ハイスクールD×B×F (ゴンサレス斎藤)
しおりを挟む

原作開始前~第一章~
1話


プロローグ1



 日本のある山奥、人里から離れたある集落。そこはただの田舎ではなかった。

 

 

 その場所は、世界の異変から人々を守るための育成場所なのだ。

 

 

 しかし、それは政府の管轄ではなく、独自の、つまりは自分たちの意思で人々を守るために自分たちを鍛えるためにできた場所なのだ。そして、そこには血のつながっているものは極わずかであった。

 

 

 なぜなら、その場所には、人が持つには過ぎ足る力を持った者たちが集まっているのだ。

 

 

 親に見捨てられたり、世間の目から逃れたりする者たちがこの場合に集まってきている。

 

 

 そこに集まった人たちは最初のころは自分たちを蔑んだ者たちに復讐しようとした。だが、それでは自分たちのような不幸な人たちが増えてしまうと考えに至り、そんな人たちを増やさないためにも、この特殊な力で人々を守るために使うことにした。

 

 

 そこで、そんな人たちを集めるために、日本中を駆け巡り、同志を探しまわった。

 

 

 そこでは、大人子供関係なく、特殊能力を使えば、一人一人が武装した軍隊の一個大隊並の実力を兼ね備えていた。

 

 

 ちなみに、場所に関しては、絶対に見つかることはない。そこは仲間と認めたものしか入れない結界をはれる能力者たちがその場所を囲っているからである。

 

 

 そして、そんな集落を作ってから、200年がだった。

 

 

 ある年、そんな集落に1人の少年がいた。その少年は、白髪で色白の肌をしており、とてもよわよわしい体型をしていた。だが、その少年の実力は集落の中でも高い実力者で、体術に至っては、能力を使った大人5~6人が一斉に挑んでも、キズこそ追うものの、負けたりはしなかった。見た目で人を判断してはいけない、という言葉がぴったりな強者である。

 

 

 この少年には体術だけではなく、もうひとつの能力がある。それは、ある武器を使えることができる。

 

 

 その名は「斬魄刀」

 

 

 見た目は、日本刀ではあるが、この集落の強者にしか扱えず、所有者を変えながら、代々受け継がれてきたものである。刀の名を唱えることにより、形状が変化する「始解」をし、様々な能力が使える。それというのも、刀の名は1つではない。斬魄刀にはその歴代の所有者の魂が込められており、その当時の呼び名を唱えることにより、その能力が使用できる。それ故に、斬魄刀の所有者は、代を重ねるごとに強さを増しているのだ。

 

 

 ではなぜこの少年が選ばれたのか?

 

 

 じつは、「斬魄刀」がこの少年を選んだのだ。

 

 

 本来であれば、集落の中でも「武」に秀でたものが所有者になるのだが、この少年が生を得た瞬間、宝物庫に保管されてあった斬魄刀が突然浮き上がり、宝物庫を突き破り、生まれたばかりの赤ん坊に吸い込まれるように入っていった。

 

 

 このようなことは前代未聞であり、集落中が驚いた。だが、斬魄刀は持ち主が死ぬまで代を変えることはない。致し方なく、大人たちは赤ん坊を斬魄刀の所有者と認めた。

 

 

 それほどの危険性はないと感じたからである。

 

 

 しかし、その後は周りを驚愕させた。生まれてから3日で歩きだし、1週間で喋りだした。10日で周りの山々を走破し、1ヵ月で斬魄刀を継承したことにより習得することができる、極めれば目にも止まらないほどの高速移動術である「瞬歩」や、高尚な呪術で手先に力を込めて撃つ「縛道」(相手の動きを封じたりする補助的な技)と「破道」(直接攻撃的な技)といった「鬼道」を使いこなせるようになっていた。

 

 

 では、なぜこんなにも早く習得できたのか?

 

 

 じつは、少年の精神世界で鍛練が行われていたのだ。先にも説明があったが、斬魄刀には過去の所有者の魂が込められており、その魂たちが実体化し、各々が少年を鍛えていたのだ。

 

 

 刀の使い方や、各斬魄刀の能力、瞬歩・鬼道の使い方、はては、勉学まで面倒を見ていたのだ。

 

 

 ある日のこと、少年は、集落の外に出て、斬魄刀の稽古に出かけた。近場だと迷惑がかかると思ったのか、遠く離れた場所で斬魄刀の修行をしようと思い、ある場所に移動すると斬魄刀を鞘から抜き、始解を繰り出し始めた。

 

 

 




意見・質問・要望はあっても受け付けないかもしれません。ご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話

斬魄刀の修行内容です。


       ~始解の修行中~

 

「面を上げろ・侘助」

 

 刀身が鉤状へと変化する。

 

 

 

「尽敵螫殺・雀蜂」《じんてきしゃくせつ》

 

 右手中指にアーマーリング状の刃に変化する。

 

 

 

「弾け・飛梅」

 

 七支刀のような形状に変化する。

 

 

 

「吠えろ・蛇尾丸」

 

 刀身にいくつもの節を持ち、伸びて蛇のようにしなる蛇腹剣の形状に変化する。

 

 

 

「吹っ飛ばせ・断地風」

 

 風を纏い、コンバットナイフのような形状に変化する。

 

 

 

「波悉く我が盾となれ、雷悉く我が刃となれ・双魚理」

 

 一振りの刀が二振りになり、刀身が逆十手状になり柄どうしが縄でつながれた二刀一対の刀に変化した。

 

 

 

「花風紊《みだ》れて花身啼き天風紊れて天魔嗤う・花天狂骨」

 

 

 

 双魚理からの変化で二本の青龍刀のような形状になる。

 

 

 

「舞え・袖白雪」

 

 刀身も鍔も柄みも全て純白形状に変化し、柄頭の先に長い帯がついた。

 

 

 

 ここまで、様々な始解を繰り出す。始解をするたびに一度元の刀に戻してから解号して別の始解を繰り返し行った。

 

 

 

 そして最後に自分の魂で作られた斬魄刀の始解を行った。

 

 

 

「引けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ・斬月」

 

 鞘も柄も鍔もハバキもなく、出刃包丁のような形状の巨大な刀身のみの刀になった。

 

 

 

 自分の魂を元にしたとはいえ、なぜこのような攻撃に特化した形状になってしまったのか自分でも疑問に思ってしまうほどである。

 

 

 

 その時、周りから声が聞こえた。

 

 

 

『主よ、なかなかうまく扱えるようになったではないか』

 

 

 

『そうですね、初めての頃よりかはずいぶんと早く始解になる事が出来ましたね』

 

 

 

 鎧武者風の青年と真っ白な着物姿の女性が感想を口にしていた。

 

 

 

「ありがとう、千本桜、袖白雪」

 

 

 

 鎧武者風の青年〈千本桜〉と着物姿の女性〈袖白雪〉は言葉を投げかけると優しく微笑んだ。

 

 

 

「でも、まだまだだな。さすがに君たちに元の主たちのようにはうまく扱えてないよ」

 

 

 

 少年は悲観した表情を浮かべていた。

 

 

 

『そんなことはないぞ。われらの元の魂の所有者たちは別として、歴代の斬魄刀の所有者の中ではそなたが一番多く我等を扱えているしこのように会話もできている』

 

 

 

『千本桜殿の言う通りです。今までの斬魄刀の所有者たちは、皆自分の魂で作った斬魄刀の他には二人ぐらいしか我等を認識できなかったのです。それをあなた様は10人以上の斬魄刀を扱うことができます。それはもはや今までで一番我等と心を通わせているからなのです。ですから、そのように悲しい顔をなさらないでください』

 

 

 

 千本桜と袖白雪は不安に駆られている少年を心配になり、それぞれの言葉で少年を励ました。

 

 

 

「そうか、君たちに励ましてもらえてうれしいよ」

 

 

 

 少年が微笑みながらそう言うと両名とも安心した。

 

 

 

『別に貴様の心配しているのは二人だけではないぞ』

 

『そうだぜ。オイラたちもいることを忘れるなよな』

 

 

 

 長髪長身の猿女と鎖で繋がれている蛇の尻尾を持った長袖半裾の小柄な男の子が急にしゃしゃり出てきた。

 

 

 

「忘れてはいないよ、蛇尾丸」

 

 

 

 猿女と蛇男〈蛇尾丸〉達にそう言うと、二人は満足した表情を浮かべた。

 

 

 

『だが、卍解には至らなかったな』

 

 

 

 漆黒のコートに身を包んだ長髪で髭面、半透明のサングラスをかけた男が難しい顔をしながら辛辣な言葉を投げかけた。

 

 

 

「そうだな、斬月。それだけが心残りだなぁ」

 

 

 

 サングラスをかけた男〈斬月〉に少年は答えた。

 

 

 

【卍解】それは斬魄刀本来の力であり、基本的には始解の能力・特性を強化したもので、その戦闘能力は始解の5~10倍とされており、斬魄刀の最終奥義といえる。

 

 

 

『そういうな、斬月。主とて、それは重々承知しているさ。だが、そもそも主はまだ幼い。卍解は習得には10年かかる。それを使いこなすにも時間がかかるのだぞ』

 

 

 

『それはわかるが、そんな甘えでは困るのだ。なにか胸騒ぎがしてならんのだ。近くお前には言い知れないなにかが起こるかもしれんぞ』

 

 

 

「その時はその時さ。何があろうとも、おれは前へ進むだけさ」

 

 

 

『・・・ふん、どうやら杞憂だったようだな』

 

 

 

 少年の言葉に斬月は納得したかのような笑みを浮かべた。

 

 

 

「さて、そろそろ帰るとーーーっ!?」

 

 

 

 集落に戻ろうとした少年にある気配が感じれた。

 

 

 

『どうしたのだ、主よ』

 

 

 

「千本桜、少し離れた場所で殺気を感じたんだが」

 

 

 

『確かに、ここより数㎞離れた場所に複数の人間と・・・人間ではないな・・・1人の異形な者の気配がするな』

 

 

 

「・・・少し気になるな。様子を見て来よう」

 

 

 

『集落では一人前にならなければ外の人間との接触は禁止されているのではないか?』

 

 

 

「要は、ばれなければいいだろ?それに、必ずしも接触するとは限らないんだし、まずは、遠目で様子を見るだけにしておくよ。一応斬月の状態で移動する」

 

 

 

 そう言うと、少年は斬月の茎の後端に巻き付けられている晒を刀身に巻きつけて鞘の代わりとし、瞬歩で移動し始めた。




始解の解号でわからないのは、こちらで勝手に決めました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話

独自設定がはいります。
無理矢理感がありますが、楽しんでいただけたら幸いです。



        ~移動中~

 

 

 

「ところで、ひとつ聞きたいことがあったんだけど、いいかな蛇尾丸」

 

 

 

『なんじゃ、藪か棒に』

 

 

 

 

 

 少年は移動しながら、以前から疑問に思っていたことを投げかけた。

 

 

 

「お前達の他にも斬魄刀っていう刀はあるのかい?」

 

 

 

『ふむ、そうじゃのう、そろそろ話しておいてもいいじゃろう。我等斬魄刀の歴史の事についてを』

 

 

 

「斬魄刀の歴史?」

 

 

 

『そもそも斬魄刀ってのは複数あって、オイラたちは一本の刀にその所有者のひとつの魂しかいなかったんだ』

 

 

 

「え?・・・そうなのか?」

 

 

 

『そもそもの始まりは、100年以上の前の話じゃ、わしらも聞いた話じゃから詳しいことはわからんがな』

 

 

 

 そして、蛇尾丸たちは、斬魄刀の始まりを語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そもそも、わしらは最初は斬魄刀という名前では無かったのじゃ。それこそ、今ある名前が刀の名前であった。お主であれば斬月という名の刀としてな』

 

 

 

『刀は元々はなんの力もないただの日本刀であったが、ある日、突然刀から声が聞こえたらしい。』

 

 

 

『それがどういう理由かはわからん。その者の人を護りたいという想いに刀が答えたのか、異常な能力者が多く集まっている土地での出来事なのかは、わしらもわからん』

 

 

 

『ただ、刀はその所有者に自身の名を教え、自らの能力を伝え、共に戦うという意思を所有者に言ったそうだ』

 

 

 

『刀の所有者たちは、それぞれの個性があり、

 

 皆能力が違っていたため、色々な刀があった。そして、その力を使い、人に仇なすものたちから人々を護ってきた』

 

 

 

『だが、刀の所有者が死ぬとその刀も一緒に消滅していった。そして、二度と同じ能力が発動するこたはなかった』

 

 

 

『その中でも、特に異彩を放っていたものがいた。その者の名も刀の能力もわからぬが、刀を扱うことが一際扱うのが上手く、多くの人々を魔物から護ってきた。まさに最強の存在であった』

 

 

 

『人々からは尊敬や憧れを、人に仇なす魔物たちからは恐れを抱かせていた』

 

 

 

『だが、その者にも決して抗えないものがあった。・・・・病だ。・・・ある日の魔物の討伐の最中に突然血を吐いたのだ』

 

 

 

『すぐに医者や、回復術をもっている術者に見せたりしたが、すでに手の施しようがない不治の病だったのだ。』

 

 

 

『すでに数年前から発症していたことは本人はわかってはいたが、その事をかくして魔物の討伐に当たっていたのだ。一人でも多く救うために』

 

 

 

『そして、自分が死ぬとわかったとき、その者は悔し泣きした』

 

 

 

 

 

 

 

【自分はまだまだ無力な人々を守っていきたかった。まだまだたくさんの人々が助けを待っているのに。それなのに、こうして志半ばでその思いが断ちきられるとは、・・・無念で仕方がない】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『男は泣きながらそう口にした。看病していた回りのものたちも、男の嘆きを聞きもらい泣きしていた』

 

 

 

『その時だそうだ、男の所有していた刀から声がしたのは』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【主よ。我を自身に突き刺せ。そうすれば、汝の魂を我の中に入れることができる。御主の想いに我は共感した。なればこそ、汝と共に人々を護っていきたい】

 

 

 

【我は所有者が死ぬと消滅してしまう。だが汝が魂を取り込めれば、刀は消滅せずに新たな所有者を見つけて、その者の力になる事はできよう。さすれば、汝の力も新たな所有者が使うことができ、弱者を守れれば、それはすなわち、汝が守ったことになろう】

 

 

 

【ちなみに、この事ができるのは我が刀のみだけだ。他の刀は出来ないだろう】

 

 

 

 

 

 

 

『男に迷いはなかったそうじゃ。すぐに刀を手に柄み鞘から抜き出した』

 

 

 

 

 

 

 

【俺と共に戦ってくれ。未来ある者たちを護っていこうぞ】

 

 

 

 

 

 

 

『そう言いながら刀を突き刺した。その時、男の体は光だし、直視出来るものはいなかったそうじゃ。そして、光が収まるとそこには突き刺さった刀のみが残されていた』

 

 

 

 

 

 

 

『そして、それ以来その刀は斬った魄《たましい》の力を宿す刀、これが斬魄刀と呼ばれるようになったことの始まりじゃったそうだ』

 

 

 

「なるほど、そういう経緯だったのか。で、その後はどうなったんだ?」

 

 

 

『そうあせるな、その後は新たな所有者が現れては、その力を使い弱き人々を守っていった。そして、志半ばで倒れていったものたちには、最初の所有者と同じように刀に己を突き刺し、その魂を刀にとりこませていった』

 

 

 

『それだけではなく、所有者以外の刀の持ち主にも、思いが強ければ他者が望めばその者も斬魄刀に魂を取り込ませた。その者の思いと共にな』

 

 

 

『また、我らも共に戦えるような者を探した。先程も言ったが斬魄刀には先人たちの思いが取り込まれている。ただ力を求めた者にはなんの反応もしなかった。じゃからその意思を継ぐ者を我らの方でも探したのじゃ』

 

 

 

「そうか。で、今回選ばれたのが俺なのか」

 

 

 

『そう言うことじゃ』

 

『そう言うことだ』

 

 

 

 蛇尾丸たちは笑いながら肯定した。

 

 

 

「なるほど、了解した。ところで、もし俺がこの力を使って殺戮をしようとしたらどうするんだ?」

 

 

 

『物騒なこと言うなよな、そんなことはないと思うけど、・・・もしそうなったら、オイラたちは実体化してお前を止めるか、最悪の場合、殺すだろうな』

 

 

 

「どっちが物騒なんだか・・・」

 

 

 

 ふとした質問をしただけなのに、軽く抹殺宣言の回答に呆れるような表情をした。

 

 

 

「まぁいい。そんなこと起きないようにせいぜい努力するよ。・・・さて、少し速度を上げよう。現場に急行するぞ」

 

 

 

 瞬歩の速度を上げ、移動していった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話

本年最後の投稿です。



       ~とある神社~

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

 

「母様、この人たちは誰なの?」

 

 

 

親子二人が境内の敷地内で男たち5~6人ほどに追いかけられていた。その手には刀や槍などといった武器が握られていた。

 

 

 

その中の一人が大声をあげた。

 

 

 

「その娘をわたせ。こちらで始末をつける。堕天使から生まれた異形なものなど生かしておくものではない!!」

 

 

 

この問いに母親は声を荒げて反論した。

 

 

 

「この子は、朱乃は私とあの人の娘です。決して異形なものなどではありません!!」

 

 

 

「だまれ!!!やはり貴様は堕天使に操られているのだな。そのような者は我が『姫島』にはおらん。ここでその娘ともども一緒に始末してくれる。」

 

 

 

男たちは武器を構え、親子に飛び掛かろうとしていた。

 

 

 

母親は自分の身を盾にするようにして娘を強く抱き締めた。

 

 

 

娘は母親を離さんと服を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

そのときである。

 

 

 

「月牙・・天衝!!!」

 

 

 

 青白い斬撃が親子と男たちの間に割って入った。

 

 

 

「うおおおおおお!!!」

 

「きゃあああああ!!!」

 

 

 

男たちはのけ反り、母親は悲鳴を上げながらも娘を守るように抱きしめる。

 

 

 

「・・・きれい・・・」

 

 

 

だが、その娘はそんなこととはお構いなしに青白い斬撃の色に目を奪われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大の男たちが、大勢で親子を追いかけているこの状況はいったいなんなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬撃の余波が収まった後、皆が目を見開くと、地面はきれいに切断されており、その切断面を辿っていくと、少年が巨大な刀を肩に担いでいる姿があった。

 

 

 

その子供の姿にその場にいた全員が驚いた。

 

 

 

なんと、狐の面を被っていたからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       ~時は少し遡る~

 

 

 

 

 

 

 

殺気を感じた場所に着いてみるとそこは神社であった。

 

 

 

「なんでこんな神聖な場所で殺気を感じたんだ?」

 

 

 

 少年は呆れるような声をだして意見を口にした。今は、誰にも見つからないように生い茂った木々の間から神社を見下ろしていた。

 

 

 

『ここで感じたのは間違いない。動きがあるまでここで見張っていよう』

 

 

 

「そうだなぁ・・・・・ん?」

 

 

 

その時、境内の中の建物から母親と、その娘であろうか、二人が慌てて飛び出してきた。そのあとで武器を持った男たちが親子を追いかけて同じように建物から出てきた。

 

 

 

「なんだ?この状況は?」

 

 

 

 少年が疑問を口にすると〈斬月〉が語りだした。

 

 

 

『よく見てみろ。追いかけられているのはあの子供のほうだな。この感じは母親の方は人間だが、あの娘は人間ではない気配を感じる。おそらく人間とは違う種族との間に生まれた混血児のようだな』

 

 

 

「だからといって、なんで殺されそうな雰囲気なんだ?」

 

 

 

『人間にとって自分以外の種族は相容れぬ存在なのだ。それが身内から現れたのならなおのことだ。その子供であろうとも処断してしまおうという考えが生じたのだろう。それが人の業なのだ。特に、神事に関わっている一族ならいっそのこと自分たちで物事を納めたいのだろう』

 

 

 

「まるで、自分たちのようだな。力を持たない人間にとって、力を持っている人間が忌み嫌われる。そして行き場をなくしてしまったものの末路は悲惨なものだ。力に溺れ自暴自棄になるか、より強い力を持つものによって粛清されるか、人知れずに自ら最後を迎えるかだからな」

 

 

 

 自分に言い聞かせるような意見を口にしていると、男たちがついに親子を追い詰めている状況になっていた。

 

 

 

『それで、どうするのだ?このまま黙って見ているだけなのか?』

 

 

 

〈斬月〉の問いかけに少年は首を横に振った。

 

 

 

「いくらなんでも、この状況であの親子を見捨てることはできない。助けにいくさ。だからといって襲っている男たちの方を殺すなんてことはできない。なんとかどちらにも害をださずに帰ってもらおう」

 

 

 

『だが、出ていけば顔を見られてしまうぞ』

 

 

 

「ここは神社だ。面のひとつでもあるだろうから、それを借りよう」

 

 

 

『わかった。おまえがそう決めたのなら私も力を貸そう。存分に使うがいい』

 

 

 

「よし、では行こう」

 

 

 

そういうと、少年は瞬歩で木を飛び移り、建物の中に入り、近くにあった狐の面を取り、急いで外に出ると、追い詰められていた親子に男たちが襲い掛かっていた。

 

 

 

少年は飛び出し、背中に担いでいた斬月の晒を解くと、上段に構え、そして・・・

 

 

 

「月牙・・・天衝!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        ~現在~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大の男たちが、大勢で親子を追いかけているこの状況はいったいなんなんだ?」

 

 

 

斬月を肩に掛けながら全員に問いかけるような質問を投げかけた。

 

 

 

「な・・・何者だ貴様は!!名を名乗れ!!」

 

 

 

男たちのリーダー格が信じられないような光景を目にしながらも、少年に向かって刀を突き出しながら叫んだ。

 

 

 

「何者と言われてもなぁ~、ん~~~こんな能面しているから神社の化身ということで」

 

 

 

狐の面をしているせいか声がくぐもっているせいか、声の質感はわからないが、身体的特徴からして十歳未満ということはこの場にいる全員が理解できたが、その返答は、言い方はどうあれ軽いものだった。

 

 

 

「ふ・・・ふ・・・ふざけるな!!!どこの小僧か知らんが、われらの邪魔をするとゆるさんぞ!」

 

 

 

「・・・聞かせてほしいんですが、どうしてその親子を襲っていたんですか?」

 

 

 

 リーダー格の男が罵声をあびせるが、そんなことはお構いなしといった態度で少年は質問した。

 

 

 

「このっ・・・・いいだろう、教えてやろう」

 

 

 

リーダー格の男は視線を少年から親子に移し質問に答えた。・・・・・・少年への警戒は緩めずに・・・・

 

 

 

 

 

「そこにいる女はわが一族の身内に当たる者だ。この女はこともあろうに傷ついた堕天使を助け、あまつさえ共に暮らし始めた。そして、その隣にいるのがその際に生まれた堕天使の娘だ、理由はどうあれ、わが一族に不浄である堕天使の血が混じったものを認める訳にはいかんのでな、我らがその娘を始末することになったのだ」

 

 

 

その台詞の後に母に抱かれて怯えている女の子をにらみつけると、女の子は「ひっ・・」っと軽く悲鳴をあげた。

 

 

 

「そうか、そんな理由か」(ボソッ)

 

 

 

少年の口から出た言葉は誰にも聞き取れなかった。

 

 

 

質問に答えた男は視線を少年に戻した。

 

 

 

「さて、小僧。このような場所でこんなものを見られたからには貴様にもここで消えてもらうぞ」

 

 

 

「待ってください!この子は関係ありません!見逃してください!」

 

 

 

「だまれ!!見られたからには生かして返すわけにはいかんのだ!小僧、恨むなら自分の不幸とあの親子を恨むのだな」

 

 

 

リーダー格の男の、親子ともども少年を始末するという発言に母親は抗議したが、聞く耳持たず、少年に向かって武器を構えた。

 

 

 

「・・・できるならな」

 

 

 

少年がそう言うと、瞬歩を使って親子の近くに移動した。

 

 

 

「あ・・・あなたはいったい・・・」

 

 

 

母親が少年に問いかけるが、少年は答えずに代わりに母親に告げた。

 

 

 

「少し、その子と一緒に目を閉じていてください。合図があるまで決してこの刀を見ないでください」

 

 

 

 親子に振り向かずにそう言うと、少年は斬月を一振りすると通常の斬魄刀に戻した。

 

 

 

 そして、逆手でもち、その刀を男たちに向けた。その時に後ろにいる親子も身を丸くして目を閉じた。

 

 

 

「何をするか知らんが、ここで共々切り捨ててくれる」

 

 

 

 男たちは少年に向かって飛び掛かろうとした。ーーーだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「砕けろ・鏡花水月」

 

 

 

斬魄刀の解号を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 




少年の名前はまだ出ません。
後、二話くらいしたらだします。
こうご期待ください。


よいお年をお過ごしください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話

明けましておめでとうございます。
新年初投稿です。



「砕けろ・鏡花水月」

 

 

 

 その言葉を発すると、男たちは防御の構えをとるが・・しばらくしてもなにも起きる気配はなかった。

 

 

 

「な・・何も起きないではないか」

 

 

 

 安心したような声を出したが、少年はすぐに地面に左手を置くと、

 

 

 

「(縛道の二十一)赤煙遁」

 

 

 

 そう唱えると、辺り一面に煙幕が生じた。

 

 

 

「しまった、囮か」

 

 

 

 男たちは慌てたが、煙幕はすぐには晴れなかった。

 

 

 

「クソ!!このままではどこから攻めてくるのかわからん。周りを囲んで防御の陣をとれ!」

 

 

 

 そう命令を飛ばすと、一糸乱れぬ行動で円陣を築き、どこから攻められても対処できるようにした。

 

 

 

 そのときである。強い風が吹き荒れた。急なことに男たちは目を瞑ったが、

 

 

 

「おお。これで煙幕が晴れるぞ。天は我らに味方しているぞ」

 

 

 

 リーダー格の男は歓喜の声を上げながら配下の者たちを鼓舞した。そして煙幕が晴れ、周りを見回すと、母親が子の手を引きながら走って逃げていく後ろ姿が見てとれた。

 

 

 

「隊長!!!目標対象者が逃げていきます」

 

 

 

「逃がすな。必ず始末するのだ!!!・・・そういえば、あの仮面の小僧はどうした!!!」

 

 

 

「わかりません。急にいなくなりました」

 

 

 

「構わん!奴のことは後回しだ。今は目標のみに専念するのだ」

 

 

 

 そう言うと、男たちは逃げていく親子を追いかけた。

 

 

 

 そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズバッッッ・・・ドバッッッ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男たちが周りを取り囲んでいる中心に、無惨にも切り裂かれた親子の死体が転がっていた。

 

 

 

「よし、目的は達成した。引き上げるぞ」

 

 

 

「隊長、先ほど現れた小僧はどうしますか?捜索しますか?」

 

 

 

「放っておけ。今はこの場を一刻も早く離れるのが得策だ。それに、このことを警察や誰かに話したところで、子供の戯言にしか聞こえんからな」

 

 

 

 そう言うと、男たちは足早にその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・すると・・・

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・ガサガサガサ・・・

 

 

 

「やれやれ、やっと引き上げてくれましたか」

 

 

 

 境内の雑木林の茂みから、仮面を着けた少年が出てきた。そして、

 

 

 

 ピキピキピキ・・・カシャァァァァァァン

 

 

 

 親子の死体はガラスが砕けるような音をたてて消え去った。

 

 

 

「これは・・いったい・・」

 

 

 

 少年の出てきた茂みから、無傷の親子が出てきて、母親に関しては、自分たちを討伐に来た男たちが、なぜ誰もいない場所に走ったり、武器を振るったり、満足したような表情で立ち去ったのかわからなくて混乱していた。

 

 

 

「・・・彼らに何をしたんですか?」

 

 

 

「あの人たちには、幻覚を見せました」

 

 

 

「幻覚を・・・?」

 

 

 

「はい。その幻覚で、あなたたち親子を討伐したように見せかけました」

 

 

 

「いったい、いつの間に・・・」

 

 

 

「それは、秘密です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~時は少し遡る~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(縛道の二十一)赤煙遁」

 

 

 煙幕を出した直後、すぐさま振り向き、親子に告げた。

 

 

 

「はやく。こちらへ隠れてください」

 

 

 

 雑木林の茂みに隠れるように促すが、

 

 

 

「え?・・でもそれではすぐに見つかってしまいます。貴方だけでも今のうちに逃げてください」

 

 

 

 少年に女性が逃げるように言ったが、首を横に振って拒否した。

 

 

 

「それでは意味がありません。私の目の前で黙って殺されるのを見過ごすわけにはいきません。ここは私を信じてください」

 

 

 

「・・・わかりました。さぁ、行きましょう」

 

 

 

 母親は女の子に声をかけると、手を引いて茂みの中に身を潜めた。

 

 

 

 それを見届けてから、後に続いて茂みの中に入ろうとしたが、いまだに男たちは煙幕に足を止めているので、それを晴らしていこうとした。

 

 

 

「(破道の五十八)闐嵐(てんらん)」

 

 

 

 手を掲げ、鬼道で竜巻を起こすと、男たちに当たらないようにして煙幕を吹き飛ばした後、急いで茂みの中に入り親子の横に移動した。

 

 

 

 横に来た少年を、女の子は見つめていた。その視線に気づいたのか、顔を横に向けると目があった気がしたので、すぐに目を逸らしてうつむいてしまった。

 

 

 

 少年は、気にしないと言おうとしたが、言葉より先に、女の子の頭を撫でていた。

 

 

 

 すると、女の子は顔を赤くして母親の腕の中に顔をうずめてしまった。

 

 

 

 少年は呆気にとられたが、すぐに視線を男たちに向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~現在~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それでは私はこれで・・・っ!!!」

 

 

 

「どうしたのですか?・・・・まさか、またあの人たちが!」

 

 

 

 こちらの幻覚に気がついて再びこの場所にあの男たちが戻ってくるのかと思っていた母親であるが、少年は否定した。

 

 

 

「いえ、違います。ただ、強い力を持った存在がこちらへ向かってきているんです。この感じだと空からこちらに向かっています」

 

 

 

 そのセリフを聞くと母親は嬉しそうな表情をした。

 

 

 

「それはきっと私とこの子の父親です。やっとこれで安心できます」

 

 

 

「そうですか。それは良かった。・・・ただこの場所は安全とは言えなくなりました。念の為にその人が来ましたら、すぐにこの場所から遠く離れてください。そして穏やかな生活を送ってください」

 

 

 

「はい、そうします・・・私たち親子を救っていただき、ありがとうございます。この御恩はいつか必ずお返しします」

 

 

 

「それには及びません。もう会うことも無いでしょうから・・・それでは」

 

 

 

 少年は頭を下げて一礼すると、踵を返してその場を立ち去ろうとしたが、

 

 

 

「まって!!!」

 

 

 

 いままで母親の腕の中にいた女の子が大声で呼び止めた。

 

 

 




中途半端で終わってすいません。

つづきはまた後日投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話

5話の続きです。


「まって!!!」

 

 

 

 少年は立ち止まり、振り替えって女の子を見た。

 

 

 

「な・・・名前を教えてください!!」

 

 

 

 大声でそう言ったが、少年は考えてしまった。

 

 

 

(自分にはまだ名前がないとは言えないし、ここは適当になだめて諦めてもらおう)

 

 

 

 少年は首を横に振って拒否した。

 

 

 

「掟でね、一人前となるまでには集落の外の人には自分の顔や名前なんかを教えちゃいけないんだ」

 

 

 

 理由を説明したが、女の子はそれでも諦めなかった。

 

 

 

「誰にも言わないから!私だけの秘密にするから!」

 

 

 

 食い下がらない女の子を見ていた少年は、手招きして女の子を呼んだ。

 

 

 

 教えてもらえると思っていた女の子は笑顔になりながら少年に近付いていくが、目の前に来たら少年の人差し指と中指で額を小突いた。

 

 

 

「あうっ・・」

 

 

 

 女の子は突然のことで驚いて、変な声を出してのけ反ってしまう。

 

 

 

「ごめんね・・・また今度ね・・・」

 

 

 

 そう言うと、少年は瞬歩で消えるように去ってしまった。

 

 

 

「あ、う~~~~~~」

 

 

 

 女の子は教えてもらえなかった悔しさからか、目に涙を浮かべ唸りを上げて地面に目を落としたが、不意に、カランという物音が聞こえ、顔を上げると、そこにはあの少年が使っていた狐の面が落ちていた。

 

 

 

 女の子はそれを拾って辺りを見回して少年を探したが、自分と母親しかいないことを確認すると、その面を大事そうに抱きしめた。それを見つめていた母親は「あらあら」といった表情で娘の行動を見つめていた。

 

 

 

 そのすぐ後である・・・

 

 

 

「朱里~~~朱乃~~~」

 

 

 

 空から自分たちを呼ぶ声を聞いた母親は、視線を空に向けると、自分の夫であるバラキエルがものすごいスピードでこちらに向かってきて目の前に降り立った。

 

 

 

「大丈夫か?怪我はないか?二人を狙っているという輩がいると聞いて大急ぎでこちらに来たのだが」

 

 

 

 バラキエルは辺りを見回して襲撃者どもを探したが、地面が大きく切り裂かれていることを除いては特に異変はなかった。

 

 

 

「あなた、私たちは大丈夫です。確かに襲撃されて追い詰められましたが、とても優しい方に私たちは助けられました」

 

 

 

「む・・・その者は今どこに」

 

 

 

「すでにこの場所から去っています。・・・それよりあなた、その方が言うにはここも安全とは言えないので遠く離れた方が良いと」

 

 

 

「うむ、そうだな。ここに居てはまた何時こんなことが起こるかもしれん。すぐに移動しよう。準備を頼む。朱乃、お前もすぐに・・・朱乃?」

 

 

 

 バラキエルは母親と娘に支度をするように声をかけたが、娘だけは動かずに何かを抱きかかえていた。

 

 

 

 娘に近付き横から何をしているかとバラキエルが覗くと狐の面を大事そうに抱えていた。

 

 

 

「この面はどうしたんだ?」

 

 

 

 抱いている面を取ろうとして手を伸ばすが、それに気づいたのか、父親の手をはね除けて少し離れた。

 

 

 

「ダメ!これは私の宝物なの!」

 

 

 

「あ・・・朱乃、そんな面がどうかしたのか?」

 

 

 

「『そんな』なんかじゃないもん!そんなこと言う父様なんかキライ!!」

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、バラキエルは全身に衝撃が走り、両手両膝を地面について項垂れた。

 

 

 

「あらあら、嫌われてしまいましたね」

 

 

 

 姫島朱里がバラキエルの近くに来て笑いながらそう言うと、顔だけ上げて妻を見た。バラキエルの顔は厳ついながらも涙を流していた。

 

 

 

「朱里、あの面はいったい・・・」

 

 

 

「それは後で説明します。さぁ朱乃、ここを離れる準備に行きましょう」

 

 

 

「はい、母様」

 

 

 

 母親と手をつないで建物の中に入っていくが、反対の手にはしっかりと面を掴んでいた。

 

 

 

「あ、私の名前教えていない」

 

 

 

「そういえば、そうね。でもまた会える気がするわ」

 

 

 

「本当!?」

 

 

 

「お母さんの勘は当たるのよ」

 

 

 

「ま、まってくれ、私も手伝うぞ」

 

 

 

 会話している母子の後に続いてバラキエルはあわてて追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神社の裏手の雑木林の一番高い木の上からその様子を少年は微笑みながら眺めていた。

 

 

 

「ふふ・・・」

 

 

 

『うれしそうだな』

 

 

 

「いや、ただ微笑ましいと思っただけだよ。でも、うれしいと思う。あの家族を守れてよかったと」

 

 

 

『その気持ちが大事なのだ。歴代の斬魄刀の所有者も救うことを目指していたのだからな』

 

 

 

「うん。・・・さて斬月、帰ろうか」

 

 

 

 そう言うと、その場を離れ、集落に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~しばらくして~

 

 

 

 

 

 神社の石段を上がっている男の子が目的地である神社を目の前にして興奮していた。

 

 

 

「ふふふ・・・待っていろよ、悪人ども。今からいってこの神からもらった力で貴様らを切り裂いてくれる。そして姫島朱乃、必ずお前を俺の虜にしてやるぜ」

 

 

 

 邪な感情を口にしながら、石段を登っていくと、ついに鳥居が見えてきた。

 

 

 

「よ~し。一気に飛び出して奇襲してやろう」

 

 

 

 身を潜め、準備をし、そして飛び出した。

 

 

 

「おら~~悪人ども、覚悟しやが・・・・・れ?」

 

 

 

 一気に飛び出したのはいいが、そこにはだれ一人いなかった。

 

 

 

「あれ~~おかしいな、ここだと思ったんだけど、どこに行っちまったんだ?」

 

 

 

 男の子はしばらく待っていたが、すでに親子3人は神社から移動した後であって、それからいくら待っても誰もその神社には現れなかった。

 




次回はいよいよ少年の名前を出します。

最後に出た男の子の名前はまだです。

それではまた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話

お久しぶりです。

仕事と書き溜めでだいぶ遅くなりました。

睡眠不足という事もあり、文章が変だったらすいません。

戦闘以外の日常編て、考えるの難しいねん。

※この世界には霊的な者はいないので、霊力を魔力として扱いますので、ご了承ください。



~あれから数年後~

 

 

 

 少年は集落の長老に呼ばれていた。いよいよ一人前としてこの集落を出立する時が来たのだ。

 

 

 

「お前の出立の門出だ。これを持って行きなさい」

 

 

 

 そう言うと、長老が差し出したのは、一着の着物であった。

 

 

 

「これは?」

 

 

 

「この着物は、歴代の斬魄刀の所有者が着ていたものと同じ素材で作った御主専用の着物じゃ。この素材は御主の魔力によって形成されておっての、例えいくら着物が損傷しようとも魔力が尽きない限りは元に戻る。それに防御にも使えての、多く魔力をめぐらせればある程度の攻撃などでは御主自身には届かないであろう。それに、一度身につければ、わざわざ着替えずとも、御主の斬魄刀と同じで自身の意思で出すことができ、今着ているものから換装できる代物で、さらには成長と共に着物のサイズも変わっていく物じゃ」

 

 

 

「ありがとうございます。謹んで頂戴します」

 

 

 

 そう言うと、少年は早速着物に袖を通してみた。最初は少し大きいくらいであったが、次第にまるで違和感がないくらいに今の体に合っていった。そして念じると、着物は消え、元の私服に戻っていた。

 

 

 

「うむ、どうやら問題はないようじゃ。そうじゃ、ここを出て行ったらどこに向かうつもりじゃ?東北か?京か?九州か?」

 

 

 

「いえ、どれでもありません。私としては、ヨーロッパ方面に行こうと思っています」

 

 

 

「ふむ・・・その理由は」

 

 

 

「私としては、日本だけではなく、世界にも目を向けたいと思っているからです。ヨーロッパにも退魔師やエクソシストはおるでしょうが、日本と比べると魔物が多く、その退魔師の人数と比例していない可能性があります。私ひとり行ったところでどれほどのことも無いのかもしれませんが、それでも助けられる命があるのなら助けに行きたいのです」

 

 

 

「・・・わかった。御主が決めたことじゃ。好きになさい」

 

 

 

「ありがとうございます、長老」

 

 

 

「それはそうと、そろそろ御主の名も決めておいた方がいいじゃないか?もう決めてあるのか?」

 

 

 

「もう決めています。名字は『東雲』(しののめ)にしようと思います」

 

 

 

「ほう。日本の古語で【闇から光へ移行する夜明け前に茜色にそまる空】という意味の言葉じゃないか」

 

 

 

「はい。私は誰かの闇を照らす希望の光になりたいのです」

 

 

 

「うむ、よい名字じゃ。それで名は?」

 

 

 

「名は、『颯』(はやて)です。【風のように、時には強く、時には穏やかに】という意味です」

 

 

 

「『東雲 颯』御主にはこれ以上ない合った名じゃあないか。気にいったぞ。で、いつ出立する?」

 

 

 

「早ければ、今日にでも」

 

 

 

「わかった。移動手段などはこちらで用意しておこう。準備をしなさい」

 

 

 

「はい。では失礼します」

 

 

 

 この日、大いなる力を持った人物、「東雲 颯」がヨーロッパに向けて出発した。まだ行ったことのない地で、その身に待ち受けるのは、人々の希望となる光となるのか、はたまた闇に飲み込まれてしまう絶望か、このときは、まだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

~第一章  完~

 

 




この話の後に、オリ主の詳細を投稿したいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作開始前~第二章~
第8話


オリ主のプロフィール的なものです。

名前:東雲 颯【しののめ はやて】


容姿:白髪・くせっ毛・痩せ型の体系・目は緑色
(見た目の感じは第三次スーパーロボット大戦αのリアル系男主人公のクォヴレー・ゴードン)



使用武器:斬魄刀(主に使用するのは斬月であるが、場合によっては別の刀を使用します)
ちなみに、この時点で卍解は習得していません。いずれは登場させる予定です。



術:鬼道は破道・縛道共にある程度使えるが、回復・治療系の鬼道『回道』は苦手で、擦り傷や浅い切り傷は治療できるが、切断されてたり、肉体の一部などの修復は現在できない。



誕生日:10月6日(クォヴレー・ゴードンの初期の誕生日を参考)



家族構成:集落で生まれたが両親はすでに他界しているが、集落の人すべてが、家族であると感じており、年長者を父親・母親・兄・姉とし、同年代や年下を、弟・妹のように接している。





 

 

~第二章~

 

 

 

 フランス某所 深夜

 

 

 

タッタッタッタッタッタッタ・・・・・

 

 

 

「はぁはぁはぁ・・・」

 

 

 

 人気のない路地に、男性が息を切らしながら走っていた。

 

 

 

「ボス、こっちです」

 

 

 

 不意に呼び止められ、辺りを見回すと、男性の仲間が手招きしながら住宅と住宅の間の隙間から顔をのぞかせていた。男性は安堵して仲間の元へ駆け寄った。

 

 

 

「助かったぜ。・・・俺を含めて5人か。他の奴らは?」

 

 

 

「わかりません。みんな慌てて逃げましたから。それにしても、何なんでしょうかあいつは。いきなり俺たちのアジトに入ってきたかと思えば仲間の一人を切り捨てやがった」

 

 

 

「どうする?あたし達のほかにも逃げた仲間を探しにいく?」

 

 

 

「やめておいた方がいい。いつ奴が来るかわからんからな・・それよりいつでも戦闘になるように準備をしたほうがいいだろう」

 

 

 

「それもそうだな。よし、そうと決まればさっそく〔ザンッ〕・・・がはっっ」

 

 

 

「ん?どうし・・・なに?!」

 

 

 

 移動しようとした矢先に、斬撃音がきこえ、振り向くと仲間の一人が背後から切られて床に倒れていた。目線を上に向けると、そこには・・・

 

 

 

「て・・テメェは俺たちのアジトに来た奴だな!!どうやってここに」

 

 

 

 真っ黒な着物を纏い、日本刀を持っていて、猿の仮面を被っている男が立っていた。残ったメンバーは急いで路地裏から飛び出して大通りに出た。

 

 

 

「テメェ、よくも仲間をやりやがったな。何の目的で俺たちを殺す!」

 

 

 

 一人の男が食って掛かるが、問われた本人は平然と答えた。

 

 

 

「依頼により、あなたたちを討伐させていただきます」

 

 

 

「なんだと・・どこのどいつだそんなことを頼んだ奴は!」

 

 

 

 着物の男は、ゆっくりと歩きながら大通りに出てきた。

 

 

 

「あなたたちに殺された夫や息子のご家族からですよ。はぐれ悪魔さん達」

 

 

 

その言葉を皮切りに、追い詰めたメンバーたちは体を震わせていたが、それは怒りではなかった。次の瞬間、はぐれ悪魔と呼ばれたメンバーは、体を変質させていた。

 

 

 

 腕を巨大化させたり、6本に数を増やしたり、鳥のような羽が生えたり、足がケンタウロスのような人間ではない動物の足になったりと形態を変化させていった。

 

 

 

「テメェ、はぐれ狩りだったのか!だったら容赦しねぇ、ぶっ潰してやる」

 

 

 

 他のメンバーも同意見だったのか、すぐさま着物の男の周りを取り囲み、袋叩きにする目論見であった。

 

 

 

「殺せ!!」

 

 

 

 ボスの一声で全員が襲い掛かったが、着物の男は慌てずに刀を構え、

 

 

 

「散れ、千本桜」

 

 

 

 容赦のない攻撃が始まった。刀の刀身部分が目に見えないほどの無数の刃に枝分かれし、まるで花びらが舞うようにしてはぐれ悪魔たちを襲う。

 

 

 

 それがはぐれ悪魔たちの見た最後の光景だった。

 

 

 

 

 

ピッ・ポッ・ピッ・・・

 

prrrrrrr・・・prrrrrr・・・ガチャ

 

 

 

『・・・』

 

 

 

『コードネーム“名無し”』

 

 

 

『おまえか、任務はどうなった?』

 

 

 

『任務は完了した。後始末をお願いしたいんですが』

 

 

 

『わかった。専門部隊を急行させる。早く戻ってきな』プッ

 

 

 

(フランス語が分からないので、二重カッコで表現しましたが、色々と大変なので、ここからは、通常の会話のようにさせていただきます)

 

 

 

 ほどなくして、魔法陣が複数展開され、魔法陣から真っ黒なスーツ服を着た人物が現れたが、背中にはスーツと同じ真っ黒な羽が生えていた。

 

 

 

 そして、すぐさま男たちはすでに息絶えているはぐれ悪魔たちのもとへ駆け出し、死体の処理を開始した。その中の一人が、着物の男に近寄り敬礼をして、

 

 

 

「はぐれハンターの“名無しさん”ですね?このたびは我ら“悪魔”の依頼を受けていただき、ありがとうございます」

 

 

 

「ご苦労様です。ここ以外にも現場があるんですが・・」

 

 

 

「そこにはすでに別動隊が向かっています。あとは我々が引き継ぎます」

 

 

 

「わかりました。後はお願いします」(ペコ)

 

 

 

 男は一礼すると、振り返り、白いフード付きのマントを着て、フードを深くかぶり、現場を後にした。

 

 

 

敬礼した悪魔は、それを見送り、見えなくなると後始末のため現場に向かった。

 

現場に到着すると、違う悪魔が話しかけてきた。

 

 

 

「隊長、やつは何者なんですか?」

 

 

 

「俺も詳しくはわからん。知っていることと言えば、奴は人間であること、魔力を身に秘めていること、はぐれ狩りの一人であること、そして神器(セイクリッド・ギア)を持っていないということだけだ」

 

 

 

「そんな馬鹿な!!神器を持っていないにも関わらず、数十人のはぐれ悪魔を殲滅したんですか!?」

 

 

 

「それが事実だ。現に我々はその現場に対面している」

 

 

 

 話しかけた悪魔は、振り返り、驚愕の表情を浮かべながら、すでにその場から立ち去っていた着物の男の向かった先を見つめていた。

 

 




しばらく、また仕事と書き溜めで投稿が遅れます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話

 

 

 ~フランス・某所~

 

 

 

 ガチャ

 

 

 

「戻りましたよ、マスター」

 

 

 

 古惚けた三階建ての建物の地下に重厚な鉄の扉で作られたドアを開けてると、中は外からの雰囲気とは違い、クラシック調の音楽が流れているきれいなBARになっていた。扉を開けた目の前にカウンターがあり、そこには店のイメージとはかけ離れた無骨で筋骨隆々な無精髭が生えている男がワイングラスを拭きながら、扉を開けた人物を見つめた。

 

 

 

「よく戻ってきたな、名無し」

 

 

 

 見知っている人物だとわかると、表情を変えずにその人物に声をかけた。

 

 

 

「死にたくないから必死でしたよ」

 

 

 

 カウンターの椅子に座りながらマスターの問いに答えた。

 

 

 

「それでいい。はぐれ悪魔を狩るんだから、生き残ることだけを考えてりゃいいんだ」

 

 

 

「ええ、そうします」

 

 

 

「それにしても、おまえのようなガキがはぐれ狩りなんかをやっているとはねぇ。いったいどんな理由でこんな危険な仕事についてるんだ?」

 

 

 

「それはこの世界に入ったときに聞かない約束でしたよね?」

 

 

 

「そうだったな、わるかった。ところでこの後はどうするんだ?もう一件以来を受けるか?」

 

 

 

「いえ、少し休もうと思っています。ずっと仮面の着けっぱなしで顔の中が蒸れていますんで」

 

 

 

「そんな不気味な仮面とっとと外しちまいなよ。気味悪くて仕方ねえや」

 

 

 

 “名無し”と呼ばれている男が仮面に手を付けながら、不快さを口にするが、店のマスターに突っ込まれる。

 

 

 

「これはいわゆる正体を隠すためのものだから簡単に人前では外せませんよ。たとえそれが付き合いの長いマスター相手でもね」

 

 

 

「ふん、まぁいいさ。お前さんの正体が誰だろうが関係ない。きっちりとはぐれ狩りの仕事をしてくれれば問題ない」

 

 

 

「では、失礼します」

 

 

 

 軽く一礼し、席を立つと、店を出て建物内の階段を使い、三階の一番奥≪305≫の部屋に入っていった。

 

 

 

 部屋に入ると、フード付きのマントを脱ぎ、着物姿の換装を解いて、デニムのパンツとグレーのインナーの服装に変わった。そして最後に猿の仮面を外すと、そこには、やや成長した【東雲 颯】が立っていた。

 

 

 

「やれやれ、すこし帰りが遅くなっちゃったな」

 

 

 

 部屋の時計を見ると、深夜一時半を過ぎていた。

 

 

 

「ここでの生活を初めて一年あまり。慣れてきたとはいえ徹夜はしたくないんだいよなぁ・・・ファア~~」

 

 

 

 手を抑えながらも隠し切れないほどの大きな欠伸をし、部屋に備え付けられている簡易シャワーを浴び、汗を流し終えると時間は午前二時をまわっていたので、部屋の中に結界を張ってベッドに入り眠りについた。

 

 

 

 ~朝~

 

 

 

 チチチ・・・チチチ・・・

 

 

 

 小鳥の囀りを耳にしながら、ベッドの中で体を伸ばす。部屋の時計に目を移すと、八時を過ぎていた。

 

 

 

「やれやれ、もう少し寝られると思ったんだけど、午後からはまた仕事に行かなくちゃな」

 

 

 

 ベッドから起き上がると、洗面所で顔を洗い、市販のショートブレッドを摘まんで、仕事の時間になるまで、部屋の真ん中で座禅を組み、瞑想に浸る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~午後三時~

 

 

 

 時間になると、慣れた動作で、普段着から黒い着物姿になり、フード付のマントをかぶり、最後に猿の仮面を付け、部屋を出て、ビルの地下の表向きはバー兼、裏でははぐれ狩り専門のギルドへと向かう。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話

 ~バー兼はぐれ狩りギルド~

 

 

 

 ガチャ

 

 

 

 ガヤガヤガヤ・・・

 

 

 

 店内に入ると、一般客は二人くらいの入りようであったが、慣れた足取りで、さらに店の奥にある、銀でできた扉を開け中に入っていく。

 

 

 

 中に入ると、そこははぐれ狩りギルドのたまり場であった。

 

 

 

 そこには男性だけではなく、女性も鎧や魔術的な防具を身にまとい、酒や食事など摂っていたり、情報交換や、達成した依頼内容を誇張して話していたりと様々だった。

 

 

 

 すると、一つのグループが声をかけてきた。

 

 

 

「よう、“死神”の兄ちゃん。今日も元気ですかい?」

 

 

 

 一人が声をかけ、持っているグラスを掲げると、同じテーブルにいる仲間と、周りの小グループが同様にこちらに向かってグラスで挨拶をした。

 

 

 

「なんだよ、“死神”というのは。俺の名は“名無し”だよ」

 

 

 

「兄ちゃんが噂になってんだよ。あるはぐれ狩りは、決して素顔は見せないが、討伐依頼を出せば、成功率は一〇〇%。目を付けられた相手は生きては帰れないことから“死神”に気をつけろ。なんて、噂が表や裏の社会にも広まってる」

 

 

 

「はた迷惑な噂だなぁ。あんまり尾ヒレがついても困るんだよ」

 

 

 

 ため息をつきながら噂話を聞き、店奥のカウンターに向かって歩き出す。

 

 

 

「こんにちは、マスター」

 

 

 

「よく来たな、名無し。今日はどうする?」

 

 

 

 昨夜遅くに会ったばかりのマスターに挨拶をしてカウンター席に座ると今日の予定を聞かれた。

 

 

 

「その前に、昨日の討伐報酬の件についてなんだけど・・・」

 

 

 

「わかっている。いつも通りに、報酬の五〇%は依頼人に対しての見舞金、残りの内二五%ずつを店とアンタに振り分けたよ」

 

 

 

「いつも手間をかけてすみません」

 

 

 

「いいってことよ。しかし、アンタも珍しい人だな。報酬の半分を依頼人に返しちまうなんて、今まであったはぐれ狩りの奴らからは想像がつかないぜ」

 

 

 

「世の中にはこんな物珍しいはぐれ狩りがいるもんなんですよ。それより、またカウンターの隅を借りたいんですが」

 

 

 

 そう言うと、店の目立たないカウンター席の奥を指さして許可を得ようとした。

 

 

 

「構わねぇよ、あの場所を使うのはアンタぐらいだ。他に何か注文はあるか?」

 

 

 

「では、紅茶をポットでください。ミルクなし、角砂糖を二つで」

 

 

 

「わかった、後で持っていく。向こうで待ってろ」

 

 

 

 そう言うと、奥の厨房へ行ってしまい、準備に入っていった。

 

 

 

 颯はそれを見届けてから、カウンターの奥へ移動し、懐から持参してきた本を取り出し、読み始めた。

 

 

 

 

 

 しばらくして、厨房からポットとティーカップを持ったマスターが出てきて、名無しの目の前のカウンターテーブルに置いて、すぐに他のはぐれ狩りのグループから声がかかり、その対応に向かっていった。

 

 

 

 本にしおりを挟み、紅茶をカップに注ぎながら、香りを楽しんでいると、ギルドのたまり場の入り口のドアが突然≪バーン≫と勢いよく開いた。

 

 




中途半端な終わり方ですいません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話

 

 

 突然のことで、たまり場にいた全員が音のした方に目を向けると、黒を強調した神父服に身を包んだ金髪の男とそのすぐ後ろに、灰色のローブを身に包んだ茶髪のツインテールと青い髪でショートカットの少女2人が立っていて、青髪の少女の背中には、身の丈ほどの大きな布に包まれているものを背負っていた。

 

 

 

 金髪の男はたまり場を見ていた。まるで品定めでもするような視線で。

 

 

 

「ふん。どいつもこいつも雑魚ばかりだな」

 

 

 

 鼻で笑い、小馬鹿にしたような台詞を吐きながら店内へと足を踏み入れた。すると、その台詞を聞いたギルドメンバーは怒りに満ち、不快そうな顔を三人に向けていた。

 

 

 

「ネロ神父。あまりそのようなことを大勢の場で言うのはどうかと思うのですが・・・」

 

 

 

「正直なことをいって何が悪い」

 

 

 

「ですが・・・」

 

 

 

「イリナ。この人に何を言っても駄目だ。自分中心で物事を判断する御方なのだから」

 

 

 

 ツインテールの少女がネロと呼ばれている男性を宥めようとしたが、青髪ショートカットの少女の肩に手を乗せ、呆れ顔でやめさせた。

 

 

 

 そして三人がカウンターまで来るとマスターに男性が質問をしてきた。

 

 

 

「マスター、ここに“死神”という人物がいると聞いたんだがどこにいる?」

 

 

 

「・・・そんなこと聞いてどうするんだ?依頼でも出すのか?」

 

 

 

「いや、こんな所にいるより、我々協会側に来てほしいという、所謂スカウトというやつだよ」

 

 

 

「こんな所で悪かったな。そりゃ奴が行きたいというんなら連れて行くがいいさ。」

 

 

 

「ああ、言い方が不適切だったね。そいつが行く行かないの返事を出さなくても我々は“死神”を連れて行くから」

 

 

 

 その言葉を聴いた店内の全員が驚いた顔をした。

 

 

 

「そいつはどういうことだ?」

 

 

 

 マスターはしかめっ面をして神父に睨んだ。

 

 

 

「何、簡単なことだ。彼の持つ力は危険だ。故に我々協会の人間が管理しなくてはならないと判断したからです。」

 

 

 

 淡々と理由を述べていると、バンッとテーブルをたたく音がし、

 

 

 

「ふざけるな!!兄ちゃんのどこが危険なんだと言うんだ!」

 

 

 

 音がしたほうに振り向くと、店内にいる全員が三人に向かって睨んでいた。

 

 

 

「・・・一人で複数のはぐれ悪魔を討伐した人物は危険ではないと?」

 

 

 

「ああ、そうだ。例えどんな力があろうが、兄ちゃんは一度も人を傷つけたことはないし、犠牲を出したこともない。」

 

 

 

「だからといって、このまま野放しにしておくわけにはいかない。こちらで監視する」

 

 

 

「それはそちらの勝手な都合だろうが!!」

 

 

 

「そうとっても構わないが、ならばどうするのですか?」

 

 

 

「決まっている。あんた等が兄ちゃんを無理矢理連れて行くっていうんなら、俺たちは力ずくでもそれを阻止してやるからな」

 

 

 

 そういうと、男は我慢の限界に達したのか立ち上がり、自分の得物である大剣≪バスターブレード≫を手に持ち、三人の前に立った。

 

 

 

「やれやれ、こちらとしては、穏便に済まそうとしたんですがね」

 

 

 

 明らかに挑発的な物言いなのに、自分には全く非がないといった態度が、さらに男の怒りを増長させた。

 

 

 

「この・・・ふざけやがってぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 あまりの態度に、我慢の限界だったのか、大剣を振り上げて、神父に向かって走り出した。

 

 

 

「イリナ、ゼノヴィア、彼を止めろ」

 

 

 

「「了解」」

 

 

 

 ネロ神父の前に立ち、男の突進を目の前にして二人は落ち着いていた。

 

 

 

「ゼノヴィア、頼んだわよ」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

 青髪の少女は、背中に背負っていた布を取ると、バスターソードと似た大剣が出てきて、両手に持ち、待ち構えていた。

 

 

 

「力で俺と勝負か?上等だぁぁぁ」

 

 

 

 男が振りかぶった大剣を振り下ろした。それに対して、青髪の少女は振り上げて迎え撃った。

 

 

 

 ガキィィィィン・・・・バキン

 

 

 

 折れたのは、男の大剣だった。

 

 

 

「な・・・に・・・」

 

 

 

 男は信じられないといった表情で呆然としていた。

 

 

 

 その隙をツインテールの少女は見逃さなかった。腕に巻いてある紐を解き、振うと、紐の長さが伸びて、天井の吹き抜けの柱を通し、男の腕に巻きつき、引っ張り吊り上げた。

 

 

 

「く・・くそぉぉ」

 

 

 

 男は吊り上げたままの状態で悔しさを露わにしたが、どうすることもできなかった。

 

 

 

 その男に、ネロ神父は近づいて行った。

 

 

 

「どうですか?我々の力は。お前如きだったら、こんな風に簡単に制圧できるんだよ。身の程を知れよ、雑魚が」

 

 

 

「なにを、自分は何もしてないくせに」

 

 

 

「お前如き、僕の手を汚すまでもないと思ったからだよ。・・ただお前の言うことも一理ある。最後は僕自身の手で始末してあげよう」

 

 

 

 そういうと、ネロ神父は、右手を軽く上げると、空間が歪み、そこから剣が一振り出てきた。

 

 

 

「お前如きに聖剣を出すのが勿体ないが、こいつの切れ味を身をもって知れ。こいつの名はガラティーン。かのガウェイン卿が使っていた聖剣だ。光栄に思うんだな。普通なら見ることもおこがましいお前に僕がこの手で、この剣で断罪するんだからな」

 

 

 

 男の目の前に来て、薄ら笑みをきかせ、ガラティーンを振り上げ、そして・・

 

 

 

「判決・・・死刑」

 

 

 

 振り下ろした。

 

 

 

 

 

 ギィィィン

 

 

 

 

 

 男は目を瞑っていたが、いつまでたっても痛みがこないので、目を開けると、そこには猿の仮面が近くにあり、背後で刀を背に回し、ガラティーンを受け止めていた。

 

 

 

「少し、やり過ぎではありませんか?」

 

 

 

 冷静な物言いではあるが、内心は怒気が含まれている口調に二人の少女と店内にいるギルドメンバーはたじろいだが、神父だけはそのことに気づいていなかった。

 

 

 

「なんですか、君は?部外者は引っ込んでいてください」

 

 

 

「私は、あなた方が探している人物ですが、何か問題でも?」

 

 

 

 そのセリフと同時に神父の剣を弾き、後方に下がらせる。

 

 

 

「ああ、君がそうでしたか。では話が早い。僕たちと一緒に来てください」

 

 

 

「お断りします」

 

 

 

「では仕方ない。力ずくでも連れて行く。イリナ、ゼノヴィア。彼を捕えろ」

 

 

 

「「了解」」

 

 

 

 そう言うと、吊り上げていた男の手から紐を解き、自分の手元に戻し、バスターソードを叩き折った剣を構えてこちらに向かって攻撃する準備をした。

 

 

 

「その前に、こちらは依頼を受けたのでそちらを優先させていただきます。マスター、依頼番号28番:怪鳥ハーピーの親玉の討伐任務を受領してください」

 

 

 

 カウンターにいるマスターにそう告げると、『わかった』と右手を挙げて答えた。

 

 

 

「話はまた後で、それでは・・・」

 

 

 

「まて」

 

 

 

 踵を返し、店内を出ていこうとしたときに、神父に呼び止められた。

 

 

 

「われわれもその依頼に同行させてもらえないだろうか」

 

 

 

「なぜです?」

 

 

 

「アンタの実力をこの目で見てみたいんで」

 

 

 

 薄ら笑みを浮かべて死神(颯)を見ていた。

 

 

 

「・・・わかりました。お好きなように。ただし、傍観するだけにしてください。戦闘になったらこちらの指示があるまで手を出さないでください。それが条件です」

 

 

 

「ああ、わかった」

 

 

 

「そちらの二人も、いいですね?」

 

 

 

 少女二人の返事はなかったが、頷いたのでよしとする。

 

 

 

「では、行きましょうか」

 

 

 

 そういうと、名無し(颯)はギルドを出ていき、それに続いて神父組がついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




またまた中途半端ですみません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~とある岩山~

 

 

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

 

 

 

 足場が悪く、岩が剥き出しの山道をネロ神父は息を切らしながら登っていた。その前方三〇mには息を全く切らしていない共の少女2人と、死神が先行していた。

 

 

 

「お・・おい。そんなに・・・急いで・・・登って行くな。はぁ・・はぁ・・もう少し・・ペースを・・落とせよ・・」

 

 

 

 前にいる三人に文句を言い、ゆっくりとだが登って行く。

 

 

 

(くそぉぉぉ。せっかくこの世界に転生したのになんで僕が岩山なんかに登らなきゃならないんだ。転生する際に神に頼んで聖剣の適合者にしてもらってガラティーンまでもらったのに、何で【無限の体力】の願いにしなかったんだ。そもそも、願い事が二つまでってのが気にくわねぇ。どうせだったら一〇個までにしろよな)

 

 

 

 悪態をつきながら、前にいる死神に睨みを利かせる。

 

 

 

(さらに、何が『お前以外にも、もう1人転生者がいる。じゃあの』だ。そんなの聞いてねぇよ。このまま話が進めば、いずれ駒王学園に行ってグレモリーに会って、頃合いを見て教会と決別して、眷属にしてもらうという、当初の予定だったのに。どうせ、目の前にいるやつがそうなんだろうけど。そんなの僕が始末して転生者は僕だけの状態にすれば、計画通りになるはずだ。教会関係の依頼で引き抜きに赴いたけど、隙を見て殺してやる)

 

 

 

 

 

 

 

 神父の到着を三人は見下ろしながら待っていた。

 

 

 

「彼は体力がなさすぎます。今までどうしてこれたのか不思議なのですが」

 

 

 

「ネロ神父様は強力な聖剣の適合者なので他の教会の戦士たちよりも位は高いんですけど実戦に出たことが殆どなくて、激しい運動などは苦手なようで」

 

 

 

 名無しの疑問にツインテールの女の子が苦笑いをしながらも疑問に答えていた。

 

 

 

「それよりも死神、聞きたいことがあるんだが」

 

 

 

 青髪ショートカットの女の子が話を遮って聞いてきた。

 

 

 

「私の名は死神ではなく、名無しです。それであなた方の名は?」

 

 

 

「ん・・・そうか、すまなかった。私の名はゼノヴィアだ。こちらは「イリナで~す」という。それで聞きたいのだが、その腰に差している刀は聖剣か魔剣なのか?先ほど、ガラティーンの一撃を防いでいたが」

 

 

 

「いえ、これは聖剣でも魔剣でもありません。その証拠に魔力も聖なる波動も放出してませんでしょう」

 

 

 

 そういうと、名無しは腰に差している刀を抜刀し、二人の目の前に見せるようにした。

 

 

 

「確かに、何も感じない。どうなっているんだ?」

 

 

 

「聖剣を受け止めたのに、傷一つついていないなんて」

 

 

 

 二人が、まじまじと刀(斬魄刀)を凝視していると、

 

 

 

「どうやら、来たようですね」

 

 

 

 二人が名無しの背後を見ると、ネロ神父がようやく到着した。

 

 

 

「はぁはぁはぁ」

 

 

 

「大丈夫ですか?ネロ神父」

 

 

 

「はぁ・・ふん・・これくらい・・はぁ・・なんとも・・ない・・はぁ・・」

 

 

 

 イリナが心配そうに声をかけるが、息切れをしながらも強気な口調は崩さなかった。

 

 

 

「いえ、来たというのは・・・」

 

 

 

 名無しはそういうと、山頂に向かって視線を向けた。三人も何のことかと思い、同じように目線を上に向けると、

 

 

 

≪ギャオオオオオオオオオオオオオオオオ≫

 

 

 

 大地が裂けそうな音量の鳴き声が響き、推定体長一〇メートルの大きさで、両翼を伸ばしたら一五メートルの巨大な怪鳥が羽ばたきながら四人に近づいてきた。

 

 

 

「な・・なんだあれは!?」

 

 

 

「何だといわれても、あれが討伐依頼のハーピーですが?」

 

 

 

 ネロ神父が驚いて大声を上げるが、颯は何のことはないといった声で答えた。

 

 

 

「それにしてはデカ過ぎだろう!」

 

 

 

「声を上げたからといって、大きさが変わるわけではないでしょう。そういうわけでここは私に任せて後方に下がってください」

 

 

 

 ギルドでのやり取りで、颯の要望どおりに討伐には手を出さずに見ているだけにしてほしいと頼んだので、このまま後ろに下がるだろうと思っていたが、なぜかネロ神父は前に出て異空間からガラティーンを出してハーピーと対峙した。

 

 

 

「冗談じゃない。こんな大物を前に引けないね。ここは僕がやるから、君が下がるんだな」

 

 

 

「それでは約束と違いますが?」

 

 

 

「そんな約束、忘れた・・ねっ!!」

 

 

 

 その台詞と同時に、ネロ神父は巨大ハーピーに向かって駆け出すが、それをじっと見ていた巨大ハーピーは背中の羽を羽ばたかせるとそれによって生じた風圧がネロ神父を直撃。

 

 あっけなく吹き飛ばされて岩に頭をぶつけ、そのまま気絶してしまった。

 

 

 

「彼は・・・何がしたかったんですか?」

 

 

 

「重ね重ね申し訳ない」

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 颯はその考えないで相手に突っ込んだネロ神父の行動を、後ろを振り向いてゼノヴィアとイリナに尋ねたが、いつもの行動なのか、二人とも素直に謝った。

 

 

 

「はぁ・・・しょうがないですね。神父を回収して後方で治療して下さい」

 

 

 

 それを聞いた二人はやれやれといった表情で近づいていき、後ろに下がっていった。

 

 

 

「では、こちらも始めましょう」

 

 

 

 そう言うと、右手にある斬魄刀を構え、ゆっくりとハーピーに近づいていく。

 

 

 

「おい、そんな不用意に近づくのか?神父の二の舞になるぞ」

 

 

 

 ゼノヴィアが注意を呼びかける。

 

 

 

「大丈夫です。と言うのも・・・」ヒュン

 

 

 

 ズバァァァァァ

 

 

 

「相手が反応する前に攻撃すればいいのです」

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアアア」

 

 

 

 死神が瞬時に消えたと同時にハーピーの悲鳴とも聞こえる鳴き声がこだました。その鳴き声のした方に目を向けると、左側の翼が半分ほど切断されていた。その近くには高速で跳躍した死神が刀を振っていた。そして切断された翼では空を飛ぶことにも満足にできず、岩山に落下していった。

 

 

 

「・・・イリナ、今の動き、見えたか?」

 

 

 

「ぜんぜん・・・何も・・・動きの動作もわからなかった」

 

 

 

 落下した衝撃で土埃が舞うハーピーの前に死神が着地していた。

 

 

 

「では、これで終わりにしましょう」

 

 

 

 刀を構え、再度攻撃しようとした矢先、土埃の中心から突風が吹き荒れ、ハーピーが飛翔した。

 

 

 

「な・・肩翼を失った状態でまだ飛べるのか?」

 

 

 

 飛び上がったハーピーは自分の翼を切った敵を物凄い憎悪の目でにらみつけた。そして得物を持ってる黒い服装の人間を見つけると、その巨大な巨体で押しつぶそうと特攻してきた。それに対し、颯は微動だにせず、片手を挙げた。

 

 

 

「何をしている!早くよけろ!」

 

 

 

 ゼノヴィアが大声を出して逃げるように促すが、颯は落ち着いて鬼道を放つ。

 

 

 

「(破道の五十七)大地転踊」

 

 

 

 その言葉を皮切りに、周りにある無数の岩が浮き上り、突っ込んでくるハーピーに向かって飛んで行った。

 

 

 

 ガガガガガガガガガガ・・・

 

 

 

 地面から急に岩が飛んでくるので驚いたハーピーは突撃をやめ、両腕をクロスして防御の構えをした。その際に、空中で浮遊する形となり、ほぼ無防備な形となった。

 

 

 

 その瞬間を颯は見逃さなかった。瞬歩でハーピーの真下に移動し、斬魄刀を始解した。

 

 

 

「舞え、袖白雪」

 

 

 

 すると、刀身も鍔も柄も全て純白の形状に変化し、柄頭に先の長い帯がついた。

 

 

 

「あれはなんだ!?刀の形状が変わったぞ!」

 

 

 

「そんな!!確かにさっき見せてもらった時は聖なる力も魔力も感じなかったのに、今ではハッキリと魔力が感じられるなんて!!」

 

 

 

 ゼノヴィアとイリナが信じられないといった表情で驚いていた。

 

 

 

 そんなことはほっといて、解放した袖白雪を横一文字に振りぬく。

 

 

 

「初の舞・月白」

 

 

 

 すると振った刀と同じ範囲の地面が白くなり、颯が飛び退くと、地面から氷の柱が一瞬のうちに形成されていき、飛んでくる岩ばかりに集注していたハーピーは、下の事には気付かなかったため、真上にいたものをすべて一瞬のうちに体内まで凍らせた。その後氷はヒビが入り、その場でハーピーごと砕き崩れていった。

 

 

 

 それを見届けた颯は、一振りして斬魄刀を元に戻し、鞘に納め手元から消した。そして振り返り、ゼノヴィアとイリナの元に歩みを進め、二人の近くに行くと、

 

 

 

「依頼完了です。ギルドに戻りましょう」

 

 

 

 っと、いまだに気絶しているネロ神父を担ぎ上げ、軽々と岩山を下って行き、ボー然としていた二人も急いで後を追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 




まだまだ続きます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話

またまた中途半端な終わり方です。

それでも楽しんでいただければ幸いです。

それと、通算UA10000突破・お気に入り100件突破いたしました。

こんな拙い作品を読んでいただき感謝に堪えません。

これからもどうかよろしくお願いします。



 

 

 

 

 

 

 ~夜 ギルド内~

 

 

 

 ガヤガヤガヤ・・・ハハハハハハハ・・・

 

 

 

「聞いたか、例の教会から来た神父が死神の旦那と一緒に討伐依頼に同行したんだけど、何の役にも立たずに勝手に突っ込んで返り討ちにされたらしいぜ」

 

 

 

「教会の戦士とやらもたいしたことないな」

 

 

 

「いや、隣にいた二人の少女たちはなかなかの腕らしいぞ。二人がかりとはいえ、バスターソードを持ったアイツの剣を破壊して拘束したんだからな。並大抵の実力じゃないな」

 

 

 

「そうだな。全員が全員、あの神父みたいな奴ばかりの実力じゃないってことだな」

 

 

 

「まあ、今回は死神の旦那の活躍に乾杯しようや」

 

 

 

「そうだな。じゃあもう一度、乾杯!!」

 

 

 

「「「「乾杯」」」」

 

 

 

 グラス同士が打ち合う中、店内の隅の円卓のテーブルでは話の内容の中心である三人と、いまだに気絶していて、床で寝ている神父がいた。

 

 

 

「(やれやれ、相変わらず騒がしいですね)すいません、御二方、騒がしいところで・・」

 

 

 

 颯の背後で騒いでいるギルドメンバーを一瞥して、前に座っているゼノヴィアとイリナに謝罪しようと振り向いたが、

 

 

 

  ガツガツガツガツ・・・・

 

  モグモグモグモグ・・・・

 

 

 

 その二人は目の前の料理にがっついていた。

 

 

 

 夕方に討伐報告のためギルドに戻ってきた一行であったが、「ちょうどいい時間帯なのでということで、夕食でもどうでしょうか?御馳走しますよ?」と、誘ったところ、「「ぜひ!!」」と二つ返事で承諾した。

 

 

 

 自分で誘っておいてなんだが、それでいいのか?教会の戦士は。っと内心頭を抱えたが、良い食べっぷりのため、すぐにそんな気持ちはなくしてしまった。

 

 

 

  ヒョイ。パク。

 

 

 

「あ~~ちょっとゼノヴィア。それ私の皿にあったお肉でしょう!?勝手に食べないでよ!!」

 

 

 

「何を言っているイリナ。ここは食事という名の戦場だ。なればこそ一瞬の油断が命取りだ。隙を見せたのが敗因だ」

 

 

 

  ヒョイ。パク。

 

 

 

「あ~~また食べた~~!!」

 

 

 

 二人の食事のやり取りを見ながら、颯はマスターに追加の注文をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、二人は満足したのか、食事の手を止め、颯に感謝の十字を切り、真剣な顔で問いただした。

 

 

 

「それで“名無し”よ。もう一度問うが、我らと一緒に教会の戦士にならないか?貴殿が一緒になって戦ってくれれば、これほど心強いものはないのだが」

 

 

 

 食事している風景とは打って変わってゼノヴィアの質問に、颯は内心で驚くが、自分の答えは決まっていた。

 

 

 

「申し訳ありませんが、最初に言ったようにお断りさせていただきます」

 

 

 

「・・・理由を聞いても?」

 

 

 

「教会側でも確かに討伐の依頼が入るでしょうが、それは実行するに対して色々と手続きがあるでしょう。編成人数、その場所までの時間などを考えると、教会にいるより現地での依頼を受けた方がより速く手が付けられるからです」

 

 

 

「なるほど。そういう考えもあるか」

 

 

 

「さらに言えば、ネロ神父の下で働くのはどうも性に合わなくて。この人は協調性とかなく、相手を見下したような態度をとるから、付き合い辛いと思うので」

 

 

 

「まぁ、気持ちはわからんでもないが、そういう理由だったら仕方のないことだな」

 

 

 

「さらに言えば、私は悪魔からも依頼を受けているので、下手をすると処罰の対象になりかねないからです」

 

 

 

「わかった。其処まで言うのであればこちらも引き下がろう。ただ、こちらと敵対するという事はないか?」

 

 

 

「教会側が私や周辺の人物に対して手を出してこない限り何もしませんよ」

 

 

 

「では、一つ頼みがあるのだが・・・」

 

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

 

「手合わせを願いたい」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

「貴殿の戦い方を拝見したが、スピード・パワー・剣筋、どれをとっても私よりはるかに上だ。だから、手合わせすることで、私はさらに上の段階まで戦士として成長するかもしれないからだ!」

 

 

 

 テーブルを叩き、体を前に出し、真剣な顔つきで手合わせを願った。

 

 

 

「あの~、一つ言っておきたいのですが、そんな簡単に技術というものは上がらないんですが。地道な鍛錬と、それを継続することによって身につくものかと思うのですが・・」

 

 

 

 颯は戸惑いつつも、何とか諦めてもらおうかと説得するが、

 

 

 

「そんなことはない!強いものと戦えばそれに応じて経験が増し、強くなるではないか!」

 

 

 

 その発言を聞いた瞬間、颯は感じた。

 

 

 

「(ああ、この人脳筋だ~)」

 

 

 

「さあ、善は急げだ。早速外へ出て私と「何をするのですか?ゼノヴィア?」・・っ!?」

 

 

 

 急に周りの温度が低下したように感じた。颯とイリナはそう感じたが、ゼノヴィアに関しては、絶対零度のように感じ、ギギギッとまるで機械仕掛けの人形のように首を後ろに向けた。其処にいたのはシスター姿の北欧的な顔立ちの青い目をした美女がにこやかな笑顔を、ある意味、冷淡な笑顔を向けていた。

 

 

 

「シ、シ、シスターグリゼルダ!?」

 

 

 

 ゼノヴィアは大声を上げ驚いた。

 

 

 

「まったく貴女達は、戻ってくるのが遅いと思って迎えに来てみれば、夕食をとるならまだしも、争い事を起こさせるなんて一体どういうつもりなんですか?」

 

 

 

 シスターは笑顔のままゼノヴィアに問いかけるが、当のゼノヴィアは震えて顔中から汗が滝のように流れて、シスターの質問にしどろもどろの様子だった。

 

 

 

 その様子を見ていた颯は助け舟を出すため、シスターに話しかけた。

 

 

 

「すいません、シスター。この二人に夕食を誘ったのはこの私です。急ぎの様子もなかったので、もし叱責を受けるのであれば、それはこの私になりますので、この二人には寛大な処置を願います」

 

 

 

 テーブルに座ったまま颯は、シスターに頭を下げ、ゼノヴィアには罪はないことを説明した。シスターはゼノヴィアから颯に視線を向けた。

 

 

 

「これは御見苦しい所を御見せしました。申し遅れました。私は教会の戦士のグリゼルダ・クァルタと言います。こちらのゼノヴィアとイリナの上司になります」

 

 

 

「これはご丁寧に。私は、はぐれ狩りの名無しと言います」

 

 

 

「存じております。とても優秀なはぐれ狩りであって、別名が死神と噂を聞き及んでおります」

 

 

 

「お褒めいただき光栄です」

 

 

 

「彼女らが遅れた理由はわかりました。ですが何の連絡もなく今の今まで忘れていたり、ネロ神父の看病もしなかったのを私は責めているのです。何より、貴方に対してのゼノヴィアの暴力的な態度に対して怒っているのです」

 

 

 

「し、しかしシスター、私としてはこれを機にもっと戦士としての技量が得られればと思っているから、手合わせを願っただけで・・」

 

 

 

「黙りなさい、ゼノヴィア。そんなのだから貴女は成長しないのです。何でもかんでも力や戦いで物事を解決しようとするからいけないのです。そもそも貴女達三人の目的はこちらの方の勧誘でしょう?なぜ与えられた使命を果たせないのですか?」

 

 

 

「「す、すいませんでした」」

 

 

 

 ゼノヴィアに対して注意しているのに、なぜか隣にいるイリナまで謝っていた。

 

 

 

「ではこの件は協会の支部に戻ってから改めて説明させていただきます。早くネロ神父を連れて支部に戻りましょう」

 

 

 

「「ハイ!!」」

 

 

 

 そこからの行動は速かった。いまだに気絶しているネロ神父に駆け寄り、腕を肩にかけ、起こしてギルドの外へと出て行った。あまりの行動の速さに颯はただ見つめていることしかできなかった。

 

 

 

「この度は大変お騒がせしました」

 

 

 

 そう言うと、シスターは深々と頭を下げて謝罪した。

 

 

 

「いえ、構いません。私も少し楽しい時間を過ごせました」

 

 

 

「そう言っていただけるなら幸いです。それで改めてどうでしょう?私たちと共に行動しませんか?」

 

 

 

「あの二人にも言いましたが、辞退させていただきます。理由はあの二人に聞いてください」

 

 

 

「わかりました。ではこの辺で失礼させていただきます。貴方のこれからに幸あらん事を祈っています」

 

 

 

 目の前で十字を切り、シスターグリゼルダも店を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会の勧誘から五日程たったある日。いつものように討伐依頼を果たし、ギルドに戻ってきた名無しは、報告を済ませ自室に戻ろうとしたが、マスターに呼び止められた。

 

 

 

「まて、名無し。アンタに客が来ているんだが」

 

 

 

「また教会の関係者ですか?」

 

 

 

「わからんが、奥のテーブルで待ってもらってる。銀髪の女性だ」

 

 

 

 言われた場所に目を向けると、一人の女性が紅茶を飲みながらこちらに背を向け待っている姿が見えてとれた。颯はすぐに駆け寄った。

 

 

 

「遅れて申し訳ない。貴女が私を待っていたという事ですが、どのような要件でありましょう?」

 

 

 

 その声を聴いた女性はイスから立ち上がり、振り向いてお辞儀した。

 

 

 

「初めまして。私はロスヴァイセと言います。アースガルズで戦乙女をしております。本日は貴方に英雄として我がアースガルドに来ていただきたいのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話

投稿ができなくなって早2か月。

前にも言いましたが、日常編の制作に時間をかけすぎました。

楽しんでいただけたら幸いです。



 

 

 

 

「英雄・・ですか」

 

 

 

「はい。あなたはこれまで、はぐれ狩りとして多くの実績があるとアースガルドで認証されました。そこで私があなたをお迎えにきたのです」

 

 

 

 淡々と颯を英雄的になった説明をした。颯はイスに座りながら目の前のテーブルを挟んで座っているロスヴァイセの説明を聞いていた。難しい顔をしながら。

 

 

 

「それでどうでしょう?ぜひ、あなたにはアースガルドに来てほしいのですが」

 

 

 

「折角ですが、お断りします」

 

 

 

「な、なぜですか!?アースガルドに行けば、あなたの死後の魂はヴァルハラの戦士となり、将来は安泰なんですよ!?」

 

 

 

「いや、別に将来性で嫌がっているわけではないんですが・・・」

 

 

 

「では、なぜなんですか?」

 

 

 

「そもそも私は、英雄とか勇者とか呼ばれる事はしてないんですよ」

 

 

 

「そんなことはありません!!実際にあなたのおかげで多くの命がたくさん助かってます。そんなあなたは、英雄になる資格があるんですよ!」

 

 

 

「そう言われましても、私としては、力を持つものとしては当たり前のことをしているだけで、そんな大層な呼び名をされる言われは無いんですよ」

 

 

 

「そ、それは・・・」

 

 

 

「それに、英雄というのは、どんな理由があるにせよ、護った人がいる分、それに比例して多くの魔物やはぐれ悪魔を殺めたことがあるということです。そんな大量殺戮者が英雄などと呼ばれるのが私は嫌いなんですよ」

 

 

 

「・・・それでは、伝記などに記されている英雄たちも?」

 

 

 

「すべてが、とは言いませんが、伝記などは勧善懲悪風に書かれているので、読む分には好きですが、実際はどうなのかはわからないので、どっちつかず、とだけ申しておきます」

 

 

 

 実際に見てきた人がいないので、颯はこういう答えしかできなかった。

 

 

 

「そういうわけで、ロスヴァイセさん。私の勧誘はあきらめて・・・っ!?」

 

 

 

 もらいます。と言おうと、ロスヴァイセさんを見ると、俯きながら目尻に涙をためていた。

 

 

 

「うううぅぅぅぅぅ・・・・」

 

 

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

 

 

 急な展開に颯はうろたえた。

 

 

 

「うわああああああ」

 

 

 

 ロスヴァイセはテーブルに突っ伏し、声を上げて泣き出した。

 

 

 

「なぜ!?」

 

 

 

「うう、せっかく、初めての勧誘だったのに。今まで勉強ばかりしていたからずっと仕事はデスクワークだったし、勇者様の勧誘のメンバーになったかと思えば、もう時代は平和で数も少なくなってきたのに、今回やっと理想の英雄様がいたのに、その英雄様も英雄になるのを嫌っていて、もうこのような出会いなんて二度とないのかもしれないのに、このままじゃ私、ただ勉強ができるだけの無能ヴァルキリーと周りから言われるんだぁぁぁ!!」

 

 

 

 周りの目も気にせずに大声を上げて今までの鬱憤を晴らすかのように恨み辛みを口にした。

 

 

 

「いや、貴女の事はよくわかりませんが、そこまで自分を卑下することはないと思いますが・・・」

 

 

 

「そんなことはありません!私の先輩たちはこんな御時世でも英雄の勧誘は成功しているんですよ!そんな中、私だけが勧誘に成功していなければ、そんなの同じ部署にいずらいじゃないですかぁぁ!!」

 

 

 

 顔を上げると、涙で顔を濡らしているロスヴァイセが見つめてきた。

 

 

 

「(うぅ・・・女性の涙は苦手なんだが)」

 

 

 

 颯は少し考えたが、溜め息を一つ吐きながら妥協案を提案した。

 

 

 

「では、仮契約という形ではいかがでしょうか?」

 

 

 

「仮・・契約?」

 

 

 

「私は英雄だの勇者にはなる気はありません。ですが、いつかは気が変わって、なりたいと思うかもしれません。その時になって別のヴァルキリーが契約に来たのでは、ロスヴァイセさんも不本意でしょう?ですので、仮契約をしておけば、優先的に契約の機会が巡ってくるというわけです」

 

 

 

 そういうと、ロスヴァイセは考え込むように顎に手を当て、少し考えたのち、

 

 

 

「わかりました。その案で私と仮契約をお願いします」

 

 

 

 ロスヴァイセの手元から魔方陣が展開され、そこから契約書が出現。ある程度、ロスヴァイセが手直しをしてから、颯へと差し出される。

 

 

 

 颯は、契約書に目を通し、不備や此方にとって不都合なことが書かれていないかを確認し、三十分かけてようやく仮契約書にサインをした。

 

 

 

「これで大丈夫でしょうか?」

 

 

 

「少し待ってください。・・・・・はい、確認しました」

 

 

 

 やれやれ、やっと終わったかと思い、席を立とうとしたが、

 

 

 

「では最後に、顔写真をお願いします」

 

 

 

 その一言が、颯を凍りつかせた。

 

 

 

「は?・・・顔写真?」

 

 

 

「はい。本来は契約書だけでよいのですが、最近では英雄の名を語る偽物がいる可能性があるので、もし、貴方の名を語って英雄の真似事をし、不名誉な事があった場合、顔写真があれば、それを証拠に本人でないことが証明されるからです」

 

 

 

「・・・私は一応この仮面を着けて行動してますから、そんなに気にしないのですが」

 

 

 

「それでも、一応規則ですから・・・」

 

 

 

「ですが、わたしは、正体を知られるのはあまりしたくないのですが・・・」

 

 

 

「で、では、私だけ情報を所持するという事で妥協していただけませんか?」

 

 

 

 ロスヴァイセはようやくとれた契約を破棄されないようにと、必死になって引き留めようとした。

 

 

 

「・・・はぁ、わかりました。そのかわり、約束通りに私の素顔は誰にも公表しないでください。どこで情報が漏れるかわかりませんから。もっとも私自身が漏らしてしまったらそれは意味がありませんけど」

 

 

 

「は・・・はぁ」

 

 

 

「では、できれば人目につかない方法で撮影しましょう。『縛道の七十三 倒山晶』」

 

 

 

 鬼道を発動させると、颯を中心にして、四角すいを逆さにした形の結界を出現させた。

 

 

 

「こ・・これは!?」

 

 

 

 ロスヴァイセは急な展開に狼狽えはしたが、

 

 

 

「安心してください。これは外から中が見えない結界で、この中なら私も素顔を出しやすいというものですので、このような処置をした次第です」

 

 

 

「そ・そうですか。少し驚きましたが、そういうことでしたら構いません。では早速撮影を開始しましょう」

 

 

 

 そういうと、魔法陣を展開し、魔法陣から撮影用のカメラを出現させた。

 

 

 

「では、すみませんが、仮面を外してください」

 

 

 

 カメラを構え、いつでも撮影できるロスヴァイセに対して、颯は、頭にかぶっていたローブを取り、仮面を外すと素顔を晒した。

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

「ロスヴァイセさん?」

 

 

 

「っは!す、すいません。あ、あまりにも若い方なので驚いてしまって」

 

 

 

「まぁ、声もくぐもってますし、わからないのも当然のことですよね」

 

 

 

 そう言いながら、首に巻かれているローブの紐を、颯は外していたが、ロスヴァイセはそれどころではなかった。

 

 

 

「(ま、まさかこんなに若い方だなんて!!それによく見ると髪は白髪でくせっ毛なのに艶があってきれいで、身に纏うオーラは感じる限りではわずかですが、そのオーラの濃度は濃く感じられますし、体型は痩せ型で、でもよく鍛えられている感じがしますし、って私はどこを見ているんでしょうか!!!)」

 

 

 

 ロスヴァイセは死神(颯)の準備が済むまでの間、ずっと死神を見つめていて内なる気持ちを抱いていたが、すぐにそのような気持ちを振り払った。

 

 

 

 その後、無事に撮影を終え、ローブと仮面を着け、颯は鬼道の結界を解こうとしたときにロスヴァイセに声をかけられた。

 

 

 

「あ、あの、ちょっと待ってください。たしかここに・・・」

 

 

 

 ロスヴァイセは着ているスーツのポケットの中を探しまくって何かを探していた。

 

 

 

「ありました。これをお渡ししておきます」

 

 

 

 ロスヴァイセから手渡されたのは一枚の折りたたまれた羊皮紙だった。

 

 

 

「これは?」

 

 

 

 颯は疑問を口にすると同時に羊皮紙を開くと、魔方陣が書かれていた。

 

 

 

「それは、通信用の魔法陣です。何かあればその魔法陣に魔力を込めれば、私に直接繋がるようにしていますので、何かあれば連絡を下さい。すぐに駆けつけますから」

 

 

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 

 

 そう言い、懐に羊皮紙をしまうと、今度こそ結界を解除し、元のギルドの酒場にいた。

 

 

 

「では、くれぐれも、お約束の事をお願いします」

 

 

 

「はい。絶対に、あなた様の情報は外部には流させません」

 

 

 

 ロスヴァイセに強く念を押した後、任務疲れもあってか、颯は、すぐに自室へと帰ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 ~その後のギルドでは~

 

 

 

 死神を見送ったロスヴァイセはイスに座り、テーブルに肘を載せて手を組み、そこに頭を載せた。

 

 

 

「(まさか、本当に契約が取れるなんて思いませんでした。でもこれでヴァルキリーとしての務めも果たしましたし、何より、裏でも表の世界でも有名な“死神”様と契約が取れました。まだまだ一人目の契約者ですが、これで私も一人前のヴァルキリーです)」

 

 

 

 だがこの時、ロスヴァイセは知らなかった。初めてとれた契約者が“死神”だったので、その手腕が大きく買われ、敏腕ヴァルキリーと呼ばれるようになり、一年後には北欧の神オーディンの付き人になるまでに出世するのだが、この時のロスヴァイセには知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




第二章はもう少し続きます。

楽しみな方も、そうでない方も少し時間をかけて制作作業に入りますのでお待ちください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話

半年以上も投稿ができませんでした。

気が付けば初投稿から一年が経ちました。

それなのに未だ15話(少な!!)

話的にはだいぶ先まで考えてはいるのですが、なかなか更新できる時間と文章作成のが取れません。

また、更新できない日が続きますが、それでも楽しんでいただければ幸いです。



 

 

 

 

 

 

 

ロスヴァイセさんの勧誘・契約から数日後、“名無し”(颯)の生活はそれほど変化はしなかった。

 

 

 

 

 

 

いつものように、ギルドへ行き、依頼を受け、はぐれ悪魔や魔獣を狩り、その毎日であったが、唯一変わったと言えば、今まで行った依頼内容を月一で契約者、つまりロスヴァイセさんに報告する義務が増えたことだ。

 

 

 

 

 

 

~颯の自室~

 

 

 

 

 

 

「・・・というわけで、今月はAランクの依頼が2件、Bランクの依頼が8件、Cランクの依頼が13件を完遂したことを報告します」

 

 

 

 

 

 

『はい、受付けました。報告ありがとうございます』

 

 

 

 

 

 

 颯は自室で、ロスヴァイセから別れ際にもらった羊皮紙に書かれた魔法陣でテレビ電話の要領でお互いの姿越しで通信しているところであった。

 

 

 

 

 

 

『でも、疑問に思うのですが、なぜ高ランクの依頼を受けないのですか?貴方ほどの実力なら、もっと高ランクを受けてもおかしくないのですが?』

 

 

 

 

 

 

 ロスヴァイセは低ランク中心に依頼を受けている死神(颯)に対して疑問を投げかけた。

 

 

 

 

 

(ちなみに契約の際使われた契約者名は、嫌々ながらも死神でサインした)

 

 

 

 

 

 

「高ランクに関しては主に危険地帯での危険種の討伐でして、そんな場所に一般の人はめったに近づきませんので、特別な事情じゃない限り私は動きません。ですが低ランクの依頼に関しては、町の郊外や、一般の人が多く使う場所に討伐対象がいるので、私の信条としては、そちらを中心に依頼を受けています」

 

 

 

 

 

 

『なるほど、確かにそうですね。理解しました』

 

 

 

 

 

 

「では、私からは以上です」

 

 

 

 

 

 

『はい!・・・それより聞いてくださいよ!この間・・・』

 

 

 

 

 

 

 報告を終えたら急に口調を変えて愚痴をこぼしだしたロスヴァイセさん。数回目から他人行儀な口調で話していたのだが、もう慣れたのか、一通りの報告が済んだら私的な会話をしたところ、これが定番となり、今では恒例になっている。

 

 

 

 

 

 

『いつも私の愚痴を聞いてくれてありがとうございます』

 

 

 

 

 

 

「いいんですよ、このくらい。それでロスヴァイセさんの気持ちが晴れるのであれば」

 

 

 

 

 

 

『あ、ありがとうございます///(こんな毎回私の愚痴を呆れたような顔をせずに聞いてくれるなんて、こちらがお礼を言いたいのに~~)』

 

 

 

 

 

 

 ロスヴァイセさんは照れながらもお礼を言った。

 

 

 

 

 

 

『で、ではこれで今日は失礼します!!』

 

 

 

 

 

 

 ロスヴァイセさんは急用が入った為か、慌てて通信を切った。

 

 

 

 

 

 

「さて、もう休みますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数日後~

 

 

 

 

 

 

 いつものごとく、依頼を終え、マスターに報告するためにギルドに帰還する。すると、マスターから差出人不明の真っ白な封筒が渡された。

 

 

 

 

 

 

「マスター、これは?」

 

 

 

 

 

 

「依頼の手紙だと言うことだが、中身はアンタにしか見せるなと言われている。ちなみに差出人は銀髪のメイドだった」

 

 

 

 

 

 

「は??」

 

 

 

 

 

 

 依頼人の特徴を聞いたときに、颯は思わず情けない声を出した。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、どんな依頼人でもお前さんなら大丈夫だろう。じゃあな」

 

 

 

 

 

 

 そう言うと、マスターは店の奥へ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 颯はいつもの指定席へ行くと、差出人不明の封筒を開けた。するとそこには、改めて本当の依頼を伝えたいという内容と、場所の指定が記されていた。

 

 

 

 

 

 

「(まためんどくさい方法を。いや、誰にも聞かれたくないという事か。しかもこの招待状は・・・まぁいい。とにかく向かうとしますか)」

 

 

 

 

 

 

 颯は踵を返し、指定された場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~とある高級リゾートホテル~

 

 

 

 

 

 

 封筒に入っていた手紙の書いてあった指定場所は、割と有名なリゾートホテルで、主に観光客などが多く利用する場所でもある。だというのに、仮面とローブを着ている颯が入店しても誰も怪しんだり、異を唱える者がいなかった。それどころか目の前を通り過ぎても見向きもしなかった。

 

 

 

 

 

 

「やはりこの招待状、認識疎外の術式が施されていますね。つまり、一人でこの場所に向かえということですか」

 

 

 

 

 

 

 指定された場所は、リゾートホテルの最上階VIPルームだ。颯はエレベーターに乗り込み、最上階へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 エレベーターが着くと、目の前には扉が一つだけ。どうやら最上階すべてがこの一室のみの造りになっているらしい。そして扉の前には銀髪のメイド服を着た人物が立っていた。

 

 

 

 

 

 

「貴女がこの手紙を出した人ですか?」

 

 

 

 

 

 

「はい、その通りでございます。私はグレイフィアと申します。その手紙に書いてあった通り、主より直接依頼を聞いてもらいたいのです。主はこの奥にいます」

 

 

 

 

 

 

「わかりました。お願いします」

 

 

 

 

 

 

 そう返事をすると、グレイフィアは扉を開け、颯を中へと招いた。

 

 

 

 

 

 

「っ!!??」

 

 

 

 

 

 

 部屋に入った瞬間、颯は違和感を感じた。

 

 

 

 

 

 

「(この部屋、部屋の家具には防御結界、部屋の壁にも防御結界と防音結界、一体何のために?)」

 

 

 

 

 

 

 颯はグレイフィアの後をついていきながら、警戒度を少し上げる。そして一番奥の街の景色が一望できるリビングルームへ通されると、テーブルに座っている男女と傍に羽織を着た男性が一人、しかも男女は、優雅に紅茶を飲んでいて、男性の方は赤髪で一際目立っていて、女性の方は黒髪でツインテールに髪を縛っていた。

 

 

 

 

 

 

「あ~、グレイフィアちゃん、おかえり~~」

 

 

 

 

 

 

「ただ今戻りました。サーゼクス様、こちらが例の方です」

 

 

 

 

 

 

「ご苦労グレイフィア」

 

 

 

 

 

 

 グレイフィアは一礼すると、三人の傍へ行き、座っている男女の間に立つと、赤い髪の青年が颯に話しかけた。

 

 

 

 

 

 

「君が噂の“名無し”君だね」

 

 

 

 

 

 

「そうですが、貴方が依頼人ですか?」

 

 

 

 

 

 

「そうだが、話をするその前に、先に謝らせてほしい」

 

 

 

 

 

 

「・・・何にですか?」

 

 

 

 

 

 

「これにだ」パチンッ

 

 

 

 

 

 

 赤髪の男性が指を鳴らすと同時に、傍らにいた羽織を着た男性が、素早く床を滑るように移動すると同時に、腰に差していた日本刀を抜刀し、居合切りをしてきた。

 

 

 

 

 

 

――ギィィィィィン!!

 

 

 

 

 

 

 急な展開に颯は驚いたが、部屋全体に防御結界を張っている時点で警戒を強めていた為、男性が近づいてくる直前に右手に斬魄刀を顕現させ居合切りを防ぐ。

 

 

 

 

 

 

「っふ!!」

 

 

 

 

 

 

 羽織の男性は一旦距離を置くと、刀を鞘に納め、再び居合いの体勢をとる。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 お互い動かず、相手の行動を待つ。その間、残りの三人は変わらずテーブルで紅茶を飲んでいる。

 

 

 

 

 

 

――カチャ

 

 

 

 

 

 

「ッシ!!」

 

 

 

 

 

 

 誰かがカップを受け皿に置いた音を聴いた瞬間、羽織の男性は再度颯に突撃し、居合切りを繰り出す。が、目標となる人物は刃が当たる寸前に目の前から消えており、刀は空を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!?」

 

 

 

 

 

 

 男性は驚くが、次に感じたのは背中に掌が当たる感触だった。

 

 

 

 

 

 

「縛道の六十三・鎖条鎖縛(さじょうさばく)」

 

 

 

 

 

 

 颯の背後から金色の光を放つ太い鎖が蛇のように巻きつき腕と体の自由を奪う。

 

 

 

 

 

 

「これは!?」

 

 

 

 

 

 

 男性は急な拘束に驚き、動きを止めてしまうと同時に、床に倒れてしまう。

 

 

 

 

 

 

「その拘束術は、光っていますが、貴方達悪魔には効果はありませんので、消滅する心配はありませんよ」

 

 

 

 

 

 

「・・・さすがに、我々が悪魔だと気付いていましたか」

 

 

 

 

 

 

 颯が発動した鬼道の説明をしている最中、後ろの方では、銀髪のメイドが気づかれないように魔力を練り始めていた。・・・が

 

 

 

 

 

 

「縛道の六十一・六杖光牢(りくじょうこうろう)」

 

 

 

 

 

 

颯が振り返り、人差し指と中指を伸ばしメイドに向かって鬼道を放つ。すると先程と同じく金色で六つの帯状の光が胴を囲うように突き刺さり動きを奪う。

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 銀髪のメイドは自分にかけられた拘束する光に戸惑う。そして颯は、そのまま跳躍し、紅髪の男性に向かって刀を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

「「「!!??」」」

 

 

 

 

 

 

 周りにいた三人は驚愕するが、刃は男性の眼前一〇㎝で止まった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 その後両者は、お互いを見つめたまま動かずにいたが、颯の方から目を伏せると、後方に跳び下がり、手元から斬魄刀を消すと、深くお辞儀した。

 

 

 

 

 

 

「依頼主に刃を向けたことに深くお詫び申し上げます」

 

 

 

 

 

 

「いや、先ほども言ったように先に謝らなければならないのはこちらの方だ。君の実力を見たかったのでな。許してほしい」

 

 

 

 

 

 

 お互いが謝り、拘束されていた二人を開放すると、改めて依頼の話になった。

 

 

 

 

 

 

「まずは、自己紹介しよう。私が依頼人であるサーゼクスという。それでこちらがもう一人の依頼人のセラフォルー。後ろの二人は私たちの従者グレイフィアと護衛の騎士だ」

 

 

 

 

 

 

「改めまして、『名無し』です」

 

 

 

 

 

 

「じつは君にお願いしたいのは、ある悪魔達の護衛なんだ」

 

 

 

 

 

 

「なるほど、先ほどのは私が護衛に足る人物であるかの確認だったわけですね?」

 

 

 

 

 

 

「そうそう、その通り!君の実力は十分だったから、安心して任せられるよ☆」

 

 

 

 

 

 

「その護衛対象は御二方の関係者か身内ですか?」

 

 

 

 

 

 

「うん、そうだよ☆一人は私からで名前をソーナ・シトリー。お姉ちゃんの自慢の妹だよ☆」

 

 

 

 

 

 

「もう一人は私の妹で名をリアス・グレモリーだ」

 

 

 

 

 

 

「その二人の写真などはありますか?」

 

 

 

 

 

 

「ああ。この封筒の中に入っている。確認してくれ」

 

 

 

 

 

 

 そう言うと、懐から茶封筒を取り出し、颯の目の前に魔術で飛ばし空中で止める。

 

 

 

 

 

 

「拝見させていただきます」

 

 

 

 

 

 

 封筒を開け、中の写真に目を向けると、颯は若干眉を潜める。

 

 

 

 

 

 

「二人とも可愛いでしょ~☆」

 

 

 

 

 

 

「・・・そうですね」

 

 

 

 

 

 

「君には彼女らと一緒に同じ学び舎に通ってもらうからそのつもりで」

 

 

 

 

 

 

「こ、この二人と同じ学校にですか!?」

 

 

 

 

 

 

 颯は驚き、つい敬語を忘れてしまった。

 

 

 

 

 

 

「そうだが、何か不服が?」

 

 

 

 

 

 

「ですが、これは・・・」

 

 

 

 

 

 

 颯は依頼主の二人に写真を見せると、

 

 

 

 

 

 

 〇長髪の紅髪で、同じく赤色で水玉模様のワンピースを着て、ビーチボールを持っており、満面な笑顔をしている女の子(推定年齢五歳前後)

 

 

 

 

 

 

 〇黒髪のショートカットで、転んだのか膝が擦り剥いて赤くなっており、それでも必死に泣くまいと我慢しているが、目尻に涙を浮かべている女の子(推定年齢五歳前後)

 

 

 

 

 

 

「「うわああああああああ」」

 

 

 

 

 

 

 紅髪の男性(サーゼクス)と、ツインテールの女性(セラフォルー)は声を上げながら椅子から立ち上がり、左右から颯に慌てて近づき、写真を奪っていった。

 

 

 

 

 

 

「ななな、なんで!?なんでこの写真があるの!?サーゼクスちゃんに預けてたのになんで!?」

 

 

 

 

 

 

「いや、確かに別の封筒に入れていたのだが・・・ああ!同じ色の封筒だ!」

 

 

 

 

 

 

 二人のやり取りを仮面の下から見ていた颯は、二人のシスコンぶりに、心の中でため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 




まだまだ続きます。皆様よいお年を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話







 

 

 ~数分後~

 

 

 

「ゴホン。失礼した。こちらが本当の写真だ」

 

 

 

 今までのやり取りを無かったことにしたいのか、急に真剣な顔つきになって改めて護衛対象の写真入り封筒を渡した。中身は先ほどの写真とは打って変わって対象の少女達が大人びた姿が写っていた。

 

 

 

「この二人は今どこに?」

 

 

 

「極東の国・日本の駒王町にいる。そこの駒王学園に行ってもらうのだが、ちなみに君の年齢は?」

 

 

 

「先月、一五歳になったばかりですが」

 

 

 

「では、来年より、というよりもあと数ヶ月しかないが、新入生として学園に入学してもらいたい」

 

 

 

「承知しました。その前にいくつか条件があるのですが」

 

 

 

「条件?」

 

 

 

「はい、それは・・・・」

 

 

 

 

 

 ~省略~

 

 

 

 

 

「・・・以上です」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 サーゼクスは目を閉じながら考え込むこと数分

 

 

 

「よかろう。そちらの条件を飲もう」

 

 

 

「ありがとうございます。では「ねぇねぇ☆」・・はい?」

 

 

 

 話が一段落して立ち去ろうとしたが、セラフォルーに呼び止められた。

 

 

 

「なんでキミ仮面してるの?」

 

 

 

「今それを聞きますか。一応私は人前に素顔を出したくないのです。あまり顔を知られると昼間からでも目をつけられそうなので、これは所謂夜の顔です」

 

 

 

「でもここには私たちしかいないから大丈夫だよ☆と言う訳で取って見せてよ」

 

 

 

 そう言うと同時に椅子から立ち上がり、颯に近付き仮面に手をかけようとしたが、颯は上半身を仰け反らせながら仮面に手がかからないように避ける。

 

 

 

「や、やめてください」

 

 

 

「え~~。いいじゃん減るもんじゃないし。素顔見せてくれてもいいじゃん☆」

 

 

 

「ですから、それには理由が「隙あり!!」ありません!」

 

 

 

 セラフォルーはジャンプして仮面をはがそうとしたが、高速移動術『瞬歩』で後方に下がる。

 

 

 

「ちぇ~~、ケチ~~」

 

 

 

「ケチじゃありません」

 

 

 

「でもそれじゃあ、学生手帳なんか写真を貼らなくちゃいけないけど、どうするの?」

 

 

 

「それはこちらで用意しますから、手帳だけ後日ください」

 

 

 

「ん~~~~、しょうがないなぁ」

 

 

 

 ようやくセラフォルーは諦め、テーブルに戻る。

 

 

 

「では、後日、君の駒王町での居住場所を追って伝える。それまでに日本に行く準備をしておいてくれたまえ」

 

 

 

「わかりました。それと依頼人に刃を向けてしまったのでこの件はいずれお詫びをいたします。では失礼いたします。」

 

 

 

 颯は踵を返し立ち去ろうとする。・・・が、すぐに立ち止まり振り向いた。

 

 

 

「あぁ、それと、相手の力量が計りたかったら手加減をするにしても、もう少し力を落とした方がいいですよ。腕が立つ相手ならその相手もあなた方を見ていますから。少なく見積もっても、私に仕掛けてきた侍の方と後ろのメイドさん、あと私の仮面を盗ろうしたセラフォルーさんは最低でも悪魔の中でも最上級並みかそれ以上。それに依頼人のサーゼクスさんはおそらく次元が違いすぎますね。ではこれで」

 

 

 

 颯は御辞儀をすると、その場をあとに部屋から退出していった。 

 

 

 

 颯が去った部屋に残された4人は、先ほどとは打って変わって、真剣な表情で颯が去った扉を見ていた。

 

 

 

「・・・どう思う?総司?」

 

 

 

「速度、条件反射は上級クラス並み。剣技に関しては中級以上。これからの成長次第ですが末恐ろしいですね」

 

 

 

「ふむ、グレイフィアは?」

 

 

 

「あの方は部屋に入った瞬間にこの部屋に張られている防御結界に気づいているようでしたので、魔力感知に関しては問題ないかと」

 

 

 

「セラフォルーは?」

 

 

 

「う~ん、二人と同意見だね。ただ、まだ何かを隠している気がするよ」

 

 

 

「何かとは?」

 

 

 

「それが何なのかはわからないけど、何か大きな存在を感じるよ」

 

 

 

「それは私も感じたがそれがなんなのかは不明だし、なおかつそれが複数ともなれば彼の力量は底が見えない。それにしても我らの力量まで見破られるとは思いもしなかったよ」

 

 

 

 若干、笑いながら話しているサーゼクス。その後ろに控えているグレイフィアは複雑な心境だった。

 

 

 

「宜しかったのですか?あの方に二人の警護を頼んで?」

 

 

 

「心配いらないよ。彼は争いごとを引き起こすことはしないだろう。今までの彼の依頼の内容からして不安はないよ。出来ればこのまま悪魔側についてくれればありがたいんだが」

 

 

 

「それは無理だよ、サーゼクスちゃん。あの条件を受けちゃったんだもの」

 

 

 

「まさかあのような条件を付けるとは思いもしなかったからね。ふむ、これは軽率な返事をしてしまったかな?」

 

 

 

「それについてはまた後日話すとして、とりあえず主目的はお願いできたんだし、今回は良しとしようよ」

 

 

 

「そうだね。あとは彼の手腕次第だろうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 依頼の内容を聞いた颯は部屋へと戻り、着替える前に羊皮紙を取り出し、ロスヴァイセに通信をした。

 

 

 

「・・・というわけで、私はしばらくここを離れ、日本に行きます。ですので、当分の間は依頼は不定期になりますから、通信事態がそれほど出来なくなりますので、その報告をした次第で・・・ロスヴァイセさん?」

 

 

 

 通信を入れた直後はうれしそうな表情で出てくれたのに、遠くの地に行くことに加え、通信自体もろくに出来ないことを伝えると、目を見開き、それ以降固まってしまい、動けないでいた。

 

 

 

「ロスヴァイセさん?ロスヴァイセさーん」

 

 

 

『・・は!?えっとなんでしたっけ?確か、アトランティスは存在したか否かでしたっけ?』

 

 

 

「そんな今世紀最大の謎については一言も話してませんよ。私が依頼で日本に行くという話ですよ」

 

 

 

『そ、それで期間はどのくらいになりますか?何週間ですか?何ヶ月ですか?』

 

 

 

「大体、二~三年くらいですかね」

 

 

 

『に!?』

 

 

 

 護衛対象が高校一年生なら、翌年に入学しても卒業まで換算すれば期間としては最低それくらいはかかるだろう。

 

 

 

『そ、そんなにも休業してしまうのですか!?』

 

 

 

「いえ、べつに魔物の討伐をやめるわけではありませんが、ただ護衛対象がいるから頻度が少なくなるだけで、ロスヴァイセさんの契約は破棄しませんから。ただ以前みたく依頼件数が少なくなるだけですから」

 

 

 

 契約破棄しないと聞いたら少しうれしくなるロスヴァイセ。

 

 

 

『わかりました、それなら仕方ないですね。あ、でも時々でいいので報告に関係なくても私への通信はいつでもいいですからね。待ってますよ!』

 

 

 

「はい、承知しました。では準備等があるのでこれで失礼します」

 

 

 

 颯は返事もそこそこにして通信を終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 一方通信を終えたロスヴァイセは、

 

 

 

「(二年、二年ですか。二年なんて今まではあっという間だったのに、今はそれが長く感じてしまう。時々通信を入れてくれるとは約束したし、私との契約自体も無下にはしないといってくれたし、それでいいはずなのに、何でしょう?この胸に穴が開いたような感覚は?)」

 

 

 

 その感情が何なのか、今のロスヴァイセには知りようも無かったが、それに気づくのは、これより大分先になってからだった。

 

 

 

「ロセー、いるー?」

 

 

 

 同僚のヴァルキリーに呼ばれ、気持ちを切り替えて答える。

 

 

 

「はい、なんですか?」

 

 

 

「上役が貴女を呼ぶように言われたから今すぐに来てくれだって、じゃ、伝えたわよ」

 

 

 

「何でしょうか、いったい?」

 

 

 

 ロスヴァイセを呼んだのは確かに直属の上司だが、彼女を呼ぶように指示したのはさらにその上、北欧の主神オーディンからだった。

 

 数ヵ月後、彼女はオーディンの付き人になる。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、名無し(颯)はいつものようにはぐれ狩りギルドにきていたが、真っ先にしたのは、依頼の確認ではなく、マスターへのギルドを離れるという報告だった。

 

 

 

「マスター、実はある人物の護衛を頼まれ、準備が出来次第ここを離れます。ですので、上に借りている部屋の引き払いをしたいんですが」

 

 

 

「そうか、いつかは出て行っちまうんじゃないかと思っていたんだが、こんなに早くなるとはな、寂しくなるもんだ。あの部屋は別に引き払わなくていい、いつでも戻ってきてもいいからな。」

 

 

 

「ありがとうございます、マスター」

 

 

 

「それで、どこに行くんだ?」

 

 

 

「申し訳ありませんが、護衛という形なのでマスターといえども言えません」

 

 

 

「まぁ、そうだろうな。野暮なこと聞いてすまなかったな」

 

 

 

「いえ、では今日は少し荷造りがしたいので、これで失礼します」

 

 

 

 そういうと、颯はギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 後日、颯は連絡が来たので、ギルドへの挨拶を済ませた後そのまま、日本へ旅立っていった。ギルド内は名無しである颯の喪失に数日は慌てふためいていたが、数日で落ち着きを取り戻すことが出来たが、やはり心の隅では悲しんでいた。

 

 

 

 そんなある日、二人の男性客がマントを羽織ったままはぐれ狩りギルドへとはいり、マスターへ近寄っていった。

 

 

 

「主人よ、ここに“名無し”という人物がいるはずだが、どこにいる?」

 

 

 

「生憎だが客人よ、奴は依頼で今この地にはいないんだ。遠くへ行っちまったよ」

 

 

 

「ふむ、その場所は?」

 

 

 

「悪いが、それは守秘義務とやらで俺も教えられてないんだ」

 

 

 

 そう答えるとマスターは店の奥へと行ってしまった。

 

 

 

 マントの男性客二人組は目当ての人物がいないことで話し合っていた。

 

 

 

「曹操、どうする?彼がいないのであれば、われわれの計画は大きくずれることになるが」

 

 

 

「そう慌てるなゲオルグ。確かに彼に会えなかったのは残念だが、まだ、勧誘が失敗したわけではない。計画していた予定を若干繰り上げればいいのだし、その最中に彼に会うことだって出来るかもしれないのだから」

 

 

 

「確かにそうだな。まだ完全に行方不明というわけではないのだから、まだチャンスはあるな」

 

 

 

「そうだ。だが、欲を言えば一目彼に会いたかったし、実力も見てみたかったんだがな」

 

 

 

「噂によればだいぶ実力があるようだぞ」

 

 

 

「だからこそだ。せめてその実力の片鱗でも見られればと思ったんだ」

 

 

 

「まぁ、今回は機会が無かったんだ、諦めよう」

 

 

 

「そうだな」

 

 

 

 二人組は多少のやり取りをした後、ギルドを後にした。

 

 

 

 この二人と颯が会うのは、この約二年後だった。

 

 

 

 

 

 




颯が出した条件については後の話の中に出てきますので待っててください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話

 

 

 三月・駒王町

 

 

 

 春の花である桜が各所でぽつぽつと咲き始めたころ、町内の五階建てのアパート。部屋数が各階四部屋の最上階の一フロアの一室に颯はいた。

 

 

 

「なぜ、一人しか入らないのに一フロア貸切にするんですかね、サーゼクスさん」

 

 

 

 今目の前にいない依頼人に向けての不満を言ったところでどうにもならないが、今ある現実を受け止めるしか颯に選択肢は無かった。

 

 

 

「とりあえず、駒王学園の入学式まで後一ヶ月。今はこの周辺の地形と危険箇所の確認、後対象護衛の不要な接触は避けなければならないな」

 

 

 

 颯はこれからの仕事に関する内容の確認と駒王町の地形の確認に気づかれないように気配の遮断など入念な準備を開始した。

 

 

 

「それに、もし相手が使い魔を有していたらと考えると、日常でも気をつけなければならないな。目立つ行動は避けて、なるべく一生徒として過ごさなければ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~それから一ヵ月後~

 

 

 

 四月・駒王学園・入学当日・校門前

 

 

 

「(あっという間の一ヵ月。これからの学園生活をしながら護衛対象を見守ると考えるとどうにも忙しくなりそうだな)」

 

 

 

『そうは言うが主よ、ここに至ってはもはやどうしようもない。それに主だけに負荷を負わせはしない。我等もいずれは力になりましょうぞ』

 

 

 

「(その時は遠慮なく頼らせてもらうよ、氷輪丸)」

 

 

 

『ねぇねぇ。この学園さぁ、ちょっとみて回りたいんだけど、実体化してもいい?』

 

 

 

「(いいわけないでしょう雀蜂。もし護衛対象者やその関係者に見つかったら捕まって実験材料になりかねないですから)」

 

 

 

『大丈夫だよ、見つかったら逃げるから』

 

 

 

「(それでも騒ぎにはなりますからやめてくださいね)」

 

 

 

 精神世界での会話を終え、学園の校門をくぐり抜け、入学式に参加する為体育館へ向かおうとする途中、生け垣の近くに作業着姿のオジサンが箒を持ったまま蹲っていたため、颯はすぐに近寄って行った。

 

 

 

「オジサン、どうしました?」

 

 

 

「いやぁ、ちょっと膝が痛み出してな、少し休んでいたんだよ」

 

 

 

「そうですか。何か手伝うことはありますか?」

 

 

 

「いや、そんな生徒にやらせるわけには・・・」

 

 

 

「気にしなくてもいいですから、それよりも早くオジサンは休んでいてください。後はやっておきますから」

 

 

 

「すまないね。それじゃあこのあたりの掃除だけお願いするよ」

 

 

 

 その後、用務員のオジサンを休憩室へ運んだ後、置いていった箒を手に持ち、やりかけの仕事を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~30分後~

 

 

 

 ある程度の範囲を掃除し終え、次の場所へ行こうとした時だった。

 

 

 

「そこの貴方!何をしているのですか!もうすぐ入学式が始まるのですよ」

 

 

 

 背後で大きな声がしたので振り返ると、見覚えのあるメガネ顔の学園女生徒が近づいてきた。

 

 

 

「早く体育館へ行ってくださいって、あなたもしかして新入生ですか?」

 

 

 

「はい、そうですが」

 

 

 

「なぜあなたがこのようなことを?」

 

 

 

 この様な経緯になった説明をする。

 

 

 

「なるほど、そういうことでしたか。ですがあなたは新入生です。どうして先生なり生徒会に連絡に来なかったのです」

 

 

 

「すみませんでした。付近に教師と生徒会の方がいなかったので、それと早く休ませないと症状はさらに重くなりそうだったので、急ではありましたがこうしました」

 

 

 

「わかりました。あなたのとった行動は間違っていますが、この学園を私は愛していますので、生徒会の一人として私はあなたにお礼を言います。ありがとうございます」

 

 

 

 そう言うと、深々と頭を下げた。

 

 

 

「いえ、こちらこそ勝手なことをしてしまい申し訳ありませんでした」

 

 

 

「さぁ、ここはもういいですから、早く式に参加する用意をしてください」

 

 

 

 そう促され、颯は小走りで校舎に向かう。

 

 

 

「(さて、困ったことになりました。目立たないように気をつけていたのに、いきなり目立ってしまい、尚且つ護衛対象の一人に会ってしまうとは)」

 

 

 

 下駄箱につき、後ろを振り返ると、どこかに電話している先程の女生徒、ソーナ・シトリーがいた。

 

 

 

「(まぁ、そう何度も会うこともないでしょうから、ここは早々に立ち去りましょうか)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~体育館・入学式~

 

 

 

 新入生が入場し終え、在学生の催し物をやっている最中、颯はもう一人の護衛対象、リアス・グレモリーを探そうとしていたが、すぐに見つけた。

 

 

 

 それもそのはず。全校生徒の中で、一際目立つその紅い髪は、まるで見つけてくれといった色だった為、苦労せずにすんだ。式の終了後、それぞれの割り当てられたクラスへ行き、席に座るが、それぞれ親しい友人同士が集まり、談笑したりしていたが、知り合いのいない颯は静かに待っていた。

 

 

 

「(それにしても、この学園は在校生を見てみると、どうも女子の比率が多い気がしますね)」

 

 

 

 周りを見ても、圧倒的に女子のほうが多い教室で、学園内の事をまるで把握していなかった颯は、近場にいた、男子に声をかけた。

 

 

 

「すいません。ちょっといいですか?」

 

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

 

「どうしてこの学園には女子生徒が多いんですか?」

 

 

 

「ええ!?おまえそんなことも知らないでここに入ったのかよ!」

 

 

 

「はぁ、まぁ仕方なくというか、ちょっとした事情がありまして」

 

 

 

「そっか。いいか、ここの学園はもともと女学園で最近共学になったんだ。でもその名残からか、いまだに男子の数が少なくて、女子の比率が多いんだ」

 

 

 

「なるほど」

 

 

 

「その学園で、俺はハーレムを作る!!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「女子が多いこの学園に入れば、彼女がいない俺でもすぐに出来ると思うんだ!それどころか、二人、三人と出来るかもしれないだろ!俺がこの学園を選んだのはそれが理由なんだ。ここの学園の入試は難関といわれていたけれど、女の子と一緒に過すために俺は寝る間も惜しんで勉強して、ついに合格したこの学園で、俺だけのハーレムを作るんだ!」

 

 

 

 男子生徒は自身の志望理由を声高らかに叫んでいた。

 

 

 

「それは、まぁ・・がんばってください」

 

 

 

 それしか受け答えが出来なかった。

 

 

 

「(この人は自分の欲望に忠実な方なんですね)」

 

 

 

「おお!そういえば初対面だけど、お前の名前は?」

 

 

 

「ああ、すいません、申し遅れました。東雲颯といいます。あなたは?」

 

 

 

「俺の名前は兵藤一誠。これから宜しくな」

 

 

 

 二人は握手をしてその場を分かれた。予断だが、このときの宣誓を聞いた女子生徒はその日のうちにそのセリフが全クラスへ行き渡り、一気に男子の中の好感度ランキングの最低ランクになった。

 

 

 

???「あいつ、だれだ?原作にいないぞ。まさか、他の転生者か?」

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 旧校舎のディアボロス
第18話


本編突入します。



 

 

 

 ~一年後~

 

 

 

 東雲颯の護衛生活はそれほど派手ではなかった。

 

 

 

 リアス・グレモリーとソーナ・シトリーをただ遠目で見つめている一般生徒と同じように、だが悟られないように見ているだけであった。

 

 

 

 だがそれは昼の顔であって、夜になるとまた別である。ソーナ・シトリーは学園での昼の活動が主だが、リアス・グレモリーは夜が主な仕事なのだ。駒王町での管理を任されているため、活動としては、人間の欲望を叶える代わりに対価をもらうということであり、たまにではあるがこの地に入り込んだ不当な輩を捕縛、ないし排除をしている。

 

 

 

 その活動に際しても、生命の危険や、討伐不可能な上位の個体に対しては、まったくの不干渉のため、これにも遠巻きに見ているだけであった。

 

 

 

 ただし、この活動はあくまでリアス・グレモリーが冥界からの依頼によって請け負っているだけであって、その対象は把握しているだけに留まっているので、それ以外の、人に害を与えるような存在は見つけ次第、颯が駆逐している。

 

 

 

 ~某日・深夜・駒王町~

 

 

 

「な、何だあいつは!?あんな奴がいるなんて聞いてないぞ!あれが本当に人間か!?」

 

 

 

 獣のような姿で、民家の屋根伝いに逃げている生き物、はぐれ悪魔が胸元を押さえながらも後ろを振り返ることも無く、無我夢中で走っていた。その胸に漆黒の蝶の模様を浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

 数分前、はぐれ悪魔は己の気配を隠しながら獲物を探していた。そして、ようやく人通りの少ない場所で獲物を見つけ、いざ襲い掛かろうとしたときに、不意に側面からの衝撃に襲われた。

 

 

 

「ごはぁ!!」

 

 

 

 いきなりの事に何も出来ず、その身を地面に叩きつけられながら、数メートル転がされた。

 

 

 

「だ、誰だ!!」

 

 

 

「申し訳ありませんが、この町で人を襲うような輩を見逃すわけには参りません」

 

 

 

 立ち上がり、転がされた方向を見ると、そこには一人の黒い着物を着た猿の仮面を被った人間が日本刀を片手に草鞋を履いた足を伸ばしていた。どうやらさっきの衝撃は蹴りによるものだと察することができる。

 

 

 

「貴様、何者だ!!」

 

 

 

「私は、貴方の様なはぐれ悪魔から人間を守るものです」

 

 

 

「はぐれ狩りか?小賢しい!まずは貴様から始末してくれる!」

 

 

 

 はぐれ悪魔は立ち上がり、すぐさま四肢の爪を伸ばし、攻撃態勢に移った。

 

 

 

「尽敵螫殺(じんてきしゃくせつ)雀蜂(すずめばち)」

 

 

 

 日本刀がなぜか篭手になったのかわからないはぐれ悪魔だったが、その形状を見て鼻で笑った。

 

 

 

「なんだそれは?そんなものでこの俺様を討つつもりか?先ほどの刀のほうが良かったのでは(トスッ)・・・あ?」

 

 

 

 喋っている最中だったが、急に胸元に痛みが起き、目線を下に向けると、さっきまで数メートル離れていた人間が、目の前にいて、篭手の先についていた針で胸を刺していた。

 

 

 

「貴様―――!!」

 

 

 

 鋭い爪を伸ばした手で左右から挟み込む様に颯に襲い掛かるが、接触する瞬間にその場から姿を消していた。

 

 

 

「どこだ、どこにいる!!」

 

 

 

 辺りを見回すが、その人間は見当たらなかった。

 

 

 

「ここにいますよ」

 

 

 

 真上から声がした。見上げると、先ほどの人間が、空中に立っていた。

 

 

 

「き、貴様、どうしてその場に立っていられる!?」

 

 

 

「これは、足場に魔力を込めることにより立っています。それだけです」

 

 

 

 しれっと答えるが、はぐれ悪魔は驚いていた。悪魔でも空中に飛ぶには背中から羽を生やす必要があるし、これは天使・堕天使にも当てはまる。人間の魔法使いにも空中に浮けることが出来るが、それは足場に魔方陣を展開させなければすることが出来ない。だがこの人間は、羽も無ければ、足元に魔方陣も無い。明らかにいままでの存在とは違うことに。

 

 

 

「さて、それでは今度こそ仕留めさせて頂きます」

 

 

 

 篭手についている針をはぐれ悪魔に向けながら言い放つ。その際、わずかばかりの怒気を込めて。

 

 

 

「く、舐めるなよ、人間がぁぁあああああ!!」

 

 

 

 はぐれ悪魔は地面を蹴り、跳びあがるが、それは颯の脇を通り過ぎ、そのまま最速でその場を逃げ出した。

 

 

 

「悪いが俺は面倒なのが嫌いでな、ここは逃げさせてもらうぜ!」

 

 

 

 そう言いながら、夜の静まった住宅街の空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぐれ悪魔は数分ほど全力で逃げ、広い空き地に降り立った。

 

 

 

「こ、ここまでくればもう撒いただろう」

 

 

 

 息を切らしながら後ろを振り返るが、そこには自分以外は誰もいない。悪魔の身体能力で追いつける人間などいないと核心を持っていたからだ。

 

 

 

「よし、もう撒けたな。それにしても何だこの模様は?胸を刺したかと思えば致命傷の一撃ではないし、かといって呪いの類ではないな、この模様はいったい?」

 

 

 

 自分の胸部についた漆黒の蝶の模様に疑問を浮かべていると、

 

 

 

「それは、『蜂紋華(ほうもんか)』というもので、もう一度攻撃を受けると確実に死に至らしめる刻印ですよ」

 

 

 

 はぐれ悪魔は戦慄した。なぜ誰もいないはずのこの場所に声が聞こえたのか?なぜこの声に聞き覚えがあるのか?なぜ背後でその声が聞こえるのか?なぜさっき撒いたはずの人間の声が聞こえたのか?―――頭の中は《なぜ》の単語しか出てこなかった。

 

 

 

 改めて振り返ると、そこには黒い着物を着た人物が仮面を着けながらも息ひとつ乱さずにまるで先回りしていたかのように立っていた。

 

 

 

「お、お前、なぜここに!?」

 

 

 

「言ったでしょう?ここで貴方を見逃さないと。もう逃げられませんよ」

 

 

 

 仁王立ちしながら、はぐれ悪魔に言い放つ颯。

 

 

 

「ならここで、今度こそ仕留めてやるぅぅぅ!!」

 

 

 

 はぐれ悪魔は体から魔力を放出し、身体能力を高め、一気に距離を縮め先ほどとは比べられないほどの爪による攻撃を繰り出す。その攻撃の余波により、地面やブロック塀には切り傷が付いていく。だが颯は攻撃に当たることも無くかわしていく。

 

 

 

「ほらほら、どうしたぁ!避けるしか出来ないのかぁ!」

 

 

 

 攻撃もせずに、ただ逃げ回っている人間に、自分のほうが有利になっていると思ったのか、挑発的な言葉を繰り出していく。

 

 

 

「なんだなんだ?得意なのは速さだけか?まぁこの俺様の攻撃を避けているのはほめてやるが、所詮はそれだけよ。貴様が人間である以上、疲れが出てきたところを、いたぶって・・・あぁ?」

 

 

 

 尚も挑発行為を続けようとするが、それは無くなった。なぜなら、はぐれ悪魔から赤色の粒子が溢れ出していたからだ。

 

 

 

「貴様、何をした!!」

 

 

 

「すみません。あまりにも隙がありましたから、攻撃しました」

 

 

 

 しれっと言い放つ颯。その言葉にはぐれ悪魔は激怒した。

 

 

 

「ふざけるな!あれほどの斬撃をかわしながら攻撃を当てることなど!」

 

 

 

「それよりも、最後に言い残したいことがあったら言ってください」

 

 

 

「なんだと!?なぜそんなこと・・・ッ!」

 

 

 

 このときはぐれ悪魔はこの人間の言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

『それは、『蜂紋華(ほうもんか)』というもので、もう一度攻撃を受けると確実に死に至らしめる刻印ですよ』

 

 

 

 

 

 その台詞を思い出し、胸元に目を向けると、先程まで漆黒だった蝶が赤黒く変色していた。そして体からは先程よりも多く赤い粒子が出ていた。

 

 

 

「何も無ければ、私はここで失礼させていただきます」

 

 

 

 颯は振り返ると、ゆっくりとした足取りでこの場を離れようとしていた。

 

 

 

「こ、コノヤロ―――!!!」

 

 

 

 はぐれ悪魔は人間の背中に向けて特攻を仕掛ける。が、あと数十cmというところで、その体は存在ごと消滅した。

 

 

 

「任務・・・完了・・・」

 

 

 

 そういうと、瞬歩を使い、その場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 ~翌日・駒王学園~

 

 

 

 颯の学園では当初の予定通り、目立たずに護衛対象を守ることである。その為、学業成績に関しては可もなく不可もなくの70点台、運動能力に関しては学年全体の真ん中をキープ、生活態度は物静かで、教室で文庫本を読むだけであった。

 

 

 

 これだけ目立たない生活をしていれば誰も気には留めないだろうと思っていたが、周りはそうでもなかった。

 

 

 

「ねぇ、東雲君朝来てからまた優雅に読書してるよ」

 

 

 

「あの本を見ている姿勢、ちょっとかっこいいかも」

 

 

 

「別のクラスにも木場君ってイケメンもいるけど、東雲君もいいよね」

 

 

 

「木場君がさわやかイケメンなら、東雲君は物静かでクールなイケメンだね」

 

 

 

「わかる~」

 

 

 

 クラスの女子たちの評価はやや高めであった。一方、同じクラスで話題になっている人物がまだいる。その一人が、

 

 

 

「ねぇ、グラウンド見て。サッカー部で日向君が助っ人として練習試合してるよ。・・・目立ちたがり屋だけど」

 

 

 

「ほんとだ、2・3年のレギュラーの人より動きの切れがいいねぇ~・・・目立ちたがり屋だけど」

 

 

 

「相変わらず抜きん出た才能よね~・・・目立ちたがり屋だけど」

 

 

 

 話題に上がっているのは、同じクラスの『日向 正義(ひゅうが まさよし)』運動神経は先に述べた通り良いのはもちろんのこと、学業に関しても学年内でトップクラスの実力で尚且つ、イケメンであるのだが、男子はもちろんのこと、女子にも人気はあまり無い。それというのも、何かにつけては他者と自分とを比べたがるので、相手を見下している。クラスはもちろんのこと、学園の先輩たちにも同様のことを行っていて、周りからは疎まれていたが、能力は確かなので各運動部から助っ人をしているので、あからさまに拒絶出来ずにいた。しかも、極度の勘違い男で、女子全員が自分に惚れているというスイーツ脳をしている。

 

 

 

 そして次に、話題になっているのが、

 

 

 

「「「「「ま―――て―――!!!」」」」」

 

 

 

「「「嫌だ――――――」」」

 

 

 

 女子に追いかけられている三人組の男子、松田・元浜・兵藤である。

 

 

 

 刈り頭の男子生徒の松田は、身体能力が高く、一見すると爽やかなスポーツ少年だが、日常的にセクハラ発言をする。中学時代は写真部に所属していたらしく、女子たちのパンチラ写真を日頃から撮っている。そのため、「エロ坊主」「セクハラパパラッチ」の別名を持つ。

 

 

 

 眼鏡を掛けた男子生徒の元浜は、眼鏡を通して女子の体型を数値化できることから、「エロメガネ」「スリーサイズスカウター」の別名を持つ。また眼鏡を取ると戦闘力が激減する。そしてロリコンである。

 

 

 

 最後に兵藤は、超重度のおっぱいフェチで、独自のハーレムを作りたがっているのを堂々と宣言する熱血男子。その宣言の所為で、女子たちからは警戒・敵視されている。

 

 

 

 彼らは、入学してから数日で友となり、親友となった。その為、『変態三人組』とあだ名が出来ている。

 

 

 

「(相変わらずですね、彼らは)」

 

 

 

 颯は二箇所で起きている事柄に対して、呆れると同時に、内心では微笑ましく、平和であることをうれしく思っている。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話

 

 

 

 ~放課後~

 

 

 

 もはや日課になっているのか、日向は部活動の助っ人として、兵藤・松田・元浜は女子の着替えの覗きに、それぞれ行動し始めた。そして颯はというと、

 

 

 

「失礼します」

 

 

 

「おや、また来たのかい?」

 

 

 

「はい、また手伝いに来ました」

 

 

 

 放課後になると頻繁に用務員室に来ては、学園内の清掃や雑務などを手伝っている。入学初日に用務員の人の手伝いをしてからは、なにかと面倒見の良い颯は、オジサンの怪我が治るまでは手伝うつもりだったが、怪我が治ってからも今では進んで手伝っている。

 

 

 

「じゃあ、今日は体育館裏の掃除でもしてもらおうかねぇ」

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

 そう言うと颯は、作業着に着替え、箒とゴミ袋を持って掃除場所へと向かった。

 

 

 

 体育館裏は人通りは少ないが、風などにより紙くずや若葉などが落ちているため、掃くだけでも一苦労であった。ある程度作業をしていると、

 

 

 

「元浜!松田!こっちだ、早くしろ!」

 

 

 

「そもそもイッセー!お前が邪魔しなければ、見つかることが無かったんだぞ!」

 

 

 

「そうだぞ!イッセーが後ろから押さなければあいつ等に見つかることは無かったんだ!」

 

 

 

「俺を頬って置いて二人だけで女子の着替えを覗くなんてありえないだろ!」

 

 

 

 体育館の曲がり角から、大声で口論しながら全力疾走している変態三人組、兵藤・元浜・松田が何かから逃げていた。

 

 

 

「「「ま――――て――――!!」」」

 

 

 

「やばい!このままじゃ追いつかれるぞ!」

 

 

 

「こうなったら、そこの垣根に逃げ込むぞ!」

 

 

 

「そうだな!あ、いい所に。お――い東雲!」

 

 

 

 颯に近づく三人組、颯は動かずに待っていた。

 

 

 

「東雲、俺たちはこれからその後ろの垣根に隠れるから、これから来る女子たちに俺たちは通り過ぎたと言ってくれ。女子たちがいなくなったら退散するから、頼んだぜ!」

 

 

 

 そういうと、有無を言わさず、近くの垣根に身をかがませる。その数秒後・・・

 

 

 

「あ、東雲君。いい所に」

 

 

 

「こっちにあの三人組がこなかった?」

 

 

 

 数人の女子が追いかけに来たが、見失い、近くにいた颯に目撃してないか聞きに来た。すると颯はポケットから生徒手帳を取り出し背後にいる三人に気づかれないようにメモを書くと、それを見せ、こう言った。

 

 

 

「あの三人ならここをまっすぐ走って行きましたけど・・・」

 

(三人は後ろの垣根に隠れています。隙を突いて捕まえてください)

 

 

 

 それを見せると女子たちは、頷きあい、わざとらしい声を上げた。

 

 

 

「あっちね、ありがとう。追うわよみんな!」

 

 

 

 女子たちはそのまま走り去って行った。その後で垣根から三人が出てきた。

 

 

 

「助かったぜ東雲。恩に着るよ」

 

 

 

「それはいいけど、三人は懲りないですね。いいかげんその行いを止めたら如何ですか?どの道、制裁に合うんだし、いいことなんて無いですよ?」

 

 

 

「なにを言っている!こんな女の子の多い学園で覗きをしないなんて、なんてもったいないんだ!」

 

 

 

「・・・どういうことですか?」

 

 

 

「俺たちにとってここは楽園だ!その楽園で楽しみを求めてなにが悪い!」

 

 

 

「そうだ!その楽園で俺はあらゆる女子のいろんな角度の写真を納めるんだ!」

 

 

 

「俺は、その女子の体系を記録し」

 

 

 

「俺はそれを元に、おっぱいの大きい娘を彼女に!」

 

 

 

「「「俺たちの夢のために!!!」」」

 

 

 

「・・・・まぁ、貴方たちがそれを望むのなら、私からこれ以上は言いませんが、報いは受けてもらわなければなりませんね」

 

 

 

「「「?」」」

 

 

 

 ガシッ

 

 

 

「つ~~か~~ま~~え~~た~~わ~~よ~~」

 

 

 

 三人の肩に複数の手、驚いた三人はギギギッと機械のような動きで後ろを振り返ると、そこには先ほどまで自分たちを追いかけていた女子たちが薄ら寒くなるような笑顔で肩をつかんでいた。

 

 

 

「な、なんでここが!?」

 

 

 

「親切な人が教えてくれてね、あんた達が油断して出てくるのを待っていたのよ!さぁ、制裁の時間だ!」

 

 

 

「「「イヤ~~~~~~!!!」」」

 

 

 

 女子たちは三人を捕まえたまま、引き摺って行き、捕まった三人はこれから自分たちがどのような目にあうか、想像しただけで恐怖し、絶叫を上げていた。その際、三人は颯に助けを請うが、颯はただ傍観し、手を振るだけだった。

 

 

 

 

 

 その日の終わり、学園からはまだ生徒たちの声が聞こえる。颯は屋上へ行き、護衛対象の位置を一瞬の魔力探知を行い把握した後、すぐさま自分の魔力の放出を停止した。

 

 

 

「ふむ、グレモリーは学校敷地内の旧校舎、シトリーは校舎内の生徒会室か、入学して一年、ここまで大きな変化はなし、引き続き護衛の任務を継続する」

 

 

 

 その直後、屋上のドアが開き、一人の女子生徒が出てきた。

 

 

 

「あらあら、この時間にまだ生徒がいるなんて、思っていませんでしたわ」

 

 

 

「それはこちらの台詞ですよ、姫島先輩」

 

 

 

 扉から出てきたのは姫島朱乃。リアス・グレモリー、ソーナ・シトリーと同じ三年生で、リアス・グレモリーと共に、学園の二大お姉さまと言われている人物だ。

 

 

 

「私は先生に呼ばれていましたけど、来客中だったので時間をつぶそうと思って、東雲君は?」

 

 

 

「私は手伝いで屋上の見回りに来たんですよ。それにしても、よく自分の名前を知っていましたね?」

 

 

 

「学園でも噂になってるんですよ?生徒がよく用務員さんを手伝っているって。それで興味本位で調べている人がいて、名前が判明したんですの」

 

 

 

「(本人の知らないところでそんなことが)そうでしたか、では私はもう帰りますので、ここを閉めたいと思いますんで、えっと、鍵は・・・」

 

 

 

 颯がポケットから屋上の鍵を出すと、

 

 

 

「なんでしたら、私が職員室に行ったときにでも返却しておきますわ」

 

 

 

「そうですか、すいませんが宜しくお願いします」

 

 

 

 姫島先輩に鍵を渡すと、颯はそのまま校舎の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 颯が去った後、姫島朱乃は、二つの通信用の魔方陣を展開した。一つは自分の所属しているオカルト研究部の部長、リアス・グレモリーに、もう一つは生徒会会長、ソーナ・シトリーこと支取蒼那へ。

 

 

 

「リアス、会長、屋上に着きましたわ」

 

 

 

『OK、朱乃。異常はある?』

 

 

 

「魔力を感じたと聞いて調べに来ましたけど、特に不振な人物は見られないわね、男子生徒が一人いたけど、魔力は感じられなかったわ」

 

 

 

『その男子生徒はだれですか?』

 

 

 

「会長、東雲 颯君ですわ」

 

 

 

『ああ、彼ですか』

 

 

 

『知ってるの、ソーナ?』

 

 

 

『逆に何で知らないんですか?彼はこの学園で生徒会より動いてくれる生徒で、一部生徒からは《学園の影の生徒会長》と言われている人物ですよ?それともう一つ、彼は私の眷属候補なんですから』

 

 

 

『でも、調べたけど、そんな突出した才能があるようには見えなかったけど』

 

 

 

『才能有る無しに関係なく、彼の行動はすでに生徒としての枠組みを超えています。他者のためにあれだけ積極的に動ける生徒はいません。彼には私の夢のために必要な人材です』

 

 

 

『それで、アプローチはかけたの?』

 

 

 

『いえ、まだです。一般生徒なのでまずは生徒会に入ってもらおうとは思っています。それに、才能有る人物が必要なら、東雲君と同学年に日向君がいますけどどうなんですか?』

 

 

 

『確かに才能は有るけれど、あまりいい噂を聞かないし、協調性に欠けるのも問題だから勧誘はしないわ』

 

 

 

『まぁそうですね。彼はちょっと別の意味での問題児ですからね』

 

 

 

『まぁいいわ。朱乃、異常がないなら引き上げて頂戴』

 

 

 

「了解しました、部長」

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤は帰路につこうとしていた。何時ものように女子生徒たちからの熱い制裁を受け、松田・元浜と共に気絶していたが、眼がさめると、いつの間にか二人は消えていた。どうやら自分より早く目覚めて、そのまま放置して帰ってしまったらしい。なんとも薄情なやつらである。今度新作のエロDVDを一番に見る権利をもらおう。そう考え校舎から出ようとすると、一人の女子が校門前に立っていた。この学園とは違う制服なので、他校の生徒だと言うのはわかるが、もうほとんど人がいないのに誰を待っているんだろうと考えていると、その女子と目が合うと、その女子が小走りで近寄ってきた。

 

 

 

「あの!兵藤一誠君ですよね!」

 

 

 

「そ、そうだけど・・・」

 

 

 

 いきなり声をかけられたので、驚いてしまう。

 

 

 

「わ、私、天野夕麻って言います。お願いです!私と付き合ってください!」

 

 

 

 

 

 ~翌日~

 

 

 

 颯はいつもの通り、授業が始まる前に読書をしていると、クラスの問題児が近づいてきた。

 

 

 

「やぁ、おはよう、東雲君。今日もいい天気だね!」

 

 

 

 上機嫌な上に、大声で挨拶する兵藤一誠がにこやかな顔で近づいてきた。その後ろでは、松田と元浜がこの世の終わりみたいな絶望した表情をしていた。

 

 

 

「おはようございます、兵藤君。どうしたんですか?ずいぶん機嫌が良いようですが?」

 

 

 

「お、わかっちゃう?わかっちゃうか~」

 

 

 

 実にわざとらしい困り口調で、にやけていた。

 

 

 

「じつは、俺にとうとう、彼女が出来ました!!」

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

 突然の宣言に颯は最初言葉も出なかったが、すぐにノートとペンを取り出して、筆を走らせ、紙を破ると、それを兵藤へと渡した。

 

 

 

「なんだこれ?」

 

 

 

 そこには、いくつかの病院・大学病院の名前が書かれていた。

 

 

 

「そこには、精神科のいい先生がいるから、相談してみてください。『僕はついに妄想で彼女が現実に現れるようになりました』って」

 

 

 

「いや、妄想じゃないから!?」

 

 

 

「じゃあ、薬物による幻覚ですか?だめですよこの年で犯罪に手を染めるのは。まだ初犯で未成年ですから、情状酌量の余地があります。今すぐ警察に自首してください」

 

 

 

「いや、薬物でもないから!見ろ、証拠に写真まで撮ってあるんだからな!」

 

 

 

 そう言って携帯電話を出して画面を見せると、黒髪の清楚な女の子が写っていた。

 

 

 

「どうだ!これで本物だって信じただろ!」

 

 

 

「君、さてはこの娘の弱みを何か握りましたね?そして、『暴露されたくなかったら俺の彼女になるんだな』といって無理矢理手篭めにしたんですね。なんて人だ、最低だ」

 

 

 

「いや違うから!この娘の方から告白してきたんだって!」

 

 

 

「これで確信しました。その娘は美人局に違いない。きっと君が彼女と町で一緒にいる時にその娘の本当の彼氏が現れて『なに人の彼女に手ぇ出してんだよ~!!』といって路地裏に連れられて、ボコボコにした挙句、有り金を奪われて、最後はゴミのように捨てられるのですね。かわいそうに。今のうちに病院の予約と謝罪の言葉を考えておいたほうがいいですよ?」

 

 

 

「何でそんな考えになるんだよ!お前の考え方怖すぎるだろう!」

 

 

 

「君の今までやってきた行動でどこをどうやったら彼女が出来るのか不思議でしょうがないのですが」

 

 

 

「うぐっ」

 

 

 

 その反論に、兵藤は言い返せなかった。

 

 

 

「じゃあ、今日デートするからそのときに会って確かめてみろよ」

 

 

 

「そうですね、どんな物好きが君を彼女にしたのか興味がありますね」

 

 

 

「いちいち毒を吐くな、毒を!」

 

 

 

 

 

 その日の放課後、颯は兵藤と一緒に件の彼女を一目見ようと、校門前で待っていた。すると・・・

 

 

 

「イッセーく~~ん」

 

 

 

 兵藤の名前を呼びながらこちらへ走ってくる他校の女子生徒が近づいてきた。

 

 

 

「イッセーくん待った?」

 

 

 

「いや、大丈夫だよ夕麻ちゃん」

 

 

 

 そこには、先ほど携帯に写っていた黒髪の女の子がいた。

 

 

 

「イッセーくん、そちらの人は誰?」

 

 

 

「ああ、紹介するよ、同じクラスの東雲だ。俺に君みたいな彼女が出来たのが不思議らしくて、夕麻ちゃんを紹介したくて呼んだんだよ」

 

 

 

「そうなんだ。あ、天野夕麻と言います。はじめまして、イッセーくんの彼女です」

 

 

 

 黒髪の少女、天野夕麻は颯に向かってお辞儀をした。その隣で、兵藤は本当だったろうという表情でいた。

 

 

 

「天野さん」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

「兵藤のどこに惚れたんですか?」

 

 

 

「お~~~い!!」

 

 

 

 颯は本人のいる前で堂々と理由を聞いてきたので、兵藤は叫んだ。

 

 

 

「えっと、裏表のないところですかね、自分に正直なところが気に入ったと言うか・・」

 

 

 

「夕麻ちゃんも恥ずかしいこと答えなくていいから!」

 

 

 

 そんな二人のやり取りを見ている颯は、もう帰ろうとしていた。

 

 

 

「まぁ、兵藤に彼女がいるのはわかりましたので、これで失礼いたします。ごゆっくり」

 

 

 

 そういうと、颯は足早にその場から去っていった。

 

 

 

「えっと、変わった人ですね」

 

 

 

「まぁ、口は少し悪いけど、そんな悪いやつでもないから、憎めないんだよね」

 

 

 

「・・・それで、これからどこへ行く?」

 

 

 

「あぁ、そうだね、これから・・・」

 

 

 

 兵藤は始めてのデートだと言うことで、昨夜はいろんな情報誌を確認して、近場のデートスポットを確認して、雰囲気の良い店をチェックし、夕麻ちゃんに嫌われないようにするために入念に準備し、失敗しないように準備をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・相手がどんな思いでいるのかは知らずに・・・

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話

 

 

 ~夕方・公園~

 

 

 

「今日は、とても楽しかったわ」

 

 

 

 公園の噴水近くで微笑む夕麻。

 

 

 

「よかった~、初めてのデートだから良くわからなくて、夕麻ちゃんが楽しんでくれたならうれしいよ」

 

 

 

 兵藤は自分の計画したデートプランが成功したことに安堵していた。

 

 

 

「それでね、イッセーくん。実は私、イッセーくんにお願いがあるの」

 

 

 

「お、お願い!?な、なにかな」

 

 

 

 夕麻から目を背けしゃがみこんだ兵藤の頭の中はすでに甘い妄想の中にいた。キス?それとも自分の初めて?どんなお願いが来ようともすべてを受け入れようと考えていたのだ。・・・が、

 

 

 

「死んでくれないかな」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 いきなりの言葉に兵藤は振り返ると、黄色い光ったものが目の前にあった。兵藤はとっさに顔だけを横にずらすと、そのまま横を通り過ぎるが、少しだけ頬を切ったのか、生温かい感覚があったので、手で触り見てみると、その手には真っ赤な血がついていた。

 

 

 

「あら、運よく避けたのね。人間の癖に生意気ね」

 

 

 

 夕麻は先ほどのあたたかい口調とは打って変わって、冷酷で冷たい口調であった。

 

 

 

「まぁ、そんな偶然一度だけですし、これで終わりよ」

 

 

 

 夕麻は片腕を上げると、そこには何かの陣が現れ、光が形を作り、まるで槍みたいになった。先ほど自分に投げたのはこれと同じものだと考えられた。

 

 

 

「う、うわあああ」

 

 

 

 兵藤は声をあげ、駆け出したが、運悪く足が縺れてしまい、少し進んだだけで転んでしまった。その際、胸ポケットにしまってあった、紙切れが飛び出した。それは、先日駅前で配っていた何かの勧誘だかの紙だったと思うのだが、そのときの兵藤は、紙の内容よりも配っていた女性に目を奪われていたので、特に気にせずその紙をもらっていたのだ。

 

 

 

 そんなことは脳内の片隅に追いやり、今この状況に意識を戻した兵藤。今目の前には、自分の命を奪う存在、先程まで楽しくデートをしていたはずの夕麻ちゃんに。

 

 

 

「それじゃあね、イッセーくん。なかなか陳腐なデート本当に楽しかったわ。あまりに楽しくて、途中で貴女を殺したかったくらいに」

 

 

 

 頭上に掲げた掌にある光の槍が、まっすぐ兵藤を捉えている。

 

 

 

「あ・・・あぁ・・・」

 

 

 

 兵藤は頭の中が混乱していたが、今すぐ逃げないと自分は死ぬことになると気づいてはいる。だが、あまりの恐怖に腰が引け、立ち上がることさえ出来ない。その為、尻餅をつきながらも、少しでも距離をとるかのように後ずさりしていた。その最中に、先ほど落とした紙切れに、血のついた手が触れた。

 

 

 

「さよなら」

 

 

 

 だが、無常にも然程距離を離すこともなく、光の槍が放たれる。兵藤は走馬灯のようになり、物事がすべてスローモーションになった。徐々に近づく光の槍、その延長線上に薄ら笑みをする天野夕麻。光の槍が自分に届くまでの距離が二人の間の半分になった瞬間・・・

 

 

 

 バシュゥゥゥゥゥン

 

 

 

 真横から、別の青光りした光の線が見え、兵藤に迫っていた光の槍が弾け消えた。

 

 

 

「「なぁ!?」」

 

 

 

 その場にいた二人の声が見事にハモッた。

 

 

 

「何者!!」

 

 

 

 天野夕麻は声を上げ周りを見渡すが、周囲には自分たち以外には見当たらなかった。

 

 

 

『人ならざる者よ、この場から去れ』

 

 

 

 急に声が聞こえたかと思えば、それは周囲から聞こえてきており、声の発信者がどこにいるかもわからなかった。

 

 

 

「誰だ!どこにいる!」

 

 

 

 天野夕麻は必死に声の主を探すが、

 

 

 

『もう一度言います。人ならざる者よ、今すぐこの場から去りなさい。さもなければ、先ほどの攻撃を、貴女の心臓めがけて放ちます』

 

 

 

「っく・・・」

 

 

 

 天野夕麻は苦虫を噛み潰したかのような顔をするが、冷静に考えると、ここで目の前の男を殺しても、先ほどの光の筋は自分にはかわせない、確実に死ぬ。ならば、ここから去るほうが懸命だと思い、足元に転移の魔方陣を作り出す。

 

 

 

「命拾いしたわねイッセーくん。貴方とはこれでさよならね」

 

 

 

 そう言うと、そのまま姿を消していった。兵藤は声をかけることもなく、その場にただただへたり込むだけだった。

 

 

 

『少年、今日起こったことは忘れなさい、すぐにとはいかないがこれからの人生を謳歌しなさい』

 

 

 

 そう言うと、その声は聞こえなくなり、人の気配も消えた。あたりには風の吹く音しか聞こえなかった。その直後、手に触れていた紙から赤い光が発せられると、そこから魔方陣が現れ、そこから兵藤が見知った人物が現れた。

 

 

 

「あら、私を呼んだのは貴方かしら?」

 

 

 

 それは、自分が通う駒王学園の二大お姉さまの一人、リアス・グレモリーがいた。

 

 

 

「・・・・・」ドサッ

 

 

 

 この短時間にいろんなことが起きすぎて、ついに心身ともに疲労が限界に達した兵藤は、憧れのお姉さまを前に一言も喋らずに、その場で意識を失い倒れこんだ。

 

 

 

「ちょ、ちょっと!どうしたのよ貴方!」

 

 

 

 あまりの展開に、リアス・グレモリーは困惑した。そのとき、

 

 

 

「な、何だこりゃ!なんで兵藤が死んでねぇんだよ!」

 

 

 

 あまりの怒号に、リアスは振り返ると、そこには一つ下の後輩で、学園髄一の目立ちたがり屋、日向正義がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、なぞの声の主はと言うと・・・

 

 

 

「やれやれ、帰宅と同時に殺意を持った魔力反応、駆けつけてみれば、先程別れた二人組、そのうちの一方の女性は人ならざる者、もう一方は彼女が出来たと喜んでいたクラスメイト、見られるとまずいので、距離を置いての《白雷(びゃくらい)》、脅しをかけてうまく撤退してくれたはいいけど、暫くは兵藤には深い傷が残るだろうなぁ」

 

 

 

 翌日学園で会う気落ちしたクラスメイトを想像していた颯は、はぐれ悪魔の排除に向かうため、自宅から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ~翌日~

 

 

 

 いつも通りの時間に登校した颯は、授業が始まる時間まで、人がいない教室で、日課の読書をしようとした矢先、いきなり教室のドアが開くと、そこには日向正義が入ってきた。そして乱暴に歩きながら、そのまま颯の前に立ち止まる。

 

 

 

「おい!お前は一体何者だ!」

 

 

 

「・・・質問の意図がわかりませんが」

 

 

 

「とぼけるな!!お前が現われてからずっと俺の計画が狂い始めたんだ!計画通りにいっていれば、今頃この学園の美女と言う美女が、俺のものになっていたんだ!それをお前が邪魔してからこんなことに!!」

 

 

 

「なにを言っているのかは知りませんが、邪魔をした覚えはありませんし、そもそも人を物扱いにするのはどうかと思いますけど・・・」

 

 

 

「うるせぇ!!」

 

 

 

 正義は原作を知る転生者である。昨日、原作では兵藤が殺される現場に立会い、秘密裏に兵藤の死体を処分し、その後現われたリアス・グレモリーを呼んだのは自分だと偽り、転生の特典としてもらった能力を神器として、この能力があるから殺されそうになったと証言し、眷属になろうと考えていたのだ。

 

 

 

 だが実際は、兵藤は殺されることもなく、そればかりか、なぜこの子が殺されるのがわかっていたかのような発言をしていたのかとリアス・グレモリーに聞かれていたため、うまく説明(言い訳)をすることが出来ず、彼女は理由を聞くこともなく、兵藤を連れて行こうとした。その際正義は、自分も連れて行ってくれと嘆願するが、素性の知れない人物と馴れ合うつもりは無いと、バッサリと拒絶したため、開いた口が塞がらなかった。そして姿を消す前にリアス・グレモリーは正義に対して、今日あった事と自分のことを周りに公表すれば、貴方を存在ごと消してあげると言い残し、転移していった。

 

 

 

 その後の正義は、なんで計画が狂ったのか考えていた。そもそも初めは、姫島神社で幼かった姫島朱乃を救い出し、モノにするはずだった。だが、到着したときにはすでに事が終わっていて、無人の神社が残っていただけであった。(その仕業が颯だとは知らない)成長し、目的の駒王学園に入り、特典でもらった身体能力の強化で周りに自分は優秀だと見せ付けてはいたのだが、いつまでたっても、リアス・グレモリーやソーナ・シトリーに勧誘されることなく、現在に至る。そして昨日の一件でリアス・グレモリーに完全に拒絶されたため、今まで溜まっていた不満がストレスになり、その原因は原作では現れなかった颯に向けられた。正義は自分の思い道理にいかなかったのはそいつのせいだと自分勝手な解釈をした。そのような彼にとって邪魔な颯を始末すれば、今まで自分を見なかった二人も見てくれるはずだと浅はかな考えに至った。

 

 

 

「お前のような奴は俺は知らない!だから原因は全部お前にあるんだ!」

 

 

 

「本当に貴方は何を言っているんですか?」

 

 

 

「黙れ!俺の邪魔をした以上、お前を・・・」

 

 

 

 そう言うと正義は、手近にあったイスをつかむ。するとそのイスは、赤い血管みたいなものが張り巡らされる。それを見た颯は、表情は変えなくても、いつでも動けるようにはした。だが、

 

 

 

 がやがや・・・

 

 

 

「ちっ・・・」

 

 

 

 教室の外から聞こえてくる複数の人の声、それを聞いた正義は、イスを手放し颯から離れる。

 

 

 

「いいか、これ以上俺の邪魔をすれば今度こそお前を殺してやる!」

 

 

 

 そう言い残し教室から出て行った。

 

 

 

『主よ!今すぐあ奴のそっ首をはねさせて下され!』

 

 

 

「(落ち着け、千本桜。まだ実害があったわけじゃない。もしこのまま態度を変えずに自分を排除しようとするならそれ相応の対処はするけど、とりあえず干渉はしないでおこう)」

 

 

 

 自分の中にいる魂が自分のために怒っていることをうれしく思うと同時に、不用意な争いを避けるようにした颯。そのとき・・・

 

 

 

 ガラッ・・・

 

 

 

 再び教室のドアが開けられた。そこにいたのは・・・生徒会長の支取蒼那だった。そしてそのまま教室の中に入ると真っ直ぐ颯のもとへ近づいて声をかけた。

 

 

 

「東雲颯君ですね?」

 

 

 

「そうですが、生徒会長が自分にどのような用事でしょうか?」

 

 

 

「詳しいことは後で説明しますが、要点だけ言います。東雲君、生徒会に入りませんか?」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話

 

 

 

 ~朝・生徒会室~

 

 

 

 朝のホームルームの前に詳しい話をしたいと言うことで、支取会長に生徒会室に連れてこられ、中に入ると、会長の机の横には副会長の真羅椿姫と同じ学年の生徒会唯一の男子、匙元士朗が待っていた。

 

 

 

「会長、お疲れ様です」

 

 

 

「ありがとう椿姫。匙、あの件はどうなりました?」

 

 

 

「仁村達と一緒になって対応したので、何とかなりそうです」

 

 

 

「そうですか、ご苦労様。さて・・・東雲君、座ってください」

 

 

 

 二人の仕事の確認を済ませ、生徒会長の机に座り、同じ机の向かい側にイスを用意させ、颯が座ると、話を切り出す。

 

 

 

「では東雲君、先程も言いましたが、貴方を生徒会に入れたいと考えているんですが、どうですか?」

 

 

 

「ふむ、なぜ自分なんかを入れるんですか?自分の他にも能力的に上な人はたくさんいると思いますよ?私はこれと言って、何かの才能はないですよ?」

 

 

 

「用務員の仕事を自主的に手伝い、尚且つ他にも困った人がいれば生徒や教職員のみならず、対応してくれていることが生徒会に欲しい人材であるからです。貴方が思っているより、私は貴方を評価していますよ」

 

 

 

 支取会長の颯に対しての評価が上だったので、隣にいる匙は内心歯軋りをしている。

 

 

 

「それで、どうですか?入ってはもらえませんか?」

 

 

 

「・・・お断りさせていただきます」

 

 

 

 会長の問いに、颯はきっぱりと断った。だがそれで面白くないのは隣の匙である。

 

 

 

「テメェ、会長のせっかくの勧誘を!!」

 

 

 

「匙、止めなさい。理由を聞いてもいいですか?」

 

 

 

 声を荒げ、颯に怒りを覚える匙だったが、会長の一言でそれは納まる。

 

 

 

「私のやっていることは、自主的なことでやっています。誰から言われてやっているのではありません。仮に生徒会に入ったとしても、やることは生徒会に話がいった案件だけです。それでは急な事が起こった場合、生徒会がすぐに動けるとは思いません。対応が遅れてしまいます。でしたら、動ける人物がやるほうが効率がいいとは思いませんか?」

 

 

 

「それなら、尚のこと貴方が生徒会に入ってくれれば、活動の幅が広がり・・・」

 

 

 

「私はやろうと思っているから手伝いをしています。それに、役員ってのはどうも苦手で、やりたくないんですよ」

 

 

 

 支取会長の説得も、颯はそれとなくかわしていく。

 

 

 

「東雲よぉ、こんだけ会長がお前のこと評価してんだから、生徒会に入っちまえばいいじゃねぇか」

 

 

 

 そのやり取りに面白くないと感じた匙は、強引にでも入るように言い出した。

 

 

 

「匙君、私は入りたくないと言っているんです」

 

 

 

「でも会長の言葉だぜ。そんだけでもうれしいと思わないか?評価してもらえるならそれを会長の為に役立ててみたいと思わねぇか?」

 

 

 

「私は別にそうは思いません。ただおのれの成すべきことをなすだけです」

 

 

 

「この、こっちが下手に出ているのに・・・」

 

 

 

「下手に出るという言葉を一回調べてみたらいかがですか?」

 

 

 

「てめぇ・・・」

 

 

 

「匙!」

 

 

 

「うっ・・すいません、会長」

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

 

「おっと、予鈴が鳴りましたね。それでは私は教室に行きますので、失礼します」

 

 

 

 席を立った颯は、そのまま生徒会室を出て行った。

 

 

 

「会長、どうしますか?彼の勧誘は失敗しましたが」

 

 

 

「もちろん勧誘は続けます。今回はダメでしたが」

 

 

 

「会長、なんで東雲の奴なんかを生徒会に入れようとするんですか?」

 

 

 

「彼の行動力は価値のあるものだからです。今の生徒会に彼を迎えれば、いい活性剤になると思ったのですが」

 

 

 

「でも生徒会に入れると言うことは、その・・」

 

 

 

「ええ、いずれは私の眷属にしようと考えていますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ~朝・教室~

 

 

 

 支取会長、いやソーナ・シトリーとの会話が終わり、教室に戻る颯。そして教室にはいるや否や、兵藤が鬼気迫る表情で颯に近づいてきた。

 

 

 

「東雲!ちょっと聞きたいことがあるんだけど!」

 

 

 

「・・とりあえず離れてくれませんか?こんなに近くじゃあ話なんて出来ませんよ」

 

 

 

「スマン。んで聞きたいのは、お前天野夕麻ちゃんて覚えているか?」

 

 

 

「天野・・夕麻」

 

 

 

「覚えてるだろ!?昨日校門前で紹介した、あの女の子のこと!!元浜や松田にも携帯の写真を見せようとしたのに残ってなくて、言葉で説明してもぜんぜん覚えてないって言うんだ!!」

 

 

 

「(ああ、あの夜何かしらの魔力が町全体に流れたかと思えば、どうやら記憶の改竄をリアス・グレモリーが実行したんですね。もし結界で弾いてなかったら私も記憶を失っていたのですか)」

 

 

 

「で、どうなんだ!?覚えているだろ!?」

 

 

 

「すいません、誰ですか?」

 

 

 

 ここで覚えていると言った場合、後にばれてしまった時、根掘り葉掘り事情を聞かれそうになりそうなので、嘘を吐く颯。そういった瞬間、兵藤の表情は絶望したかのようになり、膝から崩れ落ち床に手を着き俯いてしまった。

 

 

 

「終わった・・・これで最後の希望もなくなった・・・」

 

 

 

 どうやら、知っている人物に片っ端から聞き回ったみたいで、颯が最後だったみたいだ。

 

 

 

「まぁまぁ、イッセー。そうクヨクヨすんなって」

 

 

 

「そうそう。そんなことよりどうだ?家に秘蔵のお宝があるんだけど、見に来ないか?」

 

 

 

 絶望に打ちひしがれている兵藤に、元浜と松田が近づき、慰めのつもりなのか、彼らにとってのお宝(エロDVD)鑑賞の誘いをしてくる。その瞬間、兵藤は動きを止め、急に立ち上がる。

 

 

 

「くそー、しょうがないなー。そんなに熱心に誘われちゃあ断れないな。こうなったらその提案を仕方なく受けよう。仕方なくな」

 

 

 

 そう言うが、顔のにやけだけは隠れていない。

 

 

 

「そうそう、人の誘いは断るもんじゃない!」

 

 

 

「よーし、早速今日の放課後にでも行こうぜ!」

 

 

 

 変態三人組は教室の中なのにもかかわらず、大声で会話しているため、教室内の女子から冷たい視線が向けられている。その間颯は、さっさと自分の席に戻る。・・・教室の端から殺気に満ちた視線を感じて、今日も授業を受ける。

 

 

 

 ~放課後・駒王学園~

 

 

 

 今日は珍しく校内の手伝いはなく、いつもよりは早めに家路に向かう東雲。このときは気分転換もかねて、いつもと違う道で遠回りしながら帰ろうとした。夜中は町全体を見回しているとはいえ、まだ明るい時間帯にこうして街中を歩くのは久しぶりと思った。いつもと違う風景、その違う風景の中にある人々の話し声や笑い声。それを聞く度に颯の心の中は満たされる。自分の守りたい人々の平穏な生活をその身に感じることが出来ているのだから。しばらく歩いていると少し小腹が空いてきたので、偶然近くにあった移動販売の車が目に入り、ちょうどいいと思いそこで売られていた小さなパンの詰め合わせを買い、近くのベンチに座り食べようとしたら・・・出来なかった。なぜなら、どこからか視線を感じたから。それも颯自身にではなく、颯の持っているパンに対してである。さりげなく辺りを見回していると、近くの電柱の後ろに女の子がいた。小柄で白髪の見た目幼女だが、颯と同じ駒王学園の制服を着ている。颯の記憶が正しければ、彼女は学園のマスコット的存在、塔城小猫に間違いなかった。しかも魔力探査で調べた結果、彼女は悪魔でしかも他にも別の力を感じ取れていたが、この時点でまだ颯は理解が出来なかった。ともあれ、そんな彼女がなぜこっちを見ているのかわからず、しばらく考えていたがずっと黙っているわけにもいかず、

 

 

 

「あの、何か用ですか?」

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 声を掛けるが、返答がない。ならばと思い、一番可能性が高い選択肢を選ぶ。

 

 

 

「えっと・・食べますか?」

 

 

 

「はい」

 

 

 

 速攻で返事が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 もっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅもっきゅ

 

 

 

 颯は自分が座っている横で、ものすごい勢いでパンが消えていく様を目撃している。学園のマスコットの塔城小猫が、脇目も降らず租借しているからだ。声をかけた後、塔城は隣に座るとさっそく袋に入っているパンを掴み食べ始める。

 

 

 

 

 

 ~十分後~

 

 

 

 パンの詰め合わせは、瞬く間に消え、颯には一つも口に入ることなく終了した。

 

 

 

「ご馳走様でした」

 

 

 

「・・はい、お粗末さまでした」

 

 

 

 あまりの食べっぷりに、颯自身も呆気に取られ、ついそう返事をしていた。

 

 

 

「・・・ところで、東雲先輩はどうしてここにいるんですか?」

 

 

 

「おや、私の名前をご存知でしたか、塔城さん?」

 

 

 

「・・・先輩はいい意味で有名人ですから・・他にも有名人はいますけど、それは悪い意味ですが・・」

 

 

 

「はは・・彼ですか、後輩にまで知られるとは、なんとも言えませんね」

 

 

 

「・・・それで・・さっきの質問ですが、どうして先輩はこっちにいるんですか?」

 

 

 

「今日の私は暇でしてね、少し遠出しようと思ったんですよ。塔城さんは?こっちが帰り道ですか?」

 

 

 

「・・・いえ、私は今日はこっちに有名な移動販売の車がこっちにあると聞いて探しに来たんです。しかもそれは半年に一回来るか来ないかわからないので、ずっと待っていたんです。でもなかなか見つけることが出来なくて、諦めようとしたんですけど、ちょうど東雲先輩が目的のものを買っていたので、その後で私も買いに行ったらちょうど売り切れだと言われて、すごくショックでしたが、こうなったら最後の手段だと思い、先輩の後をつけていたんです。そしたら先輩は何も言わずにこれをくれました。ありがとうございます」

 

 

 

「いや・・あれだけパンに視線を向けられれば、自ずと答えはわかりますって」

 

 

 

 むしろ無意識のうちに視線がパンに向いていたことに自分では気づいてなかったのかと言いたかった。

 

 

 

「まったく、どうしてそのまっすぐな行動を別のことに向けられないのか、そういうところはあいつ《・・・》にそっくりですよ。塔城さん」

 

 

 

「・・・あいつって?」

 

 

 

「ああ、すいません。昔のことですよ、妹みたいな子がいて、ずっと傍にいたものですから、自分より他の子と遊びなよと言ったけど、頑なに傍についてきましてね、その行動力は今の塔城さんにそっくりだったものですから」

 

 

 

「む・・私はそんなに執着深くはありません」

 

 

 

「おや、目的のものに半年も待つような人が執着深くないと?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 塔城は反論できず、黙ってしまう。

 

 

 

「まぁ、そろそろいい時間なので、私は帰りますが、塔城さんはどうしますか?」

 

 

 

「・・・私はこの後用事があるので、このまま向かいます」

 

 

 

「そうですか、ではまた学園で機会があったら会いましょう」

 

 

 

 そう言い、颯は夕暮れの街中に消えていった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話

 ~夜・駒王町某所~

 

 

 

 兵藤は家に向かって急いでいた。松田・元浜と一緒に秘蔵のエロDVD鑑賞をしていたらもう日は沈み、辺りは真っ暗になっていた。あまり遅くなってはならないと思い、走っていた。

 

 

 

「やべーやべー。ちょっとあいつらと盛り上がっていたらこんな時間になっちまった。いやーいい時間だった」

 

 

 

 先程までの級友達との事を思い出し、満足感に浸る兵藤。そして自宅まであと数分というところで妙な視線を感じた。それもねっとりしたようなもので、兵藤は思わず立ち止まってしまった。そして周りを見てみるが辺りは暗く、道路には街灯以外の光源はなく、人っ子一人見当たらなかった。だが確かに視線は感じた。その時、

 

 

 

 カツコツカツコツカツコツ・・・

 

 

 

 まるで革靴で歩くような音を出しながら、帰宅する兵藤の正面から聞こえてきた。

 

 

 

「ふむ、こんな場所でこのような出会いがあるとは」

 

 

 

 声を発した人物が街灯の下に現われた。その人物は、スーツ姿でシルクハットを被っている中年の男性だった。そして兵藤は確信した。先程から感じていた視線はこいつからだと。

 

 

 

「まさか、夜の散歩をしていただけでレイナーレの邪魔が入り取り逃がした神器所有者に会うとはな」

 

 

 

 中年の男性は薄ら笑みを浮かべて兵藤を見ている。この時兵藤は男の発言を聞き逃さなかった。

 

 

 

「レイナーレ・・取り逃がした・・もしかして・・夕麻ちゃん!?」

 

 

 

「夕麻?・・・ああ、レイナーレが変装のときに使っていた名前か。そうか、貴様は正体を知らなかったのだな」

 

 

 

「正体?」

 

 

 

「ならば教えておこう、彼女の正体は堕天使、堕天使・レイナーレだ。そして私はドーナシーク、レイナーレと共に活動している堕天使だ」

 

 

 

 そう宣言した男は背中から黒い翼を広げ空へと跳びあがる。兵藤は多くの衝撃をうけ、ただボーゼンと立ち尽くすだけだった。

 

 

 

「さて、ここまで話したからには少年、貴様にはここで消えてもらう」

 

 

 

「・・っ!!」

 

 

 

 その瞬間兵藤は後ろを向いて駆け出した。ここにいたら殺されると思い、ただただ走り出した。無我夢中で走り、もはや自分も何処を走っているのかわからなかった。

 

 

 

 十五分ほど走った後、兵藤はある広がった場所へと入っていった。周りは暗くなっていて良くわからなかったが、周りの街灯の薄明かりによって何とか周囲の様子がハッキリ見えたときに兵藤は確信した。ここは夕麻ちゃんと最後に立ち寄った公園だと言うことに。

 

 

 

 その瞬間、兵藤の足は完全に立ち止まってしまった。自分が殺されそうになっていることなどを忘れて、ただただあの時の光景が脳裏によみがえってきた。

 

 

 

 初めて出来た彼女。浮かれていた自分。デートスポットを確認し、一緒に街中を巡り、お互い笑いあった楽しい一時。夕暮れ時になり、雰囲気の良いこの公園に入り、夕麻ちゃんからのお願いを聞く。でもその内容は・・・

 

 

 

「ふん、逃げ切ったかと思ったかね」

 

 

 

「っっ!!」

 

 

 

 回想に浸っていた兵藤の真上から、先程の男の声が聞こえた。見上げると腕を組みながら背中から生えている翼を使いゆっくりと降下している。

 

 

 

「もう逃げても無駄だ。この一帯には結界を張っておいた。上級悪魔ならまだしも、脆弱なる人間がこの結界を壊すことなどできん」

 

 

 

 相手が何を言っているのかわからず、すぐさま方向転換し、公園の出口へと走るが、道路に飛び出そうというところで、見えない壁みたいなものに阻まれた。

 

 

 

「言っただろう、逃げても無駄だと。さて、それでは人間よ、ここで死んでもらおう」

 

 

 

 男は手を挙げると、そこから魔法陣を展開、光の槍のような形をしたものを作り上げた。自分はこれに見覚えがあった。あの時、夕麻ちゃんが掌から出したものと同じだからだ。じゃあやっぱり、夕麻ちゃんは・・・

 

 

 

 “死んでくれないかな”

 

 

 

 あの時の言葉が脳内にフラッシュバックしてくる。夕麻ちゃんは本当に居たんだ・・でも・・人間じゃ・・なかったんだ。そして自分は死ぬ。・・・イヤだ、いやだイヤだいやだイヤだ!!   『ドクン』

 

 

 

 生きたい。そんな強い思いで兵藤の中に『あるもの』が鼓動をし始める。

 

 

 

 そして男が、掌から光の槍を放とうとした時に・・・

 

 

 

 ガッシャァァァァァァァァン

 

 

 

 上からガラスの割れるような音がすると、兵藤もドーナシークも上を見上げはじめる。

 

 

 

 

 

 

 

 ~数分前~

 

 

 

 颯はいつも通り、夜の見回りをしていた。今回リアス・グレモリーは討伐の依頼がないためか、ずっと旧校舎から出てこない。その為、颯は自主的な見回りをしていたのだ。民家の屋根から屋根へ飛び移りながら散策していると、魔力感知に不振な気配を察知した。距離的にもそんなに離れていないため、すぐに向かう。

 

 

 

 向かっている途中、颯はこの気配に覚えがあった。それは兵藤に襲い掛かっていた、天野夕麻にそっくりだったからだ。

 

 

 

 颯は急いだ。また件の人物が現れたかと思い、人が襲われているのではないかと感じたからだ。空中を駆けながら向かう。そしてようやく、あと数分で到着しようかという距離になったとき、下のほうから、すごい勢いで颯に向かってくる物体があった。颯はそれをバク宙でかわす。その際、投げられたものを見ると、それは角材で、しかも血管みたいに赤い模様が入っていた。颯はこれに見覚えがあった。そう、それは今朝見たものに酷似していた。バク宙でかわした颯はそのまま道路へと降り立つ。すると曲がり角から出てきた人物、颯が見知っている人物が現れた。

 

 

 

「テメェ、何者だ!俺と同じ転生者か!」

 

 

 

 日向正義。颯と兵藤のクラスメイトである彼が仮面とローブで姿を隠しているので、目の前の人物が颯だとはわかっていなかった。

 

 

 

「クソッ!奴といい、貴様といい、なんで俺の邪魔ばっかりしやがる!そんな奴はこの俺が消してやる!!」

 

 

 

 そう言うと、日向は道路に刺さっている標識を握り締めた。すると標識は、血管みたく模様が入り、全体に張り巡らされると日向は標識を引き抜いた。

 

 

 

 到底人間の腕力では引き抜けないのだが、日向は転生の際、その特典として二つの能力がある。一つが、自身の身体能力の向上。それにより、本気を出せば人間以上の動きが出来るが、貰った時からすでに慢心し、己を鍛えしなかったので、良くて中級悪魔ほどの力にはなっているが、それでも一般人からしたら驚愕の身体である。もう一つが“騎士は徒手にて死せず”。触れたものを自分の武器とし、俗に言う伝説の人物が扱ったとされる、《宝具》になる。それは例え、木であろうが、無機物であれば伝説級の武具となり、それはすべて彼の支配下に置かれる。ただし、宝具にはなっても、無敵というわけではない。支配下に置いた武具は確かに強いが、あくまで通常より強くなった程度で、それ以上の武器とのぶつかり合いでは簡単に破損してしまう。だが、日向のこの二つの能力が合わさることで最大限に発揮し、並みの相手など瞬殺できる。

 

 

 

「驚いたか?これが俺の能力だ!触れたものをすべて俺の武器にすることが出来るんだ!」

 

 

 

「(普通、自分の能力は隠すものじゃないですかねぇ?)」

 

 

 

「この力で、お前をぶっ潰してやるぜ!」

 

 

 

「私は今貴方にかまっている暇はありません。そこを通してください。急がないと人が殺されます」

 

 

 

「あぁ?人が死ぬ?兵藤のことか?別に死んでくれて構わないぜ」

 

 

 

「・・・なんですって?」

 

 

 

「だから、奴が死のうが別にかまわねぇよ。逆に早く死んで欲しいくらいだぜ!そうすれば俺は眷属として迎えられる!そして最後にお前と東雲を殺せば、この世界で俺の邪魔をするものは居なくなる!だから俺のために死ねやぁ!!」

 

 

 

 言い終えると、日向は颯に向かって駆け出し、颯に向かって標識を上段から振り下ろす。だが颯は、左腰に帯刀している斬魄刀を居合いで受け止める。

 

 

 

 ガァァァァァァァン

 

 

 

 金属同士の鈍い音が辺りに響き渡る。そのあまりに強い衝撃に、颯の足元のアスファルトは陥没し、道路の横の壁まで亀裂が入った。その間颯は動きもせず、ただただ相手の攻撃を受け止めただけだった。

 

 

 

「どうしたどうした~?受け止めるだけで精一杯ってか~?」

 

 

 

 日向は相手を小馬鹿にしているが、普通道路が陥没する威力があるなら、人間など潰されていいものなのだが、振り上げた体制のまま、微塵も姿勢を崩さないのはおかしいと気づいていなかった。

 

 

 

「貴方に一つ質問したいのですが・・」

 

 

 

「あん?」

 

 

 

「貴方は人の命を何だと思っていますか?」

 

 

 

「そんなもん、どうも思っちゃいねぇよ!いい女がいれば手に入れる!憎い奴がいれば即殺す!この世界は俺のやりたいことすべてが叶う場所なんだ!その為なら例え何人死のうが御構いなしだぜ!」

 

 

 

 颯は内心怒りに満ちていた。これほど命というものを軽んじ、尚且つ己の欲望のためなら何をしてもかまわないといった言動がとどめとなった。

 

 

 

 その怒りは表に出さず、内に潜めようとしたが出来ず、日向の攻撃を受け止めている間にも、体から怒りにより魔力が抑えきれず溢れ出す。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「な、なんだよこの寒気は!?俺たち以外にもこの近くに転生者がいるのか!?」

 

 

 

 颯の溢れ出す薄ら寒くなるような魔力の奔流が、颯自身から出ていることには日向は気づいていない。日向は力こそが自分の欲望を叶える為の絶対なるものだと思っていたため、魔力察知に関してはまったく素質がない。

 

 

 

「・・・決めました。・・・その歪んだ思惑は・・・今ここで潰します」

 

 

 

「はっ!!やれるもんならやってみろ!!」

 

 

 

 その瞬間、颯は受け止めていた日向の攻撃を押し上げるような形でつき返す。すると、日向の体は空中に上げられ、距離をとらされた。

 

 

 

「こいつ!?舐めたまねしやがって!!」

 

 

 

 突き飛ばされた日向は、このことに腹を立て、そのまま颯に向かって突進ぎみに飛び出す。その威力はまるでトラック並み、ぶつかったら最後吹き飛ばされてもおかしくないほどの威力だったが、颯はそれを右手に構えた斬魄刀を振り上げ、標識に当てることで威力を殺し、逆に日向を再び跳ね飛ばした。その飛ばした方向は颯がちょうど向かっていた先、ドーナシークと兵藤が対峙している場所へだった。

 

 

 

 日向はそのまま地面に激突・・・することなく、ドーナシークが張った結界にぶつかる。その直後、同じ方角から、颯が飛んできて斬魄刀を振り上げ、斬りつけてきた。日向はとっさに、手に持つ標識でガードしたが、斬撃は防げても勢いまでは防げず、背中に当たっている障壁を押し壊し、地面へと急落下する。

 

 

 

 ~現在~

 

 

 

 地面へと急落下した颯と日向。結界を壊し、そのまま地面へと落下するが、颯は上から見ていたため、状況の把握が素早く出来た。

 

 

 

 このまま落下していけば、兵藤と向かいにいる男の間にちょうど落ちると感じ取った。しかも二人とも上を見上げるように顔を上げ初めた。颯は、左手で日向の顔を掴み、落下速度よりも速く地面に到達。日向を地面につけることなく、掴んだまま黒い羽が生えた男に向かい飛び出す。そして横を通り過ぎる刹那、斬魄刀を逆手にし、峰打ちをしながらそのまま飛び去る。この間、約0.3秒。人間は視覚に入った情報が脳にいくまで、約0.3秒~0.4秒。だから見られても0.4秒以上その場に留まらなければ気づかれない。

 

 

 

 しかし、ドーナシークだけは違う。彼は堕天使、人間とは感覚も反応速度も違う。その為、仮面の男に降り立ったと同時に目線を向けようとするが、すでに男とはすれ違っていた。ドーナシークが感じ取れたのはここまで。しかもその時に自分に攻撃されたことについて、気づいたときには地面にうつ伏せで倒れた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤Side

 

 

 

「な・・なにが・・・」

 

 

 

 兵藤はこの短時間に何が起こったのかわからなかった。夕麻ちゃんが実際にいて、その夕麻ちゃんが人間じゃなく堕天使だということを黒い羽が生えた男から聞き、その男も夕麻ちゃんと同じく自分を殺そうとした。逃げようとしたがその場から離れることも出来ず、光で出来た槍みたいなもので殺されると思ったとき、空からガラスみたいな砕ける音がして上を見上げるが何もなく、目線を戻すと、俺を殺そうとしていた男が地面にうずくまるような形で苦しがっていた。

 

 

 

 パァァァァァァァ

 

 

 

 そのとき、目の前の地面から赤い光が出てきたかと思うと、そこから人が出てきた。その人は光と同じ赤、いや紅い髪の毛で、後姿だけでもわかる抜群のプロポーション、しかも自分と同じ駒王学園の制服、見間違いじゃない。この人はあの時も自分の前に現れた学園の二大お姉さまの一人、リアス・グレモリー先輩だ。

 

 

 

「不穏な気配を感じてみれば、堕天使だったとはね。この私が管理している地で何をしようとしているのか、その不遜極まりない態度を注意しようと思ったのだけど、でもどうして蹲ってるのかしら?」

 

 

 

 その場に現れたグレモリー先輩はこの状況がわからないらしく、目の前の堕天使の男に聞こうとするが、未だに蹲っていたので、聞けそうになかった。

 

 

 

「あら?」

 

 

 

 すると、ようやく自分のことに気づいたのか、振り返って俺をじっと見ているグレモリー先輩。

 

 

 

「へぇ~。君、面白いもの持っているわね」

 

 

 

 そんな一言をつぶやいても何を言っているのかわからない俺は、その美貌と合わせて声をかけることが出来なかった。そうこうしている内に、

 

 

 

「っく・・ううぅ・・」

 

 

 

 うずくまっていた男がようやく立ち上がるまでに回復していた。

 

 

 

「あら、ようやくお目覚めね」

 

 

 

「っく・・その紅い髪・・なるほど、グレモリー家のものか」

 

 

 

「ええ、そうよ。ここは私が管理する土地。ここでの争いは私にケンカを売るようなものよ。早々に立ち去りなさい」

 

 

 

「ふっ・・そうか・・先程の奴は貴様の配下の者だったのか」

 

 

 

「・・・?何を言っているのかしら?」

 

 

 

「まぁいい。ここで揉め事を起こすわけには行かない。今宵はこれで失礼させてもらう」

 

 

 

 そう言うと男は、翼を広げ夜の闇の中へと飛び去ってしまった。

 

 

 

「まったく、厄介なことになったわね」

 

 

 

「あ・・あの・・」

 

 

 

「ん?あぁ君なかなか面白いもの持ってるわね。どう?私の眷属にならない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 颯は兵藤たちのいた場所から日向を捕まえて人通りの少ない河川敷に飛ぶと、日向を放し、再び対峙する。

 

 

 

「こ、このやろーこんなところに連れてきやがって、どういうつもりだ!!」

 

 

 

「どうもこうもありません。街中でやるよりここで戦ったほうが被害も少なくていいでしょう」

 

 

 

「!!・・っへ!いいぜ!そういうことなら、思う存分ぶちのめしてやるぜ!!」

 

 

 

 日向は迷うことなく、颯に突撃していく。日向は大きく振りかぶり横なぎで標識を振り回すが、当たる寸前に目の前で消える。

 

 

 

「なに?何処へ消えた!?」

 

 

 

 日向は周りを見渡すが、前後左右を探しても何処にもいなかった。ただ・・・真上を除けば。

 

 

 

「ぶっ潰せ、五形頭(げげつぶり)」

 

 

 

 解号すると、刀身が柄部分と鎖で繋がれた棘付き鉄球(モーニングスター)状に変化する。そしてそのまま振り上げ・・・

 

 

 

「上ですよ」

 

 

 

 真下にいる日向に声をかけると同時に、五形頭を日向に振り下ろす。

 

 

 

「え?」

 

 

 

 日向は声のした真上に顔を向けるが、その時すでに目と鼻の先に鉄球が迫っていた。

 

 

 

 ドッガァァァァァン

 

 

 

 直撃。

 

 

 

 その場で土埃が舞い、上から見下ろしていた颯も視界がゼロになりその場で動くこともできず、振り下ろした五形頭を手元に戻すとしばらくその場を動かなかった。

 

 

 

 そしてようやく土埃が消えてなくなると、そこには地面が陥没しており、中心には仰向けで気絶して倒れている日向がいた。

 

 

 

「これだけ痛めつければしばらくは大人しくしているでしょう。それにしてもやりますね。咄嗟に標識を目の前に出してダメージを軽減するなんて。身体能力はやはり伊達ではありませんね」

 

 

 

 斬魄刀を元に戻して、日向をそのまま放置し、その場を後にする。

 

 

 

 この時颯は気づかなかった。あの場に残していった兵藤に起こっていたことを。

 

 

 

 

 

 ~翌日・駒王学園~

 

 

 

 颯はいつも通り、日課である一人での読書で時間をつぶしていた。そして教室にもちらほらと人が集まってきた頃、外のほうで悲鳴と驚きの声が上がっていた。

 

 

 

 颯はふと本から視線を外に向けると、そこにはリアス・グレモリーと兵藤が隣同士で歩いていた。なるほど、学園のお姉さまと学園の嫌われ者が一緒にいればそれは阿鼻叫喚も起きるだろうと思っていたが、それと同時に兵藤が悪魔になっていた。

 

 

 

 ゴンッ

 

 

 

 教室中に何かを打ち付けたような音が響き渡った。

 

 

 

 教室内にいた生徒たちが音のしたほうに目を向けると、机に突っ伏している颯がいた。

 

 

 

「颯君!?」

 

 

 

「どうしたの!?」

 

 

 

「いや、何でもないですよ・・何でも」

 

 

 

 近くにいた女子生徒が驚きのあまり声をかけるが、颯はそれをやんわりと答えた。その間颯は思考を巡らせていた。

 

 

 

「(なぜ彼が悪魔になっている?あの後何があった?リアス・グレモリーがあの場に現れたのか?じゃあなぜ?無理矢理?いや、表情を見る限りそんな風には見えない。洗脳?いや、体内の気に揺らぎはない。ならば懐柔?その線が高い。まぁ合意の上では仕方ないが・・・はぁ、なんともまぁ簡単に人を辞められるものですね)」

 

 

 

 内心ため息をつく颯。朝早くから気疲れをしてしまったが、後日更にトラブルに巻き込まれるとは予想してなかった。

 

 

 

 ちなみに、日向は昨夜全身打撲で見つかり病院にて緊急入院した。なのでその日からしばらくは登校することはなかった。このニュースは生徒の間で広まり、密かに喜ぶ生徒が多くいたらしい。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話

 

 ~放課後・駒王学園~

 

 

 

 兵藤Side

 

 

 

『放課後、私の使いを出すから』

 

 

 

 その言葉を聞いた俺は、授業が終わっても教室に残っていた。いつもなら松田・元浜と一緒に遊びに行くのだが、今朝の一件で二人とも呪詛めいた視線を向けながら足早に帰ってしまった。教室に残っている生徒も、こちらを見ながら小声で話し込んでいる。こちらもどうやら同じ理由みたいだ。ただ一人、この話に参加してない人物がいた。グレモリー先輩の使いが来るまでその人物と話そうと思い、近づいていく。

 

 

 

「よぉ、東雲」

 

 

 

「どうしたんです?兵藤君」

 

 

 

「いや、なんか落ち着かなくて、少し話がしたいんだ」

 

 

 

「落ち着かない?・・・あぁ今朝の件ですね」

 

 

 

「そうなんだ。あれのせいで朝から質問攻めで、休み時間になるたびにクラス中から、教室を出れば他のクラスから、1年から3年まで男女問わず選り取り見取りだったぜ」

 

 

 

「まぁ、学園のお姉さまとまったく逆の意味での人気者の兵藤君とじゃみんな驚きますよ」

 

 

 

「うぅ・・否定できない。・・・東雲は何も聞かないのか?」

 

 

 

「誰が誰と一緒にいようがそれはその人たちの自由です。それに口を出すほど野暮なことはしませんよ。周りが何を言おうが関係なくいれば良いんですよ」

 

 

 

「・・・前々から思ってたけど、お前、いいやつだな」

 

 

 

「私はいい人ではないですよ。昔も今も・・そしてこれからも」

 

 

 

「??・・・それってどう言う『『『キャーーー』』』っと、なんだ?」

 

 

 

 東雲の言葉の意味を聞こうとしたが、廊下から黄色い歓声が起こった。廊下のほうに目を向けると、そこには学園一のイケメン王子である木場祐斗がいた。

 

 

 

「えっと、兵藤君だね?リアス・グレモリー先輩の使いで来たんだけど」

 

 

 

「・・・OK、でどうしたらいい?」

 

 

 

「僕についてきてほしいんだ」

 

 

 

 イヤー!

 

 

 

「そんな!木場君があんな奴と一緒にいるなんて!」

 

「見たくない!見たくないわー!」

 

「・・・木場君は是非とも東雲君を誘えばいいと思う(ボソッ)」

 

「「「それだ!!これで勝つる!!!」」」

 

 

 

 などとわけのわからないことを言われている。

 

 

 

「あー、分かった。じゃあな東雲、また明日」

 

 

 

「えぇ、兵藤君また明日」

 

 

 

 

 

 

 

 木場の後について歩いていくと、向かった先には校舎の裏手にある旧校舎だ。現在使用されていなく、人気がなく不気味で学園の七不思議がある場所だ。旧校舎の中に入っていくと二階に上がっていき、とある教室の前に着く。

 

 

 

『オカルト研究部』

 

 

 

「オカルト研究部!?」

 

 

 

「そうだよ、ここに部長がいるんだ」

 

 

 

 そう言い部屋に入っていく木場についていくと、部屋の中の壁、床、天井には見たことないような文字が所狭しと書かれていた。そしてそのまま部屋を見回してると目の前のソファーに女の子が一人座っていた。俺でも知っている!一年生の塔城小猫ちゃんだ!一部の男子に人気があって、学園のマスコット的な存在の子だ。

 

 

 

 シャー。

 

 

 

 部屋の奥から水の流れるような音がきこえた。

 

 

 

「部長、これを」

 

 

 

「ありがとう、朱乃」

 

 

 

 そこにはカーテン越しではあるが、女性の肢体が光の加減によって映りだしている。そしてその声は何度も聞いているリアス・グレモリー先輩の声だ。だとするとその肢体は先輩の!?俺はその光景を脳内に保存した。これでしばらくは不自由しなさそうです。

 

 

 

「・・・いやらしい顔」

 

 

 

 いやらしい顔してましたかごめんなさい。だっておれだって男だもん!

 

 

 

「ごめんなさい。昨夜いっせーの家に泊まったままでシャワーを浴びてなかったから」

 

 

 

 カーテンを開けリアス先輩が出てくると、その後ろから一緒に出てきた人物に俺はまたも驚愕した。そこにいたのは学園の二大お姉さまの一人。リアス先輩と同様男女ともに人気がある姫島朱乃先輩がいた。

 

 

 

 リアス先輩の紅い髪も美しいが、姫島先輩の黒髪ポニーテールも美しく、その佇まいも大和撫子を彷彿とさせるため、これまた人気がある理由の一つだ。

 

 

 

「あらあら。はじめまして、私、姫島朱乃と申します。お見知りおきを」

 

 

 

「は、初めまして!俺、兵藤一誠です!」

 

 

 

「うん、これで全員揃ったわね。兵藤一誠君。いえ、イッセー」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

「わたしたちオカルト研究部はあなたを歓迎するわ・・・悪魔としてね」

 

 

 

「はい!・・・はい!?」

 

 

 

 

 

 ~説明中~

 

 

 

 

 

「・・・えっとつまり、夕麻ちゃんは本当はレイナーレという堕天使で、あの男も堕天使で、俺が狙われた理由が神器っていうのを持っているからだと、そういうことなんですか?」

 

 

 

「そうね。簡単に言うとそういうことになるわ」

 

 

 

 先輩たちは結構細かく説明してくれたのだが、俺の脳内では処理が追い付かず、要点だけをつなぎ合わせた回答だが、どうやら合っていたらしい。

 

 

 

「じゃああの時、夕麻ちゃん・・じゃなかった。レイナーレが俺を殺そうとしたとき助けてくれたのも先輩たちだったんですね!」

 

 

 

 その質問をした時、部屋の中の人たちは全員ポカンとした。

 

 

 

「?いいえイッセー。そのことは私たちも知らないわ。そもそも貴方と会ったのは昨日が二度目だけど、他のみんなからもそんな話は聞いてないわ」

 

 

 

「え?・・・じゃああの時は誰が・・・」

 

 

 

「そういえばあの男。変なことを口走ってたわね。『先程の奴は貴様の配下のものだったのか』って。彼は一体誰のことを言ってたのかしら?」

 

 

 

 疑問を口にするも誰もその疑問に答えられるわけもなく、ただ部屋の時計の秒針だけが、コチッ・・コチッ・・っとリズムよく聞こえるだけだった。

 

 

 

「あら、お茶が冷めてしまいましたね。ちょっと入れなおしてきますわね」

 

 

 

 そう言うと、朱乃さんは部屋の奥にある厨房へと入っていった。

 

 

 

「ふぅ、まぁこの件は保留にしましょう。その人物の正体が何者かわからないけど、こっちでも調べてみるわ。いい人材なら勧誘してみようかしら?」

 

 

 

 考え込むリアス先輩は凛々しく、それだけでも絵になるようだった。

 

 

 

「あぁ、ところでイッセー。何か他に質問はあるかしら?」

 

 

 

「えっと、この部屋で気になったことがあるんですが・・・」

 

 

 

「あら?何か変かしら?」

 

 

 

 いや、先輩。壁とか床にこれでもかっていうほどの訳わかんない文字だか数字だかがあるんですが、まぁそれでも一番気になってるのは、

 

 

 

「あの、壁にかかっている物なんですが、この部屋とは不釣り合いなんですが、あれは?」

 

 

 

 指さす方向に皆視線を向けると、その先には壁にかかった狐の仮面があった。

 

 

 

「あぁ、あれは朱乃の私物よ」

 

 

 

「え?朱乃先輩の?」

 

 

 

「えぇ、あれは朱乃がいつも持ち歩いていてね、部室に来たときはいつもあの場所に掛けてあるのよ」

 

 

 

「へぇ~そうなんですか」

 

 

 

「そして、朱乃の初恋の相手のものなのよ」

 

 

 

「・・・・・・えぇ!?」

 

 

 

 先輩の言葉に一瞬何を言っているのかわからなかったが、その意味を知った時に絶望感を感じた。

 

 

 

「あ・・朱乃・・さん・・の・・・初・・恋・・」

 

 

 

「えぇそうよ。あの仮面は朱乃が幼いころの出来事で会った子が持っていたもので、あぁやって持ち歩いていることでまたその子に会えるんじゃないかと思っているのよ」

 

 

 

「だ、誰なんですか!そんなうらやまけしからん相手はぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「それがね、わからないのよ」

 

 

 

「??わからない?」

 

 

 

「えぇ、その子は名前も名乗らずに姿を消して、仮面も後から拾ったものだから顔もわからないのよ」

 

 

 

「・・・その男の子が自分だって名乗ったらどうします?」

 

 

 

「多分あなた、朱乃を怒らせた挙句、消し炭にされるでしょうね」

 

 

 

「そこまで重罪なことなんですか!?」

 

 

 

「その子の特徴を知っているのは朱乃だけだから一発で嘘だとわかるだろうし、あの子の思い出はあの子だけのもの。誰にもそれを否定することはできないし、心境が変わることはないものよ」

 

 

 

 それを聞いたとき、俺は会ったこともない朱乃先輩の初恋相手にそれほど想われていることにうらやましいと思ったのが半分。あとの半分は恨みともとれるような呪詛を浴びせた。

 

 

 

「さて、今日はここまでにしましょう。明日からイッセーには悪魔としての仕事をしてもらうからそのつもりでね。それと私のことは部長と呼ぶように。いいわね?」

 

 

 

 考え事をしていると、リアス先輩から明日のことについての説明を受けていたことに気づく。

 

 

 

「わかりました部長。明日から『悪魔』を教えてください!」

 

 

 

「フフフ、いい返事ね。やる気がある子は好きよ」

 

 

 

 その“好き”という言葉だけで俺の頭の中は蕩けた。よっしゃー!やってやるぜ!悪魔を。そして悪魔の説明を受けた時に聞いた!悪魔は複数の女性を自分の『眷属』にする事ができることを。その為には悪魔の階級、爵位を得なければならないが・・・。つまり自分の眷属は女性だけにすることができる!要はハーレムだ!男の夢!今ここに見たり!!

 

 

 

 こうして俺は、オカルト研究部の末席に名を連ねることになった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話

 

 悪魔稼業を始めて数日、今では仕事は順調だ。深夜にもかかわらず汗を流しながら俺は今日も仕事に励む。・・・・チャリでチラシ配りを。

 

 悪魔になってから昼間は体がだるくなっていたけど、日が沈んでからは力が倍増した状態になる。夜になったら調子が良かったのは悪魔の力によるものだったのか。

 

 そんな悪魔の下積み時代、部長や朱乃さんなど他の部員たちは自分の使い魔たちにさせているため、悪魔になりたての俺は一人で指定されている場所へのチラシ配りをしている。

 

 早く使い魔が欲しい!でもその為には悪魔の仕事も覚えないといけない。そもそもまだチラシ配りしかしていない。悪魔としての仕事をしないと階級も上がらない。自分の眷属も持てない。俺だけのハーレムも作れない!・・・何時になったら悪魔の仕事ができるんだろう?でも今は・・・

 

「うおおおおおお!!諦めるかあああああ!!」

 

 街中でチャリを爆走させながら、叫び声をあげる。

 

 

 

 

 ~数日後~

 

 部室に入るといつも通りチラシ配りに行く準備をしていると、部長に呼び止められる。

 

「待ちなさいイッセー。もう行かなくてもいいわよ」

 

「え?・・・ってことは」

 

「えぇ、今日から本格的に貴方にも悪魔としての仕事をせてもらうわ」

 

「おお!俺もついに契約が取れるわけですね!!」

 

「と言っても、初めてだから契約内容が比較的に低いものを選んだから、貴方でも大丈夫なはずよ」

 

 よっしゃぁぁぁぁぁ!ついに、ついにこの時がきたぁぁぁぁ!やっと悪魔の仕事ができる!ここから俺のハーレムへの道が開けたぁぁぁ!

 

 その後俺の手のひらに魔法陣を書かれた。これは依頼者の場所へ瞬間移動するためのもので、帰る時にもこれを使用するんだそうだ。これで俺もチャリでの移動も終わることができる。ありがとうチャリ。こんにちは魔法陣。もう使うことがないと思うと閑雅深いものがある。

 

「イッセー君。こちらに来て魔法陣の上に立ってください」

 

 朱乃さんに呼ばれ、魔法陣の中心に立つ。

 

「あの、これは?」

 

「この魔法陣で依頼者のところへ直接飛ぶのよ。じゃあ、行ってらっしゃい!」

 

「はい部長!行ってきます!」

 

 魔法陣が強く光りだす。あまりの強さに目をつむってしまうが、それがすんだら目の前には依頼者が目の前にいる!さぁ行くぞ!

 

 パァァァァァァァ!!

 

 

 

 

 

 ・・・・・・。

 

 光が弱くなり、目を開けると。

 

 目の前には部長がいた。

 

 あれ?瞬間移動は?なんで?しかも部長は困りが押してるし、ほかのメンバーも同じ顔してるし、なんで?

 

「イッセー。言いにくいことだけど、あなた、魔力があまりに無いもんだから、魔法陣が反応しないようね。そんなわけで直接依頼者のところへ行ってちょうだい」

 

「直接というと・・・もしかして・・・」

 

「えぇ、足で行ってちょうだい」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺は絶望した。やっと、やっと悪魔らしい移動ができると思っていたのに、またチャリでの移動に逆戻り!夜中の街を涙を流しながら大急ぎで依頼者のもとへペダルを漕ぐ!こうなったら依頼者の希望を叶えて魔力が少ないのをカバーするしかない!目指せ!俺のハーレム!早く爵位を上げるんだぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」(ダラダラ)

 

「イッセー。これはどういうことかしら?」

 

 今俺は目の前の部長の前にいて、口調からすごくあきれられている。そんな部長からの質問に答えられず、汗をかいていた。

 

 

「依頼者との契約は取れないけど喜ばれるって、前代未聞よ。反応に困ってしまうわ。でも、あなたの意外性は面白いわね。次からはちゃんと契約を取りなさい。いいわね?」

 

「は、はい部長!次こそ必ず取ります!」

 

 

 

 

 ~二日後・夕方~

 

「はぁ~~~~」

 

 部活が終わり、一旦家に帰る途中、俺は今ため息しか出ない。

 

 昨日の依頼者のところへ行ったら、筋骨隆々のゴスロリの男が、いや“漢”が訪れた玄関に仁王立ちで出迎えていてくれた。

 

 そのまま玄関の扉を閉めようかと思ったが、ここで帰ったら部長の期待に応えられないと思ったから意を決して部屋に入る。その人の名前は“ミルたん”。

 

 ミルたんの依頼は魔法少女にしてほしいとのこと。いやいやいや、漢なのに少女って!?俺は即決で異世界へ行ってくださいと答えたが、すでに試したみたいで却下された。その後もなかなかいい案が出ず、最終的にはミルたんと一緒に魔法少女アニメを見せられた。

 

 結局、契約自体はもちろん破談となったが、依頼者のアンケートでは好評だったため、部長も怒っていいのか褒めればいいのかわからない表情だった。

 

「あぁ~、早く契約がとりたい」

 

 落ち込みながら独り言をつぶやいていた時、

 

「はわう!」

 

 後ろのほうから驚いたような声が聞こえ、振り返るとそこにはシスターが転んでいた。

 

「あぅ~、なんで転んでしまうんでしょう」

 

「大丈夫ですか?」

 

 あまりにも不便だったので俺はそのシスターに近づき声をかける。そしてそのシスターと顔を除くと―――――

 

 

 一瞬で心を奪われた。

 

 

 目の前にいるのは金髪の美少女でその瞳は緑色でついつい見入ってしまった。

 

「あ、あの~?」

 

「あ、あぁゴメン。だ、大丈夫?」

 

「はい、大丈夫です。私よく何もないところで転んでしまって」

 

「そ、そうなんだ。えっと・・旅行か何か?」

 

「いえ、旅行じゃなくて、この町の教会へ赴任になったのでそこへ向かう途中だったんです」

 

「あ、そうなんだ。よかったらそこまで送ろうか?」

 

「わぁ!ありがとうございます!あ、すいません、申し遅れましたが、私アーシア・アルジェントと言います!」

 

「俺は兵藤一誠。イッセーと呼んでいいよ」

 

「はい!では私のこともアーシアと呼んでください!」

 

 聞くところによると、自分の生まれた土地から外に出るのは初めてのことで、しかも地図を持っていなかったから、相当に困っていたらしい。しかも自分の言葉が英語だったため、話しかけても皆よけて通り過ぎて行ってしまったという。ではなぜ俺は言葉が通じたかというと、先日部長が悪魔の説明をしたときに、自分の言葉は万国共通になったらしく、自分の話す言葉は相手の最も聞きやすい言葉となり、相手の言葉は自分の親しんだ言葉になるみたいだ。

 

 そしてお互いの話を聞きながら歩いていくと、途中の公園で膝をすりむいて泣いている男の子がいた。シスターはその光景を見るとすぐさま駆け寄り、傷口に手を当てるとそこから緑色の光があふれだした。その光景を見た俺は、驚くと同時にこの子も神器を持っていると推測した。その後再び教会へ向かう途中、自分も神器を持っていると話すと、さらに会話は弾んでいった。その途中、

 

「おや、兵藤君。こんなところで何をしているんですか?」

 

 道の先には、ちょうどコンビニから出てきた同じクラスの東雲が出てきた。

 

「よお、東雲。今このシスターの子の道案内をしているところなんだ」

 

 そう言って、隣のシスターを紹介する。

 

「えっと、この方は?」

 

「あぁ、こいつは同じ学校のクラスメイトなんだ」

 

「・・・兵藤君、君はいつからそんなに外国語が淡々としゃべれるようになったんですか?」

 

「え?・・あ!」

 

 俺とアーシアとの会話は周りから見れば、外国語でしゃべっているように見えるので、クラスメイトからしてみれば違和感しか浮かばないのも当然のことである。

 

「そ、そりゃあ俺だって駒王に入ったわけだし、これくらいはできるさ」

 

「へぇ~、1年の時の成績は悲惨なものだったのに、何があなたをそうさせたんですかね?」

 

「う、うるせぇ!」

 

「ところで・・・」

 

 颯は兵藤から隣の少女へと視線を向ける。

 

「ふむ、Nice to meet you, a sister. I say Shinonome Hayte. Are the greetings in English all right?」(初めまして、シスター。私は東雲颯と言います。英語での挨拶は大丈夫ですか?)

 

「Yes, it is all right. Nice to meet you, I am Arsia Argento.」(はい、大丈夫です。初めまして。私はアーシア・アルジェントと言います)

 

「おい、東雲!お前だって英語結構しゃべれるじゃねぇか!?」

 

「簡単な語学でしたら授業で教わりますし、後はそれを合わせたら文にできますし、発音に関しては、要練習ですから」

 

「ぐぬぬ、成績に関しては負けるから何も言えねぇ」

 

「さて、Sister Arsia welcome to Japan. By the way, was it not done what it was by this man?」(シスター・アーシア、ようこそ日本へ。ところで、この男に何かされませんでしたか?)

 

「おーい!!それどういう意味だよ!!」

 

「おや、よく英語が聞き取れましたね?」

 

「いや、それより何俺が変なことする前提で話しかけるんだよ!」

 

「学園の日頃の行いを今ここで暴露してもいいんですよ?」

 

「スマンオレガワルカッタダカラコノバデイウノハヤメテクレ」

 

「わかればよろしい」

 

「Isse is a very good person. Because I was nice to me who understood nothing so much.」(イッセーさんはとてもいい人です。何もわからなかった私にこんなに親切にしてくれたのですから)

 

「ふ~ん、親切、ね」

 

 アーシアの兵藤に対する評価が高めだったため、横目で兵藤を見る。

 

「な、なんだよ」

 

「下心アリで近づいたのかと」

 

「うぐ・・・あ・・いや・・その・・」

 

「否定しないと」

 

「あ・・でも、道案内というのは間違っちゃいねぇからな!困ってたし、普通声をかけるだろう!」

 

「・・・まぁ、気持ちは分からなくもないですがね。では、A good-bye sister. If there is chance, let's see again」(さようならシスター。縁があればまた逢いましょう。)

 

 そういうと、颯は手を振りながら去っていった。

 

「えっと、いい人そうですね」

 

「まぁ、実際いいやつだよ。学校では常にだれかの手伝いをしてるし、教師より教師らしいことしてるんじゃないかと思えてくるから」

 

「また時間があったら、あの人ともお話してみたいです」

 

「そうだな。また機会があったら改めて紹介するよ」

 

 

 

 しばらく会話をしていくと、古くなっている教会が見えてきた。その瞬間体中から冷や汗があふれ出してきた。そりゃ俺悪魔になったんだもの、神様関係はダメだもん。早くこの場から離れたかった。そして分かれる間際、

 

 

 

 

「二度と教会に近づいちゃダメよ」

 

 その日の夜。何時も通りに夜の悪魔活動のため部室に行くと、部長に咎められた。どうやら俺の行動は部長に筒抜けになっているらしい。それによると、悪魔と教会はもちろん敵対関係であるため、教会近くにいたら問答無用で俺を始末したらしい。そうならなかったのは、アーシアを送ってくれた俺の行為が善意であったため、相手もこちらに対して気を使ったんだということを知った。そうでなければ、俺は相手から攻撃され、無に帰したらしい。無と言われてピンとこなかったが、その後の説明で、体ごとチリと化し、消滅したらしい。

 

 ・・・こぇぇぇぇ~~~~。

 

「あらあら、お説教はすみましたか?」

 

 俺の後ろから声が聞こえると、そこには朱乃さんがいた。

 

「朱乃、どうしたの?」

 

「大公から討伐依頼がきました」

 

 その報告を聞いた瞬間、部室にいたメンバーは真剣な表情になる。

 

「討伐依頼?」

 

「そうね、イッセーは初めてね。ちょうどいいわ。一緒についてきなさい」

 

 部長から声をかけられ、出かける用意をするように言われ、訳もわからぬまま準備を始めた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話

 

 颯は自宅に着いて郵便受けを確認すると、そこには差出人不明の封筒が一通入っていた。颯は手に取り確認するが、危険物が入っているのでもなく、魔力探知にも引っかからなかったので中身を確認しようと封筒を開ける。そこには、なぜかはぐれ悪魔の潜伏先の場所と名前などの情報と討伐の成功の報奨金と討伐後の連絡先が記載されていた。

 

「(この場所は裏の顔をしっている人には隠している場所。学園と市役所には通達しているが、それでも差出人不明は今までない。なら裏の顔を知っていて自分の正体を知っている人。でもそんなに多くはいない。昔のギルドにも知らせていないから、こんなことが出来るのは)・・・サーゼクスさん達か」

 

 この場所が知っている関係者の中で、一番可能性が高い候補者を口にする。

 

「別にこんな手の込んだことしなくても、直接声をかければいいのに」

 

 颯は犯人がわかり、ため息交じりの感想を口にするが、すぐに準備し、いつもの死装束に魔力で換装し、ローブを羽織り、猿の仮面を着け、手紙に書かれている場所へと跳び出す。この時颯は気づかなかった。手紙の主が出した意図に、なぜこんな方法で依頼を出したかなんて颯は現場で知ることになる。

 

 

 

 

 廃墟となったビル、目的の対象はこの中にいた。

 

「ここにいるはぐれ悪魔さん、出てきてください」

 

 まるで対話するかのように声をかけ、ビル内に木霊する。しかし返答はなく、自分以外周りにはいない。・・・だが、

 

「・・・上、ですか」

 

 魔力察知により、対象が上にいると判断した颯は、普通の足取りで階段を昇る。そして、ある程度上がると、奥にいる暗闇からうごめくものが見えた。

 

 ケタケタケタケタケタケタ・・・

 

 不気味な声がすると同時に、重そうな足取りで近づく者がいた。

 

「臭いがするぞ、獲物の臭いが。美味いのか?不味いのか?」

 

 暗闇から姿を現したのは上半身が裸の女性。その光景を見れば健全な男子は絶叫ものだが、その後ろから現れたのは、女性の下半身で、そこには巨大な獣の体があった。さらにその獣の体の両手には槍のような獲物が一本ずつ所持していた。

 

「はぐれ悪魔、バイザーですね?依頼により貴女を討伐させていただきます」

 

「ケケケ、非力な人間が。お前たちはただ私に食われるだけの存在なのだぁ、ケケケケケ」

 

「一つ聞きます。あなたは今までに何人の人間を喰らいましたか?」

 

「フン、そんなこといちいち覚えていないわ!!」

 

「そうですか・・・」

 

 バイザーの答えに、颯は目を閉じ、黙祷をする。そして再度目を開けると、左手の人差し指をバイザーに向ける。

 

「あぁ?何だそれは?そんなもんで私を・・・」

 

「破道の四・白雷(びゃくらい)」

 

 バイザーの問いに答えることなく、颯は指先から一筋の雷をバイザーへと放つ。

 

「あぁ?」

 

 バイザーは自分に何かが当たった衝撃に違和感を覚えた。喰おうとした相手から放たれた光。その直後に何かが当たった感触。何かと思い目線を下に向けると、自分の胸に、正確には自分の心臓部分に空いた穴。そこからは肉の焼け焦げた匂いがし、そこから血が止め処なく出ていた。

 

「あ・・あ・・」

 

 バイザーは信じられない光景で焦りだした。そしてこの事態を起こした人間に目を向けようとしたが、下に向けていた目線にその人間が移りこんだ。先程まで丸腰だったが、日本刀を手に居合いの型をとっていた。そしてそのまま刀を抜き、バイザー目掛けて真上に振りぬく。

 

 直後、バイザーは真ん中から見事に半分に切られた。バランスを失いそのまま左右に体が割れながら倒れていった。バイザーが最後に見た景色は一瞬ではあるが、左右が分かれた世界だった。

 

 

 

 颯は斬魄刀についた血を一振りして払い鞘に戻す。そして懐から携帯電話を取り出し、バイザーの死体を撮影、依頼を出した相手に討伐完了の証拠をメールで送る。そして相手からの完了の返信を待っていたが、"先程からこちらを窺っている存在”に声をかける。

 

「そこから覗いている人たち、誰ですか?」

 

 するとそこには、颯が良く知る感じた気配と通っている学園の有名どころの人たちが姿を現した。

 

「あら、私たちのことに気づいていたのね」

 

 学園の二大お姉さまの一人、また颯の護衛対象の一人であるリアス・グレモリー。

 

「ええ、数分ほど前から」

 

「あらあら、では最初から全部気づかれていたのですねぇ」

 

 同じく学園の二大お姉さまの一人の姫島朱乃。

 

「(あの刀は・・・)」

 

 なぜか、自分の斬魄刀にするどい視線を向けている、同学年の木場裕斗。

 

「あの人・・強いです」

 

 こちらの力量を見定めている、学園のマスコット的存在、塔城小猫。

 

「え、え、はぐれ悪魔の討伐だと聞いてきたのに・・・えぇ」

 

 その後ろで、未だにこの状況の空気についていけない、変態三人組の一人で颯のクラスメイトの兵藤一誠。以上の五人が颯の前に現れる。

 

「それで、貴方はなにものなのかしら?」

 

「人にモノを尋ねるときは、まず自分からと教わりませんでしたか?」

 

 リアス・グレモリーの質問に返すこともなく、逆に常識を知らないのかと言うような口調で返した。

 

「うっ・・そうね、ごめんなさい。私はリアス・グレモリー。この地を管理する悪魔よ。後ろにいるのは私の下僕たち。さぁ、私は名乗ったわ。それで、貴方は何者?」

 

「私は“名無し”フリーのはぐれ狩りです。今日は依頼により、はぐれ悪魔バイザーを討伐しにこちらに赴きました」

 

「あら、貴方もなの?私たちも大公の依頼で討伐に来たのだけれど」

 

「では、どこかで別の依頼人が同じような依頼をしたようですね。ですがもう私が依頼をこなしてしまったので、申し訳ありませんが、お引取りください」

 

 この業界では良くある事で、違う地に行くと同じような依頼が複数出されているケースがある。そして知らずに同じ依頼を受けてしまった場合、より早く討伐した組が褒賞をもらえることになっている。後から来た組は悔しながらも、あきらめなければならない鉄則だった。

 

「そうはいかないわ」

 

「?」

 

「私の管理する地で貴方の様な優秀な人材を放っておいて、みすみす黙って帰るなんてわけには行かないわ。どうかしら、私の眷属にならない?」

 

 そう言うと、ポケットからチェスの駒《騎士(ナイト)》を出して、颯を勧誘した。

 

「これは、『悪魔の駒(イービル・ピース)』と呼ばれるもので、他種族から悪魔に転生することが出来るものなの。どう、転生してみない?」

 

「お断りします。私の人生は私のもの。他人がどうこうできるようなものではありませんので」

 

「あら、悪魔になればいろいろ良い事ずくめよ?」

 

「例えば?」

 

「まず、寿命が延びるわ」

 

「ただ生きているだけの人生に意味はありません」

 

「う・・か、階級が上がり上級になれば自分の好きなことが出来るわ!」

 

「今のこの生活以上に満足なんてものはありません」

 

「・・・・ここにいる新しく眷属になった子はハーレムを作ることを願っているわ!だから貴方も・・・」

 

「そんな不順な理由で悪魔になんかなりたくありません」

 

「ぐはぁぁぁぁぁ!!」

 

 フードを被った仮面の人物(颯)とリアス・グレモリーとのやり取りで、予想だにしてなかった自分を例に挙げられるが、自分の目標を一蹴されるとは思っていなかった兵藤は、心に深いダメージを負った。

 

「え――っと、え――っと・・・」

 

「これ以上ないようでしたら、私は帰りますので失礼します」

 

「ま、待ちなさい!!」

 

 帰ろうとする颯に、リアス・グレモリーは待ったをかける。

 

「こうなったら仕方ないわ、力ずくでも貴方を眷属にするわ!祐斗!」

 

「はい、部長」

 

 木場祐斗は返事をすると、前へ出る。そしてさっきまで手ぶらだった彼は、腰に鞘に入った西洋剣を携えていた。

 

「すいません、主(あるじ)の命令なので」

 

「いや、さすが悪魔らしい強欲な考え方だなぁと思いまして」

 

「あはは・・・ところで、その持っている刀、それは聖剣ですか?」

 

 何気ない質問をしているが、その言葉には若干の怒気、殺気が込められていた。

 

「以前にも別の地で同じようなことを聞かれました。これは聖剣でも魔剣でもありません」

 

 斬魄刀を抜き、刀身を見せるように腕を伸ばす。木場は少し目線を鋭くして見ていたが、やがて、目を温和にさせた。

 

「すいません。ちょっと事情がありまして、確認しました」

 

 木場は頭を下げて、その後抜刀の構えと飛び出すために腰を低くする。

 

 

 兵藤Side

 

「ちょうどいいわ。イッセー、これから貴方に駒の特性について説明するわ」

 

「駒の・・特性?」

 

「悪魔に転生した際、駒の能力がその者に与えられるの。例えば、祐斗に与えた駒は《騎士(ナイト)》。その特性はスピード、そして最大の武器は剣!」

 

 その直後に木場は消える。

 

「消えた!?」

 

「速すぎて見えないの。そのおかげで彼は眷属一の最速の剣士よ!」

 

 

 颯Side

 

 木場が消える。いや消えたように見えるほど速い。普通なら慌てている間に斬られて即終了。だけど・・・

 

「(あのときの人物と同じ動き、だけど)遅い・・」

 

 ギャリィィィィィィン

 

 自身の右側から居合い切りをしてくる木場に、右手に持った斬魄刀を逆手に持ち、振りぬくと同時に刃同士をぶつける。

 

「「なっ!!??」」

 

 正面にいるリアス・グレモリーと兵藤は間の抜けた声を出し、自分の近くにいる木場と奥にいる姫島と塔城は目を見開き驚愕し、動きを止めた。

 

「戦場では、動きや思考を止めることは厳禁ですよ」

 

 颯はそういうと、左手の人差し指を木場に向ける。

 

「(サーゼクスさん、あの時の条件を執行させてもらいます)」

 

 

 

 

 

 

 ~二年前・ホテル内最上階一室~

 

「承知しました。その前にいくつか条件があるのですが」

 

「条件?」

 

「はい、それは、私にある程度の行為を認めてほしいのです」

 

 そう言うと、颯は懐からペンと羊皮紙を取り出し、時間を掛けて何かを書くと、依頼人の座っているテーブルに近づき羊皮紙を置く、そして元いた位置に戻る。

 

「それは?」

 

「この紙には護衛の依頼の際、いくつかのお願いが書いてあります。これを認めてもらいたいのです」

 

 サーゼクスは羊皮紙を手にとり、内容を確認する。

 

 一、護衛と共に、他の依頼の受付の許可。

 

 一、他の依頼を受けた際、別の地に行く場合、護衛の任務を一時放棄する。

 

 一、 同じ場所で護衛対象者と一般市民が危険な状態に陥った場合、一般市民を優先的に守らせることを認める。

 

 一、 護衛対象者が自分に対して、敵対行動、もしくは力ずくで自分を配下にしようとした場合、武力による反抗を認める。(ただし、依頼を破棄するつもりはない)

 

 一、自分たちの勢力に組み込むような行いは決してしない。

 

 一、 自分は、中立の立場。もし、護衛対象者を亡き者にしたい相手がいた場合、基本的には受け付けない。しかし、護衛対象者側に過失があった場合、独自の判断で決めさせてもらう。

 

「・・・以上です」

 

 読み終えたサーゼクスは、書かれていた内容に苦悶の表情を浮かべる。これはつまり、『護衛はするけど、一般人優先、相手が悪人なら場合によっては殺します』と言っているようなものだったからだ。だが、自分の妹とセラフォルーの妹に対して、なんら過失も問題もないと判断し、書かれていた内容に許可を出した。

 

「よかろう。そちらの条件を飲もう」

 

 

 

 

 

 ~現在・廃墟ビル~

 

 契約時に交わした約定の時を思い出し、そのときに書かれていた『力ずくの場合、武力による応戦』を執行する。木場に向けた人差し指に魔力を集中。からの、

 

「破道の一・衝(しょう)」パァン

 

 指先から衝撃を放つ。威力は弱いが、呆然としていたことと相まって、軽々と弾き飛ばされる。このとき、通常であれば悪魔の体なのだからすぐに体制を整えようと思えば出来たのだが、衝撃は顔より下、顎辺りに当てたため、軽い脳震盪になり動くことも出来ず、そのままフロアの壁際に積まれていた廃材まで飛される。

 

 ガシャァァァン

 

「木場ぁぁぁ!!」

 

「小猫!!」

 

 兵藤は吹き飛ばされた木場に叫ぶが、リアス・グレモリーは間髪いれず、塔城に指示を出す。

 

「(ふむ、状況をとっさに判断し、瞬時に対応しますか・・主人としては及第点ですね)」

 

 塔城は指示されると同時に飛び出す。ただし、木場のようなスピードはなく、真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。颯は、指をそのまま向け、

 

「破道の一・衝(しょう)」パァン

 

 先程と同じ攻撃を繰り出す。塔城は腕をクロスして衝撃に備えた。だが、体が小さい為か、その姿勢のまま飛ばされる。

 

「あぁ、小猫ちゃん!!」

 

「大丈夫よ」

 

「え?」

 

 兵藤は叫ぶが、リアス・グレモリーは落ち着いていた。よく見ると、塔城の制服は少し破れてはいるものの、二、三メートルしか飛ばされておらず、着地と同時に再び駆け出す。

 

「おぉ!小猫ちゃん、すげー!!」

 

「小猫に与えた駒は《戦車(ルーク)》。祐斗みたいなスピードはないけど、その特性は高い防御力、そして・・」

 

 塔城は颯に迫ると、拳や蹴りを放つ。颯はバックステップでそれらを回避するが、フロアの中心で、支柱に追い込まれる。その隙を見逃さず、塔城は跳び上がり、

 

「やぁ・・」

 

 颯の顔面に正拳突きを放つ。颯は体を横にスライドさせ、距離をとる。そして目標を失った拳は、そのまま柱に直撃し、

 

 ドゴォォォォォン

 

 柱を粉砕する。

 

「圧倒的な攻撃力よ」

 

「ええぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 あまりの出来事に兵藤は絶叫する。

 

 その間も、塔城の攻撃はやむことがなく、さらに攻撃の手数を増やしながら、相手を追い込む。そして再び柱に追い込み跳び上がる。今度は横に逃げられないように、右のハイキックを繰り出す。

 

「えい・・」

 

 それに対し颯は、左腕を出しガードの姿勢をとる。

 

「そんな腕で小猫の攻撃は防げないわ!」

 

 確かに柱をも砕くのなら、人間の腕の一本や二本でガードしても無意味であろうが、

 

「縛道の八・斥(せき)」

 

 左手の甲に魔力で六角形に出来た楯を出現させ、敵の攻撃を防御する。その直後、盾は弾け、その衝撃で塔城は飛ばされ、そのまま木場とは反対方向の廃材置き場に飛ばされる。

 

 ゴガァァァァン

 

「小猫!!」

 

「テメェ、よくも二人を!!」

 

 これにはリアス・グレモリーも驚いた。自分の眷属の中でも、もっとも戦闘経験を持つ二人を難なく退けたのだから、叫ばずにはいられなかった。兵藤は仲間が二人やられたのに対し怒りをあらわにし、仮面の男(颯)をにらみつける。

 

「・・・・・・・・・」

 

 颯は兵藤に対し仮面越しから目を向ける。

 

「な、なんだよ」

 

 じ~っとみられていた兵藤は、不快感をあらわにする。

 

「・・・君は馬鹿なのですか?」

 

「な!?いきなりなんだよ!」

 

 突然の罵倒に声を荒げる兵藤。

 

「ふむ、では少年、君に聞きますが・・・」

 

 颯は名前ではなく、少年呼びで問いかけた。

 

「君は、人から斬りつけられたり、殴られようとされたら、ぼ~っと突っ立っているだけなんですか?」

 

「え・・・イヤ・・それはないけど」

 

「そうですよね、イヤですよね?何も好き好んで血を出したり傷を作るのはイヤですよね?ですが私はそういう目に遭わされました。自分は相手の暴行により怪我を負うところでした。怪我をしたくない為、やむなく防戦しました。これは一種の正当防衛ですよ?それに、力押しをするということは、自分達もやられる覚悟があってのこと。それなのに少年、君は自分の仲間がやられたのは全面的に私が悪いように言いますが、悪いのは私ですか?私を傷つけるのはいいけど、自分の仲間を傷つけられるのは許さないと、そう言うのですか?」

 

「う・・・それは・・・」

 

 淡々と説明する相手に兵藤は相手の言い分が間違っていないために、うまく返しが出来なかった。だが、その隣にいる人物にその言い分は通らなかった。

 

「例えそうであっても、私の下僕を傷つけたことに変わりはないわ!朱乃!」

 

「え?でも・・」

 

 姫島も相手の言い分が正しいので戸惑っているようだが、

 

「いいから!!」

 

「は、はい、部長!」

 

 怒りのため、物事の判断がつかず、ただ相手を倒すという事だけを頭に姫島に声を荒げて命令する。

 

「イッセー!朱乃に使った駒は《女王(クイーン)》その特性は、他の駒《騎士(ナイト)》《戦車(ルーク)》《僧侶(ビショップ)》《

 兵士(ポーン)》の全ての力を兼ね備えた無敵の副部長よ!それと私には駒は使われてないけど、私の魔法は消滅の力!その名の通りあらゆるものを消し飛ばす力よ!」

 

 リアス・グレモリーは声を荒げながらも駒の説明と自分の力についての説明を欠かさず行う。その間、自身の魔力を練り上げ、正面に魔方陣を形成する。姫島は両手を突き出し、そこからバリバリと雷を作り出す。

 

 これを見た颯は、内心ため息を吐くと共に、左手を突き出し掌を向ける。

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ。真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ」

 

 相手が強力な攻撃をしてくると察知した颯も迎撃するために詠唱を始める。

 

「消し飛びなさい!!」

「雷(いかずち)よ!」

 

 二人の放った攻撃はお互いを打ち消すことなく、真っ直ぐ颯に向かう。

 

「破道の三十三・蒼火墜(そうかつい)」

 

 それに対し、颯は蒼い爆炎を放つ。お互いの攻撃はぶつかり合うと、衝撃と爆風によってフロアの埃などが舞い上がり、さらには強い光が相まって視界を完全になくしてしまう。

 

 グレモリー・姫島・兵藤はそれらにより顔を背けたり、目を閉じたりして相対している人物を見失う。だがそれは相手も同じこと。次に視界が晴れたときに先制攻撃を行い、相手に隙を与えずに攻め続けていれば良いと考えていた。

 

 やがて風も止み、光も治まりつつあった。リアス・グレモリーはゆっくりと目を開け、周囲を確認しようとするが、目の前には銀色のものが見えるだけであった。

 

「っっ!!」

 

 そしてようやく認識したときは、それが刃の切っ先であることに気づいた。

 

「あっ!!部長!!」

 

「動くな!!」

 

 ようやく兵藤たちもリアス・グレモリーの目の前に刃が突きつけられていたことに気づき、駆け寄ろうとするが、颯の一括で動きを止める。

 

「貴方・・・本当に何者?」

 

「言った筈です。私はフリーのはぐれ狩りだと」

 

 その時、電子音が辺りに響き渡る。自分の携帯がなっていることに気づいた颯は刃を向けながら、懐から携帯を取り出し画面を確認する。そこには依頼完了の文字が映し出されていた。それを確認した颯は刀を納める。

 

「相手からの確認の連絡が来たので、今度こそ失礼します」

 

「ま・・・待ちな・・・」

 

 返事を聞かず、颯は高速移動術『瞬歩』で消えるように逃げ去った。

 

 

 

 兵藤Side

 

 はじめてのはぐれ悪魔討伐という危険な所の見学に行った俺は、なんとも言えない気持ちになった。目的のはぐれ悪魔はすでに殺されていて、その横には刀を携えた男が一人。背格好からして俺と同い年くらいに見えたが、猿の仮面に体を隠すようなフード付のローブを着ていたから詳しいことはわからない。その男ははぐれ狩りだと言った。後で部長に聞いたところ、力のある人間が懸賞金のついた危険生物などを目的にハンティングする人達のことを言うらしい。まぁそれはともかく、どうやら悪魔側と人間側とで依頼がブッキングしてしまったらしい。悪魔の仕事がどんなものなのか見れなくて残念だが、あの死体を見た限りじゃあ遠目で見たって怖いものは怖い。このまま帰れるかと思いきや、部長がその人物を悪魔に勧誘し始めた。確かにあんなでかい悪魔を狩るくらいだから強いとは思うけど、勧誘に俺の目標を言うのは止めてください!しかもそれを一蹴されて俺の心は死にそうです!・・・っと説得したところで、相手は食いつきもせず帰ろうとする。すると部長は無理矢理捕まえようとした。しかもそれを利用して俺にみんなの役割を説明してくれた。だけど木場や小猫ちゃんが普通の人とはまったく歯が立たないような動きや力を使ったにも拘らず、二人を部屋の隅へと弾き飛ばしてしまった。それに激怒した俺は相手をにらみつけるが、逆に言い負かされてしまう。だけど部長は、仲間を傷つけられたのを許すことなく、朱乃さんと一緒に相手に強力な魔法の一撃を食らわせようとする。でも相手もそれに負けじと強力な攻撃をしてきて、ぶつかり合うとまったく周りが見えなくなった。そして次に目に入ったのは、刀を突きつけられている部長の姿だった。俺と朱乃さんは動こうとしたが相手に止められ、何も出来なかった。その時、相手から電子音が聞こえると、相手は携帯を取り出し、何かを確認すると、部長が声を掛けることなく消えてしまった。

 

「リアス、大丈夫ですか?」

 

「えぇ、大丈夫よ朱乃」

 

「部長、あいつは一体・・」

 

「わからないわ、でも彼は危険よ」

 

「危険?」

 

「えぇ。はぐれ悪魔バイザーを倒したのは相手が弱かったか、彼の持っていた武器が神器で、それが強力だったのかと思ったけど、祐斗の動きを見切ったり、小猫の攻撃にも耐えるような魔法の盾、そして私と朱乃の攻撃を打ち消したあの攻撃力、フリーのはぐれ狩りの力じゃ説明できないわ!それに“名無し”なんて名前、聞いたこともない。有名どころで言ったら“死神”ぐらいよ」

 

「“死神”?」

 

「イッセー君、“死神”とはあるはぐれ狩りの代名詞なんですよ。ほんとの名前はわかりませんが、そのはぐれ狩りは、依頼を受けたら必ず成功させ、生き残った悪魔はいないと言わしめたことから、はぐれ狩りの間ではその人物のことを“死神”と呼ぶようになり、はぐれ悪魔の間で恐れられ、“死神が来るぞ”と名前を出しただけで自ら捕まりに来るはぐれ悪魔までいるんですの」

 

「そ、そんな人間がいるんですか!?」

 

「そんな噂があったのよイッセー。それにそんな人物を悪魔側は自らの眷属にしようと探し回った時期もあったわ。でも結局その人物は見つけることが出来なかったそうだけど」

 

「見つからなかった?」

 

「うまく姿を隠したか、もしくは初めからいなかったか、色々な憶測が流れたけど、真偽のほどはわからないわ。それより、祐斗と小猫を治療するために今日は帰りましょう」

 

「あ、あの部長、俺の駒ってのは何ですか?」

 

 帰ろうとした部長に自分の駒についての説明がなかったのでそれだけは聞いておこうと思った。

 

「ああ、そうね、言ってなかったわ。貴方に使用した駒は《兵士(ポーン)》よ」

 

「え・・・・」

 

 《兵士(ポーン)》つまりは駒の中で一番弱く、一番下っ端。俺のハーレムの夢は途方もなく長い道のりになっていた。

 

 

 

 

 

「やれやれ、依頼人からの急な要請かと思って出向いてみれば、こういうことでしたか。おそらくサーゼクスさんはワザと接触を図るようにしたんですね。しかも彼女の性格をわかった上でのこの行い。悪魔側へと引き込むためにこんな手の込んだことを・・・」

 

 仮面を着けたまま、颯は廃墟のビルがようやく見える位置まで遠ざかると、ため息と共に手の込んだやり方での方法にあきれていた。

 

「契約違反ですけど、初回という事もあり今回は何も言いませんが、同じことがあれば私は今度こそ相手を殲滅させます。例えそれが護衛対象であっても、契約に違反したのですからそちらも約束事は守って欲しいと伝えてください」

 

 誰もいないところで一人喋ってはいるが、颯の背後から音もなく近づく人物、依頼人のメイドであるグレイフィアが現れた。

 

「こちらの身勝手で貴方様との約束を反故にしたこと、誠にもって申し訳ありません。つきましては、どうかこれからも依頼の件をお願いします」

 

 深々と頭を下げ、謝罪するグレイフィア。

 

「大丈夫です。先程も言いましたが、今回は何も言いません。ですが一度だけです。今後はこのようなことがないようにお願いします」

 

 そう言い残し、颯は夜の街中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~後日談~

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえりグレイフィア。それでどうだった?」

 

「すべて気づかれていました。貴方の思惑に。いずれにしても、まだ依頼の継続はしてもらえましたが」

 

「そうか、彼には悪いことをしてしまったね」

 

「まったくです。依頼を出したほうから一方的に約束を反故するなど、悪魔として最低なことですね」

 

「・・・えっと、グレイフィア?もしかして怒っているかい?」

 

「当たり前です。仮にも悪魔の王である御方が、こんな悪魔の風上にも置けないことをしたんですから」

 

「う・・・申し訳ない」

 

「謝るなら私ではなく、あの方に会って直に謝ってください」

 

「・・・はい」

 

 

 

 




一気に思いついたことを書いちゃいました。悔いはありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。