ガールズ&パンツァー 紅蓮の戦車乙女 (宣伝部長)
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戦車道、再開します!

普通科教室のとある席で、少女は机に突っ伏すような形で爆睡している。真っ赤な炎をイメージさせるようなショートヘアー、制服も着崩したようにしており、女の子と言うよりも男の子に見えてしまう。そんな為にクラスから少し話しかけられにくい雰囲気もあり、周囲のクラスメイトたちが学食へと急ぐ時間だというのに彼女は起こされることもなく居眠り続けているのであった。

 

 

 

「飛鳥せんぱぁぁぁい!!お昼ご飯の時間ですよぉぉぉ!!!!」

 

 

 

バンッと強引に開けられた轟音と同時に鼻に絆創膏を付けた元気そうな女の子は叫ぶように居眠り姫へとお昼を告げる言葉を放った。するとゆっくりと頭が上げられたかと思うと一緒に大きく背伸びをすれば、女性とは思えないような大きく口を開けて欠伸をすると机からゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

立ち上がればそれは女性が欲しがるであろう高身長でバランスの整ったボディ。モデルを意識させるような体型ではあるが、当の本人はそんなことを気になどせずにボサボサになった髪をくしゃくしゃと掻き・・・日野本 飛鳥(ひのもと あすか)は元気一杯な女の子の元に歩み寄った。

 

 

 

 

「毎度毎度、ありがと」

「いえ、コレは私の日課みたいなモノですからお構いなく!」

「いやいや、こうして昼飯にありつけるのはツバサのおかげっていつも感謝してるよ」

「ふぁぁぁ~・・・飛鳥先輩にそのように思われているとはツバサは感動しております!!」

「あぁ~・・・泣かない泣かない。ほら、はやくしないと昼休憩終わるから」

「はい!!」

 

 

 

 

元気一杯な少女・・・小早川 ツバサ(こばやかわ つばさ)はなにかと飛鳥の世話を焼きたがる女の子である。飛鳥は2年、ツバサは1年と学年は違うのだが休み時間となれば必ず顔を見せに来るので周りから良く「わんこ」と呼ばれたりしているみたいだ。彼女に世話を焼く理由を尋ねたが、いつも「飛鳥先輩が好きだからです!」と笑顔で返される。

 

 

 

 

「今日のオススメはなんだっけ?」

「チーズハンバーグ定食です!!」

「うぅ~・・・チーハンか・・・・・パス」

「じゃあ・・・私がオススメするからあげ丼にしますか!?」

「でも、・・・うっ、仕方ない・・・それの大盛り」

「了解しました!!」

 

 

 

食堂前にあるメニューを睨む2人。いつものように今日のオススメメニューを頼もうとする飛鳥だが、昨日の夕飯にハンバーグを食べたことを思い出すと首を横に振った。するとここぞとばかりに目を輝かせてツバサがいつも食べているオススメメニューを推しに出た。他のメニューと思って視線を彷徨わせようとしたが、お腹が鳴ったのに顔を赤くして俯きつつもしれっと大盛りを注文する。注文を承ったツバサはカウンターの方に飛鳥は席を取る為に4人掛けのテーブルに腰を降ろした。

 

 

 

ご飯が来るまでの間は暇な時間である。なにをする訳でもなくぼけーっと外の景色を眺めているだけしかない。だが、不意に向かい側の席の前に誰かが居るのが確認出来た。ツバサにしては早過ぎると思っていてもゆっくりと視線を向かい側の方に向けてみるとそこには見慣れた女の子が両腕をワクワクとしながら立っていた。

 

 

 

 

「飛鳥殿!ご一緒してもよろしいですか?」

「・・・別に構わないぞ」

「はっ、ありがとうございます!!」

 

 

 

彼女は満面の笑みで敬礼をすると深々とお辞儀をした後に席に座ると弁当箱を取り出してすぐには食べずに飛鳥の顔をじぃーっと見てくる。彼女・・・秋山 優花里(あきやま ゆかり)はアルバイト先で知り合った仲なのだが、彼女とどう言う仲かと聞かれると・・・・・、

 

 

 

「飛鳥殿!新商品の入荷の話はありますか!?」

「商品じゃないが、センチュリオン Mk.3の実物サイズ立体模型を展示することになった」

「おぉ!あの朝鮮戦争で初めて実戦を経験して高い能力を証明し、同戦争で用いられた戦車の中で最高の評価を得たと言われている主力戦車のひとつじゃないですか~!?」

「本物じゃないにしても店の前に置くとか言われた時には驚いたよ」

「ほ、他にはなにかあるんですか?」

「う~ん・・・他には目立った情報はないな・・・。後は、アタシが1/15の74式戦車を組み立てるのくらいか」

「そ、それなら私もご一緒させて貰えないですか!」

「う~ん・・・別にいいぞ」

「うおぉぉぉ!!は、初めてです!こ、こんなに戦車の事を話し合える友が出来たことに・・・・・!!」

「そんな大袈裟な・・・・・」

 

 

 

 

そう戦車好きの仲間である。飛鳥が「せんしゃ倶楽部」の店員で、優花里はそこの常連さんである。飛鳥が何度も店内で優花里を見かけたので興味本位に話し掛けた所から意気投合して現在の仲に至る。数少ない趣味合う大切な存在である。

 

 

 

などと戦車トークで盛り上がっていると向こうから大きなどんぶりを2個持ってきょろきょろしているツバサが目に入る。飛鳥が大きく手を振って見せるとびくんっ犬の尻尾が立つようなイメージで背筋を伸ばしたように見えた彼女はすぐさま隣の席に飛び込んで来た。

 

 

 

 

「おっまたせしました!ツバサ特製のからあげ丼マヨ七味レボリューション大盛りです!!」

「勝手にトッピングすんな」

「あいたっ!?」

 

 

 

目の前に現れた食べ物とその説明に対して鋭いチョップがツバサの頭に容赦なく炸裂した。直撃を受けたツバサは大きく口を開けて涙目になっていた。

 

 

 

「あはは・・・流石は小早川殿であります」

「あっ、優花里先輩!一口どうですか?」

「え、遠慮しとくであります」

 

 

逃げるように弁当に箸を進める優花里。無言でからあげ丼を食べるがたまに表情が苦痛の色を見せる飛鳥。それに対してツバサは嬉しそうにからあげ丼を平らげている。良い子はマヨネーズと七味のかけ過ぎに注意するべし。

 

 

 

 

「日野本飛鳥だな」

 

 

 

不意にかけられた声にツバサと優花里は箸を止めて固まってしまった。逆に呼ばれた本人は動じることもなくガツガツとからあげ丼を口の中へとかき入れていた。その対応には声を掛けた人物も動じることはなく話を続ける為に口を開いた。

 

 

 

「貴様に話がある。放課後に生徒会室に来るように」

「飛鳥先輩はなにも悪いことなどしてません!!」

「いや、今回はそう言う話ではない」

「じゃ、じゃあ・・・なぜ、飛鳥殿に呼び出しが掛かったのですか?」

「あっ・・・飛鳥先輩をいじめるつもりですか!?」

「それはだな・・・・・」

「お断りします」

 

 

 

なにか勘違いをしたのか必死に事情を聞き出そうとする2人に納得出来る様に説明が始まろうとした最中食べ終えた飛鳥の口からはサラッと断わる言葉が発せられた。その言葉にキリッとしていた人物の表情は怒りに満ちた顔へと豹変し、机を叩くと前のめりになって飛鳥に詰め寄った。

 

 

 

「その態度はどう言う意味だ!」

「バイトあるから」

「・・・はぁ?」

「・・・・・それじゃあ」

 

 

 

簡単な理由だった。彼女はそれだけを告げると手を合わせて「ごちそうさま!」と言って空になったどんぶりと箸を持ってそそくさとその場から去って行った。取り残された2人も慌てたように食べ終えるとポカンと口を開けて固まっている人物に1礼してから食堂から逃げ出した。

 

 

 

 

「くうぅぅぅぅ!!日野本飛鳥ぁぁぁ!!!!」

 

 

 

1人取り残されてしまった生徒会広報・・・河嶋 桃(かわしま もも)はわなわなと握り締めた拳を震わせながら食堂に響き渡るような声で怒鳴り散らしていたのは今日の話題となってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼の授業もサラッと終わるがクラスメイトが帰り支度をする中でも1人は机に突っ伏したまま寝ている。だが、

ツバサが来るよりも先に飛鳥の席の近くにはクラスメイトが近寄っていた。ヘッドフォンを首に掛けた女の子はにやにやと笑いながら飛鳥の机の下に潜り込もうと企む。すると次の瞬間には顔面に靴の裏の跡をくっきりと付けた先程の女の子が倒れており、それと同時に飛鳥がゆっくりと上体を起こして目を覚ました。

 

 

 

 

「ふあぁぁぁ~・・・・・アルバイト行って来るか」

「コラァァァァ!!友達の顔面を足蹴にしておいてその無愛想な態度はどうなのよ!!」

「パンツを覗こうとする屑にそんな情けは必要ないだろ」

「えええええ!?そこまで言われる私って!?!?」

 

 

 

まさかの対応に必死に抗議する・・・瑞島 薫(みずしま かおる)は飛鳥に詰め寄り土下座をするモーションを見せたが、隙を突くようにまたパンツを拝む為に顔を上げた顔面にはまた飛鳥の蹴りが待ち構えていた。そんなやり取りを毎度繰り返している為に飛鳥はもう慣れた手つき・・・いや、慣れた足つきである。

 

 

 

『全校生徒に告ぐ、直ちに体育館に集合せよ!直ちに体育館に集合せよ!!』

 

 

「なんだ、なんだ?生徒会の奴らがまたなにかやんのか?」

「バイトがあるってのに・・・どいつもこいつも・・・・・」

 

 

 

いきなりの放送に戸惑うクラスメイト達。2人も何事だろうと顔を合わせて問い掛けあうも行かねばわからないと2人も体育館に向かう。アルバイト先に学校行事で遅れるともう連絡済である。

 

 

 

体育館に到着すれば、壇上には生徒会の面々が待ち構えていた。生徒もぞろぞろと集まり始まると静粛にと言う言葉に全生徒は静かになって生徒会の方に視線を向けた。

 

 

 

 

「それではこれから必修科目のオリエンテーションを開始する!!」

 

 

 

生徒会の面々が壇上を降りると「戦車道入門」と名の映像が映し出された。生徒達は食い入るように映像に夢中だ。飛鳥も腕を組みじっと映像に食い入っていた。そして、映像が終わったと同時に生徒会の面々が戦車道について語り始めたのだが、そこに食い付かずにはいられないあるワードに食い付いた人物がいた。

 

 

 

 

 

「食堂の食券100枚・・・遅刻見逃し200日・・・通常授業の3倍の単位がもらえるってなったら戦車道にするしかねぇっぺ!!」

「お前・・・なんか話し方が変になってるぞ」

 

 

オリエンテーションが終わってから薫は耳にタコが出来てしまうぐらいこの事を叫んでいる。

 

 

 

「そりゃあこんな好条件を目の前に出されたら興奮するに決まってんじゃん!!」

「馬鹿」

「ぬわぁぁぁ!寝ててもギリギリ赤点だけは免れてるアンタに言われるのが一番腹立つんですけどぉー!!!」

「はいはい・・・アタシはもう先帰ってるからな」

 

 

拗ねた子供のように地団駄を踏む薫を見捨ててアルバイトに向かおうと教室に鞄を取りに行こうとしたが、自分達のクラスの扉の前には先程壇上に居た生徒会のメンバーが誰かを待つように立っていた。飛鳥は敢えてその3人に触れずに教室に入ろうとしたが、力強くある人物に腕を引かれると気だるそうな女の子と対峙する形になってしまった。

 

 

 

「おいお~い、私自らやって来たってのに無視は悲しいよ~日野本ちゃ~ん♪」

「アルバイトがあるからお断りしたつもりなんだけど・・・生徒会長さん」

「そんな理由で避けられると思うな!!」

「ったく、・・・・・わかったよ」

 

 

 

 

ここまで自分に拘る彼女達になにを言っても無駄なのだと感じた飛鳥は諦めたように窓際の壁に寄り掛かると腕を組み先程から干し芋を食べている女の子に視線を向けた。すると彼女も干し芋を食べるのを止めて指をペロペロと舐めるとゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「必修選択科目なんだけどさぁ~・・・戦車道取ってくんない?」

「なんでアタシにそんな話を・・・」

「お前が戦車経験者だと言うことを知ったからだ」

「・・・どこまで調べたんだ?」

「お前が中学時代の3年間戦車道の大会に出場し、数々の成績を残していることは把握済みだ」

 

 

 

彼女が言っている事は事実である。しかも、中学のメンバーと組んだチームではなく姉の誘いで集まった言わば一般やプロレベルの集まるオープンの大会での話である。飛鳥は砲手、操縦手を交互に務めて試合に取り組んでいた。だが、高校になってからはこの戦車道のなかった大洗女子学園に居た為に彼女は戦車道参加出来ない代わりに戦車に関係する今のアルバイトをしているのである。

 

 

 

「それでぇ~・・・どう、協力してくれる?」

「別にいいよ。戦車は好きだし、断わる理由は特にない」

「ホントにぃ~!?あ、ありがと~」

「じゃあ頼んだぞ!」

「期待してるからねぇ~よろしく~♪」

 

 

 

 

答えを聞くとどことなく嬉しそうに鼻歌混じりの生徒会長・・・角谷 杏(かどたに あんず)と少し目尻に涙を見せる副生徒会長・・・小山 柚子(こやま ゆず)とキリッとした表情でも口角を少し上げている生徒会広報の3人組は用件を済ませればすぐにその場からいなくなってしまった。

 

 

 

 

「・・・・・こりゃあ、アルバイトの時間帯も日数も考える必要があるな」

 

 

 

1人残された彼女はアルバイトの日程が書かれているメモ帳を取り出してポツリと呟いた。ハッと思い出したように今日のアルバイトを思い出すと彼女はすぐに鞄を取ってせんしゃ倶楽部を目指そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで・・・話ってのはなに?」

 

 

 

翌日、生徒会室に呼び出された飛鳥は不思議そうに近くにあった椅子に腰を降ろした。

 

 

 

「少々、厄介なことが起きた。貴様にも助力を頼もうと思ってな」

「もう1人勧誘してたんだけど、その子が戦車道を選んでくれなくって・・・」

 

 

 

つまり、有力な人材の説得に協力して欲しいのだろう。昨日とは違ってムスッとした会長の表情を見れば自分のように素直に行かなかったんだと言う事は明白だ。

 

 

 

「それで、その女の子は?」

「貴様と同じくここに召集を掛けてある。まもなくすれば、ここに姿を見せる手筈だ」

 

 

 

と噂をすれば、生徒会室の扉が開かれてそこには3人の女の子達が手を繋いでこちらに歩いてくる姿が見える。

 

 

 

 

「これはどう言うことだ?」

「なんで選ばないかねぇ~・・・・・」

「勝手なこと言わないでよ!!」

「そうです、やりたくないと言っているのに無理にやらせるおつもりなのですか!?」

 

 

 

 

などと両者の討論が始まった。そんなに事情の把握も出来ていない飛鳥はずっと俯いたままの真ん中に居る女の子を眺めていた。その子は震えるように2人の手を握り締めており、見ている側とすれば可哀想に見えて来てしまう。

 

 

 

「生徒会長・・・無理にやらせるのは可哀想だと思うんだけどね」

「なにを言っている!有力な人材が居るのにそれを使わないつもりか!?」

「そりゃあ、優秀な子が居るのは助かるけどさ・・・嫌がっている子に戦車を勧めるのは・・・・・」

「こ、このままじゃ我が校が終了してしまいます!!」

「いや、それは大袈裟過ぎるでしょ」

「ええい、貴様はどちらを支持するつもりなのだ!!」

「・・・・・あのっ!!」

 

 

 

割って入るような大きな声と同時に全員の視線が先程まで俯いていた女の子に集められた。だが、飛鳥はそれとは別に見覚えのある彼女の顔に驚きを隠せずにいた。

 

 

 

 

「私・・・・・戦車道やります!!!!」

 

 

 

 

決意を決めた女の子・・・西住 みほ(にしずみ みほ)は真っ直ぐに生徒会長の方を向きそう言い放った。すると突然のことに両サイドに居た女の子は驚いたように声を荒げていた。それと同時にみほの前に飛鳥が立つと2人は目が合い、みほは驚いたように口をポカンと開いて、飛鳥はにやけたように頭を掻いた。

 

 

 

 

「やっぱり・・・みほだ」

「あ、ああ、飛鳥さん!?な、なんでこんな所に!?」

「なんでってここがアタシの母校だよ。もしかして・・・知らなかった?」

「は、はい」

 

 

 

2人のやり取りに対して柚子と桃、それにみほの両サイドに居る2人も鳩が豆鉄砲を受けたような表情を浮かべていた。

 

 

 

 

「お前達・・・面識があるのか?」

「ちょっと前に・・・ねっ」

「それなら好都合だねぇ~明日から2人共よろしくぅ~」

 

 

 

飛鳥が生徒会長に一礼してから部屋を出て行こうとするのに対して残された3人も勢い良く頭を下げると駆け足でこの場から逃げるように生徒会室から出た。

 

 

 

 

「本当に良かったんですの?」

「・・・うん」

「無理することなんてないんだからね」

「・・・大丈夫」

 

 

 

みほの事を必死に心配する2人を見ているとなんとも微笑ましい光景に笑みが零れてしまう。

 

 

 

 

 

「ふふっ・・・随分と心強い友達が出来たみたいだね」

「あっ・・・えぅ・・・・・」

「あんなに強気なみほは初めて見たかも・・・・・良かったら2人共の名前とか教えてもらっていい?」

「わ、私はみほと同じクラスメイトの武部 沙織(たけべ さおり)って言います!」

「同じく、クラスメイトの五十鈴 華(いすず はな)と申します」

「あはは・・・アタシは日野本 飛鳥。・・・ってか、そんなによそよそしくしなくていいって、同じ学年なんだしさ」

 

 

 

 

緊張してあたふたしながら自己紹介をする沙織。深々と頭を下げて自己紹介を済ませる華。そんな2人の対応に息苦しさを感じたのかひらひらと手を振って普通に接してくれるようにお願いする。すると2人はお互いに顔を合わせて頷くと「うん!」と砕けた返事が返って来た。

 

 

 

 

「みほも2人のように砕けた感じで頼むよ?今日からは同じチームの仲間になるんだからな」

「えっ・・・あっ・・・うん!」

「ねぇねぇ・・・今から名前で呼んでもいい?私達もみほみたいに名前で呼んでもらっていいから!」

「じゃあ・・・沙織に華でいいかな?」

「はい♪」

 

 

 

4人の雰囲気が少し和んだかと思った突如に沙織はガシッと飛鳥の両肩を掴んで詰め寄って来て真剣な顔でこう言い放った。

 

 

 

 

「飛鳥!飛鳥ってやっぱりモテるの!?」

「はぃ?意味がサッパリわかんないんだけど・・・・・」

「そこがかなり重要なの!っで、どうなの?」

「えっと・・・それは・・・・・」

 

 

 

チラッとみほに助け舟を頼もうと視線を向けるもみほは苦笑いを浮かべるだけで助力を求めれそうにない。と言う事はそれとなく答えれば吉であると・・・。

 

 

 

「・・・・・モテモテだね」

「やっぱり!?さっすが戦車道だねぇ~♪」

 

 

 

少し心が痛むような気がしたが彼女のこの喜びようを目の当たりにすれば、良いことをしたように思える・・・かな?

 

 

 

「じゃあ・・・明日からは飛鳥さんを起こさなきゃなりませんわね」

「えっ?」

「だって、同じクラスで同じ戦車道の仲間になるんだからそれくらい当然じゃん!」

「えっ?」

「飛鳥さん・・・ファイト!」

「・・・・・うん」

 

 

 

快適だった毎日が崩れ去るような音がしたが、やる気に満ちた3人になにを言っても無駄だと察すれば4人は教室へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園の戦車道への道はこうして幕を開けたのであった。

 



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戦車、捜索します!

戦車道の授業初日。校庭には戦車道を選択した生徒達が集まっていた。

 

 

 

「思ったより集まりませんでしたね」

「まぁ、なんとかなるでしょ?」

 

 

 

人は居るのだが、全員を合わせて24人。

他の学校などと比べるとかなり少ない人数である。

 

 

 

「いやぁ~・・・まさか3人共戦車道を選んでいたなんて驚いたぜ!!」

「薫が選んだ理由はなんとな~く理解出来るけどね」

「フッ・・・お見通しか」

「お馬鹿だからなんですよね?」

「お~い!!??」

 

 

 

沙織と薫は小学校の頃からの幼馴染らしい。華とも親しい友人らしく軽いジョークが飛び交う程だ。だが、みほは避けるように飛鳥の後ろにずっと隠れてしまっている。噂では、飛鳥と同じようにセクハラ紛いの事を仕出かしてからドン引きされている様子である。

 

 

 

「ツバサはアタシに付き合って戦車道を選択しなくても良かったのに・・・」

「いえ、飛鳥先輩や優花里先輩の話を聞いていたら私もなんだか戦車に興味が湧いたので大丈夫です!!」

 

 

 

薫とは違ってツバサはこの間の映像とこれまでの飛鳥達の話を聞いていた為にか目を輝かせながら犬のようにお尻を振って今か今かと待ての状態で待っていた。

 

 

 

「これより戦車道の授業を開始する!!」

「あの・・・戦車はどこにあるんですか!?」

「う~ん・・・この倉庫の中だよ~」

 

 

 

そう言うと柚子と桃が大きな倉庫の扉を開くと奥の方に1両だけ戦車が見える。だが、その外装はサビや汚れまみれになっており、集まったメンバーからはブーイングにも似た声が飛び交う始末である。

 

 

 

そんな雰囲気の中でみほと飛鳥は戦車に近付いて行った。

 

 

 

 

「Ⅳ号戦車か・・・しかも、装備面を考えるとD型だな」

「装甲も転輪も大丈夫そう・・・これで行けるかも」

 

 

 

2人の言葉にどよめくメンバーだが、あることに気付いた沙織が手を挙げてとある疑問を口にした。

 

 

 

 

「でもでも、1台だけじゃダメなんじゃないの?」

「もしかして・・・この戦車に全員で乗るのか!?」

「薫先輩って噂以上のお馬鹿なんですか?」

「ぐぅおぉぉ!!後輩にまで馬鹿扱いされてしまったぁぁぁ!!!」

「この人数なら5、6両は必要だな」

「んじゃぁ~みんなで戦車探そっか?」

 

 

 

生徒会長が言った素っ気無い言葉に一同が騒然とした。桃が言うには昔この学校で戦車道が廃止になってはいるが、その当時使用していた戦車はどこかにあると豪語するのである。明後日には教官が来ると言うことで今日は戦車探しをすることが決まれば、ぞろぞろと戦車探しの為に各自倉庫を後にした。

 

 

 

 

「みほ!この2人を連れて探しに行って来てくれ」

「飛鳥さんはどうするの?」

「アタシは・・・ちょっとこの子の様子を見てあげないとな」

 

 

 

どこから出て来たのか工具箱を肩に担ぐと飛鳥はⅣ号戦車に飛び乗って少し嬉しげに中を覗き込む。

 

 

 

 

「明日カッコイイ教官が来るみたいだから早く見つけに行こうよ~」

「じゃあ戦車探しにレッツゴー!!」

 

 

 

沙織と薫は2人で手を繋ぎはしゃぐように倉庫を飛び出した。

そんな彼女達の後をみほ、華、ツバサも追うように倉庫を出て行った。

 

 

 

 

「それじゃあ・・・やりますか!」

 

 

 

1人になった途端に制服をバッと投げ捨てるように脱ぎ捨てるとつなぎタイプの迷彩軍服に白のTシャツ、頭にはタオルのバンダナ、手には軍手を装備してからⅣ号戦車の中へと入り込んで作業を開始したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処にあるって言うのよぉぉぉ!!!」

「う~ん・・・駐車してると思ったのに・・・・・」

「それなら生徒会の人が見つけている筈でしょう」

「そうか!?ツバサちゃんあったま良い!!」

 

 

 

 

一行は戦車と言うワードから車と一緒ではないかと言う考えに辿り着いて駐車場にやって来たのだが、そんなに上手くは行かずに空振りに終わってしまった。

 

 

 

 

「次は裏山に行ってみよう!」

「そうですね、放置されている可能性もありますから」

「私は放置プレイは嫌だ!!」

「誰も薫先輩の性癖になんか興味ありません」

「冷たいっ!?飛鳥と私でこんなにも態度が変わるなんてヒドイ!!」

「本当は喜んでるくせに・・・」

「バレてたか~はっはっは~・・・・・って、みんなそんな目で見ないで!?」

 

 

 

 

一行が裏山へと移動しようとしたが、みほはある視線に気が付いて立ち止まった。

 

 

 

 

「あの!良かったら一緒に探さない?」

「良いんですか!?あ、あの・・・普通2科2年3組の秋山 優花里と言います!えっと・・・不束者ですが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。五十鈴 華です」

「武部 沙織!!」

「私は瑞島 薫!!」

「あ、あたしは・・・・・」

「存じ上げております!西住 みほ殿ですよね?」

「あっ・・・はい」

 

 

 

優花里は4人に対して嬉しそうに敬礼をして見せた。

 

 

 

 

「あぁ!!優花里先輩もやっぱり戦車道選んでたんですね」

「当然であります!」

「あれ?2人共顔見知りなの?」

「はい!飛鳥先輩と良く戦車のことを楽しそうに語り合っていましたから」

「戦車は自分の命も同然です!!」

 

 

 

ドンと自分の胸を叩いて熱く主張する優花里に周りから拍手が送られた。我に返った優花里は顔を真っ赤にすると俯いてもじもじとしていた。

 

 

 

 

「にしても、飛鳥がスゴい戦車乗りって言うのは知らなかったなぁ~」

「西住先輩って飛鳥先輩の戦車道の時の事を知ってると聞いたんですけど、どんな感じだったんですか?」

「あっ、それは気になる気になる~♪」

 

 

 

みほは顎に手を当てて悩むような素振りを見せていたが、しばらくすると思い出したのか戦車道の時の飛鳥の話を始めた。

 

 

 

「飛鳥さんは砲手か操縦手の2つの役職が得意なの。砲手をさせたら命中率は90%越えだったし、しかも、飛鳥さんは行進間射撃が得意だって・・・」

「あ、あれは・・・自車が移動・振動する為に照準を合わせることが困難で敵車に当てるのなんて不可能に近い筈ですよ!?」

「な、なになに、飛鳥ってそんなに化け物みたいな能力があるって言うの!?」

「戦車の性能って言う理由もなくはないんだけど、彼女の狙撃は次元が違うって噂されてたくらい・・・でも、行進間射撃時の命中率は50%くらいで致命傷になる直撃は少ないみたいなんだけど、それでも履帯を狙って味方の援護としては十分な仕事はしていたみたい」

「飛鳥さんの腕前は本物・・・と言うことですわね」

「それじゃあ・・・操縦してる時もヤバいんじゃないの!?」

 

 

 

 

その問い掛けに対してみほは首を横に振るが、また顎に手を当てて悩む素振りを見せた。

 

 

 

 

「操縦している時の話はそんなに聞かない・・・けど」

「・・・けど?」

「飛鳥さんが操縦している時は大破しているの見たこと無いかも・・・」

「それって・・・戦車の性能じゃないの?」

「ううん、1度だけ交流戦で同じチームになったことがあるんだけど、飛鳥さんは勘が鋭いって言うのかな・・・一瞬の判断がかなり速いんだと思う」

「うへぇ~・・・授業中にいっつも寝てやがる飛鳥とは思えない話だね」

「飛鳥さんの新たな一面を垣間見た感じですわ」

 

 

 

 

飛鳥の事についての話をしているといつの間にか森の中に一行は辿り着いており、地図を取り出せば各々に周辺を探索し始めるのであった。

 

 

 

 

「あっちから花の香りに混じってほんのりと鉄と油の匂いが・・・・・」

「華道やってるとそんなに敏感になるの!?」

「スゴいな・・・ありゃ、犬並の嗅覚ってレベルでしょ」

「では、パンツァー・フォー!!」

「パンツのアホ!?!?」

「えっ!?誰のパンツ!?!?」

「パンツァー・フォー・・・戦車前進って意味なの」

「ありましたよ~!!」

 

 

 

 

ツバサの声のした方に向かうと傾斜に止まっている1両の戦車を確認。

 

 

 

「38T・・・」

「なんかさっきのよりちっちゃい・・・」

「これで38トンもするのか!?」

「いえ、Tって言うのはチェコスロバキア製って意味で重さの単位の事じゃないんですよ!!・・・・・ハッ!?」

「いま・・・生き生きしてたよ」

「ずみませぇん・・・」

「西住せんぱ~い!!下の方にもう1両見つけました!!」

 

 

 

また声の方に視線を向けるとかなりの傾斜の下の方に戦車の上に乗ったツバサが大きく手を振っているのが確認出来た。

 

 

 

「あの子いつの間にあんな場所まで移動したのよ」

「アレは・・・M24チャーフィー軽戦車」

「えっと・・・もっかいどうぞ」

「愛称はアメリカ軍戦車開発のパイオニアであったアドナ・R・チャーフィー・ジュニア将軍にちなみチャーフィーと名付けられています!「バルジの戦い」で初陣を飾った軽戦車の1つなんです!!ですが、それまでのずんぐりしたアメリカ戦車と異なって敵のパンター戦車のようなスマートな形状ゆえに味方から誤射されることも数多くあり、「パンサー・パプス」(仔豹)なんて呼ばれていたんですよ!!!」

「目が炎のように燃えてるような気がするんだけど、私だけかな?」

「熱意はスッゴく伝わるのがわかる」

 

 

 

 

とにもかくにもなんと2両の戦車を見つけることに成功した。一行はこの事を伝えるべく生徒会に一報を入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日野本!!」

「どうかしたんですか?桃ちゃん」

「桃ちゃんと呼ぶなぁぁぁ!!」

 

 

 

 

ハッチからひょっこりもぐらのように頭だけを出すとしれっと相手の嫌がる名前の呼び方をする。すると案の定鬼のような形相で桃は荒ぶっていた。

 

 

 

 

「まぁいい、戦車が5両見つかった。八九式中戦車甲型、38(t)軽戦車、M3中戦車 リー、Ⅲ号突撃砲F型、M24チャーフィー軽戦車、それから此処にあるIV号戦車D型の6両が我が校の戦力となる」

「見つかっただけでも上々か」

「日野本ちゃ~ん!お客さ~ん!」

 

 

 

 

桃から暖かいタオルを受け取って顔を拭きながら近状報告を聞いているとそこに杏と車椅子を押す柚子がこちらにやって来るのが見えた。車椅子には俯いてもじもじとしている女の子が座っていた。

 

 

 

「この方ですか?」

「そっ、戦車に興味があるんだってさぁ~」

「倉庫の中に戦車があると言ったら人目見てみたいと言われたので連れて来たんです」

 

 

 

すると車椅子の女の子は戦車の前で停止すれば、下の方から上へと舐め回すように戦車に釘付けの様子である。

 

 

「・・・・・大きい」

「もしかして・・・戦車を見るのは初めて?」

「TVで・・・見たことなら・・・ある」

「TVとじゃ全然違うから・・・えっと・・・・・」

「御堂 玲那(みどう れな)・・・2年・・・・・」

「アタシは日野本 飛鳥、よろしく」

 

 

 

オドオドとする玲那に対して握手を求めるように手を差し出せば、戸惑ったように視線を彷徨わせて中々握手出来そうになかったが、ふと目が合った時にはにかむと玲那は恐る恐る手を伸ばし握手を交わすことに成功した。

 

 

 

「これで戦車道に1人増えることになるな」

「・・・私・・・こんなだから・・・戦車には・・・・・」

「大丈夫、通信手なら可能だと思うし、上手く行けば砲手も出来る可能性は十分にあるよ」

「だってさ、どうする?御堂ちゃん」

「・・・・・やりたい・・・です」

 

 

 

自分の体では戦車に乗るなんて叶わない夢だと思っていた。だが、そんな彼女の夢を叶える言葉を聞いた玲那は肩を組んできた杏に震えるような声で意思を示した。そんな彼女に嬉しそうに杏は干し芋を咥えて柚子とハイタッチした。

 

 

 

「会長、ここにいらっしゃったんですのね?」

「海原~ちょっとこっち来てくれ~」

「かしこまりましたわ」

 

 

 

突如として倉庫に姿を現したのはこの場には似つかわないだろう洋風なフリフリの傘を片手に持ち、両手には白色のレースの手袋、髪型は見事な金髪の縦ロールをしており、風貌はまさに英国の淑女をイメージさせるような印象である。

 

 

 

「海原も私達と一緒に戦車道やるからよろしく~」

「生徒会で会計の職務を受け持っています・・・3年の海原 花蓮(うなばら かれん)と申します。戦車道においての金銭面の管理もさせて頂きますのでよろしくお願いしますわ」

「あぁ・・・こちらこそ、よろしく」

 

 

 

 

傘を持ってない方の手でスカートの裾を持ってお辞儀をする彼女に対して飛鳥も軽く会釈をして対応に応じた。これで2人増えて戦車道のメンバーは26人なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、自動車部の協力のおかげで戦車6両が綺麗に倉庫前に並んでいる。メンバーも揃ったのを確認すると生徒会の4人は戦車の前にズラッと並んだ。

 

 

 

 

「どう振り分けますか?」

「見つけた者が見つけた戦車に乗ればいいんじゃない?」

「そんなことでいいんですか!?」

「それなら私達はどちらの戦車に致しますか?」

「38Tは我々が・・・Ⅳ号とチャーフィーはお前達で決めろ」

「こう言う時はじゃんけんで決まりっしょ!」

 

 

 

と言う訳で薫の案で飛鳥とみほがじゃんけんをして勝った飛鳥がチャーフィーを選び、Ⅳ号戦車はみほ達が乗る事なった。

 

 

 

解り易く説明するとこう言う風になる。

 

Aチーム:Ⅳ号戦車D型(西住 みほ、武部 沙織、五十鈴 華、秋山 優花里)

Bチーム:八九式中戦車甲型(磯辺 典子、近藤 妙子、河西 忍、佐々木 あけび)

Cチーム:Ⅲ号突撃砲F型(カエサル 、エルヴィン、左衛門佐、おりょう)

Dチーム:M3中戦車 リー(澤 梓、山郷 あゆみ、丸山 紗希、阪口 桂利奈、宇津木 優季、大野 あや)

Eチーム:38T戦車(角谷 杏、小山 柚子、河嶋 桃、海原 花蓮)

Fチーム:M24チャーフィー軽戦車(日野本 飛鳥、小早川 ツバサ、瑞島 薫、御堂 玲那)

 

と言う感じに編成された。

 

 

 

 

「明日はいよいよ教官がお見えになる。粗相のないように綺麗にするんだぞ!」

 

 

 

 

すると各チームは自分達の戦車へと配置についた。Fチームも自分達の戦車を掃除する為に準備に取り掛かった。

 

 

 

「なんで薫先輩・・・水着なんですか?」

「なんでってこんなおっきな戦車洗うんだから当然じゃん!!」

「薫だけじゃないから何も言えないな・・・中はアタシが1人でやるから外を任せたぞ」

「この掃除王にお任せあれ!!」

「はいはい」

「日野本さん・・・私も・・・・・手伝う」

「う~ん・・・それなら一緒に中で掃除しようか」

「・・・・・うん」

 

 

すると飛鳥は軽々と玲那を背負うとそのまま戦車の車体側面から手際良く登ると2人は戦車の中を残された2人はデッキブラシを手に外面の掃除を開始した。途中、掃除に飽きたと叫んでデッキブラシを振り回す薫の姿が目撃されたが飛鳥、沙織、桃から激しいホースからの水攻めを受け轟沈した模様である。洗車は何事もなく無事に終わり、整備等は自動車部が徹夜で整備をすると言う形で本日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。いつものように飛鳥はせんしゃ倶楽部にてバイト中である。と言ってもあまりお客も訪れないから暇過ぎるのが難点ではあるが・・・。

 

 

 

「いらっしゃいませ・・・って、お前達か」

「飛鳥殿!皆さんを連れて参りました!!」

「本当に働いてた!?」

「アタシが働いてるのが珍しいか?」

「いえ、お好きな事を仕事に出来る事は幸せな事だと思います」

「ありがと、まぁ、好きに見て行ってよ」

 

 

 

 

華と沙織は物珍しそうに棚にある戦車のプラモデルや書籍を手に取りなにやら盛り上がっている。

優花里は食い入るように最新入荷のプラモデルを買おうか悩んでいる様子。

みほは飛鳥がカウンターでなにかを作成しているのに気が付くと興味本位に飛鳥の元に向かった。

 

 

 

「飛鳥さん、なにをしているんですか?」

「アタシとみほ以外は戦車経験ゼロだろ?だから、操縦マニュアルを書いた紙を作ってんだ」

「それはみんな喜んでくれると思います」

「飛鳥って意外な一面多いよね」

「気が利くお方なんですね」

「ただ、戦車を楽しんで欲しいってだけさ」

「その気持ちスッゴくわかります!!」

 

 

 

完成すれば、それを印刷して纏めあげるとなんと1冊の冊子が出来上がった。それにはその場に居た4人も驚きのあまり拍手を自然としていた。

 

 

 

 

「ねぇ!飛鳥もみほの家に一緒に行かない?」

「いいのか?」

「うん、大勢の方が楽しいと思うし・・・」

「それなら早上がりさせてもらってお邪魔するよ」

「お仕事の方はいいんですか?」

「大丈夫、なんとかなるよ」

 

 

 

 

そう言って店の奥に行くと今度は制服姿で帰って来るのと一緒に店長らしき人物が出て来た。駆け寄ってくる飛鳥の背中に向かって「存分に遊んで来いよ!」と一言添えると手を振っていた。飛鳥も振り返って手を振り返すと4人は申し訳なさそうに頭を下げて店を後にするのであった。

 

 

 

 

「散らかってるけど、どうぞ」

「西住さんらしい部屋ですね」

「それにしても飛鳥がそのみほの隣に住んでた方が驚きだよ!」

「いつもツバサに朝早く起こされて登校していたから会ってなかったのかもな」

「ご近所挨拶もしてなかったしね・・・・・」

 

 

 

 

5人はスーパーで買った食材を手にみほの部屋へと上がった。中には包帯を巻いたクマがいくつか飾られているのが特徴的である。全員は荷物を置くとここに来るまでに話し合っていた料理を作る事になった。

 

 

 

 

 

「華はじゃがいもの皮剥いてくれる?」

「あっ、はい」

「私、ご飯炊きます!!」

「じゃあからあげ作るわ」

「なんで飯盒・・・ってか、いつも持ち歩いてんの?」

「はい!いつでも野営出来るように・・・」

 

 

飛鳥と華は台所に優花里は嬉しそうにリュックの中から飯盒を取り出していた。さすがの沙織も飯盒が出て来た事には引き攣った笑みを浮かべていた。

 

 

 

「いたっ!!」

「華、包丁の使い方危なっかしいぞ」

「すみません、花しか切った事なくて・・・」

「血出てるから・・・んっ」

「・・・あ、飛鳥さん」

 

 

 

華の指から血が出ているのに気付くと飛鳥は華の手を取り切ってしまった指を咥えた。その対応に華は頬に手を当てて頬を少し赤らめて見つめていた。リビングではみほが絆創膏を探すのにわたわたとしている。

 

 

 

華をリビングに返すと今度は赤のアンダーリムメガネを掛けた沙織が腕捲りをしていつもとは違う真剣な表情でやって来た。

 

 

 

「飛鳥は手際良いじゃん♪普段料理とかするの?」

「1人暮らしだからこう言う類のことは慣れたな。沙織はどうなんだ?」

「いやぁ~男を落とすには料理かな?って、思っていっつも練習してるんだぁ~♪」

「沙織ならいいお嫁さんになれるかもな」

「もう、飛鳥のバカ!褒めてもなんにも出ないぞ!!」

「・・・・・本気で背中叩くなよ」

 

 

 

 

台所でいちゃつくように料理を作る2人の姿はまさにカップルのように見えたが、3人は敢えてなにも言わずに料理が出来るのを待っていた。

 

 

 

「完成!私特製の肉じゃが!!」

「・・・とアタシが作った唐揚げだ。召し上がれ」

 

「「いただきます!!」」

 

「美味しい~♪」

「どちらの料理もとっても美味しく出来てますよ!!」

「ご飯が進みますね」

「そりゃあ、お粗末様」

「そんなに言われちゃうと照れちゃうなぁ~♪」

 

 

 

 

楽しい時間と言うのはあっという間に過ぎてしまう。夜もすっかり更けてくると3人は食事を済ませると名残惜しそうにみほの部屋を後にしたのであった。残された2人は飛鳥の提案により、飛鳥の部屋にて珈琲を飲みながらくつろいでいた。

 

 

 

「私のあげたボコ置いてくれてるんだぁ~♪」

「みほからのプレゼントだから大事にしてるよ」

「・・・ありがとう」

 

 

カップを両手で持つみほの表情はどことなく元気がないように見えた。だが、一口珈琲を飲むと彼女の表情は和らいでいた。

 

 

 

「私、やっぱり転校して来て良かったって思う」

「黒森峰とはまた違うからね」

「うん・・・それに飛鳥さんにも会えたし・・・」

「あはは・・・そんなに思ってもらえてたなんて嬉しいよ」

「そろそろ寝ないと・・・・・」

「そうだね、おやすみ」

「おやすみなさい!また明日」

 

 

 

そう言ってみほは自分の部屋へと戻っていった。残された飛鳥は大きな欠伸を1つすれば、ベッドにうつ伏せに倒れ込みそのまま夢の中へと沈んでいくのであった。



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訓練開始です!

「教官・・・遅い」

「そうですね、そろそろ来てもいい頃だと思うんですけど・・・」

「んぉ?ありゃなんじゃい!?」

「お前は時々変なキャラになるな」

 

 

 

 

全員教官が来るのを心待ちにしていると遠くの方からC-2改輸送機がこちらに向かって来るのが確認出来ると戦車が1両駐車場へと空中投下された。その際に勢い余って学園長のフェラーリを吹っ飛ばした。

 

 

 

「見事に吹っ飛んだな」

「・・・・・あっ」

「そして、追い討ちとばかりにぺしゃんこになっちった!!」

「学園長・・・ご愁傷様です」

 

 

 

 

戦車は何事もなかったかのように前進すれば、全員が集まっているグラウンドの横に停車すると中から1人の女性が全員の前に姿を見せた。沙織だけはずっと騙されたとぼやいている様子だ。

 

 

 

 

「特別講師の戦車教導隊・・・蝶野 亜美(ちょうの あみ)1尉だ!!」

「よろしくね♪戦車道は初めての人が多いって聞いたけど、一緒に頑張りましょう!」

 

 

 

亜美は生徒の顔を見ていたが、ふとみほと顔が合うと驚いたように近付いた。

 

 

 

 

「あれ・・・西住師範のお嬢様じゃありません?師範にはお世話になってるんです、お姉様も元気?」

「・・・・・はい」

「西住さんってそんなに凄いの!?」

「お母さんがね・・・西住流ってのがあって戦車道の流派の中でも有名な流派なんだ」

「飛鳥先輩も流派とかに入ってるんですか?」

「いや、アタシはそう言う堅っ苦しいのは苦手だからやってないよ」

 

 

 

亜美はみほと会話をしてたが、不意に聞こえた「飛鳥」と言うワードに反応すると今度は飛鳥の方へとやって来た。

 

 

 

「飛鳥ちゃん!お久し振りじゃない」

「亜美さんもお元気そうですね」

「そっか、ココって飛鳥ちゃんの母校だったわね!どうりで聞いたことあると思ったのよ!」

「教官!飛鳥先輩とはどう言う関係なんですか?」

「う~ん・・・良き好敵手・・・と私は思っているわね」

 

 

 

周りはその評価に対してどよめいてた。当の飛鳥は少し照れ臭そうに頬を掻いてそっぽを向いていた。

 

 

 

 

「教官!本日はどのような練習を行うのでしょうか!?」

「そうね、本格戦闘の練習試合早速やってみましょう」

「えっ、い、いきなりですか!?!?」

「いいんじゃない?なんとかなるっしょ」

 

 

 

亜美は一枚の地図をみんなに手渡すとそこには印が付けられており、そこに移動してから開始と言う意味らしいだ。いきなりの出来事にみんな動揺を隠せずにいる。特に飛鳥とみほ以外は未経験者である。

 

 

 

 

 

「これどうやって動かすの~?」

「これ使って」

「これって・・・スッゴい!!私達にも解り易いように説明書になってる!?」

「そっちの2チームの分も作ってあるから取りに来て」

「サンキュー、日野本さん♪」

「これは助かる」

 

 

 

思わぬ代物に各チームのリーダー陣は飛鳥に礼を言った後に自チームへと走って行った。

 

 

 

「やるじゃん♪」

「ちゃんと生徒会長達の分もあるよ」

「日野本ちゃんがやる気になってくれてホンット助かるわぁ~」

 

 

 

にやにやと嬉しそうに説明書を受け取ると干し芋を咥えて杏も自チームに戻った。

 

 

 

飛鳥も急ぐように自チームに戻ってみると戦車の前には玲那しかおらず、後の2人の姿がどこにも見当たらない。

 

 

 

 

 

「ツバサと薫は?」

「2人共・・・戦車動かすんだって・・・・・中に入った」

「そっか、じゃあアタシ達も乗車しよっか」

「・・・・・うん」

 

 

 

玲那を背負うと車椅子は折り畳んで倉庫の隅っこに置いた。軽快に側面から登ると乗り込む前に辺りを見渡した。自分の手渡した冊子のおかげか他のチームも無難に戦車を動かせているのがわかった。

 

 

 

2人が丁度乗り込んだと同時にエンジンが作動した。操縦席に座る薫と冊子を持って指示していただろうツバサは嬉しそうにハイタッチを交わしていた。

 

 

 

「2人共、玲那が外で置いてけぼり状態だったぞ」

「あっ!?玲那先輩、すみませんでした!!」

「・・・いいよ・・・別に」

「戦車が私を呼んでたのさ」

「お前は少しは反省しろ」

 

 

 

一発頭を小突かれる薫はさて置いて4人は役職を決める事にした。

 

 

 

「・・・・・3人の希望は?」

「私は操縦手やりたい!!だって、戦車が私を・・・「私は通信手がいいです!」最後まで聞いてよ!!」

「玲那はなにがしたい?」

「・・・・・砲手」

「それならアタシが車長と装填手を兼任する」

 

 

 

 

皆が意気揚々と配置に着くと飛鳥は薫にトランシーバーを手渡した。

 

 

 

「んっ?これはどうすんの?」

「戦車が動き出すと騒音が激しくてアタシの声が聞き取れなくなるから指示はそのトランシーバーにするから常時オンにしといて」

「用意周到ですこと」

「戦車乗りってのはそんなモノさ」

「それじゃあ・・・パンツァー・フォー!」

「パンツァー・フォー!!」

 

 

薫の掛け声にツバサもノリノリで応答すれば戦車はゆっくりと動き出し倉庫から出ることに成功した。初回にしては上々の滑り出しである。だが、操縦している当の本人は「ヤバイヤバイヤバイ!!」とか「適当じゃぁぁぁ!!」など奇声を発しながら戦車は目的地へと進んでいた。

 

 

やっとこさ目的地に辿り着くと緊張が解けたのか薫は崩れ行く中で飛鳥は地図を見ながら配置された位置を確認していた。自チームの配置付近にはDチームとEチームが居ることがわかった。

 

 

 

「開幕でDかEのどちらか見つけた方を先に叩く」

「やべぇ・・・緊張してきたぁぁぁぁ!!」

「全然緊張してるように見えないんですけど・・・」

「・・・・・・・・・・」

「大丈夫だよ。みんな初心者だからリラックス、リラックス」

「・・・・・わかった」

 

 

 

緊迫した雰囲気に割って入って来るように亜美の通信が聞こえて来た。

 

 

 

『みんな、スタート地点に着いたようね。ルールは簡単、すべての車両を動けなくするだけ!つまり、ガンガン前進してバンバン撃ってやっつければいいだけ!わかった?』

 

 

 

「うわぁ~・・・ざっくりな説明」

「けど、簡単に言えば全員倒せば勝ちですよ!」

 

 

 

『戦車道は礼に始まって礼に終わるの。一同・・・礼!!』

 

 

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 

『それでは・・・試合開始!!』

 

 

 

 

開始の合図と同時に飛鳥はすぐに双眼鏡を手に取って砲塔のキューポラから顔を出すと辺りに注意を張り巡らせた。するとM3がゆっくりとだがこちらに近付いているのが目に入って来た。

 

 

 

 

「Dチームがこっちに来てる。こちらもゆっくりと前進しながら交戦に入る」

「ドキドキするぜぇ~・・・」

「玲那、すぐに撃たずに合図に合わせて砲撃」

「・・・・・わかった」

 

 

 

徐々に近付く音に飛鳥はトランシーバーを口元に当てたまま待機していた。そして、なにも知らずにゆっくりとM3が目の前に姿を見せた。

 

 

 

「前進!!」

 

 

 

ゆっくりと進んでいた筈のチャーフィーは号令と共に一気に加速を始めた。M3はいきなりのことに動揺しているのか動けずに目の前で停止したままだ。

 

 

 

「急停車!撃てぇぇぇ!!」

 

 

 

なるべく砲撃が外れないようにとM3に近付いた所で停車すると飛鳥の指示を聞いた玲那がトリガーを引いた。撃発の轟音が響き、マズルブレーキから炎が拡散した。だが、砲撃はM3に直撃はしなかったのだが、「行動不能」を示す白旗が上がっていた。良く見ると逃げようとバックした際にぬかるみに履帯を奪われてしまいそこからエンジントラブルだろうかエンジン部から煙が出ていた。

 

 

 

 

 

「なんとか1両撃破。この調子で・・・って、みんなどうした?」

「い、いやいや、今のは超刺激的でしょ!?超エキサイティング!もうファンタスティック!!」

「・・・・・心臓が飛び出そう」

「あわわわわわ!?!?」

 

 

 

意味のわからないぐらいのハイテンションの薫。

目を見開き震えている両手を見る玲那。

地震かなにかと勘違いして慌てるツバサ。

そんな3人を見て微笑みながら次の砲弾を装填し、またキューポラから顔を出して辺りを見渡す事にした。

 

 

 

 

すると遠くの方から砲撃が聞こえて来るのが耳に入って来た。地図を広げると自分達とは反対側に居るはずのA,B,Cの方からである。これからの事を考えているとM3のキューポラからDチームのリーダー・・・澤 梓(さわ あずさ)が顔を出してキョロキョロとしていた。

 

 

 

「どうかした?」

「私達はこれからどうすればいいんですか?」

「回収班が派遣されると思うからそれまで待機してたらいいよ」

「はい!」

 

 

 

 

梓が中に戻って行くのを見届けるとトランシーバーで次の指示を出した。

 

 

 

 

「このまま交戦地帯に向かう。薫、落ち着いた?」

「OK!案内よろしく~!!」

「今度も状況に応じて砲撃を許可するからお願い」

「・・・今度は・・・当てる」

「飛鳥先輩!私が装填手をしますから指示をお願いします!!」

「結構重いけど・・・大丈夫?」

「なんとかします!」

「じゃあツバサに任せた」

「はい!!!」

 

 

 

 

チャーフィーは発進すると一気に加速をさせて次の目標地点へと駆け足で向かっているのだ。その為に戦車は激しく揺れ動く。時々、戦車内から「吐きそうぅぅぅ!!」と言う雄叫びが聞こえているが気にしたら進めないので無視をした。

 

 

徐々に近付いてくる砲撃の音に反応すると近くに隠れられるように指示をする。慣れない操縦なのに器用に戦車は木々の中に隠れるように収まった。トランシーバーから「どやっ!!」と声が聞こえたがまた軽く無視をして双眼鏡を覗き込みなにが起きているのかを確認した。

 

 

 

吊橋の上にⅣ号、向こう側にはⅢ突と八十九式、こちら側には38T、3両がⅣ号を包囲する形で交戦している状況だ。

 

 

 

 

「みほが包囲されてるか・・・援護してやるか」

「いっしっし♪Eチームの戦車のお尻が丸見えだねぇ~」

「ここからEチームを狙撃。玲那、狙えそう?」

「今度は・・・外さない」

 

 

 

砲塔がゆっくりと38Tの居る方向へと回転すると玲那は集中するように照準器を覗き込んでいた。

 

 

 

 

「撃てぇぇぇ!!」

 

 

 

飛鳥の大声と同時にトリガーが引かれた。砲弾は轟音と共に飛び出せば見事に38Tの尻に着弾された。38Tから白旗が出たのを双眼鏡で確認した。

 

 

 

「見事命中、この調子♪」

「・・・・・ありがと」

「ツバサ!装填お願い」

「はい!ふ、ふんにゃぁぁぁ!!」

「・・・・・大丈夫?」

「御堂先輩の為なら・・・こ、これくらい朝飯前ですよ!!」

 

 

 

あからさまに無理をしているツバサに他の3人は苦い表情になっていた。と言っても彼女だけ1年生なのでこう言う無茶が生じる事がこれから増えるかもしれないと感じているのだ。

 

 

 

だが、今はまだ試合中だ。状況確認の為に飛鳥がキューポラから顔を出すとⅣ号が吊橋を渡って来ているのが見えた。背後ではⅢ突と八十九式は煙と白旗を出しているのが双眼鏡で確認出来た。

 

 

 

それを確認した飛鳥はキューポラの上に立ってⅣ号を睨んだ。初心者のぎこちない動きじゃない走行に眉を寄せ疑問を感じるがトランシーバーをすぐに手にして指示を出した。

 

 

 

 

「止まってたら撃たれる!発進!!」

「うりゃぁぁぁぁ!!」

 

 

 

チャーフィーが発進したと同時に発砲の音が聞こえた。音に反応してⅣ号に視線を向けようとした時に真横を砲弾が擦り抜けて行くのが見えた。一歩でも判断が遅れていれば直撃コースだ。

 

 

その一瞬の出来事に飛鳥の体中から汗が滲み出るのがわかった。1年間戦車道をしていなかっただけなのに長く感じた1年間。だが、飛鳥の中でまたゆっくりと歯車が動き出した。

 

 

 

 

 

「精確に当てるにはDチームの時にした撃ち方で行く」

「目の前で急停車するヤツね♪」

「勝負は一発・・・いける?」

「・・・・・うん」

「じゃあ・・・行くよ!!」

 

 

 

逃げる素振りを見せていたチャーフィーは急旋回するとⅣ号の正面に向き直った。すると玉砕覚悟とも言えるような勢いでⅣ号に突っ込んで行ったのだ。それに対してⅣ号の砲塔もゆっくりとこちらの車体に照準を合わせて来ている。

 

 

 

「放てぇぇぇぇ!!」

 

 

 

言い終わる前に2つの主砲から轟音が響き渡ると発射時の煙と直撃での煙で2両は覆いつくされていた。煙が晴れるのと同時に2両から白旗が立った。するとⅣ号、チャーフィーのキューポラやらハッチやらから全員が汚れまみれで顔を出した。

 

 

 

 

「引き分けか・・・」

「飛鳥!?頬っぺた怪我してるよ!!」

「さっきのか・・・気付かなかったな」

「飛鳥殿!も、申し訳ありません!!」

「優花里が砲手だったか・・・まぁ、これぐらいのキズ気にしなくていいから。」

 

 

 

Ⅳ号の操縦席のハッチが開くと見慣れない女の子が顔を出していた。

 

 

 

 

「なんで麻子が戦車を運転してんの!?」

「成り行き状こうなったまでだ」

「知り合い?」

「うん、私達の幼馴染!しかも、飛鳥から貰ったマニュアルを一瞬で覚えて操縦してたんだよ」

「それは凄いな」

「それ程でもない」

 

 

 

自分でもかなり早くに操縦テクニックを覚えたと言うのに練習も無しに瞬時に動かせるなんて並大抵の人間では不可能に近い事を目の前に居る女の子は平然とやってのけたのだ。侮れない人材である。

 

 

 

と言う訳で初めての試合は全滅と言う形で幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷっはぁぁぁぁ!!生き返るぜぇぇぇぇ!!」

「薫、親父臭いよ~」

「酷い!?こんないたいけな少女に向かって親父扱いなんて!?」

「・・・・・おっさん」

「言い方変えても一緒!!」

「じゃあ・・・おじ様ですわね」

「お上品に言ってもダメだっての!!」

 

 

 

 

AチームとFチームは疲れを癒す為にと大浴場にてのんびりとした一時を過ごしていた。

 

 

 

「腕が・・・もう上がりません」

「小早川殿!私がマッサージをしてあげますよ~♪」

「あれ?飛鳥と御堂さんは?」

「後から来るって言ってたぜぇ~♪おっ、噂をすれば・・・・・」

 

 

 

シルエットが扉に写ったのと同時に扉が開かれたのだが、そこで全員が口を開けたまま固まってしまった。飛鳥が足を動かせない玲那をお姫様抱っこしているのに驚いているのではなく、全員が驚いてしまったのは飛鳥のナイスボディにである。

 

 

 

「おまたせ」

「えええええ!?飛鳥ってモデルかなにかやってるの!?」

「いや、してないけど・・・」

「してなくてそのスタイルとか舐めてんのかこらぁぁぁぁ!!」

「お前は風呂に沈めるぞ」

「それにしてもお綺麗ですわね」

「・・・ありがと」

 

 

 

掛け湯をしてからみんなの入っている浴槽に入れば、玲那も降ろしてもらい2人は湯船に浸かった。

 

 

 

 

「やっぱり戦車道してたらモテる理由がわかっちゃったかも」

「ボインボインのバインバインになったら男なんて勝手に寄って来ちゃうって!!」

「戦車道関係ないから。みほ、そっちのチームの役職は決まった?」

「私が車長で砲手が華さん、通信手が沙織さんで装填手が優花里さん、最後の操縦手は麻子さん」

 

 

 

みほが名前を呼ぶのと同時に名前を呼ばれた面々は手を挙げて反応していた。それを聞いた飛鳥は唸るように顎に手を当てるとなにかに悩んでいる様子だった。

 

 

 

 

「どうかしたの?飛鳥」

「いや、アタシ達の方も1人必要だなっと思っただけだ」

「だ、大丈夫ですよ!私が1人で頑張りますから・・・あたたっ!!」

「筋肉痛になってたら話にならんぞ」

「麻子!!」

 

 

 

ツバサが頼りないと言う訳ではないが、今回の1回の戦闘だけでここまで疲労が出るとなると本格的な試合になれば必ずと言って装填手としての役目が果たせなくなってしまうのが難点になるのだ。

 

 

 

 

「明日、生徒会長と話してみる」

「ナイスアイディア!あの人ならなんとかしてくれるんじゃない?」

「飛鳥先輩がそう決めたのでしたら私も戦車道に興味ありそうな子に声を掛けときます」

「私達もなにかあったら言ってね!飛鳥さん」

 

 

 

 

 

と今後のことが決まると佐織が急に「あそこ」に行きたいと言ったのだが、Fチームはまだ風呂場に居ると言う事でAチームは沙織を先頭に何処かへいってしまったのであった。

 

 

 

 

「今日はどうだった?」

「最高だったぜぇぇぇぇ!!」

「まだ思い出しただけでドキドキしちゃいます」

「・・・・・初体験」

 

 

 

子供のようにはしゃぐ薫。

目を瞑ってあの時のことを思い出しているツバサ。

自分の両手を見て嬉しそうに笑う玲那。

3人の反応にどことなく喜びを感じつつ窓の外に見える夕焼けを見ていた。

 

 

 

 

「でも、飛鳥の砲手や操縦も見てみたいなぁ~」

「あっ、それはわかります!!」

「・・・・・見たい」

「そうなってくると3人共もう一つ役職を兼任することになる。そうなったらしんどくなるよ」

「大丈夫、大丈夫♪お前が出来るなら私達にも出来るだろ?」

「一生懸命頑張ります!!」

「・・・・・やる」

 

 

 

3人を見ていると昔の自分を思い出したのかフッと鼻で笑ってしまった。

 

 

 

「笑い事じゃないっての!!」

「悪い悪い、ちょっと昔のアタシに似てたんだよ」

「お前のチームメイトなんだから似るんだよ!!」

「そうかもしれないな。じゃあ、アタシは操縦の時は薫が車長」

「あいよ!!」

「アタシが砲手の時は通信手が玲那、車長がツバサ」

「・・・・・わかった」

「任せてください!!」

 

 

 

 

こうしてFチームの編成は仮ではあるが完成した。後は、もう1人加わることでちゃんとしたチームが完成するに違いない。そう信じて・・・翌日を迎えた。

 

 

 

 

だが、飛鳥はメンバーの事よりも大変な出来事が待ち受けていた事に愕然としてしまった。



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中二病、してます!

「なに・・・これ」

 

 

 

グラウンドには自分の想像を超えるような驚きの光景が広がっていた。

 

 

 

「日野本さん!この子どうかな!?バレー魂入ってるよね!」

「バレー部・・・らしいな」

 

 

車体と砲塔の両側面に「バレー部復活!」といったスローガンを書いてあり、さらに車体各部にもバレーボールが描かれている八十九式。

 

 

「かっこいいぜよ!」

「支配者の風格だな」

「上出来だな」

「武田の赤備え、ドイツ国防軍アフリカ軍団、新選組の隊服をモチーフにしたカラーリング。それに車体前部にはガイウス・ユリウス・カエサルの名言「VENI, VIDI, VICI(来た、見た、勝った)」か・・・なにか4人の魂が1つになったって感じの戦車だな」

「さすが、日野本殿!人目見ただけでわかるとはやるな!」

「4人からいつも聞かされてたらなんとなく・・・ねっ」

 

 

車体前部および側面上部を赤色、後部および転輪をサンドイエロー、そして砲身および車体下部側面を浅葱色と白色のダンダラ模様に塗装。また車体上部の後方に六文銭や風林火山、新撰組の隊旗などを模した幟を左右に計4本取り付けられたⅢ突。

 

 

「日野本先輩!!私達の戦車すっごく可愛くないですか!?」

「あぁ・・・うん。良いと思うよ」

 

 

シンプルに車体全体を可愛らしくピンクに塗装されてしまっているM3。

 

 

「いいねぇ~♪」

「さすが会長ですわね」

「あははは・・・・・」

 

 

極めつけには神々しいくらいに金色に塗装された38T。

 

 

 

 

横でみほは呆気に取られており、優花里は大事な戦車が様変わりしていることにワーワーと喚いていた。

 

 

 

「出遅れたか!?私達も今から自分色に塗るか・・・」

「いや、飛鳥先輩に怒られちゃいますよ!!」

「ふふふっ・・・こんなの初めてだな」

「えっ!?飛鳥が笑ってる!?」

「みんな写メだ!写メ!!」

 

 

 

あまり笑顔を見せない飛鳥が楽しそうに笑っている姿に何人かは携帯を取り出したが、時は既に遅くいつも通りの表情に変われば薫だけが殴られてしまい頭の上には大きなたんこぶが出来ていた。

 

 

そして、飛鳥は思い出すかのように会長に昨日を話をしに向かった。

 

 

「生徒会長、ちょっと話があるんだけどいいかな?」

「日野本ちゃんから私にお願いなんて珍しいねぇ~・・・っで、なんかあったの?」

「Fチームに後1人人手が欲しいんだけど、どうにかならないか」

「う~ん・・・あっ、海原!!」

 

 

 

呼び出した海原に杏が耳打ちをすると海原は一枚の紙を手渡してきた。それは選択必修科目を決める時の用紙だ。そこには知らない名前と戦車道の所に○が記されていた。

 

 

 

「この方戦車道を選択してはいるのですが、まだ1度も授業に顔を出しておりませんの。休んでいる訳でもないのですが、学校のどこにも見当たらなくて困っているんですの」

「この子を誘い出せ・・・って、言う訳ですか」

「そゆこと~♪私もどう言う子か知らないからさ~1年生みたいだし、ココに居る1年生の諸君に聞いてみてよ」

 

 

 

と言うことにより、飛鳥は手がかりである名前だけを頼りに1年生に聞き込みを開始するのであった。

 

 

 

「相良 斬子(さがら きりこ)さんですか・・・う~ん・・・」

「あっ、いっつも腕に包帯巻いてましたよ!!」

「それに眼帯とかしてなかった?」

「してた、してた!黒色のだっけ?」

「けど、いつも目つきが怖くて誰も話しかけたことないよね」

「それに摩訶不思議な言葉使ってるよね。えっと・・・魔眼とか魔法とか」

「あれは日野本先輩とは違う怖い威圧感があるよねー」

「しーっ!本人の目の前なんだからそんなこと言っちゃダメでしょ!」

「あっ・・・せ、先輩は優しいし頼りになるから安心してください!!」

「昨日のマニュアルもすっごく丁寧で助かりましたよ!」

 

 

 

話を聞いているだけだと普通っぽい雰囲気ではないのは確かであろう。だが、こちらにはもう異様な4人組も居るから珍しくはないか。不意に近くに居た丸山 紗希(まるやま さき)の頭を撫でながら考えていた。嫌がられるかと思ったが、紗希は逃げる素振りもなくそれを気持ち良さそうに受けていた。すると他の1年が羨ましそうに見ていたのに気付かない飛鳥であった。

 

 

 

「それじゃあこの子を探しに行くしかないか」

「日野本先輩!良かったらお手伝い致しましょうか?」

「今日は走行練習と狙撃練習だ。お前達は特にやらないとダメだ」

「うっ・・・はい」

 

 

 

 

すると練習が開始する為に1年達は戦車の中へと入って行った。

 

 

 

「聞いての通りだ。アタシはこの子を探しに行くから3人で頼んだぞ」

「走行と狙撃だからなんとかなるっしょ!!」

「はい!飛鳥先輩、よろしくお願いします!」

「・・・・・任せた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・いない」

 

 

 

教室、保健室、トイレ、図書室、体育館、など捜索をしたが、彼女を見たと言う人は何処にもいなかった。もう残っているのはあまり人が近付かない屋上だけになる。と言うのも噂ではあるが、屋上には幽霊が出るとの噂がある為にあまり人が出入りしないみたいである。

 

 

 

「はぁ・・・行くしかないか」

 

 

 

 

意を決して屋上に続く扉を開けたらそこには1人の女性が黄昏るように空を眺めていた。だが、扉が閉じた時の音に反応してこちらに振り返ると彼女は飛鳥の存在に驚いたのかビックリした表情をしていた。

 

 

左目に黒の眼帯。右腕には包帯。1年生から聞いた情報通りの女の子である。

 

 

 

「この場所には我が強固な結界を張り巡らせていたはずだ・・・。くっ・・・やはり、この太陽神からの攻撃を受け続けてしまったせいだと言うのか・・・。貴様、どうやってココに来た」

「どうって・・・普通に扉から・・・」

「いや、待て待て!もしかしたら・・・貴様も闇の力に導かれし者じゃないのか!?おぉ、その髪は・・・炎の申し子の証か!?ふっふっふっ・・・それならこの結界を貴様が越えて来たことにも理由がつくと言う訳だ」

「えっ・・・?」

「よもや、このような下界にて同志に巡り会えることになるとは・・・これも輪廻廻廊の力だと言うのか」

 

 

 

1人でなにやら盛り上がっている様子だが、飛鳥にはサッパリと理解出来る訳もなく見守ることしか出来ないでいた。

 

 

 

「相良 斬子・・・さん?」

「フンッ・・・その名はこの世界で使っている偽りの名だ。私は煉獄の魔女カリエンテ!!」

「・・・魔女?」

「そう、私は如何なる炎もこの灼熱魔眼で自由自在に扱う事が出来る最上級の魔法使いなのだ!!」

「灼熱・・・魔眼?」

「そうだな、特別に同志のお前には見せてやろう・・・炎の魔力に満ち溢れた我が灼眼を!!」

 

 

 

そう言って彼女は眼帯に手を掛けた同時に飛鳥に近付いて来た。

信じている訳でもないが、彼女の自信に満ち溢れた表情に飛鳥も疑ってはいるがじっと彼女と対峙するように立っていた。

彼女がゆっくりと眼帯を外すと眼帯のあった右目は真っ赤に燃えているように紅く染まっているように見えた。

 

 

 

「燃えてる・・・」

「この灼眼は魔力を秘めている為に普段はこの眼帯で封印をしていなければ危険なのだ」

「・・・・・ほぅ」

「それで、貴様は今回この私になにか用があって来たのではないか?」

「あっ、戦車道の件なんだけど・・・・・」

「・・・・・あぅっ」

 

 

 

戦車道のワードを口にした瞬間に先程までの自信に満ちた表情がガラリと変わるとビクビクした感じで飛鳥の表情を窺っている。

 

 

 

「アタシは貴女が授業に来ないからこうやって探しに来たんだ」

「お、怒ってます?」

「いや、別に」

「本当に怒ってません?」

「だから、怒ってない」

「本当に本当ですよね?」

「・・・怒ってない」

「ふっふっふっ!ここでいつも魔界とこの世界を繋ぐ特異点を探していて授業に行くことすら忘れてしまっていたから怒られると思っておったわ!!」

 

 

 

言い終わると同時に飛鳥のチョップが頭を見事に捉えたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「煉獄の魔女カリエンテ!?!?」」」

「そう、この世で最強と呼ばれている炎を司る魔法使いよ!」

「は、初めて見た~!!」

「サ、サインとか貰っといた方がいいのかな?」

 

 

 

一同が声を揃えて叫ぶ中当の本人だけはどや顔で胸を張ってポーズを決めていた。

彼女達とは離れた場所で飛鳥は生徒会メンバーからある話を聞いていた。

 

 

 

 

「・・・練習試合ね」

「そうだ、実戦を積まなければ得られるモノもないからな」

「そう言うことで今回は私のご友人にお願いしましたの」

「それで、聖グロリアーナ女学院に決まった訳か・・・でも、相手は全国高校戦車道四強校の一角だぞ」

「まぁねぇ~♪なんとかなるようになるっしょ!!」

「なんとか・・・ねぇ~」

「どうかしたの?日野本さん」

「いや、なんでもない。それで、練習はどうだった?」

「まだ連携も揃ってませんの。それに狙撃もあまり命中精度は良くありませんわ」

「昨日の今日だからその辺はこれから・・・か」

「その為にも実戦でバシバシやってかないとねぇ~♪」

「この後は生徒会室で代表者を集めてフリーフィングをするからお前は代表者を連れて来るように」

 

 

 

 

そう言うと生徒会のメンバーは先に生徒会室に向かった。

解放された飛鳥だったが、そんな彼女の元に珍しい人物が声を掛けて来た。

 

 

 

「・・・・・飛鳥さん、少し気になる事があるのですが、お伺いしても宜しいでしょうか?」

「華か・・・アタシに何か用か?」

「砲撃の事を聞きたいのですが・・・」

「それならみほに聞いたらいいんじゃ・・・・・」

「みほさんが砲撃なら飛鳥さんに聞いた方が良いとおっしゃいましたので・・・」

 

 

 

もじもじと気まずそうな華を横目にチラッと視線を逸らすと離れた場所で申し訳なさそうに両手を合わせてこちらを見守るみほの姿が目に入った。

 

 

 

「わかった。それで、なにが知りたいの?」

「行進間射撃のことなんですが・・・相手に命中させる方法などあるのですか?」

「勘」

「勘・・・ですか?」

「戦車と砲手の双方が優秀で命中させている人は多い。けど、アタシがやってるのはただの当てずっぽう・・・そう、山勘」

 

 

 

一応、戦車、予測、地形、天候、癖、相手のテンション等々飛鳥は華に教えるが自分が頼っているのは勘だと豪語する。たまに照準器を覗き込んでいる時体に何か違和感のようなモノを感じ取るようになってから命中率が上がったと言う。その話を真剣に聞いていた華は「私はまだ未熟なのですね」と呟いていた。

 

 

 

「あぁ・・・後は装填手との連携」

「優花里さんとのですか?」

「撃つ為には弾が必要でしょ?だから、速い装填も砲手にとっては武器になるよ」

「参考になります!」

「力になれたなら良かった。お~い!各チームの代表者は生徒会室にて聖グロリアーナ女学院戦に対してのフリーフィングするから行くぞ」

 

 

 

 

華の頭をポンポンと軽く叩くと生徒会メンバーに言われた通りに代表者達を連れて生徒会室に向かった。

 

 

 

 

「・・・・・聖グロリアーナ」

「はい!全国大会でも準優勝のしたことのある強豪校です!」

「フンッ、聖なる力に導かれた者の集まりなればそれは容易い事だ」

「聖なる力・・・・・スゲェ!!」

「まぁ、我が灼眼を前にすればその者共など烏合の衆と化すだろう。それに我らには心強い者もいるからな」

 

 

 

そう言って斬子が視線を向けたのは飛鳥であった。

 

 

 

「飛鳥のこと?」

「そうだ、ヤツと対峙した時に我はヤツから覇道の力を見た」

「そ、そんなのも見えるんですか!?!?」

「あぁ・・・だが、ヤツからは禍々しい闇のオーラが見えた。恐らくは暗黒の力に導かれた者なのであろう」

「だ、だから日野本先輩って怖いんだぁ~!?」

「それって私達もヤバくない?」

「安心しろ、ヤツはちゃんと力の制御が出来ているから周りに被害が出ることはないだろう」

「西住流の西住先輩に覇道の力の使い手の日野本先輩・・・・・マジやべぇ・・・」

 

 

 

ワイワイと残されたメンバーは飛鳥とみほの話題で盛り上がっていた。なにも知らない2人はこの時同時に大きなくしゃみをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室には生徒会メンバーと各チームの代表が集まってブリーフィングが始まっていた。作戦内容は桃がホワイトボードに図を描きながら説明を行っていた。

 

 

だが、みほは浮かない表情、飛鳥は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

「西住ちゃんも日野本ちゃんもどうかした~?」

「えっ・・・あ、あの・・・」

「聖グロリアーナも桃ちゃんのこの作戦を想定すると思われる。そのせいで逆包囲されるって可能性がある」

「黙れ!私の作戦に口を挟むな!それならお前が作戦を考えろ!それから・・・桃ちゃん言うな!!」

「却下」

「で、ですが・・・想定なので作戦はこのままで大丈夫だと思います」

「そうだねぇ~今回は河嶋の作戦で行くか。あぁ、それと隊長は西住ちゃんね?指揮もよろしく~♪」

「えっ!?そ、それなら飛鳥さんの方が・・・・・」

「日野本さんにもお願いしたのですが、自分には性に合わないと申されまして自分より西住さんの方がよろしいと仰っておりましたので・・・」

 

 

 

みほは少しムッとした表情で飛鳥を見るが、にやにやと笑う彼女が拍手をすると周りも釣られる様に拍手が起こり、満場一致でみほが隊長に任命される事になった。

 

 

 

 

「頑張ってよ~勝ったら干し芋3日分あげちゃうから」

「もし、負けたらの場合は・・・」

「あんこう踊りでいいんじゃないか?」

「おっ、いいねぇ~♪それ、採用♪」

 

 

 

飛鳥の一言に干し芋を齧りながら罰ゲームは決まってしまった。飛鳥以外のメンバーはこの世の終わりを悟ったかのような表情に様変わりしてしまうが、発言した本人はケロッとした表情でいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「あんこう踊り!?!?」」」

 

 

 

ブリーフィングが終わって帰宅途中にみほがそのワードを口にすると飛鳥の言った通りに全員が声を荒げて驚いていた。

 

 

 

 

「飛鳥!なんでそんなこと口走ってるのよ!?」

「いやぁ~みほが知らないから良い機会だと思って・・・」

「コイツ・・・まさに外道じゃ!!」

「一生言われますよね」

 

 

 

みんなの猛抗議を目の当たりにしたみほはふとある事に気付いた。

 

 

 

「飛鳥さんは踊らないんですか?」

「あぁ・・・アタシは太鼓叩かなきゃだから無理だね」

「うぐぐ・・・役得野朗め」

「・・・つか、勝とうよ!勝てばいいんでしょ!!」

「わかりました!!負けたら私もあんこう踊りやります!!西住殿だけに辱しめは受けさせません!!」

「私もやります!」

「私も!」

「みほちゃんの為なら!!」

「私もお供します!!」

 

 

 

この場にいない麻子と玲那は置いといて他のメンバーはあんこう踊りをみほだけにはさせまいと決意を固めた。その言葉にみほも勇気付けられたようにひきつった表情から笑顔に変わっていた。

 

 

 

 

「それよか・・・私は麻子がちゃんと来るかの方が心配だよ」

「あぁ~麻子は朝弱かったもんな」

「うぅ・・・誰か我に解るように説明せよ!何故、あの面妖な踊りをせねばならん話になっておるのだ!!」

「今度の日曜日に練習試合だ。学校に朝6時には集合だ」

「・・・・・へっ?」

「あれ?カリエンテにも説明してなかったっけ?」

「今初めて聞いたぞぉぉぉ!!」

 

 

 

いきなり怒ったように叫ぶ斬子に対して皆は不思議そうに首を傾げた。

 

 

 

 

「6時に起きれるものか!?」

「いや、集合が6時だから起きるのは5時過ぎになるかと・・・」

「どっちでも同じじゃ!!我は闇に生きる者・・・そう、夜に目覚めるモノなのだ!!」

「・・・っで、本音は?」

「起きれません!誰か助けて下さい!!」

 

 

 

強気に主張をする斬子だったが、不意に目が合った飛鳥の目が笑っていないというのを感じ取れば潔く全員の前で土下座をしたのであった。

 

 

 

「はぁ・・・ツバサ!前日に泊めてやってくれ」

「はい!お任せ下さい!!」

「フンッ、良きに計らえ」

「切り替わるの・・・はやっ!?」

「それで、麻子はどうするんだ?」

「私がちゃんと家に行くから大丈夫だよ!!」

「一応、なんとかなると思う・・・かな?」

「まぁ、そっちはみほ達に任せるよ」

 

 

 

 

不安要素があるのは気になるが解散する事になった。

そして、戦車道を復活させてからの初めての戦い。

去年の大洗女子では考えられなかった出来事だ。

飛鳥はそんな奇跡に胸踊らせて日曜日を待ったのであった。

 

 

 



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登場人物紹介です!その1

大洗女子学園

 

 

ネコさんチーム

 

 

 

日野本 飛鳥(ひのもと あすか)

 

 

身長 - 170cm

好きな戦車 - センチュリオンMk.3

好きな花(花言葉) - ブーゲンビレア(情熱)

趣味 - 戦車いじり

 

 

日野本家の三女。2年生。車長、操縦手、砲手。

中学時代から始めた戦車道ではあったが姉2人の影響もあり、戦車乗りとしての才能を開花させる。

大学生や社会人と言った一般リーグでも活躍する程の実力者である。

戦車道と並行して強襲戦車競技にも熱心に取り組んでいた。

強襲戦車競技での無敗の成績により、「戦姫」と言う通り名が付く。

だが、高校生になる時に色んな高校からのスカウトを断り、自分の愛する母校の県立大洗女子学園に入学。

1年時はごく普通の女子高生として1人暮らしをしていた。

普段は面倒臭がりな性格ではあるが、なにかと戦車のことが絡むと性格が変わることが多いが本当は面倒見の良い姉御肌気質である。

 

 

 

 

 

 

 

 

小早川 ツバサ(こばやかわ つばさ)

 

 

身長 - 146cm

好きな戦車 - Strv 74

好きな花(花言葉) - セントポーリア(小さな愛)

趣味 - 先輩観察(飛鳥のこと)

 

 

飛鳥の後輩で「わんこ」と周りから呼ばれている。1年生。通信手、車長。

いっつも元気一杯な女の子。だが、いざ戦車に乗り込むと緊張のせいか無茶をする一面を持つ。

優花里とは良く行動を共にしている事が多く、みんなの為にと一緒に諜報活動について行くことも・・・。

体力には自信があるらしく、毎日飛鳥を起こしに行く前には5キロ走ってから向かうらしい。

 

 

 

 

 

 

 

瑞島 薫(みずしま かおる)

 

 

身長 - 158cm

好きな戦車 - パンターA型

好きな花(花言葉) - バラ(愛)

趣味 - 妄想

 

 

飛鳥のクラスメイト。2年生。操縦手、車長、通信手。

クラスでドン引きされるぐらいの女好きである。

お気に入りは飛鳥らしいのだが、見向きもされない薫はますます好きになってしまっている模様。

妄想癖が激しいらしく、それは口に出来ない妄想までしているとかいないとか・・・。

ちょけた言動などが多いが、勝負事にはいつも真剣らしく負けることが大嫌いである。

 

 

 

 

 

 

 

御堂 玲那(みどう れな)

 

 

身長 - 151cm

好きな戦車 - ナウエル DL 43

好きな花(花言葉) - グロリオサ(頑強)

趣味 - 戦車の試合観戦(戦車道、強襲戦車競技)

 

 

優花里と同じクラスメイト。2年生。砲手、通信手。

中学時代に不慮の事故により、両脚が動かなくなり車椅子で活動をしている。

事故のせいもあり、普段は気弱な性格。

だが、砲手座席に座ると雰囲気は一変・・・集中力はピカイチで照準器を覗き込むと気弱なイメージだった彼女は獲物を狙う獅子のように様変わりするのだ。

 

 

 

 

 

 

 

カリエンテ/相良 斬子(さがら きりこ)

 

 

身長 - 157cm

好きな戦車 - クルセーダーMk.III

好きな花(花言葉) - ガーベラ(神秘)

趣味 - 英霊召喚

 

 

謎の問題児。1年生。装填手。

右目に「灼眼」と呼ばれる魔眼を持つ煉獄の魔女。

自分が身に付けているモノはすべて手作りと豪語する辺り器用な一面を持つ。

元々空手を極めていた彼女だったのだが、とあるきっかけで夢中になってしまった「魔法騎士レヴァインスレイヤー」と言う漫画に出会ってから中二病と化してしまった。

得意呪文は「我が闇の炎よ、我が魂の力をもって我が敵を穿て!シュトラーフェ・ボーゲン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

カメさんチーム

 

 

 

海原 花蓮

 

 

身長 - 160cm

好きな戦車 - ヘッツァー

好きな花(花言葉) - すみれ(誠実)

趣味 - スポーツ全般

 

 

生徒会会計。3年生。通信手。

見た目や雰囲気からか淑女としてイメージを持たれている存在。

基本的には真面目で戦車道に関しても自分なりに色々と勉強している模様。

お金持ちのように周りからは見られているが、ごく普通の女の子である。

頑張って汗を流すのが好きらしくスポーツ全般を嗜んでいる。



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初試合、やります!

そして、試合当日。

大洗女子学園戦車道チームは大洗の地に辿り着いた。

横には自分達の学園艦の何倍もある聖グロリアーナの学園艦も停泊していた。

 

 

 

 

「でけぇぇぇ!?」

「さすが、名門のお嬢様学校と呼ばれるだけのことはありますね」

「そんな学校と試合するなんて本当に勝ち目があるのかね」

「・・・・・わからん」

「かなりの強豪校だって優花里ちゃんは言ってたんだけど・・・」

「はい!でも、諦めなきゃ勝機は必ず来るって私は思っています!!」

「ツバサみたいにその気持ちがあれば勝てるよ」

「ふ~ん・・・飛鳥もいつもそんな感じなのか?」

「あぁ・・・その気持ちがあるかないかで戦況は大きく変わる事もある」

 

 

 

戦車を操縦しているのは飛鳥に対してキューポラから見える巨大な学園艦を見上げている薫が呟いていた。ツバサはせっせと弾薬などの点検をしており、玲那は慣れない咽喉マイクの調整などを行っていた。

だが、残りの1名は気持ち良さそうに壁にもたれたまま夢の中にいる。

 

 

 

「そろそろそこで寝ている煉獄の魔女をそろそろ起こしといてくれ」

「あはは・・・昨日は緊張して寝れないって斬子さん言ってましたよ」

「眼帯も包帯もしてなかったら普通の女の子だよねぇ~」

「寝込みを襲うような事はするなよ」

「そんな人間の屑がするような事をする訳ないだろう!やるならちゃんと許可を得てからやる!!」

「・・・・・気持ち悪い」

「酷っ!?!?」

 

 

 

などと騒いでいると目を眠たそうに擦りながら斬子が目を覚ました。

 

 

 

 

「おぉ、目を覚ましたぞ!!」

「ここは・・・?」

「チャーフィーの中だよ~ん♪斬子ちゃんが起きなかったから私が担いで集合場所まで走ったんだから」

「それはありがとうございます・・・・・あっ、な、ない!?」

「もしかして・・・これだよね?」

 

 

 

ツバサが眼帯、包帯、極めつけには真っ赤なカラーコンタクトを手渡すと斬子は慌てたように準備に取り掛かった。

 

 

 

 

「・・・・・変身」

「昔のアニメにこう言うやつあったような・・・」

「フフフッ・・・煉獄の魔女カリエンテ!ここに降臨!!」

「斬子ちゃん!寝癖酷いことになってるよ」

「えっ!?ツバサちゃん!どこどこ?」

 

 

 

どや顔でいつものようにポーズを決めた斬子だったのだが、後ろ髪が跳ねているのに気付いたツバサが指摘をすると斬子は普通の口調になってしまい2人で修正を始めたのであった。

 

 

 

「ツバサの家に泊めたのは正解だったかな」

「じゃあ私も飛鳥の家に・・・「却下」まだなにも言ってないじゃん!!」

「お前と2人きりなんてシチュエーションを考えただけで寒気がする」

「それかなり酷くない!?」

「飛鳥と・・・・・同感」

「えええええ!?」

 

 

 

精神的大ダメージを受けた薫は涙目になりながらも黄昏るようにキューポラからずっと上体を出して景色を眺めつつ心地よい風を浴びていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桃ちゃん、全員揃ったよ」

「ええい!だから、桃ちゃん言うな!!」

「な、なんだか緊張してきました」

「練習通りにやれば大丈夫だよ」

「・・・・・来たぞ!!」

 

 

 

隊長機であろうチャーチルを先頭に率いて5両のマチルダⅡがこちらと対峙するように迫って来るのが確認出来た。目の前で停車すれば、車長達が横1列に並ぶように両校6名ずつ立ち会う形になった。

 

 

 

 

「うへぇ~・・・間近で見ると違うなぁ~」

「・・・・・読み通り」

「そうですね!飛鳥先輩の言っていた通りにこちらと同じ数の戦車をぶつけてきましたね」

「かぁ~真面目な学校ですこと」

「フンッ!我が軍を甘く見たことを後悔させねばならぬな」

「いや、私達が返り討ちに遭わないようにしないとなんだけどね」

 

 

 

外野は緊張とワクワクを胸に盛り上がっている様子だ。

 

 

 

 

「本日は急な申し出にも関わらず試合を受けて頂き感謝する!」

「いえ、構いませんことよ。それにしても・・・個性的な戦車ですわね」

「・・・・・なっ!?」

「良かったらダージリンのお好きなカラーに変えてあげましょうか?」

「結構ですわ・・・飛鳥さん」

「あっ・・・オススメの紅茶を前に聴きそびれてたから教えて欲しいんだけど・・・」

「それでしたら試合が終わりましたらお教えさせて頂きますわ」

 

 

飛鳥と向こうの隊長が親しげな雰囲気にみほ以外の大洗のメンバーは鳩が豆鉄砲を受けた表情になり、理由を知りたいとばかりに飛鳥の方に視線が集中すれば飛鳥は面倒臭そうに頭を掻いていた。

 

 

 

 

「ダージリンとは去年の大会で知り合ったんだ」

「貴様!そう言うことは早目に伝えておけと前に言っただろう!!」

「いや、それは初耳なんだけど・・・」

「うるさーい!!」

「飛鳥さんとは親しい間柄なんですの」

「そうそう、簡単に言うとマブダチってヤツだ」

「ですが、今回の試合では手を抜きませんわ」

「いいよ、逆に手を抜かれたら意味ないから本気でよろしく」

 

 

 

 

そう言ってお互いに握手を交わすと踵を返して自身の戦車へと返って行き、残されたメンバーも礼をした後に戦車に戻ると両陣営共に最初の位置へと移動を開始し始めた。

 

 

 

「飛鳥・・・何を話してた」

「宣戦布告」

「えええっ!?そ、そんなことして大丈夫なんですか!?」

「さすが我が認めた女だ。聖なる者に邪悪なる刃を突き立てたと言う所か」

「本気の相手じゃなきゃなにも学べないだろう」

「おぉ~恐いねぇ~うちの車長様は~・・・・・」

「笑顔になってるお前が言う事か」

「へへっ・・・バレちまいましたか~♪」

「相手が強ければ・・・強いほど・・・楽しめる」

「今回はサバイバルじゃないんです!みんなと力を合わせての初試合ですね!!」

「我らが一丸となれば、聖なる使い手共など烏合の衆と言う訳だ。」

「だが、油断してると負けるから気を引き締めること」

 

 

 

飛鳥の一言に対して全員の「オォーッ!!」の掛け声が戦車内に響き渡った。

全車両が配置に着いて後は開始の合図を待つばかりだ。

 

 

 

「みほ、ちょっと良い?」

《なんですか?》

「開幕はAチームに付いてく」

《どうかしたんですか?》

「軽く挨拶がしたいだけ」

《は、はぁ・・・》

 

 

 

急な提案にもみほは反対はしないが、飛鳥の意味ありげな発言に疑問符を頭の上に浮かべるが了承すれば今の作戦を全体に指示していた。

開始の合図と同時にAとFチームは偵察に他のチームは軽く進んだ場所で指示があるまで待機と言う形になっている。

 

 

 

 

「マチルダⅡ5輌、チャーチル1輌、前進中です!」

「さすがの統率力だな乱れもなく前進しているな」

「うん、あれほど隊列を崩さずに進めるなんてスゴい・・・」

「こちらの徹甲弾では正面装甲は抜けません」

「そこは戦術と腕・・・かな?」

「それじゃあちょっくら挨拶でもしに行きますか」

 

 

 

偵察をしていたAとFは他のチームに昨日考えたキルゾーンでの待機を指示。

AとFは相手を誘き寄せる為に砲撃出来る位置へと移動した。

 

 

 

「アタシが撃つよ」

「・・・・・任せる」

「おっ、飛鳥様のお手並み拝見ですな~」

「あまり茶化すな」

「へいへ~い」

「みほ、そっちで先に砲撃を頼む」

《はい、華さん!こちらが先に仕掛けます!!》

「それじゃあご挨拶しますか」

 

 

 

Ⅳ号戦車とチャーフィーは聖グロリアーナを離れた位置から気を引かせる為に砲撃準備に入っていた。

必死に照準を合わせる華に対して飛鳥はじっとしたまま動かずにいた。

 

 

 

次の瞬間Ⅳ号戦車の方から轟音と共に砲撃があったのがFチームも感じ取れた。だが、未だにこちらのチャーフィーから砲撃はない。飛鳥以外のメンバーはその異変に気付いたがそれはすぐに掻き消された。

今度はチャーフィーが発砲。引き金を引いた飛鳥は照準器を覗き込んだままにやっと口元が上がっていた。

華の砲撃が地面に着弾し、その隙を狙うように砲撃したのだが徹甲弾は弾かれてしまった。

 

 

 

「やっぱ抜けないか・・・」

《今は撃破が目的ではないので一旦引きます!》

「この距離じゃ仕方ない・・・アタシ達もⅣ号に続け」

「あいよ!」

 

 

 

 

Ⅳ号戦車とチャーフィーは1発だけ発砲すると深追いなどはせずに背中を向けて来た道を戻り始めた。

 

 

 

「やはり飛鳥さんは侮れませんわね」

「敵の砲弾は我々の車体を掠めただけの様子です」

「それでは・・・全車輌、目の前に見えるⅣ号とチャーフィーに攻撃開始」

 

 

 

チャーチルの車内で紅茶を嗜んでいたダージリンはカップから微量だが紅茶が溢れた事に眉を潜めていた。だが、スッと紅茶を一口飲むと追撃をするべく2輌の戦車の方へと転進するのであった。

 

 

 

すると逃げる2両に対して聖グロリアーナは全車輌で砲撃を開始した。

 

 

 

 

「こっちは・・・どうする?」

「反撃はしなくていい」

「このままジグザグ走行しとけばいいのか?」

「それでいいよ。向こうも狙いが定まらなくて無駄弾が増えるはず」

「飛鳥先輩!そんなに身を乗り出してたら危ないですよ!!」

「戦車に当たるより命中率は低い。でも、心配してくれてありがと」

「直撃したとしても邪悪なる覇道の力を持ってすれば、聖なる砲撃など受けた所でかすり傷1つ出来ないのだ!!」

「それなら今、この状況を魔法でどうにかしてくれないか?」

「今は魔力が切れているから期待に答えられぬな」

「煉獄の魔女の名が聞いて呆れるなぁ~」

「むっ!ならば、見せてやる!!我が灼眼の力・・・おおぉぉぉ!?」

 

 

 

 

張り切って飛鳥と変わるようにキューポラから身を乗り出した斬子が灼眼を出そうと眼帯に手を掛けた瞬間に相手の砲撃が近くに着弾するとその衝撃で斬子は体勢を崩してしまい車内で暴れ回っていた。

 

 

 

 

《Fチーム!大丈夫!?》

「あっ、沙織先輩!こちらは1名を除いて大丈夫です!!」

《1名を除いてってなにかあったの!?》

「斬子ちゃんが体勢を崩して壁にへばりついちゃって・・・」

《そ、それって大丈夫なの!?》

「えっと・・・あぁ、平気みたいです」

 

 

 

顔が真っ赤になった斬子は今にも泣きそうな表情を浮かべているが必死に我慢しているのかなにも喋らずにいるが歯を食いしばっているのに気付いたメンバーはなにも言わずにいた。

 

 

 

 

「桃ちゃん、もう少しで待機地点に着くからよろしく」

《だから、桃ちゃん言うな!!》

《後、600mで敵車輌射程内です!!》

「後続もちゃんと付いて来てるな」

《あっ、待ってください!》

《味方を撃ってどうすんのよー!!》

「大丈夫なんでしょうか」

「多分・・・」

 

 

 

前を行くⅣ号が味方に撃たれているのが通信で聞き取れたツバサと飛鳥はお互いに目を合わせれば引きつった笑みを浮かべた。

後続の聖グロリアーナの車輌がキルゾーンに入ったのと同時に砲撃が開始されるもバラバラな砲撃はどれも直撃すら出来ずにただ無駄弾が飛び交うばかりとなってしまっている。

 

 

 

 

「・・・逆包囲される」

「はぁ・・・アタシがちゃんと練習に付き合っておいた方が良かったか」

「こ、このままでは我々が逆に業火の炎に焼き尽くされてしまうぞ!?」

「ヤバい!?滅茶苦茶撃たれてるよ!?」

「ど、どど、どうしたらいいんですか!?」

「慌てたら判断が鈍るから冷静に」

 

 

 

 

その言葉にみんなはこくりと頷いた。

玲那はめげずにお返しとばかりに砲撃を返し、斬子も彼女のサポートという形で装填を急いだ。

薫は相手から狙いをつけられないように動いていた。ツバサは沙織と状況交換をしている。

 

 

 

 

《B,C,Fチーム!私達の後に付いて来て下さい!!移動します》

《わかりました!》

《心得た!》

「了解!」

《もっとこそこそ作戦を開始します!!》



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奮闘します!

「作戦内容はどんな感じ?」

《市街地にて地形を最大限に生かして戦います!!》

《大洗は庭です!任せてください!!》

「それなら任せてくれ」

 

 

 

次の戦場はホームグラウンドとも言える大洗の市街地である。

地の利があるこちらが少しは有利に動けるはずである。

すると各戦車が分かれるように散開した。

 

 

 

「今から市街地にて戦闘になる」

「おっ、それは楽しめそうじゃん♪」

「フフフッ・・・我が領土に踏み入ったことを後悔させる好機ではないか!」

「アタシ達は確実に1輌は撃破させる」

「・・・・・OK」

「どうやって迎え撃ちますか?」

「それなら良い場所がある」

 

 

 

飛鳥が口にした意外な場所に一同驚きの声を出すも全員の表情には意味ありげな笑みが浮かぶとチャーフィーは急ぐように目的の場所を目指して前進を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

《こちらCチーム!1輌撃破!!》

《Bチームも1輌撃破!!》

「やるではないか!我が同胞達は!!」

「一気に2輌撃破とはさすがだな」

 

 

 

散開してからまだそれ程時間も経過していないのに友軍の戦果にテンションは上がっていた。

 

 

 

 

「前方から敵戦車1輌が接近中!!」

「焦るな・・・合図があるまで待機」

 

 

 

なにも知らずに迫って来る敵戦車に対して一同は息を殺してジッと身構える。

そう彼女達が身を潜めているのは大きなキャンプ場の奥地で擬態するように待ち伏せしていたのである。

そして、敵戦車がゆっくりとこちらに近付いて来た瞬間。

 

 

 

「撃てぇぇぇ!!!」

 

 

 

合図と共に放たれた砲弾は無防備な相手の側面装甲を見事に貫き、煙と共に白旗が上がるのをキューポラから顔を出した飛鳥が確認し、親指を立てて車内に戻って来るとハイタッチが起きていた。

 

 

 

 

「まさかこんな場所に戦車が隠れられるスペースがあるとか本当にビックリだっての!」

「アタシの愛車を置いてたんだ」

「・・・その戦車は」

「パンターD型」

「強そうな名前ですね」

「それが中学の時の相棒か」

「いや、ただの練習車・・・・・えっ!?」

 

 

 

過去の話題で賑わうFチームだったが、突如として聞こえてきた情報に飛鳥は真剣な表情に変わった。

 

 

 

「んっ?どうかしたか?」

「B、Cチームがやられた」

「なんだって!?」

「しかも、Cチームが撃破したと思っていた敵車輌はまだ生きてる」

「せ、せせ、戦況はどうなのだっ!?」

「4対2・・・このままだと・・・」

《Fチーム!応答願います!!》

 

 

 

不穏なムードを切り裂くように沙織の大声が戦車内に響き渡る。

 

 

 

「沙織!そっちの状況は!?」

《て、敵に追い回されちゃってるよ~!》

「どの辺とかわからないか」

《必死に逃げちゃってるからそんなのわかんないよ~!!》

「くそっ!薫、すぐに戦車を出して!!」

「はいよ~!!」

 

 

テンパっている沙織の状況に危機的状況だと判断した飛鳥はすぐさま指示を出した。

急発進したチャーフィーから飛鳥は上体を出すと目を瞑ってなにかを感じ取っていた。

 

 

 

「微かにだけど、砲撃の音が聞こえる」

「どっちの方角!?」

「8時の方角!!」

「間に合え~!!」

 

 

 

方向転換を済ませてから全速力でAチームを助けに行こうとした矢先に飛鳥はあるモノを目にした。

そう、それはあの山岳地帯で履帯が外れて放置されていたEチームである。

 

 

 

「会長、生きてたんですね」

《おまたせ~っで、ヤバい感じなんだよね》

「Aチームが狙われてます」

《じゃあ援護に行かないとね》

「この道に戦車が通った跡がありますから左右から回り込んで行けます」

《あいよ~♪じゃあ、行きますか》

 

 

 

 

そう言って2手に分かれるとFチームは戦車を走らせるがAチームがどの辺りに居るのかはわからずにいた。

 

 

 

「沙織!今の状況は?」

《もう追い詰められちゃった!!》

「敵の位置はわかるか!!」

《えっ・・・えっと・・・》

《魚剣と書かれた看板のある店の前!》

 

 

 

みほの大きな声に瞬時にキューポラから飛び出すと一番高い位置から情報が一致する店を捜索した。

すると右側にみほの言った看板が目に入った。

 

 

 

 

「急停車!主砲を4時の方角に!!徹甲弾からAPFSDS弾に再装填用意!!」

 

 

 

車内に大きな飛鳥の声が響く。それと同時に急ブレーキをかけた薫。指示通りに主砲を素早く動かす為に玲那とツバサが必死になっていた。斬子も通常の徹甲弾ではなく、細長い弾芯を持ち貫通力を高めたAPFSDS弾に入れ替えた。

だが、主砲の先にあるのは壁。敵の戦車の位置など全然見えてはいない状態だ。

そんな状況にも誰も口を挟まずにただ見守ることしか出来ずに指示を待っていた。

 

 

 

「この先に敵車輌がいる」

「いっ!?透視能力使いだと!?!?」

「テメェ、人間じゃねぇ!?」

「2人共黙って下さい」

「・・・・・信じる」

「放てぇぇぇ!!」

 

 

 

微動だにせず照準器を覗き込む玲那。初めて出会った暗い雰囲気だった車椅子の女の子は立派な戦士へと変わろうとしていた。そんな彼女に託した飛鳥は叫ぶように砲撃の号令を出した。トリガーを引かれて飛び出した弾丸は軽々と塀などを破壊して進んで行ったと思えば、ターゲットに見事命中し直撃した音と同時に煙と白旗が上がるのが確認出来た。

 

 

 

《やられた~》

「くっ・・・みほ!まだ行けそうか」

《今の援護射撃のおかげで隙が出来たのでなんとかあの場からは離脱出来ました!》

《生徒会チームがやられちゃったよ~!!》

「こちらも合流する・・・待ってろ!」

 

 

 

休む暇もなく戦車は前進を開始。飛鳥はAチームの状況を会話から察知すると一目散に大通りを目指した。だが、Fチームが大通りに出た時には既にⅣ号戦車から白旗が上がってしまっていた。

 

 

 

「Aチームが・・・!?」

「あの土壇場で2輌も倒してるじゃん!西住流ぱねぇ!!」

「敵隊長車輌は・・・健在か」

「聖騎士VS暗黒騎士の戦いじゃ」

「それだと私達負けるんじゃ・・・」

「来る!!」

 

 

 

飛鳥がそう叫んだ瞬間に止まっていたチャーチルがこちらにターゲットを変えて迫って来たのだ。それにいち早く反応したのは薫だった。なにも言われていないのに前進したかと思えば、相手の主砲が狙いを定めるよりも先に横すれすれで交差したのであった。

 

 

 

 

「野生の血が騒いだ?」

「天性の勘って言ってちょうだい♪」

「撃ち合いになるかもしれないから煉獄の魔女の力を見せてくれますか?」

「フフフッ・・・我の本気を見たいとな?出し惜しむ場でもないから良かろう、この灼眼を解放する!!」

「ツバサもカリエンテ様のお手伝いを頼む」

「はい!!」

「走りながらの射撃になる・・・当てられる?」

「やらなきゃ・・・ダメ」

「そうなるね」

 

 

 

そう言ってる間に旋回すると向こうも旋回しており、離れた位置で睨み合う形になった。

車長であるドシッと身構えるように座り込む大きく深呼吸をした

 

 

「それじゃあ・・・」

 

 

「「「パンツァー・フォー!!!」」」

 

 

 

打ち合わせもなく5人揃っての掛け声と共に戦車は前進した。敵戦車の砲撃にも臆さずに正面からぶつかり合う形に持ち込んだのだ。どちらもこの距離だとまともに喰らえば一撃である。お互いに離さない様に肉薄し合う中でも激しく砲撃戦は繰り広げられている。

飛鳥はこんな状況にも心躍らせていた。中学の時とは違うこの戦い方に・・・。

 

 

 

 

だが、飛鳥はこの状況で聞きたくない音を耳にした。ガキンッと何かが壊れる音を・・・。

 

 

 

 

「動かなぁぁぁい!!」

 

 

 

あんなに馬鹿をしたり、ちょけたりする薫が悔しそうに壁を叩いている。飛鳥は動かなくなった理由にさっきの音が原因だと言うことに気付いた。少し車体が右に傾いている気付いた。そう、履帯が切れてしまったのだと察した。

調整はちゃんとしてきたつもりだったが、こんなに激しく動かすのは想定外だったからガタが来ていたのかもしれない・・・。しかも、このタイミングでだ。

 

 

 

それでもまだ敗北は決まっていない。薫が叫んだのはお互いに砲撃して離れた時・・・そう、装填スピードですべてが決まる。

 

 

 

 

「ヴォーパルインフェルノ!!!!」

 

 

 

斬子が装填を終えた瞬間に叫んだと同時に砲撃はされたが、次の瞬間に凄まじい衝撃がチャーフィーを襲った。飛鳥は咄嗟に身動きのとれない玲那を護る為にギュッと抱き締めていた。玲那は結果を見届けるように照準器の先を睨んだままだった。

 

 

揺れが収まると玲那は力尽きたように飛鳥にもたれかかった。そして、小さな握り拳を前に突き出して笑顔を見せた。

 

 

 

 

《大洗女子学園、聖グロリアーナ女学園、共に全車走行不能!よって、引き分けになります!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合が終わったFチームのメンバーは車内から出ると力が抜けたように地面にへたり込んでいた。

 

 

 

「やべぇ・・・今になって体が震えてくるぅ~」

「灼眼の使い過ぎで・・・魔力がもう残ってない」

「私ももう無理です」

「・・・・・限界」

「お疲れさん」

「飛鳥さん」

 

 

 

4人に近くの自販機で買って来た冷たいジュースを配っているとダージリンと他に2人の生徒が後ろに付いていた。

 

 

 

「久し振りにあんなに激しい戦いをさせてもらいましたわ。黒森峰以来かしら」

「そりゃあ光栄ですこと」

「良いメンバーに出会えたんですのね」

「そうだね」

 

 

 

金髪に大きめの黒いリボンを付けている女性は玲那に熱く先程の砲撃戦話し掛けているが、玲那は怖がった子犬のようにぷるぷると震えていた。

オレンジ色の髪の女の子は斬子と装填に関する話をしているのだろうが、厨二病全快の言葉がわからないのか首を傾げながら話を聞いていた。

 

 

 

「母校が戦車道を復活して良かったですわね」

「本当はアタシに聖グロに来て欲しかったんだろ?」

「当然です。その為に去年お声を掛けたんですから・・・でも」

「でも?」

「な、なんでもありませんわ!忘れてましたわ、私のおすすめの紅茶を教えて差し上げますわ」

「切り替えはえぇ・・・」

「なにか言いました?」

「いや、なんでも」

 

 

 

ダージリンは自分が好んでいる紅茶をオレンジ色の髪の子・・・オレンジペコに淹れさせるとこの場に居る全員でひとときのティータイムを過ごした。

また再戦をする約束を交わすと3人は上機嫌で自分達の陣営に戻って行ったのであった。

 

 

 

すると生徒会のメンバーと引きつった表情を浮かべるAチームのメンバーがやって来た。

 

 

 

「いやぁ~惜しい試合だったねぇ~」

「アクシデントがなくても危なかったのは変わりないけど・・・」

「引き分けだったが、我々は必ず勝たなくてはならんのだ!だから、約束通りにあんこう踊りをしてもらう!!」

「マジで!?頑張ったんだからいいんじゃんか!!」

「問答無用!!」

 

 

 

桃の台詞に飛鳥と玲那以外はガクッと肩を落としてしょんぼりとしていたが、不意に玲那が手を挙げてこう一言呟いた。

 

 

 

 

「勝利にこだわるなら・・・・・河嶋先輩も砲撃を当てて下さい」

「ぐっ・・・!?」

「桃ちゃん、最後に駆けつけたあの時もゼロ距離で外してたんだ」

「なっ・・・!?」

「そう言えば、桃は今まで砲撃をまともに当てたことありませんわね」

「か、会長・・・・・」

「そうだね~まぁ、こう言うのは連帯責任だから」

「それじゃあ行きましょうか」

 

 

 

 

と言う訳でAチーム、Eチーム、Fチームは大洗町の名物であるアンコウを模したピンク色の全身タイツを着用してあんこう踊りをする破目となった。ちなみに飛鳥は特等席でもある大太鼓を叩きながら大爆笑していたと言う噂である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか・・・踊ることになるなんてな・・・最悪だぜ」

「まったくです。それにしても・・・斬子ちゃんの踊りのキレ凄かったね!踊ったことあるの?」

「あ、あの面妖な踊りは・・・そ、そう!!儀式の舞で良く使われる事があったからマスターしておいたのだ!」

 

 

 

通院している病院へ行った玲那以外の残された4人はアウトレットにある喫茶店でのほほんと過ごしていた。

 

 

 

「出港まで時間あるからアウトレット回らない?」

「いいですね!私もお供します!」

「我は寄る所があるから別行動だな」

「アタシはもう少しここに居る」

「OK!それじゃあ・・・行きますか!!」

 

 

 

残った飛鳥は味わうようにコーヒーを楽しんでいたが、不意に目の前に誰かが座るのに気付いた。

するとそこには見知った人物がにやにやとした顔でこちらを見ていた。

 

 

 

 

「アグレッシブな試合内容でしたねぇ~大将♪」

「見に来てたんだ・・・焔姉ちゃん」

「そりゃあ見に来るに決まってんじゃん!母校の試合なんだからあったりまえだぜ!」

「じゃあ・・・母さんも?」

「ハラハラしながら一緒に見てたぜ♪」

 

 

 

扇子を出して満面の笑顔で仰いでいる女性・・・次女こと日野本 焔(ひのもと ほむら)は嬉しそうに飛鳥の肩を力強く叩いていた。それに対して嫌がる素振りも見せずに飛鳥ははにかんでいた。

 

 

 

「・・・にしても、西住流のお嬢さんが大洗に居るなんてねぇ~あの子黒森峰で副隊長してなかったけ?」

「前年の事件とかじゃないかな・・・被弾した僚車が川に転落してしまってその仲間を救助しに行ったヤツ」

「あぁ・・・それであの子の乗ってたフラッグ車がやられて負けたんだったな」

「・・・でも、みほのやったことは間違いじゃない」

「そうだね。けど、しほさんの考えとは違うから厳しく怒られたのかもね」

「それならアタシはみほが目指したいと思う戦車道を進むよ」

「ええ~!!お姉ちゃん道は?」

「そんなのあっても絶対に進まん」

「飛鳥ちゃんのいけず~」

 

 

 

今度は飛鳥の頭を胸の辺りでギュッと抱き締めた。さすがに息苦しいのか飛鳥はじたばたと暴れると少ししてから解放された。ふと姉の顔を見ると真剣だった。

 

 

 

「それで?今の戦力でいけそうか」

「正直に言うと・・・キツイ」

「ちゃんと機能してるのはⅣ号とチャーフィーだけだったしな」

「公式戦までに間に合えばいいんだけど・・・」

「それなら荒治療で強襲戦車競技(タンカスロン)に参戦とかどうだ?」

「それは却下」

「ですよねぇ~」

 

 

 

強襲戦車競技とは日本戦車道連盟非公式・非公認の戦車競技のことである。戦車道と言うよりは武士道のような気もする。焔が言う通りの荒治療いわば最終手段になるトレーニング方法になるかもしれない。だが、みほの想いを最優先に考えれば論外にも等しいだろう。

 

 

 

 

「それならまた違う学校に練習試合を申し込むしかないな」

「実戦で学んだ方が良いか」

「けど、公式戦も間近なんだから手の内を見せたがらない学校が多いかもね」

「・・・そうだね」

 

 

 

考え込む飛鳥。そんな彼女を横目に焔は携帯を取り出すと慌てたように立ち上がった。

 

 

 

 

「うわ~!!マナーモードにしてたから母さんの着信に気付かなかった!?」

「早く行かなきゃ怒られるよ」

「そうだな、飛鳥!なにか困ったことあったら姉さん達を頼るんだぞぉ~!!」

「わかった」

 

 

 

 

大きく手を振りながら走り去っていく姉を見送っている飛鳥の表情はなにか決意をきめた表情へと変わっていた。

 

 



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戦力確認です!

いつものように練習が始まろうとする中で飛鳥は生徒会メンバーに声を掛けていた。

 

 

 

「またお願いしたい事があるんだが・・・」

「私達にお願い・・・ですか?」

「いやぁ~こんなに積極的になってくれるのは助かるねぇ~」

「そうか、丁度良いな。私達も貴様と西住を呼んで全国大会に向けての会議をするつもりだ」

「それは好都合」

 

 

 

みほが駆け足でやって来ると生徒会メンバーと飛鳥とみほは生徒会室に向かった。

 

 

残されたメンバーには柚子から練習メニューと言って渡されたプリントに目を通していた。

 

 

 

 

「2対2の模擬戦か・・・」

「5チームあるから代わりばんこって言うのが理想的だよね~」

「腕が鳴るではないかっ!」

「砲撃とか移動の練習しかしてなかったからこう言う実戦形式は楽しめそう♪」

「我々のチームワークの見せ所だっ!」

「わたしたちも少しは強くなったんだからっ!」

 

 

 

各チーム初めての練習メニューにテンションが高まっている様子。

だが、ふとAチームとFチームはある事態に気付いたのであった。

 

 

 

「「車長がいない!?!?」」

 

 

 

 

そう、飛鳥とみほは生徒会室へと行ってしまった為に一番重要となる司令塔が欠けてしまっているのであった。

 

 

 

 

「フフッ・・・聖グロと雌雄を決した我々なら覇王が降臨せんとも容易く敵を薙ぎ払ってくれようぞ!!」

「・・・・・車長はどうする」

「それならツバサちゃんでいいっしょ?」

「・・・へっ?むりむりむりむりむりですぅー!!!!」

 

 

 

ツバサと沙織の叫び声が思わぬタイミングではもって戦車倉庫内に響いた。

 

 

 

「そんなに嫌がらなくてもいいじゃんか」

「なんで私なんですかぁぁぁぁ・・・・・」

「玲那は車長を出来ないし、戦車動かすのは私以外出来ないし・・・・・」

「じゃあじゃあ!斬子ちゃんが車長やったら・・・・・」

「お主にこの砲弾を連続で入れられるような力はあるか?」

「あ・・・あぁ・・・ない・・・です」

 

 

 

言い包められたツバサはゆっくりと崩れ落ちてしまう。薫が心配そうに近寄るが彼女はバッと立ち上がると駆け足で誰よりも早くチャーフィーの元に飛び出して行った。それを見た3人はクスッと笑いをこぼしてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、新たに練習試合を組んで欲しい・・・と言うことですわね」

「簡単に言えばそうなります」

 

 

 

生徒会室では飛鳥がホワイトボードを使って現在の大洗、なにが必要なのか、詳しく分析した内容を解りやすく描き出されている。そんな彼女の行動にさすがの桃もなにも言わずに真剣な表情で聞いている。

 

 

 

「練習ばかりではいざ実戦と言った場合において臨機応変に対応するのは難しい」

「そうですわね・・・この前の聖グロ戦ではまともに戦えていたのはⅣ号とチャーフィーだけでしたものね」

「西住はどうだ?」

「私も飛鳥さんと同じ意見です。試合で必要となる瞬時の判断力や粘り強さは練習だけでは身につきません」

「やっぱり実戦の経験がモノを言うって訳だぁ~」

「試合をすれば、自分達の実力や自分達が次にやる課題が見えますから」

 

 

 

真剣な2人の意見を目の当たりにした生徒会メンバーもなにかを考えていたのかこそこそと話し合ったかと思えば、会長は新しく干し芋の入った袋を開けて口を開いた。

 

 

 

「練習試合やってみよっか?」

「あっ、助かります!」

「練習相手はこちらで探すからお前達は練習に励むこと!いいな?」

「桃ちゃんはまず砲撃の命中精度を上げなきゃ」

「うるさーい!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

こちらは2対2の模擬戦が行われている広原。

現在3戦目・・・・・なのだが、

 

 

 

「ツバサちゃん!敵はどっち?」

「く、9時の方角に1輌・・・それで・・・2時の方角に・・・ふぎゃっ!?」

「・・・撃たれてるぞ」

「これでも逃げてるっての!!ってか、砲撃当たってないぞ!」

「もう・・・これ以上・・・装填は・・・無理だってばぁ・・・」

「くっ・・・当たらない」

「もうヤダアアアア!!」

 

 

 

と言う感じでFチームは聖グロ戦での功績が嘘だったように散々な状態になってしまっていた。Aチームはそれ以上に酷い結果だと言うのがすべての模擬戦を終えた上で解ってしまった。

 

 

 

模擬戦の結果が酷過ぎたAチームとFチームは円を描くように集まって反省会らしきモノを執り行っていた。

 

 

 

 

「西住殿がいないと我々ってこんな感じなんですね・・・」

「聖グロ戦の時は完璧に動けてたはずなんだけどな・・・」

「わたくしまったくアクティブになれませんでした・・・」

「あぁ・・・撃てても・・・気持ち良くない」

「フフフッ・・・あれだけ撃っておいて良く言うわ」

「なによっ!だからイヤだって言ったじゃないっ!」

「そうです!私達はちゃんと断わってますからねっ!」

「まさか、八九式にまでやられるとはな・・・・・」

「もうやだあああああっ!!」

「待って下さい!沙織せんぱ~い!!」

 

 

 

泣きながら走り回る沙織。それを追うツバサ。またその彼女達を追う優花里。

と言った感じの追いかけっこが繰り広げられていた。

 

 

 

「なにをやってるんだ・・・アイツら」

「あはは・・・この成績を見れば解るかも」

「Aチームは全敗。FチームはかろうじてAチームに勝利だって・・・」

「本当に大丈夫なんですの?」

「・・・たぶん・・・大丈夫だと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後のせんしゃ倶楽部。

いつものようにアルバイトに勤しむ飛鳥ではあるのだが、今日は珍しいお客が居ることに驚いている。

その客と言うのが・・・生徒会の河嶋桃である。

 

 

 

「桃ちゃんがココに来るなんて驚いたわ」

「桃ちゃん言うな!あ、あれだ!偶然お前が働いているのが見えたから入ってみただけだ!」

「はいはい」

「・・・にしても、色々と揃っているようだな」

「そりゃあ品揃えは1番だと思うよ?アタシが入ってからちょっと独自のルートとかで新商品も入荷させてるしね」

「戦車に関しては頼りになるな貴様は・・・んっ?」

 

 

 

店内を物珍しそうにキョロキョロとしていた桃だが、ある一角にある大きなモノに食い付いた。

 

 

 

「日野本!あれはなんだ?」

「んっ?あぁ~あれは戦車のゲーム。敵戦車を砲撃して撃破しながら進んで行くヤツだよ」

「ほぅ・・・面白そうだな。私もチャレンジしてみても構わないか?」

「どうぞ~」

 

 

 

そう言ってから桃がゲームを開始したのを横目に飛鳥はせっせと商品の補充やら在庫管理の為にパソコン画面を眺めていた。

だが、不意に桃の怒ったように叫ぶ声が聞こえたかと思えば、溜息混じりに頭をくしゃくしゃと掻きながら桃の元に向かった。

 

 

 

「桃ちゃんどったの?」

「リアルならまだ解るが、ゲームでもうまく砲撃が当たらないんだ!!」

「う~ん・・・アタシ見てるから撃ってみ」

「・・・・・うむ」

 

 

 

涙目だった桃はゲームに向き直ってまたゲームを再開するが、飛鳥は桃の砲撃するタイミングを見てぽかんとした表情で何も言わずに見届けていた。

 

 

 

「・・・桃ちゃん」

「な、なんだ?」

「それじゃあ当たらん」

「なにっ!?」

 

 

 

鬼のような形相で振り返る桃には目も向けずに横に立つとゲーム操作を片手で動かしながら桃の方に視線を向けた。

 

 

 

「桃ちゃん・・・照準器の真ん中に敵が見えた瞬間に砲撃してるよね?」

「そ、そうだ!こう言うのは先手必勝だと言うだろう!!」

「まぁ、間違ってはないけど、砲撃した際には反動が大きく出るからそれも計算に入れなきゃいけない」

「・・・・・うぅ」

「それに風、地形によっては・・・」

「日野本・・・」

「な、なんですか・・・?」

 

 

 

ゲーム画面で砲撃をしながら軽く説明していた飛鳥だったが、不意に両肩を掴まれるとちょっと言い過ぎてしまったかと思い目をギュッと瞑った。

 

 

 

 

「私に砲撃を教えてくれ!」

「アタシに・・・ですか?」

「私達はなんとしても強くならなければならないんだ!!」

「・・・・・やりましょうか」

「本当か!?」

「このままノーコンを貫くのイヤでしょうに」

「余計な事を口にするな!ほら、どうすればいいんだ!!」

「じゃあ・・・まずはココを・・・」

 

 

 

ひょんなきっかけで桃ちゃんの砲撃修行がこのせんしゃ倶楽部で始まったのであった。これは極秘のことらしく誰にも内緒でのことである。当然、会長にも秘密らしい。1時間程度ではあるが実戦はせずゲーム世界を舞台での修行になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一撃必殺!!」

 

 

2対2の模擬戦の最中。Fチームは前々から話していた3パターンの編成をローテーションしている所である。

現在は砲手が飛鳥、通信手が玲那、車長がツバサである。

 

 

 

「さすが覇王・・・1発か2発で確実に屠るとは見事なり」

「しかも、いっつもクールを装ってる飛鳥さんがこんなに叫ぶなんて驚いたなぁ~・・・ふぎゃっ!?」

「お前は黙ってろ」

「先輩!あ、あの・・・指示は遅くなかったでしょうか?」

「初心者にしては良い方だと思うよ。慌ててもちゃんと敵の位置の報告も出来てるし、上出来だよ」

「あ、ありがとうございます!!」

「1発目・・・あれは調整?」

「さすが玲那、良く気付いたね」

「その手も・・・ありか」

「まぁ、1撃で仕留められたらそっちの方が上出来ではあるな」

 

 

 

集中していた飛鳥は息抜きをしようとキューポラから外に出ると横には先程までチームを組んでいたⅣ号戦車が停車している。すると操縦席のハッチが開いたかと思えば、麻子がひょっこりと顔を出して来た。

 

 

 

「見事な行進間射撃だったな」

「そりゃどうも」

「コツでもあるのか?」

「場数を踏めば簡単なもんさ」

「中学時代の経験か」

「そうなるね・・・けど、昔のアタシは・・・・・」

「なにか・・・あったのか?」

「なんでもない。次の試合に行くぞ」

 

 

 

誤魔化すように戦車の中に逃げ出した飛鳥を見送る麻子。気に掛かる麻子もゆっくりとハッチを閉めると両戦車はゆっくりと動き出した。

 

 

 

 

 

「終わったぁぁぁぁぁ!!」

「もう終わりか・・・他愛もない」

「・・・・・足が震えてる」

「こ、これは・・・灼眼を連続使用した際に起きる症状だ気にするな!」

「でも、斬子ちゃん!連続で試合しても装填速度落ちないよね」

「それは魔力を筋力に変換しているから我に余裕が出来たまでよ」

「魔法やべぇ~・・・」

 

 

 

練習後談笑するFチームの場に飛鳥はおらず、変わりに飛鳥の周りに人集りが出来ていた。

 

 

 

「先輩!照準を合わせるのにはどうしたらいいんですか?」

「先読み」

「どうしてもカーブが曲がりにくいんですけど・・・」

「後で軽くお手本見せるよ」

「先輩!装填スピードを上げるにはどうしたらいいですか?」

「砲手と息を合わせること」

 

 

 

普段だと雰囲気もプラスして近付きにくいオーラの飛鳥なのだが、聖グロ戦以来頼られる存在となってしまいいつも引っ張りダコ状態である。

 

 

 

「次の対戦校が決まったぞ!!」

 

 

 

戦車倉庫内に響き渡るその声に全員の視線が声をあげた桃に向けられた。

 

 

 

「相手は・・・マジノ女学院だ!!」

 



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激闘!マジノ女学院です!!

「うっひょーい!!こんなに広い原野戦車で走り回れるのかよ!!いやっほぉぉぉ、最高だぜぇぇぇ!!」

「最近薫先輩のテンションおかしくないですか?」

「・・・・・バカだからだろう」

「テンションが低いアイツを逆に見たくはないな」

「あぁ、それもそうですね」

 

 

 

練習試合当日。

今回はマジノ女学園のホームグラウンドでの戦いとなる為にこちらにとってはアウェー・・・だが、そんなことを言っていると前回の聖グロもアウェーながら十分戦えているのだから気にしたら負けである。

 

 

 

「みほ・・・マジノ女学園と言えば、防御主体の学校だったな」

「うん、重戦車を中心とした陣地戦重視の戦法を得意とする学校です」

「だが、姉さんが言うには隊長が変わったみたいだ」

「そ、そうなの?」

「あぁ・・・噂をすればその隊長さん方が来てくれたみたいだ」

 

 

 

噂をすればラフティーS15に乗ったマジノ女学院の生徒が生徒会のメンバーと挨拶を交わしていた。飛鳥が姉から聞いていた昔の隊長像とは違い何処となく拍子抜けのような感じがした。

 

 

 

「あの・・・隊長の西住さんと副隊長の日野本さんはいらっしゃる?」

「えっと・・・隊長の西住です」

「同じく、副隊長の日野本です」

「・・・・・あっ、失礼。マジノ女学院隊長エクレールですわ」

 

 

 

こちらを見た瞬間エクレールと名乗った女性はポカンとした表情で固まっていたが、首を横に振ると軽くお辞儀した後に自己紹介をして来た。

 

 

 

「光栄ですわ!まさか、西住流の方と・・・」

「・・・んっ?」

「戦姫と相見えるなんて・・・・・」

「・・・・・ほぅ」

「今日は全力でやらせていただきますわ」

「こちらこそよろしくお願いします!」

 

 

 

隊長同士の握手が終わればマジノ女学院の陣営は撤収していった。それを見送る2人ではあったが、みほはいつもとは違った飛鳥の表情にゾクッと背筋に悪寒が走ると声を掛けずにはいられなかった。

 

 

 

「飛鳥さん・・・顔怖いよ」

「あぁ・・・すまん」

「さっきの呼び名になにか意味があるんですか?」

「中学の時の通り名」

「かっこいいじゃないですか・・・」

「嫌いじゃないけど、戦車道での通り名じゃないんだ」

「じゃ、じゃあ・・・・・」

「まぁ、気にすんな」

 

 

 

飛鳥はそれだけを口にするとくしゃくしゃとみほの頭を撫で回したかと思うとなにも言わずに自チームの元へと戻って行ってしまった。

 

 

 

「おかえり~♪どうよ、向こうの隊長さんは?」

「昔のアタシの通り名を知ってた」

「フンッ!覇王の昔の名か・・・実に興味深い!!」

「別に大層な名前じゃない」

「・・・イヤなのか?」

「昔のアタシを思い出すと恥ずかしくなる」

「ほぅ・・・厨二病と言うヤツじゃな」

「お前に言われるとなんか癪だな」

 

 

 

と言いつつ通信手の席に座ろうとする飛鳥に全員が首を傾げていた。

 

 

 

「飛鳥先輩・・・どうしてそこに?」

「んっ?今日は最初の方は4人の様子を見るから」

「練習試合だぜ!?私達だけじゃこの前みたいに・・・」

「だからこそこの試合でレベルアップしないと次のステップには進めないだろ」

「壁を・・・ぶち破れ・・・か」

「だぁ~!!やってやるぅぅぅ!!」

「あっ・・・あわわ・・・・・」

 

 

 

あたふたする4人を尻目に飛鳥は通信手の席で地図を開きながら再度この場で出来そうな知識を頭の中に叩き込む作業をしていた。

 

 

 

「沙織」

『あれ?なんでそのチャンネルに飛鳥がいるの?』

「今日はアタシが通信手」

『えええええ!?みほ!飛鳥がボイコットしてるよ!!』

「おい、聞こえの悪いこと言うな」

『むぅ~・・・負けたら飛鳥なんか奢ってよね』

「はいはい。・・・と言う訳で援護に徹するよ」

『わかりました!それではFチームには一番後方の守りをお願いします!!』

「了解」

 

 

 

今の話を聞いていたのか他の4人も頷くと試合開始の合図と共に最後尾に着いた。

 

 

戦車が動く最中も飛鳥は地図を睨んだままたまに赤ペンでなにやらチェックを入れている。4人には試すような素振りを見せていたが、試合が始まったのと同時に何かしらの策を考えるのであった。

ハッチを開けて顔を出すと目の前には横1列に並ぶ友軍とその先を双眼鏡で確認するとそこには防御陣地にて待ち構えるマジノ陣営が見えた。

 

 

 

「敵が見えて来た」

「みほちゃんの作戦はどうだっけ?」

「アミアミ作戦って言ってました!常に動きながら相手の弱点を突く!だそうです」

「・・・相手の装甲が厚いからそれがセオリー」

「我らはどうする?」

「西住先輩が言っていた通りに後衛に勤めます!皆さんよりは離れた位置で止まらず動いていて下さい」

「あいよ~」

 

 

 

飛鳥はチラッとなにかを確認するように操縦席を覗いた。

するといつもふざけたことを口にする薫も額に汗を垂らしながら集中しているのが見ただけで確認出来た。

そのまま後ろを見れば、玲那は照準器と睨めっこ、斬子は腕を組み飛鳥の視線にどや顔で返して来る余裕ぶりである。

ツバサは一生懸命に双眼鏡を首に掛けたまま周りを警戒している。

 

 

飛鳥は大きく深呼吸すると地図を広げたまま咽喉マイクに手を当てた。

 

 

 

「各チーム戦況をどうぞ」

『こちらAチーム!最前線にて敵を包囲しながら砲撃中だよ!』

『こちらBチーム!私達はAチームより少し離れた位置から砲撃をしています!』

『Cチームだ!我々は後方から敵車輌を攻撃中だ!!』

『Dチームでぇ~す♪私達もバンバン撃っちゃってま~す♪』

『こちらはEチームですわ。我が軍は包囲に成功、只今各個撃破に務めていますわ』

 

 

 

状況を判断しながら地図に赤ペンで色々と書き足していくと悩むように顎に手を当ててからまた咽喉マイクに手を当てた。

 

 

 

「敵の数はどう?」

『全部で5輌見えますわ!』

「んっ?6輌じゃないのか」

『ううん、こっちでも確認したけど5輌しか見当たらないよ!』

「薫!旋回!!」

「いきなりなに!?」

「Ⅲ突が狙われるかもしれん」

「本当ですか!」

「勘だけどね。玲那はいつでも撃てる準備で待機」

「・・・・・OK」

 

 

 

前衛をフォローするように陣取っていたFチームは旋回すると自分達よりも後方で狙撃をするⅢ突の援護に戻ろうとしていた。だが、その途中でツバサはあるモノに違和感を口にする。

 

 

 

「あの草むらになにか嫌な感じが・・・」

「玲那、前方の草むらに照準合わせて!戦車は一時停車」

「おう!」

「・・・照準良し」

「ツバサ」

「は、はい!撃てぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

一生懸命に叫ぶツバサの号令と共に玲那はトリガーを引いた。轟音と同時に出された砲弾はⅢ突の近くにある草むらへと飛んで行った。

砲弾は空を切らずになにかに当たって弾き飛んだ。そう、隠れていたR35に・・・。

 

 

 

「Cチーム!すぐに味方と合流しろ」

『すまない、戦略的撤退~~っ!!』

「みほ!アタシ達もⅢ突と一緒にそちらに合流する!」

『はい!』

「砲塔の回らないⅢ突を護りながら前線に合流する、わかったか?」

「向こうは・・・予想以上だな」

「えっ?なにが?」

「マジノは防御主体の戦術を得意としてきた学校。それがさっきのような行動をすることなんて今までになかった」

「う~ん・・・ってことは、やっぱりあの隊長が関係してるんじゃない?」

「新たなる救世主の誕生・・・闇に一点の光が降り注がれん」

「まぁ・・・油断出来ないヤツだって訳」

 

 

 

新隊長エクレールの着任により、今までとは違った動きがマジノに見えてきた。今までの防御主体ではなく別の戦術に変わろうとしているのかもしれない。そうなって来ると前線のメンバーは危険な状態かもしれないそう思った刹那。

 

 

 

『マジノの戦車が動いたっ!?』

「なっ、マジノが機動戦!?」

 

 

 

聞こえてきた情報に飛鳥は驚いていた。隊長が変わったぐらいで今までの伝統的な戦い方をこうまで正反対な戦い方に切り替えようとする隊長の肝っ玉にだ。隊長が変わったのにはなにかのトラブルだと言う情報しかなかったが、飛鳥はそこでなにかがあったに違いないと踏んだのだ。

 

 

ヘッドフォンに聞こえてくるのは他のチームの慌てた声ばかりだ。いきなりのことに場慣れしていないメンバーがパニックになっているのだろう。みほが必死に呼び掛けをしているようだが、事態は変わっていない。

 

 

 

 

「ちょっちヤバくないか?」

「形勢逆転・・・か」

「総崩れにならなければな」

「そ、そんな・・・・・」

 

 

 

状況のわからないFチームはⅢ突の背後を護るように後ろから迫り来るR35に砲撃をお見舞いすることしか出来ずにいた。

だが、そんな不穏なムードを突き破るようにある人物が大きな声をあげた。

 

 

 

『うろたえるなっ!!ここはマジノの庭だっ!!固まるな!!』

 

 

 

会長だった。いつも真面目な態度すら見せない彼女が声を荒げたのだ。さすがの飛鳥もいきなりの怒鳴り声にきょとんとした雰囲気になったが、落ち着きを取り戻し始めている他のメンバーの声が聞こえてくるのに対して体を震わせていた。

 

 

 

「やるじゃん・・・会長」

「そうみたいだな・・・薫、操縦変われ」

「あらら?どうしちゃったのよ」

「ちょっと燃えてきた」

 

 

 

飛鳥は笑っていた。純粋に楽しむような笑顔でオープンフィンガーの黒手袋を装着して薫と瞬時に操縦を変わった。このフォーメーションの場合、車長が薫、通信手がツバサに変わる。

そして、このフォーメーションは他のチームには内緒で練習していた作戦を意味している。

 

 

 

 

「準備はいいか?」

「いつでもどうぞ♪」

「練習の成果を見せる時です!」

「我が道の頂に・・・いざ、参らん!!」

「遠慮なく・・・やってくれ」

 

 

 

自動車部にはいつも無理を言って夜中に練習していた作戦を初めてみんなの前、初めての実戦で披露する。

だが、全員の表情からは不安よりもやる気に満ちていた。

 

 

 

 

 

「これより、作戦:神風を開始する!!」



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神風作戦です!

「ねぇ、みぽりん」

「どうしたの?沙織さん」

「いや、なんかツバサちゃんが神風作戦を決行するって」

 

 

 

そんな作戦は聞いた事がない。みほは神風と言う言葉になにか引っ掛かるがそれを察したように麻子が口を開いた。

 

 

 

 

「神風特別攻撃隊の事じゃないのか?」

「そ、それだったらFチームは捨て身覚悟で突撃するって事じゃないんですか!?」

「えええええ!?みぽりん、早く止めないと!!」

 

 

 

だが、時はもう既に遅かった。

 

 

 

『こちらFチーム!神風作戦開始しま~す♪』

「薫!なに勝手なこと言ってんのよ!さっきみぽりんが言ってた作戦を・・・」

『大丈夫、大丈夫!なんとかなるからさ』

「無理はしないで下さい」

『ありゃ、初めて西住さんと話せたかも・・・』

「あっ・・・その・・・」

『大丈夫だって♪こっちには最強の操縦手がいるからさぁ~』

『薫、お前黙ってないと戦車から追い出すぞ』

「おぉっ!!飛鳥殿が操縦しているのでありますか!?」

『本試合で必要になるかもしれないからな』

「それでは・・・バトンタッチ作戦と神風作戦を同時に行います!!」

 

 

 

みほは作戦を止める訳でもなく、信じているのかそのまま作戦の続行を進めた。味方と交差するタイミングにFチームも神経を集中させていた。

 

 

 

「派手に動き回るから舌噛まない様に」

「サラッと怖いこと言うねぇ~・・・」

「おまけに2輌撃墜する」

「うへぇ~・・・強気ですこと」

「そろそろ交差ポイントに入ります!!」

 

 

 

向こうから味方車輌とそれを追う敵車輌が迫って来ている。それを他のみんなは素通りして追って来た車輌を迎撃する作戦みたいだが、Fチームは敵車輌の正面に突っ込んでいった。対峙した敵車輌はさぞかし度肝を抜かれただろう。

 

 

体当たりだろうと思った直後にチャーフィーは砲撃を開始。そして、間髪入れずにもう1発の砲撃音が聞こえた。

チャーフィーがなにかしたのだろうか土煙がゆっくりとなくなるとそこには2輌のR35から白旗をあげさせたチャーフィーがゆっくりとその場から逃げる姿が見えた。

 

 

 

「みぽりん!Fチームが一気に2輌撃破成功だって」

「やりますわね!」

「流石、飛鳥殿です!!」

「なにが起きたかさっぱりわからなかったな」

「・・・はい」

 

 

だが、チャーフィーの中ではある事件が起きていた。

 

 

 

「斬子ちゃん大丈夫なの!?」

「うっ・・・だ、大丈夫・・・」

「ツバサ、車長を頼む!薫は操縦を頼む」

「任せとけって!」

「カリエンテ様はそこで休んどけ」

「だ、だが・・・・・」

「無茶させちゃったからな~ゆっくりと休んどいていいよ」

「玲那も休め」

「・・・・・私まで休むなんて」

「心配するな」

 

 

 

 

先程の作戦時に斬子が吹っ飛んでしまったのだ。ドリフトをするように急旋回をした時に無理をしてでも装填したからかもしれない。そして、照準器を覗き込んだままだった玲那も両脚で踏ん張れなくて軽くだが怪我をしてしまったのだ。

成功してもこうして怪我人を出してしまうならこの作戦の意味がない。そう思っていたが・・・・・。

 

 

 

「初めて・・・成功した」

「努力は無駄にならん!覇道は我らを見捨てぬ!!」

「次回は無傷でな」

 

 

 

怪我人である2人だが、あの一瞬だけでも三位一体になった事に玲那は嬉し涙を流し、斬子はギュッと拳を握り締めて喜びを噛み締めていた。そんな2人を目の当たりにした飛鳥はもっと練習が必要だということが実感できた。

 

 

だが、まだ試合が終わった訳ではない。

 

 

 

「味方が乱戦状態!数で押しています!」

「ちょっかいでも出すか」

「ここから撃つのか?味方に当てるなよ!」

「誰に向かって言ってる」

 

 

 

戦車はゆっくりと停車すれば、砲塔がゆっくりと乱戦状態のエリアに狙いを定める。目の前では目まぐるしく敵と味方が撃ち合いを繰り広げている。そんな中飛鳥は自分で装填すれば、躊躇せずにトリガーを引いた。

 

 

 

砲弾は吸い込まれるように敵の履帯に命中。その瞬間を見逃さないように近くにいたEチームが側面装甲をぶち抜くことに成功し、敵車輌からまた白旗をあげることに成功した。

 

 

 

「あの桃ちゃんが砲撃当てたぞ!?」

「やるじゃん、桃ちゃん♪」

「・・・嬉しそうだな」

「いや、別に」

 

 

 

表情に出ていたのか飛鳥は誤魔化すように照準器を覗き込んだ。あのせんしゃ倶楽部での一件以来出来る限り放課後には飛鳥が居る時だけマンツーマンでの秘密訓練は行われていた。桃はあんなに気が強いイメージだが、練習の時は泣くは弱音を吐くはでいつもの雰囲気とは別の人物であった。

だが、彼女は諦めず投げ出さずやって来た。その結果がちゃんと発揮出来たから今頃彼女は泣いてるかもしれないだろう。

 

 

 

一気にこちらが数では圧倒的に有利となり、全車輌で畳み掛けようとしたがマジノの急な煙幕展開によって大洗チームは深追いはせずにやり過ごした。

 

 

 

「みほ、どうする?」

『後を追います!ですが、周囲を警戒しつつ行きましょう!!』

「ここからは警戒を厳重に」

「はい!!」

「この森の中・・・なにか嫌な予感がする」

「同感だな」

 

 

 

視界の悪い森の中を大洗チームは前進している。斥候役として前にいるM3とチャーフィーは必死に敵影を発見しようと試みていた。

すると砲弾が地面に着弾する音が車内に聞き取れた。進行方向前方にソミュアが姿を見せていたがすぐに反転をすると逃げ出してしまった。

 

 

 

 

「梓!ソミュアを追撃するぞ」

『了解です!』

「・・・罠じゃないか?」

「可能性は高いな」

 

 

 

そう言った矢先。

 

 

 

「覇王!BとCが堕ちた!!」

「Ⅲ突が落とされたか」

「マジノが撃ってきたぞ!!」

『飛鳥さん!次の丘を登った所で二手に分かれます!!』

「それなら2・2に分かれるか?」

『いえ、3・1で行きます!飛鳥さんは2チームの力になって下さい!!』

「OK」

 

 

 

 

そう言ってⅣ号は右側へ進路を変更した。チャーフィーが左側に進路を変更するとM3と38Tも後ろに着いて来た。

すると敵も車輌を1・2に分けた。こちら側に来たのは、ソミュアS35とルノーB1bisだ。

 

 

 

『日野本ちゃん、ここからどうする?』

「考えてませんよ」

『なっ!?貴様正気か!?!?』

「でも、ここはマジノの庭。逃げ続けるのは避けたい」

『それなら良い作戦を思いつきました!!』

「聞かせてくれ」

 

 

 

梓が考えついた作戦に一同驚きを隠せずにいた。だが、そんな中で滅多に笑わない飛鳥が声を出して笑ったのだ。

それにも一同呆気に取られていたが、急に笑い声が消えると飛鳥がゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「本当に覚悟はあるんだな?」

『はい!』

「会長もそれでいいですか?」

『その作戦に賭けるしかないっしょ』

「じゃあ・・・行きますか」

 

 

 

チャーフィーが斜面を下るとそれを追うようにルノーB1bisが後を追ってやって来た。

仲間の2輌から離れるようにチャーフィーは遠ざかって行く。車内では玲那と斬子が元の配置に戻っている。

そして、キューポラから上体を出した飛鳥はソミュアS35から逃げるM3と38Tを見ていた。

 

 

 

「心配か~い?」

「全然」

「それにしても大胆な作戦だねぇ~♪」

「アタシ達だけでコイツを倒してください・・・だからな」

 

 

 

付いてくるルノーB1bisに振り返ると相手の砲撃が丁度飛んで来るタイミングだった。だが、飛鳥は動じることなく目の前の戦車を睨む。

 

 

 

「一瞬でカタをつける」

「・・・・・どうやって?」

「斜面を駆け上がれ」

「全速力!!」「ヴィント・シュトゥース!!」

 

 

 

ノリノリで薫と斬子が叫ぶと一気に加速をし始めたチャーフィーは斜面を駆け上がる。それに続いてルノーB1bisも斜面を駆け上がるがそれは罠だった。チャーフィーが頂上付近に差し掛かった瞬間に飛鳥はなにかを放り投げたのだ。それは一瞬にして煙幕を展開させルノーB1bisは煙の中の駆け上がる。

 

 

だが、ルノーB1bisは屈することなく頂上に到達。しかし、煙の晴れた先にはチャーフィーの姿は見当たらない・・・と次の瞬間ルノーB1bisに凄まじい衝撃が走ったのと同時に白旗があがった。

 

 

 

「上手くいったな」

「我らに敵なし!!」

「私ってば飛鳥より上手いんじゃな~い?」

「まぁ、頼りにさせてもらいますよ」

「いしし~♪」

 

 

 

頂上についた途端に煙幕展開と同時に急旋回で敵車輌の左側を狙えるように停車して待ち伏せをしたのだ。

一歩間違えれば、登って来た斜面に真っ逆さまのはずだが、煙の中でも精確に薫は止めた。

自分では理解していないだろうが、かなりの高技術である。

 

 

 

援護に向かおうと戦車を動かしたタイミングでマジノ女学院の全車行動不能のアナウンスが響き渡った。

そう、我々大洗女子学園の初勝利である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは全国大会抽選会会場。

抽選を引くのは隊長のみほがやるのが決まっている為に飛鳥はAチームのメンバーと一緒に居た。

 

 

 

「飛鳥!Fチームのみんなは?」

「休暇を与えた」

「あはは・・・なんだか言い方がおじさんみたいだよ」

「飛鳥殿!一回戦はどこになるんですかね!?」

「聖グロにリベンジしたいけどな」

「飛鳥・・・目がマジなんだけど・・・・・」

 

 

 

などと賑わっていると壇上にみほが出て来た。おどおどとした彼女はゆっくりと箱の中に手を突っ込むと1枚のプレートを出した。

 

 

 

「8番」

「対戦相手は・・・サンダース大付属高校ですわね」

「初戦から強豪か」

「強いの?」

「優勝候補の1つです」

「まぁ・・・やるしかねぇ・・・か?」

 

 

 

飛鳥は席を立ってこの会場を後にしようとしたが、ある人物が目の前に立ちはだかった。

 

 

 

「・・・・・アスカ?」

「げぇ・・・ティナ」

「Oh!マイハニー♪」

 

 

 

ティナと呼ばれた金髪で巨乳美女は急に飛鳥に飛び付くと熱いキスを交わした。それには一緒にいたAチームのメンバーも顔を真っ赤にしてただじっと見守る事しか出来ずにいた。やっと解放された飛鳥はふらつきながらも椅子の背もたれに手を付くとなんとか持ちこたえることに成功していた。

 

 

 

「あ、飛鳥殿・・・大丈夫でありますか?」

「はぁ・・・これくらい慣れてるから」

「えええ!?い、いっつもこ、ここんな激しいキスしてるの!?」

「どうしてお前が慌てるんだ」

「あれ?ティナって・・・もしかして・・・」

「Oh!ワタシのこと知ってるなんて通デスネー♪」

「も、もしかして・・・この人有名人とかなんかなの!?」

「たぶん・・・違うぞ」

 

 

 

沙織はずっとあたふたとしているが麻子と華はティナの顔をじっと見つめていた。

そんな熱い視線にくしゃくしゃと自分の頭を掻くと照れ臭そうに口を開いた。

 

 

 

「そうデース!ワタシは飛鳥のマスターなのデース♪」

「そうなんですか?飛鳥さん」

「ありえん」

「ホワァット!?」

 

 

 

きっぱりと断わられたティナは落ち込むように肩をガクンと落として見せるが、すぐに立ち直って立派な胸を強調するように腕を組むと不適な笑みを浮かべていた。

 

 

 

「そ、それは別に気にしないデース!」

「顔に出るタイプみたいですね」

「・・・かなり引きずってるな」

「コソコソとうるさいデース!一回戦では痛い目に見せてあげるデース!!」

「「一回戦?」」

 

 

 

首を傾げる全員に対してティナはどや顔で胸を張ると置いてあった上着を羽織ると左の襟元にはちゃんとサンダースの校章が付いてあった。

 

 

 

「お前が敵って訳か」

「そうですネ~♪飛鳥とは戦うことなんてなかったから楽しみデース!!」

「そうだな」

「手加減はなしデースよ~」

「加減なんて出来ないから安心しろ」

「それなら良かったデス♪試合の日が楽しみになりましたヨー!!バイバ~イ♪」

 

 

 

ティナは大きく両手を使って手を振ると会場を出て行く仲間を見つけて駆けて行った。

それを見守る5人は去って行くサンダースの背中を見ていた。

 

 

 

 

「それにしても戦車の保有台数全国1位の強豪校だ。初戦はどんな編成で来るか・・・」

「あら?大洗の皆さん」

「マジノ女学院のエクレールだっけか?」

「戦姫に覚えて頂いてるなんて光栄ですわ」

「あっ!?そうそう、飛鳥ってなんで戦姫って呼ばれてるの?」

「まぁ・・・同じチームに居るのにそんなこともご存知ないのですか?」

 

 

 

エクレールの言い方に少しムッと不機嫌そうな表情を見せる沙織に一回咳払いをするとエクレールは説明を始めた。

 

 

 

 

「参加した強襲戦車競技では負け無しの強さをお持ちだからこそ戦姫と呼ばれているのですわ」

「やっぱり飛鳥って凄いんだ」

「それでは先程のティナさんはどう言うお方なんですか?」

「まぁ、同じチームメイトだな」

「私は彼女から色々とお伺いしていました」

「だから会った時に戦姫ってワードが出た訳だ」

「それもありますが、私はただ単に貴女の一ファンとして貴女の事を知っておりましたから」

「それは光栄ですこと」

「・・・・・っで、次の試合はどうするんだ?」

 

 

 

目がハートになっているエクレールを気にせず麻子は低い声で問い掛ける。

それにはさすがの飛鳥も腕を組んで悩むしかなかった。

だが、そんな中ある人物の中では名案が思いついていたのであった。

 



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公式戦が始まります!!

いつも通りの戦車道の練習の時間。

全国大会の一回戦も近付く中で重要な時間であるのだが・・・。

 

 

 

「んっ?優花里が休み?」

「そうみたい・・・」

「メールは返って来ないし、電話掛けても圏外なんだよね~」

「似てるな・・・ツバサも同じ状態なんだよ」

「まぁ・・・ツバサちゃんもですか?」

「そうなんだよねぇ~ツバサちゃんの変わりに私が起こしてあげようとしたら顔面を蹴るんだぜぇ~」

「アレは絶対に薫が悪い」

「えっ!?」

「軽蔑します」

「華っ!?」

「ダメ人間だな」

「麻子ぉぉぉぉ!!」

 

 

 

崩れ落ちる薫はさておき無断で休んでしまっている2人には少し違和感を感じる。

特に真面目な性格の2人が連絡も寄越さないのが不思議だ。

 

 

 

「案ずるな!我が同胞達は我らの為に過酷なミッションを成し遂げて帰って来ようぞ!!」

「カリエンテさん、なにか知っているのですか?」

「あっ・・・その・・・・・実はツバサに口止めされてて・・・・・」

「その割にはサラッと口にしてるような・・・」

「そ、それは・・・・・」

「お前はアタシ達の不安を和らげたかっただけだろ。それなら、それ以上は言わなくていい」

「覇王・・・恩に着る」

「おい、貴様ら!とっとと練習に取り掛かれ!!」

 

 

 

 

カリエンテの言葉にある程度の予想は出来た。

それはチームのことを思っての行動であるだろう。

飛鳥は1人無事だけを祈り、戦車の練習に取り組んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、

 

 

 

「此処が秋山さんのお部屋ですか」

「・・・・・戦車がいっぱい」

「かなりマニアックなセンスだな、これは」

「こんなにも優花里のお友達が来て下さるなんて思ってもいなくて驚いたわ」

「いえ、こちらこそ突然の訪問申し訳ありません。コレはつまらない物ですが・・・」

「あら、ご丁寧にどうも♪じゃあゆっくりしていって下さいね」

 

 

 

あの後に沙織や薫に尋問を受けたカリエンテは泣きながらも受け答えをしていた。

最後まで仲間を売らない精神はさすがと言うべきか・・・口は軽いのに・・・。

このままじゃ埒が明かないと思ったメンバーは優花里の実家へと直行した。

突然の訪問にご両親は驚いていたものの歓迎されて今は優花里の部屋に7人が集まっている。

カリエンテは泣いたまま家に帰ってしまった。

 

 

 

「いつもの飛鳥じゃなくて寒気がした」

「次そんなこと口走ったら蹴飛ばすからな」

「ひぃぃぃぃ!?」

「にしても、玲那が来るなんて思わなかったな」

「前に・・・お部屋に戦車があるって・・・聞いたから」

「そっか!れなちんも戦車好きなんだ♪」

「れなちん?」

「なに?飛鳥もそんな風に呼んで欲しい?」

「いや、遠慮しとく」

 

 

 

優花里の部屋で賑わうメンバー達ではあったが、不意に窓が開いたのだ。

すると開いた窓からひょこっと優花里が顔を出したので一番近くにいた薫が腰を抜かしていた。

 

 

 

「ぬわっ!?なんでそんな所から入って来るんだよ!!」

「いやぁ~・・・ちょっとこんな格好だと親が心配すると思いまして・・・・・」

「あぁ・・・って、ツバサちゃんも一緒だったの!?」

「はい!私の方から志願させて頂きました!」

「志願・・・とはどう言う意味でしょうか?」

「対戦校に潜入して来たんだろ?」

「はい!!」

 

 

 

ボロボロな格好の2人。

大きな返事をしたツバサはあるモノを飛鳥に手渡した。

手渡されたのはUSBメモリースティックである。

それには他のメンバーを首を傾げていたが、飛鳥は部屋の主である優花里にそれを投げた。

 

 

 

 

「いいの?こんなことして・・・」

「試合前の偵察行為は承認されています」

「それでも一言は欲しかったな」

「す、すみません・・・」

「いいじゃないの~2人の成果見ようぜぇ~♪」

 

 

 

映し出されたのは優花里とツバサがサンダースに潜入している映像であった。

2人はコンビニの服装からサンダースの服装に着替えていた。

沙織はたまに疑問に思った事を口ずさんでいたが、優花里やツバサはちゃんと受け答えしていた。

その映像には相手校の車輌や編成、他にはフラッグ車の詳細などが映し出されていた。

 

 

 

「ファイヤフライ1輌、M4A1シャーマン 76mm砲搭載型1輌、75mm砲搭載型7輌・・・」

「あれ?9輌だけなの?」

「すみません・・・全体ブリーフィングでは最後の1輌は公表されませんでした」

「切り札でしょうか?」

「いや、グリズリー巡航戦車だ」

「僅か、188輌しか製造されなかったM4A1シャーマン戦車の改良車じゃないですか!?」

「飛鳥さん、どうしてわかるんですか?」

「ティナの愛車だよ。アイツが乗るのはアレしかない」

「流石、長年のお付き合いだからこそ解ることなんですわね」

 

 

 

すると飛鳥は懐から4枚の写真を出して来た。

そこにはティナと先程映像に映し出されていた3人の写真である。

 

 

 

「これはどうしたんだ?」

「ちょっとアタシの方でも調べていたんだ。エクレールにちょっとな」

「マジノの隊長といつ連絡先交換したんだよ」

「抽選会の時に交換した」

「・・・抜け目ないな」

「それでなにか解ったことはあるんですか?」

 

 

 

ウェーブの掛かった金髪の女性の写真を手にすると飛鳥は説明を始めた。

 

 

 

「あぁ・・・向こうのリーダーであるケイは陣頭指揮を好む傾向がある。つまり、フラッグ車は彼女ではない」

「つまり、最初に鉢合わせてしまう可能性があるのは・・・・・」

「彼女かもしれないな」

「最初に撃破したら相手の指揮下がるんじゃないか?」

「それは出来ないと思います。必ず護衛も付いていると思いますし、数は向こうの方が有利です」

「もう少し考えれないのか?薫」

「し、知ってたし!!」

 

 

 

次に飛鳥はボーイッシュなベリーショートの女性の写真を手にした。

 

 

 

「コイツがファイヤフライに乗る」

「えっ?どうしてそんなことが解るのよ~」

「砲手として有名なヤツなんだよコイツ。重戦車をも仕留めるファイヤフライに乗ったら鬼に金棒になる」

「そんな凄い方がいらっしゃるんですね」

「こっちにも・・・飛鳥がいる」

「そうですよ!飛鳥殿だって凄腕スナイパーですよ!!」

「あはは・・・・・あんがと」

 

 

 

そして、最後に残った一枚の写真を手にする。

 

 

 

「・・・・・っで、残ったこの子がフラッグ車の車長になる」

「ティナさんじゃないんですか?」

「アイツは暴れるのが好きなヤツだからケイの護衛に付くかもな」

「じゃあどうしてこの方がフラッグ車の車長になられるんです?」

「消去法だ」

「適当だな、おい」

 

 

 

と説明が終わると飛鳥は資料などを優花里は潜入して得たビデオデータをみほに手渡した。

 

 

 

「これを参考に頑張って下さい!!」

「少しは力になれたか?」

「少し所じゃないよ、フラッグ車も向こうの編成も解ったんだから頑張って戦術立ててみるよ!」

「そうと決まれば明日の朝練から張り切るぜぇ~♪」

「・・・・・朝練?」

「麻子、知らなかったの?明日から朝練始まるよ」

「・・・・・えっ」

「なんで飛鳥まで驚いてんのよ」

「あの件は・・・生徒会長が決めたことだから飛鳥さんには伝わってなかったのかも・・・」

「あぁ・・・なるほど」

 

 

 

朝練と言う響きに固まってしまった2人を見て他のメンバーは引きつった笑みを浮かべる事しか出来なかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある日。

戦車倉庫内では公式戦への出場を機に作り上げた衣装をみんなが着用していた。

そして、あんなカラフルだった戦車達も反省したのか当初のカラーリングに変わっていた。

だが、その変わりに全戦車にはチームエンブレムが付けられる形になった。

と言う訳でFチームもそのエンブレムについて討論が繰り広げられていた。

 

 

 

「ねこさんチームです!」

「いや、ワニさんチームだ!!」

「笑止!!此処は血に飢えし吸血鬼チームだ」

「はいはい、コウモリさんチームな」

「飛鳥は・・・どんな名前がいいの?」

「んっ?アタシか?」

 

 

 

リーダーでもある飛鳥に話題が振られると玲那以外のメンバーは固唾を呑んで答えを待った。

熱い視線に面倒臭そうに頭をくしゃくしゃとすれば、バッと立ち上がってある人物を指差した。

 

 

 

「ねこ」

「やったぁぁぁぁ~♪」

 

 

 

指されたツバサは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねるも落選した2人は沈み込んだように俯いていた。

 

 

 

「・・・ってか、カリエンテ、その真っ赤なマントはなんだ?」

「これは業火の炎から創製された一品だ!この煉獄の魔女に相応しい・・・」

「戦車外だけ装着を許す。だが、戦車内で付けてたら・・・・・」

「・・・・・は、はい」

 

 

 

大きな赤いマントを嬉しそうに見せびらかす斬子ではあったが、飛鳥の釘を刺すような一言にはビクッと身震いをして素直に返事を返した。

するといつの間にかカバさんチーム(元Cチーム)が斬子のマント姿を見にやって来ていた。

 

 

 

「見事な赤マントぜよ!」

「私と同じ波長を感じる!」

「武田の赤備えを感じさせる!」

「ナポレオンの生まれ変わり!」

「「「それだ!!!」」」

「ふふふっ・・・我に着いて来るがいい!!」

 

 

 

ノリノリの5人を横目に飛鳥とツバサはねこさんチームのエンブレムを描いていた。

そんな彼女達の元に沙織と優花里がやって来た。

 

 

 

「飛鳥、絵上手過ぎ!?」

「バイトの時にテロップとか作る時絵は手書きでするからな」

「可愛いじゃないですか~♪」

「飛鳥先輩!右目に眼帯付けてもらっていいですか?」

「あいよ」

「カリエンテ殿みたいですね」

「あっ、ホントだ!!」

「よしっ!これで完成」

 

 

 

と言う訳でFチーム改めねこさんチームに改名することになった。

チームエンブレムには黒猫に眼帯と言うちょっとアクティブなモノに仕上がった。

一番嬉しがっていたのは、ツバサではなく何故か斬子であったと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公式試合当日。

両校は試合前の最終チェックに取り掛かっていた。

初めての公式試合と言う事もあり、大洗の全員が念入りに作業を進めている。

 

 

 

「こ、公式戦き、きき、緊張します」

「最初から強豪だからおっかないけどねぇ~♪」

「それに公式戦では殲滅ではなくフラッグ戦だ」

「フフフッ・・・敵御大将の首を持ち帰るのが最善の功績じゃ!!」

「・・・・・1回戦、2回戦は10輌・・・準決勝では15輌・・・決勝は20輌」

「まぁ・・・完全にあたし達は不利の状況下での戦いしかないって訳」

「おや?飛鳥様はもう諦めてらっしゃるのですかい?」

「お前に言われるほど落ちぶれてねぇよ!」

「あいたっ!?!?」

 

 

 

薫の頭を小突いた飛鳥がキューポラから顔だけを出すとそこにはサンダースの制服を着た2人が立っていた。

なにか話し合っている様だが、何食わぬ顔をして戦車から飛び降りると丁度目の前にはアヒルさんチームの河西 忍(かわにし しのぶ)と佐々木 あけび(ささき あけび)が居た。

 

 

 

「あっ、飛鳥さんココに居たんですね!!」

「んっ?八九式の最終チェックは済んだのか」

「そっちは主将と妙ちゃんに任せています」

「えっと・・・先程サンダースの方々が来て交流会とか言ってあんこうさんチームとカメさんチームの皆さんが行かれました」

「OK!報告ご苦労・・・それで?なんでお前が付いて来てんだよ」

「Oh・・・気付かれちゃいましたネー♪」

「あのこの方が飛鳥さんに会いたいって・・・・・」

「2人共、ありがと!持ち場に戻っても良いよ」

 

 

 

高身長の2人の間からひょっこりと舌を出して顔を見せたティナに飛鳥は右手で顔を覆い溜め息をついた。

2人を持ち場に帰らせると邪魔者がいなくなったとばかりに飛び付こうとそれを戦車から飛び降りてきた薫が止めた。

 

 

 

「テメェ・・・敵校のくせに私の飛鳥に手を出そうとは良い度胸じゃねぇか!!」

「Why?飛鳥はワタシのモノデース!!」

「飛鳥にはパンツ見られたから責任取って貰わなきゃいけないの!!」

「ワタシは胸を鷲掴みされました!!」

「なに!?羨ましいぃぃぃぃ!!!!」

「勝手に2人でアホみたいなことほざいてんじゃねぇよ!!」

 

 

 

ドンドンエスカレートしていく言い合いに堪忍袋の緒が切れたのか鋭い拳骨が2人の頭を捉えた。

ティナがゆっくりと見上げるとチャーフィーのキューポラに仁王立ちする子と目が合った。

そのまま視線を下に落とすとキューポラに腰を掛ける子と顔だけを出す子も確認した。

 

 

 

「Fuu~♪なんとも個性的なチームデースネ!!」

「お前もよっぽどだろうが・・・・・」

「それでも・・・ケイが率いるワタシ達が勝ちますけどネ~♪」

「汝、掲げし星条旗を我らの業火の炎にて焼きつくさん!!」

「い、意味はサッパリですが、受けて立ちマース!!」

「へんっ!!私がお前をヒィヒィ言わせてやる!!」

「ワタシだってアナタをヒィヒィ言わせてあげマース!!」

 

 

 

ビシッと人差し指を薫に向けて指し示すとにやっとした笑みを見せた後に駆け足でこの場から逃げ出したのであった。

 

 

 

「飛鳥先輩!あの方は誰なんですか?」

「昔のチームメイト」

「なに!?じゃあ本当に愛じ・・・いだっ!?」

「んな訳ないでしょ」

「あの・・・中学の時のですか?」

「そうなんだけど・・・チームメイトはチームメイトでもアイツは強襲戦車競技してた時のメンバーだよ」

「・・・・・強襲戦車競技!!」

「うわっ!?玲那のそんな大きな声初めて聞いたかも・・・・・」

 

 

 

ハッとしたようにみんなの顔色を窺うと見る見るうちに玲那の顔は真っ赤になってしまっていた。

そんな玲那の表情を見て飛鳥以外は笑っていたが、帰って来たみほの姿を目にした飛鳥は真剣な表情に変わっていた。

 



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1回戦・サンダース戦です!

公式戦第1回戦が始まった。

最初は指示通りに森の中を進むことになった。

右側をウサギさん、左側をアヒルさん、中央をネコさんチームが偵察をしながら慎重に戦車は前進。

後方ではフラッグ車のカメさんを護るようにあんこうとカバさんが陣取っている。

 

 

ネコさんチームは停車すると飛鳥が首に掛けてある双眼鏡で周りの索敵を開始した。

戦場の中だと言うのに静かな森の中には小鳥のさえずりが響くように何故か静けさが嫌な違和感を放っていた。

 

 

 

「敵はもう潜んでるんでしょうか?」

 

「それは考えられるが・・・妙だな」

 

「なにが?」

 

「・・・・・静か過ぎる」

 

 

 

この異変に気付いた飛鳥はすぐに咽喉マイクに手を当てると左右に展開しているチームに通信を繋いだ。

 

 

 

「こちらネコさんチーム!状況を頼む」

 

『こちらアヒルさんチーム!敵影ありません!!』

 

『こちらウサギさんチーム!シャーマン3輌を発見しました!!これから誘き出して・・・ハッ!?』

 

「見つかったのか!?」

 

『いえ、シャーマン6輌に包囲されちゃいました!!』

 

 

 

先制されたことに舌打ちする飛鳥だが、すぐに薫の背中を蹴り飛ばすと悲鳴に似た声と同時に戦車は動き始めた。

 

 

 

「みほ!!」

 

『はい!ネコさんチームはウサギさんチームの援軍に向かって下さい!私達もすぐに向かいます!!』

 

「ウサギさんチーム・・・無事でしょうか」

 

「アイツらだってもう逃げ出さないさ、それに諦めたらそこでおしまいだ・・・って、見えた!!」

 

 

全速力で右側へと走りこんでいると目の前に敵戦車に追われるウサギさんチームを捉えた。

すると声に反応するかのようにゆっくりと砲塔も動き出して敵戦車の集団に狙いが定まっていた。

飛鳥が戦車の中を見れば、もう玲那はトリガーに指を掛けて照準器を覗き込んでいた。そう、車長の号令を待っているのだ。

 

 

 

「放てぇぇぇ!!」

 

 

 

号令と共に放たれた砲弾は見事に敵戦車に命中はするが、致命傷にはならずかすり傷程度となった。

だが、目的である注意を逸らさせることには成功したのか3輌はこちらに向かって砲塔を動かし始めたのであった。

ウサギさんチームとは違う方向に逃げようとしていたが、不意に感じ取った感覚に薫の背中を爪先で蹴った。

ブーツの爪先だった為に悲鳴と共に戦車は急停止をしたが、それは功を奏したのか目の前を砲弾が通り過ぎたのだ。

先程の6輌とは違う別の方角から3輌が迫って来るのが見えた。しかも、その先陣にはティナが乗っているであろうグリズリーを確認した。

 

 

 

 

 

「Yes!アリサの指示通りに敵を包囲出来たデース!!」

 

『今日のアリサ冴えてるわね!なんでわかっちゃうのかしら』

 

『女の勘ですよ』

 

「oh!さすがデース!頼りになりマース♪」

 

『ティナ・・・アレが噂の戦姫のリーダーか?』

 

「そうですヨッ!ナオミ!!」

 

『・・・・・楽しめそうね』

 

 

 

ナオミの砲撃を感覚だけで避けたと言うことにナオミは通信を切った後に口端を上げて自分が高揚しているのを感じていた。

ガムをくちゃくちゃと少し噛んでいたと思えばまたゆっくりと照準器を睨みこんでいた。

ティナがキューポラから出た時にはチャーフィーはすぐに転進して仲間と合流しようとする後姿だった。

グリズリーは後を追うように速度上げるとティナは持ち場に戻った。砲弾を片手に・・・・・。

 

 

 

 

 

「9輌もこの森に投入なんて大胆な作戦だな」

 

「向こうの方が数は多いですからこう言う作戦で来るのも珍しくないんじゃないですか?」

 

「おいィ!?さっきから私飛鳥に蹴られまくって背中に痣とか出来るレベルだぞ!!」

 

「スマン、反射的に」

 

「反射的に・・・っで、納得出来るかぁ~!!今日勝ったらお前の奢りでスイーツ食べ放題に行くからな!!」

 

「それくらい奢ってやるよ」

 

「絶対だかんな!!」

 

 

 

涙目の薫ではあったが、契約が成立したのに対してパァーッと笑顔を取り戻すと飛鳥に人差し指を立ててからまた操縦に専念し始めた。まるで子供を相手しているようだ。

 

 

 

「飛鳥さん!あんこうさんチームが合流して南東に進むようにらしいです」

 

「アタシ達が先行すると伝えてくれ」

 

「はい!!」

 

 

 

4輌が合流をしたと同時に道を切り開くようにチャーフィーは速度を上げて先頭を突っ走っていた。

だが、飛鳥は目の前に現れた2輌の敵戦車に驚いていた。

自分達の行動を読んでいるかのような待ち伏せに飛鳥は眉を潜めながらも咽喉マイクに手を当てた。

 

 

 

「敵戦車が2輌回り込んで来てるぞ」

 

『撃っちゃった方がいいですか?』

 

『いえ、このまま全力で進んで下さい!敵戦車と混ざってください!!』

 

『了解!リベロ並のフットワークで行きます!!』

 

「こちらはちょっかいを掛けるから遠慮なく突っ込め」

 

『あいあいー!!』

 

「玲那!撃破しちゃってもいいから・・・発射!!」

 

「・・・・・了解」

 

 

 

速度が上がって照準が定まりにくい最中でも玲那は目の前の敵戦車に砲撃をお見舞いする。

するとこちらの砲撃に反応するかのように向こうも迎撃するように砲弾を浴びせて来た。

徐々に近付く戦車だったが、ギリギリの所で玲那の撃った砲弾が1輌の履帯を捉えることに成功した。

その隙を見逃さずに4輌は敵戦車の間をすり抜けてピンチを脱することに成功したのであった。

 

 

 

「フフッ・・・我が灼眼を超える程の力を持つ者が相手に居ると見た」

 

「確かになんか先を見透かされてるって感じだよねぇ~」

 

「まさか・・・・・」

 

 

 

ついさっきのサンダースの動きに違和感を感じた飛鳥は空を見上げた。

空は綺麗な青空・・・だが、その場所には不釣合いなモノも浮かび上がっているのが見えた。

空を見上げていると不意にズボンを引っ張られるのに対して戦車内を覗くと何故か全員が携帯を取り出して口パクをしていた。

そんな光景に首を傾げる飛鳥だったが、自分の携帯に目をやると不適な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『目標はジャンクションに伏せてるわ・・・囮を北上させて本隊はその左右から包囲!!』

 

『なんでそんなことまでわかっちゃう訳~?』

 

『女の勘です』

 

「Oh!アリサスゴいデース!!敵の動きがわかるなんてビックリデースよ!!」

 

 

 

盛り上がるサンダース側ではあったが、ただ1人ナオミだけは先程の攻防を振り返っていた。

そう・・・去り際に見せたチャーフィーの砲撃にである。

普通ならあんな場面で砲撃を撃つのも困難な状況であるにも関わらずチャーフィーの砲手は車輌に直撃させたのだ。

 

 

 

『ティナのおかげで楽しめそうだ』

 

「Wonderful!もっともっとEnjoyしていくデース!!」

 

『OK,OK!!そしてこのまま勝利を掴むわよ!!』

 

「「「Yes,ma'am!!」」」

 

 

 

サンダースの車輌は意気揚々とジャンクションに入り込んで行った。

すると目の前で土煙が見えたのに最前線に居たティナが喜ぶように口笛を鳴らした。

 

 

 

『チャーリー、ドッグはC1024Rに急行!見つけ次第攻撃!!ティナはフォローに入ってあげて』

 

「アイアイサ~♪」

 

 

2輌の後ろを少し離れた位置にてグリズリーはフォローに回っていた。

だが、2輌が目的地の場所に着いた時には敵車輌すら見えずにいたのである。

それにはティナも首を傾げていたが、グリズリーが2輌をフォロー出来る位置に到着した瞬間だった。

悲鳴にも似た声が響いたかと思うと砲撃の嵐が2輌を包み込んだのだ。

突然のことにティナも唖然としていたが、ハッとしたように砲手に援護射撃を命じた。

 

 

 

「アリサ!ドッグチームがやられたデース!!」

 

『えええっ!?』

 

『なにっ!?』

 

『Why!?』

 

「さすが飛鳥の居るチームデース・・・」

 

 

 

まさかの出来事に驚きを隠せないサンダース陣営。

だが、その裏で大洗陣営はある作戦を決行していたのである。

 

 

 

「まさか本当にみほの読み通りとはな」

 

「相手の策を逆手に取って倍返し・・・!ってね」

 

「灼眼の力も備わっておるからこれぐらい造作もない」

 

 

 

さっきの戦闘後に沙織から通信ではなく、全員に対して一斉にメールを送ってきたのだ。

その内容は通信傍受機が打ち上げられていると言う内容であった。

あの時に見えた不釣合いのモノがそうだと思える。

抗議をした方がいいと言う声も出たが、みほはこれを逆手に嘘の情報を通信で流して本当の情報をメールでやり取りする事を決行したのだ。

 

 

 

「・・・6対9」

 

「まだ劣勢だけど、向こうはまだ気付いてないはずです!!」

 

「それじゃあ・・・やりますかアレを」

 

「あっ・・・はい!!」

 

「サンダースに私達の力見せちゃいますか」

 

「・・・・・今回は成功させる」

 

「邪悪なる雲に一筋の光を射し照らさん!!」

 

 

 

飛鳥の一言で全員のやる気が漲って来るのが目に見えてわかった。

飛鳥がオープンフィンガーの黒手袋を装着するとそれと同じお揃いのモノを他の4人も嬉しそうに装着した。

そして、全員が配置に付くと大きな深呼吸の後に飛鳥が大声で号令を出した。

 

 

 

 

 

「神風作戦開始!!」

 

 

 

 



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死闘、シャーマン軍団です!

単独で森の中をチャーフィーは駆け走る。

車内は無言に包まれていた。

向かっているのはみほが嘘で流した集合場所である128高地。

そこで少しでも数を減らすのが今回の作戦内容である。

 

 

目的地付近に到着。

すぐさま薫がキューポラから上体を出して索敵を開始した。

飛鳥は持って来ていたキャラメルを頬張ると大きく伸びをしてみせる。

玲那とカリエンテはお互いに励まし合い。

ツバサはぷるぷると子犬のように震えていた。

 

 

 

「来たよ~・・・シャーマン軍団が!!」

 

「数は?」

 

「8輌!」

 

「やっぱり無線傍受しているのはフラッグ車かぁ~・・・」

 

 

 

このことをツバサはすぐさまメールで拡散すると薫が車内に戻って来た。

 

 

 

「まだこっちが気付いていることには気付いてないみたいじゃん」

 

「あぁ・・・そいつの慢心のおかげでこちらにもまだチャンスはあるって訳だ」

 

「愚行は己が刃さえも脆くさせるのう」

 

「すぐに仕掛ける?」

 

「いや、正面からやり合ったら確実にこちらが不利」

 

「・・・・・奇襲、か」

 

「んっ?ちょっと待ってください」

 

 

作戦会議をしている時にツバサにあるメールが届いた。

ツバサは内容を把握するとカッと目を見開き、顔を上げるとすぐに内容を報告する。

 

 

 

「アヒルさんチームが敵フラッグ車を0765地点にて発見されたそうです!!」

 

「・・・・・お見事」

 

「私達も合流しますか?」

 

「しない」

 

「おいおい、じゃあどうするの?」

 

「そりゃあ、敵フラッグ車の方に援軍が行かないように足止めしかないだろ?」

 

 

 

飛鳥のいやらしい笑いに4人も釣られて口端を上げて笑って見せた。

各自が持ち場に着くと同時に飛鳥は咽喉マイクに手を当てた。

 

 

 

「みほ、そっちはなんとか出来そうか?」

 

『飛鳥さん!そちらは大丈夫なんですか!?』

 

「大丈夫、大丈夫!今からそっちに援軍が回らないようにしといてやるからさ」

 

『・・・っ!?飛鳥さん!そんな単独で相手出来る数じゃ・・・!?』

 

「任せとけ~」

 

『あ、飛鳥さ・・・!?』

 

 

 

みほが言い終わるよりも先に通信を切った。

飛鳥は静かにエンジンを起動させると車内の空気がピリッとするのが感じ取れた。

だが、双眼鏡で先程の敵車輌を確認していた薫が大声をあげた。

 

 

 

「飛鳥!敵が3輌だけ残してフラッグ車の援軍に向かうみたいだぞ」

 

「5輌か・・・こっちの車輌数と同じか」

 

「罠ですかね」

 

「慢心ガールとは違って敵の隊長さんはフェアに戦いたいんじゃないの?」

 

「それならアタシ達も3輌への奇襲は止めて後を追うぞ!!」

 

 

 

残った敵車輌にバレないように横を通り過ぎると援軍に向かった後を追うように駆け出した。

すると同時にツバサに通信が入った。

 

 

 

「沙織さんから連絡がありました!現在、敵フラッグ車を全車輌で追跡中!!」

 

「このまま行くとサンドイッチになっちゃうんじゃない?いや、ハンバーガーか?いや、サイズ的には小さいしな・・・」

 

「フッ・・・ビッグマックだな!!」

 

「それだ!!」

 

「アホ言ってると2人共戦車から放り出すぞ」

 

 

 

 

 

気付かれないように森の中を走っている最中にも大洗チームは敵フラッグ車との鬼ごっこが起きているようだ。

だが、そんな鬼ごっこを終わらせてしまうような脅威の轟音が突如として戦場に響き渡った。

 

 

 

「今のはデッカイ音なんなんだよ!!」

 

「・・・・・ファイアフライの17ポンド砲」

 

「もう追いつきやがったか・・・」

 

 

 

こちらが迂回している分先にシャーマン軍団が大洗を捉えてしまったのだろう。

 

 

 

「ツバサ!現状は?」

 

「前と後ろから砲撃で挟まれてしまってるそうです!!」

 

「そうか・・・敵の正確な位置を聞けるか?」

 

「やってみます!!」

 

「アタシ達も加勢しないとな」

 

 

 

その間にもファイヤフライの砲撃音がこの車内にも響き渡り、焦りと緊張が包み込んでいた。

ただ、飛鳥だけは口の中でころころと悠長にキャラメルを転がしていた。

表情には余裕な笑みを残して・・・。

 

 

 

 

 

「どうする、みぽりん!」

 

「ウサギさん、アヒルさんは後方をお願いします!カバさんと我々あんこうさんチームは引き続きフラッグ車を狙います!!」

 

『こちらネコさんチーム、絶体絶命・・・って感じ?』

 

「あっ!?飛鳥!!生きてたの!?」

 

『勝手に殺すなよ』

 

「不利な状況です。ですが、これが唯一のチャンスなんです!諦めたらここで終わってしまうんです!だから、飛鳥さん・・・いや、皆さんの力が必要なんです!!」

 

「西住殿・・・」

 

『あっはっはっ!いやぁ~みほの決意を聞いたからアタシから褒美をあげよっかなぁ~』

 

「そ、それって・・・・・」

 

『起死回生の一手』

 

 

 

言い終わったと同時に砲弾が放たれるのが通信越しに聞こえるのが伝わった。

ハッとしたように背後から迫って来るシャーマン軍団に目をやると見事に1輌が白旗を上げているのが確認出来た。

それと同時に森の中から飛び出すようにチャーフィーが姿を見せるとシャーマン軍団に背後にピッタリとくっ付いたのだ。

 

 

 

「Shit!チャーフィーがいないと思ったら隠れていたデスかー!?でも、さすが飛鳥デース♪もっと好きになっちゃいそうデース」

 

『敵は1輌よ、コンビネーションでなんとか出来るかしら?』

 

「OK!後ろは私達に任せてくだサーイ!!」

 

 

 

不意を突かれた一撃に悔しがるティナではあったが、想い人の活躍に目がハートになりかかっていたがケイの声にハッと我に返るとこちらに近寄って来るチャーフィーの相手をするべくケイとナオミに敵のフラッグ車の追撃に向かってもらい残った3輌でチャーフィー迎撃の為に転進した。

 

 

 

「飛鳥さん!いくらなんでも1輌で3輌を相手にするなんて・・・・・」

 

『アタシ達のことは気にすんな!お前はフラッグ車を叩く事に集中しろ!!』

 

「で、でも・・・・・」

 

『アタシ達が負ける前に決着させればいいだけ・・・そうだろ?』

 

「その通りです!飛鳥殿の頑張りの為にもこの試合勝ちましょう!」

 

「・・・・・飛鳥なら心配ないと思うぞ」

 

『へへっ・・・麻子にそう言われたらやるしかないな』

 

「飛鳥さん、ご武運をお祈りします」

 

『華、任せたよ』

 

 

 

それと同時に砲撃音が響いたかと思うとそこから飛鳥の声が聞こえなくなってしまった。

 

 

 

「ネコさんチーム大丈夫・・・だよね」

 

「西住殿・・・」

 

「私達は飛鳥さんの為にもこの試合・・・勝たなくちゃならないんです!!」

 

「はい!」

 

「・・・・・おぅ」

 

 

 

希望の5輌は必死に敵フラッグ車に喰らい付く。

だが、敵の隊長機とファイヤフライがその5輌を阻止しようと付け狙うのであった。

 

 

 

「3輌接近!!」

 

「玲那!捉えたら撃つんだ。自分の感覚を信じて自分のタイミングで敵を射抜け」

 

「・・・・・わかった」

 

「カリエンテ!装填速度がこの局面で一番の要だ、サボるなよ」

 

「血肉が滾り踊っている!我が灼炎の息吹(ブレイジングアンゲスト)をとくと御覧いれよう!!」

 

「ツバサ!2人が吹っ飛ばないようにサポートよろしく!!」

 

「はい!2人は責任を持って御守りします!!」

 

「薫!・・・・・あぁ、なんもなかったわ」

 

「おい!私にだってなんか・・・」

 

「行くぞ!」

 

「「「パンツァー・フォー!!!!」」」

 

 

 

3輌が同時に砲撃をお見舞いするも悠々と横を擦り抜けられるとチャーフィーはくるっと転進させると同時に3輌の背後に回りこむ形に持ち込んだ。

それに対して3輌もすぐには反応して転進しようとするが、判断の遅れた1輌の横っ腹に砲弾が見事命中。

だが、チャーフィーは止まる事はせずに不利な状況下でも仲間の援護をしようと味方を追う2輌へと走り出した。

 

 

 

「くぅぅぅぅっ!!私を相手すらしないなんて飛鳥でも許さないデース!!」

 

 

 

自分達など眼中にないような行動に熱くなったティナは残った1輌と一緒にチャーフィーを追う。

そんな光景と目の前で味方に砲撃している2輌を交互に見た後に咽喉マイクに手を当てる。

 

 

 

「このまま突っ込むんだよな」

 

「そのつもりだが?」

 

「正気かよ」

 

「飛鳥さん!アヒルさんチームとウサギさんチームがファイアフライに撃墜された模様です!!」

 

「こりゃあ・・・尚更注意を引かなきゃな・・・」

 

「・・・・・覚悟は出来てる」

 

「もう!どうにでもなれぇぇぇ!!」

 

 

 

薫の叫び声が木霊する中で玲那はある戦車に目掛けて砲撃を仕掛けた。

後ろから迫るグリズリーやシャーマンじゃなく、隊長機を狙うでもなく、・・・・・ファイアフライに。

 

 

 

「・・・・・チッ」

 

『ナオミ!ココは私が引き受けるわ・・・Ⅳ号が上からフラッグ車を狙うつもりよ』

 

「・・・Yes,ma'am」

 

 

 

ファイアフライを釣ることは出来ず、逆に隊長機がファイアフライへの進路を塞いで来てしまった。

 

 

 

「ははっ、隊長機が釣れた」

 

「笑ってる場合じゃないから!」

 

「ファイアフライがあんこうチームを狙っています!」

 

「おいおい、後続も追いつきそうだぞ!?」

 

「なら、こうすればいい」

 

「ほわっ!?」

 

 

 

いきなりなんの合図もなく急停車をすれば、後続の2輌が両脇を擦り抜けたのだ。

薫の情けない声が車内には聞こえるがそれと同時に放たれた砲弾はシャーマンの後方エンジン部分を貫いていた。

喜ぶのも束の間、こちらにゆっくりと向けられる隊長機の砲塔に飛鳥は反射的に反対方向へと発進させた。

砲撃を見事に回避するが横にピッタリとグリズリーが喰らいついて来る。

 

 

 

「グリズリーがかちこんで来やがった!!」

 

「めんどくせぇ・・・なっ!」

 

 

 

こちらからもガツンッとぶつけて行くとグリズリーも何度もこちらに体当たりをかましてくる。

だが、薫はもう一方の隊長機に目が行く。

 

 

 

「隊長機の砲撃が来る!!」

 

「わかってる!」

 

 

 

グリズリーが離れようとするその一瞬に感覚を研ぎ澄ますと予測していた通り離れたと同時に隊長機の砲撃がこちらに飛んで来た。

不意を突く一撃なら直撃を免れない。だが、飛鳥もグリズリーとは反対方向に移動しており、砲弾はなにもいない地面に着弾。

転進して迎えようとしたその瞬間だった。

遠くから聞こえた轟音に飛鳥はハッとした。

 

 

 

「あんこうチームがやられたか!?」

 

「あ、あんこうチーム・・・行動不能!」

 

 

 

その朗報に唇を噛み締める。

だが・・・・・。

 

 

 

「敵、フラッグ車も行動不能です!!」

 

 

 

《大洗女子学園の勝利!!》

 

 

 

「うおっしゃぁぁぁ!!!!」

 

 

 

全体に響き渡るアナウンスに薫はキューポラから飛び出すと大きな声で勝鬨をあげていた。

車内ではツバサ、玲那、カリエンテと肩を組み合い涙を流すほど喜び合っていた。

そんな雰囲気の中で飛鳥は咽喉マイクに手を当てる。

 

 

 

「勝てたな・・・」

 

『飛鳥さん!あ、あの・・・』

 

「やられてないよ。逆に2輌大破させてやったっての」

 

『ありがとうございます!飛鳥さんのおかげで勝てました』

 

「いんや、アタシはなにもしてないよ、今回はみほ隊長のおかげですよ」

 

『んふふ、ありがとうございます』

 

「ははっ、こちらこそ」

 

 

 

2人は嬉しそうにそう口にするとお互いに通信を切って勝利に盛り上がる仲間の所へ駆け出して行ったのであった。



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一回戦、無事突破です!

「・・・貴女が噂の戦姫さんかしら?」

 

「いや、アタシは日野本飛鳥。戦姫ってのはもう昔の名だよ。それで、隊長自らアタシの所に来るなんてどうかしたんですか?」

 

 

 

不意にある人物に呼び止められた。

タンカースジャケットのポケットに両手を突っ込み、ホットパンツ姿の彼女、ケイは嬉しそうに前屈みになって飛鳥の顔をじっと見つめる。

動じずに頬を掻いていた飛鳥ではあったが、急に抱きつかれると周りの全員が驚いていた。

 

 

 

「Exciting!最後の攻防戦は久し振りにドキドキしたわ~!!」

 

「そりゃあ、どうも。姑息な手を使おうとも思ったんだけどね」

 

「あら?それじゃあ何故その手を使わなかったの?」

 

「そりゃあ、アンタにも同じ事が言えると思うんだが・・・」

 

「That's戦車道♪これは戦争じゃない、道を外れたら戦車が泣くでしょう?」

 

「ははっ・・・戦車を限界ギリギリまで使ってるアタシ達の戦車は違う意味で泣いてるだろうけどな」

 

「それは・・・感謝の涙ってことじゃないかしら」

 

「それならありがたいよ」

 

 

 

すぐに打ち解けた2人は今日の試合の反省点の話にまで発展していた。

ケイは無線傍受の件には申し訳なさそうにしていたのだが、飛鳥は新しい戦法だとにやっと笑いながら褒めていた。

そんな彼女達を見守る大洗のメンバーではあったが、ぞろぞろと来客が現れた。

 

 

 

「・・・チャーフィーの砲手はいるか?」

 

「・・・・・」

 

 

 

ナオミはいきなり低めの声で用件を口にした。

みんなの視線が車椅子に乗る玲那に向けられると彼女は堂々と手を挙げていた。

そんな彼女に眉ひとつ動かさずに無表情のままナオミは前に立った。

見下ろすナオミ。見上げる玲那。2人の視線が少しの間火花のようなモノが飛び散っているんじゃないかと思った矢先にお互いが手を差し出すと固い握手を交わしたのだ。

ナオミはフッと笑うと玲那は物凄く嬉しそうだった。

そう・・・言葉を交わさずとも彼女達は通じ合えたのだ。目には見えない同じ砲手としての想いが・・・。

 

 

 

「Youが西住流の隊長さんデスかー!!」

 

「あっ・・・えっと・・・そ、その・・・・・はい」

 

「初めて見ましたがVeryCuteデスネ~♪」

 

「そんなの・・・うぅぅ・・・・・」

 

「ヤバいデース!その表情たまらないデース!!」

 

「えええっ!?」

 

 

 

西住流が気になっていたティナはみほと話し合っていたのだが、たまにみほの見せる恥じらいの表情に興奮ボルテージが極限に達した途端ハグをし始めたのだ。

それだけなら良いのだが、あからさまに目がハートになっており、荒い呼吸で今にもなにかを犯すんじゃないかと言うヤバい状態に陥っていた。

そんな彼女達を横目に見ていた飛鳥とケイの元に杏がいつもの干し芋を食べながらやって来た。

 

 

 

「いやぁ~・・・なんとか勝てたねぇ~」

 

「Oh!アンジー、ナイスファイト!!」

 

「ギリギリだったけどねぇ~・・・それで、飛鳥ちゃん!次の対戦相手はどこと当たりそう?」

 

「確か・・・マジノかアンツィオ・・・だったんじゃないかしら」

 

「う~ん・・・マジノと言いたいが、下手をすればアンツィオだな」

 

「Why?」

 

「マジノは隊長が変わったから戦法もまだまだ発展途上って所。それに対してアンツィオはノリと勢い・・・一瞬でも油断するとヤバいって訳」

 

「それは手強そうだねぇ~・・・」

 

「やはり車輌の差があるのがアタシ達の欠点だな」

 

 

 

そう言った飛鳥はすかさず何処かに電話を掛けていた。

 

 

 

「飛鳥ちゃん、何処に掛けてるの?」

 

「せんしゃ倶楽部の本店」

 

「へぇ~・・・なにか良い案でもある感じだねぇ~」

 

「まぁね!おっ、店長さん・・・中古戦車ない?」

 

「Oh!Crazy!! 」

 

「あっはっはっ・・・やっぱり面白いねぇ~飛鳥ちゃんは・・・・・」

 

 

 

ケイと杏が見守る中でも飛鳥は淡々と交渉をしている。

必死な素振りも見せない姿に2人は固唾を呑んでその瞬間を待っていた。

そして、飛鳥が交渉を終えて携帯を切った瞬間に飛鳥はグッと親指を立てて見せた。

 

 

 

「へへっ・・・1輌ゲットしちゃいましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな・・・私達マジノ女学院が一回戦で負けるなんて・・・・・」

 

「エクレール様!!」

 

「紙一重で負けてしまうなんて・・・まだまだ爪が甘いと言う事ですわね。大洗とのリベンジマッチは次回に持越し・・・ですわね」

 

 

 

フラッグ車である自分の戦車に白旗が上がってしまったことに悔しむように下唇を噛み締めていたエクレールではあったが、こちらに駆け寄ってくる仲間の姿を見ると力が抜けたように背もたれに寄り掛かって自分の憧れる飛鳥の姿を思い浮かべていた。

 

 

 

そんなマジノ女学院を見下ろすような形でM13/40が堂々とした風貌で立ち尽くしていた。

その横では試合が終わったからだろうか少女が棒付きの飴を咥えながら寝そべっていた。

 

 

 

「勝て・・・た」

 

 

 

左目に龍のエンブレムの付いた眼帯をしている少女はぽつりとそう呟いた。

ころころと口の中で飴を転がしているとこちらに向かって走ってくる少女がいた。

それに気付いた少女は、バッと立ち上がるとこちらに来る少女に大きく手を振った。

緑色のツインテールの髪型に黒いリボンを揺らし、こけそうになりながらも少女は走っていた。

 

 

 

「リコッタァァァ!!!!」

 

「ドゥーチェェェ!!!!」

 

 

 

嬉しさの余り勢い良く飛び付いて来たドゥーチェと呼ばれた少女は涙ぐみながら胸に顔を埋めていた。

受け入れている側のリコッタと呼ばれた少女も彼女の涙で急に込み上げて来たのかポロポロと涙を浮かべていた。

 

 

 

「資金難や保有戦車の性能不足に泣かされて敗北の連続だった我がアンツィオ高校だったが、やっと・・・やっとのことで念願の一回戦突破を果たすことが出来た!!」

 

「これもドゥーチェ・アンチョビが戦車道部復興に尽力して来た結果!!」

 

「それは違うぞ!これは私を信じてちゃんと付いて来てくれた同志諸君のおかげだぁ~!!」

 

 

 

そう言って振り返るといつの間にか生徒達全員が集まっており、大きな声で勝鬨を上げるのであった。

そんな生徒の中から2人の生徒が出て来た。

黒髪の生徒はペパロニ、金髪の生徒はカルパッチョと呼ばれている。

ペパロニは嬉しそうに鼻の下を人差し指でこすっており、カルパッチョはニコニコと満面の笑みであった。

 

 

 

「マジノ女学院に今回勝てたのは・・・リコッタのおかげですね」

 

「そうだな、最後の勇猛果敢ぶりにはこの私も驚かされたからな・・・」

 

「1人でマジノに突っ込もうとするなんて普通じゃ考えられないっすよ!!」

 

「ふっふっふっ~・・・そんな褒めてもなんも出ないですよ」

 

「褒められてないですよ」

 

「あいたっ!」

 

 

 

褒められて上機嫌になるリコッタではあるが、不意に頭を何者かに小突かれてしまう。

頭を抱えつつも振り返るとそこには頼れる相棒ラビオリがいた。

とろんとした目をしている彼女ではあるが、眠たい訳ではないといつも少女は口にしている。

そして彼女はM13/40の操縦手でもある。

 

 

 

「それでも今回はリコッタの突撃で敵を総崩れに出来たんだ!やはりノリと勢いは大切にしなくちゃな!!」

 

「そうっすね!」

 

「この調子で悲願の準決勝・・・いや、決勝戦に挑むって訳ですね?」

 

「そうだ!マジノに勝ったこの勢いを持って次の対戦校も打ち砕き・・・悲願の決勝戦への進出!!いや、優勝だぁ~!!」

 

 

 

アンチョビがそう目標を掲げるとそれに対して生徒全員が讃えるように「ドゥーチェ!ドゥーチェ!」と右手を高らかに挙げて盛り上がりを見せていた。

そんな中、次の対戦校が決まった事にカルパッチョは眉を潜めていた。

 

 

 

「ドゥーチェ!次の対戦相手が大洗女子に決まりました!」

 

「あのサンダース大付属が負けたんですか・・・大会3強の一角が早々にご退場ってことですね」

 

「ラビオリ、カルパッチョ!!2人はこれから大洗の情報収集を頼んだぞ!!」

 

「「はい!」」

 

 

 

返事をした2人を尻目に横では生徒達がいそいそとなにかの準備に取り掛かっていた。

するとリコッタとペパロニがいつの間にかマジノ女学院の生徒達全員を引き連れていた。

 

 

 

「敗れた私達を呼んでどう言うおつもりかしら?」

 

「な~に試合だけが戦車道じゃない!勝負を終えたら試合に関わった選手やスタッフを労う・・・それこそがアンツィオの流儀だ!!」

 

「エクレール様・・・」

 

「えぇ・・・これ程まで統率力・・・見事に完敗・・・と言ったところですわね」

 

 

 

こうして、アンツィオとマジノは両校集まった大宴会が開催された。

敵同士だったのに食事をしている者は全員が笑顔で頬張っていた。

そんな光景をラビオリはぶどうジュースの入ったグラスを手に夕焼け空を眺めていた。

 

 

 

「あの西住流か・・・それにあのお方にも会える・・・ふふっ、ふふはっ・・・楽しみ」

 



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新戦力です!!

「ふぅ・・・やっと着いたか」

 

 

 

飛鳥はとある大きな建物の前でニィッと笑って見せた。

そうココは「せんしゃ倶楽部」の本店に位置づけされる戦車好きにはたまらない場所である。

品揃えも豊富で飛鳥がアルバイトしている場所とは桁違いな程に膨大な品揃えを誇っている。

所謂、戦車マニアの聖地でもある。

 

 

だが、そんな飛鳥の後ろから白いフリルの付いた傘を悠々と差しながら優雅に歩く少女が横に並んだ。

そっとハンカチを取り出すと額に見える汗を拭えば、身につけていた大きめのサングラスを胸元にぶら下げた。

 

 

 

「ココが噂のせんしゃ倶楽部本店ですか」

 

「花蓮さんはココに来たことあるんですか?」

 

「いえ、気になって調べたりはしてましたけど、こうやって自分自身でココに来るのは初めてですわ」

 

「ココは中学の頃から色々とお世話になった場所・・・ですね。暇があればココにある資料に目を通したり、たまには戦車の整備もお手伝いさせてもらっていましたからね」

 

「そう、貴女があれほど戦車に詳しい事にこれで納得が出来ますわ」

 

「まぁ・・・基礎知識だけですよ」

 

 

 

全く動じずに凛として話し掛ける花蓮に対して飛鳥も自然と受け答えを返した。

あまり会話もしたことのない2人ではあったが、自然と打ち解けている気がした。

同行者を募集して一番に来たのが彼女だったので最初は驚きもしたが、ただ単に彼女は戦車のことをもっと知りたいと言うのが移動中の話を交えて解ったのだ。

 

 

などと喋っていると不意に横を擦り抜ける様にリュックを背負った3人が姿を現した。

秋山 優花里。

阪口 桂利奈。

小早川 ツバサ。

3人は目的地である聖地を目の前にするとキラキラと目を輝かせていた。

 

 

 

「ひゃっほぅー!最高だぜぇぇぇ!!」

 

「やっと、着いたぁぁぁぁ!!」

 

「あいあいあいー!!」

 

「アレだと遠足に来た子供ってだな・・・」

 

「ふふっ・・・素直でいいんじゃないかしら?」

 

「そりゃあ、そうですけどね。じゃあ、ココで立ち往生もなんですから店内に入りましょうか?」

 

「・・・・・よしなに」

 

 

 

3人がなにやら熱く語り始めていたのだが、飛鳥はなにも言わずに店内へと入った。

すると涼しい空調と共に目の前には戦車パーツ、書籍やプラモデル、ファッション等の商品が所狭しと揃えられていた。

そんな光景に懐かしむ飛鳥ではあったが、花蓮は恍惚した表情で360度ゆっくりと舐め回していた。

そんな彼女を横目に楽しんでいるとふとある人物と目が合ってしまった。

 

 

 

「飛鳥ぁぁぁぁ!!!!」

 

「あら、お知り合いですの?」

 

「アレ・・・アタシの姉なんです」

 

 

 

大声を出して手を振ってくる人物に扇子で口元を隠して花蓮が飛鳥に尋ねた。

溜め息混じりにアレ呼ばわりした相手を指差して説明すると紹介された姉・焔は嬉しそうに近寄って来た。

 

 

 

「よう!こんな場所で会うなんて奇遇だな!!」

 

「戦車乗り同士だからココぐらいしか会う場所ないけどね・・・。それで、焔姉ちゃんはなにをしにココに?」

 

「掘り出し物がないかなっと、ちょっとした散歩だよ、さ・ん・ぽ!そんなお前達はこんな場所にまで足を運んでなにをしに来たんだい?」

 

「そりゃあ、戦力強化・・・って、所かな?」

 

「ほぅ・・・やるじゃん!!」

 

 

 

背中を大きく叩かれた飛鳥は痛がる素振りを見せるもニィッと笑うと勢い良くガツンッと拳を突き合わせた。

そんな光景を見ていた花蓮だったが、不意にある視線に気付く。

そう、その正体は・・・優花里であった。

 

 

 

「あ、あの・・・日野本 焔殿でありますか!?」

 

「んぁ?そうだけど・・・?」

 

「おぉぉ!!こんな場所で逢えるなんて光栄です!!」

 

「優花里先輩、えっと・・・飛鳥先輩のお姉さんってどんなお方なんですか?」

 

「はい!飛鳥殿のお姉さんにして、大学生大会で数々の賞を手にされている凄腕のお方なんですよ!!」 

 

「あははっ・・・なんだか照れちゃうなぁ~」

 

 

 

などと照れながらもしれっとサインを狭まれると即座に応じる焔。

 

 

 

「おっ、飛鳥ちゃ~ん!」

 

「あっ、お久し振りです!三代子さん!!」

 

 

 

聴き慣れた声に振り返るとそこにはベレー帽を深く被って不敵に笑う女性が片手を挙げて立っていた。

その人物に飛鳥だけではなく、焔も頭を下げたのに対して他の4人もお辞儀をしていた。

 

 

 

「今回の件、本当にありがとうございます」

 

「別に構わないよ。向こうの店長からもアルバイトを頑張ってくれているのは聞いてたし、また戦車に乗り始めたんなら餞別がてらにって感じだから気にせず持っていきな」

 

「飛鳥さん、このお方は?」

 

「あぁ、自己紹介がまだだったね!私は筧 三代子(かけい みよこ)、ココの店長を任せてもらっている身でコイツらの師匠みたいなもんさ」

 

 

 

そう自己紹介を済ませて名刺を手渡されると花蓮もスッと自分用なのだろうか名刺を渡してから2人は強く握手を交わしていた。

すると反対の手に持っていた黒のバインダーファイルを飛鳥に手渡した。

 

 

 

「そこにある戦車ちゃんが今回の商品さ、どうだい?感想は・・・」

 

「ハハッ・・・こりゃあ、笑いが止まらないね」

 

「コレは・・・じゃじゃ馬・・・ですわね」

 

「お、驚きです・・・この戦車を見れるなんて・・・・・」

 

 

 

なにか意味ありげな三代子の発言に飛鳥はファイルの中身を見た途端に笑い出してしまった。

そんな飛鳥の異変にチームメンバーは気になって覗き込む。

戦車に詳しくないツバサと桂利奈の頭の上には?マークが飛び交う。

だが、花蓮はピクッと眉を動かし、優花里は驚いたように目を見開いていた。

そのファイルに載っていたのは、「M18ヘルキャット」である。

 

 

そんな訳で一行は戦車の収納されている格納庫へとやって来た。

優花里は一目散に戦車に駆け寄ると嬉し涙を流したまま頬擦りをしていた。

 

 

 

「三代子さん、本当にいいんですか?」

 

「地方でホコリを被って眠ってたみたいだから存分に活躍させてやっておくれよ!」

 

「高速なヒット・エンド・ラン戦法を得意とする戦車・・・火力、速度共に申し分はありませんが装甲面では脆すぎるのが欠点ですわね」

 

「ですが、これでも世界最速を誇った戦車なんです!」

 

「そうだねぇ~・・・簡単に言っちまえば、当たらなければどうと言うことはないって訳さ!!」

 

 

 

賑わう大洗のメンバーに対して焔も同じようにM18ヘルキャットを撫でると嬉しそうだった。

 

 

 

「それで、今度の対戦校はどことなんだい?」

 

「アンツィオ高校であります!」

 

「そうかい、じゃあアンツィオ戦はソイツの活躍も拝みたいから観戦にでも行こうかねぇ~」

 

「それならあたいもまた母さんを連れて行くので一緒に見に行きましょう!」

 

「いやはや、これは頑張らなきゃいけないかな?」

 

 

 

ふとなにか気になったのか桂利奈が手を挙げるとある質問を口にした。

 

 

 

「飛鳥さんのお母さんってなにされてる方なんですか?」

 

「それは私も気になります!!」

 

「そうでしたわね。日野本さんが差し支えないのでしたら是非、お聞きしたいですわね」

 

「う~ん・・・日野本流戦車道の家元」

 

 

 

飛鳥のサラッと出た一言に3人が大声を出して驚いていた。

その言葉に花蓮はなにか思い出したのか扇子を開くと口元を隠し険しい目つきになっていた。

 

 

 

「せ、先輩!前に流派には入ってないって・・・!?」

 

「だ・か・ら・・・アタシはちゃんと教わらずに自己流でここまで来たんだよ」

 

「日野本流・・・「皆の力を信じ、後悔せぬよう全力で戦え」」

 

「へぇ~・・・詳しいだねぇ~、そこの譲ちゃん」

 

「西住流、島田流の双方に引けをとらない流派と言うのは存じ上げています。苗字が一緒でしたからもしかしたら・・・と思っていましたが、貴女方のお母様のモノでしたか」

 

「でも、この教えってなんだか今の私達に似てますね!!」

 

「確かに、西住殿の考えと似ている気がします!」

 

 

 

それを聞いた飛鳥なんだか嬉しそうに笑ってM18ヘルキャットを小突いた。

 

 

 

「それなら次のアンツィオ戦も悔いの残らないようにやらないとねぇ~」

 

「任せて下さい!!この秋山 優花里、全力で挑んで見せます!!」

 

「私達も頑張ります!ねっ、桂利奈ちゃん!!」

 

「あいあいあいー!!!!」

 

「ふふっ・・・勿論ですわ」

 

 

 

そう意気込む全員は「えいえいおー!!」と大きな声と共に拳を突き上げていた。



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情報収集は大事です!

「ルノーB1bis、ポルシェティーガー、ヘルキャット」

 

「いやぁ~・・・中々の代物だねぇ~」

 

「戦力が増えるならなんでもいいけどな」

 

 

戦車倉庫に並ぶ新戦力である3輌を眺めながら会長はにへら~と笑いながら干し芋をほうばっている。

その横では花蓮がファインダーを取り出し戦車の方に歩み寄った。

 

 

 

「こちらのルノーB1bisは風紀委員の方々に搭乗して貰う様に会長が先日勧誘を行って下さいました」

 

「んっ?戦車経験でもあるのか?」

 

「ないよ~」

 

「おいおい、そんなので良いのかよ・・・」

 

「まぁ、なんとかなるんじゃない?私達だってなんとかなってる訳だしさぁ~」

 

「戦車に乗ってくれるってだけでも助かるから別に構わないけどな」

 

「ビシビシしごいちゃっていいからねぇ~♪」

 

 

 

なんの根拠もないのにこんなにドッシリと構えている会長には時々驚かされてしまう。

確か、風紀委員は髪形がおかっぱに統一されている3人組と聞いている。

想像しただけでも飛鳥はクスッと笑ってしまう。

 

 

「次はポルシェティーガーですが、こちらは自動車部のメンバーから申し出てくれました」

 

「コーナリングなら任せてください!」

 

「ドリフト、ドリフト!!」

 

「戦車じゃ無理でしょう」

 

「いや、昔、II号戦車でドリフトしたことあるな」

 

「ひゅ~やるねぇ~・・・今度、車とか運転してみない?」

 

「あぁ、時間があればお邪魔するよ」

 

 

 

戦車を車と同等に扱うような自動車部のメンバーの会話には飛鳥も少し驚いていた。

だが、彼女達の話を聞いていて少しやってみようかな?と思ってしまう飛鳥も同類である。

 

 

 

「最後のヘルキャットですが、こちらは会長が推薦されるチームを起用させて頂きます」

 

「日野本・・・これには事情が・・・・・」

 

「いいんじゃないっすか」

 

「飛鳥ちゃん・・・理由とか聞かないの?」

 

「会長がなにか考えてるってのは解るんだけどさ、もう決めちゃったんならアタシはとやかく文句言わないですよ。こうやって戦車乗れてるのも会長のおかげだしね」

 

「日野本ちゃん、ありがと」

 

「どう致しまして」

 

 

 

嬉しそうに笑う会長に対して飛鳥も同じように笑って見せた。

 

 

 

「ですが、直前の戦力だった為に整備も完了していない為に今回のアンツィオ戦には参加できませんわ」

 

「ルノーB1bisとヘルキャットはなんとか次の試合ではいけそうだけど、ポルシェティーガーは厳しいかも・・・」

 

「その辺は任せて下さいよ、ちゃんとじっくりと整備して使い物になるように頑張りますから」

 

「それならアタシもバイトがない日には少しくらい手伝うかな」

 

 

 

会話だけが響く戦車倉庫内に突如として携帯の着信音が鳴り響く。

どうやら飛鳥のモノらしい。

 

 

 

「大事な話の最中だぞ!?マナーモードにしておけ、マナーモードに!!」

 

「はいは~い」

 

「会長、新戦力が使えないとなると現在の車輌数でなんとかするしかなさそうですね」

 

「そうなるねぇ~」

 

「秋山さんと小早川さんの諜報活動のおかげで切り札がP40と言うのは解りましたが、こちらにはない重戦車・・・太刀打ち出来るかわからないですわね」

 

「そうだねぇ~」

 

「私達が苦戦して勝ったマジノに向こうも勝ったんです!我々と同等、いや、それ以上の強敵のはずです!!」

 

「そりゃあヤバいねぇ~」

 

「会長!!そんな投げやりな返事はやめて真面目に考えて下さい!!」

 

「だってさぁ~日野本ちゃ~ん」

 

 

 

名前を呼ばれたのと同時に電話を切ると飛鳥は前髪を弄りながらいやらしい笑みを浮かべていた。

 

 

 

「それならちょっくらせんしゃ倶楽部に行きません?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、せんしゃ倶楽部に招かれたのは各チームの代表者だけである。

一回来たことのあるみほは驚かなかったが他のメンバーはこう言う店を初めてみるのか騒いでいた。

店番をしている店長の横を擦り抜けると飛鳥はスタスタと地下に続く階段を降り始めた。

 

 

 

「なにやら秘密基地のような感じだな」

 

「なんだかわくわくしてきますね!」

 

「飛鳥さん、何処に行くんですか?」

 

「そりゃあ、ブリーフィングルームだよ」

 

 

 

そう言って大きな二枚扉をゆっくりと押し開けるとそこには大きな一室があった。

真ん中に大きな大円形のテーブルがあり、それを囲むように椅子が並べられている。

奥には巨大な暗幕が掛かっており、映像を映し出す為だろうかちゃんと機器も揃えられている。

 

 

 

「日野本ちゃんやるねぇ~」

 

「飛鳥先輩が作ったんですか!?」

 

「店長の趣味だよ。去年はここで戦車道の公式戦の試合映像を見て楽しんでたよ」

 

「んっ?西住隊長が言うには決勝戦でしかテレビには放送されないはずじゃないか?」

 

「まぁ、一般的な映像ならそれぐらいしか見れないかもしれないね!」

 

 

 

不意に暗幕の裏から声がすると思えば、額にゴーグルを身につけたポニーテールの女性が腰に手を当てて全員の前に姿を見せた。

 

 

 

「ど、どちら様でしょうか?」

 

「紹介するよ、蝉堂 文(せんどう あや)フリーの新聞記者」

 

「ども!パンツァー新聞を出版しちゃってるんで以後、よろしく!!」

 

「パンツァー新聞って食堂にいつも置いてある小さな新聞じゃないですか!?」

 

「おっ、御贔屓にどうも~」

 

「それでぇ~?その蝉堂ちゃんがなにを見せてくれるのさ」

 

 

 

本題にしか興味のない会長はど真ん中の席に陣取ればいつものように干し芋をほうばる形で文に視線を向ける。

機嫌を損なわないように文はすぐさまあるモノを机の上に出した。

それは普通のラジコンヘリにも見える代物だ。

 

 

 

「コイツで上空から撮影したマジノとアンツィオの試合映像を今からお見せします」

 

「なに!?そんな事が可能なのか!!」

 

「文は昔からこう言うのが好きなんだよ」

 

「・・・・・と言うことは飛鳥さんの強襲戦車競技の時からの」

 

「知り合い・・・いや、戦友だな」

 

「それじゃあちゃっちゃっと映像見ちゃおっか?」

 

 

 

用意周到な文はすぐに映像を暗幕に映し出した。

上から映している為に戦車の動きがわかりやすく確認出来る。

それには他のメンバーも驚きの声を漏らしながら戦況を話し合っていた。

 

 

序盤はアンツィオのカルロ・ヴェローチェが敵陣に入り込んで陣形を掻き乱そうとしているようだが、マジノはそれに釣られる様子はなく迎撃でカルロ・ヴェローチェ2輌を撃破。

それに怯まないアンツィオは続け様に襲撃を仕掛ける。怯まない相手に動揺したのかルノーR35が2輌撃破される。

 

 

 

「ルノーR35を2輌も撃破した戦車は?」

 

「M13/40です!!」

 

「どうかしたの?日野本ちゃ~ん」

 

「さっきからあの戦車だけは突撃はせずに陣地を護り、隙を見つければ攻撃して撃墜させているんです」

 

 

 

話している間にもM13/40は中間地点に留まり、援護射撃をしつつ隙あらば撃破まで持ち込むと言った頭を使った試合を行っていた。

そんな戦法に飛鳥はずっと顎に手を添えたまま映像と睨めっこしていた。

 

 

 

「車長は伊達 龍琥(だて りゅうこ)去年まではヴァイキング水産高校でエースを務めておられた御方ですの。現在はリコッタと呼ばれていらっしゃるそうですわ」

 

「貴殿はマジノ女学院のエクレール殿ではないか!?」

 

「奥州筆頭・伊達政宗の末裔か・・・・・左衛門佐が聞いたらどうなるだろうな」

 

「それとこの方もM13/40には欠かせないキーマンですわ」

 

 

 

一枚の写真を手渡されて全員確認するもその写真に反応するのは飛鳥と意外な文であった。

見た目は目の下に隈が特徴的なミステリアスな少女である。

 

 

 

「この子・・・なにかあるの?日野本ちゃん」

 

「アタシのファン倶楽部の子」

 

「「「えええ!?」」」

 

 

 

まさかの一言に聞こえてくる砲撃の音と悲鳴じみた声が見事なハーモニーを奏でたのは驚いた。

コホンッと咳払いすると文が解り易く説明をし始めた。

 

 

「中学の時から飛鳥のファン倶楽部ってのがあったんだけど、設立当初からスッゴくアプローチをして来る女の子がこの子でさ、飛鳥の出る試合には絶対この子も見に来てたぐらいの熱狂的なファンなんだ!年も近かったから会話も弾んでいたし、仲は良かったんだけど・・・去年、飛鳥が大洗に進学してからは戦車系大会には一切出てなくてさ。だから、1年間会ってなかっただよねぇ~」

 

「昔からあの方は飛鳥様に付き纏っていましたしね」

 

「エクレールさんも知ってるんですか?」

 

「えぇ・・・薄影 憑莉(うすかげ ひょうり)!!戦姫は乙女の憧れそのモノなのです!!それなのに裏ではあの方と何度も何度も何度も・・・あぁぁ!!お、思い出しただけで胃が・・・・・うぅ・・・・・試合後になって気付いた時には腹立たしかったですわ」

 

「荒れてるねぇ~・・・」

 

「ですが、ひとつ気になったことがあるのです。あの戦法は戦姫の戦闘スタイルに似ているんですの」

 

「ははっ・・・なるほど」

 

 

 

飛鳥だけが納得したように笑う。

他のメンバーはわからない為にチラッと文に視線を集める。

 

 

 

「おほんっ!中学の時の飛鳥の戦法だよ!味方より目立たずに援護だけを意識した戦法・・・だから未だに無敗なんだよアイツは・・・」

 

「地味な戦法だと最初は姉さんにずっと怒鳴られてたけどな」

 

「でも、そのおかげで今の飛鳥先輩があるんですよね!!」

 

「それならこれからもその道を根性で進みましょう!!」

 

「昔のアタシも良いけど、今はみほの戦車道で戦うのが少し楽しいけどな」

 

「・・・・・飛鳥さん」

 

 

 

映像はもう終盤に近付いており、双方に砲撃戦が繰り広げられてるように見えた。

だが、その隙を逃さないとばかりにM13/40が森の中を走り抜けている。

 

 

 

「コレにすぐに対応出来ていれば・・・・・」

 

「味方フラッグ車を囮に使っていますよ!?」

 

「信頼か・・・はたまた無謀か」

 

「どちらにせよこの急襲により、私のソミュアS35は撃破されてしまいました」

 

「こりゃあ、警戒しないとヤバそうだねぇ~・・・」

 

「警戒を怠ったら・・・アウト」

 

「次は樹のせいで視界がかなり悪いですからね」

 

 

 

次の試合は森林地帯とも言えるぐらいの樹が多いエリアでの試合である。

 

 

 

「試合の方は応援に駆けつけますわ」

 

「ありがとうございます!エクレールさん!!」

 

「私達の分も頑張ってください、大洗のみなさん」

 

「チームメイトの次はファン倶楽部が相手かよ・・・さてと、試合の日までやることやりますか?」

 

 

 

全員が気合の籠もった声で「オォー!!」と叫び拳を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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あっという間のアンツィオ戦です!!

全国大会第2回戦。

選手達が準備に勤しんでいる時、観客席にはぞろぞろと試合開始を待つお客様が集まってきているのが見えた。

そんな中に妹との約束を守る為に焔と三代子さん・・・そして、日野本姉妹達の母親兼日野本流戦車道家元・・・日野本稔(ひのもと みのり)がやって来ていた。

 

 

 

「うっへぇ~・・・辺り一面が木ばっかな場所じゃん!」

 

「奇襲に充分に気をつければなんとかなりそうだけどねぇ~」

 

「これは派手な乱戦になるかもしれないわね」

 

「にしても、ヘルキャットが今回見れないのは悔やまれるのう」

 

「けど、こんな戦場じゃ自慢の速さも使えないんだからしょうがないじゃないですか」

 

「逆に小回りの利くカルロ・ヴェローチェが居るアンツィオの方が武があるでしょう」

 

 

 

モニターに映し出される試合会場に目が行っていたが、稔はふと周りに見える生徒を確認するとクスッと笑った。

 

 

 

「飛鳥達はどうやら、敵にも好かれるみたいですね」

 

「んっ?聖グロにマジノにサンダース・・・どれも大洗と戦った面々か」

 

「なにか牽きつけられるモノを持っているのかもしれんのう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六輌の戦車がエンジンを始動する。

戦闘開始の合図を待つように緊迫した空気が立ち込めていた。

ただ、1人を除いて・・・・・。

 

 

 

「西住隊長!こ、今回ネコさんチームはどう動いたら良いでしょうか!?」

 

『そうですね、1番の危険ポイントが中央付近の十字路になると思います。ですから、アヒルさんチームと先行をしてもらって偵察をお願いできますか?』

 

「はい!わ、わかりました!!」

 

『そんなに緊張しなくても大丈夫です!リラックスして行きましょう』

 

「わかりました!!」

 

『飛鳥!通信手だからってサボってたらダメだからね!!』

 

「あぁ~・・・全部沙織に任せた」

 

『もぅ・・・ちゃんとしなさいよ!!』

 

「はいは~い」

 

 

 

まだ沙織が騒いでいる途中ではあったが、飛鳥は何事もなかったように通信を切ると今回のエリアの地図を広げ始めた。

そんな彼女を見る他のメンバーは飛鳥に聞こえないようにひそひそ話を始めた。

 

 

 

「マジでアイツ今日通信手なのか?」

 

「・・・はい」

 

「覇王は我らを試そうとしておるのやもしれぬ」

 

「それにしても通信手はないんじゃね?」

 

「飛鳥先輩なりになにか考えがあるんですよ!きっと!!」

 

「それなら良いんだけどな」

 

 

 

4人が密会をしている最中でも飛鳥は馬券を買うおっさんのように耳裏に赤ペンを刺して睨めっこをしている。

そんな風景に4人は苦笑いしか出来なかった。

 

 

だが、飛鳥はある場所に目を付けるとその場所に丸をつけて咽喉マイクに手を当てる。

 

 

 

「全車輌に通達!この地は向こうに有利なのは明らかだ!」

 

『日野本!!それはどう言う・・・・・』

 

「まぁまぁ・・・えぇ~、これより臨時隠密作戦を伝えます」

 

『飛鳥さん、なにか良い案があるんですか?』

 

「忍者のように隠れるだけさ」

 

 

 

その意味ありげな言葉に誰も気付いてはいなかった。

飛鳥の大胆な作戦に・・・・・。

そうこうしている間に試合開始の合図が鳴り響くと作戦指示通りに各戦車は動き出す。

 

 

アンツィオ高校も動き出すがM13/40は動き出さずに停車していた。

それもその筈、操縦手であるラビオリがキューポラの上に立って深呼吸をしているのだから。

 

 

 

「ラビオリ!ドゥーチェがこの前の作戦でどうにか頼むってさ!!」

 

「ふふっ・・・あの方に私のすべてをぶつける時が来た」

 

「んっ?なんか言ったか?」

 

「・・・なんでもない」

 

「そっか!ペパロニの野朗がマカロニ作戦を決行するって言ってたぞ?」

 

「はぁ・・・バレなきゃいいけど・・・・・」

 

 

 

そう言ってM13/40のエンジンを始動させるといつものように森の中に入り込んで行った。

予想ならそろそろ接敵しても良い頃合いなのだが、前線に居るはずのペパロニからの伝令がない。

嫌な予感がしたラビオリはすぐに運転しながら声を荒げる。

 

 

 

「ペパロニから連絡は?」

 

「ま、まだありま・・・今、入りました!!目的地に到着したけど、敵影がないとの事です!!」

 

「マカロニ作戦はちゃんとしてるの?」

 

「はい!!ちゃんとすべてのデコイを置いたとの事です!!」

 

「あのばっかやろぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

報告を聞いたと同時にいきなり大きな声で怒鳴ると周りのメンバーや流石のリコッタも鳩が豆鉄砲を受けたような表情で驚いていた。

すると一気に車輌のスピードが増した事にリコッタは慌てて声を掛ける。

 

 

 

「ラビオリ!この前みたいに援護に徹して・・・・・」

 

「その作戦はもう出来ません!こちらはもう窮地に追い込まれていますから」

 

「どうしてだ?」

 

「デコイは11枚あるんです、それをすべて置いたって言うさっきの報告ならもう向こうに奇襲はバレてます」

 

「確かに・・・でも、敵影が見えないのはどうしてだ」

 

「隠れているんですよ」

 

 

 

 

 

『こちらアヒルさんチーム!敵車輌が私達を探しているみたいです!』

 

『こちらウサギさんチーム!こちらも反対の位置から確認出来てます!!』

 

『すっごい!?飛鳥の思惑通りじゃん!?!?』

 

「あの十字路にあったデコイのおかげでもあるけどな」

 

「危うく騙される所だったもんな?カリエンテ様!」

 

「ゆ、優雅なる幻影は心眼でしか見抜けぬのだ!」

 

 

 

大洗の全車輌は森の中でじっと潜んでいた。

向こうの作戦ミスのおかげもあって事前に話していた隠密作戦を決行中なのである。

念の為に後方からの攻撃に備えてアヒルさんとうさぎさんと後ろに忍ばせておいた。

他の4輌は敵の主力を囲うように左右に2輌ずつ分けての配置になっている。

 

 

優勢になりつつある状況下のはずなのに飛鳥は未だに地図と睨めっこをしている。

試合開始前にチェックした赤丸を用心深く再確認している。

そんな彼女になにやら緊張感を感じるメンバー。

すると飛鳥はそっと咽喉マイクに手を当てる。

 

 

 

「もうすぐ敵フラッグ車が来る・・・だが、油断は禁物だ。向こうも潜んでる可能性がある為に要注意だ」

 

『心得た!!』

 

『あいよ~』

 

『わかりました!!』

 

 

 

警戒を怠らないようにと指示をすると飛鳥は地図を閉じた。

 

 

 

「こっから激戦になる・・・覚悟はいいか?」

 

「えっ?このままのこのことやって来る敵フラッグ車を集中砲火で撃墜させて終わりじゃないのか?」

 

「それが一番良い結果だな。だが、こう言う戦場ではなにが起きるかわかんないのさ」

 

「そ、そう言われるとなんだか心臓がドキドキして来ちゃいますよ」

 

「・・・・・来たぞ」

 

 

 

真剣な表情で語りかけるリーダーの一言に全員がピリピリと感じる雰囲気の中玲那の声に全員が反応をする。

カルロ・ヴェローチェが1輌先行し、その後ろに敵フラッグ車のP40、セモヴェンテと続いている。

警戒していたM13/40の姿はない。

 

 

 

「確実に仕留める為にウィークポイントを狙え」

 

「・・・・・わかった」

 

「飛鳥さん!目の前の敵車輌急停止しました!!」

 

「チッ!!総員衝撃に備えろ!!」

 

「えっ?のわぁぁぁ!?!?」

 

 

 

飛鳥の叫び声と同時に轟音と共に衝撃が車内に走る渡る。

直撃ではなく弾けたのか飛鳥はインカムを強く耳に押し当てると他の車輌の情報を得ていた。

反対側に居たあんこう、カメさんチームの方には先程急停車した敵車輌からの砲撃を受けている模様。

こちら側に居たカバさん、ネコさんチームはどこから撃たれたのか解らない砲撃を受けた。

 

 

 

「ツバサ!2時の方角と11時の方角を至急に確認!」

 

「はい!」

 

「薫!止まってたら撃ち抜かれるぞ?」

 

「わかってるっての!!」

 

「カバさん生きてる?」

 

『この程度かすり傷だ!それより、我等はどうすれば?』

 

「2時の方角に高台を見つけました!そこからM13/40の姿が見えたり隠れたりしてます」

 

「カバさんはアタシ達に着いて来て!!あんこう!!カメさんの防衛任せられる?」

 

『大丈夫!みぽりんがなんとかしてみせるってさ!!』

 

「それは・・・重畳!!フォーメーション・・・神風!!」

 

 

 

車内に響き渡る声に待ってましたとばかりに笑顔になって配置を急いで変わる。

変わる際にハイタッチを交わす薫と飛鳥だったが、何処となくいつもと雰囲気の違う感じに薫は身体を震わせた。

いつもの優しい笑顔ではなく、戦いを楽しむ者の笑顔。

そして、配置が終わったと同時に飛鳥は口を開いた。

 

 

 

「最初からフルスロットルだから付いて来てね」

 

「・・・・・任せて」

 

「覇道を進むのであれば、我等はただ共に歩むのみ!!」

 

「特訓の成果を見せつけましょう!!」

 

「そんじゃま、どうぞ?隊長さん♪」

 

「戦場を制覇する!!パンツァー・フォォォォォ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなかやりますわね、あのM13/40」

 

「はい、完全に劣勢状態だったのにあの高台から援護射撃で窮地に一生を救われましたね」

 

「エクレールさんもあの奇襲にやられたのかしら?」

 

「・・・そうです」

 

「それにしても今日は飛鳥が車長じゃないじゃない」

 

「飛鳥はあぁ見えて砲手と操縦手のプロフェッショナルなのデース!!」

 

「・・・うぅ・・・なんでこんなメンバーで観戦をしなくちゃいけないのかしら」

 

 

 

聖グロ、マジノ、サンダースの陣営が何故か集まってスクリーンで繰り広げられている試合に夢中になっていた。

そんな中で弱小とも言えるマジノの隊長エクレールは1人で居ることに副隊長のフォンデュを恨んだと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ココから全力でドゥーチェを援護射撃する!絶対にやらせてはならん!!」

 

「・・・・・違う」

 

「この高低差を上手く利用してハルダウンをしながら確実に敵に砲撃をお見舞いしてやれ!!」

 

「アレが・・・戦姫のはずがない」

 

「ラビオリ!なにをさっきからぶつぶつ言ってるんだ!!」

 

「・・・・・もういい、私があのチャーフィーを落とせばすべてが終わる」

 

「リコッタ!Ⅲ突がこちらに向けて砲撃を・・・キャッ!?」

 

「怯むな!くっ・・・直撃じゃなくてもかなりの衝撃だな。他の車輌はどうだ!」

 

「敵フラッグ車とⅣ号戦車はドゥーチェと交戦中!!カルロ・ヴェローチェが2輌護衛に付いています!!Ⅲ突はカルパッチョのセモヴェンテM41がぶつかり合うように交戦を始めました!!」

 

「んっ?Ⅲ突の近くにはチャーフィーがいなかったか?」

 

「えっ?」

 

「・・・・・っ!?」

 

 

 

ラビオリは急発進させていた。

だが、その判断は正しかった。

後方に聞こえる着弾音にラビオリの身体にぞわっと鳥肌が立った。

それと同時にラビオリは鼓動が早くなるのがわかった。

そう、興奮しているのだ・・・彼女の試合を初めて観た時のように・・・そして、こうして戦える事に。

 

 

 

「キ・・・タ、キタ、キタキタキタァァァァッ!!!!」

 

「ラ、ラビオリ?」

 

「戦姫です・・・あの方が降臨されたのです」

 

「戦姫?」

 

「・・・・・来る」

 

 

 

 

 

「初弾は外れました!!」

 

「・・・今度こそ」

 

「秘奥義・瞬装填舞!!」

 

「掴まれ!お前らぁぁぁ!!敵を撃破しろぉぉぉ!!!」

 

 

 

ラビオリの予想通り・・・戦姫は現れた。

森から躊躇しない感じに前に舞い降りた。

その姿にリコッタは驚くと同時に車輌が動いたことに身構えた。

砲撃音が響くと砲弾はM13/40の車体を掠めた。

 

 

飛鳥は無言で戦車を動かしている。

だが、他の4人の闘志はメラメラと燃え上がっていた。

練習の成果を見せるべきにと一致団結した掛け合いが戦車内を響かせる。

 

 

 

「リコッタ!フラッグ車が裸単機になってしまったと情報が!!」

 

「なっ!?!?ラビオリ!!直ちにドゥーチェの援護に向かう!すぐに目の前のチャーフィーを・・・「無理です」・・・なに!?!?」

 

「状況が変わりました・・・この敵車輌を確実に落とさない限りドゥーチェを救うのも不可能です」

 

「くっ・・・厄介なヤツにマークされたなっ!!」

 

 

 

 

 

「カリエンテ、まだいけそうか?」

 

「覇王に心配されるとは我が至極なり」

 

「沙織!そっちの状況は?」

 

『敵フラッグ車を追い込んだよ!今から援軍が来る前に決着をつけるって!!』

 

「それじゃあ・・・向こうの主戦力であるM13/40はネコさんチームで食い止める」

 

『わかりました!飛鳥さん、無茶はほどほどにして下さいね』

 

「ほいよ」

 

 

 

みほとの通信を終えると飛鳥はパチンッと両頬を叩いた。

その光景にキューポラから顔を出して叫んでいる薫以外がビックリしたような表情をしていた。

だが、大きな深呼吸と共に飛鳥の目は鋭さが増した。

 

 

 

「弐連神風やってみる」

 

「弐連神風・・・ですか?」

 

「・・・・・長時間ドリフトです」

 

「やってみる・・・って、そんなの履帯が耐えられる訳ないっしょ!!」

 

「はいはい、いくよ~」

 

「・・・って、聞く気ないじゃん!!!!」

 

 

 

 

 

「あのスピード・・・リコッタ!相手は側部に回り込んでくる」

 

「本当か!?」

 

「間違いない・・・情報通りなら先回りして迎撃出来るはず」

 

「了解!砲手、指示通りに砲撃用意!!」

 

「(ふふふっ・・・コレで戦姫を倒す事が出来れば、私はあの方に認められるかもしれない・・・いやぁぁぁぁ!!!!もう、照れちゃうじゃない!!!!)」

 

 

 

猛スピードで迫り来るチャーフィーにも恐れずに指示通りに回り込んで来た隙を突く為に車内には緊張感が走る。

するとチャーフィーは予想通りに側面に回り込む体勢に入った。

 

 

 

「相手は右側面に来る!発射準備!!!!」

 

「了解!!」

 

 

 

瞬きも出来ない砲手はいつでも砲撃出来る様にトリガーに指を掛けて待っていた。

ラビオリも側面を晒さないように車体を動かしていたが、嫌な予感が走った。

リコッタは敵戦車が停車するのを待っていた。

だが、側面で止まらずそのままドリフトして背後に向かおうとする敵戦車に声を荒げる。

 

 

 

「ラビオリ!!相手が背後まで回り込んで・・・!!!!!」

 

「・・・・・っ!?!?!?」

 

 

 

リコッタが言い終わるよりも先に轟音と共に車体が大きく揺れるのを感じると全員が急な事に転げ回ってしまう。

そんな中背後からの衝撃にラビオリは何故か恍惚とした表情になっていたのは誰も知らない。

 

 

それと同時に敵フラッグ車の行動不能のアナウンスが全体に響き渡った。

そのアナウンスと同時に飛鳥は集中を解くように大きな背伸びをした。

すると勝利の雄叫びをあげる薫に他のメンバーも勝鬨を挙げる。

そんな中で飛鳥はポケットに忍ばせておいたお気に入りの棒付き飴を頬張るのであった。

 

 



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登場人物紹介です!その2

サンダース大学付属高校

 

 

 

ティナ

 

 

 

身長 - 174cm

好きな戦車 -グリズリー巡航戦車

好きな花(花言葉) - カーネーション(ピンク)(熱愛)

趣味 - 女の子漁り

 

 

 

2年生。かなりの女好き。(飛鳥一途だったが、みほに浮気しそうだとか・・・)

モデルとして活躍しており、戦車モデルとして有名である。

好戦的な性格で、最前線でぶつかり合うのを生甲斐としているらしい。

中学時代は、飛鳥と共に強襲戦車競技で活躍もしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンツィオ高校

 

 

 

リコッタ/伊達 龍琥(だて りゅうこ)

 

 

 

身長 - 167cm

好きな戦車 -T-54

好きな花(花言葉) - サルビア(燃ゆる想い)

趣味 - 釣り、スキューバダイビング

 

 

 

3年生。奥州筆頭・伊達政宗の末裔。元ヴァイキング水産高校のエース。

アンチョビの活動に胸を打たれて自分から転校をし、力になりたいと思い一緒に頑張って来た。

馬鹿が付く位の真面目人間だが、その信念は誰よりも固い。

 

 

 

 

 

ラビオリ/薄影 憑莉(うすかげ ひょうり)

 

 

 

身長 - 153cm

好きな戦車 -一式中戦車 チヘ

好きな花(花言葉) - アイリス(あなたを大切にします)

趣味 - 飛鳥のグッズ作り

 

 

 

2年生。飛鳥ファン倶楽部創設者にして第1号。

飛鳥を崇拝するぐらい大好きだと豪語している。

戦闘スタイルは、中学時代の飛鳥の動きを見よう見真似で会得したという。

ちなみに占いが大好きだと言う噂もある。

ティナやらエクレールとは犬猿の仲だとか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

専門用語

 

 

 

戦姫(せんき)

 

 

 

日野本 飛鳥の通称である。

強襲戦車競技での功績を讃えられてかいつの間にか呼ばれるようになったと言う。

戦場を駆け回る気高き姫・・・と言う意味合いもあるとかないとか・・・。(憑莉説)

しかし、本人はその呼び名で呼ばれるのは少し抵抗があるらしく、否定する事が多々あるらしい。

 

 

 

 

 

煉獄の魔女(れんごくのまじょ)カリエンテ

 

 

 

相良 斬子の本当の姿(設定)。

地獄の業火を自在に操れる力と魔炎の力を封じ込めてある『灼熱魔眼』を左目に持っているらしい。

とある情報によると自宅には、『地獄の番犬ケルベロス』も存在するらしい。(ツバサ説)

ちなみに自慢の真っ赤なマントは魔力を帯びているらしく、常人には身につけられない品物らしい。

 

 

 

神風作戦(かみかぜさくせん)

 

 

 

ネコさんチームの得意技の1つである。

捨て身で突っ込むフリをして、ドリフトのように回り込み敵を攻撃する作戦である。

履帯にかなりの負担を掛ける為に大事な場面でしか行わない。

この時、操縦手は飛鳥に変わり、薫は通信手に配置が変わるのが特徴である。

元ネタは、第二次大戦で旧日本軍陸海軍が体当たり戦法のため編制した、特別攻撃隊である。

 



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怒涛の連勝です!!

試合後、アンツィオの連中が流儀だと称して料理を次々に準備し始めていたのだ。

その物量と機動力には大洗のメンバー全員が驚いたように見守っていた。

着々と準備が進んで行く中で飛鳥はなにかしら嫌な感覚を察知する。

条件反射で横に避けてみるとラグビーのタックルとも言わせるような物凄い勢いで1人の女性が先程まで飛鳥の居た位置に飛び込んで来たのであった。

 

 

 

 

 

「あっ、あぁっ、飛鳥様ぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「おわっ!?なになに、この獣みたいな娘!!」

 

「私は戦姫ファン倶楽部・・・ナンバー001!!薄影 憑莉ぃぃぃぃ!!!!」

 

「飛鳥さんのファン倶楽部があった事にも驚きですけど、この人・・・かなり怖いです!!」

 

「・・・・・野獣だな」

 

 

 

ゆらっと四つん這いから立ち上がった彼女の鼻からは血が垂れていたのだが、急に腕を組んで仁王立ちをしたかと思うと自己紹介をし始めた憑莉の姿に大洗陣営は盛大に引いてしまっていた。

そんな中でもこの状況に慣れているのだろうか飛鳥は気にせずに後からやって来た人物に気がついた。

眼帯を付けた少女は近寄って来ると飛鳥の背中をいきなりバンバンと叩いたのだ。

 

 

 

「いやぁ~見事な技だったぜ!!まさか、あの状況下でドリフトしながら背後を突こうなんて思いもしなかったぜ!!」

 

「まぁ、成功するとは思ってなかったけどね。条件が揃っていたのもあったし、あの子がそっちにいるのがわかってたからもうひとつ裏を突かないとってね」

 

「ふむ、そこまで読んでの行動か・・・ノリと勢いだけじゃ全然歯が立たないって訳か、感服したぜ!!」

 

「うがぁぁぁ!!リコッタァァァァ!!貴様ぁぁぁ飛鳥様に汚い手で触れるなぁぁぁぁ!!!!」

 

「ちょっ、お前!性格変わり過ぎだろう!?!?」

 

「問答無用!!!!」

 

「おい、なにをサボってるんだ!お前達!!」

 

「「ドゥーチェ!?!?」」

 

 

 

馴れ馴れしく接するリコッタに嫉妬であろう負のオーラをぶつけようとしたが、間を割って入るように聞こえた大声に2人は我に返って声のした方を振り返った。

すると黒いマントを羽織った女性がパスタ料理を片手に現れた。

 

 

 

「もしかして、貴女が・・・安斎千代美?」

 

「違う!ア・ン・チョ・ビ・!!私のことはアンチョビと呼んでくれ」

 

「アン・・・チョビ?」

 

「ほぅ・・・ならば、我のことも煉獄の魔女・・・カリエンテ!!と呼ぶ事を許そう」

 

「「「煉獄の魔女・・・カリエンテ!?!?」」」

 

 

 

堂々としたカリエンテの登場にアンツィオ陣営が驚いたように復唱すると物珍しそうにぞろぞろと集まって来た。

当のカリエンテはと言うと誇らしげに胸を張りながら次々に投げ掛けられる質問に受け答えを返していた。

あんなに光り輝いて見えるのは、初めてみんなの前に姿を現した時以来だろう。

一時的にカリエンテのサイン会とかが執り行われたようだが、準備が整ったのか大宴会が始まった。

 

 

大宴会が始まり会場は大盛り上がりで敵同士だった学校同士が楽しげに会話を繰り広げるのが見えた。

飛鳥はと言うとみんなから少し離れた場所でぶどうジュースの入ったグラスを持って静かにくつろいでいた。

だが、そんな彼女の元に両手に料理を乗せた皿を持った生徒会長がやって来た。

 

 

 

「いやぁ~・・・今日の試合は短期決戦って感じだったねぇ~日野本ちゃ~ん♪」

 

「そうですね。その方が少しは消耗されずに済むからこちらにとっては大変助かった展開になってホッとしましたけどね」

 

「そうだね!このままどんどん勝ち進んで優勝しちゃおっか?んふ~♪」

 

「・・・・・生徒会長、いきなりですけど、どうして戦車道を始めたんですか」

 

「い、いきなりどうしちゃったの?日野本ちゃん」

 

「別に・・・しかし、何故いきなり始めたばかりの戦車道でそこまで優勝に拘るのか・・・・・ふと思いまして」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「まぁ・・・別に戦車道をするのに理由なんて色々とありますから別にいいんですけどね」

 

 

 

2人の間に少しの沈黙が続く。

勝利の余韻にみんなが浸る中で2人は無言で食事を口にしていた。

真剣な顔つきになった会長に飛鳥もこれ以上は疑問を投げ掛けないようにした。

 

 

 

「日野本ちゃん」

 

「なんです?」

 

「今は言えないけど・・・それでも・・・・・それでも!私に付いて来てくれないか?」

 

「・・・・・わかりました」

 

「すまない」

 

「あぁ~そんな顔の会長見たくないんで、いつも通りの会長でお願い出来ます?」

 

「いししっ♪ありがとね!日野本ちゃん!!」

 

 

 

2人が笑顔で乾杯を交わす中で不意に聞き慣れた着信音が鳴った。

飛鳥のモノである。

すると生徒会長はみんなの所に戻ると言う事で飛鳥は携帯に出た。

 

 

 

「はい、飛鳥ですけど・・・」

 

『今日はお疲れ様、飛鳥』

 

「あはは・・・ありがと、母さん」

 

『見事な勝利でした。ですが、最後の一撃は見過ごせません。下手をすれば、崖から落ちる可能性も・・・・・』

 

「皆の力を信じ、後悔せぬよう全力で戦え」

 

『・・・・・そう』

 

 

 

愚痴を口にしようとした稔だったが、飛鳥が口にした一言になにかを感じ取ったのか少し嬉しそうに笑った。

向こうから聞こえた微かな笑い声に飛鳥の表情も自然と笑顔になっていた。

信頼出来る仲間と戦っている・・・そして、全力でぶつかって行く。

そう・・・日野本流の信念である。

 

 

 

『ちょっと待ってなさい、焔に変わるわね』

 

「いや、あの人と電話すると耳が痛いんで結構です」

 

『ふふっ・・・でも、焔は貴女の事が一番心配なのよ?自分のせいで戦車道を止めたんじゃないかってずっと悩んでいたんだから』

 

「別に・・・焔姉ちゃんが原因じゃないよ」

 

『でも、また戦車道を始めてくれた貴女にあの子は一番喜んでいたわ』

 

「・・・・・・・うん」

 

『これからも頑張りなさい?飛鳥』

 

「・・・・・わかった」

 

『それじゃあ・・・準決勝も観に行きますから、またね♪』

 

 

 

電話が切れたと同時に大きく溜め息を吐くもぶどうジュースを一気に飲み干すと気持ちをリセットさせた。

思い出したくもなかった過去を思い出しそうになったが、そんなものはどうでもいい。

これからの未来には不必要な記憶である。

そう心に誓い自分もみんなの居る所に戻ろうとしたが、そんな彼女の元にまた着信が入る。

 

 

 

「はい、あすk・・・・・」

 

『次の対戦校がわかったよ!!』

 

「・・・プラウダでしょ?」

 

『はやっ!?そんなに速く答えだされたら私の存在意義がないじゃん!!』

 

「はぁ・・・それよりもなにか情報はないの?」

 

『次のステージが雪原に決まったみたいだね』

 

「・・・・・雪の上か」

 

『まぁ・・・向こうは前回の優勝校だから油断は出来ないね。特に「ブリザードのノンナ」には注意だね』

 

「忠告感謝する。引き続き情報収集を頼んだ」

 

『お任せあれぇ~♪』

 

 

 

そう言って携帯が切れるとすぐに何処かに電話をする。

すらすらとなにやら注文を済ませたかと思うと通話を切ってからみんなの元に向かう。

だが、飛鳥の目にはもう次の準決勝に対しての火が灯されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルノーB1bisとヘルキャット!2輌の整備完了しましたよ」

 

「準決勝前に間に合ったな」

 

「それだけじゃなくてⅣ号戦車に長砲身とちょっと外観を変えてみました」

 

「おぉ~・・・F2っぽく見えますね!!」

 

 

 

とある日、戦車倉庫内では新戦力となる2輌のお披露目が行われていた。

ちょっとした改修作業で強化されたⅣ号にあんこうチームは盛り上がっていた。

 

 

 

「ルノーB1bisの姿は見えるが、何処にもヘルキャットの姿がないぞ!!」

 

「あぁ~・・・それなんですけど、試運転も兼ねてって理由で日野本さんが何人か引き連れて走りに出ちゃいましたよ」

 

「なにっ!?私は聞いてないぞぉ!?」

 

 

 

申し訳なさそうにナカジマが理由を口にすると桃の表情は鬼の形相に変化していた。

 

 

 

「いやぁ~うちのツチヤがどうしても戦車がドリフトするとこ見たいって言うもんでぇ~すいません」

 

「そう言えば、冷泉殿もなんだかノリノリでしたっけ?」

 

「あぁ~・・・私も世界最速の戦車のドリフト味わいたかったなぁ~・・・・・」

 

「くじ引きでしたもんねぇ~・・・・・」

 

 

 

 

 

 

そんな噂のヘルキャットはと言うと・・・・・。

 

 

 

「かなり速いんだな」

 

「こう言うなにもない平坦な道なら軽く80は出るはずだ」

 

「IV号戦車の約2倍か・・・道理で速い訳だ」

 

「伊達に世界最速を誇ってないからな。しかも、念入りなチューンナップのおかげでエンジンは現役さながらって訳よ」

 

「日野本さん!!そろそろドリフトやっちゃってもらってもいいですか!!」

 

「任せとけ」

 

「根性ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「うわぁぁぁ!車とはまた違ったこの感覚・・・良い刺激ですねぇ~♪」

 

「じゃあ次は連続ドリフトを・・・」

 

「止めておけ。これ以上したら履帯以前に全体が悲鳴をあげかねないぞ」

 

「あっ!試運転だってのうっかり忘れてたな」

 

「でも、無断で試運転とか言って乗り回してるけど怒られたりしないんでしょうか?」

 

「怒られるだろうな」

 

「あっさりだな」

 

「でも、こう言う体験は悪くない」

 

「はいっ!!」

 

「そうっすね!!」

 

「うむ」

 

「3人のやる気に免じてもっかい行くぞぉ~」

 

「連続ドリフト行っちゃいましょうよ!」

 

「根性でどうにか出来ます!!」

 

「こう言ってらっしゃいますが、麻子さん?」

 

「・・・・・好きにしろ、私は知らん」

 

「うっし!!突貫!!!!」

 

 

 

日野本 飛鳥。

冷泉 麻子。

磯辺 典子。

ツチヤ。

この4名が戦車倉庫に帰還した時には鬼人となった河嶋 桃が立ちはだかったと言う。

その後の詳細を知るものはこの5人しか知られていないが、誰も話そうとはしなかったと言われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日集まってもらったのは他でもない・・・この前お願いしていた件についてだ」

 

 

 

その頃、会長はと言うと明かりも点いていない会議室に4名の生徒を呼び出していた。

 

 

 

「私はお引き受けいたします」

 

「いやぁ~・・・無理言っちゃってごめんね?」

 

「いえ、弓の腕前を見込んでもらいお誘い頂いたのですからこの責務、全力で果たしてみせましょう」

 

「ボクもこの学校・・・いや、学園艦がなくなるのは絶対に阻止したい!だ・か・ら、ボクで良ければ手を貸すよ」

 

「司令塔でもあるお前が抜けてもこの艦は沈まないのか?」

 

「緊急事態が起きない限り大丈夫だ!伊達に長年この艦を動かしているクルー達じゃないからね!!」

 

 

 

白い鉢巻をした女性は急に立ち上がったかと思うと深々と頭を下げて今回の件に賛同した。

それと同じく真っ白な海軍服を身に纏った女性は、左胸にある校章の勲章をギュッと掴むとニィッと真っ白な歯を見せて共に戦う事を誓った。

 

 

 

「はっ!!杏だけには任せておけねぇからな!特大あんこうに乗ったつもりで任せときな!!ガァ~ハッハッハッ!!」

 

「あぁ・・・みんなには本当に感謝している」

 

「そんな顔をするな、杏。我等は此処から優勝へと飛躍する為に集まった同志だ」

 

「そ、そうだったねぇ~・・・んじゃ、4人共明日から頼んだ!!」

 

 

 

すると反対側からは青いオーバーオールの雨具の女性が腕を組んで椅子にもたれたまま大声で笑い声をあげる。

その横では、糸目の女性が優しく杏の頭を撫でて微笑んだ。

こうして、4人のメンバーがこの日正式に戦車道の一員となったのだ。

 

 

 

「でも、私達が乗る戦車は5人乗りだと聞いています」

 

「そうだった!!杏、このまんまじゃ1人足んねぇぞ?」

 

「大丈夫だよ!ちゃんともう1人人材は用意できてるから安心してねぇ~♪」

 

「・・・・・くしゅんっ!!」

 

 

 

疑問に対して杏はいつものように干し芋食いながら淡々と答えた。

急なくしゃみに寒気を感じるも彼女は気にせずに『パンツァー新聞』を書き続けるのであった。

そう、知らず間に着々と進む会長の手に彼女は気付かないのであった。



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頼れる先輩方です!!

決戦前日の模擬戦。

雪の降り積もった敷地を8輌の戦車が4対4でぶつかり合っている。

最後の仕上げと言う事もあり、本番さながらの激しい攻防が繰り広げられている。

 

 

 

「うっひゃー!!終わった、終わった~・・・って、やっぱり外はさぶっ!!!!」

 

「当然だろ」

 

「飛鳥の態度も冷たいから私もっと寒く感じちゃうぞ~♪」

 

「薫先輩、気持ち悪いです」

 

「のわっ!?こ、後輩にそんなことを言われるなんて・・・・・お姉さん悲しい・・・・・」

 

「アホはほっとけ」

 

「アホちゃうわぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

と模擬戦終了後に戦車倉庫に戻って来ていつものようにアホを馬鹿にするネコさんチームではあったが、ふと全員の視線がある人物に向けられる。

そう、自然とみんなと一緒に地面に足を付いて立っている玲那にだ。

 

 

 

「「「玲那(さん)(殿)が立ってるぅぅぅぅぅ!?!?」」」

 

「・・・・・うん」

 

「い、いつから歩けるようになってたんですか!?」

 

「アンツィオ高校と・・・戦った後ぐらいから」

 

「コレは・・・奇跡!!玲那殿は神だったと言うのか!?!?」

 

「・・・・・リハビリ・・・頑張ったから。みんなの・・・役に・・・立ちたくて・・・・・」

 

「そっか・・・ありがと、玲那♪」

 

「うおおおぉぉぉ!!大洗の奇跡にばんざぁぁぁぁい!!!!」

 

 

 

まさかの奇跡に胴上げされる玲那。

そんな光景に他のチームからも嬉しい声と拍手が飛び交った。

いきなりの事に慌てる彼女ではあったが、表情は満面の笑顔だった。

 

 

一通り盛り上がった後に飛鳥は操縦の指導を任せられていた。

新たに加わった・・・ルノーB1bisのカモさんチーム、ヘルキャットのハヤブサさんチーム。

この2チームはどちらも初心者である為に次の試合までにはちゃんと動かせられるようにさせておけとの桃ちゃんからの指示である。

カモさんチームはまだ不慣れな感じが見えており、模擬戦でも上手く動けていなかった。

しかし、ハヤブサさんチームは本当に初心者なのだろうかと言う慣れた操縦性を持っているのであった。

 

 

 

「モヨ子さんはもう少し落ち着いて判断したらもっと上手く動かせられると思うからなるべく試合中はリラックスしてね」

 

「は、はい!!」

 

「不知火さんは申し分ないですね。後は、明日の実戦で活躍してもらうってだけですかね」

 

「貴殿の期待に沿えるように精進しましょう」

 

 

 

仙道の主将でもある・・・不知火 京華(しらぬい きょうか)。

会長と同じクラスメイトで今回ヘルキャットの操縦手として推薦された1人である。

普通の人とは違うオーラを感じるのは気のせいだろうか・・・。

 

 

などと心の中で感じているとふらふらっとすがりよるようにある人物がやって来た。

それは、疲れ果てた表情で座り込む戦友・・・文の姿である。

 

 

 

「もう・・・無理ぃ~・・・」

 

「通信手の仕事はどうだ?」

 

「楽な仕事だと思ったのにかなり気をつかうよ。仲間の近状報告、指示伝達、他にも色々と臨機応変に動かないといけなくって疲れちゃうよ」

 

「それでも十分対応出来てるんなら大したもんだよ」

 

「まぁね。けど、あの人達もかなり順応していると思うよ?」

 

 

 

ペットボトルに入った水を飲みながら文が指を示す先には華と他愛もない話をして笑う女性が居た。

 

 

 

「玖琉院 魅哉(くりゅういん みかな)さん。弓道の名手として学校でも一目置かれた名の知れた人物だよ。趣味が、流鏑馬なんだってさ」

 

「そうか・・・なんとなくあの人の命中精度が良かった理由がなんとなく理解出来た」

 

「えっ?なんか意味があるの?」

 

「自分の考えた例でしかないが、弓道と砲手は割と似ているんだと思う。それに馬の上で射抜く技術と戦車の中で射抜く技術も似ているんだと思う」

 

「へぇ~・・・それならあの人だけ専売特許って訳じゃないか」

 

「あぁ・・・それを見越した上で推薦したのかもしれないな」

 

「あの生徒会長がそんな事考えるかぁ~?」

 

「案外考えているかもしれないぞ」

 

 

 

そう言って飛鳥がグイッと後ろを親指で示すとそこには砲弾を両肩に担いで笑いながら歩いている女性が居た。

 

 

 

「あぁ・・・あの人は水産科の鮫島 岬(さめじま みさき)さん。またの名を『歩くポセイドン』だね」

 

「歩く・・・ポセイドン?」

 

「そっ!水産科一の力持ちなんだっさ!なんてったって一本釣りで3m近いマグロを釣り上げたとか・・・・・」

 

「力だけじゃなく持久力、集中力、気力・・・・・すべて兼ね揃えてるって訳ね」

 

「ちなみに噂話なんだけど、か・な・り!の甘党らしいよ」

 

「それなら今度お気に入りのエクレアでも紹介してみるか」

 

「おや~もしかしてボク達に興味があるのかい?日野本さん♪」

 

 

 

ふと2人の間に割って入るように真っ白な海軍服を着た女性は自分の顎に手を添えてニヤリと笑っていた。

 

 

 

「まぁ、そうですね。興味があるかないかと聞かれたらありますね」

 

「良かろう!それならボク達の共通点でも教えようか?杏とは皆、親友なのだ!1年の時から支え合いながら今まで過ごして来た・・・まぁ、仲良しな連中って訳さ」

 

「確か・・・東郷先輩は、船舶科でこの学園艦の艦長と言うか提督でしたよね?」

 

「あぁ、そうだ!それとボクの事は三笠と呼んでくれ!!」

 

「は、はぁ・・・・・」

 

 

 

グイッと顔を近付けて自分を主張してくる三笠に流石の飛鳥も引き攣った笑みで返事を返した。

なにわともあれハヤブサさんチームのメンバーはかなりの逸材揃いである事が理解出来た。

 

 

 

 

 

放課後。

暗くなった学校の中を飛鳥は、台車に色々なモノを積んで戦車倉庫の前にやって来ていた。

誰かと一緒と言う訳でもなく1人でだ。

 

 

静まり返った戦車倉庫に入ってある作業をしようとしていたのだが、中にはなんと先客が居た。

そう、ハヤブサさんチームの3年生4人組である。

 

 

 

「皆さんなにをされてるんですか?」

 

「おっ!姫じゃねぇか!!お前さんは何しにココに来たんだい?」

 

「その呼び方やめて下さいよ。これは明日の勝つ為の下準備ですよ」

 

「それなら私達もお手伝いしますわ」

 

「そうだな、我らも力を貸しても良かろうか?」

 

「う~ん・・・・・じゃあ、お願いします」

 

「そんじゃ、ボクに続けぇ~!!」

 

 

 

そう言うと三笠を先頭に3人は運び出された台車の中身を確認する。

 

 

 

「白色のペンキ?」

 

「コレで戦車を白色に塗装するんです。明日の決戦の地は雪原・・・しかも、夜戦になるでしょう。ですから、地の利を得る為に雪の色と同化出来るように真っ白に染め上げるんです」

 

「この大きなリュックはなんだぁ~?」

 

「その中身には、防寒グッズ、非常食、他にも色々と用意しています。今回は初めての雪の中での戦いですから何が起きるかわかりません。いつもとは違った気候に士気が下がらなければいいんですが・・・・・」

 

「用意周到ですね」

 

「これぐらいしてもまだ足りていないと思います。しかし、これを1輌にだけ積み込むのは少々難しい気がして・・・・・」

 

「それならば我らの車輌も使えば良い。それと我々の車輌も白く染めようか」

 

「それなら助かります。奇襲に適したヘルキャットをカモフラージュさせておく事には使い道がありそうですからね」

 

 

 

塗装作業を始めると人数も多い為に順調に2輌が白く染まっていった。

ワイワイと楽しく作業をしていた5人ではあったが、飛鳥はある一言を急に口にする。

 

 

 

「会長はアタシ達に何を隠しているんですか」

 

 

 

そんな一言で全員の作業の手が止まった。

騒いでいた事さえなかったかのように倉庫内に聞こえてくるのは、飛鳥の作業音のみ。

飛鳥は、それ以上話題を振る訳でもなく黙々と作業を進めた。

 

 

 

「杏からは何か聞かれましたか?」

 

「今は言えない・・・っと」

 

「そうですか」

 

「姫が気になるんなら教えてやんぜ?」

 

「おい、岬!!」

 

「良いじゃねぇか?アイツだって隊長には伝えるって言ってただろう」

 

「みほにか・・・それならアタシも聞いておく必要がありそうですね」

 

 

 

飛鳥の真っ直ぐな瞳を目の当たりにした岬以外の3人も大きく深呼吸をすると決心したのか重い口を開いた。

 

 

 

「我が校は廃校になるんです」

 

「また廃校なんて突拍子もない話を・・・」

 

「学園艦は、維持費も運営費も掛かるからね!全体の数を見直す事で学園艦統廃合の方針を文部科学省の人達が決めたんだよ」

 

「この大洗は近年生徒数の減少傾向にあったし、目立った活動実績が無いって理由で目を付けられたんだとさ」

 

「けど、なぜ戦車道に会長は目を付けたんですか?」

 

「昔、大洗は戦車道が盛んだったみたいです。確か・・・20年くらい前ですけど・・・」

 

「あっ、それアタシのお母さんが現役だった頃」

 

「ふっ・・・運命か」

 

「と言う訳であの子は戦車道で優勝をして廃校を免れようとしているんだよ!」

 

「それじゃあ貴女達が今回チームとして参加するのに応じたのも・・・・・」

 

「「「廃校を阻止する為!!」」」

 

 

 

4人の意思はかなり強い絆で結ばれているのか同時に言葉が重なり響き渡った。

そんな光景になんの言葉も返さずに飛鳥はまた作業を再開する。

反応を示さない飛鳥だったが、真剣に塗装作業をする彼女の背中を見ると他の4人も再開した。

 

 

 

「任せましたよ、飛鳥さん」

 

「期待してるぜ!姫!!」

 

「貴殿の力・・・頼りにしている」

 

「今回も勝とうぜ!!日野本さん!!」

 

「絶対に勝ちますよ・・・この大洗の為にも!!」



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激闘!プラウダ戦です!

「いやぁ~・・・ついに準決勝かぁ~!!こうなんだか心が躍るぜぇ~!!」

 

「本当ですね!私達がココまで来れるなんて思いもしませんでしたよ」

 

「それもこれもみほちゃんと飛鳥のおかげだねぇ~♪」

 

「・・・・・へぇっ?」

 

「・・・たくっ、試合前からみほを困らせる事言ってんじゃねぇよ」

 

「あれ?飛鳥の戦車真っ白になってない?」

 

「これか?昨日仕上げたんだよ、ハヤブサさんチームと一緒にな」

 

「だからハヤブサさんチームも真っ白になっていたんですね、理解しました」

 

 

 

試合前と言う事もあり、緊張感に包まれてしまうのかと思ったが大洗のメンバーはその雰囲気すら見せずにいつもと変わりない雰囲気である。

但し、今回初参戦とも言えるカモさんチームは緊張を隠せないのか強張った表情で遠い景色を見つめている様子だ。

それに対してハヤブサさんチームは、やはり上級生だからだろうか落ち着いて戦車の最終チェックを声を出し合いながら行っていた。

 

 

 

「やっぱり上級生にもなると貫禄が見えますね!!」

 

「まぁ全員各自の分野ではエキスパートだからなそう簡単には臆さないだろう・・・1人を除いてな」

 

「あははは・・・・・」

 

 

 

飛鳥の視線の先では、ぽつんとヘルキャットの車体の上に体育座りをして黄昏る文の姿があった。

上級生に囲まれて1人疎外されているように見える彼女に流石の優花里も引き攣った笑みを浮かべていた。

 

 

 

「・・・飛鳥、お客みたいだぞ」

 

「んっ?アタシにか?さすがにプラウダに知り合いはいないはずなんだが・・・・・」

 

「・・・でも、一目逢いたいって・・・」

 

「はぁ・・・めんどくせぇ」

 

 

 

まさかの来客にめんどくさいながらも顔だけを合わせようと2人の後ろに付いてその人物の元に向かった。

しかし、後姿を見ると麻子と玲那がそっくりで少しクスッと笑ってしまいそうになったが、そこは我慢をしておいた。

すると2人に案内された先には凛とした女性が凄い目力で待っていた。

 

 

 

「貴女が・・・日野本飛鳥さんですか?」

 

「そうだよ」

 

「私は『雪上のジャンヌダルク』ことミレイアでございます!!」

 

「はぁ・・・・・」

 

「本日は戦姫とも呼ばれていられる貴女様に果たし状を送りに来ましたの!」

 

「却下」

 

「うえっ!?なっ!?なんでですか!?」

 

「いや、単純に考えてそれはめんどくせぇだろ」

 

「そ、そんな理由で私との勝負からお逃げになるのですか!?!?」

 

「はぁ・・・・・ったく、これだけは言っとくよ」

 

「な、なんですか?」

 

「大洗は・・・負けないから」

 

「ふふふっ・・・その自信をこの私の手でズタボロに引き裂いてあげます!!」

 

「へぇ~・・・楽しみにしてるよ」

 

 

 

去り際に2人の視線が合えば、じりじりとした火花が見えたような気がしたがお互いに背中を向け合うとお互いの陣営に戻った。

 

 

 

「・・・日野本さん、西住さんがブリーフィングだって言ってた」

 

「ほいよ」

 

「・・・それでさっきのはどんなヤツだったんだ?」

 

「革命児・・・かな?」

 

 

 

 

 

「そろそろ準決勝・・・あ、あぁっ、飛鳥様の試合姿が見られる!!」

 

「あぁ、そうだな・・・って、汚っ!?鼻水垂らしたまま泣くな!!」

 

「そんなの気にしてなんていられますか?ってか、なんで牛乳野郎がココに居るのよ!?」

 

「WHY?根暗ガールにそんな事を言われる筋合いはありませ~ん!!」

 

「エクレール様賑やかな方々ばかりですね」

 

「くっ・・・他人事のように言ってらっしゃらないでお止めになって下さいません?フォンデュ」

 

 

 

アンツィオ戦とはまた違ったメンバーで集まって観戦をしているのだが、犬猿の仲である2人のやり取りにエクレールは胃薬を片手にフォンデュに指示を出していた。

そんな彼女達の横には、優雅に紅茶を嗜むダージリンと惨劇に引き攣った表情のオレンジペコも同席していた。

 

 

 

「にしても、この寒さは尋常じゃないな・・・大洗の連中は大丈夫なのか?」

 

「飛鳥様でもこの戦況はあまり実戦されてはいません。それに他のメンバーは素人同然です。圧倒的に大洗が厳しいのは変わりないでしょう」

 

「Oh~StrangeTankが居ますね」

 

「そうですわね・・・前の試合とは違ってチャーフィーのカラーが真っ白に・・・それとヘルキャットも」

 

「なにかの作戦でしょうか?ダージリン様」

 

「ふふっ・・・見ていればおのずと見えて来るわ。それまではお預けと言った所かしら」

 

「・・・・・はぁ」

 

 

 

 

 

 

「しゃ、しゃぶい・・・こ、このままだと凍え死んじゃうよぉ~・・・・・」

 

「いつもの中二病のキャラすら忘れて素を越えたキャラが出来上がってないか?アイツ」

 

「斬子ちゃん朝も弱いんですが、寒いのにも滅法弱いみたいで最近なんて布団に包まって芋虫みたいになっていましたから」

 

「じゃあアイツは通信席に置いとくとして、ツバサ!!」

 

「はい!!」

 

「カリエンテ様の分も今日は頑張れそうかな?」

 

「はい!!一応筋トレも欠かさず練習メニューに取り組んでおきましたので申し分ないと思います!!」

 

「じゃあ他はそのままで行くから準備を頼んだ」

 

 

 

カタカタと震えながら通信席に座るカリエンテを横目にネコさんチームは準備に取り掛かっていた。

各々チームが試合前の準備をする中でカメさんチームに個人的に通信が入る。

 

 

 

「会長!ハヤブサさんチームから通信が・・・・・」

 

「・・・わかった、繋いでくれ~」

 

『杏!やっとお前との約束が果たせる時が来たぞ!!』

 

「いやぁ~みんな悪いねぇ~・・・・・私のわがままみたいなもんに付き合わせちゃってさ」

 

『我が校の危機だ・・・助太刀をするのは友として当然の事であろう』

 

『去年の優勝校相手に初陣だが、あたい達の絆の力にゃあ勝てないだろうさ!!』

 

「負けたら・・・最後」

 

「河嶋~そんな暗い事言うな~」

 

「そうだよ、桃ちゃん!弱気になったらダメじゃない」

 

「うぅ・・・柚子ちゃ~ん」

 

「まだ決勝も残ってるんですからこんな所で止まる訳には行きませんわね」

 

『その通りだ!!我々の物語はまだまだ終わらんぞぉ~!!』

 

「「「大洗ぃぃぃファイトォォォォォ!!!!!」」」

 

 

 

カメさんハヤブサさんチームから魂の叫びのような雄叫びが鳴り響くが、それは試合開始前のエンジン音で他のメンバーに聞こえる事はなかった。

ただ、廃校の件を事前に聞いている飛鳥の目には炎のような熱きモノが秘められているのにネコさんチームは気付いていなかった。

 

 

試合開始と同時に全車輌は固まり、北東へと迅速に前進をしていた。

殿はあんこうチームが務め、後方の守りはネコさんチームが配置されその中を他の車輌が固まった陣形である。

まだ試合開始直後の為に後方で特になにもする事のないネコさんチームは暇を持て余していた。

 

 

 

「まだ交戦には時間は掛かるはずだ。各自、体が冷えるだろうから用意してあるバッグからなんでも使って良いから暖まっておけ」

 

「バッグ・・・?コレの事か?」

 

「毛布、耳あて、ミット帽・・・本当に色々とありますね」

 

「ふふふっ・・・流石覇王!このような貢ぎ物を用意しているとは感泣至極じゃ」

 

「・・・・・煉獄の魔女・・・復活」

 

「でも、芋虫スタイルのままだからなんか変な格好ですね」

 

「・・・・・芋虫の魔女」

 

「なっ!?炎の魔力に満ち溢れた・・・我こそが煉獄の魔女カリエンテ!!!!・・・・・へっ、へっくち!!!!」

 

 

 

飛鳥は魔法瓶の水筒に用意していたホットココアを飲みながら前を走るみんなの後姿を細い目で眺めていた。

その後、一回戦車内に戻ると少しだが、震えながら無言で操縦している薫に目が留まった。

 

 

 

「ほれ」

 

「えっ?飛鳥」

 

「寒いんだろう?」

 

「そ、そんなことないって!!私はこれぐらいへっちゃら・・・・・へっぶし!!」

 

「説得力なさすぎだし、ホットココアならあるから飲むか?」

 

「えへへ・・・恩に着る」

 

「お前に風邪引かれたら困るからな」

 

「えっ!?そ、それって・・・・・///」

 

「血反吐を吐いて動けなくなるまで働いてもらわないと困るからな」

 

「怖っ!?えっ、私ってそこまでさせられるの?」

 

「あぁ」

 

「無表情で酷っ!?!?」

 

「覇王よ!乳眼鏡から接敵したとの報告があったぞ」

 

「乳眼鏡?」

 

「・・・・・沙織の事」

 

「あぁ・・・わかるわ」

 

『飛鳥ぁぁぁぁぁ!!!!』

 

「はぁぁ・・・・・なんでもないです」

 

 

 

喉頭マイクに聞こえないように舌打ちをする飛鳥の姿にネコさんチームは苦笑いになっていた。

だが、カリエンテには低い声で怒鳴る沙織の声が耳に響く為に目を細めながら引き攣った笑みを浮かべていた。

 

 

後方で上手く展開のわからないネコさんチームは、ヘッドホンから聞こえる味方からの声を頼りに情報を得ていた。

 

 

 

「エネミー2体を屠ってやったようだ・・・我が軍は、やはり覇道の導きによって最強の加護を付与されている!!」

 

「先輩!!このままどんどん突き進んで勝負を決めちゃいましょう!!」

 

「・・・・・怪しい」

 

「えっ?どうしてですか」

 

「向こうの隊長はプライドが非常に高いって文から聞いたんだ・・・そんなプライドの高いお嬢様が自分の戦車をみすみす撃破させるような事をすると思うか?」

 

「じゃあ・・・・・コレって・・・・・」

 

「罠だ」

 

 

 

そう思った時には遅く、ヘッドホンから急に活気溢れる各々の発言に飛鳥はすぐにキューポラから顔だけを出す。

すると勇猛果敢に前進して行く仲間の姿があった。

しかし、ヘッドホンから聞こえて来るみほの声は静止を願う言葉であった。

 

 

 

「遅かったか・・・・・」

 

「あんこうチームも味方の後を追うように進行を始めたみたいですけど、どうしましょうか?」

 

「それなら我が軍も味方に続いて・・・!!」

 

「いや、アタシ達はこのままで良い」

 

「けど、フラッグ車も前進しちまってるんだよ?私達1輌じゃなんにも出来ないんじゃ・・・・・」

 

『横入り、構わないかい?』

 

 

 

ネコさんチーム内で話し合いが始まろうとした所にネコさんチームの回線にハヤブサさんチームの三笠が割り込んで来たのである。

 

 

 

「あれ?全車輌は前進したんじゃ・・・・・?」

 

『ふっふっふっ・・・ボク達は飛鳥くんの指示がない限り動かないように指示を受けているからね』

 

「なぁっ!?覇王はこの展開を予知していたと言うのか・・・・・くっ、我には先読みの予言はなかったと言うのに・・・!!!!」

 

「そんなんじゃねぇっての・・・他の作戦の為に事前に動いてもらってただけだ。まさか、そのおかげでこの2輌だけが残るとはな」

 

「・・・・・本隊が包囲された」

 

「作戦よりも援護に向かうのが先か・・・ハヤブサさんチームはこちらと並走して付いて来てくれ」

 

『心得たぞ!!』

 

 

 

ヘッドホンから聞こえる本隊のSOSの声に2輌は急ぐように雪原を駆ける。

少しすれば、窮地に立たされている仲間を姿を発見し、車内にはピリッとした緊張感が走る。

しかし、飛鳥の口からは想像もしない一言が飛び出した。

 

 

 

「攻撃はせずあの大木の手前に停車!援護射撃は一切するな!!」

 

 

 

飛鳥の言葉に他のメンバーは驚いたような表情を見せるが、飛鳥の表情は一切変化はなくキューポラから上体を出すと双眼鏡を使い本隊の様子を探り始めたのであった。

 

 

その行動に車内はざわめくが飛鳥は双眼鏡を覗きながら話し始めた。

 

 

 

「味方を見捨てて呑気に索敵か・・・・・って、思ってるのか?」

 

「い、いや・・・そんなことはっ・・・!!」

 

「私はちょっと拍子抜けしたかな~・・・いつもの感じなら一気に突っ込んで敵のフラッグ車をパパッと仕留めて私達の勝利!!って、感じに決着するはずなのにさ」

 

「・・・・・それは、本当に言ってるのか?」

 

 

 

いつものように薫がおちゃらけた意見を言ってからその後に飛鳥からの罵倒やらツッコミがあり、終わる茶番劇のはずだった。

しかし、双眼鏡から目を離し車内に戻って来た飛鳥の目は笑っておらず、いつもと違う飛鳥にメンバー全員に緊張感と共に初めてみた飛鳥の表情に恐怖していた。

 

 

 

「・・・・・日野本さん」

 

「・・・・・悪い、忘れてくれ」

 

「飛鳥先輩・・・今日はなにか変ですよ?いつもみたいじゃないと言いますか・・・・・」

 

「う、うむ!覇王と言うよりも今の御主は魔王と言っても過言ではない!!」

 

「斬子ちゃん・・・それ、どう言う意味?」

 

「はあぁぁぁ・・・・・わかったよ、アタシの知っている事をすべて話す」

 

 

 

自分を心配してくるメンバーに気を張ってた自分がバカバカしくなって来たのか大きく息を吐くとかくかくしかじかでメンバーに自分の知っている事をすべてを話した。

 

 

 

「わ、我が母校が闇の力に呑み込まれ消滅せし・・・だと!?!?」

 

「・・・・・知らなかった・・・この戦いにそんな意味が・・・あったなんて」

 

「会長は言わなかったんだと思う。言えば、動揺する者も出るだろうし、気弱になってしまう者も出るだろうと思って黙っていたんだろう」

 

「そんな・・・こんな事・・・残酷すぎますよ」

 

「けどよ!勝てばいいんだろ?」

 

「口では簡単に言えるが、今の戦況は劣勢だ。本隊は敵の包囲網に完全に捕らえられている。そして、こちらの動ける車輌は2輌。それに加えてこちらは敵のフラッグ車すら未確認のままだ。この状況下での勝率は0%に等しいんだ」

 

「そ、それは・・・そうだけどさ」

 

 

 

飛鳥の言葉に全員悔しそうに唇を噛み締めるしか出来ずにいた。

しかし、そんな状況下の中とある通信をキャッチした。

 

 

 

『ネコさんチーム!ハヤブサさんチーム!応答お願いします!!』

 

「こちら、ネコさんチームだ。沙織、どうかしたのか?」

 

『こちら、ハヤブサさんチーム!全員無事だよー!!』

 

『2チームとも無事だったんだぁ~!!良かった~こっちにいないから途中でやられちゃったんじゃないかと思っちゃったじゃん』

 

「そんな簡単に倒されるかよ・・・っで、そっちはどうなんだ?」

 

『先程、プラウダの生徒さん方がやって来られまして降伏通達をお伝えに来られました』

 

「なぬっ!?!?我が暗黒紅蓮騎士団が戦わずして屈するだと!?!?」

 

「どんな名前だよ、私達の」

 

「・・・・・降伏するのか?」

 

『・・・降伏はしません』

 

「じゃあ・・・どうする?」

 

『敵の正確な位置を把握する為に偵察を出してみようと思います!そちらからも偵察をお願いしても良いですか?』

 

『まっかせておきなさ~い♪』

 

「そっちに食料や防寒グッズはあるか?」

 

『・・・・・ない』

 

「それなら至急救援物資がいるな・・・すぐに持って行くから待っとけ」

 

 

 

一通りやり取りを済ませると通信を切った飛鳥の表情にはいつものような雰囲気が戻って来たような気がした。

 

 

 

「アタシと薫と鮫島さんと三笠さんで救援物資を運ぶ。ツバサと玲那と文と不知火さんで偵察をお願いします。他のメンバーは外に簡易テント設置して待機しておいて下さい」

 

「「了解!!」」

 

『『了解!!』』

 

「それじゃあ・・・これより、起死回生作戦を実行します!!!!」

 

 



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背水の陣です!!

「あっはっはっ!!さすがは姫だな!用意周到だなぁ~!!」

 

「念の為に後方部に予備分を取り付けておいただけです。それよりも、何故ハヤブサさんチームにも予備分があったんですか?アタシは指示していませんでしたが・・・・・」

 

「不知火の勘だよ♪アイツの勘はこれまで外れた事はなかったからね!飛鳥くんの真似事をしてみて取り付けておいたって訳さ!!」

 

「まぁ、これだけの物資があれば本隊の士気も下がらずには済みます。・・・・・おい!遅れたら放って行くぞ?」

 

「いやいやいや!!なんで私だけリュック2個なの?可笑しくない?鮫島さんは分かるよ?なのになんで非力な私に2個ってかなり無理があると思うんですけど!?!?」

 

「つべこべ言わず歩けよ・・・駄犬」

 

「えええっ!?犬なの?私、飛鳥の犬に成り下がったの!?い、いや・・・待てよ!それならこれからは犬としてあんなことやこんなことも・・・・・ぐっへっへ・・・・・」

 

「アイツなんか涎を垂れ流しながら歩いてるけど大丈夫なのかい?」

 

「はい、いつも通りなんで気にせず先に進みましょう」

 

「あはは・・・平常運転ねぇ~・・・・・」

 

 

 

救援物資を運送中の4人は1列になって目的地である本隊の場所へと向かっていた。

しかし、先頭を歩いている飛鳥のリュックには真っ赤な旗が突き刺さっていた。

なんの役に立つかと言うと・・・・・。

 

 

 

『飛鳥さん、前方に敵影があります。少し右側に迂回しながらまた前進して下さい』

 

「了解しました。玖琉院さんも引き続き遠方からの指示出しをお願いします」

 

 

 

連絡が来たのは、戦車にて待機をしている中で一番視力の良い玖琉院からである。

戦車の位置から敵影をざっくりと見えるらしく、玖琉院はナビ役を任せられたのだ。

目印である赤旗を中心に敵影に接近しないように事前に指示を受けて救援物資部隊は動いていた。

そのおかげで、飛鳥達一行はトラブルもなく本隊の元へと向かえている。

 

 

 

 

その頃、偵察部隊は・・・。

 

 

 

「この辺りも傾斜がありますね・・・要注意箇所・・・と」

 

「・・・ここからなら敵車輌もかろうじて確認出来ます」

 

「向こうは油断しきっていますからこの短い間に地形を把握し、有利な位置を探しておきましょう」

 

「はい・・・敵車輌の偵察は本隊のみんながしてくれるみたいだから・・・・・私達は日野本さんにお願いされた事をしましょう」

 

 

 

玲那と不知火は、広範囲の地形の偵察をしていた。

飛鳥曰く、『地形も最大の武器となる』との事らしく2人は止まる事無く雪原の中をもくもくと走り回っていた。

 

 

 

 

そして、もう一方の偵察部隊はと言うと・・・・・。

 

 

 

「ブリザードのノンナってどんな人なんですか!?」

 

「長身でサラッとした黒髪で無表情だよ!!」

 

「わ、わかりました!!・・・て言うかバレてるみたいですけど、大丈夫なんですか!?!?」

 

「戦姫の手の者め!!今すぐに止まりなさい!!」

 

「体力ある方?」

 

「自信はありますけど・・・」

 

「それなら諦めずに走るのよぉぉぉ!!」

 

 

 

ツバサと文は、プラウダの主力とも言われている『ブリザードのノンナ』とも言われているノンナが何処に居るのかの確認であった。

しかし、突如として現れたミレイアに目を付けられて現在逃走中である。

必死に逃げる2人だが、目的は忘れずに辺りの警戒は続けていた。

 

 

 

「吹雪いて来た・・・偵察に出てるみんなも心配だけど、補給物資を持って来てくれる飛鳥さん達は・・・・・」

 

「アタシ達がどうかしたか?」

 

「飛鳥さん!?それに・・・偵察のみんな」

 

 

 

噂をすればなんとやら、補給物資隊とそれに別々に偵察に出していた偵察部隊も難なく本隊に集まる事が出来た。

ちなみにツバサと文が汗だくだったのは事情を聞いて納得した。

 

 

 

「あの雪の中でこんなにも詳細に・・・」

 

「しかも、地形の深さ、遮蔽物、乗員もリサーチされてるなんて驚いたな」

 

「我々は命を全うしたまでだよ」

 

「その通りであります!」

 

「これも勝つ為なら最善を尽くすまでよ」

 

「頼れる仲間で助かったぜ!」

 

「はい、これで作戦が立てやすくなりました♪」

 

 

 

完成された完璧な地図を土台に作戦会議が始まった。

その奥では、大きな鍋でなにやら料理を作り始めていた。

 

 

 

「あの・・・なにをお作りになるおつもりなのですか?」

 

「あぁ・・・豚汁だよ!あたいだけで作るにゃあ荷が重いからさぁ~手を貸してはくれないかい?」

 

「わかりました!!根性でやるぞぉぉぉ!!!!」

 

「「「おおぉぉぉ!!!」」」

 

 

 

一同が一丸になって豚汁作りが開始された。

そんな光景に作戦会議をしているメンバーも気になるようだ。

 

 

 

「アレは全部日野本の私物なのか?」

 

「そうですよ。この日の為に一応用意出来る物はすべて用意しました」

 

「だ、大丈夫なの?あの・・・お金とか・・・・・」

 

「心配なく、学校がなくなるよりは損害は少ないと思います」

 

「飛鳥さん・・・貴女・・・・・」

 

「えぇ・・・すべては三笠さん方から聞いています」

 

 

 

飛鳥の真剣な表情に生徒会のメンバーは伏せるように俯いてしまい、横に居たみほはどうしたらいいのかわからずに見守る事しか出来ずにいた。

しかし、飛鳥は大きく息を吐くとこう呟いた。

 

 

 

「廃校なんてアタシが意地でも阻止してみせます」

 

「日野本ちゃん・・・・・」

 

「だから、アタシは全力で戦います。全身全霊で・・・・・」

 

「うん、私達が大洗を勝利に導きましょう!!」

 

「ありがとう・・・2人共」

 

 

 

2人の今までにない熱意に生徒会のメンバーも勇気付けられたのかさっきまでの雰囲気とは違った顔つきに変わっていた。

そして、作戦も決まったメンバーは出来たてアツアツの豚汁をみんなで囲んで楽しむのであった。

 

 

 

「かあぁぁぁ~・・・冷え切った身体に豚汁が染み渡るぅぅぅぅぅ!!!!」

 

「キモいぞ・・・薫」

 

「ズサッと胸に来る一言も無表情で言うんじゃないぞ、麻子ぉぉぉ!!」

 

「はいはい」

 

「お前、罰ゲームであんこう踊りな」

 

「えええっ!?!?そ、それは・・・飛鳥が踊ったら踊ってやらぁぁぁ!!」

 

「ほぅ・・・上等!女に二言はないな?」

 

「へんっ!どうせ、飛鳥は口だけであんこう踊りなんて・・・「薫先輩っ!!」・・・へっ?嘘でしょ?」

 

 

 

この場に居た全員が目を疑った。

そう・・・飛鳥が真剣な表情であんこう踊りを舞っているのだ。

しかも、キレッキレの振り付けで・・・・・。

 

 

 

「アタシはあんこう踊りを恥と思った事は一切ない!!小さな頃からあの舞台には何度も立っていたからな!!」

 

「謀ったな!飛鳥ぁぁぁ!!」

 

「・・・・・見事に策に嵌ったな」

 

「にしても、飛鳥が本当に踊り出すなんて思わなかったよね」

 

「アレは・・・皆を盛り上げようとしているように私は見えますよ」

 

「盛り上げる・・・ですか?」

 

「そうさ!始まる前までは押せ押せムードだったのに今は叩きのめされてこの状況さね!アイツは隊長らしく皆の士気を上げようと必死なのさ!!」

 

「飛鳥・・・さん・・・っ!!」

 

「えっ!?みぽりん!?」

 

 

 

同じ隊長として意を決したのかみほも駆け寄って来て飛鳥と一緒にあんこう踊りを始めたのだ。

その光景に最初は戸惑うメンバー達だったが、1人また1人と踊る人数は増えて行き、いつの間にか全員で踊っていた。

踊っているみんなの表情には先程までの暗い顔はなく満面の笑みで躍る姿があった。

しかし、その踊りはいつの間にか居たプラウダの生徒の呼び掛けにより、中断させられてしまった。

 

 

 

「もうすぐタイムリミットです!降伏は・・・「しない」・・・っ!?」

 

「全力でお相手すると伝えておいてくれ」

 

 

 

プラウダの生徒の言葉を遮るように飛鳥が鋭い目つきで自分達の答えを口にするとビクッと怖がったようにプラウダの生徒はたじろぐ。

そんな彼女の耳元にそっと顔を近付けて宣戦布告を告げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「覇王よ、よくぞ我がもとに舞い戻ったな!褒めて使わす!!」

 

「芋虫のままで言われても迫力ないぞ」

 

 

 

任務を済ませた飛鳥一行は戦車の元に辿り着くとお互いに戦車に乗り込んだ。

しかし、最初とは違い。今回は飛鳥が砲手のスタイルである。

 

 

 

「全員作戦内容は把握したか?」

 

「ネコさんとハヤブサさんで出て来る仲間を全力サポートだろ?」

 

「フラッグ車とか距離が反対側だからな。無理に狙いに行こうとすれば、こちらが先に迎撃されて本隊を危険に晒してしまうからな」

 

「まずは、敵の主力を削ぐ事ですね」

 

「そう言う訳だ。激しい撃ち合いになるのは必須事項だ。カリエンテ様の装填スピードが勝敗を分けるから本気を頼むぞ」

 

「ふっふっふっ・・・ここまで暖めてきた灼眼を解放する時が満ちた・・・と言う事か」

 

「ツバサと玲奈は・・・臨機応変に頼む」

 

「はい!」

 

「・・・わかった」

 

 

 

エンジンも暖まったの確認するとハヤブサさんチームに合図を送り、2輌はゆっくりと前進を始める。

それと同時刻に本隊も準備が整ったのか、後は合図を待つのみになった。

 

 

 

「みほ!」

 

『はい!それでは、これから敵包囲網を一気に突破するところてん作戦を開始します!!パンツァー・フォー!!』

 

『援護射撃開始!!!』

 

「喰らいやがれぇぇぇ!!!」

 

 

 

本隊が飛び出したと同時に敵の砲撃が飛び交う。

しかし、敵は気付いてはいなかったその背後に忍び寄る影に・・・。

 

 

 

「えっ?ノンナ!!敵がこっちに向かって来てるじゃない!?」

 

「そのようですね」

 

「なんで貴女はそう呑気なのよ!!」

 

「カチューシャ様!背後に敵影が・・・」

 

「そんな訳ないわ!敵は正面に全車輌いる・・・って、本当に居るじゃない!?!?」

 

 

 

まさかの出来事に慌てふためくカチューシャ。

その間に大洗本隊は勢い良く間を擦り抜けて行く。

無事ハヤブサさんチームも合流に成功し、本隊はそのまま敵陣営を走り抜ける。

しかし、そこにはネコさんのチームはなかった。

 

 

 

「正面に4輌、後方からも4輌来てるって!みぽりん、どうする?」

 

「・・・・・うーん」

 

『正面の4輌引き受けたよ!ハヤブサさんチーム、援護射撃お願い出来る?』

 

『背中を護るのくらいお安い御用さ♪全車輌撃破目指しますか!!』

 

『上手くいったら後で合流するね!じゃあ、西住ちゃん!お願いね!!』

 

 

 

そう言うとカメさんチームとハヤブサさんチームは前方に展開している4輌に突貫するのであった。

そんな2輌をみほは悲しそうな目で見送る事しか出来ずにいた。

 

 

 

「海原」

 

「はい」

 

「頼んだよ」

 

「その心強いお言葉!この海原花蓮、全力で参りますわ!!」

 

 

 

信頼せし者からのエールに力を授けられた花蓮は、白色のレースの手袋を深く食い込ませると照準器を覗き込んだまま嬉しそうに笑った。

敵の砲撃から避ける様に動き回る中でも花蓮は躊躇なく砲撃を続ける。

通り抜けざまに履帯を破壊したり、ウィークポイントに的確に砲撃は命中している。

それに・・・危なくなった時には、ハヤブサが舞う。

 

 

 

「一撃必中」

 

「やるじゃないかぁ~魅哉!」

 

『さんきゅ~♪』

 

「当然です。この程度ならまだ朝飯前です」

 

「言うじゃないかい?じゃあアイツ等に楽させてやるかい?」

 

「任せてください」

 

 

 

フルスロットルの最中でも的確に砲撃を当てる魅哉に対して車内の全員が感心していた。

しかし、フルスロットルのヘルキャットを容易に操縦している京華も流石である。

2輌が4輌を翻弄したおかげでカメさんチーム、ハヤブサさんチームは無傷で4両の撃破に成功した。

 

 

 

「完全勝利だな!あっはっはっ!!!!」

 

「三笠さん・・・上機嫌ですね」

 

「アイツはあぁ見えて今回の初陣には一番緊張していたからね。今の実戦で吹っ切れたんじゃないかい?」

 

「あの三笠さんが緊張を・・・・・っのわぁ!?!?」

 

 

 

急ブレーキに居た全員は体勢を崩す。

キューポラから身体を乗り出していた三笠は飛び出しそうになったが、咄嗟に岬が足を掴んでくれていたので雪原に投げ出されずには済んだ。

しかし、外に出ていた三笠は思いがけない光景を目の当たりにしてしまう。

そう、敵の砲撃を受け横転してしまい煙と白旗をあげるカメさんチームの姿に・・・・・。

 

 

 

「杏ぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

『そんなに叫ばなくても生きてるよ。けど、もう走行は不能だね、こりゃあ』

 

『ふぅ~・・・ここまでですか、ハヤブサさんチームの皆さん健闘を祈ります』

 

「あぁ、ボク達に任せときなさい!!」

 

 

 

一緒に学園を救おうとしていた仲間の離脱に三笠は唇をぎゅっと噛み締める。

しかし、インカム越しにはいつも通りさで返事を返すと敵からの砲撃を避けつつ本隊との合流を目指す。

 

 

 

 

 

「頼んだぞ・・・三笠」



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雪の中の大乱戦です!!

「本隊が敵を引き連れて逃走中!尚、フラッグ車は見当たらない模様!!」

 

「みほはなんて?」

 

「カバさんチームと一緒にフラッグ車を叩きに行くと報告がありました!!」

 

「・・・・・あんこうに繋いでくれ」

 

 

 

とある場所でじっと待ち続けているネコさんチームはいつものように隠密行動を仕掛けていた。

味方にも場所は伝えておらず、本当に単独行動中である。

しかし、動き出しつつある戦局に飛鳥は腕を組んで悩むとあんこうに通信を繋ぐ。

 

 

 

「飛鳥?アンタ達どこに居るのよ!?もぉ~!!!!」

 

『極秘任務故に言えないねぇ~・・・それよりも敵フラッグ車を狙いに行くならハヤブサさんチームも連れて行っとけ』

 

「えっ?どうしてでありますか?」

 

『あぁ~・・・アタシの勘だよ!素直に聞いとけって』

 

「わかりました!飛鳥さんを信じてみます!!」

 

『へへっ・・・じゃあ、こっちのフラッグ車は任せとけ』

 

「任せとけ!って・・・・・あぁ、もう切っちゃったよ!飛鳥のヤツ!!」

 

「なにか秘策でもおありなのでしょうか?」

 

「アイツならやりかねん」

 

 

 

 

 

 

「フラッグ車の護衛は何輌?」

 

「ウサギさんとカモさんチームの2輌だけです!!」

 

「敵の数は?」

 

「5輌!!その中に隊長及び副隊長と思われる人物が確認出来ます!!」

 

「予想通りだな・・・アタシ達も下山して加勢に入る!!ブレーキは外せ、全踏みで敵に攻撃を仕掛ける」

 

「激しく揺れるけど、それでもいいんだな?」

 

「一向に構わない」

 

「それならいつものショータイムの時間だぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

戦況を確認後、飛鳥は一度髪を掻き上げる仕草をしてみせるといつもとは違った目つきに側に居たカリエンテも一瞬たじろいだ。

しかし、それに触発されてか薫も勢い良く自分の頬を叩いたかと思えば、ギュッとレバーを掴む手に力を入れ大声と共にアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

「ボク達はフラッグ車の撃破を命じられた!杏の為に初陣で大金星を狙うぞ!!」

 

「仲間の合流は待ちますか?」

 

「いや、ボクらが偵察役となり、後から来る味方に有利に事が進むように先行しよう」

 

「了解しました!後続のチームにはそう通信しておきます」

 

「それじゃあ・・・・・くっ!?」

 

 

 

フラッグ車を探し出そうと発進させようとしていたハヤブサさんチームだったが、突如として飛んで来た相手の砲撃に直撃は避けられたものの近くに着弾した為に車体は揺れる。

唯一、顔を出している三笠は索敵を開始すると1輌の戦車がこちらに向かって前進して来ているのがわかった。

 

 

 

「おいおい、もう敵1輌に見つかってるぞ!止まっていたら次の砲撃で沈められる・・・急・速・発進!!」

 

「御意」

 

 

 

砲塔がこちらに狙いを定めるよりも先に発進させれば、相手の車輌も逃がさない為にかハヤブサさんチームを追っていた。

その敵車輌の中には試合開始前に飛鳥に果たし状を叩きつけていたミレイヤの姿があった。

 

 

 

「ヘルキャットは素早いのと火力が計り知れませんわね。アレをフラッグ車の元に鉢合わせなんてさせたらこちらが不利になるのは明らか・・・すなわち、私の手で早々に撃墜するのが得策ですわ!!」

 

「おやぁ?敵はボク達がお嫌いみたいだなぁ~・・・・・」

 

「いっちょ杏の弔い合戦といかねぇかい?」

 

「ふむ・・・不知火く~ん♪勝算は如何ほどだい?」

 

「五分だな」

 

「そうか、そうか・・・・・それなら即時反転!!仕掛けるぞぉぉぉ!!!!」

 

「「「了解(ヤー)!!」」」

 

「反転して来た!?くっ・・・舐められたモノね。いいわ、貴女達此処が踏ん張り所ですわよ!!」

 

 

 

向き合ったと同時にお互いの砲塔が火を噴く。

激しいぶつかり合いと砲撃戦が繰り広げられている中で文は、あんこうチームに通信を開いていた。

 

 

 

「こちらハヤブサさんチーム!敵1輌と交戦中!!」

 

『わかりました!今すぐに援軍に・・・』

 

「ううん、西住さん達はフラッグ車をお願い!この敵が護衛車輌みたいだからなんとか時間稼ぎ、あわよくば撃墜させとくから気にしないで」

 

『ですが・・・』

 

「大丈夫!頼れる先輩方を信頼しなさいってば!!」

 

『・・・わかりました!ですが、無茶だけは絶対にしないで下さい』

 

「・・・ありがと♪」

 

 

 

そう言ってゆっくりと通信を切った文は激しく揺れる車内でどこかにしがみつくように縮こまる。

しかし、目は瞑らずに勝敗がつくのをじっと待つのであった。

 

 

 

 

 

一方、フラッグ車を護るウサギさん、カモさんチームには激しい砲撃が降り注いでいた。

 

 

 

「このままじゃ持たないよ~」

 

「どうする?私達の事はいいからアヒルさん護ろう!!」

 

「そうだね!桂利奈ちゃん、頑張って!!」

 

「あいあいあい~!!」

 

 

 

「ノンナ!早くやっちゃいなさい!!」

 

「・・・・・」

 

 

 

アヒルさんの背後を護る為に後ろに回りこんだウサギさんチーム。

しかし、無情にも鋭い一撃は一撃でウサギさんチームのウィークポイントを狙い撃ち、ウサギさんチームはリタイヤしてしまう。

 

 

 

「そ、そど子・・・どうしよう?」

 

「風紀委員の腕の見せ所よ!!アヒルさんチームを全力で護るのよ!!」

 

 

 

ウサギさんの無念を晴らす為にと今度はカモさんチームが背後を護る形に入った。

しかし、照準はゆっくりとカモさんチームの背後を捉えていた。

狙いを定めるように照準器を覗き込むノンナ。

だが、不意に聞こえた砲撃音と共に近くで聞こえた着弾音にノンナは覗き込むのを止めた。

 

 

不意を突く一撃は、見事にプラウダの1輌を仕留めていたのだ。

この状況に1人外に出ていたカチューシャは驚きを隠せずにマイクを口元に当てて叫び出した。

 

 

 

「なによ!?何処から狙われたのよ!!」

 

「カチューシャ様!左です!!」

 

「えっ、なに?えええっ!?!?」

 

 

 

言われた通りに左の方に目をやるとそこにはかなり離れた位置で並走しながらこちらに砲塔を向けるチャーフィーの姿があった。

 

 

 

「あんなのさっきまでいなかったじゃない!?しかも、あのスピードで当ててくるなんて・・・・・ノンナレベルの相手が居るって言うの!?!?」

 

 

 

「飛鳥!調子はどう?」

 

「・・・・・冴えてるよ」

 

「これが・・・覇王の力!?」

 

「・・・・・いつもの彼女じゃない」

 

「はい・・・空気がいつもと違います」

 

 

 

照準器を覗き込む飛鳥の横顔はいつもの飄々とした感じはなく、文字通りの覇王を思わせる程の空気を感じ取れるぐらいの集中力であった。

邪魔をしない為に3人は装填を急ぐ。

薫はと言うと無我夢中で戦車を走らせていた。

止まると言う枷を外して・・・・・。

 

 

 

「ノンナ!まだなの!?」

 

「次の一撃で必ず仕留めてみせます」

 

「くっ・・・ノンナ以外はあのすばしっこいネズミをなんとかしなさい!!!!」

 

 

 

「飛鳥さん!敵の砲撃がこちらに集中してます!!」

 

「撃たせておいたらいい・・・絶対に当たらないから」

 

「おいおい、そんな理屈どうやって出て来るんだよ」

 

「信じてるからだ」

 

「・・・たくっ、こう言う時だけアタシのことを頼るなよなぁぁぁ!!」

 

 

 

砲撃が次々に近くに着弾する中を擦り抜けるように進むネコさんチーム。

それでも砲塔は変わらずに集団の方に向けられていた。

その光景にさすがのカチューシャも恐怖を感じるほどであった。

 

 

次の瞬間、チャーフィーから放たれた砲撃はまたプラウダの戦車を貫き、残されたのは3輌。

その状況に晒されたカチューシャは半ば覚悟を決めたようにも見えた。

 

 

 

「ノンナ・・・絶対に決めるのよ」

 

「なにをするおつもりですか!カチューシャ!!」

 

「あの戦車に突撃よ!!ノンナの邪魔はさせないんだから!!」

 

 

 

「向こうの隊長車がこちらに接近しようとしています!!」

 

「そうはさせない」

 

「こっちも迎撃準備でも・・・おわっ!?!?」

 

「荒れ狂うブリザード・・・・・か」

 

 

 

こちらの目の前に着弾した砲撃に車体は軽く揺さぶられる。

飛鳥は、JS-2からの砲撃に殺意を感じ、たらりと冷や汗を垂らしていた。

しかし、一瞬でもこちらに注意が向いたのは好都合であった。

 

 

 

 

 

一方、敵フラッグ車を見つけたあんこうとカバさんチーム。

しかし、ぐるぐると逃げ回る相手に対して決定打を撃てずにいた。

すると外で激しく撃ち合っていたハヤブサさんチームの車長である三笠の目にも敵フラッグ車が確認出来た。

 

 

 

「むむっ、あれは・・・敵フラッグ車だぞ!!」

 

「どうする・・・車長殿」

 

「アレが大将首なんだろう?それならやる事はただひとぉぉぉつ!!」

 

「御意」

 

「面舵いっぱぁぁぁい!!目標は、大将首だぁぁぁ!!!!」

 

 

 

高速で切り返すヘルキャットにずっと対峙していたミレイヤは悟った。

敵が最優先すべき敵を見つけたのだと・・・。

 

 

 

「行かせてはなりません!このままだと私達プラウダが敗れる事になってしまいます!!」

 

 

 

敵フラッグ車を追う・・・あんこう&カバさんチーム。

必死に逃げ回る敵フラッグ車。

それを正面から喰らおうと突貫するハヤブサさんチーム。

しかし、それを阻止させようとするミレイヤ車。

かち合った5輌・・・・・時は一瞬であった。

 

 

ミレイヤ車が放った砲撃は無防備となったハヤブサさんチームの背後を捉えた。

白旗の上がったハヤブサさんチーム・・・だったのだが、ミレイヤは悔しそうに壁を殴るのだった。

そう・・・遅かったのだ。

白旗を上げるハヤブサさんチームの反対側には・・・同じように白旗を上げるプラウダのフラッグ車が見事に煙を出して動けずにいたのだ。

 

 

 

 

 

《試合終了!!勝者!大洗女子学園!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りに・・・・・疲れた」

 

 

 

全員が集まって勝利を分かち合っている中で、飛鳥はチャーフィーの車体の上で寝そべり黄昏るように空を1人で見上げていた。

ふぅーっと白い息を吐いていると不意に足音に気付いて上体を起こすとそこにはフレイヤが立っていた。

 

 

 

「完敗・・・です」

 

「アタシはなんもしてねぇぞ?」

 

「わかっているわ・・・貴女だけしか見えていなかった私の完敗なんですの」

 

「そりゃあ油断大敵だったな」

 

「・・・・・あのヘルキャットのメンバーにお伝えしておいてくれません?今度は負けません!!・・・・・と」

 

「・・・・・わかったよ」

 

「・・・・・それじゃあ」

 

 

 

悔しそうに下唇を噛み締めながらキッと睨みつければ、踵を返してこの場から去って行った。

すると見えなくなったを確認するとくしゃくしゃと髪を掻いてから口を開いた。

 

 

 

「・・・らしいですよ、不知火さん」

 

「承った」

 

「それにしても・・・初陣で大金星とはやりますね」

 

「それは・・・姫のおかげかと」

 

「あはは・・・基礎を教えただけです。後は、各々の個性が生きた・・・ですかね」

 

「それでもこうして決勝に駒を進めることが出来た。感謝する」

 

「決勝・・・か」

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ、なんでも・・・・・」

 

 

 

決勝の相手・・・黒森峰女学園。

みほが前に戦車道をしていた居場所。

みほの前の仲間が居る居場所。

 

 

 

そして・・・

 

 

 

飛鳥の仲間も居る居場所。

 

 



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黒森峰の1日です!

ここは、黒森峰女学園。

決勝で大洗女子学園と戦う学校である。

戦車道全国高校生大会で9連覇していた強豪校なのだ。

今日はそんな黒森峰での話。

 

 

急ぎ足で赤星 小梅は戦車倉庫へと続く道をある人物を探す為に向かっていたのであった。

 

 

 

「千智さん・・・いらっしゃいますか?」

 

「・・・なんだ?小梅」

 

「あぁ!!また千智さん1人で戦車の整備なんてしちゃって・・・・・みんなで一緒にやろうって言ったのに・・・・・もう」

 

「ふふっ・・・そうだったな。それで、私になにか用があるんじゃないのか?」

 

 

 

戦車の下からひょこりと顔だけを出した皇 千智(すめらぎ ちさと)。

しかし、そんな彼女に小梅は頬を膨らませて拗ねて見せる。

そんな彼女の表情に微笑みながら謝罪とばかりに頭をぽんぽんと叩いてあげるとココに訪ねて来た理由を聞く。

 

 

 

「あっ!そうでした。西住隊長が折り入ってお話があるみたいなので呼びに来たんです」

 

「私に・・・?エリカじゃ役不足なのか」

 

「いや、そうじゃなくて・・・ちょっと大洗の選手で気になる人が居るみたいで」

 

「あぁ・・・それならエリカは使い物にならないな」

 

「あの・・・・・逸見さんになにか恨みでもあるんですか?」

 

「いや、別に・・・・・気が合わないだけだよ」

 

 

 

さらっと真顔になって本音を言う千智に対して苦笑いでしか返せない小梅だった。

2人は、戦車倉庫を後にすると作戦会議をする時に良く使う大広間へと辿り着いた。

するとそこには、隊長である西住 まほ、副隊長の逸見 エリカが椅子に座って待っていた。

 

 

 

「急に呼び出してすまないな、皇」

 

「いえ、自分で力になれるのなら構いませんよ」

 

「それよりも・・・なんで作業着なのよ、アンタ」

 

「戦車の整備をしていたからに決まってるだろう。お前のその目は節穴なのか?」

 

「なっ!?なんですって!!」

 

「やめないか・・・私が急に呼び出したんだから服装は別に構わないだろう。それと、皇も言葉が過ぎるぞ」

 

「は、はい」

 

「・・・申し訳ありません」

 

 

 

2人は1度睨み合ってからそっぽを向くもまほが一枚の写真を机の上に出した。

千智はそれを横目で確認すると自分も近くの椅子に腰を降ろして真剣な表情で語り始めた。

 

 

 

「彼女の名は、日野本 飛鳥。通称を戦姫と呼ばれています」

 

「戦姫・・・か」

 

「はい、私だけではなく当時の戦車関係者は口を揃えてそう呼んでいました」

 

「それは・・・戦車道での話しなのか?」

 

「いえ、強襲戦車競技の方です」

 

 

 

その言葉にピクッとまほの眉が反応を示す。

千智は手を組むとその上に顎を乗せ、話を続ける。

 

 

 

「私と飛鳥はペアで強襲戦車競技に参加していました。他にも仲間はいましたが、そっちの説明の必要はないでしょう」

 

「ふむ・・・しかし、私の調べには中学時代は大学選抜にて戦車道をしていたと聞くが・・・」

 

「えっ!?中学生にして大学生の方々に混じって戦車道をするなんて嘘じゃないんですか!?」

 

「嘘じゃない・・・彼女は両立していたの・・・両方ともね。・・・と言っても公式戦には参加していなかったみたいですが」

 

「・・・・・ふふっ、とんだ強者だな」

 

 

 

あまり笑顔を見せないまほの微笑みに他のメンバーは驚いていた。

 

 

 

「1つ聞きたい事がある。・・・私達に勝算はありそうか?」

 

「隊長っ!?!?」

 

 

 

いきなりの問い掛けに叫んだのは、エリカだった。

滅多に見せない弱気とも捉えられるまほの発言。

驚きを隠せないエリカを尻目に千智は腕を組むと重い口を開く。

 

 

 

「普通なら99%でしょうか・・・・・」

 

「99%か・・・100%ではないんだな」

 

「はい、飛鳥とそれに隊長の妹さんの2人が居ます。下手をすれば・・・大洗はもっと化けて来るかもしれません」

 

「あんな弱小に私達黒森峰が負けるとでも言うの!?」

 

「はぁ~・・・そうやって自分達が一番と驕り続ける者が居る限り我が校は危ういかと・・・・・」

 

「アンタ・・・どっちの味方なのよ!!」

 

「私は事実を申したまでだが・・・・・?」

 

 

 

2人の間で激しい火花が散っているのは確定的に明らかだが、まほは気にもせずに悩むようにある資料に目を通していた。

 

 

 

「それなら決勝戦ではマウスを使う事にする」

 

「了解しました。すぐに整備班に連絡して準備万端の状態に仕上げておきます」

 

「話は以上だ。皇、呼び出してしまってすまなかったな・・・もう持ち場に戻ってくれてもいい」

 

「はい、それでは・・・小梅!」

 

「はっ、はい!!それでは失礼します!!」

 

 

 

1礼してから部屋を後にした千智を追うように小梅を1礼すれば、すぐにこの場を後にした。

 

 

 

「はぁぁぁ・・・・・」

 

「ふっ・・・いつものエリカらしくないな」

 

「あっ、し、失礼しました!!ガラにもなく大きな溜め息をついてしまいまして・・・・・」

 

「別に構わないさ。それでも・・・同じ学年で同じ実力者同士なんだからもっと仲良くは出来ないのか?」

 

「はぃ・・・・・善処いたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千智さん」

 

「なにかな?」

 

「なんだか嬉しそうですね」

 

「どうして?」

 

「なんとなく・・・です」

 

「おっ!?姉貴ぃぃぃ!!!!」

 

 

 

小梅と千智が戦車倉庫に戻ろうとしていると不意に背後から聞こえる声に振り返る。

するとそこには3人の女性が立っていた。

 

 

 

「千智も今から戦車に向かうの?」

 

「あぁ・・・さっきまで隊長に呼び出されてたからね」

 

 

 

金城 沙羅(かねしろ さら)。『通信手』

後ろ手に顔を覗き込むように話し掛けて来る女性の問い掛けに千智は経緯を話す。

 

 

 

「姉貴・・・もしかして、隊長さんに怒られたんっすか?」

 

「私がそんな事する訳ないだろう」

 

 

 

久米川 たつき(くめがわ たつき)。『操縦手』

ゴーグルを掛けた女の子は口元に拳を当ててバカにしたように笑っているが、千智は微笑みながらわからないといった感じのポーズを見せた。

 

 

 

「これから~予定していた戦車の整備を~しようと思うんだけど・・・・・どう?」

 

「んっ・・・そうね、私も今から行こうとしていたから大丈夫、一緒に行きましょうか」

 

 

 

祭囃子 萌華(まつりばやし もえか)。『装填手』

ふらふら~としながら千智に背後から抱きついて耳元で囁くと千智はビクッと反応するも頭を撫でてあげた後に5人で自分達の戦車・・・ティーガーⅡの元に向かうのであった。



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登場人物紹介です!その3

大洗女子学園

 

 

 

ハヤブサさんチーム

 

 

 

東郷 三笠(とうごう みかさ)

 

 

 

身長 - 164cm

好きな戦車 - P40

好きな花(花言葉) - コスモス(乙女の真心)

趣味 - 散歩

 

 

 

3年生。船舶科兼学園艦の艦長。

杏とは一番付き合いの長い1人である。(小さい頃からの幼馴染)

学園艦の指揮系統をすべて執り行えるほどの技量を兼ね揃えている。

誰よりも学園艦の事を愛していると言うほど毎日を生きているらしい。

普段から笑顔の絶えない人物であり、真剣な場面でも意外に楽しんでいるようにも見える。

 

 

 

 

 

不知火 京華(しらぬい きょうか)

 

 

 

身長 - 172cm

好きな戦車 - IS-2

好きな花(花言葉) - 葉牡丹(祝福)

趣味 - 読書、登山

 

 

 

3年生。仙道の主将。操縦手。

糸目でいつも凛とした佇まいで他の人とは何処となく雰囲気が違う。

第六感の持ち主で、彼女の行動は絶対だと言われている(東郷説)。

カバさんチームとは仙道で共に活動していた。カバさんチーム曰く彼女は、『呂尚(りょしょう)』と呼ばれていたらしい。(一般的には『太公望』で知られる人物である)

 

 

 

 

 

玖琉院 魅哉(くりゅういん みかな)

 

 

 

身長 - 166cm

好きな戦車 - BT-42

好きな花(花言葉) - ハナショウブ(うれしい知らせ)

趣味 - 流鏑馬、茶道

 

 

 

3年生。弓道の主将で日本一。砲手。

大和撫子と言う言葉が似合うような存在で、特徴的なのは腰まである黒髪を後ろで高めに1本で纏めている。

意外と勝負事には熱えるタイプで、熱い一面を見せる時もある。

実はかなりのお嬢様なのだが、そう言った雰囲気が嫌いな為に1人暮らしをしているらしい。

 

 

 

 

 

鮫島 岬(さめじま みさき)

 

 

 

身長 - 178cm

好きな戦車 - M26パーシング

好きな花(花言葉) - カンナ(情熱)

趣味 - スイーツ巡り、釣り、筋トレ

 

 

 

3年生。水産科。装填手。

男性顔負けの肉体を持ち、日焼けであろうか全身が綺麗な褐色肌である。

しかも、力だけではなく・・・一本釣りで身につけたであろう持久力、集中力、気力も兼ね揃えている。

化け物みたいな存在ではあるが、女の子らしく甘いものがかなりの好物であり、良く誰かを誘ってスイーツ巡りに出掛けているようだ。

 

 

 

 

 

蝉堂 文(せんどう あや)

 

 

 

身長 - 162cm

好きな戦車 - 九七式中戦車 チハ

好きな花(花言葉) - ジンチョウゲ(不滅)

趣味 - 情報収集

 

 

 

2年生。通信手

飛鳥の中学時代からの戦友。主に情報収集を担当していた。

大洗女子学園で戦車の素晴らしさを知ってもらう為に『パンツァー新聞』と言うのを1人で製作している。

地味っぽいと言われがちな存在なのだが、ちゃんと頼まれた事はきっちりとこなす真面目な人物。

今回は、会長に無理矢理任せられた形ではあるが、飛鳥の力になれると言う事で内心喜んではいる。



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決勝戦前夜です!

「やっとこさ完成ってとこか・・・」

 

 

 

整備が仕上がって現在調整中のポルシェティーガーを目の当たりにして飛鳥はほっこりとした表情で車体に触れていた。

すると下からひょっこりとナカジマが顔を出して来た。

 

 

 

「決勝戦にはちゃんと間に合わせたよ!だから試合では絶対に活躍して見せるから期待しててよ!」

 

「我が校の主力になる88mmだから頼りにしているよ」

 

「そうですよね!けど、まだ愚図ったりしちゃうからちゃんと愛情を注いであげないといけないみたいだけどね」

 

「そこは自動車部にすべて任せるよ。もうその子は君達に託してあるからね」

 

「あいよ~♪」

 

 

 

満面の笑顔を見せてから作業に戻るナカジマ。

飛鳥も自分の戦車の様子を見に行こうと踵を返したが、いつの間にか背後を取られていたのか長身の女性が立っていた。

 

 

 

「おわぁっ!?」

 

「あっ・・・お、驚かせてごめんなさい・・・・・ちょっと挨拶をと思って・・・・・」

 

「挨拶?・・・あぁ、みほが言っていた三式中戦車に乗りたいって言ってた・・・ねこ・・・にゃん?」

 

「ねこにゃーです!!よろしくお願いしますっ!!」

 

 

 

話題に出ている三式中戦車だが、見つけて来たのはこのねこにゃーらしい。

駐車場に放置されていたのを偶然見つけたらしい。

最近までそう言うのはなかったはずなのに誰かが興味本位に買ったのかもしれないと思っている。

 

 

 

「戦車経験があるってみほから聞いてるけど・・・」

 

「戦車のオンラインゲームで操縦テクニックについてはバッチリです!!」

 

「えっと・・・それってWorld of Panzerの事?」

 

「はいっ!も、もしや・・・日野本さんもやってたり・・・・・」

 

「暇つぶし程度にやってるよ・・・確か、戦車仮面って名前で」

 

「おおぉぉぉっ!?あの最強のプレイヤーは日野本さんだったなんて・・・あ、会えて感激ですっ!!」

 

「あははは・・・・・世の中狭いもんだね」

 

 

 

最初とは雰囲気がガラッと変わってぐいぐいと来るねこにゃーに飛鳥は苦笑いで返していた。

連絡先を交換した事で解放された飛鳥だったが、そんな彼女にある人物が近寄って来た。

 

 

 

「明日の決勝戦に向けての準備はどうです?」

 

「順調・・・と言えば聞こえはいいですが、戦力差は否めないですね。追加の2輌を合わせても10輌、相手は決勝戦ですので20輌を用意してくると思いますから我が戦力の倍ですね」

 

「確かに・・・そうですわね」

 

「でも、その倍の戦力差を覆す事が出来るのがボク達みんなの力なんだろう?姫♪」

 

 

 

飛鳥と花蓮が明日の決勝戦の話をしているのに対して割り込むように三笠は笑顔でやって来た。

その言葉に大きく溜め息をつく飛鳥ではあったが、別に馬鹿にしたような態度ではなかった。

 

 

 

「その通りです。ここまでアタシ達はそれをやって来れたんだからなんとかなっちゃうんです」

 

「それは・・・勝利の姫君のおかげかな?」

 

「いや、頼れる隊長さんのおかげじゃないでしょうか?」

 

「ふふっ・・・そうかもしれないわね」

 

 

 

そう言って3人は熱心になって周りのメンバーと話し合いをしているみほの方に視線を向けたのだ。

決勝戦前日・・・今日は練習も早めに済ませて最終調整に各自作業に取り組んでいた。

皆が愛する母校の為に全員が真剣に取り組んでいた。

 

 

すべての作業が終わったメンバーは最後にみほの言葉と共に解散した。

飛鳥も大きく背伸びをし帰ろうとしたのだが、振り返るとあんこうチームと自分のネコさんチームの面々が立ちはだかったのだ。

 

 

 

「覇王よ!今宵は時間を持て余しておろう!!」

 

「まぁ・・・明日の下準備くらいだ。時間ならあるけど、どうかしたのか?」

 

「みぽりん家でご飯会やらない?」

 

「それはいいねっ!!西住さんの部屋に・・・・・うへへへっ」

 

「やっぱりこの変態だけは連れて行かない方がいいんじゃないか?」

 

「・・・・・冷泉さんの意見に一票」

 

「ボコになるまでボコボコにするって言う手もあるな」

 

「ぎゃあぁぁぁっ!?じょ、冗談だからその拳をお納め下さいっ!!」

 

「それなら材料とか必要ですね!私が買って来ますっ!!」

 

「それなら私も同行しますよ!小早川殿」

 

 

 

ワイワイガヤガヤと賑わう光景を見て自然と飛鳥は笑顔になっていた。

そんな自然な笑顔を目撃した面々は少しにやけたように飛鳥に視線を集めていた。

 

 

 

「・・・なんだよ」

 

「飛鳥の笑顔ってこうやってしっかりと見たの初めてかも・・・」

 

「いつもクールなイメージですものね」

 

「ふっふっふっ・・・我々は見慣れておるけどのう」

 

「はいっ!試合で勝った時はいっつも嬉しそうに笑っていますよ!」

 

「意外な一面だな」

 

「・・・そう言う所が良い所でもある」

 

「・・・・・っ!?」

 

「あぁっ!?飛鳥殿の顔が真っ赤ですよ!!」

 

「いっちょ前に照れやがってぇ~可愛いヤツめぇ~♪」

 

「お前らぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

茶化された飛鳥は怒鳴ると慌てて逃げ出した全員を追い掛け回した。

そんな光景を今度はみほが見ていて笑顔になっていた。

 

 

 

「蝉堂くん、君は行かなくていいのか?姫達はご飯会とやらを執り行うみたいだぞ?」

 

「そうです、貴女まで私達に付き合わなくていいんですよ」

 

 

 

ハヤブサさんチームの中でも唯一2年生である文は明日の試合で必要となる必需品を製作していたのだ。

それは飛鳥からのお願いであり、これは文にだけ命じられた事でもあった。

 

 

 

「いえ、いつも前線で頑張っているアイツの為になにか出来る事がすごく嬉しいんです。こうやって戦車道を一緒にやっているだけでも感謝しているんです。だから、私はアイツの為にもこれを完成させたいんです!!」

 

「・・・・・縁の下の力持ちだな」

 

「それなら腹が空かないようになにか作ってきてやるよ!こう言う時はかつおおむすびだなっ!!」

 

「かつおおむすび・・・ですか?」

 

「”勝つ”おぶしと良い結果を結び付けてくれる縁起物を合わせた代物さ!味は保障するぜ!!」

 

「決勝戦前の験担ぎですか・・・いいですね」

 

「それなら調理室で作れるだろう!!魅哉!岬!行くぞぉぉぉ!!」

 

「「おおぉぉぉっ!!」」

 

 

 

ノリノリで走り出した3人の後姿を見てぽかんとしていた文。

しかし、隣でふふっと小さく笑った京華はチラッと自車であるヘルキャットに目をやった。

 

 

 

「明日は必ず勝ちましょう・・・仲間の為にも・・・・・我が母校の為にも・・・・・」

 

「・・・・・っ!?は、はい!!」

 

 

 

 

 

「ぷっはぁ~!!食った食ったぁぁぁ~♪」

 

「食べてすぐ寝たら醜い豚になるぞ」

 

「牛じゃなくて豚なの!?しかも、醜いってかなり酷くない!?」

 

「そうじゃ!御主は元から豚じゃぞ?」

 

「この口かカリエンテェェェ!!」

 

「いひゃいきゃらやめへぇ~!!」

 

 

 

食後くつろぐ為に人数分のコーヒーを入れた飛鳥は一息をつくようにベランダに立っていた。

夜風を浴びながら目の前に広がる景色をコーヒーを飲みながら眺めていた。

 

 

 

「いよいよ・・・明日ですね」

 

「あぁ・・・因縁の相手との決勝戦だな」

 

「・・・・・」

 

「怖いのか?」

 

「怖くない・・・と言えば、嘘になります。けど、・・・・・」

 

「・・・けど?」

 

「今はみんながいるから怖くはないです」

 

 

 

飛鳥とみほはふふっと笑うと夜空に広がる星空を見つめていた。

 

 

 

「やっぱ戦車道はいいな・・・」

 

「・・・飛鳥さん」

 

「本当はアタシ黒森峰に行く筈だったんだよ」

 

「・・・えっ?」

 

「でも、アタシは断ったんだ」

 

「・・・・・どうして?」

 

「この大洗が好きだからすべてを断ったんだ。戦車も・・・仲間もね」

 

「・・・仲間?」

 

「強襲戦車競技のパートナーだよ」

 

「皇さんの事?」

 

「知ってるのか?」

 

「名前は口にしてませんでしたけど、飛鳥さんの事だろうなと思う事をいつも誇らしげに話してましたよ」

 

「あはは・・・アイツめ」

 

 

 

コーヒーを口にしてから少し嬉しそうな顔をする飛鳥。

 

 

 

「本当は一緒に戦車道を歩むつもりだったのに・・・明日は敵同士だ」

 

「大丈夫ですよ、飛鳥さん!」

 

「・・・・・みほ」

 

「私達の戦車道を見せましょう♪全力でぶつかり合いましょう!!」

 

「なんかみほらしくないな」

 

「飛鳥さんから色々と学びましたから」

 

「コイツ・・・言うようになったなっ!!」

 

 

 

みほの頭をくしゃくしゃと撫で回す飛鳥だったが、2人は満面の笑みでやり合っていた。

そんなやり取りを中にいたメンバーは真面目な表情で見つめていた。

 

 

 

「明日はみほにとっても飛鳥にとっても大事な試合なんだね」

 

「・・・そのようだな」

 

「母校の為でもあるけど、アイツらの為にもやってやんねぇとな!」

 

「うむ、良い事を申したな!我も同じ想いじゃ!!」

 

「お2人の為にも明日の決勝戦は勝ちましょう」

 

「そうであります!!」

 

「私達は一丸となって・・・」

 

「・・・・・勝利を手にする」

 

 

 

ベランダで楽しそうにしている2人を横目に部屋の中にいた8人は強い意思と共にコーヒーの入ったカップを合わせるとこちらもお互いに見合って笑顔になっていた。

そんな各々の思いが交差し合う中で、時間は過ぎ去って行き決戦の日を迎えるのであった。

 

 

 

 



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黒森峰との決戦です!

決勝戦当日。

試合会場では屋台もあり、展示会などもあり、人の数は今までの試合の規模とは倍以上とも言えるだろう。

そんな中で大洗のメンバー達は念入りな最終調整が行われていた。

飛鳥は特にメンバーからの信頼もある為に全車輌の最終チェックを任せられていた。

応援に駆けつけてくれた大洗の生徒達も興味ありげに覗きに来ている姿も見えた。

 

 

 

「最後の戦い、みんなのやる気は充分・・・か」

 

「あ、飛鳥様・・・ごきげんよう」

 

「んっ?おぉ・・・エクレールじゃないか!応援にでも来てくれたのか」

 

「え、えぇ・・・貴女様の勝利を信じてお伺いに来ました」

 

「サンキューな♪こんなモノしかねぇけど、どうだ?」

 

「あ、あっあ、ありがとうございます!!」

 

 

 

珍しく1人でやって来たエクレールの顔は真っ赤でたどたどしい感じではあったが、自分達の勝利を願ってくれる彼女に飛鳥は景気づけに買っていた『エネルゲンMAX』と言う瓶ジュースを手渡した。

かなりの強炭酸で人気な飲み物ではあるが、あまりそう言うモノに慣れていないエクレールは衝撃に驚きを隠せずにむせていた。

 

 

 

「Hey!飛鳥ぁぁぁ!!」

 

「うわっぷ!?試合前に変な体力使わせるなっての!」

 

「Sorry!久し振りに会ったからつい・・・ねっ?」

 

「私の飛鳥様に触るなぁぁっ!!この牛乳馬鹿女ぁぁっ!!」

 

「Oh!Crazy Girl!貴女の飛鳥じゃないデース!!」

 

「アタシはどっちのモノでもねぇっての・・・」

 

「ティナさん!飛鳥様がお困りになっていますわよっ!!」

 

「おいおいっ!?ラビオリ!応援しに来たんだろうがなんでいきなり会って早々に喧嘩になるんだよっ!」

 

 

 

飛鳥を挟む感じでティナと憑莉がバチバチと火花を散らし合っている。

火種となってしまっている飛鳥は大きな溜め息と同時に一回近くにあるベンチに腰を降ろす。

チラッとみほの居る方に目を向けるとサンダース、聖グロ、プラウダと言ったチームの隊長陣と会話をしている姿に自分と同じ状態にある事を察した。

 

 

すると影が自分を包むのに首だけを後ろに立つであろう人物に向けた。

背後に立っていたのは、何故か大福を美味しそうにほうばるミレイアの姿であった。

 

 

 

「なにしてんの?お前」

 

「カチューシャ様の付き人ですよ、見て解りません?」

 

「アタシには全然そうには見えんな」

 

「失礼な人ですわね。私の何処をどう見たらそう見えるんですの?」

 

「口の周りに白いモノ付けながら言われても説得力ねぇっての」

 

「飛鳥ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「この声は・・・・・っ!?」

 

 

 

口元に白い粉を付けながらも優雅な振る舞いをしているミレイアを見ていて馬鹿馬鹿しい気持ちになっていた。

だが、体に響く位の声で名前を呼ばれた途端にベンチから勢い良く飛び離れる。

迫り来るジープに目を向けると三代子が運転する助手席には焔が嬉しそうに手を振っていた。

 

 

 

「三代子さん!観に来てくれたんですね」

 

「当たり前じゃないかい・・・弟子の成長を観ずにいられるかい!」

 

「・・・母さんは?」

 

「西住流の家元さんに挨拶しに行くからこっちには来れないってさ!姉さんも向こうだよ」

 

「・・・・・真姉さんも来てるんだ」

 

「そうだぜ?今日は休みだったみたいでさ!母さんが連れて来たんだとよ」

 

「・・・そうなんだ」

 

「飛鳥ちゃん、大丈夫かい?顔色が悪いように見えたけど・・・」

 

「だ、大丈夫ですよ!!ちょっと今日の試合の事を考えていただけですよ!」

 

「向こうには西住ん所の長女に元パートナーか・・・いけそうか?」

 

「・・・・・仲間を信じ、アタシは全力で挑むだけだから」

 

 

 

長女の名に顔色を少し悪くした飛鳥ではあったが、不意に挑発的に投げ掛けられた問い掛けには低い声で発言した。

その姿にぞくっとする焔だったが、時間も迫っているのかアナウンスが聞こえると各々に観客席へと戻って行ったのだ。

さっきまで賑わっていたはずなのに静まり返った辺りを見渡すと大きく深呼吸した後に自分のチームの元へと戻った。

 

 

 

 

 

「両チーム!隊長、副隊長、前へ!!」

 

 

 

試合直前に両校全生徒が整列して挨拶が執り行われる。

呼び出されたようにみほが隊長として出て行き、飛鳥と桃は副隊長と言う形で大洗の代表として前へと出て行った。

 

 

 

「ふんっ!お久し振り・・・弱小チームだと貴女でも隊長になれるのね?」

 

「あぁ~キャンキャン吠えるなよ・・・弱く見えるぜ?副隊長さんよぉ~」

 

「な、なにをっ!?」

 

「止めろ、エリカ」

 

「た、隊長・・・」

 

「すまない、気を悪くさせたな・・・飛鳥」

 

「いえいえ、お構いなく。まほさんもお元気そうでなによりです」

 

 

 

まほと飛鳥の関係に周りに居た全員が気になった様子だったが、千智が飛鳥の方に手を差し伸べたのだ。

 

 

 

「久し振りだな・・・飛鳥。お前と共に戦えると思っていたのにまさかこうやって敵対するなんて驚いたよ」

 

「まぁ、戦車道をやるつもりはなかったんだけど、成り行き上仕方ないのさ」

 

「しかし、私は嬉しいよ。こうしてお前と戦ってみたいと思っていたからな」

 

「それは、同感だね」

 

 

 

がっちりと握手を交わした2人は試合前だと言うのに嬉しそうに笑い合うと後からやって来た蝶野亜美の号令によって両校共に挨拶を済ませた。

両校スタート地点へと向かうのだが、みほの元に黒森峰の生徒が1人近付いて来た。

飛鳥は事情を察したのかなにも言わずに先にみんなの元へと戻っていた。

 

 

 

スタート地点に到着した大洗のメンバー。

最後のブリーフィングも終わり、チームごとに円陣やら掛け声を行って鼓舞していた。

ネコさんチームも戦車の前で円になっていた。

 

 

 

「泣いても笑ってもこれが決勝戦だ。この試合でアタシ達の未来が決まる・・・かもしれん」

 

「やる事はいつもと一緒!そうだろう?」

 

「そうです!今日も勝って皆さんと一緒に大洗へ帰るんですっ!!」

 

「簡単には言えるが敵の戦力はうちの倍だ。いつも以上に気を引き締めないと・・・・・」

 

「ふっふっふっ・・・言うまでもないっ!相手の力量を見誤らずに慎重に・・・であろう」

 

「頭でも打ったか?カリエンテ様」

 

「なぁっ!?ま、真面目に答えただけなのじゃ!頭など打ってないわっ!!」

 

「ははっ・・・冗談だよ。今回はフォーメーションをコロコロ変える事になるかもしれないから各自その意識だけは持っておいてくれ」

 

「・・・了解した」

 

「それじゃあ・・・いつものやるぞ」

 

「いつもの?そんなのやってたっけ?」

 

「やりたくないなら別にいいぞ」

 

「・・・・・やる」

 

「こう言うの燃えますよねっ♪」

 

「天に誓う!我らは勝利を欲する者ぞっ!!」

 

「やるやるっ!!私だけ仲間はずれはいやぁぁぁ!!」

 

「そんじゃあ・・・いくぞぉぉぉっ!!!!」

 

「「「「おおぉぉぉっ!!」」」」

 

 

 

5人が拳を突き出してそのまま空に向かって突き上げると大声をあげた。

5人の顔には満面な笑顔があり、勢い良く5人は乗車していった。

飛鳥は車長の位置にいるフォーメーションだ。

車内では4人が各々に行動を開始した。

そして、決勝戦開始のアナウンスが合図を放送した。

それと同時に大洗のメンバー全員がこう口にした。

 

 

 

『パンツァー・フォー!!』

 

 

 

 

 

先行するのはネコさんチーム。

双眼鏡を覗き込みながら辺りをキョロキョロとしている飛鳥。

序盤だと言うのに厳重に警戒している飛鳥に運転している薫はいつものようにちょけたように口を開く。

 

 

 

「おいおい、まだ始まったばかりだぞ?そんなに警戒していても相手とはまだ離れているんだから良いんじゃないの?」

 

「相手を甘くみるな、今はアタシ達がチームの目としての役割でもあるんだ厳重に警戒しておいた方がいい。それにアタシ達は207地点を取らないといけないからな」

 

「・・・・・なにか空気が変わった気がするぞ」

 

「斬子ちゃん・・・それって・・・・・」

 

「・・・・・っ!?総員、衝撃に備えろっ!!」

 

 

 

カリエンテの一言と同時に飛鳥の大声が聞こえたと思えば、大きな衝撃が車内にいたメンバーに緊張感を与える。

飛鳥はすぐさまに砲撃された方向に双眼鏡を向けるとそこは森であった。

そう黒森峰は森を突き進んでショートカットをして最短で攻撃を仕掛けてきたのであった。

 

 

 

「そう来たか・・・慌てるな!近くの車輌に目掛けて砲撃を開始せよっ!!」

 

「「了解っ!!」」

 

「みほからの指示は?」

 

「出来るだけジグザグに移動して前方の森に入って下さいとの事ですっ!」

 

「薫っ!!」

 

「あいよっ!!」

 

 

 

一番槍として仲間の進路を確保する為に前進するネコさんチーム。

インカムからは未だに慌ただしくしている声が聞こえてはいるが、ちゃんと後方には付いて来ている模様。

飛鳥は激しく揺れる中でも警戒を怠らずに周りの状況に目を向けていたが、不意に聞こえた轟音に後ろを振り返る。

すると遠く離れた場所に直撃を受けたのか煙と白旗を出して停車してしまっているアリクイさんチームの車輌が目に飛び込んで来た。

 

 

 

「戦況報告!!」

 

「アリクイさんチームが走行不能!後方からは敵の戦車が攻撃を続行中です!!」

 

「みほっ!!」

 

『全車輌、もくもく作戦ですっ!!』

 

「もくもくいけるか?」

 

「・・・・・いつでもいける」

 

「んじゃま、派手に行きますかっ!!」

 

『もくもく始めっ!!』

 

『『もくもく始めっ!!』』

 

 

 

みほの指示を受けて全車輌は用意されていたスイッチに手を掛けた。

するとみるみる内に煙が大洗陣営すべてを飲み込むように包み込んでいったのだ。

 

 

その光景には観戦している皆も驚きを隠せずにいた。

 

 

 

「Wow!アレはテレビで観たことありマース!!ジャパニーズニンジャの技デース!!」

 

「煙幕を事前に用意してるなんてやるじゃないか、大洗の連中!」

 

「けど、危機を脱した訳ではありませんわ。煙が晴れてしまえばまた狙われて・・・・・」

 

「エクレールさん・・・飛鳥様が次の一手を考えずに行動すると思っているのですか?貴女の目は節穴じゃないの?」

 

「・・・・・そ、そうですわね」

 

「大洗に動きがありましたよ」

 

 

 

飛鳥関係のメンバー達は騒々しく観戦している様子である。

液晶画面では煙の晴れた光景が映し出されていた。

そこには坂道を登る大洗陣営。そして・・・・・。

 

 

 

「ポルシェティーガーを引っ張ってるのかっ!?」

 

「はっはっはっ!!動きが遅かろうとも力を合わせて引っ張ればそれを補えると踏んだね。よく考えた行動だよ」

 

「あたいには出来ない発想をよく思いつくよ、アイツめ」

 

「いや、あの隊長さんが合わさっているから良いアイデアも出て来るんじゃないかねぇ~」

 

「やはり・・・侮れないな。西住流は・・・・・」

 

 

 

こちらは焔と三代子が真剣な表情で液晶に映し出される状況を分析していた。

しかし、色々とアイデアが出て来る大洗に焔は血が滾るような感情が芽生え始めていた。

 



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仲間の為に戦います!

パラリラ作戦で今度は広範囲に煙を広げながら大洗一行は目的地である207地点に進んでいた。

しかし、先頭を進むネコさんチームの飛鳥がなにやら喉頭マイクに手を当ててハヤブサさんチームとカメさんチームとなにやら話し込んでいた。

 

 

 

「こちら先頭のネコさんチーム、2チームは準備OK?」

 

『いつでもいけるよ~』

 

『ボク達も準備万端さっ!!』

 

「それでは手筈通りに・・・・・」

 

『『了解っ!!』』

 

 

 

そう言って一度戦車内に戻った飛鳥は携帯食料に手をつけていた。

そんな彼女の姿に他のメンバーも慣れた手つきで小休憩をはさんでいた。

ただ、薫だけはみんなが小休憩をはさむ中でも集中して運転していたと言う・・・。

 

 

その間下では妨害射撃が始まっていた。カメさんチームとハヤブサさんチームが隠れていた草むらから黒森峰に対して横槍を入れていたのだ。

履帯を切ったり、1輌撃墜したりと大暴れしている様子である。

 

 

 

「さすがハヤブサさんチーム・・・敵車輌を1輌撃破は大きいな・・・」

 

「・・・・・それでも19:9」

 

「まだ不利なのは変わりないですね」

 

「それは最初からわかっていた事だ!敵はこちらを包囲しようと上がって来てやがるから迎撃戦よーい!!」

 

「我らの業火を受けるがよいっ!!」

 

 

 

なんとか207地点を手にいれた大洗陣営。

高い位置で防御を固める事に成功した。

しかし、黒森峰は焦る様子もなくじりじりと包囲をするように上り始めて来た。

それに対して大洗は迎撃するべく一斉放射を仕掛けたのであった。

 

 

 

「焦るなよ・・・的確に1輌ずつだ」

 

「・・・・・わかった」

 

「良い感じ・・・だっ!!」

 

 

 

戦況を目視で確認していた飛鳥だったが、不意の衝撃に敵陣営に目をやるとそこにはティーガーⅡからこちらを睨む千智がいた。

 

 

 

「あの野朗・・・狙って撃たせやがったな・・・」

 

 

 

「見事にアイツの車輌にこちらをアピール出来たな」

 

「小梅ちゃん~ナイスゥ~」

 

「さすが姉貴の認めた砲手っす!!」

 

「そ、そんなに褒めてもなにも出ませんからっ!」

 

「千智、隊長がヤークトティーガーを前に出しながら進むってさ」

 

「さて、向こうはどう動いてくるかな・・・・・?」

 

 

 

包囲網はゆっくりと縮められて来ており、激しい攻撃に大洗は苦戦を強いられるかに見えた。

しかし、喉頭マイクに手を当てる飛鳥は余裕の笑みを見せていた。

 

 

 

「おちょくり作戦の中でこの戦線から離脱するから準備はいいか?」

 

 

『『『了解!!』』』

 

 

「じゃあ・・・御二方お願いします」

 

『姫様からのお伝達だ!派手にやってやるよ!!』

 

『あいよ~』

 

 

 

また新しい作戦名を通達すると今度はカメさんチームとハヤブサさんチームが黒森峰の隊列に割り込むように潜り込んだのだ。

そのいきなりの出来事に黒森峰の陣営はパニック状態になってしまい、目の前では隊列が崩壊してしまっていた。

簡単に崩れてしまう黒森峰の姿を目の前にネコさんチームの車内は盛り上がっていた。

 

 

 

「あの伝統校があんなに乱れるなんてな」

 

「伝統校だからこそ隊列を組んでの動きは一級品だろうな。しかし、こう言う想定外のハプニングには対策出来ないのが弱点って所だな」

 

「さすが覇王・・・恐ろしい男だっ!!」

 

「女だっての!それにこれはみほが考え出した作戦の1つだからな。やはり、元黒森峰生徒ではあるから情報も正確で助かったよ」

 

「・・・・・今なら抜けられるかも」

 

「OK!レオポンさんチームを先頭にしてこの戦線を押し通るっ!!」

 

 

 

すると大洗の陣営はレオポンさんチームを先頭にして一気に坂道を駆け下りたのであった。

相手も反応してこちらに砲塔が向くがそれをさせまいと2輌の戦車がおちょくりをしてくれている。

ナイス連携を発揮して窮地を脱した大洗。

逆に簡単に逃がしてしまった黒森峰陣営では、エリカの怒鳴り声が響いていた。

 

 

 

「あのバカを黙らせるヤツはいないのか・・・いちいち癇に障る」

 

「本当に姉貴は逸見副隊長の事が嫌いっすね」

 

「・・・・・みほさんの一件以来逸見さんと千智さんは犬猿の仲になっちゃった・・・かな?」

 

「小梅」

 

「・・・ご、ごめんなさい」

 

 

 

低い声で名前を呼ばれて萎縮する小梅。

ピリピリとした空気の中で聞こえるのは、ティーガーⅡの音のみ。

しかし、この空気を打破?したのは萌華だった。

 

 

 

「そんな事より~これから~どうしますか~?」

 

「地図をくれ」

 

「もう機嫌なおしなよ・・・千智」

 

「・・・・・大丈夫、私が悪いんだから」

 

「敵陣営の逃走経路の先には市街地・・・向こうの狙いは市街戦か」

 

 

 

地図を真剣に確認すると相手がなにをしようとしているのか理解したのか喉頭マイクに手を当てる。

 

 

 

「西住隊長、意見をしてもよろしいですか?」

 

『皇か、どうした?』

 

「別行動をしてもいいでしょうか?少し思いつくことがありまして・・・・・」

 

『ダメに決まってるでしょっ!?何勝手な事言って・・・・・』

 

「お前の指示は聞いてない」

 

『なっ・・・!?』

 

『・・・・・いいだろう』

 

『隊長っ!?!?』

 

『但し、2輌連れて行け。単独行動は認可できない』

 

「かしこまりました」

 

 

 

そう言って通信を切るとポケットにあった飴玉を取り出して口に含んだ。

 

 

 

「たつき、市街地に向けて迂回してくれ」

 

「姉貴!少し遠回りになるけど、それでも良いのか?」

 

「あぁ・・・あそこにはアレもあるから急がなくていい」

 

「そうだよね~アレを倒せる相手は~いないよねぇ~」

 

「それはどうかな・・・?」

 

「千智、嬉しそうだね」

 

「まぁな・・・飛鳥がどう動くか見物だよ」

 

 

 

 

 

「なんか寒気がした」

 

「風邪引いたんじゃないのか?」

 

「はぁ・・・バカはいいな風邪引かなくて」

 

「なにをっ!!」

 

「先輩!ウサギさんチームが・・・エンストして動けないそうです!!」

 

 

 

現在大洗の陣営は川を渡っている最中であった。

しかし、まさかのハプニングによりウサギさんチームの戦車がエンストしてしまったのだ。

ざわつく大洗陣営・・・だが、飛鳥はある行動に出る。

 

 

 

「薫、変われ」

 

「んっ?どうすんだよ」

 

「時間稼ぎだよ」

 

 

 

そう言って隊列から離れるネコさんチーム。

それに気付いたみほはすぐに通信を繋ぐ。

 

 

 

『操縦しているのは飛鳥さんですね』

 

「おっ・・・察しがいいね」

 

『・・・・・無茶はせず、必ず帰って来て下さい』

 

「わかってるよ・・・隊長」

 

 

 

そう言って通信を切った飛鳥はいつものグローブを装着する。

薫は飛鳥と配置が変わり、キューポラから顔を出して黒森峰の陣営を双眼鏡で覗く。

 

 

 

「黒森峰の集団がこちらに接近中っ!!」

 

「・・・・・カメさんチーム、ハヤブサさんチーム、応答どうぞ」

 

『ウサギさんチームが危機なんでしょ?なんでも言ってよ』

 

『しかし、この状況下で動けるのはこの3輌のみ。どうする、日野本さん』

 

「我々は正面から堂々と対峙しますので、2輌は後方から奇襲攻撃をお願いします」

 

『1輌で黒森峰陣営を止めると・・・』

 

「はい」

 

『・・・わかった!幸運を祈るっ!!』

 

 

 

そう言っている中でもゆっくりと黒森峰陣営は迫って来る。

 

 

 

「チャーフィーが単機で特攻してくるですって?弱小チームはなにを考えてるかわからないわね」

 

「あのチャーフィーは危険だ。総員十分に警戒しろ」

 

「えっ?た、隊長!たかがチャーフィー1輌ですよ!?ここは一気に畳み掛けた方が・・・・・」

 

「エリカ・・・飛鳥を甘く見ると痛い目を見るぞ」

 

「飛鳥・・・向こうのもう一人の副隊長の事ですか?」

 

「・・・・・あぁ」

 

 

 

まほは昔の出来事を思い出していた。

無謀とも言われる単機突撃。

しかし、仲間の為なら無理をも押し通すとある女性の事を・・・。

 

 

 

「黒森峰が撃って来やがったっ!!」

 

「言われなくても分かってるっ!!」

 

「先輩!カメさんチーム、ハヤブサさんチーム共に攻撃を開始しました!」

 

「玲那っ!!」

 

「・・・みんなの所には行かせないっ!」

 

「冥炎装填檄(ダークフレイムインパクト)っ!!」

 

 

 

「河嶋!装填はやく~!!」

 

「や、やってますよ!会長!!」

 

「生きてる心地がしない・・・・・」

 

 

 

「こんな敵だらけの中での乱戦は滅多にないぞ!!全員、奮起せよっ!!」

 

「敵フラッグ車でも狙いますか?」

 

「がっはっはっ!!強気だな!魅哉!!」

 

「・・・・・時は満ちていない」

 

「ネコさんチーム!1輌撃破っ!!」

 

 

 

黒森峰陣営を掻き乱す様に立ち回る3輌。

仲間の為に闘う姿は、獅子奮迅と言わざるえない活躍を見せていた。

黒森峰も迎撃はしているのだが、勢いで負けているのか苦戦していた。

 

 

 

「・・・・・戦姫」

 

「Excellent!!あの動きは昔を思い出しマース♪」

 

「アレがあの人の本来の動き・・・か」

 

「あぁ~飛鳥様ぁぁぁ♪」

 

 

 

観戦席に居たメンバーは気付いていた。

昔の飛鳥・・・いや、強襲戦車競技での無敗の姫『戦姫』の再臨を・・・。

 

 

 

『1輌獲った!!』

 

「こちらももう1輌撃破!!」

 

『こちら、あんこうチーム!本隊は川を横断し、無事合流地点に到着しました!!』

 

「総員、てったぁぁぁい!!!!」

 

 

 

朗報が耳に入った瞬間に飛鳥の大声が響く。

それと同時に3輌は散開するように逃げ出す。

しかし、黒森峰相手に簡単には行かなかった。

 

 

 

「簡単には逃がさない」

 

 

「・・・・・殺気っ!!」

 

「京華っ!がぁっ!!」

 

 

「先輩!ハヤブサさんチームが・・・!!」

 

「なっ!?!?」

 

「向こうの隊長機にハヤブサさんチームがやられてるっ!!」

 

 

 

運が悪かったのだろう。

丁度ハヤブサさんチームの位置する場所は、黒森峰隊長機西住まほの範囲内。

退却時の隙を突かれたのだろう。

一撃で仕留められてしまっていた。

 

 

 

『ハヤブサさんチーム!大丈夫ですか!?』

 

『くっ・・・油断した・・・面目ない』

 

「怪我人はいないんですか?」

 

『全員無傷さ・・・悔しいくらいにな』

 

『三笠さん・・・』

 

『隊長さん方・・・後は・・・頼んだよ』

 

 

 

いつも楽しそうに話す声とは違い、悔しそうで今でも泣きそうな声になにも返さずに通信は切れた。

ネコさんチームの車内は一瞬静まり返る。

しかし、飛鳥はいつもの棒付きの飴を舐め出してこう口にした。

 

 

 

「先輩の分も活躍して優勝する」

 

「そんなの当たり前だぜっ!!」

 

「絶対にやり遂げて見せます!!」

 

「・・・想いを胸に」

 

「日輪の名の下に成し遂げて見せようぞ!!」

 

 

 

そう決意したネコさんチームは何とかカメさんチームと合流してから本隊に戻った。

 

 

 

『・・・飛鳥さん』

 

「よくやったな、みほ」

 

『・・・ありがとう』

 

 

 

短い掛け合いではあるが、それだけで気持ちが伝わったのか大洗陣営は市街地に向けて前進していた。

なんとか市街地に到着した一同ではあったが、そこでとある光景を目にする。

 

 

 

「おいおい、伏兵が・・・・・コイツかよ」

 

 

 

大洗陣営を待ち侘びていたかのように市街地から姿を見せたのは・・・史上最大の超重戦車マウス。

予想はしていたものの飛鳥は、あまりの迫力に冷や汗が頬を伝う。

 

 

 

「退却しろぉぉぉっ!!!!」

 

 

 

飛鳥の大声が聞こえるか否やマウスの砲撃が横を擦り抜けて地面に着弾する。

しかし、直撃していないのにかなりの衝撃を感じた事に大洗陣営は固まってしまっていた。

すると薫とバトンタッチした飛鳥はキューポラから顔を出すと喉頭マイクに手を当てて指示を出す。

 

 

 

「足を止めるなっ!!動き続ければ当てられないんだっ!!諦めるなっ!進めっ!!!!」

 

 

 

その言葉と同時に全車輌が撤退するように動き出す。

しかし、その最中に飛鳥はとあるシルエットに気付く。

 

 

 

「アイツも先回りしてやがったか」

 

 

 

マウスの背後に陣取っていたのは、ティーガーⅡ。

そう、千智の操る戦車の姿である。



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これで決着です!

「奇襲を狙うつもりだったんだが・・・ココで決めるか」

 

「千智、本隊は数分後には到着するから焦る必要はないよ」

 

「いや、マウスと共闘すれば一瞬だ」

 

「じゃあターゲットはどれにするんすか?」

 

「・・・・・本当は飛鳥と一騎打ちしたかったんだがな。この場で私情をはさんだら優勝が遠ざかる・・・目標は敵フラッグ車だ」

 

「・・・みほさん」

 

「小梅、変わろうか?」

 

「ううん、私がやります!」

 

 

 

「チッ!マウスだけでも厄介なのに・・・良い勘してやがんな、アイツ」

 

「飛鳥!どうすんだこの状況っ!!」

 

「くっ・・・あんこうチームに敵を近付けさせないに決まってんだろ!」

 

「合点承知っ!!」

 

「全車に通達!フラッグ車がやられればこの試合は敗北になる!総員奮起せよっ!!」

 

『『『了解っ!!!!』』』

 

 

 

まさかの展開に慌てふためく大洗陣営。

だが、飛鳥の号令に感化されると全員が奮闘を開始する。

するとみほからとある通信が入る。

 

 

 

「なにっ!?マウス攻略の糸口が掴めたのか?」

 

『はい!少々無茶な作戦にはなると思いますが、絶対に成功させます!!』

 

「じゃあ・・・あの連中の足止めは任せとけ」

 

『少しの間ですが、よろしくお願いします!!』

 

「了解」

 

 

 

それと同時にみほを中心としたマウス攻略メンバーはこの場から離れていく。

マウスは後を追うように追走するが、ティーガーⅡ達はチャーフィーから溢れ出る威圧に動けずにいた。

向こうは、ティーガーⅡが1輌、パンターG型が2輌。

それに対してこちらは、ネコさんチーム、カモさんチーム、カバさんチームの3輌。

 

 

 

「千智、フラッグ車を追わなくていいの?」

 

「あんなに狙い定められてたら逆に撃破される」

 

「・・・・・いままでにない圧力」

 

「姉貴!向こうはこっちと一戦やり合うつもりっすよ?」

 

「好都合だな」

 

「ち~ちゃん嬉しそぉ~」

 

 

 

「2輌で相手の取り巻き2輌をお願いしてもいいですか?」

 

『心得たっ!』

 

『任せときなさいよっ!』

 

「ふぅ・・・敵の本隊もこちらに近付きつつあるから速攻で決めるのが一番の上策」

 

「ココが一番の勝負所かよ!燃えてくるってもんよ!!」

 

「先輩!陣形はどうしますか?」

 

「このままで行くよ・・・みんなを信じてるからな」

 

「・・・・・わかった」

 

「ふっはっはっ!!リミッターを外させてもらうっ!!」

 

「それじゃあ・・・パンツァー・フォー!!!!」

 

 

 

先制打と言わんばかりの砲撃がチャーフィーから放たれる。

しかし、同タイミングで動いていたのか砲弾は側面を掠り反れた。

と同時に3輌対3輌の戦いが始まる。

 

 

 

「相手の砲手・・・上手いな」

 

「千智!マウスが身動きを取れなくされたって!!」

 

「やっぱり・・・なにか考えがあっての行動か・・・侮れないな、西住さんは・・・・・護衛として付けてたⅢ号戦車はどうした?」

 

「さっき二手に分かれる際にポルシェティーガーにやられてるよ」

 

「じゃあ姉貴!救援に・・・・・」

 

「不可能だ」

 

 

 

そう千智が言った途端仲間のパンターG型が救援に向かおうと方向転換した瞬間鋭い砲撃を受けてしまう。

一瞬の判断ミスが敗北になると言う事を示されたようにも見える。

千智はチャーフィーからの熱い視線を送ってくる人物と目が合う。

 

 

 

「へへっ・・・みほの作戦のおかげで向こうは集中出来てないみたいだな」

 

「私・・・興奮してきた」

 

「ったく・・・いきなり脱がないでくれよ」

 

「脱がねぇよ!!」

 

 

 

などと馬鹿なやり取りをする2人ではあるが、真剣な眼差しではあった。

飛鳥は目の前の相手がなにか行動を起こさないかと目を逸らす事はしなかった。

しかし、相手の砲塔の向く位置に疑問が生じる。

この異変に気付いて喉頭マイクに手を当てた時にはもう遅かった。

 

 

 

「カモさんチーム大破っ!!」

 

「死角を狙われたか・・・攻撃の手を緩めるなっ!」

 

「・・・わかった」

 

「ツバサ!カモさんチームの状況はどうだ?」

 

「怪我人はありません!」

 

 

 

チャーフィーの背後に位置していたカモさんチームは、死角からの砲撃で撃墜されてしまっていた。

そう先程の砲撃がこの出来事を起こしてしまったのだ。

かなりの精度がなければ、背後に位置する車輌を撃ち抜くのは至難の業。

しかし、交換とばかりに相手のパンターG型を撃破する。

 

 

 

「これは~ヤバくな~い?」

 

「千智・・・マウスもやられたって報告が・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「姉貴!どうするよっ!!」

 

「やり合うしかないだろう」

 

「・・・・・うん!」

 

 

 

「アイツなら捨て身で来るな」

 

「どうしてわかるんですか?」

 

「アイツの事だからこの状況・・・捨て身で1輌撃破は確実に狙いに来る」

 

「じゃあ、私達はどうするんだ?」

 

「迎え撃つに決まってるだろ」

 

 

 

そう言っていると向かい合うように両車が停車する。

カバさんチームは後方斜めでいつでも援護射撃が出来るように陣取っていた。

先行を仕掛けてきたのは、ティーガーⅡ。

 

 

全速力で向かって来る相手に対して玲那は冷静に砲撃を放った。

砲弾は見事に右側の履帯を射抜いた。

車体は右半分が浮いた形でネコさんチームの横を擦り抜けた。

しかし、その瞬間であった砲撃音が聞こえたのは・・・。

 

 

飛鳥は慌てたように振り返る。

そこには横転しているティーガーⅡと正面装甲を的確に撃ち抜かれて白旗を出すカバさんチームの姿があった。

 

 

 

「向こうの砲手も見事だな」

 

「姉貴ぃぃぃっ!!」

 

「でも、向こうのⅢ突は仕留められた」

 

「さすがだね~小梅ちゃ~ん」

 

「・・・・・まだまだです、私は・・・・・」

 

「はぁ・・・後は隊長にすべてを祈るのみか」

 

 

 

「マジかよ・・・あの状況下でやりやがったな・・・黒森峰の砲手さん」

 

「カバさんチーム、怪我人はゼロです!!」

 

『不覚を取った・・・無念だ』

 

『私達の分も任せたわよ、日野本さん!』

 

「11対6・・・か」

 

「先輩・・・カメさんチームが行動不能らしいです」

 

『日野本ちゃ~ん・・・ちょっと無理させ過ぎたみたい・・・後は任せたよ』

 

「先輩!黒森峰本隊、まもなく到着します!!」

 

 

 

その報告と共に飛鳥は地図を取り出して打ち合わせの内容を思い出していた。

イヤホンではもう黒森峰本隊と接敵したらしくふらふら作戦が開始されていた。

忙しく指示が飛び交う中で飛鳥は戦車内に戻る。

 

 

 

「ふらふら作戦が始まった」

 

「現在戦力を分ける事に成功しているみたいで各個奮戦しています!」

 

「玲那・・・変わろうか」

 

「・・・・・うん」

 

 

 

強く握手を交わした2人。

互いに位置が変わると玲那はキューポラから上体を出す。

飛鳥は一回髪を掻き上げると大きく深呼吸した後に喉頭マイクに手を当てる。

 

 

 

「こちらネコさんチーム・・・これより見敵必殺(サーチアンドデストロイ)を執行する」

 

『かしこまりました!皆さん位置情報を的確に伝達お願いします!!』

 

『『了解っ!!』』

 

『隊長!後続にいるエレファントとヤークトティーガーの方任せてもらっても宜しいですか?』

 

『お願いします!』

 

「ウサギさんチームはやる気だねぇ~♪」

 

「じゃあ・・・アタシは全車輌撃破する」

 

「むむっ・・・覇王はやりかねんから恐ろしい」

 

「・・・て言うかなんでちょっと拗ねてるんですか?」

 

「重戦車を狩りたかったんだとよ」

 

『日野本先輩!そろそろ合流します!!』

 

「・・・了解」

 

 

 

アヒルさんチームの通信と共に戦車は前進する。

大通りに顔を出そうとする最中に目の前を逃げるように走り抜けるアヒルさんチーム。

それを確認した途端停車を指示する飛鳥だったが、次の瞬間・・・砲撃。

タイミングはドンピシャで後続にいた敵車輌の横っ腹に直撃。

白旗を確認した直後、そのまま追走を始める。

 

 

 

「あんこうチームは敵フラッグ車との一騎打ちに成功!!現在はレオポンさんチームが進路を封鎖中との通達が・・・」

 

「正念場だな・・・アヒルさんチーム!アタシ達はレオポンさんチームの援護に向かう!!」

 

『了解ですっ!!』

 

「無茶はするな・・・よっ!!」

 

 

 

救援に向かう移動の最中も援護射撃とばかりに砲撃し、敵車輌1輌の履帯を切ってからこの場を去った。

 

 

 

「ウサギさんチーム!やられちゃいました!!」

 

「・・・でも、あの2輌は宣言通りに喰ったんだから上出来だな」

 

「こりゃあ私達も先輩の腕を見せないとね!」

 

「・・・・・目標地点あとわずか」

 

「挨拶代わりだ・・・受け取れぇぇっ!!」

 

 

 

援軍として敵の背後から現れると登場と共に1輌の背面に砲撃をぶちかますと撃破させた。

 

 

 

「失敗兵器だけでも邪魔だと言うのに・・・!!」

 

 

 

「アタシ達は全力で時間稼ぎ!全員最後の力振り絞れぇぇぇ!!」

 

「「うおおおぉぉぉっ!!!!」」

 

 

 

前と後ろとの共闘が開始される。

しかし、敵は前の通路を閉鎖しているレオポンさんチームに砲撃が集まっており、後ろは無視するつもりだろう。

 

 

 

「アイツら・・・意地でも横槍入れたいみたいだな」

 

「どうすんだ!飛鳥!!」

 

「行かせる訳ないだろうっ!!」

 

 

 

そう言って飛鳥はカリエンテにとある砲弾を指示した。

と同時に標準を敵車輌から味方車輌の方へと向ける。

 

 

 

「先輩!!」

 

「黙って見てろっ!!」

 

 

 

次の瞬間砲撃は撃ちだされた・・・レオポンチームの背後へと・・・。

見事に着弾したのは、さっきカリエンテに伝えておいた・・・榴弾。

轟音と共に着弾したレオポンチームの背後の通路は瓦礫で埋まってしまう。

 

 

 

「・・・・・見事」

 

「言っただろう?行かせねぇ・・・ってよ」

 

「アヒルさんチーム!レオポンさんチーム!共に走行不能ですっ!!」

 

「後は・・・アタシらとあんこうチームだけか」

 

「どうする、覇王」

 

「みほはやってくれる・・・そう信じてやる事さ!!」

 

 

 

と残った敵車輌に砲弾を浴びせる。

しかし、ここは狭い路地裏。

アヒルさんチームを追走していた車輌も合流してしまい完全に逃げ道の無い状況に陥ってしまった。

 

 

 

「これは・・・万事休すですね」

 

「いや、背水の陣かもしれぬ・・・」

 

「この状況下なら四面楚歌だな」

 

「・・・・・絶体絶命」

 

「つっこまないからな」

 

 

 

などと口ではボケていたが、この絶体絶命の状況下に冷や汗が頬を伝う。

しかし、この緊迫した空気を突き破るアナウンスが鳴り響く。

 

 

 

 

 

《黒森峰、フラッグ車・・・走行不能!よって・・・・・大洗女子学園の勝利っ!!!!》

 

 

 

そのアナウンスと共に飛鳥の体から力がふっと抜けた。

それと同時にメンバー全員が抱きついて来て喜ぶ姿に飛鳥は自然にガッツポーズと笑顔になっていた。

 



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みんなで祝勝会です!

ネコさんチームはみんなとは少し遅れての帰還となった。

途中で履帯が切れてしまい、大会運営の迎えを待とうとも思ったが飛鳥がしれっと直せばまた動き出したので今になってしまった。

飛鳥はいつものようにお気に入りの棒付き飴を頬張っていたが、到着すると背伸びをした後にみんなよりも先に降りた。

すると向こうから凄い勢いでこっちに向かって来る重戦車もとい岬が迫って来たのだ。

 

 

 

「ヒィィィィメェェェェェッ!!!!」

 

「おわぁぁぁっ!?や、止めろっ!!アタシが死ぬぅぅぅぅっ!!」

 

 

 

いきなり両脇に手を突っ込まれたかと思いきやそのまま持ち上げられるとそのままクルクルと嬉しそうに回る岬。

しかし、宙ぶらりんの飛鳥は引きつった表情で叫ぶ事しか出来ずにいた。

すると合流した三笠が岬の肩に手を置くと我に返ったように飛鳥を解放する。

いきなりの事でぐったりしかける飛鳥ではあったが、不意に三笠に強く抱き締められる。

 

 

 

「よくやったぞ!姫!!ボクは嬉しくて・・・うぅ、嬉しくてだな・・・・・」

 

「まぁ、これで廃校は免れました!勝ったんですよ、アタシ達・・・」

 

「あぁ・・・君達のおかげだ・・・礼を言うよ」

 

「当然の事をしたまでですから」

 

「日野本ちゃ~ん!!」

 

「・・・会長っ!!」

 

 

 

涙ぐむ三笠を慰めていたのだが、不意に名前を呼ばれたから振り返ると今度は杏が思いっきり飛びついて来たのだ。

あまりの出来事に一瞬驚いたが、飛鳥は自分からもぎゅっと抱き返した。

 

 

 

「私達の学校・・・護れたよ、日野本ちゃん」

 

「・・・はい」

 

「・・・ありがとね」

 

「いえ、会長の力になれてありがとうございました」

 

 

 

胸元に顔埋めて喋る杏に対して飛鳥は夕暮れ色に染まる空を見ながら礼を言った。

すると残っていた他のメンバーがぞろぞろと飛鳥を囲むように集まって来たのだ。

その瞬間飛鳥には嫌な予感が脳裏に浮かんでいた。

 

 

 

「勝鬨でござる!!」

 

「「えいっえいっおー!!!!」」

 

「いや!・・・勝鬨をあげる・・・のはいいけど・・・アタシを・・・いちいち胴上げ・・・するなぁぁぁっ!!」

 

 

 

勝鬨と共に胴上げされる飛鳥は大声で叫ぶ。

しかし、胴上げをするみんなの表情は全員が笑顔で嬉しそうであった。

長い間胴上げをされてふらふらになる飛鳥ではあったが、みんなから離れると相手陣営の方に向かう。

 

 

 

「千智、お疲れ~」

 

「おいおい・・・どうしてお前がこっちに来ているんだ」

 

「そんなの気にしなくていいだろ?お前に会いたいのに理由がいるか?」

 

「千智・・・この人が噂の・・・?」

 

「噂・・・?千智、変なこと吹き込んでないだろうな」

 

「あぁ・・・最高の戦友と伝えているよ」

 

「そりゃあ・・・光栄ですこと」

 

「優勝おめでとう」

 

「へへっ・・・ありがとうな!」

 

 

 

2人はがっちりと固い握手を交わすと手を離した後に嬉しそうに今度は拳をあわせ合っていた。

それを見ていた千智のメンバーも迎えに来たネコさんチームもその光景に自然と笑顔が出てしまっていた。

そして・・・表彰式の壇上でなにやら譲り合いが起きていた。

 

 

 

「念願だった優勝だ!ここは会長がど真ん中でバシッと決めた方がいいんじゃないのか?」

 

「そうです!どうぞ」

 

「いや、ここは西住ちゃんが決めちゃってよ!隊長なんだからさ」

 

「で、でも・・・・・」

 

「それなら日野本さんも一緒に持たれたらよろしいかと」

 

「それはいいねぇ~海原!2人で決めちゃってよ♪」

 

「あ、あぅ・・・・・」

 

「まぁ・・・決める時はビシッと決めますかね!みほ!!」

 

「・・・・・うん!!」

 

 

 

そんなこんなで中央で2人で優勝旗を持ち上げて表彰式を終える事が出来た。

 

 

 

「終わったな・・・みほ」

 

「うん・・・みんなで掴んだ勝利です」

 

「西住みほ流・・・ココに誕生っ!!ってか?」

 

「あはは・・・そう言うのは遠慮しときます。それにこれは大洗のみんなで勝ち取った戦車道だから」

 

「同感だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは飛鳥の働いているせんしゃ倶楽部。

あの優勝の日からは数日が経っており、今日は賑わいをみせていた。

大洗メンバーは全員勢揃いしており、所々には他校の生徒もちらほらと見えている。

本日は飛鳥の独断と偏見で祝勝会を開いていたのだ。

と言うのも店長の粋なはからいで1日貸切状態で店を開けてくれたのである。

 

 

会場は盛り上がっており、色々な組み合わせのメンバーが賑わいを見せている。

店の外では依頼していたアンツィオ高校の生徒達が料理を振舞ってくれていた。

招待状は、聖グロ、サンダース、プラウダ、アンツィオ、黒森峰、マジノ、その他と手当たり次第に送り届けた。

大変賑わいをみせている店内でも飛鳥は平然とレジの場所に居座っており、飲み物を片手に記念に店の物を購入していく生徒達の対応をしていた。

 

 

 

「本日はお招き頂き感謝していますわ」

 

「おっ!ダージリンじゃないか!遠路はるばるご苦労さん!」

 

「貴女からのお誘いですもの・・・それに私は他にも理由があってココにやって来ましたの」

 

「へぇ~・・・それってもしかして敵情視察・・・とかか?」

 

「さぁ・・・それは言えませんわね」

 

「ダージリン!!」

 

「あら、カチューシャ・・・ごきげんよう」

 

「おやおや、初めまして・・・地吹雪のカチューシャ様」

 

「あっ!アンタはあの時の!!」

 

「この度はご招待頂きありがとうございます、戦姫(ワルキューレ)」

 

「だぁ~・・・普通に名前で呼んでくれよ~しかも英語で呼ばれると変な気持ちになるよ、ノンナ」

 

「ふふっ・・・これは大変失礼しました」

 

「あら、戦姫(ワルキューレ)って呼び名悪くないんじゃかしら?」

 

「おいおい、ダージリンまでその名で呼ぶなよ」

 

「なにを恥じてるのよっ!貴女はこのカチューシャも認める人物なのよっ!戦姫(ワルキューレ)の飛鳥と名乗ることを許すわっ!!」

 

「そう言う事じゃないんだよっ!」

 

 

 

「飛鳥殿って本当に凄い人ですよねっ!」

 

「まぁ、アイツは昔からあんな調子だったよ?いろんな人とコミュニケーションをとって仲良くなっていつの間にか友達に・・・肝が据わってると言うかやるヤツなんだよ」

 

「文殿もそのような感じで飛鳥殿とお友達になられたのですか?」

 

「あぁ・・・半ば強引にね」

 

 

 

「ヤッホー♪飛鳥」

 

「いらっしゃい、ケイ」

 

「今日のこのパーティさいっっこうにエキサイティングしてるわ♪」

 

「それは開催した身としては嬉しい言葉だねぇ~」

 

「それに料理も美味しくって本当にたまらないわっ!!」

 

「いやぁ~そう言ってもらえると作ってる私としては嬉しい言葉だなっ!!」

 

「おっ!千代美!!」

 

「アンチョビだっ!ア・ン・チョ・ビ!!ほれ、お前の分を持って来てやったぞ」

 

「ほぅ~これが噂の鉄板ナポリタンか」

 

「遠慮なくどんどん食べてくれっ!!」

 

 

 

 

飛鳥は夢中でナポリタンを食べていたが、他校の隊長陣は警戒した雰囲気ではあった。

滅多にこう言う感じで集まる機会もないのだ仕方ないことだろう。

しかし、この空気を上手い具合で割り込んで来た人物がいた。

 

 

 

「いきなり失礼します!こちらに聖グロリアーナ女学院のダージリンさんとプラウダ高校のカチューシャさんはいらっしゃいますでしょうか!!」

 

「それならそこの紅茶飲んでるのがダージリンでそこの肩車してもらってるのがカチューシャだよ」

 

「おぉ、そうでしたか!ご協力感謝します!!西住さんが地下室に来て欲しいとの事ですっ!!」

 

「地下室・・・かしら?」

 

「あぁ・・・ここの秘密部屋さ」

 

「私が先導してご案内しますのでご同行よろしくお願いします!!」

 

「・・・ごきげんよう」

 

 

 

2人は突然やって来た女性の後に付いて地下室へと降りて行く。

それと同時にアンチョビも料理を作ると言って持ち場に戻るとケイもまだ食い足りないと外へと出て行った。

 

 

 

「さっきの子・・・見ない顔だな」

 

「知波単学園・・・全国高校生大会の一回戦で私達が破った所の新隊長だ」

 

「千智か・・・説明ご苦労・・・でも、アタシの記憶にないって事は初対面になるのか」

 

「ちなみに彼女の名前は・・・西 絹代。かなり真面目な大和撫子だね」

 

「千智・・・なんでお前そんなに詳しいんだ?」

 

「試合後に一緒にお茶をご一緒した時にちょっとね」

 

「そうですか・・・それはそうとまほさんは来てないのか?」

 

「そうね・・・隊長とアイツは来てないわ」

 

「・・・あの副隊長と仲悪いのか?」

 

「仲が悪い?違うな・・・気に食わないだけだ」

 

 

 

苦笑いを浮かべる飛鳥だったが不意に気になるシルエットに気付くと千智を置いて店を出る。

するとそこには無我夢中で料理を食べる女の子達とカンテレを持って佇む女性の姿があった。

 

 

 

「招待状が届いてよかったよ、ミカ」

 

「風が運んで来てくれたんだよ・・・蝉堂さんをね」

 

「あっ!ほ、本日はお招き頂きありがとうございます!!」

 

「そんな堅苦しい挨拶はいいよ♪今日は腹一杯食べて行ってくれ!ミカは流れに身を任せすぎだからな」

 

「・・・生きるためにはなにかを犠牲にしなくちゃならないんだよ」

 

「昔から変わってないな・・・」

 

「君は変わった・・・昔とは違った風を感じるよ」

 

「へへっ・・・お見通しか」

 

「風はすべてを教えてくれるからね」

 

「今日は食べ放題だから持ち帰っても構わないからな?タッパーはこちらで用意してるからいつでも言ってくれ」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

「あ、あの人は絶対神様だよっ!ミカ!!」

 

「いや・・・飛鳥は女神だよ」

 

 

 

店に戻ってミカ達の為にタッパーを用意してあげていると生徒会のメンバーが勢揃いしていた。

 

 

 

「やっほ~日野本ちゃ~ん♪」

 

「さっきまでなんの話をしていたんだ?」

 

「一週間後に執り行うと思っている優勝記念エキシビジョンマッチの話し合いだ」

 

「親善試合みたいなモノですわ」

 

「うちら大洗と知波単VS聖グロとプラウダの闘いになるねぇ~」

 

「・・・・・コレって公式戦じゃないよな?」

 

「うん、両方混合チームになるから正式な形式ではないと思うよ」

 

「じゃあ・・・・・」

 

 

 

にやっと笑う飛鳥は横目に入ったとある人物を連れて来る。

 

 

 

「アタシはマジノ女学院と組んで第3勢力で参加しますっ!!」

 

「ふぇっ?」

 

「えっ?」

 

「「えええええっ!?!?!?」」

 

 

 

エクレールと桃が同時に声を荒げて驚く中で飛鳥は無邪気な子供のような笑顔を見せていた。

会長もこの件は止めると思ったのだが・・・。

 

 

 

「面白いし、やってみよっか♪」

 

 

 

と言う軽い返事で認可されてしまったのだ。

突然の事であたふたするエクレールを横目に決まった三つ巴の親善試合。

こうして・・・新たな闘いの火蓋が切って落とされたのであった。

 



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三つ巴の闘いです!!

こうして親善試合当日。

 

大洗&知波単チーム

   VS

聖グロ&プラウダチーム

   VS

マジノ連合チーム

 

三つ巴の闘いが繰り広げられていた。

 

 

 

『AチームとBチームがゴルフ場にて交戦を開始しましたわ。Bチームのフラッグ車が完全に包囲されていますわ、指示をお願いします』

 

「ハート・ブル!そのまま監視を続けて下さい!!発砲は指示があるまでお控えお願いします!」

 

『Bチームの別働隊がゴルフ場に向かい進軍を開始しました。指示をお願いします』

 

「ダイヤ・ブル!一定の距離を保ちながら別働隊を追って下さい!発砲は指示があるまでお控えお願いします!」

 

 

 

車内では必死に通信の内容を聞いて指示を出すツバサの姿があった。

いつもならテンパって焦る姿を見せるのだが、いつもとは雰囲気が違った。

 

 

マジノ連合は先行して市街地に陣取っていた。

戦力差的にも正面からの真っ向勝負は分が悪い。

そう考えたマジノ連合は一切こちらからの攻撃を禁止して隠密行動に徹していた。

 

 

 

「いやはや・・・向こうはこちらに興味がないみたいだな」

 

「よく言いますわね、飛鳥様。両方を鉢合わせたのは貴女だと言いますのに・・・」

 

「まぁ・・・みほは最初からあの2チームを分断するつもりだったんだし、万事OKって訳さ」

 

「それにしてもこの連合軍のメンツをよく集められましたわね」

 

 

 

《大洗》

日野本/M24チャーフィー軽戦車

東郷/M18ヘルキャット

 

《マジノ》

エクレール/ソミュアS35

フォンデュ/ソミュアS35

ガレット/ルノーB1bis

 

《プラウダ》

ミレイア/T-34

 

《聖グロ》

ルフナ/マチルダⅡ

 

《ベルウォール》

中須賀/ティーガーⅠ

山守/ヤークトパンター

土居/エレファント

南/T-44

柏葉姉/Ⅱ号戦車

 

《西グロ》

キリマンジャロ/ブラックプリンス

 

《戦姫連合》

ティナ/グリズリー巡航戦車

リコッタ/M13/40

 

 

 

「手当たり次第に連絡したからな・・・敵情視察の連中もいるんじゃないか?一応優勝校との親善試合だからな」

 

「そうですわね・・・特にプラウダと聖グロから来られた2人はそれが目的かもしれませんわね」

 

「まぁ・・・アイツらなら敵に塩を送りそうだけどな」

 

『Hey!飛鳥!まだ両チームに攻撃は仕掛けないのデスか?』

 

「私達は待機だ。斥候部隊からの連絡があり次第アタシ達も行動を開始するからそれまで待ってろ」

 

『OK~♪』

 

「それにしても・・・あの2人はどうやって今回の親善試合を知ったんだ?アタシからは招待は送ってないし、文も知らないって言ってたしな」

 

「・・・そうですわね」

 

 

 

などと会話していると横に並ぶようにティーガーⅠが停車する。

 

 

 

「飛鳥!ちょっといい?」

 

「どうしたんだ?ツンデレラ」

 

「うっさいわよ!戦姫!!」

 

「ふふっ・・・それで、どうしたの?」

 

「私達はみほを迎えに行きたいんだけど・・・「いいよ」・・・っ!?」

 

「それとベルウォールのメンバーの指揮権はすべてエミに任せるから好きに暴れてくれ」

 

「任せといて!大洗・・・いや、みほは私達が仕留めてあげるわ!!」

 

 

 

そう言ったベルウォール一行は勢いよく飛び出して行った。

その後姿を何も言わずに見送る飛鳥にエクレールは口を開く。

 

 

 

「中須賀エミ・・・ドイツからの留学生として今年ベルウォールに編入。荒れ果てていた戦車道部を見事に立て直した立役者でしたでしょうか?」

 

「勉強熱心だな、エクレール」

 

「いえ、それ程でもありませんわ。脅威になりかねないモノには細心の注意を・・・と思いまして経歴を洗ってみただけですわ」

 

「それじゃあアタシからも一つ助言するよ・・・エミはアタシとみほとは幼い時からの友達さ」

 

「・・・・・えっ?それって・・・・・」

 

「先輩!AチームとBチーム共に動きがありました!」

 

「報告お願い」

 

 

 

話を遮るようにツバサが大声を出すと戦況確認の為にエクレールも身構えたように静まる。

 

 

 

「Aチームの包囲網が崩壊!それと同タイミングでBチームの別働隊が合流を果たして挟撃を開始。Aチームは不利と判断したのか山を降りてこちらに向かっています」

 

「今の所計画通りか・・・」

 

「覇王よ、これより我らはどう動くのじゃ?」

 

「ハート・ブル!ダイヤ・ブル!2輌はそのまま追跡をお願い!」

 

『わかりました!』『かしこまりました!』

 

「ティナ!ミレイア!ルフナ!指示してた通りに斥候部隊と合流後Bチーム・・・特にプラウダの戦力を足止めお願い!」

 

『OK!』『やってやりますわ!』『お任せ下さい』

 

「エミ!好きに暴れて掻き乱して来てくれ!」

 

『まっかせて!!』

 

「三笠!リコッタ!機動作戦開始!!」

 

『面舵いっぱぁぁい!』『ヨ~ソロ~!!』

 

「エクレール!キリマンジャロ!アタシの護衛よろしく!」

 

『承知しましたわ』『わたくしにお任せを』

 

「それじゃあ・・・ドタバタ大作戦、開始!!!!」

 

『『『パンツァー・フォー!!』』』

 

 

 

各車から聞こえる掛け声に飛鳥はにやりと不適な笑みを浮かべると戦車内にやって来る。

 

 

 

「Aチームで注意するのは、カバさんチームとレオポンさんチーム・・・それにあんこうチームだ」

 

「味方とやり合うなんて考えた事ないけどな」

 

「そうだな、練習での戦闘は何度かあったが今回は実戦だからな・・・勝ちに行く」

 

「・・・・・けど、ハヤブサさんチームが来てくれたのは嬉しい」

 

「頼れる存在だな」

 

「Bチームはどうしますか?先輩」

 

「IS-2だけを警戒・・・だな」

 

「向こうの両隊長車は警戒しなくていいんですか?」

 

「カチューシャは指揮系統には優れているが、それ以外はそこまで恐れる事はないさ。それにダージリンは今回のフラッグ車だ。派手には行動しないだろう・・・と考えたいな」

 

「覇王よ!我々の初動はどう致す!」

 

「まずは・・・フラッグ車様方に挨拶しかないだろう?」

 

 

 

飛鳥の一言に何故か嬉しそうな4人は修羅場と化す市街地へと戦車を進めるのであった。

 

 

 

 

 

「マジノ連合・・・姿を見せないでありますね」

 

「・・・うん」

 

「飛鳥の事だからまた卑怯な事考えてるんだよ!絶対に!」

 

「・・・向こうは数が少ないからな、消耗したところで仕掛けてくるんじゃないか?」

 

「それなら・・・この市街地が絶好のポイントになりますね」

 

「飛鳥さんも大洗を熟知してる・・・それなら・・・・・」

 

 

 

「ダージリン・・・マジノ連合をどう見るの?」

 

「一つ一つは弱き者なのかもしれない・・・けれど、導きし者によっては強きも弱きもあるものよ」

 

「・・・・・はぁ」

 

「カチューシャ」

 

『なによ!ダージリン』

 

「マジノ連合が動くわ」

 

 

 

「合流完了デース♪BチームにFearを与えてあげマース♪」

 

「こう言う形でカチューシャ様に刃を向ける機会が来るなんて・・・しかし、今は戦姫の刃と化した私は負ける訳には行きませんわ!!」

 

「アッサム様・・・敵対する身でありながらもわたくしは貴女様と対峙する事に興奮を抑えられません。どうか・・・お覚悟を・・・」

 

「フォンデュ!私達は援護射撃に徹します。無駄な突撃はなるべく控えるように」

 

「かしこまりましたわ!ガレット、弱小校でない事を思い知らせてあげましょう」

 

 

 

「それでマネージャー!俺らはどうするんだ?」

 

「突撃よ!!」

 

「今日はなんだか生き生きしてるわね、やっぱりさっきの娘のおかげかしら?」

 

「それもあるけど、私はやりたかったのよ・・・みほとの真剣(マジ)の闘いが・・・!!」

 

「いいじゃねぇか!いっちょ俺らの強さ見せてやろうぜ!!」

 

「・・・面白いじゃない」

 

「それじゃあ派手に行きましょうか!」

 

「「任せとけっ、オラ!!」」

 

 

 

「三笠、本日はどういたしますか?」

 

「姫とはちょっと作戦会議しててね・・・あの子のお願いでボク達はクルセイダーを叩く!!」

 

「速さと速さの闘いになりますね」

 

「上等じゃないかい!!いっちょ派手に暴れようじゃないかい!!」

 

「・・・・・承知」

 

「と言う訳だからリコッタちゃんよろしく♪」

 

「どう言う訳かはわからねぇが、任されたっ!!」

 

「・・・・・飛鳥様を護りたかったのに・・・・・はぁ・・・・・」

 

 

 

「普通の戦車道とは違うこの感じ・・・強襲戦車競技時代を思い出すな」

 

「今日の飛鳥なんか雰囲気違うくない?」

 

「うむ、より一層覇王色が出て来た感じじゃっ!!」

 

「それだけじゃ・・・ないような」

 

「・・・・・覚醒?」

 

「本日は飛鳥様の盾として・・・そして、マジノの隊長として成すべきを成し遂げますわ!」

 

「本物のダージリン様とのこの一戦・・・今まで憧れてきたこの想いぶつけて見せますわ!」

 

 

 

各々の想いが交差する中、3チームは市街地へと引き寄せられていく。

激しい闘いが・・・ここに始まる。

 



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登場人物紹介です!その4

プラウダ高校

 

 

 

 

 

ミレイア

 

 

 

 

 

身長 - 160cm

 

好きな戦車 - ルノーB1

 

好きな花(花言葉) - ジャンヌ・ダルク(私は貴女にふさわしい)

 

趣味 - 自分磨き

 

 

 

 

 

1年生。『雪上のジャンヌダルク』と自分で名乗っている。

綺麗な白き肌とサラッとした金髪で日本人とフランス人のハーフである。

『戦姫』と呼ばれていた飛鳥に勝手にライバル意識を燃やしているのだが、相手にはされていない模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰女学院

 

 

 

 

 

皇 千智(すめらぎ ちさと)

 

 

 

 

 

身長 - 169cm

 

好きな戦車 - Strv 74

 

好きな花(花言葉) - ネリネ(また会う日を楽しみに)

 

趣味 - ネコと遊ぶ(3匹)

 

 

 

 

 

2年生。車長。

サバサバとした性格で感情をあまり表に出さないのだが、女受けは良いらしく黒森峰では同姓からの告白が耐えないと言う。

同学年のエリカとは去年あった事件以来仲が悪く、千智が言うには「アイツがみほを追い出した」の一点張りだと言う。

中学時代は飛鳥とペアを組んで強襲戦車競技を謳歌していたと言う。

 

 

 

 

 

金城 沙羅(かねしろ さら)

 

 

 

 

身長 - 167cm

 

好きな戦車 - IS-2

 

好きな花(花言葉) - ヒヤシンス(勝負)

 

趣味 - バイク旅

 

 

 

 

 

2年生。通信手。

千智とは1年生からの友達であり、理解者で相談相手でもある。

いつもダルそうにしているが、千智の為ならやる気を出す時も・・・ある?

知波単の西 絹代とはバイク友達であり、よくツーリングに行く仲だと言う。

 

 

 

 

 

久米川 たつき(くめがわ たつき)

 

 

 

 

 

身長 - 159cm

 

好きな戦車 - BT-42

 

好きな花(花言葉) - 月見草(自由な心)

 

趣味 - 早朝ジョギング

 

 

 

 

 

1年生。操縦手。

いつもお気に入りのパイロットゴーグルを身に付けている褐色肌の元気娘。

千智の事を『姉貴』と呼ぶくらい慕っている。他のメンバーはさん付け。

毎朝ジョギングをしているみたいだが、千智いわく「距離にすれば、10kmは走っているな」とのこと。

 

 

 

 

 

祭囃子 萌華(まつりばやし もえか)

 

 

 

 

 

身長 - 171cm

 

好きな戦車 - エレファント重駆逐戦車

 

好きな花(花言葉) - サルビア(燃ゆる想い)

 

趣味 - ぬいぐるみ集め

 

 

 

 

 

2年生。装填手。

豊満なボディと優しい口調もあるのか癒されると評判がある。

しかし、本人は千智の事を愛しているつもりなのだが、千智は全然気付いていない様子。

自室にはぬいぐるみが散乱しているらしく、「足の踏み場もないメルヘンランド」と言われているとかないとか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖グロリアーナ女学院

 

 

 

 

 

ルフナ

 

 

 

 

 

身長 - 150cm

 

好きな戦車 - チャーチル歩兵戦車

 

好きな花(花言葉) - 黒百合(恋)

 

趣味 - お菓子作り

 

 

 

 

 

1年生。

アッサムに一途な女の子であり、アッサムもそれは理解しているらしい。

いつもは物静かな子なのだが、気分が高揚すると性格が急変する。

自作のお菓子は好評でいつも聖グロのティータイムにはみんなが口にしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主要人物の家族or関係者

 

 

 

 

 

日野本 稔(ひのもと みのり)

 

 

 

 

日野本姉妹の母親で、日野本戦車道の師範。

西住流や島田流と並ぶように有名であり、主に若手の育成に心掛けている。

戦車道を多くの人に知ってもらう為に各地を転々と回り、宣伝活動も個人的に主催している。

娘達の事を一番に考えて行動を起こす事があり、自分の事は後回しにする事が多々あると言う。

飛鳥が戦車から離れようとした時も止める事はせず、大洗に行く事を尊重したと言う。

 

 

 

 

 

筧 三代子(かけい みよこ)

 

 

 

 

せんしゃ倶楽部の本店の店長であり、日野本姉妹の師匠。

西住流、島田流、日野本流からも恐れられる人物である。

他にも伝説級のメンバーが働いているみたいではあるが、それはまた別の話である。



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挨拶は奇襲からです!!

「先輩!交戦が開始されました!!」

 

「状況は?」

 

「後方部隊は予定通りにプラウダ高校と戦闘を開始。ベルウォール部隊は大洗と知波単のチームと交戦中でなにかしら作戦を考えていた模様」

 

「みほの事だから逃げる素振りを逆手にとって待ち伏せ作戦・・・って考えだったんだろうな」

 

「じゃあ・・・今はフラッグ車同士がやり合ってんじゃないのか?」

 

「それならフラッグ車に一番槍を入れに行きますか」

 

「闇と光の会合来るっ!!」

 

「薫、代わるぞ」

 

「あいよ~」

 

 

 

操縦席に座った飛鳥はいつものようにグローブをはめると棒付きの飴を咥える。

そして、ツバサにアイコンタクトを送るとツバサは喉頭マイクに手を当てる。

 

 

 

「エクレールさん!キリマンジャロさん!本車はこれよりフラッグ車に挨拶をして来ますが、双方は退路の確保をお願いしたいのですが、宜しいでしょうか?」

 

『また挨拶とは面白い事をなさるんですのね?任されましたわ』

 

『あの・・・わたくしもダ、ダージリン様にご挨拶をしたいのですが、宜しいでしょうか?』

 

 

 

キリマンジャロの言葉にチラッと飛鳥の方を見るツバサ。

するとそこにはニィッと笑う飛鳥の姿があった。

 

 

 

「かしこまりました!エクレールさん!1人になってしまいますが、後方支援お願いします!!」

 

『無理を承諾して頂きありがとうございます!!必ずダージリン様にご挨拶をお届けいたします!』

 

「それじゃあ挨拶といきますか」

 

 

 

飛鳥が嬉しそうに戦車を発進させる。

そんな中で戦況が動き始めていた。

 

 

 

「みぽりん!OY12地点でマジノ連合の襲撃だって!!」

 

「相手はどういった編成ですか?」

 

「ティーガーⅠを主軸にしたベルウォール学園のみの編成だって!フラッグ車は姿が見えないって!」

 

「作戦が読まれていたんですかね?」

 

「・・・いや、もしかしたら私達を正面から迎え撃ちたかったのかも」

 

「・・・どうする?」

 

「このままOY12地点を目指します!そして、早急にマジノ連合の戦力を削ります!!」

 

「あいよ~」

 

 

『ダージリン!!』

 

「どうしたのかしら?カチューシャ」

 

『マジノ連合よ!後方からいきなり姿を見せたみたいね!今はノンナとクラーラに対処させているわ!』

 

「良い判断ね」

 

『当然でしょ!!でも、フラッグ車はいないみたいなのよ!』

 

「・・・飛鳥さんがいない・・・・・」

 

 

 

追いかけっこが繰り広げられていた大洗チームと聖グロチーム。

しかし、不意打ちとばかりにやって来たマジノ連合に各地で戦闘が開始される。

すなわちフラッグ車は両チーム共に無防備。

 

 

 

「麻子さん!!」

 

「・・・・・っ!?」

 

 

 

急なみほの叫びに対して麻子はブレーキを踏み込んだ。

それと同時に目の前に砲撃が着弾する。

あのまま進んでいたら横っ腹にキツイ一撃を喰らっていただろう。

みほも背後を追走していたダージリン、カチューシャも新手の存在に気付く。

 

 

 

「か、薫さん!?」

 

「やはり来ましたわね」

 

「この場所で奇襲なんてなかなかやるじゃないっ!!」

 

 

 

いつの間にか姿を現していたチャーフィー。

キューポラから体を乗り出している薫は堂々と腕を組んで睨みつけていた。

その横からはゆっくりとブラックプリンスが姿を見せてキリマンジャロが一直線にダージリンの乗っているであろうチャーチルを凝視している。

 

 

 

「どうしてマジノ連合が我々がこのOY12地点で待ち伏せしているのがバレたんだっ!?」

 

「日野本ちゃんにはお見通しなんじゃないのかな~」

 

「会長!なに呑気な事をおっしゃってるんですか!シャンとして下さい!!」

 

 

「飛鳥の予想通りならここにみほが来るはずだったのに・・・先に待ち伏せ部隊と鉢合わせるなんて・・・」

 

『どうすんだっ!マネージャー、このままだと数で押されるぞ!!』

 

「消耗したら元も子もない。だから、応戦しつつも各車後退っ!!」

 

 

 

OY12地点では、お互いの思惑が外れてしまった結果ではあったが、激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 

 

「やはりノンナ様が立ちはだかるか・・・」

 

「Wow!やはり飛鳥の言葉は本当だったようデース♪」

 

「くっ・・・あの1輌だけでこちらを威圧させる程の力、油断出来ないわね」

 

 

『”この少数戦力どう思いますか?ノンナ”』

 

「”そうですね。この部隊は私達を足止めさせる為の別働隊でしょう”」

 

『”それならすぐにカチューシャ様の下に・・・っ!!”』

 

「”敵に背を向けるのは死を意味します。まずはこの戦況をどうにかします”」

 

『”了解”』

 

 

 

ロシア語で会話し合うノンナとクラーラ。

後方部隊ではノンナが前線に立ちマジノ連合を迎撃していた。

飛鳥からの助言を受けていたもののマジノ連合のメンバーは圧倒的強さに行動を起こせずにいた。

 

 

 

 

「ダージリン様から緊急コールですのにこの敵車輌しつこいですわねっ!!」

 

 

「アンタらの相手はこのボク達さ!魅哉っ!!」

 

「1つ・・・・・2つ!!」

 

「今日は調子いいじゃないか!大漁、大漁っ!!」

 

「・・・風は我らに味方し、敵に仇なすなり」

 

「フラッグ車、三つ巴状態!これより交戦とのこと!!」

 

 

 

クルセーダーの集団を物ともしない立ち回りを披露するハヤブサさんチーム。

援護射撃を任されていたリコッタではあるが、その闘い様をじっと見守る事に専念していた。

 

 

中央では睨み合いが起きていたがそれを破ったのは飛鳥だった。

勢い良く飛び出すとあんこうチーム目掛けて突撃を仕掛けた。

 

 

 

「カチコミだぁぁぁっ!!!!」

 

「あの馬鹿テンション高くないか?」

 

「あはは・・・・・」

 

「余もこの宴は存分に楽しむぞっ!!」

 

「意味なく張り合わんでいい」

 

「でも・・・こう言うのたまにはいいかも」

 

「そ、そうですねっ!なんたって私達の為の親善試合ですもんねっ!」

 

「ふふっ・・・じゃあ今日は楽しむか?」

 

 

 

あんこうチームも反応して動き出すとお互いの砲撃は側面に反れる。

その動きに合わせてダージリンは砲撃の指示を出そうとしたが、不意に車体が揺れた事に驚く。

砲撃があった方角にはじっとこちらに視線を向けるキリマンジャロの姿。

 

 

 

「無視は・・・出来ないようね」

 

「そのようですね」

 

「どうするつもり?ダージリン」

 

「お望み通り・・・迎え撃って差し上げなさい」

 

 

「ダージリン様・・・・・感謝致しますわ」

 

 

 

チャーフィーの後姿に礼を言うとキリマンジャロは砲撃を仕掛ける。

乱戦が始まる中でもカチューシャは少し離れた場所に位置し、援護射撃を目論む。

 

 

 

「ダージリンがやられたら終わりなのよっ!!なんでドンパチ始めちゃうのよっ!!・・・おわっ!?今のは・・・!!」

 

「敵の砲撃・・・2時の方角です!!」

 

 

 

カチューシャはすぐさま双眼鏡を手にするとここからは少し離れた位置にソミュアS35を確認した。

 

 

 

「あの位置からの砲撃・・・精確に狙った援護射撃ではないにしろこちらを監視してるみたいね!図々しいったらありゃしないわ!!」

 

 

「今の砲撃・・・プラウダの隊長さんを怒らせたんじゃないですか?」

 

「・・・・・だ、大丈夫よ。私達は飛鳥様達の退路を確保すればいいんだから」

 

 

 

乗員の言葉に少し胃を気にするエクレールではあったが、飛鳥の事を思うと楽になったのか笑顔で乗員に振舞うのであった。

 

 

 

「飛鳥のヤツ・・・離れないぞ」

 

「飛鳥さんなら一瞬の隙を狙って来ると思います。だから注意深くお願いします」

 

「このピリピリと伝わってくるプレッシャー・・・流石、飛鳥殿ですね」

 

「こう密着されていると砲撃を当てるのは至難の業ですね」

 

「もう!飛鳥しつこ過ぎだってぇ~!!」

 

 

「今頃、沙織とかは叫んでそうだな」

 

「ピリピリした空気とか嫌いそうですから」

 

「・・・砲撃はどうする?」

 

「タイミングが合うなら撃っていいぞ?麻子次第だけどな」

 

「先輩、すっごく楽しそうですね!」

 

「まぁね、やっぱこう言うのは楽しまなくちゃ!!」

 

 

 

ぶつかり合うⅣ号戦車とチャーフィー。

一瞬のミスも許されないような戦況なのにネコさんチームは楽しそうであった。

このまま持久戦が繰り広げられるとかと思ったが、それはとある通信によって急変した。

 

 

 

『飛鳥!大洗の連中に逃げられちゃった!!』

 

「OK!数は?」

 

『2輌抜けたっ!!』

 

「ちっ・・・一旦離脱っ!!」

 

 

 

飛鳥は急にバック移動をし始めるとこの場からの離脱をはかる。

それを逃がさないとばかりにあんこうチームの砲撃が火を噴く。

しかし、砲弾は掠めるだけで有効打にならずにいた。

 

 

 

「キリマンジャロさん!撤退します、こちらについて来て・・・」

 

『いえ、私達は殿を務めさせて頂きます。お先にどうぞ・・・』

 

「で、でも・・・・・」

 

「任せたよ!」

 

「先輩っ!?」

 

『心得ました』

 

 

 

道を塞ぐように立ち尽くすブラックプリンス。

その姿にダージリンはフッと笑うと攻撃の合図を送った。

次の瞬間、ブラックプリンスの走行不能のアナウンスが会場に響いたのであった。

 

 

 

「奇襲だけじゃ決まり手にならなかったか・・・・・」

 

「これからどうすんの?飛鳥」

 

「戦力を2つに分ける」

 

「・・・・・それで?」

 

「正面から殴り合う・・・以上」

 

「・・・・・大胆」

 

「いいんじゃないの?面白いじゃん!!」

 

「それじゃあチーム分けするぞ」

 

 

 

Aチーム

 

 

日野本/M24チャーフィー軽戦車

 

中須賀/ティーガーⅠ

 

山守/ヤークトパンター

 

土居/エレファント

 

ティナ/グリズリー巡航戦車

 

リコッタ/M13/40

 

 

Bチーム

 

 

東郷/M18ヘルキャット

 

エクレール/ソミュアS35

 

フォンデュ/ソミュアS35

 

ガレット/ルノーB1bis

 

ミレイア/T-34

 

ルフナ/マチルダⅡ

 

 

 

「こっからは何も指示しないから自由行動でよろしく♪」

 

『う~ん・・・一応AチームがあんこうをBチームが聖グロの親玉狙いでいいのかい?姫』

 

「そっ!各自の奮闘を祈る!!」

 

 

 

するとBチームはハヤブサさんチームを先頭に違う方向へと進んで行った。

 

 

 

「さて、作戦はないがフラッグ車を仕留めたチームにはご褒美を用意してあるからよろしくねぇ~♪」

 

『ご褒美ぃぃぃっ!?!?』

 

『飛鳥を好きにしてもいいのデスか!?!?』

 

「・・・・・フラッグ車を撃墜させれたらな」

 

 

 

とある提案に過度な反応を示すティナとラビオリ。

しかし、否定した事は言わずに2人が言った事を承諾すれば2人は発狂したようにあらぶっていた。

 

 

 

「先輩・・・大丈夫なんですか?」

 

「問題ないさ・・・アイツらに我が校の隊長は負けないからさ」

 

「・・・・・悪い笑顔」

 

「じゃあ私達で撃墜させてご褒美もらっちゃいますか?」

 

「おぉ、名案じゃっ!!」

 

「やる気が出たところで・・・第2ラウンド行ってみますか」



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運命のいたずらです!!

「エミ!!」

 

『なによっ!!』

 

「先に一番槍頂きました~♪」

 

『ちょっ!?なんで先にアンタがやってんのよっ!!』

 

「コレが・・・運命ってヤツさ」

 

『ムキィィィッ!!!!』

 

 

 

子供のようなやり取りをしているエミと飛鳥。

だが、ネコさんチームのメンバーはこんなに楽し雰囲気で喋る飛鳥は初体験である。

 

 

 

「別人みたいだよな・・・」

 

「・・・・・新鮮です」

 

「闇の気配がなく、怒りのオーラすらも微塵も感じぬぞ」

 

「エミさん、みほさん、飛鳥さんは小さい頃からのお知り合いみたいです。だから、あんなに楽しそうなんじゃないでしょうか?」

 

「それにしても・・・あの笑顔は怖いぞ」

 

「うむ、いつもとは違うまた別の不気味さを増加させている」

 

「おい、聞こえてんぞ?」

 

 

 

飛鳥の低い一言にピンっと背筋を伸ばす2人。

ピリッとした空気の中に通信が割り込んでくる。

 

 

 

『飛鳥様!ご報告いたしますわ』

 

「エクレールか、どうかしたのか?」

 

『現在Bチームと交戦中なのですが、フラッグ車だけが確認出来ておりませんの』

 

「なにかしらの策か・・・それとも・・・・・」

 

『飛鳥!目の前見て!!』

 

「んっ?アレは・・・・・」

 

 

 

急に叫ぶエミの声にキューポラから頭を出した飛鳥はとある光景を目の当たりにした。

Bチームのフラッグ車をAチームが総動員で追いかけてる姿を・・・・・。

 

 

 

「両フラッグ車確認!!」

 

「了解っ!!」

 

「おっ!そうだ!玲那、車長やってみるか?」

 

「・・・い、いいの?」

 

「あぁ、憧れてたんだろ?振り落とされるんじゃないぞ」

 

「・・・・・うん!ありがとう♪」

 

 

 

そう言って飛鳥と玲那はチェンジした。

砲手が飛鳥になった途端にピリッとした緊張感が走る。

 

 

 

「エミ!」

 

『今度はなにっ!!』

 

「アタシの背後を任せたいんだけど、頼まれてくれるか?」

 

『へぇ~アンタからの頼み事なんて面白いわね!その話乗ったわ!!』

 

「それじゃあ・・・アタシとエミで裏から周り込むから他の車輌はそのまま追走!!健闘を祈るっ!!」

 

『『『了解っ!!』』』

 

 

 

ネコさんチームとティーガーⅠだけは別行動をする為に裏へと回り込む。

残りのメンバーは追走が始まり、三つ巴が始まるのであった。

 

 

 

『飛鳥!!この先には何があるの?』

 

「確か・・・かなり大きめの駐車場!!」

 

『それなら待ち伏せしてる連中が・・・』

 

「絶対にいるっ!!」

 

 

 

裏通りを抜けた先に待ち受けていたのは、Bチーム。

丁度乗り上げた後だったのだろうフラッグ車のダージリンと鉢合わせしたのであった。

思惑通りの展開に飛鳥とエミはニヤリと笑った。

 

 

 

「戦姫(ワルキューレ)!?どうしてココに居るのよ!!ダージリンを追ってたんじゃないの!?」

 

「あちらは別動隊のようです。やはり・・・一筋縄ではいかない相手のようです」

 

 

「相手は少数だが、精鋭部隊!!薫、見せ所っ!!」

 

「あいあいさー!!」

 

 

 

まさかの乱入にフラッグ車を護るように陣取るカチューシャとノンナ。

それに食いつくように仕掛けようとする飛鳥とエミ。

そして、その間に追いついたみほ。

 

 

3チームのフラッグ車がこの場に集合してしまうのであった。

 

 

 

「えっ!?みぽりん!!飛鳥、飛鳥達も居るよ!!」

 

「・・・・・天下分け目の駐車場」

 

「西住殿!どうするでありますか?」

 

「ここは・・・・・」

 

 

「みほは任せたぞ?」

 

『言われなくてもそうさせてもらうっての!!』

 

「元気でよろしい・・・それじゃあ難所を攻略するか」

 

 

「ダージリン様、いかがいたしましょう」

 

「そうね、一瞬の油断が命取りになるわ。そうでしょ?カチューシャ」

 

「言われなくてもわかってるわよっ!!」

 

 

 

三すくみ状態・・・各々の思考が入り乱れる中先手を打ったのはやはりこの女であった。

 

 

 

「直撃っ!?状況は!?」

 

「恐らく履帯だけを狙われました!!」

 

「戦姫(ワルキューレ)!!!!!」

 

 

「先手必勝!!カリエンテは装填急げっ!!」

 

「任せておけぇぇ!!」

 

「薫!!Bチームのフラッグ車から離れるなっ!!離れたら負けると思えっ!!」

 

「わかった!!」

 

「ツバサは動きがあったらすぐに報告!玲那も何かあればよろしくっ!!」

 

「はい!!」「・・・うん!!」

 

 

 

得意とする履帯撃ちを決めるとネコさんチームは食い入るようにBチームフラッグ車にタックルを仕掛ける。

 

 

 

「くっ・・・野蛮な方々ですわね。ダージリン、どうしますの?」

 

「焦らずに相手の思惑通りに・・・このまま並走して相手の虚を突くわ」

 

「はい!!」

 

 

 

激しくぶつかり合う2輌。

だが、背後では違う2輌が火花を散らしていた。

 

 

 

「アイツには後で礼言わないとな」

 

「エミちゃん!!」

 

「あぁ、打倒!みほ!!」

 

 

「相手から熱いなにかを感じますわね」

 

「えっ!?華、そんなのわかるの!?」

 

「・・・・・やる気満々だな」

 

「皆さん、油断せず行きましょうっ!!」

 

「「了解っ!!」」

 

 

 

こっちは逆に激しい砲撃戦が繰り広げられていた。

8の字を描くようにキレッキレの戦闘に戦車内のメンバーは闘志に溢れていた。

 

 

その2つの渦中に居たカチューシャとノンナは何もせずに居た。

 

 

 

「戦姫にしてやられましたね、カチューシャ」

 

「何を呑気な事を言ってるのよ!ノンナ!!早く援護射撃を・・・・・」

 

「いえ、この状況では迂闊に撃つのは得策ではありません。それを理解した上で戦姫はあの戦法を仕掛けているかと・・・」

 

「なぁっ!!ここまで考えてたの!?戦姫!!!!」

 

 

 

「ふぇっくしょん!!」

 

「のわっ!?汚っ!!!!」

 

「仕掛けるタイミングは逃すなっ!!合図と共に行くぞっ!!」

 

「神風ですか?」

 

「モチのロンッ!!!!」

 

 

「速度を上げるばかりが、人生ではない・・・・・」

 

「・・・はい?」

 

「・・・・・言葉通りの意味よ」

 

「急停車ぁぁぁ!!」

 

 

 

ダージリンのいつの格言にポカンとした車内ではあったが、不意に叫んだアッサムの声に操縦士は咄嗟に反応する。

並走していたのに急停車して背後を手にしたダージリンは口元を緩ませた。

 

 

 

「先に痺れを切らせたな・・・薫!!」

 

「わかってるわよっ!!神風ぇぇぇっ!!」

 

 

 

ネコさんチームの得意とする神風作戦。

平然とドリフトさせる薫の表情は童心に帰ったようであった。

見事な腕前で小回りをきかせたドリフトで180度も回転させたネコさんチームはBチームのフラッグ車とお見合いする形になった。

 

 

 

「・・・・・っ!?!?」

 

「おらぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

驚きでティーカップを落としてしまうダージリン。

叫び声と共に両車輛から砲弾が放たれる。

ドリフトのせいもあり、2輌は煙に包まれていた。

 

 

 

それと同時刻。

 

 

 

「そろそろ引導を渡してあげなきゃね」

 

「エミちゃん、楽しそうだね」

 

「当たり前でしょ!!こう言う機会じゃなきゃ闘えないんだから」

 

 

「・・・このままだとジリ貧だぞ、どうする?」

 

「次の一撃で決めましょう、華さん」

 

「わかりました・・・次の一撃に集中して・・・・・」

 

 

 

こちらの2輌も短期決戦を望むのか大きく8の字を描くと睨み合うように対峙した後前進を開始した。

 

 

 

「撃てぇぇぇっ!!」

 

「今ですっ!!!!」

 

 

 

双方の号令と共に放たれた砲弾。

見事な一撃は両車輛に着弾し、双方の車輛からは白旗が姿を見せた。

 

 

そして、もう一方では白旗は一本。

車長として身を乗り出していた玲那は目の前の光景に拳を高らかに挙げた。

 

 

 

 

 

≪大洗・知波単 フラッグ車 走行不能

 

聖グロリアーナ・プラウダ フラッグ車 走行不能

 

マジノ連合 ティーガーⅠ 走行不能

 

よって、マジノ連合の勝利!!!!≫

 



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突然の凶報です!!

「勝利後のラムネは美味いなぁ~♪」

 

 

 

試合が終わった選手一同は温泉を満喫していた。

ワイワイと盛り上がっている中でマジノ連合のメンバーは全員露天風呂に集合していた。

飛鳥の提案にて勝利の美酒としてキンキンに冷えたラムネを堪能していた。

 

 

 

「・・・ったく、エクレール!いつまでタオルで身体隠してんだよ!!」

 

「ひ、人前で肌を晒すのは少々恥ずかしいですわ」

 

「ガレット、ツバサ、よろしく~♪」

 

「お覚悟っ!!」

 

「エクレール・・・豪に入れば郷に従え・・・よ」

 

「いやぁぁぁっ!?!?」

 

 

 

タオルがひん剥かれる姿を眺めながらラムネを飲む飛鳥。

しかし、何かを察知した飛鳥も大きく溜め息をつく。

 

 

 

「飛鳥ちゅわぁ~ん♪」

「My honey~♪」

「飛鳥様ぁぁぁぁっ♪」

 

「お前らは大人しくしてろっ!!」

 

 

 

見事なル〇ンダイブで迫り来る・・・薫、ティナ、ラビオリ。

それに対して慣れた対応で3人を吹っ飛ばす飛鳥。

その光景には周りに居たメンバーも拍手していた。

 

 

 

「やっぱり貴女はいつでも人気者よね」

 

「そう言うエミもベルウォールでは人気者みたいじゃないか・・・瞳から聞いたよ」

 

「私のはなんて言うか戦車道部を纏めようとしてたらいつの間にかマネージャーとか呼ばれだしちゃってさ?今では何とかやっていけてる・・・って感じかな」

 

「まっ!ドイツで戦車道するよりもこっちで自分の戦車道見つけた方がエミらしくていいんじゃないか?」

 

「・・・あぁ、そうね」

 

「んっ?エミ」

 

「あっ!飛鳥ちゃん!エミちゃん!2人でなに話してたの?」

 

「ツンデレ小学生エミちゃんの話」

 

「えっ!?昔のエミちゃんの話?」

 

「ちょっ!?飛鳥っ!!」

 

「戦姫っ!!ちょっといいか!!」

 

 

 

ワイワイと幼馴染の3人が話し合っていた。

するとミレイアとルフナの2人が立っていた。

 

 

 

「雪上のジャンヌダルクがこのアタシに質問とはどういった用件かな?」

 

「ミレイアでいい!!そんな事はどうでもいいの!今回の試合でも思ったんだけど、貴女はどうして敵の作戦を見破れるのっ!?先見の力が長けているのっ!?」

 

「・・・そんなのない」

 

「なっ!?私の考えが違うのならどう説明しますの?」

 

「あぁ~・・・簡単に説明するなら・・・・・」

 

「勘だな」「勘ね」「勘ですね」

 

「なんでエミと瞳も解ったように答えてんだよ」

 

「そんなの昔から口癖のように聞かされてる私達からしたら解って当然よ。ねっ、瞳」

 

「そうだねぇ~みほちゃんに昔聞かれた時も同じように答えてたもんね」

 

「生まれ持った才能・・・ですね」

 

「そんな大それたモノじゃないよ。努力したら身に付くモノなんじゃないか?アタシはいつの間にか会得してたみたいだけど・・・・・」

 

「やはりそれも戦姫と言われる所以の一つなのかもしれませんわね」

 

「みんなアタシの事買いかぶり過ぎだっての・・・・・っと」

 

 

 

ラムネをグイッと飲み干した飛鳥は湯船から出るように立ち上がった。

 

 

 

「んっ?そんなにラムネ持って何処に行くんだ?」

 

「ちょっとした野暮用だよ」

 

 

 

ラムネを3本持って飛鳥はサウナへと向かう。

ゆっくりと中に入るとそこには見慣れたメンバーが座っていた。

 

 

 

「こんな所に隠れてたら干からびてミイラになっちまうぞ?ほれっ」

 

「今日の主役は君達であって私達は招かれざる客人・・・表舞台に姿を見せるべきじゃない」

 

「あははっ!!そんなの関係ねぇよ!戦車道やってるヤツはみんな仲間!・・・だろ?」

 

「ふふっ・・・君のそうゆう所は昔から変わらないね」

 

「アキ!ミッコ!温泉の後には食事も用意してあるからたくさん食べて帰るんだぞ?お持ち帰りも出来るように伝えているから遠慮なく持って帰っていいからなっ!!」

 

「ミカ!!やっぱり飛鳥さんは女神様だったよっ!!」

 

「いつもいっつもありがとうございます!!」

 

「可愛い後輩に辛い思いさせ過ぎるなよ?それじゃあ楽しんで行ってくれ♪」

 

「・・・善処するよ」

 

 

 

サウナを後にしたと同時にお腹が鳴ったのに気付くと温泉を後にして食事に行こうと更衣室に向かう。

いそいそと着替えているのだが、不意に近付いて来た人達に顔を向ける。

 

 

 

「アタシになにか用ですか?山守さん、土居さん」

 

「音子でいい!それにしても・・・お前スタイルいいな」

 

「はっ?」

 

「私も千冬でいいわ。それにしても・・・貴女モデルか何かなの?」

 

「はっ??」

 

「おいおい俺が先にコイツのスタイルに惚れたんだ!てめぇ、いい加減にしろよ」

 

「あら、どう考えても私の方が先に目を付けていたわ」

 

「アンタら勝手にアタシの裸をまじまじと見ながら喧嘩おっぱじめてんじゃねぇよ!!」

 

「いえ、恐縮ではございますが日野本殿の裸を素晴らしいモノだと感服いたしましたっ!!」

 

「そう言う感想待ってないから、西さん!!」

 

「あっ、恐れ多いのですが私の事は絹代で構いませんので何卒宜しくお願い致します」

 

「だ・か・らぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

自分の裸を前にして言い合い始める面々に怒鳴り散らす飛鳥。

だが、ふと視界の隅に会長が真剣な表情で出て行く姿に逃げるように着替えて飛び出した。

 

 

 

「会長・・・どうかしたのか?」

 

「いやぁ~ちょっと呼び出されちゃったみたいなんだよねぇ~・・・まぁ、飛鳥ちゃんはゆっくりと楽しんでおいてよ」

 

「お言葉に甘えてそうさせて貰います♪」

 

「うん、じゃあ行って来る」

 

 

 

小さな会長の背中を飛鳥はいつものようにふらふらっと手を振って見送った。

 

 

 

 

 

 

その後は食事会で盛り上げるようにあんこう音頭を披露したり、お手製の料理などを用意して今回参加してくれた学校を精一杯おもてなししたのであった。

会長が不在だった為に他校の見送りはネコさんチームとハヤブサさんチームが進んで引き受けていた。

 

 

 

「いやぁ~親善試合も見事な成果だったな、姫!!」

 

「そう言ってもらえると嬉しいです。あんな試合はいつもの戦車道とは違った楽しみ方があって楽しかったです」

 

「うむ、いつもとは違う三つ巴の戦場は緊張感も別段に違うから武者震いが止まらなかったぞっ!!」

 

「気に入ったのなら強襲戦車競技にチャレンジしてみませんか?」

 

「強襲戦車競技・・・初めて聞くな・・・・・んっ?アレは・・・どうしたんだ?」

 

「みんな立ち往生していますね」

 

 

 

戦車を並走しながらキューポラ越しに会話をしていた飛鳥と三笠。

しかし、学校に辿り着くとそこには大洗のメンバーが立ち往生していたのである。

 

 

 

「みんな~何かあったのか!!」

 

「まだ残っていた生徒が居たみたいですね」

 

「・・・・・っ!?!?!?」

 

「大洗女子学園は8月31日付で廃校が決定し・・・・・っ!?き、君はっ・・・!!」

 

 

 

いきなり目の前に現れたスーツ姿の男。

その人物を目の当たりにした飛鳥は目を見開いたと同時に唇を噛みしめ怒りを込めるように拳を握りしめていた。

男は気付いておらず、眼鏡をくいっと上げてから要件を口にしたのだが、まさかの出会いに引き攣ったような表情になり、冷や汗が体中から溢れ出て来るのを感じ取っていた。

 

 

 

「お前だけは・・・絶対に許さないっ!!!!」

 

「ひいぃぃぃっ!?!?」

 

「お、落ち着けぇぇぇっ!!みんな!飛鳥を止めてぇぇぇっ!!」

 

 

 

今まで見せた事のないような怒りに満ちた表情の飛鳥は男に向かって歩き出す。

しかし、それをいち早く抱きついてでも止めに入ったのは、文であった。

 

 

 

「アイツが・・・現れたせいで・・・アタシの戦車道は滅茶苦茶にされたんだぞっ!!!!」

 

「姫っ!!落ち着けって!!」

 

「飛鳥!!止まれってぇぇぇ!!」

 

「逃げるなぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

 

薫、文、岬の3人で飛鳥を止めようとするもそれでもじりじりと前に進む姿に男は慌てたように走り去っていった。

憎しみのこもった叫び声がこだまする中で三笠は杏の前に立っていた。

 

 

 

「先程の男が放った言葉は真実か?」

 

「あぁ・・・廃校が免れると言う話は確約ではなかったそうだ」

 

「それでは・・・ボク達が必死になって戦って来たのは無意味だったと・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「皆さん、抑えられない気持ちがあるのは理解出来ます。ですが、寮の方は寮に帰って、自宅の方は家族の皆様と一緒に引っ越しの準備をしてください。急な事ではありますがお願い致しますわ」

 

 

 

暗いムードの中で自分に注目を集めるように手を鳴らした花蓮は冷静に指示を伝える。

そして、残されたカメさんチーム。

泣きじゃくる桃。

それを宥める柚子。

そっと会長を抱きしめる花蓮。

その胸に顔をうずめる杏。

4人はしばらくそのままでいた。

 

 

 

戦車倉庫にカメさんチーム以外は集まっていた。

みんなが静まり返った空気の中で三笠がとある話題を持ちかけた。

 

 

 

「姫・・・あの男とはなにか因縁があるのかい?」

 

「・・・・・中学時代にひと悶着あった」

 

「そうか・・・姫が嫌じゃなければ教えてくれないかい」

 

「別に構わないけど、どうして知りたいんです?」

 

「当然じゃないですか!!あんな先輩の姿を見て放ってなんておけないじゃないですか!?」

 

「・・・ツバサ」

 

「それに私達は仲間なんだからアンタが抱え込んでるもん全部出しなさいよ!!」

 

「沙織にそんな事言われるなんてな・・・驚いたわ」

 

「なっ!?」

 

「飛鳥さん・・・教えてくれますか?私と別れてからのお話を・・・・・」

 

 

 

さっきの怒りで握りしめていた手を撫でてから周りを見渡すと飛鳥の周囲をチームメイトが心配そうな表情で見守っていたのだ。

 

 

 

「わかった・・・アタシの昔話に付き合ってくれ」

 

 

 

大きく深呼吸をした飛鳥はいつものようにポケットから棒付き飴を取り出すと昔話を始めるのであった。



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意外な過去のエピソードです!!

「最初に言っておくけど、アタシは県立大洗女子学園中等部出身だからな」

 

「「「えええええっ!?!?」」」

 

 

昔話を語る前に告白した事実にこの場に居た面識のある人間以外が驚きの声をあげていた。

 

 

 

「そう言えばせんしゃ倶楽部で飛鳥殿と意気投合して仲良くなったのではありますが、学校でお会いした事は一度もなかったでありますな」

 

「私はいつもお姉ちゃんと一緒に強化練習に参加していた時に飛鳥さんも参加してたからその時しか会ってなかった・・・かな?」

 

「う~ん・・・と言う事は、飛鳥って学校も行かずにずっと戦車に乗ってたって事?」

 

「まっ、そう言う事だ。母さんにお願いしてアタシは中学時代は戦車を極めたいからって理由で学校には行かずに戦車三昧・・・・・アタシの戦車道を見つける為に・・・・・なっ!」

 

 

 

ちらっとみほの方を向くとハッとした表情で目が合った。

そんな彼女を見てはにかむ飛鳥は話を続ける。

 

 

 

「戦車の練習は、月~金・・・朝の10時から夕方の17時くらいやってたかな?」

 

「学校に行かない替わりに戦車を学んでいるみたいぜよ」

 

「小学校の頃はみほと戦車に乗ったりはしていたんだが、本格的に戦車をやり始めたのは中学時代に入ってからだったかな・・・姉さん達と一緒に大学生や一般、時期によっては中学・高校選抜が入り乱れる中で3年間戦車道をしてたんだ」

 

「・・・・・凄い」

 

「あぁ・・・蝶野長官ともそこで知り合ったんだよ。あの時はまだ現役で試合も出ていたからご一緒した事もあったが、あの人は本当に強かった・・・追いつくのに3年かかったんだもんな」

 

「いやいやいやっ!!なんで追いついてんのよ!!」

 

「そりゃあ・・・3家家元にご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします!!って言ったら今のアタシが生まれちまったんだから仕方ないだろ?まだ中学生のアタシに丁寧にしてもらったよ」

 

「ふふっ・・・あの時のお母さんはいっつも飛鳥さんの話題で持ちきりだったんですよ?アレは麒麟児になりえる器の女の子だって・・・」

 

「はっはっはっ!!千代さんにも言われたな・・・貴女のような柔軟な子がこの先の戦車道を変えるのだと・・・・・ってな」

 

「飛鳥って・・・相当にヤバいってのが話を聞いてて解っちゃったかも・・・・・」

 

 

 

平然と凄い事を話しているのに対して沙織が漏らした一言に数多くのメンバーが頷くのであった。

 

 

 

「そんな毎日だったから強襲戦車競技は暇な時に嗜んでる程度だったなぁ~・・・」

 

「えっ!?そんな気軽にやれるモノなの???」

 

「日本戦車道連盟非公式・非公認の戦車競技だからな!戦車1輌あれば簡単に参加出来るし、競技会場や開催時間にも制限はないから夜間でも早朝でも競技が行われるんだよ。まぁ、戦車道以上に実戦に近い試合内容だからこっちの方が好きだって言う人も多いみたいだけどな」

 

「ですが、戦車1輌あったとしてもメンバーはどうしたでありますか?」

 

「んっ?そりゃあ・・・現地調達だよ」

 

「・・・・・無茶苦茶な奴だな、本当に・・・・・」

 

「飛鳥ってば気になる女の子はみんなスカウトしちゃうんだよ?私もラジコンヘリで観戦してたらいきなりスカウトされちゃってそれからはずっと諜報員として活動していたんだよ」

 

「ちなみにだけど、姫はどれぐらいの人数をスカウトしたんだい?」

 

 

 

岬の素朴な疑問に飛鳥は腕を組むと当時のメンバーの名前を口にしていった。

 

 

 

「ティナ、皇 千智、花琳(ふぁりん)、ラウラ、天城 直人(あまぎ なおと)・・・・・この5人が戦闘メンバーだ。中学校に戦車道がない、ただ単に戦車自体が好きなヤツらだったからな。一緒に戦車やらないか?って聞いたら集まってた」

 

「やはり紅蓮隊は錚々たるメンバーでありますね!!」

 

「紅蓮隊・・・・・???」

 

「それは・・・あの・・・・・アレだよ。アタシ達の・・・チーム名」

 

「我と同じ波動を感じるっ!?」

 

「う、うるせぇ!!チーム名は適当に決めたんだよっ!!」

 

「あれれ~ん?ノリノリで任命したのは飛鳥だったような・・・ふふっ」

 

「文ぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

飛鳥が文の頬を抓って暴れだしたので、皆が止めに入る。

しかし、そんな中で優花里は顎に手を添えて何かをぶつぶつと呟いていた。

 

 

 

「・・・・・どうかしたのか?」

 

「いえ、聞き覚えのある名前だなっと思ってただけであります!!」

 

「他は偵察部門はそこに居る文にすべて任せていたし、整備部門は金城ヶ原 明華(きんじょうがはら めいか)と金城ヶ原 縁寿(きんじょうがはら えんじゅ)の金城ヶ原姉妹に任せていた」

 

「金城ヶ原姉妹か・・・」

 

「ナカジマ、知っているのか?」

 

「自動車業界ではトップクラスで大企業の双子姉妹だよ。最近では戦車部門にも手を出したってのは聞いてたけど、強襲戦車競技がかなり影響を促しているかもしれないね」

 

「金銭面ではかなり助けられていたからな・・・スポンサーとして未だに色々とサポートはしてもらってるからな」

 

「こ、ここ、こうやって聞くと飛鳥さんって凄いんだね・・・」

 

「まぁ・・・充実した3年間だったよ」

 

「ですが、3年生の最後の冬にとある事件が起きた・・・そうですわね」

 

「・・・・・海原さん?」

 

 

 

不意に現れた花蓮に全員が驚いたように視線を集める。

すると1つのノートを手に花蓮は話し出した。

 

 

 

「私達は戦車道を復活させる為に経験者を調べていました。そして、有力者として名前が浮上してきたのが・・・西住流の西住みほさんと日野本流の日野本飛鳥さんでした。経歴だけを調べるつもりだったのですが、お2人の過去の嫌な話も私達は気付いていましたわ」

 

「まぁ、アタシはあの眼鏡野郎のせいで夢をぐちゃぐちゃにされたからな」

 

「夢・・・でありますか?」

 

「紅蓮隊のみんなで戦車道をやりたかったんだ・・・ただそれだけだったんだよ」

 

「それじゃあ同じ学校に行ったらよかったんじゃ・・・」

 

「それが・・・無理矢理バラバラにさせられたんですの」

 

 

 

飛鳥が思い出して来たのか怒りに震えだしたのを察知した花蓮は代行するように続きを語った。

 

 

 

「あの方々は紅蓮隊を日本戦車道の拡充と底上げを行う計画の為に他校へと振り分け、各転校先で戦車道のレベルを上げようと目論んだのですわ」

 

「えっ!?そんな横暴が許されるのか!?」

 

「一応国の為の動きですから許されるのでしょう。ですが、飛鳥さんも紅蓮隊のリーダーとしてお母様とご一緒に抗議しに行ったのですが、相手にされずその時の出来事で飛鳥さんは命令に背く形で戦車道の無い母校である県立大洗女子学園高等部に進学されたんですよ」

 

「・・・・・まぁ、そんな訳で全員は散り散りになってしまったって訳さ。今回の廃校の件もアタシの時と同じみたいなもんだろうよ」

 

「えぇ・・・即席で結成された私達大洗も戦車道全国高校生大会を制覇した事によって有力者として認識されました。そのメンバー達を他校へと振り分け、各転校先で戦車道を履修させてレベル上げが目的なのでしょう」

 

「そんな・・・廃校を阻止する為に必死になって頑張って来たのに・・・こんなのって・・・・・」

 

「・・・なっ!?なんだ!!アレっ!?」

 

「アレは・・・もしかして、サンダース大付属の・・・・・」

 

「そうですよ!!C-5Mスーパーギャラクシーですよっ!!!!」

 

 

 

全員が悔しがったり、落ち込むように俯いていた中で大きな音と共にサンダース大付属の校章の航空機が着陸したのであった。

 

 

 

「私がお願いして来てもらったんだ・・・この為にな」

 

「なるほど・・・それならアイツらも手が出せないっすね」

 

「じゃあ私達の戦車は・・・助かるんですか!?」

 

「その為に私達が来たんだから・・・ハリアーップ!!」

 

 

 

書類を持った会長が笑顔で大洗メンバーの全員に今回の件を話した。

すると全員の前にやって来たケイが戦車を載せるのに指示を出し始めた。

 

 

 

「・・・・・飛鳥」

 

「ティナか」

 

「ダイジョーブ・・・ですか?」

 

「終わらせないさ・・・今度こそな」

 

「・・・・・」

 

 

 

心配そうに声を掛けるティナに対して飛鳥は下唇を嚙み締める。

そんな姿にティナは自分の手をギュッと掴んで見守る事しか出来ずにいた。

ふと飛鳥は目の前に居た人物に声を掛ける。

 

 

 

「ケイ・・・すまないな」

 

「なに言ってるのよ!こんなのお安い御用よ?私達にまっかせときなさい♪」

 

「お礼はいつか必ず・・・」

 

「ふふっ・・・期待してるわね、戦姫様♪」

 

 

 

そんなこんなですべての戦車はサンダースが預かってくれる形で一命を取り終えた。

しかし、すべてが終わった訳ではない・・・新たな陰謀が動き始めたのかもしれない・・・。



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