江戸川コナンが恐い (麻咲代)
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File1 俯く少女

ちょこっと修正

書いていたデータが消えてしまい
バタバタしており手がつけられませんでした。

久しぶりに思い出しまた書いてみようと思います。

期待せずにお待ちください。


東京都米花市米花町帝丹小学校

 

教室では始業前らしく児童の騒がしく賑やかな声が響いている。

そんな教室の中にその周りだけ静かな座席がある。

教室の後ろのドアの側の座席には一人の少女が着席しているが頭を下げじっと机の上を見つめ口を一文字に閉ざしている。

少女は肩まである黒髪は光沢があり俯いてはいるがその顔は可愛らしく白い長袖のワンピースで胸にリボン、質の良い生地で出来ているのは一目見てわかる。

大多数の児童はそんな少女を気にする様子もなく仲のいい友達と戯れていた。

 

少女はそんな俯く少女をみて溜め息をついた。

 

「はぁ、今日も美沙ちゃん元気ないね…」

 

ここ最近元気の無い少女、美沙を想い考え耽っているようだ。

その少女はお気に入りのカチューシャで髪を上げまんまる大きな目と可愛らしい顔の眉を歪め美沙を見つめている。

 

「どうしたの?歩美ちゃん、あの子がああしてるのいつものことじゃない」

 

クラスメイトの少女が若干非難めいた目で美沙を見つめている。

 

「美沙ちゃん、話し掛けても返事しないし喋ってるとこまともに見た事ないね」

 

別のクラスメイトの少女も同意するように美沙を見ながら呟いた。

 

「歩美、友達になりたいもん美沙ちゃんと」

 

歩美頑張る!と小さい拳を握り締め決意の篭った顔で今日は絶対話しかけると息巻いている。

クラスメイト達はそんな歩美を見て美沙が折れるのも時間の問題だと呆れた顔で見つめ合った。

チャイムと同時に教室のドアが開き担任の先生が入室し、歩美は美沙の方に進めていた足を自分の座席に急いで戻し着席した。

 

担任の先生はにこやかな顔で挨拶を済ませ何か企んでいる様な顔で前のドアの方を見た。

 

「今日から、新しくクラスの皆と勉強するお友達がいます」

 

急に言い出した転校生の紹介に沸き立つ児童達。美沙も珍しく新しい転校生が気になり顔を上げ教壇を見た。

 

「江戸川コナンです、よろしく」

 

メガネに青いタキシードに蝶ネクタイという妙な装いと妙に引き攣った顔で自己紹介するコナンにクラス中が沸いた。

美沙も珍しく口を開き小さな声で呟いた。

 

「変な名前…」

 

隣の男の子も新しい転校生に釘付けになっており美沙の呟きは誰にも聞こえていない様だ。

その後また口を閉ざし俯いた彼女を誰も気に止めていなかった。

 

その後、授業が終わり放課後になるまで美沙が顔を上げることは無かった。

歩美も新しい転校生に気を取られ、朝の決意は吹っ飛んでおりその日美沙に喋りかける事は無かった。

 

 

 

数日後

 

その日コナンは仲良くなった。歩美、元太、光彦と下校していた。

 

元太は恰幅のいいガキ大将風な容貌で坊主に十円ハゲが目立った食いしん坊。

光彦はひょろっとした体格でそばかすが目立つ少年。

吉田歩美、小嶋元太、円谷光彦 、そして江戸川コナンを加えた四人で少年探偵団を結成し活動している。

といってもコナンは嫌々付き合っている節がある。

 

何故なら

小学一年生江戸川コナンは実は高校生探偵、工藤新一その人である。

 

 

その工藤新一はある日、幼なじみで同級生の毛利蘭と行った遊園地で、サングラスに黒ずくめの服装をした男が怪げな行動をとっていたのを目撃してその後を追跡。

そして黒ずくめの男達の取引に夢中になっていた新一は後ろから近付く仲間に気付かず殴打され薬を飲まされ気付いたら…

子供の姿になっていた。周囲の人間に被害が及ぶと考えた新一は正体を隠し蘭に名前を聞かれ咄嗟に江戸川乱歩とコナン・ドイルの名前を合わせ江戸川コナンと名乗り、黒ずくめの組織の情報を集めるため探偵をしている蘭の父親の所に居候しているのである。

 

小さくなっても頭脳は同じ!迷宮無しの名探偵!!

 

その名は…「名探偵コナン!!」

 

 

「おい、コナンなんだよいきなり自分の事名探偵なんてカッコつけて言っちゃって」

 

元太が呆れた目で言い放つ。

 

「コナン君もカッコつけたがる年頃なんですよ元太くん、温かく見守ってあげましょう」

 

光彦がため息混じりに追い打ちを掛ける。

 

「コナン君やる気になってくれたんだね、歩美も頑張る!!」

 

歩美は爛々とした目でコナンを見つめ拳を握りしめる 。

 

「ば、ばーろー!思ってた事口に出しちまっただけだ!!」

 

…墓穴を掘ったコナンであった。

 

 

赤面しつつ話を誤魔化そうと辺りを見回すとふと信号機付き横断歩道の先に見覚えある姿を見つけた。

 

「おい、お前らあいつってウチのクラスの…」

 

必死に名前を捻り出そうとしたが出て来ないコナン。

 

「あー、美沙ちゃんだー」

 

歩美は嬉しそうに叫んだ。

 

「コナン君あれは、有栖川美沙さんですよクラスメイトの名前位覚えて下さいよ」

 

全くと光彦がコナンに名前を告げる。

 

「でもアイツ全然喋らねーし、友達いねーんじゃねーの?俺も話し掛けても無視されたし」

 

「僕も話し掛けてもずっと俯いたままでしたよ、授業中もですよ?」

 

元太と光彦が不満そうに打ち明ける。

 

「ふーん、ウチのクラスでも色々なキャラが居るんだな…」

 

食いしん坊のガキ大将、ひょろっとした理屈屋、天真爛漫な女の子、根暗な美少女…漫画かよとコナンは思ったが、自分の存在を思い出し考えるのをやめた。

 

「待ってよー、美沙ちゃーん!!」

 

歩美が信号が青になったのと同時に美沙を追いかけて行く。

美沙はちらっと振り返り歩美を見てから振り切るつもりなのか走って離れていった。

 

コナンと元太、光彦が追いついた時には曲がり角で様子を伺っている歩美がいた。

 

「どうしたんだよ歩美、アイツ見失ったのかよ」

 

元太が聞くと歩美は曲がり角の先を指さし言った。

 

「ほら、あそこの門の前で男の人と喋ってるよお父さんかな?」

 

歩美が指さす先には黒い高級外車の側にひげ面の男と美沙が居た。

美沙の家なのだろうか、門には有栖川と書かれた表札があった。

 

「というかこの家…でかくねぇか?」

 

元太が驚くのも無理はなく、コナンは自分の家、といっても工藤邸だが比較してもかなり大きく、比べるならば蘭の親友の鈴木財閥社長令嬢である園子の家ぐらいであった。

 

「お嬢様だったわけね…」

 

コナンは呆れ顔で呟いた。

 

 

「美沙、早く帰れといつも言っているだろう」

 

ひげ面の男は怒気を含んだ声で追求するが、美沙は俯いたままである。

 

「どうして私のいう事が聞けないんだ!!」

 

男は腕を振り上げ美沙の頬を打った。

打たれた美沙は尻餅を付き頬に手を添え涙で潤んだ目で男を見た。

 

「おい!おじさん!子供相手に大人気ないぞ!!」

 

見かねた元太が男に詰め寄る。

 

「そーだ、そーだ!!」

 

光彦が若干怯えながら非難の声を上げる。

 

「美沙ちゃん大丈夫??」

 

歩美が美沙介抱するように抱き起こす。

 

「早く帰れってまだこの時間、寄り道せず真っすぐ帰ってきた筈なのにそれでも遅いの?おじさん」

 

コナンは男が無茶苦茶な怒り方をしているのを指摘する。

 

「なんだお前ら!美沙、家に入ってなさい」

 

喚いたあと美沙を睨みつけ家に入るよう怒鳴る男。

美沙は歩美の腕を解き門の中に入って行った。

 

「お前ら!!美沙に何言われたか知らんが早く帰れ!美沙の奴まだ躾が足らんようだな…」

 

男は怒鳴ったあと車に乗り込み門の中に消えて行く。

 

「なんなんだよアイツ」

 

元太が怒りに燃える。

 

「有栖川さん大丈夫でしょうか?」

 

光彦は美沙を心配したように呟く。

 

「美沙ちゃん…」

 

歩美は美沙が消えていった扉を見つめ泣きそうな顔だ。

 

あの男、放っておくとまずい事になるかもしれない。

コナンは顎に手をやり思考に耽っていた。

 

四人は腑に落ちない感情になりながらも帰路についた。

 

 

米花市米花町5丁目毛利探偵事務所

 

 

コナンは有栖川邸から帰宅すると蘭の父親の探偵毛利小五郎に有栖川家について尋ねた。

 

「有栖川??有栖川っていったら商店街の近くのあの馬鹿でけぇ家のかぁ??」

 

ちょびヒゲのおじさん、毛利小五郎はビールを飲みながら問いに答えた。夕方なのに冷房を掛けキンキンに冷えた缶ビール飲んで大好きな沖野ヨーコの出演テレビの再放送を見ている。これでいいのか名探偵…

 

「うん、クラスの子がその有栖川の人みたいだから何か知ってるかなって思って…」

 

コナンは大人の前では猫をかぶり子供の振りをして可愛らしく振る舞う。

 

「ちょーが付くほど金持ちだってこと位しか知らねーぞ」

 

小五郎はヨーコちゃん見てんだから邪魔すんなと手を払い再び缶ビールをかっ食らった。それと同時に事務所の扉の開く音がした。

 

「またお父さんお酒なんか飲んで」

 

コナン君ただいまと小五郎の娘である毛利蘭がため息混じりに入室し、机の上にあるビールの空き缶を早速片付ける。続いて一人の女子高生も扉の後ろから顔を出した。蘭と同じ制服を着ている事から同級生だろう。

 

「ねーねー何の話?」

 

蘭の親友の鈴木園子だ、茶髪にいつものようにカチューシャで前髪を上げている。

 

「有栖川っていう家の話だよ、園子姉ちゃん」

 

げ、出たなガキんちょ!と園子は身構え有栖川という言葉に反応する。

 

「有栖川っていえば、美沙ちゃんとこの…さてはガキんちょ美沙ちゃんの事…」

 

「そ、そうじゃないよ園子姉ちゃん…家の前で男の人に打たれてたから気になって」

 

ははーんさてはとニヤニヤする園子に慌てて訂正するコナン。

 

「打たれてたって?それって大丈夫なの?コナン君」

 

蘭が血相を変えて詰め寄り心配した声色でコナンに問い詰める。

 

「うん、大丈夫だよちょっと赤くなってただけみたいだから…」

 

あははと急に出てきた蘭に乾いた笑いで誤魔化すコナン。

 

「それより園子姉ちゃん知ってるの??」

 

「有栖川家はこの辺の大地主で有名な資産家よ、美沙ちゃんのお父さんは株や金融業で成功してて最近は未来への投資だとかでエネルギーや色々な研究に投資しいてるらしいわよ」

 

園子が顎に手をやり中空を見つめ記憶を絞り出しながら説明する。

 

「商店街近くの屋敷は別邸で普段は何処かの国だかで広い敷地のもっと凄い豪邸に住んでいて、こっちには美沙ちゃんが小学校に入学するのを期に母親の意向で日本で生活する事にしたみたい……でも…」

 

「でも??」

 

途中で言い淀んだ園子にコナンや隣で聞いていた蘭や執務机に座っていた小五郎も興味津々で先を促す。

 

 

「あの娘の両親、1ヶ月位前から行方不明らしいのよ」

 

「ゆ…行方不明!?」

 

詳しい話は知らないけどねと園子の発言で一同に衝撃が走る。

 

「じゃあ美沙ちゃんは屋敷に一人で…」

 

「ああ、それは大丈夫勿論家政婦さんが居て生活に不自由してないはずよ」

 

心配する蘭に園子は安心させるよう私んちもそうだったからと付け足す。

そういえば普段の言動で忘れそうになるが園子も超お嬢様だったなとコナンは思い出す。

 

「それでも……」

 

蘭がそれでもまだ小さいのに両親が居なくなって心配だわと小さく呟いた

確かに幼い子供で両親が居ないのであれば、あの落ち込み様も暗さも頷ける。

しかし、あの門の前で美沙を打ったあの男。一体何者なんだ??コナンは下校時の光景を思い出し思考を巡らせる。

 

「コナン君…」

 

蘭がコナンの両肩を掴み自身も屈み目線を合わせ続ける。

 

「その美沙ちゃんと仲良くしてあげてね?」

 

コナンは薄ら顔を赤くしながらう、うんと肯定を示す。

 

「暗い話は終わり!じゃあ私帰るね、蘭また明日」

 

園子はまたねーと蘭に手を振り帰って行った。蘭もそれに応じてから夕御飯の支度しなきゃと事務所の上の階に有る住居へ上がっていった。

 

全くアイツは何しにきたんだ?と小五郎は園子に呆れながら再びテレビに集中しだした。

 

 

 

米花町有栖川邸

 

 

辺りも暗くなった有栖川邸に男の声が響く。

 

「何処にある!あれが無いと私は…」

 

離にある蔵といってもそれだけで美術館が出来そうな大きさと美術品が飾られている部屋の奥で夕方美沙を打った男が探し物をしているようだ。

相当焦っているのか額に汗が滲んでいる。

 

「屋根裏も地下室も倉庫も探したっていうのに…おまけにあの娘も知らないとなると…」

 

男は背広の内ポケットから携帯電話を取り出し何処かへ発信した…しばらく呼び出し音が鳴ると誰かが電話に出たようだ。

 

「ああ、俺だ。三日後に事を起こす、幸い両親は行方不明…護衛は最小限に残しあとは捜索に駆り出されているから俺が何とかする。娘や使用人に抵抗する術はない。」

 

男は階下に広がる広い部屋の美術品を見渡しながら宣言する。

 

「一人では限界がある、どんな手を使ってでも探し出すのだあの至宝を」

 

 

一方美沙の居る食卓では重苦しい雰囲気が流れていた。数十人が座れそうな大きな机には純白のクロスがシワ一つなく張ってありその上には高級レストランに出されそうな料理が出されているが座っているのは美沙一人で後ろには料理人の男 、世話役の若い女性、執事風の壮年の男が控えている。警備は屋敷内におらず、庭にある管制室に守衛が二人居るだけ。元々堅苦しいのが嫌いな両親だけに大きさの割に人は少なくなっている為、敷地内に居る人間は蔵にいる男合わせて七人。

 

「しかし、あの男は何なんだ…急に現れたと思ったら敷地内をこそこそと…」

 

料理人の男、室井は憤慨そうに呟いた。視線は明かりのついた美術品が納められた倉庫へ窓越しに向けられている。

 

「旦那様と奥方様が居ればこんな事には…」

 

執事風な男、斎藤が無念そうに呟く。

 

「ですが、本当にあるのでしょうか?ここに有栖川の至宝が…」

 

世話係の清水が興味深そうに尋ねる。

 

「我々使用人が知ることでは有るまい、在処を知っているとしたら旦那様か奥方様に後は…」

 

斎藤が発した言葉で使用人達の目が食事中の美沙に注がれる。

 

無言で食事を続けていた美沙は食べ終わったのかナイフとフォークを置いて徐に立ち上がる。

 

「……ごちそうさま」

 

美沙は小さく呟くと出口へ歩く。

 

「明日はお嬢様の大好きなハンバーグを作るよ」

 

室井が暗い空気を払拭するように美沙に喋りかけるが、美沙は小さく頷くことで応えた。

 

「食器は私が片付けるのでお嬢様を部屋に…」

 

斎藤が清水にそう伝えると清水は美沙の手を取り食堂から出ていった。

 

「お嬢様も両親が居なくなっても気丈に振舞ってたけどあの男が来てから何にも喋んなくなっちまったな」

 

室井は去っていく美沙を心配そうに見つめ小さく呟く。

暫く見つめたあと伸びをしながら言った。

 

「俺にはうまい料理作る事しか出来ないのか…さーて、俺は明日の仕込みすっかなー!」

 

自分の不甲斐なさを打ち消すように明るく去る背中に斎藤が告げる

 

「我々使用人の晩御飯も忘れず頼みますよ」

 

室井はげっと一瞬竦むが今日も世界一美味いまかないを食わしてやるぜーと意気込んで厨房へ消えていった。

 

 

美沙は部屋に戻ると清水に捕まっていた。部屋は入った時から既に暖かくエアコンを見ると暖房が付いている様だ。すぐに汗ばんで不快な気持ちになった。

 

 

「お嬢様、今日もあの男に打たれたんですか?すこし頬が腫れていますよ?」

 

清水は屈んで目を合わせ心配そうに聞くが美沙は答えない。

 

「お嬢様、本当に至宝の隠し場所知らないんですか?これ以上お嬢様が打たれるのを私見ていられなくて…知っていたら教えて下さいあの男に…」

 

涙ながらに懇願する清水に美沙はある一言をか細い声で呟く。

 

「…」

 

「お、お嬢様何言ってるんですか…ご飯食べて眠くなったのかな?さあ一休みしましょう」

 

急に告げられた美沙の言葉に慌てたように頬を掻きつつ話を誤魔化し寝かしつけると急いで部屋を去る清水。その手は冷や汗だろうか熱さでだろうかびっしょり濡れていた。

 

美沙はそんな清水を首を傾げながら見送るとエアコンを切って机に向かっていた。

 

その後美沙は日課だろうか日記を付けているようであった。

 

 

 

その日の深夜

 

あるビルの上、白いシルクハット、マントにタキシード。片目眼鏡をした男がいた。

 

「次のターゲットは有栖川家の至宝【ムーンチャイルド】」

 

 

マントを靡かせた怪盗は闇の夜に消えた。

 

 

 

 



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File2 謎のおじさん

次の日、帝丹小学校一年B組では始業前の時間、何時ものように児童達の賑やかな情景があった。一つ違うのは後ろ側のドアの側の席、美沙の席には美紗の他にも児童が集まっていた。コナン達少年探偵団だ。席の主美沙はいつもの通り俯いたままだが四人の視線に何処か居心地の悪さを感じていた。緊張しているのか若干顔は赤らんででいる。

 

「美沙ちゃん、昨日は大丈夫だったの?」

 

歩美は心配そうに俯いたまま美沙の顔を覗き込む様に尋ねる。美沙は俯いたまま頭を上下させ肯定の意を示す。

 

「それよりあのおっさん誰だよお前の父親かよ?」

 

元太が先日見かけた美沙を打った男の事を尋ねるが、美沙はますます深く俯き口を閉ざしたままだ。元太は空気が変わるのを感じたが直ぐに腕を引っ張っられ振り向くとコナンの顔があった。

 

「おい元太、その話はするなって今朝会ったとき言っただろ?」

 

コナンは美沙に聞こえないように小声で元太に耳打ちする。

 

「わ、悪かったよコナン忘れてたあいつの両親行方不明だったっけか」

 

「おいバカ!、元太!」

 

元太が美沙を気にせず聞こえる様な声で喋る元太に慌ててコナンは口を塞ごうと手を伸ばすが間に合わず、美沙を見ると肩を震わせ掌もギュッと握り締めている。

 

「あ、有栖川さんそういえば…あ……」

 

光彦が機転を効かせて話題を変えようとするが、美沙は急に立ち上がり教室を走って出て行ってしまう。去り際に見せた美沙の顔は涙で歪んでいる様だった。

 

「もう!元太くん何て大っ嫌い!!」

 

歩美は不用意な発言をした元太に怒りプいっと膨れ顔で元太を非難する。光彦もそんな元太に呆れ顔で伝える。

 

「あーあ、元太くん戻って来たら謝って下さいよ」

 

「じゃあ俺、ちょっと様子見てくる!」

 

追い掛けようとドアから廊下に出たコナンに立ち塞がる影から腕が伸び襟口をつかまれてしまう。

 

「あーら、江戸川君何処へ行くのかしら授業始めるわよ」

 

コナンの前に立ち塞がったのは眼鏡の女の人、コナンが転校してきて直ぐに結婚する事となり退職した担任の戸矢先生の後任の小林澄子先生であった。いつも怒ったような顔をしており厳しく接する彼女は着任早々に生徒達からは怖い先生と認識されていた。

 

「だってー有栖川さんが…」

 

怒った顔で問い詰める小林先生に猫を被るコナンが訳を話そうとするがチャイムが鳴り防がれる。

 

「有栖川さんには保健室に行くよう言っておいたわ、何で泣いていたかは貴方たちに聞いた方が良いみたいだけど…」

 

授業始めるから教室に入りなさいと小林先生はコナンを教室に追いやりドアを閉める。美沙の席の前で固まっている元太の肩に手を置き小林先生は無表情で告げた。

 

「小嶋君は授業後に先生の所に来なさい」

 

言われた元太はハイと機械的に答え肩を落として席に戻った。どうやら固まった元太や怒っている歩美を見て元凶が元太だと見抜いたようだ。

 

騒いでいた児童たちも小林先生が来たことでそそくさと席に戻って行った。

 

 

美沙は保健室に着くと其処に居た保健の先生は特に話を聞こうとせずベッドで休むよう優しく言われていた。どうやら両親が行方不明なのを把握しているようだ。美沙はベッドの上に座りぼーっと窓から外を見ている。

 

「お父さん…お母さん

…」

 

小さく紡がれた美沙の声は誰にも届くことは無かった。

 

 

 

その頃同じように窓から外を見つめ物思いに耽っている男が一人。学生服を着ている事から学生であろう。

 

「ちょっと聞いてるの?快斗、何考え事してるの!」

 

物思いに耽っている男、快斗にセーラー服の女子学生話し掛ける。顔は話を無視さていたのか不機嫌そうだ

 

「なんだ、青子かちょっとマジックのタネをだな…」

 

セーラー服の少女、青子は快斗の返事を聞き呆れ顔で溜め息を吐いたあと怒鳴った。

 

「またマジック、マジックって!少しは人の話を聞きなさい!!このマジック馬鹿!!」

 

急に怒鳴られた快斗は目を回しビックリするが直ぐに悲しげな顔をして深刻そうに喋りんがら立ち上がる。

 

「青子…俺…もうダメだ…マジックのトリックも思い付かないし…」

 

普段見せない快斗の言動に青子は戸惑いながら慌てて言葉を紡ぐ。

 

「な、何言ってんの快斗!マジックなんてなくったって…」

 

「俺は青子の言うとおりマジック馬鹿だ…マジックができなくなちまったら俺…」

 

青子が慌てて取り繕うが言葉を遮り快斗は窓の方に歩みながら続ける 。

 

「生きていく自信が無いよ…」

 

そう言い快斗は窓から身を投げる。青子にはその光景が信じ難くスローモーションが掛かったように見えた。

 

「ちょ…快斗ぉー!!」

 

青子は涙を流し必死に手を伸ばすが間に合わず快斗の体は冷たい地面の上へ落ち…破裂した。

 

「え…」

 

青子が快斗が落ちたはずの地面をみると破裂した怪盗はから白い煙と共に七色のカラーテープが宙を舞っていた。ふと視界の先に縄が見え視線で辿っていくと縄は屋上に続いているようだ。つまり落ちたように見せかけた快斗は縄で上へ上がり人形が下に落ちて破裂したということだ。理解した青子は顔を真っ赤に染めて青筋を立てて喚きちらした。

 

「こらぁー!!馬鹿快斗!!降りてきなさーい!!」

 

そんな光景をクラスメイト達はまた始まったと囃し立てた。

 

屋上で快斗は次の標的について悩んでいた。

 

(ムーンエンジェル…有るのは分かったが場所が分かんなけりゃあ盗みようがねぇぞ…どうしたものか…)

 

普通の高校生にあるまじき思考をしているこの少年の名は…

黒羽快斗、マジック好きな少年である。

しかしその実態は

 

世間を揺るがす大怪盗、怪盗キッドなのである。

 

彼が怪盗キッドになったのはここ最近。家の隠し部屋を見つけ中にあったのはキッドの衣装と聞き取れない八年前にマジック中に事故死した父の声が録音されたテープ。丁度八年ぶりに現れていた怪盗キッドをキッドの衣装で追い詰めたがその正体はマジシャンであった父の付き人その人であった。

その付き人から怪盗キッドの正体は尊敬するマジシャンで快斗の父、黒羽盗一であったと聞かされた。

更に父はマジック中の事故死と見せかけある組織に殺害されたというのだ。

快斗は自ら怪盗キッドとして蘇り父を殺した組織を誘き出す為世界の名だたる宝石を盗んで回っている。

 

やつらよりも早く不老不死の力が宿ると呼ばれるビッグジュエルを手に入れるために…。

 

 

一方、毛利探偵事務所には一人の訪問客が訪れていた。

依頼人であろうか、ソファーに通され対面には小五郎が座っている。すると男は口を開いた。

 

「私、有栖川家の執事をしています。斎藤と申します。名探偵と名高い毛利様にお願いしたい事があり尋ねさせて貰いました。」

 

「有栖川といえばあの商店街の側の屋敷のですか…まさか、行方不明の主人を探してという事ですか?」

 

小五郎が先日の園子の話を思い出しながら依頼内容を推理する。

 

「流石は毛利様、旦那様が行方不明なのはご存知ですか…しかしご依頼したいのはそうではなく、あるモノを探して頂きたいのです屋敷の中から…」

 

「ある物とは…?」

 

小五郎は想像していた依頼とは違い多少驚きつつ先を促す。

 

「有栖川の至宝【ムーンエンジェル】です。勿論、旦那様方を探して見つけて下さるなら一番ですが…」

 

「ほ、宝石ですか…」

 

小五郎は緊張したように息を飲む。

 

「他の高名な探偵にもお声を掛けさせて貰っていますが何分急いでおります 。手付金で百万円程、見つけて頂けたら一千万円お支払い致します」

 

「い、いっせんまんえん!!!」

 

高額な依頼料に小五郎は目の色を変え二つ返事で了承した。

 

「この名探偵毛利小五郎が必ずや探し出してみせます!」

 

「では毛利様、明日から屋敷に来て捜索の方よろしくお願いします」

 

斎藤は手付金を渡し事務所を出ていった。

 

「あの男より早く見つけて頂きたいのです」

 

と去り際に一言残して斎藤は扉を閉めた。

 

 

小林先生のさようならの言葉に児童達も続けてさようならと返し、終わりの会が終り児童達も思い思いに友達と帰る準備をする者、遊び足りないのかボールを持ち出し校庭へ飛び出す者等居る中、美沙もそそくさと帰る準備をし教材や文具をランドセルに仕舞っている。そのランドセルは特注品なのか、背の部分に金色の盾の形の紋章が付けられていた。ランドセルを背負い席を立ち教室から出ようとする。しかし、目の前に大きな影が現れる。俯いた顔を上げるとそこにはバツの悪そうな顔をした元太がいた。

 

「わ、悪かったよ…ごめん」

 

元太が朝の出来事を素直に謝るが、美沙は直ぐに俯きそんな元太を無視して歩いて行ってしまった。

 

「あーあ元太くん、嫌われてしまいましたね」

 

光彦が言うと元太は肩を落とした。コナン達少年探偵団はそんな美沙を追いかける様に走って行った。

 

「待ってよー、美沙ちゃーん」

 

歩美の声が廊下に響くと美沙はますます歩く速度を上げた。その顔は少し恥ずかしそうに赤くなっていた。

 

「こらー!廊下を走るのはやめなさい!」

 

怒鳴る小林先生の顔はいつもの硬い顔ではなく少し優しくみえた。

 

 

 

「なんだよウジウジウジウジ 、ああいうの俺嫌いだな」

 

元太は結局美沙には追いつけず並んで帰宅するコナン達に愚痴を零す。

 

「もー元太くん懲りないですねーそれよりどーやって仲直りするんですか?」

 

光彦は呆れながら美沙と仲直りする方法を思案する。歩美は縋るようにコナンを見つめ懇願する

 

「コナン君、どうしたらいいと思う?」

 

コナンは内心俺に聞くなと思いながらもそーだなーと考える

 

(ガキも大変だなー、感情だけで動くから…)

 

「そうだ!歩きながらだと良い案浮かばないから作戦会議開こうぜ!」

 

元太は閃いたかのように手を叩き提案する。

 

「でも、一体何処でやるの?」

 

歩美は作戦会議は何処で行うか尋ねる、するとコナン以外の三人は考えながらコナンの顔を見ると何かを思いついた顔をする。

 

(やな予感……)

 

コナンは次の台詞を推理すると冷や汗を流しながら身構える。

 

「じゃーコナンち行こうぜ!」

 

元太が告げると他の二人もおー!と腕を上げる。コナンはやっぱりとため息を吐く。無駄だと思いながら抗議の声を上げる。

 

「なんで俺んちなんだよー」

 

「だってコナンの家が俺達少年探偵団の基地なんだから当たり前だろ?」

 

抗議を上げるコナンは元太からいつ決められたか知らない知りたくもない衝撃的事実を知った。

 

「じゃあ行こうぜー!」

 

元太の号令に光彦、歩美はおー!と腕を上げて応え走っていった…暫くコナンは動けないでいた。

 

「コナン君はやくはやくー!」

 

歩美の声でようやくコナンは渋々動き出した。

 

 

 

 

「おっじゃましまーす!」

 

探偵団の明るい挨拶がコナンの居候先の毛利探偵事務所に響く。コナンも諦めた顔でただいまと告げる。

 

「おー、お前たちか何か様か?」

 

小五郎は機嫌よさそうに子供達の訪問を歓迎する。怒鳴られると思っていたコナンも拍子抜けしたような表情だ。

 

「お前らジュースでも飲むか?」

 

ソファーに座った探偵団にジュースを出そうと鼻歌混じりに冷蔵庫へ向かう小五郎。

 

「今日のおじさん…なんか変」

 

歩美が普段と違い子供にも優しい小五郎を見て不審がる。小五郎は子供達にジュースを出した後席に座り浮かれた表情でコナン、今日は美味いもん食うぞーと告げチラシを漁っている。そんな小五郎を気味悪く思いながらも相談を始める探偵団。

 

「それより、どうしましょう??」

 

光彦が議論を促すが皆うーんと唸ってばかりで一向に解決策が出ないでいると小五郎がそんな探偵団を見て待ってましたと胸を張り告げる。

 

「お前ら何悩んでるんだ?この名探偵毛利小五郎が解決してやろう!」

 

小五郎の申し出に探偵団は顔を見合わせた後、小五郎に経緯を話した…。

 

「有栖川美沙か…有栖川の家にだったら明日行くからその美沙って子の事聞いてきてやろうか?」

 

珍しく子供達の為に行動する小五郎に驚きつつもコナンは疑問を口にする。

 

「おじさん!もしかして美沙ちゃんの両親の捜索、依頼されたの?」

 

依頼内容に興味津々のコナンに小五郎は否定する。

 

「いや、なんでも急ぎで屋敷にある宝石を見つけ出して欲しいそうだ、しかも手付で百万円見つけたら一千万の高待遇!」

 

ぐふふとニヤケが止まらない小五郎にコナンは通りで機嫌がいい訳だと納得した。

 

「それよるコナン、百万の事は蘭には内緒だぞ!おもちゃでも買ってやるからよ」

 

どうせこの調子だとおっさんバレるだろと思いながらも新しいサッカーボールが欲しいと伝えるコナン。ふと子供達が静かにしているなと気になり見てみると、何やら顔を合わせてヒソヒソと話をしていた。

 

「ようし、それで決まりだ!早速早く帰って準備しよーぜ」

 

元太は話がまとまったのか帰る準備を始めた。

 

「じゃあコナン君、また明日ね!」

 

歩美がコナンに伝えると三人はお邪魔しましたー!と足早に帰っていった。

 

(また明日って明日土曜で休み何だけど…)

 

嫌な予感しかしないコナンであった。

 

 

 

次の日朝、小五郎は有栖川邸の前に来ていた。

 

「改めて見るとばかデカイなぁ」

 

「そうだね、おじさん」

 

小五郎の呟きにコナンが応える。

 

「あ、あんなとこに噴水があるよー!」

 

歩美は門の外から見える庭の様子に興奮したようにはしゃいでいる。

 

「美沙のやつ相当な金持ちだな!毎日うな重食ってるのかな!」

 

元太が羨ましそうにうな重を想像しながら呟く、口には涎が垂れている。

 

「もー元太くん、そんな訳無いじゃないすか!」

 

光彦がツッコミを入れる。いつもどおりの少年探偵団の光景にコナンはため息を吐く。

 

「で、どうしてお前らまで居るんだよ!!」

 

小次郎が代表してコナンに問い詰める。コナンはなんとか説得しようと慌てて言い繕う。

 

「だ、だって物を探すなら人が多い方がいいでしょ??」

 

コナンの言葉にそれもそうだと小五郎は一応納得する。なにせ一千万が掛かっているのだ猫の手も借りたい所だ。

 

「とにかく、邪魔はするんじゃねーぞ」

 

小五郎が忠告するとはーいと探偵団は返事を返す。すると門の奥から人が歩いてくるのが見える。

 

「毛利様、お待ちしておりました。おや、お連れの子供達は…」

 

出迎えたのは依頼に来た執事の斎藤であった。小五郎は慌てて子供達のことを告げようとするが遮るように歩美が言った。

 

「私達、美沙ちゃんの友達で遊びに来たの!」

 

歩美の発言に斎藤は驚きながらも嬉しそうに微笑んだ。

 

「お嬢様のご友人ですか、是非上がって行って下さい」

 

門が開けられ入って行く小五郎、探偵団は顔を見合わせ拳を上げながら宣言する。

 

 

少年探偵団!出動!!

 

おー!!!

 

 

 

 

 

 

 



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File3 進展する影

屋敷に通されたコナン達は応接間に通された、今腰掛けているソファーの感触や棚の色艶等から見ても調度品にもお金を掛けているのが分かる。少し緊張した表情の小五郎達……置いてある壷一つとっても一般人には考えられない値段がするのであろう。

執事の斎藤は後ろに控える世話係に飲み物をと頼むと座っている小五郎達に自己紹介し始めた。世話係の女性はそれと同時に喫茶の準備の為か、失礼しますと部屋から出ていった。

 

「改めて自己紹介させて頂きます、この屋敷の執事をさせて頂いています。斎藤一之助と申します。」

 

斎藤一之助(57)(さいとういちのすけ)

有栖川家執事

 

「毛利様、早速ですが依頼のご説明をさせて頂きます。探して頂きたいのはこの屋敷の何処かに眠る、有栖川家の至宝【ムーンエンジェル】でございます」

 

執事の斎藤は自己紹介を済ました後、依頼の内容を改めて説明しだした。有栖川の至宝、そのムーンエンジェルという物々しい名前で更に緊張を増す小五郎と子供達に斎藤は続ける。

 

「それも、あの男……信親様よりも早く見つけて頂きたいのです」

 

「信親というのは……??」

 

初めて聞く名に小五郎は聞き返す。

 

「信親様はこの屋敷の主人である、有栖川隆信様の弟でございます」

 

斎藤は話を続けようとしたがノックの音がして、カートを引いた世話係が入室してきた。

 

「コーヒーでございます、子供達にはジュースで良かったかな?」

 

コーヒーの配膳が終わると子供達にはニコリと笑みを浮かべジュースを手渡した。子供達はありがとー!と応えそれを受け取り嬉しそうに口にする。世話係の女は嬉しそうにその様子を眺めている。斎藤がゴホンと咳払いすると慌てて失礼しましたと体制を戻し後ろにまた控えた。

 

「信親様がこの屋敷に参られたのは一ヶ月前、丁度隆信様と奥方様が行方不明になられた後すぐの事でした…」

 

斎藤の話によると、

一ヶ月前しばらく留守にするから娘を頼むと言い残し出掛けて行った有栖川夫妻だが未だに帰らず、連絡もつかない状態でそんな時、弟の信親が屋敷を訪れ代々当主に受け継がれる宝石【ムーンエンジェル】を探し出し自分が当主になろうと屋敷中を探し回っているそうだ。そして名探偵である毛利小五郎に信親よりも早く宝石を見つけ出しこの屋敷を守ってもらいたいという依頼内容らしい。

 

「それに、あの男……宝石の隠し場所を聞き出すために美沙お嬢様に手を上げたんです!!」

 

世話係の女は憤怒の形相で肩を震わす。その言葉に子供達も顔色を変えている。

 

「そういえば、あなたは??」

 

小五郎は怒る女を宥めながら名前を尋ねる。

 

「申し遅れました、私この屋敷の世話係の清水と申します」

 

清水恭子(22)(しみずきょうこ)

有栖川家世話係

 

世話係、清水の自己紹介を受けて小五郎達も名を名乗る。

 

「じゃあ俺も自己紹介しておくか、俺はこの屋敷で料理人している室井だ」

 

室井直茂(28)(むろいなおしげ)

有栖川家料理人

 

急に声がして驚きながらドアを見ると若い男がドアの縁に背を預け寄りかかっていた。どうやら話を聞いていたようだ。

 

「じゃあ門の前で美沙ちゃんを打っていたのって……」

 

話が逸れていたところの歩美が思い出したように呟く。

 

「おそらく信親様でしょう……」

 

「あの男!!またお嬢様を……今度こそ許さない!」

 

歩美の話を聞いた清水は怒りの表情で叫ぶと急いで部屋から飛びだそうとする。しかし室井に肩を掴まれ止められる。

 

「おいおい、恭子ちゃん何処へ行こうってんだ。あの男なら今外出中だぜ……」

 

室井に宥められ清水はやりきれない怒りを込め肩を掴んでいた室井の手の甲を摘んだ。

 

「恭子ちゃんって呼ぶな!!」

 

清水は鬱憤を晴らすように室井に怒鳴りつけ何処かへ行ってしまった。室井はいててと手を振りながら怖い女……と呟いた。

 

「いやはやお見苦しい所を……それより室井さんどうしたんですか?昼食にはまだ早いと思いますが」

 

斎藤は小五郎達に申し訳ないと頭を下げ、室井に尋ねる。

 

「いやーそれがまともな食材切らしちゃったみたいでよ、悪いが今日は出前でもとってくれねえか?」

 

今から発注しても明日になるそうだ、一流食材ってのは不便だねーと笑う室井に斎藤は呆れたように溜息を吐いた。

 

「俺、うな重がいい!!」

 

出前と聞いて元太がいち早く反応する。光彦が遠慮がないですねーと突っ込むとその場は和やかな雰囲気になった。

 

「ではお昼はうなぎにしましょう、それまでに屋敷内を案内させて頂きます」

 

斎藤がいうと元太はやったー!と叫び喜んだ。

 

 

 

コナン達は屋敷内の案内を受けていた。本邸だけで部屋が無数にあり結構な時間が経ったが、今の所宝石が隠されているような所は見当たらなかった。螺旋状の階段を登り二階に着くと一際大きな扉が現れた。

 

「ねーねー此処は何の部屋?」

 

コナンが斎藤に聞くと、此処は旦那様の書斎ですと答えた。

 

「ここの中は見せてくれないの?…」

 

歩美が尋ねると斎藤は苦笑しながら残念そうに呟いた。

 

「ここは旦那様の顔と指紋認証でしか開かないんですよ」

 

確かに読み取り用の機械が扉の横に備え付けてある。扉も頑丈そうで無理矢理こじ開けれそうもない。

 

「じゃあここにあったらどうするんですか!?」

 

光彦が慌てて聞くと、斎藤は旦那様が戻られればと答えた。

おいおいそれじゃあいくら探しても此処にあったらどーすんだよとコナンは心の中で突っ込んだ。

 

コナン達は二階も特に隆信の書斎以外怪しいところもなく捜索を終えようとしていたが、最後の部屋をというところでふと視線を感じて顔を向けると正に行こうとしていた部屋のドアが少し開いており、女の子がこちらをじーっと隙間から此方を伺っていた。どうやら最後の部屋は美沙の部屋のようだ。

 

「もうすぐお昼ですしそれまで休憩にしましょうか、午後からは離れや倉庫をご案内します」

 

「よーしじゃあお前ら、昼になったら降りてこいよ」

 

斎藤と小五郎は気を利かしたのか最後の部屋は子供達に任せて下へ降りていった。

 

 

コナン達が美沙の部屋に近付くと隙間から様子を伺っていた美沙は慌ててドアをバタンと閉じてしまった。

 

「おーい美沙ちゃーん遊びにきたよ!」

 

歩美がドアを叩きながら呼び掛けるが反応が無い、元太も許してくれよと呼び掛けている。

 

ドアの向こうで美沙は戸惑っていた。クラスメイトが何故か自分の家に居るのである、しかも部屋の前で自分を呼び掛けている。学校でも誰とも喋らず友達もいない自分にだ、なんでという思いが頭の中をぐるぐる回る。歩美ちゃん達はなんで自分に構うのか理解出来なかったが、不思議と嫌ではなかったし嬉しかった。

 

「……何しにきたの?」

 

コナン達はその可細い声を聞いて顔を合わせて嬉しそうに微笑んだ。コナンはこんな声してたんだと一人思った。

 

「美沙ちゃんと遊びに来たの!!」

 

歩美が嬉しそうに返すと、またすぐに返事が帰ってきた。

 

「……なんで?」

 

「友達と遊ぶのに理由なんて要らないよ!…だからドア開けて遊ぼうよ!!」

 

歩美の言葉の後少し間がありドアが少し開いた。すると元太がドアノブを引いてドアを勢いよく開ける。

 

「早く開けろよな!!」

 

そういってコナン以外の三人は勢いよく美沙の部屋に飛び込んだ、その顔は満面の笑みであった。おいおい暴れるなよと思うコナンの顔も微笑んで見えた。

 

美沙はそんなコナン達を見て少し可笑しくて笑った。

 

美沙がこの少年探偵団に打ち解けるのにそう時間は掛からないであろう

 

 

 

「出前でーす!」

 

門の前で岡持ちを持った出前の男がインターホンに向かっていた。すると門が開いて警備の人だろうか二人その男に近付き料理を受け取り、料金を払う。

ふと警備の一人が郵便受けに近付くがもう一人に運ぶのを手伝えと急かされ諦めて料理を運んで行く。

 

郵便受けの中にある白いカードに気付くのはもう少し後になりそうだ……

 

 

「う、うな重だぁー!!」

 

有栖川邸の食卓に元太の嬉しそうな叫び声が響く。テーブルの上には小五郎達と美沙の分のうな重が世話係の清水により並べられている。元太はいち早く席に座り涎を垂らして食事の号令を待っている。美沙も仲良くなったのか歩美と仲良く手を繋ぎ入室して席に座った。そんな美沙達の様子を斎藤と清水は嬉しそうに見つめている。

 

「では皆さんごゆっくりお召し上がり下さい」

 

斎藤が全員が席に着いたのを確認して一礼して食事を促すと頂きます!の明るい声が溢れた。

 

「美沙ちゃん、うな重好き?」

 

歩美が隣に座っているお箸を持とうとしている美沙に尋ねる。美沙は話し掛けられて緊張しているのか恥ずかしそうに俯いてしまった。そんな様子の美沙に歩美は少し残念そうな表情を見せる。

 

「……うな重初めて、だよ」

 

美沙は小さな声で呟いたが応えてくれた。歩美は嬉しそうに頷きながらそうなんだー!と返した。そんな様子を見てコナンは大分打ち解けてきたなと安堵した表情を見せる。

 

「うな重……おいしい」

 

美沙は初めて食べるうな重の味が気に入ったようである。元太が重箱に口を付けてかき込んで食べているのを見て、美沙は丁寧にお箸で取り分けて食べていたのを辞め決意したように頷いたあと恐る恐る口を重箱に付けてかきこむように食べてみた。

 

「……おいしい」

 

美沙はそれから止まることなく少しずつだがうな重を食べて行く。そんな初めてみる美沙の様子を斎藤と清水は驚きを隠せない表情を見せる。

 

「あー!美沙ちゃん、ほっぺにご飯粒ついてる!」

 

歩美が指を差しながら指摘すると、美沙は顔を真っ赤にしながらご飯粒を取り口に入れた。それと同時に食卓にどっと皆の笑いが起こった。

 

 

「では、そろそろ外の方をご案内致します」

 

昼食を終えて余韻に浸っていたコナン達だったが、斎藤の言葉で立ち上がり本邸から出ていく。今度は美沙も捜索に加わるようで歩美と手を繋いで歩いている。

 

「へへへ、うな重うまかったな」

 

元太は満足そうに呟くと後ろにいる美沙もコクコクと頷き同意した。その後、捜索は続き残すは一箇所。辺りも夕陽が傾いていて徐々に影が降りてきていた。

 

「此処が旦那様の所有される美術品や貴金属等を貯蔵している倉庫になります」

 

コナン達の目の前には観音開きの大きな扉。重厚な扉はまるで侵入者を拒むように威圧感を放っている。

 

「で、でかいっすねー」

 

小五郎はその大きな建家に圧倒されたように言う。

 

「これは、倉庫というより……美術館みたいですよ」

 

光彦は扉の先の光景を想像したのか興奮したように呟く。斎藤がゆっくりと扉を開くと中にはたくさんの絵画や彫刻等の美術品に加えて剣や鎧が飾られている飾られた像も翼の生えた人間や角の生えた馬などの幻想的な物が多い。

 

「旦那様はこのような架空な生物や武具といった幻想的な物がお好きでして」

 

まだまだ心は少年が旦那様の口癖でと斎藤は苦笑した。そして一際目立つ扉を開いた正面の壁には巨大な一つの絵画が掛かっていた。

 

「これは……」

 

一同が息を飲み見上げると巨大な竜と一人の剣を持った青年が薄暗い洞窟で対峙している様子を描いた絵画であった。

 

「この絵は旦那様が一番好きな絵で竜の名はファフナー、青年はジグルド」

 

「そう、財宝を守る邪悪な竜とそれを退治する英雄。正に今の有栖川を象徴しているではないか」

 

斎藤が絵画の説明をしていると背後から声がして振り向くと髭を生やした男性がいた。男性の顔を見た美沙は怯えたようにコナンの後ろに隠れコナンの袖をぎゅっと握った 、その手は恐怖に震えていた。そしてそんな美沙をみた元太、光彦、歩美は庇うように前へ出た。

 

「の、信親様」

 

斎藤が急に出てきた男に慌てたように取り繕う。

 

「斎藤、こいつらは誰だ?」

 

有栖川信親(32)(ありすがわのぶちか)

有栖川家次男(美沙の叔父)

 

「この方々は探偵の毛利小五郎様に、子供達は美沙お嬢様のご学友でございます」

 

斎藤が小五郎達を紹介すると信親は見下すように小五郎を見た後吐き捨てるように言い放った。

 

「小五郎だか大五郎か知らんが探偵だと?探偵なんて人間は所詮小説の中でしか役に立たんだろうが、せいぜい頑張って下さいよ名探偵さん」

 

もし宝石が見つかったら高く買取ってやるよと言う信親に小五郎は怒りに震えながら宣言する。

 

「見つかったとしてもアンタなんかには渡さねぇよ!!お前ら!絶対に探し出すぞ!」

 

小五郎の号令に探偵団もおー!と益々気合を入れる。とコナンが一歩前に出て信親に尋ねる。

 

「ねえ、おじさん。さっき邪悪な竜を退治って言ったけど、隆信さんのことまさかおじさんが何かしたの?」

 

探偵のことを馬鹿にされたからかコナンはいつも見せない怒ったような表情だ。そのコナンの言葉に小五郎もまさか!と反応する。

 

「まさか例えだよ例え、実の兄を殺すなんてことする訳ないだろ?」

 

肩を竦めて否定した信親は探偵ごっこ頑張れよとその場を後にしようとするが、途中で一度立ち止まり捨て台詞のように言い放った。

 

「ああ、そういえば言ってなかったが明日にはこの屋敷取り壊す事になったから。流石に何処に隠してもこれなら見付かるだろうから【ムーンエンジェル】は俺のモノだ」

 

まあ見付かったら見物ぐらいはさせてやるよと言い去る信親の背中を睨む面々達。

 

タイムリミットは近いってことかよ……

コナンは絶対に見つけてやると心に誓った。

 

小五郎達は手分けして倉庫内を探していた。斎藤と小五郎は二階を中心に、子供達は一階を探していた。時間を忘れて探していたのか窓の外は随分暗くなっていた。捜索する

子供達の額には汗が滲んでいた。

 

「だあー!!見つかんねぇ」

 

コナンは頭を掻き毟り叫ぶ。

(大体、手掛かりも謎解きも無いじゃねぇか……どうしろってんだ)

コナンは現状ただの肉体労働になっている事への不満を感じていた。

 

「江戸川くん……お水いる?」

 

気が付けば隣に美沙が首をちょこんと傾げながらコナンに尋ねていた。カリカリしていたコナンは気を使わせてしまったかと少し罪悪感を感じながら答えた 。

 

「ああ、悪い頼むよ」

 

コナンが答えると顔をぱあっと明るくさせて取ってくる!と倉庫から出ていった。コナンがあんな顔も出来るようになったかと去り行く背中を見つめ思った。歩美はそんな二人のやりとりを見て頬を膨らせていた。

 

「もう!コナン君たら!歩美も取ってくる!!」

 

待ってよ美紗ちゃんと後を追う歩美を乾いた笑いで見送るコナンであった。

 

 

 

その頃、警視庁では夜の静寂を切り裂くように一本の電話が鳴り響いていた。

 

「はい、こちら捜査一課ですが……何だって!!当日の有栖川夫妻誘拐事件の目撃者を発見しただと!!」

 

一月前より足取りが掴めていなかった事件が動き出しざわつく一課。電話を受け取った目暮警部は即座に指示を出した。

 

「佐藤、高木両名は目撃者への聞き取りだ!残りの者は誘拐犯を目撃証言から割り出すんだ!」

 

目暮の号令と共に動き出す刑事達。事件は解決へと動き出しつつあった。

 

 

一方、有栖川邸の応接間では二人の影があった。

 

「明日の解体作業だが、まず最初に倉庫をバラして貰いたい。その次は……あの部屋、兄の信隆の部屋の扉を壊して貰いたい」

 

どうやら解体業者と信親が打ち合わせいているようだ。信親が明日の作業を指定する。その人影は帽子を深くかぶり目元ははっきりとは確認できない。薄緑の作業着に手には計画表のような物を持ち

信親の話を熱心に聞いている。

 

「あの部屋ですね……」

 

その影は怪しい笑みを浮かべ口元を歪め頷いた。

 

 

 

 



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