ISカグラ‐雷光の担い手‐ (灰音穂乃香)
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プロローグ 『終わりの始まり』

かつて、大名に使え戦国の世を駆けた忍…。

戦国の世を過ぎた現代となってもその存在は必要とされ、二つに別れたていた。

即ち、善と悪に…。

善なる忍、善忍は国家に属し国益のために動く忍。

悪なる忍、悪人は闇企業や悪徳政治家などに雇われ、一部の利益の為に暗躍する忍。

この物語は忍を目指す少年朔乃が半蔵学園忍学科への転入から転生後を描いた軌跡である。

 

「…」

 

忍学科の教室前に少年‐朔乃は立っていた。

これから一人前の忍となるべく、精進していく事となる。

それに対して不思議と不安はなかった。

 

『そう…これまでと同じである』

 

そう自分に言い聞かせる。

幼い頃から家にあった文献や書物を読みあさり訓練を重ね、12歳で自然界から秘伝忍法(自然界から力を借りて発動する絶大な力を持つ忍法)を習得した自分にとって半蔵学園はあくまでも通過点に過ぎない。

 

「さて、前向きが長くなったが今日からお前達と共に過ごす仲間を紹介する。

朔乃、入ってこい」

 

忍クラスの担任であり朔乃の叔父の霧夜に促されて朔乃は忍クラスに足を踏み入れる。

 

「朔乃でござる、皆さんよろしく…」

 

黒板の前に立ち、自己紹介を行おうとしたそのとき、背後に気配を感じ構えようとした瞬間。

 

「ふにゃぁ!」

 

後ろから思い切り胸を揉まれた。

 

「霧夜先生から14とか聞いてたし、やっぱり身長も小さいから…」

 

「葛城…」

 

胸を揉まれあたふたする朔乃。

ため息をつく霧夜に葛城と呼ばれたのは恐らく、朔乃の胸を揉んでいる忍学生の事だろう。

 

「うっ…うにゃぁぁぁぁー!!」

 

「がはっ!!」

 

葛城に胸を揉まれて放心状態であった朔乃は我に返ると葛城な腕を取り、投げ飛ばす。

見事な一本背負いに葛城は受け身をとる暇すら無く床に叩きつけられ、クルクルと目を回す。

 

「せっ…拙者は男でござるよ!!

なっ、なんて破廉恥な事を!」

 

それと同時に胸を庇いながらそう叫ぶ。

 

「「「「男!?」」」」

 

朔乃の叫びに霧夜と葛城以外の面々が目を丸くする。

どうやら身長が低い上に童顔の朔乃の事を女だと思いこんでいたらしい。

 

『こんなので拙者…やっていけるのでござろうか…』

 

等と一抹の不安を覚える朔乃であった。

 

 

余談ではあるが床に投げつけられて目を回していた葛城は『可愛いならば男でも問題ない~』等とのたまっていた。

 

 

朔乃が半蔵学園へ転入してから三カ月が経過し、忍びクラスのメンバーともある程度打ち解けたある日の事。

 

 

『どうか…間に合ってくれでござる!!』

 

朔乃は樹海を全力で走っていた。

任務の為に遠方へと出向いていた朔乃。

彼が戻った忍クラスには飛鳥達の姿は無かった。

全員が任務に向かったのかとも思ったが嫌な胸騒ぎがしたために霧夜に問いただしたのだ。

霧夜曰わく、悪人の養成機関である秘立蛇女子学園が半蔵学園の超秘伝忍法書を強奪、飛鳥達が奪還に向かったとの事である。

超秘伝忍法書は忍養成校の宝にも等しいもの。

だが飛鳥達なら蛇女の忍と戦っても無事に超秘伝忍法書を取り返してくれることを信じてはいる。

しかし、朔乃の脳裏に悪い予感が過ぎってばかりいる。

‐リン‐っと鈴の音が鳴るような音と共に結界の中に入る。

 それと同時に朔乃は自分の悪い予感が的中した事を悟る。

 

「全ての命に、し、し、死、シ、死を。

全ての魂を、ム、ム、ム、無、無に。」

 

蛇女子学園の校舎を倒壊させながら現れた異形を見て朔乃は息をのむ。

 

「まさか!!怨楼血!!でござるか!」

 

何体かの巨大な蛇が合わさったようなその異形の姿に朔乃は声を上げる。

怨楼血…忍びになる夢を持ち、志半ばで散った忍学生の怨念が寄り集まった異形…。

何かの本で読んだ記憶を引っ張り出しながら朔乃は足を早める。

異形の姿に竦みもせずに可憐に立ち回る飛鳥。

端から見れば飛鳥が怨楼血を押しているようにも見える。

それに反して、朔乃の不安はどんどん大きくなっていく。

 

「飛鳥殿!!」

 

飛鳥が怨楼血と激闘を広げていた広場に到着する朔乃。

見れば怨楼血の巨大が倒れていくところであった。

 

「あっ!!朔乃ちゃん!!」

 

飛鳥が朔乃の声に気付き、こちらを見る。

その瞬間である。

 

「コ、殺ス…」

 

倒れそうになった怨楼血が体勢を立て直し、飛鳥にその鋭い牙を突き立てようとしたのは…。

 

「秘伝忍法!!」

 

だがそれよりも早く朔乃が秘伝忍法を発動、雷獣の力を借りた朔乃は文字通り一陣の光となって飛鳥と怨楼血の間へと割り込む。

 

「くぁっ!!」

 

それと同時に怨楼血の牙が朔乃の体に突き刺さる。

想像を絶する痛みが全身を襲い、朔乃は思わず声を上げる。

 

「朔乃くん!!」

 

「朔乃さん!!」

 

「「朔乃!!」」

 

「朔乃ちゃん!!」

 

『ようやく男扱いしてくれたでござるか…』

 

飛鳥の自分への呼びかけに対して場違いにもそんな事を考えながら駆け寄る五つの足音に耳を傾け、朔乃は自分の意識が段々と薄れていく事を感じた…。

 

 

「ここは…どこでござるか?」

 

薄く立ち込める靄の中、朔乃は目覚める。

 

「死後の世界と言えば信じるぅ?」

 

声のする方を見ると朔乃より少し背の高い幼女が酒瓶片手にグラスを傾けていた。

 

「誰でござる?っと言うか未成年者の飲酒は駄目でござる!!」

 

「失礼な~、私は神様だから立派な大人なんだよ~」

 

神を名乗った幼女はそう言うとグラスに酒を注ぐとチビチビと飲み始める。

 

「拙者は…」

 

「死んだよ…」

 

頭を振りながら立ち上がる朔乃に神はサラリと言い放つ。

 

「そうでござるか…」

 

忍になろうと思った時点で既に覚悟は出来ていたつもりであるがいざ、自分が死んだとなると酷く落ち込む。

 

「さてさて!!そんなアナタに神様からのチャンスターイム!!」

 

「はいっ?」

 

いきなりハイテンションにのたまう神に目を丸くする朔乃。

 

「今から君には二つの権利が与えられます!!

一つは、生きていた時に出来なかった事を私にできる範囲で一つだけ、叶えてあげることー。

もう一つは自分が転生できる世界を指定できる権利をプレゼントー!!」

 

やたらとテンションが高い神の言葉を聞きながら朔乃は考える。

 

『願いは、あれで良いでござるが…転生先でござるか…』

 

悩みながら頭を捻る朔乃。

 

「別に漫画やらラノベの世界でも良いよー」

 

神のその言葉に朔乃は一つのラノベを思い浮かべる。

 

「それでは先ず、願いからでよろしいでござるか?」

 

「はいよー」

 

「前にいた世界での拙者が生きていた痕跡を一つ残らず消して欲しいでごさる」

 

「あいさ~」

 

理由も聴かずに快諾する神。

理由としては霧夜や飛鳥に自分が自分の死に対して責任を感じるかも知れないからだ。

特に霧夜は自分の教え子を彼の判断ミスで亡くしている。

出来ればこれ以上苦しんでほしくは無い。

 

「それで?転生先はどうするの?」

 

「IS‐インフィニット・ストラトス‐の世界で、もちろん男の拙者でもISを使えるようにして欲しいでござる」

 

「了解ー、他に意見があるなら聞いとくよ~」

 

「それでは、ISで前の世界で拙者が使ってた忍法を使えるようにして欲しいでごさる」

 

「了解ー、じゃあ君らしいISになるように現地協力員に伝えとくー」

 

『んっ?現地協力員?』

 

っと疑問になったが朔乃にはそれ以上問うことは出来なかった。

意識が遠のいてきたからだ。

こうして朔乃は暁朔乃としてIS世界へ転生することとなったのだ…。

 

 

 



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第一話 『重大発表』

っという訳で第2話ー投稿


更識家‐裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部をやっている家系である。

その更識家に使用人として仕える影宮の家に朔乃は転生していた。

 

「むー」

 

しかめっ面を浮かべながら使用人達の泊まる別邸から楯無達のいる本邸へと繋がる廊下を歩く朔乃。

彼がしかめっ面を浮かべる理由はその服装にあった。

 

「何故、拙者もメイド服なのでござるか?」

 

そう、現在朔乃が来ているのは白と黒の給仕服‐いわゆるメイド服なのである。

しかもメイド喫茶で着ているようなフリルがいっぱいついた可愛らしいものだったりするのである。

これにはマリアナ海溝よりも深い理由が……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

実は無い。

ぶっちゃけて言うなれば彼の雇い主であり更識家の現当主である楯無の意向である。

 

「大丈夫だよ~朔ちゃん可愛いし似合うよ~」

 

袖がブカブカのメイド服を着てそう言うのは布仏本音。

影宮家と同様に更識家の使用人を務める布仏家の次女である。

 

「っと言うかいつの間に誂えたのでござるか?

それ以前に拙者は男でござるよ!可愛いとか言われても嬉しくないでござる…」

 

自分の体にジャストフィットなメイド服の裾を摘みながらため息をつく朔乃。

 

「ほえっ?確か朔ちゃんが寝てる間とかにお姉ちゃんが計ってたと思うよー」

 

「何故止めてくれないのでござるか!」

 

涙目で突っ込む朔乃。

 

「え~だって止める理由ないしー」

 

「もう良いでござる…」

 

そう言いながら二人は本邸のダイニングルームへと向かう。

二人が向かった理由は他でもない。

先日、更識家の当主になった楯無から重大な発表があるとのことであった。

 

 

「うん、みんな集まってくれたみたいね…」

 

当主が座るべき上座の席に『天上天下』っと書かれた扇子を広げて少女が座っている。

彼女が更識楯無である。

楯無の背後には大型プラズマディスプレーが置かれており数千発のミサイルを迎撃するパワードスーツを纏った女性らしき影が映っている。

俗に言う白騎士事件の映像だ。

 

『ああ…なる程でござるー』

 

この後、楯無の言うセリフが大方予想できたのか心の中で一人ごちる朔乃。

他のメンバーもだいたい楯無のこれから言うセリフを想定できてるようである。

 

「私、IS学園に入ろうと思うのー」

 

その言葉にこの場に居合わせた全員が『やっぱりかい!』っと心の中で突っ込みを入れたのであった。

 

 

 




今回は次数少なめです
 いろいろとすいません
 次はもう少し早く文字数とかバトルたっぷりで行きたいなー


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第二話 『黒鉄』

第二話ー
 主人公が束さんからISを受け取ったり、束さんが重大発表したりしますー


楯無がIS学園に向かってから9ヶ月が経過しようとしていた…。

 

『そろそろ一夏が入試の会場でISを発動させてる所でござるかなー

っと言うか拙者のISはどうなってるのでござろう?』

 

等と自室で考えていると部屋のドアをノックする音がする。

 

「朔乃、いる?」

 

そう言いながらドアを開けて現れたのは簪だ。

 

「おお…そうであったな~」

 

何かを思い出したように手を叩く朔乃。

簪と秋葉原にアニメグッズを買いに行く約束をしてたのである。

前世でも割とアニメやらギャルゲやらに造詣が深かった為に簪とは気が合ったりするのである。

 

「~♪」

 

●ニメイトの袋から先ほど買った魔法少女アニメのグッズを取り出しご満悦な様子で眺める簪。

現在、二人がいるのはスクランブル交差点の近くに作られたメイド喫茶である。

 

「ご機嫌でござるなー」

 

「うん♪」

 

笑顔を見せて頷く簪。

 

『本当に嬉しそうでござるなー』

 

そう思いながらふと外を見る朔乃はそれを発見する。

ウサミミのようなパーツを頭に装着したメイドさんである…。

メイド自体はこの秋葉原では大して珍しいものではない、一番の問題はそのメイドさんが近頃メディアを騒がせまくっている人物だからである。

ガタンと音を立てて立ち上がる朔乃。

いきなり立ち上がった朔乃にビクンっと体を萎縮させる簪。

 

「どうしたの?」

 

「簪殿…篠ノ之束を見つけたでござる」

 

「えっ!?」

 

朔乃の言葉に目を丸くする簪。

ISの開発と言う軍事バランスを崩壊するほどの兵器を開発した篠ノ乃束。

彼女はいろいろな組織やら国家から目をつけられており関係各所にも見つけ次第保護するようにと政府から通達が来ていたりする。

 

「簪殿は更識家へ連絡、拙者は束殿を追うでござる!」

 

そう言うと簪の返事も聞かずに朔乃は走り出した。

 

 

走ること数分、人通りの少ない路地裏で朔乃は束の姿を発見。

 

「篠ノ乃束殿でござるな?」

 

「うん?確かに私が世界的天才、篠ノ之束だけどそういう君は誰だい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて事は尋ねないよ?

転生者・影宮朔乃くん。

面倒くさいんで朔ちゃんっと呼ばせてもらうよー」

 

前半のシリアスチックなセリフを最後の一言でぶち壊した束。

 

「何故?その事を知ってるでごさるか?」

 

だがそんな事よりも朔乃は束が自分が転生者である事を知ってる事の方が気になっていた。

 

「だって、私も転生者だしー」

 

「マジでござるか!?」

 

「うん、マジー。

転生前から天才科学者やってたのさー」

 

「ワッハハー」、っと腰に手を当てて笑う束。

確かに転生前から科学者だったりしたならばISのようなオーバーテクノロジーの塊を造れても不思

議では無い。

 

「っと言う訳でこれー、神様から頼まれた君のISー」

 

そう言いながら額当てを手渡す束。

 

「これが待機状態でござるか?」

 

「そうだよー、機体名は黒鉄‐クロガネ‐。

打鉄を改造した2.5世代機ー。

製作期間は三日ー」

 

たった三日でISを組み上げた束の天才っぷり驚嘆する朔乃。

 

「あともう一つー」

 

「何でござる?」

 

「亡国機業に私の居場所をリークしといたから起動テストついでに倒してくれると助かるー」

 

「そういう事は早めに言って欲しいでござる!

っと言うかそういう場合、最初からISを装着可能な状態で受け渡す物では!?」

 

「いたぞ!」っと言う女性の声と共に足音が近づいてくる。

 

「ああ!もう!」

 

朔乃は束をお姫様抱っこすると跳躍、屋根伝いにその場から逃走を開始する。

 

「何故逃げるー?」

 

「いくら路地裏と言ってもあんな市街地で戦闘なんかやったら被害が出るでござる。

それ以前にあんな狭いところでISを展開したら動きにくいでござるー」

 

何かを思い出したかのように手を叩く束。

どうやらそこまで考えていなかったらしい。

 

「それにしても神様から聞いてたけど朔ちゃん凄いねー。

普通、女の子を抱えながらこんなスピードで走れないよー。」

 

屋根伝いに移動する朔乃の腕に抱えられながらそんな感想を述べる束。

 

「元、忍びでござるからなー」

 

前世で50kgの背嚢を背負って百キロを走った事を思い出しながら朔乃は工事やら倉庫が立ち並ぶ区画へと着地。

束を下ろすと同時にISを展開したー。

 

 

 




三話には戦闘シーン入りまーす


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第三話 『纏雷』

第三話


黒鉄…その名から判る通り打鉄の系列機である2.5世代機である。

 

打鉄との外見的な違いがあると言うならばその機体のカラーリングぐらいだ。

 

『真っ黒でござる…が、忍びである拙者にはぴったりでごさるな…』

 

そんな事を考えながら量子変換されている武装から双振りの小太刀を呼び出す。

 

ISサイズに作られた小太刀はかなり大型であるがPICが働いているからか重さを殆ど感じない。

 

「やっと見つけましたよ篠ノ之博士!全く!やっと我々に協力して頂けると思ったら逃げ出して…どういうつもりですか!」

 

声と共に現れたのは髪を腰まで伸びた黒を根元で束ねた高校生ぐらいの少女であった。

 

「ってIS!…まさかおびき寄せられたのですか!」

 

独りで勝手に騒いでいる少女。

 

「だってさー、あんな狭い潜水艦の中に閉じ込められてたら息苦しくなるんだもーん」

頭の上で手を組みながらそう文句を述べる束。

 

「でも、君も手ぶらで帰ったら偉い人から大目玉!

ってな訳でここで一つ提案!

もし仮にだけどそちらのISー黒鉄を倒すことが出きるならば君の顔を立ててあげても良いよー」

 

ニコニコと笑みを浮かべながら脇のコンテナ上へよじ登る束。

 

「ならばこちらも好都合です!

篠ノ乃博士が作っていったコアを使い組み上げられたら無人機‐ゴーレム・プロトタイプの試験をさせてもらうです!

来いゴーレム!」

 

少女がそう言うと同時に上空から五つの影が降り立つ。

 

全身装甲の無人機‐ゴーレムのプロトタイプである。

 

見た目はアイアンマンスーツに良く似ており、両腕にはガトリング砲が装着されている。

 

「さあ!ぶっ壊すです!」

 

少女がそう言うと同時に十門のガトリング砲から凄まじい量の銃弾が撃ち出される。

 

『なるほど…これは厄介でござるな…』

 

機体に直撃しそうな弾だけを撃ち落としてはいるが流石に五方向から来る大量の銃弾を捌ききる事が出来ずシールドエネルギーがガリガリと音を立てるように削れていく。

 

『仕方ないでござるな…』

 

心の中で一人、ごちると朔乃はその言霊を口にする。

 

「秘伝忍法…」っと…。

 

「これは第二世代ISには少し荷が重いかなー

朔ちゃん&束さんピーンチ」

 

コンテナの上で朔乃の戦いを観戦していた束がそんな言葉を漏らす。

 

「どうした!どうした!ちょっとは反抗してみるです!まぁ、こんな弾丸の嵐の中をまともに動けたらですけどねぇ!」

 

などと大声で叫ぶ少女。

 

「反抗?今し方あの木偶人形は片付けてきたでござるよ?」

 

背後から聞こえてくる朔乃の声に少女は振り向く。

 

バチバチと音を立てる雷をISに纏わせた朔乃が小太刀を突きつけていた。

 

秘伝忍法『纏雷』…雷獣の力を借りて武器や身体に雷撃を纏う朔乃の秘伝忍法である。

 

身体に纏えばその身を雷と一体化し超高速で移動する事が出来、武器に纏えばその武器の攻撃

力を上げる事が出来るなど非常に使い勝手が良い技なのである。

「撤退して貰えば拙者としても有り難いでござる」

 

背後でゴーレムが爆散する音を聞きながら少女は顔に薄ら笑いを浮かべる。

 

「秘伝忍法!…あなた忍だったのですのね?」

 

「何故その事を?」

 

少女の言葉に目を見開く朔乃。

 

「知れたこと…」

 

少女では無い第三者の声に朔乃は先ほど少女が来た方角を見る。

 

長身の男がこちらに向いて歩いてきていた。

 

「道元様!」

 

少女が叫んだ男の名に朔乃は息を飲む。

 

蛇女子学園について調べている時に耳にした名だからだ。

 

蛇女子学園のスポンサーである。

 

「道元様…申し訳ありません…私。」

 

「椿、仕方があるまい…。

善忍が転生しているとは私とて思わなかったのだからな…」

 

頭を垂れる少女‐椿にそう声をかける道元。

 

そんな道元に警戒したように朔乃は構える。

 

「まあ、待て…我々が標的としていた人物は既にここにはいない。

それなのに争うのはバカバカしいとは思わないか?」

 

道元の言葉に周りを見回す朔乃。

 

確かに、彼の言うとおり束の姿はどこにもなかった。

 

「確かに、その通りでござるな…」

 

そう言いながら視線を戻すと道元と椿の姿も見えない。

撤退したようである。

朔乃はISを解除すると携帯を取り出し簪に連絡を入れる。

 

束を取り逃がした事を報告する為であった。

 

 

 

ゴーレムとの戦闘から数日後…。

 

朔乃はIS学園の門前にいた。

 

簪や本音の付き添いと言う訳では無い。

 

ゴーレムとの戦闘後に束がIS学園への紹介状を書いてくれたのである。

 

新たな生活に不安はあるがきっと上手くいく。

 

そう思いながら朔乃はIS学園へと足を踏み入れた。

 

 




upー


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IS &キャラ設定

タイトル通り


転生 忍者 閃乱カグラ IS

主人公‐朔乃

15歳・身長:140cm・体重:43kg

善忍・飛鳥たちの担任である霧夜の甥。

怨楼血から攻撃を受けそうになった飛鳥を庇って命を落とした。

語尾に『ござる』、自分の事を『拙者』と呼ぶなど特徴的な話し方をする。

少女のような見た目でその見た目をしており半蔵学園でも完全に女の子扱いされていた。布仏家と同じく更識家の使用人として仕える影宮家に転生。

主人公IS【黒鉄‐クロガネ‐】

第二世代機

見た目は黒い打鉄

武装‐小太刀×2、長刀、煙玉、鍵爪、クナイ、ナノワイヤーアンカーなど…

ワンオフ・アビリティー【無幻】‐視覚的にもセンサー的にも完全に消えるステルス機能。

但し制限時間は五分。

待機状態は額当て。

秘伝忍法『纏雷』‐武器または自分の身に雷を纏う技。

体に纏う事でイグニッションブースト以上のスピードを出すことが出来る。

武器に纏えば第3世代IS一撃でシールドエネルギーを三分の1近く削る事が出来る。

また、刀剣に纏った雷撃を相手に飛ばしたりプラズマ弾を精製する事も可能と非常に使い勝手が良い。

 

超秘伝忍法『雷光』‐巨大な石弓を呼び出し、雷の矢を発射する技。

一撃で殆どのISのシールドエネルギーをゼロにすることが出来るが発射まで三分程、時間を要する。

VTラウラ戦、福音戦で使用予定

マニュアル上『纏雷』は束さんが試験的にぶち込んだ展開装甲、『雷光』は武装の一部となっている




キャラ設定ですー


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第四話 『揺れる思い』

4話目up


『しかし…何故悪人がこの世界に転生してるのでござろう…』

 

IS学園に向かうリニアモーターカーの中で朔乃はそんな事を考えていた。

 

『その質問には私が答えるよー』

 

その声が朔乃の脳内に直接に響くと同時に周囲から人の気配が消え失せる。

朔乃が忍結界を張ったのだ。

 

『神様でござるか?』

 

朔乃は記憶の中から声の主を探り出す。

 

『おー、良く覚えててくれたねー

感謝、感謝ー』

 

そう言いながら神が朔乃の前に姿を現す。

相変わらず手には日本酒の一升瓶とコップを持っている。

 

「それで、道元達、悪忍が何故この世界にいるのでござる?」

 

「今、その事について天界はてんやわんやの状態なのさー」

 

神は肩をすくめながらそう言うとコップへ日本酒を注ぐと一気に煽る。

 

「一度死んだ、人間の魂は天界へと来る筈なんだけどー

彼等が天界へと来た記録が全然残されてないんだよねー。」

 

「ふむ…」っと顎に手を当てながら朔乃は考え込む。

何らかの忍法を使って死した彼等がこの世界に渡って来たことは明白…。

だが、朔乃にはそれがどんなものなのか皆目、見当がつかない。

 

「私達の方でもいろいろと探ってみようと思うけどー

君の力を借りないといけないかもー」

 

そう言いながら神は再び日本酒を注ぐと一気に煽る。

 

「心得たでござる」

 

「うん、助かるー」

 

そう言うと神は立ち上がる。

 

「あっ、言い忘れてた事がもう一つあったんだー

今回の件で天界から調査員が送られて来ることになるから宜しくー」

 

そう言いながら神はその場から立ち去った。

 

簪にとって、彼‐影宮朔乃は幼なじみであると同時に数少ない異性の友人である。

そして弟のような存在でもあった。

簪が朔乃の変化のようなものを感じたのはつい最近の事である。

時期にすれば1ヶ月前、2人で秋葉原に買い物に向かってからである。

朔乃が偶然に篠ノ乃束を発見し、追跡を行ってからだ。

朔乃の報告によると束を追跡中に亡国機関と遭遇、束からISを借り受けて亡国機関を退けたらしい。

以前から頼りがいはあったが今はそれに拍車がかかったようにさえ思えるだ。

そのせいだろうか…朔乃の事を思うと胸が痛くなるように思える。

 

『まさか…ねっ…』

 

自分の朔乃に対する気持ちを否定する。

 

『だって、朔乃は…』

 

友人であり、弟のようなものだと…自分の心をごます。

 

「…殿…簪殿…」

 

耳元で朔乃に名を呼ばれて簪はビクリと体を震わせる。

 

「学園に着いたでござるよ…」

 

その言葉に周りを見回すとリニアの中には朔乃以外には人影が無い。

どうやら本当にIS学園に着いたようだ。

 

「さっ、行くでござるよ…」

 

「うん!」

 

簪は頷くとIS学園へと足を踏み出した。




遅くなりすいません&今回は文字数少なめです


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第五話 『入試』

っと言う訳で


IS学園の入試内容はISの操作技術を見るために試験官‐即ちIS学園の教室の模擬戦を行う実技試験となっており、朔乃に当たる受験生と試験官は…。

 

『織斑千冬…でござるか…』

 

そう、原作主人公、織斑一夏の姉であり、ISの世界大会でもあるモンドグロッソ二大会覇者でもある織斑千冬だ。

千冬、朔乃、共に装着ISは試験用の打鉄、故にマニュアル上は黒鉄の搭載武装となっている纏雷は使えない。

 

『っとなれば頼りになるのは己の剣技のみでござるか…』

 

かなり不利な状況で有るにも関わらず、朔乃の顔には笑みが浮かんでいた。

秘伝忍法を使わずに己の力のみでどこまでやれるか…。

それをこの場で試すつもりだ。

既に千冬、朔乃共に試験用のIS‐打鉄の展開は終わっている。

後は、戦闘開始を待つのみである。

そして…アリーナ内に戦闘開始を告げるブザーが鳴り響く。

先に動いたのは…朔乃であった。

 

『ほぅ…』

 

縮地と呼べる程のスピードで距離を詰めてきた朔乃に千冬が心の中で驚嘆の声を漏らす。

それと同時に右薙に繰り出される太刀を自分のそれで受け止める。

太刀筋、体裁き共に申し分ない。

 

『だが…それだけだ』

 

体が小柄と言う事もあるが太刀に重さもスピードも無い。

それ故に簡単に受け止められる。

パワードスーツであるISの利点を生かせていない。

 

『亡国機構を退けたのはまぐれか?』

 

束からの報告でISを作動させ、無人機を破壊したらしいがそれも怪しく思える。

その考えが一瞬、判断を鈍らせハイパーセンサーが告げる警告に気付くのが遅れる。

 

『なっ!』

 

驚嘆に目を見開くと同時に下から上へと繰り出されるに斬撃をまともに受け、千冬は吹き飛ばされ

る。

それと同時にシールドエネルギーが三分の一近く削り取られたのであった。

 

「我流‐二ノ太刀…飛燕‐二式」

 

丹田から大きく息を吐きながら朔乃はその技の名を呟く。

我流‐二ノ太刀…地面から飛び立つ燕のように低い姿勢からに逆風に斬撃を繰り出す技を飛燕、左、又は右切上に斬撃を繰り出すのがこの飛燕二式だ。

この技は朔乃が転生前‐即ち忍時代に編み出した剣技の一つである。

無論、普段の千冬であれ簡単に受け流すことも出来た筈である。

にも関わらず直撃を許した理由は一つ。

初撃を受けた際に朔乃の力量がこの程度であると油断していたからである。

 

『くっ…』

 

姿勢を立て直しながら千冬は唇を噛む。

 

『なる程…流石はあの会長の関係者だな…』

 

一筋縄ではいかないな…っと思う。

 

『ならばここからは少し本気で行かせてもらおう!』

 

そう心の中で呟くと同時に今度は千冬から朔乃へと距離を詰めて唐竹に太刀を振り下ろした。

 

『つっ…』

 

太刀を真横に構えて繰り出された一撃を受けた止めた朔乃の顔が痛みに歪む。

それと同時にシールドエネルギーが一割程、削られる。

防御をしている状態でこれほど削られるのだまともに食らえば朔乃が先程千冬に繰り出した飛燕二式以上のダメージを喰らうのは必至。

 

『これ以上、喰らうのはマズいでござる…』

 

繰り出される突きを後方へ大きく飛んで回避。

それと同時に一つの策を思いつく。

 

『下手をすればあちらの攻撃を喰らうことになるでござるが…』

このままこちらから仕掛けなければジリ貧になる一方である。

朔乃は覚悟を決めると太刀を正眼に構えて意識を研ぎ澄ます。

 

『袈裟掛け!』

 

極限まで研ぎ澄ました神経と聴覚が千冬が次に繰り出す剣の軌道を予測する。

それと同時に右切上に斬撃を放つ。

金属同士がぶつかり合う音と同時に衝撃がアリーナに広がる。

 

『やっぱり体勢を崩すまでに至らぬでござるな…』

 

激しく剣同士を打ち合えばPICが働いているとはいえ少しは体勢が崩れたり剣先がぶれたりする。

それが無いのが千冬の剣の技術の高さを証明している。

 

『…それならそれでやりようがいくらでもあるでござる!』

 

千冬が繰り出したをで受け止める朔乃。

それを合図に激しい剣撃が開始さるたのであった。

 

「凄い…」

 

モニター越しで繰り広げられる激しい剣撃に山田摩耶は息を呑み、絶句する。

小柄な少年が世界大会二連覇の力量を持つ、千冬と互角に打ち合ってっいるのである。

言葉を失うのも無理は無い。

唐竹に対して逆風、逆風逆に対して唐竹、袈裟切りに対して右切上、右切上に対して袈裟切り、逆袈裟に対して左切上、左切上に対して逆袈裟、右薙に対して左薙、左薙に対して右薙、刺突対して刺突…まるで千冬が次に繰り出す剣の軌道があらかじめわかっているかのような正確さで太刀に太刀をぶつけているのだ。

 

「本当に凄いです…」

 

っと朔乃の剣技に摩耶はただ圧倒され呟いたのであった。

 

 

『こんな小手先技で…』

 

こちらの技が思うように決まらない事に少し焦りを覚えながら唐竹に斬撃を繰り出すがで逆風で返される。

その際に僅かであるが千冬の体勢が崩れる。

 

『しまっ…!』

 

それが致命的な隙であることは言うまでもなかった。

 

『これで…終わりでござる!』

 

心の中で叫びを上げ、逆袈裟に太刀を斬り下ろす朔乃。

千冬も体勢を立て直し朔乃へ袈裟掛け斬撃を繰り出す。

両者の斬撃は寸分の違いなく機体へと直撃する。

それと同時に戦闘終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 

 

 

 

「うわー、剣の腕が立つとは思ってたけど織斑先生と引き分けちゃったよあの娘」

 

『すばら』っと書かれた扇子を広げながらそう言ったのは言うまでも無く楯無だ。

彼女の現在いる場所はIS学園の生徒会室。

大型のモニターには試験とは言うには激しすぎる死闘を繰り広げていた二人が健闘を称え合ってガッチリと握手をしている。

 

「確かに…会長も彼にだけは武術で全く勝てませんでしたね…

あとあの『娘』っと言うのはやめてあげたらどうです?」

 

楯無の後ろでそう言ったのは虚だ。

 

「細かい事は良いじゃない…それはともかく」

 

「ともかく…何です?」

 

楯無は扇子の舌の唇に不適な笑みを浮かべる。

 

『あー、お嬢様のこの表情…ロクな事を考えてないなー』

 

等と考えながら楯無の言葉を待つ。

 

「いろいろと面白くなりそうねー」

 

楯無のその言葉に頭痛に似たものを感じる虚であった。

 

 




第五話ー。
何気に朔乃が劇中で使ってる技が斑鳩さんの愛刀と名前が被ってたりするので名前の案があれば感想で受け付けまーす。


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第六話 『新入生歓迎祭』

ラブでコメってみた二週間振りの更新です。




「これよりIS学園新入生歓迎祭を開催したいと思います!」

 

教壇に手をつき楯無が声、高らかにそう宣言する。

IS学園の入試から1ヶ月が経過し、入学式を終えたその日にサプライズ的に開催されたのであった。

 

『あー、なる程でござるー』

 

一人、納得したように心の中で頷く朔乃。

一年生が校舎への立ち入りを禁止されていたからである。

 

「それで…何で拙者が給仕服を着ねばいかぬのでござるか?」

 

羞恥に顔を赤らめながらもメイド服を着こなす朔乃。

彼が現在居る場所は生徒会が経営するメイド喫茶である。

虚、簪の三人で校内を回ろうとした所を楯無と本音に確保されて現在に至るのだ。

 

「人手が足りないから仕方ないよ朔ちゃん~」

 

朔乃と同じくメイド服姿の本音が丈長のメイド服姿でそう言うとひらりとスカートを翻す。

 

「それは別に構わぬでござるが、何故拙者だけがこんな超ミニスカのメイド服なのでござるか?」

 

そう言いながら半眼になり楯無を睨む朔乃。

現在、朔乃が着ている衣装は白のオーバーニーソックスと超ミニのスカートのメイド服を組み合わせた素敵滅法な品物なのである。

 

「っと言うか見えそうで怖いのでござるが…」

 

超ミニのせいで下着が見えてしまうのでは?などと考えてスカートを押さえる。

 

「大丈夫、そのスカートには絶対に見えそうで見えないって言う素敵ギフトが付加されたミニスカートだから」

 

ウィンクをしてどこぞの星霊みたいな事を曰う楯無。

 

「そういうものは付いてません…

が下から覗かない限り確実に下着が見えないように作ってます」

 

そんな楯無の言葉を訂正を入れる虚。

 

「っと言う訳だから…はい」

 

そう言いながら楯無はプラカードを取り出して朔乃に手渡す。

 

「宣伝よろしくね」

 

笑顔でそう言う楯無にNoとは言えない朔乃であった。

 

「さてと…」

 

朔乃が客引きにむかってから数分後。

悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべる楯無。

 

「本音に…やるの?」

そんな楯無とは反対に簪の表情は不安げだ。

「もちろん!」

 

そう言うと楯無はマイクを取り出し__________。

 

 

「ぬ?」

 

看板を持ち歩いていた朔乃はそれに気づく。

壁に取り付けられている放送用のスピーカー。

そこから漏れるマイクの調整によるハウリング音。

 

『なんか無茶苦茶嫌な予感がしてきたでござるー』

 

嫌な汗が背筋を伝う。

 

『あー、マイクテスト。

マイクテスト。

只今マイクのテスト中ー』

 

スピーカーからそんな声が聞こえて来る。

声の主は言うまでもなく楯無だ。

 

『現在、生徒会の開催しているメイド喫茶。

その模擬店の看板を持っている女の子は実は男の娘だったりしますー』

 

『なっ!?』

 

会長の言葉に周囲の女子から視線を注がれる。

完全に飢えた猟犬が獲物を見るような目つきである。

 

「なる程…あれが噂に聞く男の娘…」

 

「いい!本気と書いてマジでお持ち帰りしたい!」

 

しかもそんな声も聞こえてきたりするから尚更にたちの悪い。

 

『さて…そんな客引き男の娘を新入生歓迎会の開催時間中に捕まえた方には漏れなく、1日デート権がついてきたりしまーす』

 

『あの会長!何を考えてやがるのでござるかー!!』

 

そんなことを考えながら走り出す。

後ろからは複数の足音が追いかけてきていた。

 

「ふふふー」

 

顔に楽しげな笑みをうかべつながら楯無はモニターを眺める。

モニターには学園内の監視カメラの映像が映っている。

そこに映っているのは言うまでもなく女子から逃げ回っている朔乃である。

 

「さて、誰があの娘を捕まえるかなー?」

「いやいや捕まらないと思いますよ?

彼そこらへんの陸上選手よりも足が速いですし」

 

「そんなことは無いと思うよ?

おっ?追い込まれたねー」

 

虚の言葉にそう返すとモニターを覗き込む楯無。

モニターの中には窓際にまで追い込まれた朔乃の姿が映されていた。

 

 

『マズい…非常にマズいでごさる…』

 

冷や汗を浮かべながら朔乃は窓際へと後退する。

それと同時に女子は包囲網を狭めてくる。

 

『くっ…こんな所で…』

 

祈るような気持ちで窓に手をかける朔乃。

幸いにも窓には鍵はかけられていないようで直ぐに開ける事ができた。

そのまま後方へと跳び、空中に身を踊らせる。

 

「うそ!ここ三階だよ!!」

 

朔乃を追いかけていた女子の一人が驚嘆の表情を浮かべて叫ぶ。

 

『このぐらいの高さはムササビの術に比べると大したことは無いでござるよ!』

 

そんなことを考えながら朔乃は空中で体を捻り、両手両足で中庭へ四点着地。

それと同時に足音が聞こえて来る。

足音から察するに追っ手は一人。

 

『ならば振り切れるでござるな…いつっ!』

走りだそうとした所で足首に痛みが走る。

着地した時に捻ったらしい。

 

『くっ…不覚にござる!!』

 

唇を噛みながらスカートのポケットから取り出したのは忍緞帳だ。

この忍緞帳は光の屈折率を変化させて周囲の風景と一体化できるという便利な代物なのである。

 

『これを被って追っ手をやり過ごすでござる…』

 

心の中で呟きながら息を殺す。

追っ手の足音が朔乃が隠れている場所へと近づいてくる。

その距離は10メートルもない。

10メートル…8メートル…6メートル…っと足音がどんどん近づいてくる。

4メートル、2メートル、0メートル。

隠れている朔乃の前で足音は止まる。

 

『なっ!?何故でござる!?』

 

「全く、手間をかけさせるをじゃないわよ」

 

その声と共に忍緞帳が朔乃の体から取り去られる。

それと同時に小柄な少女の姿が目に飛び込んで来る。

身長は150cm程、真紅の髪をツインテールにしている愛らしい少女だ。

 

「ようやく見つけたわ、転生者さん」

 

「つっ!」

 

自分が転成者である事を知っている少女に身構える朔乃。

 

「安心して、やりあう積もりはないから」

そう言いながら少女は両手を上げる。

 

「神から聞いてるでしょ?私は天界からの調査員、神崎アリアよ」

 

『確かに…敵意は感じられないようでごさるな…』

 

アリアが自分に対して敵意が無いことを確認すると構えを解く。

 

「てっきり拙者の貞操を奪いに来たのかと思ったでござるよー」

 

冗談混じりにそう言う朔乃。

 

「なっ…何をバカな事を言ってるのよ!破廉恥よ!!風穴空けるわよ!!!」

 

朔乃の言葉に顔を赤くするアリア。

 

『純情でござるなー、いや…拙者が毒されただけでござるかな…』

 

等と思っていたりする朔乃であった。

 

 

『なるほど…転生者ね…』

 

朔乃のメイド服に取り付けた盗聴器から聞こえてくる朔乃とアリアとの会話に耳を傾ける楯無。

場所は変わって生徒会経営のメイド喫茶。

現在はある程度、客足が大分、遠のいた為に楯無は休憩中なのである。

隣には楯無と同様に簪が朔乃達の会話に耳を傾けている。

 

『さて…この会話に簪ちゃんは何を考えるだろう…』

 

 

 

 

子供の頃から一番朔乃に接する時間が長かった簪は彼のまだ見ぬ一面に触れることが出来た事を嬉しく思う一面もあり寂しく思う面めあった。

 

『多分…朔乃は未だ何かを隠してる…』

 

根拠は無いが幼なじみとしての感がそう告げていた。

 

『もっと頼ってくれても好いのに…』

 

 

もやもやとした気持ちが芽生える簪であった。

 

 

 

 

 

 




 個人的にラブコメの方が書きやすいー


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第七話 『選出』

久々に


IS学園1年A組…原作では一夏や箒、セシリア、本音、簪が所属しており朔乃とアリアが所属するのもこのクラスだ。

 

「さて、授業を始める前に決めることがある」

 

教壇の上に手をついて千冬は言葉を紡ぐ。

 

「再来週に行われるクラス対抗戦に向け、クラス代表を選出しなきゃいかん。

 

誰か推薦するものはいるか?自薦でも良いがな」

 

『今回は拙者の出る幕はござらんなー』

 

等と一人心の中で呟く朔乃。

道元を含む悪人達が転生してきた影響か原作版とはいくつか食い違いう出来事があったりする。

 

「はい!織斑君を推薦します!」

 

そう言って一人の女子が手を挙げる。

 

「確かに織斑君、専用機持ちだしねー」

 

等と朔乃の後ろの女子が呟く。

その最たるものが一夏が専用機…即ち、白式を持っていることであった。

 

「えっ?俺!?」

 

っと、呆けた表情で自分を指差す一夏。

 

「そんなの納得いきませんわ!」

 

そう言って立ち上がったのはセシリアだ。

 

「そのような選出は認められませんわ!大体、男がクラス代表なんて恥さらしも良いところですわ!

このセシリア・オルコットにそんな屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!」

憤慨した様子で言い放つセシリア。

 

「実力からすればこの私がなるのが必然的―」

 

「実力?馬鹿を言うのは止めなよー」

 

そう言ってセシリアのセリフを遮ったのは一夏では無く朔乃の右隣に座る本音である。

「ふっふっふっー」っと笑みを浮かべながら本音は立ち上がる。

 

『何かいやな予感がするでござるよ…』

 

そんな不安混じりの朔乃の心情なでは知らないとばかりに本音は続ける。

 

「そう言う戯れ言を吐くならばこの朔ちゃ…じゃなかった、影宮朔乃君を倒してからにしやがれー」

 

そう言いながら本音は朔乃を推薦する。

 

「影宮君?」

 

「強いのかなー?」

 

本音の推薦に疑問の声を上げる他の面々。

 

「強いよー、何たって入試では織斑先生と引き分けた位だもん!」

 

「えっへん」っと自分の事のように胸を張る本音。

 

「あの千冬様と?」

 

「確か布仏さんって生徒会に所属してるんだっけ?

っとなると情報源は確かなものだよね?」

 

ガヤガヤと声を立てる女子。

 

『何て事を言ってくれるでござるかー!!』等と心の中で絶叫する朔乃。

 

「へえ…あの千冬姉と…」

 

そう言いながら一夏が関心したような視線を向ける。

 

「良いですわ!二人まとめてこの私が叩き潰してあげましてよ!」

 

一方のセシリアは怒髪天をつくかの勢いで宣言する。

 

「決まりだな…」

 

笑みを浮かべて千冬は言葉を継ぐ。

 

「試合日時は今から一週間後!織斑、オルコット、影宮の三人のバトルロイヤル形式だ!」

 

『ああ!もう!!どうにでもなれでござる!!!』

 

等と半ばヤケになって心の中で叫ぶ朔乃だった。

 

 

 

 

「はぁ…」

 

「気乗りしないの?」

 

深いため息を吐く朔乃にそう尋ねたのはルームメイトである簪だ。

 

「拙者としては純粋に試合を観戦したかったのでござるがな…まっ、決まったからには全力全開で行くでござるよ」

 

「うん、頑張って」

 

にっこりと微笑んでそう言った簪に気合いを入れる朔乃であった。

 




upー


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第八話 『クラス代表決定戦』

遅くなりましたが八話目です。



IS学園、第一アリーナ、そこにある控え室に朔乃と簪の姿があった。

簪が今ここにいる理由はクラス代表を決める試合に出る朔乃を激励するためなのだが…。

 

『声をかけづらい…』

 

張り詰めた空気の中、朔乃はインナースーツ姿で座禅を組んでいる。

10分程前に控え室に簪が来てからずっとこの調子なのである。

朔乃の集中を乱すまいと簪には朔乃をじっと見ているしか出来ない。

 

「簪殿?おられるのでござろう?」

 

「ごめん…」

 

薄く目を開ける朔乃に謝る簪。

 

「何故謝るのでござるか?」

 

「だって…精神統一の邪魔しちゃったみたいだから…」

 

申し訳なさそうに言う簪に首を振る朔乃。

 

「別にどうという事はござらぬよ…それで何か拙者に用でござるか?」

 

「うん…実は…」

 

小さく頷き、激励の言葉を伝えようとしたその時であった。

 

「影宮くん、そろそろ試合が始まるから準備をお願いできる?」

 

控え室の扉越しからそう言葉を発したのは副担任の真耶だ。

 

「心得たでござる

すまぬ…簪殿、話は後ほどに…」

 

「私は朔乃に頑張って伝えにきただけだから…」

 

摩耶の言葉に立ち上がる朔乃に自分が控え室に来た目的を伝える簪。

 

「勝てるかどうかは別として、良い戦いになるように心がけるでござる」

 

そう言うながら控え室を後にしてへと歩き出した。

 

「大丈夫、朔乃は勝つよ…」

 

そんな朔乃の背中に向けて簪はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

「あら、アナタも逃げずに来たのですね?」

 

先にアリーナへと出ていたセシリアがそう言いながら腰に手を当てる。

既に一夏は白式を、セシリアはブルー・ティアーズを、朔乃は黒鉄を展開しており試合開始も告げられている。

誰かがトリガーを引けば直ぐに戦闘は開始されるだろう。

 

「試合の前にお二人にチャンスをあげますわ」

 

腰に手を当てたままセシリアは高慢な態度で言葉を紡ぐ。

右手の大口径レーザーライフル〈スターライトMkⅢ〉の銃口は余裕からか下げられている。

 

「いらぬ気遣いでござるな…

大方、ボロ負けして恥をかく前に負けを認めろとでも言う気でござろう?」

 

「あら?朔乃さんは私の案に乗って下さりませんのね?

ならば一夏さんはどうですの?」

 

『何で私の言いたい事が解ったんですの?』とでも言いたげな様子のセシリアは一夏にも話を振る。

 

「俺も遠慮をしとくぜー」

 

「そう、それは残念ですのー」

 

ー警告!敵IS二機の特殊兵装ね展開を確認!

黒鉄のハイパーセンサーがそう警告音を発すると同時にセシリアが『ブルーティアーズ』を展開、一夏も『零落白夜』を発動させて朔乃へと向かって来る。

 

「やはり二人共拙者を倒しに来たでござるか!」

 

あらかじめ、その事を予想していたのか朔乃は叫ぶ。

本気を出していないとは言え、千冬を退けた朔乃。

その朔乃を倒すために一時的に二人が共闘する可能性を朔乃は考えていたのであった。

 

「ならばこちらも出し惜しみなしで行かせてもらうでごさる!」

 

そう言うと同時に朔乃は秘伝忍法を発動。

黒鉄は雷をその身に纏う。

その直撃、ビットが放ったレーザーが朔乃がいる場所へと突き刺ささり爆発が起こった。

 

「案外、大した事がありませんのね」

 

セシリアはそう言いながら追撃を行う為に爆煙に飛び込む一夏を見つめる。

その時である。

ー警告!後方に反応あり!

 

「なっ!」

 

ハイパーセンサーが告げる警告音にセシリアは驚愕し、後ろを振り向く。

それと同時に小太刀を構えた朔乃に切りつけられていた。

 

オートガードによって直撃は避けられたがそれでもセシリアに驚愕の色は隠せなかった。

 

―バリア貫通、ダメージ150。 シールドエネルギー残量、417。

ダメージレベル低。

更に表示される情報にセシリアは青ざめる。

かすっただけでシールドエネルギーの1/4を持っていかれたのだ、直撃していたらと考えるとゾッとする。

 

『っと言うか何ですの!?あのISは!!』

 

心の中で叫びながら今し方、大ダメージを与えた機体を―即ち、黒鉄を見る。

バチバチと音を立てる雷撃に包まれた黒鉄にセシリアは恐怖にも似た感覚を覚えていた。

 

 

 

 

「何なんです?あれ?」

 

「山田先生…黒鉄のマニュアルは御覧になられたでしょう…」

 

雷撃を纏う黒鉄を見て真耶は千冬へと尋ねる。

 

「じゃあ…あれが篠ノ乃博士が無理やり突っ込んだって言う…」

 

「展開装甲だろうな…」

 

千冬の言葉に真耶はゴクリと息を呑む。

 

「それにしてもどうゆう原理であんな高速移動を…」

 

「恐らく…レーザーが機体に当たる前に爆薬を投げ。

 

相手がその爆発に気を取られている隙に、機体に雷を纏って自身をレールガンの弾丸として撃ち出したんでしょうね…。

しかもオルコットの後方に回り込む為にと自身を真っ直ぐ撃ち出した後、急制動。

再び機体を撃ち出したんでだろうな…」

 

「普通!考えてもやりませんよ!!!

っと言うかもし、コントロールを誤って壁にぶつかりでもしたら…」

 

ISが大破、怪我で済まない可能性すらある。

 

「全くだ…馬鹿者め!」

 

憤慨しながらも千冬は朔乃の戦いぶりに目が離せないでいた…。

 

 

 

 

「なっ!いない!?」

 

ブルーティアーズが放ったレーザー。

それによって生じた爆煙に突っ込んだ一夏は驚愕する。

先ほどまで朔乃の姿があった場所、そこに彼の姿は無い。

 

「どこへいった?」

 

疑問に思う一夏、それと同時に上空で爆発音。

それと同時にハイパーセンサーが情報を告げる。

―直上に反応!黒鉄がブルーティアーズと戦闘中!!

 

「いつの間に!」

 

ハイパーセンサーの報告に一夏はセシリアの援護に向かおうとする。

たが、それを行おうとした瞬間にハイパーセンサーが新たな情報を告げた為に一夏はそれを断念せざる…セシリアを見捨てる決断を強いられる事となった。

―超高エネルギー反応を黒鉄周囲に検知! っと言う一言に…。

 

 

 

 

 

朔乃から一撃を受け、更にはビットを二つ撃墜されたセシリアはは近距離でミサイルを放ち、黒鉄と距離を取る。

その矢先に先ほどの警告を受けたのである。

見れば朔乃は刀身の無い大剣の柄のようなものを構えている。

 

『何をするつもりかわかりませんが!』

 

朔乃が足を止めている為にこれを好機と見たセシリアは残ったビットとスターライトMkⅢからレーザーを一斉に放つ。

どう考えても直撃コースだ…だが。

バチンっと雷の弾ける音と共にレーザーは黒鉄を大きく反れる。

 

『なっ!電磁フィールド!?』

 

驚くセシリアはあることに気づく。

大剣の柄にから一直線に伸びた黄金色の刀身が形作られているからだ。

バチバチと刀身が音を立てているところから雷撃で形作られている事は一目でわかる。

問題はその刀身の長さだ。

その長さ、数十メートル。

当然の事ながらセシリアを十分に射程圏内に納めている。

 

「プラズマザンバー…」

 

「まっ、参りましたの!私の負けですの!!」

 

「ブレイカー!!!」

 

「キャアアアアアアアア!!」

 

負けを認めるが既に遅い。

セシリアは朔乃の大剣に切り裂かれ感電、気を失った。

 

 

 

 

 

「セシリアー!」

 

目をグルグルと回して気を失って墜落するセシリアを空中でキャッチすると一夏は彼女を地上へと下ろす。

 

「さて…お主はどうするでござるか?」

 

そう言いながら朔乃は腰を低くして構える。

今、展開している武器は刀だ。

先程展開していた柄は熱で溶けたか蒸発したのだろう。

 

『居合いか…』

 

最近、箒に剣の稽古はつけてもらっているが腕はあまり上がってない。

ましてや相手は剣技で千冬と引き分ける程の相手だ。

だが…

 

『このまま負けを認めるのも格好悪いっての!』

 

一夏にも一夏の意地がある。

故に彼も刀に零落白夜を展開させて正眼に構える。

恐らく、勝負は一瞬。

故に…集中力を極限まで高める。

そして…。

 

「「参る!!」」

 

互いに走り出し。

 

「天翔龍閃!!

 

「がぁ!!!」

 

朔乃の繰り出した神速の一撃に一夏は空中へと舞い上がった。

 

 

 




本編には書いてませんが危険行為をした朔乃には千冬さんから出席簿アタックとキツ~イお説教が待っていたりしますw


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第九話 『緋弾』

かなり遅れました第九話をお届けしました。



「これから空中戦をしてもらう。

織斑、オルコット、影宮、神崎。

ISを展開しろ」

 

朔乃が代表となった三日後の授業。

一組の面々はIS学園敷地内の海上にいた。

ISを用いた空中戦は落下物の心配が無い海上や砂漠で行われることが国際大会の規約で決められているからだ。

千冬の号令と共に黒鉄を展開させた朔乃は彼同様に既にISを展開し終えているアリアを‐正確には彼女が展開しているISを見る。

ラファール・カドラ…その名が示す通りフランス製のラファールをカスタマイズしたものである。

朔乃の黒鉄と同様に束から託された専用機でありその最大の特徴が…。

 

『副腕でござるな……』

 

朔乃がそう心の中で呟く通り、ラファール・カトラの持つ一番の特徴は四本の腕を持つことにある。

実弾武器の多い第二世代機。

火力不足という事もあり作られた試作機がこのラファール・カトラである。

だがこの機体には乗り手を選ぶという重大な欠点があった。

本来人間に無い、もう二本の腕を操るのは難しくその操縦は亡国機関が持つアラクネ程では無いがそれなりの技術を必要としたのである。

 

「………」

 

そこで朔乃はアリアが自分の事を睨んでいるのに気づく。

言葉には発していないが朔乃が自分を見ていた事が気に障ったらしい。

 

っと、そこで…。

 

「よし、展開が終わったようだな」

 

朔乃達から遅れる事数瞬、一夏とセシリアもISを展開を終えたらしい。

 

『あれっ?』

 

っと、そこで朔乃はある事に気づく。

通常、空中での戦闘は銃火機の撃ち合いがセオリーだ。

朔乃の場合は『纏雷』を流用した電撃などがあるが一夏の白式は武装は『零落白夜』オンリーだったはずだ。

「ちふ…織斑先生、俺の白夜には遠距離武装が無いんだが?」

 

それについて、一夏自身も理解しているらしく一夏が手を上げてそう宣う。

 

「知らん、それぐらいは自分でなんとかしてみせろ」

 

「そんなー」

 

千冬の言葉に肩を落とす一夏を気の毒に思いつつ朔乃は意識を研ぎ澄ます。

 

「先ずは影宮と神崎からだ」

 

千冬の言葉と共に朔乃とアリアは上空へと飛び立った。

 

 

『影宮くん、カメラの方は邪魔じゃない?』

 

耳に取り付けたインカムから摩耶がそんな言葉を発している。

空中戦の様子はISに取り付けられたら小型カメラによってリアルタイム中継で船にあるモニターへとと届けられる。

事故防止などの理由からである。

 

「何ら問題はござらん」

 

摩耶の言葉に朔乃はそう答えるとアリアを見る。

彼女も朔と同じように千冬から通信を受けているのか何か受け答えをしているように見えた。

 

『二人共、初めてくれ』

 

千冬のその言葉と共に先ず、動き出したのはアリアだった。

 

『熱源反応!多弾頭ロケットランチャーです!!』

 

「つっ!」

 

ハイパーセンサーから告げられる情報に朔乃は『纏雷』を発動、急加速して砲撃の範囲から逃げる。

それと同時に爆風が黒鉄を叩くが大したダメージは無い。

だがアリアも加速して朔乃が銃弾を放つ。

アリアの方を見ると彼女のISは左右の腕でガトリング砲を構えている。

通常、ガトリング等の大型の機銃を持つ場合は両腕で支えていなければいけない訳だが彼女の副腕はそれを可能としているのである。

以前、遭遇したゴーレムが使用したガトリングよりも大口径のせいかかなりのシールドエネルギーが削れていく。

 

「これ以上は…やらせぬでござる!」

 

言いながら、朔乃は武装を展開、急減速するとアリアの後ろへ回り込み、それの引き金を弾く。

光の尾を引きなら撃ちそれは銃弾では無く棒状の手裏剣である。

だが、只の手裏剣とはいえ朔乃の纏雷のにより発射された手裏剣の威力は実弾のそれを大きく上回る。

朔乃が設計した連射式の小型レールガンである。

超高速で撃ち出した手裏剣はラファール・カトラへと直撃し、盛大な爆発を引き起こしたのであった。

 

 

「使ってくるとは思ってけどなんて威力よ…」

 

爆炎に包まれながらアリアは呟く。

天界から朔乃の能力について聞かされてはいたのだが

今の状況では些か歩が悪すぎる。

だが、アリアのラファール・カトラには現状を打破する為の手段は残されている。

 

『ここであれを使うのは少しばかりもったいないけど…』

 

逡巡は一瞬、アリアはその言葉を口にした。

 

「トランザム」っと…。

 

 

 

『むっ?』

 

爆炎に包まれるラファール・カトラから何かを感じたのか朔乃は両手に小太刀を展開する。

 

『前方からラファール・カトラが接近!』

 

それと同時にセンサーからの報告と共に朔乃は振り向き、アリアの攻撃を受け止める。

「ちっ…やっぱり一撃は入れさせては貰えないか…」

 

残念そうに言葉を漏らすアリア。

その機体は彼女の髪と同じく紅い光を放ち、腕には朔乃と同様に小太刀を展開している。

 

『なるほど…それがお主の能力でござるか?』

 

ISのプライベートチャンネルで朔乃はアリアに尋ねる。

 

『そっ、ISのコアにアクセスして機体の限界以上の性能を引き出す技‐それがトランザム・システムよ。

あんたの『纏雷』と違ってシールドエネルギーを消費しまくるから余り長い時間は使えないけどねっ!』

 

アリアの言葉と共に副腕に展開されたのはガバメントだ。

 

黒鉄もダメージは受けているといえ拳銃で倒されるほどではない。

だが、背筋にびりびりするようなプレッシャーを感じた朔乃は鍔迫り合いの状態から足払いをする。

「しまっ…」

 

全く予想していなかったアリアは目を大きく見開く。

体勢が崩れた彼女の持つガバメントから紅い光弾が発射され空を穿がち、同時にラファール・カトラのシールドエネルギーが尽きたのか千冬から戦闘の終了を告げられたのであった。

 

 

『あの状態から緋弾をかわすとは思ってなかったわ…』

 

船へと着地しながらアリアがプライベートチャンネル越しでそう呟く。

 

『アリア殿、先ほどの光弾は?』

 

『『緋弾』…ラファール・カトラがトランザム状態の時にだけ撃てる必殺技とでも思っておいて』

 

そう言うとアリアは小さく伸びをして上空へと目を向ける。

そこではセシリアと一夏の戦闘が開始されようとしていた。

 

 

 




原作ではISの飛行の授業となる本話ですが一夏もある程度IS使い慣れてる筈なのでドッグファイトを書いてみましたー。
因みに一夏はセシリアにボロ負けしました~
次回は鈴登場&代表戦を予定してますのでお楽しみにですw


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第十話  『炎帝』

「織斑一夏ー!」

 

クラス代表を決める戦闘を終えた翌日の事である。

そんな声と共に一組と廊下を隔てる戸が開かれ、その少女が姿を現す。

一夏のセカンド幼なじみであるところの鳳鈴だ。

これもまた悪忍達が転生してきた影響からか鈴が一夏達と同じ時期にIS学園へと入学していたのだ。

 

「鈴?どうした?」

 

そんな鈴に一夏は首を傾げて尋ねる。

 

「どうしたもこうしたも無い!このスカタン!」

 

などと言いながら一夏の元へと鈴は歩み寄りと胸倉を掴んで一夏の体を揺すり始める。

 

「私の計画がまさかこんなところで頓挫するなんてー!」

 

「ちょっと、鈴、落ち着けー」

 

「鈴!落ち着くのだ!!」

 

「鈴さん!落ち着いてくださいまし!!」

既に顔なじみっという程では無いがある程度、一夏からは紹介を受けてた箒とセシリアが鈴を止めに入る。

 

「一夏を代表戦でボコボコにして私の舎弟にする計画がー」

 

 

「なにその計画!?」

一夏から引きはがされた鈴は床に膝をつき、嘆き始める。

 

既に彼女の中で一夏と代表戦を戦うのは決定事項となっていたようだ。

 

『うわぁ…なんかいろいろとややこしい事になってきたでござる』

 

などと心の中で呟く朔乃。

 

そんな朔乃を鈴は立ち上がり、睨みつける。

それと同時に指差して口を開く。

 

「私の計画をぶち壊したあんた!

覚悟しなさいよ!!」

そんな捨てゼリフを吐いて鈴は去っていった。

 

『本当に面倒くさい事になったでござるなー』

 

などと思う朔乃であった。

 

それから更に数日経って代表戦の組み合わせが発表された…。

第一試合…やっぱりと言うべきか朔乃の対戦相手は鈴であった。

 

 

クラス対抗戦当日、第二アリーナ第一試合。

組み合わせは朔乃と鈴。

噂の新入生同士のたたかいということもあってかアリーナは全席満員。

それどころか通路にまで立ち見をしている生徒までいる始末だ。

会場入り出来なかった生徒や関係者は、リアルタイムモニターで鑑賞するとのことであった。

 

『さて…相手の大体の戦闘法はわかってるでござるからな…問題はどうやって攻略するかでござる』

 

などと心の中で呟きながら鈴の方を見る。

 

「私にボコられる覚悟は出来た?」

 

甲龍を展開した鈴が巨大な青竜刀を手にそんな事を言って来る。

 

「完全に八つ当たりでござるなー」

 

その言葉に朔乃は小太刀を展開していして苦笑を浮かべて呟く。

頭の中では既に策は練られている。

 

『問題はこの後に出てくる敵でござるな…』

 

などと考えていると試合開始を告げるブザーが鳴る。

 

瞬間、朔乃は纏雷を発動して甲龍との距離を詰め、小太刀を振り下ろす。

 

「残念だけどそれを喰らうわけにはいかないわね」

 

朔乃の小太刀を青竜刀で受け止めながら鈴はそう言うと蹴りを放ち朔乃を吹き飛ばす。

 

「つっ…」

 

衝撃に顔を歪める朔乃は甲龍を見る。

 

肩の装甲が開き、それが発射態勢に入っていた。

 

『っ!?』

 

原作の知識が甲龍の持つ第三世代型兵器の存在を告げる。

 

吹っ飛ばされた現在の体勢では避けるのは難しく、纏雷を展開しているとしても喰らえば大ダメージは必至だ。

だが、そんな事で諦める朔乃ではない。

 

『可能性は低いがやる価値はあるでござるな…』

 

心の中でそう呟きながら朔乃は小太刀を構え直す。

 

それと同じくして甲龍がそれを発射する。

 

「はっ!」

 

気合いの声と共に朔乃は小太刀を振り下ろす。

 

同時に朔乃の後方で見えない爆弾が爆発したような衝撃が起こった。

 

 

 

「なんだあれは…?」

 

ビットからリアルタイムモニターを見て箒が呟く。

それに答えたのは隣どモニターを見ていたセシリアだ。

 

「『衝撃砲』ですわね…。

空間自信に圧力をかけて砲身を作り、余剰で生まれる衝撃を砲弾化して撃ち出すものですけど…」

 

そこまで言ってセシリアは息を呑む。

砲弾である故に斬ることは不可能では無い。

…それでも不可視の砲弾を斬るのは困難だ。

改めて朔乃と言う人間の非常識な実力に目を見張るセシリアと箒。

だが、この場で一番驚いているのは鈴だろう。

そして、それの隙を逃がすほど朔乃は甘くは無い。

 

「はぁぁ!」

 

裂帛の声と共に朔乃は甲龍へと距離を積めようとする。

 

その瞬間…。

 

突如、アリーナから大きな衝撃が走る。

 

鈴の衝撃砲では無い、範囲も威力も段違いである。

朔乃はステージ中央に着地しているそれを見る。

朔乃が原作で知るそれと姿は大きく姿は異なっていた。

炎のように赤いよろい鎧武者の姿をしたフルスキンタイプのISだ。

 

『久しいな…霧夜朔乃…いや…今は影宮朔乃だったかな…』

 

鎧武者型のISから黒鋼へとプライベートチャンネルで通信が入る。

その聞き覚えある声に朔乃は眉根を寄せる。

 

『道元…っ』

 

そう、その声の主は悪忍養成機関である、蛇女子学園スポンサーである道元だ。

 

『何故!貴様がISに乗っているでござるか!?』

 

そうコアネットワークを越しに朔乃は叫ぶと道元へと雷を纏わせた小太刀で切りかかる。

 

『我々悪忍は某国機業と手を組んでいるからな。

私がISを持っている事に何ら問題は無かろう』

 

朔乃の小太刀を受け止めながら道元が答える。

現在も纏雷を展開しているにも関わらずそれ以上は押すことも引くことも出来ずにいた。

 

『今回はこの『炎帝』の試運転を兼ねて貴様との一騎打ちに来たわけ…ぬっ?』

 

尊大な態度で言う道元はそこまで言ったとところで後ろへと大きく飛ぶ。

甲龍が衝撃砲を道元に向けて放ったからだ。

 

「何勝手に人の喧嘩に突っ込んで滅茶苦茶にしてくれるわけ!」

 

「全く…五月蝿い娘だ…」

 

頭に青筋を浮かべる鈴に向けて右腕を向けて静かに呟く。

 

「煉獄…」

 

「きゃぁぁぉぁぁぁ!!」

 

道元の言葉と共に右腕から撃ち出された火球が鈴を襲い、闘技場に炎が広がる。

 

「鈴殿!!」

 

燃え盛る炎の中で横たわる鈴の姿があった。

 

シールドエネルギーが一撃でゼロになり絶対防御が働ていることを黒鋼のハイパーセンサーから告げている。

 

だが、今も甲龍を包んでおり、危険な状態には変わりない。

 

「てめぇー!よくも鈴を!!」

 

「許しませんの!」

 

声を上げて一夏が白式を展開させ零落白夜でアリーナに張られているシールドを切り裂き、ブルーティアーズを展開したセシリアと共にアリーナへと割り込んでくる。

 

「雑兵が…!」

 

「ぐっ…」

 

「きゃぁ!!!」

 

そう言いながら道元が腕を振るうと爆発 が起こり、一夏達が苦悶の声を上げて吹き飛ぶ。

 

『道元ー!』

 

叫びながら朔乃は道元の炎帝を押し始める。

 

「ふふふ…仲間がやられたのて力を出すか。

面白い!実に面白い!!だが…」

 

「つっ!」

 

炎帝が黒鉄の腹部に蹴りを放ち吹き飛ばす。

 

「今日はいささか興が削げた。

またいずれ相対しようではないか!」

 

そう言いながら炎帝から白い煙が噴出する。

煙幕である。

 

『道元ー!』

 

直ぐにその煙幕は晴れたがそこには道元の姿は無くただ、朔乃の叫びだけがアリーナに木霊した。




っと言うわけでISカグラ第十話となります。
最初は普通にゴーレムを出そうかと考えたのですがせっかく道元を転生させたので有効活用させていただきました(笑)
次回から原作二巻へと入るのでお楽しみですー。


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第十一話 『転入生』

道元の乱入により代表戦が中止とってからひと月が経過しようと言う時期。

道元の『炎帝』の攻撃の攻撃はシールドエネルギーを貫通する程の威力だったにも関わらず三人共に軽い火傷で済んだのが幸いと言えた。

そして、そのひと月の間にISを取り巻く世界情勢が大きく変化していた。

フランスのデュノア社が原作では遅れていた筈の第三世代ISの開発に成功したのだ。

それに伴い、フランスの代表候補生がIS学園に編入事になったのだ。

無論、その代表候補生とは誰とは聞くまでもない。

 

「シャルロット・デュノアです。

フランスから来ました。

この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

にこやかな笑みを浮かべてその転校生ことシャルロット・デュノアは一礼する。

「むぅ…」

 

っと朔乃は呻きながら困ったような表情を浮かべる。

原因となるのはシャルロットではなくその隣に立つ、銀髪の眼帯少女―即ちラウル・ボーディッヒである。

 

「………」

 

彼女が無言で朔乃を鷹が獲物に向けるような目つきで朔乃を見ていたからだ。

 

「…………挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、申し訳ありません、教官」

 

千冬に促されてラウラは視線を千冬に向け、敬礼をしながらそう答える。

 

「ここではそう呼ぶな。

もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。

私の事は織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

そう答えるとラウラは伸ばした手を体の真横につけ、足をかかとであわせて背筋を伸ばすと口を開く。

 

「ラウラ・ボーディッヒだ」

 

「………」

 

次の言葉を待っているのかクラスメート達は皆、口を閉ざしている。

だが、その当人は名前を口にしたまま口を閉ざしたままだ。

 

「あ、あの、以上………ですか?」

 

「以上だ」

 

そんな空気にいたたまれなくなったのか摩耶がラウラに問うが返ってきた返事に鳴きそうな顔を浮かべる。

 

『修羅場でござるなー』

 

などと朔乃が考えているとラウラが一夏の方へ向かって歩き始める。

 

次いで教室に響いたのは千冬が繰り出す出席簿アタックのような体を鞭打するような音だ。

ラウラが一夏の頬を平手打ちしたのだ。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であることなど、認めるものか」

 

「いきなり何しやがる!」

 

「ふん」

 

食ってかかる一夏をラウラは無視すると歩き去と空いている席に座り腕を組んで目を閉じる。

「あー………ゴホンゴホン!

ではHRを終わる。

各人は直ぐに着替えて第二グラウンドに集合。

今日は二組と合同でIS模擬戦を行う。

解散!」

 

千冬に促されて朔乃と一夏は共に教室から第二アリーナの更衣室へと向かった。

 

 

 

 

 

「しっかし…俺が一体何をしたんだっての…」

 

着替えを終えた一夏はアリーナへと向かいながら呟く。

 

「四年前のモンドグロッソが原因ではござらぬか?」

 

そんな一夏の呟きを聞きながら朔乃が答える。

 

「なんでその事であいつが俺に怒らなきゃならん?」

 

「ラウラ殿は千冬殿を教官っと呼んでおったでござろう?

則ち、千冬殿がIS学園の教諭になるまでに軍隊で教官をやっていたことは容易に想像できるでござる。

そして、第二回モンドグロッソ開催中に一夏殿が誘拐されたせいで千冬殿は棄権せざる得なくなった。

千冬殿を教官と仰ぐラウラ殿が怒るのも当然でござるよ」

 

「むう…」

 

未だにバツの悪そうな表情を浮かべる一夏に朔乃は苦笑を漏らしながら第二グラウンドへと到着する。

 

「遅い!」

 

それと同時に飛んできたのは千冬の叱責であった。

 

「「すいません!」」

 

二人して頭を下げながら列に加わる。

 

 

「今日はいつもより遅かったけど何かあったの?」

 

列に加わった簪は朔乃に小声で尋ねてくる。

 

「うぬ、少し一夏殿と長話をしすぎたのでござるよ…」

 

っとそこまで答えた所で“バシン”っと言う出席簿アタックの音が響き朔乃は音のした方を見るとセシリアと鈴が頭を抱えてうずくまっていた。




予告通り二巻突入&遅くなりましたが11話となりますー


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第十二話 『恋心』

原作通り、セシリアと鈴がうずくまっていた理由は一夏に絡んでいたためであり。

その後に行われた摩耶VSセシリア&鈴の組み合わせで行われた実戦訓練もまた原作通りに摩耶が圧勝と終わった。

 

「鈴さんが無駄にボカスカ衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」

 

「こっちのセリフよ!何でエネルギー切れの早いビットをすぐに出すのよ!」

 

そして現在、またまた原作通りにセシリアと鈴が責任の押し付け合いが朔乃の目の前で繰り広げられていた。

 

 

結局のところ二人のいがみ合いは一組、二組の女子が小さな笑いを起こすまで続いた。

「さて、これで諸君にもせよIS学園教育の実力が理解できただろう。

以後は経緯を持って接すること」

 

そう言いながら千冬が手を叩き皆の意識を切り替える。

 

「専用機持ちは織斑、影宮、オルコット、デュノア、ボーディッヒ、鳳、神崎だったな。

では五~六人でグループを作れ。

各グループリーダーは専用機持ちがやること。

では分かれろ」

 

千冬が言い終わるや否や朔乃と一夏、そしてシャルロットへと一気に女子が集まってきたのだ。

正直、女子の状態で人が集まってきたのは意外に思えたが彼女の温厚な人柄から考えてみればそれも妥当な事だと考えられた。

 

「織斑君!一緒に頑張ろう!」

 

「わかんないところ教えて~」

 

「デュノア君の操縦技術がみたいなー」

 

「私も良いよね?同じグループに入れて!」

 

「影宮君のビリビリってやつを私も喰らいたいー」

 

「朔ちゃんの強さの秘密を私に教授して~」

 

予想を上回る盛況ぶりにシャルロットも一夏も、そして朔乃もどう対応していいか立ち尽くしていた。

その状況を見かねたか、自分の浅はかな考えに嫌気がさしたのか、千冬は面倒そうに額を手で押さえながら口を開く。

 

「この馬鹿者どもが…。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ!順番は先ほど言ったとおりだ。

次にもたつくようならば今日はISを背負ってグランドを百周させるからな!」

 

千冬のその声と同時に女子達は移動を開始、二分とかからずに専用機持ちのグループを作る。

 

「最初からそうしろ。戯けが」

 

千冬が大きくため息を漏らす。

それにバレないように各班の女子はお喋りを始める。

 

「…織斑君と一緒…良かったー。私、この時ほど親に感謝したことはないよー」

 

「…ツイてない…セシリアか…。

さっきボロ負けしてたしなぁ…」

 

「…影宮君、夜は待ってるからって…こんなこと言ったら更識さんに悪いかなー」

 

「神崎さんー、よろしくー」

 

「…鳳さん、よろしくね。

あとで織斑君の事を聞かせてよっ」

 

「…デュノア君!わからない事があったらなんでも聞いてね!

ちなみに私はフリーダから!」

 

「…………………」

 

「…拙者と簪殿はそのような関係ではござらんよ!?」

 

女子達の間では既に朔乃と簪はそういう関係になってるらしく、朔乃は慌てて首を横に振る。

同室だからそのような勘違いをしないで欲しいと云うのも些か無理があるのだが。

 

「ええと、いですかーみなさん。

これから訓練機を一般に一体を取りに来てくださいねー

数は『打鉄』が三機、『リヴァイブ』が二機です。

早い者勝ちですからねー」

 

模擬戦で自信を取り戻したのか摩耶が普段より堂々たる態度で口を開く。

 

「影宮君、操縦教えてー」

 

「このIS重ーい、影宮君ヘルプミー」

 

「やっぱり専用機って良い感じなのかな?」

 

摩耶の号令と共に朔乃は女子達に取り囲まれる。

 

「お喋りもいいでござるが余り盛り上がりすぎると…」

 

そんな彼女達を納めようとしたときにスパーンっと小気味よい音と「「「いったああっっ!」」」っと言う見事なハモリ悲鳴が響く。

一夏の班からである。

そちらの方を見ると朔乃と同じ状態だったらしく一夏の周囲の女子達が頭を押さえてうずくまっていた。

 

「ああなるでござるよ?」

 

「「「…………」」」

 

一夏班を指差しながら言う朔乃に女子達は飛び火を恐れて即解散、今は朔乃班の女子の一人‐木原涼子‐(簪の友人その一とのこと)ISの外部コンソールを開いてステータスを確認している。

ちなみに朔乃班の訓練機は打鉄である。

 

「それでは始めるでござる。

木原殿、ISに何回かは乗ったでござるな?」

「うん、授業でだけど」

 

「では大丈夫でござるな。

では装着から起動までやるでござるよ。

長引けば放課後居残りでござるからな」

 

「そ、それはマズいわね!

よし、真面目にいこう!」

 

今までは真面目ではなかったような発言にとりあえずは目を瞑り、朔乃は一人目の装着、起動、歩行と指示された工程を問題なく進んでいく。

―はずだったのだが、二人目の装着時に問題が発生する。

 

「コックピットに届かないー」

 

「む?」

 

通常は訓練機を使う際には装着解除時にしゃがませた状態にしないといけないのだ。

『『黒鉄』を出して乗せるのが手っ取り早いでござるな…』

 

などと朔乃が思っていた時である。

 

「どうしました?」

 

そこで登場したのは摩耶先生である。

 

「ISをしゃがませるのを忘れていたのでござるよ…

それで拙者が『黒鉄』を出して彼女をコックピットへと運ぼうと思うのでござるが…」

「確かにISは飛べますから安全にコックピットに運べますね。

では、そうしてあげてください」

「心得たでござる」

 

摩耶の言葉に朔乃は頷くと『黒鉄』を展開すると二番目の女子‐栗林雪歩(彼女もまた簪の友人とのこと)を抱きかかえる。

 

「ひゃあ!」

 

それと同時に雪歩が小さく悲鳴を上げる。

「すまぬ、どこか変な所でも触ったでござるか?」

 

「ううん、大丈夫。

少しびっくりしただけだから」

 

朔乃の言葉に雪歩は首を横に振る。

 

「しっかり捕まっているでござるよ」

 

「う、うん」

 

遠慮がちに腕を握る雪歩を確認すると一メートル程の高さへとゆっくりと上昇すると彼女を落とさないように気を使いながら打鉄のコックピットへと運ぶ。

 

「では、背中からゆっくり入って。

そこの装甲に手をかけるとやりやすいと思うでござる。

大丈夫でござる?」

 

「だ、大丈夫…後は自分で出来る…簪もこっちの方をガン見してるし」

 

最後の方はゴニョゴニョと言っててよくわからなかったが雪歩の言う通りに離す。

 

「それでは起動をしてみるでござるよ」

 

朔乃に促されて、起動シークエンスを開始する。

開いたままの走行が閉じて操縦者をロックすると、静かに起動音を響かせて打鉄が姿勢を正した。

 

「では次に―」

 

 

 

 

 

朔乃とは別の班の簪は偶然にも見てしまった。

朔乃が女子をお姫様抱っこしてISに乗せようとしているところを。

 

『つっ!』

 

それを見た簪の胸にチクリと疼くような痛みが走る。

この痛みを感じるのは既に二度目。

そこでようやく簪は自分の気持ちを悟った。

『ああ…そうか…私はやっぱり朔乃の事を…』

 

好きなのだと…。

 

 




前話から2ヶ月近くかかりようやく十二話です!!
二巻中頃です!
IS二期が始まるのに全然進んでない…orz
放送中になんとか原作に追いつけるように加速していきます!


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第十三話 『闇と光』

暗い。どこまでも続く深い闇に彼女はラウラ・ボーディウィッヒはいた。

彼女にとってその人物―織斑千冬は闇の中にあった自分にとって光のような存在であった。

初めて出会ったときにその強さに恐怖と感動と歓喜に心が震えた。

胸が熱くなり千冬のように強くありたいと願った。

空っぽだったラウラにとって絶対にして完璧の存在。

故にこそ彼女には千冬に汚点を残させた織斑一夏と影宮朔乃を許せない。

(排除する。どんな手段を用いたとしても………)

暗い闘志に火を放ちラウラは静かにまぶたを閉じる。

闇へと潜り込むようにラウラは夢のない眠りへと落ちていった。

 

 

「そ、それは本当ですの!!」

 

「う、嘘じゃないでしょうね」

 

教室へ向かう朔乃は同室の一夏と共に廊下でそんな会話を耳にする。

 

『ああ…成る程でござる…』

 

月末に行われる学年別トーナメント。

 

それに優勝すれば一夏と交際できるという噂が流れているのだ。

情報源は原作と本音からである。

「なんだ?」

 

そんな噂を知らぬ存ぜぬな一夏は目を瞬かせる。

この場で一夏に噂の事を教えたらどんな態度を取るだろうっと朔乃は考えるがあえてそれをしないで首を傾げて「何でござろう?」っと答える。

理由は単純、面白そうだからだ。

 

『って…最近、楯無殿に毒されてきてるでござるなー』

 

更識家の用事で時折楯無に呼び出されることもあり、楯無の性格が朔乃の性格を浸食しているような気がするのだ。

 

そんなことを考えながら教室に入ると鈴が声高らかに言葉を繋いだ。

 

「本当なんだってば!この噂、学園中で持ちきりなのよ?月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君と交際でき―」

 

「俺がどうしたって?」

 

「「「きゃあああっ!」」」

 

鈴のセリフの自分の名前が出てきたことに一夏が女子の会話へと入り込む。

それと同時に返ってきたのは取り乱した悲鳴であった。

 

 

「おいおい、どうしたんだよ?悲鳴なんかあげて??…でっ何の話をしてたんだ?俺の名前が出ていたような気がするが?」

 

「うん?そうだっけ?」

 

「さ、さぁどうだったかしら?」

 

あたふたとしながら話を逸らそうとするセシリアと鈴。

そこにちょうど良いタイミングで予鈴が響く。

 

「じゃ、じゃああたし自分のクラスに戻るから!」

 

「そ、そうですわね!わたくしも自分の席につきませんと」

 

どこかよそよそしい様子で二人はその場を離れていく。

その流れに乗るように何人か集まっていた他の女子達も自分のクラスや席へと戻っていく。

 

「…なんなんだ?」

 

「とりあえず、席に着いた方が良いでござるよ」

 

首を傾げる一夏に朔乃は忙々と自分の席へと向かった。

 

 

 

その日の放課後―朔乃は一夏と共に第三アリーナへと向かっていた。

学年別トーナメントに向けて機体の調整などを行うためである。

 

「確か今日は使用する人数が少ないはずでござるから模擬戦も可能で…ぬっ?」

 

そこまで話したところで朔乃はアリーナ付近が慌ただしい事に気づく。

先ほどから廊下を走ってアリーナへと向かう生徒も多い。

その中で見知った人物を見つける。

 

「箒!アリア!シャル!!」

 

一夏も三人の姿を見つけたらしく声をかける。

 

「一夏!朔乃!」

 

三人の中の一人。

箒がこちらに気づき足を止める。

他の二人も同じように足を止めているがいつでも走り出せる体制を取っている。

 

「何があった?」

 

「鈴とセシリアがあの転校生と模擬戦をやっているらしい」

 

転校生―とは恐らくラウラの事だろうと朔乃は思い至る。

 

「急ぐでござる!何か嫌な予感がするでござるよ!!」

 

朔乃がそう叫ぶと同時に人ごみを掻き分けて走り出す。

それと同時に何かの爆発するような大きな音が響いた。

 

「ちっ!」

 

制服姿のまま黒鉄を展開した朔乃がアリーナへと到着した時にはワイヤーブレードで二人の体を拘束し、一方的な暴力を行っている最中であった。

 

既に鈴とセシリアのシールドエネルギーはデッドゾーンに突入しようとしていた。

 

「うおぉぉぉっ!」

 

それでも未だ攻撃を続けるラウラに朔乃は纏雷を作動させてラウラに肉薄する。

 

「早い…だが…動きが直線的すぎる」

 

「ぐっ!」

 

ラウラへと攻撃を仕掛けようとした朔乃だがその動作の最中に動きが止められ、朔乃が纏っていた纏雷も消失する。

シュバルツェア・レーゲンのPICだ。

辛うじて目を動かしてシャルルと一夏が鈴達をアリーナの端まで連れて行き介抱をしているのが見えた。

 

「ふん、雑兵を助けたか…。

だが…やはり敵では無いな。この私とシュバルツェア・レーゲンの前では貴様も有象無象の一つでしかない。消えろ!」

 

肩に装着された大型のレールガンが動き朔乃へと狙いをつける。

 

「させると思った!?」

 

だがそれよりも早く赤い閃光がシュバルツェア・レーゲンを呑み込む。

アリアの機体ラファール・カドラが放った緋弾だ。

 

「ぐっああああああ!!」

 

苦悶の声を上げながらラウラはPICを解除し瞬時加速で射線から退避する。

 

「貴様ら…よくも!!」

 

憎々しげにラウラが朔乃を睨みつけ、腕にプラズマブレードを出力させる。

アリアの緋弾でシュバルツェア・レーゲンのシールドエネルギーは八割以上削れていたがその目にはまだ戦意が残っていた。

 

「その位にしておけボーディウィッヒ…」

 

だが、その場に乱入してきた第三者によりラウラは腕に出力したプラズマを消す。

即ち―織斑千冬の乱入によって。

 

「模擬戦をやるのは構わん―が、相手にデッドゾーンを超えてダメージを与えるのは些かやりすぎだ。

かの戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

千冬の言葉に朔乃、ラウラ、一夏、シャルロット、箒が頷く。

 

「では、学年別トーナメントまで死闘の一切を禁止する。以上!」

 

千冬が強く手を叩き、アリーナ内の全ての生徒に向けてそう叫んだ。

 

幸いと言うべきか鈴とセシリアが負った怪我は打撲で済んだとのことでシャルロットはほっと胸を撫で下ろす。

もちろん、二人の事も心配ではあるがシャルロットにはもう一人心配すべき人物がいた。

その人物とは言うまでもなくラウラである。

妾の子と言うことで虐げられてきた彼女は何となくだがラウラの黒い感情のようなものが一瞬だが垣間見たような気がしたのだ。

別に自分がニュータイプだとかそういうものではないのだがラウラの事を放っておけないのだ。

だからこそ、学年別トーナメントがタッグ戦になった事は彼女にとって僥倖と言えた―。

 

 




ある者は師の汚名を晴らす為に、ある者は自分と似た者を暗い闇から救うために…学年別トーナメントへと挑む!


前回から1日間が空いての投稿となります。
ヤバいくらいに神が降りてきてます。
灰音穂乃香です。
次の話も早くupできるように頑張りますー。
それにしてもシャルロットが良い子すぎてかわいいよシャルロット


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第十四話 『ファインド・アウト・マイ・マインド』

六月も最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色となる。

こうして第一回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導度を行っていた。

それから解放された生徒たちは急いでアリーナの更衣室へと向かうのだ。

 

「しかし、すごいなこりゃ…」

 

更衣室のモニターから観客席の様子を見て一夏が呟く。

そこには各国政府関係者、研究所員、企業のエージェント等のそうそうたる面々が一堂に会していた。

 

「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているでござるからな。

一年には今のところは関係ないようでござるが、それでもトーナメント上位入賞者には早速チェックが入るでござろう」

 

「ふーん、ご苦労なこった」

 

っと、一夏は興味なさげに言う。

 

「一夏殿はボーデヴィッヒ殿との対戦だけが気になっているようでござるな」

 

「まあ、な」

 

鈴とセシリアはやはりトーナメント参加の許可は下りず、今回は辞退せざる得ない状況になっていた。

二人は国家代表候補生でありその中でも選りすぐりの専用機持ちである。

それがトーナメントで結果を出すどころか参加すら出来ないというのは、二人の立場を悪くする要因になるだろう。

 

「自分の力を試せもしないのは、正直つらいだろ」

 

先日の騒動を思い出して一夏が拳を強く握りしめる。

 

「あまり感情的になるではござらん、彼女はおそらく一年の中では現時点で最強の対戦相手になるでござろうからな。

さて、そろそろ対戦表が決まる頃でござる。」

 

どういう理由かは不明だが、突然のペア対戦への変更がなされてから従来まで使っていたシステムが正しく機能しなかったらしく、本来なら前日には出来るはずの対戦表も今朝から生徒たちが手作りの抽選クジを作っていた。

 

「一年の部、Aブロック一回戦一組目なんて運がいいよな」

 

「そうでござるか?」

 

「待ち時間に色々と考えなくても済むだろ。こういうのは勢いが肝心だ。

出たとこ勝負、思い切りの良さで行きたいだろ」

 

「ふっ、一夏殿らしいでござるな

ぬっ、対戦相手が決まったようでござるな」

 

モニターがトーナメント表へと切り替わり、朔乃と一夏はそこに表示される文字を食い入るように見つめる。

 

「―え?」

 

「―ぬ?」

 

出てきた文字を見て、朔乃と一夏は同時にポカンとした声をあげた。

一回戦の対戦相手はラウラとシャルロットのペアだったからだ。

 

 

「一戦目で当たるとはな。

待つ手間が省けたというものだ」

 

「そりゃ何よりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」

 

ピリピリとした空気がアリーナに流れる中一夏とラウラがそう言葉を交わす。

 

試合開始まで後五秒。四、三、二、一 …開始。

 

「「叩きのめす」」

 

一夏とラウラが同じ言葉を放つと同時、先ず動いたのは一夏、そして朔乃であった。

一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)を連続使用しながらラウラの側面へと回り込む。

 

「おおおっ!」

 

「ふん………」

 

だがラウラもそれを読んでいたかのようにAICを作動させて一夏を捉える。

 

「一夏殿!」

 

「おっと!余所見してたら駄目だよ!!」

 

一夏同様に朔乃もまた対戦相手―シャルロット・デュノアに苦戦していた。

デュノア社第三世代IS『ラファエル』―その一番の特徴と言うのがAICを応用した三次元機動‐空間跳躍‐である。

これは任意の空間をAICで固定、足場とする事で可能となるものでありこれに加えて高速切替(ラピッド・スイッチ)で銃器を高速展開させる事で可能となる弾幕に朔乃は苦戦しており防御の一手であった。

 

『敵ISの大型レール砲の安全装置解除を確認、初段装填―警告!

僚機のロックオンを確認―警告!』

 

シャルロットの銃弾を捌きながらハイパーセンサーから警告音が響く。

しかし、その直後に

『『フォトンブラスター』上空への配備完了』っとのバイパーセンサーが告げる。

ラウラ達もそれについて気づいたようだがもう遅い。

纏雷を発動させて一夏へと向かうと彼を捕まえて再加速、ラウラから距離を取り電磁フィールドを展開。

直後に上空に展開させた総数90にものぼる小型のプラズマスフィアがアリーナへと一斉に降り注いだ。

 

時間は対戦組み合わせが発表された直後にまで遡る。

 

「参ったな…ラウラだけでもやっかいなのにその上、シャルロットと組むとは…」

 

渋面を作りながら一夏が呻く。

確かにラウラのPICだけでも厄介なのにその上、シャルロットの機動力が加わるのだ、一夏のような顔にもなるだろう。

 

「一夏殿、方法は無いことは無いでござる」

 

「あるのか!?」

 

一夏が目を見開いて朔乃を見る。

そんな一夏に朔乃は首を縦に振り頷く。

 

「実は拙者の黒鉄には広域殲滅用の武装が使用可能なのでござるが、使用するためには高い演算と時間を必要とするのでござる」

 

「時間ってどれぐらいいるんだ?」

 

「三分…纏雷を使用しなければ一分といったところでござる。

問題は纏雷を使用していない状況では装甲が紙のように薄い状況になりアサルトカノン一撃でやられるでござる―」

 

分の悪い賭けになるでござるよー。

っと続ける朔乃に一夏はニヤリと笑みを浮かべて言った。

 

「良いぜ、分の悪い賭けは嫌いじゃない」

 

「そう言うと思ったでござる」

対する朔乃もまた、笑みを浮かべていた。

 

 

 

そして時間は再び、今へと戻る。

「どうやら賭けは拙者達が勝ったようでござるな」

 

いくら三次元機動を用いたとしてもフォトンブラスターによる面制圧攻撃を回避することは出来なかったらしくラファエルのシールドエネルギーは底をつき、シュヴァルツェア・レーゲンの方もシールドエネルギーは僅かな状態であった。

 

「ぬ?」

 

端から見たならばチャンスとも取れる状況であるが朔乃は大きな違和感を感じていた。

高速機動が売りのラファエルですらもフォトンブラスターを避けることが出来ずにシールドエネルギーを全耗しているのに、シュヴァルツェア・レーゲンにシールドエネルギーが残っていることはおかしいのだ。

 

もともと、原作のようにシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されたVTシステムを発動する前に決着をつける為に放ったフォトンブラスターであるがラウラはそれをどういう方法を使ったのか回避したようだった。

 

「まさか…」

 

朔乃の嫌な予感がよぎる。

 

瞬間ー

 

「あああああああっ!!!!」

 

突然、ラウラが絶叫を発し、シュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃を放ちながらその姿を変質させる。

装甲がどろどろしたものになり、ラウラの全身にを包み込む。

黒い、深く濁った闇がラウラを飲み込んでいった

 

「なんだよ、あれは…」

 

ほぼ無意識に一夏がそう呟く。

恐らく、朔乃を除いた全ての人間が同じ事を思っているだろう。

シュヴァルツェア・レーゲンだったものはラウラの全身を包み込むとその表面を鼓動のように脈動を繰り返し、ゆっくりと地面に降りる。

それが大地に立つと高速で全身を変化、形成していく。

そしてそこに立っていたのは黒い全身装甲ISに似た何かであった。

だがその形状は道元の炎帝とは全く違う。

ボディラインはラウラのそれをそのまま表面化した少女のそれであり、最小限なアーマーが腕と脚につけられている。

そして頭部にはフルフェイスアーマーに覆われ、目の箇所には装甲の下にあるラインアイ・センサーが赤い光を漏らしていた。

そしてその手に握られている武器を見て一夏が目を見開いて呟く。

 

「《雪片》……!」

 

それはかつて千冬が現役時代に振るっていた武器の名であることを朔乃は思い出す。

 

「てめぇ!」

 

一夏は怒ったように《雪片弐型》を握りしめて、構えると黒いISへと向かっていく。

刹那、黒いISが居合いに見立てた刀を中腰に引いて構え、必中の間合いから放たれる必殺技の一閃。

それは紛れもなく千冬の太刀筋だ。

 

「ぐうっ!」

 

一夏の構えた《雪片弐型》が弾かれる。

そしてそのまま上段へと構え、落とすような残激を繰り出す。

 

「!」

 

刀で受けるのは間に合わない。

一夏は白式に『後方回避』の緊急命令を送る。

千冬ね戦術を知っていたからこそ、避けることができたのだ。

一夏は再度、《雪片弐型》を構えようとした、瞬間。

ワイヤーのようなものが白式に絡まり思いっきり引っ張られる。

それと同時に、十発程のプラズマスフィアが黒いISに飛来する。

朔乃が放った誘導性のプラズマスフィアだ。

完全に死角からの攻撃、直撃は免れないかと思われたが黒いISは驚くべき方法でそれを回避する。

空中へと跳躍すると再び、何もない空間を蹴り左右から迫っていたプラズマスフィアの同士討ちを狙う。

 

「そんな!空間跳躍!!!」

 

驚愕した表情でシャルロットが叫ぶが朔乃はあまり驚かない。

ラファエルとシュヴァルツェア・レーゲン、どちらも空間を固定する能力を持っている。

シュヴァルツェア・レーゲンが《空間跳躍》を使えても何ら不思議は無い。

 

『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒は速やかに避難すること! 繰り出す!』

 

「どうするの?多分、一撃でも当てれば終わるだろうけど《空間跳躍》が使えるって事はそう簡単に攻撃を喰らってはくれないよ?

それとも先生に任せる?」

 

シャルロットがアナウンスを聞いて不安そうに言う。

当然のことながら一夏は首を横に振ると朔乃を見る。

 

「朔乃、あいつの動きを止められるか?」

 

「お安いご用でござる!」

 

朔乃は一夏に答えると《纏雷》を発動させ黒いISに向かう。

同時に黒いISは朔乃の存在に気づいたのか腰を落とした居合いの体制を取る。

朔乃は右手に小太刀を展開すると左手に雷撃を集める。

黒いISの間合いに入ると同時に刀が振り抜かれる。

朔乃はそれを小太刀で受け流すと雷撃を黒いISへと打ち込む。

あくまでも黒いISの動きを止める事が目的のため威力は低めだ。

 

「一夏殿!」

 

叫ぶと同時に朔乃が一夏と入れ替わり、縦に黒いISを切り裂く。

紫電が走り、黒いISが真っ二つに割れる。

そして、気を失うまでの一瞬だけ眼帯が外れて露わになった金色の左目が朔乃と一夏の姿を捉えた。

それ捨てられた子犬のように酷く弱っていたように感じた。

 

 

 

結局のところ、トーナメントはヴァルツェア・レーゲンに搭載されていたVTシステムの暴走により、中止。

優勝して一夏との交際を狙っていた女子達が酷く落胆していたのは言うまでもない。

 



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第十五話 『海に着いたら11時!』

「海っ!見えたー!」

 

トンネルを抜けたバスの中でクラスの女子が楽しげな声を上げた。

現在、昨乃達IS学園一年生の面々は臨海学校で海へと向かっていた。

 

「……」

 

「簪殿?気分が優れぬのでござるか?」

 

浮かれた空気の車内で昨乃は隣の席で俯いている簪に気づく。

 

「ううん………平気…何でも…ない」

 

そんな昨乃にそわそわと落ち着かない様子で答える簪。

 

『車酔ではないようでござるがどう言うことでござろう?』

 

っと疑問符を浮かべる昨乃であるが旅館に着い為にその思考は中断せざる得なかった。

 

 

一夏と共に教員であるところの千冬と麻耶の部屋の隣へと荷物を起き昨乃は一足早く海へと向かっていた。

ちなみに千冬達の部屋の隣である理由は言うまでもなく就寝時間を超えて女子達が遊ぶに来る可能性があったからである。

また、一足早く海へと向かったのは多少浮かれていたからでもある。

前世で通っていた学校…即ち、半蔵学園でも臨海学校はあったのだが昨乃が転入してきた時には行われた後だったりするのだ。

 

そんな事もあり、昨乃にとっては臨海学校は今回が初めての体験であるのだ。

 

ウキウキ気分で別館の更衣室…その一番奥の部屋へと昨乃は向かうと手早く着替えて海へと出る。

 

「あ、影宮くんだ!」

 

「う、うそっ!

わ、私の水着変じゃないよね!? 大丈夫だよぬ!?」

 

「わ、わー、腰細いー。 ハグしてもいい?」

 

「影宮くーん、あとでビーチバレーやろうよ~」

 

「時間があればよいでござるよ」

更衣室から浜辺へ出て直ぐに隣の更衣室から出てきた女子数人と出会う。

全員、可愛い水着を身につけていて、その露出に少しだけ照れる。

 

背筋がむず痒くなるような感覚を覚えながら砂浜に足を踏み出す。

 

「あちらっ」

 

照りつける太陽が熱した砂に足の裏を焼く感覚をどこか新鮮に感じられた。

任務以外で海へ来るのは初めての経験だったからだ。

足裏に感じる熱に爪先立ちになりながら、波打ち際へと向かう。

ビーチには既に多くの女子生徒が溢れており、肌を焼いていたりビーチバレーをしていたり、さっそく泳いでいたりと自由時間を満喫していた。

着ている水着も色とりどりで、ある意味七月の太陽よりも眩しく感じられた。

 

「にゃっほー!昨ちゃーん!!」

 

海に入るために柔軟体操を始めた昨乃に後ろから声をかけたはキツネの着ぐるみ(防水仕様)を着た本音であった。

そして彼女の後ろにで気恥ずかしげにしている簪の姿が見えた。

 

「さあ!カンさん!!昨ちゃんに君の水着姿を見せて籠絡してやるのだ!」

 

『ああ…成る程でござる…』

 

本音の言葉に昨乃はバスの中で簪の様子がおかしかった理由を理解した。

昨乃に自分の水着姿をみせるのが恥ずかしかったからだ。

 

身体をもじもじさせている簪にそう呼びかける本音。

 

「ちょ…本音…恥ずか…しい」

 

今にも消え入りそうな声で宣いながら簪は本音の背後からゆっくりとした足取りで出てくる。

 

簪が着ていたのは青いバンドゥビキニである。

どこか落ち着いた印象の水着は控え目な正確の簪には非常に良く似合っていた。

 

「どう…かな?」

 

恐る恐る尋ねる簪。

 

「その…凄く…似合ってるでござるよ…」

 

そんな簪に昨乃も気恥ずかしげにそう答える。

 

 

「二人ともラブラブだね~」

 

ニヤニヤした顔で宣う本音に昨乃と簪はハッとなる。

本音以外にもクラスの女子達がホクホク顔で昨乃達のラブい雰囲気を見ていたのであった。

 

 

 

その後、アリア(真紅のタンキニ着用)と本音、クラスの女子達を交えたビーチバレーをしたり、一夏、鈴と共に泳いだり、豪華な食事に舌鼓を打ったり、温泉を堪能したりして臨海学校初日は終了した。

 

 

 




随分と遅くなりました、灰音です。
原作三巻の福音編第一話をお送りします。
次回はもう少し早くup出来ればと思っています。


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第十六話 『紅椿』

合宿二日目には午前中から夜まで丸1日ISの各種装備試験運用やデータ取りが行われる。

 

「さて、せれでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。

専用機持ちは専用パーツのテストだ。

各自、迅速に行え」

 

ハーイ、と一同が返事をする。

現在、昨乃達一年生がいるのはIS試験専用のビーチである。

ここに搬入されたISと新型装備のテストが今回の合宿の目的である。

 

 

「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

 

「はい」

 

打金用の装備を運んでいた箒は、千冬に呼ばれてそちらへと向かう。

 

「お前には今日から専用―」

 

「ちーちゃ~~~~~ん!!!」

 

千冬の言葉を遮り猛スピードで走ってきた人物は誰と尋ねるまでもない。

 

篠ノ之束である。

 

「会いたかったよ、ちーちゃん! さぁ、ハグしよう! 愛を確かめ―ぶへっ」

 

ルパンジャンプしながら飛びかかってきた束の顔面を千冬が片手で掴む。

 

「うるさいぞ、束」

 

「ぐぬぬぬ…相変わらず容赦ないアイアンクローだねっ」

 

千冬ね拘束から抜け出した束は着地すると箒の方を向く。

 

「やあ!」

 

「……どうも」

 

「久しぶりだね。

こうして会うのは何年ぶりかなぁ。

おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいがって…痛い!ちーちゃん!! 日本刀の鞘は!流石に痛いよ!!! ひどい!箒ちゃんひどい!」

 

セクハラ発言をした束の頭部を箒が日本刀の鞘で叩く。

頭を抑えながら涙目で訴える束。

そんな二人のやりとりを、一同は呆けた表情で眺める。

 

「え、えっと、このが合宿では関係者以外―」

 

「んん?珍妙なことを言うね。

ISの関係者というなら、一番は開発者の束さんをおいて他にいないよ」

 

「えっ、あっ、はいっ。

そ、そうですね………」

 

束の言葉に真耶は口を閉じる。

 

その言葉に今まで呆けていた一同は、やっと目の前の人物がISの開発者であり天才科学者・篠ノ之束だと言う事に気づき騒がしくなる。

 

「一年、手が止まっているぞ。こいつの事は無視してテストを続けろ。

何かわからないことがあるなら山田先生に尋ねろ」

 

「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

 

「うるさい、黙れ」

 

「あの…それで…頼んでおいたものは………?」

 

そんな旧知の間柄である二人のやりとりに躊躇いがちに箒が尋ねる。

 

「うっふっふっ。

それはすでに準備済みだよ。

さあ、大空をご覧あれ!

来い!ガン●ーム!!!」

 

束音が直上を指差すと同時にどこぞのガンダムファイターのように叫ぶ。

その言葉に従って箒も、他の生徒たちも上空を見上げる。

 

「ぬおっ!?」

 

それと同時に激しい衝撃を伴いながらMSの強襲ポッドのような形状の金属の塊が砂浜に落下した。

銀色のそれは次の瞬間には正面らしき壁が倒れてその中身の真紅の装甲を覗かせる。

 

「これこそが箒ちゃん専用IS『紅椿』!

全スペックが現行ISを凌駕する束音さんの特性ISだよ!」

 

真紅の機体は、束の言葉に応えるように動作アームにより外へと出てくる。

 

「さあ!箒ちゃん、今からフィッテングとパーソナライズを始めようか!

私が補佐するからすぐに終わるよん♪」

 

「…それでは、頼みます」

 

「堅いよ~。実の姉妹なんだからもう少し軽くいこうよ~」

 

「はやく、始めましょう」

 

とりつく島もなく、箒は束の言葉に取り合わずに行動を促す。

 

「ん~。まあ、せうだね。始めようか」

 

言いながら束はどこからかリモコンを取り出してボタンを押す。

同時に紅椿の装甲が割れて、操縦者を受け入れる。

 

「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるから、あとは最新データに更新するだけだね~」

 

コンソールを開いて指を滑らせる束。

さらに空中投影型のディスプレイを六枚ほど呼び出すと表示される膨大なデータに目を通していく。

それと同時進行で、同じく六枚呼び出した空中投影のキーボードを叩いていった。

 

「近接戦闘を基礎に万能型に調整してあるから、すぐに馴染むと思うよ。

あとは自動支援装備もつけておいたからね!」

 

「それは、どうも」

 

っと、束の言葉へ素っ気なく応える箒。

 

だが束もそんな箒など気にせずに話を続ける。

 

「箒ちゃん、また剣の腕前があがったねぇ。筋肉の付き方をみればわかるよ」

 

「……………」

 

「ありゃりゃ、無視されちった。

―っと、フィッテング終了~」

 

等と無駄話をしながらも束の手は休まずにキーボードを走らせ、秒単位で切り替わる画面を処理している。

 

「あの専用機って、篠ノ之さんがもらえるの………?

身内ってだけで」

 

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

 

っと、群衆の中から聞こえてきた声に反応したのは束である。

 

「おやおや、歴史の勉強をしたことがないのかな? 有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ」

っと、ピンポイントに指摘を受けた女子は気まずそうに作業に戻る。

 

それをどうでも良さげに調整を続ける。

 

それも、直ぐに終わり、束は並んだディスプレイを閉じていく。

「あとは自動処理に任せておけばOK牧場っと。

あ、いっくん、さくちゃんIS見せてー」

 

全部のディスプレイとキーボードを片付けて、束が一夏と朔乃の方を向く。

 

「え、あ。はい」

 

「良いでござるよ」

 

 

頷くと二人はISを…一夏は白式を、朔乃は黒鉄を展開させる。

 

「データ見せてね~。うりゃ」

 

言いながら、束は白式と黒鉄にコードを刺す。

すると、先ほど同様に同じようなディスプレイが空中へと浮かび上がる。

 

「ん~………二人とも不思議なフラグメントマップを形成してるねー。

何でだろ?

二人が男の子だからかな?」

 

「束さん、そのことなんだけど、どうして男の俺がISを使えるんですか?」

 

「ん~…どうしてだろうね?

私にもさっぱりだよ。

ナノ単位まで分解すればわかると思うんでけど…」

 

「お断りします!」

 

「お断りするでござる」

 

束がセリフを言い終わるよりも早く、一夏と昨乃が答える。

 

「にゃはは、そう言うと思ったよ…。

っと、紅椿の処理が終わったようだね。

んじゃ、試運転を兼ねて飛んでみてよ。

箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだから」

 

「それでは試してみます」

 

空気の抜けるような音と共に紅椿に接続されたケーブル類が外れていく。

それから箒が瞼を閉じて意識を集中させると、次の瞬間に紅椿はもの凄い速度で飛翔する。

急加速の衝撃で舞い上がる砂煙が上がる。

それから箒の姿に追うと、二百メートルほど上空で滑空する紅椿の姿を捉える。

 

「どうどう?箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」

 

「え、ええ、まぁ…」

 

楽しげに話す束と少し困惑したような箒の会話がオープンチャンネルを通して聞こえてきた。

 

「じゃあ、刀を使ってみよう。

右が天月、左が空裂ねー。

武器特性のデーターを送るよー」

 

言ってから空中に指を踊らせる束。

武器データーを受け取った箒は慣れた動作で二刀を抜き放ち、天月で突きを放つ。

 

同時に周囲の空間に赤いレーザー光が幾つもの弾丸となって現れて雲を穿つ。

 

「ではこいつを撃ち落としてみよう~」

 

言いながら束は十六連装ミサイルポッドを呼び出し一斉に撃ち出す。

 

「箒!」

 

「―やれる!この紅椿なら!」

 

その言葉の通り、空裂を一回転するように振るい、赤いレーザーを帯状に撃ち出してミサイルを撃ち落とす。

 

『実際に見ると凄いものでござるな…』

 

圧倒的なスペックの紅椿に昨乃は息を呑み言葉を失う。

昨乃だけではなく、 その場にいる全員が言葉を失っていた。

 

そんな中―

 

「たっ、大変です!織斑先生っ!」

 

一同の沈黙を破ったのは手元の小型端末を見て慌てふためいた声を上げた真耶だった…。

 

 




前回から一週間程経って福音編二話目を上げさせていただきますー


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第十七話 『銀の福音』

原作同様に真耶が慌てていた理由はアメリカとイスラエルが共同開発した軍用IS『銀の福音』が暴走した為であった。

現在、音速飛行中の福音を撃墜するためには一撃でしとめねばならぬ為に白式の零落白夜を用いる事となり、また、その運搬の為にパッケージのインストール無しに超音速飛行が可能な紅椿を用いることが決まったのだ。

 

万が一、 一夏と箒が失敗した場合に備えて昨乃も二人に同行する事になった。

黒鉄もまた纏雷を用いる事によって超音速飛行を行う事が可能だからだ。

 

そして時刻は作戦開始時刻である十一時半。

「来い、白式」

 

「行くぞ、紅椿」

 

「黒鉄、展開」

 

僅かに距離を起きながら並び立った三人はISを展開させる。

 

「じゃあ、箒。よろしく頼む」

 

「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」

 

作戦の性質上、移動は完全に箒任せとなっているために白式が紅椿の背に乗るような形になるのだ。

 

やはりと言うか、昨乃自身も多少は危惧をしていたのだが箒の方は自分専用の機体が手に入って少しばかり浮かれているように思えた。

 

『織斑、篠ノ之、影宮、聞こえるか?』

 

ISのオープンチャンネルを通じて千冬の声が耳に入る。

 

『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心掛けろ』

 

「了解」

 

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

 

『そうだな。だが、無理はするな。

お前はその専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。

突然、何かしらの問題が出るとも限らない』

「わかりました。できる範囲で支援します」

 

箒の口調は一見落ち着いているような返事だが昨乃にはどこか浮ついているように聞こえてならなかった。

 

『―織斑、影宮』

 

 

「は、はい」

「はい」

 

オープンチャンネルではなく、プライベートチャンネルで入った千冬からの通信に昨乃と一夏も回線を切り替えて返事をする。

 

『どうも篠ノ之はうかれているようだな。

あんな状態ではなにかをし損じるやもしれん。

いざと言うときにはサポートをしてやれ』

 

「わかりました」

 

「了解でござる」

 

『頼むぞ』

 

それからまた回線はオープンへと切り替わり、千冬が号令をかけた。

 

「では、はじめ!」

 

その声と同時に箒が背中に一夏を乗せたままで一気に上昇、加速する。

 

昨乃も同様に纏雷を発動させて二機を追いかけ始めた。

 

 

 

「見えたぞ、一夏、昨乃!」

 

出撃して数分後、頬の声に昨乃は気を引き締めて映し出された視覚情報として映し出される。

 

『銀の福音』の名の通り銀色の装甲、頭部から生えた一対の巨大な翼が特徴的であった。

 

朔乃の目前でスラスターと展開装甲の出力を上げて箒が福音との距離をつめる。

 

恐らく接触まで数秒とかからないであろう。

 

「うおおおっ!」

 

一夏が零落白夜を発動、同時に瞬時加速で間合いをつめる。

そのまま光刃が福音に触れようとした瞬間、速度を維持したまま反転、後退しながら身構える。

一方の一夏は既に攻撃のモーションを取っているために引くのは遅すぎる。

 

反撃が来る前に攻撃を仕掛ける。

 

だが…

 

「敵機確認。迎撃モードへ移行。《銀の鐘》、稼働開始」

 

オープンチャンネルら機械的な音声が聞こえると同時に福音が体を一回転させて零落白夜を回避する。

 

「箒!朔乃!援護を頼む!」

 

「任せろ!」

 

「了解にござる!!」

焦りながらも一夏は福音に切りかかる。

零落白夜の残り時間が少ないせいもあり大振りの一太刀を浴びせようとする。

 

だが、その隙を見逃す福音では無い。

 

スラスターの役割も担う銀色の翼、その一部が開き光弾が撃ち出されたのである。

 

「ぐうっ」

 

羽型のエネルギー弾を喰らい呻き一夏は後退する。

 

「箒と左右から同時に攻める。

朔乃、援護を頼むぞ」

 

「了解でござる!」

 

一夏と箒は複雑な回避運動を行いながらも連射を行う福音へと攻撃を回避、同時に反撃を行う。

 

対する箒も二刀流を駆使して福音を追いつめている。

 

福音に箒が距離を詰めて斬撃を放とうとする。

 

「La………♪」

 

だが甲高いマシンボイスと共にウィングスラスターがその砲門を開く。

総数は八十、データよりも多い。

 

その砲門から一斉に光の羽根が撃ち出される。

 

「しまっ!」

 

圧倒的な光弾の量に箒が声を上げる。

距離を詰めすぎた為に回避は間に合わない。

 

「箒!」

 

「フォトンランサー!」

 

一夏が叫ぶと同時に朔乃は展開を終えたそれを撃ち出して光弾を迎合、誘爆させる。

 

朔乃が撃ち出したのはに総数二十の誘導性の小型のプラズマスフィアだ。

 

フォトンランサー…フォトンブラスターの弾数を減らすことで誘導性を持たせた技だ。

 

「どういう事だ…データ上のものと武装が異なるだと!」

 

『福音を暴走させた何者かが新たにパッケージをインストールしたのでござろうな…。

っとなれば他に武装があったとしても不思議は無いでござる…』

 

叫ぶ箒に朔乃は疲弊した頭で考える。

誘導システムはほぼ思念操作に近いものであり、初めて用いたということもあり数瞬ほど反応が遅れる。

 

「朔乃!」

 

一夏の声に朔乃はハッとなる。

 

福音が右腕に展開したプラズマライフルを朔乃へと向けていたからだ。

 

既に指は引き金にかけられており今から纏雷を発動させたとしても回避は間に合わない。

 

「くっ…」

 

自分らしくないミスに呻く朔乃。

 

それと同時に福音が引き金を引き、ビームが発射される。

 

「ぐあああああっ!!」

 

「一夏っ!!」

 

「一夏殿!」

 

黒鉄にビームが当たる寸前、瞬時加速で朔乃と福音の間に割り込んだにビームが直撃した。




前回より一週間以上間が空きましたが福音編第四話をアップしますー


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第十八話 『挫折』

「…………」

 

旅館―朔乃にあてがわれた一室。

壁の時計は四時半を示している。

福音の攻撃を受けた一夏は既に三時間以上も意識不明の状態だ。

 

『拙者のせいでござる…』

 

歯噛みしながら朔乃はうつむく。

 

思えば転生前から任務で殆どミスを犯すことがなかった…。

 

それ故に自分の油断のせいで一夏が傷ついてしまった事が胸の奥深くに突き刺さる。

 

「いつまでそうしているつもりよ?」

 

客室の壁にもたれながらそう言ったのはアリアだ。

 

「アリア殿…」

 

惚けた表情で言葉を発した朔乃にアリアは歩み寄る。

 

「ラウラが福音の位置を特定したわ、あんたはいつまでそうやってしょげているつもり?」

 

「拙者は…戦えぬでごるよ…」

 

弱音を吐く朔乃にアリアが掴みかかる。

 

「あんたの前世に何があったかは知らないけど!甘えたことを言ってんじゃないわよ!!転生者!!

それ以前に専用機持ちはそんなワガママが許されないぐらい知ってるでしょうが…」

 

アリアのその言葉に朔乃は目を見開く。

 

「…まあ…それでも戦えないと言うなら私達だけで福音をぶっ倒すからあんたはその報告を待ってなさい」

 

ふん、っと胸を張りながら宣うアリア。

彼女の言葉に今までうなだれていた自分が無性に情けなく感じる。

 

「アリア殿…すまぬでござるな…後で必ず追いかけるでござるから先に行っておいてはくれぬか?」

 

「全く…いつまでもウジウジしてるんじゃないわよ…」

 

首をすくめながら笑みを漏らすアリア。

 

「ぬ?」

 

それと同時に部屋の入り口の方でに感じる人の気配に朔乃は立ち上がり襖を開ける。

 

………そこに立っていたのは簪であった…。

 

 

 

 

「すまぬしばらく一人にしては頂けぬか…」

任務から戻ってきた朔乃は生気の無い顔つき言って客室に引きこもってから既に三時間が経とうとしていた。

 

『朔乃…』

 

一夏が任務中に重傷を負ったと聞いた。

 

更織の家にいた時も朔乃は人一倍責任感が強かった…。

だから一夏の怪我についても責任を感じているはずだ。

 

『こんな時お姉ちゃんなら上手な言葉で慰める事ができるんだろうな…』

 

そのような事が出来ない自分が嫌になりそうだ。

 

「カンちゃーん」

 

等と考えていた簪に後ろから抱きついたのは本音である。

朔乃と一緒の部屋を出てから彼女の部屋で世話になっているのだ。

 

「サクちゃんのこと?」

 

本音の言葉に頷く。

普段からのんびりとしている彼女ではあるが割と察しがきくのだ。

「私…落ち込んでいる朔乃に何もしてあげる事が出来ない…」

 

俯く簪に本音は普段と変わらぬ笑顔で答える。

 

「何もしてあげられなくても側にいてあげるだけでも良いと思うよ~」

 

その言葉に簪は顔を上げる。

 

「ありがとう…本音、私…行ってくるね…」

そう言うと簪は立ち上がり朔乃の部屋へと歩き出した。

 

 

「…ラが福音の位置を特定したわ、あんたはいつまでそうやってしょげているつもり?」

 

『…この声は神崎さん?』

 

朔乃の部屋の前にまでやってきた簪は聞き覚えのある声に耳をそばだてる。

声の主は同じクラスの神崎アリアだ。

いけないと思いつつも簪は二人の会話に集中する。

 

「拙者は…戦えぬでごるよ…」

 

朔乃が吐いた弱音に簪は耳を疑う…。

 

朔乃がこのような弱音を放つとは思っていなかったからだ。

 

それと同時に朔乃がこうして弱い部分を見せるのが自分で無いことに些か嫉妬のようなものを覚える。

 

『って…私なに嫌な事を思ってるんだろう』

 

そんな自分に自己嫌悪していると部屋の障子が開き、朔乃が姿を現す。

 

「ごめん…朔乃…私…」

 

盗み聞きしていたようで申し訳無い気持ちになる簪に朔乃は首を横に振る。

 

「拙者もいつかは話さねばならぬと考えていたでござるよ…けどそれは今ではござらん」

「それはさっきの任務と織斑くんが意識不明なのと関係があるの?」

 

簪の問いに朔乃は頷く。

 

「わかった、なら必ず無事で戻ってきて…」

 

「もちろんでござるよ」

 

簪のその言葉に朔乃は力強く頷いた。

 

 

 



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第十九話 『武御雷‐タケミカヅチ‐』

朔乃とアリアが旅館をから福音のいるポイントへ向かったのは箒達が出発して五分が過ぎてからであった。

 

「それにしても…一体どこのどいつよ…福音の武装を入れ替えた奴は…」

 

等と言ったアリアのIS‐ラファール・カトラに装備されたパッケージは『アラストール』

高機動ブースターの左右に40mm連射型レールガン『フレイムヘイズ』と八発装填式のミサイルポッドを左右に装着させ、腕にはガトリングシールド、実体剣を左右の腰に一本づつ装備させた某種ガン●ムのIW●Pを思わせる武装である。

「恐らくは亡国機業の手の者の仕業で………」

 

「ござろう」と言いかけたところで朔乃は何かに気づき話すのを止めると雷をその身に纏う。

 

『『後方より高エネルギー反応!!』』

 

同時にハイパーセンサーからの報告に朔乃とアリアは散開する。

 

その直後に先ほどまで朔乃とアリアがいた場所に火線が走る。

 

「「!!!!」」

 

火線が放たれた方向を見ると赤い鎧武者ようなデザインのフルスキンタイプのISハイパーセンサーが捉える。

道元のIS『炎帝』だ。

接触まで三十秒もかからないだろう。

 

「アリア殿…すまぬが先に箒殿の所へ向かって頂けぬでござるか?」

 

「つっ!?そんな事が出来る訳が…」

 

「敵の狙いは恐らく福音でござる、ならば福音を倒してしまえば道元も引き上げるでござろう」

 

「わかったわよ…その変わりやられたら風穴空けるからね!」

 

そう言いながらアリアはブースターをふかして箒達の方へと向かう。

 

 

 

「さて…」

 

朔乃が小太刀を展開させると同時に目視でも炎帝が確認できる距離にまで近づいてきていた。

 

背中に大刀がある以外は以前に朔乃が戦ったものとは外見上の変化は無い。

だが、忍としての技量、剣術共に道元は朔乃を上回っている。

それ故に朔乃はこの戦いに死力を尽くすつもりであった。

 

「やはり我の前に立ちはだかるか…」

 

「当たり前でござる」

 

プライベートチャンネル越しの道元の言葉に答えると同時に道元は背中の大刀を抜き朔乃に切りかかる。

 

「お主の狙いは福音でござるな?」

 

大刀を小太刀で受け止めながら朔乃は道元に問う。

 

「ああ…上層部からの依頼でな…。

この依頼を果たすために貴様を排除させてもらう!」

 

道元が言うと同時に大刀が炎を纏い熱波がシールドエネルギーをジリジリと削っていく。

このまま鍔迫り合いをしていてはマズいと思った朔乃は蹴りを放ち距離を取ろうとする。

しかし、道元はその行動を読んでいたらしく片腕で蹴り足を掴み………

 

「…紅蓮腕」

 

「ぐぅぅぅ!」

 

道元が呟いた瞬間、爆炎が脚を包み込み朔乃の顔が苦痛に歪む。

 

「距離を取れば我に攻撃を当てられるとでも思ったか?

だがまぁ良い…」

 

そう言うと同時に道元が朔乃を放り投げる。

 

「くっ!」

 

朔乃は空中で大勢を整えながらプラズマスフィアを三十発形成し撃ち出す。

 

それに対して道元は数秒で火球を六十発形成、三十発をプラズマスフィアを迎撃。

爆風と爆炎がシールドエネルギーを削る。

更に追い討ちとばかりに残りの放たれ黒鉄に直撃する。

 

「あぁぁぁぁっ!」

 

与えられる痛みに声を上げる朔乃。

それと同時にシールドエネルギーがゼロになり海へと落ちていく。

 

「ふん、つまらぬ…死ね」

 

道元は大刀に炎を纏わせる。

 

「秘伝忍法・火具神‐カグツチ-」

 

そう道元が言うと同時に炎が渦を巻ながら朔乃へと撃ち出される。

 

シールドエネルギーがゼロとなった今、喰らえば命は無い。

 

『拙者は…死ぬのでござるか…?』

 

迫り来る絶望の炎に朔乃は目を瞑る。

 

『必ず…帰ってきて…』

 

刹那、簪のそんな声が朔乃の脳内に響く。

 

『否…このような所で死んではいられぬ!』

 

そう強く思った瞬間。

―戦闘経験値が一定量まで蓄積しました、120mm収束荷電粒子砲《御武雷‐タケミカヅチ‐》の使用が可能です。

 

っと言うマシンボイスが響く。

 

『スペックを確認している余裕は無い、この武装にかけるでござる!』

 

目前に迫る、炎に朔乃は御武雷を展開する。

 

Wガン●ムのバスターライフルに似た形状のそれを掴み、トリガーを引く。

 

眩い閃光とともに放たれたビームが火具神とぶつかり合って空中で激しい爆発を起こす。

 

「っぐ!」

 

それによって生じた爆風に吹き飛ばされた朔乃は海面へと激突、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「の…朔乃…」

 

「んっ…」

 

簪の声に朔乃は目を覚ます。

 

「簪…殿…?」

 

目の前には今にも泣き出しそうな簪の顔があった。

 

「道元は!?福音はどうなったで…あいっ!」

 

我に返りを起こした身体に走った激痛に朔乃は顔をしかめる。

 

「福音は無事に回収、フルスキンのISは所属不明機が回収し行方は不明だ。

それと無理をするな、絶対防御が働いたとはいえISが中破して全身を海面に打ち付けられたんだからな」

 

朔乃の質問に答え、そう言ったのは部屋の入り口にいた千冬であった。

 

「織斑先生…申し訳ないでござる…」

 

待機命令を無視して 出撃した事を謝る朔乃。

 

「謝るくらいなら今後はこのような無茶は控えろ…

更織、すまんが少し席を外せ。

あの赤いフルスキンISのパイロットについて聞かねばならぬからな…。

知っているのだろう?あのISのパイロットについて」

 

朔乃が起き抜けに言った言葉を聞いていたらしく千冬が問うてくる。

 

「織斑先生…出来れば私も同席させてはいただけないでしょうか?

朔乃はその…私の家族だから…」

 

珍しく食い下がる簪…。

そんな簪に千冬は肩をすくめる。

 

「まぁ…良いだろう、その変わりここで聞いたことは他言無用だぞ」

 

頷き簪は朔乃を見つめる。

 

「少々長くなるでござるよ…」

 

その真剣な眼差しに朔乃は自分が転生者であること、前世のこと、そして道元達悪忍のことを話し始めた…。

 

 

 

 




福音編筆了…。

次回は短編を執筆予定w


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第十九話 『朔乃・イン・ワンダーランド』

詳細ヘッダー

「ぬっ…」

 

朔乃が目を覚ますと土手のような場所で簪に膝枕されていた。

近くには沢が流れているらしく小川のせせらぎが聞こえてくる。

 

『これは…確か拙者は道元と戦って…』

 

混濁する記憶の中、朔乃は体を起こして周りを見回す。

 

簪の方は何やら漫画を読んでいて朔乃の方に気づいていない。

同時に着衣に違和感を覚えて首を下に巡らせる。

 

『なっ!?』

 

それと同時に朔乃は驚愕に目を見開く。

何故ならば朔乃の着衣はフリフリのロリータ系衣装となっていたのだ。

 

『これは…どういう事でござるか?』

 

混乱する頭で再度周りを見回しているとすぐ近くを束が走って行く。

 

束はスカートのポケットから懐中時計を出して「たいへんだ!遅刻しちゃう!!」と独り言を言いながら急いでいた。

 

『ぬ?…束殿あんなに急いで何処へ?』

 

衣装などについていろいろと気にはなっが、朔乃は束の後を追いかける。

すると束は何やら地面にできた大きな穴へと飛び込んでいく。

朔乃もまた、彼女の後を追いかけて穴へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

穴は深く朔乃は突起を足場にしながら底へとたどり着く。

そこには束の姿は無く一本道が続いていた。

束はその道を真っすぐ進んでいった可能性が高い。

朔乃はそのまま進み、束の後を追いかけて始めた。

 

それから暫く歩いていると森の入り口にたどり着く。

 

「朔ちゃーん」

 

それと同時に聞こえてきた声周りを見回すと頭上、木の上に猫の着ぐるみを着た本音の姿があった。

 

「ぬ? 本音殿?その格好はいった…」

 

「本音じゃないよ~、チェシャ猫だよ~」

 

「いやしかし…」

 

「チェシャ猫だよ~」

 

朔乃の言葉を途中で遮り本音は宣う。

 

このまま押し問答を続けていてもどうかと感じた朔乃は本音に別の質問を投げかける。

 

「拙者がここに来るまでに誰か来なかったでござるか?」

 

「うん、10分ほど前に白うさぎさんが慌てた様子で通っていったよ~。

多分、お城で開催される武踏会に行ったんだと思うよ~」

 

『舞踏会?』っと首を傾げる朔乃に本音が説明する。

 

「えっとね~、王子様が16歳になった誕生祝いとお嫁さん探しを兼ねたものらしいよ~」

 

そこまで話した所で本音がニヤリとそのかに笑みを浮かべる。

 

「そうだ!朔ちゃんも参加してみると良いよ」

木から降りて朔乃の手を握りながら宣う本音。

 

「いや…拙者は…って!?どこへ連れて行くつもりでござるか?」

 

「そんなのお城に決まってるよー」

 

「拙者は行くとは一言もいってごさらぬよ!?」

 

などと抗議する朔乃の声は当然のように無視され本音によってお城へと連行された。

 

 

 

「むー」

テーブルに並べられたら料理を摘みながら朔乃は眉間に皺を寄せていた。

 

その原因の最たるものが今彼の着る豪奢なドレスである。

 

自称チェシャ猫こと本音にお城へと連れてこられた朔乃は王子様の侍女を名乗る摩耶に拘束されてこの格好に着替えさせられたのだ。

 

『拙者…男なのに…』

 

「あの…」

 

思わず泣きそうになる朔乃は背後から聞こえる声に振り向く。

 

そこにいたのは王族っぽい衣装に身を包んだ一夏であった。

 

「よろしければ俺と一曲、踊ってくれないか?」

 

そう言って手を差し出す一夏。

 

『どうしようでござる…』

 

無碍に断っても、ダンスの誘いに乗ったとしてもややこしい事になるのは確実だ。

 

「「「「「ちょっと待ったー!!!」」」」」

 

どうやってお断りしようか考えていた朔乃であったが五人の少女の声がダンスホールに響く。

 

箒、鈴、セシリア、シャル、ラウラの五人だ。

 

「一夏!幼なじみの私を差し置いてそのような素性のわからぬ者をダンスに誘うとは何事だ!」

 

「一夏、一度痛い目に合わないとわからないらしいわね」

 

「一夏さん!ヒドいです…この私を差し置いて」

 

「一夏、少し頭…冷やそうか?」

 

「貴様は私の嫁としての自覚が足りぬ!」

 

等と五人が口々に言いながら一夏へとにじり寄る。

 

「えっと…頼む」

 

「ちょっ!一夏殿!!」

 

対する一夏はイグニッション・ブーストを発動させたかのようなスピードで会場を脱出する。

 

それと同時に五人の視線が朔乃へと集まる。

 

「貴様さえいなければ一夏は!」

 

「私を選んだはずなのに!」

 

「そうですわ!責任取って下さりまし!」

 

「いっぺん…死んでみる?」

 

「貴様は万死に値する」

 

などと言いながら五人は殺気立った目つきで朔乃へと詰め寄る。

 

「かっ、堪忍してつかてつかぁさい…」

 

っと言いながら朔乃は目を覚ます。

同時に視界へ入ってきたのはIS学園の天井と朔乃を膝枕した状態で眠っている簪だ。

 

 

 

「夢…でござるか?」

一人呟く朔乃は自分が眠る前のことを思い出す。

 

臨海学校から学園に戻った朔乃は簪に自分の前世について話したのだ。

 

少しばかり暗い雰囲気となったために朔乃がアニメや同人誌の事へと話題を転換。

 

話に盛り上がっていると急激に眠気と疲労が襲ってきた所までは何とか思い出せた。

 

そのまま眠ってしまった朔乃を簪が膝枕してくれてたのだろう。

 

『それならばもう少し良い夢でも見れれば良かったのでござったが…あー』

 

それと同時に朔乃はもう一つ思い出す。

 

自分が眠る前に簪と話していた同人誌の内容だ。

 

臨海学校に行く前に朔乃と簪が水着を買いに行ったついでに寄ったま●だらけ。

そかで簪が不思議の国のアリスを元ネタとした同人誌を買ったのだ。

その内容は不思議の国に迷い込んだアリスがその国の王子様に見惚れられてしまう物語だった筈だ…。

『それが一体どう転んだらあんな夢になるのでござろう』

 

苦笑しながら朔乃は気持ちよさそうに眠る簪を見る。

 

『簪殿は一体、どんな夢を見ているのでござれうな…』

 

その楽しそうな寝顔を見てそんな事を思うのであった。

 

 

 

 

 




二次創作であろうともプロットは必要なんだよ!

前回よりかなり遅れました灰音です。

不思議の国のアリスを元に短編を作ろうとしたらいつの間にか別の話になっていたりします。
キチンと筋道を立てて物語を作るのはやはり重要ですねー。


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第二十話『文化祭(前編)』

「私は更織楯無。

君たち生徒の長よ。

以後、よろしく」

 

九月、二学期に入り原作では文化祭に一夏を巡って争奪戦が起こる時期である。

現在、全校集会の真っ最中で講堂にて楯無がスピーチを行っている。

 

「さて、今月の一大イベントの学園祭だけど、今回限定で特別ルールを採用しようと思いますその内容はー」

 

楯無が扇子を取り出して横へとスライドさせる。

 

それと同時に浮かび上がるのは空間投影ディスプレイだ。

 

「名付けて、『各部対抗織斑一夏争奪戦』!」

 

小気味の良い音と共に扇子が開く。

 

それに合わせるようにディスプレイには一夏の写真が映し出される。

 

「え……」

 

「ええええええええ~~~~~~っ!?」

 

ぽかんと口を開ける一夏。

 

大して割れんばかりの叫び声を上げる女子勢。

 

「静かに。

今まで学園祭では毎年各部活動ごとに催しものを出し、それに対しての投票を行い、上位組には部費に特別助成金が出る仕組みでした。

しかし、今回はそれではつまらないと思い―――」

 

扇子で一夏を指す楯無。

 

「織斑一夏を、一位の部活動に強制入部させましょう!」

 

「ちょっ…」

 

何か言いたそうな一夏であったがその声も湧き上がった歓声に打ち消されて黙り込む。

ちなみに朔乃が争奪戦の景品とならなかったのは簪と共にアニメ研究会に所属していたからである。

 

そしてその日の放課後の特別HRにてクラスの出し物を決めるために盛り上がっていた。

「ふむ…」

 

朔乃にはクラス代表として意見をまとめる立場にある。

 

だが、あげられた内容が『織斑一夏と影宮朔乃のホストクラブ』やら『織斑一夏や影宮朔乃と王様ゲーム』などと朔乃や一夏から見ればろくでもない意見だったりするのだ。

 

「却下」

 

「却下でござる」

 

そしてそんな意見を了承する一夏や朔乃では無い。

 

当然の事ながら大ブーイングが巻き起こる。

 

「当たり前でござる、そのようなものは了承しかねるでござるよ。

もう少し普通の意見を練って出直してくるで―」

 

先ほどからこんな調子で意見は纏まらず、千冬は職員室へと戻っている。

 

「メイド喫茶はどうだ?」

 

 

なかなかまともな意見が出ない状態でそう案を出したのはラウラだった。

 

原作を知っている朔乃を除いた全員がぽかんと口を開けている中、ラウラはいつもの淡々とした口調で続ける。

 

「客受けはよいだろう。

それに、飲食店ならば経費の回収も行える。

確か、招待券制で外部からも入れるのだろう?

ならば休憩所としての需要も少なからずあるはずだ」

 

「っと言うことで皆はどうでござるか?」

 

多数決をとる前に女子の反応を見ようとする朔乃。

 

だが急に振られた一同は未だにポカンと口を開けたままでたある。

 

「いいんじゃないかな?

一夏には執事か厨房を担当してもらえばオーケーだよね?」

 

シャルのその言葉で一組女子達に火がつく。

「織斑君、執事!いい!」

 

「それでそれで!」

 

「メイド服はどうする!? 私、演劇部衣装係だから縫えるけど!」

 

「メイド服ならツテがある。

執事服も含めて貸してもラウルか聞いてみよう」

 

そう言ったラウラにまたしても朔乃以外の一同が目を丸くする。

 

「―――ごほん。

シャルロットが、な」

 

注目されたことで照れたのだろう、ラウラは顔を僅かに赤らめてシャルに話を振る。

 

「き、訊いてみるだけ訊いてみるけど、無理でも怒らないでね」

 

不安げに告げるシャルに、クラス女子は声を合わせて『怒りませんとも!』っと断言する。

 

こうして、一年一組の出し物はメイド喫茶改めて『ご奉仕喫茶』に決定したのであった。

 

 

 

 

「っと言うわけで一組はコスプレ喫茶になったでござる」

 

HR後、職員室にて朔乃は千冬の元でクラス会議の結果を報告する。

 

「ふむ、立案は誰だ?田島か、それともリアーデか?」

 

「いえ、ラウラ殿でござる」

 

ニヤニヤしながら問うた千冬は朔乃の答えを聞いてまばたきを二度して盛大に吹き出す。

 

「ぷっ…ははは! ボーディビィッヒか! それは意外だ。

しかし……くっ、ははっ! あいつがコスプレ喫茶とは? よくもまあ、そこまで変わったものだ」

 

「やはり意外でござるか?」

 

「それはそうだ。 私はあいつの過去を知っている分、おかしくて仕方ないぞ。

ふ、ふふっ、 あいつがコスプレ喫茶…ははっ!」

 

千冬はそれからひとしきり笑うと目尻の涙を拭う。

 

そんな彼女の反応は職員室の教員たちにとって意外なこうけいだったようで皆が目を丸くしていた。

 

「ん、んんっ。―――報告は以上だな?」

 

周囲の視線に気づいたのか千冬が咳払いをして語調を整える。

 

「以上でござる」

 

「ではこの申請書に必要な機材と使用する食材などを書いて一週間前には提出しろ」

 

「了解でござる」

 

千冬が出した書類を朔乃は受け取り職員室を出ようとしたときでだあった。

 

「影宮」

 

千冬に呼び止められて朔乃は振り向く。

 

「それで…お前は女装するのか?」

 

「織斑先生もそういう扱いでござるか!?」

 

ニヤニヤして言う千冬の言葉に朔乃は声を大にして叫んだ。

 




という事で⽂化祭編(前後編予定)の前編をお送りさせて頂きます。

早ければ数中にでも後編はupできるかもです


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第二十一話 『文化祭(後編)』

「ありがとうでござるー」

 

朔乃は礼を良いながら笑顔で冊子を渡す。

現在、彼が着ているのは以前、生徒会でメイド喫茶を催した時のようなミニスカメイド服である。

一組で催しているご奉仕喫茶の衣装である。

本人は断固拒否したのであるが女子の勢いに負けてしまい結局着ることになったのである。

『ご奉仕喫茶』はメイド服の朔乃と執事服の一夏目当ての客により大盛況となっていた。

しかも楯無が途中参戦してきたこともあり店内は一層の混雑を極めていた。

あまりの混雑ぶりに怪我人が出る可能性があったため、朔乃はこうして簪と共に所属するアニ研の同人誌の即売を手伝う事になったのだ。

そして、即売には朔乃目当ての客が長蛇の列を作り、用意していた同人誌200部は朔乃が来てから僅か一時間で完売。

それと同時に簪の携帯が軽快なアニメソングが響く。

教室にいる一夏からである。

一夏曰わく楯無が生徒会の用で帰った為に教室へと戻ってきてほしいとの事だった…。

 

「お待たせして申し訳ないでござる、お嬢様」

 

「きゃー!影宮くんだ~!」

 

「ゲーム! ゲームしよ!」

 

クラスへと戻った朔乃に客の女子生徒が嬉しい悲鳴を上げる。

やはりと言うべきか楯無がいない状態であってもご奉仕喫茶の盛況ぶりは相変わらずであった。

特に、普段はとっつきにくいラウラがメイドの格好をしているのが受けたらしく、あっちこっちに呼ばれてはゲームで対戦をしている。

 

「さて…拙者もがんばるでござるか…」

 

一人ごちると朔乃は女子生徒の接客に向かったのであった。

それから一時間ほどして、店が一度食材の追加買い出しの為に一時休店になるまで朔乃は店の中を東奔西走していた。

 

 

 

 

 

 

「うむ、旨いでござるなー」

 

模擬店で購入したクレープをかじりながら朔乃はその顔に幸せそうな笑みを浮かべる。

その表情はどう見ても女の子にしか見えない。

 

『ああ…朔乃は可愛いなぁ』

 

等と本人が聞いたら絶対に怒るような事を思いながら簪は朔乃を見る。

現在、休店の一時間を利用して朔乃と簪は各クラスの出店巡りをしていた。

 

「ぬ?」

 

朔乃がそう言いながら足を止める。

「どうしたの?」

 

尋ねる簪に朔乃はある場所を見つめる。

 

 

「簪殿、あそこで何か面白そうな事をやるようでござるよ!」

 

子供のようにはしゃぎながら第四アリーナの方向を指差す朔乃。

 

簪がそちらを確認するよりも早く朔乃は簪の手を取って走り出した。

 

 

 

「むかしむかしあるところに、シンデレラと言う少女がいました」

 

 

観客いっぱいの第四アリーナに朔乃と簪はいた。

 

幸いにもアリーナで行われる生徒会の観客参加型演劇の席は前の席を取ることが出来た。

 

朔乃の目的としてはこの演劇を楽しむことも一つなのだがそね後に待ち受けているであろう亡国機構のオータムと楯無&一夏の戦闘。

それについて朔乃は気になる所があった。

無論、楯無がオータムに遅れを取ると言うことは無いだろう。

だが、亡国機業に道元達悪忍がついている以上、油断は出来ない。

 

『とりあえず今は…演劇の方を楽しむでござる…』

 

そう考えながら舞台の方に視線を移すと王子役の一夏の王冠を狙ってシンデレラ・ドレスを着た女子達が追い回している。

だがそれは無理から事である。

何故ならば一夏の王冠を手に入れた女生徒は彼と同室になる権利があるのだから。

鬼気迫る勢いで女子が一夏へと肉薄する。

瞬間、何者かが一夏の足を引っ張るのを朔乃は確かに見た。

 

 

 

 

 

 

「全く…どこの誰だか知らないけれど困った事をやってくれるものね…」

 

一夏が何者かに連れて行かれる所を見た楯無はその後を追跡、二人が更衣室に入っていく所を発見する。

 

そのまま二人に続いて更衣室へと入ろうとしたが部屋のシステムにロックがかかっており中から聞こえてくる戦闘音がよりいっそうに楯無を焦らせる。

 

やっとの事でロックを解除、更衣室の中へと入ると一夏が侵入者のISの装甲脚に殴られて壁に叩きつけられた所であった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあなぁ、ガキ。

お前にはもう用が無いから、ついでだし殺してやるよ」

 

「あら、そういうねは困るわ。

一夏くん、私のお気に入りだから」

 

先ほどまでの焦燥を隠すように楯無は制服のポケットから扇子を取り出して広げる。

 

「てめぇ、どこから入った?

今ここは全システムをロックしてんだぞ。

………まあいい。見られたらからにはお前から殺す!」

 

一夏をいたぶる事に熱中していたらしく、侵入者は楯無がロックを解除した事に気づかなかったらしい。

 

オータムは叫びながら身を翻して八本の装甲脚で楯無の身体を貫く。

だが、その身体からは一滴の血さえも流れていない。

 

「なんだ、お前…? 手応えがないだと…?」

 

困惑の表情を浮かべるオータムに先ほどまで装甲脚に貫かれていたものが液体へと姿を変わる。

 

「なっ…こいつは…水か?」

 

「ご名答。水で作った偽物よ」

 

オータムの後ろに回り込んだ楯無はランスを構える。

 

「くっ………!」

 

オータムはすんでのところでそれを避ける。

 

「あら、浅かったわ。

そのIS、なかなかの機動性を持っているのね」

 

「なんなんだよ、てめぇは!」

 

「更識楯無。そしてIS『ミステリアス・レイディ』よ。

覚えておいてね」

 

にっこりと微笑む楯無。

 

同時に手に持つ大型ランスの表面に水が螺旋を描きなから流れ、ドリルのように回転を始める。

 

「けっ! 今ここでころしてやらぁ!」

 

「うふふ。

なんていう悪役発言かしら。

これじゃあ私が勝のは当然ね」

 

そう言いながら楯無はランスによる攻防一体となった攻撃を開始する。

 

八本の脚、そして二本の腕で攻撃を繰り出すオータムとIS『アラクネ』。

それに対して楯無はひとつしかないランスでそれらの攻撃を凌いでいる。

 

「くそっ! ガキが、調子づくなぁ!」

 

腰部装甲から二本のカタールを抜き、オータムは、自らの腕を近接戦闘に、背中の装甲脚を射撃モードに切り替えて応戦する。

 

「そんな雑な攻撃じゃ、水は破れないわ」

嵐のごとく繰り出される実弾攻撃は『ミステリアス・レイディ』を形成する水のベールで全て無効化される。

弾丸はベールに入った瞬間に勢いを失い、その動きを制止させる。

 

「ただの水じゃねぇなぁっ!?」

 

「あら、鋭い。

この水はISのエネルギーを伝達するナノマシンによって制御しているのよ」

 

喋りながらも、その手は止めない。

 

オータムの巧みなカタール二刀流を、ランスで受けては流し、必要に応じて脚を使って完全に攻撃を封殺していた。

 

「なんなんなんだよ、てめぇは!?」

 

「二回も自己紹介はしないわよ、面倒だから」

 

「うるせぇ!」

 

自分の攻撃を完全にやりすごされているオータムは、次第に苛立ちを露わにしていく。

そんな反応などどこ吹く風で、楯無しは涼しげな表情で相手の攻撃を的確に潰す。

 

「ところで知ってる? この学園の生徒会長というのは、最強の称号だということを」

 

「知るかぁ!」

 

右手のカタールを投擲、同時に一気に距離を詰めるオータム。

 

楯無がカタールを弾いた瞬間。ランスを下から蹴り上げる。

 

「あらら」

 

「くらえ!」

 

四本を射撃モード、残り四本を格闘モードへと切り替えててオータムの猛攻が始まる。

「これはさすがに重いわねぇ」

 

「ははは! その減らず口がいつまで続くかぁ! 最強だと?笑わせんなよ、ガキが!」

 

オータムの言葉通り、手数の多さに楯無は次第に押され始める。

装甲に守られているとはいえ、時折その攻撃がIS本体に届き始める。

 

「た、楯無さん!」

 

「一夏くんは休んでなさいな。

ここはおねーさんにお任せ。

君は君の望みを強く願ってなさい」

 

「ガキが!余裕ぶるんじゃねぇよ!」

 

鉄壁のガードを崩したオータムが、装甲脚で楯無をはじき飛ばす。

同時に両手で練り込んだクモの糸を放出し、楯無の自由を奪う。

「はぁ…はぁ…。

てこずらせやがって………ガキがっ!」

 

「うーん、動けなくなっちゃった」

 

 

「今度こそもらったぜ……!」

 

八本の装甲脚を構えて、ゆっくりと楯無に近づいていく。

しかし、楯無はというと焦った様子も怯えた姿もない。

 

「ねえ、この部屋暑くない?」

 

「あぁ?」

 

「温度ってわけじゃなくてね、人間の体感温度が」

 

「何言ってやがる……?」

 

「不快指数っていうのは、湿度に依存するのよ。ーねえ、この部屋って湿度が高くない?」

 

ぎくりとしたオークムが見たのは部屋一面に漂う霧。しかも、自分の体にまとわりつく、異様に濃い霧だった。

 

「そう、その顔が見たかったの。己の失策を知った、その顔をね」

 

にっこりと、女神のように微笑む楯無。しかし、その表情には死神の鎌と呼ぶべき、必殺の意図が含まれている。

 

「ミステリアス・レイディ… …『霧纏の淑女」を意味するこの機体はね、水を自在に操るのよ。

さっきも言ったように、エネルギーを伝達するナノマシンによって、ね」

 

「し、しまっ-」

 

「遅いわ」

 

楯無が指を鳴らす。次の瞬間、オータムの体は爆発に飲み込まれた。

 

「あはっ。何も露出趣味や嫌味でベラベラと自分の能力を明かしているわけじゃないの

よ? はっきりこう言わないと、驚いた顔が見られないもの」

「ぐ……がはっ……。まだ……まだだ!」

 

よろめきながら立ち上がるオータム。

 

「いいえ、もう終わりよ。ーね、一夏くん?」

 

嫌な予感がして、後ろを振り向く。そこで見たのは、右腕を掴み、意識を集中している一夏の姿だった。

 

「…来い、白式!」

 

その全身が光に包まれ、百式が展開される。

同時に『零落白夜』を発動させ、オータムに肉薄する。

 

だがその瞬間、オータムの顔が笑みを紡ぎ出しその言葉を紡ぎ出す。

 

「秘伝忍法!『絶対零度‐アブソリュート・ゼロ』!!」

 

その言葉と共に凄まじい冷気が吹き荒れ一夏の足を凍らせて地面に縫い付け、楯無のミステリアス・レイディが纏う水の装甲もナノマシンごと凍りつく。

 

「なっ!」

 

「つっ!!!」

 

一夏と楯無が目を見開いて驚愕する。

 

「残念だったなガキ共…今度こそぶっ殺してやるから覚悟しろよ」

 

目を血走らせてオータムが装甲脚の火器を一夏達に向ける。

 

だが―。

 

「そうは問屋が卸さぬでござる」

 

声と共に昨乃が更衣室のドアを切り裂きそのままオータムに肉薄、装甲脚を切り裂く。

 

「ちっ!」

 

舌打ちと共に圧縮空気の音を響かせてオータムのISが本体から離れる。

 

光を放ち始めたアラクネに昨乃は電磁フィールドを展開、一夏と楯無しを守る。

 

大爆発が起きたのはそれから直ぐ後の事であった…。

 

 

その後の事を記すとすればオータムを追っていったセシリアとラウラはサイレント・ゼフィルスの介入により取り逃がす事になった。

 

『しかし…』

 

昨乃は眉間に皺を寄せながら今回の件でオータムが使用した秘伝忍法について考える。

教えたのは確実に道元だ。

 

どちらにしても、このまま道元が某国機業の人間に忍術の手解きを行えば昨乃だけでは戦力的に不利な状況に陥るのは確実だ。

 

『最悪の場合は皆に頼らねばならぬでござるな…』

 

そう考え始める昨乃であった。




文化祭編後編をupー

予定していたよりも遅くなってしまった…orz


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第二十二話 『弾丸のように早く』

「はい、それでは皆さーん。

今日は高速機動についての授業をしますよー」

一組副担任である山田真耶の声が第六アリーナに響き渡る。

 

「この第六アリーナでは中央タワーと繋がっていて、高速機動実習が可能であることは先に言いましたね?

それじゃあ、まずは専用機持ちの皆さんに実演してもらいましょうー」

山田先生がそう言って手を向ける先には、ISを展開したセシリアと一夏がいた。

 

「まずは高速機動パッケージ『ストライク・ガンナー」を装備したオルコットさん」

通常時はサイド・バインダーに装備している四基の射撃ビット、それに腰部に運結したミサイルビット、それら計六基を全て椎進力に回しているのがこのパッケージの特徴である。

それぞれの砲口を封印して腰部に連結することでハイスピード&ハイモビりティを実現しているのだ。

「それと、通常装備ですが、スラスターに全出力を調整して仮想高速機動装備にした織斑くん。

この二人に一周してきてもらいましょう」

山田先生の言葉で一夏とセシリアは機体を空中へと進ませる。

 

「では、………3・2・1・ゴー!」

 

山田先生のフラッグで一夏とセシリアは一気に飛翔、加速すると同時に音速を突破した。

 

『おおー、すごいスピードでござるなー』

『纏雷』による加速で亜光速飛行が可能な黒鉄なであるがこうして高速飛行するISを見るだけで何というか血湧き肉踊るようなものがあった。

 

昨乃の目には学園のモニュメントである中央タワー外周を折り返し、アリーナへと戻ってきて地表へと戻る。

「はいっ。お疲れ様でした! ふたりともすっごく優秀でしたよ~」

 

教え子が優秀であるのが嬉しいのか子供のようにはしゃぎながら一夏とセシリアを誉める山田先生。

同時に、豊満なバストが揺れるために昨乃は目のやり場に困り赤くなる昨乃。

 

「昨乃のエッチ…」

 

そんな昨乃の隣でポツリと簪が呟く。

 

「いやいや、簪殿…これは完全に不可抗力で…」

 

簪の言葉にしどろもどろになって弁解する昨乃。

 

だが、そんな昨乃の言葉を遮るように千冬が手を叩き全員を注目させる。

 

「いいか。今年は異例の一年生参加だが、やる以上は各自結果残すように。

キャノンボール・ファストでの経験は必ず生きてくるだろう。

それでは訓練機組の選出を行うので、各自割り振られた機体に乗り込め。

ぼやぼやするな。開始!」

 

毎年の垣例行事であるキャノンポール・ファストは本来、整備課が登場する二年生からのイベントだ。

しかし、今年は予期せぬ出来事に加えて専用機持ちが多いことから、一年生時点で参加することになったのだ。

 

訓練機部門は完全なクラス対抗戦になるため、例によって景品がでるとのこだ。

 

「よーし、勝つぞ~」

「お姉様にいいとこ見せなきゃー」

 

「勝ったらデザート無料券I これは本気にならざるを得ないわねー」

 

そんなこんなで燃えている女子一同に触発されてか、教師一同も指導に余念がない。

 

 

ちなみに各専用機の機体のレース時の仕様は高速機動パッケージ組がセシリア、鈴。

機体出力調整組が朔乃、一夏、箒。

増設スラスター組がアリア、シャル、ラウラとなっている。

 

 

「影宮くん、どうでした?」

 

「ぬ? 山田先生。

やはり、音速飛行というものは何というか胸が熱くなるでござるよー」

「そうですかー。影宮君はハンデがありますが頑張ってくださいね」

 

スペック上は亜光速飛行が可能な黒鉄は他の専用機から遅れてスタートしたり、纏雷の出力を5%から10%までと制限されれていたりするのだ。

 

「多少は厳しいでござるが…やれるだけやるでござるよ」

 

「そうだー せっかくだから私と模擬戦してみますか?

キャノンポール・ファスト想定

の高速機動戦闘です」

「よいのでござるか?」

 

山田先生の意外な申し出に驚く昨乃。

前世から『纏雷』を用いた加速しながらの戦闘に慣れている昨乃ではあるがこういったレース形式で使用するのは初めての経験である。

それ故に山田の申し出は非常にありがたいものであった。

 

「はい!私の機体はすでに高速機動戦闘用に調整してあるので、すぐにはじめられますよ」

 

「では、お願いするでござる」

 

「はいっ♪」

 

満面の笑みでうなずいた山田先生は、IS「ラフアール・リヴァイヴ』を展開する。

 

こちらはシャルのカスタム機とは違い、標準仕様に近い。一対の物理シールドが特徴的だ。

「ちなみにこれはシールドをサイド・スラスターとして使用しています。

増設スラスターは背部に三基ですね」

 

言いながらながら、機体をお披雷目する山田先生。

彼女の言葉通りラファールの両サイドにサイドにシールドが装着されており、背中に増設された巨大なスラスターが強烈な存在感を出している。

「結構ごついでござるなー」

 

「この増設スラスター、元々は大気圏離脱用のものを転用しているんです。なので、ロケット燃料を使う分、全体が大きくなってます」

 

「ロケット燃料でござるか?」

 

誘爆とかの心配をする昨乃に山田先生は言葉を続ける。

 

「一応、安全対策は万全なので大丈夫ですよ。

ほら、こうやって調整で絶対防御の範囲圏を広げるんです」

 

「なるほど…」

 

山田先生の解説に頷く昨乃。

 

「さて…そろそろ始めますよ。

影宮くんの準備は大丈夫ですか?」

 

「いつでも大丈夫でござるよ」

 

黒鉄を展開しながら昨乃は答え、スタートラインに並ぶ。

 

「では…影宮君は十五秒後に発進してくださいね」

 

そう言いながらに山田先生はスラスターを吹かして加速、あっと言う間に肉眼では見えなくなる。

 

 山田先生がスタートすると同時に右目に昨乃がスタートするまでのカウントが投影される。

 

その数字がゼロになると同時に昨乃は纏雷を使い加速、数秒して山田先生へと追いつく。

 

「やっぱり速いですね~」

 

昨乃が山田先生に追いつくと既に展開済みだったサブマシンガンを昨乃に向けて発砲する。

 

だが昨乃は予測済みとばかりに減速、銃弾を避け、小太刀を展開する。

 

それと同時に昨乃の目の前にピンの抜けたグレネードが投げ込まれる。

 

「それも予測済みでござる!!」

 

昨乃がそう言うとグレネードが爆発するより早く、先ほど展開した小太刀の峰でグレネードを山田先生の方へと弾き返す。

 

「はわわわわわ!!!」

 

グレネードは山田先生の直ぐ近くで爆発、爆風でバランスを崩した所で小太刀を叩き込み山田先生をコースアウトさせる。

 

「あいたたたたた…」

 

地面に落ちた山田先生はそう言いながらお尻をさすりながら立ち上がろうとする。

 

「大丈夫でござるか?」

 

心配した表情で昨乃は地面に降り山田先生に手を貸しながら尋ねる。

 

「はい、大丈夫です。

それにしても…流石影宮くんです。

やっぱり私では全く歯が舘ません」

 

『原作読んで山田先生の戦い方を知らなければ地面に落ちていたのは拙者でござろうな…』

 

感心した表情で宣う山田先生を立ち上がらせながらそんな事を考える昨乃であった。

 

 



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第二十三話 『キャノンボール・ファスト』

盛大な歓声がピットの中にまで聞こえる。

キャノンボール・ファスト当日、今は二年生のレースが行われている。どうやら抜きつ抜かれつのデッドヒートのようで、最後まで勝者がわからない大混戦のようだ。

 

「いよいよね…私も腕が鳴るわ」

 

っとピットで呟いたのはアリアだ。

彼女はすでに『ラファール・カトラ』と『アラストール』展関している。

 

 

ガトリングシールドや実刀、レールガンは取り払われており、高機動スラスターだけとなったこれにトランザムを用いてスピードを上げるつもりらしい。

 

ビットには昨乃とアリア以外にも参加者である一夏、箒、セシリア、鈴、ラウラ、シャルが控えている。

 

(皆、やる気滴々でござるなぁ…。

だが、拙者も負けぬでござるよ!)

 

っと意気込む昨乃。

 

「みなさーん、準備はいいですかー? スタートポイントまで移動しますよー」

 

それと同時に山田先生の若干のんびりとした声が響く。

 

昨乃ちは各々うなずくと、マーカー誘導に従ってスタート位置へと移動を開始する。

 

「それではみなさん、一年生の専用機持ち組のレースを開催します!』

アナウンスが響き一夏たちは各自位置に着いた状態で、スラスターを点火した。

超満員の観客が見守る中、シグナルランプが点灯。

 

カウントダウンタイマーがゼロになると同時に発進する一夏達を見送りながら順位を見る。

 

(まずはセシリア殿が飛び出したでござるか…いや…)

あっという間に第一コーナーを過ぎ、セシリアを先頭にして列ができる。

だが次の瞬間には列の後ろの方を走るアリアが急加速、一気に他を追い抜く。

 

『さて、拙者も行くでござるよ!』

 

心の中で叫ぶと同時に昨乃も遅れて発進すると一夏達を一気に抜き去る。

 

『このまま、ぶっちぎるか…後半に備えて纏雷を制限するか…どうすべきでござろうか…』

 

 

トップを独走しながらそんなことを考える昨乃。

 

『警告!ラファール・カトラが武装を展開!!』

 

「つっ…!!」

 

システムボイスと共に回避行動を取る。

 

直後に赤い光を帯びた銃弾が今し方、昨乃がいた場所を走り抜ける。

 

トランザムによって威力を強化された銃弾である。

いくら纏雷で防御力が強化されているとはいえ当たれば一溜まりもない。

 

 

スピードを上げてラファール・カトラを引き離そうとした瞬間。

 

「「つっ!」」

 

二人が何かを感じて急減速する。

 

直後に、二人がいた場所を光が貫く。

 

高出力BTライフルだ。

昨乃とアリアがレーザーの来た方向に視線を向けるとダークブラックにカラーリングされたブルーティアーズの姿があった。

背中には左右六つずつ、合計12個のビットが搭載されている。

 

『ちっ…やはり外したですか…』

 

オープンチャンネルで舌打ちと共に少女の声が聞こえる。

その独特のしゃべり方に昨乃の主は以前、道元と共にいた少女‐椿のものであることを思い出す。

 

『奪取したサイレント・ゼフィルスを元に製造されたBT兵器搭載IS三号機・ルシファーの運用試験に手伝ってもらうですよ!』

 

そう叫びながら椿がビット兵器を解放してビームを放つ。

 

それを昨乃とアリアは難なく避ける。

 

『ふっ…甘いです』

 

完全に避けたと思った瞬間にビームが軌道を変えて再び昨乃とアリアへと襲い来る。

 

「っと!」

 

「危な!」

 

だが、纏雷とトランザムを展開させた二人にはやはり当たらない。

 

『やりますね…ではこれならばどうですか!』

 

その叫びと共に椿は背中のビットを解放し、それぞれのビットからビームを放つ。

「つっ!!」

 

「くっ!」

 

ビットから放たれた12の光線はそれぞれが生き物であるように別々の軌道を描きながら昨乃達を襲う。

 

「きゃあ!」

「アリア殿!」

 

昨乃は忍時代から磨いてきた直感で何とか避けることが出来たがアリアはそうはいかずに何発か被弾する。

 

『あはっ!被弾しましたね!!ならそのまま死んでください!!!!』

 

椿が嘲笑を含んだ笑みを浮かべると同時に昨乃はアリアが脂汗を浮かべていることに気づく。

 

『秘伝忍法…毒牙絶障。

自分の攻撃を喰らった相手に激痛を与え続ける技です』

 

笑みを浮かべながら自分の技の解説をする椿。

そんな椿の言葉に昨乃の背中を冷たい汗が伝う。

 

「一応、言っておきますが他に応援を頼もうとしても無駄ですよ。

マドカさんに足止めをお願いしてありますからね!!」

 

叫びながら椿はライフルとビットからビームを放つ。

 

「くっ!!!」

 

アリアと自分を護るように電磁フィールドを張り防御するがビットから続けざまに放たれるビームに攻撃を行う暇すらない。

 

部分的にではなく、全体的に電磁フィールドを張りつつ動く敵に攻撃を当てることは黒鉄の演算能力をフルに使用しても難しいのだ。

 

だが、それは昨乃、独りで椿と相対する場合のみだ。

 

『アリア殿…大丈夫でござるか?』

 

プライベートチャンネルを使って後ろにいるアリアに呼びかける。

 

『身体中が恐ろしく痛いけど何とか大丈夫よ…。

それで…あれをぶっ倒す方法は思いついたの?』

 

『一応は、但し…アリア殿の協力が必須でござるが…』

 

『良いわよ…協力してあげるわ…それで…あんたのプランってのは?』

 

苦痛に顔を歪めながらも問うてくるアリアに頼もしさを感じながら昨乃はその計画を説明し始めた。

 

 

『ああ…弱い人間をいたぶる優越感…たまらないです!!』

 

自分が圧倒的優位に立っている状況に椿は身を悶える。

 

先ほどから昨乃達は防戦一方。

その原因はビットの全方位攻撃を警戒して展開した電磁フィールドにあると椿は考える。

電磁フィールドに演算能力を裂いているせいで武装を展開できないのだと。

 

『ですが…何時までも展開していられると思わないことです!』

 

電磁フィールドを展開しているのはISであるがそれに使用される電力は昨乃の纏雷だ。

 

『ならば相手の体力が無くなった時点で私の勝ちは決まるです!』

 

そう考えていると何かが数発程ルシファーの装甲を叩く。

 

『損傷は軽微、サブマシンガンによる銃撃です』

 

ハイパーセンサーがそう告げると同時に椿は昨乃がサブマシンガンを展開しているのを気づく。

 

「どうやらその程度の武装は展開できるようですね。

ですがそんな豆鉄砲を何度も喰らいませんよ!」

 

等と叫びながら回避行動を取る。

 

だが、椿が回避行動を取り始めた次の瞬間。

 

『危険!高エネルギー弾接近!』

 

「なっ!きゃあああああああぁぁぁぁ!」

 

ハイパーセンサーが告げたその報告に目を見開く椿。

 

次の瞬間に十数発の小型のプラズマ弾がルシファーに直撃。

 

地面へと落ちていくところをサイレント・ゼフィルスが回収していく。

 

 

コアにアクセスしISの限界以上の出力を出すラファール・カトラのワンオフ・アビリティ『トランザム』。

 

それを利用し、ラファール・カトラと黒鉄のコアを共鳴させる事で一時的に処理能力を上げたのだ。

 

「ぶっつけ本番だけど…なんとかなるもんね…」

 

息をあげながらしてやったりといった表情を浮かべたアリアは糸が切れたように意識を失い落ちていく。

 

「おっと…」

 

そんなアリアを受け止める昨乃であった…。

 

 



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第二十四話 『忍術修行』

「昨乃!お願いっ!」

 

キャノンボール・ファストからひと月が経過しようとしたある夜。

夕食後のランニングで外周を走ってから部屋へと戻ってきた昨乃に簪が手を合わせる。

今月に行われる専用機持ちのタッグトーナメント。

それに出場するために現在簪が専用機を作っている途中らしい。

 

その機体の武装である八連ミサイルポッドのマルチロックオンシステムの作製がうまくいかず昨乃の知恵を借りたいとの事だった。

 

「っと言っても拙者にアドバイス出来るようなことは…」

 

無いと言いかけて昨乃は黒鉄の誘導式のプラズマ弾を思い出す。

 

「…っといってもプラズマ弾の制御は拙者がマニュアルで制御しているのでござるよ」

昨乃の言葉の通り黒鉄の役割はあくまでも補助でありプラズマ弾の制御は昨乃がマニュアルで行っているのだ。

 

「それは昨乃が前世で忍者だったからできたの?」

 

驚愕に目を見開いて問う簪に頷く昨乃。

 

「っと言うわけでは無いでござるが…」

 

簪も更識の家でそれなりの修行はこなしている…そり故に出来ないわけでは無いのである。

しかし、自分の忍術を他の人に教える事に些か抵抗感を感じるのである。

 

「あらぁ…昨乃の強さの秘密。

私も気にになるわぁ」

 

っと言ったのは部屋のドアを開けて室内を覗いている楯無しだ。

「楯無殿!いつの間に!」

 

「部屋の前を歩いていたら大変興味深い話が聞こえたからねー」

驚く昨乃にそう答える楯無。

口調こそ軽いものであるが先日スコールと遅れを取ったことが彼女にとっても何か考えさせられるものがあったらしくその目は真剣そのものだ。

 

「………」

 

片や簪も昨乃を無言で見つめている。

 

「はぁ…」

 

そんな二人ににため息を漏らす昨乃。

 

幼い頃から二人と一緒にいた昨乃は二人がこういう状態で主張を曲げないことを知っているからだ。

 

こうして、昨乃による忍術修行が始まったのである。

 

 

「忍法は気功と同じように体内の気を練る事から始まるのでござる」

 

翌日の放課後、昨乃は道場で楯無と簪を前に講義を行っていた。

現在、昨乃の手には差し棒が握られており電子モニターに映されたイラストを指している。

イラストは簡易的な人型が描かれており、人型の胸の部分には気という文字が描かれている。

 

休み時間を利用して昨乃が制作した教材だ。

 

「まー、二人は既に更識家で気功もやっておったでござるからここは割愛するでござる」

 

そう言うと昨乃はモニターを切り替える。

今度、表示されたのは円に内気功、外気功と書かれたものだ。

「気功における内気功は気の質をコントロールすること内気功と、身体に必要な気を外から取り入れ、不必要な気を体外に排出する外気功が存在するでござる。

それを更に強化したのが忍法の大元となったものでござる。

説明すると難しいでござるから一度実践してみるでござる」

 

そう言うと昨乃は黒鉄の右腕部と小太刀を展開する。

それと同時に小太刀を思い切り左手首に向けて振り下ろす。

 

「ひっ…」

「なっ!」

 

いきなりの昨乃の行動に悲鳴を上げて目を瞑る簪と驚いた声を上げる楯無。

 

「嘘…」

 

呆然として声を漏らす楯無に目を開く簪…。

 

「え…」

 

彼女もまた、姉と同じように驚いたような声を漏らす。

 

何故ならば切り落とされるかと思われた昨乃の左手が小太刀の刀身を受け止めていたからだ。

筋肉の動きを見ても昨乃が刀身に力を入れているのがわかる。

 

「これが内気功、体内の気を操って強度などを上げるでござるよー。

 

次に外気功でござるがこれは二人ともしょっちゅう見てるでござろう?」

 

「?」

 

「なる程…黒鉄の展開装甲ね」

 

昨乃の質問に首を捻る簪に対して答えたのは楯無だ。

 

「さようでござる気功を外部に放出し自然界の気を借りて己の気と混ぜ合わせたものが秘伝忍法でござる。

 

っと…ここまでで質問は…」

 

無いでござるか?と尋ねると二人は頷く。

 

「では…先ほどの説明を踏まえて二人には先ず内気功の練習をしていこうと思うでござる」

昨乃が今回、簪と楯無に教えるのは、簪が打鉄ニ式の八連ミサイルのマニュアル制御を行うため、楯無が戦闘力を上げるための内気功である。

 

昨乃が二人に内気功を習得させるために選んだ修行方法が水面式と呼ばれコップに注がれた水を触れずに揺らすというものであった…。

水は気を通しやすいとされ、体内で練った気を掌に集めるというものである。

 

 

そして、現在…開始から三時間が経過しようとしたところで楯無のコップの方に変化が現れる。

 

 

楯無のコップの水が小さな波紋を作り始めたからである。

 

「おー、流石は楯無殿凄いでござるなー」

 

「ふっふっふー」

 

胸を張る楯無に落ち込む簪。

 

「大丈夫でござる、簪殿。

タッグマッチまでの日はまだまだあるでござるからー」

 

そんな簪を励ます昨乃であった。

 



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第二十五話 『襲撃』

「はぁ…」

 

結局のところ、簪が気を操る事が出来ずに迎えた専用機持ちのタッグマッチ当日。

あろうことか初戦にぶち当たったのが楯無とアリアのペアであった。

 

「大丈夫でござる、打鉄ニ式の武装はミサイルポッド以外にもあるのでござろう?」

 

「うん…」

 

ピットへと移動しながら昨乃の言葉に力無く頷く簪。

 

『さて…どう声をかければ良いでござろう…』

 

などと昨乃が考えているとー

 

突然、地霧が起きたかのように大きな揺れが襲う。

 

「きゃあっ!?」

 

 

「危ない!」

連統して続く振動に、簪が姿勢を崩す。

壁に体をぶつけそうになる簪を、昨乃は反射的に腕を引いて抱き寄せた。

 

「大丈夫でござるか?」

 

「う、うん。それより なにが起きているの ?」

簪が言った瞬間、派手な音を立てて、廊下の電灯がすべて赤に変わる。

続けて、あちこちに浮かんだディスプレイが『非常事態瞥徹発令』の文字を告げていた。

『全生徒は地下シェルターへ避雛ー・繰り返す、全生徒はーきゃあああう!』

 

緊急放送をしていた先生の声が突然途切れる。

続けて、また大きな衝撃が校舎を揺らした。

「な、何が起きてるの!?」

 

突然の事態におどおどとする簪。

 

だが、原作知識がある昨乃は何が起こっているかは十分に理解できた。

 

亡国機構が仕掛けてきたのだ。

 

「!簪殿!!」

 

何かを感じた昨乃は次の瞬間に簪の体を抱えてその場から跳躍する。

 

次の瞬間、先ほど二人のいた場所の壁が吹き飛びそれが姿を現す。

 

それは一言で言い表すならば黒いマネキンのような見た目をしていた。

以前に昨乃が対峙したゴーレムの改造版であるゴーレムⅡだ。

だが以前に対峙したものと比べてその見た目は大きく異なるものとなっている真っ黒な装甲板はスマートに整形され、女性的なシルエットを描き出している。

複眼レンズだった頭部は、より視野を広く取るためにバイザー型ライン・アイに置き換えられ、羊の巻き角のようなハイパーセンサーが大きく前に突き出していた。

そしてもっとも大きく変更されているところは、その両腕だった右腕は肘から先が巨大プレードになっており、高い格闘性能を有している。

反対に左腕は、そこだけがゴーレムⅠの意匠のままで、巨大な腕になっている。しかし、改良を施したその腕には、掌に超高密匿圧縮熱線を放つ砲口が四つ、まるで地獄の穴のようにぽっかりと空いていた。

 

ゴーレムⅡが砲口を昨乃達に向けるがそれよりも纏雷を発動させた昨乃が両断それと同時に昨乃は簪を連れて走り出す。

 

「さっ昨乃!?」

 

そんな昨乃の様子に目驚く簪。

 

「何か胸騒ぎがするでござる!」

 

ゴーレムⅡと対峙してから昨乃は何か嫌な予感を感じていたのだ―。



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第二十六話 『開花』

昨乃がゴーレムⅡを倒し、楯無達のところへと向かっていたころ。

楯無とアリアは強敵と相対していた。

 

「はあぁぁぁ!」

 

特殊ナノマシンによって超高周波振動の水を螺旋状に纏ったランス<蒼流旋>による一点突破の突撃、深紅の体に突き出した。

しかし、その体に届くよりも速く、巨大な左脆がランスを手で掴んで止める。

 

「温い…温すぎるわ!」

 

深紅の機体―即ち炎帝のパイロットである道元が叫ぶ。

 

現在、アリアと楯無はゴーレムⅡに来ていた道元との戦闘を繰り広げていた。

 

「アリアちゃん、トランザムで加速して私を押して!」

「わ、わかりました!」

水の槍は回転力を増し、甲高い音を立てて炎帝の左腕を削っていく。

 

「くっー なんて硬い装甲を使ってるの!?」

 

「楯無さん! いきますー」

 

「ええー」

 

アリアの『ラファール・カトラ』による強力な推進力を受けて、楯無と『炎帝』はアリーナ・ゲートへと突っ込んでいく。

 

「― 」

 

ぐんぐんと加速していく三機のIS。

楯無の『ミステリアス・レイディ』とアリアの『ラファール・カトラ』がアリーナのシールド接近警告を。発するが、二人はその表示を無視した。

 

「くらいなさい!」

 

楯無はきらに強くランスを握りしめると同時に、<蒼流旋>に装怖されたもう一つの武装、四門ガトリングガンを発射する。

 

「ふむ…雑兵かと思ったがなかなかにやりおるわ」

 

道元はそう言いながら受けとめたランスとごと楯無とアリアを吹き飛ばす。

 

「くうっ!」

 

「きゃあああ!」

 

投げ飛ばされた二人にに向けと道元は火炎を放つ。

 

 

「くっ!」

 

水を操り、火炎を防御する楯無。

 

「アリアちゃん、少しの間で良いから時間を稼いで!」

 

「了解です!」

 

アリアがトランザムを発動させた状態で道元を引きつける。

 

「ふふん。

まだまだ、おねーさんの奥の手はこれからよ」

 

言いながらそれまで両手で支えていたランスを左手一本に任せて、楯無は真上に向かって右手を突き出す。

 

「『ミステリアス・レイディ』の最大火力、受けてみなさい !」

 

楯無の掌の上で水が集まづていく。

 

『ミステリアス・レイディ』の全身から水を集め、徐々に槍の形を作る。

通常時は防御のために装甲表面を覆っているアクア・ナノマシンを一点に集中、攻性形成することで強力な攻撃力とする一撃必殺のの大抜。

その名も-<ミストルテインの槍>。

それを形成するのアクア・ナノマシンが超振助破砕を行う破壊兵器の塊であり、表面装甲がどんなものであれ、紙くずのように突き破ることができる。

さらに、アクアナノマシンは楯無の合図でエネルギーを転換、大爆発を引き起こすことが出来るというものだ。

 

最大で小型燃料気化爆弾四発分にも相当するいうものである。

 

今回の場合はアリアを巻き込む可能性があるためと相手が人という事もあり威力は落としてある。

 

それでもプラスチック火薬で百キロ分の破壊力は十分にある為に残りのアクアナノマシンを部屋と自分、アリアの防御に使用する。

 

「アリアちゃん!」

 

楯無の声と共にアリアが大きく飛ぶ。

 

 

それと同時に楯無が‐<ミストルティンの槍>を投擲、凄まじい爆風がアリーナ内に吹き荒れる。

 

「やった!!」

 

「いいえ!まだよ!!」

 

 

もうもうと立ち込める爆煙の中で炎帝の影は未だに健在であった。

 

「そんな…無傷ですって!」

 

驚愕に声を上げる楯無。

 

爆風が晴れた時に、現れた炎帝は無傷だったからだ。

 

「振動破壊兵器とナノマシンのエネルギー転換による爆弾か…近距離で使われるか、ナノマシンを全てを爆弾に使われればこの炎帝も無傷では済まなかった」

 

そう述べる道元が構える右腕には篭手のようなものが装着されており、掌の部分には深紅の結晶のようなものがつけられておりそこからシールドが出力されている。

 

「まさかそんなシールドで<ミストルテインの槍>を…」

 

「シールド?何を馬鹿な事を…」

 

唖然となる楯無に道元は嘲笑を浮かべる。

「これは輻射波動…貴様の<ミストルテインの槍>と同じく振動破壊兵器さ…」

 

言いながら道元は輻射波動が内蔵された右腕を楯無達に向ける…。

 

直後に凄まじい熱力を伴って熱線が放たれた―。

 

 

 

「楯無殿!アリア殿!無事でござるか!?」

 

「お姉ちゃん!!神崎さん!!」

 

「来たか…今し方片付けたところだ…」

 

昨乃と簪がアリーナに着くと炎帝を装着した道元が倒れた楯無とアリアを足蹴り飛ばしたところであった。

二人のISの耐久度は既にデッドゾーンに達している。

 

「道元ー!!!!!!!!」

 

それを見た昨乃は道元に突っ込む。

 

「全く、学習せんやつだ」

 

そう言うと道元は右腕の輻射波動を発動させて昨乃の小太刀を受ける。

 

「つぐ…!」

 

瞬時に溶解し始めた小太刀から手を放ち、昨乃はサブマシンガンを構えて引き金を引く。

纏雷による強化を受けた弾丸は光の帯を引きながら炎帝に向かうが期待に届くより先にシールド状に出力された輻射波動で防がれる。

 

『せめて攻撃できる隙があれば…』

 

炎帝が反撃とばかりに打ち出した熱線を避けつつ昨乃は焦り始めた―。

 

 

 

「お姉ちゃん!」

 

昨乃と道元が戦闘を繰り広げている頃、簪は楯無の下へ駆け寄っていた。

 

アリアと共に意識はあるようだが早く処置をしなければならないような重傷だ。

 

「簪…ちゃん…」

 

簪が応急処置を行おうとした時、楯無が力無く口を開く。

「お姉ちゃん!しゃべら…」

 

「簪ちゃん」

 

心配した簪の言葉を遮り楯無は稟とした口調で言う。

 

「簪ちゃん、昨乃を援護してあげて…お願い…」

 

そう言うと意識を失う楯無。

 

楯無の言葉に昨乃を見ると苦戦を強いられている。

 

今、簪がやらなければ昨乃まで危険にさらしてしまう。

 

『ミサイルのマルチロックオンをシステムで操作する』

 

それはシステムの作成が手詰まりとなった時に何度か試したが上手くいかなかった。

 

だからこそ簪は昨乃から忍術の手解きを受けようとしたのだ。

 

だが、結局それも上手くいかなかった。

 

 

『でも…やらなきゃいけない!!!』

 

簪は目を閉じて、意識を集中する。

そして瞳を見開くと同時に、両手と装甲が光の粒子になって消えた。

解放された十本の指。

それを、確かめるよと開閉する。

 

「いける。

『打鉄弐式』、マニュアル誘導システムを 起動。

四十八個の並列多重で…………」

 

意識が研ぎ澄まされ、まるで自分の周囲だけ時間が停止したような錯覚に陥る。

簪の指先には、空中投影キーボード……それも、フルカスタムしたものが上下で枚ある。

二本、指五本につき四枚の球状キーボードを、合計八枚呼び出して一斉に入力をはじめる。

 

「大気の状態……各弾頭の機動性、タイムラグ……爆発における相互干渉、発揮できる攻撃力……」

 

簪の目の前には数十枚のウインドウが開いている。

 

「すぅぅ……、はぁぁ……」

 

息を吸い込み、はき出す。

クリアーになった意識で、簪は極限まで集中力を高め、そして―

「この『山嵐』から、逃れられる……?」

 

肩部ウイング・スラスクー、そこに取り付けられた六枚の板がスライドして開く。

その中から、ちょうど粒子組成が終わった八運装ミサイルが六ヶ所・計四十八発、一斉に顔を出したのだった。

 

「力を貸して、『打鉄弐式』!」

 

簪が叫ぶと同時に昨乃はその場から離れる。

直後にすさまじい音を立てて、ミサイルが一斉に発射される。

 

「ダイレクト・リンク、確立…!

マニュアル・ロック、開始……!」

 

炎帝へ向けて、ミサイルが一斉に嬰いかかった。

それも直線的な動きではなく、複雑な三次元躍動をしながら急逮横近しいく。

 

「くっ!」

 

道元はシールドユニットを展開、同時に右腕の輻射波動から熱線を放ちミサイルを撃墜しようとする。

 

しかし、完全マニュアル制御されたミサイルは、炎帝の動きに合わせて回避や加速、方向転換を行い、的碓にシールドユニットの中枢部分を吹き飛ばした。

防御を失い、スラスター制御に友る後退回避をはじめる道元だったがそれを逃がすまいと第二射のミサイル群がまるでコヨーテのように襲いかかる。

脚が、腕が、肩が、腰が、頭が、腹が、ミサイルによる爆発に飲み込まれる。

 

「ぐがぁぁぁぁ!!」

 

 

「はあぁぁぁ!」

 

苦痛に声を上げる道元に昨乃は最接近、止めの斬撃を放とうとする。

 

「くっ!」

 

「つっ!」

 

だが、それよりも早く道元が閃光弾を放ちその場から離脱した。

『しかし……』

 

離脱した道元を目で追いながら、昨乃は先ほど簪から感じられた気を思い出す。

恐らく、極限状態に陥ったからこそ発揮されたものだと思うがそれでも簪は忍術を使っていたのだと考える。

『出来るこことならば簪殿や楯無殿を悪忍達との戦いに巻き込みたくなかったでござるが…』

 

既にそんな事を言っている状態で無いことは確かだ。

 

だが、出来る事なら悪忍との因縁は自分の力で断ち切りたいと思うところもあったー。

 

 




約、1ヶ月振りの更新&五連投となりました。
次は八巻のお話を書かしてもらう予定です


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第二十七話 『EOS』

学年合同IS実習-。

グラウンドには、一年生全員が整列していて、いつものように千冬が腕組みをして立っていた。

 

「影宮、神崎、織斑、篠ノ之、オルコット、、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、更識、前に出ろ!」

授業開始早々、専用機持ち全員が千冬に呼び出される。

「先日の事件で、お前たちのISは殆どが深刻なダメージを負っている。

自己修復のため、当分の間ISの使用を禁止する」

 

「はいっー」

 

さすがにそのあたりのことは言われなくてもわかっているようで、それを証明するかのように、全員がよどみなく返事をする。

「さて、そこでだが……山田先生」

 

「はいみなさん、こちらに注目してくださーい」

 

そう言って真耶が千冬の後ろに並んでいるコンテナの前で、「ご覧あれ!」とばかりに手を開いて挙げる。

グラウンドに集合したときから、昨乃を含めて全員がコンテナを注目し騒ぎ出す。

 

「なんだろ、あれ?」

「もしかレて、新しいーIS?」

 

「えー? それならコンテナじゃなくてISハンガーでしょ?」。

 

「なにかななにかな? おかしげ おかしかなあ!」

 

……最後は言わずもがな本音の言葉だった。

 

「静かに!

…ったく、お前たちは口を閉じていられないのか。

山田先生、開けてください」

 

「はい!

それでは、オープン・セサミ!」

 

真耶の掛け声の意味がいまいちわからなかった一年生は、きょとんとする。

 

その反応を見て、わずかに涙ぐみながら、、真耶はリモコンのスイッチを押す。

 

「うう、世代差って残酷ですね……」

 

『山田先生、大丈夫でござる。

拙者、今し方ようやくその言葉の意味を理解したでござるから…』

 

っと心の中でフォローを入れる昨乃をよそに

内部駆動磯構を搭載しているコンテナはモーターの駆動音を響かせながら、その重厚な金属壁を開いていく。

 

「こ、これは……」

 

一夏が驚いて声を上げる。

 

「……なんですか?」

 

ボケた一夏に千冬の出席簿アタックが炸裂する。

 

『ドンマイでござるよ…一夏殿』

 

痛む頭を押さえる、一夏を一瞥しながら昨乃は改めてコンテナを見る。

 

中からあらわれたのは、金属製のアーマーのようなものだった。

 

「教官、これはもしやー」

 

「織斑先生と呼べ」

 

ラウラはそのアーマーに見覚えがあったのか、ついついドイツ軍時代の呼び方をしてしまい、千冬に軽く睨まれる。

敬愛している千冬にきつい表情をされて、ラウラはついつい怯んで口を閉ざした。

 

「これは国連が開発中の外骨格攻性機動装甲『EOS』だ」

 

「イオス・…」

 

「Extended Opesation Seeker。

略してEOSだ。

その目的は災害時の救助活動から、平和維持活動など、様々な運用を想定している」

 

「あの、織斑先生。これをどうしろと・・?」

 

箒が恐る恐る尋ねる。

 

そうすると、返ってきたのは至ってシンプルな言葉だった。

 

「乗れ」

 

『えっ?』

 

一夏&朔乃+女子八人が声を揃えて口を開ける。

 

「パーソナルデーターデータを提出するようにと学園上層部に通達があった。

お前たちの専用機はどうせ今は使えないのだから、レポートに協力しろ」

 

「は、はあ……」

 

なんとなくの返事でうなずく九人。

その後ろに移動した真耶は、その他の一般生徒たちにぱんぱんと手を叩いて指示をはじめた。

 

「はーい。

みなさんはグループを作って訓練機の模擬戦はじめますよー。

格納庫からISを運んできてくださいね~」

 

どうやらEOSの性能を見たかったらしい多くの女生徒は、不満げに声を上げるが干冬の一睨みで即座に運搬作業に取りかかる。

とりあえずどうしたものかと考えている専用機持ち九人の頭を順番に叩いて、千冬は行動を促した。

 

「はやくしろ、馬鹿ども。

時間は限られているんだぞ。

それとも何か?

お前たちはいきなりこいつを乗りこなせるのか?」

 

「お、お言葉ですが織斑先生。

代表候補生であるわたくしたちが、この程度の兵器を扱えないはずがありませんわ」

 

自信満々に言い切ったのはセシリアだった。

「ほう。そうか。ではやってみせろ」

 

にやりと唇をつり上げる千冬に全員がぞくっとした恐怖を感じながら、各々が各機への乗り込みをはじめた。

 

金属の動く感触。

全く自由に動かない四肢に、自然と眉間にしわが寄る。

 

「くっ、このっ……!」

 

「こ、これは……」

 

「お、重い……ですわ…」

 

「うへえ、うそでしょ……」

 

「う、動かしづらい……」

 

一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット。

その全員が、EOSの扱いに困っていた。

なにせ、重いのである。

無論、総重量ならばISの方が上だが、あちらにはPICという反重力システムが搭載されている上に、各部に搭載された補助駆動装置、それにパワーアシストなどの恩恵から、ほとんど重量を感じることなく扱える。

それに対して、EOSは一言でいえば金属の塊だ。

補助駆動装置は積んでいるものの、そのレベルはISよりも遥かに低い。

しかも、エネルギーの運用関係上、常にオンにしておけるものではない。

さらにはダイレクト・モーション・システムにより、操縦者の肉体動作の先回りをして動くISとは異なり、すべての動きは操縦者の後になる。

その上、問題は背中に搭載された巨大なボックスだ。次世代型P P Bと呼ばれるそれは、単重量だけで三〇キロを超す。

それほどの重量がありながら、EOSのフル稼働では十数分程度しか持たない。

いかに、ISが優れた装備であるかを、今更ながらに実感するハメになる。

しかし、その一方で黙々とEOSの感触を確かめていたラウラやアリア昨乃は、それから少しして小さく頷く。

 

「それではEOSによる模擬戦を開始する。

なお、防御能力は装甲のみのため、基本的に生身は攻撃するな。

 

射撃武器はペイント弾だが、当たるとそれなりには痛いぞ」

 

千冬がぽんぽんと手を叩いて仕切る。

それからすぐに響いた「はじめ!」の声と同時に、昨乃は脚部ランドローラーを使って未だに操縦に手こずる一夏に間合いを詰めた。

 

「げっげ!」

 

「遅いでござる!」

 

反撃のへろへろパンチを回転運動でかわし、懐へ潜り込む。

そして腰を落としての足払いを放つ。

 

「ぐえ!」

 

一夏が転倒したところに、素早くEOS用サブマシンガンをセミオートで三発撃ち込んで、すぐに離脱。

 

次の目標であるセシリアへと向かう。

 

「もらったでござる!」

 

「わたくしはそう簡単にはやられませんわよ!」

 

サブマシンガンを構えてフルオート連射をするセシリアだったが、その照準はまったく合っていなかった。

 

「くっ!なんという反動ですの!」

 

通常、ISは射撃・格闘を問わず反動を自動で相殺するPICとオートバランサーが搭載されている。

しかし、EOSにはそんな便利な機能はない。

つまりすべての行動と反動を生身で制御しなくてはならないということだった。

「ああもう! 火薬銃というだけでも扱いにくいのにー」

最初こそ戸惑ったものの、セシリアは国家代表候補生である。

当然、生身での戦闘訓練も軍で受けているため、段々と反動制御に慣れが出てきた。

しかし、昨乃はその上を行っている。

完全にセシリアが銃器を使いこなす前に、ジグザグ走行でセシリアへと接近した。

 

「速いですわね!

けれど、この距離なら逆に外しませんわ!」

 

「甘い!」

 

さっきー夏に見せた円運動回避とは違う、一直線の特攻。

弾丸は左腕の物理シールドで受けて、そのままセシリアに向かっていく。

 

「げ!」

 

「はっ…!」

 

身構えたセシリア、その肩部アーマーを慣性のまま突き進んだ朔乃が掌で叩く。

 

「きゃあ!」

 

バランスを崩し、背中から地面に倒れるセシリア。

EOSはその重量の関係上、倒れるとなかなか起き上がれない。

もちろん、そのための背部起立アームは装備されているが、いかんせん遅すぎる。

体を起こす前に、セシリアはラウラのペイント弾連射を浴びた。

 

「これで二機!」

 

昨乃が叫ぶと同時に顔を上げるとアリアが鈴と簪、ラウラが箒とシャルロットを打ち倒していた。

 

「やはり残ったのは貴様らのようだな」

 

「まっ、これが私の実力よ」

 

ラウラの言葉にアリアが答える。

 

それと同時に三機、共に円運動を開始する。

 

「はぁぁ!」

 

先ず最初に昨乃にしかけときたのはアリアだ、急加速してサブマシンガンを撃ちながら昨乃へと向かってくる。

ペイント弾をシールドで受け止めていると…。

 

「もらったー!」

 

そう叫びながらラウラがタックルを仕掛けてくる。

 

アリアが昨乃を引きつけている間にラウラ接近する作戦らしい。

 

昨乃はアリアをギリギリまで引きつけて回避、同士討ちを狙う。

 

「「っつ!」」

 

だが、 ラウラは昨乃が回避運動を取ると同時に射撃を止め、アリアもまたラウラにぶつかるより先に機体を停止させる。

即席で組まれたペアであるのに二人とも息はぴったりであった。

その後もアリアとラウラは幾度も攻撃をしかけては昨乃が回避するという事が繰り返された。

 

そしてアリアとラウラが昨乃へと十回目の攻撃を仕掛けようとした時―。

 

「よし、そこまで!」

 

流石にこれ以上続けても決着は着かないと判断した千冬の号令でEOS模擬戦が終了する。

 

「さすがだな、ポーデヴィッヒ」

 

「いえ、これはドイツ軍で教官にご指導いただいた賜物で 」

 

ばしんーと、出席簿アタックならぬ、スペック表アタックが炸裂した。

 

「織斑先生だ」

 

「は、はい……」

 

頭を押さえるラウラに、それぞれEOSを装備解除した面々が集う。

「ラウラ、昨乃、アリア三人ともこのEOSって使ったことあったのか?」

 

「いや、これではないが、似たようなものがドイツ軍で存在したのだ。

主に、ISの実験装備の運用試験などに用いられた」

 

「こんなの慣れよ、慣れ」

 

「右に同じでござる」

 

一夏の間いに、三人が答える。

そうしていると、次に話しかけてきたのはシャルロットだった。

 

「へえ、それであんなにうまかったんだ…ってアリアに昨乃、慣れって!?」

 

昨乃とアリアの言葉に唖然とするシャルロット。

 

「どんだけのチートよあんたら」

 

鈴がそう言いながら苦笑を浮かべる。

 

 

「それにしてもお前たち……ぷ、ふ、くくっ」

 

いきなりラウラが笑いをこらえる。

どうしたのかと一夏たちはお互いの顔を見合わせると、顔面やら運動服やら、とにかくペイントト弾のインクまみれになっていたのだった。

 

「く、くそ、昨乃…。

わざと俺の顔面狙っただろ」

 

「ね、狙われる方が悪いのだろ……はははっ」

 

昨乃の変わりに答えたラウラの珍しい笑い顔に、箒たちはちょっと面食らう。

まるでそれは、友達とじゃれ合う、どこにでもいる少女の顔だったからだ。

 

「それにしても、このEOSとやらは、本当に使い物になりますの?」

 

「それは私も気になったな」

 

セシリア、箒が答えを求めて千冬に視線を向ける。

 

「まあ、ISの数に限りがある以上、救助活動などでは大きなシェアを獲得するだろうな」

性能差で言えば、例えEOS千機でもIS一機に及ばないだろう。

ということは、伏せておく。

一応、これは建前上では『ISとの戦闘を考慮していない』というものなのだ。

 

『そんなものをこのIS学園に送りつけてくるなどとは、思い切ったものだ。

それに、それを受け入れた学園長の思惑もいまいち分からないな…。』

 

しかし、今は考えないでおく。

ー『その瞬間』まで、干冬は考えない。

もちろん、備えはしておくが。

そんなことを考えていると黙り込んでしまったようで、EOSを脱いだ全員が次の指示を待って視線を送っていた。

 

「全員、これを第二格納庫まで運べ。カートは元々乗っていたものを使うように。

以上だ」

 

千冬が手を叩くと、全員がその指示通りに動きはじめる。

さすがにカートに戻す作業は真耶がISを使用したが、結局運ぶのは各人の生身なので、鈴があからさまに「うえー」っとイヤそうな声を漏らした。

 

そんなこんなで、今日もまた実習の時間が過ぎていった。

 



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第二十八話 『侵入者』

「そういえば学園にいる専用機持ちで一人なのはお姉ちゃんだけだっけ?」

 

昼休み、食堂から教室に戻る途中でそう尋ねたのは簪だ。

自己修復の為に時間がかかるために専用機持ちが全員、二人以上で行動する事を義務づけられているのだ。

 

 

「それと一夏殿もでござるな。

アリア殿は一時帰国でござるしー」

 

前回の襲撃時にアリアのラファール・カトラもかなりのダメージを追ったのもあるのだが治り次第、新型パッケージの稼働実験を行いたいという事で今朝方イタリアへと立ったのだ。

 

「そっか…織斑君…大丈夫…かな?」

 

 

「いや、問題はないでござ…」

 

ろうと昨乃が言おうとした瞬間、突然廊下の灯りが一斉に消えた。

否、廊下だけではなぐ、教室も、電子掲示板も、すべてが一瞬で消えたのだった。

もちろん、昼間なので日光があるため、真っ暗にはならない。

そう思ったのだが。

 

「ぬっ?何故、防御シャッターが降りてるのでござる??」

 

ガラス窓を保護するように、斜めスライドの防壁が順番に閉じていく。

ざわざわとそこら中からどよめきが聞こえる中、すべての防壁が閉じて、校舎内は真っ暗になった。

 

「二秒たっでござるな?」

「うん。

でも、緊急用の電源にも切り換わらないし、非常灯も点かない。

おかしいよ」

 

ふたりはISをローエネルギーモードで起動し、視界にステイタスウインドウを呼び出す。

同時に視界を暗視界モードに切り換え、ソナーに温度センサー、それから動体センサー、音響視覚化レーダーといった機能をセットした。

 

『もしも~し、私、楯無でーす。

二人とも無事?』

 

それと同時ISによるプライベート・チャネルで楯無のちゃらけた声がそれぞれ届く。

それぞれに返事をしていると、それを割り込み回線の声が遮った。

 

『専用機持ちは全員地下のオペーレーンョンルームへ集合。

今からマップを転送する。

防壁に遮られた場合、破壊を許可する』

 

千冬の、静かだけれど強い声。

それは、このIS学園でまたしても事件が発生したことを克明に告げていた。

 

「では、状況を説明する」

IS学園地下特別区画、オペレーションルーム。

本来なら生徒の誰一人として例外なく知ることのない場所に、現在学園にいる専用機持ち全員が集められていた。

 

昨乃、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、楯無が立って並んでいる。

千冬と真耶だけがいた。

 

このオペレーションルームは完全独立した電源で動いているらしくディスプレイはちゃんと情報を表示している。

ただし、空間投影型ではない旧式のディスプレイだったが。

 

「しかし、こんなエリアがあったなんてね…」

 

「ええ。いささか驚きましたわ……」

 

それとなく室内を観察しながら鈴とセシリアがつぶやくと、すかさず千冬に注意を受けてしまう。

 

「静かにしろ!

鳳!

オルコット!

況説明の途中だぞ!」

 

「は、はぃぃっ!」

 

「も、申し訳ありません!」

 

千冬の怒号で、鈴とセシリアのひそひそ話は中断される。

それから改めて、真耶が表示情報を拡大して全員に伝えはじめた。

 

「現在、IS学園ではすべてのシステムがダウンしています。

これはなんらかの電子的攻撃……つまり、ハッキングを受けているものだと断定します」

 

真服の声も、いつもより堅さがある。どうやら、この特別区画に生徒をいれることは、かなりの緊急事態のようだった。

 

「今のところ、生徒に被害は出ていません。防壁によって閉じこめられることはあっても、命に別状があるようなことはありません。

すべての防壁を下ろしたわけではなく、ど うやらそれぞれ一部分のみの動作のようです」

 

だからトイレにもいけますよ、と言ったが、誰も笑わなかった。

 

「あ、あの、現状について質問はありますか?」

 

「はい」

 

ラウラが挙手をする。

相変わらず、現役軍人は有事の際に行動が機敏なのだった。

 

「IS学は独立したシステムで動いていると聞いていましたが、それがハッキングされることなどあり得るのでしょうか?」

 

「そ、それは……」

 

困ったように真耶が視線を横に動かす。

それを受けて、千冬が口を開いた。

 

「それは問題ではない。問題は、現在なんらかの攻撃を受けているということだ」

 

「敵の目的は?」

 

「それがわかれば苦労はしない」

 

確かにそうかと 、ラウラは質問を終える。

他に挙手するものがいなかったので、真耶は作戦内容の説明へと移行した。

 

「それでは、これから篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴイッヒさんはアクセスルームへ移動、そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。更識簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」

 

すらすらと真耶が告げる。

しかし、それに対する専用機持ちたちの反応は静かなものだった。

「…………… 」

 

「あれ? どうしたんですか、皆さん」

 

きょとんとしている真耶の前に、楯無以外の全員がぽかんとしていた。

 

「「「で、電脳ダイブ!?」」」

 

「はい。理論上可能なのはわかっていますよね?

ISの操縦者保護神経バイパスから電脳世界へと仮想可視化しての進入ができる………あれは、理論上ではないです。

実際のところ、アラスカ条約で規制されていますが、現時点では特例に該当するケース4であるため、許可されます」

 

「そ、そういうことを聞いてるんじゃなくて!」

 

 

鈴がぶんぷんと握り拳を縦に振る。

 

「そうですわ! 電脳ダイブというのは、もしかして、あの…… 」

 

セシリアが困惑気味に喋ると、それにシャルロットが続けた。

 

「個人の意識をISの同調機能とナノマシンの信号伝達によって、電脳世界へと進入させる―」

 

「それ自体に危険性はない。

しかし、まずメリットがないはずだ。

どんなコンピューターであれ、ISの電脳ダイブを行うよりもソフトかハードか、あるいはその両方をいじった方が早い」

 

ラウラのもっともな言い分に、簪が付け加える。

 

「しかも電脳ダイブ中は、操縦者が無防備 。

何かあったら、困るかと……」

 

最後に箒が全員の意見を代弁した。

 

「それに、一箇所に専用機持ちを集めるというのは、やはり危険ではないでしょうか」

 

それらの意見をすべて間いてから、千冬はすっぱりと言い切った。

 

「ダメだ。

この作戦は電脳ダイブでのシステム侵入者排除を絶対とする。

異論は聞いていない。

イヤならば、辞退するがいい」

その迫力に、全員が気圧される。

 

「い、いや、べつにイヤとは」

 

「ただ、ちょっと驚いただけで」

 

「で、できるよね。ラウラ?」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

「ベストを尽くします」

 

「や、やるからには、成功させてみせましょう」

 

 

それぞれの同意を得たところで、千冬はパンツと手を叩いた。

 

「よし! それでは電脳ダイブをはじめるため、各人はアクセスルームへ移動!作戦を開始する!」

 

その劇を受けて、箒たちはオペレーションルームを出る。

 

後に残ったのは、千冬と真耶。

それに楯無、朔乃だった。

 

「さて、お前達には別の任務を与える」

 

「なんなりと」

 

「御意に…」

 

いつものおちゃらけはゼロで、楯無は静かにうなずく。

 

昨乃もまた同様に前世の―忍時代の任務時の雰囲気に戻る。

 

「おそらく、このシステムダウンとは別の勢力が学園にやってくるだろう」

 

「敵―、ですね」

 

この混乱に便乗して、介入を試みる国は必ずある。

千冬はそう睨んでいた。

 

「そうだ。今のあいつらは戦えない。

悪いが、頼らせてもらう」

 

「任されましょう」

 

「お前には厳しい防衛戦になるな」

 

「ご心配なく。これでも私、生徒会長ですから。

それに頼りになる相棒もいますから」

 

そう言って不適に微笑んでみせるが、千冬の顔色は変わらない。

 

「しかし、お前のISも先日の一件で浅ぐないダメージを負っただろう。

まだ回復しきってもいないはずだ」

 

 

「ええ。けれど私は更楯無っこういう状況下での戦い方も、わかっています」

 

生徒会長どして、一歩たりとも引きはしない。

その強い決意が双眸の奥に見えて、千冬はふっつとため息をついた。

 

それから真っ直ぐに楯無を見つめて、一言告げる。

 

「では、任せた」

 

楯無と昨乃はぺこりとお辞儀をして。

オペレーションルームを出て行った。

 

「さて、と」

 

昨乃と楯無は破壊した防壁からひょいっと抜け出ると、軽やかに着地した。

 

「全校生徒は大体の避難が終わったようだし、それならまあ、大丈夫ね」

 

扇子を開く楯無。

そこには「迎賓」と書かれている。

 

お迎えするのは、笑顔ではなく鉄拳だが。

『侵入者アリ。侵入者アリ』

 

音を立てて携帯電話が鳴る。

楯無はそれを取り出して画面を見る。

 

「楯無殿…」

 

昨乃が楯無を冷ややかな視線でみる。

 

何故ならば携帯には学園のシステムから独立したカメラ…。

即ち無断設置のカメラに敵影が映し出されていたからだ。

 

「まぁ、まぁ、固いことは言わないで…」

 

苦笑する楯無にため息をつきながら昨乃は携帯の映像を見る。

 

画面には男か女かも分からない、枯葉のようなものをつけた「けむくじゃら」が六名見えた。

一見すると森林地帯擬態服に見えなくもないが、まったくの別物である。

 

「あれは、確か周囲の風景を撮影して表面投射する最新型の光学迷彩ね」

 

枯葉に見えるのはすべて可動する特殊フィルムで、通常時は葉っぱのようだが、迷彩をオンにするとそれぞれが閉じて装着者を包み込む。

その上に周囲風景を投影して、迷彩効果を発揮するというものだった。

 

(そ九にしても、システムダウンからこの短時間で最新装備の特殊部隊が学園に突入?

なんだかおかしな話ね)

 

「いくらなんでもシスタムダウンから敵の侵入までの時間差が短すぎるでござるな…」

 

昨乃も楯無と同じ事を考えているらしく顎に手を当てて難しい顔をしている。

だがしかし、システムダウンを起こしているものとは別の勢力だろう。

 

同じ勢力だった場合、ダウンと同時に突入、制圧がもっとも効率的だからだ。

 

(まあ、常時監視され

てるってことね。

まったく、無粋なんだから)

 

ここはIS学園であると同時に、花の十代が通う女子枚でもある。

それを二十四時間監視とは、まったく大人はロマンが足りないーと、楯無は思う。

 

 

「あら?」

 

遠くまで真っ直ぐ続く廊下。

そこには何も見えない。

足音もしない。

しかし、何かがいる。

昨乃もそれを感じたのかISを展開している。

「こんなに早く接触だなんて。

私ってば運命因果に愛された女かしら」

 

短く音が鳴り、特殊合金製の弾丸が楯無に飛んでくる。

しかし、それらはすべて楯無の目の前で止まった。

「!?」

 

「ふふん。なんちゃってAICよ」

 

実際には、正面にあらかじめ『ミステリアス・レイディ』のアクア・ナノマシンを空中散布していたのだった。

IS専用の射撃武器ならいざしらず、通常兵器の弾丸程度はこうしてたやすく遮ることができる。

動揺する目に見えない敵兵に微笑む楯無。

そもそも、目に見えない彼らを索敵していたのも、このアクア・ナノマシンだった。

音がなくとも姿がなくとも空気には触れる。

その空気に感知粒子を混じらせておけば、見つけるのはたやすい。そしてー

 

「ぱちっとな」

 

楯無がかちんと親指を閉じる。

刹那、大爆発が廊下を飲み込んだ。

 

「ミステリアス・レイディの技がひとつ。『クリア・パッション』のお昧はいかが?」

 

こういった屋内戦闘は、本来ミステリアス・レイディの独壇場だ。なにせ、ナノマシンの分布密度から流動まで、すべてコントロールできるのだから。

 

しかも相手は最新装備の特殊部隊とはいえ、ただの人間。

 

いくら完全展開できないISであっても、相手になるはずがない。

 

「弱いものイジメみたいよねえ」

 

はぁ……っとため息をつく楯無。……しかし。

「うふふ。そういうのって大好き」

 

にこ一とと、魔性の女が微笑む。

大体、相手はほとんどの生徒が非武装の女子校に乗り込んできたのだ。

大義名分は楯無<BR>にある。

 

「さあ、行くわよ。必殺、楯無ファイブ!」

言うなり、その姿が五人に分かれる。

 

ずららっと並んだ、制服姿にランス装備の更識楯無×5。

 

「まあ、ミステリアス・レイディの機能なんだけどね」

 

すなわち、五体の内いくつかはナノマシン・レンズによって作り出した幻であり、その他はアクア・ナノマシンによって製造した水の人形だ。

問題は、その内訳が分からないことだった。しかも、水人形に至っては

 

「どっかーん」

 

爆発機能付きの実体なのだ。

しかも、水で出来ているので銃弾は効かない。

「は、班長! このままでは―」

 

「うわああああっ!?」

 

訓練された兵士、それも最高スペックの男たちがどんどんとやられていく。

さっきカメラに映った六人とは別の班も合流してきたが、一切楯無に歯が立たない。

 

「ひ、避け! 退けーッ!」

 

これで十六歳。しかも、機体も本人も本調子ではない。

 

それでこの有様なのだ。

つくづく、ISとは既存の認識を破壊し尽くしたのだと実感させられる。

「うふふふ♪」

 

炎の中、微笑む楯無。

一〇〇パーセント、悪役だった。

 

「うわぁ…」

 

そんな楯無の様子を若干、引き気味で見る昨乃。

 

侵入者が圧倒的に悪いのであるがここまでいくと可愛そうに思える。

 

「昨乃、次はISが10機ほど来るみたいだけど頼める?」

 

「無論でござる!!」

 

小太刀を展開すると敵に向かっていった。

 

学園のシステムが復旧したのは昨乃と楯無が侵入者を迎撃し終えた一時間後であった。

 




六~八巻の話を割と駆け足で書かせて頂きました。
楽しんでいただければ幸いだったりしますー。


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第二十九話 『心が恋に落ちる音』

「私とした事が油断したわ…」

 

「確かに楯無殿にては珍しいでごさるな…」

 

IS学園特別医療室、そこで昨乃は入院生活が長引いている楯無の世話を焼いていた。

 

先月の事である、学園のメインコンピューターが何者かにハッキングを受け、全システムがダウン。

そこに、米軍の部隊がISを伴って強襲。

楯無は生身の部隊を、昨乃はIS部隊を迎撃。

その最中、楯無は敵の銃弾を受けたのだ。

弾丸は楯無の腹部を貫通したのである。

 

「少し、考え事をしていたかというのもあったけど…」

 

「考え事というとハッキングを行った犯人の事でござるな?」

 

昨乃の言葉に楯無は頷く。

未だにハッキングを行った犯人は捕まってはいない。

それどころかハッキングを行った人物の特定すら出来ていないのだ。

だが、昨乃はその犯人について何となくではあるが予想がついていた。

学園のシステムにハッキングできるような人物は限られているからだ。

 

『…恐らく束音殿でござろうが…一体何の目的で…』

 

考えるがその目的が全く読めないのである。

 

「こんなんじゃ全然駄目ねー。

お姉さん、最近は全然良いところがないじゃない」

 

昨乃が思考を巡らせていると憂いを帯びた表情を浮かべてそんな事を言う。

 

「ぬ?何故でござるか?」

 

「だってさぁ…。

最近、全然活躍してないじゃん」

 

「そんな事はないでござる」

 

弱音を吐く楯無に、はっきりと答える昨乃。

 

「楯無殿が必死に努力しているなは拙者も良く知ってるでござるよ」

 

「努力したとしても結果が出なければ…」

 

「悖らず、恥じず、憾まずでござる楯無殿」

 

「?」

 

昨乃の言葉に頭に疑問符を浮かべる楯無。

 

「道理に背かず、努力を怠らず、過ぎた事を悩まず。

そうすれば必ず結果は出るでござるよ」

 

「本当に昨乃は可愛いわね…」

 

そんな事を言いながら楯無は昨乃の頭を撫でる。

 

「そこは優しいとかではないのでござるか!?」

 

そんな楯無に昨乃は病室でありにも関わらず大声を上げたのであった。

 

 

 

 

 

「楯無さんと一緒にいるのが一番楽しいかな」

 

「「「「「なっ…!?」」」」」

 

「ぬ?」

 

「?」

 

翌日、簪と共に楯無の見舞いに来た昨乃であるが病室の前で聞き覚えのある声がしたために立ち止まる。

 

一夏、箒、鈴、セシリア、シャル、ラウルの声である。

 

「あんた達来てるなら入りなさいよ。

今、修羅場ってて面白いところだから」

 

どうしたものかと考えていた昨乃と簪に病室の戸を開けてアリアが手招きする。

 

招かれるままに病室へと入る昨乃と簪はアリアから事の顛末を聞いたのである。

 

曰わく、箒達と共に楯無の見舞いに来た一夏が、楯無に誰かと付き合っているのかを問わたのが事の発端だ。

 

その問いに一夏は誰とも付き合っていないと答えた為、楯無が誰といると楽しいかを聞き、一夏の出した答えが先ほど昨乃達が病室の前で聞いたセリフである。

 

『思えば、アリア殿も丸くなったでござるな…』

 

以前は恋愛話となると顔を真っ赤にしていた彼女であるが、一週間前に…ラファール・カトラの補修と新型バックパックの稼働実験から戻ってからは免疫がついてきたのか、そういった話題にも積極的に参加するようになってきたのである。

 

そして昨乃と簪に全く気づいてない様子で一夏と女子達の修羅場は続いていた。

 

「なんでよっ!?」

 

先ず、半泣きで睨んだのは鈴だ。

 

「だってなあ、まあ、楯無さんってスタイルいいし」

 

「うっ!」と、鈴。

 

「高飛車じゃないし」

 

「ううっ!」と、セシリア。

 

「ぐいぐい引っ張ってくれるし」

 

「うううっ!」と、シャルロット。

 

「暴力振るわないし」

 

「ううううっ!」と、箒。

 

「夜這いに来ないし」

 

「うううううっ!」と、ラウラ。

 

「でも、みんなもそれぞれ魅力があると思うぞ!」

 

「「「「「フォローになってない!」」」」」

 

こうして特別医療室棟に少女達の怒号が響きあったのである。

 

 

 

 

「全く、一夏殿の朴念仁振りは相変わらずでござるな…」

 

「タダのバカなんじゃないの?」

 

一夏達が病室を後にした所で苦笑する昨乃とヤレヤレと首を左右に振るアリア。

 

「…………」

 

そんな二人の言葉に何故か楯無は黙っている。

 

「楯無殿…?」

 

尋ねる昨乃に楯無は扇を広げる。

 

そこには『思考中』と文字が書かれていた。

程なくして…。

 

「良いこと思いついちゃった♪」

 

満面の笑みを浮かべて言った楯無。

 

『また、ろくでもないことを考えてるでござるな…』

 

そんな楯無にそんな事を思う昨乃であった。

 

 




前話から約一年振りの投稿となります灰音です。
気分が載らずに作品を放置していました。
続きを待っていた方、お待たせして本当に申し訳ないです。

次はもう少し早く投稿出来るように頑張ります。

ちなみに、作中で昨乃が言っている『悖らず、恥じず、憾まず』は艦これの水雷魂を引用させていただきました。
私の独自の解釈ですので違っていたらすいませんm‐‐m
それではまた、次話で!


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第三十話 『告白』

「全く、楯無殿は困った御人でござるな…」

 

苦笑いをしながら昨乃は呟く。

先日、猛アピールする女子達に煮え切らない態度を取る一夏に、楯無が一年生対抗一夏争奪代表候補生ヴァバーサス・マッチ大運動会なるものの開催を宣言したのだ。

 

「私は楽しいよ、こうして昨乃と買い物に出られたから…昨乃は楽しくない?」

 

「そういうことではござらんよ……。

ただ、楯無殿の手のひらの上で踊らされているようで釈然としないのでござるよ」

 

どこか不安げに問うてくる簪に昨乃はそう答える。

二人は現在、学園の放課後を利用して、大運動会の備品の買い出しに来ていたのだ。

 

「流石に昨乃の考えすぎじゃないかな?」

 

「そうでござろうか?

だが、あの楯無殿の事ござるよ…一夏殿だけでなく。

拙者を商品にしないとも言えぬのでござる」

「それは無いと思うよ…多分」

 

「簪殿…今、多分と言わなかったでござるか?」

 

「気のせい、気のせい。

それよりもバスが着いたみたいだし早く降りよう」

 

そう言いながらバスを降りる簪にどこか釈然としない昨乃。

 

『無理にきくのも気が引けるでござるしな…』

 

そんな事を考えながら簪の後を追ってバスから降り、さっそく何でも揃うステーションモールへと入る。

 

 

「先ずはあんパン五十個……これは配達してもらう必要があるよね…」

 

「ぬ?拙者が運べぬ訳では御座らぬが?」

 

「良いの…早く行こう」

 

そう言って、簪が昨乃の手を引く。

 

『ぬぅ…今日の簪殿は妙に積極的でござるな…』

 

普段は大和撫子の如く、三歩下がって歩いてくる感じの簪であるが今日はいつもよりも肩に力が入ってるような…そんな気がするのだ。

そんなこんなで借りてきた猫状態の昨乃と共に簪はパンの注文を済ませたのだ。

 

「あとは何でござるか?」

 

「次ははちまきと軍手」

 

「それも学園へ発送するのでござるか?」

 

「うん」

 

頷く簪に昨乃の脳内に疑問符が浮かんでくる。

 

「それでは何故拙者を誘ったのでござるか?」

 

「ここのメイドカフェに新商品が出るらしくて。

昨乃、一緒に…飲もう」

 

服の裾を掴んで上目遣いで言う簪に昨乃は思わずドキドキしてしまう。

 

『本当にどういう事でござろう…』

 

人通りの多いモール内、繋いだままの手を意識する昨乃。

 

昨乃の手と同じく小さくも温かい簪の手。

その温もりにずっと浸かっていたくなる。

 

「昨乃、あれ」

 

ドキドキする鼓動を静めようとする昨乃に、簪がメイドカフェの前に出ている『新商品タピオカミルクティー』と書かれた看板を指差す。

 

「昨乃、緊張してる?」

 

「そ、そんなことは無いでござる」

 

体温から図星であることが気づかれてしまいそうな錯覚に陥り、意図的に鼓動を抑える。

 

そして、そのまま店内へと入る。

席に着くメイドさんを呼び、タピオカミルクティーを注文する。

 

「申し訳ありませんご主人様。

実はタピオカミルクティーは後一個しか作れないんです~」

 

申し訳なさそうに頭を下げるメイドさんが頭を下げる。

 

「ならタピオカココナッツミルクでをおねがいします」

「はーい、かしこまりました」

 

簪が注文を変更するとメイドさんは奥へと入っていった。

それを見届けた昨乃は簪に気になっていた事を問うてみる。

 

「簪殿、今日は一体どうしたのでござるか?」

 

「何が?」

 

小首を傾げる仕草を採る簪に昨乃は更に追求しようとする。

 

「お待たせしましたー」

 

だが、それもメイドさんが商品を持ってきたために中断せざる得なくなった。

 

何事も無かったかのようにタピオカココナッツミルクを飲む簪。

 

昨乃はそんな簪を見ながらタピオカミルクティーを一口飲んで、目を見開く。

 

「おいしいでござるな…これは。

茶葉はアールグレイ、にプーアル茶。

タピオカは茹ですぎずにもちもちした食感はキチンと残すと言う基本を踏襲しつつもミルクは練乳では無くジャージ牛乳と…なかなかに手が込んでいるでござる」

 

昨乃にしては珍しく語る所を珍しげに見る簪。

 

「そんなに美味しいならもう少し早く来て二つ頼めば良かった…」

 

「それなら一口、飲むでござるか?」

 

そう良いながら昨乃がミルクティーを差し出す昨乃。

 

「ありがとう」

 

簪はそう言うとミルクティーを受け取り、ストローに口を付けて一口飲む。

 

「うん、美味しい」

 

「間接キスでござるな…」

 

笑顔を浮かべる簪に昨乃はそんなことを言ってみる。

 

「気にしてないよ……」

 

『やはりどこか変でござるな…』

 

普段ならば間接キスを指摘されただけで顔を真っ赤にする簪である。

それなの今日の簪は少し無理をしてるとまではいかないが背伸びしているような印象を抱いていた。

 

 

 

メイドカフェで精算を 済ませた昨乃と簪はゲームセンターでクレーンゲームをしたり、プリクラ撮影をしたりしたのであるがやはり、簪の様子がいつもと違いかなり積極的で昨乃をドキマギさせた。

 

そして、時刻は五時を回った所でありそろそろ戻らないと門限に間に合わなくなる可能性があった。

にも関わらず昨乃は簪と共にショッピングモールの屋上へと来ていた。

 

「簪殿、今日は一体どうしたのでござる?

いつもはその…お淑やかなのに…今日は何というか」

 

「…あんだったんだもん」

 

夕日を背に何事か言おうとする簪。

 

「ぬ?」

 

だが、その声が小さく聞き取ることが出来ずに首を傾げる昨乃。

「不安だったんだもん!

昨乃、いつも神崎さんやお姉ちゃんとばかり楽しそうにして!!

 

私の事は全然見てくれない!」

 

「か、簪殿!?

一体どうしたでござるか!?」

 

声を上げる簪に狼狽する昨乃。

 

「最初は勘違いだと思ってた。

でも、意識し始めたらもう自分でもて止められなくて!!

どうしたらいいのかわからなくて!!!」

 

「簪殿…?」

 

簪が何を言おうとしているのかわからなくて…否、頭ではわかってはいるのだが理解が追いつかないのだ。

 

「私は昨乃の事が好き!!

家族とかそういう意味ではなくて異性として好きなの!!!」

 

その言葉に昨乃は簪を抱きしめていた。

 

「……昨乃?」

 

目を見開く簪に昨乃は言葉を紡ぐ。

 

「……簪殿……今まで、気づいてあげられず辛い思いをさせてすまなかったでござる。

拙者のようなもので良ければその思いに応えさせて欲しいでござる」

 

――――――――と。

 




大体育祭に買い出しのはずがいつの間にか簪の告白話に―。
皆さん、灰音です。
ISカグラ三十話を上げさせていただきました。


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第三十一話 『体育祭』‐前編

急遽、行われる事になった一年生のみの体育祭は上級生たちの準備により無事に執り行われる事となった。

 

勿論、上級生の中には自分も代表候補生だから一夏争奪戦に参加する権利を主張する女子もあったが楯無が設定した『裏方ポイント』により、一定以上の貢献度をあげた生徒には一夏と何かをできる権利が得るられることで、抗議の声は静まった。

そして迎えた体育祭の当日。

一夏の選手宣誓と共に始まった体育祭。

 

「何故…拙者がこのような格好を…」

 

恥ずかしげに顔を赤らめる昨乃は上級生の有志で結成された応援団と共にいた。

 

ミニスカートとFIGHTと刺繍されたシャツ、両手にはポンポンと、その格好は誰がどう見てもチアリーダーのそれだ。

一夏争奪戦を観戦しようとしていた矢先に上級生に捕まりこの格好に着替えさせられたのだ。

 

 

「影宮くん!いい!!ギザカワユス!!!」

 

「ヤバい!鼻血出そう!!!」

 

 

昨乃の不服を全く聞いていないない女子達に昨乃は溜め息をつくと競技へと視線を移す。

 

最初の競技である50mが始まった所である。

競技前に一夏と柔軟体操をしていた時、何かを言われたらしく鈴が一位を独走。

他の追随を許さないタイムで鈴のチームが一位を手にする。

 

「さーて、次なる種目はIS学園特別競技『玉打ち落とし』だ~!」

 

「玉打ち落としとはどんな競技でござるか?」

 

スパッツをスカートの下履いて応援を行うことを条件に有志の応援団に加わった昨乃は隣で応援を行う先輩に尋ねる。

 

「伝統がある我が校の競技で各チームは降ってくる玉をひたすら撃墜するのさ~。

小さい的ほど点は高くなるにょろよ~」

 

「それは面白そうでござるな~」

 

っと独特の語尾で説明してくれた先輩の言葉に目を輝かせる昨乃。

 

チームの応援を受けながら箒、セシリア、鈴、ラウラ、シャルの六人は体操着姿のままISを展開。

それと共にフィールド中心に全自動標的投擲機が光の粒子と共に構成されてる。

 

 

「さあ、準備はいいかしら!? ここからは私、生徒会長の楯無が実況をさせてもらうわ!」

 

先ほどまで実況を行っていた生徒が楯無へとマイクを渡す。

 

「それでは、ISによる玉打ち落とし、スタート!」

 

 

開始宣言と同時に装 置から色とりどり大小さまざまなボールがはき出され、空に舞い上がったれらを、最初に捕捉したのはシャルである。

 

「《レイン・オブ・サタデイ》!」

 

両手にサブマシンガンを呼び出したシャルは、二挺流で次々にターゲットを打ち落としていく。

スコアを表示するウインドウでは、まさに雨のように得点が加算されていった。

 

「やるな。だが!」

 

一定の距離を保ちつつ上方に向けて斉射するシヤルロットの隣を、箒が駆る紅椿が飛翔する。

 

「はあああああっ!」

《雨月》を駆使して標的を切り裂くー。

 

「あら、箒さん。

そのターゲットはわたくしがいただきましてよ?」

 

声とともに青い閃光が箒の直ぐ横から放たれる。

ブルー・ティアーズのビットにから放たれたBTレーザーである。

 

「最高得点の黄金玉、落としますわ!」

 

セシリアが《スター ライトmk皿》を黄金玉へと向ける。

たが、セシリアがトリガーを弾くよりも早く、目標物は両断される。

 

「へへん! 狙ってたのよこれ!」

 

狙撃を行おうとしたところを鈴の《双天牙月》による一刀両断。

さらに、下方ヘ向けて衝撃砲を最大出力で放つ。

 

「ヘヘーんだ。一網打尽!」

 

自信満々に言う鈴であるが衝撃砲のエネルギーが標的に命中する前に霧散する。

よく見ると、そのターゲットもまた落下を停止していた。

《AIC》による防壁である。

慣性を停止させ る結界は、ボー ルの落 下さえ止めていた。

 

「もらった!」

 

巨大な咆哮をあげて大口径レールガ ンが火を噴く。

次の瞬間、 AICにより静止させれていた ボールは一直線にすべて破壊された。

 

「おおっと、これは勝負あった か!?」

 

「良いぞ!ラウラ!!」

 

ラウラのファインプレーにテンプレートな声援を送る解説席の一夏。

しかし、それはラウ ラの頬を赤らめさせ るには十分だったようである。

 

「う、うむ!

わ、私にかかれば、 この程度のことは……ふふ」

 

人差し指を合わせてちょんちょんとしているラウラを、他のメンバーはジト目で見ている。

 

それからさらに試合は白熱し、ポイントがほぼ全員横並びになってきた。

 

そんな中、箒は何かを考えるように顎に手を当てていた。

 

「仕掛ける気でござるな…」

 

 

箒の視線を追って空を見上げると激しい空中戦が繰り広げられており、四人がそれぞれに獲物を取り合っている。

一方の箒はと言うと素早く着地すると腰を落とすと肩部ユニットを展開、エネルギーを充填し始める。

 

『なるほど…』

 

箒の行動に納得する昨乃、紅椿に搭載されたエネルギーカノンである《穿千》を使い一気に的を破壊するつもりらしい。

 

しかし箒を余所に状況は更にややこしくなっていく。

 

「いただきましたわ!」

 

セシリアの狙撃を回避するする鈴。

 

「ちょっと、危ないじゃない!」

 

鈴の体がシャルにぶつかる。

 

「うわわわわっ!?」

姿勢を崩したシャルは、マシンガンの弾をばらまいてしまう。

 

「ぬわっ!?」

 

マシンガンの弾を回避したラウラは、 はず みでリボルバーキャノンを発射する。

――そう、箒に向けて。

 

「な、なにっ!?」

 

直撃は免れたものの、おかげで《穿千》の射線がずれてしまった。

 

そして、 行き着く先は――

 

「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!

その装置、高いのよ!?」

楯無の声もむなしくエネルギー弾の直撃を受けた競技装置は派手な音を立てて爆散した。

「あ、いや、これは、その……」

 

会場全体の視線が箒に集中する。

無論、それは非難めいたものである。

 

「ふ、ふん!やわな機械だっ!」

 

静まりかえる会場。

 

やっとのことで、楯無が口を開いた。

 

「………箒組、 マイ ナス 二百点」

 

 

楯無の言葉に箒の悲鳴がこだました。

 

 

 




灰音です、体育祭の前編をupさせていただきました。
内容的には原作と同じような感じですが御容赦下さい。


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第三十二話 『体育祭』‐後編

「さあさあ、 続いての競技は軍事障害物走です!」

 

楯無の声が勢いよく響く。

 

「あの、もう訊いてもしょうがないですけど、『軍事』ってなんですか?」

 

隣に座る一夏が楯無に尋ねる。

 

「ミリタリーよ」

 

「はあ」

 

「わかってないわね」

 

「まぁ…」

 

 

釈然としない一 夏にため息をひとつ落としてから 楯無はマイクを握り直す。

 

「いいでしょう、説明しましょう!

この軍事障害物走とは、まず最初に分解されたアサルトライアルを組み立てます!」

 

と楯無が指さす先には、パーツ状態の銃が置かれたテーブルがある。

「そして、組み立てたライフルを持って三メートルのはしごを登り、パランスをとりながら五メートルの鉄骨を歩きます!」

 

下にネットがあるから安心してと、ウインクは忘れない。

「そこを過ぎたら今度はポールで一気 に落 下、着地、そのあとは匍匐前進で網を抜けます。

もちろん、ライフ ルは両手で抱えたままね!」

楯無の解説に何となく、前世の忍術修業を思い出す昨乃。

 

「そして最後はお待ちかね!

実弾射撃です! 弾は一発のみ!

外したら一度取りに戻らないといけません!」

これがIS学園だとばかりに 参加者は大いに沸いた。

 

「やほー、 おりむー! みてみて!」

 

箒組の本音が、一夏に手を振っている。

一夏も手を振っ て応えると、 第一走者全員が手を振り返す。

 

走者が全員位置につき、スタートピス トルの音とともに女子が一斉に走り出す。

『やはり本音殿が出遅れたでござるな…』

 

最後にテーブールにたどり着いた本音は銃のパーツを並び替えている。

 

そうこうしている聞に、 他の女子はてきぱきと銃を組み立てて いく。

だが、それを上回るスピードで本音は銃を汲み上げる。

 

「じゃっじゃじゃーん!!」

 

ゆがみの ない、 完全な完成形。

それを誇らしげに両 手でかざして本音は他の女子が唖然とする中、二歩も三歩もリードして走り出した。

 

 

『流石でござるな…』

感心した表情でトップを走る本音を見る昨乃。

更識の家で対暗部の為に必要な技能習得に臨んだのであるが銃の分解を虚、組み立てを本音に教わったのである。

 

『しかし、本音殿の場合は…』

視線を戻すと本音が射撃を行うところであった。

炸薬独特の破裂音で弾丸が飛び出す。

しかし構えだけは様になっているのに、弾丸は明後日の方向へと飛んでいく。

 

「あれ? おっかしいなあ?」

 

首をかしげて、弾丸を取りに戻る本音。

しかし、次も、その 次も、その次の次も、すべて 弾丸は外れ、 結局最下位でのゴールとなった。

本音の場合、組み立ては得意なのであるが、射撃となると空っきしなのだ。

 

『ドンマイでござる』

等と昨乃が心の中で本音にフォローをいれると………。

 

 

『がぁんばれええええええっ!!』

 

解説席から一夏の声援が聞こえてくて女子の目の色、が一斉に変わった。

 

 

一夏が見ているとなれば、接点も緩やかながら生まれることになるだろう。

そこに淡い期待を想わずにはいられないが十代乙女の桃色思考回路と言うものである。

 

その後もレースは大 いに盛り上がりこの競技では事前に訓練をしていたラウラ組が勝利を収めた。

 

『…こういう風に観戦に回るのも久し振りでござるな~』

 

相変わらず、チアの衣装を身に纏って昨乃は体育祭の観戦を行っていた。

 

「―ぬ?」

 

そんな中、突如として軽快なアニソンが応援席に鳴り響く。

昨乃の携帯電話からである。

 

『簪殿でござろうか…?』

 

簪には昨乃が二年の応援席にいることをまだ伝えていなかった事を思い出す。

ポケットから電話を取り出して相手を確認すると楯無からであった。

 

 

次の競技は騎馬戦。

楯無が各組代表騎馬の紹介を開始する。

 

『さて注目はやはり現役軍人のラウラちゃ んですが、おーっとここでアクシデントです。

織斑先生にナイフを取り上げられました』

 

『いや、ナイフとかダメだろ!』

 

 

『織斑先生は次に鈴ちゃんから青竜万を取り上げました』

 

『おい、 鈴!』

 

『箒ちゃんは、あれは日本刀ですねl』

 

『馬鹿か、 おまえらは!!』

 

『シャルロットちゃ んは円月輪を没収されています』

 

『シャル……おまえまで………』

 

『さて、セシリアちゃん?

そろそろ隠し持っ てる狙撃銃を出しておきなさいね』

 

 

ギクッという擬音が聞こえた気がした。

 

ともあれ、これで大運動会の華、騎馬戦の幕が切って落とされた。

『それでは騎馬戦、 開始!』

 

笛の音で一斉に動き出す数十の女子騎馬たち。

 

その中でも最も早く動いたのはラウラの軍団だった。

 

 

「右翼展開! 左翼はフォローに回れ!」

 

仁王立ちのラウラが指揮する部隊は、一般女子生徒の騎馬でありながら鋭い動きをしていた。

 

「よし、 中央突破する!」

 

 

「させないよ、 ラウラ」

 

移動を開始したラウラの前に、シャルの騎馬が立ちふさがる。

 

「ふっ。

やられにきたか!」

 

「そうやすやすとやられはしない!」

 

はちまきを掴もうとしてくる手をはじいて、シャルロットは自分からも攻撃をしかける。

しかし、そこはさ すがに戦い慣れしたラウラ、なかなかはちまきにたどり着かせてはくれない。

 

「プラズマ手刀があれば!」

 

 

「それをいったら僕だってパイルバンカーがあれば!」

 

互いにあーだこーだと言いながら、大将同 士のいがみ合いが続く。

 

「ふん、やっぱりこうなったわね……セシリア!」

 

「わかってはいましたわ……鈴さん!」

 

龍虎相まみえるとはよくいったもので、鈴とセシリアはお互いにドラゴンとタイガーのオーラをほとばしらせていた。

 

「でやああああ!」

 

「はあああああ!」

 

お互いの騎馬が激突し、 両腕が両腕を封じ込める形で硬直する。

「せ・し・り・あぁ……あきらめ、なさい、よぉ!」

 

「り・ん・さ・ん、こそぉ…!」

 

 

互いの力の押し合いが続く。

 

双方とも力加減を変えて相手の体勢を崩そうとするが、組み合っ た腕はなかなか離れない。

 

鈴とセシリアが体を揺らす。

違うのは、 セシリアの方は豊満な胸の膨らみが弾んでいることだった。

 

「………」

 

そして、それはシャ ルロットと対峠して いるラウラも同じである。

 

そんな中、箒は昨乃と対峙していた。

 

一人あぶれるからと言う理由で楯無から参戦をするように電話で命じられたのだ。

 

「大人しく、負けを認めれば痛い目を見ずにすむぞ?」

 

「そうしたいのも山々でござるが…こちらも会長からの命令でござるからな……」

 

苦笑を浮かべる昨乃。

「そうか…では仕方あるまい!」

 

そう言って、組み付いてくる箒を昨乃は真っ向から受け止め、攻撃の応酬が始まった。。

しかしいきなりの大声アナウンスに戦場の全員がざわめいた。

 

「さて、ここで織斑一夏騎馬を投入です!

彼のはちまきを獲っ たら五OO点差し上げます!」

 

楯無だった。

 

「またこんなんですか!?」

 

「乱入があった方がおもしろいじゃない。

がんばれ~」

 

昨乃チーム以外の騎馬全員が一夏の方を向く。

 

なにせ五OO点である。

最下位のチームでさえトップに立てるという大チャンスに、十代女子が燃えないはずがない。

 

「「「そのはちまき、 置いてけえええええっ !」」」

 

一斉に一夏に向かう騎馬たち。

 

 

その攻撃から身を守ろうと手を伸ばすと、あろうことか女子の胸をわしづかみしてしまった。

 

「やぁんっ。

織斑くんのえっち☆」

 

出席番号一番、相川清香!と続ける。

 

「い、ち、かあああああっ!」

 

胸の恨みは七代たたると、誰、が言ったか言わなかったか。

 

「しねええええええええ!」

 

鈴はIS甲龍を高速展開し、衝撃砲を放つ。

 

「どわああああっ !」

対して、一夏も白 式を展開してシールドを張った。

 

「続けて、 行くぞ!」

シューヴァールツェア・レーゲ ンの大口径リボルバーキャノンが火を噴く。

 

 

「死ぬっ ! 死ぬっ !」

 

騎馬の女子を逃がして、空中に舞い上がる一夏。

しかし、それを蒼い閃光が遮った。

 

「空中戦ならお手の物、ですわ♪」

 

『ブルー・ティアーズ』のレーザービットが四方から一斉に射撃する。

《雪羅》のシールドによって事なきをえる 一夏だったが、逃げ場所はもう上昇しかないい。

 

「ここで!」

 

「……チェックメイト!」

 

上空から箒の攻撃、地上からシャルの追撃。

逃げ場はもうなかっ た。

 

「たっ、助けてくれ昨乃」

 

 

「観念するべきでござるよ~」

 

 

助けを求めた一夏に昨乃は苦笑で返す。

 

次の瞬間、一夏は爆発に呑まれた。

 

 

 

『さて…昼餉でござるが……やはり簪殿と…共に取るべきでござ…ぬ?』

 

騎馬戦でひとまずは午前中のプログラムは終了し、昼食休憩の時間となる。

 

自販機で購入したお茶を抱えながら昨乃はそれを発見する。

IS学園の制服を着た女生徒である。

そこまでは問題は無い。

問題があるならばその少女が昨乃と因縁がある相手だからである。

年齢は一夏や昨乃達と同じぐらい、腰まで伸ばした黒髪を根元で束ねたどこにでもいるような平凡な見た目の少女である。

 

少女の名は椿―道元の手下であり、BT兵器搭載IS・ルシファーのパイロットである。

 

『何故、あの者がこのような所に…?』

 

疑問に思いながら昨乃は気配を完全に絶ち、待機状態の黒鉄を部分展開。

忍び緞帳の原理を用いて開発した光学迷彩を作動させると椿の後を追跡し始めた―。

 

 




―灰音穂乃香です。
割とテンプレな感じでお送りさせていただきましたISカグラ三十二話。
次回はオリジナル要素を大量に織り交ぜていきたいかと思いますー。


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第三十三話 『潜入』

椿を追って昨乃が見つけた場所は学園から近い臨海公園である。

『なるほど…米軍のステルス空母でござるか…』

 

海上には何も見えないのだがISのハイパーセンサーは誤魔化すことは出来ない。

昨乃の視覚には星条旗を掲げる空母の姿がしっかりと写っていた。

 

『となれば…学園の制服に着替えねばいかぬでござるな…』

 

そう心の中で呟くと同時に量子変換してあるIS学園の制服をスーツの上から展開する。

この地球上のいかなる国家、組織、宗教に所属しない完全な独立地帯であるIS学園。

その制服を着ている限り何が起きても国際問題にはならないのである。

 

 

IS学園外での展開は、基本的にはアラスカ条約で禁止されている。

だが、忍び緞帳の原理を用いた光学迷彩はちょっとやそっとのことでは見破れない。

 

『即ち…バレなければ問題無いでござる…』

 

 

そう考えながら昨乃はPICによる慣性飛行で飛行甲板へと降りるとISを除装、艦内へ潜入を果たした。

 

 

 

「全く、昨乃ったら…。

これは一週間オモチャになってもらうだけじゃ済まさないわよ」

 

楯無はISを展開して昨乃の跡を追いかけていた。

 

10分ほど前に昨乃から不審人物を追跡しているとの連絡があったのだ。

 

それと同じくして楯無のIS ミステリアス・レイディに秘匿回線通話が入ったのだ。

 

曰く、米軍の光学迷彩を備えた空母がIS学園近くの臨海公園に停泊しているとの事だった。

 

昨乃が追いかけていった侵入者も空母と関係あるだろう…。

 

『何にしても…嫌な予感がするわ…』

 

昨乃の無事を祈りながら楯無はスピードを上げた。

 

 

『おかしいでござる…』

 

 

昨乃が空母へと侵入してから既に10分以上過ぎているのだが椿はもちろんの事、船員の誰とも会わないと言うことは有り得ないのだ。

 

『考えられる可能性は…艦内を亡国機業に押さえられている可能性でござるな…』

 

等と考えながら熱探知センサーをチェックするが、人間の反応は無い。

 

『乗務員は殺されてはいないはず…メリットがないでござるし…今の状態は…』

 

確実に罠だろうと考える昨乃。

 

『とにかく、急がねばいかぬな…』

 

思いながら足を早める昨乃であるが、次の瞬間にはその表情をひきつらせる。

 

 

『現在、コノ艦ハ自沈装置を作動サセテイマス。

乗員ハ、タダチニ避難シテクダサイ。

クリカエシマス。

現在、コノ艦ハ………』

 

 

(ッ………! 冗談でござろう!?)

 

そんな事をすればアメリカは本格的に対テロ部隊を動かすはずである。

忍の基本は隠密行動である。

それは悪忍であろうと善忍であろうと変わらない。

 

『まさか…』

 

亡国機業がアメリカと手を組んでいる可能性を考える昨乃は後方に現れた火球に気づくのが僅かに遅れた。

 

「―ッ!?」

 

 

気配を感じて昨乃が纏雷を発動させると同時に爆発が起こった。

 

 

「………どういうこと?」

 

昨乃が爆発に巻き込まれる数分前、空母にたどり着いた楯無はセントラル・ルームへ赴くと電子端末をハッキング。

ディスプレイに表示された情報に目を顰めるる。

 

艦内で『亡国機業』の実働部隊『モノクローム・アバター』リーダー、スコール・ミューゼルの情報を発見したのだ。

 

そのまま、調査を続行して判明したことはスコールは死亡していたという事実だ。

 

軍隊では、特殊部隊所属の者を死亡者扱いにして経歴を消すことも少なくはない。

 

だか、楯無が手に入れた情報ではスコールは十二年前に偽装ではなく完全に死亡していたのである。

 

データを喰い入るように見ていた楯無は背後に、火球が漂っているこに気づかない。

 

「ツ―!?」

 

嫌な予感に振り向く楯無。

だが、その刹那にその姿は大爆発に飲み込まれた。

 

 

 

『流石に死んだかしら?』

 

『気を抜くな、スコール』

 

黄金のIS ゴールデン・ドーンを展開したスコールを真紅のフルスキンIS 炎帝を装着した道元が窘める。

 

「そういうことでござる!」

 

 

「ここで倒させてもらうわ!スコール・ミューゼル!」

 

纏雷を展開した昨乃とミステリアス・レイディを完全展開した楯無が攻撃を開始する。

相手はテロリスである。

国際問題などを気にしていればやられる!

そう考えた楯無はガンランスから超高圧水流弾を連射する。

 

だが、スコールはそれを余裕の眼差しで受け止める。

 

「あなたのISでは私のゴールデン・ドーンは倒せない」

 

よく見れば『ゴールデン・ドーン』の周りには薄く熱線のバリアが張られている。

 

「この程度の水では、この炎の結界《プロミネンス・コート》を破れないもの。

そしてー」

 

スコールが楯無に向かって手を向ける。

掌に火の粉が集まっていき、凝縮された超高温の熱火球を形作る。

 

「ミステリアス・レイディのアクア・ベェールでは私のソリッド・フレアを防げない」

 

その言葉とともに放たれた火球は、バリアを貫通してアーマーに直撃する。

 

なんとか、絶対防御でしのいだがシールドエネルギーが大きく損耗する。

 

 

「楯無殿!ぐっ!」

 

「他人の心配などしている場合か?」

 

楯無が攻撃を受けた事を心配する昨乃だが、炎帝が背負うバックバックから発射された小型の杭状ビット《ファング》がシールドエネルギーを貫通して激痛を昨乃に与える。

絶え間ない攻撃に反撃の余裕すらない。

 

「つまらぬ……大した反撃も無いまま…死ぬがいい…」

 

そう道元が言うと背部の装甲が開きそこから一斉にファングが放出、昨乃に襲いかかる。

 

「つぐぅぅぅぅ!」

 

 

痛みにか顔を歪める昨乃の目には大剣を展開、刀身に炎を纏わせるのが見えた。

道元の秘伝忍法‐火倶神だ。

以前のように御武雷を展開しようにもファングの猛攻にその余裕が無い。

 

『せめて…楯無殿だけでも…』

 

楯無だけでも逃がそうと気力を振り絞りサブマシンガンを展開する昨乃。

 

楯無はゴールデン・ドーンの食虫植物を思わせる尾の先端に捕まえられている。

霞む意識の中で、昨乃は狙いをつけようとする。

だが、そこでゴールデン・ドーンは楯無のを拘束から解放すると放り投げたー。

 

そう、昨乃の方へ。

 

『楯無殿!!』

 

ファングが飛び交う中、昨乃は楯無を受け止めると彼女を守るように覆い被さる。

 

 

「二人仲良く死ねぇ!」

 

そこへ道元が放った炎が二人を焼き尽くさんと放たれる。

 

放たれる熱波だけで身体が焼けそうになる。

 

喰らえば、昨乃も楯無も跡形無く焼失するだろう―。

 

 

「昨乃!お姉ちゃん!!」

 

聞こえてきた簪の声と共に昨乃は先ほどまで、自分たちに襲いかかってきていた熱波がいつの間にか止んでいる事に気づく。

 

霞む目を見開くと、シールドパッケージ『不動岩山』を装備した簪が炎を防御しており、アリアが医療用ナノマシンフィールド『エリクシル』で昨乃と楯無の傷を癒していた。

 

 

「アリアちゃんに、簪ちゃん…どうして?」

「イタリアからパッケージの稼働試験から戻る途中、戦闘してるのが見えたからね!!」

 

 

「私だって、守られてるだけじゃない!私だって、守ってみせる! お姉ちゃんを!! みんなを!!!」

 

言いながら簪は投射型のキーボードを激しく叩く。

 

 

「受け取って、お姉ちゃん!」

 

簪の言葉と共に、複雑な記号の羅列が光りとなって集約する。

 

それこそが、ミステリアス・レイディ専用パッケージ『オートクチュール』。

名前を『麗しきクリースナヤ』。

赤き翼を広げたユニットは、楯無の背中へと接続される。

 

瞬間、アクア・ウェールの色が青から赤へと変わる。

通常エネルギーから超高出力モードに切り替わったのである。

 

「私も見せてあげる! 私の本気………ワンオフ・アビリティ…《セックウァベック》を!」

 

《セックウァベック》…北欧神話の主神、オーディンの第二の妻ゎサーガのみが住むことを許された館。

 

 

「くっ…機体が…」

 

「私とゴールデン・ドーンが空間に沈んでいくですって!?」

 

「そう、これが《沈む床‐セックウァベック‐》。

超広範囲指定型空間拘束結界よ」

 

その拘束力はラウラのAICを遙かに凌ぐ。

 

何せ、周囲の空間すべてに飲み込まれていくいくのだから、脱出も回避も不可能な文字通り結界なのである。

 

「こんなもの!私と道元殿の炎で焼き尽くして―」

 

 

「させると思う?」

 

余裕満々の笑みを浮かべた楯無が《ミスとるティンの槍》を発動させていた。

 

「なっ!?どこにそんなエネルギーが!?」

叫ぶスコールであるが実を言えばミステリアス・レイディにそれほどエネルギーは残っていない。

 

アリアのトランザムによるものであった。

そんな事も知らないスコール達な体は更に沈んでいく。

 

見えない水面が腰まで迫ってきているのだ。

 

コノ状態では脚部スラスターを操ることは出来ない。

 

にっこりと微笑むとチャージを終えたミスとるティンの槍の矛先をスコールに向け、一直線に突っ込む。

 

「この私が………やられる?

いいえ、まだよ!」

 

突進してくる楯無に向けて右とを向け、素早く火球を生み出す。

「今更そんなもので!」

 

今のまま押し通るつもりの楯無は、減速はせず。

そのまま加速するとミストルティンの槍と一体になる。

 

「ふっ……」

 

槍がスコールの体を貫くそのまさに一瞬手前で、スコールは火球を自らの身体にぶつける。

 

「なっ!?」

 

制限無しの極大火力を受け、スコールの体は大きく吹き飛ぶ。

 

同様の方法で道元も結界から抜け出したようだが二人ともその体はただでは済まされない。

 

そのあかしに―道元のちぎれた左腕は人形の関節が覗き、スコールは機械部分が露出していた。

 

「サイボーグと倶ぐつどござざるか…」

 

呟く昨乃…。

 

「くくく、やはり野望というものはなかなかにうまくいかぬものだな…」

 

「じゃあね、生徒会長さん」

 

二人はそうい言うと煙幕代わりに火球を並べて一斉に放つ。

 

「お姉ちゃん!昨乃!!」

 

だが、間一髪でスコールの最後の攻撃を簪が防いだ。

 

 

「強くなったね…簪ちゃん…」

 

「本当に…見違えたでござるよ…」

 

ボロボロの二人の体を簪は支える。

 

「ううん、二人ともの方こそお疲れさま」

そんな二人の体を支えながら簪は労いの言葉をかけたー。

 



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第三十四話『そうだ京都へ行こう』

秋も深まる頃、朔乃達専用機持ちの面々は引率の千冬、山田先生と共に京都へと向かうため東京駅にいた。

 

これまでに起こった様々な騒動が原因で延期となっていた修学旅行であるが、またしても第三者の介入が無いとは言えない。

そういうこともあり、前記のメンバーで京都へと下見へ行く事になったのだ。

 

ー実を言うなれば下見と言うのは建前で本来の目的は『亡国機業』の掃討作戦である。

 

今回の作戦にはISの補修を終えた二年のフォルテ・サファイアと三年のダリル・ケイシーも加えた一大作戦になっていた。

 

(ここは拙者も気合いを入れ直さねばいかぬな…)

 

そんなふうな事を考えていたのはどうやら朔乃だけだったようである。

 

「一夏! 貴様という嫁は、貴様という嫁はっ!」

 

怒りの声をあげながら一夏の首を絞めてかかるのはラウラである。

 

駅弁屋で見つけたひよこ饅頭を買おうとしていたところを新幹線の時間に間に合わないとのことで一夏に連れてこられたのだ。

その目は少し涙ぐんでおりいかにひよことの別れが辛かったのかを物語っていた。

 

「ぐええっ! や、めっろ!死ぬ、しんでしま、う……!」

 

だんだんと青ざめていく一夏の顔。

流石にこれ以上はまずいと朔乃が止めに入ろうとしていたところ先に動いた者がいる。

シャルロットである。

 

「ラウラ、一夏は無駄遣いを止めてくれたんだよ?」

 

「無駄!? なにが無駄だと言うのだ!

だいたい、金などあっても私は使わんのだぞ!?」

 

「えーと、そこは結婚資金に回せば良いんじゃないかな?」

 

そう言ってからシャルロットはしまったと口を手で押さえたが、もう遅い。

 

ラウラは一夏の首から手を離し、目を輝かせる。

「結婚資金! そ、そうか!

ならば無駄遣いは家計の敵だな!うむ!うむ!」

 

「あちゃあ…」

 

時すでに遅し、一夏とのハネムーンに胸踊らせるラウラにシャルロット以外のメンバーは悟りきった目をしていた。

 

「平和でござるなー」

 

何と言うべきか一人だけ気構えてきた自分がバカらしく思えてきた。

 

「朔乃…」

 

「ひゃう!」

 

簪の不機嫌そうな声と共に首筋に冷たいものが当たり朔乃は声をあげる。

 

「何をするでござるか簪殿!?」

 

「だって朔乃、すごく気難しい顔してたんだもん。

いくら任務だからって、せっかくの京都なんだからもう少し楽しまないと駄目だよ」

 

ジュースを片手に頬を膨らませる簪。

 

「そうでござるな…申し訳ない簪殿」

 

 

そんな簪に申し訳なさそうに謝る朔乃であった。

 

 

 

 

「まもなく京都、京都です。

ウィール・メイク・ア・ストップ・アット・キョート」

 

外国人向けということもあり、京都のみならず新幹線は英語の案内がある。

 

それを聞きながら、各人が荷物の準備をしだしあ。

 

「ん? あれ?」

 

「どうしたでござる?一夏殿?」

 

荷物をあさりだした一夏に朔乃が不思議そうな顔で様子を伺う。

 

「あったあった!」

一夏が取り出したものは年季の入ったアナログカメラである。

 

「一夏殿?それは?」

「ん?ああこれは俺と千冬姉との絆みたいなものかな…」

 

どこか遠い目をしながら言う一夏。

恐らくそのカメラは一夏と千冬の記録を残し続けてきたものなのだろうー。

 

そんなことを朔乃が考えていると新幹線は直ぐに京都についた。

 

駅から出ると京都駅名物の長い階段が姿をあらわす。

 

「おお。ここで集合写真撮ったらすごい良さそうだな」

 

何気なく漏らした一言に、千冬が賛同する。

「そうだな。

記念に一枚撮っておくとしよう。」

 

「えっ、いいんですか?織斑先生」

とっさに千冬姉と呼ばなくなったあたり、一夏も学習している。

それならと全員が整列した。

「じゃあ、撮りますよ」

 

「は?」

 

「え?」

 

シャッターを切ろうとした一夏に鈴が歩み寄る。

 

「あんたが写らなくてどうすんのよ!

ほら、はい!山田先生、よろしく」

 

カメラを押し付けられた真耶は最初は困惑したものの、千冬のすまなさそうな顔を見て了承した。

「じゃあ、撮りますよ~。

三、二、一」

シャッター音響き、一夏の絆に一枚の写真が付け加えられることとなった。

 

 

「さて、それでは行くでござるか!」

 

意気込む朔乃であるが楯無はおかしな事を言ってくる。

 

「いいわよ、今は京都を漫遊してて」

 

「ぬ?トラブルでござるか?」

 

「実は情報提供者を待っているんだけど、どうも連絡が取れなくてね。

仕方がないから私が探そうと思うの。

京都にはいるはずだから向こうから接触してくるはずよ」

 

どうにもきな臭い話ではあるが楯無に限って万一と言うことはないだろうー。

 

「そういうことならば拙者も京都を楽しませてもらうでござる」

 

そう言いながら朔乃は一夏を取り囲んで何やらやいのやいのやっているクラスメイト達の元へと向かったー。

 

 

一夏に自分の写真を撮ってもらおうと躍起になっていた女性陣であるが二人一組のペアを作って変わる変わる写真を撮ってもらうことに決定したー。

 

ちなみに組分けは朔乃と簪、箒と鈴、ラウラとシャルロット、セシリアとアリアとなったー。

 

 




どうも、前回の投稿から三年以上経過しての投稿となります灰音穂香です。

原作で言うところの10巻をお届けさせていただきます。
とりあえずこれからは隔月ぐらいで投稿できるように心がけていこうかと思います。



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第三十四話『時には古風に、奥ゆかしく』

「あー、ひどい目にあった」

 

咳き込みながら一夏は昨乃、簪と無限に続く鳥居をくぐっていた。

 

「ラウラ殿はとにかく、シャルロット殿が怒るって…何をしたでござるか一夏は」

 

「一夏はむっつり」

「あのなぁ、写真撮ってただけだぞ。

俺は被害者だ!」

 

そう告げる一夏は最高にかっこ悪かった。

 

「………………」

「………………」

「黙るなよ!よけい悲しいだろ」

 

そんな一夏には沈黙で返すのが一番だと黙る二人。

 

そんな三人がいるのは言わずと知れた伏見稲荷大社である。

 

「しかし、すごい景色だな」

 

無限に続くかのように思える鳥居に一夏は呟く。

 

「もともとは願いが通ったお礼の意味で奉納されたのが始まりとのことでござる」

 

そんな一夏にガイドブックを片手に答える昨乃。

 

「それにしても、二人がこういう観光スポット巡りってのも珍しいな」

 

「どういうことでござる?」

 

「いや、てっきりアニ○イトやら京○ニショップ巡りに興じてるもんかと…」

 

さらりと失礼なことを宣う一夏に苦笑する昨乃。

 

「でも、あながち間違いではないよね?」

そんな昨乃の横から簪が答える。

「ん?どういうことだ?」

 

首を傾げる一夏に簪は鞄から一冊の本を取り出す。

 

『いなりこんこん恋いろは』と題された漫画でかわいらしい女の子が表紙に描かれている。

 

「なるほど、聖地巡りか…」

 

納得したように頷く一夏。

 

聖地巡りとはアニメや漫画の舞台になった場所や作者と縁が深い場所を巡ることである。

 

「しかし…本当にすごいな…」

 

千本鳥居を見上げながら一夏はそう呟いたー。

 

 

 

その後、伏見稲荷大社でいくつか写真を何枚か撮った後、一夏と別れた昨乃と簪。

次の聖地へと向おうて移動をしていたところである。

 

「ぬ?」

 

「昨乃?」

 

昨乃がそれ見つけて目を細め、その様子に簪が怪訝そうに首を傾げる。

 

「一夏殿がオータムに追われてるでござる!簪殿は皆に連絡を頼むでござる!!」

 

「え!?あっ、わかった!?」

 

走り出す昨乃に一瞬だけ、目を円くする簪。

 

だが、直ぐに冷静さを取り戻すとスマホを取り出したー。

 

 

『くそっ!』

 

心の中で悪態をつきながら一夏は京都の街を走っていた。

 

つい数分前のことである。

昨乃達と別れたあと、他のメンバーの所へと向かう途中偶然にも亡国機業のオータムに遭遇したのだ。

素早く拳銃を抜くオータム。

まずいと思うより先に、ラウラ仕込みの回避術が体を動かしていた。

 銃弾から逃れ、路地裏に駆け込む一夏。

その頭には、一般人を巻き込むわけにはいかないという正義の心と、先ほど別れた昨乃達と何とか合流できないだろうかという思考があった。

 

『とにかく、人のいないところへ……!』

 

「おおっとぉ、そこは行き止まりだぜぇ?」

 

  古都の袋小路にはまってしまい、一夏は逃れるすべを失う。

 

 万事休す――そう思った瞬間、オータムの周りをブルー・ティアーズのビットが取り囲んだ。

 

「セシリア!」

 

「ごきげんよう、一夏さん♪」

 

 余裕たっぷりの笑みを浮かべるセシリア、その理由をオータムはすぐに知ることになった。

 

「動くな」

 

 振り向けば、箒に鈴にシャルロットにラウラに簪と昨乃、一年生の専用機持ちが勢ぞろいしていた。

 

 しかも、全員ISを展開済みである。 

 

これにはさすがのオータムも青ざめた。

「一緒に来てもらうでござるよ、オータム」

 

昨乃の言葉にオータムは降参とばかりに両手を上げた。

 



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