骸骨と共にぼっちが行く (チェリオ)
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外伝シリーズ 外伝01:騎士に憧れる者とぼっちの神父

 これはアインズ・ウール・ゴウンに入る前のお話である。



 ここでは各章の説明とこの作品『骸骨と共にぼっちが行く』のオリ主の簡単な説明みたいのを書こうかと思います。

 まず最初の外伝ですがここにはナザリック大墳墓のキャラクターというか原作キャラは名前が出るぐらいで99%オリキャラの原作開始前のオリ主とオリキャラ達のお話です。
 外伝が並びでは本編より先にありますが外伝を読まずに本編を読んで貰っても何の問題もないと思います。

 次に本編ですがこれは原作開始から始まるナザリックの皆と共にオリ主が異世界へ行く話しです。オリジナル展開や独自解釈が多数ありますが…

 特別編は本編や外伝にそれほど関わる事はなく(一部アイテムを除く)四季や月に行なわれるイベント(クリスマスやバレンタイン)をナザリック勢とオリ主が楽しむ話です。
 
 

 オリ主
 ぼっち
 この作品の主人公。アニメや漫画を好み、ブラックな上司に扱き使われる一社員。
 小さい頃から喋るのが苦手で言葉がすぐに出てこない。知らない人が多すぎると体調を崩す。この体質を直す為に体感型ゲームでならそうとユグドラシルにログインした。
 反射神経が通常の人より優れている。


 客の少ない薄暗い酒場の一角に剣や槍などで武装した集団が屯っていた。

 「はぁ~、今日どうするよ?」

 akihiroは呟く。これはここに居る全員が思っている事である。
 
 「団長を待つしかないだろう」

 俺はそこで今日始めて発言する。
 ここに屯うのは集団『アルスズ』のメンバーである。
 俺はスレイン。ユグドラシルをプレイし始めて3ヶ月が経ったプレイヤーである。幼馴染で魔法詠唱者である皐月と共に日夜狩りに赴いている。一応騎士をやっているが…楽しくないのだ。この集団は何の理由もなく有り合せで作られた集団の為、張り合いや目的がなくだらだらと一日一日を消費しているだけの集団である。ゆえに戦闘の経験値も然程稼げていないからレベルは15程度である。

 体感型DMMO-RPG『ユグドラシル』
 このゲームの特徴はその自由度である。武器やキャラクターの製作や職業の数や広大なマップ。旅をするだけでも当分楽しめるだろう。
 楽しめる者も多く居るだろう。だけど俺は…

 「どうしたのスレイン?」
 「ん?ああ、ちょっとね」

 始めた当時は夢に燃えていた。この世界で最強と言われる騎士になってみたい願望を開花させたいと思っていたのだ。
 だが、現実でもゲームでも事実とは非情である。
 剣の才能もゲームの才能と呼べる物もなかった俺はこのまま続けても中堅どころ止まりであろう。
 つまりやる気が失せたのである。だけど皐月を誘った手前飽きたからやめると言うのは言い辛かった。
 皐月はこの世界を楽しんでいる。緑の大地、氷の世界、ドラゴンが巣くう世界。戦う事が苦手なら後方支援に徹して皆と進むことを楽しんでいる。
 それに比べて…
 
 「おう、今戻ったぞ」

 暗い考えに浸かっていた俺を目覚めさせたのは野太い声の我らが団長だった。
 姿は大柄なドワーフに近く、性格は大雑把の一言であった。あまり好きではなかった。アルス団長はメンバーを仲間とは思っていないらしく、所々で子分のように命令するのだ。

 「今日はこれから探索に行くぞ。準備せい」
 「探索って何処に行くんすか?」
 「ふふん。聞いて驚け!まだ未発掘の地下遺跡よ」
 「未発掘ですか…調査はどうしますか」
 「いらんわそんなもん。とりあえず行ってから採れるもの取れば仕舞いじゃ」

 いつも通り周りのことを聞かず自分の意思を通す。何かイレギュラーがあれば一目散に逃げて行くくせに…
 そう思いつつも準備を始める俺達であった。



 アルスズのメンバーは6人。
 まず前衛を担当する大きな太刀を持った足軽のような粗末な鎧を着ているakihiro。
 同じく前衛の所々黒ずんでいる西洋鎧を着て、丸っこい盾と片手剣を装備する俺。
 防御を担当する大型の盾を二つ装備するビビリのオロチ。
 遊撃として戦場を荒らすアサシンで小太刀を扱うティオ。
 後衛で俺の幼馴染、灰色のローブと銅の杖を持つ皐月。
 指揮官であり団長のアルス。
 平均レベル18でありここで中層に現れるようなモンスターが出ないことを祈るばかりである。その祈りも杞憂で済みそうであった。どうやらここでポップされるモンスターは10レベル前後のモンスターばかりのようだ。
 いつの間にか俺達のには余裕が現れてきた。そんな中、俺は彼と出会った。

 「なんすかねアレ」
 「・・・・・・」

 そこに立っていたのは大柄で厳つい男であった。彼は短く切り揃えられた金髪を掻きながら地図と睨めっこしていた。
 彼の見た目に引かれて立ち止まったのではない。akihiroが気にしたのは彼の装備であった。安っぽい衣類の上に胸板を隠すだけの小さな鉄プレート、腰に下げている剣は粗末なものだった。
 
 「…初心者…だよね」
 「まず間違いないな」

 そう。彼が装備していたのは初期装備の類だけだったのである。
 初心者がこんな所まで来られたのは奇跡だろう。あの装備ではレベル5のモンスターでさえ強敵に見えてくる。

 「おい、アンタ」
 「?」

 少し気になり俺は声をかけた。彼、プレイヤーネームに《ぼっち》と表示されている者は首を傾げながらこちらを振り向く。

 「ここら辺はアンタのような初心者が挑むのには早すぎるぞ」
 「何なら俺のアルスズに入るか?」

 ぼっちは穏やかに微笑み会釈して奥へと去って行った。

 「なんじゃあいつは?」
 「まぁほっときゃ良いんじゃね」
 
 団長とティオはさっさと彼を視界から外し移動しようとしていた。ただ俺だけが彼を見つめていた。
 疑問。何故あの装備で地下3階まで降りて来られたか?
 運が良くここまでモンスターと出会わなかった?そんな事はありえない。
 では仲間が居たのではないか?だったらその仲間は何処に居る。
 途中で彼を除く仲間がやられてしまったのでは?そんな状態なら俺達に助けを求めるんじゃないか。
 何故…

 「…イン?スレイン!」

 耳元で大声を出され振り向くと頬を膨らませる皐月が立っていた。
 
 「随分あの人にご熱心のようだね?」
 「んー…気にはならないか?」
 「?何に」
 「いや、別に良いんだけど…」
 「おっしゃ!!隠し扉はっけ~ん」

 akihiroの叫びと共に会話が終了する。どうやらお宝部屋を発見したらしい。何の疑いもなく中に駆けて行く。

 「おい!トラップの確認ぐらいって聞く訳ないか」
 
 こういう所にはお宝もしくはトラップが定番だってのに俺と皐月、そしてオロチ以外の三人はすでに中である。仕方なく歩く俺に追従する形で皐月とオロチも入る。
 部屋に入ると後ろに何か感じた。気配とかでなくセンサーに何かが引っ掛かったのだ。振り向くと同時に何かが迫るのを察した。

 「危ない!?」
 「え、きゃ!?」

 咄嗟に皐月に抱き付く感じで押し倒す。すると先ほど皐月が立っていたところに巨大な斧が振り下ろされた。
 余りの出来事にその場が膠着した。

 「ミノ…タウロス…」
 「嘘!?ミノタウロスって平均レベル35の中層モンスターじゃない」
 「あ、ああ、ああああああ」

 驚く中それぞれが必死に武器を構え戦闘態勢を取る。一人を除いて…

 「何をしてる!早くこっちに来い」

 さっきから震えるばかりでオロチは身動きすら出来ていなかった。地面に刺さった斧を再び振り上げ、そのまま横薙ぎ振るいオロチを切り裂いた。
 オロチはこの場から消え退場した。
 
 「一撃じゃと!?」
 「く、くそったれが!!」
 「まずいっすね…これは」

 絶望的だった。だが、逆に俺は興奮していた。この強大な敵に果敢に挑んでこれを倒せば自分は夢見ていた者に近付けるのではないか?
 辺りを見渡すとすでに逃げ腰のアルス以外戦意はあるようだった。

 「皐月、支援を頼む!akihiroは俺と一緒に突っ込むぞ!ティオはいつも通りに」
 「分かったわ!まずは防御力上昇に攻撃力上昇っと」
 「よっしゃ!やったるか」
 「まじっすか!?けどデスペナは勘弁なんで」

 身体が緑色に輝き、次に赤色に輝いた。皐月の魔法で防御力と攻撃力が向上した。
 
 「らぁああああああ!」

 叫び声を上げて自分に渇を入れつつ突っ込む。対してミノタウロスは斧を振りかぶる。いつもなら盾役のオロチが防いでくれるが今は居ない。しかたなく盾を突き出し防御の形を取る。
 重い一撃が盾より伝わり身体が浮くのが分かった。そのまま空中を漂い、背中から落ちた。

 「「スレイン!?」」

 驚いた皐月とakihiroの叫び声が聞こえる。ミノタウロスはその瞬間を見逃さなかった。
 スレインに気を取られていたakihiroが次に吹き飛ばされ、斬りかかったティオが叩き落とされた。
 圧倒的な強さに呆気に取られ、終には皆も戦意をなくしていた。
 これはゲームだ。だからと言って俺が憧れなりたかった英雄なんて存在しない。
 
 「・・・あれ?」

 敗北を待つだけの俺達の耳に聞きなれない声が聞こえてきた。
 それは先ほどのぼっちであった。何を考えてか知らないが彼はミノタウロスの背後に優しげな笑みを浮かべながら立っていた。

 「馬鹿!?逃げろ!!あんたじゃ勝てっこない」

 俺は叫んだ。どうせ挑んだって負けるのは必須。ならば何故彼は動かない?理由は簡単だろう。驚き怯え動けないのであろう。だから叫んだ。動くきっかけにでもと…
 しかし彼はこちらを向いて微笑むだけで逃げなかった。その上腰に提げていた剣を鞘より解き放った。
 ミノタウロスは大きく振りかぶった渾身の一撃を振り下ろした。
 皐月もakihiroもティオもアルスも目を瞑っていたが俺だけは瞑らなかった。
 しっかりと見続けた。斧をギリギリで、しかも一歩下がるだけでかわした彼を。

 「次はこっちの番・・・」

 彼の剣の動きを例えるなら流水だった。まるで流れるように斬り付け、流れるように捌き、避けていく。
 あの大きな斧に対して今にも折れそうな剣一本で斬り合い、確実に圧していた。
 魅入っていた俺は何時の間にかミノタウロスのHPが半分まで減っていた事に気付いた。
 ありえない。あんな低威力しかもたない武器で防御面にも優れたミノタウロスを圧勝するなんて…
 ぼっちは距離を取り、腰に提げていたもう一本の小刀を抜き放ち、腕と腕、剣と小刀をそれぞれ十字架を形を作るかのように重ねる。

 「人間をなめるな化け物め!来い、闘ってやる」

 そう叫ぶと構えを崩し再び斬り合いが始まる。
 しかしそれは先ほどの斬り合いとは別物だった。苛烈…その一言であった。流れる動きは残しているもののそれは捌くの重視した戦いではなく敵の命を刈り取るものだった。
 彼は戦闘スタイルは二刀流だったのだろう。
 相手が一撃を放つ前に1,2…いや8回は斬り付けている。

 「シャアアアアアアア!!」

 俺達が総出でも勝てなかったであろうモンスターを初心者がたった一人でかたずけやがった。
 ぼっちは息を吐き出すと踵を返し去っていく。
 
 「おい、ちょっと待てよ!?」

 去る彼を追い通路へ出る。すでに彼の姿は米粒ほどに見えるほど遠くを走っていた。

 「スレイン待って!!貴方も怪我を…」

 慌てて追いかけて来た皐月の言葉が止まる。そしてふっと笑う。

 「何だか楽しそうね?」

 そうか…俺は今きっと酷いほど笑っているのだろう。

 「ああ…ああ!楽しいさ!心が躍る!見たかあの人を!たった一人でミノタウロスを倒し、奥のお宝に目も向けない彼を!!」

 運が良い?仲間が居た?そんな物は彼にはいらない。いらなかったのだ。それほどの実力を持ち、持つがゆえに装備を弱くし挑み続けるのだろう。
 英雄。彼を例えるならスレインは迷う事無くそう例えるだろう。

 「皐月、決めたぞ!俺は決めた!!」

 俺の叫びに皐月は呆れ半分で笑いながら聞く。

 「俺はあの人について行く!何度でも何度でも頼み、土下座でも何でもしてあの人の近くに居る!そして俺はあの人に並ぶプレイヤーになるんだ!!」
 「まったくいつも勝手に突き進むんだから…置いて行かないでよ?」
 
 もちろんと答える俺の目には酒場の時の死んだ魚みたいな瞳はしておらず生き生きと輝いていただろう。
 これが俺、スレインと後に《無口の英雄》と呼ばれるぼっちさんとの初めての出会いだった。
 



 ~ぼっちSIDE~
 
 ぼっちはぼっちで地下ダンジョンに来ていた。
 自由度で人気になったユグドラシルをプレイして三日。友達や友人…は同じか、兎に角、あまり話すことの出来ない事を克服しつつ友人を作ろうとこのユグドラシルを始めたのだ。
 現在はまだレベリングの段階である。だって「何お前?低レベル過ぎて話になんねぇ」なんて言われた日には心が折れるだろうから。
 しかしレベルを上げるにはレベルの高い敵を倒して経験地を得たい。けども始めたばかりでステータスはまだ低い。ならば強い武器や防具を買って強くすればいい。だが金がない!ゲーム内のお金がない!だったらと地道に稼ぐかとフィールドを散策していたら地下へと繋がる入り口を見つけちゃったんだな。ラッキーと思い中に入ると…

 右手をご覧下さい。ゴブリンの群れでございます♪
 下に参ります。ここには多くのスケルトンが生息しております♪
 後ろをご覧下さい。このダンジョンでは中々遭遇できないエルダー・リッチでございます♪

 キャアアアアアアアアアアアアアアア!?
 てか♪じゃねえよ!?何だよこの遭遇率!それに初心者剣士に通路内でファイヤーボール放ってくる奴を出会わすなよ!マジで死ぬかと思ったじゃねえか!!…何とか倒したけどさ。けどこの《死者の杖》て言うドロップアイテムレアらしいけど剣士の俺意味ないじゃん!?
 
 そんなこんなしていたらぼっちはぼっちで迷子ってます♪てへっ……………本気でどうしよう。
 三十分前からずっと地図と睨めっこだよ。ここが町で、ここが草原で、ここがこのダンジョンの位置ってこんな大雑把な地図じゃ分かるか!頼む出口教えてくれ。あと50分もしたら宅配に頼んだ食材が到着するのに。

 「おい、アンタ」
 「?」

 声をかけられ振り向くとそこには6人のプレイヤー集団が

 「ここら辺はアンタのような初心者が挑むのには早すぎるぞ」
 「何なら俺のアルスズに入るか?」

 騎士風の青年は俺の事を気にかけてくれたらしい。俺は穏やかに微笑み会釈して奥へと去って行った。
 無理ですぅ。いきなり初対面の人と話すとか初期装備で中ボスに挑むぐらい無謀ですぅ。
 あのドワーフなのかな?誘われたのは嬉しかった。けどもレベル11の俺が入っても邪魔になりそうだったし。
 
 ドダン!!

 通路に大きな音が響き振り返る。何も無いようだけど気になって戻ってみると
 扉があった。もしかして出口か!?と生き様様に扉を開ける。

 「・・・あれ?」

 扉を開けると目の前に茶色い壁があった。一瞬行き止まりかと思い立ち止まる。

 「馬鹿!?逃げろ!!あんたじゃ勝てっこない」

 ふと声のした方向を見るとそこには先ほどの青年が横たわっていた。何を言われたか分からなかったが笑顔で返事する。そこでこれが壁でないことを認識する。そうか。柱でしたか。じゃないと斜め前が見えるはず無いものな。
 紅く輝くミノタウロスの目と目が合う。

 あ、察し。これはアカン奴や。
 
 負けるかも知れないがただ負けるのは悔しい。一矢報いてくれるわ馬鹿ヤロウ!?半ばヤケであった。顔なんて微笑んだままで変わってねぇし。変える余裕がないだけか。
 巨大な斧を振り上げそのまま振り下ろしてきた。
 ここで違和感が発生するのだ。
 遅いのだ。身体を一歩引けば避けれるのではないか?と思い行動する。思った通りに斧は目前を通り過ぎ地面にぶつかった。

 こいつ…見掛け倒しのモンスターか!

 この時ぼっちは自分の反射神経が異常でありその為見切れて避けれた事を理解していない。

 「次はこっちの番・・・」

 この台詞を言うならば親指で人差し指をボキッて言わせたいけどダメージを自分で負いたくないし、何より人間種であることからすぐに治らないだろうしね。
 斬り合いを始めるが痛そうなので回避重視で。
 何度か斬り合っているとまったく相手の攻撃が当たらない事に気付く。今の俺って超クゥゥゥゥゥル!じゃね?気分が高まってきた。 
 距離を取り、腰に提げていたもう一本の小刀を抜き放ち、腕と腕、剣と小刀をそれぞれ十字架を形を作るかのように重ねる。そうだ。あのポーズを作る。
 
 「人間をなめるな化け物め!来い、闘ってやる」

 そう叫ぶと構えを崩し再び斬り合いが始めるが、ここで気がついた。
 ぼっちのアバターはヘルシングのアンデルセン神父をモデルにしている。だからこそ武器を十字架に見立てたのだ。しかし腕で十字架を作るシーンなんてあっただろうか?答えはNO。ノーである。しかも

 『人間をなめるな化け物め!来い、闘ってやる』

 この台詞はインテグラ様の台詞じゃねえか!?興奮しすぎてポーズと台詞選択間違えた!しかもそれを見られた……こうなりゃお前に八つ当たりじゃあ!!
 そこからは無茶苦茶に戦い最後には奇声まで発していた。
 ミノタウロスのHPが無くなり消滅する。すぐさま通路に向けて歩みだす。通路に出て彼らに見えないと判断して全速力で走り出した。
 
 出口は何処じゃあああああ!?

 この後三十分彷徨いなんとか出口に辿り着き宅配を受け取ることは出来たが、良く考えれば俺はダンジョン内でお金が欲しくて行ったのにあのお宝の数々を無視してしまうとは…
 ちなみにそのお宝の中にはアウラと整理した部屋に眠っていた村正もあり、それがぼっちの物になるのはまた今度の話である。



 これは不定期に気が向いたら書くので次回何時になるかはチェリオにも不明です。
 追記 
 表情は随時アイコン表示である。脳内変換お願いします。


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外伝02:英雄が生まれた日

 今日の投稿は終了した…と思いましたか?
 ワレキシュウニセイコウセリ

 トゥラ、トゥラ、トゥラー!!

 …疲れた…


 現在ユグドラシルではちょっとした盛り上がりが起きていた。
 小イベント「巨人の散策」が発生した為である。ヨトゥンヘイムにてとある巨人がうろつくようになっており、それを討伐するとレアアイテムなどがドロップしやすいのだと言う。
 俺、スレインもこのイベントに参加したのである。アルスズのメンバーとではなく皐月とだけであった。ミノタウロス戦より町へ帰った後すぐに皐月と共にアルスズから脱退したのである。
 それから大変だった。前衛一人に後衛一人のツーマンセルでモンスターを狩る日々。前に比べて目標もありやる気が違う為にすぐにレベルは50まで上がった。
 だが、巨人は強かった。巨人のレベルは50レベルでレベルだけ聞いたら楽なものであるがレベル通りの強さではなかった。
 元々身体がでかい為にHP、攻撃力、防御力などが高いのだ。さすがにドラゴンの同レベルよりはかなり弱いがモンスター内では上位であった。それにこの巨人にはスキルで自動回復を保有している。
 俺と皐月は10分もしない内に殲滅された。他のギルドでも同じように壊滅させられたなどの被害報告を良く耳にする。大手のギルドならともかく10人そこらの低ギルドなどでは太刀打ちできなかった。

 「では作戦会議を始めます」

 この小闘技場では小ギルドを含んだ作戦会議を始めていた。
 生産系ギルド「エルドー」より5人、剣士のみ加入できる「白騎士」より11名、そして今回作戦指揮を執る魔法詠唱者ギルド「サバト」から13名、あとはそこらのソロプレイヤーや集団が21名の総勢50名が連携を組んで巨人を狩ると言う物だった。
 ドロップしたものは均等に山分けでラストアタックのボーナスドロップはその人の物と黒いコートに黒い髪と黒尽くめのサバトのリーダーのクロノが話しているのを聞きながら視線は別の方向に向ける。

 この闘技場の端っこであの柔和で優しそうな笑みの表情をして腕を組み立っているぼっちさんが居た。
 前の時より装備が上がっているのが分かる。真ん中に白い線が真っ直ぐ上下に走っているコート型の神父服に動きやすい黒のズボン、首からは十字架のネックレスをぶら提げていた。
 その服装よりも背負われた大剣に目が行ってしまう。縦2メートル、幅30cmの両手剣《ミノタウロスの大剣》…レア武器のひとつで攻撃力が高い上、その大きさから防御用の盾にも扱える物で結構人気のある武器である。
 俺は理解する。彼がそれほどまで装備を充実させないといけない敵だと判断する。

 「そこの君、聞いてるかい?」

 壇上に立つクロノより声をかけられ慌てて頷く。少し不満げそうだったが納得し壇上を降りて行く。すると皆それぞれ移動を開始する。

 「もうスレインったらよそ見しすぎ」
 「むぅ、すまない皐月」
 「じゃあ行こうか」
 「何処に?」
 「何処にって、本当に聞いてなかったんだね」

 内容を聞いてなかったスレインにため息をつきつつ皐月は口を開く。

 「これより準備を整えてヨトゥンヘイムに移動するのよ」
 「了解っと…」
 
 勢いをつけて立ち上がると同時に彼を見つめる。どうやら彼は集団にもギルドにも配属しておらず第三前衛の『エリオ』と名付けられた隊と共に移動していた。ちなみに俺は第二前衛の『スバル』隊で皐月は第三後衛の『キャロ』隊に組み込まれていた。

 「ねえ、スレイン」
 「何だよ」
 「あのクロノってアバター可愛いと思わない?」
 「…お前ってショ…」
 「ショタコンなんて言ったら背後からファイヤーボール撃ち込むからね♪」
 「りょ、了解したよ」

 確かにあの指揮官のクロノさんは背の低い少年を意識して作られたのだろう。確かに可愛いとおも…
 そこまで考えて頭を左右に振り考えを祓う。俺はノーマル、俺はノーマルと繰り返しつつ歩み始めた。



 「白騎士はそのまま敵を引き付けてエリオ隊は後退、スバル隊は左翼より攻撃。キャロ隊は回復急がせて!ティアナ隊、サバト各員支援攻撃開始!!」

 俺達はクロノの指揮の下で巨人を狩って行った。巨人は全長6mあり、その大きさに圧倒されてしまう。が、クロノの適切な指揮と兵隊の数が合わさり苦戦しつつもすでに5体もの巨人を狩ったのである。
 前に出ながらある人物に目を向ける。
 「サバト」のリーダーのクロノである。レベルは62で結構な魔法を使い分け、実力は上級プレイヤーであろう。それが下から数えた方が早い弱小ギルドのリーダーなのか不思議でならない。理由はすぐ分かった。どうやら彼以外は仲良し子吉のプレイヤー達なのだろう。彼を除くサバトメンバーは戦い馴れしておらずレベルも然程高くなかった。
 そしてこの前一人でミノタウロスを狩ったぼっちさん。彼の実力は群を抜いていた。脱落者は居ないもののすでにかなり疲弊しているエリオ隊の中で彼一人だけ動きが良く、まだダメージを受けていない。それに背負うた大剣は背負ったままで剣一本で戦っていた。

 「ハハ。…良し、俺もやってやる!」

 あの人達のような上級プレイヤーに並ぶように気合を入れ駆けて行く。
 ユラリ…
 視界の隅で何かが動いたのが見えた。振り返り確認すると俺の脚は自然と立ち止まっていた。

 巨人。
 ここにきて二体目の巨人が現れたのだ。どうやら辺りの索敵を担当していたエルドーのプレイヤーが他の巨人の索敵範囲に入ってしまい、助けを求めてこちらに逃げて来たらしい。
 最悪だ。さすがに二体同時攻略など出来るはずがない。クロノもそれが分かっているのだろう。舌打ちしたのが聞こえてきた。目の前の巨人はすでに半分まで削っておりあと5分もすれば狩れるだろう。逃げるか戦うか…クロノは戦う方をとったのである。

 「回復したエリオ隊は二体目の巨人の足止めを頼む。5分!いや3分だけで良い!頼むぞ」

 それを聞いたエリオ隊の面々は動こうとしなかった。それはそうだ。これでは死にに行けと言われているようなものだ。だが、その中に居たぼっちさんが前に出た。ここからでは聞こえないが何か話し合っているのだろう。突如エリオ隊の面々の笑い声が響いた。
 本当に感心してしまう。表情は見えなくても雰囲気だけでも戦意喪失していたメンバーを少し話しただけで奮い立たせたのだ。
 彼らは何の迷いも無く二体目に向かって突き進んでいく。

 「彼らが足止めをしてくれている内に倒すぞ!!」
 『おおおおおおおおお!!』

 全員から雄叫びが上がり俺を含めた前衛隊が巨人に向かって突撃して行った。
 
 「全員少し下がれ!!《アイス・スピヤー・レイン》」

 斬りかかり少し経つと指示が飛ぶ。
 皆が一時下がると同時に巨人の上空より無数の氷で出来た槍が降ってきた。その攻撃を受けた巨人がよろめく。
 感嘆の声が漏れた。アレが第八位階の魔法…
 
 「突撃!!」

 クロノの魔法に見とれている場合じゃなかった。早く目の前の巨人を倒してぼっちさんの援護に行かないと…
 焦りつつも足元まで潜り込み斬りつける。
 視界が暗くなった。見上げると巨人が拳を振り下ろしてきていた。何とか回避しようとするが避けきれない。

 「スレイン!?ファイヤーボール!!」

 咄嗟に皐月が放った火の玉が俺に直撃し吹き飛ばす。そのおかげで何とか助かった訳だが…
 
 「けっ、言ってねえのに喰らわされるとは…」
 「助けて貰っといて何よ!」
 
 再び立ち上がり何度も斬り付けていく。上半身への魔法・弓矢の集中砲火に足元への斬撃。徐々に巨人のHPが削られて最後には倒すことが出来た。
 しかし時間は予定した3分ではなく7分もかかってしまった。それにこちらの疲弊もかなりのものであった。魔法詠唱者組みなどすでにMP切れの者まで居たのである。この状況ではとエリオ達を見る。

 「ぶるああああああああああ!!」

 すでに六名の隊員のHPは赤となっておりそれらを防ぐように一人戦い続けていた。殴りかかってきた拳を何とか避けつつその手に一撃を振るう。受け止めることはせずに避けてはダメージを負わせていく。負わした瞬間から自動回復が発動するがそれでも少しずつダメージを蓄積させていく。HPは5分の一も減らしていたのである。
 たった一人で仲間を守りつつ彼は戦う…

 「・・・重い!!」

 彼は大剣を地面に差し込み巨人の一撃をその場で止めると手に飛び乗り駆け出したのだ。弱点の一つである顔目掛けて。
 腰から剣と短刀を抜き放ち腕を斬り付けながら進んでいく。
 巨人が振り払おうと動き、バランスを崩す。その瞬間に持っていた短刀を顔目掛けて投擲した。

 「ガアアアアア!!」

 短刀が目に突き刺さりクリティカルダメージを受けた巨人は入力された叫び声を上げた。
 手を付きつつぼっちさんは地面に着地した。まだあの初期装備の剣一本でも挑むつもりなのだろう。

 「…ハッ!?ティアナ隊、サバトは支援攻撃を開始、MPが切れても構わん撃ち続けろ!!白騎士、スバル隊は突撃!エルドーはエリオ隊の救出、キャロ隊は回復を!!」

 彼に魅入っていた皆が我に返り行動を開始する。
 俺はすぐさま敵に向かうのでなくぼっちさんの元へと走る。あの人の実力は二刀流で発揮される。ならばとアイテムボックスに仕舞っていた武器を取り出す。
 それはレア武器のひとつでミノタウロスが現れた部屋のお宝の中にあった品。俺は片手剣使いの為に使えないがもし次に彼に会う事が出来れば渡そうと思い持ち歩いていたのだ。
 最初はアルスが反対したがakihiroもティアも賛成してくれてこの刀を俺が預かる事となったのである。

 「ぼっちさん!!」
 
 俺の叫び声に反応して振り返ったぼっちさんの目の前にアイコンを表示させる。
 アイテム受け取りの決定画面である。『スレイン より ぼっち ヘ 対象物:村正 受け取りますか? Yes/No』と表示されており突然の事で驚いていた。が、理解したのか承諾して、現れた刀を腰に提げた。
 剣を左手に持ち替え右手だけで村正を抜いた。村正のスキルが発動してぼっちさんのステータスが上がっていく。

 「・・・では、参ろうか!!」
 「!?は、はい!」

 彼は一人駆け出すのではなく俺も共にと言ってくれたのだ。こんなに嬉しい事は無かった。
 
 「ららららららあああああああい!!」
 
 俺も彼の掛け声を真似しつつ遮二無二突っ込んだ。足元に潜り込むと横薙ぎに斬る。その間に彼は身体を軸に回転させつつ左から三撃、右から三撃の斬撃を与えたのである。
 スキルでもなくアレは操作で行なった技なのだろう。ならばどうやっているのだろうか?あんな操作俺には一生かかっても行なう自身は無い。それにそれを処理しきる機器を用意しなければならない。本当に羨ましい限りである。お金も有り、そういう技術も持っている。それでも羨ましいと妬む感情よりも憧れの方がずっと大きいわけだが。

 「皆下がってください!もう一度撃ちます!!」
 
 クロノはもう一度あの魔法を使うのだろう。巻き添えはごめんなのですぐに下がろうとするが。

 「何をしているのですか貴方は!?そこから下がってください!!」
 「そこに居ては広範囲魔法を喰らってしまいますよぼっちさん!!」

 斬る事を止めず引く事もしない彼に対して俺とクロノは叫ぶ。すると彼は…

 「・・・構わない」

 そう言ったのだ。

 「くっ、死んでも知りませんよ!《アイス・スピヤー・レイン》」

 二度目の氷の槍が降り注ぐ。大きなダメージを負った巨人がよろめく中、彼は槍を避けつつ巨人を斬り続けていた。
 これにはその場に居た全員が驚いた。

 「・・・当たらなければどうと言う事はない・・・」

 いや、それはそうだけれども実際そんな事を行える人は居ないのではないか?そんな疑問を浮かべつつ巨人のHPを見る。赤く残るバーは微かなものでもう少しで倒せるだろう。
 巨人は最後の力を搾り出すようにぼっちに向けて拳を振り上げるのではなく、裏拳で横に振り払った。
 死んだ。
 吹っ飛んだようには見えなかったし、付近には彼の姿は無かった。

 「どうした、それで終いか!?」

 声のした方向を見つめると振り抜かれた拳の上にぼっちは立っていた。巨人が振り返る前から顔目掛け走り出しておりそのまま顔を切り裂いた。
 膝を付き、刀と剣を地面に刺すて着地すると同時に巨人が消滅した。
 唖然としてした皆の中を悠然と歩いてきたぼっちは俺の前で立ち止まり腰に提げていた鞘を抜き、刀を納めてこちらに差し出す。
 「返す」と言う事なのだろう。しかし差し出された刀を受け取る事無く、刀を握っていた手を覆うように両手で握る。

 「俺を!俺を貴方の仲間にしてくれませんか?」

 順序を飛び抜かして俺はそう叫んでいた。他にもいろいろ言いたいことがあったのだがもうその言葉しか出てこなかった。
 彼は空中でパネルを操作してこちらにパーティー申請を送ってきた。何も迷う事無く許諾した。

 これで俺、スレインとぼっち、そして皐月は同じ集団《v(ニュー)》の仲間になったのである。
  



 ~ぼっちSIDE~
 
 今日の俺は気分が良い。なぜなら今回は多くの仲間と共に共同ミッションに挑むからだ。
 やっとお金が溜まり前から欲しかった服装を手に入れ、今まで仕舞いっ放しだった《ミノタウロスの大剣》を背負っている。
 通り行くプレイヤー達が振り返りこちらを見てくるのが分かる。何とこの武器は希少な武器だったらしく目立ってしまうのだ。その中に《サバト》と言うギルドのクロノと言う人が居て「この後ご予定が無いのでしたら僕達と巨人狩りしませんか?」と誘われたのだ。
 複数で巨人狩り!?進撃ですね?進撃で良いんですね!
 そんな事を考えつつ二つ返事で答えた。

 皆で一緒に任務に挑む。こんな事数日前の俺じゃあ考えれなかっただろうなぁ。……今すぐ逃げ出したいけど。俺、まだ70レベルだけど良いのかな?あのクロノ君とか装備凄く良さそうだからきっと100とかなんだろうなぁ。
 そんなこんなで俺は端っこで結局ぼっちになっていた。作戦では俺以外に6人と組んでエリオ隊として接近戦を担当するらしい。
 どうでも良いかもしれないけどあのクロノ君は凄いと思う。だって姿や装備とかあのクロノ君に似てるんだよ。人の事言えないけどさ。それに隊の名前だって「スバル」に「ティアナ」に「エリオ」に「キャロ」だよ?僕リリカルが大好きです!って世界に発信いってるような感じだよ。俺にはそこまでの勇気は無いし出来ない。けれど出来れば「ヴィータ」隊って名付けられた方が良かった。…あ、それだったら前衛3隊に後衛1隊になっちゃうか。
 話も終わり軽くメンバーと挨拶…向こうが一方的に。こちらは頷くのとプレイヤーネームを指差すだけ…を交わして巨人戦の準備を進める。
 


 うん。やっぱり帰りたい。
 
 戦闘を重ねるたびにそう思い始めたぼっちであった。
 皆さん調子に乗ってごめんなさい。いつもしない自慢してすみませんと心の中で何度目かの謝罪をしつつ撤退指示に従っていた。
 理由はその背負った大剣にあった。
 邪魔。兎に角邪魔なのだ。集団戦において巨大すぎる武器が邪魔になるのだ。最初の戦闘前にそれに気付きずっといつもの剣で戦っている。もちろん初期の剣だ。

 『ブッ!?何その縛りプレイ』
 『地雷が混じってるんですけど』

 言われると分かっていた。本当はもうちょっと良い剣持ってるんだけど、この大剣やいらん物まで持って来たから入れる容量無かったの。…あ~胃が痛い…

 確かに最初はエリオ隊の皆がそう思って笑っていたが最初の戦いの終わり頃にはぼっちの実力に納得して理解して頼っていることに気付いていないのである。
 後方に引きエリオ隊の面々が回復されていく。度々白いローブを纏った女の人がぼっちを見て驚いたようなアイコンが表示される。何に驚かれてるか分からないのでとりあえず微笑みアイコンを出して答える。
 俺のどこか可笑しいかなと思いつつ辺りの皆を見渡すとこちらに向かってくる巨人が見えた。

 ……ワッツ!?

 頭が真っ白になった。二体目の巨人とかどう相手しろと!?と叫びたくなる。指揮官であるクロノ君も気がついたのか顔を向けていた。

 さぁ言うんだ撤退せよと。このままじゃ挟み撃ちに

 「回復したエリオ隊は二体目の巨人の足止めを頼む。5分!いや3分だけで良い!頼むぞ」

 はい、頼まれました。……何故にwhay!?ジョークだよね?え、マジデ?

 目が点になりつつ巨人を見据える。確かにエリオ隊が二体目の巨人に近い上に今フリーの隊である。あと近くに居るのはキャロ隊だけどエリオ隊から結構距離あるし後衛だし…
 6人が絶望のアイコンを連続で出している。気持ちは分かりつつ、この絶望的な状況を持ち直させようと口を開く。

 「別にアレを倒してしまっても構わんのだろ?」
 「「「「「「それ死亡フラグじゃねぇか!?」」」」」」

 初めて発した言葉に6人同時に突っ込んできた。一瞬やらかした感に襲われたが元ネタを知っていることに驚いた。だって一世紀前以上の作品なんだけど。
 一人が笑いアイコンを浮かべながら

 「あなたと共に戦えて光栄でした」

 と言って来た。すると皆笑いアイコンを出しつつ

 「この戦いが終わったら俺、結婚するんだ」
 「野郎ぶっ殺してやああぁぁる!」
 「大丈夫。必ず生きて帰るからな」
 「安物なんだがね、おふくろの形見なんだ。空でなくしたら大変だ、預かっといてくれよ」
 「EDF!EDF!」

 おい!今ベネットとスレッガーさんが居たぞって何ぞこれ?何故に死亡フラグを叫ぶことになったし。そして最後の奴連呼するな!本当にその連中と同じような状況なんだから!!
 口が緩む。もちろん現実のぼっちがである。笑い声が漏れる。それはぼっちだけでなくエリオ隊全員であった。
 結果的に皆戦意を回復し立ち上がる。あとは前を向いて進むのみ!
 俺達は果敢に、勇敢に、無謀に突っ込んだ。対する巨人はその大きな拳を振り上げた。振り下ろしが来ると分かり射線から退避する。
 ズドオオオン!!
 大きな音を立てて地面に打ち込まれた拳は砂煙エフェクトを撒き散らす。
 拳の後には3人が倒れていた。あの一撃を防ごうとしたのか盾を構えた奴もいた。急いで仲間の元へ駆け寄ろうと走り出す。その間に三人を守ろうと残った二人が盾になろうとがんばったのだが三人と同じように倒れた。まだHPは残っているようだが後方支援を受けられまい俺らには絶望的だった。
 そして留めの一撃を巨人が放つ。

 「させるかあああああ!!」

 背に仕舞い続けていた大剣を振るいコースをずらす。
 巨人の目が俺に向けられる。今の一撃で俺がターゲットにされたのだろう。
 それから巨人は俺目掛けて拳を振るう。それを回避したり剣で斬り付けたりを繰り返す。

 長い…今何分経った?まだ味方は来ない…諦めるか?…否!断じて否!あのクロノ君が!ギルドの団長を務めるような人が!俺みたいな外様にお願いしたんだぞ!!だったら3分ぐらい耐えてみせらあ!!

 「Steel is my body, and fire is my blood」

 覚えていた詠唱を口ずさむ。決して魔法が使えるわけでない。ただ口にしただけである。

 「I have created over a thousand blades」

 大剣と拳が交わる。

 「Unknown to Death」

 反動を受けてダメージが少し入る。

 「Nor known to Life」

 受け流し斬りつける。

 「Have withstood pain to create many weapons」
 
 振るう度に重く、遅く感じる大剣。

 「Yet, those hands will never hold anything」

 巨人の一撃を弾きつつ詠唱を続ける。最後に叫ぶ『So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS』と!!

 「ぶるああああああああああ!!」
 「「「「「「なぜ最後でそうなったし!?」」」」」」

 うるさいはもるな!!言った本人もそう思ってるよ!どうして若●さんが登場したんだよ!!キャラ的には合ってるけどさ
 巨人は今度は振り下ろすのではなく拳を突き出して来たのだ。避ければ他の皆に当たる。

 「・・・重い!!」

 いい加減振り回しにくい大剣を手放したいと思っていたからそのまま地面に刺し彼らの盾にする。拳が大剣にぶつかった瞬間、手の動きが止まる。今だと言わんばかりに飛び乗り腕の上を駆ける。やはりと言うか当たり前と言うか振り下ろそうと腕を振る。落ちる前にやけくそで抜いた剣と短剣のうち、短剣を投げつけ地面へと飛ぶ。

 「ガアアアアア!!」

 着地と同時に巨人が叫び怯む。しかしまだ誰も来ていない。もう少しくらいと剣を構える。

 「…ハッ!?ティアナ隊、サバトは支援攻撃を開始、MPが切れても構わん撃ち続けろ!!白騎士、スバル隊は突撃!エルドーはエリオ隊の救出、キャロ隊は回復を!!」

 クロノ君の声が聞こえ前衛隊が突っ込んできた。助かったとその場に座り込むのを我慢して立ち続ける。これで休めると安堵したのだ。

 「ぼっちさん!!」

 名前を呼ばれて振り返るとこの前の青年が俺の方に駆けて来た。すると目の前に『スレイン より ぼっち ヘ 対象物:村正 受け取りますか? Yes/No』と表示され首を傾げる。

 こいつ鬼か!?こっちでぼっちで戦ってきたぼっちにこれ持ってまだ戦えと?確かにHPはあんまり減ってないけど疲労感半端ないんですけど!!

 口にしようかと思ったがそこまで自分が喋れないのを理解して刀を受け取る。
 抜いた刀を手にするとステータスが向上するのが分かった。
 
 「・・・では、参ろうか!!」
 「!?は、はい!」
 
 何驚いてんのさ。もしかしてサボる気だったの!?ぼっちに戦わして…こいつやはり鬼だ。
 
 「ららららららあああああああい!!」
 
 半ばやけくそで叫びつつ突っ込む。現在他のプレイヤーにターゲットにされておりフリーのなのですんなり足元まで辿り着いた。
 そして連打で操作し回転しつつ斬撃を6回入れる。たまに練習しておいた「回転剣舞六連」を喰らうが良いわ!!さすがに技名を叫ぶことはしなかったが。。

 「皆下がってください!もう一度撃ちます!!」
 
 もう一度撃つ…ここに来る前に3戦目でも使った大技を使うのだろうと判断してそのまま斬り続ける。

 「何をしているのですか貴方は!?そこから下がってください!!」
 「そこに居ては広範囲魔法を喰らってしまいますよぼっちさん!!」
 「・・・構わない」

 だってあの魔法は上から降り注いでくるんでしょ?だったらこいつの陰に隠れておけば俺の攻撃もはいって良いじゃん。
 だからぼっちは退避しなかったのである。

 「くっ、死んでも知りませんよ!《アイス・スピヤー・レイン》」
 
 予想外だった。巨人がよろめき俺の盾が無くなる。
 うそでしょ!!
 後は当たらないように避けつつ必死に巨人の影に潜り込み斬りつける。

 「・・・当たらなければどうと言う事はない・・・」

 当たってたら死んでたかもだけどね!!
 心の中で悪態をついていると巨人の拳が横より迫ってきたことに気付いた。
 何とかジャンプして避けるとそのまま腕に着地してしまい背後をとる形になってしまった。
 ハッ!?と気がつく。これはるろうにの師匠と同じ構図ではないかと。だから師匠の台詞を言おうとしたのだが…思い浮かばず

 「どうした、それで終いか!?」

 まことさんの台詞を口にしてしまった。どうやら興奮すると台詞などを間違えてしまうのであろう。恥かしさを感じつつ巨人の顔に斬りかかる。
 その先に足場が無いことに気付かず。
 いきなり高いところから落ち剣と刀と膝をもって着地する。
 振り返ると巨人が消滅し始めたことから終わったのだと察する。

 何か皆が俺を注視してるんだけど…すみません、これ返したら帰りますんで…

 先ほどのステータス上昇といい、この切れ味といい、これは結構レアな刀ではと思いつつ持ち主であるスレインさんへと歩いていく。
 刀を鞘に納めて返しますと差し出したら手を覆うように握られた。そして… 

 「俺を!俺を貴方の仲間にしてくれませんか?」

 行き成りで困惑したがすぐに心が大歓喜した。俺がこのゲームを始めたきっかけはまずは仲間作りである。これ程の刀を簡単に知らない相手に渡せる程、器の大きいプレイヤーなのだろう。
 先ほどは鬼などと思い申し訳ありませんでした!どうか俺の友達になって下さい。
 急ぎパネルを操作してスレインさんにパーティー申請を送った。彼は迷う事無く許諾した。

 ぼっちは仲間を手に入れた。しかも二人!…二人?しかも彼と彼女は幼馴染…俺チーム内ぼっちじゃね?そんな事を思いつつ集団《v(ニュー)》を創設したのである。

 そしてこの一件がある疑惑を生む事など誰も知る由も無かったのである。



 ぼっちは戦闘に勝利した
 スレインと皐月が仲間になりたそうに見ている。

 仲間にしますか?Yes/No
 >Yes

 ぼっちはパーティ内ぼっちへ昇格した。
 テレレレッテッテレー♪

ぼっち「・・・解せぬ」


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外伝03:疑惑の英雄と氷結の魔術師

特別編だけだと思った?残念!外伝もでした♪


 「プレイヤー集団に襲われたのにゃ!あたしが初心者なのを分かってて…」

 声が震えていた。表情は分からなくても彼女が泣いているのは分かった。多分だが一人の彼女はPK集団に襲われたのだろう。許せん!複数で一人の少女を襲うとか!!
 その時何かが頭の中を過ぎった。この子に抱き付かれる前に一つ水溜りを跨いだのだ。こんな晴れた草原フィールドで水溜りが出来るなんておかしい。そう思い振り向こうとした瞬間、

 「貰ったぁ!!」

 水溜りから姿を現した変身型スライムであろう者が人型となり飛び掛ってきたのだ。

 「なぁに!?」
 「ふぇ?」

 何とか反応する事が出来て相手の攻撃を回避することが出来た。そして相手には短剣が突き刺されていた。
 目でその先を追うとネコの少女だった。彼女は怯えつつも俺を救ってくれたのだ。感謝と同時にこいつらが彼女の言っていた連中なのだと知る。

 「・・・何だお前?」

 半分キレていた。我武者羅に斬り付け、何処からか矢が飛んでくるものなら盾にしてやった。
 スライム系の奴がHP0になって消失しても怒りはまだ残っていた。
 木の上の奴を倒そうと思ったとき、岩の陰より二人の鬼が飛び出してきた。
 
 「・・・抜刀」

 背に背負っていた村正を抜く。
 村正の効果によりステータスが上昇して行くのを確認して敵へと目を向ける。
 鬼は攻撃力が異常に高い種族である。ただ高いだけである。
 ゆえに『当たらなければどうということは無い』のだ。真紅のいなず…じゃない、赤い彗星さんの言うことなのだから正しいと思う。それを体現するよう二人…二人と言うより二体か。二体の鬼の攻撃を避けながら斬り付ける。
 そういえば鬼は体力が微量ながら高いんだっけ?少し時間がかかっちゃった。さて後はアーチャーだけだ。
 ふとキリト君の台詞を口走ろうとして口を塞ぐ。そうだ。ここには初対面の子が居るんだ!変な事は言わないように気をつけねば!!
 ただ作業の如く矢を切り払いながら進むとアーチャー(エルフ)が木の上より飛び降りてきた。ラッキー♪矢を撃たれる中、木をよじ登らなきゃって思ってたからちょおおおおラッキー♪
 さっさと斬り捨てて彼女の元へ歩む。正直初対面の子に自分から近づきたくない。何を喋ればいいか分からないからである。けれど彼女は命の恩人である。最初の一撃を仕掛けてきたスライム種に一撃を入れて少しでも時間を稼いでくれたんだ。何か礼を言わなきゃ。
 彼女を立たせてあげようと手が伸ばしたのだが中々手をとって貰えない。何か不味かったか?俺的には良いかなと思ったんだけども…ならば、礼だけでも言わなきゃね。
 
 「・・・ありがとう。君の名は?」
 「あたいは、あたいはミイ」

 ミィと名乗ったネコの少女はそっと手をとり立ち上がった。
 昨日といい、今日といいスレイン君たちとチームを組んで以来中々人との繋がりが出来てきたんじゃないか?
 画面の外でニコッと笑いながら昨日の事を思い出す。



 ミイと出会う前日…

 俺達vは狩りを終えて無事に宿を設定している町へと帰還した。

 「今日も凄かったですよぼっちさん」
 
 後ろを警戒するように歩くぼっちさんに声をかけた。この一週間彼と共に行動したが驚かされる物ばかりだった。
 どんな強敵にも挑み、悪鬼の群れに囲まれようとも罠にかけられようとも冷静で、仲間である俺達を決して見放す事無く窮地をいつの間にかひっくり返している。
 今日なんて迷子になってしまった俺と皐月を助ける為に大型の植物モンスターを掻き分けてまで助けてくれたのだ。

 「本当に別格ですよ。私なんて足手まといにしか…」
 「・・・そんなことは無い・・・実際助かってる場面のほうが多い」
 「そう言って貰えると嬉しいです」

 む!何か面白くない。皐月が照れたようなアイコンを出すのを見てから胸がモヤモヤする。
 よく分かってない感情を振り払い会話に参加しようとする。

 「でも実際魔法詠唱者はもう一人欲しいですよね?」
 「なによ。私じゃ不安って事?」
 「ちがっ!?そうじゃなくて皐月って補助や回復メインだろ?だから攻撃をメインとした奴が欲しいなと思ってさ」
 「ふーん…それより私は索敵を得意とする人が欲しいかな」
 
 そんな中ぼっちさんがぴくんと動く。

 「・・・すまない・・・誰か来た」

 言われて辺りを見渡すが誰も来ていない事を確認して意味を理解する。ぼっちさんは誰かが来ることがありインターフォンとパソコンを繋げているのだ。

 「では今日はここまでですね」
 「・・・また」
 「また明日」

 白いローブを纏ったエルフの皐月と白銀の鎧を着た俺、スレインの前から神父姿のぼっちさんが消えていった。 

 

 現実世界で目を開けたぼっちはプラグを抜く。凝り固まった筋肉を解すように背を伸ばしながら今日の事を思い返す。
 植物プラントで皐月ちゃんが欲しいアイテムがあるとの事で同行したが探索一分後には迷子になってしまったのだ。何とかお目当てのアイテムを入手する事が出来、帰ろうとするも道も分からず走り回る事数十分。植物モンスターに襲われて戦いながら逃げている内に皐月ちゃんとスレイン君を発見し何とか脱出できたのだ。

 ピンポーン

 インターフォンが鳴る。ここで出なかったら何の為に戻ったのか分からなくなってしまうな。
 は~い、はってま~す…は言わずにドアに向かって歩き出す。

 「警察です。開けてください」

 ……………なんて?警察?ポリスメン?オラ何もしてねえだ!!してないよな?ワイルド7みたいな警官だったらどうしよう!?ホレイショなら会いたいな…って違うとりあえず開けないと!!

 「・・・どちら様で?」

 警察って言ったのになにを聞いているんだ?と思いつつ扉を開けて顔の半分だけ除かせる。もちろんチェーンは外さない。
 外にいたのはまだ幼さを残す青年警官と作業着を着たおっさん二人であった。おっさん方の胸にはユグドラシルとロゴが入っていた。

 「―――署の――と申します。――さんで間違いないですね?」
 「・・・(コクン)」
 「貴方には不正ソフトを使用した容疑がかかっています。開けて貰っても?」
 「・・・・・・」

 無言で扉を閉めてチェーンを外す。そして中に警官とおっさん達を中に入れる。
 二人が持っていたパソコンを開いて俺のパソコンと繋げようとした時に警官が許可を得ようとしたのでとりあえず出しといた。
 しかし本当に思い当たる節が無い。このパソコンは反応が良くなるように選んだ機材で組んだがソフトはユグドラシル推奨の物しか入れてない。後はウイルス対策ぐらいだが…
 黙々と作業する二人を余所にキッチンに向かう。
 お湯の用意をしながらお茶菓子やサーバの用意をする。さすがに客が来たのに何も出さないのは失礼に値するだろう。決して初対面の人の近くでじっと出来なかったとか、何を話せばいいか分からない重圧に負けたわけではない。違うんだからな!!違うから!違う事にさせてください…
 システムチェックしている作業員のお二人と青年警官にコーヒーとガトーショコラを提供する。青年警官は遠慮したが作業員の二人はお礼を言い、食べ始めた。中々好評のようで良かった。さてこの後どうしようか?

 お茶菓子を出してから三十分間置物のように動かずただ時間が過ぎるのを待った。

 「チェック終わりましたよ」
 「結果はどうでした?」
 「不正ソフトの使用は確認できませんでしたよ」
 「え!?」
 「いやはや凄いですよ。ログを見ましたけ人間業じゃないくらい入力がありましたよ」
 「良い物が見れて私たちは良かったですけど…っとすみませんねお茶菓子まで頂いて」
 「・・・構わない」
 
 何が「構わない」だよ!偉げに対応しちゃってどうすんのよ。表情を見た感じ気にした感じは無かったけど…
 仕事が終わり部屋を後にする作業員達を見送って部屋の机の前に座る。
 さて、警官が帰らない件について話そうか…てか何でこの人は帰らないの!?お願いだからぼっちをぼっちにさせて!ずっとぼっちの空間に居座らないで!!何が気に入らないの?俺か?俺が不正ソフト使ってなかったことか!?
 正座して申し訳なさそうな青年を見つめたままどうやって話しかけようかと考え込んでいると彼の方から話してきた。

 「すみませんでした」

 謝られた。まぁ不正ソフト使用の容疑で来て使ってなかったんだから謝るのは分かる。だが謝られるよりでて…

 「この前の戦いを見て僕…不正ソフト使ってるものだとばかり考えてて…」
 
 この前の戦い?俺何かしたっけ?と言うかこの人もしかしてユグドラシルプレイヤー!?誰だ!顔を見て思い出せ!!無理だった。ゲーム内はアバターだからこのままってことは無いはずだ。

 「僕は剣士に憧れててたんですけど剣士は向かなくって魔法詠唱者になったんですけど諦め切れなかったんでしょうね…だから貴方を見て嫉妬してしまってそれで…」

 魔法詠唱者の知り合い…皐月ちゃん!?いや、彼女は女の子だしな…男の魔法詠唱者………あ。

 「・・・クロノ君?」
 「!?あ、はい、そうです。サバトのギルド長をやっていたクロノです…」
 「・・・・・・やっていた?」
 「ええ…あの後ギルドから抜けたんですよ。貴方のあの戦いを見て嫉妬して何もかもがどうでも…あ、違うんですよ!それだけではなくてそろそろギルドから抜けようかなと思っていましたのもあったんで」
 
 俺のせい…じゃないのか…良かった。本当に良かった。彼の魔法の腕前が無くなるのは勿体無いと思ったから…ん?
 『攻撃をメインとした奴が欲しいなと』。スレイン君は攻撃型の魔法詠唱者を欲している。
 『ギルドから抜けたんですよ』。ギルドから抜けたと言う事は今はフリーと言う事。

 「今日は本当にすみませんでした!!僕に出来ることなら何でもしますんで…」

 ん?今何でもするって言ったよね!うーん、確かに彼は線が細く、男と言うよりも女顔でかわいい感じの…って今なに考えてたんだ俺!そうじゃなくて勧誘だ。勧誘しなきゃ(必死)!!
 
 「・・・vのメンバーになって貰えますか?」

 言えた!言えたよね今!!すごく緊張したけど言えた!!やったー♪さぁて、答えプリーズ♪答えははいか、Yesだ!それ以外だと俺の精神にダメージが来るから…
 驚いたともなんとも言えない表情をしたクロノ君はこちらを見つめ嬉しそうに答えた。

 「はい。…というか良いんですか?僕は貴方のことを…いえ、分かりました。宜しくお願い押します」
 「・・・こちらこそ」

 その後冷めていたがコーヒーとお茶菓子を食べて明日の集合時間を告げると部屋から外へ出て行く。去り際に『貴方は強いだけではなく心も広いのですね』とすんごい笑顔を向けてきやがって…ドキドキしてしまうじゃないか!!
 はぁ~…とため息を付きつつ洗い物を片付けて夕食の用意を始める。明日のことを考えながら…



 「にゃは♪」

 あたしは道端の岩に持たれて座り込んでいた。
 ただ座り込んでいたわけではない。獲物を待っていたのだ。
 それもモンスターではなくプレイヤーをである。
 待った甲斐があった。座り込んでいる道を一人のプレイヤーが歩いてくる。神父姿で衣装に凝った初心者であろう。腰には初期の剣が提げられていた。
 
 男があたしに気付いて近づいてくる。獲物がかかりつつあった。
 
 「…助けてにゃ!!」
 
 困ったアイコンを表示しながら抱きついた。

 「・・・どうした?」
 「プレイヤー集団に襲われたのにゃ!あたしが初心者なのを分かってて…」

 勿論嘘泣きだ。だが、こんなのでも引っ掛かる者は多い。
 彼から見えないように目で仲間に合図を送る。彼の後ろの水溜りは変身型スライム種のエドガー、近くの木の上には弓矢を構えたエルフのグラッツェ、岩陰には赤鬼のトウガと狼男のロウガの兄弟が隠れている。

 「貰ったぁ!!」
 
 人型をとったエドガーが後ろから斬りかかる。同時にあたしも腹を切り裂かんと愛用の小太刀を突き立てる。
 これでいっちょ完了して分け合うのがいつもだったのだけど…

 「なぁに!?」
 「ふぇ?」

 とっさにあたし達の攻撃を身体を少し逸らすことで避けたのだ。それだけではなく避けられた為に短刀は彼ではなくエドガーに突き刺さっていた。

 「・・・何だお前?」

 冷めきった一言に動きが思考が止まる。
 振り返ると同時に剣撃の嵐がエドガーを切り裂いていく。腹部に突き刺して援護射撃しようとしたグラッツェの矢の盾にしたのだ。
 エドガーが消えると同時に岩陰に隠れていたトウガとロウガが左右から斬りかかった。
 
 「・・・抜刀」

 呟くと背に背負っていた日本刀を抜く。気付く。こいつは初心者なんかじゃない!
 トウガの連打とロウガの斬撃を軽くあしらいながら二人の命を削っていき傷を負う事無く二人を消滅させた。
 木の上にいたグラッツェが飛び降り矢を連射し始めた。それの事如くを剣で叩き落しつつ距離を詰めていく。
 化け物…
 なんて相手に手を出してしまったのだ…
 彼は何事も無かったようにグラッツェを消してからこちらに歩んでくる。
 殺される…
 手が伸びてくる。目を閉じて消える瞬間を待つがいっこうに何も起こらない。
 そっと目を開けると彼はこちらに手を差し出して待っていた。
 
 「・・・ありがとう。君の名は?」
 「あたいは、あたいはミイ」

 ミイはそっと手を取るとやさしく握り返された。ただの0と1で構成された世界のはずで感じることはないはずなのにとても温かく感じた。
 あたいはずっと一人だった。もちろんリアルでだ。友達も居らず毎日苛められ日々で疲れていた。
 あたいは求めていた。一緒に話せる仲間を。だからこんな初心者狩りする彼らの仲間になり同じムジナとなってしまったのだ。
 そんなあたいに彼は…

 「・・・もし良かったらうちのクランに入らないか?」
 「!?いいのかニャ?あたいが入っても!?」
 「・・・ええ」

 それは変化すること無いアバターの顔なのだが心より微笑んでくれている気がした。涙が出そうになるのをぐっと我慢して彼に返事する。もちろんはいか、Yesしかなかった。
 ちなみにぼっちは『ケット・シーは索敵で活躍する』と言う記事を見ていたのを思い出して皐月ちゃんの『私は索敵を得意とする人が欲しい』と言う事で勧誘したのであった。



 ぼっち達のクラン「v」が良く使っている宿屋「暁」は一階が酒場となっている。カーボーイが出てきそうな騒がしい酒場ではなく静かに飲める酒場である。そこの奥にvの指定席が存在する。そこには皐月とスレインが待っていた。

 「ぼっちさん遅いねぇ…」
 「…確かにいつもなら10分前からでも居るのにな」
 「え!?十分前から!私何回か遅刻してたよね…何か言ってた?」
 「いんや…いつも通り無言で待ってたけど…」
 「・・・遅れた」
 
 独特の間が開いた喋りを聞きぼっちさんだと二人が振り向くとぼっちさんと共に見慣れないケット・シーが居た。

 「えーと誰ですか?」
 「あたい?あたいはミィ。宜しくね」
 「へ?ああ、宜しく…ってぼっちさんまさか勧誘してきたんですか?」
 「・・・不味かった?」
 「いえ、そうじゃなくて俺らでやったのに…」
 「ん?今『ぼっち』って言ったかニャ!?」
 「貴方知らずについて来たの?」
 「ニャ~…噂に挙がった大物ニャ。『無口の英雄』『負け知らずの神父』………そして『疑惑の英雄』」
 「その疑惑は解消されたよ」

 急に声をかけられ振り向くとそこにはサバトのギルド長であるクロノさんが立っていた。

 「クロノさん!?どうして…」
 「僕は今日から君らの仲間だよ。ぼっちさんに誘われてね」
 「え、えー!?」
 「ちょ、皐月。声が大きいって」
 「ご、ごめん」
 「すごいニャ~。『無口の英雄』に『氷結の魔術師』が一緒になるなんて」
 「その二つ名は恥かしいから止してもらえると助かる。それとさっきの疑惑は無くなったよ。ユグドラシルの運営から捜査結果が配信される筈だからね」
 「・・・・・・」

 ぼっちさんとミィ、クロノさんと三人が話している中、俺と皐月は呆然としていた。もしかしてこのクラン…とんでもないくらいの物になるんじゃないだろうか?
 そんな期待を胸に俺、スレインはぼっちさんと新たな仲間を見つめるのだった。



次回の本編はナザリックの超実力者の皆でリザードマンの集落へハイキングに行こう。
完全武装でハイキングに…


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外伝04:狙われた英雄

 10巻を予約して来ましたチェリオです。
 外伝を書いたので速攻で投稿しまーす。明日は明日で投稿しますので…


 吸血鬼…
 それはほとんどの人が知っている妖怪ではないだろうか。
 アニメ、映画、小説、漫画…ありとあらゆる物で見る事が出来、人気も妖怪の中でもトップクラスにあるだろう。
 この種族はユグドラシル内にも存在する。ユグドラシルに出てくる吸血鬼は力が強い、微量ながら回復能力を保有し、蝙蝠や狼などの眷属を呼び出すなど他種に遅れをとることのない種族である。ただ日の昇っているフィールドでは弱体化するデメリットはあるがそんなものはアイテムでどうとでもなるのだから選ぶ人もかなりの数が居るのである。
 『ヴァン聖騎士団』
 対吸血鬼戦を得意とするギルドで総勢11名で構成されている。中でもギルド長のヴァンは名の知れたプレイヤーで対吸血鬼戦では負けを知らない信仰系騎士である。
 そんな彼は闇夜が支配する荒地にて地に這いつくばっていた。

 「…くだらん」
 
 這いつくばるヴァンを一人の吸血鬼がつまらなそうに見つめていた。
 髪は月夜に照らされ黄金に輝き、その顔は自信と悪意で満ちていた。服は動きやすいようにいらないパーツを省き、黄色をメインカラーで統一している。剣も槍も装備していない彼…ビオは不用意に近づく。斬りかかりたいヴァンであったがもう勝負はついている。どう足掻いても逆転などありえなかった。
 『ヴァン聖騎士団』はPVPも行なうが誰でもと言うことではない。悪評を広めたプレイヤーに狙いを定めて戦うのだ。たまに吸血鬼自身が勝負を仕掛けてくることもあるが大抵の場合は断るのであるが眼前の彼は別である。
 『闇夜の王』ビオと二つ名を持つ彼は異質の吸血鬼だった。彼はモンクと言う職業で指名して一人で挑んでくるのだ。今まで負けたことは無く、勝利はするが略奪はしないと言うのだ。つまりビオというプレイヤーは勝利にしか興味がないのだ。

 「しっかし弱すぎる!『吸血鬼狩りのヴァン』と聞いて期待していたが話しにならんではないか!!」
 「…くぅううう」

 私は敗者だ。何も言い返すことは出来なかった。それをいいことにビオは上から見下ろす。

 「まぁ良い。良いか貴様。一度しか言わぬからよく聞け!」

 噂どおりだ。彼は私を倒して殺す気がないのだ。そしてこれから行われるのは彼から新たな獲物を発表する宣誓布告。次の獲物は誰だと耳を傾ける。

 「次の獲物は『無口の英雄』などと呼ばれている男を狙う。よいな?きちんとこの事を広めよ」

 それだけ言い残すとビオは闇夜の中へと消えていった。



 「『闇夜の王』?なにそれ」
 「知りませんか?結構有名なプレイヤーなのですが…」
 「うーん…ごめんね。私は知らないかな。スレインは?」
 「俺も知らないな」

 俺達vはいつも通りの宿屋でクロノさんが俺と皐月に『闇夜の王』と呼ばれるプレイヤー『ビオ』の説明をしている最中だった。クロノさん曰く、種族は吸血鬼でモンク。一人で数人を相手に出来るだけの実力があると言う。PVPを行い相手に勝つことを主のプレイにしている。そのプレイヤーがぼっちさんを名指しで指名してきたのだ。何か手を打とうと言う話なのだが…
 
 「ぼっちさんなら何の問題も無いような気がするんだけど」
 「あ、それ私も」
 「…僕もそう思いますがもしもと言う事があります」
 「って言うかぼっちさんに話した方が良いんじゃない?」

 皐月の言葉で少し離れた所にいるぼっちさんを見つめる。ぼっちはミイとずっと話しているのだ。違うな。ずっとリアルの愚痴を聞かされているのだ。それに対して嫌がる事無く聞き続けているぼっちさんは普通に凄いと思う。俺と皐月は10分もしないうちに逃げたが。

 「すでに話してはあるのですがどうも気に留めておられないようなので」
 「ま、ぼっちさんなら何とかなるでしょ」
 「じゃあ今日は何を狩りにいく?」
 「は~い!スケルトア・ドラゴンが良いニャ~」
 
 いつの間にか近づいてきたミイが真っ先に提案してきた。彼女はvの索敵担当としてレベルを上げてやっと慣れ始めたのだ。

 「それよりもぼっちさんの装備を整えたほうが良いんじゃないかな」
 「「「あー」」」
 「・・・?」

 一人だけ首を傾げていたが他の皆は納得していた。正直ぼっちさんはレベルの割には紙装甲だったのだ。だから苦戦する事がよくあるのだ。それで死なない所がさすがなのだがそろそろ何かしら装備してもらわないといけない。

 「じゃあぼっちさんの装備の素材集めにレッツラゴー」
 「「「おー!!」」」



 あれから2時間ぶっ続けで狩りを行なった。すでにアイテムボックス内はいっぱいになり、宿屋へ帰るべく帰路へついていた。

 「今日も楽だったにゃ~」
 「楽だったってミイはぼっちさんの後ろに隠れてただけじゃない」
 「そ、そうだったかにゃ?」
 「とぼけてますね」
 「とぼけてるな」
 「とぼけてるわね」
 「うにゃー!ヘルプぼっちさん!!」
 「・・・」

 無駄口を叩いていた皆が静まる。今歩いているのは夜の森。ここは視界が悪くいつ敵モンスターが現れるか分からないのだ。俺達が無駄口を叩いている間もぼっちさんは一人でも警戒を怠っていなかった。
 それぞれが陣形を直し、索敵を続けるそんな中で…

 「良い月だな、化け物共」

 ぼそっと呟いたぼっちさんを皆が振り返った。

 「くっ、ふはははははは」

 突如森より笑い声が響いた。

 「ミイ!」
 「索敵には誰も引っ掛かってないにゃ!?」
 「では何処に!?」
 「ここだ雑魚共!」

 声を頼りに確認すると大きな大木の上に腕を組んだ男が立っていた。噂どおりの黄色い服装に金髪、獲物を見つけ出す赤い瞳…『闇夜の王』ビオだ。
 無音の中20メートルもある高さより静かに着地する。

 「戦闘態勢!!」

 俺の掛け声と共に皆が動き出す。先頭を俺、その後方を皐月とクロノさんが援護体制をとる。本当ならぼっちさんが前面に出るのだが今回は狙いの対象とされている事から後方である。ミイはぼっちさんの前で構えるだけである。

 「無口の英雄が後方で待機とは…ただのビビリかなぁ?」
 「五月蝿い!!」

 仲間が…ぼっちさんが馬鹿にされた事でスレインが突っ込む。

 「ちょっとスレイン!?」
 「援護しましょう。《パルメザン・アイスエッジ》」
 「もう馬鹿スレイン!《チェイン・ドラゴン・ライトニング》」
 
 突っ込むスレインの横をドラゴンを模した二匹の雷撃と氷の槍が目標へと向かって行く。しかしその光景を物ともせず突っ込んでくる。

 「《アンチ・マジック・グローブ》展開!!」

 赤く輝く光に包まれた拳が雷撃と槍を砕いた。《アンチ・マジック・グローブ》は魔法迎撃用のモンク用の魔法。魔法に触れる事で相手の魔法を破壊する魔法。欠点は破壊した魔法の半分を支払う事だ。相手の魔法の半分と使用したときの魔法とMP消費が激しい物を最初に出して来たと言う事は…

 「それほど腕に自信があるって事か…しかし!!」

 魔法を砕かれた事で冷静になったスレインは剣を振りかぶる事を止めて盾を構える。自分が盾になることで皐月とクロノの魔法攻撃でMP切れを狙うのだ。

 「なるほど。だが!」

 下からの右アッパー一撃で盾が弾かれる。重すぎる一撃。

 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 弾かれた隙に右の拳が腹部に入れられ吹き飛ばされてしまう。

 「スレイン!?」
 「危ない!!《アイス・ウォール》」 
 
 心配して自分の防御が手薄になった皐月を見逃す事無くビオが襲い掛かる。ギリギリの所で前に出たクロノが氷の壁を出現させるが三発の打撃を入れられ壊れてしまう。

 「貧弱、貧弱ぅ!!」
 「ばかな!こんな簡単に」

 次の一撃で皐月もろともクロノが吹っ飛ばされる。
 先の重たい一撃に魔法に対する破壊力…やつは対魔法アビリティや攻撃力特化のプレイヤー。おそらくあの装備の中にはゴッズアイテムも混じっているのだろう。
 三人を突破され残るはミイのみ。しかし戦闘になれてないミイでは話にならない。どうすれば良いか分からないミイを相手にせず軽く飛び越えてしまう。
 
 「ニャ!?」
 「腰抜けがぁ!邪魔だ!!」

 一分に満たない時間の間に抜かれた事よりその抜いた者がぼっちさんに迫った事の方が今は重要だった。そのぼっちさんは剣すら抜かずに待っている。
 
 「その首貰った!!」
 「―――――」
 「!!」
 「オラ!」

 この距離では分からないがぼっちさんが何かを呟くと同時にビオの動きが止まった。そこにぼっちさんの攻撃が顎に入った…拳で…
 これはゲームだ。たとえ顎に拳が入ろうと気絶など起こるわけがない。だがビオは顎を擦り驚いているように見える。それもそうか。殴り合いを得意としているモンクに剣士であるぼっちさんが拳で挑んでいるのだから。素人がボクサーに殴りかかるようなものだ。

 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
 
 物凄いスピードでラッシュが決まっていく。ビオもやられっぱなしでは無く反撃に出るがいなされていく。最終的には手も足も出せず防御するしかなかった。

 「なぁ…俺は夢でも見ているのか?剣士がモンクに」
 「拳で挑んでますね」
 「どういう神経してるんだろうね」
 「さっすがぼっちさんだニャ!」
 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ、オォォォォラアアア!!」

 ぼっちさんは叫びつつ殴り続ける。そして止めと言わんばかりに防御が緩んだ隙に顔面にクリーンヒットして殴り飛ばしていた。
 横たわるビオに対して背を向けたった一言、
 
 「お・・・てめーの敗因はたったひとつだぜ。ビオ、たったひとつの単純な答えだ。てめーはおれを怒らせた」
 
 だけを呟き攻撃の手を止めた。
 不味い。さっきの言葉は嬉しかった。俺達があっけなく抜かれたことを怒ったり、呆れられたりするかと思ったのだが逆にビオに怒りを向けたのだ。それはありがたいのだが背を向けたのは不味い。
 確かに殴り合いでは剣士がモンクに勝った。しかし剣士は剣を振るう事を主とした職業。殴りのダメージなどほとんどなかっただろう。
 思ったとおりにHPがほとんど減ってないビオは立ち上がった。それでも背を向け続けるぼっちさんを守ろうと駆け出した。

 「俺の完敗だ!」

 ビオはそう言うと大声で笑った。

 「敗者は勝者に従う。好きにするが良い」
 
 どかっと音を立ててその場に座る。好きにしろと言う事はこのまま倒しても構わないという事だろう。皆が見守る中ぼっちさんは手を差し伸べた。

 「・・・」
 「俺に仲間になれと言うのか?」
 「・・・(コクン)」
 「ちょっと!ぼっちさん!?」

 大声を出した俺を手で制する。

 「貴様の首を狙ったのだが?」
 「・・・構わない」
 「仲間になっても貴様を狙うかも知れないぞ?」
 「・・・それが?」
 「ブハッ!クハハハハ!!貴様に従おう。これよりこのビオ、貴様の為にこの力を振るおう」

 また新たな実力に大きな器に感心したスレインは拍手を送った。
 行きは五人だった集団が六人となり宿へと帰っていくのであった。
 


 ~ぼっちSIDE~

 ぼっちはスレイン達と離れた席でミイと二人っきりだった。内心二人っきりって環境にドキドキだったが少しずつ慣れてきたことが嬉しく思う。
 と言うか一時間近く会話していること事態が嬉しいのだ。今までの話した記録を秒単位で更新して行く。でも話の内容が重たい。昔あった虐めから周りの対応、現状の不満不平。何も答えることはせず相槌を打ちながら聞くが今は早く終わることを願う。
 皆の会話を聞いていたのかミイが駆けて行った。どうやら今日の狩りの話をしているらしい。
 『闇夜の王』ビオ…
 何でか知らないが俺を狙う奴が居るらしいし、何もなければ良いんだけどね。

 「それよりもぼっちさんの装備を整えたほうが良いんじゃないかな」
 「「「あー」」」
 「・・・?」

 急にぼっちの名が挙がり何かしたかな?と焦るがどうも装備の話らしい。何か問題あったっけ?

 「じゃあぼっちさんの装備の素材集めにレッツラゴー」
 「「「おー!!」」」

 行き先が決まり立ち上がる。さぁて今日も狩りに行きますか!皆さん俺を導いて行ってくださいね♪



 「今日も楽だったにゃ~」
 「楽だったってミイはぼっちさんの後ろに隠れてただけじゃない」
 「そ、そうだったかにゃ?」
 「とぼけてますね」
 「とぼけてるな」
 「とぼけてるわね」
 「うにゃー!ヘルプぼっちさん!!」
 「・・・」

 名前が呼ばれたことに気付かずぼっちはぼんやりと辺りを眺める。
 今日の戦いも疲れたなぁ。前衛二人に後衛二人、戦闘不得意のミイを除けばこうなる。ヘイトコントロール出来ない為に適当に攻撃するからぼっちばっか狙われる。何かのサイトで六人編成のチームが良いって書いてあったな。せめてあと一人前衛が居たら楽できるかな?にしてもここの月は闇夜に良く栄える。距離もとってるし聞こえないよね?

 「良い月だな、化け物共」
 「くっ、ふはははははは」

 ファ!?誰だ貴様!!
 自分のアバターモデルの台詞を口にすると突如聞こえてきた笑い声に驚く。

 「ミイ!」
 「索敵には誰も引っ掛かってないにゃ!?」
 「では何処に!?」
 「ここだ雑魚共!」
 「―――戦闘態勢!!」


 相手を見つけるよりも先にスレイン達が戦闘態勢をとる。しかもぼっちを守るように…
 おお!任せた。ぼっち観戦するヲー!!
 そう思ったぼっちの思考が停止した。原因は今現れたビオである。

 「無口の英雄が後方で待機とは…ただのビビリかなぁ?」
 「五月蝿い!!」
 「ちょっとスレイン!?」
 「援護しましょう。《パルメザン・アイスエッジ》」
 「もう馬鹿スレイン!《チェイン・ドラゴン・ライトニング》」
 「《アンチ・マジック・グローブ》展開!!」

 ごめん、けっこうビビビじゃなかった。ビビリですよ。だから突っ込まなくて良いよ。当たってるから。いや、そうじゃなくてあの黄色を基準とした服装に金髪…
 魔法を弾きながら前進してくるビオとスレインが接近する。

 「それほど腕に自信があるって事か…しかし!!」
 「なるほど。だが!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」

 盾を弾き、殴り飛ばしたスレインを無視してクロノと皐月に迫る。
 種族が吸血鬼である点とあの人をあざ笑うようなイケメン…

 「スレイン!?」
 「危ない!!《アイス・ウォール》」 
 「貧弱、貧弱ぅ!!」
 「ばかな!こんな簡単に」

 クロノが皐月を庇うように立ち、魔法で氷の壁を発生させるが簡単に砕かれ突破される。
 先ほどから連呼される『無駄』と『貧弱』の二文字…
 
 「ニャ!?」
 「腰抜けがぁ!邪魔だ!!」

 震えながら立ちはだかったミイを飛び越え俺の間合い近くに着地したビオ。
 目の前に迫った為、ビオの上のネーム表示が視界に入る。
 
 「その首貰った!!」
 「・・・それ『b』じゃなくて『d』では?」
 「!!」

 明らかに動揺して動きを止めた。
 やっぱりかこのクソ野郎!!一目見た時にもしかして『Dio』様を模してるなって思ったんだよ。なんだよ『bio』って!?名前間違ってんじゃねーか!しかも『D』は大文字で小文字じゃねーし!!

 「オラ!」

 怒りのあまり剣を抜くことを忘れ殴りかかる。キレイに顎にクリーンヒットした。

 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
 
 『Dio』様を模すんならしっかりと最後までやれよ?『亡霊を装いてたわむれなば汝、亡霊となるべし』だ。つまり君が『Dio』様を模すんなら俺がジョジョを演じてやるぜ!ハハハ、反撃してくるのかい?それこそ無駄だ。全部弾いちゃる。

 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ、オォォォォラアアア!!」

 ほらほらどうすんの?ガードするだけか?ここで『無駄』を連呼しながら殴りあわないと。あ!ガードが甘いよ!!
 最後の叫び声と同時に入った一撃で殴り飛ばした。
 よし言うぞ。背を向けてあの一言を…
 
 「お・・・てめーの敗因はたったひとつだぜ。ビオ、たったひとつの単純な答えだ。てめーはおれを怒らせた」

 あっぶねえ!!もう少しで『お前はもう死んでいる』って言いそうになった。あっぶねぇ!
 背後で立ち上がったのを感じて振り向く。

 「俺の完敗だ!」

 ビオはそう言うと大声で笑った。
 え?良いの?俺はすっきりしたから良いけど…

 「敗者は勝者に従う。好きにするが良い」
 
 好きに?好きにして良いのか?んー………あ!

 「・・・」
 「俺に仲間になれと言うのか?」
 「・・・(コクン)」
 「ちょっと!ぼっちさん!?」

 ちょっと待っててスレイン君。今大事なところだから。

 「貴様の首を狙ったのだが?」
 「・・・構わない」
 「仲間になっても貴様を狙うかも知れないぞ?」
 「・・・それが?」

 仲間になったらフレンドリーファイヤ解禁しなきゃ攻撃しても意味ないからね。

 「ブハッ!クハハハハ!!貴様に従おう。これよりこのビオ、貴様の為にこの力を振るおう」

 よっしゃああああ!!前衛確保!!これだけ強いんだからぼっち楽できるよね。
 帰りに何故かスレイン君に「器大きいんですね」って言われたんだけどそんなアイテム持ってたかな?



vメンバー 『さすがぼっちさん。敵も味方に引き込むなんて器が大きい』
ぼっち   「良し!楽できる」

チェリオ  「この差はなんだ?」


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外伝05:仲間を求めて

 木々が押し茂り、多少の霧が出ている山奥。
 こんな所をのんびりハイキングなどをしたら凄く気持ち良い場所だと思う。思うのだがそこを全力疾走で駆ける集団が居た。

 「もお~!何でこうなるのよ」
 「確実に僕たちの準備不足と数の…」
 「その話は後にして全力で走れよ!!」
 
 駆けていた集団はvのメンバーであった。
 彼らは6人集まったことでギルドを作ろうとここにやって来たのだ。
 この山奥にはドイツの城をモチーフとした『ヴァイス城』と言うギルド施設が建っている。この情報は掲示板に上がっている情報である。なのに未だ無人なのである。
 理由は簡単。難易度が高すぎるのだ。無限湧きする高モンスターの群れに大型ドラゴンの群れ、視界の悪いフィールドに無数のトラップ。挑む為にはレベルと数を要求されるのだ。

 「さっさと走れ弱者共」
 「誰のせいでこうなったと思ってんのよ!?」
 「小さい事を気にするな」

 駆ける三人の横を吸血鬼が追いつく。前回仲間になったビオである。こうなった原因は彼にあった。自分勝手に動き、興味があれば近寄りトラップに引っ掛かる。おかげでワイバーン竜騎士5体に騎馬竜騎士…そして赤い西洋ドラゴンに追われているのである。

 「私あいつ嫌いよ。チームワーク乱すし」
 「僕も苦手ですね」
 「だから今はそんな話するより少しでも…」
 「さっさと走らないとドラゴンの餌食だニャ~♪」
 
 最後尾から追いついたぼっちさんの背から声がかけられた。

 「あんたはぼっちさんに乗っているだけでしょう!?」
 「貴方はぼっちさんに乗っているだけでしょう!?」
 「お前はぼっちさんに乗っているだけだろうが!?」
 「貴様は乗っているだけだろうが、走れ!!」

 皆が一斉に突っ込む。
 ぼっちの背にはミイが乗っており、そのままなにも言わずに走り続けているのだ。
 
 「だって疲れるんだニャ~…」
 「ゲーム内だから疲れないでしょうに」
 「そうだ!罰にこやつに時間を稼がせるか!!」

 名案を思いついたって感じでビオがミイを指を刺して言った。
 
 「『そうだ』じゃねーよ!お前が撒いたんだからお前が何とかすれば良いじゃないか!」
 「それにミイさんじゃ一瞬の足止めにもなりませんよ」
 「ちょっとクロノ君、それは…」
 「ショックニャ…事実だけに何も言い返せれないニャー」
 「あ!いえ、違うんです。いや、違わないけど違うんです」

 焦りながら否定する中、モンスターは近づいてくる。そこでぼっちさんが顔を向けて

 「・・・行って来る」

 と一言だけ告げてきた。
 踵を返し来た道を戻って行く。

 「ってぼっちさん!?」
 「俺は背のネコに言ったつもりだったが」
 「助けなくては!」
 
 クロノとスレインが振り返る。ぼっちが戻って行ったことで騎士とワイバーンは居なかったが変わりにドラゴンが追いかけて来る。
 二人の横を皐月とビオが駆けていく。

 「ちょ!お二人とも」
 「クロノさん…」
 「なんでしょう?」
 「逃げましょう!」
 「そうします!」

 ドラゴン相手に前衛と魔法攻撃系の二人では勝てない。軽くぼっちさんの無事を祈って即座に判断して再び駆け出す。



 何とかドラゴンを撒いて合流した一行は山の麓の草原フィールドでくつろいでいた。この辺りにはあまりモンスターが出てこないから丁度良いのだ。
 10分ほど休んだ頃だろうかクロノが皆を見渡し立ち上がった。

 「少し提案良いですか?」
 「また挑むのはかんべんニャ~」
 「私も無理…」
 「それは僕も思います。そうではなく攻略する為の提案です」
 「勝手に特攻するビオを外す」
 「なに!?俺を除け者にする気か!!モンスターの前にお前を狩ってやろうか!!」
 「やってみろ特攻吸血鬼!!」

 ヒートアップし始めたスレインを皐月が、ビオをぼっちが止めた。そんな光景に苦笑いをするクロノは言葉を続けた。

 「このまま挑んだ所で結果は同じでしょう。なので仲間を増やそうと思います」
 「・・・仲間」
 「どうでしょうかぼっちさん。城を落とすなら戦力の増強は必須です」

 唸って考え込むんだぼっちは納得したのかゆっくりと頷いた。
 
 「では僕は前のメンバーに声をかけてみましょう。もちろん『上を目指す者を』だけですが」
 「俺も知り合いが居るから当たってみよう」
 
 決まれば行動は早かった。クロノもビオも早速動き出したが前のメンバーに声をかける気もあまりなかったスレインと皐月は他に知り合いも無くぼっちを見つめた。

 「ぼっちさんなら誰か知り合い居ませんか?」
 「・・・(ふるふる)」
 
 まぁ、ぼっちさんは今まで一人で十分だったから知り合いも居ないのだろう。手詰まりになったことに唸っていると皐月が手を挙げた。
 
 「掲示板で募集するのはどうでしょう?」
 「そんな事出来るのかにゃ?」
 「ああ、そんな機能あったようななかったような…」
 「どっちにゃ?」
 「とりあえずそれでいきましょう」

 後は早かった。掲示板に書き込みして指定した2時間後には30ぐらいのプレイヤーがいつもの店に集まった。戦士系から盗賊など近接戦を得意とする職種が多かったのは皐月が掲示板にぼっちさんの名を書き込んだのが原因だろう。
 『無口の英雄』、『負け知らずの神父』など複数の二つ名を持つからには結構有名になっていたらしい。ゆえに「会って見たくて」とか「お零れに預かろうかな」とか冷かしみたいのが多かったが…
 中には二つ名持ちも居たが…

 「どぉも~。みのりこって言います~よろしくぅ~」

 大型の兎の毛皮で来たフード付きのローブを着込んでいるニッコリ笑っているのほほんとしたプレイヤー。ローブから出ている手足には包帯が巻かれ手に持つ杖は二匹の龍が絡まったように巻かれていた。
 『煉獄の爆弾魔』
 なぜそんな二つ名が付いているのかが分からないと言うのが第一印象で思ったことだ。採用する事は決定したがそれより問題になったのは最後の二人の男女だった。
 男の方はスサノオと名乗った無表情の青年で背には大剣を備え、服装は和装に陣羽織を羽織っている。
 女の方はエスデスと名乗った少し歪んだ笑みを浮かべる透き通った水色の髪を腰まで伸ばしたプレイヤー。腰には髪と同じ色のレイピアに服装は白の軍服に黒いロングコートを羽織っていた。
 レベル80と言う点を除いて装備に問題はなかった。が、随時舌足らずなんだ。
 
 「どう考えても子供なのにゃ~」

 ミイが言った通りだった。今度の攻略は難しく、まだプレイヤーとして未熟そうな子供を入れておくほどの余裕は無いだろう。
 
 「ねえ…この子達どうするの?(ボソボソ」
 「入れるわけにもなぁ…手がかかるのは特攻吸血鬼で十分だし(ボソボソ」

 小声で結論を出し二人に告げる。

 「すまないが君達を入れるわけに行かない」
 「何故だ!?」
 「どうして僕は…何故自分は落とされたのか?」
 「それは君達が…」

 断る理由を挙げようとしたら壁に持たれていたぼっちさんが手で制した。まさかとは思うが…

 「まさか入れる気なんですか?」
 「・・・(コクン)」
 「相手は子供ですよ?足手まといになりますよ!?」
 「・・・構わない」
 「っ!?……ぼっちさんがそう言うのなら…」

 納得できなかったが納得するしかなく頷くと二人の男女が喜んでいた。本当に大丈夫なのだろうか?

 


 ~ぼっちSIDE~

 今日はなんて日だ。
 先日クロノ君に「そろそろ拠点を手に入れませんか?」と言われて確かに欲しいなとは思った。でもまだ未発見の拠点を探す為にフィールドの奥地まで行けるだけの余裕はvには無い。
 ゆえに今まで誰も入手出来ていない拠点をネットの中から探し出し3ヵ所ほど発見したのだ。その中で西洋のお城と言わんばかりの城を一瞬で気に入り選んだのだ。
 結果は散々…。罠にはかかるはモンスターは大量発生するは、さらには自分達の準備不足が露呈するわ。……帰ったら装備を整えよう…
 と、言う訳で現在撤退中なのですが、何故か背中にはミイが取り付いているんですね。どゆこと?いきなり掴まってきて、走るから振動で落ちそうになっても支えたらセクハラコードにふれるんじゃないかって手も出せないしさ。
 一人背負ったまま何とか前を走る4人に追いついた。

 「さっさと走らないとドラゴンの餌食だニャ~♪」
 「あんたはぼっちさんに乗っているだけでしょう!?」
 「貴方はぼっちさんに乗っているだけでしょう!?」
 「お前はぼっちさんに乗っているだけだろうが!?」
 「貴様は乗っているだけだろうが、走れ!!」

 背中より皆に声をかけたミイが一斉に突っ込まれる。意外と皆仲良いね。
 
 「だって疲れるんだニャ~…」
 「ゲーム内だから疲れないでしょうに」
 「そうだ!罰にこやつに時間を稼がせるか!!」

 名案を思いついたって感じでビオが俺のほうをを指を刺して言ってきたんだけど…。って俺が行くのか!?
 
 「『そうだ』じゃねーよ!お前が撒いたんだからお前が何とかすれば良いじゃないか!」
 「それにミイさんじゃ一瞬の足止めにもなりませんよ」
 「ちょっとクロノ君、それは…」
 「ショックニャ…事実だけに何も言い返せれないニャー」
 「あ!いえ、違うんです。いや、違わないけど違うんです」

 何か皆話しているけどそんな言葉は耳に入ってこない。ここを選んでこうなったんだから責任は取らないといけないんだよなあ…多分。

 「・・・行って来る」

 それだけ告げると元来た道を戻って行く。ドラゴンは数の多いスレイン君の方に行ったけれどもワイバーン竜騎士5体に騎馬竜騎士は俺を追って来ている。
 あ…ミイが居たの忘れてた。

 「にゃ、にゃ、にゃんで戻るのかニャ!!」
 「・・・」
 「答えて欲しいで…きゃああああ!?」

 騎馬竜騎士が持っている大型ランスを突き出してくるのに合わせて跳んだ。魔法詠唱者でもない人間種であるぼっちが飛べる訳も無くすぐに落下して行く。その先には突き出されたランスが…

 「よっと!」

 掛け声と共に突き出されたランスを蹴り、もう一度空中へ跳ぶ。背後を取ったことで刀を抜き放ち切り刻む。

 「・・・スキル《収束された風》」

 《収束された風》は二刀流のスキルで武器に風を纏わせ速度上昇と風圧ダメージを付与するスキルである。
 空中であるが刀を振る分には何の問題もなく切り刻みダメージを蓄積させる。着地する前に一騎は消滅し、残るは四匹…
 背中でミイが叫ぶが気にする事が出来ずに突撃して行く。
 


 殲滅させてドラゴンに出くわさないように隠れながら駆けて行くとスレイン君達は山の麓の草原フィールドでくつろいでいた。何とかドラゴンからは逃げ切れたんだ良かった。
 ところで俺の膝に乗っているのは何故か教えてもらえないでしょうかミイさん?

 「少し提案良いですか?」

 沈黙を破ったのはクロノ君だった。 

 「また挑むのはかんべんニャ~」
 「私も無理…」

 俺も・・・と言う所を押さえて話を聞く事に。

 「それは僕も思います。そうではなく攻略する為の提案です」
 「勝手に特攻するビオを外す」
 「なに!?俺を除け者にする気か!!モンスターの前にお前を狩ってやろうか!!」
 「やってみろ特攻吸血鬼!!」

 はい、どうどうどう。落ち着こうねビオ様。てか君が暴れると本当に困るから止めよう。

 「このまま挑んだ所で結果は同じでしょう。なので仲間を増やそうと思います」
 「・・・仲間」
 「どうでしょうかぼっちさん。城を落とすなら戦力の増強は必須です」

 なん…だと!?戦力の増強って事は人数増えるんだよなぁ…。これ以上増えるのか…でも皆必要って言ってるし…

 「・・・(コクン)」 
 「では僕は前のメンバーに声をかけてみましょう。もちろん『上を目指す者を』だけですが」
 「俺も知り合いが居るから当たってみよう」
 
 早速二人とも行っちゃったね。そして君らは俺を見るし?期待の眼差しで見ても何もないよ。

 「ぼっちさんなら誰か知り合い居ませんか?」
 「・・・(ふるふる)」
 
 居るわけないでしょうが!!ぼっちだから名前だってぼっちにしてるでしょうが!!まぁ、このメンバーにはなれてきたから良いけれどまだ初対面の人とか本当に無理だから。
 
 「掲示板で募集するのはどうでしょう?」
 「そんな事出来るのかにゃ?」
 「ああ、そんな機能あったようななかったような…」
 「どっちにゃ?」
 「とりあえずそれでいきましょう」

 どげんにしてこんなに集まった?掲示板に書き込んで二時間後には30ほど居るしさぁ…。お前らどんだけ暇人だよ!!と口に出来るわけなく多くの人を見てびびったぼっちは壁際に退避である。
 皐月ちゃんが作った掲示板の書き込みに目が行くと恥かしさで変な汗が出る。なんだあの『無口の英雄』、『負け知らずの神父』とかなんだ?駄目だ頭がおかしくなりそうなぐらい恥かしいんですけど。
 そんな間にスレイン君と皐月ちゃんとミイがどんどん面接を行なっていく。あの三人マジ有能。30人居た人数が今や10未満まで減らされた。やった、これで少なくなった。

 「どぉも~。みのりこって言います~よろしくぅ~」

 次に来た女性の面接をしているのだがなんか二人の言葉が聞こえたんだが『煉獄の爆弾魔』?二つ名持ちだよね?彼女入れたら俺の二つ名の注目度減るよな?
 口を出す前に採用されたから良かった。

 「ぼ…自分はスサノオと言います」
 「わたしはエスデスと言う」

 最後の二人の名を聞いた瞬間超反応してしまった。
 エスデスにスサノオだって狙ってる?狙ってるよね?絶対『アカメが斬る』を知っている子だよね?ねぇ?
 と興奮して見ていたのだが…

 「すまないが君達を入れるわけに行かない」
 「何故だ!?」
 「どうして僕は…何故自分は落とされたのか?」
 「それは君達が…」

 ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!!
 慌てて手をかざすと振り返ったスレイン君が驚いたような声を上げた。

 「まさか入れる気なんですか?」
 「・・・(コクン)」
 「相手は子供ですよ?足手まといになりますよ!?」
 「・・・構わない」
 「っ!?……ぼっちさんがそう言うのなら…」

 二人は「よし」と呟きながら喜んでいた。
 内心ぼっちもガッツポーズを取っていた。何にせよこれで数も増えたし良いよね?

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外伝06話:仲間を求めて:続

 章で並べた結果、最新話が何処にあるか解りにくいとの事で最新話は一番最後の『最新話』の章のところへ。
 次話が出るときになってそれぞれの章の位置へ移動させる。


 ハロー、ぼっちです。
 今日はスレイン君お休みです。なんでも用事が出来たとかどうとか…。あ!皐月ちゃんも休みです。怪しいなぁ(ニヤニヤ)。
 と言う事で現在は索敵担当のミイと新人のスサノオとエスデス、そしてみのりこと共にとある山奥まで来ています。
 毒沼や枯れきった木々で覆われた山は黒く淀んだエフェクトが発生していた。モンスターはスケルトンなど下級の奴しか出てこない。ぼっち一行はレベリングやモンスター討伐でここに赴いている訳ではない。掲示板にはいろんな情報がありその中には誰々を倒して欲しいとか言う依頼もある。これはやり過ぎるプレイヤーキルや初心者狩りなどを行なっていると判定された者のみを対象に出来る。
 『ウルブス』
 グリードというプレイヤーを頭に置くPK専門チーム。初心者だろうが生産系ギルドだろうがお構い無しに襲い掛かる為にハイエナとも呼ばれる。ただ弱い虐めを行なっている訳ではなく奇襲や伏兵などの戦術を用いて大手ギルドにすら挑む。そんな彼らは今まで殲滅された事は一度もない。どうせ仲間にするならそれぐらいの奴らが良いですよねと昨日の勧誘終了時にスレインが呟きぼっちが実行に移したのだ。

 「ミイさん」
 「どうしたのかにゃ?」
 「何故ぼっちさんは自分達と離れているのでしょうか?」

 スサノオが言ったとおり、ぼっちは新人達と15メートルほど距離を開けていた。ちょうどその中間を歩くミイは腰に手を当て、胸を張って答える。

 「それはここが敵の勢力圏内だからにゃ」
 「…?」
 「そうだったのですかぁ~?」
 「貴様らは…しかしそれならぼっちさんも一緒に居た方が良いのでは?」
 「索敵担当としてミイはまだまだ未熟なんだにゃ。広範囲に目を向ける事になれてないからぼっちさんが前方を担当してミイを気遣ってくれてるのにゃ。それにぼっちさんは襲われても対処するどころか返り討ちにするなんて朝飯前だにゃよ」
 「それは~凄いです~」
 
 期待の眼差しを背中に浴びせられた事とあまり知らない新人と一緒に居る気持ち悪さから吐き気を催しそうになりながら何とか耐えていた。
 その期待の眼差し止めて!ミイも違うからね!?新人との距離をあけたかっただけなのになんでそうなるの?それに俺は索敵能力無いから敵が来た時の盾にしかなれないよ。
 道なき道を歩き始めてやっと『ウルブス』の拠点とされる洞窟が見え始めそうな時に人影が視線を過ぎった。

 「・・・来た」

 速度からして人間の速度ではない。速度がある種族でなおかつ速度上昇系の魔法かスキルを使用しているのだろう。慌てる事無く腰に差している『村正』と『菊一文字』を抜き放つ。

 「スキル・・・《重鈍なる楔》」

 短剣らしき武器で斬りかかって来る二人の攻撃を刀で受け流しつつ、通過する瞬間に斬りつける。斬りつけられたエフェクトが発生した後から傷跡に三角形の楔を体内へ入り込んでいるのが見えた。
 後から襲い掛かってきた奴にぼっちが斬りかかろうとする為に距離を取ろうと跳ぼうとするが速度が急に落ちて刀の間合いから抜け出せずに何度も斬られて消滅した。

 「なんだこれは!?」

 生き残っている襲い掛かった奴は自分の体内に打ち込まれている楔に驚きつつ短剣を構える。
 立ち止まったおかげで相手が狼人であることが分かった。
 《重鈍なる楔》は斬り付けた相手に速度低下させるというもので斬れば斬るほど速度が低下するのだ。中々使えるスキルなのだが問題はある。一日に一度しか使えないことと…

 「・・・発動から30秒しか・・・持たない」
 「ケッ!!そんな欠陥スキルなんて…」
 「・・・十分」

 ぼっちの意図を理解してかスサノオとエスデスが背後より襲い掛かる。

 「《零度の軌跡》」
 「《二の太刀要らず》」

 氷の粒子を残しながら一気に距離を詰めてレイピアで連続突きを決めたエスデスごと斬る勢いで攻撃力を二倍にしたスサノオが大剣を振るう。間一髪でエスデスが回避したがもう少しで当たる所だった。
 ちょっとそこの二人!相手のHP見てよ!!恐ろしいスピードで減って行ってるよ!?これオーバーキルじゃねえ?それに《零度の軌跡》も《二の太刀要らず》も一日一回のスキルじゃなかった?
 自身と武器の速度を特上昇させて動いた後に氷の粒子のエフェクトを発生させる《零度の軌跡》も自身の防御力を半分にして攻撃力を二倍にする《二の太刀要らず》もぼっちの言う通り一日一回のみのスキルである。すでにぼっちの一撃にスキルを無駄と言っても良いほど使用しただけで彼は倒せたのだがこれで終わらなかった。

 「《煉獄の火柱》ぁ~♪」

 もう少しでHPバーがゼロになる筈だった狼人は黒紫色の火柱に飲み込まれた。皆の視線は自然と魔法を使用したみのりこに集まった。先程一緒に斬られかけて怒ろうとしていたエスデスまでも驚いたように見ていた。

 「うふふ、やっぱりぃ火は良いですよねぇ~♪」
 
 怖っ!!なにこの子!?うわー…なんか不安が残るわ。てか、もう少しでスサノオとエスデス巻き込みそうだったぞ。
 「うーわー…」と呟いていたミイが慌てて辺りを見渡す。同じように辺りを見渡すと16名もの狼人に囲まれていた。それぞれが武器を手にしていた。新人達やミイはぼっちに背を預けるように円陣を組んだ。
 その中で一人だけ前に出た。肘や膝より下が毛皮に覆われ、腰骨から生えているふさふさの尻尾や肩まで伸ばした髪に狼耳までも白銀の狼人だった。防具は白いライトアーマーで武器は狼の紋章が入った薙刀。出る前に見た掲示板に書いてあった『ウルブス』のリーダーのグリードの特徴と一致した。

 「ようもやりよったな人間種」

 忌々しくもめんどくさそうに言い放ったグリードにぼっち達もウルブスの面々も注目する。

 「・・・仕掛けてきたのは・・・そっちだが?」
 「まぁ…そうだろうな。で、お前らは何しにきやがった?」
 「貴殿・・・グリードを仲間にしたくて」
 「…はぁ?は…はは…は…あははははははは」

 正直に答えると大声で笑われているのはなんでだろう?もう、早く帰りたいのだが…。これだけの人数に見られてるし、すぐ近くには新人達も居るから落ち着かない上に本気で気持ち悪くなって来た。
 
 「ははは、すまねえな。今まで俺に敵対する者ばっかりだったが仲間にと言われたのは初めてだ。それもこの状況にびびってって訳でも無さそうだ」

 手を挙げて仲間に合図を送った。ウルブスのメンバーは武器を納めた。多分手出し無用の合図だったのだろう。

 「良いぜ。ただ条件がある」
 「・・・何かな?」
 「俺とあんたの決闘だ。あんた自身の技量を知りたいからスキルの使用は禁止な。俺が負けたら仲間になる。で、あんたが負けたらあんたが俺の仲間になる。どうだ?」
 「・・・(コクン)」

 二本の刀を握ったまま前に出るとグリードも薙刀を構える。自分の武器より長物を相手にする場合は相手より数段上の腕がないと勝てないみたいなことを前に聞いたな…警戒しつつ構えているとクスリと笑った声が聞こえた。

 「来ないなら行くぞ?」

 薙刀を軽々と振り回しつつ斬りかかる。間合いが違いすぎて相手には斬り込めないが何とか凌ぐ。と言うか何とか凌ぐ事しか出来ない。絶賛吐きそう…
 周りから見たら異様な攻撃だった。薙刀を持ち直して左から攻めたり、急に回したり、柄で突いてきたりと型にはまった攻撃ではなく奇襲的な攻撃である。それを深手は浴びてないとは言えダメージを受けながら何とか耐えていた。
 猛攻を続けていたグリードは休む事無くまだ攻め続ける。

 「はっはー!!どうした、どうした!手も足も出てないぞ」
 「・・・」
 「このままじゃあ、ただ俺に負けるぞ?」
 「・・・リズム」
 「なんだってぇ?」
 「・・・解った」

 右手で回した薙刀を首に向けて横に振ったが避けられたがそのまま右手は振りぬけたが薙刀は左手で持ち再び襲い掛かる。が…
 金属音の甲高い音が響き渡った。
 薙刀の刃と菊一文字の刃がぶつかり合って弾かれた。両者の獲物が弾かれてお互いがバランスを崩した。弾かれた薙刀を何とか前に構えるが…

 「――っ!?」
 「・・・牙突零式」

 眼前まで近付いたニッコリと笑っている表情をした金髪神父に背筋が凍りそうになる。体勢が整わない菊一文字ではなく村正を後ろから前へと腕の稼動域をうまく使って突きを繰り出す。腹部に大きな一撃を受けて後退しながら再び薙刀を振るうが、またも弾かれ斬りつけられる。
 
 「ハッ!!嘘だろ…。どうやって…」
 「・・・?」
 「こいつは…こんの!!」

 先程の戦い方を忘れたように大降りで斬りかかる。が、軽く避けられてそのまま後ろを取られる。刀が振られると思ったのだが振られる事は無かった。刀を構えたままぼっちは固まっていた。
 距離を取って大きく息を付いて落ち着く。

 「何で斬らなかった?今斬れば勝ってただろうに…」
 「・・・」
 「後ろからは斬らないって事か…」

 頭を振るって冷静になろうと考えをめぐらす。

 「甘い…甘すぎるぜ。そんなんじゃあいつか痛い目を見るぜ?」
 「・・・」
 「沈黙は肯定…てか」

 ぼっちは何も答えずただ見つめている。短く息を付いて薙刀を納める。

 「だけどそれも悪くねぇ。
  俺の負けだな。良いぜ、あんたの仲間になってやるよ」

 カラカラ笑いながら宣言した。これでvは大きな戦力を得た訳だが戦った本人は首を傾げていた。
 別に後ろを向けているから刀を止めた訳ではなく。正直に言うと吐いてました。刀を振りぬこうとしていたのではなく胃の中の物をオートリバースしていたのだ。何とか音が漏れないように耐えていたらいつの間にか仲間になってくれるって!やったね!!おぅぇ…まだ吐きそう…
 こんな事もあろうかと口元にナイロン袋を用意しといたのさ!!
 この『こんな事もあろうかと』ってヤマトの真田さんが元ネタだっけ?記憶が曖昧だな…
 そんな事を思いつつぼっちはグリードを仲間へと迎え入れるのであった。

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外伝07話:拠点攻略戦

 「三番隊HP半分切りました!!」
 「左翼に新たなモンスター群確認!!」
 「正面大型ゴーレム残り三割!!」

 怒号のような叫び声が山中に駆け巡る。
 ここは前に攻めた拠点『ヴァイス城』を再攻略中なのである。すでに前回撤退した地点を超えて今は城門にて戦闘を開始して20分が経った。城門には大型ゴーレムが立ちはだかり脇を重戦士風のオーガが固めていた。
 前の戦力は総勢6名だったが今は主力隊だけでも36名である。vの新人であるみのりこ、エスデス、スサノオを含めた9名にグリードを含んだギルド『ウルブス』18名。そしてクロノが以前ギルマスを勤めていたギルド『サバト』9名。 

 「三番隊は後退してください!!長門武士団前に出てください!!」

 前線に出ているプレイヤーに指示を出すのは参謀兼第一支援攻撃隊長を務めているクロノだ。指示通りに三番隊が後方へ引くと同時に戦国武将の様な鎧を着た集団が突っ込んで行く。彼らはクロノが連れて来た同盟を結んでくれたギルドの人たち。
 戦国時代の鎧で身を包み皆が刀や槍の接近戦オンリーの『長門武士団』総勢11名。ギルマスは礼儀正しく無口で2.5メートルの長身の獅子丸。
 盗賊から傭兵までこなすギルド『エルドラド』総勢21名。ギルマスは黄金の西洋甲冑に真っ赤なマントを羽織った優男のガルド。
 黒いローブに身を包んだ大鎌集団のギルド『デスサイズス』総勢12名。同じく黒いローブに髑髏の面を被ったギルマス『アイオン』。
 そしてゴーレム三体を操り後方支援攻撃隊の直営に回っているプロフェッサー。
 身体は細く、2メートルの長身で種族はエルフ。髪は金髪のオールバックで瞳はかけている丸眼鏡の光の反射で窺えないプロフェッサーと名乗るプレイヤーはクロノが声をかけたわけではなくビオの知り合いだそうだ。能力は創作系で主にゴーレムを作ることに拘っている。ちなみにプロフェッサーと言うのは白衣を着た科学者みたいだとのことでビオが付けたあだ名で本当は『ファウスト』というプレイヤーネームである。

 「ゴーレムを削ります。第一小隊はアイオンと混ざってゴーレム撃破を!!エルドラドは突入準備してください」

 第一小隊のスレインは自慢の盾を前に押し出してゴーレムへと突撃する。ゴーレムの重い一撃を受け止めると後ろから第一小隊に組み込まれたウルブスのメンバーが切り込む。自身の身体が緑色の光を帯びたと同時に押し負けそうだった一撃を押し返すことが出来た。

 「アシスト助かったよ皐月」
 「そんな事より早く倒しちゃおうよ」
 「ああ!勿論!!」

 気合十分のスレインは防御系ではなく攻撃力をアップさせて斬りかかる。スレインの第一小隊の第一任務は第零部隊の露払いである。ちらっと自分を後ろから見つめているぼっちに視線を向ける。必ず無傷でボス部屋まで守りきると誓いながら。



 ~ぼっちSIDE~
 
 ゴーレムに突撃をかけるスレインをボーと眺めるぼっちは胃が痛くてしょうがなかった。
 クロノ君が立てた作戦では第二小隊から同盟ギルドだけでボス部屋までのモンスターを排除。高火力を誇る部隊で短期決戦を挑むらしい。その部隊が第零小隊。ぼっちが隊長を勤める部隊だった。つまりぼっち達の活躍如何では皆の働きが無に帰るのだ。
 ああ…胃が痛い。いらぬ期待と失敗した時の事を考えたら胃が痛い。ただでさえ人が多すぎて初っ端からオートリバースしまくったのに…。もう胃の中空っぽだよ…
 大きくため息を付こうとした時いつもより静かな事に気がついた。

 「・・・ミイ・・・調子悪いのか?」
 「にゃ!?な、なんでもないにゃよ。元気いっぱいにゃ」

 いつもみたいに絡んで来ないから調子が悪いのかと思ったけど。まぁ、俺も調子は良くないのだが…
 ぼっちがミイを心配した言葉を聞いたビオが鼻で笑った。

 「こやつはその方が静かで良いのではないか?」
 「それは酷いにゃ!!」
 「それぐらい元気な方が僕は良いと思いますよ」
 「…スサノオ。言葉が戻ってるぞ」
 「…コホン。その方が貴方らしい」
 「キャラ作りがボロボロではないか…」
 「ネコさんはぁ~いつも通りの方が可愛いですよぉ~」
 「ありがとうにゃ~」

 みのりこに撫でられるミイを眺めなて空を見入る。何かが揺らめいて…
 何かがゆらゆらと近付いてくるのに気がつきクロノにメッセージを飛ばす。 

 「クロノ君・・・」
 「なんでしょうかぼっちさん」
 「・・・上」
 「上?…っ!?後方支援攻撃隊、対空戦闘用意!!」

 上空より迫るワイバーン竜騎士に対して一斉に魔法攻撃が加えられた。空で光り輝く魔法が幻想的で心の底から綺麗だと思った。
 こんな良い物も見れたし…帰るか。え、駄目って?デスヨネー…。

 ~ぼっちSIDE OUT~


 
 正面に居座ったゴーレムを撃破したことがきっかけだったのだろうか。城内からではなく城外から多数のモンスターが沸き始めた。さすがにこのままの戦闘となるときついものがある。

 「第一小隊と第零小隊は城内へ!ここは僕らで死守します!!」
 「しかしクロノさん!?」
 「良いから先に行ってください。この規模のならこれ以上モンスターは出てこないでしょう。早く行ってください!!」
 「…でも!!」
 「・・・15分」
 「え?」
 「・・・それまでに戻る」
 「分かりました!!では15分後に」
 
 それだけ呟いてぼっちさんは城内へと駆けて行く。第零小隊も続いていく。唸りながら悩んだがここで仕事を放棄するわけには行かない。第零小隊の後を駆けて行く。
 城内は荒れ果てていてモンスターは居なかった。城の入り口までは大きな庭園が広がっていたのだろうが今は見る影も無く廃れていた。所々に雑草やツタが好き放題に伸びていた。
 城の中へと駆けていこうとした時、ぼっちさんの足が止まった。それに気付かなかったウルブスの4名が前に出たと同時に火炎に飲み込まれた。

 「皐月!!俺の後ろに」
 
 火炎はそのままこちらへと向かってきて火に包もうとしたが何とか盾で防ぎきった。周囲を見渡して皆の安否を確認する。
 
 「この餓鬼共が!!俺は貴様らのお守りする為に居るんじゃない。手を焼かせるな!!」
 「ひぅ!!す、すみません…」
 「ごめんなさい…」
 「フンッ!!」
 「ぼっちさん助かったにゃ~」
 「・・・」

 振り返ると火炎を回避する為にエスデスとスサノオを抱えたビオとミイを抱えたぼっちは火炎が通った道より飛び退いて無事であった。ただみのりこは別だったが…

 「うふふ~。《火炎吸収》」

 受けた炎ダメージの70%を吸収して次に放つ攻撃にプラスするスキル。しかしダメージは大きく半分ほど削られてしまっている。
 皐月が回復魔法をかけているから大丈夫だ。火炎が放たれた上を見るとそこにはこの前の真紅の西洋龍が翼を広げて威嚇していた。

 「あれが…ボスなのか?」
 「卑怯だにゃ!ドラゴンなんて卑怯だにゃ!!」
 
 ユグドラシルでドラゴンといったら最強の種族と言っても良いほどに強化されているものが多い。エスデスとスサノオは先程から己のキャラを忘れて悲鳴を上げている。そこまでではないにしてもスレインも臆していた。

 「ハッ!!良いではないか!相手にとって不足無し!!」
 「・・・ぼっち・・・抜刀」
 「うふふ~。焼きがいがありますわぁ~♪」

 …三名のみヤル気十分だった。そのヤル気に答えるかのように赤龍は火炎ではなく突進攻撃を行なってきた。皐月はスレインに、スレインは自身に防御系の魔法やスキルを発動される。龍の突進を受け止めようとするがさすがに押されてしまう。

 「くぅうううう!?やっぱり無理か!?」
 「・・・動くな」
 
 肩に衝撃が走ったと思ったらぼっちがスレインを踏み台にして龍の頭に跳びかかっていた。同じくビオもだ。

 「・・・切り刻む《雷光弐式》」
 「《エア・ムーブ》と《クラッシュ・ファング》」

 電気を帯びた二刀の刀の斬撃と滑るように動きつつ連打を叩き込まれて怯んだ。 
 《雷光弐式》は武器に電気属性を持たせた上で麻痺を付与するスキル。ただし部位のみに限定される。
 《エア・ムーブ》は風の力で足を浮かせて地を滑るように進めるスキルで《クラッシュ・ファング》は部位破壊のダメージ蓄積量が増えるスキル。
 さすがに部位破壊は出来なかったがぼっちが斬りかかった右翼は麻痺が発生して動かせなくなっていた。

 「行きますよ~」
 「なぁ!?ちょっと待て!!」
 「・・・退避」
 「《獄炎龍撃》!!」

 みのりこの後ろより大きな門が発生して中より青い炎で出来た龍が赤龍に突っ込んで爆発を起こす。みのりこは炎属性の魔法しか使わない。その為に装備しているアイテムも装備も炎属性を強化する物で統一されている。超強化された上級魔法の上で《火炎吸収》で得た70%が加算され、いかに炎属性の赤龍であろうとも大きなダメージを負った。
 咆哮をあげて威嚇する。HPバーは五つ。今の攻撃で一つ目のバーの半分ほど削れた。どうやらこの龍は中級ぐらいの奴なのだろう。だからと言って手を休めるわけには行かない。

 「《トワイン・プラント》!!」
 「・・・《重鈍なる楔》」

 煙が晴れると同時に皐月が魔法で地面より複数の植物のツタで動きを封じる。そしてぼっちが切り刻み、速度低下の楔が打ち込まれて行む。
 一気に叩き込むしかない。それを分かってか分からずかビオは突撃し、怯えていたエスデスとスサノオが続く。赤龍が睨み手を振り上げる。

 「させるか!!《注視の的》」

 スレインの身体が輝きヘイトが一気に溜まる。プログラム通りにヘイトが著しく高いスレインへと攻撃が変更される。
 
 「ナイスだ!行くぞ!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
 「フフ、凍り付け《零度の軌跡》」
 「砕けろ!《二の太刀要らず》」

 三人の攻撃がヒットして行く中、赤龍があるものに気を取られたように見えた。ここ一帯を無数の魔方陣が取り囲んでいるのだ。
 いつの間にか後ろへと下がったみのりこが杖を構えて待機していた。
 超位魔法。通常の第十位階を遥かに凌駕する魔法で攻撃力も多大な物がある。しかし、デメリットとして発動時間が長い。なんとしてもそれまでの時間を稼ごうと攻撃するも中級とは言え相手は龍。反撃は辛い物があった。新人のエスデスとスサノオはスキルを使いきる前に後退。皐月は回復に専念する為に攻撃は出来なくなり、前線で戦えているのは何とか回避しているぼっちに盾で防いでいるスレイン、それと己の技量で何とか持たしたビオだけである。
  
 「さすがに…きついな…」
 「弱気な事言うんだな…」
 
 初めて弱音を聞いたスレインは笑いながら呟く。ぼっちは以前無言だが何となく疲労感が伝わる。あと少しで良いのだ。あと少しで超位魔法が…
 赤龍の口が開き、灼熱の炎が喉奥より漏れ始めた。ブレスが来る。

 「《アイス・アンカー》!!」
 「ゴーレム達に命ずる。彼らを死守せよ」

 ブレスが放たれる前にゴーレム五体がぼっち達の前に立ち、壁となりブレスを凌いだ。ゴーレムはボロボロになり崩れ落ちた。そして赤龍の姿を確認すると氷で出来た鎖が巻き付き地面に食い込んでいる錨と繋がって動きを止めていた。

 「15分経過しちゃいましたから来ちゃいましたよぼっちさん」
 「・・・感謝する」
 「プロフェッサーも助かったぞ」
 「い~え、皆様のお役に立てたなら幸いでございます」
 
 援護に来てくれた二人に感謝を述べながら空中の魔方陣の輝きが微妙に強くなった。範囲内に居た三人は急いで飛び出し、中には鎖を引き千切ろうともがく赤龍だけだった。
 みのりこが笑みを含んだ声で呟いた。

 「超位魔法《フォールンダウン》」

 範囲内が白い光で満たされていく。超位魔法の直撃を受けた赤龍はHPバーを一本と半分だけ残して怯んでいた。
 
 「すげえな…龍を数人でここまでやるとは」
 「さすが二つ名持ちを複数持つ精鋭部隊…」
 「ケケケ、俺様もおでれェた…」

 いつの間にかぼっちの後ろに立っていた獅子丸、ガルド、アイオンが口々に感想を漏らした。それだけではなく生き残っていた城外を担当していたプレイヤー達が並んでいた。
 すでに弱り果てていた赤龍に数の暴力で攻めるぼっち達を返り討ちにする力は無かった。かくして『ヴァイス城』はぼっち達の拠点となり、それぞれのギルドは同盟を結んだのであった。



 スレインはふと途中からミイが居なかったことに気付き辺りを見渡す。
 城壁に近い木々の影でミイが耳に手を当てているを発見した。

 「…で…。うん。終わった…分かってる…」
 「そんなところで何してるんだい?」
 「ひゃ!?」
 「おう!?」

 声をかけた事に驚いたのか飛び跳ねながら声を上げたミイにスレインが驚く。

 「なんだ?メッセージ中だったか」
 「あ、うん。…友達が話したいって…あ、私も混ざってくるね」
 
 余所余所しく皆の下へと駆けて行くミイを見送り、何か引っ掛かるスレインは口元に手を持って行き考える。
 
 「あ!そういえば口癖だった『にゃ』が無かったな」
 
 その時のスレインはそんな事を思い、それ以上の考えを持たなかった…



次回…「裏切りの対価は…」


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外伝08話 裏切りの代償…

 今更ながらこの作品のタグを増やそうかなと思っています。が、どんなタグを付ければ良いかが分かりません。
 良ければどんなタグを付けたら良いか教えてもらえたらなぁ…と思っております。
 活動報告の方で募集しておりますのでもし良ければお願いいたします。


 『ヴァイス城』を手に入れた一件よりvは大きく変わった。
 高難易度と言われた『ヴァイス城』を陥落させた事はその日にあらゆる所に拡散した。それだけではなく二つ名持ちが四人も在籍していることまでもだ。ギルドに入れて欲しいと言い出してくる連中は多かった。が、中には『這い寄る混沌』の連中も居るだろう。
 『這い寄る混沌』
 ユグドラシルに存在する中規模ギルドのひとつで主な活動は主な活動は情報収集。ユグドラシルは情報量が多い上に情報を各々プレイヤーが秘匿する場合がほとんどで掲示板に行ってもそれほど有益な物が手に入るわけではない。vが手に入れた『ヴァイス城』の情報はたまたま上がっていたに過ぎない。なので各ギルドが秘匿している情報を入手する為にメンバーを紛れ込ませてせっかく集めた情報を盗むのだ。盗まれたギルドからは堪ったものではなく、その内何かしら行動を起こす者も出てくるだろう。
 バルコニーで整備された緑豊かな中庭を見渡すと最近よく見る光景が広がっていた。

 「そこだ!!」
 「・・・遅い」
 「なんと!?」

 大剣を振るう速度に変化を付けて斬りかかるスサノオだがあっさりと村正で弾かれて、菊一文字を首元に突きつけられる。
 ギルド内は基本フレンドリーファイヤーを禁止にしているが初めて目にした時は誰もがヒヤッとしたものだ。
 何度目かの負けを認めて膝をつくスサノオを踏み台にしてエスデスがレイピアの連続突きを繰り出す。奇襲を狙って順番でもないのに襲い掛かったのだろうが慌てる様子も無く、ただ左右に揺れるように突きを回避しつつ懐まで入って刀を軽く振るった。ダメージは無いが腹部に斬撃のエフェクトが発生する。
 同時に付近に居るプレイヤー達より歓声が沸き起こる。
 そう言えば一番変わったことはvの名前が変わった事と俺達に通常時から役職が付いたことだ。集団からギルドになったことでギルド名を付ける際にぼっちさんがソルブレイブスと呟いたことでギルド名が『ソルブレイブス』になった。
 役職は全部で八つ。俺が班長を務める前衛班、ビオの遊撃班、ミイの索敵班。クロノは『ソルブレイブス』参謀兼攻撃魔法班班長と兼任である。兼任と言えばプロフェッサーもである。生産班長でありつつゴーレムと言う攻撃手段を持っていることから生産班警備の役職を持っている。ちなみに中庭でぼっち相手に戦闘指導を受けているスサノオとエスデスも班長なのである。『ソルブレイブス』に入った新人プレイヤー達を集めた班で女性はエスデスの新人班『織姫』に、男性ならスサノオの新人班『彦星』に配属されているのである。

 「こんな所で何しているの?」
 「んあ?皐月か…どうした?」
 「どうしたじゃないでしょ。そろそろ新人達のレベリングに連れて行く時間よ」
 「ああ…今日は俺だったか」
 「しっかりしてよね。そうでなくても襲撃があって大変なんだから」

 皐月の言う通りであった。最近よく待ち伏せや襲撃にあう事がある。ちょっとしたダンジョンを攻めていたら横取り狙いで襲って来た連中も居た。そいつらはぼっちさんとみのりこで撃退したのだがどうも情報が漏れているような気がする。気のせいならば良いが…

 「じゃあ行って来るよ。回復魔法班長殿」
 「その呼び方やめてよぉ。耳がこそばゆいから」

 手をひらひら振りながら中庭へと向かって行く。
 今回のレベリング地点は深い森の中。新人達と面倒を見る前衛班とプロフェッサーが同行する事になっている。同時にクロノが警戒して索敵班と遊撃班が今日行なう狩り地点を近場にしたのだ。何かあってもすぐに駆けつけられるように。
 その駆けつけられる為に近場で狩りを行なっているビオは弄っていた。
 
 「てか、何故俺があんな餓鬼共の面倒を見なければならないのだ!!」
 「まぁ~落ち着いてくださいよぉ~」
 「落ち着けるか!?」

 新人達が狩場の近くで狩りを行なっていたビオは誰に言うまでもなく叫んでいた言葉に反応したのは何となくで付いて来たみのりこであった。ちなみにだがみのりこは魔法攻撃班副班長と言う肩書きを持っている。

 「でも~なんだかんだ言ってビオさん面倒見てあげるんですよねぇ~」
 「だれが!!俺は仕方なくだな…」
 「はいはい♪」
 「貴様ぁ…」

 ニコニコしているみのりこに殴りかかろうとするが周りの皆に押さえ込まれて何事も無く終わるがそこでビオはミイが静かなことに気付いた。振り向くとなにやらメッセージを使っているらしいかった。
 違和感を覚えたビオの勘はこの後、悪い形で当たってしまった。



 ~ぼっちSIDE~

 深い森の中を一人で散策している男が居た。
 新ギルド『ソルブレイブス』のギルマスになったぼっちであった。
 大勢に囲まれリアルでオートリバースをいつものようにしながら訓練に付き合っていたのだがレベリングに行くと言う事で分かれた。やる事も無くなりログアウトしようと思ったのだが少し気になることがあって先にそちらを終わらそうと思ったのだ。どうも最近ミイに避けられている気がする。それだけなら別に良いのだが元気がないようにも見える事が気になっておりミイを探して森の中まで来たのだが…
 右を見ても木々、左を見ても木々、前も後ろも木々で囲まれたフィールドで地図を忘れてきた為に迷子中である。
 …誰か助けて欲しい。かれこれ30分も遭難中だよ。こんな所でログアウトしたくないし、こんな事ならテレポート用アイテムでも持って入れば…あ!この前、売ったんだっけか?
 大きなため息を漏らしながら顔を上げると木々の向こうから光が見えた。
 もしかして皆か!?助かったぁ…そういえば行く前にクロノ君がみのりこも一緒に居るって言ってたっけな。あの子は派手な魔法ばかり使うから目立ってこちらに視線が集まらないから助かるんだよな。さて、希望の光に向かって突き進みますか!!
 希望の光と称したエフェクトが発生しているらしき場所へ駆けていく。

 「・・・!?」
 「うわっと!?」

 木々を抜けて開けている場所へと抜けると誰かと思いっきりぶつかってしまいこかしてしまう。謝ろうとしたぼっちだったが声は出なかった。
 …誰ですか貴方?

 ~ぼっちSIDE OUT~
 

 
 「嘘でしょこんな!?」
 「なんで!?」
 「泣き言を口にするな!!」

 スレインは弱々しく泣きそうな新人達に声を上げる。スレインを合わせた19人が25人を超えるプレイヤーに囲まれているのだ。表情は変わらないが下卑た笑い声から友好的な連中ではないだろう。すでに攻撃は仕掛けられ、エスデスがバットステータスを受けている。前衛班の六人とプロフェッサーのゴーレム5体が新人を囲むように陣形をとっていた。

 「これは不味いですよね。スレイン氏」
 「半分任せれますか?」
 「逆に問いますが半分相手に出来ますか?」
 「…無理ですね。前衛班ではどう見積もっても8人です」
 「こちらもそれぐらいでしょうかね。もう二体持って来れば良かった」
 
 声は笑っているが現状把握はプロフェッサーの方が上だ。彼は出来ない事は出来ないし、出来る事は出来ると判断できる指揮官向けのプレイヤーだ。こういう時は彼の言い分を聞いた方がいいだろう。

 「意見具申しても?」
 「どうぞ」
 「一時離脱を進言しますよ」
 「それには賛成ですがどうしますか?」
 「ビオ氏との合流を目的とすれば短距離を行きたい所ですが彼らはそこを重点的に守っている。我々はここで粘れる戦力も無い。ゆえに反対側から突破してビオ氏と連絡して挟撃するのがいいでしょう。その為の離脱します」

 数だけ見れば同数に近いのだがこちらは半分が戦闘経験の浅い初心者。一気に襲われればひとたまりも無い。かと言って突破するにも前衛班が突撃しなければ突破は難しいが、守りが緩くなればそこから新人が狩られていくだろう。
 何か一手。奴らが意表を付くような一手があれば…

 「うわっと!?」

 一番人数が居るところの一人がこけた。皆の視線が集まる中、先程まで居なかった金髪の神父が立っていた。付近に居た奴らが驚いて飛び退く。

 「何で!?何で無口の英雄が居るんだよ!!」
 「話が違うじゃねえか!?」

 飛び退く中、一人の男が斬りかかったが身を捻るだけで避け、抜かれた刀で斬撃を浴びせられる。
 表情はまったく変わらないプレイヤーキャラの顔なのだが目が合った瞬間、何かを言いたげな感じがした。そう感じた瞬間、位置を示すように首が振られた。その方向に居た奴らは急に現れたぼっちさんに驚いて陣形が崩れきっていた。
 
 「皆、続け!!」

 ぼっちが村正と菊一文字で斬りかかったのを合図に全員で突破を計った。不意を打った為に簡単に突破する事が出来た。新人達にはそのままビオの元まで行かせて前衛班とプロフェッサーはぼっちと合流して戦闘を開始。ビオ達が合流した事で戦局が一気に傾き、殲滅することが出来た。
 この時、ぼっちは位置を示した訳でなくどういう状況なのか意味が分からず辺りを見ただけだった…



 新人達の先頭をぼっちとみのりこに任せてビオとミイ、スレインは最後尾を歩いていた。プロフェッサーはミイを除く索敵班と共に周囲の警戒に当たっている。 
 
 「スレイン」
 「ん?どうした」
 「ミイのことで話がある」

 何時になく真面目な雰囲気を出すビオに驚きつつも耳を傾ける。視界の隅でミイが縮こまっているのが見える。

 「あいつ…『這い寄る混沌』のスパイだ」
 「はぁ!?」
 「最後まで聞け。最近の襲撃でおかしな点が三つあった。ひとつは俺らが使っていた秘密の狩場などの情報が漏れていた事。二つ目は相手は直前で変更したルートでも待ち伏せや襲撃を仕掛けてきた事」
 「それでなんでミイがスパイだなんて…」
 「あいつがこそこそとメッセージをしていたのを見たこと無いか?」
 
 思い当たる節はあった。『ヴァイス城』を手に入れた際に誰かとメッセージしていたのを思い出す。

 「…ある」
 「俺もだ。ゆえに合流する前に問いただしたら認めたぞ」
 「そんな!?」
 「どうやら『這い寄る混沌』にミイの過去を知る奴が居るらしく脅されたそうだ」
 「なら被害者なんだな」
 「そんなの関係ないだろう」
 「無理やりやらされてたなら…」
 「無理やりであろうが無かろうがスパイ行為を行なっていたことは変わりない。周りが許さないだろう。特に金や情報に五月蝿いガルドなんかは」
 「この話は俺達の間で留めておかないか?」
 「二人で何とかすると言うのか?」
 「皆に言ったって揉め事になるだけだ。だったら俺達だけで」
 「却下だ。俺はぼっちに仕えている気でここにいる。黙っていることなど出来ん」
 「そんな!?」
 「すでにクロノに会議を要請した」

 歯軋りが聞こえた。それはスレインではなくビオから聞こえた気がした。本当は奴も何とかしたいのだろう。しかし…

 「どうにも出来ない…か」
 「ああ…ぼっちさんに委ねる事しかな」

 ため息を付きながら重くなった足を無理にでも前に進めてヴァイス城へと向かう。
 『ヴァイス城』の中央部には大きな会議場がある。大理石の壁で覆われた空間に豪華な丸型の机に装飾が施された椅子が並ぶ。ビオが言った会議が行なわれる会議場である。ここには各班長と同盟ギルド長の12個の椅子とソルブレイブスギルマスで皆の代表であるぼっちが座る一番豪華な椅子があり、12人の騎士と騎士を束ねる王になぞらえて新人達は円卓会議上と呼ぶ。
 円卓会議上にはぼっちをはじめ、各班長にグリード、エイワン、獅子丸、ガルドと全員が集まっていた。議題の中心となるミイはぼっちの向かいに立たされ俯いていた。
 まず経緯をビオが話す。その後にどうするか話し合うのだが情報を漏らされた事に怒り狂ったガルドはミイにありったけの罵声を浴びせる。エイワンとグリードは罵声を浴びせることは無かったとは言え、責めた発言を何度か繰り返す。ミイと一緒に居たソルブレイブスの面々はただ聴くことしか出来なかった。

 「貴様が情報を漏らしたおかげでどれだけの不利益が発生したことか!?」
 「…すみません」
 「謝ったところでもう戻るものか!!我らとしては失った情報の代金をソルブレイブスに払っていただければ気が治まらん!!」
 「俺はそこまで言う気はねえが、とりあえずこの裏切り者どうするんだ」
 「…確かにそこが重要だあね」

 皆の視線がぼっちに集まる。ミイは俯くだけで顔を上げることも出来なかった。少しの間が空いてようやく口を開いた。

 「・・・許す」
 「はぁ!?何を言っているのだ貴様は!!」

 ぼっちの一言に勢い良く食い掛かったのはガルドだった。

 「どれだけの損害を受けたと…」
 「・・・私が・・・払う」
 「…情報代を払うってのか?」
 「・・・問題は?」
 「払ってくれんなら俺らは問題ねえ」

 驚いたミイは正面からぼっちを見つめる。口調も声色も普段どおりだった。本当に怒ってないのだろう。

 「本当に良いの…」
 「・・・?」
 「私は裏切ったんだよ?騙したんだよ?」
 「私は・・・許す」

 ミイの表情は変わらないがマイクより泣き声のような者が聞こえてくる。

 「他のギルマスの方々は何かありますか?」
 「おで達は問題なし」
 「そちらがいいなら良いのではないか。それなりの罰は与えるのだろう?」
 「その前に対策だろう。またあったらたまったもんじゃない」

 他のギルマスはぼっちのギルドの問題だからそれは良いと思っているんだろう。それよりこれからのことを重視している。

 「ただ・・・許セナイナ」

 急に場の空気が下がったような気がする。いつもと違う怒気と言うより殺意を込められた一言に皆の背筋が凍った。

 「クロノ君。確カ『這い寄る混沌』ダッタヨネ」
 「え、ええ。そういう名のギルドですが…」
 「潰ソウカ」
 「はい?ぼっちさん今なんて言いました?」
 「潰ソウッテ言ッタ。根コソギニ!容赦ナク!断固トシテ!」

 はっきりと分かった。キレている。温厚なぼっちさんがマジで怒り狂っている。

 「クロノ君。采配ハ任セル。後ハミイヲ脅シタ愚カ者ヲリアルデ潰シテクダサイ」
 「少し言い方に問題を感じますが了解しました。ミイさん。その相手との会話ログか何か残ってますか?」
 「は、はい…残ってますけど」
 「後で提出してもらえますか?そこからは本職の僕の出番ですから」
 「本職って…」
 「一応、警察官なのでね」
 
 この時にぼっちさんがチートや違法ツールを使っているなどの噂が出た時に「その疑惑は解消されたよ」と言ったクロノの言葉の意味を理解した。
 クロノ君の発言に頷くとぼっちが立ち上がり皆を見渡す。

 「コノ提案ニ反対スル者ハ?」
 
 ぼっちの殺気に気圧されれ誰一人として首を横に振る者は居なかった。その様子を大きく頷くと席を立ち、出入り口へと向かって歩き出す。通り様にミイの頭をひと撫でして立ち止まる。

 「最後ニヒト言ダケ。相手ハ身内ヲ傷ツケタ輩ダ。斬リ捨テロ…」

 殺気を込められた言葉を残してぼっちは退室して行った。
 その数日後に同じく被害に合っていた中小ギルドと共に『這い寄る混沌』を攻めるソルブレイブスと同盟ギルドの姿があった。その中には『無口の英雄』『負け知らずの神父』の二つ名で知られるぼっちの姿もあった。ただ誰もその二つ名で呼ぶ事は無かった。自分を顧みない戦い方に慈悲の無いほどに徹底した殺戮に対して『殺戮の使徒』と呼ばれた…
『這い寄る混沌』のメンバーはリスポーンしてもその度に襲われる事でほとんどの者がユグドラシルを引退。アカウントを変えてまでプレイしたごく一部はのちの『燃え上がる三眼』のメンバーになったと言う。



 代償を払ったのは金銭的にぼっちさんとスパイ行為をさせていた『這い寄る混沌』でしたとさ。
 次回から本編に戻りますよ~♪まぁ数話したら特別編連続になるのですが…


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外伝09話 「終焉のはずだった」

 白銀の西洋甲冑を純白のマントで覆っているスレインは本棚で囲まれた書斎のような自室で日記に目を通していた。
 『這い寄る混沌』との戦いから何年経っただろうか。
 ワールド級モンスターを連合軍を組んでの討伐戦。
 ギルド対ギルドの総力を挙げてのPVP戦。
 希少金属入手の為に鉱山を入手するなどいろんな事があった。
 中でも一番大きな出来事と言えばぼっちさんが抜けたことだろう。その話が出た時は一悶着あったがそれでも止める事は出来なかった。どんなに聞いたところで理由は答えてくれなかったがあの大会で理解した。
 ワールドチャンピオンを決める大会でぼっちさんは順調に決勝まで残った。見に行った皆は優勝はぼっちさんと信じきっていたが結果は違い、決勝戦でたっち・みーというプレイヤーに敗北した。初めての敗北に沈んでいると思われたぼっちさんにどんな声をかけて良いのか解らずに悩んでいたがその声は嬉しそうに弾んでいた。
 今まで自分より強者を知らない為に競う事も出来ずに日々を過ごすだけの戦士はさぞつまらなかったのだろう。それが自分よりも強者を知って競える事を喜んで水を得た魚のようになっていた。
 ユグドラシル自体を辞めずに一からやり直すことにした彼を見送ってからが大変だった。いきなりギルドマスターを任命されて慣れない仕事を必死にこなしてギルドを支えようと頑張った。だけれど『無口の英雄』が居なくなった事実は大きく次々と団員は去って行った。ただぼっちさんの影響もあったが月日を経てユグドラシル離れしたプレイヤーと言う事もあったのかも知れない。
 昔の思い出を思い返しながら息を付く。するとドアがノックされたので「どうぞ」と言って入室許可を出す。

 「もう、探したわよスレイン」
 
 ドアを開けて入ってきたのは外は黄緑色で内側は金色のローブを羽織り、純白の神官服に身を包む皐月だった。彼女はギルドマスターである俺の補佐を行なってもらっている。少し頬を膨らました彼女はフッっと笑顔に戻り微笑みかけてくる。

 「どうした?何かあったか?」
 「どうもこうも皆集まっているわ。ギルマスなんだからしっかりしてよ」
 「あー…もうそんな時間か。今行くよ」

 棚に日記を戻してから装備を見直し円卓会議場へ向かう。
 今日この日はユグドラシルのサービス終了日なのである。なので現在ソルブレイブスに席を置くもの集めてお別れ会を開催しているのだ。ギルド名はソルブレイブスとなっているが実際は円卓の連合部隊だ。『ウルブス』に『サバト』に『長門武士団』、『エルドラド』、『デスサイズス』などのギルドも過疎化してきて合流して現在48名が残っている。

 「黄金時代が懐かしいな」
 「あの頃はギルド連合合わせて150名以上だったっけ?私は今ぐらいの人数の方が動きやすくて良かったけどね」
 「たしかに動きやすくなったな。さてと、何人来たかな?」

 円卓会議場のユニコーンなど聖獣の装飾の施された大扉に手をかざすと自動的に開閉する。この『ヴァイス城』の仕掛けはすべてプロフェッサーとぼっちさんが組んでくれた物だ。あの二人は自分の趣味になるとおかしくなる。途中システムに休憩の為にログアウト勧告が来て最低限出て行くが半日以上インしていた時期があった。二人に「ちゃんと寝てますか」って聞いてみると「・・・五日前に」「私は六日…いえ、一週間前にでしたかねぇ」と。
 大扉が開くと中には45名ものプレイヤーが各々話していた。『長門武士団』獅子丸。『エルドラド』ガルド。『デスサイズス』アイオンなど元ギルマス達も揃っており仲の良いメンバーと喋っていた。

 「こっちにゃ~よ」

 言葉の節々に「にゃ」と入れるミイの声に導かれるように中央から離れた壁際の大型のソファ周りに集まっている集団に歩んでいく。
 神主が着ている白い祭祀服装に赤の篭手や臑当を合わせた衣装に草鞋に大剣を装備した長身の男性プレイヤーのスサノオ。
 白をベースにして所々に黒を使用したドイツ軍服に似せて作られた軍服にミニスカート、足のほとんどを覆うブーツに軍帽を装備した怪しげな笑みを浮かべた女性プレイヤーのエスデス。
 両手に地底龍で作ったごつごつとしたガントレットを装備して白衣を着こなすプロフェッサー。
 白龍の刺々しいガントレットにグリーブ、高レベルの短パンにカッターシャツを着て変色獣の毛皮で出来た桃色のフード付きロングコートを来たケットシーのミイ。
 獄炎龍の魔術師用の足先まで覆う黒と赤のフード付きのローブに赤黒い獄炎龍の宝玉を金色の杖の先に取り付けたスタッフを持つみのりこ。
 漆黒のロングコートに中央一列にボタンをつけた黒い服と黒尽くしにロード・フロスト・ドラゴン討伐報酬の氷で出来た龍の杖を持つクロノ。
 ソルブレイス中核メンバーが揃っていた。ただ突貫吸血鬼が居ないだけで。

 「さぁ、さぁギルマスも~飲みましょうよ~」
 「飲みましょうってこれ雰囲気を出すためのドリンクアイテムですよ?」
 「うふふふ~」
 「ねぇ、スレイン」
 「何だ…」
 「みのりこさん少しおかしくない?」
 
 アバターの表情が変わることはないのだが雰囲気と言うか声色と言うか何かがおかしい。ワイングラスを持ってフラフラするみのりこを見ていたクロノが頭を押さえていた。

 「どうやら雰囲気だけで酔ったらしいのです」
 「あー…」
 「爆裂魔法いっきま~す」
 「駄目ですって!!」

 必死に取り押さえるクロノに任せてスレインと皐月は空いていた所に腰を降ろす。するといつも隣同士で座っているスサノオとエスデスが離れている事に気付いた。

 「お前ら今日は珍しいな」

 ちょっと気になったから聞いて見ただけだったのだが理解したエスデスから不機嫌なオーラが漂ってきた。スサノオはそんなオーラは出さなかったが不機嫌なのは変わらない。

 「些細な事がありまして」
 「あ、うん。あんまり喧嘩しないようにな」
 「ええ、心得て…」
 「些細な?ああ、あまり重要ではないさまと言う意味だな。確かに貴様の身長など重要ではなかったな」

 ピシリと空気が凍った。確実に挑発の色を乗せた言葉はスサノオの中枢まで届いた。

 「一センチ伸びた所で貴様の低身長は変わらないだろうに大騒ぎして滑稽だったな」

 何でもリアルで同じ大学に通っているらしく今日は身体測定があったのだろう。二人とも身体にコンプレックスがあるから余計に敏感なのだ。
 中間に居たミイは呆れ顔でその場を離れて、皐月は俺を盾に、クロノはそれどころではなく、プロフェッサーは配置したゴーレムの影から窺っている。って、逃げ足だけは速いなプロフェッサー!!
 離れた者ですら気付く怒気を放ったがすぐさまに掻き消えた。

 「確かに十桁で成長したエスデスに比べたら些細な物だったな。それにしてもまだその腹回りは成長するんだな?」

 今度は本当に場が凍った。
 エスデスが腰に差しているゴッズアイテムの氷属性レイピア『氷牙』が刀身を覗かせた為に冷気が発生したのだ。スサノオも負けじと大剣に手をかける。

 「見えなくなるまで切り刻んでやろうかこのドチビ!!」
 「贅肉だけ切り取ってやる!ありがたく思え!!」
 「止めんか馬鹿者共が!!」

 一触即発の事態を止めたのは筋肉質な肉体がはっきりと解るスポーツインナーの上に黄色いジャケットに長ズボンを履いた金髪のbioであった。

 「下らん事で喧嘩するな!単位を零にしてやってもいいんだぞ?」
 「「講師の横暴だ!!」」

 スサノオとエスデスが同じ大学で出会った事だけでも驚きなのにそこの講師とは…
 リアルでは黒の革ジャンにサングラス、鎖や髑髏の指輪など金属類を装備したオールバックのおじさんらしいがどうやって講師になれたんだろうか?

 「に~してもよく来れましたねぇ?」
 「プロフェッサーか…何故ゴーレムの後ろに居る?」
 「それは置いといて今日は残業と電話してきませんでしたかぁ」
 「ああ、新任に押し付けてきた」
 「うーわー…横暴すぎる先輩にゃ」

 毎度の事なんで全員さほど気にしてないがな。
 辺りを見渡すとプレイヤー以外にもNPCが居る事に気付いた。
 ソルブレイブスに個体としてのNPCは少ない。防衛用のNPCのほとんどはプロフェッサーが作った多種多様なゴーレムたちだ。プロフェッサー以外にプロギラミングが出来ない事と拠点の防衛に然程興味がない奴が多いからいつの間にかゴーレム95%の防衛システムが完成したのだ。
 その例外のひとつが円卓の上座に座っている。
 黒の鉄プレートと合わさった服の上に灰色のコートを着て、首に金色の十字架のネックレスをぶら下げている。白い手袋や丸っぽい逆光眼鏡なども装備した大柄でいかつく頬には大きな傷跡の神父。
 それはあのぼっちさんを模したNPCである。腰にはぼっちさんが残していった刀『天羽々斬』と『雷切』を下げている。
 NPCぼっちを見ているとその視線に気付いたプロフェッサーが苦笑いした。

 「あれは失敗でしたね」
 「ええ、まったくもって本当に」

 プロフェッサーが皆を驚かそうと黙って創り上げたぼっちを始めてみた時はミイが驚くほど喜んでいた。ただそれがNPCと解った時の落胆は凄かった。フレンドリーファイアが解禁されていたらプロフェッサーのレベルは0まで下げられていたと思う。
 と、思い出していたら時間が良い感じだった。

 「さて、もう少しでこの世界とはお別れだな」

 ぼそっと呟いた一言に皆が己の画面右上の時刻に目を向ける。傍から見れば一斉に何もない天井を同時に見つめると奇異な光景になってしまった。
 誰かは解らないがカウントダウンを始めた。
 本当にユグドラシルとはお別れなのだ…本当に…

 「10…9…8…7…」

 ふと、ぼっちを見つめる。俺は彼に付いて来て本当に楽しかった。もし出来ることならリアルでも会いたいものだ…

 「6…5…4…3…2…」

 ゆっくりと目を閉じて今までの想いと思いを振り返る。懐かしく愛おしい日々を。充実して冒険しまくったあの時を。

 「1…ゼロ!!」

 …
 ……
 ………あれ?
 目を開けたスレインはまだ円卓会議場に存在していた。48名のプレイヤーと共に…

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外伝10話 「異世界のモンスターと人間」

 本編でドワーフの国に行くメンバー二人を考えているのですが、もし避ければ活動報告でお答え頂けたらなぁと思っています。
 よろしくお願いします。


 緑多き森に険しい山脈、広大な草原…
 白馬に白い翼が生えたペガサスに乗って上空より辺りを見渡すと現実からも『ヴァイス城』が建っていた地形とも異なっていた。
 異常事態だ…
 いつも間にかアバターの姿のまま異世界に転生なんて誰も信じないだろうし俺だって信じ難い。これからの不安に恐怖により冷静な判断が出来なくなった俺達はすべての判断を仰ぐことにした。
 ちらりと後方をグリフィンに乗っている苛立っているミイに視線を向けて深くため息を付いた。
 こんな状況下でも冷静な判断を行なえたのはプロフェッサーが作ったぼっちだった。外見はプロフェッサー一人で作ったが設定はぼっちさんを知る皆(ミイ以外)が書き込んだ為にそれを模範として行動している。
 『どんな時でも臆することも慌てることもなく判断できる』
 彼が指示したのは三つだ。まず最初に『ヴァイス城』の異変がないかや防衛能力に変化がないかの確認。魔法やスキルが使用出来ることが解ったのでそれがこの世界でどのように作用するか。最後に周辺の情報収集。
 情報収集と言われてまず真っ先に名乗りを上げたのは索敵班長でもあるミイだった。自分が向いていると言う事もあるのだろうが一番はNPCぼっちを毛嫌いしているからだろう。
 今回の情報収集班はスレインに皐月、ミイ、エスデス、スサノオ、ビオの六名である。クロノはぼっちとこれからの相談でみのりこはお手伝い兼もしもの時の為の防衛陣営として待機。プロフェッサーはNPCのゴーレムや『ヴァイス城』の仕掛け、スキル・魔法のテストなどを行なっている。

 「んー…あれは村かにゃ?」
 
 索敵値が高いミイは普通に見えているのだがそこまで索敵値は高くない他のメンバーは目を凝らして見るしかない。通常の人間だったら豆粒にしか見えないがアバターの身体になって肉体能力が異常なほど上がって認識できる程度まで上がった。

 「村ですね…しかもかなり昔の生活みたいですね」
 「木で出来た小屋に貧弱そうな柵だな」

 小屋みたいな家が15軒に小さな畑が3ヵ所、中央には井戸があってそれら全体を1メートルもない柵が囲っている。村人らしい人々が入り口で何かを…

 「あれってもしかしt…」
 「いけない!!」

 視界に映った光景に頭より先に身体が先に動いていた。ペガサスの手綱を操り村に向かって急降下させながら速度を上げて行った。
 近付くにつれて遠めでも吐き気がする光景がはっきりと見えてきた。
 村の入り口に人が集まっていたのはゴブリン達が村を襲っていたからだ。中にはオークやオーガも混ざっていた。何の躊躇いもなくペガサスから跳び下りてちょうど真ん中辺りに着地する。
 静止した。
 空から人が振ってきただけでも彼らにとっては驚きなのにスレインの装備も異常そのものだった。
 この世界で金属などはまだなくあるのは木を使ったものが主流で鉄で輝かしいばかりの鎧など存在もしなかった。

 「美しい…」

 そんな声が漏れたのを気にも留めずにスレインは木の棒で必死の抵抗を行なっていた村人達を守るように立ち上がった。2メートルもの白銀タワーシールドと片手剣というよりはクレイモアに近い大きい剣を構える。
 最初に動いたのはオークだった。大きな木の棍棒を振り上げて襲い掛かってくるが盾に傷をつける事も出来ずに跳ね返されてバランスを崩してしまう。
 人間がオークとの力比べで勝るなんてありえないと言わんばかりにゴブリンも村人も唖然としていた。それよりも唖然としていたのはスレイン本人だ。まさかアレだけの巨体を持つ生物の攻撃を力を込める事無く跳ね返した事が信じられなかった。けれど…

 「これなら行ける!!」

 盾を構えたまま突っ込んだ。瞬間的な加速が生まれてぶつかったゴブリン6体はまるでトラックにでも撥ねられたかのように吹き飛んだ。
 あまりの強さに怯むが敵は一人に対して20体以上居るゴブリン達は引くことはなかった。

 「あれだけの力の差を見せ付けられて引かないとは大したものだな」

 いつの間にかペガサスと共に地面に降り立ったエスデスがスレインと反対側のゴブリン達の背後に立っていた。

 「エスデス!ゲームと同じように戦えるぞ。相手のレベルは10前後だ」
 「なんだ…相手をする気もなくなった。あの馬鹿にでも任せるか」

 先ほどまで不敵な笑みを浮かべていたがレベルを聞いてがっかりしたかため息を付きつつ肩を落としていた。そしてエスデスが言った馬鹿が降って来た。

 「ヌンッ!!」

 ゴブリンの中央に大剣を叩きつけるように着地して大きなクレーターを作ったスサノオは反動で宙に浮いたゴブリンを横薙ぎ一線で切り払った。辺りにはむせ返るような血の臭いと二つに分かれたゴブリンのパーツが散らばった。
 無表情で大剣の血をふき取るスサノオに対して苦笑するしかなかった。

 「オオオオ!!」

 一瞬にしてゴブリンを殲滅されたオーク・オーガ合計八体は踵を返して逃走を開始した。

 「ああ…そっちは」
 「終わったな」

 二人呟いたオークとオーガの先にはレイピアを抜く事無くつまらなそうに眺めてるエスデスが突っ立っていた。何としてもここから逃げて生きる為に武器を振るって排除しようと走りながら木の棍棒を振り上げる。

 「《アースフロスト・レベル4》」

 振り下ろそうとした棍棒が凍りついた。棍棒だけではなくエスデスを中心とした範囲50メートル内のものすべてが凍り付いていた。大地もオークもオーガもすべてが。
 
 「はぁ…つまらん」
 「きゃああああ!!」

 寒さで白くなった吐息を吐きながら呟いた一言を隠すように村の中から悲鳴があがる。村の中では子供の服を銜えて引き摺っていこうとする狼よりも一回り大きいヴァルグ三頭とビオ・ミイ・皐月が立っていた。子供の母親らしい女性を他の女性達が止めている。皆狼を見ているようでビオを怖がっているようだった。

 「そういえば真昼間から吸血鬼が歩いているって伝承的にどうなんだろうな?」
 「…普通は灰になる」
 「灰になろうが蘇えりそうだがな」
 「聞こえているぞガキ共!!」

 叫んだことでより一層周りの人は怯えて、狼は警戒する。

 「あれってヴァルグじゃない?」
 「そうにゃね。レベル…11だって」
 「魔狼か。飼ってみるか?」
 「狼って飼えるんですか?」
 「論外にゃ。猫としては却下にゃ」

 余裕たっぷりに喋っている様子を隙だと思ったのか子供を咥えてない二匹が飛び掛る。が、羽虫でも払うかのように片手で払い除けると頭から地面に叩き込まれ首から下が地面に埋まってピクリとも動かなくなった。

 「さぁて、あとはお前だけだな」

 ゆっくりと近付くビオに恐れをなして腹を見せて降伏のポーズを取る。まるで子犬のように鳴こうが関係なく腹を踏みつけた。それでも助けを請うように鳴くが足の力は弱まるどころか強くなっていった。

 「俺は犬が嫌いだ!怖いんじゃあない。人間にへーこらする態度に虫酸が走るのだ!!」
 
 あっけなく踏み潰してそのまま服を咥えられていた少年に近付く。泣きじゃくる子供の首根っこを掴み目線を合わせる。

 「喚くなクソガキ。泣く暇があるならもっと強くなれ!こんなカスに遅れをとるようじゃ生き残れんぞ!!」

 言いたい事を言うとフンと鼻を鳴らして母親だろう女性に手渡しした。

 「大きくなるまで護るのが親の役目だろうが!!せめて独り立ちできるぐらいまでは守ってやれ!!」

 怒鳴り上げるビオに母親は泣きながらありがとうと感謝の言葉を連呼していた。また鼻を鳴らしながらそっぽを向くビオの様子をエスデスとスサノオがにやにやと笑っていた。微笑を返したビオは猛ダッシュで二人に襲い掛かった。二人は謝りながら必死に逃げていく。
 まぁ、それは置いといてこちらはこちらで行なう事を行なおう。

 「この辺りの索敵を頼めるかなミイ」
 「りょ~かいにゃ!」
 「皐月は負傷者の治療を」
 「ええ、分かったわ」
 「守りは…あの三人がほっといてもやってくれそうだな…」

 索敵と治療を始めた二人は良いとしても攻撃系が何もしてない。防衛戦力としてもさっきの連中で考えると過剰である。

 「でも、さっきのが平均とは限らないか」

 もしかしたら彼らは弱いレベルの集団でほんとうは50台のモンスターが普通だったり格上が基本だったりするかも知れない。気を敷き締めてやることをやらなければ。
 そんなスレインに一人の老人が近付いてきた。他の村人と比べて多少服の装飾が豪華な事から代表者か何かだろう。

 「あ、貴方方はいったい?」
 「私達はソルブレイブス。通りすがりの…正義の味方…ですかね」

 言ってて恥かしい言葉だがこれ以上何も思い浮かばなかったのでそのまま口にしてしまった。「はぁ…」と返事する老人に笑いかけながらこれからどうするか悩む。

 「なるようにしかならないんだけどな」

 そう思うほかスレインはなかった…


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本編 第001話 「今までの過去~プロローグ~」

 はじめまして、チェリオです。
 今回初投稿となります。
 文章力はあまり(?)無いと自覚していますのであまりご期待せずに楽しんでいただければ幸いです。
 


 プロローグ

 なぜこうなってしまったのだろう?
 
 今でもこの疑問が消えることはない。人生とはこうも上手くいかないことを実感させてくるのだろうと何度思ったことか…
 幼稚園時代は何処にでもいるただ人見知りする小さな子供だった。この頃は楽しかった。何をするにも新鮮で何かあっても守ってくれる人が多くいた。
 小学校に上がると知らない子達に囲まれるようになった。と言ってもいじめられている訳ではなく、ただ幼稚園の友達がいないのである。だが僕にはそれこそが恐怖だった。

 「ねぇ、いっしょにあそぼ」

 たぶん隣の席の子だっただろうか?俺は急に声をかけられ驚いたのとスキル《人見知り》が発動してしまい、首を縦に振ることはなかった。
 再び声をかけられてもその度にスキルが発動してしまい誰も声をかけなくなった。暇な時間は漫画や小説を読むようになった。時間を忘れ創作された世界へと旅立つことのみを楽しみとしていた。自然と誰とも会話をしなくなり、やがてぼっちが産まれた…
 ぼっちだと実感するたびに「あの小説の主人公のように特別な何かがあれば良かったのに…」と思うようになっていた。それさえあればこんな風にはならなかったんだろうと妄想するようになった。が、これは間違いだと思い知った。
 産まれてから12年が経ち中学生となった頃の測定だったか?自分に特殊な力があることがわかった。なんと俺は脳から筋肉へと伝わる電気信号が異常らしいのだ。見てから反応できる反応速度…まるで金剛 ●含ではないか!
 この新たなスキル《インパルス》を手に入れて世界が劇的に変わる。特に運動面では大きな効果を発揮……するはずだった。
 6年間に亘るぼっち生活では授業以外で外で運動することがない。
 6年間に亘る読書生活で部屋や教室に篭る事がほとんど。
 6年間に亘るだんまりでコミュニケーション力の低下&上位スキルまで上がった《人見知り》。

 もうお分かりだろうか…。誰も相手にしないし活動することもない。部活動?入部してますよ。もちろん帰宅部に…
 結局宝の持ち腐れである、そんな状態で三年が過ぎて高校生に。さらに三年が経ち社会人に…

 会社はとあるプログラム会社。たいして大きくも小さくもない普通の会社。人とは会話せず黙々とパソコン画面と睨めっこ。

 「すまないねぇ。これも頼むよ」

 宴会に向かうため残業を渡してくる上司。もちろん誘う気はない。まぁ誘われても行く気もないけど。嫌味的な意味ではなく人が多いのにも拘らずぼっちになるからだ。
 
 働き始めて10年が経ち俺は思った。これではダメだと!このぼっち生活に終止符をうつために一歩でも踏み出そうと決意した。

 町に出よう!大勢の人が居る所に行って何をするんだ?本屋かコンビニに寄るだけで帰宅するだろう。
 友達に俺が知らない友人など紹介してもらおう! まず友達を作るところから始めなければ。
 親や親戚に何かしら頼んでみる!だめだ。電話する勇気すら湧いてこないと言うか、電話番号すら定かではない…
 諦めかけたある日、俺はソレにであった。

 VRMMORPG『ユグドラシル』。なにやら今大人気のゲームらしい。自由度がどうやらモンスターがどうとか宣伝してたがそんなことはどうでも良かった。ゲームであれば面と向かって会うことは無い。ならば普通に会話も出来るのではないか?それだけではない、弱いプレイヤーだろうからゆっくり時間をかけて友達をつくっていこう!期待で胸がいっぱいになった。

 失敗した、失敗した、失敗した。とあるボードゲームをしているニート&引きこもり、その他スキル所持した少年ではないが心のそこから叫びたかった。

 人間種を選んだ俺は剣士として名乗りを上げてしまった。理由は簡単で中学時代に封印されたスキル《インパルス》が最大限に発動されたのだ。なぜに今! と悶絶したほどだった。相手の動きを見てからの回避行動に攻撃、たまに買う本以外お金の使い道が無かったため故に奮発できた高性能にカスタマイズしたパソコン機器達。
 人間離れしたプレイからチーターを疑われたがそんな事実はなく、噂話や都市伝説の類になった。二つ名は《無口な英雄》。なんですかこれは?無口なのはただ話すのが苦手なだけで英雄にはなる気はまったく無かったんです!
 人が集まりいつの間にか大手ギルド長となっていた。持ち上げられ大勢に囲まれる生活…もう耐えられなかった…
 ギルドをサブリーダーに渡し、記念に大きな大会に出てから引退しようと思った。まさかこれが転機になるとは米粒ほども思わなかった。
 順調に勝ち抜き上位者に数えられるぐらいに勝ち上がった。最後の相手は人間種でも亜人種でもなく異形種だった。白銀の剣を持った異形種が神々しく見えた。
 
 経験から生まれたであろう戦い方

 その磨きぬかれた技の数々に
 
 俺は強く美しい異形種に敗北した。清々しいと言うか心のそこから楽しかった。彼が去る際に何か声をかけようとした。これまでの人生で自分から動こうとしたことは無かっただろう。だが、俺は動きを止めた。言っておくが断じて、断じてびびった訳ではない!おかしかったのだ。俺ではなく周りが…

 「なによアレ?気持ち悪い…」
 「異形種の癖に…」

 あんなに強くて礼儀正しい勝者にかける言葉がこんな侮蔑の言葉であって良い訳が無い! 一瞬でも体の奥から信じられないほどの感情の渦がまった。しかしそれらは一瞬で鎮火された。

 そうだ。俺も異形種になればいいんだ!どれだけ強かろうが。どれだけ有能であろうが異形種であれば他者との接触を減らせる。
 思ったらすぐに動いていた。プレイヤーキャラを最初っから創り始めた。前から得意だった剣士を選んだが、ちらほらと異形種狩りの噂が出始めたために隠密や索敵に優れた盗賊や忍者も取得。ひたすらモンスターを倒し、人がやってきては隠れるの繰り返しの毎日。疲労感は無く毎日が期待であふれていた。いつの日か運命の出会いがあるのだろうと。

 かなりの数の人が居た。慌てて変身型スライム種のスキルで液体化させてやり過ごそうと思った。一団は俺を狙ってたのではなく一人の骸骨のプレイヤーを襲っていた。
 魔法使いらしい服装をしていることから魔法使いか魔法詠唱者なのだろう。近くに前衛もいるのだろうがちょっと離れたところから戦闘音が聞こえるからそちらで戦っているのだろう。

 「ぐぅ…」

 大きなダメージをくらったのか骸骨が倒れる。楽しそうに笑うプレイヤー達。俺は何とかやり過ごそうかと思ったが一団の一人と目が合った気がした(最上位スキルで隠れているためばれるはずはない)。手前の奴めがけて襲い掛かった。何とか一団を返り討ちにすると骸骨にお礼を山のように言われた。
 結果的に助けたことになった骸骨と共に仲間の援護に向かった。その仲間の前衛は大会で戦った彼であった。あれよあれよと話は進み俺は《アインズ・ウール・ゴウン》の一員となった。
 ブルー・プラネットさんやたっちさんなど多くの交流を持つことが出来た。始めた頃の目標は達成でき何時までもこんな時が続くと思っていた。

 徐々に皆が抜けていき俺とモモンガさんは彼らが何時かは戻ってきてくれることを信じて残り続けたがユグドラシル運営よりメールが届いた。
 
 ……ユグドラシルのサービス終了日を知らせるメールだった……

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第002話 「終わりの日・始まりの時」

お久しぶりです。チェリオです。
お気に入りで11も入ってるとは…嬉しかったです。
だいたい2日に一話のペースで投稿しようと思います。


 ナザリック地下大墳墓

 スライム種で体がぼろぼろの上に睡魔に襲われていたヘロヘロさんが今この地を去った。
 ため息をつく魔法使いらしい黒いローブを纏ったモモンガさんが懐かしそうに辺りをみつめる。

 (過去の栄光か・・・)

 二人で守り抜いてきたユグドラシルは今日終了する。メンバーにメールを打ったがほとんどの者がが来ることは無かった。
 ダンッ!!
 怒りを込めて振り下ろした拳と机がぶつかり大きな音を響かせた。はっと我に返り頭を二、三回横に振る。

 「いけませんよね。最後の日に…」

 ふと目に入ったギルド武器《スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン》に手を伸ばした。
 「思えば長い間プレイしてましたよね」
 今までの思い出を振り返りつつ最後のときを迎える為に玉座の間に足を進めた。
 途中見かけたセバスや戦闘メイドプレアデスを最後に働かそうかと思い連れて行くことに

 「玉座の間にて待ってますよ……ぼっちさん…」

 NPCの誰も反応することなく最後まで残った友への言葉を残して玉座の間の扉の中へと進んで行った。



 「くそっ!罠だったとは…」

 モモンガは焦っていた。
 異形種を狩る者達を狩る異形種集団《アインズ・ウール・ゴウン》。まだ人数は少ないがワールドチャンピオンのタッチさんを主軸とし、育ってきたメンバーを含めた戦略で勝利を続けていた。
 いつもと同じように異形種狩りを行う人間種を狩りに来たはずだった。
 囮に奇襲、そしてタッチさんの相手をするワールドチャンピオン級プレイヤーの攻撃により分断され襲われた。
 ガチタンのぶくぶく茶釜さんとペロロンチーノさんは上手くカバーしながら凌いでいる。タッチさんにいたっては押し返していた。
 だが、一人にされた魔法詠唱者が複数のプレイヤーと戦って勝てる気はしなかった。 詠唱する時間は無く、止まれば殺される。逃げるしかない!少しでも敵を引き付けタッチさん達が勝つまでの時間を稼げればもっと良い。
 相手はそんなことを許すはずが無かった…

 「ぐぅ…」

 追いついた剣士に思いっきり斬りつけられ倒れこむ。
 周りから異形種に対する罵詈雑言が襲ってくる。あとは殺されるのを待つだけそれが長く感じたそのとき、一人の重戦士が何かを見ていた。
 それはちいさな水溜り。この辺りには湖がある為、フィールドに水溜りがそこらじゅうにある。たまに中からレアモンスターが飛び出すこともある。
 なんにしても一人のプレイヤーが意識を他に移した。だからと言って状況を打破する手立ては無かった。先程の重戦士が消滅するのを見るまでは…
 突如に水溜りと思っていた中から片目だけを覗かせた白い面を付けた者が飛び出してきたのである。次の瞬間には重戦士を斬り捨てていた。他のメンバーはこの奇襲に動くことなくたった一人に殲滅された。

 「あ、ありがとうございます!」

 ただ一瞥するだけで返事は無かった。返事が無くても感謝の気持ちだけは伝えたかった。ゆっくりと去ろうとした彼を呼び止める。

 「待ってください!せめてお名前を…」

 コートを風でなびかせながら彼は口を開いた。

 「・・・ぼっち・・・・・・元《無口の英雄》・・・ぼっちだ・・・」

 そう呟くと颯爽と駆け出し、他の人間種プレイヤーを次々と倒していった。見も知らない私達を救うためだけに…



 ぼっちは地面につきそうな真っ赤なコートと腰まで長い黒髪をなびかせながら全速力で移動していた。
 くそう!なんでこうなるんですか。あのときの俺は何を考えているんだか。口下手なのもあり、一言もしゃべらない間に負けて出てきたが何が「・・・狩ってくる・・・」だよ。おかげで終了時間30秒前だよチクショウメー!
 走馬灯のように昔の思い出がよみがえってくる。
 モモンガさんと出会ったとき勘違いして敵に斬りかかり助けれたのは良かったと思った。け・れ・ど・も!なんだよ「元《無口の英雄》・・・ぼっちだ・・・」だよ!だれがかっこつけろって言ったよ。それ以前に上手くしゃべれていたかも怪しいし、格好をつけてもいいのはイケメンだけで俺は断じて否!いや、この創った顔はイケメンとは言わないかも知れないが格好良い出来だと思う。
 あまりの恥ずかしさに走り出して他の人間種に八つ当たり。結果、俺は助けてくれた恩人扱い。誤解を解こうとしたんだよ。言うタイミングがあの時かき消されてって、なに思い出しているんだ俺は!
 ふと指輪が目に入り10秒前になって転移が使えたことを思い出した。遅いわ。やっぱり俺に足りないのは……速さだ!いや、コミュ力か?ってそんなことはどうでも良いとりあへずモモンガさんのもとへ
 ぼっちは指輪の力を発動させたと同時に姿をかき消した。


ナザリック第7階層「溶岩」

 そこらかしこで火が噴出し、溶岩が姿を見せるここはナザリックの防衛時の指揮を執る悪魔が住まう階層である。プログラムで創られ熱など感じることなど無いのに、すごく熱く感じるのは創り上げた者達の技術なのだろう。しかし、今はそんな熱さではなく絶望に襲われていた。

 00:00
 00:01
 00:02
 
 この主人公がモモンガさんなら異変に気付き何かしら行動を起こすのだろうが主人公であるぼっちは背筋をピンと張ったまま固まっていた…

 アイエエエエエエエ、ジカンナンデェ!?
 そして転移する場所間違えたあああ。玉座の間に行こうとしたのに……時間はもう過ぎサーバーは落ちる。諸君らが愛したユグドラシルが死んだ。何故だ!
 『坊やだからさ…』
 なんか幻聴まで聞こえてきやがった。ごめんなさいモモンガさん。間に合わなかった俺を許してください。あ、なんか涙でそう………
 なんか視界の隅で近づいてくる者が見える…

 「これはぼっち様。お供を連れておられないと言うことは…何か火急の用件でしょうか?」

 さすがナザリック防衛時の指揮官だ。悪魔でありながら礼儀正しく柔和に話しかけてきた。リアルでこんな人(?)がいればどんなに……あれ?何で動いてるの?それにしゃ、しゃ、しゃっべったああああ!おおおおおお落ち着け俺。まだ慌てるようなじか……時間が過ぎてる!ログアウトできない!いやそれはそれで嬉しいんだけど。

 一歩も動かずこの階層の主であるデミウルゴスを観察する。やはり口や表情、三つ揃えのスーツも動作するたびに少しではあるが動いている。にしてもデミウルゴスは本当にスーツが似合うなあ。まさに出来るエリートとでも言うのかさすがウルさん。良い仕事してますねえ。

 「ぼっち様いかがなされましたか?もしやお加減でも・・・」

 やっべ、観察に夢中になりすぎて話しかけられていたの全無視してもうた。どげんしよう!じゃなくて何とか対応しろ俺!今までこのナザリックで培ってきた交渉術を発揮するは今ぞ。

 「索敵お願いしてもいいですか?」
 「・・・・・・(コクリ)」

 「さすがぼっちさん。腕は衰えてませんね」
 「・・・毎日やっているからな・・・」

 「…誰か一人でも来てくれますかね?」 
 「・・・・・・・・・来るさ・・・」
 
 駄目だ……オワタ。誰だ俺にコミュ力を期待したのは。そんな力があるんなら何とかしとるわ!って、デミウルゴスが本気で心配しとる。そうだ。こんなときこそ旦那の力をお借りしよう!

 説明しよう!旦那とはぼっちがお気に入りの漫画の主人公なのであーる。最強の吸血鬼で主人公と言うよりどう考えてもラスボスだろう!?と、誰でも思わず突っ込んでしまうようなキャラクターである。
 ぼっちは異形種になる際は吸血鬼を選ぼうと思っていたが隠密行動に向いている現在の変身型のスライム種を取るしかなかった。逃げるために……だからこそあの大会での景品を武器や防具ではなく吸血鬼にもなれる魔眼《ヴァンパイヤ・アイ》を頼んだのである。決して逃げるために吸血鬼スキルがほしかったわけではない。まあ、欲しくないと言ったら嘘になるが。ともかくその旦那に憧れて服装も似ているような地面につきそうな赤いコートを着て、髪も旦那を意識した。顔は旦那より執事君の若かりし頃の顔をモデルにしているのだが・・・

 オラに力を分けてくれえええ。と旦那に願いながらデミウルゴスに向き直る。
 ふと、白い面を付けたままでは無礼になるのかなあ?と思い面を外すとデミウルゴスが目を見開いた。何でそんなに目を見開くのおおお。あ、なんか目がキラキラして綺麗だな・・・。
 じゃなくて俺、変な顔してないよね?昔からポーカーフェイスで表情が読め取れないってよく言われるけど。こんなときこそ自然な笑顔で。なんかずっと見つめられると恥ずかしいな……そうだ!どっかの伝説のバスケプレイヤーが自分から視線をずらす技法をしてたな。たしかミスディ…なんだっけ?

 人差し指を伸ばしてデミの目の前に持っていくと予想通りに視線が指先に向かっていく。
 肌質ってどうなってんだろうと思いそのまま下へずらしていき、唇に人差し指が優しく触れる。
 
 ・・・・・・・・・なにやっとんじゃ俺は・・・・・・
 何とかせねばと悩むと旦那が助け舟を出してくれた気がした。それも童話で聞く泥舟ではなく大きな空母のような船である。落ちていて優しく言えば大丈夫だ。

 「なにも 問題は ない」

 これで正解のはずだ。さあ、デミウルゴスはどう反応してくれる!?

 「な…にも…もんだいは…」

 続けて喋ってくれてる!あのシーンを再現してるかのように…。ならば俺は言葉を続けるだけだ。

 「なにも 問題はない」
 「…なにも問題御座いません…」

 デミウルゴスはそのまま声をかけられた時のぼっちのように固まっている。
 大丈夫だよな?なんとなく納得はしてくれたっぽいし(?)、とりあえず部屋に戻ろう。
 ぼっちは目的地を目指して歩き出した。小刻みに震えているデミウルゴスをその場に残し…



やっと主人公が喋ったと思ったら即終了…
文章短すぎるかなあ…


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第003話 「終わりの日・始まりの時 inデミウルゴス」

二日ぶりです(前回より七時間ほど早いですが…)。チェリオです。
お気に入りが20になっている。すごく嬉しいです。
今回は前回の話のデミデミ版です。


 私はデミウルゴス。
 ナザリック地下大墳墓を支配された我らが創造主であらせられる《アインズ・ウール・ゴウン》に仕える者の一人です。
 ウルベルト様に創造されてナザリック第7階層の階層守護者およびナザリック防衛時の指揮を任せられている。至高なる御身からこのような大役を任せられたときには天にも昇るような喜びだったよ。
 まあ、私は悪魔だけれどもね。

 我々にはそれぞれの役目がある。
 第一から第三階層を任せられ、階層守護者の中で一番の戦闘力を持つシャルティア。
 階層守護者一の防御力を持ち、玉座の間に控えている守護者統括のアルベド。

 彼女らと比べれば攻撃力ではシャルティアに負けて防御力ではアルベドに負けてしまうだろう。そんな彼女らを羨んだ事もある。
 攻撃力が高ければ一番槍を任され、防御力が高いと言うことは至高なる御身を守ることが出来るのだから。
 アルベドに関しては玉座の間にいる事から御方々の近くに居られるのだから羨ましいと言う感情が溢れてしまいそうになる。

 守護者の中で一番親しいコキュートスも同じ思いがあったらしい。だから私は言った。
 
 「我々は至高なる御方々に創造された存在。他のものを羨むのではなく自分に与えられたこと、自分に出来ることこそを完璧に実行するほうが私はお役に立てると思うよ」
 
 そう言ってコキュートスにではなく自分に言い聞かせた。

 私は悪魔だ。
 悪の定義においては至高の御方々の中でも一番であるウルベルト様に創られた存在。ならば、アインズ・ウール・ゴウン至高なる42人の為に命を捨ててでも尽くさねばならない。
 ナザリック以外のものには悪というすべてを持って事に挑もうと…

 だが、すでに至高なる存在はお二人のみである。
 アインズ・ウール・ゴウンの長であり、死霊魔法を得意として超位魔法まで扱えるモモンガ様
 索敵能力や単独行動を最も得意とし、セバスを創造されたワールドチャンピオンでもあるたっち・みー様と唯一互角に渡り合えるぼっち様である。
 私を創造されたウルベルト様もお隠れになられた。だが、たとえ戻ってこられなかったとしても我々は尽くさねばならぬ。最後までお残りいただける至高なる存在に…

 今日も担当している第七階層を見回っていると何者かが転移した気配を感じた。
 このナザリックでは転移を行えるのはシャルティアが使うゲートか一階層ずつ移動できる物のみ。その二つを除けば他の階層を飛ばしてこられる者はリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを所持していることになる。つまりは仕えるべき主が御越しになったということだろう。
 シャルティアの可能性もあったが彼女の場合は彼女が来るのではなく使いの者が来るだろうからね。

 あまり急いで行っても見苦しいので急ぎつつ、見苦しくないように気遣った。
 御越しになられたのはぼっち様だった。いつもは気配さえ感じることは困難なのだが、今はここに居るぞと言わんばかりに気配を感じることが出来た。

 あまり寄り過ぎると失礼にあたるので少し距離をあけて片膝と片手を地に着けて臣下の礼をとった。同時に護衛である者を付けてないことに気付いた。ぼっち様の強さを考えれば必要ないかも知れないがもしもと言う事がある。

 「これはぼっち様。お供を連れておられないと言うことは…何か火急の用件でしょうか?」
 「・・・・・・・・・」
 
 ぼっち様は白い面をつけているため表情ははっきりしないが右目だけをのぞかせる穴より視線を向けられていることは分かる。
 返事を待ったがいっこうに返ってくる気配がない。ぼっち様はこちらを向いたままだ。まるで時でも止まったかのように…

 ふと疑問が頭を過ぎった。
 なぜ隠密能力に優れたぼっち様の気配を私は感じられたのか?
 この御方はアインズ・ウール・ゴウンの中でも謎の多い人物である。至高なる御方々でさえその素顔を見たことなく、会話も口数が少ない為どのような御方なのかも分からない。気配を感じるだけでも異常なのだ。
 その上口数が少ないと言っても一言、もしくは頷きなどの反応を返される御方だ。その御方が何の反応もしないのだ…

 可能性として私がぼっち様の不興を買ってしまったことだ。自分では完璧にこなしたとしても御方々が駄目だと言ってしまえばそれこそが正しいのだ。それよりも確認を取らねばならぬ。自分が一番に感じた不安を払拭するために…

 「ぼっち様いかがなされましたか?もしやお加減でも…」

 至高なる御身に何かあるほうが一大事と考えたのだ。
 目の前に居られるぼっち様に何かありこの場から消えるようなことがあれば…などと考えると恐怖で心が砕けそうになる。

 私は何度も言うが悪魔だ。
 悪魔とは知恵を力を使い相手に最大の恐怖を与える存在。逆に言えば与えられることなどないのだ。

 失礼と分かっていても抱えてでも魔法が使えるマーレ、もしくはモモンガ様のもとへお連れするべきだろう。たとえその行為で不快だと思われ、死ねと言われれば喜んでこの命を捧げる覚悟はある。
 それよりもこの恐怖にあと30秒も耐えられる自信がなかった。立ち上がりすぐに行動に移そうと思った矢先に私の思考が霧散した…

 ぼっち様がこちらを向かれたのだ。それだけではなかった。手を伸ばして自ら仮面をとられたのである。
 その顔はその長身な御身体に似合わず幼さを強く残すお顔。凛々しさと可愛らしさが交わったようなお顔だけ見るとシャルティアより少し年上くらいの見た目だろう。

 嗤った。
 笑ったのではなく嗤ったのだ。
 世界中の闇を集めたかのような左の黒い瞳。獲物を求めるように赤く輝く右の赤い瞳。口元が緩み、嗤ってくる。背筋が凍った。恐怖を通り越した何かが私を襲っている。

 怖い。
 至高なる御方にこのような事を思うのは本当に不敬だと思うが怖いのだ。身体中で何かが叫んでいる『逃げろ』と。しかし一歩も動けない。これは指示もなく勝手に動くのは失礼にあたるからなどと理性の行動ではない。言葉通りの意味で動けないのだ。あの瞳に魅せられれば。あの御顔に魅せられれば動けない。動くことすら出来なかった…

 瞳に吸い込まれるような感覚に陥っていると、ぼっち様の人差し指が眼前に向けられていた。そして徐々に下へと向かって行き、唇に触れられた…
 
 ぼっち様がゆっくりとそして優しげに口を開かれた。

 「なにも 問題は ない」
 
 たったその一言だった。
 問題がないはずなどない。現に今もぼっち様は共もつれずお一人。そのうえ気配を曝け出しているという異常。挙げればいくつもあった。
 私は指摘する。無礼にあたろうとも進言する。いつもの私ならば…

 「な…にも…もんだいは…」

 出てきたのは先程のぼっち様のお言葉。何も言葉が出ないのだ。いや、そういう話ではない。気付いたのだ。自分は今この御方にすべてを支配されたのだ。気配で私の身体を覆い、その瞳と言葉を持って私の意識を支配されたのだ。
 
 そのことを確認したと言わんばかりにさっきよりも嗤いながら再び口を開いた。

 「なにも 問題はない」
 「…なにも問題御座いません…」

 もはやその言葉しか出なかった。私はあまりの出来事にその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
 気配が消えてぼっち様が居ないことに気付いた。
 御方の前で立ち尽くすなど失態だ。拳に力が入る。すると身体の異変に気付いたのだ。

 「私が……震えている?」

 手が。
 身体が。
 思考が未だに震えていたのだ。
 それに気付くと心だけは歓喜で溢れていた。
 私は恐怖は痛みや言葉など様々な事を駆使して行うものと思っていた。それには様々な準備が必要である。拷問を得意とするニューロニストもそうだろう。本当の恐怖を与えるならば相手に合った恐怖を考え実行するだろう。

 だが、そんなものは程度の低いものなのだろう。
 あの御方は何の下準備もせず最小の言葉と動きを以て私に心の奥底まで最大の恐怖を与えてくださったのだ。
 震える。
 この歓喜の気持ちは狂喜と呼ばれるものなのだろう。心地いい。私は再認識した。我らが仕える御方々はただ創造した者達ではなく絶対なる支配者なのだと…




 そんな思いを他所にぼっちはぼっちで自分の部屋でベッドに腰掛けていた。

 寂しい。
 今までは思わなかったけどこんな最高級ホテルのような内装は俺に似合ってなくない?しかもそんな部屋に俺一人。
 …そんな事よりも何だよアレ。何とかなる!って思って旦那の台詞を口にしてみたけどあっちから見たら「なにを言ってんの?」の一言じゃん!?
 あれは理解したんじゃなくてあきれ果ててたんじゃないのかああああ。思い出しただけでも恥ずかしすぎる!誰か。俺のメモリーからさっきのアレを削除してくれえ。出来るかボケ!出来るんなら思い出のほとんど削除しとるわ!

 あれ?おかしいな涙が出ちゃう・・・だってぼっちだもん・・・

 『もしもし。ぼっちさん?』

 モモンガさんの幻聴まで聞こえてきた。もうだめぽ・・・

 『ぼっちさん今何処に居ますか?至急話したいことがあります。玉座の間に来てもらえますか』
 「・・・了解・・・」

 話した後でいいので俺の記憶を刈り取ってくださいお願いします!モモンガ様ああああああああああああああ!





三話目にしてあまり話が進んでないような気が…
次回も二日後を予定しています。


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第004話 「二人の吸血鬼」

前回デミデミ回から今回はシャルティア回です。


 現在、俺は第二階層に来ていた。
 モモンガさんのお話によればゲームの世界に閉じ込められたのではなく異世界に来てしまったらしい。
 はははは。さすがモモンガさんそこまで考えきったとは。考えが停止した俺とは天と地ほどの差がありますたね。けれども最後のは無いでしょう…

 「いやあ、一緒に居てくれたのがぼっちさんで良かったですよ。こんな話されたら私でも疑いますからね」
 はははと、笑うが正直びびってるんですけど……だって笑うたびに下あごがカタカタって動くんですもん。
 「そういえば何か感情が高ぶったときに何かに抑圧されたような感覚ありませんでした?」
 「・・・いや、無いが・・・」
 「ぼっちさんは冷静沈着で助かりますよ」

 ちげーよ!俺は落ち着いているのでも冷静沈着なんでもないですって。心の中はばっくんばっくんしていますよ。そして見た目に対して声や反応がいちいち可愛いですね!頭がパンクしそうです。
 まあ、それよりも今だ。デミウルゴスのとき以上の大問題だ。

 モモンガさんは口少ない俺の話を聞き、デミウルゴスも大丈夫だと(?)判断してシャルティアの現状を確認してきてほしいと頼まれたのだ。
 アウラとマーレはモモンガさんが確認に行くらしい。
 あの人がロリコンやショタコンの類ではないことを祈ろう。
 と話が逸れたな。シャルティアに会う為に第二階層死蝋玄室に来たのだ。ここまでは良かったのだ。ドアをノックすることなくドアを開けてしまうまでは……

 「ぼ、ぼ、ぼ、ぼっち様あ!?」

 いきなり名前を呼ばれてびっくりして目を合わせたまま二人とも膠着した。
 いきなり男性が女性の家に押し入ったら誰でもびっくりするよねえ。
 謝る前に異変に気付いた。シャルティアは驚いたというわけではなく何か見られたくない物でも見られたって感じの反応だったことに。

 あたりを見渡す。
 どっかのラッキースケベ見たいに風呂場に突入したわけではないので着替え中ということは無かった。
 ふと台の上に置いてあった茶色の布に目がいった。
 楕円形で滑らかな軌道を描き真ん中だけ膨らんでいる。そしてそのまま視線をシャルティアに向けるとその布を胸に押し当てていた。はい、オレオワタヨー。

 「え、ちょ、わっ」

 すごいパニックになっているのが分かる。こういう時って逆にこっちが冷静になってくる。ならば落ち着いている間に最大限の謝辞をするべきだ!

 「・・・すまないな・・・」

 ごめんなさい。頭の中では多数の謝辞が飛び交っているのに口からはこんな一言しか出てこなかったよ。とほほ……

 「すまないだなんて、不用意にここで着替えていた私が悪いんでありんす」

 いやいやそんなこと無いですよ。ノックせずに入ったら普通の女の子は怒るんじゃない。インなんたらさんみたいに噛み付くことは無いだろうけど。

 「い、今お茶の準備しますので席についてお待ちになってて欲しいんでありんす」
 
 お構いなく。あとそんなに急いで片付けなくてもいいですよ。ってこんなこといったらセクハラか。憲兵さーんこっちでーす。

 席について今一度あたりを見渡す。
 死蝋玄室っていうより女の子の部屋って感じだよな。まあ、奥のほうの部屋が死蝋玄室なんだからここはシャルティアの部屋って感じなんだろうな。

 シャルティアを見ていたらペロロンチーノさんを思い出した。
 吸血鬼少女を創ると聞いたとき金髪巨乳のどじっこ婦警も創ってくれないかって結構熱弁したっけなあ。脳内でだが……当然のように却下されたが……もちろん俺が…

 「お待たせしたでありんす」
 
 紅茶のカップにポット、それからスコーンにジャムをトレイに乗っけてシャルティアが戻ってきた。
 デミウルゴスもそうだったけどぜんぜん姿勢が崩れてないなあ。
 紅茶ってそうやって注ぐんだ。どこかの特命の警部みたいに高いところからコップに注ぐわけではないんだ。
 カップが目の前に置かれた。シャルティアは手をつけることなくこっちを見ていた。
 やめてー見ないでー。ぼっちにその視線はつらいのです。やめるのです。

 「・・・いただこう」

 ゆっくりとカップを持ち上げ少し紅茶を口に含んだ。
 お願いだからそんな目でみちゃらめー。香りを嗅ぐ仕草なんてしましたけどいい匂いってぐらいしか分からないし味は緊張して分からないですから。あとこの沈黙何とかしてください。
 ちなみに今白い面をつけているけどこの面は口の辺りだけ外せる仕組みになっている。って、そっちの説明は別にいいとして何か話題を出さないと…
 
 「・・・ダージリン・・・か」
 「はい。その通りでありんす。さすがはぼっち様」

 よかった正解だったか。見てて良かった戦車道。あの子の名前が紅茶と同じだったの覚えてて良かった。さっきから良かったしか言ってないような……でも、一番良かったのはシャルティアが嬉しそうに話しかけてくることある。
 これで話題に困ることは無いだろう。話の内容はあまり分からないのだが…
 分かったのはオレンジ・ペコが紅茶の名前ではなく等級表示の名らしいことか。ダージリンを言って二重の意味で正解だったな。
 あとぼそっと「味も分からぬチビスケ」って言ったけどそれ誰のことかなぁ?かなぁ?俺もかわらないですよ。

 適当に頷いていたのに気付かれたのかシャルティアの動きが止まった。ばれたのか?選択肢は1から3まであやまるっと。ですよねー

 「さっきからずっと私が喋ってばかりで退屈ではありんせんでしたか?」

 そんなこと御座いませんよ!大変助かりましたよ。ずっと喋ってくれているおかげで気まずい空気にならずにすみましたんで

 「そんなことはなかったぞ」

 この一文にさっきの思いを込めて、シャルティアの頭をなでる。
 て何故に俺は撫でてるんだー!?こいつ、動くぞ!?やっちまった。これはセクハラなのでは……シャルティアも俯いて動かない。気まずい。紅茶はいつの間にか空になってる…よし戦術的撤退だ。

 立ち上がったのに反応してシャルティアも立ち上がった。何か言わないと…

 「あんな物つけなくても魅力的だぞ・・・」

 なに言ってんのオレエエエエエエ!やっと埋めた大穴をなにダイナマイト使って掘り返してんの!?ほら見ろ、シャルティアが顔真っ赤にして怒ってんじゃないか。

 ゆっくりと外へ出た。扉を閉めて隠密スキル最大でナザリックを走り出した……





 シャルティアは未だに喜びで身体を動かせずにいた。
 急に御越しになったぼっち様には驚き、見苦しいところを見せてしまったが、それを気にかける様子もない寛大なお心に触れ、短くとも二人だけのティータイムというのは心躍るものがあった。
 後であのチビスケに自慢してやろうと思っていた。
 紅茶の知識もあり、私が話したことを微笑みながら聞いてくれた。あまりに嬉しくて喋り続けてしまい不快にしてしまったかと焦るが笑って許してくれた。なんとお優しい方なのだろう。
 その上、あ、あ、頭を撫でられ…

 「あんな物つけなくても魅力的だぞ・・・」

 そんなことを言われてしまっては幸せすぎて死んでしまいそうでありんす。
 ふと時間を見て闘技場に向かうことにした。
 用意したパッドはそのままで下着は……替えなければと奥に消えていった



4話目にしてやっと女性陣登場
モモンガさんの出番がやっと来る…


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第005話 「集まった守護者達」

やっとのことで闘技場にたどり着き、物語が進んでいく。
そして主だった守護者達が現れる。

ここまで長かったよ…


 恥ずかしすぎて第六階層の闘技場まで来てしまった。走って……疲れなかったからいいけど。
 さてとモモンガさんは………居た。遠くからだけどスキル使ってるからよく見える。双子のアウラとマーレに飲み物を勧めてる。優しいな怖い骸骨だけど…
 ぼっちは物音一つ立てずに双子の背後まで移動したのだがいっこうに気付かない。
 気付かれないようにしたのだからアウラとマーレは許そう。でも、こっちを向いているモモンガさんは無視することはないでしょうが!
 と、そうだスキル使いまくっているから透明化まで使っているの忘れてた。テヘッ

 「………ぼっち様?」

 名前を呼ばれてめちゃくちゃびびった。気付かれた訳ではなさそうだ。

 「ん、どうしたのマーレ?」
 「え、い、いや…なんかぼっち様の気配感じなかった?」

 気配?そんなスキルあったっけ?モモンガさんなら絶望のオーラ出せるけど俺は出してたら逃げれなくなるから使わないようにしてるんだけど…

 「うーん?私は感じなかったけど…」
 「……………」
 「き、気のせい……だったのかなぁ?」

 なんだこの可愛い生物たちはアウラもマーレ仕草一つ一つが可愛いなぁ。癒されるなあー。ロリコン&ショタコンでもいいかも。
 あと中の性格を知っているからかキョロキョロ辺りを見渡している骸骨まで可愛く見えるな…病院って創ったっけ…よし、ここはひとつ
 
 「・・・気のせいではないぞ」
 「「「!!!!????」」」

 ふふふ、驚いてる驚いてる。アウラは体を大の字に近い形で飛びのいている。アウラちゃん?それ女の子の驚き方ではないと思うんだけど。
 そしてマーレは男の子(娘)だったよね?最小限の動きで跳ねてスカートの裾を気にしてる辺り超女の子っぽいんだけど。
 で、モモンガさん怖いですよ!下あご外れかかってますよ!?

 「ぼっち様!?大変失礼しました」
 「し、失礼しました」

 いやちょっと待って。子供にそこまで謝られるとボクが悪いみたいじゃないか。悪いんだけどさ。
 こんなときこそ旦那に頼むべき……さっき失敗したばかりだよな……また空母がくるよおお……偵察機が十字架のように突き刺さり、炎上した空母が……
 
 「・・・マーレはよく気付いたな・・・アウラはもっと精進せよ・・・」
 「はい。精進いたします!」
 「え、えへへへへ」

 二人は頭を撫でられて本当に嬉しそうにしている。もうこの身体になれた……が、何様だよ……こんな子供に「精進せよ」って…ボッチオウチカエリタイ。ぼっちにはまだ帰れるところがあるんだ……あ、どっちにしてもぼっちに変わりなし。逃げ道は無かった。

 「ぼっちさん。どうでしたか?」

 おお!?モモンガさん今の声かっこいい。どったのいつもの優しげな声は?なんか威厳があるっていうか、俺もしたほうが良いのかな?
 …喋ることが少ないから関係ないな…

 「・・・問題なく」

 その言葉を聞いたモモンガさんはほっとした様子だった。

 「・・・!」

 後ろの方で何かの気配を感じた。
 ぼっちは目にも映らぬ速さでモモンガさんの後ろまで移動した。もちろんモモンガさんを盾にじゃなくて守れるように。
 何もない空間に黒い穴が開き、その中から現れたのはさっきまでお茶をしていたシャルティアだった。

 「おや……私が一番でありんすか」

 やっぱりそのままが一番だよな。てか、あのままだったら机の上のも全部つめる気だったりしないよね。どこぞの軽巡じゃないんだから詰め過ぎ注意。

 「モモンガ様。ただいま参りました」
 「うむ」

 あれれ?予想外なんだけど。確かシャルティアって屍体愛好家って設定なかったっけ。モモンガ様に何かしらアピールするかと思ったのに。

 「あんたさあ、なにゲートなんて使ってくんのさ?」
 「いいではありんせんか」

 なぜに俺に熱っぽい視線を向けてくるの?ぼっち分かんないんだけど。
 なんかアウラと話し出したし……聞こうと思えば聞けるけど女の子の会話を盗み聞く趣味はないと言うか悪口だったら精神が崩壊してしまう……

 「えーずるーい!」
 「ふふーん」
 「???」

 え、なにがずるいのお兄さんにも教えてくれないかな。ぼっち口では言えないから誰か受信してくれる人募集中。
 あとマーレもぼっちになってる。モモンガさんは…そっとしておこう…

 「オクレテシマイモウシワケアリマセン」
 「いや、遅れてはいないから気にするなコキュートス」

 モモンガさん一時的ぼっちから脱出おめでとう。アーンドギルティー!コキュートスは無罪の方向でと。にしてもやっぱりコキュートスって格好いいよな。虫なんだけれどもどう見ても武人って感じでさ。

 「マーレハ幸セソウナ顔ヲシテイルナ」

 みんなの視線がいっせいに集まる。見ないで。みないでー。って、そりゃ見るよねぇ。だってマーレぼっちかわいそうだったんだもん。ていうか俺がぼっちだったもので。だからさっきと同じように撫でてみた。
 最初はびっくりしたようでおどおどしてたが段々慣れてきたのか満喫し始め、いまやトロ顔になっていた。
 なにこれお持ち帰りしたい。おじさんなにもしないよ。モッテカエルダケダヨー…なんか犯罪者っぽくなってきてない…
 
 撫でるのをやめるととろっとろになった視線を向けてきた。
 やばい俺の理性が持たない。そしてそこの二人は鋭利な刃物並みの視線向けるのやめて。しかもマーレに…

 「お待たせして申し訳ありません」

 声を聞いて動きを止めてしまった。
 守護者統括のアルベドと並んでデミウルゴスが来た。
 さっきの対応を思い出して内心焦りまっくてる。ほら、脳内会話で噛むほどに…
 デミウルゴスは会釈をしてからコキュートスの横に並んだ。そしてアルベドが一歩前に出た。

 「では至高の御方々に忠誠の儀を」

 アルベドの言葉を聞いた守護者達の雰囲気が変わった。

 「第一、第二、第三階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン 御身の前に」

 「第五階層守護者コキュートス 御身ノ前ニ」

 「第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ 御身の前に」

 「お、同じく第六階層守護者マーレ・ベロ・フィオーレ… お、御身の前に…」

 「第七階層守護者デミウルゴス 御身の前に…」

 「守護者統括アルベド 御身の前に」

 一切の乱れなく進むNPC達から目が離せなくなっていた……

 「第四階層守護者ガルガンチュアおよび第八階層守護者ヴィクティムを除き各階層守護者御身の前に平伏し奉る。……ご命令を至高なる御身よ。我らの忠義すべてを御身に捧げます」

 人間だったら鳥肌もんの興奮が訪れた。
 モモンガさんなんでオーラ出してるって、なぜに絶望のオーラ出してんのこの人!?

 本当に俺はこの先やっていけるかな?





少しマーレびいきだったかなぁ
自分で書いて「コキュートス台詞すくな!」って思ってしまった


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第006話 「モモンガ様が去った後の闘技場」

 やっと守護者達が書けた…
 カルネ村はまだ遠い…


 至高なる御方々の気配が消えると、静けさと各守護者だけが残っていた。
 ようやく一人二人と立ち上がり始めた。

 「す、すごく怖かったね、お姉ちゃん」
 「ほんと。あたし押しつぶされるかと思った」
 「マサカコレホドトハ」
 「あれが支配者としての器をお見せになられたモモンガ様なのね」
 「ですね」
 「我々ノ忠義ニ答エテ下サッタトイウコトカ」

 それぞれが先程の感想をぽつりぽつりと言い始めた。

 「あたしたちと居た時は全然オーラ発していなかったしね。すっごくモモンガ様、優しかったんだよ。のどが渇いたかって飲み物まで出してくれて」

 ぴくりと声を発したアウラ以外の守護者が反応する。特にアルベドが……
 
 「それでは皆様、私はこれにて失礼させていただきます。モモンガ様とぼっち様をお探しせねばなりませんので」

 執事として御傍に仕えなければならない事を理由にさっさとこの場をあとにした。デミウルゴスはその行動が取れたセバスを羨んだ。
 溜め息をついてアルベドは何か不可解なものを見たかのような顔をしていた。
 マーレだ。
 それもとてつもなくデレデレした締まりのない顔をしていた。

 「マーレは何かあったのかしら」

 話を振られたアウラがマーレを見てむっとしている。アウラの代わりにコキュートスが口を開いた。

 「先程、ボッチ様ニ撫デラレタノガトテモ嬉シカッタノダロウ」
 「ぼっち様に?」

 アルベドはしかめっ面をした。玉座の間に詰めていて至高の御方々の近くに居た為いろんな話を聞く機会があったのだがぼっち様の話はほとんどなかった。あっても

 タッチ・ミー様と引けをとらないワールド・チャンピオンの腕前を持つこと
 索敵から奇襲などの隠密行動から単独潜入まで行うナザリック一の偵察者
 何が起ころうとも動じることのない精神力を持ち、冷静な判断力と残忍さを持って敵を殲滅する殺戮者。
 そして何より愛しのモモンガ様の命を救った英雄

 話に出てきたのもこの4つほどで他にはそれほど話題に出ることも入ることもなかった。だからあまり他人と関わるのが苦手、もしくは拒絶されているというイメージが強かった。そのうえでここに来るまでの道中にデミウルゴスに聞いた話も含めるとあまり信じられなかった。

 「そ、そうなんですよ。えへへへへ」
 「羨ましいでありんす…」
 「なーにが羨ましいよ!あんたは二人っきりでお茶までしたんでしょうが」
 
 二人っきりでお茶!?二人っきりで……わ、私もモモンガ様と……妄想に捕らわれたアルベドを他所に双子と吸血鬼はいがみ合っていた。
 
 「そうでありんすよ。そのうえぼっち様に魅力的と言われんした…」
 「えー。あんたも十分羨ましがられる対象じゃない!」
 「そうでありんすけどあそこまで撫でられているのを見たら羨ましがるなと言うほうが無理でありんしょう?」
 「うぅ、確かにそうかも…」
 「えへへへへへへ」

 何時までも続きそうな会話にコキュートスがため息をつき、デミウルゴスに近づいた。デミウルゴスも彼の意思に気付いたのだろう。

 「アルベド?アルベド!命令せずに妄想の中に捕らわれるのは後にしてもらえないかい」

 はっと、デミウルゴスの言葉で我に返った。

 「そうね。では―――」




 ぼっちは守護者達を思い出していた。
 あの一糸乱れぬ動きにまるでこの日の為に用意したかの言葉達。鳥肌もんだった。なによりあの好評価の数々……
 まさかモモンガさんがあんな質問するとは…普通はしないでしょうに。目の前に上司が居るのにどう思うって聞かれても当たり障りない言葉が返ってくるだけですよ。
 まあ、彼らの場合は本気で言ってましたけれども…たぶん…
 守護者たちのモモンガさんの評価は良いとしましょう。ですけど次になに俺の評価を聞こうとしてるんでせうか!?恥かしくって液体化までして逃げちゃったじゃないですか…

 「・・・その必要はありません・・・」

 なにその一言は。もっとなんかあったでしょうに。ボキャブラリーは少ないけれども。今ほど俺の口を恨んだ日は無いですよ。
 ぼっちは溜め息をつきながら目の前の少女を眺めた。
 彼女は戦闘メイドのシズ。
 セバスは現在仕事が立て込んでいるため護衛のためとお世話のためにとプレアデスの中から選ぶように言われたのだ。
 モモンガさんはナーベラルを共として連れて行った。俺はそのときひらめき、シズを選択した。なぜなら彼女は俺と同じで口数が少ない。ならば少ない同士で何か通じるものがあるのではないか。とね。
 失敗した…当たり前だ。口数が少ない+口数が少ない+二人っきり=喋らない空間の出来上がり。帰りたい……オラの部屋なのに帰りたい…

 「どうか……いたしました?」
 「・・・いや・・・なんでもない」

 なにこの空間、俺にどうしろというんですか?ちょっとぼっちだけどぼっちになりたい。
 腰をかけていた椅子より立ち上がり部屋を出ようとする。まあ、シズもついて来るのだが…

 「・・・隠密で動くが・・・」

 シズがはっとした。さすが同志よ。この一言で察するとは俺は信じてた。君は俺の受信機になってくれるって。

 「八肢の暗殺蟲を呼んできます」

 ですよねえ。思いました。隠密で行くって言ったら隠密系を呼ぶの分かってたよ…

 「・・・失礼・・・」
 「?……!?」

 シズの腰に手を回し持ち上げた。今から呼ぶのも面倒だ。ならばまだ静かなシズのほうが良いと判断した。
 ステルス系スキルでいつもは使わない範囲系を使った。
 範囲系は自分以外の者も範囲に入ることで同じ効果を得るということだが範囲に敵も入ってしまうとばれてしまうというあまり使われないスキル。それらを駆使しつつ走り出す。
 第九階層から第一階層までを誰にもばれることなく走破していった。脇に頬を紅く染め、キラキラと目を輝かしているシズを抱えたまま…

 共を連れていたとはいえ近衛を連れずに部屋を抜けたことに気付いたセバスに待ち受けられているのを知らずにモモンガさんの「ダークウォリアーと呼べ」の発言に心の中で大笑いしていた



 ぼっちがいろいろした事でアルベドVSシャルティアの喧嘩回避にコキュートスの妄想世界へ突入阻止。
 …したほうが面白かったかな?
 


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第007話 「女性達だけの会議」

カルネ村に行く前にちょっとした報告会。
今回の主体はアウラで…


 とある一室に9名の女性が集まっていた。

 これは守護者統括アルベドがこの前に起こったことを整理するために行う会議である。
 参加者は守護者統括のアルベドにシャルティア、プレアデスのユリにナーベラル、エントマにシズ、ソリュシャンにルプスレギナ。そしてあたし、アウラ・ベラ・フィオーラの9人である。
 テーブルの上には所狭しにお菓子や料理が並んでいる。
 これは会議と言うか女子会じゃないって突っ込みたくなるけれども代わりに資料が並べられるよりかは良いのであたしは突っ込まない。そう思いながらケーキに手を伸ばす。

 「では、始めましょうか。ユリ、お願い」

 アルベドの言葉で会議が始まった。この前起こった報告を指名されたユリが語り始める。

 「はい。ボク、いえ私から報告させていただきます。今回の議題はモモンガ様とぼっち様の件です」

 と言うのもこのナザリックが転移した初日に至高のお二人が姿を消されたのだ。
 正確には姿を消したのでじゃなく、誰にも告げずに出歩いたのだ。至高の御方なのだから許される件なのだが、現在ナザリックは非常事態として警戒レベルを上げている。上げていなくとももしものことを考えるとあたしたちとしては心配でならない。もし残られたお二人に何かがあれば……考えたくない物事が込み上げてくる。

 「まずはモモンガ様の報告ですが、ナーベラルに一人で極秘で行いたいことがあると単独で第一階層にてデミウルゴス様と合流。その後マーレ様のもとへと陣中見舞いへと向かわれました。その際にマーレ様にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを褒美としてお渡しになられました」

 視界にうっとりとした状態で指輪を撫でるアルベドが入った。
 マーレは褒美としてだがアルベドは統括守護者の立場上必要という理由で頂いたのだ。本当に羨ましくて堪らなかった。
 その逆に落ち込んでいるナーベラルにも目がいく。後でユリにしっかりと叱られたらしいのだ…
 そんな思いを抱いていると皆の視線が集まっていた。

 「アウラ様、いかがなされました?」
 「うん?えーと、なんだっけ」

 考え事をしていて話を聞いていなかった。いけない、ちゃんとしないと…

 「いえ、マーレ様は頂いた後はどうなさっているのですか?」

 ユリの言いたい事を理解した。視線の先のアルベドを確認したからだ。
 モモンガ様から褒美を頂いて気持ちは分かるが統括守護者があの状態では不味いだろう…

 「マーレも最初はアルベドと同じ状態だったよ」
 「?『最初は』というのは……」
 「ああ、気にしないで」
 「???」

 まあ、あんなこと言われればああなると思う。ぼっち様が言われたように「…そっとしておこう」

 「さすがは慈悲深き我らがモモンガ様でありんすね」
 「そうなのよね。モモンガ様は支配者の器だけではなく…」

 シャルティアとアルベドのモモンガ様談義が始まった。あたしもモモンガ様がどれだけすばらしいかは理解している。けれどもそんな話を出すと長くなることに気付けばいいのにシャルティアも…結果的に…いや、必然的に話が逸れる。
 二人の会話を中断させるように部屋に机を叩く音が響いた。音源はユリだった。

 「話を戻させて頂きます。では次にぼっち様の報告をシズ、お願いね」
 「うん、わかった……」

 今度はシズが立ち上がった。
 シズはぼっち様の御付きとして働いている。ここにシズが居るのは現在ぼっち様がモモンガ様の側で待機しているに他ならない。御付きとしてセバスが居るから大丈夫だろう。

 「ぼっち様は隠密で行動すると仰り…第九階層から第一階層まで走破……誰にも気付かれずに…」

 内容を知っているあたしとアルベドは良いとして他は驚いていた。何せ来られた事すら知らないのだから…

 「あら、言ってない事があるのでは?シズ」

 ユリが意地悪そうに笑っている。
 言えばどんな反応が返ってくるのかを理解しているのだろう。

 「…ずっと…ぼっち様に抱えられた…ままで…」
 「なんすか、それ!」
 「ブー、シズだけずるいー」
 「抱えられてとは、ま、まさか抱きかかえられてでありんすか!?」
 「な、なんと羨ましい…」

 ほら一斉に嫉妬の集中砲火だよ。まあ、これがモモンガ様だったらアルベドも参戦していたんだろうな…
 シズは表情がいつもは読めにくいんだけど雰囲気ですっごい照れているのがわかる。

 「アウラ様とマーレ様しか気付けなかった…」

 必死に考え話題を変えたかったんだなあ。って言うかあれは気付いたのではなくぼっち様から声をかけられたのだ。


 
 「お疲れ様、マーレ」
 「お姉ちゃん、ただいま」

 ナザリックの隠蔽が終わり帰ってきた弟に対して労いの言葉をかけた。
 モモンガ様の指名されたうえでの重大なお仕事。「あたしも至高の御方の為に働きたいなあ」と呟くと同時にマーレの指にはまっているアイテムに目が留まった。

 「ちょ、マーレ!それってもしかして」
 「う、うん。モモンガ様が褒美にって…」

 直接の指名に大きな仕事を任され褒美までって…

 「えへへへへへへ」

 本当に嬉しそうなんだから…羨ましい…いつか私も…

 「・・・・・・その指輪・・・」
 「ふわあ!?」
 「ひゃ!?」

 声をかけられ振り向くとぼっち様が不思議そうに首を傾げながらマーレの指輪を見つめていた。
 …さっきのマーレのように嬉しそうな表情をしているシズを抱えたまま…
 ぼっち様は依然と気配を感じさせることなく首を傾げている。索敵が得意な者達が近くに居るのに誰一人気付いていなかった。本当にそこに存在しているのかを疑いたくなるぐらいに。

 「あ、あのモモンガ様に…」

 ぼっち様の言葉を理解したのかマーレが言葉は足りないが説明をし始めた。その一言で理解したのかコクンと頷いた。

 「・・・・・・婚約指輪か?」
 「こ、こ、こ」
 「婚約指輪!?」

 いきなりのその発言で三人が驚愕した。モモンガ様とマーレが!?
 ぼっち様が薬指を指差しながら

 「・・・薬指に指輪はそういう意味では?」

 知らなかったのだろうか、マーレの顔が見る見る赤くなってきた。挙句にはシズにおめでとうと言われる始末。

 「え、いや、そうでは無くてですね……モモンガ様も薬指に…」
 「・・・モモンガさんは右薬指だから心の安定、安心感を高める・恋をかなえる・想像力・インスピレーションを高めるなどの意味を持つ」

 すらすらと出てくる説明の言葉に三人が感心して聞いているとぼっち様はそのまま言葉を続けた。

 「ちなみにモモンガさんは左薬指だけには指輪ははめていない・・・左薬指は愛の進展、絆、婚約などの意味を持つが一般的には婚約もしくは結婚が知られているがね」

 感心して顔色が戻ったマーレが再び赤くする。
 そこでぼっち様の指を見る。5個の指輪をつけられていた。

 「ぼ、ぼっち様はどういう意味でつけられているので?」

 すっとシズを降ろすと右手を前に突き出した。

 「親指は指導力の向上・行動力の持続。人差し指は集中力・執着力・行動力・夢の実現。中指は邪気を払う行動力・直感力を高め、迅速さを発揮」

 右手の指輪を言い終わると今度は左手を前に出した。

「左手中指は協調性・人間関係改善で薬指は絆という意味でつけている」

 本当に感心する。何も迷うことなくスラスラと「いろんなことを知っておられるんだな」と。

 「さすがぼっち様…博識」
 「知識量もすごいんですね!」

 何の反応も示すことなくぼっち様は再びシズを脇に抱え消えた。何事もなかった…いや、何者も居なかったように…




 ふとあたしはぼっち様が最後に言われた言葉を口に出していた。

 「ぼっち様が仰ってたんだけれど右手中指の指輪には恋人募集中の意味もあるんだって」

 なぜこんな一言を言ってしまったのだろう。
 アルベドの中でくすぶっていた火にガソリンを投下してしまった。
「なんですって」と大声で部屋を飛び出していった。たぶんモモンガ様のところへ向かったのだろう。
 失礼があってはいけないと思い廊下に出るとセバスと話していた。二人ともその顔は真剣だった為、何かが起こったことは確かだろう。シャルティアとプレアデスを呼び向かっていく。


 会議が始まる一時間前
 俺は人生最大と思われる危機から生還して部屋で一息入れていた。最大の敵は身内だったとは……
 想像してみてよ。
 あの物静かで優しげな視線を向けてくる老執事であるセバスが俺の部屋の前で仁王立ちして待ってるんだよ。
 スキルはなかったはずなのに何か絶望のオーラみたいなのが見えてくるし、何より笑っているんだもん。こらあかんわって思いましたよ。
 始まったのは説教だった。
 もしものことがあったらとかいう内容だった気がする。良かった体罰系だったらぼっち速攻で泣いちゃうもん…
 そしてシズには本当に感謝したなあ。
 俺らが通った道のりを全部覚えてるんだもん。
 そのおかげで「これは!?すぐにアルベド様とデミウルゴス様にご報告いたします」と最後には逆に謝られるし、アルベドとデミウルゴスも来て「我々のミスをお許しください」ときたもんだ…俺はミスを指摘した小姑か何かか?いや、それとさすがは至高なる存在と褒め称えるのもやめて。
 見られたくないから見つめて欲しいって意味のある左人差し指と自己アピールの右手小指に指輪をしてないのに!
 なんにしてもシズ、ナイスです。思わず「百万年無税」って言いそうだったよ。
 あとはモモンガさんと合流してシズを会議に送り出して休もう。

 そういえばあんなに喋れるとはな……。指輪をはめるんならと調べてて良かった。けれどもう今日は喋らない。アレで一生分は喋っただろう……もう、ゴールしてもいいよね…



カルネ村到着まであと二話ほど


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第008話 「ぼっちは居残りたかったんです…」

やっとカルネ村近くまできたぞー。
長かった…

 そして今回初の戦闘シーン!・・・・・・モモンガさんのな!



 現在ぼっちは大広間にてぼっちになっていた。
 モモンガさんは扱い方がわからない遠隔視の鏡の前で何やら変なポーズを決めている最中で、セバスは怒られた件もあるし次は見逃さないとばかりの雰囲気を出している。
 ぼっちは平穏に休みたいのだけれども…

 「ふぅ…」

 ポーズに疲れたのかモモンガさんがため息をついて身を椅子に預けた。
 ちなみにぼっちは壁を背もたれにして立っている。

 「・・・モモンガさん・・・」

 この静けさの中で声をかければ小さな声でもよく聞こえることは知ってた。
 だから二人とも見つめないで…

 「どうしました、ぼっちさん?」

 ああ、この優しげな声でモモンガさんだって安心する。だけれど今の俺にはどんなことを言われても確かめなければならないことがあった。

 「・・・モモンガさんってショタコン?」
 「kfにおfさh!?」
 『ピン』

 モモンガさん驚きすぎだって。止めたばっかなのにまた変なポーズ取ってるし。しかも遠隔視の鏡が反応して機能し始めてるし。

 「おめでとう御座いますモモンガ様」

 え、ちょっと待ってセバス、それはどっちの意味。やっとのことで遠隔視の鏡を使えるようになったこと?それともモモンガさんがショタコンだったこと?

 「ありがとうセバス。…じゃなかったぼっちさんどういう意味ですか!?」
 「マーレが左薬指・・・・・・指輪してた・・・」

 何のことか理解したのだろう。慌ててたのが急に落ち着いた。ああ、これが精神の安定化か。

 「あれは褒美として渡したのであってそういう意味は含んでいない。それにあそこにはめたのはマーレの意思だ」
 「・・・・・・そうか」

 うん。知ってましたよモモンガさん。そんな骨じゃないって。ただ言ってみただけです。だからそんな怖いじゃなくて声を変えないでいつもの声のほうが好みなんですから……男の人にこんなこと思い出した俺はアウトなのだろうか…
 いじめっ子みたいなことしましたがこれでも俺はまだ優しいんですからね。
 俺は忘れないよ。
 あの守護者達が集まった闘技場にてアルベドがモモンガさんを指名して「愛している」と言ったのを。確かビッチ設定だったですよね?
 …まあ、今は触れないであげますよ…今はね…

 「さて、ん?なんだこれは、祭りか…」

 いやいやモモンガさん見ればわかるでしょう。何処の祭りで人を馬で追いかける祭りがあるんですか?いや、闘牛があるぐらいだからあってもおかしくないか…

 「いえ、これは違います」

 遠隔視の鏡に写る光景がズームされた。まるでスマホだなあって、今人が斬られてなかった!? ちょ、えー…なんで二人とも平然と見ていられるの? 俺なんて吐き気が……あれ普通に見れてる…………なんで? …
 疑問に気付き頭を働かせようとするがセバスの声で戻される。

 「いかがいたしますか?」

 それはもちで助けに

 「見捨てましょう。何の利益もないからな」

 なんですと!なんと言う鬼畜。利益でものを見る人でしたか貴方は。この人でなしってもう人じゃなかったですねえ。ハハハハハ…ハハ……ハ…。この光景を普通に見えてる俺も…

 「畏まりました…」

 すごく残念そうな顔をセバスがしているよ。そうだよね。君はタッチさんの子供なんだよね…

 「たっちさん……ふふ、『困っている人がいたら助けるのが当たり前』でしたよね」

 モモンガさんもセバスにタッチさんを見たんだろう。何かを決意して立ち上がった。
 ぼっちはわかってますよ。助けに行くんですねモモンガさん。さあ、ご指示をください!このぼっち、命に代えましても任務を全うしましょう。だからご命令を。残って指示を出してと!
 モモンガさんはセバスに指示を出している。ぼっちはお外に出たくないし初対面の人の対応法なんて知りません。
 意思が通じたのか力強い頷きをみた。

 「ぼっちさん、行きましょうか」

 ですよねえ……やってやんよ!どちくしょうめえええええええ!!
 意思とは反対に歩きながらモモンガさんが通ったゲートへと進んでいく




 
 なんですかあ?ってどこの先生だよ!
 ゲートを潜った先で最初に思ったのはこんなものだった。
 今まさに女の子達が騎士の剣の錆びにされる直前。ならばすぐに助けるのがいいはずなのだが…
 何この騎士達。鎧や剣はどう見ても安物だし、何の効果も持ってないし……ああ!分かりました。お友達と一緒に武器縛りプレイなんですね。もう、びっくりするじゃないですか。
 …なん……だと!お二人ともレベル10以下なんですね…俺はスキルまで使ってステータス見る必要あったんでしょうか…

 視界の片隅で兵士に向けて手を伸ばすモモンガさんが見えた。

 「グラスプ・ハート!」

 ほわあああああ!
 この人、じゃなかったこの骨なんてえげつないことを。平然と初心者のような彼に第九位階魔法使いよった……手のひらを見てなにしてるんだろう?ああ、気付いたんですね。こんな奴ら装備なしで殴れば勝てますよ。

 「女子供は追い回せても、毛色の変わった相手は無理か?」

 うーわー(棒)。モモンガさん、今こそ遠隔視の鏡で自分を見ましょうよ。その顔でその言葉は悪役ですよ…今度は第五位階魔法ドラゴン・ライトニング使っちゃったよ……瞬殺だよこれ…しかも焦げた匂いまでする。『ウルトラ上手に焼けました!』……エントマのお土産に持って帰ろうかなあ。

「ぼっちさん、村のほうをお願いしてもいいですか? 私は…」

 村の娘達を見つめてるってことは手当てでもするんだろうな。
 ……まあこのレベルなら前衛でデスナイトでも呼べば十分だろうしね。了解しましたよ。

 「・・・別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 つい口から出してしまった言葉に思考が止まった。少しの間が空きモモンガさんが口を開いた。

 「?別に構いませんが出来るなら2、3人ほど生かして貰えればいいので」
 「・・・了解・・・」

 お願いだからそんな反応止めて。ボケたんですよ今のは!そこは「それ死亡フラグだから」って突っ込みを入れるところでしょう。もういいや。さっさとこの場を離れようそうしよう。
 背後でゲートが開きアルベドの気配を感じながら村へと直行しよう。

 あ、一つ言うの忘れた。その顔だと娘さんたち怯えますよ。と……もう遅いか…



 ぼっちは観客…
 ぼっちの戦いは次で…まあ、本気は出ないが…


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第009話 「小さな村の英雄」

クリスマスが近い事から休みにお菓子作りしていたら休みが消えた…
なぜに…


 なんでこんなことになったのだろう…

 マイン・チェルシーは思い出す。今日は猟師の父さんの手伝いをしながら薬草を集め、昼には帰宅して昼ごはんを家族の皆と食べる。はずだったのに…
 準備をしてたら村に多くの騎士達が押し寄せてきた。
 村人を守ろうとした父はあっけなく斬り捨てられ、母は僕を守ろうとして殺された。守られるばっかりで守ることが出来なかった…
 そのまま剣を突きつけられ広場に連れて行かれた。
 多くの村人が集められていた。
 ちらほらと居ない人がいたがそれはもう父さん達と同じでもう生きてないんだろう…
 櫓の下に集められた子供達の中に押し込められた。みんなは不安と悲しみの表情をしていた。
 ボクはたぶん死んだ魚のような目をしているのだろう。この先には変える事のない『死』しか待っていないのだから…
 一人の男性が悲鳴を上げながら走ってきている。その後を追う兵士の表情はヘルムで分からないがなんとなく楽しんでいるのが分かる。
 よく知る人物ではあるが何の感情の湧かない…どうでもいい…男性に刃が近づいている。だが、刃が獲物に届くことはなかった。
 
 「な、何者だ貴様は!?」

 追っていた騎士が倒れた。いや斬られたのだ。その後ろに立っていた者に…
 まるで血を浴びたような赤いコートに闇夜のような真っ黒なスーツを着込んだ男。顔は右目だけ覗かせる白い面に腰まで長い黒髪。遠目で見ただけで分かる。あれは貴族なのだろう…服から手に持っている刀まで一級品だってのが素人のボクでも分かる。
 「・・・・・・?」

 彼は首を傾げるだけで答える気がないのだろう。そんな態度に苛立ったのだろう。指揮官らしき男が怒鳴り散らしている。

 「あの愚か者を斬り捨ててやれ!」

 殺気を剣に込めながら三人の騎士が動き出す。
 …こんなことを思うのはすでにボクが壊れているのだろう…だが、思うことを止めることは出来なかった。
 
 ……綺麗だ…

 彼は力技で斬りかかってくる騎士達とは違って、すべての太刀筋を見切って避けきっていた。しかも大きく動くのではなく最小限の動きで…まるで舞を舞うかのように、滑らかに流れるように…
 刃が輝いたように見えた。たぶん光の反射かなにかだったのだと思う。でも、ボクには刀が意思を持って主の意思を受け取った。そんな風に考えることしか出来ない。
 あっけなく三人の騎士は斬り捨てられた。それは残酷な人の命を刈り取る光景だ。先ほど村人の皆が味わったばかりだった…。けれども誰も彼に嫌な視線を向けるものなど居なかった。村人も騎士達も彼に魅せられたのだ。あの磨きぬかれた技の数々に…

 「なんだ・・・もう終わりか・・・」

 失望と怒りを併せ持った声が騎士達を越えボクらまで聞こえてきた。その言葉に耳を疑った。貴族は平民の事など虫けら程度にしか考えてない。そんなこと皆が分かりきっている。分かりきっているはずなのに彼は怒りを表していた。

 「高貴さも信念も理念もなく、喰うためでもないのに女・子供を皆殺し、挙句怯えて戦う事すらできない、貴様らそれでも騎士のつもりか、恥を知れ!」

 それは怒りの叫びだった。騎士とは人とはこのような物かと訴えかけてくる。

 「な、舐めてんじゃねーぞ!」

 また数人の騎士が突っ込んだ。今度は舞うようにではなく叩ききったのだ。だが、彼は冷静さを欠いた訳ではない。その証拠に彼は返り血を浴びないように避けていた。
 さっきまで威勢を張っていた指揮官はただ怯え、一歩ずつだが下がっていた。
 一人の騎士が襲い掛かった。この戦いで初めて彼が受け止めた。だが、すり抜けるように刀は騎士の横腹を斬り裂いていった。
 ガシャンと鎧が大きな音を立てた。斬られた男は脇腹を押さえつつ膝をついていた。彼はそんな男を見つめていた。

 「・・・名は・・・」

 ぽつりと彼が問う。騎士は膝をつきながら穏やかな顔つきで彼を見る。

 「ロンデス…ディ・クランプ」
 「良い一撃だった・・・」

 彼は悲しみを見せながらロンデスの首を刎ねた。ロンデスの肉体は力無く倒れこんだ。

 「ま、待ってくれ!お、俺を助けてくれれば…金、金をやろう!」
 
 指揮官は騎士の死を見て命乞いを始めた。自分は散々殺しておいて…なんて醜い… 

 「200金貨だ。い、い、いや、500金貨やろう!だから…」

 彼は歩みを止めない。光り輝く刃が指揮官の足を切断した。

 「ぎゃああああああああああ!!」

 劈くような悲鳴が上がった。その音源を今度は侮蔑の視線を向けながら見ていた。

 「あんたの血は臭い。とても臭いんだ。指揮官の器じゃないね」

 片目が残った4人の騎士を睨みつける。すでに戦意を喪失しており泣きながら頭を垂れていた。

 「そこまでです」

 空中にまたしも仮面で顔を隠した人物が浮いていた。黒いローブを着込み、フルプレートの女性を連れている。ローブの男の声を聞き彼は刀を鞘に納めた。
 後から来たアインズという人は二度とここで悪さしないことを騎士達に約束させ逃がしてやった。なにやら助けに来たマジックキャスターなんだと言う。フルプレートの女性の後ろには保護されたエンリ・エモットと妹のネムが連れられていた。
 村長とアインズさんが喋っていると彼が足を斬られて逃げることの出来なかった指揮官を引きずりながら歩いてきた。騎士達の置いていった剣を複数持ちながら…
 乱暴に剣と指揮官をボクらの近くに投げてきた。唖然としてボクたちは彼を見つめる。

 「殺れ」

 一言だった。出来るわけが無い。昨日まで命の駆け引きどころか剣すら持ったことすらないんだ。

 「殺るんだ」

 何の反応も得られない彼が二言目を発した。目の前に立っていた男が首を横に振った。

 「駄目だ、殺るんだ。殺るんだ、殺らぬばならぬのだ」

 指揮官を指していた指を家の付近で死んでいる者を指差す。

 「ここがどこでお前らが誰であろうと仇はお前らが討たねばならぬ、あの子が応報せよと言っている!!」

 彼の言葉が心の奥まで染み渡っていくのを感じた。ボクはいつの間にか剣を手にしていた。村人のほとんどの者が何かしら武器を手にし始めた。あのエンリでさえも…ボクは何の感情もなく、未だに命乞いを続けている物に剣を突き刺した…

 何度も刺して原型を留めてなかった。誰かが剣を落としたのを合図に動きが止まった。彼を見ると笑っていた。心の底から。まるで無邪気な子供のように…

 「良か」

 身体の中に何かが戻ってくるような感覚に襲われ、ボクは泣いていた。彼はそんな僕の頭を撫でてくれた。

 「お、お名、えっぐ、お名前はなんと…言うんですか?」

 撫でていた手を止め彼はさっきとは違い、優しげな声で答えてくれた。

 「・・・アルカード・・・」



 どうしよう。現状その一言に尽きる。アインズさんは村長さんと難しいお話し中。俺は警護としてまた壁にもたれかかって待機中。
 なんかこっちに来て反省ばかりしている気がしてきた。
 最初は騎士達を簡単に倒す自分が助けに来た英雄みたいなんじゃねって、思い上がったところから始まって、旦那が俺にぺらぺら台詞を言わすんだもん。そして旦那の次には妖怪首おいてけだよ。もう恥ずかしくて死にたい。
 誰かに突っ込んで欲しい気持ちを知らずにアルベドが

 「さすがですぼっち様。ぼっち様が発せられた言葉の数々は虫けらだけではなく私の心の奥まで染み渡ってくるようです。最後に虫けら共に虫けらの掃除をさせるところなんか心躍るようでした」

 何処をどう聞いたらそんな賛辞が出てくるんだよ。普通はドン引きだろうよ。何あいつ漫画の台詞を叫んでるの?って。特に最後の奴はモモンガさんでもドン引きしてたわ!気付けよアルベド。
 あと、スルーしたけど虫けら呼ばわりはよして……俺ら元虫けらになっちゃうから…

 そういえばモモンガさんがクリスマスの日に問答無用で運営からプレゼントされた嫉妬マスクをかぶって来たときなんか爆笑を我慢するの大変だったんですから。……ぶっ、くくく…またわらけてきた…
 死体を使って召喚した《デスナイト》連れていたのにはびっくりしてたなあ。村人が…
 そんなことよか一番どうしようと思うのが男の子がずーと俺を見ているんですが……止めて、どんな攻撃よりも見つめる攻撃に弱いんだから…



ぼっち視点より他者視点のほうがぼっちが仕事をしているように見える…


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第010話 「勇敢な戦士と強大な悪魔:前編」

 前書きですが感想にあったオリキャラ『マイン・チェルシー』の名前の話をさせて下さい。

前回『マイン・チェルシーってある漫画知ってる人から見たらすっごい不吉な名前だなww』と感想に最初分からなかったのですが多分これだと思うものがありましたので皆様に報告させていただきます。
 マイン・チェルシーではいなかったのですがアカメが斬る!という作品に『マイン』『チェルシー』と言う女の子のキャラクターが出てきます。アニメですが彼女達は…
 私、チェリオはアカメを斬る!を見ていません…ゆえに『マイン・チェルシー』はその両名の名を合わせたものではありません。『マイン=私のもの』と言う英語でチェルシーは思いつきの名前です。
 ですからこのオリキャラが彼女達と同じ末路を歩む事は今は考えておりませんのでご安心ください。

 さて長くなりましたが今回はまたぼっちは傍観者です!だって戦士長と子安…ゴホン、ニグンとの戦いに入ったら戦士長の影が消し飛んでしまいますからね。ではどうぞ!


 カルネ村での戦闘後、俺ら(モモンガさんが)は村長さん達とお話しして貴重な情報をゲット。村人達のお墓の前で手を合わせて帰り支度をしていた。と、言っても村を囲むように展開している連中にはとっくに気付いているんで先生にちくった……オホン…モモンガさんに報告済みなので何の問題もないだろう…
 それよりこの子供どうしよう……村長さんの家の時から見てくるしそろそろ精神が持ちそうに無い…声をかけるか…

 「・・・何か用か?」

 もうちょっとフレンドリーに声をかけられないのかよ! どう聞いても今の声色は怒りが混ざっちゃった。相手は子供なんだから穏便に……

 「あい、アルカード様。ボクを弟子にしてください!」

 出汁?いや今この子弟子っつたよね・・・ありえないでしょうにあんなに人を殺しまくった挙句にあんな台詞吐き続けていた人の弟子なんて。俺だったこんな殺人鬼、土下座しても拒否するよ。

 「・・・今は無理だ・・・」

 そうそう優しそうに言えば……駄目ですよね。分かってますともその残念な目を向けられるのは……だからと言ってお持ち帰りするわけにはいかないし。
 スキルを使っていちおうこの子のステータスを確認した。目が止まった。ステータスの数字はそこらの子供達より上だがほぼ大差が無かった。が、反応速度倍加と折れない闘志を持っていた。
 反応速度倍加はレベルアップした際に反応速度が2、3倍されるスキルで折れない闘志というのは発動すれば感情系バッドステータスを無効するものだ。ただし、確率で発動するのと自分と同格か格下でなければ効果が無いので誰も使おうとは思わない。
 こんな良い素材さっきの騎士の中には居なかったな……結構な掘り出し物なのでは、この男の子……女の子!この子って女子なの!?ちょっち待ってちょ!さっきこの子、最初にあの指揮官突き刺してなかったかなあ?おっかしいな。俺は女の子にあんなことさせてたのかよ。ごめんなさいモモンガさん。騎士を殺した際散々思ってた俺を罵倒してください。鬼畜は俺でしたああああ。
 持って帰りたくなってきたらなにやら戦士風の男達とモモンガさんが話していた。気付かなかった訳ではなくレベルはさっきの騎士達よりはまともだったがどちらにしろ殴れば殺せる程度だったから無視していた。モモンガさんがメッセージで呼びかけてきた。子供を連れて向かうことに…


 村長さんの家より外を覗いているとマジックキャスター(低装備&低レベル)がアークエンジェル・フレイムを召喚して待ち構えていた。なんだよ……そこの戦士長のガゼフ・ストロノーフさんが法国の特殊部隊が一つって言うから期待したのにがっかりだよ!低レベルしか居ないのかよ!

 「ゴウン殿。私に雇われないか?お望みの金額を用意することを約束するが…」
 「お断りさせていただきます」

 うん。俺でもそうするよ。面倒だもん。て言うかこの村って不憫すぎない?このガゼフさん一人を消すための罠で襲われるなんて。まあ他の壊滅した村よりはまだましかもしれないけど…

 「では、アルカード殿はどうかな?」
 「・・・」
 「そうか…」

 へ?何が「そうか…」なの。ごめんなさい、途中話聞いてなかったんですけど…弟子にしてあげるから教えてくれないか名も知らぬ子供よ…

 「…仕方ないな、ではゴウン殿、アルカード殿お元気で」

 さすがにガントレットのままは無礼にあたるんじゃあ……まあ、骨のみの手が出てきたらアウトだよなあ。

「この村を救ってくれたこと感謝する。そして我が侭を言うようだがもう一度この村を救ってくれないか。どうか…」
 「…村人は必ず守りましょう。このアインズ・ウール・ゴウンの名にかけて」

 ガゼフは頭を下げようとしてモモンガがとめた。その光景に心が惹かれた感じがした。
 なぜこの男は身元も知れぬ者にこうも簡単に頭が下げられるのか? 
 戦士長というのだからそれなりの地位なのだろう、ならば無理やりにもでも従わせようとしない?
 なぜ見も知らぬたかが村人のために命を捨てようとするのだ。分からない……

 「これで後顧の憂いも無い。私は前だけを見て進ませてもらおう」
 「これをお持ちください」

 モモンガさんが渡したアイテムには見覚えがあり、なにを考えているのかが分かった。

 「君からの品だ。ありがたく頂戴しよう」 

 何の疑いもなくガゼフは仕舞い、馬のほうに向かっていく。

 「・・・後顧の憂いも無い・・・か・・・」

 ぼそっと呟いた言葉にモモンガさんが反応したのが俯きながらでも分かった。

 「・・・離れて彼らを観察しても?」
 「ええ、かまいませんよ」
 「感謝・・・」

 一瞬で姿と気配を消すとガゼフの後方を付いていった……この胸を騒がす元凶のあとを…



 一言で言うとその戦いはつまらなかった…
 法国のほうがどう考えても有利だった。何とか武技とかいう技を使い打破しようとしているが、物量的にも負けているためそのまま追い込まれる。一方的な戦いである。
 だが、その戦いに心惹かれるものがあるのは分かった。

 たった一人の男の為に自分の命を賭ける戦士達。
 魔法に屈することなくたった一人でも諦めることなく敵に向かっていく勇姿。

 「素敵だ。やはり人間は素晴らしい」

 旦那の言葉を意識したわけではなく心から出た言葉だった。先ほどの騎士を見て俺は人間という生き物に絶望していた。だが彼らを見て考えが変わった。やはり人間はこうではなくては!
 何やらガゼフが叫んでいる。聞こうと思えば聞くことも出来るが聞く必要など無い。あれは彼の意地と魂から発せられたことは分かる。あの指揮官みたいに泣き叫ぶことは無いと思っていたがここまでとは!!
 そう思ったら拍手をしながら戦場へと向かっていた。
 陽光聖典の指揮官は突然出てきたぼっちに驚いていた。ガゼフは振り向くことなく姿が掻き消えモモンガとアルベドが現れていた。ぼっちはさも当然かのようにモモンガの横に並んだ。
 これから行われることは分かる。さっきとは格の違う一方的な戦い。

 「なんだ…お前達は?」
 「初めましてスレイン法国の皆さん。私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。アインズと呼んでいただければ幸いです」

 不適な笑みをモモンガさんはしているのだろう…こいつらはどうなるのだろう?と、疑問が浮かんだがすぐに霧散した。解り切ったことだと……



 次の更新ですが明日です!25日には特別編を、26日には後編を更新しようと思います。三日連続投稿となります。お楽しみに


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第011話 「勇敢な戦士と強大な悪魔:後編」

三連続投稿は今日で終了!そしてカルネ村での戦闘はこれで終了です。


 「命乞いにでも来たのか?」

 敵の指揮官であるニグンからでた一言はそれだった。この状況下で命乞いに出てくると思っているのか…

 「いえいえ、実は貴方と戦士長との会話を聞いていたのですが…」

 そんな蛆虫の台詞にモモンガさんは答える。横からひしひしと殺気のようなものを感じる。……蛆虫って、アルベドのがうつったかな…

 「…お前達はこの私が手間をかけてまで救った村人を殺すと広言していたな。これほど不快なことがあるか」
 「不快とは大きく出たな。で?だからどうした」

 モモンガさんの殺気混じりの声をものともせずよくでかい口が利けるな、あのニグンという男。我々を打破できる何か切り札でも持っているのだろうな。

 「抵抗することなく命を差し出せ。そうすれば痛みは無い。だが、拒絶するのなら愚劣さの代価として絶望と苦痛の中で死に絶えることになるだろう」

 うおーい!それ、その台詞は悪役の台詞では?気持ちは分かるが落ち着こうよ。ね。

 「天使を突撃させよ」

 ふふ、そんな攻撃が我らがモモンガさんに効くわけないじゃないですかって、刺さってるううう!? 舐めプですか? 効いてないようだから良いけどよ……もしこれで死んでたらどうすんだ…

 「人の忠告は聞くものだぞ」

 天使二体が地面に叩きつけられ粒子へと還っていった。今の格好良かったなあ。そしてこれモモンガさんだけでよくね。だってぼっちがぼっちですよ。毎度だから慣れたけども…

 「次はこちらの番だ。行くぞ?鏖殺だ!」

 拝啓タッチさんへ。タッチさんから受けた恩を思い出し、カルネ村へと向かったギルド長が悪鬼になってます。
 超怖いんですけど。しかも楽しそうに言うし……あなた絶対タグに『こいつが主人公です』とか『主人公がラスボス』とか付けられるって。

 「全天使たちを突撃させよ。急げ!」

 ほらニグンも焦りまくってるじゃないですか……まあこちらは少数だから数で押しつぶすのは分かるけど実力差を知ろうよ。無駄うちだって分かれ!って言うか分かってください。

 「アルベド下がれ…」

 ほう、アルベドは下がらすのか……なら指示を受けてないから待機っと。この程度の天使なら殴殺しますか?でももっと手っ取り早く行きたいですね。

 「ネガティブ・バースト!」

 あれれ?耳がおかしくなってない俺。確かネガティブ・バーストは範囲技だったような気が……ほら来た!モモンガさんの負の波動が…

 「・・・コントロール・ デシジョン」

 コントロール・デシジョンとは己の当たり判定を操るスキルである。当たり判定を任意のままに集めることも出来る。ここまで聞けばチートに聞こえるかも知れないがデメリットは当然ある。
 まずはタイミングである。作動させるタイミングには厳格なルールがあり、それを少しでも外すと効果は無効化される。それだけならばまだ良い。失敗したら受けるダメージが倍化されるのだ。あと使える回数が少ない。だから誰も使うことが無いマイナースキルなのであるが、ぼっちの反応速度はそんなルールは破るほうが難しいのだ。
 しかしこの技は当たり判定をずらす事であって無効にすることではない。ぼっち的には試してみよう程度の事だった。結果…

 「・・・痛い・・・」
 「え!?な、なんでぼっちさんも下がってないんですか」

 なんでってあんたが言わなかったからだよ。でもよかった。忘れられたわけではなかったんだ。避けるだろうという信頼だったんですよね? ……よし、自己暗示終了…
 群れと言って相応しいほどの天使達を一瞬で消滅されて、ニグンはあまりの動揺を隠せないままでいた。非現実的だ。あのようなことが出来る者が他にいるだろうか?否、居るはずがない。居ていいはずが無いのだ!
 顔つきがが変わった。まだ焦りの色は見えるが先ほどによりは良くなっただろう。まあ、たぶん何かのトリック程度にしか考えてないだろうが…

 「プリンシパリティ・オブザベーション、かかれ!」

 消滅したアークエンジェル・フレイムよりは上位種が来たけど…

 「・・・ナイフ・バット・・・」

 モモンガさんの手間をかけさせる物でもないと判断し魔法を使う。ホーミング出来る飛びナイフで吸血鬼であるから得られる初心者向きに近い魔法。こんなものでも奴には絶大なダメージだったのだろう。柄から生えた蝙蝠の翼が軌道を変えて上位天使の眉間に突き刺さる。上位種も他の天使と変わらず粒子に還っていった。
 もろい。もろすぎる……モモンガさんもそう思ったのであろう。ため息が聞こえた。

 「ひゃあああ。化物め!」

 いまさら言うのかよ!遅すぎるだろうにさあ…

 「よく言われる。それと対峙しているお前は何だ。人か狗か化物か?」

 ダメー!なに言ってるの。さっき後悔したばっかなのに……助けて旦那…だめだって、また空母を出してくる…
 《人間種魅了》《正義の鉄槌》《捕縛》《炎の雨》《衝撃波》《聖なる光線》…
 低攻撃ばかりだな。その程度の攻撃が効くと思ってんのかな?それにしても《捕縛》って……髑髏の縛りって需要あるんかいな。あったな……身近な吸血鬼とか…
 ブシャアアアアアア!

 「・・・ナイスショット・・・」

 突如一人の頭が吹き飛んだ。吹き飛んだと言うか爆散したようにも見えたが……アルベドがモモンガさんの前でバルディッシュを振り上げている。俺らだけだろうな相手が放った石つぶてみたいのを跳ね返したのが見えたのは。だって陽光聖典の皆さん唖然としてらっしゃるもん……
 あと前々から思ってたんだけど俺油断しすぎ?さっきからちょくちょく場面が変わってるような…

 「最上位天使を召喚する!」

 あれは魔封じの水晶か!?最上位天使が本当に入ってるんなら少し厄介な……アルベドは前衛でモモンガさんは後衛、俺は遊撃で動いたほうがいいかな……天使で時間がかかりそうなら召喚者を狙うか…
 予想通りにモモンガさんはアルベドにスキルを使用させ守りに徹底させるようだ。こちらがいつでも行けるようにスキルを使用してることを見て確認するとモモンガさんはニグンへと向き直った。そうだ。これだよ、これ。我らアインズ・ウール・ゴウンは戦闘中に言葉を返さなくても戦えるんだ!
 徐々に水晶の光が強くなっていき、ニグンが微笑んでいるのが分かる。よほど勝利を確信しているんだろう

 「見よ!最高位天使の尊き姿を!ドミニオン・オーソリティ!!」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにあれ?

 ごめん、ぼっち馬鹿だから理解できない…あれが最上位?おっかしいなあ。あまりの驚きに何か高らかに喋ってるニグンの声が聞こえないなあ。モモンガさんなんてホーリー・スマイトをシャワーのように浴びてるし……もう敵さん絶望だよ……
 別の意味で疲れたよ……さて早く帰ろうよモモンガさん。なんだかのど渇いてきたしさあ…



 今年の投稿も後二回…次回マインをどうしようか決めようと思います。


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第012話 「カルネ村とのしばしの別れ…」

マインのことが決まった…さてスライム種であるぼっちがのどの渇きを覚えるはずがあるんだろうか?


 村に戻るとガゼフさんが出迎えてくれた。応急処置はしたのだろうボロボロの身体で…
「全員追っ払いました」なんて嘘をよく平然とつくなギルド長……全員強制的にお持ち帰りしたじゃないですか。しかも即行で拷問部屋送りって……さすがにひどいと思って言ってやりましたよ。

 「・・・・・・それは少し問題があるのでは・・・」
「? ああ! 確かにそうですね(レベル的に耐えられないだろう)。では、当分は監視するとしましょう」

 なんか他のニュアンスがあったような気がしたが…まあ、気のせい気のせい…そのモモンガさんは今、アルベトと夜空の下を散歩中である。よく空気を読んだと褒めてくれ。
 そ・ん・な・こ・と・よ・り、再びこの状況をどうしようか。
 夜風に触れようと森の近くに椅子を置き座ったところまでは良かった。何者かが近づいてくる気配を察知した。それは死んだ騎士でもなければ森のモンスターでもない。取得している能力のおかげで闇の中でもはっきり見える。あの男の子だ。いや、違ったね。女の子だった。黒髪でショートに切り揃えられた髪、身体は男の子と対して変わらないだろう。そんな子を。そんな娘を男の子と見間違えたのはしょうがないとして、対応をどうしようか悩む…

 「アルカード様!どうか弟子にしてください。炊事洗濯何でもしますんで」

 「ん?今何でもするって言ったよね?」と言うのを我慢した俺ってすごくね?
 確かにレア的な感じだから欲しいのは欲しいんだけど、持って帰っても飼える支度してないし……今「飼える」って思った俺アウトー!
 ちょっとひらめき、立ち上がる。この子は喋らなくてもついて来てくれる。何も喋らなくても動いてくれるって本当にありがてえ。
 目的の場所まで来ると足を止める。子供は不安そうにこちらを見上げてくる。それもそうだ。ここは襲ってきた騎士の死体を埋めた場所である。

 「・・・名は・・・」
 「!? マイン・チェルシーと申します。アルカード様」

 頼むから思いつきで答えた名前を連呼せんで下せえ。でもダークウォリアーよりはいいと思う……思いますよね、旦那…
 ロンメルと名乗った騎士の死体をサーチして手をかざす。

 「中位アンデット作成《ロートル・スケルトン・ナイト》」

 地面が盛り上がり一体のスケルトンが現れた。《ロートル・スケルトン・ナイト》はモモンガさんが作成する《デスナイト》の対のアンデットである。レベルは同じで目を見張るべきはその扱える技の数々だろう。下位から中位の剣技ならほとんど使用でき、防御力に特化されている。だが、その逆に攻撃力が低くデスナイトと戦闘になれば力負けしてしまうだろう。時間稼ぎ&囮の役目で多く使えるだろう。……だろうと言うのは単独行動メインだった為に使用することがなかったからである…
 姿はスケルトンで装備は槍・盾・剣・弓と様々な武器に騎士の鎧で身を固めている。あとの特徴は鼻下と顎に髭が生えているぐらいか…

 「マイン・・・お前を連れて行く訳にはいかない・・・」

 一気に表情がしおれていった。

 「そう…ですよね…」
 「・・・今はな」

 しおれた表情から一気に華が咲いたような明るい顔になった。表情見ているだけでなんか癒されるなあ。

 「またいずれ迎えに来る。それまでこの者に稽古をつけてもらえ。いいな」

 俺とスケルトンを交互に見たあとに本当に嬉しそうな顔をした。……レア物確保……たぶん邪悪な顔してるだろうな俺。そしてよく喋った俺! 褒めて、褒めて。

 『聞こえますか?そろそろ帰ろうと思いますがどうしますか?』

 よしやっと帰れる!休めるー!喉からっからだよおおおおお!

 「・・・・・・コクン(頷く)」
 『あのぼっちさん?メッセージで頷くの止めません?』



 第六階層ジャングル

 「・・・のど渇いた・・・」

 モモンガさんの嘘つきめアンデットだから喉が渇くことないでしょう?って、すんごく渇くんですけど……今なら湖の水全部飲めそうな気がする…

 「ハァ・・・ハァ・・・」

 何だろう?身体が重たい……何か呪いでも受けたか俺…
 ガクッ!?
 膝が言うことを利かない。何でこんな状態に陥っているか分からないが次から飲食不要のアイテムを付けよう……って、言うかここで倒れたらセバスの説教コース直行ではないのか? いや、すでに一人で出歩いているから決定ではあるのか…
 駄目だ。思考も上手く回らない……あそこで少し休もう…
 木にもたれて座り込む。身体にもはや力が入らない。やばいこのまま死ぬんじゃないのかな…………誰かがこっちに向かって走ってくる…


 あたしはセバスからの報告を聞いてぼっち様を捜索していた。なんでも帰った後、強烈な喉の渇きを訴えたまま転移したらしい。たしかにぼっち様の反応をこの第六階層から感じる。
 前にデミウルゴスが気配を隠されてなかったぼっち様の話を聞いていたから、何かを行っているとばかり思っていた。
 姿が見えた。その事にすごく安心する。しかし一瞬で不安の中に叩き込まれた。膝を突き倒れられたのだ。急いでぼっち様の下へ駆け寄る。

 「いかがなされましたぼっち様!?」

 反応が薄い。目はしっかりとこちらを見ているが力がない…。目だけではない身体全体から力を感じない。まるで生気をすべて抜かれたようだった…

 「ど、どうしよう。デミウルゴス…アルベド…。あ、モモンガ様なら!」

 モモンガ様を呼び行こうとしたら手が肩に触れた。

 「・・・ア・・ウラ・・・」

 か細く小さな声が聞こえた。どんなに小さくても聞き逃すことはなかった。

 「ぼっち様?しっかりしてください!…!?」

 弱弱しく触れていた手が力強くアウラの身体を抱き寄せた。突然のことが連続で続き頭がパニックを通り越して落ちついてきた。
 強く抱きしめられているから苦しいのだが体温や鼓動を感じられて心地よい感覚に陥ってきた。

 「ぼ…ぼっち…様…」

 面が落ちて素顔が現れる。アウラの予想では無表情で大人っぽい感じだと思っていたのが、予想と反して綺麗過ぎる幼顔に逆にドキリとしてしまう。
 弱ってしまっているためか、吐き出される息、弱々しい表情がたまらなく色っぽく感じてしまう。段々と顔が熱くなっているのが分かる。ここはブルー・プラネット様が創られた夜空の下で判り難いがたぶん自分は真っ赤な顔になっているだろう。

 「・・・アウラすまない・・・」

 謝るのと同時にぼっち様の唇がゆっくりと近づいてくる。もう目が離せなくなっていた。肩にかかってる手が首元を少し緩める。そのまま唇が近づいてくるため目を閉じた…

 「……くぅあ!?」

 心地よい痛みが首筋より感じた。ぼっちがアウラの首筋にその鋭利な八重歯を突き立ててた。そこから微量ながら水を弾いた音が聞こえてくる。心地よい痛みに嘗め回す舌の感触、何かを身体から吸われていき快感がアウラを襲っていた。

 「・・・・・・ぷはあ」

 満足したのか首筋からぼっち様の感触が離れた。

 「ごちそうさまでした」

 その言葉を聞くと同時にアウラの意識はゆっくりと暗闇の中へと沈んでいった…



なんだろう…アウラやマーレ、シャルティアとの絡みが多い分、デミウルゴス&コキュートスの出番が少ないどうしよう…


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第013話 「ぼっちの吸血鬼能力」

やっとぼっちが吸血鬼らしくなった…
ぼっちがアウラの血を吸い気絶させる…チェリオがモモンガさんだったら問答無用で殴りかかっている。


 「はぁ…はぁ…う、あん…」

 アウラの口から吐息が漏れていた。こんな小さくても女の子なんだよな……なんかエロティックていうかなんと言うか……てか、何したの俺…
 確か喉が渇いて気を失いかけたと思ったら口の中には血独特の味に首筋を押さえて倒れているアウラ。事後って言うんだろうなこういうの……あまりの出来事に頭が対応するまで時間がかかってしまった。
 現在はアウラの部屋に居る。アウラは吸われた影響か、ベッドで休んでいる。その傍らに心配そうなマーレにアウラを調べているシャルティア、そしてこの事件を一番最初に話したモモンガさん。
 『・・・・・・血を吸ったら・・・アウラ、倒れた・・・』そう伝えたらモモンガさんが文字通り飛んできた。今まで見たことのない怒り具合で詰め寄ってきた。殴られるかと思ったがマーレがそれを止めてくれた。その後に精神の安定化したモモンガさんがシャルティアを呼んで今に至る。

 「大丈夫でありんすよ。モモンガ様。ぼっち様」

 シャルティアは怒りも心配の色もなく、いつも通りの感じで喋っている。怒っているということはないと思って安心する。

 「お、お姉ちゃんは?」
 「落ち着くでありんすマーレ。アウラは一時的に力をぼっち様に吸われて疲れただけでありんす」
 「何も問題はないんだな?」
 「はい。力は10分もすれば回復しますし、血もさほど吸われていないでありんすから」
 「吸血鬼化すると言うことはないのか?」

 少し悩むような動作をするシャルティアに同様が広がる。

「いえ、それはないでありんす。確かに吸うことにより吸血鬼化させる事はあるにはあるんでありんすが…」

 何故に俺の顔色を窺うのだろうか? 言い難いことでもあるんだろうか……それでも今は聞かなければならない。

 「・・・・・・気にするな。言ってくれ」

 その言葉に意を決したのか重くなっていた口を開いた。

 「ぼっち様は吸血鬼であって吸血鬼ではないので吸うことにより吸血鬼化させる事は出来ないんでありんす」
 「ええ!?そんなんですかぼっち様」

 ん、どういうこと。俺の方が初耳なんだけど……そんな目で見られても知らないからね…

 「恐らくですがぼっち様の吸血鬼能力は何かに影響されて吸血鬼化されているのでは?」
 「・・・確かに俺の吸血鬼の能力はこの《ヴァンパイヤ・アイ》によるものだ」

 そうだ。あの大会、ワールドチャンピオンで上位者入賞したことにより貰ったオンリーワンアイテムで手に入れた力だ。その言葉を聞いてシャルティアが強く納得する。

 「ですんでぼっち様の吸血鬼といての力は仮初の所が大きいので、何の問題もなんでありんす」

 マーレがほうっと胸を撫で下ろす。

 「ならば、身体に異常はないんだな」
 「?いえ、異常はあるでありんすよ?」 

 あるんかい!て、なによ。早く答えてあげて。俺のためにも。見てよ、マーレは心配して泣きそうな顔になってるし、モモンガさんからは怒気みたいのでてるんだよ!俺もちょっと見てみ……よう…?

 「・・・ステータスの大幅な上昇」

 そうだ。前に見たときよりステータスが1.5倍ぐらいされている。今なら肉弾戦でもシャルティアに勝てるんじゃないか? それ以外には異常は見られないけど。

 「その通りでありんす。これは血を吸った事による影響だと思うでありんすよ」

 シャルティアは「失礼しても?」俺の許可を取り、面より見えている目を覗く。

 「これも恐らくですがぼっち様は血を吸って吸血鬼化させるのではなく自分と相手の血を入れ替えることで吸血鬼化させるタイプだと思いんす」

 なにそれ。どこのダレン・●ャンだよ。

 「それはどれくらいの量でだ?そしてどれくらいの吸血鬼を作れるものなのだ?」

 さすがはモモンガさん。冷静沈着に物事を判断していく頭脳。半分でいいので分けてもらえませんか?

 「さすがにそこまでは…」
 「そうか…」
 「でも、何かしら術式らしきものが組み込んであるんで…」

 さすがに分からないのであろう。それでも何かお力になろうとがんばっているのだろう。そっと右目に触れる。触れた影響なのだろう《ヴァンパイヤ・アイ》の情報が流れ込んでくる。

 「量はたいしたことはない・・・主従の契約をせねばそもそも効果はない」

 その言葉にモモンガさんは驚き、何かを考えていた。

 「主従の契約とは何ですか?」
 「その言葉のまま・・・口約束でもいい・・・血を交換する際にどちらが上でどちらが下か決めること・・・」

 再び何かを考える。俺はそのまま言葉を続ける。

 「吸血鬼化させると素材にはよるがだいたい20前後と思っていたら良いだろう・・・」
 「そのデメリットは何かありますか?」
 「・・・交換して2、3分はステータスが0.2%ほど減少する・・・」

 この世界ではその程度のパワーダウンは問題じゃないだろう。いざとなったら隕石だろうと何だろうと押し返してやる。「ν●●ダムは伊達じゃない!」ってな感じで……と、あほなこと考えていたらシャルティアはキラキラとした目で見つめていた。もしかして心が読まれた?

 「にしてもさすがは至高なる御方でありんす。あの極限状態でも、アウラの血量と欲している血のギリギリを見切られるなんて。それに血を吸って吸血鬼化させるとしてもしないギリギリでもある。まことに目を見張るばかりでありんす!」

 止・め・て!そのキラキラした目に釣られたようにマーレまでキラキラさせてるし……

 「そうか。すまなかったなシャルティア」
 「いえ、御方の為ならなんなりと」
 「では、あとはマーレに任せても大丈夫か?」 
 「は、は、はい。お任せください」
 「ぼっちさん、少しいいですか?」

 なんか嫌な予感。これってアレだよね。「後で校舎裏な?」みたいな……行きたくねえ……でも、行かなきゃなんねんだろうな…
 シャルティアとマーレを残し外へ出た。誰も近くに居ない事を確認したモモンガさんの足が止まった。どうしたのかな?と、思うと物凄い勢いで振り向き頭を下げてきた。

「すみませんでした。ギルド長でありながらぼっちさんへの事を考えずに」

 頭を下げられたモモンガさんにかける言葉がなかった……違う、びっくりして言葉が出なかったんだ。

 「ぼっちさんが喉の渇きを感じ始めたことに対して何の違和感も持たず、問題を放置してしまった俺の失敗です」
 「・・・違う・・・アイテムを持ってなかった自分が悪い・・・」
 「しかし…能力のことを理解して何の問題もなかったぼっちさんにアレだけの罵倒を浴びせてしまったんですよ?」

 頼むから謝らないでモモンガさんさっきから鋭利な言葉の刃物が刺さってくる。それに能力のことは知らなかったんですけど……痛い……俺の良心が削られていく…

 「・・・私は気にしていない・・・大丈夫・・・モモンガさんが仲間想いなのは良く知っている・・・」

 俺は思っていることをそのまま伝えたつもりだ。これで納得してくれればいいのだが・・・

 「そうですか…分かりました。では、次に何かあったときの為に色々と用意しておきますね」
 「・・・・・・ええ、お願いしますよ。ギルド長」

 モモンガさんはにこっと笑い戻っていった。俺がアウラの部屋に戻るとシャルティアは帰っており、アウラのそばにマーレが座っていた。その光景を見て一つ思いついた……



 
 「………!?」
 「…………!」

 何か耳元で大きな声が聞こえてくる。なんだろう。こんな朝早くから……耳を済ませてみよう……

 「だから何でそうなっているでありんす!」
 「あたしにもわかんないんだって…。それよりぼっち様が起きちゃうでしょう!」

 意識が急激に覚醒した。目を見開き辺りを確認する。ベッドの真ん中に俺。右側には頬を赤く染めて俯いたマーレ。左側にはベッドの横で喚いているシャルティアと転んでいるアウラ。うん。いつもどおりだ……んな訳は無い! 
 昨日は眠らず待っているというマーレの横で待とうとすると何かしら世話をしようとする。なので一緒に寝るということになった。と言うかしたのだが…

 「・・・アウラ・・・身体のほうはいいのか?」

 声をかけた事で起きた事に気づいたのだろう。シャルティアが大人しくなった。

 「え、あ、はい。そのー、心配をお掛けしまして申し訳ありません…」
 「・・・・・・いや私も急に悪かった」

 ん?このままだと「いえ、そんなことは…」とループが始まるのでは?

 「いや、そんな…ふああ」

 喋る前に撫でたら静かになった。そんなに良いものなんだろうか? シャルティアも何か物欲しそうに見ているし…

 「シャルティア・・・おいで」

 その言葉を聞くと嬉しそうに胸に飛び込んできた。三人を眺めながらまた眠りについた。何かを忘れている気がするが…


 その後、忘れていたセバスの説教は俺の体調悪化と夜を徹してのアウラの看病という言い訳でなんとか逃れた…



ぼっちがロリコン&ショタコンに見えてくる…
ホモじゃないよ…多分…

あ、年末&正月と言う事で今日より1月3日まで連続投稿するよ。特別編は時間はいつもと違い日付が変わった零時ごろに…

チェリオ死にそう…


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第014話 「ナザリックの労働条件」

皆さんお掃除がんばってますか?チェリオです。
最近私の机の上が汚くなり母に「のだめ」って言われました…大掃除大変だぁ…
ナザリックのメイドさんが欲しい…


 俺がアウラの血を吸った事件から数日が経った。
 あれからモモンガさんは広間にて宣言をし、自らを『モモンガ』ではなく『アインズ・ウール・ゴウン』と名乗る事を宣言した。…俺はモモンガさんと呼ぶけど。
 ついでに俺は血を吸ったことを何か言われると思っていたのだが逆に『どんな時でも自分を制御しきる精神力』&『夜を徹して看病してくださる心優しき御方』という話が広まっていた。
 止めて…だれか止めて。今更一緒に寝てましたなんて言えない…

 「おはよう御座いますぼっち様」
 「・・・・・・うむ・・・おはよう」

 ナザリックで働く一般メイドとすれ違い様に挨拶をする。何時見ても見飽きないほど綺麗なんだよな。さすが皆が創造したNPCだよなあ。なんかデジャブが起こっている。確か昨日もここであったような……少し確認してみるか……
 ぼっちは気配と姿を消し目的地へ急ぐ。途中途中出会ったメイドに気付かれることもなく。

 「確か・・・ここだよな?」

 目的地まではあまり距離がなかった為にすぐに到着した。早速戸を開けようと手がドアノブにかかる前に手が止まる。
 ここはセバスの部屋である。勝手に行動することから度々説教を受けるためなかなか近づきけないのだ。
 この前、「どうか近衛をお連れくださいませ」と言われたので「・・・私についてこられる者が居るならば良いのだが・・・」そう言ったら諦めたのか、それからは言われることはなかった。
 どうしようか悩んでいたらドアが開かれた。ちょうどセバスも出るところだったのだろう。その表情は驚きで溢れていた。レアな物が見えた。

 「これはぼっち様。いかがなされましたか?」
 「うむ・・・少しメイド達の勤務の事を聞きたくてな・・・」
 「メイド達のことでございますか?了解いたしました。どうぞこちらへ」

 セバスに勧められるまま中に入った。綺麗に整理整頓され、とても清潔感ある部屋で予想通りというかちょっと期待したんだけど……

 「では、お茶の用意を致します」
 「いや、話だけで良い」
 「はっ。では、聞きたい話とは何で御座いましょうか?まさか何か問題でも」
 「いや、そう言う訳ではない。ただ勤務の話を聞きたいだけなんだ・・・」

 ほっと胸を撫で下ろすセバス。そんなに気にするはないと思うんだけど……というか、俺の方がいろいろしてしまっている気がする。

 「一般メイドの勤務時間はどうなっている?」
 「それでしたら…」


 ― 話聞き取り中 ―


 コン、コンとドアをノックする音が聞こえる。アインズは顔を上げて辺りを確認する。現在、この執務室には御付としてエントマがついている。アルベドは別の仕事をしている為に席を外している。

 「アインズ様。ぼっち様が来られました」
 (ん?ぼっちさんが?確か今日は何もなかったはずなんだけど…。厄介ごとではないと思うんだけど、この前みたいなことがあるからな。覚悟しといた方が良いか)

 書類から目を離し「どうぞ」と相手を招き入れる。エントマが礼儀正しくドアを開け、一礼する。ぼっちさんはそんなエントマをひと撫でして近寄ってくる。

 (なんか怒ってないか?)

 白い面で顔を隠している為に表情は読めないが、なんとなく雰囲気的にそんな感じがする。何かあったのだろう。と思っていると近くで足を止めて目の前にびっしりと書き留められた紙を突きつけられた。
 訳がわからないまま紙を受け取るとぼっちさんは腕を組んだ途端に姿を消した。 

 (本当にすごいスキルだよな…と、そうじゃなかった。ええと…なんだこれは?ナザリック一般メイドの勤務表?………)
 「な、なんだこれは!?」
 「!?」

 さっきまで撫でられた事を喜んでいたエントマが突然上げられた声で現実に戻され困惑していた。

 「エントマよ。ガルガンチュア及びビクティムを除く階層守護者達を集めよ。もちろん先ほど消えたぼっちさんとセバスもだ」
 「はい。畏まりました」

 一礼して部屋を出て行き、部屋に残ったアインズは頭を軽く押さえていた。

 「これは…何とかせねばな…」

 
 あのナザリック一般メイド一週間7日出勤24時間勤務表を見せられたモモンガさんは階層守護者達を集めて話をした。さすがにブラック企業すぎて休みを与えようという話になったのだ。
 笑いがとまらねえ……一日休みにするだけで強烈な反応。「24時間。1440分も仕えられないということですか!?」とはすごいなあ。何かアメ的なものがあればいいんだけれど……
 俺がセバスのところでメイドの話をしたせいで廊下に気になっているメイド達が集まっている。
 モモンガさんも困っているし助け舟を出しますか……泥舟の……

 「メイドたちは41日ごとに休みを取り、も・・・アインズさんの御付になる・・・」

 その言葉を聞いて嬉しがるメイド達。悔しがる階層守護者達。下顎が取れそうなくらい驚くモモンガさん。いやぁ、何かこう楽しいな。俺ってSっ気あったんだな。ハハハハハハ

 「ぼっち様!?お待ちください。ぜひ!その役目(アインズ様の)はこのアルベドに」
 「ちょ、何言ってんのアルベド!?」
 「そうでありんす!ずるいでありんすよ」
 「御方ノ前デ騒ギスギダ」
 「そもそも私達は至高なる御方々に仕えることこそが最高の褒美。ならば二重で対価を受けるのは…」
 「ぼ、僕もデミウルゴスさんの言ってる通りだと、お、思います…」
 「だけどマーレ…」
 「ムゥ…モシアルナラバ手合ワセナドシテイタダケルノナラバ…」

 うわおう……凄すぎる反応の嵐……デミウルゴスはさすがに冷静だけれども仕えるだけってどんだけ社畜属性持ってんだよ。そしてマーレよ。もう少しわがまま言っても良いんだぞ。……コキュートスとはそのうち行うか……どのみち第五階層には行かねばならないし……
 それぞれの思いが飛び交う中、何かを思いついたのかアインズが口を開いた。

 「ならば守護者やプレアデス達はぼっちさんの御付でよろしいんですね?」

 ぐほう!この策士やってくれたな。やべぇ皆の目が変わった……セバスなんか目が光ってるような気がする……
 その時アルベドを見た。何やら困ったような顔をしていた。さすがはというべきか視線を感じた瞬間、いつも通りの笑顔に変わったが……

 「・・・では守護者とプレアデスは休みの次の日は仕事後一時間だけだが私かアインズ様と一緒に業務以外で何かをすると言う事で・・・」

 ブーイングが飛んで来そうな雰囲気になったがこれには考えがある。

 「メイド達に比べたら不平等な気もするが通常の役目が大きいためあまり離れさせるわけにもいかぬのだ。分かってくれるな」

 ちゃんと理解してくれたのかしっかりとした返事が返ってきた。
 まあ、これで何とかなっただろう。
 アルベドもモモンガさんへ仕えられると聞いて喜んでいる。はあああああ……疲れた……意外に喋れるものだな…

 「ボッチサマ…」
 「・・・どうしたコキュートス・・・」

 何か質問があったのだろう。手を上げてコキュートスが声をかけてきた。

 「一緒ニ鍛錬トイウノハ良イノデショウカ?」
 「?・・・良いのではないか・・・・・・」

 その言葉に皆が獲物を狙う肉食獣の目つきになった……やべえ、選択ミスった!?

 「で、では一緒に散歩など、い、い、いかがでしょう?」
 「ちょ、ちょっとマーレ。さきにあたしでしょ!」
 「添い寝はありでありんすか?」
 「「!?」」

 ちょ、待っ!この話の流れはヤバイ……助けてデミエモーン!

 「いや…ならばあの件のほうが…」

 駄目だ。デミウルゴスもあてにならん。ならばナザリックの頭脳に…

 「よ、よろしいんで御座いますねアインズ様。で、でしたら二人っきりで寝室で…いえ、今ここでも!」
 「お、お、お、落ち着けアルベド。落ち着くのだ!」

 おう、こっちもか。駄目だこりゃ……って言うかモモンガさんやばくないか?すでに馬乗りされて…

 「・・・アルベドを止めたほうが良くないか?」

 その一言に守護者を含め、その場に居たすべての者がアルベドを見た。モモンガさんに馬乗りするアルベド。もちろんモモンガさんは抵抗し続けていた…

 「アルベド!?何をしてるでありんすか!」
 「サスガニ不敬ダゾ!」
 「まったく何をしているんですか貴方は!?」
 「ちょっと離れなさいよ!マーレ!マーレも手伝いなさいよ」
 「わ、分かったよ」
 「失礼致しますアルベド様!」

 
 守護者一丸で行った救出劇にてモモンガさんは無事救助できた。加害者のアルベドは謹慎をくらっていた。もう二度と考えなしにものを言わないことを決意したのであーる。

 結論
 ナザリックの労働条件はアインズ・ウール・ゴウン加入メンバーを崇拝し、至高なる存在の近くで仕えることを至上の喜びすること……
 ブラック鎮守……じゃなくて、なんというブラック会社…



私はこんな現場で働いたら速攻で吐血しそう…
明日の投稿は特別編となります!お楽しみに


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第015話 「第11階層」

新年一発目の本編です!
実際にはないナザリック第11階層…ご覧ください…


 パンドラズ・アクター

 ナザリックの宝物庫の管理を行う領域守護者。ナザリック最高頭脳を持ち、力は階層守護者と並ぶと言う…
 なぜ今回の始まりは彼の説明から入ったかと言うとこの話は一度も呼ばれない彼の理由に類する話だからだ。
 彼はアインズ…いやモモンガが創造したNPCで当時の思惑を強く反映されて生み出されている。その思惑とはかっこよさである。ゆえに彼の派手なアクションや喋り方はその影響である。だが当の創造主は己の若気の至りとも呼べる彼を見ると恥ずかしさで悶絶しそうになる。理不尽とも呼べる理由で彼は今だに守護者統括であるアルベドにすら会った事ない…

 「フヒヒヒ…これも至高なる方の為…」

 暗い部屋で何かを眺める。パンドラズ・アクター《黒歴史》と同じに思われている彼女は自分を創造された方の命を受けて動き出す。
 今回はそんな彼女達のお話…


 事の始まりはナザリックの定例会議から始まった。

 「何、在庫が合わない?」
 「はい…」

 アインズが不思議な声を上げる。
 ここナザリックには数多くの者が働いている為に出費は激しいほど多い。が、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーに考えて考え抜かれた結果、ナザリック内の収入で賄える。一部のアイテムは別としているが…
 羊皮紙などはこの世界で売られている物はユグドラシルの技法では第一位の魔法ですら封じ込めれないのだ。ゆえにデミウルゴスに何か代用品がないか頼んでいる。今のところ良い成果はないが…

 「で、何が減っているのだ?」
 「それが…」

 アルベドが困ったような表情をしてこちら見る。それがアルベドだけではなくデミウルゴスもなのだ。

 「増えているのです…」
 「は?」
 「ナザリックに備蓄されている物が増えているのです。それも収入リストに無い物まで」
 「なんだと?リストに無いものとは…」
 「はい。アインズ様が私に命じられた羊皮紙や中位に渡る蘇生・回復アイテムなどです」
 「そのうえ何処に保管されているかが分からない状態です」

 その言葉に会議に参加している者全員が困惑の表情を浮かべている。この地にて原因不明な事態が起こっているのだ。それくらいシャルティアでも理解できる。
 アインズはそんな皆の顔を眺めながら検討を始めようと必死に頭を働かそうとしていた。ある一人の人物を見るまでは…

 「どうしたのですかぼっちさん?」

 申し訳なさそうに手を上げるぼっちに皆の視線が集まる。

 「・・・心当たりがある・・・」
 「心当たりとはなんでしょうか?」

 ぼっちは何かを考えていたようだが決心したようにこちらを向いた。

 「第11階層を起動させた・・・」

 理解できずに皆の思考回路が停止した。


 ナザリック地下大墳墓は地下10階層からなる拠点である。そんなナザリックに11階層など存在するはずがないのだ。
 しかしそれを可能とした要因が終わる寸前まで狩りと称する略奪行為を行っていたぼっちだった。
 サービス終了の一週間前。とある過疎化した拠点を襲った際に彼はワールドアイテムを入手に成功したのだ。

 『パラレル・ザ・ワールド』
 戦闘では一切の効果を発揮しないアイテムだが拠点作成では多大な効果を持つ。その効果は無条件に拠点を一階層増やすことが出来、400のレベルを与えると言うものだ。しかもその階層に限りだが通常出来ることはないはずの入り口を塞ぐ事が出来るのだ。

 「新しい階層を作っても・・・」

 ぼそっとモモンガに言ったけれども覚えていなかったのだろう…
 ぼっちが製作したのはナザリックの生産工場である。つい先日やっとのことで完成して稼動させたのだ。

 「ここが入り口ですか?」

 コクンと頷くぼっちを先頭に部屋に入っていく。ここはメンバーが増えることを想定されて造られた45人目の部屋。中には他の部屋と同じように家具が置かれているが一つだけ変わったものがあった。
 それはとても大きな姿見の鏡である。コキュートスが二、三人余裕で映るほどの大きな鏡。ぼっちは鏡に向かって歩き出し鏡の中へと消えていった。

 「隠し扉ですか」

 アインズは呟き何の疑いもなく進んでいく。追従する階層守護者達も…
 光に包まれた先に見たものは…


 光り輝く花々に囲まれた大きな広場だった。第六層に似ている感じがあった。空は闘技場の上を彩る星が煌びやかに舞い、中央には一対一で戦うことを想定された柵と広場があった。

 「これはこれは」
 「うわあ」
 「キレイでありんすね…」
 「ウム……ッ!?」

 この自然な煌びやかさに目を奪われている中、コキュートスは広間の真ん中に立つ騎士に目を奪われていた。
 プレアデス達のメイド服に白銀の騎士の鎧を混ぜたような服を着こなし、聖剣を地面に突き刺し柄を両手で覆う一人の少女に…
 デミウルゴスも気付き彼女を観察する。きれいな金髪を後ろで束ね、優しさと強さを持った眼差しでこちらを見てくるただの人間の女。ただ風に揺らめいているにしても少し揺られすぎな髪が気になるくらいであるが…
 少女と目が合った。その強い眼光はコキュートスに向けられていた。

 「参られよ」

 ただ一言を放った。それまで気にも留めてなかったそれぞれが彼女を認識する。一名を除いて…

 「参ル!」

 突如コキュートスが駆け出したのだ。一人の武人として彼女の参られよの言葉に対して無視するわけにもいかぬからだ。
 止めに動こうとしたデミウルゴスをぼっちが止めた。
 広場で閃光が走った。コキュートスの放った一撃が少女の一撃により流されたのだ。

 「見事!ダガコレハドウダ」
 「な、四刀流!?」

 少女はコキュートスのそれぞれの手に握られた獲物に目がいった。ただ持っているだけではない。それぞれが意思を持って襲ってくる。
 たった一本の剣では捌ききれぬ斬撃の数々。
 少女は楽しそうに笑う。
 捌ききれぬのであれば捌かなければいい。
 剣筋を見切り最小限でかわし、斬撃を弾き、流しては逆に攻めていく…
 まるでアニメや漫画で繰り返される剣戟。一般人では見切れぬ戦いが行われている。数千とも言える手数がたった数秒に込められていく。
 二人は楽しそうに笑いながら、だが決して手を抜くことなく斬り合う。その中、大きな動きがあった。

 「そこだ!」
 「イヤ、マダ甘イ!」

 コキュートスが作った一瞬の隙を少女はつく。
 一太刀を浴びせたのだ。
 浅い、浅すぎる一太刀はダメージとしては軽い部類だろう。勝負をつけようとコキュートスが攻めた。少女の腕に獲物を振り下ろしながら勝利を確信した…
 ガキンッ!!
 腕を守っていた鎧が裂け、少女の細腕は渾身の一撃を弾く。
 苦悶の表情をする少女と困惑を露とするコキュートスは互いに距離をとる。
 かすかな威嚇の声を少女の後頭部から聞き取りながら…

 「!?ナルホドソウイウコトカ…」

 少女も裂けた鎧の隙間から緑色の鱗が見えた。そして彼女の髪と思っていた物が一本一本意思を持って威嚇していた。

 「・・・そこまで」

 二人の中間に一瞬で現れたぼっちにより戦闘の幕がおろされた。 
 少女は膝をつく、創造主に篤い視線を送りながら。

 「お久しぶりで御座いますぼっち様」
 「・・・うむ・・・挨拶を・・・」

 ぼっちはアインズ達の方を振り向きながら言った。少女は短く返事をしてアインズへと向いた。

 「お初にお目にかかりますアインズ様。私は第11階層《夜空の広間》領域守護者、《ゴルゴーン》のシュバリエ・ステラで御座います」

 少女…ステラの凛とした声がアインズの耳に届いた。

 
 種族《ゴルゴーン》は三人の種族《ゴルゴン》通称《メディーサ》が三人居ることで開放される種族である。
 《ゴルゴン》の主だった能力はオプションで石化能力と特化された防御力である。その防御力は最終的には上位の鎧のも劣らない物となる。前衛にしてもいいが《メディーサ》は魔法を取得できるため後衛としても優秀な種族なのである。
 しかし、あまり使われることはなかった。理由は種族ゆえだった。
 プレイヤーの意思とは関係なく威嚇して自分の位置を教えてしまう髪の蛇達。
 肌が緑の鱗で覆われその醜い容姿。
 最終的には強くなるが低レベル時は逆に弱いステータス。
 異形種であるため異形種狩り遭うなどの理由で嫌悪されていた。
 逆にNPCとしては優秀すぎる性能で異形種好きなギルドでは使用されてた。
 そして《ゴルゴーン》になると能力の配分強化と言うスキルを持つ。
 登録した三人の能力値を合計し、平均的に三分割してそれぞれの元の能力値をプラスするのだ。レベル70のステラがレベル100のコキュートスと渡り合えたのはそのスキルが合ったことが大きいのである。
 なんにしてもこれから残りの二人の《ゴルゴン》に合わねばならぬのだ。少し頭痛のような物を感じるぼっち。何事もなければいいのだが…



今日はこれまでで続きはまた今度です。
次回の話と同時にオリキャラの設定を公開します。増えたりしたら随時更新致します。


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第016話 「小さな支配者」

正月始めから残業のチェリオです。
早く休みが欲しい…
家でぼっちしたい…


 アインズ達はステラに連れられて第11階層の中枢である《中央家》に到着した。
 道中ステラは物腰は柔らかでどんな事にも真摯に答えてくれるが必要最低限の会話しか行わなかった。
 だからと言って喋るのが苦手とか人見知りという訳ではなくただ話す事が無いのだろう。
 自分が住んでいる階層なのだが一人の騎士として護衛している。その姿勢や性格をコキュートスは気に入っているらしい。
 《中央家》入り口の門に人影が見えた。
 白を基本としたコートにフードなどで皮膚を隠している青年だ。だがその正体は人ではなく見え隠れする緑色の鱗からステラと同じ《ゴルゴン》なのが解る。それもステラと比べて肌全体が覆われている事から上位なのだろう。《ゴルゴン》は位が上がると肌が鱗に覆われるという性質を持つ。

 「やあ、ステラ。君がここに来るのは珍しいね」
 「ええ。確かに…」
 
 今まで放っていた気が和らぎ彼女から笑みが零れた。
 ステラはハッと我に返りアインズに向き直った。 

 「今回は…」
 「ふふふ。落ち着きなさいステラ。分かっていますから」
 
 青年はアインズ達の前でフードを取り頭を下げた。顔全体が鱗で覆われている事と無数の蛇が現れた事にギョっとするも穏やかな青年と蛇の表情を見るとなんだか安心を覚える。

 「お初に御目にかかりますアインズ様。私は《第11階層防衛総長》の役を持つシュバリエ・ハイネンスと申します。お気軽にハイネと呼んで頂ければ幸いです」
 「防衛総長?」
 「はい。この階層は他の階層と違い独自の防衛機能を持っているためにデミウルゴス様とは別に指揮権をぼっち様より拝命しました」
 (確かに…他の階層と違って何か根の様なものが張っている感じがするが…これがぼっちさんが築いた防衛システムなのか)
 「た、確かに何か違うモノを感じます…」
 「ナザリック内では感じた事が無い類のものだね」 

 デミウルゴスやマーレ、アウラも気付き辺りを見渡していた。言われてシャルティアやアルベドが付近の確認をしようとしていたが索敵スキルが無い為に確認は出来ないが…

 「こちらへどうぞ」

 彼は優しげに微笑みながら招く。
 門を抜けると何の変哲もない二階建ての一軒家が建っていた。ただ変わった点として二階のすべての窓がカーテンで覆われていることだけだろう。
 守護者達が何かに気付いてアインズとぼっちを守るように展開する。例えここが至高なる御方々が御造りになられた所としても体が勝手に動いてしまうのだ。

 「無礼ですよ。お下がりなさい」

 家の付近に待機してナイトマリオネット達が剣を仕舞い下がっていく。
 彼らはハイネンス…いや「ハイネ」の特殊魔法《人形劇指揮者》で作られた者達だ。
 特殊魔法《人形劇指揮者》は人形系アンデットを最低で30体操ることが出来るスキルである。
 通常召喚された人形系アンデットはその場で待機して近づいた敵に襲い掛かる配置型のモンスタートラップである。
 ハイネは人形系アンデットの召喚や特殊魔法《人形劇指揮者》に特化しているため、一日に上・中・下合わせて20体の人形系アンデットを召喚し200体も操ることが出来る。ちなみにプレイヤーでは20を越えた辺りで操作が難しくなりすぎて不可能となる。
 これらの能力でレベルの大半を埋める彼は単体でプレアデスと並ぶ事は出来たとしても勝つ事は不可能なのである。

 「失礼致しました。アインズ様。ぼっち様。ささ、こちらで御座います」

 玄関を開けると目の前に奥へと進める廊下と二階に上がる為の階段が現れた。ハイネは迷うことなく二階へと向かっていった。
 二階には一つの扉しかなかった。と言うか二階全体が一つの部屋なのだろう。 
 ハイネは扉の横で立ち止まり扉を開けた。中に入る気はないのだろう。アインズは覚悟を決め一歩を踏み出した。表情には出さないが後悔しているぼっちを引き連れて…


 中は暗かった。多少は灯りがついているのだがこの広い空間に蝋燭の数が合っていないのだ。
 そして皆が目を見張った。
 薄暗いがここはアインズの執務室瓜二つだったのだから。
 そんな執務室の主がトテトテトテと近づいてきた。

 「ようこそお越しくださいました…アインズ様にぼっち様…」

 シャルティアと同じくらいの身長の少女。ステラと同じように顔などに蛇の鱗は見えないことからそこまで種族レベルは上げていないのであろう。黒い服で身体を覆っているが所々はみ出しており、彼女のだらしない性格が隠れることなく出てきてしまっている。
 そんな少女の一番の特徴は腰まで伸びた黒髪の蛇達に瞳の下に出来た濃く、大きなクマだろう。
 少女は後ろ髪を掻きながら挨拶を続ける。

 「この第11階層生産プラントの階層守護者のシュバリエ・モミと申します…ッヒヒ」

 モミの笑いや態度に階層守護者達が不快感を示すことはなかった。彼女がそういう行動をするという事は至高なる御方々がそう創られた事。それにアインズがその事に対して何も言わないということはそういうことなのだろう…

 「シュバリエ・モミ?」
 「はい。なんでしょうか…アインズ様?」

 変わった名前に反応したアインズが不思議そうに彼女とぼっちを見る。ハイネやステラ海外の名前で聞いたことがあったがモミという名前に覚えがない。まあ、そんな名前もあるのか。と、そう思うので止めた。

 「いや、呼んだ訳ではなかったのだが…ここで何を生産している?」
 「はい。ここでは各エリアで消費する物に羊皮紙や回復系アイテムを生産しています…」
 「生産された物は何処に集められるのだ?」
 「…物資を貯める蔵に貯められますよ」
 「「……あ」」

 アインズは何か違和感を感じた。それは守護者達もなのだろう。その笑い方は別として喋り方…アウラとデミウルゴスが動いた。

 「ああ。そういうことか」

 違和感の正体はぼっちだった。少し喋りすぎるし感情が見え隠れもするがその喋り方・雰囲気がかすかにぼっちに似た物があった。アインズは納得した。自分に似せた彼女を今まで紹介したくなかったのはこういうことかと…勝手に理解してしまったのだ…デミウルゴスとアウラはぼっちの表情に似たものをモミから見たのだ。
 納得したアインズはぼっちから目を離しモミに向き直った。

 「では、この階層の案内を頼む」
 「…了解。頼まれた」

 さすがにこの台詞にはカチンときたのか、アインズの後ろで殺気が起こった。
 そんなことを気にも留めずに外に出て行くために装備を整えていくモミ。その姿に目を瞠った。

 所々に金の装飾を施された漆黒のローブ。
 両手にはめられたガントレット。
 一匹ではあったが真紅のスタッフを銜える金色の蛇を模った魔法使いの杖。
 そしてユグドラシルプレイヤーのほとんどが無理やりに渡された不気味な仮面《嫉妬マスク》。

 「……その面はどうしたのだ?」

 恐る恐る聞いたアインズの質問にモミは嬉しそうに答えた。

 「…!これですか?これはぼっち様に頂きました。……アインズ様が装備なさった物と同じと聞きましたが…」
 「あ、ああ…」

 確かにカルネ村の時に装備した。が、なぜそれをこの子に渡す必要があるのだろう。何らかの能力が込められている訳ではないアイテムを…答えは簡単だ。アインズが装備したからだ。皆も気付いている。モミの装備は同等ではないが能力は近く、そして似すぎている。つまりはこのNPCはアインズの劣化版なのだろう…
 アインズの視線を感じたぼっちが顔を背けた…

 「…ちなみに得意な魔法は?」
 「?…グラスプ・ハートなどの死霊系魔法ですが…」
 「ぼっちさんこれはどういう…」

 振り返った時にはすでにぼっちの姿はなかった…


 ぬおおおおおおお!恥ずかしい!!
 瞬間的にスキルを使い逃避したぼっちは己の部屋でのた打ち回っていた。
 彼女をあんな感じに創ったのはモモンガさんを尊敬していたからだ。
 彼は辞めようと思ったらいつでも辞めれた。が、彼はそんなことを考えることなく仲間と創ったこの地を何時までも守る気で居た。その時思ったのだ。彼こそがナザリックの守護者なのだと…そう思ったら階層守護者として創ろうと行動していた。
 結果できたのが性格ぼっち似の装備能力モモンガのNPCが出来たのだ。
 いい出来だったと思う、…思うが、幼かった頃のアルバムやお絵かきなどを誰かに見られたような感覚に襲われているぼっちは未だに悶えていた。
 ステラとハイネはあるアニメのキャラから付けた名前だがモミだけは違った。モミとは平安時代に呼ばれていたモモンガの呼び方である。
 悶え苦しんでいるとピピッとメッセージが届いた音がした。

 「・・・はい・・・」
 『ぼっちさん……集合』
 「・・・・・・了解・・・」

 メッセージを切ると再びスキルを使い爆走する…後のことを考えずに…



前回書いたとおりオリキャラ説明を出させてもらいます。
ほとんど出てきた内容とほとんど変わりませんが見られるならぜひ…


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第017話 「捕らわれた聖職者」

 今回は虫などのグロ系と思われる表現があります。苦手な方はすみません…
 


 元六色聖典が一つ《陽光聖典》隊長ニグン・グリット・ルーイン。

 スレイン法国が掲げる人類救済の理念を厚く信仰しており、地位はそれなりに高く、召喚したモンスターを強化するタレント持ち。そのうえ第四位階魔法を使用できる数少ない人間である。
 いずれかはもっと上の地位につき、法国にて大きな役割を担うであろうと彼はずっと思っていた。
 あの運命を変えられた日までは…

 それは簡単とも言える任務。他の部隊に村を襲わせ王国最強のガゼフ・ストロノーフを抹殺すること。貴族派の王国貴族もこの作戦に関わっており、ガゼフは秘法とも言える装備を一つも着けずにまんまと罠にはまり、天子天使の群れで嬲り殺しにする。ただそれだけだったのに…

 漆黒のローブを纏った可笑しな仮面をつけた魔法詠唱者。
 貴族のような身嗜みをした白い面の剣士。
 護衛だと思われる全身黒い鎧で覆った女。
 たった三人に赤子の手を捻るように敗北し捕らわれた。
 当初は拷問される予定だったらしく見るに醜いモンスターがいる拷問部屋に送られたが、どうやら考えが変わったらしく監視を行える部屋に移送されることになった。
 これは好機だと思った。向こうが我々の価値を理解したのなら再び交渉の余地がある。モンスターを連れて誘導するメガネをかけスーツを着た悪魔を見られつつ助かった後の算段を考え始めたのである。

 しかし、この考えはすぐに間違いだと気付く。
 到着した場所では黒いドレスを身にまとった貴族の令嬢らしき少女がスーツの悪魔と話し合いをしていた。たかが小娘が見張りをするのならば逃げることも出来るかともニグンは甘い考えをめぐらせた…少女が何者かではなく何物かを詮索することなく…
 入れられた部屋は黒で覆われた部屋。扉が閉まりニグン達だけになるはずだった…
 カサカサカサ…
 何かが這う音が聞こえた。目を細め音の在り処を探す。
 それは一匹の虫だった。そんなとき

 「ひゃああああ!」

 一人の隊員が叫んだ。
 気付いた
 理解した
 思考が停止した
 部屋を覆っていた黒い影は明るさによって生まれた影などではなかった。幾百、幾千、幾万ともいう無数の虫、虫、虫の群れ。
 認識したからだろうか。無数の虫はこちらへと大移動を開始した。

 大慌てで扉を引き返し開きもしないドアに懇願する者。
 あまりの光景に思考が停止して身動き一つせず立ち尽くす者。
 ニグンは諦めることもせず止まる事もせずに生き残るために動き出した。
 踏みつけた。たった数センチの虫を。ぐちゃと汚らしい音を発して潰れた。はずだった。踏んだ虫はびくともせず足の下で動き続けていた。踏みつけようとも殴ろうとも魔法を使って攻撃しても決して消えることのない虫の群れ。

 「な、に…ひ、ひぎゃああああああああああああああ!?」

 その虫の強度に驚愕する間も与えず虫の群れに取り込まれていく…
 どんなに抵抗しようともそのすべてが無となり、視界までも黒い虫で覆われた…
 ただ理解できるのは虫が自分のありとあらゆる身体を走破し、その音で自分の耳を満たしていくこと。
 逃げる隙も交渉する事もなく、そこにあったのは一つの絶望。
 身動き一つとることのない世界…そこに自分が居ることを理解した。理解は出来ても納得できない。なぜこんな目に私が合わねばならぬのだ!
 ニグンはただもがき続ける。その何の意味もない行為を気に留めるものも居なかった。

 「ぐうううううううぅぅぅぅぅぅ…………」

 無駄な抵抗をし続けて疲れきったニグンの耳に一人の男の声が聞こえ止んだ。何が起こったのかは見ることは出来なかったが何が起こったのかは理解した。
 舌を噛み切ったのだ。
 この恐怖や苦痛に耐え切れず死に逃げ道を見たのだろう…ニグンも瞬間的にその逃げ道に飛び込もうとした。

 「くそ!は、もがあ!?」

 噛み千切ろうと口を開いた瞬間を狙っていたのだろう。大きな黒い虫が口の中に割り込んできた。追い出そうと手を動かそうとしたが腕に纏わりつく虫がさせてはくれなかった。ならば!と噛み殺してやろうとしたが踏んで殺せなかった物が噛んで殺せるわけがなかった。

 あれからどれほどの時が経ったのだろうか…
 一時間…
 一日…
 一ヶ月…
 一年…
 分からない…すでに衰弱しており思考すら働かない…ただ目が覚めては口の中にある味も見た目も分からぬ物を飲み込むだけの毎日…

 死にたい…
 でも死ねない…
 それでも死にたい…
 
 ………誰か……殺してくれ…

 そんな時だった物音が聞こえたドスン、ドスンと何物かが近づいてくる。前の自分だったら警戒や敵対行動を取ったのであろう。だが、もはやそんな気はない。これで死ねるのかと思ったのだ。
 扉が開き虫たちが身体から退いていく。あの時と同じくそこには白い面をかぶった男が立っていた。
 やっと死ねる…そんな安堵が押し寄せてくる。
 男がゆっくりと近づき、自身の前で足を止めた。そしてその絶対的な強者は自らの前で膝をつき何かを差し出してきた。
 目が定まらない。身体が動かない。そんな状態で受け取れるはずもなかった…
 身体が浮いた…いや、持ち上げられたのだ。頭を支えられ膝で体制を促された。口の中に何か暖かい物が入れられ飲み込んだ。
 それはスープだ。今まで何度も口にしたことがあるようなスープ。
 思考が戻る。感覚が視界が戻った。目が合った…

 「・・・・・・うまいか?」
 「……うまい…です」
 「そうか・・・」

 生きている。いや、今この瞬間に生かされたのだ。この絶対的強者に…
 手が動く。彼から器を引っ手繰って口の中に中身を突っ込んでいく。おいしい。今までに食べたことがない。いや、空腹が感じさせてくれるか分からない。ただ食らいついた。口端からこぼしても突っ込み続けた。
 周りを見る。私以外の者にもその男は慈悲を与えていた。
 それを満足そうに見届け彼は扉を開けたまま去っていった。
 どうすればいいのか分からない自分達の前にあのスーツを着た悪魔がやってきた。困惑を含んだ表情で…
 世界中の美女を集めたメイド達に世話をされた。弱り汚れきっていた身体の隅々まで優しく手間をかけて掃除された。
 その後は劇的に変化した。
 まず生活空間から変わった。あの身動き一つ取らせなかった虫の部屋から王が住まう部屋のように見たことのない品々に囲まれた部屋に隊ごと置かれた。置かれてもなお広いと感じた。
 次に食事だ。まるで貴族の食事だった。何か分かりたくなかった食事から何か分からない食事になった。おいしすぎるのだ。どうやったらこんな物が作れるのかわからなかった。たかが食事になぜこれほどの効果を持つのか。それも捕虜以下の我々に…
 食事を運んできたメイドに聞いてみた。

 「なぜ私達は生かされているのでしょうか?」
 「それがぼっち様の御意思ですから」

 とても優しい顔で答えてくれた。それは自分に向けられたものではなくその『ぼっち』様に向けられた物なのだろう…

 「どのようなお方なのですか?」

 彼女は語ることが嬉しそうに『ぼっち』の英雄譚のような数々の武功、無口ながら優しい性格などの数々を語ってくれた。周りのメイド達も口々に語り出し、私だけではなく隊員全員が心の底から耳を傾けていた。
 そしてある言葉に耳を止める。『白い面をつけている』
 そう『ぼっち』はあの時我らを返り討ちにした男であり、あの時に我らを救った男…
 憎しみ…は無かった。あったのは崇拝…いや、狂喜だった…
 我らが崇めていた神々が霞み、壁の隅の染みと変わらぬほどに小さく見えるほど強大で絶対的な存在。そんな存在が我らのようなあってもなくても変わらぬ虫にも劣る存在に膝を突き、お救い下さったのだ…なんというお方だ…
 感極まって涙が流れてきた。メイドが気に留めたか声をかけてきた。

 「なんでもします。我らにもあなた様の神々に仕える機会をお与えくださいませんか?お願いします」

 涙を流しながら頭を地に着けた…



 俺はただ拷問は人道的に良いのかなあ的な事を言ったのになぜに恐怖公の部屋に入れることになったのか理解できなかった。
 確かに監視の目も無数にあり逃げる事も出来ないだろうが精神的に死ぬだろうがあの部屋じゃあ…
 守護者内でも彼らを嫌っているのに。あ、コキュートスとエントマは別で…
 入れる原因を作ったのは俺だから飯だけでもあげに行くかと足を進めた。
 メイド達は我々がと言ったが俺でも行くのを躊躇う部屋に女の子を行かせるわけに行かないと断った。
 近づく度に何かが蠢く音が聞こえる。いつも間にか足音が強くなる…
 入って目に付いたのは離れていく虫達。少しほっとして対象物を見つけた。
 対象物って思った辺り、本当に人間の考え方じゃないよなと思いながら膝をついてスープを差し出す。
 一週間ほどここで動けなかったのだろうと理解して食べやすいように姿勢をとらせてスープを口に持っていった。まるで雛に餌をやっているようだ。
 ぱしっ
 いつの間にか奪われ食べていた。あーぁ、そんなに入れるから口から漏れている。はあ……とため息をつきつつ、他の者にも餌を与える。
 やっとのことで与え終わるとさっさと退散していった。嫌いではないけれど居たくはない………
 数日後にメイド達に彼らの事を聞いた時にはびっくりした。
 俺が食事を与えた=慈悲を与えた=彼らに対して虐げる行為は避ける=扱いが良くなる
 なぜこうなったし?そのうえ最後には=アインズ・ウール・ゴウン狂信者が発生した。
 本当に何がどうなってこうなったし……………



 チェリオは最近まで連れ帰った事を忘れてた…


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第018話 「とある守護者の一日」

休みの朝早く(すでに昼前…)
お年玉片手に(自分から自分への…)
マイ・カーに乗って(自転車…)
昨日ぼっちカラオケ行って来たチェリオです。
…喉が痛い…ぼっち三時間辛かった…



 マーレ・ベロ・フィオーレの一日は極寒のような部屋から始まる。
 皆様には経験あるだろう。冬場は寒く、布団の中が暖かい。すると布団の中から出にくくなり寝るときはすんなり寝れて、朝起きる時は辛いことが…
 この部屋の主であるマーレは魔法を使用してまで部屋の温度を下げて、快適な安眠を行っている。 
 ゆえに訪れる朝の辛さが…

 「マーレ、起きなさいってば!」

 いつもはおどおどして皆の言う事を理解するのだが朝になると頑固として起きようとしない。
 毎回アウラが起こしに来るのだが素直に起きた事などない

 「むう…あと五分…」

 寝言のような一言を言い終えると二度寝しようと布団の中へと潜ってゆく。
 わなわなと怒りで肩を震わすが効果的な方法を思い出しそっとマーレの耳元へと近づいていく。
 前に大きな声で叫んでみたのだが逆に潜られ出てこなかった。
 布団を剥ぎ取ったらシーツに潜り込むしまつ。
 そんな今までの労力を無駄にする一言…

 「早く起きないとぼっち様に相談しちゃうよ」

 さっきまでの行動が嘘のように布団から飛び出す。

 「ま、待ってよお姉ちゃん。今…今起きたから!」

 マーレの頭にある一件が思い返される。
 あまりにマーレが朝起きない事をアウラが至高の御方々に相談したのだ。
 アインズ様は「寝る子は育つと言うし、少しぐらいは良いんじゃないか?」という返事だったのだがぼっち様は黙ったまま答えなかった。
 僕はこれを至高の御方々から黙認されたと判断してしまったのだ…

 

 朝6:00
 その日は朝7:00からお仕事が入っておりいつもと変わらぬ時間に寝ていた。
 部屋は寒く、布団の暖かさにあっという間に意識を奪われ夢の中へ旅立っていった。
 ゆさゆさと身体が揺すられる。
 お姉ちゃんが起こしに来たんだと思い、いつも通りに…

 「あと…5分」

 と答えてしまったのだ。すると五分きっかりにまた身体を揺さぶられた。
 まだ眠たかった為に布団の中に潜り込みまた5分の延長を申したのだった。
 何度も答えているうちに時間は6:25になった頃にまた揺さぶられる。
 今日のお姉ちゃんはいつもと違うなあ…と、思った時

 「マーレ!いつまでねてんのさ」

 お姉ちゃんが怒鳴りながら上がって来たのが分かった。

 …お姉ちゃんが上がってくる…

 ゆっくりと揺さぶられた方へ顔を向けた…

 「・・・・・・おはよう、マーレ」
 「!?!?!?お、おおおおおはよう御座いますぼっち様!」
 「へ?ぼ、ぼっち様!!どうなされたのですか」
 「おはようアウラ・・・」
 「お、おはよう御座います。ぼっち様」

 朝から驚きで頭いっぱいの二人にぼっち様は落ち着いたまま

 「アウラからの相談で・・・起こしにきた・・・」

 その一言を言い終えると姿をかき消すように消えていった。
 後から知ったのだがぼっち様は朝5:30からベット脇に座り、6:00から5分刻みに起こそうとしていたのだ。
 至高なる御方を一時間も。それもあんな寒い部屋に待たせてしまったのだ。
 アルベドやデミウルゴスを始めとする守護者達にこっぴどく怒られた。

 あの事件を繰り返すわけにはいかない。
 マーレはすぐさま着替えだした。確認したアウラは

 「いつもこうならいいのに…じゃあ、あたしは行くね」
 
 と部屋を出たアウラを追うかのようにマーレも家を後にした。



 「おや?今日はずいぶんと早いんだね」
 「…おはよう…」

 会議室に先に来ていたデミウルゴスとモミがマーレを迎え入れた。

 「おはようございまう。デミウルゴスさん、モミさん」

 今日の仕事は物資の生産体制の規定を作ることにあった。
 新たに生産エリアに指定された第11階層は生産能力が高すぎてすぐに貯蔵エリアを溢れさせてしまうのである。ゆえに今日の会議である程度の目処をつけてアインズ様にお渡ししなければならない。
 
 「……今日は早く起きたんだ…」
 「は、はい」
 「まあ、早く起きてもらわなければ困るのだがね…この前みたいな事が再びあったりしたら…」

 他愛の無い会話の中でこの前の事件を思い出したデミウルゴスの怒気で会議室が満たされる。
 あれからマーレは何度と無く言われてきている。皆が至高の御方々の事で頭がいっぱいなのだ。自分だって他の誰かが同じ事をしていれば何度も注意していたのかもしれない…
 
 「まあ、その話は置いといて…さっさと仕事終わらせようよ…」

 助け舟を出したのはモミであった。
 モミはぼっち様が創り出されたNPCでその地位は守護者以上、統括以下と曖昧な事になっている。
 原因は設定の一部に《ギルドメンバーに近しい者》という一文があり、守護者達が協議した結果で地位が決まったのだ。
 
 「ふむ。君の意見はもっともだがもう少し言い方をどうにかできないものかな」
 「ヒヒヒ…それは無理…」

 僕もモミさんの言葉を不快に思うときがある。
 まるで友達に話しかけるように話すのだ。
 彼女は至高の存在は自分達の命令権を持つ者であり守り通さねばならない者であって、崇拝や絶対的な支配者ではないのだ。
 以前アインズ様が「もし私とぼっちさんのどちらかにつかねばならない時が来たらどうする?」と守護者各員に聞かれた事があった。
 僕を含めてほとんどの者は答えが出なかった。口には出さないが決めているアルベドさんと口出すのも問題があると口を閉ざすデミウルゴスさん、誰も答えを口に出来なかった空間でただ一人口を開いたのがモミさんだった。
 
 「そんなの決まってる…私はナザリックに理があるほうにつく」

 そうだ。彼女は高らかに宣言したのだ。例え自らの創造主であるぼっち様ですらナザリックに害なす者と判断したらアインズ様につくと…
 この一件は守護者間で問題になったがアインズ様はその答えを聞き安心され、ぼっち様が認めたため何のことも無く終わった。
 そして皆が気付く。彼女は私達と違う守護者なのだろうと…
 
 「では会議を始めようか」
 「はい。わかりました」 
 「……了ー解ー…」

 


 会議が始まって5時間が経ちようやく規定書が出来上がった。
 
 「これならアインズ様もご納得していただけるでしょう」
 「私は…早く部屋で寝たい…」
 「え?あのー、まだお昼前ですよ?」

 あくびをしながら心の声を口に出したモミは今すぐにでも寝ようとしている。
 呆れ果てた顔をしたデミウルゴスが深ーいため息をついた。

 「まったく…そんな事では…!?」
 
 皆の動きが止まった。誰も居なかった場所に突然ぼっち様が現れたのだ。

 「これは!ぼっち様今日はどうなされましたか?」
 「おー…ぼっち様…」
 「………」

 なんだろう…胸の辺りがもやもやする。
 ぼっち様が度々デミウルゴスさんと何か話し合っている事を目撃する。大抵何かの業務の確認なのだがそれでもデミウルゴスさんに話を持っていくことが圧倒的に多いのである。

 その度に胸の辺りがもやもやしてお姉ちゃんやシャルティアさんに相談したところお姉ちゃんは「応援するよマーレ」と言い、シャルティアさんは「マーレまで!?ま、負けないでありんす!!」と言われただけで原因も不明のままで今に至る。

 「・・・少し話がある・・・」
 「お、お話というのはなんでしょうか?」
 「モ・・・アインズさんが外に出る・・・その件」

 情報収集のためにアインズ様が人間達の町へ出かけると言う事は守護者だけではなくナザリック全体に広がっていた。同時にぼっち様が先行して別の情報収集拠点の確保と資金源の入手のために町へ行かれるのだ。
 守護者各員は反対したのだがアインズ様の決定は翻る事はなく、最低でもプレアデス以上の護衛者を付ける事で終了したのである。

 「君らなら・・・アインズさんの支援でどのような事を行う?」
 「え、えーと…どうしましょう…」
 
 この時情けない事に何もいい案が出なかった。助けを求めるようにモミさんを見ると

 「…こういうのはデミデミに任せるに限る…」

 と手をひらひら振りながら質問自体をデミウルゴスに投げた。ぼっち様の前でその態度は無礼に当たると抗議の視線を送るが当の本人が気がつかなかった為、何も起こらなかったが…
 デミウルゴスさんは手を顎の辺りに被せて悩んでいる。一瞬ニヤっと笑い口を開いた。

 「そうですね。まず必要となるのが資金でしょうか。ユグドラシルの金貨が使えない以上、現在あるのはあの陽光聖典の者達がアインズ様に献上した硬貨のみ。ならば早急に資金面での支援が必要になるでしょう。
 次に情報。それも冒険者として行かれるアインズ様に限定すると、町の近くに出没するモンスターデータに地形データなどの情報が必要となるでしょう
 そしてぼっち様の任務を考えると冒険者に関わりつつ資金源を集める拠点を考えると冒険者が集まれる集会所や宿泊所…また武器・アイテム店などが宜しいのではと…」
 「さすがはデミウルゴス・・・よく考えたな・・・」
 「いえいえ、ぼっち様ほどでは…」

 満足そうに頷くぼっち様に頭を垂れるデミウルゴスの頭に手が置かれた。
 お姉ちゃんや僕を撫でるようにデミウルゴスさんも撫でていた。
 嬉しそうに頬を薄っすらと高揚させるデミウルゴスさんを見ていたらもやもやがまた発生した。

 「ぼ、ぼっち様!」

 気がつくと大きな声を上げていた。
 驚きこちらを見るぼっち様の手は止まり、名残惜しそうにぼっち様を見つめるデミウルゴスさん。
 なんだか心のもやもやが収まった…

 「つ、次こそはお役に立って見せます!」
 「そ、そうか・・・・・・ではな」

 そう呟くといつも通り姿を消した。
 僕はさっきの会話で疑問に思ったことを聞いてみた。

 「さっきのはど、どういう意味なんですか?」
 「ん?ああ、さっきのことですか…」
 
 一瞬恨めしそうにこちらを見たがすぐにいつもの表情に戻った。
 悪い事してしまったなあ…

 「先ほどの質問は我々を試していたと言う事だよ」
 「???」
 「…どゆこと?」

 やれやれと肩を竦め、説明を続ける。

 「良いかい?私が思い至った事なぞ至高の御方々ならすぐに思いつかれるだろう。それなのにあえて私達に聞いた。なぜか。我々がどの程度の事を理解し行動できるかを試されていたに他ならない。それに以前仰られた事の中に「思考することの大切さ」を語られた事があった。多分これからも今みたいな事があるだろう。ぼっち様は我々に問題を与えては思考させ、何が最善で最悪かの判断が出来るように教育してくださっているのだよ」

 僕は自分への苛立ちともやもやでいっぱいになっていた。
 そんな事を考えられていたのに意図を汲み取る事ができなかった…
 デミウルゴスさんと二人きりでいろんな話をしているんだ…
 そんな二つの感情が溢れかえりそうになっていた。

 「で、では僕は戻りますね」
 「そうですね。私も早くアインズ様にこれをお渡しせねば…」
 
 マーレとデミウルゴスは席を立ち、会議室より出て行く。

 「……二人とも考えすぎと思うけど…」

 残っていたモミがそう呟いた。



 今日は散々な一日だった…
 ぼっち様のご期待には答えれずに午後のお仕事では普段しないミスを連発してしまったのだ。
 そしてあの時からこのもやもやが取れない…
 
 (僕…どうしちゃったんだろう…)

 はぁーとため息を付いていると

 「どうした?」
 「うひゃあああ!?」

 驚き振り返るとぼっち様が不思議そうに首を傾げながら立っていた。
 何か言わなきゃと焦る中でもやもやが消えている事に気がついた。

 「ぼ、ぼっち様…えーと…そのー」
 「?」

 言葉が出てこない。何か言わなくちゃ!と今度は焦りでいっぱいになり始め、口を開いた…

 「今日一緒に寝ませんか?」

 自分口からでた言葉にマーレは赤面した。まさかこの一言が出るとは思わなかった。前にお姉ちゃんが倒れた時に一緒に寝たことがありそれからまた一緒に寝たいという願望はあった。まさかこんな時に…
 ぼっち様の顔を窺がうと朗らかに笑っていた。もちろん目と雰囲気でだが…
 
 「・・・良いぞ。マーレ」
 「!?本当ですか?」

 マーレは嬉しそうにぼっちの手を引き、帰路へとついた。
 その日の夜はいつも以上に安心して眠りについた。
 ちなみにぼっちを独占した事でアウラやシャルティアはもちろんデミウルゴスにも攻められたと言う…



モミ  「お知らせです…」
チェリオ「感想で書かれた疑問・質問があった場合、次回のあとがきでチェリオとモミ     がお答えしようと思います」
モミ  「まあ、答えられる範囲で…フヒッ…」

ぼっち 「・・・・・・不安」


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第019話 「いざ町へ」

さてこれでやっと二巻、三巻に突入できる…長かった…

1月13日 『店名変更』と『話せる理由』を追記


 「急がなきゃ…」
 
 漆黒の剣の魔法詠唱者であるニニャは急いでいた。
 今日は漆黒の剣のメンバーでゴブリンやオークを退治する仕事に出る予定だったのだ。
 ニニャにしては珍しく寝坊してしまったのだ。
 今、走り抜けようとしている路地を曲がれば冒険者組合はすぐそこだった。
 
 「たっ!?」
 「・・・」
 
 曲がった矢先に誰かとぶつかってしまった。
 「すみません」と謝ろうとしたが口が動かなかった。
 貴族だ。
 しわ一つない黒いスーツに赤いコートにシルクハット。顔につけている白い面だって高価な物だと分かる。身嗜みでこれだけの事をするのだ。貴族だと判断するには十分だった。
 姉を貴族に連れ去られた過去を持つニニャとしては謝りたくなかった。

 「貴様!ぶつかっておきながら詫びの一つもないとは!!」
 「…無礼極まりない…」

 貴族の護衛だと思われる頬に大きな傷がある男とポーカーフェイスで感情が分からないアイパッチで片目を隠したメイドが怒りをあらわにしていた。特に怒鳴る男よりメイドの少女のほうが怖かった。
 貴族はすっと二人の前に手を出して静止させた。

 「お怪我は御座いませんか。お嬢さん」

 周囲の目が貴族に集まった。
 貴族とは傲慢で庶民の事などなんとも思ってない者ばかりと思われているし実際にそういう輩のほうが多いのだ。
 だが、目の前の貴族は違った。土が付く事をまったく気にせず片膝を地面に付き、手を差し出していた。何よりも白い面から除かせる片目が優しげな光に満ちていた。
 ただ言葉を失いつつその手をとった。
 貴族は優しく引っ張り、尻餅をついていたニニャを立たせた。
 
 「あ、あの…すみませんでした。急いでいたもので…」
 「いえいえこちらこそ申し訳ありません」

 やはりだ。貴族なのに貴族らしくない。優しすぎるのだ…

 「あ、お急ぎの中、申し訳ないのですが冒険者組合はどちらでしょうか?」
 「…冒険者組合でしたらこれから向かうので…ついて来られますか?」
 「おお、それはありがたい。ぜひ、お願いいたします」

 それから100Mも無い距離を歩き、組合前に立った。

 「ここだったのですね。どうやら行き過ぎていたようで」
 
 二人の従者が申し訳なさそうに謝っている。貴族は気にかけることもなく許していた。
 
 「では、仲間が待っていますので…」
 「そうですか。連れて来て頂いたのですから御礼をせねば」

 そう言い貴族は一本のナイフを取り出した。
 
 「あのコレは?」
 「コレはナイフ・バットと言う投げナイフです。お守り代わりにどうぞお持ちください」
 「こんな高そうな物…本当によろしいんですか?」
 「ええ、構いませんよ。もし投げる時があるならば目標をつけて投げてくださいね」
 「ありがとう御座います。…すべての貴族が貴方みたいな人だったら良いんですが…」

 ニニャは別れ際に振り返り

 「お名前はなんと言われるんですか?」
 「アルカード・ブラウニーと申します。以後お見知りおきを」

 仲間と合流し彼の事を話していると一つ気が付いた。

 (あの人なんで女だと分かったんだろう…)



 ぼっちは満足そうに冒険者組合のロビーの一角に座っていた。
 今回は本当は町に行かない予定だったのだ。だが、

 「やはりぼっちさんに偵察をお願いしてもいいですか?出来れば拠点を確保できれば良いのですが…」

 その時は多少偵察をすればいいかなと思っていたらいつの間にか俺が情報収集&資金源入手の拠点を作ることに…
 まあデミウルゴスのアドバイスを聞いたからもうちょっと楽になったが、あのときの含みのある笑いはなんだったんだろう?
 
 町に来て良かった。
 誰と喋る事になるか分からないしあんな大勢の前に出て何をしろと…ぼっち人ごみ嫌い。ぼっち人ごみ怖い。
 と思っていたのだがさっきの少女と同じように喋れたのだ。いつものが嘘のようだった。
 今の俺は輝いている。
 事実輝いているのだ。誰にも見えてないけれどな。
 ぼっちには一分間60回も精神が安定させられているのだ。一応シズに確認を取ったが光ってないと言われたので間違いないだろう。
 コミュ症を自負しているぼっちがすらすらと喋れているのはその精神の安定化のおかげである。と言うのもぼっちが話すのは話す事による恐怖心などの感情的なものである。
 いつもは平均と判断され安定化されないが今回は馴れない環境で精神が乱れに乱れている為安定化が発生し、感情的なものまで和らげられ話せるようになったのである。

 この町、エ・ランテルに入ったのは三日前である。
 まず大きな屋敷を買った。その時の金は現在組合員と話しているニグンが提供した資金であった。持っていた物ではなく法国の自宅にあったお金をぼっちとシズが侵入してとって来たのだ。
 本人の許可は取ったのでこれは窃盗ではない。大事な事なので二回言おう。窃盗ではない。
 一日目は屋敷を買ってその手入れに費やし、二日目は地図の作成であった。まあ、ぼっちの一人作業であったが…
 そして三日目の今日は換金である。
 前にニグンの上位天使を一発で消し飛ばした飛びナイフ。《ナイフ・バット》である。
 ナイフ・バットはスキルではなく《クリエイト・ヴァンパイヤ・アイテム》と言う魔法によるアイテムなのだ。
 短刀でもナイフでも良いから刃が付いてる短い物ならばなんでもナイフ・バットに出来るのだ。
 狙いをつけるだけでホーミングしていくナイフ・バットも欠点がある。持てる数が決まっているのだ。上級天使を倒したのは中級で10本、上級は8本、特上は3本。現在ニグンが売っているのは下級で12本である。それぞれの本数を超えると使用不可になってしまうのだ。(能力がなくなるわけではない)
 これで値段を聞いて下級を軸に資金集めを行うのである。

 「ぼ…失礼しましたアルカード様」

 横で黙って座っていたシズが話しかけてきた。

 「どうしました?」
 「さっきの…無礼働いた…後で殺す?」

 そうとう怒ってくれているのだろう。そんなに怒らなくても…汚れたズボンだったら喜んでメイド達洗ってくれるよ?取り合いになるぐらい…

 「放っておきなさい。いいね」
 「…はい……」
 
 話しながら頭を撫でると甘えた子猫みたいな表情をしてくるシズ。最近撫でるのに慣れてきた気がする。この前デミウルゴスを撫でた気が…

 「アルカード様」

 嬉しそうにお金が入った袋を持ってニグンが戻って来た。

 「どうだったニグン?」
 「はい。言われた通りにアルカード様の店のこと商品のことを話しておきました」
 「よくやりましたね」
 「そんな私は貴方様に仕える虫けら。御気にならずに使い潰してくれるが本望でございます」

 うーわー…なぜにこうナザリックには忠臣ばっかりなんだろう?良い意味でも悪い意味でも…

 「で、いくらになりましたか?」
 「大変貴重なアイテムですので20金貨となりました」
 「そうですか…では、目的は果たせました。行きましょうか…」

 正直この世界の金貨の価値が分からないので放置で…まあ、あとでモモンガさんが大喜びしていたから良いか…
 建物から出て行くとき全身フルプレートの戦士と美しい冒険者と挨拶もなくすれ違った。
 
 「これからは予定通りに…」
 「ええ、ニグンには店を任せます。私とシズはセバスと合流後、シャルティアの仕事へ向かう」
 「畏まりましたアルカード様。このニグン、身命を賭してでも任務を全うしてご覧に入れます」
 「では、また会いましょう」

 そう言ってニグンと分かれてシズと共に向かった。
 この時ぼっちはニニャに特殊なナイフ・バットを渡してしまった事に気付かずにいた。



 「ンーフフフ。こーれでカジっちゃん動くかな」
 
 路地裏で一人の女が笑う。
 表情から猫を連想させる女性はキラキラ光る物を胸元へしまいながら歩いていた。
 目的地はエ・ランテル共同墓地。
 秘密結社《ズーラーヌーン》のカジット・デイル・バダンテールがいるのである。

 「こんな路地裏を女性の一人歩きは危ないですよ?」
 「!?っ誰だ!」

 気配も物音一つ立てないで背後に立った貴族を睨みつつクレマンティーヌは距離を取る。
 同時にスティレットを抜き警戒する。
 怖い。
 これまで死地や地獄を見て来た。だが、これほど怖いと思ったことは今まで一度となかっただろう。
 自分が気付かないほどの実力者…警戒しない訳がない。
 スレイン法国の最秘法の一つ《叡者の額冠》
 彼女はそれを奪ってここに居るのだこいつは追手の類かもしれない。
 
 跳んだ。
 地面すれすれまで身体を落とし地面の上を滑るように跳び、一直線に貴族を狙っていった。
 貴族は避ける事などしなかった。
 消えた。
 そう思った時には横から押さえられていた。

 「な、なにが…」

 信じられなかった。今自分の身に起きた事が…なにがどうなってこうなった…理解できない。
 そんなクレマンティーヌに対し貴族は

 「なかなかいい動きでしたよ。それにその目…なかなか引き付けられるものがありますね」

 何事もなかったように優しげに話してきた上に立たせてくれた。
 一枚のカードが渡された。表にアルカード・ブラウニーと書かれ裏には武器・アイテム店『ヘルシング』と言う店名と地図が書かれていた。

 「…何よコレ?」
 「何かありましたらお越しください。貴方の事を少なからず気に入りましたので…では失礼いたします」

 貴族…ぼっちはそのままシズを連れてクレマンティーヌを通り過ぎ、セバスとの合流地点を目指す。
 この行動が最悪の事態に繋がるとは思いもよらなかっただろう…



チェリオ「感想を書いて下さった方々にまずお礼申し上げます。質問?と言うか気になるところに返答しようと思います。感想の返信でも書いていますが」
モミ  「…では『生産用と言えますな。迎撃用である他の階層とは比較にならないでしょう』…確かに迎撃要員は三名以外生産要因で面積の90%が生産地だもんね…」
チェリオ「ちょっと待て。防衛要員は君を入れて4人じゃなかったか?それにハイネは生産兼任だぞ?」
モミ  「………」
チェリオ「おーい…」
モミ  「それよりまた誤字があったらしいね」
チェリオ「う!?」
モミ  「アインズ様がアンイズ様って…ぷぷっ」
チェリオ「まことにすみませんでした…」


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第020話 「ナーベの後悔の依頼」

 残業続きのチェリオです。
 今回から三話ぼっち出番無しの回です。これからモモンガ…いや、アインズ…否!『モモン・ザ・ダーク・ウォリアー』の冒険が始まる…

 この回は残業が終わり寝るまでの3時間で書いた為いろいろと間違いがあるかもしれせん。誤字の指摘があれば頂ければ次の日までに直そうと思います…


 ナーベラル・ガンマは鼻高々であった。

 ナーベラル自身ではなく共に歩を進めているアインズの事であった。いや、違った。冒険者モモンと名乗っている主と言ったほうが良いのか。
 現在モモンとナーベは漆黒の剣と言う冒険者チームと共に薬師のンフィーレア・バレアレの依頼を受けてカルネ村にと向かっている最中である。
 つい先程戦闘を終えたばかりだ。と言っても低レベルのゴブリン、オーガ程度であったが…されど絶対的支配者であるアインズ様が一刀両断するさまは圧巻であった。相手が有象無象だろうがなんだろうがどうでも良い。アインズ様が行なわれた事こそが重要でる。元々魔法職であるアインズ様が接近戦を行なう事などなく、これを目の当たりに出来た幸運を心の底より喜んだ。
 
 「さすがでしたねモモンさん」
 「凄まじい一撃だったのである」
 「てかオーガを一撃ってどんな腕してんだよ」
 
 下等生物がモモンさ…んを称えている声が聞こえる。普段なら気にも止めない存在ではあるが主を称えるのであれば多少価値が出る。
 
 (後でユリ姉さんやエントマに話してあげようかしら…)

 羨ましがる二人を想像しながら道を進んでいると柵が見えてきた。

 「あれ?前はあんな柵無かったんだけど…」
 
 一人荷馬車に乗る少年、今回の依頼者であるンフィーレアが首を傾げながら口を開いた。
 漆黒の剣のペテルにルクルット、ダインにニニャがそれぞれ辺りを警戒する。
 入り口付近には不恰好ながら身を隠すだけの茂みが作られていた。思ったとおりにその茂みより何かが現れた。ゴブリンであった。それも武器を構えこちらを警戒しつつ囲んでいた。

 

 囲まれた後、一同はカルネ村の中へと案内されていた。囲んでいたゴブリンは以前アインズ様とぼっち様が出会った少女、エンリに渡したアイテムにより召喚された者達であった。すぐに包囲は解かれ今こうして居られるわけだが…

 「あぁ…」

 頭を抱えたくなる。
 ここに来て自分のミスが発覚してしまったのだ。それも重大な物だった。道中ルクルットに「ナーベちゃんってモモンさんの彼女?」という問いに焦り「モモンさんにはアルベド様という方が!」と答えてしまったのだ。その結果、前回カルネ村に来たのがアルベド様とアインズ様だったことからモモンさん=アインズ様とンフィーレアにばれてしまったのだ。
 先程までの歓喜は消え失せていた。そんな時に…

 「ナーベちゃん何かあったの?俺が慰めて…」
 バキャ
 
 ルクルットが言い終わる前に近くにあった木に一撃を入れる。あまりの怒気にルクルットもたじろぎ離れる。
 
 「ルクルット。次はお前だぞ」
 「お、おう。今行くよ」

 漆黒の剣の面々は稽古をつけてもらっていた。相手はロートル・スケルトン・ナイトである。何故こんな村に中レベルのモンスターが居るのか分からなかった。モモンさ…んにお伝えしようとも村長やンフィーレアと話していてる最中なのである。
 ニニャを除いて皆楽しそうに剣を交える。呆れてものも言えない…誰一人気付いていないのだ。相手がどれだけの脅威なのかを…
 中レベルモンスターと言ってもこの世界では勝てる者などそうそう居ないだろう。下手をすれば国が滅ぶレベルである。そんな化物が手加減して相手をしてくれている事すら気付かぬとは…
 ため息をつく。

 「どうかしましたか?」

 少年が心配そうに声をかけてきた。確かロートルを先生と慕っていたマイン・チェルシーだったか…
 この村は至高の御方々のアインズ様とぼっち様自らがお助けなさった村。例え蛆虫以下の下等生物であろうと邪険にしては無礼に当たると思いいつもの凛とした表情に戻す。

 「いいえ、大丈夫ですよ」
 「そうですか…」
 
 何かを聞きたそうにもじもじしている。何なのだろうかと聞こうとすると再び口が開く。

 「さっき…一緒に居たももんさんでしたっけ?皆さんに聞いたら途轍もなくお強いと聞いたのですが…」
 「ええ、もちろんです。この世であの方に敵う者などいませんから」

 心の底から当たり前ですと思いつつ答える。この少年も彼らからの話を聞きモモンさんを称えるであろう。ナーベの予想はナーベの言葉により脹れた少年の一言で吹き飛ぶ。

 「確かに強いとは思うけどそれだけだと僕は思うよ」

 ピシ

 額の辺りで何かが割れた音がした。気付かぬ間に人を殺せるような睨みをマインに効かせていた。が、そんな事気にせず見つめ返してくる…
 この下等生物が!と灰にしてやろうか!!と言う気持ちを何とか抑えつつ口を開く。表情は抑えていないが…

 「何を言っているのですか貴方は…世界を知らないのですね。あの方こそ最強です」
 「そんな事はぜっっっっったいに無いよ」
 「っ!?……貴方も見たでしょう?貴方の先生がモモンさんに敗れたところを」

 そうだ。漆黒の剣の面々が稽古を付けてもらう前にモモンさんが剣を交えたのだ。結果はモモンの勝利だった。

 「む!確かに先生は負けたよ。でもあれが剣士の戦い方って言える?ただ肉体に物を言わせただけの物じゃない。剣士としての技能がまったくの皆無だよ」
 「へぇ…言ってくれるじゃない」

 あまりの空気に稽古を止めて心配そうに皆が見つめていた。そんな事には気付きもせず言い合う。

 「だったらあの方より優れた者を教えてもらえるかしら?居るはずもないでしょうけど」
 「居るよ!アルカード様なら一太刀を浴びることなくぼっこぼこに出来るよ」
 「アルカード?誰ですかそれ」

 まったく聞き覚えの無い名に首を傾げる。ぼっち様が得られたこの世界の有名な戦士のリストにはそのような名は無かった。

 「まあ、大した事ないでしょうに…」
 「そんな事ないもん!あの人の剣技は神業なんだから。あの完成された剣捌きを見れば分かるよ」
 「そんなにすごいんですか?」

 この怒気漂う空気に負けずペテルが輪に入って来た。ナーベを睨んでいたマインの顔がぱあっと明るくなった。

 「すごいんですよ。とっても強くて貴族なのに僕たちにも優しく接してくれるんですよ」

 怒涛のようにペテル達に話している。その中に容姿の話になった。黒いスーツに赤いコート、白い面…何か身体の中の血が凍てつく感じがした。いや、そんなはずはないと頭を振るう。
 
 「もしかしてアルカード・ブラウニーさんですか?」

 貴族と聞いた時は渋い顔をしたニニャがこんどは笑って話に参加して来た。意外そうに皆が見る。

 「あれ?ニニャは貴族が嫌いじゃなかったか?」
 「もちろん嫌いですよ。でも何かあの人は違うというか…」
 「ああ、この前話していた貴族であるな」
 「あー…はいはい、ニニャの初恋ね」
 「初っ!?ち、違いますよ。そんなんじゃないですって!ほ、ほらお礼でこんな物まで頂いたし…」

 一本の短刀が目に入った。装飾された高価そうな短刀。そんな事はどうでも良かった。そのステータス…ぼっち様が製作するナイフ・バットであった…
 確定した…黒いスーツに赤いコート、白い面を付けた剣技に優れた貴族でナイフ。バットを所有する…アルカード・ブラウニーはぼっち様の偽名なのだと…

 アルカード・ブラウニーの名を知っているのはカルネ村で名を聞いたマインに、共をする事になったシズとニグン、報告を受けたアインズだけで他には話していないのだ。

 「ん?どうしたナーベ」

 村長との話が済んだモモンが頭を抱えるナーベを発見し声をかける。

 「い…いえ…お気になさらず…」
 「そ、そうか…」

 余りの沈みっぷりにモモンはそれ以上聞けなかった…



モミ  「ナーベが…沈んでく…」
チェリオ「そっとしておこう…」
モミ  「……2連続誤字もそっとしとく?」
チェリオ「すみません。そして誤字のご指摘ありがとうございます!」
モミ  「…ありがとう……ヒヒッ」


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第021話 「エ・ランテルでの攻防戦:前編」

すみません投稿するのすっかり遅くなりました

今回は前編・後編二つに分けたお話です。第二巻はその二つで完結します!


 「やっぱり遊んでもいいかな?」
 「時間が無いと言っている」

 ニニャは泣き出しそうになるのを必死に堪えて敵と対峙していた。
 数日前に冒険者組合で出会ったモモンさんと共にンフィーレア・バレアレからの依頼を達成した後、ももんさんはトブの大森林で手懐けた魔獣を冒険者組合に登録する為に一旦別れたのだ。
 荷物をンフィーレアさんの家の中に運ぶまではすべてが順調だった。
 現在、年老いたマジックキャスターとンフィーレアさんの家で待ち伏せをしていた女剣士に襲われているのだ。
 老人の元には気を失っているンフィーレアが居る。
 女剣士は殺す事を楽しんでいるようだった。
 相手はオリハルコン…もしくはアダマンタイト級の腕の持ち主だろう。こちらは4人と言えど現状戦えるのは後衛を務めていたニニャだけでペテルもルクルットもダインも辛うじて動けるだけで重症であった。

 「後がつかえているのだ早くしろ」
 「ん~。仕方ないか」
 
 老人が急かすと女剣士は残酷な笑みを浮かべながら近寄ってきた。

 (助けて…モモンさん!)

 

 「ンフィーレアやーい。モモンさんが来たよー」

 モモンことアインズはナーベラル・ガンマ…ナーベと依頼主であるンフィーレアの家に来ていた。家の前に待機している森の賢王ことハムスケを冒険者組合で登録と組合からの報酬を受け取っていた為に遅くなったのだ。道中でンフィーレアの祖母であるリィジー・バレアレと出会い一緒に向かったのだ。
 中は暗く返事も返ってこない。
 気配を多少ながら探っては見たものの誰の気配も無い。

 「な、なんじゃあこれは!?」

 奥に行ったリィジーが叫び声を上げた。ナーベを連れて奥へと向かうと奥の一室は血で汚れていた。それも結構な量である。

 「モモンさん!?」

 後ろから声がかけられ振り向くとそこには血まみれのニニャが立っていた。

 「ニニャさんどうされたんですか?」
 「ンフィーレアさんが…ンフィーレアさんが連れ去られました!」
 「ンフィーレアが!?」
 
 リィジーは孫がさらわれた事を聞きパニックになっている。アンデット化しているおかげで冷静なのは本当に助かる。
 
 「ナーベ…ついて行って守ってやれ」
 
 短い返事と共にナーベは孫を探しているリィジーについて行く。

 「ペテルさん達は?」
 「こ、こっちです」
 
 案内された他の部屋に漆黒の剣の面々が寝かされていた。医者を呼ぶ暇も無く必死に一人で応急処置を施していたのが良くわかった。
 とりあえず状況確認を始める事にする。

 「何があったんですか?」
 「へ、部屋に入ったら女の人が居て…その人はンフィーレアさんを…」
 「落ち着いてくださいニニャさん。相手の目的は?」
 「叡者の額冠ってのをンフィーレアさんに使わせてアンデス・アーミーという魔法を使うと」
 「アンデス・アーミーだと?」
 
 アンデス・アーミーは下位アンデッドを大量に召喚する第七位階の魔法。

 (ぼっちさんから得た情報ではこの世界では第3位階までだったはず…プレイヤーか?…いや、叡者の額冠というアイテムを使えば可能なのか…用心に越した事は無いな)
 「相手の数は?」
 「えーと短剣を使う女性の剣士と老人のマジックキャスターでした」
 「何処で行うか分かりますか?」
 「それは……!墓地でどうとか言ってました」
 
 そこまで聞くとナーベとリィジーが戻ってきた。
 
 「ニニャさんは冒険者組合へその事を伝えてください。リィジーは彼らの治療をお願いしても?」
 「しかし、ンフィーレアが…」
 「仲間の事をお願いします!僕は急いで伝えてきますので」

 冒険者組合へとニニャは駆けて行く。リィジーは奥で寝ている者達の治療を始める…

 「リィジー・バレアレ…取引をしないか?」



 ハムスケにまたがったモモンはナーベと共に墓地へと向かっていた。
 血塗れの部屋で特殊な魔法を感知した。あの魔法はぼっちさんの魔法武器ナイフ・バットで発生した魔法の跡だ。敵ではなくニニャが使ったのだろう。

 (ならばぼっちさんの関係者だったのだろうか…)

 一瞬ぼっちさんを呼んだ方が良かっただろうかと思ったが数日前に…

 「シャルティアを・・・」
 「ええ、この世界にはガゼフが使ったような武技と言う物がありましたよね?」
 「・・・・・・(こくり)」

 執務室でぼっちさんと町へ行く打ち合わせをしていた時にある話が出たのだ。ぼっちさんは頷き話を聞く。

 「シャルティアにはそういう者の捕縛を任せようと思いまして。ちょうどセバスのほうでかかった者達の中に居ないかと…」

 そこまで言うとぼっちさんは何か考え込み口を開いた。

 「・・・ついて行っても?」
 「え?ええ、かまいませんよ」
 「・・・・・・感謝・・・」

 あのときのぼっちさん嬉しそうだったな。
 そう言う訳でぼっちさんは今頃シャルティアと合流している頃だろう。
 ピピッとメッセージが入った。
 
 《アインズ様。至急お伝えしたい事が…》
 「今は忙しい。後でかけ直す」
 《分かりました。ではアルベド様にお掛け直しください》

 エントマとのメッセージを終了させると近くまで迫った墓地の入り口を睨んだ。




 「くそ!あの糞ガキ…っ!?」

 いつもの余裕が無くクレマンティーヌは顔を苦痛で歪ませつつ路地裏を歩いていた。痛みが左肩を襲い右手で押さえる。その右手は大量の血で汚れていた。



 「後がつかえているのだ早くしろ」
 「ん~。仕方ないか」
 
 カジットに急かされたクレマンティーヌは止めを刺そうとと相手に近づく。
 シルバーのプレートが4人だが自分と比べると雑魚でしかなかった。大した技量も大した魔法も使えない冒険者など恐れる事も無かった。
 急に何かを思い出したのかニニャと呼ばれた少年が何かを取り出したのかが分かった。
 
 「ぷはッ!?なぁにそれ?マジックキャスターがナイフ一本で私とやりあう気?」

 取り出したのは一本の短剣。柄に装飾が施されている事から高価な物と分かる。ただそれだけの物。
 小鹿のように震えるニニャをカジットも笑った。
 
 「目標をつけて投げる…」
 
 一言呟くと馴れない手つきで短剣を投げた。届く事の無く短剣はクレマンティーヌとニニャの中間あたりに落ちていった。
 落ちて行くはずだった…
 跳ねた。
 地面に当たって跳ねたのではなく空中で跳ねたのだ。跳ねた短刀は左肩目掛けて跳んで来た。
 すかさず愛用のスティレットで迎撃する。スティレットと短剣がぶつかり合い弾く。……予定だった。
 ぶつかり合う瞬間、クレマンティーヌだけではなくカジットもありえない物を目にした。
 短刀の柄に小さな羽根が生えたのだ。羽根をばたつかせスティレットを避けクレマンティーヌの左肩に突き刺さる。同時に肩の後ろまで実体ではない黒い剣が貫通した。

 「ぐあっ!?」
 
 壁まで吹っ飛ばされたがすぐに戦闘態勢を取った。
 このナイフ・バットは中級の一点特化型の亜種であった。通常の中級ならば当たった瞬間に身体の半分を持って行かれていただろうが一点特化型は貫く事に重点を置いているため肩を貫く程度ですんだのだ。

 「ぐぅぅぅ…何なんだよそれは!?」

 とんでもない一撃を受け余裕が無くなったクレマンティーヌは叫んでいた。カジットは青ざめニニャを恐れていた。

 「まさか!?…聞いた事がある…昔話に出てくる伝説級吸血鬼が使っていたと言われるアイテム。どんなに離れていても外れる事の無い投げることに特化した短剣…まさか存在していたとは…」

 今度はカジットも攻撃に参加しようとした時、他の4人に目がいった。
 彼らは黒い短剣を持っていた。

 「まさかまだ持っているのか!?く、目的は達した。わしは墓地へ向かう貴様は好きにするがいい!」

 絶望的に不利と判断したカジットは一目散に逃げ出し肩をやられ激痛に苦しむクレマンティーヌは追いつく事が出来なかった。


 

 「何が…何でも…生き延びてやる…」

 血を失いすぎて意識が朦朧となっていく中、ある紙を見て目的地に進む。
 この町にはカジット以外の仲間も知人も居ない。こんな血塗れの女を助ける事でメリットよりデメリットの事を考える者がほとんどだろう。

 『貴方の事を少なからず気に入りましたので…』 

 なぜかあの時の変わった貴族を思い出す。理由は分からないがあの貴族なら助けてくれる…そんな気がしたのだ。
 意識を失う前に何とか扉までたどり着いたクレマンティーヌは扉をノックした。

 「はーい。今行きます」

 中からあの貴族以外の男の声が聞こえた。何処かで聞き覚えのある声だった気がした。

 「すみません。今日の営業は…」

 出てきた頬に大きな傷がある男と目が合って二人して固まった。

 「あんたは陽光聖典のニグン!?」
 「そう言う貴様は漆黒聖典のクレマンティーヌか!?」

 ニグンが杖を構える。この距離での戦闘なら確実に勝っていただろう。
 紙が手から離れる。もう限界が来ていたのだ…力なくその場に倒れこむ。

 「なに?おい、どうした?なんだこの傷は!…この紙…!?おい、しっかりしろ!!」

 叫んでいる声が聞こえるがもう反応する事も出来ず、クレマンティーヌは意識を失った。



モミ  「生存戦略ー!」
チェリオ「叫ばなくとも漆黒の剣は生存したからね。まあ、ナザリックと関わるかは別だけど」
モミ  「…そういえばあらすじに誤字あったよ」
チェリオ「はい?」
モミ  「二回かいたユグドラシルが間違ってた…」
チェリオ「マ・ジ・デ」
モミ  「まじで」
チェリオ「…まっこと申し訳ありません!」


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第022話 「エ・ランテルでの攻防戦:後編」

さて冒険者モモン&ナーベVSカジット・デイル・バダンテールの戦いが始まる!

実力差がハロと超天元突破グレンラガン並みにあるうえで二対一って無理ゲー超えて詰みゲーじゃないかな?


 「さすがは殿。凄いでござる」

 モモンとナーベは依頼の道中で配下に加えたハムスケと共にアンデットで溢れる墓地を歩いていた。
 常人では両手持ちでやっと持てる大剣を片手で振り回し中央を突き進む。その光景を見た人間がいれば彼にどれだけのアンデットを差し向けても無意味だと理解しただろう。
 彼こそ数々の英雄譚に並べられる現代の英雄と称えただろう。
 だが敵も味方もその光景を見る者は少なく、ただ進んでいた。

 「まったく馬陸(ヤスデ)がよくもこれだけの数だけそろえたものです」
 「たしかにな。だが数だけ居ても意味は無い」

 その言葉の通りだった。この世界の住人であれば苦労するだろうがモモンの前ではただのカカシでしかなかった。
 どんな英雄でも物量で押せば疲弊し被害を無視して最後には倒せる物だが疲労も感じない身体を持つ者に対してこの戦法はまったくの無意味であった。
 右手に持った大剣を振りアンデットをなぎ払うと次に左の大剣でまたなぎ払う。
 
 「しかしさすがに面倒だな」
 
 墓地に入ってからこの単純作業に飽きがきてしまったのだ。正直面倒くさいのだ。

 「ではナザリックから軍を呼びましょう」
 「この町に来た理由を忘れたか?」
 
 モモンが町に来た理由は冒険者として名声を高める事が第一である。それに対してナザリックの軍などを呼んでしまっては名声など高めるどころかそれらを見られてしまった場合とても面倒な事になってしまう。
 深くため息をついた。
 数日前まで居たぼっちとシズがこの場に居たらもっと楽だったなぁと思いつつ目の前の現実を見る。何を思っても減る事の無いアンデットがモモンを目指して向かってくる。
 アンデットは生命に対して反応する。ゆえにナーベとハムスケに後ろを歩かせ引き付けているのだが引きすぎであった…

 「時間も差し迫っている事ことだ。仕方ない道を切り開く為こちらも動こう」

 左右の大剣をそれぞれ何も無い地面に向けた。

 「中位アンデット作製。ジャック・ザ・リッパー。コープス・コレクター」 

 呼び出された二本のナイフを持った細身のジャック・ザ・リッパーと包帯と釘で身を包んだ巨漢コープス・コレクターが現れた。

 以前カルネ村にて召喚したデスナイトも中位アンデットである。
 この中位アンデットはモモン…いや、アインズやぼっち、守護者などからすれば余裕で倒せる相手であるがこの世界では違う。デスナイトは一国の軍隊が戦っても勝てない伝説級のモンスターとなってしまうのだ。それと同等のモンスターが二体。墓地に居るアンデットの未来が決定した瞬間であった。
 一体は高い笑い声を発しながら敵を切り進み、もう一体は地響きを立てつつ敵を殴り殺す。まさに無双であった。

 「ハムスケはここに居ろ。行くぞナーベ」

 モモンは自分が呼んだ二体のアンデットにこの場を任せ、短い返事をしたナーベと共に先へ進んでいく。

 「殿!?拙者も!拙者も連れて行って欲しいでござるよ!!殿ぉ~」

 ハムスケの悲痛な叫びを無視して先へ進んでいく…



 二人が進んだ先には黒いローブで身を包み呪文を唱える魔術師らしき集団がいた。彼らの中に一人だけ服装の違う老人が居た。その者がニニャが言っていたマジックキャスターなのだろう。
 こちらに気付いた者が老人に知らせる。老人の名前を言いながら…

 (はい、馬鹿確定)
 「やあ、良い夜だなカジット」

 名前を呼ばれたカジットは知らせた者を睨みつけた。

 「つまらない儀式をするには勿体無くないか?」

 言葉に反応して集団の前に現れるカジット。多少スキルを使い調べるがレベルは低い。プレイヤーの線は確実に消えた。

 「ふん。儀式に適した夜かどうかはワシが決めるのよ。それよりお主は何者だ?」
 「依頼を受けた冒険者でね。ある少年を探しているんだ。名前は言わなくても分かるだろう?」

 その言葉にカジットは何の反応も示さなかったが周りの者は動揺を隠せていなかった。

 「それとお前達の仲間に短刀を使う剣士が居ると聞いたが伏せておくつもりか?」
 「ん?あやつの事まで知っておるとわな…そんな事まで話すと思うか?」

 もったいぶったようにカジットは話すがすでに辺りの索敵もしている為、居ない事も知っている。理由までは知らないが…

 「ふむ、それもそうだな。ではナーベ、殺れ」
 「ハッ!」

 短くモモンに頭を下げるとカジットに向き直る。
 モモンの言葉にカジット達は馬鹿にしたように笑っていた。
 対するナーベも短く笑い、口を開いた。両手に雷を発せながら

 「ツイン・マキシマイズ・マジック《エレクトロ・スフィア》」
 「何!?」

 驚きの声が上がったと同時に二つの光輝く弾がカジット達に向かって行き光で包んだ。
 光が消えるとそこに残っているのは無傷のカジットとカジットを除いた者達の亡骸だった。
 たった一人だけ残ったカジットの表情には余裕が見てとれた。

 「ふははははは。馬鹿が」
 「芋虫のように簡単に潰れればいいものを」
 「第三位階を使いこなす馬鹿とは」
 「馬鹿?ダニたる人間ごときがこの私を?」
 「わしの計画を愚かにも邪魔する者を馬鹿と言って何が間違っている。しかも強者を強者と理解すら出来ずに死地に飛び込むのだからな」

 ここにぼっちが居たら「見事なブーメラン」と思って爆笑していただろう…

 「この至高の宝珠の力を見るが良い!」
 
 持っていた玉が紫色の光を放ちだした。睨みつけるナーベであったが頭上に気配を感じて見上げた。
 骨で出来た竜《スケリトル・ドラゴン》がそこに居た。
 スケリトル・ドラゴンは何の迷いも無くナーベの後方に勢い良く砂煙を立てながら着地した。
 ナーベの目が見開かれた。
 
 「アインズ様!?」

 そうだ。そこには数歩下がって腕を組んでいたモモンが立っていた場所だ。まさか至高の御方がやられることは無いだろうが避けないとも思わなかった。現在アインズの指示で高位の魔法が使えなかった為駆けつけれなかったのだ。

 「げははははは!魔法に絶対の耐性を持つスケリトル・ドラゴン。マジックキャスターにとっては手も足も出ない強敵であろうよ。それに戦士であった男もあっけなく死んだ。これでお主の勝ち目は無くなったわ」

 耳につく笑い声を上げ続けるカジットに最大限の睨みを効かせる前にスケリトル・ドラゴンが動いた。いや、吹き飛ばされたのだ。

 「な、な、な、なんだとぉ!?」
 「さすがでございます」
 
 驚きの叫びと賞賛の声が砂煙の中から現れたモモンに向けられた。

 「カジットよ、先ほどの言葉すべてかえそう。まったく強者を強者と理解できない者は馬鹿としか言いようが無いな。なぁ、ナーベ?」
 「はい、仰るとおりでございます」
 「ところでナーベよ。今の私はモモンだ。」
 「はっ!?申し訳ございませんでした」
 「お、お主何者だ!?オリハルコン?いやアダマンタイトクラスの冒険者か!」

 慌てていたカジットを無視して二人で会話していると多少は落ち着いたのか怒鳴ってきた。
 ナーベの顔が凶悪になっていく。

 「いや我々はカッパーの冒険者だ。まだな…それよりカジットよ。お前は二つの間違いをしている事に気付いているのか?」
 「なに?ワシの間違いだと」
 「一つは強者を強者と理解すら出来ていないのはお前だということだ」
 「なにを馬鹿な…わしが貴様らより劣っているだと?」
 「二つ目はスケリトル・ドラゴンは魔法に対して絶対的な耐性など持ってはいない」

 カジットは話の最中であったがスケリトル・ドラゴンを突っ込ませた。モモンの前に立つナーベ。

 「ナーベラル・ガンマよ。やるがいい」
 「ハッ!これより冒険者ナーベではなく、ナーベラル・ガンマとして行動を開始致します。ツイン・マキシマイズ・マジック《チェイン・ドラゴン・ライトニング》」

 二つの龍を模った電流がスケリトル・ドラゴンに向かっていった。

 「馬鹿な!スケリトル・ドラゴンには魔法への絶対耐性が…」
 「だからそれが間違っていると言っている。正確には第六位階までの魔法を無効化するのであって第七位階以上なら無効化できないと言うことだ」

 その言葉通り電流にスケリトル・ドラゴンが貫かれ無数の骨と散る。
 貫通した電流は空中でひとつに合わさり今度はカジットへと向かっていった。

 「なぜだ…このワシが五年かけて作った努力の結晶が…すべてがこのわずかな時間で崩壊すると言うのか!?」

 最後の声を飲み込みカジットが光の中に消されて行った。

 「終わったな…ンフィーレアを回収して帰るぞ」
 「はい。モモンさ―――ん」
 
 間の抜けた返事につまずきそうになりつつもンフィーレアの元へと向かっていった。ちなみに忘れかけていたがハムスケは必死に召喚された二体のアンデットの後ろに隠れて合流した。



 宿屋に帰るまでが大変だった。
 失明させられていたンフィーレアの治療。今回の事件の首謀者や全容を冒険者組合長に報告。新たな英雄を称える人々への対応。それに対して殺気立つナーベの静止などなど
 宿屋で一息つくことが出来たのは昼になってからだった。
 モモンはしみじみこの身体がアンデットで良かったと思った。出なければ疲労で倒れるところだろう。
 首にかけられている昨日と違うプレートに手を伸ばす。

 「オリハルコンくらいにはなると思ったがこんなものか」
 
 プレートは今回の件でミスリルになっていた。モモンはこんなものかと言うがカッパーがシルバーなど多くを飛び越してミスリルまでなっているのだ。これは小さなことではない。でも、満足はいかないのだろう。特にナーベが…

 「ミスリルとは…無礼極まります」
 「いいのだナーベ。今頃生き残った墓地の兵達が私の戦いを町中でふれ回り、我が名声を高めているだろう。計画通りだ」

 正直に言うと計画以上だった。漆黒の剣の面々との依頼内で起こった戦闘に賢王と称される魔獣の入手、墓地での活躍とモモンの名声は一気に上がっていた。その上カジットが操っていたスケリトル・ドラゴンは二体居て一体は消滅させたがもう一体は無傷のまま入手したのだ。土産が出来たと思った程度だが… 

 「それであの二人はどうするのですか?」
 「リィジーはすべてを払うと言っていたから孫を連れてカルネ村へ行ってもらう。私…いや、ナザリックの為にポーションを作らせるつもりだ」

 そしてエ・ランテル最高の薬師であるリィジー・バレアレとの契約である。ンフィーレアを救出に行く前の契約にてリィジーの全権利をアインズが握ったのだ。ポーションは第11階層で生産しているがこの世界の技術とユグドラシルの技術でどのようなものが出来るのか、ようは実験であった。 

 「そうだ。アルベドに連絡をせねばならなかったな」
 
 ふと思い出しアルベドをメッセージにて呼び出す。

 『アインズ様。シャルティア・ブラッドフォールンならびにCZ2128・Δ《シズ・デルタ》が反旗を翻しました』
 「………………はぁ?」 
 
 何を言っているのか理解できずにアインズは聞き返す事しか出来なかった…



チェリオ「感想を見ていると何かぼっちさんが黒く見えてきた…」
モミ  「私は要注意人物になってるんだけど…」
チェリオ「間違ってないでしょ?」
モミ  「……うん…」

前回教えていただいた誤字
・アンデットかしている
・魔法の後
・止めを誘うと

ステラ 「これを見るともう間違い探しですね?」
ハイネ 「確かにいろいろありましたからねぇ…」
モミ  「やめて!もうチェリオのライフはゼロよ!」
チェリオ「勝手にゼロにするな!まだまだあるよ!!てか何でそんなにネタを知ってんだよ!」
モミ  「…………禁則事項です♪」


 三巻に起こる出来事が終了後特別編を書こうと思います。が、何かこうゆう物を書いて欲しいみたいなリクエストありますか?例えば八巻にあった男子勢・女子勢別々の入浴みたいなの。
 出来れば戦闘なしが良いかな…苦手なもので…







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第023話 「二人の吸血鬼のお仕事」

 ぼっちは馬車の中で会話を楽しんでいた。と言っても町と言う場所から離れると精神の安定化されなくなりいつも通りの聞く側だが…

 現在ぼっちはシャルティアと合流しセバス達が調べた野盗の巣へ向かっている。ぼっちの右にはシャルティアが座り、左にはシズ、正面にはセバスにソリュシャンと空いたスペースにシャルティア眷属のヴァンパイヤ・プライド二体が座っている。
 セバスとぼっちを除けば美女ばかりのこの状況だけでも嬉しいのだがギルドの皆で創造した子供のような彼らから俺らの話を聞くのもなかなか面白かった。もちろんぼっちが聞いたのではなくセバスとシャルティアの会話の中でである。

 シャルティアとアウラが仲が悪いのは設定上とかペロロンさんと茶釜さんが姉弟なのをセバスが初めて知ったりなんか見てて面白い。それでアウラとは姉妹のようなものと言ったが姉妹と言うより従姉妹の方が正しくない?そしてキャラクターに声を吹き込む茶釜さんの職業である声優が生命創造系の職業になってるんだろうか。ああ、キャラクターに命を吹き込むと言えば正しいのであろうが…

 「……あ゛?…セバス もう一回言ってくれない?」

 場の雰囲気が凍り付いた…セバスが何やら失言をしたらしい。少し考え込んでたらしく聞き逃してしまった。

 「…それともさぁ…竜人であるあなたがその形態でさぁ…わたしとやりあう気かっ!?」

 このままでは喧嘩が始まりそうだったのでシャルティアの額を指で軽く、軽ーく弾く。

 「そこまで・・・・・・」
 「は!?ぼ、ぼっち様の御前で申し訳ありんせんでした」

 そんなに大仰に頭を下げなくとも良いのに…
 急に馬車の揺れが大きくなり止った。目標の者達の元までついたのだろう

 「ついたか・・・」
 「では始めましょうかえ?」

 シャルティアの言葉に皆が頷く。今回も見学なのだからぼっちは離れてぼっちしてよう…悲しいけどこれ戦争なのよね…関係ないけど言いたくなった…
 馬車を一番最初に降りたシャルティアに熱い視線が注がれる。なんなのだろうか先頭の男の目に下卑た物に感じた。

 「ヘン。なかなかの上物じゃねぇか。ヒィヒィ鳴かせてやるからな」

 男の手がシャルティアへと伸びていく。触られる前に反撃するだろうと分かっていた。分かっていたが…

 「あん?」

 何かを胸に押し当てられ怪訝な声を上げた。銀色の長方形の鉄の塊がシャルティアの後ろから伸び、男の胸部に押し当てられていた。見たこともない物を押し当てられている男よりシャルティアの方が不可解な顔をしていた。

 ダアァァァン!

 野盗達もセバス達も聞いたことのない轟音に驚く。そして轟音と同時に男は胴体に大きな風穴を空け吹っ飛んだ。

 「ヒィィィィ!?」
 「な、なんだアレは!?」

 多々の声が挙がる中、ぼっちはシャルティアをそっと横へ移動させ前に出た。

 「テメェら・・・」

 いつもの表情は少しも残ってなかった。目や雰囲気から怒気を感じた。今まで感じたことがないほどの…

 「下卑た雑種風情が触れて良いものではない!生きて帰れると思うなよヒューマン!!」

 声を挙げる間もなく最初の男と同じように二人が同じように風穴が開いた。突然の事に野盗達の動きが止まる。しかしこんな事ぐらいで怒りは収まらない…一族郎党根絶やしにするぐらいでは…

 「ぼっち…様…ぼっち様!」

 自分を呼ぶ声で我に返り声の主へ振り向く。

 「ぼっち様…それ以上やられると私の仕事がなくなるでありんす…」

 申し訳なさそうにこちらの様子を窺がうシャルティアに驚くセバスとソリュシャン…

 「すまない・・・後は任せる・・・」

 馬車に戻り腰をつけると同時にそれぞれが仕事にかかった。
 やってしまったぁぁぁ…あの下卑た男の手が触れるかと思ったら頭真っ白になって皆の仕事奪ってたなんてどうモモンガさんに言い訳しよう…言い訳するほど喋れないけどな。ソリュシャンの顔がキラキラッして、いつもより輝いて見えるな。ってぎゃあああああああ!なんか男が取り込まれているぅ!いやいやいやソリュシャンなんでそげに楽しそうなんですか!?そして相手の方もこの殺戮の場でなんで誘われるがままついて行くの?まあ、いいけど…楽しそうだから…

 ぼっちの護衛でついてきているシズが見張りを予ねて馬車入り口に立つ。

 「さっきのぼっち様…勇ましかった…」

 やめてぇぇぇぇ!?今後悔真っ只中なの!傷口に塩塗りこむどころか美帝骨でぐりぐりされるぐらい痛いからやめて!!あ、ちなみに美帝骨とはとある侍ゲームに出てくる刀で、相手の腹部に差込んでかき回す技があるのだ。
 先ほど使った銀色の長方形の鉄の塊とはこの世界では存在しない銃である。シズと同じくガンナーを後からとったがレベル的に上位までいけずにハンドガン止まりであったがぼっちはそれで十分だった。

 トーラス・レイジングブルModel 454と言う大口径のリボルバーを手にしている。本当は454カスールカスタムオートマチックと言う銃を使いたかったのだが架空の銃の為にユグドラシルでは存在しなかったのだ。ゆえに454カスールで調べたところこの銃がヒットしたのである。求めていた銃とは違うが中々愛着が出た銃でもある。見た目は銀色をメインカラーに日本の警官が持つ拳銃の三倍はあろう長い銃身を持つ。そしてオートマチックではなくリボルバーと言う所にまた感じ入る物がある。『オレのリロードは革命(レボリューション)だ!!』…また幻聴か…もう馴れた…

 作業が終わりセバス達が戻ってくる。席を立ち皆の下へ…

 「ではぼっち様。私達はこれで失礼いたします」
 「・・・(コクン)」

 セバスとソリュシャンが礼儀正しく礼をして馬車に戻る。良かったソリュシャンがいつもの笑みに戻って…人を身体に飲み込んでいた時めっちゃ怖いんだもん…

 「では参りんしょうか?」
 「・・・うむ」

 こういう時は男が女性をリードするもんだっけ?そんな思いが頭に過ぎりシャルティアの腕を自分の腕に絡ませた。一瞬驚いていたが楽しそうに共に進む。良かった拒否されなくて…あとヴァンパイヤ・プライド以外に何かついて来るんだけど…なにあれ下位吸血鬼?何時からいたっけ?まあ、どうでも良いけど。

 元野盗だった下位吸血鬼の事を考えるのを止めてただ進む。



 「ストライーク!」
 「「お見事です」」
  
 下位吸血鬼はそんな風に使うんだと思いながらガッツポーズをとるシャルティアに拍手していた。野盗の巣の前に到着すると下位吸血鬼を見張りに投げつけたのだ。シャルティアの力と投げた物の大きさで当たった見張りが文字通りミンチになった。さっきのトーラスより威力があるんじゃないかな?と思う間に二人目に直撃して「ツーストライクでいいんでありんしょうかえ?」と楽しそうにはしゃいでいる。

 「では行って参りますぼっち様」
 「・・・気をつけてな・・・」

 いらん心配ではあろうが声をかける。なぜぼっちが残るって?行ったら邪魔になるからでしょう。言わせんな泣けて来る…さっき仕事を取っちゃったからな…

 ヴァンパイヤ・プライドの一人に入り口見張りともう一人に突入を指示する。突入を指示されたヴァンパイヤ・プライドが勢い良く走り出したのだが…
 ズドン!!
 落ちた…
 物の見事に入り口付近で落とし穴にはまった…
 「えー」声を漏らしながら肩を震わすシャルティア…

 「……ぶち殺すぞ…とっとと出て来い…」
 「申し訳ありませ…」
 「あまり私を失望させるなよ」

 またシャルティアの言葉に場が凍りつく。

 「!!す、すぐに…!?」

 落とし穴にはまったヴァンパイヤ・プライドに手が差し出された。

 「そんな…御手を汚してしまいます!?」
 「構わない・・・さぁ」

 手を掴むヴァンパイヤ・プライドを落とし穴から引っ張り挙げる。これぐらいはいいだろう…シャルティア…なぜに後ろからでも分かるようにさっきよりこの娘に怒気を放つし…止めて…胃が…胃が痛い…

 「ぼっち様のお手を煩わせてしまい申し訳ありんせん」
 「いや良い・・・行って来い・・・」
 「行って来ます」

 大きく礼をした二人の姿が巣である洞窟の中に消えていった。
 今はシズと二人っきりである。二人っきりのはずである…

 「・・・ところでそこの者・・・何か用か?」
 「!?」

 ぼっちの言葉に辺りを見渡すシズ。森の影に白金の西洋甲冑で身を固める者がそこに居た。

 「…いつから気がついていたんだい?」
 
 優しげで落ち着いた声に安心した。強面の声だったらどうしようかと内心びびっていたのだ。

 「馬車から降りて少し・・・」
 「まさか最初っから気付かれていたなんて…」
 「で・・・『空虚なる人形』よ・・・何用か?」
 
 驚いた。まさかそこまで看破されることなど無かったツアーは恐怖を感じていた。確かにこの鎧は遠隔で操っている物で本人はここより遥か遠くの地に居る。十三英雄「白金」と呼ばれていた時、一緒に旅した仲間でさえ気付かなかった事に彼の者は物の見事に看破している。

 「単刀直入に聞くんだが君は八欲王と同じく『プレイヤー』かい?」
 「?八欲王・・・知らないな・・・」
 「そうか…すまないね。邪魔をしたようだ。用事があったのは君達ではなく別にあったんだ…でも…」

 話を切るや否や白金の鎧がぼっち目掛けて突っ込んできた。当たり前だ。 八欲王の件もありプレイヤーに対する危機感は人一倍強いツアーがぼっちを見逃す事はない。先ほどの探知能力に相手を見破った能力…プレイヤーと見て間違いない…その上アレだけの強者達を引き連れていたのだ。八欲王と同格、もしくはそれ以上…そんな厄介ごとの種が武器を持たずに背を向けている。
 一撃で決める!そんな意思での突撃…だが一撃で蹴りをつけたのはぼっちだった。

 「ジャッジメント!」

 叫ぶと同時に轟音が鳴り響く。振り向き様に向けられた銀色の長方形の鉄の塊から何かが射出された。避ける事は出来ずに武器で防ごうとした。
 武器が当たった先から潰れていく。射出された物は武器だけでは飽き足らず当たった衝撃だけで腕ごと持って行ったのだ。

 「…驚いた…」

 たった一撃でこんな事になるとは…白い面の男は散歩でもするかのように歩いてくる。こちらに注意すら払ってはいなかった。

 「・・・君が何で襲い掛かってきたのかは知らない・・・だが、私達と敵対するならばただでは済ませない・・・」

 それだけ告げられてその者はこちらに怒りを向けている少女を撫でながら元の位置に腰掛ける。
 何か思い出したように反応しこちらを振り向く。

 「ところで・・・見えたのは一発だけか?」

 声が届くのと同時に鎧が崩れ落ちた。鎧の頭部から最後に見た光景は腕を除き五つの大きな風穴を開けられた鎧と銀色の長方形の鉄の塊に何かを入れている者だけだった…




 今回の任務の事をアインズ様から聞いた際には至高の御方の命令である以上喜びを感じていたが少し残念だった。武技を使える者の捕縛…本来なら相手を操るスキルを持つデミウルゴスやアウラが適任なのだ。だが二人とも別件で動いている為周って来た仕事…だからセバスに適任はデミウルゴスと言われた際にぼっち様が居ると言うのに声を荒げてしまった。
 だが、出発前にアインズ様から発せられた発言で最高の物へと変わった。
 
 「ぼっちさんが見学の為、同行するから」

 あの至高なる御方が自ら自分の仕事を見に来てくださるのだ。嬉しかった。特にセバスとソリュシャンが宿を出るまで馬車内で二人っきりでたくさんのお話が出来た事が…(ヴァンパイヤ・プライドも居たが視界に入ってない)
 さらには下種な者の手が触れそうになった時には本気で怒り、守ってくれようとしてくれたり、腕を組む事すらしてくれた。当分アウラに自慢してやろうと意気揚々で突入したのだ。
 しかし結果は散々だった…武技を使える者を見つけたが他の雑魚と遊んでいる隙に逃げられ、外で展開していた冒険者達と戦闘を行った。その冒険者の中には至高の恩方々しか持っていないポーションを持つ女と出合った。様子を見に来たぼっち様が知らないという事はアインズ様の関係者…もしくは計画の一部に手を出してしまったのだ。ぼっち様は「・・・焦らずに今出来る事をしよう・・・」と慰めてくれたが焦らぬ訳には行かず森へと突入しある一団を発見してしまった…それこそツアーが用があった者達だった…



 ぼっちは慌てているシャルティアを宥めて見送った。
 外での初仕事なんだから少しの失敗ぐらいあるよね。もし何かあればフォローしてあげればいいし、無いと思うけどモモンガさんが怒る事があれば守ってあげれば…
 そんな後のことを思いつつ森に対して索敵スキルを使用した。

 「・・・!?不味い!」

 気付いた時にはシズを抱えて走り出していた。赤くなることなく不安げにこちらを見上げるシズ。
 索敵に引っ掛かったのは武技の使い手とポーションを持っていた女の仲間のレンジャーだけではなかった。5,6人の集団。中でも一人高レベルの者が居た。そんな者はどうでも良かった。感知したのは『ワールドアイテム』…

 森を書き分け集団の所まで辿り着いたぼっちの前には荒れ狂い襲い掛かろうとするシャルティアとシャルティアに対して『ワールドアイテム』を使用しようとする老婆…シズを投げ捨てるように放り出し何も考えずに駆け出していた…



婆さんのチャイナ姿とか…どうしろと…
それよりもシズごめん…放っちゃったよぼっち様…


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第024話 「緊急事態発生」

 「そうか…シズとシャルティアが反旗を…」

 信じがたい事柄を再び口にする。
 実際には謀反かどうかはまだ判断できていない。アルベドがシャルティアにメッセージを送ったのだが何の返答も無く、ぼっちさんと別行動を取り、何か陣形をとったまま動きが無い為にアルベドが謀反の疑いありと判断してしまったのだ。
 そんな事で…とも思ったがあのシャルティアがぼっちさんを単独にする理由が分からない上、メッセージに答えない点もおかしい。
 ナザリック地下大墳墓は未曾有の混乱の中にあった。第一から第三までの階層守護者であるシャルティア・ブラッドフォールンと戦闘メイド『プレアデス』の一人、シズ・デルタが反旗を翻したというのだ。第一から第三階層はマーレとコキュートス達が、残りのプレアデス達はデミウルゴスとアウラが謀反が無いように見張っている。ちなみにエ・ランテルいるナーベはシャドウデーモンがソリュシャンはセバスが担当している。
 遠隔視の鏡で様子を確認するが森の中で開けた所に陣取ったまま動かない。シャルティアが座り込み、日傘代わりに大きな葉を持つ二体のヴァンパイヤ・プライド、そして周囲を警戒するシズ・デルタ。
 NPCリストを見てみたが精神支配された形跡も無い…

 「ぼっちさんは?」
 「今だ森の中を捜索しているようですがメッセージが届きません」
 「いつもの事だろう…ぼっちさんとは後で合流するとして…まずはシャルティアから話を聞かねばな」

 単独潜入などの単独行動をとる時のぼっちはメッセージをoffにしていることが多いのだ。

 「今回シャルティアと行動していたとは言え、ぼっちさんは関わってないだろうしな」

 アインズはそう思った。反旗を翻すつもりがあるならナザリック帰還後に行うはずだと。そうすれば第一からシャルティアが第十一階層からぼっちが配下の者達と共に挟み撃ちに出来るのだ。もしくはぼっちの技能である隠密を生かしての暗殺など多様な手がある。外で待ち伏せしているにしても位置がおかしすぎる。
 何も無い空間にゲートを作りアルベドと共に進む。シャルティアの真意を聞くために



 ゲートを潜るとすぐに目的の場所に着いた。
 
 「シャルティア…」

 名を呼ぶと肩がぴくっと震えたが顔を向ける事はなかった。シズとヴァンパイヤ・プライドは会釈をする。
 至高の御方から名を呼ばれたというのに返事もしないシャルティアにアルベドは一瞬で怒りの臨界点を突破した。

 「シャルティア!言い訳の言葉もなくアインズ様にぶれっ!?」

 言葉が止まった。シャルティアが顔を上げたのだ。その顔はいつもの表情ではなく大量の涙で溢れていた。
 あまりの出来事に二人の動きが止まる。

 「…ア゛イ゛ン゛ズざま゛…ぼっち゛ざま゛が…」
 「・・・」

 泣いている為濁声になるシャルティアの話を詳しく聞こうと近づいた時、森からの方からぼっちが出てきた。
 アインズは後になって気付かなかった事を後悔する。確かにぼっちは単独行動中メッセージに出ない事が多々ある。だがシャルティアを探しているのなら使えばいいのだ。それに距離としてそれ程遠くないのに探しているという不自然極まりない行動に…
 動けなかった。
 何かが動けば少なからず目にも止まる。だがその動きは目にも止まらぬ速さではなく目にも映らない速さであった。
 刀を抜きアインズに一撃を加えようと振り抜いた。そんな動きに反応できたのは二人だけだった。アインズを守る為にスキルを使用しつつ盾になろうとするアルベド、威力を少しでも下げようとぼっちの武器目掛けてスポイトランスを振るうシャルティア。だが、そんな二人を巻き込みアインズを含む三人が吹き飛ばされる。
 追撃を行う前にシズがFN P90短機関銃の全弾をばら撒いた。相手のぼっちが避けているのかそれともワザと外したのかは分からないが一発も当たることなく後方へ退避した。

 「ぼっちさん何を!?」

 叫ぶと同時に立ち上がるとぼっちは両膝をつき苦しそうな目をしていた。アインズの目に左腕で光る腕輪が映った。

 「に・・・げろ・・・逃げろ…早く!!」
 「!?撤退する!全員私の元へ来い!ぐずぐずするな!!」
 
 皆が頷くと同時にアインズの元へと駆け寄り転移して行った…苦しむぼっちを残して…



 苛立ちが何度も沈静化されつつ執務室の椅子に乱暴に腰を押し付ける。

 「シャルティア…いや…シズ報告をしろ」
 「了解しました」

 無表情ながら焦っているのが分かる…

 「任務中森で不明な集団と遭遇戦となり相手がこれを…」
 
 シズから血塗れの衣類を渡される。なんとなしかチャイナドレスと言うことが分かるがそれよりも…

 「ワールドアイテムだと!?それも精神支配の…」
 「そのアイテムをシャルティア様に使用してきた時にぼっち様がシャルティア様を庇い…」
 「ではぼっち様はシャルティアのせいで!?」

 殺意を持った目でアルベドがシャルティアを睨みつける。シャルティアはまだ泣いたまま動かない。
 
 「待てアルベド《ピピッ》」

 メッセージが届く音がした。

 『アインズ様』
 「なんだナーベラル今は取り込み…いや、なんでもない…どうしたのだ?」

 さっきから起こりっぱなしの精神安定で落ち着き冷静な声で返事する

 『ハッ。冒険者組合の組合長アインザックの使いが参りまして、エ・ランテル近郊に出現したヴァンパイヤの件に関して早急に組合まで来て欲しいとのことです』
 「分かった。これから向かうと伝えろ」

 ナーベラルとのメッセージを切りアルベドに向き直る。

 「アルベド。私が戻ってくるまでにヴィクティムとガルガンチュアを除く階層守護者をここに集めよ。それとシャルティアの配下とプレアデスへの監視を中止しナザリック警戒態勢を最大限まで引き上げろ」
 
 そこまで命令を出すと部屋の隅を見た。隅にはぼっちが創造したモミが立っていた。モミはたまに執務室に居座る事があるのだ。今日はそのたまたまの日だった。

 「お前はどうする?」
 「…今回ナザリックの理はアインズ様にある…ゆえに…アインズ様につく…」

 その一言だった。創造したぼっちさんには悪いがモミのこの発言に安心する。

 「アインズ様…提案がある…」
 「…手短に話せ」
 「了解…第十一階層でこのことを聞けばステラは飛び出していきます。ゆえにハイネのマリオネット達に拘束と第十一階層の封鎖を命じ、私は一時的に《ゴルゴーン》を解除します…これによりステラはただのレベル70になり拘束も楽になります…」
 「ふむ…良いだろう許可する」
 「了承…それと…もしかするとぼっち様と戦うのでしたらハイネに戦闘記録を探らせ弱点が無いか調べさせようと思うのですが…」
 「確かにそれは必要だろうな…ならば司書長とデミウルゴスと連携して行え…では行動を開始しろ!」

 短い返事と共にそれぞれが行動を開始した。




 「貴方は何と言うことをしてくれたのですか!?」

 戻ってきたアインズが一番最初に耳にしたのはデミウルゴスの罵声だった。ここにはモミを含めた三人を除く各階層守護者とハイネが集まっていた。そして階層守護者の憎しみを込めた視線がシャルティアに向かっていた。

 「御守リスルハズノ守護者ガ守ラレルトハ!」
 「まったくです!そのおかげでぼっち様は精神支配に苦しんでおられるのですから」
 「あんたさぁ…どうせ油断してたんでしょう!そのせいで…」
 「グズッ…ぼっち様ぁ…」
 「皆そこまでになさい。アインズ様が戻られたのよ」

 アインズに気付いたアルベドが皆を止める。

 「アインズ様。ご報告が…」
 
 調べた結果を報告しようとしたハイネを止める。

 「まず皆に話さなければならない事がある」

 事が事だけに何時にも増して真剣なアインズの言葉に耳を全力で傾ける。

 「これよりここに居る守護者と私でぼっちさんと戦う事になるだろう」
 「ぼ、ぼっちさまをですか!?」

 一番最初に反応したのはマーレだった。これにはほとんどの者が同じ反応だった。自分達を創造し、崇拝する至高なる存在と戦えと言われているのだ。戸惑うのも当たり前と言う物だ…

 「落ち着け。戦う事になると言っても殺す事はないのだ。助けるといったほうが良いのだろうな…」
 「助ける…で、ありんすか?」

 今まで泣いて動かなかったシャルティアが反応した。その表情には不安と希望に溢れていた。

 「そうだシャルティア。ぼっちさんはワールドアイテムの影響で精神支配されている訳ではない。ぼっちさんは対ワールドアイテム用にひとつのワールドアイテムを装備している…それを外すのだ」
 「アイテム…ですか?」
 「うむ。ぼっちさんが装備しているワールドアイテム《ベルセルクの腕輪》だ。これは所持している者にワールドアイテムを使用されると起動する物で敵味方の区別なく攻撃してくるという物だ。主だった能力は二つ。一つは攻撃力が通常の3倍はされるという事。もう一つは暴走状態と言っても今までの戦闘方法から検索して戦う事だろう」

 さっき襲われたときに違和感があった。ぼっちの非力さはアインズの知る所だった。それが三人…それも攻撃特化と防御特化の二人を含んで吹き飛ばすなどありえない。それと左腕で光り輝く物…これで説明がついた。腕輪の事は1500人の時に使用して知ってはいたがあの時はこちらも危なかった。敵が殲滅されても攻撃してくるから…なんとかたっち・みーさんと武人建御雷さんとぶくぶく茶釜さんで取り押さえたっけ…

 「戦闘中ニ何カヲ盗ルト言ウノハ難シイカト」
 「確かに盗むのは難しいが最悪腕ごと…と言うことになるだろうな…」

 回答に場の雰囲気がもっと沈んだ。至高の御方を傷つける事には変わらないのだ。その中…

 「正しい判断だと思います」

 一人冷静な者がいた。シュバリエ・ハイネンスである。その表情には焦りも戸惑いも無かった。

 「な、なんでそんなに冷静なんですか!?」
 「そうよ。ぼっち様に刃を向けなきゃいけないんだよ!?あんたを創造したぼっち様に…」
 「?それがどうされたのです」

 怒りを露にしたアウラとマーレに平然と答える。

 「例え刃を向けようともこのまま放置するほうが私にとっては問題なのですが…」
 「言い方には問題がありますが私も彼の意見に賛成です。何が何でもお救いせねば」

 沈んだ空気が変わった。先の言葉で皆がやる気になったのだ。

 「ではハイネの報告を聞こうか?」
 「はい。正直申しますとスキル・魔法に関しましてはアルベド様などが知っている以上の事は分かりませんでしたが弱点らしき物を見つけました」
 「弱点?」
 「えぇ…少々難しい物ですが…」

 これは嬉しい報告だった。何せアインズ・ウール・ゴウンでの戦闘では単独任務が主で戦闘も奇襲離脱であまり見た事なかった為、アインズも知らなかったのだ。
 しかしハイネの口調が重いことから何か条件のような物があると分かった。

 「ぼっち様はステータス的に速度重視、スキルは隠密重視であり攻撃系は逆に劣っていると思われます。腕輪の影響により攻撃力は上がっておりますが肉弾戦においての筋力はアウラ様に負けるでしょう。それとコレをご覧ください」

 ハイネは映像スクロールを展開し、1500人との戦いの時のぼっちを映した。初めてみた者もこうしてまじまじ見たアインズも息を飲んだ。
 目につく攻撃をすべて受け流し隙が出来たところに攻撃を叩き込んでいた。一体多数で高レベルプレイヤーに囲まれているというのにぼっちの有利が動く事は無かった。
 自分達はこれからこの映像の者に戦いを挑むのかと思うとため息が出る…

 「ぼっち様の最大の特徴はその反射神経です。その力があったからこそたっち・みー様とも互角に戦う事が出来たのでしょう。ですが、それが弱点でもあります」
 「それが弱点ってどういうことかしら?」
 「…映像を見ての通りぼっち様は目で見てから反応出来るせいか、集団戦の時には背後や死角からの攻撃を少なからず受けているのです」

 確かに映像を見る限りそういった攻撃にはワンテンポ遅れて動いていた。これはぼっちの癖であった。現実と違い五感が使えず視覚に頼らざるを得ないゲームでは殺気や物の動く感覚と言うのは味わう事は出来ない。単独行動時には索敵で周りの状況にも気を配るのだが集団戦になると周りよりも目の前のことに目がいってしまい。後ろや死角への対応が疎かになってしまうのだ。

 「そうか分かった…ではコレより出撃メンバーを告げる。アルベド・デミウルゴス・コキュートス・アウラ・マーレ…シャルティア。そして私の7名で行う。一時的ではあるがナザリックの指揮権をパンドラズ・アクターに渡す。異論がある者は前に出よ!」

 前に出る者など居なかった。皆やる気に溢れた目をしていた。一刻でも早く助け出す為に…

 (あの時救ってくれた恩…今こそ返しますよぼっちさん)



シャルティアとシズが謀反したといったな…アレは嘘だ(メイトリックス大佐風に)

美少女をぼこぼこにする話からぼっちさんを袋叩きに!これで一対多数でアインズ様が有利…………あれ?


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第025話 「無口の狂戦士」

今回今までで一番長い話となってしまいました。
本当なら二話に分けて書こうと思ったのですが一話にまとめてしまいました。
理由はあとがきで書くとしてどうぞお楽しみください…


 ぼっちは一人森を彷徨う…何を探してるわけでもなく…何をすることもなく…ただ出会ったものは殺す…何の躊躇いも無く殺す…さっきも殺した…ミスリルのプレートを下げた一団を…弱すぎた…あの時の…純白の騎士と戦いたい…
 そんなぼやけた意識の中、何かを感じた。

 「《センス・エネミー》」

 敵意を調べる魔法を使用するが何も引っ掛からない。首を傾げることなく口を開く。

 「《アイズ・オブ・ハイプローピア》」

 目を望遠鏡のように遠くを見やすくなる魔法を使用した。何かを感じるほど近くに居るならば空間を超えて対象の調査を行うことができる魔法《プレイナーアイ》よりこちらの方が良い。それに《アイズ・オブ・ハイプローピア》は自分の目を強化する魔法であり探知魔法や領域魔法ではない為、情報系の防壁に引っ掛かる事がないのだ。
 七人の異形種が見える。今までの獲物とは違う…

 「《サイレント・ムーブ》及び《ハイド・ザ・サインズ》」

 足音と気配を隠すスキルを使用し森を駆ける。目指すは七人の集団…目的は…殺す…ただそれだけ



 アインズは陣形を取って森を進んでいた。先頭をアインズが歩き左右にシャルティアとアルベド、後方中央をマーレが担当し左右をアウラとコキュートス、アインズとマーレの中間にデミウルゴスを配置したものだった。上から見たらIの字に見える物だった。
 この配置には意味があった。アインズが先頭を歩いているのは索敵の為ではなくぼっち戦にて安全の為だった。ぼっちは集団に戦いを挑む時には必ず背後もしくは側面から襲う事が多かった。ゆえに先頭こそが安全だと判断したのだ。しかも左右を攻撃特化と防御特化で固めたおかげでまず攻めて来れないだろう。逆にマーレが一番危険なのだ。ぼっちの戦術的に襲われる可能性が高いのはマジックキャスターなどの後方支援要員である。肉弾戦を行なっている最中にちまちまと攻撃を受けるだけでもうっとおしいのに相手の回復まで行い、こちらの攻撃は通らない。だからそう言った後方要員を狙う。
 この陣形はマーレを囮とすることが大前提の陣形なのである。だからと言ってやらせる訳ではない。ちゃんと策も考えている。戦闘時には左右に布陣させたコキュートスとアウラが時間を稼ぎ、中央のデミウルゴスが《悪魔の諸相:八肢の迅速》で急行、マーレは《ウッドランド・ストライド》によりシャルティアを転移させる。この間にアインズの元まで下がれば攻撃要員4の後方守備1の後方支援2戦況は有利になるだろう。もしもマーレが危なくなればアルベドが《トランス・ポジション》により入れ替わる手はずになっている。
 他にも策は用意した…後はうまくいってくれる事に全力を注ぐ事だけだった。

 ここでアインズは失念していた事がある。《ベルセルクの腕輪》は今までの戦闘から戦闘方法などを検索するシステムである。『今までの』と言う事はアインズ・ウール・ゴウンより前の戦闘データも含まれていた。さらに仲間が出来てからは戦闘を控えていた反面、一人の時の方がぼっちの戦闘スタイルなのである。
 導き出された行動は敵の一番薄い所ではなく厚い所…それも指揮官を狙うことだった。

 「な、何!?正面だと!!」

 突然正面の茂みより襲い掛かってきたのだ。皆後方に気をとられていたおかげで対処に遅れた。アインズに一撃が加えられる。しかも剣士であるぼっちの初撃は《二の太刀要らず》。一瞬だけ防御力を半分にし攻撃力と攻撃モーションの速度を一瞬だけ二倍にする一日に一度だけ使えるスキル。

 「《ウォールズ・オブ・ジェリコ》そして《イージス》」

 アルベドがアインズを押し退け手を突き出す。スキルによって発現した光の盾にぼっちの刀が触れる。ぼっちは非力といえ今は《ベルセルクの腕輪》で超絶強化された戦闘力を《二の太刀要らず》でさらに強化しているのである。防御特化と言え防ぐのは不可能である。

 「アルベド!?くっ!《リアリティ・スラッシュ》」
 「せ、《清浄投擲槍》!」

 アインズに続きシャルティアも攻撃を放つ。ぼっちは現状防御力は半分の為に当たれば大ダメージ。無言のまま攻撃を中止して後方へ飛び退き、その後を斬撃のような衝撃波と神聖属性を持つ3メートルもの槍が向かって行く。同時に追撃するようにシャルティアが前に出る。

 「《不浄衝撃盾》ならびに《ブラッディ・ランス》」

 《不浄衝撃盾》で《リアリティ・スラッシュ》と《清浄投擲槍》を防ぎ、血の様な液体で作られた槍が出現する。このスキルはスライム種でありながら吸血鬼でないと使えないスキルである。正直《清浄投擲槍》の劣化版である。ただ液体操作を得意とするスライムが吸血鬼ならばこんなのはどう?というネタスキルである。だが、ぼっちは気に入り良く使用していたのだ。もちろんアインズ・ウール・ゴウンに加入する前ではあるが…

 「ならば《不浄衝撃盾》」

 ぼっちが行なったようにこちらも防御として使用する。シャルティアは気付いてなかった。消し飛んだ《ブラッディ・ランス》の影より4本のナイフ・バットが飛んで来たのだ。

 「《トランス・ポジション》!《ミサイルパリィ》《カウンターアロー》」

 シャルティアとアルベドが入れ替わると同時に反射スキルを唱える。当たりかけたナイフ・バットがぼっちへ向かって行く。迎撃に同じ本数のナイフ・バットで相殺した。
 
 「やはり迎撃だけでダメージは無理ね」
 「あ、ありがとうアルベド…」
 「まったく前に出すぎよ」

 戦闘中に会話をするなと言いたいが彼女らは決して油断無く相手を睨みつけている。相手を気遣っていたら速攻でやられることは頭ではなく肉体で理解した。それでもまだ余裕があるのだ。

 「《悪魔の諸相:八肢の迅速》」
 「《不動縛鎖》」
 「う、《ウッドランド・ストライド》」
 「《 マカブル・スマイト・フロストバーン》!!」
 
 二人の動きに連動して他の守護者も動き始めた。急加速してくるデミウルゴスに反応したぼっちがアウラの《不動縛鎖》により拘束された。次にマーレにより転移させられたコキュートスが至近距離で一撃を放つ。

 「《コントロール・ デシジョン》」

 焦ることなくスキルを発動させコキュートスの攻撃を通り抜け捕縛を刀で切り裂き脱出する。同時にナイフ・バットを今度は6本を飛ばす。先ほどの4本より速度が速い事から上位種と分かるが守護者なら対応できる速度だった。

 「《悪魔の諸相:鋭利な断爪》」

 80センチまで伸びた爪ですべてを打ち落とした。

 「さすがはぼっち様ですね…ですが…」
 「ナイフ・バットハ合計18本…」
 「の、残り…よ、4本です!」
 「《ブラッディ・ランス》及び《コントロール・ デシジョン》の使用回数は三回まで…だったよねシャルティア」
 「そうでありんすよチビスケ…」

 アインズ・ウール・ゴウンメンバーでさえ知らないスキルを熟知出来たのは偶然だった。陽光聖典との戦いで気になったアインズがナイフの本数と《コントロール・ デシジョン》の事を聞いており、馬車内での会話で《ブラッディ・ランス》の話が出たのである。詳しい話は出来なかったが大まかな事は分かっているのである。

 「ぼっちさん…今助けます。マーレ!」
 「は、はい!《ウッドランド・ストライド》」

 後方のマーレと合流したアインズはマーレに転移させた。ぼっちはすぐに確認を行なうが…

 「ここですよぼっちさん!《ウォール・オブ・スケルトン》」

 振り向くと同時に地面より髑髏で構成された壁が現れる。注意を壁とアインズが引き付けた。

 「《 レインアロー「天河の一射」》」
 「いくでありんすよコキュートス!」
 「承知シタ《レイザーエッジ・羅刹》」

 上から無数の矢が降り注ぎコキュートスが《レイザーエッジ・羅刹》により胴体と腕輪をしている左腕を狙った。そしてシャルティアが突撃する。ぼっちでは反応できない死角よりの多数攻撃。防ぐとしても映像での反応では間に合わない。
 これこそがアインズと皆で出した必勝の作戦であった。

 ここで予想外な事が起こった。ゲームだった頃は視覚でしか認識出来なかった世界だが現状五感で感じられるのだ。それに加えてぼっちは異常な反射神経とそれを異常な肉体を持っているのだ。
 ゆえに気付いたのだ後ろからと上からの攻撃に…

 「《コントロール・ デシジョン》《不浄衝撃盾》《コントロール・ デシジョン》」
 
 ただ淡々とスキルを発動させた。コキュートスの胴体の一撃を受け、腕への攻撃は当たり判定を動かし、上からの矢は《不浄衝撃盾》で防ぎ、シャルティアの攻撃を再び使用した《コントロール・ デシジョン》でダメージを回避した。
 勢いを殺しきれずぼっちに体当たりしてしまったシャルティアはそのまま抱きしめられた…

 「な、ぼっち様!?くぅあ!」

 何が起こっているか分からないアインズと壁を一つ挟んだ先でぼっちはシャルティアの首筋に噛み付いていた…

 「あぁぁ…」
 「シャルティア!?」
 「アウラ、シャルティアを。コキュートス!!」
 「アチャラナータ…三毒を斬り払え、倶利伽羅剣!」
 「…《ブラッディ・ランス》」

 吸血行為を止め急ぎ不動明王撃に血の槍を投げつける。相殺は出来るはずがなく多少ずらす程度だったが後は自前の速度と反射神経で回避する。その間にすかさずアウラがシャルティアを抱えマーレの元まで離脱する。

 「アウラ!シャルティアは大丈夫なの!?」
 「駄目だよ…吸血により気絶している!」

 最大の攻撃力を失ったが悪い状況ではなかった。《コントロール・ デシジョン》と《不浄衝撃盾》の使用回数は0でナイフ・バットは4本と《ブラッディ・ランス》は残り一回…すでに戦闘スキルの半分以上を消費させた。
 しかし配置が悪かった。なぜなら…

 「いけない!!《トランス・ポジション》」

 ぼっちは振り返り骨の壁を切り裂いた。囮の為に一人背後に回ったアインズは自ら出した壁で状況が把握できていなかった。突如壁が壊れぼっちとアインズの視線が合う。予想外の出来事に魔法を唱えるのが遅れる。そこに刀が突き出される。

 「!ぐぅううううう!!」
 「!!ア、アルベド!?《グラビティメイルシュトローム》」

 入れ替わったアルベドはスキルを唱える間もなく腹部に刀が突き刺さる。超重力の螺旋球が放たれたのを確認し、回避しようとしたぼっちに直撃した。刀を離し吹き飛ばされ地面を転がりながら体勢を整えた。

 「見事ダアルベド!」

 アルベドはあえて腹部への突きを受けたのだ。この先になるがアルベドの腹筋をデミウルゴスがある事で殴った事があるのだ。殴っても大したダメージを負う事無く、殴ったデミウルゴスが「なんて硬い腹筋なんだ」と表現するほどの。スキルを使わなくてもアルベドの防御力は高いのだ。だからこそあえて突きを受け腹筋と手の力でぼっちから刀を奪ったのだ。《ベルセルクの腕輪》で強化されるのは戦闘力。刀を失ったぼっちは能力で得られるものも一つを失ったのだ。
 それに比べてこちらは二人脱落と言っても前衛3人に後衛2人…有利のはずだった…
 距離を取らされたぼっちが残ったナイフ・バット4本を投げた。

 「その手は喰らいません。《悪魔の諸相:鋭利な断爪》」

 先ほどと同じようにデミウルゴスが迎撃する。が、ひとつも打ち落とす事が出来なかった。
 《クリエイト・ヴァンパイヤ・アイテム》で作られるナイフ・バットの総数は18本なのは合っているがあの口数少ないぼっちがすべてを話すだろうか?答えは否であった。総数の中で4つの分類がされている事を話していないのだ。下級で8本である。中級で6本、上級は3本、特上は1本のようにランクがあり、今まで投げていたのは下級と中級であり今投げたのは上級と特上。ランクが上になるほど追尾性能と回避性能は格段に上がるのだ。ちなみにニグンが売っているのが下級でクレマンティーヌが喰らい、上級天使を瞬殺したのが中級である。
 上級の二本がデミウルゴスの足に突き刺さり、残りの二本がアウラとマーレに向かって行く。アインズを含んだ4人で迎撃したが上級は落とせても特上は落とせない。知ってる人には分かるだろうか。当てるのも難しい小さな短剣がマクロスFのゴーストV-9のような機動で突っ込んでくるのだ。ただそれは身体ではなく杖を弾き飛ばしたのである。
 ダメージを受けたデミウルゴスが膝を突き動けなくなってしまった。上位にはバッドステータスを付与する事が出来るのだ。現在発動しているのは《麻痺大》しばしだが動く事が出来なくなった。

 「く、マーレとアウラはデミウルゴスを連れて下がれ。ここは私と…」
 「イエ、ココハ私メニオ任セヲ!」

 コキュートスがぼっち目掛け突っ込む。

 「《ブラッディ・ランス…」

 再び形成されていく血の槍を迎撃する為スキルを発動させる。
 
 「《レイザーエッジ・羅…》」
 「…サウザンド・アロー》」

 複数を標的とするスキルで槍と腕輪を狙う。が、その前に新たなスキルが告げられる。槍として投げ出された血が再び液体になり千本の矢となりコキュートスを襲い、甲殻装甲がどんどんと削られていき両膝を地面についた…

 「マ、マサカコノヨウナ事ガ…」

 アインズは今どうやって撤退するかを考えていた。後衛2人に前衛1人…しかも前衛としているアウラはどちらかと言うと後衛職のほうが強いのだ。前衛と言うか遊撃と言ったほうが正しいのだ。デミウルゴスは回収できずコキュートスもまた距離がある。アルベドなど回収するには残りの三人でぼっちを突破せねばならない。
 不可能…
 この場でぼっちを倒すか皆を連れて逃げるか…出来るのはアウラ、マーレ、シャルティアを連れて逃げる事だけだが…見捨ててなどいけるはずも無い…

 「ウオオオ!」

 行動不能と見て横を通り過ぎようとしてたぼっちにコキュートスがしがみ付いたのだ。二本の手で身体を、残りの二本の手で両腕を押さえたのだ。抵抗してもぼっちの力では解きようが無かった。

 「今デスアインズ様!私ゴトデモぼっち様ヲ」
 「くぅ!《悪魔の諸相:八肢の迅速》ぼっち様…《悪魔の諸相:鋭利な断爪》」

 無理をして負傷していたデミウルゴスが急加速してぼっちに迫る。身動きの取れない人の身では回避など不可能だったがデミウルゴスの爪が届かない距離で打撃を喰らった。

 「ガハッ!?」
 「デミウルゴス!?ナ、ナント!」

 人型をとっているせいで皆忘れていたが元々ぼっちのメイン種族は吸血鬼ではなく変身型のスライム種である。例え縛られていたって身体を変化させ抜ける事が出来るのである。
 まず捕縛されてない足をデミウルゴスに向けて伸ばし、直撃すると同時に身体を水状にして空中へ脱出し再びいつもの身体に戻したのだ。
 千載一遇の好機を逃した…そう誰もがそう思った。

 「ぼっち様ああああああ!」

 叫んでいたのはさっきまで気絶していたシャルティアだった。しかし距離がある為今から向かっても着地されて回避されるのは目に見えていた。回避行動の取れない空中に居てこそ今攻撃してれば勝てていただろう。
 いつものシャルティアならば…
 シャルティアの移動速度は目に映らなかった。それもそうだ。ぼっちは血を吸いHPやMPを回復しダメージを負わせたが副作用でステータスは1.5倍以上されているのだ。原作のようにこの状態でアインズと戦っていれば勝敗は分からなかっただろう。
 突撃するシャルティアの目には涙が浮かんでいた。先ほど血を吸われた時に微かにだが「・・・頼む」と聞こえたのだ。あの吸血行為はぼっち様の最大限の抵抗だったのだろう。現に今のぼっち様は機械的な目ではなく安堵が浮かんだ。
 一気に距離を詰めたシャルティアのスポイトランスが左腕に向かって突き出される。ぼっちは避ける事も出来ず左腕ごと腕輪を持っていかれ、そのまま地に伏せた…



チェリオ「勝った。第三巻完!」
モミ  「それ…死亡フラグ」
チェリオ「ファ!」

前書きで書いた理由を書かせていただきます。この回はほとんどをある理由で削除しまくった為です。例えば……あ、グロっぽいので駄目な人は見ないほうが…



 上級の二本がデミウルゴスの足に突き刺さり、残りの二本がアウラとマーレに向かって行く。上級はデミウルゴスの足に刺さると同時に内部に貯めていた魔力を爆発させた。
 血飛沫と共に足に付いていた皮から肉片が辺りに散らばっていく。かすかに筋肉の繊維だけでギリギリ繋がっている状態だ。そんな状態をぼっちは嗤いながら…

 「どうした?まだ足が二本千切れただけだぞ。掛かって来い!使い魔たちを出せ!身体を変化させろ!足を再構成して立ち上がれ!さあ、夜はこれからだ!ハリー、ハリー、ハリー、ハリーハリーハリー!!」

 グロい上にぼっちさん意識あるじゃねえか!と自分で突っ込みを入れてしまい削除
 例2
 デミウルゴスが動けなくなったのを見たマーレは急ぎ回復させようと杖を掲げ口を開く。
  
 「むぐぅ!?」

 そんな隙をぼっちは見逃さなかった。右手でマーレの口を塞いだまま持ち上げたのだ。
 ぼっちは思っていた。魔法詠唱者と言うのは弱点が大きい事を。理由は簡単だった。詠唱しなければならないならその詠唱を出来なくすればいいのだから…
 何の手加減も無いまま二度、三度と地面に叩きつけた。無論口は塞いだままだが…
 空いている左手で刀を構え、マーレののど元にむけて…

 こんな事を本文で書いたら次回からどうマーレと接したら良いのか分からず削除…
 などなどの理由で大幅削除してこうなりました。
 次回その後を書いて特別編に移行します。



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第026話 「二人の吸血鬼のその後」

 昨日からDVDに付いていたサウンドトラック聞きっぱなしのチェリオです。
 この話にてぼっち騒動終了です。
 ではどうぞ


 ぼっちは暗く冷たい泥沼に沈んでいくような感覚を味わっていた。
 薄っすらと光が見える…ナザリックの守護者達にモモンガさん…
 戦っているんだろうか…皆の顔色が悪くなっていく…止めたい…って言うか俺ってこんなに強かったの?誰か止めて欲しい。
 突っ込んでくるシャルティアが見える…俺が出来る事はそう思ったら血を吸っていた。意識が飛び飛びだった。
 重い瞼が開く。ぼんやりとした世界が徐々に鮮明になっていく。

 「・・・」
 「ああ!ぼっち様?ぼっち様!?」
 「よ、よ、良かったよー!!」
 「マーレ、アウラ落ち着きなさい。アルベドすぐにアインズ様を」

 俺は助かったらしい。ぼんやりする意識の中で多くの者が駆け込んでくる。守護者やプレアデス達に一般メイド達まで心配していたのだろう。申し訳ない気持ちと何か恥かしさに襲われ左頬を掻こうとした。頬を掻くことは出来なかった。皆の表情が一気に沈んでいく。何だろうと皆の視線の先を追うと…

 「・・・あれ?」

 そこにあるべき左腕が無かった…



 数分が立ちアインズが到着する。ぼっちの横まで来ると悲しそうに口を開いた。

 「すいませんぼっちさん…回復魔法を使用したんですけど…」
 「申し訳ないでありんす…」

 治療が出来なかった事を告げるアインズの後ろから俯いたシャルティアが前に出た。

 「ぼっち様!今回の失態は全てシャルティアが原因なのは明らかです。罰を与えるべきです」
 
 全ての目が殺気の篭った物になった。あの大人しいマーレでさえそうであったように…

 「そうでありんす…私があの時もっと冷静に行動していたら…あの時には腕ではなく腕輪を狙っていたら…こんな事には…」

 えー…ちょっと待ってよ皆。この空気重いんですけど。てか、俺が無罪っておかしくね?悪いの俺じゃん。この失った左腕見て「あれ?これってシャンクスか殺生丸じゃね!?」なんて内心興奮してたんだけど。オレ超超超ギルティーじゃん!

 「こっちへ・・・」
 
 手招きをしてシャルティアを横になっているベットの枕元まで来てもらう。視界に左腕が入るたびにどんどん沈んでいく。

 「ぼ、ぼっち様!あの…」
 「よくやってくれたな・・・礼を言う・・・ありがとう」
 「え!?そんな悪いのは私で…」
 「皆すまない・・・多大な迷惑をかけてしまったのは私だ。モモンガさん・・・罰するなら私を罰して欲しい」
 
 頼むからしてくださいお願いします!さっきから罪悪感が半端ない!
 この発言にアインズを除く全員が驚いていた。悪いのはシャルティアでぼっちは被害者というのが皆の認識だった。それを至高の御方が覆したのだ。ざわめいた…

 「ふむ…ぼっちさんの件は後にしよう。意識が回復したばかりだしな。シャルティアには何か罰を与えるのは…」

 やっべ。このままじゃシャルティア罰せられるの!?何かないか何かないか!?そうだ!

 「・・・では当分俺の世話って事で」
 「…ではとりあえずはそうしましょうか」
 
 何故か皆から非難の声が挙がるのは何故?こんな怪我人の世話なんて大変なだけでしょうに…
 その後はアインズが解散を命じることでぼっちの部屋は静けさを取り戻した。空気は重いけど…

 「何ででありんすの…」
 「・・・」
 「どう考えても私が…」
 「・・・えい」
 「!?ぼ…っち様…」

 片手だけだがぼっちは力強く抱き締めていた。

 「あの時良く私を止めてくれたな・・・ありがとう・・・私はお前を咎めない」
 「そんな!?…宜しいのでありんしょうか…」
 「・・・良いんだ」
 「……はい」

 ぼっちへの返事とは逆にシャルティアの表情は沈んでいく。



 「…で相談したいと?」
 
 弱々しく頷くシャルティアの前に肘をテーブルにつき退屈そうにしているモミが居た。
 寝室で寝ているぼっちの見舞いに来たのだが落ち込むシャルティアに声をかけてしまいこの状況にある。若干後悔していた。

 「モミは私達と違うでありんす…だからぼっち様が何故お許しになられんしたかが分かると…」
 「…ただ気にしてないから許しただけだと思うんだけど?」
 「そんな訳ないでありんす!」

 さっきからこれの繰り返しである。

 「……一つ聞きたいんだけど…」
 「何でありんすか…」
 「許されたくないの?」
 「!?許されたいでありんす!」
 「…だったら…」
 「あんな事をしておいて何のお咎めもないなんて!」
 「ああ…責められないのが不服なのか…面倒くさっ(ぼそっ)」
 「………そう、でありんす…私は」
 「責められないのは決定事項なんだからもう何も出来ないじゃん。それよりもこれからどうするか考えたほうが賢明だと思うよ?汚名挽回する為に行動しなよ…」 
 「……」

 一瞬考えたシャルティアは意を決し、寝室の方へ駆けて行く。
 それを見て立ち上がり部屋を後にしようとする。が、呼び止められた。

 「シュバリエ・モミ!」
 「…?」 
 「感謝するでありんす」
 「…そう」
 「それと汚名は挽回する物ではありんせんよ」

 再び駆けて行き、一人部屋に残ったモミは辺りを見渡し誰も居ないことを確認後、勢い良く突っ伏した…



 「~♪」

 ぼっちは寝室に隣接させた浴場に浸かっていた。さすがに片手では身体を洗えない為に湯船に浸かるだけだが。
 ちなみに今歌っている鼻歌はアイモである。
 シェリルも好きだけどどっちかと言うとランカ派なんだよなあと思っていたぼっちにノック音が聞こえた。

 「ぼっち様。入浴中でありんすか?」

 シャルティアだった。除き防止のガラス越しに立っている為に表情までは見えないが声がさっきに比べて明るかった。立ち直ったと思って安堵する。

 「・・・入っているよ」
 「し、失礼するでありんす」
 「!?」

 ふぁ!?何入って来てんの貴方!ドッキリ?ドッキリだ!後ろからモモンガさんがパネルを持って…

 「お、お、お背中お流しするでありんす…」

 持って出てこないですよねー…まずドッキリでモモンガさんがこんな事させるわけないもんね。
 バスタオル一枚しか装備してないシャルティアはぼっちに湯船から出るように促す。
 湯船から上がる瞬間に腰の一部をタオルのような物に変化させ腰の辺りを隠す。そして腰掛に座る。 

 「ではまず洗髪からいくでありんす。目を瞑ってくんなまし」
 「・・・ん」

 短く返事するとゆっくりとお湯がかけられる。お湯が流れると後ろから手が伸び、髪に触れた。程よい力加減の指と泡だったシャンプーの感触が頭皮を刺激する。
 しゃか、しゃか、しゃかと頭皮が擦られる音が浴場全体に広がっていく。

 「うわぁ~。ぼっち様何か手入れされているんでありんすか?」
 「・・・いんや・・・何もしてないが」
 「そうでありんしたか…毎日触りたいぐらいさらさらで気持ち良いでありんす」

 あまりの気持ちよさに意識を飛ばし掛けていた俺はうつらうつらしながら答えた。

 「・・・気持ち良いから毎日でもいいけどな・・・」
 「!?っほ、本当でありんすか」
 
 あれ?俺なんか言った?……まずい…何か嫌な予感…
 そんな予感を余所に引き続きぼっちの頭皮をマッサージするように洗っていく。

 「~♪」
 「・・・」
 
 眠気が覚めてきた。「・・・気持ち良いから毎日でもいいけどな・・・」って何言ってんだよ俺。本当に毎日来たらどうしよう…嬉しいけど!とっても嬉しいけど!

 『逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ』

 うん。逃げないけどどうしよう。幸せすぎて死ぬんじゃね?
 頭の泡をしっかりと流され、洗髪が終了した事が分かり少し残念だったが。

 「次は身体を洗わせていただでありんす」
 「うん・・・ん?」

 背中の肌を傷めないように優しく洗ってくれているのが分かる。分かるがどう考えてもスポンジやタオルの感触ではない。人肌の温かみと柔らかさがあり、平たい部分から五本の棒状が物が伸びているのが伝わる。
 これってどう考えても手で洗われてね?確かに何かで物を使うより人肌のほうが良いみたいな物を読んだ気がするがまさか実際にしてもらえるとか。
 背中から首へ、腕へ、足へと流れて行き、最後は前だけとなった…

 「で、ではぼっち様。まままま、前も洗わせて」
 「ぼ、ぼっち様。入浴中ですか?」

 前を洗おうとしていたシャルティアの後ろの扉からマーレの声が聞こえた。
 まずい。この状況どうする。さて選択肢を寄越せ!

 1.スキルを使いシャルティアを残して逃走
 2.マーレも誘う
 3.シャルティアの事を隠して何とかする

 ………3しかなくね?ここはぼっちのコミュニケーション力で!

 「あれ?シャルティアさんも居ない…」
 「て事は…まさか!?」

 選択肢の意味がない!というかコミュニケーション力ないから元々3は駄目だった…
 一緒に居たのであろうアウラが一番に扉を開ける。そんな二人の目にほとんど裸の状態で後ろから抱きしめようとするシャルティア…肩が震えているのが分かる。

 「な、何をしてるでありんすかアウラ!?」
 「それはこっちの台詞でしょうが!」

 声の響く浴場で怒鳴り声は勘弁して欲しい…
 二人の喧騒の中困った顔をしているとマーレが近づいてきた。

 「ぼ、ぼっち様。すごいですね…」

 ちょ!?何俺の身体マジマジ見てるの!これはぼっちのキャラクターの肉体が筋肉質なだけで現実の俺はこんな良い身体してないからね!触んないでぇ~。

 「へ?た、確かにすごい…」
 「ふふん。それだけではなく髪の毛は触るだけでとっても気持ちいいんでありんすから」
 「え!ず、ずるいですよ!!」
 「そうよ!あんた罰よりご褒美貰ってない!」
 「わっ!?」

 濡れたタイルでマーレが足を滑らせ、咄嗟に左腕で受け止める。……受け止める?

 「あ、ありがとうござ…あれ?」
 「ぼ、ぼ、ぼ、ぼっち様ぁ!?腕が!腕が!!」
 「な、治ったでありんす!」

 その通りで無くなったはずの左腕がそこにはあった。
 ……ああ!俺、変身型スライム種だから水分さえあれば身体の修復・変身が可能なの忘れてた…

 「良゛がっだ…良゛がっだであ゛り゛ん゛ず」

 振り返るとシャルティアが大粒の涙を流していた。そっと左手で撫でてやる。泣きながらだが嬉しそうに笑っていた。

 「あー、コホン。ぼっち様。申し訳ありませんがこの馬鹿借りていきます」

 そう言うとシャルティアの首根っこを掴み、引き摺って行く。

 「ちょ、ちょっと待つでありんす!今は…」
 「「今は」じゃないの!こんな良い思いして!じゃなかった…何一人ご褒美貰ってんのよ!」
 「これは…そう!お世話の一環…」
 「い、言い訳は後で聞きますので行きますよ」
 「マーレもでありんすか!?」

 そのまま三人は浴場より退室して行く…この腕どうモモンガさんに報告しようと頭を悩める事に…というか何しに来たんだろう…



モミ  「あー…腕生えたのか…」
チェリオ「?生えたら駄目だったか?」
モミ  「いやピッコロみたいで」
チェリオ「だから何でそういうの知ってんの?」

次回は皆でスキーに行こうと思います。この寒い中に…
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第027話 「ぼっちの想い」

 


 ぼっちはセバスとソリュシャンに囲まれた環境下の部屋でくつ…ろげるかぁ!!
 何でこんな事になってるかと言うと原因は俺にあった。この前の事件で皆に迷惑をかけた事により謹慎を言い渡され、その事で一時帰投したセバスとソリュシャンは俺の監視役になったのである。
 ちなみに今はお仕事中である。これもぼっちのせいで発生した仕事である。

 昨日 アインズの執務室

 「やっぱり出来ないか…」
 「申し訳ありませんアインズ様…」

 深く椅子に座り込むアインズは残念そうに呟き、本当に申し訳なさそうにデミウルゴスが頭を垂れる。
 その光景をぼっちは壁にもたれながら見ていた。

 「・・・何の話?」
 「ええ、その…っ!?ぼっちさん!ナイフをペン回しのようにしながら来るのやめてください!!危ないでしょう!?」
 「そう?」
 「それは上級ナイフ・バットでは?」
 「?そうだが・・・」
 
 魔力量で上級と分かったデミウルゴスは足を撫でながら一歩引いた。首をかしげながらナイフを懐にしまう。

 「・・・で?」
 「え?ああ、話の内容でしたね。前にぼっちさんが部下にした…」
 「・・・クレマンティーヌ?」
 「その者が持っていたスティレットが作れないのですよ」
 「???」
 「あの程度の短剣なら五萬とありますが魔法を内蔵する武器の精製となると…」
 「・・・あるけど?」
 
 一瞬にて静けさが執務室を満たした。二人の視線がぼっちを貫く。

 「・・・コレ」

 差し出されたのは先ほどから指で回していたナイフ・バットだった。

 「…ぼっちさん?どういう…」
 「・・・これは魔力を注ぎ込むことで出来る」
 「え、ええ…作れるぼっちさんがMPを消費することで出来るんでしたね」
 「これは魔力を含める媒体・・・」
 「「あ!?」」

 二人の声が重なった。
 魔力を注ぎ込む、もしくは内包できる魔力を含める媒体にある物を思い出した。
 
 「羊皮紙と同じ原理でございますね!しかしどうやって魔法を…」
 「そのナイフ・バットはユグドラシルでの手法で精製されているということは羊皮紙に行なうように出来るのではないか!?…ぼっちさん!実験用に数本…いや、五十本ほど作ってくれますか?」
 「お待ちくださいアインズ様。複数のナイフ・バットを所持すると効果が消えるのでは?」
 「・・・消えるのは追尾能力だけ・・・」
 「ではお願いしますぼっちさん。あと何が必要だと思うデミウルゴス?」
 「ハッ!まず…」

 後は二人の会話に入れずぼーとしていたらいつの間にか50本の短剣とレポート用紙を渡され帰されたのだ。
 
 
 
 「ぼっち様、少し休憩をなされてはどうでしょうか?」

 セバスに声をかけられて時刻を見るともう作業開始してから3時間が過ぎていた。
 同じ作業をしていて凝り固まった背筋を伸ばす。
 
 「ふふ、お茶の用意をいたしますね」

 奥へと向かうソリュシャンだったがしかめっ面をしているセバスに気付き動きを止める。
 
 「ぼっち様…お疲れなのですか?」
 「?・・・ああ」
 「アイテムはお持ちではないのですか?」
 
 持ってないヲー!だってあれらって持ってたら睡眠・食事に不便だしね。あー…飲食不要だけは持ってるけど…たまに血が飲みたくなるんで♪

 「不便ではございませんか?疲労不要のアイテムがあればそのような煩わしさは無くなりますのに…」
 『ツカエ…クスリ…イタミ…ナクス』
 「痛みがある方が、生きている気がする」
 「確かにそうでございますね。ぼっち様の考えも分からぬままの発言…平にご容赦を」
 「?・・・ああ、許そう・・・」

 ん?俺、今何か口にした?…というかさっき『クスリ』がどうたら言ったのって…あれ?幻聴に答えてなかった!?なんかどんどん悪化しているような…ソリュシャンもそこまで深々と頭下げないで!
 
 「ぼっち様。宜しければマッサージなど如何でしょう?」
 「マッサージ?」
 「はい。疲れを癒すには最適と聞いたのですが…」
 「・・・ちなみに誰が?」
 「話の内容は定かではございませんがヘロヘロ様がそう呟いていたのを聞きました」
 
 ヘロヘロさん!?あ、あー…あの人はいろいろやばかったからなぁ…精神的にも肉体的にも………少し気になるんだよね、マッサージって。店に入るのは気が引けてたし、リアルでは入れないから。
 
 「・・・では頼もうかな」
 「では、上着をお預かりいたします」 
 
 赤いコートと黒いジャケットを手渡すと手馴れた手つきでハンガーにかけていく。
 促されるままベットに横になる。もちろん靴は脱いでだが。

 「あ、ぼっち様。帽子を…」
 
 渡し忘れていたシルクハットを渡しいつもより軽装になった自分を見る。カッターシャツにスラックスのみ…仮面はオプション装備…でもし敵襲なんてあれば本気で不味い。武器も持ってないしね。

 「では失礼致します」

 優しい手つきでセバスが背を撫で始めた。まだ揉み解す段階ではなく血行を良くする為に擦って暖めているのだろう。
 背が程よく温かくなるのを感じるがスライム種である自分に血管があるかは謎だが。
 ふいに足を誰かに触られ、動くことすら出来ず驚いた。部屋にある鏡越しに見るとソリュシャンが足の裏を擦っていた。
 鏡越しの視線に気がつきハッとした表情をした。

 「申し訳ございませんぼっち様…勝手に…」
 「いや・・・気持ちいいからいい・・・」
 「え!?は、はい!では、続けさせていただきます♪」
 
 徐々に二人は力を込め始めた。
 程よく加えられた指先により身体が解されて行く。
 背から首筋へと揉み解されていく。スーと何かが消えていく感覚と同時に少しずつだが楽になっていく。余りの気持ちよさに瞼が重く感じてきた。別に寝てもいいか…と思い瞼を閉じて身を任せた…
 
 「結構凝っていらっしゃるようで…毎日お疲れなのですね」
 「ぼっち様。我々は至高の御方々のようなりっぱな働きは出来ませんがどうぞ我らを使い、もっとご自愛ください」
 
 閉じかかった瞼を開き二人の顔を鏡越しに除く。
 背から首筋を揉み解し肩を揉み解し始めたセバス、足裏から脹脛を撫でるように揉み解すソリュシャン。二人の目から悲しいような表情が見て取れた。
 …あぁ…そうか…ここに居るナザリックのNPC全員はアインズ・ウール・ゴウンに仕えることを行動の原理になってるんだった…だから身体をここまで酷使している俺は皆を頼ってないと思われているのか…そんなことは無いと断言できる。
 
 俺をこのギルドに誘ってくれたモモンガさん
 そのモモンガさん第一に考え支えようと尽くしているアルベド
 優れた知能を俺達の為に酷使することを厭わないデミウルゴス
 少し空回りしてしまうがそれでも必死にがんばっているシャルティア
 外へ出ている間この家を守り続けてくれているコキュートス
 アウラとマーレの子供独特の純粋さは癒しを与えてくれる
 完璧なサポートから外での仕事を任せてしまっているセバスにプレアデス達
 ナザリックを資源不足にならないように日々生産し続けるモミを始めとする第11階層の者達
 他にもこのナザリックを支える為に働く一般メイド達に各階層に居る配下の者達
 
 その有難味は心の奥を温かくしてくれる。
 友を持たず、家族との繋がりは薄く、誰とも接して来なかったぼっちを家族のように温かく受け入れてくれた皆への感謝を忘れた日など無かった。
 ぼっちはマッサージを中断させベッドに座り二人と向かい合った。

 「セバス…ソリュシャン…」
 「「はい」」

 二人はいつもより間が少ないぼっちに驚きつつ返事をする。その声は優しくもハッキリした物だった。

 「お前達はいつも自分達の事を卑下するがそれは間違っている。私もモモンガさんもいつも変わらず尽くしているお前達に感謝しているのだ」
 「そんな感謝の言葉など…」
 「最後まで聞いてくれ。私は家族や友などを知らない。知って来ようとしてこなかったのだ。けれどモモンガさんと出会い、タッチさんと再会し、『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバーになり、今はお前達と共に過ごしている。
 お前達はいつどんな時でも温かく接してくれて私はお前達を友人、家族、そして最高の宝物だと思っている。
 だからこそ自分達を卑下せず胸を張って欲しい。
 そしてまた同じことを言うようだが感謝する。セバス、ソリュシャンはもちろんこのナザリックの皆に対する感謝の気持ちを一日たりとも忘れたことは無い。…ありがとう。本当にありがとう」

 セバスもソリュシャンも膝をつき、深々と頭を下げる。

 「そのようなお言葉勿体無く存じます」
 「私達はこれからもぼっち様、アインズ様に尽くすことをお許しください」

 顔を上げた二人の瞳には大粒の涙が溢れていた。



 今日から再び本編へ戻ったが当分謹慎話であーる


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第028話 「ぼっちとモミ」

今回初のモミとぼっち回です。
よくよく思い出すとぼっちとモミの絡みってほとんど無かったような気が…


 「・・・・・・」

 ぼっちは部屋で寝込んでいた。
 アンデットである吸血鬼種族を持つ為、風邪などの病気は引くことは無い。
 これは前回のセバスとソリュシャンとの会話が原因であった。
 間を空けずに連続で喋った結果、オーバーロード(過負荷)してしまったのである。ならアイテムを使えばいいのだがセバスに言った手前使えないのであった。
 俺が寝込んだ情報を知った皆の反応は凄かった。休憩時間の合間合間に守護者から一般メイドまで駆けつけて来るのだ。寝込んでいるのだから静かにして欲しいのだが…まぁそれは嬉しい事でもあるから良しとしよう。
 唯一この事を知っていたモモンガさんが皆にばらした事も良しとしよう。
 ステラとデミウルゴスが本気でケンカしそうになったことも……良しとしよう。
 問題は……

 「……ん?なぁに…」

 この俺が寝ている布団の上に座ってるモミ・シュバリエである。
 ステラと一緒に一度来たはずなのだが何故か戻って来て居座っている。
 
 「・・・仕事・・・しなくていいのか?」
 「……押し付けてきた…」
 「・・・そうか」
 「……そうだよ…」

 ・・・・・・・・・・・・
 会話が続かん!何だこの空気!?シズでもここまでの空気にしたこと無いぞ!!
 少し頭を抑えながら首を傾げるモミを見つめる。
 モミ・シュバリエはモモンガさんをモデルに製作したNPCだ。なのだが分からん。設定ではナザリックを第一に考える守護者なのだが仕事は隙有らばサボり、ステラに追い回される…俺の事は忠義を尽くす相手とは見ておらず友達?ぐらいに思っているのだろう。あと何故か二次元ネタをしっていやがる。この前なんて…

 『ナザリックよ!私は帰ってきた!!』
 
 いやナザリックじゃなくてソロモンだろうが!?って突っ込みする前に無断で外に出たことでデミウルゴスとステラの説教コース直行してた。
 話が逸れてしまったか…兎も角この状態を何とかしたいのだが如何せん理解できていない為にどうしようもないのだが…

 「…あ、もう十二時」
 
 お、帰るのか?やっと静かにぼっちになれる!…ぼっちになれるって…
 布団から飛び降りたモミはよたよたと歩いていく。その姿は部屋の奥にあるキッチンに消えていった。・・・・・・消えていった?

 「・・・・・・何をしてる」

 嫌な予感がして頭を過ぎった疑問を口にしていた。振り返ったモミはいつも通りニヤリと笑い答えた。

 「…昼食作ってあげる…」

 はい?…こいつ料理できるの?そんなスキル持たせたっけ?
 
 「ヒヒ…ヒヒヒ……ヒヒ」

 包丁で食材を切る音や何かを炒める音は綺麗な音を発しているのに何だその笑い声は?キッチン付近より黒いオーラが見えてきた。
 頭の中に様々の名前が通り過ぎていく…
 セシリア・オルコット、ニア・テッペリン、ペルソナ4女性陣、妃英理、神谷薫、ホライゾン・アリアダスト、姫路瑞希、ノエル=ヴァーミリオン…etc.etc.
 不味い…本気で不味い…シンジ君なら「にげちゃ駄目だ」だけど俺は「逃げなきゃ駄目だ」
 重い体に鞭を打ってベッドから這い出る。目指すのはドアから先の通路。通路まで出ることが出来れば一般メイドの誰かが居るだろう。
 
 「…何処行くの?」
 「~~~!?」

 振り返るとニタリと笑ったままモミが立っていた。そのまま近づき後ろから抱きしめられ、ひきずられて行った。
 キッチンの机の上には何か料理が置いてあるのだろう。良い匂いが漂ってくる。
 
 「座って、座って」

 まだ地面に膝を付いていたぼっちは急かされるまま椅子に座った。机の上にあったのはとろとろのオムライスの上にハヤシライスのソースがかけられたオムハヤシだった。
 …あれ?普通に美味しそうなんだけど…
 
 「…よいしょっと」

 何故に貴方は俺の膝の上に座るのでせうか?そして何がそんなに嬉しいんでせうか?すっごい笑顔。
 スプーンに一口分をすくい、口元まで寄せてきた。
 
 「はい、あ~ん」
 「・・・・・・・・・へ?」
 「あ~ん」
 「・・・自分でたb…」
 「…あ~ん」
 「・・・あ~ん」
 「フヒ♪」

 恥かしさで悶絶しそうなぼっちの口の中にモミが作ったオムハヤシの味が広がる。
 美味しい。ルーに程よい触感で混ざり合った豚肉にたまねぎ。とろとろでふわふわの卵…旨い…

 「どう?…どう?」

 不安げな表情で瞳を輝かせながらこちらの瞳を覗いて来る。

 「・・・凄く美味しい」
 「えへへへへ…練習した甲斐があった」
 「・・・・・・」

 なにか心の奥底が温かくなった気がして取り合えすモミを撫でる。すると嫌がるように振り払われた。
 
 「む~…子ども扱いNG…」
 「・・・すまん・・・」
 「…あ~ん」
 「あ~ん・・・あむ」

 最初と変わらないような静けさだが何とも心地よかった。
 


 かちゃかちゃと音を立てながらモミは食器を洗い、ぼっちは再びベッドに戻り休む。
 今日はモミの意外な一面が見れたような気がする。…気がする所じゃないが…
 お腹いっぱいになった為か急に瞼が重くなる。そのまま寝転び就寝しようとする。

 ごそごそ、ごそごそ

 眠気が極限に近づいた頃に物音が耳に入って来た。寝惚け始めていた脳を動かす。この部屋にはぼっちを除けば洗い物をしているモミだけだ。ならばモミなのだろうが音源はすぐそこから聞こえてきた。重い瞼を抉じ開けると複数の視線と合った。

 「・・・・・・何してる?」
 「……添い寝…」

 目を開けた先には布団に潜り込み、いつもだらけたような感じの蛇髪がこちらを見ていた。
 甘えるそうに擦り寄ってくるモミを追い出すわけにはいかずにそのままにする。
 
 「……暇」

 眠りかけてる人に何をしろと言うんだこの子は?
 
 「…耳かきしてあげようか?」
 「・・・寝たいのだが?」
 「……仕上げに耳舐めもしてあげるよ」
 「・・・・・・何?」
 「…耳舐め」

 ハハハ。ごめんぼっち意味が分からない。耳舐め?何それ?字のままでいいのかコレ…字のままだと耳を舐めるってことだよな…what

 「?耳舐め知らないの?…耳掃除の仕上げにするって音声作品で言ってた…」

 え、なに?マジであるのそういうの?ぼっち知らないんだけど…ってどうやって知ったのこの子…


 「・・・物知りだなモミは・・・」
 「…うん。褒めて褒めて」

 急かされるようにモミの頭を撫でてぼっちは意識を手放した。間違った(?)知識を殖え付けられて…



 ぼっちが熟睡した頃になってモミは布団から這い出た。
 初めてだった。こんなにこの人と触れ合ったのは…そう思うと顔が赤くなっているのが分かった。
 いろいろネタを用意していたのにあまり喋れなかった…父親と娘の会話なんてこうゆう物なのかと自身で納得する。
 火照った顔を覚ますように手洗い場で冷水を顔に浴びせる。
 切り替えないと…私はナザリックの理を第一に考える守護者…ならばもしもの時は…
 鏡を見て我に返る。そこにはやる気なさそうでニタニタ笑っている自分でなくハイライトが消えながら嗤っている。頭を左右に振りいつもの表情に戻す。
 何故この嗤い方と多少だけど喋り方だけ似てしまったのだろうか?出来るなら一つぐらい同じ技など欲しかった。

 「…まぁ…いっか…」

 頭をぽりぽり掻き扉を開けて部屋を後にする…………………しっかりぼっちの寝顔写真をゲットしてからな!!



チェリオ「にやにや」
モミ  「……何?」
チェリオ「お楽しみだったようですねぇ?」
モミ  「//////!?」
チェリオ「あ~んに添い寝からの耳かきまでしようとは…」
モミ  「……………」
チェリオ「あれ?モミさん?っ!?お願いだからその杖振り上げないで~!?」


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第029話 「デミウルゴスの厄日」

これはモミがぼっちのお世話をする前後に起きた不幸に見舞われたデミウルゴスの話であーる。


 至高の御方々の住まう階層をデミウルゴスは急ぎつつも乱れぬ様に早足で歩いていた。
 先ほどアインズ様よりぼっち様が寝込んでいると聞き、お見舞いにと行かねばと急いでいるのである。
 デミウルゴスの頭の中では後悔が渦巻いていた。
 つい先日に休みを取っていた為に朝から付きっ切りで付けなかった事を悔やんでいるのだ。あの事件、ぼっちが暴走した事件の翌日は精神的に仕事にならず休みを取ったのだ。それはほとんどの者に言えたことであるが…
 あとはお見舞いの品を用意できなかった事であった。
 正直ぼっち様の好むものを知らないのだ。あえて言うなら日本刀を好んでいるぐらいである。食事などの好物も知らないし、何かを集めているなどの話も聞かない。だからと言って自分は日本刀を所持していないし持っていたとしてもぼっち様がお持ちの物より良い物などあるはずがなく手ぶらで来る結果となってしまったのだ。
 分からないなら聞けば良いと思い至ったのは休憩時間になる直前のことであった。何かを欲しているのならば全身全霊を持って集め、もし血をお求めなら…

 「~!?」

 身を悶えるような感情が襲って来た。深く深呼吸することで心を落ち着かせドアをノックする。

 「ぼっち様。デミウルゴスです」
 「・・・・・・どうぞ」
 「失礼致しますぼっち様。…ん?セバスも来ていたのですか?」

 ドアを開けた先に居たのはセバスであった。セバスは何やらメモをとっているようであった。
 
 「これはデミウルゴス様。ぼっち様のお見舞いですか?」
 「ええ。ぼっち様お加減はいかがでしょうか?」
 「問題ない・・・心配かけた・・・」
 「いえ。そういえば何故アイテムを使われないのでしょうか?使えば…」
 「・・・・・・」
 「…『痛みがある方が、生きている気がする』」

 ぼっちが答える前に答えたのは何故かぼっちのベットに突っ伏しているシャルティアだった。

 「やっぱり同じことを聞きんすね…私にぼっち様はそう答えんした…」
 「そうなのですか…………ところでぼっち様の布団に突っ伏して何をしているのかね?」
 「私が来た時にぼっち様に血を吸われておりましたので疲れているのではと…」
 「そうなのでありんす…あ、ちゃんとぼっち様よりこのまま休む許可は頂いたでありんす」
 「ふむ…それならば良いのですが先ほどから君は休むというより嗅いでないかい?」
 「//////ななななななななな、にゃにを言ってるでありんすか!?そんなこと…」
 「それだけ動けるならばもう問題ないようだね?」
 「あう!?」

 悪魔の罠に引っ掛かり勢い良く立ち上がったシャルティアは名残惜しそうにベットから離れる。
 当のぼっちは自分の腕を顔まで持ち上げて嗅いでいた。
 
 「・・・・・・臭いか?」
 「!?そんなことありんせん!とてもいい匂いが…ハッ!?////」

 素直に答えて墓穴を掘ったシャルティアの顔が赤く染まっていく。

 「ぼぼぼ、ぼっち様!し、失礼するでありんす」
 「では私もこれで」

 飛び出すように駆け出したシャルティアの後を追うようにセバスも部屋を後にしようとする。
 ふと、セバスが持ってたメモが気になったデミウルゴスは素直に問うてみた。

 「セバス…そのメモは?」
 「これでございますか?これはぼっち様に依頼された品でございます」
 「ぼっち様の…何を欲されたのですか?」
 「・・・・・・銃」
 「そうでしたか…」
 「?では、失礼します」

 今度こそ出て行ったセバスとシャルティアをデミウルゴスは心の中で羨んだ。自分が聞こうとしていた事が先に行なわれていたのだ。ぼっち様がどのような物を頼まれたのか知りたかった。ぼっち様に血を吸われるなどそんなご褒美…羨ましすぎる!!
 ハッと我に戻り邪念を振り払う。
 私はぼっち様の見舞いに来たのだ。なのに何を考えているのだ!!
 再びぼっちに向き直り口を開こうとした瞬間、

 「トゥットゥルー♪呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン♪」

 至高の御方の部屋なのに騒がしく、礼儀知らずに突入してきた者など一人しか知らない。
 振り向いたデミウルゴスは眉間にしわを寄せた。
 最も会いたくない者が目の前に立っている。

 「…どったのデミデミ?」

 モミ・シュバリエ。ナザリックを第一に考える我々とは違う守護者。至高の御方に対する馴れ馴れしくも無礼な態度を取る為にあまり好かれていない者でもある。が、信頼は別である。彼女のナザリックを考える気持ちは純粋な物で分かりやすく道理は通っている。そして我々と違う視点から見てより正しい選択をするのだ。
 ここまで彼女の事を話したから分かると思うがデミウルゴスが会いたくない人物はモミではない。その後ろに立っている人物である。

 「姉さんお静かに。マスターは寝込んでおられるのですから」

 目線があう。彼女、ステラ・シュバリエこそが会いたくない人物である。ナザリック内で同じく働く仲間を嫌う者など一人の例外を除いて居ないだろう。
 目が合った一瞬でステラは殺気を放ってきた。ため息を漏らしつつ注意をする。

 「まったく、いきなり殺気を飛ばしてくるとは穏やかではありませんね」
 「黙れ外道。私はマスターに用があるのだ」

 これである。彼女は聖騎士をイメージされ生み出された者である。ゆえに私に良い感情を持っていない。持っていない所か敵意しかない。それは私の性格と行いを聖騎士である彼女が許せないという現れである。
 私だけ仲が悪いわけではない。一番は私だがソリュシャンとエントマもあまり好いていないという。後は特に仲の良い者を除いて普通に仲が良いのである。
 特に仲の良い者は家族とマスターと呼ばれるぼっち様、至高の御方の総括であるアインズ様を除けばセバスとユリである。セバスに対しては憧れすら持っている。ぼっち様がイメージする聖騎士とはたっち・みー様の事であり、その御方の面影を強く残すゆえに憧れを持っているのである。

 「私も君に用があって来たわけではない。ぼっち様のお見舞いに来たのだよ」
 「悪魔がお見舞いなど縁起でもない。そうそうに立ち去るがいい」

 すでに臨戦態勢を取りつつある彼女に苛立ちが募っていく。
 会う度に向けられる敵意以上に許しがたい物があった。それは彼女が今も腰に下げている物だった。
 『聖剣使い』
 これは姉であるモミが付けた名で、多くの聖剣を所有することから付いたのだ。その聖剣はすべてぼっち様に与えられた物である。それだけ至高の御方より信頼されていると言う事なのだろう。

 「先に来ていたのは私なのですが…礼儀知らずにはきついお仕置きが必要なようですね?」
 「ほう?良いだろう。相手になってやる!ディランダル!!」

 ステラは腰より剣を抜き私は構えるがお互いの攻撃が交わることは無かった。
 
 「何をしてるのあんた達は!?」

 同じく見舞いに来たアウラとマーレだった。ちなみにモミは端っこに退避して見物する気満々であった。
 
 「ぼっち様が寝込んでるって言うのに暴れて!」
 「ぼ、僕、アインズ様呼んでくる!」

 大慌てで駆け出すマーレを止める事も出来ず二人は固まった。
 この後マーレに話を聞いたアインズが来て二人揃って怒られたのであった。
 
 

 就業後、デミウルゴスは再びぼっちの部屋に向かっていた。
 今日は散々であった。会いたくない者と出会い、ぼっち様に迷惑をかけてしまい、アインズ様に怒られるという始末…
 ため息をつきつつ曲がり角を曲がると再びステラと出会った。が、今回は敵意など無かった。二人とも疲れたような表情でもはや争う気力すらないのだ。
 ちょうど二人の中間でドアが開いた。ぼっちの部屋から出てきたのはモミであった。

 「姉さん?何故マスターの部屋に…」
 「ん?…またお見舞い?でも残念。もう寝てるよ」
 「そうでしたか…ではまた今度にでも」
 
 去ろうとした瞬間、袖を引っ張られた。何かと振り返ると黒い笑みを浮かべるモミが…

 「…元気ないね?どったの」
 「いえ、お気になさらずに…」
 「元気の出る物見せてあげようか」

 懐から出された一枚の写真に目が止まった。

 「それは!?ぼっち様の写真!」
 「なっ!?マスターのですか!!」
 「ふっふーん♪いいでしょ?」
 「どうやって、というかまさか貴方は寝ている間に!?」
 「………逃げよう」

 走り去っていくモミを二人は見つめた。

 「おい外道…」
 「その呼び方はどうかと思いますがなんでしょうか」
 「一時休戦と行かないか?」
 「たまにはいいでしょう」

 モミが走った後を聖騎士と悪魔は駆ける。
 またその後であるが至高の御方の住まいである階層を走り回るとは何事ですか!!と言い訳できぬ正論で今度はモミを含めた三人はセバスに怒られたと言う…



感想にて
>ボッチさんって非力なんですよね?それが三倍等した程度で防御特化を破れるとは思えないんですが…。

モミ  「?…そんなに非力なの?」
チェリオ「アウラやマーレに腕相撲を挑んだら全敗する程度に」
モミ  「弱っ!?」
チェリオ「感想で書きましたが攻撃した時三倍されたのは武器の攻撃力なので何の問題も無く吹き飛ばせたのだ」
モミ  「じゃなかったら?」
チェリオ「もちろん返り討ちにあってますよ♪」
モミ  「…その笑みはなに…」


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第030話 「アウラとぼっち」

 なんかアウラとぼっちだけって回が無かった気がして二人の話を書いて見たくなった。


 「~♪」

 アウラは鼻歌交じりにぼっちの部屋へと向かいつつスキップしていた。
 今日はアウラの休日なのである。マーレには悪いがぼっち様とゆっくりするつもりである。

 「というかマーレやシャルティアの方がぼっち様と関わってる気がするし…」

 口から出たことを払うように頭を振り、立ち止まり深呼吸をする。目的のぼっちの部屋へと辿り着いたのである。
 ポケットから出した手鏡で髪形などを確認して行く。何も問題はないと思いドアをノックする。

 「失礼致しますぼっち様。アウラです」

 はっきりと中まで聞こえるように声を出した。
 ………………………あれ?
 まったくと言っていいほど返事がなかった。失礼と知りつつドアノブへ手を伸ばす。

 「…ぼっち様ぁ~…」

 ゆっくりとドアを開け中の覗き見るとそこには誰も居なかった。アインズ様のところかな?と引き返そうとした時、奥の方から物音がした。
 気になり確かめに入っていくとそこには扉があった。
 以前至高の御方の部屋がどうなっているのか見せてもらった事があった。個人のベットや浴室など豪華な作りになっていて何処の部屋も同じ作りになっているとアルベドが教えてくれた。…最近は入れてもくれないけど…だが、この扉は無かったはずだ。というかこの扉は隣の部屋の方向に空いてる気が…

 「ん?・・・アウラ?」
 
 扉から突然ぼっち様が現れた。いや、突然でもないか。ここはぼっち様のお部屋なのだから居て当然なのだ。
 
 「あ!?ぼっち様。勝手に入ってしまい申し訳ございません!!」

 深々と頭を下げて謝罪する。そんなこと気にするような素振りを見せずに頭を撫でられた。

 「別にかまわない・・・」
 「♪」

 許されたことと頭を撫でてもらった事でアウラは満面の笑みを浮かべていた。
 急に撫でられるのを止められたぼっち様は再び奥に入っていこうとした。

 「あのぼっち様?その部屋は一体…」
 「ああ・・・この部屋は・・・」

 ゆっくりと扉のことを教えてもらった。
 この扉は隣の空き部屋に繋がっているそうだ。理由は集めた品々を保管する場所が無く隣を使う事になった。けれど部屋に行く度に廊下に出てだと不便な為に隣の部屋と繋げたそうだ。ちなみに廊下に繋がる扉は開かない様になっているらしい。
 そして今は整理中だという…ならばと

 「あたしも手伝っても良いですか?」
 「・・・休日なのだろう?」
 「駄目ですか…」
 「!?・・・いや・・・頼もうか」
 「はい!一生懸命がんばります」

 勢い良く返事したあたしはぼっち様に続いてぼっち様の《宝物殿》に入って行った。
 足の踏み場が無かった…散らかっていると言ってもここまでとは思わなかった。片付けのしがいがあると思い、足元の品に手を伸ばす。
 …本?しかも古く薄汚れた本であった…

 「?この本はなんでしょうか?」

 一瞬首をかしげながら振り返り本を見た。

 「・・・ドラゴンの召喚書」
 「ドラゴンですか!?」
 「?ああ・・・確か宝石種の・・・」
 「宝石種ってエメラルドドラゴンとかですか!?」

 宝石種ドラゴンとは体中がルビーやサファイヤなど単体の宝石で作られたドラゴンである。ドラゴンとしては中の下クラスのモンスターである。中の下と言ってもドラゴンのレベルでだから他の種族と比べると圧倒的な強さを誇っていた。そのドラゴンを飼いならす魔道書をこのように扱えるぼっち様に尊敬の眼差しで見つめる。
 そう思うと他の物も気になり手にとって聞く。

 「この刀はなんですか?」
 「・・・村正」
 「このお酒の数々は?」
 「ネクタルにアムリタにソーマだな・・・」
 「この弓は?」
 「エロスの欲望の弓矢・・・」
 「ではこの笛は?」
 「ハーメルンの笛・・・」
 「ならこれは?」
 「それは・・・」



 あれから一時間が経ち部屋は綺麗に整頓されていた。
 アウラはその整頓された部屋の中央に置かれた金で出来たテーブル席に俯きながら座っていた。
 中には超レアアイテムからゴッズ級武器まで様々な品々が転がっていた。その中で自分はどうしていた?
 興奮して品々をぼっち様に質問。と言うより質問攻めにして落ち着いたときには自分が何をしに部屋に入ったか忘れていた上、ぼっち様一人働かせていたことに気付き落ち込みつつお宝の品々を緊張しつつ運び、お礼でお茶でもと言う事になったのだが…
 本当に良いのだろうか…これデミウルゴス辺りにばれたら何を言われるか分かったもんじゃない…

 「どうした・・・疲れたのか?」
 「いいえ、疲れたなんて…」
 「・・・そうか・・・」

 今ぼっち様はコーヒーを入れて下さっている。
 先ほど手動のミルで中細挽きしたコーヒー豆をペーパーフィルターを取り付けたドリッパーに入れ湯を優しく注ぐ。
 これらの器具はあの部屋にあった物だ。
 しかし気になったのがそんなに湯を入れていないのだ。

 「あまり入れないのですね?」
 
 先ほど質問攻めしておいてまたしてしまったと後悔するが優しげに答えてくれた。

 「蒸してる・・・」
 「蒸す…ですか?」
 「ああ・・・コーヒーは最初に湯を全体にかけて蒸すんだ・・・」
 「へぇ~そうなんですか」
 「(コクン)・・・・・・」
 「ちなみに他には何かするんですか?」
 「他にはか・・・まずはドリッパーやサーバ、カップ・・・あとはスプーンなどを温めておく事。湯は95度・・・沸騰して火を止めて沸騰が静まったらそれぐらい・・・が蒸すときは20ccの湯を全体に優しく注ぎ20秒待つ・・・」

 ポッドを持ちゆっくりと回しながらドリッパーに注いでいく。

 「ゆっくりと『の』の字を書くように注いでいく・・・最初は小さく徐々に大きく・・・この時注ぐ湯がコーヒーの面から90度になるようにする」

 久しぶりに長々と話すボッチ様に魅入ってしまう。部屋内と言うことでシルクハットとコートは着ておらずいつもと違うスーツ姿に新鮮さを感じる。これが執事服だったらなど妄想してしまう…このゆっくりとした時間が続けばいいのだが…
 サーバーとコーヒーカップ、茶菓子としてガトーショコラをトレイに乗せ席に戻ってきた。
 
 「・・・どうぞ」
 「頂きます」

 差し出されたコーヒーをゆっくりと口へと運ぶ。
 おいしい…
 砂糖もミルクも入れずに飲んだのだがこんなに美味しいものと実感できるとは思わなかった。
 ちらっとぼっちを見つめる。
 当たり前だ。あのぼっち様自らが入れてくださったのだ。美味しくないはずがないのだ。
 ふと、気になった事があった。目の前に出されたガトーショコラに何の付与効果が無かったのだ。大体ナザリックで出される料理には多くの付与効果がある。その付与が無い料理にアウラはひとつだけ心当たりがあった。

 「もしかしてぼっち様の手作りですか?」
 「・・・口に合うといいが・・・」
 「大丈夫です!合わせて見せます!!」
 「お、おおう・・・」

 幸せで胸がいっぱいになった。
 その後は他愛の無い話をするばかり…アウラが一方的であったが…で時間が過ぎていった。
 名残惜しいがそろそろ部屋を後にしようとした時ある物が目にはいった。

 「あの…ぼっち様?」
 「・・・?」
 「もし良ければアレ頂けませんか?」

 アウラが指差したのはコーヒーを入れる際に使ったドリッパーなどであった。あの部屋には2セットあったのだ。だからと言ってただで頂くわけにもいかない。

 「何でも致しますんで…」

 わがままだ。こんな事守護者としては有るまじき行為とマーレでも言ってくるに違いない。でも今日の思い出…ぼっちとの繋がりを持った品が欲しかったのだ。
 ぼっちは口元を隠すように悩む素振りを見せ奥の部屋へと入って行った。すぐに戻ってきたぼっちの手にはあるアイテムが握られていた。
 ベルセルクの腕輪…ワールドアイテムでぼっち様があたし達と戦う事となった物…
 それをアウラに差し出す。

 「これをアインズさんに渡して欲しい・・・これはナザリックの宝物殿で管理・・・いや、封印した方がいい物だ・・・」
 「あたしが…これを…」
 「・・・アウラに頼んだ。褒美としてアレを与えよう・・・どうかな?」

 ふっ、とぼっちは笑った。顔が赤くなったのが分かった。

 「分かりました。このアウラ・ベラ・フィオーラが責任を持ってアインズ様にお届けいたします!」
 「ああ・・・行っておいで・・・」
 「はい!」

 アウラはぼっちの部屋を後にした。今までで一番良い笑顔をして…
 ちなみにその表情をしてぼっちの部屋から出て来たことを一般メイドに目撃されており、守護者達がアウラを質問攻めにするのはそれから3時間後であったという…



チェリオ「……もっといちゃいちゃさせたかったのだけど今は思いつかなかった」
モミ  「ちなみに一杯12gぐらいで160cc注ぎ、140ccが一杯分だったはず…」

前回のステラの補正
何かを殺すのにわざわざ楽しむような者を嫌うのでデミウルゴス&ソリュシャンを嫌っている。
虫が苦手のためエントマを嫌っている。コキュートスは別枠らしい
まだ会ったことはないがニューロニスト、恐怖公なども嫌うだろうな。
ちなみに第十一階層にまだ登場していないがザーバという者がいてその者も嫌っている。


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第031話 「セバスのとある休日」

今回の話でぼっちさん謹慎終了!!
しかし次回出番無!!


 ナザリックの執事であるセバス・チャンは執務室へと繋がる通路を歩いていた。その手には大事そうに皮製のアタッシュケースを持っていた。
 今日はセバスとソリュシャンが再び王都に戻る前日、つまりは最後の休日である。
 アタッシュケースには仕事でぼっちに頼まれた品が入っているのだ。至高の御方は休めと言われるかも知れないが直々に受けたお仕事を他の者に任せるわけにもいかない。それにぼっちも明日から再びこのナザリックを離れられるのだ。
 執務室前で立ち止まり服装に不備が無いか確認しノックする。

 「ん?誰だ」
 「セバスでございます」
 「うむ、入れ」
 「ハッ!失礼致します」

 背筋を伸ばしたまま部屋に入ると話し込んでいたであろうアインズとぼっちが見えた。
 
 「どうしたセバス?今日は休みであったであろう。何かあったのか」
 「いえ、そういう訳ではございません。ぼっち様に頼まれた品をお持ちした次第でございます」

 そう告げると先ほどまで壁にもたれていたぼっちがセバスの隣まで一瞬で移動してきた。

 「・・・出来たのか!?」
 「はい。こちらでございます」

 アタッシュケースを開くと中から一丁の銃が現れた。前にぼっちが使っていたトーラスと同じリボルバー拳銃であるが大きさは倍以上あった。

 「ぼっち様専用13mm拳銃『ラグナロク』全長45cm重量20kg装弾数8発。今までの454スカール弾使用ではなく初の専用弾使用銃です」
 「・・・専用弾13mm魔法式KB弾か・・・」

 専用弾13mm魔法式KB弾。
 KBとはぼっちが作製できるナイフ・バット(Knife bat)の頭文字である。前に新たな可能性を持ったナイフ・バットを弾丸とした物だった。
 ナイフ・バッドに変換する為には刃のついた物との表示しかなかった為、実験で絵に書いた剣にも効果がある事を知った。それを利用しての銃弾が専用弾13mm魔法式KB弾である。
 アタッシュケースから銃を取り出し感触を確かめながら問う。
 
 「シングルアクション?ダブルアクション?」
 「両方行なえるようになっております」
 「銃身は?」
 「特上希少金属複合製固定化魔法式」
 「保持方法は?」
 「弾倉振出式」
 「弾殻は?」
 「第1位階《クィック・マーチ》付与特上鋼鉄製」
 「装薬は?」
 「第3位階《ファイヤーボール》封印劣化鋼KB」
 「弾頭は?炸薬式か?水銀か?」
 「第8位階《エクスプロード》封印特上水銀弾頭」

 興奮気味に連続で問うたぼっちは満足げに笑い、再び口を開いた。

 「パーフェクトだセバス」
 「感謝の極みでございます」
 「…そんなに凄いものなのか?」

 一人会話に入っていなかったアインズが口を開いた。

 「・・・これならば長距離戦でもペロロンチーノさんにだって勝てるだろう」
 「そんなにですか」
 「・・・たっちさんとも・・・いや、まだ足りぬか・・・休日にすまなかったセバス」
 「いえ…では失礼致します」

 踵を返し執務室を後にする。正直この後の予定は無い為にゆっくりと過ごそうと思考する。
 部屋に帰ってアタッシュケースを仕舞い、ぼっち様から頂いたレコードプレイヤーで音楽を聴きながらお茶にしましょう。ではワルキューレの騎行か威風堂々、それともボレロにしましょうか。
 レコードプレイヤーも部屋に埋もれていた物で「セバスに合いそう」と言う理由で渡した物である。
 後の予定を考えながら自室の部屋を空けるとそこにはユリとナーベラル、そしてモミとステラが座っていた。

 「……ユリ?」
 「いえ、私はお止したのですが…」
 「お邪魔してるよ~」
 「お邪魔致しますセバス様」
 
 だらけながら声をかけてくるモミ様と礼儀正しいステラ様は対照的であった。背を伸ばし正座をしているだけなのだがどこか神々しくもあった。本当にもみ様の妹君なのか疑いたくもなる…

 「様などと…私はただの執事ですよステラ様」
 「では……セバス殿で」

 普通に呼び捨てでも構わないのですが…ともう何度言ったか分からない。
 彼女は私に対して様、もしくは殿付けで呼ぼうとする。私に彼女の憧れであるたっち・みー様の面影があるらしい。それは嬉しいことである。

 「それで如何なされたのですか?」
 「…これこれ」
 
 モミ様が飛び跳ねながらこちらに巻物を向けてきた。

 「巻物?それも映像用ですね」
 「大当たり!で、一緒に見よ?」
 「構いませんが…ユリ達は良いのですか?」
 「ぼ…私もナーベラルも休憩時間ですので問題ありません」
 「では再生~♪」

 再生された映像を5人で見る。場所は何処かの闘技場だろうか?観客席が取り囲む中央には十分な戦闘スペースが空けられていた。
 そこには一人の男が映っていた。短く切り揃えた金髪に神父らしき服装を着た大柄な男。見た感想をナーベラルが口にした。

 「何ですかあの男は?神父みたいですがどう見ても極悪人にしか見えませんよ」

 確かにナーベラルの言う通りだった。大柄で厳つく、逆光眼鏡でどんな目をしているのか分からないがこの時点で善人に見えない。その上で二本の刀を握り締めていた。
 この異常な人物に集まった視線が画面に現れたもう一人の人物に集まった。
 神々しさを感じるような西洋の剣、純白の鎧に純白の盾、左肩にかかっている真紅のマント。
 
 「「たっち様!?」」

 セバスとステラの声が被った。
 そこに映っていたのは紛れもないギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のたっち・みーその人だった。
 どうやら先ほどの人間と試合をするようだった。

 「人間ごときがたっち様と戦うと言うのですか?」
 「身の程を弁えないダニが…」

 ナーベラルの侮蔑の言葉が発せられると同時に二人が動いた。
 斬りつけては受け流し、スキルを使われてはスキルでやりかえす。
 見ているだけだがその凄まじさが映像から伝わってくる
 
 「たっち様がダメージを!?」
 「あのノミ虫…よくも…」
 
 ユリとナーベラルは合間合間に感想を入れていくがセバスとステラは食い付くように見入っていた。ただモミだけ肩を震わしながら俯いていた。
 前のコキュートスとステラの斬り合いが子猫のじゃれ合いに見える程の斬り合いが徐々に速く、強く、度合いが増して行く。
 盾に傷が、逆光眼鏡が割れ、鎧に無数の切り傷が、身体中で血飛沫が上がる。
 速度で勝る大柄の神父も技術が長けている純白の騎士も何だか楽しそうな気がしてきた。
 何時までも続いて欲しいとセバスは願う。が、勝敗と言う物は勝負事には必ず存在した。
 最後は時間ギリギリにたっちの攻撃が掠り、HPが誤差で下回った神父が敗北した。二人は武器を仕舞い互いを称えるように握手する。
 見入っていた皆から息が漏れる。見入りすぎて息すらしていなかったのだ。身体が空気を求めていた。

 「すばらしいものでしたね」
 「ええ。本当に」

 己を創造したたっち・みーの勇姿を見たセバスは満足していた。そんな中…

 「ブハハハハハハハハハ」

 突如モミが吹き出したのだ。その行動の意味が分からず不快感が襲う。
 
 「何が可笑しいのですかモミ様」

 たっち様の事を笑っていると思ったセバスの口調に怒気が含まれていた。そんなことお構いなくモミは笑い続ける。

 「クヘヘヘヘっ。ナーベラル、神父のプレイヤーネームを見て…ぶひゃひゃひゃ!!」
 「?プレイヤーネーム…ハッ!?」

 笑い続けるモミを除く皆の動きが止まった。神父のプレイヤーネームを見てみると《ぼっち》と表示されていた。

 「あれはここに来る前のぼっち様!?」

 ステラの叫びと共にナーベラルの頭にある言葉が流れてくる。
 
 『身の程を弁えないダニが…』
 『あのノミ虫…よくも…』

 理解した。彼女は分かっていて否定もせず聞いていて爆笑したのだ。そんな事はどうでもいい!私は今…
 思考しようとしたナーベラルは肩に手を置かれたことで停止した。

 「少し宜しいでしょうか?」
 「…私もお話があります」
 「拒否は認めない。マスターから授かりしオートクレールの錆びになりたいのなら別だが」

 その三人の怒気に飲み込まれナーベラルは

 「…はい」

 一言を口から出すことしか出来なかった。
 こうしてセバスの休日は至高の御方の前でナーベラルを叱ることで終了した。



 誰も居なくなった部屋で笑い転げていたモミは巻物を回収する。

 「……ぼっち様は元気にやってるよ。スレインさん…」

 モミはぼそっと巻物の持ち主の名を呟いた… 



モミ  「至高の御方の前で怒られるナーベラル…可愛そうに」
チェリオ「仕組んだの貴方でしたよね?」
モミ  「………フヒ」
チェリオ「笑って逃げるな。…ところでスレインさんって誰ですか?」
モミ  「スレイン・トロイヤード…」
チェリオ「嘘だ!!」



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第032話 「イレブンの日記」

 チェエエエエリオ!!
 皆様おはようございます。チェリオです。
 今日はニグンさんを除く陽光聖典と第11階層のNPCの話になります。


 私は元陽光聖典の隊員の一人だ。今は昔の名前ではなくナンバーで呼ばれており、私はナンバー11だからイレブンと呼ばれている。
 配給で紙と万年筆が手に入ったのでニグン隊長を除く我々ナンバーズの生活を書いていこうと思う。

 我々ナンバーズの一日は朝の四時から始まる。寝惚けた頭や身体に活を入れ、素早く身支度をする。こんな時に至高の御方々に仕えるメイド達を羨んでしまう。彼女らは寝る事無くあの方々に仕えることが出来るのだ。これほど羨ましい事はないだろう。これは私一人の考えではなく全員の総意である。
 身支度を終えた私は急ぎ足で居住区を後にする。この居住区は我々がここ『第11階層』に来る事になり急遽造られた建物なのである。個人の部屋は無く、全部4人部屋の二階建て木造建築である。
 
 「ふむ…今日も皆さん時間通りにいらっしゃいますね」

 四時三十分。居住区から程近いところにある教会に辿り着くと黒い祭服に身を包んだザーバ様が時間通りに現れた。
 ザーバ・クンスラァ様はぼっち様に創造された御方である。真ん中分けされた髪に端整な顔立ちや垂れ気味な目などが特徴的な優しそうな青年である。いや、優しそうなではなく実際にお優しい方なのだ。こんな末端である我々に嫌な顔せず端正な身のこなしで相手をされながら毎日いろいろなお話をして下さっている。

 「では、昨日の続きから始めましょうか。4冊目の135ページから…」

 いつものように『聖書』読み上げていくザーハ様。『聖書』と言うのは法国にあるような下等な物ではなく真なる神々である「アインズ・ウール・ゴウン」の方々の歴史やご活躍が描かれた冊子である。これはぼっち様が司書長様に作らせ、何も知らない無知な我々に配布してくださったのである。
 始めの九人からギルド「アインズ・ウール・ゴウン」結成の話などが描かれており、今はナザリックをどうやって攻略するかの話を聞いていた。
 


 読み始めてから1時間が経過しようとした時、読み上げていたザーハ様が聖書を閉じた。

 「今日はここまでとしましょう。皆さんお疲れ様でした」

 その言葉に感謝を告げ、セラス様の元へ向かい始める。

 「あぁ、イレブン君。少し良いかな?」
 
 自分が呼び止められた事に驚きつつ、振り返る。頭の中では何か仕出かしてしまっただろうかと考え始めていた。

 「明日から私は主命でここを離れます」
 「え!?主命…と言うことは至高の御方々の!」
 「ええ。なので明日からは各人で読むようにして下さいね」
 「はい、了解いたしました。この事は皆にも伝えておきますので…」

 話を終えたのか後ろを見せ「Good Luck!迷える子羊諸君」と告げると文字通り消えてしまった。消えていったといってもぼっち様のように視界から突如消えるわけではなく、瞬きや余所見をした瞬間消えているのだ。
 っと、そんな事を思いながら立ち尽くしている場合ではなかった。次はステラ様が鍛錬をつけて下さるのだ。急いで行かねば…



 ステラ様の鍛錬は素振りから始まり軽い打ち合い、最後には一対多数の試合をするという流れになっている。今まで一度たりとも攻撃を当てるどころか触れたことも無いが…
 ヒュパ!っと風を斬るような音を立てて顔を食堂の方向へと向ける。

 「今日は朝からシチューですか…はっ!きょ、今日はここまで」

 何故あの方はかなり離れている食べ物の匂いを嗅ぎ分けれるのだろう…もう誰にも突っ込める体力は無かった…
 朝七時から八時までは朝食の時間だ。ステラ様が仰ったようにシチューとパンが出てきた。至高の御方々に祈りを捧げ静かに食す。食事が喉を通るたびに先ほどの疲れが消えていく…。ここの食事はパン一個にしても異常である。どれだけの付与効果がついているのか分からないほどであった。法王でさえこれほどの食事はしたことが無いだろう。
 食事を済ませ時間を確認する。時刻は七時二十八分。ちょうど良い時間なので《中央家》へと向かう。
 日によって担当者が代わり、今日はイレブンの担当日なのだ。……モミ様を起こしに行く…

 日の光も遮断された部屋で眠っている少女。ここだけ書くと何の問題も無いのだがこの部屋…とても汚いのだ…
 食べ物が転がっていたりとか変な液体が!なんて事は無いがいろんな物が散乱している。特に資料系が…

 「モミ様朝ですよ」

 朝起こすのに暗黙のルールが三つある。
 一つ。起こす際に絶対触れない。自動防衛魔法が施されており最初に触れた者は片腕が吹き飛んだ。後でモミ様が治療して治ったが…
 二つ。中々起きないからと言って諦めて帰らない。起きなかった事によりステラ様に説教された八つ当たりにより一週間呪いをかけられる。
 三つ。起きてないからと言って部屋を物色しない。部屋を整理しようとした者が何かトラップに引っ掛かり以下略。

 などの事があるために声をかける事しか出来ないのだ。最近では楽になった。

 「…ステラ様に報告を…」
 「あっちょんぶりけ!!」

 よく分からない奇声を上げながら飛び起きたモミ様は用意をする為に動き出す。この前は「ザクレロ!」とか叫んでいたらしいが我々には何の事か分からない。
 分からないと言えばこの前ぼっち様がアインズ様と戦わなければならない事件が発生した。最終的には一時的にぼっち様の左腕を失って終了したのだがその時お見舞いに行ったモミ様が「シャルティアの相談に乗ってたらシャンクス状ぼっちに会えなかった…」と言われていたのだが誰だったのだろう?未だに不明のままだ。

 あの事件の時は第11階層はナザリック内で一番荒れていたらしい。特にぼっち様に忠誠を誓う騎士のステラ様は戦う事を耳にしたときには「武力を持ってでもアインズ様を止める」と叫び上の階層へ向かって行くほどだった。途端、ゴルゴーンの恩恵を受けれなくなり100もの人形系アンデットとハイネンス様より頼まれたザーバ様に包囲され拘束された。その際に半数以上の人形系アンデットがやられたとか。

 とにかく仕事は終わった為《中央家》から即刻立ち去る。いくら治してくださると言っても爆散したくはない。それに八時からは仕事があるのだ。
 仕事とは生産のお手伝いである。私は第二班なのでボルックス様のお手伝いとなる。

 ボルックス・トレミー様はこの第11階層の生産を指揮するお方である。何でも戦闘能力が皆無に近い代わりに生産技術が高いらしい。見た目は14、15歳ぐらいの少女で水色の髪に無口無表情が特徴である。特に無口なのはぼっち様より上でたまに喋ったかと思うと「ん」程度で接するならこちらが先に察しなければならない。
 黙々と生産していくペースを見て出来上がった品物を倉庫に運んだり、素材となるアイテムを次々と運んで行く。この作業が第二班の仕事で昼休憩を挟んで午後の五時まで続くのだ。

 「調子はどうだボルックス」
 
 今日は珍しいことにボルックス様の兄君のカストル・トレミー様が顔を見せに来られた。銀髪で腰まで伸ばした髪に長身、そのうえ綺麗な面立ち。美しいと言う言葉がよく似合う男性であったがその鋭すぎる眼光から発せられる雰囲気は人を寄り付かせない。
 『兄より優れた妹などおらぬ』を公言し不仲に見えるが周りから見れば仲のよい兄妹なのである。そのことを指摘した者は軽く半殺しにされていたが…

 「ん。平気…問題ない」
 「そうか」

 返事だけ聞くと悠然と帰っていった。双方口数が少ない為これでもよく喋っているのだ。ちなみにカストル様の後ろには離れて第一班が追従している。
 第一班は第二班と違い、彼らの仕事は農業系の世話・収穫が主の任務となっている。週三回で回復系魔法を多少使えるハイネンス様の元で羊皮紙の生産の手伝いをしているが私は内容までは知らない。第一班に所属する友人が「かなり痛いがやりがいがある」と話していたぐらいのことしか知らない。

 十二時の昼食ではナポリタンが出された。少し遅れ20分に到着すると大皿いっぱいに盛ったナポリタンを黙々と食べる
ステラ様を発見した。これはいつもの光景である。朝食は《中央家》でモミ様にハイネンス様と一緒に食べられる為見たことが無いが昼食は食堂で召し上がられるのだ。顔の血の気が引き、少し慌てながらナポリタンを入手する。ステラ様の胃袋は我々と違い底なしなのだ。三十分に到着した時は残りが無く昼食抜きなんて事があった。もちろん飲食不要のアイテムなど持っていない我々にとっては一大事である。私より遅れ到着した者達も慌てて自分の食事の確保に急ぐ。

 昼食が終わると午前と同じく黙々とボルックス様のお手伝いで4時間が過ぎて就業時間となる。終わると居住区に戻り各々担当となっている箇所の掃除を行い、ある者は聖書を読み返し、ある者は鍛錬をしたりなど自由に時間を過ごす。
 七時の晩飯ではハンバーグを食べて八時より入浴、九時には就寝する。これが我々ナンバーズの日常である。



 次回14日は本編と特別編の二本を投稿しようと思います。
 外伝の2を掻いてる場合じゃなかった…急いで特別編を書かなきゃ!!


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第033話 「風花聖典」

 本編三連続ほどぼっちの店であるヘルシングで起こる出来事を書きました。
 サブタイトルとなった風花聖典は原作・アニメにも出てなかったと思うのでキャラからいろいろオリジナルであります。


 我々はスレイン法国の特殊部隊の一つである『風花聖典』。今回我々に与えられた任務は盗まれたスレイン法国の秘宝『叡者の額冠』を取り返すこと。
 最初に隊長から聞いた時には暗殺を得意とする我らが何故と問いたくなったが盗んだ相手を聞いた瞬間に皆が理解した。

 『クレマンティーヌ』
 法国最強の特殊部隊『漆黒聖典』の第九席次。性格には問題はあるが腕は確かで人類で最強の部類に入るだろう。
 真っ向から仕掛けるなら漆黒聖典以外にはありえるはずもなく、互角の勝負をするにも王国の戦士長クラスの実力が必須となる。漆黒聖典は別任務で行動中ならば次に勝てると言えば風花聖典しかなかったのである。
 我々は何とか奴を見つけ出す事に成功した。だが、それが問題だった…

 『ヘルシング』と大きく書かれた店だった。この店はただの店ではなく武器の製作から販売を行なっている店である。すでにその品質からエ・ランテルだけでなく王都からも大きな信頼を得ているようだ。
 ある話によると主である『アルカード・ブラウニー』を王宮へ招待しようと話が出ているとか。
 こちらは潜入している身である為にこんな表沙汰になりそうな相手は襲いたくない。
 それにここに居るらしいと言う状況だけで確認はまだなのだ。何故か店に行方不明になっている陽光聖典の隊長が働いていることは分かったが…

 「今日も何もなさそうですね?」

 裏路地の闇の中から見張っていた部下が声をかけてきた。

 「何も無いほうが良いんだよ…ってちょっと待て!」

 何も無いほうが良い。もしクレマンティーヌがあの店に居るのならば我々はただでさえ厄介な奴を相手にするのにニグンまで相手をする事となる。無謀を通り越して無理と言う物だった。だが、我らに希望が見えた。
 一人の少年が裏口に立ったのだ。そしてノックすると中から現れたのはクレマンティーヌ本人だった。

 「…あれは…肩に包帯?」

 言った通りにクレマンティーヌの肩には包帯が巻かれ腕は胸の前で固定されていた。部下に静かに指示を出し隊長の下へと向かわせる。
 これは好機だ。あのクレマンティーヌは負傷中ならばニグンとあの少年を相手にするだけで済む。
 この瞬間こそ獲物が網に引っ掛かった時であった。もちろん彼らのほうがであるが…



 「お邪魔します」
 「どうぞ~」

 僕『マイン・チェルシー』は師匠である『アルカード・ブラウニー』様の店である『ヘルシング』に来ていた。
 つい先日、師匠から手紙が届いたのだ。内容は『店の様子を見にエ・ランテルに行くから店で待っていて欲しい。迎えに行く』との事だった。やっと師匠と一緒に居られると思うと返事は『はい』か『YES』しかなかった。その事を聞いた村の皆が喜んでいた。まあエンリは最後まで~は持った?忘れ物は無いと心配そうにしていたが…ロートル先生にも別れを告げ今ここに居るのだ。
 裏口から尋ねたときにドアを開けてくれた人はクレマンティーヌさんと言うらしい。なんとなく猫みたいな印象を得たのなんでだろう…
 左肩には包帯を巻き、腕は首からかけられている布で支えられている。

 「おお!貴方がチェルシー殿ですか」

 奥の方から頬に大きな傷を持つ男が現れた。その傷より白とも銀とも言える目の方に目が行く。

 「えーと…貴方がニグンさんですか?初めましてマイン・チェルシーです」
 「我が主より到着までのお世話を命じられました。何なりとお申し付けください」

 初めて見た時は怖そうなイメージだったが何とも優しげな人で良かったと思った瞬間に表情が険しい物に変わっていった。
 
 「クレマンティーヌ!外には出るなと言ったであろう」
 「えぇ~?ドアまで迎えに行っただけじゃん」
 「貴様は追われる身であろうが!少しは立場を考えろ。主の迷惑になるだろうが!!」
 「はいは~い。わっかりましたよ。『ルーク』店長様」
 「ふん!」
 「ルーク?えーとニグンさんじゃあ…」
 「ああ!すまない。ルークとは主様が付けてくださった偽名でね。私も実は追われる身なのだよ。なので人前で私を呼ぶときはルークと呼んでもらいたい」
 「はい分かりましたニグンさん。ではクレマンティーヌさんも…」
 「ん?私は…なんだっけ?」
 「ピトーだ!貴様また主様の付けられたお名前を…」
 「はいはいごめんなさいっと。口うるさいのはほっといて私の部屋に来ないマイン君。一度見て見たいなぁ~。あのアルカード様が弟子にされた子の実力を…ね」
 
 僕が思った猫みたいというのは当たっていたと判断した。今クレマンティーヌさんの目は猫科の生き物が獲物を見つけたような顔になっている。不気味なぐらい楽しそうに笑いつつ狩をするように…
 そんなようすにため息をつきつつ呆れ顔をしたニグンさんが止めてくれた。

 「チェルシー殿は馴れない旅でお疲れだろう。部屋でゆっくりと休むと良い。夕飯になればお呼びしますので」
 「!?はい。ではお言葉に甘えて休ませてもらいまね」
 「むー…ニグンのけちんぼ!はぁ~、じゃあお部屋まで案内するね」

 再びため息をつくニグンさんを残し、表情のころころ変わるクレマンティーヌさんに案内されるがまま部屋へと向かった。


 
 一件の小さな小屋
 それほど広くないスペースに20人が詰めていた。
 ここは風花聖典が寝泊りだけを行なう小屋。ここに風花聖典全員が集まっていた。

 「よし…では今回の作戦を伝える」

 20人もの人数が居るにも拘らず物音一つしない部屋で一番大柄の男が口を開いた。口を開くといっても全員が黒装束の黒頭巾で顔ごと覆っている為、口は見えないのだが…

 「最優先事項は叡者の額冠の奪還。その為にクレマンティーヌを捕縛する必要がある。案ずるな今の奴は大きな怪我をしている。大した事はあるまいよ…。第二目標としてはニグンの保護…もしくは捕縛である」
 「捕縛ですか?」
 「ああ…裏切ったのか、脅されているかは知らないが一度つれて帰る必要がある。ゆえにその二択だ」
 「ではあの子供はどう致しますか?」
 「あんな餓鬼恐れる事はないだろう。殺せば良いさ」

 一度間を置き、真ん中に地図を出した。『ヘルシング』の大体の見取り図だった。数箇所に印が付けられている。隊長はそれぞれを指差す。

 「まずは裏口からウラガン隊が行け。正面はザイードとルチアーノ隊が。周囲は俺とミューディーで囲む」
 「?先に本国に知らせなくても宜しいのですか?」
 「構わんよ。それに他の者達に手柄を取られたくもない…時刻は深夜2時に決行する。準備をしておけ」

 それぞれ頷くと行動を開始し始めた。思ったよりも楽な仕事だと思いつつ…



 与えられた部屋のベットの上でマインは刀を見つめていた。
 手紙と一緒に届けられた一本の刀。それは村で救ってくれた時に見た師匠と同じ日本刀であった。
 鞘から刀身を現せては見惚れる。
 騎士の剣とは違って人殺しの道具のはずなのに美しく感じる。
 
 「はぁ…師匠まだかな…」

 刀を見たままうっとりとした表情のまま師匠の姿を思い出す。
 あの時から師匠を目指す為、ロートル・スケルトン・ナイトに多くの事を教わった。それをあの人に早く見てもらいたい。
 そんな気持ちでいっぱいだった。数時間後にここが襲われることなど露程も考えぬまま…



>ある話によると主である『アルカード・ブラウニー』を王宮へ招待しようと話が出ているとか
チェリオ「なおぼっちは知らぬもよう」
ステラ 「王宮へ行かれるなら私がお供を!!」
チェリオ「あれ?モミさんは?」


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第034話 「深夜の戦闘 前編」

 さてと、特別編をはさんでの本編です。
 ナザリック側へ移ったニグンとクレマンティーヌ、そしてマインの発戦闘回となります。それではお楽しみいただけたら嬉しいです。


 深夜2時
 人だけではなくこの町に住まう生物すべてが寝ている時間。そんな時間に『ヘルシング』を囲む集団が居た。

 「隊長…魔法の展開終了致しました。これにより音は範囲外に漏れることはありません」
 「ふむ。部隊の展開も完了したようだ。では狩りを始めようか」

 見下ろすように歪んだ笑みで獲物が寝ているであろう店を見ていた

 

 「すー。すー。すーっ!?」

 規則正しい寝息を立てていたマインは突如目を見開き飛び起きた。すぐに近くに置いていた刀に手を伸ばす。
 殺気…数は17…いや20人か…
 数ヶ月前のマインではこんな芸当は出来なかっただろう。これもロートルの訓練の賜物だろう。
 木々の多いトブの大森林にて目隠しをさせられたまま放置され、不意に襲ってくるのだ。何度も何度もそれも死ぬような目にあったこともある。そんな中で気配の察知を身に着けさせられたのだ。
 刀を持ったまま廊下へ飛び出て一階のニグンさんの書斎へ駆け込む。
 急いで起こして話をしようと思っていたのだがすでにニグンもクレマンティーヌも起きていて準備をしていた。

 「あ~れ~?これから起こしてあげようかと思ってたのににゃ~」
 「さすがあの方の弟子と言うことだろう…状況は分かっているのかな?」
 「は、はい。殺気を放つ者が20人と言うところですか…」
 「おお!私のセンサーに引っ掛かった数と同じだ。さすが…」
 「では、どうしますか?僕も…」
 「客人にそのような事は…」
 「って言ってる場合じゃないんじゃない?まともに戦えるのはあんた一人で私は怪我人なんだけど」
 「っ!?貴様は彼の実力を知りたいだけだろう!!」
 「でもどうするの?不参加で行く?」
 「行きます!僕も貴方達と共に…」
 
 腕を組み考え込み何度目かのため息をつく。諦めたような苦笑いをして口を開いた。

 「分かりました…ではチェルシー殿はクレマンティーヌと共に正面を頼みます。私は裏口の連中を…」
 「うふふ。久しぶりの狩りだね」

 闘志に燃えるマインと違い二名は残酷な笑みを浮かべていた。



 裏口にウラガンと三人の部下が集まっていた。
 各々装備を確認する。通常の剣の半分ぐらいの剣に投げナイフ数本、毒薬などを確認しいざ突入しようとした時ドアが開かれた。

 「こんな夜中にお客とは困った物だな?」
 「ニグン!ニグン・グリット・ルーイン!?」
 「今は『ルーク・バレンタイン』と言う名なのだがな…」
 
 一瞬ウラガンを含める4人が思わぬことに焦るがでも逆に有利なことに気付く。現在ニグンを囲むように距離を保っている。天使召喚などをされていたら問題であったが今はまだ召喚されていない。ならば魔法を発動する前に攻撃すれば良い。この距離なら4人の誰でも勝てる自信がある。焦った顔が残忍な笑みに変わっていく。
 そんな結論に最初に思い至った部下の一人が駆け出す。ニグンは手に持っていた札を無造作にばら撒いた。それに触れた突っ込んだ者が突如燃えた。
 
 「ぎゃああああああ!?」

 燃え盛りながら慌ててもがくが火は消えず、力尽き倒れていった。ウラガンはその光景を唖然としつつ見ることしか出来なかった。魔法の詠唱もなしに仲間がやられたのだ。理解が追いつかない。
 ニグンが使った札はぼっちがモモンガと同じくとあるガチャを回していたときに出たハズレアイテムである。札そのものがアイテムではなく札を作製する能力を与えるという物だ。作製できる札は回復から属性攻撃の札から撒くだけで発動する召喚術である。ただどの物もレベルが低く他の物を使った方が良いという物でハズレとなっていた。
 
 ばら撒かれた札から3メートルほどの炎の人型であるレベル25のイフリートが現れた。

 「な、な、な…」
 「どうした言葉も出ないか?無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」

 絶望の中でウラガンは動けないまま炎の中に取り込まれていった…



 裏で4人を瞬殺したニグンを余所に正面入り口ではマインとクレマンティーヌが睨みあいをしていた。

 「あ~らら、すんごーく警戒されてるっぽいね?」
 「そうですね。でもやる事は変わりませんよね」
 「すこーし残念だけどちゃっちゃと済ませますか」
 「何人いけますか?」
 「全部いけるよー」
 「では半分貰います」

 ザイードとルチアーノは目の前の二人を舐めきっていた。片や負傷した英雄にただのガキ…なのにあの余裕は何だ?急に悪寒が走る。そんな二人を知ってか知らずかマインは一直線に駆け出す。
 反応したザイードの部下が応戦しようとした。だがマインは相手の剣撃を回避するか剣が振られる前に突き出される指を斬り飛ばす。一撃一撃は弱いが反応速度にその数多の戦場で得たかのような技量はザイードを遥かに超えていた。
 正直ぼっちが技を教える為にロートルを召喚したのは間違いであった。なんせマインはロートルの技を会得する事は出来なかったのだ。そもそもどうやってこの世界の者が習得できるかも違うのだ。
 しかし命令は絶対。ならばと召喚されたロートルは少なからずぼっちの記憶を得ていた。その記憶の中から剣技を教えればいいと…気配の察知の練習もぼっちの知識なのだ。
 技を教える物としては失敗だったかもしれないが師としては最適だった。妥協しないのだ。こんなもので良いかではなくもっと上を目指すように教え込んだ。何度も殺しかけ何度も意識を刈り取った。その度にアウラ様経由で渡されたポーションで回復させまた合格するまで剣を交える。マインにとって死線とは日常茶飯事なのである。ゆえにこの程度で焦ったり怯える事もないのだ。
 一撃では無理なら何度でも切り裂く。その光景に怯えるザイードは《マジック・アロー》を放った。マインはぽかーんと口を開けながらあっけなく切り払った。…遅いと思ったのだ。訓練には投げナイフなどの飛び道具迎撃もあった。最初は村人の弓で次にゴブリンの弓、最近ではナイフ・バット下級で行なっていたのだ。まだ落とせたことは無いが…
 マインは戦闘しながらモモンさんが来る前に一度だけ様子見をしにきた師匠が呟いた一言を思い出していた。

 「どんな高速魔法も対物ライフルの弾丸よりは遅い」

 そう呟くと下段の構えのまま突っ込んできた。恐怖した。こんな年端もいかぬ子供が暗殺に特化された者共三人をいとも容易く屠り、今無邪気な笑みを浮かべてこちらに向かってくるのだ。

 「く、くそおおおお!!」
 
 自分のMPが持つ限りの《マジック・アロー》を放つ。そのことごとくが打ち払われ足止めにもならなかった。50メートル以上あった距離がどんどん詰められていく…50…40…30…20…10…5…
 何故自分はこの者を見て殺す事など容易いなどと思ってしまったのだろうと、今では後悔しか出来ない事を頭の中で繰り返す。

 「あれを……恐れる事はない、だと――!?」

 その呟きを最後にザイートは崩れ落ちた。マインは冷静に辺りを見渡した。残りの4人はザイードを切る前にクレマンティーヌが仕留めていたのを横目で確認していたがこうして見て見ると全員の急所を寸分の狂い無く刺していた。

 (あれで左肩に大怪我をしている人間なの?あれが英雄級の戦士なんだ…僕はもっと強くならないといけない…)
 (へぇ…武技も使わずあんなに強いんだ。怪我が治ったら手合わせしてくれないかな?彼女なら本気で戦えるかも…)

 二人とも何も語らず相手を称えていた。その様子を見ていた風花聖典隊長がゆっくりと現れた。



オリキャラ追加


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第035話 「深夜の戦闘 後編」

さぁてエ・ランテルでの戦闘がもうすぐ終了します。後数話後には4巻へ


 突撃した12人が殺されてゆくのを残りの8名は見続けていた。

 「ど、どうするんですかゴラン隊長!?」

 残った部隊長のミューディーが怯えながら口を開いた。あの相手には勝てないと分かっているのだろう。それはここに居るすべての者の総意であった。だが、ゴランは…

 「これより我らは奴らに突撃し逆賊の首を取る!」
 
 意気揚々とそう宣言したのだ。周りの者達の顔が青ざめていく。

 「な、あの実力差を見なかったんですか!?私達ではもう…」
 「笑止!我ならあの小僧ぐらいなら討ち取れる。貴様らに期待はしていない。小僧を殺すまでの時間を稼げ」
 「そうすれば勝てると?」
 「愚問だな。ミューディーの三人はニグンに、我の三人はクレマンティーヌへの時間稼ぎをせい!」
 「…あの私は…」
 「今の貴様は役には立たん。ゆえに本国への連絡へ向かえ。このことを必ず伝えるのだ。良いな?」
 「!?はっ!必ずや…」
 
 力強く頷くミューディーに満足したのか満足げに『ヘルシング』へと駆け出した…



 「よくザイードをやったな小僧…まずは貴様からだ」

 クレマンティーヌとマインの前に現れたゴランは躊躇う事無く剣を抜き放ち斬りかかる。刀と剣が交わり火花を散らす。

 「手伝おうか~?」

 三人に囲まれてもなお余裕があるのかマインのことを気にかけていた。

 「大丈夫です!クレ…ピトーさんはそこの三人をこいつは僕が…」
 「言ってくれるな小僧!我の剣を受けるだけでやっとと言うのに」
 
 確かにマインは押されていた。あたりまえだ。相手は大剣とまではいかないにしても大きな剣に体付きも立派な大人でこちらは15歳前後の少女なのだ。剣を交わらせば力負けするのは必須なのである。
 上から振り下ろされた剣を弾き返せず右手で峰を押してなんとか受け止める。目は苦しそうに相手を睨み、口は歯をむき出しにして食い縛っていた。肺に溜まっている空気を一気に吐き出す。
 右手を引き、柄を前に突き出す。すると今まで受けていた力を受け流しゴランが前のめりにバランスを崩す。隙を逃さぬように刀を左手だけで振り抜く。

 「あ――おしいね」
 「ええ、やっぱり左手だけでは切り裂くまで力が入りませんね」

 距離を取りつつ口を開く。その表情には焦りの色は無く余裕が見えた。対してゴランは左目のすぐ上を斬られて怒り心頭だった。

 「ぐぅううう!?き、貴様は絶対に殺す!手を!指を!爪を!一つずつゆっくりと斬って後悔しながら嬲り殺してやる!!」
 「そうですか。ではその前に片をつけましょう」

 刀を思いっきり振り付いていた血を払い鞘に収める。目を細めていつでも抜けるように手を添える。それを鼻で笑うゴラン。

 「はっ!?ガキがそうそう出来る物かよ」

 遮二無二突っ込むだけのゴランではなくそこには策があった。多分使用する技は抜刀術。ならば初撃に全力を注ぐ為、その一撃さえかわせば必然的に相手は隙だらけとなる。そこを狙えれば良いだけと判断した。
 ゴランは先程の刀の長さを思い出し射程内に踏み込むと同時に後ろに一歩引く。すると予想通りに自分が居たであろう位置を刀が通り過ぎていった。
 勝った!!
 頭の中では勝敗を決して次に誰を狙うか考えつつマインに突っ込んだ。これが最悪の悪手でマインの策と気付かずに…
 振りかぶった右腕が在らぬ方向に曲がった。力は入らず代わりに激痛が襲ってくる。悶絶しながら腕を押さえる。
 
 「ば、馬鹿なぁああ。鞘で二撃目を放つだと…」
 
 その通りでマインは避けられるのを知っていたかのように刀を右手で抜くと同時に鞘を腰より抜いていたのだ。それがゴランの右肘を砕いたのだ。

 「飛天御剣流『双龍閃』…うまくいきました」
 「さすがですねチェルシー殿」

 向かった三人の処理が済んだニグンも合流してゴランを見る。

 「さて、どうしたものか」
 「やっぱり後を残さないほうが良いんじゃないでしょうか?」
 「えー私遊びたかったのになぁ」
 「うるさい。ならば私が焼きますか」

 話を聞き命乞いを行なおうとするゴランにニグンは一言も話す事無く灰にした…
 


 「はぁ…はぁ…はぁ…」

 暗闇の街中をミューディーは逃げるように…いや実際逃げているのだが…駆けていた。
 あの時のゴランの命令を受けた時にはその場で踊りだしたくなるほど嬉しかった。あんな化物達と戦って死ぬのなんて真っ平御免なのである。
 まずは小屋に戻り隠してあった馬で本国へ帰還して報告。それから部隊再編までゆっくり過ごせば良い。もしも隊長達が全滅していれば自分が隊長になる可能性だって…そんな思いをめぐらせていると何やら歌が聞こえてきた。ゆっくりと立ち止まり辺りを見渡す。
 それは正面より現れた…



 「~♪」

 ぼっちは上機嫌で闇夜を歩いていた。誰も居ない夜の街を歩くというのはこう…何て言うか肝試しをしているような緊張感?高揚感?よく分からないが気分が高まる。高まるぞ~!なので先程から鼻歌交じりながら『ヘルシング』へ向かって行く。
 そして気分は絶好調を向かえ口ずさみ始めた。
 歌詞は書かないが北斗の拳一期OPである。
 目が合った…
 誰も居ないと油断し過ぎていた。まさかこんな時間に全力疾走している女性が居るなんて思わないじゃん。って、聞かれてたんじゃね!?恥っず!ちょ、うえ、どうしようじゃないや………良し、知らない振りして通り過ぎよう。
 そう思い再び歩みだそうとした瞬間彼女はナイフを顔目掛け投げてきた。焦る事無く落ち着いて手の平を見せるように突き出して人差し指と中指で止める。
 『北斗神拳二指真空把』
 手の平から甲へと返して投げナイフを返す。ナイフは迷う事無く彼女の首元を貫いた。呆然としながら徐々に力が抜けていき地に伏した…口からはヒュー、コヒューと息と共に空気の抜ける音が…
 ………やべ!?つい投げ返しちゃった…まだ生きてるから取り合えずポーションで回復させて…それから…

 「…どうしたの?」
 
 焦りすぎて接近されたのに気付かず振り返ったぼっちはモミの姿を見た。
 なぜここに居るのかと言う疑問より先にこの瀕死の子をどうしようかの方が重要になっていた。

 「あ、あー…理解理解…その子何とかしようか?」
 「!?・・・頼む・・・殺さぬように・・・」
 「うっうー…行ってら~」

 ぼっちはモミに任せてヘルシングへと向かう。
 モミは未だ空気を漏らし続ける物に目を向ける。その目はいつもと変わらず笑っていた。

 「…さてとりあえず生かしますか…」

 手をかざし呪文を唱え始める。その言葉に安堵を浮かべるミューディーだったか…

 「ああ…勘違いしないでね?ぼっち様が言われたのは『殺さぬように』との事でそれ以外のことはしていいって事だから♪曲解もいいとこだけど……宜しくね人間…」

 もはや逃げることも出来ず死ぬことも出来ず治されていく…彼女はなんであの化物たちに手を出してしまったのかを後悔し始めていた…



 薄暗い部屋の中、ステンドガラスを背後に6名の老人・老婆が並んでいた。彼らはスレイン法国が誇る特殊部隊『六色聖典』の各最高指揮官である『六大神官長』とそれらをまとめる『最高神官長』であった。
 部屋の中にはその七人を除けば六人しか居なかった。
 一人は地面に髪がつきそうなくらい長く、ぱっと見女性とも見える漆黒聖典隊長の第一席次。
 残りの内4人は第一席次と同じく漆黒聖典メンバーであった。
 最後の一人は首から十字架をぶら下げ灰色のコートを纏った神父なのだろうか。コートの下から黒の鉄プレートと合わさった服が見え、手は手袋で覆い、丸っぽい逆光眼鏡をかけている。
 年齢は30歳ぐらいでここに居る者達と比べて大柄でいかつく頬には大きな傷跡、両腰には一本ずつ日本刀を備え、背には布で巻いた棒状の物を背負っている。
 服装だけなら神父に見えなくも無いが後の物を考えるとベテランの戦士のほうがしっくり来るだろう。
 この間は本来武器の持ち込みは禁止された区画である。にも拘らず彼がここに持ち込めるのは特例中の特例である。
 そんな彼は神官長に敬意を払うように膝をつく漆黒聖典の面々と違い、壁にもたれて短く切り揃えた金髪を掻き毟っていた。

 「漆黒聖典第一席次よ…報告を」

 神官長が重々しい口を開くと短い返事と共に第一席次も口を開いた。

 「トブの大森林へ赴いた際、強力な吸血鬼と遭遇。戦闘となりカイレ様が『傾城傾国』で仕掛けましたが吸血鬼の前に飛び出した者には効かずカイレ様を含んだ五名が肉片も残さず死亡。気がついたときには『傾城傾国』もその場にはありませんでした…」
 「なんと…漆黒聖典4名にカイレ様だけでも手痛いと言うのに…」
 「六大神の残した至宝の一つでもある『傾城傾国』を奪われるとは!」
 「この事態をどう収拾するか…」
 「収集も何も今の我らにはどうする事も出来まいよ…」
 「姿を消した陽光聖典だけでなく一週間前から風花聖典からの定時連絡も無い」
 「それにニグンを探らせた土の巫女姫と水の巫女姫は突然の爆発で死亡」
 「闇の巫女姫は叡者の額冠を盗まれ発狂。盗んだクレマンティーヌは行方知れず」
 「強大な吸血鬼に六大神の残した至宝も通じぬ化物にアインズと名乗るマジックキャスター、騎士達を一人で壊滅させるほどの腕を持った男…こちらでは手は出せん…」
 「貴方はどうお考えでしょうか?」

 ここまで話に入って無かった彼に第一席次が尋ねる。彼は顎を撫で少し間を空けて答えた。

 「……今は現状回復が先…」

 その一言で皆が頷き了解した。

 「もしもの時は頼みましたぞ…ぼっち殿…」
 「…………」 

 『ぼっち』と呼ばれた彼は静かに頷く…



歌詞を書いては駄目って規約か何かにあった気がして書けなかった…
モミに北斗の拳二期OP歌わせたかった…
ところで替え歌ってOKなんだろうか?私、気になります!!


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第036話 「姫と騎士」

 最近指先が冷えすぎてうまく打てなくなって来た。
 ペースが落ちそうで怖い…

 5月21日一文変更!!


 クレマンティーヌは唇を軽く嘗め回し、獲物を観察する。
 右手に鞘から抜き放たれた刀を持ち、左手は後ろで組んでいる。それだけを見ると明らかに舐めている。英雄の領域に足を踏み込んだ人外を…
 そんな考えを脳内から弾き出す。彼は利き足をやや後ろに下げていつでも動けるようにして、油断なくこちらの動きを窺がっていた。油断どころか隙すらなかった。
 今の自分は挑戦者であり格上なのは彼であり、それは動かぬ事実である。
 いつも通り、いや、いつも以上に身を地面に這わすように構える。

 「《疾風走破》、《超回避》、《能力向上》、《能力超向上》」

 武技を一つ唱えるたびに身体が光り輝き力を得た。元々身体能力の高いクレマンティーヌは速度を上げ、回避力を超上げ、自身の能力を向上させた上で超向上させた。
 相手をひと睨みして覚悟を決める。
 ゴウっと言う風切り音を鳴らし爆風と共に相手へ直進する。
 彼は微動だにする事無くスティレットを突き出されるのを待ち構えている。
 嫌な予感に心の中で舌打ちしながらスティレットを突き出した。常人であるならば刺された事に気付かず絶命するだろうが彼は異常すぎた。
 見えていた。
 正直見えすぎていたのだ。
 当たる直前になって立ち位置を変えて最小限で避けたのだ。さらに下を向けていた刀を下から上へと斬り上げてきた。

 「《流水加速》」

 冷や汗を掻きながら強化された自身の神経と速度を上昇させる。身体を捻り何とか回避する。が、それで終わりではなかった。振り抜かれた刀の刃を返し、振り下ろしてきたのだ。

 「《不落要塞》」

 上位防御武技《不落要塞》を発動させて何とか刀とスティレットをぶつけて弾いた。
 勝った!
 弾かれた彼は隙だらけとなり左手で持つもう一本のスティレットで貫かれる。
 油断だった。あまりに上手く行き過ぎたために一瞬見てしまった夢である。
 確かに刀は弾かれた。それに対して彼は動じる事無く手を離した。目で捉えるのも難しい速度で手の向きを変えて逆手で刀の柄を握り再び振り下ろし………

 「そこまで!!勝者ぼっ…じゃなかった。アルカード様」

 マインの終了の言葉が耳に入り、首の皮手前で止めたぼっちは刀を鞘に戻す。
 体中の空気を吐き出し地面に座り込むクレマンティーヌに対して手を差し出す。
 
 「・・・見事・・・また手合わせたいな・・・」
 「じょーだんじゃないよ…こんなの命がいくつあっても足りない」

 お褒めの言葉と共に述べられた次なる誘いに顔を青くして答えた。そんな時店内で大きな物音がした。
 何事だろう?とぼっちはゆっくりながら店内へ向かう。

 そこには途惑うニグン以外に二人の男女が居た。
 男性と言うより少年は不釣合いな鎧を着ており見るからに兵士なのだろう。
 その鎧より隣に立つ少女の方が少年とは不釣合いに見えた。腰まで伸びた艶やかな金髪、細身の身体に大きく育った胸部、幼さが強く残る顔立ちで特に青き宝石のような瞳が魅力的であった。
 まぁ、ぼっちが最初に注目したのは少年の方であった。断じてBL的発想ではない。ここ大事。
 短く切り揃えられた茶髪やその熱意感じる瞳でもなくただその純白の鎧である。安っぽい鎧であったが純白であったことからある騎士を思い出す。
 
 「ぼ…!?アルカード様」
 「貴方がこの店の店主ですね」

 少女が礼儀正しく会釈をしてこちらを向く。着ているドレスから貴族だと思うがぼっちの脳裏には「誰だ?」の一言しかなかった。
 スキルを発動させいろいろ読み取る。
 
 「私はr」
 「ラナー・ティエール・シャルドルン・ライル・ヴァイセルフ」

 読み取った名前を読み上げると少女、ラナーと声が被った。その瞬間隣の少年が殺気立つ。
 確かに無礼だと思うけど底まで怒らなくてもいいじゃんか…えーと職業はアクトレスは女優でプリンセスは……ん?プリンセス!?王女!王女様ですか!?

 「・・・ようこそヘルシングへ・・・店主のアルカードです」

 こちらも礼儀正しく挨拶を返そうかと努力したが無駄だった。人ごみを歩いているのなら兎も角、たった二人見も知らない人がいるだけでは安定化が起こらない。
 だから睨むな名も知らぬ少年よ。俺はもういいけど君の命が危なくなるぞ。頬に傷のあるお兄さんの口端がひくひくしてるぞ♪それよりも何か買いに来たのだろうか?

 「どのような用件で・・・」
 「彼、クラインの剣を買おうと思いまして」
 「そんなラナー様、私になz」
 「いいでしょクライム」

 何だこのカップルモドキ。早々にお帰り頂きたい。

 「ではこちらの剣など如何でしょう?」

 品を進めたのはニグンでなくマインであった。一応剣士である為、ニグンよりは剣を見る目は有るようだ。というかいろいろ剣を見せるうちにそうなったのだが。
 にしても何なんだろうな。王女は優しそうに少年はちらちらとお互いを見ている。恋人関係?いや、そうでもないか…
 そんな事を考えているとクライムに「こっちの方が良いんじゃない?」とクレマンティーヌが近づく。

 「む」

 そんな声が漏れた。
 今、一瞬王女さんのハイライト消えたよね!?この子もしかして病んでる?てかヤンデレ?その対象はあの少年か…がんばれよ少年。拒絶なんてしたら速攻バットエンドだからな。受け入れろよ。でもその前に気付けよ!
 
 「いえ、これは少し…」
 「だったらこっちはどうでしょう?」

 少し少年を観察する。
 ラナーに対する忠誠心や努力家なのをスキルで読み、瞳から熱く強い意志を感じる。多分、最後まで諦めないタイプの人間だと思うとワクワクすると共に低いステータスなのが残念でならない。
 先ほどちらちら見ていると思っただけだが徐々に犬に見えてきた。例えるなら柴犬かな?
 『貴様…今犬と言ったか!!』
 はい、全身青タイツの方はお帰りください。というか自害せよ。
 『ランサーが死んだ!?この人でなし!』
 うるさいぞ。そもそも人じゃないし。
 ふとヤンデレ王女を見る。もし彼女を吸血鬼化させたらどうだろうと思考する。あの青く宝石のような瞳が紅く変わり闇夜を歩くのだろう。良いんじゃないかと思ってきた。
 『やめて、フリじゃないからマジやめて、マジで悍ましくてかなわんからやめて』
 !!!!!!今の誰!?今までに聞いたこと無い声が!!

 「アルカードさん?」
 
 考え込んでいると先ほどから呼んでいたラナー王女を無視ってしまっていたようだ。
 何でもないように言うととりあえず店の奥に入っていく。
 皆から見えなくなった所で何もない空間から一本の刀を取り出す。
 それを持ってクライムに突き出す。

 「これは?」
 「・・・村正・・・これを」

 受け取ったクライムが鞘から刀身を抜いた。
 魂を吸い込まれるような刃に皆の視線が奪われる。刀を知らないラナー王女ですらかなり高価な物だと理解したのだろう。当然剣類を知っているクライムは…

 「こんな高価な物頂くわけには!」
 「な!?ぼ…アルカード様がせっかく…」
 「よい・・・おd」
 「おいくらでしょうか?」
 
 おおう…今「お代はいりませんよ」と言おうとしたのに被せやがったこの王女さん。瞳がキラキラしてやがる。何で?
 ぼっちは知らなかった。この王女、ラナーはクライムが一生かかっても買えない+実戦で彼を守れる実戦的な物を欲していた。ただ彼の事を想ってではなくそれだけの物を与えたと言う『鎖』を欲していた事を。この店を選んだのも伝説級の短剣を扱っているこの店なら求めている物があるのではないかと期待していたのだ。結果はそれ以上過ぎるのだが。

 「・・・ルーク」
 
 ニグンの偽名を思い出し後はニグンに任せる。
 マインもクレマンティーヌは申し訳なさそうにラナーを見つめるクライムが持つ村正を見つめていた。
 村正はぼっちが昔使っていた刀である。攻撃力も耐久力も中々の物だが効果が「己より強く、強大で、多い時に挑む力を与える」つまりはステータスの向上。武技で言う《能力超向上》を1.5倍した物である。しかし自分より強い相手や一対多数の時しか発動じない為にあまり使われない武器である。
 ぼっちに至ってはその戦況が多かったので重宝したが…少年はこれから苦労する事になる予感がしたので送ったのである。
 会計を済ませた二人は会釈して去って行った。それを見送りマインに出かける準備を促す。
 目標はコキュートスが向かっているだろうリザードマン達の集落である。

 ここでぼっちは思った。なぜあの王女はクレマンティーヌがクライムに近づいた時にハイライトが消えたのか?もちろん自分のペットに自分以外の雌が寄って来たからだ。ではなぜマインが近づいた時はそうならなかったのだろう?女の子と思われていない…と言うことなのかな?



 次回コキュートスと合流する前に王都の話をします。セバスの話ではないですが…

 


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第037話 「王都に巣くう神父」

オリキャラ・オリスト回であります。
冷たくて指が動かない…


 王都リ・エスティーゼ
 リ・エスティーゼ王国の王都で古き景観を強く残した歴史ある都市…と言えば聞こえはいいが華やかさは無く、帝国や法国のように道路を舗装しきれてない現状が多く見られる。
 その王都の高級住宅街から馬車で移動してきた二人の男女が小さな教会の前に立った。

 「お兄様。お早く!」
 「人前だぞエイナ。貴族たる者もっと優雅に…」
 「もう、置いて行っちゃいますよ?」

 日が昇りきった昼ごろ、グエンはやや興奮気味の妹エイナと教会へと向かっていた。
 グエン・ポルグレッサは中級貴族であるポルグレッサ家次期当主である。ポルグレッサは元々無宗教なのだが最近王都に来た神父に妹のエイナが御執心なのだ。
 確かに自分も彼には好印象を抱いた。礼儀正しく温厚、あの垂れ気味な目など笑みで浮かべられた時は本当に優しげに感じた。そしてあの端整な顔立ち…もしエイナとの子が出来ればかなりの美形になるだろう。
 妹のエイナも他の誰にも負けないぐらい綺麗な顔立ちをしている。一度しかお会いした事ないがあのラナー王女とどちらが綺麗?と問われれば迷う事無くエイナを挙げるだろう。自分でも少しシスコン気味だと思うが…
 軋む音を立てながら扉が開かれる。窓ガラスはステンドガラスではなく通常のガラスで、奥の女神像は彫刻ではなく手彫りの木像など質素な造りの教会である。その中央の長椅子に腰掛ける人物を発見する。

 「おや?これはグエンさんにエイナさん。ようこそいらっしゃいましたね」
 「はい。いらっしゃいました」
 「はは、エイナ…言葉がおかしくなってるぞ(ぼそぼそ)」
 「ふぇ!?え、あ…」
 「ふふふ、お茶の用意でもしましょうかね?」

 赤らめながら慌てるエイナに微笑んだ神父、スカーレット・ベルローズはお茶の用意をする為に奥の部屋へと消えていく。
 この神父は神父を名乗っているが神父らしくないのだ。以前に他の神父の元へ行った事もある。神への信仰を第一に考える聖職者だったのだろう。しかし自分にしてみれば何故そんなに神頼みで済まそうとするのか分からなかった。
 それに対してお茶とお茶菓子を持って戻ってきた神父は信仰を求めないのだ。求めてくる者は拒まずにこちらからは求めさせない。最初に来た時は驚いた。今日と同じようにお茶の用意して話をするだけなのだ…
 彼はしっかりと話を聞きかなり正確なアドバイスなどをしてくれる。相談から雑談までいろんな話をしている内に時間が過ぎていく。彼の雰囲気がそうさせるのか、彼の人徳なのか分からないが心安らぐのだ。

 「おや?もうこんな時間ですか…」

 神父が言うように来てからずいぶん時間が経ってしまったようだ。

 「あ、お兄様…そろそろ…」
 「そうか…今日はキャロルと夕食をすると言っていたな。行っておいで」
 「はい、行ってまいります。神父様…また…」
 「ええ、また会いましょう」

 笑顔のまま教会から出て行くエイナを見送ると自分は真顔になる。ここからは誰にも聞かれては不味い重要な話だ。

 「今日…決行する…」
 
 神父はそうですかと呟くと嬉しそうに微笑む。
 さきほど名を出したキャロルと言うのは元貴族のヴェルシー家の子で昔から付き合いのある少女である。ヴェルシー家はもともとは商人の家であったが徐々に認められ先々代で貴族になったのだが先代当主が欲を出しすぎた為、六大貴族の半数の怒りを買い没落させられる。
 ヴェルシー家にはもう一人エイナムと言う男が居るが父上はエイナとの婚約相手として話を進めている。父はヴェルシー家の商人として蓄えられた知識や情報を欲しているのだ。
 このような婚約は貴族の間でも普通にあるだろう。だが、自分は許容できる物ではなかった。あの肥えた豚のような容姿、下卑た表情、見栄だけの無能者に誰が好んで最愛の妹を送り出せるというのか!
 そのことを出合って三日しか経ってない神父にぽつりと話してしまった。自分としては適当に相槌を打つと思い込んでいた。

 「ならば話を御破算にしてしまえば良いのでは?」
 「はぁ?」

 いきなりそんな事を神父に言われれば誰だって驚くだろう。
 
 「何言ってんだあんた?そんな事出来ればもう…」
 「これは独り言です。聞くも聞き流すのも自由です。………例えば婚約相手が死んでしまえばどうでしょう?」
 「なぁ…!?」
 「私は相手を殺せる知識を持っている。私は殺した犯人を隠せる手段を持っている。しかし殺す事は私はしない………どうしますか?」
 「………」

 その悪魔の言葉に迷う事無く頷いた。それ事に後悔はない。
 用意したのは神父に教わった毒薬…手段は自分でその後の事はしてくれるらしい。



 その夜、王都から離れた別荘で父の誕生会を行なう事になっている。毎年母と過ごした別荘で誕生会を行なうのが習慣となっていた。誕生会と言っても家族と近しい物を1,2人誘うぐらいである。
 
 「んー」
 「どうしたのですグエン。さっきから唸ってばかりですよ」
 「ふふ、エイナと離れ離れになったものだから気になっておるのだろう」
 「なっ!?父上、母上いきなりなにを言い出すのですか?」
 「隠さずとも良い。お前が溺愛しているのは皆が知っているしな」

 はぁ~と観念したようにため息をつくと二人は笑いあう。
 ドルザーグ・ポルグレッサ。ポルグレッサ家当主である。まだ50歳と言うのに髪は白く染まり、天辺は禿げているためもっと高齢のように見える。
 マリール・ポルグレッサ。元々この別荘と呼ばれる小屋に住んでいた彫刻家の娘で父が一目惚れをして結婚した。紫色に染められた髪を大きく広げた髪型をしている。たまにヒステリックを起こすのが問題なぐらいの優しい母。
 しかし妹の婚約の事を決めた両親を俺は良く思っていない。まだその事に気付かれていない。
 笑いながら話しているとドアを叩く音がした。
 
 「うん?エイナム殿かな」
 「どなたかしら?」
 
 ドアを開けて入ってきたのはエイナムではなく神父であった。

 「これはベルローズさん。いらっしゃい」
 「ええ、マダム。お招き頂き感謝いたしますよ」

 いつものように微笑みながら礼儀正しく会釈をした神父をマリールは優しく抱きしめる。

 「母上、神父様に…」
 「マダムのような美しいご婦人のハグは嬉しく思いますが御主人が見ておられますよ?」
 「あらやだ私ったら…」
 
 年甲斐も無く赤らめる母にあっけに取られながら父もグエンも軽く笑う。

 「お誕生日おめでとうございますポルグレッサ卿」
 「うむ、ありがとう。ささ、席へどうぞ」

 神父は促されるように入り口に近い席に座る。一人で殺人を起こすのだが共犯者がこの場に居るのと居ないのではまったく違ったであろう。両親に神父を誘っても良いかと話を出しておいて良かったと思う。すると、

 「いやいや遅れて申し訳ない」

 ちりちりの赤毛を揺らしながらドアを開けた中肉中背の男。奴こそ俺のターゲットであるエイナム・ヴィルシーである。
 殺意の篭った目を向ける事無く笑顔で奴を迎えた。

 「待ちわびましたぞエイナム殿」
 「少し準備に手間取ってしまい大変申し訳ない」

 そう言いつつ二本のワインを取り出す。
 毒入り…変な不安が過ぎる。殺す側のはずが何故かそんな不安を頭に過ぎらせてしまう。
 
 「これは上等そうなワインですね。どうも私、ワインには目が無くて。テイスティングしてみても?」
 「え?ええ、私は構いませんが…」
 「ああ、わしも構わないよ」

 言い出したのは神父であった。エイナムは父に視線を送り許可を得ると一本を開けた。
 香りや色を確かめ口に含んだ。一回頷きグラスを置く。

 「ふむ…50年もののログゼでしょうか?」
 「おお!神父殿は味が分かる方でしたか。正解ですよ」

 驚きの視線を受けつつ微笑む神父と目が合った。どうやら彼は毒見役を買って出てくれていたらしい。
 そして皆が席に付き奴のワインが注がれたグラスを手に取る。俺は笑い出すのを何とか堪える。すでに奴が手にするグラスには毒を塗っており飲んだ瞬間奴は死ぬ。席は上座に父、父の隣に母、その隣に俺と決まっていた。客人の席は反対側で自由だが神父には事前にそのことを伝えており問題はなかった。

 「ではポルグレッサ家とヴィルシー家に幸多き事を願って」
 
 皆がワインに口をつけた。液体が喉を通るのを見守った。その視線に気付いたのかエイナムが不思議そうな顔をして首を傾げた瞬間首を押さえ始めた。
 声にもならぬ声を漏らしつつもがき苦しむ。俺の表情を理解したのかテーブルの上にあった燭台を投げつけてきた。方向は大きく外れ窓を突き破って外へと落ちた。

 そして倒れた。
 ただ倒れたのは奴…だけではなかった。
 父が血も噴出し倒れたのだ。
 意味が分からなかった。なぜ父が?
 隣の母がパニック状態になりつつ俺の両肩を掴んできた。
 
 「まさか貴方も!?なんてぇぐ!」

 怒鳴り上げようとしていた母の声がくぐもりそのまま倒れた。
 想定外の現状に付いて行けず訳が訳が分からなくなった。

 「皆さん食事中と言うのにはしたないですね」

 その中悠々とワインを口にする神父を見つめる。
 聞きたいことが山ほどあるが言葉が出ない。

 「どういうことだ!?とでも聞きたそうな顔をしていますね?いいでしょうお答えしましょう」

 席を立ち俺のそばまで寄って来た神父は耳元に口を近づけ、

 「すべて私の計画通りです」

 いつものように微笑んでいるだけなのだがそれはとても人間には見えなかった。

 「どう…いう事だ?」

 自分を落ち着かせながら言葉を口にしつつ席につく。
 
 「簡単な事ですよ。皆様より相談を受けておりまして」
 「相談?」
 「ええ、ある方は妹の婚姻の話…これは貴方ですね。若い男と浮気している妻をどうにかしたかった夫…これはドルザーク殿。遺産を欲し旦那を邪魔に感じていた婦人…マリール婦人。とっとと相手方の両親と息子を亡き者としてすべてを手に入れたい者…エイナム殿ですね」
 「エイナムとも!?」
 「彼が私とも面識があったのが分からなかったのですか?」
 「……」

 もう言葉すら出なかった。

 「ふむ…見知った人が死ぬとはこういう感じですか…まぁ上々でしょう」
 「…!?エイナは?エイナに何かした訳ではないだろうな!!」
 「エイナ嬢とキャロル嬢には何もしていませんよ」
 「本当だな?」
 「ええ、本当ですとも。そしてこれで貴方はエイナムを殺し、邪魔だった両親は勝手に死んだ。あとは………貴方だけですね?」
 「はぁ?」

 突然の言葉に間の抜けた声を上げてしまった。俺を殺すと言ったのかこの男は?それとも別の…
 『とっとと相手方の両親と息子を亡き者としてすべてを手に入れたい者…エイナム殿ですね』
 待てよ!母は父が、父は母が、エイナムは俺が、ならばエイナムはなにをしたんだ。
 口に手を当て考え込むと窓の外が明るくなっていることに気付いた。

 「どうやら気付いたようですね。消音魔法解除と同時に範囲防御魔法解除」
 
 神父がそう呟くと熱気と木が燃えて弾ける音が広がった。
 窓の外と言うかこの建物すべてが燃えていると気付いた。

 「エイナムは予め火付けの準備を行なって遅れたのですよ。これですべては燃え犯人はこの中に居ないことになりましたね」
 「貴様はどうする気だ!ここまで燃え盛っていては逃げ出すことは出来まい!!」
 「それはどうでしょう」
 
 空間が黒ずみ、人一人が入れる楕円を形成してその中へと入って行く。すると下半身を隠すように楕円が小さくなった。俺を通す気は無いということだろう。

 「さて、最後に何か言い残すことはありますか?」
 「……妹を…妹には!?」
 「そこまでで結構。彼女は彼女が進みたい道へと進むことをお手伝いしましょう」

 こんな状態でも妹のことを考えるとは…本当にシスコンだったんだな。そう思いつつ消えていく神父を目だけで見送る。

 「Good Luck!また…いえ、もう会うことはないでしょう。さようなら」

 これで妹を利用するものは消え、あとは祈るだけだ。

 「エイナの未来に幸多からんことを…」

 グエンの肉体は炎の中に消えていった。



 スカーレット・ベルローズ…いや、ザーバ・クンスラァは暗い倉庫へとゲートで転移した。
 彼は自分の任務を確認する。それは簡単な手入れである。貴族の中で無能、もしくは有用ではない貴族の手入れである。
 知り合いになった貴族を手入れするのは中々楽しいものがあるが今は少し物足りなさを感じている。
 最初の時は自分が思う芸術の様な殺人を行なってきたが誰にも気付かれることも無く終わってしまうので今日は簡単な物で済ませてしまった。
 張り合いが無いのだ。決してばれてはならない任務でこんな事を思うのもなんだが好敵手のような者が欲しいと思ってしまう。
 そんな感想を抱きつつ倉庫の古めかしい扉をあける。

 「遅いですよベルローズ様!」

 倉庫から戻ったザーバを出迎えたのは兄とは違い、ちゃんと手入れをしてさらさらの赤毛を肩まで伸ばしているキャロル・ヴィルシーであった。少し待ち侘びたのか頬を膨らませていた。

 「もう、神父様に失礼ですよキャロ」
 「固い!固いよエイナは。ねぇ?」

 困ったような笑みを零すエイナはキャロルを軽く言うがキャロルは受け流していく。

 「申し訳ありませんね。中々見つかりませんで」

 今日二人は夕食を楽しんでくるといって家を出たのだ。先はレストランと両家では思っていたようだが実際は神父のところであった。
 食事をしたり会話をしたりで時間を潰していて、その途中で抜け出したのだ。

 「で、なにを探していたんですか?」
 「これですよ」

 後ろに隠していた物を二人に見せる。それはエイナムが用意した二本目のワインだった。

 「わぉう!結構高いんじゃないコレ?」
 「高いでしょうね」
 「え?良いんですかそのような…」
 「だから三人の秘密にしましょうかね。どうです?」
 「乗った!」
 「もう!キャロったら…」
 「でもエイナも飲むでしょう?」
 「…うー」
 「じゃあ私と神父様と二人っきりで頂いちゃうから(ぼそ)」
 「!?私も飲みます!」
 「ふふ、ではグラスと何かつまめる物を用意しましょうか」

 ザーバは微笑む。いつもと変わらぬように。そして朝になり兄と両親のことを知った彼女達がどんな表情でどんな選択を選ぶのか…今から楽しみでならない。



 あと少しでDVD&BDオーバーロード第六巻が発売する。
 二期しないのかな?


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第038話 「コキュートスの戦支度」

 今日がオーバーロードDVD&BDの発売日です。チェリオはこれから買って来ます!!もちろん両方!!


 コキュートスは酷く怯えていた。
 どんな敵が来ようと命を賭して戦う覚悟もニューロニストが得意とする拷問にも耐える肉体も供えているナザリックの階層守護者が怯えている。
 たった一人眼前に座る男の目に恐怖する。
 その目には自分のみが映っていた。怒りとも呆れとも取れる眼差しは恐怖でしかなかった。
 自分に失望されたのではないかと。
 至高の存在の一人であるぼっちに……


 数十分前

 「コキュートス様。一覧が届きましたよぉ」
 「ウム。受ケ取ロウ」

 天幕が張られた指揮所内でエントマから渡された紙をコキュートスは目を通していた。
 現在ナザリックから出ているコキュートスはアインズより軍勢を率いてリザードマン達と戦をする事を命じられてこの地にいる。
 今渡されたのは今回指揮を執るモンスター一覧と総数である。数にして5000近くの軍勢に対し相手は6個別々の集団で数は少ない。
 どうやっても負けることの無い戦だが今まで活躍が無かったコキュートスが初めて活躍できる場面である。熱が入る。その上…
 
 「ぼっち様が来られました」

 告げに来たのはアインズ様に造られたエルダー・リッチ「イグヴァ41」である。
 短く返事すると天幕から外へと出てこちらに向かってくる馬車に向かって立ち止まる。
 馬車はこの世界で見ることは出来ない豪華の物で馬はスレイプニールを四頭も繋いだナザリックの馬車である。
 ゆっくりと止まった馬車に近づき膝を突き待つ。

 「・・・良い・・・楽にせよ」
 「ハッ!!ボッチ様ヨクゾオ越シ下サイマシタ」
 
 言われたままに立ち上がり横へと並ぶ。天幕へ向かって歩いて行くぼっちに続こうとしたら見慣れない者に途惑った。
 それは人間の子供だった。若干緊張しているが恐怖していない所を見ると中々胆が座っているのだろう。

 「ボッチ様、コノ者ハ?」
 「・・・?・・・ああ、挨拶を」
 「は、始めまして!僕はマイン・チェルシーと申します。宜しくお願いいたします!!」
 「モシヤ、ボッチ様ノ弟子ト言ウノハ…」
 「あ、僕の事だと思います」
 
 デミウルゴスなどの話で聞いた事があった。『ぼっち様は人間の弟子が居る。ただの人間のようだが決してそのようなことは無いだろう。何たってあのぼっち様の目に止まった者なのだから。確か名前はマイン・チェルシーだったか…』
 その通りだと本当に思う。高レベルモンスターに囲まれても物動じないあの態度。高レベルかどうかは別としてエントマを除けば一目見れば逃げ出してしまうような異形の者達に対し礼儀正しく挨拶している。
 それより何より索敵や相手のステータスを見ることの出来るぼっち様が認められたと言うことはただの人間であるはずが無い。
 
 「では、こちらにどうぞ」

 エントマに連れられぼっち様と共に天幕内へ入って行った。
 この時の私は自分の活躍が至高の御方に見ていただけると内心ワクワクしていたのだ。
 そして時は動き出す。

 上座に座ったぼっち様は資料を見せて欲しいと言われ持てる資料をすべて出した。エントマが用意したお茶を含みながら目を通していく。
 その姿は優雅で美しく、同姓であるコキュートスですら魅入ってしまうものだった。
 資料を見終わり手を止める。

 「・・・他の資料は?」
 「?ソレデ終ワリデゴザイマスガ」
 「・・・はぁ?」
 
 背筋が凍った。
 今まで聞いた事のない声色でぼっち様が問うたのだ。コレだけかと…
 目が鋭くなり空気が一瞬にて重圧な物と変わる。息をすることすら神経を使ってしまう。

 「敵の種族は?」
 「リ、リザードマンデス」
 「数は?」
 「……分カリマセンガ派遣サレル軍団ヨリ相当少ナイカト」
 「不安的要素壱・・・地形は?」
 「湿地帯デス」
 「敵の平均レベルは?」
 「……分カリマセンガ」
 「不安的要素弐・・・」

 すでにため息を付きつつ頭を抱える。
 何かを切り替えるように手を手を勢いよく合わせて乾いた音を響かせる。

 「ではこちらの話だ・・・こちらの手駒の大きな種類は?」
 「スケルトントゾンビデス」
 「湿地帯においてのその二種のメリットとデメリットは?」
 「エ!?エット…」
 「不安参・・・陣形は?」
 「………」
 「戦術は?戦略は?配置は?偵察は?部隊分けの構想は?」

 答えることは出来なかった。もとよりそれらは別にと思っていた為に何もしていなかったのだ。
 4,5,6,7と数字を口にしたぼっち様は荒々しく席を立ち眼前まで迫ってくる。

 「なぜ答えない?」
 「…申し訳…」
 「そんな言葉を聞きたいわけではない。
  合戦そのものはそれまで積んだ事の帰結よ。合戦までに到るまで何をするかが私は戦だと思ってる」
 「…ハイ」
 「・・・・・・それだけだ」

 言い終ると早足でぼっち様用に設置した天幕へと去っていくぼっち様。この場に居たすべての者が動けずにいた…



 自分に用意された天幕に篭ったぼっちはスキルで近くに誰も居ないことを確認して勢いよく地面に突っ伏した。
 やってしまった…
 先ほどのコキュートスとの話の感想である。
 嬉しかったのだ。ナザリックに篭らせっぱなしだったコキュートスに活躍の機会が与えられてそれに自分が見ることが出来る。とても楽しみだった。
 だが資料を見て愕然とした。少なすぎるのだ。こちらの数や種類以外には詳しい資料がなく相手の情報なんて~らしいみたいなものばかりだった。
 怒るつもりなどなかった。けれどあれほど情報を、偵察を軽視されると…

 “自分はいらない”と言われている気がして悲しかったのだ。
 ギルド内でぼっちは偵察面で活躍して重宝されていたと自信があった。その自信その物が否定されたようでいつの間に怒ってしまったのだ。
 ため息が出る。どうやって謝ろうか…
 今は会いづらいから少し間を空けてからで。



 天幕の外で一人地面に座り込むコキュートスは肩をがっくりとおとし嘆いていた。
 何故自分は偵察などを行なわせなかったのだろう?
 何故自分は考えなかったんだろう?
 何故自分はぼっち様に言われるまで気が付かなかったんだろう?
 失望された…
 初めて活躍できると浮かれて、その結果がコレでは他の階層守護者達に合わせる顔がない。
 ため息が白い冷気となり排出される。

 「過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ」

 ふいに後ろから声が聞こえて振り返った。そこに立っていたのはマイン殿だった。

 「コレハマイン殿」
 「殿何て止めてください。マインでいいですよコキュートス様」
 「様付ケハ止シテクレ…私ハボッチ様ニ失望サレタ無能ナノダカラ…」

 そうだ。自分は様付けされるような存在ではない。もう私は…

 「さっきの言葉…」
 「…ン?」
 「カルネ村にいた時にたまにぼっち様が見に来られたんです。そのとき僕が親を殺された事を悲しんで悔やんでばかりの時に言われたんです。『過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ』って」
 「…………」
 「僕は聞いたんです。『だったらどうすれば良いんですか!?』って怒鳴って聞いちゃったんです。今思うととんでもない事ですけど…」
 「ソレデ…」
 「え?」
 「ソレデボッチ様ハナント?」
 「『自分で考えろ。立って歩け。前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないか』」
 「………」
 「それからいっぱい考えました。僕はどうするべきか?今何が出来るか?そうやって僕は前に進むことが出来ました」
 「前ヘ進メ…カ…」
 「はい。だからぼっち様は謝罪を受け取らなかったんだと思いますよ。謝罪をするぐらいならもっと前へ。一歩でも半歩でも進めと…多分ですけど」
 「フフ…ハハハ」

 先ほどまでの陰気なオーラは消し飛びいつもの…いつも以上に力強いオーラが感じられる。
 立ち上がったコキュートスはマインに一礼する。

 「アリガトウマイン殿。貴方ノオカゲデ私ハ前ニ進ムコトガ出来ル」
 「何かその…照れますね。ヘヘ」

 そんなマインを満足げに見つめ天幕へと急ぎ戻る。やるべきことはたくさんあるのだ。



 ぼっちはどう謝ろうか悩みに悩み…朝になっていた。
 本気でどうしようと考えていると、

 「失礼致シマスボッチ様」

 コキュートスが来た為に思考が停止した。まだ心の準備が!?

 「コチラヲオ持チ致シマシタ」

 手渡されたのは資料だった。それも昨日見たのよりは分厚くなっている。
 少し読んだだけだが昨日の事を反省していろいろな計画書が含まれている。

 「昨日は言い過ぎたと思ったのだが・・・」
 「イエ、私ノ考エガ甘カッタノデス」
 「・・・そうか」
 「デハ、資料ニ書イテアル通リニ行動ヲ開始シマス」

 自信満々に去っていくコキュートスを見てぼっちは満足感でいっぱいになった。
 謝ることを忘れていたが…


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第039話 「モミと白蛇」

リザードマンとの戦はもう数話後となります。
その間にいろいろ入れたいので…


 いつもは静かな第11階層が今日はやけに騒がしかった。
 それもそのはず。この時刻ならナンバーズは就寝しているはずなのだが今は灯りを手に何かを探し回っている。

 「いたか!」
 「いえ、こちら発見できず!!」

 陣頭指揮を執っていたのは入り口の守りでもあるステラである。現在はカストルに守りを頼んで居る為に離れることができている。
 名を思い浮かべるのもあまり好きではないが転移系や索敵系を扱えるザーバが居ればもっと簡単に調べれるのに…
 
 「あの馬鹿姉め!マスターから頂いた地位に居ながら勝手な行動を」
 「そう怒るなステラ」
 
 優しげに名を呼ばれて振り返るとそこにはハイネが立っていた。ステラに頼まれて捜索隊に加わったのだ。
 もちろん捜索対象は第11階層の階層守護者モミ・シュバリエである。
 
 「先ほどシャルティア殿の配下が第一階層で見たと言っていたよ」
 「しかし入り口を通っては…」
 「指輪を使ったのだろう」
 「くっ、してやられたということか」
 「ほっとけばそのうち帰って来るでしょう」
 
 モミはアインズを模すようにされており当然のようにリング・アインズ・ウール・ゴウンを持っているのだ。
 ステラは諦めたように…と言うか諦めた表情をしてため息をついた。
 今頃何をしているのだろうか…

 モミはエ・ランテルの夜道を歩いている。先ほどぼっちさんからの頼まれ事を終え、目的地に向かっている。
 今頃第11階層では自分を捜索しているだろう。何も告げずに出てきたのだから。と言ってもいつもの事でもあるが。

 「…ま、いっか…」

 暗闇が支配する町を進んでいく。友の元へ向かって…

 

 数週間前…

 「…冷たい…靴が濡れる…」

 暇だったモミはいつも通りに抜け出し散歩していた。アウラからリザードマンの集落の話を聞いて行ってみようと思い立ってここまで来たのだがすでに後悔でいっぱいであった。
 まず周りが湿地帯なのだ。近くには森もあるがリザードマンは湿地帯で過ごしている為に必然的に森から離れる。歩くたびに泥が跳ねたり、靴の間から侵入してきたりする。最初は魔法で綺麗にしていたが途中で面倒になり止めると靴が重くなりさらに面倒になった。
 どれだけ歩いたか分からないくらい歩くと集落の前に出た。アウラの情報によるとナザリックから見れば低級程度のリザードマンの群れが住んでいるという。
 さて、ここでどう接触するかで相手の対応が変わる。高圧的に行くか、柔和に行くか………よし、北斗のケンちゃんで行こう!!
 入り口の見張りらしきリザードマンの前へ弱ったようにフラフラと現れる。

 「み……みみず」

 バタン…
 あれ?何か一文字多かったような?それよりも失敗したな…倒れたら泥だらけになっちゃったよぉ。
 用心しながら近づいてくるのが分かる。モミは大事そうに抱えられ…
 牢屋に入れられた。
 
 「…ですよねー」

 原作通り不審者として牢屋に入れられたモミは落ち着いていた。いつでも逃げれるわけだしね。
 門番役のリザードマンは胸部を上下させ安らかな寝息を立てていた。
 下級の睡眠アイテムで一発とは…などと思いながら鉄格子で出来ている檻の中央付近の二本を握り締める。
 「ぬあああああああ」と叫んで力ずくで開こうとしたがめんどくさくなりピッキングで済ませることにする。

 「確か鍵穴に針金を…あっ!……折れた………えい」

 ガコンと音がして鍵穴事一部が欠損した。ピッキング(物理)したモミは悠々と外へ出る。
 何か良い物が無いかと捜索ついでに探検しようと歩き回る。見つからないようにひっそりとだが。
 木で作られたらしき建物が並んでいるがキレイな物ではなく、作りは荒くボロであった。
 うん。ここにめぼしい物なんてある訳がない。
 結論付けて帰ろうとした所、ひとつだけ警備の厳しそうな部屋がある。

 「わたし、気になります」

 再び取り出した催眠系アイテムを使用して眠らせ、忍び足で中へ入って行く。
 目が合った。
 種族がリザードマンなのは理解出来た。が、思ってたのと違った。
 リザードマンとは人型の龍のようなイメージがあった。龍じゃないと言われればオオトカゲと答えるだろう。
 しかし目の前に居たのは目はルビーのように輝き、肌は透き通るような白さ、龍やトカゲと言うよりは白蛇だ。
 突然見知らぬ者が入って来た為途惑っている。が、モミはそんな事お構い無だった。

 「しっろ!?綺麗!凄く綺麗!!」
 「えっ!?あ、ちょっと…」
 「うわ~触り心地もいいよ~」
 「ひゃ!なななな」

 ハッと我に帰ったモミは撫で回していた腕を放す。しかし未だテンションは何時に増して高かった。
 モミはゴルゴンで蛇系でもあるから彼女のような美しい蛇を見て興奮しているのだ。
 先ほどの慌しさをかき消すように冷静に落ち着いて行動を開始する。まずは背筋を伸ばして正座をして一礼する。こんな動作を第11階層ですれば皆が仰天するだろう。…いつも不真面目すぎる為… 


 「…いきなりでごめん。名前なんていうの私はモミ!貴方は?」
 「クルシュ……クルシュ・ルールー…です」
 「クルシュね…覚えた」
 「えーと…貴方は何ですか?」
 「何ですかか…あ、これ」

 今も困惑しているが少しずつ冷静さを取り戻そうとしていたクルシュは指差されたモミの指先を見た。普通の…いや、綺麗な黒髪だなと思ったのだが

 「しゅー。しゅー」

 髪の毛一本一本が微かに声を上げた。その瞬間落ち着き始めた精神が荒れ始めた。

 「ご、ゴルゴン!?」
 「うん。同じ蛇系だね」
 「同じって…」

 何度目か分からない驚きもにへら、にへらと笑うモミの笑顔を見ていたらもうどうでも良くなってきた。
 どうも彼女を見ていると敵とは思えなかった。と言っても警戒しないわけではない。けれど…

 「さっき私の事“綺麗”って言いましたよね」
 「…?言ったけど嫌だった?」
 「いえ、そうではなくこんな私が綺麗なんて」
 「なんで?すっごく綺麗だよ。ずっと触っていたいし」
 「――――っ///」

 真顔で言われてしまい照れて尻尾がのた打ち回る。
 赤面したクルシュとまたにへらと笑うモミの視線が合わさった。

 「ふふ。ふふふ」
 「…ふひひ」

 二人が笑う。
 ふとこんな風に誰かと笑うなんて何時以来だろうとクルシュは心に温かい物を感じながら思う。彼女は不思議だ。いつの間にかこんな気持ちにさせられて、いつの間にか警戒を解いてしまっていた。
 しかし次の瞬間にはその思いも霧散した。
 何の予兆もなくモミがばたりと倒れたのだ。
 慌しくクルシュに話しかけたモミはそう言うや否や倒れた。何が起こっているのか分かっていないが心配して揺さぶる。
 
 「いっきに喋って…疲れた……休む…」

 これがクルシュとモミの出会いであった。回復したモミは綺麗なクルシュを気に入り、一族から忌み嫌われていたクルシュは本音で話せる友達が始めて出来たとして仲良くなったのだ。
 当たり前のように帰ったらかなり怒られたが…



 夜の屋台で買った食糧を持ってクルシュが居るレッド・アイ族に向かっている。
 毎度の如く門の警備は顔パスで通してくれるのだが何か空気がピリピリしている気がする。
 でも自分とは関係ないよねと決め込みクルシュが居る家屋に入って行く。
 こちらに気がついたクルシュが振り向く。
 その目は恐怖と不安で塗り固められていた。

 「モミ!!」
 「あっ…ザム!?」

 不安だったのだろう。いきなりモミに抱きついたのだ。だが、モミは受け流すすべを知らずそのまま押し倒され後頭部を強打する。
 礼儀正しい彼女がこのような行動をとるなんて余ほどの事なのだろう。嫌な予感を感じながら口を開く。

 「…どったの?」
 「……戦争が起こるかもしれない…」

 聞かなきゃ良かったかなぁと思いつつ観念したモミであった。
 まさかこれがナザリックからリザードマン達への宣戦布告された事とは露とも知らず…



最近忙しかったり、指が寒くて動かなかったりで二日ずつの投稿分のみで外伝が書けない…


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第040話 「戦前のリザードマン達とモミ」

 前回に続き文字数が少ないです。
 そしてタイトル通りリザードマンとモミのお話。モミはどう行動するのかな?


 リザードマンの集落にてモミはボッチ感を感じていた。
 ゆっくりと立ち上がると窓辺に立ち、小屋の中から外を見る。
 右を見るとリザードマンの群れ。左を見てもリザードマンの群れ。正面を見てもリザードマンの群れ、群れ、群れ。見渡す限りリザードマンで覆われているのだ。百や二百ではなく千は居る。
 小屋の中はモミを除けば6人と外に比べて天と地ほどの数の差があるが外と違い空気が段違いで重い。

 『グリーン・クロー』祭司の力を使う戦士で族長のシャースーリュー・シャシャと弟で四至宝の一つ『フロスト・ペイン』を持つザリュース・シャシャ。
 戦士103
 祭司5 
 狩猟班7
 オス124
 メス105

 『スモール・ファング』族長。元々狩猟班に属していた小柄なリザードマン。飛び道具で彼に敵う相手無し。
 戦士65
 祭司1
 狩猟班16
 オス111
 メス94

 『レイザー・テイル』族長。白き鎧で四至宝の一つ『白竜の骨鎧』を装備し防御力随一。その防御力を得た変わりに知力が下がっているが元が聡明だった為、頭の回転は良い。
 重装甲戦士89
 祭司3
 狩猟班6
 オス99
 メス81

 『ドラゴン・タスク』族長。2メートルを超える巨漢で右腕の筋肉が異常なほど発達している。トカゲと言うよりはワニに近い姿をしているゼンベル・ググー。

 戦士125
 祭司2
 狩猟班10
 オス98
 メス32

 『レッド・アイ』族長代理で祭司として優れた持ち、モミの友人になったクルシュ・ルールー。
 戦士47
 祭司15
 狩猟班6
 オス59
 メス77

 五部族合わせて1380ものリザードマンの頂点に立つ者達がこれからのことを話している。
 偵察をしたスモール・ファングの族長は敵は5000弱のアンデットの群れだと言う。
 最悪だ。
 別に友人になったクルシュが死のうと生きようとそんなことはナザリックを第一に考えるモミにとってはどうでもいい事であった。いや、そう設定に刻み込まれているのだからと言った方がいいのか…
 5000ものアンデットの軍勢を用意できる組織などこの低レベル基準の世界ではまずないだろう。出来たとしても長い年月と高アイテムが必須となる。そこまでして作った軍隊を占領することでうまみが出る地域ではなくこんな所を狙うはずがない。
 思い当たる所はあった。こんな辺境の地に簡単に5000もの軍勢を差し向けられる力を持つ者。確認も取れた。相手は『アインズ・ウール・ゴウン』である。
 モミが最悪と称したのはこの状況をあることに利用できないかと考えたことである。それをどう実行するかが問題なのだ。現在の立場は『レッド・アイ』族長代理の相談役と言う事になっている。相談役ならば意見を言いやすいと思ったがリザードマンでもない者の意見がすんなり通るはずもない。
 
 「きみは、どうする?」

 腕を組んで考え込んでいたモミに声をかけたのはスモール・ファングの族長だった。今までの話は一応聞いていた。奇襲・篭城が提案されたが奇襲は却下され篭城は頭の片隅にでもと言う事で戦うことは決定したのである。ならば戦うことを条件として考えれば…

 「…私の知り合いに策士が居る。その人に知恵を貸してもらう」
 「さくし?なんだそりゃ?」
 「戦いなどで策を練る者だろう」
 「目の前の敵を殴るだけで良いじゃねえか」

 おおう。居たよ脳筋キャラが。ゼンベルはただ突っ込むだけで勝気なのかな?とんでもない戦闘狂だ。

 「ま、そいつがどんな策を練ろうが弱い奴に従う気はねえがな」
 「(カチンッ)…貴方じゃ到底敵わないけどね」
 「なんだと!!」
 「落ち着けゼンベル」
 「モミもね」

 一気に険悪になった二人を宥めようとザリュースとクルシュが間に入って止めようとする。
 フンッとゼンベルは鼻を鳴らし腕を組み音を立てて勢いよく座った。

 「だったらそいつをここに呼べ。相手になってやるよ」
 「…その必要はない。貴方は私にも勝てないから♪」
 「言うじゃねえか?」
 「やめといたほうがいい」
 「確かにその通りですよ。結果は見えてますしね」

 荒々しく立ち上がったゼンベルと相対して立つモミを周りの者が止めようとする。 

 「武器を振り回して戦うのもなんだし、これで勝負!」
 「……何してる?」
 「へ?腕相撲知らない?」
 「いや、知ってけどよ……」
 「ヘイ!カモ~ンチキン」
 「………」

 両膝と右肘を床に着けたモミに対してやる気満々で立ち上がったゼンベルが何とも表現しにくい表情をしながら同じ体制をとり手を合わせる。
 二人の腕を比べると大木と糸ほどの差を感じてしまう。百人居れば百人がゼンベルの勝ちに賭けるだろう。
 腕の太さ=強さだったらの話だが…
 「では、始め!」とシャースーリューの合図と共に開始されたはずなのだが動く様子がなかった。不思議に思い二人の顔を見るとゼンベルの顔が力み過ぎて変わっていた。よく見ると力を本気で入れているのだろう。腕がぷるぷると震え、顔は力んで赤くなっていた。
 対してモミは涼しい顔でニコニコと笑っていた。我慢しているようにはまったく見えなかった。それもそうだろう。レベル100の魔法詠唱者は戦士としてレベル30になる。その上でゴルゴーンで超強化されているモミがたかがレベル18のリザードマンに後れをとる訳がないのだ。
 いつまでも続きそうだったので一瞬でモミが決着を付けた。ドヤ顔をしつつ立ち上がると

 「じゃあ連絡してくるね♪」

 そう告げると隅に走って行き、何かを呟き始めた。
 
 「なあ、ザリュース…」
 「なんだ?」
 「俺は夢でも見ているのかな?」
 「奇遇だな。俺もそう思ってた」
 「私もよ」

 唖然として放心に近い心情で6人はモミが戻ってくるまでただ見ていた。



 『私が策士の・・・ヒューリックか、ヤン。もしくはゼロとでも呼んでくれ・・・』

 6人の中央に置かれた五角形の水晶より男の声が聞こえてくる。少しくぐもって聞こえる気がするが。
 このアイテムは遠方の人と通信するアイテムと聞いて信じられなかったが目の当たりにすると信じるほかなかった。

 「ではヒューリック殿、率直に聞こう。我々はお終いだろうか?」
 『否!!ありえない!!数年前の八ギルド連合1500名対42名に比べたらこの程度、苦境の内にも入らない』
 「ならば勝てるというのか!?」
 『肯定だ。大群相手に勝った戦もある。3000対約40000の第二次上田合戦やケルベロス会戦、新宿事変etc.etc…』
 「「「おお!!」」」

 歓声が上がった。私達は3倍近い敵にうろたえていたがヒューリックさんは10倍以上の敵と戦ったことがあるんだ。そんな人の知恵を借りれれば勝てる!!
 皆が同じ思いだとクルシュは確信した。それぞれの表情から希望が感じ取れるからだ。
 しかしこの場ではモミしか知らない。彼が語ったのは少数対多数で勝った前例があると言っただけで参加していないのだから。参加しているのは1500対42のみだ。それも指揮は執ってはいない。むしろ前線で戦っていたような…
 シャースーリュー、スモール・ファング族長、レイザー・テイル族長はヒューリックから策を聞いているようだ。
 
 「…話し聞かなくていいの?」
 「あん?聞かなくても俺は目の前の敵を叩くだけだからよ」
 「……戦闘狂…」
 「よせよ。褒めんなって」

 何故アレが褒め言葉になるのだろうか…
 同じようにザリュースも思っていたのだろう。目が合った瞬間二人で笑いあった。
 
 「ところでクルシュ…」
 「ん?なにかしら」
 「何時の間にイケメンの彼氏見つけたの?」
 「っ!?」
 「ねぇねぇ教えてよぉ」
 「お、教えない!」
 「どっちが告白したの?彼氏さん教えてよ」
 「それは…」
 「い、言わなくていいから///」
 「良いじゃねえか。聞かせろよ」
 
 心に余裕が出来たのか弄られる私を見て皆に笑顔が戻った。
 その後のヒューリックの指示により陣形や策を叩き込まれた。同時に堀や穴などの準備にもかかった。
 
 『さぁ、ゲームを始めようか』

 水晶から聞こえた声は誰の耳にも入ることはなかった…



約1400で約5000をどうやって倒せと!?
奇襲に夜襲、伏兵なんて生命探知できるアンデットに効かないし…指揮官は頑張ろうとするし…
どうしよう…


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第041話 「ぼっちの戦の前に…」

三月になりましたねー。
風「ビュー!ビュー!」
指「カタカタカタッ」

なにこれ?三月じゃなくない?12月から1月くらいの寒さなんですけど…
皆さん風邪をひかないように気をつけてくださいね。


 『……そうですか分かりました。では引き続きお願いしますね』
 「・・・・・・(コクリ)」
 『いや、だからメッセージなんですから喋りましょうよ』
 「・・・了解した」

 現在状況の報告を済ませたぼっちは軽く体内の空気を吐き出す。
 あの一件よりコキュートスの頑張りには目を見張る物があった。指摘したものを改善しようと必至に部下達に指示を出し、自らは陣形や戦術などを学習しようとぼっちより借りた戦国関係の書物を読みふけっていた。
 我が子の成長を見ているようで嬉しかった。
 しかし二つ問題があった。
 一つはあの一件の事を謝れてない事。
 もう一つは時刻だった。
 現在深夜0時。部下の者達は休ませコキュートス一人指揮所に篭って策を練っているのだ。
 ……そうだ。謝るついでに夜食でも作っていこう。
 そうと決まれば立ち上がり用意してもらっていた厨房用の天幕に移動しようと思うのだがソファに座っている自分の膝元を見る。

 「すー、すー」

 エントマが寝息を立てて眠っていた。紅茶を持ってきた彼女に何かしてあげようかなと思って膝枕を提案したところ、10分もしない間に眠ってしまったのだ。
 うーむと悩み起こさぬようにエントマをお姫様抱っこしてベットへと運ぶ。すでにベットには先客がいるが…
 同じく寝息を立てているマインの横にエントマを横たわらせ布団をかける。起きた様子はなしと確認して自分の天幕から出て行く。
 厨房用の天幕には調理器具一式が用意されていた。正確にはして貰ったのだが…
 服装を新しい物に変え、手を洗い厨房に立ったのは良いが何を作ろうか悩む。
 別にアイテムを所持しているからと言ってこんな時間に重いものを出すのもどうだろうか?なら軽いもの?サンドイッチとかおにぎり…うーむ…そうだ。うどんにしよう。
 置いてある食品用アイテムボックスよりうどん、にんじん、かまぼこ、長ネギ、椎茸、合鴨、小松菜、卵を取り出す。そこで出汁はどうするか悩んでインスタントではなく作る為、昆布に鰹節、醤油、酒、塩を取り出した。
 鍋で水と昆布を入れて出汁を取る間に海老の腸を取ったり、食材を切り始める。途中で鰹節を投入して再び作業に戻る。その時天幕が開いたのが分かった。
 
 「……ん…アルカード様?」
 「何をなさっているのですか?」

 そこに居たのは先ほどベットで寝ていたエントマとマインであった。気配は消していた筈なのに何故かマインは気付くんだよな。
 目を擦りながらマインはこちらを見つめてくる。
 やらないからな?これはコキュートスのだからな?
 『だめ!これはお母さんのだから』 
 ん?王女様の時以来じゃないか幻聴…しかし久しぶりに聞こえたと思えばトウモロコシを持った幼女か…何回見たっけなあの映画…
 
 「・・・コキュートスに差し入れ」

 そう告げると再び作業を続ける。が二人の視線が気になりため息を付く。出しの中に具材を入れて蓋をすると再び食材用アイテムボックスに近づく。
 茶碗にご飯をよそいで鮭の身を解した物に四葉を載せる。そこに暖めた液体をかける。この液体は魚の粗を煮て出汁を取った物だ。それを二杯作り二人の前に差し出した。

 「よ、よろしいんでしょうか!?」
 「・・・しー・・・」

 大声を上げて喜ぶエントマに人差し指を口に当て静かにするように伝える。これで皆が来たら大変な目に合うし。俺が!
 いつもは表情が読めないエントマが顔を赤らめてこちらを見つめてくる。そう言えば先ほどから指をエントマの唇に当てたままだった。ヤバイってかなにしてんだろう。ニヤニヤするなマイン!恥かしいんだから!!
 これ以上何かをやらかす前に移動しよう。
 
 「二人はこれで済まないが食べてくれ・・・」
 「//////はい」
 「いただきます♪」

 嬉しそうなマインに心此処に在らずのエントマはそれぞれお茶碗に手をつけた。
 鍋を持ち上げコキュートスが居るであろう天幕へ向かう。
 中に入ると案の定、本を読みふけっていたコキュートスが視界に入った。俺に気付き急に立ち上がる。

 「ボッチ様ドウカナサレマシタカ?」
 「・・・差し入れ」
 「私ニ…デスカ?アリガタキ幸セ」

 ありがたき幸せって何の効果もない料理だよ?そこまで喜ぶのか。
 コキュートスが机の上を片付けてそこに鍋を置く。

 「・・・夜も遅いから鍋焼きうどんにしてみた」

 夜食と言えばこれでしょやっぱり。聖司君のおじいさんが作ってたのおいしそうだったからなぁ…
 箸を上手く使い口元へと持って行き息を吹きかける。
 そこでふと思った。それって冷気?冷気だよね。あれ?俺温かい物をチョイスした意味なくね。

 「…美味シュウゴザイマス。体ノ中カラ温マリマスネ」

 …ん?てことはさっきのは湯気?索敵スキル発動!冷気や暑さ対策の解除を確認。……すみませんでした!!あ、そういえば謝りにきていたの忘れかけてた。

 「・・・すまなかった」
 「?ドウサレタノデスカ?」
 「・・・この前は言い過ぎた」
 「何ヲ仰イマスカ。アレハ私ガ悪カッタノデス。ボッチ様ニ非ハアリマセン」
 「・・・・・・そうか」
 
 そこまで強く言われたらそうかぐらいしか俺言えないんだけど…意志弱いな俺。
 ふふ、とコキュートスは笑い箸を置く。

 「トハ言ッテモ言ワレタ時ハ落チ込ンデシマイマシタガマイン殿ニ教エテモライマシタ」
 「なにをだ・・・」
 「『自分で考えろ。立って歩け。前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないか』。ボッチ様ニ昔教エラレタト言ッテマシタガ私モボッチ様ノ言葉ノヨウニシテミヨウト思イマス」
 「・・・・・・・・・」

 ファ!?その台詞は前にマインに言った台詞だよな。覚えてるよ。あの時もスラスラ出ちゃったんだよ!俺の言葉ではなくてエドワード・エルリックの言葉だからね!!てか黒歴史を掘り起こさないで~!
 恥かしいのが前面に出るのを抑えつつ天幕を後にする。

 「私やアインズさんがどうとかでなく・・・・・・自分の全力を出して後悔せぬように」
 「ハッ!!」

 後ろで頭を下げているであろうコキュートスへと振り返る事無く自分の天幕へ戻ると同時にベットに飛び込む。
 今日の事を思い出す。さっきの黒歴史を掘り起こされた事もだがいろいろありすぎた。
 昼ぐらいにモミからメッセージが届いたのだ。内容は外で友達が出来たらしいのだがちょっとした問題が起きたからちょっと助言してくれないかと言う物だった。
 問題と言うのは何でもモンスターを使った戦略シミュレーションゲームの事だった。いつもだったら五人の知り合いとやっていたらしいが今回はどっかの余所者が3.5倍もの駒を持って挑んできたらしい。
 別に断っても良かったんだけど燃えるじゃないか。敵対していたはずの知り合いたちが手を取り合い巨大な相手に挑む。ゲームとは言え燃える展開ではないか!!
 その為いろいろと協力させられた。外れガチャで出した通信用水晶を6つ渡したり、奇策やらどんな戦法を執ったほうがいいかの指南をしたりした。あと声色を変えてって言われたり偽名を使ってなど…いきなり偽名を使ってって急に言われても知っている指揮官の名前しか出てこなかったよ。で、ヒューリックになった訳だが…
 兎に角、疲れた。あとは明日で言いよね?
 ぼっちは深い眠りの中へと落ちていった。



 カルネ村
 以前アインズとぼっちが助けたこの村にはナザリックより一名が常駐している。
 プレアデスが一人、ルプスレギナ・ベータは夜空の元で一人暇そうにしていた。

 「暇っす。何か面白いことでもないすかね~」

 策に腰掛けて村を眺めるが彼女が求めるような面白いことなど起きる事などなく平穏そのものだった。
 ポケットの中で何かが反応した。
 首を傾げつつ光った何かを取り出すとそれは通信用に配られた巻物であった。第11階層が起動したおかげで物資には困っておらず、個人的な連絡を取る為にも持たせているのだ。
 巻物を開き内容を確認する。

 「誰からっすかね…っとエンちゃんすか。えーと…なっ!?」

 連絡用の巻物から送られてきた物は3つの画像とそれらの説明文であった。
 一枚目『凄く気持ちいいです~♪』ぼっちに膝枕されご満悦なエントマ。
 二枚目『ぼっち様の手作り。心から温まるよ』マインと共にぼっちが作った魚のあら出汁をかけたご飯を食べるエントマ。
 三枚目『お仕事がんばってね。じゃあお休み~♪』寝ているぼっちをマインと挟んで寝ようとするエントマ。
 送られてきた三枚を見たルプスレギナは肩をわなわなと揺らして口を開いた。

 「なんなんすかこれはー!!」

 静寂で覆われていたカルネ村に叫び声が響き渡った。
 その後、送られてきた画像をナザリックに居るプレアデス達と階層守護者達に送った事は言うまででもないだろう。



次回ナザリックVSリザードマン連合の戦い!!
……の前に特別編を入れようと思います。



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第042話 「ナザリックVSリザードマン連合軍 其の壱」

コキュートス側とリザードマン側の台詞や行動が入り混じってるから読みにくいかもしれません。


 足音が聞こえる。一人二人の足音ではなくもっと多くの足音である。
 百か、二百…そんなものではなかった。
 その足音は5000近くのアンデットの大群の物であった。
 ゾンビ2200、スケルトン2200、アンデット・ビースト300、スケルトン・アーチャー150、スケルトン・ライダー100の総数4950のナザリックから送られてきた軍勢をコキュートスは見送る。
 軍勢が目指す先はリザードマンが陣を敷く戦場へと隊列を組んで進んでいく。



 「始まるな…」
 「そうね…」

 ザリュースとクルシュは寄り添うように湿地の先を見つめる。これから起こる戦争とその結果について考えながら…

 「何黄昏てんだおめーらは」
 「…私達の戦いはこれからだ!」
 「『これからだ!』じゃねぇよ!!てめぇはなに逃げ支度してんだ!!」
 「…こんなか弱い少女に戦えと?」
 「俺を赤子のように捻った奴がか弱いわけあるかよ!」
 「ぷっ!くくく」
 「ふふ、ふふふふふ」

 二人のやり取りを見て先ほどまでの不安が掻き消えていった。それを安心したように見つめるモミとゼンベル。

 『戦いの前に笑い合えるとは中々余裕だな』

 そして水晶から発するヒューリック(精神安定系アイテム大量投入中ぼっち)の声が聞こえてくる。
 声が聞こえると同時にシャースーリューが合流した。

 「兄者、もう準備はいいのか?」
 「ああ。『レイザー・テイル』族長は重戦士隊と共に配置についているし、『スモール・ファング』族長は予定通りだ。あとは貴方だけだ」
 「…私?」
 「もう!もしもの時のことを頼んだでしょ」
 「……あぁ…逃がしているリザードマン達の護衛だっけ?」
 「そうよ。忘れてたのね」
 「…むぅ」
 「それは兄者の口癖だろう」
 「ん?そうだったか?」
 「そうだよ兄者」 
 「そうね」
 「だな」
 「むぅ…あっ!?」

 再び笑い声が皆を包む。これから自分達の命を懸けて戦うと言うのに心が軽く感じる。やれる。皆がそんな自信を持っている。友人を含むリザードマン達を眺めたモミは戦場となる湿地帯を離脱した。




 「で、どういう手筈になっているんだい?」
 
 指揮所となっている天幕にはコキュートス陣営以外にナザリックから数名が到着していた。
 意見役としてデミウルゴスにぼっちの護衛としてシズの二人である。この二人は当初来る予定ではなかったがコキュートスが自身で考えた結果、必要と判断してアインズに許可を貰ったのだ。
 アインズとしては当初の予定と違ったがエントマの報告やコキュートスの今回の行動で以前とは違う行動などを知り、成長していることを喜んでいた。ゆえに許可したのだ。
 ちなみにここにはマインは居るがぼっちは居ない。自分が居てはコキュートスが全力を出せないだろうと告げ自分の天幕で待機中である。
 指揮所中央の大テーブルには戦場のパノラマと敵・味方を表す駒を置いていた。

 「マズハコノ地点デリザードマン達ヲ三方カラ包囲スル」

 言われた通りに部下達が駒を配置しデミウルゴスに見せる。
 
 「ソコデコノ部隊デ攻撃ヲ仕掛ケル」
 「ふむ…そこで相手と同数で戦うのか。数が多いのであればそのまま包囲殲滅してしまってもいいと思うのだがね」
 「確カニソウナノダガ大軍勢ダト何カアッタ際ニ小回リモ効カナイ上、建テ直シニモ時間ガカカル。ソレニ私ハ指揮官トシテノ経験ガ少ナイ。ソンナ者ガ行キ成リ大群ヲ操ルノハ難シイト判断シタノダ。……ソレニ」
 「それに?」
 「ボッチ様カラ教ワッタ戦略トイウモノヲ使ッテミタイ。指揮官トシテ戦イタイノダ」
 「……その後はどうするんだい?」
 「臨機応変ニ対応シヨウト…」
 「ふ、はははは」

 急に笑い出したデミウルゴスに首を傾げつつ疑問を口にする。

 「スマナイ…何カオカシナ点ガアッタダロウカ?」
 「ははは。いや、すまないのは私の方だ。アインズ様が言われた通り成長したのだなと思って。少し前の君なら『剣は考えず振るう物』と言っていたね」
 「タシカニ」
 「コキュートス様、軍勢が到着したようです」
 「ウム」

 戦場に駒が配置されていく。戦が始まるのだ。



 三つに分けられたアンデットの軍勢を見ながらリザードマン達は息を呑む。しかしその顔には絶望や諦めなどの感情はなかった。先ほど祭司達が先祖達の御霊が我らと共にあるべく降りてきたと言いながら魔法を使ったりして戦意は上々である。
 敵に動きがあった。中央に居たアンデットだけがこちらと相対したのだ。残りの部隊はかなりの距離をとったまま動かなかった。
 アンデット・ビースト、スケルトン・アーチャー、スケルトン・ライダーの全兵とゾンビ&スケルトン500ずつの1550のアンデット軍団である。
 
 「何だあれは?こちらを舐めているのかそれとも…」
 『ふむ…疲弊させるのが目的だろうか?まぁ無策に突撃してこない辺りは優秀なんだろうな』
 「では予定通りに」
 『ああ、頼むよ』

 シャースーリュー本陣が合図を送るとこちらとあちらの中間付近に出来ていた穴に隠れていたリザードマン達が合流してきた。
 
 『本陣を中央に鶴翼の陣を』
 「鶴翼の陣に展開させろ!!」

 指示通りにリザードマン達が移動を開始した。



 指揮を出したコキュートスが最初に驚いたのは中央付近の穴から本隊に帰っていくリザードマン達であった。

 「コレハ伏兵ダト思ウガドウ見ル?」
 「そうだね。しかし生命感知できるアンデットに伏兵とは…」
 「あれ?動き出しましたよ」
 「ン?……!?コレハ鶴翼ノ陣!」
 「それは何かね?」
 「ボッチ様カラ教ワッタ陣形ノ一ツダ」
 「…だとしたら敵はぼっち様と同じ戦法を執ると?」
 「カモ知レナイ…コチラノ陣形ハパターン『W』ヲ」

 部隊は6つに分けられ本体の斜め左右に第一、第二に。その第一、第二の斜めに第三、第四、第五が配置されている。上から見ればWの形になっているだろう。
 これから指揮を執るコキュートスはとある幻覚を見た。
 居るのだ。
 コキュートスに向かい合って座る席も者も居ない。だが、そこに居るのだ。何者か分からない何かが…
 多分これは幻術でも魔法でもない。コキュートス以外の誰にも見えないのであろう。 

 「サテ…ドウ動クカ」

 初手が大事なのは指揮も戦いも同じである故に思案するところなのだが少し考えていた手がある。

 「左翼ヲ伸バセ。中央ニ居ル第四ハ本体前カラ本体左翼ヘ移動セヨ」

 これにより敵の左翼側面もしくは背後に兵を進めることが出来るだろう。中央は手薄になるがこの状態で突っ込んでくれば左右両翼により挟み撃ちを受ける。



 アンデットに動きがあった。陣形を整えて敵左翼を伸ばしてきたのだ。その動きに反応した者が水晶を通して叫んできた。

 『おい!敵本陣が手薄になったぜ。攻め込むぞ!!』
 『袋叩きに合うのが関の山だよ。ザリュース隊は敵左翼の先を抑えて』
 『分かった!仕掛けなくていいんだな?』
 『まだ序盤だ。今は我慢して欲しい。特にゼンベルは』
 『ちっ、わーたよ』
 「ヒューリック殿…」
 『どうしましたシャースーリュー?』
 「私は前線に出なくていいのか?指揮は君が執るわけだから…」
 『先ほども言いましたが今は耐えるときです』
 
 勝つために。そう心の中で呟き自分を押し留め、自分の弟が向かった戦場を見つめる。



 敵はこちらの動きを見て左翼の先へと兵を進めこちらの進行を止めた。

 「牽制…カ。左翼ヲ戻セ」
 「しかしそれでは陣形が崩れるのでは?」
 「構ワナイ。誘イノ手ダ」

 伸ばしていた左翼を陣形を崩しつつ戻っていくのを見ると誘いの手と理解する。
 
 『全軍に通達。敵陣形が崩れたが誘いの類だ。乗るなよ』

 駒が動かされ敵右翼が進んでくる。乗ったか?と思った瞬間進軍が停止した。こちらの思考を読まれたのだろう。

 「乗ラヌカ。陣形ヲ立テ直ス」
 
 アンデット達が先ほどと変わりただ戻るだけではなく法則を持って移動を開始した。

 『陣形を立て直す気か?重戦士隊前進』

 「敵一部進軍してきます!アーチャーが居る部隊のほうへ!!」
 「アーチャー隊ハ構エサセロ」

 『重戦士隊進軍を停止せよ』

 「敵、進軍を中止!射程圏外で止まりました」 



 ヒューリックとコキュートスの指揮の執り合いで動かされるリザードマン達の大多数がじれったくなってきている。が、状況の理解できる者はいつまでも続くと思われた式指揮の執り合いに決着が付くのが分かった。

 『…よし。全軍攻撃を開始せよ。ゼンベル隊は敵の崩れた陣形突入!ザリュース隊は援護に回って!重戦士隊はそのまま前進。敵弓兵隊の攻撃を引き付けつつ殲滅せよ!』
 「聞いたか皆!攻撃開始だ!!」

 待ってましたと言わんばかりに声を張り上げリザードマン達が一斉に仕掛けたのである。



 コキュートスは焦っていた。まさかここまでなるとは思わなかったからである。されど思考を停止させる事などせず戦場を見極める。
 
 「コキュートス!!」
 「分カッテイル。通達セヨ。後退シツツ応戦セヨ!!」
 「第一陣後退を開始します」

 駒が動かされていくが思ったより進みが遅く敵が食い込んでくる。すでに陣形その物が崩れている。

 「このままでは中央を破られます!!」
 「何とか右翼は保てているが左翼が壊滅的とは…アーチャーの隊を援護に向かわせては?」
 「現在アーチャー隊は敵部隊と交戦中!固い鎧を着こなしている分、矢が通りません」
 「コノ乱戦デハライダーノ機動力ガ殺サレルカ。ライダーヲ全力後退サセロ。ビーストハ敵陣形ヲ乱セルダケ乱セ」
 「第一陣を見捨てられるので?」
 「ウム…現時点デ第一陣ヲ放棄。ビーストトゾンビハ時間稼ギニ専念シテ残存スケルトントライダーハ第二陣ニ合流セヨ」
 「敵もやりますね…ですが」
 「アア、コレカラガ本番ダ」

 

 「敵が後退して行く!?」
 『兄者違う!敵は確かに後退しているが残っている奴らも居る』
 「それは…」
 『時間稼ぎ…だろうな』

 第一回戦はこちらの勝利で終わりそうだか、今リザードマン達が戦ったのは敵の三分の一以下。これからは残りの全軍と戦うこととなるのだ。

 『出来るだけ減らしておきたかったんだが…』
 「敵の第二陣か…予定が狂ったな」
 『戦争で予定通りに動くことの方が少ない。これで良いと思うよ』
 「むぅ…しかし」
 『それより深追いはするなと全軍に伝えて。特にゼンベルに』
 
 短く返事を返すと全軍に指示を通達する。
 ヒューリック…ぼっちはさっきはああ言ったがゲームである(思っている)戦争でもこうも上手くいかないものなのかと思う。同時に決まった結末ではなく分からない結末なのだから良いのだと思った。

 『このゲームって・・・面白!!』



ぼっちの結果
コキュートス…陣形など多少の知識アップと間違っても進み続ける心を得た。
連合軍…軍師として指示を出す。

内容が軽くなってしまった感があるのですが…どうなんでしょう?


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第043話 「ナザリックVSリザードマン連合軍 其の弐」

さて大戦も中盤です。
戦闘描写は特に苦手と思っているチェリオですがそれらを書くよりコキュートスにヘルシングの台詞を書きそうになるのを堪えるほうが大変でした…


 もう何分経っただろうか?ヒューリック殿が指揮を執ってそれほど経っていない筈なのだが何時間も経ってしまった様な感覚が支配する。
 同数での指揮でこちらは勝つことが出来た。こちらは敵の動きを封じた上で有利な布陣を構えられた。対して敵は左翼を掻き乱されて陣形も何も無くなってしまっていた。さすがとしか表現しようがなかった。

 『…よし。全軍攻撃を開始せよ。ゼンベル隊は敵の崩れた陣形突入!ザリュース隊は援護に回って!重戦士隊はそのまま前進。敵弓兵隊の攻撃を引き付けつつ殲滅せよ!』
 『聞いたか皆!攻撃開始だ!!』

 待ちに待った攻撃命令である。雄叫びを上げつつ全速力で突っ込んでいく。

 「シャアアァァァァ!!」

 先陣を切ったのはゼンベルであった。溜まりに溜まった力を解放したのだろう。一撃でスケルトン数体が吹き飛んでいた。
 負けてはいられぬとフロスト・ペインで切り裂きつつ前へと進んでいく。
 視線が合わさり口元がにやける。行ける!

 「おりゃああ!!さてこのまま本陣まで行って見るか?」
 「それも!一手だが!」

 確かに現状敵は何とか陣形を立て直そうと後退し始めた。が、歩みが遅いのである。これはコキュートスのミスであった。ぼっちに湿地帯ではゾンビとスケルトンの歩む速度が極端に変わることからスケルトンにゾンビの速度に合わせるように指示してあったのである。これにより種族別で速度が変わる事無く乱れが少なくなったのと同時にスケルトンの速度を殺してしまったのである。

 『行けザリュース!敵第一陣を突破せよとさ』
 「分かった。聞こえたか!?」
 「ああ、聞こえたぜ!行くぜ、突撃!!」

 ゼンベルを先頭に乱れた敵の隊列に遮二無二突っ込んで行く。数は同数だが連携も取れていないゾンビなどただの案山子でしかなかった。
 それに敵弓兵は完全に狩って行っていた。弓兵に気付いたヒューリックの指示で重戦士達が鎧で矢を受けつつ前進して蹴散らしているのだ。おかげでこちらは矢などの飛び道具に恐れずに済む。
 身体の赴くままフロスト・ペインを振り回し敵をなぎ払っていく。前衛を突破して本陣へと近づく。その時、獣の声を耳にした。

 「ッ!?皆、気をつけろ!何かが来るぞ!!」
 「何かって…なんだありゃ?スケルトン?」
 「違う…スケルトンビーストだ!!」

 狼や熊などありとあらゆる獣の骨格がこちらに向かって走ってきていた。
 一体のリザードマンが恐れて膠着したのを大型の狼のスケルトンが何もせず通過する。まるで別の目的があるように…
 一瞬頭の中に嫌な映像が流れた。

 「不味い!!」

 感情を口から吐き出すと同時に横から切り伏せる。一撃で頭部を失ったスケルトン・ビーストはそのまま地に伏した。

 「不味いって何がだ?」 
 「ビーストの目的は俺達の相手ではなく後方撹乱だ!後ろが乱れると…」
 「へっ!俺達が孤立するってか!!」
 「その通りだ。ビーストを一匹も通すな!!」

 通り抜けようとするビーストに攻撃しつつ思考を巡らす。
 ビーストを投入して来たと言う事は攻勢に出たと言う事か?いや、違う。攻勢に出るのなら陣形を立て直してからだろう。それと先ほどからスケルトンやスケルトン・ライダーの姿が消えている。
 もっと思考しようとするが嫌な映像が頭から離れない。
 突破したスケルトン・ビーストに襲われるクルシュ…
 現在クルシュは本陣近くの待機する祭司隊の隊長を務めてる。軽症者など治療すれば復帰できる者の治療に当たっているのだ。ゆえに防衛隊は少数でありそこを襲われたらひとたまりもない。

 『敵が後退して行く!?』
 「兄者違う!敵は確かに後退しているが残っている奴らも居る」
 『それは…』
 『時間稼ぎ…だろうな』
 『出来るだけ減らしておきたかったんだが…』
 『敵の第二陣か…予定が狂ったな』
 『戦争で予定通りに動くことの方が少ない。これで良いと思うよ』
 『むぅ…しかし』
 『それより深追いはするなと全軍に伝えて。特にゼンベルに』
 
 水晶から聞こえてきた兄者の言葉を否定しつつ辺りを見渡す。ヒューリック殿が言ったとおり残っているゾンビやビーストは時間稼ぎをするつもりなのだろう。こちらを倒すのではなく倒されないように動いている。
 それでも少しでも減らす為に振り続ける。



 第一陣が敗北して行くのを眺めていたコキュートスは息を吐き出した。
 周りではデミウルゴスが興味深く、マインが楽しそうに次の手を期待していた。
 
 「第二陣前進セヨ。マーチ!!」

 指示されると残りの全軍が隊列を組み配置に付く。そして一歩ずつ確実に進んで行った。
 まるで軍事パレードのように行進するアンデット達は真っ直ぐリザードマン達へと向かって行く。
 


 隊列を組み前進してくるアンデットの群れに恐怖を感じる。思い描いていた数よりも多く強大に感じてしまう。今斬りかかってもすぐに飲み込まれてしまうだろう。

 『全軍後退せよ。陣形を無視しても構わないから本拠点まで後退せよ。重戦士隊と祭司隊は急ぎ帰還されたし。繰り返す。全軍後退……』
 「撤退かよ!?チッ」
 「なら一人突っ込むか?」
 「…撤退するぞ!」

 そう言うと全速力で駆けて行った。さすがに無謀だと分かるだろう。ザリュースも拠点に向けて撤退する。



 アンデットの軍団は一定のスピードを維持したままリザードマン達を追い、拠点へと進んでいた。
 拠点の周りには泥で覆った壁があり、その前には2メートルもの溝が掘られている。
 ここに至ってあの穴の意味を知った。
 伏兵を潜ませていたあの穴である。あの時は中からリザードマンが出てきたから伏兵が身を隠す為の物と判断したがそれはフェイクだった。
 ゾンビとは生者が死に腐敗しつつ生者を求め動き続ける死者である。腐敗している肉体は所々腐り、死後硬直も起こっておりそれほど関節部を動かすことは出来ないのだ。だから穴に引っ掛かり転んでしまうと立つことは出来ないのだ。その上を多数のアンデットが踏みつけていき全軍が通り過ぎると動く死者が動かない死者なってしまったのだ。それで数百体も減ってしまったのだ。同じ手には乗らない。正面入り口前で全軍が待機して先頭のアンデットが門を壊すのを待つ。
 壁にはいろいろ施されているが門は木で作られた門が設置していただけである為、あっさりと突破することが出来た。昨日までリザードマン達がせっせと働いていた拠点へと大量のアンデットが雪崩れ込んで行った。

 「コレデ終ワリダナ」

 コキュートスは勝利を確信して背もたれへ全身を託して息をついた。



 シャースーリューは壁の上からアンデット達を一人眺めていた。
 この拠点はクルシュの案で一応で考えられていた籠城用に防御力を高めていたのだがそれを相手を封じ込める囲いとしてあの男は使用したのだ。
 ここに入って行ったザリュース達はすでに裏口から抜け見えないように待機していた。
 布を巻いた木の棒に火をつけながら呟く。

 「酒を蒸留することで火の水を作る…俺達では思いも付かないことだったな」

 酒を無限に出す酒の大壷とヒューリック殿が居ればこその作戦だなと思いながら火のついた棒をアンデットで充満した拠点内へと投げ込み壁から滑り降りるように外へと出た。
 火のついた棒は重力に従い、度数90%以上のアルコールをそこらかしこにかけられた拠点内へと落ちていった。しかも所々にアルコールを詰めたタルが配置されていた。



 勝ち誇っていた皆の前で信じられない光景を目の当たりにした。
 敵拠点内が突如炎上して突入した三分の二近くものアンデットが火達磨になったのである。アンデットは火に弱い為に次々と火でやられてしまう。
  残存2000近くまで減ったアンデット軍団に拠点内に入って行ったはずのリザードマン達が現れ必要に攻勢に出てきたのだ。
 今までにない焦りで胸の中が掻き乱される。

 「コキュートス!このままでは不味いですよ。すぐに陣形を立て直さなくては!!」
 「ソウダ…ソウダナ」
 
 思考を巡らすゾンビを足止めにスケルトン達で陣形を整え攻勢に…しかし先ほど指揮で相手に負けてしまった自分が勝てるだろうか?いや、勝たねばならぬのだ!!不安を押しのけ口を開こうとしたが天幕に駆け込んできた部下を見て止まる。

 「大変です!火を!火を放たれています!!」
 「ナンダト!?」
 「あっ!?ぼっち様は!!」
 「っ!?万が一のことがあってはいけません。ぼっち様を…」
 「すでにぼっち様はシズと共にここを離れられました」
 「消火作業ヲ急ゲ」

 憎らしげに戦場の方を見やる。これも敵の指揮官の策なのだろうと理解したし、その考えは正解であった。作戦の中に拠点に火を放ち敵の半数近くを燃やす作戦があり、同時に敵指揮所付近に火矢を放つ予定になっていたのだ。その為に『スモール・ファング』族長は少数を引きつれ見張りに気付かれないギリギリまで近づき放ったのだ。数本放つと撤退していたが目的は指揮所近くでトラブルを起こし戦場より意識を離すことにあったため大成功と言えるだろう。
 こうなるなら水を扱える者を配置しておけばと後悔していた。
 そしてこの状況を打開すべく動いたのである。



 「暴れてんな…」
 「さっきまでずっと本陣で見てるだけだったからね」
 「あんな兄者は前の戦以来だな」

 ベンゼルにクルシュ、そして複数の頭を持つヒュドラのロロロに乗るザリュースは最前線でアンデットを屠っていくシャースーリューを見つめていた。いつもの優しさはなく、荒々しく敵を砕いていく。
 すでに作戦は大成功して敵の半数近くは屠れたと思う。残りは同数ぐらいだと思うが陣形は崩れ、奇襲部隊のおかげで指揮も来ていないのだろう。少しほっとしてしまう。戦場では油断は禁物なのだが気が緩んでしまったのだ。

 「これで答えを聞けるかな?」
 「~///」
 「白から赤に変色しやがったな。それが答え見てえなもんじゃねぇか」
 「口で言う事に意味があるんだ」
 「そう言うもんか…なら今言えばいいんじゃ…」
 「いえる訳ないでしょ!!まだ戦いの最中なのよ」

 軽口を叩いているがクルシュの言うとおりである。さっさと終わらせる為にロロロと共に前に進む。

 「危ないザリュース!!」
 「右だ!!」

 クルシュとゼンベルの叫びを聞き振り向くと身体中を高温で包まれ視界が真っ白になった……












 おまけ

 指揮所の天幕から離れた自分用の天幕内でぼっちはベットに寝転びながら指揮を執っていた。今しがた最後の策を実行させ指揮を終了させたところである。
 疲れた。
 こういう策を練るのはデミウルゴスかハイネにでも任せるものだと心の中で呟いた。
 にしても楽しかったのは良かったのだがやけに敵の軍隊がコキュートスのリストと同じ感じだったのが気にかかるが…
 少し真面目に悩んだぼっちだったがすぐにそんな考えを余所にやる。
 今日はコキュートスが活躍する日である。ならばと勝ち戦のあとに美味しい物をたくさん食べさせてやろうと用意もしているのだ。
 そろそろオーブンで焼いていた料理が終了する頃だろうとベットから立ち上がる。するとシズが入って来た。普段なら「失礼致します」とか言う筈なのにとか思いつつ顔を向ける。

 「ぼっち様。敵が火矢を放ってきたようです。念のためここから避難してもらおうかと…」
 「・・・火矢?」
 「…はい、火矢です」

 あれ?さっき話していた策と同じような…
 少し考えながら天幕から出る。確かに火矢が所々に刺さっている。まぁ、当たっても大した事ないけど…ねぇあ!?
 燃えていた。
 ぼっちが用意してもらった調理場の天幕が燃えていた。
 『俺のうなぎパイがああああああ!?』
 違う!!アップルパイがああああ!!コキュートス用のアップルパイがああああ!?焼きすぎ!焼きすぎですよ!!
 『ウルトラ上手に焼けました♪』
 だから焼けすぎだって!!真っ黒の黒ずみの出来上がりじゃねぇか!?ああああああああ…燃える。燃える。燃える…
 心にダメージを受けたぼっちは放心したままシズの誘導に続いていく。
 まさか自分の策で自分が被害をこうむるなんて思いもよらなかっただろうに…



ぼっち様登場&終了!!

●火矢の成果
・コキュートス陣営一時的混乱

・ぼっち専用料理用天幕炎上
・ぼっちが作ったアップルパイ炎上
・ぼっちに対する精神的ダメージ大


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第044話 「ナザリックVSリザードマン連合軍 其の参」

これでナザリックとリザードマン連合の大戦も終盤!
…やっと戦闘描写から開放される…


 多くのアンデットとリザードマンが横たわる湿地帯を一人歩む者が居た。
 イグヴァ=41
 ナザリック地下大墳墓を統べるアインズ・ウール・ゴウンに作られしアンデット。
 魔法を使えるスケルトン『エルダーリッチ』。
 レベル22にだがアインズのスキルにより実力はレベル30になる。
 彼は指揮官役として参加するだけで戦場に赴く命令はアインズからも受けていなかった。
 『幕引キヲ命ズル』
 半分が潰れた頭蓋の中でコキュートス様が命じられた言葉が再生される。
 杖を持つ手が力の入れすぎで震える。
 視界にヒュドラに跨って居る者、右腕が異様に肥大化している者、全身が白色の者。三体のリザードマンが映る。
 まだ有効射程外だと分かっていても杖を構えてしまう。
 例えコキュートス様の命令があろうとなかろうと出撃する気だった。その結果自害を命じられることになっても良いと考えたのだ。
 奴らは我が主でいらっしゃるアインズ様の唯一無二のご友人に対してあろう事か矢を放つと言う暴挙に出たのだ!!これを許してなる物か!!
 もう我慢の限界だった。射程外からヒュドラに跨るリザードマンに対してファイヤーボールを放つ。直撃して地面に横たわるが生死は不明だった。構わない。生きているのならまた撃ち込んでやるだけの事だ。
 


 突然の攻撃に足が止まる。
 一体のアンデットが現れザリュースが倒れたのだ。
 今すぐにでも駆け寄りたいがそれは出来ない相談だった。目の前に現れたボロボロの黒いローブを纏うスケルトンの前で一瞬でも隙を見せたら死ぬ。それが分かるのだ。
 

 「てめぇ!!」
 「やりやがったな!!」
 「馬鹿が!!前に出るんじゃねえ!!」
 
 ゼンベルの叫びが届く間もなく突撃して行くリザードマン二体が一撃で葬られていく。圧倒的な強さだった。
 こんな敵を二人で相手をしなければならないのだ。逃げたい。でも逃げるわけには行かない。勇気を振り絞って足に力を入れる。

 「おい、植物系モンスター」
 「その呼び方…なによ」
 「ザリュースの所まで行け」
 「あなた一人で勝てるの?」
 「馬鹿!勝てねえからあいつの力がいるんじゃねえか!」
 「あの一撃を受けて無事なわけ…」
 「けっ、あいつを舐めるなよ。当たる直前にフロスト・ペインで防いだのを俺は見たぜ」
 「!?」
 「俺が奴の相手をするから何とかあいつの目を覚まさせろ。良いな?」

 頭を縦に振るとクルシュはザリュースの元へと駆け出した。もちろんイクヴァがそんな事を許す気はなかった。火炎を球体にしたファイヤーボールをクルシュ目掛けて放つ。

 「《レジスタンス・マッシブ》!!」

 それを遮るように飛び出したゼンベルがスキルを発動させ立ち塞がる。魔法のダメージ軽減したのだが存外に喰らってしまう。

 「貴様!?」
 「俺の相手をしてもらおうか!」
 「フン!イクヴァ=41。貴様らに死を運んできた者の名だ!!」
 「『ドラゴン・タスク』族長のゼンベル・ググーだ」
 「援護するよ」
 「わたしも…ゆく」

 そこに現れたのは『スモール・ファング』族長と『レイザー・テイル』族長であった。周りには居る筈の部下は居なかったが…
 
 「雑魚が何匹群れようとも!!」
 「させない」
 「させるかよ!!」

 杖を構えるイクヴァに二人が突っ込んでいく。これを援護しようと杖に矢を当てて射線をずらす。
 思うように攻撃できず忌々しそうな表情するイクヴァに二人が接近していく。
 獲物が触れるか触れないかの直前で止まった。
 一人に対して片手で受け止めたのだ。

 「なんていう…」
 「馬鹿力だよ…」
 「舐めるなあああああああ!!」
 
 二人をそのまま持ち上げ地面に叩きつける。すぐに杖を拾い上げ振り向きつつ構える。撃つ直前にまた矢によって方向を逸らされるが近くに着弾した為、『スモール・ファング』族長が吹き飛ばされる。
 圧倒的過ぎる力の前に死を覚悟した。



 ザリュースは暗闇の中を漂っていた。
 身体に力が入らない。
 と言うか入れたくなかった。何もかもがどうでもいいと思えてしまうのだ。
 昔の記憶が映像として流れていく。

 子供の頃、兄者とよく遊んだあの場所…

 まだ小さかったロロロと初めての出会い…

 何度も鍛え合ったあの日々…

 あの悲惨さを極めたリザードマン同士の戦争…

 前の持ち主と戦い四秘法の一つを手に入れた時…

 旅人になると告げた時に止めたかっただろうに俺のことを想い背を押してくれた兄者…

 いろいろな所を見て知った知識…

 兄者と姉者の結婚式はすばらしかったな…

 初めて俺が心の底から惚れる事が出来たクルシュ…

 戦い、認め、酒を飲み交わしたゼンベル…

 リザードマン全体を守ろうと集まった五部族族長…

 いろんな事が通り過ぎては消えて行く。
 ここで理解した。
 俺は死んでしまったのだな…
 大丈夫だ。俺が死んでもゼンベルやクルシュ、そしてあの兄者が居るんだ。これからも上手くリザードマン達をまとめていけるさ。
 ああ、大丈夫だ。
 安心して……………………………
 ………………………………
 ……………………………
 ……………………………

 『ザリュース!起きてよザリュース!!』

 誰だ?…俺を呼ぶのは…この声は……クルシュだ。
 声が震えている。泣いているのか?
 
 『お願いだから起きてよぉ…私まだ答えてないんだよ…』

 そうだった。あの答えを聞いてなかったな…
 何か他にも声が聞こえる…ゼンベルや他の族長達の声だ。何かと戦っているのか?

 『こんの化けもんが!!』
 『もう矢が無くなる!?誰か矢を持って来てくれ!!』
 『そろそろげんかい』
 『諦めてんじゃねえ!!』 
 『諦めろ。貴様らでは私に敵う事は無い!!』
 
 劣勢なのか?あのゼンベルが!
 何が『大丈夫』だ!何が『安心して』だ!!
 動け!動いてくれ!!俺はまだ死ぬわけには行かないんだ!!
 
 

 クルシュは泣き続けていた。
 何度治療魔法をかけようと彼の意識は戻ることは無かった。
 ゼンベル達が何とか猛攻をかけて足止めしているが長くは続かないだろう。

 「ザリュース!起きてよザリュース!!」

 泣きながら叫ぶ。もはや動くことは無いのに。無い筈なのに心が期待する。彼が再び起き上がりこの世に存在することを。
 
 「お願いだから起きてよぉ…私まだ答えてないんだよ…」

 この色から煙たがられていた私に告白をしてきた唯一の雄。心から惹かれてこの人ならと答えも決めたのに。言うだけ言って去って行くなんてずるいよ…
 
 ピクンッ
 気のせいか、視界の端で彼の指が動いたように見えた。
 ピクン!
 いや、確実に動いた。
 名を呼びながら彼を揺すった。
 
 「カハッ!!」
 
 短く息を吐き出し意識を覚醒させる。大きく空気を吸い込み身体に新鮮な空気を含ませる。
 暗闇から一気に視界が広がった。
 最初に映ったのはクルシュだった。

 「ザリュース…」
 「聞こえたよ。クルシュの声が…あとで答えを聞かせてもらうからな?」
 「…馬鹿ぁ…」

 泣いてるクルシュの頬に手を伸ばし涙を拭く。
 身体はまだ動く。立ち上がるとロロロが横に並ぶ。ゼンベルと共に立ち向かっていたのだろう。深い傷や火傷にまみれていた。もうこれ以上は無理だろう。

 「ありがとう。ゆっくり休めロロロ」

 ロロロは軽く頷きゆっくりと地面に伏した。
 それと同時にイクヴァに向かって駆け出していく。

 「おせぇぞ!!」
 「すまない遅れた」
 「!?やはり生きていたか!しかし!!」
 「させない!」

 身体中火傷を覆っている『スモール・ファング』族長が杖を矢で弾き始める。

 「あと四本以内に辿り着け!!」
 「助かる!!」
 「この虫けら共があああああ!!」

 射線を矢で弾いているものの、ファイヤーボールは接近するザリュース付近に着弾して爆煙を上げる。その煙を熱気ごとフロスト・ペインで切り裂きつつ進む。
 
 「化け物か貴様は!!」

 アンデットのイクヴァが言うのはおかしいと思うかも知れないが思うだけの理由があった。有効射程外と言ってもこの世界では高威力で当たれば即死、もしくは重体だろう。そんな状態のリザードマンが全力疾走で駆けて来るのだ。回復魔法をかけたとしても直すことは不可能である。先ほどからファイヤーボールの爆煙と熱気を切り裂きつつ走っているが無傷のはずが無い。高威力の熱気が奴を蝕んでいるはずなのだ。なのに何故奴はそんなに動けるのだ?
 化け物…
 イクヴァがそう思うには十分だった。
 その化け物を撃ち抜こうと狙うが先ほどから雑魚の一人が矢で杖を弾く為に狙いが定まらない。それに白い鎧を纏った雑魚と右腕が肥大化した雑魚がちまちまと邪魔をしてくる。
 
 「ぐうううう…どけええええ!!」

 杖を投げ出し二人を両腕で弾き飛ばす。その瞬間を逃さぬようにザリュースは距離を詰める。狙うは一点のみ。
 拾う事もせずに殴りかかってくる攻撃を骨が軋むのを感じつつ受け流す。 

 「そこだあああ!!」
 「ぬう!?」

 狙った一点は目である。
 ゼンベルの攻撃を受け止めていたあの骨の強度はかなりの物だろう。攻撃して倒すには時間がかかるうえ、人数が居るだろう。それに今のザリュースでは長期の戦いは無理であった。すべにぼろぼろを超えて死に体である身体を無理やり動かしているのだ。少しでも気を許してしまうと倒れてしまいそうだ。
 目に深くフロスト・ペインを突き刺す。呻き声を上げつつナイフを握ってきて抜こうとするイクヴァの力が込められていくがその前に決着をつける。

 「《アイシー・バースト》!!」

 フロスト・ペインを中心に冷気が発生する。内部から喰らったイクヴァはもちろんザリュースも大きなダメージを負う。
 さすがにこの一撃で倒れてはくれなかった。歯を食い縛りながら再び力を込める。

 「《アイシー・バースト》!!」
 「ごああああああああ!!」

 悲鳴と共に再び体内を凍らされるイクヴァは右手をザリュース頭部へ伸ばす。

 「《アイシー・バーストオオオオオオオオオオオ》!!」

 最後の力を振り絞り一日に使用できる最後の《アイシー・バースト》放つ。
 手は止まる事無く伸びてくる。
 まだ足りなかったか…
 伸びていた腕が途中で粉となり散っていく。
 イクヴァの身体が限界を超えたのだ。腕が散ると身体の至るところで粉になり散り始めた。
 
 「申し訳ありません…アインズ…様ぁ…」

 最後にその一言を残しイクヴァは消滅した。ほっとしたザリュースがその場に伏してクルシュやゼンベルが心配そうに駆け寄る。
 その光景を眺めていたコキュートスは「見事」と呟き陣を引き払わせ始めた。
 ぼっちも同様に眺めていた。コキュートスのように天幕内ではなくシズと共に移動している最中にスキルで見たのだ。
 もうこの戦でモミに頼まれたことは理解した。ただそれを怒る気などしなかった。
 『友達を助ける為に…』
 友達か…ギルドメンバーを戦友と思った事はあっても言った事は無かったな…
 そんな事を思いながらアインズにメッセージを入れる。
 あー…またコキュートスに謝らないと…

 こうしてナザリックとリザードマン連合の大戦は一時的に幕を下ろしたのだ。



ロロロの出番がすくな!?って自分で思った…
次回はナザリックに帰ったモミのお話です…


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第045話 「一時帰宅」

やっとナザリックに帰ってこれた。
さてコキュートスの敗北の結果どうなるか?リザードマン達への対応は?モミの行動の理由などいろいろ書きます。


 現在ナザリック大墳墓にはセバス、ソリュシャン、ザーバを除く者が集結していた。
 リザードマン討伐のために離れていたコキュートスもデミウルゴス、ぼっちも帰還したのだ。
 今回はこれからの事と私の事をどうするかの話がメインとなるだろうとモミは皆が集まっているであろう玉座の間に向かっている。
 玉座の間に入るとすでに階層守護者全員が揃っていた。アインズとぼっちはまだ来てないのだろう。いや、ぼっち様は居るのかも知れないが分からないというのが正解だろう。
 コキュートスの周りにデミウルゴスとアウラが集まっていた。 

 「はい。コキュートス」
 「ン?コレハ…」
 「コーヒーだよ」
 「前にぼっち様が仰っていたのを思い出したんだ。『勝利には美酒が相応しいが敗北にはコーヒーのほろ苦さが似合う』とね」 
 「ソウナノカ…」
 「私が淹れようかと思ったのだが私よりアウラの方が上手だからね。ぼっち様直伝だからね」

 うーわー(棒)デミデミ羨ましさ満開で言ったね。と言うかあの人は何を言ってるんだろうか。
 コーヒーを味わいながら飲んでいるコキュートスの辺りにシャルティアとマーレも集まった。

 「むー…もういいでしょ!?って言うかデミウルゴスは何でそんなにぼっち様とお話してる訳?」
 「フム…確カニボッチ様トヨク話ヲシテイルト言ウ事ヲ耳ニスルナ」
 「羨ましいでありんす!ずるいでありんす!!」
 「ぼ、僕もぼっち様と二人っきりでお話したいです」
 「確かにぼっち様と二人っきりでお話しすることはありますが貴方方のように添い寝をした事はありませんよ」
 「添い寝はあたし達だけの特権だからね。ねー」
 「そうでありんすね」
 「何故コウイウ時ダケ仲ガ良イノダ?」
 「あはは…」
 「添い寝と言えば…マーレ!あんた毎晩ぼっち様と添い寝してるってシズから聞いたけどほんとなの!?」
 「ふぇ!?なんでそれを…じゃなかった」
 「毎日!?毎日でありんすか!!」
 「マーレ…君はぼっち様もお仕事があるというのに…」
 「ふぇぇぇ、ごめんなさい」

 いつも通りの会話をしている皆の元に私も混ざりたいのだがそう言う訳にもいかなかった。ここに来てからアルベドの刺す様な視線が向けられているからだ。多分私がリザードマンに協力したことはアルベド、もしくはデミウルゴスにも知れ渡っているのだろう。
 仲良さげに会話していた皆が急に姿勢を正して整列する。この気配はアインズ様が来たのであろう。思ったとおりにアインズ様と気配を消したままのぼっちが並んで玉座付近に現れた。肩には天使の輪と枯れたような翼を持つ全長1メートルほどの胚子のような姿の第八階層階層守護者のヴィクティムが乗っていた。
 アインズが玉座に深く腰掛けるとぼっちは近くの柱を背もたれに腕を組んで待機した。

 「よく集まってくれたな。早速だが今回のコキュートスの件について話そう」
 「お待ちくださいアインズ様」

 これから話し出そうとしたアインズに待ったをかけたのはアルベドだった。

 「コキュートスの話をする前にアインズ様の意向に背いた愚か者の処罰の方が先だと思います」
 「?どういうことでありんすか?」
 「貴方は分かっているわよね…モミ?」
 
 その言葉と共に鋭さを増し殺気のこもった視線へと変貌していった。
 
 「貴方はリザードマン達に手を貸し、あろう事かぼっち様を利用してコキュートスの指揮する軍勢を壊滅させた。これは明らかに至高なる御方を陥れる事と同時に謀反である事に他なりません」

 罪状が述べられると同時に皆の視線が鋭くなり集まってくる。ただぼっちさんとアインズ様、コキュートスはそんなことはしなかった。

 「そのことだが私は咎めるつもりはない」
 「!?今なんと仰られましたかアインズ様!」
 「咎めるつもりはないと言ったのだ」
 「彼女の謀反をお許しになるというのですか!?」
 「落ち着け!…皆は彼女がどのような者なのかを覚えているな?」

 私がどのような者というのは『ナザリックの理を第一に考える守護者』と言う設定の事だろうが何故今ここでそれを出すし?

 「今回、モミの策によってコキュートスは敗北したがただの敗北ではなく得る物の大きい敗北だったのではないか?」
 「ハイ。アインズ様ノ仰ラレルトオリ得ル物ノ大キナ敗北デシタ」
 「この得る物を得たコキュートスはもっと先へ進めるだろう。彼女はそれを得させる為に動いたのだ」

 ぽかーん…え、そなの?私ってそんなこと考えて行動してたんだ。ふーん…違うけどね。
 
 「しかし次は私かぼっちさんに一言言ってからにしてくれ。良いな?」
 「…了解しました」
 「では、コキュートスの件だが得た物を自分の糧とするならば私は罰する気はない。相手が相手だしな」
 「ハ!」
 「・・・・・・(そっぽを向く)」
 「それでだ。戦ったリザードマンを殲滅する為に再びコキュートスに軍勢を任せようと思うのだが異議があるものは居るか?」
 「!?アインズ様、リザードマン達ヲ皆殺シニスルノハ反対デス。ドウカ御慈悲ヲ」
 「・・・私も反対する」

 コキュートスを見つめていたアインズはまさか発言するとは思っても見なかったぼっちへと振り返る。そして何かに気がついたようにこちらを見て一度頷く。
 
 「モミはどう思う?」
 「………あのリザードマン達はこの世界の中では中々使える。その上、他の種族とも交流がほとんどないリザードマンはいろんなモデルケースとして扱いやすい。……試しに忠義心を持った部下に出来るか実験してみては良いかと思う…」
 「ふむ…そうか、いいだろう。ではモミが言った実験を…コキュートスに任せる。補佐としてデミウルゴスとモミで行なうこととしよう」

 決定が下ると解散する事になった。アインズとぼっちが去った後、コキュートスはデミウルゴスと共に、アウラにマーレにシャルティアはヴィクティムと何か話している。私と言うと鋭い視線のままのアルベドが迫ってきていた。

 「…何?リザードマン達の事?」
 「違うわ…確かにその事もあるけども何故貴方だけ聞かれたのかしら」
 「?…どゆこと」
 「何故貴方だけ意見を求められたのかってことよ」
 「ああ…『ナザリックの理を第一に考える守護者』だからじゃない?」
 「だとしても守護者統括である私に聞いて下さっても良いのに…」
 「そんな事は置いといて…」
 「置いといてって何よ!大事なことよ!!」
 「それよりアインズ様とのお子はまだなん?」
 「///!?ななな、何を言ってるのよ!?」
 「むふふふ♪バレンタインの時も協力してあげたんだから上手くしなさいよ。私もぼっちさんも応援してるんだから」
 「ぼ、ぼっち様も!!至高の御方からも応援されているなんて…」

 いつも通り妄想の世界にトリップしたアルベドを放置して私は第11階層に戻る。指輪を使うとすぐに家の前に出ることが出来た。目の前には愛しの我が家と笑顔の後ろに鬼のようなオーラを放っているステラが…

 「姉さん。話はコキュートスさんから聞きました。マスターを利用したらしいですね。詳しく話を聞きましょうか?」
 「いや…今日は遅いし…明日で」
 「駄目です。コキュートスさんは知らずとは言え、マスターと手合わせ出来た事は心底嬉しがっていましたが…」
 「…なら」
 「私は怒り心頭です」
 「………はい」

 ステラの説教はいつもより長めとなり心身ともにくたくたとなりベットへと倒れこむ。
 ここ数日のことを思い出す。
 歯を食い縛り唸り声を上げる。
 失敗した…

 『・・・友達の為だったのだろう?』
 『得る物を得たコキュートスはもっと先へ進めるだろう。彼女はそれを得させる為に動いたのだ』

 何が至高なる御方だ。まったく考えが明後日の方向だ。
 友達の為?そんな物ナザリックの為とならば斬り捨てなければならぬのにそれらを助けるメリットが見当たらない。……心的には別かもしれないが…
 コキュートスが敗北して何かを得る為?ならばもっと徹底的に行なう自信がある。それも第11階層の総力を持ってでも。
 そもそもコキュートスを敗北させようと言うのが間違っているのだ。私が敗北させようとしたのは私を創造したぼっちなのだから…

 ナザリック地下大墳墓の至高なる御方の一人に数えられるぼっちは立ち位置的に邪魔なのだ。
 支配者は一人で十分なのだ。二人も居ればそれは後々の問題以外何者でもない。害悪ともいえる。
 実際ナザリックを運営しているのはアインズだがぼっちはアインズの下でもなければ上でもない。同等だと思われている節もあるぐらいだ。
 知恵があり、執務をきちんとこなし、何かを斬り捨てられるアインズと気紛れで、自分勝手で、フラフラとするぼっち。どちらがナザリックを支配するかと言えばどう考えても前者のアインズである。が、ぼっちはアインズと違い親しみやすく多くの支持を得ているのも確かである。
 もしもアインズとぼっちが対立した際にぼっちには間違いなくシャルティアとアウラ、マーレが付くだろう。あの双子はぼっちに可愛がられている事が多いし、シャルティアはぼっちが暴走した件を自分のせいだと悔やみ続けている。同じ理由でプレアデスのシズを筆頭に半分はつくだろう。アインズにはアルベドに理を話せばデミウルゴスにコキュートス、そして私も付くだろう。
 それでは駄目なのだ。戦力が拮抗してしまえば対立し戦う際には両者が消耗してしまい勝者が勝者でありながら何も得ないばかりかマイナス面が大きくなってしまう。
 接近戦面の戦闘力最強で皆と親しみやすく、今回の件で軍略も行なえると知れたぼっちの株はまた上がったであろう。少しでも落として拮抗を減らせたらと思ったのだが…こうなれば最悪の事態が起こらないように目を光らせるだけだ。
 新たな目標を立てたモミは何か心の中で軽くなったのを感じ首を傾げる。



さてと次はリザードマン達の集落へ行くところですがその前に特別編を入れようと思います。


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第046話 「絶対者降臨:前編」

今日はホワイト・デー本番。ケーキは昨日作ったし、残った生クリームはどうしようかな?とりあえす冷凍して…そうだ!クラッカーとワインで食べようかな?ってそんな場合じゃなかった!!今ストックゼロで昨日ケーキ作りで書いてなかったんだ。と言う事で『ジェバンニ』じゃなく『チェリオが一晩でやってくれました』

感想で今回は重い話になるかもと書いたのですが…すいません。重い物をやる前にいつものをやりたくなってしまいました。


恐怖が服を着て歩いている…
 私、クルシュはそう思った。
 いつあのアンデットを使役していた者達の使いが来るかと見張りや戦士が見回りをしているなかを一人の男が悠々と歩いていた。
 純白で質素ながらも装飾が施された燕尾服のように裾が燕の尾のようなジャケットに取り付けられたフードを深く被り、黒いブーツの上から金で出来たサンダルが取り付けられていた。顔は白い面で隠され分からない。
 こんなに目立つ者が歩いているのに誰一人気付いていないようだった。いや、誰かが居ることには気付いているらしく辺りを見渡している者はいるがその対象として見られてない。気付いていないのだ。
 目が合った。
 優しげに微笑んだように感じると私の視界から彼は消えた。
 何が起こっているのか分からない。だけどこれだけは分かる。これからとんでもない事が起きる事だけは…



 ガルガンチュアを起動させて全階層守護者と移動する前にアインズは手順を確認する。

 「ではコキュートスとモミ…それとぼっちさんが圧倒的な実力差がある事を証明するのだな」
 「ハイ。スデニボッチ様ニハモミカラ話ガ伝ワッテオリマス」
 「その際にですがモミにはクルシュと戦ってもらうことになっております」
 「クルシュ?」

 アインズは聞きなれない名前に首を傾げ、デミウルゴスは言葉を続ける。

 「モミのリザードマンの友人です。彼女は所々で怪しい言動があるのでここでナザリックへの忠誠心を試すには良い機会と思いまして」
 「ほう。そのことはモミに伝えたのか?」
 「いいえ。彼女には伝えずその場の反応で判断していただこうかと」
 「そうか…。では、行くか」

 そう告げるとアルベド、アウラ、マーレ、シャルティア、デミウルゴス、コキュートス、ヴィクティムと共にゲートを潜る。ここで一つ疑問が浮かんだ。

 「そういえばモミはガルガンチュアと移動するのは知っているがぼっちさんは?」
 「なんでも現地に先に行くと言われ…」
 
 デミウルゴスの言葉を聞いたアインズは現地に行けば会えるだろうと思っていたのだが…

 「居ませんね。ぼっち様」

 ガルガンチュアを配置して階層守護者と共にリザードマン達に宣戦布告(?)を済ませて天幕の中で待機していたのだがまったくぼっちの気配は無かった。
 現在天幕にはモミとガルガンチュアを除く階層守護者が集まっている。ただぼっちの件で罰を欲した為にアインズの椅子になっている。
 
 「いったい何処へ行かれたのだろうか」
 「配下ノ者達ニ探サセタホウガ良イト思イマスガ」
 「でもさ、あのぼっち様だよ。見つけられるの?」

 確かにアウラの言うとおりであった。気配すら消すぼっちを探すのは困難であった。何か手は無いかと悩みつつアインズは隔視の鏡を弄りこれから攻めるリザードマンの集落を眺めていた。
 べつに何か面白いことは無く、暇つぶしのような感じだった。隣で待機しているアルベドを同じ気持ちだったのだろう。まともに見ているのは興味心身に見ているマーレぐらいなものだろう。
 デミウルゴスとコキュートス、アウラはぼっち捜索の手段が無いか模索しているが案は出てもすぐに潰えてを繰り返し隔視の鏡には目も向けていない。もちろんアインズの下で四つん這いになっているシャルティアは見えるはずもなかった。

 「あ!」

 声を上げたマーレに皆の視線が集まり、気付いたマーレが「え?え?」と慌しく辺りを振り返る。

 「どうしたのだマーレ?」
 「え、あ、あの…さっきぼっち様がそこに…」
 「なに?」
 
 一斉に隔視の鏡を見つめると確かにそこにぼっちは居た。何故かリザードマンの集落に居るのかはさておき、服装と装備がいつもと違うことが一目で分かった。
 繋がらないと思いつつもメッセージを飛ばす。
 


 ぼっちはリザードマンの集落の一番大きな建物の端で茶を啜っていた。
 アインズさんに完全武装を指示されて現地に来たのだがまったく来る気配が無い。せっかく対たっちさん用の装備まで引っ張り出してきたのに…
 現在ぼっちが所有している3つのワールドアイテムの中で一番のお気に入りである装備『クワイエット・アサシン(静寂な暗殺者)』を着ていた。燕尾服に深々と被れるフードを付けた純白の衣装で効果は二つ持つ。
 一つは服の中に武装を複数所持できるというものだ。それと相手の視野を一部変更できることだ。皆さんにも覚えが無いだろうか?探し物をしていて目の前にあるのに気付かずに素通りする事。灯台下暗しとでも言えば良いのか分からないがそれを行えるのだ。
 条件発動は所有者が指定した相手か所有者に敵対行動をとろうとした者に限られるがその効果は抜群である。ゲーム時は飛び道具や魔法のターゲティングが行なえずまず、遠隔操作や誘導系は無効となる。それがこの世界では視界に入っていても見えないのだ。
 まぁ、その結果部屋の隅で誰にも相手にされず茶を啜っているわけなのだが…
 装備はそれだけではなかった。かの有名なヘルメスが履いていたサンダルから作られたゴッズアイテム『黄金のサンダル』は魔法の使用せずに『フライ』や速度上昇などステータス向上系の履物を靴に取り付けた。そして上杉謙信と武田信玄との一騎討ちにて三回斬りかかって9箇所に傷を与えた話から作られたゴッズアイテム『毘沙門天の神剣』を腰に提げているのだ。
 
 にしても暇だ、クルシュって子やシャースーリューって指揮官に声をかけたいがどうかけようか?
 『始めましてヒューリックと名乗って指揮を執っときながらこれから君らと死闘(笑)をするぼっちです』なんて言えないしねぇ…てかそんな事を考えたら何でここでぼっちしなければならないんだろう。
 ふと斜め上から何かの視線を感じた。

 「貴様、見ているな!」

 はい!こんなこと言っても誰も気付かないから良いよねこの装備。正直寂しいです。モモンガさんまだかなぁ。
 そんな事を考えていたらメッセージをオフにしていたことを思い出してオンにする。すると丁度メッセージが届いた。

 「・・・私だ」
 『分かってますよぼっちさん。相手を指定してメッセージしてるんですから』

 ごめん。言いたかっただけなの。寂しがり屋のぼっちを攻めないで。寂しくなくなったらぼっちになりたがるけどね。

 『こちらの位置は分かりますね?合流してくれますか?』
 「・・・(コクン)」

 短いメッセージを切ると立ち上がりスキルで捜索する。案外あっさりと見つかった為にすぐさま移動を開始する。


 
 「さすがぼっち様!スキルも何も使わなくとも隔視の鏡に気付かれるとは…さすがでございます」

 到着したぼっちをまず出迎えたのはデミウルゴスの賛美の数々とアウラ・マーレの純粋な瞳攻撃だった。
 デミウルゴスの言っている事が正直何のことか分からなかったけどそんな事はどうでも良かった。天幕を潜った瞬間に思考を含めたすべてが停止した。
 急に固まったぼっちに対して不思議に思う守護者達を除き、アインズは理解した。
 さて、皆様。ご想像ください。
 目的地である天幕を潜って目に入ったのが自分を慕ってくれる少女を四つん這いにして尻に敷き、ぷるぷると震えていることに目も向けず堂々と座っている大柄の友人…
 貴方ならどうする?ぼっちの答えは…
 
 「今日の俺は紳士的だ。運が良かったな・・・一撃で決めてやる」

 スキルを使用しつつ刀へと手を伸ばす。

 「待って!!ちがっ!とりあえず待ってくださいぼっちさん!!」

 急な殺気にたじろぎながら守護者達が宥めようとしつつ、アインズが説明を開始する。

 ~アインズ必死の説明中~

 理解したぼっちはシャルティアと向き合っていた。シャルティアの上に座っていたアインズは普通の椅子に腰掛け安堵していた。
 話を聞いて納得した。罰を与えなかったのは俺が悪くシャルティアは悪くないよ。って事で言ったのだが彼女からすれば自分が悪いと思っているのだから罰を与えて欲しいところを与えないと言われたほうが罰を与えられるよりも酷だ。

 「・・・すまなかったな・・・辛かったな」
 「!?ぼっち様は何も悪くないでありんす。悪いのはぼっち様がお許しになったことをいつまでも掘り起こしていた自分でありんす」

 そういうが彼女に何かしなければならないだろう。でも罰って何を与えれば…そうだ!
 思いついた事を行動に移そうとシャルティアを手招きして一応用意されていたソファの端に座らせる。何が行なわれるのか不安げな表情を見つめながら膝の上に頭を乗せる。
 空気が凍った。
 どうだ!見た目良い大人に膝枕させられるって!俺なら嫌だ!これで罰に…

 「こ、こ、こ、これはご褒美でありんす」
 「ず、ずるいです!」

 え!?これがご褒美になんの?マジで!!えー…じゃあこれって俺が膝枕ねだっただけみたいじゃん。はっずかしい!!
 不安げな表情から満面の笑顔になったシャルティアは恐る恐る手を髪へと伸ばしてきた。

 「・・・じゃあ撫でるの禁止」
 「そんな!殺生でありんすぅ…」

 触りかけた手が残念そうにふるふると震えていた。それを見ていたアウラがニヤっと笑った。

 「ぼっち様。撫でても宜しいでしょうか?」
 「!!ぼ、僕も撫でたいです!!」
 「・・・・・・良いぞ」

 許可を出すと二人は恐る恐る触りだした。とても優しく初々しくだが中々気持ちが良かった。それに二人ともとても嬉しそうな笑顔で触っている物だから触られている側も気分が良いものだ。

 「うわー!うわー!本当にさらさらで気持ち良い」
 「本当です。ずーと触ってても飽きること無いです」
 「~!ずるい!ずるいでありんすよ!ぼっち様後生でありんす。触らせてくださいまし」
 「なぁに言ってんのよあんたは!ずるいって膝枕してるじゃないの!」
 「そ、そうですよ。それに前に一人だけ触ってたじゃないですか」
 「そうでありんすけど…そうでありんすけど!」

 こんなやり取りを遠めでアルベド、デミウルゴス、コキュートスが眺めていた。

 「まったく子供なんだから…」
 「確かに羨ましいですがああもせがむとは」
 「無礼ダト思ウカ?シカシボッチ様ガ許可ヲ出サレタ訳ダカラ」
 「私はアインズ様にしてもら…コホン。さすがにお止めしたほうが宜しいでしょうかアインズさま゛っ!?」

 振り向いたアルベドの先では椅子に深く腰掛けたアインズの膝上に腰掛けるモミの姿が…

 「うーん…肉がない分、柔らかさが足りないけど肋骨が背中に当たる感触がなんとも…」
 「モミさん…君は何をやっているのかね?」
 「アインズ様ノゴ許可ハ勿論伺ッタノダロウナ?」
 「もち!…聞いてないよ」
 「モミ!貴方、何て羨ましい…じゃなかった。いや、羨ましいけどそうじゃなくて!」
 「落ち着きたまえよアルベド」
 「コホン。兎に角降りなさい。そして私と交代しなさい!」
 
 この状況をこれから戦うリザードマン達が見たら何と思うのだろうか…そんな事を思いつつぼっちは少しだけこのまま寝ることとする。



 次回後編少し重い物になると思います。それ以降はそれほど重いものは無いと思います。


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第047話 「絶対者降臨:後編」

前回投稿した昼時。ランキングを見てみると19位のところに『骸骨と共にぼっちが行く』のタイトルが!?嬉しすぎて一瞬夢かと思うほどでした。
 皆様本当にありがとうございました。まだこれからも楽しんでいただけるよう頑張りたいと思います。


 リザードマンの集落ではこの前の勝利が嘘のように静かだった。それも通夜のように。
 それもそのはずだ。先ほどアンデットの軍団を仕向けてきたナザリックの者達と話して戦う事となったのだが、実力差が圧倒的過ぎる。湿地帯では足が汚れるとのことで湿地帯すべてを凍らせるなんて事を誰が出来るというんだ。
 そして相手は少数を出して来ると言う事はその少数はアンデットの大群以上の力を持っているのは皆が分かったであろう。戦えば死は決定的。そんな中でもっと俺は絶望的な言葉を聞いたのだ。なんとかそれだけはと懇願したのだが却下された。

 「ザリュース…そんなに思いつめないでよ」
 「いや、でもな…」

 横に座るクルシュだけでも戦うメンバーから外そうと思っていたのだが何故か指名されたのだ。戦うのはクルシュを入れて5人。後は俺、ザリュースにゼンベル、『スモール・ファング』と『レイザー・テイル』族長の五人である。兄のシャースーリューはもしもの時の為に残ってもらう事となったのだ。

 「何しんきくせぇ面してんだよお前ら」
 「分かっているだろ?」
 「分かるも何も俺らが勝ちゃ良いだけだろうが」
 「その言葉の意味分かってるの?」
 「たくっ、クソ真面目に聞きやがって…俺も分かってるよ。なら負ける為に戦うか?」
 「そんなわけ無いだろう!!」
 「なら勝つ為にただ戦うだけだ。だろ?」
 「…そうだな。確かに」
 
 ゼンベルの言う通りだ。勝てば何の問題も無いんだ。勝てさえすれば…



 指定された時刻に場所に来て見ると武人の様な二足歩行する虫型のモンスターに貴族のようなスーツに帽子を着て白い面で顔を隠した男そして…

 「…やっほぅ」

 いつも通りにへらにへら笑っているモミが立っていた。何故そこに立っている?俺達を騙していたのか?など多々の疑問が湧き上がるがあまりの驚きに口が開かなかった。クルシュだけは困ったように笑っていたけど…

 「…ん?あんまり驚かないね」
 「驚いているんだけど貴方ならおかしくないかなって思えちゃって…」
 「そ。んー…とりあえず何か言っておく事ある?…聞くだけなら聞くけど」
 「だったらリザードマンの未来を託してもいいかしら」
 「…それはコキュートスにパス。私に管理運営なんて無理だしね」
 「ソロソロ時間ダ」

 クルシュとモミの話を虫型モンスター…コキュートスと言うのだろう。彼が止めた。すると仮面の男が一歩前に出た。戦いを始める気なのだろう。腰に提げている刀に手をかけていた。

 「あいては3にん…ぜんいんせっきんせんかな?」
 「らしいな。だったら後衛2人に前衛3人でなんとかなるか?」
 「あいつには気をつけろよ!何たって俺を簡単に負かした奴なんだからよ!!」

 後ろにクルシュと『スモール・ファング』族長が移動して俺とゼンベル、『レイザー・テイル』族長が前に出る。相手には飛び道具などは見えない。剣を持った者が二名にモミはあの力から接近戦…武器を持ってないことからモンクだろう。ならば俺ら三人で何とか防ぎ、後衛の支援で何とかなるかもしれない。そんな期待が現れた。が、そんな事あるわけも無い事はすぐに思い知らされた。

 「《グラスプ・ハート》」

 手をクルシュに向けたモミが呟いた。すると薄っすらその手の上に鼓動している肉塊が現れて軽く握りつぶした。同時に後ろで何かが物音を立てた。振り向くとクルシュが倒れていた。一瞬何が起こったのか…いや、今だってあまり理解出来てない。分かることは一つだけだ。クルシュを友人と言っていたモミが顔色一つ変えないままクルシュを殺したのだ。
 なぜそう嗤っていられる?友人の演技をしていたのか?いいや、そんな感じではなかった。ならこれはどういう事だ。
 思考がパンクしそうなぐらい感情が溢れていると仮面の男が消え、横をそよ風が吹いた。コキュートスの隣に立っていた男はいつの間にか首から上が無い『スモール・ファング』族長の後ろを悠々と歩いていた。少し間が開き首から大量の鮮血が溢れ出る。男は一滴たりとも浴びることも無かった。
 勝てるわけが無い…
 絶望と虚無が押し寄せてくる。そんな中でも戦いは続く。コキュートスに殴りかかったゼンベルも攻撃を防ごうとした『レイザー・テイル』族長も放たれた一撃で死んでしまった。
 恐怖を叫び声で払いのけ、怒りをフロスト・ペインに乗せて斬りかかる。せめて一撃だけでもと思ったのだがその一撃は掠る事も無く視界が反転する。多分俺も同じように…
 そこでザリュースの意識も途絶えてしまったのだった。



 深い暗闇が視界を覆っていた。払いのけるように、そこから出るために重い瞼を開けるとそこには先ほどのザリュースが居た。

 「ここは…何処?」
 「目を覚ましたか!?良かった。中々起きないから心配したんだぞ」 

 よく周りを見渡したら木で作られたリザードマンの集落にある指揮所と名付けられた建物の中だった。何か心に不安感が残っていたが身体を支えてくれるザリュースより感じる体温で和らいでいった。だが…

 「目が覚めたようだね」

 聞きなれない。違う、聞き覚えのある声が耳に入り振り向くとそこには仮面の男が…慌てて体制を立て直そうとしたがザリュースが優しく押し留めた。

 「大丈夫だクルシュ。彼はもう私達の味方だ」
 「『もう』と言うより前より仲間だったのだがね。・・・この声に聞き覚えはないかい?」

 何を言っているのか理解できなかったが確かに聞き覚えはあった。何処か…最近聞いたような…あ!

 「ヒューリックさん?」
 「その通りだ。だがその名は偽名でね。本当の名前はぼっちと言う」
 「そうですか…」

 彼を私達に紹介したのはモミだ。
 モミは私たちを騙していたのだろうか?何がしたかったのだろうか?分からない。頭の中に多くの疑問と騙されたのかなと悲しみが溢れてくる。そんな私の前に膝をついて目線を合わせてくる。

 「一つ言っておきたいのだがモミはあの戦いのことは知らなかったと思う」
 「え?」
 「あの戦いはアインズさんがコキュートスに命じた物でモミは知らされてなかったはずだよ。それにモミは私に『友達を助ける為に…』と言ってきた結果、彼女は今回友人である君を殺すことで忠誠心を計られたりといろいろあったんだ。あと君たちを生き返らせるようにアインズ様に言ったのは彼女なんだ」
 「モミが…」
 「ああ。君にも君の考えや想いがあるのだから押し付けはしない。だから…その…彼女の友達で居てくれたら嬉しいんだけどな」

 そう言うと微笑み立ち上がる。用は済んだと呟きこの部屋から出て行く。
 私は何て馬鹿なんだろう。私達の為に助けを求め、罰を受け、そんな中でも私たちを救おうとしてくれた友人を一瞬でも疑ってしまうなんて…
 涙が流れた。それを優しくザリュースが包んでくれた。



 「おはようございますモミ様」
 「おっはー…」
 「おはようございますモミ様」
 「にゃんぱすー…」

 ナザリックが支援を開始したリザードマンの集落にモミは散歩(サボリ)がてら来ていた。
 これはどういう事だろう?
 道行く人から心の底から尊敬やありがたみを持って挨拶してくる。
 訳がわからない。私は前回なんの容赦も無く一番にクルシュを殺した。その残忍性や恐怖感を植えつけるには良い手だったと思う。自分に敵対心を向けさせることでその後、リザードマン達の支援するコキュートスを引き立てようなんて考えていたのだが何故にこんなに慕われているのだろうか?
 原因は分かっている。あの創造主であるぼっちさんだ。あろう事かクルシュに私が彼女たちを蘇えらせて欲しいとアインズ様に懇願したみたいな話をしたのだ。そんな記憶は無い。あるのは…
  
 「モミよ。これからあのリザードマン達に何をした方が良いと思う?」
 「…死んだ者達を甦らせるのが良いと思う」
 「先ほど殺した者達もか?」
 「ん…彼らはリザードマン達の長達。彼らを甦らせることでリザードマン達に恩を売り、蘇生自体がこの世界では出来る者が少ない事から戦闘力以上に力を見せ付けることが出来るでしょう」

 そんな会話はした。確かその場にぼっちさんも居たはずなのだがどうしてあんな事になったのか…それに…

 「よぉ。『慈悲多き女神様』」

 これだ。自分の立場を危うくしても友を救う為にと、友を生き返らせる為に至高の御方に懇願したり、友であり女性であるクルシュを惨たらしく晒さないように一瞬で外傷も無いようにせめてもの情けをかけたなどの話の結果、リザードマン達に『慈悲多き女神様』などと呼ばれる始末…
 
 「なんだよ。嬉しくねえのかよ?『慈悲多き女神様』」
 「……『ドラゴン・タスク』の支援打ち切り申請しようか?」
 「ちょっ!?いやいや待ってくれよ!」
 「ふふふ。私の友達を苛めようとするからよ」
 「おー…クルシュ…違った。植物系モンスターでしたか」
 「ちょっと!」

 ゼンベルとの会話の間に入ってきたのはどこかに出かけていたのだろう植物で身を隠したクルシュだった。もちろん隣にはザリュースが居る。
 皆、楽しそうに笑っている。あの戦いが嘘のようだ。そんな事を思いつつ私も笑う。
 
 「あ…これ食べりゅ?」

 持っていた箱を開き中にあったアイスクリームを器ごと取り出す。皆、不思議そうに見つめた後思い思いに口にした。

 「あっま!うっま!」
 「何これ!?口の中で溶けて行く!」
 「こんな食べ物があるのか…」

 街であるにはあるが高級品の枠に入っている物を食べたことは無いだろうと思って持って来たのだが正解だったようだ。

 「モミは料理も出来るのね」
 「…出来るけどコレ作ったの私じゃない…」
 「え?じゃあこれって…」
 「知らない。何か冷蔵庫に入ってたから持って来た…テヘっ♪」

 テヘっ♪じゃない!と皆につっこまれるモミは頬が緩み、心が温かくなる感覚を味わっていた。時々起こるこの現象の意味を理解できぬまま…







 ~ナザリック厨房~

 「・・・無い」

 厨房にて冷蔵庫を漁り始めて三十分が経過しようとしていたぼっちにコキュートスが近づく。

 「ドウナサレマシタカボッチ様?」
 「・・・コキュートスにこの前の詫びとしてアイスクリームを作ったのだが…」
 「!?ソンナ…私ハ気ニシテオリマセンノデ…」
 「だったら私が頂きたいぐらいなのだが」
 「あ、あたしも欲しいですぼっち様!」
 「デミウルゴス!?ソレニアウラマデ!駄目ダ。アイスハボッチ様ガ私ノ為ニ作ッテクダサッタモノナノダカラ」
 「・・・そのアイスが無いんだ」
 「?」
 「・・・・・・ここに入れたのだが・・・」
 
 皆も冷蔵庫を見渡すが中にはアイスらしきものは無かった。すると…

 「ぼ、僕…知ってます…」

 何か申し訳無さそうに言ったマーレはぷるぷると震えながら服の裾をぎゅっと握り締めていた。

 「まさか…マーレ!勝手にぼっち様のアイスを食べたって言うんじゃないでしょうね!」
 「ごめんなさい」
 「君は何を…至高の御方の物を勝手に!!」
 「アイス…ボッチ様ノアイスガァ…」
 「・・・そこまで怒ることはない」
 「本当にごめんなさい。僕知らなくて…こんなにあるから一つ位食べても良いよなんて言われて…グズッ」
 「ん?今『言われて』って言わなかった?」
 「…うん。モミさんが渡してくれたの。……そういえば大きな箱を持っていたような」
 「・・・じゃあ残りはモミが持っているのか」

 その発言を聞いたデミウルゴスとアウラ、コキュートスは立ち上がる。

 「ボッチ様少シ出カケテキマス」
 「ふむ。ならば私も行こう。彼女なら最近は集落の方でさぼっているらしい」
 「へぇ~。ならお説教が必要だよね」

 殺気だった守護者三人が駆け出した後には泣きながら謝るマーレと呆然と見ていたぼっちだけが取り残された。とりあえず泣いているマーレを抱きしめてあやしながらその場を去っていく。
 この後、リザードマンの集落で激しい戦闘が起こったのは言うまでもないだろう…



 重…かったのかなぁ?途中で思いの書く事に指が動かなくなりそうでこういう話にしました。
 ところで皆様はリザードマン連合VSナザリックの後からマインの姿が消えていることに気付きでしょうか?次は彼女の話です。

次回『マイン、ナザリックでのお留守番』


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第048話 「マイン、ナザリックでのお留守番」

 


 今日はすごい日だ。
 マイン・チェルシーはナザリック地下大墳墓の一室にあるソファでくつろいでいた。
 この世の物とは思えないほど豪華で神々しく感じる彫像品や武器の類を見せていただき、数多くの強者の方々と会ったのだ。
 プレアデスの方々とはお茶会をしていっぱいお話した。
 一般メイド&各階層の配下の方達からは至高の御方の話を山ほど聞いた。
 ニューロニストお姉さんに抱きついてみたら柔らかい感触よりも先に花の様ないい匂いがした。
 恐怖公さんには申し訳ないけど逃げ出してしまった…
 アインズ様のペットのハムスケさんとは試合を行なった。
 今日は皆さんリザードマンの集落で用事があるということで階層守護者を除く方々と面合わせを行なったのだ。正直アルカード様と離れ離れなのは寂しいが皆さん本当に優しくしてくださって本当に楽しい。
 そしてアルカード様に一時的にお借りした指輪で移動した『宝物殿』でお茶を頂いているのであった。その目の前では…

 「どうですか!この姿似ているでしょう!!」
 「うーん…何か違うんですよね」

 大仰なポーズと高らかに謳う、アルカード様に化けているパンドラズ・アクターさんが居た。
 パンドラズ・アクターさんはアルカード様のご友人であるアインズ様が創造?された方なのだという。種族はドッペルゲンガーでいろんな人に変身できるのだという。

 「ふむ。やはり至高の御方々とまったく同じなるのは難しいですね」
 「でも、かなり似てますよね。内面は正反対ですけどね」
 「…あの、もしかして怒って…」
 「怒ってませんよ♪」

 怒ってませんとも。アルカード様に姿を似せて絶対やらないであろう大仰なポーズや台詞の数々を聞いてイライラしているなんて事無いですから!

 「そ、それならいいのですが」
 「にしてもその服装カッコイイですよね」

 正直に言うと僕はアクターさんを結構気に入っていた。普通に見ていて面白いし、通常の動作が大衆演劇を見ているような気がするからだ。
 それにあの軍服とか言っていた服装がとってもカッコイイのだ。
 本音をそのまま口にすると表情は分からないのだがすごく嬉しがっているのが分かる。

 「ええ!ええ!そうでしょうとも!!この服は私をっ!!↑創造してくださったアインズ様がっ!!↑私の為に用意してくださった物なのですから!!」
 「そうだったんですか」
 「ええ…ですが何故か敬礼とドイツ語を禁止されてしまったんですよ。これらはアインズ様が決めて下さった物なのですが…」
 「敬礼?僕知ってますよ」

 マインはすっくと立ち上がり手は握り締めた状態で右手の甲を腰に付け左手を心臓の位置に合わせる。

 「こう、ですよね?アルカード様に習ったのですが」
 「ほう。ぼっ…ん゛ん゛!アルカード様とアインズ様では敬礼も違うのですね。私のはこうです」

 右手の指先まで伸ばし額に斜めになるように位置を決めて敬礼する。マインはおおと声を漏らした。

 「そういえばアクターさんはいろいろな言葉を知っているのですよね?」
 「いろいろ…いえ、私が知っているものは今話している言語とドイツ語ですね」
 「アハトウング…ジークハイル…クリーク…カンブグルツベ…ゼーレヴェー…ヤポール…アハトアハトってアルカード様が呟いていた単語なのですが」
 「『気をつけ』、『勝利万歳』、『戦争』、『戦闘団』、『あしか』、『了解』…最後のは分からないですがドイツ語ですね」
 「へぇ…僕も覚えたほうが良いのかな?」
 「言語を一つ覚えるのは大変なことですよ」
 「むむむ…」

 腕を組み悩んでいると背後から気配を感じて振り向くとそこにはシズさんとルプスさんが居た。

 「やっと見つけたっす」
 「ここに居たの…探すのに手間取った」
 「あ、申し訳ありません」
 「構わない…貴方はぼっ…アルカード様の弟子なのだから。そこまで私が制限すること出来ない…」
 「そうっすよ。気にしない。気にしない」
 
 アハハと笑うルプスさんは良いとしてなぜかアルカード様の弟子と言う単語が出た瞬間、シズさんから怒気みたいな物を感じたような気がしたのだが…気のせいだったという事にしておこう。
 
 「ミス・シズどうしたんだい?マイン君をずっと探していたように聞こえてたけれども」
 「……他にも紹介しないといけないから」
 「ではあくたーさん。お邪魔しました」
 「いえいえ、またいらして下さいね。では」

 それぞれの敬礼をして去っていく。不思議そうにシズさんが首を傾げていたけれどそんなに変なことをしただろうか?っと何かを思い出したのか『あ…』と声を漏らした。

 「ニグレドには会ったっすか?」
 「ニグレドさんですか?いえ、まだ会っていないですけど…」
 「…会ってみる?」
 「はい!ぜひとも」

 期待で胸がいっぱいなマインと違い少しイタズラっぽくルプスが微笑んでいる…。その中シズだけは何が起こるか予想したので内緒でユリにメッセージを送った。



 ニグレド
 守護者統括であるアルベドの姉でナザリック第5階層『氷河』に存在する館の『氷結牢獄』に住まう情報収集に特化した魔法詠唱者。その能力は生物から無機物まで捜索できるほどである。ぼっちがバーサーカー状態だった際には監視を行なったりもしていた。
 子供に対して慈悲深く、子供などに対しては良心的なNPCであろう。
 彼女はこのナザリックである偉業を成した人物なのである。子供関係でも索敵関係でもなく至高の御方に対して行なった…というか製作者タブラの意図した通りの事と言った方が良いのか。
 タブラ・スマラグディナは趣味の為ならば全力を尽くすプレイヤーだった。ある目的の為にニグレドや『氷結牢獄』の内装、通常ではポップしないはずの腐肉赤子を出現するようにしたりなど時間や労力だけではなくかなりの金額を支払って作ったのだ。
 ある目的とは仲間であるギルド『アインズ・ウール・ゴウン』メンバーを驚かす一点である。ちなみに実用性を考えると皆無である。
 そんな事を知らなかったメンバーは驚いたり、武器を手に取ったり、魔法を唱えたりと驚き+攻撃まで行なうほどだったのだ。
 大の大人であったメンバーでこの様だったのだ。そんな所にホラー耐性ゼロの少女が入ったらどうなるだろうか?答えは分かりきっている。
 
 「きゃああああああああああ!?」

 ナザリック第5階層にマインの悲鳴が響き渡った。シズからのメッセージを受けたユリは駆けつけると同時にルプスの頭を『スパーン』と叩いた。

 「いった!?痛いっすよユリ姉…」
 「黙りなさい!ぼっ…アルカード様のお弟子様を泣かせるとは何事ですか!?」
 「うー…まさかここまでの反応するとは…」
 「あたりまえです。ニグレド様を初めて見た時の至高の御方々の話を聞いた事があるでしょう?もしこれでマインさんがニグレド様をお嫌いになったらどうするのですか?」
 「ユリ姉……それはない」

 怒っているユリの裾を引っ張り、ある方向を指差す。そこには驚いて涙目になっているマインを優しく抱きしめて宥めているニグレドの姿があった。
 ニグレドは喪服に黒髪で顔はすべてのパーツが整っておりアルベドに似ているのだ。皮膚が無い点を除けばだが。そうだ。皮膚が無い為、本来なら見えない内部がむき出しなのだ。初見で見れば普通はトラウマ物であるはずなのだがマインは怖がったり嫌がる素振り一つ見せない。大した方だと感心した。

 「ごめんなさいね。驚かしてしまって」
 「ぐずっ…いえ、驚いてすみませんでした。傷つけてしまいましたか?」
 「大…丈夫そうですね」
 「それにしてもマイマイは驚きすぎっすよ」
 「…確かにこっちも驚いた」
 「す、すいません…僕自信も驚きました」
 「まぁ、無理は無いですが男の子なのですからしっかりしないといけませんよ」
 「はい………ん?」

 今度はニグレドを加えて本日二度目のお茶会を始めた。その前にマインは『男の子』と言われた様な気がしたが勘違いとして処理したのであった。そしてお茶会で出されたケーキを食べ終わる頃にはすっかり忘れ去っていた…



次回から三話続けて特別編を書こうかと思っております。
 


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第049話 「どうしてこうなったし…」

さて久しぶりの本編。
ココからは王国編となります。しかーし!今日はセバスは出てきません…全世界のセバスファンの皆様申し訳アリマセン。


 煌びやかな宝石や高価なドレスに身を包んだ女性人に己の家の当主に相応しくそれなりに財を浪費した格好を見せ付ける男性人が集まる王家主催のパーティーでクライムはため息をつく。
 目に映るこの煌びやかな世界は欲と嘘で塗り固められた者達で作られているのではないか?と心の底から思う。皆それぞれ笑顔で話しているが嘘くさく、外面だけを気にしているようにも感じる。

 「どうしたの?」
 「い、いえ。何でもありません」

 声をかけたのはクライムが心から忠誠を捧げる主のラナー王女だった。この腐った世界で彼女だけが輝いて見えた。先ほどまで感じていた不快感が一気に消し飛んだが隣にいる男性が視界に入ると再び心に陰がさした。

 「そこは花を愛でる様な言葉をかけられた方がいいと思いますよ」
 「…ベルローズ神父」
 
 名を口にすると微笑を返してくるこの垂れ目の神父はどことなく信用ならない気がするのだ。街で聞く話では孤児や売られた子を集めて大きな孤児院を経営しているとか。神父でありながら様々な仕事をこなしては子達の為に稼いでいると心優しい神父と語られる。他には多くの貴族令嬢に好かれており、彼の発言で貴族間の議題に影響する事もあるとか…しかしどうも嫌な予感がするのだ。何かどうと答える事は出来ないが感じるのだ。

 「おや?今日の主役のご登場ですね」

 そう言われると同時に入り口の扉が開かれこのパーティーの主役が現れた。過度な装飾を施していない黒い燕尾服に身を包み、柔らかくもくせっけの強い髪を首の後ろで纏め、鼻下と顎に生やされた髭は不潔感漂う物ではなく本人の威厳を高めていた。年齢は30代から40代だろう。威厳があり、歴戦の戦士を思わせるような彼だが本当に優しげに笑う。それを見た貴婦人達の頬を染め上げていく。
 彼はアルカード・ブラウニー伯爵。つい先日王様より爵位を承ったヘルシングのオーナー。「商人がいきなり伯爵を得るとは」と陰口を叩く者も居るが誰も反対は出来なかった。
 伯爵になるきっかけはクライムが持っている刀にあった。ヘルシングで受け取った刀『村正』を王国の鑑定士に見てもらったところ、なんとガゼフ戦士長しか装備する事を許されていない王国の五宝物に匹敵する物だと分かったのだ。他にも王に呼び出された場で王様と六大貴族、そしてラナー王女との話し合いに参加した際に王女の道の整備の話を真剣に聞き、懐から1000白金貨を寄付されたのだ。
 この事でアルカードをどうにか手元に置きたいと野心を抱いた六大貴族の意見の元で調査が行なわれたのだ。だが、ヘルシングは商業、工業、産業、傭兵団、警護隊など多くの事業に成功しており資金で六大貴族に迫る勢いだった。病気の者にはお見舞いの品を送ったり、孤児や仕事を失った者に仕事を与え、家が無い従業員の為に社宅を建てたりと人望も厚い。ゆえに手に入れるのではなく何としても味方として取り込もうとした結果、伯爵と言う地位を授ける事になったのだ。
 本当に商人なのか疑ってしまうほど彼は順応していた。落ち着きを持って優雅にワインを楽しんでいる。そんな彼に次々とダンスのお誘いがかかる。彼は嫌がる素振りどころか礼儀正しくお受けして行く。
 彼のような人こそ本当の貴族なのだろうとクライムは思った。もちろんラナー王女の次にだが。
 クライムが見つめる中、アルカードは貴族のご令嬢とダンスを楽しんでいるようだった。



 どうしてこうなったし…
 貴族のお嬢さんと踊っているぼっちは踊りながら考え込んでいた。
 確か三日前にリザードマンの一件がすべて片付き、後はコキュートスに任せることになった。
 忙しかったのが急に暇になった。ならばとヘルシングに顔を出しに行ったんだ。もちろんマインを連れて。するとこや…、んん!ニグンより王様からの招待状が届いた事を伝えられたのだ。本当なら各店舗を見て周ろうと思ってたんだけどなぁ。
 現在ヘルシングは武器屋、鍛冶屋、アイテム屋、食事処、傭兵隊、特務警備専門部隊など多くに手を出している。しかもどれもこれもが良好である。あー…表ではなく裏向きで対人用の暗部があるけどね。
 採用するには面接を受けるだけ。面接官はぼっちだ。いやあ、楽だった。だってスキルで相手の性格からスキルまで全部分かっちゃうんだもん。おかげで誰にも気付かれていなかったタレント持ちを数人確保できた。
 あ!それで思い出したんだけどこの世界の住人って涙腺弱くない?
 病気で働けない?ゆっくり休んで良いよ。え?休んだら居場所が無くなる?そんな事ないけど。見舞いに果物の盛り合わせを用意しなきゃ。
 住む家が無い?気がつかなかった。だったら社員が暮らせる社宅を用意しよう。家賃は安めで。
 結婚した?なら祝いに鯛…はこの世界にあるかどうか分からないから大きな魚を買って行こう。もしくは狩って行こう。
 こんな感じの事をすると大袈裟に泣きながらお礼を口にするのだ。当たり前の事をしただけなのにおっかしいな…
 おっと、話が逸れてしまったかな。
 兎に角、王様からの招待を受ける事にしたのだ。いずれは王都に店舗を出してみたかったし。…店を始めた理由はすでに忘れている…下見兼一週間の休暇と言う事で。とりあえずはセバスとソリュシャンの所にでもお邪魔しようかなと思いながら来たはずなのだが、王に会うと『五宝物に匹敵する刀を王国に献上した褒美として爵位と領地を与える』って何ぞ!?あの刀はラナーちゃんの彼氏?のクライム君に売ったはずだったんだけど。しかもその後よく分からない会議に出席する羽目に会うし…その中で唯一納得できたのがラナーちゃんの道の整備計画だった。ここに来る道中の馬車の揺れが酷かったのを体験したぼっちは即座に賛成して懐のお金を渡しちゃったんだよね。そういえばここでもクライム君に凄い感謝されたっけか。
 ダンスが終了して少しお話をして人の輪から気付かれぬように離れる。そんな時にメッセージが入った。周りには聞こえないよう小声で話す。

 「・・・どうした」
 『不快感を抱いて御出でかと思いメッセージを送らせて頂いたでありんす』
 「大丈夫だ」

 シャルティアが言っている不快感を抱くであろう事案は今行なわれているパーティーのことである。実はこの新たな貴族となったアルカード伯爵の顔見世のパーティーに行く事の一報を入れた際に一悶着あったのだ。

 『え!?貴族になったんですか!』
 「何故か分からないが・・・」
 『分からないって…思い当たる節も無いんですか?』
 「節はあったが・・・」
 『ア、アインズ様!今ぼっち様が貴族になったと聞こえたでありんすが!?』
 『う、うむ。王国の貴族に』
 『何と不敬な!!崇めるべき存在の至高の御方を人の身でありながら下につけるとは万死に値します!!』
 『「え?」』
 『ちょっと僕、王国に出かけてきます…』
 『待ちなよマーレ。あたしも行くよ』
 『アインズ様!ドウカコキュートスト第五階層全軍ニ出撃命令ヲ!!』
 『待つでありんす!私と私の配下が行くでありんす!!第一から第三までの全軍ならすぐに片がつくでありんす』
 『いいえ、それなら私の第七階層全軍が相応しい。奴らにありとあらゆる責め苦を味わわせてやる!!』
 『落ち着くのだ…はっ!ぼっちさんからも何か言ってください』
 「・・・任せた(プチッ)」
 『ちょっと!?ぼっちさああああん!!』


 と、まぁこんな事があったんですよ。

 「普通にダンスしているだけだしな・・・」
 『なっ!?虫けら同然の人間とぼ、ぼ、ぼっち様とダンスなど…』
 「・・・・・・落ち着け。問題ない」
 『そうでありんすか…ぼっち様』
 「ん」
 『もし今度お帰りになったら…私と!!』
 『あんたは何を言おうとしてんのさ!?』
 『言わせません!!』
 『ちょ、アウラ!!マーレも!!』
 『切っちゃってくださいぼっち様!!』

 またわやになったメッセージを切った。ため息を付きつつ手に取ったワイングラスを見つめ、中にあった赤ワインを一口含んだ。そんなとき再び声をかけられた。

 「少し宜しくて?」
 「何でしょうマダム。それにそちらのお嬢様は?」
 「娘ですの。舞踏会は今日が初めて。よろしかったら1曲お相手してやってくださる?」
 「よろこんで」

 ご婦人の横に立っていた17、8のお嬢さんの手を取るとお嬢さんは熟れたトマトのように頬を染めた。
 そしてぼっちは思った。
 俺だって初めてだよ!!全然慣れてねえよ!!周りからは落ち着いてて紳士的って呟いているのが聞こえるがお前ら全員節穴か!?落ち着いてるのは精神の安定化が連続発生+こういう場でどんな風に対応していいか分からないから壁際で一人ワインを傾けていただけなのに……
 おっと、いかんいかん。負の感情が表情に出そうになる。誰だったかいつでも笑ってるべきだって言ってたっけ?
 『威圧的に喚いてないで常に笑っているべきだ。ボスってのはそういうもんだ』
 そうだ。思い出した…って俺、ボスじゃねえよ。ボスはアインズさんだし。俺は……寄生虫?ナザリックで一番働いてない自信がある!ごめん嘘。モミには負ける。何かこのままだったらアウラやマーレにおんぶに抱っこされて生きてそう。助けてエコー!
 『エコーがやられた!?』
 違う!!そっちの、ヘックスとこのエコーじゃなくて、ココのとこのエコーな!!
 ぼっちは頭の中の幻聴と会話しつつダンスを続ける。早く終わる事を祈って…



ぼっち舞踏会でぼっちしたかった。何か矛盾している気が…

次回『王国最強と少女と少年』

さて誰の事でしょう?次回お楽しみに


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第050話 「王国最強と少女と少年」

前回の話が14時に48位と五十位以内に入れてた!!
やったあああああ!!


 「俺の…負けだ…」
 「しょ、勝負あり!!」

 一人の兵士が力が抜けたようにその場に座り込んだ。驚きを隠せないまま審判が試合終了の声を上げる。
 私、クライムは正直に驚いている。
 今居るのは王宮内に造られてた訓練場に来ていた。と言うのもラナー王女が試合を見たいとの事で護衛できていたのだ。他には国王であるランポッサ三世にアルカード伯爵を始めとする貴族達が観戦していた。
 別にこの『試合』は予定されていた物ではなく現在国王の護衛として近くに居るガゼフ戦士長が国王に伯爵の剣の腕が凄いと伝えたことから始まった物だ。実際には見ていなかったらしいのだが自分を追い詰めた敵を一人で壊滅させた実力があるらしい。それで国王から『実力を見せてくれないか?』と言われて『私の剣術は人に見せられる物ではありません(人間の目では捉えられないと言う意味)。私の弟子を代わりに出しましょう』との事でその弟子と兵士との試合が行なわれたのだ。

 「挑む者はいませんか?」
 「俺だ!次は俺が相手になってやる!!」

 審判の声に一人の兵士が勢いよく立ち上がる。王がご覧になっている事からここで強さを証明できたら王様の目に止まり、出世できると思っている者がここに居るほとんどの兵士だろう。それが理由かそれとも純粋に戦ってみたいのか。兵士は長さ2メートルはある木製のグレートソードを手に取る。

 「俺は今までの奴らと違うぞ」
 「そうですか。では宜しくお願いします」

 伯爵の弟子のマイン様は深々と礼をして木製の剣を構える。 
 マイン様は小柄な少年で相手は大柄な大の大人。武器の見ても、使い手をみてもマイン様の敗北と誰もが思うだろう。

 「では始め!」
 「どおおおりゃあああ!!」

 兵士は叫び声と同時にグレートソードを何の手加減なしに振り払った。あんな一撃を受ければ腕の骨折だけではすまないだろう。………当たればだが。
 振った瞬間、地面擦れ擦れまでしゃがんだマイン様は剣が頭上を通り過ぎるのと同時に前へと立ち上がり、振り切った頃には相手の首筋に剣を当てていた。

 「……ま、まいりました」
 「ふぅ…ありがとうございました」

 今までの兵士と同じく座り込む兵士に対し、一息つき礼を言う。
 これで40戦40勝0敗。しかも一撃も受けることも無く、一撃で兵士達に勝っているのだ。中には戦士長の部下の方まで居たというのに。
 驚きと興奮と共に歳もあまり変わらないであろう彼に嫉妬してしまう自分がいた。出切れば私も戦ってみたい。が、今はラナー様の護衛としているのだ。そんな事が出切る訳が無い。

 「もう挑む者は居ませんか?」

 ここまで力の差を見せられれば立ち向かう者など居なかった。試合は終了かと思われた時、この訓練場全体がざわめいた。

 「私が相手をしよう」

 名乗りを上げたのは王国最強の王国戦士長のガゼフ様だった。一度国王へ振り向き頭を下げた。

 「このような勝手な行動をお許しください陛下。しかしこのまま試合が終わってしまえば王国の沽券にかかわります。どうか」

 そのガゼフの言葉に国王は微笑みながら頷いた。どうやら私と同じ気持ちだったのだろう。顔が子供のように笑っていた。

 「やるからには真剣勝負でいかせてもらう」
 「はい。かの有名なガゼフ様との一騎打ち…こちらも全力で挑みます」
 「では…え?」

 審判が始めの合図を出そうとした時、伯爵がそれを止めた。

 「私にさせてくれないか?」
 「え、あ、は、はい」
 「…いざ尋常に」

 二人とも剣を構えて相手を見据える。動きの一つも見逃さないように。ゴクリと喉が鳴った。距離があるはずなのに二人が生み出した空気に飲み込まれそうだった。

 「始め!」

 上げていた手を振り下ろしながら開始の合図を宣言した瞬間に二人は動いた。上から降り下ろされる剣を受け止めるのではなく受け流したマインは剣の上を滑らしながら相手の首元を狙うが読まれており、首を傾けるだけで避けたのだ。二撃目を行なおうとした時、目を見開いて飛び退くように距離をとった。跳んだ瞬間、振り下ろされた剣が振り上げられたのだ。
 凄い。まさかガゼフ様と渡り合えるなんて…こんな戦いは二度と見れないだろう。そう思った…
 飛ぶように距離を取ったマインにガゼフは体勢を整えさせる間を与えなかった。距離を詰めてきたのだ。横に振られた一撃を飛び越えて回避、振り返るながら剣を振るう。対してガゼフは驚きつつも背後を見ることもなくしゃがんだ。剣はその頭上を通過したのだ。先ほどの返しが来る前にマインは後ろへと跳び、体勢を整えた。

 「想像以上です…さすが王国戦士長…強い!」
 「ふふ。まさかさっきのが避けられるとは思わなかった。さすがブラウニー殿のお弟子さんだ」
 「お褒めの言葉ありがとうございます」
 「こんな戦いブレイン以来か…行くぞ」
 「はい!」

 そこからは剣の打ち合いだった。力と技術ではガゼフが勝っていたが速度と反応速度はマインが勝っていた。いや…技術の面も分からなくなってきた。確かにガゼフは敵を殺す技術で勝っていた。だがマインはまったく別方向の技術を持っていた。両手で攻めていたかと思えばいきなり片手で軽く切りつけたり、連続の突き技(フェンシングのような)を繰り出してきたのだ。その技の数々はその場に居た者達を驚かせた。
 特に驚いたのが剣を横へ構えたガゼフに対して剣を上に投げ出したのだ。困惑しながら振り抜かれた剣を滑り込むように下に潜り込む様に回避したのだ。しかしその避け方は読みきっており剣を振り戻そうとした瞬間、嫌な予感を感じて跳び退いたのだ。さっきまで居た位置に投げ出された剣の刃の部分が下となり降って来たのだ。それを拾いながら距離を詰めたマインは姿勢を低く潜り込もうとした。それを剣を振り下ろす事で終わらそうとしたが…

 「飛天御剣流『龍翔閃』!」
 「なにっ!?」

 跳び上がると同時に両手で支えた剣がガゼフの剣にぶつかりガゼフを後退させたのだ。3メートルは跳び上がったマインは縦方向に一回転して剣を振り下ろした格好でガゼフ目掛けて降って来たのだ。

 「飛天御剣流『龍槌閃』!!」
 「くっ!」

 その勢いの剣を受け止めるのは危険と思い、身体を捻って回避する。
 本当に凄い戦いだ。手に汗握るとはまさにこの事なのだろう。だが、そんな勝負に決着がついてしまったのだ。避けられて着地したマインの首元に剣が向けられたのだ。

 「私の勝ちだな?」
 「ええ…僕の負けですね」
 「そこまで!」

 終了の合図が響くと二人とも滝のような汗を拭い、身体に溜まった空気を吐き出す。

 「できればこのままリベンジマッチを行ないたいですね」
 「まだ戦えるのか?それは凄いな」
 「ええ…僕は負けで終わりたくないですから…特にアルカード様の前では…」

 笑顔だったマインの表情が一気に引き締められる。空気が変わった。

 「第6r…」

 ドクンと心臓が大きく脈打った。よく分からないが何か不味いことが起こる。そんな気がした。しかしそれは起きなかった。

 「止めよマイン」
 「!!も、申し訳ありませんでした!!」

 伯爵の言葉により止められ変わろうとした空気が元に戻った。
 拍手が起こった。観客から惜しむ事のない拍手に彼は困ったような表情をする。

 「…次は負けませんから」
 「そうか。それは楽しみだ。本当に楽しみだ」

 二人は固い握手を交わし、試合は幕を閉じた。

 「凄い試合だったわね?」
 「はい!もう見られないくらい凄い物でした」
 「ふふふ。クライムは本当に楽しそうね。もしかして戦ってみたかったの?」
 「はい!あ、いえ!その…自分では相手にならないかもしれませんが…戦ってみたかったです…ね」

 自分の弱さを噛み締めながらまさに英雄級の腕前を披露した二人を見続ける。



クライム君が力を求め始めた所でそろそろセバス出したい。



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第051話 「汚された少女と老執事」

やって参りましたセバス登場回!!
前の登場は…38話の「セバスのとある休日」以来ですかね。覚えてます?銃をぼっちに届けて以来登場してなかったんですよ。(銃の事を忘れていたチェリオ…どうしよう)


 ナザリック地下大墳墓の主人である『アインズ・ウール・ゴウン』に仕える執事、セバス・チャンは現在リ・エスティーゼ王国の王都リ・エスティーゼで職務に励んでいた。
 情報にユグドラシルには無かったこの世界で発達した魔法などの収集などを主に行なっているのだ。
 視界の端で老婆が重い荷物に四苦八苦して進んでいるのが見える。今歩いている道路は人が少ないということは無く多くの人間が歩いている。が、誰も手をかそうとはしなかった。

 「大丈夫ですか?お手伝いしましょう」

 セバスはにこやかに老婆に近づき声をかけていた。
 荷物を持ち老婆の速度に合わせて歩み始める。本来なら無視して帰宅した方が良いのかも知れない。だが、セバスは、タッチ・ミーより創造された身としては放っておく事など出来るわけはなかった。子は親に似ると言うがまさにそれだ。
 そんなセバスを見て周りに居た女性人が騒ぎ出す。悪い意味ではなく、他愛も無い話だ。
 落ち着きがあり、柔和で紳士的。礼儀正しく、年齢を重ねた美しさを持っているセバスを女性人が話題に出さないはずが無かった。
 『お茶に誘われたら絶対について行くわ』とか『渋くてカッコイイお方ですわね』など概ね高評価を呟かれているのだ。中でも一番なのは主を含む物だろう。主と言ってもアインズではなく主の芝居をしているソリュシャンの事である。ソリュシャンは我侭ですぐにヒステリックを起こす美人令嬢として有名になっている。おかげで『悲劇のヒロイン』ではなく『悲劇の執事』と言われる事が多いのである。
 老婆を送った後は裏路地に入って陰に潜むシャドウデーモンに『帰りは遅くなります』とソリュシャンへの伝言を頼んでもっと奥へと進んでいく。
 これはただ散策すると言う訳ではなく、いろんな所を歩き地図を描いているのだ。本当ならぼっちの方が向いているのだがこのようなことで至高の御方の手を煩わせるわけには行かない。

 「今日はこの辺に致しましょうか」

 もう空が赤く染め上げられていく中、帰ろうと踵を返そうとしたセバスの耳に何かを落としたような音が聞こえた。気になり振り返ってみると見るからに汚い大きな袋が転がっていた。それも中に大きな物を入れているらしく大きく膨らんでいた。すぐ近くに男が見えた。多分彼が置いたのだろう。そのまま何をするでもなく中に入っていった。
 袋を眺めつつ横を通り過ぎる。通り過ぎようとした時何かが裾を引っ張った。振り返ってみると袋の口が開いており、中から女性らしき物が裾へと手を伸ばしていた。と言うのも酷く暴行をされたらしく腰まで長い金色の髪と衣類ぐらいでしか判別が出来ないのだ。特に顔は通常の人の2倍は腫れ上がっている。
 
 「手を離しては下さいませんか?」

 まず最初に口から出たのはそんな言葉だった。ナザリックの他の者なら無理に振りほどいても進むだろうがセバスはそうではなかった。

 「…貴方は困っているのですか?もしそうであるなら…」

 誰かが困っていたら助けるのは当たり前。少しかがみつつ彼女に近づくがそこに先ほど男が戻ってきた。

 「おい爺!どこから湧いて出てきやがった」

 男はセバスを見た瞬間敵意を剥き出しにした。すっと立ち上がり男と対峙する。

 「おい、おい、おい。爺、なに見てやがんだ。とっとと失せな」

 汚れた軽装に鍛えてない肉体。レベルにしては10以下といったところでしょうか?

 「ちっ!爺、耳が遠くて聞こえねぇらしいな?」
 「ふむ…」
 「なん…」

 観察を終えたセバスは今までの優しげな雰囲気を破棄する。そこに居たのはナザリックの執事であり階層守護者に並ぶ実力者。みるみる中に顔が青くなり、一歩後ろに後退した。発せられる気だけで彼はようやく相手がどう足掻いても敵うはずのない別格の相手と認識したのだ。

 「彼女は『何』ですか?」
 「う、うちの従業員だ」
 「私は『何』と聞いた答えは従業員ですか…『物』ではなく『人』として扱っていると言う事ですね。ではこれから貴方は彼女をどうするつもりでしたか?」
 「え、あ、し、そうだ!し、神殿に連れて行く」
 「私は嘘はあまり好まないのですが…」

 あからさまな嘘に苛立ちを隠せなずにゆっくりと近づいてゆく。その度に男は震えながら一歩一歩後退して行く。

 「う、う、う、嘘じゃねえよ!」
 「では私が連れて行っても問題はありませんね」
 「いや!あんたがちゃんと連れて行く保障はねえだろ。それにそいつはうちのもんだ!それを勝手に連れて行くってこたぁ法律上誘拐にあたるんじゃないかぁ」
 「…」

 ここで男は法律を持ち出した。法律を熟知していれば何らかの反論を出来たかもしれない。しかし出来なかった。多分だが相手はそこまで知識が回る相手ではない。ゆえに誰かが彼に吹き込んだ知識なのだろう。しかし学が無くとも悪知恵は働くらしい。答えられない事にこちらも法律に疎い事を理解しニヤリと嗤った。

 「そしたらあんたのご主人にも迷惑がかかるんじゃねえのかな?んん?」

 形勢逆転した事に態度が大きくなり余裕が見え始めた。確かにここで私ではなく主役をやっているソリュシャンを今回の出来事に巻き込んでしまったら大変な事になる。下手をすればアインズ様の命令をこなせない。

 「これは酷いですね」
 「!?だ、誰だてめぇは」
 「私ですか?私はただの神父ですよ」
 「神父?」

 突如聞こえた聞き覚えのある声に振り向くとそこにはザーバ・クンスラァだった。いや今は『スカーレット・ベルローズ』と呼んだ方が良いでしょうか。
 この王都には私とソリュシャン以外にも数名がナザリックから訪れている。一人は至高の御方であるぼっち様。そしてもう一人が目の前に居る神父である。
 ベルローズが嗤う。私はあの男が好きになれない。行っている事は周りから見れば善であるが彼の本質は悪である。どうしても内面まで踏み込めば相容れない存在。その男がすべてを飲み込むように嗤う。

 「確かに法律上誘拐に当たるかも知れませんがこの状況でどうやって貴方は彼女が従業員である証明をするのでしょうか?」
 「証明?そんなもん…」
 「それにこの現場だけを見れば貴方が女性に暴行を働いた現場にも見えますね?」
 「なぁ!?」

 目が合う。慌てる男に気付かれないように嗤いではなくこちらに笑いかけてくる。どうやら助けてくれるらしい。ならばここは乗るべきでしょうか。

 「暴行罪、誘拐、拉致監禁、死体遺棄…はまだ生きているからないとしても殺人未遂などですかね」
 「そうですね。確かにそうです。ならばこれは人を呼んできたほうが宜しいでしょうかね?」
 「いやいやいや!ま、ま、ま、待ってくれ!!そんな事されたら…」
 「『そんな事されたら』?別に従業員を神殿に連れて行くのなら問題ないですよね?」
 「やれやれ…先ほどの態度は何処へやら」

 慌てふためき墓穴を掘り始めた男をあざ笑いながらベルローズはセバスと男の中間。少女を庇うように立った。
 
 「貴方はそこの老執事を信用できない。逆に老執事はあなたを信用できない。ならばこうしませんか。彼女は私が預かります。私の証明は…この近くならウェルキン卿がしてくれるでしょう」

 ウェルキン卿の名は知っている。あまり位の高い貴族ではないが人当たりが良く、領地の民に好かれている貴族である。有名な部類の貴族の名を耳にして青かった顔が青を過ぎて白へと変わり果てた。

 「貴方の主に伝えなさい。彼女はスカーレット・ベルローズが預かると」

 嗤いと共に込められた殺気により男は呻き声を漏らしながら去って行った。

 「ありがとうございますベルローズ様」
 「感謝の言葉は受け取りますがこの子はどうします?」

 感謝の言葉を述べたセバスにベルローズは選択を迫る。彼女を私が引き取れば我々の任務に支障が出るかも知れない。逆に彼に託せば彼の孤児院で働き手として雇って貰えるかもしれない。が…彼は人の死に愉悦を求めている。

 「私が預かりましょう」
 「そうですか…いえ、分かりました」

 彼女を抱えて去ろうとした時、一輪の黄色いバラが投げ渡された。不思議に思い首を傾げると彼は微笑みながら去って行った。

 「Good Luck!悪の中の善なる執事君」

 去って行ったベルローズから彼女に視線を移す。これだけの外傷を治すのは自分には不可能と判断して思考する。魔法回復なら主であるアインズを思い起こしたが主を巻き込むなど言語道断。ならばソリュシャンに頼む事とする。あとは彼女を運ぶ際に見つからないようにするだけですね。よもやこんな所で地図を描いていたのが役に立つとは…
 彼女を抱えて走り出すセバスには一切の迷いが無かった。ただ困っている人を助ける為に…



セバスが少女を保護している間にも物事は進んでいく。
王国に招かれたぼっちとマインに魔の手が迫る!!

次回「純愛の王女と蒼の薔薇とのお茶会」お楽しみに


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第052話 「純愛の王女と蒼の薔薇とのお茶会」

 「おいしいですねアルカード様」
 「そうだね」
 「お口にあって何よりです」

 今俺とマインは王女に誘われて午後のひと時を楽しんでいた。
 この一室には王女のラナーにクライム、あとは『蒼の薔薇』リーダーのラキュース・アルベイン・デイル・アインドラと同じく『蒼の薔薇』の忍者のティナが同じく席について紅茶を味わっていた。
 正直シャルティアの淹れてくれた物の方が美味しいのだがそんな事は口が裂けたって言わない。
 ここで一言……頼む帰らせてくれ。ぼっちの願いはその一つだった。
 緊張しっぱなしの舞踏会から早朝からの試合見物。朝食から昼食までの間に数十を超える貴族達との会話…やっと帰れると思った矢先に王女に捕まり連行…どうなってんのこれ?しかもだよ…周りが美人で囲まれてんの。視線よりそっちの方がキツイ。
 ブロンズの髪にエメラルドのような緑の瞳のラキュースは淡い桃色のドレスを身に纏い王女と俺の間に居るし、向かいのティナは忍者なのだから動きやすい服装にしているのは分かるが脇、へそ、太ももとピンポイントで晒しているのってどうなのよ?
 何かこのお茶会はある事を決める場であり、クライム君に推薦されたらしく要るわけなのだが中々その話が始まらない。今話しているのは朝の試合の話だ。どうやら観客の中に紛れていたらしい。こんな美人よく騒がれなかったな…

 「試合の時のあの技は伯爵から?」
 「はい。と言っても伯爵から教わったロートル先生からなんですが…」

 ……おい、今なんてった?頼むよマイン。ロートルから先を喋るなよ!ふりじゃないからな!頼むよ…
 ぼっちの思いは余所にマインとラキュースの話は続く。

 「中々良い試合だったわよ」
 「お褒めのお言葉いた、痛み入ります」
 「クライムも真剣に見ていたものね?」
 「ええ。本当にすばらしい物でした」
 「でも技名叫ぶ必要ある?」

 痛い所をついて来るなこの忍び少女。技名叫ぶ意味なんて本人のノリだけでデメリットしかないよ。叫ぶ時の間に隙が出来たり、知ってたら技の対処を行なわれたりする。さすがはアダマンタイト級冒険者グループ分かってらっしゃる。
 話は変わるけどティナって子が部屋に入ったマインを見て『まだいける』って呟いたのどういう意味なんだろうか?

 「私はいいと思うけど?」

 …聞き間違いか?アダマンタイト級の冒険者グループのリーダーが肯定したように聞こえたが。

 「クライムはどう思う?」
 「えっと…なんと言えば良いのか…」
 「ラナーは…」
 「叫ぶ事でデメリットがある事は分かるけどメリットがね…」
 
 ラナーの発言にティナにクライムが頷く、それに対してマインとラキュースが驚いた顔をしている。
 あの二人は気付いてなかったんだと思いつつ紅茶を飲もうと手を伸ばした時、皆の視線が集まっていたことに気付いた。

 「何か?」
 「アルカード様はどう思われます?叫ばないほうが良いでしょうか」
 「それとも何か意味があるのでしょうか?」
 「・・・気持ちの問題」
 「気持ちですか?」
 「技名を叫ぶと言うのは弱点を晒す。確かにデメリットだ。されど叫ぶ事で気合を入れる。自分自身で行なう技を認識するなど戦う者としては重要だと思う」
 
 皆が納得してくれたのか何度か頷いてくれた。よくこんな思い付きを信じてくれたな。俺は叫ばないけどな!!恥ずかしいし注目されるしね。

 「アルカード様も叫ばれてましたね。『牙突』って」

 ああ~。練習中に叫んで使ったっけ。あの後マインの片腕がミンチになって治すの大変だったな。あの時は回復アイテムを無駄に持ってて良かった。本当に…

 「それで鬼リーダーも『超技! 暗黒刃超弩級衝撃波』ってあの時叫んだのか」
 「!!ええ、そうよ///」

 ちょっと待て!それ絶対あれだろ!?中二病患者決定してるだろ!!この世界にも居たんだな。
 照れたラキュースは咳払いをしてマインに向き直る。

 「マイン君。私達の仲間になる気はない?」
 「え?」
 「蒼の薔薇は女性のみのチームだけど貴方なら…ねぇティナ?」
 「問題ない。実力ともに足を引っ張ることも無いだろうし」
 「…ありがたいお話だと思いますがお断りさせていただきます。ボクはアルカード様の弟子ですから
 「そう。残念ね」
 「そろそろ本題に入ってもいいかしら」

 ラナーがそう言うと部屋の空気ががらりと変わった。これからが真剣な話なのだろう。

 「伯爵はこの国に巣くっている『八本指』をご存知でしょうか?」
 「『八本指』…いえ知りませんが」
 「『八本指』と言うのは王国を影から操っている連中の事です」
 「私達『蒼の薔薇』はラナーの依頼でそいつ等の資金源となっている麻薬栽培を行なっている村を潰そうと思っている」
 「それで私に何をさせたいのですか?」
 「この作戦には伯爵にも参加して頂きたいのです。クライムが貴方なら絶対手を貸していただけると言って聞かないもので」

 麻薬か…この世界でもあるんだ。確かに大問題だ。人間は苦しみに耐えれなかったり。ちょっとした事で新たな刺激を求めたりする。その結果麻薬に手を出した者も居るだろう。
 理解して微笑みながら彼女の、ラナー姫殿下のお言葉を待つ。

 「協力して頂ければ六大貴族。もしくは国王派閥好きな方のパイプを約束します」
 「それは結構。この件に関して私は報酬を求めません。我がヘルシングのお力をお貸しいたします」
 「…そうですか。伯爵、感謝致します」
 「と言ってもここ王都にはヘルシングの店は現在鍛冶屋しかないので手持ちには身の回りをする者が20名と戦力としてはマインを含め3人…いえ、私を含めれば4人と言ったところですかね」
 「伯爵自ら!?」
 「ええ。作戦は何時ごろ?」
 「今日の深夜にでも」
 「今日ですか?それは困った。夜にはガゼフ戦士長と約束があったのですが…」
 「ボク達にお任せくださいアルカード様!見事任務を完遂してご覧に入れます!!」
 
 話が決まった所でやっと屋敷に帰れると思ったぼっちにティナが『ラキュースの事で頼みたい事がある。ガガーランと言う私の仲間に詳しく聞いてくれ』と頼まれたのでここには居ない『蒼の薔薇』に事情を説明すべく向かうクライムと共に向かう。
 その姿を部屋の窓から眺めるラナーはラキュースやティナに見えないように表情を歪めた。
 アルカード・ブラウニー伯爵。前会った時は寡黙な殿方ぐらいの印象しかなかったが今は違う。私が王女と分かっていてあの五宝物に匹敵する品を渡してきた事が分かった時から警戒している。それに道の話をした際に少し聞いただけでアレだけの資金提供してきた。理解力が凄いのか己の財力を周りに示したのか…もしくはその両方。
 今回の話は確かにクライムの推薦を受けたが伯爵を試すいい機会だと思った。これまでの情報を整理して伯爵は王国で力をつけようとしている事は明らかである。でなければ王女だからと言ってあの刀を渡す事と貴族に自分の財力を見せ付ける理由がない。だから私は六大貴族か王国派閥のパイプを約束したのだ。もし断られても何かしらの報酬を言ってくる。これで何を狙っているのか分かる。筈だった。
 『それは結構。この件に関して私は報酬を求めません。我がヘルシングのお力をお貸しいたします』
 にこやかに微笑みながらそう答えたのだ。まるで本当に野心も無いように…商人である以上利益に敏感な筈なのだ。
 分からない。いったい何を考えているのか分からない。
 ラキュースに呼ばれるまでラナーは見続けた。



 「・・・」
 白い面を被ったぼっちは胃が痛むのを必死に堪えていた。
 え?ぼっち何かした?ラナーちゃんまだ窓から見つめてきてるんだけど…
  



『八本指』との戦いにぼっち&ヘルシング組参戦決定
ちなみに前回のでザーバも確定?

今思ったけどセバスが拾った彼女が生かされた理由って亡くなったニニャの日記を見て情報を得たからって理由でしたよね。ニニャ生存&日記見てない=彼女の命やばくない?


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第053話 「蒼の薔薇の心配事」

連続ぼっち回。セバス何処に…


 「よう童貞」

 『蒼の薔薇』の面々に会う為に彼女らが滞在している宿屋に一歩足を踏み入れるとそんな声をかけられた。脳内で『なぜ分かったし!?』と叫ぶと同時に隣で肩を竦めるクライムが視界に入った為に自分ではなくクライムに言った事を理解した。
 初対面の相手に童貞など言う人ってまず居ないだろうな。なに焦ってんだか。
 『童貞ぼうやか』
 居たな。初対面だったかは忘れたが会って2、3日もしない間に言ってきた女性が。
 さっき声をかけて来たのが『蒼の薔薇』一行だったのだろう。クライムに続いてマイン、ぼっちと歩いていっていたのだが途中別の冒険者にぶつかってしまった。

 「すまな…」
 「いてえじゃねえか、おい!」

 謝罪を言い終わる前に絡んできた。高そうな宿屋だが客の中には彼のようなケンカっぱやいのも居るのだな。もしくは貴族だからか?

 「どうしてくれんだお貴族様よぉ?」

 後者だった。ここで撫で斬りにするわけにいかないし、って!気付いたマインが今にも切りかかりそうなんですが!?

 「聞いてんのか!?」

 そこで腰にあったナイフをチラつかせた。

 「これで良いかね?」

 懐から出した金貨を親指の上に乗せ男に見せる。欲満開の笑顔で受け取ろうとした瞬間に親指で金貨を空中へと弾く。その場に居た全員の視線が金貨に集まった。
 相手の腰のナイフに手を伸ばし抜き取ると同時にベルトを切り裂き、服のボタンの一つ一つの紐を切って行く。そして見る事無く左手で落ちてきた金貨をキャッチした。この間俺の動きについて来れた者は居ない。むしろ目の前の男も気付いてない。

 「それともこのナイフが良いかね?」
 「あん?あ、それ俺のナイフじゃねえか!何時の間に…なっ!!」

 目の前に差し出されているナイフを見て引っ手繰るように取ろうとした瞬間に彼のボタンはすべて外れ、ベルトが切断された為にズボンが足首まで降りてった。意味を理解した男は顔を真っ青にした。

 「どちらが良いかね?」
 「……ナイフで…」

 男はナイフを受け取るとズボンを片手で上げつつ飛び出していった。ため息を付きつつ席に向かうと

 「やるじゃねえか」
 「驚いた…」
 
 と賞賛の声をかけられた。すかさずクライムが彼女達が『蒼の薔薇』だという事を教えてくれる。

 「始めまして。私はアルカード・ブラウニーと申します。この度爵位を受けたとは言えただの商人。気軽にアルカードとお呼びください」
 「おう。よろしくなアルカードのおっさん。俺はガガーラン」
 「…お前は本当に脳筋だな。許可を得たからと言って…」
 「いや。それくらい気楽なほうが良い」
 「そう言ってもらえると助かる。私はイビルアイだ」
 「ティア…」
 「あ、ボクはアルカード様の弟子のマイン・チェルシーと申します」

 それぞれ自己紹介を済ませて席につくとスキルを発動して調べる。
 ティナと同じ服装をしており違いと言えば赤が青になっている。

 「…!?…いい匂いがした?」

 何の話だ?マインが隣に座った瞬間何か言ったような?
 で、マインとは反対側のティアの横に座っているガガーラン。筋肉隆々でまさに漢といった感じの女性。……女性?
 『嘘だ!!』
 『うそさ~!!』
 先に言うなし!!しかも二人分。本当に女性なの!?マインと別の意味でビックリした。けれども二人ともレベル的にこの世界で言う英雄級に近いじゃん。
 そして最後の相手を見た瞬間止まった。
 同じように面を被った漆黒のローブで身を纏っている少女。イビルアイ。…本名はキーノ・ファスリス・インベルン。レベルは50台でエントマより上で年齢250歳…そして吸血鬼。この世界の吸血鬼…気になる。
 『わたし気になります!』
 それはもういいよ。とりあえず話を進めなければとティナより頼まれた事をガガーランに話した。少しの間、難しい顔をして俺を見つめた。

 「クライム、こいつは信用できるか?」
 「ええ、勿論です。ラナー様が例の件を話されるぐらいです」
 「!!そうかい。ならまぁ…」

 中々に重い話なのだろう。信用が出来なければ出来ない話。少し覚悟を決める。

 「これはご内密にお願いする」
 「約束します。で、内容は」
 「リーダーの話なんだがな。おかしいんだ」
 「おかしいと言うのは何かご病気で?」
 「いや病気じゃないと思う。前に『お前が油断したら、暗黒の根源たる闇の私が肉体を支配し、魔剣の力を解放してやる』とか呟いてたのを盗み聞きしてさ」
 「なんだそれは。初耳だぞ」
 「なんで言ってくれなかったの?」
 「いや、だって本人に聞いたら顔を真っ赤にして『心配しないで』なんて言ったんだぞ」
 「何かに操られそうになっているとしても信仰系であることから恥かしがっているのか…」
 「他にも右手を押さえながら『パワーを全力で抑えるのは私のような神に仕えし女性でないと』とか」
 「・・・」
 「原因は分からないんですか?」
 「多分あの四大暗黒剣の魔剣キリネイラムが関係してるんじゃないかと思う。確かあれを手に入れてからだっただろ。あのリングをつけたのって」
 「何の意味もないアーマーリングだと思っていたが何らかの封印系の物なのか」
 「…!ラナー様が危ない」

 話を聞いていたクライムが己が主人に危険が迫ってると判断して立ち上がる。が、ガガーランの力強い手に止められる。

 「安心しなって。あのラキュースが本当に危ないんだったら俺達に何か言ってくるだろう?」
 「それは…そうですが…」
 「それでだ。五宝物を持っていたぐらいなんだ。ラキュースを助けるアイテムか何か持ってないか?」
 「!!私からも頼む。言ってくれれば出来る限りのお礼を約束しよう」
 
 『ん?今何でもするって言ったよね?』
 はいはい。言ってないから黙ってようね。
 必死に懇願してくる『蒼の薔薇』のメンバー達に期待を眼差しに宿してこちらを見つめるクライム君とマインに対して俺はどうして良いか分からないんだが、
 それってどう考えても中二病だよね。会った時に気付いたけどさ。そっかこっちの世界で発症したらこうなるのか。でもこれって馬鹿と恋愛と同じでつける薬なくね?手段はあるけど…モモンガさんに洗脳魔法で中二病を無くすとか。でもこんな事で頼みたくないしな…

 「分かった。アイテムを用意しよう」
 「本当か!?」
 「ええ。お代は…一つ借し…と言う事でどうでしょう」
 「ありがたい。なんと礼を言っていいのやら」
 「そんなに畏まらないでください。キー…イビルアイさん」
 
 あっぶね!本名で呼ぶ所だった。っともうこんな時間だ。約束に遅れてしまう。
 『紳士は時間に正確でなくてはな』
 まったく持ってその通りだ。って今回幻聴が絶好調だな。どした?

 「では私はこれで失礼。例の話はマインに任せる」
 「了解しました」

 立ち上がり扉に向かって歩き出した俺は憂鬱だった。もう予定ばっかで疲れる…



 イビルアイは宿屋から出て行くアルカードを睨んでいた。
 先ほど奴は『き』と何か言いかけたのだ。何を言いかけた?思い当たる節があった。
 『吸血鬼』。私は仲間にも伏せているが吸血鬼だ。何かの魔法で分かったのか?いや、こちらも対策をしている気付かれるはずが…
 まさか!?本名…私を知っている奴なのか?それとも…
 


 何で今日は建物から出ると睨まれるの?まあ良いや。
 ぼっちはメッセージを繋げる。本来ならセバスに頼む所なのだがセバスは王都に居るからユリに頼む事にする。

 『いかがなさいましたかぼっち様』
 「少し作って欲しいものがある」
 『材質は最高のものをご用意…』
 「いや…この世界の者に渡すのだ」
 『この世界?マイン様にですか?』 
 「いいや、今日あった冒険者だ」
 『そのような者に…』
 「友好関係を築いておきたいのでな」
 『そうですか…』
 「材質は…モモンさんのプレートは…アダマンタイトだったか」
 『その通りでございます』
 「だったらそれで。形は…」

 ぼっちは周りに気付かれないようにユリとメッセージをやりあう。



ラナー&イビルアイ「何者なんだ?」

ラキュース 「(中二病)仲間にしよう」
ティナ   「(ショタ?だから)仲間にしよう」
ティア   「(女の子?だから)仲間にしよう」

なんでこんなにも差が出たし…
次回ブレインさん出るよ!


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第054話 「ガゼフとブレインとぼっち」

ブレイン二度目の登場回ですよ!!
一度目は何処って?

『しかし結果は散々だった…武技を使える者を見つけたが他の雑魚と遊んでいる隙に逃げられ』・・・「二人の吸血鬼のお仕事」より

ここですよ。姿すら描かれてないが…


 迷う事無くガゼフ戦士長の家に辿り着いたぼっちは軽くドアをノックした。
 中から誰か出てくるまで建物を見渡してみたがそれほど豪華でも大きい訳でもない建物。本当に王国戦士長が住んでいるのか疑うような一軒家だった。
 ドアが開き一人の老人が顔を覗かせた。 

 「どちらさまですかな?」
 「私はアルカード・ブラウニーと申す者です。ガゼフ戦士長と約束したのですが…」
 「承っております。どうぞ中へ」

 老人に促されるまま中へ入っていく。外もだが中も質素で家具が少ない。と言うか必要最低限の物しかない。奥のリビングでガゼフ・ストロノーフが待っていた。

 「おお!ブラウニー殿」
 「今日はお招き頂きありがとうございます。ストロノーフ殿」
 「いや、よく来られた。カルネ村以来ですな」
 「ええ…そちらの方は?」
 「ん?ああ、ブレイン・アングラウスと言って私とやりあえる実力者です」
 「…どうも」

 癖のある青い髪に生気が抜けたような目。ぼっちは何処かで会ったような気がする。それは向こうも一緒なのだろう。一瞬同じように悩んだ素振りを見せたが次には手に持っていた酒を飲み干していた。
 実はぼっちとブレインは一度顔を合わせた事があるのだ。己の剣に自信を持ち、修行の一環として野盗に組していた時だ。シャルティアの任務で武技使用者の捕縛を見学していた際、対象である野盗の巣である洞窟よりプライドを完膚なきまでに砕かれ悲鳴を上げながら走り去っていくブレインを目撃していたのだ。だが、当の本人達はそんな事忘れてしまっているわけだが…

 「これを」
 「これは…結構な上物じゃないか。そこまで気を使ってくれなくて良かったのに」

 酒を持っていこうと思ったときぼっちは気付いた。銘柄が分からない。こちらの酒はどのような物が好まれているのかまったく知らないのであった。ゆえに取り合えず一番高い酒を選んだのだが正解だったようだ。
 酒を三つのグラスに注ぎ、三人で乾杯する。ブレインはロックでチビチビと、ガゼフは水割りでぐいっと呷る、ぼっちはストレートで少量ずつ喉に流し込む。

 「あんたはストロノーフの知り合いなんだよな?」

 酒を飲んだ三人の中で一番に口を開いたのはブレインだった。

 「ええ。あ!名乗り忘れてましたね。私はアルカード・ブラウニーと申します」
 「ああ…俺はブレイン・アングラウスだ。っと、さっきストロノーフが教えてたっけ」
 「ブラウニー殿は以前、私を救ってくれたことがあるんだ」
 「何?」

 どうもその話に興味がそそられたのか、カルネ村の話へと変わる。そして…
 ぼっちが人の家でぼっちにされている件について。
 てかお客様を放置して二人で話されても困るんだが。まぁぼっちにはなれているからいいんだけどね。そう言えば最近カルネ村に行ってないな。今度マインと共にいってみるか。

 「ハッ」

 話を聞いていなかったのだがいきなりこちらを見て鼻で笑われたのが一番の謎だ。何の話?

 「俺達の強さなんてゴミだ…あの化け物の前では特にな…そんな強さを誇っていたなんてな」

 ごめん。マジで何の話?聞いていなかったけど重い話してたの?カルネ村の話からどうやって…カルネ村の話も十分重いか。
 力なく言葉を吐き出したブレインの肩をポンポンと心配そうにガゼフが叩く。

 「もし良ければ話を聞かせてくれまいか?」
 「ああ…いいぜ」

 ブレインが語った話はこうだった。
 剣の修行の為に野盗の仲間になった。ある日二人のヴァンパイヤが現れた。その内の一体には勝てそうだったらしいがもう一体に小指一本で自分の編み出した必殺の武技が破られたとか…
 野盗…ヴァンパイヤ…武技…何か思い出しそうなんだけど…

 「俺でも負けていただろうな」
 「必ずな…」
 「一応名前を教えてもらえないか?」
 「聞いても何も出来んと思うぞ」
 「嵐が来る前に何かしら対策をしておく必要はあるだろう」
 「そうか。そうだな。名は『ブラッドフォールン』。『シャルティア・ブラッドフォールン』だ」
 
 驚きのあまりに酒を噴出しそうになった。それと同時に思い出した。
 あー…居たね。何か涙を流し叫び声を上げつつ爆走してた男が。シズと一緒に首を傾げながら見てたっけ。それにしても小指一本ってなめぷして逃がしちゃったかシャルティア。どんな相手にも本気で挑まないと…
 『グラスプ・ハート!』
 ………いや、少しは手加減しても良いかな。あんな初心者狩りみたいなことも合ったし。何にしても彼のプライドはボロボロだね。

 「さっきは鼻で笑って悪かったな。でもあんたの力もそんなもんだ。無意味だよ…」
 「?・・・それが何か?」
 「何かってあんたさっきの話聞いてなかったのか?」
 「いや、聞いていたのだが何故そんな話になったんだ?」

 驚きの表情でブレインは見つめ、ガゼフは真面目な顔をして聞く体勢をとっていた。

 「私は私より強い奴は知っている。負けたことがある。それでも私…いや、俺は彼と肩を並べたい。あの領域に少しでも近づきたい。あの俺を魅了して止まないあの世界へ。そこへ進む為の努力を、道のりを、すべてを無駄だとは思わない」
 「それでも!どんなに憧れようとも、どんなに欲しても人間じゃああの領域には絶対踏み込めない!!それが俺達の限界なんだ!!」
 「誰がそんな限界を決めた?」
 「誰って…」
 「限界はあるものではなく、自分で決めるものでござ…ものだ」
 「自分で決める…」
 「そうだ超えるんだ。今が未熟ならそれを乗り越えて前へ進めばいい。後ろ向きな自分に決着をつけて少しでも前へ」
 「………」
 「その通りだな。私はブラウニー殿の意見に同意だ」
 
 大きく頷いてくれるガゼフは良いとしてブレインは納得したような納得してないような微妙な表情をしている。

 「確かにその通りだと思う…だけどもう少しこのままで居させてくれ…決着をつける為に…もう少し」
 「ああ!今は待とう。いくらでもと言う訳には行かないがな」
 「ブレイン」
 「ん?」
 「ブレインでいい」
 「分かったブレイン。なら私もガゼフでいい」
 「よし。今日は存分に飲むか!」

 先ほどの暗い表情ではなく少しでも笑えるようになった彼はいずれと言わずすぐにでも立ち上がることが出来るだろう。だが、それは俺の役目じゃない。
 彼らを眺めつつ酒を煽る。するとメッセージが届く。

 「すまないがお手洗いは何処かな?」
 「お手洗いは…」

 場所を聞いたぼっちは移動して誰も聞き耳を立ててない事調べメッセージを繋げる。

 「・・・どうしたザーバ」



 
 アルカードが席を立って二人になった。

 「変わった人だな…あのブラウニー殿ってのは」
 「確かに変わった雰囲気を纏った御仁だ」
 「いや…俺が言いたかったのはあの仮面だ」
 「仮面?ああ、その事か」
 「どんな顔なんだろうな?お怪我をしてるとか不細工だったり…」
 「そんな事はなかったぞ。威厳を持った優しげな顔立ちだった」
 「見たことあるのか?」
 「王の御前でな」
 「ちょっと待て。王の御前?何かあったのか?試合とか」
 「ブレインは知らなかったのか?昨日爵位を得たのだ」
 「爵位!ってことは貴族なのかアレが!?」
 「アレとは失礼だぞ」
 「どうみても貴族には見えなかったがな…服装は別として」
 「元々は商人だったらしいが五宝物に匹敵する刀を姫に献上した事で伯爵の地位が与えられたんだ」
 「五宝物…そりゃすげーな」

 酒を含みながら考える。そんな刀を献上するぐらいなのだから他にもっと凄い刀とか持っているのだろうか…
 そんな考えを払い、戻ってきたアルカードと再び酒を飲む。今アルカードの腰に差している刀がそれだと知らずに…



 ぼっちは飲み会を終え、深夜の街を一人歩いていた。
 
 「・・・モミ」
 『聞こえてるよ』
 「シャルティアの名が知られている・・・」
 『ふーん…』 
 「・・・お前ならどうする?」
 『んー…あ、ニヒヒ』
 
 シャルティアの事を知られて不安になり理を考えるモミに連絡したのだが何か余計に不安になってきたのは気のせい…だよな?

 「モミ・・・」
 『放っておけば良いと思うよ。良いアイデアも浮かんだしね。この事はアインズ様にも報告しておくね』
 「・・・頼む」

 メッセージを終了するのと同時に大きな息を吐いた。
 今日は予定の多い日だった。疲れたヲー!!そして明日もさっそく予定が…
 二度目のため息を吐く
 帰ったらすぐに寝よう。
 ぼっちは屋敷へと向かうのであった。



 ぼっち連続回いったん終了!
 次回はヘルシングと蒼の薔薇との共同戦線!しかし皆の様子が…
 
 次回「共闘」お楽しみに


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第055話 「共闘」

 マインはティア・ティナと共にある村を離れた草むらより観察していた。
 すでに日は落ちて時刻は二時頃であろうか。人影はなく無数の花畑が風で揺らいでいるぐらいしか動く物は見えない。
 マインは『マスタング』と名付けられたチームに居る。別にチーム名はいらなかったのだがアルカード様が教えてくれた中で集団が別々に行動する時はチームごとに名を決めて指示したら良いといわれた事があったのだ。確かに地図で配置や行動の指示をする際、名前を挙げていくより楽だった気がする。
 一番最初にその事に賛成したのはラキュースさんだった。凄く目が輝いていたような気がする。それも魔剣の影響か何かなのだろうか?
 ちなみにボクがいる『マスタング』以外には『スカル』に『グランナイツ』が名付けられた。各隊長にはニグンさんから通信用護符が渡されている。一回話が終了するごとに消滅し、効果範囲が狭いらしいがこの作戦では支障はないとのことである。
 大事な作戦前の現状で問題が発生していた。 

 「…あの」
 「どうした?」
 「何かあった?」
 「お二人とも近すぎません?」
 「そんな事はない」
 「問題ない」
 
 首筋に左右から吐息がかかるほど接近されているのである。これは隠れる為に寄っているとかでなく何故か寄られているのである。
 問題と言うのはこの事ではない。いや、この事も十分問題なのだがそれ以上に厄介なのは『マスタング』以外であった。
 一時間前
 マインは蒼の薔薇面々をニグンとクレマンティーヌ…ルーク(ニグンの偽名)とピトー(クレマンティーヌの偽名)と共に集合場所で待っていた。

 「で、いっぱい殺していいんだよね」
 「貴様は何時まで…」
 「いいじゃない。それも任務の内でしょう?逆に残した方が厄介よ」
 「なら積極的に殺した方が良いのでしょうか」
 「マイン殿はあの馬鹿に惑わされないで下さい。第一任務は麻薬の元を断つことです」
 「あ!そうでした。ルークさんすみません」
 「むー…もうちょっとで楽しいことになったのに」

 むくれるピトーさんを眺めつつ装備を確認する。刀はこの前鍛え直して貰ったばかりで何の問題もない。他のアイテムも良いだろう。後は蒼の薔薇の皆さんを待つのみ。
 すると暗闇の中からラキュースさんを先頭に蒼の薔薇が現れた。

 「あ、来ました!!待ってましたよ」
 「ええ。ちょっと準備で遅れて…」

 そこでラキュースは石造の如く動きを止めた。表情は何か信じれないものでも見たかのようだった。視線の先に何があるのだろうと振り返るとそこには同じような表情をしたルークさんが居た。

 「あの時の!?」
 「貴様は!?」

 二人は咄嗟に己の武器に手を伸ばす。それにいち早く気付いたマインは振り上げられた札にナイフを投げつけ、鞘から抜かれる前の剣の鞘を抜かせないようにもう片手で押し止める。

 「ちょっと待って!!どうしたんですかいきなり!!」

 慌てふためいてるのは一人だけで悠々と眺めているピトーを除く皆が殺気立っていた。

 「確かあん時は法国の部隊率いてたよな?」
 「法国?ルークさんってスレイン法国出身だったんですね」
 「そーいやマイン君は知らなかったっけ」
 「それだけじゃない。モンスターだからってかなりの数を虐殺してたわ」
 「昔はそれが主な任務だったからな」
 「ブラウニー伯爵の部下に居るって事は伯爵も法国と繋がっているのかしら」

 お互いに殺気だって睨み合っているが怒鳴り声は上げていなかった。が先の言葉を耳にしたルークが声を荒げた。

 「あの御方を!!あのような連中と一緒にするな!!アルカード様は私を止め、改めさせ、救いの手を差し伸べてくれた御方…その御方をあのような者共と繋がっているなどと言う妄言を撤回してもらおうか!!拒否は認めない!!」
 
 あまりの迫力にティナとティアが一歩下がる。が、ラキュースやガガーランは下がるどころか今にも斬りかかりそうだった。

 「伯爵が繋がっているにしろいないにしろ貴方と共同作戦なんて…」
 「後ろからやられても洒落になんねえしな」
 「だったら!!」

 札を全部地面に置き、その場に腰を下ろしたルークはラキュースの目を見つめて顔を向けた。

 「だったら私をこの場で斬ればいい。我が主に私が居る事であらぬ疑いがかけられるぐらいならこの命捨てる覚悟」
 「あなた…本気?」
 「主の与えてくださった任務に参加できないのは心残りではあるがな」
 「そう」
 
 押し止めようとしていたマインの手をゆっくりと除け、剣を鞘から放った。
 もう止めようとは思わなかった。構えたまま数秒が経つ。それが長く、長く感じる。
 見つめていた目を閉じ、姿勢を正したルークの首元に剣が振り下ろされた。皆が見守る中で剣は首筋ギリギリで止められる。
 微かにも動かないのを確認したラキュースは剣を鞘に収めた。

 「良いのか?」
 「ええ。とりあえずはね」
 「そうか…」
 「さっきの伯爵が法国と繋がってないってのは信じてあげる。貴方を信じたんじゃないから。あの伯爵にそんな感じがしないから」
 
 そんな事があって作戦内容の確認や配置、役割決めなどを行なっていた。何より『スカル』チームはラキュースさんとルークさんだけなのである。不安だ…



 『グランナイツ』
 村の出入り口付近を監視できる草むらにガガーラン、イビルアイ、ピトーが待機していた。

 「…」
 「なぁにかな?さっきからじろじろと」
 
 ニヤニヤ笑っているピトーをイビルアイはずっと監視していたのである。警戒ではなく監視である。イビルアイは先ほどのルークの部隊と蒼の薔薇が戦った事を思い出す。奴もそれなりに強かったが目の前に居るこのピトーの方が確実に上であると判断している。少なくともアダマンタイト級であると。その事はガガーランも感じており監視はしてないがいつでも戦えるように警戒はしている。

 「別に…」
 「そう?んふふ♪ねぇ、何人やれるか競争しない?」
 「ハッ!あのおっさんもとんだ狂犬を飼ってるもんだな」
 「んふふ~。確かに私は狂犬の部類に入るけどあの人の前では忠犬よ。あの人に殺されたくないしね」
 「やっぱ強えのか?」
 「この面子で行っても勝てないと思うよ」
 「…」

 へらへら笑いながらアダマンタイト級冒険者チームを相手に出来るなど冗談だろう。冗談のように聞こえるがイビルアイはその言葉を信じた。あの伯爵は只者じゃない事は分かっている。ゆえに信じて警戒レベルを引き上げた。

 「さぁて、そろそろ仕事だな」
 「…ああ」
 「~♪」

 三人はゆっくりと獲物を確認した。



 「…」
 「…」

 麻薬の元である花畑に一番近い『スカル』チームは他のチームと違い沈黙に包まれていた。
 このチーム分けは三つの仕事を行う為に振り分けたのだ。『スカル』は麻薬の元を断ち、『グランナイツ』は護衛や傭兵などの排除を行い、『マスタング』は『八本指』に関わる資料を廃棄・持ち出す前に奪う事。
 人数は3・3・2と別れる。麻薬処理にルークが選ばれた時、ラキュース自らペアを名乗りだしたのだ。
 
 「…その傷」

 短いながらも長く感じた沈黙を破ったのはラキュースだった。

 「その傷はあの時のか」
 「ああ…貴様に付けられた傷だ」

 忌々しそうに呟きながら頬の古傷を指でなぞる。

 「消そうと思えば消せたでしょう。なのに残した…何故?」
 「貴様に敗北した戒めの為に残した。が、今では過去を忘れないように残している」

 その言葉を聞くと一度頷き再び沈黙が支配する。
 開始時間が来るときまで…



 『こちらスカルリーダーより各員へ』

 時刻になったと同時に水晶から声が聞こえた。いがみ合っていた時とは違い、生き生きしているのが声から分かるのだが…何故なのかは分からない。

 『行動を開始せよ』
 「マスタング0-0、了解」

 花畑の方から大きな火柱が起こった。3メートルを超える火の巨人『イフリート』が次々と麻薬の元となる花を根元から焼き払っていく。
 慌てふためいて飛び出した何人が必死に水をかけて『イフリート』を消そうとするが一瞬にして斬り殺された。そこに立つのは腰まで届く白い髪を取り付けられた般若の面をかぶるラキュースさんだ。
 深夜で真っ暗の上、殲滅戦を行なうつもりだが万が一と言う事がある。せめて顔だけは隠そうと皆がヘルシングから持って来た面をつけている。
 ニグンさんは草むらから出てくる事はしないので何もつけていない。ボクはゴム製のマスクをつけている。特徴としては左目が隠れてない事と口元に歯むき出しの絵が描かれて、ジッパーで口が開くのだ。別に開く予定はないが…
 ティア・ティナは目の辺りを『不忍』と書かれた白い面を、ピトーさんは三日月状の目と口を描かれた笑っている白い面、イビルアイさんはピトーさんの面を無表情にして右目の青い雷マークが被っている。ガガーランさんは…桃色の兎の仮面である。
 そんな可愛らしい兎さんの仮面をつけたガガーランさんが4,5人を一撃で吹き飛ばす。
 すでに『スカル』『グランナイツ』と作戦を実施しているのだ。『マスタング』も目当ての物を見つけに走り出す。

 「我は白夜叉!だれぞ我を楽しませれるものは居らぬのか?」

 怯えている警備の者に叫んでいるラキュースさんを見る。
 先ほど書いた様に皆は仮面を着けている。逆に仮面以外に身元を隠すものを着けているのは一人である。黒い忍び装束に真っ赤なスカーフ、赤く刺々しい篭手を装着している。今叫んでいるラキュースさんの装備である。
 今も何かと戦っているんだと思うと心配になる。まるで別人のようなラキュースさんを見てティアとテイナも表情を曇らす、おかげで三人共対応が遅れてしまった。
 視線を前に戻すと弓矢を構える村人達が視界に入った。ここからでは走っても間に合わない。剣で弾く事も出来るがそれは自分だけが助かるだけで後ろにいる二人を守り切れるものではない。

 「武技―」

 呟くと足を止めて出来る限り素早く出鱈目に刀を振り回し鞘に収めた。村人が弓を放つと同時に気付いたティア・ティナが回避行動を行なう。が、矢は二人のもとまで届く事はなかった。

 「乱華(ランカ)!!」

 再び鞘から刀を全力で振り抜くと抜いた先に無数の斬撃が現れて大きな華を咲かせた。その華に触れた矢が一瞬にて粉々になる。
 驚く隙もなく、左右から挟み撃ちにされた村人たちは地に伏した。三人は目を合わせると一度頷き先に進む。
 ここでは資料をいくらか手に入れることが出来た。その後、予定されていた村を襲撃し続けた。
 蒼の薔薇はルークさんの事を秘密にしてくれた。もちろんラナー王女にも黙ってくれる事になった。とてもありがたかった。
 夜が明けた頃には全員無傷で王都で休んでいた。
 ちなみに「衣装を手放さなければならないのか?」ととてもラキュースさんが残念そうにしていたのも皆の秘密だ。


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第056話 「老執事と強さを求める二人」

 はい!来ましたセバス回!王都二回目の登場ですよ!
 最近セバス回を書くのが楽しい。


 セバスは主の命令ではなく個人の理由で行動していた。
 午前中に助けた少女、ツアレが働かされていた店の代表を名乗るサキュロントと巡回使のスタッファンと名乗るものが屋敷に来たのだ。内容はツアレを連れ去った事で発生したと言う法令違反の件だと言うが彼らは別の目的を持っていた。出来るだけお金を搾り取ろうとしているのと、あわよくば主人となっているソリュシャンを欲しているのが容易く分かったというか隠す気もなかったようだが…
 兎も角、自ら招いた問題に主を煩わせる訳には行かないと目標である店へと昼の大通りを歩いているのだ。 
 大通りを歩いていると少し血の気の多い若者達が一人子供をいたぶっていた。放って置いても良いのでしょうがどうしてもそうは出来ない。この感情は間違っているのでしょうね。ナザリックの者以外にこんな感情を持つ事自体が…
 見てみぬ振りをする者達とは違い輪の中に入る。

 「あ?んだジジイ。向こう行ってろ」
 「もうその辺でよろしいのではありませんか?」
 「何だと」
 「この子供が何をしたか知りませんが少々やりすぎではありませんか」
 「引っ込んでろジジイ!!」

 一人が殴りかかって来た。これがやまいこ様だったらと思うとぞっとするだろうがあまりに遅く、単調すぎる動きだった。体の位置を少しずらすだけで男の拳は目標を失って空をきる。同時に足を一歩出すだけで躓き地面に顔面衝突した。
 倒れた男には目もくれず残りの者に視線を向ける。先ほどまで敵意をむき出しだった彼らはセバスの覇気に当てられ今は小鹿のように震えている。

 「そちらの方々はどうするのですか?」
 「え…いや…俺らは…」

 どうしようかしどろもどろになるが地面に衝突した男は違った。完全に頭に血が上っており腰よりナイフを抜き出し襲い掛かってきた。またも遅すぎる動きで。
 ナイフを突き出してくる前に拳の射程内に入った瞬間に顎を打ち抜いた。白目を向いて力なく男は地面に再び突っ伏した。周りの人間には立ったのと同時に崩れ落ちたようにしか見えないだろう。しかし残りの青年たちは気付いたのだろう。青色から土色まで顔色が変化していた。慌ててその場から逃げ出そうとする。
 
 「待ちなさい」

 静かに、そして重く告げた言葉に逃げ出そうとした青年たちを立ち止まらせるには十分すぎた。震えながら振り向いた彼らに気絶した男を指差して次の言葉を言った。

 「置いて行かれるのですか?」

 意味を理解した青年たちは気絶した仲間を抱えて慌てて去って行った。その後は少年を気遣い、近くに居た兵士に後を任せてその場を去って行く。
 コツ、コツ、コツと規則正しい足音を鳴らし、暗い路地裏へと向かって歩いている。本当なら大通りを歩いて行こうと思ったのだが何やらつけられている。一人は上手く隠れているようだがもう一人は隠れる気があるようだが気配も隠せてない。大通りの子供を助けに行ったら途中から辺りに人が集まった。その時から三人に見られていた。その内の二人が尾行しているのだろう。
 
 「すみません!」

 もう少し奥に行ってから何かしらアクションを取ってくると思ったのですが予想を外してしまいました。 

 「何か御用ですか?」

 振り向き声をかけてきた彼を観察する。髪を短く切り揃えた少年。服装の装備にチラッと見えたごつごつとした厚く、硬い手からして兵士だろう。

 「貴方は一体?」
 「わ、私はクライムというものでこの国の兵士です。先ほどは私達兵士が行なう仕事を代わりにして頂きありがとうございます」
 「いえ、私は私のしたいようにしただけですので…それでどんな御用でしょうか?」
 「はい。その…私を鍛えてもらえないでしょうか」
 
 突然の申し出に首を傾げる。

 「ふむ…何故私に?」
 「私は強くなりたいのです。先ほどの一撃を見ました。貴方は強い。それもとてつもなく…だから失礼と思いながらもお頼みします」

 この少年の瞳を見ているととても心が和む。真に真っ直ぐを見ており、己の強い意志や今までのあり方を表した目だ。そう思うほど良い目をしていた。とても好感が持てる。ゆえに気になった。

 「どうして貴方は力を欲するのですか?」

 力を欲するだけなら愚考と等しいと私は思う。力だけ求め、得たところで強大な力は単なる力でしかない。それをどう使う思いや意思の強さ両方がなければならないと考えるからだ。
 与えるだけなら簡単に出来る。ぼっち様がお持ちのような魔剣の類を渡す事。マーレ様に頼んで強化魔法を施してもらう事である。
 しかしこの少年が力だけを求める事を私は望んでいないのだ。だからどのような力を欲しているか見極めたい。

 「…私が男だからです」

 再び熱意を持った真っ直ぐな瞳が向けられる。
 頬が緩む。

 「良いでしょう。ではここで行ないましょう」
 「はい!ってここでですか!?」
 「ええ、。すぐに済みます。一歩も動かないで下さいね」
 「っ!?」

 拳を構えて少年に殺気を向ける。ついでに先ほどから覗いている者には別に殺気を送る。
 ゴクリと喉を鳴らし、冷や汗を掻き始めた少年は戦っているだろう。この殺気から来る恐怖と。
 本気とまでは行かないが放たれた拳が顔の横を通り過ぎ何本かの髪を散らした。

 「死の恐怖を乗り越えた感想は如何です?」
 「え?」

 汗ぐっしょりとなった少年は何のことか分からない様子だ。

 「貴方は己の意思で死の恐怖を乗り越えたのです。何度か繰り返せば大抵の恐怖を乗り越える事は可能でしょう。しかしなれないで下さいね。恐怖とは生存本能を高めるので…」
 「は、はい!」
 「では私はこれで…」
 「待ってくれ!!」
 
 隠れて様子を窺がっていた者が声をかけてきた。癖のある青い髪に多少手入れをしてないひげを見る所、少年と同じ兵士では無さそうだが中々の強さを持っている。この世界ではだが…

 「先ほどから窺がっていたのは知っておりましたが…貴方は?」
 「!!気付いていたのか…俺はブレイン。ブレイン・アングラウスだ」
 「もしかしてストロノーフ様と互角に渡り合ったというあのアングラウス様ですか!?」
 「ああ…君に訊きたいことがある。何故あの殺気に正面から耐えれたんだ?俺…失礼、私だって無理だ。それなのに何故?どうやって?」
 「最初は怖かったです。恐怖しました。けれど主人の事を想っていたら立っていられました」
 「主人?」
 「はい」 

 考える間もなく答えた言葉にアングラウスは驚いていた。

 「人とは何かを想う事で大きな力を得る事があります。そもそも個としての力などたかが知れています。彼は主を想う忠誠心で支えることで立っていられたのでしょう」
 「……そうか。とうの昔に捨てたものだな。今から何とかなるものですかね?」
 「なりますよ。何の才能もない私が出来たのです。アングラウス様ほどの人なら出来ますよ」
 「所でアングラウス様」
 「貴方ほどの人に敬称をつけられるほどの者じゃない。アングラウスでお願いします」
 「私はセバス・チャンと申します。セバスと呼んで頂ければ…それでアングラウス君。彼の稽古に付き合っては頂けませんか?」
 「アングラウス様に!?」
 「はい。二人にとって得る物は大きいと思います」
 「お…私としては構いませんけど」
 「私はこれから火急に片付けなければならない案件がありまして…」
 「ならば彼らに手伝ってもらえばどうですか?」

 二人が驚きつつ背後へと振り返ると牧師の格好をしたザーバが壁にもたれて薔薇を弄りながら微笑んでいた。相手を認識したクライムは少しだけ怪訝そうに表情を歪める。
 3つの視線で残っていた一つは彼だった事は分かっていた。彼の場合は隠す気も無かったようだが。

 「これから起こる事は少なくとも稽古にはなるでしょうから」

 私は彼が何を狙ってこのような事を言ったのか不安でしかなかった。
 
 

 セバスがクライムの稽古をつけている頃…コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
 ソリュシャンはドアを開けるか開けないかで悩んだ。今日は朝に人間が来てから執事役のセバス様が出かけているのだ。別に相手が人間ならば居留守を使っても良いのだ。むしろ演じている性格なら使ってもおかしくないだろう。しかし…
 ドアの前から気配がしないのだ。索敵系スキルや魔法を使った訳ではなくただの己に備わった感覚なのだが居ないのだ。誰も。いや、一人は感じた。ドアより少し下がった位置に居る。しかしその位置だと手が届く範囲ではない。ならば何かを投げつけた?それは無い。あの音は確かに手でノックした音だった。
 可能性としては私の感覚を持ってしても察知できない相手。人間でそんな相手が居るだろうか?
 ふとそんな考えをした時ある御方の事を思い出した。今この王都に居られる至高なる存在…
 慌てず恐る恐る扉に手をかける

 「どちら様で…」
 「・・・」

 扉の前にはぼっちが立っていた。その少し後ろにはマインが追従していた。
 心臓が飛び出るほど驚いた。まさか至高の御方が自ら出向いてくるなんて!?すぐに屋敷に入って頂こうかと思った瞬間、セバス様が拾ってきた物を思い出した。伝えるべきだろうか?それよりも至高の御方があのような物と一緒に居る事に不快感を覚えられたら?不味い…

 「・・・セバスは居るか?」

 思考中のソリュシャンは自分達の主人がセバスに用があったことを理解した。けれど本人は外出中。自分に話さなかったという事は今日の来訪をご存じなかったらしい。

 「現在セバス様は出掛けております」

 外に居る人間には見えない角度、聞こえない音量で答える。
 『出掛けております』…本当なら素直に出かけた理由を話したいところだがこれはセバス様の招いた事案であり、自らの主人の手を煩わせる訳にはいかない。『任務中であります』と嘘も付く訳にもいかず誤魔化す事にしたのだ。
 手を顎に押し当てて少し考えているぼっちに対して冷や汗を掻きそうになるのを必死に堪える。

 「そうか・・・すまないな」

 踵を返したぼっちは『・・・また来る』とだけ告げてマインと共に去って行く。深々と頭を下げて見送る。本来なら外に出てお見送りしなければならないのだが演じている性格からしてありえない。その事を理解して微笑み返してくれたのだろう。息をつきつつドアを閉めた。コツンと額を扉に当てて呟く。

 「…すべてばれていますわね」

 索敵で勝るものの無いぼっち様がアレの事に気付かないはずはない。それに『出掛けております』と言葉を選んで使った事にも…

 「やはりお話しするべきですかね」

 ソリュシャンはドアから離れて、仕舞っているメッセージ用の巻物を探し始めた。







 セバスの用事に原作通りクライム&ブレインが協力…そして皆様の不安要素の一つ『ザーバ』がかかわり始めた。どうなる!?というかどうしよう?

 次回『鍛冶屋』
 え?セバス?出ませんよ。次回はぼっち回です。そして久しぶりにあの四人が登場します。お楽しみに


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第057話 「鍛冶屋」

現在Web版読んでいるチェリオです。
なんでしょう。モモンがナーベだったりチーム名が違ったりといろいろありましたけどダインさんが『である』を使ってない事が今呼んだところで一番驚いた…


 「さっすが王都だな」
 「そればっかりですね」

 漆黒の剣の面々は王都に来ていた。
 特に目的と言う目的がある訳ではない。単なる気分転換を兼ねた旅行のようなものだ。

 「ペテルだってそう思うだろ」
 「まぁ、エ・ランテルと比べても大きくて歴史があるからな」
 「いやそうじゃなくて美人が多いって事だよ。ナーベちゃんほどの美人さんはさすがに居ないけどな」
 「ははは、そういうことですか」
 「ルクルットは何処に行っても変わらないのである」
 「それが良いところでもあるんですけどね」

 半ば苦笑いしつつルクルットの発言を聞く一同は見知ったマークを見つけた。刃を下に向けた黒い短刀。ヘルシングのマークが入った店だった。
 エ・ランテルでもそうだが質がよく、値段もそこそこの物から高級なものまで揃えて品揃えも良い為、ほとんどの冒険者が利用しているのである。

 「さすがアルカードさんですね。王都にまで店を出しているなんて」
 「食事処から武器屋まで何でもやってましたね」
 「さすがニニャの初恋の相手だな」
 「だから違いますって///」

 あれ以来この冗談で弄られることが多くなってしまった。恋をするとかそういう次元の相手ではないのだ。自分達の命の恩人で大商人。正直住んでる世界が違うのである。

 「あー…いろんな方面で仕事しているってことはもしかしてあの人ならニニャの姉さん見つけられんじゃね?」
 「!?」
 「ふーむ、あの御仁なら出来ると思うのである」
 「そんな!悪いですよ…」
 「あの人なら嫌な顔せず手伝ってくれそうだけどな?」

 アルカードとはあの一件が終わった後に一度だけ会えたのだ。何処からか怪我をしたことを聞きつけたらしく、見舞いに果物を頂いたのだ。その時に皆と話したのだ。あの時はルクルットが失礼な事を言わないか皆でひやひやしたものだ。

 「み、店に入りませんか?」
 「もしかしたら居るかもしんねぇしな?なぁニニャ(ニヤニヤ)」
 「だ~か~ら~///」
 
 皆に笑われつつ店に入っていった。



 ぼっちはマインを連れて昼の大通りを歩いていた。予定ではセバスに会いに行くはずだったのだが生憎の外出中。ならばと王都に出店した鍛冶屋の様子を見に行こうと予定を変更したのだ。見に行くだけでなく用事も出来たし…
 チラッとマインを見ると目が合ってしまい申し訳無さそうに俯く。
 先に言いたいんだけどぼっち怒ってないからね。俺悪くねぇだ!!
 マインが申し訳無さそうにしているのは今も抱えている刀にあった。蒼の薔薇との共闘にてマインが使用した武技『乱華』は一定の速さで振り回した斬撃を鞘に仕舞い、再び抜刀した際にすべてを解き放つ武技。肉体にダメージが無い為に何度も使える武技…とでもマインは思っていたのだろう。この武技には致命的な弱点がある。それは使用するごとに武器の耐久度が下がっていくのである。ティアとティナに見せてからガガーランやクレマンティーヌに見せて欲しいとせがまれているうちに耐久度を限界近くまで下げてしまい終わったときにはこの世界での名刀がなまくらへと変わっていたのだ。
 ちなみになまくらへと変わってしまった刀は前にぼっちが渡した刀ではない。渡した刀は汚したくないと言って無限の背負い袋に仕舞ってある。これもぼっちが他のギルドから失敬してきた物である。
 帰ってきた時は正直怖かった。朝方にしくしくとすすり泣く声で目が覚めたのだ。まだ日も昇っているかどうかの時間帯。何事かと焦った、焦った。
 目的地の鍛冶屋に到着するとさっさと用事を済ませてしまおうと店内に入った。

 「らっしゃい。って鬼の店主様か…」

 いきなり店員に悪態をつかれた!もう言われなれたけどね。
 髪は黒でさらさら、後ろで髪を括りポニーテールにしているが前髪は左目を隠すほど伸ばしており少しだらしなさが見て取れる。身長は年齢から考えると低めの145cmで顔立ちと合わせるとまるで女の子のようだがれっきとした17才の男の子だ。
 服装はカッターシャツだったのだが袖は肩までで、へその辺りが見えるように切り取っている。特注で作った皮手袋で手から肘を隠し、腰から足の付け根までしかない短すぎる短パンを愛用している。笑えばとても可愛らしく、容姿と揃って男でもときめくそうなのだが店員、『レイル・ロックベル』の表情はヤル気のヤの字も無いと言うかいつも通り無気力感しかないんだが…

 「あれ?アルカードさん!?」
 「・・・ニニャさん?」

 今更ながら中に他の客が居た事に気づいた。まさかここでニニャさん達に会うとは思ってなかった。

 「お久しぶりですね」
 「ええ、本当に久しぶりです///」
 「おお~ニニャがアルカードの旦那を見て照れてるぞ」
 「っ、ルクルットさん!!」

 慌てて顔を真っ赤にしてぽかぽかとルクルットさんを叩いている。何か見てて微笑ましいんだが…

 「とりあえず何しに来たんだ鬼の店主さまっ!?」
 「くぉら、糞ガキ!!伯爵様に何言ってんだ!!」

 奥から出てきたまさに『昔ながらの職人』って感じの爺さんが出てきたと同時にゴツンとレイルの頭をどついた。

 「すいません伯爵様。うちの孫が無礼を…」
 「いや構わないさ。気軽に話しかけられたほうが私としても気楽で良い」
 
 頭を下げる(レイルは下げさせられている)爺さんたちの相手をしているぼっちの後ろでニニャ達が驚きの表情をしていた。どうやらぼっちが伯爵だって事を知らなかったらしい。

 「えっとブラウニー伯爵様と呼んだ方が良いのかな?」
 「いえ、今まで通りアルカードさんで良いですよ」
 「じゃあ俺は今まで通りアルカードの旦那って呼ぶぜ」
 「「「ルクルット!!」」」
 「ふふふ」

 そんなやり取りを見ているとレイルがゆっくりと近づいてきた。

 「で、結局何の用だったんだ?」
 「!?…えーと」
 「?」
 「ごめん!これなんだけど…」

 表情が暗く落ち込んでいるマインが刀を差し出すと、受け取ったレイルが刀身を確認するとすぐに鞘に収めた。レイルにも怒られると思っていたが表情はまったく変化しない為に首を傾げている。
 あの刀はレイルが打った物だ。『作った武器の仕上がりを二段階引き上げる』というタレントを持っている。おかげで彼のレベルでは最低値の刀剣しか作れないはずなのだが名剣と謳われる刀剣を製作する事が出来るのだ。
 いつまでも不思議そうな表情をしているマインに気づいたのか本人も首をかしげた。

 「なに?」
 「こんなにした事に対して怒ってないのかなって思って…」
 「別に怒んないよ。あんたが死んだんだったら別だけどな。人は死んだらそこまでだが刀はまた打てば良い。この状態でここにあるだけで満足だよ」
 「本当!」
 「けどもっと大事に扱えヘッポコ」
 「ヘッポコ!?」
 「自分の相棒を何を考えたかこんなにしちまう奴なんてヘッポコ以外の何になると思う?」
 「…返す言葉も御座いません」

 じと目をしているのかいつもの表情で見つめるレイルの前で正座を自主的に行なったマインを無視してニニャが近づく。

 「あの」
 「ん、買うもん決まった?」
 「そうではなく『鬼の店主様』と言うのはどうしてですか?私は優しくて理想の貴族様って感じなのですが…」
 「ああ…それは俺の打った刀を店に出すことは許しても合格点はくれねえんだ」
 「?」
 「持っている刀を超えるもんじゃないと合格点をくれないんだ」

 皆の視線がぼっちの持っている刀に集まる。この刀はレジェンド級に匹敵する刀でこの世界ではどのランクになるんだろう?まさに神話に登場する武器になるんだろうか?とりあえずそれぐらいの武器じゃないと使う気が無いのだ。一応形的に気に入ったレイルの刀は数本持っているけど…そんな想いがあって言ってしまったことを思い出す。

 「ま、それだけの事なんだけどな。とりあえず、ほれ」
 「わっ、と、っと」

 投げられた日本刀を慌てて受け取った。

 「このなまくら直すのに時間かかるし、丸腰でもなんだろ?それまでの繋ぎ」
 「!レイル…ありが」
 「貸してんだから折るんじゃねぇぞ」
 「……はい」
 「あー…旦那、ちょっと良いか?」

 用事も済んだし帰ろうと思ったとこでルクルットさんから声がかかった。

 「なんでしょう?」
 「ちょっと相談したい事があるんだけど。ニニャの事でさ」
 「ちょ、失礼ですよ。それにさっきも言ったように」
 「言うだけならただって言うだろ?」
 「そうかもしれないが…」
 「さすがに本人の前でそれを言うのは失礼なのではと自分も思うのである」
 「構いませんよ」

 この後、ルクルットよりニニャのお姉さんの話を聞いて出来る限りの協力をする事を約束した。彼らはあとニ、三日は王都に居るとの事なのでその間に何とかするとしよう。
 この時はまだ誰も王国を揺るがすような大事件に巻き込まれるとは誰も夢にも思っていなかったであろう。漆黒の剣の面々も。もちろんぼっちも…



 ニニャ達が出た回って大概不安要素を最後に書いている気が…
 さてと、ぼっちが鍛冶屋に言っている間にセバス達は『八本指』のコッコドールが仕切る店に到着する。そこには『八本指』最強部隊『六腕』の一人サキュロントが!

 次回「老執事と襲撃」
 お楽しみに   



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第058話 「老執事と襲撃」

 お気に入り1000件&感想200件突破!!やったー!!

 前回のお話でマインがぼっちより授かった刀がボロボロになったの?と質問がありました。
 すみませんでした!!チェリオの中では刀は仕舞っている設定にしていたのですが書き忘れました。すみません。という訳で後から付け足しました。
 

 この話はグロテスクな表現が含まれております。苦手な方は突入した辺りから半分まで一気に飛ばすか、最初っから半分まで飛ばす。かされる事をおすすめいたします。



 セバスはクライムとブレイン、そしてスカーレットことザーバはツアレが働かされていた娼館の裏に来ていた。やる事は簡単なことである。ばれないうちにスタッファンという男とサキュロントの排除とここで扱き使われている女性達の救出である。本来なら難しい部類に入るのだが腕が確かな者が二人にこの世界では最強の人物がいるのだ。何の問題もないだろう。
 クライムとブレインが店の入り口を見張っているのを確認してセバスはザーバに声をかけた。

 「ご協力感謝いたします」
 「ふふ。感謝など…今も疑っているのでしょ?」
 「そんな事は…」
 「分かっていますよ」

 今回の作戦で重要なのは救出した女性達を誰に保護してもらうかにある。話し合いをしているときはクライムの主人に相談と言う事になったのだがセバス的にはそれでは時間がかかる。そこで貴族ともパイプがあり保護した後の面倒を見れるザーバが女性達の保護を受け持つことになったのだ。ちなみに捜索はするが戦力としては加わらないとの事。聖職者がどうのこうのと言っていたが単に興味がないのだ。

 「ところで気になる事が一つ」
 「なんでしょう?」
 「あの時の者達はどうされたのですか?まさかとは思いますが」
 
 あの時の者達とはセバスがクライムとブレインと会話している時になにやら殺気立った者達が近づいてくる気配があったのだ。それがザーバが現れる直前に気配が急に弱々しい物へと変わったのだ。

 「お優しいですね。あのような者達にも慈悲の心をかけられるとは」
 「そういうわけではありません。貴方の任務に支障が出ないかどうかと心配しています」
 「あの者達なら何が起きたかも分かりますまい。一応殺してもいませんし、日常生活にも何の支障もありますまい」
 「…そうですか」

 本当かどうかは別として彼の任務に支障がないのであれば別に良い。話が一区切りついたところでブレインより合図があった。突入の合図である。セバスは単独で表より裏口より三人が突入する。

 「さて多少の時間は稼げるでしょうか」

 正面入り口に立ったセバスは気軽にノックをする感じでドアに裏拳を喰らわす。軽い動作に関わらず木材で出来ていた扉は大きな音と共に木っ端微塵に飛び散った。
 音に驚き多くの従業員が慌てて駆けつけた。その全員が目の前の老執事ではなくどうやったらそこまで粉々に出来るのか分からない扉だった物を見て唖然とする。

 「では始めますか」
 
 その表情にはいつもの慈悲深さは一ミリたりとも存在しなかった。走ることなどせずゆっくりと歩き出す。呆けた一人の男の前に立つと片手を振り上げた。パァンと乾いた音が響く。単なる平手打ちである。

 「なんだあいつ!!」
 「ば…化け物…」

 他にも呆けていた男達が危険を理解して騒ぎ出した。
 セバスにとっては普通に平手打ちしたのだが受けた男が悪かった。脆すぎたのだ。首は音を立てて回り360度回転してしまった。非現実的な光景を見て悲鳴を上げながら逃げていくがさすがに逃がすわけにもいかないし許すわけにもいかない。
 粉々に砕けた中で比較的大きな破片を爪先で蹴り上げる。視界まで上がると拳で打ち跳ばした。

 「ピギャ!」
 「ワラバ!」

 先頭を走っていた男達に命中して頭が、胸部が弾けた。またも非現実的な光景を見た男達には絶望しかなかった。
 逃げれない。 
 逃げたらこうなる。 
 ではどうする?

 「た、戦え!」

 ナイフを構えた者が叫ぶ。震えながらだが化け物と比喩されたセバスに対峙していた。

 「戦え!戦わないと死ぬぞ。死にたくない奴は手伝え!!」

 震えながらも生にしがみ付こうと各々が近くの武器、もしくは拳を握る。こんな光景をぼっちが見ていたなら喜んで拍手のひとつでもして『かかって来い人間共。そして魅せてみろ私に』と興奮して叫んでいただろう。しかし相手はセバス。彼の心は何も揺らがない。あの少女『ツアレ』に、ツアレにではなくても多くの人間に非道の限りを尽くし、協力した彼らを許す事は出来ない。良かったと言えば立ち向かってくれることで追わずに済むぐらいだろうか。
 叫びながら突撃してくる男達に対してセバスも駆け出す。
 振り下ろされた武器を軽く手で払い、肘打ちを顔面に当てる。後頭部が背中にくっ付いた。
 左前から殴りかかってきた。身を捻って避けると掌底を相手の胸部に放つ。背中から赤い飛沫が起こった。
 棍棒を振りかぶって突っ込んできたが振り下ろされる前に顔を掴み、地面へと叩きつける。肩より上が地面の中へと消えていった。
 槍を構えて突撃してきた者には先端を蹴りで押し返した。腹部を貫通した槍が後方に控えていた男に突き刺さった。

 「後は貴方達だけですか?」
 
 襲い掛かろうとしてきた者達は残り二人。目が合うと同時に武器を捨てて両手を高く上げて降伏のポーズをとる。

 「少し聞きたいのですがスタッファンさんはどちらに居ますでしょうか?教えていただければ助けるかも知れませんよ」

 助かりたい一心で喋りだす二人に対してセバスの表情は先ほどと変わってなかったことに気付いていなかった。



 「おっと」

 斬りかかって来た男の一撃を避けて足を引っ掛ける。すると面白いようにバランスを崩して階段を転げ落ちていった。その光景を見ながらまた一人を斬り捨てたブレインがやるなと意味を込めて口笛を吹く。

 「本当に戦うの苦手なのか?」
 「ええ、争い事はどうも苦手でして」
 「まったくそうは見えませんが」
 「まあまあ、じゃあ入り口を頼む」
 「はい。ではお気をつけて」 
 
 入り口で待機するために戻るクライムを見つめつつ何となくだが一方的に神父を嫌っているのがまだ3分も経たない内に理解出来た。逆に神父はそんなクライムを良しと思っているのか楽しんでいるのかよく分からない感じだ。
 と、考え事をしているとまた隠れていたであろう男が襲い掛かってくる。一歩下がるだけで振り下ろされた剣を避け、首根っこを掴んでそのまま柱へとぶつけた。歯が砕け悲鳴にもならぬ声を上げながら転がる男を興味なさげなに見た瞬間、顎に強烈な蹴りを喰らわせて意識を刈り取った。

 「さっき争う事は苦手って言ってなかったか?」
 「苦手ではありますが不得意と言う訳ではありませんので」
 「さいですか」

 良い笑顔で答えた神父に適当に返事をして先に進む。

 「…そうですか。彼の方に…」
 「何か言ったか?」
 「いえ、なにも」

 ザーバは笑って答える。クライムのほうに彼より格上相手が向かう気配を感じ取った。これは良い鍛錬になるだろう。なに、失敗したとしても命を落とすだけである。問題ないでしょうと嗤いながら歩いて行く。

 
 
 裏口付近で待機していたクライムは妙な音を耳にした。足音である。一応隠れていた為に相手に気付かれていない。その位置から足音の鳴った方向を睨むが誰も居ないのである。不思議に思い睨むように見ていると何もなかった所から二人の男が現れた。

 「まったく誰かしらね。奇襲なんて」
 「しっ!!」
 「何よ?さっさと行きましょ」
 「そこに誰か居るな?」
 「!?」

 あっさりと隠れている事を看破されては奇襲も何もない。ゆっくりとだが姿を表す。その姿をみたオネエ言葉を話す男『コッコドール』はあら!と声を漏らした。

 「知り合いか?」
 「うふ、そんなところね」
 「前に手を出したお相手とか言うんじゃないだろうな」
 「違うわよ。まぁ少しは可愛い坊やとは思ったけど」

 熱っぽい視線を感じて背筋に悪寒、肌には鳥肌が立った。
 そういう趣味か!
 別の意味で身の危険を感じながら剣を構える。

 「私の嫌いな女の部下よ」
 「へぇ…これがね」
 「持って帰りたいんだけど?」
 「……」
 「違うわよ。あの坊やが居れば交渉事に使えるじゃない」
 「使えなかったら?」
 「もちろん私が使うだけよ」
 「別料金を貰いますよ。という訳で大人しくしてもらうぞ」

 二重の意味で身の危険が迫っていたがそんな事はすでにどうでも良かった。今ここで自分が捕まれば『ラナー様に迷惑がかかる上にご恩を返せない』事の方が何倍も重要だった。すぅーと息を吸い込み叫んだ。助けてくださいと。これでブレインさんかセバス様が来てくださるだろう。その事に気がついたもう一人の男『サキュロント』だ忌々しそうに舌打ちをした。

 「持って帰るのは難しくなりましたね」
 「何でよ!貴方『六腕』の一人なんでしょ。あんな坊や…」
 「すぐに奴の仲間が来ます。早々に決めないと不味い」
 「なら首。首から上だけ持って帰るわ。飾ってからあの王女に届けてあげるんだから!!」
 「ここは死守させてもらう!!」

 黒いフードを被った猛禽類のような視線を向けるサキュロントはゆっくりと動き出す。クライムはサキュロントと対峙しながらコッコドールを狙う。それに気付いたサキュロントが間に割り込む。
 手が揺らめいた。そう思った瞬間クライムは一撃を喰らって床を転がった。痛みが身体中を襲う中、さっき見たものを思考する。何かしらの武技、もしくは幻術。

 「幻術ですか…」

 立ち上がり再び剣を構えながら表情を観察する。目が反応した。どうやら幻術で間違いないようだ。気付かれた事に気づいておりさすがに同じ手と言うのも味気無い。

 「《マルチブルビジョン》」

 複数に分身をしたサキュロントが襲い掛かる。その内の一体に斬りつけるが手ごたえは無く、剣はただ通り抜けた。同時に喉元がちりちりと熱を持ったような感覚が走った。慌てて左手で喉元を守るようにすると痛みと同時に鮮血が飛び散った。目に映る分身は二体。二分の一の確立で正面から迫る一体に斬りかかるがさっきの奴と同じで通り抜けるだけだった。勝利を確信した本物は左側から襲い掛かるが攻撃が届くことは無かった。

 「カハッ!!」

 短く言葉を吐くと痛みと衝撃を受けた体が後ろへと倒れた。そのまま一回転するようにして立ち上がった。こちらへと伸びきった足を見て自分が何をされたのか理解した。

 「てめぇ…蹴りだと。剣士の戦い方じゃねえな。だが」

 最初の一撃に戦闘不能になった左手。痛みと戦いから来る疲労ですでに弱っていた。それでも諦める様子は無かったが。

 「もう!さっさと終わらしちゃってよ」
 「そうはいかねえな」
 「ブレインさん!」

 現れたのはクライムを守るように立ったブレインだった。

 「よくがんばったな。あとは任せろ」
 「ブレイン?…まさかブレイン・アングラウスか!?」
 「嘘よ!そんな相手が来るなんて!!」
 
 ブレインは喚いている相手の声など聞こえていなかった。見えるのは敵対する相手よりも背後で負傷している仲間。俺が負ければ後ろのクライムもやられてしまうだろう。絶対に負けられない。いつもより力が入る。
 そうか。これが何かを背負って戦う感覚か。悪くないな。
 刀を鞘に納めたまま構える。

 「来いよ。一撃でしとめてやる」
 「!?舐めやがって!!」

 馬鹿にされたと怒ったサキュロントは《マルチブルビジョン》を使用し複数体となって襲い掛かる。が、このとき知らなかったのだろう。どれだけその行為が無意味であったかを。
 武技《領域》により半径3m以内のすべてが手に取るように分かる為に幻術魔法などなんの意味も無かったのである。本体が分かっているのならそこに神速で刀を抜く抜刀系武技《神閃》がサキュロントの腹部にヒットした。力なく崩れ去るのを見たコッコドールは何の抵抗もすること無く捕まった。



 離れた所から見ていたザーバはなにやら楽しそうであった。

 「意外でしたね」

 背後から声をかけたのはスタッファンの処分を済ましたセバスだった。

 「彼らがですか?」
 「いいえ。貴方がです」
 「何かしましたかね」
 「探すのを自分に任せてブレイン君を救援に向かわせましたね。私は見捨てると思っていたのですが」
 「一緒に仕事をしている者を気遣うのは当たり前などと言う言葉では信じてもらえませんね」
 
 言わなくても分かる疑いを自ら指摘し答える。

 「彼は私のお気に入りなんですよ。彼を狂愛する乙女。いや道化ですかね。彼の為に他人を思いやり、彼の為に費用を費やし、彼の為に仮面を被り続け、彼の為に理想の姫を演じ続ける。そんな狂った道化の前であの玩具をゆっくりと、あっけなく壊す事を想像するのが私の最近の楽しみでしてね」
 
 少しでも彼に良心があることに期待した自分が愚かだった。彼に対して憎しみに近い感情が自分より這い出てくる。

 「ご安心を。別に実行しようと言うわけではありませんので」
 「…そうでございますか」
 「ふふふ。やはり貴方は優しすぎますね。任務の妨げになったスタッファンを頬を複数回ビンタし、腹部に一撃入れて内臓破裂させて殺すなど…今度ご教授しましょうか?」
 「結構です」

 即答の答えに満足したのか背中を見せて歩き出す。

 「では私は彼女達を連れて帰るとしますか。Good Luck!悪の中の善なる執事君」

 姿を消した彼を見送るとセバスはクライムとブレインに合流した。これで任務の妨げは何とかなったと思い込んで…




 原作よりきれているセバスを書きたかった。と言うかチェリオの怒りもプラスした。
 ま、それは良いとして次回…

 『緊急事態発生。緊急事態発生。ナザリック内で問題発生。範囲内のメイド達は速やかに非難してください。これよりこの階層は閉鎖いたします。繰り返します。緊急事態発生。これは演習ではない。これは演習ではない』

 …ぼっちもアインズも居ないナザリックでいったい何が起こったのか?
 次回『最悪の事態』
 お楽しみに


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第059話 「最悪の事態」

 最近10巻が5月30日に出るって噂か何かを聞いたんだけど本当なのだろうか?本当ならすぐにでも予約に行きたい。


 突如、異世界へ渡ってしまったナザリック地下大墳墓。
 しかし良い意味で予想外だったのがナザリックの者達を越える強者が居ない世界であった事だ。主が命ずれば命ずるままに何でも行なえる世界。
 だがそんなナザリックで大事件が発生していた。

 『緊急事態発生。緊急事態発生。ナザリック内で問題発生。範囲内のメイド達は速やかに避難してください。これよりこの階層は閉鎖いたします。繰り返します。緊急事態発生。これは演習ではない。これは演習ではない』

 アナウンスが流れて数人のメイド達が慌てて移動を開始する。
 その中をヴァンパイヤ・ブライド達を中心にシャルティア・ブラッドフォールンが行進を指示する。この緊急事態に対して彼女が指揮を執る事となっている。
 現在、至高の御方であるアインズはモモンとしてナーベを連れてエ・ランテルに、ぼっちはセバスとソリュシャンが居る王都にて仕事をこなしている。他に階層守護者ではコキュートスがリザードマンの集落へ出立したし、モミに至っては行方不明である。

 「全員戦闘態勢!!配置につくでありんす!!」

 バッと追従していた配下のアンデット達が動き出す。大きな盾を持ったヴァンパイヤ・ブライドがシャルティアを守るように展開される。他にはエルダーリッチ、骸骨弓兵、骸骨魔法師が周囲の警戒を強める。
 この事件が発覚した報告を思い出す。
 『逃げ出しました』
 まさかこの一言でナザリック全域がパニックになるとは思いもよらなかったが納得はする。
 発信源は第2階層の一区画『黒棺』。エントマ曰く『おやつの間』。発信者は恐怖公であった。

 恐怖公
 ナザリック地下大墳墓第二階層『黒棺』に住まう領域守護者。ナザリック内でも眷属の召喚に長けており物量と容姿で相手に二重の意味で攻撃する。本人は礼儀正しく、ダンスや礼儀作法にも詳しい逸材である。
 しかしその容姿により皆に好かれていない。虫仲間のコキュートスと捕食者のエントマは除く。二つ名を付けるとすれば『台所の黒い悪魔』、『黒光りするG』であろうか。
 『逃げ出しました』
 この言葉が意味するのは眷属達の脱走。最初は皆がそう思った。ある意味正解だが外れでもあった。
 大量の眷属召喚により部屋が溢れる事はしなかったが多すぎる眷属が問題だった。子を生したのだ。眷属と言えども召喚してしまえば生物である。子を生すのも当然と言えば当然なのだが数がおかしすぎる。一般家庭に住まうとされる数を軽く超えてる。それらは召喚された眷属とは違って自由意志があった。それがおやつを求めて来たエントマが扉を開けた隙に逃げ出したのだ。
 第二階層出入り口には現在火を灯し続けている。これにより他階層に行かせない為である。本来ならデミウルゴスに頼みたかったのだが本人はある重要な案件を詰めているとの事で断られた。アルベドには…

 「じ、自分の守護する階層なのですから貴方が何とかするのが筋じゃない」

 と言って助けすらなかった。援軍を頼むと数人が駆けつけてくれた。
 一人はシズである。予想ではエントマが来ると思っていたのだが現在もユリの説教を受けている。
 二人目は第十一階層からボルックス・トレミー。とりあえずで声をかけたら「ん」とだけ答えてついて来てくれたのだ。だが、自動人形1lv、ガンナー1lv、薬師10lv、クラフトマン10lv、錬金術師10lv、ポイズンメーカー5lvのレベル37をどうしろと?
 三人目はボルックスについて来たカストル・トレミー。モンクであり剣士でもある彼は戦力になるがついて来ただけという態度をとっている。

 「では皆始めるでありんす!!」

 号令と共に散っていく者達を見送りつつ重たい足を何とか動かしていく。



 「うー↑わー↓」

 感情が読み辛いはずのオートマトンが表情と声でどれだけ嫌なのかを表した。横に居る盾持ちのプライド達は自分達の身を盾で隠して後退を始めた。
 ナザリック内は基本的清潔そのものだ。24時間勤務希望のメイド達が床であろうと舐めれるぐらい掃除しつくしているのだ。ゆえに食べ物など落ちていること事態がありえないのだ。しかしその通路の一角には落ちていたのだ。多分だが避難する際にメイドが落としたのだろう。メイドはいつでも摂取できるお菓子を持ち歩いている。

 蠢いている。
 カサ、カサ、カサ、カサ………
 お菓子の上に黒い虫、黒い虫の上に黒い虫…
 お菓子を隠すように高さ20センチほどのわさわさと蠢く黒い山が形成されている…
 ピタ
 動きが止まり一斉にこちらを向いた。今になってシズ達を認識したのだろう。ぱた、ぱたと羽根を広げる奴も居る。

 「!!焼き尽くす…」

 何の躊躇いも無い火炎が黒い虫たちに放たれる。圧倒的火力の前に飛び逃げる間もなく次々と炭にされていく。現在シズの装備は背中に燃料タンクを背負わなければならない火炎放射器である。

 「お、お見事です!」
 「次!次が来ます!!」

 一体のプライドに褒めるその一方で仲間を殺されてこちらに向かってくる黒い集団を倒すように指示される。表情を変える事無くトリガーを引いていく。



 ボルックスとカストルは無言で歩いて行く。
 所々でしゃがみ込んだボルックスが何かを置いていく。
 肌色の小さな団子。ホウ酸団子を無言で置いて行っている。
 カストルが振り返ると離れた瞬間に集まったG達がぐったりしている。

 「行くぞ」
 「ん」

 ただ作業のような動作を続けながら無口の兄妹は進んでいく。
 正直迷惑な話である。適当に配置して来る所は良いとして来ない所も多々あるのだ。そして来た所はそのまま放置。この片付けは誰がするのか…



 シャルティアは青ざめそうな顔色を必死に奮い立たせて歩みを続けていた。
 
 「次はそこでありんすね」

 指差す先では設置した食べ物に黒い虫が集まっていた。シャルティアに同行しているプライド達はシズと同行している者達と同じように後退したかった。
 パチン
 軽く指が鳴らされると素早くシャルティアを隠すように盾を持って前に立たされる。そんなプライド達の前にエルダーリッチが杖を構えて陣形を整える。ファイヤーボールの一斉射にて灰にする。
 焼き払った事を確認すると再び指を鳴らし陣形を解除させて待機させる。焦げ臭さや灰を無視して前に出る。
 大きなため息をつく。
  
 「こんな時にモミが居たら良かったでありんすが…」
 
 モミの使える魔法には骸骨達の壁や炎系モンスターの召喚などが行なえるのだ。彼女さえ居ればこの状況はもっと楽になったはずなのだ。と、無い者ねだりしても始まらない。この短期間で結構な戦果を挙げていると自分で思うぐらい順調である。

 「上手くいったら褒めて頂けるでありんしょうかえ?いやいや!これは私の階層で起こった問題であってあの方に御礼を求めるのは筋違いでありんす。ならば少しでも出来るところをご覧いただ…」
 『シャルティア様…』
 
 一人ぶつぶつと呟いていたシャルティアにシズよりメッセージが届く。

 「なんでありんすか?」
 『大変…』
 「すでに大変な事態で…」
 『集結し始めた』
 「……ハイ?」

 自分の耳を疑う言葉が聞こえた気がする。



 気のせいであって欲しかった。
 シズの報告を受けて来てみると確かに居るのだ。この通路の先の部屋に蠢く気配を感じる。
 300メートル離れた所で陣形を整えている。最前線にエルダーリッチ、次に骸骨魔法師、三番目に骸骨弓兵を真ん中をあけて配置して盾を持ったプライド達の前にシズが待機している。最後尾はシャルティアではなく飽きてしまったのか読書を開始しているボルックスである。
 どうやらあのGたちは眷属から産まれただけあって知能は高いようだ。部屋に集まり戦力を集めたと言う所か…
 開けたくない。でも開けないとこの仕事は終わらない…
 逃げ出したいのを我慢して清浄投擲槍を扉に向かって投げつけた。扉が開いて集結していたGが勢い良く飛び出して来た。

 よく多くの生き物が移動する様子を『嵐』やら『川』など自然のものに例える事があるだろう。だから例えてみようと思う。想像して欲しい。高さ2メートルを超える黒い雪崩を…

 「ひぃっ!!」

 誰が漏らした声か分からないが思いは一緒であった。
 吸血鬼で血の気の引いた白い肌を持っているが一段と白くなった気がした。
 押し寄せてくる無数の蠢き…

 「―――っ!!や、焼き払いなさい!!」

 ハッと我に返ったシャルティアの言葉によって攻撃が開始された。ファイヤーボールと複数の矢が降り注ぐ中、シズが用意した第二の武器が開放される。
 ガトリングガン『GAU-8 アヴェンジャー』。30mm口径の弾丸を毎分3900発を発射する。
 火炎と爆発、降り注ぐ矢。そして連続で放たれる弾丸にて黒い雪崩が著しくスピードダウンした。が、止まる事はなかった。ファイヤーボールはMPを消費する事で撃てるがどう考えてもMPが足りない。矢が足りない。何より『GAU-8 アヴェンジャー』は装弾数1350発。弾は切れる。と言うか切れた。
 攻撃の一部が途切れるとスピードが少しだけ戻り迫ってくる。最前列の猛攻も虚しく飲み込まれた。
 
 「よいしょっと…」

 『GAU-8 アヴェンジャー』を担ぐとさっさとシズはシャルティアの脇をすり抜けて行った。

 「ちょ!?何処に行くでありんすか!」
 「戦術的撤退…」
 
 用は逃げ出したのだ。気持ちは分かる。が…
 エルダーの次は骸骨魔法師、さらには骸骨弓兵が黒い雪崩に飲み込まれていく。
 すでにプライド達も少しずつ後退しつつあった。

 「総員撤退!!」

 さすがにこれは無理だと撤退を指示すると同時にプライド達が駆け出した。続いて撤退を開始するが読書に夢中のボルックスは動く気配がない。
 それをただ見つめていたカストルが黒い雪崩の前に立ちはだかり、腰に提げている剣を抜いた。

 「我を守れ玄武」

 呟くと同時に亀の甲羅を模した半透明のシールドが剣より展開されて雪崩を押し止める。勢いは殺しきれず少しだけ押されていく。対してあえて左手だけで振るい、右手を使おうとはしない。

 「そのまま耐えるでありんす」

 撤退中のシャルティアがいち早くその状況に気付いて急ぎ戻ったのだ。その勢いのままシールドへと向かって行く。

 「《不浄衝撃盾》!!」

 シールドごと押し返す。勢いで勝った為、雪崩が逆に押し返されていく。動きが止まった隙にスポイトランスを取り出す。

 「…行くぞ」
 「行くでありんすかあれに!?まだ5千以上はいそうでありんすよ!!」
 「だから?」
 「…」

 本気で行く気だ。出来れば一人で突っ込んで欲しい。しかし…自分はこの階層の守護者…行かない訳にはいかない…

 「焼き尽くせ朱雀」

 今度は剣を振ると炎の鳥『朱雀』が怯んでいるG達を焼き払う。

 「―くっ、こうなったら自棄でありんす!!」
 「ふんっ」

 二人は自分の武器を振りかぶり黒い群れに突っ込んで行く。
 こうしてナザリックで起きた大事件は幕を閉じた。後でデミウルゴスに言われたのだが「生まれた者達よりレベルが高く、統制も取れる恐怖公の眷属に対処して貰えば良かったのでは?」と…
 シャルティアは真っ白に燃え尽きていた。




 最悪の事態だったでしょ?
 テレビで魚の群れを見ていたら書きたくなった。反省はしない。後悔はした。

 ツアレを助け、不安の原因であった店も潰したセバスに安息の時はなかった。ニニャ生存している現状で至高の御方のまとめ役『アインズ・ウール・ゴウン』が王都へ!そして時を同じくして王都にやって来た者…


 次回『老執事と審判』お楽しみに…フヒ


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第060話 「老執事と審判」

 連日投稿したチェリオです。
 昨日の九時半(夜)に外伝を投稿しているので見てもらえると嬉しいです。


 コッコドールの対処をクライムに任せ、スタッファンの処理を物理的に済ましたセバスは屋敷へと帰る。不安の種はなくなり何の問題もないと安心してここまで歩いてきたのだが胸の中がざわめく。まだ何かがあるかのように…
 不安感を掻き消すように少し早足で屋敷へと向かいだした。
 屋敷に着くとニ、三度深呼吸を行いドアノブに手をかける。
 何かが居る。
 索敵をした訳ではないが気配で分かる。ドアの前に一人、奥に数人…上の階に居るのはツアレでしょう。不安が一気に込み上げていく。恐る恐る扉を開くとドアの前にはドレス姿ではなくメイド姿のソリュシャンが…
 理解した。奥に居る…いや、居られるのは自分達の主人であるアインズ様なのであろう。

 「セバス様。アインズ様がいらっしゃいました」

 告げられた言葉が耳に入ると同時に一粒の汗が流れた。用件は何か?分かりきっている。五月蝿く鳴り響く心臓を無視しつつ重い足を動かし主人の元へ
 奥にはヴィクティムを膝に乗せているアインズが座り、横にデミウルゴスが待機している。
 御前まで歩もうと進むと入り口付近に待機していたコキュートスが剣で先を遮る。
 己の状況を理解する。裏切り者…もしくはそれに類する者と認識されている。
 ゴクリと音を立てて唾を飲み込む。

 「久しぶりだなセバス」
 「ハッ!この度はアインズ様をお待たせしてしまい申し訳ございません」
 「よい。連絡も居れずに来た私の落ち度だ。それよりも任務ごくろうだったな」
 「いえ、これもアインズ様のお役に立てるなら本望でございます」
 「受け取った資料には事細かな事まで明記されてあって大変良かったぞ。なぁデミウルゴス」
 「ええ。真にその通りでございます」
 
 ニヤリと微笑むデミウルゴスの笑みにまた心臓が五月蝿くなる。

 「そう言えば可愛らしいペットを飼っているらしいな?」
 「…ハッ」
 「ん?返事が遅れたな」
 「申し訳ございません」
 「記憶にはペットを拾った。もしくは飼っていると言う記載はなかったように思うが私も見逃してしまったという事もあるだろう。どうだったかなデミウルゴス?」
 「私も目を通しましたがそのような記述は一文字もありませんでした」
 「ふむ…これはどういう事か説明してもらえるかな」

 酷く汗を掻く。どうすれば良いのだ?いや、どうするも何もない。主に本当の事を話し許しを請うしか無い。そんな時入り口からソリュシャンが現れる。

 「アインズ様。連れて参りました」
 「うむ、ご苦労」

 ソリュシャンの後ろから現れたのは出会った時の怪我と穢れを落としたツアレだった。表情は青ざめ、手は震えている。それでもアインズと対峙して逃げ出そうとはしない。彼女の視線が自分の背に集まっているのを感じる。それは助けを求める視線ではなく私を支えにしている視線。

 「アインズ様の前で無礼でしょう。『ひざま…」
 「よい。怯えながらも私を見て逃げ出さない勇気に免じてその無礼を許すとしよう」

 普通なら逃げ出しているだろう。何しろ今のアインズ様は幻術も使わずにいつものお姿で居られる。しかも強大な気を撒いてだ。むろん屋敷より外に漏らす真似はないが。

 「では説明を聞こうか?」
 「ハッ!アインズ様にお知らせするようなものではないと勝手に判断した結果でございます。私の勝手な行動がアインズ様にご不快を招いてしまい真に、真に申し訳ありません!もう二度とこのような事は…」
 「よい」
 「は?」
 「良いと言ったのだ。誰しも過ちは犯すものである。例え私でもな」

 主の寛大なお言葉を聞き安堵する。しかし…

 「ならば過ちは正さなければならない。そうだなセバス?」
 「ハッ!」
 「ならばその過ちであるペットを殺せ」
 「ハッ!」

 間髪居れずに答えたセバスは深く礼をしてツアレと向き合う。その目は怯えているのではなくすでに受け入れている。

 「私はアインズ様にお仕えする身…」
 「分かっております」

 それだけ呟くとツアレはそっと瞼を閉じた。深い空気を吸い込み一息あけると拳を握り締め頭部へ放っ…

 バタン!!

 勢い良くドアが開かれた音が耳に届き寸前の所で止まる。同時に侵入してきたものに対して迎撃体制をとる。それはコキュートスもデミウルゴスもソリュシャンも同じだった。侵入者はどたどたと一直線にこちらに駆けている。急には止まれず滑りながら現れたのは…

 「私、参上!!」
 「モ、モミ?」

 思いもよらぬ来訪者にアインズが間の抜けた声で名を呼ぶ。 
 何故か自信満々の顔をするモミは呼ばれた事でアインズ様が居た事を認識したのだろう。それでも態度は変えないのだが。

 「ナザリックからまたも抜け出したと聞きましたが貴方はここで何をしているのですか?」

 ひくひくと額に血管を浮き上がらせたデミウルゴスは主人の前と言う事で出来る限り平静を装うように努力をしていた。隠しきれて居ないが…
 対して自信満々の表情でこちらを振り向き答える。

 「セバスが女を連れ込んだと聞いてきぶっ!?」

 玄関より鞘が投げ込まれモミの側頭部に直撃する。

 「キン!ケドゥ!ナウ!!」

 衝撃により地面を三度跳ねたモミはアインズに向かって行ったがその直前でデミウルゴスに蹴り返される。

 「ドラッ!ツェ!!」

 跳ね返されたモミをぼっちが片手で受け止める。

 「・・・何をしてる?」
 
 目を回しているモミをマインに渡して、セバスとツアレに近づく。

 「・・・君がツアレか?」
 「答えなさい」
 「はい…ツアレニーニャ・ベイロンと申します…」
 「ニーニャ・・・そういう」

 微笑むぼっちにアインズは疑問符を浮かべていた。

 「どうしてここにぼっちさんが?」
 「・・・?ザーバに聞いた・・・セバスが一人の女性を拾ったと・・・許可を与えて欲しいと」
 「ザーバ様から?」
 「ん?頼まれたと聞いたが・・・」

 そんな事は頼んだ覚えが無い。何よりあのザーバがそんな事をするとは思えない。となるとこれはどういう状況なのだ?

 「しかしアインズ様には何の報告も」
 「アインズ様だからじゃないの?」

 デミウルゴスの問いに答えたのはさっきまで目を回していたモミだった。

 「アインズ様は至高の御方のまとめ役。ぼっちさ――まと違って忙しい身。なら近場に居て同じ至高の御方に許可を貰おうって事じゃない…」
 「今ノ発言ハボッチ様ニ無礼ダト思ワナイノカ?」
 「ソ、ソウダネー(棒読み)」
 「…」
 「すみません。謝るから構えた斧を下ろしてください」
 
 モミの挙げた理由に「確かにそうかもしれないが」と言いかけるデミウルゴスの横でアインズが頷く。

 「ぼっちさんに相談しているならそう言って欲しかったな。危うく過ちを犯す所であった…帰るぞ」
 「宜しいので?」
 「構わないさ。ぼっちさんが承諾したのなら。ぼっちさんは報告お願いしますよ?」
 「・・・(コクン)」

 今度こそ本当に安堵した。それと同時にぼっち様に迷惑をお掛けしてしまった事を謝罪しなければならないだろう。
 ゲートを使いアインズが帰ると同時にぼっちも踵を返す。

 「・・・今日は晩い・・・また来るよ」
 「ありがとうございましたぼっち様」
 「ありがとうございました」

 ツアレと共に深く頭を下げる。出て行く際に一輪の薔薇の前で足を止めた。それはザーバが投げ渡してきた黄色い薔薇であった。

 「これは・・・恋人か何かから?」
 「いいえ、ザーバ様からですが」
 
 ふむと呟きながら考え込む仕草をする。

 「黄色い薔薇の花言葉は愛情の薄らぎ、嫉妬・・・そして友情」
 「友情?」

 それだけ告げられると帰っていかれた。一人の人間の少年が放られた鞘を大事そうに抱えて一礼し、追従して行った。多分彼が噂のぼっち様の弟子なのだろう。
 黄色い薔薇の花言葉をいったん置いてツアレが認められたことを二人で静かに喜んだ。

 ちなみにモミはいつの間にか逃げ出していた。後でステラが来るとでも思ったのだろう。連絡は来たが…



 不安の種は刈り取り、至高の御方より許可も頂けて何の不安もなくなったセバス。しかし王都全体には魔の手が迫る…

 次回「悪魔の作戦と裁判」

デミウルゴス「おや?そういえばモミは何処に?」
コキュートス「?ココニハ居ナイナ…」
デミウルゴス「あのサボリ魔めっ!!」

 お、お楽しみに…


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第061話 「悪魔の作戦と裁判」

 さてと原作お馴染のあの作戦の準備ですよ…原作と違い、いろいろと変わっちゃいましたが…


 深き闇を表すような黒や血を連想させる赤で支配される部屋に灯りが灯される。蛍光灯や太陽のようにある物をすべて照らそうとするのではなく、明るさと薄暗さを演出するように配置された蝋燭の灯りだ。
 そんな一室の机の前に出された椅子にデミウルゴスは腰掛、重圧に書き連ねられた辞書のような冊子に目を通す。その行動だけでも20回を超える。
 ふぅ、と息をつき時間を確認する。同じ冊子を数冊手に取りゆっくりと立ち上がる。

 「さて、行きますか」

 背筋を伸ばしてドアへと向かって行く。
 デミウルゴスが向かう先は玉座の間。これから自分の計画した『ゲヘナ』を各階層守護者とプレアデス達に発表するのである。
 玉座の間を開くとすでにアルベド、コキュートス、シャルティア、マーレ、アウラ、ユリ、エントマ、シズ、ルプスレギナと呼んだほとんどが揃っていた。モミはこの場に居ない為にメッセージでの参加である。
 
 「お待たせしてしまいましたか」
 「イヤ、時間通リダ。問題ナイ」
 「そうですか。なら良かったのですが…シャルティアはどうしたのですか?顔色が優れないようだが」
 「気に…気にしないでほしいでありんす…」

 表情は暗く、虚ろな目をしているシャルティアを心配したが気にするなといわれればそのまま話を進めさせて貰おう。
 まずはユリを通して冊子を皆に渡す。

 「『ゲヘナ』?これを読むに王都を狙った計画のようね」
 「王都を?あんなところ襲って何があるの?」
 
 冊子に軽く目を通したアルベドはすでに大体の事は把握しただろうが他はそうではなかった。こうなることも解っていたデミウルゴスは口を開き説明を開始する。

 「目的は複数あります。まずは『八本指』と言う組織を襲います」
 「襲撃カ…私ガ行コウ」
 「いえ、出来ればコキュートスとアルベド、アウラには残ってもらいたいのです」
 「まぁ、防衛の面も考えてそれが妥当なところね」
 「その『八本指』なる者を襲って何かあるでありんすか?」
 「一つは『八本指』という組織そのものをのっとります。王国を裏で支配している組織ですので後でいろいろ利用できるでしょう。二つ目はその者たちがセバスやソリュシャンに敵対したことです」

 一つ目では大した反応はなかったが二つ目で皆の目が見開かれた。

 「そしてセバスの元にはアインズ様とぼっち様に迎えられた人間が居ます。もしかすると手を出してくる可能性があるからです」
 「アインズ様が認められた人間!?デミウルゴス!まさかとは思うけど雌ではないわよね?ね!?」
 「至高の御方々が認められた者に手を出す?許せないよね」
 「僕もそう思う…」
 「人間ごときが手を出そうとは…」
 「万死ニ値スル!!」

 殺気立つのも分かっていた。一人別の理由で叫んでいる者も居るがそれは無視して話を進めよう。

 「という訳で皆様納得して頂けましたね?では次の目的に移ります。王都の倉庫にある財宝を狙います。これにより王都の財政は悪化し、微量ながらナザリックの補充にもなりますしね」
 「ねぇ!雌じゃないわよね!」
 「…アルベド、落ち着きなよ…」
 「落ち着いてられますか!!アインズ様が認められた雌ならばもしかするとその人間が、せ、せ、せ、正妻の座を手に入れるかも知れないのよ!!」
 「…デミウルゴス」
 「あー…コホン。その心配には及ばないよ。アインズ様もその気は無い…と言うか興味もなさげだったからね」
 「あら、そう。では話を戻しましょうか。財宝を手に入れると言う事はパンドラズ・アクターにも協力してもらった方が良いわね」

 アインズ様の興味がないと知ったアルベドは冷静さを取り戻し、淡々と話し出した。

 「ええ、その通りです。彼にはアルベドから伝えてもらえますか?」
 「構わないわ」
 「トコロデ兵力ハドウスルノダ?ココカラ連レテ行クノカ?」
 「いいえ、私の配下に召喚させた悪魔達が居ますのでそれらを使おうかと…」
 『…デミデミ質問良い?』

 ここで今まで黙っていたモミが口を開いた。
 正直彼女の事はあまり好きではない。いつも至高の御方から頂いた職務を放棄してなにをしているか分からない為であるが…
 されど信頼は別である。彼女は至高の御方によってナザリックの理を一番に考えるように創造された身。ゆえにその点に関するものに対する信頼は高い。
 
 「何かね?」
 『倉庫や『八本指』を襲うって言っても隠密で襲うの?それとも大々的に?』
 「大々的に行なう予定です」
 『ふーん…周りに住んでる人間たちは皆殺しにするの?』
 「いえ、持ち帰っていろいろ実験に…」
 『却下』
 「!何が悪いというのですか?あの虫けらを有効活用する事するだけですよ」
 『アインズ様もぼっちさ―――まも心優しい所がある。それで心痛められるかもよ』
 「確かに御優しいところはありますが…」
 『進言はしたからね…』
 「む…良いでしょう。では人間たちは…」
 『あ!とりあえず財宝を奪った後の倉庫にでも集めておいてくれない。良い事思いついちゃった』
 「はぁ~…貴方の良い事がナザリックにとっての良い事だと解りかねますが?」
 『後で説明するから…フヒヒ』

 軽く冊子に書き記し、計画が変更された事を書き記す。

 「後は配置ですが私とプレアデスは仮面を被り、魔王と魔王の部下を演じてもらいます。その際にマーレとプレアデスは一緒に『八本指』拠点襲撃に参加してもらいます。シャルティアは物資の移送をお願いします」
 「わたしが移送でありんすか。理由は解ったでありんすが襲撃に周らなくても良いでありんすか?」
 「ええ。これ以上は階層守護者の名を貶める訳には行きませんから」

 デミウルゴスの言葉にシャルティアは怒りを露にした。眼光を見開き、拳に力がこもっていた。

 「それはどういう意味でありんすか!」
 「君が一番知っているだろう」
 「何がっ!!」
 「『ベルセルクの腕輪』」
 「!?」

 何のことを言われているのか理解して怒りが霧散して落ち込んだように表情が沈む。
 『ベルセルクの腕輪』
 かつてぼっちが身に着けていたワールドアイテムで暴走した事件を引き起こしてしまったアイテム。そもそもの原因を作ったのは油断し、狂乱に堕ちたシャルティアのミスである。
 苦い記憶を思い出し黙る。

 「解りましたか?それにコキュートスもリザードマン達に敗北しました。階層守護者が二回も主命に失敗してしまったのです。ならばこの辺りで挽回しなければなりません」
 「デミウルゴスの言う通りね。芳しくないわ」
 「ゆえにこの作戦は失敗するわけには行きません」
 「分かったでありんす…分かったでありんす!!」
 「ムゥ…スマナイナ」
 『はーい!暗く重ーくなった空気の中でモミからのお知らせがあります』

 空気が重くなった所でまたモミが喋る。

 『ぼっちさ―――まが暴走した時にシャルティアが逃がしてしまった武技使いが王都にいました!やったね。これでシャルティアの名は広まったね♪』

 重かった空気が凍り付いた。生物を死滅させてしまいそうな視線を一斉に浴びたシャルティアは震えだしていた。むろん視線が怖いのではない。どれだけ大きなミスを犯し、至高の御方に迷惑をかけるかを思って震えているのだ。
 死ぬことも殺されることも恐ろしくない、だが見捨てられる…失望されるのは…

 『…失望されるかもね』
 「!!」
 『下手をすれば捨てられたり…』
 「そんな!?いえ、そうでありんすね…それだけの失態を…」
 『私に良い考えがある』
 「良い…考え?」
 『汚名挽回…じゃなかった、名誉返上?あれ?ま、いっか。アインズ様とぼっちさ―――まの役に立つ作戦があるんだよね。しかもぼっちさん…あー…様が喜ぶ系のやつ』
 「本当でありんすか!!」
 『でも他の誰もがやりたがらないような仕事だけど…やってみる?』
 「やるでありんす。それでぼっち様とアインズ様のお役に立てるなら何でも!!」
 『フヒヒ…』

 不気味な笑い声が玉座の間に響く。
 デミウルゴスの作った『ゲヘナ』。それがモミの手で改竄された。この結果がどうなるかはこの先のお楽しみと言う事で…






 おまけ

 『ここで皆様にご報告がありまーす!!』

 『ゲヘナ』の計画を発表した後の玉座の間にてモミが大声で発する。
 
 「まったく、もう少し静かにしなさい」
 「今度は何よ?」
 『裁判です!!』

 答えを聞いた皆の動きが止まる。思い浮かんだ物は同じだったのだ。

 「まずは無断外出でしょうかね」
 『ザク!?』
 「む、無断欠勤もありますよね」
 『グフ!?』
 「仕事放棄でしょ。多いのは」
 『ドム!?』
 「アルベド、判決ハ?」 
 「もちろん有罪に決まっているじゃない」
 『ゲルググ!?って私じゃなくて』

 むーと唸るような声が聞こえたかと思うといつも通りにすぐに戻る。半分呆れつつ何を言ってくるのかを待つ。

 『ぼっちさんの偽名を知らなかったとは言えディスってた人が居ます』
 「ナンダト!?」
 「ぼっち様を…誰でありんすか!!」
 「まさかあんたじゃ…」
 「私はそんな事してないでありんす!!」
 「ぼ、僕も違いますよ」
 「では…」
 「そこで何で私を見たのかしら?」
 「いえ、別に深い意味は…」

 それぞれが自分の無実を口にし、アルベドを疑ったデミウルゴスは威圧され慌てて否定する。
 皆が次に思ったのはプレアデスだった。
 それに気付いたユリが慌てる。

 「ぼ、僕は!…コホン。私は違いますよ」
 「……ぼっち様には良くして貰っている」
 「私も~」
 「そうっすよ。ナザリック内でぼっち様を悪く言う者なんていないっすよ!…何でこっちを見るんすか?」
 「まさか貴方…」
 「うぇ!?違うっすよ!!」
 「ルプー怪しい」
 「…ルプスレギナ」
 「待つっす!虫や銃を向けないで欲しいっす」
 『残念皆外れ~。プレアデスまでは当たってるんだけどね』
 「ほら私じゃなかったすよ!」
 「プレアデスって事はここに居ないのは…ソリュシャン?」
 「ナーちゃんもっすよ。でもナーちゃんがそんな事…」
 『ルプスレギナ正解!!』



 漆黒の英雄として名が知れているモモン様と一緒にナーベはエ・ランテルを離れようとしていた。

 「至高の御身をあのような者達が…」
 「そういうなナーベよ。これも仕事だ」

 とある貴族の依頼で王都に行く事になったのだがその手段に不満があるのだ。
 道の整備が行き届いてないこの世界では馬車は大きく揺れる。至高の御身を歩かせるなどもってのほか。ゲートなどの魔法はモモン様が剣士である事から不可能。…いや出来るがもしも見られたらと考えるとあまりよくない手である。
 今回貴族が指示した移動方法はフライを使用した移動方法だ。これなら馬車より早く、揺れもないだろう。しかし虫けらである人間に至高の御身を任せること事態がありえないのだ。
 けれど至高の御身であるモモン様がああ言われているのだ。しかしもし何かがあれば即座に…

 「―――――っ!!!!!!!!」

 背筋が凍るほどの殺気を感じ、振り返りつつ剣に手をかける。
 息を荒くして、冷や汗を掻いてる自分に驚きつつ辺りを見渡す。

 「?どうしたのだナーベよ」
 「!……いえ、何でもありません…」

 急に剣に手をかけたナーベを不思議そうに見つめていたが気にすることもなく歩みを続ける。ナーベも至高の御方が気付かなかったと言う事はありえないので自分の気のせいと判断して追従する。
 決して気のせいではなかったのだが…



 書いたチェリオが書くのもあれなんですが…不安しかない!不安要素再び…
 さて、気を取り直して次回予告に行こう。
 平和な王都で暮らす一人の神父の一日のお話です。
 あれ?不安があるのは何故?
 次回「王国での神父の一日」
 お楽しみに
 


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第062話 「王国での神父の一日」

おは★ぼっちー♪(感想内で出来た挨拶を使って行くスタイル)

今更ながら誤字報告機能を使い誤字を教えてくれました…
きっゃまだ様・a092476601様・ザンギ@様・トードリオン様・ab様・Ca様・九尾様・矢沢様
感謝いたします。
そしてここに名前を載せられなかった方々には謝罪いたします。申し訳ありませんでした。
2月4日以前の誤字報告が適応した瞬間一覧より消えており、お名前が残ってなかったんです。
本当にすみません…
感想文で誤字報告してくださった方々にも返信で書いていますが、ここでも感謝申し上げます。
ありがとうございました。
これからもどうか『骸骨と共にぼっちが行く』を宜しくお願いいたします。


 時刻は午前8時。まだ朝の寒さが強く残る中、王都大通りに店を構えるカフェのオープンテラスでザーバ・クンスラァはゆっくりと過ごしていた。
 左手でゆっくりとページをめくり、右手でコーヒーカップを口元まで運ぶ。その動作だけで道行く女性たちはついつい魅入ってしまっている。
 視線に気付き、軽く手を振ると顔を赤らめて手を振ってくれる。優しそうな笑顔の裏では染めるのは血のほうが良いのだがなど考えているとは誰も分かるまい。
 
 「相席しても?」
 「ええ、構いませんよ」

 目もくれず相席を許可する。相手は背を伸ばした姿勢のまま向かいの席に座る。
 店員が注文を聞きに来ると悩む素振りを見せつつコーヒーを頼んだ。注文を聞いた店員が奥に引っ込むとカップを机の上に置き、口を開く。 

 「貴方が私と相席するとは思いもよらなかったですね」
 「少し前までは私もそう思っておりました」

 向かいに座ったのは紛れもないセバス・チャン本人だった。彼は自分を嫌っている。ザーバとしてはあまり信じられない光景である。まぁそれでも表情を崩すことはないが…

 「ツアレの事…本当にありがとうございました」
 「何もそこまで感謝されなくても良いですよ。神の使いとして当然の事をしたまでのことですよ」
 「……」
 「その疑わしい目線を向けられるほうが良いでしょう…私は貴方にとって悪なのですから(ボソッ)」

 頭を下げたセバスはゆっくりと上げると懐から黄色い薔薇を取り出した。
 見覚えがあった。アレは私が渡した薔薇だ。

 「この薔薇の花言葉をぼっち様から聞きました。貴方は何を思って私にこれを?」
 
 ぼっち様なら知っているだろう。私に薔薇の花言葉を教えてくれたのはあの人なのだから。しおりを挟んで本を閉じる。

 「そうですね…嫉妬ですかね?」
 「嫉妬?貴方が私に?」
 「悪は正義を嫌い、正義は悪を憎む。それらの理由には嫉妬、妬みなどの感情を含む事があります。自分に出来ない事、想えない事を反対側の相手は簡単に行なえるのですから」
 「だから嫉妬の意を込めたと?」
 「しかし今は愛情の薄れの方が正しいですかね」
 「それは…あ、ありがとうございます」

 店員からコーヒーを受け取り微笑むセバスに対して店員は頬を染めながら小走りで戻って行く。

 「タッチ様ならどうしたのでしょうね」
 「…あの方なら迷わず助けていたでしょうね」
 「あなたはどうでしたか?正義の行いを行なえましたか?」
 「私は…」
 「あまり失望させないでくださいね」
 「やっぱりここに居られましたか」

 遠くからザーバに向かって小走りで近寄ってくるシスター服の少女が視界に入った。セバスは軽く礼をして席を立つ。少女はすれ違いながら不思議そうな視線を向ける。

 「あれ?お話中でしたか。悪いことをしてしまいました」
 「ところでどうしたのですかシスターエイナ?」

 あ!と声を挙げて用件を思い出したエイナはムッとした表情で向き直る。

 「朝のお祈りがすむとどうして姿を消したんですか?おかげでシスター総出で探しているんですから」
 「おや?今日の午前中には何も予定は入っていなかった筈ですが」
 「なくても何も言わずに居なくなったら心配するじゃないですか…兄様だって急に居なくなってしまったんですから…」
 「…すみませんでしたね。軽率な行動でした。今後は控えることにしましょう」
 「…はい」

 会計を済ませて二人並んで教会へと帰る。
 エイナ・ポルグレッサ
 ある事件で兄を亡くした元貴族令嬢である。突然、兄と両親を失った彼女は絶望の淵に叩き落された。その後は彼女がポルグレッサ家当主になったがまだ若い彼女にハイエナのように金目当ての親族が群がったのだ。追い討ちをかけられた彼女は精神崩壊の一歩手前まで追い込まれた。
 そんな彼女を救ったのは神父で交流があったスカーレット・ベルローズが救ったのである。精神面を助け、群がる親族をすべて追い払ったのである。
 立ち直った彼女は財産のすべてを寄付してスカーレットと一緒に教会で勤めている。彼こそが兄たちを失うように後押しした存在だと知らずに…

 スカーレット教会。通称『赤薔薇園』。18歳以下の孤児286名、心に傷を負った人・匿っている娼婦&奴隷77名、シスター24名、神父32名、警備67名の大所帯である。
 『赤薔薇園』は王国でも最大級の教会である。狭い敷地に詰め込むように暮らしているのではなく、まだまだ余裕があるぐらい大きい施設なのである。大聖堂や皆が住まう為の建物、広い庭園に畑を持っている。
 この施設は二人の元貴族令嬢の多大すぎる寄付で出来上がっている。だがすでに資金は尽きており寄付金により運営している。と言っても代表であるスカーレット神父は貴族令嬢や夫人からの人気が高く途切れることはないのだが…
 それでも野菜などを畑で作り、庭園で育てている赤い薔薇を売ったり、代表自ら手品を披露して資金を得たりと自分達でも何とかしようと動いても居る。
 門を潜り、二人で歩いていると多くの子供たちが手を振ってくる。

 「ふふふ」
 「どうしました?」
 「いえ、本当にスカーレット様は人気者だなっと思いまして」
 「それは良かった」

 二人揃って微笑んでいるとドタドタと駆けて来る足音が響いてきた。

 「ベルローズ様ぁ~!」

 通路の端から走ってきたキャロルをザーバは抱きしめるように受け止める。
 隣に居るエイナは頬を膨らませる。

 「心配したんですよ!何処にも居なくて!!」
 「すみませんね。先ほどシスターエイナにも怒られました」
 「本当に心配したんですからね…にしても良いにおいしますねぇ~」
 「もう、キャロ!いつまで抱きついてるんですか。私の神父様から離れてください!!」
 「『私の』?(ニヤリ)」
 「はわ///!?」
 「『私の』ねぇ?」
 「違うんです!そういう意味じゃないんです///!」
 「落ち着きなってエイナ」
 「うー///」
 「それより他のシスターたちに神父が帰ってきた事を伝えなくて良いの?」
 「はぅ…忘れてました。伝えてきますけど…」
 「エイナ『の』神父様には手を出さないって」
 「~っ///行って来ます!!」

 小走りで去って行くエイナをキャロルが笑いながら見送っていく。
 キャロル・ヴィルシー。
 元々は商人の家だったが貴族間で上り詰めた家の出だ。没落したけれどもその資産は貴族並みにあった。彼女もエイナ同様に兄を亡くしたが彼女ほど深刻ではなかった。あまり気にする事もなかったのだがついでにハイエナ共を追い払ったらエイナと共に全財産を寄付して教会に来たのである。
 
 「で、今日はどうするんですか?」
 「そうですね…」

 顎に手を当てて悩む。
 いつもなら子供達と遊んだり、お祈りをしたり、薔薇の手入れなどあるのだが今日はそんな気は起きない。たまにあるパーティは無く、手品を披露し稼ぐことも予定してない。ゆっくり読書でも良いのだが…

 「夕刻に少し出かけます」
 「護衛は?」
 「いりませんよ」
 「…分かりました」

 不安そうな表情をするキャロルを余所にザーバは嬉しそうな笑みを浮かべた。
 お祝いとして私が薔薇の花束とワインを持っていったらどんな顔するでしょうかね?

 「ワインと言えば…」
 「?」
 「良いワインが手に入ったのですが」
 「まだ午前中ですよ?」
 「どうです?ご一緒に」
 「是非!!」

 この後、帰ってきたエイナにばれて説教される二人を皆が目撃したと言う…



 不安は無かった。うん。無かった……ですよねぇ?
 チェリオ的には無かったと信じて予告行きます。
 不安要素回を二回経て、王都も未だ平和であります。ならばツアレと平和を謳歌しても良いよね?
 次回『老執事と少女の行方と問い』
 あれ!?今回より不安臭がするのはどして?
 お楽しみに


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第063話 「老執事と少女の行方と問い」

朝だけどこんぼっちわ~(前回同様使っていくスタイル)

不安回が終わったはずだったのに終わらなかった…


 日は傾き、夕日が街を赤色に染め上げていた中をセバスはソリュシャンと共に屋敷へと向かっていた。
 数日後にはこの王都から撤退する為にお世話になった商人に挨拶に行ったのである。

 「思ったよりも時間がかかってしまいましたね」
 「今日ぐらいゆっくりしてもばちは当たらないと思いますが…いえ、セバス様はツアレに早く会いたいのですね」
 「そういう訳ではないのですが」

 と否定するものの、今も彼女の事を考えていた。
 数え切れない暴行の痕に何重にも重なっている病気をソリュシャンに治してもらったが心は別だった。

 傷が癒えて輝かしい金髪に愛らしい顔立ちの彼女を見たときの事。
 
 壊れた人形のようだった彼女が食事を得て、徐々に人間らしい表情を取り戻した事。

 今までの不平不満をぶつけられたが優しく抱きしめ安心させようとした事。

 ボソボソと喋り、メイドとして自分を出迎えてくれた事。

 温かく、美味しい料理を振舞ってくれた事。

 綺麗だと言ってあやすように抱きしめた事。

 アインズ様に対して内心震えていたがそれでも正面から向き合った時の事。
 
 命を差し出しても良いと本気で想い、覚悟を決めた彼女の事。

 そして『ちくちくしました』

 そっと唇を触れるセバスを心配そうに覗き込むソリュシャン。
 
 「どうしましたか?」
 「いえ、どことなくセバス様が赤く見えるのですが…何かあったのでしょうか?」
 「……夕日のせいでしょう」
 
 本当に顔は赤くなっているのだろう。しかしそれを認めるのは何とも恥かしいものがある。
 忘れよう。
 彼女は助けられた恩を恋愛感情と誤認しているだけなんですから。
 『幸せなキスは初めてでした』
 自分でも分かるくらい体温が上がった。耳まで赤くなったセバスを不思議そうにソリュシャンは見つめていた。

 

 屋敷に着くといつも通りドアを開けようとするがそこで気付く。
 無いのだ。
 いつもなら『お…りなさい。セバス様』と入り口付近まで駆けて来る気配が…
 「何かの間違いだ」と頭を振るい、不安を吹き飛ばそうとする。

 「鍵穴に新しく傷跡が着いてますね」

 ソリュシャンの一言で不安が現実の物としっかりと理解する。
 ドアを開けたセバスはいつもは見せない焦った表情を見せ、彼女の名を呼びながら屋敷の中を駆けた。
 彼女の部屋まで向かって立ち止まった。ここを開ければもう探す場所は無い。頼むから居てくれと心の底から望み、扉をゆっくりと開けた。
 扉を開けた先には一人の神父が立っていた。

 「やっと帰られましたか?鍵が開いていたので勝手にあが…」

 ザーバの言葉など耳には入ってこなかった。気がついた時には殴りかかっていた。拳が貫こうとした瞬間に薔薇が散り、彼は消えた。

 「おやおや…せっかく用意した薔薇の花束が台無しですね」
 「ツアレをどうしたのですか!!」

 構えたセバスは敵意を剥き出しにして背後へと転移したザーバを睨み付ける。

 「私は何も。ここに来たのだって貴方と彼女を祝福しようと思って来ただけですので」

 手に持っていたワインを見せて自分の目的を確認させる。
 
 「あのような粗末なピッキングを私がすると思いますか?」
 「……」
 「それに私が貴方と争って何のメリットがあると?」
 「………確かにその通りですね。殴りかかってしまった事を深く謝罪いたします」
 「いえ、構いませんよ。誤解が解けたのなら」
 「おっじゃまー」
 
 入り口より声が聞こえて何者かが上がってきた。

 「再び参上!!ってあれ?どったの?」

 モミはぴちぴち跳ねている魚を持って部屋に入るのだがあまりの空気の重みに首を傾げた。



 ~説明中~
 
 現状を聞いたモミはわざとらしくうんうんと頭を上下させる。そしてニヤケながら口を開いた。

 「ツアレを奪われてどんな気持ち?ねぇねぇ今どんな気持ち?」

 怒りで拳が振るえ、今にも殴りだしそうになる。

 「いや、マジでごめん!本気謝るから拳振り上げないで!!」
 「それよりもこれよりどうするんですか?」
 「…取り戻しに行きます」
 「それはいけません!次にアインズ様のご指示に背くような事は…」
 「…」

 今すぐ駆け出して行きたいのをぐっと堪える。ツアレを独断で拾ったことでアインズ様やぼっち様に迷惑をお掛けしてしまったばかりだ。これ以上の失態は許されることではないだろう。しかし彼女を見捨てて良いのか?
 
 「ねぇ今どんな気持ち?」

 再びモミに同じ質問をされ、怒りが先程よりも強く現れそうになった時、彼女の瞳を見た。

 深い漆黒の闇…
 見ているだけでそのまま飲み込まれそうな闇が嗤いながら自分を見ていた。
 背筋が凍りつく感覚が襲ってくる。いつもの彼女とは180度違う。見たこともない。

 「ねぇ今どんな気持ち?」

 言葉が怪しい魔力を持ったように耳の中にこだまする。
 脳が揺れ、足元がふら付く感覚…
 ゴクリと喉が大きくなる。
 デミウルゴスが前にぼっち様に恐怖を与えられた時の事を嬉々として話してくれたことを思い出していた。
 何かを言わなければ…口を開くがぱくぱくと開き閉じするばかりで言葉が出ない。
 アインズ様への忠義をとらねばならないのに彼女の顔が脳裏に浮かぶ。それと同時に目の前に居る神父の言葉が頭を過ぎった。
 『タッチ様ならどうしたのでしょうね』 
 「憤っています。彼女を奪われたことで怒りでどうにかなりそうなくらいです」

 不思議と心が落ち着き言葉が出てくる。

 『あなたはどうでしたか?正義の行いを行なえましたか?』
 「困っている人が居たら助けるのがあたりまえ…たっち様のお言葉です」

 一区切り置き、正面からモミを見据えて再び口を開く。

 「私は自分の意思で彼女を助けたい。今すぐにでも駆けて行きたい…いえ、行きます」

 セバスの言葉にソリュシャンは驚き、ザーバは微笑み、モミは口元を緩めていつも通り『にへらにへら』笑った。

 「そっか…そっか…分かった」
 「いけませんよセバス様!そのような勝手は…」
 「良し!行こうか」
 「ですね」
 「モミ様!?ザーバ様まで!!」
 「ナザリックに仕える者としてさ。見過ごせないじゃん?」
 「ですがアインズ様に何の連絡も」
 「モミさんが勝手に私と彼を連れて行ったとでも報告しておいて頂けますか?」
 「ファ!?私に押し付けるのかぁ……ま、いっか」
 「本当に良いのですか?」

 行く気満々の二人に驚きを隠せないセバスが問う。
 これは自分の我侭に近い物だと思う。それがこうも…

 「…ナザリックの理を考えて別に見捨てても良いような気もするけどいろいろ思案してたんだよね。そこんとこを考慮してこんな事で消費して良いものでもないし。それにぼっちさんが後で五月蝿そうだしね」
 「私は仮にも神父でしてね。迷える子羊にはいつでも手を差し伸べないといけませんから」
 「…胡散臭っ」
 「貴方にだけは言われたくないのですが」
 「ありがとうございます。御二人とも…」

 セバスとザーバにモミ。三人が夜の街を駆ける。
 …時を同じくしてデミウルゴスの作戦が始まろうとしていた…



 はい。六腕終了のお知らせ~。
 慈悲?そんな物はゴミ箱に捨てて来た
 
 次回『老執事と神父と蛇長女の共闘』
 お楽しみに


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第064話 「老執事と神父と蛇長女の共闘」

チェリオです……
不安+不安+老執事の戦闘回です。ま、結果は見えてますがね…


 モミとザーバとセバスは夜道を何の明かりも無く駆けていた。常人では問題があるだろうがこの三人には何の関係もなかった。
 向かう先は『六腕』とか言うツアレを攫って行った連中の所である。

 「…まぁご親切に居場所まで書いてくれてるしね」

 置いて行った紙に住所が書いてあり、とりあえずそこに向かっているのだ。

 「と言うか誘われているだけですがね」
 「…」
 「…セバスだけ超真剣だよね。それが良い!!」
 「少し黙ったら如何ですか?」
 「……はい」

 会話を終了したモミは常人でいう早い速度で走る事に集中する。
 ザーバはゲートを使ってさっさと移動したほうが手っ取り早いのではと進言したのだがモミ曰く、『正義の味方はさっそうと駆けて参上するべき』と訳の分からぬ事を熱弁されてとりあえず走っている。ナザリック的に正義は間違っているとは思うのだが…
 目的の場所は塀が高く、要塞を思わせるような雰囲気を持つ。
 セバスが戸を開けると案内役と思われる男が居た。

 「時間より早いな。こっちだ…ん?後ろの二人は…カヒュ!?」
 「深夜ですのでお静かにお願いしますね」
 
 後ろのモミとザーバに気がついた男に即座にナイフが投擲される。首に突き刺さった為に口から空気を漏らして地に伏した。何の感情も抱かぬまま三人は進む。
 進んだ先には多きめの広場があった。30人ほどの男女が周りを囲んでいた。その全員に共通していたのがニヤニヤとあざ笑うかのような笑みを浮かべていた。これから起きるであろう殺戮を楽しみに来た観客なのだろう。その中心に現れたのは予定とは違う人物だった。
 老執事と聞いていたが現れたのは目の下の大きなクマが特徴的な金の杖を構えた少女だった。

 「俺の心は嵐の如く猛っている。いくつもの怒りや悲しみ・・・その怒りと悲しみを我が力として、俺はお前を討つ!
人、それを・・・『修羅』という!」

 急に現れた上に高らかに叫ぶモミに困惑の表情が向けられる。観客の中の一人が叫んだ。

 「誰だお前は!?」
 「貴様らに名乗る名h」
 「さて。先へ進みましょうか」
 「ええ」
 「ふぁ!?ちょ!まだ私の台詞が…」
 「ここはお任せしますよ」
 
 ザーバとセバスは唖然としている集団を飛び越えて建物へと向かう。ため息をつき、力を抜いて両腕をだらんとぶら下げる。
 飛び越えられた事実より自分たちを無視された方が大きいのだろうか観客とは異なる四人がモミに殺気を向ける。

 「舐められた物ね!」
 「貴様を殺してからあやつらを追わせて貰おう」
 「『千殺』マルムヴィスト」

 レイピアを構えるジャケットを着た軽薄そうな優男。

 「『空間斬』ペシュリアン」

 西洋甲冑のようなフルプレートで身を包む剣士。

 「『不死王』デイバーノック」

 ローブの中からアンデット化した顔を現したエルダーリッチ。

 「『踊る三日月刀』エドストレーム」

 アラビアン系のドレスに三日月刀を持つ四人の中で唯一の女性。
 彼・彼女が『六腕』と呼ばれるアダマンタイト級で英雄級に近い連中。この世界では勝てるものなど片手で足りてしまうかもしれない。けれどそんなものどうでも良かった。

 「…終わった?」
 「なに?」
 「…お喋り終了?」

 俯いていたモミが顔を上げると皆が震えた。少女が出来るような笑みではない。見たものは曳きつけられ飲み込まれそうな瞳。そしてあの嗤い。心が凍りそうになった者達に呟いた。

 「絶望のオーラⅤ」

  突如発生した黒いオーラに触れた観客を含め全員が死に絶えた。ただ一人アンデットのデイバーノックを除いてだが…
 肩を回しながら近づくモミに恐怖を感じ一歩、二歩と後ずさる。

 「ああ、アンデットだから死ねなかったんだ。えーと不死王だっけ?」

 ただ一言呟いた。もう腕を回すのを止めてただただ見つめてくる。

 「寿命で死なないからと言って殺し続けて死なない訳じゃないでしょ?」

 エルダーリッチには瞼がない。だから瞬きする間もないと言うのはおかしいだろうが表現的には合っていると思う。5メートルあった距離が一瞬にして0まで縮められた。

 「雛罌粟から沈丁花まで打撃技混成接続…」
 「グオオオオオオオオオオ!!」

 残像が残るような速度で打撃を連続で当て続けられるデイバーノックは声を出すだけのサンドバックになっていた。

 「…あんたは272回死んだよ」

 身体中がボコボコにへこんだ屍骸が崩れ落ちた。それを踏み締めながら杖を振り上げる。

 「……時間潰しにもならない…出ておいでプライマル・ファイヤーエレメンタル」

 黄金の杖に取り付けられた紅玉より火で出来た龍のような顔を持った精霊が召喚された。

 「…焼き払え!!」

 命令に従って転がっている物を灰へと変えていく。つまらなそうに一瞥したモミはさっさと帰るべくザーバと合流する為に歩き出す。



 ザーバはセバスと別れて牢屋の前を歩いている。
 もし人質が居るのなら牢に閉じ込めている可能性がある。ゆっくりと歩きながら見てみるとこちらに背を向けているメイド姿の者が居た。

 「………ふむ」
 
 牢の前に立っても何の声も出さない事に唸ったわけではない。牢の入り口は閉じている。ならばと蹴りをお見舞いする。開ける訳ではなく出れないように変形させる為に…
 まさかの行動に驚いたメイド服姿の者が扉を必死に開けようとする。
 月明かりに照らされた顔はツアレのものではなかった。『六腕』の一人でブレイン・アングラウスに敗れたサキュロントであった。ここで待ち伏せをしていたのだろう。

 「貴様!何故だ…何故変装だと…」
 「おや、偽者でしたか?」
 
 まるでツアレを閉じ込めたかったような発言をした神父に驚きの表情を隠せない。

 「ま、その方が良いですがね」

 楽しそうに呟いたザーバは牢の中を指差し唱える。

 「サモン《ファイヤー・デビル・アント》」

 指差された位置より蝙蝠のような羽を生やしたアリが現れた。サキュロントは何も考えずに叩き潰す。同時に手に激痛が響く。

 「いってええええええ!!なんだこれは!?」
 「私の召喚で呼び出された極小の悪魔ですよ」 

 牢から離れて壁際にもたれたザーバは痛み苦しむサキュロントを眺めながら淡々と喋る。

 「私の転移魔法のひとつに入れ替え型のがありましてね。その悪魔たちはその時に使用する為に習得させられたものなんですよ。たかがレベル20の小悪魔です」
 「レベル20!?何を言っている?何の話だ!」
 「気にしないでください。そうですね…アダマンタイト製の棍棒でもあれば多少のダメージが与えれます。っと言ったら理解できますか?」
 「嘘だ…嘘だ、嘘だ!!」

 無数に湧き出るアリを踏みつけ潰そうとするが潰れるどころか靴にへばり付きよじ登ってくる。

 「歯には麻痺毒があり、多少の火炎ダメージ追加などの効果を持つ肉食系なので注意してくださいね」
 「肉!!待ってくれ!何でもする!召使でも奴隷でも何でもする!それとも金か!?俺の全財産をくれてやる!いいえ、差し上げます!だから助けてくれ!!」
 
 必死の叫び声を音楽でも聴いているかのように目を閉じて楽しんでいる。それでも諦める事無く叫び続ける。その間にもアリが服の隙間から侵入して噛み付く。

 「ヒギィ!?くがあああああ!!止め、止めて!!痛い、痛い、痛いいいいいい!!」
 「やはりこういう演奏はニューロニストの専売特許ですね。今度彼女の演奏を聞きに帰るとしましょうか」

 アリを払おうとするが噛まれ続けて悶え苦しむサキュロントを見て神父は微笑む。ただただ楽しみながら…

 「ああああああああああああああ!!」

 最後の絶叫が牢屋全体に響くとアリの召喚を解除して何事もなかったように帰って行く。もちろん召喚したアリを消してだが…
 その後には何もなかった。サキュロントの肉片一つ残されなかった…



 セバスは布に巻かれただけのツアレを見つけた事を喜んでいた。表情には出さないが。

 「セバス…ま。私…」
 「もう大丈夫ですよ。すぐに帰れますから少しだけ待ってて頂けますか?」
 「は…い」

 ツアレに自分の上着をかけて振り返る。
 禿げ上がった頭に筋肉隆々の男が余裕のある笑みを浮かべながら眺めていた。

 「一つ聞きたい。サキュロントを倒したのはてめえか?」
 「いいえ、私ではありませんよ」

 答えた事は事実なのだが信じてないような何か隠していることを言えと言う様な睨みがセバスに向けられる。 

 「まぁ良い。どうせここで死ぬのだからな」
 「ご自身がどうなるか分かっておられるのですね」
 「なに?まさか俺に勝つつもりか」
 「貴方も先の彼も別段変わり無さそうなので」
 「!?舐めた口をきくなジジイ!!」

 馬鹿にされたと思ったゼロは拳を振りかぶる。その一撃には彼が持つ指輪の力やスキルが使われているのだろう。
 決して馬鹿にしたつもりはない。ただ事実を述べただけなのだが…
 突き出された拳を上へと弾く。伸ばされた腕は曲がるはずのない動きを見せて肩より折れ曲がる。そして一歩踏み出して胸部に力を込めた掌底を打ち込んだ。
 悲鳴を上げることもなく、名乗ることも出来なかった『六腕』最強の男、ゼロは背より臓器をぶちまけながら吹き飛ばされていった。
 何事も無かったようにツアレに笑みを浮かべて手を差し出す。

 「お待たせしてしまって申し訳ありません。立てますか?」
 「…すみ…せん。力が入らなくて…」
 「分かりました。では失礼します」
 「!!セバスさま///」

 セバスはツアレをお姫様抱っこの形で抱きしめながら立ち上がった。ほんのりとその頬は赤らんでいた。最初は真っ赤になり照れていただけのツアレだったが徐々にセバスの胸板に安心してすべてを預けた。
 
 「では参りましょうか?」
 「…フヒヒ…リア充爆ぜるべし!!」

 いつから見ていたのかモミとザーバが微笑みながら立っていた。若干モミには殺意が篭っている様な気がする。
 見られていた事に対して真っ赤になるセバスとツアレを余所にザーバがゲートを開く。セバスとツアレが通過したのを確認するとモミが火炎魔法で火をつける。
 証拠隠滅の為に燃え盛る建物を気にする者など居なかった。時同じくしてデミウルゴスの『ゲヘナ』が始動したのだ。ナザリックメンバーが動き出す。
 ただ至高の御方々を除いて…



 瞬殺された『六腕』。アダマンタイト級とはいったい……
 さて、ナザリックの知恵者であるデミウルゴスが計画したゲヘナが始動した。悪魔が立てた作戦に人類はどう挑むのか!?

 次回『悪魔の襲来』
 お楽しみに…


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第065話 「悪魔の襲来」

おはようございます…チェリオです。
最近戦闘や不安げな物ばかりでのほほん成分が枯渇してきました…

『あれ?デイバーノックってアンデッドだよね。絶望のオーラって効果あるのかなあ……?』との感想があり、チェリオも解らなかったので『老執事と神父と蛇長女の共闘』に少し内容を付け足しました。


 なぜこんな事になってしまったのだろうとイビルアイは考える。
 周りには戦闘態勢をとっている仲間達。
 目の前には自分と同等クラスのメイド服を着た化け物…

 数刻前…
 イビルアイは仲間の蒼の薔薇と共に王女のラナーに謁見していた。
 内容は王国に巣くっている『八本指』の拠点を潰す作戦の為だった。主だったメンバーはラナー王女に仕えるクライム、王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ、そのガゼフと互角の腕を持つと言われるブレイン・アングラウスとかなり優秀なメンバーが集まった。
 本来ならここにアルカードや弟子であるマインを呼ぶ予定だったのだがここ最近忙しいらしく、屋敷にも帰っていないらしい。
 私とティア、そしてガガーランの三人はヒルマという幹部を捕縛するはずだった。
 しかし屋敷には人食いらしき化け物が居た。可愛らしいメイド服を着てニコニコと笑っているメイド。容姿と違って血の匂いが彼女から発せられる。どれだけ殺したのか。いいや、どれだけ食べたと言うのだろうか。
 先に戦闘を行なっていたガガーランとティアは苦戦を強いられているようだ。焦る事無く第四位階魔力系魔法《水晶騎士槍》を上に投げる。

 「~♪…!!」

 ティアを捕縛しようとしていたメイドは気付いたのか、飛び退いて《水晶騎士槍》を避ける。初めてこちらを意識したのだが何とも興味の無さそうな視線を浴びた。何故だ?

 「それぐらいにしてもらおうか」
 「誰ぇ?今はこの二人を食べるからどっか行っててくれるぅ?子供のお肉って柔らかくて好きだけど食べるところが少ないのよねぇ」
 「なるほど。メイドにしては血なまぐさいと思ったら人食いか。お前のような化け物を近くに置いて喜ぶ者が居るとは思えないがな」
 「ナンダトキサマ!!」

 先ほどまでのゆったりとした可愛らしい声色からどすの利いた声へと変わった。どうやらそれほど気に障ったらしい。

 「至高の御方に仕える私を…創造された私に…あいつは…あいつは」

 何か呪詛のように呟くメイドを余所にガガーランとティアに視線を送る。まだまだ戦えると視線を交わしただけで理解した。

 「コロス!コロス!コロスウウウウウ!!」
 「それはこちらの台詞だ。仲間を苛めてくれたお礼をしてやろう」

 背に5メートルはある大ムカデが4匹取り付き、手には剣のように鋭い蟲がくっつく。どうやら蟲使いのようだ。ならばこちらにとっては好都合だ。

 「不快な女ぁ!そいつらと一緒に潰れろ!!」
 「くだらないな…《重力反転》」

 上段より振り下ろされる大ムカデに対して焦るどころか余裕を見せて魔法を使用して浮かす。メイドは表情を変える事無く口を開いた。中から無数のハエが放たれる。
 その光景にとある魔神を思い出す。あの魔神の関係のものならと白い靄を放つ。白い靄に触れたハエは地面に落ち、もろに浴びたメイドは悲鳴を上げる。

 「ゴアアアア!!」
 「何の魔法?」
 「殺虫魔法《蟲殺し》だ。二百年前の蟲を使う魔神用に作った私のオリジナルだ」
 「俺達には何もないんだろうな?」
 「ああ、まだ人間であるならな」
 「何でティア同様で俺を化け物にしたがるんだ!!」
 「…それより顔が溶けている」

 ティアの一言でメイドに大きな変化が出たことに気付いた。文字通り顔がどろどろに溶けていたのだ。《蟲殺し》に皮膚を溶かすなんて力は無い。あるとすれば…
 溶けた顔がぼてっと重い音を立てて地面に落下した。人の面を写したような蟲だった。それだけでも衝撃的だったのだがそれだけでは終わらなかった。嗚咽しながら吐き出した蟲が地面に這い蹲る。
 口唇蟲…
 人間種などの声帯を貪り、被害者の声を発する蟲…
 仮面の蟲や口唇蟲だけではなく素顔が明かされた化け物の素顔を見て少し後ずさる。こんな化け物が存在するとは…
 
 「ヨクモォ…ヨクモォ!!」
 「ハッ!良い声になったじゃねえか」

 素の声で叫ぶ化け物に対して敵意を込めた皮肉をガガーランが浴びせた。

 「人間ガァ!人間如キガァアア!!」

 叫びながら猛ダッシュしてくる化け物はどうやら自分を狙っているらしい。さらに好都合だ。

 「出し惜しみは無しで本気で行くぞ!!」
 「おうよ!!」
 「…了解」

 狙ってくる己自身を囮として移動する。そして不意をつくようにティアが右から左と一撃離脱して行く。注意がティアに向きかけるとガガーランの猛攻と私の《蟲殺し》を浴びせる。
 あの化け物は一対複数の戦いに不慣れらしい。行ける!私達の思いはすぐに現実になった。

 「やっとかよ…」
 「…赤字」
 「そんな事、言ってられるかよ」

 戦いの末に勝利したが装備品のほとんどを消費しておりこれ以上の戦闘は不可能だろう。だからその前にあの化け物が倒れてくれたのはありがたかった。

 「カヒュー…カヒュー…」

 まさに蟲の息である。このまま放置していても良い事はないので止めをさそう…

 「手酷くやられましたね。後は私がやりますので先に帰還してください」

 仮面を被ったスーツ姿の男が何処からともなく現れた。
 背筋が凍った。
 二人は気付いてない。目の前の男は正真正銘の化け物だ。いや魔神と言って良い。勝てる訳がない…だからと言ってむざむざ殺される訳にも、殺させる訳にもいかない。

 「ティア…ガガーラン…全速力で逃げろ」
 「…何?」
 「おいおい、何を言って…」
 「良いから全速力で逃げろ!」

 余裕もなく叫ぶイビルアイにどれだけの危険があるかを理解して走り出す。仲間を見捨てるわけではない。いざとなったら転移出来るイビルアイを信じての行動である。
 後ろへと下がって行くメイドを見送った男は肩を竦める。

 「出会って早々別れると言うのはどうなのでしょうね?私としては挨拶と共にが礼儀的にも感情的にも嬉しいのですが…まぁ、時間も押していますので始めますか」

 狂気が優雅さをまとって喋る。
 死を直感した。200年以上生き、伝説にも謳われた存在であるがこの逃げようのない死を覚悟した。

 「お先にどうぞ。来ないのでしたら私から攻撃しますが?」
 「なら好意に甘えさせてもらおう!《魔法最強化・結晶散弾》!!」

 イビルアイはお気に入りの魔法を放つ。無数の尖った水晶が男に向かって飛翔して行き、当たる前に直撃した。目にした事実に唖然とした。対抗策をする事無く消失するほどの実力差があると言う事…
 男は演奏を指揮する指揮者のように手を振るう。
 嫌な予感がした。
 奴が何かをすれば大事な何かを失う。直感的にそう思ったのだ。急いで懐に手を伸ばす。

 私、イビルアイはあいつ、アルカードがあまり好きではない。
 奴は何かを隠している。
 少なくとも私の素性を知っているだろう。しかし自分を知りうる存在に奴のような者は居なかった。それに奴からは魔神に近い感覚を得る。感じというだけで実際にオーラを放っていると言う訳ではない。雰囲気が似ている気がする。そう、気がする程度なのだ。
 ゆえに好きになれない。そもそもあんな怪しい奴をなんでガガーラン達は信用しているのかが分からない。
 あいつが好きではない。同時にあいつが関わる店も好きではなかった。しかし一度だけガガーランに誘われて行ったのだ。
 目に止まった…
 形は違うものの懐かしくも感じるアイテムを…
 超高額なのも頷ける品だ。別段買うこともなかったのだが店員に無理を言って買わせて貰ったのだ。心のどこかでは偽者、レプリカだろうと思っていた。
 あいつも嫌っている事に気付いているだろう。謝る。許してくれないなら許してくれるまで何でもする。だから本物であってくれ!!

 男は何をされても余裕で受け流す事が出来ると確信していた。しかしその考えは一瞬で霧散した。
 
 「頼む!行っけぇー!!」

 懐から取り出されたのは見間違う事はないアイテム。自らの主が使っていた武器。相手を追尾して行く黒い短剣。《ナイフ・バット》
 ズキリ
 まだ投げられた訳ではないが前のトラウマが甦り、足に痛みが走った気がした。おかげで狙いが逸れて逃げ出した二人の前方に《獄炎の壁》が出現する。二人の人間がどうなったか見てないがとりあえず投げ出された《ナイフ・バット》を迎撃する。

 「本物…だった…」

 投げた瞬間、飛び立って行った短剣を見つめながら呟いた。奴は驚き狙いがずれたのだろう。ガガーランとティアの前方に炎の壁が出現する。二人が無傷なのに安堵する。
 思い出す。今や伝説として語られることも少なくなってしまった存在。大昔に出会ってしまった金髪格闘家の吸血鬼を…
 何時までも思い出に浸っている訳にもいかない。未だ絶望的な状況なのだ。
 そんな時、上空より一人の剣士が降りてきた。
 漆黒のフルプレートでその身を包み、二本の大剣を背に担ぐ剣士。

 「私の敵はどちらかな?」

 冷たくも強く発する剣士に希望の光を見た。 



 「親方!空からモモンさんが!!」
 モモン・ザ・ダークウォリアーが降って来たところで今日は終了。

 もうすぐ連休ですね。チェリオは大忙しですけど…
 五連続投稿決定!!
 
4月30日『巻き込まれた至高の御方々』
5月01日『特別編13:ぼっちの怖い物』
5月02日『王都に集った者達』
5月03日『特別編14:モミの一日…』
5月04日『必死の救出劇』


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第066話 「巻き込まれた至高の御方々」

おはようございます。連休一弾目投稿したチェリオです。
ちょっと戦いの前準備なんですよね。


 月が輝く深夜…
 王都へ進出する為の前準備をやっとの事で済ませたぼっちは先ほど屋敷に帰り、睡眠をとっていた。
 一階にはマインを含め数十人の使用人が詰めている。
 布団を頭まで被って爆睡していたのだが突如飛び起きた。
 自身の索敵に多数の悪魔が引っ掛かったのだ。レベル的に問題はないのだがこの世界の住人は別だ。
 多分その事でだろう。誰かが屋敷に飛び込み、一階で騒ぎになっている。とりあえず慌てることなく真っ赤な上着を着て一階に降りる。
 蝋燭の明かりを頼りに降りてみると不安げな表情で皆が途惑っていた。

 「アルカード様!」
 
 ひとりの使用人が気付いて名を呼んだ。同時に皆が振り向く。
 人目が集まるのはイヤなのだが正直に今は助かる。精神の安定化が起こって喋りやすくなる。

 「何があったのです?」

 分かっておきながら聞いてまーす。ここで『悪魔が大量に発生している』なんて言っても上で寝てた人間が言ったらおかしすぎるし。
 一人が前に出る。衣類は乱れて汗だくになっている事から飛び込んできた男だと判断する。

 「悪魔が!無数の悪魔が現れました!!」

 慌てふためく事無く話を聞く。解りきっていることだが彼らから聞くのと俺が感じた事に差がある事を実感する。俺からしたら小さな小火程度に感じていたが彼らにとっては国が崩壊するレベルだと理解する。
 今更ながら人間だった頃の感覚が狂ってきてるなぁ…

 「アルカード様、避難を!」
 「その提案は却下する」

 ゆっくりと皆の中心へと向かって歩き出す。
 そんな大変な事なら逃げ出すわけにもいかない。まだ寝てたいんだけどね…

 「マイン!」
 「は、はい!ここに居ます」
 「この街にいるヘルシング兵力を連れて王宮へ。ラナー王女に指示を仰いで最善の行動をせよ」
 「ハッ!行って来ます」
 「馬に乗れる者は近くの街々にあるヘルシング系列の店に向かい、兵力やら食料をかき集めてくれ。大至急」
 「はい。了解いたしました」
 「君はニ…ルークを探して来てくれ。そして鍛冶屋に来るようと」
 「承知しました」
 「君たちは王都に集めた物資をいつでも出せるようにしといてくれ。食料は後で振舞うことになると思うから」
 「は、はい!早速…」
 「残りの者達は一般人の避難に当たれ。行動開始!!」

 矢継ぎ早に指示を出してぼっち以外いなくなった屋敷で一人ぐったりとした。
 きっつい!精神的には楽なんだけど喉が死ぬる!!あ゛―…何故こんな目に…
 ため息をつきながら立ち上がり鍛冶屋に向かう。するとメッセージが届いた。

 『ぼっち様。ステラです』
 「・・・どうした?」
 『…姉からの伝言なのですが…宜しいですか?』
 「ああ・・・」

 宜しくないよ実際。嫌な予感しかしないよ。不安要素しかない。しかし大事な用件かもしれない。とりあえず聞いてみよう…



 アインズ…いやモモンは理解出来ていなかった。
 とある貴族の依頼で王都に出稼ぎに行く事になったのは良い。
 報酬も他の仕事より高額で貴族とのパイプも作れると二重で美味しい仕事と思っていた。用意された魔法詠唱者により空中を移動していたら何やら戦闘らしき物が見えて降下した。
 どゆこと?
 降り立った先で戦っていたのは仮面を被った少女…そんな者はどうでも良いのだがそれと対峙していたのが仮面を被ったデミウルゴスだったのだ。
 何してんの?ってかどうなってるのこれ?そして一緒に降りたナーベにものすっごい殺気を向けているのは何故に?

 「漆黒の英雄!私は蒼の薔薇のイビルアイ。同じアダマンタイト冒険者として協力してくれ!!」
 「承知した」

 アダマンタイト級に顔を売っておくのは悪くないだろう。それにアダマンタイト級を助けたとなれば今以上に名も売れるし。

 「これはよくいらっしゃいました。名を伺っても?私はヤルダバオトと申します」
 「アダマンタイト級冒険者のモモンだ」
 「それでここにいらっしゃった理由を聞いても?」
 「依頼だ。とある貴族より大きな仕事を請けてきたのだが……そちらの目的を聞こうか」
 「私の目的はこの都市に流れた私達を召喚・使役する強大なアイテムの回収になっております」
 「それを差し出せば引いてくれるのか?」
 「それは無理でございます」
 「ならばやる事はひとつだな?」
 「ええ、そういうことになりますね」

 大剣を両手に持ち、デミウルゴスと交える。パーフェクトウォリアーでレベル100の戦士になっているが元が魔法職なので実質レベル30程度なのだが、手加減してくれている為に今でも互角に戦っているように見える。さすがデミウルゴス。こっちの都合を理解してくれる。が…問題はこっちが理解出来ていない事だ。後でぼっちさんにでも聞いてみるか。
 悪魔の腕と大剣が火花を散らしながら接触し続ける。力強くも決して到達することのない激戦を目の当たりにして唖然とする。

 「凄い…」 
 「凄いってかあのモモンって奴、半分人間辞めてねえか?」

 隙あらば援護ぐらいは出来るだろうと思っていたガガーランとティアはあまりの戦いに入る事が出来ないでいた。憧れなどの感情より戦いに魅入っている瞳の中で一人だけ違う事にナーベは気付いた。

 「がんばれモモン様」

 恋する乙女が持つ独特の雰囲気を出している仮面を着けたイビルアイだ。
 それよりも気になることが一つ…何故あのような殺気を向けられたのか理解できない点である。
 その後はモモンが範囲攻撃からイビルアイ達を守り、デミウルゴスが撤退したことから一時的にだが戦いは終了した。


 
 ぼっちは鍛冶屋につくと頭を深々と下げるニグンと手を頭の後ろで組んで楽しげな笑みを浮かべるクレマンティーヌと合流した。

 「ぼっち様ご命令を。この命に代えてもやり遂げて見せます」
 「固いよね~ニグンちゃんは」
 「・・・あ」

 喋ろうとしてある事に気づいた。この大事件に人々は非難したり、建物の中に隠れている為に人気がないのだ。そもそも深夜の時点で人気は少ないのだが。
 精神の安定化が発動しない…こんな時に…悪態をつきたいがそれよりも少しでも早く伝えないと!

 「・・・ルーク」
 「ハッ!何でございましょう」
 「・・・指揮を」
 「畏まりました。話は大方伝令より聞いております。現場での指示はお任せを」

 え?これだけで通じるの?どんだけ優秀なんだよ。まぁ助かるけど。助かるけど!すんごくありがたいので二回言った。で、クレマンティーヌはどうするか…

 「・・・好きにしろ」
 「~♪さっすがぁアルカード様。話が分かる~♪」

 短剣をひとなめしたクレマンティーヌは駆け出し闇夜に消えていった。対してため息を漏らしたものの礼儀正しく礼をして歩き出すニグン。ほんと正反対な二人だよな。
 そんな事を思っていると店内より荷物を担いだレイル・ロックベルが出てきた。
 
 「あんれ?何でここにいんの?」
 「・・・武器を取りに」
 「へぇ~…逃げ出さないんだ。少し好感度アップ」
 「・・・」

 好感度アップって今はどれくらいなんだろう。いや!底辺だったら心にダメージが

 「ま、もともと高いけどね」

 よっし!やった!
 ガッツポーズをとりたい衝動を抑えつつ店内へ向かう。店内では従業員が必要最低限の荷物を持ち避難の準備をしていた。挨拶もなしに奥へと進み、棚の奥へと押し込まれた物と長い桐箱に手をかける。

 「その出来損ないと売れ残りを持っていくんだ?」
 
 荷物を置いてぼっちの後をついて来たレイルが面白そうに呟いた。

 「・・・刀を」
 「置いて行く奴から選んでおくよ」
 「・・・頼む」

 持って行くには多過ぎるために店内に置いて行く刀をレイルに取りに行かせる。桐箱を少し開けて中の槍を見つめる。

 「行こうか・・・蜻蛉切」

 これから戦いに赴くのだが何故こんな事になってしまったのだろう?と二人のプレイヤーは首を傾げる。



 降り立った漆黒の英雄・貴族になったぼっち 『何故こんな事に?』
 さて予告どおり本編の後は特別変

 次回『ぼっちの怖い物』
 いっぱいあるよね。視線とか視線とかね。
 お楽しみに


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第067話 「王都に集った者達」

 さて間もなく始まる戦闘…いや、悪魔との戦争の為にアダマンタイト級から一般兵士までラナー王女の下に集う。


 現在王都では非常事態宣言が通達されていた。それもそのはずである。王都では今まで見たことないほどの悪魔の軍勢が現れているのだ。
 これからその最前線に行くと思うと身体が震える。

 「どうしたニニャ?やっぱり怖いのか」
 「そりゃそうでしょう。これから私達があの悪魔たちに向かって行かなければならないんですから」
 
 ペテルの視線の先には悪魔達が居る炎の壁が見える。
 作戦は簡単だ。モモンさん達三名が悪魔の指揮を執っているとされるヤルダバオトの元に辿り着くまで多くの兵士と冒険者で他の悪魔の相手をするとのことである。

 「厳しくなりそうですね」
 「うむ。しかしやり遂げねばならないのである」

 数ではこちらが有利にも見えるがほとんどが兵士だ。モンスターとの戦闘経験がある冒険者ではなく対人戦の兵士なのが問題なのだ。彼らはモンスターの特性を知らない。ゆえに冒険者が頼みの綱なのである。
 不安で胸が押しつぶされそうな時、ある人物が視界に映った。
 血の気が引いて顔が青ざめる。相手はこちらに気付かなかったのか人ごみのなかに紛れていった。

 「おいおい、本当に顔色わりぃな?」
 「いた…」
 「ん?なんだって」
 「居たんですよ!ンフィーレアさんの家で襲って来た女性が!!」

 皆の顔色が変わった。あの圧倒的な力を持ち、人を殺すことに快楽を持っている女性を忘れることなど出来なかった。
 なぜここにあの人が…
 ニニャは不安げな表情のまま人ごみを見続けるのであった。


 
 悪魔が大量に発生した事が王宮に知れるとすぐに指揮所が作られた。簡易な天幕だがそれに時間をかける訳にもいかない。そんな時間があるならば一刻も早く現状に対応しなければならない。
 現在、天幕には指揮を執るラナー王女にアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』と『漆黒』の面々が顔を合わせていた。
 
 「でだ。私とナーベ、そしてイビルアイさんでヤルダバオトと戦うのは良いとして他の悪魔たちはどうするのですか?」

 漆黒の鎧で身を包んだままのモモンが口を開いた。それはまともな質問だ。イビルアイ達が見たところではヤルダバオトとモモンの実力は互角、もしくはモモンのほうが上回っている。しかしそれは万全の状態でだ。ヤルダバオトと出会うまでに大量の悪魔と戦って消耗させられればその分不利になる。
 そのような事を理解できない者はこの場に居なかった。

 「ですのでヤルダバオト討伐隊の援護としてここに集まっている兵力で悪魔達の注意を引き、足止めを行なわなければなりません」
 
 ここに居る兵力。それは王都での守備任務などに勤めている兵士だけと言う意味である。王国最強の戦士長ガゼフ・ストロノーフは役職柄、王の護衛の為に参加できない。あとは王都に訪れている貴族達の私兵達は言うまでもなく、自らの護衛に当てる為にここに来るわけもなかった。

 「しかし兵士は兵士でしょ?冒険者と違ってモンスターとの戦闘経験なんてない。そこはどうするの?」
 「ラキュースの言う通り彼らは兵士。だから頼りにしてるわね」
 「ええ、任せて」
 「蒼の薔薇以外にも王都にいる冒険者に、たまたま王都に来ていたエ・ランテルの冒険者にも協力してもらっているの」
 「それでも数が少なすぎないか?いくら俺達でもアレだけの数相手に出来ないぞ?」
 「ガガーランなら大丈夫…」
 「なんでだよ?」
 「だってもう青い血が流れてるでしょ?」
 「お前達は俺をなんだと思ってんだよ!?」

 気持ち的には少しの余裕があるのか冗談の混じった会話が起こったが、数的には余裕がないのは事実だった。圧倒的に多い兵士達を冒険者達がすべてカバーできるわけもなく、中には冒険者の指示無しに戦わなければならない者達も多い。ならばもっと数が欲しいのだが…
 そんな事を思っていると急に天幕の入り口より何者かが入ってきた。

 「遅くなってすみませんでした」

 入ってきたのはマイン・チェルシーだった。彼はアルカード伯爵の弟子だから彼の護衛を勤めていると思っていたのだ。

 「どうしてここに?伯爵の護衛は宜しいのですか?」
 「はい。ヘルシング代表のアルカード・ブラウニー伯爵よりラナー王女様の命に従って最善の行動をするようにと指示を受けて参りました」
 「伯爵の?」
 「それと王都に身辺警護の店を出す為に呼び寄せた兵士20名と…『蒼の薔薇』の方々は知っているピトーさんもこちらに着ています」
 「それは心強いわね。彼女はかなりの腕だったしね」
 「戦力的にはありがたいわね…貴方にはクライムと一緒に人質捜索の方に回ってもらって良いかしら?捜索にはクライムを含む少数精鋭で行なってもらう必要がありますので」
 「了解しました。では20名の兵士の隊長はピトーさんにお願いしてきます」

 マインは捜索隊のクライムとブレインに頭を下げてから天幕の外へ出て行った。すると入れ替わりにスカーレット・ベルローズ神父が入ってきた。

 「お久しぶりですねラナー王女様」
 「ええ、お久しぶりですね神父さん」
 「援軍として来たのですが宜しいですか?」
 「援軍!?」

 いつも通り礼儀正しく現れた神父の言葉にそこに居た皆が違和感を覚えた。一教会の神父が援軍を?
 天幕の入り口から外を見てみると神父・シスター姿の者が30人近く居た。

 「教会には子供達も居ますから護衛や備えで待機を命じた者達がほとんどですが私を含めた『武装神父隊』34名が微力ながら援軍として参りました」
 「おいおい、神父さんよ。神に仕えるあんたらが争いごとなんて良いのかよ?」
 「本来なら良くありませんよ。ですが神の敵となる悪魔は別ですから」

 これで戦力はまあまあ良いだろう。後は成功することを祈るだけである。外から神父・シスターの祈りの声が聞こえる。

 「我らが祈りを捧げる神々よ。我らを見守りたまえ。お力を与えたまえ。守りの女神『桃色の守護神』様。戦の神『白銀の騎士王』様。遠的の神『黄金の鳥神』様。そして願わくば死後の我らを導きたもう神々の主神『死の大神』様」

 祈りの声がその場を満たす。 



 マインより指揮権を渡されたピトーは嬉しそうに微笑む。
 久しぶりの狩りなのだ。相手がモンスターだろうが関係なかった。ふと何かの視線を感じ取った。目を凝らしてみると人ごみの中に前に襲った冒険者チームを見つけた。かれらもこちらを見