黒い鳥の居場所 (elf5242)
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迷子の迷子の黒い鳥

依頼人 レジスタンス連合

依頼内容
我らの拠点がある荒地で管理局陸戦部隊とAGSの魔道式パワードスーツ部隊が睨み合っている。このままでは次の大型の作戦に支障が出る恐れがある。如何にかしてこの二つの部隊を撃破してくれ。



「聞こえてる?ミッションを確認する。前方に二つの部隊がいる。一つは時空管理局陸戦部隊、もう一つはAGSの魔導式パワードスーツ部隊。両部隊の睨み合いは三日前から。依頼はこのどちらかに攻撃を仕掛けて戦端を開き、そのあと両部隊を全滅させる。」

 

荒地を飛ぶヘリ。その中に女性の声が響いている。ハッチの目の前にいるのはマントで全身を隠した人物。

 

「私達が与えられた情報は…………これで全部。」

 

「ハッハッハッ!なんだそりゃ!?

毎度毎度、ロクでもないな!それもご時世か?使い捨ての傭兵の。」

 

女性の声が響いた後は、ガラガラの声の男の声が響く。

 

「少しは静かにして、ファットマン。仕事する気あるの?」

 

「マギー。俺はもう、いつ運び屋を辞めるか、それしか頭に考えてない」

 

ファットマンと呼ばれた男は笑いながらそう答えると、マギーと呼ばれた女がすぐさま溜息を吐き、呟く。

 

「はぁ…………じゃあそれは明日にして。今日は仕事がある」

 

「役にも立たない天気予報の話だと、明日は雨らしい。辞めるのは雲一つない晴れた日って決めてる」

 

「…………速度上げ、低空で突入、管理局部隊側後方に投下後、すぐさま上昇して離脱、デバイスの起動準備!」

 

ヘリのハッチが開く。マンとの人物はなんのためらいもなく、開いたハッチへ、飛び降りていった。

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

『生体認証確認。システム起動』

 

管理局部隊の数キロ後方に降り、自身のデバイスを確認する。子機のフルカスタムされた銃型のストレージデバイスと親機のバイザー型のストレージデバイス。魔法はほとんど使えない。念話と飛行魔法、そして物体に魔力を込める付加魔法が多少使えるくらいで、他には何も使えなかった。

 

『システム、スキャンモード』

 

親機のバイザー型ストレージデバイスの機能『スキャンモード』を起動する。全ての障害物を透視し、熱源反応と相手の影を探知する。

 

『システム、戦闘モード』

 

一気に視界に色がつき始め、思考と同時にクリアになる。足に魔力を付加して一気に駆け抜ける。

 

『先ずは、どっちかに攻撃して。話はそれから』

 

マギーと呼ばれた女の声が耳に響く。それに言葉ではなく行動で返事を返す。マントの中から両腕を出す。両手には子機であるストレージデバイス。一つは右手に持つ突撃型ライフル、もう一つは左手に持つ三つの銃口を持つオートキャノン。数人いる相手の内、ランダムに複数人をロックオン。目測で突撃型ライフルをばら撒く。

 

「て、敵襲!?」

 

「ま、真後ろから!?」

 

「よく分からねぇが好機だ!全員仕掛けろ!」

 

突然の攻撃に管理局部隊が混乱、AGSのパワードスーツ部隊が管理局部隊に戦闘を仕掛ける。AGSが仕掛けたことにより冷静になった何人かの管理局部隊が応戦する。

 

『よし、戦端は開いた。後は動くやつ全員を撃破して。そういう依頼だから』

 

その声が聞こえた瞬間、足に魔力を付加して跳躍。落下しながらオートキャノンを数人に発射する。

 

「いってぇ!?テメェ!」

 

オートキャノンが直撃したパワードスーツ部隊の一人が反撃とばかりにアームパンチで殴りかかる。パイルバンカー機構を持つそれは当たればダメージは計り知れない。が、マントの一枚目剥ぎ取り、それを相手の腕に巻きつける。

 

「なんだと!?」

 

僅かな動揺が生まれた隙に、相手の頭部に突撃型ライフルの銃口をねじ込み、魔力を付加した弾丸を撃ち込む。それは自動発動の防御魔法を貫通し相手の頭を貫く。

 

「し、質量兵器!?」

 

「ちげぇよ!普通の弾丸に魔力を付与して弾殻にしてんだよ!プロテクション張る時は複数枚張れ!」

 

一部始終を見ていた管理局部隊の複数人が防御魔法を複数枚張り始める。

 

『厄介ね。如何するの?』

 

マギーの質問にもやはり答えずに行動で示した。オートキャノンをマントの中にしまう。代わりにマントの中から蒸気の抜けるような音が聞こえるそして左腕についていたのは銃身が根元から折り畳まれている大口径の"スナイパーキャノン"。

 

『システム、スキャンモード』

 

システムをスキャンモードに切り替える。建物内に数人の影が見える。

 

『システム、戦闘モード』

 

それを確認するとその建物にスナイパーキャノンを撃ち込む。大口径弾を撃ち込まれた建物は轟音を立てて崩れ、中にいたパワードスーツ部隊を複数人巻き込む。

 

「や、野郎やりやがったな!」

 

パワードスーツ部隊が集中攻撃をかける。魔力駆動のミサイルなどが殺到する。突撃型ライフルをマントの中に戻す。またマントの中から蒸気の抜けるような音が聞こえる。そしてマントの中から出したのは"ガトリングガン"。それを後手に持ってばら撒きながら、スナイパーキャノンの砲口で管理局部隊をけん制する。

 

「魔力を付与してようと相手は質量兵器持ちだ!手加減はするな!」

 

管理局部隊も狙いをAGSとマントの人物に定め、魔力弾を撃ち始める。

 

『システム、スキャンモード』

 

ミサイルや誘導弾を全て撃墜した後、システムをスキャンモードに切り替える。近くの大岩の上に管理局部隊の一人が此方を砲撃魔法で狙っているのが見える。スキャンモードで魔力反応が上がっているのが目に見えてわかる。

 

『システム、戦闘モード』

 

それを確認するとシステムを戦闘モードに切り替え、スナイパーキャノンで大岩の過重がかかっている部分を狙う。そんなところを狙われれば、大岩とて容易く崩れる。案の定上にいた管理局部隊の一人は大岩の崩壊に巻き込まれる。

 

『敵反応残り約半数。』

 

マギーのその声が聞こえるな否や、最初の突撃型ライフルとオートキャノンに切り替え、跳躍。打ち合いの真っ只中に無理やり体を回しながら勢いを殺さずに着地、突撃型ライフルとオートキャノンの乱射する。

 

「こ、このっ!?」

 

管理局部隊の一人が苦し紛れに撃った魔力弾が肩をかする。視界の端に『warning』の文字が見える

 

『左腕、残弾残り30%』

 

バイザー型の親機デバイスから残弾の警告が聞こえる。その声が聞こえると同時に視界の端にパワードスーツ部隊を捉え、オートキャノンの残弾を撃ち尽くす。

 

『左腕、残弾無し。パージ及び子機登録を削除します。』

 

その声が終わると同時にオートキャノンがその場に投げ捨てられる。その後に、マントからガトリングガンを取り出し、突撃型ライフルと共に前後左右に乱射する。

 

「くそっ!この犯罪者が!」

 

管理局部隊の一人がデバイスで直接殴りにかかる。どうやら、手甲型のアームドデバイスらしく、魔力を纏わせ殴りかかる。それをマントで受け流し、突撃型ライフルをこめかみに突きつけそのまま引き金を引く。

 

「ち、チキショーォ!」

 

最後に残ったパワードスーツ部隊の一人が特攻してくる。魔力バッテリーを暴走させているのか、魔力反応が著しく高かった。それに対して、足に魔力を付加して踏み出しこちらも高速移動、相手の手前で軽く飛び、胸に向けて魔力を付加した膝の装甲で膝蹴りを撃ち込む。最後の一人が、数回痙攣を起こした後、倒れ爆発する。

 

『スキャン完了、敵影、魔力反応はない。』

 

『いつも通り、レポートは依頼元に送信しておくから。お疲れさま。』

 

ファットマンのガラガラ声とマギーの高い声が聞こえると同時にヘリがハッチを開きながらこちらに降りてくる。足に魔力を付加して跳躍、素早くハッチの中に入ると。

 

『どういう話だったのか、結局何もわからんかったな。それもいつも通りか。』

 

『今のやり方はそういうものでしょ?知らなくていいことは知らなくていい、なにひとつ。』

 

『そういうのが気に入らんのだろ?マギー。お前が彼奴と同じところにいた時から』

 

『次の仕事がある…………帰りましょう』

 

そんな他愛もない会話を聞きながら立て膝で静かに眠っていた。



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貴方の居場所はどこですか

依頼 管理局市街対策本部

依頼内容
とある筋の情報により、レジスタンスの諜報部隊が潜入してることが判明した。そこで、貴方には諜報部隊の炙り出し、確保のための威嚇攻撃を行って貰いたい。戦闘は最小限になる筈です。ご武運を。




『クソッ!各隊員!一時撤退しろ!』

 

耳に聞こえてきたのはそんな声だった。

 

『管理局市街対策本部、依頼を受けて来た。何が起きている。』

 

司令官らしき男にマギーが通信を繋げる。

 

『傭兵か!?潜伏していた諜報部隊が我らのデバイスを強奪し、基地内を占拠した!奴らの目的はデータベースだ!急げ!奴らを鎮圧しろ!』

 

そんな風に叫ぶ男の声を聞き、顔に手を当てながらマギーは呆れる。

 

『潜入されていた上に武器を奪われた?無能すぎるにしてもほどがある…………』

 

『な、なんだと貴様!?た、たかだか雇われの分際で!』

 

『こちらの受けた依頼は、諜報部隊の燻り出し、確保のための威嚇攻撃、戦闘は最小限と言う話だ。だが、現状はそれとかけ離れている。当初の報酬に三割追加、破棄したデバイス費、弾薬費は全てそちら持ち、報酬は依頼完了後速やかに支払ってもらう、宜しいか?』

 

『ぼ、暴言を…………!我々管理局に向かって!!』

 

司令官らしき男の怒鳴り声が聞こえる。

 

「如何するマギー?彼方さん、茹で蛸みたいに真っ赤になってカンカンだ。」

 

「関係ないわ、報酬を踏み倒す気ならこのまま帰るだけよ。私たちの仕事はボランティアじゃない。詰まってる仕事を先に片付けるだけだから。」

 

ファットマンは司令官らしき男の様子を想像して笑い出す。マギーはファットマンに答えながら、交渉を続ける。

 

『き、貴様ら…………!!』

 

『エリア上空通過ぁ、このまま帰っていいかね、司令官?ハッハッハッ!」

 

ヘリは基地上空を通過しそのまま飛び去ろうとする。そして向こうの司令官らしき男がヤケになったような怒鳴り声をあげる。

 

『払えばいいんだろう、卑しいストーカー共!いずれ後悔するからな!!!』

 

その声が聞こえた瞬間、ファットマンは口元をにやけさせ、マギーはやっとか、といった様子で溜息をつく。

 

『依頼内容の変更承諾を確認。急速反転後出撃、ミッション開始!』

 

その声を聞いてゆっくりと立つと、いつものように開いたハッチから飛び出した。

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

『先ずは外の連中から片付けて、話はそれから。あなた以外の動くものは全部敵、全て撃破して』

 

着地して、子機デバイスを取り出した瞬間にマギーの声が耳に響く。取り出したデバイスは右手にはバトルライフル、左手には薄い金属板のようなブレード。そしてオプション装備としてカウンターガンを呼び出している。

 

『メインシステム、戦闘モードを起動します』

 

親機デバイスの音声が聞こえると同時に走り出す。首を僅かに上に向け、敵を視界に入れる。

 

『システム、スキャンモード』

 

スキャンモードで、相手の数、魔力量、デバイス、それを踏まえた戦闘能力などをスキャンしていく。

 

「来やがったな!クソッタレ!」

 

「お前ら!ハチの巣にしてやれ!」

 

基地上空を飛んでいる空戦魔導師達が、雨あられの如く魔力弾をばら撒いていく。

 

『システム、戦闘モード』

 

デバイスのシステムを戦闘モードに切り替え、その魔力弾の雨を針の穴に糸を通すような繊細さで回避、あるいは魔力を付加して対魔力を持たせた左手のブレードで斬り払い、基地入り口を目指す。

 

「チッ!させっかよ!」

 

空戦魔導師の一人が扉に魔法壁を発生させる。それに向かってブレードを振るうがギャリン、と嫌な音が響いただけで終わる。

 

「無駄だぜ、その魔法壁は俺の最高硬度の魔法壁だ。俺が任意で解除するか魔力供給を立たねえと解除されねぇ…………」

 

『面倒な事を…………!』

 

マギーのイラついたような声が響く。その声を聞き、しばし静止したあと、2回ほど側頭部を叩く。そして思い切り脚で地面を蹴りつけ、空へと躍りでる。

 

「空中に来やがっただあ!?」

 

「関係ねぇ、空は俺たちの独壇場だ!」

 

魔導師たちはこぞって魔力弾を放ち続ける。それを建物を利用した加速で回避し、魔力を付加したブレードで斬り払い、右手のバトルライフルで撃ち落とす。

 

「チッ!喰らえ!」

 

真後ろからの魔力弾に反応しきれず被弾する、が、すぐさまバク宙で体勢を立て直しつつ、建物の上に着地、そしてまた空へと躍りでる。

 

「チッ!しつこいぞ、このっ!」

 

周りの魔導師たちが次々と魔力弾を撃ち込む。それを回避、斬り払い、バトルライフルによる迎撃、など多彩な方法で凌いで行く。

 

「チッ!とっととくたばれ!」

 

痺れを切らした一人がデバイスから魔力刃を生成し、直接攻撃してくる。それを体を捻って紙一重で回避、すれ違いざまに首に足を引っ掛けて拘束、そのまま左手のブレードで背中から腹を突き刺し戦闘不能にさせる。

 

「チッ!バカが!」

 

素早く統率を取り戻した空戦魔導師達は、再び魔力弾を撃つ準備を始める。それを見るや否や、一番近い魔導師に先ほど戦闘不能にした魔導師を蹴り飛ばす。

 

「うおっ!?」

 

それで体勢を崩した男に左手のブレードを投げつける。投げつけられたブレードは蹴り飛ばされた男と体勢を崩した男をまとめて貫く。

 

『左腕パージ確認、子機登録を削除します』

 

バイザー型のデバイスからそう聞こえると、装備欄の上から二番目の表示が消える。それを確認すると開いた左手をマントの中に手を突っ込む。そして取り出したのは先ほどと同じブレード。

 

「チッ!離れろ!できるだけ距離を取れ!」

 

その様子を見た空戦魔導師達は再び飛行魔法で距離を取り始める。

 

『おいおい…………流石にやばいんじゃないか?』

 

ファットマンからの声が聞こえる。その声を聞いた後、再び側頭部を2回ほど叩き、人差し指を曲げ、親指で押し鳴らす。そして落ちていく男達を踏み台にして、一番近くの魔導師の懐に潜り込む。

 

「オラァ!」

 

近づかれた男は自身の奪い取ったデバイスを振り被り、殴り付けようとする。それを即座にブレードで弾き、腹部にバトルライフルの銃口を押し付け、そのまま引き金を引く。

 

「て、テメェ!」

 

また雨あられの様に魔力弾が降り注ぐ。それをバトルライフルとブレードで対応しつつ、先ほどの男の死骸を足場に再び一番先頭の魔導師に突っ込む。

 

「く、クソッ!雇われ風情の魔導師なんかに!」

 

魔導師は双剣型のデバイスをよく訓練された繊細な動きで振るってくる。それを左のブレード一本で受けきると、バトルライフルの銃身で殴りつけ体勢を崩し、ブレードで袈裟懸けに斬りつけた後に蹴り飛ばしビルに叩きつける。

 

「ば、バケモンかこいつ!」

 

周りの魔導師も、一人、また一人と撃墜されていくことで目の前の相手に恐怖を覚え始め、魔法の精度が落ち始める。それを機に一気に空戦魔導師達は瓦解し始める。

 

一人はわずかな防御魔法の展開の遅れでブレードで串刺しにされる。

 

一人は、弾幕を突破され眉間にバトルライフルの銃口を押し付けられ、頭を吹き飛ばされる。

 

一人は、素早く接敵を許し、脇腹をけられた後首筋をブレードで掻き切られる。

 

一人は、バトルライフルの銃身で頭を殴りつけられた後、胸部に魔力を付加した膝蹴りを撃ち込まれ、ダメ押しでカウンターガンを撃ち込まれ蜂の巣にされる。

 

地面に戻って空中に躍り出ては一人、空中に躍り出てはまた一人と撃墜される様を見た最初の魔法壁を張った魔導師はその場で驚愕と恐怖が入り混じった表情で後ろに少しずつ下がっていた。そしてたった今一人が胸をバトルライフルで撃ち抜かれる。

 

『右腕、残弾なし。パージ及び子機登録を削除します』

 

撃ち尽くしたバトルライフルを放り投げる。そしてマントの中に空いた右手を突っ込む。そして取り出したのは重心の短い、ドラムマガジンのついた"ヒートマシンガン"。それを取り出しつつ建物の上に戻る。

 

『外の連中はそいつで全部だ、早く片付けちまえ。』

 

ファットマンから催促の言葉が聞こえる。それを聞きつつブレードを地面に刺し、左手で側頭部を軽く2回ほど叩く。

 

「ま、待て!お、お前俺の部下にならないか…………?そしたら雇われなんてやる必要も…………!」

 

魔導師が言葉を言い終わるより早く、鋭く風を切る音がした後に鈍く肉を指す音が聞こえる。魔導師はそれを見た後、酸欠の魚のように口を数回開閉した後、落下。そのまま地面に激突した。

 

『よし、外の連中は片付いた。あとは中に突入して中の動くもの全部を撃墜して。どうせ、貴方以外は敵だから』

 

マギーからの通信を耳に手を当てて聴き、それが終わると信号弾を撃ち上げる。するとヘリから小さなコンテナが落とされる。中に入っていたのはハンドガンと連射型ライフル。そして先ほどまで使っていたブレード。

 

『デバイスの子機登録を完了しました。』

 

ハンドガンと連射型ライフルをマントの中にしまう、マントの中から蒸気の抜けるような音が聞こえると、マントから手を出す。そして空いた左手にブレードを持ち、基地の入口へと向かう。

 

『基地内の一回以外はスキャンが通らない、出会い頭に注意して!』

 

マギーの忠告を聞くと、ブレードで鍵のかかったドアを袈裟懸けに両断。基地の中へと姿を消した。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

「ちぃ…………忌々しい…………!」

 

基地司令である管理局の男は画面を睨みながら爪を噛んでいた。

 

「し、失礼します」

 

すると部屋の中に男の部下らしき男が入ってくる。

 

「なんだ」

 

「その…………執務官殿が…………」

 

「執務官?今は忙しい。後にしてくれ」

 

「い、いえその執務官殿が強制捜査令状と共に…………!」

 

「な、なんだと!?」

 

男は思わず椅子から飛び上がった。強制捜査令状、それは特定以下の階級のものに等しく効果を発揮する、管理局で最も強制力の高い令状であり、執務官が行使できる最大の武器である。

 

「た、担当執務官は…………誰だ!?」

 

「ふ、フェイト・T・ハラオウン執務官です…………!」

 

基地司令官らしき男は、青ざめた顔をした後、椅子の上に崩れ落ちた。

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

「はい、では終了次第基地内の強制捜査を開始させていただきます」

 

「りょ、了解いたしました」

 

男は敬礼をした後、早足で立ち去る。その様子を見た後、基地に目を向けたのは金髪を長く伸ばした女性。基地に周辺には無残な死体がそこらじゅうに転がっている。

 

(やっぱり、血を見るのはまだ慣れないかな)

 

女性は死体の回収を支持しながら、基地の入口へと歩いていく。

 

「あとは中だけか…………バルディッシュ」

 

『Yes sir.』

 

「中のスキャン、出来る?」

 

『Is possible. But it is not recommended.』

 

「そう…………一階だけなら出来る?」

 

『Is possible』

 

「ごめん、お願い」

 

『The scan is completed. Various places in the terminal there is reaction.』

 

「端末?」

 

『Perhaps, it is thought to look like the transmitter』

 

「もしかしたら…………いこう、バルディッシュ!」

 

『Yes sir』

 

女性は、まるで雷のような速さで破壊された扉から基地内に侵入していった。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

「しまった…………まさか執務官が来るなんて…………!」

 

その頃、ヘリの中ではマギーが頭に手を当て自分の失態を思い知る。

 

「おい、マギー。あいつやばいんじゃないか?」

 

ファットマンも少なからず、動揺していた。ファットマンには魔法の素質はない。魔導師に必要なリンカーコアという器官が発達していないからだ。

 

「少なからず消耗してる…………このまま戦っても、相手はリミッターをかけていてAランク…………削り切れる保証はない…………!ファットマン!通信繋いで!」

 

「おう、こりゃ、無視して帰ってたほうがよかったかもな」

 

ファットマンはヘリの機材を操作する。そしてマギーはインカムのダイヤルを合わせる。

 

「聞こえてる!?聞こえてたら側頭部を二回叩きなさい!」

 

そして鈍く叩くような音が二回聞こえる。

 

「いい、よく聞いて。今管理局の執務官が突入した。今消耗した状態で戦っても勝てる保証はない、確実に戦闘は回避して!」

 

そしてまた鈍く叩くような音が二回聞こえる。これはマギーが教えたことだ。よく聞こえていたり、理解したら側頭部を二回、その逆だったら三回叩く。なぜか喋れない彼のために教えた最低限のコミュニケーション方法だった。

 

「ふぅ…………」

 

「どうだ、あいつ。逃げられると思うか。」

 

「そう祈るしかないわ、神様なんて信じてないけど」

 

マギーはヘリの助手席で腕で目を覆いながら奥歯を噛み締めた。

 

 

 

 



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死神に聞こうが分からない

執務官の女性が基地内に突入する、数分前。

 

『システム、スキャンモード』

 

基地内は静寂を保っていた。といってもまだ入口付近、今はマギーたちのバックアップがあるが、これより上か下に行けばそれは受けられなくなる。どうやら基地の機能で外部からのスキャンを無効化する機能があるらしい。ブレードを床に突き刺すとマントの袖を器用に振り中から小さな円柱状の機械を取り出す。それを空中に放り投げると、円柱状の機械は変形し、アンテナのような形状になる。そして隣の壁が透けると敵のシルエットが確認できる。

 

『システム、戦闘モード』

 

システムを戦闘モードに切り替える。道の先はT字路になっている。それを確認すると先ほどの円柱状の機械をT字路に放り投げる。

 

『システム、スキャンモード』

 

先ほど投げた機械、名前をリコンといい、特殊な索敵装置である。このリコンはスキャンモードに反応して特殊な波長を放ち相手を索敵する。その機能を利用し敵がいないことを確認する。

 

『システム、戦闘モード』

 

戦闘モードに再び切り替える、そして足音をなるべく立てずに、ドアの前に来るとドア越しにヒートマシンガンを構え、そのまま引き金を引く。ドアが蜂の巣になると同時に、ドアを蹴り飛ばして中を確認する。部屋を見回すと、足を撃たれたのかうめいている男が一人と、おそらくドア近くに立っていたのだろうか、ドアの下敷きになっている男が一人。

 

「そ、外の奴ら…………みんなやられたのかよ…………畜生!」

 

足を撃たれた男は基地内にあったであろうデバイスを取ろうとする。それをヒートマシンガンで腕を撃ちながら接近、ブレードで腕を斬りとばす。

 

「ぎゃあ!?」

 

男はカエルが潰れたような声を上げる。それを御構い無しに蹴り飛ばして、壁にぶつけ喉元にブレードを突き刺す。

 

『システム、スキャンモード』

 

そしてスキャンモードに切り替え、入り口を向く。奥から続々と敵反応が此方へと向かってくる。それに対し、最短距離でぶつかる為のルートを目で追っていく。

 

『システム、戦闘モード』

 

ルートを追い確認した後、すぐさま部屋を飛び出し敵反応へと向かっていく。その間に右手をマントの中に突っ込みデバイスを変える。選択したのは連射型ライフル。ライフルの中でも特に発射間隔の短いライフルで、これが二挺揃えば簡単な弾幕が張れる。そのライフルを右手で構える。そしてロックオンを示すレティクルが現れた瞬間にライフル本体に魔力を付加し引き金を引く。

 

「ぐわっ!?」

 

「し、質量兵器だと!?」

 

「相手は一人だ!数と火力で押し切れ!」

 

確かに相手は数で勝っていた、だが、場所が問題だ。あんな人数が一斉に構えればそれは窮屈だ。狙いも精度も甘くなる。そこに漬け込み、連射型ライフルとカウンターガンを起動させ同時に撃ち込む。

 

「く、クソッ!お前邪魔だ!」

 

「貴方が場所取りすぎなんですよ!」

 

とうとう相手方でも仲間割れが起こったらしく、撃たれていながらも、もみくちゃになっていた。それを見逃すわけもなく、連射型ライフルを正確に、重なった防御魔法のわずかな隙間に針の穴に糸を通す精密射撃で通していく。もちろん外した弾も無駄にはせずにビリヤードショットなどに利用する。

 

「く、クソッ!退くぞ!体制の立て直しだ!」

 

相手型は部が悪いとわかったのか漸く撤退を始める、が、時すでに遅く、撤退を始める間も正確に足や胸、頭などを連射型ライフルの弾丸が襲う。

 

「チッ!」

 

そして魔導師の一人が、相手の視覚を潰すための閃光魔法を放つ。あたりが強烈な光に包まれる。

 

『システム、スキャンモード』

 

光が3分ほどで収まると同時にスキャンモードを起動する。発動の瞬間にフードを深く被り光を最低限防いだのが、素早い復帰の理由だった。

 

『システム、戦闘モード』

 

スキャンモードで相手の姿を視認したあと戦闘モードに戻す。どうやらエレベータで地下に向かうようであり、そこから少し離れた場所に階段がある。そこからの行動は早かった。まっすぐ階段を目指すと、そのままジャンプで一段一段を降りる手間を省く。

 

『システム、スキャンモード』

 

そして一番地下であろうところにつき、出入り口をくぐった途端に扉が閉まりロックされる。

 

『システム、戦闘モード』

 

すぐ様振り返り、魔力を付加したブレードで斬りつけるが僅かな擦り傷が出来るだけであり、すぐに無駄と判断、リコンをばら撒きながら進んでいく。

 

『システム、スキャンモード』

 

リコンで索敵をしながら、進んでいくと十字路に行き当たる。十字路のそれぞれの通路に敵が目視できる。

 

『システム、戦闘モード』

 

そして素早く戦闘モードに切り替え、十字路の中心に躍り出る。そしてブレードをマントの中に戻し、ハンドガンを取り出す。そして左右のニ挺をそれぞれの通路に向けると、そのまま盲撃ちで撃ち続ける。

さらに腕をクロスさせ、盲撃ちで引き金を引く。そしてニ挺を正面に向け前方の通路を攻撃する。

 

「喰らえぇぇ!」

 

そして背後から別の部屋に忍んでいた魔導師が攻撃を仕掛ける。完璧に背後を捉えた不意打ち。勝ちを確信して思わずほおが緩む。が、それは頭への強烈な衝撃によってかき消された。

 

「う、げぇ…………!?」

 

倒れた後見れば、相手はこちらを振り返り足を振り抜いていた。完璧な不意打ちを僅かな間で反応し側頭部に回し蹴りを撃ち込まれた。

 

「ば、化物か…………ぎゃああああ!?」

 

倒れた魔導師の膝関節をハンドガンで撃ち抜く。そうした後に十字路を真っ直ぐ進み、下を目指していく。そしてさらに下へ繋がる階段の前に来た時。

 

『聞こえてる!?聞こえてたら、側頭部を二回叩きなさい!』

 

マギーの通信が入る。聞こえている為側頭部を二回叩く。そしてマギーの声が続く。

 

『いい?今管理局の執務官が突入した。今消耗した状態で戦っても確実に勝てる保証はない。確実に戦闘は回避して!』

 

現在の武装と残弾数を見る。この武装で倒せるか、即決で側頭部を二回叩く。そしてマギーとの通信が切れる。そして階段を降りていった。

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

一方、突入した執務官の女性"フェイト・T・ハラオウン"は、基地の状況を見て、顔を顰めていた。

 

「殆ど生きてる人はいない…………か…………どう思うバルディッシュ?」

 

『Surely it is thought to be the work of mercenary.』

 

「うん…………何時でも捕縛できるように準備しておいて、バルディッシュ」

 

『Yes sir』

 

そのままフェイトは足を進める。基地の中を転がっているのは死体と薬莢だけだった。フェイトはその薬莢の一つを拾い上げる。

 

「…………実弾、だね…………」

 

『Perhaps it is thought to be a disposable device of adulteration.』

 

「多分、魔力を流して二重弾殻にしてるんだと思う。」

 

『There is many things that accurately shot through the target only Key points Note.』

 

「うん…………でももしかしたら一筋ではいかないかもしれない…………警戒して、バルディッシュ」

 

『Yes sir』

 

そしてフェイトも地下へ向かう階段を降りていった。その時、ガチャン、という音が響いた。

 

「バルディッシュ!」

 

『Seems to base of the main power source has been destroyed. All functions have stopped.』

 

「…………急ごう…………バルディッシュ!」

 

『sonic move』

 

フェイトは管理局でもトップクラスのスピードを持って地下へと降りていった。

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

コツコツと一段一段階段を降りていく。既に主動力源を発見して破壊。基地の機能の大半は停止している。だが、それと同時にエレベーターも機能を停止したため、こうして階段を降りている。

 

『システム、スキャンモード』

 

スキャンモードで建物の内部を映し出す。さらに基地の機能が停止しアンチスキャンの機能が停止した為、マギーたちからのバックアップが受けられるようになった。

 

『残りはこの下にいる奴らだけだ。手早く済ませようぜ』

 

左手をハンドガンからブレードに、右手をライフルからヒートマシンガンに変える。ちなみにカウンターガンは残弾切れのため既にパージしている。

 

『システム、戦闘モード』

 

そして強固に閉じられた巨大な扉をブレードで人一人通れるくらいに破壊し、中へ侵入する。

 

「クソ傭兵が!ぶっ殺してやる!!」

 

そして部屋の奥から巨大なパイルバンカー型のデバイスを装備した女が奥の扉を破壊しつつ現れ、そして真っ直ぐ一直線に向かってくる。

それにヒートマシンガンを撃ちつつ、壁を蹴り空中へ上がる。

 

「逃げんな!」

 

女がヒートマシンガンの弾幕をパイルバンカー型のデバイスを盾にして突破。壁にパイルバンカー型のデバイスを叩きつける。そしてギミックが発動し壁に爆破性魔力弾の杭が撃ち込まれ、壁にクレーターが出来る。

 

『おいおい、なんだありゃ!?食らったらやばいぜ!?』

 

『非殺傷設定は解除してるか…………あっちがやる気なら仕方ない、撃破して!執務官ももう同じ階層にいる。あまり時間をかけないで!』

 

マギーの言葉に側頭部を二回叩いて答える。空中で反転して天井近くの壁を蹴って加速、魔力を付加した左手のブレードを走らせる。

 

「うぜぇ!!」

 

そのブレードを防御魔法で防ぐ。ブレードは防御魔法に沿って音を立てて滑りやがて身体が着地する。着地した瞬間に左足を軸にして回り込み手首を返してヒートマシンガンを向け、撃つ。

 

「いってぇ…………クソが!」

 

ヒートマシンガンを数発被弾した女は若干体制を崩すもすぐさま立ち直り、デバイスを床に叩きつける。そして壁に出来た時と同じように巨大なクレーターが発生する。

 

『ダメージを受けています、回避して下さい』

 

爆発の寸前に床を蹴り後ろへと回避したが、爆風の余波なのか僅かながらにダメージを受ける。そして今度は不規則に壁を蹴って、フェイントを交えながら接近する。

 

「チョロチョロとウザいんだよ!」

 

今度は直接空気に撃ち込むと、デバイスから熱量弾が撃ち出される。それを紙一重で回避するが、マントの端が一気に灰になり燃え尽きる。

 

「オラァ!もういっぱぁつ!」

 

熱量弾が撃ち出される。それを今度は距離を開け余裕を持って回避。天井を蹴って加速、さらに体の捻りを追加し、魔力付加で対魔力を持たせたブレードを走らせる。

 

「んなもん当たるかよ!」

 

先ほどと同じように防御魔法で防御しようとする、そして防御魔法にブレードが接触した瞬間、ブレードは防御魔法をすり抜け、防御魔法を切り裂く、そして着地する。女はそれを僅かながら動揺し、後方へ飛んで距離を取ろうとする。それをヒートマシンガンで追撃する。

 

「クソッ!調子にのるなぁ!」

 

どうやら女は頭に血が上りやすい性格らしく、魔力でブーストし加速した後、大振りな攻撃をぶつけようとする。

 

「死ねっ!」

 

女がパイルバンカー型のデバイスを突き出した瞬間、姿勢を低くしつつ加速、女の懐に潜り込み、膝の装甲と足に魔力付加をかける。そしてそのまま全力で踏み込み加速し、膝の装甲を鳩尾にぶつける。

 

「あ…………ぎ…………」

 

女は腹部を抑え、動きを止める。そこにさらにもう一度加速し膝装甲をぶつけて蹴り飛ばす。女は思い切り壁に激突し肺の中の空気を全て吐き出し、地面に崩れ落ちる。

 

「グ…………ギィィィ…………」

 

女にゆっくりと近づいていく。その背後から残りの魔導師が襲ってくる。

 

「お、オラァァォァ!!」

 

それを一人一人さばいていく。手甲型のデバイスで殴りかかってきた者をローキックで体勢を崩し、ブレードで斬る。

 

魔力弾を連射してきた者はブレードで魔力弾を弾いた後、接近。腹部にヒートマシンガンを押し付け撃ち続ける。

 

剣型のデバイスで切りつけてきた者は、腹部を蹴りつけた後反撃でブレードで突き刺し、さらにヒートマシンガンでダメ押しする。

 

『右腕、残弾30%』

 

親機のデバイスから残弾警告が出る。それを聞き、すぐさまヒートマシンガンを破棄する。

 

『右腕、任意パージを確認。子機登録を削除します』

 

『残りはそいつだけ、早く片付けて撤退して!』

 

マギーの声が聞こえる。その声を聞くと右手に連射型ライフルを装備して女に接近する。女は未だ崩れたまま動かずにこちらを睨みつけている。そしてブレードを振り上げ振り下ろす。そしてブレードは金色の防御魔法に阻まれる。

 

「プラズマランサー ファイア!」

 

そして槍型の魔力弾が放射線状に背後から迫る。連射型ライフルに魔力を付加し、魔力付加した弾丸を撃つ。が、槍型の魔力弾は多角的な軌道でそれを回避し、再びこちらへ迫る。

すぐさま無駄と判断して背後に飛び、同士撃墜を狙う。狙い通りに槍型の魔力弾はお互いに切っ先がぶつかるが、ぶつかった瞬間に反転こちらにまっすぐ向かってくる。

ライフルでは無駄と判断した後のため、ブレードを走らせて数発を叩き落とし、残りは回避する。

 

『システム、スキャンモード』

 

スキャンモードに切り替え索敵する。元いた場所には先ほど戦闘不能直前まで追い込んだ女以外にはいない。が、リコンの一つが敵性反応を捉えている。が、スキャンモードで肝心の敵影が見えない。

 

「ファイヤ!」

 

そして先ほどと似た形の槍型の魔力弾が数発また撃ち出される。

 

『システム、戦闘モード』

 

今度は連射型ライフルで簡単に撃墜する。が、爆風でまわりの視界が封じられる。

 

『システム、スキャンモード』

 

再びスキャンモードを起動し、索敵しようとする。そして敵影を見つけ、接近しようとした瞬間、金色の捕縛魔法で手足を封じられる。

 

『深刻な状態異常です。直ちに復帰してください』

 

『どうしたの!?応答しなさい!何があったの!!』

 

マギーからの通信が聞こえる。それに応答しようとするが捕縛魔法により手がその場から動かせず、応答が出来ない。

 

「管理局執務官、フェイト・T・ハラオウンです。落ちている薬莢と破棄されたデバイスから、傭兵と判断しあなたを拘束します。」

 

フェイトと名乗った執務官の手には、道中で破棄したカウンターガンが握られている。管理局での拘束対象は次元犯罪者と呼ばれる犯罪者たち、そして傭兵。

ここで、今まで変わらなかった口元だけの表情が僅かに変わる。そして腕などを動かそうとするが、捕縛魔法を振りほどけそうにもない。

 

「ごめんね…………!」

 

そしてフェイトは斧型のデバイス"バルディッシュ"の石突き部分で、腹部の水月を的確に突く。口元が僅かに歪み、まるで力が抜けたように意識を失う。それを確認したフェイトは捕縛魔法を解除し、抱き上げる。

 

(軽い…………?)

 

その異常な軽さに違和感を覚える。そのままマントを脱がせる。マントの下にはハンドガンが肩甲骨あたりに設けられたアームに接続され、腕は手首あたりまで装甲が覆っており、足、特に左足は分厚い装甲に覆われていた。そして顔はバイザー型のデバイスで隠されている。そしてそれらが光った後に装甲は全て消え失せる。

 

「まさか…………そんな…………!?」

 

そしてバイザー型のデバイスを取り外すと、まだ幼さの残る顔立ちが現れる。身長はかつての教え子よりも少し低い程度。完全に戦場に立ってはいけない、ましてや傭兵などやってはいけない年齢に見える。

 

「とにかく、連れ帰らないと…………」

 

フェイトはデバイスを回収し、そのまま抱き上げると基地の地下を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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マグノリアの花に聞こうがわからない

長らく浴びなかった朝日の刺激に目を覚まし、体を起こす。目をこすり意識を起こし、両手を握り感覚を起こす。

 

「お?起きたか、ずいぶんこっ酷くやられたな。ハッハッハッ!」

 

声に反応し振り向く。ベッドの隣には、白が混じった髪を散切りにした初老の男がガラガラ声で笑っている。

 

「やめなさい、ファットマン。読みが甘かった私達も悪いんだから。」

 

その隣では、長い金髪にサファイア色の瞳の整った顔立ちの女性が片手だけで器用にリンゴを向いていた。

 

「まあ、昔と同じようでいいじゃないか、こいつが駆け出しの頃はよくあった事だ」

 

「…………まあいい、今はゆっくり体を休めて。これからもっと酷い目にあう。」

 

マギーとファットマンの言葉を聞いた後、再びベッドに横になる。右手を見れば点滴が刺さっている。

 

「よく言うわ、子供に傭兵やらせておいてからに。そっちの方が酷い目と違うんですか?」

 

すると入り口に、管理局の制服を着たショートカットの女性が入ってくる。

 

「ハヤテ・ヤガミ…………」

 

「…………やっぱり噂は本当だったんですね。マグノリア・カーチス一等陸将…………」

 

「…………昔の話よ、もう私は局員じゃない」

 

入って来た女性の名は八神はやて。現在活動中の新規部隊"機動六課"の部隊長であり、管理局有数の魔導師でもある。

 

「…………それでも、貴方が私達にしてくれたことは返しきれないほどあるんです。それがいきなり…………」

 

「世間話はここまでよ、もう立場変わった。貴方は局員、私達は運び屋と傭兵。こっちは何時でも準備は出来てる」

 

「…………分かりました、唯、その子と話をさせてもらえませんか?」

 

「…………言っておくけど、なめてたら痛い目に合うわよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

マギーとはやての話が終わる。その間に部屋を見回しある物を探す。

 

「…………この子のデバイスは?」

 

「こちらで預からせてもらってます。こちらの整備士に見せたら、"よく今まで戦って来れた"言うてました。」

 

「…………それならいい。ほら」

 

マギーが視線で促してくる。それに従って点滴を抜き、はやての元に行く。

 

「こっちや、ついてきい。」

 

はやての二メートルほど後ろをついていく。そしてついたのは聴取室。長机にパイプ椅子が並んでいるシンプルな部屋。部屋にはすでに二人の女性が入っていた。そして一人は自分を撃墜した人物。

 

「連れてきたで、なのはちゃん、フェイトちゃん」

 

「うん、ありがとう、はやて」

 

はやてとフェイトが挨拶を交わす。少なからず体が硬くなるが、すぐに緊張を解き、扉の前で待つ。

 

「何してるん?入ってきい」

 

はやてに促され、部屋に入っていく。

 

「ほな、改めて。機動六課ゆう部隊の隊長しとる、八神はやて、や。よろしゅうな」

 

「あの時もあったね、フェイト・T・ハラオウン。執務官と、機動六課の分隊、ライトニングの隊長をやってる。よろしく。」

 

「はじめまして、だね。機動六課スターズ分隊長、高町なのはです。よろしくね」

 

三人の挨拶兼自己紹介を聞いた後、周りを見渡す。

 

「どうしたん?」

 

はやてが尋ねる。はやてをちらりと見た後正面に向き直り、喉を指差した後、首を振る。

 

「もしかして…………喋れないの?」

 

フェイトの言葉に頷く。そして宙にジェスチャーで紙とペンを要求する。

 

「はい。」

 

なのはがスケッチブックと鉛筆を手渡す。軽くお辞儀をした後に手に取り一枚目を開き、鉛筆を走らせる。

 

『名前は無い、他の傭兵とかからは"黒い鳥"《レイヴン》って呼ばれるだけ。歳は分からない。』

 

「レイヴン…………か。なら私たちもそう呼ばせてもらうわ。それで、カーチス一等陸将とあのおっさんとの関係はなんなん?」

 

はやての質問を聴き、二枚目をめくり鉛筆を走らせる。

 

『マギーは、ずっと一緒にいたからわからない。ファットマンは傭兵やる時に危なっかしいからって言ってずっとついて来てもらってる。ただそれだけ』

 

「そっか、じゃあなんで傭兵に?」

 

今度はフェイトの質問が飛んでくる。

 

『分からない、なぜかそうしないといけないと思った。それにいつも夢で聞こえてくる。』

 

「夢で?何が?」

 

『"わたしもお前も戦いの中にしか生きる場所は無い。自由に生き、理不尽に死ぬ。私とお前の最後はそうあるべきだ"これがいつも夢で聞こえる。』

 

「そう…………ありがとう。それじゃあ親御さんとかは…………?」

 

今度はなのはの質問が来る。首を振った後にスケッチブックに鉛筆を走らせる。

 

『分からない、ただ覚えてるのはマギーと会うまでは黒い鉄格子の中にいた事だけ。』

 

部屋にしばらくの静寂が流れる。スケッチブックの数ページに渡り、鉛筆を走らせる。

 

『別に同情はいらない』

 

『それにその通りだから』

 

『戦う才能しかない奴は戦場でしか生きられないから』

 

再び静寂が流れる。そしてはやてが立ち上がる。

 

「はやて?」

 

「カーチスさんに聞いてくるわ…………今ならあん人も全部話してくれる」

 

そう言うとはやては部屋から出て行く。部屋にはなのはとフェイトが残る。

 

「ねぇ…………今までの事、教えてくれる?」

 

『マギーに迷惑がかからない程度なら』

 

そのまま今まで起きた、ありとあらゆる事を紙で語った。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

「なぁ、マギー」

 

「なに、ファットマン。」

 

「もう…………ここいらが限界じゃあねぇか?」

 

「…………」

 

青く澄み渡った雲一つない空を見上げながら、ファットマンがマギーに問う。椅子にもたれ掛かりながら、マギーは押し黙る。

 

「…………今更、そんなこと出来ると思うの?」

 

「派手にやらかさなきゃどうにでもなるさ、お前もあいつも戦いすぎたんだ。もう身を引いてもいい頃だろうよ。」

 

「出来ない…………出来るわけがない…………!」

 

「出来るさ、今まで行き当たりばったりだったんだ。何とかなるさ」

 

「…………」

 

ファットマンの答えにマギーが押し黙る。

 

「カーチス一等陸将」

 

そこにはやてが入ってくる。

 

「ハヤテ・ヤガミ…………何の用?」

 

「カーチス一等陸将…………いや、マグノリア・カーチス!今ここで全部喋ってもらいます!」

 

はやてがマギーを強い目で見る。マギーは諦めたように息を吐く。

 

「そう、やっぱりあいつは喋ったのね」

 

マギーははやてを目を鋭くして見ると、はやてに向き直る。

 

「いいわ、全部話してあげる。あの子の正体も私の過去も何もかも」

 

こうしてマギーは語り始めた。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

ーそうね…………どこから話そうか…………まあ、私も元は傭兵だったのよー

 

ーあ、貴方みたいな人が…………傭兵!?ー

 

ーそう、そこを撃墜されて管理局にスカウトされた。まあ、撃墜した人のことはこの際置いておくわー

 

ーそ、それで…………なんでまた傭兵に…………ー

 

ー…………あいつらにあったのよー

 

ーあいつら…………?ー

 

ーあなたも聞いたことぐらいはあるでしょ?数も目的も所属も不明。わかっているのはその強さだけー

 

ーそれってまさか…………!ー

 

ーそう、死神部隊。あいつらに会って私は魔導師を、管理局をそして、傭兵をやめた、そして、あるところであいつを見つけたー

 

ーレイヴン、ですか?ー

 

ーレイヴン…………あいつのあだ名ね。そう、あいつは文字通り黒い鉄格子の中につながれていた黒い鳥だった、まだ、私は戦場に立っていたいと思っていたのかもね、気がついたらあいつを解放して、いろいろ教えてた、傭兵として最低限のことをー

 

ーレイヴンは…………何も持ってなかったんですかー

 

ーええ、強いて言えば小さなプレートを握っていただけねー

 

ープレート?ー

 

ーこれよー

 

ー"I am the black bird, Im’ in order to make their whereabouts, burn blackened everything from"J" "どういう意味ですか?ー

 

ー私は知らない、けど、一つ言えるのはそのJって奴があいつに戦闘の全てを叩き込んだかもってだけねー

 

ー分かりましたー

 

ーそう、じゃあ私からの話はこれでおしまいー

 

ーここからは仕事の話ですー

 

ーどういう意味?ー

 

ー機動六課部隊長、八神はやてが依頼します。次元犯罪者ジェイル・スカリエッティを確保するまで私達に協力して下さいー

 

ー…………貴女、何言ってるか分かってるの?ー

 

ー重々承知です、但し条件がありますー

 

ー…………何?ー

 

ー全部終わったら、あの子にまともな人生を歩ませる、それが条件です!ー

 

ーハッハッハッ!随分と肝っ玉の据わったお嬢ちゃんだ。一本取られたなマギー。ー

 

ーはぁ、貴女はもう少し賢いと思っていたのだけど、大馬鹿ねー

 

ー承知してます、だからこんなことも言えるんですー

 

ーいいわ、わかった。報酬の用意は出来るの?ー

 

ー勿論です。そこいらのヘタレと一緒にしないでくださいー

 

ーいいわ、契約成立ー

 

ーハッハッハッ!いいな、仕事納めにはやりがいのある仕事だー

 

その後、部屋にパァン、と音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ありふれた優しさは君を遠ざけるだけ

「ちゅうわけや、次の出撃から協力してくれる人員や。」

 

「マグノリア・カーチス。マギーでいい、その方が呼び慣れてる。基本はこの子のオペレート。よろしく」

 

「まあ、しがない運び屋をやってる。マギーからはファットマンって呼ばれてるから、遠慮せず呼んでくれ。」

 

『名前は無い、他の人たちからは黒い鳥って呼ばれてるから、そう呼んで構わない』

 

マギーとファットマンした後、スケッチブックで前線メンバーに挨拶する。

 

「レイヴンについては堪忍な。とある事情で喋れへんのや。戦闘時は察してな」

 

はやてが補足を入れてくれる。込み入った事情となれば人はそれ以上は踏み込んでこない。

 

「さて、これで重要連絡は終わりや。それぞれの自己紹介は後で個人個人でやってな。んで、レイヴン」

 

はやてが話しかけてくる。それに顔を向け、スケッチブックで答える。

 

『何?』

 

「まずはどんだけ動けるか見たい。フェイトちゃんの話やといまいちわからんからな」

 

『マギー』

 

マギーのシャツの裾を引っ張る。マギーがこちらを向くと、スケッチブックをめくり、鉛筆を走らせる。

 

『どれだけ動けるか見たい、って言ってる』

 

「そう…………わかった。で、この子のデバイスは?」

 

「演習場で渡すわ、こんなところで起動されても困るやろ」

 

「そうね、行きましょう」

 

はやてにマギーがついて行き、その後ろをついて行く。連れて行かれたのは、演習場という場所。そこに転移ポートを使って中に入る。

 

「それじゃ、始めるで。なのはちゃん」

 

すると白いバリアジャケットを纏ったなのはが向かってくる。

 

「はい、これ。後でシャーリーにお礼言ってね」

 

なのはから受け取ったのは今まで自分と戦場をかけたデバイス。黒いのフレームにワインレッドのセンサー部分、それを装着する。すぐさま視界にあらゆる言語が現れ、そして起動シークエンスが実行される。

 

『おはようございます、メインシステム、マスターデータの認証を開始します』

 

そして網膜、動脈、静脈などの認証が開始される。

 

『メインシステム、通常モードを起動しました。これより作戦行動を再開、あなたの帰還を歓迎します』

 

マシンボイスが終了すると手足が瞬く間に装甲で覆われる。そして、小型のコンテナが転送される。中には、ブレードとハンドガン、ショットガン、そしてヒートパイル、そしてオプション装備でフラッシュロケット。

 

『ええか?取り敢えずは一般陸士の平均レベルや。今から仮想ターゲットとして、ガジェットを出す。それを全滅させればええだけや。行くで?』

 

はやての声が終わると側頭部を二回叩く。

 

「えっと…………分った、でええんかな?」

 

はやての質問にまた側頭部を二回叩く。そして右手にブレード、右ハンガーユニットにショットガン、左手にハンドガン、左ハンガーユニットにヒートパイル、肩部にフラッシュロケットを装備する。

 

『行くで…………始め!』

 

そして奥から楕円形の機械が現れる。

 

『あれがオモチャどもか…………ま、人形どもよりはましか…………』

 

『質はUNACやmuscle traceurよりも下。速攻で片付けて』

 

マギーとファットマンの通信を聴き終えると同時に、ガジェットに接近し、ブレードで戦闘のガジェットを貫く。

 

『初撃は問題あらへんな、問題はここからや』

 

ガジェットを足蹴にして刺さったブレードを引き抜き、周りを見渡す。青いボディを持つ楕円形のガジェットは既にこちらをロックオンしているようで、機体中央から熱線を発射してくる。それをジャンプで回避、身体を回転させつつ、一機を両断する。

 

『肩慣らしは終わったでしょ、本気を出して。』

 

通信でマギーに急かされる。それに応えるかのように右手をブレードからショットガンに変え、ハンドガンを右肩越しに盲撃ちで撃ち、背後のガジェットを損傷させ、振り向きざまにショットガンを構えて撃墜する。反撃に他の機体から熱線が発射される。それをバックステップで回避しつつハンドガンで牽制する。

 

『人形共よりはずっと単純だな。分かりやすくていい』

 

『はぁ、遊びは終わりよ。そろそろ本気を出さないと…………分かるでしょ』

 

マギーからの二度目の催促が入る。それを聞くとバックステップを切り返して、ガジェットの方向へ加速、素早くショットガンとブレードを入れ替え、すれ違いざまに両断する。さらに、スライディングしながら後続のガジェットの機体中央、熱線照射部分にハンドガンを撃ち込み、誘爆させる。

 

『やっとか…………いい?その調子で全機叩き潰して!』

 

マギーの声が耳に強く響く。どうやらこれ以上茶番はいらないらしい。通信が切れるとすぐさま、跳躍、そのあとは建物の壁を蹴って上昇しつつ、フラッシュロケットを周辺にばらまいていく。フラッシュロケットは直撃した周辺の磁場を乱れさせロックオン機能を阻害する効果がある。ロックオンを妨害されたガジェットは辺りをお互いぶつかりながら右往左往する。

 

『周辺に散った雑魚で残ってるのはそいつらだけ、うまく集めたわね。手早く片付けて。』

 

マギーの声を聞き終わると、そのまま自由落下、真下のガジェットに向けてハンドガンとショットガンを乱射、ダメ押しで瞬時にブレードとショットガンを入れ替え、ブレードを投擲する。そして一機のガジェットに突き刺さる。そしてそこに着地し、ブレードの柄を掴むと身体を回転させその遠心力でブレードを引き抜きつつ、ガジェットをほぼ同時に撃墜する。

 

『雑魚はこれだけか…………気をつけろ、まだデカイのが残ってる」

 

爆煙が晴れると、そこには丸い球体状のガジェット。体感的に大きさは自分の身長のおおよそ二倍ほど。ケーブル状のアームにボディ上部にはベルト状のパーツが付いていた。

 

『来やがった、デカブツだ、が、たいしたこたぁねえ。一息にやっちまえ』

 

ファットマンが急かすと、そのまま足に魔力を付加して加速する。そして大型ガジェットに一定距離接近したところで足の魔力付加が切れる。間合いに入られたガジェットはケーブル状のアームパーツを次々と突き出す。それをグレイズ気味の回避で回避すると、ケーブル状のアームパーツをブレードで両断する。

 

『はぁ、また遊んでるわね…………四度目は無いと思って』

 

マギーの脅しにも近い急かしが来ると、左手のハンドガンをヒートパイルに換装する。そしてブレードを投擲する。投擲されたブレードは深々と大型ガジェットに突き刺さる。更にそこに蹴りを加えて、更にブレードを突き刺し、ダメ押しにヒートパイルで押し込む。そしてすぐさまバックステップで距離を取ると、大型ガジェットは派手に爆発する。

 

『これで全部か…………お疲れ様、と言いたいところだけど、時間を掛け過ぎ、今日はレポートの評価は酷評だと思いなさい』

 

『ハッハッハッ、遊び過ぎたな、お疲れさん』

 

マギーの酷評とファットマンの微妙な激励が飛んでくる。

 

『作戦目標クリア、システム通常モードへ移行します』

 

そしてすぐさま転送ポートまで戻り、転送で戻る。

 

「なのはちゃん、タイムは?」

 

『6分12秒23…………一般陸士の平均が大体12分くらい…………』

 

「しかもカーチスさんの言うことが本当なら、遊んでこのタイム…………なら、本気なら4分ゆうたところか…………嬉しい誤算や、今はな…………」

 

はやては、複雑な心境でレイヴン(仮名)を見ていた。

 

 

 



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冷たく切り捨てた心は彷徨うばかり

「ねえ、あんた」

 

後ろから急に声をかけられる。振り向くと、そこにはオレンジ色のセミロングをツインテールにした少女がこちらを睨んでいた。

 

『なに、これからマギーの説教を聞きに行かないと行けないんだけど』

 

「すぐ終わる、模擬戦に付き合って」

 

『…………理由は?』

 

「見てるだけじゃ実力なんてはっきりと測れない。それがわからないと協力なんてできない」

 

『マギーに聞いてくる、少し待ってて』

 

「時間が無い、今ここで答えを出して、イエスかノーか。」

 

「わかった、なら、今すぐ出なさい」

 

声のした方を向くと、マギーがレポートの束を持って立っていた。

 

「ブルーマグノリア…………!」

 

「分隊の一人、か…………確かティアナ・ランスター。ティーダ・ランスターの唯一の妹」

 

その名前を聞いた瞬間、ティアナと呼ばれた少女の態度が急変する。

 

「あんたみたいな傭兵が兄さんの名前を出すなぁ!」

 

マギーに向かって魔力弾が飛んでくる。

 

「はぁ、すぐ熱くなるところは、あいつソックリね」

 

マギーはレポートの束を投げると、体を捻り上げて蹴りを放ち魔力弾を蹴り返す。

 

「なっ!?」

 

ティアナは自分の魔力弾を自分で撃ち落とす羽目になる、そのまま魔力弾の霧散による閃光で一瞬でマギーを見失う。

 

「っ!いない!?あっ!?」

 

そして足を払われ、デバイスを持っている手を捻り上げられ、後ろ手に膝で固定された後に、後ろから首を押さえつけられる。

 

「この程度反応出来ないなら、挑むだけ無駄。負け承知で挑むなら、話は別だけど。」

 

「このっ…………!」

 

ティアナはマギーを睨み、マギーはティアナをなんでもないような目で見つめる。

 

「はぁ…………わかった」

 

マギーはティアナを解放すると、落ちていたレポートの束を拾い上げる。

 

「私のオペレートはつけない、ただし、話は自分で付けて」

 

『了解』

 

マギーと話し終わると、踵を返して転送ポートに向かう。

 

『…………行かないの?』

 

「うるさいっ!」

 

ティアナに追い越される。その様子をティアナの姿が見えなくなるまで見た後に転送ポートまで歩いていく。

 

「おっ、お疲れさん。マギーに絞られたか?」

 

途中でファットマンに会う。丁度良いと思い、スケッチブックに鉛筆を走らせる。

 

『予定変更、分隊の一人とやり合うことになった。欲しいのはこれ。』

 

「…………成る程な、相手の領分で戦ってやろうって訳か。良いぜ」

 

『ありがと、ファットマン』

 

そして早歩きで、転送ポートに向かっていった。

 

「ふぅ…………なんか俺らといるより生き生きしてるな。」

 

早歩きで去って行く姿を見ていたファットマンはそう呟いた。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

転送で先ほどと同じ場所に出る。目の前には銃型のデバイスを持って立っているティアナの姿。

 

『メインシステム、戦闘モードを起動します』

 

親機であるバイザー型デバイスを装着し戦闘モードを起動させる。そして同時に転送されてくる、超小型コンテナが一つ、中型のコンテナ、それが二つ。そして中型コンテナの継ぎ目が爆発し、コンテナが開く。そこには銃身の折りたたまれた大口径狙撃砲。俗に言うスナイパーキャノン、それが二つ。そしてその下にスナイパーライフルがあり、ハンガーにスナイパーをそして小型コンテナを開く。現れたのはプラズマミサイル。それを両肩に装備し、スナイパーキャノンを両手に持つ。

 

「…………来たわね」

 

ティアナも既にバリアジャケットを展開済みらしく、その手に握られている小型拳銃型のデバイスを向けて来る。

 

「あんたみたいなのに負けらんない…………兄さんを見捨てた、あんたたち傭兵なんかに…………!」

 

『システム、スキャンモード』

 

動き始めたのはほぼ同時だった。自動的に肩部あたりからリコンを射出する。ティアナはなにやら空中に魔力の塊を生み出している。

 

『システム、戦闘モード』

 

それを警戒しつつ、足に魔力を付加して加速。真っ直ぐティアナに向かっていく。

 

「フォトンバレット、シュート!」

 

すると先ほど生み出した魔力の塊から魔力弾が撃ち出される。そしてティアナ自身も魔力弾を放つ。それらの間を器用に建物の壁を蹴って回避する。

 

「まだまだぁ!」

 

更に魔力弾が撃ち出される。時に地面を、時に建物の壁を、時に魔力弾そのものを蹴りつけて、ありとあらゆる方法で回避しつつ、少しずつティアナに接近していく。そして一定距離に入った時に一気に距離を詰め肉薄する。

 

「はぁ!」

 

接近されたティアナは銃口に魔力刃を形成し、こちらに振るってくる。それを体勢を低くして回避すると同時に魔力を足に付加させ、加速。そのまま蹴りを打ち込む。

 

「ぐうっ!?」

 

コンマ数秒遅かったらしくギリギリで防御魔法を張られるが、後ろへ若干吹き飛ぶ。そこに追い討ちでプラズマミサイルを打ち込みながら、そして建物の壁を蹴って上昇する。

 

「逃げるなぁ!」

 

ティアナは迫ってくるプラズマミサイルを魔力弾で迎撃する、が、迎撃した瞬間に強い光とプラズマがあたりに撒き散らされ、ティアナの視界と体力が一瞬だけ奪い去られる。

 

「ううっ…………はっ!?何処に!?」

 

そしてティアナが索敵を開始した時にはもう遅かった。

 

『システム、スキャンモード』

 

既にリコンはそこら中にばら撒かれており、ティアナが何処にいようと索敵し、狙撃ができる状態だった。

 

『システム、戦闘モード』

 

スキャンモードでティアナの姿を確認した後に素早く戦闘モードへ切り替える。そして右のスナイパーキャノンを構える。足の装甲が展開しシールドになる。更に足の脹脛のアンカーが展開し、固定される。バイザー内のレティクルは変化し、構え武器用のモードに切り替わる。その中央に移るのはティアナ。そして、引き金を引き絞る。轟音と共に3発の大口径弾が連射される。

 

「狙撃…………!?」

 

轟音に気付いたティアナだったが音速に近い弾速のスナイパーキャノンを避けられるはずもなく、スナイパーキャノンは背中、左肩、右脇腹に直撃する。

 

「がっ…………!?」

 

バリアジャケットの性能により、貫通や骨折はしなかったものの、おそらくその下には青アザは確定だろう、そのくらいの痛みだった。

 

「負けるもんですか…………負けられないんだ!」

 

ティアナはワイドエリアサーチと呼ばれる、索敵魔法を発動し操作する。が、それも3発の轟音により、中断される。そして大口径弾が建物の壁を貫通して、ティアナに迫る。

 

「壁抜き!?」

 

すぐさま防御魔法を張りながら後ろに飛ぶ、が、回避は不可能に陥った何故なら。

 

「しまった、あいつこれを狙って!?」

 

大口径弾よりも大質量のものがティアナに襲いかかってきた。壁抜きと同時に重要な柱を撃ち抜き、建物のバランスを盛大に崩した。バランスを崩した建物はどうなるか、しかも撃ち抜いたのはティアナ側に荷重のかかっている柱。それを撃ち抜けばどうなるか、建物はティアナ側に倒れる。やがて大量の粉塵が辺りを包む。ティアナ周辺に置いたリコンも巻き込まれたらしくリコン反応が消滅している。

 

『システム、スキャンモード』

 

システムをスキャンモードに切り替えて、索敵する。そして瓦礫の一部が動くと、そこからティアナが這い出てくる。

 

『システム、戦闘モード』

 

すぐさま戦闘モードに切り替えて、さらに左手のスナイパーキャノンを構える。バイザー越しに見えるティアナは肩で息をしており、此方を探している。それをしばらく眺めた後、レティクルを頭部に合わせてスナイパーキャノンに魔力付加をかけ、引き金を一気に引き絞る。五回の轟音と同時に五発の大口径弾が撃ち出され、それぞれ、右肩、左肘、背中、腰と直撃し、最後の一発は頸椎部をかすめ、ティアナの意識を刈り取る。

 

『作戦目標クリア、システム通常モードに移行します』

 

そしてそのまま踵を返し、転送ポートに歩いていく。

 

『…………後で事情を聞かせてもらうで?』

 

はやてが念話を飛ばしてくる。それに側頭部を二回叩き答えた後、そのまま歩いて行った。

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

数時間後、はやてに促され病室に入って行く。既にティアナは起きており、入ってきたこちらを睨みつける。

 

「…………何の用…………?」

 

『はやてに促されたからきた。』

 

「あっそ、なら要は終わったでしょ。早く出て行って」

 

そしてティアナはそっぽを向く。それを見た後にスケッチブックに鉛筆を走らせる。

 

『別に傭兵をどう見ようが構わない、けど、恨みを理由にした八つ当たりはやめて』

 

『こっちも弾もタダじゃない』

 

書かれた文字をティアナが横目で見る、それを見た瞬間にティアナが右手を振り抜く。

 

「煩い!何よ!結局傭兵なんてみんな金と弾丸の事しか考えてないじゃない!」

 

叩かれた頬を拭い、スケッチブックに鉛筆を走らせる。その間もティアナは続ける。

 

「私は傭兵が嫌いなのよ!金に意地汚くて、卑怯で、誰とでも平気で手を組む!だから私は嫌いなのよ!」

 

『別にどう思おうと構わないといった。ただそれをこっちにぶつけるなと言っているだけ。』

 

「黙れ!みんな兄さんと同じ目に合わせてやる!あんたも、あのマギーって奴も!」

 

ティアナ言葉を終えたその瞬間に壁に押し付けられ、喉を的確に指で締められる。

 

『こっちの事は、なんとでも言っていい。心っていうものがないらしいから。』

 

『ただ、マギーやファットマンに手を出すっていうなら今この場で殺す。人一人殺すなら動脈と静脈ごと喉を抉り取るだけで十分だ。それが迷わずできる、心が無いから、正確には切り捨てたから』

 

『少なくとも、傭兵をやる為に、生きていくために必要だったから』

 

喉を締めている指に力をさらに込める。ティアナの喉から紅い筋が一本垂れる。そして扉の方を横目で見るとティアナの喉から手を離す。

 

「ゲホッ!ゲホッ!?」

 

『気をつけて、今回は気まぐれが過ぎただけ。次は黒く焼き尽くしてやる』

 

そう言って、扉を開ける。外には三人の男女がいた。そしてスケッチブックに鉛筆を走らせる。

 

『よく見ておいたほうがいいと思うよ、あなたたちのためにも、こっちの弾代の為にも、ね。』

 

そして今度こそ、病棟から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 



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そんな格好悪さが生きるということなら

依頼人 機動六課 八神はやて

今回の仕事は、オークション会場、ホテルアグスタの警護と参加人員の護衛や、ロストロギアも取引されるからガジェットが出て来る可能性がある、来たガジェットは副隊長陣やフォワード陣営と連携して撃墜して、襲撃を防いでほしい、頼みます。


数日後、ファットマンに送られてホテルアグスタという所の屋上で待機していた。

 

『どうだ?なんも見えねぇか?』

 

聞かれた質問に側頭部を二回叩く。既にリコンをそこらじゅうにばら撒き索敵を開始している。

 

『そうか、しばらく頼む』

 

側頭部を二回叩き、単発式のスナイパーキャノンを展開する。今回の武装は右腕にスナイパーキャノン、左手にヒートキャノン、右肩には弾数重視のスナイパー、左肩にはレーザーライフル、両肩には追加弾倉を装備している。

 

『今回は徹底した防衛戦だな、こういう時に人がいると楽だな』

 

『今回は長期戦。敵が諦めない限り襲ってくる。弾数に注意して』

 

マギーとファットマンからも通信が飛んでくる。そして一機のリコンから反応が検知される。

 

『来たわね、盲撃ちでいい!撃って!』

 

マギーから指示が届く。それを聴き終えるとそのままスナイパーキャノンを撃つ。

 

『来やがったか…………新人共!なるべくはしねぇが、撃ち漏らしは頼むぞ!』

 

『『『『はい!』』』』

 

そして視界内に四人の人影が移り始める。

 

『反対側からもくる、迎撃して!』

 

マギーからの檄を聞くと、そのままスナイパーを閉じてヒートキャノンを展開し、敵のガジェットドローンの集団の真ん中に撃ち込む、そして爆炎で大半が吹き飛ぶ。

 

『お前的には今回は鴨撃ちになりそうだな』

 

ファットマンからの通信を聞きつつ、狙撃、砲撃を継続する。これを聞いたのは2日ほど前の事。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

「なるほど…………そのロストロギアってのを取られるのを防ぐための時間稼ぎってわけか」

 

「せや、と言うか警護やな。中には私とフェイトちゃん、なのはちゃんが入る。レイヴンにはフォワード陣営とホテル外側の防衛をして欲しいんよ」

 

ファットマンの言葉にはやてが同意し、さらに補足説明を付け加える。はやての依頼により正式に機動六課と契約結んで、一週間ほど経った後、出撃の目処が立ちこうしてブリーフィングを受けている。

 

「分かった、でもこっちはそのフォワード陣営の人員を把握してない…………と言っても1人は完璧に分かってるんだけど。」

 

「あー…………分かったわ、とりあえず呼んでくるわ」

 

はやてが機動六課の隊舎に放送で呼びかける。数分もしないうちに、部屋にはなのはとフェイトを含めて四人、そしてティアナに病室であった四人を加えた四人の男女が集まる。

 

「それじゃあ、なのはちゃんとフェイトちゃんの紹介は省略するな?んで、こっちの四人が新人のフォワード陣営や…………と言ってもティアナとは面識あるんやったな。先ずは副隊長陣、頼むな?」

 

「応、スターズ分隊副隊長、八神ヴィータだ。」

 

「ライトニング部隊副隊長、八神シグナムだ。テストは見ていた。いい動きだ。期待する」

 

なのはとフェイトの隣に立つ二人の自己紹介を聞きながら、ヴィータ、シグナムの二人を友軍に登録する。

 

「次は新人のフォワード部隊やね。スバルからお願いな?」

 

「あ、は、はい!機動六課、スターズ分隊所属、スバル・ナカジマです!」

 

「…………スターズ分隊、ティアナ・ランスターよ。」

 

「ラ、ライトニング分隊、エリオ・モンディアルです!」

 

「お、同じくライトニング分隊、キャロ・ル・ルシエです!」

 

四人の自己紹介を聞き終わると同じく、頭の中で友軍に登録する。

 

「丁度いいから、もっかいおさらいとして、ブリーフィングを開始するな?なのはちゃん」

 

「うん、今回は骨董美術オークションの会場、ホテル・アグスタの警護、オークション参加人員の警護が今回の仕事だよ」

 

「取引許可の出ているロストロギアもあるようなので、それをレリックと誤認したガジェットが強襲してくる可能性がある、そこで私達に白羽の矢がたったです。」

 

なのはと、その隣にいる小人のようユニゾンデバイス、リィンフォースⅡがブリーフィングを開始する。

 

「なるほどな、こういうのは密輸品隠すには丁度いい、そん中に連中のお探し物があってもおかしくはないな」

 

ファットマンが顎をさすりながら、今回の注意点に気付く。

 

「その通りだよ、この手の大型オークションは密輸の隠れ蓑になり易いから…………レリックがある可能性を常に踏みながら対処して」

 

「「「「はい!」」」」

 

フェイトがファットマンの意見に同意し、補足事項を付け足しながらフォワード陣営に注意を促す。それに緊張で固まりながらもしっかりとした返事で答える。

 

「現場には昨夜から、シャマル先生、ザフィーラが張ってくれてる。合流した後は、スターズとライトニングに分かれて、それぞれの副隊長の指示に従って警護を行う形になるから」

 

するとスバルが恐る恐る手を挙げる。

 

「あ、あの、そこの子…………えっと、『レイヴン』はどうなるんですか?」

 

「レイヴンには、ホテル屋上で狙撃、索敵、場合によっては前線で遊撃して貰う手筈になってる。基本はこっちでマグノリアさんが指示を出すからレイヴンにはそれに従ってもらう感じかな?」

 

なのはがレイヴンの役目についての補足説明を入れる。

 

「コールサインはどうしよっか?」

 

そこでなのはが詰まる。レイヴンは機動六課と契約後初めての出撃となる。もちろんファットマンのヘリで出撃するのだが、そのままレイヴンと呼ぶわけにもいかず、上位陣全員が悩み始める。

 

「ミグラント、てのはどうだ?」

 

ファットマンの一言により、レイヴンにはミグラント1というコールサインが与えられた。これが2日ほど前に行われたブリーフィングである。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

『チッ…………オモチャどもがワラワラと出てきやがる!キリがねぇ!』

 

ヘリを操作しながら、ホテル周辺を旋回しスキャン、その情報が常に送られてくる。

 

『今はまだ数だけ…………物量で押しつぶされる前に徹底的に叩いて!』

 

マギーの通信に答えるようにスナイパーキャノンの轟音と特異な金属音が鳴り響く。魔力を付加された大口径弾は確実にAMFを貫通し、魔道装甲に風穴をあけ、ガジェットを一機づつ確実に撃破していく。

 

『右腕、残弾30%』

 

デバイスからの警告を聞くと、スナイパーキャノンを戻し、ヒートキャノンを再び展開、それを次々と曲射弾道で放っていく。

 

『敵機、およそ残り半数。』

 

『時間を与えないで、一気に押し切って!』

 

マギーの言葉通りに、ヒートキャノンを撃ち込む。そしてガジェットはそれを集団行動のように回避する。すぐさまスナイパーキャノンに切り替えて一機を狙撃するが、ガジェットはそれすら回避する。

 

『なんだ?オモチャどもの動きが急に良くなりやがった!』

 

『さっき巨大な魔力反応があった、あっちにも召喚魔導師がいるか…………私なら…………地下へ向かって!そいつらは囮よ!』

 

マギーの言葉に従い、ヒートキャノンとスナイパーキャノンをパージし、スナイパーライフルとレーザーライフルをハンガーから装備し、屋上から飛び降りる。

 

『恐らく、目的は何らかのロストロギア…………急いで!転送で逃げられたら私達には追えない!』

 

『ビーコンセット、このビルの地下だ、が、相当遠いぞ?』

 

通信が終わるとマギーの言葉に答えるように、そのまま加速する。階段は全て飛び降り、人がいる通路は壁を蹴って飛び越し、閉まっている扉はスナイパーライフルで鍵部分を撃ち抜き、蹴破る。

 

『目標地点に到着、素早いな。相変わらず』

 

『褒めるのは後、敵反応を見つけたら容赦無く撃って!』

 

そしてリコンをばら撒きながら地下を探索していく。すると搬入口の警備員が気絶しているのを発見する。そして搬入口から姿を現したのは黒い人型の何か。首元には紅いマフラーが巻かれており、その4つの目は此方見ていた。そしてその手には何らかのケースが握られている

 

『見つけた、やはり目的は何らかのロストロギア。取られたら私たちの威厳に関わる、逃さないで!』

 

マギーの声が開戦の合図となり、二つの黒がぶつかった。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

「うん、やっぱり興味深いね。彼のデータ」

 

『またか、財団。いい加減諦めたらどうだ?今更捨てたものに拘っても意味はあるまい?』

 

「勘違いしないでほしい、"J"。僕は捨てたんじゃない。完成させる為に放り出したんだ。そしてその時から今までのデータ、僕の予想を超える成長を見せてくれている。実に素晴らしい」

 

『貴様、人間に絶望していたのではないのか?』

 

「勿論、そうだよ?僕の開発コードは"終わらない絶望"。《エンドレスディスペアー》人間には絶望して失望してる。だから人間を滅ぼすために、あれを作った。そして"J"。君のもう一つの勘違いだ。あれは人間じゃ無い、デバイサーという道具だ。いわば生体ユニットだ。ただし、質は他の誰よりもいい、そしてアレとアレが揃った時、かつてゆりかごを破壊した、世界を破滅に追い込んだ力が蘇る。だから"J"」

 

『…………なんだ?』

 

「壊れたあれの心を更に壊してくれ。そうすれば僕と君の目的は達成する」

 

『了解した…………だが…………』

 

「ああ、君の望む世界、かつての古代ベルカの様な破壊と闘争の世界を見せよう」

 

『なら良い』

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

『逃げられたか…………でもロストロギアはこっちで確保してる。外に出ましょう』

 

『外もだいぶやばそうだぜ。ロングアーチから遊撃指令が出てる』

 

『急いで!』

 

黒い人型に逃げられたが無事、ロストロギアを確保し、上へ上がる。

ガジェットは既に、最低防衛ラインまで侵攻しているらしい。

 

「クロスファイア…………シュート!」

 

来た時よりも倍近い速度で戻り、ホテルの外に出る。丁度スバルが誘導して集めた敵をティアナが魔力弾で一掃していた。大半はガジェット達に直撃し沈黙する、が、一発の魔力弾が軌道を外れ、魔力で作った道を進むスバルに直進する。

 

「あっ…………」

 

スバルにはそれがひどくゆっくりに見えた。そして、直撃する寸前で、素早く戻ってきたヴィータが槌型のデバイス"グラーフアイゼン"で魔力弾を弾き飛ばす。弾き飛ばされた魔力弾を、チャージしていたレーザーライフルで撃ち落とす。

 

「ティアナ!この馬鹿!無茶した上に味方に撃ってどうすんだ!」

 

「あ、あの…………これは、その…………連携の!」

 

「ざっけんなタコ!!んな連携あってたまるか!直撃コースだよ今のは!私が間に合わなかったらお前に直撃だったんだぞ!私の知ってる連携はんなもんじゃねぇ!」

 

「そ、それは私が避けられなかったのが…………!」

 

「うるせぇ!もう黙ってろ馬鹿ども!もういい…………お前ら二人まとめて後ろにすっこんでろ!ミグラント1!私と来い!残りを全部片付けるぞ!」

 

ヴィータにそう言われると、側頭部を二回叩き返事を返す、その後ファットマンに合図を送る。そしてコンテナが転送されると、武装を入れ替える。物理ブレードが二本、そして剣の柄のみの武装レーザーブレードが一本、そして、足止め用のハンドガン。物理ブレードを左手と左のハンガーに装備し、レーザーブレードを右のハンガー、ハンドガンを右手に装備し、そのまま飛んでいくヴィータを追っていく。そしてティアナはその姿を睨みつけていた。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

数分後

 

「おし、全機撃墜。そっちはどうだ」

 

ヴィータがガジェットを全滅させ、此方を向くと同時に航行不能になったガジェットに物理ブレードを突き刺し、ハンドガンを数発ダメ押しに放ち、トドメをさす。

 

「そいつで全部か?」

 

ヴィータの言葉にうなづく。ばら撒いたリコンにも反応は無い。

 

『スキャン完了、敵影はない。』

 

輸送ヘリからファットマンの通信が入る。

 

「おし、ならこっちは終わりだな」

 

「此方もだ、召喚魔導師は追えなかったがな…………」

 

「だが、いると分かれば対策は自ずと出来る」

 

声がする方を向くと、シグナムが大きな青い狼とともにこちらに歩いてくる。

 

「お前がレイヴンか、見ていたがいい動きだ」

 

青い狼が話しかけてくる。

 

「会うのは初めてだったな、ザフィーラという。これからよろしく頼む」

 

その言葉に側頭部を二回叩き答える。

 

「ティアナは?」

 

エリオとキャロも近くにおり、ヴィータは居場所を聞く。

 

「裏手の警備に行ってます」

 

「スバルさんも一緒です」

 

エリオとキャロが答える。ヴィータはホテルを顰めっ面で見ていた。

 

 



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寒空の下、目を閉じていよう

あけましておめでとう御座います、今年最初の投稿です。此れからもこんな駄作者をよろしくお願いいたします。


ホテルアグスタの裏側

 

「あたしは…………あたしはぁ…………!」

 

「いい格好ね」

 

「!!」

 

ミスショットで危うく相棒を撃墜しかけたティアナ。後ろから声かけられ振り向くと、そこにはマギーが立っていた。

 

「…………何ですか?いま警護中なんですけど…………」

 

そっぽを向き腕で目元を擦った後、マギーに向き直る。

 

「戦果を取ろうとするのは良いことだけど、それで味方殺したら元も子もないわよ。自分の力量を弁えれないなら、貴方は魔導師をやめた方がいい。」

 

「…………!!!」

 

ティアナがマギーに自身の拳銃型のインテリジェントデバイス"クロスミラージュ"を突き付ける。

 

「煩い!始めてあった時からそう!あんたはいつも高い所から私を見下ろしてくる…………!そんな所から見てるあんたなんかに私たち凡人の気持ちがわかるもんか!」

 

「…………はぁ、凡人、ね…………下らない劣等感、いや、もうそれは嫉妬心ね…………」

 

「煩いって言ってんのよ!」

 

「その言葉…………傭兵なりの言い方で返すわ、"自分を凡人と言えるなら、そいつは才能の塊だ"。」

 

マギーは素早くティアナの懐に潜り込むと、ティアナの額を指で突く。

 

「痛っ!?」

 

「あなたにはあの三人に無いものがある…………今私がここで教えてもいいけど、それはあの子、高町なのはの仕事。」

 

マギーは踵を返して、ティアナから離れる。

 

「ああ、後射撃を正確に当てたいなら、今話したのを見つけられたら私のところに来なさい、傭兵なりの撃ち方で教えてあげる」

 

そしてマギーはヘリへと戻っていく。ティアナはそれを呆然と見つめていた。

 

「お疲れさん、マギー。」

 

「はぁ、兄妹揃って同じタイプ、か…………あの手のやつは一度折れると面倒くさいのよね」

 

「お前と同じだな、マギー」

 

ヘリから物凄い音がしたのは後日談である。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

数日後、ホテルアグスタの件も穏便に終わり、また訓練の日々が続く。そしてビルの上から、フォワード四人とフェイト、ヴィータの六人が見ている。

 

「あいつ、動きいいな」

 

「うん、やっぱりずっと戦い続けてた傭兵なんだね…………でも…………」

 

「あの歳であの戦闘レベルは、度を超え過ぎてるぞ。」

 

そんな会話を聞きながら、次々と襲ってくる桜色の魔力弾を撃ち落とし、切り払い、防ぐ。左手に握るのはレーザーブレード、右手には分厚い鉄板のようなシールド、それぞれのハンガーにはパルスマシンガンとレーザーライフルが装備されている。そして肩にはCE弾頭のミサイル。武器の殆どがなのはの指定した武器である。

 

『魔力、残り30%』

 

シールドをハンガーに待機させ、レーザーライフルと入れ替える。そしてレーザーライフルをチャージしながら、ビルを蹴って上昇、なのはのいる空中へと躍り出た後、レーザーブレードで斬りかかる。

 

「…………(うん…………粗悪品って聞いてたけど結構出力は高い…………動きも良いから、あまり私の指摘するところはないかな…………強いて言えば危ない避け方ばっかりしてるのが、玉に瑕かな…………)」

 

振るわれたレーザーブレードを防御魔法のシールドで防ぎながら、なのははレイヴンの軽い考察をまとめる。そして、自身のデバイス"レイジングハート"で吹き飛ばし距離をとらせる。吹き飛ばされた直後に、チャージしたレーザーライフルをなのはに向け撃つ。それをなのははラウンドシールドを多重に重ねて防ぐ。

 

(射撃の精度も正確、遠距離も近距離も問題なし、だね。)

 

レーザーライフルを防いだ後、魔力スフィアを形成、それをレイジングハートで叩くと、魔力スフィアが数十発の誘導魔力弾"アクセル・シューター"に変わる。それが四方八方から襲い来る。それを落下しつつレーザーブレードで切り払い、ビルの壁面を蹴って反転、レーザーライフルとシールドを入れ替え、アクセルシューターを捌いていく。そして、魔力反応を追いなのはの方を向いた瞬間に、リミッターのかかった砲撃魔法"ディバインバスター"が放たれる。

 

『シールド破損、パージします』

 

シールドに魔力を付加して身を屈め防ぐものの、シールドが削り切られ破損、パージされる。さらに追い討ちをかけるようにアクセルシューターが数発降り注ぐ。それをレーザーブレードで斬り払うが、数発をなのはが思考誘導し、レーザーブレードを回避した後に、背中や肩、足に直撃させる。

 

『ダメージを受けています、回避して下さい』

 

足に魔力を付加、視界の端を見れば魔力を示すゲージがジリジリとは回復しているが、全力戦闘には心許ない。そして後方に退避しつつ、CEミサイルを数発撃つ。着弾前にアクセルシューターに数発撃墜され、残りは防御魔法に防がれる。

 

『魔力、残り30%』

 

回復していた魔力が、また赤ゲージに戻る。レーザーブレードで建物の一角を両断、なのはに向けて蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた直後になのはが砲撃魔法でそれを破壊、あたりに粉塵が舞う。その隙に、建物内に隠れる。

 

『システム、スキャンモード』

 

リコンに捕らえられたなのはの姿が壁越しに写る。魔力のゲージはようやく三分の一強。

 

『システム、戦闘モード』

 

そしてハンガーのレーザーライフルを取り出し、チャージを開始する。そして壁越しになのはをロックオンし、それを維持したまま建物の窓から飛び出る。そして、CEミサイルを最大ロック数で撃つ。

 

『肩部、残弾30%』

 

デバイスから警告がなる。CEミサイルはなのはのアクセルシューターにより、撃墜されるが爆炎が目隠しとなり、そのままなのはに接近する。

 

「…………そこ!」

 

そして、レーザーブレードで強襲するも、防御魔法に防がれる。その防御魔法にレーザーライフルの銃口をねじ込み、撃つ。

 

『魔力がありません』

 

デバイスからの警告の後に、レーザーブレードが消え、そのまま自由落下で落ちていく。そして、ビルの上に着地し、なのはを見上げると既に砲撃魔法を放っており、そのまま為す術なく直撃する。

 

『深刻なダメージを受けています、回避して下さい』

 

武装を確認する、レーザーライフル及びレーザーブレードを紛失、CEミサイルは動作不良に陥り全て捨て撃ち。残りはバチバチと音を立て、今も誘爆しそうなパルスガンのみ。大人しく両手を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

「レイヴン…………凄かったね。」

 

「ああ、多分魔力切れさえ起こさなきゃ、いいところまでは行ってた。新人共にもいい薬になったろ。」

 

「そう言えば…………レイヴンの魔力ランクって…………」

 

「わかんねぇ、シャマルに聞けばわかるんじゃねえか?」

 

隊舎の食堂で話すフェイトとヴィータ。話題はもちろん先ほどの模擬戦の結果。撃墜ではなく、降参。フォワード陣もこれに感化されたように訓練に打ち込んでいる。そして話題はレイヴンの魔力ランク。

 

『ん?如何したの?ヴィータちゃん』

 

機動六課の医療班であるシャマルに通信を開く。

 

「いや、お前最初にレイヴンの検査とかやったよな?そん時に魔力ランクは測ったんだよな?」

 

『うん…………測ったんだけど…………』

 

ヴィータからの質問にシャマルは口籠る。フェイトも質問をかぶせる。

 

「シャマルにしてははっきりしないね。どうしたの?」

 

『レイヴンの魔力ランクは…………測定によるとD+…………本当ならストレージを起動できるギリギリ…………セルデバイスでもほんの少し余裕が出来るだけなの…………』

 

「でもあの剣や銃からは魔力が感知できた、それだけの魔力はあると思うんだけど…………」

 

「内臓魔力か…………それともリミッターで押さえつけてんのか…………」

 

フェイトとヴィータが考え込む。さらにシャマルが補足説明をかぶせる。

 

『精密検査もしたけど…………リミッターはかかってなかった…………』

 

「ますます、だな…………」

 

「うん、でも戸籍がない以上情報を調べることもできない…………」

 

『後シャーリーから聞いたんだけど…………』

 

「シャーリーから?」

 

『レイヴンのデバイス…………何処へかは分からないけど、戦闘データを送信してるの…………』

 

「…………送信先は?」

 

『ごめんクラールヴィントで逆探知を掛けたんだけど、途中で妨害されて…………』

 

「デバイスの機能か…………それとも、送信先の奴がやったのか…………」

 

『今度もう一回やってみるね。』

 

「うん、お願い。」

 

そしてシャマルとの通信を終了する。そしてフェイトとヴィータが食堂の席を立つ。

 

「ま、あとはなのはを交えてじっくり話すしかねーな。」

 

「だね、今度時間作るよ」

 

「頼む」

 

そしてフェイトとヴィータは食堂から出て行った。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

「あ、レイヴン。ここにいたんだ」

 

機動六課の寮の屋上で空を見上げているとなのはがやって来る。

 

『お疲れ様』

 

「うん、少し冷えるね…………何か飲む?」

 

『大丈夫です』

 

そしてなのはは隣に来て空を見上げ始める。

 

「星…………綺麗だね…………」

 

『そうですね』

 

「寝れないの?」

 

『こういう夜は数え切れず過ごしましたから…………こういう、眠りのない夜は…………』

 

「そっか…………ちょっとだけ、お話ししようか。」

 

『分かりました』

 

なのはは色々と話した。フォワード陣の成長、レイヴンの模擬戦により感化されたのか最近成長速度が著しい事。

 

「そう言えば…………模擬戦、ちょっと危なかったかな…………」

 

『まだまだです…………全盛期のマギーなら落としてた』

 

「あはは、カーチスさんなら仕方ないよ。その年でそれだけ出来るんだもん。」

 

『自分にはこれしかないから』

 

スケッチブックに書かれたその言葉を目にした瞬間に、なのはは悲しそうな顔をする。

 

『…………もうすぐ夜も更けます。自分はもう少しここにいます』

 

「うん…………そうだね。ごめんね。なんか愚痴みたいになっちゃって」

 

『お気になさらず、お休みなさい』

 

「うん、お休み」

 

なのはは寮の屋上を去っていく。そして、声を掛けてくる。

 

「カーチスさんでも誰でもいいから、何かあったらちゃんと話してね?」

 

なのはは今度こそ寮の屋上を去っていく。そして空を見上げたまま、目を閉じる。傭兵で無くなった自分を想像しながら。

 

 

 

 



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キャラ紹介

今回は簡単なキャラ紹介…………最近マギーとファットマンの口調が不安になってきた…………


"黒い鳥"《レイヴン》

 

マギー、ファットマンとともに傭兵を営む少年。黒い髪に黒い瞳、それとは対照的な白い肌が特徴、バイザーの下の顔には真鍮線に沿って横一文字傷が刻まれている。数年前から他の傭兵たちの間で話題に上り始めた傭兵で、その戦闘能力は他の傭兵とは一線を画し、半端な魔導師や傭兵は返り討ちに出来るほど。管理局の市街対策本部からの依頼をうけ、基地内を制圧目前まで持っていくが、フェイトに敗北し、捕獲される。その後、機動六課と正式に契約し、以後はやて達に協力する。本人曰く『記憶がなく、名前も歳も分からない』らしく、周りの傭兵が黒い鳥《レイヴン》と呼んでいることから、レイヴンという仮名が与えられた。機動六課内でのコールサインは"ミグラント1"。使用デバイスは親機と子機に別れたセルデバイス。マギーによると、とある所で黒い鉄格子の檻に入れられていたという。その時に親機であるバイザー型のセルデバイスと詩の刻まれた銀のプレートを持っていた。レイヴンという名前は周りの傭兵たちが呼んでいたものだがその理由が、必ず複数枚の黒いマントを着用して戦場に現れ、戦闘中にはためくマントが鳥の羽のように見えるから、らしい。

 

 

マギー(マグノリア・カーチス)

 

レイヴン、ファットマンと共に傭兵を営む女性。戦闘時にはレイヴンのオペレーターを務める。ブロンドにサファイア色の瞳の長身の女性で口調はかなり強く、下手の男より男らしい。

彼女自身も元は傭兵であり、その頃はブルー・マグノリアの名で管理局すら恐れた傭兵であったという。一度管理局に撃墜されそのまま管理局のスカウトを受けて武装隊に入隊する。そして入局した当初の、なのは、フェイト、はやてに何かと世話をかけるが、ある時に死神部隊に遭遇、撃墜された時に左手を失い、リンカーコアを損傷リンカーコアの10%を失い、精神もすでに魔導師としてやっていけるものではなく、そのまま管理局を退役、傭兵時代のパートナー、ファットマンと共に放浪していたところにレイヴンを発見、レイヴンに傭兵としての最低限を享受した後、レイヴンのオペレーターを務めるという形で再び戦場に戻る。

戦闘能力は高く、リンカーコアの損傷により、魔力が全盛期より出せなくなった状態でも、ティアナの魔力弾を蹴り返すくらいは簡単にやってのける。ちなみに自分の過去をほとんど話さないため、彼女を撃墜した管理局員のことは今でも不明である。

 

"セルデバイス"

演算、火器管制の親機と攻撃専用の子機に別れたデバイス。親機に登録した子機を親が制御することで使用者の頭脳的負担、魔力的負担を減らす。だが、子機デバイスの大半は粗悪品で管理局での使用者は非常に少ない、が、大半の傭兵はこのセルデバイスを使用している。

 

 

ファットマン

 

レイヴン、マギーと傭兵を営む、白髪の混じった頭を散切りにした初老の男で、ベテランの運び屋。傭兵の身を第一に考え彼と組んだ傭兵は生存率が比較的高いことから、傭兵たちの間では奇跡を呼ぶ男と呼ばれている。豪放磊落な性格でよく言って大胆、悪く言ってガサツ。

ヘリの運転中には鼻歌を歌い、よくマギーに怒られている。何時も気を張っているマギーや戦いづくしのレイヴンを気遣い、時にはマギーの相談に乗ったり、レイヴンを連れて街に繰り出したりする。マギーは、煩いけどいい人。レイヴンには優しいすぎて眩しい、との事。

戦場ではレイヴンの送り迎え、武装の投下や任意パージした武装の回収などを主としている。管理局の基準で当てはめればヘリ操縦はA以上らしい。

 

 

財団

 

謎の人物で、Jと親交があるらしいが詳細は不明。

 

 

"J"

 

レイヴンの銀のプレートの最後に書かれていた謎の人物の名前。コードネームと思われるが詳細は不明。マギーの考察ではレイヴンに戦闘技術を叩き込んだのはこの"J"だと思われる。

 

 

 

 



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運命とうまく付き合っていくならきっと

「あ、レイヴンさん」

 

エリオは外のベンチにて寝ているレイヴンを発見する。

 

(疲れてるのかな…………でもこんなところで寝てたら風邪引くし…………)

 

エリオはレイヴンの元へ近づく。そして異変に気付く。

 

「レイヴン…………さん…………!?」

 

レイヴンの近くに来て初めてエリオは理解した。デバイスであるバイザーはつけたまま寝ているので、分からないが、顔色を悪くして震えており、歯は剥き出して食い縛り、手は頭を抱え、体は小さく丸めている。

 

「レイヴンさん!?レイヴンさん!?」

 

エリオはレイヴンを揺する。反応がないとわかるとデバイスの通信機能でシャマルとの通信を開く。

 

『エリオ?如何したの?』

 

「シャマル先生!レイヴンさんが!?」

 

レイヴンにとっての長い悪夢が既に始まっていた。

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

『どうした…………立て、まだ終わってなどいない』

 

男に向けてブレードを振るう。男はそれを難なく避け、眉間にライフルを突きつけ、撃つ。

 

「…………っ!」

 

撃たれた衝撃を殺しきれず仰け反るが、左手のマシンガンを乱射する。その弾丸は全て男には当たらず、明後日の方向に飛んでいく。男はゆっくりと歩いて距離を詰め、鳩尾に膝蹴りを撃ち込む。

 

「…………っ!?」

 

そして、蹴り飛ばされ地面を転がり、数メートル離れたところでようやく止まる。

 

「がはっ…………!ゲホッ!ゴホッ!」

 

ブレードを取り落とした手で僅かに体を持ち上げた後、激しく咳き込み、赤の混じった胃液を吐き出す。そして、男が近寄り、服の首あたりを掴み無理やり立たせる。

 

『立て、それともここで無様に死ぬか?』

 

男はそのまま放り投げる。軋む体ともつれそうな脚を無理やり制御して思い切り踏み込み、男に膝蹴りを撃ち込む。

 

『そうだ…………戦え。私達にはそれ以外は無い』

 

膝蹴りを片手で受け止めた男は、足を掴み、そのまま背中から地面に叩きつける。肺の中を全て吐き出し、喀血する。

 

『出血量はまだ致死量では無い、続けるぞ』

 

男はそのまままた脇腹に蹴りを入れ、蹴り飛ばす。蹴り飛ばされると同時に意識を無理矢理覚醒させる。そして、体勢を立て直し、獣のような低い姿勢から向かっていく。そして、右腕の格納レーザーブレードを取り出し、足下を攻撃する。男は、それに対して、持っている手ごとブレードを踏みつけるという選択肢をとる。そして銃床を肩に叩きつける。

 

「…………っ!?」

 

叩きつけられた肩からゴキリ、という音が聞こえ、一拍遅れて激痛、さらに一拍遅れて、右腕全体に脱力感が襲う。

 

『脆いな、もしや魔力切れか…………脆弱者が…………下らん』

 

折れた肩を踏み躙る。苦痛に顔を歪ませ目を閉じるがその隙に折れた肩を蹴られる。

 

『どうした…………古代ベルカの伝承の様に、黒い鳥になりたいのだろう?なら、私を黒く焼き尽くして見せろ。その弾丸で私の眉間を撃ち抜いて見せろ、そのブレードで私の心臓を貫いて見せろ。その足で、私の命を砕いて見せろ』

 

その言葉を言いながら男はゆっくりと近づいていく。その言葉を聞きながら、左手でハンガーのライフルを手に取り構える。そして引き金を引く。弾丸を回避される。そして接近される。足元にKEミサイルを撃ち、礫を拡散させる。視界を塞いだ後に、ライフルを撃ちながら移動。落としたブレードを拾い上げる。

 

「…………ッ!!!!!!」

 

完璧な背後からの一撃。延髄を狙った横一線。ブレードの刃は男の延髄に直撃コースで振るわれ…………。

 

『遅い、そんな事では死神一人殺せんぞ』

 

男にブレードの峰を掴まれ止められる。そして、男の蹴りが胸部に直撃、肉が潰れ骨が砕ける嫌な音が響き、同時に再び喀血。男はブレードを左に持つとゆっくりと近づいていく。

 

『貴様の剣戟はなってない。本物の剣戟とはこうだ』

 

そして首を掴み持ち上げるとブレードで横一線に薙ぎはらう。そして、顔の真鍮線に沿って横一文字が刻まれる。

 

「…………っ!」

 

顔から、鮮血が流れる。その痛みに耐えながら歯を食いしばり男を睨む。

 

『そうだ…………憎め、恨め、怒れ。それすらも戦いで黒く焼き尽くす。』

 

ブレードを口にくわえ、開いた手でレーザーブレードを持つ。そして飛びかかったところで場面が暗転し、切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

 

『R、調子はどうだい?』

 

支給されたバイザー型のデバイスから声が聞こえる。

 

「…………良好…………」

 

聞こえた声に端的に答える。そして武装を選択する。右手にバトルライフル、左手にはヒートホイザーと呼ばれる拡散榴弾砲、左右のハンガーには室内戦を意識し、二本の物理ブレードが装備されている。

 

『それは良かった…………君の■■■■としての初めての仕事だ…………君のみが黒い鳥だということを僕に証明して見せてくれ』

 

「…………」

 

そして黒とワインレッドのカラーリングのヘリから飛び降りる。そして眼下に見える建物。"ネスト"と呼ばれる傭兵達の溜まり場。そこにヒートホイザーを撃ち込んで穴を開け中に侵入する。

 

『目的はわかっているだろう?旧世代の遺物…………それの排除だ、ああ、中の傭兵も全員始末していいよ?目撃者は潰さないといけないからねぇ。ま、一応Dをそっちに向かわせてるからさ。』

 

「了解」

 

『それじゃ、また後で』

 

通信を切る。周りにはそれぞれのセルデバイスを起動した古い傭兵達。火炎放射器や旧式のライフル、マシンガンなどを構えている。そしてヒートホイザーを投げつけ、ライフルで撃ち、誘爆させる。

 

「うわっ!?」

 

爆炎と爆煙で視界がふさがれる。そして、数人の首が飛び、数人の風通しが良くなる。狭い施設内はほぼ阿鼻叫喚の地獄画図となっている。

 

『ネスト、と言ってもこんな程度か…………期待した僕が馬鹿だったみたいだね、Rに弾丸一つもかすらせることが出来ないとは』

 

何処かで見ているのか、先ほどの男の声が聞こえる。

 

『それら酷というものではないか、財団』

 

すると低い女の声が響く。そして、目の前に双剣を持ったライオンのエンブレム、どうやら通信に割り込んできているようだ。

 

『Kか、君も気になるのかな?』

 

『知らん、私は任務が終了したから暇つぶしに見に来ただけだ』

 

『ふーん、まあ見てなよ。面白いことになってるからさ』

 

通信を聞きながら、殲滅に集中する。弾の切れたライフルはとうの昔にパージ、今は物理ブレード二刀流で喉笛を切り裂き、心臓を貫き、胴体を削ぎ落とす。手足の切断は当然の如く1、2本は切り落とす。

 

『見てみなよ、仮にもあの歳まで生きてた傭兵どもがまるでボロ雑巾だ』

 

『Jにあれだけやられたのだ、これくらい出来ない方が可笑しい』

 

『ま、その通りだね。おや、Dが到着したようだ』

 

入り口が勢いよく開かれ…………否、消し飛ばされると、そこには重火器を持った男が入ってくる。背後にはバトルライフルとガトリングガンを持った人型の機械が四機ほど男に従うように入っている。

 

『どうやら骨折り損だったようだな、無事か?』

 

「問題ない」

 

その方向を見ようともせず、取り敢えず首を絞めていた最後の1人の喉をブレードを突き刺して終わらせる。

 

『もう貴様も死神入門というわけか。』

 

Dは建物のさらに奥に進むと、手にしている重火器であらゆる物を破壊していく。

 

『さて、あとはここの奥の物を壊すだけだ。行くぞ』

 

「了解」

 

そして、数分後にその建物は地下から崩れ落ちた。そしてまた、場面は切り替わる。

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

『さあ、一度、巣立ちの時だ。』

 

聞こえてくる声のみに耳を傾ける。頭にはヘッドギアが被せられ、身体は合金製の鉄の椅子に拘束されている。

 

『ああ、そうだ。それは君の物だから君にあげるよ。君が2年間…………いや、三年だったか…………■■として活動した時に使っていたセルデバイス。後は、このJから預かったプレート。これを君に残しておくよ』

 

ヘッドギアで視界が遮られているため、見えないが確実に何かをこちらへ見せようとしているのは感じ取る。

 

『それじゃ、少しの間さよならだ』

 

ガチャン、と何かレバーの下すような音が聞こえると一拍遅れて頭に激痛が走り始める。そして段々と視界が暗くなっていく。そして。

 

『この子…………ファットマン!手を貸して!』

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

唐突に夢から覚め、目を開ける。服装はいつもの緑色のタンクトップと迷彩柄の作業ズボンではなく、病院の患者が身につける患者服。

 

『おはようございます、メインシステム、マスターデータの認証を開始します。』

 

どうやらバイザーをつけたまま寝ていたらしく、目の前ではデバイスの機動シーケンスが進められている。

 

『メインシステム、マスターデータの認証を完了しました。これより作戦行動を再開、あなたの帰還を歓迎します。』

 

そしてバイザーを取る。身体は汗でじっとりと湿っており、身体は少し動かせば節々が僅かに痛む。そして、頭の奥では僅かに頭痛が生じている。

 

「あ、起きたんですね!レイヴンさん!」

 

「よ、良かったです!」

 

ベッドの横では赤毛の少年、エリオと小さな空飛ぶトカゲを連れた桃色の髪の少女、キャロが起きた様子を見て安堵している。

 

「調子はどう?」

 

そして奥から、医務官のシャマルが出てくる。そして周りを見渡す。

 

「ああ…………はい。」

 

そしてシャマルから鉛筆とスケッチブックを受け取るとサラサラと鉛筆を走らせる。

 

『ご心配をお掛けしました、問題ありません』

 

「ほ、本当に大丈夫ですか?普通じゃない魘され方でしたけど…………」

 

『大丈夫、問題無い』

 

そしてベッドから降りるとバイザー型の親機デバイスを掴み、そのままスタスタと医務室を出て行く。

 

「お、起きたな。」

 

「大丈夫?レイヴン。」

 

『はい、問題ありません。ご心配をお掛けしました』

 

廊下ではなのはとヴィータが話していた。おそらくフォワード陣営の事だろう。そしてこちらに気づいて話してくる。

 

「辛くなったら言ってね?」

 

「無理すんじゃねーぞ?」

 

『ありがとうございます』

 

そしてそのまま屋上へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで?首尾はどうや?リイン。」

 

「はいです、この前シャマルさんが妨害された逆探知を私がちょっと変わったやり方でやったです」

 

「変わったやり方?」

 

「はいです、逆探知を妨害してきた魔法を逆探知、さらにそれを妨害してきた魔法を逆探知、と繰り返して場所をやっとこさ特定したです!」

 

「流石や!そんで、妨害魔法は何処からだったん?」

 

「建物の何階などの詳しい位置情報は分かりませんでしたが…………座標は特定できたです。これです。」

 

リインフォースが巨大ディスプレイに結果を移す。そして、はやてがそこを険しい顔で見つめる。そこは、ある組織の建物だった。

 

「『財団』…………!」

 

 



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悲しいとか寂しいなんて言ってられない


みんな大好き、変ナノの登場です。


『財団』あらゆる方面に資金的支援、物資的支援、技術的支援の何れかを施している謎の組織。管理局はもちろん、AGS(アーマメンツガードセキュリティ)、はたまた弱小レジスタンスや個人の傭兵にまでその出資先は様々。そして、その財団から機動六課に依頼が届く。

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

『時間通りだ、管理局というのは仕事には律儀だね』

 

「ご親切にどうも、ところで一つ質問です。その変なの…………あなた、財団の関係者なんですか?」

 

一機の小型輸送ヘリが上空に待機し、そこから声が響く。それにはやてが答える。目の前には見た事のないメカが鎮座している。

 

『こっちの依頼は至極単純。こちらの用意した戦力、この"変なの"と戦って貰えばいいだけ』

 

『こっちの質問は無視かよ』

 

はやての質問に答えず、話を進める声の主にファットマンが突っ込む。そして、それすらも無視する。

 

『戦闘には実弾を使用、なんで負ければ最悪そっちは死ぬけど…………まあ、そのつもりで』

 

そしてエリア一帯がバリアで隔離される。残された味方はフォワード陣営の四人のみ。

 

『ああそうそう、そっちには僕らの用意したUNACを付けるよ。多分、君らだけじゃあ、相手にならないと思うからさ』

 

するとフォワード陣営の真後ろに三機の人型のマシンが降りてくる。それぞれの手には、バトルライフルとマシンガンが装備されている。

 

『…………っ!馬鹿にしとるんですか?そうやってこっちを挑発して、そちらになんのメリットが?』

 

『前置きが長くなったね、じゃあ始めようか』

 

そしてフォワード陣営が困惑するもデバイスを起動、バリアジャケットを展開する。それを確認してバイザーを装着する。

 

『メインシステム、戦闘モードを起動します』

 

戦闘モードを起動して装甲を展開する。すでに武装は選択済みで、両方の手に威力重視の3連装ガトリング。右のハンガーにはプラズマガン、左のハンガーにはバトルライフル、肩にはカウンターガンを装備している。

 

『U1、オペレーションを開始します』

 

そしてUNAC達も起動し、変なのに向かっていく。

 

『通信テスト中…………五人共聞こえてる?』

 

マギーの通信が耳に届く。どうやらフォワード陣営にも聞こえているらしい。

 

『目の前のは私にも分からない、死にたくなければ集中してそれを叩き潰すだけでいい。始めて!』

 

マギーの声を合図に全員が走り出した。それと同時に相手の変なのも動き出す。

 

「スバル!クロスシフトA!」

 

「応!」

 

スバルはウィングロードと呼ばれる魔力で構成された道を変ナノの上に螺旋状に展開する。ホテルアグスタの時に見せたコンビネーションだ。

 

「あの時とは違うんだから…………!クロスファイア…………シュート!」

 

ティアナが多数の誘導弾を放つ。それはあらゆる角度から変なのに向かっていき、直撃する。

 

「どぉりゃあああああああああああ!!」

 

さらにスバルがウィングロードの軌道を坂道に変更、変なのに向かって加速し、右腕のガントレット、リボルバーナックルを振り被り殴りつける。

 

「はあああああ!!」

 

それとほぼ同時に、キャロに強化魔法をかけてもらったエリオが魔力変換"電気"で電気に変えた魔力を纏いながら変なのの背後をとり、そのまま背後から突撃する。UNAC達は装備した武器を適当にスバル達の邪魔にならない様にばら撒いている。そしてスバルの拳が変なののコアユニットらしき、赤い目玉を模したモノアイの部分に直撃する。

 

「か…………たっ…………マッハキャリバー!」

 

スバルがそう叫ぶと、脚のローラーの馬力が上がる。それと同時にガントレットから薬莢が排出される。そしてスバルのガントレットに魔力が集中する。

 

「もらった!」

 

エリオが後ろからストラーダに電気を纏わせ、変なのの脚部を斬りつける。金属と金属がこすれ合う嫌な音が響く。そして、エリオはスバルを追い越して離脱、キャロの近くで反転する。

 

「おりゃああああ!」

 

そしてスバルが腕を振り抜き、変なのが数ミリ後退する。そして赤い目玉のようなモノアイをギョロギョロと動かすと足を振り回すように回転しながら大きく後ろに飛ぶ。それをUNACが追いかけて行く。

 

『UNAC…………彼奴らと変に連携するよりは勝手に突っ込ませればいいわ…………様子見には丁度いい』

 

そして、赤い目玉のようなモノアイのあるコアユニットの上に装備された大口径砲が放たれ、一機のUNACに直撃する。

 

『U1、AP残り70%』

 

他のUNACも次々と変なのに攻撃を加えていくが、放った弾丸は軽い音とともに、あらぬ方向に飛んでいく。そして変なのが足を振り回すように回転しながら突撃し、UNACの一機をすり潰す。

 

『味方UNAC、大破!』

 

『まだよ…………!まだ行ける…………!』

 

ファットマンとマギーの声が耳に響く。それと同時に周囲の建物の残骸を蹴って上空に上がる。それと同時にフォワード陣営も動く。ある程度の高度に上がったのを確認し、レティクル内に変なのの姿を収めると、落下しながら両手のガトリングガンを撃つ。その間に変なのが2機目のUNACを撃破する。

 

『味方UNAC、戦闘不能!』

 

『そろそろ危ないわ…………気を引き締めて!』

 

マギーの声が耳に届く。ガトリングガンを撃ちながら着地、数秒ほどその場で足を止めてガトリングガンを撃ち続ける。そして、変なのの大口径砲がこちらに放たれる。それを、魔力を付加した脚で素早く地面を蹴って回避する。

 

「もういっかああああああい!!!」

 

スバルがウィングロードで変なのに再び突撃、腕を振りかぶると同時に、ガントレットから薬莢が排出される。

 

「キャロ!」

 

「うん!」

 

エリオはストラーダを逆手に持ち替えて構える。

 

「もう二度と失敗しない…………!カードリッジリロード!」

 

ティアナの手に持つ二つの拳銃型デバイス、クロスミラージュからバシュッ、という音が二回聞こえると、ティアナの魔力反応が大きく上がる。そして、変なのが最後のUNACを撃破する。

 

『次はこっちにくる…………構えて!』

 

マギーが入った同時に、変なのは回転しながら突撃する。ターゲットは…………向かってくるスバル。

 

「おりゃああああああああ!!!!」

 

変なのの脚とスバルのガントレットがぶつかる。そして数秒もしないうちにスバルが弾かれる。

 

「シュート!」

 

そして変なのに数発のオレンジ色の魔力弾が直撃し、一瞬だけ動きが止まる。

 

「はぁあああ!」

 

そしてエリオが電気を纏わせたストラーダを槍投げの要領で投げつける。それが変なのの大口径砲の一つを破壊する。それを目視で確認した後に下半身に魔力を付加、一気に接近し、蹴りを撃ち込む。それと同時に素早く体勢を立て直したスバルがその反対側から蹴りを撃ち込む。

 

「「…………ッ!」」

 

目線が合うとお互いが素早く交代、それを確認した後にバトルライフルとプラズマガンを乱射する。そして、もう一度下半身に魔力を付加、モノアイに蹴りを撃ち込む。そしてモノアイにヒビが入ると、武器をハンガーと入れ替える。そして、ひび割れの部分にガトリングの弾丸をありったけ撃ち込む。

 

『右腕、残弾30%』

 

『左腕、残弾30%』

 

十秒も撃ち込むと、残弾が30%を切る。その頃には変なののモノアイは完璧な蜂の巣になっており、紫電が迸り、煙を上げていた。そしてバリアが解除される。

 

『まさか本当に勝つとはね…………その傭兵、何者だい?』

 

『ただの一端の傭兵が、生き残っちゃいけない?それとも、報酬が惜しくなったとか。』

 

『いやいや、それはちゃんと支払うよ。こっちも必要な結果は得られた。』

 

『で?これはなんの実験?さっきの『変なの』でまた戦争を煽るつもり?』

 

『質問が多いねぇ、僕が答えるとでも?』

 

その返答に機嫌を悪くしたマギーがぶっきらぼうに返す。

 

『でしょうね…………帰るわ、サヨナラ』

 

フォワード陣営を収容した後に飛び乗り、ヘリは飛び立っていく。

 

『コソコソと嗅ぎ回っているようだね。かつての、傭兵としての名が泣くよ?ブルーマグノリア。』

 

『…………どうもご丁寧に』

 

そして機動六課隊舎に向けて進路を取った。

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

『どうです?彼は。』

 

『…………あの時よりも、強くはなっているな。だが…………』

 

『…………』

 

『…………N、どこへ行く気だ?』

 

『グダグダとくだらねぇ…………俺が直接確かめに行ってやるよ…………』

 

『N、勝手な行動は謹め』

 

『いいよ?別に行っても』

 

『財団…………!』

 

『クライアントがそう言ってんだ、俺は行かせてもらう』

 

『さて、僕も最後の調整に入るとしよう』

 

『はぁ…………』

 

『大変だな、K』

 

『同情するなら代わってくれ』

 

 



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I have a big gun. I took it from my Lord,

「依頼?」

 

マギーが電話口で話しているのが聞こえる。バイザーを付け今までの戦闘記録を見ていたので、声しか聞こえないが、少しだけ不機嫌なのが聞こえる。

 

「暫くは管理局の専属って言っておいたんだけど」

 

『ご指名が来たのです。そしてこの依頼はなおかつ複数の傭兵で行われます。この日程で行われますのでご準備を。では』

 

そして、電話が切れる。直後にマギーの方からベキッ、という音が聞こえる。

 

「マギー、そう苛立つ事でもないだろ。今までそういう依頼は山ほどあったはずだ」

 

「そういう系の依頼は全て手遅れの状態だったでしょう。だから飛び込みは遠慮したいのよ。しかも今回はちゃんとあっちに通達していたはず」

 

バイザーを外すと、マギーが不機嫌そうな顔でファットマンを見る。そしてマギーのシャツの裾を引っ張り、スケッチブックに鉛筆を走らせる。

 

『いいよ、やっても』

 

「…………良いの?また大変なことになるけど」

 

『何時もの事、黒く焼き尽くせばいいだけ。それに危なくなったら"アレ"使えば』

 

そして頰に痛みが走る。そしてマギーが真剣な顔でこっちを見据える。

 

「"アレ"だけはダメ。"アレ"使って貴方が無事だった事がある?」

 

『…………万が一の時だけ使う』

 

「来なければいいのよ、あんなもの使う日なんて…………!」

 

そしてマギーが部屋を出て行く。

 

「あんまり無茶すんなよ。流石にあれを出すのは危険すぎる」

 

『分かった』

 

分かればいい、と付け加えた後、ファットマンは頭をグリグリと撫で回す。ゴツゴツとしてるが、大きく優しい手だ。

 

「さあ、仕事の準備だ。お前は部隊長に報告してこい」

 

『分かった』

 

そして走ってはやての部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

目の前に広がるのはただただ波飛沫、そしてそこから生えるように建つビル。しかし見た目はボロボロで窓も全て割れている。そしてそこには人はいない。

 

『お、いたいた。あそこだ』

 

『今回は巨大兵器が二機。それの排除よ。どんな改造されてるか分からないわ。注意して』

 

そしてヘリのハッチから飛び降りる。目標は足元の巨大なビルの屋上。そして、軽く膝を曲げながら着地する。

 

「ようやくか、遅いぞ貴様。怯えて放棄したのかと思ったぞ」

 

「止めろオッツダルヴァ。任務に支障でも出たらどうする?」

 

「その時はそいつが弱かっただけの話だろう、ウィン・D・ファンション。」

 

「…………」

 

飛び降り、着地したビルには既に三人の先客がいた。

 

一人は長身で痩せ型、ダークブルーの髪を風に揺らし、黒い瞳でこちら見下すように見ている男、オッツダルヴァ。

 

もう一人は、長身で、ブロンドの髪を長く伸ばし、明るい青の瞳をオッツダルヴァに向け、戒めている女性、ウィン・D・ファンション。

 

そして最後の一人。深い飲み込まれるようなどこまでも黒い瞳とそれと真逆な白い髪、その中で耳に見える部分がピコピコと激しく動いている。そしてこちらをじっと見つめている、クリア・ヘイズ。

 

「お前がレイヴンか…………噂通りのその実力、見せてもらおう。」

 

「ふん、まあ空気で構わんがな。」

 

ウィン・D・ファンションとオッツダルヴァがそれぞれ話しかける。返事を返したいが今は任務中のためスケッチブックを持っていない。その為、返せない。

 

「なんだ…………貴様、言葉も解せないのか?まるで獣だな。」

 

「いい加減にしろ、オッツダルヴァ。済まないな、こいつはこういう奴だ。気にしないでくれ。」

 

ウィン・D・ファンションが頭を優しい手つきで撫でる。マギーが撫でる時とはまた違う気持ち良さに目を細める。

 

「…………」

 

そしてこちらをじっと見つめているクリア・ヘイズの方に向くと、握手から、腕相撲の形に、それから拳に握った後に上、下、真ん中の順にぶつけ合う。心なしか耳に見える部分の動きが激しくなっている。

 

『聞こえるか?簡易的だがブリーフィングを始める。』

 

そして、声が聞こえる。何時ものマギーではない、別の女性の声。

 

『今回の作戦は私が全員のオペレートを務める。目的は、巨大兵器"アームズフォート"二体の撃破だ。双方、タワーの技術で改造されているものだ。どんな改造がされているかは行って見なければわからん。貴様らなら死ぬ事はないだろうが、油断しても慢心するなよ』

 

「ふっ…………誰にモノを言っているかわかっているか?セレン・ヘイズ」

 

『黙れカナヅチ、無駄口を叩ける余裕があるなら任務に集中しろ』

 

「貴様…………!」

 

オッツダルヴァが額に青筋を立て、ヘリに突撃型ライフルを向ける。それと同時にクリア・ヘイズがオッツダルヴァの顔に散弾バズーカを向ける。

 

「ほう…………やる気か?」

 

「…………殺す…………!」

 

オッツダルヴァとクリア・ヘイズが構えた瞬間に目の前にレーザーブレードがボーダーラインのように両者の間に伸ばされる。

 

「止めろ、此処で無駄弾を使うより、一発でも多く敵に打ち込むのが先決だろう?」

 

両者は数秒にらみ合うとオッツダルヴァが先に引く。

 

「運が良かったな」

 

「…………次は殺す…………」

 

そしてクリア・ヘイズも武装を引く。

 

『収まったようだな。此方からターゲットのビーコン情報を送る。好きな方に向かえ。ブリーフィングは以上だ。構えろ』

 

その言葉に全員がバイザーを付け、起動する。武装はヒートパイル、レーザーブレード、それをそれぞれ2本ずつ装備している。肩部にはヒート弾頭のミサイル。

 

オッツダルヴァは藍色の細身の装甲に突撃型ライフルとレーザーバズーカ、PMミサイル、レーダーを装備している、シャッター上のバイザーが目を覆っているのが特徴の"ステイシス"。

 

ウィン・D・ファンションは金色の装甲に、レーザーブレード、レールガン、パルスキャノン、デュアルレーザーキャノンを装備している、"レイテルパラッシュ"。

 

クリア・ヘイズは黒色の装甲に、散弾バズーカ、ガトリング、16連ミサイル、レールキャノン、32連発連動ミサイルを装備した、"ストレイド"。

 

『ミッション開始!』

 

そして、オッツダルヴァ、ウィンDファンションが左に行くのを反応で確認、クリア・ヘイズとともに進む。

 

『目標アームズフォート、"ランドクラブ"を確認。砲塔がソルディオス砲に置き換えられている。最低最悪のエネルギー砲だ。絶対に当たるな』

 

そしてランドクラブが此方に、ソルディオス砲と呼ばれる、コジマ粒子と呼ばれる重金属粒子を高温高圧で圧縮、更にそれを電磁加速で撃ち出すもの。勿論そんなものが直撃すれば人体など歩く消し飛んでしまう。

それが向けられているにもかかわらず、恐れずにランドクラブに猛スピードで向かっていく。

 

『…………先手貰う…………』

 

クリア・ヘイズが一言言うと、16連ミサイルと32連連動ミサイルを起動、一斉に撃ち出す。合計48発のミサイルがランドクラブに向かっていく。それに便乗するようにヒートミサイルを撃ち込む。がランドクラブの弾幕により大半が撃墜される。そして爆煙の目隠しが発生する。

 

『右から…………』

 

そしてクリア・ヘイズがランドクラブの右側から攻めに行く。それを視認した後に左側に回り込む。すると機銃による厚い弾幕が張られる。それをミリ単位で回避しながら接近していく。

 

「…………ッ!」

 

そして左側の砲塔二基がこちらを向き、そこにエネルギーが収縮する。

 

『馬鹿か!直ぐに射線から外れろ!』

 

そしてソルディオスが火を噴く。緑色の光弾が向かってくる。それを無理やり身を捻って、回避。そのまま後方に落下し、手頃のビルの上に着地する。

 

『問題ないな?なら、動け。敵が待つと思うな!』

 

セレンに促されると、すぐ様飛びランドクラブに向かう。すると一拍遅れて、先ほどいたビルがソルディオスで消し飛ぶ。それを見向きもせずに、ランドクラブに肉薄。両手のヒートパイルを振り上げ、そのままランドクラブを殴り付ける。そしてランドクラブの左半分が爆発する。そして数秒遅れて右半分も爆発する。

 

『ランドクラブの撃破を確認…………いや、まて!』

 

すると砲塔である球体部分が浮遊、自律行動を始める。

 

『分離飛行だと…………?気をつけろ!敵ソルディオス砲、自律しているぞ!』

 

あまりに奇怪な現象に、思わずセレンが暴言を吐く。

 

『あんなものを浮かべて喜ぶか!変態共が!』

 

すると六基のソルディオスの内、3基がこちらに向かってくる。そして光弾を放つ。再び空中で体を捻って回避、その際に僅かにかすったのか、左手のヒートパイルがグレイズする。それを誘爆する前にパージする。

 

『左腕、任意パージを確認及び子機登録を削除します』

 

そしてハンガーのレーザーブレードを取り出す。だが、取り出したレーザーブレードの名前が問題だった。

 

『貴様…………!まさかそれは…………!』

 

傭兵の子機の中で最も扱いにくいとされる三つの武器。レーザーライフル"カラサワ"、グレネードキャノン"OIGAMI"、そして今持っている、レーザーブレードの中でも群を抜いている威力と長さを持つこのレーザーブレードの名は"月光"。

 

「…………!」

 

右腕のヒートパイルもパージし、両手に月光を持つ。明るい紫色に光る刃が伸びる。そして、魔力付加をかけた下半身で空気を蹴り加速、更に機体に内蔵されている大型バーニアを起動、刹那の加速で体が潰れそうな重さを感じながらソルディオスに接近する。そして両手のレーザーブレードを思い切り突き刺す。そしてそのまま引き抜き、X字に振るってソルディオス砲を撃墜する。

 

『エネルギー、残り30%』

 

その警告を耳にすると、一度月光の刃を消し、撃破したランドクラブの残骸の上に着地する。するとソルディオス砲は容赦無しに光弾を放ってくる。今度は余裕を持って回避し、一番手前のソルディオス砲に接近、月光を伸ばす。ソルディオス砲はプログラムに従い、その巨体を生かした体当たりを仕掛ける。その前兆を視認した後に月光の刃を自分とソルディオス砲の間に滑り込ませる。ソルディオスの装甲が紅く赤熱し、そのまま月光の刃が食い込んでいく。そしてそのまま両断する。

 

『そちらの目標は残り一基だ。一息にやってしまえ!』

 

そして、最後の一気の方を向くと、残りのヒート弾頭のミサイルを撃ち込む。

 

『肩部、残弾無し。』

 

ミサイルが残らず直撃した後に、ソルディオス砲の砲口に月光の刃を差し込み、そのまま身体ごと回転して、引き裂く。

 

『全目標の撃破を確認、あんな化物を相手に良くやるものだ。』

 

見ればクリア・ヘイズも全て撃破しており、こっちに向かってきていた。

 

『オッツダルヴァの方からも、終わったとの連絡があったそうだ。これで、ミッション完了だな』

 

そしてマギー達の乗ったヘリが此方へ向かってくる。

 

『今回もお疲れ様、悪いけどすぐに戻るわよ。』

 

マギーの言葉に首をかしげるもヘリに乗り込む。その前にクリア・ヘイズが此方に駆け寄ってくる。そして、此方を抱きしめてくる。

 

『はぁ、貴様。泣かしたら許さんからな?』

 

訳も分からず、首をかしげるだけしかできなかった。

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

「えっと…………古代ベルカは…………これか…………うーん、やっぱり載ってはいないな…………」

 

「こっちはどうだい?こっちも古代ベルカだ。」

 

「…………こっちもダメだね。載ってない。」

 

「本当なのかい?ゆりかごを落としたって奴。」

 

「歴史は嘘をつかない。僕たちがそれに騙されているだけだ。確実にあるはずなんだ…………最初の"黒い鳥"の記録が…………!」

 

管理局のデータベース、無限書庫では大量の本と格闘している司書長の姿があった。



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自分が落ちて行く場所を探してる

「クソッ、クソッ、クソッ!!!」

 

機動六課隊舎から、少し離れた木々に囲まれた広場、障害物になる物は何も無く、その中央では、二つの影が切り結んでいる。両方ともバイザー型の親機を付けている。両者の装甲のカラーリングは黒とワインレッド。そして、武装はレーザーブレード、ショットガン、パルスマシンガン、ヒートロケット。違いは身長とその口元に浮かべる表情だろう。一方は歯をむき出しにして食いしばり、もう一方は何も浮かんではいない。

 

「たかだか…………傭兵にぃ!!!!」

 

やけくそになりつつもレーザーブレードを振るう。それを合わせてレーザーブレードを振るう。使っているものは全く同じ。しばらく押しあった後に、左手のショットガンを脚に撃ち込み、体勢を崩す。そこに腹部に蹴りを放って吹き飛ばす。

 

『す、凄い…………あの死神部隊の一人を圧倒してる…………!』

 

瓦礫の山から起き上がってきたのを狙い、ヒートロケットを撃ち込む。それは相手のショットガンで撃墜され無効化される、が、爆煙から、足の装甲が視界に移り、そのまま顔面に直撃する。そして、もう一回顔面を踏みつけられ、距離を取られる。

 

「クソッ…………必ず殺してる…………!」

 

死神部隊の一人、Nは思い返していた。どうしてこのような事態になったのか。

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

事の初めは一時間前のことである。財団の情報をもとに、機動六課の隊舎の警備が薄く、なおかつ、ターゲットであるレイヴンが隊舎内に待機している日を狙い撃ちで襲撃する。それにジェイルスカリエッティの、ガジェット・ドローン、ナンバーズ、ゼスト・グランガイツの襲撃が重なったのだ。

 

「どうせ今回の奴も俺が殺す。そして、Jも俺が殺す。俺だけが死神なんだ」

 

Nは死神部隊のパーソナルカラーである黒とワインレッドでカラーリングされた自身のセルデバイスである『R.I.P.3/N』を装着する。装甲が胸部、手足に装着され、手にはショットガンとレーザーブレード、ハンガーにはパルスマシンガン、肩にはヒートロケットが装備されている。そして、スキャンモードで機動六課隊舎を見る。丁度ガジェットが隊舎を襲撃している。

 

「あいつか…………」

 

そして一際目立つ人物。自分と同じ黒とワインレッドのカラーリングの装甲とバイザー型の親機、そして両手の物理ブレードで次々とガジェットを撃破していく。そして、三機の大型ガジェットを物の数秒で撃破する。

 

「行くか…………」

 

そして、目の前に着地できるように計算して思い切り飛び上がる。自分は死神だ、いや、自分だけが死神だ。今まで同じようなやつを27人殺して来た。殺してきた数だけ糧にしてきた。

 

「お前で28人目」

 

そしてこいつもこれから俺の糧となる、Nはそう確信を持ち、それを確実のものとするために、目の前の敵に相対する。

 

「恐れるな、死ぬ時間が来ただけだ」

 

そして己の手のレーザーブレードを振り上げながら、地を蹴って加速した。

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

そしてこのザマである。

 

「クソッ!クソッ!」

 

レーザーブレードを闇雲に振り回す。それは何故か悉く回避され、受け流され、弾かれる。そしてカウンターが来る。その度に相手の斬撃が、銃撃が、蹴りが己の装甲を傷つける。

 

「何でだ…………俺は!死神だぞ!?」

 

ショットガンを構え、弾が切れるまで乱射する。が、その弾は全て明後日の方向に飛んでいく。そして先程まで自分の糧になる筈だった敵はゆっくりとはっきりとした足取りでこちらとの距離を確実に詰めてくる。

 

「来るな…………来るなぁぁぁぁ!!!!」

 

後ろに下がりながらヒートロケット、パルスマシンガン、現在持てる射撃武器を撃ちながら、距離を離していく。だが、相手はまるで蛇のように弾幕の中を抜けてくる。パルスマシンガンの弾丸を紙一重で回避し、ヒートロケットはレーザーブレードで切り裂いて撃墜、そして、ショットガンを投げ捨て此方に手を伸ばしてくる。

 

「お、お前は…………お前はいったい何者だ!?があっ!?」

 

相当な加速が付いていたのだろう、バイザー型の親機ごと顔面を掴まれるとそのまま地面に叩きつけられ、数メートル引き摺られる。

 

「(なんだ!?こいつは一体なんだ!?こいつは普通であって普通じゃない、なんだ…………いろんな奴が、混ざり合って…………!?)」

 

そして何も操作していないにも関わらず、バイザー型の親機が勝手にスキャンモードになる。そして、Nは目を見開いた。

必ず、傭兵には自分を示すためにエンブレムを設定する。死神部隊の場合、統一性のために武器を持った獅子、と言うのがパーソナルエンブレムになっている。Nの場合はハルバードを持った3本尾の獅子。そしてNが目撃したのは、両手にカタールを持った尾のない獅子。

 

「ま、まさか…………貴様…………死神…………!?」

 

そして、Nの放った言葉はそれで最後だった。

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

「あっはっはっ!見なよ"J"!あの"N"がまるでボロ雑巾じゃないか!」

 

財団が大袈裟に手を叩きながら、Nの最後を眺めていた。

 

『あの小僧では、当然の結果だろう。それともこの程度予測できなかったのか?財団』

 

「いやいや、気分を損ねたのなら謝るよ、J。別に君のところの隊員を侮辱したわけじゃあ無いんだ。唯、あまりにも面白いからつい笑ってしまっただけなんだ。」

 

『それで…………私を呼び出した理由は何だ?』

 

「ああ、そうだ。"ラインの乙女"達を知らないかい?少し目を離した隙に何処かへ行ってしまったんだ。」

 

『あの様な人形共に今更何の意味がある?』

 

「いやぁ?別にもう僕はどうでもいいんだけどさ?彼女たちがもし彼のところに行ったとしたら、どうなると思う?」

 

『…………全て計算尽くか、財団。』

 

「知らないなぁ、僕は"たまたま"目を離して、彼女たちが"たまたま"抜け出しただけさ。僕は何の干渉もしていない。」

 

『…………ふん、下らんな』

 

そして剣を持ったグリフォンのエンブレムが消える。

 

「さあ、古代ベルカの時の記憶を持った時、彼は一体どうするのかな?まあ、必ずここに来るとは思うけどね」

 

財団が目線を写した先には、厳重に保管されたバイザーが鎮座していた。

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

目の前には自分と同じカラーリングの装甲で、ハルバードを持った獅子のエンブレムを持った男の首無し死体が転がっている。頭は首から数センチ先に転がっており、その表情は目を見開いたまま固まっている。

 

『死神部隊相手に、良くやったわ。お疲れ様』

 

戦闘中、全く聞こえていなかったがマギーがヘリから声をかける。もちろんファットマンもいる。

 

『今回はお手柄だ。これで無闇に死ぬ奴が数人減ったんだからな。』

 

『帰投しましょう。被害状況の確認を急がないと…………』

 

そしてヘリが反転して隊舎の方へ飛んでいく。それに続いて、移動しようとした時、周りが白黒の世界に包まれる。

 

『…………っ!?やられた!ファットマン!反転して!』

 

『熱源反応接近!三つだ!クソッタレ!』

 

『聞こえる!?応答しなさい!』

 

それを最後にマギーたちの声が聞こえなくなる。そして周りが灰色の靄の様なもので覆われる。

 

『システム、スキャンモード』

 

状況把握を優先し、スキャンモードを起動、周りの索敵を開始する。するとすぐに索敵圏内に三つの反応が引っかかる。

 

『システム、戦闘モード』

 

すぐさま戦闘モードに切り替えて、辺りを警戒する。つい先程死神の一人を仕留めたばかり、消耗してるのは此方。状況は明らかに不利一辺倒。通信が繋がらなければ新たな武装を送ってもらうこともかなわない。レーザーブレードを持つ手がじんわりと湿ってくるのを感じながら敵が視認できる距離まで近づいてくるのを待つ。

 

『ターゲット確認』

 

耳でそう聞こえた瞬間に、上空から爆発性の誘導弾が多数飛来、そのまま蹂躙爆撃のように周辺を爆炎で覆っていく。

 

『ダメージを受けています。回避して下さい』

 

爆炎をもろに浴び、爆風の余波でさえこのダメージ。そして周りに漂う煙が晴れると、反応の一つが姿をあらわす。自分と同じぐらいの身長、自分と少し違う黒と明るい赤のカラーリングの装甲。背部の大型ユニット。装甲と同じ色の赤い髪、そして、顔全てを覆うラインセンサーの一本入ったバイザー。

 

「『システムチェック…………終了。オールグリーン』」

 

女の人の声と男の声のマシンボイスの混じった声でそう言うと、左手首の下側の装甲からレーザーブレードが伸びる。その様子を視認すると同時にレーザーブレードを構える。ショットガンは隔離空間の外、空いた手にハンガーのパルスマシンガンを装備する。そして、見た目通り巨大な大型ユニットのブースターを活かした高速接近で此方に肉薄、レーザーブレードを振り下ろしてくる。そしてこちらのレーザーブレードとぶつかり、エネルギー同士が相殺し合う嫌な音が聞こえる。

 

「『目標の第一項目、チェック終了。第二項目判定開始』」

 

そして相手の右手からガシャン、という嫌な音が聞こえると、腹部に電磁パルス弾が連続して打ち込まれる。その痛みに耐えながらパルスマシンガンを相手に撃ち込む。相手はそれをバックフリップでパルスマシンガンを回避しつつ、此方に電磁パルス弾を撃ち込み続ける。

 

『ダメージを受けています、回避して下さい』

 

バイザー型の親機から、警告が鳴る。それを聞きつつ、横に移動し電磁パルス弾を回避、牽制でヒートロケットを撃ち込む。相手がそれを電磁パルス弾で迎撃、お返しとばかりに左手を振るうとレーザーブレードのエネルギーが射出されそれがそのまま飛んでくる。それを足に魔力を付加した跳躍で回避する。

 

『多重ロックオンされています』

 

警告が来たその瞬間に、背部の大型ユニットから六芒星の魔法陣が展開、最初に襲ってきた魔力弾が垂直発射され、雨あられのように襲ってくる。それをなるべく避けれるものは避け、避けられないものはレーザーブレードやパルスマシンガンで迎撃していく。

 

「『第二項目、チェック終了。第二段階へ移行』」

 

そして相手はそのまま灰色の靄の中へ消え去る。と同時に今度は背後から多数の魔力レーザーが襲ってくる。

 

「『第二段階移行確認、メインフェイズを実行します』」

 

次に現れたのは、銀髪に青い瞳、先程とは違う漆黒の装甲と形の違う大型バックユニット、頭に装備されているのはバイザーではなくヘッドギア。そして足は細くハイヒール状になっている。そして、右手にライフル。左手にブレードを装備している。

 

「『メインフェイズ、開始』」

 

レーザーライフルから正確無比の射撃が飛んでくる。誘導射撃や予測射撃、ありとあらゆる射撃技能を駆使して、こちらの機動力を制限、一発一発を確実に当ててくる。このままではジリ貧と判断し、意を決して突貫する。そしてレーザーブレードをそのまま下段から走らせ、切り上げる。相手もレーザーブレードを展開し、そのまま下段と上段の押し合いになる。

 

『エネルギー、残り30%』

 

その警告を聞くと素早く切り返して離れる。そのタイミングでレーザーライフルがパルスマシンガンに直撃、右腕の装甲ごと爆発する。内心で舌打ちをしつつ、回避に専念する。すると、相手のバックユニットから四機ほどの小型ユニットが射出される。そしてそれも六芒星の魔法陣を展開し、魔力レーザーを放つ。それが手足の装甲を掠める。

 

『深刻なダメージを受けています。回避して下さい』

 

警告が一段と激しくなる。深刻なダメージなのは見てわかる。が、残る武装はレーザーブレードと、弾数の心もとないヒートロケットのみ。あとは何時ものように魔力を付加した脚部装甲による蹴りのみ。状況は最悪すぎた。悩む隙も与えないかのごとくレーザーが飛んでくる。それを跳躍して回避、下半身に魔力を付加して最大の脚力で空気を蹴って加速しながら、レーザーブレードを振るう。当然相手もレーザーブレードで受け止める。が、動きの止まったところを小型ユニットが雨あられのようにレーザーを撃ち込んでくる。

 

「…………ッ!」

 

装甲を次々と傷つけて行くそれらを耐えながら、相手との鍔迫り合いに意識を割く。相手の青い瞳はこちらを無機質に見つめながら、こちらとの鍔迫り合いを続けている。そして、その拮抗はすぐに崩れた。

至近距離でヒートロケットを撃ち込んでやる。

 

『肩部、残弾30%』

 

そしてわずかに体制が崩れた瞬間を狙い、魔力を脚に付加し、踏み込んで加速、蹴りを撃ち込む。金属同士がぶつかる重苦しい音が聞こえると同時に相手が吹き飛ぶ。そしてすぐさま、バックユニットを器用に操作し空中で体勢を立て直し、上昇。こちらを見下ろす。

 

「『メインフェイズ、最終段階へ移行。』」

 

どうやら戦闘はまだ続くらしい。相手は最初の相手と同じように灰色の靄の中に消えていく。そして背後から数発の銃弾が撃ち込まれる。

 

「『最終段階へ移行を確認。後は貴方次第です。レイヴン』」

 

右足で地面を蹴り、前に進んで距離を取り敵を視界に入れる。

真っ白な髪に真っ白な目、そして真っ白な装甲。両手に持つライフルすら白い。

 

「『メインフェイズ、最終段階を開始します』」

 

その声と共に相手は、先ほどの二人を上回るスピードでその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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今だけ、君だけ信じてもいいんだろう?

最近、自分の書く作品が面白いのかそうでないのかわからなくなってきた。実際どうなんでしょう?


『戦闘行動限界間近です。回避して下さい。』

 

その警告を耳にしながら、ライフルから放たれる弾丸をレーザーブレードで受け止める。そして肩部からヒートロケットを一発だけ撃ち出す。そしてそれが別方向からの弾丸で迎撃される。弾丸の飛んできた方向を向くと、また別方向から弾丸を打ち込まれる。

 

『エネルギー、残り30%』

 

その弾丸をレーザーブレードで切り払えば、また別方向から弾丸を撃ち込まれる。まさにいたちごっこに付き合わされている気分になる。

懐に潜り込めば、ライフルを撃ち、弾丸が放たれる前にレーザーブレードを振り抜く自身はある。だが、此方にあちらを捉える術はない。

 

「『早く思い出して、レイヴン』」

 

姿の見えない相手から声を掛けられる。内心首を傾げる。どうやら自分には忘れている記憶があるらしい。心当たりは幾つかあるが、今はそれに意識を割く余裕は無い。レーザーブレードを振るい、弾丸を斬り払う。

 

『エネルギー、残り30%』

 

回復しては消費、回復しては消費を繰り返している、否、繰り返させられている。絶え間無く絶妙なタイミングで攻撃する事でこちらのエネルギーは常に30%前後に押さえられている。

 

『あー!もう我慢出来ねぇ!あたしも行く!』

 

すると最初に戦った赤と黒の装甲を纏った相手が灰色の靄を突っ切り、パルスキャノンを乱射しながらこちらに切り込んでくる。それに反応し、両手をクロスさせてパルスキャノンを防ぎながら、背後に下がる。

 

『このっ!にげんじゃあねぇ!』

 

バックユニットに魔法陣が展開され垂直発射式の誘導弾が多数発射される。

 

『オラオラッ!避けねぇと死んじまうぞ!』

 

空を高速で巡行しながらの垂直弾による蹂躙爆撃。さらにはパルスキャノンが引っ切り無しに飛んでくる。パルスキャノンを防御すれば垂直弾による爆撃に晒され、垂直弾を迎撃すればパルスキャノンの餌食になる。そしてパルスキャノンの電磁弾が頬を掠める。今のままではマズイと判断、魔力を下半身に付加し続け、機動力の維持に努める。

 

『チッ!ちょこまかと…………オラァ!』

 

バックユニットを吹かして接近。そのままレーザーブレードを振るってくる。当然此方もレーザーブレードを展開して応じる。

 

『エネルギー、残り30%』

 

視界の端を見ればエネルギーゲージがガリガリと削れている。レーザーブレードも僅かだが紫電を放ち始めている。

 

『はぁ…………暴走した妹を止めるのは少々骨が折れそうですね…………』

 

そんな声が聞こえると背後に気配を感じる。横目でバイザーの下で横目で確認すると、先ほどまで戦っていた白い少女。

 

『主人様、ご無礼を』

 

そして少女はライフルを捨て、両手を背中に押し当ててくる。

 

『ユニゾン・イン』

 

そして何かが自分の中に入ってくるのを感じた。

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

『フ、フィオナ姉………マジかよ…………!セレ姉!』

 

『ラナ、貴女の招いたミスです。自分で処理しなさい』

 

『そりゃねぇぜ、セレ姉ぇ…………』

 

『…………構えなさい、来ますよ?』

 

『…………うわぁ…………マジかぁ…………』

 

『フィオナお姉様はどうやら少々お怒りの様です。ラナ、頑張って下さいな』

 

『…………ヘーイ…………』

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

自分の中に何かが入って来た。形容しがたい何か、と言うのも言葉では表しきれない奇妙な感覚だった。感覚を確かめるように両手を片方ずつ握る。問題無しと判断し、次に移る。下半身に魔力付加をかけ、地面を蹴る。今まで通りの加速、問題無し。そして視界の端を見ると先程まで十%以下にまで削れていたエネルギー、魔力が最大にまで回復している。

 

『いきなりのユニゾン、申し訳ありません。』

 

体の内側から声が聞こえる。どうやら先程まで戦っていた白い少女の声。

 

『暴走した末妹を止めるのに少しお手をお貸し下さい。』

 

どうやらあの赤と黒の装甲の少女の乱入は予定には無かったらしい。

 

『リロードは私がやります。アモを引くのも、セーフティを解除するのも、狙いをつけるのも私がやりましょう。貴女は覚悟を持って引き金を引くだけです』

 

どうやら、引き金を引くだけの様だ、が、そんなものは戦いとは呼べない。唯の作業だ。なら、選択肢はたったの一つ。

 

『…………分かりました。せめて魔力コントロールはさせていただきます。』

 

どうやら察したらしく、魔力コントロールだけ担ってくれるらしい。が、問題はもう一つあった。武器が無い。否、無いなら無いで戦えるがあったほうがいいのは事実だ。

 

『…………ごめんなさい。武装については貴方が手に持っていると思えば、すでにその手に持っています。』

 

そう言われる、つまりは自身の思った武器が手に入るということだろう。

 

『さあ、早く武装を』

 

そう促され、目を閉じる。今欲しいのは射撃武器。連射性の高いライフルと威力の高いアサルトライフル。その瞬間には手にズッシリとした重みとゴツゴツとした感触を感じる。そして両手には自分が求めたライフルが握られている。

 

『行きましょう、おふざけの過ぎた妹にちょっとしたお仕置きです』

 

その場で軽くジャンプする。するとそのまま滞空する、それと同時にブースターとは別のところから緑色の粒子が背部から排出される。

 

『メインシステム、戦闘モードを起動します』

 

まずは軽く動く。どうやら軽く体重を傾けるだけで簡単に移動できるらしい。前後左右、上昇下降。円状に旋回、動ける動きは全て試した。

 

『はい、主人様の思うとおりにお動きください。』

 

大体の動きを試した後に、敵の方を見る。先程までの笑みは消えており、腕の装甲の下から伸びるパルスキャノンをこちらに向けている。

 

『さあ、行きましょう』

 

そう促され、両方の銃を構える。そして、周りの景色が無数の線となった。

 

「…………ッ!」

 

『ちょっ!?はやっ!?』

 

体験したことのない加速に思わず、歯を軽く食いしばる。恐らくは自身の倍の速度は出ている。それでもなんとか相手を視界に捉え、両手のライフルを撃つ。そして撃った数だけ、金属の弾かれる音が聞こえる。

 

『っつう…………このっ!』

 

パルスキャノンを撃ちながら、こちらに追いすがろうと相手もブースターを吹かす、が、こちらのブースターが空砲のような音を立てるたびに距離が開く。

 

『この…………っ!これならどうだぁ!!!』

 

バックユニットに魔法陣が出現、垂直弾が発射され遥か上空からこちらを追尾してくる。

 

『問題ありません、プライマルアーマー展開』

 

すると足元に八芒星の魔法陣が出現、それと同時に背部の粒子排出口から排出された粒子が薄く周りを覆っていく。垂直弾が一拍遅れて直撃するも、熱も衝撃も爆風もその膜を境界線に傷一つつけることは叶わなかった。

 

『さあ、一息に沈めて仕舞いましょう』

 

その声を聞くと同時に、ブースターを吹かして接近する。

 

『はえぇなぁ…………このっ!』

 

相手が左手のレーザーブレードを振るう。それを細かくブースターの角度を変えながら加速することで多角的に回避、背部に回り込むと同時に、背中に弾丸を撃ち込む。

 

『いっ…………てぇ…………!こいつ!!』

 

反撃で放たれた回し蹴りを後ろへ加速して回避しつつ左の連射型ライフルでけん制。さらに右後ろに加速して距離を取る。それに反撃するように相手がパルスキャノンを撃つ。

 

『そろそろ私の本当のスピードをお見せしましょう』

 

ブースターを吹かすと、空砲のような音が二回聞こえる様になる。すると先ほどよりも加速が付く。そしてブースターに粒子が溜まり始める。そして、パルスキャノンの弾幕を縫うようにして、接近する。

 

『いっ!?まさか…………!?』

 

『アサルトアーマー、解放』

 

そして、その言葉から一拍遅れて怒号と閃光が周囲を覆い尽くした。

 

 



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傷つけて揺れるしかできない

「レイヴンとも連絡が…………!」

 

はやては仮拠点としているアースラの中で歯噛みしていた。ジェイル・スカリエッティの戦闘機人の襲撃と重なるようにして起きた死神部隊の強襲。さらにはガジェットドローンとUNACによる体調陣営の封じ込み。そしてギンガ・ナカジマと機動六課で保護した少女、ヴィヴィオの誘拐、全てが後手後手に回ってしまっていた。

 

『ハヤテ・ヤガミ。聞こえる?』

 

そこに通信が入る。相手はマグノリア・カーチス。

 

「カーチスさん!レイヴンはどうなんですか!?」

 

『…………ええ、でも大分、様子は変わってるわよ?』

 

「…………どう言うことですか?」

 

『自分で見た方が早いと思う。』

 

マギーがレイヴンを映すように、サーチャーを向ける。

 

『…………誰や?』

 

「あの子よ。だから言ったでしょ?だいぶ様子は変わってるって」

 

『…………ちょっと待ってな?』

 

はやては棚から胃薬を取り出し一粒飲んだ後に、アースラから転移した。

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

「はやてちゃん!」

 

「どないしたん?」

 

はやてが機動六課隊舎跡地に転移すると、そこにフェイトが走ってくる。

 

「レ、レイヴンが真っ白で、穴が空いてて羽が生えて…………あー、もう!と、とにかく来て!」

 

「ちょっ、ちょっと待っ…………!」

 

フェイトははやてを見つけると、説明をしようとするが上手く説明できず諦め、有無を言わさずはやての手を引っ張っていく。

 

「い、一体どないしたん?」

 

「よ、よく分からない、けど、レイヴンが真っ白になってるの!?」

 

「まっ、真っ白?」

 

そして問題の場所に着く。すると。

 

「…………本当に真っ白や」

 

えぐり取られたかのように綺麗に円形に形成されたクレーター。その中心に、目を回して倒れている赤髪の少女、そして、服も髪も瞳も装甲も真っ白に染まったレイヴンがいた。

 

「…………」

 

なのはやフェイトを含め、隊長陣、副隊長陣営があっけにとられていた。勿論外見もだが驚いたのは各デバイスがスキャンして計測した魔力量だった。

 

「な、なんでこんな急に増えてるの?」

 

「へ、下手したらSSぐらいあるよ?」

 

「まさかここまで化けるとは…………」

 

「バケモンかこいつ…………いやバケモンだ。」

 

これが各々の反応である。そしてレイヴンのいるクレーターから光が発せられると、レイヴンから何かが飛び出し人形を形成する。レイヴンは何時もの黒色に戻っている。そしてレイヴンは装甲を解除し、バイザーを外すと膝に手を突き大きく息切れする。

 

「やはり、少し早かったようですね。申し訳ありません。主人様」

 

そばに現れたのはレイヴンと対極の真っ白い少女。整った顔立ちにライトグレーの瞳と、純白の髪、キメの細かい白い肌。そして、体に装着された白い装甲。

 

「セレ」

 

「はい、フィオナ姉様」

 

そしてクレーターの中心にレイヴンと似たような銀髪に青い瞳の真っ黒いセーラー服に似た服装の少女が降りてくる。そしてフィオナ、と呼ばれた少女はセレと呼んだ少女に目で促す。セレは軽く頷くと、未だ目を回して倒れている赤と黒の装甲の少女を踏み付ける。

 

「がふっ!?」

 

「もう自己修復は完了しているでしょう?早く起きて下さい。ラナ。」

 

「いってててて…………踏む事無いじゃんかセレ姉…………」

 

踏みつけられたラナと呼ばれた少女が踏みつけられた腹部を摩りながら、体を起こす。同時に装甲も消え去り、そこにはティアナより一回り小さい少女が立っている。

 

「にしても…………アサルトアーマーまでやるとか酷くねぇ?フィオナ姉?」

 

「勝手に乱入して暴走した貴方が悪いのです。反省なさい。」

 

「あーあ、なんかどっと疲れた」

 

その場にへたり込むラナ。そして、フィオナがなのは達を見つけると軽くお辞儀をする。

 

「皆様の疑問にお答えいたします。私達は初代黒い鳥の融合機"ラインの乙女"。"メイデン"のフィオナ・イェルネフェルトです。」

 

「"ラインの乙女"、"アイビス"のセレ・クロワール。」

 

「はぁ、"ラインの乙女"、"セラフ"のラナ・ニールセンだ!」

 

それぞれ三人が自己紹介をし終わった後に、レイヴンの前に跪く。

 

「ずっとこの時を待っておりました。貴方に会えるこの時を。たとえ記憶が無くとも、本人でなくとも、私達融合機の本能で感じます。貴方が黒い鳥だと。試すような真似をお許し下さい。」

 

そして三人が立つ。顔には出してはいないが、レイヴンも幾分か困惑している。

 

「本当ならば、今すぐにでも御記憶を取り戻していただきたいところ…………しかし、今はラインアークも御座いません、なら、私達はあなたに従います。何処までも。」

 

ラインの乙女、フィオナ・イェルネフェルトの顔はまるで恋い焦がれ待ちわびた人にあったかのような顔だった。

 

「んで、ご主人よぉ。」

 

しばらくした後に口開いたラナ。その目はあるものを睨みつけている。視線の先にあるのはレイヴンの手にあるバイザー型のセルデバイスの親機。

 

「何時までそんなの使ってんだ。おめえもだ、セルデバイス。テメェがセルデバイスのフリしてんのは分かってんだよ!」

 

レイヴンの反応速度を少しばかり上回り、そのままバイザー型の親機を引っ手繰る。

 

「はあっ!」

 

そして地面に叩きつけた後に、踏み付ける。当然の如くバイザーは粉々に砕け散る。

 

「い、いきなり何を!?」

 

「うっせぇ!魔導師!少しばかり静かにしてろ!」

 

すると粉々に砕け散ったバイザーの部品がフレームを中心に集まり始める。そして元のバイザーの形に組み上がると、ひびを修復しはじめる。

 

「セルデバイスにこんな機能はないはず…………」

 

「こいつら相手なら本体をハッキングされない限り、騙し通せたんだろうが、私らにあったのが運の尽きだったな。」

 

ラナがバイザーを拾い上げる。そして、今にももう一度壊しそうな雰囲気を放ちながら、バイザーに向かって話す。

 

「そろそろ、正体表したらどうだ?なんなら無限にテメェを破壊し続けても良いんだぜ?」

 

『…………ふう、仕方がありませんね』

 

そしてバイザーから聞こえてきたマシンボイス。つまりそれはこのデバイスにAIが搭載されたいることを意味する。

 

「漸く出やがったか。よくもまあ今までご主人達を騙し抜けたもんだ」

 

『見抜けなかった貴方方が無能なだけなのでは?』

 

バイザーから発せられるマシンボイスは淡々とラナと話している。そしてそこに新たなマシンボイスが追加される。

 

『お話し中に失礼を。私はレイジングハートと申します。あなたに幾つか質問があります。答えていただけますか?』

 

なのはのインテリジェントデバイス、レイジングハートが質問を投げかける。

 

『いいでしょう、おそらくこの事も財団の手の内でしょうから。それで、何が聞きたいのです?』

 

『まず一つ目、貴方のデバイスとしても分類は?』

 

『そもそも貴方方の基準に当てはめても例えようがないのですが…………まあ仕方ありません。そうですね、貴方方の基準にで言えば、私はインテリジェントデバイスということになるのでしょう。』

 

『二つ目、あなたの目的は?』

 

『それは財団に聞いてください。どうせこれも見ておられるのですから』

 

『…………三つ目、貴方のデバイスとしての名前は?』

 

その質問がきた瞬間にしばらくの空白が訪れる。そして。

 

『…………そうですね、名前と言えるのかどうか分かりませんが"R.I.P.5/R"。正式な名称はこう呼ばれています。』

 

『最後に一つだけ…………死神部隊と彼、レイヴンとの関係は?』

 

『…………ああ、その程度のことですか。彼は元死神部隊の5番目。Rと呼ばれていました。そして、高町なのは。貴方を撃墜しようとしたガジェットを排除し、貴方を撃墜したのは彼です。』

 

その瞬間に機動六課全員が固まる。それでもインテリジェントデバイス"R.I.P.5/R"は淡々と続ける。

 

『ああ、あとラインの乙女。あなたがたに財団から一言。"ホワイト・グリント"は僕のところにあるよ?取りに来たければ取りに来るといい、だそうです。』

 

「うぜぇ…………もう喋んな!」

 

ラナが腕からレーザーブレードを伸ばし、R.I.P.5/Rを両断、その残骸を放り投げそれに向かって、グレネードを撃ち込み消滅させる。

 

「…………あ、あの…………レイヴン…………」

 

フェイトがレイヴンに近づこうとした時。素早くレイヴンが後ろに飛び、距離を開ける。そしてフィオナを見つめる。フィオナもそれを察したようで、レイヴンの背後に回る。

 

『ユニゾン・イン』

 

フィオナがユニゾンし、レイヴンは素早く中に浮くと、そのままタワーの方向に向かっていった。

 

「セレ姉。」

 

「行きますよ、ラナ」

 

「…………」

 

その場にいる全員、マギーやファットマンすら、その背中を見ていることしかできなかった。



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体の奥、溢れるものを人と替えているだけ

正直言うと、"K"さんはスナイパーとして尊敬できるんですよね。Kさんみたいなスナイパーに私はなりたい。


『あれです、主人様。あそこが財団のいるタワーです』

 

身体の中から、声が響く。視線を向けたその先には巨大な飛行機が騎手から突っ込んだような形の建物、"タワー"がそびえ立っている。周辺を軽く飛行し見渡すが入り口らしいところはない。

 

『前に私たちが開けたところはもう修復されていますか…………』

 

「拉致が開かねぇ…………。ご主人!私とユニゾンしろ!あの生意気な外壁ぶち抜くぞ!」

 

ラナに言われた後に思考し、5秒ほどした後に軽く頷く。

 

『では…………ユニゾンアウト!』

 

フィオナがユニゾンアウトし、身体から離れる。それと同時にラナがこちらに猛スピードで近づいてくる。

 

「ちっと擽ってェぞ!ご主人!」

 

すると、飛行魔法の効果が切れたのか身体が自由落下を始める。その周りを螺旋を描くようにラナが旋回しながら追いかける。

 

「ユニゾン・イン!」

 

そして、ラナが背中に突撃する様にユニゾンする。赤い光が自分を包んでいくのがはっきりとわかる。

 

『いくぜ、ご主人。あの外壁をぶち抜いて上にあがりゃ、そこに財団は偉そうに踏ん反り返ってやがるからな!』

 

『いやいや、実を言うと結構僕偉いんだけど?』

 

するとタワーのすぐ目の前に空間投影のディスプレイが現れ、そこに財団の三つが暗く、一つだけ白く明るい菱形が菱形状に並んでいるエンブレムが映し出され、そこから声が聞こえる。

 

「財団!」

 

隣にいたフィオナが叫ぶ。

 

『久しぶりだね、ラインの乙女。残念だけどもう僕はタワーには居ないよ?いや、正確にはそのタワーには居ないよ?ああ、だけど君たちの探し物ならそこにあるよ?元々僕がいた部屋だ。取りたければとってもいいよ?』

 

『てんめぇ…………一体何考えてやがる!』

 

財団の飄々とした態度に、ラナが体の内側から声を上げる。

 

『何を考えてる…………ねぇ。強いて言えばねぇ、僕は何も考えていないんだよ。僕はただ決まった動きをしてるに過ぎないのさ、それこそガジェットドローンのプログラムの様にね。ただそのプログラムが複雑すぎて君達が読み切れていないだけさ。スカリエッティも僕を止めようと動いてるみたいだけど…………。まあ関係ないね。それじゃ、君たちラインの乙女とはこれでお別れだ、けど、傭兵、君にはまたそのうち相見えることになるだろうね。』

 

そして空間投影のディスプレイが消えると財団の声も聞こえなくなる。

 

『あんにゃろ〜…………いつかきっと絶対必ずぶっ飛ばしてやる!』

 

「意気込むのは良いですが、今は私たちの目的の物を…………フィオナ姉様、露払いをさせていただきます。』

 

セレはタワーの外壁まで飛んでいくと、レーザーブレードでタワーの外壁を破壊、中へ侵入する。

 

「行きましょう、主人様」

 

『とっとと取るもんとって、あんにゃろう、ぶちのめしに行こうぜ!』

 

そして、フィオナと共に中に侵入する。セレの露払いにより大半のガードメカが撃墜されており、ほぼ単純に垂直に登るだけだった。そして、10分ほどすると、巨大なモニターが設置された大広間のような場所に出る。モニターの前には肘掛のついた椅子が一つ。ポツンと置いてある。

 

『ここだ、ここであんにゃろうがいつも偉そうに踏ん反り返ってたところだ。』

 

どうやらここで、何かをしていたらしい。そして雰囲気を損なわないように黒いカーテンで仕切られたある一角、そこにつられるように歩き出す。

 

『お、おいご主人?』

 

そしてカーテンを引き剥がすと、そこにはガラスケースでまるで美術品のように飾られている、真っ白いバイザー型のデバイス。

 

「あれです…………本来主人様がお使いになられるべき…………ネクストデバイス"ホワイトグリント"…………!」

 

フィオナがガラスケースを壊し、ホワイトグリントを手に取る。

 

『財団は何もしてねぇみてぇだな。まあ、させたらご主人に会わせる顔がねぇもんな』

 

ラナが身体の中から、声を放つ。どうやら視覚も共有してるらしい。

 

『おっと…………多分ユニゾンしてると誤認するかも知れねぇな。一度離れるぜ、ユニゾン・アウト!』

 

そしてラナが身体から離れる。フィオナの時よりも倦怠感は無いが、それでも僅かに息が乱れる。そしてフィオナは白いバイザー型のデバイス、ホワイトグリントを差し出してくる。

 

「さあ、行きましょう。なすべき事を成すために」

 

ホワイトグリントを手に取り、装着する。その瞬間に感じたのは、懐かしさ。久々に古い親友や親兄弟にあったような、そんな懐かしさ。

 

『おはようございます、メインシステムパイロットデータの更新を開始します。』

 

R.I.P.5/Rを使用していた時と同じ起動シークエンスが行われ、次々と終了していく。そして様々な言語が目の前に移った後、頭の中にマシンボイスが聞こえる。

 

『メインシステム、パイロットデータの更新を完了、これより作戦行動を更新、再開。改めて…………ようこそ、戦場へ。』

 

そして体の各所が白い装甲に包まれる。脚部、腕部、肩部が覆われ、背部にはバックユニットが装着される。ラナやセレのように攻撃能力はない。唯のブースターユニットとしての物。

 

「懐かしいですね、フィオナ姉様」

 

「ええ…………ですが、感傷に浸っている時間はありません」

 

フィオナがこちらに顔を向ける。その目は何かを促している。

 

『プライマルアーマーを展開。その後相転移、アサルトアーマー起動』

 

ホワイトグリントがセンサー部をシャッターのようなもので閉じると、すぐ様アサルトアーマーを展開、タワーの上部を吹き飛ばす。瓦礫もすべからく残さず塵になっている。

 

「んじゃ、まずはあの財団をぶっ飛ばしに行くか!」

 

ラナが手のひらに拳を打ち付ける。

 

『巨大魔力反応、感知。』

 

ホワイトグリントからマシンボイスが聞こえる。そして感知された方向を向くと、巨大な何かが浮いていた。そして、その何かを、見た途端に黒い何かが自分から噴き出してくるのがわかる。

 

『メインシステム、戦闘モード』

 

軽く腰を落とす。そして両手にアサルトライフルとライフル、そしてバックユニットの先に分裂ミサイルを展開する。そしてバックユニットが変形、周囲の魔力粒子と自身の内部から発せられる粒子を吸収、収束させる。

 

「"ゆりかご"…………なら、私たちは手出しができませんね…………」

 

セレの言葉が終わった瞬間に、収束させたそれを放出。真っ直ぐに空を飛行する"何か"に向かう。心ではなく、本能が言っていた。アレを墜とせ、と。そして何かの手前まで来た時、五発の大口径弾が道を遮る。

 

『お前の目的は分かりきっている。残念だが、"ゆりかごを堕とす"…………その予定はキャンセルだ、傭兵。』

 

弾丸の来た方向を見れば、空に浮かぶ何かの選手に誰かがいるのが確認できた。ホワイトグリントが自動でその部分にズームをかける。

黒とワインレッドの装甲、空中に飛び上がる事に主を置いた逆関節の脚部、左右のハンガーにはスナイパーライフル。そして、死神部隊の証でもある武器を持った獅子のエンブレム。持っている武器は双剣。それを確認した後に、両手のライフルを撃つ。それにコンマ1秒遅れてライフルの弾丸をスナイパーキャノンの大口径弾がライフルの弾丸を迎撃、貫通する。それらは腕や足、肩などの装甲を僅かにかすめる。

 

『見せてみろ、お前の持つ力』

 

死神部隊の狙撃手、"K"が五連射式のスナイパーキャノンを此方に向けていた。

 



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キャラ紹介その2

今回はラインの乙女と死神部隊をば。


ラインの乙女

 

古代ベルカにて初代黒い鳥に付き従ったという三機のユニゾンデバイスの総称。それぞれ"メイデン""アイビス""セラフ"という二つ名がある。

 

フィオナ・イェルネフェルト

 

ラインの乙女、"メイデン"の二つ名を持つユニゾンデバイスの少女。全てが純白の少女で、初代黒い鳥に一番懐いていた。その後タワーで眠らされていたが、財団により覚醒させられ研究対象に。その後、財団のいない隙にタワーから残りの二機と共に脱出、その際にレイヴンの正体を知り、以後レイヴンに従うようになる。ユニゾンデバイスだが、自身のみでも戦闘を行うことが可能でその際には純白の装甲とライフル、フレア、その他各種装備に加え、二段式瞬間加速魔法を二段式瞬間加速魔法でキャンセルするという人間がやれば内臓がお陀仏になること確定な軌道で相手を翻弄し、確実に玉を当て撃破するという戦法を取る。ちなみにリィンフォースⅡ並みのサイズになることも可能。その際は言動が若干幼くなる。普段着は肩出しの純白のワンピース。

 

セレ・クロワール

 

ラインの乙女、"アイビス"の二つ名を持つ少女。白い肌にプラチナのような光沢のある銀髪、サファイアの目が特徴。フィオナと同じく初代黒い鳥に付き従ったユニゾンデバイスで、フィオナや黒い鳥の命令には従順。自身のみでも戦闘を行うことが可能で、その際には黒い装甲にレーザーブレード、レーザーライフルといった光学兵器に加え、バックユニットから射出するオービットでの物量戦、および防衛戦を得意とする。同じくリィンフォースⅡサイズになることも可能で、その時は若干声が高くなる。普段着はヘソ出しロングスカートの黒いセーラー服、もしくはミニスカート、黒ストッキングのメイド服。

 

ラナ・ニールセン

 

ラインの乙女、"セラフ"の二つ名を持つユニゾンデバイスの少女で、赤毛に赤目、そして他の二人よりも若干小さい身長が特徴。かなり勝気な性格。他の二人と同じく初代う黒い鳥に付き従ったユニゾンデバイスの一機で、姉二人や主人である黒い鳥には、嫌々ながらも言われたことはきちっと最低限こなす。自身のみでも戦闘を行うことが可能で、戦闘時にはバックユニットに赤と黒の装甲、右手にパルスキャノン、左手にレーザーブレード、そしてバックユニットにからは垂直発射式の高誘導爆裂弾を発射する事が出来る。ラナはこの特性を生かした殲滅戦、電撃戦、追撃戦及び閉所での戦闘を得意とする。同じくリィンフォースⅡサイズになる事も可能で、その際には若干行動が幼くなる。普段着は背中に黒で⑨と書かれたTシャツにジーンズ、黒の皮ブーツを履いている。

 

 

 

死神部隊

 

所属、目的も不明。判明しているのはその強さのみという謎の部隊。三勢力のいずれにも無差別攻撃を仕掛けている。各隊員の共通として黒とワインレッドのパーソナルカラー、武器を持った獅子をエンブレムとしているが、隊長である"J"だけはグリフォンをエンブレムにしている。

 

"J"

 

死神部隊のリーダーらしき男。死神部隊自体が素顔を人に見せないため容姿は不明。J自体は黒とワインレッドのカラーリングのヘリから、指示を出すだけだが、その実力は本物。財団と交流があるらしいが詳細は不明。

 

"K"

死神部隊の第一隊員。エンブレムは双剣を持った獅子。狙撃手で武装はスナイパーライフルにスナイパーキャノン。その腕は本物であり、目視さえできればどんなに速かろうと遠かろうと当てることが出来る。物資転送魔法と感知魔法を極めた天才であり、もともと射程と命中率の高い狙撃武器の射程距離と命中率をさらに伸ばしている。狙撃手でありながら一対一の戦いを好む。

 

"D"

死神部隊の第二隊員。エンブレムは鎌を持った獅子。確実に勝利するために確実な戦法を模索、立案、実行するだけの行動力がある。常に三体以上のUNACを引き連れており、UNACと連携した戦法を取る。武装はキャノンやヒートキャノンなどの重火力武器。

 

"N"

死神部隊の第三隊員を引き継いだ男。エンブレムはハルバードを持った獅子。武装は近距離戦闘に特化した、ショットガン、パルスマシンガン、レーザーブレード、ヒートロケット。死神部隊に引き抜かれたことから自分が最強だと勘違いしている節があり、それを証明するため、機動六課隊舎に待機していたレイヴンを強襲するが力の差を見せつけられた挙句に返り討ちにあい、首を切断され死亡。死神部隊最初の犠牲者となる。



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壊れ合うから動けない

あらゆるところで、金属音と火花が散る。正体は弾丸。大小の弾丸が寸分狂わず、お互いの中央を捉えていた。

 

『…………』

 

「…………」

 

お互い一言も話さず、お互いの銃の引き金を引き続ける。言葉など必要ない、言葉を放つなら弾丸を撃つ。弾丸一つ一つに見えない言葉が込められる。

 

"この角度ならどうだ"

 

"甘い、なめるな"

 

"ここだ"

 

"いい角度だ、が、まだ甘い"

 

""これだ"

 

"貴様は馬鹿か"

 

言葉を弾丸に乗せ、会話を交わす。今2人は撃ち合っているのではない。話を、討論をしているのだ。どうすれば相手の弾丸を撃ち落とせるか、どうすれば当てられるか、その討論をしているのだ。そしてKの右の二の腕にライフルの弾丸が掠る。

 

『…………やるな』

 

Kもスナイパーキャノンの狙いを付け直し、大口径弾を連射する。ライフル弾で確実に大口径弾の中央を捉えて、迎撃。リロードの隙間を縫うように、ライフル弾を撃ち込む。そのライフル弾がKのさらに後ろから来た大口径弾に撃ち落とされる。

 

『…………お前の力…………どうやら侮っていたようだ』

 

Kの背後に多数のワインレッドの円形の空間が現れる。そしてスナイパーキャノンの砲口にも、ワインレッドの円形の空間がある。

 

『…………本気を出そう、これより一切、無駄弾を使うつもりはない』

 

そしてKの背後のワインレッドの空間が閉じると、もう一度砲口の部分のワインレッドの空間に大口径弾を撃ち込む。そして一拍遅れて、背後や左右、頭上、正面などにワインレッドの空間が開く。そしてコンマ1秒の時間差で大口径弾がワインレッドの空間から撃ち出される。

それを下に加速する事で回避する。大口径弾はそのまま明後日の方向に飛んでいくが、大口径弾が通る先にワインレッドの空間が開き、大口径弾はそのままワインレッドの空間に吸い込まれる。

 

『本気で行くといったはずだ、そしてこうも言ったはずだ』

 

そして正面の進路を塞ぐようにワインレッドの空間が多数開く。

 

『無駄弾を使う気は無い、とな。』

 

そして五発の大口径弾が撃ち出された。

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

死神部隊"K"。元は彼女は時空管理局輸送部隊の一局員だった。感知魔法と転送魔法が他より優れていただけの何処にでもいる平凡な局員。実質彼女もそれで満足はしていた。あの事件が起きるまでは。

その日、長期遠征のために移動していたのは彼女を含めた混成大部隊で、すべての人員がバランスよく配置されていた。そこに、レジスタンス連合の奇襲を受けた。部隊も反撃はしていたが、移動していた場所が悪かった。左右は絶壁と崖、移動は前後にしか出来ず、それも敵に塞がれていた。数分もしない内に部隊の3分の2ほどが殉職、そしてレジスタンス連合が崖を爆破した事で落下、その際に爆風の衝撃で意識を失う。

そして目が覚めた時には、崖下の森林にいた、が、爆破された際の大岩に両脚を潰され、身動きが取れないでいた。

地質が柔らかかったこともあり、死なずには済んだ。他の人員は木に叩きつけられたか、打ち所が悪く死んだものが殆どだった。

そして何日もその状態で放逐され、死に直面する前に、あの男が目の前にいた。

 

『君には諦めを淘汰する権利がある。同時にそれをする義務がある。それを、果たしてもらうよ』

 

そして彼女はもう一度眼を閉じる。

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

再び目覚めた時には知らない天井だった。少なくとも管理局の医務室ではないことをさとり、上体を起こす。見れば潰されたはずの足には鉄の義足が付けられている。

 

『目が覚めたかい?』

 

そして男の声が聞こえるとその方向を向く。そこにはディスプレイとそこに浮かんだ奇妙なエンブレム。

 

『おっと警戒しなくていいよ?どうせ君は生物的に死んでいなくても社会的…………いや、世間的に死んでいるからねぇ。』

 

その言葉を聞いた瞬間、彼女はらしくもなく声を荒げた。"巫山戯るな、そんなはずはない"と。だが、男は現実を突きつけてきた。

 

『それじゃ、証拠を見せようか。』

 

そして見たものは、あの日の事の記録が一切残っていなかったという証拠とそれに参加していた管理局人員の入隊記録が抹消されたという証拠だった。それを見た瞬間に膝から崩れ落ちる。

 

『諦めを淘汰するのは君だ、が、僕はその手伝いをすることが出来る…………如何する?』

 

そして彼女は悪魔の手を迷わずとった。

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

『そうだ、もっと引き出して見せてみろ…………お前の力。まだそんなものではないはずだ』

 

Kは傭兵に内心、拍手を送っていた。今目の前の傭兵は今や数十の弾丸を相手に回避を行っている。そしてそれを全て背中のブースターユニットに装甲にもかすらせず、ミリ単位で回避している。

 

『…………見事だ。だがこれは共同ではなく、決闘なのでな…………』

 

そしてKはスナイパーキャノンを向ける。レティクルが変化し狙撃用のそれに変化する。そしてその中央に傭兵を捉える。

 

『さらばだ。』

 

呼吸を整え引き金を引こうとした瞬間に、傭兵がこちらに片手のライフルの銃口を向けるを視認し、急いでスナイパーキャノンの銃身を畳もうとするが、その前にライフルの銃弾がスナイパーキャノンの銃口に入り込む。そして、スナイパーキャノンの残った弾薬に誘爆、スナイパーキャノンと共に右腕が消し飛ぶ。

 

『…………っ!』

 

消し飛んだ右腕を横目にすかさず左手のスナイパーライフルを傭兵へと向ける、が、同時に傭兵は懐と言える距離まで接近してきている。どうやらあの数の大口径弾を全てなんらかの方法で撃ち落としたらしい。

 

『…………』

 

「…………」

 

お互いがそれぞれの急所に銃を突きつけ合う。傭兵はKの額に、Kは傭兵の胸に銃口を押し当てる。その沈黙は。

 

『!!』

 

一つの風切り音で崩れる。その正体は傭兵の魔力を付加した加速の乗った膝蹴り、それでKの胸骨が砕ける、その際の激痛によりKのスナイパーライフルの銃口がわずかにずれるのを確認すると、傭兵はステップで後ろに下がって射程を確保しダブルタップでライフルを右肺と左肺に撃ち込む。

 

『がはっ…………!!』

 

そのまま甲板の上を血の跡を残しながら崩れ落ちる。

 

『…………ふっ…………流石は最後の候補者だな…………』

 

Kは口から吐血しながら、傭兵を見る。傭兵はKの頭部にライフルの銃口を突き付ける。

 

『…………見事だ、傭兵、お前の勝ちだ』

 

Kは全ての武装をパージする。スナイパーライフルが甲板の上に音を立てて落ちる。

 

『撃て…………お前にはその資格が、死神を屠る資格がある。』

 

そして甲板に一発の銃声が響いた。

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

目の前には額から血液かオイルかの判別がつかない液体を流している死神部隊の一人。蹴った感触からほとんどが、機械だと察した。おそらくそうでないのは脳みそだけなのだろう。そして、甲板の奥の扉が開いて、キャタピラ音がなり始める

 

『まさかKまで敗れるとはな。流石は黒い鳥といったところか』

 

通路の奥から現れたのは、下半身が戦車のようにキャタピラになった男。その独特の低い声が甲板に木霊する。そしてキャタピラが重苦しい音を立てて止まる。

 

『卑怯だとは言ってくれるな?俺は手段は選ばん。それが指名だからな。』

 

男は両手のキャノンとヒートキャノンを構える。キャタピラの利点、それは通常二脚武器では構えが発生する武器を構えなしで、しかも移動しながら、数ミリのズレもなく正確に打ち込めることだ。

 

『一応言うか…………俺は死神部隊、"D"だ。元の名前なんぞ覚えておらん。』

 

Dと名乗った男のキャタピラがキュラキュラと音を立てて動き始める。それと同時に背後から複数のUNACが猛スピードで弾幕を張りながら突進してくる。

 

『さあ行くぞ、簡単に死んでくれるなよ?』

 

その言葉を聞いた後に、ライフルの断層を交換。ブースターユニットを変形させて、UNACに突撃、一機目のUNACのコアにライフルの銃口を差し込み、フォーミュラブレインを破壊する。それが開始の合図となった。



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加速していく背中に今は

空飛ぶ古代の戦艦『聖王のゆりかご』。その甲板では、榴弾の爆発する轟音、銃声、そして。

 

「…………!」

 

『グッ!?』

 

一人の男の苦悶の声と金属と金属を強く叩きつけるような音が響いていた。

 

『想像以上にやる…………!(チッ…………不味いな、悪いなJ。多分俺はここまでだ)』

 

死神部隊"D"が手にしたキャノンを傭兵に向かって撃つ。轟音を轟かせ山形の軌道を描くそれは、傭兵の白い装甲を傷つけることかなわず、明後日の方向に飛んでいく。

 

『速いっ…………!?』

 

傭兵は白い閃光のように一瞬でDの懐に潜り込む。そして、側頭部をライフルの銃床で殴りつけた後に、蹴りで吹き飛ばし、追い打ちでライフルを連射する。

 

『まさに黒い鳥だな…………その暴力的なまでの強さ、全てを黒く焼き尽くす容赦の無さ、だからこそお前を殺さねば成らん』

 

すでに連れてきていたUNACはすでに全滅、劣化版とはいえJの戦闘データをインプットし、ガジェットすら余裕で全滅させたUNACが三機とも、ものの数分で、フォーミュラブレインを撃ち抜かれ、機能を停止している。

もともと、D自体の実力はそれほど無い。それはDも自覚している。だから普段の任務は高性能なUNACを引き連れているのだ。重火力も自分の力の無さを隠す為、重装甲も自分の弱さを隠すため。そしてそうやって今日まで生き延びてきた、が、目の前の黒い鳥は理不尽な迄にこちらを焼き尽くそうとしている。

 

『やはり…………俺が勝てる道理などなかったか。』

 

ヒートキャノンを撃ちながら、キャタピラを動かし下がる。が、それでも速度差が埋められずに、距離を詰められる。そして放たれた弾丸により、キャノンの弾倉が撃ち抜かれる。

 

『チッ!』

 

Dは咄嗟の判断でキャノンを傭兵に向かってパージする。キャノンは傭兵の目の前で爆発する。そして傭兵は黒い煙を突っ切ってDに向かっていく。Dも残ったヒートキャノンを撃つが、全てが装甲にかすりもせずに、避けられる。そしてDの顔面に膝蹴りが撃ち込まれる。

 

『グハッ!?』

 

キャタピラのため仰け反ることもできずに、その場に留まる。傭兵はキャタピラの隙間にライフル弾を撃ち込む。ライフル弾は見事にキャタピラの噛み合う部分に命中し、隙間に入り込む。これによりDは機動力を失う。

 

『不味いな…………!?』

 

更に胸部に膝蹴りを受ける。そして両肘を両手のライフルで撃ち抜かれる。これにより戦闘力の大半を失う。

 

『…………ここまでだな…………遠慮はいらん。やれ。』

 

Dは諦めたように全ての武装をパージする。傭兵はDの心臓に狙いを定める。

 

『狙うところが違うだろう…………?ここだ。』

 

頭部のセンサー部分を点滅させる。遠回しにこう言っていた。"頭を撃て"と。

 

『流石にもう疲れた…………。地獄でゆっくりしたいもんだ。』

 

そして一発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

一方、タワーの中ではソファに座る財団と側に立つJがモニターを見つめていた。片方のモニターにはゆりかごのあらゆるところを攻撃する傭兵の様子が、もう片方のモニターにはこちらへ向かってくる機動六課の姿がある。

 

「死神部隊はJを残して全滅、か…………。流石は黒い鳥だね、R。」

 

『奴はもう出来ている。私ももう出来ている。後は私か奴かが死ぬだけだ。』

 

「J、君は先に行っていてくれ。お客が来たようだ。勿論、僕も後でいくよ。あ、Rにもちゃんと言ってから行ってくれ。多分君が着く頃にはゆりかごは落ちてる。」

 

『無論だ。』

 

Jが財団のいる部屋を出て行こうとした瞬間、扉が吹き飛ばされる。

 

「財団!」

 

真っ先に飛び込んできたのは機動六課部隊長、八神はやて。それに続いて、なのはとフェイトが入ってくる。

 

「おやおや、ノックも無しに入ってくるとはね。管理局には礼儀も無いのかな?」

 

「良く言うわ…………既にあんたと死神部隊のつながりは掴んだで?そして黒い鳥のこともなぁ!」

 

はやては一冊の、古ぼけた本を突き出す。

 

「レイヴンって名前はある男の幼少期の名前やった。そしてその男の名前は…………"ジョシュア・O・ブライエン"!そして死神部隊リーダー、J。あんたはその張本人のクローンや!」

 

Jはバイザーの奥の瞳を細く絞り、そして財団はソファーに座りながら、口元を押さえて震えている。

 

「あははははっ!まさかそこまで調べられているとはね!感服したよ機動六課!」

 

財団は満面の笑みを浮かべながら、拍手を送る。

 

「何がおかしい!?」

 

シグナムが叫ぶが、フェイトがそれを制す。

 

「一体何が目的なんですか、財団。タワーの中に住み着き、ひたすらにそれを解析しては兵器を生み出し、各地で戦争を激化させる…………貴方は一体何をしようとしているんですか!?」

 

フェイトが財団に向かって問いかける。

 

「ふう…………前も言ったはずだけど、僕たちには目的なんて、無いんだよ。ただ、プログラムに従って動いているだけだ。…………けどまぁ、調べ上げたご褒美として教えてあげるよ。僕はね、黒い鳥に殺されたいんだ。本当に黒い鳥に、ね。」

 

「殺されたい…………?んなことのために今までやってきたってのか!?」

 

ヴィータがアイゼンを握り締め、突きつけながら叫ぶ。

 

「そうだ。僕は黒い鳥に殺されたい。彼は、Jは戦いたい。だから僕らは手を結んだ。それだけさ。でもまあ、よく調べたものだねぇ。ま、スカリエッティもこの真実には薄々気づいていたみたいだけど。」

 

財団は扉の陰に目を向ける。

 

「そこにいるんだろう?スカリエッティ」

 

財団が呼ぶと、扉の陰からいつものにやけ顏ではなくこれ以上にない険しい顔をしたジェイル・スカリエッティが財団に姿を現した。

 

「やはり間に合わなかったか…………」

 

「今回は…………いや、今回"も"、僕の勝ちだよスカリエッティ。」

 

財団は笑みを浮かべ、スカリエッティは顔をしかめる。

 

「一体どういうこと…………!スカリエッティ!」

 

フェイトがスカリエッティに向かって叫ぶ。スカリエッティは俯いた後に、口を開く。

 

「財団のやろうとしている事、それは…………真の黒い鳥による全人類の全文明の抹殺だ……………!」

 

「全人類の…………」

 

「全文明の抹殺…………?」

 

機動六課の面々がそれぞれ驚きを隠せずにいた。そしてスカリエッティは続けて口を開く。

 

「ふふ、だからゆりかごを起動させて時間稼ぎをしようしたんだろうけど、すでに勝敗はついていたんだ。見なよ。」

 

財団が巨大な空間投影ディスプレイを出現させる。そこには黒煙を上げながら墜落する暴走した聖王のゆりかごとそれを遥か空から見つめる白い装甲を纏った人影。

 

「やはりダメだったか…………!」

 

スカリエッティは、少しだけ歯をくいしばる。

 

「ジェイル・スカリエッティ…………説明しろ!一体どういうことだ!」

 

「私は…………財団の計画を知った時、まだ覚醒する前の黒い鳥をゆりかごを使って殺そうとしたんだ…………。そしてあえて証拠を残すことで私の指名手配と引き換えに君達が動き、そして財団にたどり着く事に賭けたのだ。」

 

「つまり…………最初からわたしらは利用されてた、ゆうことか…………」

 

「すまない…………」

 

スカリエッティが俯く。無限の欲望を持つ彼も、まだわずかに人としての情が残っていたらしい。

 

「愚かだね。無限の欲望、なんていうコンセプトを持った君が、まだ人間なんかを信じているのかい?」

 

「そうだ、人間は私の考えを良い意味でも悪い意味でも覆してくれる…………。財団、そういう君は人間に対してペシミストすぎたのではないかな?」

 

「君にしてはらしくない勘違いだねぇ、スカリエッティ。僕の開発コードを忘れたかい?僕の開発コードは"終わらない絶望"《エンドレス・ディスペアー》。僕はとっくの昔に人間自体には、絶望しているんだ。」

 

財団が座っていたソファーを離れる。

 

「けれどね、それでも僕は知っているんだ。どんな状態になろうと、どうな姿になろうと、人間は賢しく生き続けようとすることを…………!人間の飽くなく、あらゆる欲求の先にこそ、人間の未来も開かれてきたことを…………!」

 

財団はリモコンを取り出す。そしてそれを操作すると、ある場所が映される。

 

「なん…………だと…………!?」

 

「これは…………!」

 

「そんな…………まさか…………」

 

その映し出された場所、それは三つの脳髄が保管されている管理局の最高評議会の地下最下層。

 

「醜いよねぇ…………だからこそ、一度、人は人によって滅びる必要がある。それが必然だ。そしてその滅びた後の世界の生物の頂点は、滅びをどんなに、何度繰り返そうと人間であるべきだ。」

 

財団がパチンと指を鳴らす。それに反応するようにタワーの天井が開いていく。

 

『先に始めていても、問題は無いな?』

 

「別にいいよ?僕も直ぐに追い付く」

 

Jは、黒い装甲を纏う。更にそこにブースターや機首などが装着される。それをモニターで確認すると財団は笑う。

 

「一つ質問があります。」

 

なのはが財団に問いかける。その表情は任務についている時の厳しい表情を浮かべている。

 

「何かな?」

 

「貴方は今でも人間ですか?」

 

「人間だよぉ?昔はねぇ!」

 

そして財団が背中を向けた瞬間、桜色の魔力の奔流が財団の半身を飲み込んだ。そして財団が壁に叩きつけられる。

 

「…………ッ!!」

 

「財団…………その状があんたか…………!それがあんたか!財団!」

 

財団の有様を見たスカリエッティさえ、息を飲む。そしてその有様を見たはやてが顔を顰めながら、財団に向かって叫ぶ。

 

「そうだよぉ?これが僕だ。」

 

はやての叫びに、財団が顔をにやけさせながら答える。その半身はコードや回路、ケーブルなどが露出し、バチバチと紫電をあげていた。

 

「機械…………!?」

 

「ずいぶんと失礼だねぇ。これでも昔はしっかり人間だったんだよ?」

 

スバルが小さく呟くが、財団はそれを聞き取り、返事を返す。すると開いたタワーの天井から白い影が入ってくる。

 

「…………」

 

「来たね、R。Jからはもう聞いているんだろう?それじゃあ、撃つといい。僕はこの身体では抵抗はしないからさ」

 

白い影の青く光るセンサー部分が、無機質に財団を見つめる。そして、素早く右腕のライフルの銃口を合わせるとそのまま引き金を引く、引く、引く。

 

「…………」

 

引き金を引く、その度に金属片が飛び散る、引き金を引く。その度にオイルが舞い飛ぶ。引き金を引く、その度に人工皮膚が破れ飛ぶ。そうして十数発分を財団の機械の体に撃ち込んだあと、ライフルの弾倉を交換する。

 

「………レイヴン」

 

フェイトが触れようと近づく。そしてレイヴンの半径1メートルのところで手が弾かれる。

 

「フェイトちゃん!?」

 

「…………」

 

レイヴンの周りに薄緑色の膜、防御魔法、プライマルアーマーが張られる。それはまるで拒絶するかのように。そしてそのままバックユニットを変形させ、そのまま空へと飛び立った。

 

「レイ…………ヴン…………」

 

「…………」

 

そしてその加速していく背中を、機動六課の誰もが、そしてその場に居合わせたスカリエッティすら、見ているしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

そして、Jがレイヴンに伝えた決戦の場。毎日の様にJとレイヴンが殺し合いを演じた舞台でもあった。Jは、黒い装甲を纏い、そこの上空に腕組みをしながら佇んでいた。

 

『これで全て終わる…………私と奴の因縁も…………』

 

「そうね、私が終わらせてあげるわ」

 

そしてJに向かって小口径のヒート弾が多数飛んでくる。

 

『ふん…………』

 

ヒート弾が着弾する前にJの周りに薄緑色の膜、防御魔法であるプライマルアーマーが展開される。それに阻まれヒート弾は全て防がれる。

 

『ブルーマグノリア…………まさか貴様が出てくるとはな…………』

 

「ええ…………落とし前をつけさせに来たわ。死神部隊。」

 

マギーは青い装甲の、徹底的に自分専用にカスタムしたセルデバイスを装備し、Jの前に立っていた。

 

『一度は退いたものが、また私の前に立つ。面白いものだ』

 

「それが人間ってものよ。覚悟が決まればどんな事でもできる。それがたとえ、大多数の確率で失敗するとわかっていても。雀の涙ほどの成功率しかないとしても。」

 

『ならばどうする?今の、隻腕の貴様の勝率はいくらだ?十に一つか?百に一つか?千に一つか?万に一つか?億か?兆か?京か?それとも、垓か?』

 

Jが両手の銃の銃身で十字架を作るようにして構える。

 

「それがたとえ不可説不可説転に一つでも、私には十分すぎるわ。能書き垂れてないでさっさとかかって来なさい…………ハリー!…………ハリー!」

 

『ふん…………こうだ…………やはり戦う者は、素晴らしい。』

 

マギーのヒートマシンガンとJの特異な形をしたライフルが同時に火を吹いた。

 

 



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あんなに一緒だったのに言葉一つ通らない。

機動六課隊舎がスカリエッティによる襲撃を受ける数日前の事。1人の男が隊舎に飛び込んで来たのだ。

 

「はやて…………はぁ、はぁ、はぁ…………あったよ!黒い鳥についての記録!」

 

「本当か!ありがとう、ユーノ・スクライア司書長!」

 

飛び込んできた男は、管理局のデータベースである無限書庫の管理と維持を担当する司書長、名をユーノ・スクライア。そしてその手には紙封筒が握られている。はやてはその紙封筒を受け取ると中身を読み出す。

 

「良かったわ…………カリムに聞いても黒い鳥の事は怖がるばかりで何も言ってはくれんかったからな」

 

「それだけ、黒い鳥が恐れられてるって事だよ…………資料が少なくて、姿がわかりにくいっていうのも理由の一つみたいだし。」

 

「けど、こうしてユーノくんが見つけてくれたんや。これで財団も落とせる可能性が出てきたわ」

 

はやては資料を紙封筒に戻す。そして、背もたれに体を預けながら、腕で目を覆う。

 

「…………もしかしたらや…………もしかしたら本当にレイヴンが単騎でゆりかごを落としてしまうかもしれん…………。この資料に書いてある通りやったらな。」

 

「そしてその鍵が、黒い鳥が使っていたデバイス…………"ホワイト・グリント"…………。」

 

「レイヴンが、もしこっちに仕掛けてきたら…………私は対処する自信がない…………どないするべきなんやろか…………。

 

「…………その時は、また分かり合えるまで話せばいいんじゃないかな。なのはもいつだってそうして来た」

 

「…………せやな、悪いなユーノくん。今聞いたの忘れてや?」

 

「了解です、八神部隊長殿」

 

こうしてある日の昼は過ぎて行った。そして数日後に自体は一気に動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

私がその人に初めて会ったのは、思い出せば結構、いや、かなり最悪な場面でした。

 

「ん?」

 

なのはママがお仕事で忙しいので、お外で遊んでいた時の事です。大きな木のそばでたたずむ、一人の男の子。その視線の先には大怪我をした大きなカラスがいました。

 

「誰…………?」

 

男の子はカラスを見た後、何か黒い塊を何処からか取り出しました。そしてそれをカラスに向けています。

 

「ダメー!」

 

私は男の子に思い切り、ぶつかりました。分からないけどカラスが酷い目に合うと思ったから。男の子を見ればいろいろわかりました。私よりも少し高い身長、ですがエリオさんより低いです。顔には横に傷跡が付いていました。それに真っ黒い髪に真っ黒い目。その真っ黒い目が私を見つめています。

 

『…………邪魔、しないでくれる?』

 

男の子はスケッチブックを取り出すと、そこに文字を書いて私に見せます。さらに男の子は次のページをめくってまた私に見せます。

 

『もうこいつは助からない。下手に生きながらえさせるよりも楽にさせてあげたほうがいい』

 

「そんなのわかんないよ!」

 

私はカラスを抱き上げて、シャマル先生の部屋まで走ります。これが私と、真っ黒い男の子、レイヴンとの始まりでした。それから、よく隊舎内で見かけることになります。最初は大きなカラスの事もあり、近づこうともしませんでしたが、なのはママに言われた通り、少しずつお話をして、よく撫でてくれたり、たまにお菓子やジュースをくれたり、さらにはシャマル先生が治してくれた大きなカラスを育てていました。

 

 

そして、私は今、なのはママに連れられて男の子、レイヴンのところに向かっています。少しの間飛ぶと、そこに白い機械と黒い機械を纏った二人の人達が、飛び回っています。

 

「レイヴン…………」

 

二人ともあちこちがひび割れていて、いろんなところから血を流していました。さらに言うと黒い人の片腕は今にもちぎれそうになっています。

 

「…………めて…………!」

 

レイヴンがお腹を撃たれて、血を流します。ですが同時に、黒い人の頭部を足で蹴ります。

 

「やめてよぉ…………!」

 

黒い人が攻撃する度にレイヴンが、レイヴンが攻撃する度に黒い人がたくさんの血を流していきます。

 

「もうやめてぇぇ!!!」

 

レイヴンに向かって叫びます。もう、レイヴンがいっぱい怪我をするのは嫌だったのです。でも、レイヴンと黒い人は、戦うのを止めません。

 

「もうやめようよ!なんで、なんで戦うの!?」

 

止めさせようと叫びますが、黒い人もレイヴンも聞いてくれません。

 

「もうやめてよお!!」

 

叫びますが、レイヴンには私の言葉一つ通りません。如何してなんだろう。あんなに…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんなに一緒だったのに。

 



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騒めく思いが僕らの真実なら

戦闘メイン、Jの二連戦と死闘をお楽しみください


ガガガガッ、と機械的な音に混じり発砲音が聞こえる。

 

『ふん…………』

 

マギーが放つヒートマシンガンの小口径ヒート弾がプライマルアーマーに阻まれ消滅する。同時に両手のライフルが撃ち出されるが、マギーが完璧に弾道を読み切り、回避する。

 

「…………っ!」

 

ヒートマシンガンをハンガーに戻した後にレーザーライフルを持ち、Jのライフル目掛けて撃つ、が、これもプライマルアーマーに阻まれ拡散する。

 

『見事だ、腕は落ちていないようだな。ブルーマグノリア。』

 

Jがマギーに賞賛を送りつつハイスピードミサイルを撃ちつつ、マギーを見据えながら平行に移動する。

 

「チッ…………!」

 

レーザーライフルをハンガーに戻し、再びヒートマシンガンを装備。Jから離れるように移動しつつハイスピードミサイルを撃ち落としながら、Jに向かって数回に分けて、小出しで撃つ。

 

『だが、ダメだ。あの日の貴様になら倒せたかも知れんが、今の私を貴様は倒せん』

 

小出しに撃ったヒート弾はやはりプライマルアーマーに弾かれる。

 

『はぁい、J。元気かな?』

 

「財団…………!」

 

『来やがったな!イカレ野郎!』

 

マギーとファットマンが、突然聞こえた財団の声に反応する。

 

『まあ、なんと言おうと構わないけど、僕から言わせればイカれてるのは全部だ。人間の。』

 

『貴様か…………やはり人間では無いか…………』

 

『当たり前じゃないか。肉体的には黒い鳥に殺されたよ。だけど魂まで消滅したわけじゃないしねぇ。まあ、そもそも魂の定義なんてものが曖昧なんだけど。』

 

『イカれてるよ、お前ら!』

 

『『それの何が悪い…?』』

 

マギーがレーザーライフルをチャージして撃つ。それがプライマルアーマーをわずかに貫通し、Jの肩部のアーマーに直撃する。が、それもわずかな擦り傷にしかならない。

 

『さて、準備運動は終わらせようか。J。』

 

『無論だ。』

 

そしてJは本気を出したかのように、先ほどとは段違いのスピードで動き始める。

 

「速い…………!」

 

『ダメだマギー、こっちでも追いきれねぇ…………!』

 

Jはファットマンのヘリに搭載されている高機能レーダーをもすり抜ける速さで、マギーの周囲を飛び回る。

 

「ぐっ!?」

 

『マギー!?』

 

そして、Jの鋭い蹴りがマギーを吹き飛ばす。さらにハイスピードミサイルとライフルで追い討ちをかける。

 

「んん…………!追いきれない…………!」

 

Jの蹴りを脚部から延長したシールドで防いだ後に、素早く態勢を立て直す。そして肩部のCIWSとヒートマシンガンの弾幕でハイスピードミサイルを迎撃、その爆炎を利用して後続のライフルも無力化し、再びJの攻撃に備える。

 

『どこを見ている。私はここだ。』

 

Jは手の甲から出現させたレーザーブレードで、マギーのハンガーアームを武器ごと正確に切り裂く。

 

「チッ!」

 

舌打ちをした後、切られた武器をJの方向を蹴りつつヒートマシンガンを撃ち、後方へと後退する。ヒートマシンガンを当てられたレーザーライフルをや、その他の武器が誘爆し、派手に爆炎をあげる。そしてJは爆炎を突っ切りマギーへと接近する。

マギーがわずかに動揺しつつもヒートマシンガンを向けるが、Jがそれをレーザーブレードで縦に切り裂く。

 

「やられた…………!」

 

マギーは冷静にヒートマシンガンをパージ、肩のCIWSをヒートマシンガンの弾倉に放ち誘爆させる。が、黒い脚が爆炎を突っ切り、マギーを蹴り飛ばし、地面に叩きつける。そしてJも少し離れたところにマギーと縦を合わせて降り立つ。

 

『さあ、どうする?掛け金は自分の命という金貨一枚、相手はロイヤルストレートフラッシュ…………貴様の切り札は、あるのか?』

 

Jはマギーに問いかける。マギーは立ち上がりながら口の中に溜まった血を吐き出し、答える。

 

「…………殺しきれる武器を持っているのは…………貴方だけじゃないのよ。」

 

マギーは大きく足踏みをする。すると地面から巨大なコンテナが現れ、それの継ぎ目が爆発しコンテナの中身が開く。

 

『そうか、それが貴様の切り札か…………』

 

「そうよ。」

 

コンテナの中身には、ジェネレーターユニットと二列に並んだ巨大な6本のチェーンソー。それら二つが連結された巨大ユニット。

 

『マスブレード、マルチプルパルス、ヒュージキャノン、ヒュージミサイル、ヒュージブレード、単騎での使用は不可能とされ畏怖される規格外兵装、オーバードウェポン最後の一つ…………。』

 

「そうよ…………!」

 

そのユニットがマギーに装着される。

 

『対警備組織用規格外六連装超振動突撃剣…………グラインドブレード…………』

 

「そうよ!!!!!」

 

そしてマギーはそれを起動する。チェーンソー状のブレードが横に展開し、腕部に接続される。そして左にジェネレーターユニットアームが接続され、ブレードが腕を囲むように円状に配置される。そして、けたたましい音と共に回転を始める。

 

『貴様の力の片鱗は見せて貰った。』

 

「死ぬのは私とあなたで充分!」

 

そして圧倒的熱量と共に、全てを焼き尽くす暴力がJを襲う。

 

『ジェネレーター出力、最大まで上昇』

 

Jがそう呟くと、背中のユニットから発せられる緑色の粒子が広範囲に拡散される。

 

『あの日の貴様にならくれてやった可能性はあったが、もうダメだブルーマグノリア。消え失せろ』

 

Jの言葉を最後に辺り一面が光によって包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

「主人様」

 

フィオナが話す。それに気付いてフィオナに向き直る。

 

「行きましょう」

 

フィオナの言葉に頷き、ブースターユニットを変形させる。ラナやセレも既に戦闘態勢に入っており、何時でも付いてこれる。そして、何もかもを置き去りにするように高速で移動する。

 

「なあ、御主人。一つだけ聞いていいか?」

 

ラナが話し掛ける。高速移動中なので返事を返すことが出来ない。

 

「喋れなかったな、悪い。んじゃ勝手に聞くぜ。あいつぶっ殺した後、御主人はどうすんだ?」

 

ラナの質問に少しだけ悩んだ。Jを殺して財団を殺してその後どうするか、現時点ではまた傭兵に身を置くぐらいしか思いつかない。自分から戦いを取ったら何が残るのか。おそらく何も残らないだろう。それは魚からヒレを、鳥から羽を、獣から牙を取るのと一緒だ。自分には戦うことしか、その戦場の全てを焼き尽くすことしかできない。

 

「まあ、どれを選んだってあたしらは付いて行くけどな。」

 

「もとよりその所存。」

 

「私達はあなたの融合機、"ラインの乙女"。たとえ黒い鳥でなくなろうとも、私達はあなたの最後の時まで御一緒します」

 

フィオナ達はどうやら自分に一任するらしい。彼女達から自分を取ったら…………おそらく何も残らないだろう。ならば、より一層慎重に決めなくてはならない。が、どうやら悩む時間はおしまいらしい。ブースターユニットの出力を落とし、減速する。数メートル先には黒い機械を纏った男。

 

『ようやく来たか…………』

 

赤いセンサー部分が此方を見透かす。確かに記憶が戻る前には何度も敗北を喫している。

 

『…………なるほどな、もはや言葉など意味をなさないな。』

 

『さっきジェネレーター出力を上げてたね。まあ、メンテナンス終わったけどさ。それで?調子はどうかな?』

 

財団の声も聞こえる。なるほど、フィオナ達から人間を止めていると聞かされていたが、まさかそっちに潜り込んでいるとは。

 

『良好だ』

 

『全てのUNAC、ガジェットドローン、そしてスカリエッティから拝借した戦闘機人の戦闘データを統合し、創り上げたオペレーション。無数の戦場を渡り歩いた君の経験と頭脳、そしてこの機体。これが負けるとは正直思えないけどねぇ。』

 

『管理局によってなされる次元世界の統治など、私たちの生きる世界ではない。好きに生き、理不尽に死ぬ。それが私達だ。そうだろう?』

 

お互いにライフルを取り出す。既に弾倉は交換済み。記憶も経験もある。身体能力にも不足はない。なら、後は互いの殺意が犇めき合うだけ。どちらの殺意が上かが、勝負を決める。

 

『見せてみろ、貴様の力』

 

その言葉を皮切りに、お互いがミサイルを放つ。ハイスピードミサイルに分裂ミサイル。お互いに一発も外すことなく、全弾がお互いのミサイルに撃墜される。

爆炎に突っ込めば、爆炎の中でお互いの姿を視認し銃床をぶつけ合う。そしてお互いを弾き飛ばす。弾き飛ばされた腕の下から銃口を出し、相手を撃つ。が、弾丸は緑色の膜、プライマルアーマーに防がれる。

弾丸を防がれた後に両手のライフルが撃たれる。此方もそれをプライマルアーマーで防ぎ、プライマルアーマーを展開しつつ加速、Jに急接近し、頭部に銃口を突きつけ、ゼロ距離で発砲する。

退け反らせることに成功するが、こちらの胸部にもプライマルアーマーで減衰したとはいえ数発弾丸が撃ち込まれる。それに構わずに腹部を蹴り飛ばして、吹き飛ばし距離を取らせる。そして態勢が整わないうちに、分裂ミサイルを放つ。

その分裂ミサイルは分裂した後に全弾が余所見撃ちのライフルで撃墜される。そして下からハイスピードミサイルが接近する。勿論こっちも余所見撃ちで全弾を撃墜する。

 

『…………』

 

「…………」

 

しばらく静止した後に、再び二人同時に動く。お互いに狙いをつけようとしつつ相手の狙いを外そうと動く。弾は撃てど回避されるかプライマルアーマーに防がれるかの二択。魔力放射で瞬間的に加速しつつ、両手のライフルを撃ち込む。それが数発回避され、残りは全てプライマルアーマーに防がれる。

ハイスピードミサイルが放たれる。ライフルの弾倉を交換した後にそれを機動力で翻弄、誘導し、それでも落としきれなかった分をさらにライフルで落とし、こちらも分裂ミサイルを放つ。

分裂ミサイルが分裂する前に撃墜される。そして爆炎が妙な形に伸び、そこから姿が現れると、ライフルを両手で斉射する。それを横方向に体を振りながら回避、反撃でこっちもライフルを撃ちつつ、魔力放射で距離を詰める。それに気づいたのか、ライフルを撃ちながら後退し始める。逃げられる前にケリをつけるためにブースターユニットを起動、変形させ一気に距離を詰める。そして岩壁に叩きつけた後に、右腕を脚で抑えて、肘関節にライフルを撃ち込む。

 

『ッ…………!』

 

ここで初めて男の苦悶の声を聞く。そして、一拍遅れて左の脇腹から強い衝撃と痛みが来る。見れば脇腹の装甲が赤く染まっている、さらに顎に銃床を叩きつけられ、左足を撃たれる、が、それを無視して、顔面に蹴りを撃ち込み、離れる。さらに駄目押しで両手のライフルを撃ち込む。そして岩壁から轟音が聞こえる。おそらく背部の岩壁にハイスピードミサイルを撃ち込んで空間を作り脱出したのだろう。男の顔はバイザーが半分砕けており、そこからは止めどなく紅蓮の血が流れている。男はそれを雑に左手で拭い去る。

 

『やはり鉛玉をでは物足りないな。』

 

男は手の甲からレーザーブレードを出現させる。

 

『J。右腕、千切れかけてるよ?如何するんだい?切り落とすかい?それとも…………。』

 

『その程度の事か…………ブルーマグノリアの言葉を借りるわけではないが…………たかだか腕が千切れただけだ。』

 

男は左手で右腕の装甲を無理やり剥がすと剥き出しの生身の部分を歯を剥き出しにして口で加える。そして左手のレーザーブレードを構える。それを視認した後に、銃を投げ捨ててこちらも手の甲からレーザーブレードを出現させる。そして風がやんだのを合図にお互いのレーザーブレードをぶつける。

 

『…………っ!…………!!』

 

遠くから叫び声が聞こえる。声からして女の子だろう。もはや名前すら思い出せないが、だが、それに耳を傾ける気は無い。今はブレードを振るい、相手を切り裂くことのみを考える。何処に、どの角度で、どのくらいのスピードで、どのくらいの力で振るえばいいか、それらが男を見るたびに瞬時に思い浮かぶ。男の一挙手一投足が変わるたびにそれらが変わる。逆も同じだ。何処に、どの角度で、どのくらいのスピードで、どのくらいの力で振るえば相手の剣を弾き飛ばせるか。それらが男の一挙手一投足で切り替わる。

 

そして僅かな隙間を見抜きレーザーブレードを振るう。右肩の装甲を溶断、そのまま胴体を袈裟懸けに斬り裂こうと腕に力を入れるが、腹部を蹴られ、それが中断、逆にブレードを振るわれる。片側のブースターだけを蒸して回転、分裂ミサイルを切り裂かれる以上の損害を回避、懐に潜り込みつつ遠心力を利用して右腕のレーザーブレードを振るい、斜め下から切り上げ胸部装甲を溶断する。さらに左手のレーザーブレードを振るい体を狙うが、側頭部に蹴りが見舞われる。

蹴りにより、僅かに体勢を崩される。その隙を突かれ逆側の分裂ミサイルを溶断される。さらに男は先ほど自分がやったように片側のブースターだけを蒸して回転、遠心力でブレードを振るう。

 

それに合わせるようにして、こちらも片側だけブースターを蒸して回転、今度はブレードを振るうのではなく、遠心力を利用した左足での蹴り。そして爪先を手首に当てる。ゴキンッ、という聞き慣れた嫌な音が響き、躊躇せずに足を振り抜き、逆の、右足の踵での回し蹴りを側頭部の顎付近に撃ち込み振り抜く。足から伝わる感触から顎が砕けただろう。が、まだ足りない。この程度でこの男は止まらない。

男は、ブースターで無理矢理に体制を戻したあとに、腹部を踏みつけるように蹴る。ゴキン、という嫌な音と激痛が走り、喉元まで血液が登ってくる。さらに振り抜いた右足を左膝と左肘で挟み込むように打ち付ける。さらにそこからもボキッという音が鳴る。

激痛に耐えつつ、両方のブースターを吹かしつつ魔力を付加。加速をつけたヒザ蹴りを胸部に打ち込む。膝蹴りは胸部装甲を破壊し、さらにその先の生身の部分にまで食い込む。伝わる感触から胸骨が粉砕されただろうが、まだ足りない。この男を殺すにはまだ足りない、男が自分を殺すにもまだ足りない。

口の中のに溜まった血を吐き出す。そして折れた右大腿骨を両手で上下から加圧する。ゴキンという音ともに激痛が僅かに和らぐ。軽く動かし動作に問題ないと判断すると、すぐさま攻撃に移る。ブレードが振るわれれば装甲が傷付き、ブレードを振るえば装甲を傷付ける。だが、それをやめようとは思わない。この戦いの中での騒めく思いが、真実なのだから。

 

 



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不揃いな二人に今辿り着ける場所などないんだ。

戦い始めてから、何時間ほどだろうか。まだ足りない。数多くの傷を付き、付けられたがあの男を殺すのにはまだ足りない。もっと早く、もっと鋭く、もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっと。

 

『そうだ、来い。敵を殺すのは武器でも技術でもない。』

 

そう、あの男の言うとおりだ。敵を殺すのは武器でも技術でもない。極限まで研ぎ澄まされた、自分自身の殺意だけだ。その殺意を乗せてレーザーブレードを振るう。下から上に切り上げ、胸部装甲を縦に溶断する。が、カウンターで膝蹴りを喉に受ける。が、今さらこんなものは痛くも痒くも無い潰れる喉も潰れ切ってしまった、が、体は後ろへと仰け反る。バイザーの下で目を見開き、サマーソルトの要領で顎を二段蹴りで蹴り上げる。そのままバック転でレーザーブレード一本分の距離を取ると、ブースターユニットを起動し、爆発的な加速で男にぶつかる。そのまま男ごと加速し続け、岸壁に叩きつける。そして、まず右腕をレーザーブレードで肩から切断し、返す刀で、もう片腕を切断して、蹴りを打ち込んで僅かに距離を取る。

 

『フッ…………』

 

『満足かい?J』

 

『そんな訳がないだろう』

 

そして一瞬の刹那の空白で相手の手の内を読み取る。そこからの行動は二人同時だった。展開していたプライマルアーマーを半暴走、反転させる。自分を中心とした殲滅魔法『アサルトアーマー』。そして青白い光の中から脱出する。

 

『ジェネレーター出力再上昇…………オペレーションパターン2』

 

男の装甲の一部が展開すると、そこが赤く赤熱し始め、周りの岩が溶解し、溶岩へと戻っていく。そして、傷口に粒子が集まり、腕の形を形成した後、レーザーブレードに変わる。

 

「…………」

 

再びレーザーブレードを出現させる。まだ自分も男も戦える。その事実に胸が熱くなるような気がした。そしてお互いに再びレーザーブレードをぶつけ合う。レーザーブレードだけではない、蹴り、体当たり、頭突き、使える物は何でも使う。レーザーブレードが弾かれると、蹴りを撃ち込まれ吹き飛ばされ、岸壁に激突する。素早く体勢を立て直した後、岸壁の一部を切断し、蹴り飛ばす。

男は飛んで来る岩に右手を翳すと、右腕がエネルギー球となり、そのまま岩を消し飛ばす。そして、右腕がすぐさま粒子によって再生される。消し飛ばした反動の粉塵に紛れて、後ろから強襲、それがレーザーブレードで受け止められる。そしてお互いに弾いた後に、全く同じタイミングで蹴りを放つ。蹴り同士がぶつかり、お互いの脚部装甲と脚の骨が砕ける。激痛を歯を食いしばって耐える。そして砕けた脚を軸に逆の脚で側頭部を蹴りつける。同時にこっちも蹴りを喰らい、二人同時に吹き飛ばされる。

 

『ふ、ふふふふふふ…………ははははははは…………よく人の身で其処まで鍛え上げた…………。だからこそだ。やはり貴様は黒い鳥だ。本物だ。そして、その本物を私が殺す。なぜなら私は死神だから』

 

「…………」

 

お互いに岩壁から身体を起こす。そして、少しずつ距離を詰めていく。そして、男と自分に多種多様な多数の弾丸が飛んで来る。それをそれぞれで回避する。

 

「あれか…………死神部隊ってのは…………」

 

「黒い鳥もいやがるって話だ。」

 

「つうことはあのガキか」

 

そして自分と男の周りを多数の傭兵が囲む。

 

『うーん、まるでゴキブリみたいな連中だね。どうする?J。』

 

『邪魔をするなら殲滅する』

 

「…………」

 

男とは逆の方向を向く。すると、フィオナ達が近くに降り立つ。

 

「おー、おー、こりゃ壮観だな。ざっと百人強はいるんじゃねぇか?」

 

「なら、我ら人で一人頭30人、といったところですね。最低で。」

 

フィオナはこちらに振り向くとお辞儀をする。

 

「無粋ながら主人様。あれらの相手は私たちがいたします。貴方はあの方との決着を」

 

フィオナ達が傭兵たちに向かっていく。それを見ながら両手を広げては握り締める。そして、掌にゴツゴツとした感触と確かな重みが掛かる。

 

「…………」

 

周りを見渡せば自分を囲んで、ニタニタと笑っている傭兵達。その顔は見ていて気持ちが悪い。こんな奴らに闘争を邪魔されたと思うと、ライフルを持つ手に力が自然と入る。それを意識した瞬間に力を抜き、息を静かに吐き出す。引き金を引くのに力はいらない。余計な力みは身を硬直させ実力を半減させる。そして、センサー部分を傭兵達に向ける。残弾はフル、しかし、聞いたこともない名前ばかりだ。おそらく細々と活動してきた輩ばかりだろう。なら、焼き尽くしても構わない。

ブースターを使って加速し、正面の傭兵の顔面に膝蹴りをめり込ませ、地面に叩きつけ、頭を潰す。

 

「こ、このガキ!」

 

残りたった十数人。この程度なら余裕で終わる。左右の傭兵の眉間にライフルを突きつけ、そのまま撃ち抜く。さらに左右と後方から物理ブレードが来る。それをライフルで受ける。

 

「ガキが!死ね!」

 

さらにレーザーブレードを展開した複数人が斬りかかってくる、が、すぐさまプライマルアーマーを半暴走、反転させ、消し飛ばす。

 

「…………」

 

男の方に視線を向ければ、ある者はレーザーブレードで縦に両断され、ある者は四肢以外の全てを消しとばされ、ある者は口から夥しい量の血液を吐きながら息絶えており、周囲の地面には半ばや根元から切断された足や腕が転がっている。

 

「死ネェェェ!」

 

後ろから、レーザーブレードで斬りかかってくる。それを軽く首を曲げて回避、相手の手首を掴み、膝蹴りで肘関節と筋を砕く。

 

「うぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

痛みでのたうちまわるのを無視して、また別の傭兵の腹部を物理ブレードで引き裂く。

 

「畜生!ハチの巣にしてやる!」

 

数人がガトリングガンを手に取り、こちらに向ける。引き金が引かれる前に足元でのたうちまわる傭兵を引き起こし、盾にする。放たれた無数の弾丸が傭兵をハチの巣から挽肉へと変えていく。

 

「こ、こいつ…………頭イかれてやがる!」

 

正直そちらには言われたくない、と思いつつ、彼方此方が挽肉に近くなった男の死体を投げつけ視界を奪う。そして、1人を男の死体ごと、物理ブレードで顔面を貫き、蹴り飛ばす。そして素早く後ろに下がり、ライフル弾でガトリングガンの弾倉を撃ち抜き誘爆させる。

片腕が消し飛んで動揺している傭兵たちの一人の懐に潜り込み、顎を蹴り上げて脳を揺らし、さらに踵落としで頭部を蹴りつぶす。さらに後ろ回し蹴りをもう一人に叩き込んで地面に倒した後、ライフルで頭を撃ち抜く。

 

「…………」

 

どうやらフィオナ達も、上手くやっているようで辛うじて生き残った傭兵の数人は既に遠くへ逃げていた。周りを見れば、爆炎と乾いて黒ずんだ血で戦場が黒く染まっていた。

 

『これが黒い鳥だ…………まあ、お前も見覚えくらいはあるだろう』

 

どうやら、あちらも終わったらしく、こちらに歩いてくる。だが、粒子を使い切ったのだろうか、両腕が形成されていない。そして、喀血し始める。

 

『…………限界か…………』

 

どうやら、長くないらしい。なら、今この男を殺す。男もそれを望んでいるだろう。そう思いながら、切っ先と持ち手に血のこびりついた、刃毀れした物理ブレードを取り出す。

 

『…………そんな物をまだ取っていたのか。』

 

取り出した物理ブレードは、ずっとこの男と戦う時に使っていた、初めて支給されたブレード。不思議と手になじむが、おそらくあと一回使ったら折れるだろう、という疲労度の為今の今まで使わなかった。

それを、両手で持つ。そして、そのまま加速を付け、鎖骨から袈裟懸けに斬りつける。ブレードの刃は男の装甲を引き裂き、肉を抉った瞬間に根元から鈍い音を立てて折れる。

 

『ふん、そんな物を使うからそうなる。ちゃんと殺せ。』

 

男はこちらに、多くの傷を負っているにもかかわらず、しっかりとした足取りで振り向く。それを確認すると同時にライフルを向ける。マギーから教わったように。

 

『ふん、私から最後に貴様にくれてやる。今からお前が、ジョシュア・O・ブライエンだ。』

 

名前。それは生まれてから初めてもらう者。なら、自分はもうジョシュア・O・ブライエンなのだろう。そして、数年振りに口を開く。声はもう出せないが、誰も聞こえないし見ていない。これくらい入っていいだろう。そして、口を動かす。

 

『…………期待外れだ。貴様も候補者ではなかったか…………』

 

心底ガッカリしたような口調で話す。どうやら、落胆させてしまったらしい。

 

『撃て…………それで貴様が終わり、貴様が始まる』

 

そして、引き金に力を入れる。そして、岩場に一発の銃声が響いた。

 

「主人様!」

 

そしてフィオナ達が降りてくる。フィオナはすぐに自分に抱きつき、セレはそれを少し離れたところから観察、そしてラナが男の死体を見る。

 

「チッ…………!死体になっても笑うかよ…………!わかったか…………ぶっ壊れてんのはてめーらだ…………!」

 

そしてどこかで観察していたのか、次々と他の人たちも空から降りてくる。顔は覚えてはいるが、どうやら名前を忘れたらしい。

 

『いやぁ、まさかここまでとはね…………』

 

そして男の死体からノイズの混じった声が聞こえる。人を逆撫でするような喋り方。正しく、彼奴だ。

 

「財団!」

 

女性達も一斉に叫ぶ。どうやら男のバイザーから出ているらしい。

 

『ふふ、でもまあ、これで結果は変わらないし少々シナリオと違うけど、良かったかな?』

 

「あんた…………何処まで…………!!」

 

『まあ、いいか。どうやら、彼には世界を破壊する気は無いらしい。良かったねぇ、彼が気まぐれでさぁ。』

 

財団は全員を逆撫でするように喋る。セレが目を細めながらレーザーライフルを向ける。

 

「黙れ、下郎。今すぐその口を閉じろ。」

 

『どうせもうすぐ終わるよ、ラインの乙女、アイビスのセレ・クロワール。人は人によって滅びる。其れが必然だ。けどもし、もし君達が例外だと言うのなら…………生き延びてみるといい。君達にはその権利と義務がある!』

 

その言葉を最後に、男から声が聞こえなくなる。

 

「当然や…………生き延びて見せるわ…………!」

 

その声が終わるのを確認して、バイザーを操作して更新する。そして、今までunknownと入っていた搭乗者名のところに漸くちゃんとした名前が乗る。"joshua.o.buraien"と。

 

「主人様…………如何なさいますか?」

 

フィオナはこちらを向きながら、問いかけてくる。その場の全員が自分に注目している。そして、踵を返そうとした時、衝撃が来る。見れば背中に女の子が抱きついている。名前は…………忘れた。

 

「…………行っちゃヤダ!」

 

何時の間にか、懐かれてしまったらしい。だが、黒い鳥は一つの所には居着かない、黒い鳥に居場所は無い。プライマルアーマーを展開して弾こうとするが、何故かプライマルアーマーが機能しない。

 

「ははは、完全につかまってしもうたな、レ…………いや、ジョシュア?」

 

「観念したほうがいいよ?ヴィヴィオって我儘だから。」

 

名前は忘れたが、女性二人が笑った顔で自分に話しかける。フィオナ達は口出しする気は無いようで、少し離れたところでフィオナは微笑みながら、セレはいつも通りの無表情、ラナはニヤニヤとしながらこちら見ている。

 

「大丈夫、貴方はもう焼き尽くすだけの黒い鳥じゃない。」

 

金髪の女性に抱きしめられる。そして、そのまま語りかけられる。押し返そうとするが、力負けする。

 

「貴方は、平和望んだ、黒い鳥。もう、飛び去る必要は無いんだよ?」

 

そして顔に水が流れる感触がする。血かと思い拭うが、血のように赤くなく、無色透明。それが何なのかわからずに戸惑う。

 

「それは涙、って言うんだよ。流す理由は二つある。一つは悲しい時、そしてもう一つは。」

 

そして抱きしめられる強さがさらに強くなる。

 

「嬉しい時に流すんだよ。」

 

成る程、今までわからなかったマギーの最初の宿題、人の心という物。それが今わかった、今この胸の中にあるのが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、り、が、と、う…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心だ、と。



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見つけた見つけた黒い鳥、貴方の居場所はここですか。

一応、このssは完結となります。こんな駄作を見てくださった皆様方、ありがとうございました。


「おーきーてー!ジョシュア!おーきーてー!!」

 

眩しい朝日を瞼越しに浴びると共に、被っている布団ごと揺さぶられる。

 

「もう!起きないと遅刻するよぉ〜!」

 

そう言って布団を掴まれ、引き剥がされる。肌寒い空気を感じながら体を起こす。薄く目を開けると、目の前には腰に手を当てて怒ってます、的な雰囲気を出す少女。

 

「早く着替えてね!今日はジョシュアも一緒に行くんだから!」

 

そうして、少女は部屋を出て行く。

 

「二度寝したらダメだからね!」

 

そこまで言われなくてもわかっている。どうせこの状態では何も出来ない。ボキボキと身体中の関節を鳴らす。

 

「おーい!御主人!早くこねぇと全部食っちまうぞ!」

 

両手でクロワッサンを抱えた、ミニサイズのラナが部屋に入ってくる。そんなラナを手で追い返すと、壁にかかっている学校の制服を手に取る。カッターシャツの袖に腕を通し、スラックスを履き、ブレザーを手に持って下に降りる。

 

「おはよう、ジョシュア」

 

保護責任者である、なのはの言葉に頷いて席に座る。発声器官が完全に潰れたため、声は今も出せないが、たいていみんな頷くだけで察してくれる。

 

「おはようございます、主人様」

 

方にミニサイズのフィオナが降りて座る。その手には小さくちぎられたクロワッサンが握られている。テーブルの中央に置かれたバスケットからクロワッサンを手に取ると、左側から、牛乳の入ったコップが置かれる。軽く手を挙げると、メイド服を着たセレが軽くお辞儀をして、台所へと消える。時計を見れば後20分ほど余裕はある。クロワッサンを千切りながら食しつつ、他の料理を平らげていく。以前は粘土のような固形携帯食料しか口にしなかった為、未だにこの食事はなれないが、食べなければ持たない事は承知している。ちなみに、あの携帯食料は全て、なのはともう一人の保護責任者によって処分されてしまった。

 

「ジョシュア、大丈夫?」

 

先ほど起こしに来た少女、ヴィヴィオが向いてくる。その頭を軽くポンポンと叩いて、食卓を立ち、ブレザーに袖を通す。

 

「うん、いってらっしゃい」

 

なのはの言葉に、軽く手を振って答えると、バイザー型デバイスである、ホワイトグリントを手にとって鞄に放り込む。そして、革靴を素早く履いて、そのまま扉を勢いよく開ける。

 

「いってらっしゃいませ、主人様。」

 

「あ、待てって!私も行く!」

 

「あー!ジョシュア、待ってよぉ〜!」

 

情けない声を上げるヴィヴィオを無視してそのまま、走る。その隣を何匹ものワタリガラスが飛ぶ。そして一鳴きすると、そのまま空高くへと飛び去っていく。それを足を止めて見送る。

いつか彼らにも居場所が出来る日が来るだろう。彼らも黒い鳥なのだから。

そして、黒い鳥である自分の居場所はここなのだから。

 



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