誘拐している眼帯付けたやばいのが居ますー!」

「退却ー!」「おいマシュー!撤退はするなバカ!」

「えっ、あの?私は誘拐犯ではなくてですね」

「ジョウジ、何が起きたか話してくれ」

「あの眼帯を付けた厳つい女がゼノスを攫ってるんです」

「何?──────────・・・・・・あぁ、そうだな。うむ。とりあえずお前達は他の警備を任せる。彼女は私に任せてくれ」

「え?い、いや・・・・・・「いいから」は、はい。よし、お前ら行くぞ!」「退却ぅー!」

 

「───────えぇ?」

「アゥ?」

 

今日もおらりおは平和です。

 

「え?」「?」





原作とはかけ離れた世界線、いいね?

誤字脱字報告、コメント、待ってます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。