ダンジョンでウホッするのは間違っているだろうか。 (アルとメリー)
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俺達ゃ命知らずの堀り馬場さ!

 原作のロキの扱いに物申したくて書いた。今では後悔している。


 「そこのお嬢ちゃん、サポーターに俺なんて、どうだい?」

 

 屈強な体格をした男がダンジョンの入り口で女性に声をかけていた。男は2メートルほどの身長に防具の上からでもわかるほどの筋肉に覆われた屈強な体格をしている。その一方で話しかけられた女性は、腰まで伸びる美しい金髪に人形のように整った容姿、地上の美を体現したかのようなプロポーション、その上で腰などの主要な部位に防具をつけてはいるものの、全体的に軽装の部類に入る格好をしている。

 ぶっちゃけると美人である。

 その野獣のような男が美女に声をかけていた。

 男は少し疲れたかのような顔をしているが、その顔つきは歴戦の猛者を髣髴とさせる。

 ただし、無理にさわやかさをかもし出しつつ、サムズアップされた手がなければだが。

 

 

「……私に言ってる?」

 

 男は返事を期待していなかったのか、見るからに驚いている。それもそのはず、ここにいたるまでにすでに何十人と声をかけてそのほぼすべてに無視されて今に至っているのだから。

 

「おうよ。今ならお安くしとくぜ?」

「……ついてこれるなら、いいよ。」

 

 どうやら笑顔を作ろうとしたであろう男は、傍から見れば女性を連れ去る人攫いのようであるが、何を思ったのか、女性は軽く返事をした。

 そのままダンジョンへと入っていく美女。

 

「って待たんかいっ。」

 

 どうやら男は大きな図体をしていながら突っ込みまで習得しているようである。

 

 

 ■ ■ ■

 

 唐突な話であるが、男はホーリィ・馬場という。

 この男、この世界の住人ではない。

 正確には、ではなかったといったほうが正しい。

 つい数時間前まで男は自宅でゲームをしていた。レトロな2Dのゲームである。いつものように男はそのゲームでアイテム収集に精を出していた。

 ゲームの名前はDIABLOⅡ。

 古き良きハック&スラッシュ系のオンラインでもできるゲームである。そのゲームをしていた男はアイテム収集に命をかけていた。なにしろ、アイテム収集をするために、戦闘能力皆無なビルドである掘り馬場をメインキャラで使っていたのである。筋金入りである。戦闘能力皆無なため、その日も強い他のプレイヤーに寄生しながらプレイしていた。そんな時、いつものように死体に向けてウホッウホッ(ITEM FINDという敵の死体からもう一度ドロップアイテムを得るスキル)していたところ超絶レアドロップアイテムがごろごろと出てきたのである。そのとき、男は逝ってしまった。

 

 興奮しすぎて死んでしまったのである。

 

 いわゆる、腹上死、テクノブレイク、そういった結果であった。

 その男が目を覚ますとどことも知れない場所にいたのである。男は驚き、慌て、混乱し、発狂に近い行動をとると思われたが、そんなことはなかった。

 冷静に自分の姿を確認し、自分の意のままに動くことを確認し、装備品を確認し、スキルを確認し、イベントリやアイテムボックス、ステータス、果てはアイテムの使い方までを冷静に確認し始めた。

 その上で、彼はどうやらひとつの結論に達したようであった。

 

『なんか知らんが、ゲームの中に来た。ゲームのやりすぎでこんな夢を見るとは相当キテるな。だがいいぞ、もっとやれ』

 

 男はこれを夢であると感じたようであった。

 その上で男はよくわからないので自分のやりたいことをしようと考えたのであった。

 

 そうだ、ダンジョンでアイテム収集に命を懸けよう。

 

  元々そういうビルドであるし、他の人に寄生してアイテムを掘るのが男のジャスティスなのである。

 

 そこからの男の行動は無駄がなく、的確で迅速であった。

 まず彼が行ったのは冒険者ギルド。情報収集をしようと街を歩いていたら発見したのですぐに入ったのである。その受付の人に根掘り葉掘りしつこく質問したところ、彼は現状を把握してしまった。

 

 ・ここはオラリオという世界で唯一のダンジョンを抱える神々が住まうとしてあること。

 ・神々の恩恵を受けた者を冒険者といい、日夜ダンジョンにもぐりレべリングをしているということ。

 ・神の恩恵を受けないと冒険者になれないということ。

 ・レベルシステムが男とはまったく違うこと。

 ・サポーターという男にとっては天職となるものが存在すること。

 

 他にも様々な情報を得ていた。

 ただ、男にとって必要な情報以外は右耳から入り左耳へと抜けていったのだが。

 

 その後の男は手持ちの金貨を換金(貨幣価値が違ったため単なる金として買い取ってもらった)し、すぐにサポーター用のバックパックなるものを購入。その足でダンジョン入り口周辺のサポーターの群れの中に混ざったのである。

 

 そして現在の状況へと至る。

 

 

 

 金髪の女性がダンジョン内をスタスタと歩いていく。その速度は非常に速い。普通の人にとってはもはや走っているのではないかという速度である。そのうえ、進路上に存在するモンスターを一瞬で切り捨て、一瞥もせずに先へと進んでいく。

 冒険者に猛烈な売込みをかけるダンジョン入り口のサポーターの群れが何故この女性に声をかけないのかは、恐らくこれが原因であると思われた。普通のサポーターであるならば、付いていくのは無理である。

 ただし、普通であるのであれば。

 

 

「ウホッ!なるほど、これが魔石ってやつかぁ!へぇ~、ふぅ~ん。ウホッ!お、もう一回出てきた。って、これはドロップアイテムってやつかな?もうけ~。」

 

 男は普通ではなかった。

 スキルとアイテムで常人よりも移動速度が恐ろしく速いのである。恐らく、女性の3倍速はあるかもしれない。その上、手癖が悪く、女性が倒したモンスターに蝿のように群がる。その上女性の行動の邪魔になるような行動はとらない。

 

 恐ろしく有能なサポーターであった。

 

「!!!」

 

 あまりにもあまりな男の動きに女性が驚愕の視線を送る。ぶっちゃけ動きがきもい。

 

「ん?どうかしたか?ああ、安心しろ、俺の取り分は1割でいいぞ?っていうか、どんどん行こうぜ!」

 

 女性はとりあえずコクコクと頷いた。

 とりあえず害はないし、アイテムはきちんと回収してくれるし、取り分も普通のサポーターと同じぐらいである。特に不満はなかった。

 

 ホーリィにとって幸運だったのは、初めてパーティーを組んだ相手があまり他人に興味のない女性であったこと。

 無駄な詮索等をされずにすんだこと。

 お互いに絶妙な感覚でパーティーを組めていた事である。

 

 そんな美女と野獣は何事もなくダンジョンの18階に到ってしまった。

 

 

 ■ ■ ■

 

 

「……っ!……ゴライアス!」

 

 女性が小さく口にする。

 そこにいたのは階層主と呼ばれるユニークモンスター。18階層を守る凶悪な主である。それが今まさに、美女と野獣が18階層に足を踏み入れた瞬間に生れ落ちる。

 

「おー、でっかいごりらがおる。もしかしてボスってやつかい?いいねいいね!」

 

 ホーリィはどこまで行っても能天気であった。

 それもそのはず、彼は今のこの状況を未だ夢だと思っており、危機感のかけらもない。

 彼の頭の中ではどんなアイテムをドロップするんだろうということのみで埋め尽くされていた。

 

 その男に向かって女性が手をかざす。

 あたかもこれ以上は危険だからそこで待機しておくようにといわんばかりの手である。

 

 「あ、うん。よろー。」

 

 そのハンドサインを的確に受け取り、その場で待機した男を一瞥すると女性は走り出し、ゴライオスへと肉薄していく。そして壮絶な戦いが始まった。

 

 その光景を男は眺めていた。小さな呪文を唱えて風を纏い、強大なモンスターに確実にダメージを重ねていく女性。

 しかし、その光景に男はふと思った。

 

 なんていうか、効率悪くね?

 

 男は真性の効率厨のガチ廃人であったのだ。ちまちまダメージを与えていくなどその精神が許さない。

 とたんにいらいらしてきた男はどうやら妙案を思いついたというか、思い出したようで女性の方へと歩き出した。

 

「……え?危ないから、下がって!」

 

 自らに近づいてきた男に警告を発する女性。だが、どこ吹く風と男は女性から10メートルほどのところまですばやくやってきた。

 そこで男は何故か雄たけびを上げた。

 

「しゃーこらー!」

 

 男は無駄に雄たけびを上げたわけではない。男のした行動はパーティーメンバーに対するHP、DEFの大幅な上昇、そしてスキルを+1すると言う行動であった。いわゆる支援バフである。

 そしておもむろに今まで装備していた2本の剣を腰の鞘にしまうと背負っていた盾と違う剣を装備した。

 そしておもむろに女性に一言。

 

「後は頼んだ!」

「……。」

 

 きっと女性は危ないとか、下がってとか、邪魔とか、もしかしたら一緒に戦うのかな?とか色々な事を思ったのだろう。しかし、男の一言に全てを切り捨てて目の前の怪物に集中することにした。

 気にしてもしょうがないと、悟ったともいう。

 

「オオォオオオオオオオオオオオォォォ!!!!!!!!」

 

 ゴライオスが雄たけびを上げると拳を振り上げる。

 その視線の先には筋骨隆々とした男が立っていた。そして振り下ろされる拳。

 

「あぶなっ……、―――――――― えっと。……!!ッン!」

 

 なんともいえない空気が流れる。

 先ほどまで拳を振り下ろしていたゴライオスは何故か仰け反っていた。1メートルほどノックバックしているように見える。

 何故?とかどうやって、とか考えることはたくさんあれど、この好機を逃す女性ではなかった。

 風を纏って飛び上がると隙だらけなゴライアスの胸に剣を突き刺す。それによってゴライアスの魔石が破壊されたのか、巨体が崩れ落ちる。そこまでして女性は万が一反撃を食らわないように一旦距離をとった。

 そして男へと視線を向ける。

 男が何をしたか、それは簡単である。

 

 1メートル前へとジャンプして着地しただけである。

 

 これは掘り馬場の最終兵器とも言われるリープ(任意の地点に向けてジャンプして着地する)と呼ばれるスキルである。敵に囲まれたときや、味方に追いつきたいけど敵が邪魔なときに活用するスキルなのであるが、これには他にも活用方法がある。

 着地地点に敵がいた場合、押しのけるのである。

 しかもその瞬間は無敵になる。

 何を言っているのかわからないだろうが、これはゲームシステム上の仕様であった。それが遺憾なく発揮されたのである。ちなみに攻撃能力は皆無なため、ただの嫌がらせ以上にはやはりならない。

 どこまで行っても掘り馬場は戦闘能力皆無というのが現実なのであった。

 

「……今のは、なに?」

 

 女性の疑問ももっともである。

 

「おあああ!なんかレアっぽいのが落ちてるじゃん!ってやっぱり素材か。もしかしてここってどちらかというとモン○ン系統のシステムなんだろうか。俺としては洋ゲーによくあるMOD系統の方がすきなんだけどなー。とりあえずもう一回、ウホッ!」

 

 

 女性の質問はどうやら聞こえていないようである。

 

「おっしゃ、もういいぞー。どんどん行こうぜ~!」

 

 渋めの歴戦を感じさせる男の容貌からは考えられないほど軽い調子で先を促す発言が飛び出る。

 それに対して女性は思った。

 

(とりあえず帰ったらいろいろ聞こう。)

 

 

 この日、美女と野獣は39階層まで探索して帰ってきた。

 

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 

「ホーリィ、そろそろ降ろしてほしい。」

「まあまあ、落ち着けって。まだ本調子じゃないんだろ、アイズ?ここは頼れるおっさんに任しとけって。」

 

 アイズと呼ばれた女性がホーリィに向けて若干恥ずかしそうに言う。

 さもありなん。現在、筋肉モリモリのおっさんにアイズはお姫様抱っこをされていた。

 

 時はちょっと前にさかのぼる。

 39階層までオラオラで進んでいたアイズだったのだが、流石に一人で全ての敵を倒すのはしんどかったのか、とうとう精神力を使い果たし、一歩も動けない状態へとなってしまったのである。いわゆる、マインドゼロ一歩手前である。

 そんな状態になろうともダンジョンは待ったをかけてはくれない。

 今がチャンスとばかりにアイズ達は壁から一斉に生れ落ちたモンスターに囲まれてしまった。

 そんな緊急事態にも動じないのがホーリィである。

 

「じゃあそろそろ帰りましょーか。」

 

 そのままアイズをお姫様抱っこで回収するとすたこらさっさとダンジョンを逆走していったのである。常人の3倍速がデフォルトなホーリィはモンスターを全て振り切って今に至る。

 余談ではあるが、帰る間に自己紹介は済ませたようであった。

 

 

「その……。(流石にこの状況を他の人に見られるのは恥ずかしい。)」

 

 当たり前といえば当たり前な話なのであるが、ホーリィは気が付いていない。頭の中は今回手に入れたドロップアイテムのことでいっぱいなのであった。

 

(確か、冒険者ギルドのお壌ちゃんいわく、鍛冶師なるものがいて、そいつにドロップアイテムを渡して装備品を作ってもらえばいいとか言ってたよな。今回大量のドロップアイテムがあるし、そこそこのものが作れるんじゃね?ボスドロップもあるけど数がないからたいしたものは作れないかもしれないしなー。乱獲するしかないのか。そうか、乱獲しよう!)

 

 脳内お花畑である。

 

 と、ホーリィが重要なことを考えているとあっという間に出口である。

 

「お、出口みたいだぞアイズ。このまま家まで送っていってやるよ。どっちいけばいい?」

「……え?あ、その、……………こっち。」

 

 恥ずかしさから下を向いていたアイズは降りるタイミングを外してしまったようであった。

 恐ろしい速度で爆走するホーリィに指を刺しながらファミリアのホームへの道を指差すアイズ。

 

 

 

 もちろんバベルにいた人に目撃された。

 

 

 

 ■ ■ ■ 

 

 

 

「なんばしょっとねーーーーーん!!!しょっとねーん!!!!!」

 

 無事?にロキファミリアの本拠地へと到達したホーリィを待っていたのはへんな関西弁を使う女性からの突っ込みであった。

 

「ごるぅああああ!うちのアイズになんてうらやま、じゃなかった、破廉恥なことしくさっとんじゃわれぇ!」

 

 ホーリィの後頭部をジャンプしながらぺしぺし叩く女性は何を隠そうロキファミリアの主神であるロキであった。

 

「うおっ、いたいいたいいたいいた、く、ない?むしろ、切れてなぁ~い。」

「って、頭かった!しばいたうちの手のほうが痛いわぼけぇ!っていうかその仕草メッチャムカつくわ!」

 

 ファミリアの主神は朧げながらではあるがファミリアのメンバーがどこにいるか判るのである。その為、アイズがファミリアのホームに向けて帰ってきているのを察したロキは出迎えようと玄関口で待っていたのであった。

 ロキとホーリィーが漫才している間にそそくさと地面に降り立つアイズ。

 

「ロキ、ただいま。」

「おかえりやーアイズたん。この変なんに何もされとらへん?大丈夫なん?つーか、これ何なんや、思い出したらまた腹立ってきた!せや、うちの代わりにこの筋肉だるまなますにしたってぇな!こいつものごっつ固いねん!」

 

 そういってホーリィを指差すロキ。

 しかしアイズは首を振る。

 

「……無理。多分、私より強い。」

「は?ホンマによーるん?マジで?」

 

 そこで初めてロキはきちんとホーリィーを見据えた。その瞳は流石は神であるといわんばかりの鋭いものであった。

 が、視線の先のホーリィはというと。

 

(やばいな、これはやばい。)

 

 ホーリィは恐ろしい窮地に立たされていた。

 

(なんだこいつ、関西弁にちっぱいに突っ込み担当にかませ犬臭がプンプンする。だ、だが!的確に俺の急所(好み)に合わせてくるとはやるじゃねぇか。)

 

 どうでもいい窮地だった。

 

「あんた、何や?見たところ冒険者じゃ無い。神々の恩恵を感じられへん。せやのにアイズは自分より強いゆーとるし、何者や?」

「―――――――えっ!!?」

 

 先ほどまでのおちゃらけた雰囲気を感じさせない、ひとつの眷属を纏め上げる長としての威圧がホーリィへと突き刺さる。

 

 その返事はどこまでも軽かった。

 

「ただの掘り馬場だ。いや、確かに俺は掘り馬場の中の掘り馬場、言うなればキングオブ掘り馬場! あ、ところでロキって呼ばれてたってことはロキファミリアの主神ってことでいいのかな?それだったら俺をファミリアに入れてほしいんだけど。」

 

 軽すぎる。

 

 軽すぎてキレたロキが二周半回って少しだけ冷静を取り戻すぐらいには軽すぎた。拳を握ってわなわなしている。

 ホーリィは思った。

 何か怒らせるようなことを言っただろうか、と。

 

「うぉい、うっせーぞロキ。玄関先で何してんだよ。って、アイズじゃねか、久しぶり。」

 

 とそこに銀髪の人狼、ベートが騒ぎを聞きつけてやってきた。ただ単に団長に様子を見て来いと言われてやって来ただけなのだが。そしてアイズからは会釈だけで返事をもらえない。

 

「ふっふっふっ。そこの筋肉だるま、うちのファミリアに入りたいゆーたな!せやったらそこのベート倒したら入団認めたる。」

「はぁ?いきなりなんだよ、めんどくせぇ。他のやつにさせろよ。」

 

 様子を見にきたらロキにいきなり目の前の男と戦えと言われたベートは心底面倒に思っていた。こういったことはよくある。アイズに惚れ込んだ男がロキファミリアに入団したいとやってくるのである。そういった輩は最終的にいつもベートが追い払ってきていた。今回もそうなのかと思い、ベートはため息をついた。 

 

「そいつ、さっきまでアイズたんお姫様抱っこしとったで。」

「おい、おめぇ、生きて帰れると思うなよ?」

 

 一瞬で牙をむき、臨戦態勢になったベート。

 ちょろい、ちょろすぎる。

 

「よくわからんけど、これ倒せばいいの?」

 

 ホーリィは掘り馬場である。本人は戦闘能力皆無だと思っていた。実際、DIABLOⅡにおいてはそうであったのでそうなのだと思っていた。

 しかし、アイズと一緒にダンジョンに潜り、その認識を変えつつある。

 

 ホーリィは思っていた。ここは難易度で言えばノーマルってやつだな、と。

 

 DIABLOⅡには難易度が3段階ある。

 ノーマル、ナイトメア、ヘル。

 もちろん、ノーマルが一番簡単でヘルが一番難しい。

 簡単な難易度をクリアするごとに次の難易度に進めるのである。適正レベルはノーマルで40以上、ナイトメアで70以上、ヘルはレベルというより装備品が揃わなければ無理ゲーである。

 その、ヘルにおいて戦闘能力(攻撃力)皆無であって、ノーマルであれば余裕で倒せるレベルと装備品なのである。

 

 そんな状況で目の前の狐耳をした男を倒せといわれたらどう感じるだろうか?

 

 え?そんなんでいいの?

 

 こう感じるのではないだろうか。

 あくまでホーリィ基準での話である。

 軽い調子で言われたベートはもちろん青筋を立てている。

 

「おい、ロキ。もう殺していいんだよな?」

「ええで、自分がどんなに馬鹿か後悔する暇も与えんでええわ。」

 

 その瞬間、ベートが地面を踏みしめる。

 一瞬での加速。そこから突き出される拳には何の慈悲も無く男の心臓を貫くと思われた。

 

 しかし、それはあくまでもベート基準の話であった。

 ホーリィにとってはベートって呼ばれてる狐耳をつけた男がゆっくり殴りかかってきた、ぐらいの印象である。

 ホーリィはその拳を何の気なしに受け止めた。

 

「―――――――――っ!!!」

 

 

 拳を受け止められるや否やすぐさま距離をとるベート。

 ベートにしてみれば殺す気満々の拳を簡単に受け止められたのである。その驚愕は計り知れない。そもそも、神々の恩恵を受けていないものが反応できる速度でも威力でもないのである。警戒をするのは当たり前であった。

 

 

 そんな時、ホーリィは別のことを考えていた。

 

 どうやって攻撃しよう。

 

 ホーリィは掘り馬場である。

 掘り馬場は戦わないものである。その考えがあるからこの夢が難易度ノーマルだと思ってもダンジョンでアイズの手助けをしなかった。敵を倒すのは掘り馬場であってはいけないのだ。

 しかし、とホーリィは考える。

 これはダンジョンじゃない。つまりPVPみたいなものである。なんだか弱いものいじめ(ホーリィ主観ではレベル30の貧弱装備相手にネタビルドとはいえレベル99のガチ装備がPVPしている)みたいに感じるし、どうしようかと考えていたが、どうやら相手はやる気満々であるらしかった。なので、全力で苛める事にホーリィはした用である。

 

「しゃーこらー!」

 

 一つ雄たけびを上げるとホーリィは盾と剣を装備した。

 この片手剣は、ビーストという。パーティーメンバーの攻撃力と命中率と攻撃速度を大幅に上昇させる(半径10メートルぐらい)オーラを纏える優れものである。ついでに熊に変身できる。

 

 

 

 ついでに熊に変身できる。

 

 

 ホーリィの体が蠢いたと思うと、一瞬で体長3メートルは優に超える巨大な熊に変身していた。

 

「は?」

 

 そのままホーリィはベートに近づくと熊パンチをお見舞いした。

 

「へぶしっ!」

 

 哀れベート、懸想するアイズの目の前で空を飛ぶのであった。そのままいやな音を立てて着地するとゴロゴロと転がり、動かなくなった。

 

「え?」

「んなあほな……。」

「(コクコク)」

 

 アイズからしてみればわかりきった結果であった。どう考えてもベートよりホーリィのほうが強い。当然の結果であった。それよりもこんな状況でも心配されないベートがかわいそうで仕方が無いが。

 そんな中、一番動揺していたのはホーリィであった。

 

(え?マジで?一回軽く殴っただけで飛んでったよ!どこのワンパ○マンだよ!っていうか、やべぇ、死んだんじゃね?」

 

 いち早く状況を察したホーリィはベートの元へと急行する。そして変身を解くと腰のポーチからフルリジェネポーションを取り出す。それをベートの口に突っ込み無理やり飲ませた。

 一瞬でベートの全身が逆再生のように回復する。

 

「ぐ、ぉ、て、てめぇ、殺す。かくご、しとけ、よ……。」

 

 それだけ言うとベートは意識を失った。

 どうやら意識は失ったものの、脈拍や呼吸はしっかりしているようなので命に別状はなさそうである。

 

「あー、びびった。」

 

 額の汗をぬぐうホーリィ。

 

「ビビったのはこっちじゃぼけぇ!!なんなんや今の!?今絶対クマやったやろ!いろいろ白状せいやぁ!」

 

 足りない身長で器用にぴょんぴょんしながら胸倉をつかもうとするロキを尻目にホーリィが冷静に言う。

 

「あーっと、これで入団おけ?」

「んなわけあるかい!?」

 

 神速の突っ込みを受けてホーリィはよろめいた。

 

「ロキ、約束は守らないと。」

「いや、アイズたん、これはそういう問題じゃ……。」

「約束。」

「いや、だから。」

「約束。」

「いy」

「約束。」

「わーーーーーったわ!約束やしな、筋肉達磨の入団認めたるわ!!」

 

 しゃあなしやで?みたいな目でロキはホーリィに向けて手を差し出す。

 

「うちがロキファミリアの主神のロキや。うちのファミリアにようこそや。あ、でもアイズたんに手を出したら殺すから。それだけはいっとくで。」

「どうも。ほ~りぃ、です。よろしく。」

「かあぁっ、なんなん、さっきからなんやイラつかせる仕草しおって、喧嘩売っとんか?売っとるやろ?今なら買うで?大安売りや!」

 

 某お笑い芸人の自己紹介はどうやらお気に召さなかったようであった。ロキとホーリィが繰り広げる漫才を見ながらアイズが微笑みながらホーリィに耳打ちする。

 

「よかったね、ホーリィ。これからよろしく。」

 

 その微笑みは地上に降り立った神々さえも嫉妬するほど美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーーーーーーーっ!われ、アイズに手ぇ出したら殺すいうたやろ!?殺す。殺してバベルの天辺に吊るしたる!っていうか、アイズたん、今の笑顔うちにも、うちにも頂戴!?」

 

 それに対して無言で鉄拳制裁するアイズ。

 

「なして?うちなんか悪いことした!?えっ?えっ?アイズたーーーーん!!!?」

 

 

 





 解説

※読まなくても全く問題ありません。

Required Level: 63
Level 9 Fanaticism Aura When Equipped
+40% Increased Attack Speed
+240-270% Enhanced Damage (varies)
20% Chance of Crushing Blow
25% Chance of Open Wounds
+3 To Werebear
+3 To Lycanthropy
Prevent Monster Heal
+25-40 To Strength (varies)
+10 To Energy
+2 To Mana After Each Kill
Level 13 Summon Grizzly (5 Charges)

つまり、この武器を装備すると、レベル9のいろいろ強くなるオーラをまとえて(Level 9 Fanaticism Aura When Equipped)、熊に変身できる(+3 To Werebear)。
 ついでに本物の熊も5回召喚できる(Level 13 Summon Grizzly (5 Charges))。


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俺達ゃ猪突猛進、フレ馬場さ!

 冒険者ギルド。

 それはオラリオという都市を代表する組織である。

 そんな冒険者ギルドで一人の受付嬢がカウンターに突っ伏していた。

 

「どうしたの~?お疲れじゃないエイナ。ため息なんかついちゃって、何かあったの?」

 

 突っ伏していた女性はエイナ。ハーフエルフのギルド職員である。そのエイナに話しかけたのは同じくギルド職員のミーシャ。そのミーシャにエイナが疲れた顔をあげる。

 

「少し前に来た冒険者登録希望の人がね………。」

「ん~?そんなに変な人が来たの?もしかしてナンパ、みたいな?」

「そう言うのじゃないんだけど、ホントに凄く聞いてくる人だったから、大変だったの。子供でも知ってることを平気で聞いてくるし。その割に装備品は一級冒険者並って言うかむしろ超えてたかも。なのに神々の恩恵を受けてないって言うし。ああもうワケわかんない。」

「え?それでどうしたの?登録しちゃったの?」

「するわけないじゃない。兎に角、まずはファミリアに所属してくださいって言ったわよ。はぁ、そのままダンジョンに行ってなきゃいいけど。」

「ふみゅ。これはもしかするともしかしちゃう?そんなにエイナが気にかけるって、もしかして凄いイケメン!?」

「そんなわけないでしょ、はぁ。筋肉モリモリの渋めの顔だったかな?声も渋いんだけど、話し方は若かったかな?ミーシャはタイプじゃないと思うよ?確か、スラッとしたイケメンが好みなんでしょ?」

「そうだけど~。一回見てみたいなぁ。あ、そうだ。エイナ知ってる?今話題の王子様。」

「王子様ってなんの話よ、はぁ。今日は朝からずっと受け付け業務してたの知ってるでしょ?」

「ゴメンゴメン。ーーーそれで王子様の話なんだけど、ななななんと!あのアイズ・ヴァレンシュタインをお姫様抱っこしてダンジョンから出てきたんだって!しかもだよ?別に嫌がってた感じじゃなかったらしいんだよね。」

「それは、凄い話題ね。あーあ、ベルくんが聞いたらしょげちゃうだろうなぁ。」

 

 エイナはここには居ない白髪の少年の事を思い浮かべる。

 

「にしし。あー、そうだよね。エイナには白馬の王子様がもういるもんね!ーーーーで、話の続きなんだけど。」

 

 エイナの睨みに慌てて話題を戻すミーシャ。

 

「なんでもー、身長2メートルはある筋骨隆々とした大男で、見たことのない豪華な装備品に腰には2本の剣を挿していて、寡黙な感じの渋いイケメンなんだって。」

 

 ミーシャの言葉にエイナは動きを止めた。心当たりがありすぎる。朝、出勤して直ぐに絡まれた男ではなかろうか、と。

 

「その人、知ってるかも。」

「ええ~!?ホントに?ねぇねぇ、どんな人なの?名前は?って言うか、どこのファミリアの所属なの!?」

 

 ポツリと呟いたエイナの言葉に身を乗り出して興味津々な様子のミーシャ。さもありなん、今現在、冒険者の話題はこれが独占している。

 

「どうどう、ちょっとは落ち着きなさい。っていっても私もそんなに知らないんだけどね。わかるのは―――。」

 

 そうねぇ、と言いながら顎に指を添えるエイナ。

 

「―――名前がホーリィ・馬場って言うのと、まだ神々の恩恵を受けてない一般人ってこと位かな。あと、見た目よりも凄く軽い感じだったよ。んん?って言うことは冒険者登録してないのにダンジョンに入ったの!?あれほど冒険者登録するまで入っちゃ駄目だっていったのに!」

 

 確かにエイナは口を酸っぱくしてまずは恩恵を受けてからもう一度ギルドに来るようにいっていたのだが、ホーリィは右から左へと聞き流していた。

 

「ーーーあ、私仕事があるから行くね~。」

 

 不穏な空気を感じ取ったのかミーシャが直ぐに撤退を始めた。その横でエイナは次にホーリィがやって来たときどうやってこらしめてやろうかと唸っている。

 

(ホーリィさん御愁傷様~。さーてと、この事を言い触らしてこよっと。)

 

 この日、本人の知らないところで一躍有名人となるのであった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

「はっ!?」

 

 そこはロキファミリアのホーム。

 広いリビングの一角、ソファーの上に寝ていたベートはその体を起こした。

 

「あ、ベート起きたよー?」

「起きたんですか、この負け犬。」

 

 起き上がったベートに声をかけるのは褐色の肌をしたアマゾネスの女性二人。髪の長さや服装に差異はあるものの瓜二つの容姿をしている。唯一その胸部装甲が大幅に違うが。

 

「うるせぇなクソアマゾネスども!何で俺はこんなとこで寝てやがんだ?なんか、記憶がはっきりしねぇな。」

 

 そう言いながら頭を振るベート。

 

「あ、もしかして覚えてないんだー。」

「話を聞く限りじゃ切腹物だし、覚えてない方が幸せなんじゃないの?」

「確かにそうかも。ベート、強くいきるんだよ?うんうん。」

 

 双子の余りにバカにした発言にキレそうになるベートであったが徐々に記憶が戻っていく。

 

「って、あの野郎っ!」

 

 思い出した瞬間に頭に血が上ったのか、立ち上がるベート。そのまま辺りを見回して目的の男が居ないのを確認する。

 

「おいクソアマゾネスども!あの男はどこいきやがった!?ぶっ殺してやる!」

「できるんならやってみたら?またキャン言わされるだけ。」

「ベートには無理だと思うなー。それにしてもいい男だったよね!?何て言うか、寡黙で、まるで英雄潭から出てきたみたい!」

「ああ、ティオナはああいうの好きだよね。」

「うん。ちょっとどきってしちゃった。」

 

 まるでベートの事を無視するように話続ける双子。

 しかし、その内容は的を得ていた。なにしろ、彼の肉体はかれこれ数千回は邪神を討伐しているのだから、まるでではない、本物の英雄である。

 中身は別として。

 

「ごるぁ!無視すんじゃねぇ!」

 

 流石にイラついたのかベートが声をあげる。それに双子は答えた。

 

「あんたが寝てる間にどっか行ったわよ。」

「だよ~。」

 

 それもそのはず、今はもう昼である。もうとっくにホーリィはどこかにいっていた。

 

 なんとも言えない空気がその場を支配した。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 時は少し前に遡る。

 ホーリィの入団が決まった後、彼はロキの部屋へと通されていた。

 ついてこいと言われノコノコついていったホーリィであったが、その先でロキから発せられた言葉に戦慄を覚えていた。

 

「取り敢えず服脱げ。」

「えっ?そんな、出会って四半時なのに、でも仕方がないな。俺と君は出会うべくしてこうし、ヘブシっ!?」

「じゃかあしゃあ!つべこべ言わずにさっさと脱げやぁ!」

 

 ホーリィの装備品を無理矢理剥ごうとするロキ。

 どうやら相当お冠であるらしかった。

 

「お?ちょ、優しく、して?」

「厳つい顔してなにゆーてんねん!服脱がんと恩恵刻まれへんやろーが!」

「ああ、そういうこと。期待して損したわー。」

 そう言ってホーリィは目の前に手をかざすとなにかを操作するように動かした。

 その手の動きに連動するかのようにホーリィの装備品が一瞬で消えていく。

 動きをやめたホーリィは普通の服を着ただけの状態になっていた。

 

「なんや、もう突っ込む気もおきへんわ。取り敢えず上半身裸になってそこのベットにうつ伏せになりぃ。」

「ほいほい。」

 

 素直に従うホーリィ。

 その背中にロキは跨がった。

 

「なんや、おちゃらけとるけど修羅場を潜り抜けとるやん。」

 

 ロキの目が細められる。その視線の先には幾つもの切り傷から火傷、凍傷の痕からなにまで考えうる限りの傷が刻まれていた。自然、ロキの目も優しくなる。

 

「今から恩恵刻むから、じっとしときや。」

 

 ロキの手からこぼれ落ちる雫がホーリィの背中へと染み渡っていった。

 

 

……………………ロキお絵描き中

 

 

 静かな刻が過ぎ去り、終わりを告げる。

 

「終わりや。こんなん初めてやわぁ、って寝とんかい!?おーきーろー!」

「はっ!?ロキたんの手がテクニシャン過ぎて意識飛ばしてたわ。」

「アーハイハイ、ほなこれホーリィのステータスや。質問は受け付けへんから。」

「んー、どれどれ。」

 

 

 

【ステイタス】

 

Lv.1

 

力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷: I0 魔力:I0 強欲:I0

 

《スキル》

 

【イカイノコトワリ】

・この世界の法則に縛られない

・ダンジョンに入る度にダンジョンリセット

 

【信じるものは報われる】

・強欲を得る

・ドロップアイテムの質が上がる

・想いの丈により効果上昇

 

《魔法》

 

【一は全、全は一】

・キャラクターセレクトできる

・全ては選んだキャラクターに準ずる

 

 

 

 渡された紙を見たホーリィは頷く。

 

「うん、何となく言いたいことはわかった。」

「せやったらきりきり吐かんかい!」

「お代官様堪忍して~?」

「ここがええんか、ここがええんやろ?」

 

 こうしてホーリィはロキの尋問に屈し全てをゲロったのであった。

 決して上に乗ったロキのお尻の感覚とかちっパイの感触とか、調子に乗ったくすぐりのご褒美に屈したわけではない。

 

「はー、はー、はぁ~。」

「うう、もうお嫁に行けない。責任とってもらわないと。チラッ」

「デカイ図体してキモいことゆーな!せやけどよーわかったわ。これからゆーことようききや。」

 

 そう言って今までの弛緩した空気を引き締める。

 姿勢をただしたロキは口を開いた。

 

「まず最初にいっとくで。ここは夢やない。そんでもってホーリィのことやけど、多分どっかの神の悪戯やろうと思う。せやから同じ神の一人としてうちが責任もって面倒みたる。その代わりや、約束してぇな。あんたの力はでかすぎる。せやから地上の子供等にその力を使わへんって。」

 

 あまりにも真面目な視線にホーリィは姿勢をただした。そして手を差し出した。

 

 

「結婚しよう。」

 

 

 空気が凍る。ついでにロキのこめかみにも青筋が浮かぶ。

 

「何でやねーーーーん!!」

 

 差し出されたホーリィの手を神速の突っ込みが襲う。

 

「何聞いとったんじゃアホー!せっかく真面目な話しとったのに!」

「いや、面倒見てくれるって言ったじゃん!?」

「そう言う意味ちゃうわボケぇ!」

「オーケーオーケー、照れるなって、な?」

「こんの脳ミソ筋肉、そこになおれぇ!」

 

 掴みかかるロキをひらりとかわすとホーリィはそのまま窓を開いて足をかけた。

 

「ホーリィ・馬場はクールに去るぜ。」

 

 そのまま窓から飛び降りる。

 着地したホーリィは窓の手すりまで来ていたロキに振り返った。

 

「他のやつには興味はねぇ。その代わりロキ、ちゃんと責任とってくれよ?」

 

 じゃあまたな?と捨て台詞を残してホーリィは走り去っていった。

 

「ホーリィのあほーーーーーーーーーっ!!!!!」

 

 

 その日、ロキファミリアのホームで主神の叫びが木霊したとかなんとか。

 

 

■ ■ ■

 

「ロキ、顔が赤い。」

 

 いつの間にか部屋に入っていたアイズの言葉にロキは高速で振り返った。

 

「べべべ、別に赤くなんてなってへんで!?」

「嘘。それに凄く嬉しそう。」

「ちちちちゃうで!?そ、それはそうとアイズたんどうしたんや?うちの部屋に来て。夜這いか?夜這いなんか?うちは何時でもウェルカムやで!」

 

 あからさまな話題ずらしに怪訝な顔をするも本来の用件をアイズは伝える。

 

「……………ステータスの更新。」

「あ~、せやな。まあ取り敢えずベットに横になりぃ。」

 

 いつもよりもすんなりとステータスの更新にいくことに疑問を持ちつつも言われた通り背中を出してうつ伏せにになるアイズ。

 

 その脇からロキがその背中に指を這わせた。

 

 

…………………………ロキお絵描き中。

 

 

「ーーーー、アイズたん。今日はなんかあったん?」

 

 ロキが震える声で訪ねる。何故なら、ステータスの伸びがあり得ない。普段の二倍以上の数値を叩き出していた。そもそも、アイズのステータスは最近伸び悩みの傾向にあった。49階層への遠征でも今回の半分以下の延び代である。

 

「今日は39階層まで潜った。」

「は?39階層?ホンマに?って言うか、もしかして一人でか?」

「ううん、ホーリィと二人で。」

 

 その瞬間、ビキビキとロキ顔が険しくなる。

 

(あんのアホ、うちにあれだけ上手いことゆうとって今日はアイズたんと二人っきりでダンジョンやて~!?しばく、次におうた時しばきたおしたる!)

 

「へ、へぇ~。」

「ホーリィと一緒だと凄く調子が良い。」

「へ、へぇ~。」

 

 アイズにしてみれば純粋にビーストの効果で調子がよかったのだが、端から聞くとのろけ話のように聞こえる。そしてそれをロキに確信させるものがあった。

 

 新たなスキルの発現である。

 

【不可能可能】

・限界の上限が変わる

・共に高め合うものがいる限り効果持続

・共に高め合うものがいる限り上限上昇

 

 

 それがロキの手を止める。

 

 しかし、震える手でそれをステータスに反映させた。

 

「なんやアイズ、めっちゃステータス伸びとるで。この調子で頑張りぃ。ほなこれステータスや。」

「ん。」

 

 受け取ったアイズはその数値の伸びを見て少しだけ顔を弛ませ気を緩ませた。

 その為、ロキの表情に気がつくことはなった。

 

 その時、ロキの顔はなんとも言えない苦渋に満ちた表情になっていた。まるで溺愛する娘が彼氏のことを話すのを見つめる父親のような表情である。

 それも直ぐに消えてしまったが。

 

「そうや、アイズたん夜はまだやろ?一緒に食べに行こーや?」

「いいけど。………ホーリィは?」

 

 またしても表情が崩れかけるがぐっとロキは我慢した。

 

「あのアホなら窓からどっか行きよったわ。あんなんはほっておいて、な?ほらほらいくでー!」

 

 そう言ってロキはアイズの手を掴むと進み出す。気分が良いのかアイズからの抵抗もなかった。しかし、アイズから見えないロキの顔はやはり少しだけひきつっている。

 

(アイズはうちのもんや。誰にも渡さへんからな~!)

 

 

 記載されることはなかったスキル。

 その行動は奇しくも犬猿の仲にある女神と同じであった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 ロキファミリアのホームから走り去ったホーリィはやはりと言うかダンジョン入り口である大穴の前にいた。

 

「困った。」

 

 ホーリィは困っていた。

 何しろ冒険者が来ない。来るといえば来るのだが、来る方向はもちろんダンジョンの中からである。

 もう既に空は暗く、夜の帳が世界を覆っている。

 つまりは寄生する人が居ないのである。

 

「困った、困った。」

 

 仕方がないのでホーリィは大穴の隅っこに行き、さっきもらった紙を見る。

 その上で書いてあることを理解すると早速実行に移した。

 

 キャラクターセレクトである。

 

 彼の制作したキャラクターは膨大な数に及ぶ。2PC以上(アイテムの移動などで必須)を駆使していたためその数は覚えていないほどである。

 その中でも彼にとって思い入れのあるビルドをホーリィは思い描く。彼の手が虚空をなぞり、何かをタップするような仕草の後、それは起こった。

 

 ホーリィの足元から魔法陣が浮かぶとそれはそのまま垂直に上昇し、彼の頭を過ぎると消えた。そこに残っていたのは装備品が全く違うホーリィだった。

 

「うわ、マジか。これ、できちゃったら、やるしかないでしょ。」

 

 そう呟くとホーリィはダンジョンへと入っていった。

 

 

■ ■ ■

 

 

 一人でダンジョンへと入った男の足は軽い。軽いどころではない。飛んでいるのではないかと言うほど速い。

 そして男の装備品もまた違う。両手に剣を持っているのは同じだがバランスが悪い。片手にはオーソドックスな両刃の剣を。もう片手には身の丈ほどの巨大な剣を持っていた。防具も以前と比べると幾分かしっかりとしている。

 そんなアンバランスな状態で男は進んでいく。

 すると哀れな第一村人、もといモンスターが現れた。

 モンスターはホーリィの接近に気がついた。臨戦態勢に移ろうとしたモンスターは斬られたというのに気がつく前に切られていた。

 

 しかも二度。

 モンスターを切り裂いた男はギアを上げたかのように加速する。そのまま進路上のモンスターをさらに切り裂いていく。そうすると更に加速する。

 

モンスターを殺す。

加速する。

モンスターを殺す。

加速する。

モンスターを殺す。

加速する。

 

 

 際限のない加速は最早視認すら覚束ない。

 

 其はフレンジーバーバリアン。

 略してフレ馬場。

 DIABLO Ⅱにおいて最速を誇るビルトである。

 最早モンスターの消滅など間に合わない。ドロップアイテムなど拾う暇などない。ただただ暴虐の化身となりダンジョンを駆けていく。

 

 階層を降りる度に何故か現れる階層主。それすらも数秒持たずに血煙へと変わっていく。

 

 止まれないのだ。

 止まると終わるのだ。

 次の獲物を常に求めなければ終わってしまう。

 

 何故なら。

 

 

 6秒しか効果時間がない。

 

 

 フレンジーというスキルは敵をスキルを使って攻撃すると攻撃力、攻撃速度、命中率、移動速度が上昇する。

 しかも、段階的に上がるため、最高速度に到達するには何回も殴らなければならない。

 しかし、6秒経つとリセットされる。リセットされないためには6秒以内にもう一度スキルを使って攻撃しなければならない。

 

 その為、この状態を経験すると止まれなくなる。止まりたくなくなる。

 まさに男はその状態であった。

 

「ウッヒョーーーーー!」

 

 まさに最高にハイである。

 

 途中、大きなゴリラや大きなトカゲ、大きな蜘蛛や大きな蟻とその取り巻きや赤黒い巨大な牛の怪物に三つ首の大きな犬に一つ目の巨人、巨大コウモリの群れにetc.

 

 兎に角駆け抜けた。

 

 彼が正気を取り戻したのは巨大な竜を激闘の末倒した時だった。流石に少し満足したのか余韻に浸っている間に効果時間が過ぎてしまいリセットされたのだ。

 

 そこで彼は重大な事実に気がついた。

 

 

「あ、アイテム拾ってねぇ。」

 

 

 今さらであった。

 

「うおおおおおぉっ!まじか、なにしてんだよおれ。………死にたい。――――――――― 帰るか。」

 

 そう呟くと男は最初の掘り馬場にキャラクターセレクトし直すとちゃっかり大きな竜を掘ってドロップアイテムを拾うとおもむろにその手を広げた。

 

 男の目の前に楕円形のポータルが現れる。

 それはタウンポータルと呼ばれるもので、拠点へと転移できる優れものである。

 その楕円形のポータルへと男は躊躇い無く入っていく。

 その通り過ぎた先はロキの部屋だった。

 

 

 

 その通り過ぎた先はロキの部屋だった。

 

 

 

 男は部屋に入ると装備品を全て外し、その上で着ている服を脱ぎ始めた。

 全裸になると目の前のベッドへともぐりこむ。そのまま意識を落とした。

 

 男が意識を落とすと同時に、開いていたポータルもまた静かに消えていった。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 朝日がカーテンを透過する。優しい光がロキの頬を撫でるとともに小鳥のさえずりが耳たぶを舐める。

 沈んでいた意識をゆっくりと浮上させたロキは目を覚ます。

 

 その目の前には男の顔。

 頭の下にはその男のものだと思われる逞しい腕。少し目線を下げると男の逞しい胸板が見える。

 

「――――――――――ひゃぁ!」

 

 いつもの勝気なロキからは考えられないような可愛い悲鳴が聞こえる。そのまま上半身をすばやく起こすと布団を自分の胸の前へと抱えるようにひったくった。

 

「へ?なして?意味わからんし。」

 

 小声で呟くように自分に言い聞かせるロキ。まったく回っていない頭は目の前の男の体へと視線をさまよわせる。

 

「見たことある。見たことあるんやけど意味わからんし。」

 

 徐々に冷静さを取り戻したロキは考える。

 昨日は確かアイズと一緒にいつもの所へと飲みに行き、半ばやけくそ気味に飲みまくって帰ってきた。アイズに肩を貸してもらってはいたが一応自分の足で帰ってきた。そして部屋に帰ってきて服を脱いでパンツ一枚で寝たところまでは記憶がある。

 

 そこからが記憶に無い。

 目の前の男がなぜここにいるのかも。

 お互いにほぼ全裸(ロキはぎりぎりパンツ一枚。)。

 何故寄り添うように寝ているのか。

 

 まったく記憶に無かった。

 

「なしてこいつがおんねん。」

 

 そういいながらおずおずと男へと近づく。

 そうして男の胸板にそっと指を這わせた。

 

「落ち着いてみればいい男に見えんことも無い。」

 

 全く冷静ではなかった。

 

「うち相手でも遠慮のぉ話すし、気ぃ使わんでもええといえばええ。」

 

 これっぽっちも冷静ではなかった。

 

「求婚されたし…………。」

 

 どうやらお花畑という迷路に嵌ってしまったようであった。

 

「こんなうちでもええんやろうか。」

 

 まるで恋する乙女のごとくしなやかなロキの指が男の体を撫で回す。

 それが合図となったのか、男が目を覚ます。

 体を起こした男ととっさに身を引いたロキの目線が交錯する。

 

「あ、おはよう。」

「責任とって。」

 

 空気が止まる。まるで某スタンドの技をかけられたのではないかと感じるほどであった。

 それが解けた男はもう一度何事も無かったかのように声をかけた。

 

「お、おはよう。」

「責任とって。」

 

 世界が止まっていたのはどうやら男だけであったようだ。ロキは未だ迷子である。

 

「いや、なにいって」

「責任とって!」

「意味わかんn」

「責任取れゆーとるやろ!」

 

 顔は赤く、耳まで真っ赤だ。しかし、少し潤んだ瞳で必死に何かを期待するように男を見つめる。

 もちろん上目遣いで。

 

 ややあって男が口を開く。

 

「あ、はい。」

 

 男の言葉を聴いた瞬間、ロキは花が咲いたような笑顔を浮かべると男に飛び込むように抱きついた。

 

「改めて自己紹介するな?うちはロキや。末永くよろしゅう頼むで?」

 

 そうやって、まるで恋人同士であるかのように額をくっつけて言うロキ。

 

「お、おう。俺はホーリィ、ホーリィ・馬場だ。っていうか、この状態は目に毒なんだが。いや、ロキがいいんならいいんだが。」

「へ?あ、ああっ!………まぁ、ホーリィならええかぁ?えへへへへ。」

 

 どうやらこのロキはもはやポンコツとなってしまった。

 そんなホーリィの首に手を回してだらしない笑顔をむけるロキとホーリィの距離が更に縮まると思われた、その瞬間であった。

 

「うるせぇんだよ!朝っぱらから唯でさえイラついてんのによぉ!」

 

 ロキの部屋の扉を乱暴に開けたのは銀色の狼人、ベートであった。またしても団長に様子を見て来いといわれたのである。

 なんともいえない空気が漂う。

 そんな中、ベートは自身のイラつきの原因である男を視界に収めると一気にその距離を詰める。もうすでにベートの視界には男しか映ってはいなかった。

 

「てめぇ!よくもやりやがったなぁ!!!!?ぷげらっ!?」

 

 そう言いながらホーリィに掴みかかろうとしたベートであったがそれは叶わなかった。

 

「何さらしとんじゃボケェーーーーー!!!ありえへん、ありえへんわ!最悪や!このボケ!アホ!かませ!死にさらせ!」

 

 ベートの視界に入っていなかったロキからのアッパーをモロに食らい飛ぶ意識。更に追い討ちをかけるようにゲシゲシと踏みつけられる。

 それでもまだやり足りないのか、フシャーと息巻いていた。

 一般人と同じ程度の腕力しかないはずのロキが起こしたとは思えない事態である。

 その間にホーリィはのんびりと服を着ていた。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「紹介するわ。新しくうちに入ったホーリィや。みんなようしたってや!」

 

 そこはロキファミリアのホームのリビング。錚々たる顔ぶれが並ぶ中でホーリィの入団発表がされていた。但し、ベートはソファーの上で魘されているし、アイズスキーなエルフも用事があっていなかった。

 ロキからの紹介がなされたことで全員の視線がホーリィへと向く。

 少数精鋭を誇るファミリアであるロキファミリアへの新人である。自然皆の視線には期待がこもる。

 

「今紹介されたホーリィ・馬場だ。このファミリアでは新参者になるわけだが、どうかよろしく頼む。」

 

 その肉体から滲み出る強者としての風格と渋い声に全員が納得していた。但し、アイズだけは小首を傾げていたが。

 これには裏があり、この紹介を前にしてロキからおちゃらけ禁止を言い渡されており、渋々手短に挨拶を終わらせたのである。

 

「まあ、あんまり喋るんは得意やないんや。暫くはうちが面倒見るから気にせぇへんでええで?今回は顔合わせみたいなもんやし?ほ、ほなうちはホーリィに町を案内せなあかんからこれで解散や。」

 

 そう言いながらホーリィの手を引いて部屋から出ようとするロキ。

 だがそうは問屋がおろさないとばかりにロキの前に勇者が立ちはだかる。

 

「ロキ、それならば冒険者である僕たちのほうが適任だ。なんなら僕が案内してもいい。」

「え!?団長がしなくてもいいんじゃないですか?それに今日は団長は私と買い物に行く予定ですし。」

 

 流石勇者、針の穴も通さないほどの正論でロキの前へと立ちはだかる。が、それにティオネが待ったをかけた。

 

「すまないティオネ、僕もそのつもりだったんだが新人を案内するほうが重要だろう。それに今日はアイズもいる。代わりに消耗品の補充に付き合ってもらうのはどうだろう?」

「私は団長と――――、いえ、それだったらベートとかいるじゃないですか!」

「そうなんだけど、ベートは見てのとおり寝込んでるし、この中じゃ僕が一番適任だと思うんだ。どうかな?」

 

 流石勇者(以下略

 

 悔しそうに俯くティオネ。呪い殺しそうな瞳でホーリィを睨み、ついで使えない犬に一瞥をくれる。今にも蹴って起こしそうである。

 そんな中、すっとアイズが手を上げる。

 

「私がホーリィを案内する。」

 

 流石勇者はほぅ、と感心し、ティオネは見直したといわんばかりに目がキラキラとしている。他の面々もしきりにうんうんと頷いている。

 

 とうとうあのアイズが他人の面倒を見るようになったのか――――――。

 大きな勘違いであったが。

 

「うん、アイズがそれでいいならお願いしよう。ロキもそれでいいかな?」

 

 それまでまるで時が止まったかのように硬直していたロキが勇者の言葉で動き出す。アストロンは解けたようだ。

 

「え、いや、全然よくないわ!」

 

 ロキの反論にアイズが首を傾げながら言い返す。

 

「なんで?」

「いや、アイズたんに案内なんて」

「できる。」

「いやいや、うちのほうがちゃんとできるで!?」

「冒険者である私のほうが詳しい。」

「せやけど、せやけど………!」

 

 言いよどむロキに勇者からの追い討ちが襲い掛かる。

 

「何故ロキはそこまで頑なに自分で案内したがるんだい?まるで一緒に街を回りたいかのようだけど。」

 

 勇者は会心の一撃を放った。

 

「そそそんなんちゃうわーーーーーー!!!ホーリィのあほーーーーー!!」

 

 哀れロキ、勇者を前に逃げ出してしまった。

 

 静まり返る室内。その静寂を切り裂くのもまた勇者だった。

 

「今日のロキは何時にもまして変だな。それじゃあアイズ、頼んだよ?ティオネもいこう。」

「はい団長!」

 

 そういって部屋から出て行く勇者とそのお供。その暫く後にアイズとホーリィも続く。

 

 

 

 部屋に残されたアマゾネスの片割れはポツリともらす。

 

「やばいかも。」

 

 彼女の下着は少し湿っていた。

 

 

 

 




 解説(読まなくてもまったく問題がありません)

 フレバグ(フレンジーバグ)
 左右に持つ武器のベース速度の開きがあればあるほど攻撃速度が速くなる現象のこと。

 作中で左右の武器の大きさが違うのはこの為です。

 しかしこの状態で裏武器に一度スワップして戻すと、本来持つべき手に武器を持ち直してしまい、上記のバグが元の状態に戻ってしまう。
 これを防ぐために用いるのが次に説明するスワップバグ。

 スワップバグ
 装備品の要求ステータスを特殊な方法で満たすと齟齬が生じ、武器持ち替えが正常に行われなくなるバグのこと。本来なら不具合なのだが、フレバグ発生中ならこの現象を逆利用することで、武器スワップを何回してもフレバグ状態が継続した状態に保つことができる。




 ちなみに、この頃ベル君は某サポーターといちゃいちゃしてます。


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俺達ゃ脳筋王道、WW馬場さ!

 



 バベルの塔。

 

 それはオラリオという街を象徴する建物としてその中心に聳え立つ。

 その中にテナントをもつ店はどれも一流と呼ばれるものであった。その中でも突出する存在、それがヘファイストスファミリアと呼ばれる鍛冶系ファミリアである。

 

 

 ロキファミリアを出発したアイズとホーリィは一直線にバベルへとやってきていた。

 

 オラリオの案内は?ダンジョン攻略のための必需品?飲食店?呉服屋?酒場?薬屋?etc...

 

  そんなものはアイズの中で必要なものではなかったのである。なので一直線にヘファイストスのお店へとやってきたのであった。

 奇しくもその思考回路はホーリィという男にとってはドストライクではあったのだが。

 

「ここがヘファイストス。」

 

 何故かホーリィの手を引いてやってくるとドヤ顔で説明するアイズ。その説明を聞く前からホーリィは既に店の前のショーウインドウに張り付いていた。

 

「ほぉ~、へぇ~、なるほどねー。把握。」

 

 いったい何を把握したのかは謎であるがホーリィは何かを得たようであった。

 

「ちょっくら中を見てくるわ!」

 

 言うが早い、颯爽とホーリィはお店の中へと突撃していった。

 あっ、という声とともに伸ばされかけた手をアイズは引っ込めると少し経ってからその姿を追いかけた。

 

「いらっしゃいませー!今日は何の御用でしょうかお客様ー!」

 

 お店の中へと入ったホーリィを出迎えたのは小さな体に不釣合いなほどの立派な胸部装甲。むしろ大きすぎて体の動きを阻害しているのではないかとすら思わせる装甲である。強調しすぎである。その上にツインテールが揺らめいていた。

 

「おうお嬢ちゃんかわいいねぇ、店番かい?えらいねー。お駄賃あげよう。」

「わー、うれしー。って、子ども扱いするんじゃなーい!僕はこれでも立派なレディーなんだぞー!」

 

 ぴょんぴょん飛び上がる店員だが圧倒的に身長が足りてない。まるでではなく大人と子供である。その事実に気がついたのか店員は無駄な抵抗をやめる。

 

「はぁー、はぁー、こ、これぐらいで勘弁してやるよっ!」

「でもお駄賃は貰うんだな。」

「それはそれ、これはこれだよ。それよりもここに来たってことは武具を買いに来たんだろう?ゆっくり見ていくといいよ。何なら僕が見繕ってあげようじゃないか!」

 

 その立派な胸をそらして自信ありげに言う。

 しかしその態度もすぐに終わることになる。

 

「随分偉くなったじゃないヘスティア。私にも見繕ってもらえるのかしら?」

 

 後ろから現れたのは片目に眼帯をつけた女性。ヘスティアと呼ばれた店員の後ろに立つその背には何やらオーガのような陽炎が幻視できる。

 哀れヘスティア。どうやら鬼に見つかってしまったようだ。そのまま引き摺られて奥へと連れて行かれてしまった。引き摺られるさなかに伸ばされる腕は何処か哀愁が漂っていた。

 

 

 ―――――――――少女折檻中

 

 

「ごめんなさい、待たせてしまったわね。お詫びではないけれど、私が案内してあげるわ。うちのお店に何を求めてきたのかしら?」

 

 余裕のある大人の色香と何処か茶目っ気のある顔は何処かホーリィを値踏みしているかのようである。

 

「おおー、貴方の様に美しい女性にエスコートされるとは嬉しいですなー。」

「あらあらお上手。」

「しかし、今日は買い物をしにきたわけではないのですよ。持込で製作を頼もうと思いまして、よければ鍛冶師を紹介していただければなー、と。」

「うふふ、正直者ね?いいわよ。でもここじゃ何だから奥に行きましょうか?」

 

 その時、一瞬ではあるが周りがざわつく。何故ざわつくのかがわからないホーリィは何も考えずに返事をした。

 

「ほいほい。」

 

 こうしてホイホイ付いて行ったホーリィは明らかに重役っぽい部屋に通される。その部屋の隅では何故かヘスティアと呼ばれた店員が泣きながら正座している。うわ言のように「調子にのってゴメンナサイ」と繰り返していた。

 ここに来てホーリィはちょっと違和感を感じていた。

 

「もしかして結構なお偉いさんだったりする?」

「あら、自己紹介がまだだったわね。私はこの鍛冶系ファミリアの主神、ヘファイストスよ。よろしくね?」

「へ~、つまりは店長さんか。俺はホーリィ・馬場。よろしゅうに~。」

 

 そう言いながら手を差し出すホーリィ。

 それに目を瞬かせて見つめるヘファイストス。

 ややあってその手を握り返す。

 

「うふふ。こういうの、久しぶりね。」

「ん?まあいいや、それで持ち込み素材ってこれなんだけど、加工出来る?」

 

 そういって握手した手とは逆の手からドロップアイテムを差し出す。

 それは紅い皮と緋色の鱗であった。

 何を隠そう、今では黒歴史と化しているフレ馬場狂乱事件においての唯一の戦利品である。

 

「これは、子供たちの手には余るわ。過ぎたるものはその子の成長を止めてしまうもの。それよりもこれはどこで手にいれたのかしら?」

 

 細められる眼光には何処か剣呑な光があった。ホーリィには関係なかったが。

 

「ダンジョンで手に入ったけど。あ、もしかして素材の量が足りない?足りないんなら乱獲してくるけど。」

 

「あははははは!貴方、面白いわ。ふふ、良いわよ、造ってあげる。どんなものを造って欲しいのかしら?」

 

 またもや何処かツボに入ったのか上機嫌である。

 

「いやー、自分の主神に服を送ろうかと。動きやすい普段着か、ドレスみたいなのか、悩んでるんですよねー。」

「あらあら。主神孝行なのね。ちょっと妬けちゃうかも。ふふふ、冗談よ?それじゃあ愛しの女神はだれかしら?」

「ああ、ロキって言うんだけどできるか?」

 

 三度目の硬直をしたかと思うと受け取っていた素材が手からこぼれ落ちる。

 それはガラスのように澄んだ音色を響かせた。

 

「ロキってあのロキ?」

「ロキってほかにもいんの?」

「居ないと思うけど一応確認しないと、ね?」

「それじや、オッケーってことで良いのか?」

「ああ、待ってちょうだい。この素材だけじゃ足らないかもしれないから他にも素材があるなら見せてくれないかしら?」

 

 そう言われたホーリィは目の前に大きなバックパックを出すとその中身を開く。そこには先日の戦利品が大量に入っていた。もちろんITEM FINDで手に入れた分だけであり、アイズが出したドロップアイテムは分けてある。

 

「取り敢えず今はこれだけしかないけど、必要なものはありそうか?」

 

 突如現れたバックパックにも驚いたが、ヘファイストスを一番驚愕させたのは出てきたドロップアイテムの膨大さである。ヘファイストスの見た限りでは30階層後半までのドロップアイテムがほぼ全種類存在する。もちろん、周期的にしか現れない階層主のものは揃っていないが、数があり得ない。

 ドロップアイテムとはモンスターが極低確率で落とすから貴重であり、その価値がある。こんなにもたくさんあっては有り難みもない。

 何よりも。

 

 もしこれが一回のダンジョン攻略で手にいれたものだとすれば。

 そこまで考えてヘファイストスは思う。

 

 この男は鍛冶師と組ませてはならない。

 溢れるほどの素材は唯一つの作品を作るための意欲を間違いなく削いでしまう。

 

 そこまで考えて布石を打つことにしたようだ。

 

「貴方の装備品については取り敢えず私が受けるわ。その代わり、ドロップアイテムについても全部私に渡してほしいんだけど良いかしら?」

「いいよー。そのほうが俺も面倒がなくていいし。それじゃあ、この依頼、受けてくれるかな?」

「いいわよ。貴方が来たらここに通すように言っておくから。不在のときはそうね、そこの机の上にドロップアイテムを置いておいてもらえるとうれしいわ。」

「了解了解。それじゃあ連れを待たせてるから名残惜しいけどこのあたりで。しーゆーねくすとたいむ!」

 

 厳つい顔で決めポーズをとる男を何とも言えない表情でヘファイストスは見送る。部屋を出るのを見送ったヘファイストスは未だに正座をしながら謝っている女神に向けて呟いた。

 

「フレイヤじゃないけど、奪ってもほしい子供って本当にいるものなのね。次に会ったときは根掘り葉掘り聞かなきゃね。」

 

 積まれたままのドロップアイテムの中から最初に渡された竜の皮と鱗を手に取るとそう呟いた。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 私、怒っています。

 

 まさにそれを言葉に出さずとも自身の全てを使ってアイズは表現していた。

 少し膨らんだ頬にキュッと吊り上げようと頑張っているまなじり。少し前に出ている姿勢。

 ぶっちゃけ、かわいい。

 

「すまんすまん。待たせたな?ちょっとドロップアイテムの処理してたんだよ。って、そんなに怒るなって、な?」

「怒ってません。」

「ああ、そいつはすまなかった。しかしだな、フロイライン。それじゃあ男が廃るってもんさ。君のお願いを何でも一度聞くっていうのはどうかな?」

 

 そういって手を差し伸べるホーリィ。

 その手におずおずとアイズは手を重ねる。

 

「ホーリィ、ダンジョンに行こ。」

 

 流石にアイズでも今日は街の案内を買って出た手前、ダンジョンに連れ込むのは躊躇われたのか、少しそっぽを向いている。

 

「え?願ったりだけどいいの?行こう行こう!」

 

 重ねられた手をホーリィは引っ張りながら大穴へと進みだす。

 そこでアイズは思った。

 

 これはもう一個お願いしても大丈夫、と。

 

「あと、ホームに帰ったらもう一個お願いがある。」

「え?まあいっか。そん時はまた言ってくれや。」

 

 ホーリィの適当な答えに内心でガッツポーズを取るアイズ。

 その心のうちでは一つの欲望があった。

 

 この前の熊、ものすごくもふりたい。

 

 そんな微妙に温度差がある両者ではあるがとりあえず大穴へと進んでいた。

 

 

 ――――――――――――少女移動中。

 

 

 アイズはダンジョンを進みながらホーリィの動きについて考えていた。

 

 まずこの男、常にアイズの後方10メートル程の位置をキープする。

 言葉で言うのは簡単だが、実際にはエアリアルを纏ったアイズにつかず離れず、しかもその位置取りをしながら魔石とドロップアイテムの回収にもう一度死体を掘って更にアイテムを回収する。

 しかも、アイテムを掘るときは装備を変更して終わると直ぐにまた戻すという小技込みである。

 敵が居ない移動中はどこから取り出したのか何故かポールアームを装備している。そのポールアームを装備しているときは何故かリラックスして精神力が回復して言っているのを感じることができる。

 たまに意味のわからない気合を入れている。

 そしてたまにニヤニヤしている。

 

 アイズは一旦足を止めるとホーリィへと歩み寄る。

 

「ん?どうかしたか?」

 

 怪訝そうに聞いてくるホーリィを無視してアイズはホーリィの正面に立つ。

 そうして自分のスカートをたくし上げ始めた。

 

「うほっ!」

 

 一瞬でホーリィの顔が崩れ始める。

 無言でたくし上げる手を止めるアイズ。そのままスカートを下ろす。

 一瞬で元に戻るホーリィの顔。

 

 もう一度無言でスカートをたくし上げるアイズ。

 また崩れるホーリィの顔。

 そして戻されるスカート。

 

「ホーリィの、えっち。」

「ぐっはぁっ!!!!」

 

 あわれホーリィ、致命打を受けその場に膝を突く。

 そんなホーリィに容赦のない追撃をするアイズ。

 

「えっち。」

 

 もうやめてあげてほしい。ホーリィのHPはもうレッドゾーンである。

 

「………そんなに見たいの?」

 

 そう言いながら徐々にまたスカートをたくし上げるアイズ。

 それにホーリィは待ったをかけた。

 

「ま、まて!それは違う。それは違うんだ!」

「………?」

 

 小首をかしげるアイズ。一旦止まる手。

 ホーリィの言いたいことは何一つとして伝わってはいなかった。

 

「見せては駄目なんだ。見えそうで見えない、それがジャスティス!」

 

 おもむろに立ち上がると腕を組んで頷くホーリィ。

 一体何を言っているのだろうかこの男。もっとまじめにやれ。

 

「わからないけどわかった。」

 

 何がわかったのか、アイズはまたダンジョン散策へと戻り進み始める。

 余談ではあるが、常に後ろの視線を気にするようになったアイズは戦闘中の死角が減ったことにより被弾率が更に下がったとか何とか。

 

 

 閑話休話

 

 

 ダンジョンを進むアイズであったが、あることに疑問を感じていた。

 何故か階層主などのユニークモンスターとの遭遇率が多い。

 むしろ、多いなんていうものではない。

 1階層平均1回以上遭遇する。

 最初の階層のあたりであれば、少し強い敵が現れたと感じるだけであった。しかし階を重ねるうちにまったく馬鹿にできない状況になってきている。

 特に、数十年に一度のリポップ時間があるはずの文献で見たことのある階層主ですら遭遇するのである。

 可笑しいと言わざる終えない。

 アイズの記憶では未だ数十年はリポップしないはずであった。

 今、目の前にいるモンスターもそうである。

 

 オークキング【率いる者】

 

 ダンジョン10階層に出現する階層主である。

 リポップ時間が200年と長いが、その強さはそのリポップ時間に比例して強大である。

 自らの眷属のレベルを上昇させるこのモンスターは群れであるほどに強い。唯の10階層のモンスターであるオークがミノタウロスほどの強さへと上がるのである。そして一番特筆すべきなのは集団行動をするということである。唯でさえ身体能力の高いモンスターが知恵を持って挑んでくるのは恐怖以外の何者でもない。簡易ではあるが防具すらもつけているのであるから。

 そんなモンスターの群れにアイズは手を焼いていた。

 

「………はぁっ!」

 

 今もまた、一匹のオークの横腹を切り裂き距離を取る。

 しかし思ったほど深くは切り裂けてはいない。時間を置けば直ぐに回復されてしまうだろう。集団で行動を取られ、致命傷を与えられていないのも原因である。

 そして、徐々にではあるが押し込められてきている。

 いくら個が強くとも、群れには最終的に屈してしまう。今もまた、新たなオークが壁から生まれ落ちるのが見える。

 未だ英雄への扉を開けていないアイズでは打破は難しいであろう。

 

「………ホーリィ。」

 

 進むべきか下がるべきか。一時撤退しギルドで応援を呼ぶかどうか悩むアイズ。

 そこに軽い調子でホーリィからの声がかかる。

 

「しゃーねぇーな、よーくみてろよー?」

 

 そういったホーリィの足元から魔法陣が浮かび上がる。

 それがホーリィの体を通過すると、装備が変わった姿が現れた。

 

 アイズは戦闘中であるにもかかわらずその姿に見惚れる。

 白銀の輝きを纏う歴戦の英雄の姿がそこにはあった。 

 あまりの存在感に目眩がする。

 その英雄はアイズの肩にてを置いていう。

 

「しっかり付いてこいよ?」

 

 言葉と共に空気がはぜる。

 ホーリィの踏み込みで地面が割れる。

 恐れることをしない男はモンスターの群れにただ一人で突入した。

 

 まさに弱肉強食。

 体格で劣るはずの男はそんなものは関係ないとばかりに全てを押し退ける。

 

 そして回る。

 

 回る。回る。廻る。

 

 只ひたすらに回り続ける男はその周りに有るもの全てを切り刻む。そこに小手先の技術が介入する余地などない。殺すか、殺されるか、二つに一つ。

 暴虐の化身、修羅の如き形相で嘲いながら全てを血煙に変えていく。その通り道にはモンスターの肢体しか残っていない。

 モンスターの中央を破った男は振り返るとアイズに向かって手招きをする。

 

「あ………。」

 

 男の背中とその仕草を見てアイズは自己を革新させる。

 あの背中に追い付いて見せると。横に並び立って見せると。

 

 アイズの知らないスキルを初めて意識した瞬間だった。

 

 

 

 アイズの手が一際屈強なオークを切り裂いた。

 あれからホーリィは積極的に敵を倒すことはなかった。アイズの背中を文字通り守るように勤めていたのである。そしてついに最後の一匹を仕留め終えた。

 なんとも言えない充実感がアイズを包み込む。

 振り返りホーリィに声をかけようとしたアイズはそこで止まる。

 

「うほっ、うほっ!」

 

 振り返ったアイズの目の前にはいつの間にか当初の姿に戻ったホーリィが嬉しそうにモンスターの死体を掘り返していた。やはり動きがキモい。

 

 なんとも言えない空気がアイズを包み込む。

 さっきまでのあの格好いいホーリィは何処に行ったのか。

 もしかして時間制限があるのだろうかとすら感じる。

 

「うほっ、大漁大漁!」

 

 台無しである。

 

 結局その空気は払拭されることなくダンジョン攻略は再開された。

 

 

  ■ ■ ■

 

 

「うぅ~。」

 

 其処は神々のみが入ることを許された聖域。

 清浄なる空気が流れる水場。

 つまりは浴場であった。

 

 目の下まで湯に入ったロキはブクブクと小さな気泡を吐き出している。

 その顔が赤いのは決して湯に浸っているのだけが原因ではないだろう。

 そのロキは茹で上がった頭で考える。

 

(責任、とってくれるゆーたんやし、今日ぐらい一緒におりたかったわー。そしたら今日は一緒に街を案内してー、ご飯食べてー、お酒のんでー。そしたらその後は……………。)

 

「キャーーーーーー!!!!」

 

 物凄く嬉しそうに水面を叩くロキ。この行動をとるのも既に3回目である。

 

 好奇心旺盛な女神達ですら近づくのを躊躇うほどである。そんななか、全員を代表したのか一人の女神がロキへと近づく。それを見守るように浴場の柱にへばりつく他の女神達。

 

「どうしたの~?ロキが来るのって珍しいじゃない。」

「あ~、デメテルかぁ。別になんもないで、気が向いたから来ただけや。」

「ふぅ~ん。私の見たところ、何もないようには見えないけど。む、し、ろ!どう見たって恋する乙女じゃない!何があったの?やっぱり相手は同じファミリアの子供?やっぱりあの凛々しい勇者くん!?それとも確りしたおじ様?もしかしてやんちゃな感じの狼人くん?どなた?どなた!?」

「いや、ちが」

「ロキって男っけがないから心配してたのよね!あのロキのハートを掴むなんてよっぽど良い男なのね~。今度紹介してくれない?」

「絶対にいやや。」

 

 静まり返る空間。しかし其は嵐の前の静けさだった。

 明らかに赤い顔に少し照れたようなムッとしたような顔。何よりその答えがいるといっているようなものである。

 

「「「き、キャーーーーーー!!!!」」」

 

 周りから一斉に上がる黄色い声。何処にそんなに隠れていたのか女神達が溢れ出す。

 

「ロキやる~!」

「ねぇねぇ、どこまでいったの?ABCは?」

「レベルは?」

「名前は何て言うの~?」

「どこが好きなの?どこが良いの?」

「なれ初めは?」

「ロキを相手にしてくれるなんて、逃がしちゃだめよ~?」

「初夜はいつ?」

「相性は良いの~?」

 

 怒濤のように質問されるロキ。あっという間に臨界点を突破した。

 

「う、う、うるさいわボケーーー!!!」

「「「キャーーー!!」」」

 

 蜘蛛の子を散らすように退散する女神たち。ちゃっかりと柱の影からロキを見ているが。

 

「それで、どこのどなたなのかしら?」

 

 言葉は丁寧だが瞳はきらきらと好奇心を隠し切れない。離れることなく居座ったデメテルが改めて聞き返す。

 

「………その、新しくうちのファミリアに入ったやつやねんけど。」

「うんうん!」

「ホーリィいうねん。」

 

 蚊の鳴くような声で湯に沈みながら言うロキ。

 しかし、超強化された娯楽に飢えた女神たちの聴力はそれをはっきりと捉える。

 

「わたくし、知ってますわよ!今話題の殿方でしょう?あのアイズ・ヴァレンシュタインをお姫様抱っこでダンジョンから出てきた殿方。今日も二人で仲良く手を繋いでバベルにも来られていたと聞いていますわ~。」

 

 それからも尾ひれ胸びれトサカの付いた噂話を披露するデメテル。

 もはや誰それ状態にまで美化されたホーリィであった。

 

 曰く、某国の王子であるとか。

 曰く、嫁を探してオラリオに来たとか。

 曰く、後宮に嫁が100人いるとか。

 曰く、アイズ・ヴァレンシュタインと恋仲であるとか。

 曰く、決闘で第一線級冒険者を瞬殺したとか。

 曰く、実は神様であるとか。

 

 あからさまな偽の噂が多いがその中でもチラホラとある本当の話に如実にうろたえ始めるロキ。

 心配に駆られたのか、ザバッと立ち上がるロキ。

 

「うち、急用を思い出したわ。」

 

 そういってそそくさと浴場を後にする。

 残された女神たちは、物凄くいい笑顔でそれを見送った。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「へっぷし!」

 

 突然の悪寒にホーリィはたまらずくしゃみがでる。

 

「………?どうかした?」

「いや、なんか、急に悪寒が。」

 

 きっと恐ろしい勢いで拡散する神々のネットワークがホーリィに届いたのであろう。

 

 

 其処はダンジョン25階層。

 前回よりも明らかにペースは遅いがアイズとホーリィは順調にダンジョンを進んでいた。

 そこでアイズはふとホーリィに質問をする。

 

「そういえば、ホーリィは戦わないの?」

 

 当初より疑問に思っていたことを口にする。

 明らかに自分より強いホーリィが何故かサポーターの仕事に専念するのはおかしいと思っていたのである。

 それも10階層での姿を見れば尚更である。

 

「いやー、何て言うか、これが一番しっくり来るというかなんと言うか。俺の魂が敵を掘れと叫ぶというか。」

 

 勿論事実、ホーリィは掘り馬場をメインで使っていたためこの状態が一番楽しいというのもある。しかし、それ以上にホーリィが掘り馬場を使うのには訳がある。

 

 ぶっちゃけ、他のビルドは危険すぎる。

 

 パラディンの属性オーラ極振り(ドリームショッカー)など、半径数十メートルは地獄の業火や雷撃で覆われるだろう。歩くだけで回りのモンスターは蒸発する。同じくすれ違う冒険者も蒸発するだろうが。

 その他にも、使えばドロップアイテムなど無視してまたダンジョンの奥に突っ走ってしまう危険性があった。

 なので、適度に余裕があり、趣味のアイテム収集もできる掘り馬場が一番ベターなのである。

 その為、アイズと一緒のときは積極的に他のビルドを使おうとは思っていなかった。

 

 他にも思惑はある。

 あわよくばこのままアイズを強くして寄生したいとも思っている。今の状態は緩やかなパワーレベリングであった。

 

「そうなんだ。でも、私はホーリィと一緒に戦いたい。」

 

 真摯な表情で伝えられる言葉は果たして欲に塗れたホーリィには眩しすぎた。その為、つい言ってしまう。

 

「そ、そうだな。じゃあ次からは一緒に倒していくか?」

「!!――――うん!」

 

 更に眩しい笑顔にもう後には引けないホーリィ。

 覚悟を決めてキャラクターセレクトを行う。

 魔法陣から出てきたのは10階層でも見た全身を銀色に染めたホーリィだった。

 

 

 バーバリアンというジョブにとっての王道とは何か、と聞かれると100人中97人はこう答えるであろう。

 

 WW馬場であると。

 

 WW馬場とはWW(ワールウインド)というスキルを主力として戦うビルドである。

 その戦法は単純にして明快。

 近づく、敵が死ぬまで武器を持ったまま回転し続ける。

 ただこれだけである。

 小手先の技術などいらない、ただただ暴力的なまでに敵を切り刻む。

 それが馬場であるのだ。

 

 ホーリィの装備はそのWW馬場に特化していた。

 両手に持った斧は禍々しく揺らめき、意匠を凝らされた防具は重厚であり人には作り出せないような神々しさが迸る。

 そこにはWW馬場の極地が存在した。

 

 

 ぶっちゃけちょっと焦ってホーリィが選択をミスっただけである。戦力過剰も甚だしい。

 しかし、その姿を見てアイズは嬉しそうにはにかむ。

 

「じゃあいくぞー。」

「うん!」

 

 そういいながら二人は進む。そして大きな広間に入った。

 その瞬間、一斉に生れ落ちるモンスター。何処に居たのかと思うほどに現れるモンスターの群れ。

 其処はモンスターの生まれる場所。

 

「………食料庫!」

 

 それでも引くことはない。何しろ今のアイズには共に戦うものが居るのである。背中を預ける戦友が。

 その、覚悟を決めた目の前の天井から一際大きな塊が零れ落ちる。

 

 ぬめる体毛を振り払うように生まれたのは巨大な蜘蛛。地獄の道先案内人【アビスガーデン】。

 

「いっちょ、やったりますかー!!」

 

 大きくホーリィが吼えたぎる。

 アイズはその瞬間にホーリィの姿を見失う。

 隣にいたはずのホーリィはいつの間にか巨大な蜘蛛の足元に存在していた。

 高速で移動したとか、気が付かない間に移動したとか、そういう次元の話ではなかった。風の揺らぎや踏みしめる足音すら聞こえない。まさに、転移したといわんばかりの状況である。

 

 そのアイズの目の前でホーリィは回る。

 

 ひとたび回れば蜘蛛の足は切り裂かれ、二度目の回転で蜘蛛は血煙に変わり果てる。

 

「くは、くははは!」

 

 その全身を血に染めたホーリィは物足りないのか辺りに視線を這わせ、その瞬間にまた視線の先へと転移する。

 

 そこからは一方的な蹂躙だった。

 

 ところかまわず現れるホーリィに切り裂かれていくモンスター達。逃げることも適わず、ただただ切り裂かれるのを待つだけの存在。

 一方的な蹂躙が終わりを告げるのはあっという間であった。

 

 

 

――――――――筋肉正座中。

 

 

 

「さーせん。」

 

 男は何故か正座していた。

 

 何処かで見たことのある顔をしたアイズがその男の目の前に立ってる。

 つまりあれである。

 

 私、怒ってます。というやつである。

 

「悪かった。一人で全部倒したのはほんとーに悪かったと思ってる。今では反省している。」

 

 悪びれもせずに男はのたまった。

 

「………別に怒ってません。」

 

 確かにアイズはそこまで怒っていなかった。ポーズである。それでも出番もなく一人で終わらせたことにすねてはいたが。

 

「あー、やっぱり俺はサポーターしているほうが性にあってるわ。」

 

 今回のことで再度反省したのか男は愁傷な態度である。しかしアイズとしては内心微妙であった。ホーリィと一緒にダンジョン攻略をしたいが実力に差がありすぎる。今のままではただ付いていくだけになってしまいかねない。

 

「………それにアイズを後ろから見ているほうが楽しいし。」

 

 ピクリとアイズの背筋が伸びる。ちょっとだけスカートのお尻の部分を手で押さえる。

 

「本当に、そう思ってる?」

「マジマジ。暫くはサポーターのままでいいかなーって。」

「本当に?」

「いやもう主神に誓って。」

「じゃあ許します。」

 

 ははぁっ!とひれ伏すホーリィを見ながらアイズは考える。暫く、もうちょっと実力が近づくまで待ってもらおう、と。

 

 ひれ伏した状態から許しを得て立ち上がるとホーリィは先を促す。

 

 それにアイズもまた頷くとホーリィを追い越して進んでいった。いつの間にかホーリィはいつもの格好に戻っている。

 

 それを確認しつつアイズは呟いた。

 

「………すぐ追いつく。」

「ん?なんか言ったか?」

「なんでもない。」

 

 ごまかし紛れにモンスターを切り裂いたアイズは目標を新たにするのだった。

 

 

 

 

 





 ※解説(読まなくても全く問題ありません。)

 RW Grief

Required Level: 59
35% Chance to Cast Level 15 Venom On Striking
+30-40% Increased Attack Speed (varies)
Damage +340-400 (varies)
Ignore Target's Defense
-25% Target Defense
+1.875 (per Character Level)% Damage To Demons (Based on Character Level)
Adds 5-30 Fire Damage
-20-25% To Enemy Poison Resistance (varies)
20% Deadly Strike
Prevent Monster Heal
+2 To Mana After Each Kill
+10-15 Life After Each Kill (varies)


 前衛職にとっては忘れることのできない武器。
 これを手に入れるかどうかによってDIABLOⅡが変わるといっても過言ではない武器。

 皆さんもDIABLOⅡをやるときはとりあえずこれを目指すと良いと作者は思います。


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私は超級金喰い虫、FAzonだ!


orz


 ヘファイストスは少しだけイライラしていた。

 先ほどまで、鍛冶師としてどんなものを作ろうか素材を片手に構想を練っているところを邪魔されたのである。

 その上でこの状況。少々イラついても許されるのではないだろうか。

 

「そんでなー、その、お願いがあんねんやー?」

 

 更にイラつかせるのはその仕草に表情である。

 ロキといえば天界において触らぬ神に祟りなしとまで恐れられる神である。

 下界に下りて丸くなったとはいえその本質は変わらない。

 それがなんだ、目の前のこの状況は。

 

「そのなー、えーっと、やっぱ恥ずかしいわぁ!」

 

 ヘファイストスの奥歯がギリギリとかみ締められる。

 ここまでこの女神をイラつかせるのも珍しい。

 そんなヘファイストスの状況に気が付かないほどロキは傍から見ても恋する乙女であった。

 

「………それで、結局なんなのかしら?」

 

 これ以上待っても自らのイライラを増幅させるだけだと判断したヘファイストスは先を促す。

 

「その、な?わらわへんといてーや?約束やで?」

「わかったから早く用件を言って。」

 

 これ以上引き伸ばすと血管から血が吹き出るかもしれない。

 

「………下着、つくってくれへん?こんなんファイたんにしか頼まれへんのや!」

 

 言葉としては少なからず友情を感じずにはいられないが、問題は内容であった。

 今この女(ロキ)、下着を作れとのたまったのか。

 

「出口はあっちよ。」

 

 無表情で立ち上がると部屋の入り口を指差すヘファイストス。その行動を誰が止められようか。

 

「まってや~!?ほんま頼む!一生のお願いや、神様ヘファイストス様!」

 

 何て空っぽな一生のお願いだろうか。こんなにも不埒なお願いは聞いたことがなかった。

 知らずヘファイストスの口からため息が漏れる。

 それをピンチととらえたのか、ロキはとうとう最終手段に訴えることにしたようだ。

 

 

 土下座である。

 

 

 東方の地に伝わるという、人にどうしてもお願いしたいことがあるときにやると必ず承諾してくれるという必殺技である(タケミカズチ談)。

 

 そんな姿を見てもヘファイストスの心は一ミリも動かなかったが。

 

「うちに出来ることならなんでもする。お願いやファイたん!」

 

 ピクリとヘファイストスの眉が動く。

 

「何でも、何でもするって言ったわよね今?」

「せや!無茶なお願いしとるんは百も承知や。それにその、内緒にしてもらわんとうち恥ずかしいし!」

 

 なかなかの好条件に少し考えるヘファイストス。何処かの貧乏神のように見返りもなくものを頼んでくるわけではないらしい。

 

「そうね、それじゃあまずはどんなものをつくってほしいか教えてくれないかしら?じゃないと、どれだけ対価を求めれば良いかわからないし。」

 

 尤もな話である。

 しかし直ぐに聞いた事を後悔した。

 

「そのな、その事なんやけど相談にのってほしいんや!下界の子供たちってどんな下着つけとん!?うちそういうの興味あらへんかったからスポーツタイプしか持ってないねん。勝負下着がほしいねんうち!」

 

 聞くんじゃなかったと既にヘファイストスは後悔していた。こんなこと、とてもではないがファミリアの子供には任せられない。むしろさせたくない。

 

「はぁ~。素材はどんなものが良いの?ピンからキリまであるわよ?」

「もちろんピンや!」

「ふぅ、わかったわ。それじゃあ報酬は作ってから決めるから取り敢えず採寸しましょうか。」

「ありがとー!やっぱり持つべきものは神友やな!」

 

 嬉しそうなロキの顔になんとも言えないヘファイストスであった。

 

 

 ーーーーーロキ採寸中。

 

 

「そういえばファイたん、さっきのとは別件でお願いがあるんやけど。」

「今度の話は真面目なものにしてよ?」

「わかっとるって。今度うちのファミリアで深層に遠征にいくんやけどその時何人か鍛冶師を貸してくれへん?もちろん報酬は弾むで!」

「しっかり守ってもらえるのならこちらとしても良い経験にもなるし構わないわよ。でもそうね、さっきの報酬と合わせてその遠征中に一人、此方にも貸し出してくれないかしら?」

「アイズたんはダメやで?他はまぁ、誰かによるわ。」

 

 思ったよりも軽い調子のロキにヘファイストスの目が光る。

 

「ホーリ」

「アカン。」

 

 にべもない。交渉の余地もなく断られたヘファイストスは切り口を変えることにする。

 

「あら、どうしてかしら?確か貴方のところの新人でしょう?遠征には不要だと思うのだけれど。」

「何でファイたんがホーリィのこと知っとるんか聞きたいわ!確かにホーリィは遠征には参加させへん予定やけど、ほ、他に予定があんねん!」

 

 どうやら勝手に予定を決められているようである。

 

「もしかしてさっきのお願いはそのときに使うのかしら?」

 

 みるみるうちに顔を赤くしていくロキ。

 

「そ、そんなわけあらへんやろ!?ただ、もしかしたらっちゅう………。」

 

 ゴニョゴニョと小声で言い訳を言うロキに流石に悪いと思ったのかヘファイストスは助け船を出すことにした。

 

「からかって悪かったわ。そうよね、入ったばかりの新人は特にかわいいものだものね。さっきの条件は無しで良いわよ。」

「ホンマか!ありがとうファイたん!」

 

 そう言って手を掴むとぶんぶん振りまくる。

 

「じゃあうちいくわ!ファイたん愛してるで!」

 

 嵐のように通りすぎていくロキを見るヘファイストスの眼光は今だ鋭い。

 

「でもま、個人的に頼み事をするのは構わないでしょう?」

 

 誰に言うでもなく呟いた。

 

 

  ■ ■ ■

 

 

 流れるように景色が流れていく。

 森を抜け、迷宮の中の街を抜け、石畳に囲まれたダンジョンを抜けていく。

 

 アイズはまたしてもホーリィにお姫様抱っこされていた。

 

 順調にダンジョンを進む二人であったがそれは29階層で起こった。

 もはや現れるのが当然となりつつある階層主との激戦を制したアイズであったがそこで思わぬ事態が発生する。

 

 お腹が鳴ったのである。

 

 それはもう芸術的なまでに否定を許さぬ程の空腹のサインであった。

 

「ん?腹減ったの?そういえば食べ物持ってきてないな。」

 

 慌てふためき否定しようとするアイズをよそにそうのたまうホーリィ。

 

「そんじゃあ今日はいったん帰りますか。次は食料も持ってこないとな!」

「………うん。」

 

 そんなこんなでいったん帰還する運びとなってしまったのだがそこでホーリィから余計な一言が入る。

 

「ほとんど一人でモンスター倒してたんだからそりゃ腹減るよなー。なんだったらまた運んでやろうか?」

「流石に、悪い。」

「いやいーって!気にすんなって!それに俺が運んだほうが早いし時間の節約にもなるだろ?WINWINの関係ってやつだ。」

 

 どこにホーリィの利益があるのかは解らないが。

 

「だから気にしなくていーぜ?」

「そういう問題じゃない。」

「じゃあどういう問題なんだ?」

「その、………かしい。」

「んん?」

「………恥ずかしい。」

 

 見つめあう二人。

 なんとなく甘酸っぱい空気が流れそうになる。

 だが男には無縁のものだった。

 

「なるほどなるほど。じゃあこれならどうだ?」

 

 そういった男は何かスキルを発動させる。

 瞬間、男の体が膨れ上がる。

 そこには巨体のクマが二足歩行で立っていた。

 背負ったバックパックがランドセルのように感じるほどシュールな光景である。

 

「………クマ。」

「どうよ?これならいいんじゃね?」

 

 先ほどとたいして状況的に変化はないが何故かホーリィはドヤ顔である。

 

「そんじゃーいきますかー。」

 

 

 

 そのまま抱きかかえられたアイズは現在の状況に至る。

 

(くま………。すごいもふもふ。それにすごく、大きい。)

 

 なんとなしにクマの顔を見つめるアイズ。

 その手でクマの鼻を触る。

 

「うおーい、くすぐったいぞー。」

「かわいい。」

 

 そのまま口元をぐにぐにとまさぐる。

 

「え?ちょ、アイズさん?」

「勝手なことするくまにお仕置き。」

「うほっ!」

 

 何故か顔の緩むホーリィ。解せぬ。

 

「………お仕置き。」

「すまんすまん。ちょっと強引だったな~!」

「別にいいけど。」

「いいのかよっ!」

 

 安心できる巨体に身を任せているうちにいつの間にかダンジョンの出口に到達していた。

 

 

 その日、熊に攫われるアイズ・ヴァレンシュタインの噂が流れたとかなんとか。

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 アイズをファミリアのホームへと送り届けたホーリィはその足でまたしてもダンジョン入口に戻ってきていた。

 一緒にご飯に食べていきたそうに見つめるアイズを振り切り舞い戻ったのには理由がある。

 

 そう、ホーリィは食欲というものがなかった。

 

 ゲームのキャラクターというのはプレイヤーが何十時間何百時間プレイしようがご飯も食べないしトイレにもいかない。睡眠もしないし性欲も感じない。

 

 ホーリィは身を以てそれを感じていた。もちろん、食べようと思えば食べれるし(ポーションが飲めることから確認済み)、寝ようと思えば寝れる(精神的に寝ようと思えば)。だが、恐らくではあるがしないでおこうと思えばきっと永久的におこなわなくても問題がないのではないかとすらホーリィは思う。

 

 なので、今現在一番気になっていることを試すためにホーリィはダンジョンへと来ている。

 

 

 

 俺、女になれんじゃね?

 

 

 である。

 

 

 DIABLOⅡというゲームのキャラクターは最初にジョブ選択をする。その際のアバターはジョブに由来する性別と体格が決められている。

 つまり、そういうことである。

 

 ダンジョン1階層の隅に移動したホーリィはおもむろに自らの魔法を行使する。

 はたして何時もと変わらずに発動する魔法。

 その後に残っていたのは少女だった。

 

 

 その場にはぽつんと少女が立っていた。

 

 

 自らの手を見るホーリィ。次いで足を見る。胸を見る。頭を触る。恐ろしい違和感に晒されたホーリィは急いで準備していた手鏡を覗き込んだ。

 

「おれ、もう死んでもいいかもしれん。」

 

 DIABLO2というゲームは硬派な洋ゲーである。そのグラフィックもそれに準じたものとなっている。バーバリアンであればガチムチの筋肉お化けであるし、ネクロマンサーなど根暗なおっさんである。そこに萌えも可愛いもない、硬派なゲームであった。

 

 ホーリィの選択したジョブはアマゾン。

 女バージョンガチムチ戦士である。

 豊穣の女主人の女将も裸足で逃げ出すほどのガチムチである。

 で、あるはずなのであるが、ホーリィの手鏡の前には全く違うモノが写しだされていた。

 

 すらっと伸びる手足に小さな顔。まだ発展途上を思わせる肢体に小さな顔。後ろに垂らした金髪が眩しく光る。

 

 正に誰これ状態である。

 これが原作の修正力というやつなのだろうか。

 恐るべしヤスダ○ズヒト。

 

「まるで自分の声じゃないようだ………。」

 

 声すらも修正が入ったのか鈴のなるような透明感のある声であった。

 気分はネカマである。

 

 気分よく少女はダンジョンを進むことにした。

 

 

 

 しかし直ぐに気が付いた。

 

 

 

 やべぇ、これまたしても戦力過剰ってやつだ、である。

 

 少女のビルドはFAzon(フリージングアロウ特化弓アマゾン)である。

 惜しみないほどの超級ルーンをつぎ込んだ男の傑作である。装備はもとよりその所持品にも選び抜かれたチャーム(ステータス等を持っているだけで上昇させるアイテム)を搭載し、並み居る敵を爽快に駆逐するガチビルドである。

 

 今もまた、少女の目の前にモンスターが現れる。目の前のいたいけな少女をその手で切り裂こうと目を光らせながら襲い掛かる。

 

 しかし、少女に到達することはなかった。

 

 少女の纏う冷気のオーラによってその身を止められると、すぐさま凍りつき、そして砕け散る。

 弓すら撃つ必要がない。

 流石にこれはどうなんだろうと少女は思う。懐かしいモーモー牧場(大量の牛の怪物が襲い掛かってくるステージ)とまではいかないが、オラオラと敵を駆逐しようと思った矢先がこれである。

 ため息もつきたくなる。

 

 急降下するテンションのまま少女は階段を下って行った。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 ふと歩くホーリィの元に剣閃の音が聞こえる。

 ちょっと気になったホーリィは足を運ぶことにした。

 迷宮の陰からその姿をうかがう。

 

(おー、やっとるやっとる。初々しいなぁ。)

 

 目線の先には1.5メートルほどの蟻数匹とトカゲや蛾を相手取る少年と大きなバックパックを背負った少女の姿が見える。

 

(おー、あんなにひ弱そうなのによく倒すなぁ。)

 

 目の前では少年にまた一匹モンスターが切り裂かれていた。

 

(装備品めっちゃ貧弱やん。育成用にもっといい装備つければいいのに。っていうか、これが普通の冒険者なんだろうなぁ。)

 

 ギルドの受付で聞いていた冒険者のことを思い出しつつ眺める。レベル1といわれる第3級冒険者は迷宮の浅いところで頑張ってレベリングしてレベルアップしてからさらに奥を目指すという。ということは目の前の二人はレベル1なんだろうなぁと自分を棚に上げて考えていた。

 その目の前で少年の状況が変わる。

 調子に乗ったのか、敵の集団に囲まれて被弾必至の状況に陥っていた。追撃をしようとしている大きな蛾のモンスターまでいる。

 

(おっ?やばいんじゃね?)

 

 迷わず弓を向けると引き絞り放つ。

 その弓から魔法の矢が放たれ、寸分たがわずモンスターに突き刺さる。

 

「――――――――えっ!?」

 

 自らの被弾を覚悟していたのか少年は驚きの声を上げる。

 貫かれ消滅していくモンスターを見ながらあたりを見回した少年はほかにモンスターがいないのを確認するとホーリィに向き直った。そのままホーリィに向かって駆けてくる。

 

「ちょちょちょっとまったーーー!ストップストップ!!近づいちゃダメ!!!」

 

 寸でのところで呼び止めると武器を裏武器に変えるホーリィ。もう少しで少年は氷の彫像と化すところであった。

 武器を変えたホーリィはほっと胸を撫で下ろしながら少年へと近づく。

 そのホーリィに向かってベルがぺこりと頭を下げた。

 

「あ、危ないところをありがとうございました!」

「本当です。ちょっと調子に乗りすぎてますベル様。」

「ごめんなさい。もうあんな事にはならないようにするよ!あ、リリもほらっ!」

「コホンッ。危ないところを有難うございました。」

「いやいや、見てられなかったからね。」

 

 そこで初めてお互いを確認しあう両者。

 

「~~~~!!!」

 

 途端にベルの顔が赤くなっていく。

 

「ベル様?ベル様!」

「はっ!ごめんなさい~~!!僕はベル・クラネルって言います。こっちはリリカル・アーデ。改めてありがとうございました!」

「眩しい、眩しすぎて眼がっ、眼が潰れるっ!!」

「えっ?」

「いやなんでも。」

「あの、もしかしてお一人なんですか?」

「うん。そうだけどどうかした?」

「すごいなぁって思って!さっきも颯爽とモンスターを倒されてかっこよかったです!あ、そうだ。名前を聞いても良いですか?今度お礼をします!ご迷惑でなければですけど………?」

 

 一体誰がこの申し出を断れるであろうか。庇護欲を掻き立てる雰囲気にこちらを窺うような表情。少し顔も赤らんでいる。 

 

「リリがせっせと魔石を回収している間にナンパとはいいご身分ですね、ベル様?」

「えっ!?違うよリリ!助けてくれたお礼をしようと思っただけだよ!?」

「本当ですか~?リリにはとてもそうとは見えませんでしたけど。」

「本当だって!ですよね!?」

 

 助けを求められたホーリィはたじろぐ。

 

「う、うん。別にナンパされていたわけじゃないと思うよ?」

「ほ、ほらぁ!あ、それでお名前はなんていうんですか?」

 

 聞かれたホーリィは考える。

 ホーリィ・馬場と名乗ってもいものか。

 ホーリィ・馬場は掘り馬場の名前である。

 このキャラクターにもきちんと名前がある。

 そちらを名乗ったほうがいいのではないだろうか。

 しかしてホーリィは言い放つ。

 

「ホーリィ・馬場といいます。ここで会ったのも何かの縁、よろしくお願いします。」

 

 ぶっちゃけ名前を使い分けるのが面倒くさかった。ホーリィというのも中性的で男女どちらでもいい気がする、と。

 

「ホーリィさんっていうんですか、よろしく願します…………って、ホーリィさん!?」

 

 ベルの驚きもわかるというものである。ここ数日、この名前はよく聞く。冒険者ギルドで聞かない日はないというほどよく聞くのである。

 そのホーリィが目の前にいるのである。驚くのも当たり前である。

 

「ホーリィさんって、アイズ・ヴァレンシュタインって知ってますか?」

「ん?知ってるよー?同じファミリアだし。」

「じゃあじゃあ!最近一緒にダンジョンに行きましたか!?」

「ここ二日ぐらい一緒に潜ってるけどどうかしたの?」

 

 そこまで話すとベルは天に向かって祈りをささげだした。

 

(最近アイズ・ヴァレンシュタインに恋人が出来たって噂だったけど、女の人だったんだ!よかったぁ!噂じゃ僕が逆立ちしても敵わない人だって聞いてたけど、違ったんだぁ!)

 

「申し訳ありませんホーリィ様。これはベル様の持病のようなものなのでほおっておけば治ります。それで、お聞きしたいのですが、あのアイズ氏をお姫様抱っこでダンジョンから出て来られたというのは本当でしょうか?」

「確かにそうだけど、よく知ってるねー。」

「冒険者なら皆知っているかと。」

「ふぅ~ん。ま、いいや。それで、これからどうするの?」

 

 未だ神に祈るベルを眺めながらホーリィは尋ねる。

 

「リリ達はもう少しこの辺りに籠ろうと思います。ホーリィ様はどうされるのですか?」

 

 リリとしては助けてもらったのは感謝しているが、ホーリィには早く何処かに行ってほしいと考えていた。

 そうしなければ本業に差支えてしまう。

 

「ねね、もう一回私の事呼んでみてもらっていい?」

「………ホーリィ様?」

「もう一回!」

「ホーリィ様。」

「はぁはぁ、もう一回!」

「…………………ホーリィ様?」

 

 明らかに興奮した様子のホーリィに知らず半歩下がるリリ。

 しかしその行動空しく襲われることとなる。

 

「うわー、可愛いなぁ!なにこの背徳感!すっごいお持ち帰りしたいんだけど!」

 

 抱き付かれるリリ。その瞬間、被っていたローブがめくれその頭が露わになる。

 犬耳であった。

 

「犬耳きたこれ!うわーうわーうわー、なんという手触り、っていうことはっ!!うほっ、しっぽまであるやん!?」

 

 もみくちゃにされるリリ。

 

「なんなんですか!?ってちょっ!どこ触って、こらぁ!いくら温厚な私でも怒りますよ!?」

 

 

 それは新たなモンスターが壁から生れ落ちるまで続いた。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「サーセン。」

 

 ホーリィは正座していた。

 何故か一緒にベルも正座していた。

 

「本当に反省してるんですか?」

「海よりも高く山よりも低く反省しております。」

「それって反省してないよね?」

「ベル様は黙っててください!」

「ええっ!?」

「見ているだけで助けてくれなったベル様も同罪です!」

 

 そうなのである。

 正気に戻ったベルは女の子二人がにゃんにゃんしているのをあたふたと眺めるだけで止めなかったのである。

 

「はぁっ。それでホーリィ………様はこれからどうされるのですか?」

 

 一瞬言いよどんだリリが再度質問する。

 

「んー、暇だしついて行ってもいいかな?あ、もちろん取り分は無しでいいよ?」

「本当ですか!?頼もしいなぁ!是非お願いします!」

「………ホーリィ様はもっと深い階層に行かれると思っていました。」

「あっ、確かに。このあたりだとホーリィさんは経験値にならないんじゃないですか?」

 

 嬉しそうにはしゃぐベルとは対照的なリリ。尤もな質問に対して驚愕な事実が判明する。

 

「えっ?私はつい一昨日冒険者になったばかりのぺーぺーだよ?ここまで来れてるのは装備品がいいからだから。」

 

 嘘とはあながち言えない。

 しかしホーリィの体に刻まれた恩恵は云わばボーナスステータスのようなものである。あくまで現在のステータスに上乗せ加算されるものであるのだから普通の冒険者と一緒にしないでもらいたいものであった。

 

「ええ~~!?じゃ、じゃあ………僕のほうが先輩ってこと?」

「そうですよー?ダンジョン初心者の私に何卒ご教授ください~。」

 

 大袈裟な仕草で頼み込むホーリィにベルは小さく先輩っと呟く。

 

「ぼ、僕はいいと思うんだけど。リリはどうかなっ?」

「ベル様が決められたのならリリに嫌はありません。」

「えっと、それじゃあとりあえず今からダンジョンを出る間までですけどよろしくお願いしますっ!」

「よろー。」

「………よろしくお願いします。」

「よろしくリリちゃん!」

「引っ付かないでください!歩き辛いです!」

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「ふっ!!!」

 

 ダンジョンの一角でベルのナイフがモンスターを切り裂く。それをサポーター二人が眺めていた。

 

「ベル君やるねー。それにしてもあのナイフ、すごい切れ味だねぇ。ほしいなー、ほしいなぁー。」

「それには全面的に同意します。何しろあのヘファイストスの作品ですから。」

 

 怪しく光るリリの眼光に気が付くことなくホーリィは何かを思いついたのかその弓を取り出すと引き絞った。

 出鱈目に放たれた矢は追尾するかのように鋭角に曲がると残されたモンスターへと殺到する。

 

「すごい………。」

 

 その光景にリリは圧倒される。

 どこの世界のレベル1が秒間8発もの矢を放ちそれが全てモンスターを貫通していくのだろうか教えてほしい。

 

「あ、ホーリィさんありがとうござい、って近い近い!?」

「ベル君、そのナイフ見せてー?」

 

 気が付いた時には目の前に移動していたホーリィにたじろぐベルであったが顔を赤らめながらもナイフを差し出す。

 受け取ったホーリィはおもむろに鑑定のスクロールを取り出すとそれをベルのナイフへと使う。

 

「へぇ~。これはすごい。すごいねこれ。でも条件がなぁ。使えないのかぁ。いや、ヘスティアファミリアの恩恵を受ければ何とか………?」

 

 あっという間の出来事に驚いていたベルが正気に戻る。

 

「うわあぁ!神様のナイフに何してるんですかぁ!?」

「あーごめんごめん。つい。あ、でも鑑定しただけで別に何もないから安心して?」

「あ、そうなんですか。よかったぁ。」

 

 そんな二人を見つめるリリの視線は少しだけ細められていた。

 

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「「100530ヴァリス!?」」

 

 そこは冒険者ギルドのカウンターであった。

 つい再程今回の冒険で得た魔石とドロップアイテムの売却をしたところである。その換金額に二人は驚きを隠せないようであった。

 

「すごいすごい!こんなに貰えるなんて夢みたいだ!」

「リリもこんなに貰えるとは思いませんでした。でも今回はドロップアイテムが沢山出ましたし、運が良かったのかもしれませんねっ!」

 

 窘めるように言うが同じく嬉しそうにしているリリ。そんな二人の空間にはてなを浮かべ続ける人物が一人。

 

(あれ、もしかしてドロップアイテムって結構高く買取されるんだなー。あれっぽっちで100kで買取してくれるんだったら今日のドロップアイテム売り払ったらやべぇんじゃねぇの?)

 

 今日の前半だけで恐ろしい量のドロップアイテムを手に入れているホーリィは戦慄した。しかし、その脳内はオラリオの常識を遥かに超えていたため全く関係ないのであるが。

 

(っていっても魔石は売却専用アイテムみたいだし、やっぱドロップアイテムは取っておいて装備作るのに使ったほうがよさそうだなー。お金は余ってるし。)

 

 リリが聞けば刺されそうな事を考えるホーリィ。

 そんな事を考えている間に二人は盛り上がっているようであった。

 

「じゃあ報酬はどうしよっか?ホーリィさんもいるから3等分でいいかな?」

「またベル様はそんなことをおっしゃいます。何度も言うようですがリリはサポーターなのです。ここはお二人で分けられてその端数をリリに頂ければ構いません。」

「そういうわけにはいかないよっ!はい、これリリの分。それとこれはホーリィさんの分!」

 

 渡されるヴァリスに首をかしげるホーリィ。

 

「あれ、私いらないって言わなかったっけ?」

 

 確かに言ったような気がすると呟くとそれをベルが遮る。

 

「要所要所でホーリィさんの援護はすっごく助かりました!これはお近づきの印ってことじゃダメですか?」

 

 びっくりするホーリィを余所にベルは立て続けに言う。

 

「別に毎回ってわけじゃなくていいのでたまにパーティを組んでくれたらなーって。本当に、もしよかったらなんですけど!リリも良いよね!?」

「はぁ~。もう勝手にしてください。それにリリは別に嫌では無いですし。」

 

 二人の視線にちょっと照れるようにホーリィは返す。

 

「たまにだよ?もし暇だったら一緒について行ってあげる。」

「やったー!それじゃあ、もしよかったらこれから一緒にご飯でも食べに行きませんか?今回の報酬を使ってぱーっと!リリも一緒にいこう!」

「………しょうがないですね。余り散財はお勧めできませんが今日は特別ですよ?ホーリィ様はどうされますか?」

「しょうがないなー、ご同伴にあずかろうかなぁ?」

「それじゃあいいお店があるんですよ!こっちです!」

 

 

 3人は連れだって夜の街に消えていった。

 

 

 

 




※解説(読まなくても全く問題ありません。)


 RW Faith

Required Level: 65
Level 12-15 Fanaticism Aura When Equipped (varies)
+1-2 To All Skills (varies)
+330% Enhanced Damage
Ignore Target's Defense
300% Bonus To Attack Rating
+75% Damage To Undead
+50 To Attack Rating Against Undead
+120 Fire Damage
All Resistances +15
10% Reanimate As: Returned
75% Extra Gold From Monsters

 今回裏武器にこちらを装備しています。これを装備するといろいろ強くなるオーラ(Level 12-15 Fanaticism Aura When Equipped (varies))を纏えてかなり強いです。
 
 メイン武器についてはこちら。


 RW Ice

Required Level: 65
100% Chance to Cast Level 40 Blizzard When You Level-up
25% Chance to Cast Level 22 Frost Nova On Striking
Level 18 Holy Freeze Aura When Equipped
+20% Increased Attack Speed
+140-210% Enhanced Damage (varies)
Ignore Target's Defense
+25-30% To Cold Skill Damage (varies)
-20% To Enemy Cold Resistance
7% Life Stolen Per Hit
20% Deadly Strike
3.125-309.375% Extra Gold From Monsters (Based on Character Level)


 色々とフリージングアローを強化するMODが付いています。作中で周りのモンスターがパキパキ凍っていくのは周りの敵にスロウをかけて氷属性ダメージを与えるオーラ(Level 18 Holy Freeze Aura When Equipped)を纏っているためです。


 正直、ガチビルド過ぎてボケるところがないのが珠に傷。

 実際にこのビルドを使用すると敵が面白いぐらい簡単に殲滅できます。ヘルのモーモー牧場など爽快すぎてやめられません。



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我が名はサモンネク!無敵の我が軍勢を見るが良い!ふはははははは!!!

 お詫び。

 この作品はDIABLOⅡのビルド紹介を頻繁にするため、TS表現が度々見られることとなります。それらに耐性のない方はブラウザバック推奨となります。
 こんな作品でもたくさんの方に見ていただけて幸せです。
 DIABLOⅡラダーに人が増えることを祈っております。←


 ところで、
 R15って何処までの描写を言うんでしょうか?
 解せぬ。


「今帰ったぞー!」

 

 勢い良くロキファミリアの扉を開けるのはホーリィであった。

 その姿はいつものガチムチマッチョ、掘り馬場である。なんだかんだ言いつつこの姿が一番落ち着くホーリィは豊穣の女神で一杯やった後に姿を戻すとそのまま帰って来たのである。

 

「おおー、誰もおらんのかー。」

 

 返事のない室内もそのはず、今は深夜2時をまわっている。とっくに皆寝入っている頃だろう。

 

「しゃあない、眠くないけどやることもないし寝るか。」

 

 その足で寝室へと行くのであった。

 もちろんロキの。

 

 

 部屋に入ると服を脱ぎ、全裸になるとベッドへと移動する。

 部屋は鍵がかけられていたが無駄に高性能なホーリィはソーサレスのスキル、テレキネシスで鍵を開けて侵入した。これ人は不法侵入という。

 

 言い訳をするとこの時、ホーリィ個人の部屋というものがまだ割り振られていなかった。その為、どこで寝るかとなるとやはりロキの部屋となるのである。

 

 そのホーリィはベッドの中に潜り込む。

 最初っから入っていたロキを抱えると自身の胸の上に置くとそのまま布団をかぶる。

 

 そのまま夜は更けていった。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 朝の訪れと共に目を覚ましたロキは暖かい体温を感じそれに顔を埋める。

 そのまままどろむ事数分。

 その不可解な現状に気がついた。

 

(暖かい………?)

 

 違和感に目を覚ますと上体を起こす。

 その目の前には彫像のような顔に筋肉に覆われた胸板。それを見てロキは現在の状況を悟る。

 今現在ロキは仰向けに眠るホーリィの上に跨って抱きついていた。

 少々あれな体勢であることを除けば昨日と同じ状況である。

 一気に赤くなるロキの表情。

 しかし、声を上げることはなかった。

 

「またおるし。ちゃんと鍵閉めといたのにどうやってはいんねん毎回。」

 

 小さく呟くと両手をホーリィの胸板に付くと上体を完全に起こした。

 くくっていないロキの髪がサラリと流れる。

 流石に2度目ともなると騒いだりしない。ロキには学習能力があるのだ。

 

「毎回毎回うちばっかりドキドキさせられるのは不公平や。それにこういうのも良いかもしれへんなぁ。」

 

 髪を搔き揚げると再度ホーリィの体へと身を預ける。

 お互いの心臓の鼓動が優しくロキの体に響く。

 密着した体はお互いの熱を余すところなくココロへと伝える。

 そっと手を動かすとロキはホーリィの指に自身の右の指を絡ませた。

 あたかも恋人同士が戯れるかの如く。

 

(はぁ、ものごっつ安心する。もう何も考えられへんわ。)

 

 とりあえずこのまままどろもう、そうロキは決めたのだった。

 

 そこでふと視線を横にやる。

 そこにはベッドの横に体育座りで座るアイズがいた。

 

 

 ものすっごい見ていた。

 

 

 

 まるで珍妙な生物を見るような視線でロキを見やるアイズ(ロキ主観)。

 自分の主神の新たな一面に興味津々であるようだった(ロキ主観)。

 もはやこれは「昨日はお楽しみでしたね」であるかのような視線(ロキ主観)。

 

 ここまで考えたロキは小声でコミュニケーションを取ろうと試みた。

 

「お、おはようアイズ。」

「うん、ロキおはよう。」

 

 やはりこれは幻覚ではないようであった。

 一気に体温が上がるロキであったが現在の体勢を思い出したのか身動きを取れない。

 そのままホーリィの胸に顔を埋めたままの体勢で話すことにした。

 

「アイズたんはなしてここにおるん?」

「ステータスの更新。でもロキが寝てたから待ってた。」

「鍵、かかっとらんかった?」

「かかってなかった。」

 

 ホーリィを恨むも後の祭りである。

 何とかしようと考えるも良い言い訳が浮かばない。

 そんなロキに更なる試練が訪れる。

 

「………ロキはホーリィと何をしてるの?」

 

 今こそアイズの性教育を疎かにしたことを悔やんだ瞬間はないだろう。

 8歳のときからあれよあれよとそういったものから遠ざけてきたツケがやって来たのである。

 ここでロキの主神としての真価が問われるのであった。

 

(まずいまずいまずいまずい!)

 

 現在の状況は非常にまずかった。

 ロキはアイズに変な虫がつかないように偏った教育をしている。

 

 曰く、

 男と接触はなるべくしない。

 男に肌を露出しない(しかしロキの趣味や戦闘時の身軽さからアイズは少し露出の高い服を着ている)。

 男は獣、ほいほい付いて行かない。

 男と同じ部屋で寝ない。

 男となるべく喋らない(同じファミリア除く)。

 自分より弱い男はダメンズ。

 等々。

 

 とにかく男との接触を避けさせていたのである。

 アイズは意味は判らないがとりあえず言われたとおりにしていた。

 

 しかしである。

 

 現在のロキの状況はどうであろうか?

 男(ホーリィ)の上に裸(ロキはギリギリパンツ一枚)で跨って体を密着させている。

 しかも嬉しそうに(アイズ主観)。

 しかも現在進行形である。

 

 そんな状態でもロキは未だホーリィの胸に顔を埋めている。

 しかしこれには訳があった。

 

 ロキが起き上がるとホーリィが顕になってしまう。

 今更ではあるが可愛いアイズに見せるわけにはいかなかった。

 本当に今更ではあるが。

 

 その為、現状のまま上手い言い訳をしなければならなかった。

 

「あんな、これは新しくうちのファミリアに入ったホーリィと主神であるうちとのコミュニケーションや。アイズも入ったばっかの時はよう一緒に寝とったやろ?」

 

 小声で諭すように言うロキ。

 流石ロキ、こんな状況でもその頭はキレていた。

 そのまま何とかステータスの更新に話を逸らしてホールに行かせようとしたが、それは脆くも崩れ去る。

 

 

「………じゃあ私も一緒に寝る。ホーリィのこと、もっとよく知りたい。」

 

 凍りつくロキ。

 だが凍りついている時間はなかった。

 有言実行、すぐさま服を脱ぎだすアイズ。

 流石にそれをとめようとロキは動こうとしたがそれはできなかった。

 

「んあっ。」

「………。」

 

 少しだけ身じろぎするホーリィ。

 そして絡まるお互いの指。

 擦れ合う体。

 予想以上に火照っていたロキの体は思わぬ刺激に声を上げてしまう。

 

 もはや爆発しそうなほど赤くなったロキとアイズの視線が交錯する。

 それによってロキはアイズを止めるチャンスを永遠に失ってしまった。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 頭の上で小さな話し声が聞こえたホーリィの意識が浮上する。

 ぼうっとした頭でホーリィは現状を確認していた。

 

「ちょ、ちょいまちぃ!?少し落ち着きぃな?前から教えとるやろ?男の前でやたらに肌を晒したらアカンって!?ええ子やからまずは服を着てやな?」

「でもロキも裸。だから私も服を脱ぐべき。」

「いやいやいや、アイズたんうちが寝るときパンツ一枚ってしっとるやろ!?」

「これとそれは別問題。」

 

 頭のすぐそばで繰り広げられる言葉の応酬に現状を悟ったホーリィ。

 自分が起き上がれば丸く収まりそうな気がする一方でちょっとした悪戯心がムクムクと起立する。

 何しろ、寝る前はあまり考えず今の体勢になったがよくよく考えるとすごい格好なのである。

 しかも何故かロキは嫌がることなく体を密着させている。いつの間にか繋いでいるお互いの指も絡まり方がなかなかにエロティックであるし。

 そう考えるとホーリィは少し興奮してしまったのだ。

 その為、ちょっと大きくなってしまった。

 何がとは言わない。

 

 

 ナニが。

 

 

 ホーリィの体は性欲等生理的現象とは無縁の体である。しかし中身である男の精神に依存して反応してしまうこともある。男がゲーム脳である限りはどんなに長時間の作業であろうとも耐えうるし、世界のルールというものを認識してしまえばそれに縛られる。

 

 そう、それは若い男性であれば当然の如く存在する、朝における体の一部の膨張現象ですら存在しなかったのであったが中身の精神高揚によってムクムクと大きくなっていった。

 

「そもそもアイズたんは一緒に寝る必要ないやろ!?大人しく服着てロビーで待っあああああああぁ!?」

「………ロキ?」

 

 ちょっと大きくなったホーリィのアレが丁度良い位置にあったロキの股間をなぞる様に上を向く。それは鼓動を打つかの如く絶妙な刺激をロキに与えた。

 なんともいえない力の抜けた顔をするロキ。その体からは力が抜け、しかし絡ませた四肢に力が入る。

 絡まった指を優しく握り返すホーリィ。

 空いた左手をロキの太ももに沿わせるように上がり、お尻の際を撫でる。

 

「な、なんでもあらへんよぉ?って、起きんかい!」

 

 流石に触られると気がついたようである。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 ロキファミリアのホーム。

 大きなリビングでホーリィは椅子に座ってのんびりしていた。

 間男のように部屋を追い出されたのである。

 ロキはおそらくアイズのステータスを更新しているのであろう。

 

(今日はどうするかな。アイズと一緒にダンジョンに行くのも良いがドロップアイテムを置いてこないと嵩張ってきたし、一旦ヘファイストスのところに行くかな。)

 

 先ほど部屋を追い出されるときにロキから絶対にどこにも行かないように言い含められていたのだがそんなことはもうすでに忘れていたホーリィ。

 思い立ったが吉日とばかりに椅子から立ち上がりバベルへと旅立った。

 

 

 

 街を歩くホーリィは違和感を感じる。

 

(なんか、めっちゃ見られてるんだけど。)

 

 すれ違う人ほぼ全てから振り返られ二度見される。

 ガン見してくる人もかなり多い。

 それは単にここ最近のホーリィの行動によって知名度が上がっているというのもあるが元々目立つのである。

 スキンヘッドの頭というのに刺青まで入っている。

 目立つことこの上ない。

 あっという間にオラリオの街の住人に知れ渡ってしまったのである。

 

(なんか悪い事したかなぁ。というよりも、このガチムチが悪いのか?もっとスマートな感じだとこんな風に見られないんじゃね?)

 

 どうやらホーリィは現在の風体が好奇の視線を呼び込んでいると判断したようである。

 そう考えたホーリィは人目につかない路地裏へと入る。そこでキャラを変えた。

 

 新たに現れたのは趣味の悪い骨の衣装を纏った白髪の中年。

 その体は細く、とても前衛職とは思えない。

 そしてその纏う空気も悪く背後には気味の悪い青いオーラが幻視される。

 そんな姿を確認したホーリィは意気揚々と通りを歩く。

 

 バベルのダンジョン入り口まで到達したホーリィは辺りを見回す。

 適当なサポーターを探しているのであった。

 現在ホーリィには確認したい事があったのである。

 それはサポーターを傭兵として扱えないかという事である。

 

 DIABLOⅡというゲームにはプレイヤーのお助けキャラとして傭兵を一人雇える。

 その傭兵に自分の不得意なモンスターを倒させたり、サポート装備を装備させて敵を倒すのを効率的に行えるシステムである。

 つまりはホーリィはサポーターにサポート武器を装備させて効果を得られないかと思ったわけである。

 

 そんな考えを持って辺りを見回すホーリィは一人で佇む小柄な人影を見てにんまりする。

 やはり初対面よりも見知った人のほうが安心できるというものである。

 

「やあお嬢さん、一緒にダンジョンに潜ってくれるサポーターを探しているのだが、君はサポーターかな?」

 

 目の前に立つとそう話しかける。

 少々キャラに合わせてロールプレイをしているがそこはご愛嬌だろう。

 但し、今現在のホーリィは白髪の中年。しかも細部を骨で装飾された明らかに危ない系の風体をしている。声もおどろおどろしい。

 

 話しかけられた少女は飛び上らんばかりにビビリながら返事をする。

 

「はははい!サポーターです!サポーターがご入用でしょうか!?」

「そんなに畏まらなくてもよい。それで時間はあるかな?先約がいなければ今からでもお願いしたいのだが?」

 

 ホーリィ本人は普通に話しているつもりでもその威圧感は半端ないレベルである。顔を真っ青にした少女はこくこくと頷かされる。

 

「そうかそうか、では参ろうか?」

 

 そう、この時から少女―――リリルカ・アーデの受難が始まる。

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 リリルカ・アーデは恐ろしい雰囲気の中年にダンジョンへと連行された。

 これは身の毛もよだつ凄惨な虐殺劇の記録である。

 

 ダンジョンへと入った男(まだ自己紹介すらしていない)は手をかざすと地面から土の塊を呼び起こしだす。

 それは寸胴な人型となり動き出した。

 

 リリは感心する。

 

(見た目的に前衛ではないと思いましたが、そういう魔法を使う人なんですね。)

 

 自身の知らない魔法を使う中年の後ろを歩きながらそんな事を考える。

 このときはまだ余裕があった。

 

 最初の敵、ゴブリンが現れた瞬間、土の人形が突撃する。その土で出来た体からは想像が出来ない力で出された拳はゴブリンの体を何の抵抗も無く抉り取る。

 残されたのは抉られた死体だけであった。

 

(強い!ゴブリンとはいえ、鎧袖一触ですか。これは安全な旅になりそうですね。って、えええええ!?)

 

 先ほどの戦闘ともいえない戦闘の考察をしていたリリの目の前でおぞましい光景が広がる。

 ゴブリンの死体からベキベキと音を立てて立ち上がる骨人形。

 その光景は残酷で見るに耐えない恐怖を想起させるものであった。

 しかもそれをしていると思われる男は薄らと笑いを浮かべている。

 

(ひぃぃぃ!安全って何ですか!?何でさっき頷いたんですか!?)

 

 サポーターはかなりの数がおり、普通は所属しているファミリアに連れられていく為野良のサポーターというものは競争率が非常に高い。その為、本能では付いて行っては駄目だと思いながらも実利と興味と恐怖から付いてきてしまった事を早くも後悔しているのであった。

 

 そんな事を考えている間に新たに現れたモンスターが人形と骨で出来たスケルトンに駆逐されていく。

 そうして出来た死体から更にスケルトンが増えていく。

 そう時間がかからずにリリの周りは骨に埋め尽くされていた。

 

 その数30体。

 

 その半数が剣や斧を持った戦士のようなスケルトン、そして半数が簡単な魔法を放つスケルトンである。

 全周囲を覆い尽くすような集団の出来上がりである。

 その中心に男とリリはいた。

 

(完全に囲まれました。逃げれません。もうリリはこの骨さんと一緒の存在にされてしまうのでしょうか?)

 

 リリの仕事といえば魔石と何故かたくさん落ちるドロップアイテムの回収のみ。

 死体は残らない。

 全て骨になるか死体になった瞬間に爆発する。

 辺りに散乱するモンスターの肉の海から一生懸命回収するのみである。

 

(はやく、かえりたい。)

 

 そう、その時はまだそんな事を思っていた。

 

 

 

 どんどんと階層を進む二人とお供のスケルトン達。

 リリが顔を青くする間もなく既に39階層。

 前線にいる骨が現れるモンスターを全て屠って行く。

 ちょくちょく現れるボスっぽいモンスターは地面から生える骨の檻に囲まれ、身動きが取れないうちにタコ殴りにされ、死に絶える。

 そこまでは良かった。いや、良くはないだろう。

 しかし良かった。

 そこからが問題だったのだ。

 

 今しがた死んだと思われるモンスターが起き上がる。

 まるでゾンビのように光の無い瞳を揺らし、スケルトン達の輪に加わっていく。

 それは正しく死者の行進。

 骨とゾンビの行進である。

 

(神様、リリが悪かったです。これは天罰なのですね、今まで行ってきた悪行でリリはこのまま冥府の底まで連れ去られていくのでしょうか?)

 

 そんな事を考えながらでもしっかりと魔石とドロップアイテムを拾うリリ。

 

 恐ろしく安定したこの軍団は何の障害も無くダンジョンを進む。

 

 そこで男が何かを思い出したかのように言葉を発する。

 

「おおそうだ、これを持ちたまえ。」

 

 そういうと何処からか取り出したポールアックスをリリへと渡す。

 

「これを持っていると精神力の回復速度が凡そ8倍になるという優れものなのだよ。もちろんパーティーメンバーにもその恩恵はある。」

 

 受け取ったリリはその異常な性能に驚きはするものの完全に思考は停止していた。

 

(今更こんな物を渡されてももうどうでもいいのです。ダンジョンの奥は冥府へと繋がっているのです。リリはそこに連れ去られていくのです。)

 

 完全なレイプ目であった。

 

 そんなことがあっても関係なくダンジョンの景色は移り変わる。

 通常の冒険者の速度ではない。

 移動の方法ですら常軌を逸していた。

 なにしろ、

 

 移動は全てテレポートなのである。

 

 骨のスケルトンが出揃った辺りから面倒になったのか歩きすらしない。

 一瞬で切り替わる視界。

 切り替わった視界にはやはり男とリリを囲む骨とゾンビの群れ。

 そしてスケルトン達とゾンビに蹂躙されるモンスター達。

 色鮮やかな魔法の矢が飛び交い、戦士のスケルトンが切り込んでいく。ゾンビによる捨て身の攻撃。

 力尽きたゾンビは新たな死体によって補充されていく。

 

 あっという間に50階層へと到達してしまった。

 49階層で出てきた巨人は予定調和であるかのごとく骨の壁に拘束されている間に沈み、今はその巨体が死者の軍団の一員と化している。

 一体誰がこの行進を止められるのだろうか。

 一体何処まで行くのだろうか。

 そろそろリリのバックパックもいっぱいである。

 中身も本当に必要なもの意外は捨ててまで拾ったドロップ品をつめている。

 しかしそろそろ限界が訪れようとしていた。

 

「あの!まだ進むんでしょうか!?ここからはその、竜の回廊に入ると思うんです!その、危険ではないでしょうか!?」

 

 ぶっちゃけリリは欠片も危険を感じていない。この階層に降りてくる間、一度たりとも危険と思う状況に遭遇していない。

 ここまで安定感のあるダンジョン攻略は存在するのかというほどの安心感である。

 その安心感を与えるのが骨とゾンビということを除けばではあるが。

 しかし知識としてはここからは更に危険というのは知っている。

 もう荷物も入らないし、帰れるのなら今すぐにでも帰りたい。

 一縷の望みにかけてみたのである。

 

「ふむ。確かにそろそろ帰っても良い頃合ではあるな。では次の階層で火竜を倒したら帰ろうではないか。」

 

 リリは思う。何を言っているのだろうかこの男は。

 

「まあ、すぐに終わる。それが終わったら帰ろう。」

 

 そう男が言うと景色がまた変わる。

 とうとう竜の回廊へと突入してしまったのだ。

 

(あ、死にました。)

 

 入ってすぐにリリが感じたことは死であった。

 目の前に現れた巨大な二足歩行のトカゲ。

 もといドラゴン。

 その巨体に見合った威圧に弱者を睥睨する視線。

 それは息を吸うとリリ達に向かってブレスを吐き出した。

 それは正しく致死のブレス。

 全てを溶かすアカイロの世界。

 

(お父さん、お母さん、もうすぐリリもそこに行きます。………ベル様申し訳ありません。)

 

 目を閉じたリリ。

 しかしいつまでたっても何も起こらない。

 炎に焼かれる苦痛も吹き飛ばされる衝撃も。

 

 目を開けたリリはその眼前に広がる光景に最早どうでも良くなった。

 

 至る所に広がる骨の壁。

 そして常に切り替わる視界。

 そして転移するたびにスケルトンメイジから放たれる4色の魔法の矢の群れ。

 巨大なドラゴンの周りを飛び回りつつ確実にダメージを与えていく死者の群れ。

 そしてそれを効率よく扱う男。

 そこまで見てやっとリリは悟った。

 

 ああ、見た目はアレですがこの人、英雄なんだ。

 

 強大なモンスターに邪悪な手下を使い勇敢に立ち向かう。

 それは神話の時代から語り継がれる英雄譚のようであった。

 

 

 そんな事を考えている間にも戦闘は続いていく。

 確実に蓄積されるダメージはドラゴンの翼に穴を開け、足を凍らせ鱗は剥がれ落ち、見える地肌は毒で赤黒くなっている。

 遂には力尽きその身を横たわらせる。

 後に残ったのは無傷の男とリリだけであった。

 

「ふむ、では回収して帰るとしよう。」

 

 残ったドロップアイテムを拾うと男は踵を返す。

 そこからはあっという間であった。

 テレポートを高速で繰り返し、1階層にいつの間にかいたのである。

 

「ちょっと待ってくれるかな?」

 

 そういうと男はなにやら骨やゾンビに手をむける。

 向けられた先の死者はその役目を終えたとばかりに崩れ落ち、残ったのは灰のようなものだけであった。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 リリと男は二人して向き合う。

 今はもう二人しか居ない。

 恐ろしい死者の軍勢は土に帰ったのである。

 そうして男が口を開こうとしたとき、それに割って入るようにリリが話しかける。

 

「今更になりますが、リリはリリルカ・アーデと申します。英雄様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ふむ。わが名は………、ネク。ネク・サマナーという。」

「ネク様とお呼びしますね。それとお借りしていたこの武器をお返しします。今回はネク様の英雄譚の隅にリリのような者を加えてもらいありがとうございました。」

 

 ぺこりと頭を下げるリリ。

 

「………何かを勘違いしていないか?まあいい。それで報酬なのだがね、私は最後に倒したドラゴンのドロップ品をもらえればそれでいい。他は君に上げよう。元々アレをとりに行くために今回は潜ったようなものでね、道中のドロップがもったいないから君を雇ったのだよ。」

 

 一体この男は何を行っているのだろうか。

 日々命がけでダンジョンに潜っている人々を馬鹿にしているのだろうか。

 力の無い弱者を哀れんでリリに施しを与えようとしているのだろうか。

 

(ふざけないでください!リリは、リリはそこまで堕ちては居ません!)

 

 リリの中に残る最後のプライドが男の提案を拒否する。

 

「いりません。今回私は何もしていません。こんな大金に化けるドロップ品をもらうような仕事は一切していません!」

「お、おお。」

 

 思いのほか強い否定の言葉にたじろぐ。ロールプレイが崩れているのはご愛嬌。

 

「おほん、ではそうだな。頼まれごとをしてくれないかな?その後、君が自身の仕事に見合うだけの物をその中から取ってくれれば構わない。」

「………どんな頼みごとでしょうか?」

「なに、簡単なことだよ。バベルに居るヘファイストスという神に今回のドロップアイテムを届けてほしい。ああ、その時にホーリィ・馬場からだというのを忘れないでほしいのだが。」

「わかりました………。」

 

 リリは有り得ない提案に歯噛みする。

 そうして結論を出した。

 先ほどの提案も今回の提案もこの男にとってはそこまで頓着するようなことではないのだ。竜の回廊で手に入れたボスドロップすらも他人に任せても良い程度の価値しかない。そしてリリがこれを持ち逃げするかもしれないということすらも問題ではないのだ。

 無くなれば、もう一度とりに行けばいい程度の認識。

 睨み付けるように男の提案を承諾するとリリは早足でその場を後にすることにした。

 今はこの男と一緒に居たくは無かった。

 自分の惨めさが浮き彫りになる。

 

 この日、リリルカ・アーデという少女は渇望することとなる。理不尽なまでの強さに、其れを当然とする精神を。

 

 

 




 ※解説

 RW Insight

Required Level: 27
Level 12-17 Meditation Aura When Equipped (varies)
+35% Faster Cast Rate
+200-260% Enhanced Damage (varies)
+9 To Minimum Damage
180-250% Bonus to Attack Rating (varies)
Adds 5-30 Fire Damage
+75 Poison Damage Over 5 Seconds
+1-6 To Critical Strike (varies)
+5 To All Attributes
+2 To Mana After Each Kill
23% Better Chance of Getting Magic Items

 皆お世話になるこの武器。魔法職でこの武器のお世話にならない人は居ないはず。育成をするときはとりあえずこの武器を作ることからはじめましょう。
 何が凄いかと言うと、レベル27から装備できるという装備条件。
 そして最大の目玉がマナの回復速度を最大8倍まで引き上げるオーラ(Level 12-17 Meditation Aura When Equipped (varies))を纏えることにある。
 これを装備した傭兵を連れていないとマナ切れで狩がしにくいことこの上ないです。材料も安価なのですぐに作ることをお勧めします。

  
 RW Enigma

Required Level: 65
+2 To All Skills
+45% Faster Run/Walk
+1 To Teleport
+750-775 Defense (varies)
+ (0.75 Per Character Level) +0-74 To Strength (Based On Character Level)
Increase Maximum Life 5%
Damage Reduced By 8%
+14 Life After Each Kill
15% Damage Taken Goes To Mana
+ (1 Per Character Level) +1-99% Better Chance of Getting Magic Items
(Based On Character Level)

 兎に角凄い鎧。
 色んな強化MODが付いているが最大の効果はテレポートできるようになることである(+1 To Teleport)。今までソーサレスしか使えなかったテレポートを誰でも気軽に使えるようにしたのがこの鎧。作るためには相当の資産が必要だがこれがあれば世界が変わる。文字通り全てにおいてゲームが楽しくなるのでこれを目標にとりあえずゲームをするのがお勧め。

 因みにDIABLOⅡにおけるテレポートは任意の地点を移動できるのではあるが短距離(画面内)しか出来ないため、作中でも視界内しか出来ないとさせていただいています。




 この頃、ベル君は魔法が使えるようになってはしゃいでます。


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俺達ゃやっぱり、掘り馬場さ!※繋ぎの話です。

 今日、アニメを見直していました。
 自分は常々思うのです。
 アニメのメインヒロインってリリだよね?
 絶対リリだよね!
 異論は認める。


 ダンジョンを出たホーリィは一旦ファミリアのホームへと帰ってきていた。

 帰ってきていたのだが、現在ロキの部屋で座らされている。

 何を言っているのか判らない、事もないかもしれない。朝の件でリビングで待機しておくように言われていたにもかかわらずブッチしたのである。

 当然の結果であった。

 

「んで、ここ数日どこにおったんや?怒らへんから正直に言い?」

 

 ロキの口調は優しい。

 怒ってるのは確かであるのだがどこか無理をしているかのようであった。

 

(あかんあかん。うちは出来る女やから小さいことで束縛したらイタイ女になってしまう。ただでさえホーリィは放浪癖みたいなんがあるみたいやし、うちんところに帰ってくるように躾とかんとフラッと何時の間にかどこかのファミリアに入っとるかもしれん。幸い、行き先は殆どダンジョンみたいやしそこまで心配いらんみたいやけど。)

 

「あー、殆どダンジョンにいたな。他に行ったといえばバベルとファイストスっていう鍛冶屋と豊穣の女神っていう飲み屋ぐらいだな。」

「一人でか?」

 

 ロキはホーリィを見上げるように聞く。

 現在の体勢は胡坐をかくホーリィの上にロキが座っている。

 ロキは背中をホーリィに預けお互いの腕で抱きしめあっていた。

 傍からみたらどう見てもロキが甘えているようにしか見えない。

 なので全く怒られているという雰囲気ではないのである。

 

「アイズと一緒に2回潜ったかな?後は他の冒険者と一回、サポーターを連れて一回、一人で潜ったのは何回だっけな、覚えてないわ。」

「そーなんかー。」

 

(朝にアイズたんに聞いた話とおんなじやし、嘘吐いてる感じやないし、ほんまなんやろうなー。)

 

「あ、そうそう。今朝な、アイズたんレベル6に上がったで。」

「おー、おめでとう?」

 

 さり気無く言われたロキの爆弾発言。

 確かにこの二日間のアイズの戦闘経験は生半可なものではなかっただろう。特に昨日はボスと何回戦ったか分らないほど戦っている。レベルの一つ、上がってもなんらおかしくはない。

 

 しかしホーリィはレベル6といわれてもピンとこない。精々が『ああ、新しいスキルが使えるようになるレベルね』といった認識である。

 DIABLOⅡのレベル上限は99である。スキルは6レベルごとに新しいスキルが開放され、30レベルですべての種類が使えるようになる。クエスト等全てこなせば110ポイントのスキルポイントを最大20ポイントまで同じスキルに振って自分なりのビルドを作っていくのである。

 なので、レベル6というのは本当に最序盤という認識である。

 

「………ホーリィ絶対わかっとらんやろ?」 

「レベルが6に上がったんだろ?いいことじゃないか。」

 

 そういってロキのお腹を優しく撫でる。

 

「ええ機会やし、説明したる。今このオラリオで最高レベルは7や。せやからレベル6って言うのはその一個下って言うことや。つまり、単純なレベルだけの話でいったらアイズたんはこの街で2番目ぐらいには強いんや。ああ、ホーリィは除くで?」

「はいはい。」

 

 お腹を撫でる手がロキの服へと潜っていき、素肌をなぞっていく。

 

「せやからな、このまま行けばうちのアイズたんがオラリオ最強って言う日もそう遠くないわけや。って、ちょ!どこまでてぇいれてんねん!?こらぁ!」

 

 服の中に手を入れて胸の下をなぞっていたホーリィに対して抵抗するように体重をかけていった。

 それに抵抗することなくホーリィもまた後ろに倒れる。

 自由になったロキは体勢を入れ替えてホーリィに馬乗りになる。

 

「あ、そういえばホーリィもステータスの更新せな。ちょいベットで横になりぃな。」

 

 

 

―――――筋肉脱衣中。

 

 

「なあロキ、この神の恩恵ってどんな効果があんの?」

 

 ホーリィは今まで疑問に思っていたことを口にする。話を聞く限り元々の身体能力に上乗せされるステータスであるようなのであるが、いまいち分っていないのだ。

 

「あー、そういやなんも知らんのんやったなぁ。この基礎ステータスってのは、恩恵を受ける前の状態をI0としてそこから積んだ経験をうちら神が引き上げてその身に刻むんよ。そうすることによって限界を超えた力が手にはいるっつう寸法や。」

「へー。なるほどなるほど、じゃあ俺も頑張れば今より更に強くなれるってこと?」

「せや。けどまあ、ホーリィは恩恵受ける前からめっちゃ強いからあんま意味無いかもしれんけどなぁーーー…………。」

 

 そこでロキは一旦言葉を区切る。

 ホーリィのステータスを更新しようとしていた手が震える。ありえないような現象がその身に起こっていた。

 

「なあ、参考までに聞きたいんやけど、ホーリィ何階層まで行った?」

「あー、多分59階層?51階層から吹き抜けになってて良く分らん。それがどうかしたのか?」

 

 さらりと答えるホーリィの言葉に戦慄を覚えるロキ。

 ここで冷静になって考えてみよう。

 ホーリィはレベル1である。その出鱈目な強さは置いておくがレベルは1である。そのレベルが1のまま、59階層へとほぼ単身で潜り生還する。しかも道中の敵、階層主を含めて全て駆逐しながら。

 その戦闘による経験はいかほどのものであるのだろうか?

 

「そ、そういえばホーリィはもうギルドに登録したん?」

 

 恐ろしい事実に気が付いたロキは関係ない質問をする。

 

「あ?そういえばしてないわ。やっぱしたほうがいい?登録しなくても今のところ不都合は無いけど。」

「すぐにやり!ほんま今すぐにでも!」

 

 いきなり慌て出したロキに急かされて服を着るホーリィ。

 

「とりあえずギルドに行って登録してくるんやで?」

 

 扉から追い出されるホーリィ。

 残ったロキはさっき更新したホーリィのステータスを思い出しながら呟く。

 

「やばすぎる。このまま行けばほんまに神へと至るかもしれん。なんやねん、上限無しって。意味わからんし。」

 

 

【ステイタス】

 

Lv.1

 

力:D598 耐久:E490 器用:C606 敏捷:S981 魔力:B721 強欲:A801

 

《スキル》

 

【イカイノコトワリ】

・この世界の法則に縛られない

・ダンジョンに入る度にダンジョンリセット

・ステータスの上限が無くなる

 

【信じるものは報われる】

・強欲を得る

・ドロップアイテムの質が上がる

・想いの丈により効果上昇

 

《魔法》

 

【一は全、全は一】

・キャラクターセレクトできる

・全ては選んだキャラクターに準ずる

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 のんびりと歩いてギルドに向かっていたホーリィであったが、気が付いたらダンジョンの入り口にいた。

 

「はっ!?ダンジョンに潜りた過ぎて何時の間にかこんなところに………。あー、ちょっとぐらい潜っても。っていかんいかん、まずはギルドで登録登録。」

 

 どうやらダンジョン潜りたい病のようである。末期過ぎて治る見込みは無さそうだ。

 

 そこで踵を返してギルドに向かおうと歩いていたホーリィの目にある物体が映る。

 

 それは小さな人であるようであった。

 

 それは怪我をしているのか、蹲っている様であった。

 

 それはボロボロのローブを身に纏っているようであった。

 

 それはいつも持っているトレードマークでもあるバックパックを何故か持っていなかった。

 

 

 その物体に近づくホーリィ。

 その直ぐ側に辿り着くまでそうだと認めたくは無かった。

 しかしそれは紛れも無いリリルカ・アーデであった。

 その目の前にしゃがみこむホーリィ。

 

「おーい、生きてるか?」

 

 声をかけながらホーリィは冷静にリリの状態を把握する。

 顔にはいくつもの殴られた跡。

 相当抵抗したのか、右腕と左足が折れている。

 肋骨も折れているのか、辛うじて呼吸はしているがどこかかすれた様な呼吸音がする。

 

「う、ぁ………。」

 

 辛うじて喋れるが後は死を待つのみといった感じである。

 片腕でリリを抱き上げる。

 ホーリィは腰のポーチからスーパーライフポーションを取り出すと無理やりリリに飲ませた。

 見る見るうちに傷が癒えていく。

 折れた足も、腫れた顔も、今まで激痛を放っていた体の各所からのシグナルが消えうせる。

 

「どうだ?もう大丈夫か?」

 

 リリは呆けた顔をすると掌をにぎにぎとする。そうして体の全ての傷が癒えたことを確認すると顔を上げて立ち上がって深く腰を曲げた。

 

「見ず知らずのリリを救ってくださって有難う御座います。その、今は何も返すものはありませんがこのご恩は必ずお返しします。」

 

 俯いた顔からは悔し涙が零れ落ちる。

 口は引き結ばれ必死に耐えているようである。

 そしていつまでたっても顔を上げない。

 

「あー、多分なんだがお前がそんな状態になってるのは俺のせいかもしれん。」

「えっと、どういうことですか?」

「ああ、このままじゃわからんよな。おれおれ、ネク・サマナーだよ。」

 

 そういいながら立ち上がるホーリィの足元から魔法陣が上に抜けていく。そこに残っているのは少し前まで一緒にダンジョンに潜っていた白髪の中年だった。

 

「え?あ、ああああああああああ!!!!?」

 

 姿の変わったホーリィにやっと気が付いたリリ。

 しかしそれは残酷な結果を更に突きつけるものであった。

 一気に後悔や自責、怒り等の感情が爆発したリリはその場にしゃがみこみ泣き始める。 

 

「落ち着け。落ち着くのだ、リリよ。」

「うわあああああああぁぁぁぁ!!!」

「すまなかった。こういったことが起こるとは思っていないままリリに頼んだわが身の責任よ。」

 

 そういいながらしゃがみ込んだホーリィは優しくリリを抱き擁くと背中をさする。

 しばらくするとやっと泣き叫ぶことは無くなった。

 

「全部、全部、ネク様が悪いんです!私にあんなにも高価なものを持たせて!盗ってくれと言わんばかりに渡して!だから、だからちょっとだけ、裏で捌こうかなって魔が差して、でもやっぱり嫌だったから!ヘファイストス様の所に行こうと思ったのに!思ったのに。」

 

 その独白は心の棘を一本一本自分の手で抜くように、走る激痛に耐えるかのように。

 

「そうだな。私が悪かった。」

 

 優しくさする手は徐々にではあるがリリの震えとともに心のつかえを取り除く。

 

「………違います。悪いのはリリです。大穴から直ぐに向かえば取られることなんてありませんでした。リリに魔が差さなければ裏路地に行きませんでした。今までの悪いことをしてこなければこんなこともされませんでした。それに、リリがこんなにも弱くなかったら。リリは、リリは、弱者です。」

 

 この時、ホーリィは激しく怒りを感じていた。

 目の前の少女に瀕死の重傷を負わせることに。心に傷を負わせることに。

 そして何よりも。

 

 

 

 

 自らのドロップアイテムを奪ったことに。

 

 

 

 

 自分が渡したリリにちょろまかされるのはまだ許せるかもしれない。きっと。

 だがしかし、見ず知らずの赤の他人に奪われるなどホーリィには我慢が出来ない。

 そう、これは必死に貯めたHR(ハイルーン:ドロップ率が平気で宝くじ以上を叩き出すレアアイテム)でグリーフ(超級レア武器、後書きの解説参照)を交換したらそれがDUPE品(バグ利用のコピー品、同じ素材を用いたものを持つ人同士が出会うと消える)で消えてしまった時以来の怒りである。

 

 リリをお姫様抱っこで抱きかかえたホーリィは何時の間にかガチムチになっていた。しかしその装備品は有り得ないほどの威光を放つ。正しくガチ装備であった。

 

「リリ、そのままでいいのか?奪われたままでいいのか?今此処には俺がいる。そしてリリがいる。俺は奪われたままなど我慢できん。奪った奴の居所がわかるなら案内をしてくれ。」

 

 言葉は優しくリリに語り掛けるようであったがその端々から明確な意思を感じる。

 それを感じ取ったリリは頷いた。

 

「私から奪ったのは同じファミリアのソトスさんです。あの人は頭が悪いのできっとギルドで換金しているはずです。今からならギリギリ間に合うはずです。」

「おおそうかそうか、ギルドには用事があったしちょうど良いな。ああそうだ、リリはそうやって何か悪巧みをしているほうが可愛いぞ?」

 

 未だ泣きはらした目は赤い。

 それを差し引いても全体的に赤くなっていく。

 

「な、なんてことを言うんですかー!!馬鹿馬鹿馬鹿!こんなか弱い乙女を捕まえて悪巧みしてる顔がか、か、可愛いなんて!」

 

 大人しく抱きかかえられていたリリがぽかぽかとホーリィの胸を叩く。あからさまな照れ隠しであった。

 

「はっはっは!ちょっと飛ぶから舌かむぞー?」

 

 そう言ってホーリィは一瞬で屋根の上に飛び上がる。

 その次の瞬間には次の屋根へと飛んでいた。

 正しく両足でカエルジャンプ。人間とは思えない瞬発力である。

 またしてもあっという間にギルドへと到着してしまった。

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 いつも賑やかなギルド内部は現在違う意味で騒がしかった。

 その原因は買い取りカウンターでの職員と冒険者のいい争いである。

 

「だーかーらー、全部ダンジョンで拾ったんだよ!今まで売らずに取っておいた奴を全部出したんだって言ってんだろ!?」

「それがおかしいと言っているんです。貴方は確かレベル2と先ほど仰られていましたよね?今回のドロップ品の中には到底レベル2程度では入手が困難なものが大量に含まれています。階層主からのドロップ品と思われるものも大量に。それをどうやって入手したのかお聞きしているんです!」

「だーかーらー、それは団長とか強い人と一緒に潜ったときに手に入れたんだって!」

「それでも困難というか、不可能です。中には51階層以降のものも含まれているんですよ!?ソーマファミリアの貴方が手に入れれるはずが無いのです。ドロップ品の量と各階層のバランスから考えてどこかの遠征にいったドロップ品丸ごとだと考えたほうがしっくり来ます。なのでこれが盗品であるかどうかしっかりと調べる必要があると我々は考えています。」

「はぁ!?なんだよそれ!じゃあもう売るのはいいよ!もう売らねぇから全部返せよ。」

「それは出来ません。ギルド規約にも盗品についての売却拒否及び持ち主への返還についての項目も先ほどお見せしたとおりです。」

「ふざけんじゃねぇぞ!?」

 

 男がカウンターに乗り出そうとしたとき、その横から手が伸びる。

 それは男の顔を片手で掴むと持ち上げる。

 

「間に合ったみたいだなぁ?」

「はい。ソトフさんは馬鹿なので絶対にギルドにそのまま売ると思いました。私だったら絶対そんなヘマはしませんけど。」

 

 器用にも片手でリリを抱き上げ、もう片方の手では男を吊り上げている。その男の名はホーリィ。

 

「おい、お前か?俺のドロップアイテムを奪ったのは、なぁ!」

 

 片手で吊り上げた男の顔にホーリィの指が見る見るうちに食い込んでいく。

 男が抵抗するようにホーリィの腕に掴みかかるがビクともしない。まるで腕が金属で出来ているかのように。

 

「ネク様ネク様、ソトスさんが泡を吹いています。死んじゃいそうですよ?」

「おお、すまんすまん。いまいち力をどれぐらい入れればいいのかわからんからな。」

 

 そう言いながら手を離すとソトスと呼ばれた男は地面に落ちる。四肢からは力が抜け、完全に痙攣している。

 それを見たギルド職員が恐る恐る話しかける。

 

「貴方達は、もしかしてこのドロップアイテムの持ち主ですか?」

「ああそうだ。ちょいとこいつに預けていたんだがそのときに強奪されてな。返してくれるとありがたいんだが。いいか?」

 

 言葉上では下手に出ているがその威圧たるや歴戦のギルド職員でも逃げ出したくなるだろう。

 しかしグッと耐えた職員は用意していた言葉を発する。

「では少々質問しても良いですか?」

「おう、いいぞ。」

「このドロップ品は何処で拾いましたか?」

「1から59階層までのモンスターから拾った。」

「ではこのドロップ品は何階層で?」

「ああ、それは33階層にいたでかいトカゲから落ちたな。」

「ではこれは?」

「20階層の王冠被ったリザードマンからだな。」

「ではこれは?」

「59階層の火竜からだな。その皮と鱗とあと、魔石とは別に宝石みたいなのも落ちたかな?」

「………わかりました。その他に何か証明できることはありますか?」

 

 ホーリィには無いのかリリのほうを見る。

 見られたリリは控えめに、致命打を放つ。

 

「そのドロップアイテムが入れられていたバックパックの持ち手の右側の裏に名前が書いてありませんでしたか?リリルカ・アーデと。後は中に入っているものを全部言えます。まずにおい袋が二つに毒消しが2本、」

「いやいやいや、もういいです。有難う御座います。一応ではありますがもし何かあったときのためにお名前をお聞きしても良いですか?」

「あー。俺はロキファミリア所属のホーリィ・馬場だ。そういうわけでそのドロップ品は持って帰ってもいいか?一応約束でな、ヘファイストスに持っていかなきゃならんのよ。」

「はい、わかりました。少々お待ち下さい。」

 

 ちらりと買い取り金額に目を移す職員。査定不能のボスドロップを除いても軽く5億ヴァリスは超えている。

 ドロップアイテムをまとめる職員を眺めつつその足でホーリィはカウンターで口をパクパクさせているハーフエルフの下へと移動する。

 

「よう、久しぶりー。ちゃんと恩恵もらってきたぜー?ロキファミリアに所属することになったからよろしく頼むわ。そんじゃあな。」

 

 そういうと纏められたリリのバックパックを片手でひょいっともつと出て行った。

 嵐のような男は帰るときもあっという間であった。

 

 そこには口をパクパクさせるエイナと冒険者、ギルド職員だけが残された。

 

 

 

「あれ、59階層?まだ攻略されてないはずじゃ………。っていうかついこの間まで一般人じゃなかったの?もう分けわかんない………。」

 

 エイナの小さな呟きが静かな部屋に木霊した。

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 

 冒険者ギルドからバベルへと歩く最中、未だリリはホーリィの腕の中にいた。

 少し怒ったような何とも言えない表情でホーリィを睨み付けている。上目遣いなのでむしろ可愛いのであるが。

 

「ホーリィ様?」

 

 そんなリリからホーリィを呼ぶ声がする。

 もちろん罠なのであるが気づかずに返事をするホーリィ。

 

「ん?なんだ?」

「リリは少々確認したいことが出来ました。もしかして、もしかしてなのですがホーリィ様は昨日リリと一緒にダンジョンを探索しましたか?」

「おう、したぞー?」

「その時、少女の姿でしたか?」

「おう、そうだぞー?」

「ネク・サマナーという名前もホーリィ様の偽名ですよね?」

「おう、そうだぞー?」

 

 押し黙るリリ。

 固まる空気。

 そんな中平然と歩くホーリィ。

  

 

「リリの胸、揉みました。」

「………。」

 

 スキンヘッドから流れる汗はなんだろう。

 

「リリの耳も、尻尾も。」

「………な、何が望みだい?」

「お尻だって。触るだけじゃなくて舐めたり。」

 

 ダラダラと流れる汗が止まらない。そんな事をした様な気がしないでもない。

 

「………ホーリィ様は色んな姿を取れるんですね。どれが本物なのですか?」

「いやー、一応今の姿が本物?装備とか色々違うが概ねこれが本物かな?」

「ということは男性なんですよね?」

 

 リリの睨む瞳に力が入る。

 

「ホーリィ様のえっち!変態!なんで姿を誤魔化してたんですか!女性だと思ってまだ良いかなって思って我慢してたのに!最悪です!リリの純情を弄んで!」

 

(このパターン、見た事あるなぁ。)

 

 現実逃避をしているホーリィ。

 

「あー、悪かった。」

「本当に悪かったと思っているんですか!?」

「おう本当本当。」

「………じゃあ誠意というものを見せて下さい。」

 

 

「そうだな、お前の願いを一つだけ叶えてやる、ってのはどうだ?まあ、俺に出来ること限定になるけど。」

 

 

「は?何を言って」

「なんか、あるんだろ?今日ダンジョンで別れる時そんな顔してたぜ?」

「良いんですか?リリは自分で言うのもなんですが強欲で意地汚くてこ狡いサポーターです。身包み剥いじゃいますよ?」

「はっはっは!子供が遠慮すんなって。別に今は保留してても良いんだぜ?」

 

 今までの良い雰囲気が霧散する。

 一気に顔を膨らませたリリに戸惑うホーリィ。

 

「ん?あれ?なんか地雷踏んだ?」

「リ、リ、は!これでももう立派な大人です!小さいのはそういう種族なんです!一般的です!これでも小人族の仲ではスタイルが良い方なんですからね!」

「お、おう。まあ、自分でやり遂げたいってことがあるなら保留にしておけ。俺はいつでもウェルカムだぜ?」

「………はい。ちょっと考えさせて下さい。そのときまでは保留にします。」

「そうだな。」

 

 

 街を歩く二人。

 傍目には親と親にじゃれ付く子供だろうか。

 そこで思い出したかのようにホーリィが呟く。

 

 

「じゃあその保留の間はお触りし放題ってことで。」

「はぁ!?何を言ってるんですか!?ホーリィ様のエッチ!スケコマシ!物で釣って無理やりなんて鬼畜です!最低です!………でも、女性のときだけですからね。男の姿でしたら噛み付きますからね!」

「はっはっは。」

「きぃーーーー!ちゃんと返事をしろー!こらー!」

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「おう久しぶりー。」

 

 荷物(リリ)を持ったホーリィが扉を開けるとそこは工房だった。ヘファイストスの店員に言われるがままに付いてくると何時の間にか来たというわけだ。

 

「そんなに久しぶりじゃないと思うけど。こんにちわ、ホーリィ。それで?また持ってきたの?」

 

 鍛冶の手を止めて振り向くヘファイストス。

 その表情には多分に呆れの感情がこめられていた。

 

「おうそうだぜー?この前渡した素材だけじゃ足りなかっただろ?追加でとってきたぞー。」

「はぁ、貴方が取りすぎると市場が崩壊するんだけど。まあいいわ。そこに広げてくれる?」

 

 言われたホーリィはリリを降ろすとそこにドロップアイテムを積みだした。それを眺めつつリリは思う。

 

(これはどういう状況でしょうか?ホーリィさん(少女形態)の話では冒険者になって数日というのにこの状況。目の前の眼帯をした女性はかの有名なヘファイストス様ですよね?もしかしてもしかすると、専属契約?いえいえ相手は神様です有り得ません。でもぱっと見たところそうとしか見えません。)

 

 そこでリリはヘファイストスと目が合う。

 

「はじめましてで良いわよね?私はヘファイストス、一応神々の一人よ。」

「は、はい。リリはリリルカ・アーデと言います。初めまして。」

 

 深くお辞儀をするリリに近づくとヘファイストスは耳元に囁いた。

 

「申し訳ないけれど、今日ここで見たことは他言無用でお願いね?じゃないと、うちのファミリアが敵に回ってしまうかも、ね。」

「ももも、もちろんです!神に誓って言いません!」

 

 そこで全てのドロップ品を積んだホーリィがやって来る。

 

「そういやリリ、今日色々と物が駄目になっただろ?新調してやるから見て回ろうぜ。」

「え?あ、はい。って私のことは良いんです!何かヘファイストス様に話があるんじゃないんですか!?」

「ん?別にドロップ品を搬入に来ただけで話は何もないけど。ああそうだ、頼んでおいたやつはどんな?」

 

 やっと思い出したのかヘファイストスに話を振るホーリィ。

 

「やっと素材の下拵えが終わったところね。後は繋ぎ合わせて装飾を散りばめるだけ、ってところ。もうちょっと時間がかかるわね。」

「まあのんびり頼むわ。んじゃ、リリいこうぜー。」

 

 部屋の入り口に歩いていくホーリィ。

 

「待って下さいホーリィ様!ヘファイストス様失礼しました!」

 

 恐縮しながら立ち去って行く二人を見送ったヘファイストスはギラギラとした瞳でそれを見送る。

 

「なにあの装備。あんなものを装備していたら、うちの商品なんて目もくれないはずよ。でも、ちょっとやる気は出てきたわー!追いかける立場なんて久しぶり。素材はいくらでもあるし、がんばってみますかね。」

 

 

 





 ※解説(読む必要が全くありません)


 バーバリアンのスキルにリープというスキルがあります。これは目標地点に向かってカエルジャンプするスキルなのですが、着地地点の敵を押しのけてのけぞらせる効果があります(ダメージは皆無)。
 レベル1だと本当に着地地点の直ぐ側しか効果が無いのですが、レベルを上げると凶悪なものに変化します。具体的に言えば、レベル25ぐらいからのけぞらし効果が画面いっぱいまで及びます。
 はっきり言って無敵です。
 これを用いてPVPを行うバーバリアンをBvPバーバリアンといいます。
 作者もやったことがあるのですが、後衛職に対しては無類の強さを発揮します。
 パワーレべリングが出来るようになったら遊びで作ってみるのも一興です。


 つまり、作中でのジャンプはリープとなるわけで。
 その時、半径30メートルぐらいの人は全て仰け反っているわけです。
 はた迷惑ですね。←


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超弩級!特化ソーサレスの恐怖!

えーと、お久しぶりです。
現在出張中のため著しく執筆速度が落ちてます。
携帯で書き溜めていたものをアップしますが改稿する可能性が大です。
推考してないもので。
それでもよければどうぞ。

原作ぇ。


 其処はオラリオの上空。

 一人の女性が空中で制止していた。

 黒く艶やかな髪を靡かせ、鋭利な瞳が特徴の美女。

 其はまさに嵐の前の静けさ。

 静かな怒りが辺りを焼き付くすかのように充満する。

 其は逆らうことの許されない神の怒りの如く。

 この日、オラリオから一つのファミリアが消える。

 逆鱗に触れた罪人に下される天罰のように。

 見上げた空は荒れ狂う嵐の様相。

 直前の快晴が嘘のようである。

 

 さあ、此処に神の審判が下される。

 

 降り注ぐ氷柱の雨。

 流れ落ちる燃え盛る隕石。

 荒れ狂う雲と地面を繋ぐ光の柱。

 

 天変地異は始まったばかりである。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 時は遡る。

 

 其処はロキファミリアのホームのリビング。

 ロキとホーリィはお互いに向き合い真剣な顔をしていた。

 

 ことの発端はリリルカ・アーデという少女が襲われ、暴行され、強奪されたことから始まる。

 其を取り敢えず丸く納めたホーリィはリリルカ・アーデの所持品を新調し、その後居酒屋へと至る。

 そこでお酒を交えつつ話をしていたのだが、酔いも回ったのかリリルカ・アーデは自分の置かれた状況を語る。

 其は自信の過去にまで及んだ。

 全てを語り終え、泣き疲れて眠るリリルカ・アーデを抱き上げたホーリィは一旦ロキファミリアのホームへと帰った。

 その時の顔を見たロキに連れられて今に至る。

 

「なんや、ホーリィ顔が怖いで?どないしたん?」

 

 心配そうに聞くロキに対して無言のホーリィ。

 

「それに、なんや可愛い小人族拾うてきとるし。」

「その件について話がある。」

「お、やっと喋ったやん。ってわかっとるで?真面目な話なんやろ?」

「ロキ。リリ、その小人族だが、このファミリアに入れてやってくれないか?」

「へぇ~。ホーリィの頼みやから聞いてあげたいんは山々なんやけどそれは無理やな。」

「………。」

「なんも知らんホーリィに説明し足るわ。まずな、ファミリアの移籍自体は可能や。可能やけど条件があるんや。ある特定の時を除き、ファミリアの主神同士の同意が要る。まあ、うちが圧力かければできへんこともない。でもな、無理矢理の引き抜きはオラリオではタブーとされとる。もししたら、オラリオで総スカン食らうんは覚悟せなあかん。そんでな、一番ダメな理由はな、うちがそいつに魅力を感じへん。自分のファミリアを危険にさらしてまで引き入れる魅力をな。」

「そうか。―――――――だが、俺がやることは変わらん。」

 

 沈黙が部屋を支配する。

 其を是と受け取ったのかホーリィは立ち上がりロキに背を向ける。

 

「なに、ファミリアには迷惑をかけんよ。」

 

 そう言って立ち去るホーリィの背中にロキの呟きがやけにはっきりと届いた。

 

「これは独り言や。ある特定の条件、もしそのファミリアの主神が死んだなら、主神の消えた可哀想な小人族をうちが引き取ることがあるかもしれへんなー?それと、うちの可愛い子供に迷惑かけたら、いくらホーリィでも許さへんからな。」

 

 ピクリと立ち止まるホーリィ。

 そのまま振り返ることなくついに扉をくぐって出ていった。

 

 其は将に枷をはずされた猛獣のように。

 

 ホーリィが立ち去った方向を見やるロキに部屋の片隅で様子を窺っていた双子が小走りに近づく。

 

「ろき~!?なになに!?何が起きたの?これから何が起っちゃうの?」

「………ロキ、行かせちゃって良かったの?聞いてたけど、多分これからどこかのファミリアに殴り込みに行く感じだったでしょ?あの人、この間加入したってことはレベル1ってことよね?死んじゃうよ?」

 

 双子の意見はもっともな話である。

 一般的なレベル1に当てはめるとそうなのではあるが。

 

「ティオネ、ティオナ。すぐ動けるよう準備しておいてくれへん??もしなんかあった場合、手を借りることになるかもしれへんわ。」

 

 頷いた二人はすぐに自分の部屋へと走っていく。

 

 だが、双子は勘違いしていた。

 ロキの懸念していることは双子と全く逆のことである。

 

(何処のファミリアか知らんがご愁傷様や。ギルドから何を言われてもええように準備だけはしておかんとな。)

 

 ロキの心配はやりすぎであった。

 冒険者を数人再起不能にする程度なのか、ファミリアの団員を粛正する程度なのか、一つのファミリアを壊滅させるのか。

 その時の主神は拘束するのか追放するのかはたまた送還に追い込むのか。

 

 存外、神は下界で死ぬときはその無念を呪いとして残すことが多い。

 しかも想いの籠った呪いを。

 

 ロキはホーリィが負けるとか死ぬとかは全く心配していない。

 問題は方法であり、結果ギルドのブラックリスト入りを心配していた。

 

 その為、もしもを想定して動こうとしていた。 

 

  ■  ■  ■

 

 

 DIABLO2の最初に選べる職業のひとつにソーサレスがある。

 炎、氷、雷の魔法を駆使して敵を倒す魔法使いである。

 しかし、3つの属性はあれどそれを満遍なく取得すると器用貧乏になり火力が足りず後半で行き詰ってくる。

 その為考えられたのは一点特化の属性極振りソーサレスである。

 一つの属性のみを極めたまさに火力の権化。

 但し、その属性の耐性を持ったモンスターには無力であるという致命的な弱点が存在するが。

 そう、廃人であるホーリィももちろんその特化ソーサレスを無数に作っている。

 

 

・ファイアーソーサレス。

 ファイアーボールとメテオに命を懸ける有り得ない火力を誇るソーサ(アンダリエルというボスを3秒で倒せる)。

・ファイアーウォール特化ソーサレス。

 地面に炎の壁を発生させ、継続ダメージを与えるソーサ。

・ハイドラソーサ。

 地面から三つ首の炎の矢を吐き出すドラゴンを召喚するソーサ。

・ライトニングソサ。

 有り得ないほどの表記ダメージを叩き出す瞬間最大火力を有するライトニングを主力においたソーサ(装備によってはノヴァをメインで使う)。

・鰤ソサ(ブリザードソーサレス)。

 ブリザードという氷柱を一定範囲内に継続的に降らせるソーサ(マスタリーで敵のレジストを下げるため有り得ない殲滅力を誇る)。

 

 

 ラスボスを10秒以内で瞬殺するほどの火力を秘めている特化ソーサレス。

 DIABLO2というゲームでは当然ではあるが途中でキャラクターは変えることはできない。

 ではここではどうだろう。

 タイムラグはあれど変えることが出来るのである。

 

 

 ここに夢の競演が始まった。

 

 

 

 

 

 ロキファミリアをでたホーリィは一瞬で姿を変える。

 姿を変えたホーリィはテレポートを繰り返すとオラリオの上空へと至った。

 目標の位置はリリから聞いている。

 オラリオの街の中ごろに存在する大きな建物。

 それをホーリィは確認した。

 

 現在ホーリィは空中に浮いている。

 その姿は紛れもないソーサレスの姿。

 鋭利な瞳に靡く黒髪。

 上空で風にあおられて浮かぶ姿はいっそ神々しい。

 

 そしてその姿はソーサレスのスキルであるテレキネシスによって自身を空中へと縫い付ける。

 その姿が微妙に変わる。それと同時に重力の楔に従い地上へと動き始める。

 

 そのとき、世界が変わった。

 

 世界が赤く塗り替わる。

 

 建物の敷地を囲むように吹き上がる炎の壁。

 それはまるでゲヘナの火。

 地獄に吹き上がる焔のように全てを取り囲む。

 

 その次に起きたのは雨。

 

 ただし、それは単なる雨粒ではない。

 一つ一つが1メートル以上の大きさの氷柱の雨。

 其れが炎の壁の中へと降り注ぎ始めた。

 

 其れはまだ地獄の始まり。

 

 次に降り注ぐは燃え盛る隕石。

 一つではない。

 数えるのも馬鹿らしい数の隕石。

 

 そして生まれる炎で出来た3つ首の竜。

 それは絶え間なく人影に炎の矢を吐き出す。

 合間を縫って降り注ぐ雷鳴。

 

 

 一体どれだけの怒りを買えばこうなるのか。

 

 

 一つでも建物一つ程度更地にできるだろう。

 其れが一斉にかのファミリアのホームを襲った。

 

 ある人は炎に焼かれあっという間に炭化し、ある人は氷柱に押しつぶされる。

 隕石の落ちた後は爆発し、その跡地は燃え盛る。

 

 其れは神すらも例外ではない。

 時間をおかず、天に向かって光が立ち昇る。

 それは地上で神が死んだ証。

 

 それを見たホーリィはようやく過剰なまでの攻撃をやめた。

 

 時間差の程度はあれ、全て灰塵と化した。

 後に残ったのはただの更地。

 短時間に発生した地獄の跡が残る土地のみが残された―――――――――。

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 ロキファミリアのホーム。

 そこはリビングであった。

 ロキファミリアの主要なメンバーである双子のアマゾネスが完全武装でそこに仁王立ちをしていた。

 その中心には主神たるロキ。

 腕を組んで目を閉じている。一体何を考えているのかその閉じられた瞳からはわからない。

 そしてその主神ロキの目の前、ソファーの上に一人の少女。

 ソファーに座り、手を膝の上に置いたその少女は物理的に震えている。

 

(どどどどういう状況でしょうかこれは!?何故リリはロキファミリアの面々に囲まれているんですか!?なんでですか!?意味が分かりません!これは夢なのでしょうか?大変現実味のある夢なのですが、夢なら早く冷めてください。)

 

 半ば以上に現実逃避した少女―――――リリルカ・アーデは死んだ魚のような目になっていた。

 そんな中、目の前の3人は話し始める。

 

「ねぇねぇロキ?聞いてもいい?」

「なんや?」

「何でさっき止めなかったの?今も私たちを向かわせること無く待機させてる。普通じゃ考えられない。」

「………。」

「もしファミリア間の抗争に発展するんだったら大問題になる。なのに動かない。団員を集めさえしないっていうのはちょっと納得できないかな。」

「あ、それは私も思ったんだよね。あの人ってレベル1でしょ?私たちに言ってもらえば行くのをやめさせるのは簡単なのになーとはおもってたー。」

 

 アマゾネスの双子は揃ってレベル5。恩恵を受けたばかりの新人を取り押さえるのなど造作も無い。

 しかも、言葉の端々から他のファミリアにカチコミに行くというのである。もしそれが行われればロキファミリアとしても動かざる終えない。そういったことを事前に防止するためにも一旦取り押さえて頭を冷やさせる必要があったのではないかとティオネは言っているのである。

 

「んなもん言われんでもわかっとるわ。でもな、それは不可能や。言っちゃ悪いが、二人じゃホーリィに指一本触れへんで?」

「………本気で言ってるの?」

「本気も本気、マジや。………ええ事教えたるわ。ホーリィの入団試験の時、ベートを焚き付けて決闘まがいの事をさせたんやけど、瞬コロやったわ。恩恵も何ももたん一般人がレベル5のベートを一撫でや。しかもやった後にやっちまった感丸出しやで?それが二人に増えたかて大して変わらん。問題はそこやない。どうやってホーリィのことを他のファミリアから隠すか、や。」

 

 ロキの言葉にどこか納得のいかないティオネ。

 しかしそれをいうタイミングは失われた。

 

「今帰った。」

「はっや!?」

 

 何食わぬ顔で帰ってきたホーリィに全ての視線が集まる。

 ホーリィが出て行ってまだ10分程度しか経っていない。

 ざわめく双子を他所にホーリィはロキの隣に立つ。

 

「万事恙無く終わった。これで良いんだろう?」

 

 ホーリィの言葉にピクリと反応するロキ。

 その閉じられた瞼が大きく開く。

 

「ホーリィ、結局なにがあったん?説明せぇ。」

 

 それはもっともな意見。

 未だ何が起きたのか詳しくは知らされていないのである。

 

 

―――――――――――筋肉説明中。

 

 

「それじゃあなんか?結局そのリリとかいうちっこいの一人の為にファミリア一つ完膚なきまでに壊滅させてきたっつうことか?」

「まあ、概ね。」

「かぁ~~~!うちの見通しが甘かったっつうことか。もうすんだことはええ。ギルドから何や言われるかも知れんけど、知らぬ存ぜぬで通すしかないわ。はぁ~。」

 

 ため息一つ。

 ホーリィは簡単に言うが事は非常に大きい。

 中堅どころのファミリアをものの10数分で壊滅させるのも常識はずれであるし、それを全く悟らせないというのもまた常識はずれである。ロキファミリアとしては恐ろしいワイルドカードを持つと同時に爆弾を内に抱えているようなものである。ホーリィの行動に一層の制限をかけなければと思うのは当然の帰結であった。

 

「いろいろ言いたいことはあんねんけど、一つ聞かせぇ。結局なんでそこまでしようと思ったんや。言っちゃ悪いけど、そういう不幸な奴はこの町には沢山おるで。なにがホーリィの琴線に触れたんや?」

 

 ロキとしてはこれからのホーリィの行動予測のために聞いておかねばならない事柄なのだろう。

 しかし、その返答はロキにとって聞き捨てならない内容だった。

 

「俺の大切なもの(ドロップアイテム)を奪う盗人等、やられても(PKされても:プレイヤーキル)当然だろ?」

 

「………そ、そんなにこの小人族が大事なんか?」

「まあな。(約束を)叶えてやると約束したしな。」

「(お前の面倒を一生見てやる的な事を)叶えてやるって、うちのことはもうええの!?」

「は?いやいや何の話だ?とりあえずリリの加入の件を」

「何の話ってうちとホーリィの話やないか!うちのこと散々弄んでおきながらもう次の女やて!?うちをなめるんもたいがいにしさらせ!」

「待て待て、落ち着けって。とりあえずほら、アメちゃんやろう。」

「おおきに。ってなんでやねん!?100万歩譲って愛人作るんならうちの許可とるんがスジやろ!」

「は?愛人って何の話だよってちょいまて!」

 

 ホーリィを押し倒すロキ。

 

「もう怒った!こうなったら既成事実作ったる。覚悟せぇ!」

 

 そう言ってショートパンツを脱ごうとする。

 

「まてまてまて!周り!周り見ろって!」

「――――――――え?」

 

 言われてやっと周りを見たロキは固まる。

 そこには顔を手で隠しながらもニヤニヤしながら興味心身に見つめるアマゾネスの双子。

 そして顔を赤くして何やらブツブツと愛人………と呟くリリ。

 

「あ、私らのことは気にせずにどうぞどうぞ?」

「わたし愛人2号に立候補しても良いかな?ちょっとだけで良いから、さきっちょだけ?あ、でも子供は10人はほしいなー。」

 

「ぎにゃああああああ!!」

 

 ロキの悲鳴が木霊した。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 痴話喧嘩?の行われたのは今は昔。

 すまし顔のロキはリリへの改宗を済ませていた。

 

「これでええんやろ?でもな、ホーリィ。今度は事前にきちんとうちに説明してぇな。うちで庇いきれへん事もあるんや。逆にこういうことはうちの方がよう知っとる。」

「わかったわかった。」

「わかっとらん!全くわかっとらんわ!今回の事、下手をすればオラリオ中のファミリアが敵に回ってもおかしゅうない。今頃大騒ぎになっとるはずや。」

「ほー、そら大変やなぁ。」

「今回という今回はゆるさへん!暫くは監視をつけることにするで。そうやな、リヴェリアらへんに話しておくわ。」

 

 ちょっとばかりお怒りなロキと話をする傍ら、双子のアマゾネスの片割れ、ティオナは疑問に感じていた事を口にする。

 

 

「――――――で、ホーリィはどれぐらい強いの?」

 

 

「ロキがそこまで特別扱いするにはそれなりの理由があるんだろうけど、ぽっと出の新人にそれをするんだったら私たちを納得させるべきだと思う。」  

 

 ティオナの言葉に同調するティオネ。

 スッとさり気無く、阿吽の呼吸でホーリィの両脇に移動した双子はその腕を取る。

 

「「ロキ、ちょっと借りるから。」」

 

「あ、はい。」

 

 引きずられて連れ去られるホーリィを尻目に今度はリリに向き直るロキ。

 

「ほな、うちのファミリアの説明すっで。」

「は、はい!」

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 ここオラリオにはアマゾネスという種族がいる。

 褐色の肌をした女性のみで構成される種族。

 女系種族であるが故に子を授かるには他種族の男と交わるしかない。

 その為、彼女たちは非常に露出の高い服装を好み、時として男を誘惑する。

 

 しかし、アマゾネスという種族の男の選び方は非常にシンプルであった。

 強い子孫を残す為には強い男の子を孕めば良い。

 その為、非常に男に対して理想が高い。

 それは冒険者でありレベル5まで到達した双子も同様であった。

 むしろその傾向はより顕著となっている。 

 

(ティオナ、ここまでお膳立てしたんだから、うまくやりなさいよ?)

(ありがとっ!でも見た目はドストライクだけど弱かったらイヤだな~。)

(大丈夫かもよ?ロキがアレだけ太鼓判を押すんだもの、それに弱かったら育てれば良いし。)

(それ知ってる!光源氏計画って言うんだよね!?前にどこかの神様が言ってたの聞いたことがあるよ。)

(そういうことよ。ま、とりあえずもんでやりますか。)

(おっけ~!)

 

 流石双子である。

 目線だけで会話をしていた。

 

 そうこうしているうちにホームの前の広場に到着する。

 

「あ~、お嬢さん方。この体勢は非常に嬉しいんだがそろそろ離してくれないか?」

 

 現在の体勢は正しく両手に花。男としては嬉しい体勢である。

 理由が殴り合いをしようというのでなければ。

 

「そろそろいっか。それじゃあ始めます。ホーリィさんだっけ、構えてね?」

 

 そう言いながら二人は離れていく。

 そうして10メートルほど離れると獲物を抜き放った。

 

「私たち二人相手に生きてたらロキが言った事を信じてあげる。――――それじゃあ、いくよっ!」

「いや、意味わからんし」

 

 言葉を続けようとしたホーリィはその言葉を最後まで言うことはできなかった。

 一瞬の加速で接近したティオネの双剣がホーリィの首のすぐそばを凪いで行く。

 それはホーリィが体を半身ずらさなければ首を切り落としていただろう。

 

「危なくね?まあ落ち着けって。」

 

 言いながらもホーリィは半歩左にずれる。

 そこをティオナの振り下ろした大剣が通り過ぎる。

 地面を抉るそれは全くの手加減や寸止めを感じない。

 

「そのだな、俺は手加減って言うものが苦手なんだよ。」

 

 喋っている間も二人の剣戟は止まらない。

 一撃目を留められたティオネが体を回転させた左の横凪ぎとティオナの切り上げ。

 挟み込むような剣閃に回避する隙間など無く完璧なコンビネーションである。

 

 しかしそれは飛び上がったホーリィによって避けられる。

 

「すごいすごい!今の避けられるとは思わなかった!」

「………ロキの言ってた事ってほんとかも。」

 

 当初の目的を忘れ戦意を高揚させる二人。

 しかし、彼女達の攻撃はそこで終わることとなる。

 何故なら。

 

 ホーリィが着地してしまったから。

 

「「えっ?」」

 

 一体いかなる不条理が働いたのか、仰け反る二人。

 しかもその体勢は両手を挙げた万歳ポーズ。

 ぶっちゃけ隙だらけである。

 

「あんまりおいたしてると、悪戯しちゃうぞ~?」

 

 ホーリィの手がわきわきと動く。

 そして奇妙な行動が開始された。

 

 うほうほと小刻みにジャンプしては二人に近づくホーリィ。

 何とか体勢を立て直そうとするがそれよりも再度崩される方が早い。

 

 それは何かの儀式なのだろうか。

 女性二人の周りをうほうほといいながら旋回する大男。

 何故か万歳したままの女性二人。

 シュールである。

 

「うほほっ!早く降参しないとひどいことしちゃうよ~?」

 

 そういいながらホーリィの右手が煌いた。

 

「えっ?きゃああああああ!」

 

 いつの間にか切り落とされた胸を守る薄い布がひらりと舞い落ちる。

 その間にもうほうほ言いながら旋回するホーリィ。

 そのため隠すことも出来ない。

 

「さぁーって、これで降参してくれるかな?」

 

 飛び回る事をやめたホーリィは双子の前に自然体で立ち尽くす。

 

 ようやく自由に動くようになった体で自身を抱きすくめるようにしゃがんだ二人の目に映るホーリィは何とも凶悪な顔に感じただろうか。

 

「「ひぁぁ…………。」」

 

 まるで攫われて来た村娘のようにお互いを抱きしめる双子。

 このまま魔の手にかからんとする双子に救いの手が差し伸べられる。

 

「そこまでやホーリィ。うちの子供に手を出してええんはうちだけやで?」

 

 扉にもたれる様にしたロキの言葉に安心したのか、その後ろに急いで移動する双子に溜息をつくとロキは更に言葉を紡いだ。

 

「ホーリィ、あんたが拾って来たんやからこれのこと、しっかりと面倒見るんやで。今日はもう遅いから話はまた明日や。」

 

 そう言って踵を返すロキ。

 つられて着いて行く双子。振り返る前にしたロキの流し目は果たして効果があったのかどうなのか。

 

 そこに残されたのは新に加入したリリとホーリィだけであった。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 ロキファミリアのリビング、そこでリリとホーリィは向かい合っていた。

 ただし、自然体のホーリィに対してリリは顔を俯かせたままであるが。

 

「というわけでようこそロキファミリアへ。これからよろしくなー。」

 

 軽い感じのホーリィにリリが顔を上げる。

 

「ホーリィ様、色々と質問してもよろしいでしょうか?」

「おー。」

「………何故リリは此処にいるのでしょうか?」

「そりゃ俺が連れてきたから」

「では何故リリはロキファミリアに加入しているんですか!」

「そりゃ俺がロキに頼んだから」

「だから何でそれが出来てるんですか!?ファミリアの移籍は主神同士の合意が必要じゃないですか!」

「そりゃ俺がなんつったっけ?そーまファミリア?を潰したから。」

「―――――――は?えっと、潰したってファミリアを?」

「そういってるけど。」

「っていうか、リリがこうして改宗できてるってことは………、もしかしてソーマ様も?」

「多分そうだと思うぜ?」

「………なんでですか?どうしてそんなことしたんですか?意味がわかりません。どうして?」

「うん?さっき飲んでる時に今のファミリアに居場所がないとか自由になりたいとか出来れば移籍したいとか色々言ってたじゃん?ちょうど俺も頭にきてたしちょうど良いやって思ってやったんだけど拙かった?」

 

(この人は何を言っているのでしょうか。ちょっと頭にきていたからファミリアを一つ潰した?リリの話はそのついで?そのついでで神すらも殺す?この人は何を言っているのでしょうか。)

 

 そこまで考えてリリはその異常性に気がついた。

 

 確かにホーリィと一緒にダンジョンに潜ったことからその強さは知っている。

 だがしかし、その力に見合った常識が全くついていない。 

「つかぬ事をお聞きしますが、何をしたか分かっているんですか?」

「ん?つってもどうせ直ぐに復活するだろ。安心しろって、またなんかあったらやり返してやるよ。」

 

 ここでホーリィとその他の人々の認識の違いが明らかとなる。どうやらホーリィは死んでも直ぐに復活できると思っている。

 この世界の何処にもそんなことを出来る冒険者など存在しないというのに。

 

「………その話はもういいです。それではお聞きしてもいいですか?その、リリは、リリはこれから如何すれば良いですか?今度はホーリィ様がリリを使いますか?」

 

 その言葉に込められた意味は重い。

 そんな言葉に対する返答はやはり何処まで言っても軽かった。

 

「いや、やりたい事をやれよ。別にそれ、俺に聞くないようじゃなくね?まあたまにダンジョンに連れて行くかもしれないが。」

 

「え………?リリのこと専属の荷物持ちにするつもりなんじゃないんですか?ずっとただ働きさせたり、恩を傘にきてあんなことやこんなこととか。」

「いや、どこの鬼畜野郎だよそれ。」

「ホーリィ様は前科があるので。」

「大体、ロキにはなんていわれたんだ?どうせ俺の言った事と大して変わらないんだろ?」

「はい。ロキ様は好きにしろと。」

 

(ただその、でしゃばるなとは釘を刺されましたけど。)

 

「それじゃあほんとのほんとに何も無いんですか?ただ単についででリリを助けてくれたのですか?」

「そうだぞー。まあ今日は疲れただろ、このまま寝ておけ。」

「あ、はい。」

 

 と、返事をするも座ったままホーリィを見上げて動かない。

 それもそのはず、ファミリアに加わったばかりのリリに部屋など割り振られておらず何処で寝ればよいかもわからない。

 その為、ただホーリィを見上げているのである。

 

「あ~、そういやそうか。寝る場所も無いんだったな。」

 

 その事実にやっと気がついたのか一瞬だけ考えるそぶりを見せるホーリィ。

 次の瞬間にはリリを抱き上げると移動し始めた。

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「わっぷ!投げないでも良いじゃないですか!」

 

 そこは今朝与えられたばかりのホーリィの寝室。

 必要最低限のベッドとクローゼットのみが置かれた部屋。

 そのベッドに抱き上げていたリリを放り捨てたのだ。

 

「うーむ。」

 

 そのベッドの上で座るリリの前で腕を組むホーリィ。

 その頭の中はやはりどうでもいいことばかりであった。

 

(相変わらず睡眠欲が無い。ベッドも一つしかないし、このままダンジョンにでも行こうかな。)

 

 そんな直る見込みの無い病気に犯された思考をして考えているホーリィを見上げていたリリから勘違いした言葉が繰り出される。

 

「事此処までいたってしまえば流石の私も観念しました。先ほどはああ言っていましたがやはりホーリィ様も男の人です。その、リリはもう立派な大人ではありますが見ての通り小人族なので小さな体をしているわけで。」

「なにいってるのかさっぱりわからんのだが。」

「こういったことも初めてなので出来れば優しくして下さい。」

「………。」

「お願いします。」

 

 

 果たしてどうだろうか、この状況は。

 ベッドの上で女の子座りをしてもじもじと上目遣いで見上げる少女。

 緊張しているのか力なく垂れた両腕はそれを感じさせないほどに布団を掴む。

 そういった趣味の無い人間であってもこの状況に陥れば頂きますといってもおかしくは無い。

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒットリカバリー大事。

ところで、原作一巻分丸々きえてしまった。
どうしよう。(汗
やはり改稿すると思われます。


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キャラ促成育成装備サイゴン様

たまに更新


ディアブロIIと言うゲームにおいて基本となる遊び方はやはりPvEである。

とにかく敵を倒し、恐ろしい確率と戦い、そして可変値に泣く。

 

しかし、遂に極まった者達はさらにその先に進む。

 

自慢の装備を引っさげて、自慢のビルドを構築し、自らを最強だと言う自負とともにやって来る。

 

それがPvP

 

己の魂を賭けて育てた分身による戦い。

 

 

そんな戦いに負けたものは自分のホームに強制帰還させられる。

 

死んだ場所へと装備全てを置き忘れ、そして敗北の屈辱を奪われる。

 

まるでトロフィーのように敗者はその耳をその場へと残すのである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

廃墟となったソーマファミリアの跡地。

暴虐の限りを受けた生々しい場所で幻想的な光景が生まれていた。

 

光の粒が集まっていき、やがてそれは人の形を模る。

光が収まる頃、そこには死んだはずのソーマファミリアの面々、主神を含めた全員が存在した。

 

一様に何が起こったのか解らないと言った顔をしており、そしてそれは自身の神酒、それを作るすべてを失った神も同じであった。

 

後にソーマの悲劇として語り継がれる、全てが謎に包まれた事件である。

 

その場には名前とレベルが書かれた耳がなぜか落ちていたと言う。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

リリルカによる執拗な上目遣いによる攻撃を加えられているホーリーではあるが、実質ゼロダメージであった。

 

「夜も遅いからな。リリは寝ておけ。」

「………ホーリィ様はどうされるんですか?」

 

一体何が気に食わないのであろうか、リリルカが切り込んだ。

 

「ん?いや何、ちょっと実験をな?」

「実験?と言う事は何処かに行かれるのですか?」

「そりゃまぁ、ちょっとダンジョンに。」

「リリは放っておくんですか?」

「いや、疲れてるだろうしもう寝る時間だろ?」

 

「………信じられません。まさかこんなにもわかりやすい据え膳を放置してどこかに行こうなど。はっ!まさか男色!?いえ、先ほどの神ロキとの会話からそれはないはず。だとしたらやはり私の魅力が足りないと言う事なんでしょうか?でも、神ロキの絶壁と比べたら私は豊満といっても差し支えないレベルのはず!まさかそう言う趣味なのでは………。」

 

ブツブツとまるでこの世のものとは思えない物を見たと言う目でホーリィを見据えて呟くリリ。

 

大体合ってる。

 

「じゃ、じゃあな!」

 

不穏な空気を感じ取ったのか、ホーリィはスタコラサッサと窓から飛び出してダンジョンへと移動していった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「ふむ。」

 

ホーリィは少しだけ考える。

 

今からダンジョンに行っても帰途につく冒険者ばかりの予感がする。しかし一人で行くとヒャッハーしてしまいそうである。

 

そんな中、天啓のように閃いた。

 

そうだ、リリに育成用の装備を渡してみよう。と

 

ディアブロIIというゲームは特殊な経験値テーブルをしている。具体的に言うと、レベル20まではレベル差10以上あると経験値が入らないのである。

これは間違いなくパワーレベリング防止のためであった。

その為廃人たちは必ずと言っていいほど低レベル育成用の装備を持っている。

男は例に漏れず各種装備をコンプリートしていた。それをリリルカに渡して効率よくレベリングしてもらおうと考えたのである。

 

男の足元から魔法陣が上へと上がっていき、そこにはなんの変哲も無い黒人男性が立っていた。

 

その名も、育成用装備倉庫。

 

まんまである。

 

各種装備を装備して少しでも物を持たせるために地味にレベル70、そして微妙なセット装備を全身に装備したなんとも言えないキャラである。

 

何気に初めてのジョブであるパラディンである。

刈り上げた頭髪に屈強な肉体はなかなかに好青年に見えなくもない。

 

そしてさっと装備を入れ替える。

そこにはどこか普通の装備をまとった冒険者に見えなくもない男が立っていた。

 

そこでふと思い出す。

そういえばリリは置いてきたな、と。

 

どうするべきか、悩みながらホーリィはダンジョンへと向けて歩いていた。

そこに声をかけられる。

 

「良ければお食事でもどうですか?」

 

声をかけてきたのは給士服を着たエルフであった。

キリッとした大きな瞳に伸びた背筋が美しいエルフである。

 

「ん?あー、食事、食事ね。どうするべきか、んー。」

 

何とも言えない返事をするホーリィに脈ありと感じたのか、店員が更に声をかける。

 

「その、来てくれると私は助かります。」

 

そこで改めてホーリィはエルフをしっかりと見た。

緑がかった髪に長く尖った耳。

切れ長の瞳は意志の強さをうかがわせる。

 

「もしかしてお嬢さんがお酌でもしてくれるのか?」

 

これからダンジョンに行っても帰ってくる人は居れど出発する人はいないだろうと思い、それもまたいいかと思いだす。

 

「ではこうしましょう。貴方が私にジャンケンで勝ったならつきっきりで酌をしましょう。ですが、負けたならば素直に食事をしてください。」

 

エルフの女性の提案は非常にうまい手口であった。

なにしろ、勝とうが負けようがお店に結局入店するのである。

そして、このエルフにジャンケンという名の反射神経勝負に勝てるものはオラリオに数えるほどしかいない。

そしてそのような猛者は顔が知れている。

目の前の色黒の男は特徴的であるにもかかわらずうわさを聞いたこともない。

つまりは雑魚である。

客のキャッチの下手な同僚を見かねたシルが授けた秘策であった。

 

「お、いいね!そういうの好きだよ。じゃあやっちゃいましょ」

 

ジャンケンの構えをする男につられて手を出すエルフ。

 

「それじゃあいくよ?じゃん、けん、ぽん!」

 

そのとき、世界は限りなく圧縮され、まるで時間が止まったように動いていた。

徐々に振り下ろされるこぶしはお互いにグー。

それが出し終わると思われたとき、エルフの手が一瞬で開きパーへと変わる。

げに恐ろしき動体視力と指を動かす筋肉である。

 

そのとき、エルフは勝利を確信したであろう。

なにしろ、この方法で今までに何人も仕留めてきたのである。

まさに必勝法。

そして圧縮された時間が動き出したその時。

 

お互いに出された手は、パーとチョキであった。

 

「お、俺の勝ち!君みたいな美人さんに酌をしてもらえるなんて今日は良い日だわ。」

 

そういうと目をぱちくりしているエルフの手を掴むとお店の中へと入っていった。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

テーブルを挟んで向かい合う男女は先ほど店先でジャンケンをしていた二人、ホーリィとリュー・リオンであった。

テーブルの上には所狭しと料理が並び、ホーリィの手にはリオンにお酌されたと思われるお猪口。

何度もお猪口にお酒を注ぎつつリュー・リオンは先ほどのジャンケンを振り返っていた。

 

(あれはありえなかった。完全に見切っていたはずだった。しかし、私は負けていた。確かめなければならない。)

 

「へー、どこかのファミリアのホームで大きな火災があってそれで騒がしいのか。ついでに客も少ないと。」

「はい。ホーリィさんには感謝しています。こんなに沢山頼んでいただいて。今日は閑古鳥が鳴いていましたので。」

「あー、なんというかすまなかったな。」

「なぜ貴方が謝るのですか?」

「なんとなく?まあいいじゃねぇか!もう一杯頼むよ。」

 

そういうと目の前にお猪口が差し出される。

それを見てリュー・リオンの目がきらりと光る。

 

「時にホーリィさん。」

「ん?なんだ?」

「どうやらこの徳利は空になってしまった。これ以上お酌を続けられない。」

 

そういって徳利を逆さにする。

 

「先ほどのジャンケンは徳利一合まで。もう一度ジャンケンしましょう。もう一度勝てたなら追加でお酒を持ってきましょう。」

「お、いいぞ。それじゃあ行くぞ?じゃーんけーん、ぽん!」

 

お互いに出した手はグーとパー。

勿論負けたのはリュー・リオンだった。

 

(おかしい。先ほど私はあいこ狙いで相手の出方を窺っていた。ホーリィさんは間違いなく手を動かしていなかった。そのままあいこになるはずだった。しかし、結果は負けている。)

 

「お、また勝った!それじゃあ頼むよ。」

 

リュー・リオンがお酒を注文するとすぐにやってくる。

徳利を持ったリュー・リオンは素直にお酒を注いだ。

 

(不思議な人だ。)

 

そんな二人を眺める影が二人。

閑古鳥が鳴く店内でのんびり給仕をする猫耳、アーニャ・フローメルとクロエ・ロロ。

 

「みるにゃ。あのリューが普通に喋ってるにゃ。」

「あのリュー・リオンにお酌させてるにゃ。凄いにゃ。」

「というか、誰にゃ?クロエは知ってるにゃ?」

「見たことないにゃ~。というか、リューの客引きの手口は最近ばればれにゃ。みんな知ってるからジャンケンしてくれにゃいにゃ。ニュービーにゃ?」

「装備品は結構よさそうにゃ。それよりも、あのリューがわざと負けるっていうのは初めて見たにゃ。」

「今日はお客さん少なくていいにゃ~。いつもこれぐらいでいいにゃー。」

「あ、また負けたにゃ。すごいにゃ。」

「もうちょっと美少年だったらよかったのににゃ~。」

「クロエはいつもそれにゃ。」

 

「「まあでも、ひまでいいにゃ~。」」

 

それを横目で見ていた豊穣の女主人の店主はため息を吐いた。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

カランコロン

 

「また来てください。貴方であれば歓迎します。」

「おー、俺も楽しかったからまた来るよ。それじゃまた 」

 

お店の前で見送られる男に手を振るリュー・リオン。

結局何度ジャンケンをしようと男に勝てなかったのであるが不思議と嫌な感じはしていなかったのである。

 

そして男はそのまま大通りをすすむ。

向かう方向は勿論バベルである。

少しの寄り道をしてしまったが結局目的地は変わらない。

のんびりと歩き、ついに入口へと到達してしまった。

 

どうするべきか悩んだ男は予行練習をしてみることにする。

 

つまり、レベル1のキャラを短時間でレベルアップさせるにはどうすればいいのかという実験である。

 

男の足元から魔方陣が上がり通り過ぎた。

そこには先ほどと変わらない肌が黒い精悍な男性が一人。

先ほどよりも装備がしょぼくなっているがそれはしょうがないだろう。

何しろ、レベルが1の正真正銘作ったばかりのキャラである。

 

そこで男は少し考えると更にキャラクターを切り替える。

そして目の前にフレイルを置くと元のレベル1に戻った。

そのままフレイルを拾い上げる。

 

ディアブロ2というゲームをやりこみ始めると必要になるものがある。

それはルーンである。

極まった装備品を作るのに必要であり、極低確率で上位のものはドロップする。

しかし、そんな上位のルーンを必ず手に入れることができるクエストがあればどうするだろうか?

やるしかないだろう。

 

しかしそんなうまい話はなく、1キャラクターにつき各難易度1回。つまり、合計3回のみしかできない。

しかも、上位のルーンは最後のHELLしか期待できない。

つまり、極まった廃人はどうするかというと、キャラクターを作ってはクエストをこなし消してを繰り返すのである。最早作業であることは間違いないが、どうしても欲しい装備があるのであればそれは苦行でも何でもない。

 

ディアブロ2というゲームは一度に8人同時にプレイできるという性質上、一人が引率。残りが養殖用のキャラクターということができる。

しかし、ここでシステムの罠が立ちふさがる。

ゲームディスクに一つ一つ番号がついているのである。

つまり、単純に複数のPCと複数のゲームディスクが必要なのである。

普通の人は頑張っても2つか3つが限界である。

そしてキャラクターを育てるとき、ここでもネックになるのがレベル20制限である。

養殖をするとき、一人はレベル20キャラクターが居なければクエストを進行できなくなるのである。

よって、必ず廃人は育成用装備を持っている。

 

それが目の前にあるフレイルである。

 

なんと驚異のレベル制限1!

ゲーム内でも屈指の攻撃速度!

ライフとマナを敵から6%も奪える!

ついでにライトニングダメージ!

 

なんというか、序盤でイライラする要素をすべて解決してくれる装備品である。

しかし、イベント装備なのでなんとAct3クリアと同時に消えてしまう運命にある。

だが、クリアさせずに保持し続ければこれほど強力なレベリング武器もない。

それを取り出したのだった。

 

「やはりレベリングと言えばこれだな。」

 

謎の言葉を呟くと男はダンジョンへと入っていった。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

男は1階層でゴブリンと遭遇していた。

男の腕が動くのに一瞬遅れてやってきた鉄球がゴブリンの脳天を一撃で破壊する。

その体は電撃で設けたのかのようにびくびくとしていたがすぐに分解されて消え失せる。

 

「ふむ、もう少し進むか。」

 

 

   ■   ■   ■

 

 

男から振り下ろされる鉄球が地面を這いつくばる蟻の頭部を破壊する。

一撃であった。

そこは薄暗い洞窟内。現在7階層であった。

何とも言えない表情の男ではあるがそれも当然の結果であった。

 

そもそも、ステータス的にホーリィはもっと下の階層で活動をするべき段階にあった。

 

 

【ステイタス】

 

Lv.1

 

力:D598 耐久:E490 器用:C606 敏捷:S981 魔力:B721 強欲:A801

 

明らかに10階層前後のステータスである。

しかも武器が強いという。

ちょっと強そうな特殊個体だろうとぼこぼこであった。

 

そんなホーリィであったが、とうとうキャラクターレベルが6に上昇してしまっていた。(ダンまちのレベルではなくディアブロのレベル)

そう、レベル6である。

なじみの深い人にはもうお分かりかもしれないが、レベル6ということはあれが装備できるのである。

 

サイゴンの鋼セットである。

 

育成用装備品としてみんなに愛されるサイゴン様である。

男の足元から浮かび上がる魔方陣。

 

倉庫から出されるサイゴンセット。

ついでにStrRC。

 

これさえあればもうレベル20まで怖くない。

よし、Act2の遺跡を漁りつくそう。そんな幻聴が聞こえてきそうである。

 

サイゴン装備は真っ白な全身鎧に大きなタワーシールド。そして手には超速攻撃速度のフレイル。

正に完璧である。

しかし攻撃力は大したことがないので雑魚専用ではあるのだが。

 

そこで男は禁断の行動に出る。

 

「確か、この蟻は仲間を呼び寄せるんだったっけ?」

 

そういいながら蟻の胴体部分を潰すホーリィ。

暫くして、ギチギチとダンジョン内に蟻の叫び声がこだまする。

 

一瞬の静寂の後、迷宮の各所から顔をのぞかせる赤い瞳。

それを見たホーリィは呟いた。

 

「なんてすばらしい無限湧き。めっちゃレベリングイージーじゃん。」

 

血と贓物が巻き散らかされ、地面には魔石とドロップアイテムがつみあがっていく。

それはホーリィのキャラクターがレベル12になるまで続けられた。

 

   ■   ■   ■

 

 

幾ばくかすっきりした表情のホーリィは地上へと向かって歩いていた。

そして今回判明した事柄をまとめる。

 

キャラクターレベルは一応上がるようである。

装備品のレベル制限は達していなくても扱えるが、十全に扱うことができないようである。

レベル制限60の装備を10レベルで使ってもその武器の性能の1割も発揮できなかったのである。

特殊なオーラやチャージされた魔法を除き、レベル制限は守ったほうがよいということだった。

 

そして当初の予定通りレベリング予行をしたわけであるが、確かな手ごたえを掴んでいた。

これならあっという間にリリでも即戦力である。

 

そんなことを思いながらロキファミリアの拠点へと帰るのであった。

 

 

 

 



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粉砕破砕一撃必殺!チャージャーだ!

まさかの二話続けて



 

 

 

 ダンジョンから帰ったホーリィはロキファミリアの拠点の共用スペースの椅子に座っていた。

 

 相も変わらず睡眠欲というものがないのである。

 

 部屋に帰ってもリリがベッドを占拠しているであろうし、ロキの部屋は今は入りづらい。

 

 その為ソファーへと座っていたのであった。 

 

 

 

 もうすぐ夜明けと言ってもよい時間ではあるのだが、流石にこんな時間に起きてくるような勤勉なものも少ない。

 

 どうやって時間を潰そうか。

 

 そう考えていたところで部屋の扉が静かに開く。

 

 

 

 そこにはきょろきょろと部屋の中を確認するアイズ・ヴァレンシュタインがいた。

 

 

 

 手を上げおはようの挨拶をしようとしたホーリィと目が合うと、高速でアイズが近づいてくる。

 

 そして目の前で唇の前に人差し指をあてると首を左右に振った。

 

 

 

 しー、というやつであると思われる。

 

 

 

 更に周りを見渡すと、ホーリィの腕をとってそのまま外へと歩きだした。

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 

 

「ぷはぁ。もうしゃべってもいいよ」

 

 

 

 一体どのような縛りプレイをしていたのかはわからないが喋ってもよいようだ。

 

 

 

「どうしたんだ? こんな朝早くから」

 

 

 

 当然の疑問であろう。

 

 このような朝早くから、しかも忍び足をしながらまるで抜け出すかのように館を出たのである。

 

 

 

「ダンジョンに行こう? 一人で行くと怒られるけど、二人だと大丈夫」

 

「よくわからんけどダンジョン行くか」

 

「……ホーリィはすごく話が分かる」

 

「そうか? まあいいや。頑張るぞー!」

 

「お──」

 

 

 

 どこか似た者同士なのだろう。

 

 最終的な目的は違えど、そこに至るまでの道のりは共有できるものが多い二人であった。

 

 

 

 

 

 ■   ■   ■

 

 

 

「そういえば、提案があるんだが」

 

 

 

 ダンジョンへと入ったアイズへとホーリィが話しかける。

 

 

 

「ん、どうしたの?」

 

「驚かないで聞いてほしいんだが、俺は魔法で姿を変えられるんだが、その姿によって違う能力を使うことができるのよ。そんでここからが本題なんだけど、一緒に居たらすごく足を速くすることができるんだよね。上層階をちまちま歩くのは面倒だし一気に行かないか?」

 

 

 

 ホーリィの提案は実現するのであればこれほどうれしいことはない。

 

 鍛錬中毒者であるアイズにとって、強いモンスターとの戦いほど自己を効率的に高められるものはない。

 

 よって低い階層であっても経験は積めないことはないが微々たるものである。

 

 一人で潜るにも食料などで限界がある。

 

 速やかに行けるに越したことはないのである。

 

 

 

「すごい。ホーリィはなんでそんなに私のしてほしいことをしてくれるんだろ」

 

「ん? まあ、少し速くなるだけだからそこまで期待されても困るぞ」

 

「えっと、どれぐらい速くなるの?」

 

「1.5倍ぐらいだったかな?」

 

 

 

 さらっと言われる数値に一瞬止まるアイズ。

 

 それはそうだろう。貴方は1.5倍速で動けます、と言われて誰が信じることができるのか。

 

 

 

「それと、良ければこの靴をあげよう。コレクター魂で持っていたが使ってくれ」

 

「う、うん」

 

 

 

 差し出された靴に足を入れると、まるで自身のために誂えられたかのようなフィット感。

 

 そしてどこまででもかけていけそうなほどに軽くなる体。

 

 

 

 それは古の聖人クソンの足跡から作られたといわれるチェインブーツ。

 

 基本的なMODがついているもののそれ以上でもそれ以下でもないという忘れ去られる一品、いわゆる外れアイテム。

 

 可変値最大のものを後生大事に持ってはいたものの結局使い道などありはしないという。

 

 しかしながら30%も足が速くなる効果に、飛び道具に対する小さいながらにも耐性を有している。あとちょっとの体力の増加。

 

 しかしながらホーリィは気が付いていない。

 

 その程度であってもこの世界では聖遺物級のものであるということを。

 

 

 

「どうかな?」

 

 

 

 差し出された靴を履いたアイズがスカートの裾を持ち上げながら聞いてくる。

 

 

 

「おう、なかなかいいんじゃないか?」

 

「そう、かな」

 

 

 

 表情はそこまで変わってはいないが、纏う空気がまるで大輪の向日葵が咲いたかのように華やかになる。

 

 

 

「それじゃあさっきまで履いてた靴は一旦こっちで預かっておくわ」

 

「うん、お願いします」

 

 

 

 そういってささっとバックパックへと靴を入れるホーリィ。

 

 その一瞬に少し鼻がピクリとしたのをアイズは見逃さなかった。

 

 

 

「……やっぱり、私が持つ」

 

「ん? いやいや、戦闘中に余計なものを持っているとポテンシャルが下がるだろ? こういうのは遠慮することはないぞ」

 

「……わかった」

 

 

 

 あからさまにホーリィを疑っている眼をしているが、当の本人は何食わぬ顔で話を進めた。

 

 

 

「それじゃあキャラを変えるけど驚くなよ?」

 

 

 

 ホーリィの足元から浮かび上がる魔方陣。

 

 それが通り過ぎるとそこに残ったのは一人の肌の黒い男であった。

 

 手には巨大な身の丈はありそうなハンマーを持ち、スリットの入った兜を被っている。

 

 そして膝までを完全に覆う鎧。

 

 ちょっと異色ではあるが騎士のようであった。

 

 

 

 なんと声をかけてよいかわからないアイズに男が笑いかける。

 

 

 

「準備オッケー! さっさといこうぜ!」

 

「……わかった」

 

 

 

 そのまま風のように二人はダンジョンへと入っていった。

 

 

 

 

 

 ■   ■   ■

 

 

 

 

 

 ディアブロ2というゲームにおいてもやはり雛型の職業というものがある。

 

 偏見も多分に含んでいるだろうが、それはやはりパラディンという職業であろう。

 

 初心者から超上級者、はては魔窟となっている対人戦においても人気がある職業である。

 

 広範囲殲滅に特化したビルドもあれば高速で殴り続ける爽快なビルド、天から降り注ぐ裁きの雷を降らす対人特化までさまざまである。

 

 

 

 しかしながらホーリィのビルドはそのどれでもない。

 

 

 

 足が速くなる。

 

 

 

 これを聞いた瞬間にピンと来る人はいるかもしれない。

 

 そう、漢の中の漢。

 

 一撃に命を燃やす漢。

 

 

 

 チャージパラディンである。

 

 

 

 わからない人に説明すると、パラディンのスキルにチャージというものがある。

 

 助走をつけて敵に突っ込み只々一撃ぶんなぐる。

 

 まさに漢のスキルである。

 

 攻撃速度など関係ない。防御力? 二の次よ。耐性? 対人戦に必要か? 弐の太刀などいらぬ。やられる前にやれ。

 

 

 

 そう、何を隠そうこのパラディン、対人特化である。しかもチャージ。

 

 

 

 調子に乗ってる対人プレイヤーを見つけると、そっと遠くから画面の端ぎりぎりでロックオン。

 

 表示バグを用いて敵に気が付かれる前に接近し、一撃で敵を葬る。

 

 表記ダメージ20kを目指せる夢のあるビルドである。

 

 攻撃がミスって通常攻撃になったら死ぬしかない。その時はご愛嬌。

 

 困ったらハロリングに頼るしかない。

 

 

 

 そのチャージであるが、シナジーとしてほかのスキルのレベルを上げると威力が上がるのである。

 

 もはやあげなければならないだろう。

 

 

 

 それが足の速くなるスキル、ヴィガーである。

 

 

 

 なんというか対人戦では他を寄せ付けない速度で走り回れる。フレンジーマックスのバーバリアンとどっこいどっこいの速度を出せるのであるから驚異的であろう。

 

 

 

 そんな無駄にすごいビルドであるが、なんとこの場で必要とされているのはそのチャージのおまけのスキル、ヴィガーであった。

 

 

 

 何とも世知辛いといえるだろう。

 

 

 

 

 

 ■   ■   ■

 

 

 

 

 

 まるで周りの景色が置いて行かれるようにして流れていく。

 

 いつもの移動速度よりも体感で2倍速以上でアイズは走っていた。

 

 いくら走っても全く疲れない。

 

 周りの低級なモンスターは走り抜ける彼女の影すら踏めず、ただその後ろ姿を眺めるのみ。

 

 圧倒的な速度はモンスターパレード等のトレインを発生させることすらない。

 

 時に壁を走り、天井を蹴り、モンスターすら足場にして進んでいく。

 

 その後ろからつかず離れずで追随するのは超重量のハンマーと全身鎧を着込んだ騎士。

 

 とてもではないが俊敏に動けそうにない姿ではあるがアイズの速度に追いついている。

 

 というか、むしろ男のほうが速い。

 

 そしてこちらは敵を足場になどしない。

 

 

 

 鎧袖一触

 

 

 

 途中に存在するモンスターをすべて血煙と変え突き進んでいるのである。

 

 

 

 まるで追いかけっこをするかのような二人の行進は特に目的地を決めていなかったため30階へと到達してやっとその正気を取り戻した。

 

 

 

 

 

 ■   ■   ■

 

 

 

「さてと。そろそろやるか?」

 

「うん。ホーリィは今日はどうするの?」

 

「俺はやっぱり後ろでサポーターやってるよ。まあ、アイズがきつそうだったら支援するから安心しろよ」

 

「そんなことにはなりません。けど、やれるだけやってみる」

 

 

 

 そういうとアイズは目の前のブラッド・サウルスを見つめた。

 

 臨戦態勢を感じたのか、ホーリィが堀り馬場へとキャラを変える。

 

 ホーリィの手にはお馴染みのバフ発生装置であるビーストが握られる。

 

 そしてアイズは走り出すと力強く呟いた。

 

 

 

「……エアリアル!」

 

 

 

 まるで風のようにブラッド・サウルスへと近づくと圧倒的な機動力でその身を切り刻む。

 

 最後に斬られた首への斬撃が致命傷へとなったのか、その身を地面へと横たわらせる。

 

 

 

「すごい、これならもっといける」

 

「うほっ!」

 

 

 

 ホーリィからもらったチェインブーツの感触を確かめつつ着地する。

 

 その後ろではホーリィがブラッド・サウルスを掘っていた。

 

 

 

 アイズが倒したブラッドサウルス。

 

 それは普通通り魔石を残した。

 

 それに更にホーリィがファインドアイテムを使う。

 

 すると魔石とドロップアイテムが落ちる。

 

 

 

「こいつは牙か。ちょっと小ぶりだから大きな装備には向いていないな」

 

 

 

 頑張ればショートソードぐらいの長さにはなりそうではあるがだめらしい。

 

 そんなことをしていると周りの木々の中からぞろぞろとブラッド・サウルスが顔を出す。

 

 入れ食いである。

 

 しかしそんな中に明らかに体の色の違う個体が混じっている。

 

 恐らくはユニーク個体。

 

 それを見たアイズの口元が少し笑う。

 

 

 

「私は、もっともっと強くなれる!」

 

 

 

 それは自分に向けて言ったのか、それとも後ろで見守る男に向けて言ったのか。

 

 その時男は、パンツ隠すのうまくなったな。と、どうでもいいことを考えていた。

 

 

 

 

 

 ■   ■   ■

 

 

 

 

 

 アイズとブラッド・サウルスのユニーク個体の戦いは熾烈なものであった。

 

 通常個体と比べて明らかに違う表皮。

 

 何かしらの鉱石を身にまとっているかのようなその表皮は見た目に違わず堅固であった。

 

 破壊不能の剣をもってしても表面に傷をつける程度。

 

 堅固な外殻に無理をして攻撃をした結果、少なくない反撃にもあっている。

 

 初見殺しの尻尾による薙ぎ払いなど、間に剣を挟まなければ重傷を負っていてもおかしくない。

 

 

 

 しかし、いくらダメージを受けようとアイズは立ち上がった。

 

 何故かダメージを受けても瞬時に回復するのである。

 

 まさかホーリィは回復すらできるのだろうかという邪念が生まれるがそれを振り払い、目の前のブラッド・サウルスへと躍りかかる。

 

 

 

 それは先ほどの焼き増しのようであった。

 

 硬い外殻に阻まれて効果のないアイズの攻撃に対し、全ての攻撃が一撃必殺たるブラッド・サウルス。

 

 ブラッド・サウルスから放たれた尻尾の薙ぎ払いが放たれたとき、先ほどの焼き直しとなるかと思われた。

 

 その尻尾による薙ぎ払いが終わった姿勢。

 

 顔を前に向け、体を180度ひねったその姿勢。

 

 その時、アイズは顔の目の前に居た。

 

 

 

 わずかな兆候を見つけ、自らの選択にすべてをかける。

 

 外せば空中で無防備な状態をさらすであろう。

 

 しかしそうはならなかった。

 

 

 

 デュランダルを極限まで引き絞りとった体勢は、突き。

 

 

 

「はあああああっ!」

 

 

 

 その、ブラッド・サウルスの一際堅固であろうと思われる額のど真ん中。

 

 眉間へとアイズの突きが捻じ込まれる。

 

 それは正に乾坤一擲。

 

 極限まで力をため込んだ一撃。

 

 

 

 それは少しの抵抗ののち、その脳髄まで貫通した。

 

 

 

「エアリアル!!」

 

 

 

 そしてブラッド・サウルスの頭の中で吹き荒れる暴風が完膚なきまでに蹂躙する。

 

 それが完全な致命傷となったのか、ユニーク個体のブラッド・サウルスは魔石とドロップアイテムを残して魔素へと還元された。

 

 

 

「ふううううぅっ」

 

 

 

 破壊不能の剣を持っているからこその芸当。

 

 自分の技だけではなく、装備にも助けられていると感謝の念を武器に送りながら鞘にしまう。

 

 振り返ると周りにあった死体をすべて掘り返しているムキムキの親父の変なポーズが見えたのだった。

 

 

 

 

 

 ■   ■   ■

 

 

 

 

 

「おお、結晶なのか?金属っぽい。アイズこれで装備作ってもらったりする?」

 

 

 

 そういって差し出された手には暗い青色をした金属っぽい物体。

 

 先ほどの特殊個体のドロップと思われるものであった。

 

 

 

「……くれるんだったらもらうけど、いいの? 」

 

「全然いいよ。というか、ダブってるから今は急ぎで必要というわけじゃないしな」

 

 

 

 なにか聞き捨てならない発言が聞こえてきた。

 

 ダブってるということは、ホーリィはもうすでに持っているということである。

 

 つまり先ほどのモンスターを余裕で倒したということである。

 

 

 

「どんどんいこう」

 

 

 

 その瞳にはメラメラとやる気の炎が灯っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もう打ち止め


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ネタキャラ万歳ヒーラーだ!

私事ではありますが
少し前にSUN値チェック事案がありました。
私が丹精込めて制作したディアブロ3のバーバリアン悪夢フレンジービルド
めちゃめちゃに頑張って作りました。

でもある日。

新しいセットが出たので確認してみると

フレンジーのセットだったのです!

しかも完全上位互換。

なんというか、暫くログインできなくなってしまいましたorz



 タウンポータル

 

 ディアブロ2をしたことがある人ならば誰しも当たり前のように使い、使えないという状態を思い浮かべるのすら困難であろう。

 それはどのようなところからでも拠点としている場所へと空間をつなぐことができる。

 いわゆる、どこで〇ドア、のようなものである。

 それはアクト1の3つ目のクエストであるケインという老人から教えてもらえる。

 ゲーム開始してすぐに使えるようになるものであり、ゲーム進行上なくてはならない。

 しかしもう一度思い出してほしい。

 

 どこに居ようとも拠点へと瞬時に帰還できる。

 

 恐らく、このようなスキルを持っていることがばれたら各ファミリアによるその人物の奪い合いが始まるだろう。

 それぐらいに強力な力である。(作中ではディアブロ3におけるタウンポータルを採用しております。スクロールではなく呪文で開けます。)

 わざわざ荷物を大量に抱え、何日にもわたって行軍する必要もなく、安全にダンジョンの階層を行き来する。

 

 正に、殺してでも奪い取る。であるだろう。

 

 勿論、ホーリィにとっても当然のものでありそれがバランスを崩すものであるという認識すらない。

 そのため、それは躊躇なく開かれた。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 時は少しさかのぼる。

 

 ホーリィに置いて行かれたリリルカ・アーデは一人部屋の中でのんびりしていた。

 不貞腐れて眠った後、起きたら昼だったのである。

 ボーっとする頭で現在の状況を考えていた。

 

(なんというか、現在の状況についていけていません。)

 

 ベッドの上で起き上ると座ったままボーっとする。

 

(確か、ここはホーリィ様のベッドの上。)

 

 女の子座りをした状態からもう一度ベッドの上の枕へと突っ伏した。

 

(昨日のことは忘れましょう。私もどうかしていたのです。なんというか流されてしまいました。不覚です。)

 

「ううーーーっ!!」

 

 枕へと顔をうずめたままひとしきりじたばたすると、満足したのかガバリと顔を上げた。

 

(よし、充電完了!そうです。私はもう間違えません。ホーリィ様のようになるまではいかなくとも、せめてその後ろにはついていきたい。でも今は、雌伏の時です。)

 

 そこで現状を再確認する。

 

(しばらくはホーリィ様にいろんなことを教えてもらいながら同じぐらいのレベルの人とダンジョンに行き鍛えるのがいいかもしれません。さしあたっては……。)

 

 その脳裏に浮かんだのは白髪頭の気持ちのいいヒューマンの姿。

 

(暫く、ベル様にくっついてダンジョンでレベルアップしましょう。幸いにも前のファミリアと違ってロキ様はきちんとファルナの更新をしてくださるようですし。)

 

 そこまで考えてやっとリリルカ・アーデはベットの淵から立ち上がる。

 

「そうと決まれば善は急げです。確か次の約束は明日のはず。ダンジョンへ行く準備です!」

 

 服をきちんと着こむとリリは部屋から出ていった。

 

 

 

 

 リリは現在部屋に戻ってきていた。

 

 その姿はパッと見キャットピープルの少女に見える。

 頭から生える可愛らしい耳に縦に割れた瞳孔。

 何故なのかというとそれは当然の一言であろう。

 

 なにしろ、今現在のリリの立場は微妙の一言に尽きるのだ。

 何しろ、裏ワザともいえる方法でファミリアを移籍したのである。

 暫くは表に顔を出すことはしないほうがいいだろう。

 そういった事情もあり、現在はキャットピープルへと魔法を使い変身している。

 この格好で当分の間はダンジョンに行こうと画策していた。

 

 てきぱきとバックパックの中身を確認していく。

 そして目の前に広げられているのはリリの隠し財産であった。

 

 いつかファミリアから脱退するためにため込んでいた資金。

 それを眺めてからリリルカ・アーデは決意した。

 

 1億ヴァリス

 

 これを貯めて元の主神であるソーマに突きつける、と。

 別にこのまま何食わぬ顔で過ごしても問題は発生しないかもしれない。

 しかし、そういう問題ではないのだ。

 自らの誇りの問題なのである。

 頭の片隅にでも後悔は残しておきたくはない。

 

「よしっ、リリは頑張るのです。そしてリリが居ないとダメと言わせてやるのです!」

 

 立ち上がりこぶしを握ると決意を新たにするのであった。

 その後ろに、青いポータルが開いているということに気が付くことなく。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 音もなくホーリィの部屋へとタウンポータルが開く。

 青い楕円形の空間がその場に展開される。

 そこから現れた男は女性を一人抱えていた。

 

 ホーリィとアイズである。

 

 体に力を入れるのも億劫なのか、完全にホーリィへと体重を預けている様子はまるで恋人同士のよう。

 だがしかし、ただ単にアイズが頑張りすぎて疲労困憊となっているだけなのであるが。

 

 その二人がタウンポータルから出てくると丁度目の前に小さな猫耳の少女がこぶしを突き出していた。

 

「よしっ、リリは頑張るのです。そしてリリが居ないとダメと言わせてやるのです!」

「おー、なんかよくわからんけど元気が出たようでよかった。」

 

 相槌がうたれるとは思ってなかったのか、びくりと体をさせると恐る恐るとリリは振り返った。

 そこにはあのアイズ・ヴァレンシュタインをお姫様抱っこして、今まさにベッドへと寝かせようとしている男が目に入る。

 

「え、ぁ、ひゃあああああああああぁぁぁっ!!!?」

 

 どこにそんな跳躍力があったのか天井近くまで飛び上がる。

 

「ほ、ほ、ホーリィさま!?どうしてここに居るんですか!?」

「いや、今ダンジョンから帰ってきたところ。アイズが疲れて寝ちゃったから帰ってきたんだよ。」

「え、いえ。そういう意味では……。」

 

 恐らく一つしかない扉のほうを向いていたはずの自分の後ろにどうやって居たのかということであろう。

 しかしその答えはホーリィの後ろにある青い楕円形のポータルを見て解決することとなる。

 

「その、ホーリィ様。後ろの青いのは何でしょうか?」

 

 リリは現在の状況から大体の予想はついている。

 ついてはいるのだが、余りにも非常識すぎて認めたくないのである。

 

「ああ、見せたことなかったっけ?これはタウンポータルって言って何処からでも拠点に帰ってこれる便利な魔法なのよ。」

 

 その時リリは何を言っているのだろうと唖然とした。

 そして再度思う。

 

(わかりました。本当の本当にホーリィ様は常識がないのですね。そう、常識というものが。)

 

 少し達観した目をすると同時に、こういう時こそ役に立たねばと意識を新たにする。

 

「ホーリィ様、それは今後人前では使ってはいけません。」

「ん?いや、これがないとトレハンに」

「いいですか!?」

「あ、はい。」

「ホーリィ様はこれがどれだけ危ういことかわかってません!もしギルドにばれたらきっと拘束されちゃいます!ファミリアにばれてもよくて囲い込みです。神様に見つかったらオモチャです!」

「あー、それは嫌だな。まだまだダンジョンに潜りたい。」

「で、あれば見つからないようにお願いしますっ。」

「えーっと、アイズはもう知ってるから使っていい?」

 

 そこでリリが視線をベッドに向けると剣姫と目があった。

 そう、疲れて立ち上がれないほどではあるが寝てはいなかったのである。

 

「別にみんなだったら言ってもいいと思うけど……。」

 

 特に何も考えていないアイズがボソッと言う。

 それに対してリリが切り返した。

 

「よく考えてください。もし皆さんに知られたらホーリィ様は引っ張りだこです。でも、このままの状態を維持するとアイズ様が一人占めできるんですよ?こちらとしても秘密が守られて、アイズ様も強くなれる。ういんういんです!」

 

 そこまで言われてアイズははっとした。

 この子、凄い!

 

「そのとおり。このことは皆には内緒にする。」

「それじゃあ、私たちだけの秘密です。」

 

 何故か意気投合してしまった二人を見ながらそういえばとホーリィはリリに話しかける。

 

「そういえばリリ、なんかやる気だしてたけどどうしたんだ?」

「ううー、それは忘れてほしいのですがそうはいかないというわけで。」

 

 そういうとリリはホーリィへと改めて向き直る。

 

「以前、ホーリィ様は何でもかなえてくれるとおっしゃられました。」

「ああ、そうだな。ただし、俺にできることだからな?」

「はい。私決めました。もう足手まといにはなりたくありません!時間がある時でいいので私に稽古をつけてもらえませんか!?」

 

 与えられるのではなく、自らの意志と行動でつかみ取る。

 ちっぽけなリリルカ・アーデという少女の誇り。

 

「そんなことでいいのか?むしろ願ったりよ。これからダンジョン行く?」

 

 あまりにも簡単に承諾されたことに拍子抜けするとともに、俺んちくる?みたいなノリでダンジョンへと誘うホーリィに微笑ましい笑みが漏れる。

 

「いきなりなのではありますが、何故か準備万端なのですよね。いいです、行きます!こうなれば自棄です!」

「お、いいの?実験したいことがあったしこっちはウェルカムよ。」

 

 その話を聞いていたアイズが手を伸ばす。

 

「私もいきたいー。」

「いやいや、7階層に行こうと思ってるからアイズには物足りないから暫く寝ておけって。また明日連れていくから。」

「本当に?わかった、おとなしくしておく。」

 

 どうやら今日の探索は十分に満足のいくものであったようだ。

 

「じゃあ行ってくるわ。」

 

 颯爽と部屋を出ていくホーリィに手を振って見送るアイズ。

 見送った後に未だ部屋の中に開いたままのポータルを見てふと漏らす。

 

「これ、いつ消えるんだろ……。」

 

 

   ■   ■   ■

 

 

「と、言うわけで7階層に到着!」

「何がというわけなのかはわかりませんが確かに到着です。」

 

 そこは何度となく通った洞窟型のダンジョン階層。

 メインのモンスターがキラーアントというフロアである。

 

「それで、実験とおっしゃっていましたがどうするんでしょうか?」

「うむ。まずはこれを持ちたまえ。」

 

 そういって差し出されるのは低レベル御用達のフレイル様。

 

「えっと、はい。これをどうするんでしょうか?」

「あの蟻の頭に叩き込むんだ。」

「えっ」

「そのフレイルなら一撃でいけるから大丈夫。」

「」

「あと、怪我をしても大丈夫。いくらでも治せるからいくらでもレベリングできる。アイズで確認したから安心してくれていいぞ?」

 

 早くも逃げ出したい気持ちになるリリであったが都合よく目の前にキラーアントが一匹やってきてしまった。

 

「最初はなれないだろうからバックパックは持っといてやるよ。さーて、始めるか。」

 

 ホーリィの足元から魔法陣が立ち上るとそこに居たのは肌の黒い男。

 

「よし、リリごー!」

「ちょっと後悔してます!」

 

 ホーリィの姿が変わるのも慣れたものである。

 驚きも少なくリリはキラーアントへと突撃していくのであった。

 

 

 

 

 最初、リリは完全に腰が引けていた。

 そんなリリが目の前のキラーアントと対峙する。

 その攻撃が正確に頭蓋に当たるわけもなく、少しそれて足へとかする。

 しまったと思った時には遅く、キラーアントの凶悪な顎が迫りくる。

 そう思って身構えたところで目の前のキラーアントの動きが止まる。

 びくびくと痙攣を起こしているようであった。

 

「あ、言い忘れていたがその武器にはライトニングダメージが追加であるから。」

 

 なぜそんな重要なことを言い忘れていたのか。

 リリは激怒するがそれよりも目の前のキラーアントである。

 今度は正確に、慎重に。そして大胆に鉄球を振りかぶりぶち当てた。

 

 グシャ!

 

 その鉄球はキラーアントの厚い外殻をものともせずに叩き潰す。

 

「すごい。これなら私でもキラーアントを簡単に倒せます!」

 

 どこかに掠りさえすれば動きを止めれる思うと少し勇気が湧いてくるというものである。

 

「ライトニングダメージはおまけだから気にしなくていいぞ。とにかく、攻撃速度だ。当たろうが当たらなかろうがすぐさま引き寄せて再度攻撃あるのみ!」

「は、はい!」

「よし、どんどん行くぞ~」

 

 ずんずんと進むホーリィについて進むリリは目に映るキラーアントに必死に鉄球を叩きつける。

 

「大分慣れてきたみたいだな。よし、ちょっと待てよ?」

 

 そういって少し離れるホーリィ。

 嫌な予感がするリリであったが流石に無茶なことはしないと思っていた。

 

 その手にキラーアントの頭を掴んで帰ってくるまでは。

 

「こいつら便利で無限に湧いてくるんだよ。つまりは無限に倒せるってことだからめっちゃレベル上げし放題ってこと!」

 

 一体何をドヤ顔で言い出すのかと思ったら。

 

「馬鹿なのですか?ホーリィ様は馬鹿だ馬鹿だと思っていましたがほんとーーーーーに馬鹿だったんですね!!言うに事欠いてレベル上げし放題って、それは死ななきゃってことじゃないですか!?リリはホーリィ様みたいに強くないんですよぉ!?」

 

 その通りである。

 

「安心しろ。常に回復するオーラを張っておくし、怪我をしたらすぐに回復させるから!リリは一心不乱に蟻を倒すことだけを考えれば大丈夫よ?あ、ほらきた。」

 

 ばっと振り返るリリの目の前に無数の赤い瞳が煌めく。

 

「後ろは任せろ。一匹も通しはしない!」

「そんなかっこいいこと言っても騙されませんからね!もう、やります、やってやります!」

 

 

 

 先頭の蟻を筆頭に列をなしてやってくる蟻の群れをリリは睨んだ。

 そして思い出す。

 ここまで使ってみてわかったフレイルという武器の特徴である。

 

 直線の動きである叩きつけと円運動を利用した振り回し。

 それをどのような体勢からでも放つことができる。

 それを思い出したリリルカ・アーデは動き出す。

 

 前に出てくる蟻に負けじと一歩踏みだす。

 その勢い全てを載せて先頭の蟻の頭へと鉄球を叩きつけた。

 叩きつけたフレイルの柄を更に下へと引き付けるとそれを円を描くように右の蟻の頭へと打ち付ける。

 伸びきった鎖を今度は無理やり左へと叩きつけた。

 

「ふうううぅぅっ!」

 

 

 目の前に居た3匹の蟻を叩きのめしたリリが息をつく。

 中々に使いこなしている。

 そう実感を持てる結果が目の前にあった。

 しかし、まだ足りない。そう足りないのである。

 

 目の前の蟻を屠ったところで天井からも襲い掛かる。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 下からの掬い上げでその顎ごと叩き割る。

 しかしそれは大きな隙をうむ行動であった。

 左右から来たキラーアントの大きな顎が襲い掛かる。

 それは振り上げた腕の半ばまでを噛み切った。

 

「うあああああっっっ!!!ああああ、ぁ。あ、あれ」

 

 噛み切った。

 確かにリリの二の腕は両腕仲良く噛み切られてしまった。

 しかしそこに後ろから白い閃光が飛んできた。

 それはリリルカ・アーデに吸い込まれると切られたばかりの腕を一瞬でくっつけてしまったのであった。

 

「ええっと。」

 

 痛みがなくなったことに疑問を浮かべるリリ。

 そこで目の前の四つの赤い瞳と目があった。

 お互いになんで?となっている。

 そんな一人と二匹であったが先に正気に戻ったのはリリであった。

 

「たああぁぁーー!」

 

 取り落としそうになっていたフレイルの柄を握りしめ渾身の力を込めて振り落す。

 それは蟻の頭蓋をまき散らし、次の一撃で残る一匹も叩き潰す。

 

「まだまだ、やれます。リリは、もう置いて行かれるのは嫌ですから!」

 

 その眼前には未だ数を減らすことなく無数の赤い瞳が煌めいていた。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 ホーリィは今リリの後ろに控えている。

 後ろから近づいてくる敵を適当に間引きながら様子を窺っていた。

 

 現在ホーリィは地味なビルドを使っている。

 完全にネタであるそれ。

 しかしこの状況であれば適している。

 なにしろディアブロ2というゲームにおいて唯一の回復スキルを有しているのである。

 

 そう、唯一

 

 何しろディアブロ2というゲームは

 やられる前にやれ

 敵を殴って回復

 自動回復(微)

 っていうか、回復はポーションがぶ飲みが常識

 

 というぐらい攻撃一辺倒なのである。

 

 そんじょそこらの協力ゲームのような専用の補助職業など存在しない。

 全員アタッカーなのである。

 

 しかしながら一応回復に使えるスキルもある。

 それがパラディンのスキルであるプライアーとホーリーボルトである。

 

 プライアーは自身を含めた周りのキャラクターを持続回復させるスキルである。実用段階にするためにはレベルを上げる必要があるが、ぶっちゃけるとこのスキルを上げる人は極極少数しかいないだろう。それぐらいに使い道がない。しかもレベルを上げるだけあげておいて実際に使うスキルはメディテーションというマナ回復スキル。可哀想なスキルであった。

 しかしネタビルドであるこのキャラクターは勿論マックス。

 そして次にホーリーボルトであるが、これは元々アンデッド用の攻撃スキルなのであるが、味方に当てると一応回復する。なのでとにかくこのスキルを連打するのが役割と言えなくもない。

  

 見守っているとキラーアントによってリリが負傷する。

 それを見越してホーリーボルトを放つ。

 それは一瞬でリリルカ・アーデの傷を治し体力を回復させる。

 

「ふむ。なんというか大丈夫そうだな。」

 

 一瞬動きが止まりはしたものの、それ以降は何かしらのリミッターが解除されたかのように敵に向かってのめりこむ。

 

 キラーアントによって切られたので回復する。

 体当たりを受けたので回復する。

 自動で回復する。

 回復する。

 

 

 何度攻撃を受けようが回復し、無限に湧いてくる敵を飽きることなく殲滅する。

 そんな異常な精神状況のリリルカ・アーデの耳に幻聴が聞こえ始めた。

 

 

 敵を倒し、その身へと経験値を貯めるのだ

 敵から奪い、我が物とせよ

 その魂に刻み込め

 それは与えられる恩恵にあらず

 神へと至る道である

 

 

 ほんのわずかであるが、倒されたキラーアントの魔素の一部がリリに吸い込まれていく。

 それは自らの経験をため込むファルナではなく。

 敵の魂の一部を自らの一部へとする経験であるかもしれない。

 

 

 その殺戮が終わるころ、リリルカ・アーデという少女に変化があった。何故か力が上がっている。細かい動作の正確性が上がっている。体力が上がっている。魔力の量が増えている。

 ファルナの更新をしていないはずであるのに。

 

「よっ!どうだ?問題なさそうだけど。」

 

 後ろから肩を叩いて声をかける。

 そこでホーリィは改めてリリを見る。

 どうやら体のあちこちを蟻のハサミで切られてしまい服がすごいことになっている。

 しかし見えそうで見えない。

 きわどい。

 

「はぁぁぁ~、疲れました。疲れました。疲れましたぁ~」

 

 あまりにも疲れたのか体の力を抜いてホーリィへともたれかかる。

 やはりぎりぎり見えない。

 

「でも、なんというか力がついている気がします。ホーリィ様の支援があったとはいえ、あんなにも沢山のキラーアントを一人でも倒せたのは初めてです。」

 

 そういったリリの瞳は誇らしそうでほめてほめてオーラをまとっていた。

 その頭をなでてやる。

 

「一旦帰って飯にでもしようぜ」

「いいですね!今の私は遠慮しません出来ません!あ、そういえば。……アイズさんも誘っちゃいましょう。今わかったんですが多分私と同じ目にあっているという気がします。」

「同じ目ってなんだよ」

「まさかホーリィ様にご自覚がないとは思いませんでした。奴隷も裸足で逃げ出すほどの労働環境です。待遇の改善を要求します」

「あー、一応聞いておくけどなに?」

「簡単です。帰りはお姫様抱っこで帰りましょう。」

 

 ドヤ顔でいうリリであったが少しばかり頬が赤い。

 

「それぐらいならお安い御用よ」

 

 そういって簡単に持ち上げる。

 

「ひゃあ!……やっぱりなしというのは駄目でしょうか?」

「いや、このまま一気に帰ってしまおう。」

 

 さりげなくリリの体が見えないように袋を持たせる。

 

「それは今日の戦利品だからリリが好きにしていいぞ」

「え?って、多くないですか?ドロップアイテムも多すぎます!それにホーリィ様にすごく手伝ってもらってるのに」

「今日の相手は殆どリリが倒したんだから別にいいだろ?施しってわけじゃないんだし」

「そうなんですけど、そうなんですけど」

「じゃあ今日の飯はリリの奢りってのはどうだ?それなら引け目に感じないだろう」

「うーん、じゃあそれで。って、騙されませんよ!?どう見てもその程度の金額で収まる量じゃないです!」

「はっはっは!速度上げるから舌かむなよ?」

「ううー、話はまだ終わってません!」

 

 

   ■   ■   ■

 

 二人が帰るころ、某主人公は様子を見に来たアイズ・ヴァレンシュタインに膝枕をされていたという。

 

 




   ■   ■   ■


「ベル様。今日はリリにも前衛をやらせてほしいのです。」

待ち合わせ場所でいつも通り合流を果たしたベルとリリはいつものようにダンジョンへと行く予定であった。
しかし、ダンジョンへと入るところで急にリリルカ・アーデが言い出したのである。

前衛がやりたい、と。

なぜこのようなことになったのかは小一時間語らなければならないが、死んだような目をしたリリルカ・アーデの顔を見ると何故?という質問をするのに躊躇してしまうだろう。

「う、うん。別にいいと思うけど、荷物邪魔になっちゃわない?前衛している間は僕が持とうか?」
「いえ、大丈夫です。大丈夫なのです。荷物を持ったままでも大丈夫なのです!」

リリルカ・アーデの死んだ瞳にヤル気が充てんされる。
それは一体誰に対しての殺ル気なのかは不明であるが。


そうしてその日の探索が開始されたのであった。

   ■   ■   ■


「リリ、左の3体は任せて!右の2体の足止めお願い!」
「わかりました!」

左に居たキラーアントへと疾走するベル。
しかしその横には同じく前へと出るリリがいた。
敏捷の数値でベルに劣っているリリは出遅れはしたものの右側に居たキラーアントへと肉薄する。
その手に握られているのは皆の育成武器筆頭のフレイルであった。

まるで何度も何度も同じ振り下ろしをしたかのように一切の無駄のないフォームでキラーアントの頭部に向かって鉄球が振り下ろされる。
それはグシャ、と音を立てて蟻の頭部を粉砕した。
そしてそれを引き戻すと更にその反動を使って次の蟻の頭部へと叩き込む。
無駄のない洗練された動き。

まるで、何千もの蟻の頭部を一撃で砕いたことがあるかのようであった。

ベルが3体のキラーアントを倒し、リリの加勢に向かおうと体を向ける。
そこにはもうすでに魔石を拾ってリリが待機していた。
相変わらず目が死んでいるがそれ以外は普通である。

「それじゃあどんどん行きましょう、ベル様。」
「う、うん。(こりゃあ負けていられないぞ!)」

無意識にリリはベルに発破をかけていた。


この日、9階層を危なげなく高速で巡回する二人組の冒険者がいたとかなんとか。



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つなぎの話


たまにあげる


 

 

 揺らめく焔が辺りを優しく照らす。

 

 

 

 そこはヘファイストスの個人的な執務室の一角。ヘファイストスのために用意された鍛冶場であった。

 

 

 

 そこで一人の女性が無心で槌を振り下ろす。

 

 それは女性の胸の形に成形された紅の結晶のようであった。

 

 一枚の鱗をどのような技術でその形へと変えたのか。

 

 鱗の質感と美しさ、深い紅を全く損なうことなく造る技術はまさに神代のもの。

 

 

 

 滴り落ちる汗をぬぐうこともせずに無心で槌をふるう。

 

 それはいつから続けられているのか。

 

 

 

 ただ硬質な音のみが響き渡る。

 

 

 

 切り取ればそれは絵画として残したくなるほどの美を感じるその空間。

 

 それは一人の違う女性によって崩されることとなる。

 

 

 

 

 

 遠くから人の喋る声をヘファイストスの研ぎ澄まされた耳が捉える。

 

 入り口には眷属が待機しているはずであるがどうやら予期せぬ訪問客が来ているようであった。

 

 

 

「せやから、ファイたんに会いに来たんやってー」

 

「今ヘファイストス様はご多忙です。誰が、どのような用事であろうともお通しするわけにはまいりません。」

 

「かたいことはいわんとってーな?いつものことやん、おじゃまするで!」

 

「神ロキ!いくら貴方様と言えども駄目です!ヘファイストス様は今鍛冶を行っています!邪魔をするなど許されません!」

 

「おー?せやかてせっかく来たのにはいそうですかって帰れるかい。ファイたん鍛冶するとどうせなかなか出てこんのんやからここは逆に息抜きさせたほうがええと思わへん?思うやろ?」

 

「おーもーいーまーせん!今ものすごく集中されてるんです!邪魔になります!」

 

「こ、こら!足に抱き付いてはなしんさい。えーい、ファイたーーーん!」

 

 

 

 

 

 ヘファイストスは皺の寄るこめかみを揉み解すと大きなため息をついた。

 

 この時点でもうすでに集中は切らされてしまっている。

 

 観念したのか立ち上がると、作成途中のものをマネキンへとかける。

 

 

 

「ほんと、誰のために作ってると思ってるのよもう。」

 

 

 

 そう愚痴るとドアを開けて原因の女神へと目線を合わせた。

 

 

 

「何か用なのかしら?」

 

 

 

 まだ少し米神がぴくぴくしているのはしょうがないだろう。

 

 

 

「あ、ファイたん!ほれみぃ。ファイたんが親友たるうちをほおっておくわけないやろ?」

 

「いえ、これはどうみても押しかけだと思います!」

 

「ええい、もうええやろ。てぃ!」

 

 

 

 足蹴にされる哀れな眷属。

 

 

 

「それで、何の用なのかしら?」

 

「そやったファイたん、一緒にお風呂入りにいこ!」

 

 

 

 ぴきりと空間に罅が入る音が聞こえた気がした。

 

 

 

「お帰りはあちらよ。」

 

 

 

 出口を指さすヘファイストス。

 

 気持ちは痛いほどわかる。

 

 

 

「いや、ちゃうねん!その、いろいろ相談したいこととかあんねん。でもここじゃあれやからやっぱり神同士で話せるといったらお風呂やん?」

 

「そんなことはないと思うけど、まあいいわ。なんて言うか完全に集中も切れちゃったし、それに汗かいちゃってるから確かにお風呂に入ったほうがいいわ。」

 

「せやろ?せやろ?ほな善は急げちゅうことやな!」

 

「あーもう。相変わらずなんだから。」

 

 

 

 ロキに手を引かれたヘファイストスはもう一度ため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かぽん

 

 ししおどしが流れる水に耐え切れずに音を鳴らす。

 

 

 

 其処は神々のみが入ることを許された聖域。

 

 清浄なる空気が流れる水場。

 

 つまりは浴場である。

 

 

 

 流れ落ちる湯から立ち上る煙の中には二人の女神が居た。

 

 すでに長く湯に入っているのか、一人は浴槽の縁に座っている。

 

 もう一人は湯の中に鼻が隠れるほど浸かっている。

 

 

 

「そろそろいいかしら?」

 

 

 

 そう言葉を紡いだのは縁に座っている女性、ヘファイストス。

 

 それに応えるように浮き上がったもう一人の女性が隣に座る。ロキであった。

 

 

 

「そのな?ちょっと相談したいんや。うちの眷属の一人なんやけど。」

 

 

 

 うん、知ってた。そう心の中で突っ込みを入れつつ平静を保っているヘファイストスは大人である。

 

 

 

「その眷属がどうかしたのかしら?」

 

「えっとな、なんていうかなんかしてあげたい思うんやけど何したらええか分からんからファイたんに知恵を借りようかと思ったねん。」

 

 

 

 ヘファイストスの思っていたよりも大分ましな相談であった。

 

 

 

「ふうん。まあ参考になるかどうかわからないけどそれぐらいならいいわよ。」

 

「ファイたんありがと!」

 

「まあいいけど。それで? とりあえず何か考えてることはあるのかしら。」

 

「プレゼント作戦や!」

 

「ロキにしてはまともだわ。」

 

「なんや酷いな!そんでな、今候補を考えとんねん。ファイたんにもアドバイスもらおうと思うてな!」

 

「そういうことならいいけど、まずはどんな眷属なのかしら?それが分からないとアドバイスのしようもないわよ?」

 

 

 

 聞かなくてもわかってはいるのだが話を聞くためにあえて聞くヘファイストス。やはり大人。

 

 

 

「え!それいわへんとダメやろか!?ううう、なんかごっつ恥ずかしいわぁ。」

 

 

 

 いやいやと顔を両手で隠してくねくねする。

 

 

 

「きも」

 

「え?なんて?」

 

「いえ、ちょっと心の声が出ちゃっただけだから気にしなくていいわよ。それで、どんな人なのかしら?」

 

「ものごっつ強い男の子供?なんやけどめっちゃ優しいねん。うちと対等に話せるし物怖じせぇへんのとか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは豊穣の女神

 

 3人の男女がテーブルを囲み食事をしていた。

 

 

 

「元気出してくださいアイズ様」

 

 

 

 そうリリルカ・アーデは目の前の机に額を未だつける女性、アイズに話しかけた。

 

 

 

「だって、だって。」

 

「物凄く不届きものですね!あのアイズ・ヴァレンシュタインに助けてもらってしかも膝枕までしてもらったのに逃げるなんて。」

 

「……二回目。」

 

「え、その人ある意味すごい運の持ち主です。」

 

 

 

 そこへ料理が運ばれてきた。

 

 どうやら注文は済ませていたようである。

 

 テーブルに所狭しと料理が置かれ、最後に酒杯が配られる。

 

 ホーリィの目の前にはお猪口

 

 

 

「ホーリィさん、昨日ぶりですね。」

 

「ん?おおこんばんは。また世話になるよ。」

 

 

 

 ホーリィ達を担当する給仕はどうやらリュー・リオンであるようだった。

 

 リリとアイズの盃にお酒を注いだリューはキラリと目を光らせると片手を突き出した。

 

 

 

「ホーリィさん、またジャンケンしましょう。私に勝てたらお酌します。」

 

「え?今二人には注いでたよね?なんで俺だけ」

 

「じゃん、けん、ぽん!」

 

 

 

 ホーリィの言葉を遮り始まったジャンケン。

 

 人の意識の間隙を突いたその戦いは完全に仕組まれたもの。

 

 そして差し出されたのはチョキとパーであった。

 

 

 

「また負けました。貴方はやはりすごい人なのかもしれない。」

 

 

 

 そういうとお猪口にお酒を注ぎ、ごゆっくりと頭を下げて下がっていった。

 

 どうやらホーリィはお酒を飲むためにはジャンケンで勝たなければならなくなってしまったようであるらしい。

 

 

 

「あの店員、笑うところ初めて見た。」

 

 

 

 ロキファミリアとしてよく豊穣の女神に来るアイズをして初めてであるらしい。

 

 

 

「まあよくわからんが食べようぜ?」

 

「そうですね。それじゃあ、乾杯をしましょう!今日もまた食べれる喜びに、乾杯!」

 

「「乾杯!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞いてくださいアイズ様!ホーリィ様は酷いんですよ。こんないたいけな少女をキラーアントの群れの中に放り込んだんです!鬼畜の所業です!」

 

「それは確かに効率がいいかも。低レベルの鍛錬場所としては、最適?」

 

「しかも、助けてくれないのです!乙女の柔肌が何度切り刻まれたか。」

 

 

 

 そういって握り拳を作るリリの体にアイズは視線を向けた。

 

 

 

「……でも、傷はないみたいだけど?」

 

「傷を負ったら何故か一瞬で回復しちゃうんです。体力とか、魔力も溢れてきちゃうんです。」

 

「なにそれすごい。でも、傷が残らなくてよかったね」

 

「そうなのですが、帰ってきて気が付いたのです。服がもうそこらじゅう切り刻まれてて。ううー。」

 

 

 

 帰った後の姿を鏡で見た時、飛び上がったのは言うまでもない。

 

 

 

「ああー、それは分かる。もしよかったらいい防具屋紹介するよ?」

 

「それはぜひお願いしたいところです。」

 

「私も防具新調しようと思ってたところ。良かったら明日にでも行く?」

 

「そうしましょうそうしましょう!」

 

「それでいいですよねホーリィ様?」

 

「何でもいいぞ。あ、いや、そうだな。」

 

 

 

 ホーリィが二人に視線を合わせる。

 

 

 

「早朝は、リリの朝練にしよう。それが終わって昼からアイズに付き合ってダンジョンに行く感じでどうだ?明日の買物はリリの朝練が終わってから合流ということで。」

 

 

 

 ぽかんとしていた二人であるがリリがいち早く文句を言う。

 

 

 

「初耳です。今日のあれをこれから毎日するんですか!?死んじゃいます!断固労働環境の改善を要求します!」

 

 

 

 まるでこの世の終わりのような表情である。

 

 

 

「すごくいい。出来ればもっとしたいけど。」

 

 

 

 対照的な表情でアイズがボソッと言う。

 

 

 

「まあ、ポータルを開いてるから次からは道中の時間も短縮されるし進みたい放題だぞ。」

 

「すごい、ホーリィすごく便利。」

 

 

 

 脳筋という言葉がここまで似合う二人もいないだろう。

 

 

 

「まあそういうわけで明日はリリは早朝からダンジョン。明日は早めに切り上げて10時ぐらいにバベルの前でどうだ?」

 

「ううー。でも強くなってるような気がするから断れない……。」

 

「ファイト。」

 

 

 

 リリはアイズの胸に顔を埋めていた顔を上げると割り切ったのかメラメラとやる気を燃やし始める。

 

 

 

「こうなったらやるだけやってやります!そうと決まればちょっと相談なのですが。」

 

「ん?どうした。」

 

「自分の戦闘スタイルについて考えてるんですけど、どうしたらいいと思いますか?以前は皆さんの後ろからボウガンで支援とかをメインにしていたんですが、これからのことを考えるとそれだけというのもまずいかと思いまして。ボウガンの効き目がそろそろなくなってくるころだと思うのです。」

 

 

 

 リリルカ・アーデとしての方向性について悩んでいるようだった。

 

 それに間髪入れずにホーリィが言葉を挟む。

 

 

 

「あー、俺が思うにリリは前衛が向いてると思うぞ。」

 

「え?」

 

「だって、リリは縁下力持っていうスキル持ってるんだよな?重装備でも動きに制限受けないって事だろ?今日もフレイルぶんぶん振り回せていたし。向いてると思う。」

 

「えっと。理由とかはすごく納得できるんですけどなんと言いますか。乙女としてどうなんだろうと思うのです。」

 

「すごく強そう。私は筋力とかが伸びにくいみたいだから少し羨ましいかも。」

 

「ううー、とりあえず頑張ってみます。」

 

 

 

 

 

 暫くしたらサイゴン鎧を着せてみよう。そんなことをホーリィ心の中で思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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リリルカ・アーデの一日

 自己視点で書くのはすごく久しぶりな気がします。
 


 朝目を覚ました私はこれから日課となる朝の鍛錬(という名の超スパルタ)に行くための準備をしています。

 そうしたところ、目の前の筋肉達磨がこういったのです。

 

「あ、そうだ。今日からはこれを装備していこうか。」

 

 軽い調子でそういうと何もない空間から無造作に全身の装備品が出てきました。

 そんな非常識にも慣れたもので、落ちてきた装備を見つめます。

 

 

「これは、何でしょうか?」

 

 

 私は目の前に積まれた純白の全身鎧に対して疑問を呈します。

 作りこまれた意匠からはその装備の格というものが読み取れます。

 今までさまざまな武具を見てきた私は一発でわかりました。

 いいえ、たとえ誰であろうとも一瞬でわかるでしょう。

 それが力を秘めた第1線級の装備を超えていると。

 

「もう蟻はいいだろ。今日はもうちょっと下に行こうと思ってるんだよね」

 

 軽い口調で告げられた内容が私の頭を右から左に通過します。

 そんなスカスカな頭でつい聞いてしまいました。

 

「えっと、どこに行くんでしょうか?」

「いや、実はさ、少し下に行ったらオークの群れがいるところがあるのよ。倒しても倒しても親玉を倒さないと無限に湧いてくるからちょうどいいかなと。」

「えっと。……リリは冒険者始めて結構経つのに初耳なのですが。」

「あれよ、行けばわかるって!」

「」

 

 

 とりあえず頭を空にして目の前の装備を着てみることにしました。

 全身鎧というものは基本的にオーダーメイドで作られるものです。

 目の前の装備も明らかに大きな人サイズ。

 試しにガントレットに手を通してみます。

 

「ひゃあ!え、ええー。嘘。」

 

 手を突っ込んだところでガントレットが私の手にあったサイズに縮んでいきます。

 その感覚に思わず変な声をあげてしまいました。

 

「ああ、装備は自動で大きさ変わるらしい。俺も最近知ったんだけど。」

「そういうことは事前に教えていただけると助かります。私のか弱い心臓的に!」

 

 しっかりと苦情を伝えると他の装備品もつけていきます。

 鎧に兜にグリーブ、ガントレットにベルト、最後に大きな盾。

 

 小さな自分には勿体ない明らかに一戦級の装備。

 同じドワーフのレベル6、ガレス氏ですらこんなに良いものは装備していないでしょう。

 

「うへへへへ。はっ!」

 

 自分の姿を思い描き思わず出た声にドン引きしている筋肉を見て正気に戻ります。

 

「それじゃあ今日の鍛錬に行くかぁ。」

「わかりました!今の私は何でも倒せる気がします!」

 

そう、今の私のメラメラと燃える魂は誰も止められませんよーー!

 

 

  ■  ■  ■

 

 

「「「「ぶおおおおおおおーーー!」」」」

 

 

 目の前に展開する肉肉肉肉にくっていうか豚。

 通路の幅を埋め尽くし、その後ろからもゾロゾロと詰めてきます。

 ここはダンジョンの10階層。

 レベルが1の中でもそれなりに経験を積んだものしか来れない階層。

 そんなところに私は来ています。

 そうはいっても私も冒険者の端くれ。

 最高到達階層は11階層でありオークの相手をするのも初めてではありません。

 

 しかし、目の前の光景は私の知る其れではありませんでした。

 

 あり得ないほどの密度でやってくるそれ。

 それに対するのは私一人!

 

 そう、私一人なのです!

 

 昨日と同じく筋肉は後ろで待機しています。

 しかし目の前の肉壁は着々と近づいてきます。

 

「ああああああああああぁああ!」

 

 目の前の豚の群れに恐れを成さないように大きな声をあげます。

 そう、今の私は以前までの私じゃない。

 やってやります!

 武器も防具も完璧!

 後ろには頼もしいヒーラー?が付いています!

 

 オーク程度が何するものぞ!

 

 

「こなくそーー!」

 

 

 私はただただ手に持った鉄塊を叩きつけます。

 

 叩きつけられた豚が後ろへと吹っ飛ばされていきます。

 でもあっという間にその隙間は後ろから来たオークに補充されていきます。

 

 その光景を見ようとも私の闘志には一片の曇りもありません。

 昨日のキラーアント無限湧きを乗り越えた私に怖いものなどありはしないのです!

 

 新しくもらった武器を握りしめるとそれを受け取った時のことを思いだします。

 

「このメイスはなんとも言えないMODしかついてないんだけどまあ、今のリリには十分だろ。殴ったらノックバックする!これさえわかっておけば大丈夫よ。」

 

 確かその時にこの武器のことを圧砕のフランジと言っていたでしょうか。

 まあぶっちゃけると金属でできたメイスです。

 まさに脳筋武器。

 一つ前に渡されたフレイルといいこのメイスといい、私を何だと思っているのでしょうか?

 

「こなくそーーー!」

 

 殴りつけたオークが魔石を残して魔素へと還っていきます。

 しかし全く減っていく気配がありません。

 私は目の前の肉の壁を見ながら只々メイスを効率よく振るっていきます。

 

 この、メイスという武器は有り余る重量で相手を粉砕する得物です。

 しかしながら弱点というものもあります。

 まず、リーチが短いこと。

 

 つまり、私がオークを殴るためには相手の攻撃を一度受けなければいけません。

 

 左手に持った身長ほどもある大きな盾を体に密着させるようにして構えます。

 そして相手の攻撃を一度受けて、相手が体勢を整える前にこちらの攻撃を叩きこみます。

 オークと私の身長差は歴然としていますので、まず一撃目は膝を狙います。

 

 メイスの弱点の二つ目は、硬いものを殴るのに向いていないことです。

 相手が盾を持っていたり、有り余る肉の鎧をつけていたりするとあまり効果がありません。

 なので、狙うのはメイスより柔らかい部位。

 つまりは関節、もしくは衝撃を逃がすことのできない頭とか首であるとか、を狙います。

 

 近づいてきたオークの攻撃を受け止めます。

 すかさずメイスを膝に叩き込みます。

 ふっとばされてなおかつ膝が粉砕されて立ち上がれないでいるオークの頭は私にとって丁度いい高さにあります。

 それを圧砕すると、オークが魔素へと還っていきます。

 

 まるで作業のようにそれを続けていきます。

 

 オークの有り余る筋肉から放たれる攻撃を完全に受け止めるこの純白の全身鎧。

 勘違いしてはいけません。

 

 これは私が強いのではないのです。

 装備が強いのです。

 

 

 私は弱い。

 私は弱いのです。

 

 

 その証拠と言わんばかりに目の前を稲妻が走り抜けます。

 

 それは一度敵に当たると更に次の敵に、次の敵にと稲妻が連鎖していきます。

 そして残されたのは辺りに巻き散らかされた魔素と、肉の焦げたような臭い。

 

「よし、そろそろ時間だから帰るぞー。」

 

 

 

 そう、私は弱いのです。

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 

 朝練を終えた私はシャワーを浴びてオークの返り血を洗い流します。

 一体朝の数時間だけで何体のオークをこの手で圧殺したでしょうか。

 今ファルナの更新を受けたら今までになく成長していると自信をもって言えるでしょう。

 特に力と耐久が!

 

 そんなことを考えながら私は着替えます。

 さっきまで着ていた全身鎧は明らかに目立ちます。

 私のような駆け出しのレベル1が着ていていいものではありません。

 バックパックへと入れると急ぎます。

 

 

「お待たせしました!」

 

 バベルの塔のヘファイストスファミリアのお店の前で壁に体重を預けている女性に声をかけます。

 

「ん、大丈夫。じゃいこっか。」

「あ、はい!」

「ああ、俺はヘファイストスに用があるから二人で行っててくれ。アイズ、昼にまたダンジョンの入り口でなー。」

 

 自由人の筋肉が相変わらずのことを言っていますがそこはもう慣れました。

 

「わかった。それじゃあリリ、行こう。」

 

 あっという間に居なくなった筋肉のことは忘れて目の前のアイズ氏についていきます。

 しかし入ろうとしているところを見て顔が引きつります。

 

 ヘファイストス本店!

 

 私如きでは敷居をまたぐのも憚られる場所です。

 

「あ、あの!ここはさすがに高すぎるので一つ上の階に行きましょう!」

「そう?リリがそういうならそうしよっか。」

 

 危ないところでした。

 どうやらアイズ氏は見たまんま金銭感覚のないお人のようです。

 ヘファイストス本店何てゼロが3つか4つ多い値段がするのです。

 

 午前の朝練にも感じましたが、やはり普段は自分の身の丈に合った装備品を使うのがいいと思ったのです。

 

 というわけでやってきたヘファイストスの支店。

 ここは本店におけるレベルではない試作品の山。

 つまりはリーズナブルな廃品置き場ということなのです。

 

「そういえばリリは何か買おうと思っている装備品はあるの?」

「そうですね、ちょっと近接戦闘を行うための物を買おうと思っているのです。」

 

 言いながら頭の中で買うものを整理します。

 欲を言えば全身鎧。しかしながらお値段がすごいのでやめます。

 なので最低限としては盾と武器。

 武器は剣とかはうまく扱える自信がないので棍棒、メイス、槌。このあたりでしょうか。

 

「えっと、なるべくお手頃な鎧があればうれしいです。あとはいい感じの盾とか、武器としては鈍器が欲しいです。」

「……リリはちっちゃいのに前に出て戦うんだね。わかった、頑張って探そう。」

「ありがとうございます!」

 

 そうして手分けして良いものを物色し始めました。

 

 まずは盾コーナー。

 相手の攻撃を受け止めるためにはある程度の大きさが必要です。

 そこで目に留まったのは少し小さなラウンドシールド。

 体の小さな私であればほとんど隠れてしまう大きさです。

 中々良いですね。キープで。

 

 次に来たのは鈍器コーナー。

 色んな鈍器が置いてあります。

 私もここ最近鈍器を使ったのでわかるのですが、鈍器に大切なのは重心です。頭を重くしすぎると遠心力が働いて強い一撃を放つことができますが、そのあとは隙だらけです。丁度いい場所に重心があると振りやすく、相手に当たった時に手首を締めて衝撃を余すことなく伝えることができます。

 そういう意味ではやはりここは駆け出し鍛冶師のお店。

 なかなか良い鈍器がありません。

 

 

 その雑多に立てかけられている中に頭一つ突き出した得物。

 

「これは、ハルバード、ですか。」

 

 手に取ったのはリリの身長の2倍ほどの長さの長柄の武器。

 その頭には小ぶりの斧と尖った槍頭。石柄は少し細いメイスかという程に重厚です。

 それを持ち上げて持ってみます。

 

「意外と重くないですね。」

 

 そうなのです。

 ファルナの更新をしたわけではないのに力が強くなっている気がするのです。

 最初は気のせいかと思っていたのですが、もうそう思うのには限界に来ています。

 

 そんなことを思いながらハルバードを振り下ろしてみます。

 それを地面ぎりぎりで止め、もう一度持ち上げます。

 

「これは良いかもしれませんね。」

 

 しげしげと細部の造りを見ていきます。

 そして値段が目に入りました。

 55000ヴァリス。

 ちょっと高いですけど全然手が届きます。

 でもそうすると当初の予定の盾とメイスを買うのは諦めることになってしまいます。

 

「どうしたの?」

「うひゃあああ!」

 

 いやいやいや、急に顔をのぞき込まないで!

 気配を消してするのはよくないと思うのです。

 

「そのですね、自分の戦闘スタイルをどうしようかと、悩んでいたのですよ。」

「あー、私はずっと剣を使ってきたから。参考にならないかもだけど、みんなと一緒にダンジョンに行っている時のことを頭の中に思い浮かべて、その時に自分が一番活躍できそうな武器にすればいいと思う。」

「はー、そんなこと考えたことなかったです。」

「あ、それはそうとこの軽装の鎧とかどうかな?顔に着けるお面?みたいなのがすごくかっこいい。」

 

 アイズ氏が差し出してきた軽鎧を出してみます。

 胸当てに体の各部を動きを阻害することなく補強しているのが分かります。

 そこまではオーソドックスなのですが。

 

「これは、お面というかなんというか。」

 

 最後に手に取ったのは顔を保護するお面のような物体。

 上下に分かれていて、口周りと目の周りに穴が開いています。

 そして何故か上半分の上部には角が二つ。

 これは所謂、鬼を模したものでしょうか?

 

「……かっこよくない?」

「かっこいい、ですね。」

 

 かっこいいかもしれないのですが、私がこれをつけるのは非常に抵抗があるというか。

 しかし思い出すのです。

 今日の朝に着た全身鎧はもっとやばかったのです。あれに比べればこんなものいくらでも着れます!

 

「すごく良さそうです。この鎧と、武器は今回はこのハルバードを買います。メイスと盾を買うのが堅実なのでしょうが、アイズ様に言われて気が付きました。ちょっと冒険してきます。」

 

 ちまちまと敵の攻撃を受けて立ち回っていたら置いて行かれちゃいます。

 筋肉の塊もそうですが、一緒にダンジョンに潜っているベル様にだって追いついて見せます。

 

 

「今日は一緒に買い物に来ていただきありがとうございました。これから頑張って足手まといにならないように頑張りますのでよろしくお願いします!」

「これぐらいなんでもないよ。昼からは昨日行った地点からダンジョン再開なんだって。今からワクワクしてるんだ。」

 

 あ、オーラがやばい。

 完全に戦闘民族の目をしています。

 でも、いつかは一緒に肩を並べれるようになりますからね!

 

「それじゃあ帰りましょうか?というよりも行ってらっしゃいといったほうがいいんでしょうか。」

「うん、行ってくるね。じゃあねリリ。」

 

 手を振って分かれます。

 姿が見えなくなると私も行きましょうか。

 今日は昼からベル様と待ち合わせをしているのです。

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 私はダンジョンの入り口でベル様を待っています。

 白髪頭に赤い瞳の小柄なヒューマン。

 決して強くなさそうな見た目にカモだと思って声をかけたのが少し前の話。

 身分相応にもヘファイストスのナイフを持っているので何度か頂戴しようとしましたが失敗してしまいました。

 今は失敗して良かったと思っています。

 

 リリは一人で、余りにも一人で生きていこうとするあまりに色んなものを失くしてしまっていたのだと思います。

 他者に対する信頼も、依存も期待さえも。

 でも今は、全てから解放されて気持ちが身軽になっています。

 だから、やらねばいけません。

 過去は清算しなければならないのです。

 

 

「ベル様、今日は10階層まで行ってみませんか?」

 

 

 だから、私は言いました。

 ちっぽけな勇気をもって前に進むと決めたのです。

 

 

 それから何事もなくベル様の先導で10階層へとやってきてしまいました。

 いつもの通り、ベル様が倒し、私が支援する。

 本当にベル様は強くなっていきます。

 普段見ている筋肉とは比べるべくもありませんが、その成長速度は驚嘆に値します。

 

「ねぇリリ、どうかしたの?」

 

 一体だけでいたオークを倒し終えた後、ベル様が話しかけてきました。

 ここまで緊張して口数が減っていたのを不審に思ったのかもしれません。

 もはやこれまでです。

 大きく息を吸うと私は覚悟を決めました。

 

「ベル様、申し訳ありませんでした!」

 

 バックパックを下すと私はベル様の前に跪きます。

 

「へっ!?リリ!?」

「今までベル様を騙していました!ベル様が大事にしていたナイフを盗ったのも私です!しかも二回も!他にもベル様の優しさに付け込んでドロップアイテムをくすねたり換金所に魔石を全部出さなかったり、消耗品を過剰に申告したりしました!」

「え、あ、うん。って、そんなことしてたの!?全く気が付かなかったよ……。」

「本当は今回ここに連れてきたのは魔物をけしかけてその隙にベル様のナイフを盗ろうと思っていたのです。でも色々あって、この数日本当に色々あって、もう一度ちゃんとやり直そうって思い直したんです。だから、せめてベル様だけには謝罪しようと思ったのです。」

 

 今まで色んな冒険者のサポーターをしてきました。

 でも、ベル様は、ベル様だけはそのどんな冒険者とも違ったのです。

 だから、新しくやり直すのだったらこの底抜けに優しいヒューマンにだけは全部を話しておかないといけないと思うのです。

 そうしないと、いけないと思ったのです。

 

「その、僕馬鹿だからさ。今までリリに何かされてたなんて全く気が付かなかったよ。はは……。その、だから別にいいんだけど。そんなことより、何があったの?リリ大丈夫?」

 

 心配そうにこちらに手を差し伸べてくるベル様にさすがの私もプッツンします。

 

「あああもう!ベル様ばっかじゃないんですか!?もしかしたらベル様殺されてたかもしれないんですよ!?良くても身ぐるみはがされてたのにその犯人を気遣ってる場合ですかもう!」

「そんなこと言われても放っておけないよ。」

「リリは盗人で汚くて役立たずで卑しい小人族です!」

「リリにはいつも助けられてるよ。ここまで来れたのだってリリのおかげだよ。」

「……私じゃなくてもサポーターならこれぐらい誰でもします。」

「だってリリだから。」

「……またベル様が馬鹿なことを言ってます。」

「僕はリリが良い。リリじゃなきゃダメなんだ。」

「ばかです。本当に馬鹿です。」

「そんなに馬鹿かなぁ僕。」

 

 ポリポリと頬をかくその姿は何とも頼りなく、でもとても誠実です。

 この人を信じられなかったら何も信じられない。

 もう一度、一歩を踏み出すと私は決めたのです。

 

 顔を上げた私とベル様の瞳が交錯します。

 こういう時、普段の頼りなさが嘘みたいに頑固になるのを短い付き合いで私も知っています。

 

「あの!」

「あ、うん。」

 

 一瞬の静寂の後、ベル様が口を開こうとするのを大きな声を上げて邪魔をします。

 これは私から言わないと駄目なのです。

 

「ベル様、こんなリリですが、これからもパーティを組んで頂けないでしょうか?」

 

 私はもう一度頭を下げます。

 そんな私の手をベル様は取って持ち上げると優しく言いました。

 

「ほら立って?僕ってほら、こんなだからさ。リリが居てくれると心強いんだ。また新しく、よろしくお願いします?」

「……なんで疑問形なんですかぁ。」

「いや、その。僕としては別にパーティ解散したつもりがないから最初っから続いているわけで改めて言うのは何か違わない?」

「ベル様は天然というかなんというか。まあいいです。私に隠し事はもうないですし、これからバリバリお役に立って見せます!」

 

 そうしてバックパックから今日買った軽鎧とハルバードを取り出します。

 

「今日から私は戦うサポーターです。ベル様の足はひっぱりません!」

「え、あ、うん。無理はしないでね。」

 

 明らかに引いた表情のベル様。

 ここは一つデモンストレーションが必要ですね。

 

 そう考えていたところにオークが3体やってきます。

 その手にランドフォームである棍棒を持っています。

 朝に相手をした重装備のオークに比べると雑魚もいいところです。

 

「リリっ!」

 

 オークの接近に同じく気が付いたベル様が戦闘態勢を整えます。

 

「ベル様、私が戦えるとお見せしましょう!この3体は私に任せてください!

「えっ!?無茶だよリリ!?」

 

 私の言葉がそんなにも意外だったのか、明らかに狼狽したベル様の横を通り過ぎて私はオークに接敵します。

 先頭のオークが私に標準をつけます。そして射程に収めてその棍棒を振り上げていく。

 

「こなくそーー!」

 

 遅い。

 遅すぎる。

 私が横から振りぬいた長柄の斧頭がオークの分厚い首に刺さります。

 それは止まらずに反対側へと抜けていきます。

 少し遅れてオークの頭が回転しながら飛んでいきました。

 それが一拍の後魔素へと戻っていきます。

 

「え、つよ。」

 

 後ろから聞こえる声から意識を戻し次のオークへと向き直ります。

 先頭のオークが瞬コロされたからなのか、完全に腰が引けている。

 それに近づくとオークが横なぎに棍棒を振り回した。

 それをバックステップで避けるとすぐさま前に飛び出す。

 ハルバードを振りかぶりながら。

 

 それは斜め上からオークの頭へと突き刺さり、胸のあたりまでめり込む。

 すかさずぐっと手首を返して肉をえぐるとそのまま引き抜いた。

 

 仲間がやられているすきにこちらを攻撃しようとしていたオークに槍の穂先を向ける。

 それを渾身の力で突き刺した。

 

 あとに残ったのはまき散らされる魔素と血に染まったハルバードを持ったリリだけでした。

 

「ふぅーーー。あ、どうでしたかベル様!最近リリも鍛錬していまして前より力が強くなったんです!」

「う、うん。頑張る。僕ももっともっと頑張らなくちゃ!」

 

 

 

 その日、10階層のオークが絶滅するのではないかという勢いで狩りつくされるのであった。

 

 

 

 




ソーマファミリア団員A(以下A)「っていうかおせーな」
B「本当に今日決行すんのか?」
C「ちょっと様子見に行ってこようぜ」

 ベルたちのところまで行く3人衆

A「おい、あれがリリなのか?」
B「嘘だろ、レベル1の動きじゃねぇぞ」
C「あ、俺もうこの案件下りるわ」

 そこには鬼の面頬をつけ、身の丈を遥かに超えるハルバードを振り回しオークを殲滅するリリの姿が。

A「もう俺あいつに舐めた口きくのやめるわ」
B「俺もう近づかんわ」
C「早く帰ろうぜ」


 意図せずリリはソーマファミリアから距離を置かれるのであった。


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IF【ダンジョンでネファレムを目指すのは間違っているだろうか】~もしもリリの前にポータルが開いたなら~


 皆さんご存知ですか?

 ディアブロⅡリマスターが9月23日に発売が決定したんですよ!!!!!!!1111111
 作者は鼻血が出そうになりました。

 と、言うわけで布教活動もとい発売決定記念ということでもしもシリーズ第一弾を投稿します。
 9月23日にバトルネットで待ってますよ!


 

 

「冒険者様お願いします。ベル様を、ベル様を助けてください!御恩には必ず報います。リリは、何でもします。なんでもしますから、ベル様を助けて……」

 

 

 

 勇敢にミノタウロスへと挑む少年とそれを見届ける強者たち。

 

 

 

 そんな中、ただただ助けを求めることしかできない弱い存在。

 

 

 

 自らではどうにもならず、あまつさえ足を引っ張ってしまう。

 

 

 

 一緒に進むと誓ったはずなのに。

 

 

 

 もう裏切らないと誓ったはずなのに!

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

 月明かりが明るく照らす。

 

 そこはヘスティアファミリアの拠点の近くの橋の下。

 

 一人の少女がとぼとぼと歩いていた。

 

 

 

 顔は暗く下を向いてうつむいている。

 

 

 

 その少女の名前はリリルカ・アーデという。

 

 つい先日ベル・クラネルという冒険者と紆余曲折あったものの正式にパーティを組むことになった少女である。

 

 その当時の前途洋々とした希望に満ちた表情はもうない。

 

 あるのは自らへの失望。

 

 また助けられるだけの存在へと成り下がってしまった自分への負の感情がその視線を地面へと縫い付けていた。

 

 

 

 ファルナの更新は絶望的

 

 戦闘能力は上層どまり

 

 ダンジョンの攻略階層は追いつかれる。

 

 

 

 何よりも自らを不安にさせるそれ。

 

 

 

 

 

 

 

 私は、置いて行かれるのではないのか?

 

 

 

 

 

 ベル・クラネルという冒険者の異常なまでの成長速度。

 

 それはずっと前から停滞しているリリルカ・アーデとの圧倒的な違い。

 

 

 

 考えれば考えるほど不安になる思考。

 

 

 

 

 

 そんな時、

 

 ふと、

 

 顔を上げた。

 

 

 

 

 

 明らかな違和感とともにあったのは扉であった。

 

 ただし、

 

 

 

 その扉は何もない宙に浮いていた。

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 思わず漏れた疑問の声が少女の喉から発せられる。

 

 それもそうだろう。

 

 その扉は何かに頼ることなくそこに存在していた。

 

 あたかもそれが当たり前のごとく。

 

 

 

 しかしその怪しい扉へと少女は近づいていった。

 

 まるで夢遊病患者のごとくふらふらと。

 

 

 

 明らかに普通ではない扉。

 

 常人であれば警戒するであろう扉。

 

 しかしその扉の取っ手へと少女は手を伸ばし、ひねった。

 

 ごく自然に。

 

 まるで我が家の扉を開けるかのごとく。

 

 

 

 そして開かれ、入った。

 

 

 

 リリルカ・アーデという少女は気が付かない。

 

 自らの渇望がその扉を引き寄せたという事実を。

 

 何の疑問も抱かないという不自然を。

 

 

 

 

 

 これはリリルカ・アーデという少女の進む修羅の道。

 

 ただ一人の Asura Realm 

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

 扉の中に入ったリリはそのまま進みそして止まった。

 

 

 

 そこは広間だった。

 

 

 

 真ん中には焚火がたかれ、その周りには寝るためなのかハンモックがある。道具をしまう宝箱のような入れ物に何やら不思議な台座。そして満天の星空。

 

 

 

 そう、扉の先は外だったのだ。

 

 それを頭を巡らしリリは確認した。

 

 その後ろで入ってきた扉が閉まる。

 

 

 

 その瞬間、リリは正気へと戻った。

 

 

 

(わ、私は何をしているんでしょうか!?こんなあからさまに怪しい扉に無警戒に入って呑気に空を見上げているなんて!)

 

 

 

 そう考えたリリはすぐさま踵を返すと元来た扉から帰ろうとした。

 

 

 

 しかし、それは叶わなかった。

 

 

 

「おやおやおやおや、これは珍しい。珍しいですね。一体この場所へ人が来るのは何時ぶりなのでしょうか?しかもただの人が!」

 

 

 

 振り返ったリリの目の前で大げさに手を広げるなにか。

 

 

 

「しかし喜ばしい。このネファレムの鍛錬場へ人が来なくなって幾星霜。私の存在意義を久しぶりに果たせるというもの。なんと素晴らしい日でしょうか!」

 

 

 

 仰々しい身振りで蠢く何か。

 

 それは人の形をした何かであった。

 

 一言で表すなら幽霊、ゴースト、地縛霊。

 

 はっきり言うと人ではなかった。

 

 

 

 それを確認したリリの動きは早かった。

 

 脱兎のごとくその人影の横をすり抜けるように進み入ってきた扉へと進む。

 

 その手が扉の取っ手へと掛かり今まさに扉を開けるのではないかというところで後ろから声がかかる。

 

 

 

「おや、帰られるのですか?せっかく力が手に入るというのに」

 

 

 

 扉の取っ手を開けようとする動きが無意識に止められる。

 

 そしてゆっくりとリリルカ・アーデは振り返った。

 

 振り返ってしまった。

 

 

 

「…どういうことですか。」

 

 

 

 まさに悪魔の囁き。

 

 自らの悩みの根源。

 

 

 

 私が弱くなければ、せめて肩を並べられる存在であれば。

 

 

 

 そんなリリの心の隙間へと言葉が入り込んだ。

 

 その誘惑によってリリは振り返ってしまったのだ。

 

 

 

「申し遅れました。私、カリムと申します。このネファレムの鍛錬場の管理人をしております。ようこそこの次元の狭間へ!」

 

 

 

 そういって腰を折るカリム。

 

 

 

「そんなことはどうでもいいのです。今あなたが言った言葉。……どういう意味でしょうか?」

 

 

 

 

 

 いつでも逃げれるように身構えながらリリは考えていた。

 

 目の前の不定形の人型が何を言っているのかが全く分からない。

 

 わからない、がしかし、見逃せない言葉を放っていた。

 

 

 

 

 

 そう、力が手に入ると。

 

 

 

 

 

「ほうほう。どうやら混乱しているようですね。良いでしょう、説明いたしましょうか。」

 

 

 

 そういうとカリムは話し始めた。

 

 

 

 

 

 ここは次元の狭間にある何処でもない場所。

 

 力を求めたネファレム(と呼ばれる強大な種族)の鍛錬場である。

 

 カリムはこの鍛錬場の管理人でありそれ以上でもそれ以下でもない。

 

 力を求めし者の前に現れるという話であった。

 

 

 

 

 

「さて、どうしますか?安寧を求めるならそれもまたよし。しかし、そうでないのなら、貴方の力になれると思いますよ?」

 

 

 

 その言葉に抗うすべを少女は持っていなかった。

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

「どうしてリリは来てしまったのでしょうか 」

 

 

 

 黄色い波紋が広がるポータルの前に立つリリからため息が漏れる。

 

 ネファレムの鍛錬場の管理人であるカリムの甘言に乗ってしまいあれよあれよという間に入ってしまったのである。

 

 

 

 それは少し前の出来事であった。

 

 

 

 

 

「リリルカ様は力を求めているのですよね?それでしたらこのネファレムリフトへと入られるのがよろしいかと思います。そうですね、要は毎回内部構造の変わるダンジョンのようなところです。ここで得た経験はきっと貴女の為になるでしょう。安心してください、もし危なければここへ帰ってくればいいのです。とりあえずお試しに一度どうでしょう?」

 

 

 

 そして餞別にとショートソードとバックラーを渡されて今に至る。

 

 

 

「でも、冷静に考えるとこれはチャンスです。こっそりと経験を積む事ができるはず。あの管理人の話によるとここでの時は止まっているという話ですしいくらでもベル様に追いつく事ができます。そうです、もう決してベル様を裏切ったりしたくありません 」

 

 

 

 

 

 強い決意とともにリリは一歩を踏み出した。

 

 その瞳には揺るぎない意志の力が宿っていた。

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

「やあ!おかえりなさいませ? 」

 

 

 

 目ざめたリリの頭上から声がかけられる。

 

 ゆっくりと浸透したその言葉にリリは飛び起きた。

 

 

 

「……!っ、あれ。リリは、モンスターは?え、夢?」

 

 

 

 周りを見回して、そして自らの体を見下ろして、そして目の前のカリムをリリは見上げた。

 

 

 

「夢ではありませんよ、中々に貴女は雑魚ですねぇ。伸びしろがあるとも言いますが。」

 

「えっと、その、どういうことですか。」

 

 

 

 未だに状況がつかめていないリリに向かってカリムが優しく語り始める。

 

 

 

「貴女はネファレムリフトへと入ったのですが、ゴブリンにやられてしまいここへ戻ってきてしまいました。おっちょこちょいですねぇ。あれぐらいは倒していただかないと困りますね。」

 

 

 

 そうしてやっとリリは思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

 意気揚々とリフトを潜ったリリが降り立ったのは大きな木立が生えている林の中であった。

 

 そこから少し進むとすぐにモンスターと遭遇する。

 

 ゴブリンが5体に体格が2倍ほどあるゴブリンが1体。

 

 ダンジョンのそれとは違い、モンスターは武装していた。

 

 一般的にきちんとした武装をしているモンスターは適正階層よりも強いモンスターであることがほとんどである。

 

 

 

 そんなモンスターが6体。

 

 明らかにリリ一人では荷が重い。

 

 

 

「嘘、ですよね。もしかしてとんでもないところに入ったんじゃ……?」

 

 

 

 今更ながらにカリムの口車に乗ってしまったのだとわかってしまった。

 

 

 

 そんな戦慄を受けたのがまずかったのか、ゴブリンの一体と目が合う。

 

 リリを認識したゴブリンは周りに知らせるように奇声を上げるとリリへと走りよる。

 

 そしてあっという間に両者の距離は縮まっていく。

 

 リリはなし崩し的に剣を鞘から抜き放った。

 

 

 

 

 

 それが開戦の合図となったのだった。

 

 

 

 

 

 バタバタと音を立てて走ってくる先頭のゴブリンは何の工夫もなく剣を振り上げるとリリに向かって振り落す。

 

 しかしそこは腐っても冒険者。

 

 リリはあっさりと右によけると下段に構えた剣を抜き放った。

 

 それは剣の扱いが得意ではないリリルカ・アーデにとって会心の一撃となる。

 

 

 

 あっさりと振りぬいた剣はゴブリンの喉を切り裂いた。

 

 切り裂かれた喉を両手で押さえて膝をつくゴブリンを横目にリリは先を見据える。

 

 

 

「私は、これ以上お荷物に何てなりたくない。たとえそれが悪魔に魂を売ることになろうとも!」

 

 

 

 剣を振り、ついた血糊を振り払う。

 

 

 

 仲間がやられ狼狽えるゴブリンをにらむとその切っ先を残りの残党へと向ける。

 

 

 

「もう、私は逃げたりなんてしない!」

 

 

 

 

 

 

 

 戦意を滾らせたリリであったがその後に大量のモンスターと出くわすこととなる。

 

 

 

 ゴブリンシャーマンに率いられたゴブリンの群れ。

 

 蠢くゾンビ達。

 

 針を飛ばすヘッジホッグ。

 

 杖を持ち魔法を使うミノタウロスのようなもの。

 

 

 

 勝てるとか、勝てないとかそんなことは一切考えずに遮二無二モンスターへと向かっていく。

 

 そしてそれを切り伏せていくリリ。

 

 

 

 それは戦っているリリルカ・アーデですら不思議に感じることであった。

 

 

 

 

 

 そう、なぜ私はこんなにも戦えているのか?

 

 

 

 

 

 ただでさえ体格の恵まれない小人族。

 

 その女性であるリリがレベル2相当のモンスターであるミノタウロスとも戦えている理由。

 

 それこそがネファレムの鍛錬場の秘密であった。

 

 

 

 ネファレムの鍛錬場は、その人にとって同格となる敵が現れるのである。

 

 決して倒せぬ敵な出ててきはしない。

 

 故に鍛錬場。

 

 

 

 これがリリの戦えていた理由である。

 

 

 

 

 

 さらに息をつかせずに現れる敵を屠っていたリリが目の前のミノタウロスシャーマンを切り伏せる。

 

 

 

 そこで一旦周りに敵がいなくなったと思った時、それは起こった。

 

 

 

 

 

 目の前の空間が渦まく。

 

 そしてそれは徐々に形を作っていく。

 

 空気中の魔素を取り込むかのようにしてそこに顕現したのは全身を甲冑で固め、手に大きな長柄の武器を持った騎士のようなものであった。

 

 しかし、その頭蓋に肉はついておらず眼窟は暗い光を湛えるのみであるが。

 

 

 

 

 

「ヴオオオオオオォォォォ!」

 

 

 

 天に向かって大きく吠える2メートル半はあろうかという巨大な騎士。

 

 

 

 それと対峙する少女はそんな騎士を見ながら表情を変えずに剣を構える。

 

 その心のうちは非常に好戦的なものであった。

 

 

 

「やれる!私はやれる!見ていてくださいベル様。もう絶対に不甲斐ないところを見せたりしません!」

 

 

 

 リリはここまで続いていた連戦で完全にハイになっていた。

 

 いつもであれば逃げるべき敵であるにもかかわらずそれを正面から対峙する。

 

 そしてそれを不退転の瞳で睨んだ。

 

 

 

 

 

 そして一対一の死闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 先手を取ったのはリリであった。

 

 騎士の広いリーチを掻い潜り、斬りつける。

 

 そしてすぐさまに離脱する。

 

 

 

「……かったいですねぇ!でも、勝てないわけでありません!」

 

 

 

 リリの分析の通り騎士の攻撃は大振りであり避けるのは容易。

 

 そのうえで小回りの利くリリはヒットアンドウェイを選択した。

 

  

 

 何度も交錯する二つの影。

 

 

 

 リリは何度も騎士を切りつけながら感じていた。

 

 その手ごたえの無さを。

 

 

 

 確かに切りつけてはいるもののそれは鎧までの話。

 

 致命傷には程遠い。

 

 

 

 一進一退の続く攻防に痺れをきたしたのか、騎士が大きく後ろへと飛び退がる。

 

 そして大きく咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

『オオオオオオオオオオォォオオオオオオオオオォォッ!!!!』

 

 

 

 全身に力を滾らせた騎士は眼前の戦士へと手に持った大きな斧槍を構えた。

 

 

 

 一瞬で間合いを詰めた騎士が大きく得物を振り回す。

 

 それをリリは紙一重で後ずさり躱した。

 

 遅れて聞こえてくる風切音がその威力を物語る。

 

 

 

 しかしそれは一度で終わりはしなかった。

 

 

 

 どのような膂力で成されたのかそれは再び切り返される。

 

 切り返すと同時に前に出た騎士によって後ろへの逃げ場を失うリリ。

 

 

 

「つっ!!!」

 

 

 

 刹那の見切りをもってその上体を地面すれすれにしゃがみ込むことにより回避する。

 

 

 

 騎士による二連撃を回避したリリは体勢を崩して隙を見せた騎士をその目の前に幻視する。

 

 

 

 しかしその目に映ったのは手に持つ斧槍を更に振り上げた騎士の姿であった。

 

 二度あることは三度ある。

 

 

 

 もはやリリに考える力は残されていなかった。

 

 目の前で振りかざされる暴力に対して本能のみで行動する。。

 

 

 

 リリは踏み込んだ。

 

 

 

 本能であったのだろう。

 

 前に出てきた騎士と、踏み込んだリリ。

 

 二人の距離が詰まる。

 

 それがぶつかる時、 

 

 

 

「うあああああああああ!」

 

 

 

 リリの持っていた小さなバックラーが騎士を下から突き上げる。

 

 それは完全なカウンターとなり騎士の体勢を崩す。

 

 

 

 そして両者の距離がほんの少し開いたその瞬間。

 

 リリの瞳がカッと開く。

 

 

 

 ここしかない。

 

 

 

 バックラーをかち上げるときも引き絞っていたショートソードの切っ先を体勢の崩した騎士の胸に向ける。

 

 それを渾身の力をもって突き入れた。

 

 

 

 それは鎧を貫通し、胸を貫通し、更にその巨体を後ろへと吹っ飛ばした。

 

 

 

 肩で息をする少女の目の前に騎士が仰向けに倒れる。

 

 それは勝者と敗者を明確に示していた。

 

 

 

 それでも注意深く騎士を睨み付けていたリリの目の前で騎士の体の輪郭がぼやける。

 

 輪郭が保てなくなると一気に体が弾け空気へと溶けていく。

 

 

 

 最後に地面へと突き刺さる一振りの剣を残して。

 

 

 

 トコトコと地面に突き刺さる剣へと歩いていくリリ。

 

 そしてその剣を引き抜き空へと掲げる。

 

 それは勝利の実感と湧き上がる感情を爆発させた。

 

 

 

「やりましたーーーーー!げふっ!」

 

 

 

 剣を掲げた姿勢のリリの脳天にゴブリンの放った矢が刺さる。

 

 それは騎士との死闘で減ったリリのLPを削り切ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 

 

 

「ふぁーーーーーっく!」

 

 

 

 ゴロゴロと地面を転がるリリ。

 

 さもありなん。

 

 強敵との激闘を制したにもかかわらず、油断してしまい雑魚の一撃でやられてしまったのである。

 

 悔やんでも悔やみきれないであろう。

 

 

 

「エーックセレント!死んでしまいはしたものの、及第点は与えましょう!なにより、敵を殺すそのが狂気いいですねぇ。」

 

 

 

 そんな声を聴いてリリは正気へとやっと戻った。

 

 のそのそと起き上る。

 

 

 

「……説明、してください!」

 

「良いですとも!それが私の役割でありますので。まず、一つ目ですがここでは死んでも蘇ります。何しろここは何処ででもありどこででもない場所。貴女が諦めない限り、何度でも戻ってこれるでしょう。最初に言わなかったのは、そのほうが面白いでしょう?」

 

 

 

 その言葉にカリムを睨み付けるリリ。

 

 

 

「面白くない?私は面白かったですよぉ?おっと、二つ目ですがネファレムリフトで手に入れたモノは持ち帰れます。貴女がその手に持った剣のようにねぇ。」

 

 

 

 カリムが指をさした先には一振りの剣が無造作に転がっていた。

 

 

 

「その剣の形状には見覚えがあります。幾多の英雄がその手にしてきた中でも最も古く、そしてもっとも尊い劔。名をグランドファーザーと言います。決して折れないその刃はこれから貴女を裏切ることなく支えるでしょう。」

 

「グランド……ファーザー」

 

 

 

 拾い上げたその剣は手に持ったリリにとって明らかに大きい。

 

 大剣といって差し支えないその剣をリリは構えると振り下ろす。

 

 それはカリムの首にピタリと止まった。

 

 

 

「おお怖い!最後に三つ目ですが、ネファレムリフトで得た経験は貴方の魂へと刻まれたことでしょう。どうです?もっともっと強くなりたくなったでしょう?」

 

 

 

 カリムのその顔は隠しきれない愉悦に歪んでいた。

 

 それは自らの役目を果たせることからきているのか、それとも力を求めるものが失くす人間性を見る愉悦からくるのか。

 

 差し伸べられた手は新たに開いた黄色いポータルへと誘われていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そろそろ帰ります。」

 

「は?いえ、ここはポータルに入る流れでは?」

 

「なんでそうなるんですか!リリは別に他の人たちみたいに戦闘狂というわけじゃありません。力が欲しいのだってベル様に置いて行かれそうだから欲しいんであってそれ以上は別に望んでいません。そんなことより暫くベル様に会っていないからベル様成分が枯渇し始めています。早急に補給しないと。」

 

「えぇー。」

 

「というわけで帰ります。」

 

 

 

 踵を返して出口へと進むリリ。

 

 その背中へとカリムが声をかけた。

 

 

 

「きっと後悔しますよ?もっと力があればと。あの時もっとやっておけばよかったと!」

 

 

 

 扉に手をかけたリリが振り返る。

 

 

 

「それなんて俺つえーですか。リリはベル様と一緒に前に進みたいんです。だからこれ以上はもういいです。―――――それに、力を望む人の前に現れるというのなら。」

 

 

 

――――――――また、会えるかもしれませんね?

 

 

 

 

 

 そういうとリリは扉を開けて今度こそ振り返らずに出ていった。

 

 

 

 その後ろ姿を見送ったカリムは思案する。 

 

 

 

「……選考ミス?いやありえません。素質は十分だったはず。で、あれば、またここを訪れるのでしょう。私はその時を心待ちにするとしましょうか。この何処とも知れぬ狭間で。」

 

 

 

 

 

 リリは知らない。

 

 倒したモンスターから得た経験値が魂に蓄積され、魂の位階を上げていたことを。

 

 リリは知らない。

 

 近接戦闘においてリリはすでにベルを超えるレベルに達しているということを。

 

 リリは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――狂気からは、逃げられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 それはリリだったのか。



 それともあなただったのか。


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