孫呉ルート (眼鏡最高)
しおりを挟む

1、輪廻転生

1話〜5話まで、書き直しを繰り返したので訳がわからんモノになりました。なので放出します。


気が付いたら、赤ん坊だった。

 

高校生だったはずだが、何故か赤ん坊になっていた。

 

最初は戸惑ったが何も出来ないので、されるがままだ。

羞恥心など、とうに無い。

まぁ夜泣き愚図りが無いので手軽なはずだ。

 

一年が過ぎ家や親の事が分かった。

 

なんの因果か、また俺は医者の家に生まれた。

父親が医者のようで、母親は看護師っぽい。

でも母は足が一本になる前は武将だったらしい。

 

ここで分かったと思うが現代日本じゃない。

夜の灯りは電気ではなく、行灯っぽい奴だ。それに一度、母に抱っこされ外に行ったが、まるで何百年も前の中国っぽい雰囲気だった。。

ちなみに家の場所は東萊郡、まったく、さっぱり、どこか分からん。

 

二度目の母は時たま見せる笑顔が太陽のように綺麗だ。

俺の事を一番に考えてくれる優しい人で、秀美目無しに綺麗な美人だ。

俺を抱っこし、よく子守唄を歌う。

 

二度目の父は温和で優しい人だった。平々凡々の顔立ちだが、全身からは優しさが滲み出てる、そんな父親だった。

でも俺が3才頃に医者の父は死んだ。

患者の血を浴び感染して死んだようだ。

 

母は泣かなかった。俺に、父が遠くにいった事を伝え、優しく静かに抱き締めてくれた。

ただ、夜になって隣の部屋から、すすり泣く声が微かに夜明け頃まで聞こえた。

 

これからは俺が母を支えようと思った。

 

 

 

はい、5歳になりました。

人生ダラダラ生きてるほど無駄な事はない。だから、ぱっぱと進むぞ。

 

二度目の母親は優しい人だったが、苛烈で厳しく、ぶっ飛んでる。

 

5歳の俺が惰眠を貪っていたら突然腹に衝撃がきた。

心臓とか息とか色々なモノが止まった気がする。

うめき声すら出す事も出来ず俺の体はピクピクしていた。

 

プルプル子鹿のように顔を横に向けると、そこには母が立っていた。

俺の腹を殴った犯人は、母だった。

 

母曰く。

「男は、優しくなければ生きる資格が無い。強くなければ生きていけない。」

どこのハードボイルドだよ!どこの探偵だよ!

 

それに、と母は続けた。

男ならいついかなる場合でも戦う準備をしなくていけない。戦い、戦え、戦おう。と、のたまった。一応これは修行だと言っているが意味がわからん!つか!死ぬわ!

 

そして母は度々、突然と俺を攻撃してくるようになった。

二三回、親父に会った気がする…

 

5才なかばで思う赤ん坊の頃に見た母は夢幻ではなかろうかと。

 

あと、この二三年の間に母は看護師から医者になった。仕事で忙しいのは分かるが、5才の子供に料理に掃除なんでもやらせる。まぁ母は元々、料理や家事が出来ないんだがな。

 

 

ちなみに俺の日常は以下の通りだ。

 

暇な時は家にある医術書を読んだ。書と言っても殆ど板の巻物だ。少ないが本も数冊あった。

ちなみに主に書かれていたのは漢方、薬草の調合などだ。どれが毒で、どれで癒せる。二つの薬草を混ぜると、こんな効能がある。そんな事が書かれていた。

 

 

悪ガキと喧嘩ばかりしていたら近所の爺に武術を習わされた。

化け物並に強い爺で、何度か修行で生死の境をさまよった。爺、師匠は鬼だ。

五歳のガキに手加減無し、問答無用の滅多打ち、ボコボコにされる。

 

 

最近、近くに住んでる練丹術の道士と親しくなった。

物の見事な変人だ。まるっと全てが変態だ。

道士の夢は空を飛ぶ事だ。ちなみに鳥のようにではなく、仙人のように雲に乗りスイスイ飛びたいらしい。

一応俺は火薬を使って飛べばとアドバイスしておいた。

火薬は一応あるにはあるが庶民には出回ってない。でも練丹術の道士なら手に入れる事ぐらい出来るだろう。成功すれば、まさしく吹っ飛ぶ、そのまま天に昇る可能性もあるが本望だろう。

 

ついでに俺は和紙の作り方も教えた。前世で小さい頃、唯一やった事があるのが和紙の作り方だ。

学校の授業が役に立つ日が来るとは思わなかったな…

この時代、紙はメッチャ高価だ。つまり紙で尻を拭くなんて事は、まったくもって論外な話だ。

紙で尻を拭く為、まぁ出来たら良いな程度で教えた。

 

 

あとは父の友人、華佗に出会った。

色々な話を聞いたがなかなか面白い人物だった。

なんでも気合が大事らしい。

 

そんな毎日を過ごした。

 

うっし。

そろそろ寝るか。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2、若気之至

光陰矢の如し、俺は二十歳になった。

 

二十年ほど生きてわかった事、それは、この世界が三国志っぽいのだ。

董卓、呂布、曹操、そんな奴らの噂話を聞いた。

ただ俺は…三国志を知らん。ほとんど、まったく知らん。

 

ちなみに俺の知ってる董卓と呂布は…

董卓は悪い奴だっけ?

呂布はスゲー強い奴だったな。多分。

 

三国志の流れは…

劉備、曹操、孫ケン?、その三人が戦い、曹操が勝つ、だったな。

まぁ三国志だろうが、三国志とは違かろうが、俺には関係ない。

 

んで、俺の日常生活は相変わらず…、いや少し過激になった。

母の修業(襲撃)は年々厳しくなった。拳が剣になったり、鎖鎌や槍などになった。修行の時間帯は食事中やトイレ、深夜になった。間違いなく当たったら死ぬ。そんな日常生活だったよ…

 

幼少期の思い出は全て幻だったのではないかと最近ではよく想う。

 

昔と比べて武術の師匠である爺に勝てるようになり、今はだいぶ勝ち越している。家の医術書と言うか薬術書は全て読破し覚えた。暇な時は町のゴロツキをぶっ倒したり、山賊を退治を手伝った。母がやらないので、料理や家事スキルが無駄に上がった。

 

火薬と和紙の作り方を教えた練丹術の道士は、見事に両方とも作り上げた。

火薬の作り方は知っていたようで、教えた半年後に出来上がっていた。

私には不要な物だと言い、部屋の片隅の床に置いてある。

紙の作成は、息抜きにやっていたようだが、二年ほどで作り上げた

ただ和紙を作る機械は部屋の隅に棚の代りとして置かれている。

その他にもあった木製の和紙を作る機械が処分されそうなので俺がもらった。これで尻を拭くのに困らんな。

ついでに火薬も貰い、作り方も一応は聞いておいた。

 

 

ちなみに俺の容姿は母言わく、まぁまぁらしい。

178cmほどの身長、体は風邪一つひかず健康だ。

母から受け継いだのか、生まれ変わる前と同じなのかは不明だが、生前と同じ漆黒の髪と瞳だ。

あと俺の特徴は、目だ。目付きがすこぶる悪い。母の目はキリッとして凛々しいが、俺の目は極悪人らしい、赤ん坊は俺を見ると必ず泣くし、子供は涙目になる。だから赤ん坊や子供には出来るだけ近づかないようにしている。

ホントどうでもいい事だが死んだ祖父とソックリらしい。

 

いつものように爺と手合わせしていたら母の助手、朱知が来た。なんでも母が俺を呼んでいるとつげられた。

 

 

「なんだよ。用って」

家に入ると母は椅子に座っていた。

 

「来たか。東萊郡と青州の間で問題が起こった。邪魔してこい」

いつもの無表情で淡々と母は話した。

 

「はいっ?」

 

助手の朱知に詳しく聞くと、なんでも俺達が住んでる東萊郡と青州の間で金の問題が起こり、文(上奏文)を先に国へ報告した方が勝つらしい。

 

「このままじゃ私の友が困る。どうにかしてこい」

そう母に言われ俺は家から叩き出された。

 

そして俺は、家に向かって罵声を浴びせ、仕方なく文を報告する場所がある都に馬を走らせた。

 

国に報告する役所に着いたが、どうするか。

う〜ん、何も思いつかねぇ。勢いだな、どうにかなるだろ。

 

列を見ていたら先頭に、たぶん青州の役人がいた。早くしねぇとヤバイな、とりあえず行くか。

 

「何を出すか確認する。見せてもらおう。青州の役人か?」

ここの役人っぽい雰囲気で当たり前のように俺は言葉を発した。

 

「どうぞ上奏文です。はい、そうです」

何の疑いもなく真面目そうな役人は俺に上奏文を手渡した。

 

間違いねぇな、コレどうするか。邪魔しろだっけ?

つか報告が出来なきゃいいんだよな。よし。

 

俺は一気に文を破き、さらに粉みじんになるまで破き続けた。

 

「あっ!あああああーーー!なっ!何をしている!」

 

「ドンマイ。俺は逃げる。お前も逃げた方がいいぞ、じゃあな」

 

速攻で走り去り、馬に乗って逃げた。

 

ついでに俺はそのまま旅に出た。

母には助手の朱知がいるし大丈夫だろう。

ちなみに朱知は、母の事が好きなようだし、良い奴だからな。

安心して任せられる。

 

後のちに思う、別に青洲の役人の前で破く必要は無かったかもとか、そのまま預かって上奏文を提出した事にすればよかったとかな。青洲の奴らに命を何度も狙われ、そう考えるようになった。

 

まぁ、あれだ。

若気の至りだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3、合縁奇縁

腹が減った…

 

文書を破り捨て逃げてから、町のゴロツキぶっ倒したり、町の有名人の家に世話になったり、いくつもの町を旅した。

 

今日も今日とてプラプラ道を歩いていたら、町が見えてきた。そこそこ大きな町で賑わいがある。そして俺はブラブラ歩いて入り組んだ路地裏に入り、見事に迷子になっていた。

 

ぜんぜん出口が見つからん…

ここは迷路かよ…

ん?かすかに人の声が聞こえる。

道を尋ねる為に、俺は声の方に向かった。

 

ズンズン進んで行くとハッキリと声が聞こえてきた。

 

「小僧、身ぐるみ全部おいてけや」

「なかなか可愛い顔だぜ」

「売り飛ばしゃ、いい金になる」

 

姿は見えないが三人の男の下種な台詞が聞こえる。

 

さらに一つの角を曲がると、そこには見るからに山賊の三人組が剣を持ち、多分いい所の坊ちゃんが怪我をして片膝をついていた。

 

「ガキ相手に何をしてんだ」

三人組の背後から声を掛けると揃って振り向いた。

 

「なに睨んでやがる」

「目付きが悪い野郎だ。文句あんのかよっ」

「とっと消えな」

 

ただ見ていただけだが、俺の目付きは他人から見るとガンつけて睨んでるように見える。さすがに何度も同じような事があり慣れた。

それに自分で自分の顔を見た時には、あまりの目つきの悪さに絶句した。だが納得した事もある。何故、人が俺を避けるのか。何故、喧嘩を売られるのか。すべて納得したよ…

 

この目付きの悪さでトラブルも多いが、弱い奴は何もせず逃げて行くので面倒が少なくなり助かる。弱い奴の相手ほど無駄な時間はないからな。

まぁ今回は違うようだが…、つか、こいつら逃げないな。強そうに見えないが、強いのか?それとも人数が多いから調子にのってるだけか?

 

なんやかんや、あーだこーだと三人組は煩い声で俺に罵詈雑言を浴びせ、切りかかってきた。刀を抜き応戦したが、三人組はスゲー弱かった。で、三人組はお馴染みの捨て台詞『今日はこのぐらいにしてやる!覚えてろよ!』でスタコラ逃げていった。本当に弱すぎる…。

それにあの三人組、変な動きをするから俺の服やら何やらが返り血だらけだ。

新しい服は買う金が無いし、血抜きするか…めんどい…

 

少し考え事していてガキの存在を忘れてた。

そういや怪我してたよな。

で、俺が子供に声を掛けようとした時。

 

「貴様、何をしている」

澄んだ女の声が聞こえた。

 

振り返ると、みずみずしい長い黒髪、眼鏡の奥には翡翠のような鋭い眼、褐色の柔肌、およそ泣いてるようには見えない泣きボクロ、エロい衣装の女が、そこには立っていた。

 

「何をしていると聞いている」

睨みにながら再度、女は俺に聞いてきた。

 

「あ゛見てわかんだろ」

ガキを助けたんだよ。

 

「下種が、今すぐ消えうせろ」

俺の言葉を聞くと更に女は睨んできた。

 

「てめぇ。俺に喧嘩売ってんのか」

刀を肩に置き女を睨んだ。

 

すると女は、何本もの鞭がある武器を手に持った。まるでSMの女王様だな。つか、なかなか強い、久しぶりに楽しめそうだ。

 

さぁ行くか!と思った時に。

「おっお待ちください!そのお方は私を助けてくれた人です。周公謹様」

ガキは片腕に傷があるのか手で腕を押さえ、俺に背を向け女の前に立っていた。

 

「なに?…何故、私の名が分かった。魯子敬」

女は俺に一度目線をやり、ガキに眼を向けた。手には鞭を持ったままだ。

 

「はい。お姿を聞いておりましたし、その武器の事も知っていました。それに文で近々私に会いに来てくださると。周公謹様は何故、私を?」

 

「一度、家に行ったが外に出ていると聞いてな。町を散策していたら、この光景。あとは殆ど同じ理由だ」

 

「そうですか」とガキは呟き、今度は俺に向き直った。

 

「お初にお目にかかります、私の名は魯子敬と申します。先程は危ない所を助けて頂き、ありがとうございました。あなたは、あの有名な太史子義殿ですね」

馬鹿丁寧にガキは俺に話し掛けた。つか俺は有名なのか?

 

「あの馬鹿か」

冷め切った目で女は俺を見ていた。

 

「てめぇ、やっぱ喧嘩売ってんだろ」

俺が睨んだのにもかかわらず、女は平然としている。で!

 

「ふっ、事実だろう」

女は馬鹿にしきった表情を作り、やれやれと首を振った。

 

この野郎…

「女でも手加減しねぇ、ぶっ飛ばす!」

俺は今!この時!男女平等主義になった!

 

「うっ噂通りの方でした!」

いきなりガキが大きな声を出したので。

 

「あ゛ぁ゛!」

俺は睨んだ表情のままガキを見下ろした。

 

「よっ弱い者を助け、賊を打ち倒す。その…鋭い眼光、特徴的な刀。七尺七寸の大きな体に、黒髪黒目、かっこいいです!しびれます!憧れます!」

 

なんと反応していいか迷っていたら。

”ギュルルルーーー!”

盛大に腹の虫が鳴った。

 

 

 

 

あれから魯子敬の家で飯をご馳走になった。勝手気ままに旅をしている事を話すと、しばらく家に滞在する事を進められたので、そのまま住み着いた。

 

周公謹は高名な人達と会って話したり、いい人材を探して旅をしているようだ。

沢山の知らない名前と共に華佗の名前が周公謹から出たので「華佗、知ってるぞ」と言うと興味深そうに聞いてきた。居場所を「知らん」と言うと少し残念そうにしていた。華佗は名医らしい、人は見かけによらないもんだ。

ちなみ周公謹も魯子敬の家に滞在してる。

 

あと、俺と周公謹のイザコザは一応は解決した。

血のついた刀を持った俺、傷付いた魯子敬。

目付きが最悪に悪い俺、血を流す魯子敬。

あの場面だけ見たら誰もが勘違いするだろう。周公謹も例に洩れず俺を盗賊や人攫いと勘違いした。周公謹が早とちりしたと謝ったので、俺も言葉が少なかったとわびた。

だが!しかし!周公謹は「馬鹿は訂正しない、事実だからな」と鼻で笑い喧嘩を売ってきた。

さすがにカッチーンと頭にきたが魯子敬に止められ仕方なく俺がひいた。ひいてやった。

 

魯子敬は本当に良い子だ。

周公謹は…、本当に!腹の立つ!ムカつく奴だ!

 

 

 

 

魯子敬の家に住んで二週間ほどが過ぎた。

周公謹とは言い合う事が多いが、あいつの口八丁で殆ど言い負かされる。だから女は嫌なんだよっ!

 

いつものように町のオッサンや知らない奴らと酒を飲んで馬鹿騒ぎしていたら、腹がポッコリ出た商人っぽいチョビ髭オヤジに声を掛けられた。

 

オヤジは俺の事を知っているようで、商品の護衛を頼んできた。そろそろ違う町に行こうと思ってたし、なにより金がいいので俺は引き受ける事にした。ナイスタイミングだな。

 

二日後、俺は指定の場所に向かった。路地裏を進み寂れたボロボロの家の前に着いた。扉を叩く商人のオヤジが顔を出してきた。家の中に入り、地下に降りると数人の男がいた。たぶん俺と同じ用心棒だろう。

 

んで護衛して欲しい商品とは水銀だった。綺麗に瓶詰された水銀だ。水銀はこの一つだけなので用心棒を雇ったようだ。あと取り扱うのは違法っぽい話し方を商人はした。

それに商人のオヤジが言うには水銀は不老不死になる薬らしい…

俺は確実に断言できる。水銀は猛毒だ。飲んだりしたら水銀中毒で死ぬ。

今の時代ってまだそんな迷信を信じてるんだっけ?

 

それから1時間ぐらい過ぎて、聞いた事のある声が聞こえた。

 

フードを被って顔を隠しているが、この声は間違いなく周公謹だ。

水銀の買い手が周公謹とはな、まったくよ…

 

仕方ねぇ…

「なぁ。俺にも見せてくれよ」

商人と周公謹に言うと、周公謹は少し驚いてる雰囲気だった。商人の方は自慢げに水銀の瓶を俺に手渡した。

 

「へぇ、綺麗だな」

で、俺は水銀を懐にしまい。

一気に素早く階段に向かって走り出した。

 

「なっ!?待て!!」

よく通る周公謹の声が聞こえたので。

 

「待てと言われ待つ奴がいるか!」

一応、返事はしておいた。

 

続くように商人や護衛の罵声が聞こえたが、それらは全て無視だ。階段下の近くに居た護衛を一人ぶっ飛ばして俺は一階に駆け上がった。

 

一階に上がると怪訝な顏の男が二人居た。下から商人が「そいつを殺せ!」と叫び声をあげている。二人の男が剣を抜く前に、俺が刀を取り、一人目を突きで、二人目は峰で殴り、速攻でぶっ倒し家の玄関に走った。

 

「太史慈子義!!」

俺の名を呼ぶ声が聞こえチラリと後ろを見ると、背後から鞭が飛んできた。ギリギリ転がるように避けて、俺は周公謹に向き直った。

 

ここで俺の刀について説明する。この刀は我が家の家宝的な物で、母から譲り受けた刀だ。見た目はブリーチの蛇尾丸そのまんまだ。一応は伸ばせるが俺にはまだ上手く扱えないので、殆ど棘付きの刀として使っている。

 

「周瑜公謹。水銀は猛毒だ」

だらんと片腕を下げ、蛇腹刀、蛇尾丸の剣先を地面に向け刃を周瑜公謹の方に向けた。んで周瑜公謹が何か言う前に体を巻き込むようにして蛇腹刀を天井に伸ばした。

「坊主によろしくな!」

 

ボロボロと天井の破片が落ちる中、なんとか蛇腹刀を元に戻した。つか建物全体が崩れそうだな。やっべぇやり過ぎた。まぁ上手く扱えないから仕方ないがな。

 

「あばよ!」

俺が捨て台詞を言って逃げると、周瑜が何か言ってた気がするがアホのようにボロボロ天井から落ちる破片で聞こえなかった。

 

そのまま町を俺は出て、数十分ほど歩き何も無い荒野に瓶詰めの水銀を地面に埋めた。どうする事も出来ないし、これでいいだろ。

 

また歩き出し、しばらくして気がついたが、金持ってねぇ…

しかし次の町まで、どんくらいあるんだ?

 

…まっ、どうにかなるか。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4、金石之交

金石の交わり。
堅く結ばれた友情。


久しぶりに里帰りしようと思い、俺は家に向かっていた。

 

んで、のどかな山道を歩いていたら、見るからに盗賊5人に囲まれてる紅髪の男が居た。最近は黄色い布の奴ら暴れて物騒だからな。この盗賊は違うようだが。

それにしても過激な紅い髪色と違い、顔は温和でのほほんとしている。あと雰囲気がゆるい。

たぶん身長は俺よりデカく、体は引き締まり見た目武人だが、武器は持っておらず、手には一冊本を持っている。どこかチグハグなんだよな。

う〜ん、わかんねぇ。弱いか、強いか、わかんねぇ…

 

「おいっ!加勢するか?」

俺は紅髪の男に目を向け声を掛けた。

 

「いえ大丈夫です。今、話し合いの最中ですから」

能天気に笑って紅髪の男は答えた。つか話し合いって…相手は既に刀を構えてるだろ。今すぐに襲い掛かってもおかしくない状況に俺には見えるんだが…

 

「てめぇら!バカにしてんじゃねぇよ!」

いきなり盗賊Aがキレて紅髪男に切り掛かり、盗賊BとCが続くように襲い掛かった。いったい、どんな話し合いしたんだよ…

 

何故か盗賊DとEは俺の方に切り掛かってきた。盗賊Dの剣撃を刀で受け止め蹴りをDにくらわし、盗賊Eの剣撃は避けEの顔面に拳を入れた。

 

俺が紅髪の方に顔を向けると、紅髪の男は避けていた。ひたすら避けまくっていた。

ただABCの攻撃を綺麗に見切り、まるで演武をしているようだった。しかも剣を避けながら「こんな事はやめましょう。不毛です」とか「こんな、くだらない事、やめませんか?」とか言っていた。

 

最初は見ていたが、いい加減じれったくなり、俺がABCをぶっ倒した。

 

「お前は何をやってんだ?」

横に居る紅髪男に呆れた声で俺が言うと。

 

「話し合いで解決したかったのですが…、すいません」

少し苦い表情で紅髮男は答えた。

 

「そうかい…。つか、こんな所で何してんだ?」

 

「見聞を広めようと旅している最中です」

 

「へぇー」

 

 

あれから同じ方向に行く事が分かったので、旅は道連れ世は情け、そんな感じで二人で一緒に歩いている。なかなか面白く、天然な奴だった。ちなみに武器は一つも持っていない、争い事が苦手で武器は持ちたくないらしい。ただ争い事は嫌いだが体を動かすのは好きで演武や武術の型を知っていた。弓も的に当てるなら外した事がないらしい。

これが天才って奴かね。

それにしても争い嫌いな男に武の才能か、皮肉なもんだな。

 

 

辺りが暗くなったので俺達は野宿にする事にした。

 

保存食を食い終わり、火を囲みながら国の事や自分の考え、どんな場所を旅したか、あいつは強かった、あそこの飯はマズイ、くだらない馬鹿話をしていた。

 

「ずっと睨まれてるかと思っていました」

 

「元々の目つきだよ。悪かったな極悪な目で」

不貞腐れ気味に言うと。

 

「鋭くてカッコ良い眼ですよ」

ほんわかオブラートに包まれた。

 

「柔らかく言うな逆に辛いわ。自覚してるから別に平気だ」

優しさが痛い時もある。

 

「本当の事ですよ。僕は少し垂れ目ですから」

自分の目元を指差して答えた。

 

「そう言うもんか」

無い物ねだりかね…

 

少し沈黙があり、突然。

 

「僕は、イトコが好きなんです」

常にゆるい顔をしているのに、この時は真面目な表情だった。

 

「そうか」

俺が当たり前のように頷くと。

 

「罵声や蔑みの目で見られるかと思ったのですが…」

やんわりとした優しい口調で不思議がっていた。

 

つか。

「なんで?」

ホントになんで?

 

曰く。同性不婚です。イトコが好きなんて狂人ですよ。周りに白い目で見られても平気です、でも雪蓮が知って軽蔑されたら僕は死んでしまう。イトコと結婚が出来るのは王ぐらいですよ…、力なく最後にそう言った。

 

「なら王になれよ」

真剣に言うと。

 

「好きな子が王を目指してるから…」

薄く笑い、そう答えた。

 

んで、俺が何を言うか考えていたら。

 

「僕は、兄を殺しました」

溶けるようにポツリと呟き、まるで心を無くしたような表情だった。

 

 

〜〜〜

 

 

ポツポツと雨が降り出した夜の晩でした。

 

イトコの母が亡くなり、順当に行けばイトコが一族の当主を継ぐ事が決まっていたのですが、まだ誰が次の当主になるかは不安定な時期だったんです。色々と意見が出ていました。

 

そんな時期に兄は軍を増強し、イトコの周りに斥候を出し、一族に連絡をとっていた。僕は気になり、密かに兄に会いに行きました。もしもイトコの邪魔をするなら殺すつもりで。

 

塀を飛び越え兄の屋敷に侵入し、兄の部屋に向かいました。幸い灯りがあり、薄ぼんやり灯りに照らされた兄の姿が部屋の外から見えました。

 

「兄上…」

静かに扉を開けて入り、僕は囁くように言葉を発しました。

 

「なっ!?驚かすな!?お前か、どうした?」

すぐに椅子から立ち上がり剣の柄を握っていましたが、僕の姿を確認すると手をゆるめ顔も柔らかくなりました。

 

「僕は…、兄上がやるなら手伝うよ」

事外には言いませんでしたが、これで伝わるはずです。

 

少し間があり。

 

「なっはっは。お前が居るなら千人力だな。たやすく俺が当主になれる」

酒でも飲むか?と兄は笑い、僕に背を向けたました。

 

決まりですね、兄上…

 

「一つお願いがあるんだ」

僕は剣の柄を静かに握りました。

 

「おう、なんだ言ってみろ」

兄上は酒瓶を持ち、僕の方に振り向こうとしていました。

 

「死んで」

向き直った瞬間、言葉と共に剣を振り抜きました。

 

ゴロンと首が落ち、そして兄上の体が崩れました。

 

「一瞬だから痛みは無かったはずだよ、兄上」

 

すぐに僕は、その場から逃げたのです。

 

 

〜〜〜

 

 

俺のキャパには、もう入り切らねぇ…

「…なんで話した?」

 

「なんでだろう…、きっと責めて欲しかったんですよ。それに誰かに聞いて欲しかった」

最初は自分でもわからない風に言ったが、後半は言葉に出してやっと気が付いたような表情だった。

 

「んな事、俺に言うな」

はた迷惑すぎる。いや、それよりも…

「つか争いが嫌いで、武器すら持ちたくない、お前が…」

実の兄を殺したのか?とは聞けなかったが。

 

「僕は雪蓮、イトコの為なら何だってできます。いや、きっと僕が雪蓮の役に立ったと思いたいだけなんでしょうね」

俺の質問を先回りし答えた。

ただ答えた時の眼が純粋過ぎて、俺は逆に怖くなった。

 

しばしの間、獣の息も、虫の声も、何も聞こえなかった。

 

俺は何と返答して良いかわからず…

「…俺は生まれ変わり、転生者だ」

なんとなく俺は俺の秘密を話した。

 

「…なんで僕に話したの?」

とても不思議そうに首を傾げていたが、男がやってもな…

 

「勘だ。つか信じるのか?」

信じないだろう、と思って話したが。

 

「そうですか。信じますよ。」

真剣な目で真っ直ぐ俺を見ていた。

 

「お前、あれだろ。馬鹿だろ」

本物のバカを俺は初めて見た。

 

「そんな事はないですよ?そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。僕の名は、孫瑜仲異、真名は牙連です」

さらりと笑顔で、牙連は真名を名乗った。

 

「なんで…真名まで言うんだよ」

真名って、凄く、めっちゃ、とても、大事なモノだったよな?

俺の勘違いだったけ?

 

「勘です。それに預けたいと思ったから」

そんな理由かよ。顔が笑っちまうぜ。

 

やっぱ…

「本物の馬鹿だな。俺の名は、太史慈子義、真名は誠だ」

笑いながら俺は名を名乗った。

 

「誠は、なんで僕に教えてくれたのですか?」

心底不思議そうな表情を牙連はしていた。

 

「勘だ。それに俺も馬鹿だからな」

また俺が笑いながら言うと。

 

「そうですか、それなら納得できます」

至極真面目に頷いていた。

 

「おい!そりゃどうゆう意味だ!牙連!」

俺は立ち上がり怒鳴った。

 

 

牙連は「勘に納得した」そう言う意味で言ったようだった。

 

そんな感じで夜が過ぎていった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5、四面楚歌

牙連に出会って一日が過ぎ、家に着いた。

家の中に入ったが母はいなかった。まぁ仕事中だろうな。

 

とりあえず牙連に茶を出して、俺は椅子に座りノンビリしていた。牙連は家の書庫に入り、本を読んでいる。つねに本を手に持ってるし、本が好きなんだろうな。

 

…あぁ家だなぁ。やっぱ懐かしいもんだ…

なんとなく俺は哀愁を感じていた。そんな時に家の中に人が入って来た。

この独特な義足の足音は…母だ。

 

「なんだ。居たのか」

数年ぶりに会った息子への第一声がコレだ。

 

「おう」

別に何かを期待してたわけではないがな。

 

「…昔、孔融の世話になってな。窮地にいるから助けてこい」

なんの脈絡も無く母上殿はのたまった。

 

「はっ?」

俺は助手の朱知に顔を向けて、目で疑問を投げかけた。

 

孔融、孔子と言う人の子孫で、風変わりな人物。

母は怪我した時に、この孔融に世話になったらしい。で、孔融は黄巾賊討伐に向かったが、逆に都昌の町を黄巾賊に包囲されピンチのようだ。とんだ間抜けだ、馬鹿かよ。

 

「行ってこい」朱知の話が終わり母は、そう行った。

母に頼まれ、ほぼ命令だが、俺は孔融を助けに行く事になった。

あと朱知に母と仲をそれとなく聞いたが進展は無いようだ。まったくヘタレだ。

ちなみに牙連も話の途中からくわわり、母や朱知に挨拶をしていた。

 

母と朱知に別れを言い、俺が家を出ると、何故か牙連もついて来た。

俺が「なんでいる?」と聞くと「僕も行くよ」とほがらかに答えた。

 

「はっ?来るのか?」

あきれ顔で俺が言うと。

 

「1人より2人の方が良いでしょ?」

笑いながら牙連は答えた。

 

「少なくとも三千はいるぞ」

真面目に敵の兵数をつげたが。

 

「なんとかなるよ」

のんびり返事をした。

 

「人生損するタイプだな」

やっぱ本物の馬鹿だ。

 

「うん?」

牙連は不思議そうな顔をしていた。

 

少しばかり歩き俺は思う。こいつは、牙連は戦で役に立つのだろうかと。

 

 

 

一日かけて、ようやく都昌の近くにきた。だが、まだ半日ほどかかるだろう。それにしても人いねぇ。まぁ当たり前か、この道は都昌に続いてるから危なくて近寄らねぇよな。

くっちゃべりながら数時間ほど歩くと、都昌の方から商人の一行が歩いてきた。商人に声を掛けて、どこから来たのか尋ねると、のん気に劉備の所から来たと答えた。

都昌の事を尋ねると、そんな事になってるとは!?と驚いていた。さらに色々と商人に聞くと、劉備達は都昌の近くの長原に居るのに黄巾賊の存在に気が付いてないようだ。つかえねぇ〜。

つか劉備か…会ってみたいな。

まだ三国志の有名人には誰にも会ってない、やはり一度は会って見てなぁ。そんな事を考えながら、先に進んだ。

 

 

 

暮れなずむ夕日、もうすぐ夜になる。

そんな時間帯に俺達は草むらに潜みながら孔融の居る都昌に着いた。

正確に言えば都昌近くの森の中だが。

 

都昌の都をぐるっと見て回ったが、都の三つの門に黄巾賊は集まり出入り口をふさいでいる。予想より、ずいぶん人数が多く居る…

おおよそ、南北に二千ずつ、東に千、ぐらいだろう。

 

「どうするの?正面突破する」

前半は疑問形だが、後半は断定で言った。

 

「お前は馬鹿か、いくらなんでも無茶だろ」

流石に俺の中にも常識はある。

つか牙連の奴、自分はどうする気だ。逃げの一手か?

 

「これを使う」

俺は蛇腹刀に手を掛けた。

 

ひとまず俺達は、干し肉を食い、休む事にした。

 

とうの昔に日は沈み辺りは真っ暗。

そして月が雲に隠れた時に、俺達は動き出した。

 

 

門が無い西にある城壁に向かった。さいわい黄巾賊には見つからず無事にたどり着いた。牙連は黄巾賊が辺りにいないか警戒している。俺は伸ばすだけなら使える蛇腹刀を手にとった。

 

「刀で、どうするの?」

牙連が心底不思議そうな顔をしていたので。

 

「まぁ見てろ」

ニヤリと笑ってやった。

 

後ろに蛇腹刀を大きく振りかぶり、力一杯に刀を伸ばした。

蛇腹刀は真っ直ぐに伸びて城壁を越え、何かに引っかかった。

運が良い、一発で成功するとはな。

 

「凄いね。伸びる刀なんて初めて見たよ」

牙連は少し眼を見開いていた。

 

「母から譲り受けた刀だ。詳しい事は知らん」

まぁ見た目は蛇尾丸とは言わなくていいだろう。

 

蛇腹刀の伸びた場所と刃の無い部分に足を掛けて俺達は忍び込んだ。見張りがいないのか、誰にも見つからずに登りきっちまった。俺達にはとっては良かったが、駄目駄目だろ。見張りぐらい居ろよ…

 

俺は地道に蛇腹刀を手で戻し、腰におさめた。

んで、どうするか考えていたら城壁に登る階段の下から…

 

「朝まで歩哨するなんて、ついてない」

「仕方ないさ。黄巾の連中に囲まれてんだからよ」

そんな男二人の声が聞こえた。

 

ちょうど見張りの交代時間だったようだな。

流石に見張りぐらいは居るか、安心したぜ。

 

そして階段を登りきった二人の兵士が、俺達を見つけた。

 

一瞬、二人の兵士はほうけたが、すぐに剣を構え、わめき出した。

一応、俺達は黄巾賊では無いと言ったが、もちろん兵士二人は信用しなかった。とりあえず俺達は、抵抗せずに大人しく捕まった。

 

武器を渡し、手を縄で縛られ、牢屋にブチ込まれた。

孔融に会わせろとわめき散らし、数時間して本当に孔融が来た。

俺が太史慈子義だと名乗り、母が世話になったから助けに来た事をつげると、またたく間に孔融は信用し、俺達を牢屋から出してくれた。本人だし、ありがたいが、俺達を簡単に信用しすぎだろ。

 

はい。数日が過ぎた。

 

手伝いに来たが、何もさせてもらえねぇ。軍略の会議にも俺達は出させてもらえず、わざわざ策を進言してやったのに聞く耳すら持ってねぇ。

 

孔融とまともに話したのは二回。初日の夜に「太史慈殿の武勇伝を聞かせて欲しい」とせがまれ、テキトーに昔話をした事。三日目の夜に俺達の所に忍んで会いにきて、他の武将の面目があるので策があれば私に直接言うように、詫びを言われた。孔融、意外に凄い人物なのか?

俺達が、人数が少ない場所を急襲し打って出る作戦を話したが、賛同するのは難しいと苦い顔で言い部屋から出ていった。

 

その後は、酒を飲んだり、転生前の現代の話を牙連にしたり、孔融が飼ってるパンダを見に行ったり、兵士達とかるく手合わせした。

 

さらに数日後。

町は黄巾賊に完璧に包囲された。

数は五千から八千ほどに膨れ上がっている。

ますますピンチだな。つかマジで危なくなってきた。

 

昼下がり、城壁の上に登り、黄巾賊の連中を見ていた。

 

「弓、得意なんだよな?」

黄巾賊を見据えたまま、隣に居る牙連に尋ねると。

 

「うん。的になら外した事はないよ」

明快に答えた。

 

「よし」

せっぱ詰まってるし、もう好き勝手にやっていいだろう。

一応、孔融に話し通しとくか?

 

 

 

翌日。

牙連と兵士Aは東の門から外に出た。

黄巾賊の連中は不思議そうな顔をしている。まぁ無視だ。

兵士Aには的を持たせ、牙連は弓と矢を持っている。

二人は少しばかり歩いて距離を開けた。

門の前で、一射、二射、三射と牙連は矢を放ち、兵士Aが手で持ち上げている的に当てた。

んで、すぐに牙連と兵士Aは町の中に戻った。

 

二日目。

昨日と同じように、弓の練習している。

黄巾の連中は、またか、とそんな顔をしている。

まぁでも、まだ武器を持ってる連中が居るな。

 

三日目。

また同じように、弓の練習をしている。

黄巾の連中は、ほとんど全員がのんびり見ていた。

よし。これなら完璧だな。

 

四日目。

同じように、一射、二射、三射と牙連は打ち終え。

兵士Aと一緒に門の中へ戻った。

 

そして門が閉まる直前。

 

俺は馬を駆け、門から躍り出た。

 

驚いた表情の黄巾賊達の顔が、ぐんぐん近づきハッキリと見えてきた。そして俺はそのまま黄巾賊の陣に突っ込んだ。慌てた様子の黄巾賊を景色と共に置き去りにし、俺は陣の中を駆けた。数人は切りかかって来る奴も居たが、一太刀で切りふせ突き進み、一気に駆け抜けた。

 

振り返る事はせず、そのまま手綱を強く握り走り続けた。すると真横にヒュンと音が聞こえ矢が一本後ろから飛んできた。そして、それに続くように矢がアホのように飛んできた。

「ぐっ、くそったれが」

矢が肩に当たったが、死んでないだけマシか?

しばらくして矢は飛んでこなくなった。

 

振り返り見ると、黄巾賊の連中が遠目に見えた。

 

「よくやった」

俺は馬の首を撫で、少しスピードを緩めた。

ただ止まる事はせず、肩に矢が刺さったまま馬を走らせ続けた。

「もう一踏ん張り、頼むぜ」

 

 

 

そして俺は長原にたどり着いた。

劉備が居る、長原へ。

 

なにゆえ黄巾賊の包囲を一騎で駆け抜けたか。

もうわかってるだろうが劉備に援軍を求める為だ。

 

ちなみに黄巾賊の陣の真ん中を突き進んだのは目的地の長原が門を出た直線上にある為、混乱させて追っ手を遅らせる為、あとは俺の鬱憤解消だ。

 

長原の町の中に入り、大声で「劉備はどこだ!?」と叫ぶと、槍を携えた、黒髪に、ポニーテールっぽい髪型の女があらわれた。

女は「とっ、劉備様に、なんのようだ」と言い俺を睨みつけ槍を構えていた。なかなか強いな。こんな時じゃなきゃ、手合わせしたいぜ。

俺が、都昌が黄巾賊に囲まれ危ない事を伝えると、女は驚き「そうか、すまない。案内しよう」と謝り槍をおさめた。

 

ちなみ、この女が関羽だった。

俺の少ない三国志データでは、ヒゲのイメージで男だった気がするが…

きっとアレだ。パラレルワールド的な感じだろ?多分そうだよな?

 

後に知るが張飛や劉備も女だった。

つか武将や軍師は、ほとんど女だった。

孔明、うちわ持ってる奴。こいつも女、つか幼女だった。

他には趙雲、黄忠、厳顔、魏延、鳳統、名前を聞いたが…知らん。

 

あと二人だけ男の武将が居た。

夏侯覇。なんか聞いた事があるような名前だった。

でも最後の文字は、トンかエン、だったような?

 

もう1人は、北郷一刀。

名前が日本人っぽい。つか日本人だよな?

この時代に日本から遠路はるばる大変だったろう。

移動手段が船に馬、あとは徒歩だ。

よく、こんな所まで来たもんだ。

 

 

いましがた劉備達に話を終え、俺は別の部屋で治療を受けている。

先に治療を受けろと言われたが拒み、都昌や黄巾賊の話をした。

今頃は軍師と武将で話し合っているだろう。

 

治療を終え、案内された場所は元の部屋だ。

挨拶もせず俺がすぐに尋ねると、劉備は明瞭に答えてくれた。

「黄巾賊をやっつけます。すぐに都昌に向かいましょう」

 

戦の準備を整え、俺と劉備軍は都昌に進軍した。

 

劉備軍の兵数は六千、都昌に居る兵が二千、合計で八千。だいたい黄巾賊と同じ兵数だ。まぁ劉備軍や都昌の兵は一応、正規軍だ。農民上がりの黄巾賊に、武器や鎧がそろってる俺達が負ける事は無いだろう。でも油断は禁物だな、俺は気合いを入れ直した。

 

ひっそりと都昌の東門の近くまで俺達はやって来た。

この日の風は、ちょうど良く微風だ。んで俺は、都昌の町に常備してあった狼の糞を袋から出し、枯れ木や草をかぶせた。火打石を何度も打ち、ようやく火をつける事が出来た。

 

そして、まっすぐ黒い煙が空に上がった。反撃の狼煙だ。

牙連にはあらかじめ東門の近くから黒い狼煙が上がったら作戦成功。失敗した時には赤い狼煙を上げる予定だった。

 

うっし、準備万端。

後は、あっちが打って出てくるのを待つだけだ。

 

少しして都昌からカンカンと鐘を叩く音が聞こえ、東門が開いた。

なんで、あいつが…

先頭には何故か紅髪の男が居た。遠目からだが間違いなくアレは牙連だ。

しかも牙連は馬鹿デカイ丸太を持ち、黄巾賊に突っ込んで行った。

それに続くように都昌の兵も黄巾賊に突っ込んだ。

 

東門から出て来た兵士の数は500ほどだ。

たぶん牙連の奴、反対を押し切り、無茶やって出て来たな。

争い嫌いのクセに、本当にバカな奴だよ、お前。

 

牙連達と黄巾賊がぶつかり合った直後、劉備軍の武将が号令を掛け、五千人の雄叫びが轟き、俺は劉備軍と共に戦場へ雪崩れ込んだ。

 

挟撃された二千の黄巾賊は、瞬く間に瓦解し四方八方に逃げて行った。

 

丸太が一本、兵士達の間から見えた。

そこに足を進めると、牙連が居た。

ちなみに丸太には血が一滴もついていなかった。

 

「よう。無茶させたな」

俺は、かるい感じで牙連に声を掛けた。

見た所、怪我は無いな。

 

「そうでも無いよ」

普段と同じように牙連は答えていた。

 

「後で聞かせてもらう。行くぞ!」

牙連に返事をし、辺りの兵を鼓舞した。

 

すぐに俺達は動き、あらかじめ劉備達と決めていた南門に向かった。

劉備軍は半分の三千ずつに別れ、一方は都昌に入り、もう一方は外から南門に向かった。もちろん都昌の兵士も一緒にだ。

 

南門に着くと孔融が居た。何か言いたそうな顔だったが時間が惜しい、素早く個別に黄巾賊を撃破したいので、さっさと門を開けるよう孔融に俺は言った。それと都昌の兵士も千ほどになった。

 

俺達は南門の黄巾賊三千を先程と同じように挟撃で蹴散らした。

 

すぐ俺達は踵を返し、黄巾賊の頭目が居る北門に向かったが、そこに黄巾賊の奴らは人っ子一人居なかった。

北門の兵士に聞くと、どうやら劉備軍が来たと知り、逃げたようだ。

 

こんな感じで都昌の戦は終わった。

 

その日は祝勝の宴会をし、都昌の兵士や劉備達と一緒に飲んで騒いだ。

 

 

 

そんで後日。

 

俺は今、戦っている。

苛烈な槍の突きが連続で放たれ、それを見切り今度は俺が刀を振るったが、むなしく空を切った。すぐ槍の横薙ぎの一閃がきて刀で受け止め、俺は力で押し切った。が、相手は俺の力を利用し後ろに飛び退いた。

俺は、一旦距離をあけた趙雲子龍を見据えた。

 

数時間前。

俺と牙連が部屋で無駄話をしていたら、槍を持った青い短髪の女が来た。確か名は趙雲子龍だったな。挨拶もそこそこに子龍は単刀直入に俺と手合わせしたいと言ってきた。

もちろん俺は、一に二もなく頷いた。

 

そんで近くの修練場に行くと、そこには劉備の連中が居た。

簡単に俺と子龍が試合する事になった経緯を劉備達に話。

そっこうで試合を始めた。

 

 

 

一旦距離をあけた趙雲子龍を警戒しながら見ていたが、せっかく相手が距離を開けたので俺は蛇腹刀を使う事にした。蛇腹刀を使いこなせるよう鍛錬してるが、5割使えれば良い方だろうな。

んで俺は蛇腹刀を両手で持ち、野球のフルスイングのように振り抜いた。

綺麗にビョン〜ンと真っ直ぐ伸びたが、あからさまな俺のフリで趙雲子龍は多少驚いていたが普通に飛んで避けた。

俺は蛇腹刀を引き戻そうとしたが、勢いを殺す事が出来ず横で試合を見ていた劉備達の方に、そのまま蛇腹刀の凶刃が伸びていった。ヤバっ!?

 

「避けろ!!」

俺は必死の形相で、あらん限りの声を出した。

 

蛇腹刀の刃が劉備達に迫り、牙連や武将数名は上に飛んで避け、数名の武将は軍師を押し倒すように下に避けたり、各自キチンと避けていた。

そして伸びた蛇腹刀は修練場の壁に突き刺さり、ようやく止まった。

 

しばし、静寂が辺りを包んだ。

 

「全員無事か?」

近くに行き怪我がないか尋ねると、非難の嵐が俺に猛威をふるった。

「使えない武器を使うな!」「お前はワシ等を殺す気か!」「はわわ」とか色々と言われた。

 

もはや子龍と戦える雰囲気では無いので、俺は子龍に謝った。

 

俺は地道に手で蛇腹刀を元に戻した。

 

蛇腹刀を戻し終わり、辺りを見ると牙連が張飛に高い高いしている。

ただ普通の高い高いじゃない、手で受け取るのを失敗したら死ぬレベルの高さまで放り投げている。しかも「次は璃々もやるー!」と小さい子がせがんでいた。

よく無邪気に楽しめるな…

 

そんな光景を少しばかり眺め、俺が部屋に戻ろうとしたら夏侯覇が声を掛けてきた。その第一声が「なぁ知り合いに巨乳の人いるか?居たら紹介してくれ!」コレだ。顔は凄く真面目だが、内容が阿保すぎる。顔がイケメンなだけに残念すぎる…

うん。こいつは間違いなく、本当の、本物の、真の馬鹿だ。

とりあえずキラッキラッした眼をしていたので顔面を殴っておいた。

 

馬鹿がうつるので踵を返し部屋に帰ろうとしたが、またしても声を掛けられた。今度は一刀だ。

 

「すまない。悪い奴でも馬鹿でもないんだが、頭が少し変なだけなんだ。わりと良い奴だよ」

フォローになってないフォローだな。いやフォローする気がないだけか。

 

「あぁ。で、なんの用だ?」

さっさと話し聞いて部屋に戻りたい。

 

「単刀直入に言う、俺達の仲間にならないか」

真摯な瞳で言われたが。

 

「断る」

真っ直ぐ見つめ返し、そっこうで断った。

 

「なんでだ?」

不思議そうな顔で聞かれたので、わざわざ俺は答えてやった。

 

 

お前等の考えは甘い。

たった一つを守るだけでも命懸けなのによ。色々なモノに縛られ、背負い過ぎてる。

誰も彼も救うなんて無理だ。俺は俺の世界を守る、他人なんか知らん。

俺は切り捨てる。世の中の全員が幸せになんかなれねぇ。

まぁ考え自体は嫌いじゃないぜ。

だが断る。

それに!男ならまず自分で天下を目指すもんだろ。

俺は俺のやりたい通りにする。それで死ぬなら本望だ。

 

 

そんな事を話、一刀の返事も待たず俺は部屋に戻った。

 

 

 

数日後。

牙連が「勘だけど家に戻らないと」と言った。

もう少し俺は都昌に残る事を伝えた。都昌の外は戦でグチャグチャなので、その手伝いをする事に俺は決めていた。

 

その夜。

俺は牙連と酒を酌み交わしていた。

 

「助かった」

空に浮かぶ月を見ながら、俺はポツリと呟いた。

 

「たいした事はしてないよ」

いつも通りの柔らかい口調だった。

 

「んな事ねぇだろ」

東門の兵士達に聞いたかぎりでば、牙連の奴は出撃をしない武将に「出陣せよ」と孔融の命令だと嘘を言い、確認する暇をあたえず、出撃の鐘を鳴らし、自ら先頭に立ち東門から出た、と聞いた。

 

「そうかな?」

ほうけたように言ってるが、この争い嫌いが自ら戦場に出たんだ…

 

「あぁ。それと…もしお前が危機になったら一番に駆けつける」

真っ直ぐ見つめ、俺が真剣に言うと。

 

「ありがとう」

ニッコリ笑っていた。

 

 

日の出と共に牙連は都昌から旅立った。

武器は何一つ持たず、一冊の本を持って、争い事が苦手は男は旅立った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

〜 人物紹介 〜

ネタバレあり。


【名前】

太史慈子義

たいし、じ、しぎ

 

【真名】

せい

 

まぁ別にマコトでもいいです。

好きに読んでください。

 

【性格】

戦闘狂。

戦いが好き、殺す気は無い。

おぼろげな記憶。

歴史が超絶苦手。

頭の良い馬鹿。

 

【身体】

黒髪、黒目。

目付きが極悪人。

 

178cm。

イケメン…かなぁ。

 

【武器】

見た目はBLEACHの蛇尾丸。

蛇腹刀。元は母の武器。

 

【称号・二つ名】

①極悪面の義侠人

②○○○

③○○○

 

【備考】

多分に、よく気絶します。

使わないだろうけど、ドイツ語、習得してます。

転生前は医者の家系だった。幼い頃から英才教育されていたがグレた。

 

〜〜〜

 

【名前】

孫瑜仲異

そん、ゆ、ちゅうい

 

【真名】

牙連

がれん

 

【性格】

ぼんやり、のほほん。

戦は苦手。

本が好き。

必中の勘、恋愛面以外。

ヤンデレ。

 

【身体】

少しタレ目。

紅髪、赤目。

褐色肌。

 

185cm。

イケメンです。

 

【武器】

細い長方形、片刃、握りはコの字型に切り取った場所があり上か下かわかる、あと分厚い。

 

【称号・二つ名】

①のんびり者の平和主義者

②○○○

③○○○

 

【備考】

頭も良い。

武芸の天才。

すごく強い。とても強い。

 

〜〜〜

 

【名前】

周瑜公謹

しゅう、ゆ、こうきん

 

【真名】

冥琳

めいりん

 

【設定とか】

文武両道の完璧超人。

曹操や諸葛亮に恐れられてる。

わりと史実より、かな。

叱り役、女房役、憎まれ役。

音楽に精通してる。琴や笛が得意。

天然かも。

好物は蜜柑酒。

牙連の雪蓮へ思いはイトコ・コンプレックス、過保護な姉好きだと思っている。

 

【称号・二つ名】

江東の二強

美周姫

 

〜〜〜

 

【名前】

孫策伯符

そん、さく、はくふ

 

【真名】

雪蓮

しぇれん

 

【設定とか】

ニート。飲んだくれ。

戦闘バカ。わりと冷徹。

必中の勘、恋愛面以外。

恋愛でお悩み中。誰にも相談してない。心が迷走中で、勘が今一つ冴えがない。

 

【称号・二つ名】

江東の二強

猛虎

 

〜〜〜

 

【名前】

陳武

ちんぶ

 

【設定とか】

軽薄に見えるが、学はある。

不運な人。良い上司に巡り合わなかった。

 

〜〜〜

 

【名前】

程普

ていふ

 

【設定とか】

頑固ジジイ。

ザ・ジジイ。

あだ名は程公。

 

〜〜〜

 

【名前】

魯粛子敬

ろしゅくしけい

 

【設定とか】

男の子。

麒麟児。

軍略の天才。

武の方はイマイチ。

数少ない常識人。

わりと主人公体質。

ハーレム作るかも。

 

〜〜〜

 

【蜀】

 

【名前】

夏侯覇

かこうは

 

【設定とか】

オリジナル登場人物。

蜀軍。

すごく強い。

おぱーい好き。

残念なイケメン。

頭が良い馬鹿。

夢は、年上爆乳ハーレム。

 

〜〜〜

 

【魏】

 

???

 

???

 

???

 

???

 

〜〜〜

 

【番外】

 

???

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6、狂愛盲進

タイトル詐欺です。
アニメの孫静とは別人です。
牙連視点です。


久しぶりに故郷に戻り、まず僕は母上のお墓に向かいました。

 

母上のお墓は、町の外にある穏やかな丘の上にあります。そして母上のお墓が見える場所まで行くと、父上がぼんやり空を見上げ母上のお墓の隣に座っていました。

父上は母上が死んでから、ずっと墓守をしています。

 

「父上、お久しぶりです」

まず父上に挨拶し、次に母上に挨拶をしました。

しばしの間、僕は目をつぶりました。

僕が目を開けてから少しして。

 

「あぁ、元気だったか?」

父上は立ち上がり、僕に尋ねました。

 

「えぇ。元気ですよ」

それから僕は旅の内容を話しながら父上と一緒に町へ向かいました。

 

 

 

その数日後。

雪蓮から、もとい冥琳から手紙が来ました。

手紙の内容は、盗賊狩りを終えたら父上の家に寄り道する、そうです。

 

さらに数日後。

僕がのんびり庭の木に寄り掛かり本を読んでいた時、雪蓮達がやって来ました。500人ほどの兵と、祭さん、冥琳も一緒です。

 

「久しぶりだね。元気だった?」

僕は立ち上がり、まず雪蓮に声を掛けました。

 

「もちろん元気よ、牙連も元気そうね。旅してるって聞いたけど、帰ってきたの?怪我とかしなかった?」

雪蓮は太陽みたいな笑顔で答え、その後、僕の事を心配してくれた。二年五ヶ月二十一日ぶりに会ったが、やっぱり雪蓮は可愛いくて綺麗だ…

 

「うん。大丈夫だったよ」

もっと雪蓮と話をしたいが、我慢しないと延々と喋りそうで僕は祭さん冥琳に向き直った。

「祭さん、冥琳、元気だった?」

 

「当たり前じゃろう」

「壮健そうで何よりだ」

最初に祭さんが笑いながら答え、次に冥琳が穏やか顔で答えてくれた。

 

それから僕は雪蓮達の近況を聞きました。

雪蓮の母が亡くなってから孫家は袁術の軍に組み込まれ、今も袁術にいいようにつかわれてるわ、と雪蓮は愚痴っていました。

ここには居ない、蓮華や小蓮、思春と明命、韓当兄に程普爺ちゃん、皆の事も聞きましたがどうやら皆元気なようです。ただ程普爺ちゃん以外は、拠点を別々にされているので手紙でやり取りしているとの事です。

…皆に会いたいなぁ。と僕が感慨にふけっていたら。

 

「孫静は、どこに居るの?」

雪蓮は少し辺りを見回し、僕に尋ねてきました。

ちなみに僕の父上の名前が孫静です。

 

「たぶん父上なら母上のお墓に居るよ」

ほとんど毎日、母上のお墓に父上は居るので間違いないはずです。

 

庭から家の中に雪蓮達を通し、お茶を入れるよう家の者に指示を出して、僕は父上を呼びにいきました。

 

 

 

 

父上を連れて帰り、挨拶もそこそこに。

「孫静。私達の力になって欲しいの。母が亡くなった時も助けてくれたでしょう?お願い」

真っ直ぐに父上を見つめ雪蓮は単刀直入に言いました。

 

先ほど冥琳が人員不足だと言っていたので、少しでも優秀な人物が欲しいのでしょう。身内のひいき目無しに、父上は文武に優れた人物です。

それに、雪蓮の母上が亡くなった時、父上は浮き足立つ一族をまとめ、雪蓮をたて一配下として使えました。きっと雪蓮から見れば信頼できる数少ない人物なのでしょう。

 

ただ父上は。

「この老いぼれには荷が重いですよ」

お茶を飲んでから、ゆっくり答えました。

 

「どうしても駄目なの?」

雪蓮が再度聞きましたが、父上は黙ったままです。

 

次に口を開いたのは冥琳でした。

「孫静様が居れば心強い。あなたが居れば後ろの守りを安心して任せる事が出来ます」

真摯な瞳で父上を見ていました。

 

「…もう私には、無理ですよ」

少しためらい苦笑い気味に父上は答えました。

 

「元々が戦嫌いじゃ。それに恩賞や官位に興味が無く、故郷に留まる事を願うような奴じゃぞ。諦めよ策殿」

祭さんは目で父上を見て、肩を竦めていました。

 

「そうね…」

雪蓮にしては珍しく、沈んだ声を出していました。

 

少しの間、沈黙が包み。

「僕が一緒に行くよ」

大きめな声で言いました。

 

「えっ?でも…争い事が牙連は苦手でしょ?ちゃんと戦える?」

驚いた表情の雪蓮が僕に尋ねましたが。

 

「大丈夫。戦になれば、ちゃんと殺すよ」

明確に僕の意思を伝えました。

 

何故か皆は眼を見開き驚いていました。

 

 

 

 

父上と別れの挨拶をし、僕は雪蓮達と一緒に袁術の元へ行きました。

ちなみに弟が一人いるのですが、今は武者修行の旅に出て家には居ません。

 

七日ほど歩き、袁術の居る都に到着しました。

 

雪蓮は袁術に報告しに行き、僕は祭さんや冥琳と一緒に宿舎に行きました。宿舎に入ると、シワシワの顔に白い髪と髭が特徴的な見知った顔の人物を見つけました。

 

「程普爺ちゃん。久しぶり」

 

「おお。牙連の坊主か大きくなったのう」

 

程普爺ちゃんは雪蓮の母上の時代から長年孫家に使えています。いわば生きてる化石です。年齢は本人も分からないらしいですが、僕が幼い頃からお爺ちゃんだったので、いつポックリ逝ってもおかしくない歳です。その後、程普爺ちゃんと色々な事を話しました。

 

 

それから数日後。

袁術に言われ、周キンを討伐する事になりました。冥琳いわく、周キンは領民から金を搾り取ってるずる賢い小悪党らしいです。

 

まず僕たちは会稽に進軍しましたが、その途中にある狭い道に周キンや配下の武将が硬く守っていました。なかなか攻めずらい、良い場所を選び立て籠もりましたね。

 

なので僕は雪蓮と冥琳の二人に、迂回して背後から査瀆を急襲しておびき出し、そこで一気に叩く事を献策しました。すると二人とも納得し、僕の策が起用されました。

 

その後、僕と祭さんで背後を急襲し、援軍に来た周キンを殺しました。

ちなみに雪蓮は「私も戦いたかった!」と喚いていました。しかし、そんな姿も可愛いかった。

 

 

 

 

次に王郎を討伐するよう袁術に言われました。

なんの名目かと言うと、反乱を企てたとの事です。ただ冥琳に言わせると「いちゃもんだな」とボヤいていました。僕が王郎と言う人物がどうゆう人か聞くと「真面目だけが取り柄だな。真面目に皇帝の地を守っているから袁術には気に食わないんだろうよ」と冥琳は言っていました。

 

王郎との合戦が始まりました。

ただただ愚直に王郎は突っ込んで来ます。策も何もありません。まぁ良く言えば正々堂々と戦を王郎はしています。まぁ簡単な罠や策にかかるので助かります。

 

あっさり僕達は勝利しました。

雪蓮は不満たらたらで「もっと強い奴と戦いたい!」と叫んでいました。そんな怒った表情も可愛いかった。

 

王郎は捕虜の後「いい奴なので解放!」と雪蓮が勝手に決め、逃がす事になりました。冥琳はとても怒っていました。

 

 

 

 

また数日後、白虎賊の討伐を袁術に言われました。

すぐに僕達は白虎賊の本拠地に向かいました。

目と鼻の先にまで近づくと、前方の道から白虎賊の厳興なる人物が数人の供と共に和睦に来ました。どうやら厳興は白虎賊の副団長のようです。

 

僕達全員が居る天幕に厳興はやって来ました。厳興は無駄な事を無駄に喋り、やっと本題かと思ったら…雪蓮に卑猥な言葉を吐きました。

 

「下種だね」

僕は剣を抜き、厳興を斬り殺しました。

 

「何をしてる!?牙連!?」

驚いた表情を冥琳していました。

 

「大将を、雪蓮を馬鹿にしたんだよ。それに元々討伐に来たんだから別に問題は無いでしょう?」

そう言うと何故か冥琳は溜め息をついていました。

そのあと雪蓮が言葉を発しました。

「私がやりたかったかわ。すぐ牙連がやっちゃうんだもん」

ぶーぶー文句を言われました。そんな姿もやっぱり可愛いなぁ。

 

その後、白虎賊を討伐しました。

 

 

 

 

雪蓮は袁術に白虎賊の討伐を報告し、休みを貰いました。

戦続きだったので、皆喜んでいました。

 

宴会をやる事になりました。

忙しくできなかった戦の勝利祝いと僕の歓迎会です。

 

飲んで騒いで皆楽しそうです。冥琳は酒を飲みながら部下を叱り、祭さんは部下と飲み比べをしていました。僕は雪蓮に何度も恋愛面の話を尋ねられました。

 

「だ〜か〜ら〜、好きな子教えてよっ。誰なの?」

 

「内緒だよ」

僕は苦笑いで答えました。

 

「いいじゃないケチね。お姉ちゃん悲しいわ」

雪蓮は、よよと泣き真似をしていました。

泣きたいのは僕の方なのにな…

 

「…内緒だよ」

力なく僕は答えました。

 

 

しばらくして宴会は終わりました。

雪蓮は酔っ払い足がふらふらだったので、僕が肩をかし部屋に向かっていました。その途中で、また雪蓮は僕に恋愛の話をふってきました。

 

「牙連の好きな子は誰なの?」

 

「…そんなに、知りたいの?」

 

「うん!知りたい!」

目を輝かせて雪蓮は笑っていました。

 

「部屋に着いたら教えてあげるよ…」

 

「ほんと!やった!早く行くわよ!」

 

 

部屋に着いて、寝床に雪蓮を座らせました。

 

 

「早く!早く!」

 

「じゃあ…、耳寄せて」

 

「うん!」

 

雪蓮の頬に手を添え、僕は素早く一瞬で唇に接吻しました。

あまりに雪蓮が笑顔で腹が立ち、やってしまいました。

 

「僕が好きな人は、雪蓮だよ」

 

「………」

 

呆然としていた雪蓮を置き去りにして僕は部屋を出ました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7、邂逅遭遇

つまりは出会い。
華佗は別人です。
ちなみに前編です。




都昌の周りを出来るだけ元通りにし、また俺はプラプラと旅をしている。

 

けっこう大きな町の大通りをのんびり歩いていたら、偶然、華佗に出会った。

 

最近は前髪を伸ばして顔を隠してるので、よく華佗の奴は気がついたな。まぁ華佗が言うには「気」が人それぞれ違うらしい。あと骨格。ちなみ何故、俺が前髪を伸ばしたかのは赤ん坊や子供が、あまりにも泣くからだ。俺の目を見てな。なかなか来るぜ。

 

で、俺は華佗に誘われ近くの茶屋に入った。

ダンゴうめぇなぁ。奢りなのでバクバク食っていたら…

 

「医術書をやろう。しかも俺の直筆だ」

ドヤ顔で言われたが。

 

「いらん」

マジいらん。

 

「なん、だと!?」

大げさなリアクションがうぜぇ…

その後も、やたらと進めてくる。

 

「人殺しだ。俺には資格が無い」

出来るだけ淡々と言葉を発した。

 

「大なり小なり人には罪があるさ」

透き通った静かな声が耳に響いた。

 

「それに…一歩間違えれば患者が死ぬ。責任が、命が…、重いんだよ…」

 

「そうゆうお前だからこそ医者になるべきなんだよ。それに、お前が医者をやらないより、医者をやった方が沢山の命が救える」

 

「……」

 

「これは、好きにしろ。お前の物だ。捨てるなり、燃やすなり、な」

華佗は俺が座っている横に医術書をそっと置いた。

 

「なんでだよ…、他に渡す奴とか居るだろ…」

 

「底抜けにお人好しな所は父親似だ。底抜けに優しいのは母親似だ。お前なら良い医者になる」

やわらかな笑みが…、鼻に付いた。

 

「答えに、なってねぇよ…」

 

 

 

 

あの後、華佗は旅立った。

俺は、まだ町に居る。つか呼び出された。

何故か大守に呼び出され、太守の屋敷に向かった。

 

大守劉ヨウが、俺と同郷なので、そのよしみで呼ばれた。自分で言うのもなんだが、わりと俺は有名人らしい。

問題的な行動を起こし、喧嘩を売られブチ倒し、戦で戦い名が売れ、食客やったり、用心棒やったり、そんな感じで俺は有名になっていた。

 

で、太守にテキトーに挨拶してたら、戦に巻き込まれた。

 

巻き込まれたって言うよりは「手伝ってくれないか?」と太守の劉ヨウに言われ、悩んでいたら褒美に財宝くれると言うので手伝う事にした。

 

何度か盗賊を退治を手伝った。しかし、その後は、まったく呼ばれなくなった。それは何故か、人物批評家の許ショウを気にして劉ヨウは俺を使わん。

 

劉ヨウは許ショウの意見を聞いてアレコレ決めている。そんな許ショウに俺は嫌われてるようだったし、数日前に許ショウの話をどうでもいいと言ったからだろう。器が小さい奴だぜ。

 

許ショウが黄巾の乱の話をしていた。

「黄巾の乱は失敗に終わる。漢王朝は火徳の赤、黄巾賊は土徳の黄、奴らは『蒼天已死 黄天当立』と言っている。しかし蒼天だと木徳、土は木に負ける。」

とドヤ顔で言っていた。

 

どうでもいい…

そんな思想の話、どうでもいいわぁ。

 

そんな感じで、まったく呼ばれなくなった。まぁ雇われた傭兵みたいなもんだからな、金の為だ。それに楽だ。と俺も最初は思っていた。

 

しかし暇だった。暇すぎた。

 

暇で暇で、酒を飲んだりしていた。

一人で飲むのにも飽きたので、テキトーに兵士達を誘い飲み会を開いた。たびたび奴らと馬鹿騒ぎをした。

 

それでも暇で、無駄に偵察に行っている。

 

今も陳武と二人で偵察している。陳武は俺と同じような流れ者だ。何故か俺の副官のようなポジションにおさまっている。陳武はまぁまぁ頭は良いのだが、バカな変態なのが残念な奴だ。

 

いやぁ、いい天気だねぇ。にしても暇だ。かなり出張ってるから敵が出てきもいいようなもんだが。出ないかなぁ敵。と思いながら、さらに馬で進んで行くと。

 

あれは、武将だよな?

剣を持ってるし、気がデカイ。

桃色の髪、褐色の肌、スタイルの良い体してるねぇ。美人だが、なんか物憂げな表情してるな…

 

まだ気づいてないな。

つか一人なのか?

 

まぁいいか。

俺は馬に合図を送り、駆けた。

すると向こうも俺に気づいたようだ。

 

女も俺の方に馬で駆けてきた。

さっきまでと顔つきがまるで違う。

はっ!いいねっ!やる気満々だな!

 

おらっ!

 

すれ違いざま。

馬上で一太刀切り結んだ。

 

そして、派手な剣戟の音が響いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8、一騎決闘

「一騎打ち」と「決闘」
無理矢理、合わせました。

タイトル違いますが後編です。
ごめんなさい。



 

派手な剣戟の音が響き渡った。

 

「いきなりねー」

女は驚いたような顔で言ってはいたが。

 

「あれぐらい、どうって事ないだろ」

俺がニヤリと笑うと。

 

「ふふっ、まぁね」

女もニヤリと笑った。

 

たぶん女も強い敵と戦いたかったのだろう。さっきまでは物憂げな表情だったが、今は目を爛々と輝かせてる。

 

「あんた何やってんすか!?」

後から追いかけて来た陳武が大声を出していた。

 

「あ?見るからに名のある武将だろ。討ち取った方が良いだろうが。野暮な事はすんなよ」

ぶっちゃけ最近あまりに暇だったから体を動かしたい。つか戦いたい。

 

「あれ?私のこと知らないの?」

女は不思議そうな表情をしていた。

 

「会ったことあったか?」

こんな良い女に出会ったら忘れないはずだが…

 

「あははっ、ないわね」

何故か女は、ほがらかに笑っていた。

 

「せっかくだ降りてやらねぇか?」

顎をしゃくって指し示せば。

 

「ふふっ、いいわよ」

かろやかに頷いた。

 

「話がわかる女だ」

「あなたも話がわかる男ね」

 

「俺の名は『太史慈子義』だ」

「私の名は『孫策伯符』よ」

 

「「いざ、尋常に勝負」」

女は、最高の笑顔になっていた。

もちろん俺もだが。

 

お互いに駆け出した。俺が横薙ぎの一閃をすると孫策は避けずに受け止めやがった。しかも逆に押し返してきた。馬鹿力が!

その後は孫策が矢継ぎ早に仕掛けてきた。剣を、受け流し、かわし、受け止め、俺やや押され気味。つうのも孫策がまったくフェイントに引っかからない。

態勢を崩したように見せて俺は剣を受け止めた。そこで、足を入れようとしたら、これも防ぎやがった。マジでブラフは意味がないな。

 

数十合、斬り合った。

そこで初めて孫策の隙があった。

自然に体が動いた。そして刀を振り上げた瞬間、ヤバイと直感した。この女が戦いのさなかに隙を見せるか?

 

しかし、もう止まらねぇ。

仕方なしに俺は刀を伸ばした。その反動も使い、足に力を込め、後ろへ飛んだ。

 

孫策の髪飾りを切った。

が。

俺は前髪を切られた。

 

そして俺達は、いったん距離をおいた。

決着を着けようと、お互い走り出そうとした時。

 

「雪蓮!!」

その声に、俺と孫策はギクリと動きを止めた。むしろコケる勢いで動きを止め、俺達は停止した。

 

もう一度、距離を取りなおして、孫策は振り返り、俺は孫策の後ろに目をやった。

 

「マジかよ…」

馬に乗り、颯爽と周瑜が到来した。

 

周瑜は馬から降りると孫策につめより、当主の自覚が足りない、一人で突っ込むな、などなど俺にまで聞こえる声でガミガミと説教をしていた。

 

ようやく話し終えると、孫策はしょんぼりしていた。そして、やっと周瑜は俺の方に顔を向けた。

 

「太史慈子義」

やっこさんはガン睨みだ。

 

「よう、久しぶりだな周瑜公瑾」

昔の事は水に流そうぜ、的な感じで話しかけたが。

 

「なにが久しぶりだっ」

さらに周瑜は睨んできた。周瑜が目で殺せるなら、俺は死んでただろう。そんぐらい周瑜は俺を睨んでいる。

 

「あれ?冥琳と知り合い?」

孫策は戦う気が失せたのか、すっかり気が抜けた雰囲気になっていた。しかし気を抜きすぎだ。

 

「んー?んー、ちょっとな」

まぁ俺もすでに戦う気は失せていたがな。

 

「甘皮一枚分すら知り合いでは無い」

吐き捨てるように周瑜は言葉をはっした。

 

ん?つか待てよ?雪蓮って?

「もしかして…、牙連のイトコか?」

 

「えっ、そうだけど?牙蓮の知り合い?」

 

「そうだな。牙連とは友人だ」

 

牙連との知り合った経緯をおおまかに孫策に話した。今は元気か、どうしてるかなど、牙連に関した事をお互い雑談するように話していたら。

 

「雪蓮!何を敵と雑談してる!」

周瑜が怒り心頭していた。

 

「そんな怒らないでよ冥琳。小じわが増えちゃうわよ」

 

「誰のせいだ!」

 

漫才のようなやり取りが終わり、孫策が俺に向き直った。

 

「この決着は、また今度ね」

孫策は笑っていたが。

 

「首を洗って待っていろ」

あいもかわらず周瑜はガン睨みだ。

 

「またな。おーう…」

なんだかなぁ…

 

二人は馬で駆けて行った。

 

なんか疲れた、精神的に。

 

はぁ…

 

「帰るか、陳武」

 

「そうっすね」

 

 

 

 

数日後。

劉ヨウは逃げ出した。

 

配下のおやじ共。

于縻がやられ、樊能がやられ。

笮融がやられ、薛礼がやられ。

ビビった劉ヨウは逃げた。

 

俺も、もう付き合いきれない。

部下が死んで逃げるなどクソだ。それに、まだ孫策と決着がついてない。一応は劉ヨウには話を通そうと思ったが、すでに逃げた後だった。逃げ足、早すぎ。

 

で、何故か俺を慕い残った兵士どもがいた。

こいつら孫家の兵数の知ってんのかね。あきらかに無謀な勝負だ。つか勝負にすらならない兵数の違いだ。

 

まっ、出来ることを今はやるかね。

とりあえず近くの盗賊をスカウトする事にした。

 

まず数ある盗賊団を調べ上げ、選別し、そののち大勢の兵を引き連れて、盗賊団を囲みこみ、盗賊の頭と一騎打ち、ぶち倒し、無理やり部下にした。

 

そんな事を五回ほどやってたら、孫家の奴等すぐに攻めてきた。あちこちで反乱があり鎮圧に時間がかかると思ったが早いな、おい。苛烈すぎる勢いだろ。

 

はい。都を囲まれた。

四面楚歌、これで二回目か。

包囲され終わり、どうするか考えていたら、牙連が兵の中から門の前に出てきた。

 

「我が名は孫瑜仲異!太史慈子義殿に一騎打ちを申し込む!返答はいかに!」

馬鹿でかい声で言い放ちやがった。

 

「あの野郎…」

やってくれるぜ。くっくっくっ。

思わず笑い声がもれた。

 

「陳武、俺が負けたら逃げるか降伏しろ。後は任せた」

さっさと出ようと階段を降りながら言うと。

 

「俺っすか?」

 

「他に任せられるような奴、いねぇだろ」

 

「うーす、わかりました。ご武運を」

陳武の言葉を最後まで聞かず、俺は階段を降りた。

 

 

門の前まで移動し。

「開門しろ!」

でかい扉が開いた。

 

 

「よう。久しぶりだな」

俺は牙連の数歩前で立ち止まった。

 

「うん。久しぶりだね」

笑いながら牙連は穏やかに返事をした。

 

「お前と一騎打ち出来るとはな。やっぱ孫策の為か?」

 

「うん、そうだよ」

 

「歪みないねぇ。つか、えらくゴツイ武器だな」

牙連は分厚い正方形の片刃の武器を持っていた。

 

「うん、まぁね」

 

「長く話すぎたな。やるか」

 

「うん」

牙連は儚げな表情をしていた。

 

 

 

「我が名は太史慈子義!いくぜ!孫瑜仲異!」

初撃をかわした奴はいないぜ!牙連!

蛇腹刀を伸ばし、牙連に向けて放った。

 

牙連はよけるそぶりも見せず刀を構えた。そして、刀がぶつかりあった。一歩もたりとも後ろに下がらず、牙連の奴は受け止めやがった。

 

「マジかよ…」

冗談だろ…

 

「蛇腹刀、使えるようになったんだね」

やる気のある顔を牙連は見せていた。

 

「ちっ、人間成長するもんだから、なっ!」

蛇腹刀を戻し、横に薙ぎはらったが、牙連は飛んでかわし距離を詰めてきた。

 

「そうだね。誠、本気で行くよ。死なないでね」

駆けながら牙連は武器を振り上げた。

 

「はっ!誰が死ぬか!来いよ!」

蛇腹刀を戻し、俺も斬りかかった。

 

刀がぶつかり合った瞬間。

景色が流れた。

 

あぁ俺が後ろへ吹き飛んでるのか。

何故か意識はゆっくりしていた。

しかし体が動かねぇ。

 

そして背後から多大な衝撃がきた。

がはっ、息、止まるぜ。

 

あぁ、目の前が暗くなる。

ちくしょう…

俺の負け、か…

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9、囚人生活

ごめんなさい。
ごめんなさい。
本当にごめんなさい。





捕虜になった。

俺は捕虜になっていた。

 

気絶し、気が付いたら縄で縛られていた。縄でグルグル巻きだ。もはやミノムシ。間抜け過ぎる。

 

俺が居る場所は天幕の中で、見張りには爺さんが居る。その爺さんは仁王立ちで、俺を鋭く睨んでいる。なかなか強い気を持ってるな。

 

「爺さん、疲れるだろ。座ったらどうだ?」

俺が親切心で言ってやると。

 

「年寄り扱いするなっ!」

あろう事か爺は俺を殴りやがった。

 

「ぃだっ!なにすんだ!爺!てめえ!」

ミノムシ状態の俺はジタバタする事しかできない。

 

「捕虜のクセに生意気な事を言いおって」

鼻息荒く爺は吐き捨てるように言った。

 

「あぁ?喧嘩売ってんのか?」

しかし睨んでもミノムシの状態じゃカッコがつかん。

 

で、俺と爺が睨み合っていると。

魯粛子敬が来た。一時期、子敬の家に世話になった。子供とは思えないほど、頭が良い利発な奴だ。久しぶりに見たが身長変わってねぇなぁ。

 

「お久しぶりです、太史子義殿。大丈夫ですか?」

ニコリと笑いながら、子敬は俺を地面から起こしてくれた。

 

「おう。ここに居るって事は、お前孫家に使えてんのか?」

抱き起こされてわかったが、剣ダコが出来てる。よくよく見れば身体も鍛えてるな。

 

「はい。冥琳様に声を掛けていただき、自分で決めて士官する事にしました。今は軍師をしています」

 

「へぇ、さすがだな。それに身体の方も鍛えてるみたいだな」

 

「はい。せめて自分の身は自分で守りたいので、武の方も頑張っています」

 

「そうか、元気そうで何よりだ。所で俺はどうなる?つか、あの後どうなった?」

そう俺が言うと、子敬は俺がどこまで覚えてるか聞き、わかりました。と言い話しだした。

 

「まず、あの後、一騎討ちが終わり、子義殿の部下たちは全員がおとなしく武器を捨て投降しました。ですので、この度の戦での死者はいません。それで、子義殿の事は未だ決まっておりません。雪蓮様と牙連様は仲間にしようと主張しているのですが、冥琳様が、その、とても反対していまして、荒れに荒れています」

アハハと苦笑いで話を締めくくった。

 

爺に睨まれながら、その後もテキトーに、くっちゃべていたら、お呼び出しがかかった。腰から下の縄だけ解かれ、魯粛が俺の前に、爺は俺の後ろの位置について天幕から外へ出た。

 

天幕を出ると、大勢の奴らが縄で縛られていた。本当に残ってるな。陳武達…、つか俺が太守を自称し仲間にした時の盗賊の奴らまで、見た限り全員残っている。

 

で、俺は、おそらく孫呉の幹部どもが集まってる場所まで連れてこられ、地べたに座らせられた。孫策が簡易的な椅子に座り、左右の横には周遊と牙連が立ち、爆乳の弓持ってる女、あと魯粛と爺が加わって並んだ。

 

すると牙連が無言で進み出て、刀を振りかぶった。

 

俺の人生ここで終わりか、呆気ないねぇ。

 

一直線に刀は振り下ろされた。

 

しかし刀は俺にも服にもかすりもせず、見事に縄だけを切った。ん?

 

「私達の仲間にならない?」

俺が間抜け面で不思議がっていたら、孫策がそんなことを言ってきた。

 

「嫌だと言ったら?」

頭で考えるより早く、俺は口に出していた。

 

「逃がすわ」

孫策は真顔でのたまった。

 

「はっ?…それで俺がもう一度襲ってきたらどうすんだ?」

 

「今度は私がコテンパンのけちょんけちょんにしてやるわよ!私がやりたかったのに牙連が勝手に行っちゃうし!」

 

「くっ、あははは」

 

「それで仲間になるの?ならいないの?」

 

「無理だな」

どよめき、怒り顔の奴らもいる。

 

「その、苦手なんだよ。敬語とか、臣下の礼とか、だから友の、朋友の手伝いなら喜んでやろう。それじゃ駄目か?」

 

「なら!今から私と貴方は朋友ね!もちろん手伝ってくれるわよね!」

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

 

 

 

孫策、もとい雪蓮と朋友になり、俺は孫呉の食客的な立ち位置になった。とは言っても牙連や雪蓮などごく少数にしか信用されておらず、影から俺を見張る奴らがいる。

 

この一月ぐらい、戦らしい戦はしていない。

雪蓮たちは劉ヨウの首を取りたいらしいが、劉ヨウは彭沢の都に逃げこみ、都から一切打って出てこず守りを固め、亀の如く籠城している。

 

俺たちは彭沢の都に一番近い、曲河の都に今はいる。雪蓮が言うには周瑜が裏で何かやってるらしいので、それ待ちらしい。

 

退屈な日々だったが、一つだけ異常な点を上げるとしたら周瑜が『不自然に優しい』のだ。あれだけ俺を嫌ってたはずなのに、普通に話しかけたり、笑ったりする。なにより時たま用もなく俺の部屋にふらっと来ては雑談し帰るのだ。

 

「邪魔をする」

今日もまた周瑜が来た。だが、いつもと周遊の雰囲気が違っていた。

 

「太史慈、孫策をどう思う?」

座るでもなく、部屋を見回したまま話し出した。

 

「そうだな。大雑把でガサツな」

俺が喋ってる途中で、周瑜は話し出した。

 

「そうだろう。孫策には孫呉を任せておけない。私と共に孫呉をとらないか?」

そんな阿呆な事を言いながら周瑜は段々と俺に近づいて来た。

 

「はっ?」

いや、はっ?

 

「孫策は、ただの戦馬鹿だ。私は、お前を王にしたい」

俺の横に座り、最後に艶っぽく言いながら、しなだれかかってきた。

 

「演技は完璧だ。だがよ、お前が雪蓮を裏切る訳が無い。もうちょっとマシな嘘をつけや」

冷めた目で周瑜を見やると。

 

「ふん。思ったより馬鹿ではないようだ」

すぐさま周遊は俺から離れ、布でゴシゴシと拭っていた。俺と触れた箇所を。

 

「そりょどーも」

 

「牙連の友でなければもっと厳しい生活だったろう。牙連に感謝するんだな」

あらかた布で拭き終わってから、吐き捨てるように周遊は言い放った。

 

「そうか。持つべきものは友だな」

何故かギンッと音が付くほど睨まれた。

つーか、う〜ん…

 

「顔色が、悪いな…」

ほんとに微妙な変化だが、昔より顔色が悪い。

 

「…お前さ、病気だろ?結構おっ!?」

俺が喋ってる途中で、周遊は腰の剣を抜き、いきなり切りかかってきやがった。マジ危ねえ!

 

「いきなり何すんだ!?馬鹿か!?」

座ってた椅子を使い防いだが、椅子は粉砕された。軍師のクセに身体能力が高過ぎだろ!

 

「黙れ。知られたからには…殺す」

 

「うおっ!?わかった!待て!」

容赦なく連続で突きを放ってきやがる。

 

「大人しく、死ね」

ヤバイ…、こいつ本気だ。

 

近くにあった寝台の布を掴み、周瑜に向かって投げつけ、目くらましにし、剣を持っている腕を掴んで、いっきに床に組み敷いた。

 

「誰にも言わねぇよ…、そんなに知られたくねぇなら誰にも言わねぇから」

できるだけ冷静にして周瑜に言い聞かせた。

 

「口約束など誰にでもできる」

周瑜は俺を睨みあげていた。頑固な女。

 

「俺は天なんてモノは信用してねぇ。だから俺は俺に誓おう。俺の誇りにかけて、お前の秘密を守ろう」

長いこと目が合っていたが、しばらくして周瑜は顔をうなずかせ目が見えなくなった。

 

そして黙りぱっなしだった周瑜が口を開いた。

 

「はなせ」

 

「あっ?」

 

「手を、はなせ」

 

「あぁ」

もう大丈夫だろうと思い俺が手を放すと、周瑜は無言で立ち上がり、服を軽く手で払い、そのまま無言で部屋から出て行った。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

劉ヨウが死んだ。

突然と劉ヨウが死に、劉ヨウの軍勢には亀裂が生じている。跡継ぎ決めないまま死んだので、兄、弟、伯父、それぞれが当主には自分が相応しいと主張している。

 

攻めるには絶好の機会、容易く終わる。軍略会議中に私が雪蓮や皆に策の話をしていると。

 

「劉ヨウの配下、集めに行くか?」

突然と太史慈が口にした。

 

「そう。なら」

声色から雪蓮が乗り気だったので。

「…反対だ。まだ太史慈は信用できない」

私は雪蓮の言葉を遮り、太史慈を睨んだ。

 

「同意だ。裏切る可能性がある」

程普も頷き、私の言葉に続いた。おそらく程普に爺とでも言ったのか太史慈は程普に嫌われている。予想通りだな。

 

「誠が裏切る?あり得ないよ。絶対に」

やはり牙連は太史慈を庇い、力強く言い切った。

 

「で。どうすればいい、俺はよ」

太史慈は雪蓮を見ながら尋ねると。

 

「誠、頼んでいいかしら」

雪蓮は考えるそぶりも見せず、太史慈に言い放った。

 

「おう。七日までには帰る」

すぐに椅子から立ち上がり、太史慈が部屋から出ようとしたので。

 

「行きに一日。戻るのに一日。わかってて言ったのか?」

太史慈の背中に向かって言ってやると。

 

「男に二言はねぇよ」

あいつは振り向きもせず、そのまま部屋から出て行った。しかし、いまだ会議中だと言うのに。ちっ、仕方ない。

 

「太史慈の動向が分かるまで軍略会議は中止だ。武将は、いつでも戦が出来るように準備だけは怠らないように。雪蓮、他に何かあるか?」

 

「ないわ!お開きで!」

満面の笑顔だった。そんなに会議が終わって嬉しいのか。はぁ。

 

「そうか。二人で話したい事があるから残ってくれ」

 

「…はーい」

面倒臭いのが丸わかりだ!まったく!

 

そして皆が退出し、二人だけになり、一呼吸おいて私は雪蓮に話しかけた。

 

「太史慈を信用し過ぎだ。すぐに真名を許すわ。重要な策を任せるわ。一月前まで敵だった男だぞ」

睨む表情で雪蓮を見つめていると。

 

「刃を交えれば分かるわよ、誠が信用できる男だって。それに冥琳この前、兵が足りなくてブーブー文句言ってたでしょ?これで解決するわよ」

 

「兵数が少なければ、考えられる策も少なくなると言っただけだ。やりようはいくらでもある」

 

「でもさ。冥琳だって絶対反対って訳じゃないでしょ。もし反対だったら、口で言い負かしちゃうじゃない」

 

「はぁ、もう太史慈の話はお仕舞いだ。さぁ雪蓮、溜まってる書類をやってもらうぞ」

 

「えぇ〜!!」

 

「えぇじゃない!やれ!」

 

 

七日後、夕暮れ前。

太史慈は劉ヨウの兵を集め戻ってきた。

 

 

「約束したろ美周嬢、俺は必ず約束を守る男だぜ」

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

劉ヨウの兵を集め帰って来た夜。

牙連に誘われ、酒盛りをやっていると…

琴ような音色が聞こえた。

 

「ん?これは?」

 

「あぁ、冥琳だよ。でも珍しいなぁ。機嫌が良い時にしか弾かないのに」

 

へぇ…

 

いい、音色だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。