東方少年呪 (CAKE)
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傷ついた少年の幻想入り
PROLOGUE 【幻想入り】


さぁ!始まるザマスよ!
行くでガンス!
フンガ〜!

まともに始めなさいよ!


「はあっ…はあっ……」

 

ただ、少年は走っていた。

ここがどこで、どこに向かっているのか。そんなことは、もう頭にはなかった。

 

『おい、あっちに行ったぞ!』

『追えッ! 追えぇぇッ!』

『化け物め! 殺してやる!』

 

逃げろ。それしか頭に無かった。

逃げろ。逃げろ。逃げろ。

どこまで走っても、この森の出口は見えそうに無かった。

少年は、泣いていた。恐怖、不安、そして精神の疲労。

その少年は泣いていた。走るため、生きるために振られているその手には、あるものが握られていた。

仮面だった。全てが白く塗られている所に、赤い液体が付着している。そして、右目の部分だけ穴が空いていた。

 

いつまで経っても振り切れない追っ手。

もう足からは血が流れており、肺も破れる寸前まで追いやられていた。

その時だった。

 

「うわぁっ!?」

 

突然、地面に穴が開き、少年は抗うこともできずそこに落ちていった。

 

『おい、どこいった!』

『消えた………』

『探せ! 探すんだ!』

 

その後も、結局追っ手は少年を見つけることができなかった。

 

 

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「さてと……掃除はこれくらいでいいかしらね」

 

その頃幻想郷、博麗霊夢はいつも通り朝の掃除を行っていた。

いつもと変わらぬ朝。しかしそれは、突然破られた。

上空から何かが落下。霊夢の目の前で静止した。

 

「え……」

 

それは人の形をしており、足は血や泥で汚れていた。

 

「子供………? 」

 

落ちてきたのは、見た目10歳の少年だった。整った顔立ちをしており、男の中では確実に「かわいい」の域に入るだろう。しかし、少年の顔や足、そして胴体は血で濡れており、既にボロボロとなっていた。

恐る恐る近づく霊夢。生きているのかも分からないので、とりあえず揺すってみる。

 

「う………………」

 

なんとか生きてはいるようだ。ならばするべき事は一つ。

 

「はぁ〜……面倒くさいわねぇ。でも、ほっとくわけにもいかないし、とりあえず保護しましょうかね。あと、医者も」

 

そして霊夢は少年を神社の中へと運び込んだ。

 

 

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「ん………………」

「あら、気が付いたかしら?」

 

しばらくして、少年が目を覚ました。そしてその顔を覗き込む霊夢。

そして、この状態のまま両者ともに固まった。

 

「ひっ…………」

「え?」

 

すると突然、少年は怯えるように顔を歪ませ、泣き目になってしまう。

キョトンとする霊夢。

その直後

 

「うわあああああああああああああああああああああッッッ!!」

「え、ちょ、待ちなさい!」

 

少年はすぐに立ち上がり霊夢から逃げ始めるのだった。




はい。どうだったでしょうか。
こんな感じのスタートでやっていこうと思います。
必ず完結させるので、ゆっくり気ままに待っていてください!

次回、【少年と名前】。お楽しみに!


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EP,1 【少年と名前】

はい、どうも。CAKEです。
シリアスって書くの難しいよね。ね。
当分はシリアスを書きません。難しいもん!


「うわあああああああああああああああああああああッッッ!!」

「え、ちょ、待ちなさい!」

 

少年は、突然霊夢から逃れようと全力で離れようとした。

しかし、それは成されなかった。

少年の足は既に限界を迎えていた。走り出そうと足に力を込めた瞬間、何かが少年の中で切れたのだ。

それと同時に少年は和室の畳に倒れ伏す。

どうやら、アキレス腱が切れてしまったようだ。

 

「う……あ…………………」

 

少年もこのことを察したのだろう。自分の足を目をやり、絶望したような表情を浮かべる。

それでも少年は、霊夢から逃れようと必死にもがいていた。

 

「……………」

 

霊夢は目の前の少年を見て、眉をひそめた。

少年の足は切り傷やすり傷だらけ。血もたくさんこびり付いていた。

誰がどう見たって動ける状態ではないのだ。

それなのに少年は今も逃げようとしている。

明らかに正常ではない。異常。精神がやられてしまっている。

少年はただただ『逃げる』という強迫観念に囚われていたのだ。

 

「(相当辛いことがあったようね……)」

 

さらに、少年は見たところ人間。

上空から降って来たということはほぼ間違いなく『外来人』だということは予測がつく。

 

「(ということは妖怪の類じゃないわね……まさか、人間が?)」

 

霊夢は心の中で舌打ちをする。

『外の世界』には妖怪や幽霊はいない。となると、人間の仕業としか考えられない。

少年はまだまだ幼かった。

白いTシャツに黒のパーカー。そしてベージュの半ズボン。

髪は耳を隠すほど長く、前髪も目に着きそうなほど長かった。

恐らく年齢は11歳ほど。四肢も細く、ひ弱そうな体型だった。

こんな少年を精神が壊れるほど追い回したのは何故なのか、さっぱり理解ができなかった。

 

「(なんでこんなことするのかしらね………理解に苦しむわ。ともかく、暴れられても困るし、一旦落ち着かせなきゃ。)」

 

そして霊夢は少年に近づいた。

 

「やめて………来ないで…………」

 

少年も霊夢に気付き、逃げようとする。

しかし、アキレス腱の切れた足で逃げることなどできない。

少年は仰向けになり、震えた目で霊夢を見る。

次の瞬間、霊夢は少年を抱きすくめていた。

 

「………!」

 

少年は驚きの表情を見せる。

そして、霊夢は優しい口調で少年にこう言った。

 

「大丈夫よ。何があったかは知らないけど、私はアンタを襲ったりしないし、虐めもしないから。安心して頂戴」

 

少年の表情が歪む。

 

「う、うわあああああああああああああああああああああん!」

「え、ちょ……」

 

少年は泣き出し、霊夢に飛びつく。

霊夢は突然の少年の行動に思わず声を出してしまう。

その後しばらく、少年の鳴き声が止まることは無かった。

 

 

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「………ふぅ」

 

少年はしばらく泣き続けた後、力尽きたように眠ってしまった。

今は、同じベットに寝かせている。

 

「霊夢、来たわよ」

「ん、あぁ。こっちよ、永林」

 

実は霊夢は少年を保護した後、幻想郷唯一の医者、八意永林を呼んでいた。

そして霊夢は永林を少年のもとへ案内する。

 

「ふむ………」

「どう?永林。見るからにやばそうだけど」

「……そうね。まず、手首や肋骨といったあらゆる骨が折れてるわね。……あら、頭蓋骨も少し欠けてる」

「はぁ⁉︎ 頭蓋骨⁉︎ 一体この子何から逃げてたのよ……」

「逃げてたって、どういうこと?」

「あぁ、それはね……」

 

そして霊夢は今までの事や自分の推理を話した。

 

「成る程ね……どうりで足がここまで壊れてるのね」

「えぇ、どんだけ走ったらこうなるのよ………」

「うーん、細かいところまでは分からないけど、山道を30km全力疾走でもしたらこうなるかもしれないわね」

「30⁉︎」

 

普段飛んでいる霊夢は、その距離が絶望的な長さに思えた。

飛んで行くならまだしも、全力疾走となると、遥かにこの少年の限界を超えている。

 

「まぁ、結論から言っちゃえば、完治させることは可能よ。ただ、1週間くらいかかるけどね」

「1週間ね……」

 

こんな酷い怪我でも1週間あれば完治できると言う永林。

流石、月の頭脳。そう言おうと霊夢が口を開いた瞬間。

 

「ん…………」

 

少年が目を覚ました。

少年の目が開き、ゆっくりと霊夢の部屋を観察する。

次に少年の目は2人の女性を捉えた。

 

「あ…………」

 

霊夢はまた逃げるかもしれないと思い、身構える。

しかし、少年は逃げようとせず、ゆっくりと体を起こそうとした。

しかし、それはできなかった

 

「痛っ……」

 

全身のあらゆる骨が骨折状態。その痛みで起き上がれなかったのだ。

少年は慌てて体を布団に戻す。

 

「ここ………どこ……?」

「………私の家よ。アナタ、あそこでぶっ倒れていたのよ」

「(どうやら精神は正常に戻ったようね。後は体の治療だけ……手間が省けたわ)」

 

少年はしっかりと自我を持っていた。

つい先ほどまでの乱心さは見る影もなく、落ち着いて周りを見ていた。

 

「あなたは……?」

「博麗霊夢よ。霊夢でいいわ」

「私は八意永林。永林って呼んで頂戴」

「霊夢………永林………?」

「ええそうよ。突然だけど、あなたの名前を教えてくれない?」

「名前……? 分からない。多分無かった。ずっと『化け物』って言われてたから……」

「「………」」

 

少年には名前が無かった。しかし、霊夢達が気になっていたのはそこではない。

『ずっと化け物って言われてた』

この言葉が2人を固まらせていた。

すると、突然霊夢が口を開いた。

 

「……じゃあ、今ここで付けてもいいかしら?ずっと『アンタ』って言うのもアレだし……」

「………うん、いいよ」

「ん。じゃあ、何がいいかしらね…………『ユウ』っていうのはどうかしら」

「…………ユウ……」

 

少年は顔を俯かせ、自分に与えられた名前を復唱していた。

永林はというと、手を顎に置いて何か考え事をしていた。

 

「えっと………嫌だった?」

「…………ううん。ありがとう、霊夢!」

「え?ああ、どういたしまして……」

 

少年は嬉しそうに笑った。

初めて見せる少年の笑顔に霊夢は少し驚いてしまう。

 

「(あの時は恐怖で理性なんてものは無かったのに………凄いわね。もう立ち直ったみたい)」

 

でも、まあいいか。霊夢は小さく笑い、少年を撫でた。

 

「それじゃあ、ユウ? 聞きたいことがあるから、ちょっと色々質問してもいいかしら?」

「うん。わかった」

 

そして少年、『ユウ』は永林の問診に応じるのだった。




はい。どうだったでしょうか。
ここからユウ君の無双が始まるんですね……!(大嘘)
裏話なんですが、ユウっていうのは、YOUっていうのから取りました。非常にどうでもいいですね。
ではまた次回!あ、サブタイトルは決まってません。


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EP,2 【ユウと霊夢】

おはこんばんにちは、CAKEです。
今回はほのぼのです!多分。
霊夢って冷徹なイメージ持ってる方が多いと思います。
安心してください、穿いてm……ゲフンゲフン、優しいですよ。
あと、タグに【自己解釈あり】を足しました。そりゃそうか。
では、本編どうぞ〜


あの日から4日が経った。

ユウの怪我もほとんど治り、過度な運動避ければ生活に支障はないとされている。

あの日、永林から様々な質問をされたユウ。

ただ、【外の世界】に関することは一切聞かず、また、霊夢もそのことに関しては一言も口にすることは無かった。

そしてそのユウはというと、朝5時に起こされ、箒を持って懸命に掃除をしていた。

 

「ふぅ………こんなものかなぁ」

「あら、ユウ。おはよう」

「あ、霊夢おはよう! ……って、霊夢に叩き起こされて今に至ってるんだよ⁉︎」

 

そうなのだ。

つい昨日までは「怪我人だから」と言って必要以上の運動を禁止していた霊夢だったが、今日いきなり叩き起こされ、箒を持たされ、掃除をさせられている。

 

「でも、看病してくれてたし、当たり前っちゃあ当たり前なのかな」

「話が早くて助かるわ。でも、2時間もやれとは言ってないわよ?」

「あはは、それはね~、なんかやってるうちに楽しくなっちゃって。それに……」

「それに?」

 

ユウは下を向いて少しだけモジモジしながらこう言った。

 

「霊夢さには、感謝してもしきれないから……さ」

「………そう。それはどういたしまして。じゃあ、もう掃除はいいから早く入ってきなさい。朝ごはん食べるわよ」

「やったぁ! 今行く!」

 

そしてユウは箒を持って元気よく神社の中へ走っていった。

 

 

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食後。ユウは食器を洗っていた。

食べ終わった後、「自分のは自分でやります」と譲らなかったユウは「じゃあ私のもやって」という霊夢の頼みを快く引き受けたのだ。

そして食器洗いも終わり、ユウは神社の裏の庭で日向ぼっこをしていた。

 

「はぁ〜〜〜。気持ちいい〜〜〜」

 

神社の裏には暖かい日差しが舞い降りていて、ユウを優しく包み込んでいた。

すると、

 

「ふわぁ〜〜〜〜〜」

 

眠気がやってきた。ユウはそれに抗うことなく、眠ったのだった。

 

 

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「……ごく普通の男の子ね。ちょっと優しすぎるけど……」

 

霊夢は神社の中からユウのことを見守っていた。観察していた、のほうがいいかもしれない。

霊夢には、ユウが降ってきたあの日からずっと気になっていることがあった。

 

ーーーずっと『化け物』って言われてたから。

 

あの時、ユウはそう言った。下を向いて、寂しそうな顔で。

人間はそこまでバカではない。

化け物と呼び、追い回すほどだ。何か理由があるに違いない。

だからこそ霊夢は、永林の所に入院させようとせず自分の家に泊まらせているのだ。

何故ユウは化け物と呼ばれたのか、判明させたかった。

しかし、

 

「どう見たって化け物には見えないのよね〜」

 

ユウには少し変わった所や素振りは全くないのだ。

昨日まで寝たきりだったが、今日いきなり掃除をさせたのも、ユウが自発的に動けば何か見つかるかもしれない、という狙いがあったのだ。しかし、今でも変わった所はない。

 

「(だとすると………【能力】かしらね。外の人間ってそういうの嫌がるし……)」

 

そう考えざるを得なかった。むしろ、それ以外無かったのだ。

 

「(となると問題はどんな【能力】を持っているか、ね。そんな強力なやつじゃ無かったらいいんだけど……)」

 

そこまで考えた霊夢だったが、彼女にも、あれが来た。

 

「………ふわぁ」

 

眠気だ。霊夢は小さくあくびをした。

 

「(……考えるのは後にしましょうかね)」

 

そして霊夢は自室に戻って行ったのだった。

 

 

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博麗神社の近くの上空。黒い三角帽子を被った女の子が博麗神社に向かっていた。

 

「ふぅ、ようやく着いたぜ。さぁ〜って霊夢はどこかな………ってん?」

 

彼女は神社に着くと、神社裏で眠る小さな人影に気づいた。

 

「誰だろう、アレ。ちょっと行ってみるか」

 

そして彼女は急降下。人影の元へとたどり着いた。

 

「誰だ?こいつ。人間の男の子がなんでこんなとこに……って外来人か」

 

彼女はその少年を観察し始めた。そして服装から外来人だと判断。

彼女はペシペシと少年を叩いた。

 

「……………んっ……」

「おーい、起きろー。こんなとこで寝てっとどこぞの妖怪に喰われるぞー」

「んん……だれ?」

 

少年は目を開け、その彼女を見てそう言った。

 

「おう、私は霧雨魔理沙ってんだ。お前は?」

「まりさ………さん?」

「あぁ、そうだ。魔理沙でいいぜ。で、お前は?」

「ぼく?ユウだよ」

「ユウ、か。変わった名前だな」

「そうかなぁ、いいと、おもう、け、ど………スゥ………」

「あ、こら、喋ってる途中で寝るなよ!………はぁ」

 

魔理沙は呆れたようにため息をついた。

目の前ではユウが気持ちよさそうに眠っている。

 

「(しかし、こいつ男だよな?それでこの寝顔はびっくりだぜ……)」

 

そう思いつつも魔理沙はユウの隣に寝そべる。

当然、そんな魔理沙にも眠気がやってくる。

 

「(まぁ、こういうのもたまにはあり、か………)」

 

そう思いながら、魔理沙も暖かい眠りにつくのだった。

 

 

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博麗神社の裏庭。その木の陰に一人の女の子がいた。

その女の子にはカラスのように黒い羽が付いていた。【妖怪】だった。

 

「あやや、これはおいしいネタの予感がしますねぇ。少し張ってみますか♪」




はい。どうでしょうかねぇ。
文章、頑張ったつもりですが………精進します。
こんな文章力ですが、読者の皆様には生暖かい目で許してくれることを望みます。
では、また次回!


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EP,3 【ユウと訪問者】

どうも皆さんおはこんばんにちは。CAKEです。
今回も日常編です。あのマスゴミも来ますよぉ。
「いいぞ、もっとやれ。」
という方も、そうでない方も読んでってください!


「へぇ〜、霊夢んとこで居候ね〜」

 

今は夕方。ほんのりと空に赤みが差してきた頃だ。

ユウ、霊夢、魔理沙は現在居間でお茶をすすっている。

 

「にしても……ユウ、だっけか? お前も大変だよなぁ。こんな奴のとこで居候だなんてな」

「ちょっと魔理沙。それってどういう意味かしら」

「人使いが荒いってことに決まってるじゃないか」

「もうアンタ帰りなさいよ。てか帰れ」

「嫌だぜ」

 

ユウは「あはは………」といった感じで苦笑いを浮かべていた。

実はユウは人見知りな性格を持っていて、警戒やら不安やらで霊夢の陰に少しだけ隠れている感じだ。

 

「ユウ、辛くなったら言えよ。うちに泊めてやるからさ」

「は、はい。ありがとうございます」

「アンタの家って超汚いじゃない……」

 

そしてしばらく3人は雑談をして過ごしていた。

と、そこに。

 

「はーーいどうもーーー!こんばんわ!」

「うげ、もう烏が来た……」

「おう、文じゃないか。何しに来た」

 

突然、居間に一人の女の子が割り込んできた。

ユウは突然の出来事に「ひっ……!」と驚いてしまう。

 

「ええ、ちょっとネタの匂いがしたので来ました! そこの少年のことですけどね」

「ちょっと文。アンタのご入場のせいでユウが震え上がってるんだけど」

「………! ………!」

「あややや?ちょっと驚かせすぎましたかね……」

 

文と呼ばれた少女は計画が失敗したかのように頭を掻く。

ユウは小刻みに震えて霊夢の袖をガッチリ掴んでいた。

文はユウの前に行くと、自己紹介を始めた。

 

「初めましてユウさん。私は清く正しい射命丸文と申します。文って呼んでくださいね」

「は、初めまして……ユウです」

「はい♪ じゃあちょっと幾つか質問してもいいですか?」

「え、あ、はいドウゾ……」

 

そうして新聞記者による質問が始まった。

しかし、それがいけなかった。相手は医者ではない。聞けることは全部聞き出す『新聞記者』なのだ。

 

「外の世界では何をしてたんですか?」

「「…………ッ!」」

 

言ってしまったのだ。ユウと霊夢の顔が一瞬にして強張る。

霊夢は知っている。詳しい事は分からないがユウが外の世界で辛い思いをしてきたというのを。

しかし、そのことを目の前にいる新聞記者や隣でせんべいを齧っている魔法使いはそんなことは知らない。

 

「あーー、それは私も気になってたぜ。ユウ、お前何やってたん……おい?ユウ?」

「ぁ…………ぁ…………………」

 

ユウが突然涙ぐみ始める。

表情の変貌ぶりに魔理沙と文は首をかしげてしまう。

 

「ん?どうしたんですかユウさん。何か体調でも___」

「アンタ達ちょっと来なさい!」

「うおっ⁉︎」「あやぁ⁉︎」

 

突然、霊夢が魔理沙と文を引っ張り外へ出す。

ユウは居間に一人の取り残されたのだった。

 

 

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霊夢は魔理沙と文を離れたところに連れて行った。

 

「いてて……何すんだぜ霊__」

「黙りなさい。いい? 今から大切なこと話すからね」

 

そして霊夢はこれまでの事や自分の推理を二人に話した。

どんどん二人の顔に真剣味が出てくる。

 

「なるほど……さっきのはタブーだった訳か」

「あやや……それはいけないことをしてしましましたね………」

「私がユウをここに置いてるのはユウの事を解析したいからよ。まぁ、今のところ変わったことないけど」

「分かった。今後気をつけるぜ」

「私もそうしたほうが良さそうですね」

 

そして、3人はユウの元へと戻っていった。

その頃霊夢はあることを心配していた。

ユウは純情だ。優しい心を持っているが、一度ショックを与えてしまえば立ち直るのは難しい。

 

「(また正気を失わなければいいのだけれど………)」

 

そして3人はユウの元へと着いた。

 

「ユウさーん。大丈夫ですか?」

「ごめんなユウ。何も知らず聞いちまっ………って、寝てる?」

「いや、気絶してるわね」

 

ユウは畳の上でうつ伏せになっていた。

 

「はぁ。これは面倒ね……」

「(言葉一つで気を失っちまうとはなぁ………外で何があったんだよ)」

「(あやや……これは記事にしないほうが良さそうですね……)」

 

そして、3人はそれぞれ考え事をして、ユウを布団の上に寝かせるのだった。

 

 

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「ん………」

「あ、起きた」

 

ユウが目を開ける。周りはもう既に暗くなっていた。

 

「あや、ユウさん。おはようございます。初めまして。射命丸文と申します。文って呼んでくださいね」

「あ……はい。初めまして……?」

 

ユウは何かおかしい、という風に首をかしげる。

 

「あ、あの……」

「はい、なんですか?」

「初対面……ですよね?」

「その筈ですが………どこかで会いました?」

「うーん……」

 

ユウが首をさらにかしげる。

 

「ほら、ユウ。いつまで寝てんの。夜ご飯よ」

「あ、霊夢さん。おはようございます」

「ん、おはよう。ほらちゃっちゃとこっち来て座りなさい」

「はぁい」

 

ユウはのそのそと布団を出てゆっくりと霊夢の隣の座布団に座る。

 

「よ。私は霧雨魔理沙だ。魔理沙って呼んでくれ」

「魔理沙さん………?」

 

ユウはまた首をかしげる。現在ユウは強烈なデジャヴ感に襲われていた。

 

「じゃあ、ユウさん。色々話を聞かせてもらってもいいですか?」

 

唐突に文が話を切り出す。

 

「あ、はいどうぞ……」

 

そして文はオッホンと咳払いをして質問を始めた。

 

「ユウさんは霊夢さんのことをどう思ってます?」

「………ほえ?」

 

その直後、ユウは衝撃の質問内容にポカンとし、霊夢はお茶をブーーッッ⁉︎っと噴き出した。魔理沙はクククと笑いを嚙み殺し、文はニヤニヤとしていた。

 

「あ……あ………えと……………」

「んーー?どうしたんですか顔赤くしてぇ?まさか恋愛対象にして___」

「いらんことを聞くなぁ‼︎」

 

こうして博麗神社の夜は、より一層賑やかになったのだった。




どうでしたか?文章力のアレでアレがアレになっちゃてますが許してください(どういう事だよ)
次回は未定です!どうしようかなぁ(白目)
では、また次回!

感想や評価、お待ちしております!アンチコメントもどんと来いや。


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EP,4 【ユウと依頼】

どうも、おはこんばんにちは。CAKEです。
さて皆さん。今回はちょっとしたイベントです。
それと、自己解釈のフルコース回となっています。
「いいぞ、もっとやれ」
という方はノンストップで本編をお読みください。
では、どうぞ。


「人を襲う妖怪?」

 

ユウが幻想入りしてからちょうど1週間経った頃。

博麗神社に妖怪退治の依頼が来た。

依頼者は上白沢慧音という、人里で寺子屋の教師をやっている人物だ。

30分前に博麗神社にやって来て既にユウとは自己紹介を済ませている。

 

「ああ。つい最近、うちの生徒が行方不明になっていてな………それで確かめに行ってみると、その子が重症で倒れていたんだ。命に別項は無かったが、放っておくわけにもいかないだろう」

「ふーん。大変そうね。でも、それだったらアンタがやっちゃえばいいんじゃないの? アンタも戦えるわけだし」

「私も私で調査はしてるんだけどな………どうも、相手が悪そうなんだ。頼む、霊夢」

「うーん、じゃあ、分かったわよ。その代わり、お賽銭入れていきなさいよ」

「あぁ、分かってるさ。じゃあ、頼んだぞ霊夢」

 

慧音は安心したようにその席を立った。

それと同時に、神社の廊下の方からトタトタと足音が聞こえた。

 

「あの〜、お茶入りました〜」

 

ユウが淹れたてのお茶を持ってきたのだ。

 

「あぁ、ありがとう。ユウ。……………ん、美味しいな」

「えへへ……ありがとう」

「あぁ。じゃあ、私達はもうちょっと話す事があるから、ちょっとどこかで遊んでてくれないか?」

「うん、分かった!」

 

そう言うとユウは元気に裏庭へと向かった。

最近、ユウに妖怪の友達ができたという。ユウはその妖怪達とほぼ毎日遊んでいた。

ユウが遠く離れたところに行くと、慧音は霊夢に向き合った。

 

「あの子……何があったんだ?」

「………」

 

慧音は真剣に霊夢に問うた。

慧音の能力、それは『歴史を食べる、隠す程度の能力』。

その応用で、はっきりとした事までは分からないが、対象の過去を覗くことができる。

さっき、慧音はユウの過去に何とは分からないが、黒く、赤い何かを感じ取っていた。

 

「なぁ、答えてくれ、霊夢。私なら仕事柄、何か助けになれるかもしれない」

「………無理よ」

 

霊夢は少し考えた後、ため息混じりに答えた。

 

「………なぜだ?」

「私自身、ユウに何があったのかわからないからよ」

「わからない?」

「えぇ、それを見つける為にココにユウを置いてるのよ。まだ何も分かってないけどね」

「……そうか」

 

慧音は視線を落とし、ユウに手渡された湯飲みをみる。

すると突然、霊夢が口を開いた。

 

「……………化け物」

「え?」

「ユウよ。あの子、外の世界で化け物って呼ばれてたらしいの。ユウっていう名前だって、私が付けたものだし」

「……化け物、か。あの子が何かするようには思えないがな」

「ええ。むしろ優しくて、好かれてなきゃおかしいわよ。外の人間はあの子の何が気に食わなかったのかしらね」

 

その後しばらく沈黙が流れた。

静かになった居間では、遠くで遊ぶ妖怪達とユウのはしゃぎ声が聴こえる。

 

「さて、私はもう行くよ。じゃあな、霊夢」

「ええ、またね。お賽銭、忘れるんじゃないわよ」

「分かってるって」

 

そして慧音は博麗神社を後にした。

 

 

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夜。

ユウは何やら用事をしている霊夢を見つけた。

 

「(何してるんだろう…………あれは……お札かな?)」

 

ユウは不思議がるのと同時に興味津々だった。

何か面白いことが起こる、そんな予感がしていた。

ユウは色々と思考を巡らしてみるが、当然ながらさっぱり分からない。

 

「…………よし。こんなもんでいいかしらね」

 

そう言うと霊夢は神社の脇の方にある森へと入っていった。

 

「(………よし!)」

 

ユウはコッソリと霊夢の後をつけていった。

 

 

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「(………なにか、つけてきてるわね)」

 

霊夢は後ろにいる何者かの気配を感じ取っていた。

 

「(妖怪かしら? 危害を加えることは無いだろうけど……鬱陶しいわね、軽く注意しますか)」

 

そして霊夢は木を利用して隠れる。

後ろにいたものが急いでこちらにやってくる。

そしてそれが横切る瞬間。霊夢は足を出した。

 

「うわっ⁉︎」

 

そしてついさっきまで霊夢をつけていたもの、ユウが盛大に転んだ。

 

「って、ユウ⁉︎」

「あ、あはは……霊夢さん……」

「なんでこんなところにいるの⁉︎」

「え、えっと………」

 

そしてユウはこれまでの経緯を全て話した。

そして話し終わったあと、ユウの頭頂部にげんこつが落ちる。

 

「いでッ‼︎⁇」

「……………はぁ」

 

霊夢は盛大にため息をついた。

まさかこんな事になるとは思わなかったからだ。

 

「分かったわよ。じゃあ、絶対に私から離れないこと。これだけは守って」

 

ユウはその言葉にコクンをうなづいた。涙目になって。

そして二人は再び妖怪探しに歩くのだった。

 

 

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「へぇ。じゃあ、霊夢はその妖怪を倒しに行くの?」

「まぁ、そんなとこよ」

 

霊夢はここまでの道中、大雑把に目的を話した。

ユウは目を輝かせてあっちを見たりこっちを見たりしてる。

 

10分後、ユウが声を上げた。

 

「あ、あそこ!」

「え?」

 

ユウが指を指す先。そこには一体の妖怪がいた。

 

「僕の友達なんだ! おーい!」

「あ、待ちなさい!」

 

ユウがその妖怪のところへ駆け寄る。

霊夢は慌てて追いかけた。

次の瞬間。巨大な何かが横からユウに迫る。

木々が邪魔して見えなかったのだ。

そして巨大なソレがユウに当たり、ユウは横に弾けとぶ。

 

「…………え?」

 

一瞬の出来事だった。

ユウが弾け飛んだ先には、血を流し、倒れて動かないユウと一本の折れた木だった。

 

「ユウ!」

 

霊夢はその場に行こうとした。

しかし、

 

ガキンッ!

 

「…………!」

 

霊夢の体は動かなくなった。

まるで動画を一時停止させたように、走るフォームをしつつ、指一本動かないのだ。

そして、森の奥でソレは嗤った。

 

「ゲギャギャギャギャギャ! 美味しそうな人間が捕まったなぁ」

「……! アンタ………!」

「んん? なんだい?何処かであったかぁ?」

「……アンタでしょ。ここ最近人里の人間襲ったの」

「あぁ、そうさ。腹が減ってたんでなぁ」

 

そして妖怪はまた嗤う。

その間にも霊夢は必死に動こうとしていた。

 

「ヒヒッ、無駄だよ無駄。俺には『封じる程度の能力』がある。お前がどう足掻こうと無駄さぁ」

「………くッ」

 

霊夢は『あらゆるものから浮く程度の能力』がある。

それはつまり、この世の『理』さえからも浮けることを示唆している。

 

「(……コイツ、私の能力まで………)」

 

しかし、巨大な妖怪は霊夢の能力でさえも『封じていた』。

 

「じゃあ、いただきまぁ〜す」

 

迫り来る妖怪。霊夢目を閉じた。

 

「……ギャンッ‼︎」

 

しかし、妖怪が霊夢にたどり着くことはなかった。

 

「(……え?)」

 

霊夢は恐る恐る目を開ける。

霊夢の目の前には、あの白い仮面を付けたユウが立っていた。




はい。いかがだったでしょうか^_^
次回はちょっとシリアスになるかも。
では、また次回!

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EP,5 【ユウと仮面】

どうも、おはこんばんにちは。CAKEです。
やぁぁぁったぁぁぁぁぁぁ!お気に入りが5!五!伍!
本当にありがとうございます!これからもよろしくお願いします!
そして最近文章力を鍛えようと本を読み始めました。
成果?そんなものは無かった。
あ、後半は会話ばっかです。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は腹筋十回やってから本編をお読みください。
では、どうぞ。


霊夢は、今の状況がさっぱり理解できなかった。

目の前にいる、強大な人面ネズミみたいな妖怪。

それでいて、体の大きさは虎並みの大きさをしていた。

強さで言うと中の上くらいの妖怪であるというのは、先ほどから見えている牙や、大きな爪を見て分かった。

いずれにせよ、ただの人間では手も足も出ないだろう。

だからこそ、今の状況はおかしいのだ。

妖怪は何者かに攻撃をくらい、プルプルと痙攣しているのだ。

その犯人は―――

 

「ユウ………?」

 

目の前に立っているユウだった。

しかし、いつもの彼ではなかった。

その顔は、例の真っ白な仮面で覆われていた。

 

「ユウ……なの?」

「………」

 

返事は無い。

もう一度呼びかけようとした時、ユウの体がぶれた。

 

「ギャオスッッ!!??」

 

そして妖怪の体が上へと飛ばされた。

ユウが妖怪を蹴り飛ばしたのだ。

そして霊夢は、ユウの体から『バキッ』という音を聞き取った。

そして、ようやく理解する。

 

「(マズイ……ユウの体の制御が外れている!)」

 

人間は力を出し過ぎぬよう、脳が制御をかけている。

なぜなら、力を100%出してしまえば、それなりの反動が返ってくるからだ。

恐らく、ユウは先ほど妖怪を蹴りあげたときに脚の骨を折ったのだろう。

ならば一刻も早く止めなければならない。

だが―――

 

「(………駄目だ、浮けない!)」

 

現在、霊夢は妖怪の能力で能力の使用を封じられていた。

何もすることはできなかった。

そして、ユウは惨殺を始めた。

連続で繰り出される容赦のない攻撃。

宙に舞い上がったと思ったら地にたたきつけられ、次の瞬間には宙に舞い上がる。

妖怪は、その攻撃に為すすべは無かった。

最初のほうに聞こえていた断末魔も聞こえなくなり、赤い液体が散りばめられていく。

その姿は、誰がどう見たって、『化け物』そのものだった。

霊夢には、自分の目を疑った。

あの優しいユウがこんなことをするとは想像もできなかった。

まるで、人格が変わったようなその変貌ぶりに、霊夢は絶句していた。

そして、フッと体が柔らかくなる。妖怪が息絶えた証だった。

そして、霊夢はフラフラとユウに近寄る。

今のユウは、全身が血まみれだった。

 

「ユウ………ねぇユウ!」

「…………ご……な…い……」

「え?」

 

そして、ユウは倒れ込んだ。

 

「ちょ、ユウ!」

 

霊夢は慌ててその白い仮面を外した。

 

「え………泣いてる……?」

 

そのユウの顔は、涙で濡れていた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

その後霊夢は、ユウを永遠亭へと運んだ。白い仮面も一緒に。

 

「………これは酷い怪我ね」

「そんなことは見たらわかるわよ。どれくらいで治せるの」

「そうね……ざっと二週間かしらね。至る所の骨が折れてるし、四肢の筋肉が千切れてる。何がどうなったらこんな状態になるのよ……」

 

はぁ、と永琳はため息をこぼした。

そして粗方の処置をした後、霊夢と永琳は話し合っていた。

霊夢はあの事をすべて話した。

 

「なるほどね……だから『化け物』………それで、その白い仮面って言うのは?」

「これよ。最初から手に持ってたけど………大切なものなのかしら」

 

そして霊夢は例の白い仮面を永琳に渡した。

すると、永琳の目の色が変わる。

 

「霊夢………これ本当にユウが持ってたの?」

「そうよ………って、永琳、これ何か知ってるの?」

「………いいえ。これ自体は知らないわ。だけど、見る限り、呪いが掛かってる」

「呪い!?」

 

霊夢は勢いよく立ち上がった。

 

「ちょ、落ち着きなさい。びっくりするじゃない」

「悪かったわね。それで、何の呪いなの?」

「うーん、憑依系の呪いね、これは」

「憑依系………ユウは何かに取りつかれてたってこと?」

「そうね。後、霊夢……」

「何?」

 

永琳は一息ついてから話し出した。

 

「もう、この仮面をユウにつけないで頂戴」

「……どういうこと?」

「さっき、ユウの精神状況を見たわ。そしたら、精神が少し、前会った時よりも欠けてるの」

「………は?」

「恐らく、仮面を付けてる間はその仮面に精神を乗っ取られる。さらに、付けていれば付けているほど、精神がその仮面に食われてるのでしょうね」

「もし、精神が全て食われたら?」

「廃人よ。ただ存在してるだけ……」

 

永琳は重い口調で言った。

 

「……分かったわ。その仮面は貴女が預かってて頂戴」

「分かったわ。それと……」

「何かしら?」

 

そして永琳は手を顎に当てて、考え始めた。

 

「気になったのだけれど、その妖怪は『封じる程度の能力』があったんでしょう? 何故ユウは動けたのかしら」

「………分かんないわ。能力なのかもね」

「だとしたらどういった能力なのかしら………」

 

そして少しの沈黙の後、霊夢が言う。

 

「………『能力を受け付けない程度の能力』かしらね」

「なるほど……でも、どう証明するの」

「今度、紅魔館にでも連れて行ってみるわ」

「そう」

 

その時、隣の部屋で小さなうめき声が聞こえた。




はい。いかがだったでしょうか^_^
ひぃぃ文章力がほしいよ(((gkgkbrbr
なのでクリスマスにサンタさんの家に脅迫しに行こうと思います。
では、また次回!


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EP,6 【ユウと恐怖】

どうも、おはこんばんにちは。CAKEです。
投稿遅れちゃったぜ!ごめんね(土下座)。
今回はシリアス回かもかも。
本文書く前に前書き書いてるから何とも言えないんだよね。
これぞ無計画実行。悪い子も真似しちゃだめだよ!
「いいぞ、もっとやれ」
という方は評価してください。待ってます。コメントでもいいよ。
では、どうぞ。


「うぅっ………」

 

隣の部屋で小さなうめき声がした。

霊夢と永琳は顔をその部屋へと向けた。

 

「………?」

「目が、覚めたわね」

 

ユウの目がゆっくりと開く。

ユウはしばらくした後、首を振ってキョロキョロと辺りを見回した。

そして、霊夢の姿を確認し、

 

「………」

「ユウ………?」

 

泣き出してしまった。

涙をポロポロと流し、嗚咽を漏らしていた。

霊夢は思わずユウの方へと駆け寄った。

 

「ど、どうしたの。ユウ」

「………なさい」

「………え?」

「ごめんなさいッ!」

 

霊夢はギョッとした。ユウが盛大に泣き出したのだ。

 

「ぼく、ぼく、守らなくちゃって、思って、守ることしか、考えてなくて、だから、『アレ』を、付けちゃって、気付いたら、手が、赤くなってて、全身が、いたくなってて、霊夢に、霊夢に嫌われたと思ってッ!」

 

ユウは息が切れても話し続けた。泣きながら。

ユウは恐れているのだ。嫌われるのを。

外の世界では嫌われ、恐れられ、追われ、殴られ、蹴られ、斬られた。

そして何よりも―――蔑まれた。

今も、霊夢に嫌われて、軽蔑されてしまうのを何よりも恐れていた。

 

そしてそのユウを見て霊夢の体はひとりでに動いていた。

霊夢の手が、腕が、胸が、ユウを包んだ。

 

「嫌いになんか、ならないわよ」

「………!」

 

霊夢は穏やかな口調で言った。

ユウは驚いたように目を見開き、霊夢を見た。

 

「だって、私を守るためにやったんでしょ? なら、私はユウを嫌いになんかなったりしない。それに、ユウはユウでしょ? あの時はアレに乗っ取られてただけじゃない」

「でも、みんなはそれでも……」

「それは、そのみんながおかしいのよ。いい?私は絶対にユウを嫌いになったりなんかしない」

 

それを聞いたユウは、勢いよく顔を歪ませ、次の瞬間には

 

「う、うわあああああああああああああああああああああああああああん!」

 

泣き出していた。

盛大に涙を流し、霊夢の胸に顔を擦りつけてしまう。

霊夢はそんなユウを、優しく、しかし、しっかりと抱きしめていた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

あれから一週間が経った。

ユウは以前のような明るさを取り戻した。

傷の治りも永琳は二週間と言っていたものの、もうほぼ完治であるところまで来ている。

そして、ユウのもとにお見舞いに来た妖怪もいた。

 

「やっほー! ユウ! 傷どう?」

「さいきょーのアタシが見舞いに来てやったぞ!」

「チルノちゃん静かにね………」

「ユウ君、元気?」

 

リグル、チルノ、大妖精、そしてミスティアだ。

よく神社裏の森みたいになっているところでよく遊んでいるのだ。

 

「あはは、もう大丈夫だよ。永琳先生がもうすぐで完治だって言ってたから」

「そっかぁ、よかった~」

 

ミスティアが胸をなでおろす。

その後もたくさん談笑をして、その病室では笑顔が絶えることは無かった。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

そしてさらに一週間後。

ユウは無事退院し、博麗神社へと帰って来た。

ある日のこと

 

「ユウ、ちょっといいかしら」

「なに?霊夢」

 

ユウがトコトコと霊夢のもとへと駆け寄る。

 

「ちょっと今から『紅魔館』って所に行くんだけど………ユウも付いて来て」

「いいけど……なんで?」

「そろそろ、ユウにも幻想郷のこと知ってもらいたいから」

 

もちろん、これは建前である。

実のところは、ユウの能力を確かめるところにある。二週間前、ユウの能力は『能力を受け付けない程度の能力』なのではないかという案が出てきた。

そして、紅魔館に行き確かめようとしているのだ。

もちろん、ユウからすればそんなことは露知らず。

 

「わかった! 準備してくるね!」

 

何の疑いもなく準備を始めるのだった。

そんな姿を見て霊夢は、微笑みを零すのだった。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

一方紅魔館。

 

「………」

「どうなさいましたか、お嬢様」

「……もうすぐ客人が来るわ。準備しておいてちょうだい」

「かしこまりました」

「……フフッ、なかなか面白い能力があるじゃない」




はい。いかがだったでしょうか^_^
ユウ逃げて超逃げて!という声が聞こえてきそうですね。
果たしてユウ君は生き延びることができるのか………!
あ、そういえばちょっと文字数がいつもより少ないですね。なんか文面もテキトー感丸出しだし。ま、文章力がアレから仕方ないですね。
では、正月明け。皆様きびきび働きましょう!
では、また次回!

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EP,7 【ユウと館】

どうも、CAKEです。
コメントしてくださった方々、本当にありがとうございました!
参考にさせてもらっています。まだまだ未熟な私ですが、これからも温かい目で見守っていただけると幸いです。
さて、ついに来ましたよ。え?何が来たって?
それは本文を読んでください♪ まぁ、予想通りでしょうが(笑)
「いいぞ、もっとやれ」
という方はブリッジしてから本文へお進みください。


「zzz………」

「「………………」」

 

ユウと霊夢は今、紅魔館の前にいた。

昨日、霊夢がユウに幻想郷のことを知ってほしいと言い、連れて来たのだ。

そして二人は準備を整え、博麗神社を後にし、紅魔館へといざ出発。

歩いていってもいいのだが、疲れる、長い、妖怪が面倒くさいということで飛んでいくことにした。しかしユウは飛ぶことができなかった。

というわけで霊夢がユウを背負い、風圧が掛からないようにゆっくりとしたスピードで飛ぶことにした。こうして紅魔館の門前に到着、そして着地。

そこで二人が目にしたものとは………

 

「ムニャムニャ……」

「「………………」」

 

閉じられた門の前で幸せそうな顔で立ち寝をする、中国チックな女性だった。

 

「はぁ……まったく、こいつも懲りないのね……」

「えっと……霊夢、この人、門番さん……だよね?」

 

霊夢は呆れ、ユウは恐る恐るといった感じで霊夢に質問していた。

すると突然、背後から声が聞こえた。

 

「はい、そうですよ」

 

それに対して霊夢は冷静に対処する。ユウも同じだった。

 

「あら、咲夜。ここの警備、もっと固めた方がいいんじゃない?」

「そうですね、美鈴には厳しく指導をしておきます」

 

そして、霊夢と咲夜はいつも通りの会話をしていた。

 

「あら? この子の名前とかは聞かないの?」

「ええ、先程もう済ませたので」

「済ませた……?」

「それでは、お嬢様がお待ちです。こちらへどうぞ」

 

と言って既に開いてた門をくぐり館の中に歩き始めた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

「うわあ……すごい…」

 

それが初めて紅魔館に足を踏み入れたユウの第一声だった。

外見も真っ赤に染まっていた紅魔館。その中はどこを見回してみても赤で塗りつぶされている、そんな感覚がする空間だった。

 

「いつ来ても目が痛くなるわねーここ。どこもかしこも赤だけだし……」

「そうでしょうか。私は綺麗だと思いますが。ユウさんはどうですか?」

「うん……ぼく、ここ好きかも」

「そうですか、ありがとうございます」

 

ユウは目を輝かせながらあちこちを見まわす。

 

「ねぇ、咲夜さん。ここってどれくらい広いの?」

「そうですね……博麗神社の五倍くらいでしょうか」

「わあ!」

 

もう咲夜の名前を知っていたユウが質問し、この館の広さに驚きの声をあげていた。

霊夢はその様子を見て、少し口を綻ばせる。

 

「ここです。お嬢様、お客様を連れて参りました」

 

いつの間にか目的地に到着。ドアの前で咲夜が部屋の中へ声をかけていた。

 

「中に連れて来て頂戴」

「かしこまりました。では二人とも、中へ」

 

霊夢は慣れているからいたって平静。それに比べユウはと言うと……

 

「…………ゴクッ」

 

ガチガチだった。

よほど緊張してるんだろうなぁ、と霊夢と咲夜が心の中でハモったのはここだけの話。

そしてドアが開かれ中にいたのは………

 

「ようこそ紅魔館へ。私はこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ」

 

外見では十代前半の女の子だった。

それを見たユウはと言うと………

 

「………え?」

「何よその顔は」

 

茫然と言った感じだった。

てっきり、なんだか強そうで、大きくて、オーラがすごい感じの……と考えていたユウにとっては肩透かしをもらった、みたいな感じだった。

 

「………はぁ」

 

そしてそれをくみ取ったレミリアは体の至る所から魔力を放出させる。

 

「……!!」

 

いくら魔力や霊力の類では無知に等しいユウでも、その魔力はしっかりと感じ取った。

そしてユウはこう思う。

 

「(………すごい)」

 

そして、ユウも自己紹介を始めた。

 

「ど、どうも、初めまして! ユウと言います!」

「ええ、初めまして」

 

その間に霊夢がレミリアの方へと近づいていた。

そして霊夢はひそひそ声で話し始めた。

 

〈ねぇ、ユウに能力使ってくれない?〉

〈もうやったわよ。全然見れないわ〉

〈……そう〉

 

その光景にユウは首をかしげる。

するとレミリアはユウに向かって話し始めた。

 

「ユウ、ここにはまだ面白い人たちがいるわよ。会ってみない?」

「うん! 会ってみたい!」

「そう。じゃあ、霊夢はちょっとお話しするから……咲夜、案内して頂戴」

「かしこまりました」

 

そしてユウは咲夜に連れられて部屋を後にした。

その時、咲夜とレミリアはアイコンタクトをとったことに、ユウも霊夢も気付かなかった。

 

「さて、霊夢。どういうことかしら? あの子、全く運命が見えないし、弄れないわよ」

「私はあの子の能力が関係していると考えてるわ。『能力を受け付けない能力』、とかね」

「能力を……受け付けない、ねぇ……」

「ん? どうしたの?」

「なんか、その、何か違うような気がするのよ。何とも言えないけどね」

「……そう」

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

「咲夜さん、ここにはどんな人たちがいるの?」

「そうですねぇ、お嬢様や妹様、パチュリー様、小悪魔、美鈴、妖精メイド、そんなところでしょうかね」

「そんなにいるんだ………すごいや」

「恐縮です。さて、着きましたよ」

「ここにはだれがいるの?」

「妹様、フランドール・スカーレット様です」




はい。如何だったでしょうか。
今すぐにでも「ユウ逃げて!超逃げて!」とか聞こえてきそうですね。
いやいや、そんなことにはならないかもしれませんよ?希望を持って逝きましょう。
アットカンジマチガエタ。
それでは、また次回もお楽しみに。

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EP,8 【ユウとカクレンボ】

どうも、CAKEです。
ちょっと早めに投稿しとこうと思います。
深い考えはありません。
そういえばこれの投稿を始めたのが昨年の11月26日なんですよね……すっごい昔。
さて、それでは行っていきましょう。前回の後書きみたいなことにならないように……
「いいぞ、もっとやれ」
という方は宿題をしてから本文へお進みください。


咲夜が部屋の扉を開ける。

その部屋は、先ほど見たレミリアの部屋とほぼ同じような造りをしていた。

唯一違う点はたくさんの人形があることくらいだろうか。

その部屋の中には一人の少女がいた。

最初、ユウにはその子が吸血鬼だとは分からなかった。

背中からは七色に輝く宝石らしきものが付いている翼を見たユウは、それを翼だとは思わずに何かのアクセサリーだと勘違いしているのだ。

 

「(綺麗だなぁ………)」

 

そんなことを思っていると、フランは咲夜に気付いたのか嬉しそうに近づいてくる。

 

「あ! 咲夜だ!」

「妹様、お客様です」

「ん? 誰? この子」

 

そしてフランはユウの方を見やる。

一方ユウはフランの翼に見とれていた。

それに気付いたフランはわざと翼をパタパタさせてみる。

すると、ようやくフランが近くに来ていることに気がついた。

 

「わ! あ、えっと、ユウって、言います! は、初めまして!」

 

ユウが突然のことに大慌てしながら自己紹介をする。

それを見てフランがクスクスと笑いながら彼女も自己紹介をした。

 

「私はフランドール・スカーレット。初めまして、ユウ!」

「こ、こちらこそ……」

「私は、お茶を持ってきますね。能力は使えないので、少し時間がかかります。少々お待ちを」

「あ、ありがとうございます!」

 

そうして咲夜は部屋を出た。

 

「さてと、ユウ?」

「は、はい!」

 

未だガチガチに緊張しているユウ。

それを見てフランは笑いだす。

 

「そんなに緊張しないでよ。はら、こっち来て」

「うぅ…はい」

 

そしてフランとユウはベッドに腰掛ける。

 

「え、えっと……吸血鬼…なんですか?フランさんは」

「そうだよ。なんで?」

「いや、その、翼が……」

「あぁ、これ? これは私の翼だよ?」

「え!? そうなの? てっきり何かのアクセサリーだと……すごく、綺麗ですね」

「そう? 私はあんまり好きじゃないんだけどなぁ」

 

こうして、会話を続ける二人。

二人はどんどん親しくなり、ユウもいつしか敬語を止めていた。

すると、ついにフランが切りだす

 

「ねぇユウ、遊ぼう!」

「いいね! 何して遊ぶ?ぱっと見た感じ何もないんだけど……」

「弾幕ごっこ!」

「弾幕……なに? それ」

「知らないの? まぁ、いいや。どうせすぐ壊れちゃうし」

「え?」

 

急に周りの温度が冷たくなる。

ユウは何か嫌な気配を感じとった。

 

「フ、フラン?」

「……あれ?」

 

フランが何かがおかしい、とでもいうような顔をする。

すると、

 

「あは、あはは、あはははハハハハハ! 貴方、壊レないノネ!」

「フ、フラン!? どうしちゃったの!?」

 

突然笑い始めるフランに怯えるユウ。

周りの空気がさらに冷たくなる。凍りつく。

そして、フランが一言。

 

「ジャア、別ノ方法デ壊シテアゲル」

 

フランの拳が、ユウの腹に直撃した。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

場所はフランの部屋。正確にはベッドの裏。

ベッドの下だと覗きこまれれば見つかってしまう。

ユウは震える体に必死に力を入れて張り付いていた。

 

「アハハ、ドコ~? ユウ~」

 

見つかればお終いだ。お腹を貫くような痛みも、殺されることに対する恐怖も断ち切って、ねじ伏せて、隠れ続けなければならない。

 

「(咲夜さん……早く来てッ!)」

 

ユウの望みは咲夜に託されていた。

彼女が戻れば、この恐怖は終わる。ここから抜け出せる。

 

 

 

お腹を殴られ、壁に埋まりかけた。

ユウは一瞬、何が起こったのかまるで分らなかった。

まず来たのが困惑。次に驚愕。そして痛覚。

 

「がはッ……ゴフッゴフッ」

 

口からは血が漏れ出し、呼吸をしようにも、痛みで上手く酸素を取り込めない。

その様子を見たフランは真っ直ぐユウの方へと駆けた。

そしてまたもや繰り出される拳。それをすんでのところで避ける。

記憶がフラッシュバックする。ユウにはフランが“彼ら”と重なって見えた。

自分のことを化け物だと言い、追いかけ、傷つける大人たち。

―――逃げなきゃ。

――――――殺される。

逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ

 

「うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!??」

 

ドアの方へと走るユウ。

すると、させぬとばかりにフランがドアノブを破壊した。

すぐにドアを開ける構えから体当たりの構えに変える。

しかし、そのドアは異常に固く、破ることはできなかった。

そしてユウの視界には、あの仮面が映る。

 

「(駄目ッ!)」

 

約束した。使わないと。

逃げられないなら、隠れればいい。

そしてユウは外の世界で培った撒く方法を使い、フランの視界から外れ、ベッドの下へと潜り込み、そして、ベットの裏側に張り付いた。

目を閉じ、様々な感情を振り払う。

感覚を捨て、痛みをこらえる。

口を固く閉じ、呼吸を止める。

カクレンボ。絶対に見つかってはならない。

しかし、この狭い部屋。隠れ続けるのには限界があった。

ベッドが破壊され、ついに見つかってしまう。

 

「見~ツケタ!」

「あ………あ………」

 

声が出ない。涙が止まらない。視界が定まらない。

殺される。逃げれない。隠れられない。戦えない。

もう駄目だと、ユウが諦めた時、ユウの右手が何かをつかんでいた。

 

「(ごめんなさい……霊夢)」

 

そしてユウはもう一度、人形になった。

白い仮面を付けて。




はい。如何だったでしょうか。
まだまだ弾幕ごっこのシーンは出てきません。
いつかします。多分。いや絶対しますので待っててください。
あれ?と思った方も多いんじゃないでしょうか。
安心してください。裏がちゃんとあります。
さて、ユウとフラン。いったいどうなっちゃうんでしょうか。
では、また次回。


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EP,9 【・・の意識】

お久しぶりです。CAKEです。
一か月ぶりです。すみません、この時期って何かと忙しいんです。
学末試験とか入学試験とか入社面接とか。
この通り、のんびり気ままに投稿していこうと思います。
さすがに一か月は長すぎたから………二週間に1,2話くらいのペースがいいかな。
「いいぞ、もっとやれ」
という方はPC眼鏡をかけて本文へお進みください。


ソレは分かっていた。今の現状が絶望的であると。

ソレは分かっていた。何をやっても勝てない相手であると。

ソレは分かっていた。逃げることすら、出来ないと。

 

目の前の誰とも知らない少女がこの者の命を取ろうと様々な凶器で襲ってきていた。

爪、牙、拳、脚、光る弾。

どれをとってもこの者にとっては致命傷。

戦っても死、逃げても死。ならば、やることは一つ。

避け続ければいい。この者の脚や腕の耐久力が尽きるまで避け続ければいい。

そうしなければ、生き残れないのだから。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

場所は紅魔館内、レミリアの個室。

中には、霊夢とレミリアが紅いソファに向かい合わせになって座っていた。

部屋の中は相変わらず紅く、下手をしたら目を傷めるのではないかと思うほどだ。

この部屋で紅くないものと言えば、机、ベッド、そしてこの部屋の照明になっているシャンデリアぐらいだ。

 

「さて霊夢。どういうことかしら? あの子、全く運命が見えないし、弄れないわよ」

「私はあの子の能力が関係していると思うわ。『能力を受け付けない程度の能力』、とかね」

「能力を……受け付けない、ねぇ……」

「ん? どうしたの?」

「なんか、その、何か違うような気がするのよ。何とも言えないけどね」

「……そう」

 

腕を組み考え始めるレミリア。

実は霊夢もちょっとした違和感を感じていた。

もし『能力を受け付けない程度の能力』であることが事実ならばレミリアの能力が通じなかったことも納得できる。

咲夜との自己紹介を済ませた、というのも彼女の『時間を操る程度の能力』が効かず、ユウには咲夜と同じ世界が見えていたのだろう。突然霊夢が何も言わなくなり、動かなくなってさぞ慌てたことだろう。

しかし、これまでの生活で咲夜の能力を受けなかったのは……

その問いにレミリアが一つの仮説を立てた。

 

「もしその能力が正しいとすると、一定以上の距離離れると、その能力の対象外になるのでしょうね。ふふふ、また厄介な能力者が出てきたわねぇ」

 

能力を受け付けないとなると、ある程度の【能力】を持っている人物や妖怪はその力を封じられることになる。

その能力に頼ってばっかりの人間や妖怪には天敵となるだろう。

しかし……ユウの戦闘能力が著しく低い。

以前、博麗神社で弾幕について話をし、やらせたことがあるが、結果は惨敗。

弾幕も出せず、空も飛べない。

浮遊の練習中に必死にジャンプし、手をばたつかせる姿は、不覚にも霊夢を(何この子かわいい)と思わせるほどだった。

閑話休題。とにかく、戦闘力1未満のユウでは、そんな能力を持っていても、自衛ができないのである。

 

「それにしても霊夢、なぜあの子を貴女のところに置いてるのかしら?」

「あぁ、それは……」

 

と、またこの話かと思いつつ、説明を始めるのであった。

どこか、嫌な予感を感じながら。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

咲夜がお茶を取りに行ってから丁度15分。

咲やはフランの部屋の前でただ時計を見ていた。

 

「(まだ部屋から音が聞こえる……でも、もう限界ね)」

 

ユウがここに来る前、レミリアから課せられた仕事を思い出す。

 

 

「今から来る子をフランと二人きりにしなさい。限界だと思ったら中断しても構わないわ」

 

 

レミリアは最初からユウがどんな能力を持っているのか知っていた。

だから、こう考えたのだ。フランの暴走癖を止められると。

実際、フランと二人きりになって15分も生きていることが奇跡に近い。

しかし、徐々に小さくなってきている喧噪の音でこれ以上は厳しいと判断。

冷たいお茶を部屋の前のドアの前に置き、部屋に入る。

その手には、スタンガンが握られていた。これでフランを止めることができる。

 

咲夜ドアを開けると同時に能力で時を止める。

部屋の中には動かなくなったフランと、何故か白い仮面を付けたユウがいた。

ユウはただじっとフランの方を見つめている。

そのうちにフランに近づき、能力を解除。その次の瞬間。

 

バチィッ!!

 

フランの首筋にスタンガンが当てられ、一瞬でフランの意識を刈り取った。

 

「大丈夫ですか、ユウさん」

「………」

 

何も言わないユウ。

不思議に思い、ユウに近づくと

 

ドサァッッ

 

咲夜に身を預けるように倒れ込んだ。

 

「ユウさん!? 大丈夫ですか!?」

「ご………さい……」

 

そうつぶやき、ユウは気絶した。

 

「………!」

 

そして咲夜は気付いた。

腕と脚の筋肉や骨がボロボロになっていると。

急いでユウを安静な状態にし、仮面を外す。

そして咲夜が目にしたのは。

目を腫らして血の涙を流すユウの姿だった。




はい。如何だったでしょうか。
何とか生き残りました。しかし………
と気になる後書きでも書いておこうかな。
さて、多忙な時期が終わったので前書きの通り、二週間に1,2話ペースで行きたいと思います。今度から何かある場合はメッセージボックスにでも書いておくので、そちらをご覧ください。あと、必ず完走します。絶対です。
それと、弾幕ごっこ。安心してください!絶対描写いれるので!
では、また次回お会いしましょう。


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EP,10 【ユウと図書館】

はい、どうも。CAKEです。
最近いいことがありました。やっぱり幸福って大切ですよね。
さて、この後の展開が大体決まったので忘れないうちに書いとこうと思いました。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は明日起きてから本文へお進みください。


「ん……」

 

ユウが小さなうめき声をあげる。

そして、ユウの目がゆっくりと開いていった。

 

「あ、あれ…? ここ……どこ……」

 

ユウはソファの上で眠っていた。

その部屋の空気は少し埃っぽく、壁という壁は本で敷き詰められていた。

 

「あら、ようやく起きたのね」

 

ユウはゆっくりと声がした方を見た。

そこには、紫色が目立つ一人の少女がいた。

彼女は椅子に座って本を読んでいたようで、机の上には三冊の本が開かれていた。

 

「えっと……ここは……」

「紅魔館の地下にある大図書館よ。私はパチュリー・ノーレッジ。貴方は?」

「あ、えっと……ユウといいます。えっと……」

「まずはこっちに来て座りなさい。話はそれからよ」

 

はい、と言ってユウはパチュリーの近くの椅子に座る。

ユウは何気なく机の上で開かれている本を見てみた。しかし……

 

「(なにこれ)」

 

そこには見たこともない言語とよくわからない図形がかかれていた。

それもそのはず。今開かれている本は魔導書。分からなくて当然である。

それをなんとかして読み取ろうとしていたユウは、いつの間にか魔導書に目が釘付けになっていた。

 

「そんなに見たって分からないわよ」

「え、あ、ごめんなさい」

 

そう言われ素早く謝るユウ。

 

「なんで謝るのかしら?」

「え、だって他人の本を勝手にみたから……」

「そんなこと、気にしないわよ」

 

そういうと、パチュリーは本を片付け始める。

それと同時に、もう一人の少女が紅茶を持ってきた。

 

「パチュリー様、紅茶をお持ちしましたよ」

「ん、ありがと、こあ」

 

ユウはその少女を見て少しびっくりしていた。

なぜなら、背中から大きな黒い翼、頭から背中のと似た小さい翼があったからだ。

 

「この子は小悪魔。貴方の治療を手伝ってくれたわ」

「こあって呼んでくださいね、ユウ君♪」

「あ、初めまして……それよりも、治療と言うのは……」

 

少しおどおどしながら質問するユウ。

それを見て、パチュリーは少し微笑みながら

 

「そんなに緊張しなくていいわよ。それと、貴方大怪我したの、覚えてる?」

「大怪我……?」

 

考え込むユウ。

そして思い出す。フランとの騒動。あの仮面に手を伸ばしたことを。

 

「あ……フランは、大丈夫!?」

「ええ、大丈夫よ。心配いらないわ」

「そっか……よかったぁ……」

 

胸をなでおろすユウ。

 

「治療してくれて、ありがとうございます。えっと……パチュリーさんとこあさん?」

「ん、どういたしまして」

 

紅茶を飲むパチュリー。

しかし、異変は起きた。ユウの体が一瞬浮く。

 

「へっ?」

 

そして、次に座った時、妙に柔らかい感触があった。

後ろを向くユウ。そこにはにっこりしている小悪魔の姿があった。

 

「……へっ?」

「えへへ~」

 

驚きを隠せないユウ。悦に入る小悪魔。

このよくわからない状況を見てパチュリーは頭を抱えた。

 

「(あぁ……こあ、かわいい系男子に目がなかったっけ……)」

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

現在、レミリアの部屋に三人いた。霊夢、レミリア、咲夜だ。

既にレミリアには、ユウの状況が伝わっていた。

そしてレミリアは、パチュリーが治療している間、時間を稼ぐことにしたのだ。

 

「(パチェ……ちゃんと治療できてたらいいけど……)」

 

霊夢の勘は発動していない。そのように運命を弄ったのだ。

そして、しばらく経ったあとレミリアからユウの所に行こうと言いだした。

 

「……そうね。何かやらかしてるかもしれないしね」

「あら、そんなにここは危険じゃないわよ?」

「吸血鬼の館に安全なところなんてある方が不思議よ……」

 

そう言って、どことなく歩き始める。

 

「で? どこ?」

「図書館じゃないかしら? 移動してなければ」

「そう」

 

咲夜の能力は現在使用できないという風にしている。

突然時が止まれば、ユウが混乱しかねない。

そして、大図書館に到着した。

そこで三人が目にしたものとは……

 

「それ~!」

「あははははは! やめ、やめてくだはははは!」

「じゃあなパチュリー! また来るぜ!」

「むきゅ~」

 

颯爽と去る魔理沙とボロボロのパチュリー、そして主を無視してユウで遊ぶ小悪魔といいように弄ばれるユウの姿だった。

 

「「「………」」」

 

黙って扉を閉める三人。

そして、その数秒後。

 

「「「………プッ」」」

 

三人同時に吹き出していた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

数分前。

 

「うりうり~」

「うぅ……」

 

パチュリーの前にはユウの頬を弄り始める小悪魔の姿があった。

知ってた、と言わんばかりに無視し、本を読み始めるパチュリー。だが

 

「お邪魔するぜ~~!」

 

どこからともなくそんな声が聞こえる。

 

「あの黒白……!」

 

そういってパチュリーは声がした方を睨む。

 

「こあ、ユウをみてて」

「は~い♪」

「うぅぅ……」

 

そしてパチュリーは声のした方へと全力で飛んで行くのだった。




はい、如何だったでしょうか。
小悪魔ってなんとなくこんなイメージあるんですよね~。ショタコン?みたいな。
そして、なんと次回は弾幕ごっこです。イヤァァァァカクノムヅカシイヨォォォォォ。
はい。ホントに戦闘描写は苦手です。なので感想欄でコツとかください。
あっ感想稼ぎでは無いですよ?……ごめんなさいちょっとその狙いもあります。
でも、大真面目にコツとか教えてください。お願いします。
では、また次回お会いしましょう


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EP,11 【大図書館戦争】

はい、どうも。CAKEです。
弾幕ごっこ書くの難しいっす。ナァニコレェ。
なので、一回書いてみて、皆様に修正点を教えていただく形にしようと思います。
なので、ご協力お願いします。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は心眼を覚醒させてから本文へお進みください。


「魔ぁぁぁぁぁ理ぃぃぃぃぃ沙ぁぁぁぁぁ!!」

 

パチュリーが超音速で声のした方向へ飛んでいく。

そして、声の主のところに到着すると、そこには二冊の本を抱えた魔理沙がいた。

無論、その本は元々この大図書館にあったものだ。

 

「げっ! パチュリー………」

「ちょっと! 毎度毎度私の本を持っていかないでくれる!?」

「いいじゃないか、こんなにあるんだから」

 

不機嫌な顔で魔理沙はそう言う。

しかしパチュリーはさらに不機嫌な顔をする。

 

「いやよ! あなた全く返してくれないじゃない!」

「いやいや、借りるだけだって。死ぬまでな」

「この盗人が……もういいわ、問答無用よ!」

 

そう言ってパチュリーが一枚のカードを取り出した。

 

 

   「火符『アグニシャイン』!!!」

 

 

そうパチュリーが宣言すると、パチュリーの周りに真っ赤に燃える火の弾が無数に出現した。その一つ一つは、拡散していくように辺りに飛んでいく。

その速さは、あのウサ○ン・ボ○トもびっくりするような速さだった。

勿論、その一部が魔理沙に襲い掛かる。

しかし、魔理沙は慣れているようにそのわずかな隙間を縫うようにして避けていた。

 

「どうした!? こんなんじゃ私から本を奪い返せないぜ?」

「くっ………」

 

そして、宣言から一分程経ったとき、その場を占めていた火の弾が一気に消滅した。

スペルカードは、強力だが時間制限が存在するのだ。

 

「じゃ! 私はトンズラさせてもらうぜ」

「させるわけないでしょ!」

 

パチュリーは今にも逃げそうな魔理沙に向けて二枚目のスペルカードを取り出した。

 

 

   「土&金符『エメラルドメガリス』!!!」

 

 

それを宣言した途端、緑色の大小の弾が出現する。

 

「うっ……それは厄介だぜ」

「ならさっさとやられなさい!」

「嫌だぜ!」

 

そして、大小の弾幕が魔理沙へと襲い掛かる。

大弾の方は動きが遅く、十分目視できる。しかし問題は小弾の方だ。

小弾は動きが先ほどの火符よりも早い速度で移動しているのだ。

魔理沙はその絶妙な速さの違いによってグレイズしながらも何とか躱していた。

 

「(く……本当に厄介だぜ)」

 

魔理沙はそう毒づきながら、目の前の大弾を避けようと右へ移動する。

がしかし、

 

「(なっ!?)」

 

その大弾の中から小弾が出現し、魔理沙へと襲い掛かる。

じつは、小弾と大弾は接触しても無くなることはなく、そのまま互いにすり抜けるようになっているのだ。

そうして大弾の中を通ってきた小弾は一直線に魔理沙へと襲い掛かり―――

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

「や、やった…のかしら?」

 

一分経ち、緑色の弾が消滅した後、パチュリーは魔理沙を探していた。

視界内にいないということは恐らく弾が命中し、落ちたのだと思うが――

 

「コホッコホ!」

 

パチュリーがいきなりせき込み始めたのだ。実はパチュリーは喘息持ちだった。

パチュリーは激しくせき込みながらも、魔理沙を探していた。

 

「(……いない?)」

 

しかし、いくら探しても魔理沙がいないのだ。

すると、不意に後ろから声が聞こえた。

 

 

   「恋符『マスタースパーク』!!!」

 

 

パチュリーが後ろを向くと、そこには至近距離で八卦炉を掲げる魔理沙がいた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

目の前には小弾、周りには大弾。もうダメかと思う場面に魔理沙は直面していた。

 

「(なら!)」

 

魔理沙は乗っていた箒から飛び降り、箒の柄の部分を両手でしっかり持つと

 

「おりゃぁ!」

 

その箒を小弾にぶつけ、無理やりその小弾を消滅させた。

この緑色の弾幕は弾幕同士がぶつかっても消滅しないが、他の物に当たると消滅することを、魔理沙は今までの戦闘経験から知っていたのだ。

そして、箒にぶら下がった状態のまま迫りくる弾幕を避け続けた。

しかもただ避けるだけではなく、パチュリーに見つからないように避けていた。

そして本棚の裏に隠れ、パチュリーの背後目指してできるだけ早く飛んだのだ。

 

そしてようやくパチュリーの背後についた魔理沙は超至近距離でスペルカードを放つ。

反応の遅れたパチュリーはそのまま被弾。成す術もなく吹き飛ばされた。

そして吹き飛んだ終着点は大図書館の入り口近く。

そしてちょうど、霊夢達がこの大図書館に到着し、扉が開かれた。

 

「じゃあなパチュリー! また来るぜ!」

「むきゅ~」

 

そして開かれていた扉は、なぜか再び閉じられたのである。

 

 

 

「……っていうことがあったのよ」

「へぇ~」

 

パチュリーが回復した数分後。

小悪魔の入れた紅茶を飲みながらパチュリーが先ほどあったことを話していた。

 

「あの……大丈夫なんですか?」

 

未だ小悪魔に弄られているユウが心配そうに尋ねる。

 

「まぁ、いつものことだし大丈夫よ。心配しなくていいわ」

 

そういうとユウはほっとしたのか、安心した表情を浮かべる。

すると霊夢が話を切り出した。

 

「じゃあ、私はユウと帰るわ」

「分かったわ。じゃあね、ユウ」

「うん! さようなら!」

「あぁ、ちょっと待って」

 

するとレミリアが引き止める。

 

「明日、ユウの歓迎も兼ねて宴会を開きたいのだけれど、いいかしら?」

「ええ、いいわよ。明日は暇だし。じゃあ、また明日」

「ええ、また明日」

 

そして霊夢はユウを抱きかかえて飛んでいくのだった。

この時、小悪魔が羨ましそうに霊夢を見ていたのは誰も知らない。




はい。いかがでしたでしょうか。
テンプレ弾幕ごっこはこんな感じに仕上がりました。
原作のシューティングゲームはプレイしたことも見たこともないので、調べて書いてみました。
間違ってるところがあったら教えていただけるとありがたいです。
では、また次回お会いしましょう。


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EP,12 【ユウと宴会】

はい、どうも。CAKEです。
ついに宴会が始まりそうです。さて、どうしてやろうかなぁ……
ショタコンの皆様には嬉しい展開になったりならなかったりするかもしれませんね。
「いいぞ、もっとやれ」
という方はスクワットを10回やってから本文へお進みください。


「さて、準備はできた? ユウ」

「うん! 大丈夫だよ」

 

あの日の翌日。

日が南中する頃、博麗神社では霊夢とユウが最終確認をしていた。

最終確認といっても、特にこれいとった持ち物はなく、霊夢お手製の干し魚くらいである。

 

「じゃあ、いきましょうか」

「うん!」

 

そして霊夢はいつも通りユウを抱きかかえる形で空を飛んでいこうとした。

しかしその時、どこからともなく声が聞こえてくる。

 

「おーい! 霊夢ー、ユウー、やっほーだぜ~」

 

魔理沙だ。

魔理沙はいつも通り、白と黒をベースにした服を纏い、箒に腰掛ける形で飛んでいた。

 

「なによ、魔理沙」

「なにって、今日紅魔館で宴会するんだろ? 当然、そこに行くに決まってるじゃないか。宴会なんて永夜異変以来だぜ」

「エイヤ異変?」

 

ユウは以前、霊夢から異変について教わっていた。

異変とは、ここ幻想郷で人為的に起こされた異常現象のことを指す。

異変が発生した場合、その全てが博麗の巫女によって解決されている。

ユウはそこまで理解出来なかったが、異変がとても危険なものであるということだけはしっかり覚えていた。しかしそれ以外のことは綺麗に忘れていたので、異変名を聞いてもどんなことが起こったのかまでは分かるわけがなかった。

 

「ま、そういうのがあったんだ。くぅ~~、楽しみだぜ」

「はいはい。じゃあさっさと行くわよ」

「霊夢、ユウをこっちに貸してくれないか」

「はい?」

 

霊夢は自然体で首をかしげる。

この時霊夢の頭の中で「死ぬまで借りるだけだぜ!」という音声が再生されていた。

 

「いや、抱えるの大変だろ? なら私の箒で移動したほうが楽じゃんか」

「あぁ、なるほどね。じゃあ、はい」

 

そしてユウが手渡される。

 

「じゃあユウ、しっかり掴まっとけよ!」

「え!? ちょぉぉぉおおおお!!??」

 

そして霊夢御一行は空気を切るようなスピードで紅魔館へと向かっていった。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

「……いらっしゃい」

「へへ、お邪魔するぜ」

「窓、直して」

「はいはい」

「キュ~~……」

「また魔理沙は……」

 

説明しよう。

紅魔館の玄関には大きな窓がある。突如、その窓を突き破って紅魔館へと侵入する謎の不審者、通称「魔理沙」が、箒にユウを乗せて颯爽と登場したのだ。それをレミリアに目撃され、窓の修復を請求。魔理沙はそれに応じ、ユウは滑空スピードや窓ガラスを突き破った衝撃で伸びており、玄関の扉から歩いて入ってきた霊夢が呆れているのだ。

魔理沙は修復魔法で現在窓ガラスを直している。

ユウが目覚めたのは宴会が始まる一時間前だった。

 

 

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日はもう沈み、月が顔を出した頃。

とある館では宴会が開かれようとしていた。

 

「かんぱーーい!!」

「「「「「かんぱーーい!!!!!」」」」」

 

集まったのは総勢16人。

霊夢やユウ、魔理沙、紅魔館メンバーなどが集まっていた。

 

「ユウ、お酒は飲まなくていいから、何か食べてらっしゃい」

「はーい!!」

「挨拶も忘れんなよーー!」

 

霊夢と魔理沙が目を輝かせるユウにそう言うと、元気に走り去っていった。

 

「ったく、あんなにはしゃいで……相当楽しみだったんだろうな」

「でしょうね」

「………ユウには、たくさん楽しませないとな」

「………そうね」

 

その姿を見送った後、霊夢と魔理沙は酒を飲み交わし、談笑を始めるのだった。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

「(えっと、まずは挨拶だよね……)」

 

早く目の前に広がる食べ物を食べたい気持ちを、ユウは挨拶が先と何とかこらえる。

そしてしばらく歩くと、緑色の髪をした女性のもとにたどり着いた。

 

「えっと……初めまして! ユウといいます!」

「………」

 

勇気を出してそういうと、緑髪の女性はユウのことをジーーと見る。

人見知りなユウがその視線に耐えられるわけがなく、羞恥心やら何やらで顔を赤くして顔を下げる。すると

 

「か……」

「え?」

「かわいいぃぃぃぃ!?」

「ひゃぁぁぁぁぁ!?」

 

緑髪の女性は突然奇声を発しユウに飛びかかった。

突然の攻撃にユウは尻餅をつき、緑髪の女性はそれに覆いかぶさり、頰ずりを開始する。

 

「う〜〜」

「こら、早苗。ユウが困惑してるぞ」

「ま、早苗なら仕方ないね~」

 

後ろの二人がそう言う。

すると早苗と呼ばれた女性が「( ゚д゚)ハッ!」というリアクションをとり、慌てて立ち上がる。

 

「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

「は、はい…大丈夫です」

「よかった……あ、自己紹介がまだでしたね。洩矢神社で巫女をやっています。東風谷早苗といいます」

「私は八坂神奈子だ。洩矢神社で神様をやっている」

「私は洩矢諏訪子だよ。同じく神様」

 

自己紹介を済ませ、ユウは立って話をしようとした。

しかし、それは後ろから羽交い絞めにされた為できなかった。

 

「よう! お前がユウか!」

「は、はいぃ!」

「そうか! 私は星熊勇儀ってんだ! よろしくな!」

「はい! よろしくお願いしましゅ!」

 

突然のことだった為、思わず噛んでしまうユウ。

その様子を見て、四人は笑ってしまう。

 

「はっはっは! まぁ、せっかくこう出会えたんだ! ほら飲め!」

「うぐっ!?」

「「「あ」」」

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

談笑を続ける霊夢と魔理沙。

そこに、一人の少女が割り込んだ。

 

「あら、萃香じゃない。どうしたの?」

「いや、なんだか楽しそうに話してるなと思ってね」

 

割り込んだ少女は伊吹萃香という鬼だった。

実は、勇儀もまた鬼である。

鬼は酒に強く、宴会や喧嘩が大好物な、少々荒っぽいが気前のいい種族。

この宴会にも一番乗りで来て宴会の準備を手伝ったほどだ。

 

「で、どうしたんだぜ萃香」

「いや、ユウが大変なことになってるって伝えようかとね」

「え……」

 

萃香が指をさしたその先には、勇儀に酒をラッパ飲みさせられているユウがいた。

 

「「あ」」

 

気づいたころには、もう、遅かった。




はい。いかがでしたでしょうか。
もう何も言うまい。次回はほんとにどうしようかなぁ(笑)
要望があったら採用するかもしれません。
え?感想稼ぎ?やだなぁそんな訳ないじゃないですか。ははは(目を逸らしながら)
では、また次回お会いしましょう。
多分、早めに出せるかと思います。


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EP,13 【ユウと初酒】

はい、どうも。CAKEです。
気が付いたらお気に入り数が20になっていた。
………………マジで!?!?!?
いやもう本当に、有難うございます!
お祝いとしてチョコレートケーキ食べてます。CAKEだけに。
うん、おいしい。流石711。

さて、そろそろ行きましょうかね。
5で揃えてみたかった。後悔はしてない。早起きできて一石二鳥さ!
「いいぞ、もっとやれ」
という方は賢者タイムに突入の上本文へお進みください。


「はっはっは! まぁ、せっかくこう出会えたんだ! ほら飲め!」

「うぐっ!?」

 

勇儀がユウに何かを強引に飲ませる。

 

「(え? 何!? な……にこ…れ……)」

 

そして次の瞬間には強烈な眠気がユウを襲った。

そう、酒だ。実はユウ、酒に激弱なのだ。

アレルギーと言い換えてもいいかもしれないほどに。

そして次の瞬間にはユウの意識は白い靄へと消えていった。

 

 

 

「ユ、ユウ!? 大丈夫!?」

「ありゃりゃ……酒弱かったのか……」

 

ユウが倒れて数秒後、霊夢が駆けつけてきた。

ユウの体は熱く、息も荒い。体温が上昇したためか、顔は少し赤みが増していた。

勇儀は困ったように右手を額に当て、首を横に振る。

 

「それより、ユウをベットに寝かせないと……」

 

霊夢は慣れたようにユウを抱き上げる。

見るからに熱そうだったのだが、こうやってユウに直に触れてみると本当に身体が熱くなっていた。

一時的な高熱状態だ。

 

「それなら私が」

 

何もないところから突然咲夜が現れる。

霊夢がちらりとレミリアの方を見てみると、パチュリーが小悪魔を止めている光景が、遠目だがはっきり見えた。その横でレミリアは優雅に紅茶を飲んでいる。

 

「じゃあ、頼むわよ」

「はい」

 

あそこで戯れている図書館セットはスルーして、ユウ運びを咲夜に任せた

そして咲夜が時を止め、ユウと一緒に消える………と思っていた。

 

「……あれ?」

「どうしたの?」

 

咲夜は驚きの余り素に戻っていた。

 

「ユウを……動かせないの」

「え?」

 

咲夜の能力、それは『時を止める程度の能力』。

見た目チートだが、停止時間中にもルールがある。

一つ、能力発動時に自分自身と自分が触れているものは能力は受けない。

二つ、能力発動時に能力を受けたものは傷つけることができない。

三つ、時間停止は一分間しか持続できない。

以上が咲夜の能力のルールもとい制限である。

 

つまり、ユウを動かせないというのは能力を受けているということ。

しかし―――

 

「ユウの能力って『能力を受け付けない程度の能力』じゃないの?」

「そのはずだけど……酒のせい?」

 

頭を悩ませる二人。

ONとOFFを切り替えられるのだろうか?

いや、それは無い。何故なら初めて紅魔館に来た時に咲夜の能力を受けていないからだ。

そもそもユウに能力は伝えてないし、本人もあまり気づいてない様子。

じゃあ、なぜ………

と、そこまで考えた霊夢は、そんな場合じゃ無いと頭をリセットした。

 

「……とにかく、普通に運んでくれないかしら?」

「……分かりました」

 

そして咲夜はユウを抱えて別の部屋へと移動するのだった。

その様子を、ただ一人、じっと見ていた。

 

「……………」

 

 

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「あやや……ユウ君は倒れてしまいましたか……」

「先輩、また取材するつもりだったんですか?」

「あったりまえじゃないですか!」

「「はぁ…」」

 

霊夢からユウが倒れたと報告を受けた文はがっくりと肩を落とす。

それを見て彼女の後輩である白狼天狗、犬走椛はため息をこぼす。

 

以前、ユウを質問攻めしてできた新聞は、いつも通りの出来――そう、いつも通りの出来栄えだった。

勇儀がユウのことを事前に知っていたのも彼女の新聞、『文々。新聞』が原因だった。

その内容は、ここでは伏せておこう。ユウと霊夢が唖然した、とだけ書いておく。

 

「あーあぁ……取材したかったなぁ……」

「「……」」

 

 

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「うーん……ん?」

 

あれ……ここ、何処だっけ………

確か、宴会に参加してて自己紹介しようと思ったら勇儀……さんだっけ?に何か飲まされたんだっけ………

そしてその後は………

 

「……何したっけ」

 

あれ……記憶がない……本当に僕、何してたんだっけ?

僕はむっくり布団から起き上がる。が、

 

「ん……?」

 

僕の上に何かが乗っていて、起き上がる事ができなかった。

な、なんだろ……

当然僕は布団をめくる。そこには……

 

「え……?」

 

七色に光る宝石。それが対となって、それが翼になっている。

忘れもしない、あの人。その人を見て、僕は絶句してしまう。

そう……

 

「んん〜〜〜」

「…………」

 

フランが、そこにいた。

 

 

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その頃、宴会場。

そろそろ終盤を迎えており、全員がいい感じに出来上がっていた。

霊夢、魔理沙、萃香は愚痴などを吐き捨てており、紅魔館組は静かに話していた。

その他のメンバーも、疲れて寝ていたり、酔い潰れていたり、盛大に笑って話していたり……

とても楽しんでいる様子だった。

フランがこっそり抜け出してユウのところに行っていることなど、思いもしないで。

 

 

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はたまたその頃、別の場所。

 

「……………」

 

誰かが、目の前に設置した遠視術を使い、何処かを静観していた。

その術に映っていたのは……困惑する、ユウの姿だった。




はい、如何でしたでしょうか。
ユウ君、お酒弱いですね。しかもその後の反応が完全に事g(自主規制)
……ゴホン、というわけでユウとフランが感動(?)の再会です。
どんな展開になるんでしょうねぇ………
では、そろそろお暇しようかしら。眠いし。
では、また次回。


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EP,14 【フランとユウ】

はい、どうも。CAKEです。
気になっちゃいます⁉︎気になっちゃいますよねぇ〜〜⁉︎
というわけで、みんなが気になる話をどうぞ。
あ、サブタイトルは理由があってああしています。それは後ほど。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は、心を一度汚した上で浄化してから本文へお進みください。


「……………」

 

ユウが咲夜に運ばれているのを見た。

どうやら、あの鬼に酒を無理やり飲まされて酔いつぶれたらしい。

フランは、そっと目を細めた。

 

思い出されるのは、昨日の出来事。

あの時、友達ができたことで症状を抑えることを忘れてしまっていた。

症状とは、破壊衝動。

紅魔異変の時まで、フランは紅魔館の地下に幽閉されていた。

その歳月、じつに495年。

自室に迷い込んだ魔理沙と出会った頃は、もはや自我など無かった。

しかし、その後姉であるレミリアと仲直りし、自我を取り戻した。

魔理沙にはとても感謝している。だって、私とお姉様を仲直りさせるきっかけを作ってくれたのだから。

しかし、なんといっても495年。その歳月は、いくら吸血鬼といえど短いものでは無かった。

その為後遺症が残り、常に抑えていないと破壊衝動がじわじわと思考を蝕んでしまう。

フランだって誰かを破壊し、殺したいとは思わない。

だから自ら自室から出ないようにし、できる限り誰かと会わないようにしていた。

 

「(なのに………)」

 

私は抑えられなかったのだ。

誰かに会わないようにしていたはずなのに。

その目的すら忘れて、目の前にある幸福に夢中になって。

その結果、ユウを傷付けてしまった。

友達になれたはずなのに、私はユウを、壊したいと思ってしまったのだ。

 

気付けば、私はこっそりと大広間を抜けていた。

咲夜のあとを追って、咲夜にバレないように。

何のために?………分からない。

だけど、何となく、そうしたほうがいいと思った。少なくとも、考える前に身体が動いてしまうほどに。

 

咲夜が部屋から出てきた。恐らく、ユウをベッドに寝かせ終えたのだろう。

次には咲夜は消えてしまった。

入れ替わるようにフランが部屋に入る。

そこは、私の部屋の半分ぐらいの広さだろうか、一般的な部屋が広がっていた。

相変わらず赤い壁、木製の椅子と机とクローゼット、そしてベッド。

そのベッドに、ユウは寝かされていた。

 

「………」

 

ユウは暑苦しそうに、荒く息をしていた。

顔は紅潮し、何かの病と闘っているようでもあった。

 

………息がつまる。ここから逃げ出してしまいたかった。

でも……

 

「(言わなきゃ……)」

 

伝えなきゃ。その気持ちが私をここに縛り付けていた。

そう、ごめんなさい、と。

許してくれるとは思わない。

だって、ユウは殺されかけたのだから。他でもない、私に。

それでも、伝えなければ。言わなければ。

 

「………」

 

目の前にユウがいた。

この言葉を伝えなきゃいけない、謝らなければならない相手がいた。

そうして気を張っていると、突然、アイツが来た。

 

「(まずい…………………眠い……)」

 

そう。万物の敵、勝てない相手、真のラスボス。霊夢でも勝てないだろうアイツが。

睡魔という名の、空気の読めない生理的現象である。

私はドアとユウを交互に、忙しなく視線を行き来させる。

本来なら自室に戻ってから寝るべきだろう。

しかし、これを逃したら二度と謝ることができない、という考えがしつこく私をここに引き止めていた。

 

「………」

 

そして私は、何故かユウが寝ているベッドに潜り込んだ。

混乱してたんだと思う。今考えればアホだった。

そして呆気なく私は睡魔に敗れ、意識を沈められた。

 

そして私の意識が再び浮上した時には………

 

「………え?」

 

布団をめくり、私の存在に驚愕する、ユウの姿が私の目に映った。

………やばい、大失敗やらかした。

 

 

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「………」

「………」

 

お互い、口を開かない。

片方は驚愕で、もう片方は後悔やら何やらで。

最初に口を開いたのはユウだった。

 

「えっと………おはよう? フラン」

「………」

 

ユウは、どうすればいいのか分からなかったが、霊夢から「挨拶はちゃんとしなさい」と言われているので、それに従う。

が、フランは目を伏せてしまう。

それもそのはず、許してくれないと思っていた人に挨拶されれば誰だって驚くに決まっている。

しかし、そんなことを露ほどにも思っていないユウは、こう考える。

 

「(あ……失敗したかも)」

 

何か加えていったほうがいいのか、いやそれとも何も言わないほうがいいのか。

ユウが必死に頭を捻り悩んでいるところに、フランが呟く。

 

「……………さい」

「……え?」

 

そしてフランはしっかりと顔を上げ、ユウの目を見て。

ユウの上にフランが乗っているという、変な構図ではあるが。

それでも、今すぐ伝えようと、ハッキリした声で言った。

 

「ごめんなさい」

 

一瞬ユウが、何のことだろう、と思ってしっまたが、すぐに察しがついた。

そしてその意図を汲み取ると、ユウは笑顔でこういった。

 

「いいんだよ」

「え?」

「確かに怖かったけどさ………仕方無かったん……だよね?」

「それは……」

 

うまく言えるわけではない。でも、フランが謝ってくれたことで、何となく、そう思えてきたのだ。

あれは……別人だったのではと、不可抗力だったのではと、そう思えてきた。

 

「なら、大丈夫だよ。それに…………」

 

ちゃんと言えるだろうか。フランは、納得してくれるだろうか。

口下手だけど、多分、こう言えば、いいと思う。

 

「僕たち、友達だから」

「……っ!」

 

友達だから。この言葉は、深く、優しくフランの心を貫いた。

様々な感情がフランに襲いかかる。暖かい雫が、フランの頬をつたう。

 

「……ぅ、うわぁぁぁぁああああん!!」

「わわ⁉︎」

 

次の瞬間には抱きついていた。

フランは泣きじゃくり、ユウは突然の事に驚く。

この光景は、鳴き声は、しばらくの間続いていたという。

 

 

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「………良かったわね、フラン」

 

別室、ユウのいる部屋の隣に、レミリアと咲夜はいた。

フランがいないことに気付いたのは、数分前。

大広間を静かに退室し、この部屋に来た。

最初は不安だった。ユウが良い子であることは、咲夜から聞いていた。

しかし、フランと再会し、暴れてしまうのではないかとも思えた。

 

「でも、杞憂だったようね」

「そうでございましたね」

 

あの時は申し訳ないことをしてしまった。

明らかな悪意があった。フランと会わせることは、半ば死刑宣告みたいなもの。

それを承知で会わせたのだ。

だからこそ、私も言うことがあるだろう。

今はフランがいるから言えないが、言おうと思う。

 

「ありがとう、ユウ。………それと、悪かったわね」

 

心を込めて、感謝を。




はい、如何でしたでしょうか。
え?シリアスブレイク?そんな事してませんよアハハー。
あ、そうそう。タイトルをああしてるのは書いてて
「(これどっちかっていうとフランちゃん目線メインだよなぁ)」
と思ったので逆にしました。
というわけで!みんなスッキリしたとこで終わりたいと思います!
ではまた次回。


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幻想郷最大異変の始まり
EP,15 【ユウと友達】


はい、どうも。CAKEです。
今回はTHE・日常です。のんびりって本当にいいね。
本当にいいよね、友達って。(←ボッチ)
いつもは2000字越えを目安に気合を入れて書いているのですが、足りてるでしょうか……?
もう少し多くしてほしい、もっと表現を細かくしてほしい、友達がほしい、といった事があれば感想でしてください。できる限り要望に応えられるようにします。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は友達と話してから本文へお進みください。


「(えっと………ここら辺だったはず……)」

 

ユウは現在、博麗神社の裏にある森を歩いていた。

木漏れ日が辺りを照らし、緑と光の調和が幻想的な空間を生み出している。

その中をユウは護身用のお札(妖怪に襲われて以来必ず携帯している)を持ち、1人とある場所を目指している。

 

3日前、紅魔館での宴会で無事フランと仲直りした後、仲良く2人で遊んでいた。

といっても、2人とも余り室内ゲームを知らないので、ババ抜きぐらいしかできなかった。しかし、2人にとってそれはとても楽しい、かけがえのない時間だった。

しばらくして咲夜が部屋にきて、フランが無理を言って彼女もババ抜きに巻き込まれた。

そして宴会がお開きとなり、紅魔館をあとにした。

神社に帰って霊夢にユウが気絶する原因を作った液体の名前を聞き、何それ怖い、とユウは禁酒を心に決めた。

 

そして今ユウが歩いている理由はというと、ある約束を果たすためだった。

目指すはあの湖。出発前はキビキビ歩いてペースを落とさなかったユウだが………

 

「……そろそろ休憩しよっかな」

 

流石に限界が来ていた。

ユウが目指している湖、通称『霧の湖』は紅魔館の前に広がる大きな湖である。

実はそこは博麗神社から約20km。ユウが湖にたどり着くには遠すぎた。

一旦近くの木に腰を下ろし、一息つく。

霊夢のお弁当も食べてしまおうかとも考えたが、まだ昼時でもないのでやめておく。

目を閉じて休憩していると、何処かから声が聞こえた。

 

「………ぉ〜〜い」

「…え?この声って……」

 

そして声の主が現れた。

黒を基調としたマントに白と緑の服。そして何よりも目立つのが頭から生えた虫のような触覚である。

 

「リグル?」

「あー、やっぱりズレてたか〜」

 

声の主の正体、リグル・ナイトバグが現れる。

リグルは蛍の妖怪であり、蟲の妖怪の中でのトップの妖怪だ。

蛍ということから夜行性であり、昼は余り得意ではなく、余り外には出たがらない。

しかし、彼女の友達である、チルノなどの他の妖怪と遊んでいるうちに、全くとは言えないものの、昼間でも平気になっていた。

 

「ごめんね? チルノちゃんがちゃんと場所伝えてなくて……」

「え? こっちじゃないの?」

「うん。ちょっとだけだけど、このまま行くとこのまま森を出ちゃうんだ」

「うそ⁉︎」

 

実は今ユウがいる場所は博麗神社から19km離れた地点。

もう直ぐなのだ。しかし、場所が曖昧だった為に出発する方向が微妙にズレる。

このまま行くと10km先で森を抜けてしまうのだ。

 

「集合場所はこっちだよ、ついて来てっ」

「う、うん」

 

そして2人は同じ方向に歩き始める。

すると突然、ユウの前を歩いていたリグルが振り返る。

 

「ねぇ、この森、結構迷いやすくない?」

「うん、そうなんだよね。何度か迷いかけちゃったし」

「だよね……あ、だったら!」

 

リグルは指を口に当て、綺麗な口笛を吹く。

すると、一匹の蟲がやってきた。

大きさは約1cmで、その背中は丸っこく、赤と黒が斑点状に描かれていた。

そう、テントウムシだ。そのテントウムシはユウの肩に止まる。

 

「もし分からないことがあったらさ、そのアク君に聞いてみてよ」

「アク君?」

「うん! 赤と黒の一文字目をとって、アク君。」

 

ユウは肩に止まるアクを見つめる。アクはこちらをじっと見つめ動かない。

ユウはよろしく、と言い笑いかける。

すると、アクは小さく飛び、ユウの髪の毛に潜り込む。

 

「ふふ、ユウの事気に入ったみたいだね」

「そうなのかな?」

「そうだよ」

 

そう言いながらユウは頭に神経を集中させてみる。

何やらモゾモゾ動くものの感覚があった。恐らくアクだろう。

少しくすぐったくて、ユウは小さく笑った。

 

「おっそーーーい!」

 

突然、前方から元気な声が聞こえる。

 

「もー、チルノちゃん、ちゃんと場所教えたのー?」

「もちろん! 教えた………はず」

 

そこには、ユウの友達達がいた。

こうして会うのは、永遠亭でお見舞いにきてくれた時以来である。

ミスティア、チルノ、大妖精、そして……

 

「そーなのかー」

 

あの時は居なかったが、ルーミアもそこにいた。

 

「みんな! 久しぶり!」

「久しぶり、ユウ」

「元気になったんだね!」

 

ミスティア、大妖精が笑顔で迎える。

ユウはそれがとても嬉しくて、笑顔で彼女達のところへと走った。

 

「あ、待ってよユウ!」

 

リグルもユウを追いかける。

そして彼らは、一緒に遊ぶという約束を果たすべく、鬼ごっこの鬼をじゃんけんで決め始めるのだった。

 

 

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「あー、楽しかった〜」

 

遊び終えたあと、ユウは相棒も連れて神社へと帰っていた。

その相棒というのが……

 

「アク、博麗神社ってこっちであってるっけ?」

 

ユウが呼びかけると、ユウは頭の右側がムズムズする感じがした。

それが意味するのは……『YES』

 

「そっか、ありがと、アク」

 

そうして無事に神社へと帰ってきた時には辺りは薄暗かった。

そしてユウを見つけた霊夢は『遅い』『汚い』よって『危ない』と、相当お冠だった。

 

「(今度から早めに帰るようにしよう)」

 

ユウは、禁酒を心に決めた時のように、その事を心に刻んだのだった。




はい、いかがだったでしょうか。
こういうの(のんびり)もいいと思うんだ。僕は。
さて、後書きと言っても何を書けばいいのやら。毎回毎回悩んで書いています。
次回の後書きにはユウのプロフィールでも書こうかしら。
ではでは、また次回会いましょう。


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EP,16 【人里と鬱病】

はい、どうも。CAKEです。
三週間もお待たせしてしまいました。ごめんなさい。
「いいぞ、もっとや……いやフザケンナ」
という方、申し訳ありませんでした(ローリング土下座)。
それでは、本文へどうぞ。


「〜♪ 〜♪」

 

幻想郷は今日も平和だ。

空は雲ひとつ見つからない晴天で、ぽかぽかとした日差しが降り注いでいた。

その日差しの下、博麗神社ではユウが上機嫌で境内の掃除をしていた。

すっかりユウの仕事になった境内の掃除は、今ではユウの楽しみの1つでもあった。

この掃除している時間。なぜかは分からないのだが、とても懐かしいような気持ちになるのだ。

オリジナルのリズム、音程で鼻歌を奏でながら掃除をしていたユウ。

すると、鳥居の向こう側から一人の女性が来た。

 

「こんにちは、ユウ」

「こ、こんにちは! え、えっと………慧音さん?」

 

ユウが不安げに慧音の名前をよび、合ってるよ、と慧音は優しく笑った。

 

「霊夢はいるかい?」

「うん! ちょっと待ってて下さいね!」

 

そしてユウは博麗神社本殿に走って行った。箒を放り投げて。

それを見て慧音は、やれやれと箒を拾う。

しばらくして、ユウが霊夢を連れて来た。

霊夢は箒を持った慧音を見ると何かを察したのか、ジロリとユウを見る。

それを受けてユウは目を逸らし少し霊夢から離れる。

そして霊夢はため息をつき、

 

「ていっ」

「痛ッ!」

 

ユウに手刀を降ろした。こうかはばつぐんだ!

ユウは泣き目で頭を押さえる。

 

「や、やぁ霊夢。容赦ないな」

「まあね。で、何の用………なんか疲れてる?」

 

霊夢は慧音を改めて見てある事に気づく。

慧音から生気をあまり感じないのだ。

 

「ああ……鬱病でな」

「鬱……あんたがねぇ」

 

慧音は人里一の真面目人だった。

人里の警備や循環、更には子供達に寺子屋というところで教育も行っている。

これらの事を一人で行うのはかなりの重労。しかしそれを彼女は毎日一人でやっている。

 

「そうなのだ……最近やる気が無いというか、だるい感じがしててな」

「珍しいこともあるものね。それで、要件って?」

「私が元に戻るまで人里の警備をして欲しい。頼めるか?」

「んー。まぁ、いいわよ」

「すまない。助かる…」

 

慧音の鬱病はそれなりに深いようで、慧音は相当衰弱していた。

目の下にはクマが出来ており、こう言ってはあれだがいつもよりも老けて見えてしまう。

慧音は要件を話して、依頼料を奉納。次には帰って行ってしまった。

 

「慧音さん、大丈夫かな……」

「心配ないわよ。じゃあ、ちょっと行ってくるから留守番しててね」

「わかった」

 

そうしてユウは再び箒を手に掃除を再開。

霊夢は人里へ向けて飛んで行った。

 

 

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「………なによ、これ」

 

人里に着いた霊夢。そこには、異様な光景が広がっていた。

道端で座り込む人、緊急休暇を取る店々、そして何よりも、生物の気配がなかった。

確かに人はそこにいる。しかし、そこに生気や気配は存在していなかった。

この時、霊夢はあるものの存在を脳裏にかすめた。

 

「(………『異変』)」

 

誰もが衰弱し、ため息すらつかない程の深い鬱。

それが、人里全体に渡って伝染していた。

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

霊夢は道端で座り込む男性に声をかけた。

すると男性は呟くような声で、おう、と言った。

 

「大丈夫じゃなさそうね。何があったの?」

「………わかんねぇ………ただ、なんかが起きてらぁ…………俺も含め……………みんなが腑抜けになった…………………」

 

耳をそばたてなければ聞き取れない声でそう言う。

そう、と霊夢は言うと、男性を家まで運び、人里の外へと出た。

そこには、霊夢も予想していなかった光景が広がっていた。

 

「………うそ」

 

野良妖怪までもが、衰弱し、倒れ込んでいたのだ。

それも一匹などではなく、会う妖怪の皆が同じように倒れていた。

 

「……どういうこと、新手の病気?」

 

そう呟き霊夢は永遠亭へと急いだのである。

 

 

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「ねぇ、アク、起きてる?」

 

ユウがそう呼びかけると、アクはユウの髪の毛から出てきて、肩に止まった。

 

「暇だから、何かして遊ばない? 僕は留守番しなきゃいけないし……」

「………」

 

アクは飛び立つと、こっちに来てと言わんばかりに本堂の中へと入って行った。

そしてアクはとある引き出しの、上から三番目の引き戸に止まる。

 

「ここに何かあるの?」

 

そしてユウはその引き戸を引き、中を見る。

するとそこには……

 

「将棋?」

 

将棋盤があった。

以前、霊夢もユウも暇を持て余した時、霊夢が「暇だしこれやらない?」とこの将棋盤を持ち出したことがある。

なのでユウはしっかりとルールを記憶している。

しかし問題というか、不安な点があった。

 

「アク、将棋分かるの?」

 

自分でも最初は理解できなかったルールを偉大なる相棒であるテントウムシ様が理解でしておるのかと、そういうことである。

するとアクは髪の毛に入り、ユウの頭の右側でモゾモゾ。YESだ。

 

「……わかった。やろう!」

「……」

 

するとアクは再び髪の毛から出てきて、将棋を打ち始めるのだった。

 

 

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「あら、霊夢じゃない。どうかしたの?」

 

場所は変わって永遠亭。

倒れていた妖怪はどうやら人里周辺のみだったようで、迷いの竹林と呼ばれる広大な竹林にはまだ元気が残る妖怪も大勢いた。

その迷いの竹林に永遠亭、現代でいう病院は建っていた。

 

「ええ、人里で新手の病気みたいなのが蔓延してるの。何か知らない?」

「知らないわ。なによそれ」

「鬱病みたいなものよ。なんでもやる気とかがないみたいで。生気が全くなかったわ」

 

そう言うと永琳は手を顎に置き、考える。

 

「今のじゃわからないけど、私も私で調査してみるわ」

「ええ、そうして。じゃ、私はもう帰るわね。ユウを待たせちゃいけないし、そろそろ夕飯作らないと」

 

ええ、と永琳が返事すると、霊夢は博麗神社目指して飛んで行った。

その直後、永琳は近くにあった壁に寄り掛かる。

 

「確かにこれは……不味いわね」

 

永琳の机には、空の活力剤が三本置かれていた。

 

 

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時は少し戻り、博麗神社。

 

「うう、また負けた……」

「………♪」

 

まだ霊夢は帰ってきておらず、ユウとアクは将棋を打ち続けていた。

現在、3連敗のユウ。アクが調子に乗り始める頃、本堂の扉が開いた。

 

「あら? 霊夢はいないの?」

「え?」

 

そこには、ピンク色の日傘を持った、緑色の髪を持つ女性がいた。

 

「それに、テントウムシと将棋をしてる貴方は誰かしら?」

 

その女性は笑ってそう問い、なぜかユウは冷や汗をかいたのだった。




文字数がほぼ3000字です。
さて、異変らしきものが起こりましたね。
スッと解決するのか、厄介ごとなのか……どっちでしょうか?
ではでは、お次はみんな大好きゆう○りんです。
ユウ……頑張れ。
では、また次回。


名前:ユウ
年齢:10
性別:男
服装:白いTシャツ・黒いパーカー・ベージュのズボン
髪型:黒・長め
身長:121cm


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EP,17 【ユウと花】

はい、どうも。CAKEです。
今回はみんな大好きゆう○りんです。
ユウよ。頑張れ。
あと、今回は前回と比べて少なめです。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は花を愛でてから本編へお進みください。


「それに、テントウムシと将棋をしている貴方は誰かしら?」

 

僕はユウ。年齢は分からない。

そんな僕は今、霊夢の家である博麗神社という所に住ませてもらっている。

霊夢はすごい人で、空も飛べるし、優しい。

この前だって、僕のために色々な事を教えてもらった。

妖怪の事とか、異変の事とか、妖力や霊力といった力の事とか。

でも、僕には難しくて少ししか理解できなかった。そんな僕にも、きちんと教えてくれた。

空の飛び方も教えてくれたけど、僕には霊力が無くてできなかった。

 

………僕は誰に言ってるんだろう。

とにかく、一旦落ち着こう。いくらなんでも焦りすぎだぞ僕。

 

「ねえ? 大丈夫?」

「ひゃい⁉︎ 大丈夫です‼︎」

 

つまりどういうことかというと、霊夢のご指導によりそういう力をある程度感じられるようになった。

そして、今僕はとてつもなく巨大な妖力を目の当たりにしている。

レミリアさんの時も確かな妖力を感じ取れたのだが、その比じゃない。

ここまでくると恐怖を感じぜずにはいられなかった。

 

「そう。じゃ、貴方は誰かしら?」

「は、初めまして! ユウといいましゅッ⁉︎」

 

噛んだ。盛大に。スゴクイタイ。

口を押さえて僕はうずくまる。ハァ、と聞こえた気がするがそんな場合じゃない。

舌のジンジンが我慢できるまで痛みが引いたところで、女性の方を向いた。

涙目であまり姿は見えなかったけど。

 

「ユウね。私は風見幽香よ。それで、霊夢はいないのかしら?」

「えっと……はい。今は人里の方に行ってます」

 

そう、と幽香さんはため息まじりに言う。

 

「えっと……霊夢に何かあるんですか?」

「まぁね……」

 

幽香さんは、重〜くそう言う。

えっと、これってかなり重要なんじゃ……?

 

「最近、向日葵達の元気が無くてね……さらに私の調子も悪いし、何が起こってるのか聞きたかったのだけれど……」

「ひ、向日葵?」

 

向日葵って、あの黄色いお花だよね……?

向日葵の元気が無いってどういうことなんだろう。

試しに将棋の『歩』の上でとまっているアクに小声で聞いてみると、アクは右肩に乗った。右はそう、YESだ。

 

………本当にどういうことなのだろう?

確かにお花にも調子がいい時もあれば悪い時もあると思う。

でも、それを判断するというのはできるのかな?

 

「まぁ、また来るというのもアレだし、ちょっとここにいさせてもらうわね」

「あ、はい……」

 

僕がうんうん唸ってると幽香さんは神社の建物に入ってきた。

そして、靴を脱ぎながら幽香さんが、それに、と続ける。

 

「それに……?」

 

そして幽香さんは微笑んだ。

 

「貴方達の事が気になるからね」

 

ゾワリ。

何故だろう、恐怖が蘇った。

でも、流石にこのままじゃ失礼だ。

僕の落ち着かなきゃいけないし、お客さんが来たのならやることがある。

 

「ぉ、お茶入れてくるので今で待っててくださいッ!」

 

僕は巨大な妖力から逃げるように台所へと駆けたのだった。

 

 

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「うぅ〜また負けたぁ〜」

 

あれから一時間くらい経った。

霊夢はまだ帰ってきておらず、暇な時間ができてしまった。

そこでユウと幽香は近くにあったもので時間を潰すことにした。

 

「うふふ、私に勝とうなんて10年早いわよ?」

「うぅ〜〜……」

 

将棋だ。

お茶を持ってきたユウだが、初対面の二人というのもあって、案の定気まずいような雰囲気に。

内心おろおろしていたユウ。

何か無いかとキョロキョロしているとアクと勝負中だった将棋盤を発見。

「しょ、将棋やりませんか⁉︎」と言い、現在に至る。

で、 勝率はというと……

 

「はい、これで私が2勝0敗ね」

「む〜……」

 

アクは思う。ユウよ、弱すぎやしないか、と。

実は敗因は明確なのだ。実に手が読みやすい。

将棋というのは2手3手、人によっては10手先に読むゲームだ。

そしてユウはというと、1手先しか見ていないのだ。

だから非常に読みやすく、逆手にも取りやすい。

アクも将棋には疎かったのだが、言っちゃあアレなのだが、ユウ程度であれば楽々勝てた。まぁ、最初の一戦はアクもユウと同レベだったのだが。

 

そして始まる3回戦。

素人でもわかるユウの圧倒的劣勢。いつも通りの相棒の姿にアクは温かい目を送った。

 

その時だった。

アクを凄まじい疲労感が襲った。

やる気が起きず、何も無いのにため息をついてしまうようなダルさもある。

そして何より、正気がほぼ枯渇していた。

マズい。理由はわからないがマズい。

アクは渾身の力で飛ぶと、ユウの頭に潜り込んだ。

ユウはそれに気付かず、幽香との対局に夢中になっていた。

 

 

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「ユウ、貴方、花は好きかしら?」

「花、ですか?」

 

ユウの3連敗で終わった将棋の後、幽香は唐突にそう聞いた。

 

「うーん、好きですね。たまに友達が綺麗な花を見つけてとても喜んでたし、純粋に僕が花好きですし」

「そう」

 

幽香からの質問に正直に答えるユウ。

それを聞くとニッコリと幽香はわらった。

 

「じゃあ、これあげるわ。いい匂いだから嗅いでみなさいな」

「え? いいんですか?」

 

幽香が一本の花を取り出し、それをユウに向ける。

いいわよ、と幽香は言い、ユウにその花を手渡した。

そしてユウはその花の匂いを嗅ぐべく、顔を近づける。

 

「………」

「…………クスッ」

 

その10秒後、ユウは花を持ったまま、倒れていた。

 

 

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「ユウ! ユウ!」

 

しばらくして、霊夢は博麗神社に帰ってきた。

しかし、そこにユウの姿は無く、霊夢が境内の中をくまなく探しても見つかることはなかった。




はい。いかがだったでしょうか。
何があったんでしょう、怖いですね。
ここでベチャクチャ喋って今後の展開がばれてもアレなので締めますね。
では、また次回。


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EP,18 【霊夢と異変】

はい、どうも。CAKEです。
暑いですね!え?そうでもない?
いや何言ってるんですか十分暑いですよ。
もー、こんな暑さ気が滅入っちゃいますよね!
なので今回は気合入れてみます。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は水分を補給した上で本文へお進みください。


「ユウ! ユウ!」

 

今日の午前。

慧音が霊夢の所に依頼をしに来た。

内容は、鬱病にかかってしまったのか体が重いので代わりに人里の見回りをして欲しいとのこと。

霊夢はその依頼を受け、人里へ向かった。

そこには、今まで見たことの無い光景が広がっていた。

閑散とする道、閉店の文字が並んだ商店街。

そして、生気を失い、道端で倒れこむ人。

それだけでは無い。

人里の外にいる妖怪までもが生気を失い倒れていた。

集団的な鬱病。

まさしくそれは、『異変』だった。

 

新手の病気を疑い永遠亭まで足を運ぶも有力な情報は得られず。

ユウを長く一人きりさせることもできず、帰宅することにした。

 

しかし、そこにユウはいなかった。

ユウは、勝手に外に行くような子では無い。

妖怪退治の依頼の時は好奇心から争うことができなかったが、そのことからきちんと学習し、出かける時には一声かけてから出かけるようにしている。

だから、博麗神社にユウはいるはず。だが

 

「何処に行ったのよ………」

 

見つからない。

何処にもいない。

風呂場にも、部屋にも、庭にも、台所にも、居間にも、玄関にも。

境内の何処にも、ユウはいなかった。

あるのは、居間に置かれた、勝負が終わっているように見える将棋盤。

玉将側が完全に詰んでいるのがよく分かる。

少し前、暇潰しにユウと将棋をやったのだが、非常に手が読みやすい。

弾幕ごっこしたら弱いんだろうなぁ、と温かい目で作戦を口に出して考えるユウを見ていた。

恐らく玉将側はユウだったのだろう。

では、王将側は?

 

「………誰かが来て、ユウを連れて行った………?」

 

そうとしか考えられなかった。

王将側が誰だったのかはわからない。

しかし、ユウも、そしてユウの交戦相手もいないとなると、そう考えるのが普通だ。

 

そこで霊夢は思い出す。

人里の現状と、妖怪達の衰弱。

『異変』の存在に。

 

「………!」

 

ここまできたら、疑いようがなかった。

多少の考えの矛盾はあるだろう。しかし、居ても立っても居られなかった。

ある仮説を思いついてしまったから。

ユウが異変に巻き込まれた、という仮説を。

 

そうなると今、この状況も推察できる。

恐らく、ユウはここに来た誰かを客として迎え入れたのだろう。

理由は私、博麗霊夢に接触するため。

そして、理由をつけて博麗神社に滞在した。

しかし、いつまで経っても現れない私に痺れを切らしたのか時間が無かったのか、急遽作戦を変更した。

ユウを誘拐し、私をおびき寄せる作戦に。

これらを実行したのは、言わずもがなこの異変の黒幕。

 

「………いや、違う」

 

おびき寄せる?どうやって?

おびき寄せるなら何か目印をさりげなく置いて行くはず。

しかし、そのようなものは見つからなかった。

 

「………まずは、行動したほうがいいわね」

 

ここで霊夢は一旦思考を止め、運任せに、勘頼りに行動を開始した。

今まで異変を解決してきた方法と同じように。

そして霊夢は情報集めの為、飛ぼうとする。

その時、視界の隅に小さくて、黄色い何かを発見する。

 

「………これは……?」

 

それは、本当に小さくて、粉末状の何かだった。

試しに少し舐めてみる。………無味。

今度は匂いを嗅いでみる。………無臭。

だが、霊夢の体に異変が起こる。

 

「…………ッ‼︎」

 

強烈な眠気。ラスボス的存在が霊夢を襲う。

ギリギリのところで何とか耐え、そして確信する。

これは、花粉だ。

それと同時にある人物……妖怪の姿が頭に浮かぶ。

そして霊夢は、とある花畑へと滑空して行った。

ある可能性を、忘れて。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

とある場所。

辺りは薄暗く、少しカビ臭い。

 

「………あれ? ……」

 

そこで、ユウは目覚めた。

勿論そこに見覚えはなく、ユウは困惑する。

この経験は二回目だった。

一回目は紅魔館で初めて酒を飲んだ(飲まされた)時。

そしてユウはあの時と同じように記憶を思い出して行く。

 

「(…………………え? 何で僕ここにいるの? というより、ここどこ?)」

 

しかし、わからなかった。

今いる場所が全く見当がつかない上に、何故寝てしまったのかわからないのだ。

花を渡されたところまでは覚えているのだが、その先を覚えていないのだ。

 

「……あ! 幽香さんは⁉︎」

 

そして唐突に思い出す。

博麗神社に客人、風見幽香が来ていたことを。

 

「(僕、幽香の前で寝ちゃったの⁉︎ うわああどうしよう!)」

 

ここが何処かという問題を忘れて、頭を抱えるユウ。

 

「…………………よ」

「え?」

 

後ろの方で弱々しい声が聞こえる。

ユウが振り向くとそこには

 

「無視するんじゃ、ないわよって、言ってんのよ……」

「…………幽香、さん?」

 

風見幽香が、いた。

しかし、普通の状態では無い。

非常に弱々しく、息も荒い。

 

「大丈夫ですか幽香さんッ⁉︎」

 

ユウは幽香に飛びつく。

最初にあった妖力の塊は、今や感じ取ることができないほどに衰弱していた。

以前、霊力や妖力というのは精神力とほぼ同等だと霊夢に教わったユウは、今の幽香の状態が危険であると察知する。

 

「大丈夫じゃ、ないわよ……ていうか………あんた誰よ」

「…………え? …」

 

ユウが固まる。

幽香の目には、警戒心が宿っていた。

 

「え、さっき一緒に将棋やったじゃないですか! ユウですよ!」

「知らないわよ………ていうか、何でそんなに元気なのよ……」

 

もう、ユウには何が何だか分からなくなっていた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

「着いた……!」

 

幽香の家に着いた霊夢。

霊夢の後ろでは、向日葵たちが元気なく俯いていた。

霊夢は勢いよく家のドアを開ける。

開けた際に蝶番がミシッという音を立てたが御構い無しだ。

 

「………ヒッ⁉︎」

「……………誰」

 

その中には見たことのない女性がいた。

見たところ人間。

少しだけ茶色が入っているような黒色で、綺麗なロングヘアーだった。

服はワンピースのみで、全体的に薄いピンク色をしている。

その女性は勢いよく開けたドアの発する音に驚いた様子だった。

霊夢はその女性に話しかけようとしたとき

 

 

ガコンッ‼︎

 

 

何かが、幽香の家の中で動いた。

音のした方を見ていると

 

 

ガチャン‼︎

 

 

ドアがひとりでに閉まる。

霊夢が慌てて開けようとするも、固くて開かない。

 

「(閉じ込められた⁉︎)」

 

そして次の瞬間、家の天井が、急降下したのだった。




はい、如何でしたでしょうか。
なんか……色々あったね。
そしてようやくオリキャラである。
さて、何者なんでしょうかねぇ……
では、また次回。


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EP,19 【少女と全貌】

はい、どうも。CAKEです。
ずいぶん前のやらかしですが、ネタバレみたいになってしまい誠に申し訳ありませんでした。それで、大幅にEP.19を改編し、再投稿予約させていただきました。
さて、今回はこの異変の最終回から多分三話前くらいになります。
やっぱり章ごとに分けた方がいいですかねぇ。少し考えています。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は、逆立ちをしたまま本編へお進みください。


「………」

 

私は先ほど森から採ってきた果実を黙々と食べていた。

このボロ小屋のカビ臭い匂いにも慣れ、今ではここに定住している。

私―――神橋裡沙は人間と妖怪、その両方に追われ、目立つことのない森の中で過ごしていた。

全ては、この能力のせい。これのせいでこんなことになってしまった。

あの子は今、どうしているのだろうか。

もう一度、あの子と過ごせるのだろうか。

それが、私の唯一の生きる理由だった。

 

しばらくして私は、小屋を出て果実を採りに行った。

すると、木の根元に何かを見つけた。

私はそれに近づき観察する。

空間に穴が開いている。大体掌を広げた程度の大きさだ。

その奥は禍々しい紫色をしていて、どこに繋がっているのか、いやそもそもどこかに繋がっているのかは分からなかった。

前かがみになって、恐る恐るその穴に片手を入れてみる。

 

「……ッ!?」

 

その瞬間、ものすごい引力で穴へと引きずり込まれる。

突然のことだったので、その時の姿勢も相まって抵抗すらできずに引き込まれた。

掌ほどだったはずの穴に私は引きずり込まれ、そしてそのままどこかへと落ちていった。

 

 

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落ちてくる天井。このままでは、1秒としないうちにペッシャンコだろう。

霊夢は素早く構え、落ちてくる天井に拳を突き上げた。

 

「破ッ!!」

 

すると霊夢の真上にあった部分の天井が壊れ、穴が出来上がる。

しかし、それは霊夢の真上の部分のみ。

このままでは少女は天井によって潰されてしまう。

妖怪だったならば平気なのだろうが、霊力を感じるということは間違いなく人間だろう。

そういった力は種族によって異なっており、またそれは例外なく決まっている。

人間ならば霊力、妖怪ならば妖力、神ならば神力。

霊夢は少女の方にも向かおうとするが、間に合わない。

そして、天井は地面へとたたきつけられ、ドォォオン、という音とともに埃や木片をまき散らした。

 

「くッ」

 

霊夢はとっさに閉じた目を開け、少女の救出に向かおうとした。

が、その光景に踏み出そうとしていた足を止める。

 

「………うそ」

 

少女は立っていた。

目は固く閉じ、頭を抱えた状態で怪我一つ無く立っていたのだ。

しかし、霊夢が驚いたのはそこでは無い。

少女の体は透けていた。その体から向こうの景色がぼんやり見える。

 

「(……幽霊?)」

 

そんなことを思っていると、少女は目を開けて周りを確認する。

すると、少女の体はだんだん鮮明に見えるようになって、ついには普通の少女と変わりなくなってしまった。

そして霊夢は幽霊だという考えを改めた。

この少女は外来人だと。服もそうだが、能力持ちの人間は20歳といかないうちに幻想入りするのが大半だ。恐らく彼女もそうなのだろう。

霊夢は話をしようと、少女に歩み寄る。

しかし、少女との差は縮まることはなかった。

少女が後ずさりしたからだ。怯え切った顔で。

 

「(この感覚……)」

 

前にもあったと霊夢は思う。ユウのときもこうだった、と。

今の少女が霊夢に向ける目は、あの時のユウと同じ、逃げなければという目だった。

しかし、少女は逃げ出すようなことはせず、一定の位置に立っていた。

霊夢は安堵する。もし、今全力で縦横無尽に走り回られてはまずい。

霊夢は距離を保ったまま、少女に話しかけた。

 

「私は貴女の敵じゃない。安心して」

「………」

「私は博麗霊夢。博麗神社ってところの巫女よ。」

「……………神橋、裡沙」

 

小さい声で少女、裡沙は呟いた。

霊夢はしっかりと聞き取り、話を続ける。

 

「ん、裡沙ね。裡沙、ここにいると危ないわ。ひとまず、ここから離れて隠れて――ッ!?」

 

突然、霊夢の後ろに何かの気配が現れる。

とっさに後ろを向き、持っていたお祓い棒で防御する。

 

ガキィン!

 

そこには、拳で霊夢のお祓い棒を受けとめる、人型妖怪の姿だった。

 

「チッ」

 

妖怪は舌打ちをして、後ろへ飛び下がる。

霊夢はその妖怪と対峙した。

 

「不意を突いたと思ったんだけどなぁ…やっぱこの程度じゃ主力群だめか」

「あんた……誰よ」

 

そこにいたのは男性の妖怪。

青色より少し濃い藍色の着物を着ていて、足には下駄を履いている。

顔はきれいに整い、所謂イケメンという奴だ。

パッと見ではただの人間にしか見えないが、溢れんばかりの妖力が彼が人間ではないことを物語っている。

 

「俺の名前はシャリ―。まぁ、自分で付けたもんだけどな。一応、この異変の黒幕さ」

 

微笑を浮かべながら、黒幕、シャリ―は言う。

 

「俺には『うつす程度の能力』っていうのがあってね。一見貧相そうな名前だけどこれが便利でねぇ。今回の異変で言うなら、鬱病という病気を人から人へと『うつる』、感染病にしたんだ。そうしたらあっという間に広がって人里はあの通り。まさかここまでうまくいくとはねぇ」

「じゃあなんであんたは無事なのよ。その感染症は妖怪にも例外なく罹っていた。あんたも例外じゃないでしょう?」

「病気っていうのは、薬があれば治っちまうのさ。勿論、そんなことされたら俺の計画がパーになっちまう。それは困るんでね。永遠亭まで行って活力剤を飲み干したんだ。そのおかげでこの通り。やる気と元気に満ち溢れてるよ。おまけに妖力もな」

 

そういうことか、霊夢は歯噛みする。

先ほどの突然背後に現れる奇襲攻撃。あれもその能力のおかげだろう。

シャリ―からは大量の妖力がダダ漏れになっている。

あれほどの膨大な妖力なのに、幻想郷のバランサーと呼ばれる霊夢が気づかないわけがない。

恐らくは、自らの体を空間から空間へ『移す』ことで瞬間移動のようなことができたのだろう。

本人も言う通り、実に厄介そうな能力である。

 

「ユウはどこにやったの」

「さぁねぇ。風見幽香の体に自分の魂を『移し』て彼女に眠ってもらった後、博麗神社に行ったはいいけどユウ君しかいなくてねぇ。ちょっと粘ってみたけどダメだったし、だったらそっちから来てもらった方が早いから攫わせてもらったけど……はて、どこにぶち込んだっけか」

「そう……なら、力ずくで吐いてもらうわよ! ついでにこの異変も止める!」

「お、いいねぇ。そうこなくちゃ」

 

そうして巫女と妖怪は、ぶつかった。

 

 

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「ユウはどこにやったの」

「(……ゆう君!?)」

 

裡沙は霊夢の言葉に動揺した。

それもそのはず。なぜなら「ゆう」という人物は彼女にとって大きな存在だったからだ。

 

不気味な穴を抜けた先は見知らぬ部屋だった。

見たことのないほどに清潔で、花がたくさん並んでいた。

そして少女は何となしにだが、確信した。違う世界に来た、と。

そして周りの散策から始めようとしたところ、霊夢が現れたのである。

 

そして裡沙は思った。

 

「(ゆう君も、ここにいる?)」

 

もしそうなら、ゆうは今誘拐されており、大変な目にあっている。

そして理沙は居ても立ってもいられなくなり、静かにその場を移動した。

彼女は自らの能力を使い、タイミングを見計らって、近くの瓦礫の裏に身をひそめたのだった。




はい、いかがでしょうか。
オリキャラの名前ですが神橋裡沙(カンバシリサ)です。
大幅に改変したのでね。少しは読みやすくなっているかと思います。
ふと思ったのですが、本編の進み方、ちょっと駆け足すぎますかねぇ。
うーん、どうなんだろうか。
では、また次回。


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EP,20 【戦闘?開始】

はい、どうも。CAKEです。
今回は僕の苦手な戦闘回です。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は水分片手に本文へお進みください。


とある場所にある、隠れ里。

今でも場所を転々とし、他の存在に気づかれないように身を隠している。

ここの人々は言うだろう。変わってしまった、と。

守護者すらいないこの隠れ里も、人間の手ではどうしようもないと。

いつからか、彼らは生きることに、あまり価値は見いだせていなかった。

そんな隠れ里にとある少年と少女がいた。

二人はまるで姉弟のようで、いつも元気に遊んでいた。

少年は少女のことを「姉ちゃん」と呼び、少女は少年のことを「ゆう君」と呼んだ。

隠れ里の大人たちも、その光景を活気に変えて厳しいこの世界で何とか生き延びようと努力した。

そして、ある日のことだった。

少女の処刑が決まったのは。

 

 

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戦闘が始まって大体3分は経っただろうか。

神橋の姿はどこにも見えず、恐らく隠れたのだろうと私の中で完結させた。

シャリ―と名乗る目の前の黒幕は、予想よりもずっと強かった。

活力剤の事もあるだろうが、それ以上にシャリ―には確かな戦闘技術がある。

 

「ほいっ!」

「ッ!」

 

シャリ―が例の瞬間移動を使い背後に回り込む。

私は咄嗟に後ろを向いてお祓い棒でシャリ―の右腕を防御した。

そして私は流れに任せて本気のグーパンチをシャリ―の横腹に炸裂させる。

 

「おっと」

 

しかしそれを察知したシャリ―は左腕でそれを防御。

そして少しの間力比べをした後、目の前からシャリ―が消える。

少し前方にバランスを崩したが、直感的に体をねじり後ろを向く。

そこには案の定というべきか、シャリ―が右腕を私の体を貫かんと迫ってきていた。

それをお祓い棒で受け流し、距離をとる。

 

「……やっぱ強ぇなぁ博麗の巫女さんは。若干本気だったのに」

 

シャリ―は私から少し離れたところで困ったように頭をかく。

 

「そう? 私はまだ本気の10%も出してないわよ?」

「えぇ……こっちは40は出したのに……」

 

はぁ、とため息をつくシャリ―。

すると不意打ちでもかけるかのように瞬間移動して目の前に現れる。

何と無く分かっていた私はシャリ―が振り上げた左足を少し後ろに下がることで回避。

そして私は離れ際にあるものをシャリ―に投げつけていた。

 

「札ッ!?」

 

そう、お札だ。

人間相手ではあまり効果はないが妖怪相手では大きなダメージを与えることができる。

 

「こんなもの!」

 

しかしそれをシャリ―は体をひねって回避した。

それを見て私は確信する。

そしてシャリーもようやくそのことに気付く。

 

「博麗さんや、やっぱ気づいてるね?」

「ええ。あなた―――」

 

 

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「とにかく…何とかしないと……」

 

先ほどまでパニックになっていたユウは必死に何かを考えていた。

正直、ユウには現状すらわからないため、まずは何を考えるべきかというのを考えていた。

ユウからすれば、『幽香という客人の前でいきなり眠ってしまい、目覚めたら知らない場所にいて幽香はぐったりとしている』というわけのわからない状況になっているのだ。

であるからして、当然『誘拐』などという単語が浮かんでくるはずもなく。

 

「(………どうしよう)」

 

一歩も前進しないうちに行き詰まってしまった。

すると突然、鋭い頭痛がユウを襲った。

咄嗟に頭を押さえてうずくまるユウ。

 

 

   ……て……く…

 

 

「?」

 

いま、何かが聞こえたような気がした。

というより、頭の中から響いたような声である。

懐かしいような、そうでもないような声だった。

突然の出来事に、ユウはまた混乱してしまいそうになる。

 

「(いまの……何…?)」

 

そんなことを考えていると、また声が聞こえる。

 

   ……く…ど………る…

 

いや違う。

この声は頭の中からじゃない。

 

   ゆうく……こ

 

上だ。上の方から声はする。

頭の中の声に似ているような声だ。

しかし、頭の中の声の特徴はもう忘れてしまったので、結局わからなかった。

そして、今度ははっきりと聞こえる。

 

「ゆう君どこーー!?」

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

「博麗さんや、やっぱ気づいてるね?」

「ええ。あなた、能力に制限掛かってるでしょ」

 

霊夢とシャリ―がぶつかってから約五分。

辺りには全壊状態の風見幽香の家と戦いの際に少し抉れた花壇があった。

 

「正確に言うなら、『連続で使えない』ってとこね」

「あっちゃー、やっぱり気づいてたか」

 

シャリ―には瞬間移動というものがある。

それで後ろに回り込んで不意打ちをかけるのが彼の戦闘パターンだ。

回避も瞬間移動さえあればわけはない。

しかし、シャリ―は霊夢の攻撃をことごとく『防御』している。

それも、不意打ちがバレて霊夢にカウンターをとられる時だけ。

霊夢もそれにいち早く気づき、弱点を見出したのだ。

 

「(……恐らくコイツは、溜めた分だけ効果が強くなるチャージタイプ)」

「ま、それが分かったところで勝敗には関係ないけどねッ!」

「(なら、短時間の間にたたみかければいい!)」

 

そしてシャリ―が瞬間移動で急接近して、再び交戦が始まった。

シャリ―は右手を手刀にして振り下ろし、霊夢は防御の体制に移る。

しかし

 

「甘い!」

「…ぐッ!?」

 

目の前にいたシャリ―は姿を消し、霊夢の後頭部に鈍器で殴られたような激痛が走る。

 

「確かに連続は無理だけど…」

 

霊夢は少し体をねじり、シャリ―の顔を見る。

その顔は、してやったり、という風なにやけ顔だった。

 

「同時に並行して使うのはできるのよね」

 

霊夢は目を見開く。

シャリ―が二人になっている。

同じ顔をして、二人のシャリ―が横に並んでいた。

いや、同じ顔ではない。左右対処に口角が上がっている。

そして霊夢は気づいた。

 

「気づいたみたいだね。そう、鏡のように自分の体を大気に『写し』たのさ」

 

それを聞いて霊夢は少しだけほくそ笑んだ。

こういう形でチャンスが来るとは思ってなかったが、まあいいだろう。

霊夢は体勢を立て直し、能力を二つ同時に使用したシャリ―に突っ込む。

 

「ほんっと、厄介な能力ね!!」

 

―――攻めるなら、今!




はい、いかがでしょうか。
まさかのオリキャラがラスボスである。ごめんなさい。
それと、あまりにも戦闘描写が苦手なのでちょくちょく別視点へ逃げてしまいました。
反省はしてるけど、後悔はしてない。清々しい気分です。
あぁ!やめてお気に入り解除しないで何でもs(自主規制)
では、また次回お会いしましょう。


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EP,21 【霊夢と5秒】

はい、どうも。CAKEです。
戦闘編だけ投稿は早め早めです。
だってみんな気になるもんね。
あ、そういえば僕誕生日なんですよ。嬉しや嬉しや。
では、前書きとかもういいのでちゃっちゃか本文に進みましょう!
「いいぞ、もっとやれ」
という方は実際に「いいぞ、もっとやれ」と音読してから本文へお進みください。


「はぁぁぁぁぁぁッッッ」

「うっそ……」

 

霊夢が全速力でシャリ―に突っ込む。

霊夢の予想通り、能力を並行使用した反動でシャリ―は能力を使えずにいた。

その長さはおおよそ5秒弱。霊夢は短い戦闘時間中に大体のチャージ時間を割り出していた。

霊夢が素早い動きで後ろに回り込む。

シャリーも何とかその動きに反応するが、そこは実戦経験の多い霊夢が上。

瞬発的に方向転換し、見事背後をとる。そのまま背中に重い一拳を食らわせた。

 

「ぐッ!」

 

―――1秒。

 

シャリ―にはある弱点があった。

それは特別な能力を持った者、または持っていた能力の本質に気付いた者に見られがちな弱点である。

そう、能力依存だ。

恐らくシャリーも能力の本質に気付く前はひたすら己を磨いたのだろう。

確かにその成果はこの戦闘で表れている。

しかし、本質に気付いた瞬間、シャリ―は能力を使った攻撃方法を編み出したのだろう。実際そうだった。

それ故、脇が甘い。

霊夢は空中で前転し、その勢いのままシャリ―を叩き落す。

 

―――2秒。

 

そのままシャリ―は高速落下し始める。

霊夢は少し顔をゆがめた。

 

「(硬い……ッ)」

 

博麗のお祓い棒は実はそこら辺にあるお祓い棒とは違う。

言ってみれば、妖怪に対しての最強兵器だ。

振るえば妖力が下がり、叩けばまるで自分の体重の10倍の重さの鉛を叩きつけられるような痛みが走り、突けば体を貫く槍となる。

しかも対戦相手の妖力に従いその力もパワーアップする。

まさに妖怪退治専用の最強武器である。

しかし、どうだ。

シャリ―はことごとく衝撃に耐えている。

ある時は拳で、ある時は腕で耐えがたいであろう痛みに耐えている。

 

「(また能力なのかは知らないけどッ!)」

 

霊夢がシャリ―を上回る速さで光速降下する。

シャリ―には恐らくお祓い棒が効かない。ならば。

霊夢がシャリーの背後に回り、そして

 

「ふんッ!」

「グッ!!」

 

蹴り上げた。シャリ―の背中から、ゴキッ、という嫌な音が鳴る。

そのままシャリ―は再び遥か上空へ。

 

―――3秒。

 

霊夢がシャリ―を追いかける。

 

「こんのッ!」

 

突如、シャリ―が無理やり体を捻じり、霊夢の方を向く。

そして、シャリーの手から、正確にはシャリ―の手の中にある1枚のカードから、幻想郷にはとても馴染み深いモノが出てきた。

 

 

   「移符『バイブレーション』!!!」

 

 

球型の青い妖力の塊、弾幕だ。

よく見れば弾一つ一つが震えるように細かく揺れている。

その震え方は千差万別で、ほぼ揺れていないのもあれば、もはや2つ3つに分裂しているように見えるものもある。

これも能力の賜物、それぞれの弾に能力をかけ、後はその弾自身が持つ妖力で自動的に能力が施行される。

その異質な弾幕に霊夢は目を細めるも、迷いなくスペルの渦中へと飛び込んだ。

 

 

―――4秒。

 

 

霊夢はその弾幕の中で広い空間を見つけ、そこで減速。

1枚のカードを取り出した。

その直後、ひときわ濃い弾幕の壁にぶつかってしまう。

 

「(くぅ……)」

 

不規則な弾の揺れに危うく当たりかけ、グレイズ数を重ねる。

直撃はしないものの、揺れのせいで弾が突然現れたかのように見え、回避できないのである。もはや、運任せに近い状態で、霊夢は前進していた。

時間はもうない。目の前にある青弾を無視し、叫んだ。

 

 

   「霊符『夢想封印』ッ!!」

 

 

―――5秒。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「ゆう君どこーー!?」

 

裡沙は必死に叫んでいた。

その姿は凝視しないと見えない程『透けて』おり、たまたま通りかかったならば声だけが聞こえる霊的現象を体験することになるだろう。

彼女の体が透けているのは言うまでもなく、『能力』だ。

その名も、『透ける程度の能力』。

その効果は読んで字の如く、『透ける』のである。

そして能力を行使すれば、あらゆるものに当たらない。

体をすり抜けていくのである。イメージとしては、幽霊に近いだろう。

しかし、その副作用として体が透けてしまうのである。

特に害があるわけではないが、依然にこの姿を見られて大変な目にあった。

透けた体を見て驚かなかったのは、先ほどの霊夢という少女と『ゆう君』だけである。

 

「ゆうくーーーん!!」

 

叫ぶ。

しかし、どこで叫んでも返事はない。

やはり、ここら辺にはいないのか。そう諦めかけて、もう一度叫ぶ。

 

「ゆう君どこーー!?」

 

叫んだものの、帰ってくるのはシンとし静寂だけ。

ここにはいないと考え、別の場所に移ろうとしたその時、

 

 

 ドォォォンンン……

 

 

裡沙の目線の先の地面が盛り上がり、火山のように火柱が上がった。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

「ふぅ、危ない危ない」

「……」

 

霊夢がスペルを叫んだ。

その瞬間、青弾に囲まれた世界で赤弾が霊夢を中心に発射される。

また、それと同時に大量の札が出現。ターゲットめがけて飛んで行った。

霊夢はスペルを使った代償として大きな隙を生んでしまい、青弾に着弾してしまった。

一方、シャリ―は間一髪で能力を発動させ、瞬間移動を用いて回避。

霊夢の決死の五秒間は、あえなく失敗に終わってしまったのだ。

 

「にしても、一発しか当たってないのか…」

 

しかし、霊夢は最初の一発は当たってしまったものの、それだけだった。

霊夢は『博麗の勘』でそれを察知し、一寸のブレもなく弾が一つしか当たらない奇跡の位置でスペルを発動させたのだった。

ハイレベルな戦い。ここまで行きつくのにどれだけの修行が必要なのかと思わせるほどだった。

 

「さてと……まぁ焦ったけど、これで振り出し。次は全力で行くよ」

「……ええ、全力で相手をしてあげる!」

 

しかし、ここから戦局は一気に流れを変えた。

 

「まどろっこしい知恵比べは無しだ!妖怪らしく、力で叩き潰してやる!」

 

この瞬間、秩序が消えた。

 




はい、いかがでしたでしょうか。
やっぱり戦闘編だけは文字数少なくなっちゃいますね……
やはり、精進不足なのでしょう。うん。上達する気がしない。
では、次回も戦闘回なので早めにお届けします。
では、また次回会いましょう!


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EP,22 【戦闘開始】

はい、どうも。CAKEです。
今回は戦闘編というより種明かしというかなんというか。
まぁ、そんなところです。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は、小動物と戯れてから本文へお進みください。


「ぐらああぁぁぁぁッ!」

「くッ」

 

シャリ―が真っ直ぐに霊夢に向かって突撃する。

霊夢はその弾道から逃れようと位置を素早く変えるもすれ違い様に五発の打撃をもらってしまった。

数十秒前、突然シャリ―の体内から今までの比ではない量の妖力が漏れ出した。

戦いにおいてのルール、通称『スペルカードルール』では、力をセーブするよう明記されている。

もともとスペルカードルールというのは、人間と妖怪の力の差を埋めるために作られたものであるので、ルール内容のほぼ全てが力の制限に関することだ。

例えば『スペルには必ず逃げ道を用意すること』や『殺意ある攻撃などはしないこと』など。

勿論死ぬことだってあるものの、そんな例は今までになく、いつしか戦闘遊戯、『弾幕ごっこ』と呼ばれるようになっていた。

 

「ぐるあぁぁッ!」

 

しかし、今のシャリ―と霊夢の戦いはもはや『ごっこ』だとか『遊び』なんかではなかった。

正真正銘の殺し合い。『戦い』だった。

先ほどもらった五発なんかも、なんとかお祓い棒で防いだものの、直撃すれば人間の霊夢など一瞬でひき肉になっているだろう。

明らかに範囲を超越した破壊力。シャリ―の目は真っ蒼に染まりいままで妖力以外で見せてこなかった妖怪の鱗片を見せていた。

霊夢はまさかの戦法、『規約無視』に一瞬驚くものの、すぐにその両眼を鋭くした。

規約無視とはすなわち、この幻想郷のルールに逆らうというもの。

つまり、この異変はもはや『異変』などではなく、『戦争』と化していた。

戦争にルールなど必要ない。不意打ち、罠、嘘、人質、なんでもありだ。

それは、霊夢も同じ。

 

「(後悔しても知らないわよッ!)」

 

すぐさま霊夢は『能力』を発動させる。

霊夢の能力は全ての理から浮上、つまりは無視することができる。

重力、風圧、攻撃、ダメージ、能力。あらゆるものの制約を受けない。

幻想郷最強の能力。それが彼女の持つ『浮く程度の能力』だ。

だが、しかし。

 

「うるがぁ!」

「痛ッ……!」

 

なぜか、発動しない。

ここで初めてパニックに陥る霊夢。

能力が発動しないという異例の事態に、さすがの霊夢も動揺を隠せない。

今までこんなことなかったのに。

今まで能力が発動しなかったことなど一度も―――

 

「ッ!」

 

あった。

たった一度だけ、発動しなかったことが。

しかし、なぜだ。こんなことあり得ない。

あの時、確かにあいつは死んだはずだ。

 

そして思い出し、理解する。

『うつす』ことの、本当の恐ろしさを。

 

「ゲギャギャギャギャギャ!」

 

シャリ―の目は相変わらず、ネズミ特有の真っ黒な目のような、真っ蒼な目をしていた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

突然盛り上がってきた地面から、火山のような噴火が起こり、一つの巨大な火柱を作った。

裡沙は、恐る恐るその噴火口を見やると、大体6m下に小さな空間が見えた。

よく見ると、緑色の髪をした女の人が見える。

先ほどのレーザーを放ったことで疲労したのか、はたまた感染症に侵されているのか壁にもたれかかっていた。

 

「(よかった、能力持ちも大丈夫そうね)」

 

と、別のところで安心しつつ、助けなきゃと壁の石の突起を利用してそろりそろりと降りてゆき、ある程度の高さになると、えいっ、と飛び降りた。

そして、それと同時に見えた、ある存在に目を奪われる。

あの時と変わらない、ベージュのズボンに少し長い髪の毛。

私はたまらず叫んでしまった。

 

「ゆう君!」

「うわっ!?」

 

勿論抱き着く。

私にとって弟みたいな存在なのだ。

そして長らく会っていなくて、今、ここで、ようやく会えたのだ。

昔のことが懐かしい。よく大人たちから頼まれた仕事を二人で適度に怠けながらこなしていた時の記憶が鮮明に蘇る。

そして私はゆう君がもがいていることには気付かず、これでもかと抱きしめていた。

現在私の調子は鰻上りだった。

しかし、それは突然にして凍り付くことになる。

ゆう君が私の束縛から脱出し、一言。

 

「え、えっと、誰、ですか?」

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「くッ……」

「ゲギャギャギャ! その程度かぁ?」

 

霊夢がシャリ―を睨む。

シャリ―がしたことは、ルールを破ることなどではなかった。

彼の能力、『うつす程度の能力』は遥かに厄介なものだったのだ。

だが、結果的にはルールを破ったも同然の馬鹿力。

そのことはシャリーも承知しているようだった。

 

「この喋り方は好きじゃないんだがなぁ。ま、副作用としては仕方ないんだがな」

「あんた『能力』まで……」

 

少し前、慧音の依頼によって妖怪退治をしたとき。

忘れるわけがない。なぜならユウの能力が明らかになった依頼だったのだから。

その時に出会った巨大なネズミの形をした妖怪。あの姿がフラッシュバックする。

 

 

 

 

 

―――依頼時

 

「僕の友達なんだ!おーい!」

「あ、待ちなさい!」

 

誰にだって見間違いはある。

友達ができて間もないころはしばしば後姿が似ていて話しかけてしまったり、遠目で見て似ているので手を振ってしまったり。

このときユウはある人物と見間違えていた。

 

「(やばッ!?)」

 

その人物は慌てて木の陰へと姿を隠す。

なぜなら、遠目だがはっきりと紅白の巫女が見えたからだ。

しかしそのあと。ある妖怪が出現した。

その妖怪は能力を持っていて、自分の能力とは比べ物にならない位強力なものだった。

 

「(あぁ……これはくわばらだなぁ……)」

 

そして遠ざかろうとしたとき、はたと足を止める。

ある仮説が浮かんだのだ。もしかしたら―――という一つの希望。

そしてあの妖怪は倒され、ただの肉塊と化した頃。

その人物は、誰にも知られることなく近づきその妖怪に触る。

結果は大成功。この瞬間、彼は自分の能力の本当の力に気付いたのだった。

 

 

 

 

 

「君には感謝してるぜぇ? だってきっかけを与えてくれたんだからなぁ」

 

霊夢は唇を噛み締めた。

まさか、あの時彼がいたとは思わなかったのだ。

さすがにあの場面で『察知して退治する』なんてことは不可能だが、それでもやはり悔しかった。

 

「まぁ、取り込めたのはこれだけなんだがなぁ。能力持ちっていうのはなかなかいねぇもんでよぉ」

 

シャリ―は尚も饒舌にしゃべり続ける。

 

「だがさすがに丸々ぜーんぶ能力を『写す』なーんてことはできなくてよ? 今の俺の能力はせいぜい『抑える程度の能力』だ。しかも対象は一つにしかできねぇ」

 

霊夢は今の自分の状態を確認する。

――大丈夫。身体能力に異常はあまりない。

霊夢は目の前にいる強敵を見る。

本気の妖怪に、はたして浮けない人間が勝てるのか。

それは分からないが、やるしかない。私がやらないと。

 

「ほんと厄介な能力ねぇ……」

 

しかも、今ここで負けたら、十中八九私の能力も写されてしまうことだろう。

そして何より、ユウ。

無事でいるのだろうか、心配でならない。

だからこそ、負けられなかった。

 

「いいわ、上等よ。全力でやったろうじゃないの!」

 

赤い人間と蒼い妖怪の、命を懸けた一騎打ちが、今、幕を挙げた。




はい、いかがでしたでしょうか。
『うつす程度の能力』って結構チートだなって再確認した今日この頃です。
今回は戦闘なんかじゃなかったですね。
おかげで文字数が2900文字だよ!
あれ?もしかしなくてもこれって僕に戦闘シーン書くなってお告げじゃ(自主規制)
はい、ではまた次回お会いしましょう!


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EP,23 【分岐点】

どうも、CAKEです。
サブタイトルが何やらおかしいですね。どういうことなんでしょう。
それと、ホントに戦闘描写が難しいので今回も文字数少なくなっちゃいそうです。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は太極拳をしてから本文へお進みください。


「はぁぁぁぁぁぁッッ!」

「があアァァァァッッ!」

 

二人は同時にスペルを発動させた。

しかし、宣言はしていない。

理由は簡単。この戦いはもはや『弾幕ごっこ』などではないから。

シャリ―は以前見かけた死にかけの妖怪から『うつす程度の能力』を使い、その妖怪が持っていた『封じる程度の能力』を自分に『写し』ていたのだ。

そしてそれを表に出した瞬間から力のコントロールがうまくいかないようになってしまった。

シャリ―はもとから制御するつもりはなかったのだが。

霊夢からは大量の赤弾と札が出現し、シャリ―からは蒼く輝く弾を数発撃った。

 

「(あの弾幕は……?)」

 

霊夢は様子見代わりに再び『霊符「夢想封印」』を放つが、シャリ―が初めて見るタイプの弾幕を放ったことで霊夢の警戒にその弾幕も含まれる。

赤弾と札は追尾するような動きでシャリ―に迫り、シャリ―を追い詰めていく。

そこで、シャリ―の口角が吊り上がった。

 

   「(放符『サファイアボム』)」

 

シャリ―が放った弾は、突然より一層輝き、そして、破裂した。

一つの弾を中心に大量の蒼玉が放出された。

“放符『サファイアボム』”。

大量の弾幕を一つの場所に集め、そしてそれを薄い膜状の妖力で包み込んだ、一つの弾と見立て、それを任意のタイミングで妖力の供給をやめ一気に放出する弾幕。

そのシャリ―独自の技は、一か所に無理やり大量の弾幕を詰み込んでいたため、放出した時の弾の速度は段違い。それこそ、爆風のように一瞬にして過ぎ去ってしまうほどだ。

普通の人間程度の目では、何が起こったのかでさえ把握しづらいだろう。

赤い弾と蒼い弾がぶつかり、相殺する。

そして、霊夢に高速で移動する弾が、シャリ―に追尾式の札が迫る。

 

「ッ!」

 

霊夢は断じて普通などではない。

高速の弾を見切り、的確に回避していくばかりか、流れに逆らってジリジリとシャリ―の方へと向かう。

シャリーも追尾してくる札を身のこなしで躱し、札同士をぶつけることで自爆させつつ霊夢に追加弾を送っていた。

霊夢はその追加弾からシャリ―の場所を割り出し的確に札を投げつける。

そして数十秒後、お互いのスペルは効力を切らした。スペルブレイク。

 

「!?」

 

そこで、霊夢は目を見開いた。

シャリ―の姿が見当たらないのだ。シャリ―が放つ追加弾から場所を割り出していた霊夢には、あたかもシャリ―が姿を消したように思えてしまう。

霊夢は空中を漂いながら前後左右を見るが、どこにも姿が見当たらない。

 

「おらぁぁぁアアアアアアアア!」

 

シャリ―の声が響く。

そして霊夢は慌てて体を横にずらした。

そして、さっきまで霊夢のいた場所を蒼い物体が通り抜けた。

と、同時に霊夢がその物体を打ち抜く。

 

「ふんッ!」

「くッ!?」

 

それはシャリ―だった。

シャリ―は霊夢からの一撃を何とか回避。慌てて距離をとる。

 

「クッソォ……いい勘してんじゃねぇか。ま、そりゃそうかァ……」

「今のあんたと同じ戦法をとる奴が私の友達にいるのよ。その、弾幕の陰に隠れて姿を消して不意を突くそのやり方をね」

「ケッそうかい。そりゃ運が悪かったなぁ」

「ええ、運が悪かったわね」

 

そう言い、シャリ―は手で目を覆った。

そして戦いを続けようと霊夢が身構えると、

 

「ああ、そうじゃないんだ」

 

シャリ―が手を顔から放し、顔を上げる。

そして、霊夢の顔――目を真っ直ぐに見る。

にやり、と嗤うシャリ―。

 

「運が悪いのは、俺じゃないんだよね」

 

いつの間にか口調が戻っているそのシャリ―の目も、ただの蒼白の目に戻っていた。

そして、そのシャリ―が右腕を振り上げると同時に霊夢も後ろを向いた。

そこには、左腕を大きく振りかぶるシャリ―が目の前にいたのだ。

 

 

―――「鏡のように自分の体を大気に『写し』たのさ」

 

 

霊夢は避けられないと悟り、咄嗟に手をガードするように交差させる。

しかし、相手は本気の妖怪。人間程度ではあっという間にミンチだろう。

そして、シャリ―の左腕は霊夢に振り落とされる。

 

「ダメッ!」

「「ッ!?」」

 

触れ落とされると同時に、霊夢は何者かに抱きしめられる。

そしてシャリ―が振り落としたその腕は、霊夢の体を通り、降り抜かれる。

しかし、霊夢に外傷が付くことは無かった。

シャリ―の腕が、霊夢の体を『すり抜けた』のだ。

 

「り、理沙!?」

 

霊夢に抱き着いた人物、それは理沙だった。

それと同時に霊夢は今の自分の体を見て、納得する。

 

「(体が透けてる……そういうこと)」

 

神橋裡沙、彼女は『透ける程度の能力』を持つ少女なのだ。

その能力を使えば物体をすり抜けることが可能になる。また、触れているものにも能力を使うことは咲夜と同じように可能である。しかし、その副作用として、自分の体も透けて見えてしまうのだ。

 

「なッ!? ――ッ!」

 

シャリ―が驚愕するが、その隙を狙ったように極太レーザーが放たれる。

ぎりぎり回避したシャリ―はその放った人物に目を向けた。そこには

 

「貴方が元凶ね?」

「あ、アハハ……」

 

シャリ―が言う『主力群』の一人であり幻想郷最強の妖怪の一角、風見幽香だった。

シャリ―は思わず苦笑いしてしまう。

 

「私の家がこんなんになっちゃって……ねぇ、何か知らない?」

「え、えっと…俺がちょっと改造を……」

「そう、そうなの……あら? よく見れば貴方、私の体で好き勝手やってくれた奴じゃない」

「あはは……」

 

シャリーがダラダラと汗を流し始める。

活力剤を大量摂取した彼さえを凌ぐ妖力量を前に、シャリ―は少し空中で後ずさった。

 

「風見さん? なんでうつ病にかかってないんですかねぇ…?」

「ああ、地上に出してもらったとき、活力効果のある花の蜜を飲んだのよ。そうするとたちまち元気になったわ」

「そうですか……」

 

シャリーと幽香が話し合っている(?)時、霊夢は理沙と話していた。

 

「ねぇ、ユウは?」

「……ゆう君には危険だから離れたところで隠れてもらってます」

「……そう」

 

霊夢は安堵する。

ユウが無事だった。それだけで気持ちが少し休まった。

 

「さて、霊夢?」

 

いつの間にか、霊夢の横に来ていた幽香が、シャリ―を睨んだまま呼びかける。

 

「……なにかしら」

「彼をどうすればいいのかしら?」

「決まってるじゃない。封印よ。アイツはもう幻想郷のルールを破った。アイツに宴会に参加する権利なんてないわ」

「そう、なら………思う存分、『ヤッちゃってもいい』のよね?」

「………ドウゾ」

 

霊夢の機械じみた声とともに、即座に幽香が極太レーザーをぶっ放した。

 

 

   「元祖『マスタースパーク』」

 

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

レーザーと弾幕が飛び交う、そんな地獄絵図のようになっている空の隅で、ユウは物陰に隠れていた。

正確には先ほどまでいた穴もとい旧監禁場所だ。

幽香から蜜をもらい、すっかり元気になったアクと留守番している。

 

「アク……裡沙さんの事、どう思う?」

 

アクは何も答えない。

体育座りしているユウの膝の上でただじっとしているだけだ。

理沙さんに会ったのはさっきが初めてのはずだ。

なのに、なぜだろうか、とても懐かしい気持ちになった。涙が出そうになるくらいに。

ユウはただ、この場所でじっとしているしかなかった。皆を信じて。




はい、いかがでしたでしょうか。
なんと2915文字!戦闘描写でこれは嬉しいです。
因みに理沙ちゃんは飛べます。飛べない少女はただの少女なんです!
え?飛べるのが非常識だって?
やだなぁ、幻想郷ではアレコレにとらわれちゃダメだって巫女さん言ってたじゃないですか!え?言ってない?あ、そうッスカ。
そろそろ、読者様の怒りを買う前にふざけるのはやめときます。まだおそくないよね?
次回が恐らく戦闘最終回です。がんばれ、僕。
では、また次回。


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EP,24 【そして終戦へ】

はい、どうも。CAKEです。
今回で戦闘回は終わりとなります。
地味にこの投稿ペースはキッツイものがありました。
じゃ、ちゃちゃっとやりますか!
「いいぞ、もっとやれ」
というかたは空を飛びながら本文へお進みください。


戦闘は、幽香が参戦してから酷いものになった。

一方的ないじめである。

幽香の圧倒的な戦闘力や戦闘経験の前に、シャリーにはもはや攻撃する暇さえなかった。

攻撃しようとした瞬間に殺られる。しかも、逃げることなど不可能。

幽香には逃がす気など毛頭ないし、ただ目の前の『調子に乗った雑魚』を倒すことしか考えていなかった。

“元祖『マスタースパーク』”。

それは、魔理沙の得意とする“恋符『マスタースパーク』”の原案となったスペルである。

しかし、魔理沙の持つものとはまるで別物。太さと当たった時のダメージが桁外れなのだ。

そんな代物が直撃などでもしたらシャリー程度では灰も残さないだろう。

それが、囲むように、追尾してくるように何発もシャリーめがけて飛んでくる。

 

「(無理ゲ―確定。あーあ、弾幕ごっこに抑えとけばよかった……)」

 

種をまいたのはシャリー自身。

今ここで「ごめんなさい」と言っても手遅れなのだ。

それを悟ったシャリーは地上へと急降下する。

それを幽香は見逃さない。すかさず極々太レーザーを飛ばす。

そしてそれが当たる瞬間、シャリ―は消える。自分の体を空間から空間へ移す瞬間移動だ。

しかし。

 

「待ってたわよ」

「うっわ………」

 

そこには、霊夢が待ち構えていた。

毎度おなじみ『博麗の勘』である。

 

霊夢が札を持ち上げ、シャリーは目を瞑る。

 

「封、印ッ!」

 

こうしてシャリーの体は封印され、『鬱病異変』は幕を閉じた。

 

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「いやー、何気にピンチだったな~今回の異変」

「そうね……厄介な相手だったわ」

「いいな~、私も乗り出したかったなぁ異変解決!」

「あんたは無理だったでしょ。病気にかかってたんだから」

「くぅ~~! それでもズルいんだぜ」

 

決戦の日から一週間が経った。

幻想郷はいつもの活気を取り戻し、日常の生活を送っていた。

シャリーが封印され、その直後に能力によって感染病にされた鬱病が瞬く間に回復していった。

中には鬱を拗らせるものもいたが、永琳が鬱にかかりながらも制作した活力剤で回復した。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

「霊夢――!!」

「ユウ!!」

 

異変解決直後。

ユウが霊夢のもとへと戻り、ユウは緊張の糸が切れたのか倒れ込むように眠ってしまった。

そしてユウと霊夢は博麗神社へと帰り、理沙ははそれに着いていったのだった。

そしてユウを布団に寝かせた後、霊夢は理沙の待つ居間に向かった。

 

「お茶、いる?」

「あ、はい。いただきます…」

 

神橋理沙。異変の時に幽香の家で見つけた少女。

そして、絶体絶命だった私を間一髪で助けてくれた人でもある。

 

「あ、あのっ!」

「…?」

 

お茶を受け取った理沙が、少し緊張しながら言う。

 

「ゆう君、何でここにいるんですか…?」

「ゆう君……ユウの事?」

 

理沙が黙って頷く。

どうやら、外の世界でのユウの事を知っているらしい。

軽い衝撃と驚きを感じながら、霊夢はその少女に質問した。

 

「あなた、ユウの事何か知ってるの?」

「は、はい………一応、弟だったので……」

「弟ッ!?」

 

衝撃の事実に霊夢は思わず身を乗り出してしまう。

それに理沙は慌てたように手を前にして言った。

 

「あぁ! でも、血が繋がっていたわけじゃないんですよ! なので義理の……という感じになり……ます」

「義理の……」

 

霊夢は体勢を直し、聞いた。

 

「ユウって……何があったの?」

「そ、それは……」

 

聞きたいのはユウが幻想入りした時のことだ。

ユウは目も当てられないような、酷い状態で幻想入りを果たした。

その理由が知りたかった、が

 

「………」

 

どうやら、この少女が話してくれそうにはない。

無理に話させる必要はない。霊夢は慌てて話を変えた。

 

「あぁ、辛いんだったらいいのよ。答えなくても」

「……すみません」

「じゃあ、ユウの事で知ってることとかあなたのこと教えてくれる? 例えば……名前とか」

「え?」

 

理沙が不思議そうな声を上げる。

 

「ゆう君の名前……知らないんですか?」

「あの子、ずっと『化け物』なんて呼ばれてたんでしょ?あの子も覚えてないみたいだし」

「だって……さっきから『ユウ』って……」

「それは適当につけた名前よ」

「………そう……か…」

 

理沙が考えるように視線を泳がせ、そして呟いた。

 

「どういうこと?」

「……ゆう君、私の事を覚えてなかったんです。だから……多分、記憶を失ってるんじゃないかって。多分あのとき…」

「あの時?」

「あ、いえ、何でもありません……えっと、名前でしたっけ。ゆう君の本名は日照優人っていうんです。私の自慢の弟分で、とっても優しい子なんですよ。それで……」

 

姉の弟自慢は、長く途絶えることは無かったと、後に霊夢はそう語ったという。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「さて、そろそろかしらね」

「…? 何が?」

 

そして一週間が経った。

博麗神社では元々霊夢しかいなかったのがユウ、理沙が加わり(アクの事も加えるべきだろうか)一層にぎやかになった。

ユウが目を覚ました後、理沙と自己紹介を済ませた後、ユウは理沙に驚異的な速さで懐いた。

理沙は、変わらないなぁ、と目を細めて、その他一名と一匹は、警戒心がないのは大丈夫なのだろうか、と心配していた。

 

「異変解決後の恒例行事よ。本当は別のところでして欲しいんだけどねぇ……」

「「……?」」

 

ユウと理沙が揃って首をかしげる。

その見事なシンクロに霊夢は

 

「(やっぱり姉弟なのかしらねぇ……)」

 

なんてことを思いながら二人の疑問に答え……

 

「今回は大変だったからこっちも大変になるでしょうねぇ…」

 

……ずに、ちょっとした遊び心で二人の疑問を更に深くしてみる。

二人がうんうん唸ってるのを少し楽しみ、そして今度こそ疑問に答え……

 

「宴会よ。とびきり大きな……ね」

 

……られなかった。

 

「……ちょっと、とらないでよ。今回全然助けてくれなかったくせに」

「うふふ、なんの事かしらね~」

「はぁ、相変わらずね……紫」

 

唸っていた二人の前に突然『スキマ』が現れ、一人の少女が現れる。

二人の疑問が増えた決定的な瞬間だった。




はい、いかがでしたでしょうか。
やっぱり戦闘狂は相手にするべきじゃないですね。恐ろしい。
そして暴かれるユウの本名『日照優人(ヒテル ユウト)』。
でも、本文では『ユウ』もしくは『ゆう君』で書かせていただきます。
ベツニメンドウクサイワケジャナイデスヨホントデスカラネ。
では、次回は恐らく二週間後になります。
では、そういうことで、また次回。


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どんちゃん騒ぎの大宴会
EP,25 【紫と宴会】


はい、どうも。CAKEです。
やっとゆったりとしたシーンを書ける。
しかし、字数は相変わらず……(´・ω・`)ショボーン
あ、前半はフラグがあったりします。探してみてね。
あと、場所は博麗神社の居間から始まります。はっきりしてなかったからね。
「いいぞ、もっとやれ」
という方はノンアルコールビールを飲んだうえで本文へお進みください。


幻想郷、それは忘れ去られた者たちの楽園。

しかし、そんな楽園も自然にできたわけではない。幻想郷を取り囲む結界だって、いつの間にかできた自然の産物ではないし、何者かの管理がなくても成り立たつわけでもない。

つまるところ、制作者と管理者が必要なのだ。

 

「で、何で今頃出てきたのよ」

「鬱病異変のせいよ~」

 

それがこの人、八雲紫である。

この人物、いや、この妖怪にはいろんな噂が絶えない。

曰く、厄介な『能力』を持っているから絶対に勝てない。

曰く、地球上のどの妖怪よりも長く生きる大妖怪。

曰く、幻想郷を作り、管理している。

などなどどーたらこーたら、いろんな噂があるが大抵は当たっている。

まぁそれにも理由があって、この噂の情報源は本人らしい。なぜそんなことをするのかは不明だが、博麗の巫女曰く「どーせ暇つぶしでしょ」らしい。

 

「あんたなら『能力』使って打ち消せるでしょ」

「その方法はおもいつかなかったわぁ」

「どーだか……」

 

あと、彼女の特徴、というより性格がコレである。

胡散臭い。ちょー胡散臭い。キング・オブ・ザ・胡散臭い。

紫の胡散臭さはもはや伝説となっており、あらゆる人物や妖怪が「会話したくない」という奇跡とでも言うか運命とでも言うか、そんな状態になっている。

 

「で、何で来たの?」

「霊夢に会いに来たのよ~」

「はいはいダウトダウト。本当は?」

「つれないわねぇ……」

「あんたの話は嘘から始まるでしょ……で、本当は?」

「そこのお二人さんによ。初めて会う二人だし、管理者として挨拶しなきゃダメでしょ?」

 

そういって紫はユウと理沙の方に向き直る。

二人は揃ってビクッ!と体制を正した。

 

「初めまして、幻想郷の管理者の八雲紫よ。気軽にゆかりんって読んで頂戴ね?」

「呼ばなくていいからね」

 

すかさず霊夢から横槍が入るも、紫は表情を変えずスルーした。

 

「あ、えっと、神橋理沙、といいます……えっと、能力、というか、特技というか、は、透けることが……」

「能力はいいわよ、見てたからね。『透ける程度の能力』ってことで 」

「あ、はい……」

「で、そちらの子は?」

 

紫がユウを見やる。

忘れている方もいるだろうが、ユウは人見知りである。

それを知っている理沙が被せるように言う。

 

「あ、この子は日照優人といいます。私の弟です」

「そうなの。じゃあ、ゆう君って呼ばせてもらうわね♪」

 

先ほどとは一転、妙に流ちょうに話し始める理沙に、紫はニコニコしながらあだ名を決める。

これで自己紹介が終わり、「あ、そうそう」と紫が続けた。

 

「ちょっと質問いいかしら」

「え、あ、はいどうぞ…」

「これはなにかしら?」

「「「!」」」

 

紫が取り出したものに紫以外の三人がギョッとする。

それは、あの仮面。真っ白な仮面に右目の部分だけが穴が開いており、所々に血の跡が付いた、あの仮面である。

 

「アンタそれどこで見つけたのよ」

「拾ったのよ」

「拾ったって……」

 

霊夢は絶対嘘だと確信するが、今それを言っても水掛け論になるので手を頭に当て項垂れる。

 

「で、これはなにかしら?」

「え、えっと……」

 

ユウは下を向いて黙り、理沙は何とかしようとして口籠りながら目を泳がせる。

どうやら理沙はその仮面の事を知っているらしい。

 

「ちょっと分からない、ですかね……」

「……そう」

 

理沙の明らかな動揺の前に紫は以外にもアッサリ引き下がる。

勿論ただ引き下がるわけではない。

 

「(ま、それもそうよね……じゃ、自分で調べるしかないわね……それか、地霊殿の主さんに頼みますか)」

 

そんなことを考えていたのだ。

勿論それに気付いていない理沙は安堵したような表情を浮かべる。

どうやら感情を隠すのが下手くそらしい。

 

「じゃ! そろそろだから霊夢、後は頼んだわよ~」

「待ちなさい」

「え?」

 

さっさと退散しようとする紫の襟のところを掴み紫の進行の妨害をする霊夢。

 

「ちょっと霊夢? 宴会がもうすぐ始まるんでしょ? 早く準備しないと」

「ちょっと来なさい」

「あ、やめ、ちょっと、引っ張らないで~!」

 

別の部屋に連行されていく紫。

数分後、いやああああああという悲鳴が姉弟の耳に届いた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「「………」」

 

姉弟は仲良く絶句していた。

目の前に広がるのは、宴会。

飲めや食えや歌えや踊れ。どんちゃん騒ぎを通り越して何が何だかわからない光景が、二人の前に広がっている。

ユウは紅魔館にてパーティーに参加したが、今回はその比じゃない。

霊夢の言った「今回は大変だったからこっちも大変になる」の意味が分かってきた理沙。

要するに、今回の異変の規模が大きかった為に、それに比例して宴会の規模も大きくなるらしい。

今回はなんと大抵の妖怪やら人やら神様やらが全員大集合しているとのこと。

博麗神社の境内に収まったのが不思議なくらいだ。

 

「すごいでしょ?」

 

霊夢が理沙の横に立ち言う。

理沙は呆然として返事をすることはできなかった。

と、そこにある人物が現れる。その人物は、霊夢と同じ巫女服をしており、髪は綺麗な緑色をしている。

 

「ユウくーん!」

「え? うわっ!?」

 

そう、早苗だ。前回のパーティーで一度顔を合わせた、あの風祝。

そして、まるで前回と同じように抱き着き、押し倒し、頬擦り開始。

 

「こら、早苗」

「またかぁ~」

 

そして遅れて二柱の神様登場。

前回と同じならこの時点で「( ゚д゚)ハッ!」となって飛び起きるが、今回は理性を保っているのか保っていないのか、なかなか離れようとしない。

ユウが「ーーーーッ!?」と声にならない声を上げているが、それでも離れない。

そこでようやく旅立っていた理沙の意識が弟の危機に緊急帰還し、理沙が我に返る。

 

「……え、あ、ちょ、ちょっと!?」

 

引き剥がしに入ろうとする理沙だが、霊夢に抑えられる。

不思議そうな顔をする理沙に人差し指をチッチッと横に振る霊夢。

そして霊夢は肩を回しながら早苗へと歩み寄る。

それに気付かない早苗、「「あ」」と何かを察する二柱。

そして、霊夢の射程範囲に入った早苗は

 

「節度を持ちなさいッ!」

 

という怒号とともに霊夢の固められた拳によって遥か彼方へと吹っ飛んでいった。

解放されたユウは突然の出来事に思考停止。二柱は空中へ投げ出された風祝を追いかけることもなくやれやれと首を横に振る。

今夜は宴会。今夜はとても楽しい夜になるらしい。




はい、いかがでしたでしょうか。
フラグ見つけられました?
そのフラグは次回回収する予定です。
え?早すぎるって?モウマンタイです。ノープロブレムです。……タブンネ。
では、また次回会いましょう。では!


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EP,26 【ユウと大宴会(紅)】

はい、どうも。CAKEです。
これを書いて気づいた。
ああ、僕って文才無いんだなと。気づくの遅いね。
さて、今回は前回の伏線回収してから宴会パートです。
多分相当読みにくいと思うけど……だいじょうぶだよねッ!
「いいぞ、もっとやれ」
というかたはお酒飲んでから本文へお進みください。


シャリーを封印し、彼が起こした『鬱病異変』が収束。そしてその宴会が始まる前の事。

要するに、紫が霊夢に引きずられた時である。

 

「……で、アレはどういう意味」

「アレって?」

 

別室にて、霊夢は紫に質問をぶつけていた。

紫のリアクションを見て、本当にこのスキマは分からないようだと察する。

 

「ほら、アレよ」

「だからアレってなによ」

 

本当に分からないようだ。

ため息交じりに霊夢はアレの内容を話した。

 

「初めて会うってどういうことなの」

「……あーそれね」

 

幻想入りをする方法はおおよそ二つだ。一つは八雲紫の『境界を操る程度の能力』によって生まれる『スキマ』を通じて幻想入り。そしてもう一つは偶然的な何かがいくつも重なり奇跡的な幻想入り。その代表例が東風谷早苗とその一家である。早苗の持つ『奇跡を起こす程度の能力』で文字通り奇跡的に幻想入りをした(勿論彼女たちは狙って奇跡を起こしたのだが)。じつは、なぜか最近では外来人が急激に増加しあっちやこっちで面倒ごとを起こしたりしているらしい。このことを受け、幻想郷を取り囲む結界が強化され、今ではこの奇跡的な方法はあり得ないものになっている。

よって、幻想入りするのならば『スキマ』を通るしか、今は方法はない。だが、これならば紫が引き入れるため、『初めて会う』というのはあり得ないのだ。

 

「まさか、また結界に綻びが?」

「いや、それはないわね。異変の最中ずっと結界を全部精密に調べたけど、どこにも綻びなんてなかったわ」

「あー、だから異変中現れなかったのね。じゃ、なんであの二人はここにいるのよ」

「分からないわよ。まったく見当つかないわ。ただ……」

 

ただ?、と霊夢がその先を促す。

 

「あの二人、もうゆう君の方はもう薄れてるけど『スキマ』を通った跡があったのよ」

「はぁ? アンタが連れ込んだわけじゃないんでしょ? ならなんで」

「だから、分からないわよ。今藍が調査中だから待ってなさい」

 

霊夢は顎に手を添えて考える。

 

「(ユウの能力? いやでも……あり得なくはないけど……)」

 

ユウの能力が『能力を受け付けない程度の能力』ではないことには霊夢も薄々気が付いていた。まだ断定はできないが、そのような能力ではないはずだ。

少しとらえ方がぶれているのか、はたまた全く違っているのか―――

と、ここまで考えたところで思考を中断する。

そろそろ『おまけ』を紫に渡さなくては。

逃げようとする紫を捕まえ、イイ笑顔で言った。

 

「そういえば、私の出番をよく奪ってくれたわねぇ紫?」

「え……あ……あれはちょっとした出来心で……」

「はいはい夢想封印夢想封印」

「いやあああああああああ!!」

 

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

宴会も進み、夜になって来た頃。

昼までは種族上来ることが難しい方々が入場した。

それを見て、洩矢組に撫で繰り回されていたユウが立ち上がりその人たちの元へ元気に駆け寄った。

 

「あ! フラン!」

「ユウ!」

 

紅魔組のみなさんだ。他にもぞろぞろと性質上夜しか来れない妖怪が乱入してくる。

これにより、ただでさえギュウギュウ詰めな境内がさらにギュウギュウ詰めになった。

 

「元気そうで何よりね、ユウ」

「あ、レミリアさん、お久しぶりです」

 

そこにはもちろん、レミリア、咲夜、美鈴、パチュリー、小悪魔も一緒だ。

今回の異変は大きいだけあって、主要人物が全員大集結している。

 

「大変だったみたいじゃない。大丈夫だったの?」

「はい。怪我とかしてないので大丈夫ですよ」

 

あははと笑うユウに微笑むレミリア。

今日はいつにも増してカリスマがあふれていた。

ユウは、フランと一緒に紅魔組と移動する。着いたのは神社の縁側だ。

 

「ユウはお酒飲めないんだったわね」

「あ、あはは……すいません」

 

以前、勇儀にお酒を飲まされた時に昏睡状態になってしまったユウ。

あの時のお酒は相当度が強いものだったせいか、ギリギリでセウトだった。

 

「貴女も来なさい」

 

突然レミリアが誰かを呼ぶ。

レミリアの視線の先から現れたのは、ユウの義姉の理沙だった。

 

「私もいいんですか?」

「ええもちろん。あなたに興味があるのよ」

「私、周り見てくる!」

「ええ、フラン。いってらっしゃい」

 

やったーー!とフランはピューーとどこかへ行ってしまった。

 

「咲夜、ユウの面倒見てあげて。私はこの子と話すから」

「かしこまりました」

「私もちょっと行ってくるわ。あの白黒から本を取り返さなくちゃいけないから」

「あ、じゃあわたしも」

「小悪魔は残ってていいわよ。そんなに人はいらないし」

「そうですか……」

 

そういうと、レミリアは理沙を連れてどこかへ行き、パチュリーは魔理沙の捜索を開始した。

残ったのは、咲夜、美鈴、小悪魔、そしてユウ。そして各自縁側に座る。

ここで少し想像してほしい。ユウは人見知りで、年もまだ浅い少年である。そこに桁外れの別嬪さんが三人もいるのだ。羨ましいとしか思えないシチュエーションにユウが若干だが困惑している。

さらに、位置が悪い。悪すぎる。いつかのように小悪魔の上にユウが座り、隣に美鈴がいる。極めつけは咲夜は正面に立っており、もう視線の逃げ場が無い。

しかも小悪魔は現在進行形でユウを撫でている。ユウの神経はゴリゴリ削られていた。

ユウもこうなるとは微塵も考えておらず、困惑が風船のようにどんどん大きくなる。

このままでは破裂しかねない。ユウは焦りで、せめてもの小悪魔からの脱出を試みる。

しかし、かわいい系男子に目がない小悪魔は勿論それを認めない。

 

「えへへ~」

「こ、小悪魔さん!?」

 

頭なでなでを中止し、脇に手を入れガッチリとホールドする。

ユウの困惑の風船に送り込まれる空気のペースが上がる。

わたわたしだすユウだが、その姿も小悪魔にはかわいいものとして見えた。

 

「こら、小悪魔。いいかげんにしなさい」

「えー、いいじゃないですか咲夜さ~ん」

「まったく……」

 

咲夜も諦めてしまったようで、美鈴は隣で微笑ましそうに見ているだけ。

どうやら助けは来ないようだ。ユウは覚悟を決め、おとなしくすることにした。

 

「どうぞ、これなら飲めますよね?」

「あ、ありがとうございます……」

 

ユウは咲夜から渡されたアップルジュースを受け取り、飲む。

ほのかな甘みと冷たいジュースのおかげで、困惑の風船はどんどんしぼんでいく。

 

「もー咲夜さんったらここでも敬語にしちゃって~今ぐらいは普通に話したら?」

「美鈴、あなたもう酔ってるわね?」

「酔ってないわよ。もっとこう、ラフな感じで! そっちの方がユウ君も安心できるでしょ? ね~ユウ君?」

「え、えっと……」

「ほら、ユウ君もそれがいいって言ってるじゃない」

「言ってないわよ……はぁ、分かったわよ。これでいいんでしょ?」

 

どんどんユウを置き去りにして話が展開されていく。

しぼみかけていた風船はまたしても膨らんでいった。

すると、不意に美鈴がユウの頭を撫でだす。少しお酒臭いところを見ると、若干酔っているようだ。

それによって一気に風船が膨張。どんどんユウが赤くなりだす。

 

「いやー、ゆう君の髪ってモフモフしてますね~」

「ぁぅ……」

 

想像してみて欲しい。

後ろに美少女(悪魔)、そして美少女(妖怪)に撫でられ、そして目を逸らそうにも待ち構えているのはやはり美少女(人間)。高校生の紳士ならどうするかわからない状況に、人見知りなショタが放り込まれているのだ。

見事にユウの意識の風船は破裂し、バタンキュ~と後ろ向きにポフッと倒れた。




はい、いかがでしたでしょうか。
羨ましいですね。いやもうホントに。
まぁ、僕だったら恐らく(自主規制)してますね。間違いなく。
ちなみにこれで薄い本を脳内で作っちゃった人は末期です。残念でした。
では、次回またお会いしましょう。ではでは。


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EP,27 【ユウと大宴会(犬)】

はい、どうも。CAKEです。
やっぱり揃えたかったです。ハイ。
二週間に一回ペースがやっぱりベストですかね。私の気持ち的に。
では、大宴会編二回目でございます。
今回はユウが大変なことになっちゃいます。
「いいぞ、もっとやれ」
という方はカラオケに行ってから本文へお進み下さい。


紅魔組から解放され、歩き回っていたユウ。

知らない人が多いため、話しかけようにもなかなか出来ずにいた。

その時、突然手を引っ張られてしまう。

 

「うわぁ!?」

 

そのまま倒れ込むと柔らかいものに着地。

恐る恐る視線を上げてみるとそこには、ピンク色の髪をした女性がこちらをのぞき込んでいた。

 

「貴女がユウ君ね、初めまして~」

「は、初めまして……」

 

ふんわりとした表情で覗き込まれ、ユウは少し視線を逸らす。

逸らした先には、緑色の服を着た銀髪の少女が正座をして座っていた。

 

「私は西行寺幽々子っていうのよ。あの子は魂魄妖夢。よろしくね~」

「こ、こちらこそよろしくお願いします……」

 

挨拶のために逸らしていた目線を元に戻して二人の顔を見るユウ。

その二人はお決まりのごとく美人さんで、挨拶直後にまたしても目を泳がしてしまう。

泳がしていると不意に白くて何かフワフワしてるものを発見する。

 

「あぁ、あれね。あれは妖夢の魂なのよ」

「た…魂?」

「わたしは、半分が人間で半分が幽霊の、いわば半人半霊なんです。これは、その幽霊の部分ですね」

「そ、そうなんですか……」

 

色んな人がいるんだなぁ、と理解できないなりにも思うユウ。

するとそこで、今の自分の体制にふと気が付いた。

 

「えっと……あの……」

「ん? なぁに?」

「このままもあれなので、座らせてもらってもいいですか……?」

 

そう、ユウは今絶賛膝枕され中なのだ。

倒れ込んだ時とは大分体勢が違うのだが、それは一体なぜなのだろうか。

 

「あら? 膝枕嫌いなの?」

「そういうわけじゃないんですけどッ! なんか……恥ずかしいと言いますか……」

「大丈夫よ~誰も気にしないから」

「僕が気にするんですけども……」

「我慢しなさい。男の子でしょ?」

「えぇ……」

 

いつの間にやら膝枕をされていたユウは羞恥心で顔を赤くしてしまう。

その反応を見て幽々子はふんわりと微笑んだ。

 

「それにしてもおかしいわね~」

「ひぅッ!?」

 

幽々子はそういうとユウの頭を撫でた。

正確には、ユウの頭についている『モノ』をだが。

 

「人間の子供って聞いていたのだけど、なんでここに犬耳なんてあるのかしら」

「ひゃうッ!?」

 

現在、ユウの頭には犬耳がくっついていた。

さらに、

 

「ちゃんと感覚もあるみたいだし……妖夢、そっちも確かめてみて」

「はい」

「ひゃうぅ!!??」

 

ユウの腰からは尻尾がくっついてる。しかも、しっかり感覚まであるらしい。

傍から見れば、犬人としか思えないような格好をしていた。

こうなってしまったのは、一時間前の事が原因になる。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「ん………」

「あ! 起きましたよ咲夜さん!」

「……そうね」

 

美女に囲まれて目を回し気絶してしまったユウ。

その眠りから覚め、目を開けた。

 

「大丈夫? ユウ」

「フラン……?」

 

そしてそこには散歩から帰って来たフランもいたのだ。

よく見れば、理沙とレミリアも帰ってきている。

どうやら、同じ『姉』という立場で二人の会話には花が咲き乱れたらしい、すっかり仲良くなっているように見える。

 

「(……ん?)」

 

突然、ユウにもぞもぞするような感覚が頭に走った。

アクは現在、どこかで寝ているはずだからいないはずなのに……と手を頭に乗せる。

 

モフッ

 

「……え?」

「「「………」」」

「「………」」

 

なぜだろうか、自分の頭に何かある。しかもなぜか感覚がある。

しかも何故か咲夜、レミリア、美鈴が妙な目をしてこちらを見ている。

理沙姉とフランは目をキラキラさせてこっちを見ているし、というか気が付けば全員に注目されている。

すると、小悪魔がイイ笑顔で鏡をこちらに向けてきた。

 

ピコピコ

 

………犬耳があった。

それはもう立派な犬耳でユウの頭に違和感なく乗っかっている。

 

「……え?」

 

思考停止。

ユウの頭は予想外の事にフリーズした。そして、数秒後。

 

「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

大絶叫。

皆の視線の意味が分かると同時にパニックに陥ってしまった。

 

「え!? えぇ!? 何これ!!??」

「私特製のゆう君専用コスプレアイテムです」

「どういうこと!?」

「いやー、前からゆう君犬みたいでかわいいな~って思ってたんですよね~」

「いやだからどういうこと!?」

「ユウ、似合ってるよ!」

「フランまでどういうことなの!?」

 

簡単な話、ユウの気絶中に小悪魔が密かに作っていたコスプレグッズを装着させられていたということ。感覚がリンクしているのはパチュリーの魔導書を参考にしたらしい。

 

「それにほら、尻尾も」

「え、あ! ホントだ!」

「いやー、やっぱり獣人ショタは萌えますよね~」

「どういうことなの!?」

 

満足げな顔で凝視……というよりかは視姦している小悪魔に寒気が走るユウ。

思わず身を両腕で庇ってしまい、後ずさってしまう。そしてその背後には黒い影。

 

「とーーう!」

「へ? ひゃッ!?」

 

黒いの正体はフランだった。ユウはフランに思いっきり後ろから抱き着かれてしまった。

その拍子でうつ伏せに倒れてしまう。その上にはフランがいる。

そしてフランはユウについている犬耳を撫で始めた。

 

「えへへ~、フワフワだ~」

「フ、フラン!? ちょ、やめ、ひぅッ!?」

「あ、感覚はリンクしてますよ。触り慣れてない場所なので結構敏感になってるかも」

 

そんな言葉はもはや、ユウの耳には入っておらず、よくわからない感覚に悶えるばかりだった。

 

「こ、小悪魔……さんっ……外して……くださ……」

「因みに尻尾は感情に合わせて動くようになっています」

「あ……あのっ!」

「妹様、そろそろお止めになられた方がよろしいかと」

「えー? 触ってて気持ちいよ?」

「た、助けッ……!」

「ですが、ユウがまた気絶しますよ?」

「むー、分かったよ」

「……」

 

そういってフランは素直に離れた。

そして残ったのは、一言も発さず顔を紅潮させプルプルと震えるユウの姿。

 

「(あっ、これダメなやつだ)」

 

誰かがそう思った。

未だ動けずにいるユウのもとに美鈴が駆け寄りユウの頭をそっと撫でる。

 

「よしよし、怖かったね」

「め、美鈴ざ~ん……グズッ」

 

よくわからない感覚が怖かったのが美鈴に泣きついてしまうユウ。

美鈴の温かさが安心できて、何よりも嬉しかったのだ。

泣きつくユウを優しくあやす美鈴。そんな母子を思い起こさせるような光景に周りにいた者達はというと

 

フ「(あ、尻尾動いてる)」

裡「(やっぱ変わってないわね~)」

咲「(ほんとに動くのねあの尻尾)」

小「(かわいいですね~)」

レ「(………)」

 

総じて尻尾に着目していた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

そして現在。

 

「あ、幽々子様。これ、作り物です」

「そうだったのね~。でも、感覚はあるのね」

「魔法道具の類かと思われます、幽々子様」

「パチュリーあたりかしら? にしても、モフモフしてて気持ちいいわねー」

「ひゃッ! ちょ、尻尾も……ひゃうぅ!」

「あら可愛い。しばらく続けましょうか。妖夢、尻尾をお願いね」

「……わかりました」

「やめてぇぇぇ!!!」

 

ユウは再び生命の危機に瀕していた。




はい、いかがでしたでしょうか。
これがやりたかっただけです。はい。
今回はユウ、叫んでばっかしでしたね。嬌声もなかなか多めで……ムフ
この大宴会の中はずっと犬人状態でいてもらいましょうかね(笑)
次回は白玉楼組とです。まぁ、ある意味生きてればね………
では、また次回。


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EP,28 【ユウと大宴会(白)】

はい、どうも。CAKEです。
大宴会編第三弾となりました。
果たして、ユウはまだ存命なのでしょうか?
今回は百玉楼組のお二人です!
「いいぞ、もっとやれ」
という方は心霊スポットを訪れてから本文へお進みください。


小悪魔のハイスぺックコスプレグッズによって犬人化してしまったユウ。

犬耳と尻尾にも神経が通っており、触れると極度に反応してしまうというユウにとって恐らく最悪に近い罰ゲームになってしまった。

そしてまぁ、予想通りあらゆる人にモフられ、悶絶する羽目になってしまい……

取ろうと思っても神経が通っているためか痛覚までそのままダイレクトに感じてしまい取れずにいる。小悪魔に魔法を切り取ってと懇願するもやはり断られてしまった。

そして今、

 

「気持ち良いわね~この感触」

「……! ……ッ!」

 

ユウは風前の灯火未満の命の炎が今まさに消えようとしていた。

ユウの脳裏に走馬灯のようにあらゆる思い出が一瞬で蘇る。

初めて幻想郷に来た事、神社での幸せな日々、妖怪に襲われた怖い思い出、紅魔館の少し怖かったけど楽しい人たち、友達になった妖精や妖怪と遊んだ日々、記憶に新しい異変。

 

「(たのし……かったなぁ………)」

 

炎が物凄い勢いで小さくなる中、ユウはそんなことを思ってしまう。

しかし、炎が凝縮しきるその直前、助け船が出されることとなる

 

「あの、幽々子様……そろそろお止めになった方が……」

「あら? 何でかしら?」

「ユウ様がそろそろ……」

「………あら」

 

ユウは膝枕された状態でビクビクと震えていた。顔は真っ赤に染まり、何とか意識は保てているものの触覚以外の感覚が麻痺している。

恐らくは今何かを話しかけたとしても、ユウの耳はそれを聞き取ってはくれないだろう。

一時間前、誰かが思ったことと全く同じ感想を二人は心の中で呟いた。

 

「(あぁ、これはダメなやつだわ)」

「(どう見てもダメなやつですね)」

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「うぅ~~~~~~……」

「ごめんなさいね、ユウ。謝るから許してちょうだい?」

「も、申し訳ありませんでした……」

 

数分後、ユウが徐々に復活。

今はユウ、幽々子、妖夢の三人で輪を作って座布団の上に正座で座っている。

もうすでにあの時のヨクワカラナイ感覚は消え去ったのだが、次は羞恥心がフツフツと沸き上がり結局顔を真っ赤に染めたまんまだった。

 

「悪気はなかったのよ。許してくれないかしら?」

「……」

 

数秒の間の後、ユウはコクリと頷いた。

それを見た妖夢は安堵した表情を浮かばせる。主人の命令(?)だったからとはいえ、初めましてであんなことをしてしまい、嫌われると思っていたらしい。

 

「ありがとう、ユウ。ところでなんだけど……」

 

そういって幽々子は掌を上に広げる。

そこには赤と黒の斑点が美しいテントウムシがいた。

 

「あっ、アク!」

「へぇ、アクっていうのねこの子。あなたの髪から出てきて少しびっくりしたわよ?」

 

ユウは幽々子の傍に行き、アクを受け取る。

するとアクは嬉しそうに掌を歩いて、そして羽を広げてユウの髪の中へと潜っていった。

 

「仲良いのね」

「はい、一緒に将棋を打ったりとかしてる友達なんです」

「(テントウムシが……将棋?)」

「そう、で? ユウは何回勝ったのかしら?全勝?」

「い、いえ……全勝どころか、全敗というか…」

「(テントウムシ相手に全敗ッ!?)」

「あらあら、ダメじゃない。今度教えてあげましょうか?」

「え、いいんですか?」

「ええ、アクがいいのならね」

「ホントですか!? ……あ、アクもいいみたいです。というかちょっといつもより右側がムズムズするような……って痛い!?」

「(それ以前にテントウムシと会話!!??)」

「どうしたの妖夢、驚いたような顔しちゃって」

「…ヘッ!? イ、イヤ!? 何でもナイデスヨ!!??」

 

振り返ってみると、なるほど確かにおかしい会話である。

白玉楼の真面目庭師にはまだ早かったのだろう、頭が混乱し変な返事をしてしまっていた。

 

「えっと…どうしたんですか……?」

 

ユウが心配そうに妖夢に聞く。

その心配げな顔に妖夢は正直に質問することにした。

 

「えっと………アク…さん? ってどんな虫なんですか?」

「テントウムシだよ?」

「いえそうではなく……テントウムシって会話出来たり将棋打てたりしましたっけ……?」

「妖夢、虫も日々進化するものなのよ?」

「えっ!?」

「このくらい、テントウムシにとっちゃ軽いものなのよ?」

「えぇッ!?」

 

幽々子の嘘八百に驚く妖夢。

じつは、アクは元々ただのテントウムシではなかった。幻想郷に住む力のある者達と同じ、『能力』を持っているのだ。それは『言語を理解する程度の能力』。その内容は字のごとく、書かれた文字や話された言葉の意味を理解できる。だからユウの言葉に反応できるし、一度知った物事は忘れることはあまりない。例えば、どこかの寺で偶然見た将棋の対戦のルールのまとめ本を読めばアクも将棋で遊べるのだ。それ以前に、アク自身の潜在能力が凄まじいのだろうが、それゆえについた能力なのかもしれない。

そのことをリグルから聞いていたユウはそのことを妖夢に話すと、妖夢は納得した様子だったが主人のはずの幽々子を恨みがましい目で睨みつけていた。

からかわれたのが恥ずかしかったようだ。少し顔が赤い。

それを幽々子はおほほと華麗に受け流していた。

 

「あら、もうお酒がない」

「えっ」

 

唐突に、幽々子がつぶやく。

その手には確かに空になった一升瓶が掲げられていた。

それだけではない。幽々子の近くのちゃぶ台には空の一升瓶が大量に、無造作に置かれてあった。

実はこれらは数分前はほぼ全て満タン状態だったのだ。

全部で36リットルはあっただろうお酒をものの数分で空にしてしまった幽々子。

ユウはその信じがたい光景に呆然としていた。

 

「ちょっとお酒取ってくるわね~。……樽二つくらい」

「!?」

 

ユウは戦慄する。

恐らく幽々子が向かったのは博麗神社の酒蔵。そこには大量の酒が保管されており、ユウも掃除するときにそこに入ったことがある。

 

「(確かあの樽って僕の何倍も大きかったような…?)」

 

それを二つ。

ユウは恐る恐る妖夢に聞く。

 

「あの……妖夢さん?」

「はい、なんですか?」

「幽々子さんって……その、しゅ、酒豪? だったりします……?」

 

思い出すのはいつぞやのパーティー。

地底の酒豪こと星熊勇儀に高アルコールの酒を飲まされたとき、ユウは思ったのだ。

酒をたくさん飲む人は、恐ろしいと。

 

「あー……酒、というより幽々子様は大食いですね」

「大食い?」

「はい。幽々子様の食事量は恐らくユウ様の夜ご飯の10倍かと」

「10倍!?」

「あ、これは朝食です」

「朝食ッ!!??」

 

驚きを隠すことなど不可能、妖夢に詰め寄ってしまうユウ。

そしてその視界の隅に樽二つ分を片手で運ぶ幽々子が映る。

 

「ただいま~」

「おかえりなさい」

「……」

 

ユウは思う。

酒豪より大食いの方が恐ろしいかもしれない、と。

 




いかがでしたでしょうか。
出来る限り幽々子のイメージを皆さん寄りにしてみました。
大丈夫……かな……?
妖夢が硬すぎたかな?と思ったりもしているのですが僕のイメージは『常に敬語な真面目庭師兼剣士(焦ると崩れる)』っていう感じなので、このままいきます。
さて、お次は誰ですかね?
では、また次回。


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EP,29 【ユウと大宴会(烏)】

はい、どうも。CAKEです。
大宴会はまだまだ続きます。
今回はあの方が久しぶりに登場します。
そして、少し注意があります。
たぶん、きっと、恐らくキャラ崩壊が存在しています。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は独り相撲をしてから本文へお進みください。


「ふーん、大変だったのね~」

「え、いや、僕はただ攫われただけですし……」

 

幽々子に異変の時の事を聞かれ答えているユウ。

今までより規模の大きい異変でありさらに黒幕は単独犯だと射命丸文が出版している『文々。新聞』に書かれている。しかし、この異変の現象である感染型鬱病のせいで大した情報量はなく、いつも通りのデタラメが存在するいつもの新聞になっていた。

しかし、そういうのは彼女たちに通じないようで射命丸が仕掛けたデタラメだけをスルーしている。しかし、大した情報量は無く、『単独犯』『大規模な鬱病』くらいしかわかっていない。そこで白玉楼組はユウに詳しいことを聞いていたのだ。

樽に直接ストローを入れて酒を飲みながら。

 

「あ、いやそうじゃなくて」

 

幽々子が酒を軽く飲みながら手を胸の前で振る。

ストローから口を話し、『大変』の意味を言う。

 

「弱っていたとはいえ、フラワーマスターさんと暗いトコで一緒だったんでしょ~? よく『気』に耐えられたわね~」

「フラワーマスター? 気?」

「フラワーマスターというのは風見幽香さんの二つ名みたいなものなんです。あと、気っていうのは妖力の事ですね」

「は、はぁ…えっと、それが何故『大変』なんでしょうか…?」

「その様子だと大丈夫だったみたいね~。フラワーマスターさん、嗜虐趣味があるから鬱憤晴らしに――ってことがあると思ったんだけど」

 

ここにきて幽香の嗜虐趣味をカミングアウトされたユウ。

しかし、ここはまだ幼い男子。首を少し曲げ、

 

「シギャクシュミ……?」

「教えてあげましょうか?」

「やめてください幽々子様」

 

教えようとした主人を速攻で止めにかかる妖夢。

嗜虐趣味という言葉をどんなものかを知らないユウは、あとで幽香さんに将棋をしながらどんなものかを教えてもらおうという、一番分かりやすくて最も危険なことを考えていた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「さて、そろそろ他のところに行く? ユウ」

「え?」

 

数分時が過ぎ、幽々子が突然こんなことを言った。

ユウと妖夢の頭の上に『?』が浮かぶ様子を見てクスリと笑うと

 

「だってユウは顔合わせのために散策してたんでしょ? 誰から話しかけようか悩んでずっとウロウロしてたから私がここに引きずり込んだわけだしね」

「あ、あはは……」

 

人見知りなユウが自ら話しかけるのは至難の業に等しい行為。しかも前回では乱入とはいえ少しひどい目にも会った。なので、ユウは人選に対して慎重なりすぎてしまい、なかなか話しかけることができなかったのだ。

今更それを自覚し空笑いするユウ。

 

「折角だし、妖夢も着いていってあげなさい」

「え……いいんですか?」

「えぇもちろん。たまには羽を伸ばしてらっしゃい」

 

そういってふんわり微笑む幽々子。

その様はまるで母親のようだった。

 

「ありがとうございます。行ってきます」

「い、行ってきます」

「は~い、いってらっしゃ~い」

 

こうしてユウと妖夢は幽々子のもとを離れ、挨拶巡りを開始した。

といっても、今回の宴会は大所帯のため、あまり歩く必要はなくすぐにたどり着いてしまうのだが。

そして誰かいないかなと二人が探していると、突然突風が来た。

 

「あややや!? 妖夢さんが幽々子さんの元を離れていらっしゃる!? さらになぜか犬人になってるユウさんと一緒!? 何があったんですかねえねえねえ」

「落ち着いてください文先輩。それとメモ帳と鉛筆をしまってください」

 

そう、風を操る幻想郷最速の天狗こと射命丸文である。

その背後にいるのは、ユウとは初めましての白い少女がいた。

 

「アナタはこの特ダネ臭漂うこの現象を見逃せというんですか!? いや見逃せない見逃さない見逃させない! さぁお二方今ここで全てを吐いてくだ――」

「落ち着きなさい」

「ぎゃふん!」

 

後ろにいた白い少女が大きくて硬そうで重そうなものを文の頭に振り下ろす。

文は一発KOし、地に伏しながらプルプルして頭を抱えていた。

この間何と10秒弱。出落ち感が溢れて止まらない文であった。

 

「あ、初めまして。私は白狼天狗の犬走椛と言います。一応、文先輩の後輩みたいな立ち位置です」

「あ、はい。初めマシテ……」

 

激動の十秒間を体験した直後のユウは心が少し離れかけていた。

妖夢は慣れているのか全く動じず、大丈夫ですかと文に話しかけていた。

 

「突然ですがユウさん」

「な、なんでしょうか椛さん」

「敬語やめていいですか? お互いに」

「へ?」

 

十秒間の処理を未だ絶賛進行中のユウだが、さらに意味不明の出来事がおこった。

敬語をやめていいかと聞かれ、別にいいんだけどこういう時ってどう返したらいいんだろういやそもそも何でなんだろうと高速思考を行うユウだったが、ついには

 

「え、えっと……だ、大丈夫デス」

「ふぅ、ありがとう。じゃあユウ、こっちに来てくれる?」

「ハイ」

 

ユウは考えるのを止めた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「(我ながらバカなこと言っちゃったなぁ……)」

 

ユウを膝に乗せ座る椛はそんなことを考えた。

ユウの事は文から聞いたことのある程度で「可愛い子なんですよー」とか「弄りがいがあるんですよねー」とか「今度会ったら何しましょうかー」とかそんなことしか聞いていない。

しかしそんな話を聞いていると、会ってみたいと思うようになってきていた。

どんな人間なんだろうと思い、今回の宴会で会えるかなと若干そわそわしていた椛だったが突然困った先輩こと文が

 

「む! スクープの匂い! 椛、行きますよ!」

「え!? あぁもう待ってくださいというか宴会中は控えてください!」

 

と追いかけると、そこには白玉楼の庭師とユウがいた。

そう、小悪魔特製高性能コスプレグッズにより一時的に犬人化しているユウがいたのだ。

ピコピコ動くその犬耳に迂闊にもこんなことを思ってしまった。

 

「(………弟?)」

 

そして、いやいや私は狼でしょと即座に自分突っ込みを入れる椛。

しかし、何故かはわからないが物凄い庇護欲に襲われた。

人間の男の子と聞いていたのでなんで犬耳が付いてるんだろうあと尻尾も、とは思ったがそんなこたぁどうでもいいと即座に思考を切り替え絶賛暴走中の文を大剣で止める。

 

「あ、初めまして。私は白狼天狗の犬走椛と言います。一応、文先輩の後輩みたいな立ち位置です」

「あ、はい。初めマシテ……」

 

相当困惑してるんだろうなぁ、と目の前で分かりやすく困惑しているユウを見てそう思う椛。

その様は、椛の庇護欲を駆り立てることになった。

 

「(もう、いいか)」

 

と、そうそうに諦めてしまったこっちもこっちで暴走している椛は、ならばとこんなことを口走った。

 

「敬語やめていいですか? お互いに」

「へ? え、えっと……だ、大丈夫デス」

 

よっしゃぁッ、と心の中でガッツポーズをする暴走椛。

そして続けざまに次の行動を開始。

この時点で椛にこんな欲が出てきていた。

 

「(モフモフしたい)」

 

もはや手遅れな椛は、こっち来てと言葉と共に手招きをする。

そして膝の上に乗せて座り、現在に至る。

ユウの頭を撫でながら悦に浸る椛と、なにやら顔をほんのり染めているユウ。

その光景はまるで姉弟のように見えた。

 

「(ユウさんまた撫でられて……あぁ、他の人も見てる。この後大変になるだろうなぁ)」

 

妖夢はプルプル震える文の頭を撫でながらそんなことを思っていた。

どうやら、ユウの挨拶巡りは苦労が絶えないことになりそうである。




はい、いかがでしたでしょうか。
そう、キャラ崩壊の可能性があるのは椛さんこともみちゃんです。
普段は敬語しか使わないキャラだと僕は思っています。
犬走椛、暴走椛……うまいこと言ったつもりです、はい。
あ、因みにもみちゃんは東方キャラの中で僕が一番好きなキャラです。かわいい(確信)。
では、また次回お会いしましょう。
ではでは。


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EP,30 【そんなとき、霊夢は】

はい、どうも。CAKEです。
ついにEP,30まで漕ぎつくことができました。
これも皆様のおかげ。感謝感激雨嵐天変地異でございます。
今回は霊夢さん中心のお話になります。
この小説のヒントになることが多量に含まれているので少し想像しながらご覧ください。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は、レイトン教授をプレイしてから本文へお進みください。


「……いつできたのよ、あの大所帯は」

「あはは、珍しいことになってるぜ?」

「しかも何なのよ、あの犬耳と尻尾は」

「さぁ、分からないぜ」

 

霊夢と魔理沙は、ユウを見てそう呟いた。

正確には、ユウの周りの人物をだが。

 

「妖夢に椛に文……しかもユウは椛に抱き着かれてるし……一体全体何があったのよ」

「えーと妖夢と椛は分からんとして文はすぐ分かるな」

「そりゃそうでしょ。目がネタになってるもの」

「こりゃ明日の新聞は買いだな」

 

現在、ユウは挨拶巡りをしている場合ではなかった。

保護者であるはずの妖夢は温かい目を向けるだけで何もできずにいて、椛はユウの姉のように振る舞っていた。文に至っては「椛に異変が……!?」とメモ帳と鉛筆をワナワナさせている始末。

 

「あれはもう助けは来ないわね」

「なんだなんだ、心配か?」

「ま、保護者みたいなものだからね」

「なっ……!?」

 

魔理沙が驚愕した顔で霊夢を見る。

それはもう、常識が覆された時のリアクションと酷似していた。

 

「……なによ」

「…いや、まさか霊夢がアッサリ認めるとは思わなくて……」

「どういうことかしら?」

 

霊夢が凄くイイ笑顔で魔理沙に詰め寄る。

魔理沙は目を逸らせながら誤魔化しに入った。

 

「まぁ、うん。その……あれだ。変わったな、霊夢」

「はぁ? どこがよ」

「いや、前は金以外無関心っていう感じだったから、その……なんだ。友達として嬉しいぜ」

「どういうことなの……」

 

魔理沙は、ユウが来る前の霊夢を少し思い出す。

あの頃の霊夢は、何事にも深い興味を示さずにいた。話を持ち掛けると口には出さないもののまず思うのが、面倒くさいの一言だった。そしてそれは人を対象にしても同じで、少なくとも誰かを心配するなどまずなかった。

しかし、ユウが来てから、霊夢は本当に変わった。ユウが遅れて帰って来た時に般若のように怒る霊夢を魔理沙は何度も見ているし、つい先ほどの心配している発言がいい証拠だろう。

 

「うん……悪くないな。やっぱ」

「なんのことなのよ……」

「いやいや、気にしなくてもいいぜ?」

「はぁ……まあいいけど」

 

魔理沙は少し笑って酒を飲む。と、同時にむせ返った。

喉が焼けるような感覚、魔理沙は盛大に咳き込みながら言った。

 

「ゲホッ! ゲホッ! …萃香! お前酒すり替えたろ!」

「あ、バレた?」

 

すると虚空から萃香の姿が現れる。

伊吹萃香、彼女は『密と疎を操る程度の能力』を持っており体を霧のように疎らにすることによって疑似的に姿を消すことができる。

そうして現れた萃香はにっこりとしたいい笑顔をしながらある酒が入った一升瓶を持っていた。

 

「ちょ、おま、それ『鬼殺し・改弐』じゃないか! そんなもん私は飲めないぜ!?」

「うん、私もちょっとキツイかな。アルコールに味を足したようなものだからね」

「そんなもの人間の私が飲めるわけないだろーー!」

 

ウガ――ッ!と怒る魔理沙を尻目にアハハという笑い声を残して逃げる萃香。

霊夢はそこに置かれた『鬼殺し・改弐』をアルコール度数を見てみた。

 

「アルコール度数98%って……って、体感アルコール度数160%!?」

 

鬼の酒に対する執念は凄かった。体感アルコール度数が100%を軽々しく突破するほどに。

頭を抱えため息をこぼす霊夢。

 

「……………ッ!?」

 

そしてその時、霊夢にある直感が走った。

霊夢の勘はとてもよく当たる。そしてそれを理解している霊夢は神橋理沙が参戦してきて混沌に拍車をかけているユウ達を尻目にその場所へと向かった。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「……」

 

その男は、木の陰から見ていた。じっと、彼女を見ていた。

その眼差しは温かく、そして穏やかなものだった。

彼は、辺りを見回してみる。周りにバレたらまずいので、遠く離れているところから見ているがとても賑やかで楽しそうで、彼の夢がそこに詰まっているような錯覚を受けた。

いっそのこと登場して混ざってしまおうかとも考えたが彼女を見て、考えを改めた。

やはり、あの場に混ざる資格など、俺にはない。

そう考え、おとなしく酒瓶を取り出して、口で器用に開けてそれを飲む。

その時、後ろから声が聞こえた。

 

「あんた、誰よ」

 

後ろを向くと、まず目に入るのは紅白の派手な巫女服。博麗の巫女がそこにいた。

彼はもう一度酒を飲み、ゆっくりとした口調で返事をする。

 

「やぁ、博麗の巫女さん。博麗レムさんで合ってるかな?」

「霊夢よ霊夢。で、あんたは何者?」

「おっと、申し訳ない。それで何者か、か。そうだね……旅人かな」

「へぇ、旅人ね。見たところ人間のようだけどアンタ名前は?」

「俺の名前は……そうだね、訳があって言えないんだが、それでもいいかい?」

「……まぁ、いいわ。それよりもアンタ、見ない顔ね。外来人?」

「外来人とは、ちょっと違うかな。でもまぁ、似たようなものさ」

「ふぅん……」

 

霊夢は言った会話を止め、宴会会場を眺めながら酒を飲む男を観察する。

体全体を黒いローブで隠しており、見えるのはせいぜい口元が見え隠れするだけ。すこし髭が生えているのが分かる。ローブの掛かり方からして右腕は無いようだ。何があったかは知らないが置いておくとする。足には黒いブーツを着用しており何も問題は無いように見える。霊力はいたって普通レベル。何も特異点は見当たらない。

しかし、それが逆に不気味だった。彼は間違いなく外来人。そして、現在幻想入りする方法は八雲紫による神隠ししかない。

 

「……アンタ、どうやって幻想入りしたか覚えてる?」

「幻想入り? ……あぁ、そういう事か。確かにそう呼ばれてたな。いや、あまり覚えてないよ」

「なにか、気持ち悪い空間に入ったりしなかった?」

「いんや、しなかったね」

 

またしても謎の幻想入り。

もうこれは異変なんじゃいかと思い、勘弁してよと呻き声をあげる。

それが聞こえたのか、彼はハハハを笑い声をあげた。

 

「大丈夫、異変なんかじゃないさ。気にしなくていいよ」

「……何か知ってるの?」

「さぁね。そんなことより、異変解決おめでとう。現場には行けなかったけど凄かったらしいじゃないか。さすがだね」

「……どうも」

「ただ」

 

彼は先ほどの少し茶化すような声色を止め真面目な口調でこう言った。

 

「この後にも、気を付けるようにね。まだ、終わってないかもしれないから」

「……は?」

「じゃあ、俺はもう行くよ。頑張ってな」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

そう呼びかけるものの、彼は凄まじいスピードで去っていった。

思わずため息がこぼれてしまう。

 

「……紫」

「あら、気付いてたの」

「当たり前でしょ。……で?」

 

紫が閉じていたスキマから出てくる。

そしてこちらもまた、ふざけたようなムードは全て消え去る。

 

「彼を招待した覚えはないわ。それに、スキマを通ったような跡もなかった」

「……どういう事よ」

「さぁ、結界は万全のはずだし、スキマも通ってない。ますます分からないわね」

「で? どうするつもりなの?」

「既に藍に彼を尾行させてる。私はこの宴会が終わったら結界の確認にいくわ。その時は、あなたも着いてきて」

「はいはい。じゃ、戻りましょうか」

「ええ、そうね」

 

こうして、二人は宴会会場へと戻っていった。

その時彼女達が目にしたものは、姉的存在が一人増え、膝枕をされているユウ。

紫と霊夢は、ただただ苦笑いを溢し見守ることしかできなかった。

 




はい。いかがでしたでしょうか。
謎の黒ローブさんここで登場です。さて、いったい何者なんでしょうかね。
そして謎の幻想入りが三連続、そして謎の言葉……
謎が増えていくばかりです。
次回はユウ君の方に戻ります。
では、また次回お会いしましょう。
ではでは。



………あっ、そういえば『東方少年呪』一周年だ(遅)。
読者の皆様、ありがとうございます!!


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EP,31 【ユウと大宴会(心)】

はい、どうも。CAKEです。
何かと揃えたくなってしまうお年頃なのです。
今回はあのお方が来ます。そうです、やたらとファンが多いあの方です。
では、さくっと物語を進めましょうか。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は心を無にしてから本文へお進みください。


ユウの挨拶巡りの目付け役としてユウと共に行動している妖夢。

そんな彼女の前には、異様と言えなくもない光景が広がっていた。

白狼天狗である犬走椛の膝の上にユウは座っている。これだけでも挨拶巡りという主題から遠ざかっているが、それだけならまだいい方。だが、椛はユウをがっちりホールドして犬耳やら頭やらを名で繰り回していて、更に天狗である射命丸文はその光景に目を輝かせながらペンを走らせていた。一言でいえば、犬人コスプレをした人間に妖怪が二匹くっついているのだ。

そして、その光景を見て妖夢はたまらず声に出す。

 

「………どうしてこうなった…」

「? なにがですか?」

「なにがですか、じゃないですよ! これユウ君の挨拶巡りのはずでしたよね!?」

 

はて、と首をかしげる妖怪二匹。

その様子に妖夢は思わず声を荒げてしまう。

 

「いやいやいや! ずっとこれだとユウ君が動けないじゃないですか! それに何故お二人はユウ君を軽く拘束しているんですか!?」

「そこにネタがあるから」

「我が弟を愛でるため」

「すっごい不純な理由!? それと弟って誰のことですか!?」

「ユウ」

「絶ッッ対違いますよね!?」

「いえ、弟だと私が認めれば弟なんです」

「なにその暴論!? 今日なんか椛さんおかしいですよ!?」

 

ゼェーッハァーッ、と珍しく声を荒げ始める妖夢。

これには二人とも観念したのか、顔を見合わせ仕方ないというふうにユウを解放した。

椛がユウのわきに手を入れて持ち上げてユウを立たせる。

 

「まぁ、確かにこのままだとちょっとあれね」

「ふぇ……?」

「ほら、解放してあげたんだからさっさと行きましょう。それとも、もう一回妖怪たる私たちに捕まってみます? 自慢じゃないですが私はねちっこいですよ?」

「あ……い、行きます! 行かせてください!」

「……! そうですねっ! 行きましょうユウ君!」

「その必要はないですよ」

「ふぇ?」

 

妖夢が謎の義務感でユウの腕をつかみ、さぁいざ旅へ――というところで、背後から声がした。

振り向くとそこには、一人の幼女がいた。ピンク色の髪をしており、少し青っぽい服を身に着けていた。そして何より目立っているのは幼女に絡みつくように存在している紐状のものと、それに繋がっている一つの大きな眼である。その眼は半開きになっていて、ユウたちの方をじっと見つめている。

 

「え……さとり、さん?」

「ええ。私も少し暇だったので来てしまいました」

 

彼女は古明地さとり。地底に住む妖怪である。

彼女は普段地底にある地霊殿という館から一歩も出ない、言ってしまえば引きこもり妖怪なのである。もちろんそれにも理由があるが、妖夢はさとりがこの宴会に来ていることに少し驚いていた。

 

「おぉっと! ここでまさかのさとりん登場ですか! これはペンが捗りま―――」

「自重してくださいねッ!」

「ぎゃふん!」

 

再度降ろされる椛の鉄剣。

一応峰打ちではあるが効果は絶大。再び文は床に倒れ伏してしまった。

 

「ふぅ、スッキリしました」

「ってコレ、ストレス発散のためだったんですか!?」

「最近発散する場所も少なくなっちゃって」

「やっぱり椛さん今日おかしいです!」

 

再び始まる妖夢と暴走椛の口論。

しかしさとりは我関せずという態度でユウに近づき、話しかけた。

 

「貴方がユウですね?」

「え、あ、はい。ユウといいます」

「ふふふ、そんなに緊張しなくていいのよ?」

「す、すみません……」

 

背丈のあまり変わらない二人、いつも相手の事は見上げて話していたユウにとっては新鮮な感覚だった。

 

「(優しい人っぽいなぁ……それに、綺麗な人だし……ってそうじゃなくて! いや綺麗だけど!)」

 

さとりの胸の前で浮いている眼に見つめられそんなことを考えるユウ。

 

「私は古明地さとりといいます。地底に住む、覚妖怪です」

「さ、覚妖怪……?」

 

聞いたことのない妖怪の名前に首をかしげるユウ。

 

「(いや、そもそもそんなに妖怪の種類知らないんだけども)」

「覚妖怪というのは、端的に言ってしまえばこの『第三の眼』を通して人の心を読むことができるんです」

「えっと……つまり…?」

「考えていることがわかるんです。ユウさん、妖怪の種類を余り知らないのでしたら教えて差し上げましょうか?」

「え!? え、あ、あ、あぁ、そういうことなんですか」

 

そこでようやく合点するユウ。

心を読める妖怪がいるなんて思ってもいなかった。妖怪のことをよく知らないことがバレたのは少しだけ恥ずかしいものの、そういうさとりは優しい笑みを浮かべて……

 

「(あれ?ちょっと待って?)」

 

ユウが何かに気づきかける。

ユウは少しうつむき手を顎に添える。霊夢がよくやっている考えるポーズだ。

 

――優しいひとっぽいなぁ……

 

「(あ)」

 

ユウがギギッと壊れた機械のように視線を上げる。

そこには、美しく優しい笑みを浮かべるさとりがいた。

 

「褒めても何も出ませんよ? 綺麗と言われたのは嬉しいですけどね」

「うわああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

うずくまって悶え始めるユウ。

その様子をさとりの第三の眼はしっかり見つめていた。

 

「(そうじゃん! そうことじゃん! 僕なに考えてるの!? 筒抜けだよ! いや綺麗な人であることには嘘はないから余計に恥ずかしいというか、なんかマズイというか――)」

「だから何も出ませんってば」

「うわああああああああああああああああああああああああああ!!??」

 

そして、ユウは数分たっぷり悶えた後、絞り出すような声で言った。

 

「もう……勘弁してください…」

「えー?でもこの眼は閉じれませんし……」

「でしたら、どこかに視線逸らせばよいのでは………」

「結構疲れるんですよ。恥ずかしくてどうにかなりそうなところ申し訳ありませんが、我慢してください」

「……グフッ」

「(うわぁ……さとりさんイイ顔してるなぁ……)」

「聞こえてますよ妖夢さん?」

「スイマセンッ!?」

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

辺りから心の声が聞こえていた。

普段は嫌気がさすその五月蠅さも、今のこの宴会の中ではそう鬱陶しくは感じられない。

こういうのもたまにはいいわね、と私は私の膝の上で羞恥心により息絶えそうになっているユウの髪を撫でた。彼の心は今何も考えていない。恐らく羞恥心で頭が真っ白になったのだろう。

これでこそ覚妖怪の醍醐味である。久しく味わっていなかったこの感覚も気持ちがいい。

 

「あの……さとりさん?」

「こいしですか?こいしは恐らくまたどこかを散歩しているんだと思いますよ」

 

古明地こいし、それは私の妹だ。要するにこいしも覚妖怪なのだが、今はとある事情で第三の目を閉じており、心が読めなくなってしまった代わりに無意識を操れるようになった。それにより、彼女の正確な場所は誰にも分からないのである。

それは姉である私も例外ではなく、私でさえも憶測でしかこいしの場所が言えないのだ。

 

「うっ……相変わらず…」

「会話の先読みが得意ですね、ですか?これは心を読んでそれに答えているだけなので先読みとは少し違いますよ?」

「それでも……」

「ええ、私にとってはです。なのであまり気にしないでください」

「………」

「よろしい」

 

傍から見ると不思議な会話であるが、私と妖夢の中では成り立っている。

この会話の先読みをする癖も少しは直した方がいいかしら、ユウの犬耳を撫でていると、背後から気配がした。

私が振り向くと、そこには苦笑しながらこっちを見ている霊夢と紫がいた。

私は彼女たちに微笑むとユウの頭に視線を戻したのだった。




はい、いかがでしたでしょうか。
僕のさとりんのイメージってちょいSなんですよね。
「おいコラCAKE俺の嫁をなんてキャラにしやがったぁぁぁ!!」という方は私の代わりに早苗が土下座します。申し訳ありません。
では、また次回お会いしましょう。


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EP,32 【紫と問題。宴会の終わり】

はい、どうも。CAKEです。
どうやら今回と次で第三章も終わりそうです。
今回はゆかりん目線。そして、あの最強のラスボスさんも出てきます。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は……え?前書きがいつもより短い?気にした人は腕立て十回してから本文に進んでください。


大体、宴会というものは異変が起こりそして解決された後に行われることが多いものだ。

もちろん、レミリアのように誰かの突然の思い付きで始まることもあるし、中には異変中に宴会が―――というよりその異変のせいで宴会が連続で行われていたのだが、そういうこともあった。

そして今回の過去に例を見ないほどの大きな宴会は『鬱病異変』という過去最大級の異変が解決された後に行われていて、まあいつも通りだ。

だが、それは他の人たちにとってはだ。

恐らく、ここにいる大多数が「今回の異変はまぁ危なかったけど解決したんだし、これで一安心」くらいにしか思っていないのだろう。

もちろんそれは何もおかしくはない。なぜなら、他でもないこの私、八雲紫が情報を規制しているのだから。むしろ知られていたら少し自信を無くす。

思うところは沢山あった。

まず、日照優人が幻想入りした時だ。幻想入りしたであろう時、私はそのことに気付けなかった。この幻想郷には私と博麗が共同作業で作った『博麗大結界』なるものがあり、ここを守っている。そして最近外来人が急増したことを受けて結界を強化した。それこそ、人一人入ってくることの無いように。だから、誰かが入ってきたならばさすがに分かる。通れない壁を無理やり入ってくるのだ、むしろ入ってくる前に分かる。だから、彼を見たときは驚いた。しかもそれを知ったのは異変が完全に表沙汰になる前日。異変の解決は霊夢に任せ、急いで結界の確認しに行った。結局、どうやって幻想入りしたのかは謎のままだ。

そして、神橋理沙の幻想入り。これも同じように気付くことができなかった。宴会の前、あのときに初めて会ったぐらいだ。あそこで動揺を表情に出さずに済んだのは、少し自分を褒めたものだ。

そして大きな問題。それが………

 

「あんた、誰よ」

「……やぁ、博麗の巫女さん。博麗レムさんで合ってるかな?」

 

彼の存在だ。幻想入りしたのはわかる。これで三人目。これは明らかにおかしい。黒いローブを羽織った片腕の男が去った時にはあらかじめ待機させていた藍に尾行させた。

そして霊夢と今後のことを話し宴会場に戻る。

さて、そろそろそっちのほうも確認しないと……

わたしは、すっかり一人になっている古明地さとりのところへと赴いた。

 

「こんばんは、古明地さとり」

「ええ、こんばんは、八雲紫」

 

 

お互い、うっすらと笑みを浮かべる。もちろん社交辞令である。

 

「ゆう君はどうしたの?」

「ユウなら少しからかったら悶えてしまって、そのまま寝てしまいましたよ」

「(ああ……そういう………)」

「………………ふふっ」

「…それで、何かわかったかしら?」

「……そうね」

 

彼女には、ゆう君について調べてもらっていた。

彼女の『心を読む程度の能力』は発展がきくのだ。能力の発展というよりは、覚妖怪としての必殺技(?)のようなものだが。

それは、過去の覗き見だ。覚妖怪というのは、相手のトラウマを過去の記憶から見つけ出して、それを利用して相手の心を崩壊させる。いつ聞いても恐ろしい。まぁ、私は境界を弄って読めないようにはしているが。

これにも、ある程度近づかなけらないことや時間がかかることなどの弱点があるのだが、まぁそこは大丈夫だろう。

 

「まず、ユウの記憶はここに来る少し前のところで終わっています」

「少し前ね……それで、内容は?」

「………」

「ここにきて黙秘は無しよ」

「……分かりました」

 

さとりは諦めたようにため息をついた。

 

「ユウは外ではたいそう嫌われていたらしいですよ。一番の初めの記憶では、訳も分からないまま逃げ回っていたようです」

「逃げ回ってた、ねぇ……誰にかしら?」

「そこまではわかりません。大人であることぐらいしか」

「そう。じゃあ、あの仮面も?」

「ええ。あまりわかりませんでした。ただ、あれをつけている間は意識がなくなることくらいしか。それと、かなり身体能力が上がることが推測できる程度でしょうか」

 

私はすこし唇を噛んだ。

やはりそう一筋縄ではいかないようだ。

 

「そう……身体能力が上がるって、どれくらい?」

「これも推測ですが……フランドール・スカーレットと互角になるくらいでしょうか」

「…! それはまた……」

「これ以上、あの白仮面についての情報はありませんが」

「ええ。もう十分よ。それと……幻想入りの件は?」

 

さとりは、今起こっている以上を把握している数少ないうちの一人だ。

この、謎の幻想入りのことを知っているのは私と藍、さとり、そして霊夢。おそらくはそれくらいだ。

 

「それがですね……これが少し不可解なんですよ」

「不可解?」

「ええ。どうやらユウは……あなたのスキマを通ってきたようなのです」

「私の? どういうこと? 確かに、ゆう君に通った跡みたいなのはあったけど……」

「すみません、あなたのものかは分かりませんが……スキマに落ちたことは確かでしょう」

「…………そう、ありがとう」

「では、私はこれで」

「あ、待って頂戴」

「…なんでしょうか」

「ゆう君はどこかしら?」

「ユウならば、隣の布団で寝ています。では」

 

そういって、さとりは宴会の渦の中に戻っていく。

私はそれに背を向け、さとりに教えられた隣の部屋へと向かった。

襖を開けて、中をのぞき込む。

そこには、静かに、安心したように眠っているゆう君の姿があった。

 

「……ふふっ」

 

おもわず優しい笑みがこぼれる。

私は隣に座り、ゆう君の髪を優しく撫でた。

彼はそれがくすぐったかったのか、寝返りを打ち、こちら側に顔を向けるように横向きになった。

私は、それがすこし愛おしくて彼の髪を撫で続けた。

 

「ゆう……」

 

私は、気が付いたら呟いていた。

 

「……あなたは、何者なの?」

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

小鳥の囀りで目を覚ます。開けっ放しの襖から日の光が差し込んできて、丁度私の目元を照らしている。

私は、目を閉じて二度寝しようとするも日光が眩しく眠れないので、襖を閉じようと立ったところで、おかしなことに気が付いた。

 

「ん……ぅん………」

「……」

 

ゆう君が私に抱きつきながら寝ているのだ。

……えーっと。何があったの、だろうか。

とりあえず、落ち着け。そして寝る前の事をゆっくり思い出そうではないか。

たしか。宴会があったはず。私は…ゆう君が何故か気になって部屋を訪れ、そして戻ろうとして……あ、いや、戻ってない? えっとなんで………あ

 

「服、掴まれちゃったんだっけ……」

 

そうだ。離れようとして、でもユウに服をいつの間にか掴まれて離れられなかったのだ。そして私まで眠くなって、そのまま布団に……

阿保じゃないのか。なんでよ。手をほどいてから別のところで寝なさいよ。というよりこの子警戒心なさすぎでしょ。大妖怪よ? 私、大妖怪よ? 寝てても警戒するのが生物じゃないの? あれ、もしかして違うの? というよりこの子私の胸に顔うずめてやだなにこの子かわいい。コスプレの効果なのか分からないけど犬耳が付いてることによって余計かわいい。あちょっと長年未使用で朽ち果てたはずの母性本能が目覚めうんちょっと落ち着こうか私。ちょっと動揺しすぎよ。

改めて、ゆう君を見る。その寝顔には警戒心なんてものはちっともなく、安心しきった顔で規則正しい寝息をたてていた。

 

「……ふふっ。こういうのも、たまにはいいかもね…」

 

明日から博麗神社に通い詰めてみようかしら。そんなことを思いながら、未だ差し込む日光を首を曲げて躱し、彼を抱きしめて二度寝をしたのであった。




はい。いかがでしたでしょうか。
やっぱり最強のラスボスこと眠気さんは強敵ですね。
霊夢、フラン、紫ですら勝てないってもうこれ誰も勝てないんじゃなかろうか。
え? 僕? カフェインシールドで一発ですが?
次回は姉編になるんじゃないかと思います。
ではでは、次回お会いしましょう。


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EP,33 【宴会の裏側。増える疑問】

はい、どうも。CAKEです。
もうすぐでハッピーニューイヤーですね。皆さんは、誰とお正月を過ごしますか?
私は安心と安定のボッチです。年越しカウントダウンも、正月参りも、ミカンを貰うのも独りです。
さ、寂しくなんてないし! ホントだし!
それでは、本編に行きましょう。今回は、紅い館の住民メインです。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は、クリスマスグッズを片付けてから本文に進んでください。


時は少し戻り、ユウが紅魔館の美女達に囲まれバタンキュ~と倒れた頃。神橋理沙は、レミリア・スカーレットに連れられ、話場所を探していた。

着いたのは、博麗神社の縁側。そこにはあまり人がいなく、恐らくレミリアが静かに話せるようにとここを選んだのだろう。

 

「貴女、ワインは飲めるかしら?」

「い、いえ………」

「そう、なら申し訳ないけど水でいいかしら?」

「あ、はい!ちょっととってきますね!」

「ええ」

 

そして、しばらくして理沙が水の入ったグラスを片手に戻ってくる。

 

「さて、神橋理沙…だったわね」

「は、はい。ユウの姉です。義理、ですけど」

「そう……義姉ねぇ……」

「そ、それで、私に興味があるって……」

 

理沙は目に見えて動揺している。

その様子を見て、レミリアは可笑しそうにクスクス笑った。

 

「そんなに緊張しないで。同じ姉っていう立場で話がしたいだけだから」

「そ、そうでしたか。なんか、すみません」

「いいわよ。吸血鬼相手に緊張されなかったらそれはそれで自信なくすわ」

 

レミリアのその親しげな態度に、理沙も落ち着きを取り戻したようだ。

レミリアの隣に座り、水を口に含んだ。

 

「ええと、それで、何を話しましょうか」

「そうねえ………」

 

そういってレミリアもワインを飲んだ。

実際のところ、誘ったはいいが話すことは特に用意していなかったのだ。

少なくとも、建前の話は。だからと言って早速本題というのも少し危険だ。

なので、レミリアは適当にそれっぽい話を当てておくとした。

 

「貴女の弟……義理、だったわね。ユウとはどこで会ったのかしら」

「えっと、村の中です。偶然会って、遊んで、仲良くなって……」

「ああ、友達という感じだったのね。でも、なんで義姉?」

「えっと、遊んでいるうちに身内になった感じです」

「身内に? どういうこと?」

「えっと、なんていうか、私がこの子を守る! っていう感じになって……」

「…それで義姉だと?」

「は、はい…」

 

思ったよりおかしな話になっていた。

この話が本当ならば理沙はユウの姉を名乗っているだけ、ということになり本物の姉ではないということになる。正直、びっくりである。

 

「そ、そうなの」

「はい。でも、ゆう君ったら私の無理なお願いを躊躇うことなく聞いてくれてお姉ちゃんお姉ちゃんって付いてきてくれたんですよ」

「え? 聞いてくれたって……えっと、言ったの?」

「なにをですか?」

「その……『今日から私が君の姉よ!』みたいなことを」

「言いましたよ?」

「ああ、そう……」

 

思ったよりもぶっとんだ姉だったのだろうか。

 

「レミリアさんは妹でしたよね。なんていう子なんですか?」

「え、ああ。フランドール=スカーレットよ」

「へえ、フランドールちゃんですか! もしかして、さっき散歩に行った子ですか?」

「そうよ。最近だと、ユウと仲がいいわね」

「そうなんですか。いやー、ユウ君に友達ができたようで何よりです! 親はいるんですか?」

「ここにはいないわよ。幻想郷にいる吸血鬼は私たち姉妹だけ」

「そう、なんですか……」

 

裡沙が少しだけ遠くを見つめて、水を飲んだ。

 

「貴女には、いないのかしら?」

「いえ、いますよ。……ただ、何処にいるのかだけは、ちょっと」

「分からない、と? その親は何してんのよ」

「それも、ちょっと。突然いなくなっちゃって」

「そう、貴女は何処に住んでいたの?」

「村、です。隠れ里、と言った方がいいかもですね」

「隠れ里……? なんで里を隠すのよ。外の世界には私みたいな妖怪は居ないんでしょう?」

「えっと、私も教えられた程度なので分からないんですけど……」

 

理沙は水を飲み、言った。

 

「『異能や物の怪から逃げるため』だそうです」

 

 

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「異能、ねぇ……」

 

宴会が終わり、その翌日。

レミリアは紅魔館の中にある自室でぼんやりと考えていた。

隠れ里に住んでいたという裡沙。そしてその隠れ里は逃げるために緊急で作られたという。

レミリアは、理沙の言葉を思い出していた。

 

 

―――なんでも、100年前くらいに大事件があったみたいで

 

―――そのことから、異能者とかを排除しようという動きが出てきたみたいです

 

―――私が聞いたのは、そのくらいです

 

 

今では、外の世界に妖怪や能力者はいないはず。でも、100年前となると、レミリアにも実際いたかどうかは分からなかった。

もしかすると、その古い歴史が隠れ里にさせているのかもしれない。

と、そこでレミリアは思い出した。

 

「(確か、ユウは誰かに追われてここに来たんだったわよね? もしかしたら、関係ある……?)」

「お嬢様」

「ひゃ!? って、咲夜か。なにかしら?」

「紅茶をお持ちしました」

 

深く考えすぎていたのか、突然現れた咲夜に不覚にも驚いてしまった。

レミリアは先ほどの奇声を少し恥じながら、ありがとう、と紅茶を受け取った。

 

「やはり、この件を追うのですか」

「ええ、勿論。ところで、咲夜の方はどうだったの」

「八雲紫と古明地さとりの会話を盗聴しましたが、幻想入りは八雲紫のスキマを通ったことによるものだそうです」

「紫の……? 他には?」

「あの仮面、どうやら呪いの道具の類かと思われます。装着すれば身体能力は上がりますが心が削られるようで」

「心が削られる? それはまた……」

 

レミリアは、以前ユウがこの館に来た時の事を思い出した。

咲夜によれば、ユウはフランと対峙した時に白い仮面をつけていたという。

その時にも、彼の心は削られていたのだろうか。

 

「まだ、何もわからないわね。咲夜はどう思うかしら」

「私もまだ……ただ、いやな予感はします」

「そうね……実は、少し恐ろしい運命が見えてるのよ」

「恐ろしい運命……ですか」

「ええ」

 

レミリアは、紅茶を飲み目を細めた。

 

「幻想郷が滅ぶ運命が……ね」

 

咲夜の目が見開かれる。

当然だ。今住んでいる地域が滅ぶと言われて驚かない者なんてそうそういない。

 

「それは、誠ですか」

「ええ」

 

そして、レミリアはティーカップを置いた。

カチャリ、と陶器がぶつかり合う音が響く。

 

「さて、このことは一旦おしまい。それよりも咲夜、また紅茶の腕を上げたわね」

「ありがとうございます」

「そして、咲夜。私としてはちょっと気になることがあるのだけれど」

「なんでしょうか」

「確か、ユウは昨日の宴会で小悪魔にイタズラさせられてたと思うのだけど」

「確かにされていましたね」

「あのコスプレ、ちゃんと外してあげたの?」

「………いつ神社に向かいましょうか」

 

外してなかった。

レミリアはあの時のユウの姿を思い出し、クスリと悪戯っぽく笑った。

 

「面白そうだし、このままにしてあげましょうか」

「ですね」




いかがでいたでしょうか。
一体、何が起ころうとしているのでしょうね。
では、ここらで締めさせていただきましょう。
次回からは第四章です。お楽しみに。
ではでは、次回お会いしましょう。良い年を。


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犬人の冒険
EP,34 【ユウと新しい日常】


はい、どうも。CAKEです。
新年明けましておめでとうございます。2017年でございます。
皆さんはおみくじ引きましたか? 私は引いてきました。
何とその結果は凶。何とも言えない感じでした。
どうせなら大凶引きたかった。
さて、前振りも長いと鬱陶しいのでささっと本編行きましょうか。
「いいぞ、もっとやれ」
という方はお餅を食してから本文に進んでください。



「んぅ………」

 

博麗神社の一室。

ユウは静かに目を覚ました。目を開けた途端に飛び込んでくる暖かい太陽の光を手で遮りながらゆっくりと体を起こす。

 

「……寝坊しちゃった!?」

 

既に太陽は天高く昇っており、確実にいつもより遅くに起きてしまっていた。

毎朝境内の掃除をやっていたユウにとって、寝坊というのは由々しき事態だったのだ。

急いで部屋の隅にあるタンスから普段着であるパーカーとズボンを取り出した。永遠亭から拝借している寝間着を脱ぎ捨てて急いでそれらに着替える。すぐに部屋から出ようとするも脱ぎ捨てたグシャグシャな寝間着が視界に移り、数秒迷った末にきれいに畳んでようやく部屋を出る。

博麗神社の縁側を駆け足でバタバタと霊夢の部屋に向かった。しかし、本堂中央前、つまりは賽銭箱の後ろを通ったところでユウははたと足を止める。視界の端に、ある人物が見えたからだ。

ユウはその人物のところに走って近付いた。

そして、息を切らしながらユウはその人物に謝った。

 

「ご、ごめんなさい霊夢さん!ね、寝坊しちゃって……」

 

そう、楽園の素敵な巫女さんこと博麗霊夢である。

霊夢はユウの代わりにやっていた境内を掃除する手を止めて、手を腰に当てる。よく人が怒った時にするポーズだ。

 

「もう、何やってんのよ」

「ごめんなさい……」

「ま、いいわ。途中までは私がやっておいたから。あとはよろしくね?」

「う、うん! 任せて!」

 

ユウは笑顔で箒を受け取る。

箒を手渡した霊夢は神社の中に戻るが、その途中で振り返りこう言った。

 

「終わったら戻ってらっしゃい。朝ごはんにするわよ」

「わかった」

「あ、それと今日魔理沙が来るからね」

「魔理沙さんが? 何か約束してるの?」

「勘よ」

「なるほど。わかったよ」

「それじゃ、よろしく。あー、それと……ま、いいか」

 

そう言い残して霊夢は神社に戻っていった。

なんだろう、とユウは疑問に思いながらも掃除を開始した。

サッサッサッと無言でユウは掃除をしていた。参道の端には霊夢とユウが掃除するうえで溜まった落ち葉や砂が山となっていた。

数分後。

 

「ふぅ……こんなものかなぁ」

 

ユウは賽銭箱に腰かけ、自分が掃除した参道を見て呟いた。

普通、賽銭箱の上には乗ってはいけないのだが、そもそも参拝客がいないうえに霊夢はそこまで作法とかは気にしないので別に構わないことになっている。

 

「よし! 朝ごはん食べよっと!」

 

そう言ってユウはピョンッと賽銭箱から飛び降り、本堂に戻ろうとする。

しかし、そこで空からヒューーーン、と。何かが落下する音が聞こえる。

ユウはその音につられて上を向くと、白黒な何かが見えたのである。

 

「ほ、ほんとに魔理沙さんが来た……」

 

世紀の泥棒魔法使い、霧雨魔理沙である。

 

「やっぱり、霊夢の勘はすごいなぁ……」

 

そんなことを呟いているうちに、すでに魔理沙はユウの目の前に着地していた。

 

「よ! ユウ。暇だから遊びに来たぜ」

「霊夢が予知してたよ。いらっしゃい」

「だろうな。今から朝飯か?」

「うん。掃除が終わったから、そうだよ」

 

実は魔理沙が着地した時にゴミの山が少し吹き飛び、散らばってはいたが、ユウはそれを見なかったことにした。お腹が減ってしまっているのだから、仕方がない。

 

「そうか。じゃあ、私もいただくぜ」

「え、魔理沙さんも食べてくの?」

「ああ。どうせ昨日の宴会の余りが残ってるんだろう?」

「ああ、確かにそうかもしれないね。じゃあ……」

「あ、ちょっと待ってくれ」

 

ユウは魔理沙に背を向きかけるも、魔理沙に肩をつかまれ無理やり正面を向かされる。

ユウは抵抗する術もなく、魔理沙の正面に立った。

 

「………」

「えっと…魔理沙さん?」

 

魔理沙がユウをじっと見たまま目を離さない。

いよいよユウは不安になってきて、魔理沙の拘束から逃れようかと考えたとき。

ユウは後に、さっさと逃れるべきだったと後悔するのだった。

魔理沙の右手が頭の上へと移動する。

 

「(モフッ)」

「ふにゃッ!?」

 

 

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「で、やっぱりこうなったわけね」

 

霊夢は神社に入ってきた魔理沙とユウを見てため息交じりにそう言った。

ユウは今、深く呼吸をしながら魔理沙の腕につかまっていた。もう、それを見ただけで霊夢には何があったかはすぐに察したようだ。

魔理沙はユウを近くの座布団を枕に寝かせながら、ヘヘヘと笑った。

 

「まぁな。昨日からずっと触りたいと思ってたんだ。だから早めにお邪魔したってわけだぜ」

「宴会中に触れなかったの?」

「パチュリーに捕まっちまってな」

「なるほどね」

 

そう言うと霊夢は既に作ってあった食事を持ってこようと席を立つ。

が、その時。

 

「霊夢さーん! あ、いた!」

「いた、じゃないわよ。何壁突き抜けてんのよ」

 

食事を持った、能力発動中の理沙が壁から幽霊のごとくニュッと出てきたのだ。

理沙の能力は触れたものも透けさせる事ができる。なので、それを使いなるべく温かいうちに食事を運ぼうとした結果―――

 

「――迷っちゃいまして」

「普通に廊下使わないからそうなるのよ。ほら、さっさと並べる」

「はーい」

 

理沙は薄く見えていた幽霊みたいな状態を解除する。すると、徐々に色が濃くなってゆき、最終的には普通の人間になった。

 

「ホント、不思議な能力だぜ……」

 

それを見て魔理沙が呟く。

理沙の持つ『透ける程度の能力』は、戦闘では相当有利。むしろチートだと言っても差し支えないだろう。なにせ、攻撃が通らないのだ。不意を突いたとしても、仮に常に発動されていたら攻撃が通らず意味がない。

 

「(まったく、不思議なうえに厄介な能力だぜ……)」

「そういえば、魔理沙」

「おおう!? なんだぜ」

「なんでびっくりしてんのよ……ユウを起こして。寝たままじゃ朝食が始まらないわ」

「おう、合点承知だぜ。おーい、起きろー。ありがたい朝飯の時間だぞー」

 

魔理沙がユウの頬を人差し指でつっつき始める。

するとユウは何かにうなされた様な声を上げながらゆっくりと起き上がった。

 

「うう……酷い目に遭った」

「おう、そりゃ災難だったな。……分かった、悪かった。だから無言で私を睨むな」

「………むぅ」

「ほらほら、そんなバカみたいな事してないで、さっさと席に着きなさい」

「…はぁーい」

「おう、頂くぜ」

「帰ってほしいところなんだけどね」

「嫌だぜ。私は毎日ここで飯を食うって決めてんだからな」

「迷惑」

「承知してるぜ」

「…ゆう君、いつもこんな感じなの?」

「…うん」

 

そして今日も、幻想郷は平和なのであった。

 

「あ! それ私のおかず!」

「ふっ、裡沙よ。ここでは早い者勝ちなんだぜ? ほれっ、隙あり!」

「あ、また! ちょ、魔理沙さ、やめろーー!」

「あらあら、楽しそうね」

「うわぁぁぁ!?」

「ちょ、紫、なんてとこから出てきてるのよ!?」




はい、いかがでしたでしょうか。
犬のまま放置されてしまったユウ、一体どうなるんでしょうね。
もちろん妖怪になったわけじゃないですよ? 取れないですけどね。

さて、お知らせです。次回は三週間後になってしまいます。リアル事情があれなので、申し訳ありません。

では、また三週間後にお会いしましょう。
ではでは。


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EP,35 【ユウと団子】

はい、どうも。CAKEです。
すみません! 遅くなってしまいました……
ここのところ超絶忙しくて、なかなか執筆できないのです。ごめんなさい。
次もいつになるか分かりません。ご了承ください。
では、本編です。異変ないと書くの難しい……やはりまだまだ精進できていないようで。
今回もオリキャラ出てきます。すみませんね、オリキャラ多くて。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は京都旅をしてから本文に進んでください。


 

「で? ユウ、それどうするの」

「え?」

 

朝食を食べ終わったころ。霊夢はユウを指さしそう言った。

それ、とは言わずもがなコスプレグッズの事である。

小悪魔特製のそのグッズは魔法が付いている超ハイスペックグッズであるからして、先ほどのような『元々ない部分のために感覚が鋭くなっている』というような、ユウにとっては堪ったものではない現象が多発するのだ。

 

「私はそのままでもいいと思うぜ?」

「右に同じ」

「それじゃユウが困るの。あんたらの意見は聞いてない」

 

すっかり保護者になってるなぁ、とうっすら思う魔理沙。ついちょっと前までは何事にも興味を示さない鋼の巫女だったのにと、親友ながら嬉しく思っていた。ちなみに、裡沙の方はというと、姉の立場に危機感を覚え、体をワナワナさせているが誰も気づかなかった。

 

「えっと、紅魔館に行って取ってもらいたい、かな…」

「よし決まり。じゃあ、今すぐ行くからさっさと用意しなさい」

 

ユウの返事が聞こえた霊夢は即座にガタッと立ち上がり居間を出る。

そのあまりにも早すぎる行動に全員、間の抜けた表情になる。

 

「え、え、え!? 今から!?」

「ええそうよ、外したいんでしょ? それ」

「え、まぁ、うんそうだけど…」

「じゃあさっさと行く。今日はやることないんだから行ける時に行っときましょ」

「「……お母さん…?」」

 

魔理沙と理沙が意味不明な反応を見せるが、霊夢は当然無視。

霊夢はスタコラサッサとその場から離れてしまった。

 

「(結界の確認とか、面倒臭い。紫が来る前に逃げなきゃね)」

 

そんなことを考えながら。

 

 

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人里。

それは、日人間が集まって集落を作り妖怪から避けるための、いわば人間安住の地である。

しかし、所詮は人間などと言うとアレだが、頻繁に妖怪やら魔物やらが侵入してくるようじゃ安住の土地は守ることができない。また、件の異変、『鬱病異変』のよう攻め方をされてしまっては手も足も、何もかもが出なくなってしまう。

まだ人里ができたばかりだった頃、彼らはこの問題に常に頭を抱え、腕を組んで考えていた。もし妖怪が徒党を組んで襲ってきたならば、博麗の巫女だけでは当然手が回らない。彼女らとて、一人の人間なのだから限度はあった。それに、博麗神社は知っての通り山の頂上に位置している。もちろんそれは人里の全体を見下ろすためにあったのだが、博麗の巫女がそれに気付き山を下ってから戦うようじゃ当然遅い。もういっそ、この里を捨てて神社の近くに移住しないかと考える者もあらわれた。

そんな時だった。かの獣人、ワーハクタク上白沢慧音が現れたのは。最初は非難する者が大多数だった。人里に妖怪を入れるとは何事か、どうせこいつも目的は我々だ。中には討とうとするものまで現れた。しかし、慧音は歴史を弄ることで人里を守り、多くの人とコミュニケーションをとることで徐々に信頼を勝ち取っていったのだ。もちろん、それだけでは彼女を敵視する目は完全に消えることは無かった。そこで彼女は現代で言うところの学校、『寺子屋』を開いたのだ。そのことにより敵視する者はいなくなり、上白沢慧音はめでたく人里の一員として皆に受け入れられたのだ。そして、人里は妖怪に襲われる心配がなくなり安心して仕事に勤しみ夜も眠れるようになった。

そして長い月日がたった今、人里は活気にあふれ多種多様な人で埋め尽くされていた。

 

さて。

これまで人里について長ったらしく解説していたわけなのだが、つまり何が言いたいのかというと。

本当に多種多様な人々いて。そんな中を、突然見知った男の子が犬人になって歩いているわけで。

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

「うぅ……」

 

現在、空を飛べない為に歩いて紅魔館に向かっているユウは、多くの人から視線を浴びていた。

それには、霊夢の思惑にも原因があった。

 

「(ユウには申し訳ないけど、飛んでいくわけにはいかないのよね……たっぷり時間かけなきゃ……ついでに寄り道もしないとね)」

 

並んで歩いているユウをちらりと見る。

周りの人から色んな意味で熱い視線を受けているのか、全身を赤らめ霊夢の巫女服をギュっと握り込んでいる。尻尾もプルプルと震えているようだ。

 

「でも、結界の見直しにはいきたくないのよね……」

「…え?」

「なんでもないわ。それより、ユウ。少し寄り道しない?」

「え? いや、紅魔館に……」

「はいはいいくわよー」

 

霊夢は傍にある団子屋に強引にユウを連れ込む。

周りからは恨みの声やら黄色い歓声が聞こえてくるが、おかまいなしだ。

店に入ると女性店員が顔をのぞかせた。

 

「いらっしゃ―――」

 

ピタッ、と。

女性店員の動きとセリフが止まる。

ユウが首をかしげていると、さっきの時間はなかったかのように言い直した。

 

「――いらっしゃいませ! 二名様ですか?」

「ええ。醤油ダレを五本ずつ頂戴」

「かしこまりました! てんちょー醤油十本ー!」

「ういーっす」

 

女性店員は店の奥に引っ込み、二人は適当な席に座る。

そして出された団子を、霊夢はゆーーーっくりと食べようと決めたのだった。

 

 

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私の名前は、古沢春。春と書いて『おはる』と読む。

団子屋『みるべえ』で働くただの人間なのである。

父と母も働いていて、それを見つつ家でゴロゴロしている時に「働くってなんだろなぁ」と考えていたのだが、ふと思い立ったのが私の人生の分かれ道だった。

そう、働きたい、と。

両親に軽いノリで「私、働く」といった日の晩御飯はなぜか超豪華になっていた。我が家にはそんなものを用意するお金なぞ無いと知っていたのだが、父は泣きながら買い出しに、母は踊りながら料理を作っていたのを覚えている。

そしてここ『みるべえ』で面接をしたところ、店長であるおっさんが即採用してくれた。

こうして私、春はめでたくここの正式な店員となったわけでありまして。

「なんだ、結構楽しいじゃん」と思えるようにもなってきて。

この仕事にも慣れたもんになって来た頃、あの子が来た。あの、犬の耳を生やした男の子が。

 

「かしこまりました! てんちょー醤油十本ー!」

 

父さん、母さん。団子屋に勤めて三か月が経ちます。

変な異変もあって、いろいろ心配しましたが楽しくやれています。そして何より――

 

今、この瞬間、古沢春は最高にハイってやつです!

 

「カメラカメラ! あの人からもらったカメラってどこだっけ!?」

「ちょ、ま、春! 落ち着けカメラが厨房にあるわけないだろってああ! 焦げちまう!」

 




はい、いかがでしたでしょうか。
突然何かに目覚めることってありますよね。私は最近FPSに目覚めました。
おもしろいですよね、アレ。
さて、前書きでも前述したとおり、次はいつになるか分かりません。
できればいつも通り二週間後に出したいのですが…頑張ります。
ではでは、また次回お会いしましょう。


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EP,36 【ユウと誘拐】

はい、どうも。CAKEです。
ようやく………謎の用事ラッシュが終わりました………いやったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!
……コホン、失礼しました。
五週間も間を空けてしまいました。申し訳ありませんでした。
さて、長らくお待たせしました。新作です。
なんだか穏やかではないサブタイトルですが……どうなるんでしょう?
「いいぞ、もっとやれ」
という方は二重跳びを100回連続で成功させてから本文に進んでください。


幻想郷の昼下がり。

妖怪たちは夜に備え休養を取るものもいれば、人里に入り物を買ったり自由に過ごし、人間たちは商業に励んでいた。

ここ、団子屋『みるべえ』もまさしくそんな時間帯。そろそろ多くの客が種族関係なしに食べにくる、いわゆるピークの時間帯になる。そのため、従業員はより多くの食材の準備をしなければならないため忙しくなり、休む時間はこの店員の少ない『みるべえ』では休みなしで働きっぱなしになる。

の、はずなのだが。ぼちぼち増えてきている客に紛れて一人の店員が席に座っていた。

 

「へぇー、それでこれがあるんですね。これまた素晴ら……大変な目にあいましたね」

「そ、そうなんですよ…それで今、外しにもらうために紅魔館に行ってるんです」

 

そう、春だ。

あと30分もすれば『みるべえ』の中は客でいっぱいになると思われるというのに、仕事をさぼり、絶賛談笑中なのである。店長であるおっさん――本名は満留谷八兵衛という――は最初は怒っていたものの、もう諦めてしまったのか黙々と一人で寂しくピーク時に備え仕込みを行っていた。

 

「そうだったんですか……その寄り道で、ここに来てくれたんですか?」

「そう…だね。僕としては、早くいきたいんだけど…」

「あれ? ひょっとして、霊夢さんがここに寄ろうといったんですか?」

「そう……ね。私がここに連れ込んだのよ」

「なるほど~……ん? 霊夢さんって、ここ来たことありましたっけ」

「き、気まぐれよ! ここが当たりでよかったわ」

 

なぜか若干慌てる霊夢に春は首をかしげるが、まあいいかと呟き背もたれに寄り掛かった。

ユウはすでに四本目を食べ終わっており、最後の一本を手にした。対して霊夢はよほどゆっくり食べたかったのか、まだ三本も残っていた。

もちろん、本心は違う。できるだけ用事を引き伸ばし『結界の見直し』という面倒くさい用事を回避したいその一心であった。ちなみに、博麗神社にくるであろう紫に対し捕獲用結界を張っているので、恐らくもう掛かっているころだろう。結界の見直しは紫の式である八雲藍がしてくれることだろう。罪悪感は感じないといえば嘘になるが無視できる程度ではあるし、結界の見直しとなるとかなりの時間と労力を使うので、できれば回避したい事柄だった。

 

「(でも、幻想入りの原因は結界じゃない気がするよね……まあ、勘だけど)」

 

そう考えながら、すでに冷えて醤油ダレが固まってしまった団子を一つほおばる。冷えて固くなっているものの、団子の持つほんのりとした甘みは現存だった。

そんな中、最後の一本を食べ終わったユウがおずおずと春に尋ねる。

 

「あ、あの……トイレってどこにありますか…?」

「お手洗いですか? それだったら、外に出て右にあります」

「外付けなんですね…ありがとうございます」

 

ユウが立ち上がり、座っている霊夢を跨いで『みるべえ』を出て右へ。

残された二人は、会話はパタリとやみ、初対面の二人のように黙りこくってしまった。ほぼ春がユウに色々聞いていたので、霊夢に対する会話のタネがなかなか浮かばないのだろう。対する霊夢は何も考えず、ただただ、本当にゆっくりと団子を味わっていた。

 

「………えっと…」

「……」

「う、ウチの団子、どうですかね…」

「………美味しいわ」

「そ、そうですか! いやぁ、良かったです」

「………」

「………」

 

非常に気まずい。春はただ、ゆっくりと団子を味わう霊夢を見ているしかなかった。

そしてそのまま時間は経過し、霊夢がようやく最後の一本に手をかけたころ。

 

「(あれ……ユウ君、トイレ長くない?)」

 

まだ、ユウは帰ってきていなかった。

時間にして約十分、ユウが帰って来る気配はなくこの空間にはずっと気まずい雰囲気が流れていた。

さらに五分後。霊夢も団子を食べ終わったのだが、まだユウは帰ってきていなかった。

 

「(ちょ、いくらなんでも……!)」

「…遅いわね」

「へっ?」

「ごちそうさまでした。これ御代ね。ユウいつまで籠ってるのよ…」

「え、あ、私も行きます!」

 

春は机の上に置かれたお金を回収せずに霊夢についていく。

『みるべえ』の左にある外付けのトイレ。霊夢と春は右に曲がり≪団子屋『みるべえ』専用トイレ 客でない方もご自由にお使いください≫という看板が立てられたトイレの前に立つ。このトイレは目の前の扉を開けると座るタイプの便器があるだけで男女別にはしていない。イメージとしては公衆トイレだろうか。

 

「こらー! さっさと出てきなさーい!」

 

霊夢が荒々しく扉をノックする。

その反動で、トイレの扉は、いとも簡単に開いた。

そしてその中には、誰もいなかった。

 

「「………えええええええええええええええええ!?」」

 

ユウが消えてしまったことを理解し、大絶叫を上げる少女二人。

とっさに周りをキョロキョロと見回し、探し始める霊夢。春は「まさか、お持ち帰りされた……!?」と霊夢を同じ様にアワアワしていた。

 

「また消えた……っ!」

 

霊夢は鬱病異変が頭をよぎり、その場で飛翔。どこかに行ってしまう。

 

「あっ! ま、またのお越しをーー!」

 

一方、それに驚いた春であったが、お店の決まり文句を告げた後も『みるべえ』には戻らず、その場で立ち尽くすのみだった。

 

 

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「はい、どうぞ」

「あ、ありがとう、ございます……?」

 

一方、ユウは。

緑色の髪をした女性の家でもてなされていた。

 

「どういたしまして。じゃあ、私はこれ片づけてくるわね」

「あ、わかりました…」

 

その女性は、ずっと手に持っていた日傘を片付けるとユウの向かいにある椅子に座った。

 

「い、いただきます……」

「ふふ、召し上がれ」

 

ゆっくりと差し出されたお茶を飲む。

そのお茶からは一からの手作りだというのに青臭さが全くなく、それどころかほんのりと甘い匂いが湯気と共に立ち込めていた。

 

「あ……美味しい」

「そう、良かったわ」

 

その女性はふふふと和やかに笑う。

ユウはティーカップを置き、おずおずと切り出した。

 

「え、えっと……幽香さん…?」

「合ってるわよ。何かしら?」

「えっと……僕、なんでここに居るんですかね…?」

「なぜって……私に攫われたからよ」

 

ユウは「えっ!?」と椅子から立ち上がる。

それに対し幽香は「ほら、座って」といたずらっ子のような笑みを浮かべながら言った。

 

「何をするわけでもないわよ。異変で知り合った仲じゃない。見かけたから、つい攫ってしまっただけよ」

「そ、そうでしたか……」

「それはそうと、その耳とか尻尾とかって何なの?」

「あ、これはその、小悪魔さんに無理やり…」

「あー分かったわ。さしずめ、宴会の時でしょうね」

「そ、そうなんです」

 

そのまま二人は、幽香特製のお茶を飲みながら談笑をした。ちなみにユウは、誘拐された時の印象が強すぎたためか、紅魔館への用事の件はすっかり忘れてしまっている。

そして、ユウがお茶を飲み干したのを幽香が確認すると、彼女はゆっくり立ち上がった。

 

「ねえ、せっかくだし遊びましょうか。将棋盤ならあるしね」

「え、なんで知って……」

「異変中に『さっき一緒に将棋やったじゃないですか!』って言ってたじゃない。それでよ。じゃあ、やりましょうか」

「え、あ、はい。……あ、そうだ、幽香さん」

「なにかしら?」

 

幽香がタンスを漁りながら返事をする。

そしてユウは、あの時考えていた致命的なことを、幽香に尋ねてしまった。

 

「『シギャクシュミ』ってなんですか?」

 

ピク、と幽香の体が反応する。

そして、とてもイイ笑顔でゆっくりとユウの方へと振り返った。

 

「ユウ、それ、誰から聞いたの?」

「へ? 宴会中に幽々子さんという人から…」

「そう……」

 

幽香はゆっくりと、それでいて確実にユウの元へと歩く。

その様子にようやくユウの本能が異変に気付く。すでにユウの頭の中にいたアクは逃げ出して近くの花瓶に身を潜めていた。

 

「え、えと…」

「ユウ、それ付けられて何か変わったことは無いかしら?」

「へ? た、確かパチュリーさんがこの部分だけ敏感になるって……普段ないところだから…」

「そう、やっぱり……いらっしゃい」

「え? ゆ、幽香さん…? なんで抱き上げて……」

「嗜虐趣味について詳しく教えてあげるわ。抵抗しないで頂戴ね?」

「え、あ、はい……?」




はい、いかがでしたでしょうか。
ユウ………ご冥福をお祈りします。
いや、最初はこんな事にするつもりはなかったのですがね……キャラが僕の元を離れて自由行動し始めたんですよ。困ったものです(苦しい言い訳)
ではでは、また次回お会いしましょう。


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EP,37 【ユウとシギャクシュミ】

はい、どうも。CAKEです。
かなりの勢いでお待たせしてしまいました。申し訳ありません。
今後は投稿ペースを乱さぬよう頑張って執筆しようと思います。
さて、今話ですが……一部R-15入っちゃうかも? そこら辺の区別がついていないのでわかりませんが、だ、大丈夫、な、はず、です。
で、ではでは、
「いいぞ、もっとやれ」
という方はペットを愛でてから本文に進んでください。


 

「………」

 

八雲紫の式である八雲藍は無言で空を飛んでいた。

その表情は心なしか暗く、疲れ切っているように見える。

それもそのはずだ。つい先ほどまで謎の男――黒コート、とでもしておこうか――を監視している中、突然紫から連絡が入ったのだ。

 

『藍? 聞こえているかしら?』

『はい、聞こえていますよ。どうしたのですか?』

『閉じ込められちゃった』

『………はい?』

『だぁかぁらぁ、閉じ込められちゃったのよ。結界の見直しで呼びに行ったらね、あの子神社に捕獲結界を仕掛けていったのよ。おかげで力も出ないし境内から出られないワケ』

『は、はぁ……』

『と、いうことで。霊夢を連れ戻してくれない?』

『え!? い、今からですか?』

『ええ』

『でも、この男の監視は…?』

『今、そいつは何してるの?』

『さ、魚を釣っています……二時間くらい』

『なら大丈夫よ。すぐに見つけられるしね。というわけでさっさと行きなさい。それとも、あなたが結界の見直し全部する?』

『わ、わかりました……』

 

あの大宴会から私がずっと張っていたあの黒コートは何一つ怪しい動きは見せなかった。

あの後、黒コートは魔法の森の一角にある古びた廃屋に入ったかと思うと、しばらく出てくることは無かった。

まさか中に入るわけにもいかないので仕方なく廃屋から少し離れたところで霊力を感じながら監視していたのだが、黒コートは何をするわけでもなく、ただ横になって片腕を天井に向けて軽く伸ばす形を保っていた。姿勢からして、恐らく読書でもしていたのだろう。

そしてその後、黒コートは釣竿を携えて廃屋から出てきた。

そしてそのまま川に行き、片腕しかないのを何とも思わないかのような動きで釣りをはじめ、結局そこから動くことは無かった。

 

「(あの男……一体何者だ? 確かに彼は人里で見たことないことからして外来人で間違いない……。我々が彼の存在に今の今まで全く気付かなかったなどありえない。)」

 

霊夢を探しながら深く考える藍。

黒コートの存在は八雲にとって『謎』の一言に尽きる存在だった。

顔は口元しかわからず、何故か片腕は欠けている。

元々黒コートはあの大宴会中にひょっこりと人知れず宴会を見物しに来たただの一般人にしか過ぎない。

だが、幻想郷にはもともといなかった人物であること、所謂外来人であることが黒コートの存在を奇怪なものにしていた。

今現在での幻想入りはほぼあり得ないのにも関わず、日照優人や神橋裡沙、そしてあの黒コートと三人連続で幻想入りを果たしている。

こうなってしまっては、なにか関係があると考えざるを得ないし、恐らく間違ってもいないのだろう。

その関係性は、今はまだわからない。分からないが――

 

「(なぜだろうな………何か、漠然とした、はっきりとしないが、危機的な何かを感じる……。あ、まさか、あのシャリーとかいう妖怪も幻想入りして現れた妖怪だったのか…?)」

 

藍は考え続けた。手がかりを頭で探す。まるで、なくしてしまった何かを物入れをひっくり返して探すように頭を使う。

そして……

 

「(……ダメだな。今はまだ、分からない)」

 

答えは出なかった。まだ、パズルのピースが足りない。今答えを出すのは早計というものだろう。

諦めたようにため息を溢し、前を見ると彼女の姿を視界にとらえた。

 

「(はあ……ここに居たか、博麗霊夢)」

 

再び大きなため息をついて、藍は太陽の畑に降り立った。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

 

「幽香あああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

少し時は遡る。

突然、花の大妖怪、風見幽香が管理する太陽の畑に大声で突撃する侵入者が現れた。

侵入者の名前は、博麗霊夢。特徴的な紅白の巫女服を身にまとい、絶賛音速飛行中である。

そして、見るものを圧倒する広大すぎるひまわり畑をガン無視し、その奥にある一軒の木造の家に突っ込んだ。

 

ドゴォオン!!

 

ドアを吹っ飛ばし、家の中に侵入。

その中には一人の少年がいた。

 

「―――!―――ッ!」

 

犬耳と尻尾をひっつけた少年、ベットの上にいるユウが霊夢の姿を確認した瞬間なにやら涙目で叫んでいた。

よく見ると、ユウの体は大人でも折るのには難しそうな太い花の茎のようなものが巻き付いているではないか。さらにユウの口には蔓でできた特製猿轡をされており、まともにしゃべれそうにない。

その顔は見てわかるように焦りと羞恥が混ざったように赤くしており、助けてくれと今も叫んでいる。

霊夢は一瞬ナニカに支配されかかり固まった後、正気に戻ったように顔をブンブンと振り、助けようとユウに近づく。

しかし、その瞬間。

 

「――――――――ッッッ!!??」

 

ユウの体が激しく痙攣する。

そして、ベッドの後ろからヌッと一人の女性が出てくる。

その手には、ユウの尻尾。

 

「フフ……だめじゃなぁい…うるさくしちゃ……フフフ……」

 

口角を三日月のようにせり上げた、緑色の髪をした女性がユウの耳元で舐めるように囁く。

そこには幻想郷でおなじみの、ドS(サディスト)幽香が降臨なさっていた。

霊夢は何かに縛られるようにその場に固まってしまう。

 

「ほら……せっかく観客も来てくれたみたいだし……もうすこぉし、頑張りましょうね…?」

「―――!―――――!!」

「暴れないの……フフッ……そんなことするなら………」

 

幽香が本来付いている方ではない、犬耳に顔を近づけて……

 

「ふぅぅ――…」

 

息を吹きかけた。

 

「――!?!?!?!?!?!?!?」

 

ユウが激しく悶え、ユウを縛っている茎がミシミシと音を立てる。

その音がきっかけだった。脳をフリーズさせられていた霊夢の自我が復活。

霊夢は状況をようやく正しく理解し、大声で叫んだ。

 

「なぁにやってんのよ幽香ああああああぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァ!!!!!!」

 

その声は、全ての向日葵たちにも聞こえる、馬鹿デカい声だったという。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「な、ななな何やってくれてんのよ幽香! ユウになにしたのか説明しなさい! いやしろ! 今すぐに!」

「なによ。ユウが『嗜虐趣味』について知りたいっていうから身をもって教えてあげようとしただけよ?」

「ユウがそんな言葉知ってるわけないでしょ! というかそもそも何で誘拐なんかしてくれたのよ面倒くさいじゃない!」

「質問が多いわねぇ……私はただ異変で監禁された仲であるユウに偶然会っただけよ」

「何でそっから誘拐なんていう理解不能な行動に出るのかしら!?」

「誘拐とは失礼ね。ただ本人にも無断で我が家に案内しただけよ」

「それを誘拐というのよ!」

 

ゼェハァと息を荒げる霊夢。

しかし、幽香は悪びれる様子もなく受け流すように対応していた。

このまま話していても埒が明かないと悟った霊夢は深くため息をつき、ベッドの上で体を抱きかかえ震えているユウの元へ向かう。

 

「ともかく、私たちは紅魔館に行かなきゃならないの。この耳と尻尾を外すためにね。無駄な時間食っちゃったわ」

「そのままでもいいと思うのだけれど……もったいない。まぁ、分かったわ。それじゃあユウ?またアソびましょうね?」

 

ユウはビクゥッ!? と震えた後霊夢の陰にサッと隠れる。

その目には涙を浮かばせており、その様はまるで警戒する小動物のように可愛らしかったと後に幽香は語った。

 

「まったく……ほら、ユウ。背中に乗りなさい。おぶってくわよ」

「………(コクコク)」

 

そして霊夢はユウを背負い、幽香宅を後にしたのだった。




はい、いかがでしたでしょうか。
案の定、ユウはやられてしまいましたね……ごちそうさまです。
空白時間は是非皆様の豊かな想像力で補ってみてください。
そして、今話もチラッと出てきた謎の黒コート……何者なんでしょう?
ではでは、また次回お会いしましょう。


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EP,38 【霊夢と藍と紫と】

はい、どうも。CAKEです。
そろそろ、第四章『犬人の冒険』が終わるかと思います。
いやまあ、私の気分で何かしらホイホイ入れちゃうかもなんですけどね。
さてさて、今回は前書きで語ることも少ないので早めに行きましょう!
あ、ごめんなさい。今回はちょいと量が少ないです。3000字越えなかったよ…
「いいぞ、もっとやれ」
というかたはGWの課題を終わらせてから本文に進んでください。



「まったく………なんで少し目を離した隙にいなくなっちゃうのよ」

「ご、ごめんなさい……」

 

人里から遠く離れた場所。

幽香が管理するヒマワリ畑、通称『太陽の畑』の傍にある整備された道を霊夢とユウは歩いていた。霊夢は突然消えたユウに大変ご立腹なようで、ユウを歩きながら叱りつけている。

 

「知ってる奴でもほいほい付いて行かない攫われない事! わかった?」

「は、はい……」

「今度いなくなったら知らないからね。またさっきみたいな事があっても」

「はい……」

 

しょんぼりした様子で霊夢の横に並んで歩くユウ。

本当に反省しているようで、目線は地面の方を向いている。

その様子に霊夢はため息をついた。

 

「でもま、私にも落ち度はあるわ」

「…………え?」

「だから、私の傍を離れない事。いいわね?」

「は、はい!」

 

ユウがビシっと敬礼のポーズをとる。

霊夢はそのぎこちない動きとポーズにクスリと笑みを浮かべた。

 

「分かったらほら、もっかい背中に乗りなさい。このまま歩いてると日が暮れるわ。飛んでいくわよ」

「う、うん!」

 

霊夢はユウが背中に乗れるように屈む。

それにユウが乗り、霊夢は体勢を整える。そして、いざと飛ぼうとした時、上空から声が聞こえた。

 

「見つけたぞーー!霊夢ーーー!!!」

「げ……藍…」

 

霊夢はしまったと悪態をつく。

まさかこんなところで見つかってしまうとは―――そう心の中で舌打ちをする。

そんなことを考えているうちに藍は霊夢の目の前に降り立っていた。

 

「さがしたぞ、全く。どこをほっつき歩いているんだ」

「そんなことより、なんでアンタがここにいんのよ。黒コートの見張りをしてたんじゃなかったの?」

「紫様がお前を探せと命令してきたのだ。どこぞの馬鹿が張った結界のせいでな」

「なんのことかしらね。で、見張りは橙にでも任せてるわけ?」

「そんなことさせられるか! あの黒コートはお前を連れ戻してからまた監視を再開する。だからさっさと戻るぞ」

「嫌よ、面倒くさい。それに、結界は問題ないって私の勘が言ってるのよ」

「なに?」

 

藍は霊夢の言葉に面食らったような表情を浮かべた。

霊夢の勘はそこらの勘はまるで違う。例えるならそれは神託のようなもので、外れることはなかなか無い。これは、能力というより体質だ。

そして、その勘の優れた的中率は藍ももちろん、幻想郷のほぼ全員が知っている。

「結界?」と首をかしげているユウを置いて、二人の話は展開していった。

 

「本当なのか?」

「ええ。確かにこの三人は何かしら共通点はあると思うけど」

「たしか、あの神橋理沙はユウの義姉だと言っていたな。となると、あの男も……」

「そういえば、宴会を眺めるように見てたわね」

「なるほどな……しかし、それは私ではなく紫様に言ってくれ」

 

そういうと藍は素早く霊夢の足元に術式が書かれた札のようなものを投げつける。

すると、霊夢が反応するよりも早く地面が割れ、『スキマ』が現れた。

そして霊夢とユウがスキマに完全に吸い込まれ、いなくなったのを確認すると深くため息をついた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「う゛っ!?」

 

どさり、と霊夢は固い地面に落下した。

 

「いったた……何時通っても嫌な空間だわ……」

「うぅ…」

 

霊夢は起き上がり、体にまとわりついた不快感のようなものを取り払おうと二の腕をさする。

ユウを見るとやはり同じなのか、犬耳や尻尾のあたりを少し気味悪そうにさすっていた。

『スキマ』とは、万物の境界の間にある隙間。それゆえのあいまいさが、不快感を与えてしまうのだ。

 

「はい、おかえりなさい」

 

ふと、後ろから声が聞こえる。

霊夢が振り向くと、そこにはやはりというべきか、博麗神社本殿をバックにして立つ紫の姿だった。

 

「何がおかえりよ……強引に連れ戻したくせに」

「こんな結界張るのがいけないんでしょう? 自業自得よ」

「私は結界の見直しなんていかないわよ」

「また勘かしら?」

「ええ。共通点はあると思うけどね」

 

霊夢は立ち上がり、服に着いた汚れをパンパンと叩いて落とす。

 

「そう……ひとまず、この結界を解いてくれないかしら」

「何言ってんのよ。その気になればこの程度アンタならどうにでもなるでしょ」

「お腹がすいて力が出ないのよぉ。だからお茶と茶菓子もお願いね」

「嫌よ。結界解いたら帰りなさい」

「冷たいわねぇ……」

 

紫はヨヨヨ…と泣き崩れる。

もちろん嘘泣きであり、霊夢もそれをよく知っているため、無視して結界を解いた。

 

「で、要件をちゃっちゃか話しなさい。それか帰れ」

「くすん……最近霊夢が冷たいわぁ…」

「よし帰れ」

「冗談よ、だからそのお祓い棒をしまってちょうだいな。要件は分かっている通り、結界の見直しよ」

「だから行かないって言ったでしょ。結界に不備は無いって――」

「ええそうよ。不備がないことを確認するのよ」

「………」

 

紫がどこからか扇子を取り出しバッと広げ、口元を隠す。

そこから表情を読み取るのは難しく、胡散臭さだけが倍増した。

しかし、霊夢は長年の付き合いからか何かを受け取ったらしく、深いため息をした。

 

「……ならさっさと行くわよ。ユウの件だってあるんだから」

「あら? 私はこのままの方がいいと思うわよ? まだ、私さわってないしね」

「絶対ダメ。ほら、行くわよ」

「はいはい」

 

そして、ユウをその場に取り残したまま霊夢と紫は空へ飛び出していった。

 

「………えっと、僕はどうすれば……」

「ゆうくーーーーーん!!」

「あ、おい理沙!」

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「………ようやく、いなくなってくれたかな?」

 

川のほとり、男はゆっくりと後ろを向いた。

そしてゆっくりと立ち上がり、釣り道具を片付ける。

そして小屋に戻ったと思えば、外に出てどこかへと歩いて行った。

その足取りは確かなもので、すでに行き先が決まっているようだった。

黒いフードの付いたコートを羽織り、魔法の森を抜けていく。

 

「だれなのかー?」

 

不意に、幼い少女のような声が聞こえた。

男は立ち止まり、きょろきょろと周りを見回した。そして、黒い服を着た金髪の少女、ルーミアを発見した。

 

「やあ、何かな」

「ここは人里じゃないのだー。何でここに居るのだー?」

「そうだね……人捜し、かな」

「誰か探してるのかー?」

「うん、そうだね」

「そーなのかー」

 

ルーミアはフワフワと男に近づく。

そして、ある程度近付いたところで――

 

「ところで、お兄さんは食べてもいい人種なのかー?」

「え、」

 

何を、という前にルーミアは男に襲い掛かった。

それを男はバックステップでさける。

 

「―――やれやれ」

 

次の瞬間。

男はルーミアに一瞬で近づき、刃物を抜いた。

 

「『霊剣斬』」

 

どさり、とルーミアが倒れる。

意識を失ったのか、ピクリとも動かなかった。

 

「ごめんね。峰打ちだから、勘弁してくれ」

 

そういうと、男はまた歩き出した。

その左手には、銀色に光るナイフが怪しげに煌めいていた。




はい、いかがでしたでしょうか。
今回の事はいろいろ考察ポイントが多かったと思います。
まだ材料は足りないと思いますが……ある程度分かってきた人もいるんじゃないかな?
おっとと、ここでなんか言うとヒントになっちゃうな。とりあえず、ここまでで。
ではでは、また次回お会いしましょう。


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EP,39 【彼と探し人】

はい、どうも。CAKEです。
かなりお待たせしてしまいました。一か月もスイマセン。
今回は皆さんの気になっている(であろう)あの黒コートさんの主観です。そんなに多くは語れないので、2700字以内と短めです。遅れたのに申し訳ありません。
そして、もうそろそろ最終章が近いと思います。
なんだかんだでプロローグ含め40話目。ありがたいことです。
では、今回はいろいろ想像しながら、予想しながら読むことをお勧めします。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は、推理小説の感想文を書いてから本文に進んでください。


この村が排他的になったのは、まだ俺の生まれていない程遠い昔のことだ。

百年前だったか五百年前だったか、この村は移住を繰り返し何物にも見つかることのない場所に住み着いた。ただ、今の場所を見つけたのはたったの五年前。どうせまた暫くすれば新しく住み場所を探すことになるのだろう。

こうなったのは誰しもが、異能のせいだ、と言った。だが、村が異能を拒む前はその異能に頼ってきたと、俺の祖母は言った。

その祖母はというと、もうこの世にはいない。一人静かに、誰に知られることもなく、いっそ寂しいほどに息を引き取った。

俺の祖母は異能を持っていた。詳しくは聞いたことないが、とにかく異能をもっているといった。そのことを初めて俺に打ち明けた祖母は、不安そうな顔をしていたことをよく覚えている。そして、それを拒むことなく受け入れた俺に、安心したような、ほっとしたような笑みも鮮明に思い出すことができる。

だが、しばらくして祖母は病気にかかる。寿命だって近づく彼女には辛く重い病気だった。祖母は異能持ちだったから、医者に見せるなんてことは絶対にできなかった。

もはや、諦めるしかなかった。

 

『仙次郎、私は、もうすぐ死ぬでしょう』

『………はい』

『貴方のことだから心配はないでしょうけど、しっかりね』

 

その、しっかりね、の意味は聞かなかった。なんとなく分かっていたからだ。

目から涙が零れ落ちそうだった。

でも、泣いている顔は見せなかった。ぐっと堪えて涙を抑え込んだ。

 

『……これ、あずけるわ。壊れたものだけど…』

『いえ……一生、大事にします』

『……それじゃあ、眠いから寝るわ』

『…ええ、お休みなさい…』

 

それから祖母は目を覚まさなかった。

それでも俺は泣かなかった。だって、祖母が消えたわけじゃないから。

弱気になんてなれない。むしろ、強く前を向かなければ。

俺は立ち上がり、祖母の顔を見た。

しばらく祖母の眠った顔を見て、おもむろに手を伸ばし、祖母の傍に置いてあったもう一つの形見を手に取った。

 

その後、俺は大きな決意とともに村に馴染みはじめた。

貧相な自警団に入り、結婚もし、子を産んだ。人前では真面目な好青年、夜になれば一人で修業に明け暮れていた。

そして子も育った頃、俺は誰にも何も言わずに村を出た。

絶望しか残っていない村の外に出て、俺は大きく息を吸った。そして、ゆっくりと吐き出してポケットから銀色に光るナイフを取り出した。

ナイフを頭上高く上げて、目を閉じる。

 

「………必ず」

 

心を決め、俺の『能力』を使う。

次の瞬間には、俺の右腕は綺麗になくなっていた。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

涼しい森の中を、彼は黒いコートを揺らしながら歩いていた。

かれこれ一時間も彼はこの森の中をさまよっている。

ふと、彼は立ち止る。そして、木漏れ日が眩しい緑の天井を見上げた。

 

「………………迷った」

 

黒いコートの隙間から見える彼の表情は、泣きそうな顔をしていた。

これを紫や藍が見ていたとしたら不思議に思うことだろう。

 

「ま、待つんだ、俺。この程度で躓いてしまっていたら今後が思いやられる。これは、冷静に現状を把握するんだ」

 

あのボロくさい自警団のハゲ団長もいっていただろう、冷静かつ正確に周りを観察する。

まずは上、森。

次に前、森。

もちろん後ろも、森。

当然のごとく左右も、森。

そして、一番肝心で重要な、位置。

 

「……まいったな。さっぱり分からない」

 

彼は頭を抱え、呻くようにつぶやいた。

黒いコートの中では、嫌な汗がツーと流れていた。

 

「(ともかく、このままではまずい。あの妖怪もいつ戻ってくるのかわからない……次あったら問答無用で襲われそうだ。目を離したらいなくなっているのだから)」

 

そんなことを考えながら、彼は歩きはじめる。

迷っているのは確かだが、立ち止ってしまってては何も変わらない。むしろ、状況が悪化するばかりだ。

そして、しばらく歩いていると、彼の耳に水が跳ねる音が入ってくる。

彼は、お、と言ってその音がした方向へと進み始めた。状況が一転したことに喜びが隠せないのか、速足である。

その水の音の正体は、大きな池だった。霧が濃くて遠くまで見通すことはできないが、かなり大きいことは、想像に難しくない。

彼は、その池を覗き込み、ある物を持ち上げる。どうやらそれが池に落ちたことで音がしたようだった。

しかし、彼はそれを珍しそうに見ていた。

 

「……氷蛙?」

 

それもそのはず、彼が手にしているのは氷漬けにされた蛙だったのだから。

これも妖怪なのだろうか、と考える彼はその氷蛙を注意深く見ていた。

だから、彼は後ろから近づく、いたずら好きな妖精に気付けなかった。

 

「……ッ! 誰だ――」

「えいっっ!」

 

次の瞬間、彼は氷漬けにされてしまっていた。

少なくとも、その妖精―――チルノにはそう見えていた。

だが。

 

「危ないじゃないか」

「えっ!?」

 

彼は、氷漬けになどされていなかった。

どんな攻撃が来るのかわかっていたかのように、容易く避けてしまったのだ。

目の前には、ただ大きな氷の塊があるだけだった。

 

「な、なんで!? 今、確かに――」

「見間違えじゃないかい? それより、聞きたいことがあるのだが……」

「問答無用よ! 凍符『パーフェクトフリーズ』ッ!」

 

彼の言葉になど耳を貸すつもりのないチルノは、後ろに飛んで間合いを取り、スペルカードを取り出した。

彼の眼前には色とりどりの大粒の弾幕が散りばめられている。

 

「――やれやれ」

 

彼はナイフを取り出し、構える。

そして

 

「―――『突震槍』」

 

そのナイフを投げた。

そして、そのナイフは一直線にチルノの方へと飛んでいく。

それに気付いたチルノは慌てて弾幕のうちの一つを真正面に放った。飛んできたものは弾幕で撃ち落とせることくらいは、チルノは知っている。

しかし、これがいけなかった。

ナイフは、あろうことか弾幕を突き抜けた。

実はこのナイフは細かく振動していた。ナイフに霊力を注ぎ込み、細かく振動させることで、本来突き抜けることのないナイフは強引に弾幕を切り裂いたのだ。

そして、ナイフはそのまま飛んでいき―――チルノの額に直撃した。

 

「うぎゃう!?」

 

チルノはそのまま落下し、気を失った。額にはナイフの柄が当たった、赤い跡が残っている。

彼はチルノの傍に落ちているナイフを拾い、すまない、と呟いてまた歩き始めたのだった。




はい、いかがでしたでしょうか。
そういえば、もう夏ですね。
虫たちも珍しくなくなってきまして、どこかにリグル隠れてないかなと日々妄想中です。
……なんか言ってはいけないこと言った気がする。まあいいか。
では、また次回お会いしましょう。


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EP,40 【ユウと平和なひと時】

はい、どうも。CAKEです。
今回でなんと40話目となります!
これも皆様のおかげ。最近全然触れていませんが、お気に入り数も55越えと感謝の極みです。(語彙力)
さて、そんなこんなで続いてきましたが、第四章『犬人の冒険』も今話で最後となります。
他と比べて少ないのですが、そこはご了承をば。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は就活を終わらせてから本文へお進みください。


「霊夢さん、遅いねー……」

「た、確かに………」

 

博麗神社の縁側、姉弟の二人は博麗神社の主である博麗霊夢をただ待っていた。

魔理沙は「紅魔館から本借りてくるぜ!」と言って颯爽と去っていった。どうせなら自分も一緒に連れて行ってほしかったと姿が見えなくなってしまったころにユウは呟くように思ったのだった。

理沙が淹れた少しぬるくなったお茶を飲み、二人してただ茫然と空を眺めていた。

 

「……ねえ、ゆう君?」

「なに?」

 

唐突に理沙が口を開いた。

その様子は、どこか戸惑っているようでなかなか内容を話さない。

やがて、一種の覚悟ができたのか、ぬるいお茶を一気に飲み干した。

 

「ここに来るまでのこと………本当に、何も覚えてないの?」

「……うん」

「そっか……」

 

理沙は寂しそうに呟いた。

あの楽しかった日々を、相手が全く覚えていないとなると、それなりにショックが大きいものだ。あの時に笑いあったことや、二人一緒に走り回ったこと、そしてやりすぎて一緒に猛烈な勢いで怒られたこと。それを、ユウは覚えていない。

理沙はあの時、自分を覚えていない事実に驚愕し、絶望した。それでも折れなかったのは、落ち込んでも仕方ない、と自分の中で強制的に、そして暴力的なまでに割り切ったからだった。

だが、完全に無くなるわけじゃなかった。むしろ、それは自分の心の底で強く大きくなっていく。

無理やり割り切った多大すぎるショックは消えることなく理沙を蝕もうとしていた。

それに、その原因が自分だと思っているならば、なおさら。

だって、ユウが里の人に追われることになったのは―――

 

「でも、ね」

「…でも?」

「今は、すっごく楽しいよ?」

 

ユウはにっこりと微笑みながら、ゆっくりと理沙のほうを向いた。

その顔に、理沙はひどく安心した。理沙が好きだったこの笑顔が、心に眠るショックと罪悪感を浄化するように払拭した。

 

「(ああ、そうか)」

 

理沙は自然に笑っていた。

そして、いつものようにユウに抱き着いた。

 

「うわぁ!? ちょ、姉ちゃん!?」

「えへへ~、このかわいい弟めっ!」

 

ユウに頬ずりしながら理沙は思う。

今までのことを、ユウが忘れていたとしても。この、『今』には関係ない。

罪悪感は忘れない。それは、『過去』の失敗に目を背ける間違った行為だ。

だけど、それに囚われるのは、もっと違う。

 

「(これからんだ。私たちの思い出は)」

 

だから今はこの愛しい存在を思いっきり抱きしめてやろうと、理沙はユウの悲鳴を無視して言った。

 

「ねえゆう君」

「……何?」

「明日、遊びに行こっか」

「僕、この耳と尻尾取ってもらわなきゃなんだけど…」

「じゃあ、紅魔館に行こ?」

「え、でも……」

「ええい、つべこべ言わない! 文句言うんだったらこうしちゃうぞ!」

「ひゃッ!? や、やめ、尻尾いじらないでぇ!」

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

その頃。

霊夢と紫は幻想郷をドーム状に囲み守っている『博麗大結界』の見直しを完了させていた。

 

「…やっぱり、異常なんてないじゃない。紫」

「霊夢、何度言わせるの? これは結界に異常ないことを確認する作業なのよ?」

 

博麗大結界は幻想郷をそのままかっぽりと覆っている。

その面積量や術式の量はやはりバカにならず、霊夢は疲労しきっているようだった。

 

「……で? なんで異常ないことを確認するのよ。ふつう逆でしょ?」

「結界は前に強化したばかりでしょう? それに、鬱病異変の時に私が確認してたじゃない」

「じゃあ私必要なかったじゃない」

「再確認よ」

「………はぁ。で? なんで異常ないことを確認するの」

 

霊夢は頭が痛いのか、手を額にやり盛大にため息をつきながら尋ねた。

しかし、謎に溜める紫に目だけで、言え、と脅迫する。

紫は扇子を取り出し、口元にあてる。そして、言い放った。

 

「ゆう君、理沙、そしてあの黒いコートを着た男……この三人がグルだってことを確認するためよ」

「……」

 

やはりか、と霊夢は思う。

紫はこの幻想郷の創造者。ゆえに、この世界を誰よりも愛し、誰よりも気にかけている。

だから紫は幻想郷に仇なす者を見逃したりなどしない。不可解なことが起これば、それを解明しなければどうしようもない程の不安に駆られる。

そして、今起こっているのは謎の幻想入り。今までにない入り方で来た三人は、はっきり言って謎の塊だった。

 

「さらに言うと、ゆう君は要注意ね」

「…あの、ユウが?」

「ええ。なにせ、あんな訳のわからない仮面を持ち込んだんだもの。記憶を失ってるのは確かだけど、警戒は怠れないわ」

 

霊夢は、初めて仮面をつけるユウを見た晩を思い出していた。

あの時のユウは、自我を失い暴走した。そして霊夢は、もう二度と仮面をつけるなと、ユウに強く強く言いつけた。

それ以降、ユウはその仮面をつけていない。フランドールと会ったときにつけていることを知らない霊夢は、ユウがその仮面で何かをすることはないと思っている。

そのことを紫に言ってみるが、紫は姿勢を崩すことはなかった。

 

「見方によれば、温存している、ともとれるわ。あれ、使うときに代償があるのでしょう? 永琳はあと何回つけられると言っていたかしら? そのくらい聞いているんでしょう?」

「……二回くらいよ。三回だと、もう自我が残る可能性は無いらしいわ」

「そう……ともかく、目を離さないでちょうだ――」

 

その時、紫の脳内に式である藍の声が響いた。

 

『紫様! あの男が、消えました!』

「ッ! 霊夢、頼んだわよ!」

「あ、ちょっと!」

 

紫は即座にスキマを開き、その場からいなくなった。

霊夢は深くため息をつきながら博麗神社に戻っていったのであった。

そして、霊夢は博麗神社に戻った瞬間に呆れ返ることになる。

なぜなら霊夢の目の前には、顔をほんのりと赤くし息を荒くしているユウと、そんなユウをどこかツヤツヤした顔で膝枕している理沙がいたからだ。理沙は愛おしげにユウの頭を撫でており、時折犬耳をつまんではユウが小さい悲鳴をあげている。

 

「あ、おかえりなさい」

 

理沙は霊夢に気がついてもその手を緩めることはしなかった。

それに霊夢は呆れるとともに、こう思った。

 

「(……紫には悪いけど、こいつらが何か悪いことをするようには到底思えないわね。というより、できないでしょうけど)」

 

嘘を吐くのが苦手そうな二人を見て、自然と微笑みがこぼれた。

霊夢は二人に近づき、まだ残っているユウのお茶をグイッと飲み干した。

 

「ほら、いつまでそうやってんのよ。境内が散らかってるじゃない。さっさと掃除しなさい」

「えー、たまには手伝ってくださいよー。霊夢さん私たちが掃除してる中見てるだけじゃないですかー」

「うるさい、さっさとしなさい。じゃないと、追い出すわよ。ほら、さっさと立ってちゃっちゃと済ませなさい」

 

そう言って霊夢は本堂に足を進める。

すぐ後ろから聞こえる「鬼! 鬼畜! 脇巫女!」という元気そうな声に少々苛立ちながらも、やはりあの二人に悪巧みなど不可能だ、と感じるのだった。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「ようやく……見つけた」

 

とある場所、ある妖怪が呟いた。

よたよたと歩くその姿は、とても知性あるものには見えず、何かに囚われるように歩いていた。

そして、次の瞬間には。

その妖怪はにんまりと口を赤い三日月のようにして笑い、計画を実行に移したのだった。




はい、いかがでしたでしょうか。
ユウ君の仮面の事、忘れてる人が多いんじゃないかな?
まぁ、出番が少なかったし、仕方ないことなんですけどね。
それでは、また次回会いましょう。
ではでは。


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ユウと異変と運命と
EP,41 【襲撃】


はい、どうも。CAKEです。
長らくお待たせして申し訳ありません。
色々ドッタンバッタん大騒ぎしてしまいまして、中々執筆できませんでした。
さて、第五章が始まってしまいました。
これからこの幻想郷はどうなってしまうのでしょうか。
前書きはこのくらいにして、ササッと本篇に行きましょうか。
「いいぞ、もっとやれ」
という方は、熱中症対策をしてから本文へお進みください。


「藍!」

「ゆ、紫様………」

 

魔法の森の一角。

紫と藍は黒コートを着ていた片腕のない男が使用していたボロボロな小屋の前にいた。

 

「消えたってどういうことなの? 二時間くらいずっと釣りをしてると、あなた言ったじゃない」

「すみません紫様……確かにあの男は二時間釣りをしていたのですが……」

「それが目を離したたった二十分くらいの短い間に消えた……というより、どこかにいってしまった、と」

「恐らく、我々の尾行がばれていたものかと…」

「そうとしか思えないわね。いくらなんでもタイミングが良すぎるもの」

 

紫はゆっくりと男が使っていた小屋の扉を開ける。

そして、その先の光景に紫と藍は驚きを禁じ得なかった。

その小屋の中は埃やカビ、さらには蜘蛛の巣までもができていた。男が寝転がったであろうベッドに埃はかぶっていなかったが、いたるところが破けていてマットのバネが何本も生えている。とても人が寝れる環境になく、もし寝てしまったのならば次の日は喉の痛みどころではないくらいの体調不良に苛まれることになるだろう。

 

「こ、これは……!?」

「…どうやら、ずいぶん前から尾行がばれていたみたいね。彼はここで私たちを撒くタイミングをじっと待っていたのでしょうね。釣竿も、ここにあるゴミで作ったのでしょう」

 

紫の視線の先には、彼が片づけた―――というよりかは、捨てた釣竿が無造作に転がされていた。

その釣竿の竿の部分はただの木の枝で、糸は毛糸のような裁縫の時に使うであろう糸が使われていた。明らかに使えるものではなく、この釣竿では何も釣れないのは誰の目にも明らかだった。

 

「いかがしますか?」

「……………彼を探しなさい。恐らく、どこか目的地をもって行動しているはずよ。そうね、まずは紅魔館に行きなさい。こうなったら順番通りに探っていくしかないわ。見つけたら捕まえなさい、殺す必要はないわ」

「わかりました」

 

そういうと藍はその場からふわりと浮いたと思えば、次の瞬間には風を切り裂くように飛んでいった。

それを見届けると、紫はスキマの中へと入っていった。

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「………」

「………」

「………………」

「…………ぼー」

「言わなくていいの」

「はい」

 

その頃、慌ただしい八雲一家とは正反対に、博麗神社の縁側では霊夢と理沙が平和ボケしていた。

霊夢がゆっくりとお茶を手にして、ゆっくりと飲む。そしてゆっくりと元の位置にお茶を戻す。たったこれだけの動作なのにもかかわらず、日が暮れてしまうのではないかと疑ってしまうほどだ。一方、ユウは掃除で疲れてしまったのか、いつのまにか霊夢の膝を枕にして夢の国へと旅立っていた。

その場から発せられる音は、ユウの規則正しい寝息とたまにしかならないコップと床がぶつかる音くらいだった。そんな、平和にまみれた、けれども幸せを具現化したような光景に邪魔が入るまでは。

にゅっ、と霊夢の後ろから妖怪が現れる。その口は三日月の形に歪んでおり、今にも襲い掛かろうとしている。

そんな、博麗の巫女の後ろを見事にとった妖怪は、まあ、いわずもがな紫であった。

紫はゆっくりと手を挙げ、霊夢の耳のすぐ後ろあたり、要するに「だ~れだ」の予備動作に入っていた。さらに耳元でささやくつもりなのか、頭の位置をしっかりと霊夢の頭の後ろに固定していた。そして、一気に手を霊夢の目に当てようとする………が、そこに頭はなく紫は空気を抱くような何とも言えないポーズとなっていた。

 

「あら? …へぶっ!?」

 

その理由は簡単、霊夢は紫に目を抑えられる前に頭を前に倒したからだ。そして、ダメ押しとばかりに頭を背中が反るほどに思いっきり振り上げたのだ。囁くつもりであった紫の頭に霊夢の後頭部がクリーンヒット。紫にほぼ致命傷レベルの大ダメージを与えていた。

 

「いてて…ちょっと、酷いじゃない」

「あんたがコソコソしてるからいけないんでしょ。で、何の用なの」

「ちょっと彼女、借りるわよ」

「ひゃっ!?」

 

隣でボケボケしていた理沙が悲鳴を上げる。

理沙が座っていた位置には人一人分の大きなスキマができており、一目でそれに吸い込まれたものだとわかる。

しかし、霊夢は何も感じないかのように引き続きお茶をゆっくりと飲み続けていた。

 

 

 

---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–---------–

 

 

「………ぁぁぁああああああッッ!?」

 

スキマから落ちてきた理沙は、ひかれていた座布団の上に不時着する。

畳から埃が舞い、天井からは何かの破片がパラパラと落ちた。

 

「いっててて……」

「大丈夫かしら?」

「な、何があったんですか…?」

 

理沙がゆっくりと顔を上げると、ちゃぶ台を挟んで反対側に紫が座っていた。

 

「私があなたをここに招待しただけよ。質問するだけだから、そんなに緊張しないでちょうだい」

「あ、はい……で、質問、というのは…?」

「ユウのことについてよ」

「ドンとこいです」

 

ユウのことについて、と聞いた瞬間、理沙は背筋を伸ばして先ほど縁側でだらけていた時からは想像もできないシャキッとした顔つきになった。

 

「そう、じゃあさっそく聞くわね。ユウの能力、知ってる?」

「あー………知らない、ですね…実際に使っているところを見たことがないので……」

「そう…」

「というより、私が知りたいくらいなんですよ。そもそも、ゆう君自身に能力なんてあったんですか?」

「ええ、あるわよ。一時期は『能力を受け付けない程度の能力』とかかと思っていたのだけれどね。にしては矛盾が多かったのよ」

「ほうほう、して矛盾とは?」

 

詰め寄る理沙に、紫は話してもいいものかと一瞬考えてみるが、「ま、いいか」と話し出した。

 

「咲夜という従者がいたでしょう? 紅魔館の」

「ああ、確か『時間を操る程度の能力』でしたっけ?」

「ええ、そうよ。彼女が能力を使ったとき、もしゆう君の能力が『能力を受け付けない程度の能力』だとしたらどうなると思う?」

「えーと……あ、ゆう君の時は止まらないから…」

「そう、そのとおりよ。でもね、そうならない時が度々あったのよ。来客を迎えに行こうとした時は咲夜の能力は効かなかったのに、介護しようとした時にはしっかりとゆう君の時間が止まっていたらしいわ。それと、離れていてもダメみたいね。宴会の時も、心をあっさり読まれていたし」

「最後は距離ってことでしょうけど、最初の二つが説明つきませんね……。ところで、心を読むって…」

「そういう妖怪がいるのよ」

「なるほど……あ、あの宴会の時にゆう君が途中で離脱したのって…」

「彼女に悪気はないから許してあげてちょうだい? 癖に悪意や悪気が入り込むすきなんてないんだから」

「いえ、むしろ羨ましいなと」

「これが姉で大丈夫なのかしらね」

 

紫がユウの未来を思いため息をつく。

 

「ま、いいわ。次の質問よ」

「あ、はい。なんでしょう」

「もう一度聞くけど、今回は拒否権はないと思ってちょうだい。この仮面は何なの?」

 

理沙の時が一瞬止まったような気がした。

なぜなら、紫が取り出したのは、真っ白な仮面だったからだ。

理沙は、何も言いたくないのか、顔を伏せた。

 

「答えないと、これ、壊しちゃうわよ?」

「…………せんよ」

「え?」

 

理沙は、俯いて呟くように、力無く言った。

 

「壊せませんよ…絶対に」

「壊せない? どういう意味かしら」

「………わかったら困ってませんよ。分かるのは、呪いの仮面だってことです」

「心が削られる、と?」

「違います。乗っ取られるんです」

「乗っ取られる……?」

「その仮面は、ゆう君の家の家宝みたいなものなんですよ。そして、その仮面には意志があります。能力もあります。ゆう君の親が遺した、最悪の仮面です」

「ちょっと待って、意志がある?」

「はい。まあ、どんな性格は知りませんけどね。名前は、『心呪面』です」

「…そう、わかったわ」

「……話したくはなかったんですけどね。私が、辛いので。でも、紫さんにも事情があるんでしょう?」

「………ええ。そうね」

「先に言っちゃうようであれですけど、どうやってここに入ってきたのかは、私にもわかりません。いつの間にか、ここにいました」

「そう、わかったわ。なら、もう何も聞かない――」

 

その時だった。二人の間に、藍が乱入してきたのだ。

未来を左右する、衝撃的な言葉とともに。

 

「紫様! 紅魔館が……紅魔館が、何者かに襲撃されています!」

 

 

 




はい、いかがでしたでしょうか。
あわわ……紅魔館がえらいことに……
今こそブンヤの力を発揮する時! さあいけ……あ、違う? これは失礼。
それでは、また次回お会いしましょう。
ではでは。


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