超速スピナー調 (ルシエド)
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調「軽い気持ちで入って来ないで、スピナーの世界に」

GとGXの間を繋ぐ話です


 ナスターシャの遺体を乗せたシャトルの墜落から、60日が経った。

 月読調が二課預かりの身となってから、30日が経った。

 米国の暗部で実験体扱いの日々を送っていた調は、日本で過ごす平和でただ幸福なだけの日々に戸惑いつつも、その幸福を享受していた。

 

「んー……」

 

 しかしながら、悩み事の種は尽きない。

 人間は生きてる限り大小の差あれど悩むものである。

 クリスマスに難病の父を見て苦悩する者も居れば、恋人が居ないことに苦悩する者も居るし、クリスマスケーキを何にするかを悩んでいる者だって居る。

 調もまた、悩み事に(さいな)まれていた。

 

(……どうすれば、強くなれるんだろう)

 

 月読調は、仲間内で自分が一番適合係数が低いことを気にしていた。

 二課の仲間入りを果たしてからというもの、皆との訓練で軽くギアを纏って動かすたびに、そのコンプレックスは強くなっていく。

 

 装者屈指の戦闘力と適合係数を持つ雪音クリス。

 世界に片手で数えるほどしか確認されていない第一種適合者の、風鳴翼。

 その雪音クリスや風鳴翼と、第二種適合者でありながら同格の戦闘者であるとされるマリア。

 低めの適合係数を集中させ、一撃必殺の突破力に組み立てる暁切歌。

 そして、世界に唯一の第三種適合者であり、翼達に次ぐ戦闘能力を持つ立花響。

 

 調は上記の誰よりも、自分が弱いと思っていた。

 

(足手まといは、嫌)

 

 加え、調は大人しく物静かな美少女と見られがちだが、その実負けず嫌いで激情家だ。

 普段大人しい奴ほどキレると怖いの法則を地で行っている。

 おそらく、実力不足から足手まといになることを装者の中で一番気にするタイプだろう。

 

(じゃあ、どうすれば強くなれるんだろう……)

 

 装者のスタイルには、それぞれ装者や聖遺物の特性と密接な関係がある。

 例えば雪音クリスは、バカみたいに高い火力と負荷を同時に生み出し、その負荷だけを非常に高い適合係数で軽減し、装者の中でもトップを譲らない火力を維持している。

 そのせいでAnti_LiNKERに適合係数を下げられた時、最も高い負荷を自分の体に受けてしまい、一番ダメージを食らってしまったりもした。

 立花響は拳法による柔の小技に、ガングニールの突破力・爆発力による剛の一撃必殺。

 風鳴翼は影縫いや逆羅刹など、生身でも使える技をギアでも使えるようにしたスタイル。

 調も同様に自分向きの戦闘スタイルを構築していたのだが、強くなるためにそこに改善点を見つけようとしても、どうしても見つけられない。

 

(こういうことに関しては、きりちゃんは頼りにならないし……

 マリアはチャリティーライブの準備でロクにこっちに居ないし……

 LiNKERを使うことを前提とした装者で、今頼れる人は誰も居ない……)

 

 調は装者屈指の応用力と対応力を持つ。

 彼女は足裏をローラーにして高速移動したかと思えば、そのローラーを武器にする。

 ツインテールを武装ユニットにして小型の丸鋸を発射したかと思えば、それを巨大な丸鋸にして攻撃したり盾にしたり、果てはホイールにして高速移動、プロペラにして飛びもする。

 スカートですら武器になる有り様だ。

 装者の中でもここまで全身武器かつ、それらがコロコロ役目を変える者は居まい。

 

 ……が、好きでこのスタイルを選んだわけでもない。

 調は体が小さく細い。脚力も無く腕力も無い。これは先天的なものでどうしようもなかった。

 なので走らなくても高速移動できる仕組み、筋力がなくても強力な近接攻撃ができる仕組みを、ギアに搭載せざるを得なかったのだ。

 

 加え、彼女は装者の中でも一番適合係数が低い。

 そのため精一杯のパワーを出してもたかが知れている。

 結果、彼女は一撃で敵を倒せないため、手数の多さで削り切るというスタイルを選ばざるを得なかったのである。

 力は増えない。

 適合係数は据え置きだ。

 その上で強くなりたいのなら、新しい技を身に付けるしかない。

 

 そう考えて、月読調は今日も街を彷徨っている。

 

(……?)

 

 何かないかな、と街を歩きながら四方八方を見る調。

 そんな彼女の目に、『なるみ屋』と銘打たれた店舗が目に入った。

 他の店舗と比べ、賑わっている印象を受ける。

 とはいえ人が一杯居る、というほどではなく……年齢層も、何故か高校生あたりが多かった。

 

「なんだろ」

 

 調は気になって、店の中に入ってみた。

 ドアの開閉にしたがって、入り口に付けられたベルが鳴る。

 

「いらっしゃい」

 

 バンダナにメガネ、愛想のいい笑顔にあまり手の入っていないヒゲといった風体の店員が、調に声をかける。が、調は無視して商品棚の方に向かった。

 調の容姿はとても可愛らしいが、愛想があるとは言えないのが玉に瑕だ。

 

(ヨーヨー? ヨーヨーだ、これ。昔流行ったっていう……)

 

 調が覗いた商品棚には、ヨーヨーが並んでいた。

 それだけでなく、ベアリングやストリングなどの消耗品、オイルやOリングなどの必需品などがちらほらと並んでいる。

 調には何が何だかさっぱり分からなかったが、品揃えは良さそうだ。

 

(じゃあ、あそこに集まってる人達は皆ヨーヨーやってるんだ)

 

 調はここで、この店に人がいくらか集まっている理由を悟る。

 カードゲームで対戦者を求めるために専門店に行くのと同じで、ヨーヨーの技を他人と競いたい者達が、ここに集まっているのだろう。

 が、こういう男性中心に好まれる趣味は、理解のない女性にはとことん理解されない。

 

「たかがヨーヨーに、なんでこんなに熱くなってるんだか……」

 

 ぼそっ、と調はジト目で呟く。

 彼女の声は、幸運にも一人を除いて店内の誰の耳にも届かなかった。

 そして不幸にも、一番問題のある者の耳に届いてしまった。

 その者は、背後から調の頭をむんずと掴む。

 

「えっ」

 

「おうこんにゃろう、色々やーなこと思い出させるようなこと言いやがって。

 ヨーヨーはそんな簡単なもんじゃねえよ! お前じゃ、あそこに居る誰にも勝てやしねえ」

 

 そしてぐいっと調の顔を横に向け、ヨーヨーをしている集団を彼女に見せた。

 集団の中には、小学生らしき子供まで居る。

 ここで調はムッとした。

 お前はあの子にも劣るんだ、と言われた気がしたからだ。

 

 調は大人しく物静かな美少女と見られがちだが、その実負けず嫌いで激情家だ。

 普段大人しい奴ほどキレると怖いの法則を地で行っている。

 おそらく、実力不足から足手まといになることを装者の中で一番気にするタイプだろう。

 

 調はムッとした顔のまま、振り返って自分の頭を掴んでいた男の顔を見る。

 

「あなた、誰?」

 

「堂本瞬一。お前、名前は?」

 

「月読調。ヨーヨー一つ貸して。ちょっと練習すれば、あんな子にできることは私にもできる」

 

 快活そうな雰囲気と印象を持ち、バンダナで抑えられた髪は人を殺せそうなくらいにツンツン、そんな少年がそこに居た。

 同い年くらいだろうかと、調は推測する。

 少年が手渡して来たヨーヨーは、その名を"ハイパーインペリアル"と言う。

 恵まれた名前からクソみたいな性能、及びその性能に相応の安さということで知られるヨーヨーであり、数あるヨーヨーの中でもかなりオーソドックスな初心者向けのヨーヨーだ。

 

 近年のヨーヨーは、性能が高い代わりに初心者だと手元に戻すことすらできない物も多い。

 瞬一と名乗った少年がこれを調に渡したのは、純粋な善意だろう。

 簡単なトリックであれば、このヨーヨーで問題なく行うことが出来るはずだ。

 

 無論、『天才』でもない人間が、ちょっとだけ練習したくらいで出来るほど甘くはないが。

 

「……あれ?」

 

 調は小学生らしき男の子がやっていた、ループ・ザ・ループを真似しようとする。

 だが、できない。

 そもそもの話ループができない。

 (ストリング)が伸びたまま、ヨーヨーが手元にまで帰って来ない。

 見様見真似で出来たのは、ヨーヨーに糸を巻く方法くらいのものだった。

 

「おいどーした月読、"あんな"っつってたくせにできないのか?」

 

「……まだ、練習してるだけだから!」

 

 ヨーヨーは簡単にできるものなのだろうか?

 ……実は、これが意外と難しい。

 練習無しでは、ただヨーヨーを回転させるだけのロングスリーパーですら困難なのだ。

 ウォーク・ザ・ドッグができる人間は多いだろうが、ヨーヨーに床を走らせた後手元に戻し、技として完成させられる人となれば、その数は一気に減るのではないだろうか。

 

 瞬一は負けず嫌いに挑み続ける調を見て、苦笑する。

 そして自分のヨーヨーを取り出し、調の前で一つのトリックをやってみせた。

 

「これ、ロングスリーパーって技だ。やってみ?

 手首を返して、スリープさせたい位置の50cm先を狙うつもりでな。

 あと、床に当てないように気を付けろよ」

 

「……っ」

 

 調の自尊心がちょっと傷付くが、ここで意地を張って恥を晒し続けるほど調も愚かではない。

 瞬一の手元で回転し続けるヨーヨーを見ながら、調は手にしたヨーヨーを投げ下ろす。

 今度は上手く落とせたのか、ヨーヨーは綺麗に回ってくれたようだ。

 

(よしっ)

 

 上手く行ったことに達成感を感じ、調は自然と笑顔になる。

 だが、すぐにその笑顔も引っ込んだ。

 調のヨーヨーが自然に止まったにもかかわらず、瞬一のヨーヨーが回り続けていたからだ。

 

「え? ……も、もう一回」

 

 調はもう一度ヨーヨーを投げ落とし、瞬一のヨーヨーが止まってからヨーヨーを引き戻そうとするが、またしても調のヨーヨーが先に止まってしまう。

 

(なにこれ?)

 

 瞬一が投げ、その後調が投げ、調がヨーヨーの糸を巻き直し、また投げてヨーヨーがまた止まり……それだけの時間が経っていてもなお、彼のヨーヨーは停止する素振りすら見せていなかった。

 調が初心者だからここまでの差が生まれているというわけではない。

 ロングスリーパーはベーシックレベルにおいては、3秒回転していれば成立するというトリックであり、調の回転時間は十分だった。

 手元にさえ戻せれば、彼女のそれはトリックとして成立させられるレベルにある。

 これは単純に、比較対象の瞬一が凄まじいだけだ。

 

「おっと、もう見せとく必要もねーか」

 

 瞬一の手元で、ヨーヨーがぱちんと戻る。

 公式大会におけるロングスリーパー・タイムアタックでは、100秒を超えれば優勝できる……と言われているが、今の瞬一のロングスリーパーはどう見ても二分以上は回転していた。

 調が、恐る恐る問う。

 

「……本気なら、今のどのくらい回してられるの?」

 

「ロングスリーパーか? ミスったら五分くらいで止まっちまうかもな」

 

「―――」

 

 嘘でもハッタリでもない。

 瞬一の手元のヨーヨーは、五分以上は余裕で回転を保てるくらいの回転力を持っていた。

 戦ってもいない。勝負してもいない。

 なのにその時調が感じたのは、誤魔化しようもない敗北感だった。

 

「あ、やべ! もうこんな時間かよ! 悪いな月読、おれちょっと用事あんだわ!」

 

「あ、ちょっと……」

 

 調に敗北感とヨーヨーを残し、瞬一はどこかに走り去って行ってしまった。

 手にヨーヨーを乗せ、調はどうしたものかと悩む。

 

「……返しそびれちゃった」

 

 そしてヨーヨーをじっと見て、ここでも弱い自分を自覚し、歯噛みした。

 

(悔しい)

 

 ヨーヨーを力強く掴む調。その背中に、声をかける者が居た。

 

「悔しいって、顔に書いてあるわよ」

 

「!」

 

 外見的には調よりも年下に見える、そんな少女がそこに居た。

 調と同じように髪を二箇所でまとめ、調と同じように何を考えているのか分かりづらい表情をしてはいたが、調と並べればあまりにも違いが際立つ少女だった。

 調は無表情が基本なせいで、親しい人以外の前では何を考えているのか分かりづらい。

 対しその少女は蠱惑的に、小悪魔的に笑うため、何を考えているのか分かりづらい。

 必然的に、調もその少女が何を考えているのか読めなかった。

 

「あなたは……?」

 

「霧崎マイ。あいつの……元チームメイト? みたいなのよ」

 

 調の髪は二つにまとめても胸に垂れるくらいには長いが、マイと名乗った少女の髪はせいぜい肩口に届くか届かないかくらいであり、マイの方が活発な印象を受ける。

 活発な印象の源泉は、髪の長さだけではないだろうが。

 

「堂本瞬一……

 あいつは四年前には既に世界大会で優勝していた、世界レベルのスピナーよ」

 

「! 世界レベル……!」

 

 つまり、歌の分野における翼やマリアクラスの存在であるということだ。

 装者の中でもトップクラスに強く、世界公演なんてものをしている翼とマリアと同格と思うと、調の中でさっきの少年がとんでもなくデカく見えて来る。

 調は驚愕しつつ、ところでスピナーってなんだろう、と思った。

 

「あなた、勝ちたい?」

 

「え」

 

「その悔しい気持ちをどうにかしたくない? 強くなりたくない?」

 

 鍛えてあげよっか、と霧崎マイと名乗った少女は言った。

 

「女スピナーがナメられるのって、なんかムカつくのよね……」

 

 そして月読調は、プロスピナーに続く道を歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧崎マイは、四年前堂本瞬一と共に世界大会で優勝したほどの凄腕である。

 小柄で子供に見えるが、ヨーヨーを始めてからのキャリアも長い。

 そして何より、スパルタだった。

 

「あんたいくつ?」

 

「え?」

 

「歳聞いてるのよ歳」

 

「えと、15だけど」

 

「あ、そ。じゃあ17のわたしはあなたの先輩ね。敬語使って」

 

「え゛」

 

 マイは"小柄な女性ならではのヨーヨーテク"を次々調に叩き込んでいく。

 調の幸運は、ヨーヨーを初めてすぐに彼女と出会えたことだろう。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

「息切らしてるけど、そのままで聞いて。

 来週、ジャパンチャンピオンカーニバル関東大会が開かれるの。

 堂本もそれに出るわ。それまでに……まあなんかいい感じに仕上げてみましょ」

 

「……ぜっ、っ、な、なにその、ダメ元で物は試しにやってみよ、的な……」

 

 修行期間は一週間。

 かつて合宿で一流アスリートでも倒れるほどの試練を越えたこともある霧崎マイの修行は、まさしく地獄そのものだった。日によっては月が見える時間まで修行は続いたという。

 

「どうやらあなたはストリングプレイが得意な割に、スリーピングプレイが苦手みたいね」

 

「ストリングプレイ?」

 

「ヨーヨーを円を描いてループさせる、ルーピングプレイ。

 さっきあなたがしていたロング・スリーパーの応用がスリーピングプレイ。

 そしてヨーヨーの(ストリング)をあやとりのように使うのが、ストリングプレイよ」

 

 加え、彼女は理論的に調を導いた。

 調は反射神経や戦闘センスで戦うタイプではなく、考えに考えて変幻自在の応用力と対応力を武器にするタイプの装者だ。

 技で速さを磨き、『ワープスピード』というヨーヨーに似合わないくらいにカッコいい異名で呼ばれる霧崎マイは、月読調の指導者としては最適だったと言える。

 

「あなたは指の動きが器用よ。

 でも、手が小さくて指が細い。

 強みを活かしなさい。筋力じゃどうやったって、男どもには勝てないんだから」

 

「……っ、はい!」

 

 調は息を切らし、汗を流し、血を流しながら時には死すら覚悟して厳しい修行に耐えた。

 

「痛っ」

 

「ん、ちょっと見せて。

 ……やっぱり、ストリングを付ける中指の皮がめくれてるわね。

 どうする? やめる? それとも、テーピングして続ける?」

 

「……続けます! やらせてください!」

 

 全ては堂本瞬一に味合わされた敗北感を拭い去るため。

 堂本瞬一に勝てなくたっていい。

 ただ、この気持ちを抱えたままではどうにもすっきりしないと、調は懸命だった。

 

「手ぬるい! ペースが落ちてる!

 相手は元世界大会優勝者よ!

 あれを超えるのは世界を救うことと同じくらい難しいと思いなさい!」

 

「はい、霧崎コーチッ!」

 

 後半はなんかちょっと熱くなりすぎてテンションがおかしくなっていた自覚が、双方にあった。

 

「あの夕日に向かって、ループ・ザ・ループ100回!」

 

「はいッ!」

 

 かくして調は、一週間の修行を経て、スピナーとしての技能を手に入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調がヨーヨーにハマっている、と聞き、切歌はまず真っ先に小遣いをはたいて本を買った。

 買い食いなどで残り少なくなっていた小遣い全てをはたいての、ヨーヨー本購入である。

 話題を合わせたいのは分かるが、そこでヨーヨーを買うのではなくヨーヨーの本を買う辺り、本当に暁切歌だと言わざるをえない。

 

「デデデデースっ」

 

 スキップする切歌は、ヨーヨー練習中の調を見かける。

 伝説に語られる宮本武蔵にあるいは匹敵するであろう、極大の集中力でトリックをこなしている調の様子に気付いていないのが、まさしく暁切歌な感じだ。

 

「調ー!」

 

 切歌は天真爛漫な笑顔で、調に抱きつく。

 愛嬌と可愛らしさのハーモニーが織りなす切歌の笑顔は、それだけで何もかも許せそうになる魅力とパワーがある。性格がにじみ出ているからというのもあるのだろう。

 老若男女問わず、その笑顔に和まされることは間違いない。

 ……だが。

 今の月読調は、修羅である。

 修羅に笑顔は通じない。

 

「きりちゃん」

 

「なんデスか? 一緒に遊ぶとかなら喜んで……」

 

「ヨーヨーはお遊びじゃないの」

 

「……デース?」

 

 調が発した一流スピナーと同等の気迫に、切歌は気圧され転んでしまう。

 

「あ、あわわ」

 

 転んだ切歌に背を向け、調は光差す開いたドアの向こう側へと歩み出した。

 

「軽い気持ちで入って来ないで、スピナーの世界に」

 

 彼女は誇り高き世界に、一歩足を踏み入れたのである。

 

「……スピナーの世界って、なんデスか……」

 

 そして切歌の正論は、調の背中には微妙に届かなかった。

 

 

 




G設定資料集によると艶殺アクセルはGの時点では使えたようです

ならヨーヨーの技だけは習得した時期おそらくGとGXの間なんですよね


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調「公式戦で対戦者に与えるダメージはトリックの難易度に比例する」

 調は一週間で、マイの人柄を多少なりと理解した。

 だからこそ疑問に思ったことがある。

 

「師匠、こう言うのもなんですけど面倒くさがりですよね」

 

「霧崎マイちゃんは基本的にあくせく頑張らないタイプですから」

 

「じゃあ、なんで私の師匠になってくれたんですか?」

 

「んー」

 

「面倒くさがりなあなたらしくもない」

 

 霧崎マイは、自主的に弟子を取るタイプではないということである。

 

「調ちゃんが珍しい女性スピナーだったから手を貸したっていうのも、嘘じゃないわ」

 

「でも、それだけじゃない?」

 

 首を傾げる調に苦笑しつつ、マイは懐かしむように昔のことを語り始める。

 

「あなたの目を見てると、知り合いを思い出すの」

 

「知り合い?」

 

「そ。劣等感で潰れちゃって、でも弱いままの自分に耐えられなくて。

 変わりたいって一心で、たくさんの人に迷惑かけながら悪の手先になって。

 んで帰って来て反省したんだけど、それをどう償っていけば分からなくて悩んでた奴」

 

「友達?」

 

「あはっ、せいぜい下僕よ」

 

(……下僕……)

 

 どういう関係なんだろう、と調は邪推するが、答えは出ない。

 ただ、霧崎マイがそれを気にしていることだけは、理解できた。

 

「で、昔のそいつとあんたが似たような目をしてた気がしたの」

 

「……」

 

 マイはなんとなくで言っているだけだろうが、調には心当たりがあった。

 調は一時、世界を敵に回したテロリストも同然の身の上だった少女だ。

 人の命を救うためという動機からそうしたものの、調は自分が多くの人に迷惑をかけたと、そう思っている。その後悔から、変わりたいとも思っている。

 弱いままの自分に耐えられないというくだりも、調の共感を呼んだ。

 

 その"誰か"が調とどこか似た境遇であったことが、二人を引き会わせてくれたのかもしれない。

 

「ま、それはどうでもいいことでしょ。女は引き際が肝心よ」

 

「むぅ」

 

 女子は恋話が好きだ。

 競技中は回転力を求める修羅でも、休憩中は女子力を求める少女ということなのだろう。

 だが、休憩もここまでだ。

 二人は特訓を再開する。

 

「仕上がりいい感じよ。調ちゃん」

 

「……腕が上がれば上がるほど、師匠の遠さが分かります」

 

「わたし、世界最速の女だから。げろげーろ」

 

 カエルの真似をしておどけて見せながら、マイは調の両の手を見る。

 ストリングスのせいで中指は痛々しい状態になっており、手にはうっすらマメができている。

 その両手が摩耗で切らしたストリングの数は、一週間で百を超えていた。

 調の右手には瞬一が置きっぱなしにしていたハイパーインペリアル、左手にはマイが貸したバランス面において最優とも言われるファイヤーボール。

 調はこの一週間で、両手同時にヨーヨーを生物のように操れる域にまで至っていた。

 

 しかし、ハイパーインペリアルは初心者向けの安ヨーヨーである。

 ファイヤーボールが定価2000円、ハイパーインペリアルが定価680円といえば分かるだろうか。

 ぶっちゃけ、性能が足りなすぎた。

 高価格帯の人気ヨーヨーが15000円することを考えれば、ハイパーインペリアルは文学的価値で例えた場合、純文学に対する少女の謎手紙レベルのものでしかない。

 

 ファイヤーボールは後で回収するとして、大会で調に使わせるヨーヨーがもう一つ要ると、マイは考えていた。

 ついでに言えば、初めての弟子に一個くらいヨーヨーをあげてもいいなと考えていた。

 まあそれだけで突き放すのも薄情かな、と思いそのヨーヨーを調専用にチューンしたりもした。

 

 霧崎マイは面倒くさがり屋だが、手抜きは好まない上に情の厚い女でもある。

 

「これ、使ってみなさい」

 

「……?」

 

 マイが調に手渡したのは、今の調のテクに最も相性が良いと彼女が思った一品。

 

「サンセット・トラジェクトリー NXG」

 

 太陽の名を持つヨーヨーだった。

 

夕日(サンセット)……太陽(サン)

 

 調と切歌はとても仲がいい。

 切歌の鎌の刃は三日月を模したものであり、調のアームドギアが基本的に円形なのはそれが太陽を模しているからだ。

 二人は月と太陽、唯一無二の大親友。

 そしてヨーヨーもまた、調のアームドギア達と同じ円形である。

 加え、それが太陽の名を冠していることに、調は不思議な運命のようなものを感じていた。

 

「教えてどうにかなることは全部教えた。だから今日でこの師弟関係も終わり」

 

 今日までは師弟、明日からはライバル。それがスピナーの世界の掟だ。

 

「ありがとうございました!」

 

「明日の大会、一番近いところで見てるから、そこんとこヨロシク」

 

 それでも今は、技を教えてくれた彼女に精一杯を伝えたいと思い、調は頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャパン(J)チャンピオン(C)カーニバル(C)

 またの名を全国大会のない地方大会。

 関東、関西、四国、九州、東北、北海道など、地方それぞれでスピナーの頂点を決める大会だ。

 世界大会に出場するメンバーはこれらの大会の上位入賞者から選抜する場合も多いため、調が出場しようとしていたこの大会は、必然的に強豪が揃う大舞台となる。

 

 そして、大会の日がやって来た。

 

「ん」

 

 なお、既に予選は終了している。

 当然元世界王者のチームメイトに鍛えられた調が負けるはずもなく、彼女は順当に勝ち上がって来た。本選出場者は16人。

 前大会優勝者として堂本瞬一が現れた時、調はポケットの中のヨーヨーに触る。

 

「ん? あ、月読じゃねえか。お前、一週間でここに来れるくらい腕上げたのか」

 

「これを返しに来た」

 

 調が軽く放り投げたハイパーインペリアルをキャッチし、瞬一はニヤリと笑う。

 

「そして、ここで私はあなたに勝つ」

 

 調の胸には、ぶつかる理由がある。

 彼女は別に、何が何でも堂本瞬一に勝ちたいというわけではない。

 世界の頂点に立った男に挑むことを目標としているが、勝ちに執着はしていないのだ。

 極端に言ってしまえば、彼女は堂本瞬一と勝負することすら最終目標ではない。

 

 調が求めているのは、あの日刻まれた敗北感と劣等感を拭い去ること。

 満足感、達成感、勝利の実感……なんだっていい。

 月読調は、弱いままの自分・誰の役にも立てない自分・足手まといな自分・変われない自分を実感したまま、その感情を捨て置けない少女であるからだ。

 前に進むために、彼女はこの敗北感と劣等感に決着を付けなければならない。

 

『選ばれた16人のスピナーの諸君!

 これから八ヶ所の会場に案内するぞ!

 熱いハートと回転で、実況と解説を熱く燃えさせてくれッ!』

 

 調はスタッフに連れられ、自分の戦場(いくさば)へと向かう。

 辿り着いた本戦の個別会場は、コロッセオに近い形状をしていた。

 中央に盛り上がった床だけのリングがあり、そのリングの周囲を囲むようにぐるっと円形に位置している観客席があり、リングの中央には調の対戦相手らしき男が立っていた。

 調は本戦一回戦の対戦者と相対し、彼女がかつて立花響に対してそうしたように、観察気味にジッと見た。

 

「武蔵丸弁慶。月読調、おぬしの対戦相手じゃ。いい勝負をしよう」

 

 歴史の教科書に出て来る弁慶みたいだ、と調は思った。

 でもちょっとアホっぽい、とも思った。

 弁慶の挨拶に、調は頭を下げるだけの返答を返す。

 

『ではこれより本戦のルールを説明します!』

 

 調は聞き逃してはマズいと、耳を澄ました。

 

『本大会はトリックの内容を機械が自動的に採点してくれるシステムとなっております!

 使用できるトリックは三種類のみ!

 この大会のレギュレーションに登録されたトリックのみが使用可能です!

 アレンジはある程度なら認められますが、許容範囲を超えれば即失格です!

 なので冒険はほどほどに!

 得点が高い方が二回戦に進めます! トリックの失敗は減点となりますので慎重に!』

 

「……」

 

『そしてこの会場、自分が得た得点分の衝撃が相手の体に走るようになっております!

 おっと、ご心配なく! あくまで衝撃だけで怪我の心配は一切ございません!

 相手のトリックの凄さを文字通りに"その身で実感する"最新システムでございます!

 現代におけるヨーヨーはまさに格闘技! 誰も傷付かない格闘技に等しいのであります!』

 

「……えぇー……」

 

『本選出場者の皆様方は、思う存分トリックの応酬を繰り広げてくださいませ!』

 

 調は目の前の対戦者を見る。動じていない。

 調は周りの観客席を見る。皆興奮しながら歓声を上げている。

 どうやらこれが平常運転のようだ。

 

「毎年こんな感じなの……?」

 

「わしは四年前に一回JCCに出たきりじゃから、よう知らんのじゃが……」

 

「……あてにならない」

 

「やかましい! ……まあいいわい。

 四年前はヴァーチャルリアリティ世界と、反重力ボードを使っとったな」

 

「……」

 

 ヨーヨーの大会で? と言わない倫理観を、調は既に身に付けていた。

 世界大会ともなれば、24時間耐久でトリックを何回行えるかを競うこともあるのが、スピナーの世界だ。この程度のダメージでどうにかなってしまう人間は、この大会には出て来ないのだろう。

 調の体格はもやしと表現することすらはばかられる、シラスに等しい体格であったが、戦闘訓練は受けているために問題はないだろう。

 

 この舞台に上がる資格は、十分にある。

 

(さて、このルールだとどっちが有利なのかな)

 

 調は思考する。

 このルール、中々に曲者だ。

 一見最初に相手にダメージを与えられる先攻が有利に見えるが、先攻はほぼ確実に相手を続行不能状態にまで追い込むことはできないため、後攻は必ずトリックを披露できる。

 そして先攻が難易度5のトリックをしたならば、後攻は無理に難易度10のトリックに挑んで失敗する確率を上げる必要はない。難易度6のトリックで十分なのだ。

 

 逆に先攻は、トリックを後出しで選択できないためできる限り難易度の高いトリックを選ばなければならず、失敗のリスクが後攻よりも遥かに高い。

 先攻がルーピングプレイを得意とする自分より格上のスピナーと見て、後攻にストリングプレイを選び別の土俵で戦うことだって、後攻は可能だ。

 基本的には後攻有利かも、と調が結論を出したその瞬間。

 

「先攻はわしが貰ったー!」

 

 バカは、何も考えずに先攻を取った。

 

 

 

 

 

 速攻で一回戦を終わらせた瞬一は、弁慶VS調の試合が始められた頃には観客席に移動し、この二人の試合を観戦に来ていた。

 スタッフが調の歩幅に合わせてゆっくりとした歩調で案内したのもあるが、それを加味して考えても異常の早さでの決着だ。

 瞬一は隣に居る誰かに話しかけながら、弁慶のトリックを評価していく。

 

「ダブル・パンチング・バッグ。

 ダブルループ。んで、ダブル・アラウンド・ザ・ワールドか。

 いかにも大会の弁慶らしい構成で来たな。見た目がかっけーぜ」

 

 弁慶のトリックが一通り終わると、調は車田飛びで吹っ飛ばされてしまう。

 両手を満遍なく使う高難易度トリック、それも似て非なる高難易度トリックを三つ、統一感を出しつつ組み合わせたコンビネーションだ。

 調の体重では、このトリックが生む衝撃波に耐え切れず、吹っ飛ばされてしまうのは必然。

 

「さて、弁慶は強敵だぞ」

 

 弁慶と瞬一はもう四年来の友人だ。

 瞬一が最初にヨーヨー勝負を挑んだ相手が弁慶で、それ以降ずっと親交がある。

 経験値で言えば、弁慶は調の遥か上を行く男なのである。

 ヨーヨーで遊びすぎて、高校受験に落ちたという神話を持つ男。それが弁慶だ。

 

「月読はどうすると思う?」

 

 瞬一は隣になっていた人影に声をかけ、人影は自信満々に答えを告げた。

 

 

 

 

 

 調が選んだトリックは、ストリングプレイのムーンサルト。

 ルーピングプレイのダブル・シュート・ザ・ムーン。そして……

 

「ストリングプレイスパイダーベイビーだとッ!?」

 

 観客席で誰かが叫んだ。

 なお、ストリングプレイスパイダーベイビーにそこまで驚かれる要素はない。

 最初にストリングプレイスパイダーベイビーから入り、すぐさまムーンサルトに綺麗に繋ぐ調のテクに、弁慶は思わず声を漏らす。

 だがその感嘆は、すぐさま驚愕に変わった。

 

「!? 実況席の司会進行! こやつ、同じトリックを使いおったぞ!

 ストリングプレイスパイダーベイビーの後、ムーンサルトをして!

 またストリングプレイスパイダーベイビーをやるのは、ルール違反ではないのか!?」

 

『いえいえ、反則ではありませんよ。

 言いましたよね? トリックは"三つ"ではなく、"三種類"です!

 冗長であれば減点対象となりますが、同じトリックは何回使ってもいいのです!』

 

「なんじゃとぅッ!?」

 

 コロンブスの卵。

 今大会本戦一回戦にて、スピナー達は一気に二種類の人間に(ふる)い分けられた。

 すなわち、『三種類』と聞いてこの大会の趣旨に気付いた人間と、気付かなかった人間である。

 気付いた人間は順当に勝ち、気付かなかった人間は順当に負け、気付かなかったが運よく勝てた人間は、このコロンブスの卵を真似し始めていた。

 

 調もまた、気付いた一人。

 彼女はストリングプレイスパイダーベイビーを一瞬で組み上げ、解くだけの腕がある。

 ストリングプレイスパイダーベイビーを決めて、別のトリックを決めた直後に、更にストリングプレイスパイダーベイビーを決め、また新たなトリックを決める。

 この連携こそが、調の狙っていた技だった。

 

(マズい……わし、この嬢ちゃんに勝てんかもしれん!

 トリック三つと、トリック最低五つの勝負では、明らかに前者が不利じゃ!)

 

 ストリングプレイスパイダーベイビー。

 次にムーンサルト。

 続けてセカンドストリングプレイスパイダーベイビー。

 次にダブル・シュート・ザ・ムーン。

 四つ目のトリックが終わった時点で、誰もがサードストリングプレイスパイダーベイビーが来ると、そう予測していた。

 

「!?」

 

 しかし戦場(いくさば)における実戦経験者である調は、一般人達の予想を遥かに越えていく。

 

 

 

 

 

 観客席で試合を診ていた瞬一が、目を見張る。

 瞬一は自分がほぼド素人だった状態から、誰にも指導されずに5日間一人で特訓しただけで、JCCに準優勝し日本代表に選ばれたほどの天才だったことを完璧に忘れ――棚に上げ――、一週間前に初めてヨーヨーに触った調の成長速度に驚嘆する。

 

「ストリングプレイとループプレイの混合。これだけでも初心者には難しいってのに……」

 

 調は冗長、マンネリと採点される可能性を嫌い、サードストリングプレイスパイダーベイビーではないトリックを選択した。

 

「両方の指を使ってムーンサルトだと!?」

 

 ムーンサルトなるトリックを両手で行い、両手のヨーヨーを相互にもう片方の手に引っ掛ける、左右同時ムーンサルトとでも言うべき技。

 言うなればツインムーンサルトとでも言うべきか。

 ただのムーンサルトがGNドライヴ級の難易度であるとするならば、このトリックの難易度はクアンタ式ツインドライヴ級の次元にある。

 外から見ていてもどういうテクで組み立てられたのかまるで分からない、そんな技に、観客席の一部のスピナーが調を見る目が変わる。

 

「な……! しかも、あの五つ目のトリックは!」

 

 更に調は、ダメ押しで五つ目のトリックにまたしても"お前それどういう指の動きでやってんの?"と問われても仕方ない、オリジナルトリックを見せつける。

 

「『ストリングプレイダブルスパイダーベイビー』……!」

 

 ヨーヨーの基礎技ブランコを二つ同時に行うのよりももっと難しい、ツインムーンサルトと同じく、調オリジナルのアレンジトリックのようだ。

 右手と左手で別々にリズムゲームをプレイし、同時にパーフェクトクリアをするに等しい難易度のそれが、文句なしに調の勝利を確定させる。

 採点機械はセーフ判定を出すに留まらず、調のトリックに高得点を出した。

 

「うっ――」

 

 瞬間、発生する衝撃波。

 

「――うおおおおおおおおおッ!?」

 

 そして弁慶は、調の技巧を反映した衝撃に、吹っ飛ばされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事。じゃが、わしを倒していい気になるなよ……

 わしはJCC本選出場者16人の中ではおそらく最弱……」

 

「知ってた」

 

「……そ、そうか。無念ッ」

 

 気絶した様子で、弁慶は地に伏す。

 このヨーヨー大会形式だと、怪我はしないが気絶はするようだ。

 なんにせよ、調は危なげなく一回戦を通過したということになる。

 

(よかった……予選落ちも、一回戦落ちも、なんとか回避)

 

 しかし、調はまだ一回戦を抜けただけだ。

 彼女にはまだ二回戦、準決勝、そして決勝が残っている。

 調が次に戦う、二回戦の相手……"それ"は、観客席で瞬一の隣に立っていた。

 

「!」

 

 その人物が、観客席からひらりと調の前に降りて来る。

 

「言ったでしょ。『明日の大会、一番近いところで見てるから』って」

 

「師匠……!」

 

「ただのライバルに戻った以上、お互い手加減なし、敬語もなしで、オッケーでしょ?」

 

 調の二回戦の相手は、世界大会で優勝した日本チームの一員でもあった『ワープスピード』、霧崎マイ。調にヨーヨーを教えてくれた、その人だった。

 

「……私は、あなたを越えていく」

 

「まだあなたには無理よ、ヒヨコちゃん?」

 

 蠱惑的に笑うマイに、相対する調。

 

 師匠と弟子の血を血で洗う全力の戦いが、今始まろうとしていた。

 

 

 



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調「ヨーヨーに捧げた人生の量こそが―――」

 月読調VS霧崎マイ。

 二人は師弟関係だが、師弟として当然ある技量差以上に、差が開いている部分がある。

 それは、スピードだ。

 

 マイは世界大会準決勝で先鋒として出場し、"トリックのスピードが非常に速い"という一点のみを武器にして、それを評価され、強豪ドイツ相手に五人VS五人の団体戦で四タテという頭のおかしいことをしたことすらある。

 そのスピードは世界レベルを超え、世界トップクラスだ。

 マイは指導した調にさえ「速すぎて気持ち悪い」と言わせるほどの域に居る。

 

「ちょっとー、提案があるんですけど」

 

 そんなマイが、スタッフを引き止め……

 

「わたし達、別のルールでやりたいんですけど、双方の同意があればできます?」

 

 ルールの変更を申し出てきたものだから、調は最大限に警戒心を高めていた。

 

 ジャパン(J)チャンピオン(C)カーニバル(C)のルールは割とガバガバである。

 ルールにガバガバな穴があるわけではないが、双方の同意と運営の同意があれば、危険なことでない限り特別ルールでの試合が行われることがある。

 とはいえ、本当に稀なことだ。

 

 加え、マイが提示したルールは既定のルールをほとんど変えないものだった。

・二人が同時にトリックをスタートさせる

・連続トリックの完成度とトリック完成までの速度を採点基準に

・使用トリックの数を10に

・両者トリック終了と同時に採点、敗者にダメージ

 以上の四つのみである。運営は評議の結果、両者の同意があればいいとした。

 

 ルーピングトリック、つまりスピード勝負になりがちな勝負であれば、マイはまず負けない。

 マイが付け足したルールは一見、スピードスピナーのマイに有利なものに見える。

 だが、スピードは元々トリックの審査基準の中に含まれているため、このルールの中にマイが有利になるものはない。

 トリック数が増える分、トリック一つ一つの完成度が採点基準における比重を増やすため、調の勝機が増してさえいた。

 調はマイの思惑が読めない。このルールで、どう勝とうというのか?

 

(張り合うのは望むところ)

 

 だが、調は真っ向からぶつかり合うことを選ぶ。

 師とは弟子にとって、古今東西乗り越えるべき壁である。

 マイの思惑がどうであれ、調は全力でぶつかっていくことを選んだ。

 

『では、両者位置について……始め!』

 

 調はトリックを開始する。

 まずはダブル・シュート・ザ・ムーンからと、調は速度と精度をどちらもおろそかにしないよう意識して、丁寧にかつ最速でトリックを開始する。

 

「―――っ」

 

 しかし調は、マイを見てトリックの最中だというのに目を見開いてしまう。

 マイは何もしていなかった。

 トリックすらしていなかった。

 ヨーヨーを手にして不敵に笑い、されど何の動きも見せていなかった。

 まるで、調を先に行かせても、すぐに追いつけるとでも言わんばかりに。

 

「バカにして……!」

 

 調は怒りを押さえ込みながら、ペースアップ。

 冷静さは失われていても、手先が狂わないのはF.I.S.での厳しい訓練の賜物か?

 今は亡きマム達にみっちり叩き込まれた技の精度の保ち方を、マム達が全く予想していなかった方向性で最大限に活用する調。

 しかしマイは、猛スピードでトリックをこなしていく調を見てもどこ吹く風だ。

 

「このくらいでちょうどいいハンデなのよ」

 

 調が三つのトリックを終え、決定的な差を付けたタイミングで、マイは動き出す。

 

「わたしの名前は霧崎マイ。世界最速の女なんだから」

 

 彼女の異名は『ワープスピード』。彼女の技は、誰よりも速い。

 

「―――!」

 

 調はマイの技を見たことはある。だからその速さを知っている。

 しかし調は、マイの"全力の速さ"までは知らなかった。

 この時までは。

 

(嘘、こんなに速いの……!?)

 

 調が5トリック目を終わらせた時、マイは3トリックを終わらせていた。

 調が7トリック目を終わらせた時、マイは6トリックを終わらせていた。

 それだけではない。

 マイが行っているトリックは、全て調が行っているトリックと同じだった。

 

(しかもこれ、私と同じ……!)

 

 調がやったトリックを、調の後から続くようにプレイして、調よりも遥かに速く終わらせていくマイ。調に技を教えたのはマイだ。こんな芸当も余裕で出来るのだろう。

 マイは余裕だが、そんな方法で追い上げられる調からすればたまったものではない。

 甘かった。

 彼女の想定は、甘かったのだ。

 3トリック分先行というハンデですら足りなすぎる。

 このまま行けば、最終トリックの最中で追い抜かれ、そのままスピード評価の差で負ける。

 

 ハンデを与えてなおスピードで圧倒してくるマイを目にして、調に戦慄が走った。

 

(だったら!)

 

 調はマイに教わった技を自分なりに発展させた技、ストリングプレイダブルスパイダーベイビーならば瞬時に後追いされないと判断し、9つ目のトリックにそれを選択する。

 ストリングプレイであれば、調はマイを上回る才能がある。

 そう調に言ったのは、他でもないかつてのマイだ。

 調は指先の器用さを活かし、今日までマイに一度も見せたことのない技で引き離そうとし――

 

「それ、一回見せてもらったから」

 

「……っ!」

 

 ――あっさりと技を模倣し、追いついてきたマイに表情を苦々しく歪めた。

 9つ目のトリック終了は同時。

 調は最後のトリックを見せれば、そのトリックが終わる前にマイに抜かれ、負けてしまうという状況にまで追い込まれてしまっていた。

 

 

 

 

 

 観客もまた、ワープしているのかと思わされるほどのマイのスピードに驚嘆している。

 負け犬となって瞬一の隣の席を取った弁慶もまた、その一人だった。

 

「瞬一! い、いくらなんでもありゃ速過ぎやせんか!?」

 

「いや、あれでも霧崎のMAXじゃねえさ。月読じゃそこまで追い込めないんだろう」

 

「なんと!」

 

 瞬一は弁慶と比較すればまだ冷静だが、こめかみに冷や汗が一筋流れている。

 マイには長時間のプレイに耐えられるスタミナがない。重量のある高性能ヨーヨーを使うパワーもない。超高難易度のトリックを安定して成功させられる最高位のテクもない。

 彼女の武器はどこまでもスピードだ。

 テクニックで言えば、調とそこまで差は無いだろう。

 だからこそ、調もテクの勝負に持ち込んだのだが……

 

「ストリングプレイダブルスパイダーベイビーをコピーする速さまで、ワープスピードかよ」

 

 マイはトリックの習得スピードまでもが速かった。

 ヨーヨーのトリックは、それができる人の実演を見てそれを真似するのが習得への一番の近道、なんて言われることが多いものだ。

 スピナーにとってのYouTubeが、最高の親友であることに間違いはない。

 マイは調というお手本をじっくり見ることで、その技をきっちり習得していたのだ。

 そして最終的に、調の技を調より速く終わらせるという脅威のスピードを見せつけた。

 

 ここに来るまで、マイは調が2トリック終わらせるまでの間に3トリックを終わらせるというペースを維持している。

 これがまたとてつもない。

 

 別種のものに例えてみれば分かりやすい。

 仮に、今の調の速度を50m走で6秒ジャストのスピードであると仮定しよう。

 マイの速度は、50m走を4秒で走っているのに等しい。

 文字通り次元の違う、"気持ち悪いくらい"の速さ。

 

「あいつは、速さだけなら俺が全力でやっても追いつけねえ」

 

 速度で勝敗を競う限り、調はマイには追いつけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後のトリックを前にして、二人は膠着状態に陥った。

 マイは調が最後のトリックを選んでから後追いで始めるつもりであり、だからこそ調は迂闊に最後のトリックを始められない。

 膠着はほんの数秒だったが、マイは調を急かし始める。

 

「で、最後のトリックは何にするの?」

 

 真っ当に試合を始めていれば、この勝負マイの圧勝で決まったはずだ。

 曲がりなりにも勝負になっているのは、マイが相応のハンデをくれてやったからに過ぎない。

 そのハンデも、9つ目のトリックが終わった時点で無くなってしまった。

 次の、最後のトリックにおける勝負は、なんのハンデも無い真っ向勝負。

 

 月読調と霧崎マイが、初めて"ハンデも手加減も無しに全力でぶつかり合う勝負"となるだろう。

 

 まともにやりあえば、調は確実に負ける。

 されど、相手が師でも、相手が圧倒的格上であっても、調はまだ何も諦めてはいなかった。

 調は目を閉じ、深呼吸し、覚悟を決めて、目を開ける。

 

「……」

 

 そして左手で持っていたヨーヨーを捨て、右手一つでサンセットを構えた。

 

「! ファイヤーボールを……」

 

 片手のヨーヨーを捨て、両手で行うトリックを捨て、片手のみで敵に挑む。

 スピナーにとってそれは、片腕を捨ててでも勝ちに行く覚悟に等しい。

 マイが応じなければ、ヨーヨー一つで行えるトリックとヨーヨー二つで行えるトリックの差で、自動的にマイが勝利する構図が完成する、危険な賭けだ。

 だが、調は目でマイを挑発する。

 調は分かっていた。

 この師匠ならば、挑発すれば乗ってくると。

 案の定、マイはニヤリと笑って、左手のヨーヨーを同時に捨てる。

 

『な、なんとー! 両者とも同時に左手のヨーヨーを捨てた! 一体どうなってしまうんだ!?』

 

 相対する二人は、空気の緊張を高めながら睨み合う。

 今の二人はホルスターに手をかけた西武のガンマンに等しい。

 どちらが速いかを競うがために、その手の(ヨーヨー)に全神経を集中させる。

 

「っ!」

 

 そして、調が先に抜いた。

 調のプレイを見て、遅れてマイも調に続く。

 この動きで、今大会のレギュレーションに反しないトリックは一つのみ。

 手から離したヨーヨーを、手首の返しで加速させて100回連続でループさせる……ルーピングトリックの、ループ・ザ・ループ100だ。

 

(血迷った? 諦めた? それとも、負けた時の言い訳作り? ま、いいケド)

 

 ループ勝負はスピードの差が最も顕著に出る。

 すなわち、霧崎マイの独壇場だ。

 調もそれは分かっていただろうに、何故このトリックで勝負を挑んだのか?

 

「くっ……!」

 

 調がリードを保てたのも、最初のループ10回分くらいのもので、先に始めたというのに、ループ回数はマイにあっという間に追い抜かれていた。

 超速という表現ですら生温い速度に、調はマイにぐんぐん差を付けられていく。

 

(……あーあ、結局呆気無く終わっちゃった)

 

 このまま圧倒して終わりかな、とマイが思ったのその瞬間。

 

 月読調の眼光が、強く(またた)いた。

 

「……え?」

 

 途端に、調の追い上げが始まる。

 

(!?)

 

 焦ったのはマイだ。

 気合だけでマイに追いすがれる速度が出せるなら、これまで数多くのスピナーがそうしてきただろう。しかし現実に、マイに気合だけで追いつけた者など居なかった。

 なのに、なのにだ。

 今の調は、相対的に言えばマイよりも速い。

 でなければ差が縮まるはずがない。

 

(どんな魔法を用意したってのよ……!)

 

 調を見ても、何か特別なことをやっている様子はない。

 ただただ必死に、ループを繰り返しているだけだ。

 なのにループの回数差は、徐々に縮まっている。

 

「私は、負けない!」

 

 調の強い眼光を、強い言葉を肌で感じて、マイは自分が負けるかもしれない現状を理解する。

 

「……上等!」

 

 そしてマイもまた、自身のスピードの限界に挑み始めた。

 

 

 

 

 

 マイの速度に突如食らいつき始めた調に、観客席が沸き始める。

 観客の大半はなぜ調が追随できているのか理解していないが、その興奮は冷めやらない。

 

「瞬一! なんじゃあれは!? 月読が速くなったのか!?」

 

「違う。霧崎が少しだけ遅くなったんだ」

 

 月読調と霧崎マイ。二人の高速戦に弁慶はついて行けていないが、瞬一は別だ。

 世界レベルのスピナーである彼には、弁慶とは違うものが見えている。

 

「ヨーヨー、特にループはやればやるほど(ストリング)に"ヨリ"ができる。

 だが、それだけじゃない。

 内のシャフトに糸が巻かれる度合いもまた、プレイのたびに偏っていく」

 

 ヨーヨー素人でも、ヨーヨーに糸を巻いて下に振り下ろし、自分の手元に戻って来たヨーヨーを再度振り下ろすと、少し回転力が弱まることは知っているだろう。

 それも当然だ。

 最初に振り下ろしたヨーヨーは、人の手で綺麗に糸が巻かれている。

 だが二回目以降は、ヨーヨーの回転が自動的に巻き取った糸でしかないのだから。

 

「最初に(ストリング)を均等に、かつキュッと締めて巻くのは基本中の基本。

 ヨーヨーが最高のパフォーマンスを発揮するのは、手で巻いた直後に決まってる」

 

「それがあの月読のスピードとどう関係があるんじゃ!?」

 

「何回もループさせてりゃ、ストリングはキツく巻かれないままだ。

 加えて軸周りでストリングが偏った巻かれ方をすることになる。

 すると、ループを繰り返すたびに僅かに速度が下がる……が。

 月読のやつ、全く速度が下がらない。それで相対的に、霧崎に追いついてるんだ」

 

「ッ!?」

 

 堂本瞬一の動体視力は、野生動物のそれに限りなく近い。ゆえに、見逃さない。

 

「ループの一回一回を信じられない精度でやってやがる。

 だから綺麗にストリングが巻かれて、ヨーヨー自体の安定性も跳ね上がる。

 月読のサンセットは、ループのたびにストリングを丁寧に巻き直してるのと同じなんだ」

 

 調は器用に、ループでヨーヨーを戻す際に、糸がどう巻かれるかすらも制御しきっている。

 

「あいつ、手先の器用さをそのまま速さに転換して―――霧崎に追いついてやがる」

 

 それが、瞬一が見抜いた調の速度の秘密だ。

 

「じゃ、じゃが!

 ヨーヨーの安定性が上がったところで、そこまで差が出るものなのか!?

 わしゃあ、とてもじゃないが信じられんぞ!」

 

「悔しいが、俺はループの速度じゃ霧崎に勝てねえ。

 だけど、一回だけ勝ったことがある。

 俺がハイパードラゴンを使って、あいつが普通のヨーヨーを使ってた時だ」

 

 ハイパードラゴン。

 当時の最先端技術をヨーヨーなんかに惜しみなく注いだ結果、ミクロン単位で精密に調整された構造、莫大なコストで製造されたボディバランスにより、信じられない安定性を獲得した、過去の日本代表が使っていた専用ヨーヨーである。

 そのヨーヨーの開発者いわく、ハイパードラゴンは最高の状態であればただ回っているだけで無重力空間を発生させるという。

 瞬一はそのヨーヨーを使い、使用しているヨーヨーの安定性に差がある状態で、霧崎とループの速度を競ったことがあるのだ。

 

「霧崎より遥かに安定性のあるヨーヨーを使った、あの一回。

 そん時だけは、俺は霧崎の1.5倍の速さでループ出来てたらしい」

 

「1.5倍……!」

 

 1.5倍。

 すなわち、今さっきまであった調とマイの速度差と、ほぼ同じだ。

 安定性次第で、1.5倍の速度差が出るのであれば……今のこの瞬間、二人の少女が互角の速度を叩き出しているのは、何もおかしなことではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は喋り慣れていない、口を開けばどもるようなタイプの人間ではない。

 けれど、必要な時以外は基本的には喋らない。

 そんな二人がガラにもなく、魂を震わせるように叫んでいる。

 

「あああああああッ!」

 

 目に残像しか映らないような速度で回るヨーヨーは、会場に風切る音を響かせていく。

 

「やああああああッ!」

 

 ストリングをトリックの最中に綺麗に巻くこの技を、調はまだループ・ザ・ループでしか使えない。そしてこの技を使わなければ、調ではマイの速度には追いつけない。

 マイの土俵かと思われたこの勝負はその実、調の土俵の上だったのだ。

 だからこそ、マイは負けじと自身の速度の限界に挑む。

 調もまた、負けてたまるかと自身の速度の限界に挑む。

 両者は己の全てを懸けて、ループ・ザ・ループを加速させていく。

 

『二人ともすごい! すごい速さだぁ!』

 

 月読調は歯を食いしばる。

 戦いの結果には勝ちがあり、負けがある。

 ならば勝ちたいと、調は人として当然の思考で己を奮い立たせる。

 人には強い人が居て、弱い人が居る。

 自分が弱いと思っている調は、歯を食いしばって"強くなりたい"と心から願う。

 

 勝ちが全てだと、調が思っているわけではない。

 強さが全てだと、そう思っているわけでもない。

 だが、それでも。

 「勝ちたい」と、「強くなりたい」と、調はそれを強く求める。

 

「私は、あなたを越えて行く!」

 

 霧崎マイは歯を食いしばる。

 彼女がヨーヨーに初めて触ったその日から、何年経っただろうか。

 速さだけでは誰にも負けないと意地を張り始めてから、何年が経っただろうか。

 だから、負けられない。

 霧崎マイは、ヨーヨーを始めてから一週間の初心者には、負けられない。

 速さを競う勝負でだけは負けられない。

 

 重ねてきた年季が、積み上げてきた速さのプライドが、彼女に負けを許容させない。

 相手が自分の教え子なのだからなおさらだ。

 "自分が速さで負けることだけは許せない"。マイもまた、負けず嫌いな少女だった。

 

「そう簡単に越せるほど、わたしは小さな壁じゃない!」

 

 二人は更に加速した。

 

「「 ああああああああッ! 」」

 

 器用さを速さに転換し、月読調は加速する。

 彼女は自分の弱さと戦い続ける。息が切れ、体力が尽きて苦しくて、腕も高速ループのせいで痛んでいるが、それでも調は速度を緩めない。

 勝負から逃げ、妥協し、楽な道を選ぶこと。

 それは自分の弱さに向き合い乗り越えることもできないまま、自分の弱さに負けることだから。

 

(弱い自分に負けて、みじめな気持ちにはなりたくない―――!)

 

 スピードを求めた今日までの日々の全てを込めて、霧崎マイは加速する。

 昨日の自分が、今日の自分に速さで負けるのはいい。

 けれど、自分以外の誰かが、自分より速いことは許せない。

 彼女は自分以外の誰かの"速さ"と、常に戦い続ける。

 

(速さでだけは、私以外の誰にも、負けられない―――!)

 

 二人は叫ぶ。二人の声が会場に響き渡る。

 両者の手でヨーヨーが加速する。風切る音が、二人の声に混ざっていく。

 ある観客は息を飲み、ある観客は歓声を上げ、ある観客は二人の内片方を応援した。

 

『これは……これは……どちらが勝つのでしょうか……!?

 いや! どちらが勝ってもおかしくはない! 二人共、速過ぎる!』

 

 ループの回数が進むごとに、両者の意地を懸けたデッドヒートは加速していく。

 最初の10回は、調がスタートダッシュの分勝っていた。

 けれど20回を過ぎる頃には、マイは調を追い抜いていた。

 30回を過ぎ、更に差は広がる。

 40回を過ぎると、差が広がるのが止まる。

 50回を過ぎる頃にはとうとう、調が差を縮め始めた。

 60回を越え、調はぐんぐん差を縮めていく。

 70回を終えた頃にマイが意地を見せ、再度差を広げる。

 80回前後の時に調もまた限界を越え、差を縮める。

 そして90回を越えたその時、二人のループスピードとループ回数は、完全に並んでいた。

 

「私がッ!」

「わたしがっ!」

 

「「 勝つ! 」」

 

 速く、速く、目の前に居るこのライバルよりももっと速く、その先へ。

 

 敵を倒すのではなく、ライバルを超えるために死力を尽くす。

 それは物騒な生まれ、物騒な育ち、物騒な境遇のせいで、物騒な訓練と実戦の中で生きてきた調にとって、生まれて初めての経験だった。

 誰かを傷付けて得る勝利も、大切なものの喪失に繋がる敗北も、ここにはない。

 

(なのに私は、何故こんなにも、必死になって勝とうとしているんだろう)

 

 勝っても負けても、誰も失いはしない。

 なのに何故調は、世界の命運を賭けて戦った時と同じくらい、必死に戦っているのだろうか。

 答えなど、考えるまでもない。

 

 彼女が既に、ヨーヨー使い(スピナー)であるからだ。

 

『どっちだ!? どっちが勝つ!? 二人共、頑張れー!』

 

 二人のヨーヨーが加速し、最後の10回が終わる。

 

 そして、ヨーヨーキャッチ特有の軽快な音が響き、熱き戦いに終止符が打たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝者の手にはヨーヨーが握られ、敗者の手にヨーヨーはない。

 敗者のヨーヨーは(ストリング)から外れ、床に転がり、虚しい音を立てていた。

 

「ど、どういうことじゃ……?」

 

 戸惑いの声を上げたのは、弁慶だけではない。観客席にざわめきが広がっていく。

 

「……あー、あれな。俺も昔よくやらかしてたわ」

 

 苦々しい顔の瞬一には、何故この結末に至ったのか、その理由が理解できているようだ。

 

「短期間で詰め込みの練習し過ぎると、よく分かんなくなるんだよな。

 "どのくらいでストリングが切れるのか"って感覚が。

 長い間繰り返しやってると、糸がどのくらいの期間で切れるのか、体感で分かるようになる。

 だけど、短期間にストリングが切れるまで猛練習するのを繰り返してると、それが分からない」

 

 敗者のストリングは、高速ループの負荷によりちぎれてしまっていた。

 

「あいつは気付いてなかったんだ。

 自分のヨーヨーのストリングの状態に。

 そして、無茶なループを繰り返した場合、どのくらいの負荷がかかるのかってことに」

 

 100回目のループを終えて、自分の手に戻ろそうとしたヨーヨーがあらぬ方向へと飛んでいったのを見て、敗者(しらべ)は自身の敗北を悟る。

 マイがヨーヨーをキャッチした時点で、勝敗は決まった。

 

「……限界を超えた速度を出してなければ、こうはならなかったはずだ。

 あいつのストリングも、十分保ったはずだ。

 だがおそらく、霧崎の方は"試合中にストリングが切れる可能性"を予想してた。

 あいつも世界大会の時、途中でストリングが切れたのトラウマだろうしな。

 そのせいで、霧崎の方のストリングだけが新品で、この激戦に耐え切ってくれたんだ」

 

 日没の軌跡(サンセット・トラジェクトリー)のごとく、調のヨーヨーは地に墜ちた。

 今となっては、この名も皮肉としか言いようがない。

 

「なら、二人の勝敗を決めたのは……」

 

「ああ。"ヨーヨーに捧げた人生の量"ってことだ」

 

 勝者が決めたトリックに相応の衝撃波が、敗者の体を襲う。

 

 激戦に相応しい衝撃に吹っ飛ばされながら、調は目を閉じる。

 

 あんなにも、勝ちたかったはずなのに。

 

 不思議と、心地の良い敗北だった。

 

 

 



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調「ヨーヨーを人に向けてはいけません」

『皆様! 勝者である霧崎マイさんにも、敗者である月読調さんにも!

 その健闘をたたえ、盛大な拍手をお願いします! いや本当にいい勝負でした!』

 

 敗者にも惜しみない賞賛が与えられ、歓声が上がる。

 負けたのに褒められてしまい、調は恥ずかしいやら照れくさいやら、複雑な心境だ。

 そんな調に手を差し伸べ、彼女を引き起こす霧崎マイ。

 

「……負けちゃった」

 

「最速のわたしに勝つには十年早い……かな?」

 

(何故疑問形……)

 

 得意げな勝者(マイ)を見ても、不思議と劣等感やみじめな気持ちは浮かんで来なかった。

 コンプレックスは、抱く人間の心の持ち様にこそ原因がある。

 世の中、自分より優れた人間なんて腐るほど居るのだから、それらに対して一々劣等感を抱いていては、人間生きてはいけないものだ。

 

 調はマイには負けた。

 だが自分の弱さには打ち勝っていた。

 弱さに打ち勝ち、自分の限界を超えて戦えた。

 そして限界を超えた上で、負けたのだ。

 そこに劣等感や無力感はなく、不思議な充足と達成感のみがある。

 

「また来年、ここで勝負できたらいいわね」

 

「……!」

 

 マイに手を差し伸べられ、助け起こされた調は、奇しくも彼女と握手する形になっていた。

 自然と、互いの健闘をたたえるような気持ちになり、握る手に力がこもる。

 今日は調の負けに終わった。

 だが、次もそうなるとは限らない。

 負けが死に繋がらない競技の世界では、"また来年の大会で"という言葉が意味を持つ。

 

「その時は、私が勝つ」

 

 調は、来年こそは自分が勝つと決意を告げた。

 マイは挑発的に微笑んで、会場から退場していく。

 その背中を見送って、調もまた会場から観客席へと移動していく。

 

 フロンティア事変の顛末により、この世界からノイズの災禍は去っていった。

 だが、世の中というものは何があるか分からない。

 新たな敵が現れ、いつかの未来に人々が脅かされる可能性は十分にある。

 だからこそ装者達は訓練を欠かさず、調もまた訓練をおろそかにしていない。

 

 また来年、と彼女らは約束した。

 それは次の年に大会が開かれるまでの間、この国の日常を守るという決意である。この大会に出場する一般の人々を死なせず守るという決意である。

 そして、約束を守るため、何があろうと絶対に来年まで生き残るという決意である。

 この約束を守ろうとする意志がある限り、月読調は絶対に生きることを諦めない。

 

 ぼんやりとした『守る』という意志ではなく、守るべき場所と守るべき人々を強く意識したことで、調は"自分の戦いが何を守るか"を強く自覚し、『守る』という覚悟を手に入れた。

 

 これから先、世界を守るために彼女が戦う日が来たならば。

 調は"この世界に生きる人"を明確に頭の中に思い浮かべ、何度だって限界を超えられるだろう。

 

(! 次の試合の対戦カード、堂本瞬一と師匠だ……)

 

 調は次の対戦カードを確認してから、観客席でどこか空いてないかと席を探す。

 

「お、月読か。こっちじゃこっち、空いとるぞ」

 

「……どうも」

 

 声を上げて手招きする弁慶の声に応じ、調は彼の隣の席に向かう。

 会場を見やれば、ちょうど瞬一とマイの試合が始まるところだった。

 

「いやはや、月読も惜しかったがいい勝負じゃったな! 次も注目の一戦じゃぞ!」

 

「ん」

 

 もう既に友達になったかのような親しげな距離感で、弁慶は調に話しかけてくる。

 いや、実際にそうなのだろう。

 弁慶はヨーヨーで真剣に勝負した相手となら、もう友達も同然だと思っているのだ。

 意外とお調子者だ、と思いつつ……悪い気はしないと、ポケットの中でヨーヨーを指でなぞる。

 

 舞台の上で相対する瞬一とマイを見て、調は"来年の今日"に思いを馳せて、血を熱くさせる。

 

『それでは両者位置について……』

 

「今日のわたしは、いつもより三割増しに速いから」

「へっ、上等!」

 

『始め!』

 

 アスリートの戦いは、他者との戦いであると同時に、自分との戦いだ。

 他者の強さに打ち勝つために、彼らは自分の弱さに打ち勝たねばならない。

 調は今日、他者の強さだけでなく自分の弱さにも打ち勝つ道を、歩き始めた。

 

 いつかどこかで、調は今日の経験を活かして、自分の根源的な弱さと向き合い、乗り越えるだろう。だがそれは今日でもないし、今でもない。

 少しだけ先の、未来の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナスターシャの遺体を乗せたシャトルの墜落から、90日が経った。

 月読調が二課預かりの身となってから、60日が経った。

 今日も調は、二課の訓練室にて立体映像のノイズ相手に、戦闘訓練を重ねている。

 

「あら」

 

 忙しい中たまの休みとして帰って来ていたマリアが、そんな彼女の訓練を見ていた。

 調が戦っている相手は、翼発案の二課通称『わたしのかんがえたさいきょうにつよいのいず』の中堅レベル設定のノイズ。

 訓練用に設定されたオリジナルのノイズだが、このレベル帯だと結構硬く、結構速く、結構力がある歯ごたえのある強さな近接型――剣士型――ノイズだ。

 ちょっと前の調であれば、そこそこに苦戦していたであろう相手。

 

 調は機動力を活かして敵との距離を縮めたり広げたりして惑わせて、基本的に中距離からの攻め手を得意とするタイプだ。

 そんな調が立体映像ノイズに距離を縮められ、あわやピンチか、とマリアが思う。

 されど調は、冷静な対応を見せる。

 

 まずはその場で軽く跳躍して一回転。スカートを円形の刃と化し、ノイズに叩き込む。

 『Δ式・艶殺アクセル』と呼ばれる技が、密着してきたノイズを弾いた。

 すぐさまそこで蹴りを放つと、彼女の足裏の移動用ローラーが攻撃に使われ、調の足裏はまるで芝刈り機のようにノイズの顔面を削り、更に敵を後退させる。

 続いて調が取り出したものこそ、"ヨーヨーのアームドギア"であった。

 

 調は両手のヨーヨーをパンチング・バッグの要領でノイズに何度も叩きつけ、その衝撃でノイズを押し込み距離を離させる。

 そして最後に、ヘッドギアの延長・ツインテールの延長で形成された頭部武装ユニットから、『γ式・卍火車』にて、大型の丸鋸を二つ発射。

 連撃の〆として、ノイズの上半身と下半身を生き別れにさせた。

 

(空だった手に新規武装を付けたのね。全身武器化がまた進んでるわ……)

 

 スカートの刃、足のローラー、手のヨーヨー、髪の丸鋸。

 流れるように四連撃を決めた調を、特にその手の新武装を見て、マリアは出来のいい娘を見る母親のような顔をする。

 適合係数の低さから来る突破力の無さを手数で補う調のスタイルは、また一つ進化を遂げたようだ。人生に無駄はない。頑張ったことは無駄にはならない。

 こうして、どこかで人生の役に立つこともある。

 目に見える形で役に立たなくとも、自分の中で自信になってくれる。

 

 ヨーヨーに懸命に打ち込んだことは、調に良い影響をたくさんくれたようだ。

 

「若い子は数日目を離した間に、見違えるように成長するわね……

 ……………………………………いや、ダメよマリア。今のは流石におばちゃん臭すぎるわ」

 

 ヨーヨーアームドギアを床に打ち込み、ヨーヨーのエネルギー糸を巻き取りながら足のローラーを使って一気に加速、スリングショットのように自分の体を撃ち出し、『裏γ式・滅多卍切』の大型丸鋸でノイズを切り捨てる調。

 マリアは調の訓練を見ていてくれている二課職員に頭を下げ、部屋から退室する。

 

(そういえば、調は最近ヨーヨーにハマってると聞いたわね。あれがそうなのかしら?

 調も切歌も、戦いとは無縁の趣味を見つけてくれたなら、少し安心できるのだけど……)

 

 ふと、マリアは携帯電話を手にする。

 かける先はマリアと翼の世界各国チャリティーライブにも同行していて、マリアともそこそこ親交がある人物、緒川慎次だった。

 マリア視点、緒川は20代後半に見えた。

 ヨーヨーのことを聞くならあの年代がいいかもしれない、とマリアは思ったのである。

 

「あ、もしもし? 緒川さん? ハイパーヨーヨーって―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 切歌は反省した。

 恥の多い人生と、恥をかいてもグレずに真っ直ぐに生きていけるのが彼女の持ち味である。

 失敗した昔を乗り越えてこそ暁切歌。

 彼女は弦十郎に頭を下げてお小遣いを前借りし、今度こそヨーヨーを購入すべしと走った。

 しかしそこで駄菓子屋のハイパーインペリアルを買ってしまうのが彼女だ。ブレない。

 

「よしよし、今度こそ!」

 

 駄菓子屋のおばちゃんに煽られてすげーヨーヨーをゲットしたと信じて疑わない切歌。

 おばちゃんがくれた初めてのヨーヨー。

 その形状はカッコよくてスタイリッシュで、こんな素晴らしいヨーヨーをもらえたあたしはきっと特別な存在なのだと、切歌は感じました。

 食いしん坊な切歌が調のご機嫌取りに用意したお菓子はヴェルタースオリジナル。

 何故なら切歌にとっての調もまた、特別な存在だからです。

 

「その前に、特訓デェス! 秘密特訓で上手くなって調をびっくりさせるデス!」

 

 切歌の猛特訓が始まった。

 しかし彼女は性格のせいか調に比べると大雑把で、何より師匠が居なかった。

 彼女の成長速度は、スラムダンクにおける渡米後の谷沢に等しい。

 

「……あれ、なんか初心者用テクでも難しい……難しくない?」

 

 そして調にヨーヨーの才能はあったが、切歌にヨーヨーの才能はなかった。

 切歌の独学ヨーヨー秘密特訓は、可愛い練習風景以外の何も生み出してはいない様子。

 

「あれ、きりちゃん?」

 

「! 調っ!」

 

 そんなこんなで、訓練を終えた調がやって来て、隠す気があるのか疑われても仕方ないレベルの切歌秘密特訓が露見する。

 

「あ、ヨーヨー始めたんだ」

 

「あぅ……ま、まあ、まだ始めたばかりデスし? その、お手柔らかに言って欲しいなーって」

 

 切歌の脳裏に、あの日の調の姿が蘇る。

 未熟な自分の腕では「ヨーヨーナメとんのかワレ」と怒られても仕方ないと切歌は思っていた。

 が、明日から表を歩けない顔にされる覚悟で頭を抱えていた切歌の肩を、ポンと叩いて調は微笑む。まごうことなく正統派美少女な笑顔であった。

 

「そうだよ、ヨーヨーは誰だって始めていい。

 誰だって練習して上手くなってもいい。そういうものなの」

 

「……ん?」

 

「頑張ってね、きりちゃん。あ、ヨーヨーは人に向けちゃダメだよ」

 

 去っていく調の背中を見て、切歌は右手に持ったヨーヨーと、机の上に置いたヨーヨーの本を交互に見比べて、天井を見上げてポツリと呟く。

 

「……スピナーの世界とやらは一体どこに……」

 

 怒られなかったが、釈然としなかった。

 

「ま、まーいいデス。調のお墨付き(?)も貰ったことだし! 練習あるのみデス!」

 

 切歌は小技の基礎をすっ飛ばし、一気に本に書かれた大技をやろうとする。

 狙うはループ・ザ・ループ。

 調とマイが決戦に用いたほどの、ハイパーヨーヨーを象徴する大技だ。

 

 が。

 

 ヨーヨー全盛期の時代、各家庭のお父さんお母さんの多くが知った事がある。

 緒川に電話でヨーヨーのことを聞いているマリアが、今知った事がある。

 調が世間話でマイから教えられた事がある。

 切歌が知らない事がある。

 

 子供はヨーヨーを考えなしに振り回し、ついうっかりで家の物を壊すということだ。

 

「あっ」

 

 切歌がうっかりやらかして、ヨーヨーが明後日の方向に行く。

 がしゃーん、と色々と割れる音が響き渡った。

 かつてこの日本において、親の貯金箱を破壊した者、窓ガラスを破壊した者、食器棚を破壊した者、テレビの画面を破壊した者。歴代の破壊者の後に、切歌は続いた。続いてしまった。

 彼女は破壊者達の栄光の歴史に新たな章を追加し、自分の名をそこに刻んでしまったのだ。

 

「しょ、食器棚が!? マリアのお気に入りのコップが!? や、やべーデス!」

 

 切歌の黒歴史が、また1ページ。

 

「ぎ、偽装を……ってできるわけがない!

 なんでこのヨーヨー、こんな頑丈なんデスか!?」

 

 あたふた、右往左往、どうすりゃいいデスと切歌はうろたえにうろたえる。

 

「……に、逃げれば犯人不明のまま、二課の人が新品用意してくれるかな……」

 

「そうね、目撃者が居なければそれもできたかもね」

 

「ヒエッ」

 

 そして逃げようとした切歌の襟を、緒川との通話を終えて嫌な予感に駆られて来たマリアが、むんずと掴む。

 

「切歌はヨーヨー禁止! 今度室内で振り回してるの見たら取り上げるわよ!」

 

「デェェェェェェェス!?」

 

 世界の危機の終わりと、新たな世界の危機の襲来の狭間。

 平穏な日常の中で、元F.I.S.の少女達は今日も元気だった。

 

 

 




終わりデース。この後調ちゃんはストリングが切れた経験を活かし、アームドギアのストリングを物質ではなく切れないエネルギーの糸に設定しますが、それを逆手に取られてVSミカの最終戦でヨーヨーごと引っ張られ地面に叩き付けられたりなどします

ノイズ、人形、碧の獅子機にだけヨーヨーを向ける調ちゃんはヨーヨープレイヤーの鑑


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