かくして少女は鬼となる (魚住幸来)
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プロローグ

ー鬼の少女ー

 

誰が言い始めたのかは知られてはいない。

昔の話なのか最近あった話なのかはよくわかっていない。

それに真実か虚偽かもわかっていない。

だが非常に有名な話だ。

 

 

「・・・母さん。鬼の少女の話って知ってる?」

 

10歳にも満たない少年は自身の母に尋ねる。

初めて知ったことを母に自慢したかったのだろう。

 

「それがどうしたのかしら?」

「今日ね、学校で先生が話していたの。鬼の少女の話。」

「へー。どんな話だったの? お母さんに教えてくれないかしら?」

 

少年は体を動かし必死に母に話しの内容を伝え始めた。

途切れ途切れで説明になっていない言葉だったが、彼は必死に伝えようとした。

 

「えっとね・・・家族を殺された女の子がね、(あやかし)と手を組んで悪い妖をやっつけちゃう話しなんだよ。」

「そうねー。あなたはどう思ったの?」

「可哀想な話だと思ったよ・・・」

 

彼は俯いてそう答えた。

そして言い続ける

 

「でも少女は親友を殺しちゃったんだよ? 親友と意見が合わないだけで殺しちゃうんでしょ? それに女子供も小さい妖も全部容赦なく殺したんでしょ? そんな奴は悪人だよ!」

「・・・そうね。彼女は極悪人だったのかもね。でも悪にならないと妖は殺せなかったのよ。」

 

少年の母は少年の肩を持つ。

非常に優しい表情で少年を見つめる。

 

「ありえないよ・・・妖が悪いことするなんて。友達も妖だけど、意地悪なんてされたことないよ。」

「そうね。ありえないわよね。私が子供の時もありえなかった。」

 

妖・・・

すなわちこの世のものではないものだ。

だが通常は人間と見た目も変わらなく、非常に友好的なのだ。

少年はそんな妖が悪いことをするなんて考えられないのだった。

 

「でも、私が聞いた話はちょっと違ったわね。もっと詳しく聞いた記憶があるわよ。」

「そうなの?」

「そうよ。気になる?」

「うん! 気になるよ!」

 

少年は目を輝かせて母に尋ねた。

すると母は少年を膝に座らせた。

 

「それじゃ長くなるけどいいかしら?」

「うんいいよ。僕は我慢できるよ。」

「いい子ね。それじゃ昔に煙草臭いおじいさんから話された通りに話すわよ。」

 

母は目を少し瞑り話を整理する。

そして話しを聞いたおじさんからの約束の通りに話しを始めた。

 

「この話は鬼になった少女の話よ。鬼の少女を永遠に語り継ぐ物語よ。」

「・・・先生も言っていたけどそれ必要なの?」

「必要よ。決まりみたいなものよ。それじゃ始めるわね。」

 

そして少年の母は鬼の少女の話を語り始めたのだ・・・



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1・バイバイ私の日常

「・・・マズイ。」

 

彼女は時計を手に取り眺めながら頭を掻く。

寝癖のついた瑠璃紺色(るりこんいろ)の髪をさわり触りながらゆっくりと時計を元の場所に戻す。

急ぐ素振りを見せず、冷静を装ってゆっくりと布団から外に出る。

ひとつ深呼吸をし、これからの彼女の行動はもう決まっていた

 

「母さん! なんで起こしてくれなかったのよ!」

 

八つ当たりだった・・・

乱暴に扉を開き階段を駆け下りる。

怒鳴り散らながら彼女はリビングに向う。

 

「母さんどういうことなの! 起こしてよ!」

「・・・アンリ。あなた起こしてもて起きなかったじゃない。」

 

彼女、園原杏璃(そのはらあんり)は早急に着替えを始める。

そこに男である父が存在してるのを無視して上着を脱ぎ、ズボンを脱ぐ。

すると新聞を読んでいた父は彼女に声をかけた。

 

「アンリ。女の子なんだからもっとお淑やかに出来ないのかい?」

「父さん。あなたの理想の女の子像がどんなものか知らないけど、私はこうなの。父さんと母さんが生んだ娘がこれだから仕方ないじゃない。」

「・・・でも妹の穂香は立派だよ?」

「・・・・・・」

 

アンリは黙り込んだ。

父の言うことが正しく、反論の余地もないのだ。

そこに母の容赦のない追撃がアンリに襲い掛かる。

 

「はぁ。穂香は可愛げがあって、真面目なのにねぇ・・・あなたと来たら・・・」

「嫌! もうそれ以上言わないで! 私を苛めないで!」

「穂香。あなたも何か言ってあげなさい。」

 

彼女は耳を塞いで唸っている。

母は朝食を行儀よく食べている妹である園原穂香(そのはらほのか)に声をかけた。

すると彼女は箸を丁寧に置いてアンリのほうを向く。

 

「お姉ちゃんはそれでいいよ。私がずーっと面倒を見てあげるから。」

「痛い。私にはその優しさが痛いわよ。」

 

穂香は笑顔でアンリにそう言いきった。

それを聞いていた父と母は笑っていた。

 

「ホント優しい良い子だね。アンリと違って・・・」

「アンリと違ってねー。」

 

二人は頭を抱えて呟いた。

散々な言われようで傷心したアンリは必死に服を着替えていた。

黒いニーソックスを履き、膝丈のスカートを履き、白いブラウスを着て、胸元に赤いリボンを結んだ。

そしてカバンを取り上げた。

 

「あ、そうだ。今日は早く帰ってきなさいよ。」

「どうして?」

「あなた今日で二十歳でしょ。お祝いするのよ。」

「あ・・・」

 

アンリは自分の誕生日をすっかり忘れていたのだ。

祝い事には無頓着な彼女らしい反応だった。

 

「でも・・・」

「なんだかんだでもう二十歳になる娘の祝いぐらいさせなさい。」

 

アンリは少し泣きそうだった。

意外すぎるサプライズだったのだ。

自分ですら忘れていた誕生日を三人は覚えていてくれたからだ。

それを祝ってくれるといってもらえば嬉しくないわけがない。

 

「わかった。今日は寄り道せずに帰ってくるね!」

「はいはい。でも早く出ないと遅刻するわよ。大学生にもなって遅刻って恥ずかしいわよ。」

「ひぃぃ! 行ってきます!」

 

彼女は靴の踵を踏み、扉を開けて走りだした。

向かう先は駅だ。

アンリはいつも電車で大学まで通っており、駅までいつもの道を全速力で走る。

息が切れ、肩で呼吸をしつつも何とか間に合うために彼女は必死に駅に向かった。

通りすぎる景色がコマ送りで流れるほど速く走っているのだ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・これなら。」

 

アンリはスマートフォンの電源を付けて時間を確認する。

その瞬間彼女は一瞬の安堵という油断が生まれた。結果スマートフォンを地面に落としてしまった。

さらにそのスマートフォンを蹴り上げてしまい、弧を描きながら路地裏に飛んでいった。

 

「あぁ! なんでこうなるのよ!」

 

彼女は蹴り飛ばしてしまったスマートフォンの方向へ走り始めた。

今に思えばそれが彼女の運命を変える出来事だったのかもしれない。

 

 

「痛て! なんだ? これは・・・スマートフォンというものか。」

 

その男の頭に当たったスマートフォンを拾い上げて手に取りジロジロと眺めていた。

彼は非常に長い白い髪を持っていた。

美形で普通の女に声をかければ間違いなく虜にしてしまうような顔だ。

そして真っ黒の目をしており、この世の者とは思えない異様な雰囲気を纏っていた。

 

「それにしてもどこから飛んできたんだ? 珍妙だな・・・」

「すいませーん! この辺に携帯電話飛んできませんでしたか?」

 

アンリはその白い髪の彼に尋ねた。

するとその男はスッとスマートフォンを差し出した。

 

「これか?」

「はい! ありがとうございます!」

「・・・それにしてもこれが空から飛んできたのだが、お前は天の使いか何かなのか?」

「これには深い訳がありまして・・・」

「そうか。なら言わなくてもいい。言いたくないのだろう。幸い儂もケガはないしな。」

 

彼は溌剌(はつらつ)とした声で笑いながらスマートフォンをアンリに渡した。

すると静電気のようなものが二人を襲う。

男は驚きスマートフォンを地面に落としてしまう。

 

「ッツ・・・」

「おっと。ほらスマンな。急いでるんだろ? 汗だくだぞ。」

 

彼はスマートフォンを拾い上げてアンリに手渡した。

 

「ありがとうございます。」

「わかったからとっとと行け。儂を理由に遅れたとか言われると儂が困るからな。」

 

彼は手を振ってアンリを追い払った。

そして口元を歪めて小さく呟いた。

 

「やっと見つけたぞ・・・」

 

 

その後スマートフォンを蹴り飛ばした影響で電車を一本乗り遅れてしまい、結果遅刻してしまったのだ。

彼女は愚かにもこっそり入ればばれないと思っていたので後ろの扉から四つん這いにながら教室に入ったのだ。

当然そのような行動はばれてその授業は遅刻となってしまったのだった。

さらに愚かな行動をした報いで彼女は授業を受ける全生徒の前で説教を受けさせられたのだった。

 

「・・・酷くない!?」

「今日のはアンリちゃんが悪いよ。」

 

授業を受けている全生徒の前で公開説教を受けたアンリは非常に項垂れていた。

食堂の机で背中を曲げて頬を机につけてだらしない体制で彼女の友人と会話していた。

 

「だってさー。ちょーっと遅れたぐらいだよ。」

「あんなコソコソせずに普通に入れば良かったんだよ。」

「琴三ー。そんなこと言わないでよー。」

 

手入れの行き届いた腰にまで届きそうな長いアッシュグレー髪。

粉雪のような白い肌に長い指。

彫刻のように美しく整った顔。

背丈は平均より少し低い。だがそれのお陰でマスコット的な可愛さが彼女にあった。

それが園原杏璃の一番の友人である天ヶ瀬琴三(あまがせことみ)だ。

 

「そんなに見ないでよアンリちゃん。恥ずかしいよ。食事中だよ。」

 

彼女は昼食のサンドイッチを手で取り食べていた。

食べる速度は非常に遅いが、ゆっくりと咀嚼し飲み込んでいた。

彼女の所作一つ一つに華があり、誰であろうとその姿に見惚れてしまうものだった。

現に彼女の食べる姿を横目で見る人だっているのだ。

 

「アンタ天然でそれやってるからすごいわよね。見た目も可愛いし・・・ホント羨ましいわね。」

「そんなことないって・・・」

 

彼女は真っ赤になり、手を前に出して振った。

そんな仕草も可愛く、アンリはにやけていた。

 

「琴三ー。私と付き合ってよー。可愛い琴三ちゃーん。」

「もうふざけないでよ!」

 

彼女は声を荒げた。

そしてアンリは内心で反省していた。

しかし彼女は怒っているという訳ではなく恥ずかしさに耐えきれないようだったのだ。

 

「アンリちゃんだって可愛いじゃない!」

「・・・え!?」

 

予想外の反撃でアンリは驚く。

実際彼女は見た目だけだったら美少女の部類に入る。

肩まで伸びる瑠璃紺色の髪を後ろで縛っている。

目は大きく鼻も高い。

背丈も女性にしては低くはなく164センチはある。

何より彼女は女性としての部分が非常に発達していた。

ブラウス越しでもしっかりとわかるほどの膨らみがあったのだ。

だが締まるところはしっかりと締まっておりメリハリの効いた体型だ。

 

「胸だって・・・私より大きいし・・・」

「琴三まだまだ成長するって。」

「私もう19歳だよ! もうこれ以上の発達の見込みはないよ!」

 

彼女は涙声でアンリを睨み付ける。

嫉妬の視線をアンリの胸を見て自分の胸をさすっていた。

琴三のコンプレックスなのだろうなとアンリは一人で考え、勝手に完結していた。

 

「アンリちゃんホントずるい! ちょとぐらい私に分けてよ!」

「あなただってまな板じゃないだけマシでしょ?」

「失礼すぎるよ!」

「怒らないでよ。もうこれで終わりにしよ。私から始めたんだけどね。でもこれ以上はお互い不幸な結果にしかならないから。」

 

アンリは無理矢理話を終わらした。

これ以上焚き付けると自分への被害が甚大な物になると判断したからだ。

琴三は飲み物を一気に飲み干して頭を冷やしていた。

 

「はぁ・・・こんなバカなこと話していたら昼休みが終わっちゃうわよね。」

「誰の所為でこんなことになったと思ってるのよ!」

 

 

このような他愛もない会話を二人で繰り広げていた。

これが園原杏璃のいつもの日常だ。

そして午後の授業も終わり、琴三と別れ電車に乗る。

 

いつも通り帰路に付く。

いつも通りの時間の電車に乗りいつも通りの駅で降りる。

そして乗り換える。

いつもと変わらない。

変わるはずもない日常だ。

 

しかし今日だけは違った。

自分の二十歳の誕生日だ。

年甲斐もなく浮かれていた。

電車の中でも子供のようにワクワクしながら空を眺めていた。

真っ赤な空だった。

 

そして目的駅に到着する。

駅から出る。

それまではいつもの光景だった。

だが外にでるといつもと違う光景が待っていた。

 

一人の男が腕を組みながら待っているのだ。

その男は彼女をジッと見つめる。

足を止めた彼女は彼と向かいあっていた。

先に沈黙を破ったのはアンリだ。

 

「・・・何か御用ですか。朝のスマートフォンの件ですか?」

「それはどうでもいいが、お前に用がある。」

 

スマートフォンを当てたことを怒っているのだろうか。

そのような不安をアンリは持ちながら彼の話を聞く。

 

「今すぐこの町から出ろ。」

「何でですか?」

「理由は単純明快だ。この町は(あやかし)に食いつくされる。今、お前に壊れられては困るんでな。」

 

白髪の男は彼女に言いきった。

アンリは男の意図が全く掴めなかった。

だからだんだんイラついてきたのだ。

 

「まって。あなた何言ってるのよ。」

「お前は儂と契約する。|妖(あやかし)を殺すためにな・・・」

「ふざけるんじゃないわよ!」

 

アンリは男の胸倉を掴む。

彼の狂言に付き合う義理はないが、無性に腹が立ったのだ。

 

「何? 妖? 契約? あなた頭オカシイんじゃないの!?」

「人間は愚かだ。愚かで弱い。救いようがないな。日常が崩れ果てる瞬間まで気がつかないのか・・・」

「あなた本当になんなのよ。朝と雰囲気が全く違うじゃない!」

「緊急事態だからな。」

 

アンリは彼の胸倉を離す。

そして彼に背を向けて歩きだす。

すると白髪の男は呟く。

 

「|確かお前は父に母に妹でお前の家族だったな・・・ほんの数分前だったな。」

「なんであなたが私の家族を知ってるの?」

「・・・標的になった町の住人だからな。残念ながらお前を待ってる者は誰も居ないぞ。」

「ふん。一生妄言でも吐いてなさい。あぁ。もう最低。一気に気分が最悪になったわよ。」

 

彼女は家に向かって歩き出す。

すると最後にその男は付け加える。

 

ー力が欲しければここに戻ってこい。いつまでも待っていてやるー

 

彼の発言の意味も分からないし自分も何でこんな胸騒ぎがしているのかもわからない。

彼女は不安を頭から振り払って歩く。

周りを見ずひたすら前を見て歩いた。

だが自分が気がついた時には彼女は走っていた。

 

沈黙が怖かったのだ。

何も音がしない。

夕方だというのに買い物に出る主婦も、犬の散歩をしている爺さんもいない。

いつも子供が集まっている公園にも誰もいない。

 

走る。

ひたすら走る。

恐ろしくて恐怖から逃げるように走り続けた。

無音も恐ろしく、真っ赤な空も恐ろしい。

何もかもが恐ろしかったのだ。

 

そして彼女は自身の家に到着する。

当然家の中から音は全く聞こえない。

恐る恐る扉を開く。

 

「・・・ただいま。」

 

いつものように帰宅したことを伝える。

そしてリビングに向かう。

どの途中で彼女は何かに躓く。

 

「ひぃ!」

 

非日常に躓いた。

普通ならありえない現実がいまここに存在している。

彼女は考えたくもなかった。

考えもしなかった。

 

「・・・嘘でしょ。なんで母さんこんなところで寝てるの?」

 

夢であってほしかった。

 

「ねぇ。起きてよ。ねぇってば!」

 

アンリは母の体をひたすら揺らす。

身体は冷たくなっており、人形のようだった。

返事もなく力無く揺られた方向に揺れるだけだったのだ。

 

「・・・・・・」

 

アンリは黙り、力無く立ちあがる。

扉を開けてリビングの中に入る。

今度は赤い水が足につく。

ぬるぬるしていて気持ち悪い。

その赤い水の発生源は彼女の妹だった。

アンリはその赤い水の正体を知っている。

血だ・・・

 

「穂香!」

「あ・・・おねえちゃん・・・お帰りなさい。」

「何してるのよ。これって・・・」

 

彼女は力無くアンリに声をかけた。

手首からは血が絶えず流れ出ていた。

彼女は手当てしても絶対に間に合わない状態になっていた。

そんな彼女は姉であるアンリに謝った。

 

「お姉ちゃんごめんなさい。」

「何言ってるの? ふざけないでよね。」

「一生面倒見るっていったけど見れそうにないわ。寒い・・・凍死しちゃうのかな私・・・」

 

穂香は震えていた。

そんな彼女にアンリは抱き付いた。

血が真っ白のブラウスに付き、汚れたが今はそんなことは関係ない。

 

「大丈夫。穂香大丈夫だからね・・・お姉ちゃんが何とかしてあげるから。どう? これで温かいでしょ?」

「温かい。お姉ちゃん温かいよ。」

「でしょ? 私だって偶には役に立つわよ。あなたと違っていつも優等生というわけにはいかないけれどもね。」

「温かい・・・温かいよ。ねぇお姉ちゃん・・・」

「何? なんでも言いなさい。お姉ちゃんがなんでもしてあげるから。」

「うぅん・・・一言言いたいの。」

 

アンリは黙り込んだ。

すると穂香は微笑んで喋った。

 

「お姉ちゃん。誕生日おめでとう。大好きだよ・・・」

「何でよ。こんな状態で祝われても私嬉しくないんだけど・・・ねぇこれってドッキリなんでしょ? 皆で私を驚かせようとしてるだけでしょ?」

「ふふふ・・・やっぱお姉ちゃんは面白いね・・・」

 

アンリは信じたくないのだ。

穂香から溢れ出る血も母の状態もすべてふざけているものだと思いたいのだ。

 

「ごめんね。私ちょっと眠たいな。最近夜更かししていたからかな。」

「夜更かしなんてしてたの? でも今寝たら夜寝れなくなるわよ。」

「私の部屋にプレゼントがあるから持っていってね。一生懸命作ったから、喜んでくれると嬉しいな。」

「だから寝たらダメなんだって・・・わかったわ。あなたのプレゼント。あなたの手から貰うからね。だから少し寝たら勝手に起きてきなさいよ。約束よ!」

「ふふふ・・・ありがとうお姉ちゃん。大好きだよ・・・」

 

彼女は笑顔で目を閉じた。

その瞬間穂香は糸が切れた人形の様に崩れ落ちた。

穂香の呼吸も無くなり、彼女の温度は徐々に無くなっていくのをアンリは感じ取った。

そして目頭を押さえながらアンリは立ちあがる。

 

「嘘よ・・・こんなのありえない! タチの悪い夢に決まってる!」

 

現実を受け入れられないアンリは叫ぶ。

このような事態の前兆など全くなかったのだ。

だから受け入れられない。

 

「父さん。そうだ父さん。どこ? 二人の行動止めさせてよ。ねぇ聞いてるの? 寝てるの?」

 

いつもの場所で転がっている父に向かった。

しかし彼も倒れていた。

何が起きたのか理解することが出来なかった。

だが父をよく見ると腹部から大量の血が流れ出ていたのだ。

 

「嘘でしょ・・・父さん?」

「はは。ごめんなアンリ。父さんダメダメだったよ。」

「何があったの!」

「変な奴らが入ってきたんだ。戦ったんだけど・・・穂香と母さん助けられなかった。」

「父さんは!?」

「僕も・・・もうダメだ。目がもう見えないんだ。」

 

彼の声にはいつもの力強さがなかった。

 

「アンリ。僕の仕事用のカバン知ってるよね。」

「うん・・・」

「そこに通帳や印鑑。すべてが入ってる。それを持って逃げなさい。この町にいてはダメだよ。化け物に殺されてしまう・・・」

 

彼の声は悲痛に染められていた。

悔しさと悲しさ。

その二つの感情が混ざりあったような声だった。

 

「ごめんな。誕生日なのに・・・こんなことになって。」

「いいわよ。どうせドッキリなんでしょ? 一度仕切り直しましょ。こんな質の悪いドッキリしたことは許してあげるからさ。ねぇ。冗談って言ってよ。」

「はは・・・お前のそういうところが僕は大好きだよ。愛してるよ僕達の娘。それと・・・本当にすまない。アンリ・・・君だけは生きていてくれ・・・」

 

それ以降彼は喋らなくなった。

アンリはゆっくり立ちあがった。

彼女は何が起きているのかわからなかった。

訳が分からなくなった彼女は・・・叫んだ。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

喉が裂け、自身の鼓膜が破れるほどの声で叫んだ。

受け入れがたい現実が今ここにあったのだ。

 

「ふざけないでよ! 何が大好きよ! そんなこと言うぐらいなら・・・起きてよ。ねぇ・・・ねぇってば! 聞こえてるんでしょ!?」

 

彼女は動かななった三人を眺める。

受け入れたくなくとも受け入れなければならない現実は存在する。

二十年も生きていればそれぐらいは十分知っているはずだ。

しかしアンリは耐えられなかった。

冷静に受け入れることが出来なかったのだ。

だから彼女は座り込んで泣き喚いた。

この現実を受け入れる為に・・・

 

 

外が真っ暗になった時には彼女は泣き止んでいた。

目頭を真っ赤にしてブラウスも血で汚れたまま彼女は靴を履き外へ走りだした。

この事件を知ってる男のもとへ向かう。

怒りを胸に抱きながら・・・

駅のホームへ到着すると彼はまだ立っていた。

 

「・・・ようやく来たか。結構遅かったな。それに服も汚れているぞ。」

「お前がやったのか?」

「さぁどうだろうな。」

「質問に答えろ・・・」

「園原杏璃。家族はどうだった? 元気か?」

 

アンリは全力で地面を踏んだ。

足から腰、そこから腕に力を伝導させる。

拳には石のように硬く握りしめており、その硬い拳で彼を思いっきり殴った。

腰を捻って、自身の全体重をかけた一撃だった。

そのおかげで彼は吹き飛び、自分の拳の皮は一撃で無残にも破れていた。

奴から話しを聞くのは後で良い。

今は何も考えずに彼を殴ったのだ。

そして彼に近づき胸倉を掴み上げて彼を睨み付けた。

 

「殺してやる!」

「儂は何もしていないんだがなー。儂はな・・・」

 

彼は殴られた跡をさすって立ちあがる。

そして切れて出た血を服で拭った。

 

「じゃああなたが言う|妖(あやかし)って奴がしたの!?」

「そうだ。」

「なんでこんなことが起きたのよ?」

「質問ばっかだな。」

「答えなさい!」

 

男は静かに語った。

その声はひたすら冷たく鋭いものだった。

 

「知らん。偶然だったんだろうな。偶然この町で偶然お前の家族は全員家にいて全員殺されたんだろうな。」

「それじゃ偶然私の家族は殺されたっていうの!?」

「そうだ。妖が跋扈し始めた。その第一の標的がこの町になったんだ。運の悪いことだ。ま、お前は運よく逃れれたんだがな。」

 

彼女の怒りが再燃する。

彼女はまた拳を握り彼を殴りつけようとした。

しかし彼は一言叫んだ。

 

「だが! お前と儂が契約すれば人間だろうと|妖(あやかし)だろうと余裕で殺すことだってできる。この事件の黒幕を殺すことも可能だ。」

「本当なのそれ・・・」

「あぁ。嘘偽りは無い。だが、契約するかしないかを決めるのはお前次第だ。」

 

彼女はその一言で冷静になった。

彼の言葉は冷たく、突き放すような雰囲気を纏っていたが嘘をついているようには見えなかった。

すると彼は指を二本立てた。

 

「お前は二つの道を用意されている。一つは逃げる道だ。一時の安息を得れるだろう。だが時間が経てばお前は間違いなく妖怪に殺されるだろう。」

 

その男はアンリ自身に選ばせた。

だがアンリの意思はもう決まっている。

 

「もう一つは儂と契約して戦う道だ。だがこれはすぐに死ぬ可能性もある。それにこちらは修羅の道だ。逃げるより辛い結果になるかもしれん。さぁ。お前はどっちを選ぶんだ?」

 

アンリの意思はもう決まっていた。

彼が自分を助けてくれる天使だろうが自分を破滅に追い込む悪魔だろうが関係無い。

彼女は男の胸倉を掴み押し倒した。

そして彼の眼前で彼に告げた。

 

「だったら早く私と契約しろ! 私に妖怪を殺す力をよこせ! 家族を殺した奴らに復讐してやる!」

「・・・覚悟は出来ているというわけか。」

「覚悟は今決めたわ。だから私に力を寄こしなさい!」

「わかった。だがまずは自己紹介からだ。」

 

彼はアンリの手を退かして立ちあがる。

そして服についたホコリを払い堂々と自己紹介を始めたのだ。

 

「儂の名前はシロ。一応妖で鬼だ。この馬鹿げた騒動を終わらせる為にこの地上にやってきた。これから頼むぞ。園原杏璃!」

 

その日その時、園原杏璃の日常は音を立てて崩れ去ったのだ・・・

 

 

 

 

 

 



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2・鬼の胎動

妖であるシロ

そして家族の(かたき)である妖がアンリの目の前に存在していた。

当然彼女は錯乱した。

 

「え・・・どうしてよ。なんで妖が私に手を貸そうとするのよ!」

「上司直々の命令だ。」

「上司? え・・・あんたが何言ってるのかがわからないわよ。」

「・・・はぁ。とりあえずは落ち着く場所・・・そうだな。お前の家に行く。そこで契約についても妖についてもすべて説明する。あとお前は服を着替えろよな。」

 

その時彼女は自分の身なりに気がつく。

真っ白なブラウスは赤く染まっており、スカートも血に染まっていた。

彼に指摘されるまで全く気にならなかったが言われてみると非常に危険極まりない恰好だった。

警察に見つかってしまうと間違いなく職質を受けるだろう。

 

「・・・・・・」

「どうした帰りたくないのか?」

 

彼女はまた家族の死体がある家に戻るのを躊躇していた。

それを悟ったシロは黙って彼女の返答を待つ。

アンリは暫く黙り込んだのち返答した。

 

「わかったわ。でも少し外で待ちなさいよね。」

「了解だ。それよりそこのロッカーに行っていいか?」

「何を預けたのよ。」

 

彼は近くにあるワンコインロッカーを指さす。

ロッカーの大きさはかなり大きく、滅多に使われることはないのだ。

シロはポケットから鍵を取り出してロッカーを開けた。

 

「これだ。」

「何よこれ。」

 

布で包まれている棒状の物だった。

大きさは80センチ程だ。

シロはそれを担ぐ。

 

「商売道具だ。今は気にしなくてもいい。それじゃ行くぞ。」

「・・・一応言っておくけど、私はまだあなたを信用した訳じゃないからね。」

「ハイハイ。」

 

彼は素っ気なく返事してアンリの後ろに続いた。

お互い何も話さずゆっくりと歩く。

空はもう真っ暗になっており、星が煌めいていた。

 

「・・・ここで待てばいいか?」

「ええ。待ってなさいよ。」

 

アンリはそして家の中に入っていく。

見るに堪えない光景がまた彼女の視界に入る。

だが、必死に堪えた。

そして彼女はリビングに死体引きずり全員を一か所に固めたのだ。

 

「・・・いいわよ。入りなさい。」

「おう。それじゃ邪魔するぞ。」

 

シロはアンリに招かれて家に入る。

行儀よく靴は揃えた。

その光景をみてアンリは驚く。

 

「シロって言ったわよね。」

「儂になんか用か?」

「意外と行儀はいいんだ。」

「閻魔のクソババアに礼儀作法は一通り叩きこまれたんだ。」

 

意外な一面を発見し驚きつつ彼を自分の部屋に連れていった。

リビングには死体があり、妖であるシロにそれを見せたくはないのだ。

そしてアンリはリビングに戻り服を着替える。

そしてお茶を二つコップに入れて彼女の部屋に持って行った。

 

「はい。これお茶ね。」

「おう悪いな。」

 

アンリは一応シロにお茶を出した。

彼はお茶を一口飲み、本題に入った。

 

「儂は妖だ。さっきも言ったな。」

「えぇ。忌々しいことにね。」

「それじゃ、まずは儂たち妖の説明からだな。」

 

彼はコップを机に置いてアンリの目を見て話す。

 

「妖ってのはな、絶大な力を持っている者なんだ。人間が束になっても敵うかわからない。」

「じゃあなんで今更妖が暴れまわっているのよ。それだったら昔から暴れててもおかしくないじゃない。」

「それが今まで人間には不可侵するという決まりがあったんだ。人間の恐ろしさを妖は知っていたからな。ほらよく童話で妖を殺す人間の話あるだろ? あのように英雄が出現されると儂らは一斉に殺されてしまうからな。」

「だったら尚更暴れる必要が無いじゃない!」

「そういうわけにも行かないんだ。妖は恐怖してるんだ。人間よりも今の妖怪のトップをな。」

「・・・まさか。」

 

トップに立つものが変わっただけで方針が変わってしまうということは人間でもよく起きる現象だった。

そして恐怖で統治されたら人は何をするかわからない。

妖でも全く同じ事態になっていることになっていることにアンリは気がついたのだ。

 

「そうだ。今のトップは人間を滅ぼし妖の住みやすい世に変えろって考え方だ。そして逆らう妖は皆殺しだ。当然人間は容赦なく皆殺し。だから必死に妖は長の言うことを聞いているんだ。自分たちが助かる為にな。」

「ふざけるんじゃないわよ!」

 

アンリは憤慨する。

そんな訳の分からない都合で家族を殺されてしまったのが非常に腹立たしいのだ。

 

「ふざけてるわけじゃない。それに妖達はそれを免罪符にして好き勝手暴れてるのも事実だ。楽しんでいるのだろうな。今まで鬱憤が溜まっているやつも多かっただろうし。」

「な!?」

 

アンリは言葉を失った。

本当に妖が楽しむ為に家族が殺されたと考えると(はらわた)が煮えくり返る気分だったのだ。

 

「でこれからが本題だ。儂は妖だが、他の妖とは少し違う。」

「何が違うのよ。」

「トップが違う。暴れている妖の(ぬし)空亡(くうぼう)という奴だ。それが黒幕だ。」

「空亡・・・それがこの馬鹿げた事件の黒幕って訳ね。」

 

彼女は胸にその名を刻む。

このような事件のきっかけとなった妖は絶対に許せないのだ。

何より彼女は愛する家族を奪われた悲しみ、怒り、憎しみ、負の感情をそいつに感じていた。

 

「そう。で儂の上司は閻魔のクソババア・・・つまり閻魔大王だ。地獄の妖なんだ儂は。」

「閻魔大王って・・・地獄はあるの?」

「あるさ。今は大賑わいなはずだ。一気に人が死に、地獄の妖も好き勝手暴れまわり始めたからな。儂は憤慨した閻魔の命で地上に来た。妖共を殺して、黒幕も倒しこの馬鹿みたいな騒動を止めてこいって命令だ。その為、儂と相性の良い人間を探していたんだ。協力者としてな。」

 

シロの話を冗談半分で聞くほどアンリに余裕はなかった。

父が最後に残した言葉。

そして母の無残な死に様。

それを考えると、ありえない話でも無いような気もしていたのだ。

 

「でお前を見つけた。儂も運がいい。お前程の器は滅多に見れないからな。」

「・・・一応聞くけど何を持って相性がいいと思ったの?」

「悪意だ。」

 

シロの顔は本気だった。

声色も静かだがアンリに突き刺さるような鋭いものだった。

 

「悪意って・・・私があったのは今日の朝よ。」

「儂は目がいいんだ。当然人を見る目も優れている。そしてお前には才能がある。悪になる才能だ。地獄の鬼の儂は悪を好む。そして悪を信仰するんだ。」

「悪ね・・・」

 

アンリは呟く。

そして彼女はシロに尋ねる。

 

「だったら私じゃなくて殺人鬼とか犯罪者に頼めばいいじゃない。そっちの方が悪意があるでしょ?」

「それは誰でも思いつく考えだがダメだ。そいつらの悪意は濁っている。悪意というのは純粋で尚且つ綺麗でなければならない。」

「綺麗な悪意なんてあるもんですか。」

「あるんだなこれが。そのうちお前も理解できるはずだ。」

 

彼は楽しそうにアンリに告げた。

顔は今にも笑いだしそうな、非常に愉快な顔になっていた。

そして彼は最後の要件を告げた。

 

「最後に契約だが・・・少し条件があるんだ。」

「条件?」

「ちょっと痛いが我慢出来るか?」

「・・・わかったわ。」

 

アンリは覚悟は出来ているつもりだった。

何が起きようが自分の予想より下回るだろうと高を括っていたのだ。

だが彼の条件が予想以上に恐ろしかった。

 

「目だ。お前の片目・・・儂に差し出せ。当然自分で繰り抜けよな。」

「は・・・嘘でしょ?」

「本当だ。契約が済めば目は返してやる。視力も格段に上げてな。両目ともに同じようにしてやる特典付きだ。一瞬痛いのを我慢すればいい。」

 

すると彼はアンリの部屋の引き出しを漁り、コンパスを取り出した。

それを彼女の前に放り投げた。

 

「ほら。これで刺して出せ。」

「ふざけるんじゃないわよ!」

「お前その「ふざけるな」っての好きだな。だが儂はなーんもふざけてなんていないぞ。」

 

まただ。

彼が本気の時。

つまりは嘘偽りなく真剣に話すときの声色だった。

冷たく鋭く、恐怖すら感じる重たい声だ。

 

「鬼への貢ぎ物(みつぎもの)は昔から人って決まってんだ。それで儂は目が好きなんだ。だから目を寄こせ。それで条件は満たされる。」

「ッツ・・・クソ。ホントありえないわよ!」

 

アンリはコンパスを握り締めて彼を睨んだ。

するとシロは彼女の傍により、彼女に言い放つ。

 

「儂をなんだと思ってるんだ? 悪なんだよ。そして儂は地獄の悪の代表みたいなものだ。だから信用しろとは言わん。だが儂の行動にケチをつけるな。儂でもお前を殺すぐらいの力は存在するだぞ。妖であるからな!」

 

彼は本気だった。

人一人殺すことぐらい彼にしたら余裕なのだろう。

だが彼女はこんなところで殺されるわけにはいかないのだ。

 

「シロ。私は妖を許さない。」

「そうか。それは勝手にしろ。」

「当然妖であるあなたも最後に殺すわ。それでもいいの?」

「いいさ。どうせ死んだらまた地獄に戻るだけだしな。」

「そう・・・なら安心してやれる・・・わ!」

 

そして彼女はコンパスを自身の右目に突き刺した。

水風船が弾けたようね音が響き、そしてアンリは絶叫した。

視界が片方無くなり冷たく、そして非常に鋭い痛みが襲い掛かる。

 

「ぎゃぁぁぁ!」

 

シロはその光景を何も言わずに眺めていた。

するとアンリはコンパスを両手で持ち、必死に痛みを堪える。

体は震え、冷や汗をかき続ける。

その手には目から流れた血が付着し続ける。

手は震え、恐怖していたが、彼女は必死にそんな感情を殺す。

唇を噛み歯を食いしばった。

そしてコンパスと一緒に目を抜き取りシロに渡した。

 

「っぐあぁ・・・あ・・・これで・・・どうよ!」

「お見事!」

 

彼は拍手し、彼女の目を受け取る。

そしてその目を食らった。

咀嚼し飲み込み呪文のように呟き始めた。

 

「妖の条件は守られた。我の力を貸すことを誓う。園原杏璃。お前を我の盟友として認めよう!」

 

すると不思議なことが起きる。

アンリの右目があった場所から光が出現する。

そして右目はみるみる元通りに戻っていく。

血涙を流しながらだが、確かに新たな目が出現したのだ。

 

「どうだ? 新しい目は。」

「まだ痛むわよ。でも・・・よく見える。」

「視力や動体視力を上げてある。それが妖と契約したご褒美だ。」

 

そして彼はその場で説明を始める。

 

「妖と人間が契約するといくつかメリットがあるんだ。」

「メリット?」

「そうだ。その目がわかりやすだろう。そのように普通の状態でも人間離れした能力を手に入れれるんだ。」

 

アンリは血涙をティッシュで拭き取り、彼の話を聞く。

 

「そして儂の能力を強化させてアンリ。お前に託すことも可能だ。それが一番のメリットだ。」

「・・・それってアンタに乗っ取られたりしないわよね。」

「意思はお前が持っている。儂はそうだな・・・何か物体の憑依して戦闘の補助をする程度だな。」

 

シロは思いだしたかのようにアンリに尋ねる。

 

「アンリ。お前何か身につけるもの持っていないのか? 髪飾りでもヘアゴムでもなんでもいい。」

「・・・ちょっと待ってなさい。」

 

アンリはシロを部屋に待たせてリビングに行く。

そして父のカバンを漁る。

 

「父さんありがとう。覚えていてくれたんだ。」

 

アンリはそれを持って部屋に戻る。

そしてそれをシロに見せる。

 

「これでいけるかしら?」

「ふーん。結構センスいいじゃないか。いい髪飾りだな。」

「父さんが覚えていてくれたのよ。私が髪飾り欲しいっていったことをね。」

「いい親父だな。」

 

彼の一言でアンリは少し泣きそうになった。

だが必死に堪える。

 

「・・・これでいいんだな。」

「ええ。よろしく頼むわ。」

「オッケーだ。」

 

そして彼は髪飾りを握る。

二分ほど握ったのち彼は髪飾りをアンリに返却した。

 

「これで終了だ。」

「・・・でどうすればいいの?」

「それを身につけてちょっとした呪文のようなものを唱えてくれればオッケーだ。それはもうわかっているだろ?」

「・・・この訳の分からない言葉ね。」

「儂の信念だ。それを語れば儂の力をくれてやる。」

 

シロはそして立ちあがった。

何かを感じたようにゆっくりと立ちあがる。

 

「・・・アンリ。お前は妖を殺すといっていたな。」

「えぇ。」

「その言葉嘘偽りはないな。」

「当然じゃない。」

「そうか。だったらそこから離れろ!」

 

シロはアンリを思いっきり蹴り飛ばす。

彼女はタンスに頭をぶつけた。

 

「何するの・・・よ?」

 

アンリはその場の光景に驚く。

自分の部屋の窓から扉にかけて刃が通ったあとのように真っ二つに斬れていたのだ。

幸い下まで届いてないが、シロが蹴り飛ばさなければ自分が真っ二つになると考えるとぞっと恐怖した。

 

「良い切れ味だな。」

「はー・・・お前よー。逃した獲物を殺しに来たんだが・・・なんで助けるんだ?」

 

隣の家の屋根に一人の青年がいた。

だが明らかに人間ではないと理解できる。

人なら手がありそこに指が存在するはずだ。

だが彼は違う。

手が存在するはずの部分は手ではなく鎌のような物が生えているのだ。

 

「悪いな。こいつは儂の契約相手だ。」

「そんなことは関係無い。俺はこの家の女を殺したんだ。それで「お姉ちゃん」とか言っていたから帰って来てみたら案の定もう一人いたんだな。」

「アイツが穂香を・・・」

 

アンリの心にある気持ちが出現した。

憎しみ、悲しみ、怒り、憎悪、驚き、軽蔑、恐怖・・・そして感謝だ。

わざわざ敵がこちらにやって来てくれたのだ。

喜ばないわけがない。

 

「そうだ。アンリ。その顔だ。悪意に満ちてる素晴らしい顔だぞ。」

 

笑っていた。

アンリは怒るはずなのに笑っていたのだ。

 

「白い髪の妖。俺は鎌鼬(かまいたち)だが、お前は何の妖だ?」

「儂は・・・お前が死ぬときに教えようか。」

「ということはお前は俺の邪魔をする気なのか?」

「それ以外の回答に聞こえたか?」

 

彼らは睨みあう。

そして鎌鼬は鎌が生えている右手を上げた。

 

「だったら二人仲良く真っ二つになってな!」

 

腕を振りおろした瞬間刃が飛んでくる。

白く、そして鋭い刃だ。

 

「何ボケっとしている! とっとと逃げるぞ!」

「え!?」

 

シロに抱えられアンリは部屋から脱出する。

そして窓を突き破り、屋根の上に二人は降りた。

 

「ッツ・・・あいつの刃厄介だな。中々強いぞ。」

「あんた本当に勝てんの?」

「儂だけではわからん。だがお前がいれば余裕だ。」

 

すると彼は鎌鼬のほうを向く。

 

「さぁ、唱えろ。儂の信念を! 儂の力をすべてくれてやる!」

「・・・わかったわよ。」

「何ごちゃごちゃ言ってんだ! お前らも真っ二つにしてやるって言ってんだろ!」

 

鎌鼬はまた腕を振り上げてそしてそのまま振り下ろす。

真っ白の刃が飛ぶ。

だが彼女は逃げなかった。

シロが彼女の前に立ちはだかっていたからだ。

 

「おぉっと悪いな。こいつが儂の信念を代弁してくれてるんだ。邪魔はさせねえぞ!」

 

シロは布で包まれた棒で刃を防ぐ。

すると布の中からは刀が出てきた。

それで鎌鼬の刃を弾き飛ばしたのだ。

 

「この世に善など存在しない 悪を裁くは悪のみ なら我が悪となりて悪を裁く 我は鬼童丸なり!」

 

彼女は地獄の鬼・・・鬼童丸であるシロの信念を語った。

するとアンリは光に包まれたのだった・・・

 

 



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4・ 人? 妖?

「たっく・・・てめぇは何でそんな物覚えが悪いんだよ!」

「五月蠅いわね。私だってそんな訳の訳の分からない単語ばかり並べられたら困るわよ。」

 

アンリは喫茶店にてシロから妖について学んでいた。

だが彼女は聞き覚えの無い単語ばかり並べられている為さっぱり理解していないのだった。

 

「だーから! 儂は妖。わかったな?」

「わかってるわよ。それで私は人間。それであんたが私に憑りついた時、私は憑人(つきびと)って言うのになるんでしょ?」

「そうだ。じゃ、その時の特典っていうのは言えるか?」

「能力・・・えっと、あんたのように言うと怪力(かいりょく)って言うんだっけ? それを自由に使える。どう?」

「当たってるぞ。よしよし。頑張って教えたかいがあった・・・」

 

シロは項垂れていた。

彼女は物覚えが非常に悪く、シロも匙を投げかけていた。

 

「・・・それよりなんでこんなこと教えるわけ?」

「一応知っておいた方がいい。前の鎌鼬は覚えてるな?」

「えぇ。」

「そいつは憑りついてなかったんだ。だから弱くて当然だ。だがそいつらも憑りつくことも出来る。」

「というと・・・これからは憑りついた妖が出てくるってこと?」

「そうだ。だから前みたいな戦い方は止めておけ。儂がいくら強くてもあれじゃすぐに殺されてしまう。」

 

アンリは不思議そうな顔をした。

そして彼に指を差して尋ねた。

 

「だったらこんな変な単語ばかり教える必要ないじゃない。体を動かしてた方がいいでしょ?」

「・・・勉学からだ。知っているのと知らないのでは大分違うしな。」

「アンタ・・・妖辞めて教師にでもなったらどう? 意外と向いてるんじゃない?」

「ふざけるな。儂がそんなアホな真似出来るか!」

 

彼は怒った。

そして太刀が入った袋を持ち立ちあがった。

 

「よし。わかったら外に出るぞ。」

「はいはい・・・」

 

彼女も立ちあがる。

そしてレジに行こうとしたがシロに止められる。

 

「別に金を払うことはないぞ。」

「そんな訳行かないわよ。一応場所は借りていた訳だし。ここに誰もいないとしてもね。」

 

二人は誰もいない喫茶店から出る。

そして外に出るが、当然音は聞こえない。

車の音も、人が喋る声も何もないのだ。

外観は綺麗なまま中身はすべて失われていたのだ。

 

「ここもダメだったのね。」

「あぁそうだな。おかげで宿には困らなかったがな。」

「本当は泥棒みたいで嫌だったんだけどね。」

「仕方ないだろ? 不法侵入してごめんなさいって言えばそれで終了だ。それに儂は野宿は嫌なんだ。」

「それもそうね・・・どうせ警察もいないんだし。」

 

二人が来た時にはその町は妖によって壊されていた。

彼女達はこの壊れた町をゆっくりとを歩きまわった。

まだ妖がこの町にいるかもしれないという可能性を考えての行動だった。

当然人がいなければ町は一切機能しない。

だから警察も病院も学校すら閉店状態なのである。

しかしライフラインは生きている為二人は勝手に人の家に入り込み夜を過ごしていたのだった。

黙って歩いているだけなので非常に退屈なったシロは昨日から気になっていたアンリの身なりについて質問した。

 

「それよりアンリ。今何月か知ってるか?」

「六月でしょ。」

「そうだ。儂の記憶が正しかったら、お前が首に巻いているもの。それはマフラーというものじゃないのか?」

「そうよ。変かしら?」

「似合ってるが・・・もう一つ付け加えるなら、マフラーは冬に付ける物じゃないのか?」

「これ・・・穂香が私にくれた物なのよ。あの子っていい子なんだけど、ちょっとずれてるところあるのよね。」

 

シロは気がついた。

彼女が大切に持っていた包装されていたものはこのマフラーということを。

アンリは妹である穂香の形見を大切に使っていたのだ。

少し申し訳ない気持ちになり彼は黙り込んだ。

 

「別に気にしないで。結構これ気に入ったから。」

「そうか・・・すまなかった。儂の配慮が足りんかったな。」

 

するとアンリは不思議そうにシロを見る。

今度は彼女がシロに質問した。

 

「・・・あんた自分は悪とかいってるけど、そんなことはないでしょ? なんだかんだいい奴なんじゃない?」

「それはありえないことだ。」

 

彼は言いきった。

そして付け加える。

 

「妖の時点で悪なんだ・・・悪なんだよアンリ。」

 

彼は寂しそうに、そして何かを憎むようにアンリに答えた。

アンリは彼の言い方がわからなかったのだ。

悪であるが、悪を憎むような言い方だった。

自分を心底憎むような雰囲気を彼女はシロから感じていたのだ。

 

「じゃ、私はどっちなの?」

「・・・どうだろうな。お前の行動次第だろうな。」

「あぁぁ! 訳わかんないわよ。」

「そりゃそうだ。すぐにわかる問題じゃないからな。」

 

シロは笑いながらアンリに言いきった。

先ほどとは別人と思えるぐらい楽しそうに笑ったのだ。

 

「がはは・・・アンリ、お喋りもここまでだ。」

 

彼の声色が変わった。

真剣な表情で遠くを眺めていた。

 

「妖がいるの?」

「そうだ。ある程度まで近づければ儂も探知できるからな。」

「儂「も」ってなによ。」

「相手も当然儂の存在に気がついてるってことだ。」

 

彼女は一つ溜息をつく。

先手を打てないのが非常にむず痒いのだ。

 

「さてと・・アンリほら。」

「ありがと。であれが妖でいいの?」

 

彼女は太刀を受け取り、道路を挟み反対の道を歩いている女性を指さした。

 

「儂がここまで言ってあれが妖怪に見えなかったら目を返せ。腐った脳味噌の奴にやるほど安くはないんでな。」

「そこまで言うことないでしょ! 一応確認しただけじゃない。」

 

シロは呆れた様子でアンリに言いきった。

非常に辛辣な一言だった為アンリは彼に八つ当たり気味で怒った。

 

「ま、とにかく今は集中しろ。ほら相手さんも気がついたぞ。」

 

女性はこちらをジッと向いていた。

そして急に女性は叫んだ。

 

「何で人間と一緒にいる!」

「相手はお前の存在に気がついたぞ。それに・・・あれ憑人だな。契約無しで一方的に憑りついただけだろうが。」

 

憎悪や嫌悪を彼女は持っていた。

見た目は人間と変わらない。

だがアンリから見ても明らかに悪意を抱えていると理解できたのだ。

 

「この世に善など存在しない 悪を裁くは悪のみ なら我が悪となりて悪を裁く 我は鬼童丸なり」

 

彼女は鬼童丸であるシロの信念を語る。

そして光に包まれ、髪は真っ白になり額から角が生えた。

 

「よし。行くわよ。」

『・・・アンリ忠告だ。憑人も人だからな。』

「何が言いたいの?」

『殺すのに躊躇するな。覚悟を持って戦えって言いたいんだ。』

 

彼の言いたいことが理解出来なかった。

だが今は目の前のことに集中することにした。

 

「殺す殺す殺すー! 人間は皆殺しだぁ!」

「物騒ねぇ。でもあんたは妖だから私も一切情けをかけないわよ。」

 

すると女性の身体が変化する。

目が一つになってしまい、腕が非常に大きく肥大化した。

当然手の平も顔と同じぐらいの大きさまで巨大化したのだ。

 

『本気だな相手。それにあの見た目・・・一つ目入道か。』

「入道?」

『わかりやすく言うと巨人みたいなものだ。あいつ知識は乏しいが力はあるぞ。それで一つ目だから一つ目入道。』

 

すると入道は地面のアスファルトを削る。

そしてそれを手の中に握り込んだ。

 

『あいつの一撃は多分シャレにならん。躱せ。」

「え?」

 

彼女はシロの声に呆気を取られて余所見をしていた。

すると隣にあった車は散弾をぶつけられたように穴だらけになりスクラップとなり果てた。

 

「・・・何これ?」

『アスファルトの(つぶて)だな。当たったらミンチになりそうだ。今回は相手がノーコンで助かったな。』

 

アンリは冷や汗をかいた。

当たったらお終いの状況に立たされたのだ。

最近まで一般人であった彼女はそんな事態など生まれて初めてだったのだ。

しかし不思議と彼女は落ち着いていた。

 

「当たったら負け。近づいて太刀で斬れば私の勝ち。わかりやすいわね。力貸しなさい。」

『冷静で助かるよ。怪力、金剛力!』

 

彼は圧倒的な力をアンリに授けた。

そして彼女は・・・地面を思いっきり蹴り走った。

 

(動体視力と力が異常に上がってるなら・・・!)

 

彼女はまっすぐ入道の下へ走る。

当然入道は反撃を行った。

 

「死ね! 死ね! 人間死んでしまえ!」

 

地面を抉り握り込む。

そしてアスファルトの礫をアンリに投げつけた。

 

「・・・見えた!」

 

彼女はあろうことかその場で足を止めた。

 

『何してんだ!』

 

シロの怒号が飛ぶ。

だがアンリは全く気にしてい無かった。

それどころか更に集中力を高めていたのだ。

 

「人を舐めんじゃないわよ妖!」

 

アンリは礫を太刀で叩き落とす。

半身になり自分に直撃する弾だけを選択し、それのみを太刀で叩き落としたのだ。

それ以外は何もしない。

身動き一つ取らずに礫が通りすぎるのを待っている。

そしてアンリは正面からアスファルトの礫を避けきったのだ。

 

『・・・おいアンリ。』

「何よ。今忙しいんだけど。」

 

ゆっくりと彼女は入道に近づく。

シロは非常に驚き、彼女に声をかけずにはいられなかったのだ。

当然入道もその光景に驚いた。

シロは化物のような彼女に尋ねる。

 

『本当に人間か? お前は。本当は妖とかいうオチは無しだぞ。』

「人間よ。シロ・・・いえ、妖。アンタ達は人間を舐め過ぎてるわよ。」

『がはは! もう笑うしかないな! 死の恐怖を感じないのかよお前は!』

 

アンリは礫の威力は目の前で確認したはずだった。

それにも関わらずあのような回避方法を取ったのは本当に恐怖を感じていないとシロは考えるしかなかったのだ。

 

「失うより怖いものは無いわよ。それは死ぬより怖いのよ。あんた達は一生理解出来ないと思うけどね。」

『そうかそうか! 良くわかった。それじゃ今から反撃開始だ!』

 

アンリはゆっくりと、ゆっくりと入道に近づく。

入道から見たアンリは恐怖の対象になっていた。

ありえないのだ。

人間である彼女に恐怖している自分が。

そして脆弱な人間に気圧されている自分が。

無い知恵を必死に振り絞るが、入道は何も思い浮かばない。

その代りに一つこれから行われることは理解することが出来た。

 

「あ・・・があああ!」

 

入道は妖。

人は基本的には死を恐れる。

それは妖も当てはまるのだ。

だから入道は必死に抗う。

入道は腕を振り上げて彼女を殺すつもりで殴りつけた。

しかし、アンリはそれを嘲笑うかのように些細な抵抗すら許さなかった。

 

「はいよっと!」

「げへ・・・」

 

アンリは入道の腕の攻撃に合わせてカウンターの要領で入道の後頭部に蹴りを入れた。

シロの怪力で強化されているアンリの一撃は重たかった。

入道は堪えることが出来ず地面に突っ伏す。

 

「あが・・・がが・・・」

「喋れないの? 知恵もないみたいだし。もうあんたはもう要らないわ。」

「が・・・うがああ!」

 

入道は最後の力を振り絞る。

この後のことはどうでもいい。

生きたいのだ。

入道は死にたく無いのだ。

 

「遅いのよ・・・」

 

アンリの凶刃が入道の首を刎ね飛ばす。

糸の切れた人形の様に入道は地面に倒れこんだ。

間違いなく絶命していると判断した為アンリは入道の生死の確認を行わなかった。

彼女は黙って太刀の血を払い鞘にしまった。

シロは彼女から離れる。

そしてまたアンリの顔を確認する。

 

「何よ。なんか付いてるの?」

「なんでもない。」

「そう。じゃ行きましょ。」

 

彼女はそれ以上何も言わなかった。

シロも黙って後についていく。

彼は考えていた。

アンリのあの異常ともいえる集中力と恐怖を一切感じていない精神力の正体を。

 

(やっぱりこいつは壊れているのか? だが妖怪相手の時だけみたいだし・・・まだ様子見ってところか。)

 

シロは考え続けていたが答えが出る気配がなかった。

だから諦めたのだ。

そして彼女に尋ねる。

 

「次はどこに行くんだ?」

「・・・わからないわ。でも次はまともに喋れる妖に出会いたいところね。」

「はっは。それは運次第だな。好き勝手に移動するってことか。」

「そういうこと。それじゃこのゴーストタウンともおさらばね。」

 

二人はまた歩き始めたのだ。

すると静かにアンリはシロに尋ねる。

 

「ねぇシロ。私って・・・人なのかな? 私、入道を斬っても何も感じ無かった。人の形をしていたのに・・・」

「そりゃ人だろうな。性格やらに問題ありだが。それに見た目も人間の女性だぞ。」

「ふふ。それならよかった。」

「妖になりたく無いのか?」

「嫌よ。私は人でありたいの。」

 

シロはそれを聞いて安心したようだった。

最後に彼は彼女に助言をした。

 

「ならお前はその気持ちを見失うな。」

「わかってるわよ。」

 

アンリはシロに返事した。

こうして彼女達は壊れた町を後にしたのだった・・・

 

 

 

「これはいい。入道を襲う予定だったが、もっと良い敵に出会えた。あの二人を・・・襲うか? いやまだか。もう少し様子見だ。」

 

雷を纏った妖はマンションの上から二人を眺めそう呟いた。

そして笑った。

 

「ははははは! この雷獣(らいじゅう)様をがっかりさせるんじゃないぞ!」

 

雷獣と名乗る妖は二人に標的を定めた。

だが二人はまだ彼の存在を知らなったのだった・・・

 

 

 

 

 



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