落第騎士の英雄譚 ~守り人のために~ (ローニエ)
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出会い


はじめましてローニエと申します!

他の作品も書いているので不定期になるとは思いますが、応援よろしくお願いします!


 

「え~ん、お父さん~お母さん~」

 

ある冬の日の夕方、一人の少年が泣き歩いていた。

そんな少年に近くを歩いていた彼女は声をかける。

 

「どうかしましたか?迷子?」

 

彼女は優しく少年に話しかける。

しかし、少年は一度こちらを見て首を振る。

 

「では、どうしたのですか?このような時間にあなた一人で」

 

彼女は少年にそう尋ねるが、少年は答えない。

 

「泣いていたのではわかりませんよ。男の子なんだから、しっかり話さないとだめですよ」

 

「ぐすっ、ぐすっ…お父さんとお母さんが殺されちゃったんだ」

 

彼女の問いに、泣きながらも答える少年。

そして、彼女はその少年の答えに驚愕する。

 

「あなたは大丈夫だったんですか?」

 

「うん…グスッ…僕だけを逃がしてくれたんだ…」

 

徐々に泣き止んできた少年はそう告げる。

 

「そうですか…あなたの両親は立派ですね」

 

少年の言葉に彼女は優しく告げる。

 

「うん…でも僕はお父さんたちが殺されるとき何もできなかった…」

 

少年は彼女の言葉に一瞬笑顔を見せるが、すぐに悲しそうな顔に戻る。

少年は悔いているのだ。

自分が両親を守れなかったことに。

自分に力がなかったことに…。

そんな少年を見た彼女は、少年へと尋ねる。

 

「あなたは力がほしいのですか?」

 

彼女の言葉に少しおどろく少年だったが、すぐに頷く。

 

「うん…僕は力がほしい。大切な人を守れるように…もう二度と後悔しないために…」

 

そう力強く宣言する少年に彼女は思った。

この子の力になってあげたい、と。

そして彼女は少年に告げる。

 

「なら私が教えましょう」

 

「えっ?」

 

彼女の言うことが理解できないのか少年は聞き返す。

 

「私があなたを鍛えると言ったんです」

 

力強く少年へと告げる彼女。

 

「でもお姉ちゃん、僕を鍛えられるほど強いの?」

 

少年は彼女をじっくりと見た後そう告げる。

しかし、そう思うのも無理もないだろう。

彼女の見た目はとても強者とは見えないから。

しかし、彼女はそんな少年に告げる。

 

「失礼ですね。これでも私は強いんですよ?…それよりどうしますか?私の教えを受けますか?」

 

少年の言葉に顔を膨らませる彼女だったが、最後には真面目な顔になり少年へと問いかける。

 

「う~ん…じゃあお願いするよ!お姉ちゃんの強さが本当かどうかはわからないけど、どんなことでも教えてくれるなら嬉しいし!」

 

少し悩む少年だったが、案外簡単に決めてしまった。

しかし、まだ自分の実力を疑っている少年に、彼女は少し苦笑いしてしまう。

 

「わかりました。これからよろしくお願いします…えっと…」

 

「翔人!僕の名前は斎藤翔人だよ!」

 

「そうですか。ではよろしくお願いしますね、翔人」

 

「うん!ところでお姉ちゃんの名前は?」

 

「そういえばまだ言ってませんでしたね。私の名前はエーデルワイスです」

 

「えーでる、わいす?長くて覚えずらいよ…」

 

「そんなに長いわけではないと思いますが…しかし、長いなら別の名で呼んでも構いませんよ?」

 

少年の言葉に、またしても苦笑いするエーデルワイス。

しかし、翔人はエーデルワイスの告げたことを真剣に考える。

そして30秒くらい過ぎた後、翔人は告げた。

 

「じゃあ師匠!」

 

「え?」

 

「僕はえーでるわいすのこと、師匠って呼ぶよ!鍛えてくれるわけだし丁度いいと思って」

 

「師匠…ですか。まぁ悪くはないですね」

 

翔人の言葉に、少し微笑みながら告げるエーデルワイス。

 

「では翔人、早速修業しますよ。私についてきてください」

 

「分かったよ、師匠!」

 

 

 

 

これが後に”流星の剣帝”と呼ばれることになる斎藤翔人と、世界最強の剣士エーデルワイスの出会いであった。

 





序章なので短めです


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生徒会

エーデルワイスとの出会いから十年が過ぎ、翔人は十七歳になっていた。

そんな四月の諸侯、翔人はルームメイトに起こされているところだった。

 

「ひろくん、朝だよ。起きて!」

 

ルームメイトは何回もさすったり、叩いたりするが、翔人は起きない。

そんな翔人にしびれを切らしたのか、ルームメイトの少女は翔人に告げる。

 

「起きないなら、朝ごはんなしだからね」

 

少女がそう告げると、翔人はガバッと起き上がる。

 

「お、おはよう、刀華」

 

翔人は笑顔であいさつをする。

そんな翔人にため息をつき、刀華と呼ばれた少女は告げる。

 

「はぁ〜、毎日毎日…一回で起きてよね。もう三年生だよ?」

 

「朝はダメなんだよ…どうしても布団の気持ち良さには勝てなくて」

 

翔人がそう告げるも、刀華は耳を貸さない。

 

「もう聞き飽きたよ。それより今日は入学式なんだから早く準備してよ?ひろくん副会長なんだから」

 

「そういや、そうだったな。ったくなんで俺が副会長なんか…」

 

「文句言わないの。新しい理事長の神宮寺黒乃先生、直々のお願いなんだから。」

 

翔人は文句を言うが、刀華に諭される。

しかし、それでも納得のいかない翔人は刀華に告げる。

 

「まったく…あの世界時計(ワールドクロック)に目をつけられるなんて、俺もついてないな」

 

「またそういうこと言う。新理事長はひろくんの実力を知ってるからこそ、ひろくんに頼んだんだよ?」

 

「それはわかってるんだけど…俺って生徒会ってがらじゃないだろ?それに副会長なんて…」

 

「私は似合ってると思うけどなぁ。私は、私よりひろくんの方が生徒会長に向いてるって思ってるくらいだし。…あっ、そうだ!生徒会長変わる?」

 

翔人の文句に刀華は人の悪い笑顔を浮かべ、翔人に尋ねる。

 

「勘弁してくれ…」

 

そんな会話をしながら朝食を食べていると、インターホンが鳴った。

 

「うたくんかな?」

 

「まぁそろそろ時間だし、迎えに来たんだろ」

 

「そうだね〜って何をそんなにゆっくりしてるの!?早く行くよ!」

 

「へいへい」

 

そう言いながら、翔人たちは学園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式も終わり、翔人は生徒会室で休憩、もといサボっていた。

 

「翔人〜ゲームしようよ」

 

ソファーで横になっていると泡沫が話しかけてくる。

 

「お前あんまりゲームばっかりしてると、刀華にまた怒られるぞ〜」

 

「そんなことないよ。刀華なら大丈夫」

 

何が大丈夫なんだか…なんて考えていると、にやにやしながら泡沫が再び話しかけてくる。

 

「翔人は僕に勝つ自信がないの?まぁそれなら仕方ないよね。誰だって負けるのは嫌だし」

 

そんな泡沫の言葉にイラっとする翔人。

 

「あぁ?負けねーし。勝つ自信ならあるし」

 

「じゃあやろうよ。僕が翔人の力を確かめてあげるよ」

 

「おう、やってやるよ!」

 

そう威勢良くテレビ画面の前に座る翔人だったが、端末に連絡が入り、中断されることになる。

誰だよ、こんなときに!なんて思う翔人だったが、仕方がないので相手も見ずに電話に出ることにする。

 

「…もしもし」

 

「あぁ、斉藤か?ちょっとお前にお願いしたいことがあってな」

 

相手はなんと理事長だった。

理事長が出たことで、あからさまに嫌そうな顔をする翔人。

そして泡沫はそんな翔人を見て笑っていた…

 

「一体なんです?俺今忙しいんですけど」

 

「まぁ、そういうな。ちょっとした頼みごとだ。新入生のステラ・ヴァーミリオンと黒鉄珠雫がケンカを始めたらしくてな。その仲裁に行ってもらいたんだよ」

 

なんで、たかがケンカなんかに俺が?と思う翔人だったが、続けて告げる黒乃の言葉でわかることになる。

 

「それがお互い一触即発ですぐにでもデバイスを使いそうなんだと。もし使われたら新入生総代と次席のあいつらを止められるやつは中々いないだろうからな」

 

その言葉にため息が出そうになるが、なんとか留める翔人。

初日から面倒ごとを起こしやがって…、と。

 

「そういうことでしたら、仕方ないですね。行きますよ」

 

「そうか行ってくれるか!いやぁ私もちょうど今手が離せなくてな」

 

どうせたばこ吸ってるだけだろ、と思う翔人だがもちろん口には出さない。

 

「…で場所はどこです?」

 

「あぁ、場所は−−−−−−−−−−−」

 

場所を告げられた翔人は、泡沫に事情を説明し、言われた教室へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔人が到着すると、教室では二人の生徒が言い争っていた。

そこで翔人は近くにいた生徒に話を聞いた。

どうやらまだデバイスを使った戦闘までは至っていないようだ。

しかし、今の状態を見るにいつ戦闘が始まってもおかしくはない。

そこで翔人は改めて教室内を見渡してみる。

教室内にいる生徒は三人。

一人はステラ・ヴァーミリオン。

ヴァーミリオン皇国の第二皇女で今年の総代だ。

十年に一人の逸材と言われるAランク騎士であり、新入生平均の三十倍の魔力量を有する規格外の天才。

つまりは化け物。

次は黒鉄珠雫。

Bランク騎士で新入生次席だが、魔法制御に関してはステラをもしのぐらしい。

ステラがいなければ間違いなく総代で入っただろう。

最後は黒鉄一輝。

このケンカの原因を作った男だ。

こっちはステラとは逆で十年に一人の劣等生らしい。

まぁ翔人はそんなこと微塵も思っていないらしいが…。

 

とまぁ、翔人がそんなことを考えている間にどうやら状況が変わったようだ。

 

「宵時雨」

 

珠雫が自身のデバイスを展開する。

 

「傅きなさい!妃竜の罪剣(レーバテイン)!」

 

相手がデバイスを展開してのを見て、ステラもデバイスを展開する。

そして相手に向かって、お互い一直線に走り出す。

そんな状況をみた翔人は仕方なく自身のデバイスを展開させ、動き始める。

”加速がない加速”を使って…

そうして翔人は二人の間に割って入り、二人のデバイスを止める。

 

「「!?」」

 

急に間に割り込まれ驚いた二人は、声を出すことができない。

そんな二人に翔人は自分のデバイスをしまい、声をかける。

 

「お前ら、やりすぎだ…」

 

そんな言葉に、声を出すことができなかった二人が揃って声を出す。

 

「ちょ、ちょっとアンタだれよ?これはわたしたちの戦いなのよ、邪魔しないで」

「そうです。そこの雌豚と同じ意見なのは不快ですが、私も同じ意見です」

 

雌豚と言われ怒るステラと、さらに煽る珠雫。

そんな二人に、そろそろキレそうな翔人だったが、一輝が話に入ることで話は終わりを迎えることになる。

 

「二人とも今すぐ翔人さんに謝るんだ。この人は三年三組の斎藤翔人さん。破軍学園生徒会の副会長だよ」

 

その言葉にハッとするステラと珠雫。

 

「お前らなぁ…もう一回言うが、さすがにやりすぎだ。教室を壊すつもりだったのか?」

 

翔人のその言葉に二人は俯く。

しかし、翔人はそんな二人を見つつも話を続ける。

 

「校内でデバイスを展開することは禁止事項だ。下手したら退学だぞ、退学。入学初日で退学なんて話、恥ずかしすぎないか?俺なら恥ずかしいね」

 

なおも続ける翔人。

 

「でもまぁ、まだ戦いたいなら俺が相手になるぞ?どうせだし、もし俺を倒すことができたら、お咎めなしにしてやる」

 

翔人は最後まで自分の話をすると、笑みを浮かべる。

そして、翔人がそこまで告げると二人の少女は顔を見合わせ、うなづく。

そして二人が翔人に戦闘を承認しようとしたが、一輝が二人の前に手をかざし静止させる。

 

「ステラ、珠雫、ここは素直に罰を受けよう。君たちの行いは確かにルールに反している」

 

一輝がそう告げるが、ステラは納得いかないようで一輝に告げる。

 

「な、何言ってるのよ一輝!私が勝てばこの人は見逃してくれるのよ!?なんで断る理由があるの!」

 

「勝てない戦いをする必要があるのかい?」

 

一輝は特別怒気を込めたり、威嚇したりしたわけではないが、ステラはその言葉に背中が冷たくなるのを感じた。

一輝はさらに続ける。

 

「ステラ、君の実力がどれだけすごいかは僕もよくわかっているよ。でも翔人さんとは戦ってはダメだ。今のステラでは…いやどれだけ修行しても翔人さんにはかなわないかもしれない」

 

その言葉にステラだけでなく珠雫も言葉を失う。

 

「なぁ黒鉄、さすがにそれは言い過ぎじゃないか?確かに今なら俺が勝つと思うが、修行されたら俺だって勝てる保証はどこにもないんだぜ?仮にもそこの皇女様はAランクなんだし」

 

一輝の告げた言葉に反論する翔人。

それはステラや珠雫も思ったことだ。

今はダメでも将来なら勝てるかも、と。

しかしそんな翔人の言葉に一輝は苦笑いしながら答える。

 

「ご謙遜はやめてくださいよ。…同じAランク騎士で’流星の剣帝’と呼ばれるあなたが何を言うんです?」

 

 

絶句。

今まで何度も驚きを顔に出したステラと珠雫であったが、一輝の放ったこの言葉はさすがに理解できなかった。

 

「よく知ってるな。そう呼ばれたのは何年振りだったかな」

 

「まぁあなたは七星剣武祭はおろか、名のある大会には全然出てませんから、知らない人が多いのは無理もありません。リトルが最後でしたよね?兄さんとの試合で」

 

「あぁ」

 

翔人がそう告げると教室に静寂が流れる。

ステラ、珠雫は絶句し何も言葉を出せない、一輝は緊張してこれ以上言葉を出そうとは思えなかった。

ゆえに翔人がこの場をどうにかする必要がある。

 

「はぁ…まぁしょうがない。このことは理事長に話しておく。なるべく罰が軽くなるように口添えしといてやるから、あとは自分たちでなんとかしろよ」

 

ため息をつきながら、翔人は告げる。

 

「ありがとうございます」

 

言葉を発することのできない二人に変わって、一輝が答える。

それを聞いた翔人はまたな、と三人に手を振り、生徒会室へと戻った。

 




人物紹介

斎藤翔人(さいとうひろと)

伐刀ランク:A
伐刀絶技:???
二つ名:流星の剣帝
人物概要:破軍学園副生徒会長

パラメーター
攻撃力;S
防御力;B
魔法力;A
魔法制御;A
身体能力;S
運;F

本作の主人公
エーデルワイスの弟子として、数年間彼女の教えを受ける。
小さい頃はエーデルワイスに言われ、色々な大会で名を挙げたが、彼女の元を離れてからは、人を守るために力を使いたい、と本人が強く思い、人前で力を見せないようになる。
生徒会長の東堂刀華や御祓泡沫、貴徳原カナタとは小学校からの幼馴染。
面倒臭がり屋でよく刀華に注意される。
感情豊かで優しい人物ではあるが、師匠であるエーデルワイスのことを悪く言われたり、知り合いを傷つけられると周りを気にせずキレる。
夢がなく進路について悩んでいる。


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戦う理由

「失礼しまーす」

 

そう告げ、ノックもせず翔人は理事長室に入る。

 

「斎藤か。それでどうだった、あいつらは」

 

「まぁデバイスは使ってましたけど、別に被害があったじゃないんで許してやってください」

 

「…まぁいいだろう」

 

一瞬怪訝な顔をする黒乃であったが、了承した。

 

「じゃあ報告もしたんで、俺はこれで「ちょっと待て!」

 

「…はい?」

 

翔人が理事長室を出て行こうとすると黒乃に止められる。

 

「まだお前には話が残っている」

 

「話?まだ何かあるんですか?面倒事はもうたくさんですよ」

 

「まぁ話を聞け。まずはこれを見てくれ」

 

そう言って黒乃は自分の端末を操作し、翔人に見せた。

 

「…代表選抜戦ですか?」

 

「そうだ。お前出ないらしいな。東堂から聞いたぞ」

 

(刀華のやつめ、余計なことを…)

そう聞いた瞬間、翔人は心の中で刀華を恨んだ。

そう思いつつも、翔人は黒乃の質問に答える。

 

「ええ、あいつの言う通り俺はでませんよ。いつも通りにね」

 

「何故だ?お前が去年まで実力を隠していたことは知っている。何故戦おうとしないんだ?」

 

「…俺は誰かと競うために力をつけたんじゃありません。大切なものを守ることができるように力をつけたんです。もう二度と…後悔しないために」

 

「ッッ――――!!」

 

翔人が静かにそう告げると、誰もが腰を抜かすほどの殺気を発する。

当時のことを思い出したのだろう。

その顔には怒りが浮かんでいる。

そんな翔人の殺気に黒乃は、明らかな動揺と狼狽が顔に浮かんでいた。

椅子に座っているため、翔人には気づかれていないが、がたがたと足が震え、額には尋常でないほどの汗。

 

(まったく、こんなところまでエーデルワイスにそっくりだとはな…いや、すでにエーデルワイス以上か…。ここまで何も起こらなかったのが不思議でしょうがないよ…)

 

うろたえながらも黒乃はそんなことを考える。

 

「…お前の言い分は分かった。だがお前も知っているように、この破軍学園は長らく七星剣武祭で優勝者を出していなくてな。私はその立て直しのためにここに来たんだ 」

 

「…それは知ってます」

 

そんな黒乃の言葉に、翔人は殺気を抑え答える。

 

「そのための手段として、能力値選抜制を廃止して、トーナメント方式を採用した。それは誰にでもチャンスがあるということだ。なのにお前みたいなやつがでなくてどうする」

 

「それはそうかもしれないですけど、さっきも言ったように俺は競うために力を使いたくないんです」

 

「じゃあ次にこれを見てくれ」

 

そう告げると黒乃は自身の端末を見せてくる。

 

「……何ですかこれ」

 

「見ればわかるだろ?不信任決議案だ。お前は今だこの学園に入って実力を見せたことがないから、お前の実力を知らん奴らが出したんだ。生徒会メンバーがそんな得体のしれない人物でいいのか、とな」

 

「そうですか…。ならいっそのことそれを認めれば俺は副会長なんてものをやらなくていいんですね?」

 

黒乃の言葉に翔人は少し嬉しそうに告げる。

そんな翔人に溜息をつきながらも、黒乃は話す。

 

「お前は見返してやろうとは思わんのか?」

 

「思いませんね。むしろ弱いと思われてた方がいいくらいです。」

 

まだ何か?と顔で訴える翔人に、黒乃は最後の手札を出すことにした。

 

「話は以上なら俺は帰りますね「黒鉄王馬」

 

「ッ!!」

 

黒乃の言葉に翔人は振り向く。

 

「黒鉄王馬がどうやら日本に帰ってきたらしい」

 

「へ…へぇ。そうなんですか。それがどうかしましたか?」

 

「どうかしましたか?、は私のセリフだ。今のお前を見てそう言わないものはいまい」

 

黒乃はそう告げるとここがチャンス!とでも言った具合に翔人へと話し始める。

 

「お前と黒鉄王馬の間に何があったかは知らん。特に興味もない。だがな、そこまでの反応を見せるということは、少なくとも戦ってみたいと少しは思っている証拠だろ?お前は3年生で今年には卒業する。後悔しないためにも、ラストチャンスの今年出てみたらどうだ?」

 

黒乃がそこまで告げると、翔人は考え始める。

そこで追い打ちをかけるように黒乃は告げる。

 

「それに諸星雄大もお前と戦いたがっていたぞ」

 

「諸星が!?あいつ引退したはずじゃ…」

 

「ん?知らんのか?昨年の七星剣武祭の優勝者だぞ?」

 

「えっ…!そんな、まさか…あいつが!?」

 

「本当に知らなかったようだな…。昨年東堂が負けた相手だというのに」

 

「刀華が…!?」

 

実は刀華が負けた相手で、刀華が負けたとき何度も話されていたのだが、七星剣武祭に興味がなかったために聞き流していたのだ。

 

 

「で、どうだ?まだ出る気はないか?」

 

ニヤニヤしながら告げる黒乃。

そしてそんな黒乃に溜息をつきながら翔人は答える。

 

「……………わかりました。出ますよ。出ればいいんでしょ…」

 

「おお、そうか。出てくれるか!これで今年の優勝はもらったようなものだな」

 

「あんまり期待しないで下さいよ。やつらの実力がどれほどのものか分からない以上、勝てる保証はないんですから」

 

「だとしてもだ。もし負けたりしたらエーデルワイスがなんて思うか…」

 

「そこで師匠の名前を出すのは反則ですよ!?…でもまぁ出るからには全力を尽くしますよ。…それじゃあ俺はこれで」

 

翔人は自分の端末で代表選抜戦へのエントリーをその場ですませると理事長室を出て行った。

翔人が出て行って一人になった黒乃はふと呟く。

 

「ついに斎藤が折れたか。黒鉄も、ヴァーミリオンもいることだし今年は楽しみだ」

 

と。

 

 

 

 

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「あっ、ひろくんお帰り~。今日は遅かったね」

 

翔人が自分の部屋に戻ると、夕ご飯の支度をしている刀華が翔人に声をかける。

 

「…………」

 

「ひろくん?」

 

刀華は挨拶を返してくれないことに疑問を抱き、もう一度翔人に声をかける。

しかし、翔人は何も返さない。

そこで刀華は夕ご飯の支度をやめ、翔人の元へと行き話を始める。

 

「どうしたの?何か嫌なことでもあったの?」

 

「………ハァ」

 

やっと口を開けてくれたと思った刀華であったが、それは溜息であった。

そこで再び刀華は声をかけようとするが、翔人が先に話し始めた。

 

「嫌なこと…と言えば嫌なこと…だな」

 

ようやく口を聞いてくれたことに刀華は安堵するが、内容があまりよろしくないものだったので、顔の曇りは晴れない。

 

「ど、どうしたの本当に…ひろくんがここまで思いつめるなんて、よっぽどのことだよね…?」

 

「まぁ元をたどれば刀華のせいだな」

 

「えっ?私!?」

 

身に覚えがないのか、驚く刀華。

口に両手をあて、驚愕の表情を浮かべている。

しかし、それでは話が進まないため刀華は恐る恐る翔人へと質問する。

 

「私、何かしたっけ…?」

 

「理事長に話したんだろ?俺が今まで代表選抜戦に出てないこと。その件でさっき理事長に呼び出されて、何か代表選抜戦に出されることになった」

 

刀華の質問に覇気のない声でそう答える翔人。

声だけでなく、顔にも覇気はなかった。

 

「えっ?ひろくん、選抜戦出ると!?」

 

しかし、刀華の反応は違った。

よほど驚いたのかなまりが出てしまっている。

そんな刀華を片目で見つつ、翔人は答える。

 

「あぁ。嫌々だけどな。理事長は俺を出すために色々な手を打ってきたんだ」

 

「……理事長先生、ナイスです」

 

「おいこら。しっかり聞こえてるからな」

 

翔人の答えに満足したのか、刀華は黒乃に感謝した。

そして驚いていた顔がだんだんと笑顔になる。

体から電気をバチバチ発しながら…

そんな刀華を見た翔人は本日何度目になるか分からない溜息をつくと、刀華に告げる。

 

「まぁ出るからにはもちろん優勝を目指す。俺が出てない間に雄大が優勝してたなんて知らなかったし、他にも強者はいるみたいだけど、負けるつもりはさらさらない。…もちろん刀華にもだ」

 

「そう…でも私も負けないよ。打倒ひろくんを目指してこれまで頑張ってきたんだから」

 

「まぁ選抜戦では当たらないことを祈ってるよ。刀華が七星剣舞祭に出られないのはかわいそうだからな」

 

翔人がそう告げると、刀華は微笑む。

 

「じゃあまぁそういうことだから。飯頼むな」

 

「はいはい…ってあれ?」

 

何かを思い出したのか刀華は疑問を口にする。

 

「ん?どうした?」

 

「さっきひろくんさ、雄大って言ってなかった…?」

 

そう刀華が告げると、翔人の顔が引きつる。

やべっ、忘れてた…と。

 

「それってもしかして七星剣王の諸星雄大さん…?」

 

「し、七星剣王?そんなやつ俺は知らないな~。あっ!なんか急に体を動かしたくなったから一っ走りしてくるな!じゃ!」

 

刀華に怒られることを悟った翔人は、逃げるように部屋から出て行った。

そんな翔人に呆れる刀華だったが、顔は笑っていた。

 

(ようやく…ようやくひろくんが公の場にでるんだね。待ってたよ!…でも簡単に負けるつもりはさらさらない。私の全力をもってひろくんに挑むのみ…!)

 

刀華はそう心の中で思うと、ご機嫌なまま夕ご飯の支度へと戻っていった。

 

 

 



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始まり

落第騎士9巻読みました

もう…感動せずにはいられませんね。
ラノベでこんなに感動したのは初めてです。
最終巻と言われても異存はないです。

久しぶりにエーデルワイスも出てきましたし、作者的にはもう最高の一言に尽きますね。

次巻も楽しみです!


それでは本編どうぞ!



「副会長〜聞いたよ!選抜戦出るんでしょ!?」

 

「やはり副会長は男だ!」

 

「やめてくれ恋々、雷…無理やり出さされたようなもんなんだから…」

 

翔人は生徒会室で仕事中だったのだが、後輩二人に詰め寄られていた。

何故なら翔人が選抜戦に出るという話が学校中に広まったからだ。

 

《斎藤生徒会副会長、ついに選抜戦出場!生徒からの不満を一蹴できるのか!?》

 

と言った見出しの新聞が校内に出回っているためである。

 

(こんなことになるなんて思ってなかったな…)

と、内心ため息をつくが今更どうしようもない。

 

「ねぇねぇ副会長〜しっかり本気出してね!」

「恋々、副会長なら本気を出すに決まっとるだろ!」

 

翔人の実力を知らない二人は、なおも翔人に詰め寄る。

翔人はもうかなり疲れた顔をしている。

そんな翔人を救ったのは生徒会会計貴徳原カナタだった。

 

「二人ともあまり翔人君を困らせてはダメですよ」

 

「そういえばカナタさんは副会長と付き合い長いんですよね?副会長ってどのくらい強いんですか?」

 

カナタの言葉に恋々はうなづきながらも、質問する。

恋々の言葉を聞き、翔人は焦った様子でカナタに目で

(ごまかしてくれ!!)

と訴える。

そんな翔人にカナタは微笑み、恋々へと告げる。

 

「まず私よりは間違いなく強いですよ。レベルが違いますから。それに会長もおそらく勝てないと思います。昔一度戦っている場面を見ましたが、会長は手も足もでていませんでした。」

 

その言葉に恋々と雷は衝撃を受けた。

あ()()会長より強いということはこの学園内で最も強いということなのだから。

 

「おいカナタ!でたらめを言うなよ…二人とも信じちゃうだろ」

 

その言葉にカナタは微笑みながら翔人に告げる。

 

「あらあら、すみません」

 

「えっ?ってことは今の話は嘘…?」

 

そんなカナタの様子に疑問を覚えた恋々がカナタに尋ねる。

 

「…それは試合を見ればわかりますよ。明日から選抜戦も始まることですし」

 

恋々の質問にカナタは意味深に答える。

その様子に恋々は少し納得していなかったようだった。

しかし、明日になればわかることだし、と一人で納得し自分の作業に戻っていった。

 

 

 

 

 

次の日

 

第一試合の会場へと翔人が到着し、翔人のプロフィールが紹介されると会場は騒然とし始める。

斎藤翔人 Aランク

翔人は破軍学園に入学してから一度も戦ったこともなく、自分に関しての情報は全て隠していたため、誰も翔人について詳しい情報は知らないのだ。

おそらく知っていたのは、生徒会3年生と理事長、寧音、それと一輝ぐらいだろう。

 

「えっ?副会長ってAランクだったの…?ランクだけなら会長よりも上ってこと…?」

 

生徒会全員で翔人の試合を見に来ていた中、恋々がつぶやく。

 

「そうよ、兎丸さん。ひろくんはとっても強いんだから」

 

恋々のつぶやきに刀華は笑顔で答える。

 

「嬉しそうですね会長」

 

「それはやっぱり嬉しいわよ。今まで戦いを避けていたひろくんが、ついに表舞台にたつんだから」

 

「そうだね。僕も翔人の試合は楽しみだよ。一体どれだけ強くなってるんだろうね」

 

順にカナタ、刀華、泡沫のセリフだ。

3人とも顔には笑みが浮かんでいる。

 

「でも相手がかわいそうだよね。あの翔人が相手だなんてさ」

 

「そうですね。相手は我が学園内でも屈指の実力者。去年は七星剣舞祭にも出場しています。…でも翔人君が相手では1分ともたないでしょう」

 

と、カナタは試合を予測し始める。

そしてそれに頷く生徒会3年生たち。

しかし、それを聞いて何も言えない生徒会2年生たちは、黙って翔人に視線を向けた。

 

 

 

 

 

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「いやぁ〜ついにあのひろ坊もでてきたね〜」

 

「寧音か」

 

生徒会メンバーから少し離れた場所で、理事長黒乃と臨時講師の寧音は話していた。

内容はもちろん目の前のリングにいる翔人についてだ。

 

「くーちゃん説得するの大変だったっしょ?」

 

「あぁ。あいつの殺気を感じた時は死を覚悟したよ。おそらくすでにエーデルワイスと同じくらいの強さだ」

 

「ほえ〜しばらく見ない間にすごいことになってんな」

 

「まぁ試合を見ればわかるさ」

 

そう黒乃が告げると、二人は黙って会場の中心へと視線を向けた。

 

 

 

 

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「ちょっと待ってよ一輝!」

 

「あっ…ごめんステラ。それに珠雫とアリスも」

 

「それはいいんだけど、そんなに急いでどうしたの?」

 

「この間の副会長ですか、お兄様?」

 

「あぁ。この数年間音沙汰のなかった流星の剣帝がついに出て来るんだ。見逃すわけにはいかないよ。同じ剣客としては」

 

一輝たち一行は急いで試合会場へと向かっていた。

しかし、急ぎすぎるあまりステラたちを置いていったことに気づいた一輝は頰をかきながら彼女たちに告げる。

 

「一輝がそこまで言うなんて相当な選手なのね。是非とも試合を観てみたいわ」

 

「そうだね。おそらく勝負は一瞬だ。だから急ごう」

 

一輝はそう告げると再び走り始める。

またしてもステラたちを置いて………

 

 

 

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(ハァ…勢いで出るって言ったけど、面倒だな…)

 

試合会場で相手と向き合いながら、翔人はそう考えていた。

 

(とは言ってもやるって言ったからにはやらないといけないし…それに俺が出るって言ったときの刀華は、ものすごく嬉しそうだったし…でもあんまり実力は見せたくないし…さてどう戦うか)

 

そんなことを考え相手を観察する。

ランクを見たら多少驚いたようだが、それでも納得いかないようで、翔人の方をちらちら観察していた。

 

(まぁそうなるよな、普通は…じゃあまぁとりあえずは()()するだけでいいか。それでだめなら…まぁそれなりに戦おう)

 

そう思った翔人は相手を見据え、試合に意識を集中させる。

すると相手は固有霊装を展開させた。

普通なら翔人も固有霊装を展開させるべきなのだが、翔人は黙ったまま動かない。

それを見かねた審判が翔人に話しかける。

 

「君、早く固有霊装を展開させなさい」

 

「いえ、俺はこれでいいです。固有霊装を使うまでもないんで」

 

「…そうか、わかった」

 

不承不承ながらも審判は納得したようで、会場の外へと下がる。

そんな翔人に相手は怒りを露わにするが、翔人にはまったく気にする様子はない。

 

 

「Let`s go ahead」

 

試合開始の合図とともに翔人の相手は走り出す……………つもりだった。

しかし相手の足は動かず、試合が始まったときとまるで位置は変わっていなかった。

なぜなら……………

 

「ッ!!」

 

殺気を感じたからだ。

 

「動いたら殺す…」

 

翔人は決して話したわけではない。

何も口から言葉を発してはいないのだ。

しかし、恐怖しながらも、翔人を見つめる彼だけには翔人の背中に見える銀色のドラゴンがそう告げていると錯覚する。

まるでそのドラゴンの咆哮を聞いたような感覚になったのだ。

そしてそれは会場全体に広がっていた。

あるものは翔人に恐怖し、あるものは泣き始め、あるものは気絶までしていた。

それは現世界3位の西京寧音と元世界3位の新宮寺黒乃でさえ同様だった。

 

「…くーちゃん、これまじ?」

「大マジだ」

 

余裕ぶってはいるが、この二人でさえこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

しかし足が動かない。

それほどまでに翔人の殺気は恐ろしいのだ。

そしてそんな翔人の殺気に対戦相手は耐えられるはずもなく、

 

「こ、降参だ」

 

と地面を見ながら告げる。

もはや翔人の顔を見ることですら怖いのだ。

 

「勝者、斎藤翔人」

 

「うしっ」

 

勝者のコールがされると先ほどまでの殺気がなくなり、翔人の言葉が会場全体に響いた。

 

 

 



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試合後

戦闘始まるまではつまらないかもしれません…


「一輝……あの人って何者なの?」

 

試合が終わり、翔人が退場した後座りながらステラは一輝にたずねる。

 

「ステラと同じAランク騎士……のはずだけど」

 

ステラの言葉にボソボソと告げる一輝。

その言葉には明らかな動揺が見られた。

一輝は彼のことを知っていただけに、予想以上の力を見せられて驚いていた。

そんな言葉を受けたステラは周りを見渡す。

 

「誰も……帰らないのね」

 

「帰らないんじゃなくて、帰れないんだよ。僕もステラも同じだろうけど、腰を抜かしてるんだから」

 

「そうね………」

 

一輝の言うように、会場に試合を見に来ていた観客が誰一人試合が終わったというのに動かなかった。

正確には動けなかった、だが…

 

「あんな人が日本にいるなんてね……こんなすごい人が他の学園にもいるのかしら」

 

「おそらくいない…と思う。翔人さんが全然本気じゃないからはっきりとした強さは分からないけど…」

 

「……なんで今まであれだけの実力を隠していたのかしら?」

 

純粋に疑問に思ったのか、ステラは一輝に尋ねる。

 

「わからない…。…だけど翔人さんは戦うことが嫌い…というか興味がないみたいだね」

 

「あんなに強いのに!?」

 

「強さは関係ないよ、ステラ。でも……」

 

「でも?」

 

「いつか手合わせ願いたいな」

 

一輝はステラに笑顔で告げる。

 

「まったく……一輝はやっぱり一輝ね」

 

「うん、どうやらそうみたいだ」

 

そんな二人を隣で見ていた珠雫とアリスは、二人にため息をついていた。

 

 

 

 

 

 

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「副会長!副会長ってあんなに強かったんですね!」

 

翔人が生徒会室に戻ると、翔人以外の全メンバーがすでに集まっていた。

そして恋々が翔人に飛びつきながらそう話す。

そんな恋々を翔人は引き剥がし、答える。

 

「強い?俺戦ってないんだけど………」

 

「あれだけすごい殺気を出す人が弱いはずないよ…昔と全然違うじゃないか」

 

今度答えたのは泡沫だ。

顔にはいまだ少し恐怖が浮かんでいる。

 

「そんなに怖かったか?ちょっと威圧するだけのつもりだったんだけど……」

 

そんな翔人の言葉に生徒会室は凍る。

刀華だけを除いて…

 

「相変わらずだね、ひろくんは。…戦うのが楽しみだよ」

 

沈黙が続く中、刀華が翔人に話しかける。

 

「まだ戦えるってわかったわけじゃないぞ」

 

「わかってるよ。でも楽しみだよ」

 

「……お前こそ相変わらずだよ」

 

ため息まじりに翔人がそう告げると、刀華はくすくすと笑った。

そんな刀華につられて生徒会室内も徐々に笑いに包まれていった。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、翔人君があれほどの力を見せてしまったら、次からの対戦相手は棄権するのではありませんか?」

 

生徒会室が明るい雰囲気に包まれ始めると、カナタが疑問を口にする。

 

「そうだよね。あんなの見せられたら戦う気なんて失うよ。…刀華を除いて」

 

「もうっ、うたくん。………でも実際そうだよね。普通の人なら戦うのはやめそうだよね」

 

「まぁそれならそれでいいよ。実際戦うの面倒だし……」

 

カナタのセリフに泡沫と刀華は同意するが、翔人はさほど気にしていない。

むしろラッキーだと思っていた。

 

「確かにその方が翔人にとっては楽だよね。嫌々出たんだし」

 

「まったくだ」

 

泡沫の言葉に翔人がそう告げると、生徒会の面々はため息をついた。

 

 

 

 

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数日後

 

翔人は一人でショッピングモールに来ていた。

理由は特にない。

強いて言うなら暇つぶしだ。

そしてその翔人は、現在一階のフードコートで遅めのランチを取っていた。

 

「いや~しかし久しぶりだなショッピングモールなんて…小さいころ家族で来て以来…か」

 

自分で言いながら落ち込んでいく翔人。

いくら時間が経ったとはいえ、家族に関係することを思い出すと気持ちがブルーになる。

そう一人で落ち込んでいると横から声がかけられる。

 

「あれ?翔人さん?」

 

声をかけられた相手は一輝だった。

 

「黒鉄…?奇遇だなこんなところで会うなんて」

 

「そうですね。僕も驚きました。翔人さんは今日ここへは買い物に?」

 

「まぁ暇つぶしがてらそんな感じだな。黒鉄は?」

 

「僕は友人たちと映画を見に来ました。でも上映までまだ時間があるので時間をつぶしていたところです」

 

翔人と話すことに少々緊張しつつも一輝は話した。

 

「そうだったのか。それよりお前どうしたんだ?トイレ?」

 

「あっ、そうだった。ちょっと売店の人にタオルを借りようと思って」

 

「タオル?飲み物でもこぼしたのか?」

 

「い、いえ…そのなんていうか…」

 

「?」

 

一輝の様子に首をかしげる翔人。

 

「見たらわかりますよ…そうだ!僕たちと一緒に話しませんか?翔人さんに聞きたい事とかいろいろあるんです!もちろん翔人さんがよかったらですけど」

 

 

一輝にそう告げられると翔人は時計を確認する。

 

(まぁ暇だし…いいかな。たまには後輩たちと話すのも悪くない)

 

そう考えた翔人は、

 

「いいぜ、席どこだ?」

 

と告げ、ステラたちもとへと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな知ってると思うけど、こちら斎藤翔人さんだ」

 

「よろしくな」

 

一輝と共に席へと移動した翔人は自己紹介をしていた。

 

「よろしく、ヒロト先輩。私のことは知ってると思うけど、ステラ・ヴァーミリオンよ」

 

「そりゃあ知ってるさ。皇女様だもんな。敬語で話した方がいいか?」

 

翔人の言葉に首を振りながら、ステラは答える。

 

「やめて。普通に先輩後輩でいいわ」

 

「そうか。まぁそのほうが俺も助かる」

 

次に翔人は珠雫へと視線を向けた。

 

「黒鉄珠雫です。この前はお世話になりました」

 

この前とはステラとの件だろう。

翔人が理事長に口添えしたおかげで罰が軽くなったことを珠雫は知っていた。

 

「まぁ気にすんな。でもあんまりああいうことするなよ?駆けつけるの面倒だから」

 

「もちろんです。これからはしっかりと考えて行動します」

 

苦笑いで告げる翔人に淡々と答える珠雫。

そして最後に視線をアリスへと向ける。

 

「はじめまして、有栖院凪よ。名前で呼ばれるのは嫌いだから、アリスって呼んでくれると嬉しいわ♪」

 

「そうか、よろしくなアリス」

 

アリスの自己紹介に平然とした顔で答える翔人。

そんな翔人の様子に驚いたステラは翔人へと声をかける。

 

「ヒロト先輩はアリスを見ても驚かないのね…」

 

「驚く?あぁそういうことか。俺は別に性別なんて気にしないからな」

 

「珠雫と似たような感性を持っているのね、副会長さんは」

 

そんな二人の会話にアリスが加わる。

 

「そうなのか?でも副会長はやめてくれ…先輩でも翔人さんでも何でもいいが、副会長だけは…」

 

「何?副会長って呼ばれるの嫌なの?」

 

疑問に思ったステラが翔人に質問する。

 

「あぁ。俺はこんな仕事したくなかったんだ…。でも理事長や刀華が無理やり…」

 

そう告げる翔人の顔は泣きそうだ。

そんな翔人に四人は顔を見合わせ頷く。

 

「そ、そうだったのね。私は今まで通りヒロト先輩って呼ばせてもらうわ」

 

「私は斎藤先輩で」

 

「じゃあ私は先輩って呼ぶわ」

 

「僕も今までどおり翔人さんって呼びます」

 

そんな四人の言葉に翔人は目に涙を浮かべながら、

 

「お、お前ら……ありがとな」

 

と、声を震わせながらつぶやいた。

そんな翔人を見てステラは一輝に小声で話しかける。

 

「一輝、なんか思ってた人と違うわね。あれだけ実力をもっている人なんだし、少し怖い感じの人かなって思ってたんだけど」

 

「そうだね。でも話しやすい人でよかったじゃないか」

 

「確かにそうね」

 

 

 

 

 

「それより黒鉄、時間はいいのか?」

 

翔人の言葉を受け、一輝は時計を確認する。

 

「あっ!本当だ。そろそろ行こうか…っとその前にトイレ済ましてくるから、僕の分のチケットは買っておいて」

 

「あら、それならあたしもお伴しようかしら」

 

一輝の離脱にアリスも続く。

 

「じゃあ私たちがチケットを買っておきますね」

 

「もうあんまり時間ないんだから始まる前には戻ってきなさいよね」

 

「うん。なるべく早く戻るよ」

 

こうして一輝とアリスはトイレへと向かった。

 

「じゃあヒロト先輩、私たちは映画に行くわね。今日は楽しかったわ」

 

「私もです。面白い話ばかりでしたし」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあ俺はこの辺で…」

 

 

翔人がステラたちから離れようとした瞬間、

 

「――――――――――――ッッ!?」

 

翔人の耳を貫いたのは、何かが爆発するような音と、ガラスの破砕音。

そして―――――銃声と悲鳴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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怒り


クリスマス…?


「ふぅ。どうやら行ったようね」

 

敵が遠くへ去ったことを確認すると、アリスはふぅっと息を吐く。

 

「ありがとう。助かったよ」

 

一輝はそう告げると、自分たちの置かれた状況の整理を試みる。

 

「…何者なんだ。彼らは」

 

解放軍(リベリオン)

 

「!?」

 

アリスの迷いのない言葉に、一輝は目を見開く。

 

解放軍(リベリオン)。それはこの世で最も知られた犯罪組織の名称だ。

彼らは伐刀者(ブレイザー)を『選ばれた新人類』とし、それ以外の人間を『下等人類』と位置づけ、社会構造の破壊をもくろんでいる。

 

「まさかこんなところで世界各国で話題のテロリストと出くわすなんてね。でもどうして彼らが解放軍(リベリオン)だとわかるんだい?」

 

「昔住んでたところで、今日みたいに事件に巻き込まれたの。その時の装備と一緒だったから。…それより珠雫たちが心配ね」

 

「うん。でも翔人さんがいるから安心していいと思うよ。だけどそれよりも先にやらないといけないことがある」

 

一輝は電子生徒手帳を取り出し、理事長である新宮寺黒乃へと連絡をとった。

 

『事態は把握している』

 

黒乃の第一声で、すべての説明の必要は省かれた。

 

「話が早くて助かります。では『黒鉄一輝』『ステラヴァーミリオン』『黒鉄珠雫』『有栖院凪』『斎藤翔人先輩』の5名に敷地外での能力使用を許可してください」

 

『何…?お前たちだけでなく、斎藤もいるのか!?』

 

「はい?先ほどまで一緒に行動してましたけど…」

 

黒乃の驚いた声に反応する一輝だったが、理由が分からないため疑問形になってしまう。

 

『黒鉄…奴らを早急に抑えてくれ。斎藤に暴れられては困る。私でもあいつを止めるのは難しい』

 

黒乃はやや緊張した声で告げた。

それほど翔人は恐ろしいということだろう。

翔人は黒乃の言葉を受け、顔を引き締めた。

 

「もちろんすぐに彼らを抑えるつもりですが…もしものときはお願いします」

 

『もちろんだ。と言ってもできることなんて何もないけどな。斎藤が暴れないことを祈るだけだよ』

 

黒乃はそう言い残すと電話を切る。

 

「アリス、今の会話は聞いてただろう?急ごう!」

 

「お任せあれ」

 

一輝はアリスに手を差し出し、アリスはそれを握りかえす。

瞬間、彼らの影が黒い水となり、二人の身体がどぷんと地面に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらっ!お前たちぐずぐずしないで歩きやがれっ!」

 

翔人、ステラ、珠雫の3人を含めた人質たちはフードコートに集められていた。

人質の数は30人といったところだろう。

逃げ遅れた子連れの親子や小さな子が多い。

また、人質たちはいつ自分が殺されるか恐怖している人もおり、中には泣いている子供も何人か見られた。

そんな彼らを見た翔人は小声でステラ、珠雫の二人に話しかける。

 

『なぁ、二人は人質たちを守ることに集中してくれ。奴らは俺が殺る』

『ちょ、ちょっと待ってよ。相手の数も分からないのに特攻は良くないわ』

『ステラさんの言う通りです。今は彼らが全員集まるのを待ちましょう。人質の数が多いんですから』

 

2人のその言葉に翔人は、仕方なく賛同しようとする。

が、その瞬間誰も予想しなかった思わぬ方向に事態は進行する。

 

「お母さんをいじめるなぁーっ!」

 

「「「ッ!!」」」

 

突如、人質の小学生くらいの少年が解放軍(リベリオン)の1人に襲い掛かったのだ。

まずいっ!と思うも少年を助けるには遠い位置にいる。

少年は雄たけびを上げながら、持っていたアイスクリームを兵士に投げつけた。

兵士のズボンに白い斑が描かれる。

しかし、そんなものに攻撃力などあるはずもない。

ただし、相手を激昂させる効果は十二分にありすぎた。

 

「こんのガキがぁぁぁぁ!!」

 

兵士は激怒し、自分の腰ほどにも身長のない少年の顔に容赦なく蹴りを見舞う。

しかし、兵士の蹴りは空を切った。

 

「へっ?」

 

兵士はなぜ目の前にいた少年がいなくなったのか分からず、変な声が出た。

それは人質たち…ステラや珠雫も同様だ。

そんな彼らなど知ってか知らずか、兵士の後ろから声が聞こえた。

 

 

「よくやった、坊主。お前はお母さんを守るために勇気を出したんだよな。えらかったぞ。…でもあんな危ないこと、もうしちゃダメだ。もしお前が怪我をしたら悲しむのはお前のお母さんなんだから…」

 

 

翔人は少年の頭をくしゃくしゃと撫でながら、優しく告げる。

 

「うん!ありがとうお兄ちゃん!」

 

そんな光景を唖然とした顔で眺める兵士や人質たち。

そんな中、翔人が少年の母親に声をかける。

 

「お母さんしっかりと子供は見てないとだめですよ。いくらお腹に赤ちゃんがいるからと言ってもね」

 

「は、はい。この子を救っていただいて本当にありがとうございます」

 

少年の母親はそう告げると、涙を目尻に溜めながら翔人に何度も頭を下げる。

しかし、そんな様子を見ていた兵士が黙っているはずもない。

 

「オイてめぇ何しやがるっ!このクソガキは俺の服にアイスぶつけやがったんだ!ぶっ殺さないと気が済まねぇ!!」

 

翔人と少年を交互に見ながら兵士は大声で告げる。

母親は恐怖していたが、翔人に言われたこともあり今度は少年を守るように抱きしめていた。

そんな兵士のセリフに翔人は顔から表情を消して話し始めた。

 

「そうか…じゃあ俺がアイスの痕をなくしてやるよ。…お前の血でな。来い銀翼の双剣(シルバースレイブ)

 

「えっ?」

 

翔人が小さくつぶやいた瞬間、兵士は目の前に信じられないものを見た。

それは血しぶきをまき散らしながら飛ぶ、自分の両腕。

 

「ぎゃぁぁ!!うで、俺の腕がぁぁ!!テメェよくも―――――――」

 

「だまれ」

 

「ッッ…」

 

兵士の雄たけびは翔人の形相を見た瞬間喉の奥へと引っ込んだ。

 

「まだ足りないか?」

 

翔人がそう告げた瞬間、今度は兵士の両足が切り落とされた。

 

「ぐぎゃあぁぁぁ!!」

 

「な、何事だ!?」

 

翔人が切った兵士の悲鳴につられ、大勢の兵士がやってくる。

 

「…ちっ。面倒だな」

 

翔人はそうつぶやくと同時に行動を開始する。

 

「えっ?」

 

その場に現れた兵士20人の両腕を先ほどと同じように切り落とす。

もちろん一瞬で。

そんな翔人を見て、最初は悲鳴を上げていた人質たちだったのだが、今はもう言葉も出ないようだ。

ボーっと翔人を眺めることしかできない。

 

 

「ぐぎゃあぁぁぁ!!」

 

翔人が20人ほどの兵士たちの腕を切り落として数秒、やっと切られたことに気が付いたのか奇声を上げ始める。

 

「…フンッ。クズ共め」

 

翔人がそう嘆くと、ステラと珠雫が翔人の元へと近づき恐る恐る話しかける。

 

「ひ、ヒロト先輩…さすがにちょっとやりすぎじゃないかしら?」

 

「そうか?命があるだけでもありがたいと思ってもらいたいけどな。IPS再生槽(カプセル)を使えばどうせ治るんだし」

 

「それにしても私には何をしたか、まったくわかりませんでした」

 

「私も全く見えなかったわ…なんなのよあれ」

 

翔人の剣技を見たステラと珠雫は、翔人へ尋ねるが、

 

「そんなことより先にやることがあるだろ。ここにいるやつらがすべてじゃないんだ。さっさと全員つぶすぞ」

 

「そ、そうね!見たところここにいる兵士たちは非伐刀者みたいだし、伐刀者の親玉がいるはずよ」

 

「そ、そうですね。なら早めにお兄様やアリスと合流したいところですね」

 

翔人の言葉に少なくない恐怖を覚えた2人はそう告げる。

翔人はただいま激怒中なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだかすごいことになってるね…少し遅かったみたいだ」

 

「みたいね。でも人質に怪我人はいないし、向こうに死人もいないんだからまだましな方じゃない?」

 

そこへ一輝とアリスがやってくる。

 

「おう、2人とも無事だったみたいだな」

 

「はい。それよりも先に残りの賊を――――――」

 

 

「な、なんじゃこりゃあぁぁ!?」

 

一輝が翔人に話しかけている最中に、割り込む声があった。

翔人たちが声の聞こえた方へと視線を向けると、そこには10人ほどの武装した集団が歩いているところだった。

中央にいるリーダー格の男らしき人物が半狂乱のまま翔人たちに話しかける。

 

「お前らか!?こいつらをこんなにしたやつは!」

 

「だったらなんだ?もしかしてお前がこいつらのリーダーか?」

 

「そうだ!私の名はビショウ―――」

 

ビショウと名乗る男が自分の言葉を言い終わる前に、翔人は無表情で彼とその周りの兵士の両腕を切り落とした。

 

「ぐぎゃあぁぁぁ!!」

 

(な、何なんだ今の攻撃スピードは!?全く剣筋が見えなかった…。それに僕は翔人さんが隣からいなくなったことにすら気が付いていなかったし…)

 

ビショウが悲鳴を上げる中、一輝は翔人の動きを見て思考を巡らせていた。

 

(これで能力を使ってないなんてチートもいいところだ…)

 

そんな一輝のことなど知らず、翔人は

 

「お前らはそのセリフ以外言えないのか?」

 

と、呆れた声でビショウへと告げる。

しかし、その問いに答えられるものはいなかった。

ビショウを含め、全員気絶していたためである。

そんな中、答えを期待していなかった翔人が一輝たちに声をかけた。

 

 

「なぁ、誰か治癒って使えるか?」

 

「あっ、はい。それなら珠雫が使えたはずです」

 

一輝はそう告げると珠雫の方を向いた。

 

「は、はい。もちろんできますけど、どうかしたんですか?斎藤先輩が先ほどの戦闘で傷を受けたとは思えませんけど…」

 

やや緊張しながら珠雫は告げる。

そんな珠雫に翔人は首を横に振った。

 

「いや、俺じゃなくてやつら」

 

翔人は解放軍(リベリオン)を指さす。

伐ってから出血が酷いことに気が付き、流石に放置しておくわけにはいかないとでも思ったのだろう。

 

「止血だけでいいぞ。まぁ嫌ならやんなくてもいいけどさ。別にあんなやつら死んでも構わないし」

 

「…わかりました。死なれたら面倒ですし」

 

 

「動くなぁぁぁ!!!」

 

「「「「ッッッッ!!」」」」

 

 

珠雫が彼らの元へと向かおうと踏み出すと、フードコート内に怒声が響いた。

 






翔人の剣は二刀流です!
各剣の名前はもう少し先で出ます!


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久しぶりの再会

突然の怒声、それはあろうことか人質たちの中から響いてきた。

翔人たちはいっせいに振り返り、そして見る。

人質の中に紛れ込んでいた女性が、中年女性のこめかみに拳銃を突きつけている光景を。

 

「た、たすけてぇぇぇぇ!」

 

「お前たち動くな!動くとこのババァの頭をぶっ飛ばす!」

 

「しまった!人質の中に紛れていたのか」

 

「………」

 

一輝がそう叫び驚ぶ。

しかし、翔人は無表情で彼女を見ていた。

 

「おいそこのゴスロリの「今なら殺さずにしておいてやる」」

 

解放軍の女性が珠雫に話しかけるが、翔人が口を挟む。

 

「あ?」

 

「聞こえなかったのか?今その女性を放せば命だけは助けてやると言ったんだ。もし放さなかったらどうなるか…俺だってそう簡単に人を殺したくはないんだ」

 

「ハッハッハ、お前何言ってるんだ?今、この状況で私がお前たちに劣ることなんて何一つないんだよっ!!」

 

そう告げられると一輝、ステラ、珠雫、アリスの4人は歯ぎしりする。

いかんせん、事実だからだ

しかし、そんな中翔人はある者がこちらへ近づいてくることに気づいていた。

 

「お前は本当にこの状況を理解しているのか?後ろを見てみろ」

 

「はっ!そんな手に乗るかってん…うぁぁぁ!」

 

「だから言ったのに…」

 

突然キュン、と風鳴りをたてて、何かが彼女へと突き刺さった。

それは、――――――空色の光を放つ魔力の矢。

 

「なに!?一体何が…」

 

突然のことに動揺するステラ。

だが―――、一輝はこの技を知っていた。

翔人は何者かが攻撃しようとしていることが見えていた。

 

「フフフ。やれやれ、結局手を貸す羽目になってしまった。他人の手柄を横取りするようで、嫌だったんだけどねぇ」

 

何もない空間が輝き始める。

そして時間が経つにつれ、その中から一人の少年が姿を見せた。

 

「久しぶりだね、桐原君」

 

桐原静矢。前年度の主席にして、昨年の七星剣舞祭代表の1人だ。

また、彼は元一輝のクラスメイトでもあった。

 

「あぁ、久しぶりだね。黒鉄一輝君」

 

かつての級友との再会に桐原は静かに微笑み、

 

「君、まだ学校にいたんだ」

 

細めた瞼の隙間から、あざけりの視線をよこした。

 

「「っ」」

 

ステラと珠雫の二人が目に見えて不快な表情に変わる。

しかし、翔人は気にしてはいなかった。

 

「桐原く~ん。こわかったよぉ~」

 

ふと、人質の中から何人かの少女たちが駆け出し、一輝たちを突き飛ばして桐原に駆け寄る。

彼女たちは桐原のガールフレンドだった。

 

「不甲斐ない後輩のせいで怖い思いをさせてしまったね。でももう大丈夫だよ」

 

「うん。桐原君が助けてくれるって…「おい」

 

突然翔人が会話に入り込んだ。

 

「ん?何?」

 

「俺お前の後輩じゃなくて先輩なんだけど」

 

「あぁ、それは失礼しました。どうもすいません」

 

何も悪びれる様子もなく告げる桐原だったが、翔人は特に気にしていないようだった。

桐原は知らないのだ。先日の予選の試合を。

翔人は桐原に興味を持っていなかった。隠れてこそこそ攻める伐刀者などに。

故にお互い相手に対して思うところがなかったため、このような会話になった。

と、瞬間翔人は耳元で不自然な風鳴りを感じた。

その風鳴りに翔人は顔をゆがめると、

 

「…まぁいい。じゃあ後は任せるな。俺この後用事できたから」

 

と、告げ1人足早に帰って行ってしまった。

その様子を唖然と見つめる一輝、ステラ、珠雫、アリス。

しかしそんな彼らのもとへアリスが呼んでいた警察が事情聴取をしたい、と申し出てきたので、一輝たちは仕方なくそれに応じてパトカーへと乗り込んだ。

 

 

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一輝たちと別れた後、翔人は街から外れたボロボロなカフェへと来ていた。

そこで一人オレンジジュースを飲んでいると、後ろから声がかかる。

 

「オレンジジュース…ですか。相変わらず苦いものがダメなようですね。」

 

「別にいいじゃないか。それに俺が苦いものが苦手なのはあんたのせいだぞ」

 

翔人はそう告げると、不満を浮かべながら振り返る。

するとそこに立っていたのは困り顔を浮かべたエーデルワイスだった。

 

「あ、あれは確かに悪いとは思っていますが、翔人にだって非はあります」

 

「はぁ〜?俺に非なんてないね。あれは100%エーデルが悪い」

 

翔人の言葉に慌てながらも反論するエーデルワイスだったが、翔人のセリフに顔をさげてしまう。

そんなエーデルワイスを見ながら翔人は笑いながら言葉を続ける。

 

「まぁ別にいいさ。苦いものなんて摂取しなくても生きていくことになんの不便もないし。…それより今日はなんの用なんだ?あんな風で俺を呼び出して」

 

「別に用というわけではありません。久しぶりにあなたの顔を見たくなったんです」

 

「先月会ったばっかだろ…子離れできない親なのか?」

 

ニヤニヤしながら翔人は告げる。

しかしエーデルワイスの反応は翔人が予想していたものとは違った。

 

「そうですね…そうかもしれません。私にとって家族と呼べるのは翔人だけですから」

 

「きゅ、急に恥ずいこと言うなよ…」

 

「本心ですから」

 

してやったり、と言った笑顔で告げるエーデルワイス。

しかしエーデルワイスが告げたことは紛れもなく事実だ。

翔人にとっては殺された家族より、エーデルワイスと過ごした時間の方が長い。

そしてエーデルワイスにとって家族と呼べる存在ができたのは、翔人が初めてだ。

故に、エーデルワイスが告げたことは本心そのものだった。

しかし親というよりは姉と言った方が正しいのかもしれないが…

 

 

「それより今日は災難でしたね。解放軍(リベリオン)の襲撃に遭うなんて」

 

「まぁ返り討ちにしてやったけど…にしてもムカつくやつらだったな。人質なんて取りやがって…」

 

そう告げると何時ぞやかのようにあたりに殺気をふりまく翔人。

一輝やステラはもちろん、元A級の黒乃や現A級の寧音でさえ恐怖するものであったのだが、目の前の女性は何も怖がってなどいなかった。

むしろ翔人の怒りに悲しんでいるようにすら見える。

 

「彼らはそのようなことしかできないのですから、仕方がありません。今回は人質が全員助かったのだからよかったではありませんか」

 

 

エーデルワイスがそう告げると徐々に翔人の殺気が霧散していった。

 

「確かにそうだな。…あっそう言えば、俺今度の七星剣舞祭に出場することになったから。って言ってもまだ校内予選の段階だけど」

 

怒りのおさまった翔人は、思い出したかのように告げる。

 

「えっ?珍しいですね。翔人がそのような大会に出るなんて。…何か理由でも?」

 

本当に驚いたのだろう。

その顔は驚愕の表情をしていた。

 

「まぁ理由はいくつかあるけど、一番の理由は桜を見つけるためだ」

 

「桜……妹さんですか……」

 

翔人はこれまで誰にも話さなかった、七星剣舞祭に出場する本当の理由をエーデルワイスに話し始める。

翔人にとって、現段階で本心をさらけ出せるのはエーデルワイスただ一人だけなのだから。

 

「あぁ…知っての通り俺は父さんと母さんを殺された。殺した奴はいまだ発見されずに逃走中。そして父さんと母さんと一緒に家にいたはずの桜は行方不明だ。なぜ桜だけが死体がなかったのか…それが俺には分からなかったんだ」

 

声こそ小さいものだが、緊張感がカフェ中に広がっていた。

だからエーデルワイスは何も言わず翔人の目を見て先を促す。

 

「今も桜の居場所は分からずじまいだ。…でもきっと桜は生きている。きっと俺の助けを待っているんだ!その桜を助けるために俺は力をつけたといっても過言じゃない」

 

そこで一旦息を吐き、オレンジジュースを口に含む。

そしてさらに翔人は続けた。

 

「そこで俺はエーデルに頼んで力をつけた。そして自分の力に絶対の自信を持つまでは力を隠すことを決めた。桜を攫ったやつに目をつけられても面倒だしな。…そして今年、俺は自分の力に絶対の自信を持つことが出来た。決め手は世界時計(ワールドクロック)との模擬戦だ」

 

世界時計(ワールドクロック)と戦ったのですか!?」

 

翔人の言葉にエーデルワイスは目を見開いて尋ねる。

 

「あぁ。模擬戦だから幻想形態でだけどな。…そして結果は俺の完勝。彼女は俺に触れることすらできなかったよ」

 

「…………」

 

「そうして俺は自分の強さを確認することが出来た。そして思ったんだ。高校最後の年、そろそろ動こう!って。桜が今どこで何をしているのかは分からない。でも必ず見つけて連れて帰る。それが俺の願いだ!!」

 

 

翔人の話を聞いた時、エーデルワイスは心が嬉しさでいっぱいになった。

ついに翔人が前を向き始めたのだと。

今までの翔人は過去ばかり振り返っている節があった。

と言ってもそれはしょうがないことだ。

学校に通う年にもなっていなかった少年が両親を殺されれば。

だからこそ、エーデルワイスは翔人が自身で復活するのを待った。

前を向くために必要なことを。

そして翔人はようやくそれを行動で示すと告げた。

それも復讐ではなく、救うと。

故に、エーデルワイスにとってこれほど嬉しいことはなかった。

 

 

「そうですか…でも焦ってはダメですよ。地道に探すことできっと道が見えてきます」

 

「それはわかってるよ。俺だってそんな簡単に見つかるとは思っていない。でもなるべく早く見つけたいとは思ってるよ。見つけても助けられる状況になかったらどうしようもないんだし」

 

翔人の力強い言葉を聞いてエーデルワイスはより一層嬉しくなった。

あんなに小さかった少年がここまで成長するものなのかと。

 

「その言葉を聞いて安心しました。…それでは七星剣舞祭には必ず応援に行きますね」

 

「別にこなくてもいいけど…」

 

「いいえ。必ず行きます。翔人の勇姿を見逃すわけには行きません」

 

「そっ…でも人に迷惑かけるなよ?ただでさえエーデルは世界中から恐れられているんだから」

 

「大丈夫です。変なことをするつもりはありませんから。…それより久しぶりに私の相手をしてくれませんか?七星剣舞祭の前に、翔人がどれだけ成長したかこの目で見ておきたいのです。世界時計(ワールドクロック)に勝ったのならそれなりの実力はつけているはず…。私が翔人に与える最後の試練です。…それに今は()。あなたが()()を出せる時間ですし」

 

エーデルワイスの言葉に翔人は一瞬驚いた顔をする。

なぜなら今までエーデルワイスが自分から剣を交えようなんて言い出すことはなかったからだ。

だからこそ、エーデルワイスの言葉は翔人の心に火をつけた。

 

「…いいよ、やろう。後悔してもしらないぞ?」

 

 

翔人がそう告げた瞬間、二人の姿がカフェテリアから消えた。

きっと戦いの場へと向かったのだろう。

 

しかし彼らは忘れてはならない。

テーブルの上に伝表を残したままであるということを………

 

 

 

 

 




年内更新は最後です!
みなさん今年はありがとうございました!
よいお年を!




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対戦相手

あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします^^


「た、ただいま…」

 

翔人はボロボロになった体を引きずりながら寮へと帰ってきた。

カフェテリアでの会話の後、廃墟へと移動した翔人とエーデルワイスは話していた通り、戦った。

それはもう何度も倒れそうになりながらになりながら…

しかしボロボロになったのは翔人だけではない。

エーデルワイスもまた翔人と同じくらいには倒れそうであった。

 

(初めてだな。エーデルにあれほど傷をつけたのは…やっぱり強くなったんだな俺)

 

一方的に傷をつけられることは数え切れないほどあったが、エーデルワイスに今回ほど深い傷を与えたことは今まで一度もなかった、と翔人は心の中で一人思う。

だからこそ今日の戦いは翔人にとって快挙といえることだ。

それを感じたとき翔人は、心がうれしさでいっぱいになった。

それこそ叫びたくなるくらいに。

だから戦いの場であった廃墟を中心に、半径50キロに何も残っていない…戦場跡地のようになってしまった事実に対して、翔人は何も感じていなかった……

というか気づいていなかった。

彼らの戦いは常人では考えられないほどの戦いだ。

故に周りに与える影響も計り知れない。

互いにそれを知っているため人のいない廃墟を選んだのだが、剣を交えることに没頭する2人に廃墟は狭すぎた。

幸い、半径50キロには人が誰もいなかったため大事にはならなかったが、もし誰か人がいれば大惨事になっていたことは間違いないだろう。

 

 

そんなことを知る由もなく、翔人はと言えばリビングへと向かっていた。

エーデルワイスとの戦いで消費したカロリーを補給したいと考えたためだ。

何か食う物ないかな~なんて小さくつぶやきながらリビングのドアを開ける。

するとそこには仁王立ちしている刀華の姿があった。

 

「と、刀華さん?良い子はもう寝てる時間ですよ?」

 

現在時刻深夜1時。

流石に刀華はもう寝てると思っていた翔人は、目の前のことに驚きながらも刀華へ告げる。

対して刀華は明らかに怒っていた。

どれくらいかというと、それはもう怒っていた。

顔が笑っているだけに余計に怖い。

 

 

「ひろくん♪」

 

「は、はい!」

 

刀華の様子にただならぬものを感じた翔人はすぐさま正座し、刀華の言葉に元気よく答える。

姿勢はといえばすぐにでも土下座ができる状態だ。

 

「私に何かいうことない?」

 

「い、言うこと?」

 

刀華の言葉に翔人は必死に頭を動かす。

しかし、エーデルワイスとの戦いのことで頭が一杯で他のことなど考えられるはずもなく、

 

「な、何かあったっけ?」

 

と気まずそうに告げる。

そんな翔人を見た刀華は一つ溜息を吐くと、怒気を沈ませた。

そして呆れるように告げる。

 

「今日解放軍(リベリオン)に襲われたんでしょ?」

 

その言葉に翔人はようやく思い出す。

 

「あぁ…そういえばそんなこともあったな」

 

「そんなことって…。…やっぱ、忘れてたのね」

 

「というかそれがどうかしたのか?もしかして心配してくれたり?刀華なら俺がそんなやつらに何かされることがないことくらいわかりそうだけど」

 

呆れてものも言えない刀華に翔人は質問を投げかける。

 

「まぁそうだけど…。でもそれと関連した話。…直接じゃないけど聞いたわ黒鉄君たちの話。…さすがにやりすぎよ。もう少し手加減してもよかったんじゃないの?」

 

呆れた顔から徐々に真面目な顔になっていく刀華に、翔人もだんだんと状況が読み込めるようになってきた。

つまり刀華はこう言いたいのだ。

『例え解放軍(リベリオン)だとしても、もう少し手加減して拘束できたのではないか?』と。

それを理解した翔人は刀華と同じように真面目な顔で告げる。

 

「確かに手加減してもあの程度の連中、拘束するのはたやすいさ。」

 

「な、なら…「でも」

 

「なるべく早く解決したほうがいいだろ?人質たちだって酷く緊張してたんだから。それに俺ムカついてたしな。あいつらに」

 

「それが本音でしょ…」

 

ジト目で刀華が見てくるが、翔人は取り合わない。

態度もこれ以上は何も言わないと言っている。

それを感じた刀華は、再び溜息をつきながらも話題を変えた。

 

「それよりその傷どうしたの?ひろくんにそんな傷つけるなんて普通じゃないと思うけど」

 

「あぁ。師匠と戦ってたらこうなった」

 

「師匠?…まさかエーデルワイスさん…?」

 

翔人の言葉に恐る恐る尋ねる刀華。

 

「そうだけど?…それにしても今日はすごかったんだぞ?ついに師匠に俺の力を認めさせることが出来たんだ」

 

「へ、へぇ。そうなんだ…」

 

エーデルワイスと聞けば誰もが恐れるべき存在だと言うのに、目の前の少年はそのエーデルワイスと戦ったことを楽しそうに話している。

さらに、世界最強の剣士の名高いエーデルワイスに力を認めさせたということに刀華は驚きを通り越し、最早あきれていた。

 

「それでな「それより時間も遅いんだし寝ない?言っとくけど明日は学校なんだよ?」

 

なおも続けようとした翔人の言葉を遮り、刀華は寝ることを促す。

翔人が話始めたら止まらないことを刀華は知っているためだ。

 

「確かにそうだな。じゃっ寝るか」

 

翔人がそう告げたことにより、刀華は内心安心して布団に入った。

長い話にならずにすんでよかった…と。

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

翔人と刀華は生徒会室で書類を片づけていた。

 

「それにしてもひろくんは、みんなと一緒に黒鉄君の試合見に行かなくてよかったの?」

 

自分の分の書類を片付け終えた刀華は翔人に問う。

 

「いいんだよ。黒鉄が負けるはずがない。相手が俺や刀華でない限りな」

 

「ずいぶんかってるんだね。…でも私もそう思うな」

 

「だろ?俺からしたらあいつが負けると思っている奴らの方が信じられないよ。泡沫しかり、カナタしかりな」

 

「二人は直接黒鉄君の試合を見てないからね。私みたいにステラさんとの模擬戦を見てれば評価は変わったかもよ?それに……私はステラさんとの模擬戦を見たときから彼とは戦いたいと思ってるから」

 

「…そうか」

 

刀華は答えるまでに少し間が空いたことを疑問に思った。

故にその理由を翔人に尋ねる。

 

「どうかしたの?」

 

「…いや、刀華にそこまで思わせるなんて黒鉄もなかなかやるなって思ってさ。刀華がそんなに相手に興味を持つことなんて中々ないだろ?」

 

「そうかな?…でも言われてみればそうかも。幼馴染のひろくんやかなちゃんを除くと確かにあんまりいないかもね」

 

「だろ?…それより話を戻すけど、黒鉄なら大丈夫だろ。まぁ初戦だから緊張してるってのはあるかもしれないけどな」

 

「黒鉄くんの事情を考えるとかなり緊張してるかもしれないね…」

 

去年の一輝を知っている刀華は苦しそうに告げる。

 

「まぁそれは考えられるけど、あいつなら大丈夫だろ。自分の信じた道を真っ直ぐ突き進むことができるやつなんだから」

 

「ふふっ…そうだね」

 

「…なんだよ」

 

「ひろくんも黒鉄くんのこと興味持ってるんだなって思って」

 

「そりゃあまぁな。去年のことを知ってるからあいつには頑張ってほしいって人並み以上には思ってるし」

 

「それだけ?」

 

「…それだけだ」

 

実際には剣を交えてみたいという願望が少しだけあったのだが、今の一輝では相手にならないことを悟っている翔人はそう短く告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2週間後

 

翔人は今日も生徒会で仕事をしていた。

生徒会副会長という立場なのだから、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれないが…

 

「ふぅ~疲れた」

 

「お疲れ様です」

 

翔人が仕事を一通り終えると、タイミングよくカナタがオレンジジュースを持ってくる。

 

「おう、サンキューな」

 

翔人はカナタにお礼を言い、部屋を見渡す。

現在部屋にいるのは翔人、カナタ、恋々、雷の4人だ。

2人ほど欠けていることを疑問に思った翔人はカナタに尋ねる。

 

「カナタ、刀華と泡沫は?」

 

「会長は理事長に呼ばれています。泡沫君はサボりです」

 

「サボり~?」

 

カナタの告げた内容に翔人は不満げに声を出した。

 

「あいつ俺が頑張ってるときにサボりとは…明日お灸を添えないとだな」

 

そんな翔人にカナタは微笑みながら言葉を続ける。

 

「ちなみに新作のゲームを買いに行ったそうです。なんでもス○ブラとかいうゲームだとか」

 

「よし、許そう。でもゲーム内ではボコボコにしよう」

 

自分の意見を180度変えた翔人に苦笑いのカナタ。

そんな会話をしていると、2人の端末が同時になった。

 

1人は翔人。

内容は次の対戦についてだ。

対戦相手が気になったカナタは翔人の端末をのぞき込む。

するとカナタは驚愕する。

なぜならそこに書いてあった名前は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三年Aランク 斎藤翔人 VS 二年Cランク 砕城雷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう先ほどの着信音は翔人と雷のものだったのだ。

カナタが驚いていると、後ろから声が聞こえた。

 

 

「うわぁ…、さいじょーも運がないね。相手がふくかいちょーだなんてさ」

 

「………」

 

 

現在翔人は7戦7勝。そのうえすべて棄権勝ちだ。

対する雷も7戦7勝。学年序列4位なだけはあろう。

しかし、相手はあの翔人だ。勝てるなどとても思えない。

故に恋々は雷のことを運がないといったのだ。

 

だが、恋々にそう言われた雷の目にはギラギラしたものがあった。

そんな雷は恋々には何も言わず、翔人の前へと赴き告げる。

 

「副会長」

 

「…どうした、雷?」

 

翔人が答えるのに少しためらったのは恋々が余計なことを告げたせいだろう。

その眼には申し訳なさがうかがえる。

 

「明日の試合、某は全力で挑みます!だから副会長も真剣に某と戦ってくれぬか」

 

雷の告げたことに一瞬目を見開く翔人。

しかしすぐに挑発的な顔に変わった。

 

「いいのか?後悔するかもしれないぞ?」

 

「覚悟の上」

 

「そうか…分かった。真剣にお前と戦おう。ここまで一度も戦ってないからさすがに暇でな。お前のようなやつがいて助かったよ」

 

そう翔人が告げると生徒会には翔人のプレッシャーが広がった。

翔人にも少し戦いたい気持ちはあったのだろう。

プレッシャーの中に嬉しさが垣間見えたことを、幼馴染のカナタは見逃さなかった。

 

 

 

 

 




次話ついに翔人が力を見せます!!


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流星

戦闘開始!!


『続いては本日第6試合だ!まず不敵な笑みを浮かべながらリングに現れたのは我らが生徒会副会長斎藤翔人選手だぁぁぁ!この大会まで一度も力を見せず、副会長就任時には不信任決議案を出されたほどでした。しかぁし、この大会に出ると分かると破軍学園全員がド肝を抜かれたはず!!なぜなら彼はAランクだったのだから!!破軍学園2人目のAランク騎士です!ここまでは7戦7勝無敗!そのうえすべての試合が相手の棄権負け!無傷だけでなく、まともに試合をせず威圧だけですべての試合を勝ち抜いてきた脅威の3年生だ!!』

 

司会がそう告げると会場のボルテージが一気に最高潮に達する。

入場した翔人はその言葉や周りの雰囲気に苦笑いだ。

 

 

「だがしかぁぁぁし、相手は学園序列第4位城砕き(デストロイヤー)の異名を持つわが校の生徒会役員の一人、Cランク騎士、砕城雷選手だぁぁぁ!これまで斎藤選手と対峙した選手たちとは違い、緊張や気負いは見られません!戦う気満々です!ついに我々は斎藤選手の戦いを生で見ることが出来るのかッ!?」

 

司会はそうは言ったが、翔人がよく雷を見ると少し緊張している様子だった。

 

「雷、戦うんだろ?緊張して実力が出せませんとかなるなよ」

 

「無論。副会長を倒す準備はしっかりできているがゆえ」

 

「そうかい。それは楽しみだ」

 

翔人は雷の言葉に嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッキ、今日本当に来る意味あったの?ヒロト先輩はどうせ今日も戦わないわよ」

 

一輝、ステラ、珠雫、アリスの4人は翔人の試合を見るため第二演習場へ来ていた。

しかし、ステラは不満そうだ。

翔人が一度も戦っていないため、今日も戦わないと思っているのだろう。

誰だって、何度も相手が棄権する試合を見て楽しいとは思わないから当然と言えば当然である。

 

 

「大丈夫だよステラ。きっと今日の翔人さんは戦う」

 

「何で言い切れるの?」

 

「実況の人も言ってたけど、今日の相手は同じ生徒会の砕城さんだ。砕城さんの性格から考えて、翔人さんに真剣に戦うように頼んでるんじゃないかと僕は考えている」

 

「あっ、お兄様!」

 

一輝がそう告げると、珠雫が声をあげた。

どうしたのだろうと思った一輝は、ステラからリングへと視線を変える。

 

「ッッ!!」

 

するとそこには固有霊装(デバイス)を顕現した翔人が立っていた。

 

『おぉぉぉっと!ついに斎藤選手が固有霊装(デバイス)を顕現したぞ!!やはり生徒会メンバーには力を出さずに勝てないと見たか!?そして、ついに我々は彼の力を見ることが出来ます!!Aランク騎士の実力のほどはいかに!!!』

 

「一輝の言った通りねって…って、あれ?ヒロト先輩って二刀流じゃなかった?」

 

ステラたちは一度翔人の固有霊装(デバイス)を見たことがある。

記憶にも新しいショッピングモールの事件の際だ。

その時翔人が使っていた固有霊装(デバイス)は確かに二刀流だった。

しかしリングに立っている翔人は一本の剣しか構えていない。

 

「こっちが本来の実力なのかしら?」

 

ステラ同様疑問に思ったアリスは一輝に尋ねる。

 

「いや…それはないだろう。一刀流の剣士が二刀流をやる道理がない。逆は考えられるけどね」

 

「つまり手を抜いているってことですか?」

 

一輝の言葉に珠雫が尋ねる。

 

「いや…それはどうだろう。翔人さんの目は決して手を抜いているようには見えない。真剣そのものだ」

 

「だったらどうして…」

 

「きっと二刀流を使うには何か理由が必要なんじゃないかな?それか今回は一刀流を使う理由があったとか。………詳しくは分からないけどね」

 

「なるほど……でもついにヒロト先輩の戦いが見れるのね!私テンション上がってきちゃった!」

 

「僕もだよ。こんな胸の高鳴りは久しぶりだ」

 

そう一輝が告げると、それぞれがステージ中央に視線を集中させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Let's go ahead

 

 

 

 

 

 

 

その言葉と共に試合がスタートする。

試合が始まると真っ先に動いたのは雷だ。

しかし足が動いたのではない。

頭上で固有霊装(デバイス)である斬馬刀を回転させ始めたのだ。

彼の能力は振り回せば振り回すほどに重くなる、というものである。

限界重量はおおよそ10トン。

翔人と言えど、10トンの重さには耐えきれないというのが雷の考えだ。

しかし不安な点はある。

それは速度。

斬馬刀という武装の性質上、速度は決して速くない。

そのためスピードファイターのような相手だと当たらないのだ。

雷は翔人がどのようなタイプの伐刀者か知らないため、スピードファイターでないことを祈り、このような賭けに出たのだ。

 

が、残念なことに翔人はタイプで言えば、スピードタイプだ。

それも超がつくほどのスピードタイプと言っても過言ではない。

翔人ほどのスピードを出せる相手はおそらく学生の中にはいないだろう。

故に翔人にとって雷の攻撃をかわすことなど、五感を奪われてもできる。

だが、彼のとった行動は雷が予想したどれとも合わなかった。

なぜなら試合開始の合図の後、翔人は一歩も動いていなかったのだ。

そんな翔人に雷は怒った様子で告げる。

 

「副会長!某は真剣に戦うようにお願いしたはず!!某を侮辱するつもりか!!」

 

「いやいや。勘違いだぜそれは。俺は至って真剣だ。俺は全力のお前を待ってるんだから。…お前こそ忘れたのか?お前は俺に『某は全力で挑みます!』って言ったろ?だったらお前が全力になるまで待つしかないだろ?先輩としては」

 

翔人がそう告げると、雷はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「そんな細い剣で何ができるものか!某の能力を知ってなお限界までチャージさせてしまったことは副会長の落ち度だ!」

 

吠えるように告げて、雷は斬馬刀を翔人に打ち下ろす。

 

「クレッシェンドアックス!!」

 

「おーおー、やっとか。待ちわびたぞ?まぁ確かに普通の人にとっては10トンは重いと感じるかもしれないな…」

 

ガキィン!と振り下ろしたクレッシェンドアックスが翔人の右剣によって受けられた。

 

「な、なにいぃぃ!?」

 

自分の剣が受けられた。

その事実に雷は目を見開き驚愕する。

そう。雷は知らない。

彼の強さを。

 

「でも、俺にとっては10トンなんて重さのうちに入んないんだよ」

 

自身の一撃が無力化され唖然としている雷に、翔人はさらに告げる。

 

「覚えておけ、雷。この世には力も、異能も、小細工も、すべてをねじ伏せるやつがいるんだ。それが俺たちAランク騎士なんだよ。…それはそうとお前は全力を出したんだ。俺もそれに応えるためにちょっとばかし力を出すぞ」

 

翔人がそう告げた瞬間、雷や会場の生徒は信じられないものを目にすることになる。

それは光。

空から雷目がけて光が飛んでくる。

 

「≪流星(ミーティア)≫」

 

翔人がそう告げた瞬間、雷の身体に光がぶつかり、彼の身体は砲弾のような勢いで吹き飛ばされた。

そしてそのまま観客席したの壁面に衝突。そこを粉砕してもなお止まらず、壁を壊しながら雷の身体は会場の外側までふっ飛ばされた。

そして、会場の外までふっ飛ばされた雷はぴくりとも動かない。

 

『さ、砕城選手大丈夫でしょうか…?現在レフェリーが判断しに行っていますので、皆さま少々お待ちください』

 

実況はそう告げるが、翔人は自分の勝ちを確信していた。

なぜならこの流星(ミーティア)を耐えきったものは過去3人しかいないのだから。

彼らに遠く及ばない雷が耐えきれるはずがない…

と、翔人が思ったところで実況が再び話し始める。

 

『レフェリーが戻ってきました。……おおっと!審判の腕がクロスされました!!よって勝者は斎藤翔人選手だぁ!!』

 

事実を確認したレフェリーの腕があがったことで、この戦いの勝者が決定した。

勝者が告げられると会場のボルテージは一気に最高になる。

 

『あ、圧勝ぉぉぉぉ!!砕城選手の全力の一撃を真正面からねじ伏せ、ものすごい威力の攻撃を放った斎藤選手!!これがAランク!強い、強すぎる!!彼なら長らく七星の頂から遠ざかっていた破軍学園に七星剣王の栄冠をもららしてくれるかもしれませんッ!』

 

興奮する実況と観客の歓声にまたもや苦笑いしつつ、翔人はリングをゆっくりと去っていった。

 

 

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「か、かいちょう…副会長の使った技って何なんです?」

 

翔人がリングを去った後、恋々は刀華に尋ねる。

恋々は相性で彼に勝つことができるが、それでも雷の学園序列は4位。

簡単に負けるはずがないのだ。

故に目の前で起こったことが信じられない彼女は質問したのだ。

 

「…私もわからないわ。私もひろくんの伐刀絶技を見るのは初めてだもの…」

 

「えっ?でも会長は昔副会長と戦ったことがあるんじゃ…?」

 

「そうよ。でもひろくんは剣技だけで私を圧倒していたから、一度も伐刀絶技は使わなかったのよ」

 

そう。

刀華は過去何度か翔人と戦う機会があったのだが、自身の伐刀絶技≪雷切≫をもってしても翔人に勝つことはできなかった。

剣技だけで圧倒できるのに伐刀絶技をわざわざ使うはずもない。

それにもともと面倒臭がりなのも加わって、翔人は伐刀絶技を一度も使わなかったのだ。

 

 

「そうですね…私も翔人君の伐刀絶技を見るのは初めてです」

 

「もちろん僕もだよ」

 

刀華に続きそう答えるカナタと泡沫。

そんな3年生を前に恋々は言葉を失い何も言うことができなかった。

そんな中刀華がつぶやく。

 

「それにしても優しいね、ひろくんは」

 

「えっ?どこに優しい要素があったの?」

 

刀華の言ったセリフに疑問を覚えた恋々は刀華に質問する。

会場外まで吹き飛ばしておいて、優しいなんてとても言えないと思ったからだ。

 

「兎丸さんは気がつかなかった?ひろくん攻撃する前に固有霊装を幻想形態にして攻撃したことを」

 

「えっ…!?」

 

「砕城君に怪我はさせたくなかったのかな?でも幻想形態であれじゃぁ…」

 

その言葉に恋々は驚き何も言うことが出来なかった。

しかし、会場外で倒れている雷に対しては

(幻想形態でよかったね…)

と心の底から思った。

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

「どうだいステラ?同じAランクとして翔人さんの力は」

 

翔人の試合を見終わり、寮へと帰る最中一輝はステラに尋ねる。

 

「…同じAランクであることに疑問を感じるわ。あんなの見せられちゃ…ね」

 

ステラは翔人の強さを見て戦慄していた。

そして今の自分ではどんな手を使っても倒せないと感じていた。

 

「七星の頂に辿りつくための最大の敵は校内にしかいないのかしら…」

 

 

一輝はそう告げたステラに苦笑いしつつも答える。

 

「そうかもしれないね…」

 

と。

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

「なぁ寧音。先ほどの技はお前の物とは違うのか?」

 

黒乃は理事長室で寧音と先ほどの試合について議論していた。

 

「全然違うと思うよ。私の覇道天星は大気圏外のスペースデブリ…宇宙ゴミを重力の力で引っ張ってきて第二次宇宙速度でたたきつけるってものだけど、ひろ坊のさっきの技は自分で作りだした疑似流星を相手にぶつけてた…と思う。最初は私も大気圏外から流星物質を引っ張ってきたんだと思ってたんだけどね」

 

「流星物質?お前のスペースデブリとはどう違うんだ?」

 

黒乃は寧音の話を聞いていて、見知らぬ言葉が出てきたので尋ねる。

彼女でも知らぬことはあるのだ。

 

「簡単に言うと、私のは人工物、流星物質は自然物ってとこかな。似てるっちゃ似てるんだけど、中身は全然違うんだぜ」

 

「そうか…でも何で斎藤の技がその流星物質でないと分かったんだ?」

 

「別に分かってはないよ?でもそりゃあ私の必殺技を簡単に真似されたら私の立場がないじゃん。とは言っても疑似的に作り出す方が圧倒的に難しいんだけど」

 

寧音はそう苦笑い気味に告げる。

しかし寧音が告げていることは不正解だ。

実際には翔人の流星(ミーティア)は剣技の一つなのだから。

それも翔人がもつ伐刀絶技の中で最も威力の低いものだ。

しかしそんなことを知る由もない彼女らはそのまま話を進めていく。

 

「お前でもそんなこと考えてたんだな…」

 

「くーちゃん…それどういう意味?」

 

「そのままの意味だ」

 

その後ギャーギャーと文句をいう寧音を無視し、黒乃は先ほどの映像をより真剣に見直した。

 

「やはり斎藤は全然本気を出していないようだな」

 

「そりゃーそうっしょ。相手にならないやつに全力見せるほどひろ坊はバカじゃない」

 

「まぁそうだろうな。そして校内予選ではもう戦うことはないだろう」

 

「うんうん。そーだね」

 

2人ともわかっていた。

翔人が全力を出していないことを。

だが故に翔人の実力は未知数。

そのことは教師としてはうれしく思う反面、同じ伐刀者としては恐怖を感じていた。

 

「もし黒坊やステラちゃんと当たったら面白くなりそうだね」

 

「…滅多なことを言うな。今の奴らでは斎藤に手も足もでないことは明白だろ?」

 

「くーちゃんは厳しいねぇ。確かに()の2人じゃそうかもしれないね~」

 

「…私は2人がいくら成長したとしても斎藤に敵うとは思えんが」

 

「あれ?くーちゃんはそっち派?」

 

「………一度奴と戦えばわかるさ」

 

黒乃は冷や汗を流しながらそう告げると、たばこに火をつけ、かつての模擬戦へと思考を巡らせた。

 

 

「私としてはひろ坊と戦うなんて勘弁したいけどな~」

 

寧音はそう告げると苦笑いしながら部屋を出て行った。

黒乃はそんな寧音を横目で見ながら、心の中で疑問を浮かべる。

 

(斎藤…お前の本気は一体どれだけのものなんだ…)

 

そんな黒乃の心の中の質問に答えられるものは誰もいなかった。

 

 



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ファミレス

更新遅れて申し訳ないですm(__)m


『あ、おいあれ見ろよ』

 

『生徒会長に副会長か…なんかあの2人が一緒にいると雰囲気があるよなぁ』

 

『そりゃあ去年七星剣舞祭ベスト4の〈雷切〉と今回の予選最恐のダークホース〈流星の剣帝〉だし…』

 

『とりあえず今年の代表はあの2人と誰かだな。他には〈紅の淑女〉(シャルラッハフラウ)や〈紅蓮の皇女〉、〈深海の魔女〉(ローレライ)もいるし、今年は案外すんなり代表が決まるんじゃないか?』

 

『いやいや、お前〈落第騎士〉(ワーストワン)を忘れてるぞ。…でも今年はこんだけ有望者がそろってるんだ。今年は破軍(うち)が勝てるかもしれないな』

 

翔人は刀華と昼食を食べていると、周りから視線を感じていた。

代表選抜もすでに10試合近くを終え、有力選手はだいぶ絞られてくる。

その中でも無敗を続ける選手が注目されるのは当然の成り行きだった。

そして、中でも多くの注目を集めているのは一輝と翔人だった。

どう評価してもFランクにしかなれない劣等生を前に、快進撃を続ける一輝。

10試合以上行われている試合の中で一度以外全て不戦勝の翔人。

そんな彼らの行く末を見たいと思うのは当然と言える。

しかし、多くの学生から注目される方としては迷惑な話であり、

 

「はぁ~またこの話かよ…他に話す話題がないのか?もっとあるだろ話すことなんて。昨日のテレビの話とか面白いゲームの話とか」

 

本日何度目か分からない溜息をつきながらも、翔人は昼食の箸を動かす。

 

「しょうがないよ。毎年のことだし。去年もそうだったでしょ?」

 

「去年までは聴覚をきってたんだよ。うるさいのは嫌いだし、面倒臭いしな。それに去年までは、俺に直接関係なかったから良かったんだよ」

 

「へぇ~。だから去年私が話しかけても無視してたんだ…」

 

翔人の言葉を受け、動かしていた手を止め翔人をジト目でにらむ刀華。

そんな彼女を翔人は一瞥し、

 

「しょうがないだろ…そうでもしなきゃ学校に来なかったかもしれないんだから。俺がそういう人間ってこと刀華なら知ってるだろ?」

 

と告げる。

そんな翔人に睨むのをやめ、呆れたように溜息をつく刀華。

そんな時、2人に話しかける者が現れる。

 

「あれ?翔人くんに東堂さん…?」

 

「おぉ、絢瀬じゃん。久しぶりだな」

 

綾辻絢瀬。

翔人たちと同じ三年生で翔人とは中学からの付き合いだ。

 

「うん、翔人くんも元気にしてるみたいだね。…でも驚いたよ。まさか翔人くんが予選に出てるなんて。去年までまったく興味なかったのに」

 

「それを言うなら絢瀬だって同じだろ?今年は出てるんだから」

 

七星剣舞祭に興味のなかった翔人は一昨年、去年と同じく七星剣舞祭に興味がなかったらしい絢瀬と共にこの時期を過ごしていたのだ。

翔人としてはカナタや刀華など仲の良い友人たちはそろって七星剣舞祭の話で持ちきりだったため、この時期に最も話していた友人の1人である。

 

「まぁね。…今年が最後のチャンスだから」

 

ボソッとつぶやいたことを翔人は聞き逃さなかった。

何のことだ?と翔人は思うも、表情を見るにあまり聞いていいことだとは思わなかったため話題を変えることにする。

 

「それより最近黒鉄のところで指導を受けているらしいじゃないか」

 

翔人がそう告げると顔が真っ赤になる絢瀬。

そして動揺したまま翔人へ告げる。

 

「ち、違うよ!?い、いやそうなんだけど!?え、えっと…」

 

「…まぁ落ち着けよ。別にそういう意味で言ったわけじゃないんだ。ただ以前のお前みたいに悩んでる雰囲気が軽くなった感じがしてな。いい師に会えたんじゃないかと思って」

 

「な、なんだそう言うことか…確かに僕は黒鉄君のところで修業を受けてるよ。彼はすごいんだよ!僕が二年間悩み続けたことをすぐに解決してくれたんだ!」

 

おもちゃをもらった子供のようにはしゃぎながら告げる絢瀬に翔人は微笑む。

 

「へぇ~それはすごいな。まるで剣術博士じゃないか?」

 

「僕もそう思ったんだ!やっぱり黒鉄君にはこの称号が似合うよね…って、あ!そろそろ指導してもらう時間だから僕は行くね」

 

そう言い、手を振りながら絢瀬は翔人の元を去っていった。

そんな絢瀬に手を振り返していると、隣から声がかかる。

 

 

「…ずいぶんと綾辻さんと仲がいいみたいだね」

 

「まぁ中学のころからの付き合いだしな」

 

「(…私の方が付き合い長いのに!)」

 

「なんか言ったか?」

 

「な、何でもないよ!もうっ!ひろくんのバカッ!!」

 

刀華はそう告げると、一人先に食堂を出て行ってしまった。

 

「な、なんだよ刀華のやつ…って、あっ!あいつ伝票残してきやがった!しかも今日に限って無駄に高いもん頼んでるし……」

 

伝票を見ながらそう嘆く翔人。

…鈍感も行き過ぎると救いようがないのである。。

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

「ってことがあったんだよ。酷いと思わないか?」

 

 

放課後ファミレスで翔人は昼間の刀華との出来事をカナタと泡沫に告げていた。

 

「それは翔人が悪い」

 

「私もそう思いますわ」

 

翔人は同意を求めたのだが、帰ってきたのは反対のものだった。

 

「何でだよ~。俺なんかあいつを不機嫌にさせるようなこと言ったか?」

 

翔人がそう告げるも2人は苦笑いだ。

そんな二人の反応に翔人は顔をしかめる。

とその時、ガシャーンと何かが割れる音がした。

急なことに驚いた3人が音のした方を向くと、そこには、

 

「イッキッッッ!!!」

 

「黒鉄君ッ!!」

 

後頭部を殴られて血を流す一輝と、それを心配しているステラと絢瀬がいた。

 

「アハハ、やるぅ」

「さすがクラウド。相変わらずブチギレた野郎だぜ」

「そこにしびれるあこがれるぅ!」

 

髑髏の男を中心とした取り巻きが歓声を上げ、周囲の客が悲鳴を上げ店を去っていく。

その光景を見た翔人は無言で立ち上がり、彼らの元へと行こうとするが、

 

「どこに行くつもり?」

 

泡沫に腕を掴まれ止められる。

 

「どこって決まってるだろ。あいつを殺りに行くんだよ」

 

「せっかく後輩くんたちが我慢してるのに、先輩である君が暴れるっていうの?」

 

「ッ!!」

 

「とりあえずは見守ろうよ。彼らが帰ってくれれば後輩君のけがは僕が直せるんだし」

 

「………」

 

 

「それに、翔人君を止めるのは私たちじゃ無理なんですから暴れられては困ります」

 

翔人が黙っているとカナタが申し訳なさそうに話しかけた。

 

「……分かったよ」

 

そんな泡沫とカナタの説得に渋々翔人は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし翔人にとってやはりと言うべきか、今回の件は看過することはできなかった。

一輝たちに絡んでいたグループが店を出ると同時に翔人も店の外へと向かった。

そんな翔人に泡沫とカナタは溜息をつく。

 

「あーあー。やっぱりこうなっちゃったか」

 

「ええ。でも店の中で暴れなかったことだけは喜ぶべきですね」

 

「確かにね…それじゃあ僕たちは後輩君たちのところへ行こうか」

 

「そうですね」

 

そう告げると2人は一輝の元へと向かった。

 

 

 

 

「アハハ☆いやぁ災難だったね厄難だったね。目に付いた人間、誰彼構わず噛みつくあの狂犬で有名な貪狼学園のエース、〈剣士殺し〉(ソードイーター)倉敷蔵人に絡まれるなんて。…だけど君の判断は正しかったぜ〈落第騎士〉(ワーストワン)

 

「クスクス……まったくその通りです。もしあなたたちまで暴れ始めたら、この場でわたくしが全員取り押さえなくてはならなくなっていたところです」

 

「カナタ、出来もしないこと言うなよ。翔人がいる時点でそんなのは夢物語だろ?」

 

「あらあら、泡沫君は嫌なところをついてきますね」

 

「だってその通りだろ?」

 

そう告げケラケラと笑い始めた泡沫と、クスクス笑っているカナタを見ながらステラは低い声で一輝に尋ねる。

 

「イッキ、こいつら誰?…何者なの?」

 

「翔人さんと同じ破軍学園生徒会の人たちだよ。書記長の御禊泡沫さんと、会計の貴徳原カナタさんだ」

 

「ッ!!」

 

一輝がそう告げるとステラの方はビクッと震えた。

貴徳原カナタと言えば、〈紅の淑女〉(シャルラッハフラウ)という異名を持ち、抜きんでた戦闘力で実践にて多くの実績を持っていることで有名であり、ステラもそれを知っていたためだ。

 

「どうやら名乗る必要はないみたいだね。…それより傷を見せてくれるかい?手当てしてあげるよ」

 

「いや、これくらい自分で」

 

「いいから、いいから♪」

 

言うと、泡沫は優しく一輝の傷に触れすべての傷を一瞬で直した。

 

「なっ…」

 

「よし、後輩君の怪我も治したことだし、翔人を迎えに行こうか、カナタ。あんまり暴れられても面倒だし」

 

「そうですね泡沫君」

 

一輝が治癒に驚くが、そんなことを気にせず泡沫とカナタはその場を後にしようとする。

しかし、その瞬間一輝はあることに気が付いた。

そこで治癒のことは一旦頭の外に追いやり泡沫へと質問する。

 

「す、すみません。先ほど翔人さんがどうこうと言ってましたけど、翔人さんもこの場にいたんですか?」

 

そんな一輝のセリフに苦笑いしながらも泡沫は答えた。

 

「うん、そうだよ。君が殴られた瞬間すぐに剣士殺し(ソードイーター)を殺ろうとしてたから、頑張って止めてたんだけど、彼らが外に出るとすぐに翔人も後を追って行っちゃったよ。…まったくこれじゃ後輩に示しがつかないってことがどうしてわからないかな、翔人は」

 

「話はそれくらいにしてそろそろ行きませんか?死体が出る前に行かないと後々問題になりますよ?」

 

「そうだね。じゃあ君たちも夜遊びは程々にね」

 

そう告げると、今度こそ泡沫とカナタはその場を後にした。

2人が去ったあと、窓から差し込む黄昏を見て、一輝は疲れを吐き出すような溜息をついた。

 

(なんか今の一瞬で大物ばかりに出会った気がするよ………でも翔人さんが戦うところは見に行きたかったな)

 

と、さらに一輝はこの場で顔を合わせることのなかった翔人のことを思いながらもう一度溜息をついた。

 

 

 




ちょっと時系列いじってます


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剣士殺し

「おい待てよお前ら」

 

翔人は店を出てすぐに蔵人に声をかけた。

 

「あぁん?何だてめぇは」

 

「雑魚に用はない。俺が用があるのは真ん中の髑髏野郎だ」

 

蔵人に話しかけた翔人だったが、周りの取り巻きたちが答えたため翔人は不機嫌そうに吐き捨てる。

 

「何だと!?やんのかてめぇ「待て」」

 

取り巻きたちが翔人に絡もうとするが、それを蔵人は止める。

 

「…テメェ、剣客か?」

 

「あぁ」

 

「そうか…破軍の制服を着てるってことはさっきの奴らの知り合いか?」

 

「その通りだ。よくも俺の後輩を傷つけてくれたな。あの場では抑えていたが、もう我慢できん。…来い、流星の右剣(コメットブレイド)

 

翔人がそう告げ固有霊装を取り出した瞬間、蔵人の取り巻きたちが声も出さずに倒れた。

 

「何ッ!?」

 

「雑魚は片づけた。やるぞ、持ってんだろ霊装を!…俺の後輩が受けた屈辱は返させてもらう」

 

蔵人は驚いていた。

自分では彼が何をしたか全く見えなかった。

気がついたら仲間たちが倒れていたのだ。

驚かないほうが異常だ。

普通の人間だったらここで怖気づくかもしれない。

しかし彼は倉敷蔵人。

昨年七星剣舞祭ベスト8がこんな所で怖気づくはずがなかった。

 

 

「ハハッ。お前おもしろいやつだな。………大蛇丸!」

 

告げて、蔵人は己の固有霊装である≪大蛇丸≫を顕現させる。

 

「面白そうな固有霊装だな。…だが一瞬で終わらせてやる」

 

翔人がそう告げ構えると、向かい合う蔵人は身の毛が凍るような感覚を覚える。

――――なるほど。こいつは過去に会ったどんな剣客よりも強い。

 

(やっぱ剣客はいい。能力にかまけたバカとは向かい合う緊張感が雲泥の差だ)

 

彼は感じる。

こんな感覚これから先2度と味わえないかもしれない、と。

その興奮に蔵人はうなるように喉を鳴らし、

 

「じゃあ、――――行くぜ!!」

 

叫びながら翔人に斬りかかった。

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

まず仕掛けたのは蔵人だ。

風を鳴らして右手一本で野太刀を振るう。

とは言っても隙だらけ、粗だらけな雑な剣術で。

そんな剣を受けながら翔人は、

 

(へぇ。なかなかやるじゃないか)

 

と感じていた。

確かに彼の振るう剣は隙だらけで、粗だらけな雑な剣術かもしれない。

しかし、それでいて彼の剣は強かった。

パワー、スピード共に最高クラスだ。

 

(だけど、その程度か…)

 

しかし相手はあの翔人だ。

最高クラス()()では相手にならない。

翔人は蔵人の剣を難なく受けながら隙を探す。

そして何合か撃ちあった後、隙を見つけた翔人は自身の剣を一閃振るう。

蔵人はその剣を避けようとするが、

 

(見えねぇ!?)

 

と心の中で叫び、後ろへと身体を飛ばす。

その刹那、蔵人の鼻先の大気が裂けた。

 

(もし神速反射(マージナルカウンター)がなかったら斬られていた…!何なんだこのキレとスピードは!?能力なのか…?それともただ斬っただけ…?)

 

蔵人は自身の神速反射をもってしても避けるのが精いっぱいだと思い知らされる。

しかし、そんなことを思っている蔵人に翔人は称賛を送った。

 

「よく今のを避けたな。避けてなかったら首が飛んでたぜ?それにしても速い反射神経だ。…0.05秒ってとこか」

 

翔人のその言葉に蔵人は驚く。

初見で神速反射(マージナルカウンター)を見破られたことなどなかったからだ。

しかし、そんな驚きを隠すように、

 

「ハハッ…。よく言うぜ…お前はそれ以上に速いくせによ」

 

と蔵人は告げる。

 

「…まぁな。次は外さないから覚悟しろ」

 

翔人はそう告げ、無音で蔵人の元へと迫る。

無音――――

戦いにおいて音が聞こえないことは異常だ。

どんな優れた者でも剣を振るう際や動く際に小さな音は出すものだ。

そしてそれは目の前の奴も例外ではない、と思っていた蔵人にとってこれは初めて味わう感覚だった。

 

「ッッッ!!」

 

目の前に近づかれたことに驚く蔵人であったが、すでに時は遅し。

彗星のごとく繰り出される斬撃に蔵人は何もすることができなかった。いや、何もさせてもらえなかったと言った方が正しいかもしれない。

蔵人の身体が翔人の剣に斬り刻まれる。

 

(音がしねぇ…それに早い上に重い。自分のどんな技よりもはるかに…)

 

蔵人がそんなことを思っている間にも翔人の斬撃は蔵人を襲う。

繰り出すは瞬間五十連撃。

一つ、二つ、三つ―――――

翔人は手を休めることなく蔵人を斬り続けた。

そんな見えもせず音もしない翔人の斬撃に対抗できる術もなく、蔵人はひたすら翔人の攻撃を生身で受け続けた。

そして五十連撃目を繰り出した後………蔵人の意識は消えかけていた。

 

 

(こんなものか…)

 

自身の攻撃を終え、翔人は傾き倒れかけた蔵人を見て思う。

時間にして20秒。

翔人の圧倒的強さで勝負はついた、と翔人は確信していた。

 

「もう終わりか?」

 

翔人は面倒くさそうに告げ、蔵人から視線を切り、その場を後にしようとした。

しかし次の瞬間…

 

「―――――ッ、アアアアア!!」

 

蔵人が咆哮を上げながら、倒れかけていた身体を支える。

ドバドバとおびただしい量の血が彼の足元に広い血だまりを作るが、それでも彼は膝を折らずに踏みとどまる。

 

(あれを食らってまだ倒れないか…)

 

呆れや面倒くさそうな顔から一転、翔人は楽しそうな顔になり、

 

「やるな」

 

と一言告げる。

翔人のその言葉に蔵人は血で赤く染まった瞳で睨む。

しかしその眼にすでに戦意は感じられなかった。

 

「……お前名前は?」

 

「破軍学園生徒会副会長斎藤翔人だ。…お前は?」

 

「……貪狼学園の倉敷蔵人だ」

 

2人の自己紹介が終わると翔人は息を一つ吐き、真剣な表情を浮かべながら質問する。

 

「そうか…なぁ蔵人。何でお前はさっき一輝を傷つけたんだ?剣を交えた俺にはわかる。お前は戦いに紳士な剣客だ。何もあんな場所で騒ぎを起こすことないだろうに」

 

翔人は蔵人に戦意がないことを感じ、固有霊装をしまうと蔵人にそう話しかけた。

対する蔵人も固有霊装をしまい、話し始める。

 

 

「…俺はよ剣客と戦うことが好きなんだ。能力にかまけバカ共とは違う緊張感を味わうことが。あの滾る感じが」

 

「なるほど…まぁその考えは俺にも分からなくもないよ。確かに剣客は別物だと俺も思う。…だから一輝に噛みついたのか?」

 

「あぁ。あいつの気配は普通の奴らと一味違った。だから絡んだんだ。…つっても俺の安い挑発には乗ってこなかったけどな」

 

「まぁあいつは、ここで問題を起こすリスクをしっかり考えていたはずだからな」

 

蔵人の言葉に翔人は頷きながらそう告げる。

一輝と共にした時間は些細なものだが、翔人にだってそのくらいはわかる。

 

「でもあいつとなら後々戦えるかもしれないぞ?」

 

「なに?」

 

「簡単な話だ。蔵人、お前絢瀬と何かあるんだろ?」

 

「………」

 

蔵人は何も言わず黙っている。

しかし翔人は気にした様子もなく一人で話しを進めていく。

 

「言わなくても分かるよ。お前を見る絢瀬の表情は俺が見たことないくらい怖い顔をしていたからな」

 

「………」

 

なおも黙っている蔵人に翔人は苦笑いしながら告げる。

 

「だんまりか…。でも何か理由があるんだろ?紳士な戦闘狂と言っても過言ではないお前のことだ。意味もなくあいつをいじめたりはしないはずだ。…っと話がずれたな。まぁ俺の勘なんだが絢瀬の弔い合戦に一輝はお前の前に現れるだろう。一輝はそういうやつだからな」

 

「すいぶんとあいつを買いかぶってるんだな」

 

「まぁな買いかぶりたくもなるさ。久しぶりだよあれだけ強いって思える相手に会ったのは」

 

翔人はそう告げると小さく笑みを浮かべた。

 

「ッッ!!」

 

そんな翔人に恐怖を覚える蔵人。

しかし無理もない。

翔人が普段校内戦で出している殺気とは違うタイプのプレッシャーなのだから。

翔人がここまでのプレッシャーを出す相手と言えば刀華やカナタくらいのものだろう。

本当の実力者にのみ出すプレッシャー。

それに蔵人は飲み込まれていた。

がすぐに我に返ると蔵人は翔人に質問する。

 

「…にしても斎藤。お前の強さは一体何なんだ?俺をここまで一方的に出来るやつなんて七星剣舞祭にもいねぇぞ」

 

蔵人がこれまで戦ってきたどの剣客より翔人は強かった。

いや、比べるのもおこがましいかもしれない。

もはやレベルが違いすぎる、と蔵人は感じていた。

 

「そうなのか?…やっぱり出るのやめよっかな。出ても良いことなさそうだ。…でも刀華やエーデルとの約束もあるし…」

 

対して翔人は呑気にそんなことを告げる。

蔵人が聞きたいことと少しズレがあるようだ。

だが、蔵人は翔人の告げたセリフの中に興味のある言葉を見つけた。

 

「お前七星剣舞祭に出るのか?」

 

「…あぁ。俺と選抜戦で戦うやつら全員棄権してくんだ。だから自動的に俺が勝っちゃうんだよ。今年から選抜戦だからこのまま行くと出さされることになる…」

 

「出たくないのか?」

 

嫌そうに嘆く翔人に蔵人は疑問を感じた。

これほど強いのに何故?と。

 

「出たくないというか…なんというか…。お前みたいに強者と戦うことに興味でもあればいいんだけど…」

 

そう煮え切らない回答をする翔人に蔵人は告げる。

 

「俺んとこでも選抜戦をやってもらいたいもんだよ…。それはそうと、俺は七星剣舞祭でもう一度お前と戦いたいと思ってるけどな」

 

翔人と剣を交えた時間はたった20秒足らずのものだったが、蔵人にとってその20秒はこれまで戦ってきた相手すべてを足したとしても比べ物にならないくらい充実し濃密されたものだった。

だからこそもう一度あの感覚を味わいたいと蔵人は本気で思っていた。

 

「…まぁ機会があったらな。でもこれだけの差を見せられてよく戦う気になるよな。俺は実力の10%も出してないのに」

 

「ハッ。そんなこと知るかよ。俺はお前と戦いたいそれだけだ」

 

蔵人はそう告げると踵を返し、翔人の元を離れて行った。

倒れそうになる足をなんとか引きずりながら…

 

(俺には理解できないよ…。そこまでお前を戦いへと執着させるものは一体何なんだ…?)

 

蔵人が去ったあと翔人は1人でそう考えていると、

 

「な、何だこれ!?」

 

「あ、あらあら…」

 

後ろから泡沫とカナタが走りながらやってきた。

翔人は2人に気づくと、考えをやめ手を上げながら2人に近づいていった。

 

「おう、一輝の怪我治してやったか?」

 

「う、うん。それは大丈夫だけど…これは何?」

 

そう告げられ翔人は自身の周りに目を向ける。

するとそこには木々は倒され、周囲の電灯や電柱が倒されている光景が目に入った。

そんな光景を目にした翔人はといえば、……苦笑いするほかなかった。

 

「なぁ…これってやばいよな?」

 

「うん。やばいね」

 

「退学かな?」

 

「退学かもしれませんね」

 

そんな二人の言葉に翔人は目を閉じ何かを考える。

何秒か目をつぶる翔人。

そして目を開け顔を上げると、

 

「そんなぁぁぁぁぁ!!!」

 

と、翔人の嘆きが夜の街に響いた。

 

 





退学の危機!?


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雷切

私生活が忙しすぎる………


『≪落第騎士≫貪狼学園のエース≪剣士殺し≫を盤外試合で撃破!』

 

翔人が蔵人と戦ってから数日後、そのような一面の新聞が校内に出回っていた。

この記事が破軍学園にもたらした衝撃はけっして小さなものではなかった。

しかしそれは当然と言える。

相手は他校のエース格。

たとえ盤外試合でもまぐれで勝つことはありえない。

 

(へぇ~。黒鉄のやつ蔵人を倒したのか…)

 

翔人は記事を見ながら笑っていた。

それもそのはず。

自分が認めた伐刀者に後輩が勝ったのだから。

自分と戦ってすぐだったため怪我の影響がなかったとは言えない。

しかし、彼ならばそんなことは言わないだろう。

きっと実力で一輝に負けたのだ、と。

 

「おい、手を休めるな」

 

「は、はい!」

 

しかし、そんな様子を後ろから見ていた女性に翔人は怒られる。

 

「ファミレスの窓ガラス損壊、木々計53本の破壊、電灯28本の破壊、その他もろもろ…こんなことをしておいて一週間の掃除で許してやるんだ。サボるんじゃない」

 

「ほ、ホントに感謝してます!」

 

女性は破軍学園理事長新宮寺黒乃だった。

彼女の言う通り、翔人と蔵人の戦いが周囲にもたらした影響は小さくないものだった。

普通なら退学。良くて停学と言ったところだろう。

しかし、黒乃は七星剣舞祭前に翔人をそんな目に合わせたくなかった。

彼が七星剣舞祭に出ることは彼女にとって最優先事項なのだから。

そんなときカナタが今回の件においてすべて保証してくれると言ってきたのだ。

黒乃や翔人にとってこれ以上のことはなかった。

翔人は泣きながらカナタに抱き着き懇願した。

『一生のお願いだから頼む~!』

と。

黒乃も、

『そうしてくれると私も助かる』

と告げたことにより、この件はカナタがすべてどうにかしてくれたのだ。

 

「しっかり貴徳原にも礼を言っておけよ。彼女には私の比じゃないくらいの恩があるはずだ」

 

「分かってますよ。だから毎日鞄をもったり、ジュースを買ってきたり、靴を磨いたりしてるんですから」

 

「……そうか」

 

翔人の告げた内容に少しやりすぎではないか?と思う黒乃だったが、翔人が気にしていないようなので特に何も言ったりはしなかった。

 

「それでは私は理事長室に帰るが、あと30分しっかりと掃除しろよ」

 

「分かってますよ」

 

そう告げ、黒乃は帰っていった。

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

罰の掃除が終わった次の日、翔人は生徒会室にて優雅にお茶を飲んでいた。

 

「あぁ~仕事を終えた後のお茶はうまいなぁ」

 

「仕事?罰の間違いじゃないの?」

 

「うるさいぞ泡沫。久しぶりにゆっくりしてるんだから邪魔をするんじゃない」

 

「はいはい…」

 

現在生徒会室にいるのは翔人、泡沫、カナタの3人だ。

今日は生徒会に仕事がないため、恋々と雷はすでに帰っている。

そのため翔人はお茶を飲み、泡沫はゲーム、カナタは読書と各々好きなことをしていた。

そんな中翔人が何か気づいたようにカナタに質問する。

 

「なぁカナタ。刀華は?」

 

「会長なら1人で精神統一をしてますよ」

 

「ん?珍しいな。あいつがそんなことをするなんて。…もしかして次の対戦相手が決まったのか?」

 

カナタのセリフに疑問を覚えた翔人はさらにカナタに質問する。

普段彼女は1人で練習することが少ないためだ。

 

「ええ。会長の次の相手は黒鉄珠雫さんです」

 

「………なるほど」

 

カナタのセリフに翔人は納得と言った顔で頷く。

黒鉄珠雫。

今年度次席の優等生だ。

ここまでは全戦全勝。

これまでの試合はすべて圧勝している。

おそらく七星剣舞祭レベルの戦いになることを刀華は想像しているのだろう。

故に1人で集中力を高めている。

 

「試合はいつなんだ?」

 

「明日だよ~」

 

答えたのは泡沫だった。

答える顔には笑みが浮かんでいる。

 

「じゃあ明日は俺も見に行くかな。お前たちも見に行くんだろ?」

 

「当たり前じゃん。こんな面白そうな試合見逃せないよ」

 

「そうですね。2人がどのような戦いをするのかとても楽しみです」

 

「そうだな…」

 

そうして3人は明日の試合を楽しみにしながらその日を過ごした。

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

 

『さぁ、それでは本日の第十二試合の選手を紹介しましょう!青ゲートから姿を見せたのは、今我が校で知らない者はいない注目の騎士・黒鉄一輝選手の妹にして、《紅蓮の皇女》に継ぐ今年度次席入学生!ここまでの戦績は十五戦十五勝無敗!属性優劣も何のその!抜群の魔力制御力を武器に、今日も相手を深海に引きずり込むのか!一年《深海の魔女ローレライ》黒鉄珠雫選手です!!!!』

 

溢れんばかりの歓声。

その中に生徒会メンバーは刀華を除き集まっていた。

 

「やっと会長の本気が見れるのかなぁ?」

 

「どうだろうな。それなりに力は出すだろうけど、本気までは出さないだろ」

 

恋々の質問に翔人は当然と言った感じで告げる。

 

「何で?」

 

「そいつは見てれば分かるさ」

 

 

 

 

『そして赤ゲートより姿を見せるは、我が校の生徒会長にして校内序列最高位!前年度の七星剣舞祭では二年生で準決勝まで駒を進めるという快進撃を見せるも、前年度の七星剣王となった『武曲学園』の諸星選手に敗北し、七星の頂には手が届きませんでした。しかし、彼女は再びこの七星の頂を争う戦いの場に帰ってきました!その手に一年前よりもさらに磨きのかかった未だ不敗の伝家の宝刀をひっさげて!その疾さを前に避けることは叶わず!その鋭さの前に防ぐも叶わず!金色の閃光が今日も瞬く間に相手を切って落とすのか!破軍が誇る最強の雷使い!三年《雷切》東堂刀華選手です!!!」

 

 

刀華が入場すると、先ほどよりも大きな歓声が会場を包んだ。

その刀華を見ると、ピリピリとしたオーラを醸し出していた。

 

「いつもの会長からは想像できないほどの覇気ですな…」

 

「そうだね…ちょっと怖いかも」

 

刀華を見て雷と恋々は各々の意見を述べる。

そんな2人を見ながら泡沫はニヤリと笑いながら告げる。

 

「今大会初めての強敵だからね。刀華も滾ってるんじゃないかな?」

 

泡沫がそう告げると、戦いの始まりを告げるブザーが鳴らされ試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こ、これはどうしたことでしょうか!両者前に出ません!』

 

すでに試合が始まり1分が過ぎようとしていたが、2人はいまだ刃を交えていなかった。

 

「どうして仕掛けないんだろう?」

 

恋々が不思議に思ったのか小さく呟く。

 

「出方をうかがってるんだよ。2人ともBランクというすごい力を持つ騎士だ。黒鉄妹はもちろん、刀華もすでに攻撃を繰り出せる状況にはある。ただ迂闊に攻められないんだよ。何でもむやみやたらにツッコめばいいってものじゃない。そう思わないか恋々?」

 

「むぅ~。黒鉄君との試合のこと言ってるの?副会長は意地悪だね」

 

「もう少し状況を考えろと言ってるんだ。確かにお前の戦闘スタイルなら突っ込むことが正当法かもしれないが、こういう風に相手を見極めるってことも戦いにおいては重要なんだ」

 

「…気を付けます」

 

翔人にそう言われしょぼくれる恋々だったが、その間に試合は動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~。黒鉄妹もよくやるな。あの刀華相手にロングレンジでは互角だ」

 

笑いながら翔人はそう告げる。

彼も珠雫がここまでやるとは思っていなかったのだ。

刀華はクロスレンジにおいて最強だと思われているが、ロングレンジにおいてもそれなりの強さを持っていたから。

 

「でも会長ちょっと押され気味じゃない?」

 

「まぁ普通に見ればそうかもしれないな。…でも刀華は全然力を出してないぞ?」

 

翔人の言葉に恋々と雷は目を見開いて驚く。

 

「それにまだロングレンジでしか戦ってないだろ?あいつにとって本領を発揮できるのはクロスレンジだ。つまりこれまでは七星剣舞祭に向けての勉強をしてたってとこかな。…っとそろそろ刀華が動くぞ」

 

 

翔人がそう告げると同時に刀華は珠雫を斬りつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これはどうしたことでしょう?最初は互角に見えた≪深海の魔女≫と≪雷切≫。しかし今や≪深海の魔女≫は逃げ回るのに精一杯といった様子。一体何故ここまでの優劣がついてしまったのでしょうか?』

 

戸惑う実況者。

そしてそれは観客も同じだった。

そんな中ステラは一輝に尋ねた。

 

「……ねぇイッキ。珠雫、どうしちゃったの?」

 

「どう、とは?」

 

「見てわかるでしょ。突然明らかに相手の動きへの反応が悪くなっているわ」

 

そこで珠雫のルームメイトである有栖院凪も加わる。

 

「ステラちゃんの言うとおりね。会長さんはふつうに動いているだけなのに、それがまるで見えてないみたい」

 

「……たぶんその通りだよ」

 

「え?」

 

「珠雫には本当に見えてないんだ。前に一度、これと同じものを僕も見たことがある」

 

それはデビュー戦の前、一輝は《夜叉姫》西京寧音に会ったことを思い出していた。

 

「あのとき西京先生はいつの間にか目の前まで迫ってきていた。視線は一瞬も切らなかったはずなのに、知らない間に懐を取られていたんだ。たぶん《雷切》が使っているのはそれと同じ体術なんだと思う」

 

「あはは。さっすが黒坊。やっぱり気づいたねぇ…」

 

斜め上から声が降ってくる。一輝がそちらに目をやると、そこには艶やかな着物姿の小柄の女性と、スーツに身を包んだ凛々しい女性がすり鉢状の観客席の階段を下ってきていた。

 

「やっほー。お久しぶり♪」

 

「西京先生に、理事長先生。二人揃ってどうしたのかしら?」

 

「なに、用があるわけじゃない。お前たちの姿が見えたから声をかけただけだ」

 

アリスの問いに理事長・新宮司黒乃が答える。二人はこの試合を観戦に来ただけだ。声をかけたのは一輝たちが興味深い話をしてたからだった。

 

「・・・・ねぇ、ネネ先生。やっぱり気づいたってことはイッキの言ってることは正しいってこと?」

 

ステラの問いに寧音は、頷きをもって肯定する。

 

「黒坊が言ってることは正しいよ。アレは《抜き足》っていう古武術の呼吸法と歩法の組み合わせ技。どーいうもんかというと―――」

 

「………え?」

 

瞬間。ステラと五メートルばかり離れた場所にいたはずの寧音が息がかかるほど至近に現れて、

――――ステラの豊満な胸を下から揉みながら持ち上げた。

 

「ヒッ!!??」

 

「ま、こんな感じ?いやーしかし乳でっけーなおい。しかも超やわらけ~♪」

 

「キャァァァ!な、ななななにするのよ!!」

 

「揉んだらうちのも増えるかなと思って」

 

「増やしたいなら自分の揉みなさいよ!」

 

「揉むほどないんだよバーカ!」

 

「逆切れッ!?」

 

騒ぐ二人を無視し黒乃が一輝に問いかける。

 

「黒鉄。お前ならもう《抜き足》のカラクリは見抜けているんじゃないか?」

 

その問いに一輝は首を縦に振った。

 

「まあ。たぶん同じことをしろと言われればできます」

 

「ねえイッキ、なんなのこの《抜き足》ってのは」

 

その後抜き足について一輝はステラとアリスに説明した。

そしてすべて説明し終わると、

 

「大正解だ。よくわかったな」

 

と黒乃が感心したかのようにうなる。

 

相手に一切悟られずに半歩呼吸と身体をずらすことで、その狭間に滑り込み、意識のロックを外す。

それが古流歩法《抜き足》のカラクリだった。

 

 

「僕はすでに一度この体術を見ていますから「あっ!!」

 

「どうしたんだ、ステラ?」

 

一輝の話の途中でステラが声をあげる。

 

「もしかしてヒロト先輩もその技を使えるの?ほら、入学式の日私と珠雫を止めに入ったとき―――――」

 

 

「確かにそんなこともあったね。確かにあれも…」

 

「いや、それはないだろう」

 

一輝がステラの問いを肯定しようとしたところで黒乃が話をさえぎる。

 

「違うんですか?」

 

一輝は黒乃が告げたことが分からないといった様子で尋ねる。

 

「あいつはそんな技を使うまでもなく速い。つまり止めに入った時のそれは純粋な斎藤自身のスピードだ」

 

「……そうだったんですか」

 

まだ技を使ってると言われた方が納得できただろう。

しかし、純粋なスピードだと言われると一輝ですら驚きを隠せなかった。

そして改めてそんな一輝たちに黒乃は告げる。

 

「だからこれだけは言っておく。お前たち斎藤と当たったらすぐに棄権しろ。あいつの場合、砕城にやったように幻想形態でも命の保証はできん」

 

その言葉にその場にいた3人は固まった。

しかし、黒乃はそんな3人にはっきりと告げた。

 

「幸い今のところは相手が弱い選手ばかりだから力を全然出していないが、もしお前たちのような強者と向かい合ったとき斎藤は間違いなく実力を出すだろうからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『雷光一閃!!斬って落としたァァァァ!!同時にレフェリーが腕を交差ッ!試合終了です!黒鉄選手、善戦を見せましたがやはり前年度ベスト4の壁は厚かったッッ!!Bランク騎士同士の死闘を征したのは我らが生徒会長!≪雷切≫東堂刀華選手ですッ!』

 

実況が勝者の名を告げ、試合の幕が下がる。

 

「やっぱり最後は副会長たちが言うように会長が勝ったね」

 

恋々の言葉に翔人は頷く。

 

「あぁでも黒鉄妹も強かった。何せ刀華にあの雷切を出させたんだからな」

 

翔人はそう告げると、心の中で思う。

 

(さぁ一輝、お前はこれをどう見る?刀華の実力は普通じゃないぞ)

 

と。

 

 

 



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生徒会室にて

ほのぼの回?です


「いや~それにしてもすごかったな刀華たちの試合…っと」

 

カチッ

 

「ホントだね。僕もまさかあそこまで後輩クンが善戦するなんて思ってなかったよっと」

 

カチカチッ

 

「だよな~。…っておいス○ッシュボールは卑怯だろ!」

 

「へへ~ん。知らないよ。取れなかった翔人が悪いんだから」

 

「くそ~…」

 

刀華の試合が終わったあと、生徒会メンバーは生徒会室に戻って各々好きなことをしていた。

翔人と泡沫はス○ブラ。

恋々はそんな2人を見ながら筋トレ。

雷は議事録をまとめ直し、カナタはそんな雷にお茶を準備していた。

 

「僕のク○パは最強だからね」

 

「最強は俺のゼ○ダだ!」

 

「おぉ~二人ともすごいなぁ」

 

と3人がゲームに熱中していると、

 

「な、なにこれーーーーッッ!!」

 

顔を真っ青にしながら悲鳴を上げる刀華がドアの前に立っていた。

 

「あれ~?かいちょー帰ってきたんだー。お帰り~」

 

「アハハ☆刀華はドジだなぁ…って、あっ!翔人ずるいよ!僕がよそ見してる間に倒すなんて」

 

「フフンッ!さっきのお返しだ。見てない方が悪いんだ」

 

「くっ……」

 

刀華の入室に気づいた恋々と泡沫は声をかける。

が、翔人はゲームに集中しているため振り返らない。

何でも、その間に泡沫のキャラを一人倒したようだ。

そんな3人に対し、刀華は眉をきりりと吊り上げて、

 

「も~!!兎丸さん!ダンベル使うたらちゃんと元の場所に戻してっていつも言っちょるばい!それにうたくんも漫画ば読んだらちゃんと本棚に戻して!最後にひろくん!副会長なのになんばこの状況を注意しないとっ!?っていうかこっちを見るばい!!」

 

声を張り上げて怒鳴りつけた。

 

「むむ、かいちょーどうしてこれを散らかしたのがアタシたちだと決めつけるの?冤罪かもしれないよ!」

 

カチカチッ

 

「生徒会で筋トレするのは兎丸さんしかいませんし、漫画を読んで出しっぱなしにするのも、うたくんと貴女しかいないからですよ!ひろくんは普段は頼りになるのにうたくんにそそのかされると周りが見えなくなるし…」

 

カチカチッ

 

「いやー、なんだかんだ新作のゲーム買ったはいいんだけど翔人とやる機会がなくてさー。今日はようやく2人の都合があった日なんだ。でも買ったソフトをどこに置いたか忘れちゃって、部屋中ひっくり返してようやく発掘したんだよ。あぁでも刀華のいない間の仕事は雷とカナタがやってくれたから大丈夫!」

 

カチカチカチッ

 

「なに他人任せにしてドヤってるんですか腹立つ!っていうかいい加減ひろくんは私の方を向くばい!」

 

「会長。興奮しているところ申し訳ないが、さっきから客人がひいておるぞ?」

 

「―――――ハッ!」

 

部屋のあまりの惨状に怒りで我を忘れていた刀華は、はっと入り口に振り返る。

そこにはゴミ屋敷のようになった生徒会室の燦々たる有様を、ちょっと引きつった笑顔で眺める一輝とステラの姿があった。

 

「ちょーっと待っててくださいね~?」

 

刀華は青ざめた顔に愛想笑いを浮かべながら、2人を廊下に押し戻して、ぴしゃりと扉を閉める。

 

「ほら!みんな片づけるの手伝って!2人とももうゲームやめなさい!」

 

「と、刀華!?お前帰ってきてたのか!?」

 

「えっ!?さっきの全スルー!?」

 

「それより刀華…俺と泡沫の真剣勝負をよくも……」

 

「ふ、ふくかちょー!?こんなところで固有霊装出すのはやめて!!危ないから!!」

 

「ひ、ひろくん!?そこまで怒らなくても……」

 

「男の真剣勝負を台無しにしたんだ。…覚悟ッ!!」

 

「ちょ、ちょっと…固有霊装使うなら、あれで部屋を綺麗にしてよ!」

 

「そうです!ひろくんのあれなら部屋を一発で綺麗にできるでしょ!」

 

「刀華ァ…後で覚えておけよ。…まぁいい。客人もいるようだし先にやることやるか。ほらよっ。…って言っても俺のこの能力の用途って本来掃除に使うんじゃないんだけど」

 

「み、みんなこの中にいらないもの突っ込んで!」

 

「ハリー!ハリー!」

 

まるで引っ越しでもしているかのような物音に、生徒会室の窓がガタガタ音を立てて揺れる。

その騒動と騒音を廊下で聞きながら、

 

「トーカさん、大変なのね…」

 

「そうだね…」

 

一輝とステラは刀華に同情していた。

そして待つこと数分、ようやく生徒会室のドアが開かれ、

 

「お、お待たせ、しました。どうぞ中に…」

 

息を切らしながら告げる刀華が2人を中に招き入れた。

 

「あ、はい。お邪魔します」

 

早くも生徒会室に来たことを後悔し始めている一輝は、ステラと一緒に生徒会室へと立ち入る。

そして驚く。

部屋の中が、まるで部屋ごと取り替えたのかと思うほどにキレイになっていたからだ。

先ほどまで散乱していた本はすべて本棚に収納されており、床にはホコリ一つなく磨かれている。

よく数分でここまで片付けたものだと感心する。

(さっき話していた翔人さんのあれって何なんだろう?部屋を片付けるときに役立つ能力らしいけど…)

そんなことを考えながら、一輝たちは勧めるまま、部屋の中心にあるソファーに腰を下ろし、生徒会役員たちと同じテーブルにつく。

 

「クロガネ君。久しぶりー。アタシに勝ってからも快調に勝ち続けてるみたいだね」

 

「はい。なんとか頑張ってます」

 

そのやりとりに追随する形で、カナタがステラに柔和な笑みで挨拶をする。

 

「ステラさんもお久しぶりです。私とはレストランで会って以来ですね」

 

「ええ。まさかこの部屋に呼ばれる日がくるなんて思わなかったけど」

 

カナタの言葉にステラはやや皮肉気にそう告げる。

しかしカナタは大して気にしていないようだった。

 

「貴徳原さん。お二人にお茶をお出ししてください」

 

そんな場に生徒会長である刀華と声が響いた。

 

「はい」

 

「あ、カナタ。僕のもお願い」

 

「カナタ先輩!アタシ、マドレーヌ食べたい!」

 

カナタが席を立ったところで泡沫と恋々がそう告げるが、

 

「悪い子二人は今日のおやつ抜きです」

 

刀華がそう切り捨てる。

 

「な、なんだって!」

 

「ひどいよ刀華!おやつが食べられないんだったら僕たちはなんのために生徒会室にいるのさ!」

 

「生徒会役員だからに決まってるでしょ!?」

 

二人のあんまりの言葉に刀華が悲鳴のような声をあげる。

こんなとき頼りになるのは翔人しかいない!と、恋々、泡沫、刀華の3人は思い一斉に翔人へと振り返る。

そんな3人に翔人は苦笑いしながら答える。

 

「まぁまぁ、落ち着けって3人とも。まず泡沫と恋々。お前たちは部屋をあんなに散らかしたんだから刀華に文句を言うな。次に刀華。おやつを抜くとこいつらがうるさいから許してやってくれ」

 

(ふくかいちょーだって一緒にゲームしてたくせに)

恋々が小さくそうつぶやく。

 

「…何か言ったか恋々?」

 

明らかに笑っていない笑顔でそう尋ねる翔人に恋々が何かを言えるはずもなく、

 

「ううん!何にも言ってないよ!?」

 

と、やや慌てながらもそう告げた。

 

「…恋々、ここは翔人の言う通りにしようよ。従っておけば僕たちに悪いことはないんだからさ」

 

そんな恋々に泡沫は先輩であるかのように恋々をたしなめる。

(事実先輩なのだが………)

 

「そうだね…」

 

と恋々が頷き、話が一段落したところで、ずっと議事録をまとめていた雷が感心した声で刀華へと話しかける。

 

「しかしさすが会長。自身の試合があったというのに仕事が早い。もう例の件の助っ人を見つけてくるとは。それもいい人選だ。その2人ならば、戦力として申し分ない」

 

 

突然、戦力や助っ人などと言われ揃って首を傾げる一輝とステラ。

なんのことだと二人は視線を刀華に向けるも・・

 

「はい?」

 

本人もキョトンとして頭にはてなを浮かべていた。

その反応に雷は困惑を見せた。

 

「む?なんだ違うのか?珍しい客だからてっきりそうかと思っていたんだが…」

 

「雷。なんの話だ?俺も知らないんだけど」

 

刀華が一人考えている間に、翔人は雷に声をかけた。

どうやら翔人にはこの話は言っていなかったようだ。

 

「副会長も知らなかったのか…会長、連絡はしっかりと「あぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

雷が説明をしようとしたところで、刀華が急に青ざめた表情で叫んだ。

 

「あらあら。もしかして本当に忘れていたのですか?私もてっきりそのためにお二人をお連れしたのかと思っていましたのに」

 

「……あぅ、はい。珠雫さんとの試合に集中していて忘れてました……」

 

「だから何の話だよ?」

 

頭を抱えてしょんぼりする刀華を気にせず、翔人はカナタに尋ねる。

 

「先日新宮寺理事長から生徒会に頼み事があったのです。七星剣舞祭の前にいつも代表選手の強化合宿を行っている合宿施設が奥多摩にあるのですけど、最近そこに不審者が出たそうで」

 

「…で?」

 

嫌そうな顔をしながらも、翔人は先をうながす。

 

「そこで一応生徒会の方で安全確認をしてきてほしいと頼まれたのです。先生方は選抜戦の運営で大忙しですから。…ですけど翔人君も知っているように合宿所の敷地は高い山や広い森もあるので、私たちでは人手が足りませんの」

 

「なるほどね。それで助っ人が必要…と。……あのおばさん相変わらず人使いが荒いよな。俺たちは便利屋じゃないっての」

 

文句を言う翔人に苦笑いしながらもカナタは翔人を落ち着かせる。

 

「まぁそんなこと言わないでください。私たちに出来ることは私たちでやりましょうよ」

 

「まぁカナタがそう言うなら…。だけど刀華、その知らせを俺にしていなかった件についてあとでゆっくり話そうな☆」

 

語尾に☆が付いてしまうほど、翔人は笑いながら刀華にそう告げる。

 

「…は、はい………」

 

そんな翔人に刀華は頷くことしかできなかった。

 

 

「まぁ不審者なんて面倒な限りだが、頼まれて引き受けてしまった以上はしょうがない。黒鉄、ヴァーミリオン。一緒に頑張ろうな」

 

「「は、はい」」

 

一輝たちは行くと一言も言っていないのだが、場を仕切っていた翔人によって行くことが決められてしまった。

とは言っても一輝に不満はない。

彼は生徒会が忙しい原因である選抜戦制度で恩恵を受けた身だ

故に彼らに協力することは、むしろ是非にという気分だ。

 

 

こうして翔人たち生徒会メンバーと一輝とステラは、次の週末に奥多摩へ向かうことになったのだった。

 

 

 




翔人の使った能力は後々明らかになります


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源泉

次の日曜日。

生徒会メンバーと一輝、ステラは奥多摩の合宿場へと来ていた。

巨人が出るという噂があるため、その正体を突き止めるためだ。

ステラや恋々はとても乗り気だったが、それ以外のメンバーは面倒…そこまで乗り気ではなかった。

しかし理事長直属の頼みとあらば断わるわけにもいかないということで、全員そろってこの場にきたのだ。

 

奥多摩に着いた翔人たちは取りあえず腹ごしらえをしようということで、刀華を中心に昼食づくりをすることになった。

それぞれ手分けして、刀華の持ってきた具材や合宿場から借り受けた調理器具をキャンプ場まで運ぶ。

 

「ねぇねぇステラちゃん!一緒にバドミントンやろうよ!」

 

そんな中一足先に調理器具を運び終わっていた恋々が、ラケットを片手にステラに呼びかける。

 

「いいわね!でもアタシは強いわよ?」

 

「なにおー!アタシだってフットワークじゃ負けないってのっ!かかってこーい!」

 

「ふふん♪このアタシに勝負を挑んだこと後悔させてあげるわ!」

 

恋々の誘いにノリノリでついていくステラに一輝は、

 

「あ、ステラ……」

 

と呼び止めるも、ステラはすでに走り去ってしまっていた。

 

「やれやれ、今からご飯を作るって話してたのに」

 

溜息をつく一輝に、スーパーの袋一杯の具材を運んできた刀華は優しい笑みを浮かべる。

 

「別にいいですよ。カレーなのでそんなに人数はいらないですし。ステラちゃんや兎丸さん以外にもほら」

 

刀華はそう告げ、近くのベンチで寝ている翔人を指さす。

 

「ひろくんを含めた3人には後片付けをやってもらいましょう」

 

「そうですね」

 

一輝がそう告げると、刀華、泡沫、一輝はそれぞれの作業へと取り掛かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝が自分の仕事を終え、一足先に炊事場を抜けようとしたとき、

 

「ふっふっふ。どうしたんだい後輩クン。刀華の大きいお尻に見とれてたのかな?」

 

刀華を見つめて立ち尽くしていたことを、ご飯を炊いている泡沫に追及された。

 

「い、いえ。ちがいますよ!」

 

一輝はすぐに否定をかぶせる。

 

「そうじゃなくて、…自分でもよく分からないんですが、こう、目を奪われたんですよ。東堂さんが炊事場に立つ姿に。なんていうか、目を逸らしちゃいけない何かがあるように思えて」

 

「へぇ………」

 

一輝の返答に泡沫は興味深そうにうなる。

 

「一目でそれに気づくなんて、後輩クンはやっぱりただモノじゃないね」

 

「どういうことですか?」

 

「あの立ち姿に見逃しちゃいけない何かを感じたんだろう?その感覚は正しいってことだよ。あの姿こそが刀華の核、彼女の強さの源泉みたいなものだからね」

 

「強さの源泉…?」

 

「あぁ、昔から刀華を見てきたボクたちは、それをよく知っている」

 

昔からという言葉や、これまでの会話といい泡沫と刀華の間に何やら古い縁を感じた一輝は、その気づきを率直に口にした。

 

「禊さんは東堂さんを昔からご存じなんですか?」

 

「ん?うん。知ってるよ。何しろボクと刀華は同じ養護施設の出だからね」

 

「え………」

 

 

「貴徳原財団が展開している社会福祉事業の一つ『若葉の家』っていうのがあってね。身寄りのない子どもを引き取って養育してるんだ。ボクと刀華は二人ともその施設にいたんだよ。翔人とカナタも昔からよくその施設に出入りしてたから、その頃からのなじみだね。懐かしいよ」

 

「そう、だったんですか」

 

泡沫はなんでもないようにこのことを話すが、一輝は少しばかり反応に困った。

幼馴染までは予想していたが、同じ施設の出というのは完全に予想外だった。

ことがことだけに、これ以上この話題に触れるべきなのか否か、一輝は計りかねていた。しかし……

 

(・・・・東堂さんの強さの源泉)

 

昔から二人を見ていたという泡沫の言葉に、一輝はとても興味が引かれた。

だから一輝は思い切って尋ねることにした。

 

「あの、よかったら教えてくれませんか。御禊さんの言う彼女の強さの源泉がなんなのかを」

 

その問いに泡沫はしばし黙り込んでから、言葉を紡ぐ。

 

「………後輩クンは養護施設って聞くとどういう場所だと思う?」

 

「身寄りをなくした子どもたちが暮らす施設………ですよね?」

 

「まぁそりゃそうなんだけどさ、でもその『身寄りのなくし方』にもまあ色々あるんだよね。事故や災害で親を亡くした子どもや親に捨てられた子ども………そんなのはまだいいほうで、親や親戚に殺されかけて行政に引き離されたり家出を出た子どもとかも、まあいろいろね」

 

「親族に………ですか」

 

「うん。で、ウチの施設は当時、そんな結構複雑な事情を持った子どもがいたこともあって、まあなんというか、雰囲気が悪くてね。似たような境遇の連中同士で、些細なことで傷つけあったり罵りあったり………みんな苦しんでいたよ。だけどそんな中で刀華はそのみんなのことを笑顔にしようといつも頑張っていた。自分と同じ境遇なのに。小さな子どもに絵本を読んで聞かせてあげたり、院長先生にかわって美味しいご飯を作ってくれたりね。………院長先生はすごく良い人なんだけど、料理だけはもう本当にまずくてたまらなかったからね。あれはもうみんな大喜びだったよ。あはは」

 

「面倒見のいい人だったんですね」

 

「昔からね。それに翔人も同じさ。彼も身よりをなくして辛かったはずなのに…それに施設に入っていたわけでもないのに、施設のみんなを楽しませていたよ。2人とも人の世話を焼かずにはいられないタチなんだ。…その親に殺されかけた奴にしてもそう。そいつはもうともかく手に負えないくらい乱暴で、どうしようもないくらい壊れてて、何度も何度も二人を傷つけたけど、だけど二人は一度だってそいつのことを見捨てなかった。そのおかげで………そいつはもう一度人間に戻れた。人間らしい感情を取り戻すことが出来た。だからそいつは今でも二人に感謝してて、刀華と翔人のことが大好きなんだ」

 

目を伏して訥々と昔の情景を口にする泡沫。

その話口調は所々一人称になっている。

おそらく、……その親に殺されかけた子供というのは泡沫自身のことだろう。

 

 

「そんなそいつがさ、いつか刀華と翔人に尋ねたことがある。どうして2人はそんなに強いのかって。どうしても気になったんだ。刀華も翔人も両親を亡くした自分たちと同じ境遇の、同じ子供のはずなのに、どうして他人にそこまでできるのかが。そしたら刀華は、『自分はたくさん両親に愛してもらった。それは普通の家族に比べたらとても短い時間だったかもしれないけど、たくさんの笑顔と愛情をもらった。その思い出は両親が無くなった今でも自分を支えてくれている。だから自分も、他の子供たちを笑顔にしたい。みんなが支えになるような思い出を作ってあげたい。自分の両親がそうしてくれたように。人を愛することは、両親が自分に教えてくれた大切で大好きなことだから』ってね」

 

そこでいったん息をつき、泡沫は再び話始める。

 

「対して翔人は『俺は強くなんかないさ。確かに俺は両親を殺されたよ。でも今の俺には大切に思っている人がいる。もしその人がいなかったら俺はお前と同じようになっていたかもしれない。だからお前も大切に思う人を探すんだ。そんな人がいればどんなやつだって俺のようになれるさ。もちろんお前もな』って言ったんだ」

 

 

そこまで言われて、一輝も理解した。

2人の強さの源泉が何なのかを。

 

「後輩クン。君は強い。正直予想以上だった。ボク程度じゃ歯が立たないし、カナタでも危ういと思う。だけど、そんな君でも刀華や翔人には勝てない。2人の強さは別格だ。刀華なんかは自分が負けるということがどういうことか、どれほど多くの人間に悲しみを与えることかを知っているから。翔人のことは詳しくは分からないけどきっと同じようなことを思っていると思う。だから負けない。2人と君では、背負っているモノの重みが違うんだ」

 

「…………」

 

告げられた言葉に、一輝は応答を返さなかった。

ただ、視線を泡沫から、楽しそうに料理を作る刀華に向けて、思いをはせる。

そんな一輝の様子を見て、途中から耳だけ泡沫の話に耳を傾けていた翔人が呆れたように心の中で息をもらす。

 

(刀華なんかと比べなくても、お前にはお前なりにしっかり背負っているモノがあるだろうに…)

 

と。

それに…と翔人は続ける。

 

(お前は刀華を超えることのできる実力を持ってるんだから。そんな分かりきったことで悩んでる時間なんてないぞ)

 

と翔人は心の中で小さくエールを送った。

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

 

昼食を食べ終わると、刀華が散策のために班分けを行った。

伐刀者を言えど山の中を一人で歩くのは危険だからだ。

班は刀華・泡沫班、雷・恋々班、そして一輝・ステラ班の3つだ。

緊急時に備え、カナタと翔人は合宿場の建物に残ることになった。

始めは翔人は刀華と組んで散策するつもりだったのだが、『腹いっぱいだからめんどい』の一言で全員が諦めたのだった。

 

 

 

「………」

 

一輝たちが散策に向かってから数十分。

翔人は暇を持て余していた。

こんなことなら行けばよかった、と少し後悔してる節もある。

そんなことを思いながら寝ころんでいると、

 

「翔人君、お茶にしませんか?」

 

と、カナタがお茶をもって来た。

 

「あぁ、ありがとな」

 

断る理由もないため翔人はカナタの誘いを快く受けた。

 

 

 

 

 

「それにしてもカナタとこうして2人きりになるなんて久しぶりだな」

 

お茶を飲みながら翔人はそう告げる。

ルームメイトである刀華や、同性の泡沫なんかは2人でいることは多いが、カナタと2人きりと言うのは翔人にとって珍しいことだった。

 

「そうですね。……私ちょっと寂しかったんですよ?」

 

「……は?」

 

カナタの突然のセリフに翔人は思わず変な声が出てしまった。

 

「刀華ちゃんや泡沫君とは2人きりでいることが多いのに、私と2人きりになることは昔に比べて格段に少なくなっていることに気がついてませんか?」

 

刀華や泡沫が養護施設に来るよりも前から2人は知り合っている。

刀華と泡沫が来るまでは同じ年である翔人とカナタはよく2人でやんちゃしていたものだ。

故にカナタがそのことを言っているであろうことは翔人にとって安易に想像できることだった。

 

「まぁそうかもな…。でも別に話す機会が少なくなったというわけじゃないし、むしろ生徒会で一緒にいる時間は増えたろ?」

 

「それは…まぁ……そうかもしれませんが…」

 

「煮え切らないな。一体どうしたんだ?」

 

「い、いえ。なんでもないですよ。……それよりもみんな大丈夫でしょうか?」

 

露骨に話をそらすカナタに疑問を覚えつつも、翔人はカナタの質問に答える。

 

「刀華や恋々の班は大丈夫だろ。ただ一輝たちの班はちょっと思うところがあるけどな」

 

「えっ!?どうしてです?」

 

「ヴァーミリオンだ。さっきの昼食のときヴァーミリオンは全然食べてなかったろ?一輝の話じゃいつもはもっと食べてるらしい。なのに一杯しか食べてないのはおかしいと思ってな。あいつ体調でも悪いんじゃないか?」

 

「そうですか…。なら黒鉄君から電話がかかってくるかもしれませんね」

 

「あぁ。まぁでもそうしたら俺があいつらを迎えに行くよ」

 

「分かりました。その時はお願いします」

 

と、カナタが言い終わった瞬間電話が鳴った。

相手は……

 

 

「黒鉄君です」

 

「そうか…」

 

カナタはそう言うと、電話へと耳を傾けた。

 

「はい。……はい。…分かりました。すぐに翔人君が迎えに行くそうなので何か目印になりそうなものはありますか?。……わかりました。では」

 

カナタは電話を切ると翔人に向きかえる。

 

「黒鉄君たちは小屋にいるそうです。場所はわかりますか?」

 

「まぁなんとなくな。それじゃあ行ってくるよ」

 

「気を付けてくださいね」

 

「はいよ~」

 

 

翔人はそう告げると一直線に走り始めた。

……言葉通り一直線だ。

森に入ってもそれは変わらない。

目の前に木があれば切り倒して進む……

ものすごいスピードで移動していったため、木が倒れるスピードももちろん速かった。

故に倒れる音も相乗効果で大きくなり、それはまるで地震のようだった。

というか、音だけでなく木が倒れる衝撃で実際揺れていたので地震そのものと言っても間違いはないだろうが……

 

 

 

 



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来訪者

「黒鉄大丈夫…か…」

 

翔人が小屋へと着きドアを開けると、そこにはほぼ裸の男女が座っていた。

いや、正確に言うなら男女の営みといったところか。

 

「………失礼しました」

 

その光景に驚いた翔人は、すぐにドアを閉め退散しようとする。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

 

すると一輝が慌てた様子で翔人へと詰め寄る。

 

「ど、どうしたんだ?なんだ……その……悪かったな。空気の読めない先輩で…」

 

普段あまり驚くことのない翔人でさえ今の状態には驚いていた。

いや、狼狽していたと言った方が正しいか。

 

「ご、誤解です!しっかり話しますんでそんな目で見ないでください!」

 

一輝の動揺した様子に翔人は一瞬嫌そうな顔をしたが、仕方がないので話を聞くことにした。

 

「…分かった。でも話なら場所を変えよう。あの姿は正直目のやり場に困る」

 

「わ、わかりました。なら一旦外に出ましょう」

 

そう告げ翔人と一輝は外へと出る。

そして翔人へと説明するため一輝が翔人の方へと振り向くと、

 

「―――――――え」

 

そこには身の丈5メートルはあろうかという岩の巨人がいた。

そんな一輝の様子を疑問に思った翔人もすぐに振り向く。

 

「――――まじかよ」

 

そのあまりの光景に2人は思わず立ち尽くすが、次の瞬間さらにとんでもない光景を目にした。

あろうことか、その巨人が山小屋目がけて自らの巨腕を振り下ろしたのだ。

そう、ステラのいる山小屋目がけて…

 

「ス、ステラァァァァァァ―――――!!!」

 

瞬間一輝は一刀修羅を発動させ、己の最高速でステラの元へと駆け出した。

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

 

「ステラ、大丈夫?」

 

「え、ええ。でも一体何が……」

 

「見ての通りだ」

 

2人の会話に口を入れ翔人は巨人を指さす。

 

「巨人がいたんだ」

 

「な………っ」

 

ステラがその巨人に驚くが巨人は待ってはくれない。

すぐさま2発目の攻撃を3人に目がけて振り下ろしてくる。

 

「くっ!」

 

一輝はステラを抱えたまますぐさま横に飛び、振り下ろしの一撃をかわす。

が、翔人はそのままかわそうとせず固有霊装を顕現させる。

 

「来い。~~~っ」

 

そして翔人は巨人の攻撃を剣で受け止めた。

すると次の瞬間地面がその規格外の重量の前に爆砕した。

 

「ひ、翔人さん!!」

 

あんなものをもらえば伐刀者をいえどひとたまりもない、と感じた一輝は巨人の一撃を食らった翔人目掛けて叫ぶ。

しかし、土煙が晴れるとそこには剣の腹で巨人の一撃を受け止めている翔人がいた。

 

「「―――――え」」

 

そんな翔人に思わず声を漏らしてしまう一輝とステラ。

が、翔人はそんな2人を置いたまま一人で話を始める。

 

「巨人っていうからちょっと期待したのに、こんな不細工な岩かよ……。それに攻撃に重さが全然乗ってないし」

 

そう告げると、翔人は剣を横一閃に振った。

瞬間巨人の身体は横真っ二つに裂けガラガラと音を立てて崩壊していく。

が、すぐに崩れ落ちた岩石が磁石のようにひきつけ合い、再び重なり合っていった。

しかも今回は巨人ではなく、何十体もの人型だ。

 

「「え…」」

 

そんな光景に一輝とステラの2人は再び驚いたと言わんばかりに声を漏らすが、翔人はと言えば…

 

「『鋼線使い』か。…めんどくさいな」

 

などと話していた。

…そう相手は鋼線使い。

魔力の糸を用いて岩を操っている。

その事実に一輝とステラはまたしても驚いていた。

 

 

「中継地点《ハブ》は………あれか」

 

翔人は一瞬で中継地点を見つける。

しかし、見つけたはいいものの、翔人では銅線使いとは相性が悪い。

決して倒せないわけではないが、少々荒っぽいことになるのだ。

具体的にはこの山がなくなるくらいに。

故に翔人はこの場をどうしようか悩んでいた。

そんなとき翔人は背後から知っている気配を感じる。

気配のした方へ振り向くと、そこには帯電した刀を手に立っている刀華がいた。

 

「おぉ、やっぱり刀華か。丁度良かった。あの人形俺じゃちょっと面倒くさい相手だからさ。ちゃちゃっとやっちゃてくれ」

 

「そのつもりだよ」

 

その言葉に、翔人は頼もしい限りだと感じつつその場を離れる。

巻き添えをくらわないようにするためだ。

 

 

「あいつだね」

 

刀華はそう言葉を発した瞬間、姿が消える。

否、消えた、そう見えるほどに速く、鋭く、敵陣に飛び込んだのだ。

 

《疾風迅雷》

 

雷の力で筋肉を刺激し、その性能を限界まで引き上げる刀華の伐刀絶技だ。

その速度、まさしく電光石火。

岩人形たちは突然の事態に何も反応できない。

ただ、まさしく木偶として突っ立っているだけで―――

 

「―――――《雷切》!」

 

刹那の中ですべてが決した。

閃光の速度で抜き放たれるプラズマの刃が、一刀にてハブを両断。

次いで起こる大気の爆砕が、その場にいたすべての岩人形を殴りつけ粉砕し、雨雲すら弾き飛ばすのではないかと思えるほどの爆風が過ぎた後には、敵はただの一体も残っていなかった。

 

「すごい………」

 

ぽつりとステラが刀華の手際に感嘆の声をこぼす。

初めて雷切を間近で見れば無理もない、と翔人は感じる。

自分も初めて見たときは驚かされたものだ、と過去を振り返って翔人は小さく笑った。

 

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

「ステラさんっ」

 

人形を片付けた刀華がステラに走り寄る。

 

「倒れたって聞いたけど、身体は大丈夫ですか!?」

 

まるでくってかかるように問う刀華の表情は、先ほど人形を蹴散らしたときの凛々しいものとは別人だ。

病人のステラよりも蒼褪めていて、彼女がどれだけステラを心配していたかがひしひしと伝わってくる。

 

「え、あ、うん。少し休んだらだいぶ楽になったわ」

 

だからステラも刀華を安心させようと笑顔で答える。

が――

こつん。

と、刀華はステラの額に自分の額を押し付けて、それが嘘だとすぐに見抜く。

 

「すごい熱じゃないですか!こんなのちっとも大丈夫じゃありませんっ!それなのにこんなに身体を濡らして……、風邪が悪化したらどうするんですかっ」

 

そう告げる刀華にステラは山小屋が壊されたのだと話す。

それを見た刀華は困ったように表情を曇らせるが、すぐに笑顔になり、翔人に話しかける。

 

「ひろくん、一緒に山降りてくれないかな?」

 

「…は?」

 

翔人は訳が分からないと言った感じでそう言葉を紡ぐ。

そんな翔人に刀華はやや急ぎながら話す。

 

「このままじゃステラさんの風邪が悪化しちゃうからどこかで休ませなきゃいけない」

 

そう言うや、刀華はひょいとステラの身体を抱きかかえた。

 

「わわっ!ちょ、だっこは、だっこはやめてっ!恥ずかしいわよ」

 

「ダメです。病人は大人しくしてなさい」

 

刀華はステラを黙らせると、翔人に向き直る。

 

「ステラさんをだっこした私をひろくんがだっこして下山しても10分とかからないでしょう?」

 

その言葉に翔人は首をかしげる。

しかしすぐに理由を理解する。

翔人1人でステラと一緒に下山したところで看病できるものがいないのだ。

 

「まぁそうだけど、刀華をだっこするのか?お前だいぶ重く…」

 

翔人がそう何かを言おうとするも、刀華は無言のプレッシャーを翔人に与える。

この世には言わない方がいいこともある。

そう察した翔人は、首をやれやれと振りながらも、刀華をだっこする。

翔人には見えていないが、刀華の顔は真っ赤である。

まぁお姫様だっこなぞされれば、顔が赤くなるのも無理はないかもしれない。

そんな刀華を見て笑う泡沫たち。

後からからかわれるのは避けられないだろう。

 

 

「じゃあ俺らは先に山降りるけど、お前らはどうする?」

 

「後輩クンの怪我もあるしボクたちは近くの鍾乳洞で手当てをしてから行くとするよ」

 

翔人の質問に泡沫はそう答える。

 

「悪いな。それじゃあまた後で」

 

翔人はそう言うと消えた。

が、誰も驚くものはいなかった。

いい加減翔人のチートさに慣れたのかもしれない。

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

「おっ、帰って来たか」

 

泡沫たちの帰りを待っていた翔人が皆を出迎える。

 

「ステラは大丈夫ですか?」

 

「あぁ、もうだいぶ熱も下がってるし大丈夫だろ。刀華の看病のおかげだな」

 

翔人が山を下ってからすでに4時間が過ぎていた。

雨が思いのほか長く降り続いたためだ。

 

「あっ、イッキおかえり」

 

「うん。ただいま」

 

イッキが帰ってきたことに気がついたのか先ほど睡眠から目が覚めたステラが挨拶をする。

一輝はそんな大丈夫そうなステラを見てかなり安心していた。

その後全員集まったことで夕食をどうしようかの話が上がったりして、場はかなり和やかな雰囲気に包まれていたが、それは1人の来訪者により壊された。

 

「おー、いたいた。よぉーやく会えました」

 

ねっとりした男の声が一輝にかかる。

 

「ご無沙汰してますねぇ~。一輝クン。んっふっふ」

 

赤いスーツを身にまとった肥満体系の中年が、恵比寿にも似た顔に笑みを浮かべていた。

一輝は知っている。

何度か、実家にいたころにあったことがある。

 

「おい一輝、このタヌキは誰だ?」

 

一輝以外の全員が思ったであろう質問を翔人がする。

言い方はまぁあれだが…

 

「この人は…赤座守さん。黒鉄家の分家の当主です」

 

「ふーん…。まぁなんでもいいけどタヌキさんが一体何の用で?ここは動物園じゃないぞ?」

 

「んっふっふ。そんな顔をしないでくださいよぉ。私だって嫌なんですよぉ?貴方みたいな出来損ないのために奥多摩くんだり足を運ぶなんてねぇ?」

 

「貴方、なんなんですか!?そんな言い方失礼なんじゃないですか!?」

 

「刀華、少し黙ってろ」

 

翔人は少し熱くなっている刀華を鋭い視線で黙らせる。

 

「おや?貴方は確か流星の剣帝でしたっけ?こんにちわ。あーもう時間的にはこんばんわかなぁ?」

 

「黙れ、殺すぞ」

 

今度は赤座に向かって翔人は鋭い視線を突き刺す。

いや、先ほどとは少し違う。

なぜならその視線には少しばかりの殺気が混じっているからだ。

 

「一輝に用があるなら最初から自分の足で来いよ。岩人形なんかよこさずに」

 

「「えっ?」」

 

翔人の言葉に一同は声を漏らす。

ただ一輝は何となく分かっていたような態度をとっていた。

 

「………」

 

「だんまりか?まぁ今回は被害がなかったとも言えるから何も言わないが…」

 

と、そこで一旦息をつき、

 

「もし俺の周りのやつらに被害が出たら許さないぞ」

 

次はないと言わんばかりに翔人は視線だけで相手を殺せそうな目を向ける。

瞬間、赤座は冷や汗をだらだらと垂らしまくる。

足に力も入らず地面に倒れそうになるが、何とか耐えて翔人に向き直った。

 

「…はて?何のことやら。まぁそんなことは置いといて、さっさと本題に入らせてください。山奥は蚊が多くてかないませんからねぇ。んっふっふ。今日私がここに来たのはですねぇ、『騎士連盟日本支部の倫理委員長』として一輝クンにとーっても大事な話があるからなんですぅ」

 

一瞬の沈黙の後、赤座はそう話を切り出してきた。

表情では笑ってこそいるが、細められた目蓋の奥にある光はあまりにどす黒く、彼の要件がろくでもないことを表している。

翔人はあからさまに嫌そうな顔をしながらも続きを促した。

 

「無視…ね。まぁいいさ、その要件ってのは?」

 

「んっふっふ。まぁ話すよりもコレを見てもらった方が早いでしょう。どーぞどーぞ。今日の夕刊ですぅ」

 

手渡されたのは複数の新聞記事。

一体こんなものに何が書かれているのか。

そう疑問に思いながら翔人はその内の一つをひらく。

するとそこには―――――

 

 

木々を背景に口づけを交わしている一輝とステラの写真が一面に掲載されていた。

 

 

 

 

 

 



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決戦前夜

驚きのあまり、ステラは目を丸くしてその写真に釘付けになった。

 

「イッキ、こ、これって………!」

 

間違いない。

学校の、いつも一輝たちがトレーニングに利用している林の中のひらけた場所。

そこで口づけを交わしたときの写真だ。

手渡された夕刊すべての一面に、その写真が掲載されている。

そう―――すっぱ抜かれたのだ。2人の関係が。

 

「よぉく撮れているでしょう?巷では今大騒ぎですよぉ?国賓に手を出すなんて不祥事ですからねぇ」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

ステラは新聞をひったくり、怒鳴り声にも近い声をあげる。

怒鳴ったのにはもちろん理由がある。

それは彼女が指さしている記事の内容にある。

『姫の純潔を奪った男』、『ヴァーミリオン国王大激怒』、『日本とヴァーミリオンの国際問題に発展か!?』などと事態の重大さをことさら煽り立てようとでもしている記事だった。

また、そこには『黒鉄』の家から提供されたという『黒鉄一輝』の人物評が掲載されていた。

昔から素行が悪く、黒鉄の家を困らせていた問題児であり、人格的に問題のある人間である、と。

さらには女癖も非常に悪く、ステラの他にも女生徒とふしだらな交際を行っている、とまで。

もちろん彼を知っている人物からすれば、これが嘘だと言うことは明らかであろう。

しかし世論がどう受け取るかは明らかである。

 

「こんなことがあったので、急ではありますが連盟日本支部のほうで本件に関する査問会が開かれることになりましてね。その場で一輝クンの騎士としての資質を総合的に検証し、もし資質が不適切だと判断した場合、日本支部から連盟本部のほうに一輝クンの『除名』を申請させていただくことになったんですぅ。……今日、私は連盟本部の方に一輝クンをつれて行くためにやってきたわけなんですよ~」

 

赤座はにやにやしながらも話を続ける。

 

「これは『倫理委員会』の正式な招集ですぅ。応じていただけないと、んっふっふ。まぁ一輝クンの立場はとても悪いものになってしまいますぅ。……もちろん来て頂けますよねぇ。一輝クン。んっふっふ」

 

赤座は一輝の両肩に手を乗せ、ねっとりと告げた。

対し、一輝はしばしの沈黙の後、

 

「わかりました」

 

何かを決心するように、そう答えた。

誰もが言葉を失う中、一輝に声を掛けた者がいた。

 

「黒鉄。………いいんだな?」

 

翔人である。

彼は誰もが混乱している中、一人だけ冷静にそう尋ねた。

俺の力を貸さなくてもいいんだな、と。

 

「はい!」

 

対して一輝は翔人の問いに力強くそう答えた。

そんな一輝の翔人は笑みがこぼれる。

そして、、

 

「そうか。なら俺は何も言わない。頑張って来い」

 

そう一輝を送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝が『倫理委員会』とやらに連れ去られて3日が過ぎたころ事件は起きた。

内容を聞いて現場へと向かった翔人は、やれやれと首を振りながら当事者の元へと歩み寄る。

 

「ったく、お前たち二度目だぞ。校舎を壊すの」

 

溜息交じりの声がステラと珠雫にかかる。

 

「ヒロト先輩…」

 

「校舎を直すのだって人手が必要なんだ。あのおばさんのことも少し考えてやってくれ」

 

翔人はある人物のことを考えながらそう告げる。

するとそこに、

 

「誰がおばさんだって?斎藤」

 

少し怒ったような声が響き渡った。

ややハスキーな声の主は、ざわめく生徒たちの間を縫って彼らの前まで歩いてきた新宮寺黒乃のものだ。

 

「…盗み聞きなんて趣味が悪いっすよ」

 

罰が悪そうに翔人は告げる。

とは言え、言い訳にしか聞こえないが。

 

「盗み聞きなんかじゃないさ。私は少しヴァーミリオンに用があってな。…ヴァーミリオン理事長室までついてきてくれるか?」

 

黒乃はそう告げると、軽く指を鳴らした、

するとバラバラになていた壁材のがれきが浮き上がり、穴に収まっていく。

まるで、ビデオを逆再生するかのように。

数秒のち、大穴は綺麗にふさがった。

 

「それと斎藤。さっきの件はいつか精算してもらうからな」

 

黒乃はそう言うとさっさとこの場を後にした。

 

「優しくない人だ……」

 

翔人はそんな黒乃に対して、そう告げることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで何であんなことになってたんだ?」

 

ステラがこの場を去ったあと、翔人はこの場に残っている3人、珠雫、アリス、加々美に話を聞いていた。

 

「ステラちゃんが一輝と別れた方がいい、なんて言っちゃったのよ。それで怒った珠雫がステラちゃんを吹き飛ばして…」

 

翔人の問いにアリスは簡単に説明する。

それを聞いて翔人はなるほどなぁと言わんばかりに頷く。

 

「気持ちは分からなくもない。でも怒っただけで校舎を毎回壊されてちゃこっちもたまらないから、次は絶対にないようにしてくれよ。生徒会の仕事がこれ以上増えるのはごめんだ」

 

翔人はそう告げ、この場を去ろうとする。

しかし、そんな翔人に背後から声がかかる。

 

「…斎藤先輩、斎藤先輩ならお兄様を…兄を助けられますよね?」

 

「あぁ」

 

翔人の言葉に残りの2人が驚愕を露わにする。

 

「では助けて頂けないのは何ですか?確かに先ほどステラさんにはあのようなことを言いましたが、私としては兄が何をされているか不安で仕方がありません…」

 

珠雫は泣きそうな声でそう告げる。

そんな彼女に翔人は振り返り、

 

「何でって…そんなの一輝に頼まれたからに決まっているだろ?」

 

当たり前だろ?と言わんばかりの口調で話す。

 

「えっ?」

 

翔人の言葉に珠雫は何だか分からないといった様子で驚く。

そんな珠雫に翔人は説明を始める。

 

「一輝は俺に対して大丈夫だと言った。なら俺はあいつの意志を尊重してやるべきだろ?というかこれはあいつなりのケジメだろうから、俺たちがどうこう言う問題じゃないと思うんだけど」

 

「分かってます。分かってはいるんですけど……」

 

「まぁ兄の事が心配だって気持ちも分かる。でも今はあいつを…一輝を信用してやれ。あいつなら必ず戻ってくるさ」

 

「はい…!」

 

翔人の言葉に安心したのか、珠雫はしっかりとそれを言葉にした。

もう大丈夫だ、と思った翔人は今度こそその場を後にする。

 

「よし。じゃあ俺はそろそろ戻る。何度も言ったけどもう校舎は壊すなよ~」

 

そう珠雫らに告げ、翔人はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

校内戦最終日前日

 

「うん。大丈夫。私は元気みたい。…うん。明日の試合で校内戦は最後になるかな。えっ!?東京さ応援に来る?お、横断幕作ったと!?みんな気ぃ早すぎたい!それに今年の七星剣舞祭は大阪やけん。…うん、そうたい。ともかく、勝っても負けても、選抜戦ば終わったら一旦そっちに顔見せに行くけん。うん。…じゃあね。野菜ありがとう。みんなにもありがとうって言っておいて。お母さんも、身体ば気ぃつけてね。……ばいばい」

 

別れの挨拶を交わし、刀華は生徒手帳の通話機能をオフにした。

液晶ディスプレイに汗が張り付いている。

表示されている通話時間は50分。

ずいぶんと長い電話である。

 

「お前は暇を持て余した主婦か?」

 

生徒会室のソファーで寝転がってゲームをしながら、翔人は刀華にそう尋ねる。

 

「もうっ!ひろくんは何でそんな意地の悪いこと言うと!」

 

「ごめん、ごめん。冗談だよ。で、院長さん元気だって?」

 

「元気元気。もうすっかり元通りって感じだったよ」

 

院長―――、刀華がお母さんと呼ぶのは孤児院『若葉の家』の院長のことだ。

刀華や泡沫はその施設の出だし、翔人も長いことお世話になっているおかげかよく知る仲だ。

そんな彼女は去年の暮れ、心臓発作を起こして倒れた。

しかし今では元気な様子。

なにしろ――――

 

「もう横断幕作ったんだって?」

 

それである。

まだ選抜戦の勝利も代表入りも決まっていないというのに、院長さんや施設の子供たちは七星剣舞祭に持っていく横断幕を作ってしまったらしい。

これに刀華は絶句、翔人は苦笑いだ。

 

「みんな気が早いんだから……ほんとに」

 

「まぁいいんじゃないの?刀華もその方がやる気出るだろ?」

 

翔人のその言葉に刀華は嫌なことを思い出し、表情を曇らせる。

 

「………やる気、かぁ」

 

先ほど、彼女の元に一つの連絡が来た。

連絡してきた相手は理事長・新宮寺黒乃。

内容は、明日の対戦相手の変更。

しかもその相手が、今世間の話題の渦中にいる《落第騎士(ワーストワン)》ともなれば、そこに何かしらの作為を感じずにはいられない。

そのことを問いただすと、黒乃はあっさりと話した。

それは一輝を最悪のコンディションに追い込んで、その上で刀華という刺客を差し向けた、ということであった。

それが刀華にとって不本意であることは言うまでもない。

 

 

「やる気、ないのか?」

 

翔人はゲームから目を離し、何とも言えない顔でそう尋ねる。

 

「ないって言ったら嘘になるけど、あるっていうのも違う気がするんだ」

 

対し刀華は自分の本音を翔人に話した。

刀華にとってはあくまで選抜戦の最終戦にすぎないのだ。

対戦相手が変わるだけで、自分が何かを掛けさせられるわけでもない。

しかしその相手が一輝……衰弱していてずっと戦いたかった相手となればそうなるも無理はない。

 

「まぁ色々あったからな。………でもこれだけは言っておく。一輝相手に手を抜いたら許さん」

 

そんな刀華に翔人は当初気遣うように言葉をかける。

しかし、次の瞬間顔が真剣なものとなり、視線が刀華を射抜く。

 

「大丈夫。試合になったら私はどんな相手でも手は抜かないから。ひろくんも知ってるでしょ?」

 

刀華は翔人の視線をしっかりと受け止めてそう答えた。

まるで心外だと言わんばかりに。

そんな刀華に翔人は小さく微笑む。

 

「それを聞いて安心したよ。まぁ頑張ってくれ。俺は高みの見物といきますかな」

 

「まぁひろくんの相手って砕城君以外全員棄権だもんね…」

 

刀華が苦笑いでそう告げる。

彼女の言う通り、翔人の七星剣舞祭出場はほぼ決まりであろう。

 

「まぁ七星剣舞祭本戦となればそうもいかないだろ。それを楽しみに待っているとするよ」

 

翔人にしては好戦的な言葉に刀華は少し驚く。

しかし、すぐに刀華の顔は笑みに変わる。

 

「待ってて。絶対に追いかけてみせるから!」

 

決戦はいよいよ明日。

校内戦最後の戦いが幕を上げようとしていた。




校内戦もいよいよラストスパートです!


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役者

翌日、翔人は第一訓練場へと足を運んでいた。

まぁ理由は言うまでもない。

一輝と刀華の試合を見るためである。

しかしそこで一つ生じる疑問があろう。

翔人自信の試合はどうしたのだ、と。

これもまぁ言うまでもないと言っておこう。

案の定相手が棄権したのだ。それも試合前に。

翔人は流石に試合前に棄権されることはなかったので、内心苦笑いだった。

そのため2人の試合の行方を見ておこうということになったのだ。

 

 

 

「うわっ、人多いな」

 

あまりの人の多さに翔人はそう口をこぼす。

 

「仕方がないだろう。スキャンダルまがいのことがあったのだから」

 

「まぁそりゃあそうですけど…」

 

翔人の言葉に答えたのは黒乃だった。

 

「よっ、ひろ坊」

 

「寧音か…」

 

黒乃の横から出てきた寧音に翔人はあからさまに嫌そうな顔をしてそう告げる。

 

「ちょっ、何で私とくーちゃんでそんなに扱いが違うのさ!?」

 

「………自分の心に聞いてみろよ」

 

「何だ?寧音と斎藤の間に何かあったのか?」

 

翔人と寧音の会話が気になった黒乃が笑いながら翔人に尋ねる。

そんな黒乃に翔人は笑い返しながら、

 

「それがですね~聞いてくださいよ」

 

「ちょ、ちょっとタンマ!分かった。私が悪かったから!」

 

なにかを言おうとするが、寧音が必至の形相で割り込んだ。

どうやら人に言われてはダメなことのようだ。

 

「んっふっふ。朝から元気ですねぇ」

 

3人の朗らかな空気を塗りつぶすように、ねばっこい声が3人の後ろから聞こえた。

3人揃って声のしたほうに振り向くと、そこには額から吹き出す汗をハンカチで拭う、暑苦しい樽のような男が立っていた。

 

「こんにちわぁ。いやー今日も暑いですねぇ」

 

「赤座委員長……」

 

赤座の登場に黒乃と寧音、翔人は揃ってその端正な作りの顔をしかめる。

当然だ。歓迎できるような相手ではない。

 

「赤狸がうちらになんの用さね」

 

露骨に棘のある口調で寧音が問うと、赤座は笑い、

 

「いえいえ。私は用などないのですが、そこで偶然会った先生に、お二方のところへ連れていってほしいと言われましてねぇ。あぁこっちです先生」

 

3人の元へ小柄な老人を連れてきた。

 

「あぁ、やっと見つかったわい。これだけ敷地が広いとどこになにがあるのかよう分からんでな」

 

「げっ、じじい!」

 

その姿に真っ先に反応したのは寧音だ。

それも当然。

老人の名は《闘神》南郷寅次郎。

御年92歳の日本人最高齢の魔導騎士であり、寧音の師匠でもある男なのだから。

 

「ひょっひょっひょ。我が愛すべき愛弟子は相変わらず口が悪いのぉ。まぁそこが可愛いところなんじゃがの?」

 

「か、かわっ、…き、気持ち悪いこと言ってんじゃねーよ!」

 

「顔が赤いぞ寧音。素直に喜んだらどうだ?」

 

「う、うれしくなんかねーし!」

 

そういう寧音の顔には、言葉では繕いきれない照れがあった。

(出たっ、ツンデレ)

翔人は今の寧音を見てそんなことを思う。

 

「翔人も久しぶりじゃの。エーデルワイスは元気かの?」

 

「久しぶりだな寅さん。まぁそれなりに元気なんじゃないの?最近会ってないから知らん」

 

南郷の問いかけに翔人はそう返す。

翔人はエーデルワイスとの修行や刀華との練習の中で幾度と顔を合わせているため、結構仲が良い。

それゆえに寅さんと呼んでいる。

まぁ闘神を寅さんなどと呼べるのは片手で数えるくらいしかいないだろう。

翔人はその片手で数えられる人間の中に入っていた。それだけの話だった。

 

「ひょっひょっひょ。そうかそうか。なら良かったわい」

 

「それで今日はどうしたんだ?刀華の試合でも見に来たのか?」

 

翔人は思っていたことをそのまま口にする。

というかそれ以外で来る理由が思い浮かばなかった。

 

「まぁの。それに相手が黒鉄の者とあっては足を運ばんわけにもいかんじゃろう?」

 

「まぁ寅さんにとってはそうだよな」

 

そう、先ほども告げたが、南郷は寧音の師であると同時に刀華の師でもある。

シニア時代の刀華に才覚を見出して、それ以降彼女に自分の剣を教えてきた。

今刀華の代名詞となっている《雷切》も、もとはこの老人の技である《音切》を刀華用にアレンジしたものだ。

 

「んっふっふ。南郷先生はかの大英雄・黒鉄龍馬氏と同じ時代を生きた、生涯のライバルでしたからねぇ。興味を持たれるのも当然ですぅ」

 

南郷は92歳。

大英雄・黒鉄龍馬と第二次世界大戦を共に駆けた戦友であり、同時に彼のライバルでもあった男なのだ。

 

「しかしですね、南郷先生。今日はもしかすると、試合は中止になるかもしれませんよぅ」

 

ふと、赤座がありがたい顔にいやらしい笑みを張り付けて、そんなことを言った。

 

「なに?」

 

その言葉に黒乃は眉をぴくりと動かす。

彼の声音に言い表しようのないほどの悪意を感じ取ったからだ。

そして、それと穂の同時に、

 

『ご来場の皆様にお知らせいたします。東堂刀華選手対黒鉄一輝選手の試合時間となりましたが、まだ黒鉄一輝選手が控室に到着しておりません。選抜戦規定により、今から10分以内に黒鉄選手が到着しない場合、不戦敗とさせていただきますので、ご了承くださいませ』

 

そんなアナウンスが会場に響き渡った。

 

「……確か、黒鉄は赤座委員長が車で一緒につれて行くから迎えはいらないと、そういう話ではありませんでしたか?」

 

確かに昨日赤座はそう黒乃に言って、出迎えを断ってきた。

だというのに―――

 

「んっふっふ。いやぁ申し訳ない。すーーーっかり忘れておりましたぁ。ほんとーに申し訳ありません。しかし連盟支部からここまではそう離れておりません。…体調が悪くて途中で倒れたりしないかぎりは心配する必要ありませんよぉ。んっふっふ」

 

(この野郎………)

 

胸中に湧き上がる不快感に黒乃は鬱血するほど拳を握る。

そんな黒乃に翔人は諭すように告げる。

 

「理事長、一輝なら大丈夫です。例えどんなことがあろうとこの場に絶対来ます。まぁ来なくても、そこのタヌキを殺すんで大丈夫です」

 

笑いながらそう告げられ、黒乃は全身に鳥肌が立ち、感じたことのない寒気がしたために我に返った。

翔人の笑いながら出すオーラ、すなわち殺気はこの場にいる人間を恐怖の底へと誘った。

赤座なんかは恐怖で顔が青ざめ、大量の冷や汗を垂れ流している。あと少しで漏らすまである。

が、そうではない人物が1人―――――

 

「ひょっひょっひょ。中々成長したようじゃの。ワシではもう敵わんかもしれぬ」

 

「まぁ修行はしてましたからね。()()寅さんに負けるつもりはないですよ」

 

南郷だけは翔人のオーラにやられてはいなかった。

年老いても実力は変わらぬようだ。

 

「して翔人よ。黒鉄の男はそんなに強いのか?お前がそこまで言うなんて珍しいと思うのじゃが」

 

「まぁ試合を見ればわかりますよ。まぁ刀華に負けず劣らずの力は持ってます」

 

「ほぉ……」

 

南郷は翔人の話を聞き、思わず頬が緩んでしまう。

それこそ一度手合わせ願いたいと思うほどに、彼の中で一輝に対する印象は上がっていた。

 

「斎藤、そういえば東堂のところへは行かなくていいのか?」

 

翔人たちの話が終わったとみた黒乃がそう翔人に尋ねる。

そんな黒乃に翔人は笑いながら答える。

 

「今の刀華に会ってもすることないですし大丈夫ですよ。もう完璧にスイッチ入っちゃってるでしょうし」

 

そんなことを話していると翔人に一通のメールが届いた。

差出人は――――――

恋々だ。

 

『副かいちょーへ。クロガネ君来たよー。もう少しで会場へ着くと思うよ』

 

「フッ…」

 

メールを見て思わず翔人は笑ってしまう。

周りにいるメンバー、中でも黒乃が今の笑いが気になったようで、

 

「どうしたんだ?」

 

と声をかける。

 

「役者が揃ったみたいです」

 

黒乃の問いかけに翔人は笑ってそう答えた。




次回選抜戦最終回!


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決着

「ご来場の皆さんお待たせしました!!!七星剣武祭代表選抜戦最終試合を開始します!!!!赤ゲートより今、《雷切》が姿を見せました!十九戦十九勝無敗。そのすべてを無傷で勝ち抜き圧倒的な強さを見せつけてきた我らが生徒会長。成績低迷の破軍の中にあり、輝き続けるその姿に私たちはどれだけ勇気づけられてきたことでしょう。彼女こそ我ら破軍の誇り!燦然と輝く一番星!栄光の道を歩み続ける綺羅星が最後の七星剣武祭へ臨むため、決戦の場に向かいます!!三年《雷切》東堂刀華選手!!今万人の期待を背に、決戦のリングに立ちましたぁあ!!!!」

 

 

リングに姿を見せた刀華。

まっすぐ背筋を伸ばし、蒼ゲートを見つめるその立ち姿はまさに威風堂々。

 

「さすが、というべきか。すごい集中だな」

 

観客席からその姿を見ていた黒乃にも、その気力の充実ぶりは伝わってくる。

 

「まぁそうでしょうね。刀華は黒鉄と戦うのを楽しみにしていましたから」

 

黒乃のセリフに翔人は同意を示す。

 

 

 

「そして青ゲートより姿を見せるのは同じく十九戦十九勝無敗。しかしながらその歩んできた道は《雷切》とは真逆!誰にも相手にされず、誰からも認められずただ一人、地の底に取り残された一匹狼。しかし・・・・彼は這い上がってきました。《紅蓮の皇女》を!《狩人》を!《速度中毒》を!破軍の名だたる騎士たちを次々になぎ倒して!今や彼の名を知らない者は破軍にはいません!破軍が誇る最強のFランク!一年《落第騎士》黒鉄一輝選手。天に牙剥く狼が、今、星を喰らうべく決戦の舞台に上がりましたぁぁぁ!!!!」

 

 

続いて青ゲートより一輝が姿を見せる。

半死半生とは思えないほどしっかりとした足取りで決戦の場に向かい、刀華と向かい合うその凛とした背中は普段の一輝そのもの。

しかし普段通りではあるが、いつもと雰囲気が違っていた。

 

「ほほぅ。あれが刀華の相手か。なるほど、……強いな」

 

「やっぱ寅さんなら分かっちゃう?」

 

「わかるとも。なんとも張り詰めた表情をしておる。あの小僧、この場で死ぬことも覚悟しておるぞ。それほどの決意でこの場に臨んでおる。観客もその覚悟に飲まれているようじゃ。黒鉄にこんな男がおったとは知らんかったが……これはなかなか面白い試合になりそうじゃ」

 

そこで一度息をつき、南郷は鋭い視線で、

 

「黒乃君、君はこの試合どう見るかの?」

 

黒乃に問いかける。

黒乃は少しの沈黙のあと答える。

 

「……雷切は早い話居合い抜きです。すなわち納刀状態でなければ打つことが出来ない技。故に黒鉄が勝つには持久戦を征する必要がある、と考えます」

 

「ほほぅ。なるほどのぉ。黒乃君はこの勝負を持久戦と見るか」

 

黒乃の答えに南郷は笑いながらそう告げた。

そしてより鋭い視線を今度は翔人に向ける。

 

「翔人はどう見る?」

 

「そんなの決まってるじゃないですか。――――1刀目で終わりですよ」

 

南郷の問いかけに翔人は考える素振りもなくそう答えた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『両雄、短く言葉を交わし、己の霊装(デバイス)を手に向かい合います。頂点を歩み続けてきた少女と、底辺から這い上がってきた少年。本当に強いのはどちらか。七星剣武祭代表枠を賭け、最後の戦いが今始まります!――――では皆さんご唱和ください!LET'S GO AHEAD!!!!』

 

 

開幕の合図の瞬間。

その場にいるすべての人間が信じられないものを見た。

試合開始のブザーと同時に、一輝が己の身体から蒼光を放ち、刀華に向かって駆け出したのだ。

 

 

『な、なななんと黒鉄選手いきなり切り札の《一刀修羅》を発動!!!開幕速攻だァァァ!!!!』

 

 

「なっ!?黒鉄!?その判断は無謀だぞ…!」

 

黒乃が歯ぎしりしながらそう告げる。

寧音もその横で表情を険しくする。

しかし、この場でそう考えない人物が2人。

――――翔人と南郷だ。

 

「正しい選択だ」

 

翔人は楽しそうに告げる。

 

「だがそれだけじゃ足りない。決して刀華には届かない。―――お前はその剣をどう届かせる?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

東堂刀華は、彼の心情を見て取った。

 

『僕の最弱(さいきょう)を以て、貴女の不敗(さいきょう)を打ち破る』

 

試合前に言ったあの言葉は、正真正銘の本気だったのだ。

閃里眼(リバースサイト)>で伝達を読むまでもない。

迫りくるこの気迫が雄弁に語っている。

黒鉄一輝がこの試合の一刀目を、最後の一太刀と定めたことを。

彼の狙いはこちらが迎撃として放つ《雷切》。

 

(なら、試合は簡単)

 

《雷切》をフェイントとして使い、大きく後ろへ逃げて、彼の渾身を空転させる。

そしてへろへろになった一輝をアウトレンジから嬲れば、彼は何一つできない。

この試合は自分の勝ち――――そんなの、

 

(冗談じゃない!!!!)

 

刀華はそのプランに一瞥もくれなかった。

クロスレンジは未だある人物を除けば一度として破られたことがない。

敵に攻め入れられたからといって、おめおめ逃げ出すやつがどこにいる。

クロスレンジは刀華にとっても最強の距離。

そこを逃げ出してどこで戦う?

 

(逃げ出したりなんかして―――)

 

そこで刀華は幼馴染であり、ライバルでもある少年のことを思い浮かべる。

 

(あの誇り高く大好きな騎士と肩を並べるなんてできるはずがないっ!!!私は彼と……ひろくんと一緒に七星剣王への道を進むんだっ!!)

 

スタンスを大きく広げ《鳴神》を納めた鞘い稲妻を送り込む。

構えるは伝家の宝刀。

それを抜刀態勢に構え、刀華は風を巻いて迫る一輝を迎撃する。

自らもまた敵と同じく、この一刀にすべてを賭けて!

互いが互いに、己にとって誇りとなるように、正々堂々と戦う。

それこそが騎士の王道なのだから!

 

 

 

 

 

***

 

 

 

そして―――――二人の騎士が今対決する。

 

一輝が放つは自身が持つ七つの技のうち最速の一刀。《第七秘剣・雷光》。太刀筋すら見せぬほどの速度で振るわれる不可視の剣。

 

刀華が放つは不敗であり最速の一撃。《雷切》。降り落ちる雷すらも斬り裂く神速の居あい抜き。

 

二人は自身の持てる力や想いも、応援してくれる他者の願いも、そのすべてを己の魂である剣に託し、

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

二人の騎士は渾身を込めて、その一刀を振り抜いた!!

撃ち放たれた鋼の稲妻。互いに最短距離で疾駆する一撃は、僅かに《雷切》のほうが速い!

 

「刀華の勝ちか」

 

翔人は確信する。この打ち合いを制したのは刀華だと。

 

「それにこれは……」

 

今まで幾度となく刀華と修行をしてきた翔人にはわかった。

この雷切は今までで一番美しいものだと。

だが――――

 

「………何だと?」

 

刹那の一瞬の中翔人は見てしまった。

刀華の一刀が一輝に迫る中、一輝の一刀がスピードを上げたことを。

そしてその一刀が進化していることを。

そして翔人がそう思った瞬間、

 

パリィン………、と鋼が砕け散る音が甲高く、会場に響いた。

次いで………誰かが倒れ伏す音も。

眩しさに目を閉じていた観衆が、恐る恐る目を開き、リングを見下ろす。

 

砕け散ったのは――――《鳴神》。

 

リングに倒れ伏せていたのは………

 

 

 

 

 

《雷切》東堂刀華だった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『く、砕け散ったぁぁああああああ!!!。な、なんということでしょう!!たった一刀の交錯、僅か一撃の錯綜!その一瞬で東堂選手の《鳴神》が!《雷切》が!粉砕されましたぁぁぁあああ!!!!リングに倒れたままピクリとも動かない東堂選手!今、レフェリーが駆け寄ります!続行出来るのか!?それとも―――』

 

大観衆が固唾を呑んで倒れた刀華に近寄ったレフェリーの判断を見守る。

しばし様子を伺うようにかがみこんだレフェリーは、やがて立ち上がるとその両手を交差させ×を作った。

 

『レフェリーの判断は続行不能ォ!試合終了ォォォ!!!なんという幕切れ!なんという決着!交わされた斬撃はわずかに一合!その一合で、破軍最強の騎士を斬って落としたァァァァ!!!!リングに佇む勝者は、一年《落第騎士》黒鉄一輝選手だァァァァ!!!!』

 

「刀華っ!!」

 

勝者の名がコールされた瞬間、翔人は瞬時にリングへと向かう。

リングへたどり着いた翔人は優しく刀華を抱え上げる。

抱きかかえた刀華を見て翔人は思わず笑みが漏れてしまう。

 

「……負けたっていうのに何て顔してんだよ」

 

そう告げる翔人の視線の先にある刀華は……笑っていた。

 

「まぁ大丈夫だろうけど、医務室に連れて行かないとな…」

 

そう思い、翔人は急ぎ足で医務室へと連れて行く。

その途中で赤座がステラと一輝に何かしようとしているのを発見する。

 

「刀華も黒鉄も怪我してんだ。――――どけ」

 

瞬間翔人は己の拳を赤座の顔面に振り下ろした。

彼の身体はトラックにはね飛ばされたかのように吹っ飛ぶ

その身体は第一演習場の壁を突き破り、破軍学園の敷地の外まで至った。

 

「ヴァーミリオン、急ぐぞ」

 

「分かってるわ。急ぎましょう」

 

殴り飛ばした張本人と絡まれていた少女は、赤座のことなど記憶の片隅にも残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

試合終了から1時間。

 

「………っ」

 

霊装《鳴神》を砕かれた衝撃で粉々に消し飛んでいた刀華の意識がようやく回復した。

 

「おっ、目が覚めたみたいだな」

 

「気分はどうですの?どこか痛いところはありません?」

 

ベッドに横たわる自分。

それを介抱する翔人とカナタ。

その光景に刀華は確信する。

 

「そっか。……私、負けちゃったんだね」

 

記憶が途切れている刀華だったが、仲間たちのいたわるような表情を見れば、それを察するのは難しいことではなかった。

 

「……我ながら最高の《雷切》だとおもったんだけどなぁ」

 

「俺もそう思うぞ?寅さんもそう言ってたし」

 

「お師匠様が?来ていたんですか?」

 

「あぁ。なっ、カナタ」

 

「えぇ。今日の試合はオープンに行われましたから。観戦に来てくださっていたようですわ」

 

「すごく嬉しそうに褒めてたぞ。あの《雷切》は今までで一番美しかったって」

 

(………そっかぁ)

 

「お師匠様やひろくんから見てもそうだったのなら、私の勘違いというわけじゃないんだね」

 

自分は全力を出し切れていた。

そしてそれは、間違いなく黒鉄一輝を上回っていた。

だけど――――

 

(あの瞬間、黒鉄くんはさらに速くなった)

 

あの一瞬の中で、彼は自らの限界を進化させたのだ。

他ならない、自分に勝つために。

自分も絶えず上を目指し続けてきたつもりだったが、それでも、一輝に比べればまだまだ甘かった。

 

「まさかここで諦めるわけじゃないだろ?」

 

刀華の心を読んだかのように翔人が刀華に声をかける。

そんな翔人の問いに刀華は、

 

「うん。もちろん。私もまだまだ強くなれる。黒鉄くん…いやひろくんに追いつくまでは諦めないよっ」

 

そう笑顔で答えた。

 

「そうか…。でも俺だって簡単に刀華に負けるつもりなんてないぞ?」

 

「そう言っていられるのも今のうちだけだよ」

 

「言っとけ」

 

翔人のセリフに皆が笑った。

その後もそんな会話が続き、いつの間にか場は温かい雰囲気に包まれていた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

一週間後、普段は滅多に使われない体育館に、全校生徒が集まっていた。

長い選抜戦を経て選び抜かれた7名の代表、その正式な任命式が行われるからだ。

しかしこの場にはなぜか5人しかいない。

 

「有栖院凪と斎藤翔人は所要により欠席している」

 

理事長は代表の紹介の最後にそう告げた。

 

「ねぇ、刀華。翔人はどこに行ったの?」

 

泡沫の問いに刀華は苦笑しながら答える。

 

「それが……お師匠様に呼ばれたみたいなの……」

 

「………えっ?」

 

「何でも私の試合の時、ひろくんがお師匠様に勝てるみたいなこと言って、お師匠様をその気にさせちゃったみたいで…」

 

刀華のセリフに泡沫は深い溜息を吐く。

 

「翔人もバカだなぁ…。あの《闘神》に勝てるはずないのに…」

 

「私もそう思うんだけど、ひろくんは勝つ気満々みたい…」

 

「ほんと翔人には呆れるよ」

 

泡沫のそのセリフに刀華は苦笑いで同意を示した。

 

 

 

***

 

 

とにもかくにもここに『破軍学園』の七星剣武祭代表選手は出そろった。

それを皮切りに他校でもぞくぞくと代表選手が公表されていった。

役者は出そろった。

巨門の《氷の冷笑》鶴屋美琴。

禄存の《鋼鉄の荒熊》加我恋司。

貪狼の《剣士殺し》倉敷蔵人。

そして――――前七星剣武祭覇者、《七星剣王》諸星雄大。

いずれも、音に聞こえた猛者ばかり。

 

《流星の剣帝》斎藤翔人は今、そんな彼らが待つ舞台を一刀両断しようとしている。

しかし、彼は知らない。

七星剣武祭で何が起ころうとしているかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

「準備が終わりました」

 

「よし、ご苦労。これで準備はほぼ完了ですね。用意はいいですか、《桜》?」

 

「はい、いつでも大丈夫です」

 

「―――――《流星の剣帝》よ。今こそあなたに絶望を与えましょう」

 

 

 

 

 

今物語が動き出す。

 

 

 




次章では《桜》が物語のキーになります。

分からない方は過去の話を見直していただければ分かるかも・・?


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VS.南郷寅次郎

刀華たちが任命式を行っているころ、ある場所で向かい合う二人の影があった。

 

「さて、準備も出来たことだしそろそろ始めるかの」

 

齢92歳ではあるが、いまだ衰えを感じさせない男、南郷寅次郎は告げる。

 

「本当にいいのか?」

 

対するはまだ高校生ながら世界最悪の犯罪者にして、世界最強の剣士の異名を持つ者の弟子である斎藤翔人。

そんな翔人は相手をいたわるような態度で話しかけた。

すると、南郷は鋭い視線で翔人に、

 

「……それはどういう意味じゃ?」

 

静かに怒りながら尋ねる。

そんな南郷に怯む様子もなく翔人はへらへらしながら告げる。

 

「そのままの意味だよ。寅さんのプライドを傷つけちゃうかもしれないぞ?寅さんとの勝負だと手を抜けそうもないからな」

 

「ひょっひょっひょ。変わらんの翔人。じゃが………あまり調子にのるでない小童が」

 

一瞬にして辺り一帯の空気が張り裂けそうになる。

もちろん南郷のプレッシャーである。

 

「やる気満々ってか。いいぜ。やろうか」

 

翔人はゲームでも始めるかのように陽気に告げる。

そしてその言葉を合図に戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

両者とも音を置き去りにして相手の元へと近づく。

そして互いの相手を見据え、

 

 

「音切りッ!!」

 

「次元刀ッ!!」

 

 

大気がさける。

2人の技で辺り一帯にあったものすべてが無に返った。

木は跡形もなく消え去り、空にあった雲でさえもなくなり、太陽のみが2人を包む。

 

翔人の技を見た南郷は顔を驚愕に染めていた。

無理もない。

音切りは南郷の中でも最強で最高の技に位置するものである。

その技と同等……いや、南郷が傷を受けている分だけそれ以上の技を放たれたのだ。

 

「むっ、なんじゃその技は?」

 

南郷は自分の傷を気にする様子もなくそう告げる。

 

「この数年の努力の賜物だ」

 

そう答える翔人だったが、その顔には苦い笑みが浮かんでいる。

というのも次元刀でケリをつけるつもりだったからだ。

 

(これで決めるつもりだったんだけどなぁ…)

 

 

《次元刀》

時相をずらしながら刀を振るうことによって対象を透過させ、そのまま切り裂く翔人の伐刀絶技である。

これを一瞬で数百回繰り出すことで威力を発揮することができる。

 

 

 

(やっぱ寅さんじゃあれを使わざるを得ないか…)

 

「なるほどの…。やっかいな技じゃ…」

 

「驚いているところ悪いけど、どんどん行くぞ」

 

そう言い終わると、翔人は南郷との距離を一瞬で詰める。

《比翼》と呼ばれるエーデルワイス特有の動きだ。

しかし南郷は驚かない。

固有霊装をその動きに合わせて振りぬく。

バリィンと固有霊装がぶつかる音が鳴り響き火花を散らす。

翔人が自分の剣を止められ後ろに飛ぶと、それに襲い掛かるように南郷は翔人に詰め寄る。

 

「ハァッ!!」

 

南郷の気合いをまとった一閃が翔人へと迫るが、

 

「っと!」

 

翔人は俊敏に反応し、自らの刀を構え南郷の一閃の衝撃を逸らす。

衝撃を逸らされ一瞬隙を見せる南郷であったが、翔人はあえてそこを突かなかった。

あからさまにフェイクだったためだ。

もし斬りこんでいれば反撃を食らっていただろう。

そのため翔人は一旦態勢を整えるために、再度南郷との距離を開ける。

 

「ここまで実力を付けているとは…!驚いたわい」

 

南郷は楽しそうにそう告げる。

だが反対に翔人は嫌そうな顔をして口を動かした。

 

「誰に教えられたと思ってるんだ?エーデルだぞ」

 

「ひょっひょっひょ。そうじゃったな」

 

そんな南郷の態度が気に入らなかったのか、翔人は、

 

流星(ミーティア)ッ!!」

 

怒りのあまり、雷との試合で見せた技を繰り出す。

しかし、

 

「懐かしい技じゃ。しっかりと成長しておる。じゃが…」

 

南郷は自身の固有霊装の一振りで流星をあっさりといなしてしまった。

 

「どうした?こんなものか?いくら速くて威力があるからといっても、一つだけじゃこのわしにダメ―ジを与えられんぞ?」

 

そう言われた翔人だったが、その顔には技を破られて不安そうにしていたり、縮こまってる様子はまるで見られなかった。

いや、反対に――――

 

「寅さん。あんま余裕ぶっこいてると……死ぬぞ?」

 

「ッ!!」

 

南郷は翔人の低く冷たい声に寒気を感じる。

 

(わしが翔人に恐怖している…じゃと。そんなわけ…)

 

そう考える南郷の元へ死の宣告ともとれる声色で、

 

流星群(ミーティアライン)

 

と、短く言葉が放たれた。

その瞬間―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空から何万もの光が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不味いッ!!」

 

自身に身の危険を感じた南郷はそう告げ、固有霊装を構えなおす。

流星とは比べ物にならないスピードで多くの流星―――――流星群が音を置き去りにして南郷の元へと迫る。

最初の一つ目が南郷に迫るが、ガキィンと音を立て南郷は一つ目の流星を消し飛ばす。

しかし、南郷は自身の手がしびれていることに気づき、顔を歪ませる。

 

(なんじゃこの威力は…!先ほどの流星など足元に及ばん威力ではないか。なのにこの数……。いやはや参ったの…)

 

 

そう考えている間にも流星は南郷に降り注ぐ。

二つ、三つ、四つ―――――

南郷は器用に流星を捌いていくが、百を超えたあたりから疲れが見え始めた。

二百、三百、四百―――――

南郷は疲れを見せながらもなんとか流星をさばく。

しかし、千を超えた辺りから違和感を感じ始める。

 

(ここまで時間にして1秒といったところじゃが……翔人はどこへ…?)

 

その違和感は現実になる。

後ろから声が聞こえたからだ。

 

「さすが寅さんだ。流星群をこんなまでいなされるなんて初めてだよ。…でも油断したね。――――――零斬り」

 

 

 

その言葉を最後に南郷の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

「うぅ……」

 

「おっ、寅さん起きたか。大丈夫か?」

 

試合から数時間後、目を覚ました南郷に翔人は話しかける。

翔人に苦笑いしつつ南郷は答える。

 

「大丈夫…と言えば大丈夫じゃの。翔人の言ったようにプライドは無事じゃないがの」

 

「そんだけ言えれば大丈夫だよ」

 

翔人はハハハッと笑いながらそう告げる。

 

「しかし翔人がここまで強くなっているとは驚いた。以前戦ったときはわしの相手にもならんかったのに」

 

南郷は懐かしむようにそう告げた。

かつて翔人をボロボロになるまで戦った時のことを思い出して。

 

「前っていつの話してるんだよ…。そん時俺って10歳にも満たないくらいじゃなかったか?」

 

翔人にとってもその時の戦いは記憶に残っている。

エーデルワイスの修行で力をつけて調子にのり始めたころの出来事である。

その戦いのせいで翔人はそれ以降自分の力を過小評価するようになったのだが、それはまた別の話。

 

「はて?そうじゃったかの」

 

「ボケちゃったか…」

 

「ひょっひょっひょ」

 

楽しそうに笑う南郷に翔人は苦笑いだ。

その後も近況報告などを含め楽しい会話をしていた翔人たちだったが、途中で南郷が少し真剣そうな面立ちで翔人に話しかける。

 

 

「して、翔人よ。今度行われる強化合宿にわしも行こうかと思うのじゃが」

 

「………一輝か?」

 

「その通り。わし自身の目で確かめておきたいと思ってな」

 

「まぁ…いいんじゃないの?プロの魔導騎士ごときじゃ一輝にはかなわないだろうし」

 

7月下旬には七星剣武祭の強化合宿が毎年行われている。

奥多摩の合宿場での10日間に渡る集中訓練。

これにはKOKリーグに参加しているようなプロの魔導騎士も講師と呼ばれることになっている。

翔人はその魔導騎士では一輝に敵わないと告げたのだ。

 

「まぁ刀華を倒すような騎士があの程度の連中に負けてるようじゃ話にならんしの」

 

「だろ?まぁ寅さん自らあいつに指導してやってくれ」

 

「了解じゃ」

 

そんな会話をして翔人は南郷と別れた。

 

 

 

 

 

 

帰り道翔人は1人考え込む。七星剣武祭の後のことだ。

翔人の目的は妹である桜を探すこと。

そのためにこの数年間力をつけてきた。

そしてようやくその力を使って桜を捜索することに決めたのだ。

しかし翔人は何からしていいか分からなかった。

それもそうだろう。

ここ何年も音沙汰がないのだから。

両親が殺されたあの日、桜の死体がなかっただけで、桜はもうすでに殺されている可能性だってある。

しかしなぜか翔人はまだ桜が生きているような気がしていた。

確信はない。単なる勘である。

 

「桜………。元気かな……?」

 

翔人は空を見上げ、ただ一人の妹のことを思った。

幸か不幸かその思いは後に届くことになる。

しかしそんなことを知るはずもない翔人はただただ妹のことを思うことしかできなかった。

 

 

 



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新たな幕開け

お久しぶりです。

色々用が重なってずっと更新できずにいました。
七星剣武祭までは終わらせるので気長に待っててくれるとうれしいです。


7月下旬。

梅雨も終わり、青空に白い入道雲が聳える季節。

選抜戦で駆けるように過ぎて行った一学期が終わり、破軍学園も夏休みに入っていた。

長期休暇ということもあり、帰郷した生徒も多く、校内の人気はまばら。

残っているのは東京でのびのびと夏休みを楽しみたい者か、学園の潤沢な設備で自分を鍛えたい者か――――

そんな中一輝やステラなど七星剣武祭に出場する選手たちは山形にある合宿場へと行っていた。

普段なら奥多摩で合宿は行われるのだが、例の奥多摩巨人騒動があったために新宮寺理事長が巨門学園に頼み込み合同合宿をすることになったのだ。

 

 

***

 

 

「あらら、《紅蓮の皇女》負けちゃった?」

 

「えー、うそぉ」

 

刀華とステラの戦いを見ていた2人の少女が溜息をつく。

彼女たちは合宿に取材に来ている『文曲』の新聞部だ。

七星剣武祭前の強化合宿は、普段中々取材する機会がない他校の選手を取材するチャンス。

各校の新聞部としては大切なイベントだ。

そのため、『文曲』の2人も、噂の姫騎士ステラ・ヴァーミリオンの記事を書くために九州からはるばるやって来たのだが――――

 

「なんだかガッカリー」

 

「実は弱かった!なんて記事にならないわよ」

 

ステラの話題性にあやかって記事を書こうとしたのだが、負けてしまっては紙面の盛り上がりに欠ける。

肩透かしを食らったと鼻白む『文曲』新聞部。

そんな嘆きを、―――同じく新聞部の日下部加々美は少し離れた場所から聞き取り、呆れた声で嘆いた。

 

「やれやれ、『文曲』さんはどこに目を付けているんだか」

 

「本当に。自分が求める結果に引っ張られて、目の前の真実を見る目が曇ってるなんて、記者として話にならないわね」

 

賛同したのは加々美の横で2人の模擬戦を観戦していた有栖院凪だ。

そんな2人とは別に見る目をもった者もいる。

それが加々美たちから少し離れた場所で戦いを観戦していた二人の男女だ。

 

「いやぁ、すごい戦いやったなぁー。ありゃー銭がとれるで!」

 

「今年の破軍はずいぶんと粒ぞろいだな。日下部」

 

近づきながら声をかけてきた二人に、加々美が笑顔で応対する。

 

「八心さんと小宮山さん。お二人も観戦していたんですね」

 

「それそうやで。模擬戦とはいえ《雷切》と《紅蓮の皇女》の戦いを見逃すなんて、記者の風上にもおけんわ」

 

「まったくだな。とは言っても見に来たのは別だが」

 

「本命?」

 

小宮山の言葉に疑問を思った有栖院が声を漏らす。

 

「そうだ。《流星の剣帝》…と言えば分かるか?」

 

「あぁ、翔人先輩ね」

 

有栖院は納得する。

 

「ウチも《流星の剣帝》が本命や。まぁどこも似たようなものやと思うよ」

 

「それはそうだろ。初めての出場,Aランク騎士,19勝不戦勝。それにあの男たちに昔とはいえ勝っている経験もある。そんな騎士が本命じゃないなんて記者としては信じられないからな」

 

「あの男たち?」

 

「《風の剣帝》と《七星剣王》の2人や。今回《風の剣帝》や《流星の剣帝》が出場するって聞いて色々調べたんやけど、そうしたら《流星の剣帝》はこの二人に無傷、圧勝やったんや」

 

有栖院の問いに八心は自慢げに話す。

自分の調べたことを話したかったのだろう。

彼女の顔は満足げだ。

 

「それでその《流星の剣帝》はどこにいるんだ?姿が見えないが」

 

そんな小宮山の質問に加々美は答える。

 

「あぁ翔人先輩なら――――」

 

 

 

***

 

 

 

場所は変わって、青森にある小さな村。

その墓地で翔人は手を合わせてしゃがんでいた。

 

(父さん、母さん、久しぶり。最近忙しくてまったく会いに来れなかった。けどいい報告がたくさんあるんだ。まずは―――――)

 

翔人は故郷である村に墓参りに来ていた。

もちろん自身の両親の墓参りだ。

この数年間、本人の思う通り翔人は忙しくて墓参りに来ることができないでいた。

理由は色々ある。

修行だったり、修行だったり、修行だったり………

まぁ要するに修行で忙しくて来れていなかったのだ。

そんな余談を交えながら翔人は心の中で両親に近況を報告していた。

そして最後には、

 

(2人とも、桜は俺が絶対に見つける。だから心配しないでくれ。次来るときは桜も一緒だ)

 

と、両親に誓った。

そんな翔人の宣言に両親たちは『あぁ、待ってる』、そんな言葉を発したように翔人は感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「墓参りも済んだし、これからどうするかな」

 

墓参りが終わった翔人は、これからの予定について考える。

一応訳を言って、合宿には行かなくてもいいことになってはいる。

とは言え、同じ七星剣武祭のメンバーに顔だけでも見せておいたほうがいい、と翔人は考えていた。

 

(走ってけば山形なんてすぐだけど…面倒くさいな。行くなら電車か)

 

翔人はそう考え、駅へと向かった。

 

 

 

***

 

 

 

「という訳なんですよ」

 

加々美は翔人のいない理由を2人に告げた。

 

「そうかぁ~。《流星の剣帝》の取材を楽しみにしてたんやけどな」

 

「そういう理由ならば仕方ないな」

 

二人は残念そうにしながらも、うんうんと頷き納得していた。

 

「それにしても《流星の剣帝》と《風の剣帝》の勝負は是非とも見たい対戦だな」

 

「せやな。しかしネットでは《紅蓮の皇女》と《風の剣帝》の対決を期待する声が多かったけどな」

 

「まぁステラちゃんは有名ですからね。翔人先輩地味だしそれは仕方ないんじゃないですかね」

 

3人がこれからの対戦に対してそれぞれの思いを吐露する。

実際翔人の存在を知っているのは七星剣武祭に出場するメンバーくらいだ。

というのも世間では翔人の詳細はいまだ出回っていなかったためだ。

 

 

「しかしどちらにしてもAランク同士の対決だ。誰だって見てみたいだろうよ。何せ《世界時計》対《夜叉姫》以来のAランク対決なんだから」

 

「だがそれを踏まえても、私が今大会で一番注目しているのは―――《落第騎士》だ」

 

小宮山はこの大会のダークホースは一輝だと告げる。

自らの記者としての勘が告げるらしい。

 

「あの《紅蓮の皇女》との対決以来密かに噂され、そして《雷切》相手に勝利を収めたことでいよいよ表舞台に頭角を現した無名のFランクが、全国相手にどこまで斬りこめるのか。……内心誰もが楽しみにしていることだろう」

 

「《紅蓮の皇女》を倒し《雷切》を一刀で斬り伏せた《風の剣帝》の弟…。まぁそれも納得やな」

 

そんなセリフを最後に別の選手を見つけた2人は加々美たちから離れていった。

 

 

 

***

 

 

 

 

合同合宿最終日の昼ごろ、翔人はようやく合宿場に着いた。

しかし、

 

「さっき帰った!?」

 

翔人の大声に南郷は落ち着いた様子で答える。

 

「うむ。刀華が生徒全員を連れて帰っていったぞ。何じゃ知らんかったのか?」

 

「あ、あぁ」

 

翔人はその言葉にがっくりと肩を落とす。

もともとサプライズで顔を見せようとしていたために、翔人は誰にも連絡していなかった。

それが仇となったのだ。

 

「まぁ仕方ないの。お主なら破軍までそう時間はかからないじゃろ?修行がてら走っていったらどうじゃ?」

 

「修行ね…。今更走ったくらいで修行になるとは思えないけど…。暇だしよかったら寅さん一緒に電車で帰らない?」

 

「おぉ、それはええの。お主とはゆっくりと話したいと思っていたんじゃ」

 

そんな話すことあったっけ?と疑問に思う翔人であったが、一人で帰るよりは話し相手がいたほうがいいことは確かだった。

 

「それじゃあ行こうぜ。刀華たちがいないんじゃここに用もないし」

 

「そうじゃの。ところで翔人、最近刀華とはどうなんじゃ?」

 

「どう…とは?」

 

南郷のセリフに対して疑問を覚えた翔人は首をかしげる。

 

「隠さんでもええわい。もちろん恋仲のことじゃわい」

 

「ぶふーっ」

 

南郷のぶっちゃけに翔人は思わず口にしていた水を吹き出す。

 

「おぉ、そんなに刀華とは進んでおるのか」

 

「ちょ、ちょっと寅さん?何か勘違いしてはおりませぬか?」

 

そんな会話をしながら二人は駅へと足を向けようとする。

しかし…

 

「……?寅さん、なんかそこに気配がないか?」

 

「おぉ、翔人もそう思ったか。わしもそう思ったところじゃ。やはり気のせいじゃなかったか」

 

 

そう思い二人は気配がする倉庫に歩み寄り、

 

「―――――、」

 

一息、目にも止まらぬ速さで扉にかかっていた南京錠を切断した。

そして戸を開くと、

 

「んー!!んーっ!」

 

中で手足を縛られ監禁されていた少女を発見した。

その少女を見て翔人は目を見開く。

 

「お前は確か…」

 

そう首をかしげながら、翔人は手足の戒めを斬りはらう。

 

「ぷはっ、ハァ!ハァ!た、助かりました……!」

 

「助かったってことはそういうプレイだったわけじゃないんだな…。それでどうしてこんなところで縛られていたんだ、加々美?」

 

そう、監禁されていた少女は日下部加々美だった。

 

「た、大変なんです、翔人先輩!」

 

「そう焦んなって。落ち着いて話してくれ」

 

翔人にそう言われ、加々美は一呼吸置いた後、

 

「アリスちゃんは他校のスパイだったんです!」

 

叫ぶようにそう告げた。



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望まれた再会

お久しぶりです。
覚えてくれてる人いたら嬉しいなぁ…

短いけどよろしくです!


「何だ…これ」

 

 加々美に事情を聴いた翔人は、ありえない速さで破軍学園へと着くとそう声を漏らした。

 校舎のそこかしこから火の手が上がり、黒煙が立ち上っている。

 地面を舗装しているアルファルトはひび割れ、砕け、爆撃でも受けたような有様。

 そして、荒廃した学園のかしこに、滞在組の生徒や教師が倒れていた。 

 そんな翔人の元にガキィンという刀の交わった音が聞こえた。

 

 

「こっちか!」

 

 

 翔人は音のした方へ全力で走る。

 するとそこには…

 

 

「え…?」

 

 

 

 彼の見知った人たちが倒れていた。

 

 

「雷、恋々……」

 

 

 向かって右側には後輩たちが。

 

 

「カナタ、泡沫……」

 

 

 左側には同級生たちが。

 

 

「刀華………」

 

 そして正面には大好きな幼馴染が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと来たか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翔人が生徒会のメンバーへと思いを募らせている中、この学園で聞きなれない声が翔人の名を呼ぶ。

 翔人が顔を上げると、そこには固有霊装を構えている男が立っていた。

 

 

「久しいな、翔人」

 

 

「王馬、か…?」

 

 

「王馬さん、この人は誰です?」

 

 

 翔人のセリフに重なるように一人の生徒が王馬に尋ねる。

 もちろん破軍の生徒ではない。

 

 

「奴の名は斎藤翔人。俺の知ってる中で最も力を持っている伐刀者だ」

 

 

 翔人が驚いている中、王馬は破軍の生徒たちに告げる。

 

 

「なんとっ!?それは王馬さんよりも…ということですか?」

 

 

「あぁ。今はどうか分からんが、昔俺が戦ったときは傷一つ付けられなかった」

 

 

「っ!!!」

 

 

 王馬のその一言に暁学園のメンバーは目を見開いて驚いた。

 それもそのはずである。

 彼らにとって、暁学園の絶対的エース黒鉄王馬が、昔とはいえ傷一つ付けられなかったなどということは信じがたいものであったからだ。

 

 

「……王馬、一つだけ聞いておく。こいつらをやったのはお前か?」

 

 

 そんな破軍学園の生徒たちの言葉など聞く耳を持たず、翔人は淡々と尋ねた。

 

 

「俺たち、と言っておこう。だが、そこの女をやったのは俺だ」

 

 

 王馬は顎で刀華を指した。

 

 

「そうか……。他に何か言い残すことはないか?久しぶりの再開だ。すぐに殺るのはやめてやる」

 

 

 その言葉に王馬は口元を吊り上げた。

 

 

「話すことなど何もない。《紅蓮の皇女》にがっかりしていたところでな、お前が来るのを楽しみにしていた」

 

 

「そうか……。じゃあ死んでくれ」

 

 

 翔人がそう告げた瞬間、暁学園のメンバーを殺気が覆う。

 暁学園のほとんどの生徒はそれに畏怖し地面に座り込んでしまった。

 中には失禁しているものまでいた。

 そんな破軍の生徒たちに王馬は仕方ないとばかりに告げる。

 

 

「お前たち、どいていろ。近くにいたら死ぬぞ」

 

 

「近くじゃなくても殺すさ。俺の仲間に手を出した罪は死以外で償うことはできない」

 

 

 そう告げ、翔人は一呼吸置き、

 

 

流星(ミーティア)

 

 

 そう呟くと空から一つの光が王馬に迫る。

 しかし、

 

 

「フッ!」

 

 

 王馬は自身の刀で一振りし、流星を真っ二つにする。

 

 

「もっと本気で来い。昔のように」

 

 

 王馬の言葉に翔人は少し驚いていた。

 それは流星を退けられたこともあるが、一番驚いたことは王馬の勘違いだった。

 

 

「そうか。それじゃあいわれた通りちょっとだけ力を出すよ。ただ王馬、一つ勘違いしているぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――俺はお前なんかに本気を出した覚えはない

 

 

 

星崩し(セーマ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翔人がそう告げた瞬間、王馬たちがいる場が暗くなった。

 王馬以外はそれを疑問に思うが、王馬はすぐさま上空を見上げる。

 

 

「何っ!?」

 

 

 王馬は上空を見上げて叫んだ。

 なぜなら、上空には1000メートルはあろう巨大な隕石が存在していたからである。

 王馬の声に反応した他の暁学園のメンバーも、驚きを露わにする。

 

 

「何だこれは!?」

 

 

「散れ、クズども」

 

 

 その言葉と共に巨大な隕石は爆発する。

 それと共に爆炎が暁学園のメンバーを焼き尽くす。想像しがたいほどの爆発。

 これほどの威力があったら学園も爆破していると思うかもしれない。

 ただそこは翔人の能力の見せどころ。

 翔人は口では熱くなっていたが、頭の中はいたって冷静であった。

 星屑しと共にすぐさま別の伐刀絶技を発動。

 その名も異次元空間(ブラックホール)

 威力、程度を問わずすべてのものを飲み込む技である。

 以前生徒会室で片づけのときに使ったのもこの伐刀絶技である。

 

 

 

 

「くっ……」

 

 

「なんだ、まだ生きていたのか。しぶとい奴だ。今楽にしてやる」

 

 

 翔人は王馬が生きていることを確認すると足を一歩一歩と彼の元へと動かした。

 王馬は抵抗しようとするが身体が言うことを聞かず、何もすることができない。

 他の暁学園のメンバーは全員気絶しているため仲間を呼ぶこともできない。

 正に今黒鉄王馬は絶体絶命だった。

 しかし、

 

 

「ひ………ろ………くん?」

 

 

「刀華!?」

 

 

 かすかに聞こえた刀華の声に翔人は一瞬にして殺気を消す。

 そして王馬へと向けていた足を翻し、刀華の元へと駆け出した。

 

 

「大丈夫か、刀華?」

 

 

「う……ん。なん……とか……ね」

 

 

「そうか。…じゃあすまないけどもう少し待っててくれ。お前たちをこんなにした連中を消してくるから」

 

 

「だ、だめっ!」

 

 

 翔人の言葉に刀華は激しく反応した。

 

 

「…刀華?」

 

 

「人殺しなんかしたらダメ。私は…ひろくんにそんな人になってほしくないよ…」

 

 

「そうは言ってもだな…。奴らは刀華たちをこんなにしたわけで…」

 

 

「だとしても…!いや…だからこそひろくんには何もしてほしくない。私たちがやられたのは私たちに力がなかったから。やるなら私たちの手で…やらせてほしい」

 

 

「刀華……」

 

 

 翔人は刀華の言葉を受け、目を閉じる。

 そして一つの結論を出した。

 

「分かったよ…。じゃあとりあえず今は手当てしないとな」

 

 翔人は笑顔でそう告げると、刀華を抱き上げた。

 そう、お姫様抱っこで。

 

 

「ひ、ひろくん!?」

 

 

「大人しくしてろ、怪我人なんだから」

 

 

「そ、そうは言っても…」

 

 

「王馬」

 

 

 テンパっている刀華の言葉を受け流し、翔人は背後にいる王馬へと声をかける。

 

 

「今回は………今回だけは見逃してやる。刀華に感謝しろ」

 

 

「くっ…」

 

 

「次はないぞ?俺に用があるなら直接来い。じゃあな」

 

 

 翔人はそう告げると、保健室へと向かおうとする。

 しかし次の瞬間…

 

 

 

「えっ?」

 

 

 翔人は腹のあたりに痛みを感じた。

 

 

「ぐっ…ゴフッ!」

 

 

「ひ、ひろくん!?」

 

 腹を刺された翔人は血を吐いた。

 王馬たちの仲間が残っていたのか、と思った彼は後ろを振り返る。

 すると同時に翔人は驚愕の顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶり、お兄ちゃん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには翔人の妹、桜が満面の笑みを浮かべ立っていた。

 




更新ペースはどうなるかわかりませんが、完結はさせますので気長にお待ちいただけたら幸いです


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