one-piece ~Sibling~ (ゆんあ)
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1.プロローグ

 騒がしく、慌ただしく、人はバタバタと倒れ、キズだらけになり血を流してる人たちが沢山いる。

 

「うわああああああああああああああっ――!!」

 

 聞こえてきた叫び声は……悲しみ? そんな簡単な一言で、表せる声ではない気がする。

 

「なんとかしねぇと! あいつら、もう……エースを処刑する気なんだ!!」

 

 エース? 処刑? その言葉が耳に入り、胸が締め付けられる。

 エースって誰? エースって人はなんで処刑されなきゃいけないの?

 

 助けなきゃ! あたしも行かなきゃ! ルフィだけには任せてはいけない……!!

 

 知らないはずの名前が、急に自然と頭に浮かび上がる。

 ルフィ? それにエース。知らないはずの名前だけど、モヤモヤとした気持ちだけが何故か膨れ上がる。

 

 何かをしようと身体を動かそうとしても、何故かあたしの身体は動かない。

 この戦場であたしは、ケガをしてしまったのだろうか?

 

 そんなことを考えていると、ふとガタイの良い老人が目に入る。知らないはずの人の名前と顔が、何故か一致した。

 

 じぃじとルフィ? そうか、じぃじは海軍だもん。

 海賊のエースを助けるには、ルフィも海賊だから海軍のじぃじとぶつからないといけない。

 

 じぃじ……ゴメン。2人ともじぃじの事を文句言いつつも、本当は大好きなの知ってるでしょ?

 だけど、エースはあたしのたった1人の肉親――そうだ、双子の兄のエースを助けたい。

 

「エースーーーー!!」

 

 声も出ない、動けないあたしの代わりに、ルフィがエースの手をとった。

 

 良かった!! ……本当に良かった? エースは、助かった?

 

 ――――ルフィの叫び声が聞こえた瞬間、あたしの記憶はここでプチッと途切れた。

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「お、起きたか?」

「っ?!」

 

 人の声がしてあたしは飛び起きた。

 ここは……どこ? あたしは、何をしてたんだっけ――?

 

「エース! エースとルフィはどこっ?!」

「なんじゃ、まだ寝ぼけておるのか?」

 

 人の声で起きた事を忘れてたあたしは、その人を睨もうと声のする方を見たが、人の気配は感じるが声の主はいない。

 

「はっははは! お主には、ワシはまだ見えんよ」

「見えない……?」

「そう。これから生まれるのだからのぅ」

 

 戦場で負傷して……何故かここに居る。

 死んだと言われるなら、まだわかるけど……生まれる?

 

「さっきのは夢じゃ――まぁ、正しくは、お主がいない世界での出来事じゃ」

「あたしが居ない……?」

「そうじゃ、ちぃとだけ手違いでのぅ。お主があの世界へ生まれんくなって、しまったからに……今から時間を巻き戻すんじゃ」

 

 声の主が言ってる事がよくわからない。

 

「わからないって顔じゃのぅ。まぁいい、生まれればなんとかなるわい。そろそろ時間じゃ! いい人生を!」

「どういう事?! ちょっ……っ」

 

 その瞬間、あたしの意識はまた遠のいた――。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「うぎゃああ、おんぎゃあああっ」

 

 もう、うっさいなぁ! 人が寝てるのに、わざわざ泣いて起こさないでよ! もぅっ!

 隣で泣いてる、兄のエースを睨もうと身体を向けようとするが動かない。

 

 あれ? なんで、動かない?

 そんな事を考えてると、ふと自分の小さい手が目に入る。

 

 あぁ、そうか自分も赤ちゃんだった。

 エースと双子なのに、あたしが赤ちゃんじゃないわけがないよね。

 

 ん? あたしってば赤ちゃん? えーっと……なんで、赤ちゃん? まぁ、人だから人生は赤ちゃんから始まるのは当たり前なんだろうけど、赤ちゃん? 何か大切なことを忘れてる気がするけど、こんなにはっきり赤ちゃんって状況判断出来るの?!

 

 だったら、なんでギャンギャンとエースは泣いてるの? はぁ……もう、この静かな部屋で何をそんなに泣く必要があるの? いい加減泣き止めばいいのに。

 

「おうおう、泣いとる泣いとる」

 

 この声はじぃじだ。

 ん? 待てよ。なんで、横で泣いてるエースもそうだけど、初めて聞く声なのにじぃじってわかったんだ?

 

「お前は女の子だからのぅ……どうしたもんか」

 

 泣いてるエースを無視して、あたしを抱き上げるじぃじ。

 

「とりあえず、アンだけは村長の所に連れて行くかのぅ」

 

 村長? ってフーシャ村の村長のことかな? って「アンだけは」という事は、エースとあたしは別々にするということ? 嫌だよ。あたしは、エースと離れたくない。

 

「おぉ……妹の方が泣くなんて珍しいのぉ。おー、よしよし!」

 

 あたしは言葉を話せない……のか。

 文句を言おうとしたら「おぎぁ」と、自分の口から甲高い泣き声が漏れる。

 

 

 ――なんじゃ? アンは生まれてないはずの時間の、エースの記憶もあるのか。まぁ、いいか、お詫びじゃ。大きくなるにつれ、思い出さなくなるじゃろ。ほっほっほっ!

 

 頭に急に響い来た声に「えっ?! 何それ?!」と驚くも、言葉が喋れないあたしは、そのままじぃじに抱かれて村長の所に連れてかれた。

 

 



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2.ルフィとあたし

「マキノねぇね! 酒屋のおじさんが裏にお酒の樽を置いてくって!」

「あら、アイちゃん。報告ありがとうっ! ご褒美にオヤツ出してあげるね」

「わぁい! あいがとうっ!」

 

 フーシャ村の村長のじじちゃんのお世話になって、あたしは3才になって、あたしの名前はアイと言うらしい。

 ……んだけど、自分の名前にどうも引っ掛かりがある。それに何か大事なことなことも忘れている気もする。

 忘れていることもあるだろうけど、きちんとそれでも覚えてることもある。

 

 ――あたしには双子の兄のエースがいる。

 

 それに自分が赤ちゃんで、喋れない時もみんなが言ってることは理解はしてた。

 それにエースとは別々に暮らしてて、喋れなくて聞けなかったことがやっと聞けるようになった。

 

「ねぇね? エースって知ってる?」

 

 背が低くて座るのも大変なカウンターの椅子によじ登りながら、今日こそはと思いマキノ姉ちゃんに聞く。

 

「エース? 知らないわね、新しいお友達?」

 

 本当に知らないのか、ねぇねの顔色をジっと見つめるけど、変わる様子はない。

 村長のじじちゃんに聞いてもはぐらかされて、教えてくれないからねぇねは何か知ってると思って聞いてみたけど、やっぱり知らなそう。

 

「そっかぁ……知らないのかぁ」

「アイちゃんのお友達じゃないの?」

「うん。多分、にぃに」

「そう……え? にぃにって、お兄ちゃん?!」

 

 やっぱり驚いてるってことは知らないのか。

 ってことは、あたしのエース以外の家族のことを、ねぇねに聞いてもきっとわからない。

 

「……ふぅ」

 

 驚いてるねぇねを横目に、ぼーっと考えてると何故か外が慌ただしい。

 

「ちょっと待て、ガープ!」

「わっははは! またーん!」

 

 じじちゃんと、じぃじの声がしたと思ったらバーンと勢いよく店のドアが開く。

 

「おお、アイも居たか。ほら、弟を連れて来てやったぞ!」

「わわっ!!」

 

 ほれ、と言われてじぃじが連れて来た赤ちゃんを投げるように渡されて、思わず落としそうになる。

 

 いや、じぃじ……3才になったばっかのあたしに、赤ちゃんを投げるってそんなに腕力ないよ? 落としたらどうすんのよ。

 

 しかも、弟って……何? あたしの母さんと父さんはまだ居るってこと? いくらなんだって、あたしとエースを産んだ時に母さんは死んだはずだから、母さんが生きてることはまずありえない。

 

 顔も名前も知らないけど……じゃあ、父さんの?

 

「そいつの名前はルフィじゃ、アイ可愛がってやれよ! わしは行く所があるから、後は任せたぞ村長!」

「おい、ガープ!」

 

 あたしも何が起こったのかわからず、ルフィを抱いたままじぃじを追い掛けるように外に出ると、じぃじがピタリと止まる。

 

「お前はまだ山には行ってはならん。その子を頼んだぞぉ?」

 

 わっはははは! と笑いながら、山の方に向かっててしまった。

 

「まったく勝手なやつじゃ……」

 

 うん。あたしも、じじちゃんと同じでそう思うよ。

 

 ――弟……か。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 ルフィとあたしが姉弟になって数年が経ったある日。

 

「カナヅチは海賊にとって、致命的だぜ!!」

 

 ぎゃははははっ! とマキノ姉ちゃんの店で賑やかに笑ってるのは、最近この村を拠点のなんだかやってる、赤髪海賊団の人達だ。

 

 その船長のシャンクスとルフィが何やら言い合ってる。

 

「あんた、バカね。そんな変な気合いじゃなくて、泳ぎの練習で気合いを見せなさいよ!」

 

 その言い合いにあたしも混じって、何を思ったかナイフで自分の目の下にキズを作ったルフィのキズのあるとこをペシッと叩く。

 

「いってぇぇ! アイ何すんだよ!!」

「何って、叩いたのよ。そんなことで痛いって騒いでるならまだまだガキね」

「なんだよ! シャンクスもアイもおれのことをガキガキって! おれはガキじゃない!」

「まぁ、怒るな。ジュースでも飲め」

「うわ! ありがとう!」

 

 ……シャンクスとルフィのやり取りを見て、素直にジュースを受け取ってるルフィ。

 何処がガキじゃないんだか。と思いながら溜息をつくと、シャンクス達も同じことを思ってたみたいで大爆笑している。

 

「ねぇ、シャンクス? ルフィのことは相手しなくていいからね……」

「お、アイは随分と、大人びたこと言うんだな」

「そりゃ、あたしだってもう10才だし。しっかりと、ルフィを監視してないと」

 

 ジッとシャンクスの顔を見る。

 

「だって、今のとこあたしの家族はルフィしかいないし」

「今のとこ? なんの話だ?」

 

 この人があたしの家族のことを知ってるわけがない……か。

 

「はぁ……」

「なんだよ、いっちょ前に大人に隠し事かぁー? あははははは」

「あたしまでガキ扱いしないで下さい」

 

 へいへいと笑ってるシャンクスを横目に、ルフィを見ると何やら果物をそのまま丸かじりしようとしてる。

 

「こら! ルフィ、はしたないでしょ! 切ってあげるから待ちなさいよ!」

「えー。別にいいんだけど……」

「よくないっ!」

 

 うるさいなぁっと言いながら渋々、あたしにその果物を渡すルフィ。

 それにしても、珍しい形の果物だなと思いながらカウンターに回り包丁を借りてそれを切る。

 

「はい、切ったよ」

「アイも食うか?」

「…………」

 

 初めて見たからその果物を実は、自分も少し食べてみたいと思ってたが、一応は姉の立場からして食べたいとは少し言いにくい。

 

「なんだ、アイも食いたかったのか! ほら!」

 

 グイッとルフィにフォークを向けられて、あんたがそこまで言うんなら! 風に渋々フォークを受け取るふりをする。

 

「うげ……まじぃ」

「まじぃ?」

 

 ルフィが食べ物を不味いと言うのは珍しい。

 切った時は別に腐ってるとか思わなかったけど、腐ってたのかな?

 

 端っこを少しだけ、かじってみる。

 

「わわ! なにこれっ」

「だろう? なんだよ、これー」

「きっと腐ってたのよ。捨てよっ」

 

 また素直にそれを渡してくれるルフィ。

 食べ物を素直に渡すってことは、やっぱりそれだけ美味しくなかったのだろう。

 

 それを裏に捨てに行って戻ると、なんだかさっきとは違う騒がしさがする。

 店の中に入ってはいけない気がして、裏口の扉の陰で様子を見ようとすると何かが割れる音がした。

 

 ――バリィィン!

 

 慌てて店の中に入ろうとすると、何故か濡れているシャンクスと目が合って『来るなと』言ってるように見える。

 

 何か割ったなら、掃除しないといけないんだけど……と思いつつ店を見渡すと、海賊団の人達と他にも人が増えてる。

 

 あの人たち……何っ? それにシャンクスが濡れてるのって、あの人がシャンクスに何かした?

 だったら、あたしより先にルフィを安全な場所に連れて来ないと……!

 

 何か武器になるものを探しに裏に戻って、店に走って戻ると後の祭りだったみたいで、店中に笑い声が響いてる。

 

「……な、なんだったの?」

「あっははは! なんでもねぇよ! 派手にお頭がやられただけだ!」

 

 派手にやられて、なんで笑ってるんだ? と思ってたら、ルフィが大声を上げた。

 

「いくらあいつらが、大勢で強そうでも……あんなことされて笑ってるなんて、男じゃないぞ!! 海賊じゃないっ!!」

 

 あんなことって、あぁ……シャンクスが濡れてるのって、あいつらが何かしたんだ。

 それにしても、海賊じゃないって……海賊って言ってるんだから、とりあえずはこの人達だって海賊でしょうに。

 

「おい、待てよルフィ……」

「しるか! もう知らん! 弱虫がうつる!!」

 

 シャンクスがその場から立ち去ろうとする、ルフィの腕をつかんだ時に衝撃が走った。

 

「っ!!??」

 

 海賊団の皆は、酒を吹き出して声にならないくらいに驚いている。

 

「手が伸びた……!!」

 

 そ、そりゃあ、あたしも驚いた。

 えぇ、もちろん……なんて言いますか、ルフィの腕がビヨーンと伸びた。

 人間って腕とか伸びるんだっけ?!

 

「ない! 敵船から奪ったゴムゴムの味がない! ルフィもしかして、ここにあった果物食ったんじゃ……」

「……うん! まずかったけど、アイに切ってもらって一緒に食った!」

「い、一緒にだとぉっ?!」

 

 ルフィに視線が集まってたと思ったら、今度はあたしに視線が集まる。

 

「ま、まさかな。ルフィがあぁなったんだから、アイまでってことはないよな?」

「え?! な、なにっ?!」

 

 そう言って、あたしの頬を引っ張っぱるシャンクス。

 

「いたいっ!」

「あ、アイは大丈夫みたいだ……」

 

 何が大丈夫かはよくわからないけど、普通に痛かったよ!

 そんなあたしを無視して、ルフィに向き替えるとシャンクスがいっきに言葉を発した。

 

「ゴムゴムの味はな、食えば全身ゴム人間!! そして一生泳げない体になっちまうんだ!! バカ野郎ーー!!」

「えーーーーっ!! うそーーーー!!」

 

 一生泳げないって……なんか、よくわからないけど、あたしじゃなくてよかったかも? どうせルフィ泳げないんだし。

 

 あ、でも、それじゃあ……じぃじが言ってる海兵にも、ルフィが言ってる海賊にもなれないのか。

 どーすんだろ? ま、いっか。

 こんなおバカが海兵でも、海賊でもどっちでも人に迷惑かけそうだし。

 

 

 ◆◇◆◇

 

「おじさーん! 魚下さい!」

「おっちゃん! おれも持つからおれにも魚くれ!」

 

 村長のじじちゃんに頼まれて、今日はルフィと市場に買い物に来た。

 

「お、アイちゃんにルフィか! わりぃな、なんかまだ漁船が戻って来てないみたいで魚ないんだよ」

「魚がねぇ?! 魚買ってかないと、おれら飯抜きか?!」

 

 抜きってことはないけど、遅くなるのは確かだよね。

 

「もう、おれ腹減った……」

「アイちゃん、ちょっと漁港に様子を見に行ってくんないかい?」

「あ、はい。別にいいですよ」

「えー、おれ腹減って動きたくねぇ……」

「……はぁ。じゃあ、マキノ姉ちゃんのとこで待ってれば? あたし行って来るから」

「わかった!」

 

 そう言って魚屋のおじさんにゴム人間になったことを、からかわれてから走ってマキノ姉ちゃんの店に走って行くルフィ。

 

「走る元気は、残ってんじゃない」

「あっははは! まだまだ、あいつも子供だ。アイちゃん宜しく頼むよ?」

「はい! じゃあ、行ってきます!」

 

 あたしはルフィが走って行った方向と逆にある、海岸の方に向かった。

 

「あれー? 漁船が一台も止まってないなぁ……なんでだろ?」

 

 どうしようかな……ルフィはマキノ姉ちゃんの所に行ったから、きっと何か食べさせてもらってるから、ルフィのお腹の心配はしなくてよさそう。

 

「あっ」

 

 同じ年くらいの男の子が釣りをしてる人を見える。

 どうせ、暇だし話し相手にでもなってもらおうかと、声を掛けてみる。

 

「ねぇ、釣れてる?」

「……ん」

 

 あたしの顔をチラッと見て、バケツに視線を送る男の子。

 そのバケツの中には魚は……一匹もいない。

 

「ここって、釣れるの?」

「さぁ?」

 

 それと言って会話が続くわけでもなく、そこで会話が途切れて何もすることがなく男の子を観察する。

 この男の子が着てる服ってば高そうだけど、随分と汚れてる。だけど、汚れてるのを見なけば村の子が着るような服装じゃない。

 

「ねぇ、村の子じゃないよね?」

「まぁ。そんで、なんか用?」

「別に用があるわけじゃないんだけど、漁船が帰って来なくて暇だから相手してもらおうかと」

「ふーん。だったら、漁船……まだ帰って来ないと思うぜ。あれ見ろよ」

 

 男の子が指す方向を見ると、海賊船がここから離れた海岸で積荷を下してるのが遠目でなんとなく見える。

 

「あ、あれ、シャンクスの船だ」

「海賊船がここから離れないと、漁船も入れないんじゃないか?」

 

 シャンクスたちだったら、大丈夫だと思うけど普通に考えたら戻って来られないのか。

 だから最近、魚屋の仕入れが遅い時があるんだ。

 

 そこでまた会話が途切れる。

 

「ねぇ、釣れないのに面白い?」

 

 会話が途切れても、あたしはすることないしとりあえずもう一度話しかけてみる。

 めんどくさそうにしてても、その男の子はあたしの疑問には返ことを返してくれた。

 

「今日は釣れないのわかってんの。あそこ」

「釣れないの分かってて釣りしてんの……?」

 

 とりあえず、また男の子が指す方を見る。

 

「あ、近海の主だ……」

「だから、今日は釣れないの」

 

 なんか、変な男の子。

 

「海王類もいるし、海賊も居るのになんでここから離れないの?」

「そっくりそのまま、お前にその台詞返す」

 

 ……ま、まぁ。

 そうなるよね、普通は。

 

 別に海賊はシャンクスだし、海王類はこの浅瀬の方には来ないから大丈夫だと思ってるから、あたしはここに居るんだけど。

 

「おれ、そこまで世間知らずじゃねぇよ」

「え、君もあの海賊と知り合いなの?」

「君もって、おれは知らねぇよ。ただ、あいつらの船ここ数か月よく見るけど、ここら辺ではなんもして来てないだろ」

 

 別にシャンクスたちのことを知ってたわけじゃないのか、まぁあたしも時々はお土産もらったりするけど、金魚のフンしてるのはルフィだし。

 

「わー! 離せっ! このくそ野郎! 一発……百発殴らせろ!!」

「うるせぇ、少し黙れ!」

「殴られても、痛くねぇっ!!」

 

 どこからか、子供と大人の言い争いの声がする。

 

「あいつらは……ヤバいな。お前こっちに来い!」

「え?! ちょっと?!」

 

 男の子に腕を引っ張られて岩陰に隠れる。

 

「あのガキは何やらかしたんだ?」

「ガキって……あ! ルフィ!」

 

 岩陰から覗くとルフィがこの間、シャンクスにお酒を引っかけた男に抱きかかえられて小舟に乗る所だった。

 

「なんだよ、知り合いかよ」

「知り合いも何も……弟だよ!」

「はぁっ? なんで、弟と山賊が一緒に居るような事態になってんだよ」

「あれ山賊なの?! そんなの、あたしが聞きたい!」

 

 どうしよう、どうしよう! このままじゃあ、ルフィが何処かに連れてかれちゃう!

 なんとかしないと……って言っても、あたしの力で何が出来る? でも、このままでもだめだから時間稼ぎくらいなら……!

 

「あたし、助けに行って来る!!」

「お、おい、海王類もいるんだぞ?! ちょっと待てって――」

 

 男の子の制止を無視して、あたしは海に飛び込んだ……!

 

 

 ――えっ?!

 

 海に飛び込んだと同時に体の力が抜ける。

 

 なんで?! 体が浮かないの?! 足と手をいくらばたつかせても、体は水面に上がらない。

 

 ヤバい、息……水飲んだ――!! そう思った瞬間、急に息が出来るようになった。

 

「お、お前……! 泳げないくせに飛び込むなよ!」

「泳げないわけないでしょっ?!」

「普通に溺れてただろ!」

 

 確かに、男の子の言ってることも一理ある。

 

 何故か今、泳げなくて溺れそうになった所を男の子に助けられたから顔が水面に上がってる。

 だけど、溺れちゃったけど、あたしが泳げないわけがない。

 

「ルフィを助けないと……!」

「おい、暴れるな! それに、もう大丈夫そうだし!」

 

 あたしが助けなきゃ、誰が助ける……って、シャンクス?

 

「えっ?!」

「あっ……」

 

 あたしと男の子は同時に声を上げた――。

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

「弟助かったんだし、あれは、お前のせいじゃないだろ?」

「…………」

「お、おい。とりあえず、送ってってやるから動けよ」

 

 さっきの光景を見てから、あたしは何も話したくなくなっていた。

 それを心配してくれてるのか、さっきとは逆に男の子が話し掛けてくれてる。

 

「おいって!」

「マキノ姉ちゃんの店に行く……」

「お、おう?」

 

 あたしの腕を引っ張り上げて立たせてくれる男の子。

 マキノ姉ちゃんの店とだけ、伝えたけど村の子じゃないこの子に言って通じたかは不明だけど……そんなことを考えてる余裕はあたしにはなかった。

 

 だって、ルフィを助けるのにシャンクスの片方の腕が――。

 

「お前が言ってる店って、本当にここでいいのか?」

「…………えっ?! な、なにこれ!」

 

 男の子に声を掛けられて顔を上げると、お店がほぼ崩壊してるのが目に映った。

 

 

「お、アイちゃん! 一丁前に男連れかぁ? ん? なんで濡れてんだ? おい、ボーズどういうことだ?」

「おれじゃねぇよ! 勝手にこいつが、溺れたんだよ!」

 

 ガタンとお店の中からシャンクスの海賊団の人が出て来て、あたしが濡れてることに驚いて男の子を睨むように見た。

 

「アイちゃんが溺れた? そりゃないだろー。なぁ、アイちゃん?」

「溺れたから、おれがこいつ助けてやったんだろ! おれも濡れてるの見ろよ!」

 

 返ことする気力もなく俯く。

 

「じゃあ、なんでいつもと様子が違うんだ?」

「それは……おれにもわかんねぇけどよぉ……」

 

 こうやって優しくしてくれてるけど、この人達だって海賊だ。

 だからきっと何するかわからない……お頭のシャンクスの腕がルフィのせいで無くなったって聞いたら、ルフィはどうなるんだろ。

 あたしがきちんと泳げてさえいれば、シャンクスの腕がなくなるなんてことはなかったかもしれない。

 

「ご、ごめんなさいっ! すいませんでしたっ! あたしのせいだから、ルフィには何もしないで下さい!」

「うわっ! アイちゃん、何? ルフィ? なんで泣くの謝るの?」

「しゃ、しゃんくっすの腕……あたしのせいだから、あたしがなんでもするからっ!」

 

 シャンクスの腕のことを言うと、あたしがここに来たことに気付いてゾロゾロと外に出て来た他の船員達も、驚いたのかその場がシーンと静まり返った。

 

 止め方なんか知らない、涙が勝手にポロポロと落ちて来て、泣き落としみたいで嫌だけどルフィに何もしないって言ってくれるまであたしは、謝り続けることしか出来ない。

 

「なんで、お頭の腕のことをアイちゃんが知ってんだ? おい、ボーズお前も知ってんのか?」

「お頭って人は知らないけど、さっきこいつの弟助けるのに海王類に腕食いちぎられた男なら知ってる」

「近くにいたのか、お前ら」

「あぁ、まぁ……」

 

 会話が途切れて、またその場がシーンと静まった。

 

「とりあえず、ボーズは関係ないんだよな? アイちゃん送ってくれてありがとな! 今日は帰れ!」

「おい、お前……大丈夫なのか?」

 

 この男の子は本当に関係ない。

 無言で頷くと、男の子は心配してくれてるのかチラッとあたしのことを見て黙ってその場を離れて行った――。

 



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3.悪魔の実とあたし

「あははははっ! なんで、アイちゃんが泣いてるんだぁ?」

 

 笑いながらマキノ姉ちゃんの店に入って来たのは、さっき腕を無くしたばかりのシャンクスの後ろには泣き疲れたのかルフィを背負った、赤髪の海賊団の副船長のベン・ベックマンだ。

 

 笑ってる? それに、ルフィのせいで腕を失ったはずなのに、副船長の背中でスース―とルフィが寝ているのか理解が出来ずその光景に涙が一瞬で引っ込む。

 

「腕一本で友達を助けれたんだから、安いもんだろ?」

「……友達?」

「そうだよ。アイは俺達をなんだと思ってたんだ? あー、そうだ、俺達、海賊だった!」

 

 シャンクスがそう言うと、海賊団の人達が一斉に笑い声を上げる。

 

「とりあえず、アイちゃん。こいつ家に連れて帰って、布団で寝かして……って、なんだって?」

「?」

 

 ルフィをとりあえず受け取ろうと思って、副船長に近づくと話の途中でシャンクスに他の船員が何かを言ったのか急に大声をシャンクスが上げた。

 

「アイちゃん? ちょーっと、聞きたいんだけど……溺れたって?」

「さっきは、ルフィ助けようと思って必死だったから……だと、思います?」

 

 だよね? あたしが溺れるなんて理由はそんなことでもない限り、あるわけない……はず?

 

「溺れた時、全くカラダが浮かなかったなんてことは無いよな?」

「浮きませんでしたけど……?」

 

 えっと、何この拷問。

 溺れたんだから、体が浮かないって当たり前なんじゃないの?

 

 シャンクスの質問のあたしの答えに顔を見合わせる船員たち。

 

「じゃあ、体に力が入らなくて力が抜けた感じになったとかは……ないよな?」

「入らなかったけど……」

「だよなぁ? 入るわけないよなぁ……って、入らなかった?!」

 

 シャンクスの乗り突っ込みに驚いてると、シャンクスも船員たちもあたしとは違う驚きがあったのか叫びだした。

 なんか、ルフィがゴムゴムの実を食べた時と似た感じもする。

 

 だけどさ、あたしだってまさか溺れるなんて思ってなかったんだから、ここまで質問して追いつめていじめてくれなくてもいい気がする。

 でも今はルフィを助けてくれた恩人の質問だから、我慢して答えるけどさ……。

 

「アイちゃんは腕伸びたりしねぇよな?」

「ルフィじゃないんだから、伸びませんけど……」

 

 あれ? これって、もしかして……あたしが溺れたのって、ゴムゴムの実を食べたからだと思ってる?

 まさかあれから、何日も経ってるのにありえないって……ありえないよね?

 

「ほ、ほら、頬っぺたも何も伸びませんって! 見て下さい!」

 

 そう言って自分の頬を引っ張ってみれば、もちろん痛いし伸びもしない光景を海賊団の人達が無言でジッと見つめる。

 

「よし、じゃあ、これから海に泳ぎに行くぞ!」

「えっ?! これから?!」

 

 何を疑われてるのか、わからないけど……喋るのより早く泳げるようになってたあたしだって、たまには木から落ちるよね?

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

「さぁ、アイちゃん! 泳ごう!」

 

 寝てるルフィをマキノ姉ちゃんに預けて……海に赤髪海賊団の人たちが、ゾロゾロと全員付いて来て、あたしが海に入る前に「いつでも助けてやる」と言わんばかりに、海の中で手を広げてスタンバイしている。

 

 ……なんなの、この光景。

 

 そこまでされると、本当に自分は泳げないんじゃないのかと不安になる。

 でも、ここで泳いじゃえば、この恥ずかしい状況もきっとすぐに終わるはず。

 

「じゃあ、泳ぎますよ?」

 

 そう言って岩場から海に飛び込むと、さっきも溺れた時にも感じたけど海水に入った瞬間に力が抜ける。

 

「ぶ……っ!」

 

 それに、やっぱり浮かない?! え、一体どうなってるの?

 あたしの体はルフィみたいに伸びたりしないし、ゴムゴムの実とか関係ないよね?

 

 や、やばい! このままじゃ、さっきみたいに水飲んで溺れるっ!!

 慌てて手足をバタつかせるが、やっぱり水に体が浮く感覚は来ない。

 

「や、や、やばい! やっぱり、アイちゃんが! どうしよう! みんな!」

 

 何故かシャンクスの慌ててる声がする。

 

 ――あぁ、あたしってばまた溺れてるんだ。

 

 

「うろたえんじゃねぇ!! お頭、このやろうっ! お前らも早くアイちゃん助けろ!」

「へっ、へい!!」

 

 その声と同時に、自分の顔が水面から出る。

 

「ぶっは……! あ、あたし、また溺れた……」

 

 また溺れたことに落ち込んでいると、あたしの上からシャンクスの慌てた声が聞こえる。

 

「こ、これは、何か悪魔の実の能力が……俺は女の子になんちゅーもんを……! この年の差じゃあ、責任取って結婚とか俺は出来ねぇし! あわわわ! どうしようどうしよう!?」

 

 いや、シャンクス……責任とか大丈夫ですから。

 と、突っ込みたいのも山々なんですが、あたしに悪魔の実と言うかルフィみたいに伸びたりしたら恥ずかしい! と焦ってる方が大きくて、それどころではない。

 

「で、何の能力がついちまったんだ? 1つの実から、能力が分散されるなんて聞いた事ねぇぞ」

 

 副船長があたしの顔を見ながら、ブツブツそんな事を言っているけどあたしに言われたって、わかりません!

 

 自分の事の話だけど、何処か自分の話じゃないような気がしてみんなの会話を黙って聞く。

 第一、この前の悪魔の実の説明によると……1つの実からは、最初に食べた人にしか能力は受け継がないって言ってたよね?!

 それにもし、その話が違ったとしてもあたしは、伸びないし、引っ張れば痛い。

 

「アイちゃん、ちょっとエイっ! と、なんかやってみたりして?」

「エイっ?」

 

 何かよくわからないけど、言われた通りに腕を振り上げてみる。

 

 するとパチパチパチと音を立てて、風船のような物が目の前に突然現れた。

 

「わっ! 何これっ?!」

 

 あたしは驚いて腰を抜かすとみんなは「おぉ!」と、何故か感動してる。

 

「……良かった、ゴム人間じゃなくて」

 

 それを見てシャンクスは、安易したのかドスンとその場に座り込む。

 

 うん。

 そりゃ、あたしもゴム人間じゃなくて、良かったとは少しは思った。

 泳げなくなったのは、もうルフィと一緒になって悪魔の実を食べたのは自分なんだから、それは諦めるけど……これってば何の役にたつの?

 

「お頭! これ、シャボンディ諸島のシャボン玉じゃ、ないっすか?!」

 

 どこそれ? なにそれ?

 そう思って、その発言をした船員の方を見るとあたしが風船だと思ったシャボン玉を掴んで、その人はシャボン玉を頭から被って海に潜って行った。

 

 なんか、すごぃ……正体がわからないものを被って、ってか、被れるって事にも少し驚いたけど、なんでわざわざ海に潜ったんだろう?

 

 とりあえず、潜った人が出てくる海面をじっと見ながら待っていると、笑顔でその人が出てきた。

 

「やっぱり、そうっス!」

 

 それを聞くとまた皆が「おぉ!」っと声を上げた。

 

 何が凄いのかわからないって顔をしてるあたしに気付いて、副船長がわかりやすく説明してくれた。

 

 このシャボン玉は本物のシャボンディ諸島の物だったら、ここでは割れてしまうはずだからそれとは、多分少し違う物だと言う。

 だけど、そのシャボン玉を被れば水中でも息は出来るらしい。

 あとの使い方は、自分次第だろうと言われた。

 

 何それ、あたし泳げなくなったから意味ないじゃん、あれを頭に被って水に入ってもきっと沈むだけだ。

 泳げる時にそれが出来てたら、もっと泳ぐの楽しかったんだろうな……。

 

「そんなに落ち込む必要はねぇよ! そのシャボン玉の使い方次第では、アイちゃんもまた泳げるようになるんじゃないのか?」

 

 泳げるように……なる?

 キョトンとしていると、副船長が口を開く。

 

「シャボン玉を大きくして、自分が入るとか想像出来ないか?」

「そんなこと出来るの?!」

「そりゃ、アイちゃん次第だろう」

 

 なっ? と、言ってあたしの頭に手を置いてニッコリ笑うシャンクス。

 少し面倒な気もするけど、カナヅチとか言われ続けたくないから、それならやっぱりルフィよりましか! 良かったぁ……!

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 あれから数日。

 赤髪海賊団の人たちは、拠点としてたこの村を離れことになったらしい。

 

 あたし泣いて溺れて慌ただしくっていうのは言い訳かもしれないけど……ルフィを助けてくれたことを、シャンクスにお礼をまだ言えてなかった。

 

「……ん? アイちゃん、そんな怖い顔で俺のことなんで睨んでるんだ?」

「え? あっ! えーっと……」

 

 いつお礼を言おうかと、シャンクスを見てたらいつの間にか睨んでいたらしい。

 慌てて視線を逸らすとシャンクスが近くに来て、あたしと視線を合わすように屈んでくれる。

 

「あの、あの時……は、あたし何も出来なくて、ルフィのことを助けてくれて……その、だから……」

「あははははははっ! まだ、そのことを……ぶっ、ぶっははははは!」

 

 あたしの神妙な顔を無視して、シャンクスはお腹を抱えて笑い出した。

 

「っと、笑っててもしょうがないな。ちょっと、耳を貸してくれ」

「耳?」

 

 なんでこんな所で内緒話なんか……と思いつつ素直に耳を貸す。

 

「俺は海賊なんだぞ?」

「……うん」

 

 それは今更なくらい聞かなくても、わかってるんだけど。

 

「未来への投資さ」

「投資って……?」

「あぁ、投資。海賊がタダで人助けするわけないだろ?」

 

 言っていることがよくわからなくて、シャンクスの顔をジッと見る。

 そりゃあ、海賊が自分たちの利益にならないことを無償でやるとは思わないけど、この海賊団の人たちは何故か違うと思わせる雰囲気を持ってる。

 

「シャンクスー!! この船出でこの町へは帰って来ないって、本当?!」

 

 シャンクスと話してると、ルフィが走ってこっちに向かって来るのが見える。

 

「お、俺が投資したガキがお出ましだ。――ああ! 随分長い拠点だった。ついにお別れだな、悲しいだろ?」

 

 あたしからルフィに視線に変えて、ルフィに話しかけるシャンクス。

 

「まぁ、悲しいけどね。でも、連れてけなんて言わねぇよ! 自分でなることにしたんだ、海賊には!」

 

 げっ! ルフィったら、何を言ってるの?! 泳げないくせに自分で海賊になるとか言って。

 

「お前なんかが海賊になれるか! あははは!」

 

 ルフィをからかってるのか、舌をベーっと出してそれに対応するシャンクス。

 うん。あたしも、そう思う。

 ゴム人間になってから、なんか色々してるみたいだけど未だにあたしにケンカで勝てないし。

 

「なる!! おれはいつか、この一味にも負けない仲間を集めて、世界一の財宝を見つけて……海賊王になってやる!!」

 

 ルフィの言葉に思わず吹き出しそうになったけど、それも何故かシャンクスの言葉で引っ込んだ。

 

「ほう……! 俺達を越えるのか……じゃあ……この帽子をお前に預ける!」

「…………っ!」

 

 さっきルフィのことをからかってた顔をと違う優しい笑顔で、シャンクスは自分の被ってた帽子をルフィに被せた。

 

「俺の大切な帽子だ。いつかきっと、返しに来い! 立派な海賊になってな!」

 

 シャンクスの言葉に何か胸に響いたのか、泣きながら黙ってコクンコクンと頷くルフィに背を向けて、シャンクスは自分たちの海賊船に乗り込んで行ってしまった。

 

 なんか……男の世界を見た気がする。

 投資ってなんのことを言ってるのか、よくわからなかったけどシャンクスは帽子だけじゃなくて、ルフィに色々と預けて行った気がする。

 

「いい人たちだったね」

 

 そっとルフィの横に立って、声を掛けるけどルフィから返事が返って来るとは思ってないから赤髪海賊団の船が見えなくなるまで2人でそこで見送った時また頭に声が響いた。

 

 ――ほぅ、さっそく悪魔の実の能力を持ったか。こんなに早いとは、予想外だったわ。面白くなりそうじゃ……!

 

 びっくりして後ろを振り向くが、そこには誰もいないが楽しそうな笑い声だけが頭の中に響き渡った。

 

 



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4.山賊の子供とあたし

「うぅん……ルフィ? 朝だよ、起きよう……って、あれっ?! いない?!」

 

 あたしとルフィはいつも、どちらかが早く起きた方が起こす……って言ってもルフィがあたしより早く起きることなんか滅多にないし、あたしより先に起きた場合は「腹減った!」って、騒いで起こされる。

 

 だから、あたしより先に起きて居ないなんて絶対にありえない。

 

「じじちゃん! ルフィが居ないっ!!」

 

 村長のじじちゃんの部屋に慌てて行くと、普通に寝ているルフィを片手で担いでるガープのじぃじと、じじちゃんが向かい合っている。

 

「なっ、なにやってんの?!」

「おお、アイか。愛しいじぃじの匂いを嗅ぎつけて来おったか! あはははは!」

 

 なんか匂いを嗅ぎつけては、半分正解の気もするけど……じぃじがルフィを担いでる時点で嫌な予感しかしない。

 呆れて目が点になって何も言えなくなったけど、そんな事を言ってる状況ではない。

 

 だって、この状況は……崖からルフィが突き落とされる、ルフィを風船でくくってどっかに飛ばす……とか危険な所に追いやる事をしそうな状況にしか見えない。

 

 あの風船でどこかにルフィを飛ばした時は、あたしも散々な目に合ったよ……。

 

 あれから、自分のシャボンの能力を少しだけコントロール出来るようになって、シャボンの中に入れば空に浮けるんだけど……ルフィを捕まえたて自分のシャボンの中に入れようとしたら、風が強くてルフィを掴んだ瞬間あたしも一緒に飛ばされてからの、空を飛んでた鳥に突かれて風船もあたしのシャボンも割られて落下。

 

 それから運が良かったのか悪かったのか、落下した所は大きな湖で慌てて自分はシャボン作って入ったから大丈夫だったけど、まだ水の中でシャボンのコントロールのやり方のコツを掴んでなくて湖の生物たちに……もう、思い出すのはやめておこう。

 

 それに、じぃじはあたしがルフィを隠れて助けに行っていることも、シャボンの力があたしにあることは気付かれてない。

 

「じぃじ! またルフィを何処にやるつもり?! じじちゃんも何とか言ってよ!」

「そ、それは……」

 

 いつもはあたしと一緒に反抗してくれるのに、珍しくじじちゃんが口ごもる。

 

「じゃあ、わしはルフィを連れてそろそろ行くかのぅ」

「ちょっと、じぃじっ?!」

「待て、アイよ……」

 

 じぃじを追い掛けようとすると、じじちゃんに腕を掴まれて制止される。

 いつもだったら、素直に追い掛けさせてくれるのにやっぱり今日は何か変だ。

 

「ルフィはゴムゴムの実を食べたから、アイとルフィは別々にと……」

「は? なんで悪魔の実を食べたからって!」

「それは、わしにもわからんがガープにも考えがあるんだろ」

 

 無言で腕を掴まれたまま、何も話してくれないじじちゃんにイライラして来る。

 

 

「……じゃあ、あたしも悪魔の実を食べたから行かないとね!」

「なんじゃと?!」

 

 じじちゃんにもあたしが悪魔の実の能力が、あることは隠してた。

 驚くじじちゃんを軽く睨んで、シャボンを出す。

 

「お、お前っ?!」

「あたし、行くからっ!!」

 

 そう言って、じじちゃんの目の前でパチンと音を立ててシャボンが割れると、どんな能力か知らないじじちゃんは驚いてあたしから手を離した。

 

「……どっちに行ったか、わからない」

 

 走って外に出て周りを見渡したけど、じぃじとルフィの姿は見当たらない。

 

 あのじぃじだ、きっとルフィを安全な場所に連れて行くわけはないし、あたしが行きそうな所に連れて行くわけもない。

 

 ……ルフィ、何処?! じじちゃんには、お世話になって可愛がってくれていると思う。

 だけど、ルフィはあたしの弟なのにじぃじに兄のエースとまで離れ離れにされて、ルフィとも離されるなんてもう嫌だ!

 

 

 ――だから、じいちゃんおれは! 海賊王に……!

 ――何が海賊王じゃあ!! 悪魔の実なんか食うた上にフザけた口たたきおって!!

 

 

 今の声は……ルフィとじぃじの声だ。

 コルボ山の方からした気がする……? あそこには、怖い山賊が住んでるから近づくなって言われてた所だ。

 

 ……怖い山賊、いや今はそんなことを考えてる場合じゃない。

 

 ルフィを早く連れて帰らないと……って、言っても何処に? じじちゃんに啖呵切って出て来たし、ルフィを見つけても今度はじぃじに何かされてしまう。

 

 で、でも! とりあえずは、ルフィの安全を確認してこれからの居場所も知っておかないと!

 

 あたしは走って、山を登った──。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「はぁはぁっ……んもぅっ! この山ってば、広すぎっ」

 

 あれからルフィとじぃじの声は聞こえなくなった。

 だからと言うか、山で絶賛迷子中。

 

「おーい! おれルフィって言うんだ! ツバつけられたこと、おれはもう怒ってないぞ! 怒る程のことじない。友達になろう!」

 

 この声はルフィの声っ?!

 しかも、ツバつけられるとかなんだか、微妙な台詞も聞こえた気がする。

 

 木の影からルフィの声がする方を探すと、あたしと同じ年位の男の子にルフィは話している。

 

「…………」

 

 男の子はルフィの事を睨み付けて、無視をして近くにあった木を蹴り倒した。

 

「え、ちょっと待って?! 蹴り倒したの凄いとか、少し思ったけどルフィ危なくない?!」

 

 ……案の定。

 

「うわあああああっ!」

 

 転がり落ちって行った。

 ま、まぁ、あれくらいだったらルフィは大丈夫だとは思うんだけど……。

 

 この生意気そうな、男の子はなに? 山賊の子供?

 

 男の子を観察していると、やっぱりルフィは大丈夫だったみたいで、必死になって男の子を追い掛けて行く。

 

 流石にあたしも走って追い掛けたら、存在に気付かれそうだしシャボンを出して、中に入って少し離れながら2人を追い掛けることにする。

 

「ちっ」

 

 ルフィが追い掛けてる事に気付いた男の子は、軽く舌打ちをして渡ってた橋を引き返す。

 

「なんだ、実はやっぱり優しいんじゃ……って!」

 

 優しくなんかないっ!

 橋の真ん中でルフィに攻撃して、ルフィが橋から落ちてるよっ!

 

「あぁぁあぁああああ……!!」

 

 慌ててシャボンを出して、ルフィの下にシャボンが行くようにする。

 こうしとけば、落下しなければルフィは死んだりしない……多分。

 

 しかし……あんの、くそガキっ! あたしの弟に何してくれてんだよ。

 自分より年下の子が、友達になろう! って言ってるんだから、嘘でも「うん」って言ってやれっちゅうの! あ、でも、ルフィには嘘でも本気にするから、あんまり意味ないか。

 

 それにしても、あいつ……何処に行くんだろ?

 

 ルフィの方を見ると、ユックリ崖の下に降りて行くのが見える。

 ルフィは、大丈夫だと判断して男の子の後をつけることにする。

 

 だって、友達になろう! って、ルフィ言うんだから、これから住む所で何かしら関係がある子なんだろうと直感が言ってる。

 

 

 男の子の後をついて行くと、前にじじちゃんに聞いた事がある「グレイ・ターミナル」通称ゴミ山。

 

 あたしは行くことはないと思ってたけど、コルボ山よりここはもっと近づくなって言われた場所だ。

 

 なんで、こんな所に……あ、あれ?

 

「遅かったなぁ」

「じじぃが来て、変なガキをちょっと巻いてきたからなぁ」

「変なガキ?」

「じじぃの孫だってさ」

「ふーん」

 

 あの変な男の子と一緒に居る男の子……あたしを助けてくれた子だよね?

 凄く優しいとまでは言わないけど、ルフィを橋から落とすような子となんで一緒に……しかも、どうしてこんな場所にいるの?

 てっきり、裕福な家の子だと思ってたんだけど、勘違いだったのか。

 

 しかも、変な男の子……ルフィのことをじじぃの孫って言った? じぃじと知り合いなのか。

 って事はやっぱり、ルフィがこれから住む所に関係あるんだ……!

 

「うん! 直観が当たったから、ルフィのとこに戻ろっと!」

「誰だっ?!」

 

 げっ、思わず声出しちゃった! 

 あたしの居る場所を特定はしてないのか、2人は木の上から飛び降りてあたしを探してる。

 

 うん、まぁ……あたし、木の上の上に居たから、下に降りてもいませんけど……とりあえず見つかる前にルフィのとこに行こうっと。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「ねぇ……ルフィ。カエルってそんなに美味しいの?」

「ふまいよ! あひもくうか?(うまいよ! アイも食うか?)」

 

 勧めてくれるカエルを丁寧にお断りして、あたしは自分で見つけた木の実を頬張る。

 

「しかも、山賊の所に住むって本当なの?」

「じいちゃんがそう言ってた。アイも住むか?」

 

 カエルを頬張りながらあっけらかんと答えるルフィ。

 アイも住むかって……じじちゃんにシャボンの力を見せちゃったし、家出みたいに出て来たから確かに帰れはしないんだけど、じぃじに見つかるよねぇ? そしたらどうなるかわからないよね……。

 

「あたしは少し考える」

「そっか」

 

 そういえば、ルフィにはまだエースの話したことなかったしこの際、探しに行ってもいいかもしれない。

 とりあえずこの機会に話しておこう。

 

「ねぇ、ルフィ。あたしたちには、何処かにお兄ちゃんが居るの」

「兄ちゃん?」

「あたしの双子の兄でエースって名前の……」

「エース? なんか、どっかで聞いたことある気がする」

「えぇ?! 何処で聞いたの?!」

 

 なんでルフィがその名前を知ってるのかと思って、顔をジッと見ると、考えてる素振りをしているルフィの言葉を待つ。

 

「……忘れた! あははっ」

「忘れたって……!」

 

 期待して答を待ったあたしがバカだった気がする。

 ここはこれ以上は、問い詰めても無駄な気がするから、やめておこうっと。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 あれから、一週間。

 

 あたしのシャボンの力は借りない! と言って騒いでケガだらけになって、やっとルフィがこれから住む家……山賊の家についた。

 

 シャボンで飛んで行けばすぐなのにって、何回言ったことやら。

 でも、あたしも行くあてがないから、時間稼ぎにはなったっちゃあ、なったんだけど。

 

「お頭! ダダンのお頭! ルフィの奴、帰って来やがったぜ!」

「こいつ……生きてやがったのかいっ! おめェ一体どこに行ってたんだよ!」

 

 屋根の上から中の声を聞く。

 

 この山賊のお頭って、女の人なの? じゃあ、やっぱりあの男の子は山賊の息子か。

 だったら、やんちゃ坊主……と言えば聞こえがよさそうだけど、あんな感じは当たり前か。

 

「……谷の下で狼に……追いかけられてた……」

 

 ぶっは! ルフィは間違ったことは言ってないや。

 

 あたしのことは、とりあえず誰にも言わないでって言ったけど、これはあたしのことを隠そうというよりは、狼に追いかけられたことの方が重大事件だったたんだ。

 

 まぁ、隠しごと出来ない子だから、これからのことは早くなんとかしないと。

 

「今日はもう寝ちゃいな! 明日からキッチリ働くんだぞ!」

 

 山賊たちにとっては、ルフィは厄介者か。

 ドスンと音がしたから、ルフィはきっと何処かの部屋に投げ込まれた? そおっと、窓の外から部屋を確認してルフィが居る部屋を見付けて窓から忍び込む。

 

 ……あれ? 生意気な男の子がルフィと同じ部屋で寝てる。

 おかしいなぁ、息子なのにルフィと同じ部屋なんだ。

 

「じゃあ、姉ちゃんのあたしはお兄ちゃんを探しに行くから、ルフィはそれまで逞しく……」

 

 寝てるルフィの顔に手を当てて、聞いてはないと思うけど声を掛けてると、山賊たちの話してる声が耳に入った。

 

「……自分の孫と鬼の子を押し付けやがって。まったくガープの奴は何を考えてるんだ! 万が一に鬼の子が政府が嗅ぎ付けてみなよ?! あたしら、一体どんな目に合うと思うっ?!」

 

 鬼の子? 政府? ちらっと、寝ている男の子の方を見る。

 

 この子は山賊の子供じゃなくて、じぃじがここに預けた子?

 まったく……じぃじは引き取っておいて、自分が育てられない癖に。

 

 ん? 鬼の子って意味がよくわからないけど、山賊の間ではもしかして悪魔の実を食べた人のことを、そう呼んだりするのかな?

 

 だから、こんな山奥にルフィもこの子も追いやられたの? わー、なんか、本当によくわからないけど不憫だ……。

 

 って、ことは、あたしも鬼の子?! しかも政府がどうのこうのって山賊言ってなかった?!

 あたし……能力者だってこと、これからも隠して生きた方がいいの? うん、隠して生きよう。

 

「……誰だっ!?」

「げっ!」

 

 鬼の子と呼ばれてる男の子が目を覚ましたのか、声と一緒に暗闇で目がバッチリ合う。

 

「あ、あ、あたしは……ただの通りすがりの……!」

 

 や、やばい。

 部屋の中に居て、通りすがりとかまじでありえない言い訳を……!

 この攻撃的な目、絶対にあたしボコボコにされるっ!

 

「煩いよ! 何してるんだいっ!」

 

 こ、これはダブルでヤバい。

 あたしの声が聞こえたのか、男の子の声が聞こえたのか、女山賊の人がドスドス歩いてこっちに来てる。

 

 わー! もう、こっちはこっちで、いつ飛びかかって殴られてもいい状況だし、逃げようにも窓の近くは男の子があたしを睨みながら陣取ってる。

 

「ちっ」

「え、あっ?! えぇぇぇっ!」

 

 舌打ちが聞こえたと同時に、あたしは空中を舞ってる。

 男の子に窓の外に投げられた?!

 

「お、落ちる、落ちるっ! ああああ……あ!」

 

 っと、シャボンを使えば大丈夫だった。

 地面に落ちる瞬間にシャボンを出して、クッションの代わりにしてそこに落ちる。

 

「逃がしてくれた……?」

 

 ま、まさかね。

 ルフィを橋から落としたりする子が、あたしを逃がしてくれるなんてあるわけがない……か。

 



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5.兄とあたし

 あれから、よくよく考えてみた。

 あの時、あの男の子はあたしのことを助けてくれたわけではないと。

 

 山賊たちにとってルフィも厄介者、あの男の子も鬼の子とか言われて厄介者。

 そんな所に、男の子と同じ年くらいのあたしがあの場に居たら「誰だこいつは」と、怒られるのはあの男の子だ。

 

 あれ? でも、山賊たちはルフィのことは鬼の子って言ってなかった気が……まぁ、無事になんとかなったんだし、とりあえずは……よしとしようかな。

 

 

 そんなことより、あたしはこれから兄のエースを探すためには資金が必要だ!

 と言うことで、コルボ山からイノシシを捕まえてたから売るために、町に出てみました。

 

 あたし、実はやれば出来る子なんです。

 ルフィみたいに正面からイノシシと戦うなんて、バカな真似なんかしなくてもイノシシ一匹くらいは少し頑張れば狩るのは簡単。

 

 シャボンってば、罠にも使えるんだよねー! あたしの意思であのシャボンの中の空気とか自由に操れるみたいだから。

 血とかブシュ―! とかは抵抗があるから、イノシシをあのシャボンに入れて空気濃度を減らせば不思議と気絶してくれる。

 

 しかも、便利なことにそのままシャボンの中に入れたまま持ち運び可! って、言っても鬼の子の話があるから、町の中では能力は使えないから必死にイノシシを引きずって歩いてます。

 

 ……重い。調子に乗ってデカいの狩るんじゃなかった。

 

「お前……イノシシ引きずって何やってんだ?」

「えっ?!」

 

 後ろから声を掛けられて、驚いて後ろを振り向くと海であたしを助けてくれた男の子が、不思議そうな顔であたしを見てる。

 や、でも……この状況なんか少しヤバい気がする。

 

 あたし、今まで知らなかったんだけど……グレイ・ターミナル突っ切れば、町にすぐ着くってことを。

 じじちゃんと町に出る時は別のきちんとした、入り口から入ってたから結構な大回りだったんだよね。

 

 だからか、鬼の子の男の子が一緒に居たりしそうな気がなんとなくする。

 

「おーい! サボー!」

 

 ……って、やっぱり居たーっ! 今は顔を合わせたら非常にヤバい気がする。

 逃げるにはこのイノシシを捨てて走って逃げるしか無い気もするけど、せっかく捕まえたんだから捨てて行くのはもったいなさすぎる。

 

「今からやること、誰にも言わないでね!」

「は? ちょっと、おい!」

 

 それだけ言って、都合のいいことにこの道は裏通りだから人はこの子しかいない。

 イノシシをシャボンに入れて、屋根の上に飛ばしてあたしは走って逃げたと見せかけてと……男の子が見えなくなった所で自分もシャボンに入って、イノシシを飛ばした屋根の上に自分も行く。

 

「……こっちの方を、2人してやっぱり見てる。あー、早くどっか行かないかなぁ。肉屋すぐそこなのに」

 

 言わないでって、言ったのに早速言ったのか……それとも見られたのか。

 2人を観察していると、キョロキョロはしつつも諦めたのか裏通りから離れて行った。

 

「よし、どっか行った!」

 

 他の人に見つかったらまた面倒な事になるから、先に自分だけ降りて周囲を見渡す。

 うん、誰も居ない。

 

 イノシシを降ろして、シャボンを割って引きずり始めた時にまた声を掛けられた。

 

「すげぇ! お前、空飛べんの?」

「へっ?!」

 

 恐る恐る、後ろを振り向くと案の定さっきサボと呼ばれてた子はニコニコ、もう1人は腕を組んであたしを睨みつけてる。

 

「お前、昨日の……」

「き、昨日? な、なんのことだろう? あははは……」

 

 どっから、2人は湧いて出て来た! 居なくなったんじゃなかったの?!

 サボはあたしと男の子は、不思議そうに見てとんでもない言葉を発した。

 

「何? エースもこいつと知り合いなの?」

「……っ!」

 

 今、なんと言いました? あたしの聞き間違いじゃなければエースって……。

 

「おい、人の部屋に勝手に入って来たやつに、なんでおれがガン飛ばされなきゃいけねえんだよ!」

「あんたの名前、エースって……」

「はぁっ?! だから、なんだよ!」

 

 ……よく、あたし考えてみろ。

 3才の時にじぃじがルフィを連れて来た日、コルボ山方面に向かって行った。

 じぃじは危険とは言わないで、まだ早いって言った。

 

 それに、じぃじがこの子も山賊の所に連れて来たって。

 

「……エース?」

「だから、なんなんだよ!」

 

 じゃあ、やっぱりこの人はあたしの兄のエースでいいんだ……! でも、だからと言って今、感動な再開みたいなことをする前にすることがある。

 

「……お前、自分たちの弟を橋から突き落とすとか、何してくれてんじゃー!」

「なんのこと……げっ、あ、うわっ! ぐはっ……!」

 

 エースのお腹にバッチリ蹴りが決まった。

 ふぅ、スッキリした。

 

「お、お前っ! んだよ! 自分たちの弟とか、意味わかんねーこと言ってんじゃねーよ!」

 

 あたしに蹴り飛ばされたエースは、うずくまりながらあたしを睨んで叫んでる。

 

「しかも! 同じ鬼の子なんだからもっと分かりあいなさいよ!」

「おい、鬼の子って……」

「あたしだって、鬼の子でしょ! さっきの見たんでしょ!」

 

 それだけ文句を言うと、サボはなんのことを言ってるのかわからない顔をして、エースはかなりイラッとした顔をしてる。

 

「おれには家族なんて昔からいねェし、自分たちの弟とか言ってお前……なんなの? お前もおれの妹とか言うのか?! ばっかじゃねーの? しかも、さっきの見たとかも意味わかんねぇ」

「じぃじ……家族だったら、ガープが居たでしょ!」

「はぁ? 何言ってんの? あれは、海軍の他人のじじぃだ!」

 

 他人のじじぃ? エースの言ってることが本当なら、じぃじもあたしのじぃじじゃない……?

 

「それに、俺の名前はポートガス・D・エースだ!」

「……え?」

 

 あたしは今、モンキー・D・アイって名前だから全くもって……じぃじと血縁関係じゃないとか疑ったことは無かったんだけど。

 エースはモンキーの名前を使ってない?

 

 ううん、その前にポートガスの名前は知ってる。

 

 じぃじから、母方の名前だとは聞いてたから、モンキーの方は勝手にじぃじの息子なのかと思ってた。

 

 3才の時にルフィが来たけど、母さんが死んで3年しか経ってないのに……父親は女作ってルフィも捨てたのかと思ってた。

 

 だけど、ポートガスの名前は嘘はつかない……!

 

「……や、やっぱり、あだじのおにいぢゃんじゃんぐわあああああ。うわあああん。なんで、あたじのこと覚えてないいんだよおぉぉぉぉぉぉ!」

「ひぃっ! お、おいサボこいつなんとかしろよ!」

「お前のこと、兄ちゃんとか言ってんだからお前がなんとかしろよ!」

 

 あたしが泣きだして、慌てる2人。

 泣き止もうにも、泣きだしたらやっぱり涙は止まらないからどうしようも出来ない。

 

 でも、あたしのことを覚えてないならこれ以上、エースに何を言ったって無駄かもしれない。

 

「あたじ……イノシシ売って来る……」

「……お、おう。おい、エースいいのかよ?!」

「ふんっ。あんなやつ、知らねぇよ。名前すら知らねぇ!」

「母方で名乗れば、ポートガス・D・アン、10才よ! くそ兄貴!」

 

 ……あれ? そう言えば、赤ちゃんの時の記憶があるのって普通は変な事なんだっけ? だったら、エースにじぃじが教えてない限り、あたしのことは覚えてないのが普通なんだ。

 もう少しきちんと説明するべきだったのかも。

 

 ま、いっか。

 ルフィとエースの居場所が一緒なんだから、また話す機会もあるよね。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 と、言うことでっ!!

 

「みーなーさーん! あーさーでーすーよぉ! ご飯できましたよーー!」

 

 バンバンと鍋を叩きながら、寝てる人たちを起すため部屋を回る。

 

「……今日の朝飯はなんだニー?」

「あ! おはようございます! 今日の朝ごはんはイノシシが売れたので、あたしが用意させて頂きました!」

「ん、おはよう……?! って、おミィ、誰だニー!」

「自己紹介まだでしたね、今日からここでお世話になります! アイです!」

「アイか……よろし……くじゃないニーっ! お頭ーーっ!!」

 

 ちっ、やっぱり普通に自然に入り込むのは無理だったか。

 最初に顔を合わせた人は、走ってお頭さんのところに行ってしまった。

 

「あれ、やっぱりアイだ! 何してんだ? ここには住まないって言ってなかったか?」

「あ、ルフィ。うん、色々と事情が変わったから」

「ふーん。ま、いっか!」

 

 気にしないふりはしてたんだけど、ルフィの後ろに素晴らしく怖い顔で仁王立ちのエースにあたしは、ガン飛ばされてます。

 

「お、おはよう?」

「お前、名前……アンって言わなかったか?」

「アン……誰それ?」

 

 何言ってんだ? そんなにエースは記憶力ないの? 兄妹だってエースにとってはビックリ発言したんだろうから、覚えててくれてもいいじゃん。

 

「ガキが増えたって一体なんだい!!」

 

 き、来た……! お頭さんが来た! あたしの前に厄介者が2人も居るんだから、そう上手くは行かないはずだから慎重に対応しなければ。

 

「は、初めまして。ルフィの姉で多分エースの妹のアイです! 今日からお世話になるので朝ご飯を用意させて頂きました!」

「姉で妹……おい、お前らどういうことだいっ!」

 

 ペコリとあたしが頭を下げると、怒りの矛先は2人に向かったらしい。

 

「うん! アイはおれの姉ちゃんだ!」

「……バッカじゃねェの?」

 

 うん。

 期待はしてなかった! エースがあたしのことを妹って言ってくれるわけはないとは、思ってた! 思ってた通りの反応で悲しいやら、笑いが出そうやら。

 

「で、ここでお世話にとか、意味不明なことも聞こえた気がしたんだか?」

「……あ、朝ご飯、冷めちゃいますし食べて下さいっ!」

「お頭ーっ! これ、旨いっすよー!」

 

 当たり前ではないか、マキノ姉ちゃん直伝ですから。

 

「お頭さんも、はいご飯!」

「おめぇら! あたしより先に何食ってんだ! このくそガキ3号、話はまだ終わってないからね!」

 

 あたしを睨み付けて、女山賊……ダダンだったけ? は、あたしが渡したお茶碗を持っておかずのある方に行ってしまった。

 

 それにしても、あたしのことをくそガキ3号って言ったけど、まだくそガキっぽいことまだしてないと思うけど。

 

 てか、くそガキみたいなことを、する予定も全くありませんけど……。

 

「あれ、もう食べたの?」

 

 ガタンと、食べ終わったお皿を下げに来たエース。

 声を掛けたのに、あたしの方も見ないでさっさと外に出てってしまった。

 

 無視かよ。くそ兄貴っ!

 ……なんか、あたしエースに会ってから、とんでもなく口が悪くなってる気がする。

 

「アイ! エースどっち行った?!」

「え? あ、多分あっち行った」

 

 次は慌ててルフィがお皿を下げたというか、慌ててたせい……じゃないけど、割ってから走って外に出ていった。

 

「……んで、おめぇ、ルフィの姉とエースの妹どっちが本当なんだい!」

「うわっ! 鬼ばばぁ!」

「あぁっ?!」

 

 思わず、見たまんまのことを言ってしまった。

 

 でも、どっちが本当なんだい? って聞かれると……エースがじぃじのことを血縁と聞かされてないのか、あたしがルフィのことをじぃじに嘘をつかれてるのか。

 

「今のところは、ルフィの姉でエースの双子の妹。これ以上のことは、多分……あたしでもガープのじぃじに聞かないとわからないです」

「わからないって、なんだいっ!!」

「じぃじのことを知ってれば、なんとなく想像できません?」

「…………」

 

 ダダンも何か思うところがあったのか、ポカーンとした顔で何か考えてるようだ。

 

「おめぇ……飯・掃除・洗濯・クツ磨き・武器磨き! 窃盗・略奪・サギ・人殺し! やってもらうからね!」

「飯・掃除・洗濯・クツ磨きは、それなりに、やりますっ! その他は出来ないので、食費は自分で稼ぎます!」

「じ、自分で稼ぐならその3つで……って、大人を丸め込むんじゃないよっ」

「あ、でも、掃除と洗濯はルフィとエースにもやらせます! って、ことで2人を探して来ます。じゃっ!」

「お、おい、クソガキ! ちょっと、待て話は――」

 

 よし! 本当に、掃除と洗濯を2人にやらせよ。

 

 ルフィには適当にエースはグレイ・ターミナルの方に行ったって教えたけど、なんかこないだサボとエースはあそこで何かこそこそしてたから今日もきっと行ってるはず。

 

 ここら辺の道は普通に歩いてると、危ないから……シャボンに乗ってこっと。

 

「って、なんでルフィは、河でワニと遊んでんのよぉ! エースは?!」

「え、エースは消えた! わっ! ぶっ、ぐっ、あばばばば……」

 

 消えた……あ、こないだみたいに、巻かれたのか。

 

「ん? あ、ルフィ、もしかして溺れてる?」

 

 沈んでるけど、ここは丁寧に助けるべきか……いや、じぃじに聞きたいことを聞くときに少しはルフィを鍛えたほうがいいかも。

 うん。簡単に助けて次はエースを探そう。

 

「あ、ワニ一匹捕まえて行こうっと」

 

 シャボンを顔だけルフィにやってっと。

 息吸えれば、なんとかなるでしょ。

 

「ルフィは、これでいいからワニワニーっ」

 

 ワニ革って、確か結構……高いよねぇ?

 

 ワニはイノシシより、ちょっと危ないから気絶させる程度じゃ危険だよなぁ……。

 刃物とか使って殺して血を見るのも嫌だし、刃物持ってても真っ向勝負じゃワニはどうにか出来ないし。

 

 でも、シャボンにそのまま入れても、あの歯で食いちぎられたら意味ないしなぁ。

 

「うーん……」

 

 あれ? シャボンの中に入れれば、空気濃度変えれるじゃん? だったら、あれを鼻とか空気吸うところを塞いじゃえばなんとかなるかなぁ。

 

「この位置なら、ワニが跳ねても来ても大丈夫だからやるだけやってみよっと」

 

 ピンっと、人差し指を立てる。

 

「シャッ砲っ!」

 

 ……とか、言って格好つけて技の名前つけて、バーンってな感じでやったけど。

 鼻の穴の中なんかに、ピンポイントで命中なんかしないよねぇ!

 

 鼻の穴は外したけど、目には当たったみたいで目潰しには成功してた。

 

「これじゃあ、さっきより暴れてるからさっきの作戦は無理だよなぁ……」

 

 うーん。

 

「おーーい! アイ、危ないぞーーっ!」

 

 いつの間にか川から出られてたのか、下からルフィの声がする。

 

「危ない……なっ?! げっ!」

「ごぉぉぉぉぉぉぉっーー!!」

 

 どうしようか考えてると……。

 

「なんで、ワニがこんな高さまで、飛び跳ねてるのぉっ?! ちょっと、あたしのシャボンや、やばい……え、あ、うわっ! おーちーるーっーーーー!」

「うわあああっ! アイがワニに食われるーーっ!!」

 

 ルフィがスローモーションで、ギャーギャーこっちを見てうろたえてるのが見える。

 

 

 ――あぁ。あたし、ここでワニに食べられて死んじゃうのか。

 

 

「って、食われてたまるかこのやろーっ!」

「ぐへはっ?!」

「へっ?! うわっ! いたっ!」

 

 あたしが叫んだと同時に、変な声を出して口から血とシャボンを吐いて……死んだ?!

 

「アイ、すんげぇ! すんげぇ! シャボンたくさん出して何したんだー?!」

「いでででででで……」

 

 自分が乗ってたシャボンはワニに見事に割られたから、もちろんあたしは落下したんだけど……た、確かに、ルフィが言う通りシャボンは確かにいっぱい出てるけど、あたし何した?! そして、なぜにワニの口から血っ?!

 

「……何、あたし凄いことしたんだろ?」

 

 ワニを観察しながら丁寧にシャボンに入れる。

 

「なんか、よくわかんないけど、あたし先にエースたちのとこ行って来んねー?」

「えっ! エースのとこに行くのか?! おれも連れてけーっ!」

「じゃあ、着いてくれば?」

「おうっ! って、飛んでくんなんて、ずりぃぞーっ!」

 

 ワニ運ぶことしか考えてなかったから、普通にルフィ着いてくると思ってたけど、置いてきゃった。

 

 まっ、いっかぁー!



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6.エースとあたし

 この前、エースとサボがコソコソやってた木の所に来たら、案の定やっぱりコソコソしてる。

 

「今日は、いい獲物いなかったなぁー」

「明日、頑張ればいいだろ」

 

 獲物? 食べ物になりそうな動物たちなら、コルボ山にたくさんいると思うけど……なんの話をしてるんだろ。

 

 なんとなく声を掛けるタイミングを逃して、2人の行動を観察する。

 

 木を箱のふたをパカッと開けるような不思議な行動をエースがすると、本当にふたを開けたのかそこに何か入れてる。

 

 なにあれ、宝箱みたい! 何入ってるんだろ?

 

「って、本当に宝が入ってるー!」

「っ?!」

 

 あたしの声に驚いて2人はちゃんと今回はきちんと、木の上の上に居るあたしを見る。

 

「おめぇ、そこでなにしてんだよ!」

「見たのか?!」

「なぁに? そのベリーとか宝石」

 

 見ちゃいけなかったのか。

 でも、見るなって言われても、この位置からだと丸見えだったからどっちにしろ、見てたけど。

 

「先にこっちの質問に答えろ!」

 

 ……ありゃりゃ。

 エースはすごぉーくご立腹みたいで、本当に鬼みたいな顔をしてる。

 

「ここに居る理由って、言われても……用事があるから?」

「用事があるって、そんなでかいワニ持って来といて言うことかよ……」

「サボ! ワニよりこれ、見られた事だろっ」

「ねぇ、このワニの皮の剥ぎ方、教えてよっ」

「だから、お前っ! 人の話を聞けっ!」

 

 エースは、ガミガミうるさいなぁ……。

 

「くれるって言うなら、貰いますけどぉ……そんなん取ったりしないよっ」

「そんなんって、なんだよっ! お前が取らなくても、誰かに教えるかもしんねェだろっ!」

「ねぇ、サボぉ、エースうるさいんだけど。ワニの皮の剥ぎ方を教えてくれたら、誰にもそのこと言わないから教えてよ。売れたらベリー分けるからさっ」

「このくそ女! 無視すんじゃねェよ!」

「ほっんと、うっさい! あたしの事を無視してるやつが、無視するなとか言ってんじゃねーよ! サボ行こっ!」

「へっ?!」

 

 サボを勝手にシャボンで包んで宙に浮かす。

 それにサボは驚いてるけど、それを黙って見てるエースでもない。

 

「おめぇ! 飛ぶなんて卑怯だぞ!!」

 

 ……ルフィと同じこと言ってる。

 

「卑怯も何も飛べるんだから、いいじゃんねー?」

 

 と、サボに声を掛けてみれば、空に浮いてることに興奮してるみたいであたしの声は聞こえてない。

 

「おお! やっぱ、これすげぇ! アン、このシャボン玉ってどーなってんだ?!」

「……アン?」

「ん? アンだろ、お前」

 

 さっき、エースもあたしのことをアンって言ってた。

 エースとサボはあたしのことをアンって名前だと思ってる? 勘違いされてると思ってたけど、2人がそう言ってるってなんか変? なんで、そういうことになってるんだ?

 

「で、なんで、おれはお前に連れてかれてんの?」

「あ、これ! ワニ! 皮の剥ぎ方を……」

「は? それだけで?」

「エースがうるさかったじゃん」

 

 腑に落ちない顔をしてるけど、どうたらサボはワニの皮を剥いでくれるらしい。

 

「それで、いくらくれんの?」

「売れた値段の……三分の一とワニのお肉くらいならあげよ」

 

 OKと言いながら手慣れた感じにサボは、ワニの皮を剥いでく。

 

「なんで、そんなに慣れてんの?」

「自分がやれって言ったんだろ?」

「でも、サボってどっかのお金持ちのとか貴族の家の子じゃないの?」

「は?! なっ……おれは、親なんかいねぇし……」

「ふーん?」

 

 まぁ、そうだろうと、そうじゃなかろうと、あんまり関係ないから別にいいんだけど。

 

「ほら、出来たぞ」

「うん。ありがとう! 売りに行って来る!」

「おれ、さっきのとこに戻ってっから。ちゃんと、分け前届けに来いよ!」

「分かったけど、あたし……あそこ行って平気なの?」

「知らね! んじゃあ、エースが拗ねてんだろーし」

 

 そう言って、ワニお肉を切り取ってサボは走って行った。

 

 拗ねてる……ねぇ?

 あのお宝を見たとき、エースはかなりの権幕だったからあの場所にあたしが行っても無駄だろうな。

 ってことは、分け前を渡さなくてもよくなるかな?

「ま、いっか。これ売りに行こっと」

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「やっぱり、いないじゃん」

 

 律儀に売ったベリーを持って来たのに。

 うん。

 居ないんだから、さっきの話はチャラだよねぇー!

 

「おい。サボの渡すっつってたやつよこせ」

「……は?」

「だから、おれによこせって!」

 

 いきなり声を掛けられて驚くより前に不信感が先に声に出る。

 

「なんで、エースに渡さないといけないのよ!」

「見てわかんねーのかよ。代理だよ、代理!」

「やだね! あたしはサボと約束したんだから」

「おれだって、好きで来たんじゃねーよ!」

 

 そんな言い合いをエースと数分。

 どちらかが折れれば早い話だったんだろうけど、あたしもエースも折れない。

 

「サボがここに来たら、あいつ優しいからお前を連れてくるかもしんねーだろ!」

「別にいいじゃん! ダメって言われても、勝手について行くつもりだったし!」

「ふざけんな! ついてくんな!」

「じゃあ、ベリーも渡さない!」

 

 ふんっ! そっぽを向いて、やっぱりあたしとエースは話にならない。

 ……別にケンカをしたい訳でもないんだけどぁと、少しだけ自己嫌悪。

 

「おまえら、何やってんだよ……」

「「サボ……!」」

 

 あたしとエースが言い合ってると、待ちくたびれたのかサボが腕を組んで呆れた顔でこっちを見てる。

 

「だって、こいつが……!」

「だって、エースが……!」

 

 サボがあたしとエースの顔を見比べて、いきなり笑い出した。

 

「……ぶっ、あははははは! お、お前ら同時にっ! しかも同じような顔して……あはははははっ!」

「同じ顔ってなんだよっ! ふざけんなっ!」

 

 むきになってエースはサボに何か言ってる。

 そうか、傍から見れば同じような顔にも見えるのか。

 そりゃあ、双子だし同じように見えるよねぇ……。

 

「おい! アン! 聞いてんのかよっ!」

「うっさい! 何っ!?」

「うっさい、じゃねーよ! サボ来ただろ!」

「あ、そうだ。サボこれ、はいっ」

「おう、サンキュー!」

 

 サボ本人が来たんだから、もうベリーを渡さない理由はなくなったから素直にサボに渡す。

 

「おお、すげぇ、金額になったんだな」

「なんか、お店の人も驚いてたから、親が捕まえたって嘘ついといた」

「ん? 嘘って……あれ、おまえが捕まえたのか?!」

「あたし以外に誰が捕まえんの?」

「……まじ?」

 

 ま、まぁ……あたし1人で捕まえるのは、あんまり現実的じゃないよね。

 

「ほら、この力があるからね」

 

 手にシャボンを出して改めて見せる。

 

「その力って、悪魔の実か?」

「うん、そうだよ!」

「だから、あのとき泳げなかったのかー!」

「そうだったみたい……あはは」

 

 恋人を取られたかのような顔で、あたしとサボの会話を聞いてるエース。

 

「ねぇ、サボとエースは普通の友達だよね?」

「そうだけど、どういう意味だ?」

「エースのあの態度……」

「態度……?」

 

 あたしの言った意味がわかってないサボはキョトん顔。

 でも、エースはあたしの言ってる意味が分かったのか、文句を言いながらあたしのことをポカンと殴る。

 

「ばっかじゃねェの!!」

「痛ったっ! なんで殴るのよっ! しかも、仮にも、あんたの妹だよ!」

「だから、おれには家族いねェっつってんだろ!」

「あたしは覚えてるんだから、居るんだっつってんの!」

「おれは知らねぇっつってんだろ!」

 

 あたしが何言っても聞かないから、やっぱりじぃじに聞きだすしかないか。

 

「ガープのじぃじに聞けば、きっとわかるよ。もう、いいっ! あたし、ルフィの様子見て来る!」

 

 それだけ言って、シャボンに入って山賊の小屋に戻った。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 小屋に戻ると、ふて腐れてるルフィと……。

 

「じ、じぃじっ?!」

「おう、アイか!」

 

 こんなにも早くじぃじが来るとは思って無かったけど……もう来たか。

 

「アイは、わしと帰るぞ!」

「ヤダっ! 帰らないっ! 離してっ!」

「アイは女の子じゃろうが!」

「せっかく兄ちゃん、見付けたのに帰らないよ!」

「何?! もう、エースと会ったのか?!」

 

 ん? あたし今、エースが兄ちゃんとは言ってない。

 やっぱり、何か知ってる。

 

「……じぃじ?」

「なんじゃ?」

「あたし、エースが兄ちゃんだなんて言ってないよ!」

「なっ、なにぃ?! わ、わし……なにを?!」

 

 ……こんな、単純なじぃじになんであたしは今まで、エースのことをなんで聞き出せなかったんだろうか。

 いつもは、村長のじじちゃんが上手にじぃじのフォローしてたってこと?

 

 墓穴掘ってしまったー! と、あっち行ったり、こっち来たり、ルフィに八つ当たりをしながら、慌ててるじぃじを横目にため息を一つ。

 

「あたし、エース連れてくるから、じぃじは持ってて!」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「降ろせよ! ふざけんなっ!」

「じぃじが来てるって、言ってんでしょ!」

「おれは、関係ないっつってんだろ!」

「関係あるっつってんでしょ! それに降りたかったら勝手に降りれば!」

「おまえ、この高さから降りられないって分かって言ってんだろ!?」

 

 まぁ、シャボン割ったら降りるって言うより、落ちますよねぇ。

 

「なんじゃー! それはー!」

 

 下で、あたしとエースを待ってたじぃじがこっちを見て驚いてる。

 

「あ、じぃじに、このこと隠してたんだった……」

「は? なんで、わざわざ隠してたんだよ」

 

 珍しく、あたしに疑問を問いかけて来たエース。

 

「ルフィがゴム人間になってから、ルフィの扱いが前にも増して酷くなったから、あたしは隠しとこうかと思って」

「あぁ……」

 

 エースも何か感じたのか、じぃじの方を見て納得している。

 

「早く降りて来るんじゃー! 話はそれからじゃっ!」

「はいはい! 今、降りるよっ」

 

 エースを引きつれてじぃじの前に降りるとじぃじは、あたしを担ぐ。

 

「ちょっ! じぃじっ、話してくれんじゃないのっ?!」

「話をするには、まだ早いんじゃ!」

「やだっ! 嘘つきのじぃじなんて、あたし嫌いっ!」

「き、嫌い……じゃと?!」

 

 ガーンと音が聞こえそうなくらい、落ち込んで静かにあたしを降ろすじぃじ。

 そんなに落ち込んで見せたって、あたしは今日は引かないんだからっ!

 

「で、じぃじっ! エースはあたしのお兄ちゃんでしょ?!」

「……そうじゃよ」

「ほらっ! エース聞いたでしょ!」

 

 思ったよりすんなり教えてくれたことに少し驚きつつも、エースに向かって勝ち誇った顔をする。

 

「じじぃ! どういうことだよっ!」

「アイの本当の名前はポートガス……じゃないのぉ。ゴール・D・アンじゃ。アイは女の子じゃからな、流石に山賊に預けるのはダメだと思ってなぁ?」

「……アン?」

「そうじゃ。お前らの出生には色々あるから、村で生活させるには名前を変えて生活させた方がいいと思ったんじゃ」

 

 あれ? だから、エースもあたしのことをアンって呼んだの? だけど、あたしだって初めて今アンって名前を聞いたしなにかおかしい? どれにゴール・Dってなんじゃそれ? ポートガスの名前はお母さんの方って知ってはいたけど……ん?あたし、モンキーじゃない?

 

「出生はエースは知ってるだろ?」

 

 じぃじに言われて関係ないって顔をするエース。

 

「お前らの父親の名前は、ゴール・D・ロジャーだよ」

「……誰それ?」

「はっ?!」

 

 普通に父親の名前を言われても、初めて聞く名前だし驚きようがないのにエースは呆れ顔、ルフィに関しては「なんで知らないんだ?!」って顔で詰め寄って来る。

 そんなことより、自分の姓がモンキーじゃないってことの方が衝撃。ってことは。ルフィとは本当の兄弟じゃないってことなの?

 

「ゴールド・ロジャーの方がわかりやすかったかのぅ?」

「だから、誰それ? 母さんの名前だって聞くまで知らなかったのに、父親の名前だって初めて聞くんだから知ってるわけないでしょ?!」

「……お前、わかってて鬼の子って言ってたんじゃなかったのかよ」

「アイ、自分で鬼の子なんて言ってたのか?!」

「だって、悪魔の実の能力者のことを、そう言うんじゃないの?」

 

 ポカーンとした顔で、エースとじぃじがあたしのことを見る。

 

「そ、そうじゃ。アイ、その力はなんなんじゃ?!」

「あ、ルフィと一緒に悪魔の実、食べた」

「なにっ?! 赤髪のやつか?!」

「うん? シャンクスたちが持ってたやつ」

「あいつ、ふざけおって……!!」

「あ、ちょっと、じぃじ?! 話はまだ……おわって……」

 

 行っちゃった。

 まだ、ルフィとあたしの関係は聞いてないんだけど。

 

「お前、自分のことをわざわざ鬼の子って言いふらすなよ」

「う、うん? でも、なんで?」

 

 じぃじから、話を聞いて少しは気を許してくれたのかエースから話し掛けてくれた。

 

「ゴールド・ロジャーはワンピースを見付けた、ただ一人の海賊で海賊王だ! すんげぇーっ!」

「海賊王っ?!」

 

 はしゃぎながら、ルフィが教えてくれる。

 

 ……そっか、海賊王となれば賊の王だもんね。

 名前は知らなかったけど、海賊王が処刑になったって話くらいはあたしも知ってる。

 

 処刑になるくらいだもん、イイ人なわけないもんね。

 鬼みたいに怖い人の子供で「鬼の子」そういうことか。

 ってことは、処刑とルフィとの時間が合わないからルフィとは本当の家族じゃないってことか。

 

 

 ――ほっほっほ……! 自分でアンって言ったことを忘れておったか。エースと会ったことで記憶があやふやになったかのぅ? さ、これから、どうなるか楽しみじゃ。

 

「エース、なんか言った?」

「は?」

 

 今、なんか聞こえた気がしたんだけど……気のせい?

 

 

 



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7.エースとサボとルフィ

「あれ? エースは?」

「ん? あ、ルフィとエースが遊んでたから、先に来ちゃった」

「遊んでたって……」

 

 いつもだったら、ルフィを巻いて危ない目に合わせるエースを監視しながらエースを追い掛けて、ここに来るんだけどここ数ヶ月ルフィも逞しくなったのかエースの妨害にも負けないで近くまで来れるようになった。

 

 エースはルフィを上手く巻いてるつもりでいるみたいだけど、もうルフィは大丈夫だと思って今日は直にあたしは秘密基地に向かった。

 

 飛ばないで普通にエース追い掛けても、あたしの足じゃ追い付けないし、と言ってあたしが飛んでるとエースの方が遅いし。

 

 それに、最初は渋った顔をしてたエースも気を許してくれたのか、逃げられないと諦めたのか……あたしがサボとエースの秘密基地に居ても、無理やり追い出すことはしなくなった。

 

 早くルフィもここまで、来れるようにならないかなぁ……と思って秘密基地の木の上で寝ころびながら木の下を観察しているとエースが来たみたい。

 

「サボ! サボ! いるか?」

「おお、エース!」

「悪ぃ遅くなった!」

 

 確かにいつもより、来るのが遅かった気のする。

 あたしが居る事にはエースは気付いてないのか、無視をしてるのかサボに話しかけるエース。

 

 やっぱり、今日はルフィ巻くのに手こずったのかな?

 

「おれはもう町で、一仕事して来たぞ」

「そうか、実はおれもだ!」

 

 仕事? この2人……あたしみたいに狩りしてるの、イノシシを2人で狩るのを少し苦労してるくらいしか見たことないけど、何してんだ?

 

「うわ! すげぇ! おれよりすげぇ! 大金だぞ、どうしたこれ?!」

「大門のそばでよ、チンピラ達から奪ってやった! どっかの商船の運び屋かもな」

「くっそー! 今日も負けたなぁーっ」

「どっちが勝ってもいいだろ。いつか2人で使う海賊貯金なんだから!」

「あんたたち、海賊になるの?」

「うわっ! なんだよ、アンも居たのかよ! サボ早くしまえよ。こいつみたいに、また誰かに見られたらどうすんだよ!」

 

 うんまぁ、あたしは誰にも言う気もサラサラないけど、チンピラとかからお金を奪って来ることを仕事って言ってるのか。

 

 バカみたい。と思いながら、ボーッとまだ木の下を見てるとあたしが待ってた人がこっちをジィっと見てる。

 

「海賊船ーー?! お前ら海賊になんのか?!」

「………………っ!?」

「おれも同じだよ! エースとアイ、毎日こんなとこまで来てたんだなァ」

「だまれ!」

 

 あんりゃあ、ルフィの登場に思ってた通りのエース反応。

 そんでもって、あんまり機嫌が悪くなったりしないサボの表情も雲行きが怪しい。

 

「こいつかよ、お前とアンが言ってた弟のルフィって奴は」

 

 トンっと木の上から飛び降りる、サボとエース。

 

「てか、おれの弟ではないっつってんだろ!」

「あたしの弟なんだから、エースの弟にもなんだから少しは優しくしてって、何回も言ってるじゃん!」

「お前ちょっとうるさい。黙っとけ!」

「うるさいって何よ……!」

 

 あたしの文句は聞く気はないみたいで、あたしを無視してエースとサボはルフィを木に縄で拘束する。

 

「秘密を知られた……放っといたら、人に喋るぞコイツ……! よし、殺すしかないな」

「よし、そうしよう」

「「えーーーーーーーーーーーーっ??!!」」

 

 ただのお遊びで、縄で縛ってると思ってたあたしとルフィは同時に声を上げる。

 

「あんたら、殺すってどういうことよ!」

「殺されるとは、思わなかったーーーー!! 助けてくれーー!! 死にたくねェよぉーーー!」

「バカ、2人とも静かにしろっ!」

 

 泣きわめくルフィを黙らせようと、サボがルフィの口をふさいで、叫んで暴れるあたしをエースが取り押さえる。

 

「サボ! アンは押さえてるから、さっさと殺れ!」

「は? おれは、人なんか殺した事ねェよ!」

「おれだってねェよ! やり方わかんねぇ……あ、アン! お前、イノシシだワニだの殺ってんしゃねェか、責任取ってお前が殺れ!」

「なんの、責任よっ! あたしには関係ないでしょ!」

 

 何故かあたしに責任転換したきたエースと、あたしの言い合いになる。

 まさか、あたしに弟のルフィを殺せとか何を血迷ったか!

 

 いくらルフィが目障りだからって、自分達より年下の子を殺すとか2人は何言ってんの?!

 

「助けてくれーー!!」

「「うるせェーー!!」」

「ルフィ、姉ちゃんが今、助けるからっ! エース離しなさいよっ!」

「ダメだっ! お前も黙れよっっ」

 

 ルフィを助けようと、暴れてみるけど力勝負ではエースにはやっぱり勝てなくて、エースの拘束から抜け出せない。

 

「森の中から声が聞こえたぞ! 子供の声だ……!」

「しまった! 誰か来るぞ!」

「とりあえず、こいつの縄を解け! ここから、離れねぇと宝が見つかっちまう!」

 

 突然聞こえた、大人の声に2人は慌て出す。

 

 そんなに、宝が見付かるのが嫌なのか。

 木の上にあるんだから、普通に遊んでるふりをしてれば、簡単には見付からないと思うんだけど。

 

「あれ? あの人たち……海賊じゃなかったけ? なんで、海賊がワザワザ山に来るんだろ」

「静かにしろっ!」

 

 エースに引きずられて、木の影であたしも身を隠す。

 

「……ここらじゃ、有名なガキだ"エースとサボ"お前らから金を奪ったのは……"エース"で間違いねェんだな!!」

「はい……情けねェ話です。油断しました」

 

 チンピラから金を奪ったねぇ……ただのチンピラじゃなくて海賊じゃん。

 しかも、ここらで有名なガキとまで言われて、名前まで知られてるこの2人の行いが目に見えるよ……。

 

 呆れて2人を見ると、見つかったらヤバいという緊張感はあるみたいで海賊の会話を聞いてる。

 

「これがブルージャム船長の耳に入ったら、おれもおめぇらも命はねぇぞ……!」

 

 あはは! さっきとは、逆にこの2人が命狙われてるんじゃん! 年下いじめた罰だねぇ、これは諦めてお金返すしかないんじゃないの?

 

(……本物の刀、持ってんぞ! ブルージャムんとこの手下のポルシェ―ミだ。あいつイカレてんだ、エース知ってるか? 戦って負けた奴は生きたまま"頭の皮"剥がされるんだ……!)

 

 生きたまま頭の皮剥されるとか、気持ち悪過ぎるんですけど……!

 やっぱり、逃げるのかなぁ? と、思いつつコソコソ話す2人の話も黙って聞く。

 

「あれ? そういえば、ルフィは……?」

 

 こんな状況になれば、あたし以上に騒ぐルフィの声がしなくて周りを見渡してもルフィが見えない。

 

「逃げたんじゃねェ……のっ?! あっ?!」

「離せーー!! コンニャロォーーっ!!」

 

 ルフィを探してると、突然ルフィの叫び声が聞こえた。

 

 声のした方を見ると……え? はぁっ?! ブルージャムの手下にルフィが捕まってるっ?!

 なんで、捕まってるんだっ?!

 

 ど、ど、ど、どうする、あたし?! 助けないとヤバいよね?! で、でも、あたしが敵う相手じゃないのは、この前の海王類の時よりは冷静に判断出来る。

 

「エース! 自首してっ!」

「は? お前、実の兄貴を売るのかよっ!」

「都合のいい時だけ兄ちゃんぶらないでよ! それに、ルフィがエース呼んでる! ほらっ!」

「呼ぶって、なんだよ?!」

「確かに、エースの事をあいつ呼んじゃってるな……」

 

 あたしの言葉よりサボの言葉を聞いたのか、恐る恐るエースはルフィの方を見る。

 

「助けてくれーー、エースーーーー!」

「っ?!」

 

 うん。

 これで、エースは逃げられなくなったね……エースとルフィに呼ばれて、顔を真っ青にしつつもイライラ全開のエース。

 

 まぁ、ここでキレてもしょうがないと思うよ、兄ちゃん。

 

 何せ、お宝の事はバレたら殺すとは言ってたけど、2人のことを話すなとは言ってないんだからそりゃぁ……普通にルフィの口からエースの名前が出るのは、当然っちゃ……当然かと。

 

「お前……エース知ってんのか……?」

「姉ちゃんの兄ちゃんだ! そんで、友達だ! あ……でも、さっきおれ、殺されかけた……」

 

 いやいや、姉ちゃんの兄ちゃんとか、意味わかんないこと言わなくていいから!

 それはエースも同じことを思って横でブツブツ文句を言ってるって思ったけど、ルフィに名前を出されたからエースは怒ってるんだ。

 

 それに、殺そうとしてた相手に自分の名前を出すなって言う方が無理な話だよ。

 エースのことを普通に友達って言えるルフィの方がある意味、大物だとあたしは思う。

 

「一応聞くが、今日エースの奴がおれ達の金を奪って逃げたってんだよ。どこにあるか、知らねェよな?」

「…………っ!!」

 

 あ……この状況は、とてつもなくヤバい。

 

(やべェ……! 宝全部持ってかれちまう!)

(喋んじゃねェぞ、あのバカ!)

 

 だから、殺そうとしてた癖に喋るなとか、まじどんだけ鬼なんですか?!

 だけどルフィは……あたしは喋らないと思うんだけど、思うんだけど……思うんだけどね……?

 

「し……し……知らねェ! そ……そんなの、お、おれは知らねェ!」

 

 ルフィは嘘つく時に視線が留まらなくなって……すんごくワザとらしくなるから、嘘が嘘ってすぐにバレちゃうくらい、すんごく下手なんだよっ!

 

「くくくくっ! 思い出させてやるから、安心しろ……!」

「何だ、おい! 放せよっ! どこ連れてくんだ、畜生ォ!!」

 

 ……やっぱり、こうなったぁぁぁ!!

 

「ちょっと、エースっ!! ルフィ連れてかれちゃったじゃないの! どうすんのよっ!」

「知らねぇよ、あいつが勝手に……!」

「勝手にってなによ! 殺すとか散々脅してた癖に! ルフィは、言っちゃいけないことは絶対に言わない子だよ! あたしの悪魔の実の能力だってずっと黙ってくれてたんだから!」

「それは、命掛かってないから言わなかっただけだろ!」

「こんの……バカエース! あたし1人で助けに行って来る!」

 

 あたしが走り出すとサボの呼び止める声が聞こえた気がしたけど、無視してルフィが連れてかれた方に走って向かった。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 ――ドカーンっ!

 

「うわっ! 今のデカい音なにっ?! 奥の方から聞こえた……?」

 

 地響きみたいな音がグレイ・ターミナルに響き渡る。

 

 あいつらも、グレイ・ターミナルに向かったのは確かなんだけど……ここの土地勘がまだあんまりなくて探すに探せない。

 音がした方に行けば、何かわかる?

 

「なぁ、お嬢ちゃん? ちょっといいか?」

 

 走り出そうとした時、後ろから声を掛けられて驚いて振り向く。

 

「な、なんですか?! あたし、急いで……て!」

「いやいや、時間は取らせないよ? ちーと、人探ししてんだけどよぉ、お嬢ちゃんと同じ年くらいの"エースとサボ"を知らねェか?」

 

 この人! さっきポルシェーミと一緒にいた、チンピラだ!

 

「エースとサボ……」

「おぉ、知ってるのか、お嬢ちゃん! どこにいるか、教えてくんねェか?」

 

 ルフィを探す為にチンピラに、エースとサボを売っちゃおうかとも思ったけど……売ったところでルフィの居場所を教えてくれるかはわからない。

 

「知ってるけど、教えないっ!!」

「教えないって、お嬢ちゃん? 素直に言っといた方がいいよ?」

「やだ! 教えないっ!」

「そうか、じゃあ来てもらうしかねェな……」

「な、何すんのよ! ヘンタイっ! 降ろせっ!」

「グレイ・ターミナルで暴れたって、誰も助けちゃくれねェよ。黙って来て、2人の居場所さえ教えてくれさえすれば、何もしねェよ!」

 

 ギャーっと、暴れて大人の男の人の力には敵わないのは分かってるけど、抵抗しないで変に思われてルフィの所に行けなくなるのもヤダから本気で抵抗する。

 

 ルフィの居る場所についたら、もう簡単にあいつらの事なんか喋ってやるんだからっ! なんて、簡単に考えてたあたしがバカだった――。

 

 

 



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8 鬼の子

「ぎゃああああっ! 痛ェよぉぉー! 恐ェよぉぉー!」

 

 ルフィはゴム人間だから、少しは殴られても大丈夫だろうと思ってたあたしがバカだった。

 何を血迷ったか、あたしが来る前にバカ正直に自分がゴム人間だってこいつらに言っちゃってるんだもん!

 

 ルフィがゴム人間だってわかってからは、変なトゲトゲのあるグローブをしてルフィを殴り始めた。

 

 しかも、縄で吊るされてるから、あたしもルフィも手も足も出せない。

 手が出せたとしても、敵う相手だとも思わないけど逃げることも出来ない。

 

「いいか、くそガキども。もう一度だけ言う。エースが盗んだのは、ウチら海賊団の大事な金だ……お前らはその在りかを知ってる。だから、教えてくれ──!」

「おれは、何にも言わねェぞ!」

「じゃあ、お前の姉ちゃんに聞くだけだっ」

「──ぐっ!」

「アイっ……!」

 

 ポルシェーミーの蹴りが、あたしのお腹に飛んできて声にならない声が出る。

 

 本当はルフィの居る場所についたら、すぐにでもエースとサボの居そうな場所を言おうと思ってた。

 普通だったら、やられまくってるルフィを見たらすぐにエース達の居場所を言って当たり前だと思う。

 

 だけど、なぜかルフィを見てたら言っちゃいけない気がした。

 

「ルフィもあたしも2人の場所は、言わないっ! でも、あたしはあいつらの為じゃなくて、ルフィの為に言わないっ!」

「嬢ちゃんよ、何を意味のわからないことを言ってんだよっ!」

「いってぇな! くそじじぃ!」

「女の癖にこのガキは泣きもしねェ……口も割らねェ……早く言った方が身のためだぜ?」

 

 ルフィはあたし以上にやられてるから、顔なんて血と涙ですごい事になって、血がポタポタと床に落ちて喋る気力もなくなってる。

 

「お前ら、エースの弟と妹なんだよな? 随分と薄情な兄貴持っちまったな。お前らがこんなにやられてるのに来もしねェ。くくくく!」

「あたしもそれは、そう思うから否定はしないっ!」

「だったら、ゲロっと吐いちまえよ、兄貴の居る場所っ!」

 

 喋りながらあたしとルフィを交互に痛みつけてくる、ポルシェーミ。

 

「もう、ルフィは喋らないんじゃなくて、喋れなくなってる! やるなら、あたしをやればいいでしょっ!」

「ォェ……っ! ヒック、はぁはぁ……っ」

「ぽ、ぽ、ポルシェーミさん! このガキが言う通り……こいつ、叫ぶ気力も失ってます! もう何も喋らねぇし……正直ムゴくて見てられねェ……!!」

「何言ってんだ! ガキかばう暇があったら、エースとサボを捜して来い! 命が危ねェのはおれ達なんだよっ!」

 

 あたし達をかばってくれたチンピラを殴り飛ばして、小屋の中からチンピラを追い出すポルシェーミ。

 それに、あたしよりルフィの方が癇に障るのか、気力のないルフィに向かってまたポルシェーミは殴り出す。

 

「クソガキが一貯前に、秘密を守ろうとしてんじゃねーよ!」

「い、いわねぇ……! おれは、いわねぇ……!」

「じゃあ、もういい……死ねよっ!!」

 

 そう言って、ポルシェーミがルフィに拳を振り上げたと同時にあたしの声と誰かの声が重なった――。

 

「やめてェーーーーっ!!」

「「やめろォーーーーっ!!」」 

 

 声と同時に小屋が破壊されて、エースとサボが飛び込んできた。

 

 まさか2人が助けに来るとは思ってなかったから、驚いてあたしは声も出ない。

 

「こ、コイツだぁ!! ポルシェーミさん、金奪ったのコイツですーーっ!」

「……え、エーズぅ!!」

 

 ルフィが泣きながら声を上げる。

 思わず、あたしも泣きそうになったけど……まだ逃げれたわけじゃないから、ここであたしも泣くわけにはいかない。

 

「自分から来てくれるなら、話は早ぇ! 口が堅くて困ってたんだよ、テメェの兄妹たちが!」

「ルフィはおれの弟じゃねぇ!」

 

 いや、そこを否定してる場合じゃないでしょっ! しかも、エース簡単に捕まってるし!

 だけど、あたしが妹だってことを否定しなかったことは少しだけ驚いた。

 

「サボっ!!」

「ん?」

 

 エースの声に反応してポルシェーミが気を取られた時……!

 

「ウォリャアアアーーっ!!」

 

 サボが持っていた鉄パイプで大きな音を立てながらポルシェーミを、力任せに後ろから殴ってポルシェーミがよろけたのを見て、チンピラたちは慌て出す。

 

 その隙を見て、サボがチンピラからナイフを奪ってあたしとルフィの縄を切ってくれる。

 

「アンは動けるなっ?!」

「う、うん……!」

 

 そう言いながら、ルフィを担いで逃げる体制を整えるサボ。

 

「エース逃げるぞ!」

「先に行け!」

「バカお前……っ!」

 

 ポルシェーミがよろけたのを見て、驚いてチンピラ達も逃げだしたから、逃げ出すには今が絶好のチャンスなのにエースは何言ってんの?!

 

「一度向き合ったら、おれは逃げない……!」

「やめろ! 相手は刀持ってんだぞ! 町の不良とわけが違うぞ!!」

 

 意味不明なカッコイイ台詞言ってますけど、あたしとルフィのこの傷を見てなんでそんなことが言えるの?!

 しかも、サボの話もまったく聞かないでポルシェ―ミと睨み合うエース。

 

「オイ……少し魔が刺したんだろ? 大人しく金渡せよ悪ガキ」

「おれ達の方が有効に使えるっ!」

 

 有効に使えるって……! 余計な挑発しなくてもいいじゃん、何考えてるのあのバカっ! あたしには、もうプルプルと青筋立ててマジ切れ寸前のポルシェ―ミが見えるけど、エースには見えてないのっ?!

 

「……バカ言ってんじゃねェよ!!!!」

 

 ほら、やっぱり怒り爆発させちゃったじゃん!!

 ポルシェ―ミが振り上げた刀はエースの額をかすった。

 

「ガキに敗けたら、おれァ……海賊やめてやるよォ……!!」

「うわーっ!! ダメーーっ!!」

 

 刀をもう一度エースに振りかざしたポルシェ―ミに驚いて、あたしが叫ぶとポルシェ―ミ全体をシャボンが包み込んだ。

 

 いや、えっと……シャボンで包んだからって、相手は刀持ってるから直ぐに割られるだろうから、どうにかなるとは思ってはなかったんだけど、なんか少しラッキーな風が吹いたらしい。

 

「……な、なんだ、これは?!」

 

 シャボンで急に包まれたポルシェ―ミは驚いて慌て出す。

 その隙を見てエースとサボが強烈な一撃をポルシェ―ミにくらわして気絶した。

 

「たまには、アン……役に立つな」

「たまにはって何よ! 助けてやったんでしょ!」

「は? 何言ってんだよ、助けてやったのおれ達だろ!」

「原因はあんた達でしょ!」

「お前ら、ケンカは後にしろ……」

 

 サボにケンカを止められて、あたしとエースは我に返って早々とこの場を後にした。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「うっ、うぇえぇぇーーーん! どゥおぉオおおーーーーん! ぶへーーっ! おぉおおぉぉおお……っ」

 

 ルフィよ……なんちゅう泣き方をしてるんだい。

 やっと落ち着いて、あたしも気が緩んで泣きそうになった瞬間、ルフィの泣き声でいっきにあたしの涙は引っ込む。

 

「エースっ! お前……悪ぃクセだぞっ! 本物の海賊を相手に「逃げねェ!」なんて!! お前はなんで、そう死にたがりなんだよっ!!」

 

 サボがエースにお説教をしてるのを、フンっとふて腐れた顔で聞いてない。

 

 ……死にたがり。

 そうか、あの時あたしも思った違和感……だから真正面から向かって逃げるチャンスあったのに逃げようとしなかったの?

 

「怖がっだ……死ねがどおぼつだぁぁぁぁぁ!! ひっく、えっぐ……」

「あぁっ!! うるせェなっ、いつまで泣いてんだ! おれは、弱虫も泣き虫も大っ嫌いなんだよっ! イライラする!」

「…………っ!!」

「あ、ルフィが泣き止んだ……!」

 

 酷いこと言われてんのによく泣き止めるな……。

 

「ありがどうぅ……」

 

 明らかに泣くのを我慢しながら、ルフィはペコリと頭を下げるルフィをエースとサボはポカーンとした顔で見つめる。

 

「たす……助げでぐれで……ウゥ……」

「てめェっ!!!!」

「おいおいっ! エースっ! 礼言ってるだけだ!」

 

 また泣き出したルフィにイラついたエースが怒鳴ると、それをサボが止める。

 なんちゅーの? ある意味エースとサボはいいコンビなんだと思う。

 

「……だいたい、お前何で口を割らなかったんだ! あいつらは、女でも子供でも平気で殺す奴らだっ!」

「喋ったら……もう、友達になれねェ……」

「なれなくても、死ぬよりいいだろう!! 何でそんなに、おれとダチになりてェんだよ!! お前、おれにどういう目に遭わされた?! とうとうここまで、付いてきやがって!!」

 

 ひどいことしてたって自覚はあったんですね、お兄ちゃん……。

 

「だって、今のおれだけじゃ、アイを守れねェ……」

「……は?!」

 

 思わず、あたしの口から変な声が出る。

 

 いやいやいやいや、姉ちゃん……弟に守って貰おうとか思ってないよ?

 

「フーシャ村にはアイも帰れねェって言うし、山賊嫌いだし……! お前を追いかけなかったら、他に頼りがいねェ! じいちゃんに、アイを守れって言われた! おれだけの力じゃアイを、守れねェし……それに、アイの兄ちゃんだ! ぜってェ、イイヤツだっ!」

 

 ……あたしの兄ちゃんってだけで、イイヤツだってルフィは思ってくれてたんだ。

 だから、あんなに酷いことされてもめげずに追い掛けて来てたんだ。

 

「こいつを守る……ねぇ?」

 

 腕組をしたままチラッと、あたしの顔を見るエース。

 

 いや、なんか……何にも言われてないけど、言いたいことはなんとなく伝わって来ますよ? どうせ、あたしなんか、守る価値と言うか、守らなくてもとかどうせ思ってんでしょ!

 

「……おれがいねェと困るのか?」

「うんっ」

 

 エースがあたしから視線を反らして、ルフィにエースは視点を戻して会話を始めると頭の中に声が響いた。

 

 

 ──もし、ロジャーに子供がいたら? がははははは、変なこと聞くガキだなぁ。ま、そんな奴がいたら困るなァ!!

 

 

 困る……? なんで、困るの? 別にあたしは、なんにもしてないと思うけど……。^

 

 

 ──そいつは、生まれて来る事も、生きる事も許されねェ"鬼"だ!!

 

 鬼って、ロジャーの子供のあたしとエースの事を言ってたんだ。

 だから悪魔の実のことだと思って、鬼の子って言った時にエースの表情が変わったんだ……。

 

 それに気付いた時に、あたしじゃない誰かの意識が入って来て勝手に口が動き出す。

 

「……許されない子供。あっ、あっ……いやぁぁぁっっ!! やだ、やだ、やだ! あたしもエースも、生まれて来ちゃいけない子なの?! ちがっ……やだ、やだっ! エースもあたしも違うっ! ごめっ、ごめんなさいっ……!」

「な、なんだ?! おい、アンっ?! アンっ!!」

「アイっ?!」

 

 エースとルフィの声がしたと思ったら、そこでプツンとあたしの意識は切れた――。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「んー! 良く寝たっ。って、あれ? いつここに帰って来たんだっけ?」

 

 確か、ルフィがギャン泣きしてて……あれ? ここから先の記憶が微妙にない。

 

「ま、いっか! って、サボっ?!」

 

 なんで、ここにサボまで寝てるんだ?!

 

 ……あ、そっか、海賊の一味の1人とケンカしたんだから、グレイ・ターミナルに居たら危ないのか。

 

「どういうこった、こりゃーー!! エース、ルフィっ! そいつは誰だ? 何でガキがまたもう一匹増えてんだよ!!」

 

 だよねぇ、やっぱりこうなったよねぇ! そこで、あたしには聞いて来ないってことはダダンはあたしは関係ないと思ってくれてる。

 

 うん、あたしの日頃の行いのおかげだと信じようっ!

 

「よう! ダダンだろ? おれはサボっ!」

「サボ?! 知ってるよ、その名前! よっぽどのクソガキだと聞いてるよ!」

「そうか……おれもダダンはクソババアだと聞いてるよ!」

「余計な情報持ってんじゃないよ! それと、おめェらはともかく、なんでアンがこんな大ケガしてるんだいっ!!」

 

 そういえば……あたしも昨日ポルシェ―ミにやられて、結構ケガしてたんだった……。

 ケガの事を指摘されて、思い出したように痛くなって来る。

 

「そうだ、アイ! 大丈夫か?!」

 

 ダダンを無視してルフィがあたしに駆け寄って来た。

 

「ケガ? それだったら、ルフィの方が酷いじゃん」

「だって、アイ倒れたぞ?!」

「……倒れた?」

 

 言われてみれば、いつの間にかここに寝てたし、ルフィの言ってる事は間違ってないと思うけど……なんで、倒れたんだっけ?

 

「おい、ちょっと来い!」

「え、ちょっと、エース?!」

 

 あたしとルフィが話してると、エースが割り込んであたしの手を掴んで外に引っ張り出された。

 

「何?! エースどうしたのっ?」

「…………」

 

 あたしの手を掴かんだまま、背を向けて何も話さないエース。

 

「お前、昨日……叫んでたやつ、生まれちゃとかなんとか……お、おれも居るかるからな!」

「う、うん?」

「話はそれだけだっ!」

 

 それだけ言って、走って小屋にエースは戻ってしまった。

 

 んだけど、生まれちゃなんとかって……なんのことだ? あたしが、叫んだって言ってたけど。

 

 倒れる前に何かあったのかなぁ? ルフィがあたしの事を守るって言ってて、それからエースが微妙な顔であたしの事を見てて……そうだ!

 

 そしたら、頭ん中に声がしたんだっ!

 

 ──生まれて来る事も、生きる事も許されねェ"鬼"だ。

 

 あたしが言われた言葉じゃない。

 だけど、あたしにも言われた言葉だ。

 

 そうだ、エースが聞いた言葉……それをエースが聞いた時の事が頭の中にぐちゃぐちゃに入り込んで来て、あたし混乱して発狂したんだ。

 

 あたしがフーシャ村で、のほほんと何も知らないで暮らしてた時にエースは1人で……!

 

「ふぇっ……」

 

 急に涙がボロボロと落ちてくる。

 

「なっ、おい?! なんで、泣いてんだよっ! エースが様子見てこいって言うから来てやったら……! なんだよ、エースになんか言われたのか?」

 

 泣いてると慌てるサボが目の前に居る。

 

「うわっ! サボ?! これは、エースに泣かされたんじゃなくて、エースが泣いてて……だから、えっと……」

「何言ってんの? エースなら、あっちでルフィと口ケンカしてるけど?」

 

 うん。そう言う意味じゃなかったんだけど、余計な事をあたしの口から話したらエースが怒りそうだから喋るのやめとこ。

 

「なんか、よくわかんねェけど……大丈夫なんだな?」

「うん? あたしは大丈夫だよ」

「なら、おれあっち行くぜ」

 

 それだけ言ってサボはエース達の所に走って行った。

 

 エースが泣いてたか……なんか、そんな感じがしたんだよね。

 あれはあたしが言われた事もないし、わざわざ人に聞いたりしたことない。

 

「あっ……ぷぷぷっ」

 

 そういえば、エース……おれも居るって! 思わず、笑いが込み上げる。

ツンツンしてる癖にあたしのことを、ちゃっかり妹って認めて慰めてくれたんじゃん。

 

 ツンツンしてる癖にあたしのことを、ちゃっかり妹って認めて慰めてくれたんじゃん。 



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9 兄弟

「ドグラぁ、マグラぁー! 何もすることなくて暇だよぉ!」

「まーまー、そんなケガしてるんだから、もう少し静かにしときなって」

「エースとかルフィの方がケガ酷いのに……」

「アンは女の子だからニー! 家事はおれらがもうやったぞ」

 

 そういえば、あたしダダン一家の人達には自分の事をアイと自己紹介したはずなのに、いつの間にかあたしの事をここのみんなはアンとあたし呼んでる。

 ここに居ると、あたしの事をアイって呼ぶのはルフィだけだ。

 

 それに何故か、ダダンも含めて山賊のみんな口は悪いけどあたしには優しくしてくれる。

 それで調子に乗って、みんなの事を呼び捨てで呼んだりしてるけど、やっぱり怒るそぶりすらみんなしない。

 

「なぁ、おめェら「ゴア」ってのはどこだ?」

 

 ダダンが珍しく新聞と睨めっこしながら聞いてくる。

 

「コルボ山もフーシャ村も「ゴア王国」の領土だよ?」

「ン――。だぁよねぇー?」

「分かってる事を聞いて、どうしたの? ダダン」

 

 一瞬、本当に知らないの? と、ビックリしたけど、どうやら新聞に気になることがあったみたいでダダンは一応確認したらしい。

 

「この王国になんだか、お客が来るってでかいニュースになってるが"天竜人"ってのは、そんなに偉い奴なんか?」

 

 それは、貴族より凄い貴族って言うことくらいしか、あたしもわかんないや……。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 あれから数日経って、ケガもよくなって久々に秘密基地に来た。

 エースもイイ意味で心境の変化があったみたいで、ルフィに対しての態度も少しは柔らかくなってたけど……あたしに対しては相変わらず。

 

「ゴムゴムの――"銃"!! ふんがっ! いでェっ!」

「ぶはっ! あはははははっ! ルフィまだそれやってんの?!」

 

 ルフィは自分の伸びる腕を使って、その勢いでパンチをするつもりで前から練習してるみたいなんだけど……腕が真っ直ぐ伸びなくてその腕が自分に戻って来て結局は自爆する。

 これを見るたび、本当にあたしはゴム人間じゃなくて良かったと思う。

 

 その間抜けなルフィの姿を見てあたしとサボは爆笑、エースは怒り出してすぐにルフィを殴る。

 

「だから、おめェは……何してェんだよ!」

「どへっ……!」

 

 エースに殴られて引っくり返たルフィを無視して、サボは木の板に数字を書いてる。

 

「1本だ、エースの勝ち!」

「あ、今、エースが殴ったの勝負中だったんだ」

「まぁ、あれだから、数える意味もなさそうだけどなァ。ぷぷぷっ」

 

 サボの視線をたどると、やっぱり自爆をしてるルフィを見て笑ってる。

 

「もっかいだっ!!」

「ダメだ。1人1日100戦まで、また明日な」

「ルフィは今日もおれとエースに50敗ずつ。おれとエースは24対26……くっそぉっ!」

「お前らおれが、10歳になったらブッ倒してやるからな!」

「そん時はおれらは13だ」

「あはははっ! エースって計算出来たんだねぇ」

 

 3人の会話に茶々を入れると、エースに思いっきり睨まれる。

 

「夕飯の調達に行くぞ!」

 

 それだけ言って男3人組はあたしを置いて、夕飯の調達に行ってしまった。

 

 だけど、まぁ置いてかれたと言うよりはあたしが飛んで付いてくるのが分かってるから、置いてかれたんだけど……今日は別行動。

 

「あたしは今日はワニ売りに行こっと」

 

 3人が狩りしてるとこに居ると、3人で狩りしてるところにあたしが1人で狩りしちゃうからあんまりいい顔しない。

 やっぱり男の意地とかなんかなんだろうか?

 

 腕力と脚力じゃ敵う気はしないけど。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「なぁ、お譲ちゃん? いつもなんで綺麗なワニを持ってこれるんだい?」

 

 いつもワニのお肉を売ってる肉屋のおじさんに聞かれる。

 サボに皮を剥いで貰ってやり方を教えて貰ったんだけど、やっぱりどうも気持ち悪くて出来ずに試しにそのまま肉屋に持ってたら、皮は肉屋にはいらないからと言って肉屋のおじさんがやってくれるようになった。

 

 だけど綺麗なままの方が皮が高く売れる事を知ってからは、なるべくキズがつかないようにしてた……んだけど、なんて言い訳すればいいんだろう。

 

「うーん。あたし泳げないから、ワニ捕まえるの得意になった!」

「泳げないのにワニ捕まえられるのかいっ?!」

 

 ありゃ? なんか逆効果だったみたいで、肉屋のおじさんを余計に驚かせてしまったらしい。

 

「食い逃げだーー! 誰か捕まえてくれーーっ!」

 

 何か上手いことを肉屋のおじさんに言えないか考えてると、大きな声が商店街に響いた。

 

「……食い逃げ」

 

 なんか嫌な予感がして見上げる。

 

「ぶはっー! ウマかったーー!」

「言ったろ、だから!」

 

 ……や、やっぱり。

 嫌な予感的中。エース、サボ、ルフィが屋根の上を上手く渡って逃げてるのが見える。

 あたしが着いて来ないのに気づいて、あいつら……今日は食い逃げに走ったんだ。

 

「また、あの3人組か! 常習犯だな、なんで店に入れたんだ?」

 

 どうやら肉屋のおじさんもエース達の事を知ってるらしく、呆れた顔で見上げてる。

 ここであの3人組と知り合いだと、思われるのは少し面倒なことになりそうな気がする。

 

「お、おじさん! 皮剥いでくれてありがとう! あたし皮売りに行って来るねっ」

 

 それだけ言ってその場を逃げるように離れた。

 

 3人を追い掛けて「もー! ちょっと、あんたち……!」と、声を掛けようとした時、あたしの他に……と言うかサボに声を掛けてる人がいて、思わず言葉を飲み込んで物陰に隠れた。

 

「サボ! サボじゃないか、待ちなさい!! お前生きてたのか、家へ帰るんだ!!」

 

 サボに声を掛けてる人……お金持ちっぽい? 最初、サボに会った時もサボはお金持ちの子供かと思ってたけど関係ある?

 

 だけど呼ばれてるからって、一瞬サボは振り向いた気がしたけど、立ち止まるわけでもなく3人は走って逃げてる。

 

 サボって呼んだけど、サボは知らない人だったのかな? 肉屋のおじさんも、名前まではどうかわからないけど知ってたくらいだし。

 

 でも、サボの名前だけ??

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「ねぇ、さっきのお金持ちっぽい人……サボって言ってなかったけ?」

「うわっ! アン?! ど、どっから出て来たっ」

 

 食い逃げした3人を追い掛けて、秘密基地に着いてサボに声を掛けると大袈裟じゃないの? と言うくらい、サボは驚く。

 

「な、なんだよっ! 何も隠してねェよ!」

「いや、何にも言ってないけど……その反応は何か隠してるの?」

「あ、いや……」

 

 あたしが突っ込むと、サボは口ごもる。

 

「おい、サボ! おれ達の間に秘密があっていいのか? 話せっっ」

 

 サボが口ごもったのを見て、エースとルフィも何かを感じてサボを見る。

 

「話せよ、てめェ! ぶっ飛ばすぞ!」

「……ぐはっ! は、話すから離してくれっ!」

 

 エースとルフィに首を絞められたサボは観念したのか、歯を食いしばりながら悲しそうな顔でボソッと何かを言った。

 

「……き……くの息子」

「「聞こえねェ!」」

 

 言い難そうに何かを言ったサボにエースろルフィが突っ込む。

 

「きっ……貴族の息子だよっ!」

「えええええ?」

「誰が?」

「……おれだよ!」

 

 やっぱり貴族だったのか。

 エースとルフィは驚いてるのか、それともサボが何を言ってるのかわかってないのか。

 

「「で?」」

「お前らが質問したんだろっ!!」

 

 ……やっぱり後者だったか。

 特にルフィは貴族とか、そういうのはよくわかってないだろうけど。

 

「……本当は親も2人いるし、孤児でもなければゴミ山で生まれたわけでもねェ。今日おれを呼び止めたのは、おれの親父だ。お前らにはウソついてた……ごめんな」

「謝ったからいいよな! 許すっ!」

「おれはコトによっちゃ、ショックだ。貴族の家に生まれてわざわざゴミ山に……!」

「…………っ」

 

 やっぱり、エースには何か言い難そう……あたしが前にそんな事を聞いた時も誤魔化されたし。

 

 貴族かぁ……村の子とは少しは違うんだろうけど、何か窮屈だったりしたのかな。

 釣りしてた時だって、釣れないのがわかってて釣してて、何か考えてたようにも見えた。

 

 ――将来王族と結婚出来る男になれ。そうなれば我が家も安泰!

 

「王族の娘と結婚すれば安泰……?」

「ちょ?! な、なんでアンがその話……!」

「え、何っ? 今、サボが自分で言ったでしょ?」

「おれ、何も言ってねェよ!」

 

 なんだ? なんか聞こえた気がしたけど、サボは何も言ってない? 

 

「あれっ?」

「あれっ? じゃねェよ……」

 

 あたしが悩んでるとサボは「はぁっ」とため息をついてから、重い口を開いた。

 

「あいつらが好きなのは「地位」と「財産」を守っていく"誰か"でおれじゃない! さっきアンが言ったけど、王族の女と結婚出来なきゃ……おれはクズ。そのために毎日、勉強と習い事しても出来の悪さに両親は毎日ケンカ。あの家にはおれはジャマなんだ」

 

 邪魔……なんか、規模は違えとあたしとエースが"鬼の子"って言われてるのと似てる?

 

「お前らには悪いけど……おれは親がいても"1人"だった」

「「…………」」

 

 エースもルフィもサボの話を黙って聞いてる。

 

 ――ゴミ山に住んでるのは、人間じゃない。人の形をしたゴミだ……!

 

「ゴミ山の人間は人の形したゴミだって……ふざけた事を言う人もいるんだねぇ」

「は? アン、何言ってんだよ」

「え? だからサボが……」

「おれはさっきもだけど、何も言ってねェ!」

 

 あで? さっきから、なんか聞こえてる気がするんだけど……いや、サボから聞こえてるのは確かだけど、サボが言った言葉じゃない。

 

「貴族の奴らだ、そんな事を言うのは。奴らはそう言ってゴミ山を蔑むけど……あの息の詰まりそうな"高町"で、何十年先まで決められた人生を送るよりいい」

「……そうだったのか」

 

 エースは神妙な顔でサボの話を聞いてる。

 何十年先の人生が決められてるって、どうなんだろ? あたしは? これからどうなるのか、わからないから決められてるって事はない。

 だけど、これからあたしは……どうしたい? エースは見つけた、ルフィも一緒にいる。

 

 ――もう……エースを処刑する気なんだ!!

 

「うわっ?!」

「な、なんだよ、アンいきなり叫びやがって!」

「痛っ! あ、いや、なんでもない……」

 

 あたしの声に驚いたエースがあたしを軽くどつく。

 一瞬、今なんかまた聞こえた気がした。

 

 エースを処刑? いや、まさかね! 自分らの父親が処刑されたからってエースまで……チラっとエース達を見る。

 

「エース! ルフィ! おれ達は必ず海に出ようっ! この国を飛び出して自由になろう!」

「ちょっと、あたしは仲間外れっ?!」

「は? お前も海賊になるのか?」

「うーん。海賊になるかはわかんないけど、気になる事はあるから海には出たい……」

 

 今じゃなんとか使ってるあたしの悪魔の実の事も気になるから、赤髪海賊団の人が言ってた「シャボンティ諸島」にあるシャボンに似てるって言われたからそこにも行ってみたい。

 

「ひひっ! ま、おれはサボに言われなくても、海賊になるさ! おれは海賊になって、勝って勝って勝ちまくって、最高の"名声"を手に入れる! それだけがおれの生きた証にになる! 世界中の奴らが、おれの存在を認めなくてもどれ程、嫌われても……"大海賊"になって見返してやんのさ!」

 

 名声……大海賊、それに嫌われても? 嫌われもって、さっき聞こえたエースが処刑がどうのって! 嫌われたら処刑まっしぐらじゃん! あたしらのお父さんが何をしたは知らないけど……嫌われたりしたらまったく同じじゃんか!

 

「おれは誰からも逃げねェ! 誰にも負けねェ! 恐怖でも何でもいい! おれの名前を知らしめてやるんだ!」

「っ?!」

 

 恐怖って! ダメじゃんか! エースが処刑って、本当になりそうじゃない?! うわっ、えっと……あわわわわわ!!

 

「じゃあ、アイはおれの船のコックと航海士と船医やってくれ!」

「は?! な、何?! コック? 航海士? 船医?! あたしは、そんなことよりエースを監視だよっ!!」

 

 ルフィにいきなり声を掛けられて、思ってた事を全部ポロッと喋ると男3人組はポカーンとした顔であたしを見てたけど、エースは我に返ってあたしに向かって文句を言い出した。

 

「はっ?! おれの監視って何言ってんだよ」

「監視は監視だよっ! エースが悪い事しないように!」

「海賊になるんだから、それなりに悪い事はするだろっ!」

「だから、監視すんの!」

「だから、監視の意味がわかんねェ!」

 

 あたしとエースのケンカが恒例になってるのか、ルフィとサボは気にも留めてない。

 

「で、お前らケンカもいいけど、3人共船長になりてェってまずくねェか?」

「思わぬ落とし穴だ。サボはてっきりウチの航海士かと」

「えー、お前らおれの船に乗れよー」

 

 あたしの首根っこを掴みながらサボに顔だけ向けて話し出すエースに、それを無視して話し出すルフィ。

 

「ま、将来の事は将来決めよう」

「3人……あ、4人か、みんなバラバラの船出になるかもな!!」

「あたしはエースと行くからねっ!」

「お前、いい加減にしろっ!」

「うぎゃっ」

 

 なんでエースは、いちいち殴るかな。

 

「あ、エース! それ、ダダンの酒盗んで来たな?!」

「お酒?! あたし達は……痛っ!」

 

 まだ子供! って言おうとしたら、無言でエースに殴られる。

 

「お前ら知ってるか? 盃を交わすと"兄弟"になれるんだ」

「兄弟? ホントかよーっ!」

「海賊になる時、同じ船の仲間にはなれェかも知れねェけど……おれ達の絆は"兄弟"としてつなぐ!」

 

 男同士の約束ってやつか。

 なんか、あたしは入れそうにないなぁ……。

 

「ん? アンもこっちに来いよっ」

「え、でも……」

「何、遠慮してんだ? おれとお前は"兄弟"じゃねェだろ?」

 

 サボに腕をクイっと引かれて3人の間に連れてかれると、エースが「ま、いっか」とため息つきながら4つの器にお酒を注ぐ。

 

「……どこで何をやろうと、この絆は切れねェ! これで、おれ達は"兄弟"だっ!」

「「おうっ!」」

「!!」

 

 エースの掛け声で器に入ったお酒をみんなで一気に飲み干す。

 

「ま、まずぃ……」

「お前は調子に乗って、おれについて来るなよっ!」

「うっへぇ! ついてくったら、ついてくんらからっ!」

 

 あれ? なんか、呂律が回らない。

 

「な、なんか、アンの様子変じゃないか?」

「ふぇんじゃない……ふぇんじゃ…………」

 

 あぁ……なんか、眠くなってきたぁ――。

 

 



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10 記憶と再開

「ゴール・D・ロジャー? ゴールド・ロジャーの事か? 知ってるかって? お前、世の中なんでこんなに海賊達の被害が多いのか知らねェのか?!」

 

 あたしが生まれた時からこんな感じだったから、被害が多いか少ないかはわからない。

 でも不良が言うくらいだから、きっと多くなったとは思うんだけど、なんであたし不良と話してるんだ?

 

「全部そのゴールド・ロジャーのせいなんだぞ?! アレは生まれて来なければ、よかった人間なんだよ。とんでもねェクズ野郎さ!! 生きてても迷惑、死んでも大迷惑!! 世界最低のゴミだ、覚えとけ!」

 

 この人たちはただの町の不良だ。

 あたしがロジャーの子供ってことは知らないし、きっと何かの被害にあったんだとは思う……だけど、ひしひしと何かが湧き上がって来る。

 

 

 ――黙れ。黙れ、黙れ、黙れっ!!

 

 

 何っ?! あたしの声じゃない……エースの声だ。

 その声の正体が分かった時には遅く、ヘラヘラ話して不良は目の前で傷だらけで倒れてる。

 

 どうしようかと、慌ててると意識が遠のいて今いた場所とは違う場所にいた。

 

「ぶわっはっはっ! おい、エース最近荒れとるらしいな!」

「……! ジジイには孫が居るんだろ? そいつらは……幸せそうか?」

「あぁ。ルフィと……か元気に育ってるわい」

 

 エースとじぃじが話してる所に、あたしも会話に加わろうとしたけど声が出ない。

 

 ……こんな感じ、前にもあったような気がする。

 

「おれは、生まれて来て良かったのかな……」

「?! そりゃあ、おめェ……生きてみりゃわかる」

 

 あたしは……そんな事を考えてみたこともなかった。

 何かわからない感情が溢れ出して来て涙が零れそうになった瞬間、またフワッと意識が遠のいてまた別の場所に移動してた――。

 

 

「エースさん、待っとれよ!!」

「エース、必ず助けるぞーー!!」

「待ってろよォ、エース!」

 

 この光景……あたし、知ってる。

 そうだ、すっかり忘れてたけど、あたしの1番初めの記憶で、あたしが居ない世界だ。

 

 エースの公開処刑。

 海軍本部、マリンフォード……行った事がないのに何故か地名がわかる。

 

 そこでは大勢の人達がぶつかり合って、海賊はエースを助ける為に戦い、海軍はそれを阻止する為に戦ってる。

 

「帰れよ、ルフィ!! なんで来たんだ!! おれにはおれの仲間がいる、お前に立ち入られる筋合いはねェ!! それに、お前みてェな弱虫におれを助けに来るなんて……それをおれが許すとでも思ってんのかっ?! こんな屈辱はねェ!!」

 

 口では強がってる事を言ってるけど、エースの心の中はグチャグチャになってるのが、何故かあたしの心の中に伝わって来る。

 ただルフィを巻き込みたくないってエースの気持ちだけが膨れ上がってる。

 

「おれは、弟だっ!! 海賊のルールなんて知らねェ!!」

 

 ルフィが叫ぶと周りがざわつく。

 

 そうだ、母親はあたしが中々生まれなくて20ヵ月もお腹に入ってて……体力を消耗して産んでから亡くなったとじぃじに小さい時に聞いた。

 

 ロジャーがいつ処刑されたか調べたら、あたし達が生まれる前に処刑されてるからルフィが血の繋がりは、ないのは明らかだからルフィがエースの弟って事にみんな驚いてるんだ。

 

「そいつ、麦わらのルフィは……幼い頃、エースと共に育った義兄弟であり、その血筋は「革命家ドラゴン」の実の息子だ!」

 

 海軍の偉い人の説明にまた「有害因子」「麦わらも鬼の子だったか」など、どよめき始めた。

 

 ……革命家ドラゴン、誰それ? ルフィまで鬼の子って言われるくらいなんだから、きっと凄い悪人なんだ。

 あたしの知らない事ばかりで混乱して来た。

 

 そういえば……サボが居ない。

 盃交わしてサボも兄弟だから、ルフィだけじゃ絶対に心配だから来ててもおかしくないと思うんだけど。

 

 

 ――サボ……お前だったらどうした?

 

 

 エースの思った事だろうか、あたしの頭の中に響いた。

 

 どういう意味なんだろう?

 

 ――と、思った瞬間に前と同じように意識がブチっと途切れた。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「久しぶりじゃのぅ……ほっほっほ!」

「……だ、だれっ?!」

「お、今回は寝惚けてないんじゃなぁ?」

「うわっ?! えぇっ?!」

 

 声に驚いて飛び起きると目の前には、白銀の長めの髪の毛の知らない男の子がいる。

 

 ずっと気のせいだと思ってたけど、この声……空耳だと思ってた人の声だよね? どうしたらいいのか、わからず男のを凝視する。

 

「まぁ、悪魔の実も少し食べたことだしな。顔くらいはと思って見せてやった! ……わしに惚れるでないぞ?」

 

 ……何を言ってるんだ、この子は。

 明らかに話し方が、おじいさんだし惚れるとかありえない。

 それにまだ惚れるとか惚れないとか、意味自体がまだわからない。

 

「おじいさんとは失礼じゃのっ」

「え?」

 

 言葉におじいさんとは出してないのに、あたしが思ってた事がわかった?!

 

「目の前にいるわしを見て、おじいさんと言っておるのか?」

「…………っ」

 

 ゴホンっと、軽く咳払いをして自慢げに男の子はあたしの前に立ってる。

 

「えっと、じゃあ……誰?」

「おじいさんって、もう話し方で勝手に決めつけるでないぞ?」

「ご、ごめん……」

「まぁ、そんな事はどうでもいい。話はまた今度じゃ……! さて、起きる時間じゃよ?」

 

 あれ? 起きるって……今、あたし起きたんじゃなかったけ?

 

「さてと、次に会うのはいつになるかのぉ? では……!」

「え、な、何っ?!」

 

 あたしと会話をする気はなかったのか、男の子があたしのおでこを指でツンと突くとあたしの意識が遠のいた──。

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「……ん。い、痛い」

「アーイッ! もう、朝だぞー起きろよォ」

 

 ペチペチと頬を叩かれてる……気がする。

 

 それにしても頭がガンガンする。

 じじちゃんが飲み過ぎた時に頭が痛い、気持ち悪いって騒いでたのを思い出す。

 ……もしかして、あの少量のお酒のせい?

 

「おーきーろー!」

 

 いんや、起きてる、起きてるんだけど……ま、まって……!

 

「う、うるさい……起きてる……よ」

「あ! 起きてるじゃんっ! エース、サボー、アイ起きてたぞっ!」

 

 声でかいぃぃぃぃっ!! 頭にルフィの声がガンガン響く。

 

「アイ、マキノが来てるぞ」

「……ん」

 

 頭が痛くてから返事をする。

 

「今、マキノ姉ちゃんって言ったっ?!」

「お、おう?」

 

 ウダウダしてたのが一気に頭が痛いのもすっとんで、マキノ姉ちゃんと聞いて目が覚める。

 

「マキノねぇ……っ?!」

「アイっ!!」

「?!」

 

 マキノ姉ちゃんが居る部屋にすっ飛んで行くと、思ってもみなかったの人の登場にあたしは硬直した。

 

「じ……じじちゃん……」

 

 こんなタイミングでじじちゃんに会うなんて、思ってもみなかった。

 なんでルフィは、マキノ姉ちゃんの名前しか言わなかったの?! じじちゃんがいるのが分かってたら、部屋でおとなしくしてたのに。

 

 文句だけ言って悪魔の実の力でじじちゃんを脅して、家を出たからなんて言えばいいか分からない。

 

「なんだ? アンの奴、いつもうるせェのに今日は静かじゃねェか?」

「おう?」

 

 あたしの変な様子に気付いたエースとサボが、あたしとじじちゃんを交互に見ながら、エースがそっとあたしの前に立つ。

 

「……なんだよ、お前の知り合いだろ?」

 

 小声であたしに話し掛けるエースにコクリと頷く。

 「じゃあ、なんで黙ってんだ?」と不思議そうな顔であたしを見る。

 黙ってちゃダメだとも思うけど、どうしてもじじちゃんの顔が見れなくて、目の前に居るエースの服をギュッと掴むとエースは驚いたのかビクッとする。

 いつもだったら「離せ、バカ!」とか言いそうなのに、何故か今日は黙ってくれてる。

 

「えーと……じいさん、誰?」

「え、エースっ?!」

 

 自分の頭をグシャッとしながら、じじちゃんに声を掛けたエースに驚いて思わず声を上げる。

 

「お前さんがエースかっ?!」

「お、おう?」

 

 あたしがエースの名前を呼んだら、その名前にじじちゃんは反応したのかあたしからエースに視線を移した。

 

「そうか、お前さんがエースか……大きくなったな」

「な、なんだよっ?!」

 

 ジリジリと自分たちに近づいて来たじじちゃんに、引きつった顔になったエースもジリジリと後ろに少しづつ下がる。

 そんなじじちゃんの顔を見ると、複雑な表情で今にも泣きだしそうな顔をしてるのがなんとなくわかる。

 

 ――なんで、じじちゃんがそんな顔してるの?

 

「……兄妹を離れ離れにして悪かった!」

「っ?!」

 

 なぜか、じじちゃんがエースとあたしに床に頭をつけて謝った。

 土下座というやつだ……なんで、じじちゃんがそこまでして謝ってるのか分からずあたしは複雑な気持ちなる。

 

「じじちゃん?!」

 

 思わず声を上げてた。

 

 離れ離れになってた事は本当にどうかと思うけど、あたしの記憶ではじじちゃんは関係ない。

 ガープのじじぃの独断の判断でのことだ。

 

 あたしの思い違いじゃなければ、あの時じぃじは「女の子だからどうしよう」って、言ってた。

 あたしも男の子だったなら、最初からきっとここに預けられてたと思うから、それはあたしが女の子だったのがいけなかったってだけの話だと思う。

 

「アイをガープが連れて来た時にエースの事は知ってたんだ。わしはそろそろ、エースの存在をアイに教えようと思ってたんだが……アイに言うタイミングがだな、そのなぁ?」

 

 チラっとエースの反応を見るためか、じじちゃんはエースを見るとエースは「だから?」と、どこ吹く風。

 

「エースのことを話したら、アイが居なくなると思ったから言えなかったんじゃ……だから、アイにはコルボ山に近づいてはダメだとうるさく言っていた。そしたら、ガープがルフィを問答無用にここに連れてってしまうだなんだって……ガープは何を考えて、お前たちの事を隠してたかはわしは知らんが……わ、わしはだな、その……」

 

 じじちゃんの言ってる事がよくわからなくて、マキノ姉ちゃんの顔を見るとマキノ姉ちゃんは「ふふふっ」と、笑って見てる。

 

「……エースにアイを取られたくなかったんじゃ」

「「は?」」

 

 あたしとエースが同時に声を出す。

 

 なんだ、えーっと? あたしゃ……嫁にでも出したくないとかって言う話だったけ? あたしはまだ10歳だし結婚とか考えた事ないし……って! いや、待て、あたしとエースは兄妹だ。

 

 それになんだか、話がなんかよく分からない。

 

「あの、じじちゃん……? あたしのこと、怒ってないの?」

「なんで、わしがアイの事を怒らないといけないんじゃ?」

 

 エースの後ろから顔だけ出してじじちゃんに声を掛けるとやっぱり何か変だ。

 

 よし、少し話を整理してみよう!

 

 1.じじちゃんの制止を振り払って、ルフィの事を捜しに行った事。

 2.じじちゃんに悪魔の実の能力の事を隠してた。

 3.その悪魔の実の能力で、じじちゃんを脅した。

 4.無断外泊、数か月。

 

 で、あたしはお世話になってた癖にそんな事をしたから、申し訳なさすぎて顔を合わせにくかった。

 

 じじちゃんの言い分は……。

 

 1.エースの事は知っていた。

 2.ルフィを捜しにコルボ山に行けばエースが居るから、行って欲しくなかった。

 3.エースとあたしが再会したら、エースと暮らすと思った。

 4.そして、再会してやっぱりエースの事を隠してたから怒ってあたしが村に帰って来てない。

 

 って、解釈でよろしいのでしょうか?

 

「おい、アン。このじいさん、俺たちが兄妹ってわかってんのに何変な事を言ってんだ?」

「あたしも一瞬、何言ってるのかサッパリわからなかったよ……」

 

 同じ事を思ってたみたいで、エースはじじちゃんを頭のおかしい人認定したらしい。

 

 ま、まぁ……あたしも、なんでここに留まってるかとか説明した事なかったから、あのじじちゃんの話だけじゃじじちゃんがそう思われてもしょうがない。

 

「あ、村長! これ、アイが村長に作ってたんだぜっ」

「ちょっと、ルフィ勝手に持って来ないでよっ」

「これは?」

 

 ルフィが手に持ってた物を取り返そうと、ひったくろうと手を伸ばしたけど少し遅かったみたいで、その物はじじちゃんの手に渡った。

 

「……冬になったら、渡そうと思ってたのに」

 

 その物とは、いつかきちんとじじちゃんに謝りに行こうと思ってたからその時に渡そうと思ってた手編みのマフラー。

 

 怪我をしてた時にやることが無くて、いつか渡せたらいいな程度に作ってた。

 渡せなければ渡せないで、自分で使おうとも思ってた程度の物だ。

 

「……ありがとう。大事に使わせて貰う」

「う、うんっ!」

「で、アンはどうすんだよ?」

 

 和やかムードになった所に、サボがボソッと言うと一気にみんなの視線があたしに集まる。

 

「え? えっと、村には時々……行ってもいい?」

「もちろんだっ! みんなで来なさいっ」

「本当?! じゃあ、ダダン達も一緒に行こうねっ!!」

「そう言う意味では……」

 

 あたしがそう言うと、ダダンと村長の間に少し変な空気が流れた気がしたけどマキノ姉ちゃんがお酒を出すと「わぁっ!」と明るい雰囲気になって、大人達はまだ明るい時間なのにマキノ姉ちゃんが持って来たお酒で宴会が始まった――。

 



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11 張り込み

 マキノ姉ちゃんからあたし達は洋服を貰ったり、賑やかな感じで帰り際に「ここに私たちが来たことはガープさんには内緒ね?」と言いながら2人は帰って行った。

 ルフィはじじちゃんに、何か説教されてたみたいだけど……村にいる時からそんな感じだからいつもの事だ。

 

「洋服貰って、エースお礼言った?」

「……お礼?」

 

 なんだそれ、美味いのか? って顔でエースはあたしを見る。

 言ってないのか。

 

 なんとか、お礼とか挨拶とかさせたい気もするけど……あたしがエースに言った所で文句しか返ってこないだろうからきっと無駄だ。

 

「エース、ルフィ! そろそろ夕飯の調達に行こうぜ!」

「おう!」

 

 サボが2人を呼ぶと、走って出掛けてしまった。

 

「まーまー。アンは行かなかったのかー?」

「うん。マキノ姉ちゃんから貰った本、読みたかったから」

「本?」

 

 マグラがあたしが持ってた本をパラパラとめくりながら、驚いた顔をしている。

 

「どうしたの?」

「これ、地図みたいだな」

 

 ……地図? マグラから本を受け取って本を見る。

 本当に地図だ。少し古ぼけてはいるが、それなりに高価な地図をなんでマキノ姉ちゃんが私にくれたんだろう。

 

「あれ?」

 

 確かに地図だ。だけど、所々にちょっとしたメモみたいな書き込みがある。

 

 『ここで食料を調達した』『ここに一週間滞在した。いい村だった』『お腹が大きくなってきた事にこの町で気付いた○月○日』『この町で初めてお腹を赤ちゃんが蹴った○月○日』

 

 地図の上にそのまま書かれてるから、はっきりと日記とは言えないけど日記みたいなことも書かれて『赤ちゃん』の文字に驚く。

 

 一番驚いたのが『双子だってことが分かった。嬉しい! ○月○日』と書かれていたことだった。

 この本の持ち主の名前はどこにも書いてないけど、なぜかあたしとエースの母親の地図だと確信した。

 

「マグマ! これエースに見せてくる!」

「? まーまー、いってらっしゃい」

 

 本を掴んで家から飛び出して、エースたちを捜しに外に出た。

 

 

「あれー? おかしいなぁ」

 

 食料の調達に行くって言ってたはずなのだけれども、いつも狩りをしている周辺に来てみたけどそんな気配はない。

 来る途中にある秘密基地も見ながら来たし、木の実とかを取ってる場所も通って来たけど人の気配はしなかった。

 

 ということは……調達と言う名の町への食い逃げに行ったのかもしれない。

 あたしが付いて来ないと気づくと毎回そうだ。

 

「みつけたら、ネチネチ文句と説教してやるんだから!」

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「ほら! やっぱりここに居た! エー……?」

 

 エース! と叫んで呼ぼうとしたが、何か様子が可笑しい。ここで、あたしの存在の気付かれて、食い逃げでエース達が捕まってたとして、自分は巻き込まれるのも嫌だから黙ってその場を観察することにした。

 

「サボを返せよ! ブルージャム!」

「「返せ」とは意味のわからない事を。サボはウチの子だ! 子供が生んで貰った親の言いなりに生きるのは当然の義務! よくも貴様らサボをそそのかし家出をさせたな!」

 

 ルフィが言葉を向けた人を見ると、こないだの海賊の頭のブルージャムらしき人がサボを抱きかかえて「フフフ」と奇妙な笑い声を上げてる。

 その横でこの前サボを呼び止めようとしてたサボの父親らしき人が、何かよくわからないことを言ってる事の方が気になってそっちを見る。

 

「ゴミクズ共め。うちの財産でも狙ってるのか?!」

「何だと?!」

 

 サボの父親の「ゴミクズ」の言葉に怒りを覚えたのかエースが声を張り上げると、海賊の一味らしき人に凄い勢いでエースは殴られる。それで、ケガをしたのか血が飛び散る。

 

「コラ海賊! 子供を殴るにも気をつけたまえ! ゴミ山の子供の血がついてしまった、汚らわしい。消毒をせねば」

「…………!!」

 

 少しだけ子供を庇ってくれる、優しい発言をしてくれたのかと思った。

 だけどその期待は裏切られるわけで、サボの父親がどんな人かは聞いてはいたが『汚らわしい』の発言に、ここまでひどいとは思ってなかったあたしは呆れたと驚いて開いた口が塞がらない。

 

 サボもその言葉に怒ってくれているのか、何か言いたそうにプルプルと震えてる。

 

「やめてくれよ! ……おれは、そそのかされてなんかいねェ! 自分の意思で家を出たんだ!」

「お前は黙っていろ! ――後は頼んだぞ、海賊共」

 

 サボの言葉を一切無視するサボの父親。サボが言ってた理由を聞けばエースとルフィにそそのかされてないことは、一目瞭然。だけど、この父親に言ったってきっと意味がわからないと言われるだけになりそうだ。

 

「フフフ……勿論だ、ダンナ。もう代金は貰ってるんでね。この二人が二度と坊っちゃんに近づかけねェように、始末しておきます」

「し、しまッ?!」

「ちょっと待て! ブルージャム! ……お父さん、もういいよ、わかった!」

 

 始末しておきます。の言葉に思わず叫びそうになったと同時にサボが叫んだおかげか、あたしの声はみんなが居るところには届かなくて済んだ。

 

 エースもルフィも静かに始末されるような玉ではないけど……それでも心配は心配だから、ちらりと二人の表情を見るとサボの顔をジッと見て何か考えてるようだった。

 

「何がわかったんだ? サボ」

 

 サボの顔を睨みつけるようにジッと見つめて、ボソリとつぶやくサボの父親。

 その言葉の意味がわかったのか、エースが声を張り上げた。

 

「やめろよ、サボ!!」

 

 エースの方をチラッと見てからサボは、歯を食いしばりながら口を開いた。

 

「何でも言う通りにするよ……! 言う通りに生きるから……!! この二人を傷つけるのだけは……やめてくれ!!!」

 

 フンっと呆れた顔でサボのことを見下げるサボの父親とは対象的に、エースとルフィは呆然とした顔でサボを見ている。

 

「お願いします……大切な兄弟なんだ!!」

「サボ……!」

 

 どんな思い出でその言葉を言ってるかは、二人に背を向けたサボの表情を見れば、辛いということはわかる。

 逃げ出したいけど、逃げ出せばエースとルフィがどうなるかわからない。なんとか二人を逃してやりたいって気持ちがすごい伝わってくる。

 

 あたしも何か手助けしてあげたいけど、あたしが出て行ってこの状況が好転するとも思えない。

 もどかしいけど、ここはジッと堪えて様子を伺う事しか出来ない。

 

「……おい!? 行くなよ! おれ達なら大丈夫だ。一緒に自由になるんだろ?! これで、終わる気か? それにあのジャジャ馬とルフィの面倒、おれ一人で見れるわけねェだろ!」

「サボーー! ア……ぐほっ」

 

 ジャジャ馬とは、あたしのことを言っているのだろうか。少し腹は立ったが、ルフィが何か言おうとした瞬間エースがルフィを殴った。

 

 それを顔を二人に向けないように横目で見てたサボは、ハッとした顔になるが、慌てて進行方向に視線を戻して大粒の涙を流しながら父親の後に付いて行ってしまった。

 あんなに泣いてるってことは、サボにとっていい状況じゃないってことだけはわかる。

 

 ……あたしは今、どうするべきだろうか。サボを追いかけて、話を聞いたりもしたし、逃げる手助けが出来るならしてあげたい。

 だけどサボは「親の言いなりに生きろ」と言われてるくらいだ。親がサボを殺してしまったりはしないと思う。

 問題はエースとルフィだ。サボが助け舟を出したが「始末しておく」と言っていた海賊たちは、なにをしてくれるのかわからない。

 

 海賊たちに引きずられながら連れて行かれる二人を、足音を立てないように自分をシャボンに包んで後を追うことにした。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 こっそりと後を付いていくと、海賊たち船なのか船内にエースとルフィを投げ入れた。

 

 中の様子が知りたいから入りたいけど、中がどうなっているのかわからない。

 身を隠す場所はどうしようかと思い、船上の帆の陰から様子を伺っているとの屋根の穴が開いてる場所を発見。

 そこから中を覗くと、会話ははっきりと聞こえないが中の様子を見ることは出来たことに少しだけホッとする。

 

 中では鉄パイプを持ったエースとルフィが、ブルージャムと会話しているのが見えた。

 

「良かった。拘束はされてないみたい……」

 

 それに何故かブルージャムは、神妙な顔つきで時には笑顔で二人に話しかけている。

 

「──でもサボは「高町」を嫌ってた!!」

 

 ルフィの大きな声に驚く。きっと、ブルージャムも思うとこがあって、二人を説得しようとしていたんだ。

 

 あれだけ、悪ガキだがゴミ山だのゴミクズだの言ってたサボの父親。

 ブルージャムも「ガキ」を抜けば海賊で、ただの「悪」だ。サボの父親に直接は言われてはいないものの何か感じたのかな。それで、二人に同情したのか。何気にいい人……なのか?

 

 エースとルフィとブルージャムの会話を黙って見守っているのか、他の海賊の一味たちが静かで少しだけ会話が聞こえるようになった。

 

「お前らとは、ポルシェーミの一件での因縁があるが……アレはもういい──むしろ、強ェ奴は好きだ。歳と性別も関係ねェ、おめェらまだ、仲間が居るだろ? 姉ちゃんだか妹だかが」

「あ、俺の姉ちゃんで、ア……っどふっ」

「ルフィ、余計なこと言うな!」

 

 ルフィの言葉の途中で、エースがルフィを殴る。

 なんかデジャブを感じる。さっきもエースはルフィの言葉を遮って、ルフィのことを殴っていた。

 

 エースは、あたしの名前を隠してくれてる……?

 

「何だ、その女はおめェらの姫様かなんかか? 殴られても泣きもしなかった、と聞いてたんだけどな。今……人手が欲しかったんだが、まぁおめェらだけでいい。おれの仕事を手伝わねェか?」

 

 姫様……な、訳ないじゃん。さっき、エースはあたしのことをジャジャ馬って言ったのを、ブルージャムは聞いてなかったのかい!

 

 なんて心の中で突っ込みを入れてると、エースとルフィは顔を見合わせて大きく頷いた。

 

「……わかった。手伝う」

 

 手伝うの? ここでブルージャムの仕事を断ればどうなるかは、わからない。だけど、こいつが言う仕事はまともではない事は確かな気がする。

 

 が、仕事の内容を聞いていると、グレイ・ターミナルのどこだかに荷物を持って行くだけの仕事らしい。

 

 その荷物を運んでる隙にエースと話が出来ないかと思って、近付こうとしてみたものの……ブルージャムの一味も近くに居て話しかけることが出来ない。

 

「……サボがいねェと、イヤだおれ」

「我慢しろ!! おれだって、そうさ……!! ――だけど、本当のサボの幸せが何なのか、おれにはわからねェ。様子を見よう。あいつは強い、本当に嫌ならまた必ず戻って来るさ!」

 

 え、エース! なんてお兄ちゃんらしいことを言ってるの! いやいや、それに感動してる場合じゃなかった。

 盗み聞ぎとは言え、エースの本心は聞けた。やっぱり戻って来て欲しいんだ。

 逃げる手伝いをするかは、サボと話をしてからにして海であたしが溺れたときのこともあるし。

 

「うん。サボにはあたし、借りがあるしきちんとしなきゃ!」

 

 小声で気合いを入れて、あたしはその場を離れた。

 



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12 高町

「……どうしたもんか」

 

 どうやって高町の中に入ればいいのか、最初の壁にぶつかった。

 シャボンで飛んで、どこからか入れると思っていたけどかなりの高さで、シャボンで入るのもかなり目立って入れそうもない。

 しかも出入り口はどうやら検問所という所しかない……らしい。そこで、身分証やらなんやしてから出入りするというなんとも面倒なシステムがある。

 って、さっき、普通に入って行ったら検問所のおじさんに取っ捕まって怒鳴られて、外にほっぽり出された。

 

 でもさ、でもさ、そこしか出入口がなかったとしたら、サボはどうやってグレイ・ターミナルに来れたんだってことになるよねぇ。

 

「ねぇ、おじさーん。あたし、どうしても会いたい人が居るんだけど! 通してよぉ」

 

 検問所の扉の外から、検問所の中にいるおじさんに話しかけてみる。

 

「お嬢ちゃんは、どう見たってただの町娘だろう! なんだって、貴族の方々に会いたい人が居るってんだ」

「えー。こう見えて、あたし王の娘だよー?」

「…………」

 

 ……海賊王のだけどね。とは、冗談でも口が裂けても言える雰囲気でない。当たり前だろうけど、もちろん「王の娘」に対してのおじさんからの反応は何もない。

 

「むぅっ」

 

 扉の外で座り込んで考え込んでみるものの……なんにも思い浮かばない。

 

 うん。強行突破するしかない!

 

「あっ、ねぇ! おじさん、身分証あったよ、あった!!」

「いい加減、お譲ちゃん冗談もほどほどにしないと、俺はあんたを拘束しないといけなくなるんだ!」

「あ、おじさん……これっ!」

 

 怒りながら入り口の扉を開いたおじさんに、手に持っていた母親の地図を目の前に突き出した。

 これが身分証とやらになるとは、少しも思ってない。それにおじさんが視線を向けた瞬間に、シャボンで脅して横を通り抜けようと思ったんだけど……?

 

「し、失礼しました! どうぞお通り下さい!」

「え? あ、ありがとう?」

 

 さっきまでプンプン怒ってたおじさんが、何故かすんなりと通してくれた。しかも、丁寧な対応に急変。

 この本……なんか、あるの? 別に至って普通の、ちょっと高価な本にしか見えないけど。

 しかも、おじさんの言葉遣いまで変わったし。なんでだろ? 一応、貴族のサボならわかるかな? 会えたら聞いてみようっと。

 

「わー……。大きな家だらけ」

 

 しかも町とも違い、道も何もかもが綺麗。そして、あたしの格好はこの高町ではかなり浮いている。

 偶然だかなんだかよくわからないけど、高町に入れたけどこのままじゃあ注目の的。見下したような視線をチラチラと感じる。せっかく入れたんだから、ここで追い出されたらたまったもんじゃない。

 

 高町に入ることしか考えてなかったけど、高町に村娘が入ったからって罰せられたり……しそうだよね。検問所のおじさんの最初の反応を思い出す。

 

「とりあえず、人目がつかない所に隠れよう。そんで日が暮れてから、サボの家を探そうかな」

 

 とは言ったものの、サボのファーストネームも知らないし人に聞いてここから追い出されるだけならいいけど……それ以上のことになったら、じぃじにも迷惑がかかりそうだ。今日は、隠れてコソコソばかりだけどしょうがないか。

 

 ──"グレイ・ターミナル"が火事に?!

 

「ぎゃあ! な、何?! 今の声っ」

 

 頭の中で聞こえたのか、実際に聞こえたのかはわからない。けど、グレイ・ターミナルが火事になるって聞こえた気がして、身動きが取れずに影で縮こまっていたが驚いて飛び上がった。

 

 ──この国はあのゴミ山さえなければ、きれいな国だ。この国の汚点を全部焼き尽くすことは、何ヶ月も前から決まってる……!! 王族たちは"天竜人"に少しでも気に入られようと、な。

 

 この前ダダンは天竜人が「ゴア王国」に来るという、内容の新聞を読んでた。

 確か東の海を回っていて、この国には今日から三日後あたりに来るって記事だった。

 

 何処から聞こえたか、わからない声が2つ。

 なんだ? と、思いつつも、最初に聞こえた焦るような叫び声と違う声の話した内容を、冷静にタダンとの会話してた時の内容と照らし合わせる。

 そうしていると、また最初に聞こえた声が聞こえた。

 

 ──あそこには、たくさんの人間が住んでるんだ!! 住んでる場所も失うし……って、もしかして、人もか?!

 ──この国の汚点は、全部燃やすって言ったろ? ……あ、おい!! ど、どこに行くんだよ!! お兄様、おい!!

 

「もしかして……サボの声? それと誰の声?」

 

 なんかお兄様って聞こえた気がするけど、サボがお兄様って呼ばれてた? でも今はそれより、グレイ・ターミナルが火事になる……と言うか燃やすって言ってなかった?!

 

 この国の汚点と言えばそうなのかもしれないけど、偉い人たちが何か改善をしようともしないで燃やすのはおかしい。確かに怖い人や、犯罪行為をする人もたくさん住んでる。

 だけど、生きて行くにはしたくもないことをして生活してる人も大勢いる。

 それに大規模の火事になんかなったら、そこに出入りしてるエースとルフィも……。

 

「みんなに伝えなきゃ!!」

 

 サボを探すのも大事だけど、このことを伝えるのも大事だ。そう思って勢い良く走り出した。

 

「──ッてえ!!」

「いったぁ!」

 

 な、何?! あたしが走り出そうとした瞬間に誰かと接触した。

 数時間前からここにいるけど、この薄暗い木の陰には誰も近付いて来なくて、誰も来ないと思っていた場所での誰かとの接触。

 高町に入れるわけもない村娘が、貴族に怪我をさせたなんてなったら大事件だ。

 

「……おいっ!!」

「す、すいませんでしたーー!!」

 

 顔を見られる前に逃げようとすると、腕を掴まれて足止めをくらう。

 

「きゃあっ」

 

 腕を掴まれ驚いて思わず声が出る。

 

「なっ……何で、アンがここにいんだよ!」

「……あ、アン?」

 

 名前を呼ばれた。

 ん? 名前を呼ばれた? 高町で? ここには、あたしのことを知ってる人は多分だけど一人しかいない。

 恐る恐る、あたしの腕を掴んでいる人を見る。

 

「さ、サボ?! なんで?!」

「なんでって、おれの台詞だろ!」

 

 ……言われてみれば、貴族でもないあたしがココに居ることがおかしい。あたしがサボに「なんで」と聞いたことが、おかしい話だと気付く。

 

「どうやってここに入って来たんだ。とか聞きたいことはあるが、何しにココに居るんだよ」

「えっと、サボが連れて行かれるの見て……」

「おまえ……あれ見てたのか?!」

「うん。まぁ、一部始終」

 

 あたしの言葉を聞いて「はぁ……情けないところを」と大きなため息を吐くサボ。

 

「その話をしに来たのか?」

「う、うん」

「それだけのために、貴族でもないアンがここに入るのどんだけ問題なのかわかってんのか?!」

 

 最初はわかってなかったけど、検問所のおじさんの反応でなんとなくは分かってたけど……。

 

「でも、サボ泣いてたじゃん……」

「?! そ、そ、それはその……」

 

 あ、ルフィじゃないんだから、男の子に「泣いてたじゃん」は禁句だったかも。

 そのせいか、サボは黙ってしまった。

 

「あ、ね、ねぇっ! グレイ・ターミナルが火事になるとかサボと誰だか言ってなかった?」

「おまえ! 高町に侵入しただけじゃなくて、おれの家にも侵入してたのか?!」

 

 話を咄嗟に変えると、サボの表情が強張る。

 

「ん? サボの家の場所なんて知らないよ?」

「じゃあなんで、おれが言ってたとかって」

「なんか聞こえた気がしたんだけと、やっぱり本当なの?!」

「おれもそれを、確認しに行く途中なんだよ! 今、こうやってアンと話してる場合じゃねェんだった。とりあえず、付いて来い!」

「え、あ、ちょっ?!」

 

 あたしの腕を掴んで、走り出したサボ。

 いや、あの、付いて行くのはいいんだけど……あたし、すんごい村娘の格好だし大丈夫? と、焦ってはみたものの、サボは裏道っぽい道を走って行く。

 

 ──だけど、日はとっくに暮れいた。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「ねぇ、サボ~? どこ向かってんの?」

「もう着いたから、静かにしてくれ」

 

 あたしの顔も見ないで、何かの建物の中をジッと覗き込むサボ。それを見習って、あたしも静かにそこを覗き込む。

 

 建物の中には覆面マスクの兵士みたいな人たちがいる。どうやら、サボは中の人たちの会話を聞いているようだ。

 

『明日の作戦は完璧か? 決して不備があってはならない!!』

『我々は完璧だが……問題は海賊達だ。うまくゴミを燃やして貰わなきゃな』

『今ゴミ山中に、油と爆薬を配置してくれてる頃だ……』

 

 中の人の会話を聞いて、あたしとサボは思わず声を上げそうになる。

 ゴミ山を燃やすのはもうわかった。良くないけど、それはもういい。次の問題は「油と爆薬の配置」の話だ。

 

「サ、サボ! 油と爆薬……エースとルフィもブルージャムにやらされてる!!」

「そんなことになってたのか?!」

「半分はあたしのせい、かも?」

「アンのせい?」

 

 高町に来る前のエースとルフィの状況を話すと、サボの表情が固くなった。

 

「ルフィはバカだが、エースはそこまでバカじゃないはずだ! 海賊のやることだから、お前のことを隠したんだろ」

「う、うん……」

「こんなバカげた話、本当なんだな……とりあえず、帰らねェと」

「え?! 帰る?!」

 

 サボは家がある。あたしも高町から出れば帰る所はあるけど、今ここで1人でここから街に戻る手段はわからない。

 

「あー。そうだよなぁ……お前だったらきっと大丈夫だ! おれん家まで着いてこい」

「サボの家?!」

 

 貴族の家出息子の家に小汚い格好のあたしが、泊まることが出来るのか? なんて、オドオドしながらサボに付いていくと、その心配は無用だった。

 

「お仕置き部屋だ。ここなら、多分誰もこねェ」

「……は?」

「だから、物置兼、お仕置き部屋だって」

 

 サボの家であろう敷地内にある、離れの家に連れてこられた。

 家だよ。家! 物置だかお仕置き部屋だかって言ってるけど、ダダンのアジト……むしろ、じじちゃんの家より広いし綺麗。

 

「だから、アンなら大丈夫って言ったろ。ここが、怖いとか言わねェだろ」

「いや、ここがお仕置き部屋とか……ないでしょ」

「おれは一応、自分の部屋に戻る。明日、どうするかまた話そう」

 

 部屋の中の物は使っても大丈夫。だけど、誰か来たらうまく隠れろ。とだけ言って、サボはお仕置き部屋から出ていった。

 

「このバカ広くて綺麗な場所が、お仕置き部屋とか。貴族ってなんなんだろうか……」

 

 広くて綺麗な部屋に、あたしのボソッと呟いた独り言が静かに響いた。



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13 高町(2)

 シャワーにキッチンがある。足りないものをあえて言うならば、食料がない。だから、キッチンがあっても何か作ることは出来ない。

 一応、寝はした。えぇ、もちろんふっかふっかのベットで、グッスリと寝かして頂きました。

 お腹が減った……けど、そんなことを言ってる場合ではない。

 

 昨日の覆面の兵士たいな人は「明日の作戦」とかなんとか言っていた。

 そうだとすればグレイ・ターミナルが今日、火事に……燃やされるかもしれないと言う事だ。

 

 日が昇ってから起きて数時間は経ったけど、サボがお仕置き部屋に来る様子はまだない。

 

「サボの意見を聞かないで、勝手に行動するのはヤバいよねぇ……」

 

 それに高町の土地勘もないから、自由に自分が動るとは思えない。

 独り言をブツブツ言いながら、何か使えるものはないかと部屋の中を物色をする。

 

 部屋の中には高級そうな家具。

 とりあえず、高町の中を歩いてもジロジロと見られない高町風の服が欲しい。

 

 この家にあたしのサイズの女の子の服があったり……しないよなぁ。

 

 子供はサボ男。なんか、サボのことお兄様って呼んでた子が居た気がするけど、男の子っぽかったしなぁ。

 

 ……あ。別に女の子の服に、こだわらなくてもいいじゃん! あたしとエースはなんだかんだ言って、同じような顔してんだから髪の毛を隠せれば、あたしだって男の子の格好しててもおかしくないはず!

 

 その逆はエースがキレるから、考えたくても考えちゃダメだ。うん。

 ルフィは文句を言いながらでも、やってくれそうな気はする。

 

「あ、あったあった!」

 

 予想通りに、サボが昔に着てたであろう服があった。

 今の服だと確実にサボの方が少し大きいから、昔のならきっとあたしでも丁度いいはず。

 

「アン、起きてる……か━━っ?!」

「え?!」

 

 着替えてる途中に誰か来たことに驚いて、近くにあった高級そうな何かを誰かに投げつけた。

 って、あたしの名前を高町で呼ぶのは、サボだけのはずなので……。

 

「おれじゃなかったら、怪我させたら面倒なことになるんだからな! おれは、誰か来たら攻撃しろなんて言ってないからな。隠れろって言ったんだからな!」

「やっぱり、貴族に怪我させたら面倒なことになるんだ……」

 

 お互いの意見は、着替えを見たこと、見られたことじゃなかったらしい。

 あ。年頃の二人だったら、お約束ってやつになるのか?

 

「てか、なんだよ。その服装」

「え、変?」

「いや、そういうわけじゃねェけど」

「だって、昨日の格好だと高町だとジロジロ見られるんだもん」

「じゃあなんで、おれの昔の服を着てんだ?」

「この家にあたしのサイズの女の子の服があるの?」

 

 とは聞いてみたものの、高町を歩いてたあたしと同じ年くらいの子たちはヒラヒラとあたしがお出掛けの時に着る洋服よりカワイイ服を着てた。

 そりゃあ……あたしも女の子だ! ちょっと着てみたいとか思ったけど、男の子の服装より高町を出た時にそっちで浮きそうだし、何せ今は動きにくそうだった。

 

 あたしの言葉に「ねェな」と言いつつも、あたしの言いたいことはサボに伝わったらしい。

 

「アンは、突拍子もなく行動する時あるよな……まぁ、いいや。パンしか持ってこれなかったけど、お前がこれ食ったら行くからな」

「あーっ! ありがとう! 夜も食べてなかったから、お腹空いてたんだ。で、何処に行くの? 早くエースたちの所に戻らないと」

 

 物を投げつけたことを言ってるのか、あたしがサボの服を着たことを言ってるのかわからないが、少し困った顔をしながら、サボが口を開く。

 

「火事……本当になるのかと思ってさ」

「え、大丈夫なの?!」

「いや、そういう意味じゃない。高町に異変が、何もないんだ。皆が知らねェからなのか、あまりにも普通すぎて昨日のことがウソみてェで……」

「それを誰かに確認したいの?」

 

 あたしの顔をジッと見ながら、無言でサボは頷く。

 

 あたしはここに居たから、外の雰囲気……と言っても普段の雰囲気もわからないから何も言えないけど、高町に住んでたサボが言うんだから火事にならないなら、今はそれ以上に良いことはない。

 エース達のことも心配だけど、火事が起こらないのであれば高町から焦って飛び出して余計な問題も増やさなくてもいいはず。

 

 ──なんて思ってたの甘かった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「"ゴミ山"で今夜火事が? ……そんなこと知ってるが、それがどうかしたのかね? 君らはどこの家の子だ?」

「知ってるの?! じゃあ、どうしてそんなに……むぐぐぐぐぐ」

 

 「のんきにしてられるの?!」とは、サボに口を塞がれて人気のない通りに引きずられて、最後まで言い切れなかった。

 

「アン! 言いてェことは、わかる! だけど今は少し堪えてくれ……」

「だ……だって!!」

「だっても、こうもねェ。もしかしたら、本当に一部の人間が適当なこと言ってんのかもしんねェだろ! 火事になったら、人が死ぬかもしれねェんだ。あんな……あんな、冷静にしてられるわけねェよ……きっと」

 

 サボはそう言いつつも、言葉の語尾は小さく自信なさげで顔色も悪い。

 きっとサボは何かを信じたいんだ。グレイ・ターミナルの人間も、高町の人間も同じ人間。

 だから、人が死ぬってことを……殺すことを平気で貴族の人達が、するとは思いたくないんだ。

 

「少しだけ待っててくれ。もう一人くらい、聞いてくるから」

「え、でも……っ!!」

 

 あたしの返事も聞かずに、サボは走って行ってしまった。

 サボの気持ちが、わからない訳ではない。出来れば、サボと同じように貴族のことを信じてあげたい。

 ここで「火事を止めなければ!」と言って、行動してくれる大人の貴族の人がいればとも思う。

 だけど、その人を探してる間にも時間は過ぎて行く。ここで高町を出て、ゴミ山の人たちに逃げて貰うだけでも火事に巻き込まれる人は減る。

 

 どうやったらサボを納得させて、あたしは高町から出れるかなぁ。それに、サボも高町からまた出るつもりでいるのか。

 そこんとこまだ話してなかった。

 

「アン! 行くぞ! 早く付いて来い!!」

「え、何?! どうしたの?!」

「いいから早くしろ!」

 

 サボが声を張り上げて、目の前を走って行く。

 何があったのかわからないが、言われるがままサボを追い掛けていると何やら大人の怒鳴っている声が聞こえた。

 

「いたぞ! あれだろ、家出の少年!!」

「早く捕まえろ!!」

 

 ……見付かってたのね。ここでサボが捕まって、村人のあたしも捕まるのもヤバイ。

 

「この町はイカレてる……! 火事になることを知っても、普通に生活をしろと言う。早く、エースとルフィに言いに行くぞ! やっぱり、今夜この国の汚点を焼き捨てる気だ!!」

 

 走りながら色々な感情……悔しい、悲しい、不安、を混ぜ込みながらサボは叫ぶ。

 あたしはその声を聞いて同じ気持ちになり、泣きそうになったが黙ってサボの後ろを走って追い掛けた━━。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「あた……し、じゃなかった。おれを中に入れて!!」

「ゴミ山になんの用があるんだ? 子供は大人しく、町で遊んでなさい」

「おじさん、いいから入れて!」

「だから、君みたいな子供がごみ山なんかに、入ったら危ないんだ。大人しく帰りなさい」

 

 高町に入るのに面倒な思いをしたのに、出るときは入る時よりすんなりとあたしは出ることが出来た。

 サボは家出の少年と騒がれてたからか、何かゴチャゴチャ言われて捕まりそうになってしまった為「アンだけでも先に行け」と言われて飛び出して来た。

 

 ……のだけれど、今度はゴミ山に入れないと言う状況に陥っている。

 普段だったらゴミ山の入口だか出口になんか、兵士みたいな人の監視なんていないのに。

 ゴミ山が燃やされるとということが、益々と現実味を帯びて来る。

 

 まだゴミ山は燃やされてはいない。でも、こんなところでシャボンを使って、堂々と入って行ったら不審人物だかで銃で撃ち落とされそうだ。

 

「警備みたいな人が、少ない所を探そ……」

 

 高町からここまで走ってきたが、距離があったため日は沈んでいる。

 せめて人の目が少ない所を探しながらと、海の方から入ろうと端町を走る。

 

「なんだあれ?」

 

 暗くなっているからか、船が黒いのかよく見えないが、少し遠くに海に船が浮いている。この時間に漁船でも商船でも船着場じゃなく、海に浮いてるのは珍しい。

 それに、こっちに向かっ来てる気もする。

 これからゴミ山が火事になるのに、ブルージャムたちじゃない海賊が増えても厄介だと思い、目を凝らして船を見る。

 

「海賊旗はなさそうだけど……」

 

 近くで見比べた訳ではないが、ブルージャムなんかよりの船より大きく見える。だからと言って海軍の船でもなさそう。

 

「気になるけど、今はゴミ山に入ってエースとルフィを捜してゴミ山の人たちも一緒に避難しなきゃ」

 

 船に気を取られながらも、走っていると人影もなくなる。

 

「ここなら、銃で撃ち落とされたりしないよね」

 

 独り言をブツブツ言いながら、シャボンの中に入って浮遊して壁の頂上に上がってゴミ山の様子を伺う。

 

「いつも通りの光景……これから、火事になるなんてここに居る人たちも知らないんだ」

 

 グッと歯を食いしばる。

 サボを置いてきたけど、サボもどうなったのだろうか。もしこっちに向かって来れてるなら、行き違いにならないといいな。と、考えながら、もう一度シャボンに入ってゴミ山に入ろうとした瞬間にパチンと衝撃が起きた。

 

「ちょっと、ヴァナータ?」

「え?! あ、何?! あ、ちょ、落ちる、落ちる!!!! きゃあああ……?」

 

 下に降りようとしたら、シャボンも背後から割られた。飛び降りるつもりも、何もなかったのだから、落下する受身なんか考えて無かった。

 落下の衝撃に焦って、叫び声を上げたが衝撃は起きない。

 

「……ぐ、ぐるじい……」

「ボーイがガールみたいな悲鳴あげるなんて、なっティブルね」

 

 シャボンを割られて、変な話し方の誰かに首根っこを掴まれて助けられたからなのか、落下の衝撃は無かったものの、苦しい。

 

 そしてその人はあたしの首根っこ掴んだままブツブツと何か言っている。

 

「最弱と言われてる東の村で、悪魔の実の能力を持ったボーイがいるなんて……一本取られたよ!!」

 

 ……な、なんだ?! えーっと、なんだ?! うん。なんだ?! しか言えないし、言ってない。

 

「あら、ヴァターシとしたことが」

「痛っ! 何するんです……か……?」

 

 その人の身長の高さで、掴まれてた首根っこを離されボスンと尻もちを付いたと同時に振り返って抗議をしようとした。

 でも、あたしの語尾が小さくなってしまったのは、しょうが無いと思って頂きたい。

 

 黒いマントを被った人がいる。

 怪しい人物だが、そこはとりあえず目を瞑ろう。

 それはまだイイ。それは。

 

「顔が……」

「美しいって? ……知ってるーー!!」

「うわっ!」

 

 瞬きだか、ウィンクだかよくわからないが、その人がそれをしたら折角立ち上がったのに、何故か風圧でまた尻もちを付く。

 

 あ、あれはつけまつ毛と言うものか? それに、顔が驚くほどデカくて、それを言おうとしたらその人のノリツッコミのせいで言えなかった。

 その大きい顔? 目? で、気合の入ったら瞬きなんかされたら風圧が来るのは必須なのかもしれない。

 

 だけど、あたしは言いたい!

 黒マントって、きっと何かコソコソする時に身に着けるやつだよね?!

 その顔の大きさと、メイクの派手さで黒マントの意味がない気がします!

 

「……あれ? 黒マントでコソコソ? もしかして、ゴミ山の火事起こそうとしてる人じゃ……」

「ヴァナータ、失礼ね! ヴァターシ、そんなこと知らなぁい。もし仮にヴァターシだったら、それ口に出して本人に言うなんて、ヴァカか! ヒーハー!!」

「ひ、ひぃっ」

 

 デカイ顔が目の前に迫って、恐怖の声が上がる。

 

「で、ヴァナタ、何してるの?」

「あ、あなたこそ!!」

「ヴァタシ? ヴァターシはねぇ……そう、ヴァターシは……教えないーーー!!」

 

 ……話してる時間が無駄な気がする。



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