落第騎士と生徒会長の幼なじみ (簾木健)
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英雄の弟子

新シリーズですがこっちの方は亀更新になるかも・・・・

なるべく頑張って書いていこうと思うのでこれからよろしくお願いします。

簾木 健


「これで奥義皆伝じゃ・・・・いやーわしもやっと引退できるのぉ」

 

齢80を超える男がけたけたと笑う。その前には膝を着き、荒い息を吐く一人の子どもがいた。この道場の中にはその2人しかいないのにも関わらずとてもつもない熱気が漂っていた。

 

「さすが我が曾孫じゃの・・・素晴らしき才じゃ。よもや11でここにも至るとは」

 

「はぁはぁ・・・いえ・・・指導のお陰ですよ」

 

「ふぉふぉ、謙遜するでない。お前の祖父も父にも同じように才はあった。だが、ここまで至ることはなかった。ゆえにお前には天賦の才があったということじゃろう。それは誇ってよい」

 

「・・・・はい」

 

息を整えその少年はしっかりと立ってから返事をする。それを見て、老人はさらに嬉しそうに頷いた。

 

「ただ慢心を知らんのは良いことじゃ。これからもその心を持ち精進せよ」

 

「はいっ!!」

 

「うむ。いつかトラやリュウの弟子と本気で戦うことになればおもしろいのぉ。ふぉふぉふぉ」

 

「あの人たちの弟子とやるのはなるべく勘弁してほしいのですが・・・・」

 

少年ははぁとため息をつく。ただそれを聞いた老人の目がスッと鋭くなった。

 

「お前には才がある。しかもそれはわしにも測りきれぬ才じゃ。並みのものではない。それを持つ人間が何にも巻き込まれぬ人生など歩むことは出来ん・・・・ふぉふぉ、ますます長生きをするものじゃの。お前の人生を見届けることが出来ればさぞ楽しそうじゃ」

 

鋭い眼光に少年は怯む。目の前にいるのはただ老人ではない。この歳でもまだ現役魔導騎士・・・しかも伝説とされる魔導騎士なのだ。

 

「そういえばお前、東堂の嬢ちゃんのところに行くのではなかったか?そろそろ時間じゃろ?」

 

「っ!!そうだった。教えてくれてありがとう。大祖父ちゃん」

 

少年の口調がくだける。

 

「よいよい・・・・それよりしっかりと東堂の嬢ちゃんには唾を付けておくのじゃよ」

 

ニヤニヤと老人が笑う。

 

「唾を付ける?唾なんかつけたら汚くない?」

 

「そういうことではない。あの嬢ちゃんはこれから絶対に美人になる。だからしっかりとキープしておけといっとるのじゃ」

 

「なっ!?」

 

少年が顔を赤くして止まる。それを見て老人はさらにニヤニヤと笑った。

 

「元服はまだじゃが、天陰流(てんいんりゅう)の奥義皆伝したのじゃ。婚約くらいしてきても「なんでそんな話になっとよ・・・」継承者を作るのも皆伝者の勤めじゃからの」

 

「大祖父ちゃんは気が早いんよ・・・・遅れたら刀華が怖いからそろそろ行くね」

 

少年はしっかりと礼をして着ていた道着を脱ぎなが道場から出ていった。それを老人は微笑ましそうに見つめていてその後ハッとしてから手を打った。

 

「そうじゃ!東堂の嬢ちゃんをトラに預けるのはいいかもしれんの」

 

前に見たその少女の固有霊装を思い出す。

 

「ヤツの『音切り』相性も良さそうな能力じゃったし・・・シニアに上がったら相談してみるかの・・・」

 

この老人の名は玖原鷹丸(くばらたかまる)。第二次世界大戦を生き抜いた騎士・・・侍であり、あの黒鉄やあの南郷の好敵手とされた歴戦の猛者である。そしてさきほどの少年はその曾孫である玖原総司(くばらそうじ)。『天陰』という2つ名を持つ鷹丸の弟子でありその血を最も濃くついだ人物。のちに『魔帝』と呼ばれる少年である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!起きろ刀華!!!このドジッ子眼鏡!!!」

 

青年は2段ベッドの上で眠る少女を起こそうと奮闘していた。

 

「今日は入学式なんだろ?さっさと起きて準備しないと間に合わないぞ!!」

 

「・・・・・あと5分」

 

少女がポツリと零す。しかし青年に容赦はない。なぜならさっきから同じ言葉をこの少女は繰り返すだけでいっこうに起きる気配がないのである。

 

「・・・・たたっ切るぞ」

 

「っ!!!!」

 

青年から放たれた殺気に眠っていた少女は飛び起きる。そして見事に天井に頭をぶつけた。

 

「・・・・い、痛い」

 

「自業自得だな。ほれ悶えてないでさっさと着替えて朝ごはん食べろ。もうすぐカナタと泡沫が迎え来るぞ」

 

「あい・・・・」

 

そして刀華が洗面所に行き着替えている間に朝食を用意する。刀華は素早く準備をすませ机の上に置いてある朝食の前に座った。東堂刀華こと、破軍学園3年《雷切》東堂刀華が。玖原総司はその向かいある朝食前に座る。

 

「じゃいただきます」

 

「どうぞ」

 

刀華が手を合わせてから朝食に手を付け始める。普段は食堂で済ませる朝食だが今日は朝がはやいため開いていないのだ。そのため今日は総司が作ったのある。

 

「そうちゃん・・・今日1年生に1人Aランクが入ってくるんだって」

 

「ああ。聞いてるよ。てか、そんなことじゃなくて刀華が言いたいのはこの間の模擬戦の話だろ?」

 

ステラ・ヴァ―ミリオン。ヴァ―ミリオン皇国の王女でありAランクの魔導騎士だ。それが今年この破軍学園に新入生として入学してくるというのはとても有名な話だ。Aランクとた伐刀者(ブレイザー)の中で国際機関の認可を受けた伐刀者(ブレイザー)の専門学校を卒業したものが与えられる称号である。そしてこの破軍学園こそ国際機関の認可を受けた日本には7つしかない専門学校一つなのだ。そして伐刀者(ブレイザー)にはその魔力量に応じてランクというものが付けられる。その最高位がAランクであり、このAランクの伐刀者(ブレイザー)は一人の例外もなく歴史に名を刻むのである。そして最低位がFランクでありこの伐刀者(ブレイザー)はほぼ存在しない。というよりFランクで魔導騎士になった人は未だ嘗て一人も存在しない。そしてこのランクは伐刀者(ブレイザー)としての大まかな強さを表す指標でもある。よってFランクがAランクに勝つなど天地がひっくり返ってもあり得ないことなのだ。でもそれがこの間の模擬戦で行われてしまったのである。

 

「黒鉄一輝君・・・すごく気になります」

 

刀華の目が輝いている。黒鉄一輝はロックオンされたみたいだ。

 

「一輝のやつも戦ってみたいと思ってるだろうよ。なんせ破軍学園生徒会長・・・・序列1位なんだからな」

 

「・・・・・でも気になるのはそうちゃんもよ」

 

「俺?俺のことは別に気にならないだろ?刀華なんでも知ってるじゃん」

 

「違う。能力とかのことじゃなくて・・・・・公式戦にはやっぱり出らんと?」

 

破軍学園の序列というのは公式戦などの戦績が大きく関わっている。刀華はあの《七星剣舞祭》で去年ベスト4に入ったほどの猛者であり、学生騎士の中ではトップクラスの実力者という証明がされている。でも、総司はというと入学してから一度も公式戦には出場してないのである。だから序列も何位という明確な順位はついていないにも関わらず、この男は刀華と同じ部屋にいる。今年から学園長が変わり実力によって寮の部屋分けが行われることになった。なるべく実力の近いもの同士切磋琢磨させることが目的らしい。ただその中で刀華と総司は同じ部屋にされている。ということは・・・・・

 

「そうちゃん本当なら私よりもつよかくせに・・・・」

 

「まぁ黒乃さんにはそれがバレてるしな・・・・・こんな役職も押し付けられたし」

 

総司は『風紀』と書かれた腕章を振る。それを見て刀華はふふっと笑った。

 

「『お前が強さを見せる気がないのはわかった。が、これは学園長命令だ。お前を風紀委員長に任命する』って言われたんよね?」

 

「ああ。面倒なことこの上ない。しかも委員の奴らはみんなおれが任命されたことに不信感丸出しだったし・・・」

 

総司が頭を抱える。学園長に命令された以上やるしかなくとりあえず風紀委員室にいった総司だったが、その部屋の居心地の悪さに三分で自室に帰ってきたのだ。

 

「まぁ委員長にしたのが学園長ということもあって定期的に連絡だけはくれてるから、なんとかやっていくよ」

 

「うん。そうちゃんがんばってね」

 

―――コンコン

 

「会長~そろそろいくよ~」

 

「うたくんですね・・・はーい。ではそうちゃん行ってきます」

 

「ああ。行ってらっしゃい」

 

刀華はカバンを持って部屋を出ていく。

 

「さて・・・朝飯の片づけしたらおれも行きますかね」

 

おれは腕章を腕につけて朝飯の片づけを始めた。

 




いかがだったでしょうか?

感想・批評・評価ございましたらじゃんじゃんよろしくお願いします。




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幼なじみの本質

なんでこっちのほうが先に書きあがってるんだ……

でも出来たので投稿します!

一応書けはしたのですが……うーん…文才ほしい!

今回も皆さんに楽しんでいただければ嬉しいです

簾木 健


「失礼します」

 

総司はドアをノックしその部屋に入る。

 

「来たか。玖原」

 

「来たかって呼んだのあなたですよ。理事長」

 

総司が入ったのは理事長室。そこには今年から破軍学園理事長になった新宮司黒乃がタバコを咥え座っていた。

 

「ふふ。お前に理事長と言われるとなんだかくすぐったいな」

 

「なら黒乃さん。今度はどうしたんですか?」

 

総司が面倒臭そうに頭を掻く。総司はここ最近理事長室に呼び出されると絶対面倒事を押し付けられているのだから仕方ないだろう・・・・

 

「これ、出ないのか?」

 

「これ?・・・ああ。代表選抜戦ですか」

 

黒乃が総司に見せてきたのは、今年の代表選抜戦要項と総司が不参加を選択して出したメールだった。

 

「おれは出ないですよ・・・・わかってますよね?」

 

「・・・・黒鉄弟とは戦わなくていいのか?」

 

「そこでヴァ―ミリオンではなく一輝をあげるあたり、黒乃さんの期待度がわかりますね」

 

「ヴァ―ミリオンになら今のお前なら絶対に負けんだろ。でも黒鉄は違う。お前ですら負ける可能性のある男だ。もう一度問おう、戦いたくないのか?」

 

「・・・・負けないですよ。少なくとも今はまだ」

 

「ほう・・・私にハンデ戦とは言え勝った男だぞ?」

 

黒乃はニヤニヤと笑う。総司はそんな黒乃を見て顔をしかめた。

 

「この学園で刀華の次くらいにあなたおれの実力を知ってるはずですけど・・・・」

 

「ふふ・・・・そういえば今日はもう一つ要件があってな。こんなものが私のところに届けられていてな」

 

黒乃が一枚の紙を総司に渡す。そこには嘆願書と冒頭に書かれていた。そして内容は・・・・・

 

「・・・・こんなものが上がってきたんですか?」

 

「ああ。風紀委員会副委員長とその他風紀委員からだ」

 

そこには総司の実力を知るために選抜戦に総司が参加し代表になれなければ委員長を変えてほしいということが要約すると書いてあった。

 

「この嘆願があった以上お前には選抜戦に参加してもらう。いいな?」

 

「それ確認というより、もう決定事項なんですよね・・・・というかここでおれが参加して負ければすべての面倒事から・・・・」

 

「それが出来ないのがお前だろう?なぁ天陰流奥義継承者玖原総司」

 

総司はそう呼ばれ苦い顔をする。流派に泥を塗ることを総司が嫌っていることを黒乃はよく知っているのだ。そしてもう一つの訳も。

 

「それに普段はそんな風にやれ面倒臭いだのやれ疲れるだの態度や言葉で示してるくせに・・・・・君は本当は究極の負けず嫌いじゃないか。まぁそうでなければあの天陰流を極めることなどできないだろうがな」

 

「・・・・どうしてこう人の痛いところをついてくるんですか」

 

「悪いな。性分だ」

 

「はぁ」

 

総司のため息には、あきらめが滲んでいた。

 

「わかりました。参加しますよ・・・七星剣王になんて全く興味はないですけど。とりあえず本戦まで進めれば文句でないですかね?」

 

「ふふ・・・ああ」

 

「・・・・なんか楽しそうですね」

 

「そうなってしまうだろう。あの玖原鷹丸が最強という弟子が闘うのだ。楽しみだよ。ではそんな君に一つ朗報をやることにしよう」

 

「朗報?なんですか?」

 

総司がそう聞くと黒乃が意味あり気にニヤリと笑う。

 

「・・・黒鉄王馬が日本に帰ってきたらしい」

 

「えっ・・・・」

 

総司が耳を疑う。

 

「だから黒鉄王馬が日本に帰国してきたという連絡が私のところに来たといったのだ」

 

その黒乃の言葉に総司の目が大きく見開かれる。そして顔を伏せた。

 

「・・・七星剣舞祭本戦に出てくるんですか?」

 

静かに総司が黒乃に尋ねる。

 

「いや、まだそこは決まっていないが・・・・・・出てくる可能性はある」

 

「そうですか・・・・・わかりました。では予選に参加すればいいんですね?」

 

「ああ。その内実行委員から相手を知らせるメールが生徒手帳に届くと思う」

 

「了解です。では失礼します」

 

総司は黒乃にしっかりと礼をし理事長室から出ていった。

 

「ふふ・・・あの男が出てくるかもしれないということがそんなに嬉しいのかね」

 

黒乃は苦笑いを浮かべる。礼をし顔を上げた時に見せた総司の笑顔・・・・獰猛で今にも切りかかりたくてうずうずしているように黒乃には見えた。

 

「ふふ・・・・しかし・・・・」

 

黒乃はタバコに火を付けながら考えていた。

 

「あの黒鉄の放蕩息子が帰ってきたのにはなにかありそうだな・・・・・」

 

黒鉄王馬・・・・前に七星剣舞祭について聞かれたおり彼は『戦うべき相手はいない。一人戦いたい人間はいるがそいつは出てこないみたいだから』と答えている。もちろんこれは多くの学生騎士やその他から反感をかった。しかし黒乃などの本当の実力者や一輝のような彼を良く知っている人間からするとそれが口だけではなく、実力に裏打ちされていることがわかる。しかしそこまで言った男が何故このタイミングで戻ってきたのか、それを黒乃がわからなかった。

 

「・・・・・なにもなければいいのだが」

 

黒乃はタバコの煙を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日の授業は午前中で終わり、刀華は生徒会に行ってしまった後、総司は風紀委員室に一度顔を出すために廊下を歩いていた。その足取りはとても軽い。総司は歓喜していた。ここまでの大きな興奮を感じたのはいつぶりだろうか・・・・

 

「王馬・・・出てこいよ・・・・」

 

王馬・・・・黒鉄王馬は黒鉄一輝の兄して日本唯一のAランクの学生騎士。風を操る伐刀絶技(ノーブルアーツ)を扱うことから《風の剣帝》の二つ名を持つ日本最高峰の学生騎士だ。しかもリトル時代に世界一にもなったことがある。しかしその実態は黒鉄家の放蕩息子。学院にはいかず世界中もフラフラと旅している。なんでこんなことをしているのか多く人がわからないというが、リトル時代、いやもっと前から王馬という人間を見ている総司はその理由はわかっていた。

 

「どこまで強くなっていやがるんだろうな・・・想像つかない」

 

総司がニヤリと笑う。その身体には汗が滲んでいる。

 

「でも、この数年間強くなったのはお前だけと思うなよ、王馬」

 

総司の腰に黒塗りの鞘と白塗りの鞘に入った小太刀が現れる。

 

「《黒光》《白和》、今回はかなり楽しめるかもな」

 

そこで総司の生徒手帳に連絡が入る。

 

「はい・・・・」

 

「すみません。風紀委員長」

 

「どうかしたか?」

 

「実は一年生の教室で固有霊装(デバイス)を用いた戦闘が行われていると連絡が」

 

「・・・・わかった。近いからおれが向かう」

 

「わかりました。応援はいかがしますか?」

 

「・・・すぐ終わると思うからいらない」

 

「わかりました。ではよろしくお願いします」

 

「了解」

 

総司は電話を切って一つ息を吐く。

 

「面倒なことになってないと良いけど・・・・無理か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総司が到着するとその教室は喧噪で満ちていた。

 

「何があったんだ?」

 

総司はそこで見つけた一人の生徒を捕まえて事情を聞いた。どうやら固有霊装(デバイス)を使った戦闘は終わったらしい。しかも、喧嘩吹っかけられたのは一輝だったらしい。本当にトラブルメーカーだな。しかもその後来た一輝の妹らしい女の子が一輝の唇を奪い、兄弟姉妹の考え方でクラスのメンバーの心が一つになって、ヴァ―ミリオンが一輝の下僕とかなんとか・・・・・

 

「で、二人がバチバチしてるわけか」

 

クラスの中には三人。一人が男の子でオロオロと二人の女の子を交互に見ている。二人の女の子から殺気が漏れていた。その他の生徒は迅速に避難していた。総司はクラスの中に気配を消して入る。

 

「《宵時雨》」

 

銀髪のショートカットの女の子・・黒鉄珠雫が固有霊装(デバイス)を展開する。

 

「傅きなさい。《妃竜の罪剣(レーバテイン)》」

 

赤髪のロングの女の子ステラ・ヴァ―ミリオンも固有霊装(デバイス)を展開する。そしてお互いに罵倒が始まる。

 

「そろそろ止めないと、あのレベルの騎士が教室でぶつかると教室が消えるな」

 

総司は固有霊装(デバイス)である二振りの小太刀を抜き、そして二人の間に割って入る。

 

「抜き足」

 

総司は特殊な歩法と呼吸で割って入りステラと雫の首筋で刃を止めた。




どうだったでしょうか?

やっと固有霊装が出ましたね。まぁ能力はのちのち……

感想、批評、評価についてはドンドン募集していますので書いていただければ作者はとても嬉しいです!

また次回を楽しんでもらえるよう頑張りたいと思います!

これからもよろしくお願いします。

簾木 健

ツイッターも始めましたのでフォローしていただけると嬉しいです!

@susukikakru


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開戦

意外とはやめに投稿はできたけど・・・・まとまってないな・・・

本当に文才がほしいです・・・・・

こんな文ですが楽しんでいただければ幸いです。

簾木 健



黒鉄一輝は驚愕してきた。自分の後ろからステラと珠雫の間に割って入った人物の気配や動きを全く追うことが出来なかったのだ。

 

「なんだ今のは・・・・」

 

一瞬だった。二人がぶつかるという瞬間その人物は二人の間に割って入った。そしてその二人の首筋には小太刀の刃がそえられていた。

 

「今年の一年は血気盛んだな。まぁ良いことだが・・・・場所は考えろ」

 

一輝はその声で割って入った人物が自分知っている人だと気づいた。長身で黒い髪。腕に着けられた『風紀』の腕章。そして特徴的な鋭い目。

 

「経緯はある程度理解してるが・・・・一輝ももうちょい頑張って止めろ」

 

「ええ・・・・すみません。総司先輩」

 

総司は面倒そうにそう言いながら、小太刀を腰に下げた鞘にしまう。

 

「さて、お二人さんも固有霊装(デバイス)をしまいな」

 

総司の言葉にハッとしてステラと珠雫がバツの悪そうに固有霊装(デバイス)をしまう。

 

「お二人さんは固有霊装(デバイス)の無断使用を行ったということで理事長に報告しとくから、後で生徒手帳に罰のお知らせが行くと思う。これに懲りたら時と場所を考えて固有霊装(デバイス)を使うことにしてくれ」

 

「はい・・・ごめんなさい」

 

「・・・・すみません」

 

ステラと珠雫が総司に謝る。総司はそれに一つ頷いた。

 

「ああ。わかればいい。じゃ一輝、またな」

 

「ええ。お騒がせしました」

 

一輝の謝罪に総司は歩きながら手を挙げて答えどこかに行ってしまった。

 

「・・・お兄様あの人が――――」

 

「ああ。玖原総司先輩だよ」

 

「何者なのあの人。気付いたらアタシたちの間に入って首には刃が突きつけられていたんだけど・・・・」

 

なにかを知っている珠雫になにもかもわからないステラ。一輝はふうと息をついてから説明を始めた。

 

「彼は玖原総司先輩。この学院の三年生である意味でかなり有名人だよ」

 

「三年生?有名人ってことは強いの?」

 

ステラの発現に一輝は微妙そうな顔をする。

 

「わからないんだよ正確な実力は」

 

「???どういうことよそれ?」

 

「先輩は学院に入学して・・・・いやもっと以前、リトルのころから公式戦に参加したことがないんだ。それどころか実技の授業でもまともに取り組んでない」

 

「えっ!?」

 

「だから実力を知る人がほとんどいない。でも・・・・」

 

「私やお兄様にとっては少し事情があって比較ですがその実力の片鱗を知っているのです」

 

珠雫の言葉にステラはさらに頭を傾げる。一輝はそんなステラを見てふっと笑い説明を続ける。

 

「僕と珠雫にはもう一人兄がいるんだ。黒鉄王馬、今日本でステラを除けば唯一Aランクで『風の剣帝』を二つ名に持つ学生騎士なんだ」

 

「黒鉄王馬・・・・でその人がどうしたの?」

 

「兄さんはリトル時代、大会で世界一になったことがあるんだ」

 

「世界一!?それはまた滅茶苦茶強いじゃない」

 

「・・・・あの人は自らが強くなること以外興味のないただの戦闘狂(バーサーカー)です」

 

「あんたなんか辛辣ね」

 

「でも、そういう人なんだ。事実七星剣舞祭には『参加する意味がない』って言って参加してない」

 

「そうなの?でもそれって傲りではないの?」

 

ステラの言葉に一輝は首を横に振った。

 

「その発言ができるほどの強さは持っているよ」

 

「!!??」

 

一輝の照魔鏡のごとき観察眼を肌で感じたステラにはわかる。この一輝が人の実力を大きく読み違うことなどはないことを。一輝がそう言うということは本当にその実力が黒鉄王馬にはあるのだ。

 

「でも、そんなに兄さんが唯一戦いたいと言ったのがあの玖原先輩なんだよ」

 

「えっ?」

 

「そしてこうも言ったんだ『一度負けた借りは返す』って」

 

「!!??」

 

「っ!」

 

一輝の言葉にステラの顔が驚愕に染まり珠雫は顔を顰めた。

 

「僕も聞いた時はあの兄さんを負かすことが出来る同年代が存在するなんて想像出来なかった。だから去年偶然会ったことがあってその時手合せをお願いしたんだよ」

 

「それで一輝は勝ったの?」

 

一輝に詰め寄ってそんなことを聞くステラに対して一輝は気恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「模擬刀を使った勝負で勝敗はついてないよ。でも、一つわかったことがあった」

 

一輝の顔がまた真剣なものになる。

 

「僕は彼の剣技を完璧には模倣することが出来なかったんだ」

 

「えっ!?」

 

またステラが驚愕する。

 

「ある程度模倣することは出来たよ。でも先輩と同じ威力、同じ速さかと言われたら完全に劣ってしまうものだった。さすがは『天陰』に名を連ねる武術者というところだね」

 

「『天陰』?」

 

ステラはそれを知らないのかどこかで聞いたことがあるのか分からないが首を捻る。それを見て珠雫がププッと笑う。

 

「まさか『天陰』を知らないのですか?本当に脳みそまで筋肉で出来ているのですね」

 

「なっ!?違うわよ。どこかで聞いたことはあるのよ!!ちょっとド忘れしただけ!!!」

 

「そんなところが脳筋だと言っているんです」

 

「なんですって!!」

 

「ハハ・・・珠雫もあんまりステラをいじめない」

 

「これくらいで良いんですよ。この雌豚の扱いなんて」

 

「ハァ・・・・じゃあステラ、『サムライ・リョーマ』は知ってるよね?」

 

「もちろんよ!一輝の曾祖父でもある黒鉄龍馬でしょ?」

 

「うん。龍馬さんは第二次世界大戦でこの日本を勝利に導いた人なんだけど、龍馬さんには二人のライバル、戦友がいるんだ。その人たちの二つ名が『闘神』と『天陰』。そしてその『天陰』こと玖原鷹丸は先輩の曾祖父で先輩が使う『天陰流』の師範なんだよ」

 

「ああ。だから聞いたことがあったのね」

 

ステラが納得していた。

 

「しかも、圧倒的な力を持つ流派なんだ。僕も何度か映像で見たことがあるんだけど、圧巻の一言だったよ。そういうことで先輩が使う『天陰流』は日本最強の流派って言われてる」

 

「そうなんだ・・・・それだけ強いなら・・・・・・・・一度手合せしてみたいわね」

 

そのステラの言葉に珠雫はハァとため息をついた

 

「この人も大概ですわねお兄様」

 

「ハハ・・・否定はしないよ」

 

「??」

 

ステラは珠雫と一輝の言葉に首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうちゃんただいま」

 

「おかえり刀華」

 

刀華が自室に入ってくる。そんな刀華を総司は読んでいた本から顔をあげて答える。

 

「はぁ・・・・今日もつかれた」

 

「お疲れ様。紅茶飲むか?」

 

「あれ?入れてくれるの?」

 

「さっきおれがコーヒー飲むのにお湯沸かしたからな・・・ついでだ」

 

「そっか。じゃもらおうかな・・・・」

 

刀華が嬉しそうに笑う。それには理由がある。

 

「そうちゃんが淹れる紅茶すごくおいしいんだよね」

 

「そうか?カナタのほうがうまいと思うぞ?」

 

「そんなことないよ。そうちゃんのもおいしいよ」

 

そんな会話をしながら総司は慣れた手つきで紅茶を入れていく。

 

「そうだ、刀華。少し話があるんだ」

 

「うん?そうちゃんどげんかしたと?」

 

刀華は机の上でぐでーんとして身体を伸ばしていた。言語もちょっと変わってる。

 

「ああ。おれ・・・・選抜戦に出る」

 

「えっ!?」

 

刀華がバッと身体を起こし立ち上がる。

 

「えっ!?どうかしたか?」

 

驚いて総司も顔を上げる。

 

「そうちゃん・・・・選抜戦に出ると?」

 

「えっ・・・ああ。ちょっと色々あってな・・・・」

 

「・・・本当に?」

 

「ああ」

 

刀華は信じられないといった表情で固まっている。総司が選抜戦に・・・七星剣舞祭に出るということは刀華がこんな風に固まってしまうほど驚くべきことなのだ。しかし刀華の表情が少しずつ変化していく。驚いた表情からだんだんとだんだんと・・・・・喜びに満ちた好戦的な笑顔に変わっていく。

 

「そうちゃん・・・・もちろん本気を出すんよね?」

 

刀華の周りに雷が起こる。バチバチと鳴るその光を総司はニヤリと笑って受け止める。

 

「・・・・見合った相手にはそれに見合った力で戦う」

 

「そっか・・・・・それはすごく楽しみ」

 

刀華の周りから雷が消える。でもその好戦的な笑顔は消えていない。刀華はずっと待っていたのだ。総司とこんな風に戦うことのできる機会を・・・・もちろんそれは総司も知っていた。

 

「刀華悪いな。おれのくだらない意地のためにお前を待たせてしまった」

 

「・・・・・・・確かに待ちました」

 

刀華が少し複雑な笑顔を浮かべる。

 

「・・・悪いな」

 

「でも、そうちゃんは来た。私たちのステージについに上がって来た」

 

「・・・・おれは強いぞ」

 

「わかってる」

 

刀華がふふっと今度は優しく微笑んだ。

 

「でも簡単には負けない」

 

「ああ。受けて立つよ刀華」

 

総司も微笑んでそれに答える。そこで総司がセットしていたアラームが鳴った。それと同時に総司はもう一つ刀華に言っておくことがあったことを思い出した。

 

「そうだ。刀華はもう一つ話しておくことがあるんだ」

 

「うん?どうかしたん?」

 

「王馬が帰ってきたらしい」

 

「えっ!?王馬って黒鉄王馬だよね?」

 

「ああ。その王馬だ」

 

「・・・・ほんとに?」

 

「黒乃さんが言ってたし本当だと思う。それでな・・・・・一つ約束してほしいことがある」

 

総司が真面目な顔になる。刀華も総司の表情に少し顔が引き締まる。

 

「もし王馬と試合じゃなくて戦うことがあったらおれにすぐ連絡してくれ。そして出来るだけ戦わないでくれ」

 

「・・・・・どうして?」

 

刀華の目に少し怒りが浮かぶ。総司はそんな刀華を見てため息をついた。

 

「お前はたぶん王馬が剣を向けてきた時は逃げないだろ?確かに勝てるかもしれない。でもたぶん無傷じゃすまない。だからなるべく戦わないでくれ」

 

総司が恥ずかしそうに頭を掻く。そんな総司に刀華はまた微笑む。

 

「・・・・そうちゃんの心配もわかる。でももし彼が私の大切な学園、友達なんかに剣を向けるなら私は容赦なく剣を振るう」

 

「ハァ・・・・やっぱそう言うのかよ・・・・・まぁ連絡の方法は泡沫あたりに頼んでおくか」

 

「うん・・・心配してくれたのにごめんねそうちゃん」

 

「ああ。でもそんなこと言うだろうなって思ってはいたから」

 

「そっか」

 

総司は諦めたように笑い、刀華も笑顔でうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七星の頂をめぐる戦いの火蓋が今切って落とされる。

 

 

第一戦目。玖原総司 Cランク 勝利 試合時間 2秒。

 

この一戦は全体の第一試合ということで多くの破軍学園の生徒に注目されていた。そんな中、サボりや贔屓野郎など様々な罵倒をされていた三年生の騎士が破軍ではかなり名前の売れた三年生をたった二秒で切り伏せてしまったのだ。会場はどよめきながら倒れた相手に目もくれず控え室に帰るその騎士を見ていた。そしてこの一戦を結果的に招いた風紀委員副委員長はこう漏らした。

 

「自分たちはなんて人のことを侮辱していたのだ」と・・・・  




どうだったでしょうか?

今回から七星剣舞祭選抜戦開戦です。

どんどんと総司の能力や剣技が明らかになっていく・・・予定です!!

それにしてもアニメの刀華・・・・やっぱりめっちゃ強いな・・・・

ではまた次回会いましょう!!

簾木 健


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心配

四日連続なんて初めてですね・・・・・

クオリティが維持出来ているか不安ですが・・・・・

今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

簾木 健


基本的に伐刀者(ブレイザー)の戦いは読み合いから始まる。なぜなら伐刀者(ブレイザー)は互いに超常の力を持つものたちだからだ。そのため伐刀者(ブレイザー)の戦いは相手の異能を理解しそれにあった対策を立てるために基本的に戦いはまず読み合いということになる。しかしこれは基本であり最善の策ではないと生きる伝説とまで言われる武人は言った。

 

「相手の力量を測るのも力の内。自分より弱き相手に読み合いなどしていたらより強い援軍を呼ばれてしまう。よって相手の力量を一目のうちに見抜く力が伐刀者(ブレイザー)には必要なのだ」

 

これを言った武人こそかの『天陰』玖原鷹丸。そしてその教えは弟子である玖原総司にきちんと受け継がれていた。

 

 

 

 

 

ゆっくりと総司は相手の待つ会場に入っていく。そして相手の対峙した。そして相手の観察をする。

 

「・・・・・弱い」

 

 

総司の第一印象はそれだけだった。

 

「敵と対峙してるのにこっちへの集中力が緩慢だな。まぁ相手がおれっていうのもあるんだろうな」

 

少し前、総司は泡沫から学園での総司の評価を聞かされたのだ。それは

 

「はっきり言って最悪だよ?そうちゃんは臆病者の雑魚だと思われてる」

 

だったのだ。総司自身としてはそう取られても仕方ないかもな。などとその時は思っていたのだが、対峙していまから戦うはずの相手からありありとそんな風に思っているというオーラを出されるとちょっと・・・・・かなりイライラしていた。

 

「・・・・・ここは師匠の教えにしたがうか」

 

総司はそう思いながら固有霊装(デバイス)を展開する。

 

「時間だ、《白和》」

 

そして相手も固有霊装(デバイス)を展開する。それを確認して総司は足に力を籠める。

 

「Let`s go ahead」

 

試合開始の合図・・・・それと同時に総司は跳び出す。相手の目には総司が一切映ってない。なぜなら総司は抜き足を使用したからだ。しかも並みの速度ではない。総司は相手と交叉する際に首を幻想形態で切り裂き相手の背中側で止まった。

 

「終わり・・・・だな」

 

総司は固有霊装(デバイス)をしまい。そのまま控室に帰り始める。審判をしていた教師はその行動に一瞬驚いたが・・・総司を呼び止めることは出来なかった。なぜなら、総司の相手がゆっくりと地面に伏したからだ。

 

「えっ!?」

 

審判が相手を確認するとその相手は完全に気絶していた。

 

「しょ!、勝者!!玖原総司!!!」

 

その声に会場がどよめく。

 

「おい、今の見えたか?」

 

「いや全然見えなかった」

 

「雑魚なんじゃないのか?」

 

「いや、あれを見て雑魚と言えるのかよ・・・・・」

 

「一瞬か」

 

そんな中、その試合を見ながらタバコをふかしているスーツの女性。隣には丈にはあってない着物を身に纏う小柄な女性がいた。

 

「まぁ、総司ちゃんならこれくらいできて当然でしょ」

 

小柄な女性がニヤリ好戦的な笑みを浮かべる。そんな小柄な女性に対しスーツの女性は意地悪く笑った。

 

「なんだ寧々・・・・またあいつと戦ってみたいのか?」

 

「やめてよくーちゃん。もう二度とごめん被りたい」

 

小柄の女性・・・・・世界第三位、《夜叉姫》西京寧々がはぁとため息をつく。

 

「あのお前がそういうとはな・・・・玖原も嫌われたものだな」

 

「別に総司ちゃんのことが嫌いなわけじゃないよ・・・・でも戦うとなったら話が違うの。くーちゃんもあいつの能力知ってるでしょ?」

 

「まぁ確かに、あの能力をあいつが使うのなら厄介な相手はいないな」

 

スーツの女性・・・・新宮寺黒乃も頷き、タバコの灰を落とす。それに寧々が同意し続ける。

 

「それにさっきの抜き足・・・・悔しいけどうちのより練度が高い。本当にすごいやつに育ったよ」

 

この二人は総司が小さい時から良く知っている。黒乃は総司の師である鷹丸と交友があるし、寧々は黒乃と同じ理由以外にも総司の幼なじみの姉弟子にあたるからだ。それゆえに総司がどんな風に強くなってきたかを知っているし総司の能力についても知っている。

 

「・・・・・総司ちゃん出てくるね。楽しみ」

 

「そうだな」

 

そう言って寧々は嬉しそうに笑い、黒乃も微笑みながらタバコの煙を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうちゃん!お疲れさま!」

 

「総司さん。お疲れ様です」

 

「総司君お疲れ様」

 

総司は試合が終わった足で生徒会室に来ていた。生徒会室には生徒会長の刀華と副会長の御禊泡沫、書記の貴徳原カナタがいて、総司を労う。総司はいつも通り生徒会室のソファーに腰かけ、カナタに紅茶を頼む。

 

「ああ。といっても全く疲れるような試合じゃなかったけどな」

 

「開幕速攻で試合時間二秒だものね・・・・もうちょっと試合してあげてもいいんじゃない?」

 

泡沫がハハッと笑う。

 

「いや、な・・・・正直舐められてたから・・・・・・」

 

「そうちゃん?」

 

その声にビクッと総司は背筋を正し声の主の方を向く。声の主は刀華だ。

 

「えっと・・・・なんだ?」

 

「・・・・イライラして突っ込んだとか言わないよね?」

 

「・・・・・・」

 

刀華がそう言ったとき総司は気まずそうに目を逸らす。そんな総司に刀華はハァとため息をついた。

 

「そうちゃん、前にも言ったことあるけど感情的になって突っ込んだらいつか痛い目見るよ?」

 

「いや、そこはな・・・ほら師匠がよく言ってたじゃん。弱いとわかったら速攻で片付けるべきだって」

 

「今日のそうちゃんの相手・・・・3年生でもかなりの実力者のはずだけど?」

 

「えっ?そうなの?あれで?」

 

総司にしてみればはっきり言って弱者だった。本気なんて出すに値しない雑魚というのが総司にとっての印象だったのだ。それを見て刀華はまたため息をつく。

 

「もしかして、こんなことが続くの?」

 

「???」

 

「あの総司さん」

 

刀華の言葉の意味がわからず総司が首を傾げていると横からカナタが紅茶を出しながら話しかけてくる。

 

「なに?」

 

「もうちょっと会長を安心させてから試合に向かってください。今日は総司さんが試合に向かってからずっとソワソワしててただでさえ多いミスが・・・・・・」

 

「わー!!!!!カナちゃんはなんばいいよっと!?」

 

「そうなのか?カナタ悪いな迷惑をかけた」

 

「いえ良いんですよ。そんな会長もかわいかったですから」

 

「~~~~~~!!!!」

 

刀華真っ赤になり机に突っ伏す。その時も大量の書類が舞った。

 

「はぁ・・・・刀華。朝から言ったじゃん今日の相手はそこまで強くないって」

 

総司はやる気こそないが、学園の序列などに興味がないわけではない。よって実力者のことなら大体は把握している。今回の相手は総司自身が知らなかったので実力者ではないと判断しそれを刀華にも伝えて、試合に向かったのだが・・・・・それでは刀華はダメだったようだ。

 

「だって、色んな人に聞いたら・・・・強いって」

 

「そんなもんよりおれのこと信用しろよ」

 

「うう・・・そうちゃんごめん」

 

総司ははぁとため息をつき、ソファーから立ち上がり刀華が座る生徒会長の席に行って机に突っ伏している刀華の頭を撫でる。

 

「たく・・・今度からはちゃんと信用しろよな」

 

「うん・・・・・わかった」

 

刀華は顔を上げ笑う。その笑顔に総司はドキっとして顔を赤める。急に顔を赤らめた総司を不思議そうに刀華は見る。

 

「そうちゃん顔赤いけど大丈夫?体調悪くない?」

 

「だ、だ、大丈夫だから。今は手をあてようとするな!」

 

「ええ!!??それじゃあ、熱があるかわからないよ?」

 

「ないから!!元気だから!!」

 

「でも、さっきよりも赤くなってるし・・・・そうちゃん確認させてください!!」

 

「大丈夫だって!!!!」

 

ドタバタと生徒会室で追いかけ合う2人。その2人を見ながらカナタは微笑ましい笑顔を浮かべ泡沫はため息をついた。

 

「今日も暑いね」




どうだったでしょうか?

話事態は全然進んでない・・・・・

もっと進めていきたい!!戦闘シーン書きたい!!!

今回も感想、批評、評価、募集していますのでよろしくお願いします。


ではまた次回で会いましょう!!


簾木 健


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実力

ついに評価に色がつきました!!

評価してくださった皆さん本当にありがとうございます!

そして日刊ランキングで9位になりました!これも読んでくださった皆さんのお陰です!本当にありがとうございます!

さらにはUAも7000越え!お気に入り件数も250を越え!

本当に皆さんありがとうございます!

これからも頑張っていこうと思いますのでどうぞよろしくお願いします!

では今回も楽しんで読んでいただけると嬉しいです!

簾木 健


「・・・・・すごい魔力だったね」

 

「あの試合は相手がだらしないな。でも『紅蓮皇女』のプレッシャーは並じゃない。あのプレッシャー相手に固有霊装(デバイス)を振れる騎士はうちにどれくらいいるか・・・・・」

 

総司と刀華はさっきまで行われていた。Aランクの1年生騎士ステラを見にいき、帰りながらその試合の話をしていた。試合は相手がステラのプレッシャーに負け、投了し試合終了。見ているものからすればこれほどつまらない試合もないだろうという試合だったが、総司と刀華にはそんな試合を見て内心かなり満足していた。

 

「あれは本物だね」

 

「ああ・・・・」

 

刀華の言葉に総司が頷く。

 

「あの才能は一級品だ・・・・・・でもまだ粗い」

 

総司がニヤリと笑う。刀華はその言葉の裏にある意味をしっかりと理解していた。

 

「・・・・・私なら勝てるかな?」

 

総司が言いたかったことそれは・・・・・今のステラには負けないだ。でも刀華こそ質問しているがそれは質問じゃない。

 

「・・・・刀華も負けるなんて思ってないだろ?」

 

「・・・・ふふ」

 

刀華が意味深な笑みを浮かべる。でも、その意味をよく知る総司はハァとため息をついた。

 

「刀華は本当にいい性格してるよ」

 

「そうかな?・・・・あっそうだ。そうちゃん今日も特訓付き合ってくれる?」

 

刀華はハッと思い出したように言う。

 

「・・・・わかったよ」

 

総司は嬉しそうな笑顔を浮かべてそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?今日も試合を見に行くのか?」

 

次の日の朝。朝食を食べながら総司は刀華に尋ねる。刀華はお味噌汁を吸って一つ息を吐き出した。

 

「今日も行きます。今日は『落第騎士(ワーストワン)』の試合ですから・・・」

 

「一輝か・・・・」

 

総司の目が鋭くなる。なぜなら総司とって黒鉄一輝は手のかかるかわいい後輩であると同時にこの選抜戦では刀華の次に当たりたくない騎士だ。

 

「刀華もちろんおれも行っていいよな?」

 

「ええ。生徒会のみんなも一緒になるけどいい?」

 

「わかった。ええっと・・・・今日の何戦目だ?」

 

「そうちゃん・・・・メール読んでる?」

 

「自分以外の試合は・・・」

 

「確認してないんよね?」

 

ニコリと刀華が笑う。総司はその笑顔にたじろぐ。

 

「・・・・今度からはきちんと確認してね」

 

「はい」

 

総司は素直に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは・・・それは朝から災難だったね」

 

「ああ」

 

一輝の試合の前に会場内で生徒会のメンバーと合流する。総司はまず朝から刀華のあの笑顔を見たことを泡沫に伝えると泡沫が乾いた笑いのあとに同意してくる。

 

「本当かいちょーの笑顔は怖いよね。目が全然笑ってないもん」

 

そういって話に入ってきたのは校内序列3位であり生徒会の庶務である兎丸恋々。総司や泡沫の後輩にあたるが基本的には敬語などはない。でも、そんな恋々を二人は別に気にする様子もない。

 

「だよね・・・・会長は本当に怖いから・・・・本当に・・・・」

 

泡沫が遠い目をする。

 

「まぁ泡沫は昔から刀華によくお尻ペンペンされたもんな」

 

「お尻ペンペン・・・・」

 

恋々がお尻を押さえる。

 

「・・・昔はあの笑顔とお尻ペンペンがセットだったときがあってね・・・・それにしてもあのお尻ペンペンの時は一種の才能だと僕は思うよ。なんというか・・・スナップがすごいんだよね」

 

「3人とも・・・・・」

 

そこで後ろからゾクっとするほどの威圧を感じる。もちろん声の主はこの話の中心になっていた人だ。

 

「うたくんには少しお仕置きが足りないのかな・・・だからまた色々問題を・・・・」

 

「うわーーー違うから!違うからその目で僕に手を向けないで!!!」

 

泡沫が悲鳴をあげながら刀華から逃げる。でも刀華のお尻ペンペンの威力を知っているものとしては正しい反応だろう。

 

「会長そろそろはじまりますよ?」

 

そこでこの様子を笑顔で見ていたカナタが刀華に声をかける。

 

「そうみたいですね・・・ではうたくんへのお仕置きは終わってからということで・・・」

 

「えええ!!!!僕のお仕置きは確定なの!?この話始めたのは総司くんだよ!?」

 

「泡沫・・・ドンマイ」

 

総司は泡沫に向かって親指を立てサムズアップする。するとその表情があまりにもウザかったようで泡沫もついに切れた。

 

「・・・・そういえば総司くんこの間あげた本はどうしたの?」

 

「はぁ?本?おれ泡沫から本なんか借りたっけ?」

 

「うん貸したよ。『厳選巨乳百選』」

 

「えっ!?」

 

そこで泡沫がなにをしたかったを理解したがもう遅かった。

 

「うたくんとそうちゃんは後でお話しがあります」

 

死刑宣告とも取れる声。泡沫はニヤリと笑い総司はそんな泡沫を睨みつける。こんな次元の低い争いをこれからさらに繰り広げようとした時に

 

「入ってきましたね・・・・」

 

カナタが呟く。その声で総司と泡沫も視線を闘技場の中心に向ける。そこには二人の騎士がゆっくりが中心に近づいていっていた。

 

「そうちゃんはどっちが勝つと思う?」

 

「・・・・刀華その答え聞く意味あるか?」

 

静かに総司が言う。どうやら総司もスイッチを切り替えたようだ。今は目の前の試合を見ることに集中する。

 

「ということはやっぱり・・・・・」

 

「ああ。十中八九一輝が勝つ」

 

総司がハッキリと言い切る。

 

「・・・・・でも確実ではないんですね」

 

カナタは総司の言い方が気になったのか総司に聞く。それに対して総司は複雑そうな顔をした。

 

「・・・・正直確実ではない」

 

「それはどうして?」

 

今度は刀華が聞いてくる。それに対して総司が頭を掻きながら答える。

 

「一輝はたぶんかなり緊張してると思う」

 

それに対して泡沫が首を傾げた。

 

「黒鉄くんが緊張?でも彼は一流の武術者だよね?それなら・・・・・」

 

「普段なら100%一輝が勝つ。でも一輝はこれまでチャンスらしいチャンスをもらったことがない。しかも今回はもしかしたら自分の力を示すためのラストチャンスになるかもしれない・・・・・そんな状況なのに一輝はあまりに普通だ。おれと模擬戦をしたときと変わらない・・・・そんなの普通はありえないだろ?たぶんおれや刀華でもなんらかの影響が出る。たぶん一輝はそれを自らの気持ちで抑え込んでるんだろう」

 

「でも、プレッシャーを抑え込むのはいいことなんじゃ・・・・」

 

今度は恋々がそう答える。でも総司と刀華がそれに対して首を横に振った。

 

「完全に抑え込んでしまうのは問題なんだ」

 

「そうちゃんの言う通り。完全にプレッシャーを抑え込んでしまうのはこういう場合よくない」

 

「そうなの?」

 

恋々がカナタや雷、泡沫に尋ねる。

 

「確かに完全に抑え込んでしまうのは良くありませんね」

 

それにはカナタが答えた。恋々がへーと言ったあと、総司が解説を続ける。

 

「たぶん一輝にはこういうことの場数が圧倒的に足りないんだ。こういうのは完全に場数だからな・・・・だからもしこの状況から抜け出せないとすると・・・」

 

総司が一度言葉を切る。もう総司が言いたい事は生徒会メンバー全員が理解している。でも総司は自分に言い聞かせるように続きを呟いた。

 

「一輝はなにも出来ずに負ける」

 

そしてその言葉のあとすぐに試合は始まった。




どうだったでしょうか?今回は少し短めでしたしバトルシーンないため微妙な話でしたね・・・・

ただ次回かその次にはバトルシーンを入れようと思っています。ついに総司の片鱗が・・・・明らかになるといいなぁ!!ww

ではまた次回も楽しんで読んでいただけると嬉しいです!

簾木 健


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覚醒

とりあえず書けました!!

うーん・・・こっちばかり投稿してるな・・・・・

もう一つの方はちょっと書いては直して書いては直してを繰り返しています。

でも必ず投稿します!!!

ではこっちはですがあまり話が進んでない・・・・結局バトルシーンには行けず・・・・いつに辿りつくのか・・・・・

では今回も楽しんでいただけると嬉しいです。

簾木 健


「まぁ・・・見えるからな」

 

総司が冷静今の状況を分析した。

 

「さすが落第騎士(ワーストワン)ですね」

 

刀華も納得したように頷く。一輝は、『狩人』桐原静矢の見えないところから放たれる矢を打ち落としていた。

 

「それにしても怖ろしい伐刀絶技(ノーブルアーツ)ですわね」

 

「ああ。でも使い手がなぁ・・・・・・」

 

カナタの発言に総司が苦笑いを浮かべた。桐原静矢、固有霊装(デバイス)は『朧月』。そしてその伐刀絶技(ノーブルアーツ)、『狩人の森(エリア・インビジブル)』は気配や匂いはもちろん、姿すら肉眼では捉えられなくなる、自分の全情報を遮断する完全なステルス迷彩を作りだすものだ。静矢はその能力を使い相手を嬲る戦い方から『狩人』と呼ばれている。

 

「でも、矢が知覚出来るっていうのは黒鉄君にとってまだよかった・・・・・・!?」

 

そこまで言って刀華の言葉が止まる。なぜなら『朧月』から放たれた矢が一輝の右太もも穿ったのだ。

 

「今の反応・・・・」

 

カナタの言葉に総司と刀華が苦い顔で返す。

 

「今のどうかしたの?」

 

恋々が総司たちに聞く。

 

「いままで黒鉄君は矢に反応することができていました。たぶん、矢だけ見ることができていたのでしょう。でも、今のは完全に虚を突かれてもらった一撃・・・・たぶんですが」

 

「矢すら見えなくなったんだろうな」

 

刀華の言葉を総司が繋げる。

 

「これでさらに恐ろしい能力になりやがったな・・・・」

 

総司が悪態をつく。それに雷の表情が少し強張る。

 

「・・・・黒鉄君はここまででしょうか?」

 

カナタが総司と刀華のほうを見る。刀華は苦い顔し総司も顔をしかめる。二人ともこの状況を打破するすべを思いつかないのだ。

 

「ああ・・・黒鉄君がボコボコに・・・・・」

 

泡沫が少し笑いながら言う。

 

「泡沫・・・ちょっと楽しんでるな・・・・・それにしてもやっぱり一輝のやつあがってたな」

 

「えっ!?そうなの?」

 

恋々が驚いた表情で総司を見る。それに総司は冷静に返す。

 

「一輝の力量があればおれの一戦目みたいに開幕速攻を仕掛ければ桐原が伐刀絶技(ノーブルアーツ)を使う前に瞬殺できたはずだ。でもそれをしなかった・・・・いや出来なかったんだ。たぶんそこまであがってたんだろうよ」

 

「ええ。私の目にもそう映りました」

 

総司の発言に刀華も頷く。

 

「・・・・このままだと負けるな」

 

そこで普段は寡黙な雷が残念そうに言った。

 

「確かに、このままだと・・・・・・ああ、一輝のやつ膝が落ちたな」

 

「フフフ、アハハハ!なんてみっともなくして汚らわしいっ!酷い顔だよ黒鉄君?さあさあ笑顔で頑張ろう頑張ろう。頑張るだけの理由が君にはあるはずだ。そうだろう?だってこの試合、君の卒業がかかっているんだから」

 

そこに響いた下種な静矢の声に生徒会のメンバーも総司も顔をしかめた。理事長はこの七星剣舞祭は成績には関与しないと言っていたのだ。でも今静矢は一輝の卒業がかかっていると確かに言った。それがどういうことかわからず全員で顔をしかめていると静矢がそれも説明してくれた。

 

「成績に関係があるのは彼だけだよ。新理事長も無茶な条件を出すよね。『七星剣舞祭で優勝し、七星剣王になれば卒業させてやる』なんて」

 

桐原の言葉に会場のざわめきはピタリとやみ次の瞬間

 

「「「「「「ぷっ、あははははははははっははっはははははっは!!!!」」」」」

 

その場にいたほとんどの観衆が、同時に吹き出した。そして口々に始まる一輝への批判。それはドンドンと加熱していく。でもその会場の空気と同時に加熱されているものがもう二つあった。それの一つを肌で感じている生徒会メンバー全員は思っていた。特に彼との付き合いの長い、刀華、泡沫、カナタの顔は完全に恐れをなしてしまっている。恋々や雷も彼の異変を感じとっていた。

 

「「「「「そうちゃん(総司先輩、総司さん)の機嫌がヤバい」」」」」

 

泡沫は前に刀華が怒ると怖いと言ったことがある。しかし刀華以上に怒らすと怖いのは総司なのだ。でも総司はダラダラしていようとも、なにか悪戯をしてもそう怒ることはない。普段は沸点の高い総司だが、特定のことに対する沸点は異常に低いのだ。その一つに『相手の努力を笑う』というのがある。総司は一度一輝と手合わせをしたときにわかったのだ。自分の剣技が盗まれていることにを、そしてそれを手合わせを行いながら行うことのできる一輝の剣技の凄さを・・・・そしてそれが一輝の多大な努力によって積み上げられていることを・・・・・・そんな人間を才能で諦めている人間が笑っている。そんなこの状況を総司は許すことが出来なかったのだ。

 

「ぶち殺すぞ」

 

低い声、総司の横にいた恋々が「ヒッ」っと悲鳴を漏らす。

 

「そうちゃん・・・・ちょっと落ち着いて・・・・」

 

刀華がなんとかなだめようとするが、総司はそんな刀華に一瞥もせず一輝の対戦相手でこんなことを暴露した静矢を凝視して殺気と魔力が出されていく。

 

「総司君そんなことをしたら・・・・」

 

「そうですよ。あんな下種なんて殺す価値すら・・・・」

 

泡沫とカナタも総司をなだめる。

 

「いや、あいつはおれが・・・・・」

 

「だまれぇええええええええええええええええええええ!!!!!!」

 

「「「っ!?」」」

 

総司が今にも飛び出そうとするのを急な叫び声が遮った。

 

「誰!?」

 

刀華が誰が叫んだのかを確認しようと会場を見渡す。ただそれはすぐに分かった。なぜなら会場のカメラが叫んだ人間を映したからだ。

 

「ステラ・ヴァーミリオン」

 

総司が呟く。ステラは緋色の目を燃やし火炎の燐光を散らして立っていた。

 

「FランクがAランクに勝てるわけがない?そんなの、アンタ達が勝手に決めつけた格付けじゃないの!アタシ達天才には何やっても勝てない。そうやって勝手に枠にはめて、自分自身の諦めを正当化しているだけ!そうやって諦めるのは勝手よ。だけどお前たちの諦めを理由にイッキの強さを否定するなぁッッ!!」

 

ステラと総司の考え方は似ている。そしてそれは二人の境遇が似ていることにある・・・・・二人とも天才と呼ばれている。そして二人とも一輝の魂の輝きを見たことがある。そしてその魂の輝きを誇り高いと思っている。それに加えステラと総司は多大な努力をしたことがある。だから一輝の強さはそれ以上の努力から成り立っていることをわかっているのだ。だからそれを笑う諦めた人間が二人は許せなかった。

 

「才能なんてその人間のほんの一部でしかない。そんな小さなモノにしがみついているアンタ達に、イッキの強さがわかるわけがないッ!理解できるわけがない!だからそんな知った風な口で――――アタシの大好きな騎士をバカにするなッッッ!!!!!!」

 

そこで総司の殺気と魔力が完全に霧散した。刀華がそこで一つ息をつく。

 

「やっぱりそうちゃんも少し気にしてたんだね」

 

「・・・・・別にそれは」

 

そこで刀華が総司の手をギュッと握る。

 

「そうちゃんには私がいるから」

 

「ああ・・・・・頼む」

 

「うん」

 

総司の傷。少し昔の話。確かに総司の心にはまだ残っていたのだろう・・・・自らの才能に翻弄されたのはステラだけではないのだ。そしてステラは一輝に言い切った。

 

「イッキ言ったじゃないの・・・・・ッ。他人に何を言われても、自分を諦めないって・・・・・!アタシはそんなイッキとならどこまでも上を目指していけるって思ったのよ!だからこんな奴らに好き勝手言われたくらいで、そんな、諦めたような顔するんじゃないわよッ!アタシはそんな弱い男に負けたつもりはないわ!!!!アタシが、アタシが憧れたのは、アタシが好きになったのは、いつだって上を向いて、自分自身を誇り続ける黒鉄一輝という騎士をなんだから!!―――だからッッ!!アタシの前ではずっと格好いいアンタのままでいなさいよこのバカァァァァァァァ!!!!!!!」

 

一輝はその声を聴き、そして

 

「ゴン!!!!」

 

自らのこぶしで自分の顔面を音が響くほど強く殴りつけた。

 

「ありがとう。ステラ・・・・いい活が入った」

 

ゆっくりと立ち上がる一輝。その眼に強い決意を滲ませて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言いたいこともそれ以外も言われちゃったね」

 

泡沫が総司に笑いかける。総司もふっと笑って頷く。

 

「でも、どうするの?黒鉄君には桐原の《狩人の森(エリア・インビジブル)》は突破できないんだよね?」

 

「・・・・そういえばどうするんだ?」

 

恋々と雷が総司たちに聞く。それに刀華とカナタは難しそうな顔をする。でも・・・・総司と泡沫はニヤリと笑った。

 

「男がここまで啖呵切ったんだよ?」

 

「そうだ。一輝にはたぶんなにかあるんだろう・・・・おれにはなにも思いつかないけどな」

 

でもそんな二人を刀華が呆れたように見る。でもすぐにやさしく微笑む。

 

「ほんとに昔から二人は変わらんばい」

 

そしてそこで一輝が伐刀絶技(ノーブルアーツ)である一刀修羅を発動し宣誓した。

 

「僕の最弱(さいきょう)を以て、君の最強を捕まえる。――――――勝負だ。桐原君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「!!???」」」

 

次の一輝の行動に生徒会メンバーを含め会場全員が驚愕に包まれた。

 

「やっぱりね。桐原君なら、ここは必ず曲げてくると思った」

 

一輝は見えないはずの矢を掴んだのだ。そしてその双眸は静矢を完全に見抜いていた。

 

「・・・・・ああ、捕まえた。そして、僕はもう君を逃さない」

 

血にまみれた騎士が薄く笑った。

 

「でもなんで・・・・」

 

刀華が理由がわからずあたりを見渡すが総司と泡沫と雷は目を見開き、カナタと恋々も驚愕に固まっていた。

 

『あは、うははははは!マジっすか!本当にやりやがったよ!』

 

そこに入ってくるのは実況席で爆笑する世界第三位の騎士西京寧々の声。

 

『西京先生?何か知っているんですか?』

 

『くくく!!うん。知ってる。見ての通りさ。もう《狩人の森(エリア・インビジブル)》は役には立たない』

 

その西京の言葉に、桐原が反射的に噛みつく。

 

「で、デタラメを言うなッ!ボクはの《狩人の森(エリア・インビジブル)》は無敵だ!こんなFランクのクズに見破れるはずがない!!」

 

『あははっ。うんそうだね。そりゃうちもそう思う。桐やんの《狩人の森(エリア・インビジブル)》は対人最強の伐刀絶技(ノーブルアーツ)だよ。そりゃ自信を持っていいさ。だって《狩人の森(エリア・インビジブル)》は見破られてなんかいないもの。そう、見破られたのは――――《狩人》本人だからね」

 

「な、なるほど!本当に一輝のやつ滅茶苦茶だな」

 

「そうちゃんどういうこと?」

 

刀華が総司に尋ねる。他の生徒会メンバーも説明してほしそうに総司を見ていた。

 

「一輝はおれとの模擬戦やヴァ―ミリオンとの戦いでおれたちの剣技を見て盗んだ。でも剣技を盗むってのはただ真似るだけじゃないんだ」

 

そこからは解説の寧々が行う。

 

『型や太刀筋から積み重ねられた歴史を紐解き、そこに至る思想をくみ取り、根幹に座す『理』を暴き出す。それが剣術を盗むということ・・・・・そして黒坊はこれと全く同じことをした』

 

「一輝は戦いながら盗み、導きだしたんだ。桐原静矢という人間の『理』をな」

 

それは名づけるなら《完全掌握(パーフェクトヴィジョン)》。その力を前に、静矢と会場の全員はようやく理解した。黒鉄一輝という騎士の真の怖さは、剣術でも、ましてや一分間のブーストなどではない。見るものすべての本質を暴き返す、照魔鏡が如き洞察眼なのだと・・・・・・・そしてそこからは一方的な展開になった。能力の見切られた静矢はなすすべもなく敗北した。その様子を見終わり総司たちが会場からでようとしたところに寧々がやってきた。

 

「A級リーグでもこんなことできる奴はいないって。いやいや、くーちゃんの隠し球なだけあるわぁ。これは選抜戦が楽しみだぁね~。でも次はもっと強い相手との対戦をして欲しいねぇ。例えばそう、そこにいる学園の生徒会長や風紀委員とか」

 

「あんまり色々と言うと寧々さん、また学園長に怒られますよ?」

 

「まぁそこは総司ちゃんがバラさなければ大丈夫だよ」

 

「はぁ・・・相変わらずっすね」

 

総司がため息をつく。

 

「でも、西京せんせーは意地が悪いよ」

 

「クスクス。ええ全く。折角あんなに健気に頑張ってるんですから、もっと大切にしてあげないと可哀そうですわよ」

 

泡沫とカナタが笑う。

 

「ふぅん・・・大した自信だね。やっぱり前年度七星剣舞祭ベスト4の壁は厚い?じゃあ本人はどう思う?」

 

寧々の双眸が総司と刀華を見抜く。その眼には強い好奇心が滲んでいた。

 

「私は全力で相手をするだけです」

 

刀華が淡々と答える。でもその言葉には強い意志と力が宿っている。

 

「ふーん・・・・じゃあ総司ちゃんは?」

 

「・・・・・今は負けないですね」

 

総司はハッキリと言い切る。その言葉はあまりにも当たり前で普通に出たように感じられる。

 

「ふふ・・・・君の場合はそうかもしれないか」

 

寧々が笑う。それにつられて総司も笑う。その二人の眼には明らかな好奇心が滲み、本当に戦いを楽しみにしているように見えた。




どうだったでしょうか?

実はUAが15000越えしお気に入り検数も500を超えました!!たくさんの方に評価もしていただいています。

読んでくれるみなさん本当にありがとうございます。感謝してもしきれません。

今後も頑張っていこうと思いますのでこれからもよろしくお願いします。

今回も感想、批評、評価どんどん募集していますのでよろしければお願いします。

ではまた次回会いましょう

簾木 健


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決定

ふぅ・・・連続投稿できたけど短めですね・・・・

でも、今回はこれで切りがいいので・・・・・これでいいんですww

では今回も楽しんで読んでいただけると嬉しいです!!

簾木 健


「あっ・・・・・言ってなかった」

 

「そうちゃんどうしたの?」

 

総司と一緒に試合を見ていた泡沫が急にそんなことを呟いた総司に聞く。恋々と一輝の試合が開始される時だ。雷は次が試合のために刀華とカナタは仕事のために今日は来ていないため総司と泡沫だけだ。しかも総司はこの後試合なのだ。

 

「恋々に言ってなかったなって・・・・」

 

「えっとなにを?」

 

「一輝には突っ込むなよって」

 

はぁと総司が頭を抱える。そんな総司に泡沫は苦笑い浮かべた。

 

「恋々の能力的には突っ込まないと攻撃できないよね?」

 

「それでも能力に任せて安易に突っ込んだら負ける。あいつ注意しとかないと絶対安易に突っ込むからな」

 

「はは・・・・確かに」

 

「・・・・・・・・なんか結果は見えてる気がするけどとりあえずどうなるやら」

 

「それにしても本当にすごいオーラだよね」

 

泡沫が頬杖をついて少し笑いながら一輝を見る。

 

「刀華やそうちゃんに近いものを感じるよ」

 

「・・・・系統は違うけど一輝はおれと経歴が似てるからな」

 

「確かに刀華や僕とも近い経歴だよね」

 

「・・・・・そうだな」

 

総司は気まずそうにに頬を掻いた。それに気づいた泡沫ははっと笑う。

 

「もう昔みたいにはならないよ」

 

「・・・・・まぁあの時の泡沫はね・・・・・」

 

「はは、思い出さないでくれるとうれしいな・・・・・あっ」

 

「やられたな」

 

総司と泡沫が話している中、恋々が繰り出した超音速の拳が空を切り、二人の身体が交差する。そのすれ違いざまに一輝は恋々のウインドブレーカーの襟首を掴み、彼女の超音速の推進力を利用してその場で独楽のように身体を一回転。勢いそのままに恋々の身体を石板の地面に叩きつけた。

 

「はあ・・・・やっぱりこうなったか」

 

「でも、どうして・・・・とは聞くのは野暮か」

 

「ああ。さすが泡沫だな」

 

「一輝君やそうちゃん・・・・刀華はまだかもだけどそういうのが武術なんだよね」

 

「そうだな。でも、その中でも一輝のは特別だ」

 

総司の目が鋭くなる。その目は獲物を見つけた鷹のように鋭い眼だった。

 

「さてさて次の雷君はどうなるかね・・・・」

 

「泡沫。それこそ考えるまでもないだろ」

 

総司ははっと息を吐く。

 

「マックスまで雷が力を溜めたところで『紅蓮の皇女』のパワーには勝てない」

 

「はは・・・・そうちゃんは本当に現実的だよ」

 

それに総司は苦笑いをし席を立つ。

 

「うんじゃおれも行くわ」

 

「うん。応援してるよ」

 

「ああ。よろしく」

 

総司はそう言って会場を出ていく。

 

「ふふ・・・確か今日のそうちゃんの相手は・・・・」

 

泡沫が学生手帳を出し総司の相手を確認する。

 

「ふーん・・・・序列8位か・・・・・」

 

泡沫がニヤリと笑う。その笑顔は見た人はたぶん少し不気味さを感じるような笑顔だった。

 

「そうちゃんの敵じゃないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さてさて今日の最終戦!!それではもう一人騎士が登場してきます!!黒鉄一輝選手、ステラヴァーミリオン選手、黒鉄珠雫選手の一年生のダークホース。それに加え今年は三年生にもダークホースが誕生しました。今まで一切の公式戦出場記録は無し。風紀委員長に任命されたときには誰もがこの人で良いのかと疑ったはず。しかしその実態は実は超高速の騎士だった!!あまりにも短い試合時間からついた二つ名は『閃光』。今回の試合も高速で勝っていくのか!!ここまで八戦八勝、三年Cランク――――『閃光』玖原総司選手!!!」

 

その紹介で会場が揺れる。そんな中総司はゆっくりと入っていく。ここ八戦の中で総司の学園での認識は大きく変わっていた。今までは『こいつなんでこの学園にいるんだ』とか『こいつなにものなんだ』と腫れ物に触るような雰囲気だった。しかし、今では『玖原くん。今日も勝ってたね!!すごいね』とか『玖原!弟子にしてくれ!!』などなにやらすごい居心地が少し悪いくらいある。余談だがそんな風に人に囲まれている総司を見て刀華が複雑そうな表情をしてることが多くなったが総司はそれには気付いていない・・・・そんな風に総司は今では七星剣舞祭有力候補に台頭していた。まぁでもそれも当然ではある。しかし、そうなるにつれて多くの人が疑問を持つことも出てきたのだ。それは・・・・『あいつの伐刀絶技(ノーブルアーツ)ってなに?』だ。総司はこれまで八戦で一度も伐刀絶技(ノーブルアーツ)を使うことなく勝利しているのだ。しかも瞬殺で。学園内では総司は一輝と同じで能力が弱く仕方ないため剣術のみで戦っているというのが一番の説だった。でもそれは実はそうではなく、総司自身が使う必要がないと判断しそんなことになっているのは多くのものにとって知らぬが仏だろう。そして今日も総司は入ってきながら相手を観察し、ため息をついた。

 

「今日も使うまでもないな」

 

《白和》を抜き、逆手に持ち構える。

 

『さぁ行きましょう!!』

 

LET's GO AHEAD!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーす」

 

総司が生徒会室のドアを開ける。

 

「ああ。そうちゃんお疲れさま。勝ったと?」

 

「まぁな。これで14勝だな。カナタ紅茶もらっていいか?」

 

「ええ。では準備しますね」

 

「総司先輩お疲れ~」

 

恋々がエキスパンダ―で筋トレをしながら総司に話しかけてくる。

 

「おう恋々筋トレか?」

 

「うん。僕は負けちゃったからね」

 

恋々がカラカラと笑う。どうやら気にはしてないらしいがその中に少し悔しさが滲んでいたのを総司は見抜いていた。

 

「まぁやり過ぎに注意しながらやれよっと・・・・・泡沫はなんのゲームしてんだ?」

 

総司は恋々としゃべりながらゲームをしていた泡沫の隣に座る。

 

「ス〇ブラだよ。久しぶりにそうちゃんもする?」

 

泡沫が好戦的にニヤリと笑う。それに総司もニヤリと笑って返した。

 

「ほう・・・・・おれに勝つつもりか?」

 

「ふふ・・・僕はそんな簡単に負けないよ」

 

そんなやり取りをしながら総司はコントローラーを握る。

 

「3でいい?」

 

「ああ・・・・カナタ、紅茶は少しゆっくり入れてくれ」

 

「はーい」

 

そうやって総司と泡沫がゲームを始める。

 

「ふふ・・・」

 

そんな二人を刀華が微笑ましい笑顔を浮かべながら見ている。

 

「会長、嬉しそうですね?」

 

「ふふ。そんな風に言っているけどカナちゃんも嬉しいそうだよ?」

 

「ええ・・・・昔はこんな風によくゲームしていましたね」

 

「うん。そしていつも通りなら・・・・・」

 

「くっそぉぉぉ!!!!!」

 

そこで総司の声が生徒会室に木霊した。

 

「ふふ。相変わらずそうちゃんは弱いね」

 

「ちくしょ!!泡沫もう一回だ!!」

 

「いいよ~」

 

そんな二人を刀華とカナタが見ながら微笑んでいた。そこで急に三つの無機質な音が響く。

 

「これって・・・・・」

 

恋々が反応する。この音は学生手帳にメールが届く音だ。

 

「悪い泡沫ちょっと止めてくれ」

 

「うん」

 

総司は泡沫に言ってゲームを止めてメールを確認し目を見開いた。刀華は興奮を押さえられないのか好戦的に笑う。そして

 

「・・・・っ!!」

 

顔が強張るカナタ。その視線を学生手帳からゲームをしている対戦相手に向ける。その対戦相手は嬉しそうにそして好戦的に笑ってゲームではなくカナタを見ていた。

 

 

 

破軍学園七星剣舞祭選抜戦第12戦。      三年Bランク 東堂刀華 VS 一年Bランク 黒鉄珠雫

 

 三年Bランク 貴徳原カナタ VS 三年Cランク 玖原総司

 

 

 

 

 

七星を巡る争いはさらに激しさを増す。




どうだったでしょうか?

ついにきましたね。一つ目の山です。

バトルシーンですけど・・・・うまく書けるといいなぁ・・・・・

頑張って書こうと思っていますので楽しみに待っていただける嬉しいです。

ではまた次回会いましょう

そういえば原作9巻を読みました。もうたまりません!!!熱すぎです!!激熱です!!あの熱に負けないように頑張っていこうと思いますのでこれからもよろしくお願いします。

簾木 健


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片鱗

戦闘描写難しい!!!

全然まとまってない気がする!!!!

拙い文ですが今回も楽しんでいただけると嬉しいです。

簾木 健


『さぁ、それでは本日の第十二試合の選手を紹介しましょう!青ゲートから姿を見せたのは、今我が校で知らない者はいない注目の騎士・黒鉄一輝選手の妹にして、《紅蓮の皇女》に継ぐ今年度次席入学生!ここまでの戦績は十五戦十五勝無敗!属性優劣も何のその!抜群の魔力制御力を武器に、今日も相手を深海に引きずり込むのか!一年《深海の魔女(ローレライ)》黒鉄珠雫選手です!!!!』

 

割れんばかりの歓声・・・・・その中に刀華とカナタを除く生徒会メンバーは居た。

 

「この試合は楽しみだね・・・・ついにかいちょーも全力を出すんじゃないかな?」

 

恋々が楽しそうに笑う。

 

「いや・・・・たぶんそれはないんじゃないかな?」

 

泡沫がニヤリと笑う。

 

「まだ彼女は会長には届かないよ」

 

『そして赤ゲートより姿を見せるは、我が校の生徒会長にして校内序列最高位!前年度の七星剣舞祭では二年生で準決勝まで駒を進めるという快進撃を見せるも、前年度の七星剣王となった『武曲学園』の諸星選手に敗北し、七星の頂には手が届きませんでした。しかし、彼女は再びこの七星の頂を争う戦いの場に帰ってきました!その手に一年前よりもさらに磨きのかかった未だ不敗の伝家の宝刀をひっさげて!その疾さを前に避けることは叶わず!その鋭さの前に防ぐも叶わず!金色の閃光が今日も瞬く間に相手を切って落とすのか!破軍が誇る最強の雷使い!三年《雷切》東堂刀華選手です!!!」

 

刀華が入ってくると一段と大きい歓声が起こる。でも、その刀華は生徒会でいつもドジっている刀華の雰囲気は一切ない。

 

「なんという覇気・・・・」

 

刀華が放つオーラに雷が少し顔を引きつらせる。恋々も表情が真剣なものになる。その二人の様子に泡沫がははっと笑う。

 

「でも、久しぶりの七星剣舞祭クラスの戦いだからね・・・・本気ではないかもしれないけどそれなりの強さは見れるんじゃないかな・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刀華の試合が今始まろうというとき総司は次の試合にも関わらず会場の外で愛刀の《黒光》と《白和》を両手に持ち目を閉じてその二本の小太刀を動きながら振るっていた。その動きは流麗で例え剣術や武術に造詣のない人から見ても特別ななにかを感じられただろう。一通り動きを確認し総司は目を開けふぅと息を吐く。

 

「今日も大丈夫だな」

 

確認した動きにエラーはない。いつも通りいけるだろう。

 

「久しぶりに滾ってるな・・・・」

 

総司がニヤリと笑う。なんせ今日の相手はあの貴徳原カナタ。今までの相手たちとはわけが違う。本物の強さを持つ伐刀者(ブレイザー)

 

「さて、行きますかね」

 

総司は《黒光》と《白和》を消し会場に歩いていく。その瞳に抑えられない興奮と冷たい闘気を携えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりロングレンジはすごいな。まさか互角になるとは思っていなかった」

 

泡沫がははっと笑う。でも、その物言いに恋々が首を傾げた。

 

「かいちょーちょっと押され気味じゃない?ちょっと負ける可能性が「それはないよ」えっ?」

 

恋々の発言を泡沫が遮る。そこまではっきり言い切られたことに恋々がさらにわからないと顔をする。どうやら雷も同じだったようで泡沫に尋ねる。

 

「でも、其の目にもそう見えたのだが、どうしてそこまで副会長は言い切れるのですか?」

 

「だって会長まだ全然本気じゃないよ?」

 

その発言に恋々と雷が固まる。なんせ今行われた魔術戦はかなり高レベルの読みあいを基に行われていたからだ。これ以上上があるということが二人には信じられなかったのだ。そんな二人に泡沫はさらに続ける。

 

「それに今のはロングレンジでの戦いだけだよ?会長にはさらにクロスレンジがある。それにそうちゃんと『闘神』直伝のあの歩法も使ってない。たぶん会長は折角の一流の水使いとの戦いでお勉強してたんだろうけど・・・・これからはそれも終わりだ・・・・・一気に決めに行くよ」

 

泡沫がニヤリと笑顔を浮かべて言った。そしてそれは本当にその通りになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、イッキ珠雫はどうしちゃったの?」

 

「どう、とは?」

 

ステラが一輝に尋ねる。なぜなら珠雫が急に刀華の切り込みを防ぐことができなくなったからだ。それに一輝は苦虫を潰したような表情で聞き返す。

 

「見てわかるでしょ。突然明らかに相手の動きへの反応が悪くなっているわ」

 

そこで珠雫のルームメイトである有栖院凪も加わる。

 

「ステラちゃんの言うとおりね。会長さんはふつうに動いているだけなのに、それがまるで見えてないみたい」

 

「・・・・たぶんその通りだよ」

 

「え?」

 

「珠雫には本当に見えてないんだ。前に一度、これと同じものを僕も見たことがある」

 

それはデビュー戦の前、一輝は《夜叉姫》西京寧音に会ったことを思い出していた。

 

「あのとき西京先生はいつの間にか目の前まで迫ってきていた。視線は一瞬も切らなかったはずなのに、知らない間に懐を取られていたんだ。たぶん《雷切》が使っているのはそれと同じ体術なんだと思う」

 

「あはは。さっすが黒坊。やっぱり気づいたねぇ・・・・でも、やっぱり気づかなかったね」

 

一輝たちの斜め上から声が降ってくる。そこには艶やかな着物姿の小柄の女性と、スーツに身を包んだ凛々しい女性がすり鉢状の観客席の階段を下ってきていた。

 

「やっほー。お久しぶり」

 

「西京先生に、理事長先生。二人揃ってどうしたのかしら?」

 

「なに、用があるわけじゃない。お前たちの姿が見えたから声をかけただけだ」

 

凪・・・アリスの問いに理事長・新宮司黒乃が答える。二人はこの試合とそのあとの試合を観戦しに来たのだ。声をかけたのは一輝たちが興味深い話をしてたからだった。

 

「・・・・ねぇ、ネネ先生。やっぱり気づいたってことはそれが正しいってこと?でも気づかなかったってどういうこと?」

 

ステラの問いに寧音は、ははっと笑って答える。

 

「まず黒坊が言ってることは正しいよ。あれは《抜き足》っていう古武術の呼吸法と歩法の組み合わせ技。どういうもんかというと―――」

 

「・・・・・・・え?」

 

瞬間。ステラと五メートルばかり離れた場所にいたはずの寧音が息がかかるほど至近に現れて、――――ステラの豊満な胸を下から揉みながら持ち上げた。

 

「ヒッ!!??」

 

「ま、こんな感じ?いやーしかし乳でっけーなおい。しかも超やわらけ~」

 

「キャァァァ!な、ななななにするのよ!!」

 

「揉んだらうちのも増えるかなと思って」

 

「増やしたいなら自分の揉みなさいよ!」

 

「揉むほどないんだよバーカ!」

 

「逆切れされた!?」

 

騒ぐ二人を無視し黒乃が一輝に問いかける。

 

「黒鉄。お前ならもう《抜き足》のカラクリは見抜けているんじゃないか?」

 

その問いに一輝は首を縦に振った。

 

「まあ。たぶん同じことをしろと言われればできます」

 

「ねえイッキ、なんなのこの《抜き足》ってのは」

 

「えっとね、人間は生き物である以上、機械みたいに目に見たことや耳にしたことすべて事細かに認識できない。でも脳は確かにそれも聞いていて、覚えていても、意識がそれを認識できない。だって目にしたことや耳にしたことを全部認識して分析なんてしたら脳みそがオーバーヒートを起こしてしまうから。だから人間の脳は優先度の低い情報を『覚醒の無意識』の中に放り込んで認識を放棄することで脳の処理を軽くする。この《抜き足》はある種の特殊な呼吸法と歩法によって、自らの存在を相手の『覚醒の無意識』に滑り込ませる体術だ。その結果、珠雫には東堂さんが見えているのに見えていることがわからなくなる。脳も眼も確かに東堂さんの動きを捉えているのに、意識がそれを必要のない情報として分類してしまうから認識できなくなる。それこそ、生命の危機が迫るギリギリの瞬間まで」

 

「大正解だ。よくわかったな」

 

黒乃が感心したように唸る。相手に一切悟られずに半歩呼吸と身体をずらすことで、その狭間に滑り込み、意識のロックを外す。それが古流歩法《抜き足》のカラクリだった。

 

「僕はすでに一度この体術を見ていますから・・・・では気づかなかったということはどういうことなんですか?」

 

黒乃が正解と言ったように《抜き足》のカラクリは一輝の言った通りだ。でも気づかなかったことがあったといわれた。それが一輝には少し気になっていた。そこで黒乃がニヤリと笑う。

 

「実はな、もう一人この《抜き足》を使っている騎士がいるんだ・・・・知らなかったか?」

 

「えっ・・・・」

 

一輝の表情が驚きに固まる。それに「やはりか・・・」と呟いてから黒乃は説明を始める。

 

「この『抜き足』はな、元々寧音と東堂が同じ騎士に師事してるからできる技なんだ」

 

「その騎士というのは?」

 

「南郷寅次郎」

 

「《闘神》南郷ですかっ!!」

 

告げられた名に一輝が驚愕の表情を浮かべる。《闘神》南郷寅次郎。《大英雄》黒鉄竜馬と《天陰》玖原鷹丸の終生のライバルにして齢九十を超えてなお現役の老騎士。問答の余地もないほどの『生きる伝説』だ。

 

「むっ。ちょっとまてよぅ、くーちゃん!うちは一度だってあのじじいを師匠なんて思ったことないっての!」

 

「何を照れてるんだ。その天狗下駄もあの人の真似をしているんだろう?」

 

「ちちちがいますぅ!これ履いてると便秘が治るって通販でやってたから買っただけですぅ」

 

「足つぼサンダルか・・・・・」

 

振り袖をバタバタさせながら、なにやらムキになって否定する寧音に黒乃は「相変わらずあの人のことになると素直じゃないな」と苦言を漏らし、そして改めて一輝に視線を向ける。

 

「しかし、実はなこの技は元々南郷先生の技じゃないんだ」

 

「えっ・・・では誰の・・・」

 

「元々はな、《天陰流》の技なんだ」

 

「《天陰流》・・・・それはまた・・・・えっ?」

 

そこで一輝は気づかなかったと言われたことに気づいた。

 

「ということは・・・・まさか・・・・・」

 

その疑問に黒乃は肯定のために首を縦に振った。

 

「そうだ。だから《天陰流》である玖原総司もこの技を使っていたんだよ。しかもこの選抜戦での速攻はこれに支えられていたんだ」

 

「・・・・・なるほど」

 

一輝は本当に気づいてなかった。確かにあの速攻には何かトリックがあると思っていたがまさかそんなトリックがあるとは思ってみなかった。そこでアリスは一つ疑問が浮かんだのか黒乃と寧音に尋ねる。

 

「ちょっと待って。イッキは西京先生と《雷切》の技が同じだと気づいた。でもあの《閃光》が同じことをしてることには気づけなかった。それって・・・・」

 

その問いに寧音は悔しそうに頭を掻きそして言った。

 

「実はね・・・あたしの《抜き足》よりも総司ちゃんの《抜き足》は練度が高いんだよ」

 

「「「えっ・・・・」」」

 

一輝、ステラ、アリスが驚愕の表情を浮かべる。

 

「世界第三位の『夜叉姫』よりも高い練度ってどういうこと!?」

 

そこで黒乃がふうとため息をつく。

 

「黒鉄、有栖院、ヴァ―ミリオン。あいつと・・・・・玖原総司と当ったのなら気をつけろ」

 

黒乃が強い目に三人は少し呆気にとられてしまう。そして黒乃ははっきりと告げた。

 

「はっきり断言しようあいつの本気は・・・・日本中の学生騎士の中で最高のレベルだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さてさて先ほどのBランク同士の戦い手に汗握る戦闘でしたが、《雷切》東堂刀華選手がその二つ名でもある《雷切》を用い勝利しました。さてこの興奮そのままに今日第十三戦を始めていきましょう!!!まず青ゲートから姿を見せるのはこの人!!破軍学園生徒会執行部にして学園序列第二位。その《伐刀絶技(ノーブルアーツ)》は見えぬ間に敵に入り込み内側から切り刻む。その強さはこの学園に知らないものはいないでしょう!!そして今日もパラソルを片手に入ってきました。今日もその《伐刀絶技(ノーブルアーツ)》を持って敵を切り刻むのか?十五戦十五勝!三年Bランク《紅の淑女(シャルラッハフラウ)》!貴徳原カナタ選手!!!』

 

 

歓声が聞こえる・・・でもそれはカナタには遠く聞こえる。なぜなら・・・・カナタには反対側から現れる騎士しか見えていないのだ。というか

 

「あの騎士に対して一瞬でも気を抜けば殺される」

 

そしてその反対側から現れるのは

 

『そして赤ゲートから現れるこの人を知らない人はこの破軍にはいないでしょう!!今は破軍最速の騎士とも言われる騎士にして風紀委員長。その速さを持って破軍第二位の騎士を今日も切り捨てるのか!!同じく十五戦十五勝

三年Cランク《閃光》玖原総司選手!!!』

 

総司がゆっくりと入ってくる。その眼には今までにはないなにかが宿っていた。

 

「なんだ・・・今日の《閃光》なにか違わないか?」

 

「ああ。なんていうか・・・・《落第騎士(ワーストワン)》と雰囲気が似てる?」

 

「いや・・・それ以上だろ。この寒気を覚える雰囲気は・・・・・」

 

会場がざわめく。でも、それは総司には全く聞こえない。

 

「・・・・一輝・・・・」

 

「うん・・・・今までの戦い明らかにあの人は手を抜いていたんだ」

 

ステラと一輝が目を見開いて総司を見ていた。

 

「これは少しは底が見えるかもしれないね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総司さん」

 

「カナタ、言葉は要らないだろ」

 

総司がニヤリと笑う。その眼の興奮と冷たい闘気にカナタの背に冷たい汗が流れる。

 

「ええ。今日は全力でいかせてもらいます―――参りますよ。《フランチェスカ》」

 

ガラス細工のようなレイピア。そして左手の手の平を切っ先に当て、刺し込む。それによって《フランチェスカ》が塵と砕けて空気中に舞う。

 

「受けて立つぜ。―――時間だ。《白和》」

 

総司も左腰に現れた白塗りの鞘から小太刀を取り出し、逆手で構える。両者の準備が整った。

 

『LET’s GO AHEAD!!』

 

試合開始が告げられたと同時に総司が飛び出す。

 

『おーといつも通りの《閃光》による開幕速攻!!これまでの騎士はこれを防ぎきれずに敗北しています!!』

 

いつも・・・・いつも以上の速度で総司はカナタ目がけて突っ込む。しかし、 その速攻はカナタの一メートルほどの地点で止まる。

 

「あそこが境界みたいね」

 

ステラが呟く。一輝も頷く。

 

「うん。たぶんあれから先には《紅の淑女(シャルラッハフラウ)》の《伐刀絶技(ノーブルアーツ)》である《星屑の剣(ダイヤモンドダスト)》が展開されていて、突っ込めば細切れにされる・・・・だから玖原先輩は突っ込まない」

 

「でも、そんな能力ならこの勝負正直《閃光》のほうが分が悪いんじゃない?」

 

アリスが言う。

 

「《閃光》は今まで《伐刀絶技(ノーブルアーツ)》を使ってないし・・・もし剣術のみならこれほど分の悪い騎士はいないわ」

 

それには一輝も同意したようで頷く。

 

「確かに剣術のみで《紅の淑女(シャルラッハフラウ)》を攻略するのは難しい・・・・でも」

 

そこで一輝は言葉を切る。一輝の眼にはステラやアリス以上に様々なものが見えている。その眼はこの状況の異常さも見抜いていた。

 

「《紅の淑女(シャルラッハフラウ)》がこんな風に近距離で守りに入る必要はない。彼女は中距離でも戦える騎士だ。だからもっと広い距離で勝負を決めるべきだ。わざわざ近づけさせるなんてことなんてしない。でも彼女はそうしなかった。ということは・・・・」

 

「遠距離では絶対に勝てないと判断したから・・・・・」

 

ステラが続けた言葉に一輝が頷く。それを聞いていた黒乃と寧音が感嘆の声を漏らす。

 

「さすが黒鉄といったところか」

 

「うん。さすがは《完全掌握(パーフェクトヴィジョン)》なんてとんでもないことをする騎士だね。でも正解だよ」

 

「ということは・・・・・」

 

「ああ・・・・」

 

寧音がニヤリと笑う。

 

「総司ちゃんはね、武術も確かにすげぇ。でも、もっとすげぇのは魔術制御だ。しかもそれは黒坊の妹ちゃん以上だよ」

 

「「「なっ!?」」」

 

「貴徳原と玖原は幼馴染だからなそのことを知ってるんだろう。だからあえて近づいた。だが・・・・」

 

「この勝負はもうついてる」

 

黒乃の言葉を引き継ぎ、寧音がニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こりゃ、どうしようもないな」

 

総司は舌を巻いていた。なぜならカナタの守りが完璧だったからだ。

 

「《星屑の剣(ダイヤモンドダスト)》を身体の周りに展開してこっちが攻め込ませないようにしてやがる。そして・・・・・」

 

「っ!!」

 

カナタが《星屑の剣(ダイヤモンドダスト)》を動かしてこっちに攻めてくる。しかもこれを吸い込んだり触れてしまえば切り刻まれる。

 

「本当に恐ろしい能力だな!!!」

 

総司は距離を取って逃げる。

 

「・・・・やっぱり剣のみじゃカナタには勝てないか」

 

総司ははぁと一つため息をつく。

 

「時間だ―――《黒光》」

 

『えっ!?』

 

総司がもう一本の固有霊装(デバイス)を取り出す。そしてそれを抜いた。

 

「っっ!!!!」

 

カナタがその動きに少し慌て攻めを急ぐがその攻めはするりと避けられる。そして《黒光》を鞘に戻し消す。そしてニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついに見せるんだね・・・・そうちゃん」

 

それを試合の後すぐに泡沫たちと合流した刀華がその様子を見ていった。

 

「そうみたいだね。さて今回はなにを見せてくれるのやら・・・・・さてよく見ておくんだよ?」

 

泡沫が楽しそうに笑いながら恋々と雷に言う。

 

「そういえば総司先輩の能力って・・・・・」

 

「其も見たことないな・・・・・」

 

「恐ろしいものが見れるから覚悟してるといいよ」

 

泡沫がニヤリと笑うと同時に・・・・総司の周りに雷鳴が轟き、雷が落ちた。

 

 

 

 

 

『ついに!!ついに!!玖原選手が能力を使ったぁぁぁ!!!その能力は雷!!!あの《雷切》と同じ能力です!!』

 

「カナタ・・・行くぜ・・・・」

 

「・・・・・ええ」

 

カナタの返事と同時に総司の姿が消える。

 

「あれは・・・会長の『疾風迅雷』!?」

 

「速度だけならそれ以上ですけど、やってることは同じですね」

 

恋々の反応に刀華が少し苦い顔をする。そして総司はカナタの周りを高速で移動しながら雷をカナタに向けて放ちまくる。

 

「この戦法は・・・・」

 

「会長が黒鉄妹にしたのと同じ戦法だね・・・・・しかも」

 

カナタは放ってくる方向に《星屑の剣(ダイヤモンドダスト)》を集中し防ぐ。しかしそれは間に合わなくなっていき・・・・・

 

「っ!!!キャアアア!!!」

 

総司の雷撃がカナタに直撃しカナタは倒れこんでしまった。総司は追い打ちはかけず停止してカナタを見つめる。

 

「カナタの《星屑の剣(ダイヤモンドダスト)》の量が決まっている。守りにあれだけの量を割かれたら、黒鉄妹みたいに攻めることはできない」

 

「うん」

 

泡沫の言葉に刀華が頷く。恋々と雷は目を見開いて総司の動きを見ていた。そこでカナタはなんとか立ちあがるがそれもやっとのようだった。

 

「決まったな」

 

「まじかよ・・・・傷一つ負わないなんて・・・・」

 

「序列二位が子ども扱いなんて・・・」

 

会場は総司とカナタの戦いに戦慄しなぜここまでの騎士がこの能力を隠していたのかがわからないといった様子だった。

 

「・・・・・決めるか」

 

総司はそういって腰を落とす。そして『疾風迅雷』を用いて突っ込む。そして雷撃を撒き餌として放ちそれをカナタに防がせる。そしてその守りをこじ開けていく。そしてついに総司の身体が総司の固有霊装(デバイス)である小太刀が届く距離に入りこんだ。

 

「・・・・小太刀が鞘に・・そしてこの構え・・・まさか!!!」

 

総司は小太刀を鞘に直し、その柄に手を添え抜き打ちの構えを取っている。そしてカナタはこの構えから放たれるある伐刀絶技(ノーブルアーツ)を知っている。それは二人の幼馴染の二つ名になっている伝家の宝刀と評される伐刀絶技(ノーブルアーツ)

 

『雷切』

 

その圧倒的な速さと威力を持ってカナタの意識は完全に刈り取られた。

 




どうだったでしょうか?

ついに総司の片鱗が見えましたね。

でも本当に戦闘描写難しい・・・・もっと勉強しないとな・・・・

今回も感想、批評、評価どんどん募集していますのでよろしくお願いします!!

ではまた次回会いましょう。

簾木 健


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約束

やっとオリ主と原作主人公が絡んでる!!

そしてどうしてこうなった・・・・

手におえなくなったらどうしようか不安ですが後悔はしてません

では今回も楽しんで頂けると嬉しいです!

簾木 健


「っ!!!」

 

「カナタ起きたか」

 

「うん。大丈夫みたいだね」

 

貴徳原カナタがベットの上で飛び起きるとそこは学園の医務室だった。そこにはカナタを切った玖原総司と幼馴染の御禊泡沫だった。

 

「じゃあ僕は戻ってるよ」

 

泡沫はいつものように笑って医務室から出て行った。

 

「・・・・・・・負けましたね」

 

「・・・・まぁそういうことだ」

 

総司はふっと笑う。その笑顔につられてかカナタも笑った。

 

「まだ私にはあなたに並び立てないのですね」

 

「・・・懐かしいな、それ」

 

「ええ・・・・思えば遠くまで来ましたね」

 

刀華や泡沫とは二人が総司とカナタが小学校の時に出会いそこからの付き合いだが、総司とカナタはもっと幼い時からの付き合いなのだ。そしてちょっとした約束をしたのは刀華たちと出会う前の話。だからその約束のことは刀華たちも知らない。

 

「・・・強くなったなカナタ」

 

総司が優しく告げる。ただそれにカナタは首を横に振った。

 

「まだまだですわ・・・というか約束を覚えているのならもう一つの約束も覚えているんですか?」

 

カナタがいたずらっぽく微笑む。それに総司が顔を少し赤らめて顔を逸らしながら言った。

 

「それ今でも本気なのか?」

 

「ふふっ・・・それはどうでしょうね・・・・・っと」

 

カナタは微笑みもそのままベットから立ち上がる。それに総司が少し心配そうな声で聞いた。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ。うたくんとそうちゃんで治療してくれたんですからもう大丈夫ですよ」

 

「そっか・・・・」

 

また総司が照れたように顔をそむけカナタに背中を向けた。たぶん昔の呼び名で呼ばれて照れているんだろうなとカナタは思う。

 

「うんじゃ・・・行くか・・・・」

 

背中のまま総司がちょっとうわずった声で言った。それにカナタはふっと微笑んでから

 

「はい」

 

そう頷いて医務室を出ていく総司の後ろからついていく。

 

「ふふっ・・・・なんだか昔に戻ったみたいです」

 

カナタはこの状況にそう思っていた。昔はよくこの背中について色んなところに行った。色んなことをした。そしてこの背中に憧れると同時に・・・・

 

「ふふっ・・・やっぱりこの気持ちも変わらないですわね・・・いえ少し変わりました・・・」

 

「?なんか言ったか?」

 

総司が振り返って聞いてくるがカナタはそれをはぐらかした。

 

「いえなんでもないですわ」

 

「そっか・・・」

 

総司はそう言ってまた前を向いて歩いていく。

 

「・・・・あの子以外には絶対に渡しませんわ」

 

カナタは今度は総司に聞こえないように呟く。あの子・・・カナタが総司以外で初めて自分を晒すことの出来た少女。その子はたぶん総司のことが好きだ。でもその子になら譲っても構わないと思うようになったのは確かな変化だろう。そして総司との約束。それは実に子どもらしい約束だが、子どもの時から貴徳原のためにしか生きられないと思っていた自分を変えてくれた恩人である総司に全力でそうなりたいとカナタが望んだ約束。・・・もし総司に並ぶことが出来たのなら・・・・

 

「私をお嫁さんにしてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、総司は一度風紀委員室に向かい、委員の仕事を必要なだけ捌いた後、生徒会室に向かっていた。なぜかというと今度の奥多摩に行く打ち合わせとカナタがいい茶葉を手に入れたらしく、その紅茶を飲みながら泡沫とゲームをするためだ。主に目的の比重としては2:8くらいである。そんな感じでちょっとうきうきしながら生徒会室に行くと、その前に二人の男女が締め出されていた。

 

「一輝にヴァーミリオン?こんなところでなにしてるんだ?」

 

「玖原先輩・・・・ええっと・・・・・」

 

「トーカさんが曲がり角でアタシたちと鉢合わせてトーカさんが持っていた紙をばらまいちゃって・・・・」

 

「ああ。あいつドジだからな・・・・そいつは悪かったな」

 

「いえ、それは良いんですけど・・・・」

 

「あいつはドジっ子属性だからなそう言ってもらえると助かる。・・・・そういえば今日の刀華の試合の相手は・・・・・」

 

「ええ。僕の妹でした」

 

「・・・・・まぁなんだ残念だったな」

 

「見ていたんですか?」

 

次の試合は総司とカナタだったということもあり、一輝が驚きに声を漏らす。でも総司はそれに首を横に振った。

 

「最後に刀華が歩いて出て行っていたのを見ただけだ。まぁ《深海の魔女(ローレライ)》には悪いが刀華にはまだ勝つことは出来ないだろうとは思ってたし」

 

総司がごく自然にそう言ったことが少しに気に食わなかったのかステラがむっとした表情で言い返した。

 

「珠雫は強いわよ。もしかしたら・・・・・」

 

「それ以上に刀華は強い。見ててわからなかったのか?それにヴァーミリオンそれはお前にも言えることだ」

 

「えっ?」

 

ステラはその言葉に目を見開く。でも一輝はその言葉の意味を理解していた。というか理解できてしまったのだ。

 

「わかってないのかヴァーミリオン?今のお前では刀華には敵わないぞ」

 

「なっ!?」

 

「・・・・・・・」

 

ステラがさらに大きく目を見開く。でも一輝はそれになにも言わない。たぶん一輝は理解しているのだ。総司のその言葉が正しいことを。

 

「もし当たったらお前負けるぞ」

 

「・・・・なにを根拠に」

 

ステラの周りの温度が少し上がるのを総司は感じるが動じることはない。そこで総司はフッと笑った。

 

「それはお前の彼氏に聞くんだな」

 

その発言にステラの顔がポン!っと爆発したように真っ赤になり、一輝の顔が少し赤くなった。総司は二人が真っ赤になったのに対し少し笑いながら質問を変えた。

 

「で?なんで締め出されてんだ?」

 

「それは・・・・生徒会室が・・・・・・」

 

一輝が言いよどんだのを見て総司がああっと漏らす。

 

「昨日から刀華もおれもカナタも居なかったからな・・・・・たぶんそうとうやばいことになっていたか・・・」

 

そう言いながら総司が生徒会室のドアをノックする。

 

「刀華入るぞ」

 

「えっ!?そうちゃん!?ちょっと待ってよ!!」

 

「どうせ恋々と泡沫が散らかしたんだろ?おれも手伝うから入れろ。それに刀華よりおれのほうが片付けうまいし」

 

「わかった・・・」

 

「うんじゃ二人はもうちょっと待っててくれ」

 

そういうと総司も中に入っていく。それをボンヤリとみていた。すると中から声が聞こえてくる。

 

「泡沫、恋々。何回この部屋を散らかすなって言ったっけ?」

 

「いや・・・ほらたまにあるじゃん?漫画一気読みしたくなったり童心に帰ってゲームとか・・・・・」

 

「筋トレはもうちょっとやろうかなって・・・・この間総司君もしたらって言ってたじゃん・・・」

 

「言い訳はいい。さっさと片付けろ」

 

「「ひぃっ!!」」

 

「うたくん、このゲーム消すけんね!」

 

「ちょっと待って刀華!それ昨日からセーブ・・・うわぁぁぁぁ!!!!僕のはぐりんがぁぁぁぁッッ!!!!」

 

「恋々は服を着ろ!!目に毒だ。しかも風紀委員としてその恰好は看過できない」

 

「ええ!!でもかいちょーがクーラー壊したから暑いんだよ・・・」

 

「うう・・・・それは大変申し訳なく・・・・」

 

「そこはおれが後で見て直してやるから、とりあえず今すぐ服着ろ」

 

「はーい」

 

「はやく片付けないと全部捨てちゃいますからね!!!」

 

「うわ!わかったわかった」

 

バタバタと中で動いている音がする、窓がガタガタ揺れる。その騒音と騒動を廊下で聞きながら

 

「なんというか・・・・トーカさんがお母さんでソージさんはお父さんね」

 

「・・・・生徒会長も風紀委員長も大変みたいだね」

 

一輝とステラは二人の印象が少しづつ変わり始めてしまった。結局二人が刀華の代わりに運んできた資料を置く暇もなく追い出されてしまったが、それは責めまい。そして待ちぼうけすること数分。

 

「ぜぇ、ぜぇ・・・・・お、お待たせ、しました。どうぞ中に・・・」

 

げっそりした刀華が顔をのぞかせ、二人を招きいれた。

 

「あ、はい。お邪魔します」

 

二人はお茶のお誘いを受けたことに少し後悔しながら中に入る。するとどうだろうか・・・・さっきまであんなに散らかっていた生徒会室が綺麗に片付いている。アンティーク調の品のいい調度品が、その空間をまるで西洋の城の一室を思わせる。よく数分でここまで片付けてたものだ。しかし片付けはまだ完全には終わってないようで総司が生徒会室を動きながら、様々なものをきっちりと直していた。一輝とステラは進められるまま、部屋の中心にあるソファーに腰を下ろし、生徒会役員たちと同じテーブルにつく。すると向かい側に座った恋々が人懐っこい笑みを浮かべ話しかけてきた。

 

「クロガネ君。お久しぶりー。アタシに勝ってからも快調に勝ち続けてるみたいだね」

 

「はい。なんとか頑張ってます」

 

そのやりとりに追随する形で、カナタがステラに柔和な笑みで挨拶をする。

 

「ステラさんもお久しぶりです。私とはレストランで会って以来ですね」

 

「ええ。まさかこの部屋に呼ばれる日がくるなんて思わなかったけど」

 

「貴徳原さん。お二人にお茶をお出ししてください」

 

「はい」

 

「あ、カナタ。僕のもお願い」

 

「カナタ先輩!アタシ、マドレーヌ食べたい!」

 

「悪い子二人は今日はおやつ抜きです」

 

「な、なんだって!」

 

「ひどいよ刀華!おやつが食べられないんだったら僕たちはなんのために生徒会室にいるのさ!」

 

「生徒会役員だからに決まってるでしょ!?」

 

刀華が悲鳴のような声をあげる。

 

「刀華ちょっと声がデカイ。響いてるぞ」

 

それに冷静に突っ込んできたのは総司だった。どうやら片付けは終わったらしい。

 

「カナタ。おれにもお茶を。あと恋々と泡沫にマドレーヌ出してやってくれ・・・・一輝たちも食べるか?」

 

「・・・・いいんですか?」

 

「遠慮はするな。ここは先輩の顔を立ててくれ」

 

「では、頂きます。ステラは?」

 

「もちろんいただくわ」

 

「おけ。じゃもう二つマドレーヌをって・・・おれも手伝うか」

 

そう言って場をきっちりまとめてから席を立ちカナタのほうに行って手伝い始める総司。

 

「このメンバーをまとめきる玖原先輩ってすごいな」

 

と一輝は心の底から思う。そこでいままで黙っていた雷が厳しい顔に喜色を浮かべて感心した声を出した。

 

「しかしさすが会長。仕事が早い。もう例の件の助っ人を見つけてくるとは。それもいい人選だ。その二人ならば戦力として申し分ない」

 

突然、戦力や助っ人などと言われ揃って首を傾げる一輝とステラ。そんなことを聞かされてなかった二人は疑問の視線を刀華に向けるも・・

 

「はい?」

 

本人もキョトンとして頭にはてなを浮かべていた。そこに人数分マドレーヌを持った総司が会話に加わる。

 

「刀華が言ってたじゃんか。黒乃さんに奥多摩の件を頼まれたって、おれがここに来た理由の一つもそれだし」

 

「あ、ああああ!!」

 

その瞬間、刀華が青ざめた表情で叫ぶ。

 

「忘れてたのか・・まぁ大方黒鉄妹との試合に集中してたんだろうけど・・・しっかりしてくれ」

 

「うう・・・ごめんそうちゃん」

 

「ねえ。奥多摩の件ってなんのこと?」

 

頭を抱えてしょんぼりする刀華に一輝の隣に腰掛けたステラが尋ねる。その質問には刀華ではなく、カナタが全員分のティーカップに紅茶を注ぎながら答えた。

 

「先日新宮寺理事長から生徒会に頼み事があったのです。七星剣舞祭の前にいつも代表選手の強化合宿を行っている合宿施設が奥多摩にあるのですけど、最近そこに不審者が出たそうで」

 

「穏やかじゃないわね」

 

「ええ。そこで一応生徒会のほうで安全確認をしてきて欲しいと頼まれまたのです。先生方は選抜戦の運営で大忙しですから。・・・・ですけど、合宿所の敷地には高い山や広い森もありまして、とても生徒会だけでは人手が足りませんの」

 

「なるほど。そこで外部の助っ人を、ということですか」

 

大規模な選抜戦で忙しくなるのは教師だけではないということらしい。

 

「ちなみにその不審者というのはどんな人物なのか、情報はあるんですか?」

 

「はい、それなんですが・・・・」

 

カナタは一瞬言い淀んでから、答えた。

 

「体長四メートルほどの巨人らしいです」

 




どうだったでしょうか?

まさかカナタがこんな風になるなんて・・・・

でもやっと一輝と総司がきっちりと邂逅しました。これから一気に学園編のラストまで駆け抜けて行きたいです!

ではまた次回楽しみ待っていて頂けると嬉しいです!

簾木 健


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流派


サブタイトルが出てこない・・・・・

今回も楽しんでいただけると嬉しいです!!!

簾木 健


「体長4メートルほどの巨人らしいです」

 

「はぁっ!?」

 

「きょ、巨人!?」

 

ステラと一輝が声を上げる。ただ総司はふーんと聞き流していた。

 

「はい。巨人です。プロ野球じゃないですよ?」

 

「知ってます」

 

「オール〇神さんの相方でもないですよ?」

 

「知ってます。ていうか貴徳原さんが知ってることに驚いています」

 

「ね、ねえ、巨人ってそれはほんとうなの!?」

 

ふと、突然出た荒唐無稽な話題に、ステラが身を乗り出して食いつく。

 

「ずいぶん食いつくねステラ」

 

「だ、だって!巨人よ!未確認生物よ!ロマンじゃない!!」

 

そう言ってステラの緋色の瞳は、まるで少年のようにキラキラと輝いていた。そのステラの反応に、恋々が、「同士を見つけた」とばかりに呼応する。

 

「へえ!ステラちゃんはそういうの好きなんだ」

 

「川〇浩探検隊のDVDで日本語を覚えたくらい大好きよ」

 

(ものすごいところから日本に入ってきてるよこの皇女様・・・・・!)

 

やや戦慄する一輝だったが、恋々はステラと意気投合したようだ。

 

「おお!ステラちゃん、話せるねぇ!」

 

「それ殆どやら――――」

 

「副会長。それ以上いけませんわ」

 

「ねえねえイッキ!トーカさんも困ってるみたいだし、アタシ達が協力しましょうよ!アタシ、巨人に会いたい!」

 

ステラが目をキラキラさせながら一輝の肩をゆるす。正直、一輝は巨人には興味はないが――――彼は生徒会が忙しい原因である選抜戦制度で恩恵を受けた身だ。だから彼らに協力することは、むしろ是非にという気分だ。故に二つ返事で了承する。

 

「そういうことでしたら、一生徒としてよろこんで協力させてもらいます」

 

「ほ、本当ですか!!?」

 

一輝とステラの快諾に、頭を抱えて沈んでいた刀華の顔に生気が戻る。

 

「合宿所も生徒のための施設ですしね。僕たちでよければ」

 

「申し分ないです!本当にありがとうございます!すごく助かります!!」

 

弾む声で言って刀華は感謝の気持ちを握手で示そうとする。が―――ばしっ!と一輝に伸ばされた刀華の手をステラがインターセプト。一輝の代わりに熱い握手を交わした。

 

「よろしく。よろしく」

 

「え?あ、はい、よろしくお願いしますね」

 

「で?」

 

そこで総司が口を挿む。

 

「おれもそれと同じ依頼なのか?」

 

「うん。そうちゃんお願いできる?」

 

ステラの手を離し、その手を顔の前で合わせてお願いしてくる。

 

「いいぜ。おれも巨人ちょっと気になるしな」

 

ニヤリと総司が笑う。そしてカナタの出した紅茶を一口で飲み。座っていた椅子から立ち上がった。

 

「今日は泡沫とゲームも出来ないみたいだな」

 

「うう。ごめんねそうちゃん」

 

「それはうたくんのせいですけどね」

 

そんな泡沫を見て総司はフッと笑う。

 

「カナタ、紅茶すごいうまかった。今度また飲ませてくれ」

 

「はい。わかりました」

 

生徒会室の扉に向かって歩きながら総司がそう言うと、カナタは嬉しそうに頷く。

 

「あっ!、それと刀華」

 

扉に手をかけたところで総司はなにかを思い出したように言った。

 

「今日は魚が安かった」

 

一輝とステラ、恋々と雷は互いに顔を見合わせて首を横に傾げる。しかし刀華やカナタ、泡沫にはそれで総司がなにが言いたかったのか伝わった。そして刀華はそんな総司の背中に優しく言った。

 

「ふふ。わかりました。()()()()()()()()

 

総司は刀華がそう言ったのを聞いてから扉を開けて出ていった。すると刀華はふぅと息を一つ吐き言った。

 

「昨日の今日だけどちょっと早めに上がらせてもらうね」

 

恋々や雷が驚く中、その発言が予想通りだと言わんばかりにすぐに副会長である泡沫は頷いた。

 

「ああ。残った仕事は僕とカナタと恋々と雷でやっておくよ」

 

「うん。ごめんね。そうちゃんのせいで・・・・」

 

「いやいや、そうちゃんにはお世話になってるし、今度の件でもお世話になるんだ。構わないよ」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

そこでステラが口を挿む。それにキョトンとして刀華と泡沫がステラを見た。

 

「今の流れでなに?そしてどうしてトーカさんがソージさんのために早く帰ることになるの?」

 

その発言に恋々が続く。

 

「そうだよ!どうしてかいちょ―が・・・しかも総司先輩のためってどういうこと?」

 

一輝と雷もうんうんと頷く。それに刀華はああっと言いながら手を叩いた。

 

「そっか。みんなはそうちゃんのことをそこまで知ってないですもんね」

 

それに泡沫もそうだったと笑った。二人がクスクスと笑いだすが、四人はさらにキョトンとしてしまう。そんな四人にカナタが微笑みながら答えた。

 

「今のは、昔から総司さんがご飯を作っててほしい時にする下手な甘え方なんですよ。総司さんはとても甘え下手なんです」

 

「え?じゃあ玖原先輩は・・・・・」

 

「はい。今日は魚が食べたいってことなんです」

 

刀華が当たり前のように言う。それに四人は一瞬唖然としてしまったが、次の瞬間に吹き出した。

 

「ふふ・・・それはなんというか・・・ソージさんってかわいいのね」

 

「総司先輩ってそんなかわいいところもあったんだ」

 

「・・・・不器用な人だ」

 

「少しイメージが変わりました」

 

「まぁもう一つの意味もあるんですけどね」

 

ひとしきり笑ったところでカナタが言う。

 

「実は総司さんがそんなお願いをする時は二つの理由の時だけなんです」

 

「二つの理由?それはなんなんですか?」

 

一輝が興味あり気に聞く。それにカナタはふふっと意味深な笑顔を浮かべる。すると次は刀華が口を開いた。

 

「一つは仕事の時。そしてもう一つは全力でトレーニングをする時です」

 

「「・・・・・・!!!!」」

 

それの言葉に急に場の空気が締まる。

 

「学園に入学する時に仕事は招集以外受けないことにしてるはずなので、今回は後者ですね」

 

あの総司のトレーニング。一輝とステラはとても興味を惹かれる。

 

「ソージ先輩って一体どんなトレーニングをするの?」

 

「うーん・・・・少しなら知っているのですが・・・・正直普通の人には出来ません・・・・たぶん黒鉄くんならついていけるかもという感じです」

 

刀華が苦笑いしながら言う。それにステラは頬を引きつらせる。なんせいつも一番近いところで一輝がトレーニングをしているのを見ているのだ。そしてそれがどんなに過酷なものかも知っているつもりだ。そんなトレーニングをする一輝がついていけるかわからないなどステラには想像を出来なかった。

 

「二人とも興味があるのなら今度お願いしてみるといいですよ。まぁ余談ですが兎丸さんと砕城くんは一度ついていって次の日立てなかったそうです」

 

「「うっ!!」」

 

二人がその刀華の発言を受けてトレーニングを思い出して吐きそうになるのを口に手をあてて防ぐ。そんな二人にさらに頬を引きつらせるステラ。でも、その中でも一輝はやはり少し違っていた。

 

「へぇ・・・・今度頼んでみよう」

 

心の中でそんなことを考えているのだ。やはり一輝は一輝である。

 

「そういえば今度ソージさんに会った時に詳しくは聞こうと思ってるんだけど・・・・・あの人が使う『天陰流』ってどんな流派なの?」

 

思い出したようにステラが尋ねる。それに対して刀華は一口紅茶を飲み言った。

 

「ステラさんは『天陰流』が日本最強・・・いえ最恐と言われているのは知っていますか?」

 

「最強?なんで二回・・・一応最強と言われているのは知っているけど・・・・」

 

「ではその理由は?」

 

「理由?そこまで知らないんだけど・・・・・」

 

「では黒鉄君は知っていますか?」

 

その刀華の問いに対して一輝は難しそうな顔をした。

 

「イッキ?」

 

ステラが首を傾げる。

 

「知っていると言えば知っています。ただ本当にそれであっているのかは自信がありません。確認したこともそれが理由だと言われているというのも聞いたことがないので・・・・」

 

一輝は自分の答えが完璧でないことを言ったり教えたりすることを嫌う。だからこんな顔をしたのだろう。そんな一輝に刀華はフッと笑った。

 

「仮説でもいいので聞かせてくれませんか?」

 

「では・・・・『天陰流』は元々忍の流派だと言われています」

 

「忍・・・・それってニンジャってやつよね?」

 

ステラの問に一輝は頷き続ける。

 

「そしてその流派を扱う忍の一族。それが『玖原』。玖原先輩はその一族の末裔っていうのはあってますよね?」

 

「はい。その通りです。続けてください」

 

刀華が頷き、一輝は続ける。

 

「『天陰流』という流派の名前が有名になったのは戦時。玖原先輩の曾祖父玖原鷹丸から。でも流派はもっと前からあったとされている。ではなぜ名が知られてないのか・・・・それには二つ理由があると思いました。一つは大舞台で使われることがなかったこと。そしてもう一つは・・・・・その流派は裏でしか使われないのに使う人に会うと必ず殺されていたから」

 

「「「!!!!」」」

 

恋々、雷、ステラが驚愕の表情になる。ただ刀華はなにも言わない。そしてそれが肯定であることをこの場に居た全員が理解した。

 

「そして・・・・その技を完全に受け継いだ伐刀者(ブレイザー)が玖原総司先輩なんですね」

 

そう言い切った一輝に刀華、カナタ、泡沫は戦慄していた。

 

「さすがの観察眼ですね」

 

「ええ。しかしここまでとは・・・・・」

 

「刀華の伐刀絶技(ノーブルアーツ)並み・・・いやそれ以上かも知れないね」

 

「って言うことは・・・・」

 

 

恋々が聞く。それに刀華は頷いた。

 

「ええ。そうちゃんの使う『天陰流』は元々玖原の忍たちが使った暗殺を主とする流派です。そしてその流派の技には一つ絶対的な条件があります。逆に言えばそれさえ認められれば『天陰流』とされるらしいです。その条件というのが・・・・・」

 

そして刀華は剣士たちにとって衝撃的なことを続けた。

 

「その技を使えば()()標的を殺すことができるです」

 

 




どうだったでしょうか?

話が進んでない・・・・・ただちょっと主人公の話が出来た!!

これからも少しずつ明らかにしていきます。

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしくお願いします。

ではまた次回会いましょう。

簾木 健


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源泉

あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!

では今回も楽しんでいただけると嬉しいです!

簾木 健




「連絡なんて久しぶりですね師匠」

 

「ふぉふぉ。そっちはどうじゃ総司?」

 

トレーニング中に急に入った電話は総司の師匠である玖原鷹丸からだった。

 

「楽しいよ。そういえば七星剣舞祭に出ることにしたんだけど・・・・いいよね?」

 

「ふぉふぉ。そうかそうか。よいよい。宗吾には話したのか?」

 

「いや、まだ。本戦に出ることになったら言おうと思ってたから」

 

「そうか。わかった」

 

何気ない会話。しかし総司の顔色はすぐれない。

 

「で?なにかあったの?というか()()()()なにかあるの?」

 

「ふぉふぉ。まぁ儂が連絡したんじゃ。そりゃ気付くか」

 

鷹丸の言葉に総司の表情が締まる。

 

「・・・・黒鉄の家に何やら不穏な動きがあるみたいじゃ」

 

黒鉄家。総司はふっと一輝、雫、王馬。そして一度だけ会ったことのある現当主である厳の顔を思い浮かべる。ただもしこの中で黒鉄家に不穏な動きをさせるのは一人しかいない。

 

「一輝か・・・・勝ち続けてるからな」

 

「・・・・たぶんじゃがそいつはりゅうによく似とるのじゃろうな」

 

総司がはぁとため息をつく。

 

「わかった・・・・けどなにかあったら家の名前出していい?」

 

「構わん。宗吾にも許可は取った」

 

「ありがとう。そういえば浩司はどこに進学したんだ?」

 

「それも聞いておらんかったのか?あいつなら武曲じゃよ」

 

「ふーん・・・武曲か・・・どうなの?」

 

「そこそこじゃな・・・・才は宗吾と同じくらい。当主としては問題ない」

 

「そっか。わかった。一輝の件はいざとなったらおれが動くよ」

 

「頼むの」

 

ただ総司には一つわからないことがあった。

 

「なんでそんなに一輝のことを気にするんだ?」

 

前にも実は一輝のことを助けろと鷹丸に言われたことがある。でもその時は見ているほうが上手くいくと思い手は出さなかった。

 

「一輝の才能は知ってる。あれは今では異才で邪道だが、昔なら本物で王道だ。しかもその才能を使うための努力も並みじゃない。でも・・・・あなたがここまで肩入れする理由がわからない」

 

「・・・・・・」

 

総司の言葉に黙って耳を澄ます鷹丸。

 

「一輝には何があるんだ?」

 

「・・・頼まれたのじゃ」

 

総司の問いに鷹丸は口を開く。

 

「りゅうのやつにの」

 

鷹丸の言葉は総司の質問に対するものとしてはいささか不十分のようだが、総司に取はそれは充分すぎる理由だった。戦友と言われてた親友の願い。それを無下にするなど鷹丸は絶対にしない。それを弟子である総司はよくわかっていた。

 

「そっか。それは仕方ないな。わかった」

 

「頼むの。今度こっちに帰ってこい。ゆっくり酒でもな・・・・」

 

「ああ。じゃまた」

 

総司は電話切る。そして固有霊装(デバイス)を展開する。それは普段使っている《白和》ではなく《黒光》。その黒塗りの鞘から刃を抜き放つ。

 

「さって久しぶりにこっちでもやるか」

 

そして《白和》も抜く。するととてつもないほど禍々しい魔力が溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日曜日。総司と一輝とステラは生徒会メンバーは砕城の運転するバンに乗って、奥多摩の山奥にある破軍学園の合宿場へやってきていた。奥多摩の怪。噂の巨人の正体を突き止めるためだ。しかし合宿所の敷地はいくつもの山と深い森を有する険しい地形。それをたった八人で捜索するのは、伐刀者(ブレイザー)といえど生半可なことではない。ならば、とにもかくにも、まずは腹を膨らませて英気を養わないことには始まらない。そこで一輝たちは砕城と貴徳原の二人に管理人の聴取を任せ、残りのメンバーで昼食にカレーを作ることにした。それぞれ手分けして、合宿場から借り受けた調理器具と、刀華が持ってきた具材を合宿場の側のキャンプ場まで運ぶ。合宿場の食堂を借りることも出来たが、折角山に来たのだからキャンプカレーにしようという流れになったのだ。

 

「ん~。空気が美味しいわ。それに涼しくて気持ちいい」

 

運んできた包丁やまな板などの調理器具を、煉瓦で組まれた炊事場において、ステラは一つ大きく深呼吸をする。

 

「アスファルトが少ないから、空気がほどよく冷やされるんだろうね」

 

「日本はどこもかしこもコンクリートで固めすぎなのよ。暑いし蒸すしでたまらないわ」

 

「まあもうほとんどこの国は亜熱帯だからね・・・・」

 

ステラの故郷であるヴァーミリオン皇国は欧州の北側に位置する国だ。日本よりずっと気温は低く、空気も乾いている。そんな国で育ったステラにとって初めて体験する日本の夏は、正直めげる過ごしにくさだった。事実、ここ最近ステラが夜寝苦しそうに唸っているのを一輝は耳にしている。まあ人だって暑さで死ぬのが日本の夏だ。無理もない。

 

「ねえねえステラちゃん!一緒にバドミントンやろーよ!」

 

ふと、ステラよりも一足先に調理器具を運び終わっていた恋々が、ラケットを片手にステラに呼びかける。

 

「いいわね!でもアタシは強いわよ?」

 

「なにおー!?アタシだってフットワークじゃ負けないってのっ!!かかってこーい!」

 

「ふふん。このアタシに勝負事を挑んだこと、後悔させてあげるわ」

 

恋々の誘いにノリノリでついていくステラ。

 

「あ、ステラ・・・」

 

一輝が呼び止めようとするも、それが聞こえてないのかそのまま走り去りそうになる。そこで・・・・

 

「恋々!!!」

 

一輝の後ろから叫ぶ声。一輝が振り向くとそこにはスーパーの袋いっぱいの具材を運んできた総司と刀華が立っていた。声を出したのは総司だ。

 

「一時間くらいで出来るからそれくらいで帰って来いよ!!!!」

 

「わかった!!!行こうステラちゃん」

 

「ええ」

 

そういって二人は行ってしまう。

 

「よかったんですか?」

 

「別にいいですよ。カレーなのでそんなに人数は必要ないですし。お二人にはあとの片づけをやってもらいましょう」

 

「そうですね。・・・・あ、そうだ。材料費いくらでしたか?自分たちの分は払いますから」

 

「ふふふ。そんなの気にしなくていいですよ。黒鉄さんたちは助っ人で来てもらったんですから。お食事くらい奢ります。というか奢らせてくれないとさすがに私が心苦しいです」

 

少し困ったように肩をすくめる刀華。その横で総司が優しく笑う。

 

「一輝たちは後輩なんだ。ここは先輩の顔を立てて奢られていいんだ。恋々や雷からも取ってないからな」

 

「・・・・ならお言葉に甘えてご馳走になります」

 

「ああ。そうしとけ。刀華のカレーはうまいぞ。なんせ自家製のカレールーで作るからな」

 

「ええ。ぜひぜひ期待しててください」

 

刀華が自身あり気に胸を叩く。

 

「じゃあ用意を手伝うくらいはさせてくださいよ」

 

「わかりました。黒鉄さんはジャガイモと人参の皮むきをお願いします」

 

「わかりました」

 

「そういえば、そうちゃん。うたくんは?ご飯頼もうと思ってたんだけど?」

 

「大丈夫だ。もう頼んだ。カルフォルニア米だったしいつも通りでいいんだろ?もう水を取りに行ったよ」

 

「さすがそうちゃん。ありがとう」

 

「おう。じゃあ、おれは玉ねぎをやるか・・・刀華は肉な」

 

「はい。じゃあやりましょう」

 

「一輝も頼むな」

 

「わかりました」

 

一輝はこの二人のやり取りを見ながらこの二人の仲の良さを改めて実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家出してからもう5年。それだけ長い間一人暮らしをしていると、一定の家事スキルは自然と身につく。だから一輝は非常に手際よく、自ら与えられた役割をこなした。まずはジャガイモの皮を剥き水に浸す。煮崩れを防ぐためだ。そしてジャガイモを水に浸している間に人参の皮をむき、それらをすべて一口大の大きさに切って、刀華と総司のもとに持っていく。その途中、ふと一輝の足が止まった。

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・♪」

 

「刀華は料理するといつもそれだな」

 

「もうなに?バカにしとると?」

 

「してない。ほら出来た」

 

「もう・・・・・」

 

自分の顔を千切って配る国民的ヒーローアニメの主題歌を口ずさみながら、見事な手際で肉を刻むエプロン姿の刀華とその横で楽しそうにこちらも見事な手際で玉ねぎを刻んでいる同じくエプロン姿の総司。そんな二人の姿に一輝は視線が吸い込まれる。まるで一枚の絵画のように、完成されたある種の『美』を持っていたからだ。

 

「ん?どうかしました?」

 

「一輝なんでそんなところで立ち止まってるんだ?」

 

「あ、いや。なんでもないです」

 

振り向いた二人に声をかけられて、一輝はハッと我を取り戻す。

 

「どうしたんだろう僕は。・・・・今二人の雰囲気に飲まれていた」

 

一輝の妹である珠雫を圧倒的強さで打ち倒した《雷切》。そして破軍序列二位であるカナタをいとも簡単に崩し倒した《閃光》。しかしそれを見た時ですらここまでのものは感じなかったというのに。それを不思議に思いながらも、一輝はとりあえずその疑問を頭の端に追いやって、持ってきた野菜を刀華に渡す。

 

「これジャガイモと人参です。ジャガイモは水にさらしておきました」

 

「ご苦労様です。わぁ、とってもきれいに剥けてますね。それに野菜が大きいのもグッドです」

 

「折角青空の下で食べるんですから、田舎カレーのほうがいいかなと思って」

 

「さすが一輝だな。刀じゃなくて包丁捌きも見事なもんだ」

 

「はは、一人暮らしが長いものですから。他に手伝うことはありませんか?」

 

「いいえ。後は私とそうちゃんでやっておきますから、休んでくださっていいですよ」

 

「ああ。あとは任せておけよ」

 

「・・・・・・・わかりました。じゃあお願いします」

 

一輝は二人の言葉に甘え、一足先に炊事場を抜けさせてもらう。その途中――――

 

「ふっふっふ。どうしたんだい後輩クン。刀華のおっきいお尻に見とれてたかな?それともそうちゃんになにか聞きたいことでもあった?」

 

先ほど刀華と総司を見つめてしばし立ち尽くしたことを、飯ごうでご飯を炊いている泡沫に追及された。

 

「い、いえ。ちがいますよ!玖原先輩にも用はなかったんですが・・・・」

 

一輝はすぐに否定をかぶせる。確かに刀華のお尻は丸くて柔らかそうで、男として魅力を感じないわけではないし、総司にも聞きたいことがないわけではないが――――――

 

「そうじゃなくて、・・・自分でもよくわからないんですが、こう、目を奪われたんです。東堂さんと玖原先輩が炊事場に立つ姿に。なんていうか、そこに目を逸らしちゃいけない何かがあるように思えて」

 

「ふぅん・・・・」

 

その一輝の返答に泡沫はなにやら興味深そうに唸る。

 

「目を逸らしちゃいけないなにか、か。うん。一目でそれに気づくなんて、後輩クンはやっぱりただ者じゃないね」

 

「どういうことですか?」

 

「あの立ち姿に見逃しちゃいけない何かを感じたんだろう?その感覚は正しいってことだよ。あの姿こそ二人の核、強さの源泉みたいなものだからね」

 

「強さの源泉?」

 

「ああ。昔から二人を見てきた僕は、それをよく知っている」

 

「昔から・・・」

 

先ほどの刀華と総司のやり取り。その会話には泡沫も出てきた。古い縁があるのだろう。一輝は素直にその気づきを口にした。

 

「御禊さんは東堂さんや玖原先輩を昔からご存じなんですか?」

 

「ん?うん。知ってるよ。なにしろ僕と刀華は同じ養護施設の出だからね」

 

「え・・・・・」

 

「貴徳原財団が展開している社会福祉事業の一つ『若葉の家』っていうのがあってね。身寄りのない子どもを引き取って養育しているんだ。僕と刀華は二人ともその施設にいたんだよ。そしてそうちゃんとカナタは昔からよくその施設に出入りしてたから、その頃からのなじみだね。四人でつるんで色々やったもんさ」

 

「そう、だったんですか」

 

泡沫はなんでもないようにこのことを話すが、一輝は少しばかり反応に困った。幼なじみまでは予想していたが、同じ施設の出というのは完全に予想の外だった。ことがことだけに、これ以上この話題に触れるべきなのか否か。一輝は計りかねていた。しかし

 

「・・・・東堂さんと玖原先輩の強さの源泉」

 

昔から二人も見ていた泡沫の言葉に、どうしても興味が引かれる。だから一輝は思い切って尋ねることにした。

 

「あの、よかったら教えてくれませんか。御禊さんの言う二人の強さの源泉がなんなのかを」

 

その問いに泡沫はしばし黙り込んでから、言葉を紡ぐ。

 

「・・・・・後輩クンは養護施設って聞くとどういう場所だと思う?」

 

「身寄りをなくした子どもたちが暮らす施設・・・・ですよね?」

 

「まぁそりゃそうなんだけどさ、でもその『身寄りのなくし方』にもまあ色々あるんだよね。事故や災害で親を亡くした子どもや親に捨てられた子ども・・・・そんなのはまだいいほうで、親や親戚に殺されかけて行政に引き離されたり家を出た子どもとかも、まあいろいろね」

 

「親族に・・・・ですか」

 

「うん。で、ウチの施設は当時、そんな結構複雑な事情を持った子どもがいたこともあって、まあなんというか、雰囲気が悪くてね。似たような境遇の連中同士で、些細なことで傷つけあったり罵りあったり・・・・みんな苦しんでいたよ。だけどそんな中で刀華とそうちゃんはそのみんなのことを笑顔にしようといつも頑張っていた。()()()()()()()なのに。小さな子どもに絵本を読んで聞かせてあげたり、院長先生にかわって美味しいご飯を作ってくれたりね。・・・・・院長先生はすごく良い人なんだけど、料理だけはもう本当にまずくてたまらなかったからね。あれはもうみんな大喜びだったよ。あはは」

 

「・・・・御禊さん。一つ聞いていいですか?」

 

「うん?なにかな?」

 

「玖原先輩って・・・・その施設にいたことがあるんですか?」

 

「・・・・うん。実はね。親戚に殺されかけたってのはそうちゃんだよ」

 

「えっ・・・・・」

 

「なんか両親や曾祖父は仲はよかったんだけどそれ以外とはすごく仲が悪かったみたいでね。何度かやばいことがあったらしくてある一年くらい施設で暮らしてたんだ」

 

「そんなことが・・・・・・」

 

「まぁ詳しい話を聞きたいならそうちゃん自身に聞いてね。そして二人は人の世話を焼かずにはいられないタチでね。・・・・その親に殺されかけた奴にしてもそう。そいつはもうともかく手に負えないくらい乱暴で、どうしようもないくらい()()()て、何度も何度も二人を傷つけたけど、だけど二人は一度だってそいつのことを見捨てなかった。そのおかげで・・・・そいつはもう一度人間に戻れた。人間らしい感情を取り戻すことが出来た。だからそいつは今でも二人に感謝してて、二人のことが大好きなんだ」

 

目を伏して訥々と昔の情景を口にする泡沫。その話口調は所々一人称になっている。おそらく・・・・その親に殺されかけた子どもというのは泡沫自身のことだろう。

 

「そんなそいつはさ、その後問題に出くわしたことがある。そいつはなにもしてないんだけど、そこにいた全員はその問題をすべてそいつに押し付けた。でも、その時にそうちゃんがやってきてね。そいつがみんなから攻められているのを庇ってね。その問題を起こした奴らを捕まえてきてね。そいつの無罪を証明したんだよ。その時、そいつは聞いたんだ。なんで庇ったのかってね。するとそうちゃんはこう言った。『おれは尊敬している人がいる。その人は自分の友人を絶対に裏切ったり信じないなんてことがない人なんだ。『若葉の家』のみんな色々あったと思う。でも、おれの友達だ。だから絶対に最後までおれは裏切らない。例えおれがバカを見ることになってもね。色々あって多くの人は信じられないかもしれない。でも、みんなにとっておれは絶対裏切らないから信じていいんだって知っておれのことは信じてほしいんだよ。そしてそうやって信じてくれた友達をおれは絶対に守る』ってね。刀華もそうだ。そいつがどうして同じ境遇なのにどうして他人をそんなに愛せるんだと聞くと『自分はたくさん両親に愛してもらった。それは普通の家族に比べればとても短い間だったかもしれないけど、たくさんの笑顔と愛情をもらった。その思い出は両親が亡くなった今でも自分を支えてくれている。だから自分も、他の子どもたちを笑顔にしたい。みんなの支えになる思い出を作ってあげたい。自分の両親が自分にしてくれたように。人を愛することは、両親が自分に教えてくれた大切で大好きなことだから』・・・・とね」

 

そして――――

 

「その二人は言ったように施設を出た後もみんなに勇気や笑顔、信頼を与えている。親無しの自分もこんな人になれるんだってね・・・・」

 

そこまで言われて一輝も理解した。先ほど泡沫が述べた『二人の強さの源泉』がなんなのかを。それは―――『善意』だ。自分ためではなく、第三者のために比類なき力を発揮する。東堂刀華、玖原総司はそういう魂のあり方をした二人なのだ。

 

「後輩クン。君は強い。正直予想以上だった。僕程度じゃ歯が立たないし、カナタすら危ういと思う。だけどそんな君でも二人には勝てない。二人は別格だ。なぜなら、二人は自分が負けるのがどういうことかわかっている。君とは背負っている重みが違うんだよ」

 

告げられた言葉に、一輝は応答を返さなかった。ただ視線を泡沫から楽しそうに料理を作っている二人に向けて思いをはせる。一輝はいままで自分自身の価値を信じていたいという気持ち一つでここまで来た。誰にも頼らず、誰のためでもなく、ただ、自分の理想とする自分になるために。故に泡沫のいう重みが一輝の剣にはない。他人の思いが宿ってない。その事実は、まるで黒いもやのような漠然とした形態を取り、一輝の心に纏わりつく。そして彼は問いかけた。お前の軽い剣は二人を倒すことができるのかと・・・・





新年初更新です!前書きでも言いましたが今年もよろしくお願いします!!

どうだったでしょうか?

ちょっと長くした割に話が進まないですね・・・

自信があるわけでもないのにはやくバトルシーン行きたくなってますww

でもこの辺は大切なので丁寧に行きますね。

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしくお願いします!

ではまた次回会いましょう!

簾木 健


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暗雲

UAが五万件、お気に入り件数が千を超えました!!

読者の皆様本当にありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!

では今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!


腹ごしらえが終わり巨人探すため刀華が散策のために班分けを行った。さすがに伐刀者(ブレイザー)といえど、一人で山の中を歩くのは危険すぎるからだ。班は刀華・泡沫班。砕城・恋々班。そして一輝・ステラ班の三つ。緊急時に備え総司とカナタが拠点である合宿場に残り、一行はいよいよ山狩りに乗り出した。三班を送り出し総司は伸びをした。

 

「さてカナタ紅茶でも飲むか」

 

「はい。いい茶葉持ってきてますよ」

 

「はは。それは楽しみだな。入れるの手伝うよ」

 

「いえ、大丈夫ですから総司さんはのんびりしていてください」

 

「そうか・・・じゃあ頼む」

 

「はい」

 

カナタが紅茶を用意していく。その姿は総司にとっては普段も見ている姿だったが・・・・

 

「懐かしいな」

 

そう総司は零した。それにカナタはふふっと笑う。

 

「ええ。昔はよく二人でこんな風にお茶しましたよね」

 

「ああ。カナタのお茶はその時から美味しいもんな」

 

この二人はよくカナタの別荘などでお茶をした仲なのだ。しかし刀華や泡沫と知り合ってからは四人でいることが多くなり二人でお茶はしなくなった。

 

「これを切欠にこれからもたまに二人でお茶をしましょう」

 

そういいながらカナタが紅茶を出してくる。

 

「ああ。たまにな」

 

そういいながら総司も紅茶を受け取り飲む。

 

「みんな大丈夫でしょうか・・・・」

 

カナタが心配そうに部屋から山を見る。

 

「まぁ生徒会メンバーは大丈夫だろうよ。心配なのは一輝とヴァーミリオンだな」

 

「えっ?」

 

総司の発言にカナタは驚き視線を山から総司に移す。

 

「でも、黒鉄さんもステラさんもすごく強いはずですけど・・・・」

 

()()()()()

 

総司がすっと目を細める。しかしカナタにはその言葉の意味がわからず少し首を傾げる。総司は一口紅茶を飲み、言う。

 

「ヴァーミリオンがちょっと気になるんだ。あいつ食欲なかったんじゃないかと思ってな」

 

そう言った総司にカナタはジト目を向けた。

 

「なんだよ?どうしたカナタ?」

 

そのジト目に気まずそうに総司が尋ねる。

 

「いえ。なんというか、私も刀華ちゃんも大変だと思いまして・・・・」

 

それに総司は首を傾げる。

 

「大変?なんでだよ?」

 

「だって私や刀華ちゃんが少し変わっても気づかないじゃないですか?」

 

「えっ?・・・・ああ」

 

総司はそれに少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

「カナタ・・・・髪切ったろ?」

 

「えっ・・・・」

 

そう言われてカナタが驚いて髪を触る。実は三センチほど髪を切っていたのだ。でも正直気付いているとはカナタは思っておらず驚いて固まってしまう。それもそのはず総司は実はそう言ったことをほとんど言わないのだ。だからカナタを気づいてないと思っていた。総司は苦笑する。

 

「いや・・・気付いてるんだけどさ・・・いちいち言うことかなって・・・・」

 

総司がそういうとカナタはぷぅと頬を膨らませる。普段は見せない子どもっぽい表情のカナタに総司は少しドキッとする。

 

「気付いているのなら言ってください!そういうの気付いてくれるの嬉しいんですから・・・・・」

 

「でも、気付いて当たり前じゃないか?」

 

そんなカナタに総司はキョトンとして返す。

 

「だって一緒にいるんだ。普通気付くだろ。わざわざ言うことでもないし」

 

「・・・・・ハァ」

 

そんな総司にカナタは露骨にため息をついた。

 

「今度から気付いたらきちんと言うことにしてください。もちろん刀華ちゃんにもですよ?」

 

「・・・・・マジ?」

 

「マジです」

 

「ハァ・・・・わかったよ。今度から言うよ」

 

「はい。お願いしますね」

 

ニコリと笑うカナタに総司は恥ずかしそうにまた頭を掻いた。そうして総司はトイレと言って席を立った。トイレに入り総司は一つのため息と共に

 

「カナタ露骨すぎだろ・・・・てかかわいいよなあいつ・・・・」

 

悶絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総司がトイレから帰ってきて少ししてから合宿所の電話が鳴った。カナタが出て聞いたところにはステラが体調を崩したという一輝からの連絡だった。

 

「で?総司さんどうしますか?」

 

「カナタはここにいてサポートを頼む。でおれが向かう。あと恋々と雷をこっちに戻らせて、刀華と泡沫に一輝たちのところに向かう指示をしてくれ」

 

「わかりました。気をつけてください」

 

カナタは頷きまずは刀華たちに連絡を入れる。総司は地図を暗記し外に出る。雨が降っていて視界が悪い。奥多摩の森に入るのは初めてである総司にとっては最悪のコンディションだ。でも総司はニヤリと笑う。

 

「森なんて久しぶりだな。実家で仕事してた時はよく入ってたのにな・・・・まぁサクッと行くか」

 

そして総司は森に入っていく。そして森に入るとすぐに木に飛び乗り、木を伝って凄まじい速度で移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして総司が一輝たちから連絡が来た山小屋に到着する。

 

「一輝、ヴァ―ミリオン大丈夫か?」

 

ゆっくり山小屋の扉を開ける。すると二人は隣あって座っていた。

 

「総司先輩。麓から来たんですよね?速くないですか?」

 

一輝がハハッと気まずそうに笑う。

 

「まぁ森はおれの庭みたいなもんだしな・・・・というかなんかごめんな。邪魔したろ?」

 

「いえっ!わざわざ来てくれたんですか・・・・・」

 

気まずそうな二人の様子に総司は心から後悔する。

 

「まぁ大丈夫そうだし・・・おれは外に・・・!!」

 

そこで三人は地面の揺れを感じ顔色が変わる。

 

「なにこれ・・・地震?」

 

ステラの発言に総司と一輝が顔を見合わせて頷く。二人ともこれが地震ではないと思っていた。なんせ断続的にズシンズシンと音が近づいてきている。

 

「これは()()だな」

 

総司は固有霊装(デバイス)を展開する。

 

「一輝出るぞ。ヴァ―ミリオンを抱えろ。お前は闘わなくていいからヴァーミリオンを守れ」

 

「わかりました。じゃあステラちょっと頑張ってね」

 

「わかったわ」

 

一輝がステラを抱えたのを確認し総司は山小屋から出た。

 

「なっ!?」

 

そこには身丈五メートルはあろうかという巨人が静かに立っていた。音も振動もなくなんの躊躇いもなくその腕をこの山小屋に叩きつけようとする。

 

「一輝はやく出ろ!!」

 

「はい!!」

 

二人は駆け出してその巨人の腕を避ける。

 

「ヴァーミリオンは大丈夫か?」

 

「ええ。一輝が守ってくれてるし・・・」

 

「そうか・・・・」

 

そして三人が巨人を見つめる。するとステラが大声で叫んだ。

 

「なんか思ってたのと違う!!」

 

「そっち!?」

 

一輝が突っ込む。巨人の姿は巨大な人間というものではなかった。大小様々な岩石を繋ぎ合わせた無骨な人型。生き物には見えない。しかし明らかな害意を感じる。事実、さらに追撃しようとこちらに巨大な腕を振り下ろしてくる。

 

「一輝さっきも言ったが、お前はヴァーミリオンを抱えて逃げろ。おれが闘う」

 

「わかりました」

 

二人は巨人の腕を避けながらそう確認する。総司は《白和》と《黒光》を抜く。

 

「「・・・・っ!!」」

 

それが抜きうたれた時、一輝とステラはとてつもない魔力を感じた。そしてその魔力源を見つめる。その本人はニヤリと笑う。

 

「人じゃない以上、加減はいらないよな」

 

総司の周りに雷が迸る。

 

「いくぜ・・・・」

 

総司が《白和》を一振りする。その一振りによって起きた出来事に一輝とステラは驚き固まってしまった。

 

「「えっ!?」」

 

総司の一振りで巨人は真っ二つになり残骸となった岩石がバラバラとその場に崩れ落ちた。

 

「くそ・・・弱いやん・・・・」

 

総司はガッカリしたように《白和》を鞘にしまう。

 

「一輝大丈夫か?」

 

「はい・・・・大丈夫です」

 

「これってやっぱり伐刀絶技(ノーブルアーツ)?」

 

ステラが総司に尋ねる。総司はそれに頷いた。

 

「無機物を魔力の糸で操る能力。『鋼線使い』の仕業だな・・・しかもかなり実力者の」

 

総司はふぅっと息をついて《白和》《黒光》を消す。

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。さっき切った時に電流ながして距離を測ったけど百キロくらい離れてたな。初めて見たぜ、その距離で操ってくるやつなんて。世界は広いな」

 

「百キロ……」

 

「まぁもう安心だ。流した電流そのまま使い手にぶち込むようにしといたから負傷くらいはしただろ」

 

総司はさも当たり前のようにそう言うが一輝とステラからしてみれば鋼線使いよりも総司のほうが異常な気がしてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「マサか・・・コレほ・・ど・・・」

 

「だから言っておいただろうが。奴には手を出すなと」

 

全身が真っ黒に焦げて手足がもう落ちかけている男に向かって黒い和服をまとったガタイのいい男が言う。焦げている男はもうどんな顔なのかわからないほどであった。そして異常はその男だけではない。二人がいる部屋も雷が落ちたように真っ黒に煤けていた。

 

「奴はお前たちの手におえる男ではない。しかも貴様〈軍〉側の癖にそんなちょっかいかけていいのか?」

 

「マサか・・・コンな・・・コトに・・・なる・・と」

 

ガチャと音を立て右手が落ちる。それと同時に焦げた男は動かなくなる。和服の男はふんと鼻を鳴らす。

 

「・・・・・ただこれほどとは思ってなかったぞ総司」

 

ガタイのいい男は強い言葉とは裏腹に全身を激しく震わせていた。

 

「おれはお前を必ず乗り越えるぞ。総司」

 

そう言ってその男は一人その部屋を出て行った。




どうだったでしょうか?

楽しんでいただけましたか?

総司の強さも段々明らかになっていますがすべてが明らかになるのはもうちょっと先になるかなぁ・・・気長に待ってくださww

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしければお願いします!

ではまた次回会いましょう!


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敵襲


皆さんのおかげで月間のランキングにもランクインすることが出来ました!!本当にありがとうございます!そしてこれからもよろしくお願いします!

では今回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

簾木 健


「ああ。二人とも無事だ。報告は?・・・わかった。大丈夫みたいだな。ああ。雨が上がったら戻ってくる」

 

総司たちは刀華と泡沫と合流し、突然降り始めた雨を凌ぐために鍾乳洞に来ていた。その中で総司はカナタに今回の事態を報告し、それを黒乃に改めて連絡してもらうことにしたのだ。一通り連絡を済ませ総司は電話を切った。

 

「報告のほうはカナタがしてくれるみたいだし大丈夫みたいだ。一輝。ヴァ―ミリオンの容態は?」

 

「はい。山小屋に居た時よりも安定してるみたいです。この分だとすぐに治ると思います」

 

「そうか。大事にいたらないでよかった」

 

総司はふうとため息をつく。その横に居た泡沫が尋ねる。

 

「そういえばそうちゃん。巨人は『鋼線使い』だったんだよね?操っていたヤツはほっといていいの?」

 

「ああ。というかどうしようもない」

 

「?どういうこと?」

 

泡沫がそれに首を傾げる。そんな泡沫と刀華に総司はさっき一輝たちにもした説明をすると二人は目を大きく見開いた。

 

「まさかそんなとんでもない相手だったなんて・・・・・」

 

刀華も絶句してしまうほどの使い手。正直今すぐ相手をすることになれば手に余る。総司も頷いた。

 

「直接でなくてよかったのかもな・・・」

 

「ええ。でもそんなにすごい『鋼線使い』なら有名になっているはずですよね?でも・・・・」

 

「そんな人聞いたことないなぁ・・・・後輩くんは誰か思いつく?」

 

泡沫が聞くと一輝も首を横に振る。その反応を確認してから総司は面倒そうに頭を掻いた。

 

「ということは表の人間じゃないな。下手したら『軍』か」

 

「『解放軍(リベリオン)』ですか・・・」

 

解放軍(リベリオン)。この世で最も有名なテロ組織の名称である。彼らは伐倒者(ブレイザー)を新人類とし、その他の人間を下等人類と位置づけ、社会構造の破壊をもくろんでいる。その幹部たちは普通じゃない存在たちだと言われている。特に解放軍(リベリオン)のトップである《暴虐》は世界最強と揶揄されているほどだ。そんな奴らが出張ってくるなど・・・・考えたくもない。

 

「まぁ今回の件はこれで解決だろ。使い手にもそれなりにもダメージは与えたはずだからな。この先はこっちからは手は出さない・・・・でいいだろ?」

 

総司の見解に刀華頷く。

 

「はい。あとは黒乃さんに任せましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、雨は思いのほか長く振り続いた。時間にして三時間ほど。その影響で下山することが出来たのはもう日が沈み始めてからだった。先ほどまであれだけ激しく雨を降らしていた雨雲はいつの間にかどこかへ消え去った。空は雲一つなく澄み渡り、景色は綺麗な茜色に染まっている。全く最近の日本の気候は本当にどうかしている。誰もがそう思いながら、合宿場までの帰路を進む。その行軍は想定している以上に順調に進み、なんとか日が暮れきる前に宿舎などの建物がある麓まで帰ってくることが出来た。

 

「あ!やっほー、みんな!おっかえりー!」

 

彼らの帰りを施設の外で待っていた恋々と砕城の二人が出迎える。

 

「ステラちゃん、なんか倒れたんだって?大変だったねー」

 

「迷惑かけてごめんなさいね。風邪なんて初めてだったから、自分が風邪だってよくわからなくって」

 

「普通はしんどくて動けなくなるもんだけど、ステラちゃんめっちゃ元気だったもんねぇ。バドミントンの羽で地面抉ってたし。体力が無駄にあるってのも考え物だね」

 

「・・・・・なんか馬鹿にされてる気がするわね」

 

ステラがむっと膨れるなか泡沫がダラッと総司にもたれかかる。

 

「はー、にしても今日は歩きっぱなしで疲れちゃったよ。お腹もペコちゃんだし。ねえねえ刀華、帰る前にみんなでバーベキューでもしよーよ」

 

「あ、いいわねそれ!アタシ昼はあんまり食べられなかったから、お肉食べたい」

 

「アタシもさんせーい!」

 

泡沫の提案にステラと恋々の二人が乗っかる。だが刀華は首を縦に振らない。そんな刀華にカナタと総司は苦笑いを浮かべる・・・・また始まったなと。

 

「だめです。ステラさんは病人なんですよ。お医者さんに行くのが先です」

 

「「「えーーーーー!!」」」

 

「なんかもうステラちゃん全然ぴんぴんしてるし大丈夫でしょー」

 

「うん。アタシ、大丈夫」

 

「ほら大丈夫って言ってるよ。ここは先輩として、生徒会長として、後輩の自主性を尊重すべきなのではないでしょうか!」

 

「屁理屈こねても駄目なものは駄目です。風邪を甘く見たら怖いんですからね。それにステラさんは大切な時期なんですから、万一のことがあっては大変です」

 

「うぅ・・・・」

 

きゅぅぅぅ。と一輝の背中でステラのお腹が悲鳴をあげる。総司はその音を聞いてフッと笑う。どうやら本当に食欲が戻ってるらしい。

 

「・・・・東堂さん。確かに病院には行くべきだけど、空腹を感じているときにものを食べないのは、それはそれで身体に悪いですよ。身体が病気に対抗するためのエネルギーを欲しているわけだから」

 

「イッキ・・・・・!」

 

「刀華、一輝の言う通りだ。病院にサクッと行ってみんなで肉でも食おうぜ」

 

「おっ!そうだよそれ!!いま総司先輩とクロガネくんがいいこと言った」

 

「むっ、それもそうですね・・・・。・・・・病み上がりにお肉というチョイスは正直どうかと思いますが・・・・わかりました。じゃあステラさんを病院につれていって、お薬をもらってから、その後でみんなで食べ放題の焼肉にでも行きましょう。今からご飯を食べていては診察時間に間に合いませんし」

 

「ありがとう刀華!やっほー!肉だ―!」

 

「御禊先輩!叙〇苑いこー!」

 

「よっしゃ予約は任せろ!」

 

「やめて!食べ放題って言ってるでしょう!」

 

そんな風に騒ぐみんなの中に一人足りないことに総司が気付く。

 

「恋々、雷。カナタは?」

 

「そういえば・・・・見当たりませんね」

 

総司の問に一輝が反応し当たりを見渡すがカナタの姿はない。

 

「カナタ先輩ならなんかお客さんが来たとかで対応しに行ってるよ?」

 

そう恋々が言ったところで雷がポンと思い出したように手を打った。

 

「そういえばそのことを伝え忘れていたな。黒鉄。実は先ほど、お前を訪ねてきた人がいたのだ」

 

「僕を?」

 

「ああ、学校に行ったらこっちにいると聞いたらしくてな」

 

誰がわからず一輝が首を傾げる。わざわざ奥多摩まで自分を追いかけてくるような知り合いを一輝は思い出せない。

 

「砕城さん。その人の名前は?」

 

「たしか―――」

 

雷はしばし考えた後、思い出したように

 

「ああ、そうだ。『赤座』と名乗っていたな」

 

「――――――――」

 

告げられた名に一輝の表情が強張る。それで総司はその名の人がどういう人か大体悟り少し表情を曇らせる。それと同時――――

 

「おーいたいた。よぉ~やく会えました」

 

ねっとりとした男の声が一輝にかかる。視線の先には対応していたであろうカナタに連れられて

 

「ご無沙汰してますねぇ~。一輝クン。んっふっふ」

 

赤いスーツを身に纏った肥満体型の中年が、恵比寿にも似た顔で笑みを浮かべていた。一輝はその人を知っている。何度か実家にいたときに会ったことがある。

 

「イッキ。誰なのこのおじさん・・・・・」

 

おそらく、背中ごしに何かを感じ取ったステラがおそるおそる一輝に尋ねる。対し一輝はステラを背中から降ろしてから、答える。

 

「この人は・・・・赤座守さん。黒鉄家の分家の当主さんだよ」

 

「ッ――――」

 

その言葉によってステラの雰囲気が変わる。ざわりと、威嚇する猫のように総毛立たせて険しい表情を来訪者に向ける。その空気がひりつくほどの剣呑さに、赤座の案内をしてきたカナタは戸惑った。

 

「あの、どうかされましたか?」

 

だが、一方で敵意を向けられている赤座本人は、

 

「んっふっふ。そんな怖い顔をしないでくださいよぉ。私だって嫌なんですよぉ?貴方みたいな出来損ないのために奥多摩くんだりまで足を運ぶなんてねぇ?」

 

まるで臆した様子もなく、その無駄にありがたい顔に笑みを貼り付けて、攻撃的な言葉を吐き出す。その露骨な侮蔑に総司とステラ以外の事情を知らない生徒会メンバーたちもこの来訪者が一輝に明確な敵意を向けていることに気付く。この者は一輝の敵だ。ならば、仲間想いの刀華としては放っておくわけにはいかない。

 

「貴方、なんなんですか!?そんな言い方、失礼なんじゃないんですか!?」

 

彼女は赤座に対しすぐに威嚇の視線を向ける。しかし―――

 

「これはこれは噂に名高い《雷切》さん。こんにちわ。あーもう時間的にはこんばんわかなぁ?話は聞きましたよぉ。一輝クンを助けに行ってくれていたらしいですねぇ。いやぁ与えられた任務一つまともにこなせない役立たずで申し訳ありません。一族を代表して謝罪いたします。このとーり」

 

「だ、だれもそんなことして欲しいなんて――――、」

 

「本当に申し訳ありませんでしたぁ」

 

赤座は刀華と話しているようにみえて、まるで刀華の言葉なんて聞いていない。一方的に一輝を貶める主張を繰り返すだけだ。そのあまりに露骨な害意に、刀華は困惑し言葉を失う。他の生徒会メンバーも同様だ。しかし総司だけは表情一つ変えず、赤座のことを見つめていた。

 

「まぁひとまずそのことは置いといて、さっさと本題に入らせてください。山奥は蚊が多くてかないませんからねぇ。んっふっふ。今日私がここに来たのはですねぇ、『騎士連盟日本支部の倫理委員会』として一輝クンにとーっても大事なお話があるからなんですぅ」

 

赤座が話を切り出す。表情は笑っているが、細められた目の奥の光はあまりにどす黒い。彼の要件が一輝にとってろくでもないことは聞くまでもないが、聞かないことには話は進まない。だから一輝は促した。

 

「今更僕にどんな話があるんでしょうか?」

 

「んっふっふ。まあ話すよりもコレを見てもらった方が早いでしょう。どーぞどーぞ。今日の夕刊ですぅ」

 

手渡されたのは複数の新聞記事。一体ここになにが書かれていて一輝とどういう関係があるのか。一輝は妙な胸騒ぎを覚えながらその内の一つを開くと―――そこには木々の背景に口づけを交わしている一輝とステラの写真が一面に掲載されていた。驚きのあまりステラは目を丸くしてその写真に釘付けになった。

 

「イッキ、こ、これって・・・・・・」

 

「よぉく撮れてるでしょう?顔もくっきりばっちり。夜だというのに最近のカメラは怖いですねぇ。んっふっふ。山奥だからわからないでしょうけどねぇ?巷では今大騒ぎですよぉ?国賓に手を出すなんて前代未聞の不祥事ですかなねぇ」

 

「ちょっと待って!」

 

ステラは新聞をひったくって怒鳴り声に近い声をあげる。

 

「こ、この記事いったいなんなのよ!なによこのデタラメは!」

 

そう怒鳴って彼女がさしたのは『姫の純潔を奪った男』『ヴァーミリオン国王激怒』『日本とヴァーミリオンの国際問題に発展か!?』と事態の重大をことさらあおり立てようとでもしているような言葉が躍った一面の記事だ。そこには『黒鉄』の家から提出されたという『黒鉄一輝』という人物の人物評が掲載されていた。昔から素行が悪く、黒鉄の家を困らせていた問題児であり、人格的に問題のある人間である、と。さらには女癖も非常に悪く、ステラの他にも複数の女生徒とふしだらな交際を行っている、とまで。それは根も葉もない嘘八百。だがこの記事にはその嘘八百がさも真実であるかのように書き連ねていた。『黒鉄一輝は昔からの札付きで、人格的に問題のある男だ』と。そんなものを見てステラが黙っていられるわけもない。だが激高するステラに赤座はあくまでもニタニタとして笑みを崩さない。

 

「いえいえ。それはすべて本当のことなんですよぉ。お姫様が知らないだけで。当然です。自分がろくでもない人間だと言いふらす者はおりませんからなぁ。しかし私たちは彼という人間を昔から知っている。・・・・身内のことを悪くいうのはほんとうぅに胸が苦しいのですが、この男、昔からどうしようもない悪党でして、傷害、窃盗、恐喝なんでもあり。ほら、ここに被害者のコメントも掲載されてるでしょう。んっふっふ」

 

「こんなの全部でっち上げじゃないの!彼がそんなことをする人間なら誰だってわかるわッ!」

 

「んっふっふ。まあお姫様がどう思おうと事実はこうして記事になったわけです。大衆がどう受け取るかは、明らかですなぁ。現にこの一報受けて一輝クンの騎士としての資質に対する疑問の声が連盟のほうでも強く上がっています。そこで緊急に、連盟日本支部のほうで本件に関する査問会が開かれてることになりましてね。その場で一輝クンの騎士としての資質を総合的に検証し、もし資質が不適合だと判断した場合、日本支部から連盟本部のほうに一輝クンの『除名』を申請させていただくことになったんです。・・・・・今日、私は一輝クンをその査問会に連れていくためにやってきたわけなんです」

 

その赤座の態度にその場の全員は確信した。これは一輝の実家からの一輝に対して明確な悪意を孕んだ攻撃だ、と。

 

「これは『倫理委員会』の正式な招集ですぅ。応じて頂けないと、んっふっふ。まぁ、一輝クンの立場はとても悪いものになってしまいますぅ。・・・・もちろん来ていただけますね。一輝クン。んっふっふ」

 

赤座は一輝の両肩に手を乗せ、ねっとりと告げる。それに対しは一輝はしばしの沈黙の後

 

「わかり「ちょっと待ちな」・・・・!」

 

一輝が答えようとしたところでその言葉は小太刀を構えた一人の男によって遮られた。

 

 

 




今回も原作通りになっちゃってますねぇ・・・ただ次回からはオリジナル展開です。楽しんでいただけたら嬉しいです!

ではまた次回会いましょう!

簾木 健


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喧嘩

今回はちょっと短めですけど許してください。

では今回も楽しんでいただけると嬉しいです!

簾木 健


「行かないでいいぞ一輝」

 

総司は固有霊装(デバイス)である《白和》を鞘から抜く。全員が唖然とする中、一瞬赤座の気持ち悪いほどの笑顔が崩れる。しかしすぐに戻る。

 

「おや・・・話を聞いてなかったのですか?これは・・・「倫理委員会からの正式な召集ってか?」・・・そうですよ。それを無下にするなど・・・・」

 

信じられないと赤座は言いたいのだろう。この場にいる全員は総司の行動の意図が読めなかった。しかも相手は『倫理委員会』。勝ち目などない。しかし総司はニヤリと笑った。

 

「いいぜ。喧嘩しよう」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

「んっふっふ。君は本当に命知らずですねぇ。そんな()()()を叩きのめすのも大人の仕事ですからねぇ」

 

ニヤニヤを崩さない赤座。ただ総司もうっすらと笑みを浮かべたままだ。

 

「御託はいい。どうする?あんたとおれでタイマンでもするか?」

 

「いえいえ。これは《倫理委員会》への宣戦布告と受け取りましたぁ。ですから《倫理委員会》の総力をあげて受けてたちますぅ。んっふっふ」

 

「そうか。じゃおれも家を巻き込むことにする」

 

「お家ですか?そういえば名前を聞いていませんでしたねぇ。んっふっふ。名乗ってもらっていいですか?」

 

ただ赤座は次の瞬間凍りついた。

 

「おれの名前は玖原総司。《天陰》玖原鷹丸の弟子にして、現玖原家当主玖原宗吾の長男だ」

 

「えっ・・・・」

 

赤座が今まで浮かべていた笑みが完全に消えた。

 

「どうした?喧嘩するんだろ?」

 

総司がニヤリと笑う。ただその鋭い眼の奥は全く笑っていない。その表情に赤座は一輝の肩から手を離し後ずさる。

 

「い、いや・・・・そ、それは・・・・ひっ!!!!」

 

一輝の手を離し少し距離が開いたところで総司は抜き足を使い赤座に近づきその首に《白和》の刃を当てた。

 

「どうしたんだよ?()()()を叩きのめすのは大人の仕事なんだろ?」

 

玖原家。その名前が有名になったのは戦時、《天陰》の活躍があったためだ。しかしその家の名は政府の重役の間ではもっと古くから知られている。なぜならその家は昔から政府を裏側から支え、暗殺、拷問、偵察など裏の仕事なら何でもこなす忍の一族の名前だからだ。しかも戦争が終わり多くの一族が真に命をかけた闘いから身を引き弱体化した中、玖原の一族はそうならず今でも裏で()()()()()()()をこなし命をかけた闘いに身を置いている唯一といえる一族なのだ。日本の伐刀者(ブレイザー)の表である黒鉄家、そしてその裏を支える玖原家。この二つの家が闘うことになると言うことは日本社会の根幹に揺るがす問題だ。総司もそれはわかっている。だから総司はここであえて引く。

 

「喧嘩が出来ないってんなら、さっさと帰ってあんたの上司に伝えろ。一輝はおれが・・・玖原家が預かる。交渉にもこっちにきな。そしてもし無理やりでも一輝をさらいに来たら・・・『わかってるな』ってよ」

 

「うわぁーーー!!」

 

総司から放たれた殺気。そのあまりの鋭さに赤座はカクカクと頷き、叫びながら逃げ帰っていく。総司を除くメンバーその姿を黙って見送る。総司は赤座が見えなくなったところで生徒手帳を開き電話をかける。

 

「もしもし」

 

『総司か。久しぶりだな』

 

総司の電話の相手、それは父親である玖原宗吾であった。

 

「久しぶり。師匠から連絡は来た?黒鉄の家の件なんだけど」

 

『ああ。というか調べて師匠に伝えたのはおれだ』

 

「そうなの?それなら話は早い。一輝の件ふっかけてきたよ」

 

『・・・さっき夕刊が届いた。これ本当か?』

 

「付き合ってるの事実。でも一輝の性格とか札付きとか女遊びの件は嘘だ」

 

『そうか。ならいい・・・・どうせ喧嘩売ったんだろ?」

 

「・・・・悪い。迷惑かける」

 

『構わん。たまには迷惑かけろ。親は子どもに多少の迷惑をかけられるくらいが嬉しいものなんだからな』

 

「・・・・・ありがとう」

 

『ああ。じゃあこっちは動きだすぞ。たまには実家にも帰って来い』

 

「わかった。今度帰るよ。じゃあまた」

 

『ああ。またな』

 

電話を切る。そこで一輝が総司に話しかける。

 

「玖原先輩・・・・」

 

「とりあえず病院行くか」

 

そう言って総司はニコリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、生徒会メンバーと総司と一輝とステラはステラを病院に連れて行き薬をもらった後、全員で食べ放題の焼肉屋に来ていた。総司と刀華とステラと一輝で一つのテーブルに座り、もう一つのテーブルに残りのメンバーが座って焼肉を堪能していた。ここに来るまで一輝は何度か総司に今日の件を聞こうとしたがはぐらかされていた。

 

「玖原先輩。そろそろ教えてください」

 

一輝が真剣に総司に問う。総司は刀華が焼いてくれた肉を口に運びながら首を傾げる。さっきからこんな調子で総司は一輝からの質問攻めから逃げていた。しかし一輝も逃すつもりはないのかさらに問いかける。

 

「どうして僕を助けてくれたんですか?しかも『倫理委員会』に喧嘩を売ってまで・・・・」

 

一輝表情真剣そのものただ総司は微笑を浮かべながら次の肉を取ろうしたところで横に座っていた刀華にトングで箸を止められてしまった。

 

「そうちゃん、答えてあげて。それに私もどうしてここでそうちゃんが動いたのか知りたい」

 

刀華からの言葉総司は刀華の顔を少しの間見て、諦めたようにため息をついた。刀華の表情に逃げることは許されないと悟ったからだ。

 

「頼まれたんだよ。玖原家から・・・・正確には玖原鷹丸からな。一輝が黒鉄の家からなにかちょっかいかけられたら助けてやってほしいって」

 

「「「えっ・・・」」」

 

総司の言葉に三人が驚く。ここにきて総司の口から出た英雄の名前。ただ本人である一輝は最もこの事態を飲み込めていなかった。

 

「僕は鷹丸さんとはあったこともありません。なのにどうして僕にそこまで・・・・」

 

一輝のその問いに総司は自嘲気味に笑った。

 

「それが()()だからだ。玖原の人間は自分の信用を置いた人間との約束は死んでも破らない。そして一輝お前を助けてほしいと言ったのは竜馬さんだ」

 

その言葉に刀華、ステラ、一輝が息を飲んだ。それに一切気にすることなく総司は続ける。

 

「生前に竜馬さんが師匠に頼んだみたいなんだ。それで今回は動いた」

 

「そうなんですか?」

 

「みたいだな。だから今回おれは動いた。報道についても玖原が動いてるからすぐに沈静化すると思うが・・・・ヴァーミリオンお前どうするつもりだ?」

 

そこで総司はステラを見る。その質問の意図にステラ自身はすぐに気づきハァとため息をついた。

 

「アタシはいいし、たぶんお母様も大丈夫だと思うんだけど・・・・お父様はね・・・・」

 

それに一輝が少し苦笑いを浮かべる。総司もハァとため息をついた。

 

「今日の報道についても耳に届いてるはずだ。一応連絡を入れておいてくれ。さすがに国際問題になればおれの家も介入することが厳しくなるからな」

 

「わかったわ」

 

総司の言葉にステラが頷く。それに総司は頷き返しまた肉を焼こうとするがトングは刀華が持っているため焼けない。

 

「刀華トング・・・・「そうちゃん」・・・なんだ?」

 

刀華の声が真剣だったためか総司の表情も少し真剣なものになる。

 

「またそういう仕事するの?」

 

「・・・・そうなるかもしれない」

 

総司は真剣な表情でしかしどこか諦めたようにそう言った。

 

「おれは玖原だ。どこまでいってもそれは変わることがない」

 

「そっか・・・・」

 

刀華は少し残念そうにでもどこか誇らしげにそう呟く。そんな刀華の頭を総司はポンポンと優しく叩いた。

 

「でも安心して待ってろ。必ず帰ってくる」

 

総司の頭ポンポンと言葉に刀華は顔を赤らめて頷いた・・・ただこんな二人のやり取りを目の前で見ていた二人は完全に同じ疑問を浮かべていた。

 

「「この二人付き合ってるの?」」

 

「うん?どうした二人ともポカンとして」

 

そんな二人の様子に総司が尋ねる。そこでステラは思い切って尋ねて返した。

 

「ねぇトーカさんとソージさんって付き合っているの?」

 

その言葉に二人は少しフリーズしてしまった。そして動き出したかと思うと二人揃って顔を真っ赤に染める。

 

「い、い、い、いや付き合ってないけど」

 

「え、え、え、ええ。そうちゃんの言う通りです。ただの幼馴染ですよ!」

 

「ふーん・・・そうなのね。なんかさっきの二人の雰囲気があまりにも恋人のものだったからそうなのかと思っちゃったわ。ねぇイッキ」

 

「うん。そうだったんですね。僕も付き合ってると思ってました」

 

「ははは。よく言われるんだが違うんだよ」

 

「ええ。本当によく言われますけど違うんですよ」

 

総司と刀華は必死に否定する。しかし、相手は一輝とステラ。恋人がいる二人にとって総司と刀華の行動は完全に見抜かれていた。

 

((付き合ってないとしてもこれなら時間の問題だな))

 

そんな二人の心の声に焦りすぎて完全に気づかない総司と刀華であった。

 




いかがだったでしょうか?

今回からオリジナル展開ですが、今回はまだオリジナルの本筋までいけませんでしたがキリがいいのでここで投稿しました。次回から本筋に入っていきます。

ヒロイン本当に迷ってます。どっちにしよう・・・どっちも魅力的で本当に困ります。

今回も感想、批評、評価のほう募集していますのでよろしければお願いします!

ではまた次回会いましょう

簾木 健


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離陸

また短くなってしまった!!

しかもあんまりまとまってない・・・・


こんな文ですが今回も楽しんでいただけると嬉しいです!!


簾木 健


 

「でだな一輝。悪いんだが・・・・・・」

 

総司は少し申し訳なさそうに言った。

 

「玖原に来てくれないか?」

 

「はぁ!?」

 

「いや・・・なんか師匠や父さんが一輝に会ってみたいようでさ・・・・・」

 

総司はそう言いながら一輝にメールを見せる。そこには一輝を連れてくるように書かれていた。

 

「だからさ、悪いけど玖原に来てくれ。旅費とかはこっちでなんとかするからよ・・・・今度の週末でどうだ?黒乃さんにも言って選抜戦もなんとかしてもらうし、その辺は心配しなくていい」

 

「いや・・・こちらも今回の件でお世話になってますし・・・挨拶に行くのは構わないのですが・・・・」

 

そこで一輝は尋ねる。

 

「玖原ってどこにあるんですか?」

 

「九州だ」

 

「「九州!?」」

 

一輝とステラが驚いて声を上げる。

 

「ああ。九州だ。分家じゃなくて本家、実家にだからな。そうだ。刀華お前も一緒に帰らないか?若葉の家にも行くつもりなんだ」

 

「そうなの?うーん・・・でも生徒会の仕事が・・・「その辺は大丈夫だから行ってきなよ」・うた君・・・」

 

そこで泡沫がおれたちのテーブルに向って話しかけてくる。

 

「仕事なら僕らでやっておくから行ってくるといいよ。生徒会に入ってから刀華は帰れてないし、たまには帰ってくるといい。お母さんが倒れたのは去年のことだし、少し僕も心配だから様子を見てきてくれない?」

 

「うた君・・・・本当にいいの?」

 

刀華が尋ねる。それにはカナタが頷いた。

 

「ええ。行ってきてください。会長はこんなことでもないとお休みしませんし、行ってきてください。総司さんも帰省楽しんできてください」

 

「カナちゃん・・・ありがとう」

 

「わかった。楽しんでくるよ」

 

カナタの言葉に刀華が頭を下げ総司は頷く。

 

「で?一輝はどうだ?」

 

「・・・・・わかりました。一緒に行きます」

 

「ああ。悪いが頼む」

 

「ソージさん・・・それって・・・」

 

そこでステラが総司に尋ねる。

 

「アタシもついて行ってもいい?」

 

「うん?ヴァーミリオンもついて来るのか?まぁ構わないが・・・・」

 

総司は少し不安そうな顔をする。それに一輝が首を傾げるが、刀華は何だか納得したような顔をする。

 

「なによ?何か不安なことでもあるの?」

 

「いや・・・ああ・・・・まぁ・・・・いいか。いいぞ」

 

「何か煮え切れないけど・・・いいならいいわ」

 

「まぁ・・・覚悟はしとけよ」

 

「え?ええ」

 

総司の言葉にステラはさらに首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?なんで増えてんだよ」

 

次の週末。週末前に行われた選抜戦では総司、刀華、一輝、ステラは勝ち抜くことが出来た。そして迎えた週末。空港にはその四人以外にも何故か二人増えていた。

 

「お兄様とその雌豚を一緒に旅行なんて行かせる訳にはいきませんから。それに今回の件について私からも謝罪がしたかったので」

 

「まぁいいが・・・旅費は出さないぞ?」

 

「構いませんよ。ちゃんと自費で行きます」

 

「ならオッケーだ。それよりそこの男は()()()()だ」

 

総司は珠雫の横に立っている背の高い男を睨む。その身には何故か凄まじいほどの警戒心が滲んでいた。

 

「なんかすごく警戒されてるわね・・・・」

 

その男は苦笑いを浮かべる。

 

「私の名前は有栖院凪。珠雫のルームメイトよ。一応選抜戦では全勝しているわ」

 

「へーー・・・そりゃそうだろうな」

 

総司は何だか納得したように頷いてから、ハァとため息をついた。

 

「ちょっと後で、有栖院には話があるから、あとでちょっと来てくれ」

 

「ええ。わかったわ」

 

それに凪は諦めたように頷いた。

 

「よし、じゃあ九州まで向うぞ。まぁ六人なら余裕で行けるわ」

 

「そういえば総司先輩。どうやって九州まで行くんですか?一応ステラが・・・・・・」

 

「ええ・・・・申し訳ないけど・・・・」

 

恰好は全員制服なのだが、いまステラと一輝は帽子を深くかぶり顔が見えないようにしている。ステラはヴァーミリオン皇国の皇族なのだ。しかもこの間の報道は沈静化したとはいえ、一輝とステラはあれだけメディアに晒されたのだ。しかもその二人が一緒にいるところをこの場で見られる訳にはいかない。総司もそれはわかっているようでああと頷いた。

 

「その辺は大丈夫だ。うちでプライベートジェットを用意してもらったから」

 

「・・・さすがは玖原ですね」

 

一輝がハハッと笑う。ただ刀華は総司のその話を聞いて目を細めた。

 

「そうちゃんその飛行機()()()()()?」

 

その質問に総司は頷いてニヤリと笑った。

 

「大丈夫だ。あの人に頼んだからな」

 

「あの人って・・・・・()()()?」

 

「ああ。()()()だ」

 

「そっか・・・ならそっちは大丈夫だけど、なんかある意味不安だね」

 

刀華はちょっと不安そうな顔をする。

 

「まぁ大丈夫だ。()()()はそういう時は大丈夫だ。うんじゃ行くぞ」

 

そう言って総司は全員を先導して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ!!!!お疲れ様です!!!総司ぼっちゃん!!!!!!」

 

白いプライベートジェットの隣で厳つい坊主頭の中年の男が大声で声をかけてきた。

 

「陣さん悪いね。わざわざ」

 

「いえいえ!!総司ぼっちゃんのためなら安いもんですよ!!!」

 

「ありがとうな。そういえばほら刀華」

 

「陣さん。お久しぶりです」

 

「おお!!刀華ちゃんじゃないですか!!本当に久しぶりですね!!!いや~~別嬪さんになって・・・・」

 

「いえいえ・・・そんなことないですよ」

 

「いや~~本当に別嬪さんになって!!!!もうおれは鼻高々ですよ!!!」

 

「あはは・・・ありがとうございます」

 

陣さんこと・・・・玖原陣助の勢いに終始押されっぱなしの刀華は少しげんなりとしていた。総司はそれを少し笑いながら見ていた。ただ他のメンバーはそれをポカンとしてみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、この人は玖原陣助。おれとは・・・・どんな関係になるんだっけ?」

 

「そうですね・・・・まぁ分家の二男坊ですし部下になるんじゃないですか?」

 

「だ、そうだ。今回はこの人に飛行機を操縦してもらって九州までいくからしっかり挨拶しとけよ」

 

「「「「よろしくお願いします」」」」

 

総司の言葉に刀華以外が挨拶と自己紹介をしていく。陣助はそれを一人ひとりにこやかに受けていたが、総司と同じで凪のところで目を見開きなにか言おうとしたところで総司に止められたこと以外はなにもなく、全員は荷物を積み込み。飛行機の席に座った。

 

「では離陸しますぜ!!安全のためにシートベルトお願いしやす」

 

その陣助がプライベートジェット内の放送で告げる。それに従い全員がシートベルトを着ける。それから飛行機はゆっくり走りだし段々と速度を上げ、九州に向けて飛び立った。




今回も繋ぎの話になってしまってすみません!!

ですが次回から九州編です!!

総司、刀華の故郷での話になります。ここで様々なことが起こるはずなので皆さん楽しみしていただけると嬉しいです!!

UAが70000を突破しました!!これも応援してくださる皆さんのおかげです!!これからもよろしくお願いします!!

またヒロインの件ですが正直決め切りません!!ですのでもうちょっと書いてみてからきめようと思いますのでのんびりと待っていてください!!

ではまた次回会いましょう!!

簾木 健


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到着

忙しくて短くまとまってない・・・自分の文章力の言い訳ですね

今回も楽しんでいただけると嬉しいです!

簾木 健


「そういえば総司先輩」

 

「どうした一輝?」

 

飛行機での移動中一輝はさっき気になったことを聞くことにした。

 

「さっき東堂さんと陣助さんのことをあの人と言っていたのはなぜなんですか?」

 

その質問に総司と刀華は苦笑いを浮かべた。

 

「陣さんは・・・・・なぁ?」

 

「ええ。陣助さんはすごくいい人なんですが・・・・・」

 

「?なにか問題があるんですか?」

 

珠雫の質問に総司は頭を掻いて言った。

 

「かなり優秀なんだ。実力では玖原家でもトップクラスの暗殺者だ。でもな・・・・・」

 

そこで言葉を切り総司はため息をついた。

 

「大事なところ以外ではドジッ子であり、トラブルメーカーなんだよ」

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

「そうなんですよね・・・・・」

 

総司の言葉に刀華以外が素っ頓狂な声をあげ、刀華はその言葉に頭を抱えた。

 

「何度森で迷って野宿やら、崖から落ちたり、賊と戦うことになったことか・・・・・」

 

『うわぁぁ!!!!!なんか高度が下がってる!!!』

 

そこで放送に悲痛な声が聞こえてくる。それに刀華と総司以外は顔が青くなる。

 

「とまぁこういうことがいつも起きてな」

 

「「「「いやいや!!!」」」」

 

全員が命の危険を感じる中、総司と刀華は冷静で顔色一つ変えない。

 

「マジでヤバくなったらおれがなんとかするし責任も持つ。だから・・・・」

 

総司はニヤリと笑った。

 

「せいぜい祈っていろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまあこういう事がありつつも一向はなんとか無事に九州の上空に辿りついた。

 

『では着陸しますので・・・・・ちょっと揺れるかもしれませんが・・・・・』

 

「全員衝撃に備えろ。かなりデカいのが来るはずだ」

 

総司が陣助の言葉に全員に指示を飛ばす。

 

「大丈夫なんですか?」

 

「まぁ死なんだろ」

 

一輝の震えた声に総司があっさりと返す。また全員が青い顔し刀華は苦笑いを浮かべた。そして全員が衝撃に備えた次の瞬間――――――激しい衝撃が全員を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー着いた着いた」

 

総司は飛行機を降り真っ先に身体を伸ばす。

 

「うん。良かったよ。本当に・・・・」

 

刀華は安心したように声を漏らす。ただ他の四人はげんなりとしていた。

 

「こんなに揺れた飛行機初めて」

「死にかけた」

「なんであの二人あんなに冷静で居られるんだ・・・・」

「二人ともずぶといわね」

 

これ以上にやばいことに何度も遭ってきている二人にとってはこれくらいのことは許容範囲であり、さして問題ではなかった。

 

「総司坊ちゃん!!!」

 

「陣さん操縦お疲れ様。ありがとうな」

 

「いえいえ!!!!このまま実家に行きますよね?」

 

「ああ。全員実家に泊まるつもりだから。悪いが荷物を運んでもらっていいか?おれを含めあっちのルートで行かないといけないから」

 

「わかりました!!!!では運んでおきますね!!!!!」

 

「みんな出しておくものないか?」

 

総司のその言葉にステラは首を傾げた。確かにいまから実家に向かうというのにわざわざ荷物を取り出すというのは不自然だ。

 

「なにか必要なものあるの?」

 

ただ総司はその問いに当たり前のようにこう返した。

 

「武器とか装備」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ・・・・ここから入るんですか?」

 

珠雫が驚愕の声を漏らす。なぜならそこは・・

 

「森ね」

 

ステラも驚いた表情だ。空港・・・・飛行機が着陸したところから少し行ったところには、森が広がっていた。

 

「あの滑走路は玖原家が所有しているものでなわざわざ実家の近くに森を切り開いて作ったんだ。んでこの森の中に実家がある」

 

総司が森を指さす。

 

「すごいところにあるわね・・・・」

 

凪の声にも感嘆が混じっている。。

 

「んじゃ入っていくぞ。絶対にはぐれないようにしてくれ。というか勝手に歩いていくなよ?」

 

「えっ?」

 

その忠告の中、ステラはもう森に入りそうになっていた。

 

―――ピーン

 

なにかが切れる音。

 

「ステラ!!」

 

それになにかを感じた一輝がステラをその場から退避させる。するとそれと同時にステラがいた場所にクナイが突き刺さった。

 

「えっ???」

 

「だから迂闊に入るなって言ったんだよ」

 

「なんなんですかこの森・・・・・」

 

珠雫の言葉に総司はそのクナイを抜きながら答える。

 

「この森にはな玖原家が仕掛けた罠が大量にしかけられてるんだ。まぁ簡単に言えば実家に入るための試験みたいなもんだ・・この森を突破できないと実家には辿りつけない。別のルートもあるがそっちは実家で一週間おきに出されるパスワードを知らないと入れないからな・・」

 

「どんな家なんですか・・・・」

 

珠雫がジト目で総司のことを見る。それに総司は苦笑いを浮かべた。

 

「まぁそういう家なんだ。悪いが付き合ってくれ。あとヴァ―ミリオン」

 

「なに?」

 

「一応、おれの実家の森だから木々を燃やすのは禁止だ。だから能力は最小限で頼む」

 

「・・・わかったわ」

 

総司の言葉にステラが頷く。それを確認して総司はもう一度言った。

 

「さて行くぞ。本当に勝手に歩いて行くなよ。この森は広い上にさっきみたいなのが大量にしかけられてるんだからな」

 

その言葉に全員が頷いたのを確認して総司はゆっくりと森に入っていく。それにならって全員が総司の後ろに続くように森に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ・・・・誰か入ってきた。初めての人かな・・・・って総司兄!?うわっ刀華ちゃんもいるし・・・・」

 

侵入者を確認していた。女の子が声を漏らす。

 

「そういえば、帰ってくるかもって言ってたけど・・・・本当に帰ってくるなんて・・・・これは今日の家は荒れそうだな・・・・そうだ、宗吾さんには連絡入れとかないと・・・・」

 

女の子はげんなりとしながら、総司の父に総司が帰ってきたことをメールで連絡する。

 

「・・・・ただ結構久しぶりだから、しっかり()()してあげるよ。総司兄」

 

そういって女の子の姿はそこから一瞬の内に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。総司が来たか・・・・・」

 

「あら?総司帰ってきたんですか?」

 

男の漏らした声にそこにいた女性が反応する。

 

「ああ。そうみたいだ・・・・・久しぶりだな」

 

「ええ。帰ってくるのは二年ぶりくらいかしら・・・」

 

そう言いながら一口お茶に口を付け女性は立ち上がった。

 

「・・・行くのか?」

 

「ええ。私くらいが相手をしないと総司もやりにくいでしょうし」

 

「・・・・どのみちやり辛いだろう」

 

「ふふ。そこはまぁ親子ですから」

 

男の苦い顔に女性は微笑み一礼して部屋を出て行った。




いかがだったでしょうか?

次回からは森の攻略。そしてちょっとしたバトルを入れていきます!

まぁついに総司の家族も・・・楽しみにしていてくださると嬉しいです!

感想、批評、評価募集していますのでよろしくお願いします!

ではまた次回!!

簾木 健


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門番

やっと書けました!!

いつも通りうまくまとまってないですが・・・・・

今回も楽しんでいただけると嬉しいです。

簾木 健




「本当にすごい山ですね」

 

「もう嫌だ・・・・」

 

「本当にどんな実家なんですか・・・・」

 

「こんなところに住んでる人本当にいるのね」

 

「ふふ、ここに来るとそうちゃんの家に来たという気がします」

 

刀華、一輝、凪はまだ余力をもってこの森を歩いていたが、ステラと珠雫はこの森で完全に神経をすり減らしていた。落とし穴などのオーソドックスな罠から、毒付きのナイフが飛んできたり、大量の蛇がいたりなど多種多様な罠が用意されていれば無理もない。

 

「確かに二人はこういった戦闘向きじゃないもんな・・・・・」

 

総司がそんな二人を見て笑う。

 

「もう少しで着く。もうちょっと我慢しろよ」

 

「そういえば、なんでこんな家にしたんですか?」

 

一輝が総司に質問する。すると総司はあーっと少し考えてから言った。

 

「実はよくわかんねぇんだ。師匠も知らないんだと。てか師匠が生まれたときはもうこうだったらしいから」

 

玖原家の歴史はかなり深い。しかし裏の世界という環境で生きてきたためか歴史には登場することもなく、家自体もそういったものを伝えるようなことをしていない。

 

「ずっと伝わっているものをしいてあげれば『天陰流』くらいだな」

 

「じゃけっこう謎の多い家なのね」

 

凪がそう言うと総司はああと頷く。ただその声にはやはりなにか凪に対して警戒をしているような声だった。

 

「まぁもうここまで来れば罠もほとんどないが・・・・あとは門番くらいか」

 

「門番?なによそれ?」

 

「この森を抜けていくと広場みたいなところに出る。そこには家に入る門とその門を守る門番がいるんだ」

 

「・・・・その門番強いんですか?」

 

珠雫が答えはわかってますと言ったように聞くが総司はそれに首を振った。

 

「そこまで強くない。玖原の家の中でも序列が低かったり子どもだったりなんだ。それなりで普通なら倒せる」

 

「・・・普通ならですか?」

 

一輝の気になった点を聞き返してみる。

 

「ああ。()()()()()

 

総司の顔にちょっと不安が影を差す。

 

「ちょっと・・・・いや・・・・かなりやばい気がするんだよ」

 

「やばい気ですか?」

 

一輝が首を傾げる。それにステラと珠雫の顔が青くなる。

 

「それってこの森よりよねぇ・・・・?」

 

ステラが恐る恐る総司に尋ねる。

 

「ああ・・・・もしかしたら・・・・・」

 

そこで森が開ける。そこには大きな広場と大きな和風の家と大きな門。そしてその門の前には・・・・・

 

「ハァ・・・・けっこう罠多めにしたんだけど・・・やっぱりここまでこれちゃったか」

 

一人の女の子がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総司兄、刀華ちゃん、久しぶり」

 

「久しぶりだな。美奈」

 

「うん。みーちゃん久しぶり」

 

「で?その黒髪の男の子と銀髪の女の子が()()なんだね」

 

そこにいたのは黒髪のショートカットで元気そうな見た目の女の子。ただその女の子はその元気そうな見た目とは異なり、静かに笑った。ただ一輝はその女の子を見つめ固まってしまった。

 

「・・・・この子強いな」

 

強くなるために自分にはそれしかないとして、ありとあらゆる武や武術者を見てきた一輝。そんな一輝から見てもこの目の前に立っている女の子は武術者として完成されていた。そして・・・・

 

「強さは劣っているけど、この底知れない雰囲気。総司先輩に似てる」

 

ゆえに一輝は完全に警戒態勢に入る。それに総司とその女の子は気づいたのか一輝の方を向いた。

 

「こいつは玖原美奈。おれの再従姉妹で今・・・・いくつだっけ?」

 

「覚えてないの?もう・・・・今は中学二年生です。本日はここの門番を任されました」

 

「ということは・・・・あんたを倒せばいいのね!」

 

そう言って少し瞳を輝かせながらステラは自分の固有霊装(デバイス)である妃竜の罪剣(レーヴァテイン)を展開しステラの周りからはメラメラの炎が揺らめくとともにステラから放たれる殺気が強くなる。

 

「この戦闘狂と一緒にされるのは嫌ですが、さっさとやりましょう」

 

そう言いながら珠雫も宵時雨を出し戦闘態勢を取る。ただそんな二人に対し美奈はちょっと残念そうに笑った。

 

「正直私も戦ってみたかったんだけど・・・・・今日はそれを譲ることになったんです」

 

美奈がそう言うと門が内側から開き背の高い女性が出てきた。長い黒髪に大きく少し切れ目な目。その目が少しきつそうな雰囲気だが、かなりの美人だった。その人を見て総司が苦笑いを浮かべた。

 

「ふふっ・・・総司あなたは外れてなさい。あなたの相手はさすがに少しキツイから後で相手してあげるわ」

 

「はい・・・・」

 

総司はそれに対して素直に頷いて美奈と一緒に端に避ける。刀華はその女性を見て完全に固まってしまう。一輝もその出てきた人の闘気に戦慄する。美奈は確かに強かった。ただこの人と比べると明らかに見劣りする。

 

「東堂さん。あの人は誰なんですか?」

 

「・・・・あの人は玖原恵さん・・・・そうちゃんのお母さんで・・・・」

 

そこで恵は自身の固有霊装(デバイス)である槍を取り出す。するとさっきまで放たれていただけの闘気が一気に収縮しその槍に吸い込まれていく。その異常さにステラ、珠雫、凪もその人の強さに気づいた。

 

「元KoK日本最高ランカーです」

 

「ーー!!!」

 

現KoKランカーで日本最高は3位の西京寧音だ。そしてその前は同じく3位で新宮寺黒乃。いま破軍で二人は教員、理事長の座についている。そんな彼女たちの先輩にあたるのがいま一輝たちの目の前で槍を構えている玖原恵なのだ。ランクとしては4位の座についていたが身体を壊しその座を退いた。ただそれでも彼女の本気に対して一輝たちが一対一でまともに戦えるような騎士ではない。それは恵もわかっているのかニヤリと総司によく似た笑みを浮かべた。

 

「さて、始めましょう。『雷切』に『黒鉄』にAランクにーーー面白い臭いのする子。さすがにキツイかもしれないけど全員でかかってきなさい。私が見極めてあげる」

 

そういうと恵の闘気がさらに高まる。一輝と刀華もそれぞれ固有霊装(デバイス)を取り出し構える。いまここに五対一の戦いが切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

「総司兄。どうなの勝ち目あるの?」

 

「・・・・きちんと連携出来ればいける」

 

「それは連携できなきゃ負けるってこと?」

 

「ああ。てか母さんはどれくらい動けるんだ?」

 

「たぶんもって10分かな。それくらいで薬の効果はなくなるって言ってたし」

 

「そうか・・・」

 

二人のこの会話が終了したとこで珠雫が動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!!」

 

珠雫は水の塊を放つ。

 

「速い」

 

美奈がそう呟く。でもそれはーーー恵には届かない。

 

「甘いわね」

 

そう恵が言った瞬間。その水の塊は恵の前で霧散した。

 

「えっ」

 

珠雫が突然の水の消失に驚きの声をあげる。

 

「いまのはーー」

 

ただ一輝はなにが起きたのかを正確に理解していた。

 

「いま珠雫が放った水を突いた。しかもあの一瞬で5回ーー本当に玖原の人間は並じゃない」

 

一輝は自分の肌が逆立つのを感じる。そこにさらに恵の闘気がぶつけられる。

 

「ただこの相手を竦ませる闘気はどこか総司先輩に似ているが少し違う。でもこの闘気の密度は本物の化け物だ」

 

前に黒乃と模擬戦を行ったときもこんな風にヤバイ相手と戦っている気がした。でもここまでだったかとも思う。

 

「東堂さん。どう攻めます?」

 

とりあえずなんとかしないといけないと思い横にいた刀華に尋ねる。刀華はそれに眼鏡を外しながら答える。

 

「今の突きを見るに簡単には攻めることは出来ません。なんとか崩す術を・・・・「刀華ちゃん。戦いの最中に余裕ね」・・・!!」

 

瞬間10メートルはあった筈の間合いが詰められた。そしてあの突きが来る。

 

「「くっ!!」」

 

二人がなんとかスレスレで反応し回避する。

 

「へー。いい反応ねっと」

 

二人の回避にちょっとした感嘆の声を漏らした恵に不意打ちと言わんばかりに凪が自らの固有霊装であるナイフで切りつけてるがそれはまた瞬間的に距離を空けられて回避される。

 

「さすがあの臭いをさせてるだけはあるか。良い攻撃ね」

 

「ふふ。ありがとう」

 

恵の言葉に感謝を返す凪だがその声には余裕がない。

 

「アタシもいるわよ!!」

 

そんなところにステラが切り掛かるがそれも急激に距離を空けられて回避される。

 

「皇女様も流石に強いわね。この魔力・・・・本物だね。うん。かなり良い線いってるしここを通るくらいなら合格」

 

そう言っておきながらその闘気はおさまるどころかさらに強くなる。

 

「さて、だから安心してーーー私に倒されなさい」

 

「えっ」

 

その言葉の次の瞬間、珠雫は気を失う。珠雫の前には槍を構えた恵の姿。

 

「魔術はともかくこの子、武術は素人ね。全く『黒鉄』はこれでいいのかね」

 

しみじみという恵に戦ってみた全員が理解する。この人は間違いなく総司の母だと。そしてその能力も。

 

「瞬間移動の能力。たぶん能力は自らを移動することしか出来ない・・・・でもあの槍術の前では・・・・・」

 

前にステラが刀華と珠雫との戦いを見て、刀華は能力と武術のバランスが良いと言ったことがあった。しかし恵のそれはそのさらに上を行く。能力が武術のためにあり武術が能力のためにあるとさえ一輝は思った。

 

「さてさて、あとはこうはいかないわね。誰から行こうかしら」

 

ゾクっと鳥肌を逆立てる4人。ただそんな中一輝は笑った。それに恵も気づいて笑う。

 

「ふふ。もう一人の『黒鉄』は生粋の武人のようね。彼はとっとくことにしてーーーじゃあ」

 

フッとその場から消えーーー凪の前に現れた。

 

「くっ!!」

 

凪は影を操り恵の攻撃を防ごうとするが、それは叶わない。神速の突きは凪を穿つ。

 

「さてこれで残り3人。うーんこの3人は本物ね」

 

さすがの恵もこの3人は別格だと理解する。でも恵は本当に楽しそうに笑っていた。

 

「それにしても今の破軍は良いわね。黒乃も楽しいでしょうね!!」

 

そう言いながらさらに恵は瞬間移動し、今度はステラの前に現れる。

 

「皇女様・・・悪いけど倒れて・・・!?」

 

「そんな簡単にいくわけないでしょ!!!」

 

ステラの周りから炎が噴き出し、恵は距離を取らされる。その場でついに刀華が動く。瞬間移動した先を読みその場に突っ込む。納刀したまま。

 

「!?」

 

驚く恵。放たれるのは刀華の代名詞であるあの技。ただあの技圧倒的な雷撃が来ない。なぜなら

 

「ちょっと驚いたしいい連携だけどもうちょっとね」

 

恵の槍。その切っ先が刀華の『鳴神』の柄頭を押さえ抜刀を行えなくしたからだ。

 

「くっ!!」

 

刀華が悪態をつく。しかしこの隙を逃さない・・・・一輝はそこまで大人しくない。

 

「一刀修羅」

 

突っ込む一輝が放つのは彼の技の中で最速の技。第七秘剣。雷光。

 

「くっ!!」

 

恵は瞬間移動してそれも避ける。そこを狙い撃つのはステラ。

 

妃竜の大顎(ドラゴンファング)!!!」

 

炎で作られた竜が恵に襲いかかる。

 

「まだまだ!!!」

 

しかし恵それを突き消滅される。しかしその竜の後ろから一輝が追撃をかける。

 

「甘い!!」

 

その一輝をも恵は連続で突き続ける。そしてその突きは完全に当たったかに見えた。しかし恵のついた一輝は霧のように消える。

 

「えっ!?」

 

そして突かれたはずの一輝が右側から現れて恵を切り伏せた。

 

「第四秘剣 蜃気楼」

 

「あっ・・・・」

 

恵はそう零し重力に従い倒れる。がその途中で総司によって受け止められた。

 

「勝敗は決したな。さて美奈、開けてくれ」

 

総司の言葉に美奈はハッと意識を取り戻し、困ったように笑った。

 

「まさか恵さんが負けるなんて思わなかったな。まぁでもこれは文句なしに合格。じゃあ皆さん中にご案内します。すみませんがそちらの気を失っているお二人はお願いできますか?」

 

美奈はそう言って玖原家の本邸に繋がる門を開いた。

 




どうだったでしょうか?

今回は戦闘シーンありでした!!

久しぶりの戦闘シーンですね。ただ総司は戦ってないですが・・・・総司の戦闘シーンは今度描きますので楽しみにしといてください。

前書きと後書きでなにかしたいなと思うのですが・・・なにも出てこないですねww

なにかいいことを思いついた人はできれば知恵を貸してください。よろしくお願いします。

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしければお願いします!!

ではまた次回会いましょう

簾木 健


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麒麟

進まない!!とにかく話が進まない!!!!

しかもうまく話が・・・・

こんなものでも楽しんでいただければ嬉しいです!!!

簾木 健


「倒れている人もいますのでまずはお休みください」

 

美奈はそう言い全員を部屋に案内する。そしてその最後はもちろん総司であった。

 

「総司兄は自分の部屋でいいよね?弄ってないからそのままだと思うし」

 

「ああ。もちろんだ・・・・・」

 

総司は頷いてから少し考えてから口を開いた。

 

「みんなが起きるまでちょっとあるな」

 

それに美奈はキョトンとした表情で返す。

 

「そりゃね。いくら幻想形態とはいえあの恵さんに突かれた訳だし簡単には起きないと思うけど・・・・どうかしたの?」

 

それに対しニヤリと総司が笑った。その顔は本当に恵によく似ていると美奈は思う。

 

「道場行こうぜ美奈・・・・ちょっと相手してやるよ」

 

美奈は嬉しそうに好戦的な笑顔を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美奈と最後に戦ったのはいつだったっけな?」

 

道場の中。刃が潰してある小太刀を両手に持った総司が屈伸をしながら尋ねる。

 

「確か総司兄が破軍に入学する前だから・・・三年前くらいかな」

 

美奈は手に持った刃をつぶした刀を振る。

 

「そっか。なら相当強くなってるんだろうな」

 

総司はそう言いながら準備運動を行っていく。

 

「うん・・・・前みたいに簡単には負けない」

 

美奈の目が爛々と輝く。そんな総司は苦笑いを浮かべた。

 

「こういうところで笑うのはやっぱり玖原の血だな」

 

そう言いながら総司は全身を伸ばし終わり、開始線に立つ。

 

「準備オッケーだ。さて美奈始めようぜ」

 

「うん」

 

美奈はスッと正眼に刀を構える。対して総司は両手をダラリと下げて美奈をじっと見つめる。その視線には途轍もないプレッシャーを纏っている。しかし美奈はそのプレッシャーに対し一切の躊躇いなく総司に対し真っ直ぐに踏み込み、切りかかった。その鋭さは一輝の一刀修羅を用いてないときの速度と遜色がない。

 

「・・・・」

 

しかし総司はそれを最低限な動きで見切り避ける。

 

「しっ!!」

 

ただ美奈の攻撃は一撃では終わらない。そこから刀を返し追撃を繰り出す。しかしそれも総司には届かずまた最低限の回避で避けられる。追撃はまだ終わらない。美奈はそこからさらに刀を返し振りぬき、総司の首を狙う・・・・がそれも総司には届かない。スッと後ろに跳び回避する。そしてまた間合いが空き一瞬睨み合う。ただ総司はすぐにフッと笑った。

 

「鋭い。速度だけなら一輝並みか・・・・強い武人に育ったな」

 

その言葉に美奈は少し笑みを浮かべるが、すぐに険しい表情になる。

 

「これでも届かない」

 

美奈は思う。この三年間研鑽を怠ったことなどない。厳しい鍛錬で自分を追い込み続けた。そのおかげで自分は三年前よりも格段に強くなった。自他ともに認めるほど成長した。しかしそれでも自分の目標としてきたこの人には届かない。しかも相手は本気を出すどころか、こちらを軽々とあしらっている。

 

「さてさて、攻めは大体わかった。次は守ってみせろよ」

 

「っ!!!」

 

総司が動き、姿が消える・・・・否。無意識の狭間に存在を入り込ませる。それに対し美奈は素早く対応し、自らの無意識に目を向け総司の姿を捉える。ただそれでも総司を相手にするのには遅い。

 

「行くぜ」

 

総司が右手の小太刀を振るう。総司の抜き足により反応が一瞬ではあるが遅れた美奈は後手にまわってしまいその攻撃を刀で受ける。

 

「くっ!!!!!」

 

その攻撃を美奈は何とか防ぎきる。さらにその防御は咄嗟だったが柔らかく綺麗に総司の攻撃を受け流し、それによって総司の態勢を崩した。

 

「ハァァァァァァ」

 

気合いを籠め崩れた態勢の総司に切りかかった。

 

「ちっ!!!」

 

総司は強く舌打ちをする。そんな総司に美奈は違和感を感じた。総司の表情こそ追い込まれているように見える。でもその身体は美奈の刃を避けるようと足掻いているようには見えない。

 

「おかしい。総司兄が勝負を途中で投げるなんてこと・・・・・!!」

 

そこで美奈は気付く。総司の左手。そこに握られているはずの小太刀がない。しかも目の前から何かが迫ってきている気配。

 

「やばい!!」

 

美奈は攻撃を中断し素早くバックステップして総司にたいし距離を取る。

 

「気づいたか」

 

「ふう・・・・総司兄こそまさかそんな攻めをしてくるとは思ってなかったよ。崩されて隙を見せといて小太刀を投擲してくるなんて」

 

「はは。これで決まると思ったんだが・・・・本当に強くなったよ。しかもあの攻めは破軍選抜戦で斬りかかる段階を防げたのはカナタだけなんだぞ」

 

総司の褒め言葉に美奈は自嘲気味に苦笑いをした。

 

「・・・・私には本当にこれしかないから」

 

それに総司はしまったと顔を顰める。美奈のこの言葉の真意。それは一輝以上に残酷な運命を意味していた。なぜなら玖原美奈には生まれつき魔力がない。美奈は伐刀者(ブレイザー)ではなく普通の人間なのだ。総司は心からそれが惜しいと思う。一輝と比肩するのではないかという向上心と武の才。ただ魔力がないため美奈はどんなに頑張っても伐刀者(ブレイザー)にはなれないのだ。

 

「それより総司兄。私見てみたいんだけど・・・・」

 

気まずくなったその雰囲気を壊すように美奈は少し戯けて笑う。総司は美奈のそんな気遣いに乗る。

 

「どうした?なにか見たいものがあるのか?」

 

「うん。総司兄・・・・天陰の技を見せて。私まだ基礎しかやってなくて・・・しかも総司兄が天陰を使ってるところ私見たことないから」

 

美奈の瞳が好戦的輝く。その瞳を見て総司はフッと笑い、身に纏う殺気の鋭さが増す。

 

「・・・・・・・・覚悟しろよ」

 

「っ!!!」

 

総司の殺気に美奈の表情が引き締まり、刀を正眼に構え総司の挙動に集中する。そして次の瞬間・・・・総司の身体は何の前触れも気配もなく前のめり倒れた。

 

「えっ?」

 

美奈は驚く。急に戦いの最中に気配もなく倒れるなんて美奈は見たことがない。ただもちろん総司に限って倒れるだけなんてことはないと美奈が思ったところでさらに美奈は驚くことになる。

 

「っ!!!」

 

なぜならそう思ったころには既に総司が美奈の懐に入って来ていたのだ。その距離からで防御が間に合う訳もなく総司の小太刀が美奈の首のところで寸止めにされた。

 

「ふう・・・」

 

総司は息を零し美奈の首から小太刀を離す。美奈そんな総司を唖然として見つめていた。そんな美奈に総司は笑いかける。

 

「今のが天陰の技の一つ。名前は『麒麟』。高速の移動から放たれる斬撃で真正面から敵を斬る技だ。もしくは相手の死角から斬りかかるのにも・・・」

 

そんな風に総司が技の解説を行っているうちに美奈の顔が驚愕からワクワクとした顔に変わっていった。

 

「ねぇ!総司兄!!今のなに!?総司兄が急に倒れたと思ったらもう私の懐にいて・・・・すごい!すごいよ!!これが天陰の技・・・・」

 

普段はクールな美奈が小さな子どものようにはしゃいでいるのに少し圧倒されるも、総司はすぐに嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の技は・・・・・・・」

 

そんな二人を少し開いた道場の扉から刀華は鳥肌を立てて見ていた。その鳥肌には二つの意味があった。一つはその技のキレ。たぶん自分にも防ぐことは出来ないという恐れ。そしてもう一つは・・・・・

 

「あの技は・・・・あの時の・・・・」

 

刀華の脳裏にはあの時の惨劇が思い出される。血で真っ赤に染まった服を纏い二本の小太刀を持ち涙を流しながら薄い笑いを浮かべた少年。そしてその周りに転がるいくつもの人間の頭。

 

「・・・・・っ!!!!」

 

思い出したくないと思っていた。でもこうして総司が戦っているのを見るとふいに思い出してしまう。

 

「・・・・・・強くなろう」

 

この光景を思い出すといつもこう思ってしまう。そして強くなって強くなって・・・・・・

 

「・・・・・彼と一緒にいよう」

 

 




どうだったでしょうか?

ちょっとずつではありますが、総司や刀華たちの過去も描けていければと思っていますのでそちらもお楽しみに。

次回は玖原家の人々を多くだしていきたいと思っています。

今回も感想、批評、評価、募集していますのでよろしければお願いします。

ではまた次回会いましょう。

簾木 健


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玖原

ちょっとは進むことができたかな・・・・

今回も楽しんでいただければ嬉しいです!!!


簾木 健


「刀華・・・・・なにしてんの?」

 

総司は視線に気づき入口を見るとそこには刀華が少し苦笑いを浮かべて立っていた。

 

「なんでもないよ。やっぱりそうちゃんはここにいると思ってね」

 

「ああ。ここが一番落ち着くしな・・・・それに・・・・・」

 

総司は刀華のさらに後ろを見る。刀華が振り返るとそこには一人の老人がいた。その人、白髪に眼鏡と老人っぽいと

 

「ここに来て、戦っていればあの人もやってくると思ってよ」

 

「ふぉふぉ・・・総司、会うのは久しぶりじゃの」

 

「ええ。お久しぶりです師匠」

 

「刀華ちゃんも久しぶりじゃの。また美人になったの」

 

「相変わらずですね。鷹丸さん」

 

「ふぉふぉ・・・・・二人とも強くなったの」

 

鷹丸の鋭い眼が二人を射抜く。その眼は正確に二人の強さを見抜いていた。

 

「まぁ・・・三年ぶりだし少しは強くなってないとだろ?」

 

総司は鷹丸から視線を外しそう言う。そんな総司を見て刀華は素直じゃないなぁと笑う。

 

「鷹丸さんに褒められるの嬉しいくせに」

 

そう刀華が思っていると鷹丸はまたふぉふぉと笑った。

 

「相変わらず総司は素直じゃないの。まぁそこが弟子としてかわいいところではあるのじゃが・・・・・そういえば総司。黒鉄の件、本当にご苦労じゃったの」

 

「別にいいよ。一輝を助けたかったのはおれもだし・・・それに今回帰ってきたのもおれが家に一つ言っておきたいことがあったからだし」

 

「そうか。そういえば黒鉄はどこにおるんじゃ?」

 

「一輝なら今は妹の看病してるよ。門番が母さんで、一輝の妹がやられちゃってさ」

 

「恵さんが出たのか・・・・そりゃ・・・()()()()()()()

 

「まぁおれはなにもしてないけん、大変やったのは刀華だな」

 

「私的には恵さんと戦えて嬉しかったよ。やっぱりすごく強かったし・・・・・」

 

「そういえば――――」

 

そこで総司がハッとして鷹丸に尋ねる。

 

「母さんは大丈夫なの?結構本気だしてたけど・・・・」

 

「そうなのか?儂はもう隠居の身であまり家のことに口出してないからの・・・・美奈どうなのじゃ?」

 

「恵さんのお世話は私がしてるよ。今は寝てるから後で確認しないといけないけど、たぶん大丈夫だと思うよ。ただやっぱり治すつもりはないみたい」

 

「そっか」

 

総司はそれを聞きため息をつく。総司が心配したのは恵の足の容態である。恵がまだ現役であったとき彼女は、とある事件に巻き込まれた。そこで彼女は二人の後輩を確実に逃がすためにとある人物と取引をしたらしい。その条件というのがその両足を差し出すこと。彼女はその条件を飲み、今でもその両足を治すことなくそのままにしているのだ。ただ今日のように戦いたいときは総司と同い年であるとある医師が作ってくれた薬を使い一時的に足を動くようにして戦っている。そのため普段は車いすで生活しているのだ。

 

「まぁあいつの薬なら後遺症なんかないけどよ・・・・・はぁ・・・・」

 

「やっぱりそうちゃん的には治してほしいの?」

 

刀華は総司のため息から尋ねる。

 

「・・・治るんだからな。あの人は頑固なんだよ・・・まぁそこが玖原の人間らしいけどな」

 

「ふぉふぉ。わかっとるじゃないか総司。まぁ折角帰ってきたのだから親孝行を少しでもするんじゃな」

 

「わかってるよ」

 

総司はそう言って道場から出ていく。

 

「・・・・ふぉふぉ。刀華ちゃんすまんな。いつまでも素直じゃない子じゃよ。あいつは。いつも大変じゃろ?」

 

「いえ!むしろいつも助けられてばかりです」

 

「そういえば・・・・総司兄と刀華ちゃんってもう付き合ってる?」

 

「へっ!??」

 

美奈の質問に刀華が顔を真っ赤にする。

 

「いや、こっちにいたときはまだだったから・・・・・もしかしてまだなの?それとも総司兄、カナタさんと付き合ってるとか?」

 

「えっ!!?いやっ!!私は付き合ってないし・・・カナちゃんとも付き合ってないと思うけど・・・・」

 

「えっ!?」

 

美奈はそれに驚いた顔をする。

 

「美奈。総司にそんな度胸があるわけないじゃろうが・・・どうせあいつのことじゃ。好意には気づいとるくせにどっちも傷つけたくないとか思って保留しとるのじゃよ」

 

鷹丸はハァとため息をつく。それに美奈は「あーなんか納得」といい苦い顔をする。刀華は真っ赤な顔を伏せる。

 

「・・・・やっぱりそうちゃんは気づいてるの?」

 

「それはそうじゃろ」

 

「っ!!?」

 

刀華は自分が声を漏らしているとは思っていなかったのか。ビクッとして鷹丸を見る。

 

「あいつは人の感情を読むのに長けておる。そこは父親に本当によく似とる。そんなあいつが気づかない訳はない。でも同時にあいつは怖いのじゃろう。刀華ちゃんにカナタちゃん。二人とも総司にとっては本当に大切な存在じゃ。それを傷つけてしまうのが。じゃから――――」

 

鷹丸は刀華に笑いかける。

 

「ダメなあいつをもうちょっと待ってくれんか?こっちからも煽ってみるからの」

 

「・・・・・はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総司は道場から出た足でそのまま、恵の部屋の前に来ていた。そしてまだ寝てるだろうと思いながら襖をノックすると中から「は~い」と間の少し抜けた声が聞こえてきた。少し総司は驚きながらもその襖をあける。その中には和室の部屋には似つかわしくないベッドが置かれそこに寝ている人物が見ていた。

 

「さっきはゆっくり話せなかったし、足も心配だったから来たんだけど・・・・起きてるとは思わなかったよ」

 

「あら総司。足は大丈夫よ。いつも通り。さすがキリコ先生ね」

 

「そっか。それはよかった。入るよ」

 

「ええ。いいわよ。椅子はそこにあるから」

 

総司は恵が指した場所にあった椅子に座った。

 

「ふふ。三年ぶりね・・・・もうちょっと帰ってきてくれてもいいのに・・・・もう」

 

「はは・・・・母さんや父さん、師匠なんかはよくてもね・・・・あのじじいとかよく思わない人もいるだろ?」

 

「そうだけど・・・・もうちょっと今後は帰ってきてほしいわ」

 

「はいはい。で?本当に大丈夫?」

 

総司はうまく恵の言葉を聞き流し尋ねる。もちろんそれは体調のことだ。それに恵はもうっと困ったように笑った。

 

「宗吾さんも総司も心配症ね。大丈夫ってさっき言ったじゃない」

 

「でも、万一があるからさ。そこはしっかりしてくれよ」

 

「わかってるわよ。同じことをなんども宗吾さんも言うのだから耳にたこできちゃうわ」

 

子供っぽく頬を膨らませる恵に、総司は苦笑いを浮かべ、ハァとため息をついた。

 

「やっぱり治すつもりはないの?」

 

総司はもう答えはわかりきっているが一応尋ねる。すると恵はフッと笑った。

 

「ええ。だって約束したから」

 

「ハァ・・・わかっていたけど本当に頑固だよ」

 

「当たり前よ。それに約束をしたのはあの『比翼』。そう簡単に破れないわ。黒乃と寧音にはまだ無事で生きてほしいっていうのもあるけど」

 

母さんが約束を交わした相手。美しい二刀の白い剣を振るうところからついたその二つ名を持ち、世界最強の剣士にして強すぎるために世界各国が捕えること諦めた犯罪者。『比翼』のエーデルワイスなのだ。その人から現破軍理事長である黒乃とA級リーグ三位である寧音を守るために戦い、最後に二人を見逃す条件として恵はその両足を差し出したのだ。ただ完全には切断されず足の腱など足を動かすための部分を切られたのは総司にはわからないし、恵に聞いても教えてくれないことであった。

 

「わかったよ・・・・・もうすぐしたら美奈が来ると思うから」

 

総司はそう言いながら椅子から立ち上がる。

 

「ええ。じゃあ()()()()()()

 

「ああ。()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、全員起きたな」

 

「はい。すみません。油断してました」

 

「ええ。不覚だったわ」

 

「いやおれも悪かったな。まさか母さんが出てくるとは思ってなくてな・・・・・もう過ぎたことを言っても無駄か・・・・・さてじゃあみんなには玖原家当主であるおれの父さんに挨拶してもらうから」

 

「そういえばそんな話だったわね。アポ無しで大丈夫なの?」

 

「ああ。その辺はさっき陣さんに頼んどいたから大丈夫だ。さっ行くぞ」

 

総司は時間を確認し歩いていく。それに一輝たちは付いていく。

 

「そういえば総司先輩のお父さんってどんな人なんですか?」

 

「えーと・・・・そうちゃんのお父さんはすごい雰囲気がある人です」

 

「なんかよくわからないわね・・・・」

 

一輝の言葉に刀華は少し考えてからそう答えステラが続く。

 

「ここまで来たんだ会ってみればわかるぜ。ここだ」

 

総司はその襖をノックする。

 

「どうぞ」

 

総司にちょっと似た声。

 

「入るよ」

 

総司は気軽にその襖をあける。中は広い畳の部屋。そこには一人使うには少し大きな机の前に正座して書類を捌いている人がいた。総司はその人から少し離れたところに正座して座る。それにならって全員腰を下ろす。全員が座ったことを確認してから総司は口を開いた。

 

「久しぶり父さん」

 

「ああ。総司か。久しぶりだな。刀華さんもご無沙汰していたね」

 

「はい。お久しぶりです」

 

刀華が言った通りなにか独特の雰囲気を持った男がスッと眼を細めた。

 

「総司連れの紹介をしてもらっていいかな?」

 

「わかった。この黒髪なのが、黒鉄一輝。今回問題になった張本人で、その右隣がステラ・ヴァ―ミリオン。こっちも問題になったから知ってるだろ?で左隣にいるのが黒鉄珠雫。一輝の妹でその隣が珠雫のルームメイトである有栖院凪だ」

 

全員が総司の紹介に合わせて頭を下げる。

 

「では私も挨拶することにするか――――私は玖原宗吾。玖原家現当主にしてそのうつけの父です」

 

宗吾がスッと頭を下げる。その所作はとても美しいものだった。

 

「・・・・自分の息子をうつけとはよく言うよ」

 

「帰ってきてもよいというのに放蕩はするくせに帰ってこない息子などそれで十分」

 

「この野郎・・・・」

 

総司が顔をひくつかせる。

 

「あの・・・・今回の件は本当にありがとうございました」

 

そこで一輝が口を開き頭を下げる。

 

「今回の件が大きくなっていたらと思うと・・それと実家がご迷惑をおかけしました」

 

「別にいい。それに今回の礼は実際に動いたそこのうつけと、我が祖父である鷹丸にされるべきだ」

 

「ですが・・・・」

 

「それに君の実家の件はいい。少しやり過ぎな気が私もしたところだし、一つ大きな貸しとして今後使わせてもらうしな」

 

「・・・・本当に抜け目ない」

 

総司はいつの間にか足を崩し胡坐をかいていた。

 

「それが政治だ。恵似のお前にはやはり向かないな」

 

「・・・・悪かったな」

 

「まぁそれはいい。皆さんここに滞在する間はなにかあればおしゃってください。私が手配しましょう。ではすみませんが私は失礼します」

 

そう言って宗吾は部屋を出てった。総司は全員に呼びかけ軽い食事をとるために全員で部屋を出た。




どうでしたか?

キリコ先生が少しですが出てきました。そして恵の約束。正直エーデルワイスって反則ですよねww

総司の両親も出てきました。総司は顔は父親似で性格は母親似です。

次回は弟と玖原の裏を出せたらいいなぁ・・・・あと天陰流の説明もしたいなぁ・・・・したいことばかりですができるように頑張ります。

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしけばお願いします。

ではまた次回会いましょう

簾木 健


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思慕

ついに20話目ですね。まさかここまで来るなんて・・・・話も少しづつ進み始めたのですが・・・・相変わらずの脱線。前の話でしたいって言っていたことがほとんど出来てないwwすみませんが次回までお待ちください。


あと気づけばUAが10万を超えそうです。本当に読んでくださるみなさんには感謝してもしきれません。これからもがんばっていきますのでよろしくお願いします。

では今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

簾木 健


全員にお茶菓子を出し、それを縁側で食べていたとき総司はあっと思いついたように聞いた。

 

「で?全員は今からなにするんだ?」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

総司の言葉に刀華以外は全員驚き叫ぶ。その様子に総司はキョトンとしてしまう。刀華のそんな総司に頭を抱えた。

 

「いやここにいてもやることはもうないぞ。今用があるのは一輝とそこの男女だけだ」

 

「えっ!!でも、この辺ってなにかあるの!?」

 

「うーん・・・・ショッピングモールとかなら山から下りていけばあるし、その辺なら遊べるようなところも・・・・」

 

「・・・・それってもう一度この山を登ることになりますよね?」

 

珠雫がゲソッとした顔になる。しかしそれに対して総司は首を振った。

 

「裏道から登ってきていいから、あんな風に罠はない。たぶん頼めば美奈がお供についてもらえるだろうから完全に安全は保障する」

 

「そうなんですか?そこまでしてもらえるのなら・・・・」

 

珠雫はスッと視線を総司からはずし凪を見る。珠雫はかなりの人見知りだ。さすがにいきなり知らない土地で一人で行くのは不安を感じていた。その不安を一輝ではなく友人である凪に向けてしまった。それに凪はフッと微笑んだ。

 

「珠雫に私もついていくわ。総司先輩、私の用事今から済ませてもらってもいいかしら?」

 

「・・・・・すぐに済むのか?」

 

総司の目がスッと細められる。それに凪はええと頷いた。

 

「わかった。じゃあこっちに来てくれ」

 

「ええ。じゃあ珠雫少し行ってくるわね」

 

二人は立ち上がり縁側から部屋の中に入っていった。

 

「・・・・総司先輩はアリスになにを感じたんでしょうか?」

 

一輝が刀華に尋ねると刀華は首を傾げる。

 

「詳しくは私にもわかりません。でも・・・・そうちゃんがあんな目をするときは大体私たちの為のときなんですよね・・・・」

 

刀華は嬉しそうにでも少し不安げに言う。

 

「そうちゃんはあんな顔して一人でなんでも背負い込んで・・・・ふふ・・・すみません。なんか私の愚痴みたいになっちゃいましたね」

 

「・・・トーカさんってソージさんのこと「それを聞くのは野暮ですよステラさん」・・・珠雫」

 

珠雫はスッとお茶を飲み続ける。

 

「東堂さん。その気持ちよくわかります。もっと頼ってほしいところですよね・・・・でもそれを求めるのは無理ですよ」

 

「ええ。わかってます・・・・ふふ。珠雫さんの大切な人もそんな人なんですね」

 

「ええ。無鉄砲でこっちの心配も考えず突っ込んでいって怪我をして帰ってくるような人です」

 

ジト目で一輝のことを睨む珠雫。その視線にどうしようもなくなり苦笑いをしながら視線を泳がせる。

 

「でも気づいたんです。そんな人にそれをやめるように言って無駄なんですよ。しかも私たちはそんな人を大切に思ってしまったんですから・・・・諦めるしかないんですよ」

 

珠雫の悟ったような言葉に刀華は感銘を受けた。しかし

 

「ここにいたくない」

 

一輝は冷い汗が背中を流れるのを感じる。自分のことをしかも、そんな風に悟ったことを言われるなんて・・・・もう一輝としては黙って顔を落とすしかない事態だった。

 

「・・・・でも、私はそんな彼の隣に立ちたいんです。もっと強くなってその人の隣に立って戦いたいんです」

 

「・・・・ふふっ」

 

刀華の一生懸命な言葉。珠雫はそんな刀華に微笑みを浮かべる。

 

「東堂さんと私はよく似てるんですね・・・・わかりますよ。その気持ち。もうそれは努力するしかないですよね」

 

「はい!!一緒に頑張っていきましょう!!」

 

「はい」

 

刀華と珠雫がギュッと強い握手を交わす。それをステラはよく訳がわかってない様子で見ていた。

 

「で?結局トーカさんはソージさんのことをどう思ってるの?」

 

「・・・・本当に脳筋ですね」

 

珠雫はハァとため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてこの部屋でいいか。まぁ聞こえないだろうし・・・・・ああ。誰もいないな」

 

総司はスッと目を細め凪を見る。

 

「ふふ・・・で?聞きたいことっていうのは私の過去のことね」

 

「さすがにわかってたか・・・・・ああ。その手。()()()()()()()?」

 

「・・・総司先輩。あなたこそどんな人生を生きてきたの?」

 

それに総司は鼻を鳴らし少し目を伏せる。

 

「ふつうの人生だよ・・・・お前と()()()

 

「そうなのね・・・・」

 

凪は総司の言葉に薄く笑いを浮かべる。凪と一緒。それが普通の人生であるはずがない。あんな風にためらないもなく人を殺して生きることが普通であってはならないのだ。

 

「で?お前の目的はなんだよ?」

 

「目的?」

 

「ああ・・・・お前みたいな生粋の暗殺者を破軍に派遣した組織のこと。そこがなにをしようとしているのか教えてもらってもいいか?」

 

その言葉に凪は困ったように笑った。

 

「まさか、そんなところまでばれているなんて・・・・私暗殺者失格かもね」

 

「お前は悪くないよ。おれがそういうのを見破るのに長けてるだけだ。それにお前クラスの暗殺者を派遣してまで成したいことがあるってことはデカいこととしか思えないからな」

 

「あら、私結構認められているのね」

 

それに今度は総司が薄く笑う。

 

「ここに来るまでの道のりと母さんとの戦い。一切と言っていいほど隙がない。母さんに突かれたのもわざとだろ?そんな人間が普通の暗殺者な訳ないだろうが。普通は珠雫やヴァーミリオンみたいになる。今後はそういうところではちょっと演技するべきだな」

 

「今日はバレテると思ってたから隠してなかっただけよ。でも今後の参考にさせてもらうわ」

 

「で?さっさと話せ。あんまり時間がかかるなら拷問にかけることになるぞ。もちろん珠雫とのお出かけもなしだ」

 

「拷問はともかく珠雫とのお出かけの約束は破れないわね」

 

「じゃあ・・・・」

 

「話すわよ」

 

凪は両手を挙げて降参とジェスチャーをしながら続ける。

 

「私は元々解放軍(リベリオン)からやってきたのよ。暗殺者としての技は全部そこで教え込まれた」

 

「なるほどね。《軍》か・・・・で?なにをするつもりなんだ?」

 

「詳しくはなにも・・・・でも七星剣舞祭を叩き潰すみたいよ」

 

凪の言葉に総司は面倒くさそうに頭を掻く。

 

「・・・・もしかして黒鉄王馬も関係してるのか?」

 

「ええ。私は彼ともう一人、連絡係り以外は知らないわ。でもたぶんすぐにわかると思う」

 

「まぁなんだかんだで全国の実力者は大体名が知れてるからな・・・・無名の奴は()()()()()()()

 

「そうね。そうなるわね」

 

「・・・・まぁわかった。で?お前はどう動くんだよ?」

 

総司はそこでついに本題を切り出した。

 

「・・・・最初は命令通り動くつもりだったわ」

 

凪の表情に変化はない。普段通り、なにを考えているのかわからない表情。ただその表情に総司は凪の憂いを感じ取った。

 

「でもね、私は出会ってしまった。自分のすべてを曝け出せるような少女に、自らを傷つけるだけ傷つけて自分の大切な人のために尽くす少女に」

 

総司はその言葉を黙って聞いている。その表情は完全に無表情であり、話している凪には総司の考えや気持ちはわからない。凪は壁と話している印象すら持ってしまった。しかし話はやめずに続ける。

 

「で、その子を傷つけることはできない。だから私は・・・・」

 

そのあとの言葉はいらない。総司はハァとため息をついた。

 

「・・・・アリスお前はこれまで通り動いて情報をおれに渡してくれ」

 

「わかったわ。で?それでどうするの?」

 

「・・・・とりあえずはなにもしない」

 

「・・・・・わかったわ」

 

凪がフッと笑った。

 

「・・・・ただアリスこれだけは覚えといてくれ」

 

「なに?・・・・っ!!」

 

総司は自らの身体から殺気を迸らせる。それに凪は完全に飲み込まれてしまう。つねに刃を首に突き付けられているような殺気に凪は鳥肌が全身に逆立つ。暗殺者として生き、様々な実力者と出会った。でもこれほどの殺気を持っているような実力者は数えるほどしか凪も知らなかった。

 

「先生でもここまでなかった。この殺気の鋭さはまるで・・・・・・」

 

凪が思い出すのはいままで出会った()()()()()。それクラスではないと比較できない。

 

「もし裏切って・・・・いや裏切るのはいい。でもそれによっておれの大切な仲間を傷つけたときは・・・・アリスお前を殺す」

 

「・・・・ええ。わかったわ」

 

凪は絞りだすようにそう頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さって終わったぞ。じゃあ珠雫とアリスは山を下りるんだな」

 

「はい。そうさせていきます」

 

総司と凪が戻るとステラと珠雫が言い争いをしていてそれを刀華が宥めているという状況になっていた。三人とも打ち解けたもんだななど総司は思いつつ、刀華を少し手伝ってそれを止めてから話を切り出した。

 

「わかった。とりあえず美奈に頼んでみるか。まぁ刀華も下りるからたぶん大丈夫だけど・・・・」

 

「えっ?東堂さんも下りるんですか?」

 

珠雫が刀華に尋ねると刀華は「うん」と頷いた。

 

「私も『若葉の家』に顔を出しに行くよ。今日はそっちに泊まるから戻ってくるのは明日だけどね」

 

「そうなんですか・・・・じゃあ、玖原先輩護衛はいいです。東堂さんがいるのなら・・・」

 

「でも戻ってくるときが・・・・」

 

「それは戻り方だけ説明してくれれば私がなんとかするわ」

 

凪がニコリを笑っていう。

 

「そうか。なら陣さん!!」

 

「はい!!およびでしょうか坊ちゃん!!!」

 

総司が叫ぶとどこから出てきたのかわからないほどの速度で陣助が現れる。刀華はハハッと苦笑いをしているが、全員はその速度に驚いて固まってしまう。総司はそれを気にして様子もなく陣助に要件を告げる。

 

「アリスと珠雫に裏からの山の下り方と登り方を教えてくれ。で出口まで送ってやってくれ。おれは残ったこの二人を連れて師匠のところにいかないといけないから・・・・・」

 

中途半端に総司が言葉を切る。陣助はそれを一瞬不思議に思うもすぐに気づく。今ここに近づいてくる人がいるということ。そしてそれが誰かということを・・・・・

 

「なにかうるさいと思ってきてみれば、まだ生きておったのか愚孫よ」

 

「ああ。生きてたよ。糞じじい」

 

現れたのは見るからに歳を取った男性。背は曲がり顔の皺も多い。でもその人が身に纏う雰囲気にはゾッとするほどの鋭さがあった。そしてその雰囲気は総司と宗吾二人と似ていた。

 

「なにをしに来た。鳶人」

 

陣助の押し殺したような声。その声には確かな殺気が乗っており、今まで陣助の雰囲気とはまるで違っていた。

 

「ふん。分家ごときが儂になにか言うなど恐れ多いぞ・・・・相変わらず下僕の躾がなってないぞ。総司」

 

「・・・・いやなってるはずだ。そうだろ?主人の敵に対して敵意を向けるのは当たり前だ」

 

総司がフッと笑う。それに対して鳶人はふんと鼻を鳴らした。

 

「敵か。その通りじゃな。で?そこにおるのが黒鉄の落ちこぼれか。なんともお似合いな組み合わせだの」

 

「・・・・あなたは何者なんですか?」

 

珠雫が不快感をあらわにし鳶人を睨む。そしてそこで珠雫は気づいた。自分がこの人と会ったことがあるということに。

 

「そこの黒鉄のお嬢様には何度か会ったことがあるのじゃが・・・・・儂は玖原鳶人。そこにおる玖原総司の祖父にあたる」

 

「よく今でも祖父などと言えたものだな。この玖原の面汚しが」

 

陣助がぺっと吐き出すように言う。それで一輝は気づいてた・・・・・というよりは察した。

 

「まさかこの人が・・・・」

 

鳶人は陣助の悪態にも動ずることなく・・・・というか陣助の言葉など耳に入ってないように続ける。

 

「もう帰ってくるなと総司には言ったと思うが・・・・なぜこの家にいる?」

 

「師匠と父さんに一輝と一緒に帰ってくるように言われてね。あんたの大好きなおれの弟も後で帰ってくるはずだ」

 

「そうかそれは楽しみじゃの。次期当主が帰ってくるのなら盛大な準備が必要じゃな。では儂はこれで失礼する」

 

「なっ!?この野郎・・・「陣さんいいから」坊ちゃん・・・・」

 

まだ嚙みつこうとしていた陣助を総司は止めて話を進める。

 

「じゃあ陣さんは三人を頼むね。おれは残りを連れて師匠のところに行ってくるから」

 

「・・・わかりました。ではお三方ついてきてください」

 

陣助はなにか言いたげだったが総司の命に従い、三人を連れて行ってしまう。陣助が見えなくなったとこで総司はハァとため息をついた。

 

「たく・・・・・・悪いな。身内の恥をさらしちまった」

 

「いえ・・・・それより総司先輩()()()()()()()()()()()

 

その質問に総司は少し黙ってから答えた。

 

「おれは昔あの人に殺されかけたんだよ・・・まぁそれは別にそこまで気にしてないんだが・・・・」

 

そこで総司はスッと目を細める。その目の鋭さはまさに剣のようだった。

 

「あいつは刀華とカナタにも手をあげたんだよ」

 

「えっ!?」

 

ステラが驚きの声を上げる。一騎はそこで完全に納得する。

 

「あとおれが玖原家で仕事を色々やらされてたのもあいつのせいだな」

 

「じゃあ・・・・あの人のせいで総司先輩が東堂さんと同じ児童養護施設に入ることになったんですね」

 

「うん?あれ?おれ一騎にそんな話ししたっけ?」

 

「いえ、この間奥多摩で御禊先輩から聞きました」

 

「なるほどな。まぁそれだ。その時当時玖原の内部抗争が起きてな。結構大変だったんだ」

 

総司が少し遠い目をする。本当に色々あったみたいだなと一騎は思う。

 

「それは大変だったわね」

 

「ああ。その時あいつらの側が抗争には敗れたんだ。だから、おれがそのまま玖原家を継ぐことにしてもよかったんだがさすがにそれをすると、もう一度抗争が起きそうだったんだ。それでおれはそれを弟に譲ることにしたからおれは玖原を継がないことになったんだ」

 

総司はそう説明をし終わるとフッと何かに気づいたように顔をあげ二ヤリと笑った。

 

「噂をすれば影っていうのはこのことだな」

 

「「えっ?」」

 

そこで廊下をドタバタ走しってくる音が近づいてくることに一騎とステラも気づく。

 

「帰ってきやがったか」

 

「兄さん!!!」

 

そう響く声。そして現れたのは総司によく似た顔をしているが総司が絶対に浮かべないような満面の笑みを浮かべた少年だった。




いかがだったでしょうか?

今回は総司の仇敵が登場しました。なぜそういうことになってしまったのかというのは今後書いていければと思っています。それに一騎を絡めて三巻であった一騎の成長につなげていければと思っています。

今回も感想、批評、評価どんどん募集していますのでよろしければお願いします。

そういえばUAの話をしましたが、なにか記念回書いたほうがいいですかね?よろしければそのアイディアもいただけるとうれしいです。

ではまた次回会いましょう

簾木 健



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才能

UAがついに10万を超えました!!

本当に読んでいただいてありがとうございます!!!

これからも頑張って投稿していきますのでよろしくお願いします。

では今回も楽しんでいただけると嬉しいです!!

簾木 健


「兄さん!!久しぶり!!」

 

「ああ。久しぶりだな浩司」

 

「うん。やっぱり僕も兄さんのいる破軍行くべきだったよ」

 

「なんだ?武曲じゃもの足りないのか?」

 

「それはないよ。雄大さんみたいに強い人がいるしそれはいいんだけど・・・・やっぱり流派のことはね・・・・で、そこの人たちは?」

 

「そういえばまだ紹介してなかったな。こっちの黒髪のほうが黒鉄一輝。あの『黒鉄』だ。でこっちの赤髪のほうがステラ・ヴァーミリオン。ヴァーミリオン皇国の王女様だ。こいつは玖原浩司。おれの弟で玖原家の第一当主候補だ」

 

「初めまして。玖原浩司と言います。いつも兄さんがお世話になっています」

 

浩司は笑顔で総司とステラに挨拶をする。こういうところを見ると少し・・・かなり無愛想な総司とは似てないと二人は思ったが二人は挨拶を返す。

 

「初めまして。黒鉄一輝です」

 

「初めまして。ステラ・ヴァーミリオンよ。よろしくね」

 

「はい。よろしくお願いします。そういえば兄さん。今からなにかするつもりだったんじゃないの?」

 

「ああ。今から師匠のことに行くんだ。お前は爺のところだろ?」

 

「うん。呼ばれているから」

 

「じゃあ。また後でな」

 

「うん。またね」

 

そう言って浩司は一輝とステラに一礼してからどこからに行ってしまった。

 

「あれがさっき言っていた次期玖原当主ね」

 

「ああ。どう思った一輝?」

 

総司がニヤッと笑って一輝を見る。一輝はうーんと少し考えてから答える。

 

「正直総司先輩や美奈さんや恵さんを知っているとかなり強いとは言えないですけど・・・・それでも強いですね。たぶん七星剣舞祭レベルくらいには強いですね」

 

「そうなの?それならかなり学生騎士としてはかなり強いじゃない」

 

ステラが驚きの声をあげる。ただそれに総司は少し苦笑いを浮かべた。

 

「まぁあいつのことは後でいいだろ。さてじゃあ行くぞ」

 

総司は二人を伴って鷹丸のところに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、じゃ開けるぞ」

 

総司が二人を伴ってやってきたのは玖原家の道場だった。総司は二人にことわってから道場の扉を開けた。そこにはニヤリと総司に似た笑みを浮かべた老人には見えない白髪の男が正座で座ってこっちを見ていた。

 

「来たな」

 

その男はゆっくりと立ち上がった。スッとした真っすぐな背筋。その背と身に纏っているオーラに一輝は確信した。

 

「この人は間違いなく本物の達人だ」

 

「・・・・ほう」

 

一輝のほうを見て鷹丸はふっと笑った。

 

「流石はりゅうの奴の忘れ形見じゃの。その若さで多くの修羅場を潜ってきたようじゃ」

 

「・・・・っ!!」

 

鷹丸と目があった瞬間。一輝の背に冷たい汗が流れた。それに対して総司がハァとため息をついた。

 

「師匠。あんまり一輝をいじめないでください」

 

「ふぉふぉ。すまん。ただかなり強いの。そっちのお嬢さんもかなり強い。総司。なかなかいい環境におるようじゃの」

 

「ああ。で?一輝たちをなんで呼んだんだ?」

 

「ふぉふぉ。一目見たかったのじゃ。あのりゅうの忘れ形見。そして世界最高の魔力量をほこる皇女様もな」

 

「ヴァーミリオンのこと知ってたのか?」

 

総司が少し驚いて尋ねる。すると鷹丸はまたふぉふぉと笑う。

 

「あたりまえじゃ。いくら引退したからとて情報収集を怠るようなことはせんわい。総司・・ちょっと儂をなめとるじゃろ?」

 

「いや。そんなことはないよ。で?一輝たちはなにか聞きたいことないか?」

 

総司の言葉が砕ける。普段の二人はこんな感じなのである。

 

「えっと・・・アタシ一つ聞きたいことがあるんだけど・・・・」

 

ステラがおずおずと手を挙げる。

 

「なにが聞きたいんだヴァーミリオン?」

 

「えっと・・・そういえばソージさん。いまさらなんだけどアタシあんまりヴァーミリオンって呼ばれるのは好きじゃないのよ。だからできれば・・・・」

 

「わかった。今度からステラと呼ぶことにするよ。で?」

 

「ええ。ありがとう。実はなんだけど『天陰流』のことって聞いても大丈夫?」

 

武術を収めているステラからすると流派のことを聞くことが躊躇われたのか、ステラが少し申し訳なさそうに尋ねる。総司と鷹丸はそれにフッと笑った。

 

「別に構わないよね?」

 

「そうじゃの。で?姫様はなにが聞きたいのじゃ?」

 

「えっと・・・・本当にいいの?」

 

「ああ。まぁ奥義のこととかは話せないが、それ以外ならいいぞ」

 

「えっと・・・じゃあ・・・前にトーカさんが『天陰流』は敵を一撃で倒すことができることが技になる条件って言ってたんだけど・・・・本当なの?」

 

「ああ。その通りだ。ただそれ以外にも条件はある」

 

「ほかの条件ですか?」

 

そこで一輝も会話に加わる。そしてそれには鷹丸がうなずいた。

 

「そうじゃの。天陰流の技として認められるにはそれに加え、天陰流の初伝にある体技を用いていることが必要になるの」

 

「『天陰流』の体技って『抜き足』とかもそうなのよね?」

 

「お?それは知っていたのか。まぁそうだな。『天陰流』は初伝がその体技を収めることで皆伝になる」

 

「そうなのね・・・・そういえば他にはどんな体技があるの?」

 

「・・・・それは口で言うより見たほうがよいじゃろうな」

 

フッと笑い総司を見る鷹丸。それに総司はハァとため息をついた。

 

「じゃあ見せてやるから・・・・ステラちょっとそっちに立ってくれ」

 

総司は少しステラを離れた位置に立たせる。そして総司はそのステラの正面に立った。

 

「さて、じゃあ行くぞ」

 

総司がそう言うと一瞬の間にステラの目の前まで移動した。ステラはそれに驚愕の表情を浮かべる。一輝はそれを見て言った。

 

「気配もなく移動する体技ですね」

 

「ああ。『縮地』っていう体技だ。移動系の体技は主にこの二つだな。あとは受けの体技になっているが・・・・これは見せれない」

 

「うむ。受けの体技は『天陰流』の裏の神髄にあたるからの。それはさすがに見せることはできんが・・・黒鉄はもうわかっているようじゃから気になるのなら後で聞いておくとよい」

 

鷹丸の鋭い目は正確に一輝の実力を見抜いていた。そんな一輝も一つ質問する。

 

「前に『天陰流』の技を使おうとしたんですけど、どうしても劣化にしかならなかったんです。それはどうしてなんですか?」

 

その一輝の質問に総司は苦笑する。

 

「しようとしたんだな・・まぁそうだな・・」

 

総司は少し言葉を切り鷹丸のほうをチラッと見るとフッと鷹丸は笑って頷いた。それを確認してから総司は話始める。

 

「おれたち玖原家は元々特異体質なんだ。二人とも白筋と赤筋は知っているよな?」

 

「はい。瞬発力の白筋。持久力の赤筋ですよね」

 

「ああ。その通りだ。あとその両方の性質を持つピンク筋って言うのがあるのも知っているか?」

 

「ええ。僕自身もその筋肉を増やそうとトレーニングをしています」

 

「でだけどな・・・・おれたち玖原家の人間はそのピンク筋以上の筋肉を持っているんだ」

 

「ということは・・・・・」

 

一輝はその言葉に戦慄する。その筋肉質の差がどれくらい戦いに影響をもたらすかを痛いほど理解している。

 

「そういうことだ。まぁそのために『天陰』の技は玖原の人間しか使うことが出来ないんだ」

 

「・・・・・なるほど」

 

一輝は納得したように頷く。ただそんな一輝にふぉふぉと鷹丸は笑いかけた。

 

「身体や魔力といった才能以上に大切なものもある。それを一番信じることが大切なことじゃ」

 

「・・・・ありがとうございます」

 

一輝がペコリと頭を下げると鷹丸はまたふぉふぉと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後総司たちは外に出ていた珠雫たちが帰ってきてから全員でご飯を食べた。その夜・・・一輝はひとりで縁側に座っていた。

 

「はぁ・・・・」

 

ため息を一つ付く。

 

「よう一輝眠れないのか?」

 

「っ!!!」

 

そんなところにフッと寝間着なのか甚平を来た総司が現れた。

 

「総司先輩・・・・」

 

「隣いいか?」

 

「あ・・・はい」

 

「おう・・・ほら」

 

総司は隣に座りながら一輝に向かってペットボトルのお茶を差し出す。

 

「あっありがとうございます」

 

「ああ・・・・で、眠れないのは昼間の話のせいか?」

 

「えっ!?」

 

一輝が驚いて目を見開く。そんな一輝に総司はフッと笑った。

 

「さすがに師匠にあんなことを言われれば気づく。で?どう思ったんだ?」

 

総司の言葉に一輝はまたため息をついた。

 

「さすがに少し考えてしまいました・・・・総司先輩少し聞いてもいいですか?」

 

「ああ。なんだ?」

 

「総司先輩は自分の才能についてどう思ってるんですか?」

 

「・・・・才能ね」

 

総司はふっと笑う。

 

「一輝もまだそんなことで悩むんだな」

 

「・・・・総司先輩は僕のことをどう思ってるんですか?」

 

「はは。まぁそうだな。おれにとっての才能は自分のやりたいことをなすための手段だな・・一般的に言われる魔力は運命を捻じ曲げる力っていうことだな」

 

「そうですか・・・・「でもな・・・」・・」

 

総司の表情が真剣なものになる。

 

「おれは才能なんていうのはその人物の一部であって、価値は決まらないとは思う・・・・・一輝」

 

「はい」

 

「お前が実家でどんな扱いを受けていたかは大体知っている・・・・前にも言ったがおれも昔あの爺に狙われたことがある・・・・理由はまだだったよな?」

 

「はい。そういえば理由はなんだったんですか?」

 

ここまで強くて才能に溢れる総司をなぜ狙うことになったのか・・・・一輝には考えてもわからなかった。

 

「・・・・一輝はもうおれの能力については気づいているか?」

 

それに一輝は頷く。

 

「・・・・たぶん雷系の能力ではないとは思っています」

 

「まぁそこまで分かっていればいいだろう・・おれは実は能力がきちんと発現するのが遅かったんだ」

 

「・・・・なるほど・・・それで・・・」

 

「ああ。それでおれは狙われたってことだな」

 

総司は当時のことを思い出しているのか少し遠い目をしていた。

 

「その時まではおれは慢心してたところもあったし・・そこは感謝してるんだけどよ・・ただ一輝には巌さんがいたし命の危険までは・・・「ちょっと待ってください!!!」・・・どうした?」

 

一輝はその総司の言葉に驚きの声を上げる。

 

「父さんがいたからってどういうことですか!?」

 

一輝の見開いた表情に少し驚きながら総司は答える。

 

「巌さんが色々と一輝のために動いてくれてたんだ。それで一輝は色んな嫌がらせを受けたが実家にいる間は命までは奪われるようなことはされなかったと聞いている・・・・・それに前におれは巌さんに会ったことがあってそのときに一輝の話を聞いたこともあるからな」

 

「そんな・・・・知りませんでした」

 

一輝は驚愕の表情で固まってしまった。そんな一輝に総司はフッと笑いかけた。

 

「・・・・そこまで信じられないのなら確かめに行ってみるか?」

 




さて今回で次で九州編はラストになりますね。

なんとか書きたいことは全部書けました。よかったです。さて舞台は選抜戦編に戻っていきます。ついにあの激戦が・・・・・・・うまく描けるように頑張ります。

あとは一輝の成長と巌さんの思いもしっかりと描いていきたいですね。

これからも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いします。

ではまた次回よろしくお願いします。

簾木 健


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世界

少し遅くなりましたね。

もりもりと盛り込んじゃったのでまとまってないですねwwすみません。自覚はしております。

今回も楽しんでいただければ幸いです!!

簾木 健




総司は一輝に悪だくみの相談をしたあと、その足で実家の裏山を登っていた。少し登ったところで木々に囲まれた広場に出た。そしてそこには車いすに座った女性とその車いすを押す女の子がいた。

 

「ふふ。やっぱり来たわね総司」

 

「やっぱり総司兄は戦闘狂だね」

 

「はは。まぁ母さんと戦えるのならそう呼ばれてもいいけどな。美奈も悪いな。母さんをここまで連れてきてくれて」

 

「いいよ。総司兄と恵さんの戦いが見れるんだから。ここまで来たかいもあるよ」

 

淡々と答える美奈だが、その声には歓喜が滲んでいる。

 

「さて母さん。夜も更けてしまう前にやろうか」

 

「ええ。さて美奈薬頂戴」

 

「はいはい。この水も飲んでください」

 

「うん。ありがとう美奈ちゃん。んくっんくっ」

 

恵が薬を水で流し込んでいる中、総司はいつもと違い『白和』だけでなく『黒光』も左腰に鞘に入った状態で現れる。そして軽く準備運動をする。

 

「母さんルールはいつも通りでいい?」

 

「ええ。さて行きますかね」

 

スッと恵は立ち上がり自分の固有霊装(デバイス)である槍を取り出す。

 

「じゃあ、開始の合図は私がかけさせてもらいますね」

 

美奈が車いすの安全を確保してから恵と総司の間に立つ。

 

「美奈頼むな」

 

「美奈ちゃんよろしくね」

 

「じゃあ行きます」

 

スッと美奈が手を挙げる。そしてさっと手刀を振り下ろした。

 

「はじめ!!!」

 

その美奈の言葉で総司は好戦的な笑みを浮かべながら突っ込む。それにスッと槍を構えて同じく好戦的な笑みを浮かべて恵は迎え撃つ。その槍が瞬間で5発、総司を穿とうと迫る。しかし総司は減速することなくその槍を右手に持った《白和》で最小限に捌きながら間合いに強引に入っていく。そして間合いに入った瞬間、左腰に下げた二つの鞘。その一つ。まだ鞘に入った《黒光》の柄を逆手で掴み抜き打つ。その抜き打ちは雷を纏った抜刀術。状態が十分ではないため威力、速度は劣るが刀華の代名詞である《雷切》と同じ理によって抜き打たれた刃。それは敵を一瞬で切り倒すには十分すぎる一撃。しかしその刃が抜き打たれる前にはもう総司が切って落とそうとした相手の姿はない。

 

「っ!!」

 

その相手は総司の後ろ側。完全に背を向けた総司向かって刺突を繰り出す。しかしそこでただで突かれてやるような総司ではない。小太刀を振りぬく瞬間、総司は足に力を込め、そして振りぬくと同時に上にジャンプした。そして空中で身体を素早くひねり、右手で持った小太刀を振るって雷撃を飛ばす。

 

「っ!!これで攻めきれないのね」

 

その雷撃を恵は躱しフッと微笑む。そんな恵に総司も微笑み返す。

 

「一撃で決めるつもりだったはずなんだけどな・・・・・さすがは母さんってとこだな」

 

「ふふ。ありがとう・・・・・それにしても最初の受け。さすが『天陰流』の受けね」

 

「『空蝉』。戦闘を一発で終わらせるために受けから攻めに繋げる体技。戦闘を暗殺に戻すという技なんだが・・・母さん人間やめてるな」

 

「ふふ・・・・私が人間やめてなかったら、黒乃も寧音も今生きてないわよ」

 

少し目を伏せ笑う恵。でもすぐにその目線をあげる。

 

「そんな話は今はいいわ。今はこの限られた時間を楽しみましょう」

 

「ああ。そうだな」

 

そうして二人はまたぶつかりあう。そんな親子を美奈とその隣に立つ男は見ていた。

 

「二人とも変わらないな」

 

「それは宗吾さんもですよ。やっぱり見にきたんですね」

 

美奈の隣に立っていたのは総司の父であり、恵の夫である宗吾であった。宗吾はハァとため息をついた。

 

「今時()()()()()で切り合う親子なんていない。そんな妻と子が心配でない夫はいないだろう」

 

「・・・・相変わらずですね」

 

そんな宗吾に美奈はフッと笑う。二人の固有霊装(デバイス)は刃引きをしていない。それで急所を狙って戦う。そんな二人を見るこの人はいつもこんな風に面倒くさそうに見ているのだ。でもそんなこの男の心を美奈は見抜いていた。

 

「心配であると同時にそんな二人の関係に憧れているんだろうな」

 

二人が言い合っている姿は玖原家の人間はよく見ている。そんな二人ではあるがお互い仲が悪い訳ではない。ただ二人とも不器用で口下手なだけ。そんな息子に対し戦いを通じて通じ合う妻に、ただ同じことができない宗吾は歪な二人の関係であるが憧れてしまう関係だろう。

 

「宗吾さんももう少し歩みよればいいじゃないですか?」

 

「まぁ少しは考えてみる」

 

「・・・・・ハァ。そうしてください」

 

美奈はため息をついて視線を宗吾から戦いに移す。そこは激戦と呼ばれる戦いが繰り広げられていた。総司が雷を落としまくりそれを恵が避けまける。そして恵が槍で穿つと地面や土や木を抉っていく。そして総司の斬撃は木や土を切り裂いていく。

 

「軽い世紀末ですね」

 

「少しは考慮してほしいがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総司は歓喜していた。

 

「こんなに楽しい戦い、いつぶりだ」

 

どんなところから切りかかってもどんな魔術を使っても勝てない。それどころか・・・・

 

「っ!!!」

 

頬を浅く切られる。むしろ押されている。

 

「本物の化け物だこの人。強すぎる!!」

 

「ふふっ・・・・総司本当に強くなったわね」

 

まだまだ余裕があるのか微笑みながらそんなことを言う恵。総司はチッと舌打ちをする。

 

「母さん余裕だな」

 

「まだまだ息子には負けられないわよ。でも・・・・・さすがに総司の()()はもう抑えられないわ」

 

「・・・・・それは今は関係ない」

 

「ふふっ、男らしいわね。そして宗吾さんによく似てる。さてそろそろ終わらせましょうか・・・・総司、見せてあげる――――世界の頂点の片鱗を」

 

瞬間、総司は突っ込む。恵はそれに応戦する。

 

「「ハァァァァァァ」」

 

総司が用いるのは『天陰』の技の中で最も得意とする技であり今日美奈に見せた技。『天陰流 麒麟』。

 

それに応じる恵の技は恵が自らの技の中で唯一名前を付けた技『流星群』。その技の動作は単純な突き。しかしその速さとその突きの数がさながら降り注ぐ星のようと言われることからそう名付けられた技。

 

総司は恵が放った突きに違和感を感じる。

 

「なんだこの突き。確かに突きが来ているのに・・・・・・音がない。速すぎるっ!!」

 

総司は最初のほうはなんとか捌くがそれは追いつかないようになっていく。そしてついに・・・・

 

「っ!!!」

 

総司の首に恵の槍の切っ先が突き付けられた。

 

「ふふ・・・・総司これが世界最強の片鱗よ」

 

「・・・・・今のはなんだ」

 

「音のない攻撃・・・・・・これが世界最強の剣士がいる領域よ」

 

「・・・・世界最強」

 

総司はその言葉に戦慄する。そして理解した。

 

「遠い。今のおれではこの領域では戦えない」

 

ただそれを理解し総司はフッと笑みをこぼす。それを見て恵もフッと微笑んだ。

 

「世界は広いわよ総司」

 

「ああ。こんなにもヤバい領域が世界にはある・・・・楽しくてたまらない」

 

恵は槍を引く。

 

「総司、もっと世界を知りなさい。そして――越えなさい」

 

「ああ。おれはまだまだ強くなれる・・・・・そしてみんなを守ることができる」

 

「ええ。期待してるわよ」

 

そこで恵は槍を消し、美奈を呼んで車いすに座った。そして横にきた宗吾に話しかける。

 

「あら宗吾さん見てたんですか?」

 

「ああ。身体は大丈夫か?」

 

「ええ。いきなりあの体技を使ったので筋肉痛になりそうですけどね」

 

「そうか。まぁ大事に至らないならいい」

 

「はい。ありがとうございます。そういえば総司はどうでしたか?」

 

「・・・・・今こいつの相手を出来るのはお前と先生くらいだろうな」

 

「ふふ。そうですね」

 

そこでなにか考えるように目を伏せ黙っていた総司が口を開いた。

 

「父さん、母さん。二人に相談がある・・・・おれ今回の七星剣舞祭()()を出していい?」

 

その言葉に宗吾は少し驚いた表情になったが恵はフッと微笑むだけだった。

 

「・・・・今まで通り()()()()の中ではだめなのか?」

 

宗吾が尋ねると総司は頷く。その目には明確な意思が宿っていた。

 

「ああ。なによりおれが納得できない」

 

「・・・・・・ハァ」

 

宗吾はため息をつき、頷く。

 

「わかった。制約はこちらでなんとかしよう。どうやらちょっと玖原家にもネズミがいるみたいだし牽制にもなるだろう」

 

「ネズミ?」

 

「ああ。どうやら裏でなにかをしているらしい。情報が入ったらそっちにも回すようにしておく」

 

「わかった・・・・ありがとな」

 

総司には珍しい消え入りそうな声。本当にいじっぱりな親子であった。

 

「さてじゃあ戻りましょうか。美奈よろしくできる?」

 

「はい。普段通り舗装されている方で行きますね」

 

「ええ。お願い」

 

その言葉で四人は山を下りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。総司は残っていた全員と朝食を済ませ、山を下りて刀華を迎えに行っていた。『若葉の家』。昔総司も暮らした場所である。入り口から入っていくとグラウンドで遊んでいた子どもたちが気付いて近づいてくる。

 

「総司君!!久しぶり!!!」

 

「おう。久しぶりだな。刀華来てるだろ?」

 

「うん。刀華ちゃん来てるよ!」

 

「じゃあ刀華のところに案内してくれるか?」

 

「わかった。ついて来て!!!」

 

そう言って子どもたちが先に走って案内してくれる。それに総司は微笑みながらついていくと女の子たちに囲まれている刀華がいた。

 

「刀華ちゃん!!総司君来たよ!」

 

「えっ?あっそうちゃん」

 

「迎えにきたぞ。大丈夫か?」

 

「うん!!ちょっと準備してくるから待ってて」

 

「おう」

 

おれがそう返事すると刀華は走っていく。

 

「あら?総司じゃない」

 

刀華を待っていると後ろから声をかけられる。その声は総司とってすごく懐かしい声だった。

 

「久しぶり」

 

「ええ。久しぶりね。元気にしてた?」

 

「それは去年のおれが聞くべきだったんじゃないか?大丈夫だったのか?」

 

「ふふっ。私はまだ死ねないわ。あんたたちが立派になるのもみたいしね」

 

「そっか・・・・まぁ身体には気を付けてくれよ」

 

「ええ。わかったわ」

 

この人は『若葉の家』の保母であり、ここにいる子どもの母である。去年この人は心臓を悪くして倒れてしまって、刀華はもちろんのことあの飄々としている泡沫ですら青い顔をしていた。総司も心配だったが陣助に頼んで看病や子どもの世話も頼んだこともあり、報告も逐一受けていたため、二人よりは安心することができていた。

 

「そういえば総司。今年は七星剣舞祭に出るの?」

 

「え?ああ。まぁ選抜戦に勝ったらな」

 

「負けることなんて考えてないんでしょ?」

 

「はは」

 

「はぁ・・・・あんた本当に・・・・」

 

頭を抱える保母。そこで準備が出来た刀華がやってくる。

 

「じゃあお母さん行ってきます」

 

「ええ。行ってきなさい。総司か刀華のどちらかが七星剣舞祭に出れたら会場に行くわね」

 

「わかった。じゃあまた!」

 

「またな」

 

「ええ。また」

 

保母と子どもたちに見送られながら総司と刀華は『若葉の家』を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなね、横断幕を作ってくれたりしてたよ」

 

二人で玖原家の実家に向かって歩く間、『若葉の家』であったとこを刀華が話していた。

 

「そうなのか?・・・・・気が早くないか?」

 

「ふふ。そうだよね・・・・でも頑張らないといけないなってなったよ」

 

「ああ。そうだな」

 

そこで総司は少し顔を伏せそしてスッと顔をあげた。

 

「刀華・・・・」

 

「なに?」

 

「おれ・・・・負けねぇから」

 

「・・・・そんなこと言うなんて珍しいね」

 

そんな総司をスッと目を刀華が言う。

 

「ちょっと負けられない理由が出来たからよ」

 

「負けられない理由?」

 

「ああ」

 

総司はそこで足をとめしっかりと刀華を見てから言った。

 

「おれ、七星剣舞祭が終わったら世界中を放浪しようと思う」

 

「・・・・・どうしてそう思ったの?」

 

刀華が尋ねる。

 

「昨日の夜。母さんと戦ったんだが・・・まぁ結果は見事に負けたんだけど・・・・そこで母さんが世界を少し見せてくれたんだ」

 

総司の脳裏には恵の放った技が焼き付いていた。あの領域に辿り着くには今の環境では難しい。

 

「おれは強くなりたい。今も昔もそれは変わらない。強くなって刀華やカナタ、泡沫みたいなおれにとって大切な人をどんなことがあっても守れるようになりたい――――――だから世界へ出る」

 

「・・・・・・・・」

 

刀華から見た総司の目はもう遥か彼方が映ってるように見えた。

 

「そうちゃんが遠い」

 

この間、総司が美奈に技を見せていたときフラッシュバックした過去の映像。()()()()も同じことを思った。あのとき・・・・総司が『若葉の家』にいると知った総司の祖父である鳶人が『若葉の家』に刺客を差し向け戦闘になった。総司はその時たまたま外に出ており、総司が追われていることを知っていた刀華とカナタがその人たちに斬りかかったのだ。でも当時の刀華たちに勝てる訳もなく二人ともボコボコにされ、カナタが気絶してしまったところで総司が帰ってきた。そして総司はその手に持った自身の固有霊装(デバイス)でその刺客たちを次々に斬り殺したのである。最後の一人を斬ったあと、総司は刀華を見て薄い自嘲したような笑みをしてその目からを涙をこぼしこう言ったのだ。

 

「今わかった。おれは()()()()()()なんだ。こんなことをしてしか生きていけないんだ」

 

それを聞いた時、それまでは幼なじみでいつも隣で笑っていた総司がずっと隣になんていなかったんだと刀華は感じた。

 

「でも、頑張って追いつくことにしたんだ」

 

刀華は悩んだ。総司の抱えているものは私には重すぎて持てない。でも私はずっと総司の横にいたい。だから―――強くなろうと。そしてその決意は今この場でも揺らぐことはなかった。

 

「・・・・・じゃあ私もそうちゃんについていくよ」

 

「えっ!?」

 

刀華の言葉に総司は驚いて目を見開く。

 

「私も強くなりたい。そしてそうちゃんの横に立って戦える騎士になる・・・・・破軍に入るときも言ったよね?」

 

「・・・・・ああ」

 

破軍入学時、刀華が総司に誓ったこと――――――あなたに並び立つ騎士になる。

 

「だから私も行くよ・・・・・そうちゃん」

 

刀華は確固たる決意をその目に滲ませていた。総司はその目を見てハァとため息をついた。

 

「刀華・・・・・それは・・・・・・」

 

「無理とは言わせないよ」

 

「・・・・・・・危険だぞ?」

 

刀華はそこで『鳴神』を取り出し総司に突きつけた。

 

「切るよ?」

 

「・・・・本気?」

 

「うん。たぶんカナちゃんもそう言うと思うけど?」

 

「・・・・・ハァ」

 

「そこでため息をつくのはちょっと失礼じゃない?」

 

「刀華・・・・・」

 

「私は本気だよ。私は・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

刀華が顔を赤くして俯く。刀華が言わなかった言葉を総司は理解していた。

 

「刀華・・・・・もうちょっとだけ待ってくれないか?」

 

「え?」

 

「少し考えたいんだ。答えはそうだな・・・・七星剣舞祭の後までには絶対出すから」

 

「・・・・・わかった」

 

刀華は『鳴神』を消して頷く。

 

「カナちゃんにも言っておいてね」

 

「わかってるよ・・・・・・・ありがとうな」

 

そこでポンポンと刀華の頭を総司は優しく触る。

 

「あとごめんな。優柔不断で・・・・・」

 

「いいよ。そんなそうちゃんにいつも助けられてるから」

 

少し顔を赤くしながらニコリと笑う刀華にドキっとして総司は顔が赤くなるのを感じる。

 

「?そうちゃん?」

 

「いや・・・・あ・・・・」

 

総司がパッと手を頭から離す。その手を刀華は少し残念そうに見つめる。

 

「・・・・・もっとしてくれてもいいのに」

 

「・・・・・っ!!い、行くぞ!!」

 

「あっ待ってよ!そうちゃん!!!」

 

早歩きで行く総司。そんな総司を刀華は小走りで追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台は東京に戻る。

 

深夜の倫理委員会。

 

「さて行くか」

 

静まり返ったその場を見つめる二人の男。一人は腰に黒塗りの鞘と白塗りの鞘を差し、白塗りの鞘に収まっていた小太刀はその男の右手にある。もう一人は漆黒の刀を持ち少し不安気な表情だった。

 

「いいんでしょうか?」

 

「大丈夫だろ。ここにいることも確認済みだし、後のことはこっちでやるからよ」

 

不安気な表情の男にもう一人の男が笑いかける。不安気な男はため息をついた後、スッと倫理員会の建物を見る。その表情は不安気だがその中になにか覚悟を決めたような面持だった。それを見てもうひとりの男は頷く。そしてフッと笑った。

 

「じゃあ闇討ち行くか」

 




これで九州編は終わりになりますね!!

これから七星剣舞祭選抜戦の終盤に突入していきます!!

ちょっと恵強くしすぎた気がしますが・・・・まぁ仕方ないですね。

では今回はこれから少し九州編のコンセプトなどを説明したいと思います。

この九州編では総司の家族。過去。そしてこれから。この三つを描きたくて書いてきました。総司がこれまでどんな環境にあってどんな家族に囲まれてこれからどう生きていくのか。それが描けていると読んでくれるみなさんに伝わっていれば幸いです。

そして最後に描きましたが総司と刀華、カナタの関係についても進展を入れることが出来ればと思ってました。最後で刀華が少しキャラ崩壊した感がありますがww

ただこれが私の思う刀華です。まっすぐで誇り高い騎士である反面、恥ずかしがり屋で少し甘えん坊。この二極を持っているのが刀華だと思っていますしそうであってほしいと思っていますwwそんな刀華を出すことが出来ていれば嬉しいです。

九州編では今まで出してきた伏線の多くを回収することができました。説明不足な点も多々ありますがそれはおいおい回収していければ思っていますので楽しみにしていてください。

さてこれから一気に選抜戦を駆け抜けていきたいと思っています・・・・・・たぶん後二、三話くらいで終わらせる予定ですのでよろしくお願いします。

本当にいつも読んでいただいてありがとうございます。拙い文章でありますが今後も読んでいただけると嬉しいです。

今回も感想、批評、評価の方募集していますので、よろしければお願いします。

ではまた次回会いましょう!!

簾木 健


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闇討

遅くなってすみませんでした!!!!!!

ちょっといろいろと忙しくて遅れてしまいました・・・・・今後はもっと短いスパンで投稿していきます。

さてでは今回も楽しんでいただけると嬉しいです。

簾木 健


「巌さん!!襲撃です!!」

 

「なに?」

 

巌が驚きの声を上げる。

 

「数は?」

 

「二人です・・・・ただ建物内に侵入され、しかも相手は武術の達人らしく多くの伐刀者(ブレイザー)がやられています」

 

「魔術の使用は?」

 

「行う前に切られています」

 

「・・・・そうか」

 

「どうなさいますか?」

 

「・・・・・相手の狙いは?」

 

「わかりません。ただこちらを目指しているようです」

 

「そうか。なら兵を引け」

 

「えっ!?どうするおつもりですか?」

 

「・・・・・ここに侵入できて達人級の武人。そんな相手と戦えるような人間は今ここにはいない。ここまで通してここで迎え撃つ」

 

「わかりました」

 

そういって巌と話していた人間が執務室を出ていく。するとそこにもう一人太った男が入ってくる。

 

「どうかなさいました?んっふっふ」

 

「・・・・侵入者だ」

 

「えっ・・・・」

 

「赤座お前もここにいろ。たぶんお前も関係のある案件だ」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ・・・・敵が減ったな」

 

「ですね・・・それより本当にいいんですかね?」

 

「まあいいだろ」

 

男二人は仮面を被り武器もち、その二人の後ろには大量の人が倒れている。

 

「さて、執務室はあっちだったよな?」

 

「ええ。たぶんそこにいると思います」

 

「了解。じゃあ行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりですね。巌さん」

 

執務室に入った総司は仮面を脱ぐ。そこには巌と赤座がいた。

 

「なっ!!貴様なにをしたのかわかってるのか!?」

 

赤座が叫び声をあげる。総司はそんな赤座に頭を抱えた。

 

「なんでお前がいるんだよ・・・・・」

 

「貴様いくら玖原といってもこの行いは・・」

 

「黙れ」

 

「ひっ!!」

 

「ちょっと黙ってろ。おれたちが話があるのは巌さんだけだ」

 

総司のその言葉に赤座が悔しそうに唇を噛みながら黙る。それを確認してから総司が続ける。

 

「本当にお久しぶりですね巌さん」

 

「ああ。久しぶりだな総司君・・・・で?その横にいるのは誰かな?」

 

「そういえばまだ仮面を取らせてなかったな。取りなよ」

 

すると総司の横にいた男が仮面を取る。

 

「久しぶり父さん」

 

「一輝か・・・・・」

 

「うん。ちょっと聞きたいことがあってね」

 

「なっ!!この出来損ない「黙れっていったよな」・・ひっ!?」

 

総司は赤座を一瞥し黙らせる。さらに総司は気になっていたことを尋ねた。

 

「あとここに()()()がいるだろ?さっきから気配がだだ漏れ・・・・変わらないな」

 

総司は執務室内の横にあったドアを指しながらそういうと巌はふっと笑った。

 

「・・・・さすがは総司君というところか」

 

巌がそう言うと執務室の横にあった扉から黒い和服の男が入ってきた。かなりの長身に鋭い目。その纏っている雰囲気が刀のような鋭さがある。この男こそ一輝の兄であり、総司を倒すと宣誓した男であった。

 

「・・・・まさかここにいるとはな・・・・王馬」

 

「・・・お前こそなにをしに来たんだ総司・・・それに一輝もいるのか」

 

「おれは一輝を連れてきただけだ。巌さんに話があるらしい」

 

「そうか・・・・で・・・その間・・・・お前はどうするんだ?」

 

そう言う王馬は全身から殺気を漲らせる。その殺気を総司は目を閉じて受け止める。

 

「この殺気・・・・当たり前だがかなり強くなったな。でも今日はお前とはやるつもりはないよ。というか」

 

総司が目を開いた瞬間王馬の殺気が一瞬で消え去りその空気を総司の殺気が支配した。

 

「お前その程度の殺気でおれに喧嘩を売るつもりか?」

 

総司の放つ殺気に一輝は息をのむ。

 

「総司先輩はどれほど強いんだ」

 

一輝の目を持ってしても底を捉えることができない総司の強さ。その片鱗を一輝は見たと同時に兄である王馬の信じられない行動を目撃していた。

 

「王馬兄さん・・・・震えてる」

 

王馬の身体は激しく震えていたのだ。一輝の知っている王馬という男は強く、ただただ強く、そうあり続けるために努力をしそしてそのためにどんな強者にも恐れることなく挑む男だった。そんな王馬がこの総司を前にして震えていたのだ・・・・・しかしその顔には恐怖ではなく果てしないほどの歓喜が滲んでいた。

 

「そうだ。それでこそ玖原総司だ。だからこそ乗り越える価値がある」

 

そんなことをいう王馬に総司は呆れた顔になる。

 

「おれなんか追いかけたところでなににもならないだろうが。それこそおれはお前のいうペテンの最たる存在なんだからよ」

 

「えっ・・・・・」

 

いま総司が言った言葉が一輝には理解できなかった。が王馬にはそれはわかったらしくニヤリと笑う。

 

「確かにお前は一輝と同じペテンの騎士だ。でもな、お前はそれを突き詰めた。そしてそのペテンでおれを否定した。だからこそおれはおれの求める強さのために今度こそお前を否定しおれの強さこそ本物の強さだと証明する」

 

「・・・・・まあ理由なんてどうでもいい。とりあえず今日はやるつもりはない。今日は一輝の付き添いとついでに黒鉄家に言っておこうと思うことがあってな。一輝先にそれを言わせてもらうぞ」

 

総司は部屋にいる面々をグルッと見てから言った。

 

「今回の件、正直おれは看過できない。ただ巌さん。おれはあなたの考えは正しいと思う。確かに不相応な生き方ってのはいい生き方じゃねぇ・・・・でも、それでもやり方ってもんがあるはずだ。だから今後もし一輝になにかしようってなら・・・・・今度はおれが本気で黒鉄家を潰す」

 

総司の言葉はあまりにも自分勝手であり、自分の考えを人に押し付けるものだ。でも・・・・それを通してしまうほど力を総司は持っているのだ。

 

「・・・・・まぁでもさっきも言った通りおれは巌さんの考えが間違っているとは思わない。それにおれ自身の力で一輝にそれを与えてしまうのもどうかと思う・・・・だからな」

 

総司がフッと一輝を見てほほ笑む。

 

「一輝あとはお前の力でなんとかしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうちゃん!!」

 

刀華は寮の部屋の扉を勢いよく開ける。

 

「おう。刀華どうかした・・・「どうかしたじゃないよ!!!」・・・なんだよ?」

 

部屋のソファーで本を読んでいた総司に刀華が今にも掴みかかりそうな勢いで迫る。

 

「そうちゃん・・・私の最終戦の相手しっとうやろ?」

 

「そんなの知る訳・・・・まさか・・・・」

 

「やっぱり心当たりがあるんね」

 

「・・・・・」

 

「さっき黒乃さんに言われたの・・・・この選抜最終戦にはある思惑が絡んでる。だから今回のみオープンでやることになったって。そしてそれにはそうちゃんが関わってるから聞くならそうちゃんに聞けって」

 

「・・・・あの人はそんなことまで話したのかよ」

 

総司は観念したようにため息をつく。それに刀華は確信を得る。

 

「で?私と黒鉄君が戦うことになにがあるの?」

 

「・・・・簡単に言えば一輝が巌さんたちに認められるための妥協案として決闘を進言したんだ。それでそれを選抜最終戦で行うことになったんだよ・・・・そしてその相手として倫理委員会側は刀華を指名したという訳だ」

 

「なんで私が・・・・」

 

「それは刀華が学園最強の伐刀者(ブレイザー)だからだろう」

 

総司は当たり前のようにそんなこと言う。そんな総司に刀華は少し腹を立てた。

 

「私よりそうちゃんのほうがつよかやん・・」

 

「おれは指名するのはダメということにしたんだ・・・ただおれはステラを指名すると思ったんだがな」

 

総司が面倒そうに頭を掻く。そんな総司を見ていると刀華の怒りは行き場を失い失速していく。そして怒りが落ち着いたところで刀華は総司に尋ねた。

 

「・・・・そうちゃんいいの?私・・・・「いいさ。切ってやれよ」」

 

総司がフッと微笑む。

 

「ただ油断するなよ。あいつは強い。いままでの相手とは格が違う」

 

「・・・『七星剣王』の証を取るに足る力を黒鉄君が持っていることはわかっとるよ。だから・・・・・」

 

刀華の周りに雷が迸る。総司は「おっと・・」と言いながらその雷を回避しながら刀華の顔を見て笑う。刀華は今にも噛みつきそうなのを抑えているような表情を浮かべ総司に笑い返した。

 

「今まで以上に全力で戦う。そうちゃんについて行くと決めたんだからここで負けるわけにはいかない」

 

「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッキ・・・・・」

 

ステラは一輝が出ていった寮の扉を見つめていた。今日一輝とステラの最終戦の相手が発表された。ステラの相手も今まで全勝を守ってきた猛者だが、破軍の中でビックネームではなかった。しかし・・・一輝の相手は・・・『雷切』東堂刀華。現破軍の頂点であったのだ。それを見てから今日の一輝は落ち着きがなく。少しそわそわとしていた。しかもそれは一輝には珍しく戦いを恐れているようにステラには感じられた。

 

「アタシは・・・・」

 

今の一輝にかけてあげる言葉がなかった。一輝と総司が倫理委員会に闇討ちをかけた日から一輝が何かを気負っているようにステラは感じていたが、今日相手が発表されたところでそれが爆発した。

 

「イッキ・・・・っ!!」

 

どうしようと思っていたところでステラたちの部屋のドアがノックされる。

 

「こんな時間に誰だろう・・・・・」

 

そう思いながらもステラは返事をしてドアを開ける。するとそこには・・・・・

 

「よう、ステラ。一輝のやつはまだ起きてるか?」

 

玖原総司が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソージさん。イッキならさっき部屋を出て行っちゃって・・・・・」

 

「そうなのか?・・・・なるほどな」

 

「えっ・・・・ソージさん何か知ってるんですか?」

 

「・・・まぁな。ステラちょっと話をしないか?」

 

「ええ・・・・そのことも聞かせてもらえるんでしょう?」

 

「ああ。わかった。元々そのつもりだったからな」

 

 




どうだったでしょうか?

ちょっと強引だった気がしますが・・・・・

さて次回で選抜戦編は終わりにしたいと思っています。そして次の剣舞祭編に移っていきます。結局総司のことはまだまだ全部明かされていませんね・・・・ただ剣舞祭本戦に入る前までには能力など明かしていきたいと思ってますので楽しみにしていてください。

今回も感想、批評、評価募集していますのでできればよろしくお願いします。

ではまた次回会いましょう

簾木 健


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剣士

まさかの一万字オーバー・・・詰め込みすぎました。

投稿も遅くなってしまってすみません。いつものごとくまとまってないですが納得できるものが書けたと思っています。

では今回も楽しんでいただければ嬉しいです。

簾木 健


「ということになった訳だ」

 

総司はステラに対して今回の一件について説明をし終えた。ステラは話が終わると目を伏せてしまう。

 

「ステラわかってると思うが・・・・「知ってるわよ。イッキが普通では伐刀者(ブレイザー)として生きることができないことは」・・・そうか」

 

そこでステラは目を上げキッと総司を睨んだ。

 

「でもソージさんがそのまま・・・・・ごめん。それじゃダメなのね」

 

「ああ。ここから先一輝が伐刀者(ブレイザー)として生きていくためにはこの辺でけりをつけないといけないんだ。それも自分の力で」

 

「・・・ソージさん。正直に教えてイッキがトーカさんに勝つ可能性はどれくらいあると思う?」

 

「・・・・正直に言っていいんだな?」

 

総司の確認にステラが頷くのを見てから総司は口を開く。

 

「おれは一輝が勝つ確率は一割かもっと低いと考えている」

 

「なっ!?」

 

その余りに低い可能性にステラは絶句してしまう。さらに総司は続ける。

 

「しかもこれは一輝が刀華の『雷切』を打たせなかったとしての確率だ。もし『雷切』を使わせてしまったら・・・・勝てないだろう。一輝には現状では刀華のクロスレンジ、『雷切』を突破する手段はない」

 

「・・・・でもイッキにはクロスレンジしかない」

 

ステラの言葉に静かに総司は頷く。それがステラにあまりにも低すぎるこの可能性が現実だと認識させてきた。

 

「一輝もそれがわかってるんだ。それに一輝はさっきも言ったように巌さんの本質に触れてしまったからな」

 

「巌さんっていうのがイッキのお父さんなのね・・・・それはアタシもイッキから聞いたわ。実はずっと守られたって・・・・」

 

「巌さんはなんだかんだで子どもたちを大切に思ってるからな。でもだからこそ一輝は『なにもするな』だったんだ」

 

総司はハアとため息をつく。

 

「今一輝は色んなものと戦ってるんだ。なのにくだらないことでも悩んでるみたいだし・・・・このままじゃ確実に負けるな」

 

「くだらないこと?なんで迷ってるの?」

 

「・・・あーそれは一輝に聞いてくれ」

 

総司は苦虫を潰したような顔になり席を立つ。

 

「悪い邪魔をしたらそろそろ帰るな」

 

「えっ・・・ソージさん・・・」

 

「一輝の悩みに関してはたぶん珠雫が気づいてる。だからそっちは珠雫に聞いてくれ。たぶんそれが解決すれば少しはよくなるだろうよ。じゃあな」

 

「え、ええ」

 

総司はそさくさとステラと一輝の部屋から出て行く。そして寮の廊下で総司はハァともう一つため息をついた。

 

「あいつ、彼女にくらい悩みを相談しろよ・・・・ここはあいつのところよりも・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・・・」

 

「あら珠雫。ため息なんて幸せが逃げるわよ」

 

「だってアリス・・・お兄様の相手があの『雷切』なんて・・・・」

 

「そうね・・・確かに厳しい相手ね」

 

「厳しい相手すぎよ・・・・玖原先輩じゃないだけよかったけど・・・・・」

 

「確かにあの人が相手だったら・・・・あら?」

 

そこで部屋にノックの音が響く。

 

「こんな夜に誰かしら・・・・」

 

「そうね。アリス出てくれる?」

 

「ええ。ちょっと行ってくるわね・・・・」

 

凪はドアのほうに行き、スッと覗き穴から外を覗きドアの前にいる人物を確認して驚く。

 

「あら?珍しいお客さんね・・・・どうぞ」

 

「悪いな。珠雫はいるか?」

 

「ええ。入る?」

 

「出来れば頼む」

 

「わかったわ。珠雫。お客さんよ」

 

「お客さん?あっ・・・総司先輩・・・」

 

「悪いな。珠雫。ちょっといいか?」

 

「はい。どうかしましたか?」

 

総司は申し訳なさそうな入ってくる。そんな総司が珍しく珠雫も怪訝そうにしながらも総司を迎え入れた。そして入ってすぐ総司は話を切り出す。

 

「珠雫。最終戦の一輝の相手聞いたか?」

 

「・・・・ええ。『雷切』ですよね?」

 

珠雫の答えに総司が頷く。

 

「そうだ・・・・その件なんだが・・・・実は黒鉄家が関わってる」

 

「・・・・またですか?」

 

「ああ。ちょっと色々あってな」

 

総司はなにがあったのか珠雫と凪に説明した。

 

「じゃあ、そのせいで一輝は会長さんと戦うことになったの?」

 

「ああ。珠雫わかっていると思うが・・・・」

 

「いえ。むしろありがとうございます。あの兄の目標に沿う形で手助けをしていただいて」

 

珠雫は総司に向かって頭を下げる。それに総司はくすぐったそうに笑った。

 

「いや、巌さんのやり方にはおれも疑問を覚えていたしそれはいい。ただ実はちょっとな・・・・」

 

「なにか問題でもあるんですか?」

 

珠雫が首を傾げる。それに総司は少し言い淀んでから答えた。

 

「一輝自身の件だ」

 

「お兄様自身の件ですか?」

 

「ああ」

 

総司が頷く。そしてこう続けた。

 

「その問題を解決しないかぎり一輝は刀華とまともに勝負にもならない」

 

「なっ!?」

 

その言葉に珠雫は驚きに声をあげ、凪も驚き目を見開く。総司はそんな二人の前で頭を掻く。

 

「話によるとたぶんうちの泡沫が問題なんだ・・・・あいつが少し余計なことを言ったみたいでな。それで相談なんだが・・・・・その解決を珠雫、お前に頼みたい」

 

「・・・・・なんで私なんですか?ステラさんの方が・・「いやここは珠雫のほうが適任だ」・・えっ?」

 

珠雫がおれの言葉に目を見開く。凪はフフッと笑って総司を見ていた。

 

「ステラは一輝にとって心の支えであると同時に目標であり最高の好敵手だ。だからこういったことでは良くない。ここは珠雫、お前のほうが適任なんだよ」

 

総司は上手く言葉を使い珠雫を誘導していく。そんな総司を見ていた凪はフッとさらに笑う。

 

「似てない似てないって言ってるくせに、父親にもよく似ているのね」

 

総司自身も自分は交渉などを苦手だと認識している。しかし実際はかなり巧妙で口がよくまわるのだ。誤認さえ改めればいい政治家などにもなれるかもしれない。

 

「まぁ本人は嫌がるでしょうね」

 

凪の笑みが苦笑いに変わる。そうこうしているうちに珠雫は丸め込まれていた。

 

「では玖原先輩どうすればお兄様を・・・・」

 

「悪い。具体的な方法は思いついてないんだ。でもその悩みの根幹なら教えてやれる。まぁ最も珠雫なら前から危惧していたかもしれないけどな」

 

「私が危惧していたこと?なんなんですか?お兄様の悩みというのは?」

 

「それは・・・・・・一輝自身が自身の価値を低く見積もっていることだよ。珠雫は・・・・・・いやアリスも気づいてるんだろ?」

 

「・・・・ええ」

 

「まぁね」

 

総司の問に二人が頷く。一輝の問題。それは一輝が生きてきた道が影響している。総司には刀華やカナタがいた。しかし一輝にはだれもいなかったのだ。そのせいで一輝は自分が誰かの思いなどを背負うことを知らない。それが一輝自身の問題だった。

 

「一輝は今でも一人で戦ってるんだ。でもそれだけでは刀華は勝てない。というか一輝自身がそれを出来ないと思っている」

 

「はい。お兄様を取り巻く環境は変わりましたが・・・・・たぶんまだ一人なんです」

 

「一輝は自らの心や自らを取り巻く環境に鈍いのよね」

 

「そこの問題を少しでも取り除いてやってほしいんだ。どうだ?出来るか?」

 

総司の言葉に目を伏せ珠雫は考える。少ししてスッと顔を上げた珠雫の目には確かな覚悟が宿っていた。それを見て総司はフッと笑う。

 

「じゃあ頼む」

 

「わかりました・・・・・・ただ一つ聞いてもいいですか?」

 

「?なんだ?」

 

「玖原先輩どうしてお兄様のためにここまでしてくださるのですか?むしろこのままお兄様が悩みを抱えたまま戦いに向かったほうが『雷切』のためになるんじゃないですか?」

 

珠雫の質問に総司は声をあげて笑った。

 

「ハハハ!!刀華のためになるか・・・・珠雫それは違うぞ」

 

「違う?」

 

訝しげな目で見つめる珠雫に総司は獰猛な笑みを浮かべて答えた。

 

「おれにしても刀華にしても一輝にしてもただ不調の相手に勝つだけで満足する人間じゃない。己を高めるためなら例えそれが修羅の道であったとしても進む。刀華も一輝の不調を知ればそれを解消しようとしたさ。一輝だってそうだろ?戦うならば相手の全力を真っ向から切り伏せて進みたい。そして己を高める糧としたい。そうやって戦って強くなる。それがおれたちなんだよ」

 

この言葉に珠雫は戦慄する。そして同時に思った。

 

「狂っている。この人は完全に狂っている」

 

ただ珠雫はそれが自分が一輝の隣に立てない理由を突き付けられた気もした。そのせいで顔を強張らせる珠雫に総司は真剣な表情で言う。

 

「珠雫。そんな甘い心構えじゃこの先・・・・「ストップ」・・・アリス」

 

総司の言葉を凪は遮った。それに総司は困った顔をする。

 

「アリスここは・・・・・」

 

「もう良いじゃない。それにそこから先は珠雫自身が一番わかってるわよ」

 

「・・・・ハァ。そうだな」

 

総司は諦めたように息を一つ吐き部屋を出ていく。そして部屋のドアを開けようとして総司はなにか気づいたようにハッとした。そして振り返らずに言った。

 

「珠雫、もしお前がその心構えを捨てるのなら・・・・・おれのところに来い。鍛えてやるよ」

 

そして総司は部屋を出ていった。

 

「珠雫。大丈夫?」

 

「・・・・・・ええ。核心を突かれたわ」

 

珠雫はソファーの上で蹲る。

 

「私にはお兄様やステラさん、玖原先輩とは決定的に違う部分がある。それが私の弱さ・・・・でも玖原先輩が言うように私がそれを捨てれば・・・・・っ!!」

 

そんな珠雫をアリスは突然抱きしめた。

 

「あ・・アリス?」

 

「珠雫」

 

アリスが優しく告げる。

 

「珠雫、もしそれを捨ててしまったらもう戻れないわ。それくらい人にとって大切なものなの。でももしそうまでしても一輝についていきたいのなら・・・・・」

 

「ありがとうアリス」

 

珠雫はスッと手を添えアリスを抱きしめ返す。

 

「少し考えてみるわ。それに今はお兄様のほうが優先だしね」

 

「ええ。そうして頂戴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうちゃん!!」

 

「ああ。ただいま刀華」

 

寮の部屋に汗だくで制服をボロボロにした総司が帰ってきたことで刀華が目を見開く。

 

「なにしてるん!?明日は最終戦なんよ?」

 

時刻は最終戦の前夜。刀華最後の調整を終え自室でゆっくりとしていたところに総司がそんな状態で帰ってきたのだ。

 

「一体どんな鍛錬したんそうちゃん?」

 

「・・・・・ちょっと自分の全力と戦ってきた」

 

「なっ!?」

 

刀華が絶句する。総司の言った鍛錬方法。それは昔から総司が行っている鍛錬方法であり、最も過酷な鍛錬方法だ。イメージというのは達人が行うと凄まじい次元になり、それはもはや実体といえるレベルになる。総司が戦った自分自身、それは間違いなく()()()()だったはずだ。

 

「最終戦前になんていうことを・・・・・」

 

ただそんな刀華に総司はフッと笑いかけた。

 

「ちょっと追い込みたくなったんだ。それに刀華そっちこそ大丈夫なのか?明日の相手は・・・・」

 

「ハァ・・・・・」

 

刀華は総司に対してため息をつく。

 

「どうしてこんなことを・・・・・」

 

「ちょっと強くなりたくてな」

 

総司は目をスッと細める。刀華にはその目が見据えるところがあまりにも遠くあることに気付いた。

 

「そうちゃんに取っては七星剣舞祭すらも通過点・・・・いや、それですらないのかもしれない」

 

果てしなく遠く、あまりにも先にいる総司。でも・・・・

 

「そうちゃん」

 

「うん?」

 

「私は明日黒鉄君を斬るよ」

 

「・・・・・」

 

絶対について行くと誓ったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて行くか。刀華と一輝の戦いを見たいし、さっさと片付けるか」

 

総司は速足で入り口に向かう。その腰には《白和》と《黒光》を携えて。

 

「さて、一瞬で締める」

 

総司は選抜戦で初めて最初からその二本を抜き放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生方、どうですか?試合の方は?」

 

総司はゆっくりとそこに居た人物たちに近づいていく。

 

「玖原と貴徳原か・・・・最終戦は?」

 

そこに居た黒乃が総司に話しかける。それに対して総司は右手に持ったメダルを見せる。それはこの破軍の代表を表すメダル。

 

「やっぱり勝ったんだ。さすが総司ちゃん」

 

寧音がニヤリと笑う。

 

「ありがとうございます。で?刀華たちは?」

 

「まだ始まっとらんよ」

 

その声に総司は目を見開いた。なんせそこに居た人物は生ける伝説なんだから。

 

「まさかおいでなられてるとは・・・・南郷先生」

 

そこにいたのは刀華の師であり総司の師の永遠の好敵手、《闘神》南郷虎次郎であった。

 

「ふぉふぉ。刀華の相手が『黒鉄』と聞いたからの。足を運ばんわけにもいかんじゃろう?」

 

「まぁそうりますよね・・・・・というかなんで試合が始まってないんですか?確か今日は全試合同時開始だったはずですが?」

 

「東堂の奴が遅刻したらしい・・・・玖原お前知らなかったのか?」

 

「え?」

 

「総司さん。会長は総司さんの試合を見てからここに向かったんですよ」

 

「ハァ?あいつなにしてんだ。今回の試合は・・・・「総司」・・なんですか南郷先生?」

 

そこで口を開いたのは南郷であった。南郷は鋭い眼で総司を見つめ言う。

 

「刀華はこの試合に臨むために最高の心理状態を作ったんじゃ。どうやらこの試合・・・刀華はすべてを賭けてでも勝つつもりみたいじゃの・・・・『黒鉄』の男はそこまでの強さなのか?」

 

「・・・・・それは一輝が出てくればわかりますよ」

 

総司がそう言い終わると実況が叫んだ。

 

「ご来場の皆さんお待たせしました!!!七星剣舞祭代表選抜戦最終試合を開始します!!!!」

 

赤いゲートからゆっくり入ってくる刀華。

 

「赤ゲートより今、《雷切》が姿を見せました!十九戦十九勝無敗。そのすべてを無傷で勝ち抜き圧倒的な強さを見せつけてきた我らが生徒会長。成績低迷の破軍の中にあり、輝き続けるその姿に私たちはどれだけ勇気づけられてきたことでしょう。彼女こそ我ら破軍の誇り!燦然と輝く一番星!栄光の道を歩み続ける綺羅星が最後の七星剣舞祭へ臨むため、決戦の場に向かいます!!三年《雷切》東堂刀華選手!!今万人の期待を背に、決戦のリングに立ちましたぁあ!!!」

 

煽った実況に総司は少し苦笑いを浮かべながら刀華の様子を見る。まっすぐ背筋を伸ばし、青ゲートを見つめるその立ち姿はまさに威風堂々。その姿から総司は確信する。

 

「完璧に仕上げてこの場に臨んでやがるな」

 

総司がそう思っていると総司の横で『闘神』が笑った。

 

「ふぉふぉ。やはり今日の刀華は一味違うようじゃの。総司なにがあったのじゃ?この場にここまでの覚悟で臨む理由がなにかあるのか?」

 

「・・・・・ちょっと色々ありまして」

 

「そうか。さて『黒鉄』のほうはどうかの・・・・」

 

そこで実況がまた入る。

 

「そして青ゲートより姿を見せるのは同じく十九戦十九勝無敗。しかしながらその歩んできた道は《雷切》とは真逆!誰にも相手にされず、誰からも認められずただ一人、地の底に取り残された一匹狼。しかし・・・・彼は這い上がってきました。《紅蓮の皇女》を!《狩人》を!《速度中毒》を!破軍の名だたる騎士たちを次々になぎ倒して!今や彼の名を知らない者は破軍にはいません!破軍が誇る最強のFランク!一年《落第騎士》黒鉄一輝選手。天に牙剥く狼が、今、星を喰らうべく決戦の舞台に上がりましたぁぁぁ!!!」

 

続いて、青ゲートより一輝が姿を見せる。その一輝に総司は笑った。その様子に黒乃が気付く。

 

「嬉しそうだな玖原」

 

「・・・・ええ。まさかここまでとは」

 

総司の笑み。その笑みは黒乃や寧音にとってとても懐かしいものによく似ていた。

 

「恵さん、本当に彼はあなたに似てきましたよ」

 

「あれが刀華の相手か・・・・ふぉふぉ。強いの」

 

老人が言う。その言葉にその場に居た全員が反応した。

 

「南郷先生。わかりますか?」

 

「わかるとも。刀華があそこまで集中する意味も納得できる。あの小僧は・・・・・強い」

 

「さすが黒坊だね。完璧に調整してあそこに立ってる。こりゃっすごい戦いになるねぇ」

 

寧音が面白そうに笑う。そこで総司の腕を引いてカナタが総司に聞いた。

 

「総司さん。この戦いどうなるとお思いですか?」

 

カナタが不安そうに尋ねる。その表情に総司は察する。一輝が放つ気配、それが今この会場を呑み込んでいる。完全に場を掌握するほどの気配にカナタが不安がっているのだと。

 

「・・・・・・普通に戦えば刀華が勝つ」

 

おれは少し考えてからそう言った。するとそれに寧音が口をはさむ。

 

「普通にか・・・・総司ちゃんそれって普通に戦わなければ黒坊が勝つことがあるってことかな?」

 

「・・・・・・はい」

 

「っ!?」

 

総司の肯定にカナタが目を見開く。それにほぉうっと南郷が自らの顎髭を撫でる。

 

「では玖原、どうすれば黒鉄が勝つんだ?」

 

「・・・・方法自体はシンプルです」

 

総司が二人を見つめ、そして悟る。たぶん一輝は総司が今から言う方法で刀華と戦うつもりだと。一輝ほどの生粋の剣士がこの場でその手段を用いないわけがない。

 

「刀華の『雷切』で斬られる前に刀華を斬ればいい」

 

「「「なっ!?」」」

 

総司の言葉に南郷除く全員が驚きに声を漏らす。総司はそのまま続ける。

 

「『雷切』を打たせない方法はある。ようは抜刀術なんだから刀を抜かせて戦えばいい。でも一輝にはそれを為しえるだけの剣技は持っているが、魔術戦で戦える力はない以上いずれジリ貧になる。だからもし持久戦になれば圧倒的に一輝が不利になる。それならもう短期決戦しかない。でも刀華には『雷切』がある。ただもしそれよりも早く剣を届かせることが出来るなら・・・・・・『雷切』を真っ向から破り勝てる。それに・・・・・・」

 

総司はそこでフッと笑う。それにカナタは首を傾げ、黒乃と寧音もなにが可笑しかったのかわからず勘ぐるような視線で総司を見た。でもただ一人納得したように『闘神』は頷いた。そして総司はフフッと笑いながら言った。

 

「一輝ほどの剣士なら真っ向から刀華に、『雷切』に打ち勝ちに来ますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕には資格なんてないと思っていた。誰かのためになにかを背負って戦うなんておこがましいと。でも違った。僕は僕自身が気付かない間にそんな人間になることが出来ていた。それを珠雫がアリスが、今まで戦ってきた友がそして最愛の恋人が教えてくれた。

 

「お兄様はもう決して一人なんかじゃないんです。確かに最初は一人だったかもしれません。その時間はとても長かったかもしれません。だけど・・・・」

 

そこで珠雫が周りを見る。そこには友達、弟子や今まで一輝と戦った好敵手たちがいる。

 

「今はこれだけ多くの人が、お兄様を応援してくれています。試合があってここに来れなかったステラさんとアリスも、お兄様の勝利を願ってくれています。《落第騎士》は私たち全員のヒーローなんです」

 

「イッキも勝って!そして、二人で行きましょう!騎士の高みへッ!!」

 

駆けつけてくれたステラの言葉・・・・・もう迷いはない。だから

 

「勝ってくるよ!」

 

そして僕は最強の相手に向かいあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刀華さんありがとうございます」

 

「なにがですか?」

 

「この戦いに上がってくれたことです。僕のわがままでこれは決闘にしてしまった」

 

「いいんですよ。だって・・・・」

 

口の端を笑みの形に吊り上げて、スタンスを開く。

 

「私はずっと思っていたんですからこの人と戦いたいと」

 

大気に稲妻が走り、その稲妻は刀華の手に収束し《鳴神》を形作る。試合が待ちきれないという表情に一輝は・・・

 

「それは僕も同じですよ」

 

告げて、己の愛刀である黒い日本刀を右手に顕現させる。そうだ。彼もずっと思っていた。『雷切』と自分。強いのはどっちだろうと。自分はこの人を倒せるだろうかと。時にそのことで思い悩み、無形の霧のような迷いに囚われることもあった。だが、今はとてもまっすぐに彼女が見える。

 

「この場に立った以上、自分にも、貴方にも、そして背中を押してくれた人たちにも、恥となるような剣は一太刀だって振るうつもりはありません。だからここに誓います」

 

一輝は右手に持つ刃を持ち上げ、その切っ先を刀華に突きつける。

 

「僕の最弱(さいきょう)を以て、貴方の不敗(さいきょう)を打ち破る!!」

 

「両雄、短く言葉を交わし、己の霊装(デバイス)を手に向かい合います。頂点を歩み続けてきた少女と、底辺から這い上がってきた少年。本当に強いのはどちらか。七星剣舞祭代表枠を賭け、最後の戦いが今始まります!――――では皆さんご唱和ください!LET'S GO AHEAD!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開幕の合図の瞬間。試合開始のブザーと同時に一輝は自身の身体から蒼い光を放ち、刀華に向かって駆け出した。

 

「な、なななんと黒鉄選手いきなり切り札の《一刀修羅》を発動!!!開幕速攻だァァァ!!!!」

 

その事実に会場がどよめく。会場に居た黒乃や寧音などの実力者はこれが悪手であることに顔を顰め、珠雫や凪やカナタなどの学生騎士の実力者たちもあまりに無謀な行いだと表情を悲痛に歪ませる。そんな中、その一輝の行いに微笑むものが二人いた。

 

「まったく。自分の騎士としての人生がかかっているというのに、アンタって本当にしょうがない人ね・・・・。イッキ」

 

一人は一輝の恋人であるステラである。

 

「《雷切》が居合抜きである以上、刀を抜かせた状態で攻め込めばいい・・・・そんなアタシにもわかっているのだから、イッキが気付いていないはずがない。でもイッキはそれは選ばなかったのか・・・でもわかる。なんでイッキがそれを選ばなかったのか」

 

そしてもう一人は玖原総司である。

 

「一輝がここで《雷切》に挑まない訳がない。誰も突破出来ていないクロスレンジに挑まないで勝利を掴んだところで納得はできないんだろ?でもそれは同時に刀華と戦う上で最もいい選択だ」

 

総司が思う刀華の強さとは《雷切》による攻撃じゃない。刀華が戦いの中で常時用いているもう一つの伐刀絶技(ノーブルアーツ)閃理眼(リバースサイト)こそが刀華の強さの神髄だと総司は思っている。

 

「《雷切》は確かに刀華最強の技だ。圧倒的な威力と速さを持っている恐ろしい技だと思う。でもそれ以上に相手の脳の伝達信号から相手の思考を先読みすることの出来る閃理眼(リバースサイト)は恐ろしい。特に一輝みたいな騎士にとってはあの眼は天敵だ。でもそれすらも一切関係なくする刀華の攻略方法こそが《雷切》を突破すること」

 

総司はまたフッと笑う。

 

「刀華が《雷切》を撒き餌に使って戦うって言うんなら話は別だが・・・・《雷切》にはそれなりのプライドを持ってるからな逃げないだろう。さて後は・・・・・・どっちが速いかだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうこれは閃理眼(リバースサイト)で伝達信号を読む必要もない」

 

真っ直ぐに突っ込んでくる一輝にその意図に確信する。

 

「彼は真っ直ぐに突っ込んでくる・・・・ここで引いてその後アウトレンジから嬲れば絶対に勝てる・・・・・冗談じゃない!!!!!」

 

刀華はそのプランでの勝利を確信する。しかし刀華一瞬でそのプランを投げ捨てた。

 

「クロスレンジは私の最強の領域。ここで逃げてしまったら今まで積み上げてきたものすべてを失ってしまう。それに・・・・・」

 

そこで浮かぶのは自分の先を行く幼なじみの背中。

 

「あの背中に届く訳がない!!!!」

 

刀華はスタンスを大きく広げ、《鳴神》を納めた鞘に稲妻を送り込む。

 

「私はここで彼を斬る。そして()と一緒に行くんだ!!騎士の頂点に!!!」

 

刀華が構えるは伝家の宝刀。放てばただ一人の例外もなく斬って落としてきた不敗の一撃。それを抜刀態勢に構え、刀華は風を巻いて迫る一輝を迎撃する。もうあとのことなど知ったことではない。この一刀にすべてを賭ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――――二人の騎士が今対決する。

 

一輝が放つは自身が持つ七つの技のうち最速の一刀。《第七秘剣・雷光》。太刀筋すら見せぬほどの速度で振るわれる不可視の剣。

 

刀華が放つは不敗であり最速の一撃。《雷切》。降り落ちる雷すらも斬り裂く神速の居あい抜き。

 

二人は自身の持てる力や想いも、応援してくれる他者の願いも、そのすべてを己の魂である剣に託し

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

二人の騎士は渾身を込めて、その一刀を振り抜いた!!撃ち放たれた鋼の稲妻。互いに最短距離で疾駆する一撃は、()()()()()()()()()()()()()

 

「刀華が取った」

 

総司は確信する。この打ち合いを制したのは刀華だと。

 

「しかもこの一撃は・・・・」

 

今までずっと一緒に鍛錬をしてきた。様々な相手や場面で打つ《雷切》を見てきた。しかしここまで美しく光り輝いた太刀筋を総司は見たことがない。一輝を殺してしまうほどの覚悟を持って振り切られた刀華の一刀は一輝の身体を斬り裂きに疾駆する――――――しかし次の瞬間、総司の眼を疑う光景が起こる。刀華の一刀が一輝の身体に迫る中、その一刀よりも少し遅れていた一輝の一刀が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

 

そして衝突した鋼の稲妻。吹き飛ばされる大気。衝突は千里に轟く落雷が如き轟音と閃光を生み、あらゆる色と音を奪い去り――――――パリィン・・・とその無音の中で、鋼が砕け散る音が甲高く、会場に響いた。そして後から誰からが倒れる音。総司は閃光の眩しさに目を閉じていた目をハッと開けリングを見る。そして息を飲んだ。

 

 

砕け散ったのは――――《鳴神》。

 

リングに伏せていたのは《雷切》東堂刀華だった。

 

「く、砕け散ったぁぁああああああ!!!。な、なんということでしょう!!たった一刀の交錯、僅か一撃の錯綜!その一瞬で東堂選手の《鳴神》が!《雷切》が!粉砕されましたぁぁぁあああ!!!!」

 

倒れた刀華はピクリとも動かない。総司は息を飲んだまま固まってしまう。そして思い出すのはあの一瞬の交錯の最後の瞬間。一輝が加速したシーン。

 

「どうして一輝が加速したんだ・・・・・」

 

そしてその思考はすぐに答えに辿り着く。

 

「まさか一刀修羅をさらに濃縮したのか!?」

 

一刀修羅。一輝の切り札である伐刀絶技(ノーブルアーツ)。それは一分間で自身の力を使い果たすことと引き換えに自身の身体能力を数十倍に魔力すらも上昇されるもの。しかしそれでは刀華の《雷切》には届かなかった。そこで一輝はあの一瞬の中でそれをさらに濃縮し強化倍率を数百倍まで跳ね上げたのだ。

 

「そんなことができるのか!?」

 

総司は一輝のやったことに驚愕する。そしてそこで告げられる試合終了のコールに会場は割れんばかりの歓声を上げる。

 

「総司さん・・・・」

 

カナタが総司を切なげな瞳で見つめる。そんなカナタに総司はフッと笑いかけた。

 

「・・・・・仕方ない。今回は一輝が上手だった。いや・・・・あの一瞬で進化しやがった。あれはどうしようもない」

 

「総司さん・・・・・はい」

 

総司はいつもと同じようにそう言ったように聞こえる。しかし付き合いの長いカナタには分かった。その総司の言葉に悲しみが混じっていることに。総司もそれに気づいたのか次は出来るだけ明るく振る舞って言った。

 

「さて泡沫と合流して刀華のところに行こう。霊装(デバイス)を砕かれているんだ。ちょっとまずいこともあり得る」

 

「ええ。わかりました」

 

カナタがそれに頷くのを確認すると総司は南郷たちに頭を下げ客席から出いき、カナタもそれにならって頭を下げて総司について行った。その様子を見ながら南郷はフッと微笑んだ。

 

「・・・・・安心したわい」

 

「?南郷先生なにがですか?」

 

「じじいどういうことだよ?」

 

南郷はふぉふぉっと笑っただけで二人の問に答えることはなかった。




どうだったでしょうか?

今回の話で三巻の終わりまで書きたかったのですが書けませんでした。すみません。

次回この話の後日談を少しして四巻の話に繋げていく予定です。

それにしてもこの戦い良いですよね。一刀の決着。様々な設定で書いては見たのですがやはりこの形だ!と思いました。

総司の戦闘シーンも書こうかと思ったのですが、それはもう少々お待ちいただければと思います。

今回も感想、批評、評価お待ちしておりますのでよろしくお願いします。

ではまた次回会いましょう。

簾木 健




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其々

ちょっと時系列が・・・・

でも繋ぎの話として後悔はしてません!

今回も楽しんでいただけると嬉しいです!

簾木健


「はっ!!」

 

試合から一時間後気を失っていた刀華は眼を覚ました。そして状況を確認する。ベットに横たわる自分。そして介抱する泡沫とカナタ。その後ろで壁に寄りかかって立っている総司。その表情と光景に自分が敗れたことを確信する。

 

「そっか・・・・負けちゃったか」

 

刀華の記憶・・・・記憶の切れる最後の瞬間は疾駆する《鳴神》が一輝を捉えたと感じたところからない。

 

「そうちゃん、我ながら最高の《雷切》だったと思うんだけど・・・・どうだった?」

 

総司はその刀華の問にフッと微笑んだ。

 

「今までは最高だったんじゃないか?放った瞬間でなら一輝を上回ってた」

 

「・・・・放った瞬間ではね」

 

刀華は自嘲気味に笑う。総司の言葉の意味が刀華の身に染みる。次の瞬間に一輝が刀華を上回って行ったという事実は自らの甘さを痛感させられる。でもそれと同時に刀華は自らの可能性を強く実感していた。

 

「現時点では私はまだ《落第騎士》には届かない。この負けは必然。でも・・・・・私はまだまだ強くなれる」

 

今現在の一輝との差。その差は必ず埋める。埋めてみせる。と刀華は自らの心に強く誓った。それを外から総司は感じてまたフッと笑った。

 

「それでさ・・・・刀華」

 

「うん?」

 

そこでふと気まずそうな表情で泡沫が話しかけてくる。

 

「『若葉の家』には僕から連絡しようか?」

 

そこで刀華は思い出す。そういえば横断幕作っていたのだった。ちゃんと自分は負けたことを伝えなければならない。

 

「気を遣ってくれてありがとう。でも大丈夫。自分のことは自分で言うよ」

 

「いいのか?無理してるならおれから連絡してもいいぞ?」

 

総司も気を遣ってくれている。でも刀華それにも首を横に振った。

 

「だってこの負けに何も恥じることはないから」

 

刀華は全力も出した。渾身のあらん限りの力を使い果たし負けた。あの一刀は誰に見せても恥ずかしくない。だから

 

「私は胸を張れるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間後、破軍の代表に選び抜かれた六人の正式な任命式が行われた。しかしその場には何故か四人しかいない。

 

「私情により、玖原総司と有栖院凪は欠席している」

 

カナタはその理事長の言葉を聞いて横に居た刀華に尋ねた。

 

「・・・・・・会長」

 

「うん?どうかしましたか?」

 

「今日総司さんはどこに行ったんですか?」

 

「そうちゃんは今日朝から出かけて行ったの。なんか寧音さんのところに行くって・・・・」

 

「西京先生のところ?」

 

「うん。なんか呼ばれたみたい」

 

「・・・なにかあったんでしょうか?」

 

「いや、それは大丈夫みたい・・・・たぶん調()()だと思う」

 

「えっ・・・・・」

 

刀華の言葉にカナタが顔を青くする。

 

「それって()()()()()()()()()()()?」

 

カナタの質問にうーんっと苦い顔で刀華は笑った。

 

「まぁ寧音さんも公式試合前だから()()()無茶はしないと思うけど・・・・・」

 

「前に調整と言って行ったのが災害レベルでしたですもんね・・・・」

 

「うん・・・あっ・・・・そろそろ準備しなきゃ」

 

そう言って刀華はカナタから離れていく。刀華にはこの場で破軍学園代表団長に校旗を渡す仕事があるのだ。刀華が離れてしまった後でカナタは一つため息をついた。

 

「総司さん・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カナタがそう名前を呟いた時、当の本人は二つの小太刀を抜き構えていた。場所は東京の郊外にあるKOK選手専用の演習場。目の前に立つのはもちろん西京寧音。その両手に鉄扇を持ち総司と対峙していた。

 

「さて総司ちゃん。今回の調整は()()で来な」

 

「・・・・いいんですか?」

 

「なに遠慮してんだ?いいよ。アタシは調整になるし、総司ちゃんも少しは錆落としときたいだろ?」

 

寧音がニヤリと笑う。それにつられてか総司もニヤリと笑った。

 

「わかりました・・・だた寧音さん」

 

「うん?なんだい?」

 

「・・・・・・あの時と同じと思わないほうがいいですよ?」

 

「っ!!!!」

 

総司から魔力が放たれる。その魔力はAランクである寧音からしても、ヒヤリと冷たい汗を流すほどだった。

 

「こりゃこっちも出し惜しみしてらんねぇ・・・・」

 

寧音はそう思いながらもさらに笑顔になる。昔知っている子の成長を実感した喜び・・・・いやそれ以上に寧音はある喜びを実感していた。

 

「こんな強い相手と戦えることが嬉しくないはずはない!!」

 

その後激しい爆音と地震が何度もその地域を中心として起こったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七月中旬。黒鉄珠雫は破軍学園にある演習場である相手と向かい合っていた。

 

「ハァハァ・・・・」

 

息切れを起こす身体。魔力も残り少ない・・・・それでも・・・・・

 

「くっ!!!」

 

攻撃は止まらない。

 

「ハァァァ!!!」

 

飛んでくるのは雷撃。それを珠雫は水を使って防ぐ。

 

「あっ!!」

 

しかし今までは防ぎきっていた雷撃だったがついに水の守りを掻い潜り珠雫に直撃した。

 

「っ・・・・・」

 

珠雫は膝から崩れ落ちる。そんな珠雫に雷撃を打っていた相手がやってきた。

 

「まだまだだな・・・・・・ただ魔力制御はさらによくなった。超純水の生成速度も速くなってるし水に込められて魔力の質も濃い。まぁもうちょい持続力を付けれれば文句なしだ」

 

やってきたのは玖原総司。珠雫は総司の特訓を受けることにしたのだ。しかし・・・・捨てることはしなかった。

 

「私はそれを捨てることができません。でもそれでも強くなりたい。このままでお兄様を迎えてあげることが出来る人は私以外にはいないんですから」

 

それが珠雫の答えだった。その答えはどうやら総司の満足の行くものだったようでこうして総司は珠雫に鍛錬をつけていた。総司がつけているのは魔術の訓練。珠雫は小太刀の扱い方なども教えてくれると思っていたので初日にそれについて尋ねると総司は・・・・・

 

「おれの小太刀は確かに基礎をきちんと基にしたものだけどよ・・・おれは感覚派でな。武術の方は教わるのなら一輝のほうがいい」

 

と言って武術は教えなかった。その代わりの魔術については今のようにとことんいじめ抜かれていた。

 

「それで・・・・・あれは出来そうか?」

 

「・・・正直難しいですね」

 

「でも、できなくはないだろ?」

 

総司がフッと笑う。それに珠雫はムッと顔を顰めた。

 

「やりますよ!!やってやりますよ!!!」

 

「なんか投げやりだな。まぁいい・・・・そっちのほうもしっかりやっとけよ。今回はこれで終わりだ。お疲れさん」

 

「ええ。ありがとうございました」

 

「お疲れさま。珠雫」

 

「ええ。ありがとうアリス」

 

総司はそんな二人に背を向け去っていく。

 

「・・・・本当にすごい」

 

「ええ。珠雫の鉄壁の守りが子ども扱いなんてとんでもないわ」

 

「それもだけど・・・・・この間より雷撃が少し強くなってたの」

 

「え?」

 

「その前もちょっと変わってた。あの人は無造作に雷撃を飛ばしているように見えてそのすべてをコントロールして飛ばしているの・・・・・私よりも遥かに魔力制御力が高い」

 

「っ!!!!」

 

珠雫は魔力制御に関しては一年生主席だった。その力は選抜戦でも如何なく発揮されその点では生徒会長でもある東堂刀華にも通用した。でもその力を持ってしても玖原総司とは圧倒的な差がある。

 

「あれで剣術のみでお兄様と戦える実力があるなんて・・・・・本当に信じられない」

 

珠雫と凪は総司が去っていく背中をその姿が見えなくなるまでずっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ刀華。刀華も今飯か?」

 

寮の食堂。総司はそう言って持っていたトレーを置いて刀華の前の席に座る。

 

「そうちゃん、お疲れ様。トレーニング?」

 

「おれのじゃないけどな。珠雫のやつだ」

 

「ああ。なるほど・・・・・どう?」

 

「まぁ魔力制御に関しちゃちょっと意識が甘いだけで天才だからな。どんどん伸びるよ」

 

「そっか。それは楽しみだね」

 

刀華はふふっと笑ってお味噌汁を飲む。総司もいただきますと言って持ってきた鯖の味噌煮に手を付け始める。

 

「そういえばカナタや泡沫は?」

 

「うたくんは仕事。この頃また溜めちゃっててね。それに区切りがつくまでさせてるの。カナちゃんはなんか用があるとかで実家に戻るって連絡来てたよ」

 

「なるほどな・・・・そういえばもう少しでテストもあるな・・・・泡沫は大丈夫か?」

 

「うーん・・・・それなりに大丈夫だと思うよ。赤点とかにはならないと思う」

 

「そうか・・・・で?()()()()()?」

 

「・・・・・・」

 

総司の問に刀華の顔をさっと伏せる。

 

「おい、刀華」

 

「・・・・・」

 

黙っている刀華に総司はハァとため息をついた。

 

「飯食ったら見てやるよ。一般教科だろ?」

 

「はい・・・・お願いします」

 

「了解」

 

刀華は頷いて頭を下げる。それに総司また一つため息をついてからさらに鯖を食べ進める。刀華はハァとため息をついて顔を上げてあることに気付いた。

 

「そうちゃん。ちょっと動かないで」

 

「えっ?どうした?」

 

刀華にそう言われ総司がピタっと動きを止めると刀華はスッと椅子から腰を上げ手を伸ばす。そして総司の口元についていたご飯粒をスッと取った。

 

「お弁当ついてるよそうちゃん。もう・・・・」

 

刀華はそう言いながら手で取ってご飯粒を自分の口に入れて食べた。ただ次の瞬間ハッとして段々と顔を赤くしていく顔を伏せていく。それを見ていると総司も段々と恥ずかしくなってくる。総司はご飯粒がついていた辺りをかきながら言った。

 

「悪い刀華・・・・ありがとう」

 

それに刀華は顔を伏せたまま答える。

 

「いえ・・・こちらこそ・・・・お粗末さまでした」

 

そんな二人を見て食堂で何人もの人が机に突っ伏したのは当然のことだろう。




どうだったでしょうか?

楽しんでいただけました?

今回は完全に繋ぎの話です。これから合宿編そしてその後につながっていきます。

これからも楽しんでいただけるよう頑張っていくのでよろしくお願いします!

簾木健


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不安

うーん・・・ちょっとですが話が進みましたね。

バトルシーンはもうちょっと先になりそうだな・・・

合宿編はアニメではなかったしもっと詳しくやったほうごいいのかな・・・難しいですが楽しんでもらえるように頑張っていきます!!

簾木健


七月下旬。一学期も無事に終わり、破軍学園は夏休みに入っていた。長期休暇ということもあり、帰郷した生徒も多く、校内の人気はまばらであった。そんな時期玖原総司はバスで山形に向かっていた。理由は七星剣舞祭本戦目前の合宿に向かうためであった。普段は破軍学園の合宿は奥多摩で行われる。しかし今回は前にあった奥多摩巨人騒動のため奥多摩の合宿所は閉鎖。あの一件は迷宮入りとなった。しかし何かその件について手がかりがないかと刀華が巨人を倒した本人である総司に聞いたところ

 

「あれはもういい。たぶん無理だし」

 

と言ってどんな相手だったのか言ってはくれなかった。そういうことで新宮寺理事長が『巨門学園』に頼み込み、山形にある合宿場で、『巨門学園』代表選手との合同合宿をすることになったのだ。

 

「巨門といえば・・・・ああ鶴屋のことか」

 

「うん。鶴屋さんも相当手練れの騎士だからしっかり対策しとかないと駄目だよ?」

 

「わかってる」

 

バスの中、総司と刀華は隣に座って喋っていた。刀華は代表にはなれなかったが、今回の合宿のボランティアコーチとしてこの合宿に呼ばれてたのだ。

 

「で?例年ならこの合宿ではどんなことをするんだ?」

 

なんだかんだで合宿初参加の総司が去年も合宿に参加した刀華に尋ねる。

 

「普段通りならKOKリーグに参加してたり、他の職種のプロの魔導騎士が講師に来て指導をしてくれたりするんだけど・・・・・そうちゃんは()()()()()?」

 

「そうだな・・・・・プロって言っても寧音さんや黒乃さんクラスじゃないんだろ?」

 

「うん。さすがに・・・そのクラスはみんな大阪に行ってるし・・・・」

 

今年の七星剣舞祭は大阪で行られるため黒乃はその準備、寧音は現在KOKの公式戦のため大阪に行っている。なのでそのクラス人間はほとんど大阪に集結している。それに総司はハァとため息をついた。

 

「こりゃ一輝当たりと一緒に遊ぶしかないかな・・・・・」

 

「黒鉄くんか・・・・」

 

総司の言葉に刀華が意味あり気に言う。

 

「ステラさんは違うの?」

 

「ステラか・・・・」

 

総司は頭を掻く。そしてハッキリと言った。

 

「あれはまだ一輝と同じクラスにいない」

 

「えっ・・・?」

 

刀華が総司の言葉に目を見開く。総司はその刀華の表情を見てからさらに言う。

 

「確かにステラは素材はいい。おれも出会った中では最高の潜在能力を持ってるのは事実だ・・・・・・でもな」

 

そこで一度言葉を切りさっき以上にハッキリと言った。

 

「いまはまだまだだ。たぶん刀華お前でも今なら余裕で勝てる」

 

「余裕で?」

 

「ああ。もちろん現状だ。お前と戦う中で成長して行くだろうからまた変わってくるだろうが・・・・どこまで伸びるかね」

 

総司は頭をさらにガシガシと掻く。それにすっと刀華は目を瞑る。

 

「そうちゃん。ハッキリ言って。今のステラさんや黒鉄くんをはじめとする今回のメンバーどこまで勝てると思ってますか?」

 

その質問に総司は少し考えてから言った。

 

「一輝とステラが良くてベスト4。その他は当たりが相当良くない限り一回戦も勝てないだろうな」

 

「・・・・・・」

 

総司の言葉に刀華はなにも言わない。けれど総司はそんな刀華に続けて言う。

 

「刀華。お前とカナタでステラを鍛えろ。一輝はおれが鍛えてみる。ただ一輝はどうなるかはわからん。正直おれでも教えれることは少ないと思う」

 

「わかりました」

 

刀華はゆっくりと目を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして合宿は4日目に入っていた。ステラは刀華とカナタとの模擬戦を繰り返している。ただステラはどちらにも勝ち越すことは出来てない。そして総司と一輝は・・・・

 

「ハァ!!」

 

「チッ!」

 

一輝の刀が総司の小太刀によって防がれそれによって一輝が体勢を崩され、攻守が変わる。右手の『白和』が一輝の首筋に走る。しかし一輝は焦った様子もなく素早く体勢を立て直すとその小太刀をスウェーで避ける。しかしそこにさらに総司の左手の『黒光』が次は一輝の腹を切り裂こう迫る。

 

「チッ!!」

 

一輝は後ろに飛んでそれを回避する。普通ならそこで総司は追撃を繰り出すところだが何故か構えを解いた。すると・・・

 

「やめ!!」

 

そう声がかかり一輝もふぅと緊張を解く。すると声をかけた女の子、一輝の妹である黒鉄珠雫が一輝にタオルを渡す。

 

「どうぞお兄様」

 

「ありがとう珠雫」

 

「いえ。玖原先輩もどうぞ」

 

「おっ悪いな。そういえば刀華とステラの模擬戦は・・・・いや聞く必要なさそうだ」

 

総司たちが話している近くにはもう悔しそうなオーラを漲らせながら近づいてくる赤い髪の女の子がいた。そして後ろから苦笑いをしながら近づいてくる眼鏡の女の子。

 

「どうだった?」

 

総司がその眼鏡の女の子・・・刀華に話しかける。

 

「最後は雷切の2段目でとどめでした」

 

「・・・・見せたのは初めてか?」

 

「うん。そうだよ」

 

「ならいいか。まぁお疲れ様」

 

「うん・・・・」

 

総司は労うか刀華の表情は暗い。総司はそれについてはなにも言わない。しかしその表情は刀華同様優れない。それもそのはずだ。一輝にしてもステラにしても成長は総司が当初予想した速度を完全に下回っていたのだ。ただ一輝の場合は総司にも教えてやれることがない。むしろ手合せの中で総司が学ぶことのほうが多い気さえしていたほどだった。そんな人間を成長させることはほぼ出来ないだろう。でもステラは違う。総司は鋭い眼でステラを見る。総司はこの合宿に入ってステラの戦いを何度も見る中で拭え切れない違和感を感じていた。

 

「・・・・まるでおれだ。蓋をしてるみたいだ」

 

「えっ?」

 

総司が静かに零す。

 

「でも意図的じゃないな・・・・・これは一筋縄では行かないかもな・・・・・」

 

「そうちゃん・・・それどういうこと?」

 

刀華がそれを聞いて聞き返す。

 

「・・・・・少し強引に行く必要もあるかもな」

 

「それはどういうい「すみません!!ちょっといいですか」

 

刀華がその真意を聞き出そうとしたところでそれは遮られた。

 

「どうも。『貪狼』新聞部の小宮山です。《閃光》玖原総司さん、《雷切》東堂刀華さん少しインタビューをさせていただいてもいいですか?」

 

小宮山の後ろからは『破軍』の新聞部である加々美と『武曲』の新聞部である八心もやってくる。総司は一つフゥとため息をついた。

 

「おれは構わない。刀華は?」

 

「え、ええ。でもいいんですか?私は代表ではないですよ?」

 

それに小宮山は構わないと頷く。すると今度は八心が口を挿む。

 

「出来ればやけど破軍の代表ってことで《落第騎士》と《紅蓮の皇女》にもインタビューしたいんや。一緒にいいか?」

 

「そう・・・一輝、ステラ」

 

総司はそれを聞き一輝とステラを呼ぶすると二人が来る。総司は二人に事情を説明する。すると二人も構わないと頷いた。その後総司は泡沫にメールをする。事情を説明して残りの代表である葉暮桔梗と葉暮牡丹の双子の姉妹を連れてきてほしいという旨を伝えるメールはすぐに返事が来た。どうやら二人は恋々との模擬戦がしているらしくそれが終わり次第向かわせてくれるらしい。それをそこに居た新聞部の三人に伝えると三人はポカンとしていた。

 

「どうかしたのか?」

 

総司がそう聞くと最も早く我に返った八心がハハッと乾いた笑いを漏らしながら頬を掻いた。

 

「いや、あの黒鉄王馬の好敵手がこんなに取材に協力的とは思えんくてな・・・・」

 

「どんなイメージを持たれていたんだか・・・・・」

 

「い、いや・・・まさかここまで協力的な人だったとは・・・・」

 

加々美も驚いたようで言葉の歯切れが悪い。そこで総司はああと頷いてから言った。

 

「そういえば破軍の選抜戦でもそこまで取材されなかったのはそのためか?」

 

「あっ・・・はい。実は部長が結構玖原先輩にビビッていたみたいで・・・・・」

 

「なるほどな。まぁ面倒なことだし少なくていいんだが・・・・・」

 

総司はハァとため息をつく。それにはなにか色々な感情が混ざっているように感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では取材をさせてもらいます!!」

 

場所を移動して合宿施設にある食堂。そこでご飯でも食べながら取材をすることになったのだ。葉暮姉妹も合流し破軍の代表が全員揃う。それを見て八心はハァっと声をもらす。

 

「今回の破軍の代表は本当に雰囲気あんな。こりゃほんまにうちの天下も危ういわ」

 

「そういえば『武曲』は誰が出てくるんですか?」

 

一輝が尋ねる。

 

「去年とメンバーはほとんど変わらへんよ。一人イレギュラーが入ったくらいや」

 

「王馬兄さんですね」

 

「ああ。あれはほんまに強いで。覚悟しとき」

 

「結局武曲はかなり強いじゃないですか」

 

加々美がムッと顔を顰める。しかし八心はいやと首を振った。

 

「だからアタシは気になるんや。正直《風の剣帝》黒鉄王馬の強さは異質やった。あれに勝てる騎士はそうおらんうやろ・・・・・・でもその異質な強さを持った男が勝てなかったという男の強さがな」

 

八心はニヤリと笑いフォークで総司を刺す。

 

「選抜戦の結果見せてもろうた。《紅の淑女》の結果以外ほぼ全て瞬殺。あの余りの速さから付けられた二つ名が《閃光》。アタシから見たらそっちも異質やわ。今回の合宿でも一日目で『巨門』が用意してくれたプロの魔導騎士のコーチを4人とも倒しとる。ほんまにどうしてここまで出てこなかったのかが不思議なくらいの騎士や」

 

「それはどうも」

 

総司はそう言いながら味噌汁を飲む。総司の今日のメニューは焼き魚とご飯と味噌汁にサラダだった。そんな総司を見ていると力が抜けていく。八心もそうだったようでハァとため息をつく。

 

「ほんま聞いとった通りの男やな」

 

「うん?」

 

その言葉に加々美が反応する。

 

「八心さん。玖原先輩のこと誰に聞いてたんですか?」

 

「ああ。それはな諸から聞いたんよ」

 

「諸?」

 

「ああ。諸星雄大聞いたんよ」

 

「「「「えっ?」」」」

 

その言葉に総司と刀華とステラ以外が目を見開いた。

 

「現七星剣王が・・・・・玖島先輩知り合いなんですか?」

 

加々美が聞く。

 

「現七星剣王!?」

 

そこでステラは全員が驚いた理由に気付く。それに総司はああと軽く頷く。その反応に刀華は苦笑いを浮かべただけだったが他のメンバーは開いた口が塞がらないようすだった。それを見て総司は笑う。

 

「普通知ってるだろ?同年代の強者なんだし・・・「それだけやない」」

 

そこで八心が口を挿む。

 

「その七星剣王がこう言ったんや。『正直これまでのやつとは別次元や。気を付けんばな』ってな」

 

「「えっ・・・・・・」」

 

葉暮姉妹は完全に言葉を失う。それに総司はまたフッと笑った。

 

「雄大のやつそんなこと言ってたのかよ・・・・それは楽しみだな」

 

笑う総司。しかし総司の雰囲気は今までと比べ者にならないものになる。その雰囲気に八心、小宮山、加々美は息を飲んだ。そして三人はこの男が今回の七星剣舞祭を引っ掻きまわすこと悟った。




どうだっでしょうか?

ついに七星剣王が!!諸星は好きなキャラなんで頑張って書きたいんだけど・・・関西弁難しい!!!書いてはみたけどエセっぽいな・・・・誰か教えてくださいww

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしければお願いします!!

ではまた次回会いましょう!!

簾木健


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暗躍

少し遅くなってしまいました。

この頃本当に忙しい・・・・でも投稿は頑張っていきます。

では今回も楽しんでいただけると嬉しいです。

簾木 健


総司は夜フラリと出かけていた。理由は人に会うため・・・・・その人と言うのが・・・・

 

「待ってたわ」

 

「悪い。少し遅れたか?」

 

「大丈夫よ」

 

総司が会いきたのは凪だ。

 

「で?連絡ってなんだ?」

 

「・・・・来たわよ」

 

「・・・・そうか」

 

ハァっとため息をつく総司。凪はそんな総司を真剣な眼差しで見つめる。

 

「で?どうするのよ?」

 

「・・・どうするか」

 

総司は少し考えた表情になる。ただその表情は浮かない。

 

「・・・・動かないの?」

 

「ただ単純に動いたところでなんとかなる相手なのか?」

 

「それは・・・・・」

 

凪が言い淀む。その様子に総司は相手の強さを測る。

 

「王馬クラスはどれくらいいるんだ?」

 

「その人クラスってどれくらいなの?」

 

「・・・・・・刀華を瞬殺出来るくらい」

 

「えっ・・・・」

 

凪が言葉を失う。総司はそんな凪をスッと見据える。

 

「この間王馬に会ったんだが、おれの目測が正しければそれくらいの雰囲気はあった・・・・で?そのクラスはいるのか?」

 

「・・・・わからないわ。でもその強さの人間はそうはいないんじゃない?」

 

「そうか・・・・・戦力がはっきりしないのは痛いな」

 

そこで凪は気づく。総司の表情が変化したことに・・・・・しかし凪はそこには突っ込むことなく続ける。

 

「ええ・・・・で?どうするの?」

 

「・・・・・・アリスなにか考えはあるか?」

 

「そうね・・・・・私の能力で奇襲をかけるのはどう?」

 

「影を操る能力か・・・・いけるのか?」

 

「ええ。自信はあるわ」

 

凪の眼には確かな自信が宿っている。総司は納得する。凪がいままで歩いてきた道。その手に染みついた血の匂いが、凪がどんな道を歩いてきたかを理解させるには充分だった。その凪が自信を持って言うのなら間違いないだろう。

 

「じゃあアリスに任せる。おれはどう動いたらいい?」

 

「・・・・・・総司さんは最後まで動かないでいてもらえる?」

 

「・・・・わかった。でも()()()()?」

 

「ええ・・・・できれば私の作戦が失敗した時に備えていて」

 

「・・・・・わかった。任された」

 

「ええ。お願いね・・・・あとこのことは・・・・・」

 

「そこはわかってる。他言しねえよ」

 

「ええ。じゃあまたね」

 

「またな」

 

総司はそう言って去っていく。その背中に凪はハァとため息をつく。

 

「まさか・・・・そんなに嬉しそうな顔するなんて思わなかったわよ」

 

敵の戦力がわからないと言った時の表情。好戦的な笑顔。なんどか見たことがある。でも今日のはまた一段とすごかった。

 

「殺気の漏れ方も凄かったわね・・・・・」

 

そこで自身の背中がベットリと濡れてシャツが張り付いているのに気づいた。

 

「これはすごいことになるかもしれない・・・・・」

 

凪はハァとため息をついて空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨門と破軍の合同強化合宿も明日で終わりとなった日の深夜。天気の生憎の雨だった。嵐というほどではないが、大粒の勢いのある雨が、パタパタと窓を叩く。そのどこか小気味よい音に耳を傾けながら、破軍新聞部・日下部加々美は施設側が各校の新聞部に親切で貸している宿泊施設の一室で、この合宿期間の間に集めた資料の整理を行っていた。小さなデスクスタンドの光の下に並ぶ書類の数々は、この合宿で取材した内容と、各校の新聞部とトレードした選手の情報。そしてデスクの上のノートパソコンに表示されているのは、他の新聞部員たちが集めてきた他校の合宿の情報だ。それらすべての情報を照らし合わせ、この合宿期間の七校の動向や、七校それぞれ戦力分析を俯瞰的な視点からまとめ直す。七星剣舞祭前の特集号のために。それはそういった作業の過程での発見だった。切っ掛けは、紫乃宮天音のことを気にかける一輝からの電話。紫乃宮天音は巨門学園の一年生で今日ランニングに出た一輝と会ったらしいのだが正直一輝からの電話があるまでは加々美は対して興味を持ってなかった。確かに謎の多い選手ではある。どんな能力を有しているのかはっきりしていない。だがそもそも伐刀者(ブレイザー)の能力を口外する学校などないのだ。選手の情報を漏らすことは、学校にとってなに一つ利することがない。それに今年の七星剣舞祭にはそういったいままで無名だった人間が何人もいる。だから加々美はそれらの人物たちを多く調べようという気持ちにならなかった。Aランクである《風の剣帝》黒鉄王馬や《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァ―ミリオン。現《七星剣王》諸星雄大。あの《雷切》と《紅蓮の皇女》を破った《無冠の剣王》黒鉄一輝。そして《風の剣帝》、《七星剣王》の二人が警戒し破軍選抜戦においてたった一つの傷も負うことなく代表を掴んだ《閃光》玖原総司。これだけ注目すべき選手は他に大勢いるのだから。しかし、一輝からの電話は彼女の頭の片鱗に、天音に対する興味を芽生えさせた。だから加々美は七校の情報をまとめ直す段階で、軽い気持ちでその興味に触れてみたのだ。結果・・・・加々美は愕然とした。

 

「なに・・・・・これ・・・・・・」

 

東北の山奥は夏でも涼しいというのに、背中に冷たい汗がびっしりと噴き出してくる。加々美が目を落とすのは、苦労して手に入れた紫乃宮天音の一学期の成績表。そこに記されていた授業で行われた模擬戦の戦績だ。

 

六戦六勝―――――――――うち()()()()()

 

「なんなの、この人・・・・・」

 

新聞部としてたくさんの選手の戦績データを収集してきた加々美だが、こんな薄気味悪い戦績は見たことない。

 

「いやでも、見たことがないと言ったら・・・・・」

 

天音のあまりにも不気味な戦績を見たからだろうか。今までそこまで気にとめていなかったことに、加々美は不自然さを覚える。

 

「・・・・・こんなに『無名の一年』がエントリーされている七星剣舞祭自体、過去に無い」

 

ただの豊作。今まではそう考えていたが、果たしてあり得るのだろうか?力のある人間は本人が望まずとも目に止まるのがこの世界。そんな世界で、これほど多くの一年で代表に選ばれる程の『実力者』が、――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まるで今まで日の当たらない世界にいた者たちが、示し合わせたかのよう・・・・・

 

「・・・・・っ!」

 

ふと、加々美は感じた。自分が何か、とんでもないことに気付きつつあることを。そして、その気づきは自分のようないち学生にはどうしようもないほど、途方もないものだとも。

 

「だけど、だからって放ってはおけない」

 

違和感を覚えたからには、追及しなくては。それが記者というものだ。だから加々美はすべての資料をひっくり返して自らの内に生まれた違和感を追及する。七校すべての代表生の情報。理事長や七星剣舞祭運営委員会の顔ぶれ。さらには運営に協力するスポンサーのリストまで。それら七星剣舞祭を構成すべての要素を俯瞰的に観測し・・・・そして数時間が経ち、草木も眠る丑三つ時。日下部加々美は、行き着いてしまう。彼女が日々磨き続けてきた記者としての極めて高い能力が、彼女を気づくべきでなかった真実にたどり着かせてしまう。

 

「間違いない・・・・・・この七校の中に・・・・・・もう一校、いる」

 

その瞬間だった。焼けるような熱が、加々美を背中から貫いた。

 

「―――――ぇ」

 

加々美は資料を見下ろしていた視界に、自分の胸から鈍色の刃が生えた瞬間を見る。スタンドの光を受けて鈍く光るその刃の形を、加々美は知っていた。加々美を背中から突き刺したのはダガーナイフ型の固有霊装(デバイス)黒き隠者(ダークネスハ―ミット)》の刃。そしてその霊装の持ち主は・・・・・

 

「ア、リス・・・・ちゃん・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

最後の力を振り絞り、背後に目を向ける加々美。そこには()()の姿があった。ただ顔が見えたのは一人。見知った学友の見たことないほどに冷たい表情があった。学友―――――有栖院凪は冷たい表情のまま、唇を開く。

 

「貴方、少し賢すぎだわ」

 

直後刃を引き抜かれ同時に加々美の身体が膝から崩れ、資料の山の上に落ちる。《幻想形態》による致命傷特有の強制的なブラックアウトが容赦なく加々美の意識を奪う。

 

「先輩・・・・。ステラちゃん・・・・。気をつけて・・・・・今年の七星剣舞祭には・・・・、魔物が潜んでる・・・・・・っ!」

 

そうして、日下部加々美は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凪は膝をかがめ、倒れた加々美の様子を観察する。彼女は完全に気を失っていた。この様子ならば、丸一日は意識を取り戻さないだろう。

 

「残念よ。・・・・・かがみんがもう少し鈍かったら、あと数時間は友達でいられたのに」

 

「本当に賢いな・・・・・ここまで辿りつくなんて・・・・こりゃ破軍新聞部の未来も安泰だな」

 

資料を見ながらそうつぶやいたのは・・・・・・玖原総司だった。

 

「ええ。本当に自慢の友達()()()わ」

 

「そうか。まぁ今回の計画では邪魔だ」

 

「・・・・・ちょっと連絡するわね」

 

凪はそう言ってある人物に電話をかける。そんな凪から視線を切り総司は加々美の調べた資料を見る。

 

「それにしても・・・・・・本当にここまでよく調べたな」

 

その資料には七校の名。そしてその下には名前が書いてあった。貪狼学園、多々良幽衣。巨門学園、紫乃宮天音。禄存学園、サラ・ブラッドリリー。文曲学園、平賀玲泉。廉貞学園、風祭凛奈。武曲学園、黒鉄王馬。破軍学園、有栖院凪、玖原総司。

 

「これが『暁学園』か・・・・」

 

総司は目を細める。『暁学園』、それは()()()()()()()が『七星剣舞祭を崩壊させる』という目的のためだけに新設した学校だ。そのほぼ全員が『暁学園』を創設したある巨大な組織(スポンサー)が、テログループである《解放軍(リベリオン)》に金を払い雇い入れた闇の世界の精鋭たちだ。

 

「まぁおれは違うんだけど・・・・・・さてこれどうするかね・・・・」

 

総司は資料をどうするか考える。そこに電話を終えた凪がやってくる。

 

「ちょっと面倒なことになったけど・・・・・」

 

「面倒?どうした?」

 

総司が厳しい顔つきになる。それに凪が真剣な表情で告げた。

 

「アタシの先生。《軍》の《十二使徒(ナンバーズ)》である《隻腕の剣聖》サー・ヴァレンシュタインが来日しているみたい」

 

「《十二使徒(ナンバーズ)》・・・・・《軍》の幹部か・・・・・それは面倒だな。まぁそこはなんとかするしかない。あとで能力を教えてくれ。で?この子は?」

 

「この子は殺さずに監禁してればいいみたいだからアタシが資料と一緒になんとかしとくわ」

 

そう言いながら凪は加々美と資料を影の中にずぶずぶと沈めた。

 

「さて・・・・・じゃあアリス計画通りに行くぞ」

 

「ええ。あなたの力、存分に頼らせてもらうわ」

 

 




どうだったでしょうか?

ついに暗躍する組織の名前が出ましたね。というか半分くらいは原作通りになってしまいました・・・・・

さてそろそろ総司を本気で暴れさせますかねww

次回か次々回には必ずバトルシーンを入れますのでお楽しみに!!!!

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしくお願いします!!!!

ではまた次回会いましょう!!!!

簾木 健


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思惑

今回は早めにあげれました!!

さて今回はちょっとシリアスですかね?

まぁ今回も楽しんでいただければ嬉しいです!

簾木健


「ただいま。刀華」

 

「おかえりそうちゃん。どこに行ってたの?」

 

総司はそれに苦笑いを浮かべたがきちんと答えない。ただ刀華はその笑みで総司がどんなことをしてきたのかわかった。

 

「・・・・そうちゃん」

 

だから刀華は不安そうな顔で総司を見つめる。総司はそんな刀華の頭をポンポンと優しく叩いた。

 

「大丈夫だ。おれがなんとか・・・・「それが心配なんだよ」・・刀華」

 

総司の言葉を遮って刀華言う。

 

「そうちゃんはいつもそうやって一人でやっちゃうんだから・・・・・・少しは()()()を頼ってよ」

 

普段の刀華からは想像もできないような小さく弱い声。そんな刀華に総司はガシガシと頭を掻いた。

 

「・・・・・わかってはいるんだけどな」

 

総司は小さく息を零す。総司自身はそれが自分の悪いところだとわかってはいる。人を頼れない。それは総司が積み上げてきた人生の中で最もしてこなかったこと。『天陰流』を極めれるほどの剣の才、そして魔力という才能。能力が遅かったせいで巻き込まれた玖原家の家業である暗殺の道。その道を歩く過程で多くの人間を手にかけたそしてその結果、二つの才はさらに研ぎ澄まされて総司はドンドンと強くなった。ただそのせいで総司は()()()()()()()()()。人を一人、また一人と手にかけるたびに不安になっていった。自分の大切な人がこんな風になってしまうんじゃないか・・・・・・・だから人を頼らなくなり、人になにかを任せることを心底恐れるようになった。そしてそれは足を洗った今でも楔のように撃ち込まれいつからか信念のようになっていた。なにかを任されることはあってもなにかを仲間に任せることはない。そんな人間が出来上がっていたのだ。

 

「そうちゃん・・・・もう一人で抱え込まないでよ・・・・・」

 

それは懇願。涙を目じりに溜め総司の服を掴む。ただその目は真っ直ぐに。

 

「私やカナちゃん、うたくんがそうちゃんの力になるから・・・・・」

 

「・・・・・刀華違うんだ。そうじゃないんだ」

 

「えっ・・・・・」

 

「刀華は言ったよな。おれの横に立つ騎士になるって」

 

「うん・・・・」

 

「・・・・あの時素直に嬉しかった。でもおれはすごく不安にもなったんだよ」

 

「・・・・・・どういうこと?」

 

「おれは一人だった。だからおれの側にいてくれるって言うのはすごく嬉しかったんだ。でもな・・・・・おれはすごく臆病なんだよ」

 

「臆病?」

 

その言葉に刀華は疑問を感じた。刀華から見た総司は全くそうとは思えなかったから。いつも強く、どんな危険なところでも危険なことでも自分が為したいことがあるなら飛び込んでいく。そんな総司しか刀華は知らない。

 

「おれは・・・・・刀華やカナタや泡沫・・・・・大切な人を傷ついたり失うのが恐いんだ。恐くてたまらないんだよ・・・だからおれは一人で抱えてしまう」

 

「っ」

 

そこで刀華は初めて知った。総司という人間の本質を。刀華は今まで色んな総司を見てきた。総司が考えていることもある程度までは分かるほどの付き合いをしてきた。でも刀華自身はこの時初めて玖原総司の本質に触れた。

 

「おれは弱いんだよ・・・・刀華やカナタなんかよりも遥かに弱い。だからそれは・・・・・・「っ!!」」

 

弱音を漏らす総司。そんな総司を刀華はギュッと強く抱きしめた。

 

「そうちゃん・・・・・大丈夫だよ」

 

刀華は優しく総司に話しかけた。

 

「私は・・・私たちは・・・・・ずっと側にいるよ。どんなことがあっても側にいるから・・・・・」

 

「と・・・う・・・か・・・・・・っ」

 

涙がこぼれる。

 

「もっと強くなるよ。だからそうちゃんも一緒に強くなっていこう」

 

「・・・・・・・ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで今のところはアリスの策に乗ることにしたんだ」

 

総司はひとしきり泣き、落ち着いた後今回の一件を刀華に話した。

 

「そうなんだ・・・・・でもそれなら黒乃さんや寧音さんに報告したほうがいいんじゃない?」

 

「普通はそうだな。でも今回はそうしたくないんだ」

 

「・・・・どうして?」

 

総司はその問いに少し間を置いてから答える。

 

「この一件でアリスはたぶん自分の道にけりをつけるんだろう。同じ道を生きたことがあるおれにはそれを止めれなかった」

 

「・・・・・今回の一件を知っていて動かないのはどうかと思うけどね」

 

刀華はハァとため息をついた。

 

「必要なことなんだよね?」

 

「ああ。あともう一つ」

 

総司がピッと指を立てる。

 

「今回の一件でもしかしたら化けるかもしれない」

 

「?誰が?」

 

刀華はキョトンとする。それにスッと総司の目が細められる。

 

「一輝とステラだ」

 

「えっ・・・・そうちゃんまさか・・・・・」

 

「ああ。そのつもりだ。もちろんある程度したら撤退させるけどな」

 

刀華は絶句する。総司の考えはあまりにも無謀というか・・・・・ただの博打だ。

 

「そうちゃん・・・・・そんなことを考えたの?」

 

刀華の質問に総司は目を閉じて答える。

 

「あの二人に足りないものをこの合宿中ずっと考えていた。おれが思うにステラに足りないのは圧倒的な蹂躙だ。あいつはたぶん自分の限界を出すことに躊躇いがあるんだ。そこがあの潜在能力を活かせていない理由だ。だからあいつに必要なのは今の限界では絶対に勝てないという敗北。それを王馬なら与えられるはずだ。そして一輝に必要なのは・・・・・進化の方向性。ほぼ限界値に近い技術をさらに高めるためのヒントだ。ただこれは今回得られるかはわからない。でも・・・・・ここにおれは賭けたい」

 

「・・・・・・・わかった」

 

刀華は少し悩んだ。今ここで総司がやろうとしていることは普通なら絶対に止めたほうがいい。でも・・・・

 

「私はそうちゃんがそれがいいと思うなら信じるよ。・・・・・ただ今回は私やカナちゃん、うたくんに手伝わせてね」

 

「ああ。頼むよ」

 

総司はぎこちなく笑いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその時はやってくる。目の前で燃える破軍学園。倒れていたクラスメイトを含む学園の生徒に教師たち。それをやったという眼前の七人。その七人の覇気は間違いなく強者だった。そしてその一人道化師(ピエロ)の風貌の男、平賀玲泉が言う。

 

「僕たち『暁学園』の目的。それは七星剣舞祭に出場することです。いくら生徒が七星剣舞祭の出場権を持っていたとしても《騎士連盟》の許可なく新設された学園の参戦など認めるわけがない。認めさせるには示す必要があるのです。我々が存在しない『日本で一番強い騎士を決める祭典』ほど無意味なものはないということを、誰の目にも明らかな形でね」

 

一輝や刀華たち破軍の生徒たちと玲泉が色々と言っている中、総司は敵の戦力を分析していた。そしてその結論はすぐに出る。

 

「この相手なら利用できる」

 

総司は内心でニヤリと笑った。そして感謝をした。

 

「悪いな暁学園。お前たちは逆に踏み台になってもらう」

 

総司がそう思ったところで暁の一同が強い殺気と共にそれぞれが霊装を構え、戦闘態勢を取る。それに対し破軍学園の生徒たちも殺気を纏い霊装を構える。そして両軍が駆け出した瞬間声が響いた。

 

『先輩!アリスちゃんと玖島先輩は他校のスパイです!!気をつけてください!!!!!!」

 

ただその声で止まるものはいない。なぜならもう凪はスパイではないから。凪は帰りのバスの中で破軍が燃えているのが見えたところで自分の正体を明かし全員に自分が練った策を告げる。そしてそれを七星剣舞祭の選手団長である一輝と破軍生徒会長である刀華信じる決断をした。凪はそれに心から感謝しながら自らの固有霊装(デバイス)である《黒き隠者(ダークネスハ―ミット)》を複数本顕現し、手の平で扇状に構え、それらを投げ放った。《影縫い(シャドウバインド)》それは対象の影に凪の霊装を突き刺すことによって一切の身動きを封じる伐刀絶技(ノーブルアーツ)。そしてそれは見事に暁学園全員の影を縫い止めた。凪の策は完全に嵌り破軍学園陣営が振るう刃の前に、一人残らず倒れ伏した。そこで一時破軍学園全員の気が緩んだ。しかしその中で総司が叫んだ。

 

「気を付けろ!!まだ終わりじゃない!!」

 

「えっ・・・・・・」

 

全員がその声で行動を移そうとした瞬間、ドサッと言う音がした。

 

「うわ・・・・さすがだね。でも間に合わないよ」

 

音の方には無数の剣に背後から貫かれた地に伏す凪の姿。そしてその背後には無数の銀剣を両手に携えて無邪気に笑う、紫乃宮天音がいた。

 

「アリス!」

 

この事態にいち早く行動を起こした珠雫が彼の元に走る。しかしその行動は――――

 

「珠雫、迂闊だ!!前を見ろッ!」

 

「っっ!?」

 

一輝の忠告。それはぎりぎりで間に合った。珠雫の眼前。なにもないはずの空間の存在する、僅かな歪み。風景の捻じれ。それを認識した珠雫はすぐに両手を挙げ頭部を守る防御を取る。瞬間、珠雫の小柄な身体が真横に吹っ飛び、鞠のようにバウンドしながら転がった。まるで見えない何かに殴り飛ばされたように。そしてそれは、まさしくその通りだった。

 

「え・・・・?」

 

破軍側の誰のものか。しかしそれは無理もない。それほどに驚くべき光景。まるで透明の煙の中から歩み出るようにして、今倒したはずの暁学園の生徒たちが、無傷の姿で眼前に現れたのだ。

 

「は、はぁっ!?どういうことよコレ!?」

 

「同じ人間が二人!?馬鹿な、確かに今ここに倒れて――――!?」

 

恋々と雷の二人は自分の足下に倒れている暁を改めて確認する。そして目を剥いた。足下に倒れていたのは塗装が施された木製の人形だったのだ。

 

「なによこれぇ!?」

 

「《騙し絵(トリックアート)》。アタシの芸術は本物より本物らしいってこと」

 

恋々の悲鳴にそうボソリと呟いたのは暁学園の一人。大きな乳房を絵具よけのエプロンだけで隠したトップレスの少女。凪と同じく《解放軍(リベリオン)》に身に置く《血塗れのダ・ヴィンチ》サラ・ブラッドリリーだ。

 

「つまり、今まで皆さんが我々だと思っていた者たちは、彼女の『芸術』を操る伐刀絶技(ノーブルアーツ)により生み出された模造品に、ボクが《地獄蜘蛛の糸(ブラックウィドウ)》で動き加えただけの木偶だったのですよ。そして本物の我々はこのように、王馬君の風の力で光を屈折させて姿を隠し、皆さんの企てが空転するのを待っていたというわけです」

 

「初めからアリスの動きはお見通しだったってこと!?」

 

「ええまあ。何せこちらには優秀な予言者がいるのでね。・・・・・もちろん裏切り者には知らされていなかったことですが」

 

道化師(ピエロ)はカラカラと愉快そうにネタをばらしながら、倒れた凪の身体を担ぎ上げた。

 

「しかし、結局天音さんの予言通りになってしまいましたか。情けを掛け最後のチャンスをお与えになったヴァレンシュタイン先生もさぞ悲しまれることでしょう・・・・・・・それでは後はお任せしますよ皆さん。スポンサーのオーダーは『可能な限り圧倒的な、議論の余地がないほどの壊滅』です。一人も残さず徹底的に叩きつぶしてください。ボクには先生の元までこの裏切り者を連れて行く仕事がありますので」

 

そして素早く後ろに飛ぶと、そのまま戦域からの離脱を計る。しかしそれを易々と許す一輝ではない。

 

「待てっ!」

 

すぐに追いすがるために地を蹴る。しかしそれは《風の剣帝》黒鉄王馬によって割り込まれる。

 

「王馬兄さん・・・・・っ!」

 

「散れ」

 

王馬は何の躊躇いなく、刃渡り一メートルを超えた野太刀の霊装《龍爪(りゅうづめ)》を振るう。風を斬り、銀孤を描いて一輝の胴に奔る一閃。一輝は追跡を断念しようとした、そのときだ。

 

「はああああああっ!!!!!」

 

横一線、振り抜かれた王馬の霊装が、炎纏う黄金の剣によってその軌跡を阻まれた。

 

「ステラッ!」

 

自分を守るように割り込んできた赤い髪の恋人の名を呼ぶ。と、ステラは王馬と鍔迫り合いをしながら、一輝に告げる。

 

「イッキ!シズクがアリスを追いかけていったわ!!」

 

「っ!?」

 

「コイツらシズクを素通りにした!たぶん行った先に罠があるのよ!一人で行かせたら不味いわ!急いでシズクを追いかけてッ!!」

 

「・・・わかった。ここは任せたよ!!!」

 

「ええ。アリスの力なんかなくてもこんな奴ら全員ここで叩きつぶしてやるわよ!!」

 

ステラの声に背中を押され、一輝は珠雫を追いかけて戦線を離脱する。それを三人の敵をさばきながら目の端で総司は捉えた。そして近くにいた刀華に叫ぶ。

 

「刀華!一輝を追いかけてくれ!!」

 

「!!・・・・はい!!!」

 

その声を聞き刀華は駆け出す。それをいかせまいとするがそれは総司によって阻止される。

 

「悪いな。ちょっと行かせてもらうぜ」

 

「くっ!!」

 

追撃を止められたメイド服の女は歯噛みする。しかしそこで二人は気づく。強い魔力の波動。そして跳ね上がる温度と荒れ狂う風の音。総司はメイドの女から素早く離れ、その魔力がする方向を見る。《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》。猛る炎熱を光の剣として振るうステラにとって最強の技。それに対するは黒鉄王馬。その能力は自然干渉系―――『風』を操る力。それによって放たれるのは圧縮に圧縮を重ね最早質量すら有した荒れ狂う暴風の剣。『月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)》。光熱の剣と暴風の剣。双方刀身は五十メートルを超える、規格外の範囲攻撃。間合いである三十メートルなど十分に射程内だ。それはほぼ同時に対峙する敵に対し振り下ろされ、そして衝突した。瞬間、互いの魔力により剣の形に編み固められていた光熱と暴風が、互いに削り合うように火花を散らし、徐々に解れ、炎の嵐となって周囲に破壊をもたらしながらもせめぎ合う。それは並みの騎士では必死に自分を守ることしかできず、この戦いを見ることすら叶わない次元の戦いを身じろぐことなく見つめる騎士がそこには一人いた。そしてその男は笑っていた。

 

「う、嘘でしょ・・・・」

 

そんな中ステラは驚愕していた。自分の力を出せるでけ出している。しかし・・・・段々と押し込まれていく。

 

「このアタシが力負けしている・・・・・っ!!」

 

それは彼女にとっては初めての経験だった。

 

「どうしよう・・・・・っ」

 

徐々に、徐々に綺麗なクロスを描いていた光と風の刃が、その形を歪ませる。暴風の剣が光熱の剣を押し込み、削岩機の刃のように旋回する竜巻が光の刃を削り・・・・ついにはその光の刃を切断した。そして暴風の剣がステラの頭上に降り落ちる。

 

「や・・ば・・・」

 

回避は間に合わない。ステラはこの一撃を確実に当たる。

 

「ごめん一輝・・・・」

 

ここでこの敵を止めれなかった。また七星剣舞祭にも出場できないかもしれない。その二つを自らの恋人に謝る。そしてついに暴風の剣がステラの身体に入るという瞬間――――暴風の剣はズタズタに斬り裂かれた。

 

「えっ・・・・・」

 

ステラがそう零すと圧縮されていた風が解放され凄まじい突風を引き起こす。それによってステラは飛ばされてしまう。

 

「キャ!!」

 

「おっと・・・・」

 

飛ばされたステラをある男が受け止める。その男は腰に二つの鞘を差し少し笑みを浮かべていた。そしてその男は受け止めたステラに語り掛ける。

 

「ここまでだステラ。悪いな」

 

「えっ!?あっ・・・・」

 

男はステラの延髄に手を添えそこから雷撃を叩き込み。ステラを気絶させる。そしてその男は気絶したステラを投げる。

 

「カナタ!!頼む」

 

「っ!はい」

 

それをカナタは驚きながらも受け止める。それを確認してからさらに男は指示を出す。

 

「泡沫。黒乃さんと寧音さんに連絡して二人を確実に連れてこい!」

 

「!わかった!!」

 

そう言って泡沫はスッと消える。

 

「恋々、雷、カナタ。代表を守れ・・・・と言っても流れ球からしっかり守ってくれ。葉暮姉妹は悪いが三人に守られてくれ」

 

「「「「「はい!!!」」」」」

 

五人は男の指示に驚きながらも返事をする。そしてその男は五人を背に一人で六人の強者と向かい合った。

 

「悪いな・・・・ここからはおれの錆落としに付き合ってもらうぞ」

 

男が二本の霊装を抜きそれらを構える。構えは刃をダランと下げた姿勢。それを見て六人の一人である天音はププっと笑った。

 

「すごく格好いいね。でもいいの?君強いかもしれないけど一人じゃ無茶・・・・「黙れ」・・っ!」

 

その男から発せられる殺気。その殺気はあまりにも濃密で天音は言葉に詰まる。他のメンバーも完全にその男の雰囲気に呑まれていた。そしてその男はゆっくりと右手に持った小太刀の切っ先を持ち上げ、暁を指した。

 

「我慢は終わりだ。こっからは地獄を見てもらうぞ」




いかがだったでしょうか?

ちょっとすっ飛ばしたくせにバトルまでいけないw

ただ次回はバトルに入ります。また総司の能力も明らかになります。

やっとですよ・・・・やっと総司の無双が書ける!!!

さて本気で暴れさせてやりますのでお楽しみに!

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしくお願いします!!

ではまた次回会いましょう!!

簾木 健


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能力

「剣と心を賭してこの闘いの人生を完遂する!」
                      るろうに剣心 緋村 剣心より


《不転》多々良幽衣は目の前に立っている男に鳥肌が立っていた。そして周りの味方を見渡す。自分以外の五人内この恐ろしさに気付いているのは二人だと感じた。一人は黒鉄王馬。さっきの《紅蓮の皇女》と戦った時とは表情が明らかに違う。幽衣には少し強張った表情をしているように感じる。まずこんな表情をしている王馬を見たことがない。それにこの相手が普通じゃないことがわかる。そしてもう一人は風祭凛奈の付き人であるシャルロット・コルデーは目を見開いてその男を見ていた。そしてその身体はかすかに震えていた。そんな二人を見てまた眼前にいる男をもう一度見る。すると寒気が走った。

 

「やばい・・・あいつはやばい。絶対にやばい」

 

幽衣は《解放軍》の暗殺者としていままでたくさんの人間を手にかけてきた。その中のは多くの強者いたが確実に成功させてきた。しかし何度か絶対に無理だと思ったこともあった。それと同種のオーラを感じる。

 

「こいつは何者だ!?確かに《風の剣帝》が注意をしろと言っていたが・・・・・こんなにやばいのかよ」

 

出撃の前。黒鉄王馬は暁学園の面々に一つ忠告をしたのだ。

 

「破軍には玖原総司という男がいる。そいつには注意しろ」

 

簡単は忠告。それは多々良にとって頭の隅に置いておく程度だった。しかしその忠告が頭の隅から湧き出してくる。

 

「やばい・・・・これまでの相手と一緒にはできない・・・・こいつは別格だ」

 

幽衣であるチェーンソーを握りなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総司はゆっくりと目を閉じる。それは合図。普段は蓋をしている部分を外し全力を出す時のサイン。そしてその準備はすぐに終わった。スッと目を開けて六人を見て魔力を込める。そしてその技の名を告げた。

 

「地縛陣」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

暁の面々を突如重力が襲う。それによって王馬以外の全員が地面に伏した。

 

「なんだ・・・・こんなもんか?王馬お前よくこんな奴らと組んだな」

 

総司はフッと微笑む。その笑みは暁からすれば死神が笑っているようにしか見えなかった。

 

「相変わらずの人真似だな総司」

 

「まぁこれがおれの能力だからな」

 

総司はそう言いながら王馬に斬りかかる。王馬はそれを楽々と受け流し切りかかる。そしてその斬撃は総司にとどき総司の身体を斬り裂く。しかし切ったはずの肉体は水となる。

 

「王馬まだ甘いな」

 

王馬の後ろから聞こえる声。そして聞こえるバチバチという雷が弾ける音。王馬の後ろで総司は抜刀術の姿勢しており鞘と刃の間には雷が迸っていた。

 

「雷切」

 

静かな声。そしてその後に続く轟音と雷鳴。それに暁のメンバーは何も出来ずに巻き込まれてしまった。

 

「なにあれ・・・・」

 

恋々がそんな総司を見て零す。それもそのはずだ。恋々自身は一人を相手取るので精一杯だった。そんな相手を六人相手にして圧倒している。そんな人間なこの世にいるのかとさえ思った。そんな恋々にカナタは言う。

 

「あれが総司さんの本気です」

 

無慈悲に告げるカナタ。そんなカナタに雷は尋ねる。

 

「貴徳原先輩、ではあの玖原先輩が使っているは一つの能力なんですか?明らかに一つには見えないのですが・・・」

 

「ええ。一つの能力というのは正確には違うのですが総司さんの能力です」

 

そこでカナタは言葉を区切り。、そしてゆっくりと言った。

 

「《魔術複製(マジック・レシピ)》。総司さんの持つ小太刀である《黒光》に斬られた相手の《伐刀絶技(ノーブルアーツ)》をコピーしてそれを保存する。それが総司さんの持つ能力です」

 

「えっ・・・・・それって・・・・」

 

葉暮桔梗はそのカナタの言葉に驚愕してしまう。

 

「もちろんすべての《伐刀絶技(ノーブルアーツ)》をできる訳ではありません。総司さんが言うには因果干渉系の能力はコピーできないということらしいです。でも・・・それ以外ならすべてコピーすることができるらしいですけど」

 

「・・・・そんな・・・・」

 

葉暮牡丹は言葉を続けることができない。それほどに総司の能力はやばい。ただでさえ魔術は応用が利くものが多いのだ。それもコピーし扱えるなんてもはや反則だ。ただとカナタは続ける。

 

「コピーして保存して置けるのは五つまでっことでした。さすがになんでもかんでも保存出来るわけではないようです。それでもあまりに強力な能力なんですけどね」

 

「・・・それでも総司先輩の剣技にその能力に勝てる人なんて・・・しかも今使った能力って西京せんせーの能力とかいちょーの能力。それに水は・・・黒鉄クンの妹ちゃんの能力?」

 

「それは単体でもかなり強いはず。しかも先輩はそれらを複合して使っておられた。これはもはや勝ち目など・・・「さすがにこれじゃ無理か」・・!?」

 

そこで総司の声が聞こえる。その声に全員が暁のメンバーがいたところを見る。するとそこには多少の傷を負いながらも暁のメンバーが全員立っていた。

 

「危なかった。助かったシャルロット」

 

「いえ・・・・お嬢様がご無事でよかったです」

 

メイド服が切れ切れになりながらもシャルロットは立っていた。他には重症を負った奴は見えない。それを確認し総司はフッと笑みを浮かべる。

 

「まさかそこまで完璧に守られるとは思ってなかったが・・・・まぁこれくらいうやってくれないと面白くない」

 

「くくく・・・・私の僕は優秀でな。悔しがってもいいのだぞ?」

 

「お嬢様・・・・ポッ」

 

「・・・・いや今の小手調べだし。悔しい以前に防がれると思ってから。そこまで悔しくはないけどよ・・・」

 

総司の身体から殺気が迸る。それは確かにさっきよりも遥かに濃い。

 

「次からは容赦しねぇ。一瞬でも気を散らしてみろ。殺してやるよ」

 

その言葉に暁の面々は顔色が明らかに変わる。

 

「おい・・・・ここは共闘といかないか?」

 

幽衣が提案する。それに真っ先に頷いたのは普段は幽衣と言い争いばかりしている凛奈だった。

 

「うむ。あやつはマズイ。さすがに一人では厳しいじゃろう。ここは《不転》の考えに乗ってやる」

 

「お嬢様がそう言われるのでしたら私はそれに従います」

 

シャルロットも頷く。

 

「めんどいしそれでいいよ」

 

サラは髪をぼさぼさと掻きながらそう言う。

 

「あはは・・・ボクはどうでもいいよ」

 

天音はカラカラと笑う。

 

「・・・・・・で?お前はどうするよ《風の剣帝》」

 

「・・・・・・」

 

王馬は幽衣に促されてもないも言わない。それは否定をしているように幽衣は感じる。ただここで幽衣自身はミッションに失敗する訳にはいかない。

 

「悪いが今回はそれで行かせてもらうぜ。今回はスポンサーの意向もあるんだ。従ってもらうぜ」

 

「・・・・そんなものは関係ない」

 

「えっ・・・・・」

 

王馬の全身から風が走る。それは暁の全員を近づけまいとしている。

 

「俺はあいつは一人で倒さないといけない。俺一人で乗り越えねば意味がない」

 

そう言い残し王馬は総司に向かって突っ込んだ。

 

「なっ!?」

 

幽衣は驚愕する。しかし突っ込まれた総司は予想でもしていたかのように楽々と王馬の一撃を受け止める。

 

「王馬・・・・甘いぞ」

 

「総司。お前は俺の得物だ。誰にもやらん」

 

「そうか・・・じゃあ・・・・・殺ろうか」

 

王馬が風の魔力を刃に込め飛ばす。これは風の能力を持つ人にとって最も基礎的な技《真空刃》。しかし王馬が放つそれは明らかに基本の技の威力ではない。しかし総司は何もないようにその風の刃を受け流す。そして受け流した態勢から急に総司の肉体が地面に向けて落ちる。しかしそれはミスや態勢を崩したのではない。そこから放たれるは《天陰》の技。《麒麟》。圧倒的な速さを持つ一撃。それはたとえ王馬と言えど防げるものではない。その一撃は王馬の身体を斬り裂いた・・・・・・かに見えた。

 

「なっ!?」

 

総司は驚愕しながらもさっと距離を取る。総司の一撃は確実に入った。しかしその一撃は王馬を斬り裂くには至らなかった。正確には王馬の身体に血は出ないほどの線が入った程度だった。その一撃の感触に総司は苦笑いを浮かべた。

 

「お前・・・・・なんつうことしてんだよ」

 

それに王馬は獰猛に笑った。

 

「お前に勝つためにやったことだ。正確にはお前と《暴君》に勝つためだがな」

 

「それでも・・・・・いや、お前だもんな。耐えれるか」

 

「しかしそれも今日でしまいだ。今日で俺はお前を越える―――――《天龍具足》解除」

 

そして王馬の身体から荒れ狂う風が発生する。しかし総司はそんな王馬を見てニヤリと笑っていた。《天龍具足》というのは自身に暴風をまとうことで敵の攻撃を弾く防御系の《伐刀絶技(ノーブルアーツ)》。王馬はこの技を裏返す形で使用して全身に巨大な圧力をかけていたのだ。そのためのその肉体には総司をもってしても中々傷をつけることができなかった。しかもいま王馬は枷を解いた。よって・・・・・速度も跳ね上がる。

 

「くっ!!」

 

凄まじい速度で振るわれる野太刀。総司はそれを苦しみながらも捌く。しかもその捌きは苦し紛れにも関わらず王馬のバランスを崩し、そこを狙って小太刀を振るう。それは王馬を切り裂き血が飛び散る。そこから始まるのは連撃。《天陰流 応竜》。暗殺を主とする《天陰流》の技には珍しく戦いの中で真価を発揮する技。《天陰》こと玖原鷹丸が生み出した戦闘技。その技は《天陰》の受けで使われる技術を攻めに用い相手に対し一切の隙を与えない連撃。止まらない二本の小太刀が王馬の肉を削ぎ血を飛び散らせる。そしてついに王馬が膝をつく。総司の持つ《白和》に風が圧縮され剣となっていく。そこ放たれるのは王馬の持つ最高威力の技。《月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)》。そしてそれは王馬の身体を穿った。王馬崩れ落ちる。しかしその目は総司から離れることはない。そんな王馬に向かって総司は言った。

 

「・・・・・硬いってわかってればこんなもんか」

 

総司の声に宿っているのは強い落胆。

 

「弱くなったな。王馬」

 

「・・・っ」

 

総司はもう王馬のことすら見てなかった。そして王馬は同時に気付いた。総司がもう自分と同じステージ居ないことに。

 

「・・・・ここまでしても届かないのか!?」

 

王馬が感じたのは恐怖。総司に負けてから今まで努力を続けてきた。一切の余談なく強くなることにすべてを割いて生きてきた・・・・・・それでもこの男には届かない。今までの生き方をすべて否定されたような感覚。総司はそんな王馬の心境を見抜いてか、とどめも刺さずに他の暁の面々に向かっていく。

 

「さて次はどいつだ?」

 

圧倒的なオーラ。もはやそのオーラのみで人を殺せるのではないかと幽衣は思った。

 

「あの《風の剣帝》がいとも簡単に・・・・「ふふふ・・・・ハハハハ!!!!」・・っ」

 

幽衣はバッと後ろ振り返る。そこには満面の笑みを浮かべた。紫乃宮天音がいた。天音はパンパンと拍手をする。

 

「すごいね。君、本当に強いよ・・・・・でも邪魔だなぁ・・・・」

 

天音が歩いていく。そんな天音に幽衣は得体の知れない恐怖を感じた。

 

「こいつ・・・・何もんだ!?」

 

天音から感じる気配は総司のものとは明らかに違う。しかしそれ同等なほどの強い得体のしれない気配。

 

「あーあ・・・・もういいや。()()()()()

 

天音がそう零した瞬間。総司の口からかなりの量の血が噴き出した。




いかがだってでしょうか?

ついに総司の能力が明らかになりました。

これは最強の能力でしょう!!!自分が考えうる最強の能力にしました。

魔術と剣術。この二つを合わせ持ち、そしてそれを自在に使いこなすのが総司です。

さて皆さんはどう考えているのでしょうか?

そういえば皆さん10巻は読みましたか?

やばいのがでてきましたね・・・・・というかステラさんのお父さんww

そして一輝が恰好良すぎです!!!!

今回も感想、評価、批評募集しています。10巻の感想なんかも書いていただけると嬉しいです。

ではまた次回会いましょう!!

簾木 健


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心臓

皆さんどうもです!

GWも折り返し、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

さてついにこの小説も30話まで来ましたね。これも皆さんの応援のお陰です!これからも頑張っていきますので引き続き応援よろしくお願いします!

では今回も楽しんでいただけると嬉しいです。

簾木 健


「なにが起きた!?」

 

総司は困惑していた。しかし思考もいつもようには回らない。

 

「血が・・・・心臓が止まってやがる・・・・」

 

天音がなにをしたのかはわからない・・・・ただ結果として総司の心臓は停止していた。その事実に総司は悪態を付く

 

「くそ・・・・面倒なことしやがって・・・・こうなったら・・・・」

 

総司は膝を落としゆっくりと倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

総司になにが起きたのかはわからない。ただ総司は血を吐き倒れ込んだという事実。その事実に天音を除く全員が驚愕した。そんな中天音はケタケタと笑う。

 

「僕の邪魔をするからそうなるんだよ」

 

「総司さん!!!!!!」

 

カナタが叫ぶ。その声音に乗っているのは恐怖と絶望。

 

「な、なにが起きたの?」

 

恋々は信じられないと目を見開く。

 

「わからん・・・・総司先輩が圧倒していたはずだが・・・・・」

 

雷もなにがなんだかわかってなかっていなかった。そんな破軍陣営に天音はフフッと笑って言った。

 

「簡単だよ―――――心臓を止めたんだ」

 

「「「なっ!?」」」

 

「そ、総司さん・・・?」

 

カナタの目から涙がこぼれる。

 

「ふふ・・・どんなに強くても心臓を止められたらどうしようもないよね」

 

天音は楽しそうに言う。そんな天音に鳥肌が逆立つ。

 

「嘘・・・・じゃあ・・・・」

 

恋々は雷を見る。その目はそんなことは嘘だと訴えている。しかし雷はそれを否定することができず恋々から顔を逸らす。

 

「ハハハ・・・・あっけないなぁ・・・・」

 

天音は総司に近づいていき、その死体の頭を蹴った。それを見たカナタは・・・・・自分の頭の中で何かが切れた。

 

「あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

カナタは飛び出し霊装である《フランチェスカ》を出し、それを力任せに砕いた。

 

「殺す!!!」

 

カナタは砕けた《フランチェスカ》を操り天音に斬りかかる。

 

「おっと・・・・」

 

しかし普段通り操ったはずの霊装は何故か天音に()()()()()

 

「あれ?どうしたの?僕を殺すんじゃなかったの?」

 

「くっ!!」

 

天音は避けた気配などない。でも当たらない・・・・まるで元々当てないようにこっちが操作したかのように・・・

 

「次は当てる」

 

カナタなんの躊躇いもない。殺すつもりで《フランチェスカ》を振るう。しかしそれはどれも天音には届かない。

 

「ハハ!こっちかも行くよ!」

 

天音は《アズール》を投げる。ただカナタはそれに意識すら向けることはなかった。

 

「遅い」

 

カナタはそれなりの修羅場を超えてきた騎士だ。そんなカナタにとってあまりにも遅すぎる天音の剣など当たる訳はない。サッとそれを避け反撃を・・・としたところだった。

 

「えっ・・・・・」

 

自分の胸のあたり・・・・そこから明らかな異物が生えている。それは剣・・・・天音の投げカナタが避けたはずの剣が背中側から突き刺さっていた。その一撃で《フランチェスカ》が霧散し消える。

 

「あら?当たっちゃった。僕はやっぱり運が良いなぁ」

 

「なん・・・・で・・・・・」

 

確実に避けた。なのにそれは確かに自分の背中から刺さっている。

 

「どうして・・・・・」

 

「ハハ・・・別に知る必要なないよ。君も彼と一緒のところに送ってあげる」

 

天音はアズールを複数本取り出す。

 

「さて何本刺さるかな。楽しいゲームの始まりだよ」

 

嬉々として《アズール》を次々と投擲する。それをカナタはもう避けることは出来ない。

 

「すみません・・・・総司さん。私は・・・・あなたの敵を取れませんでした」

 

カナタは涙をこぼす。でも・・・・抱いてはいけないかもしれないが少しうれしい感情を抱いてしまい、カナタは微笑した。

 

「少しの間は二人っきりで過ごせるのは魅力的ですね・・・・・」

 

諦めて天音の《アズール》を受け入れる。恋々や雷が叫ぶがそれは届かない。《アズール》がカナタの胸に突き刺さる・・・・・・

 

「えっ?」

 

そこで天音は素っ頓狂な声を上げてしまった。生きているはずはない。だって心臓は確実に止めた。でも確かにその男は最初の《アズール》切り伏せ、残りの《アズール》もすべて叩き切ったのだ。そして男はゆっくりとカナタを抱きとめる。

 

「たく・・・また泣かしちまったな」

 

「・・・・・総司さん?ここはあの世ですか?」

 

「違うっての・・・・ちょっと我慢しろよ」

 

総司の手が魔力によって煌めく。そしてそれをカナタの剣が出ている部分の下に当てもう一方の手で《アズール》を引き抜いていく。

 

「っ・・・・・・」

 

カナタは顔をゆがめるがそれは本能的なもので実際痛みはほとんどない。だから総司はそのまま躊躇いもなく引き抜いていく。そしてついに完全に引き抜き終わるとフウっと一息つく。見るとカナタの身体からは出血だけでなく、剣が刺さっていた部分すらも消えてしまっていた。そこで膝が落ちてしまったカナタを総司はおっとと言いながら抱きかかえた。

 

「さすがはあいつの技術だよな・・・・こんなときばっかりはあのスパルタとあの悲鳴もよかったと思える」

 

総司はフッと微笑みを浮かべた。

 

「総司さん・・・・どうして心臓は・・・・?」

 

「ああ。久々でちょっと手惑ったんだがちょっと手を加えて動くように作り変えた。カナタの身体も治しておいたしもう大丈夫だ」

 

「ありがとうございます・・・・でも後でお説教ですよ」

 

「わかってる。甘じて受けるよ。自分で恋々たちのところまでいけるか?」

 

総司は抱きかかえていたカナタを自分で立たせる。カナダはスッと自分の足で立つことができた。

 

「ええ・・・・総司さん。あいつの能力は・・・・」

 

「わかってる。たぶん因果系だ。でももう大丈夫。大体わかったし、もう通用しねぇよ」

 

総司は視線を天音に向ける。その顔は伏せられていて表情まではうかがえない。

 

「そうですか・・・・では後はお任せします・・・・・あっ・・・総司さんちょっと良いですか?」

 

「うん?どうした?」

 

天音に向けた視線をカナタに戻す。するとカナタはスッと総司に近づき・・・・その唇を奪った。

 

「ん・・・・」

 

簡単な一秒にも満たないキス。しかしそれは総司の顔を一瞬で真っ赤にした。そんな総司にカナタは悪戯っぽく笑った。

 

「ちょっとした期待をしたんですがそうならなかったのでそのちょっとでも幸せを貰いました」

 

「おまえ・・・・ここは・・・・」

 

「わかってます。総司さん後はよろしくお願いします。このことについてもあとで話しましょう」

 

そう言ってカナタは素早く恋々たちのところまで戻る。総司はハァと息を吐いて天音に向きなおった。

 

「悪い。変なところを見せたな・・・・さて殺ろうか」

 

総司は気まずそうに苦笑を浮かべながら切り替える。

 

「・・・・なぜ心臓は止めたはずなのに生きてる?」

 

「おれは運がよくてな。あんなもんで死ぬようなら今頃生きていない。」

 

総司はあっさりと言い放つ。すると天音は伏せた顔をスッとあげた。

 

「・・・()()()()()?」

 

「ああ。大方因果干渉系の能力。レアで強力な能力だが・・・・一度その因果に勝ってしまえばなにも能力がないのと変わらない・・・・・・もうお前の能力はおれには通じねえよ」

 

総司はそう言って斬りかかる。天音は避けない。でもその小太刀はさっきのように天音を避けるのではなく、天音に吸い込まれるように向かっていき、天音の目の前で止まった。もう天音の能力が総司には聞いていない。

 

「一つ言っておく」

 

「くっ」

 

天音はその小太刀を霊装である剣ではじこうとするがその剣は楽々と捌かれ宙を舞った。

 

「お前の能力がどんなものかは知らない。でもな・・・・いつかその強さも頭うちになる。因果系っていうのはそういう能力だ。できることとできないことがはっきりしているからな」

 

天音は無我夢中で剣を振るう。しかしそれはどれも総司に届かずすべて捌かれ宙を舞う。

 

「くそーーーーー!!」

 

「でもな、お前が強くなればそれは変わる・・・・・だから・・・いや、いいか。おれからは以上だ――――――じゃあな」

 

総司は天音の剣戟の合い間を縫うように小太刀を刺し入れ天音を斬り裂いた。

 

「あっ・・・・・」

 

天音の身体が落ちる。それを総司はスッと受け止めた。そしてスッと暁学園を睨み付けた。

 

「で?残りはどうする?まだ相手をしてほしいならしてやるよ」

 

あまりにも異次元の二人を倒しそれでもなおこの余裕。それはもう暁の面々には恐怖でしかなかった。そしてそれに・・・・サラは両手を挙げた。

 

「無理・・・・めんどいし・・・・」

 

それに続いて幽衣も手を挙げた。

 

「今、お前と戦うのは無理だな」

 

それに凛奈も続く。

 

「我が黄昏の魔眼を持ってすれば貴様など取るにたらんが今日はこ奴らに合わせてやろう」

 

「お嬢様は『もう降参だから許してと言っております』。無論私はお嬢様に従うので」

 

「ハァ・・・・そうか。ならこいつらを回収してくれ・・あれはすぐに「総司ちゃん!!!!」来たな」

 

やってきたのは寧音だった。後ろには泡沫もいる。

 

「寧音さん。こちらは終わりました。泡沫もお疲れ様」

 

「そうか。さすがは総司ちゃんだ・・・・・・で?行くんだろ?」

 

「ええ。寧音さん。すみませんがこちらは任せてしまってもいいですか?」

 

「・・・わかったよ。あいつらはどうするの?」

 

「・・・・逃がしていいですよ。どうせどうにもならないと思いますので」

 

「わかった・・・・あとあっちにはくうちゃんが行ったから・・・・・・早く応援に行ってあげてくれ」

 

「?・・・どういうことですか?」

 

総司が寧音の言葉に首を傾げる。黒乃はかなりの実力者だ。それに()()?総司の表情から寧音は察し言った。

 

「たぶん・・・いや確実に()()()がいる。総司ちゃん。君のお母さんを斬った、世界の最強の剣士がね」

 

「・・・・」

 

総司はそれを聞き終えた瞬間フッとその場から消えた。それに寧音は苦笑いを浮かべる。

 

「総司ちゃんって何気にマザコンだよね」




さて今回はいかがだったでしょうか?

ついに次はあの化物、世界最強の剣士が出てくる予定です。

さてさてどうなることやら・・・・実はまだプロットすら存在してませんのでどうなるかは完全に未定ですwこれから必死に考えます。
落第騎士と生徒会長の幼なじみの話は七星剣舞祭編で終わろうと考えていたのですが実は10巻を読んでですね・・・・続きを書きたくなったと言うか書きたい話が出来ました。ですので続きを書くことにしました!!

まだまだそれは先になると思いますが文才はないですがこれからもぜひともお付き合いいただけると幸いです!

ではまた次回会いましょう!

簾木 健


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比翼

みなさんお久しぶりです。

今回は難しかったですがなんとか書けました。




総司が走り込む。そこは暁学園の校舎前・・・・・・倒れた刀華と一輝。霊装(デバイス)である二丁銃を向ける黒乃。そしてその霊装先には純白の服に純白の髪の女。その女が両手に持っているのは一対の白い剣。総司はその女を見た瞬間全身に鳥肌が迸った。

 

「こいつはやばい!!!!なんなんだよこの圧倒的な剣気は!?」

 

「なっ!?玖原!?なぜ来た!?」

 

「クバラ?」

 

黒乃が気づき総司を見る。そしてその銃口にいた女も黒乃の言葉に出てきた名に反応する。

 

「黒乃さん悪いですけど、おれはこいつがいると言われれば黙っていられませんよ。それに刀華を追いかけるっていうのも決めてたんで」

 

総司は黒乃さんのほうに歩いていき、白い女と対峙する。

 

「初めまして《比翼》のエーデルワイス。おれの名は玖原総司。天陰流奥義継承者にして・・・・・・・玖原恵の息子です」

 

総司は挨拶をしながら小太刀を抜き、臨戦態勢になる。

 

「初めまして。クバラと聞いたのでまさかと思いましたがやはりメグミの息子ですか・・・・で?なにをしにここに?」

 

「なぜ?・・・・・そんなの決まってるじゃないですか」

 

総司は一気に魔力を解き放った。

 

「・・・・・・・」

 

「《比翼》。ここであなたを倒す。そのためです」

 

「・・・・ほう」

 

総司の言葉にエーデルワイスはニヤリと笑った。

 

「楽しみにしていました。あのメグミの子どもが私に向かってくるときを」

 

「母さんを覚えているのですね」

 

「ええ。私を追い込んだ騎士は数えるほどしかいませんから。それに少し期待させるようなこともなったので」

 

エーデルワイスからさっきまで放たれていた剣気が集中していくのを総司は感じ取った。

 

「・・・・黒乃さんすみません。一輝と刀華・・・・そういえば珠雫は?」

 

「さっきまで中で戦闘していたようだが、今は終わったらしい。勝ったみたいだぞ。しかもどうやら面白い術を使ってな。お前の入れ知恵だろ?」

 

「そうですか・・・・よかった。じゃあもういいですね」

 

総司は今まで抑えていたものをすべて解き放った。あまりにも禍々しく激しい魔力が総司も包み込んだ。

 

「もうここで沈んでもいい・・・・あとは任せます黒乃さん」

 

「・・・・・どうせ止めて無駄みたいだな。ただやばいと思ったら割ってはいるぞ。あと黒鉄と東堂の応急手当はしておければ当分は大丈夫だろう」

 

「わかりました」

 

総司は頷くと黒乃が一歩下がる。

 

「お待たせしました。では《比翼》お相手願います」

 

「わかりました。では知りなさい――――――頂を」

 

その言葉と同時に総司は―――――戦慄した。

 

「速すぎる!!!!」

 

殺気の感知には自信があるつもりだった。でも気づいた時にはエーデルワイスは総司の間合いに侵入し切りかかってきた。

 

「くっ!?」

 

総司は悲痛を漏らす。迫り来る無数の斬撃。最初のうちは完全に受け流せていたが段々と完全に受け流すことはできなくなっていく。

 

「くそ!!」

 

総司は全力で後ろに飛ぶ。身体には全力で《疾風迅雷》をかけ抜き足を用いたバックステップ。普通の相手なら総司がここまで逃げに徹せば完璧に逃げ切れるだけで終わらず次の反撃くらい撃つことができる。しかし相手は普通ではない。世界の頂点はそんな総司に一瞬で追いつき追撃を繰り出してきたのだ。

 

「ここまで逃げに徹したのに態勢を立て直すことすらできないのかよ!!しかも抜き足が効いてない」

 

「逃がすわけがありません」

 

「ちっ!!!」

 

総司は素早く魔力を使う。重力魔術で斥力を生み出し、エーデルワイスにぶつける。さすがに不意を突かれたらしくエーデルワイスが総司との間合いを開けた。総司は着地し渋い顔を浮かべる。

 

「本当に音がない」

 

母である恵がこの間の戦いで見せた絶技。エーデルワイスはそれを当たり前のように使ってくる。

 

「剣術と体術じゃ差がありすぎるか」

 

あの母の技を見てから何度も鍛錬の中であれを再現しようと試みてみた。しかし何度やっても再現することは叶わなかった。

 

「おれの剣術、体術だけじゃ防戦しか出来ない・・・・」

 

突きつけられた圧倒的な戦力差。しかし総司の頭の中にここで諦めるなどという思考はない。

 

「剣術、体術で無理なら魔術だ。それにまだ『天陰』の切り札もある」

 

諦めるには早い。総司は意を決し突っ込んだ。

 

「ハァァァ!!」

 

総司が雷撃と風を圧縮したものを飛ばす。しかしそれは次々とエーデルワイスによって斬り裂かれていく。それでも総司は前進を続ける。そしてエーデルワイスの間合いに入る直前

 

「いけ!!!!」

 

エーデルワイスの身体がコンクリートの地面にめり込む。重力による固定。一瞬エーデルワイスが重力に足を取られる。その瞬間総司は『縮地』を用い一気に間合いに踏み込んだ。

 

「ハァァァァァァ!!!!!!!」

 

この攻撃にエーデルワイスは総司にひどく失望した。

 

「自分よりも遥かに上の剣客相手にこんな単純な攻撃をするなんて・・・・・自殺行為と等しい」

 

総司にとっては身を殺すような一撃。しかし総司にとってだ。エーデルワイスにとっては余裕で防ぐことができる一撃・・・・・・のはずだった。

 

「えっ・・・・・」

 

エーデルワイスの身体が自然と動く。理由はわからない。ただ全身が強く告げる・・・・・・ココニイタラシヌゾと。

 

「くっ・・・・」

 

あまりにも素早い回避にその一撃が決まらず総司が歯噛みする。今度はエーデルワイスがバックステップで総司との間合いを空ける・・・・・・エーデルワイスの右胸。その当たりが薄くではあるが斬られ血が出ていた。

 

「まさかこれを使っても斬れないのかよ」

 

総司はハァとため息をつく。そんな総司を黒乃は驚いた表情で見ていた。吸っていたタバコが口からポトリと落ちる。

 

「なにをしたんだあいつは」

 

総司が風と雷の魔術を撒き餌に使い重力の魔術でエーデルワイスの動きを一瞬止めそこに踏み込んだ。しかしそれは完全にエーデルワイスに読まれていた。でもそんな攻防の中で黒乃は一か所おかしいところに気付いていた。

 

「今玖原の動きは完全に読まれていた。でもエーデルワイスには先に来ていた()()()の斬り込みに気付いてなかった!?」

 

まるで思考の中から総司の左手が抜け落ちたように・・・そこでハッと黒乃は一つの可能性に気付く。しかしそれはあまりにも痛烈な可能性。そんなことがあり得てしまうのかというものだった。

 

「まさかあいつ・・・・・・抜き足の応用で斬撃そのものを相手の思考から抜き落としたのか!?」

 

抜き足は無意識に自身を挟み込むことで自身を認識させなくする体術。しかしそれは命の危険がある際そのことを脳が無意識に入れるなどありえない。

 

「玖原は強引に斬撃をエーデルワイスの無意識の中に挟み込んで攻撃したのか」

 

黒乃は総司の実力に戦慄する。あの魔術にこの剣術。高次元のそれらが混じり合い、そのレベルは世界最強の剣士にすら一太刀を与えるほど。

 

「もうこいつは学生騎士のレベルではない」

 

「ふふ・・・・・」

 

そこでエーデルワイスが小さく声を漏らす。それは笑い声。

 

「ふふふふふ・・・・・」

 

小さな笑い声。そしてスッと顔を上げた。その顔は獰猛な笑顔。そして膨れ上がる剣気。それに総司は息を飲んだ。鼓動が近く大きく聞こえる。しかもその鼓動は段々と早くなっている。

 

「もう斬られたと言われても・・・・・納得できる」

 

今までの剣気は首筋に剣を突き付けられた脅しような剣気だった。しかし今の剣気はそれとは違う。もう斬られたのではないかと錯覚するような剣気。

 

「こりゃなんかスイッチ入れたか・・・・・」

 

「ふふふ・・・・恵が言ったとおりになった」

 

「え・・・・・」

 

総司がその言葉に目を丸くする。

 

「なんで母さんが出てくるんだよ?」

 

「ソージ、あなたのこと聞いていたんです」

 

エーデルワイスがスッと目を閉じる。思い出すのは恵の言葉。

 

「もう私はあの時のようには戦えない。でもいつか私の息子が・・・・総司がエーデを斬りいくよ。だからその時まで世界最強でいなさいよ」

 

車椅子から振り返って笑う恵。その恵にエーデルワイスも笑い返してしまった。

 

「あの時からずっと楽しみでした」

 

「なにをあの人は・・・・まぁおれもずっとあなたには会ってみたかったよ」

 

総司が再び構える。するとスッとエーデルワイスが消えた。そして一気に総司の間合いに侵入してきた。

 

「さっきよりも速い!!!まだ速くなるのかよ!?」

 

次々と迫る剣。それを総司は捌いていく。それは確かにさきほどよりも速いが・・・・総司にはさっきよりも余裕がある。

 

「ちょっとは慣れてきたぞ」

 

「ハハ!!さすがはメグミの子です!!ではこれはどうですか?」

 

左右から同時に迫る剣。防げないと思い総司は拳を突き出し斥力を生み出す。しかしエーデルワイスは数センチ後退しただけ。

 

「なっ!!」

 

「ふっ!」

 

少し浅くはなったがそれでも深い一撃が総司を穿った。

 

「がっ!!」

 

血が弾け飛ぶ。ただ次の瞬間斬り裂かれたはずの傷が一気に修復を始める。

 

「まだまだ!!!!!!」

 

そして総司はまた斬りかかる。それは易々と避けられる。しかしそれは総司の計画のうち。

 

「ここだ!!!!!ここにすべてを賭ける!!!」

 

総司の全身から無数の風が迸る。その風は一つ一つが魔力で剣のように鋭い。それらが一気にエーデルワイスに斬りかかった。

 

「はっ!!」

 

それもエーデルワイスの一閃を越えることはできない。たった一閃でそのすべての風が霧散した。

 

「それでいい!!その一瞬があればそれで十分だ!!」

 

総司はその一瞬で『白和』に魔力の刃を形成していく。重力を圧縮した刃の上に風を圧縮した刃を、さらに水を圧縮した刃の上に雷を圧縮した刃を重ねそれが金色のオーラを纏う。それらは最初は一つずつが分離していたがすぐに混じり合い一つの長剣となる。総司の持つオリジナル伐刀絶技(ノーブルアーツ)の一つ、布都御魂(ふつのみたま)。総司が持つ魔術を一つの剣として振るう奥義。総司レベルの圧倒的な魔力制御を持って初めて成しえることのできる伐刀絶技(ノーブルアーツ)。しかしそれを形成することができるのは総司といえど長くは持たない。ゆえに速攻。総司は速度を出すために全身を脱力させる。そして一気に力を籠める。そこからさらに総司はもう一つ技を用いる。それはさっきエーデルワイスでも反応出来ずに斬ることができた技。天陰流奥義《陰切》。これは斬撃そのものを相手の無意識に刺し入れ、まるで影が斬ったかのようなに相手から気付かれることなく相手を斬る天陰流の奥義。これで布都御魂(ふつのみたま)をエーデルワイスの無意識に刺し入れエーデルワイスを斬る。

 

「これがおれが今振るうことのできる最も威力の高い技!そしてこれにさらに!!!!!」

 

総司は肉体に限界まで《疾風迅雷》をかける。

 

「頭が焼き切れそうだ」

 

限界を超えた魔力の行使は総司の脳を焼き限界の身体強化は肉体を傷つける。しかしそれでも総司は躊躇わなずに剣を振るう。

 

「ああああああああああ」

 

悲鳴にも近い咆哮。しかしその目はしっかりとエーデルワイスを見すえていた。一瞬の錯綜。色も音もなくすべてがスローモーションで動く世界の中で総司の目は信じられないものを見た。

 

「見えているのか!?」

 

天陰流の奥義によって隠されたはずの剣をエーデルワイスの視線はしっかりと捉えていた。総司自身例え世界の頂点であったとしても、一度で見抜かれるものではないと思っていた。しかしその考えは甘かった。しかしもう止まれない。総司は剣を全力で振るう。しかし見切られている剣が圧倒的に格上の相手に届くはずもない。二閃の剣。その一閃で総司の布都御霊(ふつのみたま)が斬り裂かれ霧散し、次の一閃は総司の肉体を深く穿った。




いかがだったでしょうか?

エーデルワイスの強さと総司の強さがうまく表現出来てたでしょうか?

それにしても戦闘シーン難しいです。もっと文才がほしいです。

さて次回からは本格的に七星剣舞祭本戦編に入っていければと思っていますのでよろしくお願いします。

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしくお願いします。

さてでは次回またお会いしましょう!!!



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信頼

うーん・・・うまくまとまってないですね。

ただ今回も楽しんでいただければ幸いです。


「かはっ!」

 

総司が吐血する。斬られた傷からは明らかに出てはいけない量の血が溢れ出ていた。

 

「これはやばい」

 

総司が思う。しかし限界を超えた魔力を酷使したためか脳がうまく働からかず肉体の回復が遅い。

 

「ち・・・・・く・・・・しょう!!」

 

「ちくしょうですか・・・・・本当にメグミによく似てますね」

 

「ど・・・・う・・・・いう・・・・・こと・・・・だ・・・・」

 

なんとか傷を塞ぎ総司は立ち上がる。しかし脳が揺れて視線すら安定しないし耳鳴りも酷い。魔力も最低限しか扱うことはできなかった。

 

「まぁその辺はメグミに聞いてください・・・・それとどうやらここまでみたいですね」

 

エーデルワイスが校舎の森に面している部分を見つめる。総司もそれにつられてその視線の先を追う。するとそこにはスーツを身にまとった男が少し苦笑いを浮かべて立っていた。

 

「はは。君にはかなわないなエーデ」

 

「いえそれでどうしたんですか?」

 

「なっ!?」

 

黒乃が二人の視線の先にいた男に驚愕する。総司も絶句しその男を目を見開いてみていた。

 

「そこにいる総司君のせいで『暁学園』が壊滅した。撤退だ。七星剣舞祭までに体制の立て直しをはかる必要がある」

 

「なるほど。では私は先に行かせてもらいます・・・・・ソウジまたどこかで」

 

スッとエーデルワイスが消える。総司はチッと舌打ちを一つし男を睨みつけた。すると男はまた苦笑いを浮かべる。

 

「そんな目で見られてもね。ここで助かったことを感謝されてもいいくらいのはずだが?」

 

そんな男に黒乃が話しかける。

 

「どうして・・・・・あなたがどうしてここにおられるんですか――――月影先生」

 

「滝沢くん、それは愚問ではないかね?・・・・いや今は新宮司くんだったね」

 

「あなたが・・・・・黒幕ってことですか?」

 

総司は頭を押さえながら立ち上がり尋ねる。男・・・・現日本総理大臣月影獏牙は眼を見開いた。

 

「もう回復したのかい?凄まじい生命力だね」

 

「世辞はいいです。それにしても本当にあなたが黒幕なんですか?月影総理」

 

「総司君久しぶりだね。さっきも言ったがそれは愚問というものだよ」

 

「そうですか・・・・・」

 

総司は頷きながら霊装をしまう。

 

「私を捕えないのかね?」

 

「この場でそれを判断するのはおれではありません」

 

総司はスッと視線を黒乃に移す。すると黒乃は首を横に振った。

 

「そうか・・・・では()()()()()()()

 

獏牙はそういうと森の中にゆっくりと消えていった。総司は獏牙が見えなくなるまで見つめてから一つ息を吐きいた。

 

「黒乃さん。すみません・・・・もう無理です」

 

そう総司は零し自身も意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・寮の部屋か」

 

総司はゆっくりと身体を起こす。どうやら黒乃がここまで送ってくれたらしい。

 

「・・・・負けたな」

 

総司はあの瞬間を思い出す。天陰流奥義《陰切》が見切られ、エーデルワイスは総司の剣を捕えていた。ただ総司はその結果に納得がいっていなかった。

 

「完全に《陰切》は発動していた。エーデルワイスの無意識に刃は入ったはず・・・・・・いややめよう」

 

総司はそこでこの思考を排除する。

 

「おれからしたらあのクラスの剣術を今理解できる訳がない。あのクラスは奥義すらも二度目で見切られるということをしれたのはよかったと思っておくか」

 

総司はベットから立ち上がり自身の身体の状態を確認する。

 

「身体の傷は大丈夫だな。ただまだ少しフラフラする・・・・・・外はもう暗いな」

 

確認後総司は刀華のベットを除くするとそこには刀華の姿はなかった。しかしベットの感じからさっきまでここにいたことがわかる。総司はハァとため息をつき、ゆっくりとした足取りで部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総司が部屋を出て向かったのは学園内にある公園になっている場所だった。ここは普段刀華と総司が鍛錬をするのに使っている場所なのだ。そして総司の予想通り刀華はそこにいた。ただなにもせずに立って空を見ていた。

 

「よう刀華」

 

「そうちゃん・・・・」

 

総司が声をかけると刀華は空から視線を総司に移す。その眼には少しの安堵と強い悔しさが滲んでいた。

 

「・・・・・負けたな」

 

総司が刀華の隣に行き腰を芝生におろす。この場所は開けておりよく星が見える。

 

「うん・・・・・正直なにもできなかった」

 

「見てなかったからなにも言えないけど・・・・・そこまでか?」

 

「うん。私はすぐに切られちゃったよ。しかも幻想形態で」

 

「・・・そうか」

 

「そうちゃんはどうだったの?」

 

「おれか・・・・・」

 

総司はふうと一つ息をついた。

 

「奥義を見切られた」

 

「え!?」

 

「完全に見切られたよ。もう通用しないな」

 

「奥義って天陰の?」

 

「ああ。しかも布都御霊(ふつのみたま)も切り裂かれた。もうどうしようもないほどの敗北だよ」

 

「・・・・そっか」

 

刀華も総司の横に腰を下ろす。

 

「・・・・この間母さんと戦った時も遠いとは思ったけどここまでの距離を感じなかった。でも・・・・やっぱり遠かったよ」

 

「うん・・・そうだね」

 

「刀華・・・・そんなおれについてくるのか?」

 

「・・・・・・」

 

二人の視線は空を向いていた。お互いに視線を交わさない会話だがその会話には確かな絆なあった。

 

「刀華・・・おれじゃ・・・「そうちゃん」・・」

 

刀華が総司の言葉をさえぎる。そして空に向けていた視線をスッと総司に移した。総司もそれに気づき視線を刀華に向け二人の眼が合う。すると刀華はフッと笑みを浮かべた。

 

「もっと強くなろう。あのレベルでも戦えるように」

 

「・・・・・ああ」

 

刀華の笑み。それに総司は諦めたように頷いた。そしてスッと立ち上がる。

 

「さて・・・・明日からまた鍛え直しだな」

 

「うん。でもそうちゃん。もうすぐ七星剣舞祭だよ?」

 

「・・・・あっ」

 

「・・・・忘れてたんだね」

 

「・・・・・・まぁそれも成長の場だ。さて誰と当たるのやら」

 

「ハァ・・・・そうちゃんらしいね」

 

刀華が頭を抱える。それに総司は苦笑いで返した。

 

「明日からおれは寧音さんのところに行こうと思う」

 

「うん。鍛えておいでよ。七星剣舞祭の前夜祭はどうするつもり?」

 

「正直面倒だな・・・・でもその日には大阪入りするようにする」

 

「じゃあ私もその日までに大阪入りするよ」

 

「わかった・・・・・刀華」

 

「うん?なに?」

 

「・・・・ありがとうな」

 

「・・・・ふふ」

 

刀華が微笑をこぼす。その顔にはもうさっきまでの悔しさは消え去り、きちんと前を向くことができていた。

 

「うん。そうちゃん頑張ってね!」

 

「・・・・・ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでうちのところに来たってことか」

 

寧音がケラケラと笑う。

 

「まぁでも総司ちゃんもわかってるでしょ?」

 

寧音の目をスッと細める。

 

「あの次元に今すぐ行くことはできないってこと」

 

「・・・・・・」

 

沈黙。そしてスッと下を向く総司。それにハァと寧音はため息をついた。

 

「わかってる。でもそれを認める訳にはいかないってことね・・・・総司ちゃんらしいね」

 

「寧音さん・・・・一つ聞いてもいい?」

 

それまで沈黙していた総司が口を言った。

 

「おれは()()レベルにいずれなれる?」

 

その問いに寧音は神妙な声で答えた。

 

「そうちゃん・・・・・それは君しだいだね」

 

「そっか・・・・・じゃあやるしかないですね」

 

総司の腰に二振りの小太刀が現れる。それを見て寧音も自身の霊装(デバイス)である鉄扇の紅色鳳(べにいろあげは)を取り出した。

 

「総司ちゃんのことは頼まれてるし付き合うよ。調整とかいいから全力できな・・・・・七星剣舞祭まで死ぬほど追い込んでやるよ」

 

「・・・・・寧音さんいいんですね」

 

総司が一つ確認する。

 

「おれは全力を出しますよ。以前寧音さんと全力で戦った時は黒乃さんと母さんがおれを止めた。でも今日は止める人はいない・・・・・・・おれは止まりませんよ」

 

「・・・・・・いいよ」

 

寧音は静かに頷き、そして獰猛に笑った。

 

「アタシも・・・・・・今回は引けないからね」

 

「っ・・・・・」

 

放たれた殺気。総司はその殺気に覚えがあった。正確にはそれに類似した殺気をこの間感じたばかりだった。

 

「この殺気。あの《比翼》に似てる」

 

一気に総司の思考は戦闘モードになる。ただ急に総司の頭に疑問が浮かんだ。

 

「・・・・・寧音さん。始める前にもう一ついいですか?」

 

「なんだい総司ちゃん。ここまで来てもう一つ聞きたい事ってのは?」

 

「・・・・寧音さん。あなたは・・・・・()()()()()は何者なんですか?」

 

「総司ちゃん・・・・相変わらず鋭いね。そういうところはお父さん似だ」

 

寧音がハッと笑った。それに総司は顔を歪める。でも寧音はそれを気にすることなく言った。

 

「もし()()アタシに勝てたら・・・・・教えてやんよ」

 

「・・・・わかりました」

 

総司は鞘からゆっくりと小太刀を抜いた。そして魔力が溢れる。その溢れた魔力に寧音は笑った。

 

「強くなったね・・・・・」

 

前に総司が寧音の前で全力を出した時とは訳が違う。そして七星剣舞祭の学園内予選の時感じた魔力ともまた違う。

 

「《比翼》との闘いでまた強くなったみたいだね・・・・・それに躊躇いが消えた」

 

寧音は楽しそうに笑う。

 

「こりゃ・・・・半分はもう魔人(デスペラード)だ・・・・・・・やっぱり総司ちゃん()至るんだね」




いかがだったでしょうか?

本当にまとまってないですね・・・・・ただ刀華と総司の関係と現在の総司の強さを今回で表わせればいいと思って書きました。

次回はついに七星剣舞祭本戦に突入していきます。さてさてどうなっていくのやら・・正直まだ簡単にしか決まってないんですが頑張って書いていきたいです。

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしければお願いします。

さてまた次回会いましょう!!!


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訓練

なんとか書けました。

今回も楽しんでいただければ嬉しいです!!


簾木 健


「ここね・・・・・」

 

ステラがやってきたのは都内の近郊にあるKOKリーグの選手専用の施設。その施設の中でも実践的なトレーニングを行うところ、ようはステラたちが七星剣舞祭の予選や一輝との模擬戦を行ったような場所の入り口に立っていた。

 

「ここに寧音先生がいるのよね・・・・それにしても・・・・・」

 

その施設から聞こえる爆音と地面の揺れから察するに凄まじいトレーニングが行われているのが手に取るようにわかる。

 

「やっぱりAリーグともなるとこんなに激しいトレーニングをするのね・・・・・」

 

そんな風に思いながらそれを受けようとここに来たステラは武者震いをする。あの王馬に負けた時、自分の弱さを知った。今のままでは一輝との約束の場所まで辿りつけない。その思いがステラをここに導いたのだ。

 

「もっと強くならなきゃ・・・・だから・・・・・」

 

ステラはその施設に足を踏みいれる・・・・・・その瞬間・・・・・激しい寒気に襲われた。

 

「・・・・・!!!」

 

息が詰まる。一瞬室内が凍りづけにされたのかとも思うほどだった。しかしすぐにこれが剣気だと言うことに気付く。

 

「嘘・・・・なによこれ」

 

王馬と戦った時、王馬の凄まじい剣気、殺気を感じた。しかし今のそれはあの時のそれが全くお話にならないほどのものだった。

 

「こんなのトレーニングなんかじゃない・・・・・殺し合いよ」

 

感じる剣気は二つ。それがステラの肌に鳥肌を立てる。

 

「一体誰が・・・・・」

 

ステラは観戦席に向かう。その足は重い。一歩ずつ近づくごとに剣気は濃くなっていく。段々と呼吸することすら辛くなっていく。しかしステラは何とか観戦席に辿りつく。そして衝撃的なものを見た。

 

「なによこれ・・・・・・」

 

半壊した観戦席と穴だらけのリング。その中を二つの影が飛び回りぶつかりあう。しかしステラの目に映るのは影のみでハッキリとは捉えることが出来ない。そして次々とリングに穴が開いていく。ただその影の動きが急に停止し二人はステラの方を見た。

 

「ステラか?」

 

「ありゃりゃりゃ?ステラちゃんがなんでこんなところにいるの?」

 

剣気が霧散する。そこに居たのは多少着物を着崩れた寧音と、着ていた服が破れそこから露出した肌が鬱血し青くなっている総司がいた。

 

「ここまで見たいだね総司ちゃん」

 

「ええ。まぁ今回は引き分けですね」

 

「・・・・まぁそういうことにしといてよ」

 

ニヤニヤと笑う寧音。それにバツの悪そうな顔をする総司。

 

「で?ステラちゃんはこんなところに何しにきたの?」

 

「ネネ先生に会いに来たのよ」

 

「ほう?ということはうちになにかご用かな?プリンセス?」

 

その意を察し、寧音は自分から要件を尋ねる。そこで総司が口を挿んだ。

 

「あー寧音さんに用ならおれは外そうか?」

 

「ううん。できればソージ先輩にもお願いしたいの」

 

「おれにも?」

 

総司が首を傾げる。するとステラはとても真剣な・・・・思いつめた表情で言った。

 

「七星剣舞祭までの一週間、アタシの特訓に付き合ってほしい」

 

「ほう・・・・・・」

 

「また、ずいぶんと急な話だねぇ。どういう風の吹き回しかな?」

 

総司はその意図を察し声を漏らし、寧音はスッと目を細めた。そんな二人にステラは唇を噛む。そして振り絞るような声で答えた。

 

「・・・・合宿でトーカさんを相手に勝ち越せなかったときから薄々自覚はあったの。でも今回のことで思い知ったの」

 

「・・・・・王馬との一戦か」

 

総司がポツリと零すとステラはコクリと頷いた。王馬の《月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)》に押し切られたときの感触。それはステラの両手に生々しく残っていた。初めて経験した『攻撃』での力負け。そしてステラにはもう一つ理由があった。

 

「あとソージさんも理由なんだけど・・・・・」

 

「おれ?」

 

総司が首を傾げる。それにステラは頷いた。

 

「アタシが気絶した後、暁のメンバーを一人で撃退したって・・・・あのオウマも倒して」

 

「・・・・・・」

 

それが二つ目の理由だった。ステラは初めて総司と会い一輝の話を聞いた時から総司のことを注意して見てきた。選抜戦での戦いも確かに圧倒的に強かった。しかしステラは正直刀華や一輝のほうが強いのではと思っていた。ただ結果は違った。総司はステラの想像を遥かに超える圧倒的な強さを持っていた。この相手と競る、そう考えると正直今のままでは勝てる気がしなかった。そしてそれは今日この場に来てさらに高まった。

 

「・・・アタシは弱い。このままじゃイッキとの約束の場所へたどりつけない。だから・・・・・」

 

「だからうちに特訓してほしい、と?」

 

ステラが大きく頷く。

 

「じゃあもしかしておれも?」

 

「・・・・できればお願いします!」

 

ステラが深々と頭を下げる。

 

「なるほどね・・・・・・」

 

総司がスッと目を細める。そこで寧音は静かに聞いた。

 

「・・・イヤだと言ったら?」

 

頭を下げたステラは僅かに頭をあげ言った。

 

「誰だって降りかかる火の粉は、払わずにはいられない。そうでしょ?」

 

ステラの目はギラギラと輝いている。この場で拒否すればその場で襲い掛かかる。そうその目は告げていた。そんな中寧音はジトッとした目で総司を見た。総司はその視線に気づき苦笑いを浮かべた。寧音は総司がステラを王馬と意図して戦わせたことに気付いたのだ。ハァと寧音はため息をついた。

 

「ステラちゃん。キミはこのまま破軍で3年間を過ごせば王馬ちゃんなんてお話にならないくらいには強くなるよ。でも・・・・・それじゃあダメなんだね?」

 

その問いにステラはコクリと頷く。そんなステラに寧音もステラも覚えがあった。いま強くなりたい。未来ではなくいまこの瞬間。勝つために強くなりたい。そう思ったことは二人にもあった。でもそういう時は決まって焦らない方がいい。でもそれが出来ないことを二人も知っていた。それを無理矢理抑えつけてしまっても構わないかもしれない。しかしこの二人はそんなことはしなかった。

 

「・・・じゃあステラちゃんこの条件で良ければ手伝ってあげるよ」

 

「条件?」

 

「そ。これから一週間、三人で時間の限り戦う。ただうちも総司ちゃんもなにも教えない。全部自分で掴むか盗む。そうでどうかな?」

 

「おれの意思は関係なく参加なんですね」

 

「当たり前だよ総司ちゃん。責任は取らないとね」

 

「はぁ・・・まぁいいですけど」

 

「それでどうかな?」

 

「ええ!!!それでいいわ!よろしくお願いします!!!!」

 

「そうと決まれば場所を変えようか・・・・しっかり地獄を見せてやるから覚悟しな」

 

「まぁステラ頑張ってついてこいよ」

 

「ええ。死ぬ気でついてくるわ」

 

「いい覚悟だ」

 

総司はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!!」

 

木々から木々に跳び移りながら何度もぶつかり合う鉄扇と小太刀。ステラはそれを後ろから追いかけていた。あの後三人は奥多摩にある破軍学園の合宿所に移動してすぐに訓練を開始していた。

 

「追いつけない・・・・」

 

ステラは歯噛みする。しかしステラの前を行く二人はそんなことをお構いなしにぶつかりあっていた。その二人の後ろを木々を押し倒しながらステラは追いかける。しかし二人との一行差は縮まらない。

 

「でも!!」

 

諦める訳にはいかない。ステラは剣に魔力を込める。

 

妃竜の大顎(ドラゴンファング)!!」

 

竜を模した炎が前を行く二人に向かって襲いかかる。しかし・・・・・それでも二人は止まらない。

 

「ふっ!!」

 

総司がその竜に向かって小太刀を振るう。飛ばすのは風の刃。それによりステラの作り出した炎の竜は真っ二つに切り裂かれる。

 

「ほっ!」

 

そして次に振るわれたのは鉄扇。それによって発生した斥力が炎を巻き込みステラに向かっていく。

 

「くっ!!」

 

ステラが大剣を振るい炎を薙ぎ払う。しかしそれで終わりではなかった。その炎の後ろから総司が現れる。

 

「ちっ!!」

 

振るわれる小太刀をステラはなんとか大剣で防ぐ。しかし明らかに軽いはずの小太刀を受けたはずのステラの身体が吹き飛び後ろにあった木に叩きつけられた。

 

「かはっ!!!」

 

吐き出される息。しかもそれで終わりではなかった。木に当たったステラに向かってさらに突っ込んでくる総司。そして素手でステラの腹を殴りつけた。

 

「っ・・・・・・」

 

もはや声にすらならない衝撃にステラが悶絶する。それでも総司は止まらない。次に総司が繰り出すのは蹴り。そしてその蹴りはステラの左腹を穿った。

 

「かはっ!!」

 

ステラが飛んでいく。そしてまた木にぶつかって止まった。もうその時にはステラの意識はなかった。

 

「ハハハ。総司ちゃんも容赦ないね」

 

総司はステラの方に行き意識を確認する。ステラの意識は完全にない。ふうっと総司は短く息を吐いた。

 

「寧音さんも人が悪い。きちんと教えてあげればいいじゃないですか」

 

「・・・・総司ちゃんも気づいてたかい」

 

「・・・・・・気づかないほうが可笑しいですよ」

 

「ハハ!!そういうところは本当に父親似だよ」

 

「ハァ・・・・・今回はそれでいいです。それにしても・・・・」

 

総司がステラに視線を移す。ぐっすりと眠るステラ。そんなステラに総司は目を細めた。

 

「気づきますかね?」

 

「まぁいざとなれば引っ張りだしてやんよ」

 

寧音はさっと鉄扇をしまった。

 

「一度休憩しようか総司ちゃん。ステラちゃん合宿所まで運ぶだろ?」

 

「はい。じゃあそうしましょうか」

 

総司も鞘に入った小太刀を消す。そしてステラを背負うと森の中に入っていった。それの背中を寧音は見つめる。

 

「こりゃとんでもない化け物を目覚めさせて《しまった》かもね・・・・・」

 

寧音が見つめるのはステラを背負って歩く男。その男が纏っているオーラはこの間寧音の前に現れた時とは比べ物にならないほど濃い。

 

「恵さんの息子だし元から才能はあると思っていたが・・・・・まさかここまでのものになるとはね」

 

寧音は自身の肌をなでる。その肌は()()()()()()

 

「こりゃ今回の七星剣舞祭を面白くするためにはステラちゃんがやっぱり必要だね。それにステラちゃん自身のためにも」




いかがだったでしょうか?

さてこれで前置きは終わりです。次回から舞台を大阪に移し七星剣舞祭本戦を行っていきたいと思います。

総司の強さ、戦いをお楽しみに!!!!

これからはガンガンバトルシーンを・・・・・できればやっていきたいです。

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします!!!

今回も感想、批評、評価お待ちしてますのでよろしければお願いします。

さてまた次回会いましょう!!!

簾木 健


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到着

始めましょう!七星剣舞祭を!!



大阪の中心部から離れた、湾岸の埋め立て地。そこに無人のビル群が存在する。数十年前の都市開発の折、建物だけは建てるだけ建てたものの、肝心の企業誘致が上手くいかず、テナントが入らないまま新品同然で打ち棄てられた失策の名残だ。だが普段は人っ子一人いないその灰色のゴーストタウンは今、活気に溢れていた。立ち並ぶ露店。日本列島全国から集った人々の空まで届くざわめき。何故そこまで人が集まっているのか。その理由はただ一つ。二日後。――――このゴーストタウンに存在する『湾岸ドーム』で年に一度の学生騎士の祭典、七星剣舞祭が開催されるからだ。七星剣舞祭はもともと、プロの魔道騎士の格闘興行KOKリーグよりも国民の注目を集める一大イベントだ。例年でもチケットはもちろん、周辺にある宿泊施設の競争率は非常に高い。だが今年はその注目度に輪にかけて、破軍学園襲撃に端を発した国立暁学園に纏わる騒動が絡んでいる。一週間ほど前に起こったこの事件はその背景と共に日本全国に衝撃を与えた。背景にいたのは現内閣総理大臣月影獏牙。その人が発表した『伐刀者(ブレイザー)教育権の奪還』は日本全国民にかつてない衝撃をもたらした。だがこの事件が与えた衝撃はもう一つあった・・・・・・それは一人の学生騎士だった。国立暁学園の強さは確かに鮮烈であった。ニュースなどでも取り上げられたその映像で示されたその強さも確かに鮮烈だった。しかし、そのニュース以上に衝撃を与えた一つの動画があった。あの鮮烈な強さを有する暁学園の面々をたった一人で倒した破軍の学生騎士。その魔術と剣技は多くの国民に暁学園以上の衝撃をもたらしていた。しかも今回の七星剣舞祭にその学生騎士が参加しているとなりその競争率はさらに高いものとなった。国内外の様々な人々が我先にと現地入りしているのは観客たちだけではなかった。七星剣舞祭に出場する選手たちの多くもまた、開会式よりも早く現地に集まり、提供された選手宿舎で羽を休めている・・・・・・はずだったのだが・・・・・・

 

「ついたか・・・・」

 

「ええ・・・・」

 

ステラと総司はちょうど今大阪にたどり着いた。こんなにバタバタになってしまった発端は総司の間違いにあった。

 

「え?剣舞祭前のパーティって前日じゃないのか?」

 

「総司ちゃん・・・・・違うよ」

 

「マジで?」

 

そういうことがあり総司とステラは大急ぎで大阪にやってきたのだ。

 

「そういえばソージさん。こんなに急いで来たってことはなにかあるの?」

 

二人はタクシーに乗り込み剣舞祭の選手宿舎になっているホテルに向かう。そこで剣舞祭前のパーティは行われている。

 

「ああ。ちょっと約束をしててな・・・・それにパーティには一度出てみたかったんだ」

 

「ふーん・・・・」

 

「そうなことよりもステラよかったのか?お前まで一緒に来る必要はなかったんだぞ?」

 

「大丈夫よ。もう根を詰める時期は終わったし・・・「どの口が言うんだか」・・・うっ!」

 

総司がニヤニヤと笑う。それにステラは顔を真っ赤にした。

 

「あんだけ根詰めといてよく言うぜ」

 

「うう・・・・仕方ないじゃない。あのときは本当に追い込まれてて・・・・いてもたってもいられなかったんだから・・・・・」

 

総司と寧音のところに来たステラだがあれが根を詰めていないと言われれば嘘になるどころか、口が裂けてもそうま言えないレベルの鍛錬だった。何度もボコボコになり気絶しながらなんとか今日までやってきた。本当によくやったとステラ自身も思う。しかし・・・その中で得られたものは《とても多かった》。それは総司もステラ自身もよくわかっている。だからこそこんな風に軽口も叩くことができる。

 

「ステラはBブロックだったな?」

 

「ええ。ソージさんはAブロックよね?」

 

「ああ。ということは・・・・・」

 

「ええ。そういうことね」

 

ステラの目に炎が灯る。ステラの目標は一輝との再戦とそれに勝つこと。そのためには総司も越えなければいけないのだ。そしてそれでも・・・・

 

「総司さんアタシはあなたに勝つわ」

 

ステラは優雅に笑ってそう告げる。そんなステラに総司は苦笑いを浮かべた。

 

「その挑戦は受けてたつ。ただ・・・・ステラそれの意味をわかってるよな?」

 

「ええ。その意味はよくわかってるわよ。この数日骨身にしみているわ」

 

「そうか。ならいい」

 

総司がニヤリと笑う。その笑顔の裏にある獰猛さをステラはこの数日何度も味わった。それでもこの足を止めることは出来ない。

 

「ええ・・・・《楽しみにしてるわ》」

 

そこでタクシーはホテルに到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝はパーティの会場に入った瞬間に感じたのは衝撃すら感じる視線の束といままでざわめいていた会場の沈黙だった。すぐに沈黙はまたざわめきに変わっていった。しかし・・・・

 

『あれが《雷切》を倒した破軍の《落第騎士(ワーストワン)》か』

『さすがにいい雰囲気を纏っているわね。研ぎ澄まされてた刃みたいに冴え冴えとしていて、とっても素敵』

『間違いなく全国クラス・・・・それもかなり上のほうだな』

『これだけ雰囲気をもってりゃひと目で強いことはわかるだろうに。こんな騎士を留年させたなんて破軍の前理事長はマジで何を考えていたんだ?』

 

ざわめきから漏れてくる会話は。先ほど一輝を貫いた視線がただの偶然でなかったことを物語っていた。

 

「へえ。さすがに全国クラスにもなると一目でお兄様の実力を見抜いてくるんですね」

 

一輝の隣にいた珠雫が場の雰囲気を察し、嬉しそうに顔を綻ばせた。珠雫は先の襲撃の件で七星剣舞祭を辞退した凪と葉暮姉妹の代わりに破軍と代表となりこの場に来ることができたのだ。そんな珠雫に対し一輝は・・・

 

「見くびっていたのは僕の方、か」

 

そう思いながら珠雫には気づかれない程度に、小さく苦笑する。油断してくれるかもしれない。なんて甘い目論見だったのだろうか。ここに居るのは全国から選りすぐられ、なおかつ暁学園という巨大勢力の登場にも臆さずに残った猛者たちだ。ランクというステイタス一つに踊らされて、油断するような馬鹿がいるはずない。相手の実力など、一瞥の下に見極めることができる。ここではそれが出来て当たり前なのだ。そんな雰囲気に触れいよいよ一輝は実感した。

 

「ついにここに来たんだ」

 

 

日本の学生騎士、その頂点を決する戦いの場へ。この場所なら間違いなく、自分の可能性を極限まで試せるに違いない。とそのような実感に一輝が武者震いしていると

 

「あっ!黒鉄君!!」

 

突如声がかかる一輝と珠雫がその声がするほうを見ると薄い黄色のドレスに身をつつんだ『雷切』こと東堂刀華が居た。

 

「東堂さん?どうしてここに?」

 

「えっと・・・少し今回私は黒乃さんの手伝いとしてちょっと早くから大阪入りしてたんですけど、私さえよければパーティに参加してもいいと黒乃さんに言われまして」

 

「ああ。それで・・・・」

 

「ええ。ちょっと居づらいですが・・・・・」

 

刀華が少し気まずそうに笑う。一輝もその笑みに気まずくなる。

 

「そ、そういえば総司先輩はどうしたんですか?」

 

その気まずさを抜け出すために一輝は質問をした。

 

「あっ!それも聞きに来たんです。黒鉄君はそうちゃんを見てないでしょうか?」

 

「いえ・・・僕は見てませんが・・・・珠雫は?」

 

「私も見てませんね・・・・本当に玖原先輩来るんですか?」

 

「普段はこんな会には参加しないんでが・・・なんか今回は参加するみたいで・・・・・」

 

「そうなんですね・・・・まぁ総司先輩が来れば一瞬でわかると思いますよ」

 

「ええ。そうですよね・・・・・」

 

「あっ!お、お兄様!」

 

突如、隣の珠雫が焦ったような声でスーツの裾を引いてきた。

 

「どうしたんだい?」

 

「あ、あれを!」

 

ピッ、と珠雫が指すのはパーティの料理が並べられているテーブル。その前に立ち、誰かを探すようにあたりをキョロキョロと見回している女性だ。

 

「あの人は・・・!」

 

「えっ・・・・」

 

一輝と刀華もすぐに珠雫が驚いた理由を悟る。その女性の、様々な色の()()()が散らばったざんばらなブロンド。女性だというのに上にはトップレスで、絵の具のかかった小汚いエプロンだけで大きな乳房を隠しているという常識的にはあり得ない服装。忘れるはずがない。なぜならそれは、母校を襲撃してきた者の一人なのだから。

 

「暁学園の、《血塗れのダ・ヴィンチ》サラ・ブラッドリリーさん・・・・」

 

「まさかあれだけのことをしておいてパーティに来ていたなんて思いませんでしたね」

 

「誰かを探してるみたいですね・・・・」

 

キョロキョロとあたりを見回しているサラ。その視線はピタリと一輝の元で止まった。そして次の瞬間――――

 

「えっ」

 

あろうことか、サラは早足で一直線に一輝に向かってきた。ようやく見つけた、と言わんばかりに。そしてサラは一輝の目の前、息がかかるほ程の距離で立ち止まると、無言のままとても真剣な表情でじっと一輝を見つめる。

 

「じぃー」

 

「あの、僕に何か?」

 

突然の接近に一輝は困惑する。サラの瞳は確実に一輝だけを映しており、彼女が自分に何か用があることは明らか。しかし自分とサラに接点などはなく、何か用なのかまるで予想がつかないからだ。一方でサラはそんな動揺する一輝の顔を見つめ―――

 

「・・・・・・・いい」

 

無表情のままポツリと呟くや、次の瞬間、一輝の肩や胸板を自身の手でぺたぺた、まるで持ち物検査でもするように触り始めた。

 

「うわっ、ぶ、ブラッドリリーさん!?」

 

「こ、こら!貴女突然なにをしてるんですか!?」

 

「黙ってて。今集中してる」

 

一輝や珠雫の驚く声にも耳を貸さず、サラの服の上から一輝の身体の輪郭をなぞる。相手はテロリスト。その上一度牙を剝いてきた敵だ。無防備に身体を触らせるのは危険。それは一輝もわかっているのだが―――

 

「すごい集中力を感じる・・・・」

 

どうにも、サラのこの行動からは悪意や害意といった負の感情は感じなかった。むしろ、邪魔するのを躊躇うほどに真剣な感情を感じる。だから一輝はサラを無理矢理引き剥がしはせずに、躊躇いながらも彼女が何をそう真剣に確かめようとしているのか聞き出そうとし――――次の瞬間、サラのよってスーツの下に着ていたシャツを力任せに破られた。

 

「「えええええええっ!?」」




始めましょうといったのに戦闘シーンはありません。すみません!!

さてついにやってきました大阪。七星剣舞祭本戦です。少し戦闘に入るまでありますができるだけ早く戦闘に入っていきたいと思っていますのでよろしくお願いします!!!

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしければお願いします!!

ではまた次回会いましょう!!!

簾木 健


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集合

すみません。思ったより原作のまんまになってしまいました・・・・

ただ今回も楽しんでいただけると嬉しいです。

簾木 健


「たく・・・・・こんな格好しなきゃなのか・・・・」

 

総司は面倒そうにスーツを着ていく。しかしどうも洋物の正装は性に合わない。

 

「うーん・・・・そういえば・・・・・」

 

総司は着かけていたレンタルのスーツを脱いでハンガーにかけてから、自身が持ってきた荷物の一つをほどきそこに入っていたものを取り出した。

 

「正装でってことならこいつでもいいよな」

 

総司はそう呟き荷物を着ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティ会場の一部は騒然としていた。

 

「お兄様ァァ!!!!」

 

珠雫が叫ぶ。一輝の着ていた服が破かれればそうなるだろう。さすがの一輝もサラから距離を取り無理矢理晒された胸板を庇いながら強く問うた。

 

「何をするんだ、いきなり!!」

 

対し、サラは

 

「・・・・・これなら文句なしに合格」

 

やや熱っぽく頬を染め、そんな意味のわからないことを呟く。

 

「ご、合格って一体なに!?なんだかサッパリ話が見えないんだけど!!」

 

「あの日・・・初めて会ったときから一目惚れしてた。美しさと優しさを感じさせる一方で、確かな芯の強さを思わせる顔たち。真っ直ぐ背筋の伸びた綺麗な姿勢・・・・それになによりこの無駄に膨らむことなく合理的に鍛えられた逞しい筋肉の形・・・・どれもこれもとっても素敵。貴方はまさに私の理想の男性」

 

「え、ええ!?」

 

突然の歯の浮くような賛辞を送られ、一輝は困惑する。コレは本当にどういう状況なのだ。もしかして自分は今、告白されているのか?あまりに突然すぎてどう切り返せばいいのかわからない一輝だった・・・・もちろん答えはステラがいるのだから決まっている。しかし、サラの表情は怖いくらい真剣で真摯でいくら彼女が《解放軍(リベリオン)》の人間だとしても、これほど真っ直ぐな気持ちを『迷惑』とバッサリ切って捨てるようなことは一輝の性格的に躊躇いを覚え―――

 

「だから貴方は私のヌードモデルにふさわしい。文句なしに合格」

 

思いの外、大迷惑だった。

 

「というわけで、今から私の部屋で脱いでほしい」

 

「どういうわけだよ!?いやだよ!断るよ!そもそもそんなオーディション受けた覚えないし」

 

「ダメ。断るのを断る」

 

「わがままか!」

 

「どうしても脱いでくれないのなら、力尽くで脱がすしかない」

 

言うや、サラの全身から魔力の気配が猛り、両手に霊装(デバイス)である『筆』と『パレット』が具現する。

 

「ほ、本気だ。この人・・・ッ!」

 

本気で、そんな理由のために霊装(デバイス)まで使って自分の服を剝ぎに来るつもりだ。だがここはパーティ会場。戦闘騒ぎを起こすわけにもいかず、一輝はどう対応すればいいのか決めかねて狼狽し―――

 

「お兄様から離れなさい、この変態ッッ!!!」

 

「あうっ!」

 

瞬間、珠雫のドロップキックでサラの身体は横に吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――コンコン

 

総司がノックをする。

 

「ステラ。準備できたか?」

 

「ええ。入ってきて大丈夫よ」

 

総司がステラの部屋のドアを開けた。すると中には赤いドレスに身を包んだステラがいた。その姿には圧倒的な美しさがあった。

 

「・・・・本当にお姫様なんだな」

 

総司がそんな言葉をこぼす。

 

「なっ!!当たり前でしょ!!!」

 

ステラが真っ赤になって怒る。それをまぁまぁと総司が宥める。

 

「いや、すごい似合ってもいるし着慣れてもいるからな・・・・そういう機会が多いんだろうなと思ってよ」

 

「そういうことね。ありがとう。でもそういうことはトーカさんに言ってあげなさいよ。それにソージさんも似合ってるわよ。それにすごく着慣れている」

 

「そうするよ。それでこれはおれの勝負服みたいなもんだ。似合ってないと閉まらないからな。そんじゃ行くか」

 

「ええ。あら?」

 

総司がスッと片手を出す。それにステラはスッと手を重ねた。

 

「優しいのね」

 

「普通だ。まぁ会場についたら一輝に譲るよ」

 

「ええ。そこはよろしくね」

 

ステラと総司はついに会場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場は騒然としていた。今度は一輝だけではなく他のパーティの参加者も騒然としていた。

 

「お、お兄様?」

 

なぜなら一輝が暁学園の多々良幽衣から珠雫に渡された料理を手の甲で払い飛ばしたからだ。周囲にいた他の参加者も皆突然の出来事に目を剝いていた。そんな周囲に対し一輝はなにも言わず、鋭く冷たい光を宿した瞳で幽衣を睨んでいた。一体どうしたというのか。疑問に思った珠雫が払い落とされた料理に目を向け―――気づいた。

 

「こ、これは!!」

 

幽衣が珠雫差し出した皿の上にあった骨付き鶏もも肉。その肉の中に、ギラリと輝くカミソリの刃が入っていたのだ。

 

「なかなか刺激的なトッピングだね。多々良さん」

 

「ギギギ、もったいねぇ。数種類のアルカイドを配偶した、ひと舐めで象も殺せる毒付きの特別製だったのによぉ」

 

多々良は一輝の刺すような視線に怯むことなく、肩を震わせて嗤う。

 

「見えないように仕込んだってのに。妹と違ってカンのいい野郎だねァ」

 

「別に褒められるようなことじゃないさ。そこまで『悪意』を振りまいていればねぇ」

 

返す一輝の言葉は謙遜ではない。それほどの明確な悪意をこの幽衣から一輝は感じていた。それは一緒にいた刀華も一緒だったようで鋭い瞳で幽衣を見つめていた。少しではあるが刀華の周りには雷が走る。

 

「多々良さん。さすがにその行為をただで見逃す訳にはいきませんよ」

 

「ギギギ。『雷切』か。お前でもいいぜ」

 

「え?」

 

「こんなにタルい仕事は初めてなんだよ。学園を襲え。でも一人も殺すな。アタイは他のバカどもとは違う。ガキのころからずっと殺しをやってきたんだ。そんなプロに『殺すな』なんて仕事よこしてくんじゃねぇよ。欲求不満でイライラすんだよ!!もう待ってらんねんだ。この場で今すぐにでもぶっ殺してェ!!!」

 

牙のような歯を覗かせ不気味な笑い声を発する多々良。その右手にゆっくりと、禍々しい魔力が集まり形を成す。鮫の歯を思わせる獰猛な形をした刃が幾重にも連なったチェーンソー型の霊装(デバイス)だ。

 

『お、おい本気かよあの女』

『こんなところでおっぱじめる気か!?』

 

多々良の場を弁えない蛮行に、会場がどよめきに満ちる。対し、刀華は霊装(デバイス)である《鳴神》を取り出す。そして一輝も珠雫を少し下げさせ刀華に並び立った。多々良はもう言葉に通じる相手ではないと一輝は理解したのだ。なにより一輝は妹にあんなマネをした人間を許しておけるほど、人間としても完成していない。一輝も刀華と同じように《陰鉄》を構えようとし――――

 

「やめとけや。《雷切》に《無冠の剣王(アナザーワン)》」

 

「「っ!」」

 

突如後ろから掛けられた声に二人は全ての動きを止めた。いや止められたのだ。その声は怒鳴りつけるわけでもなく特別怒気を孕んでいるわけでもない静かなものだった。だが、相手を否応なく従わせる強制力と圧迫感、そしてなにより存在感を持っている。

 

「そない安い喧嘩をするために、ここまで勝ち上がってきたわけやないやろ。なぁ?まぁ『雷切』は色々あったみたいやけど」

 

「・・・・諸星さん」

 

「お久しぶりです。諸星さん」

 

その声の主を一輝と刀華は知っていたのだ。ただその声の主を知らない学生騎士はほとんどいないだろう。前七星剣舞祭覇者にして《落第騎士(ワーストワン)》が一回戦で刃を交える相手―――武曲学園三年、《七星剣王(しちせいけんおう)》諸星雄大の声だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肉食獣を思わせる、鋭く威圧的な視線。身の丈180センチはあろうかという上背。そしてその身長に見劣りしない肉厚な筋肉を備えた。バンダナの似合う偉丈夫。それが日本の学生騎士の頂点。諸星雄大だ。彼の一声で殺伐とした空気は硬直した。そして一輝たちに近づいてきたのは雄大一人ではない。彼の背に従うようについてくる男女が二人。共に諸星と同じ、スーツではなく武曲学園のモダンで特徴的な制服に身を包んだ二人を、一輝は当たり前のように知っていた。制服を微塵を着崩さず、襟元までしっかりと正した姿勢のいい眼鏡の男は武曲学園三年、城ケ崎白夜。隣に立つ頬に絆創膏を貼り付けた、少年のようにやんちゃな瞳をした少女は同じく武曲学園三年、浅木椛。去年の七星剣舞祭の二位と三位だ。この場に去年の七星剣舞祭ベスト4が全員集まる。その圧迫感やレセプションルームそのものが狭くなったと錯覚する。その中心にいるこの男の存在感を無視することなんてできない。

 

「しっかし殺すの殺さんだの物騒な女やのぉ。まぁ七星剣舞祭も目の前やし血が滾るんはわからんでもないが・・・・もうちょい落ち着いたらどうや?」

 

「全くだ。こんな場所で霊装(デバイス)を抜くとは、品性を疑います・・・・まぁ下品な霊装(デバイス)の持ち主は品性も下劣ということですかね」

 

雄大に続き白夜も幽衣の行動を責める。

 

「品性じゃ戦いはできねぇんだよスカした坊や。なんなら身体に直接教えてやろうかァ?」

 

手に持つチェーンソー型の霊装(デバイス)のエンジンを起動させ、回転する刃を諸星に向けた。それに諸星はことさら冷めた視線を向けた。

 

「そう賢しらに牙をちらつかせるなや。弱い犬にそっくりやで」

 

「・・・・・ッッ!」

 

ため息をつくように告げられた侮蔑。それはもともと気性の荒い多々良の感情を沸騰させるには十分だった。

 

「ギギギ、クソガキがァ・・・・いいぜ。だったらアタイが弱ェかどうか今この場で」

 

もはや『悪意』などですまない、確かな殺意を発しながら諸星に向かって歩を踏み出し・・・唐突に、諸星との距離3メートルほどの位置で、まるで感電したかのようにその歩みを止めた。

 

「ほう」

 

諸星は感心したようにため息を漏らした。

 

「伊達にいちびっとるわけでもないな。せや、そこがワイの間合いの境界や。不用意に踏み込んどったら・・・・コイツでズドン、やったで」

 

見れば諸星の手にはいつの間にか細長い黄槍が握られていた。真っ直ぐな刃の根本に虎の毛を模した飾りのついたその槍こそ、《七星剣王》の霊装(デバイス)《虎王》だ。

 

「テメェ、いつ抜きやがった・・・・・!」

 

驚きの声をあげ、数歩後ろに下がる多々良。

 

だがそれに驚いたのは彼女だけじゃない。側にいた一輝もだった。

 

「すごいな・・・・・」

 

一輝の目を以てしても、いつ槍を顕現したのか見えなかった。それになにより

 

「――――まるで踏み込む隙がない」

 

槍を構えている訳でもないのに、諸星の間合いには死角が存在しなかった。どこから踏み込んでも、迎撃される。その未来がはっきりと、手に取るようにわかる。

 

「生で初めて見た・・・・これが噂に聞く、《七星剣舞祭》の《八方睨み》か」

 

そんな一輝とはまた違った意味で雄大を見ていた人がいた。

 

「去年より遥かに圧力が増している」

 

それは去年実際に雄大と戦った刀華だった。

 

「去年なんかより圧倒的に強い。今の私が戦っても勝てるとは言えない・・・・・でも」

 

刀華はニヤリと笑った。その笑みは彼女の幼馴染の笑みによく似ていた。

 

「そうちゃんは喜ぶだろうな」

 

「がははははっ!やれやれ今年の一年は、なまら威勢がええんでないかい?結構結構!」

 

騒ぎを聞きつけてかやってきたのは、武曲の者たちだけではなかった。拡声器でも使っているのではないか、と思うほどの大きな笑い声と共に、一輝たちの頭上に影がかかる。やって来たのは、目算2メートルは軽く超えるであろう身長と、1メートルに迫る横幅。くわえて学生には見えない髭面を備えた巨漢。北の大地、北海道・禄存学園の三年。前大会ベスト8の一人、《鋼鉄の荒熊(パンツァーグリズリー)》加我恋司だ。この巨漢こそ《閃光》玖原総司の一回戦の相手である。

 

「でも食い物を粗末にするのはだめだべさ。おらたち農家が美味しく食べてもらえるように一生懸命育てた鶏だ。美味しく食べてもらえんと報われんべさ」

 

小学校の頃。たった一人で100ヘクタール、――――実に東京ドーム約20個分の農地を開墾したという伝説を持つ恋司は、そう言うや一輝が床に叩き落とした毒カミソリ入りのチキンを巨大な手でつまみ上げて

 

「あ、そのチキンは・・・・・・!」

 

一輝の止める暇もなく、骨ごと口に放り込んだ。そして強靭な顎で肉はもちろん、骨もカミソリすらかみ砕いて一飲みにしてみせた。

 

「ガハハ!象は殺せてもおらは殺せんみたいやね!暁の!」

 

「ほ、ホントにこいつ人間かよ」

 

猛毒を食らっても微塵も不調の兆しを見せない恋司に、むしろ多々良が青ざめる。だが多々良の驚きはこれだけでは終わらない。

 

「んふ」

 

「ッッ!?!?」

 

唐突に、多々良の耳の裏に吹きかけられる吐息。その吐息に撫でられて多々良は初めて気づいた。いつの間にか、自分が一人の女に抱き着かれているということに。

 

「はーい、いい子だからちょーとジッとしてなさい。今診察中だから」

 

「ガアァ!!」

 

ペタペタと、自分の身体をまさぐる女を多々良は腕を力任せに振るって振りほどく。実に素早い対処――――ではあるが、その顔色は驚愕に染まっていた。多々良は《解放軍(リベリオン)》内の若手の中では名の知られた凶手だ。もちろんその実力は本物であり、彼女自身もそれを自覚している。そんな自分が――――いつの間にか組み付かれていた。パニックになって当然だ。

 

「な、何モンだ、テメェ・・・・!」

 

「んふふ。これはこれは、元気な患者(クランケ)ねぇ。元気なのはいいことよ」

 

焦りに声を震わせる多々良に対し、突如現れた白衣の女はぷっくりした唇に余裕の笑みを作り、

 

「だ、け、ど。思った通り血圧、体温ともに高めで興奮気味ね。身体も小さくて、お肌も荒れ気味で、栄養状態がよくないわ。ちょっと両手を出しなさい」

 

そんなことを言った。その瞬間だ。

 

「テメェ、さっきからなに、を、お、おおっ!?」

 

多々良の腕が本人の意志に反してチェーンソーを床に放り出した。さらには両手の平で丸い椀を作って、白衣の女に向けて突き出す。まさしく女に言われた通りに。そして白衣の女はその両手の腕に、

 

「カルシウムとビタミンC、あとは良質なコラーゲンをもっと取りなさい。それと、はい、これは私が調合した特性のアロマ香。睡眠前に焚いて高ぶった気持ちを静めるのよ?」

 

笑顔でザラザラと錠剤やカプセル、さらには可愛らしいリボンで包装された小包を載せていく。もちろん多々良はそんなもの必要としていない。すぐにでも床にぶちまけてやろうとするのだが―――――

 

「う、うごかねぇ・・・・・テメェ、アタイの身体に何をした!?」

 

「ん~?んふふ。何を驚くことがあるの?医者が患者(クランケ)の身体を意のままにできるなんて当たり前じゃない~」

 

脂汗を浮かべらがら怒鳴りつける多々良に対し、女はどこまでもにこやかだ。この女は廉貞学園三年―――《白衣の騎士》薬師キリコ。学生にして日本一の医者。そしてあの珠雫をもってしても勝つことができないと言わしめるほどの《水使い》でもあるのだ。しかもさっき使ったのは・・・・・

 

「あれは玖原先輩が私の目標として提示した技術」

 

珠雫は先ほどキリコが使った技に驚愕する。そして総司はそれを珠雫に教えた時こうも言っていたのだ。

 

『これはおれに魔術制御の極意を教えた人が使う技術だ。これを完璧にものにすれば珠雫も最強の水使いと言われることになるぜ』

 

「あれはキリコさんのことだったんだ」

 

しかも今の多々良の行動を奪っている術を珠雫は理解できなかった。もしかすると相手の血液に対して何かしらの干渉を行っているのかもしれない。そんな予測程度は立つものの、自分にはまだできない技術だ。

 

「この人と同じDブロックというのは、少々気が滅入るわね」

 

珠雫と同じ水使いであり、かつ技巧派。となれば、その技量の優劣がそのまま勝敗に反映されることとなる。珠雫としては自分と当たる可能性がある三回戦までに負けておいて欲しい騎士だった。――――――そして、騒ぎに釣られてやって来た全国レベルの騎士たちの中には、一輝にとって懐かしい顔もあった。

 

「おい、女。テメェ、誰に断って《落第騎士(ワーストワン)》に手ェ付けようとしてんだ。あ?」

 

人混みを割って現れ、乱暴に多々良の胸ぐらをつかみ上げた金髪の男。かつて破軍学園三年の綾辻絢瀬の一件で刃を交え《神速反射(マージナルカウンター)》という神に与えられた才能で一輝を苦しめた貪狼学園のエース。《剣士殺し(ソードイーター)》倉敷蔵人だ。

 

「倉敷君・・・・。久しぶりだね」

 

「フン、テメェならここまで来ると思ってたぜ。あんときの借りはキッチリ返させてもらう」

 

言うと蔵人は視線を掴み上げた多々良に戻し、

 

「俺だけじゃねぇ。ここに居る全員がコイツとやることを楽しみにしてんだ。あんま勝手なマネしてっとハネちまうぞ」

 

ドスの利いた声で忠告した。その言葉を肯定するように、全国屈指の強者たちが刺すような視線を多々良に向ける。これには気性の荒い多々良もたまらなかった。集まっているのは全員全国ベスト8レベルの実力者たち。仕掛けるのはあまりにも分が悪い過ぎる。そしてその場にさらなる星が加わる。

 

「なんだ騒がしいな」

 

「そうね。もっと厳粛なパーティだと思っていたけど意外と騒がしいわね」

 

低く鋭い声と可憐で美しい声。その声は入り口からし、会場にいた全員がその声を発した方を見る。その二人は学生騎士としてはあまりにも桁違いのオーラを抱いていた。一人は可憐で美しい声が本当によく似合う鮮やかな赤い髪をした少女。見事なプロポーションで赤いドレスを着こなし薄い笑顔を浮かべ笑う少女。そしてそれをエスコートする和装の男。藍色の着物を見事に着こなしており、その着物には家紋が入っている。その男は鋭い鷹を思わせる目で会場を見渡してから、ニヤリと笑った。

 

「おっ!懐かしい顔が色々と揃ってるな。久しぶり」

 

「あっ!シズク!一輝にくっつき過ぎよ!!!」

 

その二人が会場に足を踏み入れていく。一輝はさっき諸星が入ってきた以上の感覚を味わっていた。

 

「この二人・・・・・また強くなったな。諸星さんが入ってきた以上に狭く感じる」

 

一輝は逆立った肌を撫でる。

 

「これは本当にすごい大会になる」

 

一輝は好戦的な笑みを抑えられず少し歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

こうして役者は揃った。




さていかがだったでしょうか?

今回は説明回になってしまいましたね。次回からそれぞれの絡みを入れて・・・バトルに繋げていきます。

これからも楽しんでいただければ嬉しいです!!

今回も感想、批評、評価よろしければお願いします!!!

ではまた次回会いましょう!!

簾木 健


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足枷

どうしてこうなった・・・・

今回も楽しんでいただければ幸いです。

簾木 健


「さて・・・・で?これはどういう状況だ?」

 

総司が目を細めて蔵人に掴み上げられた幽衣を見る。すると蔵人が獰猛に笑った。

 

「『閃光』。こいつは上物だな」

 

「《剣士殺し(ソードイーター)》か」

 

総司が幽衣から視線を蔵人に移す。すると蔵人は幽衣を手放し総司と対峙する。

 

「なんだ?やる気か?」

 

「そこの馬鹿と一緒にしてんじゃねぇ。俺でも我慢くらいする」

 

「そうか・・・・」

 

総司はそう言いながら手放された幽衣に視線を戻す。

 

「さて・・・・おれの後輩がお世話になったみたいだな」

 

「チッ!」

 

幽衣が苦々しい顔で総司を見つめる。さきの襲撃の折、総司の強さを最も理解していた幽衣であり、今この場で手を出してしまったら殺されるのは自分だとよくわかっていた。ゆえに舌打ちをするしかない。そんな幽衣に総司はハァとため息をついた。

 

「まぁ今回は見逃してやるよ。七星剣舞祭の前だしな・・・・・ただ次はねぇぞ」

 

一瞬、総司から濃厚な殺気が噴き出す。その一瞬でこの場にいた人間全員の肌が逆立った。

 

「チッ!!」

 

その総司の殺気を受けさらに幽衣はイラつきながら舌打ちをして会場から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・・悪い刀華。実はパーティは明日だと勘違いしててな」

 

「そうちゃんらしいね・・・・でも間に合ったし大丈夫だよ」

 

「それはよかった」

 

「久しぶりやな。総司」

 

諸星が口を挟み総司に挨拶をかわす。

 

「ああ。久しぶりだな雄大」

 

「わいは待っとったで!!いつかお前とやれんのをな」

 

好戦的な雄大の笑みに総司は困ったように笑った。

 

「おれとしては面倒だからあんまりお前とはやりたくないんだが・・・・・・負けることはないけど」

 

「ほぉ・・・ええ度胸や」

 

雄大の頬がピクピクと動く。

 

「わいに当たるまで負けんなや」

 

「それはおれのセリフだ。雄大の一回戦の相手は一輝なんだろ?」

 

総司がニヤリと笑う。その笑みに雄大は真剣な表情になった。そしてステラと珠雫に挟まれて困ったように笑っている一輝のほうを見ながら総司に尋ねた。

 

「やっぱ強いんか?」

 

「そんなの聞かなくてもわかってるだろ?もしわかってないのなら今すぐ白夜にでも聞いておいたほうがいい」

 

「・・・・・そいは楽しみやな」

 

雄大が笑う。雄大もやはり一流の騎士ということだろう。

 

「そういや総司の一回戦の相手は・・・・・」

 

「おれの一回戦の相手は「ガハハハ!!!!玖原!!!!久しぶりだな!!!!」・・・・ああ。久しぶりだな恋司」・・・・こいつだ」

 

総司は少しげんなりとする。それを見て刀華が苦笑いを浮かべる。そして刀華が声の主に挨拶をする。

 

「お久しぶりです加我君」

 

「おう!!東堂も久しいな!!まさか負けるとは思ってなかったぞ!!!」

 

「あはは・・・・相変わらず加我君は元気ですね」

 

気まずそうに笑う刀華。しかし恋司全く気にした様子はない。

 

「やはり『無冠の剣王(アナザーワン)』は強いか!!」

 

「ええ。すごい強いですよ」

 

「そうか!!ただおらの相手は・・・・・玖原!」

 

「ああ。なんだ忘れてやがるのかと思っていたぜ」

 

「まさか!?お主を忘れるわけなどありえない!!」

 

それに総司がフッと笑う。その笑みはどこか楽しそうであった。

 

「恋司、全力で来い。楽しい一回戦にしようぜ」

 

「ああ!!そうしよう!!!」

 

ガッという効果音と共に握手を交わす二人。それに刀華は苦笑いを浮かべ、雄大は暑苦しそうにそんな二人を見ていた。

 

「あっ!そういえばキリコは?」

 

総司が思い出したようにそこの三人に聞く。全員で会場を見渡してみるがキリコこと《白衣の騎士》薬師キリコはいない。

 

「いないか・・・・な。あいつ忙しいから仕方ない・・・・・」

 

総司は学生手帳を出し、メールを打った。

 

「これで良し。刀華ちょっと付き合ってもらっていいか?」

 

「うん。なにするの?」

 

「ちょっとした挨拶回りあと少し調整がしたいんだ」

 

「・・・・・わかった。それなら黒乃さん言って」

 

「いいぞ東堂行ってこい」

 

そう言いながら黒乃はタバコを咥えながら歩いてきた。

 

「黒乃さん良いんですか?」

 

「ああ。この大会の主役は選手だ。その選手が全力を出すために必要だというのなら今日は付き合ってやれ」

 

「ありがとう黒乃さん。では刀華は借りていきます」

 

「ああ。きっちり調整して来い」

 

総司はスッと頭を下げると黒乃前から移動し知り合いの来賓や他の学園の生徒に軽く挨拶を交わしていき一通りそれが終わると刀華と共に会場去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて刀華。始めようか」

 

総司と刀華はこの七星剣舞祭の選手のために開放されているトレーニング施設にやってきていた。総司はゆっくりとした動作で2本の小太刀を抜きその小太刀を両手をだらりとさげて持つ。その目は刀華を見つめている。総司のとった構えに刀華は見覚えがあった。

 

「あの構えは『比翼』の・・・・・」

 

総司の構えはあの『比翼』の構えと同じ構えだった。刀華も『鳴神』を生み出し構え臨戦態勢へ移行する。眼鏡を外し総司に目を移した瞬間総司の脳の信号の異常性に気付いた。

 

「嘘・・・全然戦闘する脳信号じゃない」

 

互いに剣を構え、向いあっている。そんな状況で普段生活している時と同じように入れる人間がいるはずがない。もしそんな人間がいるとすれば・・・・・常時戦場に身を置き戦い敵を斬ることが日常生活になっているような人間。

 

「そうちゃん・・・もしかして・・・・・」

 

刀華はその思考から一つの答えに行き着く。総司が破軍に入学する時に自身にかけた三つの枷。それを総司はついにすべて解いたということに。その三つの枷というのは

 

一つ、能力を全力で使わない。

 

一つ、人を殺さない。

 

一つ、暗殺の中で得た力を使わない。

 

この三つの枷を総司はこの二年間ずっと守ってきた。しかしついにこの枷を解いたのだ。それなら今のこの状態を理解できる。総司が『玖原』の任務を行っていた時、総司は戦争や紛争が起こっている中でそれに関わる要人の暗殺を行ったり、常人では入り込むことが不可能な場所に入り込みそこで情報を盗んだり・・・・総司は常時様々なものに気を張り巡らし生活をしていた。そんな生活を送るために総司の脳は進化をしたのだ。

 

「この短期間でまた強くなってる」

 

刀華はその事実に戦慄する。今までとは異なったベクトルだが総司は強くなっている。その事実は刀華にとっては信じられないものだった。総司クラスになれば成長は多少は緩やかになるはずなのだ。現にこの二年間の総司の成長は緩やかであり急激成長することはなかった。それは普通のことであり、ステラや一輝のようにある程度完成された騎士でも合宿の時には中々成長出来ずに悩んでいた。しかしこの頃の総司には伸び悩むとういことがない。刀華から見て一輝やステラ以上に完成された騎士であるはずの総司はこの頃あり得ない速度で成長している。確かに近頃の様々な修羅場が総司を強くしたと理由をつけることはできる。しかしそれしたとしても今の総司の成長の速度は異常だった。

 

「今回は昔に戻ったことで強くなった。でもそれはただ戻っただけじゃない。昔の力をを捨てたをことで得た力と絡み合ってさらに相乗効果を生んでる」

 

そんな理由付けをしたところで刀華はハァとため息をついた。

 

「こんな思考に意味はなかった。今は・・・・・」

 

刀華から魔力が溢れ周囲に雷が迸る。そして目の前に佇む騎士に対して集中力を高めていく。

 

「・・・・・考え事は終わったか刀華?」

 

「はい・・・・」

 

静かに交わす言葉。刀華の言葉には緊張や興奮、様々な感情が混ざり合っている。しかし総司の言葉にはなにも感じられない。無機質で冷たく鋭い声。そんな声とは裏腹に総司は微笑んでいた。

 

「じゃあ始めよう」

 

「っ!!!!」

 

合図と同時に刀華が仕掛ける。『疾風迅雷』で強化した肉体を持って総司に接近する。しかし総司は動かない。でも刀華は止まることはしない。そのまま全力で斬りかかる。総司の脳信号には変化はない。

 

「取った!!!」

 

刀華が思う。しかし次の瞬間。総司の脳信号が瞬間的に動く。取られる行動は回避。頭上から来た刀華の刀を総司はすんでのところで回避した。迅速で効率的な最低限の回避行動。しかもその目は今斬りかかられたというのに穏やかだった。しかしその穏やかな表情からは信じられないほど鋭く速い斬撃が刀華に迫ってきていた。刀華は素早く後ろに跳び回避をする。しかしその頬には薄く斬られた跡がありそこから血が流れる。

 

「刀華急におっかないな。まさか『幻想形態』じゃなくて真剣で斬りかかってくるなんて」

 

おどけたような言葉だがその声にはそんな感情はない。というか一切の感情すら感じることが出来ない。

 

「そうちゃんこそ・・・・・・なんて言うかやばい力だね」

 

「ははっ・・・・ちょっと寧音さんとステラのせいで昔を思い出してね」

 

殺気もない。剣気もない。そして脳の信号すら一瞬。しかも・・・・・

 

「そうちゃんはまだ『天陰流』も『伐刀絶技(ノーブルアーツ)』すら使っていない。それでいてこの恐ろしさ」

 

刀華はそう思いながらニヤリと笑う。もうとっくに刀華の頭のねじはどこかに飛んでしまっていた。

 

「・・・・・笑うか」

 

総司もフフッと微笑む。そしてまたさっきと同じように構えた。その構えは『比翼』を連想させ刀華の肌を逆立てる。それと同時に総司のその雰囲気に肌が逆立つ。

 

「さて続けよう」

 

そう告げると次は総司が突っ込む。抜き足を用い、また脳信号も一瞬さすがの刀華も反応出来ず立ち尽くす。しかしそこでただで斬られてやるほど『雷切』の名は安くない。

 

「ハァァ!!!」

 

刀華の全身から雷が猛り刀華の肉体を中心として全方向に雷撃を飛ばした。

 

「!!」

 

総司は雷撃を躱し刀華距離を開ける。しかしそれを刀華は許さない。空いた距離の分を一気に詰める。しかも身体には雷を纏ったまま刀を振るう。それに総司は笑った。その肉体から魔力が溢れた。すると刀華の刀は総司に当たる瞬間で一瞬停止し、後ろに弾け飛んだ。その隙に総司が斬りかかる。しかし刀華は弾け飛ぶ力を利用し、身体を後ろに投げ出しその斬撃を回避する。ただ総司は止まらない。後ろに投げ出した間合いを詰めさらに斬りかかる。刀華の頭上から振るわれる小太刀。それを刀華は『鳴神』で防ぐ。ただ防いだ瞬間気付く。明らかに小太刀の重さでは感じられない超重量をこの小太刀が纏い振るわれていることに。刀華は自らの能力で脳信号をさらに加速させ常人ではあり得ないほど素早く脱力をし力を逃しにかかるがそれは間に合わず逃しきれなかった力が刀華を襲った。

 

「っ!!!!!」

 

左足から聞こえる嫌な音と失われていく感覚。しかし今はそれを気にする暇などない。今斬りかかってきたやつが次の一撃を放ってくる。

 

「ハァァ!!!!」

 

叫び声とともに雷撃を放ち、距離を稼ぐ。しかしそれも一瞬。今までは感じなかった剣気を纏い、再びは襲い掛かってくる。刀華は剣気が向かってくる方向を見る。足を失った今もう回避も防御も出来ない。また『雷切』のように両足で踏ん張ることを必要とする技は使うことが出来ない。そうすれば刀華に選択肢は一つしかない。例えこれが時間稼ぎにすらならないこととしてこうするしかない。

 

「ハァァァァァァぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

渾身の魔力を込める。放つのは魔術の名は『雷鴎』。雷撃を飛ばすという刀華が最もよく用いる伐刀絶技(ノーブルアーツ)一つ。それに今持てる魔力のほとんどを込め放つ。そうやって放たれた『雷鴎』は果てしない大きさとなり接近するものに襲い掛かる。それに対し一切失速することなく剣士は小太刀に金色の光を纏わせ迫る。そしてその小太刀を『雷鴎』に向かって振ると『雷鴎』は斬られたところからズタズタに()()()()()()。その部分を縫うように接近し首筋に小太刀の峰を押し当てた。

 

「終了だ。ありがとうな刀華。いい調整になった」

 

「・・・・ええ。私もいい勉強になりました」

 

一瞬小太刀が魔力によって光ると刀華はスッと意識を失いそれと同時に霊装(デバイス)も消える。

 

「さてカプセルに運びますかね」

 

総司は小太刀を消すと刀華を背負いトレーニング施設を出て行った。




いかがだったでしょうか?

ちょっとバトルシーンを入れようとなどと思ったらなんかすごいことになってしまいました。しかし後悔はしていません!!これで良いんですwww

さて次回の話を少し・・・・次回はあの白衣の騎士を登場させようと考えています。ファンの皆さまお待たせいたしましたww総司との関係性もお楽しみにwww

投稿はできるだけ速く行えるように頑張りますので少々お待ちください。

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしければお願いします!!!

ではまた次回会いましょう!!!!

簾木 健


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習慣

今回は繋ぎです。

楽しんでいただけれうれしいです。

簾木 健


「さてと行くか」

 

総司は大きく伸びをし自身に当てがわれたホテルから出る。今日総司は待ち合わせをしていた。七星剣舞祭前日。普通なら今日一日、集中を高めたり最後の調整をするのに使うだろう。しかし総司はそうするのではなくある人物と会うために使うことにしたのだ。ただ流石に調整を全くしないという訳には総司を行かないので調整を終えてからの夕食を一緒に取ることにしたのだ。そのため総司は午前中から調整を行い、さきほど戻ってシャワーを浴びてからまたホテルを出たのだ。

 

「待ち合わせはいつもとこだったよな・・・・この間行ったのはいつだったかね」

 

総司はそんなことを思いながら電車に乗り十分強で着いた駅で降りる。そして駅から歩いてアーケードを潜り、商店街に足を踏み入れる。ここには大阪に来るたびに来ているから・・・・・・顔見知りも多い。

 

「おっ!!玖原の兄ちゃんじゃないか!!」

 

「ようおっちゃん。ちょっと雄大の店にようがあってな・・・・・コロッケ頂戴」

 

「はいよ!!でも『一番星』に行くのに先に食っていいのか?」

 

「大丈夫。かなりお腹減ってるし」

 

「あっ!!諸星のアホと続いて玖原の兄ちゃんもおる!」

 

「おー久しぶりだな。というか雄大いたのか?」

 

「さっき東京のお客さん引き連れて『一番星』にいっとったで」

 

「東京のお客さん?」

 

そこで総司は雄大の()()()を思い出した。

 

「あいつまさか・・・・・」

 

総司は嫌な予感に顔を顰める。

 

「まぁ教えてくれてありがとうな。また今度遊ぼう」

 

「うん!!」

 

総司は子どもと別れホクホクのコロッケを食いながら商店街を歩いて行く。そして一つの古民家の前で立ち止まる。そこには『一番星』と書かれて赤い暖簾が掛かっていた。そして入口の横には錆びれた郵便ポストと『諸星』の表札。そんな古い日本家屋の代表のようなこの建物に総司は苦笑する。

 

「今にも崩れそうなのに崩れないこの家はあいつみたいだよな」

 

そんな小言を零しながら暖簾をくぐり立て付けの悪い引き戸をガラガラと押し開けた。すると鼻腔をくすぐる香ばしいソースの匂いと食欲をそそる音。それに総司はフッと頬が緩む。するとそこに一人の和服にエプロンを着けた少女が小走りで総司のもとに駆け寄ってきた。

 

「小梅ちゃん久しぶり」

 

総司がそう挨拶すると綺麗な所作で一礼し、和服の深い袖からスケッチブックを取り出しささっとなにかを書いた。

 

『玖原さんお久しぶりです!』

 

「うん。キリコが来てるやろ?待ち合わせしてるんだ」

 

総司がそう言うとまたスケッチブックに何か書いていく。この和服の少女は諸星小梅。諸星雄大の妹であり、雄大が足掻き続ける根幹にいる少女。

 

『来てますよ。案内しますね』

 

「ああ。頼むよ」

 

そうして小梅に案内されていくと―――――

 

「あらこんな美人を待たせるなんてどんなに男かしら?」

 

「えっ!えええ!!!!」

 

「「「「玖原先輩(ソージさん、総司先輩)!?」」」」

 

そこにいたのは総司が待ち合わせをしていた『白衣の騎士』こと薬師キリコと一輝にステラに珠雫にアリス。そして絶句する武曲学園新聞部の八心だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり雄大か。あいつは本当に・・・・」

 

総司がガシガシと頭をかく。それに一輝は苦笑いをする。雄大の持つ悪い癖というのはこうして自分が認めた騎士をこの自分の家である『一番星』に連れてくるのだ。例えそれが・・・・試合の前であったとしても。

 

「悪いな一輝にステラに珠雫。あいつに代わって謝るよ」

 

「いえ!嫌なら嫌と言ってますから」

 

「ええ。それにすごくおいしそうだし!!」

 

「ステラさんその食い意地は少しどこかにやってください」

 

「それよりも総司さんも食べに来たの?」

 

「ああ。ここに来るのは大阪に来たときの日課みたいになってるんだ。ついで昨日は話せなかったキリコとも話そうと思ってここで待ち合わせることにしたんだよ。キリコのやつも往診するつもりでいたみたいだし」

 

「往診?」

 

一輝が総司の言葉に首を傾げる。するとそれにはキリコが答えた。

 

「あら?知らなかったの?彼の足を治したのは私と―――――そのとき私のところで魔術制御の修行してた総司君なんだから」

 

「えっ!!そうなんですか!?」

 

「そうよ。意外な縁でしょう」

 

「おれはそこまで治療に関わったわけではないけどな」

 

「というか二人とも諸星さんと同年代ですけど・・・・・医師免許的にそんなことしてよかったのですか?」

 

「その辺はノーコメントだ」

 

「そうよ。それにいいじゃない。治ったんだから」

 

『そ、そんな問題じゃない気が・・・・・』

 

「じゃあ薬師さんが往診に来たってことは昔看た患者の顔を見に来たということ?」

 

そこで話を変えるためかアリスがそう聞く。その往診という言葉に一輝はドキリといやな胸騒ぎを覚えた。

 

「諸星さん、完治してないんですか?」

 

胸騒ぎは、雄大がまだ障害を抱えている懸念だ。だが一輝の懸念をキリコと総司はすぐに否定する。

 

「それはないぞ」

 

「ええ。ちゃんと完治はしているのよ。ただね・・・・・」

 

「かなり無茶な治療だったからな」

 

「そうなの?」

 

「もう二度としたくないな」

 

総司がげんなりして言うほどの治療というのはどんなものだったのだろうかとその場にいた全員が思った。

 

「でも治ってるんですね・・・・・それはよかった」

 

一輝がよかったと胸をなでおろす。それに総司はニヤリと笑った。

 

「さすがは一輝という感じだな」

 

「そうね」

 

「ええ。それでこそ兄様です」

 

総司の言葉にステラと珠雫は同意する。それに一輝は苦笑いをこぼす。

 

「んふふ。本当にいい男ね。ねぇ黒鉄君。よかったらこの後お姉さんが試合前の健康診断してあげましょうか?たくさんサービスしちゃうわよぉ?」

 

キリコはねぶるような視線を向けながらそろりと身をよじり、着ていた白衣の胸元を開き自らの胸の谷間を見せつけるようなポーズを取る。これはなかなか一輝にとって強烈だった。大きさではステラにはかなわないのだが、年上にしかない官能的な魅力が一輝の眼球を殴りつける。そんなキリコに一輝が困惑していると

 

「失礼ですが―――――」

 

一輝を守るように、珠雫がアリスの隣から一輝の隣へと移動し、二人の間に割って入った。

 

「下品なのはもうステラさんで間に合ってので結構です」

 

「なっ!!それはどういう意味よシズク!!!!」

 

ステラが叫びながら立ち上がる。

 

「そのままの意味ですよ。わかりませんか?」

 

「なっ!!あんたいい加減しなさいよ!!!」

 

ステラの体から微かに燐光が漏れ室内の温度が上昇する。それに伴って珠雫は立ち上がり、自身の霊装(デバイス)である《宵時雨》を取り出した。そして二人がバチバチと睨みあったところで総司が静かに口をはさんだ。

 

「二人ともここで喧嘩するのはやめろよ。それにキリコもからかいすぎだ」

 

総司が呆れたような表情でそう言う。それにキリコはふふっと微笑み、ステラと珠雫は苦虫を潰したような表情で席に着いた。

 

「じゃあ今日は総司君が私のお相手してくれるの?」

 

「キリコやめとけ。前に似たようなこと言って刀華に殺されかけただろうが」

 

「あれ?もしかして刀華ちゃんもこっちに来てるの?」

 

「来てるよ。今日キリコと会う約束したって言ったら苦い顔してたよ」

 

「ふふ。相変わらず警戒されてるわね」

 

「あれトーカさんも知り合いなの?」

 

「ええそうよ。まず総司君に紹介してもらったのよね」

 

「ああ。ただ刀華は初めて会ったときからキリコのこと苦手意識があるみたいで、かなり警戒してるけどな」

 

「ふふ。それは苦手意識だけじゃないと思うわよ?」

 

キリコはふふっと悪戯っぽい笑顔を浮かべる。それに総司はハァとため息をついた。

 

「総司さんも言ってたけどナギさんたちは諸星に連れてこられたんよね?」

 

「ええ。そうよ」

 

「本当にそれは総司さんも言ってたけど諸星の悪い癖やね」

 

「そんな風に言うってことはこんなことはよくあるんですか?」

 

「うん。まぁ、よくってほどではないんやけど、交流戦とかで他の強い子がくるとたまにね。まぁはるばる大阪まで来てくれた強敵への諸星なりの歓迎なんやろうなぁ。うちが今日ここにおったのもそれを期待して張っとったからや。なんや面白いこぼれ話が聞けるかもしれへんやん?ただよりよって明日たった一つしかない勝者の椅子を懸けて戦う相手を連れてくるとは予想してへんかったわ。ホンマ図太いやつやで」

 

「確かに普通はしないですよね」

 

「・・・・その招待を堂々と受けるアンタも大概やけどな」

 

「はは・・・自分の図太さは自覚していますよ」

 

「んふふ。・・・・・だけど貴方たちが思っているほど、諸星君は図太い()()の男というわけでもないのよ」

 

「そうだぞ。たぶんあいつは下心まみれだ」

 

昔から雄大を知っている二人が口を挟む。

 

「どういうことですか?」

 

「あの雄大が下心もなくこんなところに対戦相手を連れてはこないってことだよ」

 

「その下心ってどういうことなん?」

 

不穏な響きに八心が眉をひそめる。

 

「なんや。もしかして美味い飯を奢って恩売って戦いにくくするとか言うつもりか?諸星はそんな小賢しいこと考えるタイプやないやろ?」

 

「フフ。そうね。そういうことじゃない・・・・むしろ逆ね」

 

それに総司もフッと笑う。この二人は雄大のことをよく理解しているのだ。一輝がその二人が考えていることを理解しようと考えを巡らしたところで・・・・

 

「おわっ!ビックリした!なんかえらいことになっとるな!」

 

雄大が一輝たちの注文したものを持ってやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一輝たちは『一番星』のお好み焼きを堪能し宿に帰って行った。余談だがステラが大量に注文し『一番星』を潤していったため雄大とその母はニヤニヤしながらまた来てほしいと言っていた。今『一番星』に残ってるのは総司とキリコと八心と実家である雄大である。

 

「やっぱりうまいな」

 

総司がお好み焼きをモグモグと食べながら言う。場所は机からカウンターに移動していた。

 

「ふふ。玖原君ありがとうねぇ」

 

「いえいえ。こちらこそ。いつもありがとうございます」

 

「それにしても総司。いいんか?明日朝一やろ?」

 

雄大が洗い物をしながら総司に尋ねる。

 

「完璧に調整はできてる。もう今すぐでも戦える」

 

その総司の言葉に雄大は鳥肌が立った。目の前でお好み焼きを食べているこの男に今すぐに切りかかったとしても逆に切り払われてしまうのが雄大には理解できてしまった。

 

「おっ!そこまで言うってことは明日は絶対負けんっていうことかね?」

 

八心がメモを取り出し総司の発言を掘り下げる。

 

「そうとは言ってない。でも負けるつもりで舞台に上がるつもりはない」

 

「ふふ。総司君そこは絶対勝ちますとか言っておけばいいのに」

 

「そうやで薬師さんの言う通りや。そっちのほうがうちとしてもおいしいし」

 

「おい八心。心の声が漏れとるで」

 

「でもさ諸星。実際玖原君ってそう言えるくらい強いやろ?」

 

「それとこれとは話がちゃうやろ。総司はそんなこと言うやつじゃないねん」

 

「まぁそうね。総司君はそんなこと言わないわよね」

 

「わかってるなら煽るなよキリコ」

 

総司がげんなりしてキリコに言うが本人はニコニコと微笑んでいるだけだったので、総司はハァと一つため息をついてから話を変えた。

 

「そういえばキリコ病院の方はどうなんだ?」

 

「そうね。とりあえずはみんな元気よ」

 

「そっか。それはよかった」

 

総司は安堵の表情を浮かべる。そんな総司にキリコは苦笑いを浮かべた。

 

「でも治療法が発見されたわけではないわ。ただ元気にいられるだけ」

 

「・・・・・そうだな」

 

その言葉に総司の表情も曇る。キリコは逆にフフッと微笑んだ。

 

「総司君がまた手伝ってくれれば少しは治療法を発見できるかもね。ねぇやっぱり私のところにこない?総司君なら私の助手として雇ってあげるのに」

 

「・・・・・わるいな」

 

総司がペコリと頭を下げる。ただその反応はキリコの予想通りだったようでふうと一つ息を吐き言った。

 

「そういうと思っていたわ。でももしなにかあったら・・・・」

 

「ああ。絶対に助けにいく」

 

「ええ。お願いね」

 

向かいあいそう約束する二人をニヤニヤとして八心は見ていた。

 

「なんや恋人みたいやな」

 

「私としてはそれでもいいんだけどね・・・・強情なのよ」

 

「ほう・・・・その辺詳しく聞かせてくれへん?」

 

「やめろ。キリコも変なこと言うな」

 

「ええ~」

 

「ふふ。流石に本人に止められたら言えないわね」

 

「そんな!?ものすっごいネタやのに・・・・」

 

「八心。やめとけあんまり色々言うと総司が切りかかってくるで」

 

「なっ!でもそれを記事に出来んなら・・・・・・」

 

「・・・・なんというか記者っていうのはすごい生き物だな」

 

総司がそう零すと八心は笑顔を浮かべた。




いかがだったでしょうか?

キリコですが・・・・なんかヒロインみたいですね。どうしてこうなった・・・・・

さてさて次回あたりから七星剣舞祭本線に入っていきたいと思います。ついに総司が全国デビューです。お楽しみに!!!!!

今回も感想、批評、評価募集しております。よろしければお願いします!!!!

ではまた次回会いましょう!!!

簾木 健


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開幕

ついにここまで来ましたね・・・・

今回も楽しんでいただけると嬉しいです。

簾木 健


「じゃあそろそろホテルに戻るか」

 

総司から代金を出してから立ち上がる。あとちょっとしたら本番に日時になるような時間になっていた。もう店内には総司、キリコ、雄大、八心、雄大の母しかいなかった。

 

「あらもうこんな時間なのね。私も一緒に戻るわ」

 

「雄大はどうするんだ?」

 

「わいはここに泊まるわ」

 

「そうか。じゃあまた明日会場でな」

 

「ああ・・・・・」

 

雄大がスッと総司を指した。

 

「総司わいは絶対に総司まで辿りつく・・・・・そして勝つ」

 

雄大から滲み出る闘気。『七星剣王』の並ではない強さの闘気に総司はフッと笑った。

 

「ああ。楽しみにしてる」

 

「っ!!!!」

 

総司から放たれる闘気。それは一瞬にして雄大の闘気を喰い尽し、『一番星』の店内を満たす。戦いの場に身を置いてない八心や雄大の母にすらわかった。今目の前にいるこの男は次元が違う。

 

「雄大。昨日も言ったが一輝は強い。この頃の戦いを超えてまた強くなったみたいだしな。だから・・・・」

 

「わかっとるわ。やから初戦から飛ばしていくで。総司こそ一回戦負けんなや」

 

「負けねぇよ・・・・・うんじゃ、今日もうまかったよおばちゃん。また来るわ」

 

「またね!待っとるよ!」

 

「キリコ行こう。八心はどうすんだ?」

 

「うちも駅まで一緒に行くよ。今ならまだギリギリバスあるしな」

 

「わかった。じゃあ雄大、小梅ちゃんにもよろしく行っといてくれ」

 

「おう。また来いよ!」

 

そうして三人は『一番星』を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後三人は商店街を抜け駅についたところで八心と別れた。

 

「さてキリコは電車に乗るか?」

 

「そうね・・・・・いえたまには歩こうかしら」

 

「歩くのか?歩いて帰れない距離じゃねぇけど・・・・・珍しいな」

 

二人はホテルに向かって歩き出す。キリコがこんなことを言い出すのは本当に珍しいことなのだ。キリコはあくまでも医者だ。総司たち騎士とは違ってそちらを本業としている手前、総司たちのように身体を動かそうとすることはあまりないのだ。だから総司は驚いたのだった。

 

「そういえば聞いてなかったけど・・・・キリコなんで七星剣舞祭に出ることにしたんだ?」

 

総司がそう聞く。これも同じ理由だ。騎士ではなく医者として生きているキリコにとって七星剣舞祭には興味はそれほどないだろう。だから実際一年、二年と出てはいなかった。その問いにキリコ答える。

 

「まぁ最初は学園側から出てくれって泣きつかれたのよ」

 

「そうなのか?でもそれくらいなら普段のキリコなら断るだろ?」

 

「ええ。そうね。今回も断るつもりだったわ。でもどこで聞きつけてきたのか病院の子どもたちがね。『先生が七星剣舞祭に出るなら僕たちテレビの前でいっぱい応援するね』って言われてね・・・・・それを皮切りに病院のみんなに伝わったみたいで・・・・」

 

「ああ。断り切れなかったのか」

 

「ええ。スタッフも『普段は仕事ばかりしてるんですし、たまには任せて行ってきてください』なんて言われるしそれならもうわかったわって折れたのよ」

 

「なるほどな・・・・で?実際に来てみてどうだ?」

 

「そうねぇ・・・それなりにはレベル高いわね。ただ私は騎士の考え方はやっぱりわからないわ」

 

「まぁキリコからすれば自分から身体を破壊にしに来てるような人間はやっぱりわからないか」

 

「ええ。しかも諸星君みたいな子になればさらにわからないわ」

 

「雄大か・・・・あいつの話をキリコとしてるとあの日々を思い出すな」

 

「諸星君が私のところにいた時よね・・・・・」

 

キリコが苦笑する。総司もそれを見て苦笑した。

 

「まずあいつをおれが病院の近くで拾ったんだよな」

 

あの日・・・総司はキリコから頼まれてに行って買い物の帰り、病院の近くで地面を這って進む男を見つけ保護したのだ。話を聞いてみるとキリコに会いたいとのことだったので総司がそのままキリコのもとに連れていったのである。そしてその男こそ諸星雄大だったのだ。そして雄大はキリコの前に来た瞬間にこう頼んだのだ。

 

「頼む先生!!わいの足を治してくれ!!!!」

 

その質問にキリコはニヤリ黒い笑みを浮かべたのを総司はよく覚えている。

 

「あの時のキリコは悪魔に見えたよ」

 

「ええ。あの時は自分が神にでもなった気でいたのよね・・・・・本当に傲慢だったわ」

 

さっき一輝たちの前でも言ったように雄大の足を治療したのはキリコと総司だ。その足の治療というのは神を恐れぬ方法で行われた。現代には《再生槽(カプセル)》という医学の粋を尽くしたものがある。しかしそれは切断された腕や足、場合によっては首すらも修復できる奇跡の箱だ。ただできるのは()()まで。ミンチになった足を新しく生やすことはできない。しかし雄大は足を完全に欠損していた。それを生やすとなると方法は一つしかない。その方法こそ当時《白衣の騎士》こと薬師キリコが研究していた魔術であった、『全身細胞を使った欠損部位の復元魔術』だ。キリコはこの雄大からの頼みをすぐに引き受けた。それはもちろん雄大の熱意に心動かされたとかではない。ただ自分の研究の『実験台(モルモット)』にするため。そのためにキリコは二つ返事で返事を返した。その場にいた総司はそんなことをすることをすぐに止めた。しかし二人はそれに聞く耳など持つことなくすぐに治療という名の実験を始めることになった。雄大の全身組織をそぎ取り、一度分子単位までバラバラにしたそれをこね回して雄大の偽足を作った。総司はいやいやながらも乗りかかった船ということでその治療に参加した。

 

「おれは最初絶対に雄大が途中で根を上げると思っていたよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。まぁそうなった時にキリコが暴走しないようにするためにあの治療に参加したようなもんだしな」

 

「そうだったのね」

 

根を上げる・・・・総司がなぜそう言ったのかはこの治療の副作用をある。もちろん全身組織から作り出すのだから、他人の臓器を移植するときに起こる拒絶反応などは起きることはない。この治療の副作用とは全身組織から人体の半分近い組織を作り直したことによる全身の筋肉量の著しい減衰と全身の骨密度の激減による重度の骨粗鬆症だ。それにより患者は肺の伸縮で胸骨を痛めたりしてしまうほどになってしまう。そしてすっかり骨と皮だけになった身体をもう一度満足に動かすためには、筋肉をつけ直さなければならない。それも可及的速やかに。なぜなら減少した筋肉量的に、すぐにでも筋力をつけ直さなければ生命活動にすら支障が出るレベルなのだから。故にキリコは雄大に強要した。その枯れ木のような身体での、一流アスリートと同レベルのハードな筋力トレーニングを。当然そんなことをすれば肉体はただでは済まない。スカスカの骨は幾たびも砕け、強度を失った筋肉は千切れる。柔らかくなった腱は軒並み裂け、至るところの神経が断裂を起こる。その痛みに歯を食いしばり、折れた足で走り、千切れた腕でダンベルを持ち上げる。しかも『壊れる』だびに総司とキリコの治療魔術で破損部位を復元するのだ。それは『壊れる』痛みを何千回と味わうということだ。それはもはや治療ではなく拷問と言って差し支えない荒行。嘔吐、失禁は日常茶飯事。雄大のリハビリの光景はまさに地獄絵図だった。しかしそれが三か月たったころだった。キリコが総司に泣きながらこう漏らした。『もうこの研究を終わりたい』と。雄大よりも先に根を上げたのはキリコだった。この三か月間、毎日響く激痛による叫び声や呻き声はキリコの夢の中でも響き、キリコを完全に疲弊させてしまったと同時にキリコは気づいたのだ。雄大はモルモットではない。自分と同じ『形』をした生き物でこんなことのために犠牲になってはいけないものなんだと。そんなキリコに対し総司も当の本人である雄大も中止することを認めることはなかった。疲弊しきったキリコにはそこまでしてこの地獄に耐える雄大とこの地獄を毎日のように見続けている総司の二人は人間ではないのではないのかと思った。そんな時キリコに対し雄大は言った。

 

「総司には話したんやけどな・・・・なぁ先生。小梅が最後に言った言葉なんやと思う?」

 

諸星小梅。雄大の妹は話すことができない・・・・・できなくなってしまった。その原因こそこの雄大の怪我にあったのだ。雄大が怪我を負ったのは大きな電車の事故だ。ではこの日雄大はどこに電車で向かっていたのか。向かっていたのは遊園地だった。そこに行きたいとねだったのこそ小梅だったのだ。小梅は自分のちっぽけな願いのせいで兄は両足と騎士としての輝かしい人生を失ってしまった。自分が我が儘を言わなければ・・・・そう自分を責め続け、最後には心が壊れてしまった。そして声を失った・・・・・そんなその経緯はキリコも聞いてた。それが雄大を動かしていることも聞いていた。ただその辺のことは総司から伝聞でしか聞いていなかった。そういったところは総司に任せっきりにした。実験体と会話をする必要なんてないそれがキリコのスタンスだった。しかしこのタイミングでキリコはついに雄大の言葉に耳を貸したのだ。

 

「ボロボロ泣きながら、ごめんなさいや・・・・その日以来、口がきけんようになってもうたんや。全部、全部ワイが情けないせいや。ワイが怪我なんかしたもんやから、小梅にいらん負い目を背負わせてもうた。遊園地に行きたいそんな可愛らしい我が儘を罪やと思わせてもうた・・・・だからこのままでは終われんのや。ワイが教えたらなあかん。なんも謝ることはない。気にせんでええって。せやけど、こんな情けな身体のままやと駄目や。ワイがあの事故で無くしたモン。脚も、力も、地位も・・・・全部取り戻して、言葉やなく結果で『ワイはもう大丈夫や』と示したらんと、アイツは自分を許してくれへん!!だから!!!ワイは小梅が自分を許して、もう一度しゃべれるようになるまで、たとえ何度骨が砕けようと・・・・肉が引きいぎれようと・・・・・(アイツ)の前で、曲がった背中は二度と見せんッッ!!!!それが、兄貴っちゅうもんやッ!!!!」

 

この時キリコは悟った。この男は絶対に途中で投げ出すことはない。どんなことがあっても最後までこの()()を受け続ける。

 

「あの話を聞いた瞬間に総司君がなんで協力したのかもすぐにわかったわよ」

 

「・・・まぁな。あそこまで覚悟を決めた男に色々言うのは野暮ってもんだ」

 

その地獄を乗り越え今、雄大は学生騎士の頂点にいる。それがこの二人とっては誇らしくもあった。しかし今回の七星剣舞祭ではそんな悠長なことは言ってはられない。

 

「向き合うことになれば斬るけどな」

 

総司がニシシといたずらっぽい笑みを浮かべる。それにキリコは困ったような笑みを浮かべた。

 

「総司君。明日第一試合よね?」

 

「ああ。相手は恋司だからな相手にとって不足はない」

 

「最初から飛ばしていくの?」

 

「もちろん」

 

「ふふ。体調の心配とかはしてないけど・・・・・頑張ってね」

 

「ああ。もちろん」

 

二人がそんな風に話しながらホテルへの道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『闘争は悪しきことだと人を言う。それは憎しみを芽生えさせるから。平和は素晴らしきことだと人は言う。それは優しさを育むから。暴力は罪だと人は言う。それは他人を傷つけるから。協調は善だと人は言う。それは他人を慈しむから。良識ある人間ならば、そう考えるのが当然のこと。しかし、しかしそれでも人は――――――()()()()()()()誰よりも強く!誰よりも雄々しく!何人も寄せ付けない圧倒的な力!自分の自己(エゴ)を思うままに貫き通す、絶対的な力!!憧れなかったと誰が言えよう!望まなかったとどの口で言えよう!この世に生まれ落ち、一度は誰もが思い描く夢。いずれはその途方もなさに、誰もが諦める夢。その夢に、命を懸け挑む若者たちが今年もこの祭典に集った!!!!北海道『禄存学園』。東北地方『巨門学園』。北関東『貪狼学園』。南関東『破軍学園』。近畿中部地方『武曲学園』。中国四国地方『廉貞学園』。九州沖縄地方『文曲学園』そして――――新生『日本国立暁学園』。日本全国計八校から選び抜かれた精鋭たち!!いずれも劣らぬ素晴らしき騎士ばかり!されど、日本一の学生騎士《七星剣王》になれるのはただ一人!!ならば――――その剣をもって雌雄を決するのは騎士の習わし!!若き高潔なる騎士たちよ。時は満ちた!この一時のみは、誰も君たちを咎めはしない!思うまま、望むまま、持てる全ての力を尽くして競い合ってくれ!!ではこれより、第六十二回七星剣舞祭を開催します!!!!!!」

 

大阪の中心地から離れた、湾岸の埋め立て地にある『湾岸ドーム』が観客の声によって揺れる。その中で刀華は緊張した面持ちで観客席からリングを見つめていた。その横にはいつもと同じように白いドレスを身に纏った貴徳原カナタと薬師キリコがいた。カナタも刀華と同じように緊張した面持ちで、キリコはいつも通りに不敵な笑顔を浮かべていた。

 

「そうちゃん緊張とかしてないかな・・・・」

 

「大丈夫よ。なんて言ったって総司君なんだから」

 

キリコをムッとして見つめる刀華。そんな二人にカナタはふふっと微笑んだ。

 

「大丈夫ですよ会長。総司さんならきっとやってくれます。薬師さんもあんまり会長を煽らないでください」

 

「ふふ。ごめんね。刀華ちゃんがかわいくて」

 

「まぁそれはわかりますが、今くらい自重してください」

 

「ちょっとかなちゃん!!それはどういうこと!?」

 

『さて!!!では早速Aブロック一回戦第一組の試合を始めていきましょう!!!!』

 

「ほら刀華ちゃん。始まるわよ」

 

「えっ!?わわ・・・・」

 

刀華は慌てて視線をキリコからリングに移す。そんな刀華をカナタとキリコは顔を見合わせてふふっと笑い、刀華と同じように視線をリングに移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『実況はこの私、飯田が!解説は牟呂渡プロがお届けします!!!!それでは早速、入場してもらいましょう!!まずは青ゲートより、加我恋司選手の入場です!!』

 

その声に応じ、のそりと、青ゲートの闇から大きな影が現れる。スポットライトの明かりに照らされた眩い舞台に姿を見せたのは、身の丈2メートルはゆうに超える巨大な岩石のような大男。それこそが――――

 

『おお!加我だ!加我が来たぞ!』

『相変わらずでけぇぇぇ!!』

 

北海道の雄。加我恋司だった。

 

『北の大地、禄存学園からやって来た《鋼鉄の荒熊(パンツァーグリズリー)》!何よりも目を引くのは《荒熊》の名に恥じないその規格外の巨体だぁ!!身長236センチ!体重370キロ!!ヒグマとはぼ変わらない恵体による剛力を武器に戦う、日本屈指の超パワーファイターです!!』

 

『加我選手は攻守が非常に高い次元でバランスよく整っている選手です。持ち前の恵体から繰り出されるブルドーザー級の膂力。そして伐刀者(ブレイザー)としての能力による《全身鋼鉄化》というオリジナリティ。単純に強く、単純に硬い。それ故に、使い方や状況、相手の能力との相性に左右されにくい《純粋な強さ》を持っていますね』

 

観客の声援を受けながら加我がリングに上る―――瞬間、彼はある行動を取る。自分の着衣をその太く巨大な手で掴むと、それを引き千切るように脱ぎ捨てたのだ。

 

『おおおおぉ――――っとぉ!?加我選手!特注サイズの制服を引き千切って脱ぎ捨て、褌一丁になったァ!これはどういうパフォーマンスだァ!?』

 

困惑する実況と観客。それに対し、解説の牟呂渡が言葉を挟む。

 

『『指輪』や『首輪』、『眼鏡』など、伐刀者(ブレイザー)霊装(デバイス)は必ずしも武器としての形状を取るわけではありません。そして加我選手の霊装(デバイス)《雷電》はあの褌―――『廻し』なんです。普段は服の下に着用しているので見えることはありませんが・・・・・、あえて着衣を脱ぎ捨て、廻し一丁で戦いの舞台に上る。この試合をここ一番の勝負と考えての、気合の表れでしょう』

 

牟呂渡の解説は正しい。大勝負には霊装(デバイス)一丁で挑む。それが加我流の必勝を祈願した気合の入れ方なのだ。そして着衣を脱ぎ捨てた加我は、その場で膝を曲げ、腰を落とす。その後、左足を天高くほぼ垂直に持ち上げ、リングに叩きつけた。瞬間、ズドォン!という地響きを伴い、リングの左側が地面に沈み込む。これには会場全ての人間が驚愕に目を見開いた。

 

『す、すさまじいィィィ!!!加我選手が四股を踏んだ瞬間、直径約100メートルのリングが、地面に斜めに沈み込んでしまったァァァァ!!!!そして続けて反対の右足を天高く掲げ――――どすこーーーいッ!!』

 

再び轟音が轟くや、先ほどと同じく今度は右側もまた地面に沈む。

 

『斜めに傾いたリングは二度目の踏み付けでもとの水平に戻りましたが、しかし明らかに彼が四股を踏む、前よりもリング全体が、目算十センチほど地面にめり込んでいます!なんというパワーでしょうか!』

 

『そこもすごいところですが、彼の足元を見てください』

 

『足元、ですか?な、これはァッ!!足形です!!ナパーム弾の直撃にも耐えうる特殊石材で作られている伐刀者(ブレイザー)のリングに、まるでぬかるんだ砂浜を踏みつけたように、指の形までくっきりとわかるほど明確な足跡が刻まれています!』

 

『リングは足の形に陥没しているのに、周囲にヒビひとつ入ってません。力が集約し分散していないのがわかりますね。加我選手はパワフルなだけでなく、力の流動をコントロールする繊細さも兼ね備えているようですね。流石です』

 

『うおおおおお!やっぱすげえやん!ただでかいだけやないで!』

『きゃーー!熊ちゃんかっこいい!!!!』

 

観客席から恋司のパフォーマンスに喝采が起こる。恋司は強靭な肉体を武器にした相撲スタイルという独特な戦闘法を取ることや、その恰幅の良い身体に負けない大らかな人柄で、全国に熱心なファン層を持っているのだ。この会場にも多くのファンが駆けつけてきている。そのファンに笑顔で手を振る恋司。しかしすぐに向き直ると対戦相手の出てくるゲートを見つめる。

 

『加我選手の気合の入ったパフォーマンスに会場は興奮の坩堝と化しています!!その加我選手が見つめる先には彼の対戦相手が出てくる赤ゲート。ではその対戦相手に登場してもらいましょう!!!』

 

実況の言葉を合図にスポットライトの光が集まる。その光の中に、破軍学園の制服を身に纏った男が歩み出る。

 

『破軍学園の襲撃事件。国立暁学園の面々の強さをありありと見せつけられたあの事件。しかしその折に取られと思われるある動画を見た人はこの会場にも多くいるのではないでしょうか。あの鮮烈なまでの強さを見せつけた暁学園をたった一人で圧倒していく男。その映像に目を奪われた人は少ないはずです!!そして多くの人が同じ疑問を持ったでしょう!!『この男はいったい誰なんだ』と。あそこまで圧倒的な実力を持ちながら一度も表舞台に出てこなかった無名の騎士。その騎士がついに今日この七星剣舞祭に登場します!!!曾祖父はあの英雄である『天陰』玖原鷹丸。その二つ名はあまりにも早く破軍選抜戦に勝利する姿から『閃光』と名付けられた騎士。玖原総司選手です!』

 

会場から割れんばかりの歓声を背に総司がゲートから出てくる。いつものように不適な笑顔を浮かべ二本の小太刀を腰に差したこの男。しかしその男の異常さを解説の牟呂渡は感じていた。

 

『解説の牟呂渡プロ。どうでしょうか玖原選手は?』

 

『え、ええ。ヤバいですね』

 

『ヤバい?それはどういうことでしょうか?』

 

『彼からはなにも感じません。強さも魔力も・・・そういった情報を読み取ることが一切出来ません』

 

『えっ・・・・・』

 

『異常ですよ。しかし彼の立ち振る舞い、姿勢には一切の淀みがありません。強いことは間違いでしょう。その強さをこの舞台でぜひ見せてほしいですね』

 

『解説の牟呂渡プロですら予想できない強さ・・・・それはいかなるものなのでしょうか。期待が高まります!!』

 

そんな実況を受けながら総司はゆっくりと歩いていき恋司の前に立ち、小太刀を一本抜きその小太刀で恋司を指した。

 

「恋司・・・・覚悟しな」

 

「がはは。総司、おらはこのときを楽しみにしとった。おらがリトルの時に一勝もできんかった王馬に勝ったオメェとは一度やってみたかった!!」

 

「そういや今まで戦ったことなかったな」

 

「・・・・・総司がっかりさせんなや?」

 

「愚問だな。がっかりなんかさせるわけないだろ?」

 

総司が切っ先を下げる。

 

「恋司こそ油断するなよ。その瞬間・・・・・」

 

今までなにも感じなかった総司の身体から漲る剣気。それは会場を飲み込んだ。総司の近くにいた恋司と審判の全身に鳥肌を逆立てる。

 

「斬る」

 

『これは化物ですね・・・・』

 

牟呂渡が総司の剣気を受け苦笑いを浮かべる。解説の飯田にもこの状況の異質さは理解していた。

 

『牟呂渡プロ・・・・これは・・・・』

 

『単純に気を隠していたのでしょう・・・・それにしてもこれが学生騎士とは考えたくないですね』

 

『それはどういうことでしょうか?』

 

『これほどの騎士がまだ学生なんて考えたくないですよ・・・・それほどに強いです彼は』

 

『なんと!?そこまでですか?』

 

『ええ。今回の七星剣舞祭にはイレギュラーが多いですが・・・・・その中でも彼は最もイレギュラーといえるのではないでしょうか』

 

『牟呂渡プロの言葉に会場がどよめいています。牟呂渡プロにここまで言わしめた玖原選手はどれほど強さなのか!!その強さを加我選手が正面から叩き潰すのか!!さぁもう待てないでしょう!!会場の皆さまもご唱和ください!!―――――Let's Go Ahead!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオォォオオッッッッ!!!!」

 

コールの瞬間、まず動きを見せたのは恋司だった。総司は黙ってそれを見つめる。恋司の全身から魔力が滾る。同時に彼の身体は光沢を持つ鋼に変化していく。それこそ《鋼鉄の荒熊(パンツァーグリズリー)》の二つ名の由縁。己の肉体を全て鋼鉄に変える加我恋司の伐刀絶技(ノーブルアーツ)――――《鉄塊変化》だ。

 

『先手は加我選手!ここはセオリー通りの全身鋼鉄化を自らに施した!!』

 

『彼のアビリティを完全に生かすにはこの工程が必要ですからね』

 

加我のヒグマのような巨体と、そこから繰り出される膂力を数倍に高める重量。そして敵のあらゆる攻撃をガードすることなく弾ききる硬度。これら二つの強さと、相撲という突破力と手数に優れる攻撃特化の戦闘スタイルにより、相手を圧倒する。それが《鋼鉄の荒熊(パンツァーグリズリー)》の戦闘スタイルだ。そして先ほどリングを沈めた脚力で総司に向かって突っ込む。その勢いはさながら巨大な砲弾のごとし。

 

『は、速い!!加我選手!その巨体からは想像できない速度で玖原選手に突進する!!』

 

これに対し総司は小太刀を持っていないほうの持ち上げた。すると総司の三メートルほどのところで恋司が停止してしまう。

 

『な、なんだ!!!なぜか加我選手が急停止してしまいました!!加我選手も驚いて玖原選手を見つめる!!牟呂渡プロこれはどうしんでしょうか?』

 

『魔術です・・・・・しかしこれは・・・・・重力の魔術・・・・なぜ玖原選手が使えるのかはなぞですよ』

 

『そういえば玖原選手の能力は・・・・』

 

『ええ。雷系の能力と私のところにも情報が来ています・・・しかし今使ったのは明らかに重力の魔術です』

 

「どういうことだ!?」

「能力が変わるってことってあるんか?」

「そんなんありえへんから牟呂渡プロも驚いとるんやろ!?」

 

会場がさらなるどよめきに包まれる。その会場の客席でステラ・ヴァーミリオンは苦笑いを浮かべた。

 

「いつ見てもすごい魔術ね」

 

そのステラの言葉に横にいた一輝は頷く。

 

「うん。あの加我さんの巨体をいとも簡単に止めるなんて・・・・」

 

一輝の横で二人の会話を聞いていた珠雫も会話に加わる。

 

「あれくらい玖原先輩からしたら普通ですよ」

 

「そうね。シズクの言う通りよ」

 

珠雫の言葉にステラが頷く。

 

「アタシの炎でも指一本で押しつぶしてしまうような人なんだし」

 

「・・・・・それはまたおっかないな」

 

一輝はそれに苦笑いを浮かべるしかできない。ステラは魔術制御では珠雫に後れを取るといっても、世界一の魔力量を誇るため魔術に込められる魔力の量は並ではない。しかしそれを指一本で押しつぶすというのなら総司の恐ろしさは言わずもがなであるし、この状況も当たり前のように思える。

 

「そういえばお兄様は玖原先輩の能力はお聞きになったのですか?」

 

「うん・・・本当に恐ろしい能力だよ」

 

「それを自在にコントロールするのが玖原先輩ですからね」

 

「うん。どうすればいいのか頭が痛いよ・・・・」

 

一輝はハァっと楽しそうにため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんやこい」

 

恋司は驚いていた。突っ込んで一気に接近戦に持ち込み決めるつもりだった。しかし手の届かないところで停止させられてしまっている。なにかにぶつかった感覚はあったしかしここまで急停止させられるとは思っていなかった。驚いた表情の恋司を見てニヤリと総司は笑った。

 

「どうした恋司?来ないのか?」

 

総司が手を下げ膝を曲げる。

 

「それならこっちから行くぞ」

 

『今度は攻守逆転!!玖原選手が突っ込んだ。これもまた速い!!!』

 

『天陰流の歩法である『縮地』ですね。一瞬でに相手との間合いを詰める技ですね。本当に速いです』

 

総司はその速度のままから切りかかる。恋司に反応すら出来ない。しかしその刃は通らない。鋼鉄の肉体によって弾かれる。総司はすぐに体勢を立て直し、間合いを空ける。

 

「なんめんなよ恋司」

 

総司がニヤリと笑う。そしてそのままに続ける。

 

「手を抜いてんじゃねぇよ。それとも・・・それが全力なのか?」

 

その言葉に恋司は苦笑いをこぼす。

 

「いや・・・・すまんかった。オメェの力を試してみたんだ。壊れないみだいだし・・・・・・」

 

恋司の身体から魔力が迸る。

 

「こっから先は本当の全力でいくべ!!!!」




いかがだってでしょうか?

すごいモリモリになってしまいましたがついに七星剣舞祭に入れました!!

これらの激戦をうまく描いていけるよう精進していきたいと思いますのでよろしくお願いします!!

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしければお願いします!!

ではまた次回会いましょう!!!

簾木 健


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正面

遅くなって本当に申し訳ありません!!!

もうちょっと定期的に投稿できるようにします!!

今回も楽しんでいただければ嬉しいです!!


簾木 健


「ガァァァァァァァッッッ!!!!!!」

 

恋司の雄たけびと共に、その身体にこれまでにない変化が起こる。鋼鉄の塊と化した加我の肩から、新たに二本ずつ、左右合計四本の腕が生えてきたのだ。

 

『な、なんとォ!こ、これは!腕が増えたァァッ!?』

 

あまりに奇怪なその変化に驚きの声を上げる実況と観客達。その横で解説の牟呂渡がニヤリと笑う。

 

『なるほど・・・・。ただ硬化するだけでなく整形したわけですか。これにより当然手数が増え、攻撃力防御力共に三倍に跳ね上がる。考えましたね』

 

「がははっ!解説サンの言う通り!おれの霊装(デバイス)《雷電》の能力は肉体の鋼鉄化!そして鉄ならば自在に整形できるのが道理だべ。これがおらの取っておき!その名も《鉄塊・阿修羅像》!!」

 

『これは玖原選手は厳しくなりましたね。あの手からのラッシュを受ければさすがに無事ではすまないでしょう。しかも加我選手の身体は鋼鉄ですから傷つけるのも容易ではありません』

 

『確かに!!これは玖原選手絶対絶命です!』

 

しかしそんなこと言われている当の本人は楽しそうに笑っていた。そしてもう一本の小太刀を抜き放った。

 

『おっと玖原選手ついにもう一本の小太刀を抜き放った!!』

 

『かなり強い魔力を放っていますね。なにか策を思いついたのでしょうか』

 

リングに立つ総司を中心として魔力が渦巻いていく。それは段々と段々と大きくなっていく。

 

『待ってください・・・・これは・・・・・』

 

牟呂渡が驚きに目を見開く。この状況を見ていた伐刀者(ブレイザー)たちもこの異常さに気づいた。

 

「総司君とんでもないものを隠していたのね」

 

キリコがたらりと汗を流す。カナタと刀華はなにも言えず目を見開いて総司をじっと見つめていた。

 

「これは・・・・」

 

「とんでもないですね本当に・・・・」

 

一輝の呟きに珠雫が苦笑いを浮かべる。

 

「これが今のソウジさんよ」

 

ステラは総司の動きを一瞬たりとも見逃すまいと見つめていた。

 

「総司の野郎・・・・これはヤバイだろう・・・・・・」

 

雄大は好戦的な笑みを浮かべ楽しそうに笑った。

 

「さて・・・・行くか」

 

総司を中心に起こる魔力の渦。その渦に呑み込まれそうになる恋司。恋司はその魔力の密度にゾッとする。

 

「恋司・・・・しっかり構えろ」

 

そして総司の姿が恋司の目から掻き消えた。

 

『なっ!!速い!!』

 

そんな実況の声が届いた時にはもう総司は恋司の後ろに居て小太刀を振りきっていた。その小太刀は恋司の鋼鉄の肉体を切り裂き血を飛び散らせていた。

 

「がっ!!」

 

恋司が苦痛に顔を歪める。しかし恋司も一線級の騎士。顔を歪めながらも後ろを振り向くが、その時には総司はもう間合いをあけて恋司の腕が届かない位置に立っていた。その一瞬に起きたことを解説の牟呂渡はなんとか目で捉えていた。

 

『魔力に強化された脚力と重力を操作することによって速度を上げてからさきほど用いたのと同じ『縮地』を使って移動して、後ろから斬りつけたんですね。しかもその刃は魔力で研ぎ澄まされていましたね・・・・感嘆するほどの魔力制御ですね』

 

『凄まじい!!!!厳しいかと思われた玖原選手ですが圧倒的な魔力制御を用いて加我選手を斬りさきました!!そういえばさきほど牟呂渡プロなにか言い淀んでいませんでしたか?』

 

『ええ・・・・実はさきほど玖原選手が魔力を放出した時なんですが・・・・実はその魔力から様々な種類の魔力を感じたんです。それでなんとなくですが・・・・玖原選手の能力が見えてきました』

 

『本当ですか!?では玖原選手の能力とは?』

 

『まだ推測ですが、条件として様々な魔術を使うことができること。そうすれば考えられるのは二つ。一つは元々様々な魔術を使うことができるという伐刀絶技(ノーブルアーツ)。そしてもう一つは伐刀絶技(ノーブルアーツ)をコピーする伐刀絶技(ノーブルアーツ)ですね。ただどちらにしてもかなり強力な能力です。玖原選手のランクはCランクとなっていましたが、もし能力が予想通りならそれはAランクにも届きうる能力ですよ!!』

 

その解説に会場がどよめいていく。

 

「本当にそうやったら最強やないか」

「でも重力に雷・・・その両方を使っていたことも説明できる」

「ならほんまに・・・・」

 

「ガアアアアアア!!!!!」

 

会場のどよめきを消すかのように恋司が叫び声を上げる。その声に合わせ総司に斬られた部分が鉄に覆われ塞がれていく。

 

『これくらいでは終われない!!加我選手咆哮とともに玖原選手と向かい合う!!!!』

 

『しかしこれはわからなくなってきましたね・・・・加我選手には一撃を入れれば相手を圧倒できる力があります。しかし玖原選手にはその攻撃が当たらないほどの速度に圧倒的なまでの魔力制御と未知数の伐刀絶技(ノーブルアーツ)があります。どちらもたった一手でこの戦いを終わらせる力を持っています。この勝負は自らの土俵に相手を引き込んだほうがこの勝負を持っていきますよ!!』

 

その言葉と同時再び総司が恋司に向かって踏み込んだ。

 

『玖原選手が再びいったぁぁ!!!』

 

さっきと同じ理で踏み込んだ総司。その右手にはさっきまで握られていた小太刀はなく素手。そしてその右手で恋司の背中触れた。

 

「天陰流 霊亀・・・・・改」

 

「ッ!!!!!」

 

たったそれだけのことであの巨大な恋司の身体が吐血しがら前のめりに倒れていく。しかしなんとかふんばりダウンは回避したが恋司の表情は驚きで固まっているものもなんとか後方の総司に向かって拳を振るうがそれもあっさりと総司は回避し距離を取った。

 

『な、なんということでしょう!?玖原選手が背中に触れた瞬間加我選手が吐血しダウン寸前だぁ!!!!これは一体どういうことだ!?』

 

『・・・・あれは浸透頸のようなものですね』

 

『浸透頸?それは一体?』

 

『俗に発頸と言われる技です。しかし私が知っているものとは大きくことなっています』

 

『それはどういうことでしょうか?』

 

『理合いはほぼ同じです。相手の体内に振動を伝え身体を内側から破壊する技のこと。しかしそれを起こすためには相手の体内に振動を送り込むために強い振動を起こさないといけません。しかし玖原選手は加我選手に対し触れただけでした。あれでは振動を送り込むのは至難の技でしょう。しかも加我選手は全身が鋼鉄と化しています。あれではさらに振動を伝えるのは困難。しかしそれも玖原選手は魔術によってなんとかしたようです』

 

牟呂渡の解説は総司のやったことをほぼ適格に表していた。しかしそれでも完全ではない。この技が為したことの恐ろしさを完全に理解できたのは会場でたった一人。

 

「なんて技をやってくれるのかしら」

 

《白衣の騎士》と言われる医者であり人体のスペシャリストであるキリコだけだった。

 

「キリコさん今のは?」

 

カナタが尋ねる。刀華も真剣な顔でキリコを見つめていた。

 

「理合いは解説の人が行った通りよ。でもあれは振動を伝えたんじゃないわ。体内で振動起こしたのよ。加我君の血液なんかを使ってね」

 

「えっ!?」

 

「普通な外から振動を伝えて血液なんかを振動させて相手を体内から破壊する技なんでしょう?でも総司君は今回それを最初から加我君の体内で行ったのよ。そんなことをされてしまったらいくら皮膚を鋼鉄化したところで無意味。だってあれは体内からの攻撃。防ぐすべはないわ。でもそこまでのことをされたのになんとか踏み止まれたのはひとえに加我君の強靭な肉体のおかげね。もし普通の人間だったら大変なことになっていたわ」

 

「でもそれって・・・・」

 

刀華が目を見開き総司を見ながら尋ねる。

 

「そうちゃんはあの一瞬で加我さんの血液などを操ったってことですよね・・・・・」

 

「ええ。そうよ。全く・・・・ついに超えられちゃったかも」

 

キリコが自嘲気味に笑う。その言葉が総司が行った埒外の技がどんなに恐ろしいものか刀華とカナタに改めて理解させた。そこでさらに総司が突っ込む。恋司は六本の腕で相撲の突っ張りを繰り出し総司の小太刀を間合いに入らせまいとするが、総司はそれを避け、受け流しを繰り返しながら段々と侵入していく。

 

『素晴らしい!!!玖原選手が加我選手の繰り出す突っ張りに怯むことなく段々と間合いを詰めていく!!』

 

『本当に恐ろしいですね。一発でも当たればアウトなんですが・・・・・しかも玖原選手はそれによって同時に加我選手の危険な技一つ回避しています』

 

『危険な技ですか?』

 

『ええ。玖原選手にとって最も危険なのは加我選手のタックル・・・・相撲の立ち合いのように突っ込んでこられることです。それを加我選手のような巨体から繰り出されるとどうしても不利です。だから玖原選手は近づくことでこれを使わせないようにしているのではと私は思っています』

 

『し、しかし距離を詰められてもタックルは有効なのではないですか?むしろ距離が近い分当たりやすいと思いますが・・・・・』

 

『確かに距離が近い分当たりやすいです。しかし玖原選手にはさきほど見せた圧倒的なスピードがあります。もし加我選手がタックルに行こうと少しでも突っ張りを緩めればそのスピードを持って決定打を取り行くでしょう。ですから加我選手はここで手を緩めるわけにはいかないんです。しかし突っ張りでは玖原選手は倒せない』

 

『おっと!!ここでついに玖原選手が間合いに侵入し加我選手を斬りつける!!しかし加我選手倒れません!!血が激しく飛び散りますがそれでも突っ張りの手を緩めません!!!玖原選手もさすがに間合いから後退します』

 

『本当に驚くべき耐久ですね・・・・しかしもう加我選手には後退する玖原選手を追撃する余裕はないです・・・これは厳しくなりました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでも倒れないのか」

 

そう思いながら総司は厳しい目をして恋司を見つめていた。総司自身はさっきの技、『天陰流 霊亀』でこの勝負を決めるつもりだった。霊亀は解説が言っていたよういに浸透頸と言われるもので相手を体内から破壊する技である。総司はそれを自身の能力で所有している水の魔術を応用することで体外から放つ振動を最初から体内で起こす技に進化させたのだ。ゆえに改。しかしそれを持ってしても恋司は倒れない。その後何度も斬りつけたがそれでも決定打にはならない。本当に異常なほどの耐久力である。

 

「耐久がすごいのは聞いてたけどここまでとは思ってなかった」

 

総司はふうと一つ息を吐きどうするか考えを巡らす。

 

「この耐久を貫くには一気に倒してしまうしかない・・・・・・・それなら切り札をここで一つきるか」

 

総司としてはここで一つ切り札を使ってしまうのは正直良いとは言えない。でも・・・・

 

「この男は折れない。何度でも立ち向かってくる。でもおれはそれに何度でも付き合ってやるほどお人よしでもないんだよ!!」

 

総司の手にあった一本の小太刀に強い魔力が集まり別の形をなしていく。

 

『これは・・・・槍?』

 

それは禍々しく魔力をまき散らす一本の黒い槍。恋司もそのヤバさにすぐに気づく。そんな恋司に対し総司はフッと笑った。

 

「これで終わりだ恋司・・・・・・」

 

総司はその槍を振りかぶる。

 

天之逆鉾(あまのさかほこ)!!!!!!」

 

総司がその槍を投げる。凄まじい速度で飛ぶ槍。それを真っ向から恋司は受け止めるためすべての手を前方に集める。鋼鉄の手と黒い槍が激しくぶつかる・・・・・・と会場にいた誰もが思っていた。しかし槍は鋼鉄の腕をあっさりと貫通したのだ。そしてその槍はその勢いそのままに恋司を貫いた後総司の手に戻ってきた。

 

『えっ・・・・・』

 

「かはっ・・・・・・」

 

会場の全員が唖然とする中、恋司の身体がゆっくりと沈みリングに倒れ込む。それを確認してから総司は槍の魔力を解き元の小太刀に戻す。そこで唖然としていた審判や実況が正気を取り戻す。

 

『な、な、なんと!!たった一投!!しかしその一投であの加我選手を穿ちました!!!!主審が走り寄ります。しかしこれは完全に決まったでしょう!!!』

 

『そうでしょうね』

 

牟呂渡は厳しい眼で総司を見つめる。その視線にあるのは感嘆と恐怖だった。

 

『玖原選手の完成度はもはや学生騎士のレベルではありません。これは確実に今大会をかき乱す筆頭ですよ』

 

『さぁここで主審が手をバツに掲げます。試合終了!!しかし加我選手は大丈夫でしょうか?』

 

『大丈夫でしょう。完全に貫通していましたがたぶん心臓には当たっていません。しかし他の臓器もあるので・・・・・・なっ!!』

 

牟呂渡が急に驚きの声を上げる。その声につられ全員がもう一度試合の終わったリングに目を向ける。するとそこには恋司の傷口に手をあてその傷をみるみる治している男。さきほどまでこの恋司と戦いこの傷をつけた本人がその傷を治していたのだ。

 

『なんと玖原選手が加我選手の傷を治しています!!しかもかなりのスピードですね。伐刀者(ブレイザー)ではあんなにも早く傷を治せるものなんですか?』

 

『いえ・・・そんなことはありません。というかあの速度で傷を治す伐刀者(ブレイザー)など数えるほどしかいません・・・・本当に驚愕の魔力制御ですよ』

 

そんな実況の驚きの声が届く頃には総司は恋司の治療を終え、恋司が連れられていくのと逆のコーナーに向かって歩き出していた。

 

『その実力は前評判を上回るものでした!!!勝者は破軍学園玖原総司選手!!!これからの活躍が楽しみです!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・・・」

 

総司は控室に戻り一つ息を吐いた。総司のこの一回戦で自身のオリジナルである伐刀絶技(ノーブルアーツ)を使うつもりはなかった。しかしこの場で使うことになってしまったのは恋司が強かったからだ。しかしそれでも総司は使うつもりなかった。それは恋司をなめているとかではない。

 

「王馬・・・・・」

 

総司の好敵手であり総司たちの世代唯一のAランク。その王馬がこの試合を見ていた。王馬は敵の試合を見ることなどほとんどない。なぜならそれは王馬には必要ないからだ。王馬クラスになればどんな相手であっても叩き潰すことができる。ゆえに相手の試合を見て観察することなど不要。目の前に立ってただ叩き潰せばいい。しかし今回この総司の試合を王馬は見ていた。総司が気付いたのは入場の時。その時は恋司に集中するため無視していたが試合が終わり、恋司の治療をしている際、感じたことがある強い視線を感じたのである。

 

「あいつどこかで見てた・・・・・これで一つ切り札を失ったな」

 

もうさっき使った伐刀絶技(ノーブルアーツ)は通じない。

 

「それにさっき感じた剣気は前とは比べものにならなかった・・・・・・・・・楽しみだ」

 

総司はフッと微笑み控室をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒鉄王馬は会場から出ていく。その顔には獰猛な笑顔を浮かべている。圧倒的な勝利をおさめた総司ではあるがそんな総司の姿を見るたび湧き上がる高揚感。早くこの高揚感のままに斬りかかりたい。そして今度こそ証明するのだ。黒鉄王馬は玖原総司よりも強いということを・・・・・・・




いかがだったでしょうか?

更新が遅くなってしまって本当にすみません!!ちょっとリアルがバタバタとしてしまい書くことができませんでした。

また今回の投稿時でUAが20万を越えていました!!!これもいつも読んでいただいて応援していただける皆さまのお陰です。本当にありがとうございます。


さて今回は恋司との決着だったのですが・・・・ちょっとあっさりしすぎですね・・・もっと戦闘描写を入れたかったのですが・・・なんかこうなってしまいました。

まぁでも今後も戦闘描写が主になっていきますので今回はこれで許してくださいw

さて次回はどうしようか迷っています。でもなるべく早く皆さまに読んでいただけるように頑張りますのでお待ちください。

今回も感想、批評、評価お待ちしていますのでよろしければお願いします!!

ではまた次回お会いしましょう!!!

簾木 健


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化物

みなさんお久しぶりです。

はやく上げると言っていながらこのていたらく・・・・・本当にすみません。

今かなり忙しくもう少しするまで投稿が安定しないと思われますがかならず投稿するのでお待ちいただけると幸いです。

では今回もお楽しみください。

簾木 健


「さて後はどうなってるかね」

 

総司が観客席に上り刀華たちを探す。

 

「そうちゃん!!」

 

総司が探していると探し人の声がした。総司がその方向を見ると手を振る刀華にいつもと同じ白いドレスに身を包んだカナタ、これまたいつもと同じ白衣を纏ったキリコがいた。

 

「キリコも一緒だったのか」

 

「ええ。それより()()()()()()

 

「・・・さすがキリコというところだな」

 

キリコが見ていたといったものが総司にはすぐにわかった。

 

「よくキリコが患者(クランケ)を固定するのに使ってる技があるだろ?あれを見て思いついたんだ」

 

「まぁ確かにあれの応用で可能だけど・・・・・・それにしてもえげつないこと考えるわね」

 

「そうでもしなきゃ勝てない相手だったってことだ・・・・・さて次はステラか」

 

総司がニヤリと笑う。その笑みは普段の総司の笑みではない不思議な笑み。自分が隠していたものをひけらかすような笑みだった。

 

「どうしたのそうちゃん?なにか隠してる?」

 

刀華が総司の顔を覗き込んで尋ねる。

 

「刀華この間の合宿での、ステラとの勝率は?」

 

「えっと・・・・5戦して3勝2敗でした。それがどうかしましたか?」

 

「・・・・・・もし今のステラと戦ってその戦績が出せるなら」

 

総司は笑みを浮かべたまま刀華を向き言った。

 

「それはこの()()()()()()()()で優勝することが出来るんじゃないか」

 

「え・・・・」

 

総司の口からあり得ない言葉に刀華が目を丸くする。それはカナタも同じだった。

 

「総司さん。それは総司さんにも勝てる可能性があるってことですか?」

 

カナタが総司に聞く。カナタからすればステラが総司に勝つというところが想像出来なかった。しかし総司はそれに真剣な表情で答えた。

 

「可能性なんてもんじゃない。おれが本気でぶつかったとしても勝てるかどうかなんかわからん。どんな戦いになるかも想像できない。正直今大会でおれが一番怖いのは、一輝でも王馬でも雄大でもない・・・・・ステラだよ」

 

そう答える総司の視線の先には入場してくるステラの姿。皇女として凛としたステラの姿に実際に戦った刀華はその時とは明らかに違いを感じて取った。それを総司も感じる。

 

「刀華わかるだろ?」

 

「ええ・・・・でもどうして・・・・・」

 

刀華は疑問を投げる。しかしそれに総司はさっきと同じような笑みを浮かべた。

 

「それはまだ教えない」

 

それに刀華がムッとした表情で総司を見るが総司はハハッと誤魔化すように笑い、刀華の頭をポンポンと撫でた。

 

「刀華には感じてほしいんだよ。世界最高の魔力を持つ怪物の強さをな」

 

総司の目にはすぐに真剣なものになる。刀華はその目に鳥肌を逆立てる。

 

「こんな目をしたそうちゃんも見たことない」

 

刀華が思う。総司の目に浮かんでいたのは恐怖。それと反するような好奇心。しかしその割合は・・・

 

「明らかにそうちゃんはステラちゃんを怖れている」

 

多かったのは恐怖だった。こんな総司は初めてだった。そしてそれは同じ幼なじみであるカナタも、刀華やカナタほどではないにしろ長い付き合いであるキリコも気づいた。そして三人ともそんな総司を見たことはなかった。いつもどんな時も余裕を持ち達観している総司が追い込まれている。その事実は三人にとっては衝撃的だった。

 

「そんなに今のステラちゃんは強いの?」

 

「刀華さっきも言っただろ・・・・・・」

 

「総司さんはっきりと言ってください」

 

「カナタまで・・・・」

 

「総司君私もそれ興味あるわ」

 

「キリコもか!?どうしんだよ!?」

 

「ねぇ!そうちゃんどうなの?」

 

「いや普通に強いだろ?なんせ世界最高の魔力を持つAランクだぞ」

 

「そうじゃないです!総司さんはステラさんの何を知ってるんですか?」

 

「・・・・・」

 

総司は少し考えてからこう答えた。

 

「化物はやっぱり化物だったってことだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステラと相対する位置に立ったのは前七星剣舞祭ベスト8の鶴屋美琴は冷や汗が止まらなかった。美琴自身は七星剣舞祭前の合宿の時にステラの姿を見ていた。その時ですら美琴はステラとの実力の違いを理解していた。しかし今日改めて目の前に立ったステラから発せられるオーラは・・・・・明らかにこの間とは違っていた。

 

「まさか向かい合うとこんなにも・・・・・・いえ違うわね。あの合宿の時とは明らかに雰囲気が違う」

 

美琴の全身からの冷や汗が着ている制服が汗でピタリとくっついていく。

 

「このオーラにしかも相性も悪いなんて・・・・・」

 

美琴の能力とステラの能力は相性が最悪と言って過言でないほど悪い。ゆえに能力は一切通用しない。それを抜きにしても圧倒的な魔力が放つ威圧に本能が逃げろと告げている。もうどうしようもなくなっていた美琴に対し相対するステラはふふっと微笑んだ。

 

「あなたやっぱり強いわね」

 

凛とした声。威圧的に出された声ではないはずなのに美琴が感じるのは恐怖しかない。

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

ステラがそう問うてくる。それに美琴は顔を伏せ唇を噛んだ。

 

「さすがはベスト8ってとこね・・・・・でも」

 

ステラが自身の霊装(デバイス)である大剣を出す。

 

「ここはもう戦場。逃がさないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刀華は言葉が出なかった。美琴は決して弱い騎士ではない。むしろかなり強い学生騎士だろう。しかしその美琴が何もできない。美琴を代表する伐刀絶技(ノーブルアーツ)といえば目の焦点を合わせるだけでその地点の周囲の温度を一瞬にして絶対零度にまで下げることの出来る死神の魔眼(サーティン・アイズ)だ。それは周囲に燐光を撒き散らすほどの熱を帯びているステラには相性が悪いことは刀華は理解していた。ともなれば美琴がどう戦うのかということに刀華は興味があった。しかし美琴はなにも出来なかった・・・・ステラが一切の行動を許さなかった。合図と同時にステラは跳び出した。それに美琴は反応することなく叩き切られたのだ。真正面からしかも各上の騎士に一切反応しない美琴に一瞬ステラは疑問を持つ。しかし次の瞬間に理解した。ステラが使ったのは・・・・

 

「抜き足・・・・」

 

カナタが零す。総司がその言葉に満足そうに笑った。

 

「ああ。まぁ毎日毎日くらい続ければあれくらいにはなるさ」

 

「また厄介な技を教えたものね」

 

「教えたわけじゃねえよ。あいつが勝手に使い始めただけだ」

 

「でも総司君と一緒に特訓してたって刀華ちゃんから聞いたんだけど」

 

キリコがそう言うと総司はうーんっと唸って後頭部を掻いた。

 

「まぁあれを特訓と言うならそうかもしれないけど・・・・・」

 

「それはどういうことですか総司さん」

 

カナタも総司の言わんとしていることが分からず尋ねる。その横で刀華は思い当たる節があるのか苦笑いを浮かべた。

 

「毎日毎日おれか寧音さんに気絶するまでボコボコにされただけ。それを特訓とは言えないだろ?」

 

「・・・・・本当になにをしてたんですか?」

 

「寧音さんの方針でね。なにも教えないけどそれでもいいならってことでステラはおれと寧音さんの特訓に参加したんだ」

 

「それで?どうしてそうなるのよ」

 

「七星剣舞祭前だったからおれは寧音さんとひたすら模擬戦をしてたんだけど、それにステラが参加したら・・・」

 

「それはそうでしょうね・・・・・」

 

カナタの顔が若干引きつる。カナタ自身総司と寧音が戦っているところを見たことがある。カナタの記憶にある二人の戦いは壮絶で一歩間違えれば死んでしまうようなものだった。それに参加すると考えるだけどもゾッとする。しかしそんな中で極限まで追い込まれれば強くならないわけはないだろう。でも同時に・・・・

 

「よくステラさんは生き残りましたね」

 

刀華が苦笑いのまま告げる。それに総司はああと頷いた。

 

「さすがに代表選手ではあるし、ある程度やばそうだったら気絶させることに寧音さんとしてたんだ。でも段々と出来るようになってきてな・・・・・最後の方は完全に喰らいついて来てた。驚くべき成長スピードだったよ」

 

「それが総司さんがステラさんを恐れる理由なんですか?」

 

「まぁそれも理由の一つではあるかな。でもそれだけじゃない」

 

総司はさっていくステラを見つめながら言う。

 

「ステラは今回の修行でこれまで以上に強くなった。そして一つ最強の切り札を手に入れたんだ。しかもそれはおれや寧音さんから真似をしたわけじゃなく、ステラのオリジナルもの。おれが最も恐れているのはそれだ」

 

総司は「ハァ、結局言ってしまった」と零す。

 

「そうちゃん・・・・それはそんなにも恐ろしいものなの?」

 

「それは愚問だ刀華。でもそうだな具体例を挙げれば・・・・一輝の一刀修羅と同じくらい強力な切り札だ。」

 

「「「なっ!?」」」

 

三人が絶句する。総司は鋭い眼をさらに細める。

 

「さて次は一輝と雄大か・・・・・」

 

この一戦が今年の七星剣舞祭の次元をさらに引き上げるとは誰もまだ知らない。




いかがだったでしょうか?

ステラが完全にラスボスかしてますね。というか実際強すぎますよねw

さてさて総司の試合までは刀華やカナタとの話を書きたいと思っていますのでお楽しみください!!

ではでは今回はこの辺で!

今回も感想、批評、評価募集していますのでよろしければお願いします!!!

ではまた次回お会いしましょう!!!

簾木 健


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鬼才

今回もみなさんに楽しんでいただければ嬉しいです!!!


「ふう・・・・・」

 

ステラは控室に戻り一つ息をつく。そして自身の中に巡る力を感じる。寧音と総司との合宿を終えて自身の基礎的な力はかなり上昇した。しかも新たな切り札もある・・・・・

 

「もう二度とあんな合宿は嫌だけど・・・・」

 

あの合宿のことを思い出すだけで鳥肌が収まらなくなる。限界まで追い込まれてなお、その先を見せてくる二人。そんな二人が今でも夢に出てうなされることがあるほどだ。でもそれと引き換えに手に入れた力はステラをさらなる強者に押しあげた。そしてそこまで来てステラは一つ理解したことがあった。

 

「ソージさんは強い。それもとてつもなく」

 

ステージが上がったことで改めて理解した総司の強さ。一輝とは違うベクトルで発揮される総司の邪道の力は圧倒的な力を持っている。互いに勝ち上がってくれば準決勝で当たるがそこが一番の壁になる・・・・・・

 

「気が重いわね」

 

ステラはポツリと零し控室をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は一輝と雄大か・・・・・中々珍しい戦いになりそうだな」

 

総司が言うとそれに刀華も頷いた。その場にいるのは総司と刀華とカナタの三人。キリコはなにか用があるらしくどこかに行ってしまった。

 

「ええ。二人とも魔術ではなく体術に比重を置いた騎士ですから」

 

「ああ。それにどちらも搦め手で相手の裏をかくことで自身の土俵に引きづり込んで戦う騎士。かなり高い読み合いになるだろうよ」

 

「総司さんは黒鉄君と諸星さんどちらが勝つと考えているんですか?」

 

カナタが総司に尋ねる。

 

「そうだな。どっちも勝てる可能性がある。でももし比率にするなら7:3で雄大だな」

 

「その心は?」

 

「さっきも言ったがどちらも体術に比重を置いた騎士。体術だけなら一輝の方が明らかに上だけど雄大の得物は槍。刀を使う一輝にとっては不利な相手だ。あと雄大の伐刀絶技(ノーブルアーツ)である暴喰(タイガーバイト)をうまく使えば一輝の一刀修羅を封じることもできる」

 

「そこまで諸星さんに勝てる要素があれば諸星さんが確実に勝つのではないんですか?」

 

カナタのそんな疑問に総司は「普通ならな」と言って続けた。

 

「たぶんそんなことは一輝も百を承知だろう。というか一輝とってはこんな状況は日常茶飯事。そこから試合をひっくり返すことが出来る力を持つ騎士こそ黒鉄一輝。相手が負け戦の百戦錬磨だからこそ雄大が勝つ可能性は7割くらい」

 

「なるほど」

 

「でもそうちゃん。去年の私みたいに()()にはさすがの黒鉄君も気づいてないんじゃないの?」

 

「あ・・・・そういえば雄大には()()があったな」

 

「?諸星さんにはさっき言ったこと以外に何かあるんですか?」

 

「ああ。ちょっとな・・・・そういえばそれで去年の刀華は封殺されたんだったな」

 

「ええ。一発目のそれを避けきれずに脇腹にもらって・・・・・・」

 

「まぁあれはいくら映像を見てもわからないものだもんな・・・・さすがは母さんの技だよ」

 

「恵さんの技ですか?」

 

カナタが尋ねる。それに総司はああと頷いて続けた。

 

「まぁこの頃は使わなくなったというか・・鍛錬をやめたせいで技の練度が納得がいかないから使わないんらしい技なんだけど。リトルの時同じ槍使いである雄大に一度指導をしたことがあったらしくてその時に教えたみたいなんだ」

 

「みたいですか?」

 

「ああ。この話は雄大から聞いたんだけど、後で母さんに聞いてみたら覚えてないって言われてよ。どうもそのころそう言った指導をすることがあまりにも多くあったらしくて誰に何を教えたのかまでは記憶してなかったらしい。でも雄大の槍捌きを見るとに母さんが結構しっかり教えたんだと思うんだけど・・・・・」

 

「そうなんですか?」

 

「性別が違うから完全とは言えないんだけどかなり似てるよ」

 

「へー・・・そういえばさっき言ってた技はどんな技なんですか?」

 

「『ほうき星』って雄大は呼んでるんだけど、手元のスナップと肘の角度を変えることで槍を突き出しながら軌道変える技でな。動画なんかでは確認できない技なんだ。これがやっかいで初見だと確実にヒットはする」

 

「そんな技が・・・・」

 

「ああ。種さえわかればある程度防ぐことも出来る技だからこの技に関して重要なのはいかに初見でヒットする場所を軽くするかだ。無理をしてしまえばその技の時点で試合が終わる可能性がある」

 

「そういえば去年の七星剣舞祭の時もですが・・・・総司さんはその技のこと会長に教えてなかったんですか?」

 

「いや刀華には教えてたよ。でもそれでも避けきれなかった」

 

「そうなんですか?」

 

カナタが目を見開いて刀華に尋ねると刀華は厳しい表情で答えた

 

「諸星君のプレッシャーに一つ一つの刺突の鋭さでそれを隠し使われました。当たってから自分がそれに絡めとられたと気付いたんですけどもう遅かったですね」

 

「さすがは『七星剣王』ということですか」

 

総司が頷く。その眼についに入ってきた雄大を捉える。会場は割れんばかりの大歓声。それに拳を突き上げて答える雄大は悪戯っぽい笑顔で笑っていた。

 

「調子良さそうだな」

 

総司が漏らす。

 

「そうですね・・・・・・黒鉄君も調子良さそうです」

 

「さてどう転ぶか・・・・」

 

総司がニヤリと笑ったと同時に試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしい」

 

総司の目が鋭くなった。

 

「そうですね・・・黒鉄君なんだか・・・・」

 

「違う。そっちじゃない」

 

「え?」

 

刀華の言葉を即座に否定する総司。その理由がわからず刀華が首を傾げた。試合はファーストヒットを雄大が奪いそこからは大腿部にもダメージを与えるなど雄大が優勢のまま試合が進んでいる。そんな中、明らかに一輝の動きが可笑しい。いつものような鋭さや繊細がないのだ。しかし総司が目を付けたのはそっちではなかった。

 

「雄大のやつなんで決めにいかない・・・・」

 

「どういうことですか総司さん?」

 

「一輝の調子が悪いのは見ていてすぐわかる。いいタイミングで動きがフリーズしてなにか噛み合ってない。でもそれ以上におかしいのは雄大だ」

 

「諸星さんですか?」

 

「ああ。あいつはしっかりと相手をリスペクトする男。そんなやつがこんな風に相手をいたぶるようなことをするはずがねぇ。それがおれにはわからない」

 

総司が眼を細める。その眼は何か見えていないものを捉えようとしているように見えた。

 

「そうちゃんもしかして黒鉄君になにかあるの?」

 

「そんな風には見えないんだけどな。でも雄大はなにか感じてるのかもしれない」

 

「私には必死に逃げ回っているくらいにしか見えませんが・・・・・」

 

「おれにもそう見えてるよ」

 

総司が苦笑いを浮かべる。そんな時に雄大の声が響いた。

 

「行くぞぉぉぉ!!!黒鉄ぇぇぇッッ!!!」

 

ついに雄大が試合を終わらせるべく一輝に襲い掛かる。今までの最高の速度をもって突進しながら繰り出すのは高速の三連突き《三連星》。狙いは眉間、喉元、鳩尾を穿つ必殺の軌道。大腿部を穿たれた一輝にこれを避ける手段はない。しかもその槍は魔力を喰らう雄大の伐刀絶技(ノーブルアーツ)暴喰(タイガーバイト)をまとっているため、一輝は陰鉄で防ぐこともできない。

 

「終わったな」

 

総司はそう思う。どう考えてもこの技を防ぐことは出来ない。雄大が勝った。総司がそう思った時だった。一輝が雄大を向かい打つべく切っ先を上げ・・・・・その切っ先が消えた。

 

「なっ!」

 

その一言の間にすれ違いざまに雄大の脇腹を深々と薙ぎ払った。

 

「あれは・・・・・」

 

「ええ・・・・」

 

総司と刀華。二人にはその動きに見覚えがあった。速すぎて消えるように振るわれる音すらも置き去りにした世界最強の剣士、エーデルワイスの剣。

 

「あいつ!!」

 

総司が思わず前のめりになる。総司がここ最近目標としていた領域。そこにあの鬼才は足を踏み入れた。




いかがだったでしょうか?

ついに一輝が覚醒しました。まぁ原作通りなんですけど・・・・・・・

さて次からはまた総司の戦いにシフトしていきたいますのでお楽しみに!!!

あと私事なんですけど今まで連載をやめていたもう一つの小説を動かしていこうと思っています。よろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです!!

今回も感想、評価、批評を募集していますのでよろしければお願いします!!

ではまた次回会いましょう!!


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調整

ほんとうに遅くなってすみません!!

「そういえばそろそろ落第騎士の新刊出るはずだしちょっとそれ読んでからにしよう」と思っていたら全然出ない!

すみませんこれが遅れた理由です。楽しみにしていただいている読者の方すみませんでした!

今回も楽しんでいただければ嬉しいです!


そこから先の試合は一方的だった。雄大の攻撃は一切ヒットしない。しかし一輝の攻撃は次々とヒットしていく。圧倒的な強さを持った『七星剣王』がなにも出来ずに切られ続ける姿に会場は騒然としていた。

 

「これが黒鉄一輝・・・・」

 

総司の鋭い目がさらに鋭利な光を帯びる。

 

「これは本物じゃな」

 

のんびりとした足どりでやってくる一人の老人。その老人はただものではないオーラを放ちながらもなぜか誰からも注目されずに近づいてきた。

 

「師匠来てたんですか?」

 

「ふぉふぉ。総司お前のも見取ったぞ。強くなっとったな」

 

「ありがとうございます・・・・で?どうですか?一輝の方は」

 

「あれは()()じゃ。しかもあれはもう原石ではない。立派な宝石じゃ」

 

「そうですね・・」

 

「じゃがまだまだ青いな」

 

それに鷹丸がフッと笑う。それに総司は苦笑いを浮かべた。鷹丸からすればどんな人間も青く見えるだろう。

 

「お久しぶりです。鷹丸さん」

 

カナタがぺコリと頭を下げる。

 

「ふぉふぉカナタちゃんもまた一段と綺麗になったの・・総司一体誰にするつもりじゃ?」

 

「師匠なに言ってるんですか!?」

 

「相変わらず一人に絞っとらんようだし・・・このまま全員面倒みるつもりか?」

 

「もうやめてください」

 

総司が頭を抱える。そんな総司に刀華は苦笑いを浮かべた。少し和やかな雰囲気になったが激しい剣戟にすぐにその雰囲気が消え去る。

 

「あれは『比翼』の技じゃな・・・・・」

 

「鷹丸さんご存じで?」

 

「まぁの・・・・ただあそこまでの技のキレは再現できてはおらんの」

 

「あそこまでの領域はまだおれも・・・・・」

 

「総司もあの領域は知っておったのか?」

 

「・・・・母さんが教えてくれました」

 

「なるほどの・・・・」

 

鷹丸がスッと鋭い眼を細める。

 

「さてさて総司いかにして『黒鉄』を斬る?」

 

「それを今から考えてきます・・・刀華にカナタ少し付き合ってもらっていいか?」

 

「もちろん」

 

「わかりました」

 

「じゃあ師匠おれいきます」

 

「ふぉふぉ」

 

笑う鷹丸を背に総司は会場を後にする。その背中に鷹丸は感傷にふけった。

 

「本当に二人に似てきたの」

 

鷹丸が思い描くのは総司の父と母の姿。あの二人の後ろ姿が総司に被って見える。

 

「さてさて総司はこの『黒鉄』にあの皇女様どう勝つのか・・・・・」

 

鷹丸は総司によく似たニヤリとした笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば刀華ずっと聞いてなかったんだけどさ」

 

総司は移動中ずっと気になっていたことを尋ねた。

 

「なんで七星剣舞祭出なかったんだ?」

 

「・・・・・」

 

刀華が顔を伏せる。今回の七星剣舞祭は暁高校の参加のせいで直前にメンバーの変更が行われたのだ。そのおかげで今回珠雫は七星剣舞祭に参加できている。もちろんその話は刀華の方にも来たはずだ。しかし刀華は今回七星剣舞祭には参加していない。それを総司はずっと疑問に思っていたのだ。実はカナタにもその話は来た。しかしカナタはそれを蹴ったのだ。理由は「今回は総司さんのサポートにまわります」と笑顔で答えたらしい。

 

「・・・・今回私は負けましたので」

 

「ああ・・・・」

 

総司はその言葉ですべてを察する。付き合いが長いからこそこの言葉だけで総司には刀華の意図を察してしまえたのだ。

 

「今のままでは私の力では足りません。だから今は・・・・」

 

刀華が『鳴神』を取り出し、鞘に優しく触れた。

 

「強くなりたい。そのために今時間を使いたい」

 

「そっか・・・・じゃあ遠慮しないでいいな」

 

「はい。むしろよろしくお願いします!!」

 

「カナタも付き合ってもらっていいか?」

 

「もちろんです。私はそのために七星剣舞祭に来てるのですから」

 

「じゃあ二人とも頼むわ」

 

総司が扉を開けて入っていくのは会場に隣接しているトレーニング施設に入っていく。そして学生服の上着を脱ぎ腰に二本の小太刀を具現化する。

 

「かなり錆落としがすんだんだけど・・・・」

 

総司がアップを始め、刀華も軽くアップをし、カナタは『フランチェスカ』を具現化し目を閉じて精神統一をする。

 

「もうちょっと・・・・もうちょっとなんだ」

 

総司が鋭い眼をさらに鋭くする。すると総司からオーラのようなものが漏れ出してくる。

 

「寧音さんの言っていた領域。『比翼』がいる領域。そこにおれは・・・・・・行く!」

 

総司が二本の小太刀を抜き、ダラリ両手を落とした。自然体といえば聞こえがいいかもしれない。しかしそれは武術にはありえない構え。ただその構えが異様に様になっている。

 

「行くぜ刀華!!!!カナタ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は大の字でトレーニングで寝そべっていた。

 

「まさか・・・刃引きしてこれなんて・・・」

 

刀華がフッと笑う。その笑みはどこか安心したようだった。

 

「そうですね・・・・まさか総司さんが全力を出せる舞台が整うなんて」

 

トレーニングは異様な状況だった。壁や床は削られ、抉られ元の内装など一切わからない。そこに刀華とカナタは寝そべっていた。肉体は限界を超え指一つ動かすこともできない。

 

「そうちゃん・・・・また強くなってた。昨日よりもそして加我君と戦った時よりも・・・」

 

「ええ。本当に・・・・でも総司さん。ずっと笑ってましたね」

 

「うん・・・・」

 

さっきの戦いの間総司はずっと笑いながら二人と戦っていた。そして最後にこう言って去っていった。

 

「・・・・ありがとうな二人とも。最高の調整になった」

 

総司がそういった時の顔。安心したそしてなにかを達成したような笑顔だった。

 

「そうちゃん・・・・その力見せてあげなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大会も1回戦がすべて終了しました!今日からは2回戦です!!早速2回戦1戦目を始めていきましょう!!』

 

実況の声にドームが歓声に包まれる。その歓声を聞きながら総司は最後の調整を行っていた。武器である小太刀の感触を確かめるように2、3度振るい頷く。調子は良い。いままでのどんな時よりもいい。そして無意識の中でかけていたリミッターを意図的に解除する。アドレナリンが溢れ出し肉体は戦闘状態に入っていく。もう迷いはない。そこで係員の人から入場してくれと声がかけられる。総司はゆっくりと右足から歩き始め、歓声の響くドームの中心に足を踏み入れて行った。




いかがだったでしょうか?

今回は繋ぎの話です。バトルは次回あたりに・・・

これからもちょっと不定期になるかもしれませんが頑張って投稿していきますのでよろしくお願いします!

今回も感想、評価、批評募集しています!よろしければお願いします!!

ではまた次回会いましょう!


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準備

今回も楽しんでいただけると嬉しいです


『圧倒的!!!!!圧倒的です!!!!!破軍学園三年玖原総司選手!!大会記録を大きく上回る3.2秒での三回戦進出です』

 

総司がふうっと一つ息をつくとスタジアムから出ていく。すると会場の入り口のところに知り合いとすれ違った。

 

「王馬・・・・」

 

「総司・・・・」

 

すれ違い。お互いに感じる魔力にオーラ。この間破軍で戦った時とはそれが桁違いになっているのを互いに全身で感じていた。

 

「どうだ調子は?」

 

総司が尋ねる。それに王馬がふんと鼻を鳴らす。

 

「そんなものは関係はない」

 

「まぁそうだな」

 

「ああ」

 

王馬が獰猛な笑顔を浮かべる。その笑顔に総司も似たような笑顔で返す。

 

「その殺気は次まで取っておけよ」

 

そう言って総司は王馬から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「玖原」

 

「黒乃さん。仕事はいいんですか?次はステラですよね?」

 

「お前と話しながらでも特に問題はないだろ?」

 

「さすがですね」

 

総司はそう言いながら黒乃の横に腰を下ろす。

 

「そういえばこの間恵さんから連絡が来たぞ。七星剣舞祭見に来るみたいだな」

 

「明日から来るみたいですね。珍しく親父も来るみたいですし」

 

総司がなんでもないと言ったような感じで言うがそんな態度に黒乃はフッと笑ってタバコを咥えた。

 

「なんですか?その意味深は笑みは」

 

「わかってるだろうが。相変わらずお前は素直じゃないな」

 

「どういうことですか?」

 

総司がムッとして黒乃を見る。その表情に黒乃はタバコに火を付けながら笑みをこぼした。

 

「少しは17.8の顔をするようになったな」

 

「なにが言いたいんですか?」

 

「ちょっとした生徒の成長を実感してるところだ」

 

「どうしたんですか急に」

 

怪訝そうにそう言いながら総司の視線はドームの中心に移る。そこには次の試合をする2人が入場し、向かい合っていた。

 

「玖原。次の試合どう見る?」

 

「別に特別なことはないでしょう」

 

黒乃の問いに総司はなんでもないと返す。

 

「ステラの圧勝でしょうね」

 

ステラの相手は暁学園の多々良幽衣。一筋縄ではいかない相手のはずだ。しかしそれは黒乃も同意見だった。

 

「確かに分が悪いな」

 

「ええ。しかもステラは修行中暁をかなり意識してましたし・・・容赦なくいきますよ」

 

「そういえば寧音のところに行ったんだったな。ヴァーミリオンも無茶をする」

 

「まぁそうですね。実力差を考えると・・・・「そうじゃない」・・・じゃあどういうことですか?」

 

「お前と寧音の修行に入ることを無茶と言ったんだ」

 

黒乃がハァとため息をつく。黒乃は総司と寧音が調整だの修行だのいいながら剣を交えていることを何度も見たことがあるがそれは軽い世紀末だ。それに実力も伴わず割って入ろうと自分からするなど黒乃からしたら無茶以外の何物でもない。しかもそれなりに手加減の出来るものたちならまだそれでもいいのかもしれないが寧音と総司という明らかに手を抜くことがない2人に対してそれをやるなど無茶を通り越えて無謀な領域だ。

 

「おれと寧音さんだって手加減しますよ」

 

「悪い冗談だな」

 

「そんなことないですって」

 

総司がジトッとした眼で黒乃を見るが黒乃はそれを気にせず煙を口から吐き出す。

 

「ただそれのおかげでヴァーミリオンは一皮むけたみたいだな」

 

「ええ。かなり強くなりましたよ」

 

「・・・・お前から見てヴァーミリオンはどう見える?」

 

黒乃がふいに総司にそう尋ねた。総司は少し考えてから答えた。

 

「恐ろしいですよ。世界最高魔力。それは圧倒的な力です。でも・・・・・」

 

総司の眼が鋭く光る。

 

「戦うことになったらぶち倒しますよ」

 

そこで試合終了の合図が響く。勝ったのはやはりステラ・ヴァーミリオンであった。総司は立ち上がる。

 

「黒鉄の試合は見ないのか?」

 

「見ますよ。ただまぁ結果は見えていますけどね」

 

「ほう・・・・・」

 

一輝の次の相手は雄大と同じ武曲学園の城ケ崎白夜。『天眼』の二つ名を持つ昨年度の七星剣舞祭準優勝者だ。

 

「一輝が勝ちますよ」

 

「それはなぜだ?」

 

黒乃が尋ねる。それに総司はフッと笑った。

 

「黒乃さんあなたにハンデ戦とはいえ勝ったあの騎士が・・・・自分が負ける未来を選ぶわけがないでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝の試合は速攻だった。開始の合図から『一刀修羅』を使い、白夜を叩き切った。それで試合終了。総司の作った最短試合記録を破ることになるほどの速攻だった。その日の夜。総司は次の試合に向けて調整を兼ねて武曲学園で諸星雄大と向かい合っていた。

 

「ハァァァァ!!!!」

 

気合いとともに繰り出される槍。それを総司は避け、横から殴り吹き飛ばす。そして切りかかる。

 

「っ!!!」

 

「そこまでです!!」

 

その声で切りかかられた小太刀は雄大の首の前で止まる。

 

「くそーまた勝てんやった」

 

雄大が槍を消しその場で座り込む。総司も小太刀を鞘にしまい消す。

 

「やっぱし槍には特に強いな総司は」

 

「そりゃ昔から母さんとよく戦っているんだ」

 

「恵さんにはやっぱりまだ勝てへんか」

 

雄大はハァとため息をついた。

 

「そうちゃんこれで今日の調整は終わり?」

 

総司と雄大の摸擬戦を見ていた刀華がそう尋ねる。

 

「ああ。これで終わりだ。あとは寝て明日に備えるだけだな」

 

「そういや総司明日の試合は・・・・・」

 

「ああ。王馬とだ」

 

総司がそういうと雄大がスッと眼を細める。その眼が言わんとしていることは総司にもわかる。だから総司は笑った。

 

「勝てるさ」

 

総司がそう断言する。その眼に宿る確かな自信。そしてその身に纏うなにかが変わる。

 

「おれは王馬に負けてない」

 

総司がフッと笑う。それは普段の獰猛で今にも襲い掛かりそうなものではなく、優しく誰もが見惚れてしまうのではないかという笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総司のやつなにかあったな」

 

雄大が呟く。戦っているとき総司はとても楽しそうに笑顔を浮かべ雄大の槍を捌き、攻撃を繰り出してきたいた。しかしそれが雄大にとっては違和感でしかなかった。

 

「あいつはあそこまで戦うことを楽しむようなやつではなかった。でも今は心から楽しんどる」

 

その変化が良いことなのかどうかはわからない。でも・・・・・

 

「それがいい変化であることを祈るしかないんよな」

 

そこで浮かぶのは最後の淡い笑顔・・・雄大は唇をかんだ。

 

「あいつまさか()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寧音邪魔するぞ」

 

「ありゃ・・・くーちゃんどうしたの?珍しいねうちのところに来るなんて」

 

「お前なら知ってると思ってな」

 

「知ってる?なんのことだい?」

 

「玖原のことだ」

 

黒乃がそう言った瞬間。寧音の口先が持ち上がった。

 

「総司ちゃんのことね」

 

「その様子だと、知っているようだな」

 

「くーちゃんも気づいてるでしょ?」

 

「・・・・・・くそ」

 

黒乃が苦虫を潰した表情となり悪態をつく。それを聞きながら寧音は煙管から口を離し煙を噴出した。

 

「・・・・いつからだ?」

 

「一緒に修行をしてたときだよ。あとはきっかけと意志だけだね」

 

「そうか・・・・」

 

黒乃もスーツのポケットから取り出した煙草に火をつけた。

 

「まさかあの歳でな・・・・」

 

「総司ちゃんだからね・・・・仕方ないよ」

 

「あいつはどっちを選ぶのか・・・」

 

「それは決まってるでしょ。総司ちゃんはくーちゃんみたく臆病じゃないからね」

 

寧音が吐き捨てる。

 

「寧音・・・・・」

 

「うちはあの時の後悔をくーちゃんも持ってると思ってたのにね」

 

寧音の表情に浮かぶのは諦め。

 

「とりあえず明日の総司ちゃんと王馬ちゃんの試合。気を付けておいてね」

 

そういって寧音は煙管を灰皿にカーンと叩きつけた。




本当にすみません。リアルがマジで・・・・・とはもう聞き飽きましたね。

かなり投稿のペースが上げられると思います。これからもよろしくお願いします。

今回も感想、評価、批評募集しています。よろしければお願いします。

ではまた次回会いましょう!

P.Sそういえばですが、もう一つ小説をあげることになるかもしれません。今はまだプロットの段階なのでどうなるかはわかりませんが、もしあげることになればそちらもよろしくお願いします!!



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修羅

「順当に勝ち上がっているようね総司」

 

「まぁここまではな」

 

準々決勝の朝。総司はホテルの朝食会場で、総司の母である恵と父である宗吾。そして恵の付き人である美奈と一緒に食事を取っていた。刀華は朝から黒乃さんのところに行っているため、この場にはいなかった。

 

「それにしても珍しいな。母さんはともかく父さんまでおれの試合を見に来るなんて」

 

総司がそう言いながらなにか勘ぐるような視線で宗吾を見た。その視線に宗吾はハァと一つため息をつき、

 

「鋭いな」

 

と一言漏らした。それに今度は総司がため息を一つついた。

 

「なにかあるんだな」

 

「ああ。今日の試合が終わった後時間を作ってくれ」

 

「わかった」

 

総司は頷き、朝食の焼き鮭をほぐす。

 

「次の相手はあの王馬君なのよね?」

 

「そうだよ。そういえば母さんはリトルの時にあったことがあるんだよね?」

 

「ええ。私は人をあんまり覚えないんだけど彼は覚えているわ」

 

「そうなんですか?そんなになにが印象だったんですか?」

 

美奈が恵に尋ねた。

 

「彼はあの年代の子たちとは明らかに異なっていたのよ。あそこまで強くなることに執着した子どもは後にも先にも彼以外にはあったことなかったわ。まぁ当時の総司はさらにすごかったんだけどね」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。毎日毎日取りつかれたように鍛錬をしてたわ。それにその時からこの子は()()をしてたしね」

 

「おれの昔話はいいよ・・・・さておれはそろそろ行くわ」

 

「ええ。頑張ってきなさい」

 

「もちろん。それに・・・・」

 

総司がチラッと宗吾を見る。

 

「この試合が何か大きな分岐点になる気がするしね」

 

総司が去っていく。その背中を見ながら恵は宗吾に言った。

 

「よかったんですか?この場で言っておいても総司には影響ないと思いますよ?」

 

「まだいい。どのみち今回のことは・・・・」

 

「総司はたぶんそちらの道を選びますよ」

 

恵が確信をもってそう告げる。それに美奈は首を傾げた。

 

「そうですか?今回の件は総司兄を・・・・」

 

「ええ。それはたぶん総司も聞いたらすぐにわかるでしょう。でも総司はその道を行くの」

 

「・・・息子ながらどうしてそう育ったのか」

 

「あら、よく似てるわよ。私達に」

 

恵のその言葉に宗吾は大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂・・・総司はゆっくりと一つ呼吸をする。そして身体の調子を確認する。身体をいつも通り動く。魔力も十分にある。しかし一つだけ問題があった。

 

「魔術制御がおかしい」

 

これはこの大会に入って段々と感じるようになってきていた。寧音と修行を行っていく中でこの感覚に関してもさらに鋭くなっていっていた。しかし七星剣舞祭に入り、実際に試合を行ったりや調整をしていく中でだんだんと誤差が広がっていっている。

 

「もっとやれる気がする。でもそれをやろうとするとできない」

 

感覚としてはなにか鎖のようなもので縛られており、ある一定の水準に達すとその鎖のせいで前に向かえないような感覚。総司にとってもこんなことになることは初めてであり、どう解決していいものかと思っている。しかし今回の相手はそんな鎖を背負っていて勝てるような相手ではない。

 

「王馬は必ずこの間よりも遥かに強くなってる」

 

理由はない。ただ断言できる。だからこそ・・

 

「この試合で自分の限界を出してでも、必ず勝つ」

 

総司は控室の扉を開ける。そして歓声が響く中心に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ご来場の皆さま、お待たせしました!!これより第六十二回七星剣舞祭三回戦を開始します!』

 

実況により三回戦の合図がなされた。それに呼応し湾岸ドームの客席から地鳴りのような歓声があがる。

 

『今大会のベスト8達がしのぎを削る三回戦。激戦の期待感に、会場の興奮はすでに沸点に達している模様!実況は引き続き、私、飯田が!解説は八乙女プロがお届けします!それでは早速、三回戦第一組目に入場していただきましょう!まず、青ゲートより、玖原総司選手の入場ですッ!』

 

その声に応じ、ゆっくりと歩いてくる。しっかりと引き締まった身体に破軍の制服を纏い、まっすぐに反対のゲートを睨みつけ会場に入った瞬間。会場の歓声が弾けた。

 

『お聞きください!!この大歓声を!!この七星剣舞祭が始めるまでは一切の情報の無い無名の騎士だったこの騎士もこの七星剣舞祭で大きく名をあげました。一回戦で昨年のベスト8である禄存学園の加我選手を無傷で破り、二回戦では『閃光』の二つ名を体現するかのような速攻で勝利を収めました。この三回戦でもその圧倒的な速度と魔術で勝利を収めることができるのか!!破軍学園三年玖原総司選手です!!』

 

「総司さん大丈夫そうですね」

 

「うん。体調も良さそうだし今日に向けて万全の調整をしてきたしね」

 

カナタと刀華が話す中、その横で今日合流した生徒会メンバーの御禊泡沫がうーんと唸った。

 

「でもさ、そうちゃんと王馬クンってこの間戦ったとき僕から見てもかなりの差があったように思えたんだけどそうちゃんにとってそんなに不安な相手なの?」

 

「確かに。少し気にしすぎな気がするな」

 

それに雷も同意する。しかしその言葉に刀華は首を振った。

 

「王馬さんは必ず強くなってくると思います。それこそが彼の強さですから」

 

乗り越えること。それが王馬の強さの根源だと総司が言っていたことを刀華思い出す。

 

「でもそうちゃんも前よりずっと強くなっているから心配しなくても大丈夫だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「玖原・・・・・・」

 

黒乃はタバコをふかす。

 

「くーちゃんここ禁煙だよ」

 

右横にいる寧音が突っ込むがそれを気にする様子もなくさらに煙をふかす。ただ次の瞬間その火のついたタバコの先がスパっと落とされた。さすがの黒乃も驚き寧音のいない側の左側を見る。そこには微笑みながら黒乃と寧音を見つめる椅子に座った女性が槍を構えて座っていた。

 

「黒乃。ここは禁煙よ」

 

「恵さん・・・・」

 

スッと槍を消し、黒乃にそういう恵が身に纏う雰囲気は鋭い。

 

「ルールはきちんと守るように()()()()つもりだったのに・・・足りなかったのか」

 

ゾクっと黒乃と寧音の肌が粟立つ。恵が現役だったころ後輩だった二人が恵から施された()()は今でも忘れられない。

 

「というかいつの間に椅子に座ってたんです?」

 

「さっきよ。今は薬で脚が動くようにしてるから自分で歩いてきたの」

 

「恵さんは相変わらずだね・・・・」

 

「あら寧音。そういえば・・・・」

 

スッと今度は視線が黒乃から寧音に移る。

 

「学園ではずいぶん色々な人に迷惑かけてたみたいね」

 

寧音がギクリとして苦笑いを浮かべる。そんな寧音にさらに恵は笑いかける。

 

「世界三位ってそんなに偉いのねぇ。私四位までしか行ったことないし・・・三位様はそんなことしても許されるのねぇ」

 

「えっ・・・いや・・・それは・・・」

 

寧音が言いよどむ。そんな二人を見ながら黒乃は

 

『こんな風に寧音を追い込むことができるのは世界に寧音の師匠である『闘神』とこの恵だけだな』

 

と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ!!玖原選手の入場で会場は興奮の坩堝と化しています。さてその中にもう一人の選手に入場してもらいましょう』

 

実況の言葉を合図に、赤ゲートにスポットライトの光が集まる。その光の中に、黒い和装を纏った剣士が歩み出る。

 

『名門・黒鉄家の長男として生を受け、幼少より麒麟児として全国に名を轟かせた天才!U-12(小学校)世界大会でワールドチャンピオンに輝いた瞬間誰もが思ったでしょう!《大英雄》黒鉄龍馬の正当後継者がここに誕生したと!しかし!そんな周囲の喜びとは裏腹に、天才は飽いていた!刃引いた得物でしか戦えない《連盟》のルールに絶望的に飽いていた!彼は求めていたのだ!本物の戦いを!命がけの闘争をッ!より高みを目指すために!それ故に、彼は我々の前から姿を消してしまった!しかし彼は圧倒的な力を持って我々の前に帰ってきました!!新生・暁学園三年《風の剣帝》黒鉄王馬選手です!!!』

 

長い髪と和装の裾をはためかせながら、一歩一歩、総司との距離を縮める王馬。その姿に、観客席は息を吞んだ。

 

『・・・す、すげえ・・・」

 

『相変わらず・・・・・、なんてプレッシャーや・・・・!』

 

ただ歩いているだけなのに、触れるだけで肌が裂けそうな剣気。まるで抜き身の刀のような冴え冴えとしたプレッシャーだ。

 

『八乙女プロこの二人と言えば、前に王馬選手の発言で話題となった二人ですね』

 

『ええ。私も覚えています。王馬選手が昔玖原選手と戦いたい。そして借りを返したいと言ったとき日本全国は震撼しましたからね』

 

『そうですね。当時この世代最強だった王馬選手が負かした騎士が無名でしたからね。しかし今日その因縁も決着がつきますね!』

 

『ええ。しかし二人ともこの大会中まだ本気を出している様子はありませんでしたから・・・この試合でついに二人の本当の実力が明らかになるのではないでしょう』

 

『なるほど!!それは楽しみですね!おっと、そして今両選手が開始線につきました!!』

 

二人は睨み合い一言も言葉を交わさない。ただ二人の間の剣気がどんどんと鋭くなっていく。その雰囲気に会場全体が飲まれていく。

 

『なんでしょうかこの雰囲気は・・・・』

 

『騎士というよりは剣豪の斬り合いという雰囲気ですね。学生騎士の試合でこんな雰囲気になったことは私は知りません』

 

『この一戦は必ず七星剣舞祭歴史に刻まれる一戦になるでしょう!!では試合を開始していきましょう!!皆さんご唱和ください!!!Let's go ahead!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開始の合図と同時に両者が跳び出す。総司の小太刀と王馬の野太刀が衝突し、会場の空気を激しく震わせる。会場に面した窓が揺れ、激しい音とともに剣戟が繰り広げられる。

 

『凄まじい音と振動です!!!思わず会場中の全員がのけ反ってしまう!!!!』

 

『高次元での魔力のぶつかり合っていますね・・・玖原選手は明らかにCランクではないです』

 

互いに一切引かない剣戟が十を超えたところで王馬が吹っ飛ばされた。

 

『おっと王馬選手が吹っ飛ばされた!!剣戟戦は玖原選手に軍配が上がった!!』

 

『いえ違うと思います』

 

実況の飯田には見えていなかったものがプロ棋士である八乙女には見えていた。

 

『玖原選手は剣戟の中で魔力を用いて王馬選手を吹き飛ばしました。たぶん玖原選手が嫌ったんでしょう』

 

『それは玖原選手が剣戟では王馬選手に勝てないと認めたということですか?』

 

『そういうことでしょう。やはりAランクの王馬選手には力では勝てないということでしょうね』

 

「違う」

 

この解説を刀華が否定する。それにカナタも頷いた。

 

「ええ。あれは総司さんらしくないですね」

 

総司は戦闘によく理由を求めるような節がある。しかし根っこは純粋な戦闘狂であり自分から剣戟から逃げるようなことはしない。そんな総司が剣戟から強引に逃げた。それにはなにか理由があると二人は思った。そしてそれはすぐにわかった。

 

「王馬・・・・舐めてるのか」

 

総司は切れていた。鋭く尖った魔力と剣気が会場を包み込む。それに会場中が息を吞んだ。

 

「外せよ。そんな重石を付けたままでおれと戦おうとしているのか」

 

総司が切っ先を王馬に向けて促す。すると王馬はニヤリと笑った。

 

「さすがに気付くか・・・《天龍具足》解除」

 

激しい暴風が王馬を中心に起こり、総司にもその暴風が届くはずだったが・・・それを小太刀一閃に総司は斬り裂いた。

 

「さぁ始めようぜ。王馬」

 

「総司・・・おれは考えた」

 

王馬が語る。

 

「そして至った。お前に勝つためには手段は選んでいられない。そしておれは自分の信念をここで曲げてでもお前に勝ちたい!」

 

王馬を中心に巻き起こる風が激しさを増す。しかしそれはただ増しただけではない。明らかに()()()()()()()()()

 

「王馬まさか・・・・」

 

この現象を総司は何度か見たことがある。そしてそれはある男の人真似だ。それを行っている男もこの現象に理合いに気がついた。

 

「王馬兄さん・・・・まさか」

 

この理合いは一輝自身が生み出した伐刀絶技(ノーブルアーツ)《一刀修羅》と同じ。自身の生存本能(リミッター)を破壊し、普段使えることのない力に手をつけるもの。それを王馬が使用しているのだ。そして生存本能(リミッター)を破壊し闘っている一輝にもわからないことがあった。

 

「王馬兄さんが・・Aランクの騎士が生存本能(リミッター)を破壊するとどうなるんだ」

 

こんな戦い方をしている人間は自分以外に一輝を見たことも聞いたこともない。だから想像ができない。でも一つわかることもある。

 

「弱くなることはありえない・・・・」

 

王馬がこんな土壇場で使うものが力を持っていない訳がない。それは一輝にもそして総司にもわかっていた。

 

「まさか・・こんな手を使ってくるとはな・・さすがに予想外だ」

 

総司がニヤリと笑う。そして総司は自身にまとわりつく鎖を見る。さっき重力の力を使ったときから感じている全身に纏わりついている鎖に力を込めた。

 

「・・おれに勝つために自分の信念を曲げてでも挑んでくるこの男におれも全力で答えたい」

 

さらに力を込める。はやくしないと王馬が来る。絶対にそれまでにはこの鎖を引きちぎる。

 

「おれはいままで闘うために理由を求めてきた。刀華たちが傷つけられたから、出なければならなくなったから、『天陰』の名を『玖原』の名を汚さないために・・・殺せと命じられたから。自分でこうしたいと戦ったことなど一度もない!!!でも・・・」

 

鎖が軋む。

 

「この男はおれが斬りたい。おれがおれのためにこいつを斬る。おれの全力を持って!!」

 

ピシリと鎖が音を立てて崩れていく。今まで全身に纏わりついていた鎖が崩壊していく。

 

「王馬」

 

その変化に王馬も気づく。その変化はさっき自身が生存本能(リミッター)を外したときよりも大きく顕著だった。

 

「お前はおれがおれのために斬った最初の男になる」

 

小太刀の切っ先を向けて告げた。




いかがだったでしょうか?

さてついにきましたね。

ここまで続けることができて本当に嬉しいです。

この話は実は初期にプロットで書いた話です。ここまでこれたらと思っていたのですがなんとかくることができました。これも皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます。

さて少しずつ伏線を回収しつつ話はこれからも進んでいきます。実は七星剣舞祭編はもう終盤です。それを終えオリジナルに入っていきたいと考えていますのでお楽しみに!

今回も感想、批評、評価、募集しています!よろしければお願いします!!

ではまた次回会いましょう!!


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覚醒

みなさん12巻は読みましたか?

まさかの展開に開いた口が塞がりません。

饕餮ってなんなんですか総司と被ってるじゃないですか!と思いながらもどう総司たちと絡ませようかとワクワクしています!!

では今回も楽しんでいただけると嬉しいです!!

簾木 健


『な、なにが起きたのでしょう!?』

 

『・・・ありえない』

 

会場は騒然としていた。

 

『魔力が上昇しています。しかも玖原選手、王馬選手両方ともです。こんなことありえません!!』

 

解説の八乙女プロが叫ぶ。しかし、それは現実。その現実を闘っている二人は真正面から受け入れていた。

 

「王馬何分もつ?」

 

「三分」

 

「そうか・・・なら三分だ。もし三分でおれがお前を倒せないのなら、おれの負けでいい」

 

「そんなことはありえん。三分以内におれがお前を斬る」

 

「・・・・たく」

 

総司が構える。ダラリと両手を下げたその構えは見るからに隙だらけだ。しかし飛び込んだらただでは済まないだろうことは誰もが感じ取れる。それに応じるように王馬が構える。上段に振り上げなれた野太刀と迫力は会場を飲み込んでいく。そして次の瞬間・・・二人が消え鋼がぶつかる高い音が響いた。遅れて激しい振動と暴風が巻き上がる。

 

『なんという音と振動でしょうか!!ここまでのものは私の記憶にはございません!!!』

 

『これはもう明らかに学生騎士のレベルを超えています。というかこんな激しいものはAリーグでもほとんど見られませんよ!!!!』

 

この闘いに中。総司は笑っていた。

 

「なんだこれ・・・今ならなにもかもできそうだ」

 

魔力がみなぎり、それを完全に掌握し、爪の先までコントロールできる。

 

「しかも今まで《魔術複製(マジック・レシピ)》でコピーしたものが()()使()()()。しかも魔力が上がったおかげで一つ一つの威力が単純に上がってる」

 

負ける気がしない。王馬は激しい剣戟を繰り出す。それは一刀一刀が重く鋭い。しかし・・

 

「今はそんなもの気にならないくらいだ」

 

魔力が身体中迸らせる。雷系統の伐刀者が用いる。身体強化を施しさらに、アクセルを踏み込む。両手に持たれた小太刀の振り出す速度がさらに加速し、王馬のそれを軽々と凌駕していく。王馬が一刀を振る間に総司は三度王馬に斬りかかる。一度で王馬の野太刀をいなし、二度王馬を切りつける。さすがの王馬もこの距離では分が悪いと風を圧縮しそれを爆発させ距離を空けた。しかしそんなことではもう総司は止まらない。

 

「甘ぇ!!」

 

一瞬のうちに王馬の背後に総司が表れ斬りかかる。速すぎる動きに対応が一瞬遅れたが王馬がそれをなんとか防ぐ。しかし王馬の本来の目的である距離を空けるこが出来なかった。

 

『今のは・・』

 

『瞬間移動ですね。彼の母、玖原恵さんの能力ではないでしょうか』

 

『ということはやはり・・』

 

『ええ。玖原選手の能力は他の魔術をコピーするものでしょうね』

 

『本当に凄まじい能力ですね・・』

 

『しかもそれも自由に使いこなしていますね。ここまで使いこなしているのは恐ろしいですよ』

 

ただそんな解説とは裏腹に総司はまだ少し不満を感じていた。

 

「魔力の走りはいい。でも能力の繋がりや複合がまだ少し遅い・・が」

 

準備運動は終わった。

 

「王馬行くぞ」

 

総司が踏み込み、総司は止まることなく動き続ける。するとドンドンと総司が加速していく。

 

「あ、あれはウチの能力!!」

 

恋々が声を上げる。さらに総司は右手の小太刀をクルリクルリとまわす。

 

「あれはまさかわしの能力では」

 

雷が次に声を上げる。そこで総司の速度がマックスになる。マッハ4にもなった速度で王馬の背後に突っ込み、雷の能力で重量の増した小太刀を思いっきり振り切った。その攻撃にも王馬はなんとか反応し防ぐことに成功する。激しい音と共にリングにひびが入る。しかしそれすら王馬は防ぎきり、それに歓声が上がる。しかしそれで総司の攻撃は終わりではなかった。防がれた小太刀がバラバラに砕けちる。

 

「あれは私のですね」

 

カナタがフッと笑う。なにか自分の能力をここで用いてくてたことが嬉しそうであった。しかし王馬はそれすらも自分を中心にして激しい風を巻き起こすことで砕け散った剣の破片を吸い込まないように対処する。リミッターを外したことで行うことができた超人的な反応速度による適切な対処。しかもその風を用いることで切迫した総司との距離を空けることも同時に狙う。しただその風を持ってしても総司は距離を空けない。砕け散っていない方の小太刀が鞘に収まりバチバチと激しい音を立てている。その小太刀を総司は引き抜く。

 

「雷切」

 

怒号と爆風が巻き起こり目を眩むほどの光が会場を包んだ。その中で総司スッと距離を取り王馬の立っていたところを見つめる。フッと総司は笑った。

 

「さすがは王馬だな」

 

『な、なんと王馬選手!!立っています!!!体に傷を負いながらもその2本の足でしっかりと立っています!!』

 

『っ・・』

 

実況の言葉とは裏腹に解説の八乙女は息を吞んでいた。その視線の先にいるのはあの攻撃を耐えきった王馬ではない。あの攻撃を行った総司だ。

 

『何度も言いますがこれはもう学生騎士というレベルではありません』

 

『そうですね。二人とも『違いますよ』え?』

 

実況の声を遮り八乙女が衝撃の事実を告げた。

 

『玖原選手です。この攻撃に関しては玖原選手に注目すべきです。そしてこの攻撃によってわかりました。もう王馬選手に勝ちはないでしょう』

 

『えっ!?し、しかし王馬選手はすべての攻撃に耐えきっていますよ!?』

 

『確かに耐えきってはいます。しかしそれはあくまで耐えきっただけです。玖原選手の圧倒的な攻撃に対してすべて適切に対処をしていたと思います。しかし対処はできていても()()()()()()()()()()。逆にこの攻撃の間何度か王馬選手は反撃しようと試みています。でもそれはすべて玖原選手に止めれてしまっています。これでは耐えるしかできない。いずれ王馬選手は削り切られてしまいます。しかも・・』

 

八乙女の背中には嫌なものが流れる。それはもう認めるしかない事実。

 

『玖原選手はまだ本気ではありません。いまギアを完全にあげ切ったところ。これからさらに加速するでしょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とんでもないな」

 

「ああ。こりゃウチやくーちゃんでも完全に手に余る」

 

日本歴代最高順位を持っていた二人がそう零してしまうほどに圧倒的な存在が今目の前にはいた。

 

「《覚醒(ブルートソウル)》に至ったことで今まで以上に能力を引き出せている。こりゃうちが()()()相手をしても負けるかもしれないねぇ」

 

「すでにそこまで魔人(デスペラード)なのか玖原は!?」

 

「ああ。こりゃちょっとやばい領域だ。《魔人(デスペラード)》になってすぐでこの雰囲気。これはもう洒落にはならないよ。しかもそれが《玖原》にいるってことは少し厄介かもね」

 

寧音が総司から視線を動かし、その母である恵を見る。恵はニコニコと笑って総司を見ていた。

 

「寧音。特には《玖原》としては何もないわよ」

 

「そうだといいんですけどね・・・じゃあ一つ質問なんですけど」

 

「あら寧音から質問なんて珍しいわね。なにかしら?」

 

「・・脚どうして治してるんですか?」

 

「え!?」

 

黒乃が驚き恵を見る。その二人の視線を受けても恵はフフッと微笑んだままだ。

 

「寧音あまり勘がいいのも考えものね」

 

「恵さん。それは答えてもらえないのはちょっと困るんですけどね」

 

寧音から鋭い気配が迸る。それを受けて恵はフッと真顔になり告げた。

 

「寧音さっきも言ったけど現世界三位って・・そんなに命知らずなのね」

 

寧音が思わず後ずさる。黒乃もピシッと固まってしまった。

 

「寧音。もし『玖原』に喧嘩を売ろうっていうのなら買ってあげるけど・・私も総司も本気であなたを潰すわ」

 

そうだと、そこで寧音と黒乃は気付く。この目の前にいる騎士は普通の騎士ではないということに。

 

「恵よ。それくらいにしとかんか」

 

その場の空気がその声で霧散する。

 

「鷹丸さん」

 

「黒乃ちゃんに寧音ちゃんも久しぶりじゃの」

 

そこにやってきたのは玖原鷹丸。ピシッと背筋を伸ばし、紋付袴を着ているこの老人が年相応の老人に見えるはずがないだろう。しかも三人とも並の伐刀者(ブレイザー)ではない。超一流の伐刀者(ブレイザー)であり武人である三人からしてみたらこの老人の立ち振る舞いは恐ろしさを感じさせるほどだった。

 

「恵よ。寧音ちゃんに喧嘩を売るのはちょっとばかしそうかと思うぞ」

 

「すみません」

 

「・・・まぁ良い。寧音ちゃんも黒乃ちゃんも悪いことをしてしまったの」

 

「いえ・・そんなことは」

 

「ふぉふぉ。総司のやつ至ったようじゃの」

 

鷹丸の目が鋭く光る。

 

「見たいですね。現日本五人目の魔人(デスペラード)

 

「まぁ総司はいずれこうなるとは思っとったが、思っとるより早かったの」

 

「これも《玖原》の血ということかい?鷹丸さん」

 

「さぁの。ただ・・・わしもまだ計り兼ねる」

 

鷹丸は慈しみ深く少し憂いをおびた表情で言った。

 

「総司の運命の大きさはまだ図り切れん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間がないな。王馬。決めさせてもらう」

 

総司が小太刀を掲げる。それに激しい風集まり圧縮され巨大な剣を作りだす。

 

月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)

 

50メートルを超える巨大な風の剣。しかし総司はそれをさらに圧縮していく。刃はどんどん鋭くなり、それをリングにスッと振るうとナパーム弾すら傷のつかないはずのリングがあっさりと斬れる。これで斬り裂かれてしまったのなら普通の人はただじゃすまないだろう。

 

『あり得ない。あれほどの風の剣をさらに圧縮して刃としてしまうなんて・・・普通の伐刀者(ブレイザー)だったら弾けて霧散してしまいます。それもあんなにも軽々と圧縮してしまうなんて』

 

「さぁ王馬これで倒れなければお前の勝ちだ」

 

「総司おれは言ったはずだ」

 

総司の言葉に王馬がゆっくりと霊装(デバイス)である龍爪(リュウヅメ)を掲げる。王馬圧倒的な総司の力を理解し、それを受け入れた。ただ総司自身も今回この戦いに強く入れ込んでいる。もしこの化物に勝つ隙があるのであれば、ここしかないと王馬は覚悟を決めた。

 

「この一刀で斬り捨ててやる」

 

「やれるもんならやってみろ!!!!!」

 

総司は圧縮した月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)を右手で逆手に持ち左手の小太刀を腰に差した鞘にしまった。二人から放たれる剣気が凄みをまし会場を包む。もはや実況も解説もなにも声を出せずにいた。そんな中観客席で見ていたステラが横にいた一輝に言った。

 

「すごい集中力ね。もうこれだけで人を斬れるとさえ思えるわ」

 

それに一輝も頷く。

 

「そうだね。いくら王馬兄さんでもリミッターを解除した状態には制限時間があるだろうし、それに総司さん相手に持久戦を望めば勝ちはないこともわかってる。だから王馬兄さんはここで勝負をつけるつもりだ」

 

「王馬が次に出す技を一輝は知ってるのね」

 

「うん。王馬兄さんが使うのは侍局のころから黒鉄家に伝わる剣技《旭日一心流(きょくじついっしんりゅう)》の迅の極《天照》。流派最速の技で総司先輩を斬るつもりだろうね」

 

「でもあんなに剣を振り上げて待っているような態勢の人にソージさんは突っ込むかしら?」

 

ステラの疑問は正論であり、もしここで突っ込まず魔術戦に持ち込めば総司は確実に勝つだろう。しかし総司はそんなことはしない。刀華が一輝の挑戦を受け入れたように総司もここは王馬の技を真っ向から叩き潰すだろう。

 

「総司先輩は絶対に逃げない。そして興味があるよ。総司先輩がいかにして王馬兄さんの《天照》を突破するのか」

 

そう一輝が言ったと同時に総司は王馬に向かい突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筋肉を限界まで絞り、撓め、背骨の関節にすら捻りを加えて、相手に背を向けるほど身体を捻る。これにより全身全筋力はもちろん、捻じれた体勢から元に戻ろうとする骨や関節の反発すら加速に利用する。まさしく全身全霊にて放つ一太刀。一撃放った後の備えも反撃の構えも何もない。ただ速さのみが旨。斬ることのみが理。それこそが一輝の言った黒鉄家に伝わる《旭日一心流(きょくじついっしんりゅう)》の極の一つ。迅の極《天照》。

 

「っ・・・・」

 

限界まで身体を捻った姿勢から振り抜かれる白刃は()()()()()()()()()()()総司に振り落ちる。しかしその白刃すら総司の目は捉えていた。そしてその刃に対して自身が逆手で持った風で研ぎ澄まされた刃を当てる。そして剣同士がぶつかる。次の瞬間ぶつかった剣の方向との反対方向に総司が回転したのだ。そしてその回転のまま腰に差した小太刀を左手で抜き打ち王馬の上半身と下半身がわかれた。

 

「天陰流 六条」

 

この理合いを一輝とステラの目は見抜いていた。

 

「今のは王馬兄さんの《天照》を吸収してそれを使って斬った」

 

「ええ。あの速度の剣をきちんと受けてしまうなんて・・・アタシなんて全く見えなったわ」

 

「王馬兄さんの《天照》は《比剣》の剣速に遜色ないくらいの速度だったよ。でもその一刀すら今の総司先輩には届かない」

 

この七星剣舞祭において最も自分たちの目標を達成するための関門となる存在が総司であることを二人は改めて悟った。




いかがだったでしょうか?

実はもうすぐ七星剣舞祭編のラストです。そこからはオリジナルな展開でいこうとプロットを書いていたのですが・・・なんか原作に似てきそうですね。まぁなんかいい感じに原作も入れつつオリジナルをやっていければと思っています!これからも応援等よろしければお願いします!

今回も感想、批評、評価募集しております!よろしければお願いします!

ではまた次回会いましょう!!


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強盗

なんかずっと書き続けてついにここまで来たなって感じです。

こんなにも続くとは自分でも思ってなかったんですww

これもいつも応援してくださる方々のおかげです!

これからもよろしくお願いします!!

では本編楽しんでいってください。

簾木 健


「さてじゃあ早速だけど総司話しをしていいかしら?」

 

王馬との試合終了後総司は刀華、カナタ、泡沫を連れて総司の父と母、そして師である鷹丸のところを訪ねていた。

 

「というかそうちゃんどうして私たちもここに?」

 

「そうだよ。なんか家族会議するみたいなのに」

 

「・・・みんなにも聞いてほしいんだ」

 

総司が三人の幼なじみを見つめて言った。

 

「今回この話でおれの人生は大きく変わると思う」

 

「・・さすがは総司じゃの」

 

この三人に呼ばれた時点で総司はなんとなく大きなことであることは察しがついていたのだ。それを知ってた宗吾が早速本題を語りだす。

 

「総司。今世界は激動の中にある。それはわかっているな」

 

「ああ。じゃなきゃ月影さんが『暁学園』を建てるなんてするような強行な手には出ないだろう・・・・どうやら『解放軍(リベリオン)』が関わってるみたいだな」

 

「そこまでわかってるのならもういいだろう。あとはそれを語るのに適切な人がいる」

 

宗吾はふうと一つ息を吐き、そして総司に本題を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珠雫は大丈夫みたいだな」

 

あの話の後。珠雫が危険行為を侵して重症だという連絡があり、総司は病室に駆けつけていた。珠雫は『暁学園』の紫乃宮天音にアリスと共に奇襲をしかけたらしい。それで返り撃ちにあったのだ。

 

「ええ。もう完全に安定したわ。有栖院くんの方も大丈夫よ」

 

「そっか。迷惑をかけたなキリコ」

 

「いいのよ。私も紫乃宮くんにはちょっとやられちゃったし」

 

キリコはこの前の試合で天音と当たった時。キリコの病院の患者の病状が急激に悪化するということがあり、試合を棄権したのだ。

 

「まぁ誰も不幸にならなかったのは本当によかったよ」

 

「ええ。それが不幸中の幸いね。ただここまでくるとどうも紫乃宮くんはあなたとは違った化物のようね」

 

「ああ。一度戦ったが厄介だった」

 

「そういえば破軍の時戦ったのだったね。どうしたの?」

 

「心臓を止められたから強引に動かした」

 

「大変なことをサラッと言うはね・・まぁでもそれくらいなら私のところで修行したんだからできて当然ね」

 

キリコがふふっと自慢気に笑う。日本一と揶揄されるキリコの多くの技術は総司に伝えられ総司自身もほぼ完璧に扱うことができる。

 

「そんなキリコに一つ相談があるんだ」

 

「ええ。なにかしら?」

 

「・・珠雫に魔術を教えてやってほしい」

 

「わかったわ」

 

「・・・なにも聞かないのか?」

 

「総司君だもの。信用してるわ」

 

「悪いな」

 

「いいわ。それに誘われても私は()()()()()()()()()

 

フッと総司にキリコは笑いかける。それは普段の大人びた笑顔ではなくそれは真っ直ぐな子どものような笑顔だった。

 

「いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武曲高校のトレーニング場。そこで雄大は自身の槍を振るっていた。

 

「よお。雄大」

 

「なっ!総司ええんか?明日は・・」

 

「いいんだよ。そんなことよりちょっとやろうぜ」

 

総司が小太刀を鞘から抜く。総司からフッと剣気が漏れる。その濃密さを形容する言葉を雄大は見つけることができないほどであった。

 

「いくぜ」

 

総司が駆け出す。それに雄大はスッと槍を構えて応戦した。槍と小太刀がぶつかる。雄大はその瞬間に鳥肌が逆立った。

 

「やばい。こいは押し切られる!!」

 

振るわれた小太刀は異常なまでの重さを持っていた。そしてその重さを持って総司は雄大の槍を吹き飛ばす。そしてもう片方の小太刀で雄大を斬りにいく。

 

「っ!!!」

 

雄大はなんとかそれを回避する。しかし総司は止まらない。ただそこは元七星剣王。素早く体勢を立て直し、槍で応戦する。三連星とほうき星を交えて攻撃を繰り出すがそれでも総司の前進を止めることはできない。

 

「なんて綺麗な受けや」

 

流れるように雄大の槍を捌く総司に雄大は槍を繰り出しながらも目を奪われていた。総司はトドメと言わんばかりに雄大の槍を地面に叩きつけ距離を詰め、雄大の首の前で小太刀を止めた。

 

「やっぱり勝てへんか・・ちゅうか総司。王馬と戦う前よりも強よなっとるな」

 

「まぁあの試合でちょっとな」

 

「で?なんで急に来たんや?」

 

「まぁそれもちょっとあってな」

 

スッと総司は小太刀を消した。

 

「・・総司」

 

「なんだ?」

 

「いつかぜってえ追いついてやっから待っとれや」

 

総司を指さし告げる雄大。それに総司はフッと笑う。

 

「ああ。待ってはねえけど追いかけてこいよ」

 

総司はそう言って雄大に背を向け去っていく。そして少し行ったところスッと総司は消えた。

 

「あいつ・・」

 

そこで雄大は悟った。総司が何かを決めたということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『気温三十五度、湿度七十パーセント!焼けつくような太陽の下、お集まりいただきありがとうございます!!第六十二回七星剣舞祭もついに準決勝となりました!!上り詰めた全国ベスト4同士による潰し合い!!いずれも一癖も二癖もある強者揃いの中、決勝戦への切符を手にするのは一体誰なのか!?皆様、脱水対策は十分ですか!?充分ですね!?では、これより準決勝第一試合の選手に登場していただきましょう!』

 

実況の飯田の言葉にあわせ、会場から喝采が起きる。その降り注ぐ拍手の中、緋色の髪を靡かせ、ステラが準決勝の舞台に現れる。

 

『まず赤ゲートより、《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァ―ミリオン選手が姿を見せました。ヴァーミリオン皇国第二皇女にして、連盟加盟国に所属する全魔導騎士の中でも、最高の魔力を誇る天才!一回戦から一切の苦戦もなく勝ち上がってきております!!この会場そのものを破壊しかねない力はまさに圧巻の一言!前評判に偽りなしのその強さは、間違いなく今大会の優勝候補筆頭と言えるでしょう!今という時代に綺羅星の如く現れた天才騎士!この勢いのまま、七星の頂に駆け上がることが出来るのか!?』

 

『ステラ姫ーーーーっ!頑張れーーーーっ!』

『キャー!ステラ様~!こっち向いてください~~っ!』

『今日は二試合あるんやから、あんま会場こわさんでなーーーー!』

 

ステラは男女ともに非常に人気が高い、世界最高の魔力を持つ騎士という力、ヴァ―ミリオン皇国の第二皇女という社会的地位、加えて絶世の美女なのだから、それも当然のことだが。そしてそんなステラに誰よりも魅了されている一輝は、精悍な彼女の凛として横顔に目を奪われながら、激励の拍手を送る。ふと、そのときだ。一輝のうなじに突然声がかかった。

 

「良い表情ですね。ステラさんは」

 

「え?」

 

聞き慣れた、というほどではないが、忘れることの出来ない声。

 

「東堂さん!それに貴徳原さんに御禊さんも!」

 

栗色の髪を三つ編みにした温和な顔立ちの女性《雷切》東堂刀華と、日傘を差した長身の女性、刀華の友人であり、総司の幼なじみである《紅の淑女(シャルラッハフラウ)》貴徳原カナタと、銀髪の低身長の男性《観測不能(フィフティ・フィフティ)》御禊泡沫が立っていた。

 

「黒鉄くん。私たちもご一緒に観戦してもいいですか?」

 

「ええ。もちろん」

 

断る理由などない。一輝は三人に場所を譲るように、少し横にずれた。そして、そうこうしているうちに、ステラの対戦相手が姿を見せる。

 

『続いて青ゲートの方からAブロックの覇者、《閃光》玖原鷹丸選手の入場です!一回戦から三回戦まで、そのすべて一方的な展開で勝利してきた玖原選手です。この前の試合黒鉄王馬選手との試合はまさに圧巻の一言でした。しかもまだまだ底が見えていません!!ステラ選手が今大会の本命ならば、対抗は間違いなく彼でしょう!さぁそんな彼が世界最高の魔力にどう立ち回るのか!全く展開が読めません!!』

 

入場してくる総司からは一切の殺気や剣気を感じない。普通に人混みに紛れていれば一般の《伐刀者(ブレイザー)》ではない人とは区別することはできないだろう。ただしかし会場はステラ入ってきた以上の興奮と歓声が起こっていた。

 

『さぁ今回もいったれ!!』

『キャ~~!玖原くんこっち向いて!!!!』

『今回も《閃光》の速度にあの魔術期待しとるで!!!!』

 

『そしてこの準決勝の解説には現在世界ランキング第三位の魔導騎士、《夜叉姫》こと西京寧音先生にお越しいただいております!西京先生。今日は一日よろしくお願いします』

 

『ん~。よろしく~ぅ』

 

『どうでしょう。日本人最高ランクの魔導騎士であられる西京先生の目から見て、二人の選手のコンディションは』

 

『どっちも気合い十分。やる気満々って感じだね。かといって力みすぎているわけでもない。お互いベストコンディションじゃないかね』

 

『なるほど。この試合のお二人とは西京先生が指導をなされた経験があられるそうですね。西京先生はどちらの方が地力で勝っていると考えますか?』

 

『そうだね~。ぶっちゃけ総司ちゃんの方が地力では勝ってるだろうね』

 

『おっ!ということは玖原選手が有利ということでしょうか?』

 

『そうだね・・』

 

寧音はフッと眼を細める。

 

『ステラちゃんにはかなりキツイ戦いになるだろうね』

 

寧音はステラの新しい力を直に実感はしていた。しかしそれを勘定に入れて計算をしてみても正直総司に勝つことができるヴィジョンは一切想像できなかった。

 

そこでゆっくりと歩いてきた総司が開始線に着く。同時に観客も口を閉じ、会場に沈黙が降りる。その沈黙を遮り実況の飯田が七星剣舞祭準決勝の火ぶたを切った。

 

『両選手開始線に着きました!!!これより、準決勝第一回戦を開始します!!!!LET`S GO AHEADッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!!!」

 

ステラは驚愕していた。肌が逆立ち、手の震えが止まらない。向かい合う化物はまだ霊装(デバイス)を顕現すらさせていない。それなのに一歩動くことも自身の霊装(デバイス)を顕現することも相手をまっすぐに見ることが出来ない。ステラの様子に寧音はスッと目を細め告げた。

 

『気づいちゃったみたいだね~』

 

『気づいたとはどういうことでしょうか?』

 

『ステラちゃんと総司ちゃんの間にある圧倒的な差』

 

『圧倒的な差ですか?しかし魔力量ではステラ選手の方に軍配が上がる訳ですし、そんなに大きな差があるとは思えませんけど』

 

『・・二人の差はもうそんなところで語れない領域ってことだよ』

 

寧音が言ったことは今のステラの状況を的確に言い当てていた。ステラは目の前にいる化物を見る。それは人の姿をしてはいるものの自分と同じ種族の生き物とは考えられなかった。

 

「ステラどうした?来ないのか?」

 

総司がフッと笑う。そんな総司に悔しそうに言った。

 

「・・・わかってるんでしょう?」

 

ステラがなんとか声を絞り出す。そんなステラに総司はふうと一つため息をついて、告げた。

 

「今ならまだ棄権してもいいぞ」

 

「っ!!!!!!」

 

総司の言葉にステラはハッとして顔を上げる。そしてその時初めて総司と眼が合った。鋭い眼にはわずかなやさしさがともっていた。ただ顔を上げた時にステラはもう一人の人物と顔があった。

 

「一輝!!!」

 

自分最も大切な人。約束を交わし、それを目標に切磋琢磨し、そして互いにこの舞台の高みを目指してきた。

 

そんな舞台で闘わずに諦めるなんてありえない!!!!!

 

「傅きなさい!!!《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》!!!!」

 

その覚悟と今のすべてを込めてステラが霊装(デバイス)を展開する。

 

「そうか。やるか・・・・・時間だ。《白和》《黒光》」

 

その覚悟を受け止め圧倒的な魔力の波動にフッと微笑みながら総司も霊装(デバイス)を展開する。そこでステラが驚きの行動をする。自身の霊装(デバイス)である《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》を自らの腹部に突きたてた。

 

「《竜神憑依(ドラゴンスピリット)・・・・・ッッ!!!!!」

 

その瞬間、ステラの身体から眩い光が熱波に伴い吹き出し、会場を覆い尽くした。

 

『こ、これはどういうこちだぁーーーー!?突然、ステラ選手が自決したかに見えた瞬間、目も開けていられないほどの光の嵐がステラ選手から吹き上がり、リング上を埋め尽くしてしまったァァッ!カメラでも肉眼でも、リング上の様子をうかがう事ができません!一体今、何が起きているのでしょうかッ!』

 

『熱いっ!あっついよコレ!』

 

『フェンスは触らないでください!火傷する怖れがあります!フェンスから手を離してください!』

 

客席にまで伝播する熱波に、悲鳴と客席を守る魔導騎士たちの声が飛び交う。そんな喧噪の中、あのときと同じ輝きに、寧音は「それでいい」と頷く。

 

「ステラちゃん。もしこの場で総司ちゃんに挑むのなら中途半端はいらない。というか今の総司ちゃんにステラちゃんが()()を出さずに挑むのは愚策だ」

 

「それが新しいステラの力か」

 

総司がその熱と風を斬り裂きながら言う。笑顔を浮かべ、ステラを見る。やがて、吹き荒れる光熱の嵐が収まり、白く焼かれた視界が戻ってきた瞬間。ついに会場中もステラの姿を見て息を吞んだ。陽炎のように歪む光景の中心に立つステラ。胸に突き刺した《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》は何処かに失せ、残っているのは焼けた鉄のように輝くに傷跡。その傷跡はゆっくりと鼓動を刻むように明滅しており、それと同調するようにステラの素肌と真紅の髪もまた、その芯から焼けるような輝きを発している。それは今までのステラが放っていた魔力光とまるで異なるもの。迸る魔力の輝きではなく、身体の中から灯るものだ。一体彼女の身に何が―――そう誰もが疑問に思った瞬間。ステラがゆっくりと顎を上げ、空を仰ぐや、天に吼えた。少女の可憐な口唇から放たれたのは、明らかに人のものではない咆哮。地鳴りのような。海鳴りのような。あるいは落雷のような。そんな大気を揺らす轟き。その姿に総司はなるほどとうなずいた。

 

「ステラの能力は『炎』を操る能力ではなかったということだな」

 

この咆哮そして炎。それは神話で見たあの生物以外に当てはまる存在はいない。ただ総司も少し驚いていた。

 

「まさかこの生物の概念すら伐刀者(ブレイザー)は再現できるのか!」

 

それは驚きと同時に歓喜でもあった。世界は広い。それを改めて実感した。そして総司もかなり気合を入れる。さすがに総司自身もこの生物と相対したことは一度もない。

 

「ドラゴン狩りはさすがにやったことないが・・・・まぁとりあえずなんとかなるだろ」

 

総司は神話の化物を体現するその少女に向かい合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか・・。そういうことか!」

 

ステラと共にこの数ヶ月を過ごしてきた一輝もステラの変化に答えを出した。

 

「黒鉄くん、ステラさんが突然強くなった理由がわかるんですか?」

 

刀華の問いかけに一輝は頷きを返す。

 

「・・・おそらく、力の使い方が、初めから間違っていたんだと思います。きっと・・()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()

 

「それはどういうことだい黒鉄君」

 

泡沫が続けて一輝に聞く。そこにいたカナタにしても刀華にしてもその意味がよくわかってなかった。それを彼女の覚醒に立ち会った寧音が解説する。

 

伐刀者(ブレイザー)ってのはさ、生まれた瞬間から能力が使えるわけじゃーないんよ。大抵はある日、唐突に自覚するんだ。自分に炎を出す力があることや、重力を操る力があることを。そして自覚して扱い方を覚えていくわけなんだけど・・そうなるとたまに誤解が生じることがあるわけ。ウチもそうだった。一番最初に自分に異能があることを自覚したのは、オモチャを宙に浮かせたときだったから、最初から自分にあるのはモノを浮かす能力だと思っていた。でも実際は違う。使い方によってはそういうこともできるだけで全く別の能力だった。ステラちゃんも同じ。そりゃ突然何も無い空間から炎が吹き上がったら、誰だって自分が炎使いだって思うさね。まぁ大抵はウチみたいに小さい頃から能力を使って遊んだり戦ったりしているうちにその誤解は解けるんだけど・・・ステラちゃんの場合、()()()()()()()()()()()()。そしてそれがアダになった。そのせいで今の今まで間違ったまま来ちまった』

 

『つ、つまり、ステラ選手は、炎使いではない、と?』

 

『そーいうこと。ステラちゃんの本来の能力は、自然干渉系じゃなく概念干渉系。そして皆も知っているはずさ。その身に煮えたぎる血を巡らせ、燃えさかる火炎を吐き出す神話の怪物。この世界の至る所に、抗いようのない恐怖と暴力の象徴として語り継がれる概念を・・』

 

『ま、さか・・っ』

 

『概念干渉系―――《ドラゴン》。神話の世界に住まう頂点捕食者の力をその身で体現する能力。それが《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァ―ミリオンの本当の力だよ。確かにすごい才能だよ。でもね・・相手が悪い』

 

『え?』

 

『《閃光》。いやこの二つ名も正確には総司ちゃんを表すにはちょっと違うかもしんないけど・・でもその総司ちゃんはもっと異質で異常な伐刀者(ブレイザー)だかんね』

 

『も、もっと異質で異常ですか?』

 

『うん。だって総司ちゃんの能力は()()()()()()()()()()()()。そんな伐刀者(ブレイザー)聞いたことないよ』

 

『相手の能力のすべてを奪う?確かに玖原選手のような能力はいわゆる《複写》。《複写使い(フェイカー)》はもともと能力を奪うはずですよね・・なにが違うのでしょうか?』

 

その実況の説明に寧音は衝撃の事実を突き付けた。

 

『文字通りすべてだよ。総司ちゃんが奪うのは相手の()()()()()()。能力だけではなく、相手が今まで積み上げてきた能力との熟練度、能力の使い方。それをすべて奪うのが総司ちゃんの能力だよ。だからこそ総司ちゃんは相手の能力を奪うのと同時にさらにその能力を自分の中で進化させることや、奪った能力たちをを複合させて扱うことすらできる。魔術複製(マジックレシピ)なんてかわいいもんじゃない。あれは強奪(ラーヴァ―)魔術強奪(マジックラーヴァ―)こそ総司ちゃんの能力の名前にふさわしいんじゃない?』

 

それの言葉は会場中を一瞬にして冷え切らせた。しかしそれもつかの間会場の温度が上昇を始める。ステラが臨戦態勢となり、会場中の温度をさらに上昇させたのだ。

 

「いくわよソージさん!!」

 

「こい!!」

 

そして竜と竜を狩らんとする者の戦いはついに幕をあけた。




いかがだってでしょうか?

総司VSステラがついにぶつかり合います!!

やっぱり力と力の戦いは本当にいいですよね。一輝のように技で戦う主人公とかも好きなんですが、圧倒的な力で蹂躙するように戦うワンパンマンとか我間乱の伊織とか本当に恰好いいです!!

さて次回でこの戦いは終始符が打たれます。どんな結果となるのか。そして七星剣舞祭はどうなっていくのか!楽しみにしていただければ嬉しいです!!

今回も感想、評価、批評募集していますのでよろしければお願いします!!

ではまた次回会いましょう!!

簾木 健


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聖剣



竜を前にして英雄は振るう。己の肉体に何もかもを預け、その武器を振るう。


なにかが爆発するような音が響き、ステラの姿が消える。

 

そして総司との距離が10メートルのところでステラは壁にぶつかったように停止した。

 

『な、なにが起きたのでしょうか!?ステラ選手が急停止しました!!』

 

『うちの魔術にさらに鋼線か』

 

『ということは今のは「重力」と「鋼線」の組み合わせですか?』

 

『うん。もしかしたらそれだけじゃないかもしれないけど・・ただ総司ちゃん流石だね。竜化してパワーアップしたステラちゃんを完璧に止めてみせた。やっぱり総司ちゃんの方が完全に上手みたい』

 

『そうですか。ただステラ選手の力で殴られれば玖原選手もひとたまりもないでしょう』

 

『まぁそうだろうけど・・総司ちゃんが当たるはずないじゃん』

 

ニヤリと寧音は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげえな」

 

総司はステラを拘束しながらも感嘆する。ここまで拘束に力を使ったのは初めてだった。さすがは人間ではない化物といったところだろう。さらにその肌はかなり硬い。普通の人間ならもう四肢が斬り飛んでいるであろう力を込めているがそれでも鋼線が肌には入っていかない。

 

「竜って生物はここまで化物なのかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「解けない!!」

 

ステラは焦っていた。どんなに力を入れても総司の拘束をと解くことができないのだ。さらにあまりに力を込めると四肢が斬り落とされるかもしれないので力一杯にはこめられない。

 

「こんなにも・・()ですらここまでの差があるの!?」

 

こと力と魔力においては自分に分があるとステラは考えていた。だからこの戦いでは総司が使ってくる魔術や体術をいかにして制するかを考えていく必要があると思っていたのだが……ステラは目の前の総司をにらみつける。総司はフッと笑う。ほらさっさとそれを解いてみせろと言っているかのようなその表情にさらに苛立ちが募る。

 

「絶対倒してみせる!!!!」

 

ステラは自分が纏う炎の熱量を上げる。いままでステラが纏っていた炎が赤黄色だったのが蒼光に変わっていく。

 

「ハァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 

バチバチと激しい音が響き総司がステラを拘束するために使っていた鋼線が溶けてしまう。

 

「本当に馬鹿げた魔力だな」

 

「言ってなさい!今からその余裕を打ち砕いてやる!!」

 

ステラがまた突っ込む。今度は停止せずに総司の懐に跳び込む。そして拳を振るう。そのラッシュは激しく一つ突くたびに大気が爆発する。ただその拳は一発も総司を捉えることはできない。そして逆に

 

「っ!!」

 

拳を振るうたびにどこかを斬られてしまう。ただどれも浅く気にすることなどない。そうステラは切り捨ててラッシュを続ける。ただそれを簡単に許すような男ではない。総司の剣気がステラの肌を逆立てた。ステラはすぐにそれに気づきラッシュを止めて思いっきり後ろに下がる。しかし左足の太ももが今までより斬られていた。

 

「っ!?」

 

ステラはその事実に驚嘆する。《竜神憑依(ドラゴンスピリット)》を使うと、身体はすべてが竜と等しものになるのだ。神話の生物が神話の中で語れるような攻撃力に防御力。そして生命力。そのすべてを肉体に宿して戦っている。神話の中でも竜といえば鱗がよく語られる。竜の生命力の塊であり、不死性の象徴である鱗。それは固く簡単には傷つけることも曲げることもできないものだ。それは一枚ですらかなりの力を持っているが、それを纏っている竜はその力の集合体であり、それを貫き竜にダメージを与えることはかなり困難であることは誰もが知ることであろう。ただこの目の前にいるこの人間はそこをあっさりと貫いてきた。ステラのラッシュを掻い潜りながら放った一撃は決して万全の状態で放ったものでないはず。しかしその一撃ですらステラの鱗を貫いてくる。この事実にステラはもう一度気を引き締める。

 

「当たったら終わりなのはお互いさま!今度はその攻撃を掻い潜って私が先に一撃を入れてみせる!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「硬いな」

 

総司は振るった右手に持っていた『白和』から伝わってきた感覚を思い出す。人身体を斬りつけた感覚では明らかにないその感覚。総司は切断するつもりで、雷系の能力で強化した刃を持って斬りつけたがそれでも斬り裂けただけ。竜の鱗の硬度はやはりすごいものだと実感する。しかしそれもここまで。チューニングは済んだ。次は切断できる。そして今度は総司から跳び出す。両刃とも雷系の能力で強化し、肉体にも強化を施し突っ込む。

 

「ハッ!!」

 

そうして振るわれる刃をステラは回避する。しかしそれをたやすく許す総司ではない。引力によってステラを引き寄せ返しの刃でステラを斬りつける。

 

「っ!!!」

 

ステラの腕から血が舞う。ステラもすぐさま回避をすることを諦め、迎撃を試みる。総司の武器は小太刀であり、リーチがない武器である。よって戦いは超近接戦。この距離ならステラの拳も届く。

 

「ハァァァァァァ!!!!!」

 

ステラが拳を振るう。しかしそれは掠りもしない。さっきと同じようにスラリスラリと総司に回避されてしまう。

 

『ステラ選手の凄まじいラッシュ!!!!しかしそれは一つも当たらない!!!!!玖原選手によって回避されてしまう!!!』

 

『『空蝉』に『抜き足』それを複合して当たらないようにしてるね』

 

『たまらずステラ選手が間合いを空ける。しかしそれを玖原選手は許さない。すぐさま間合いを詰めて斬りかかる!しかしステラ選手も負けてない!!魔術によって反撃!!巨大な七匹の炎竜が顎門を開き襲い掛かる!!』

 

しかしその七匹の炎竜は地面に叩きつけられ霧散する。その炎を煙幕に総司はまた距離を詰める。そして鞘にしまった左側の小太刀『黒光』を抜き打つ。激しい雷鳴と眼がくらむような光。まさしく『閃光』の一撃で総司はステラ斬った。

 

『言葉も出ないほど完璧な一撃!!!!これは決まってしまうのか!!!!!』

 

『いやまだだね』

 

寧音がそう言った瞬間。光の中で鉄と鉄が激しくぶつかる音が響く。光に眼が追いつくとリングの真ん中で大剣と2本の小太刀が衝突していた。

 

「今のは完璧に決まったはずだぞ」

 

総司が獰猛な笑顔を浮かべる。それにステラは同じような獰猛な笑顔で返す。

 

「竜の力を舐めないでほしいわね!!」

 

総司は腹部から肩にかけてを逆袈裟に斬った。しかしもうすでにステラの身体にその傷はない。

 

「さすがは竜の不死性まで体現してるだけはある」

 

「こんな簡単に私は倒せないわよ!!!!」

 

ステラが大剣で押し返す。総司はそれに従い間合いを空けた。

 

「くっ」

 

ステラは唇を噛む。

 

「なにも出来ない。竜化してもここまで圧倒されるなんて。しかも竜の超回復を使わされた」

 

さっきの逆袈裟に斬られた傷をステラは竜の生命力をフルに使い一瞬で癒した。

 

「使いすぎるとガス欠になる。ただでさえこの力を使っていないと戦えないのに!!」

 

ステラは無条件で竜の力を使える訳ではない。もちろん前提として魔力を消費する。しかしそれと同時に大量のカロリーを消費するのだ。今日はそのために大量の食事を取ってきた。たださっきの傷はかなり深いものだった。それを瞬間的に癒すためには大量のカロリーを使う必要があった。それをしてでもさっきの交錯で一撃を当てるつもりだったのだが結果簡単に防がれてしまっている。今までのステラの行動はすべて裏目に出てしまったいる。完全に総司の手の平の上で転がされてしたっている感覚にステラは歯噛みするしかない。しかしどうやってその読み合いを制すかを考えていかなければなどと考えている。

 

「ステラ」

 

総司がステラを呼んだ。

 

「お前に一輝みたいな読み合いが出来る訳ないだろ。お前の最も得意なものはなんだよ」

 

その言葉にステラはハッとさせられた。そして一瞬にして自分に足りないものを今はいらないと切り捨てた。肉体に残っている魔力とカロリーをかき集める。集まっていく大量のエネルギーにステラの纏う炎の色が段々と白くなっていく。

 

「そうだ!!一輝と同等にたくさんの引き出しを持っているこの人に読み合いで勝てる訳がない!!ならアタシの最も自信のある()()()で一瞬でもこの人の理解を越えるしかない!!!」

 

もう大剣を維持する魔力すらこの一撃に全部を注ぎ込む。

 

「すげえエネルギーだな」

 

足元に転がっていたリングの破片がステラに吸い込まれてく。ステラの発する熱エネルギーが磁場を狂わせて引力が発生しているのだ。その光景に会場は息を吞む。これはもはや一つの惑星。それと同等のエネルギーを人が生み出している光景に会場は完全に眼を奪われていた。実況もこの光景に声がでない。そんな中実況席に座る寧音はニヤリと笑った。

 

「いくら総司ちゃんでもここまでエネルギーをため込んだ一撃は致命傷になる。しかもこの攻撃は避けれない。避ける時間すらステラちゃんは与えないつもりだろう」

 

拳とはよくも悪くも一点集中の点の攻撃。しかし今回のステラの両拳は魔力が集まり巨大な竜の爪と化していた。

 

「確かに『空蝉』を使えば回避できるかもしれないけど次の一撃で刺されちまう。あれには掠っただけでも致命的だろうし、総司ちゃんはそんなリスキーなことはしないだろうし、さてさてどうするつもりなのやら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にいる竜はついに覚悟を決めたようだ。その両拳に巨大な爪で斬り裂きにくるのは明確。しかしそれはあまりにも巨大であるために回避は出来ないだろう。また片一方を防いでももう片一方で斬り裂かれてしまう。

 

「これはかなりやべえな」

 

総司は笑った。危機的状況。死が目の前から迫ってくる。それでも総司は笑っていた。この目の前の死神すら今の自分の障害にはならないという実感がある。

 

魔人(デスペラード)ってここまでなのか。そりゃあの時のおれでは《比翼》にも勝てない訳だわ」

 

なぜかそんなことを考えてしまうほどの余裕。

 

「さて行きますか」

 

総司は自身の魔力を解放する。今回ここを死線と断定してもいいだろう。この竜をここで完全に断つ。

 

「ふう・・・」

 

肉体に酸素を巡らせていく。使う技は決まっている。天陰流奥義 天斬。それは天陰流で最速で最強の一撃。そしてもっとも単純な一撃。剣で斬る。それだけだ。肉体を極限まで脱力し剣を振る。これが奥義なのかと教えられたときに総司は思ったものだ。しかしそれはやはり奥義だった。使い手の技量を鏡のように写し出しそれによって必殺となす。この技で《天陰》こと玖原鷹丸は戦時中の英雄となった。一振り一殺。これこそ暗殺の秘奥。ただこの技を総司は《天陰流》で唯一いまだ極めることができていない技でもあった。しかし今ここでならそれすらも超えられる気がしていた。しかし一つ問題はあった。あの巨大な爪にたいして総司の武器は小太刀。完全に近づかなければこちらの剣が当たることはない。しかしそれではあの爪に押しつぶされてしまうだろう。よってただ一つこの奥義に仕掛けをしなければならない。総司は《黒光》を鞘にしまい、《白和》を両手で握り上段に構える。すると《白和》に金色の光が集まる。そしてその光はいつしか一振りの大剣をかたどった。

 

「・・綺麗」

 

誰かが呟く。それはまさしく多くの物語で語られるあの剣のようであった。伝説の王が持っていたとされているその剣。竜を斬った伝説はその剣にはないにしろ竜を斬るには相応しい剣であろう。もちろんだがその剣はのちに七星剣舞祭の伝説として語られることなる。《竜殺しの聖剣》。またの名を『Excalibur for Dragon Killer』と。

 

 

脚に力を込め、竜は跳び出す。その速さは普通の人間の眼には全く映らないほどの速度。しかし眼の前で大剣を上段に構えた人間の眼にはしっかりと捉えられている。そしてついにその人間は金色の剣を振るった。

 

それに合わせ竜も爪を・・・・その瞬間竜の視界はブラックアウトした。記憶もショートし抜け落ちている。

 

次に目を覚ました竜に告げられたのは・・・自分がルール上勝利したこと。そして最愛の恋人も勝利したこと。自分が3日間も目を覚まさなかったこと。決勝は明後日から行われること。そして自分を()()()あの男が仲間と共に消えてしまったことであった。




いかがだったでしょうか?

次回で七星剣舞祭編は終了となります。そしてオリジナルストーリーにえと繋がっていくこととなります。

そちらもある程度はプロットも完成しているのですが、まぁ少しずつ変えつつ色々挑戦していけたらと思っています。


さてさてこれからどうなっていくのか。これからも楽しんでいただけることを祈りつつ、これからも頑張って投稿していきますのでよろしければ応援していただけると幸いです。

今回も感想、評価、批評募集しております。よろしければお願いします。

ではまた次回会いましょう!!!

簾木 健


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後日

さて今回で七星剣舞祭編は最後となります。

今回も楽しんでいただければ嬉しいです

簾木 健


「そうちゃんよかったの?」

 

亜麻色の髪をたなびかせながら少女が尋ねる。

 

「ああ。いいんだよ。一輝とはちょっと戦ってみたかったけどそれは次があるだろうしな」

 

「そうちゃんはそういうとこは本当にドライだね」

 

アハハと銀髪の男の子が笑いながらそう言うとそのタイミングで金髪で白いドレスに白い傘を差した女性が3人に近づいてきた。

 

「今美奈さんが荷物の確認をしていますがそれ以外は準備ができましたよ」

 

「おっそうか。じゃあそろそろ乗るかね・・・そんなことより」

 

そこで黒髪長身の男が3人を見ていう。

 

「みんなこそよかったのか?おれについてくるってことの意味わかってる?」

 

男のその言葉に一瞬3人はポカンとして一斉に笑い出した。

 

「な、なんで笑ってんだよ?」

 

「ふふふ。そうちゃんは優しいですね」

 

「ええ。やっぱりそこが総司さんの良いところですね」

 

「そうだけどここまで来て今更野暮だよ。僕にしても、刀華にしても、カナタにしてもきちんとわかってるよ。それでもそうちゃんについて行こうとしてるんだから・・大丈夫だよ」

 

「たくっ本当によかったのかね」

 

「さすがはぼっちゃん!!良いお仲間をお持ちで!!」

 

そこにさらに一人の男がやってくる。相変わらずの騒がしさだがそれもいい。

 

「陣さん安全に頼むよ」

 

「ええ。わかってます!なにより今回は奥様も乗るのでちょっとでもミスが起きると・・」

 

「あら陣助私はなんにもしないわよ」

 

「絶対それは嘘ですよ!!!前もちょっと揺れただけで操縦席に乗り込んできて強引に操縦したこともありましたよ!!!??」

 

「・・あの時は若かったのよ」

 

「ついに2、3か月前ですよ・・」

 

「総司兄荷物の積み込みも終わったよ」

 

「おっそうか。じゃあみんな乗るぞ」

 

そうして全員が飛行機に乗り込んでいく。総司は最後まで残っており、そして一人の老人に話しかけた。

 

「師匠行ってきます」

 

「ふぉふぉ行って来い。総司、お前はもう一人前じゃ自分で考え好きに生きると良い」

 

「・・ありがとうございます」

 

「宗吾からは走り回ってるから伝言を預かっとるぞ。『玖原は心配するな。なんとでもしてやる』だとよ」

 

「そこは心配してないので大丈夫ですよ。ではそろそろ行きます。またいつか」

 

「ああ。またの」

 

そうして男は旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得できない!!!!!!!!!!」

 

ステラは叫んでいた。その目の前には巨大はテーブルとそこに大量の食事が置かれている。その食事を次々と胃の中にぶち込んでいく。

 

「そうは言っても一応勝ったんだからいいじゃねえの?」

 

寧音はテーブルの対面に座りそんな風に言うとキッとステラは寧音を睨んだ。

 

「ネネ先生わかってるでしょ?私が斬られたことも・・ソージさんとアタシには圧倒的な差があることも」

 

「まぁね。解説席からしっかり見てたよ。ステラちゃんが総司ちゃんの黄金の剣に斬られた瞬間」

 

ニヤリと寧音は笑う。それにステラはキ―ッと言いながらチキンにかぶりつく。

 

「ただね・・・ルール上総司ちゃんはやってはいけないことをしたしね」

 

あの黄金の剣でステラを斬った時、それと同時に総司は審判と会場もろとも斬ったらしい。会場の4分の3を破壊され、審判もキリコのおかげで一命はとりとめたがかなり危険な状態だった。会場に見に来ていた人たちは係の伐刀者(ブレイザー)によってなんとかけが人を出さずにすんだが、その行為はあまりにも危険であったとされ、反則負けとなった。しかしそれにステラにしても一輝にしても総司と剣を交えた人間は誰も納得していなかった。というかわかっていた。

 

「ソージさん確実にわざとよね」

 

「・・たぶんな」

 

総司はそんなことをしないことを特にこの2人はよくわかっていた。そんな自らの力をコントロールできない伐刀者(ブレイザー)などとは次元が違うと。

 

「本当に強かったわ」

 

ステラ零す。それに寧音はふんと鼻を鳴らした。

 

「その辺は総司ちゃんが戻ってきたら聞くといいよ。今は玖原が連れていってるらしいから・・ありゃ電話?」

 

電話を告げるアラーム。電話の相手は黒乃だ。なんだろうと思い電話に出る。

 

「もしもしくーちゃんどうしたの?」

 

「寧音!!玖原たちやりやがったぞ!!!」

 

「うん?やりやがった?ちょっと待ってね」

 

寧音はステラから離れる。黒乃のトーンから考えてステラに聞かせるにはマズイだろう。

 

「で?なにをしたの?」

 

ステラから距離を取り、近くに誰もいないことを寧音が切り出す。

 

「今日玖原のところから使いが来てな。玖原、東堂、御禊、貴徳原の退学届を持ってきやがった」

 

「なっ!?」

 

「しかもあいつら玖原に連れていかれて姿を消してからの動向を調べたんだが・・・もう日本にはいないらしい。しかも恵さんまでも一緒にな」

 

「ちょっと待て!!くーちゃんまさか・・」

 

「ああ。日本は魔人(デスペラード)を二人も国外に逃亡させてしまった可能性がある」

 

今世界は動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつあないな使い方するなんて・・わいですら思ったこともなかったわ」

 

「あら、そうなの?確かにあなたは魔力制御が苦手だしね」

 

「うっ!まぁでも今回のおかげでわいが目指すべき道の一本は見えたなってことでよかったとしとくわ」

 

「そうね・・」

 

キリコはまた雄大の実家である『一番星』にきていた。注文したお好み焼きは完食し、お客さんも少なくなっていることもありゆっくり雄大と談笑していた。

 

「で?やっぱり総司のやつどっか行ったのか?」

 

「ええ。でもキチンと私のことは誘ってくれにきたわよ。病院のこともあるし、総司君からお願いされたこともあったから断っちゃったけどね」

 

「そうか。ならええわ」

 

雄大はヒヒッと笑う。

 

「先生は総司のことが大好きやからな。誘われんかったら相当機嫌も悪くなって残ったおれがとばっちりを食うところやったからな」

 

「あら?そんなこと言っていいと思ってるわけ?」

 

笑顔だ。キリコは笑顔だがなんというか笑っていなかった。雄大もマズイと思い話しを変える。

 

「そ、そういや先生。わいの身体はもう大丈夫なんやな」

 

「ええ。大丈夫よ・・でも本当に行くの?」

 

「ああ。強くなるには実践が一番や。あそこなら、《闘神リーグ》ならぴったりやで」

 

《闘神リーグ》それは連盟加盟国ではない中華連邦の《神龍寺》行われるリーグであり、武の頂点とも言われるほどのリーグである。日本では唯一東堂刀華の師匠南郷寅次郎がそのリーグを制し《闘神》の二つ名を得た。ただそこは常時戦場の地獄。ルールもなにもない。毒、罠、共闘、裏切りすべての戦闘手段が許される場所だ。

 

「わいは今回の七星剣舞祭で自分の未熟さを知った。しかも同年代にあんな化物がおるんや。あれに追いつくには普通の努力じゃ足らん。より地獄により強くなるためにやれることをやらないかん。やから、わいはいくで」

 

「そう。もうそこまで覚悟してるんなら止めて無駄でしょうね」

 

キリコは席にお代のお金を置いて立ち上がる。

 

「じゃあ私は病院に帰るわ。もし身体になにか異変があったらいつでも来ていいわよ」

 

「ああ。なんかあったら世話になるわ。あと総司におうたら先生のところに行くように言っとくわ」

 

「それはいいわ」

 

キリコは笑って雄大の提案を断る。そしてその理由を言った。

 

「総司君はキチンと私のところに会いに来てくれるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてここか」

 

総司は今ヨーロッパ中央部を東西に横切る世界有数の天険。アルプス山脈。その天の衝く山々の迷宮。その岩と雪だけの世界に総司はいた。

 

「まぁまさかこんなところにあるとはな解放軍(リベリオン)の本拠地」

 

「そうね。でも流石は解放軍(リベリオン)の本拠地。ここまで完璧な自然の要塞はうち以外知らないわよ」

 

「というかなんで母さんもついて来たんだ?刀華や陣さんたちと待っててよかったのに」

 

「こっちの方が()()()()()がしたからよ」

 

フッと恵が笑う。その笑顔は総司に似て獰猛な獣だった

 

「まぁいいんだけどさ・・っとここか」

 

高さ20メートルの重厚の鉄扉。その鉄扉を開けるとなると普通の人間には不可能だろう。しかしここに来た二人は普通の人間じゃなかった。

 

「母さん行ける?」

 

「当たり前でしょ。まだちょっとストレス溜まってるから邪魔するやつは刺すわよ」

 

総司が小太刀を一本抜く。そしてスッと一振り。一瞬の間の後。キンという音と共にその鉄扉は斬り裂かれた。そして激しい音と共に鉄扉は天険に落ちて消えた。

 

「ちょっと音デカかったな」

 

「いいでしょ。暗殺に来たわけじゃないんだし」

 

「・・今度はもっと頑丈な扉にしないといけないな」

 

そんな会話をしている二人の後ろには大量の人間が倒れている。この門を守っていた解放軍(リベリオン)の兵士たちだ。この兵士たちはここに生身で登ってきた人間を機関銃などの武装で迎撃を試みた。しかしそれは一切通用しなかった。すべての武装はこの二人の前に無効化され見事制圧されてしまったのだ。

 

「さてとやっぱり中にはもっといるか」

 

ドアの向こうにはさらに多くの兵士たちがいた。それ兵士たちはここまで登ってきたこの二人の異常性をしっかりと理解しその上で・・

 

「撃て!!!!!!」

 

さっきよりも大量の機関銃や戦車を用意した。しかし……そんなものはこの二人の障害になどなりはしない。

 

「風神結界」

 

総司を中心に風が巻き起こる。それによりいま砲撃されたすべての砲撃をあっさりと弾き飛ばした。

 

「いくらやっても無駄だ。こちらの要件を聞け。風祭晄三を出せ。話しがあるのはその人だ」

 

「そんな要求こちらがのむとでも?」

 

兵士の隊長であろう男が尋ねる。それにフッと総司は笑った。

 

「のむかのまないかの選択肢はお前らにないよ。それに・・もう制圧した」

 

「え・・」

 

そこで兵士全員が自分の身体が一切動かないことに気付いた。そしてこの男に自分たちはどんなに足掻いても勝つことは出来ないという事実悟り沈黙するしかなかった。

 

「さて風祭晄三はあの建物の中だな」

 

総司たちは兵士たちを縫って進み解放軍(リベリオン)本部の建物に向かう。すると建物入り口の前には一人の隻腕の男が立っていた。

 

「貴様たちは!!!」

 

その男は立っていた男女に驚いてしまう。それもそのはずだろう。日本の国籍を持つ伐刀者(ブレイザー)しかも魔人(デスペラード)が二人も立っている光景に驚かないものなどいないだろう。

 

「やっとちょっとは話が出来そうな人がいた」

 

総司はやれやれと言った表情で要件を告げた。

 

「風祭晄三に用がある。悪いが案内を頼めないか?」

 

「・・どういう要件だ?」

 

「ねえ総司この人ってもしかして」

 

「ああ。《隻腕の剣帝》サー・ヴァレシュタインだな。前はうちの後輩がお世話になったな」

 

「ふん。それで要件はなんだ?」

 

「そういえば言ってなかったな。えっと言葉を選ばずにはっきりいうぞ」

 

総司は衝撃の言葉を口にした。

 

「おれが《暴君》から解放軍(リベリオン)を継いでやるよ」




いかがだったでしょうか?

次回からはオリジナルストーリーとなります。衝撃の一言で幕を閉じた七星剣舞祭編ですが、これから物語をより加速していけるように頑張っていきますのでこれからも応援のほどよろしくおねがします。

今回も感想、評価、批評募集しております。よろしければお願いします。

ではまた次回会いましょう!!

簾木 健


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目標

さて新章です。

ここからは物語を世界へと移し総司たちの活躍を描いていけたらと思っていますのでこれからもよろしくお願いします。

では今回も楽しんでいただければ嬉しいです

簾木 健


七星剣舞祭は怒涛のままに終了となった。優勝したのは一輝。ステラとの決勝戦で会おうと約束を誓い、そこで運命という輪廻の外側に立つことで勝利をした。そして表彰式の後。破軍学園理事長・新宮寺黒乃を通して二人は呼び出された。聞くところによると、黒乃と寧音を交えた4人に、月影から秘密の話があるとのことだった。呼び出され場所は湾岸ドームのリング。いまだに闘いの熱気の残るこのドームには夜の冷たい風がちょうどよかった。そこにいたのは現世界ランキング4位フランスのA級騎士《黒騎士》、アスカリッドだった。総司とステラは不意打ちでありながら少し剣を交えた。ステラは不意打ちに憤慨していたが、それも許させたところで月影が本題を切り出した。

 

「君らを呼んだ理由はいくつかほどある。話さなければならないことに、聞きたいこと、そして聞いてもらいたいことがあったからだ」

 

月影の真剣な口調にステラと一輝が背を正す。

 

「まず話さなければいけないこととは一輝君。君がステラ君との闘いの中で起こった変化についてだ」

 

そして一輝はついに自らの肉体に起こった変化についてその現象は《覚醒(ブルート・ソウル)》と呼ばれ、そしてそれに至り、運命の輪廻の外側に存在する人間のことを《魔人(デスペラード)》と呼ぶこと。そしてそれは悲劇を生まぬために秘匿とされていることを知った。そこで一輝は一つの疑問に至る。

 

「今日本には《魔人(デスペラード)》は何人いるんですか?」

 

その質問に月影は少し目を細める。その表情は何かを憂いているような気がした。

 

「まず《闘神》南郷寅次郎氏と《天陰》玖原鷹丸氏。そして南郷氏の愛弟子である《夜叉姫》西京寧音君。さらに《瞬神》玖原恵。そしてつい先日に一人、一輝君よりも少し早く至った人がいる」

 

「・・総司先輩ですね」

 

「ええ。一輝君の言う通り《閃光》玖原総司です。もっとも彼にその二つ名は適切ではないと私は考えていますけどね。そんなことよりもステラさん彼についてもう一つ聞きたいことがあります」

 

そこで月影の告げた一つの疑問はここにいる全員が驚いた。

 

「アリスカッド君もしくは寧音君と彼どちらの方が強いかな?」

 

「「「「えっ」」」」

 

二人はすでに《魔人(デスペラード)》となって月日が経っている。そんな二人とつい先日成った総司は普通は比較にもならない。しかしステラの答えはあまりにも恐ろしいものだった。

 

「正直に言うと二人の強さの底は見えないわ。でも・・ソージ先輩の底はもっと深かった気がするわ・・・いえ、回りくどいわね。はっきり言うわ。ソージ先輩の方が私から見たら強いと感じる」

 

その言葉に月影以外の全員が息を飲む。息を飲むかわりに月影はハァと一つため息をついた。

 

「やはりそうだったか」

 

「やはりとは先生どういうことですか?」

 

その黒乃の問に月影は言った。

 

「今回の一件。玖原総司は七星剣舞祭を棄権となった。その理由としては審判を傷つけたことと会場を破壊したことだった。しかし実はそれは《玖原》からの圧力の結果だ。実際会場を壊したことや審判を傷つけるということは、まれではあるが起きているが問題には上がっていない。というかそもそも、会場は《魔導騎士》が防御しているから壊れることは本当にまれだがね。しかし今回《玖原》は一方的に玖原総司を棄権させた。予測だが《玖原》にはなにかがあるんだろう」

 

「そういえばさっきから《玖原》って言ってるけど《玖原》も日本に所属する家でしょ?日本政府の力でなんとかできないの?」

 

ステラの問にそこにいる全員の顔がサッと曇る。そして寧音が説明を始めた。

 

「ステラちゃん。実は《玖原》には日本政府でも手がでないんだよ」

 

「え?」

 

「確かに日本出身ではないステラ君がこれついては知らないのは当たり前だ。では少し《玖原》について説明しよう。ステラ君はどれくらい《玖原》について知っているかな?」

 

「えーと……九州の山奥に家があって《天陰流》という流派を扱う。元々は政府の裏役を行っていたニンジャっていうくらいですね」

 

「なるほど。一度は《玖原》に行ったこともあり大枠は理解しているようだね。かれらは昔から日本政府の忍び・・影として仕えてきた一族だ。表の《黒鉄》、裏の《玖原》。この二つの家が表裏一体として日本政府を支えていた。しかし戦後、《玖原》は連盟に入るおり日本政府から独立し様々なところからの依頼を受ける傭兵のような一族となってしまった。所謂《玖原》は日本にありながら日本に所属しない一族なんだ」

 

「でも、政府にはネネ先生みたいに力のある伐刀者(ブレイザー)がたくさんいるでしょ?その人たちで制圧してしまえば・・「ヴァーミリオンそれは無理なんだ」・・・理事長先生それはどうして?」

 

「《玖原》には《天陰》がいるんだ。しかも《玖原》の人間は全員凄まじい戦闘訓練を受けた精鋭部隊。それらとあの自然の要塞の中で戦うのは正直愚策だ」

 

「《天陰》ってそこまでの伐刀者(ブレイザー)なの?」

 

「《天陰》こと玖原鷹丸氏は《大英雄》黒鉄龍馬以外に唯一《暴君》を撃ち倒したと言われる伐刀者(ブレイザー)だ」

 

「え・・それって・・」

 

「これは後の話に少し関わることですが、今世界は三大勢力によって秩序を保っている。それは各勢力に力を持った魔人(デスペラード)がいるためです。《連盟》には、KOK現世界ランキング一位《白髭公》アーサー・ブライト。同盟には二十代という若さで米国が誇る《超能力者(サイオン)》の長を務める《超人》エイブラハム・カーター。そして《解放軍(リベリオン)》には第二次世界大戦以前より闇の世界に君臨し続けるならず者の王盟主《暴君》。この三人のおかげで三つの勢力は均衡を保っています。しかし《天陰》玖原鷹丸にはこの三人と同等の力がある。これがどういう意味かわかりますか?」

 

「もし《玖原》に敵対して《天陰》が出てきたら三大勢力を崩壊させる力があるってこと?」

 

ステラはその事実に驚愕する。確かに実際に会った時、果てしなく強いと感じたがまさかここまでとは思っていなかった。そこで寧音がガシガシと頭を掻く。

 

「うちのくそじじいも同じくらいの強さを持ってるけど、もう関わらないと決めたらしくてこの辺には一切手をださないんだ。何かあれば手を貸してくれるかもしれないけど・・基本的にはノータッチ」

 

「・・ということはかなりマズイ状態なんではないんですか?」

 

この話を自分の中でまとめきった一輝が口を開く。

 

「今《魔人(デスペラード)》と政府が認識している人物は僕を入れて6人。うち三人は《玖原》の関係者で残りの三人のうち一人は手を出さない。ということは政府が攻められでもしたら・・」

 

それは月影の懸念していたことではあったが本筋ではなかった。だから月影は首を横に振る。

 

「その心配は今はない。なぜなら日本政府はもっととんでもないことをしてしまったからね」

 

「もっととんでもないこと?」

 

ステラが首を傾げる。それに月影は頷きハァとため息をついた。そんな月影の代わりに黒乃が口を開く。

 

「玖原総司と玖原恵の二人はすでに日本にいない。あの棄権騒動で私たちがバタバタしている間に日本から出ていっている」

 

「「なっ!!!」」

 

それが意味することを一輝とステラはよく理解していた。日本における最大戦力を国外に出してしまったしかも監視もなにもなく。それはあまりにも危険でそして何がおきるのかわからない。

 

「どうするのよ!?しかもソージさんは・・」

 

「たぶんだが彼ほど危険で恐ろしい能力を持った伐刀者(ブレイザー)はいないだろう」

 

月影の言葉は重かった。総司は能力を奪うことの出来る伐刀者(ブレイザー)。その恐ろしさはこの場にいる全員がよく理解している。あの男は野放しにしてはいけない。

 

「でもどうする?すぐにでも探すのでしょう?」

 

「そのつもりだったのだがね。実は彼らの居場所はもうわかっているんだ」

 

月影の表情がまた曇る。この事実は寧音や黒乃もまだ聞かされていなかったらしく。二人は食いついた。

 

「それで先生、玖原はどこにいるんだ?」

 

「そうだね。すぐに行けるのであれば今すぐにでも行ったほうが良い」

 

「・・《解放軍(リベリオン)》に彼は行ったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて《解放軍(リベリオン)》の幹部《十二使徒(ナンバーズ)》の皆さんはじめまして。玖原総司です」

 

円卓に腰かけている人たちは皆大富豪や国家の重鎮とされる人たちその人たちに総司は堂々と話しをしていた。

 

「簡単に言います。おれが《解放軍(リベリオン)》を継ぎます」

 

その円卓に座る人たちが全員息を吞む。

 

「今《解放軍(リベリオン)》は弱体の一途を辿っている。このままでは三大勢力のバランスが崩れて崩壊して戦争が始まってしまう。その前におれが《解放軍(リベリオン)》を立て直してやるよ」

 

総司は圧倒的な自信を携えそう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして。玖原総司です」

 

「ええ。はじめまして風祭晄三です。玖原鷹丸氏はお元気でしょうか?」

 

「はい。今も元気ですよ。今回はご尽力ありがとうございました」

 

「ああ。それにしても、君は()()()()()()()()()()()()

 

「・・すべて知っていますよ」

 

「そうか・・・」

 

「ええ。それも知ったからこそこうして自分が動きました」

 

「・・君は自分が世界の要石となると?」

 

「それでも構いません」

 

「しかしどうしてそこまでのことができる?君はまだ若い。もっと・・」

 

「・・おれにはどうしても守りたいものがあります。そのためにならおれはどんな手段でも取りますよ。それに」

 

「それに?」

 

総司はそこで席を立つ。そしてニヤリと笑った。

 

「おれは一度最恐の悪者になりたかったんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてじゃあこれからの目標を言うぞ」

 

そこは総司たちが《解放軍(リベリオン)》から用意してもらった家。そこで今後の方針を決めるための会議を行っていた。

 

「おれたちの当面の目標は二つ。一つは国際魔導騎士連盟副長《翼の宰相》ノーマン・クリードの能力を奪うこと。そしてもう一つは《傀儡王》オル=ゴールを殺すことだ」

 

総司が提示した作戦は二つとも困難を極める。それはここにいる全員が理解した。それをわかっているものとして総司は説明を続ける。

 

「まず、《翼の宰相》についてだが、やはり連盟本部に乗り込むことになる。そこでその時についてきてほしいのはカナタと泡沫、あと陣さんだ。三人ともいいか?」

 

名前を呼ばれた三人は静かに頷く。初の任務として失敗は許されないと三人とも緊張していた。しかしそんな三人に総司は笑いかける。

 

「大丈夫こっちの依頼は難しい問題だけど、失敗してもなんとかなるから気楽に頼むよ・・本当に問題なのはもう一つの方だ」

 

「そうね・・・・総司それ私にやらせてくれない?」

 

恵が手を挙げる。

 

「母さん悪いけどこれはおれがやると決めた。それにおれの方が遂行もしやすい。あと母さんと、刀華には少し頼みたいことがあるんだ」

 

「私と恵さんに頼みたいことですか?」

 

「ああ。母さんはっきり言って今の刀華じゃこれから戦うことはかなり厳しい。それはカナタにも言えることだけど・・まずは刀華だ。母さんは刀華を鍛えてほしい」

 

「・・なるほどね」

 

恵がニヤリと笑う。

 

「ようは刀華ちゃんを限界まで追い込んでいいってことね」

 

ゾクッと刀華は鳥肌を立てる。そうこの人はこの間まで壊れた脚をそのままにして戦場から遠のいていたがそれでも魔人(デスペラード)なのだ。脚の直った今その力は段々と取り戻しつつある。だからこそ自分を鍛えることでリハビリも同時にこなすということを総司は思いついたのだろうと刀華思う。

 

「私は構いませんよ。むしろ恵さんに鍛え直してもらえるなんて光栄です」

 

「刀華もこう言ってるしどうかな母さん?」

 

総司の問に恵は腕を組んで少し考えてから言った。

 

「総司それなら少し行きたい場所があるのよ」

 

「行きたい場所?」

 

「ええ。ちょっと鍛錬に良い場所を知ってるのよ。そこに行ってくるわ。美奈も借りていくわね」

 

「まぁ母さんがそう言うならいいんだけど・・あとでどこにいるか位置情報だけ送ってもらえる?」

 

「あーごめんそこは電波外なのよ。だから先に言っておくわ。刀華ちゃんも覚悟するのにちょうどいいでしょ」

 

恵が獰猛な笑顔を浮かべてその行き先を告げた。

 

「行くのはエストニアのそびえる霊峰。エーデルベルグよ」

 

「はぁ!?ちょっと待ってくれそこって・・」

 

「ええ」

 

恵が頷く。そこはすでにエストニアの国のものではない。とある化物からの干渉さけるために、国が放棄した場所である。ただそんなみんなの心配をよそに恵はあっけらかんと言った。

 

「私あそこには自由に言っていいってエーデから許可も取ってるから大丈夫」

 

ゾクッと鳥肌が立つ。やはり恵も世界に巣食う化物の一人だと刀華やカナタ、泡沫は再確認した。

 

「うまくいけば私とエーデで鍛えて・・しっかり地獄を見せてあげる」




いかがだってでしょうか?

もう戦うところはここしかないと思いましたww

初の魔人同士の戦闘もしっかりと書いていけたらと考えていますので楽しみしていただけると嬉しいです。

ただ次回は少しほのぼのとした話に出来たらと思っていますのでそちらも楽しんでください。

今回も感想、評価。批評募集していますのでよろしければお願いします。

ではまた次回会いましょう!!!

簾木 健


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信愛

今回で50話になりました。なんか早かったような……遅かったような……

これからも頑張っていこうと思っていますのでよろしければ読んでいただけると嬉しいです。

では今回も楽しんでいただけると嬉しいです。

簾木 健


「さてとりあえず英国には簡単に入れたな」

 

総司、カナタ、泡沫、陣助の4人は英国。ロンドンの空港に到着した。ここまでの飛行機の手配は《解放軍(リベリオン)》に手配をしてもらいうまく英国には侵入できたのだ。

 

「ええ。そうですね」

 

「うわーボク英国は初めてなんだよ」

 

「おれは久しぶりだな……さて早速だけど陣さん。宿と荷物は任せていいんだよね?」

 

「もちろんです!!!お三方は今日はゆっくり観光でもしてきてください!!!!自分は下準備を行っておきますので」

 

陣助はドンと胸を叩く。それに総司はフッと笑った。

 

「悪いな。ありがとう。あと……下手は打つなよ」

 

「わかってますよ。では荷物を持って先に言っておきますね。後ほど宿で」

 

そう言って陣助は行ってしまう。今回の作戦は出来るだけ大事にはまだしたくない。それが総司たちの考えだった。

 

「しかし月影さんとはおれの動向を把握してるだろうし……こっちまで伝わってないなら動きやすいんだがな」

 

「まぁまぁそうちゃん今は作戦のことを忘れよう!!折角英国に来たんだから色々行こうよ」

 

泡沫が明るくはしゃぐ。その様子に総司は力が抜ける。カナタもふふっと微笑んでいた。

 

「わかった。泡沫はどこか行きたいとこあるのか?」

 

「えっとね。とりあえずビックベン!!!」

 

「王道だな。カナタはどこか行きたいとこあるか?」

 

「私は総司さんとならどこへでも」

 

「カナタ。そう言ってくれるのはすごく嬉しいけど、たまには我儘言っていんだぞ」

 

「………そんなこと言ってくださるのは総司さんだけです」

 

カナタが笑みを浮かべる。それに総司も笑った。

 

「カナタ行きたいところは?」

 

「では紅茶を見にいきたいです。新しい場所にも良い紅茶を置きたいので」

 

「わかった。泡沫もそれで……どうした泡沫?」

 

その総司とカナタを見ていた泡沫はハァと呆れたようにため息をついた。

 

「わかってるつもりだったけど、そうちゃんとカナちゃんって夫婦感がすごいよね」

 

「なっ!?」

 

「まぁまぁ」

 

「なんかボクお邪魔な気がしてきたよ」

 

「いや、いていいからというかいてくれ」

 

総司がバッと頭を下げる。

 

「そうちゃんこうしてると《魔人(デスペラード)》とは想像もできないよね」

 

「そうですね」

 

二人は楽しそうに笑う。総司は頭を上げ同じように笑う。

 

「さて時間は限られてるしいくか」

 

総司はそう言って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一応これで全部周ったな……」

 

場所は市街地のカフェ。そこで三人は紅茶を飲んでいた。泡沫が行きたいと言っていた場所を周り、このカフェの紅茶が評判であり、販売もしているということだったのでこの場にやってきた。

 

「そうだね。いやーなんかボクばっかりはしゃいでごめんね」

 

泡沫が笑う。総司も少し気怠さを感じらがらもフっと笑った。

 

「いいよ。七星剣舞祭が終わってから怒涛のようで、こんなゆっくりできることなかったからな」

 

「そうですね。ここの紅茶も評判通りおいしいようですし、帰りにちょっと多めに買っていきましょう」

 

カナタも優雅に紅茶を飲みながら言った。

 

「えーとじゃあ勝手だけどボクは宿に戻ってるね。そうちゃんとカナちゃんはもうちょっとゆっくりしておいでよ」

 

そう言いながらピョンと椅子から降り総司に止める暇など与えずに出口から出ていってしまった。

 

「……それで?カナタ何の話?」

 

泡沫が出ていき総司とカナタをここに残した理由は検討がついていた。

 

「さすがは総司さんです。すみません」

 

カナタも総司が理解していることを理解し、一言謝罪を入れる。それに総司はいいと手を動かす。

 

「おれもカナタに話があったからちょうどいい。それで?要件は?」

 

「そういうことでしたら総司さんの要件をお先にどうぞ。私の話が後の方がよろしいと思いますので」

 

「そっか。じゃあ……カナタ。()()()は大丈夫なのか?」

 

それは今まで聞けずにいたが、必ずこれから立ちはだかる問題であった。貴徳原はかなりの名家だ。玖原も名家ではあるが、今回の件は元々玖原の発案で総司は玖原を飛び出してきた。しかしカナタは貴徳原に何も言わずにここまで来ていた。それが総司は気がかりだったのだ。

 

「そうですね……正直言いますけど大丈夫ではないです」

 

「だよな」

 

カナタが珍しく苦笑いを浮かべる。カナタは普段表情があまり変化しない。こんな風に表情に色が出てくるのは幼なじみである総司や親友の刀華の前だけだ。

 

「とりあえず……玖原の方から手をまわしておくよ」

 

「お願いしますね。それとこれは私の話でもあるんですが……」

 

カナタはふうと息を1つつき、声を整える。そしてまっすぐに総司を見ていった。

 

「総司さん……そうちゃん!!私と結婚してください」

 

「………………ハァ!?」

 

思わず立ち上がり総司が叫ぶ。さすがに周りの人たちもその声に驚き二人を見る。しかしその視線など今の総司に気にする余裕はない。

 

「本気?」

 

「さすがの私でもこんなこと冗談ではいいません」

 

「いや……悪い。それはわかってるんだけど……マジ?」

 

「ええ。とりあえず座ってください。周りも見ていますから」

 

「えっ!あ、ああ」

 

総司もゆっくりと席に着く。それで周りのお客さんも視線を二人から逸らす。

 

「で?どういう考えって……なんでカナタ笑ってるんだよ?」

 

「いえ。そうちゃんがここまで焦ってくれるなんてなんだか嬉しくて」

 

「そりゃ急にプロポーズされたらこうなんよ」

 

「そうですね。順を追って説明しますね」

 

総司もカナタも二人で落ち着き話を始める。

 

「えっと私としては総司さんの傘下に貴徳原自体取り込んでしまうのがいいのではと思うんです。そうしてしまえば私や総司さんの力で貴徳原の財力を使うことができるようになりますし、それが最も合理的だと思います」

 

「……カナタ。おれ前に言ったよな」

 

そのカナタの説明総司が低い声で告げる。

 

「おれはそんな政治的な理由で結婚とかはしない。もちろんそれで幸せになれる可能性もある。でもあれは真に幸せにはなれないと思う。だから……」

 

その考えは昔から総司が持っている考え。それはカナタも知っていた。しかしカナタは笑いかけた。

 

「それはわかっています。でも私は心から総司さんを愛していますよ」

 

「……昔から変わらないな」

 

「この気持ちは永遠に変わりません」

 

カナタが手を胸に当ててそうつぶやく。幼き頃の約束。それは総司も鮮明覚えている。総司自身の初恋もカナタなのだ。

 

「カナタ。おれは()()だ。人も数がわからないほど手にかけてる。それでもいいのか?」

 

「気にしません。そんな総司さんも好きですよ」

 

「おれはまだ……決めきれてない」

 

「そうです。その件なんですが………」

 

カナタがパンと手を叩く。それに総司はキョトンと首を傾げる。そしてカナタは衝撃的なことを言った。

 

「みんな一緒に囲ってしまえばいいんですよ」

 

その言葉に総司は一瞬目を見開き、ハァとため息をついた。

 

「カナタ結構すごいこと言うな」

 

「だってもう総司さんは日本の国籍に縛られていません。ですから法律も関係ありません。だから刀華ちゃんもキリコさんもみんな一緒に幸せにしてください」

 

「昔読んだどっかの漫画みたいなこと言ってるな」

 

「でもそれが一番だと思いません?」

 

「そんな突拍子もないこと想像したこともなかったよ」

 

「それで総司さんどうしますか?」

 

「……今ここで答えをださないといけないか?」

 

「総司さんわかってるでしょ?」

 

カナタがニッコリと笑う。その笑顔は無邪気だがなにか黒いものを持っていた。その笑顔に総司も観念した。

 

「わかったよ。カナタ………一緒になろう」

 

「えっ……」

 

カナタが両手で口を押さえる。そんなカナタを尻目に総司は左手の手の平に魔力をあつめる。すると一瞬間にその手の上に指輪が乗っていた。

 

「カナタ左手の薬指を出してくれ」

 

「………はい」

 

少し涙を溜めながら左手を差し出す。総司は左手でカナタの左手を優しく持ち、右手でカナタの薬指に指輪をゆっくりとはめた。

 

「世界一つだけのものだ。どうだ?これではだめか?」

 

それにカナタは涙を流しながらも首を横に振る。そんなカナタに総司は満足気に笑った。

 

「じゃあこれからよろしくお願いします」

 

「こちらこそ……よろしくお願いします」

 

左手の指に輝くのは青い石。それは美しくカナタによく似合っていた。




いかがだったでしょうか?

50話に相応しい区切りの良い回になったのではと思っています。

さてこれからものんびりと投稿していけたらと思っていますので、これからも楽しんでいただけるように頑張っていきます。

それではまた次回会いましょう。

今回も感想、評価、批評募集しています。よろしければお願いします!


簾木 健


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砂漠

なんかすごいことになちゃってます

今回も楽しんでいただけると嬉しいです。

簾木 健


「ちっ!!」

 

「大丈夫ですか!!宰相!!」

 

「すまん。賊を逃がした」

 

「いえそれより《白髭公》には?」

 

「報告はまだだ。しかしあの男……今すぐだ!今すぐ連盟各国に伝える必要がある!今すぐ通達を出す」

 

「何をでしょうか?」

 

「玖原だ!玖原総司を国際指名手配する!!」

 

そう言った宰相の頬は薄く斬られて、血が垂れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕を呼び出すなんてなんのようかな?」

 

場所は砂漠。このあまりにも暑い場所である。しかし笑顔でそう告げた子どもは黒いフードを被っていた。しかしそれと対峙している男もまた逸脱した格好をしていた。

 

「いや……まぁテメエにちょっと言っとくことがあってな」

 

乾いたボサボサの頭髪に黒一色の陰気な装いを纏う男。この恰好でも世界から逸脱していることはわかるが、しかしこの二人が身に纏う魔力をさらに普通から逸脱していた。黒いフード被った子どもは《傀儡王》として世界を掌握しているとさえいわれる魔人(デスペラード)オル=ゴール。そしてもう一人の男は史上最強の傭兵と呼ばれる魔人(デスペラード)砂漠の死神(ハブーブ)》ナジーム・アル・サーレム。この二人が相対していた。

 

「なにかな?こう見えても結構僕危ないんだ。色んな人から追われてる」

 

「そんなもん言われなくても知ってる……この間の話を断ることにした」

 

「……ふーん……そっか」

 

そう言いながらオル=ゴールは自身の武器である鋼線を両腕から出す。湧き上がる殺気は常人であれば身を震わせ、動くことすらできないだろ。しかしそんな殺気に対し、ナジームは笑った。

 

「なんで笑ってるのかな?」

 

「いやこんな殺気を当てられるのは久しぶりでよ。おめえの相手をしたくなったが、今日の仕事ではおめえを譲らねえといけねえんだ」

 

「はぁ?」

 

砂漠に急に激しい風が吹く。砂を巻き上げ、オル=ゴールに迫る。それに対しオル=ゴールは自身を鋼線で包むことで防ぐ。砂嵐がオル=ゴールを通り過ぎ、ナジームがいたところを再度見ると、そこにはナジームではない別の男が立っていた。短髪の黒髪。紋付の袴を身に纏った目つきの鋭い男。その男をオル=ゴールは知っていた。自身が末端で操っていた人形から見たことがある。

 

「本人と会うのは初めてか。初めまして《傀儡王》」

 

「ヒヒッ。まさか君がこんなとこにいるとはね《閃光》」

 

「その名は捨てたんだ」

 

総司は自身の腰から下げた。二本の小太刀を抜いた。

 

「悪いが《傀儡王》……死ね」

 

その瞬間。総司の姿が消える。

 

「ヒヒッ!君とは一度遊んでみたかったんだ!!」

 

オル=ゴールは鋼線を広げる。すると砂から巨大な砂人形(ゴーレム)が次々と現れる。ただそれは次の瞬間……すべて押しつぶされていた。

 

「なっ……」

 

さすがのオル=ゴールも絶句する。ただその一瞬すら今の総司には大きな隙となってしまった。オル=ゴールの懐に斬り込む。そしてオル=ゴールがそれに気づくことはなく、総司に首を斬り裂かれてしまった。

 

「ふん。さすがにそう簡単にはいかねえか」

 

総司が斬ったオル=ゴールは砂になり消える。しかし総司は砂を作っていた鋼線を掴み、それに電流を流した。

 

「かはっ!!!」

 

その電流によりオル=ゴールは悶絶する。しかしそれでもオル=ゴールは笑っていた。

 

「ハハッ!!捕まえた!!!」

 

オル=ゴールが鋼線を動かす。しかし総司を捉えたはずの鋼線は総司の肌をスルリと滑り捕まえることが出来なかった。

 

「甘い。甘すぎるぜ!!《傀儡王》」

 

今度は総司が笑う。

 

「お前の能力が鋼線と分かっているのになんの対策をしないわけねえだろ」

 

「その能力は……」

 

この現象にオル=ゴールは覚えがあった。それは自分を闇の世界に引き入れた師の能力。《隻腕の剣聖》ヴァレシュタインが持っている摩擦を操る力。

 

「オル=ゴール。てめえ本当に言われた通りのやつだな」

 

「どういうことかなそれは?」

 

「……互角になれば確実に殺せる最弱の魔人(デスペラード)だな。お前は」

 

総司の言葉にオル=ゴールの表情が変わる。笑顔だった表情は完全に怒りとなっていた。

 

「ハハッ僕の恐ろしさは!これからだよ」

 

オル=ゴールはそこで手を持ち上げようとした。しかし()()()()()()()()()()()()()

 

「もう戦いは終わってる」

 

総司はつまらなさそうにそう言った。

 

「これはもしかして僕の……」

 

「さすがに自分の能力くらいはわかるか。でももう遅い」

 

総司はゆっくりとオル=ゴールに近づきオル=ゴールの首を掴んだ。

 

「これで終わりだ」

 

オル=ゴールの肉体は徐々に干からび始める。手脚の末端からドンドン水分というものが吸いだされていく。

 

「っ!!かはっ!!」

 

オル=ゴールは苦しそうな声は漏らすが手足は動かない。しかもさっきから鋼線を使って総司に攻撃を行っていくがそのすべては総司の肌でスルリと滑り、有効打にはならない。そしてついに攻撃が止み、オル=ゴールの身体から完全に力が抜ける。

 

「終わったみてえだな」

 

そこで総司の後ろから男が現れた。

 

「ああ《砂漠の死神(ハブーブ)》の能力使わせてもらった」

 

総司が振り返った時、総司が掴んでいた人間は完全に砂となりこの砂漠の中に溶けていった。

 

「本当におっかない能力だ。俺ですら対峙することになればさすがに普段と同じではいかねえな」

 

「お前が裏切らなければ別にそんなことにはならないよ」

 

「それは逆にお前が俺との約束を守ればありえない。それで?お前は次に何をするつもりなんだ?」

 

「………今度ヴァーミリオンとクーベルラントが《戦争》をするのを知っているか?」

 

「うん?ああ。あの甘ちゃんたちの《戦争》だろ?あんなもんは戦争じゃねえが……まさか」

 

ナジームがニヤリと笑う。サングラスの奥の瞳が子どものように光輝いていた。

 

「ああ。乗り込む。そして《連盟》に再度宣戦布告する……どうする?ついてくるか?」

 

「そりゃかなり面白いことになりそうだ。いいぜ行ってやるよ」

 

「わかった。じゃあこれを」

 

総司はナジームに一本の小太刀を渡す。それにナジームはさらに笑みを深めた。

 

「こいつがあの《翼の宰相》の能力」

 

「ああ。形はおれの霊装(デバイス)になったから少しデカいがまぁいいだろ」

 

「ありがたく、もらっとくぜ」

 

「それを受け取った以上はもうおれの仲間だ……もし裏切ったら」

 

総司から殺気が溢れる。それは長年傭兵として殺気を受けてきたナジームですら、肌を逆立てるほどの濃さだった。

 

「ハハッお前とやるのは楽しそうだが……まだその時じゃねえ。もしやりたくなったら……」

 

今度はナジームから殺気が溢れる。それは総司と同じほどの濃さであり、そして総司以上に数多くの人を殺した匂いがした。二人は互いの殺気に当てられながらフッと笑う。そして左手で握手をした。

 

「じゃあ。またな」

 

「ああ。今度な」

 

総司は自身の懐からもう一本小太刀を取り出す。そしてそれを砂漠につきたてた。すると宙に舞う無数の白い羽根だけを残しいなくなっていた。そこでナジームは一つは声を上げて笑った。

 

「《暴君》以降裏のボスは変わることはなかった。でもあいつは取って代わる!!新しい時代の幕開けだ!!」

 




いかがだったでしょうか?

まさか《傀儡王》がお話にもならないとは……最恐主人公とは恐ろしいものです。

さて実はそろそろこの物語を完結させようかと思っています。どうするかはちょっとまだ未定ですが打ち切りみたいになりそうなので、できるだけそうならないようにやっていければと思っています。

では今回はこの辺で。また次回会いましょう!!


今回も感想、評価、批評募集していますのでよろしければお願いします。

簾木 健


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帰結

すべては後書きにて……

では今回もたのしんでいただけると嬉しいです。

簾木 健


「よお……」

 

総司が軽く手を挙げて挨拶する。

 

「およ?あなたは誰ですか?」

 

「おれの名前は玖原総司。お前をスカウトしにきた」

 

「スカウトですか?というかよくここまでこれましたね」

 

「ああ。外の奴らなら大方片付けたよ」

 

「……そうでしょう。あなたからは凄まじいものを感じます」

 

そこは暗い暗い独房のような場所。そこには白い拘束着を着て素足に鉄球を付けた十代後半ほどの少女がいた。その少女に総司はさらに語り掛ける。

 

「この祖国の武が世界一であることを証明するという目標があると聞いたが?」

 

「あいや、そんなことまでご存じなんですね。その通りっす。だから時々ここを脱獄してるっす………そんなことより、総司殿は本当にお強そうですね」

 

好戦的な眼で少女は総司に笑いかける。どうやら一筋縄ではいかないようだ。

 

「おれの目的はお前のスカウトだ。ここで戦うつもりはないぞ《饕餮》」

 

「あいや、そうなんですか?てっきり戦うものと思っていたのですが……」

 

「ここでもしおれとお前が戦えば、どうなるかくらいは知ってるよ。それでどうだ一緒に来ないか?」

 

「そうですね。折角のお誘いですが、すみません。自分の夢は自分の力で叶えてこそっす。だから総司殿あなたの力は必要ないっす」

 

「そうか」

 

その答えに総司は納得したと頷き、自分の《霊装(デバイス)》である小太刀を抜いた。そして《饕餮》フー・シャオリ―に向かって笑った。

 

「気が変わった。ここで一度手合せを願おう」

 

それにシャオリ―に笑い返す。

 

「それでは改めてよろしくお願いしますっす!神龍寺四象拳法皆伝!《四仙》が一、《饕餮》フー・シャオリ―と申します!以後お見知りおきを!蒼天に吼えろ!—―――《蛮鬼》ッ!!」

 

「《解放軍(リベリオン)》の玖原総司だ。無名だが、これから名は上がる」

 

「ハハッ!!そういう自信家は自分は大好きですよ!!」

 

こうして《饕餮》と賊による戦いは幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでやべえやつとは思ってなかった」

 

「謝謝。自分もまさかここまでの人が世界にいるとは知りませんでした」

 

少女と賊はまだ倒れていない。しかし二人が立つ場所は荒野と化していた。さきほどの戦闘開始からわずか10分。その間に森は滅び、建物は瓦解し、残るは地面のみ。この光景が二人の戦闘の異常さをものがたっていた。

 

「《饕餮》……シャオリ―ますます惜しい。俺についてくる気はないのか?」

 

「総司殿からそう言っていただけることは本当に嬉しいことです。しかし自分はこの身一つで中国4000年の強さを証明すると決めているのです」

 

「そうか……」

 

総司は頷き、小太刀をしまう。それに合わせシャオリ―も自身の《霊装(デバイス)》である手甲が消えた。

 

「今回はここまでにしておこう。また必ず」

 

そういうと賊はふわりと黒い羽を残して一瞬で去っていた。シャオリ―は相手がいなくなったことを確認して、その場にバタンと横になった。

 

「あれは埒外の化物ですね」

 

激しい修行によって磨いてきた自身の才能。しかしそれを圧倒的に押しつぶす総司のやり方はシャオリ―にとっては久しぶりの感覚だった。なにより……

 

「最後まで総司殿は自分を味方に引き入れるつもりだった。だからこそ……本気ではない」

 

ブルルと背筋に走る冷や汗にシャオリ―は笑った。

 

「世界は思ったよりも広かったっす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて行くか」

 

総司のつぶやきに、横にいた刀華が頷く。

 

「はい。私はステラさんを相手でいいんですね?」

 

「ああ。ステラは完全に刀華に任すよ。それと……これ」

 

総司は刀華に向かってリングを見せる。黄色の宝石があしらわれたそのリングに刀華は目をぱちくりさせた。

 

「カナタには渡したんだが……一応婚約指輪だよ」

 

「もうちょっとシチュエーションとかないとね!?」

 

「いいだろ調度。これから戦争に行く前だしって……ちょっと死亡フラグっぽいな」

 

「そうやけどさ………むー」

 

そう言ってむくれる刀華に総司はフッと笑いかけて、その左手を取ってからゆっくりとその指輪を薬指にはめた。

 

「これからもずっと俺の隣にいてくれ。刀華」

 

「……はい」

 

そう言って頷いた刀華の顔は満面の笑み。それに総司もフッと笑う。

 

「じゃあとりあえず、行くか。ヴァ―ミリオンとク―デルラントをぶっ潰しに」

 

「はい……」

 

そう言って二人は跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦いは後に戦役として語られるのだが、それはまだ先の話。そしてこの戦い以降《解放軍(リベリオン)》のトップが変わったというニュースが全世界を駆け抜ける。そのトップは様々な魔術を自在に扱い《解放軍(リベリオン)》の帝王として君臨するものとして《魔帝》という二つ名で呼ばれることとなる。

 

 

 

 

落第騎士と生徒会長の幼なじみ  完




皆さんお久し振りです。

久しぶりに投稿したと思えば、最終話となって驚いた方も多いと思います。

本当に自分勝手に終わらせてしまったと思っています。

今回このような強引な形で終わらせてしまった理由としましては、そろそろ完全にぐだったと思ったからです。ステラ戦以降、グダグダとした展開が続いてしまい、もうそろそろ終わる頃だなと感じてこのようなことになりました。まぁこんな勝手を許していただければ幸いです。

さてでは最終話ということでこの作品を書く経緯を少し詳しくお話したいと思います。

この作品の元々のコンセプトは一輝側ではない側から描いた物語です。私がこの小説をあげた時、落第騎士の二次小説はほぼ一輝側の視点で描かれるものばかりだったので、それなら違う視点で書きたいなと思ったのがこの作品の出発点になっています。そういったこともあり、破軍生徒会に焦点を当てたお話になりました。

玖原総司についてはですが、玖原とは私の地元の地名から来ています。歴史にも少しは登場する地名でもあるので歴史詳しい人は知っているかもしれませんね。

総司という名前については感想でもいただきましてお答えした通り、沖田総司から取りました。私も歴史大好き人間なので、最強剣士と色々と考えたすえ、沖田総司から名前をいただきました。

能力についてはですが、これは基礎は私が初めて投稿した、カミカゼエクスプローラーという作品の主人公の能力です。能力をコピーする能力に魅力を感じたため、これしかないと即決でした。まぁついに原作にも登場しましたが、なんか自分のアイデアが採用されたうれしさを少し感じたのはいい思い出です。

さて長くなってしまいましたが、後はなにか質問していただければということにして締めさせていただきます。


この小説を書くにあたって、海空りく先生が生み出してくださったことにまず感謝を。

そして拙い文章であるのにも関わらず、叱咤激励をくださった読者の皆様。本当にありがとうございます。

これからもまだ連載している作品、これから書こうとしている作品の方でもよろしければご贔屓にしてください。

ではまたいつか私の作品を読んでいただけることを願っています。

簾木 健


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