思いつき短編集 (御結びの素)
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エンジェル伝説 と わたモテ
僕が怖がられるのはだいたい顔のせい


もこっちの学校に、天使が舞い降りた。


 

 

 夢も希望も枯れ果てる世紀末を越えてはや十余年。

 世には未だ外道がはびこり悪人が栄えるばかりであった。

 そんな世知辛い二十一世紀にあって、天使のように清く正しい心をもったひとりの少年がいた……。

 

 彼の名は北野誠一郎――この物語の主役である。

 

 威張らず驕らず、騙さず、貶さず。困っている人を決して見捨てず、人を恨まず、己の身に不幸が訪れても他人のせいにせず。

 学業成績も優秀で、運動能力も高く、まさに文武両道の好青年であった。

 

 さて、北野君の話はとりあえず置いておこう。読者の方々は彼が素晴らしい人格者であるということだけ覚えておいてくれればいい。

 

 

 黒木智子と言うモテない女の子がいた――こちらもまた、この物語の主役である。

 

 黒木智子は身だしなみに無頓着で、何か悪いことがあれば他人のせい、良いことがあれば私のおかげ、困っている人を見て内心で嘲笑い、そのくせ他人から笑われることを極度に恐れていた。

 弟に代表される身内に対しては傲慢に威張り散らし、騙して貶して、己のために尽くすことを当然と考えていた。

 彼女は濁って、よどんで、汚い、実に人間らしい心の持ち主であった。

 

 

『もし、もこっちのクラスに北野君が転向してきたら?』

 

 

 もこっちが高校に入学して二か月が過ぎ去った。

 

(このごろ誰とも話してない……。友達とかどうやったらできるんだ?)

 

 クラスの喧騒からひとり取り残された智子は、弁当を食べながら官能小説を読むなどという、実にアブナイ昼休みを過ごしていた。

 彼女の辞書に恥や外聞の文字がないわけではない。単に周囲に気が回らないだけなのだ。

 クラスメイトたちが楽しそうに話しているを聞いて羨みながら、ご飯を口にかきこみながら、小説の内容に鼻息を荒くする。

 実に忙しなく、あさましく、恥じらいが無い。

(くやしくねーし。あんなクズどもと群れるぐらいなら、一人の方が全然マシだし)

 

「ね、ね、聞いた? 転校生来るんだって」

「あ、聞いた、聞いた。このクラスらしーね」

「え、マジ? 転校生って女の子? 美人?」

「男子らしーよ。てか、すぐそうやってがっつく、なんかキモ」

「キモイ言うな! 傷ついて死んじゃうだろーが」

 

 キャッキャワハハと智子の耳に届いた風のウワサによると、どうやら転校生がやってくるらしい。

(こんな高校始まって二か月しかたってない時期に転校とか……あれか、いじめられて逃げて来たとか、そういう根性なしのヘタレとかなんだろーな。そういうヤツはちょろっと優しくしてやればすぐ懐くだろーから、そうしたら……って男子かよ!)

 勝手に見ず知らずの人間の事情を推測し、上手いこと友だちと言う名の子分にできないかと妄想し、ヘタレ男子は趣味じゃねーとダメ出し。

(あーあ、つまんねーの。どうせなら宇宙人とか、異世界人とか、超能力者とか未来人とかが転校してくればいいのに……。そんでもって実は私が異世界の王様だったとかそう言うストーリーが……)

 話す相手がいないと妄想もはかどる。

(転校生は金髪美形でさ、そんでもっていきなり私の前に膝をついて「御前を離れず忠誠を誓うと誓約する」とか言い出すわけよ……) 

 脳内の光景にうへへと笑う黒木智子、彼女は高校一年生。まだまだ中二の病が抜けきっていない年頃の女子であった。

 

 

 翌朝、智子のいる教室は凍り付いていた。

 

「北野誠一郎です。趣味は掃除や人助けです。何か困ったことがあったら手伝いますので、ぜひ声をかけてください」

(掃除って、何を掃除するんだ? 人間か?)

(やべぇ、コイツはやべぇ。人殺しの目をしてやがる)

(困ったことがあったらって……あれかな、みかじめ料を払えとか、そういう意味かな……)

 

 最初に書いた通り、北野君は天使のような人格者で、成績優秀なまさに優等生オブ優等生だ。

 ただ、彼の顔は――とても怖かった。

 一重でキツク吊り上がった目つきに極端に小さな黒目と、薄すぎるぐらいに薄くほとんど見えない眉毛の組み合わせはそれだけでも怖い。

 その上、目の下には濃いく(・)ま(・)があり、それと病的な白さの肌の色があいまって麻薬中毒者のような風貌。さらに、自分の外見が怖いことをある程度自覚している彼はせめて強烈な寝癖だけでもおさえようとして、髪の毛をポマードでガチガチにかためていた。

 これ以上くどくどと書き連ねても仕方がないので、ただただ「怖い」顔をしているのだと、そこだけ理解してもらいたい。

 

(金髪美形どころか、悪魔じゃねーか! どういうことだよ、いつからこの学校は地獄になったんだよ)

 

 クラスの皆は恐れおののいていた。智子とその近くの席に座っていた生徒たちは、その中でも特に恐怖していた。

 

(私の隣の席が空いてるんですけど……。転校生がくるって日に休んじゃうなんて、ホントに残念なヤツだなー。病気だったりしたら、心配だなー。お見舞いに行かないとなー)

 

 要するに黒木智子の隣の席は、とても都合良い事態になっているわけである。

 

「き、北野君の席は黒木の隣だ、ですので、何かわからないことがあったら、黒木に限らず近くの生徒に聞いてくれ、下さい。せ、先生は忙しいのですので、最後でいいです」

 

 担任の白石先生は、生徒を悪魔に売り渡しました。

 

(白石ー! おま、なに、なに言ってんの。うわらばばばばば……)

 

 悪魔のような天使は、担任の先生の言うことよくきく良い子なので、当然のように「はい、わかりました」と礼儀正しく――ただし怖い――返事をして、自分の席へと向かった。

 北野君が一歩歩くたびに人が左右に割れる。席から離れて逃げ出すような生徒こそいなかったものの――そんなことをして目をつけられたくなかったので――皆が皆、心もちなんて言葉では済ますことはできないほど引いた。うっかり足が触ったなんてことになった日には、もう明日の朝日を拝むことができなくなりそうな気配が北野君から漂っていたからだ。

 無論すべては勝手な思い込み。北野君は転校初日で緊張しているだけなのだが、普通にしていても怖い顔が、緊張のあまりひきつってしまい、とんでもなく怖い顔になっているだけなのだ。

 

「黒木さん……よろしく」

 

 ニタァーと口の端を吊り上げて嗤う悪魔のような天使の笑顔。北野君は自分の顔が怖いことを知っているので、少しでも愛想良くしようと努力しているだけなのであるが、その努力は残念ながら真逆の方向へと全力疾走で働いていた。

 

(ど、どどどどどうし。「よろしく」って言えば? タメ口なんかしたら殺されるんじゃ……。ああああ、って考えてる間になんだか不機嫌な顔に、あわわわわ)

(どうしたんだろう……ああ、ぼくの声が小さくて聞こえなかったのかな? もう一度言った方がいいよね)

 

 北野君はとても性格が良いのだが、少しばかり、いやかなり鈍い。世の中には緊張するとうまく話すことができなくなる人間もいるのだと――自分もそうであるのに――理解していないのである。

 繰り返しになるが、北野君は緊張するとうまく話せなくなる上がり症な小心者なのである。そして彼の場合、うまく話せない時に口から出てくるのは奇声なのだ。まことに困ったことに。

 転校初日、初対面の異性相手、一度話しかけて無視されたかも知れない――と思っている――状況で、そんな北野君がうまく話せるはずもなく、加減を間違った大音量で恐怖の雄叫びが教室内に響き渡った。

 

「くろきへー! よろききゅー!!」

 

 黒木智子、花の高校一年生。極度の恐怖と緊張により、吐いて戻して気絶して、保健室送りになる。

 これが北野誠一郎の伝説の始まり。

 

「北野君マジやべー。転校初日のあいさつで女子を病院送りにしたらしーぞ」

「マジかよ……。女子にも容赦なしかよ……」

 

 伝説1:転校初日、朝一で女子をあられもない姿にして病院送り。



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エンジェル伝説 と ひぐらし
けーちゃん? いいえ、せーちゃんです。


雛見沢に天使がやって来ました。


 

 

『嫌な事件だったね……』

 

 

 北野君が学校から帰ろうとすると、道路にたくさんゴミが落ちていた。

 

「ああ、ポイ捨てなんてひどいや。掃除しないと」

 

 こうして、北野君は少しだけ帰宅時間が遅くなった――そのせいで、不幸なことになるとも知らず。北野君は一生懸命に道路の清掃作業に励みました。

 

(ああ、ずいぶん遅くなっちゃったな。もうすっかり暗くなってるや。……そういえば)

 

 日が落ちて暗くなってきた道を歩いていた北野君は、ふと、今朝母親から言われたことを思い出した。

 

(このあたり、通り魔が出るって言ってたなぁ。エアガンで子供を撃つだなんて、なんてひどい人なんだろう)

 

 北野君が逢魔が時の道路を歩いていると、お約束のように通り魔らしき人物を見つけてしまった。

 物陰に隠れるようにしている怪しい様子。手にはエアガン。その不審人物が見つめる先には――塾の帰りだろうか? 小学生の女の子がキョロキョロと不安げに周りを見回しながら歩いていた。

 

(あの人、すごくあやしいけど……。いや、ちょっとエアガンを持っているってだけで、通り魔扱いなんてしたらダメだよね。僕はなんてひどいことを考えてしまったんだろう)

 

 北野君が自己嫌悪に陥っていたその時、不審人物(未成年なのでKと呼ぶことにする)が動いた! 北野君が見ているとも知らず、Kは女の子に向けて銃を構え今にも撃ちそうな姿勢を取った。

 

「けぇぇぇぇぇい! (そんなことしたらダメだよぉぉぉ)」

 

 緊張すると言葉がおかしくなってしまう北野君。相変わらずの奇声を発しながら、Kに向かって犯罪行為を阻止しようと走り出した。

 

「なっ! なぁあああ! 悪魔ぁっ!」

 

 北野君の顔はいかにも悪魔のようであるが、心は天使のように澄み渡っているのだ。それなのに外見でしか人を判断できないKは北野君に向かって「悪魔」と叫ぶと、手にしたエアガンを何度も発射した。

 

「けぇぇぇい! (あぶないよ!)」

 

 北野君は思った。自分に向かって撃つのならいい――殴られるのも、石をぶつけられることも慣れているから。でも、そんなやたらめったらと撃ってしまったら、女の子に当たってしまうかもしれない。

 

「く、来るなぁぁ!」

 

 痛みに耐えながらKの腕をつかみ上げた北野君は、女の子が無事に逃げ出したのを確認して一安心。一方、悪魔のような形相の男に腕を掴まれたKは必死で逃げだそうともがいていた。錯乱したKがあまりにも暴れまわるので、彼の手や足がコンクリートの壁などに当たってしまっている。

 興奮している今は気になっていないようだが、これでは後から痛くてつらいだろうと考え、北野君はKに暴れないように伝えようとした。

 

「大人しくしないと……」

「ひっ……」

「……痛いことになるよ」

 

(こ、殺される! ここで逃げないと殺されてしまう。オレはちょっと調べて知ってるんだ。この悪魔のようなヤツの顔は、麻薬中毒者のそれに違いない! そいつに向けて何発も当てちまったんだ……逃げないと殺される!)

 

 暴れるKを抑えようとしていたため、北野君もかなり力を振り絞っていた。そうして、力を振り絞る北野君の顔面は血管が浮き上がり、いつもよりもさらに迫力が増していた。青筋を立てた悪魔のような男が、「大人しくしていれば、楽に殺してやる」と言って来たのだ。その恐怖でKが大声を上げてしまったのも仕方がなかったのかもしれない。

 

「たすけてくれえぇぇ! 殺されるー!」

「きぃえええええええ! (何もしないよ!」

 

 そしてその声は、女の子の通報によって駆け付けた警察官の耳に届くこととなった。

 

「おい、お前! 何をしている!? (なんて凶悪な顔をしてやがるんだ。通り魔事件の犯人確定だな)」

「お、お巡りさん! たす、たすけてー!」

「けぇぇ、しゃっかああ (警察の人だ)」

 

 警察の人が来てくれた。これで通り魔も捕まるし町が平和になるね。そう考える北野君なのだが、事態は読者の方々の予想通りの展開となる。

 

「現行犯逮捕だ」

 

 ガシャリと手錠がかかったのは、やはり北野君の手だった……。

 

 町を騒がせ、小学生を恐怖に突き落とし、それを見咎めた勇敢な少年に暴行を加えようとした凶悪な少年。

 

「なにかやらかしそうな顔をしていると思ってました」

 

 そんな言葉を言ったのは誰だっただろうか、ご近所づきあいもすたれた都会の生活では、北野君が本当は良い奴だなんて伝わるはずもなく――北野家は田舎に引っ越すことになった。

 ああ、無情。この世に神も仏もないのだろうか。天使のような少年が悪魔と呼ばれ、人の中から追い出された。悪魔が向かう先は田舎町。

 

 

 

 『鬼のなくまち雛見沢』

 

 

 田舎に引っ越して来た北野一家。ご近所の方々との付き合いが深くなる土地でなら、きっと「あの子は顔は怖いけど根の優しい子でなー」とわかって頂けるに違いないと、そう考えていた。

 少しだけ田舎をなめていたことは、家から歩いていけるような場所にはスーパーの一つも無かったことなどの、今まで住んでいた都会には無かった苦労などがある。それでも、それはまぁ、そういうものなのだろう、むしろそれを楽しもうと北野家の人々は前向きに考えることにした。

 

 引っ越しの片づけで忙しい両親の手伝いとして、北野君は自転車をこいで結構離れた少し大きな町まで買出しに出かけた。

 

「ふぅー、ふぅー、結構大変だ。でも運動になるし、これはこれでいいものかもしれない」

 

 帰りの坂道なんのその、それなりに体力のある北野君は急な上り坂でも、グングンとペダルをこぎ続けた。

 と、坂の途中でなにやら難儀をしている様子の女の子が一人。どうも自転車が故障してしまっているようだった。

 

「みぃ、これは困ったのですよ」

「困っているなら、何か手伝おうか?」

 

 どうせまた、「悪魔ー!」だの「きゃぁぁ」だのと言われて逃げられる展開だと思っているでしょう。いいえ、そうではありません。

 

「あっ、誠一郎。ちょうど良い所に来てくれたのですよ」

「あ、え? (僕はこの子に自己紹介したっけ?)」

 

 北野君が混乱するのも仕方がない。単に古手梨花(ループたくさん)がうっかりしていただけなのですから。最初に会った時はそれはもう怖がった梨花さんですが、今となっては累積何年の付き合いになるのかもわからないぐらいの一方的な古なじみ。当然ながら性格もわかっているし、こういう時に頼れる人材だとも理解している、ついでに「きぇぇえええ」の声だってある程度は解読できるくらいだったりする。

 

「どうして、名前を知っているのかって思っていますか?」

「きひゃい」

「田舎をなめたら、お腹を壊してしまうのですよ。知らない人たちが引っ越して来たら、その日の内に噂は広まって、家族構成から、性格性癖までバッチリ知れ渡ってしまうのですよ。にぱぁ」

 

 田舎ってスゴイ、北野君は素直にそう思った。魔女にごまかされただけだとも気付かずに。

 梨花さんの自転車がパンクしていたので、北野君の自転車を梨花さんが引いて、梨花さんの自転車を北野君が持って、二人で仲良く並んで雛見沢まで帰りましたとさ。

 北野君は人助けをしようとして、普通に受け入れられたことがこれまで無かったので、大変感動しました。

 北野君の目から涙があふれました。鬼の目にも涙です。

 助けられて感動したのではなく、助けることが出来ただけで感動できるあたり、これまでの悲しい境遇が思い起こされます。

 

 でも、大丈夫。これからは頼れる通訳が一緒にいてくれます。

 

 

 例えばヤクザの娘に絡まれた場合――

 

「梨花ちゃん、そいつから離れて! そいつの顔、麻薬やってる顔だよ!」

「人を見かけだけで判断してはダメなのですよ」

「いや、そいつどう見たって!」

「ダメなのですよ。誠一郎は怖くないのです」

 

 ほら、こんな風になるかもしれません。

 

 

 ああ、忘れていました。どうして古手梨花さんが北野誠一郎を大事にしてくれるのかを伝えておきましょう。

 普通に、むしろ非常に善良な人物であることがわかっているので、そもそも邪険にする理由もないのですが、梨花さんにとって、北野君は非常に重要な人物なのです。

 

「さぁとこぉー!」

 

 なんて怒鳴るおっさんがいますけどね……。

 

「きぇえええええ(女の子に何するんですか!)」

 

 そんな場面を見過ごすような、恐れて引き下がるような、そんな北野君ではないのです。

 

(な、なんじゃあアイツは! ヤバイ、あれはヤバイ顔じゃあ。わかる、わかるぞ、ちったぁ修羅場くぐった身じゃけんの、アレは関わっちゃあなんねぇヤツじゃあ)

 

 そうなのです、北野誠一郎がやって来た場合においては、鉄平は逃げ出してしまうことが非常に多いのです。

 まれに北野君の家族に仕返しをしようとするのですが――

 

「ごぉぉぉおおお」

 

 北野君のお父さんは、見た目大物のヤの人です。

 

(園崎の関係者か!? なんかわからんが、とにかく関わっちゃならん!)

 

 と、このように概ね問題ありません。

 

 

 

『おはぎ』

 

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

 

 ある日、教室でお互いに頭を上げ下げし続ける北野君とレナさんの姿がありました。

 

「なにやってんの? せーちゃんたち」

「おはぎの中に、何かイタズラした悪人がいるのですよ」

 

 あとからやって来た魅音さんに、梨花さんは言いました。お前の悪戯のせいでああなってるんだと。

 

「えっ? 何かあったの、アレ?」

「友だちを一瞬でも疑ってしまったことが申し訳なくて仕方がない人と、悪い人の共犯になったせいで謝られていることにいたたまれない気持ちになっている人がいるのですよ」

「あーあ、本当に悪い方もいたものですわね。どうにかしませんと、ずーっと続きますわよ、アレ」

 

 かなり年下の二人から責め立てられる悪い人の姿がありましたとさ。



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メガテン
真・女神転生Ⅲ デビルサマナー橘千晶


 

 

 これは、“東京受胎”によって滅びた世界を駆け抜けた一人のデビルサマナーの姿を、ある仲魔の視点から見た物語である。

 サマナーの名前は橘千晶。アームターミナルと銃を駆使する強気な女子高校生。

 仲魔の名前は間薙シン。普通の男子高校生だったが、受胎の際に悪魔にされてしまった千晶の幼なじみ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「シンくん……よね?」

 

 聞きなれた声があなたの耳に届いた。

 

「その格好、どうしたの?」

 

 ほんの少し前、あなたは金髪のこどもと喪服の老婆によって虫のようなものを植え付けられた。

 それからの、激痛にのたうち、上着を引き裂いて床を転げまわった時間は、もう過ぎ去っていた。

 今のあなたは、もう人間ではない。全身にぼんやりと光る文様を浮かべ、首の後ろから角のようなものを生やした魔人だ。

 

「わからないの? そうね……わたしも何もわからないわ。何がどうなっているのか……。窓の外はおかしな感じだし、先生も勇くんもどこを探してもいないし。見つけたあなたはそんな姿になっているし……」

 

 千晶は、あなたが怖くないのだろうか? 

 こんな恐ろしい姿に変わってしまったというのに。

 

「外の風景と比べたらね。話し方も変わっていないし――それとも、外にいたバケモノみたいに、マガツヒがどうとか言いながら襲って来るつもり?」

 

 マガツヒ? バケモノ? いったい何の話だろうか。

 

「すぐそこの部屋に、ヒジリって男が居て。ソイツにもらったのよ。コレ」

 

 千晶の手には拳銃が握られていた。オモチャのようには見えない。

 

「本物みたいよ。コレでバケモノを撃ち殺してやったのよ。音がしなかった?」

 

 あなたの額に、ひんやりとした千晶の手のひらの温度が伝わる。

 

「――あれが聞こえなかったなんて、よっぽど苦しかったみたいね。大丈夫? 歩ける?」

 

 あなたは起き上がり、手足を動かして身体の状態を確かめた。

 どこも悪くはなさそうだ。むしろ、今までになく調子が良い。

 

「とりあえず、大丈夫みたいね。見た目がおかしなことになっている以外は……」

 

 千晶に「ついてきて」と言われ、あなたは彼女の後ろを歩く。

 薄暗いこの通路は、病院の地下なのだろうか。

 気温は寒くはないが、上着がないせいなのか妙な寒気を感じる。

 

「戻ったわ。探していた友達も見つけた。ちょっと、おかしなことになっていたけれどね……」

 

 連れていかれたのは、少し前にあなたがスーツ姿の男と出会った部屋だ。怪しげな文様の描かれたドラム缶のような物の前に座っていた冷たい雰囲気の男のことを思い出すと、背筋に震えが走った。

 

「おまえは……代々木公園で会った小僧か? その姿はどうした?」

 

 部屋の中にいたのは、あの冷たい男ではなかった。あなたが病院に来る直前に代々木公園で会話した、魚のウロコのようなジャケットを着た、怪しげな自称ルポライターだ。

 

「わからないみたい。……ホントにどうなっているのよ。シンくんはこんなことになっているし、廊下にはバケモノが出るし……」

 

 また、バケモノの話だ。

 

「“悪魔”だ。実物を拝むハメになるとは思いもしなかったが、コイツが本物だった以上、間違いないだろう」

 

 そう言いながら。ヒジリはドラム缶のような物を曲げた指の関節で叩いた。

 コツン、コツンと音が響く。

 

「アマラなんとかって言っていたわね、コレ。ターミナルとも言っていたけれど……」

 

 千晶は、“ターミナル”の文様を指でなぞる。

 

「おい! うかつに触るな! 何が起こるかわからんぞ!」

 

 ヒジリが叫んだ時には、もう遅かった。

 “ターミナル”が赤や白の光を出しながら回転を始める。回転の速度はどんどんと速くなり、それに合わせて発光も激しくなる。

 

「ちょっと、なに!?」

 

 あなたは、腕で顔をかばっている千晶を引きずって、“ターミナル”から距離をとる。

 

「くそっ! 何かが出てくるぞ!」

 

 ついさっき、話題に上がったばかりの“悪魔”だろうか? それとも、別の何かだろうか?

 あなたが緊張しながら身構えている目の前に、“ターミナル”から何かが転がり出てきた。

 それの大きさは、あなたの手首から肘までぐらいだ。長さも太さも。

 それは、どうやら“動く”ものではなさそうだった。転がり出てきた状態のまま、その場にゴロンと横たわっている。

 少しして、“ターミナル”の回転と発光が徐々に収まっていく。光が出なくなり、回転が遅くなる。

 

「なんだったの?」

 

 千晶が出てきた物をこわごわとのぞき込む。

 

「コイツは……」

 

 ヒジリは、ソレを足のつま先で何度かつついた後、さらに手の指で何度かつついた。そして、どうやら危険物ではなさそうだと判断したようで、ソレを拾い上げた。

 

「ふむ……。ほう……。これは、これは……」

 

 さまざまな角度からソレを眺め、一人わかった様子のヒジリ。

 千晶は、そのヒジリの態度に苛立ちを感じたようで、少し距離を詰めて何か言おうとした。

 

「ちょっと――」

「ああ、スマンスマン。コイツは、小型のターミナルだな」

 

「ここを見てみろ」と差し出されたソレの一部には、あのドラム缶と同じようなものが組み込まれていた。

 

「でも、画面とキーボードみたいなものがついているわね」

 

 腕に装着するパソコン。そんな代物があったら、こんな形になるのかもしれない。

 

「どうやら、コイツはこの画面とキーで小型のターミナルを操作するようだな。お前の言う通り、腕に着けて使うみたいだ。腕に着けるターミナルだから――まぁ、ひねっても仕方がないからな。アームターミナルとでも呼んでおくか」

 

「安直ね」とは、ヒジリの命名に対する千晶の感想だ。

 わかりやすくて良いと思うのだが。

 

「そうね。まぁ、呼び方なんてどうでもいいわ。それで……それ、何に使う物?」

 

 ヒジリに質問する千晶の話し方は、完全に上から目線だった。

 

「ちっ……。それを俺に聞かれても、分かるわけが無いだろうが」

 

 千晶は腕を組むと、ヒジリから顔をそらして、わざとらしくため息をつく。

 

「はぁ……。月刊アヤカシなんてオカルト雑誌を書いているクセに、肝心なところで役に立たないわね」

 

 ヒジリは、相当イラついたようだ。表情がかなり変わっている。

 

「お前な、俺がこの部屋で見つけた銃。そいつがなけりゃもう死んでたんだぞ。ちょっとは感謝とか、そういうものはないのか?」

「感謝はしているわよ。でも、それとこれとはまた別の話よね? 分からないなら、ソレこっちに寄越しなさい。何か役に立つことがあるかもしれないし」

「この小娘が――ほら、持ってけ! 中から悪魔が出てきても俺は知らんぞ!」

 

 千晶は、ヒジリが突き出してきたアームターミナルを、むしり取るように奪った。

 

「行きましょう。ここに居ても何もわからないわ」

 

 あなたの幼なじみは、こんなときでもゴーイングマイウェイだ。

 それに付き合わされて、色々と苦労するのがあなたの役目だ。

 そんな関係は、2人が幼稚園の頃から変わっていない。もう、このまま変わらないような気がしている。

 

「とりあえず、この部屋は安全そうね。――幽霊がいるけれど」

 

 何故か普通に会話が出来て、そのうえ傷の手当までしてくれる親切な幽霊(思念体と呼ぶらしい)のいる部屋で、あなたたちはとりあえず腰を下ろして休んでいた。

 

「ふーん……これ本当にパソコンみたい。って、何これ? やだ、悪魔召喚プログラムですって」

 

 その物騒な名前のプログラムが本物なら、ヒジリの捨て台詞が本当になってしまう。

 だが、警戒するあなたを無視して千晶はそのままキーを操作している。大丈夫なのだろうか?

 

「ねぇ? わたしたち友達よね?」

 

 友達というよりも、腐れ縁といった感覚だが、友達ではあるだろう。

 

「じゃあ、ナカマよね?」

 

 よくつるんでいるのだから、仲間には違いない。

 

「そうよね。それじゃあ……今後ともよろしくね」

 

 千晶の指が、キーを叩いた。

 その直後、あなたの身体を、魂を、何か得体のしれないものが駆け抜ける。

 

「魔人・人修羅……か。種族の名前だけは強そうね。実態は、ただのシンくんだけど」

 

 何かトンデモナイことになってしまった気がする。

 取り返しのつかない状況に追い込まれてしまったのではないだろうか。

 フルフルと拳を震わせるあなたの手に、千晶の両手が重ねられた。

 

「悪いようにはしないわよ。今までだってそうだったでしょ?」

 

 確かに結果は悪くないことが多かった。

 ただ、過程は大変なことばかりだった。

 

「ある程度の困難は、成長するための糧よ。あなたの好きなゲームでも、経験値とかあるじゃない」

 

 本当なら、現実とゲームを一緒にするな、と言いたいところ。

 

「それ、わたしがいつも言っていることよね? ちゃんと勉強しなさい、ちゃんと身体を鍛えなさい、ちゃんと身だしなみにも気を使いなさい、ゲームじゃないのだからって」

 

 おまえは俺の母親か、と何度かケンカをしたものだ。

 

「わたしは、ね。隣を歩く人には、それなりのものを求めているのよ。やっぱりつり合いってあるでしょ?」

 

 言葉が出てこない。確実に耳まで赤くなっている。

 からかわれているとわかっていても、反応してしまうのが思春期の悲しいサガだ。

 そんなあなたを見て、千晶はニヤっと笑った。

 

「シンくんが、わたしの仲魔第一号よ。何が起きたのかサッパリわからないけれど、いつまでもここにいても仕方がないわ」

 

 観念したあなたは、了解の意志を幼なじみに伝えた。

 いつもいつも、だいたい最後はこうなるのだ

 

「さあ、行きましょう。とりあえず、ヒジリの言っていたヒカワを探さないと」

 

 右手に銃、左手にアームターミナル。そんな姿になった千晶は颯爽と歩き出す。

 あなたは、その後ろ姿を急いで追いかけた。

 

 

 

 




ヒーローする千晶様と、幼なじみ設定を活かしてヒロインする人修羅さんとか、そんなの誰か書いてくれないかなと思っただけです。

別作品で、うっかりすると千晶さまがヒロインになってしまいそうだったので、その気持ちをここに置いて行きます。

では、ごきげんよう。


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オーバーロード
オワタゲームのオフラインモードがとんでもねぇ!


 

 

 隣の家に住んでいる学生時代の先輩から、既に終わったゲームの機械を押し付けられてしまった。

『ユグドラシル』とかなんとか言う一昔前のゲームに使われていた“ソレ”。今となってはただのゴミである“ソレ”も、発売当時は大層な人気でなかなか手に入らなかったそうだが。

 

「やってらんねー」

 

 さして広くもない室内。そこに邪魔な物など置いておくスペースはない。明日には捨ててしまおう。要するに、先輩から「ゴミ捨てとけ」と言われただけなのだから。

 本当にハラが立つが、この程度の事でイチイチたて突くことも出来ない。あんなでも、先輩はそれなりに影響力がある人物なのだ。

 ガリガリと頭をかいてから、“ソレ”を見つめる。

 

 特に何か期待していたわけではない。ただ、本当になんとなく、それを身に着けて起動してみた。

 強いて言えば、“もしかして、オフラインモードでもあれば、少しくらいは暇つぶしになるかもしれない”程度の気持ちだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 目の前にゲームの開始画面らしきものが浮かび上がった。

 あまり期待していなかったが、オフラインモードがあったらしい。

 

『あなたの性別を教えて下さい』

 

 システムメッセージの後に示されたのは、“男”、“女”、“その他”の3つ。

 さて、どれが有利なのだろうか。

 脳内埋め込まれたチップと、首から繋がるケーブルを通じてネットを検索する。さすがに古い上に人気のあったゲームだ。情報が多い。オフラインの基本部分だけなら、全く問題ないだろう。

 オンライン後の難しいところは、関係がないことでもあるし。

 どうも一昔前は、ゲーム内情報を巡って揉めたりなどの出来事があったらしいが、そこは既に終わったゲーム。末期にはかなりの情報が公開されてしまっているようだ。あまり関係ないが。

 “男”には、男性専用装備と男性専用の職業がある。“女”には、女性専用装備と女性専用職業がある。“その他”はどちらの専用装備も、職業も可能で、その上にその他専用種族まである。

 “その他”一択だな。

 

『あなたの種族を選んでください』

 

 これは、総合的に考えると“人間”が最も優秀なようだ。人数が最も多かったので、運営からのテコ入れが多かったらしい。オフライン部分だけだと、どの種族でも大差ないようだが、これは“人間”でいいだろう。

 

『初期職業を選んでください』

 

 簡単な回復魔法が使え、武器での攻撃能力もある。そんな職業が良い。ただの好みだ。

 これまた検索すると、初期に選べる中でそれに近いものは“モンク”のようだ。武器が無くとも素手で十分に強く、魔法は無いが“気”を使って様々な効果を得られる。治療も早めに出来るようになるらしい。

 

 性別“その他”。種族“人間”。職業は“モンク”が1レベル。

 

『名前を入力してください』

 

 名前は難しい。悩み始めると終わらなくなってしまう。

 だが、これは明日には捨てるゲーム。適当でいいだろう。

 

 名前入力“ブルー・チャン”。

 

 うん、格闘家っぽい。“ジョッキー・リー”と悩んだが、こっちで良いだろう。

 いや、性別不明だから、“リー・チャン”とかでも……。

 やめよう。こんなところで考え込んでも仕方がない。今日だけの付き合いなのだから。

 

『初心者“大”歓迎キャンペーンの効果を適用しますか?』

 

 検索。検索。レベル60まですぐにレベルアップ可能。その上、そのレベル帯でも通用する、“そこそこに強い”装備も付いてくる。ついでにその後の経験値稼ぎをサポートするアイテムも盛りだくさん。

 末期のゲームらしいと言えばらしい。ここからハマって、少しでもお金を落としてくれればバンザイというワケか。

 まぁ、もう終わっているのですけどね。このゲーム。

 はいはい、適用、適用っと。

 

『開始地点を選んでください』

 

 帝国、王国、法国……人間用の国は、この辺りのようだ。

 検索結果とは、何故か一致しない。

 帝国ルートで成れる“ワーカー”は、影の仕事人っぽい。

 王国ルートの“冒険者”はファンタジーの王道だ。王国だけに。

 法国ルートは特殊部隊。いろいろと口うるさく言われそうだ。

 よし、帝国にしよう。そういう設定、キライじゃない。

 

『ブルー・チャン。私の世界にようこそ。私はあなたを歓迎します』

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

『バハルス帝国の帝都アーウィンタール。そこには、権力の中枢である皇城を始め、大学院に帝国魔法学院、その他軍事行政に関わる重要施設が集中している。まさに帝国の中心と言える都市だ』

 

 まるで、昔の日本のような設定だ。ここに大規模な破壊兵器を使用されたら、一発でアウトじゃないか。

 リアルではないな。と、ファンタジーなゲーム世界に思わず突っ込んでしまう。

 ここは、帝都アーウィンタールと言うらしい。システムメッセージがそう告げて来るのだから、そうなのだろう。

 周りを行き交うNPC達は、とても良くできている。本物の人間のような質感と動くし、雑多な喧騒さえも、よくよく聞けばキチンと意味がある会話になっている。

 臭いまで再現とか……とんでもないな。

 今までこういったゲームをあまりしたことがなかったが、こんなすごいゲームが時代遅れになっているとは。まったく……とんでもないな!

 最新のものは一体全体どうなっているのやら、だ。

 とりあえずは――レベル上げか。お金も装備も、回復用のアイテムもある。至れり尽くせりのキャンペーン仕様だが、レベルアップには一応戦闘が必要だ。

 サクサクと上がり過ぎるので、プレイヤースキルがまったく身に付かないと評判のようだが。

 よくできた街並みや、NPC達は眺めているだけでも面白いが、それは後でもいい。

 

 街を出てしばらく行けば、いかにもモンスターの出て来そうな森が見えて来た。

 しかし、意外と移動に時間がかかる。リアル過ぎて、移動だけで遊べる時間が終わってしまうのではないだろうか。

 こういったところが、このゲームがサービス終了になった理由なのかもしれないな。オンラインだと、また違うのかもしれないが。

 最初の内は出来ることが少ないので、出会った相手をとにかく殴る、殴る、殴る!

 装備が優秀なおかげもあって、大体の相手は一発で終了だ。倒すたびにレベルがぐんぐんと上がっていくので、そっちの対応の方により多くの時間を消費する始末。

 しっかし、モンスターの死にざまや、殴った感触、これがまたなんともリアルだ。R18つけなくて大丈夫だったのか? このゲーム。

 とりあえず、ここまでの30レベル分は、検索した情報を元にビルドしてきた。ただし、攻略情報にあるような装備品はオンラインモードで入手することが前提になっている。そのため、それらの装備品で補うはずの回復や、状態異常への耐性は、全部モンク系のクラススキルである“気功術”関係でカバーするしかなかった。

 物理アタッカーのはずの格闘家が、どうにも半端な性能と化している。パーティプレイではお邪魔虫にしかなれないね。まぁ、もうオフラインしか出来ないのだから関係ないけど。

 ソロ特化、ソロ特化。

 

 30レベルまではアッと言う間だった。

 そこからが、サッパリ上がらない。上がらないと言うよりも、上げられない。

 適度な強さの敵がいないのだ。60レベルまでバリバリレベルアップのキャンペーン効果があってこれなのだから、もうなんとも耐えられない。

 これがオフラインの限界か……。普通は10レベル前に卒業だったらしいからね。オフラインモードは。

 

 レベルアップのためには、たくさんの経験値が必要だ。程よい敵を求めて森や山や、街道、荒野に草原を駆け抜ける。ゲームなのに何故か腹が空いたので確認してみたところ、このゲームには空腹度なんてものまで存在していたようだ。無駄に芸が細かい。

 異形種系の種族なら食事不要なんてものがあるらしいが、人間にはそんなものはない。というか、種族スキルなんてとってない。

 最初の内は適当に倒したモンスターや採取した植物などをかじっていたが、どうにもマズイ。なので、これも気功術でカバーすることにした。大気や大地の気を取り込んでうんぬんかんぬんというヤツだ。霞を喰って生きる仙人になったわけだ。もはや、モンクでもなんでもないな。

 味まで再現するとか、やりすぎだろうこのゲーム。おかげでガチビルドのはずが、変なロールプレイビルドのようになってしまった。

 

 いい加減、1人でさまよっていてもレベルが上がらなくなってきたので、一度ゲームを終了した。

 トイレに行かないと、もれてしまう。

 用を終えてから時計を見ると、ゲーム開始から2時間が経過していた。ゲーム内では数か月が過ぎ去ったと言うのに、リアルはゆっくりしたものだ。体感時間まで誤魔化してくれるとか、この“ユグドラシル”はとんでもない機能を秘めている。

 これでどうしてサービス終了になってしまったのだろうか。まったくもってわからない。

 

 出すものを出してスッキリしたところで、改めてレベル上げについて考えてみる。

 

 …………。

 

 バカの考えは休むのと似ている。昔から言われていることだ。

 つまり、検索、検索のお時間だ。

 オンラインでのアレコレは役に立たん! 何かないのか……。

 発見。――クエストの達成で、それなりの経験値が手に入る模様。

 クエスト、クエスト、何かあっただろうかと考えてみる。すると、最初に帝国地方で活動する”ワーカー”になると選択したことを思い出した。

 多分、ゲーム開始時に突っ立っていた街に行けばいいのだろう。何かあるはず。

 

 適当に話していたら、”ワーカー”になれた。

 強いことは良い事らしい。

 30レベルなんて雑魚も雑魚のはずだが、オフラインモードに実装されているお試しクエスト程度には十分過ぎたようだ。楽勝である。

 4人組、10人組、もっとたくさん組などのライバルを押しのけ、バリバリ達成していきます。

 まぁ、余裕だね。NPC相手なので激しくむなしい。

 成功をねたんで突っかかって来た奴らは、全員ぼろ雑巾に変えてやった。人間の姿をしていても所詮はNPC、動きがトロ臭くていけない。カルマ値なるものがあるので、皆殺しには出来なかったが、それ以降は無駄な面倒がサッと無くなった。中立中庸の仙人様は、極悪な行いも、見返りの無い善行もしないのだ。目には目を、歯には歯を。ガン飛ばされたら目をふっとばし、歯をむいて威嚇されたら全部へし折る程度だ。

 ストレス解消にいいね。このゲーム。

 ちょっと時間をかけてがんばったら、簡単にトップクラスのワーカーとして認められていた。世の中パワーよ。気功術の前には、毒もマヒも精神攻撃も通用しないのだ。

 あ、上位の魔法ならサクッと貫通される程度の耐性らしいけどね。もっと極めないと、それは無理。そんな強敵、まったくいなかったけれど。

 そんなこんなで、どうにか40レベルに到達。30レベルまでの上昇速度と比べると、おそろしくしょっぱい。

 オンラインがやりたかった……。

 そろそろリアルでは、また2時間くらい経過しているはずだ。もうちょっとだけやってみよう。ワリと楽しいし。

 

 カッツェだかカッチェだかという言い難い名前の平野で、ひたすらアンデットをボコり続けた。このアンデット退治、実入りはあまりよくないが、国家プロジェクトのクエストらしく、何回やっても無くならないのが良いところだ。

 どうにかこうにか45レベルになった。冒険者やってればアダマンタイトになれただのと言われたが、45レベル程度でもらえる称号と考えると、本気でどうでもいい。

 

 50が見えて来たころ、隣の王国の領土にある”地下墳墓らしき遺跡の探索”クエストが発生。雰囲気的に、今までのものよりも経験値が期待できそうだ。

 大仕事! という体裁のためかかなりの人数がクエストに挑むメンバーとして依頼主の下に集められた。これまでの付き合いでボコボコにしたヤツラも結構いる。さすがNPCと言うべきなのか、やはりNPCと言うべきなのか、ほとんど成長していない。

 プレイヤーの活躍を彩るための飾りつけってことなのだろう。演出的に。

 エルなんとかというヤツが性懲りもなく絡んできたので、ポンとはたいたら首が飛んでしまった。剣には拳を、刀には手刀をなので仕方がない。他のヤツラも、アレはアイツが悪いと言っていたので、問題なしだ。

 なぜかカルマ上がったので、善行だった可能性すらある。

 

 探索するワーカーの”護衛”として、なんだか強そうな黒い鎧の大男が出て来た。”漆黒”のモモン。

 黒い鎧だから”漆黒”。わかりやすい。思わず笑ってしまった。このゲームの製作者は良い趣味をしている。

 どうも、アレだ。いかにもなイベントキャラです! って感じだ。最後の最後で、「実はこのオレこそが、今回のクエストのボスだったのだ!」とかやって来てもおかしくない。黒いし、顔隠しているし。

 情報集めを適当にしていたので知らなかったが、周りのNPCがわかりやすく「強い、強い」と教えてくれた。アダマンタイトらしい。ということは、冒険者だったらアダマンタイトになれた自分とは同格ということか。

 

 腕試しに挑んだら、普通に負けました。

 あんまり技量は高く無さそうなのに、身体能力だけで上を行かれた感覚。負けたけど……死んでいないし経験値がドバっと入って来た。うますぎる。

 それに味をしめ、道中に何度か挑んでいたら、周囲からかなり批判されてしまった。でも、レベルが上がったので後悔はしていない。NPCのクセに正論言うなよ……。

 

 目的地に到着し、作戦会議のマネごとを行う。結局のところ、ゲームのNPCと上手く連携など出来るわけもないので(感知系の魔法なんて持っていない)、自己判断で勝手に突入することになった。

 仲間外れにされたワケではないと思う。アイツら、NPCのクセに最もなこと言って責め立てるなよ。泣きそうになっただろ。

 というか、このゲーム、涙が流せるのだ。スゴイ。

 

 先陣を切って墳墓に突入、ワラワラと湧き出るスケルトンを粉砕し、エルダーリッチの団体を粉々にする。罠を殴り飛ばし、悪辣なバッドステータス地獄を気功術で切り抜ける。

 やがて、たどり着いたのはゴキブリ部屋。なんかワープさせられたのだ。

 

 無限わきの超ザコモンスター美味しいです! もちろん、食べているわけではない。経験値的な話だ。まだまだ経験値超アップキャンペーンが有効なので、カスみたいな経験値しかくれない相手でも、これだけ湧いてくれればウマーである。ソロ専門のビルドなので、範囲攻撃も習得してるからね!

 

 ゴキブリ大王をイジメて稼いでいたら、なんだか、ものすごく強い虫が出て来てサクッと斬り倒されてしまった。ダメージによる朦朧状態を防ぐ”痛覚遮断”のスキルが無かったら、痛みで気絶していたかもしれない。

 その後、シブトイヤツダとかどうとか言われて、ゴーモンルームへと連行された。

 気色の悪い拷問モンスターによる、超拷問プレイの数々。このゲーム、ホントに成人指定じゃなくていいのだろうか。もしかしたら、これが原因で終了したのかもしれない。

 

 脱出不能っぽかったので、ゲームを止めた。

 その後、もう一度オフラインモードをスタートしてみると、大墳墓の近くに立っている自分に気付く。

 これまで見かけた中では、最高難易度ではあるが、それに合わせて経験値もウマい。しばらくはココでレベル上げしてみよう。

 オフラインモードには経験値のロストが無いので、気楽なものである。

 

 しっかし、このゲームはものすごい。オフラインだけでこの面白さ。他の人と一緒に遊べるオンラインはどれほど面白かったのだろう。

 先輩が”ルシファー”とかなんとかって名前をキャラに付けて、徹夜して遊び倒していたことも納得である。

 

 

 お わ り

 

 




リアルでは真面目なだけの公務員。
異世界の存在は、全てゲーム内のキャラクターとしか思っていません。
ナザリックの異形達よりもヒドイ認識です。


こんな感じのお気楽な話も読んでみたい。


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例のおまけ用に書いた物の端切れ

 ユグドラシル最終日、モモンガは運営の用意したイベントに参加していた。

 

「よう、モモンガさんじゃねーか。お前んとこには随分世話になったなー」

「ああ……、いや、それはこっちのセリフでしょ。攻めて来たのそっちですし」

「まーなー、あんときはこのクソギルドが、チートしてやがるだろ!? ああ!? 消えろ人外! とか思ったもんだが、今になってみると、あの頃が一番楽しかったなぁ……」

「またまたこっちセリフですよ。1500も集めてそっちから来ておいて、あの結果。その上、後からグダグダとなんて情けないって……。でも、たしかにそうでしたね。あの頃は、楽しかった。みんな……いましたから」

 

 戦闘禁止のお別れ会。すたれ忘れられて行ったユグドラシルに最後まで残った者たちの最後の語らいの場。

 なお、とくにシステム的な制限はかけられていない。そこは個々人のマナーの問題であるとされている。

 禁止と言われていても破っても構わない。自由度が売りのゲーム()()()のだ。運営は、最後の日まで運営だった。

 

「だなぁ、あの頃はみんな熱かった。ユグドラシルはゲームじゃない! 人生だ! って感じで本気だった。まぁ、リアルや新作には勝てなかったワケだが」

「はぁ……。仕方ないことですよ。でも、この最後の2年くらいもそう悪くなかったですよ。お金も気にせずやりたい放題でしたし。お金……って言ってもゲーム内のですけど」

「そうだな。それに、まさかあのアインズ・ウール・ゴウンのギルマスとこんな話をするようになるなんて思わなかった、全盛期には」

「ですね。なんていうか……辞める人が遺して行った物が積み重なって、最後の方に残ってた人は結構お金持ちの物持ちばかりで、欲が薄くなって来てたって言うか。ワールドアイテムが競売にかけられたりとか想像もできませんでしたよ。昔は――」

 

 モモンガが今話している相手は、かつてモモンガの所属しているギルドの拠点を脅かしたことの在る敵だった人物。

 しかし、それも今は昔。もう、あの頃のような情熱も憎しみも無い。

 

 ユグドラシルが終わるまで2年を切った頃の事。

 モモンガは、自身のアバターとなるキャラクターは満足できるところまで成長させていた。レベルを下げて調整し、また上げて、また下げて調整しを繰り返し、本当に吟味しつくした。

 アイテムも集めきってしまった。汎用的な最強クラスの装備の他に、特化した状況用の最高ランク装備まで各種揃えるほどに用意してしまった。もうこれ以上はそうそうたどり着けない領域まで。

 ゲーム内に用意された複数のワールド。様々な要素。特殊なボスモンスターも含めた大量のモンスターとの戦い。

 全盛期を共に過ごした仲間達が居なくなった後、モモンガはそれらをアインズ・ウール・ゴウン最後の1人としやり尽してきたのだ。

 仲間達が去った後。ギルドにモモンガしかいなくなった後にも、ユグドラシルにはいくつかの要素が追加された。

 

 やりたい。遊びたい。自分はまだこのゲームに飽きてはいない!

 

 モモンガは1人でそれらに挑んだ。

 そして当然のように敗北した。

 複数人でのクリアを前提としたコンテンツを、1人でクリアすることなどそうそう出来はしない。

 最高の装備、最高のプレイヤースキル、それぞれのコンテンツに合わせて低レベルから調整しつくしたアバター。それらを揃えて、運に味方されてもまず不可能。

 人数は力なのだ。

 

『どなたか一緒に、追加クエストやりに行きませんかー!? こちら信仰系キャスターとタンクそれぞれ1。魔力系アタッカーと物理アタッカー募集中!!』

 

 そんな時に、響き渡る叫び声を聞いた。臨時の野良パーティーの募集である。

 アインズ・ウール・ゴウンがそうであったように……いや、それ以上に、他所のギルドも人が居なくなっていた。

 モモンガは、なんとなくそれに乗ってみようかと思った。気まぐれだ。さびしかったのだ。むなしかったのだ。1人で挑んで負けるだけの、ゲームが。

 

『すいませーん。魔力系ですがいいですか? あと、オーバーロードですけど』

『はい! 全然かまいません。歓迎です。よろしくお願いします!』

 

 もう、人間種だとか異形だとか言っていては人が集まらない時期だったのだ。その頃は。差別していては、運営の用意したコンテンツもまともにクリアできない。

 クリアできなければつまらなくなり、つまらないからと人が辞める。そんな時期でもあった。

 

「よろーって……。モモンガキター!」

「有名人キター!」

「あの、いや、やめてくださいよ」

「まあまあ、頼もしいじゃないですか。これで揃ったし、出発しようと思うのですが、その前にクエスト内容の確認を――」

 

 初めてあった人、どこかで見かけたことのある人、敵だったことのある人。そんな人たちと一緒に遊んだ。かつての最高の仲間達との思い出程には面白くは無かったし、連携も上手くは行かなかった。

 

 それでも、それなりに楽しめた。ユグドラシルが楽しかった。

 

 そんなことが何度かあり、モモンガのプレイスタイルはそれまでとかなり変わった。

 よく野良パーティで遊ぶようになった。その内、ある程度贔屓して誘ってくれる人も現れ出した。ゲーム内に居るフレンドのリストが久しぶりに増えた。

 誘われても所属ギルドを変えるようなことは無かったが――そんなことをしたらアインズ・ウール・ゴウンが消えてしまう。ギルドに対する執着は、前ほどにはなくなっていた。

 

 そうして迎えた、”ユグドラシル最後の日”。

 モモンガは運営の用意したイベントに参加していた。

 あの日、あの時、あの場所を通りかかって、なんとなくあの声に応えていなければ、こんなところには居なかっただろう。そんな風に思いながら。

 

「――じゃーな。オレ、向こうにアイサツしてくるわ」

「あ、はい。また……じゃなくて、おつかれさまでした。……楽しかったですね」

「楽しかったな……。オレ等は最後はみんなでカウントダウンしようって言ってんだけど、あんたも一緒にどうだ? なんならラスト3秒にその玉ぶっ放して全滅ENDとかでもいいぞ?」

 

 そう言って、彼はかつて自分が吹き飛ばされミンチにされたモモンガの切り札を指差した。

 

「いやですよ! また空気読めクソホネとか言われるじゃないですか! 最後の1時間は、ギルドを見て回ってゆっくり懐かしもうって決めてるんで」

「そっか。そんじゃ、じゃあな。イロイロあったけど、あんたらが居て良かったよ。面白かった」

「それはこっちもですよ。またどこかで会えたらいいですね」

「ああ、でもそん時はこっちが勝つ!」

「いえ、負けませんから」

 

 そう言い合って、二人は怒りと笑顔のアイコンを並べて表示して別れた。

 

 

 

 〇

 

 

 

 モモンガは自身のギルド拠点――ナザリック地下大墳墓――の宝物殿に居た。

 かつてここに山脈をなしていた財宝たち。それらの量は全盛期と比べ随分と減ってしまった。

 失われた宝物は、ギルドを維持するための経費へと変わっていったのだ。もしもこれらを消費することなく、1人の稼ぎで巨大なこの墓を支えようとしていたのなら、モモンガの日々はただただそのための金策に費やされることになっていただろう。

 最初の頃は、申し訳ない気持ちもあった。だが、じきにそんなものは消えていった。

 

 文句があるなら言いに来れば良い。

 

 そうすれば、モモンガは喜んで謝っていただろう。結局、誰も来なかったし、何の咎めも受けはしなかった。それを望んでいても――。

 もっとも、去って行ったギルドメンバーたちは「好きに使ってくれ」と言って遺して行ったのだから、最初からそんな可能性はなかっただろう。

 モモンガは、仲間の遺した物を売り飛ばし、ギルドの維持費にあてた。仲間達の遺したNPCの稼働を止め、かかるコストも抑制した。

 今のナザリック内では、特別な外装を施され、詳しく設定を書き込まれたNPCは1体しか動いていない。

 

「パンドラズ・アクター。今日は……今日は……今日はもういいか。”始まり”」

 

 モモンガの命令に従って、最後のNPCがその姿を変える。白銀の騎士から、軍服を着たタマゴ頭のドッペルゲンガーへと。

 パンドラズ・アクター。モモンガが設定制作したNPC。ナザリックの中で、彼だけは確実にモモンガのモノだった。

 他のNPC達は、モモンガのモノではない。少なくとも、モモンガはそう考えていた。

 だから、維持することを止めた。製作者が面倒を見れば良いのだ。

 

 文句があるなら言いに来い。

 

 そうすれば、モモンガは喜んで再起動させただろう。でも、結局誰も来なかった。だから、パンドラズ・アクター以外の制作されたNPCは動いていない。

 

「パンドラズ・アクターよ。今日は素晴らしい土産があるぞ。聞いて驚くなよ? なんと、ワールドアイテムだ! バカげた話だ。これが金で買えてしまうのだからな!」

 

 独り言と共に、モモンガは1つの指輪を取り出して見せた。物言わぬ自身のNPCの目の前に。

 どんな願いも叶う指輪。全盛期なら――いや1年前でも――こんな風に手に入れることは出来なかっただろう代物。

 ユグドラシルの制作会社にシステムの変更を頼むことが出来るそのアイテムの価値は、計り知れないものだった。

 だが、今日はそのユグドラシルが終わる日。しかもその時間が刻一刻と迫っている。

 今これを使ってみても、その願いの結果が反映されることはないだろう。

 

 もう、価値の無いガラクタだ。持っていたと言うだけの意味しかない。

 

 モモンガには少しばかりの蒐集趣味が有る。その発露が、この指輪だった。

 宝物殿にあった物の内、モモンガの独断と偏見で「いらないかな?」と感じた物を売り払って出来た金の大半が、そんな指輪の購入資金として消え去っていた。何年もかけて、少しづつ売りに出し、コツコツと金貨に変えて来たものが一晩でパッとなくなったのだ。

 

「まぁ、ユグドラシル自体がもうすぐ消えてなくなるんだけど……」

 

 自身の独り言に気付いたモモンガは、骨だけの口に手を当てた。特に意味は無い。

 それを聞いていたのは、物言わぬパンドラズ・アクターだけだ。

 そんな卵頭をチラリと見た後、モモンガは宝物殿の奥へと進む。最奥につくった、自分のための空間に。

 

 

 みすぼらしい、なんの魔力も込められていない布のローブ。

 そこらの木を適当にそれっぽい形にしてみました、といった趣の木の杖。

 少しだけ装飾の施された絹のローブ。

 銀の指輪。

 先端に僅かな魔力を宿した小さな宝石を取り付けたワンド。

 少しだけ宙に浮かぶ魔力のあるサンダル。

 

 そこには、それまでの部屋にはなかった粗末な代物が丁寧に並べられていた。

 それらをモモンガは順に眺めて行く。

 始まりは、ただの骨男だった。ボロを羽織って、木の杖だけを持っていた。

 少ししてようやく手に入れたちょっとカッコイイ装備。今となってはゴミくず同然。だが、その当時のモモンガにとっては高級品だった。リアルでは、そのことで数時間はニマニマしていたはずだ。自分では見えなかったが、自覚はしていた。

 その後、ようやく付加効果のある装備を入手した時は――――。

 

 モモンガ円形の室内。何もない0時から始まり、時が進むごとに展示されている装備品が豪華なモノになって行く。視線が回る。グルリと身体ごと向きを変えながら、モモンガはユグドラシルというゲームの思い出を順に思い出していた。

 その当時の装備を見て、その時々のことを。

 ユグドラシルの装備品は、宿しているデータの量によって階級がある。

 始めたばかりの最下級時代、駆け出しの下級職、少しは慣れた中級、痛い思いをした上級のころ、輝かしい最上級、そして遺産級(レガシー)聖遺物(レリック)伝説級(レジェンド)の武具。

 

 一周回った。

 そろそろ時間だ。0時の隣、最後の場所には”何もない”。

 そこに展示するべき神器級(ゴッズ)の装備品は、モモンガ自身が今身に着けている品々だ。

 

「冒険の終わり、か」

 

 また、ひとり言をもらすと、モモンガはその空いたスペースへと歩む。

 そして、終わりの時を静かに迎えようとして――ふと、手にした指輪に顔を向けた。

 

「せっかく手に入れたんだ。何も頼まないのはもったいないか……」

 

 指輪を掲げる。

 

「願わくば、もう一度冒険を。モモンガとして、俺はまだ遊び続けたい。もっともっと楽しみたい。終わるな、ユグドラシル。俺はまだ、鈴木悟に戻りたくない!」

 

 0:00:00

 

 こうして、鈴木悟のYGGDRASIL(ゲーム)は終わった。

 

 0:00:01

 

 こうして、始まった。

 モモンガの新しい世界での冒険(ユグドラシル)が。

 

 

 

 

 

 ユグドラシルのサービス終了時刻を過ぎた。しかし、予想していた強制ログアウトがいつまでたってもやって来ない。

 

「あれ……?」

 

 モモンガはそう口にすると、周囲を見渡した。

 そこはリアルの鈴木悟の部屋ではなく、未だにナザリックの宝物殿。

 モモンガの宝物おもいでの間。

 

「……終わってない?」

 

 ワケが分からなかった。どうなっているのかと首を何度も左右に振り、それからふと自らの手に視線を落とす。

 

「無い」

 

 無かった。さっきまでそこにあった物が、今は手の上に無い。

 モモンガが最終日に競り落として来た――大量の金貨を支払った――大事な大事な指輪が無い。

 

「え、まさか……願いが叶った? 延期になったのか?」

 

 永劫の蛇の指輪(ウロボロス)

 そのワールドアイテムの効果は、ユグドラシルの制作会社にシステム変更などを要求できるというもの。

 運営は頭がおかしい。これのせいでバランスがおかしくなった。神の涙によって、過去幾度も天地魔界に争乱が起きて来た、それをまた繰り返すつもりか……もう辞めます! などとユグドラシルというゲームに様々な話題をもたらしてくれた究極の1つ。

「ファンタジーで”ひとつの指輪”がすごいのは当然」とは運営の見解だが、まさかサービス終了日すら変更できたのだろうか? モモンガはそんなことを考えていた。

 ここはナザリック宝物殿の最奥、彼の思考を妨げる者はこの部屋にはまだ誰もいない。

 

「はは……あはははははっ!」

 

 まだ遊べるのか。まだモモンガでいられるのか。

 モモンガは、久しぶりに運営に感心した。まさかこんなことを仕込んでいたなんて、と。

 

「はは……ははは……ん?」

 

 何かがオカシイ。口が――と言うよりも顎あごの骨が――動いている。

 これは今までにはなかったこと。出来なかったことだ。ゲーム内では、感情表現は感情エモーションアイコンによってするもので、実際にキャラクターの顔が変化することはなかったのだ。

 部屋の中央まで進み出ると、モモンガはそこで様々な動きをためしてみた。

 ラジオ体操第一。いつからあるのか、いつまであるのか分からない伝説レジェンドも試してみる。

 

「どうなっている?」

 

 リアルなのだ。どうしようもなく、リアル過ぎる。

 異常を感じたモモンガはGMコールを試そうとしてみたが――出来ない。伝言メッセージも誰にも通じない。

 宝物殿に1人、モモンガは骨を鳴らして悩む。

 

「どうなってる!? なんだこれ!」

 

 悩んだ末にモモンガが声を荒げたその時、扉の向こうから声が聞こえて来た。

 

「モモンガ様、如何なさいましたか?」

 

 それは耳慣れない、いや、聞いたことの無い声だ。だが、不思議と親しみを覚える。

 そのせいで、モモンガはつい「どうぞ」と言ってしまった。

 

「失礼いたします」

 

 扉の向こうから現れたのは、初めて聞いた声とは違い見慣れた卵頭のNPC、パンドラズ・アクター。

 

「え、なんでお前動いてんの? てか、なんでしゃべってるの……」

 

 魔王ロールプレイ時以外は、ギルドメンバーも含めて他人には基本丁寧な口調のモモンガ。そんな彼の口調は自然と砕けていた。意識はしていない。

 その声を聞いたパンドラズ・アクターはピタリと動きを停止した。まるで時間が突然止まったかのように、前に歩こうと足を上げた姿勢でカチンと凍り付いている。

 

「あれ? なんで止まってんの?」

「モモンガ様のお言葉から、動いてはいけないのだと判断いたしました」

「いや、もういいから、動いていいから……」

「ありがたき幸せ」

 

 そう言うと、卵頭は大仰に頭を下げて感謝の意を示した。

 その姿を見たモモンガは、内心で「うん」と1つうなずく。モモンガはパンドラズ・アクタ-をマネキンとして使用していた。自分では身に着けることの出来ない装備品を装備させ、その組み合わせを楽しんでいたのだ。

 そして、衣装が映える様にと大仰な動作を聞き習った知識で仕込んだ。動いてしゃべる今のパンドラズ・アクターの姿を見て、苦労した甲斐が有ったと感じたのである。

 

「悪くないな」

「お褒めに預かり恐悦至極」

 

 そんなモモンガの内心を知っているのか、パンドラズ・アクターはとても嬉しそうに――身振りで分かる――もう一度腰を曲げた。

 

 

「して、モモンガ様、先ほどの御声はいかがされたのでしょうか? モモンガ様があれほど取り乱した声を上げられるとは、余程の事態かと考えまして、失礼を承知でここまで参りましたが」

「んー、ああ、GMコールが出来ない。伝言メッセージが誰にも届かない。何か、こう、雰囲気のようなものが今までと違う。その原因がサッパリわからなくてな」

「なるほど……。モモンガ様は常々情報を制することが大切だと仰っておられました。ですので、まずは情報を集められてはいかがでしょうか? あ、いえ……出過ぎたことを申しました」

 

 言った後に申し訳なさそうな素振り――本当に身振りだけでそれが良く伝わって来る――をするパンドラズ・アクターに、モモンガは小さく手を動かして「気にするな」と伝える。

 そして、顎に手を当てどうするかと考えた。

 

「パンドラズ・アクター……長いからもうパンドラと呼ぶか……。パンドラ、ここに遠隔視の鏡ミラー・オブ・リモートビューイングは有ったか?」

「少々お待ちください。すぐに用意いたします」

「頼む」

 

 パンドラはすぐに鏡を持って来た。瞬きするほどの間にだ。モモンガには目蓋は無いが。

 遠く離れた場所の景色を映し出す魔法の鏡。それを目の前にしたモモンガは小さく呻く。

 

「む……」

 

 どうしよう使い方が分からない、と。

 それを聞いたパンドラが大げさに慌て見せる。

 

「もしや何か不具合が!?」

「いや、これの使い方が思い出せない。お前、これ使えるか?」

「お任せください!」

 

 モモンガに命じられたパンドラは、凄まじく嬉しそうに作業に取り掛かった。

 

「まずはナザリックの入り口、地表周辺から――なんと! これは一体」

 

 鏡には草原が映っている。パンドラが大きく驚いているのは、ナザリックの地表部分は本来沼地に面していたはずだからだ。

 鏡を操作するパンドラの後ろからのぞき込んでいたモモンガ。彼もこれにはそこそこに驚いたが、それはついさっきのパンドラが現れた時と比べるとさほどでもなかった。異常事態が連続し過ぎてマヒ気味なのだ。

 

「これは、ナザリックごと転移しているのか……?」

「その可能性がありますな。一旦高度を上げたのち、何かめぼしい物があればそちらに寄せてみます」

「ああ、それで頼む」

 

 鏡の中の視点がグングンと高くなり、草原の草木がただの緑となる。そこからさらに少し高度をあげると――

 

「モモンガ様、道らしきものが見えます」

「よし」

 

 草原はその端から徐々に林となり、林は森となり、その森の向こうに”道路”らしき筋が見えた。今度は視点が下がり出し、道がグングンと大きくなって行く。

 

「人間らしき姿が見えます」

「少し待て、対策をする」

 

 鏡面ごく小さな人影が見えてきたところで、モモンガはいくつかの魔法を使用した。収納空間からも――無意識に――スクロールを引っ張り出している。

 

「念には念を……さすがモモンガ様」

「いや、基本だからな。のぞき見とかバレたら嫌われるからな」

「なるほど。バレ無ければ問題ないと!」

「まぁ……問題ないな」

 

 そんなやり取りの後、モモンガが許可を出したことによりパンドラは鏡の視点を人影へと近づけて行く。

 

「どうやら人間のようですな」

「そのようだな。なんというか、商人っぽいな。ユグドラシルのクエストで見かける典型的な普通の商人」

「診ますか?」

「そうだな。どげざえもんさんの姿が良いだろう。あの人は、のぞきのプロだった……」

「畏まりました」

 

 パンドラズ・アクターの姿が変わる。空中に浮かぶ巨大な眼球、まつ毛のような触手の先端にも無数の小さな眼が付いている恐ろしい外見のモンスターの姿へと。

 ドッペルゲンガーの力により、彼は”眼球皇帝(ゲイザー・ツァーリ)”とも呼ばれる巨大な目玉の怪物へと変身したのだ。

 目玉皇帝は、見ることのエキスパート。ビームだって発射する。

 なお、パンドラズ・アクターは基本となるドッペルゲンガー本来の”始まり”の卵頭の他にも様々な姿になることが出来る。その数、実に45。45の外装をコピーし、その力を――オリジナルと比べて8割ほどに落ちるが――使いこなすのだ。

 パンドラズ・アクターが1人いれば、大抵のことは事足りる。彼では足りないことは、もうその道の専門家に頼むしかないことだ。

 

「この商人、レベルに換算して2程度でしょうか。相手にならない弱さかと」

 

「そうか」とやや安堵した声をもらすモモンガ。もしかして弱そうな外見をした強敵で、詳しく見た瞬間にカウンターで大被害ということも在り得たのだ。

 

「その商人らしき人物の向かっている先を見せてくれ。街か何かがあるかもしれん」

「畏まりました」

 

 道を伝うように、鏡の中の景色が流れる。

 そのまましばし、見えて来たのは人間がそこそこに行き交う街らしき風景。

 

「行ってみるか。話を聞いてみたい」

 

 モモンガがそう言うと、すぐさまパンドラが共を申し出る。

 

「モモンガ様、どうか私をお連れ下さい。万一の場合もありえます故」

「……そうだな、それならナイトウさんの姿で頼むか。デス・ナイトなら死亡ダメージも一度だけなら耐えられるからな」

 

 再び変わるパンドラ。今度の姿は漆黒の全身鎧(フルプレート)と、巨大な剣、同じく巨大な盾で武装したデス・ナイト。死の騎士とも称される身長2.3メートルほどの人型をした中位アンデッドモンスターだ。

 通常の敵として湧く(ポップ)場合のトータルレベルは35。攻めれば25レベル程度実力だが、守りに関しては40レベル台に匹敵すると言う、攻撃力よりも防御力に優れた性能を持っている。

 そして、それを活かすように、デス・ナイトという種族は一度だけならどんな攻撃を受けてもHP1で踏みとどまる能力と、敵の攻撃を自身に引きつける能力を備えていた。まさに盾役にうってつけの存在である。

 その上、パンドラの変化したデス・ナイトは普通のデスナイトではない。デス・ナイトを種族として、100レベルまで鍛え上げたプレイヤーを写し取ったものである。当然ながら、普通の35レベルのものよりも遥かに強い。

 真剣ガチビルドの前衛タンク野郎の8割程度の能力。本物よりはずっと弱いが、防御力だけならばその装備も相まって対100レベルモンスター戦でもある程度は通用するだろう。

 

「もし危なかったらすぐに逃げる。まぁ、大丈夫だとは思うが……。お前の見立てでは、街の人間はほとんどが10レベル以下なのだろう?」

「念には念を、でございます」

「そうだな。ああ、そうだ。――では、行くか」

 

 宝物庫から2人の姿が消えた。

 向かう先は人間の街。彼らはまだ、街の名前を知らない。

 エ・ランテルの人間達はまだ知らない。自分たちのすぐ近くに、オーバーロードとデスナイト(の姿をしたドッペルゲンガー)の恐ろしい影が迫っていることを――。

 

 

 

 

 

『願わくば、もう一度冒険を。モモンガとして、俺はまだ遊び続けたい。もっともっと楽しみたい。終わるなユグドラシル。俺はまだ、鈴木悟に戻りたくない!』

 

 ――世界級(ワールド)アイテム:永劫の蛇の指輪(ウロボロス)が使用されました。使用者の要望に応え、世界法則(システム)を変更します。

 

 

 

 

 

 北東には戦の続くバハルス帝国。

 南にはスレイン法国。

 そして南東に恐るべきカッツェ平野。

 リ・エスティーゼ王国の都市、”エ・ランテル”はそんな何かと物騒な土地に位置していた。

 そのため、この都市は防衛のための三重の城壁をもった”城塞都市”として知られている。

 三重の壁の一番外側、最も強固かつ巨大な壁にはそれに相応しい門が設けられていた。敵対する帝国に攻め込まれても容易に破らせはしない、そんな気概を感じさせる造りだ。

 もしも立て籠もっての(いくさ)となればその頑強さをもって敵を阻むその門も、今は平時のため開け放たれている。

 ただし、開いているからと言って誰もが自由に通過できるワケではない。門の横手には検問所が設置され、そこに詰めた兵士たちが通り抜けようとする者と物をチェックしているのだ。

 

「あ……なんだ、ありゃ?」

 

 そんな兵士たちの中の1人が見つめる先に、”死”があった。

 巨大な――人間にしては少々大きすぎる程度――人影と、それを従えるようにして歩く人並みのサイズの人型の存在。

 しかし、そいつらが”人間”であるはずがない。なぜなら、彼らはどう見ても”生きてはいない”。

 

「ア、アンデッド……。あれは、まさか……死者の大魔法使い(エルダーリッチ)!?」

 

 

 もう一体の化け物(アンデッド)の正体は分からない。騎士のようにも見えるが、徐々に大きくなってくるその姿はどう見ても巨人の死体だ。

 巨人ではなくオーガなどかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

 問題は、兵士たちではとても勝てそうにない相手だという事だ。エルダーリッチの時点でもうどうにも厳しい。

 

 どうする?

 どうすればいい?

 

 ほんの少しの思考のあと、兵士は大声で叫んだ。

 

「て、敵襲ぅー! アンデッドが攻めて来たぞー!」





なんとかプレイアデス読めました。


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ニーベルンゲンの呪われた黄金

やんでる骸骨さんがやんでる姫様の身体に憑依転生した話


 

 幼さの残る美貌から、はぁ、と長い溜息がもれた。

 

「どうしてダメなのかな……」

 

 この国の、王国の現状を考えればなかなか悪くない話だと思ったのに。

 黄金の姫ラナーの美しい唇から、もう一度長い溜息がもれた。

 

「ねぇ、ラナー。どうしてアレが通るなんて思ったの?」

 

 ラナーの数少ない――むしろただ一人の――友人は、呆れに呆れた目をして尋ねる

 

「食事も睡眠も必要なし、朝から朝まで、年中無休で作業可能な労働力。素晴らしいでしょう?」

「そうね」

「使わない方がおかしくない?」

「ないわね」

「どうして?」

「どうしても」

「ラキュース……私には、わからない。どうして皆が私の考えを理解してくれないのかが」

「うん、あなたの言いたいこと、分からなくはないの。でもね、ラナー、私は神官なのよ。アンデッド作業員なんて認められるわけがないでしょう!」

 

 ラナーは先ほどよりも長く、長く溜息を吐いた。

 

 この国には、黄金と呼ばれる姫がいる。

 その姫は美しかった。呼び名通りの輝く黄金の髪。宝石のようにきらめく瞳。透けるように白い肌。その肢体の黄金比。

 ラナーの昔の友人のような、一部の特殊な趣味を持つ男性以外ならば、誰であっても称賛を惜しまないであろう美貌だ。

 ラナー自身、鏡を見て自分に見惚れてしまうことがあるくらいだ。

 

 ――TS転生して、美少女の上に、かなり詰んだ状況の国の姫になるとか……。誰かが好きそうな話だよな、ホント。

 

 はぁ、とまたもやラナーの美貌が憂いに沈んだ。影のさしたその横顔は、同性であるラキュースですら惑わすほど。

 

「なんでダメなんだろう」

「どうしてダメだって分からないのよ」

「アンデッド嫌い?」

「アンデッドが好きな人なんていないわ」

「ひどい」

「どうしてそうなるのよ」

 

 やたらとアンデッドを推す奇妙な性癖が知れ渡っていなければ、嫁ぎ先も引く手あまただったことだろう。

 

「このままでは、この国はもたない。そう遠くない日に、終わってしまう」

「……そうかもしれないわね」

「私に任せてくれれば、きっと上手くいくはず。今度こそ!」

「そう言って、何度失敗したか覚えてる?」

 

 ラナーは押し黙った。かつての、前世の友人たちから聞きかじったことを、適当な知識と、姫という立場で振り回した。良かれと思って。

 その結果は失敗続き。

 

 この国には、黄金と呼ばれる姫がいる。

 その姫は、頭のおかしい気狂い。訳のわからぬことばかり言い。口を出しては失敗ばかり。

 

「それでも、冒険者の件は上手くいったはず!」

「持って行かれたわよね。手柄」

「まぁ、気狂いの提案では上手くいく話も、ダメになるから……」

「バカよね。あなた」

「そんなバカに付き合うラキュースも、なかなか……」

 

 ごく一部、ほんの僅かな切れ者だけは、その言葉の奥にあるものを読み取ることが出来るが、ほとんどのものは、狂った黄金の言葉に耳を貸さない。貴族はもちろん、民衆も、父である王も。

 

「それは、私のしゅ……、いえ、内なる闇の力との終わりなき戦いを理解してくれたのは、あなたくらいだから」

「ウル……麗しき友情ですね」

「そう、あなたは確か――心の中に、邪悪を極めたネクロマンサーの生まれ変わりなのよね?」

「そ、それは間違いのない真実ですよ」

 

 ――実は、ただの営業マンだったなんて言えないよな。今さら……。ラキュースに見捨てられたら完全にボッチだし。

 

「私には分かるの。あなたこそ、私の前世の……」

 

 ――おかしいんだよな。聞いてた話では、『TS転生して美少女なお姫様になりました!』って場合、なんだかんだでちやほやされて、むしろモテすぎて困るくらいになるってことだったのに。どうしてこんな。

 

「私も分かる。ラキュースは前世の友人によく似たところがある」

「友人……? 私たち、『親友』でしょう!?」

「し、しんゆう……親友!?」

「ええ! 間違いないわ! 前世の頃から受け継がれた絆。ハッキリとは分からないけれど、通じ合うものがあるのは確か。これは、きっとそうに違いないの! 死でさえも、私たちの友情を断ち切ることは出来なかったのよ!」

「あらゆる生あるものの目指すところは死である。しかし、友情は……不滅。そんな夢が……」

「ラナー……あなたは、やっぱり……」

 

 ラキュースの挙動がおかしい。いつもおかしいので、どこがおかしいのかわからないのだけれど。

 ボーっといつもの狂乱を見守っていたラナーは、ラキュースに突然抱きしめられた。

 

 ――美人なんだよなぁ。当たってる、気持ちいい、手放したくない、この感触! でも、自分が女じゃどうにもならない。ああ、出来ることなら、失くしてしまう前に出会いたかった。

 

 前世は死の支配者。そんな発言をする狂った黄金に供回りなどいはしない。メイドたちも寄り付かない。見捨てられた姫君。

 そんな姫にすり寄る変わり者の貴族は、たった一人。右手や、右目や、あるいは心臓などに闇の悪魔が封印されていると自称する変人だけ。

 

「ラ、ラキュース……その、近いから、うん、近い」

「あ、ごめんなさい。勝手に盛り上がってしまって」

「いや、いいけれど。いいですけれど。全然」

 

 ラキュースは、ラナーのたった一人の友達だ。親友とまで言ってくれる。友達だった。

 

「ところで、あなたって話し方っていうか、口調が安定しないわよね」

「それは……」

「それは……?」

「実は、私の中には、二つ……いや、三つの人格が存在しているせいなのだ」

「ラナー!! 素晴らしいわ、ラナー! あなたこそ、私の、このラキュースの心の友よ!」

「こ、心の……!」

「唯一無二の心友よ!」

「ゆ、唯一無二!!」

 

 

 ◇   ◇   ◇

 

 

 幼さの消えかかった美貌から、はぁ、と溜息がもれた。

 

 ――ラキュースに縁談か。当たり前だよな。貴族だし。今までなかった方がおかしい。

 

 ラキュースはだいたいおかしかったので、ラナーは今までそんなことを考えもしなかった。

 目の前でそのことを語る親友を見ながら、ラナーはもう一度憂いをこぼす。

 それを聞いたラキュースも、続けてこぼしてしまった。

 

「はぁ……。分かってはいたの。いつかこんな日が来るって。でも、ね……」

 

 ラキュースの嫁ぐ相手――ほぼ確定しているらしい――は、あまり良い噂を聞かない男だった。

 小さなころから言動がおかしくて、その上、気狂いの黄金と親しいなんて、そんなのマイナスにしかならない。

 

「その男は、娼館、それも……相当性質の良くないところに出入りしている」

「あくまでも、噂だけれどね」

「事実だ、よ。調べたから」

「あなたに、そんなことを調べられるような力はないでしょう?」

 

 小さなころから、言葉が、知識が、周囲と合わなかった。そんな、ラナーでも本当に幼い頃は人を使うことが出来た。だけれども、長ずるにつれて姫としての扱いはされなくなっていった。

 少なくともラナーには、権力の類は、もう何も残っていない。

 

「私の前世は死の支配者。幼い頃には抑えられていた力も、出来なくなっていた多くのことも、人間プレイヤーのスタート時最低年齢を超えた今なら、かなりのことが出来る」

「プレイヤー?」

「ラキュース。もしも、君が望んでくれるなら、私は君を望まぬ結婚から救える」

「そうね、もしもそれが本当なら……私も家を飛び出さなくても済むわね」

 

 ラナーは首を傾げた。なるべくカッコつけた話し方をしていたのに、「え?」と抜けた声が出てしまう。

 

「あの男……ラナーが相手なのだから、あの男呼びでいいわよね? いえ、アイツでいいわね。あんなヤツ。前に会ったことがあるのだけれど……無理! 絶対に、無理。死んでも嫌! って本気で思えるヤツだったのよ。だから……」

「どこかに、行ってしまうということですか?」

 

 それは発したラナー自身が、ハッキリと自覚できるほどに冷え冷えとした声色だった。冷たく、それでいて熱く、濁って、でも純粋な何らかの感情がこもった声だった。

 

「え……ええ、冒険者に、なって、みよう……かしらって……」

 

 ラナーの瞳の奥で、化け物が悲鳴を上げていた。

 

「ラキュース……。あなたまで、いなくなってしまうのですか?」

 

 瞳の奥の化け物は、今の状況と過去のそれを重ねてしまった。

 ゲームと、現実。その違いは考慮に値しない。

 

「戻って来るわ、必ず!」

 

 だって、誰も帰って来てはくれなかったのだ。

 どうして、この目の前の心友だけはそうではないと思えるだろう。

 全てをなくして、死んだ。恐らく、そうなのだろうとラナーは思っていた。

 死の前後のことは曖昧だが、人生の全てと思っていたユグドラシルが死んだとき、自分もまた死んだのだ。そう確信していた。

 

「あなたを、一人にはさせない。ただ、少しだけ時間がほしいの」

 

 ラナーの瞳の奥の化け物が、孤独の玉座に腰かけている。誰もいない場所で、虚空に向かって吠えている。

 

 ――信じられるものか。信じたい。信じたい。信じたい。でも、離すものか。

 

 今生の名は、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。「黄金」と評される美貌の姫君。その精神が狂ってさえいなければ、と王を大いに嘆かせた王女。

 前世の名は、名乗るほどのものでもない。名乗ったところで知る者もほとんどいない。

 彼女は、化け物だった。

 思考能力は凡人のそれ。

 ただし、前世の知識がある。言葉が足らない上に、今の世で活かせるほどには詳しくないために役には立たなかったが。むしろ、その知識は彼女を孤独にした。良かれと思って話すほど、周囲は彼女を気狂いと蔑み嗤ったのだから。

 深窓の姫君ゆえ、表に出せぬ狂人ゆえ、幼い頃の体力は並みよりも遥かに劣っていた。

 だが、今は、人間種の「人間」プレイヤーの最低設定年齢に到達したその瞬間、ラナーの「職業レベル」が解放されたのだ。

 

 ――人間となってしまったせいか、種族由来の能力は使えない。だが、どういうわけか種族限定の職業のスキルは使用できる。だとすると、今の私のレベルは職業のみの60レベル……はっきり言って、弱い。

 弱いが、エクリプスのアレと、即死魔法のいくつかは使えるのだから。なんとかなるか……?

 

 ラナーは、化け物だ。

 アンデッドと死霊魔法を極めた果てに得られる職業のレベルを保有し、種族レベルを持たない人間。

 

 ――もし、ここからレベル上げが可能だとしたら、あのコンボが出来るんじゃないか? アレも、アレもいけるかもしれない。

 よし、殺そう。その男を殺そう。私から友を奪うヤツは、全員殺してやる。

 

「ラナー……、ラナー……、ラナー……ねえ、聞いている?」

「少し、考え事をしていました」

 

 何事もなければ、民を思って大人しく王族の義務に服していたかもしれない。

 狂人と呼ばれていても、見目は良いのだから役には立っただろう――それで国が保てるかは別として。

 ラナーはあきらめることを知っていたし、搾取される側の気持ちも理解できる心を、一応は持っていたのだから。

 ただ、ラナーには友人が出来てしまった。たったひとつ、捨てることの出来ない執着の源が。

 その夜、ある貴族の屋敷がこの世から消滅した。

 

 

「黄金」から奪うものは、何者であれ死ぬ運命にある。

 

 




種族レベルなし(40レベルダウン)
種族能力なし(精神無効もなし)
装備無し
ナザリックNPCなし
職業レベルあり(異世界補正により前提無視:例・双子忍者)
職業スキルあり(魔法は既に習得している)
友達1名

装備無しのナーベラルに近いくらい。
ただし、職業クラススキルは発動できるので……


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十二国記 と わたモテ
私が王だ。文句は天に言え!


本棚の整理をした。
わたモテと十二国記がお隣さんになった。
それでなんとなく書いた。


 1

 

 その日も、私は妄想に浸って過ごしていた。いつものように。

 先月くらいから始まった、フェータとかいうアニメにハマって、その作品の中に自分とオリジナルキャラを登場させる。そんなありふれた代物だ。

 妄想の中の私は、“魔術師見習い”、そして、使い魔サーヴァントと言われる使い魔的な存在を使役しているのだ。

 本来の物語では7人までしか登場しないはずのサーヴァントの主人。そこに現れる8人目が、この私。

 イレギュラーってヤツだね。当然、強いしなんだかんだで勝ち抜いて行く。

 とはいえ、ピンチは必要だ。順調すぎてはイベントが起きない。

 今日の妄想は、前回の続き。敵の罠にはまって魔力を失ってしまった私のサーヴァント(イケメン)に、魔術的な儀式(セッ〇ス)を通じて魔力を緊急供給するのだ。グヘヘ。

 

 ・ ・ ・

 

 ……「これは魔術的なものであって、ヘンな目的じゃないんだからね!」

 

 そんな私の言葉を無視して、アサシンは一糸まとわぬ姿に。ウソ! 小さいころに見た弟のと全然違う! あんなのムリムリムリ!

 やめて! 待って! こ、怖い!

 

 ・ ・ ・

 

 と、まぁ私の昼休みは、机に突っ伏して寝たふりをしつつ、こんな妄想をして過ぎ去って行くのだ。

 話す相手とか居ないしね。1人も。

 

「……見つけた」

 

 今日も今日とてそうしていると、すぐ近くでそんな声がした。

 なかなかのイケメンボイス。このウゼーヤツラばっかりのクラスに、こんな良い声の持ち主が居ただろうか。いや、居ない。

 そう思った私は、この声の主は誰なのか、目を開けて確かめることにした。こんな時でも寝ていたフリ演技忘れない私は大したヤツだ。

 褒美として帰りにアイスを食おう。自腹だ

 

「あなただ」

 

 目を開けると、私の目に1人の男の姿が飛び込んできた。

 若い男だ。20は過ぎていそうだが、まだ30には届いていない。そんな年齢に見える。

 男の目は、私を真っ直ぐに見つめていた。

 イケメンだ! イケメンに見つめられている!

 薄い金色の長髪。裾の長い昔の中国っぽい服装。表情の欠けた偏差値の高い顔!

 周囲の騒ぎなんて気にならない。私の目は、そのイケメンに釘付けだった。脳内保存中である。

 

「……お捜し申しあげました」

 

 男は、私の足元に跪くと、深く頭を下げてからそう言った。

 返す言葉は、思いつかなかった。初めて見る顔だ。これまでの人生で、金髪イケメンと話したことなど一度も無い、あったら絶対に覚えている。

 

「御前を離れず、忠誠を誓うと誓約する」

 

 続けて、男は早口で難しい言葉を使った。並の高校生なら意味がわからないところだが、妄想能力に長けた私の頭脳は、その意味を即座に理解する。

 これはアレだ。「あなたこそ、私のマスターだ」的な意味に違いない。

 うつらうつらと妄想と現実の境界線を過ごしていた昼休み。そうやって半分寝ぼけた脳細胞が、私にある言葉を吐かせた。

 

「そうだ。私がお前のマスターだ」

 

 私がそう言った瞬間、クラス中が大騒ぎになる。私の言葉の内容もおかしなものだったが、まだ寝ぼけたと言えばどうにかなるものだった。

 だが、私の言葉を聞いた金髪の男は、跪いた姿勢からさらに頭を下げ、額を当てたのだ。私の足の甲に。

 一気に目が覚めたね! いや、あ、これ夢だ、と思ったかもしれない。そのときはとにかく混乱してしまっていたから、なにがどうだったのかなんてわかりはしない。

 友達いない。話し相手もいない。弟にはバカにされ、コンビニの店員にもろくに返事が出来ない。そんな私には、あまりにも難易度の高すぎる体験だったのだ。自分なら上手く切り抜けらえるってヤツがいたら、是非見せてほしいね。演劇にでもして。

 

「私とおいでください。追手が来る前に」

「ひゃい!」

 

 変な声を出してしまった。だって、イケメンが急に顔を近づけて言うんだもん。仕方ないよね。

 しかも、私の足の甲におでこピターってしたイケメンが、だ。

 よくわからんが、私、モテてる! よくわからんが!

 イケメンに手を引かれ、ホイホイと付いて行く私。どこまでもお供しますとも、ええ、このまま愛の逃避行的な。

 手を引くイケメンに比べて、私の足は遅かった。背も小さく、身体を鍛えているわけでも無い。か弱い乙女なのだ、私は。

 

「お許しを」

 

 すると、私のその様子を察知したイケメンが、ガバっと抱き上げた。横抱きだ。お姫様だっこってヤツだ。

 つまり、私の夢だ! 少し鼻血が出た。

 さすがイケメン、私のして欲しいことをよくわかっていらっしゃる。そこらのアホ共とは、存在の始まりからして違う。

 私を抱え、イケメンは走る。上へ、上へと。目指すは屋上だ。背後からは、騒ぐ生徒達の声。怒鳴る教師の声。

 風のようにとは流石に言い過ぎだが、そこらの貧弱一般人とは明らかに違う速さで、イケメンは雑音たちを置き去りにする。

 そうしてたどり着いたのは、校舎の屋上。

 ドアを開けて外へと飛び出た途端、ギィギィと錆びた鉄をこすり合わせたような鳴き声が聞こえた。

 鳴き声の出どころを探すと、今飛び出して来たばかりのドアの上に、一羽の鳥がとまっている。鳥と言っても、普通の鳥じゃない。

 広げた羽根の両端、その幅が5メートルを超えていそうな巨鳥だ。ソイツが、泥のような色合いの羽根を羽ばたかせ、赤や黄色の混ざった毒々しい色合いのねじ曲がったくちばしで、錆びた鳴き声を上げている。

 どう見てもまともじゃない。

 突然現れたイケメン。こっちは私の味方で、対応からして忠実な従者的な存在。多分、絶対。

 そして、私を狙って襲って来るのは、いかにも悪役っぽいモンスター! 

 どうやら、私の日常は、いきなり学園ファンタジーバトル恋愛モノっぽくなってしまったらしい。

 やったー!

 急激な事態の流れに、私の頭は混乱している。ハイってヤツだ。もうどうにでもなれ。イケメンに任せるしかねぇ。できれば優しくしてね。

 

「私にお任せを。その手、決して離さぬようお願いします」

 

 いつの間にか、私の両腕はイケメンの首にがっちりと絡みついていた。自分で外そうと思っても、外すことができないくらいキツクだ。恐怖が、私の身体を支配していた。

 巨鳥が翼を一打ちする。身体がブワリと浮き上がり、今までコンクリートに食い込んでいた鋭い爪があらわになった。

 ああ、アレに襲われたら、絶対死ぬな。そんな感じの凶悪な形をしている。

 

「ヒョウキ」

 

 イケメンが何かの名を呼ぶ。すると、どこかからそれに応える声が返って来た。

 どこからか現れた赤黒い獣が、私と、私を抱えるイケメンと凶鳥の間に割って入った。

 後から現れた赤い豹のような獣は、どうやら味方らしい。アレか、召喚魔法的なヤツか。

 

「ジュウサク」

 

 また獣が呼ばれて出て来た。大型の猿のよう姿だ。マントヒヒだっけ?

 恐ろしさが一周回って、変な冷静さが私の中に生まれ始めていた。

 

「ここを任せる」

「御意」

 

 召喚した獣に鳥の相手を任せて、私たちは逃げる展開らしい。

 鳥、倒せないのか。最初っから強すぎ。

 私は、ピッタリとくっついていた身体を、更にイケメンにくっ付ける。ここは、屋上。飛び降りるにしろ、空を飛ぶ召喚獣を呼ぶにしろ、落ちたら死ぬ。しっかりくっついていないと。

 あ、良い臭いがする。

 鳥と戦う豹と猿。そんな彼らに心の中で「がんばれ」と応援しつつ、私たちは新しく呼ばれたハンキョとか言う犬っぽい獣に乗って逃げ出した。

 

 

 2

 

 

 どれだけの距離を移動したのか、その辺りはもうさっぱりわからない。

 とりあえず、ここは、学校も、私の家も見えないどこかのビルの屋上だ。

 

「カイコ」

 

 イケメンが、また新しい召喚獣を呼び出した。何種類いるんだろうか。あの鳥に勝てない辺り、強いのは居ないんだろうけど。

 呼び出されたカイコの姿を簡単に表現すると、鳥女だ。ゲームで出て来るハーピーとか、こんな感じなのか。

 カイコは、羽根っぽい手に豪華な剣を持っていた。王権の剣とかそんな感じで、由緒ありそうな代物だ。金や宝石を使って優美な装飾がされている。

 カイコはその剣をこちらへと差し出した。

 

「これを。あなたのものです。お使いください」

 

 イケメン曰く、これは私のものっぽい。見た目はあまり頑丈そうではないが、こういうのは魔法か何かがかかっていた、実はスゲー強いってのが、お約束である。

 私は、こわごわゆっくりとその剣に手を伸ばした。内心ではワクワクである。私専用の魔法の剣とか、ファンタジー、キタコレ!

 持ってみると、割と重い。金って重いらしいからな。まぁ、重いよね。金属の塊だし。

 イケメンの首に絡めたままだった、もう片方の手がそっと外された。少し名残惜しい。人生初体験のおいしい出来事だったのに。

 が、剣には剣で興味がある。アレだ、今は重くて持っているだけでフラつくけれど、抜けばたちまち魔法の力で超ツエーなはず。私、知っているよ。

 

「じきに、先ほどのコチョウが追って来ます。あれは速い。どうか、コチョウを斬っていただきたい」

 

 つまりアレか、イケメンと愉快な召喚獣たちでは敵わない鳥さんも、魔法の剣で覚醒した私の力なら、サクッと倒せてしまうわけか。

 守ってもらう系かと思ったら、弱いイケメンを守る系の話だった。

 それもまた良し! なんだかよくわからないが、なんとなくわかる展開に、私の脳内麻薬が大興奮。

 よーし、剣をスパッと抜き放って、巨大鳥を一刀両断してやるぜ!

 

「う……」

「どうか、されましたか?」

 

 剣が上手く抜けない。鞘から、なかなか抜けてくれない。何か、こう引っかかる感じで。ヤバイ、恥ずかしい。

 

「剣は初めてでしょうか?」

「…………はひ」

 

 私は、小声で肯定しながら俯いた。フツーは剣なんて持ったことないですよ。

 こんなことなら、昔見かけた居合道の教室の広告、電話しておけば良かった。あの頃は「銃の方が強いよね」とか思ってバカにしていました。すいません。

 

「では、ヒンマンをお貸しする。――ジョウユウ」

 

 新しい愉快な仲間は、ジョウユウ君。ベトっとしたクラゲかスライムかってボディの上に、石みたいな色合いの顔が乗っている。ぶっちゃけ気色悪い。

 そのスライム君は、ニュルニュルっと私の近くまでやって来ると、そのまま足を伝ってスカートの中へと入りこんできた。

 やめて! 私、初めてなの! いきなりスライムは上級すぎる! せめて、最初はイケメンに優しく!

 とか思っている間にスライム君の感触が綺麗さっぱりなくなった。

 

「憑依させました。剣の技は、ジョウユウが知っています」

 

 憑依!? わかる、わかる。アレだよね、

 私があーしたい、こうしたいって考えると、それを察して最適な行動で剣を使ってくれるとか、そんな感じの便利なヤツだよね。

 

『察しの良い御方だ。その通りで御座います』

 

 鼓膜からではない、頭の内側からの声が聞こえて来た。さっきのスライム君に違いない。

 よし、スライム君。君に決めた!

 私は戦いなんて知らないからな。でも、戦うならカッコよく行きたい。

 スタイリッシュに頼むよ。

 口では上手く物を言えない私だが、頭の中では饒舌なのだ。このスライム君は、なんだか上手くやっていけそうな気がする。ウマが合うってヤツだ。

 

『御意』

 

 私の手がひとりでに動き。なめらかな動作で剣を鞘から解き放った。

 美しく輝く刀身が、キラリと空にかざされる。もう、さっきまでのたどたどしかった私ではない。

 言わば、ニュー私。ネオ私。私エクストラ。

 ドヤ顔で決めポーズをした私の鼓膜を、ギィ、ギィィっと錆びた鳴き声が震わせる。

 

 さっさと来いや、鳥公。私がバッサリ三枚におろしてやるぜ!

 

 

 




傾国の喪王、智子。
イケメンを優遇し、ブサメンを排斥する。
この方針で割と長い期間国を保つ。
悪人は顔も悪い。これが大体当たる世界。


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ハイスクールD×D と らんま1/2
いっせー×2


 

 

 兵藤一誠には師匠が居る。

 師は、年齢、強さ、知識はもちろんのこと、エロにかける情熱においてすら一誠を遥かに上回る。

 

「一誠! もっと気張って走らんかい!」

「うっす! すいません、師匠!」

 

 師匠の名は、八宝斎。エロければエロいほど強くなれる拳法、無差別格闘流の達人である。

 一誠は、そう教わっていた。

 幼かったあの日、紙芝居で見たおっぱいの素晴らしさ。それに魅了された一誠は、立派な達人となるため、八宝斎の下で日夜厳しい修行に明け暮れているのだ。

 

「待てー!」「死ねー!」「今日こそ、殺す!」

 

 年若い乙女たちの黄色い悲鳴が、一誠の背にそそがれる。

 八宝斎による修行の1つ、下着泥棒の成果だ。女性たちの厳しい監視の目を潜り抜けることで気配を隠す術を鍛え、見つかって逃げることで足腰を鍛える。さらに、背後から飛来する様々な危険物を、後ろを見ずに回避することで、敵の殺気を感じ取る力を鍛えることも出来る。

 恐ろしく理にかなった修行法だ。ついでに下着まで手に入るのだから、たまらない。

 一誠の頭の上に座る師匠、八宝斎。一誠が彼に向ける尊敬の念は、日に日に増すばかりだ。

 兵藤一誠、現在高校一年生。最近、屋根から屋根へとジャンプで渡れるようになった。

 

『情けない……。俺は情けないぞ……相棒……』

 

 天高く、赤龍帝の嘆く秋。

 

 

 1

 

 

「一誠よ、お前には見込みがある。どこぞのウスラトンカチ共とは違って、ワシの全ての技を継承できるだけの才能がある」

「ほ、ホントっすか、師匠! 兄弟子たちよりも、俺、才能があるんですか!?」

「あいつらには、エロが足りん。だが、お前にはそれがある!」

「うっす! エロなら自信があります!」

 

 八宝斎は、この兵藤一誠という金づるをそれなりに評価していた。知り合いの紙芝居屋が捕まったと聞いて、檻の中に会いに行ったところ、彼のことを聞かされたのだ。

 そして、八宝斎は一誠少年をささっと騙して小遣いを巻き上げていた。いや、実際強くなったのだから、騙してはいないのかもしれないが。

 適当に金をとっておさらばするつもりだった八宝斎。そんな彼が一誠を本格的に指導することにしたのには理由がある。

 八宝斎が一誠を、恐ろしく適当に鍛え始めてしばらくしたころ、龍が目覚めたのだ。

 一誠の中に眠っていた赤い龍の帝王が。

 そして、一誠は八宝斎を本気で尊敬している様子だった。

 こいつ、鍛えたら使えるわい。早乙女や天道よりも確実に使える。八宝斎はそう考えた。

 

「その意気や良し! 一誠よ、おっぱいが欲しいか!?」

「欲しい!」

「己の好きなように出来る。自分のためのおっぱいが欲しいか!?」

「欲しい!」

「マイおっぱいが欲しいか!?」

「欲しい!」

「おっぱい!」

「おっぱい!」

「おっぱい!」

「おっぱい!」

「ならば、いまこそ呪泉郷へ! おっぱいのために!」

「ジークおっぱい!」

 

 多くの格闘家が訪れる修行の地、呪泉郷。

 多くの格闘家が訪れたことを後悔する地、呪泉郷。

 一誠もまた、お約束を外さなかった。

 

「兵藤一誠、いっきまーす!」

 

 泉に突き立てられた竹の竿。その上で行われる激しい修行。それが一誠にひとつのものを与えた。

 

「アイヤー! お客さん! そこはかつてある娘が溺れ死んだという悲劇的伝説ある泉よ」

 

 そこに落ちた者は、水を被ると女性になってしまう体質になってしまう呪われた泉。

 一誠は、なんとそこへ飛び込んでしまったのだ。

 

「見事じゃ!」

「おおぉぉぉー!! これがマイおっぱい! 俺のおっぱい!」

 

 自らの胸を揉みしだく一誠。一誠が男であることを知っているのに、それで興奮できてしまう八宝斎。

 変態たちが、そこに居た。

 

「さて、一誠よ。ここまでは誰でも出来る。――ここからが、お前の龍の力の見せどころよ!」

「うっす! ブースト! 俺の男を二倍にィィイ!」

 

 半分は女になってしまった兵藤一誠。だが、彼にはなんでも二倍にする能力があった。それが彼に宿る龍の力なのだ。

 

「男的性質を二倍にすることで、水を被っても男のままでいられる!」

「そして、女的性質を二倍にすれば、グッフッフ! 覗き放題、盗み放題!」 

「わーっはっはっはっはっは!」

「ぐわーはっはっはっはっは!」

 

 いやらしい高笑いを上げる、犯罪者たちがそこに居た。

 呪われた泉の郷が、呪われた悪魔を生み出してしまった瞬間である。

 

 

 2

 

 

 話は急激にすっ飛ぶ。

 なんだかんだで、上級悪魔リアス・グレモリーの眷属となった兵藤一誠。

 現在の彼は、なんだかんだで、不死鳥の悪魔ライザー・フェニックスとの決闘の真っ最中である。

 どうしてこうなったかは、部長のおっぱいに聞け。

 

「部長のおっぱいは、俺のものだー!」

「ふざけるな、クソが! リアスのおっぱいは婚約者である俺のものだ!」

「いいや、俺のだ!」

「俺のだって言ってるだろうが!」

「俺のおっぱい!」

「俺のおっぱい!」

 

 決闘を……していた。

 見守るリアスの顔は、恥ずかしさのあまりに赤くなって、溶け崩れそうな程だ。

 

「ライザー! お前はわかってるヤツだ。おっぱいの素晴らしさをな!」

「当然だ! だから、どうした!」

「だから、これだけは、これだけは避けようと思っていた。大人しくあのおっぱいを諦めるのなら……と」

「ふん、言ったはずだ。お前ごときの力では、何度倍加したところで俺の不死身を破れないとな!」

「違う……違うんだライザー……。だが、俺は! 部長のおっぱいのためなら、鬼にも悪魔にもなる!」

 

 もう、悪魔で龍である。気持ち的な問題の話だ。

 鬼になる。そんな決意をこめた顔で一誠は、懐からビンを取り出した。そのビンの中には、ライザーに致命傷を与えうる液体が充填されている。

 

「水……? 聖水か!? まさか、それの力を強化して!? 兵藤、お前も悪魔なんだぞ!」

「最後にもう一度確認する。ライザー、負けを認める気はないか?」

 

 ビンの中身を見せつけながら、一誠はライザーに最後のチャンスを与えた。これを受け入れなければ、ライザーは死ぬ。完璧に。

 

「ふざけるな! そんなもの程度で!」

「そう、言うと思ったよ……」

 

 それ以上、2人の間に言葉は無かった。

 ビンを抱え、がむしゃらにライザーへと迫る一誠。

 そんな彼を近づけまいとしつつも、守りを考えない突進によって、徐々に接近を許してしまうライザー。

 ライザーには、例え聖水を使われたとしても耐える自身があった。不意打ちならともかく、分かっているのなら激痛も我慢できる。距離を取るのは念のためだ。

 聖水を喰らった瞬間に、最大火力でカウンター。

 だからだろうか、接近されることを避けられないと判断したライザーは、そんな戦法を選んでしまった。

 一誠の拳が、握りこんだビンごと、ライザーにめり込んだ。砕け散るビン、飛び散る液体。

 ライザーの予想した激痛は無かった。なにか、奇妙な感覚があるだけだ。

 

「灰になれ! 兵藤一誠!」

 

 次の瞬間、ライザーの最大火力が一誠を包み込んだ。戦いは、ライザーの勝ちだ。

 決闘の勝者、ライザー・フェニックス。

 今この瞬間、ライザーが一生リアスの夫になれないことが決定した。

 

 

 ◇

 

 

「なんだ、これは? なぜ俺は女になっている!?」

 

 妹によく似た声で、ライザーはそう言った。その顔だちとスタイルは、妹のレイヴェルよりも背が高く、胸も大きい。

 レイヴェルが成長した姿と言われれば、納得する者も多いであろう見た目だ。

 

「ライザー……。あなたは私の夫にはなれないわ」

「なんだ、これは? と聞いているんだ。リアス!」

 

 担架で運ばれていく一誠を見送ったリアスは、ライザーに憐みの目を向けた。

 彼は、いや、今は彼女だ。彼女は、もうこれから先、ずっと女のままなのだ。

 

 ひたすらに倍数強化された、娘溺泉の呪力によって……。

 





男じゃなければ、婿失格ゥ!!


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ハイスクールD×D と メガテン
HSD×DS(ハイスクール・デジタル・デビル・ストーリー)


 

 

 只野仁成は、高校三年生である。

 只野仁成は、老け顔の高校生である。

 クラスメイト達から、「中年」、「おっさん」、「渋いぞコノ」、などと言われていても高校生である。

 只野の通う私立駒王学園には、オープンスケベなことで有名な2年生も存在するが、只野はムッツリである。どちらかと言えばムッツリである。

 つまり、結局のところはスケベなのである。

 

 そして、只野(ただの)仁成(ひとなり)は、悪魔召喚士(デビル・サマナー)である。

 

「ようこそ、邪教の館へ」

 

 スケベな只野は、ムッツリとした表情を崩さぬまま、街のいずこかにある邪教の館へと訪れていた。只野を出迎えたのは、青っぽい服装をしたこれまたエロそうなおっさんだ。暗い室内なのに、なぜかかけているサングラスの奥には、いやらしい瞳が隠されているに違いない。

 

「例の件で来た」

 

 例の件。

 只野はそれを実現させるため、多大な努力を続けて来た。

 悪魔を召喚し、それを使役する力を得るために、常人であれば気が狂いそうな修練を踏破したのだ。

 全ては、そう、この時のために。

 

「承知しておるとも。すでに準備は万端、あとはお主の用意して来た生贄と、お主自身の内包するMAG次第」

 

 只野は、人間の女性にモテたことはない。努力をしてはみたが、玉砕することばかり。

 ならば、悪魔だ。エロい悪魔だ。

 ムッツリと口数の少ない只野。口の回らない只野。おっさん顔の只野。

 そんな只野相手でも、むしろ向こうから積極的に狙って来てくれるような、そんな理想の女性を呼び出すのだ。

 

「リリム」

 

 かつての偉大な悪魔召喚士が残したと言う悪魔全書。

 そこに記された無数の悪魔の中から、只野はその一体の悪魔を選んだ。

 その性質、その容姿。それでいてさほど強力ではない点。

 今の只野でも制御することが可能で、それでいて目的には十分すぎる。

 完璧な悪魔だ。

 

「待ちきれん、といった様子じゃな。よかろう、しばし待て」

 

 館の主が、悪魔合体の準備を始める。合体とは言うものの、その実態は複数の悪魔を生贄に捧げ、より強力な悪魔を呼び出し支配するといったものだ。

 生贄召喚とでも呼ぶ方が、正しいのかもしれない。

 今回の生贄たちが、召喚用の筒の中で叫び声を上げる。これから始まる邪悪な儀式の結果、自分たちがどうなるのかを理解しているが故だ。

 生贄に捧げられたものの魂と肉体は、悪魔全書へと吸収される。

 そして、その対価として悪魔全書は捧げられた生贄に見合う悪魔を呼び出してくれるのだ。

 悪魔召喚皇の遺物。その呪力、おそるべし。

 

「始めるぞ」

 

 館の主の声と共に、筒の中に薬液が満ちて行く。悪魔すら容易く溶解するその薬液の製法は、館の主だけが知っている。

 薬液が筒を満たした。そこにはもう、生贄たちの姿はない。

 始まるのだ。召喚が。

 

「悪魔全書よ。この世の全ての悪魔を支配する、大いなるものよ。我は求め、訴える――」

 

 館の主に続く形で、只野もまた呪文を唱える。

 筒から抽出された魔力が、悪魔全書へと吸い込まれ、黒い光を放つ。

 黒い光を放つ。黒い光を放つ。黒い光を放つ。黒い光を放つ! 黒い光を放つ!!

 

「むむむ! いかん! 事故じゃ!」

 

 空間が震えている。目に映る光景の明暗が反転し、轟音が只野の鼓膜を揺さぶった。

 

 邪教の館の中に、黒煙が立ち込める。漂って来る香りは、麝香のものだろうか。

 

「うーっす! 呼ばれて飛び出てリリンちゃん参上! 今後ともよろちく」

 

 悪魔合体に事故は付き物。完全に防ぐことは不可能だと聞いてはいた。

 しかし、これは無い。

 美少女悪魔との、あんなことやこんなことに満ちた生活を求めていた只野にとって、この悪魔はあまりにもひどい存在だった。

 

「ふーっむ……。似て非なる者を呼び出してしまったか。しかし、これはなんとも強力な悪魔。本来であればお主の従えることの出来るような存在ではない。――おめでとう、と言うべきなのだろうな」

 

 只野の目的を知っていた館の主は、呼び出された存在に気を遣って、おめでとうと言った。ただ、そこにある憐みの響きは隠せていない。

 

「なぜ、こんなおっさんが……」

 

 つらく厳しい修行。爪に火を点す用にして貯めた資金。命がけの戦いで捕獲した生贄用の悪魔。

 それらは、只野の求めたエロい女の子ではなく、ふざけた態度の偉そうなおっさんになってしまったのだ。

 只野の膝がガツリと床を打つ。オメガドライブである。

 

「おいおい、そんなに嫌がられると、おいちゃん泣いちゃうよ。ヨヨヨヨヨ……」

 

 ウザイ。

 ウザイが強い。このおっさん悪魔、恐ろしく強大な魔力を内包している。

 事故でこんな強い悪魔が得られるなんて、なんという幸運。しかし、おっさんである。

 おっさんである。ウザイおっさんのクセに、顔が良いのが腹が立つ。

 

「それでも、リリムが良かった……」

「まあ、わからんでもないがね。まあ、楽しんでいこうや。マイ・マスター」

 

 只野が呼んでしまった悪魔の名は、リリン。本名はもっと長いらしいが、面倒なのでどうでも良い。

 おっさんの名前なので、どうでも良い。

 とりあえず、強い悪魔ではあるので、こいつを使って稼ぎなおそう。そうしよう。

 リリムでは失敗してしまったので、今度はゴモリーでも狙ってみよう。そうしよう。

 

「そうそう、その調子。うひゃひゃひゃひゃ……応援してるよーん。今度は上手く行くといいねーって、な」

 

 新たなる決意の元、只野の冒険が始まった。

 

 

 

 

「出でよゴモリー!」

 

 何故か紅髪の美形男が出て来て、リリンと仲良く口喧嘩している。

 只野が確認してみると、紅髪の男性悪魔は、サーゼクス・グレモリーっという名前だったことがあるらしい。

 美人の妹がいるとも言っていた。自慢げに。

 どうせなら、そっちが来てくれたら良かったのに、と只野はまた「Ω」の姿になってしまう。  

 

「いや、ここまで落ち込まれると、困るな……」

「俺の時もこんなだったねぇー、ひゃーひゃっひゃっひゃっひゃっ」

 

 

 きっと、美少女を求める煩悩が、求める者がやってくることを邪魔しているのに違いない。

 そう考えた只野は、方向性を変えてみることにした。

 金色のゼリーボディが可愛らしく見えなくもない、偉霊アルビオン。ザ・ドラゴン、といった雰囲気の竜王ペンドラゴン。こういった感じの見た目まったく女の子ではない悪魔こそ、実は美少女なのかもしれない。

 リリムがおっさんで、ゴモリーがイケメンだったのだから、ありえなくもない話だ。

 

 次の目標は、アルビオンとペンドラゴン。

 

 ウザイおっさんと、イケメンの兄ちゃんを連れて、只野の冒険はまだまだ続く。

 




別の作品で、リリムの話を考えていたら思いついてしまった。


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サモンナイト
最初から魔王ルート


 

 

 ある日突然、アヤ先輩の様子が変わった。

 別に髪を切ったとか、染めたとか、化粧が濃くなったとか、そういうわけじゃあない。

 言葉遣いは少し変わったような気もするが、それもそんなに大きいわけじゃあない。

 雰囲気が、違うのだ。圧倒的に。

 以前の先輩には、どこか気の弱そうなイメージがあった。本当は、芯のある女性だと知ってはいたが、それでも、守ってあげたくなるようなところがあった。

 今は、それがない。

 恐ろしい位の自信。何が来ても絶対に負けない、そんな自負を感じさせる。

 先輩がそんなことを言ったわけじゃあない。でも、そんな風に感じてしまう自分がいる。

 周りの人間に聞いてみると、男が出来たのではないか、と返って来た。

 そうかもしれない。自分たちくらいの年齢だと、急に変わったとなると真っ先にそれが思い浮かぶ。

 

「誰かと付き合いだしたのか、ですか?」

 

 先輩に憧れる気持ちが無かった、と言えばウソになる。

 急に変わった先輩の様子に、やきもきし過ぎるのはバカらしい。もう、自分ではダメってことなら、さっさと知ってしまった方が良い。それで、楽になれる。

 

「そう言われると、そうなのかもしれませんし。そうではないのかもしれません。この場合、どう言ったら、ウソにならないのでしょうね?」

 

 長い黒髪を揺らして、先輩は見えない誰かにたずねた。

 先輩の目はこちらを見ていない。どこかに居る誰かを見据えているのだ。

 なぜか、そんな気がした。そして、それがきっと合っていると思えた。

 

「信じてもらえるかわからないけれど、少し話をしましょうか。あの日、私が見た、長い夢の話を」

 

 他に誰もいない図書室。そこで、先輩は小さな、だけどよく通る声で語り始めた。

 夢の世界リィンバウムの話を。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 あの日、ちょうど帰りが一緒になった、あの日。

 二人と別れて一人になった私は、近くの公園に行きました。

 そこで、これから先の人生について考えたりしていたのです。

 このまま、流されるようにして、無難な道を進み続けてしまうのだろうか。そんなことで、本当に良いのだろうかって。

 将来への漠然とした不安。私は結論の出ないことをグルグルと考え続けていた。

 そんな時、どこからか声が聞こえて来ました。

 その声は、助けを求めていたと思います。よく聞き取れなかったのですが、なんとなく、そんな気がしました。

 でも、周りを見ても誰もいない。私しかいない夕暮れの公園。

 もしかして、これは幻聴なのだろうか? 変なことを考えすぎて、少し疲れてしまったのだろうか?

 一瞬、そんな風に考えました。

 そして、私がその考えを吹き飛ばす前に、目の前の景色が、白い光に塗りつぶされたのです。

 いきなり目の前が、真っ白になって、それが消えて。

 いつの間にか閉じていた目を開けた私は、見知らぬ場所に立っていました。

 クレーターって言えばいいのかな? 隕石が落ちた跡みたいな、すり鉢状に抉れた地面の真ん中に、私は立っていた。

 上を向くと、真っ青な空に白い雲が流れていて、どうにも夕方には見えない。

 周りには、隕石に吹き飛ばされた土の壁。本当は、隕石じゃなかったのだけれど。その時はそう思った。

 しばらく呆然とした後、そのままそこに居てもどうにもならないと思って、クレーターの上まで昇ることにしました。

 上に登る途中には、西洋の鎧みたいな物を着こんだ人の死体が転がっていて、その近くには綺麗に光る宝石のような物が落ちている。

 ビクッとして周りをよく見ると、あちらこちらに人だったような形をしたものが転がっています。それが全部そうだったとしたら、一体何人くらいの人が隕石の被害にあったのか。私には見当もつきませんでした。

 でも、不思議なんです。そのときの私は、それが全然怖くなかった。

 死体の近くにあった光る石を、いくつか拾い上げてそのまま上へ、上へ。

 ようやくクレーターから脱け出すと、周り一面が荒野。ついさっきまで、街中の公園に居たはずなのに。

 川を探しました。

 どっちに行ったらいいのか、どうしたらいいのか、全くわからなかったので。

 とりあえず真っ直ぐ進んで、川を見つけて、川伝いに進んでいけば、人と出会えるかもしれないって。

 川はすぐに見つかりました。

 運が良かった。少なくとも、そのときの私はそう思えました。

 本当は大変なことになっているはずなのに……。

 

 見つかった川は、ずいぶんと汚くて、何か染料みたいなものが溶けているみたいでした。

 だから、きっと上流に行けば、人がいるのではないかって思って。誰かが川上で染物をしているのだろうって。

 それも、川がこれだけ染まっているのなら、結構大きな規模のはずです。

 川の流れに逆らう方向に歩き続けるうちに、日が暮れて来ました。やがて夕日も落ちて、月の頼りない光だけが、道を照らしています。

 でも、不思議と困ることはありませんでした。なぜか、良く見えるのです。空気が綺麗だから? そんなことを思いながら、どれぐらい歩いたのか、やがて私の目の前に、城壁が見えてきました。

 城壁です。西洋のお城を囲んでいるみたいなアレが、街をぐるっと取り囲んでいたのです。

 壁伝いに進むと、大きな門がありました。ただ、その門はもう閉められていて、大声で呼んでみても誰も返事をしてくれません。

 もう開けてはもらえないのでしょう。仕方がない今夜はここで座っていようか、そんなことも考えたのですが、その時、私の耳に狼の遠吠えのようなものが飛び込んできました。

 慌てて周りを見ても何もいません。でも、たしかに遠くで獣の吠える声がしたんです。

 怖くなって、私は何度も何度も門の向こうに声をかけました。でも、誰も返事をしてくれません。

 城壁の内側、その上の空だけがぼんやりと明るいので、きっと誰かが住んでいるはずなのに。

 声を出すのに疲れてしまったので、それからはまた城壁を伝って歩きました。どこかに違う入り口があるかもしれないと思って。

 そうしたら、夜もだいぶ遅くなったころに、ようやく壁の内側に入れそうなところを見つけたんです。

 そこだけ、城壁の石が崩れてしまっている場所があって、私はその石をなんとか乗り越えて、街へと入って行きました。

 

 街の中も、やっぱり石造りの家が並んでいて、どうも日本とは違う雰囲気です。

 建物が並ぶ道は、あまり清潔とは言えない状態で、そこら中にゴミが転がっています。石の壁が邪魔をして、月の光が届かない所には、とても濃い影がわだかまっていて、その中に何かいるのではないだろうかって、ひどく怖かった。

 そうやって、ビクビクとしながら歩いていたのが悪かったのでしょうか。気が付いたら、私はとてもガラの悪そうな数人の男たちに取り囲まれてしまっていました。

 その中のリーダー格と思われるのは、上半身ハダカでものすごく力の在りそうな大男です。そして、その近くに居た、上着をはだけてその下から素肌を見せている比較的小柄な少年が、私に向かって何か言って来ました。

 正確になんと言っていたのかは、わかりません。日本語でも、英語でもない、聞いたことの無い言語だったので。

 ただ、彼の機嫌がとても悪そうなこと、そして、何か欲しがっていることはわかりました。なんとなくではありますけど。

 やがて、話が通じないことにイラだったのか、話しかけてきた男がナイフをチラつかせて来ました。周りの男たちも、それに合わせるようにしてナイフや棒などを見せつけて威嚇してきます。

 そして、大男がそのことに怯える私に向かって、やさしげな表情で何か言って来ました。たぶん、大人しくしていろとか、そんなことを言っていたのだと思います。

 私は、彼らに財布を差し出しました。全財産です。

 でも。渡した財布の中身を見た彼らは、今まで以上に大きく恐ろしい声を出して脅しきて。半ば分かっていたことではありましたけど、日本のお金は、彼らには意味が無かったようでした。

 それだったらと、私はあの最初のクレーターで拾った綺麗な石を見せたんです。宝石のようでしたから、もしかしたらこれで助かるかもしれないって。

 でも、ダメでした……。何が悪かったのか、彼らはそれまで以上に恐ろしい形相になって、あの1人だけ優しそうに見えた大きな人も、ひどく怖い顔になってしまって。

 すぐに刃物をもった男たちが、襲って来ました。

 手元にあったペーパーナイフで必死に抵抗したんですけど、やっぱりどうしようもなくて……私は棒で叩かれ、痛みでうずくまったところにナイフで刺され、大男に殴られて石の壁にぶつかって、動けなくなってしまったんです。

 こちらがもう抵抗できないことがわかったのでしょう。男たちはいやらしくニヤニヤと笑いながら、私を取り囲みました。

 そして、その中の1人、最初に話して来た小柄な男が、私に向かって手を伸ばして来て……。

 

 あたりに血が飛び散りました。私の顔にも、かかって……。

 最初は、何が起きたのかわかりませんでした。自分が刺されたのだろうか、斬られたのだろうかって思ったのですが、痛みがありません。

 それで、よく見てみると、目の前に居た男の腕がなくなっていたんです。

 状況を理解すると、男は石畳の上でのたうちまわり始めました。

 私がそれをやったと思ったのでしょう。腕を無くした男の仲間が、さっきまでの笑いを消してこちらに向かって来ました。私が見えたのは、彼らの手にした刃物ばかりです。

 死ぬ。殺される。嫌だ。なにがなんだかわからなくて、その時の私は大声でわめいていたと思います。

 そうしたら、声が聞こえて来ました。

 

 助けてやろうか? って。

 

 それは、とても大きな存在感があって、この声に任せれば安心だって、そう確信できるものでした。

 だから、私は願ったのです。

 

 助けて! と。

 

 返事はありませんでした。

 代わりに、襲い掛かって来ていた男たちが一斉に悲鳴を上げたんです。地面から生えて来た、たくさんの大きな蛇……いえ、竜が彼らの身体に牙をたてたから。

 あまりのことに呆然としている内に、竜たちも、男たちもいなくなってしまいました。

 竜は現れた時と同じように、地面の中に潜って消えて。男たちは、竜の口の中に飲み込まれて消えて。残ったのは、私と、竜が食べ残した男たちの身体の一部と、飛び散った血。

 何が起きたのかわからなくて、でも、助かったことだけはわかって。

 そのまま壁に背を預けて、へたり込みたい。私は、そう思った。

 でも、まだそこからおかしなことが続いて。

 今度は、険しい表情の男の人が出て来たんです。さっきまでの男たちが居て、竜が暴れていた場所の向こうの道から。

 新しく出て来た敵は……そう敵です、そうわかりました。なぜって、新しく出て来た人の表情は怒りに満ちていて、そして抜き放った剣を手にして居たのですから。

 鎧のようなものを着て、抜身の剣を手にした敵が何か言って来ました。でも、やっぱりなにを話しているのかわかりません。

 でも、その言葉に込められた憎しみの気持ちだけは、はっきりと分かりました。

 私が何を言っても、どうやっても、きっとこの人は襲って来る。そんな未来をくっきりと思い描くことが出来た。

 だから、もう一度、願った。

 

 助けて、と。

 

 そうしたら、また地面から、いいえ……月の光に照らされて出来た私の影から、あの子たちが出てきてくれたんです。

 竜が敵を迎え撃ってくれました。今度の相手は、さっきよりもずっと強くて、竜の頭が1つだけだと上手く剣で弾いてしまってなかなか消えてくれません。

 しょうがないので、前後左右の4方向から攻撃して、それでようやく彼に竜たちの牙に届きました。一度噛みついてしまえば、あとは簡単。

 腕に牙をたて、脚をかみちぎって、頭から。それでおしまい。

 このときの私の気持ちは、なんて表現したら良いのかわかりません。でも――

 ああ、もう帰らないといけませんね。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

『下校時間になりました。校内に居る生徒は――』

 

 下校時間を告げる放送が響いてくる。先輩の話は、途中で終わってしまった。

 さっさと帰り支度を始めた先輩に置いて行かれないように、荷物を素早くまとめる。

 並んで校門を出て、夕暮れの道を先輩と2人で歩く。

 

「夢の話の続き……聞きたいですか? まだ」

 

 そう聞いて来た先輩の影は、夕日を受けて長く、長く伸びている。

 その影の中に、無数の光る眼があったように見えたのは、気のせいだろうか。

 





年越しの酒は”大魔王”


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ハイスクールD×D
チャリオット・オブ・デュラハン


8巻のテニスの話から、ノーヘッド・本田さん。
時期は1巻開始の4年前。木場君が教会から脱走し、死にかけのところを拾われる話と同時進行。


 その日、拙者は頭を失い、主を得た。

 

 

『魔物大図鑑:デュラハン』

 

 首なしの鎧騎士。巨躯の黒馬に跨り、自らの頭部を片手に抱えている。

 主としてヨーロッパに出没し、死を予言すると恐れられている。

 なお、その鎧の中は空洞になっているので着ることも出来る。君にもしもその機会があれば、一度着てみてもいいかもしれない。

 呪われるが。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ある日、雪降る森の中、拙者の頭が吹き飛んだ。

 いや、消し飛ばされた。

 不幸中の幸いは、拙者が首なし騎士デュラハンであったこと。

 そのおかげで、頭部が消滅しても即座に死亡とはならずに済んだ。死ぬことにかわりはないが、走馬灯を見ることぐらいは出来る。

 

「なんてこと……」

 

 女性の声が聞こえる。

 拙者の頭を消し飛ばした女性が、そのことを嘆く声だ。

 

「あっ!」

 

 ぐらり、とがらんどうの鎧の身体が傾ぐ。

 即死しなかったとはいえ、大打撃であったことは確か。もう、立っていることも出来そうにない。

 意識が薄れていく。それが何処にあるのか、拙者でさえも知らない意識が。

 とりあえず、頭が無くなってもしばらく思考することは可能だったようだ。

 

 ヨーロッパのとある森の中。死を告げる者として、なんとなくここに来なければいけない。

 そんな気分に従った結果がこれだ。

 教会の者と思われる集団と、悪魔と思われる女性の争いに遭遇し、魔物であり騎士でもある立場から悪魔の側に加勢した。

 その結果が自身の死。

 なるほど、今日、死を告げられる者は拙者だったのだろう。

 雪の上に倒れ伏した拙者の身体。赤い髪の女性が、その冷え切った鉄の塊に触れた。

 もう、考えることもできなく……。

 

 スミス・本田、ここに死す。

 

 

 

 

 何故か意識が回復した。

 拙者は死んだはずであるのに、だ。そう、たしかに拙者は死んだ……はずだ。

 アレは夢ではない。頭はない。繋がりが感じられない。

 頭が無くとも見ることは出来る。それが何故かはわからないが、デュラハンとはそういう魔物だ。

 目覚めた拙者は周囲を観察し、そこが自身の記憶にない場所であることを知った。

 どこかの建物の一室。

 特に拘束などをされているわけでもなく、ベッドに寝かされている。室内には、拙者以外には誰も居ない。

 となると、誰かが助け、保護してくれたのだろうか? 

 

「目覚めたみたいね。入るわよ?」

 

 部屋のドアがコンコンと音を立て、続いて女性の声。

 この声には聞き覚えがある。

 

「私は、リアス・グレモリー。上級悪魔グレモリー家の次期当主よ」

 

 ドアを開けて姿を現したのは、紅の髪の悪魔だった。

 グレモリー。魔の者たちの間では、よく知られた名だ。

 名乗り返そうとして、声が出せないことに気付く。

 拙者には頭が無い。

 

「あなたの名前、スミス・本田で合っているかしら? 調べさせたのよ、家の者に……私の命の恩人だって」

 

 命の恩人などと、とんでもない話だ。

 教会の者の攻撃から彼女をかばおうと勇んで前に飛び出し、彼女の邪魔をしただけの馬鹿者。それが拙者だ。

 上級悪魔。それも噂に聞く“滅びの魔力”の持ち主ともなれば、あの程度どうということも無かっただろう。

 相殺どころか、敵の攻撃を飲み込みそのまま倒してしまうことも可能だったはずだ。

 間に割って入った阿呆が居なければ。

 と、伝えたいのだが、拙者には口が無い。仕方が無いので、なんとか身振り手振りで質問に答える。

 たしかに、拙者の名前はスミス・本田。

 日本国にある駒王なる町の四丁目、人間どもが“お化けが出る”と恐れる古屋敷に住み着いているデュラハンである。

 

「ありがとう。それから、ごめんなさい。あなたの頭、どうにか治療出来ないかと手を尽くしたのだけれど……無理だったわ」

 

 拙者は礼を言われるようなことは何もしていない。そして、彼女が頭を下げるいわれもない。

 それを伝えられぬこのもどかしさ。

 なんとか解消できぬかと、拙者は辺りを見回した。巡らす頭は無いのだが。

 

「ああ……少し待っていて」

 

 そう言うと、彼女は一旦部屋を出て、ペンとノートを持って戻って来た。

 あいわかった。

 拙者はペンを受け取るや、その切っ先をノートの上へと走らせる。

 そして、ノートの上下をひっくり返し、彼女が読みやすいようにして差し出す。

 その時、礼を示すことも忘れられてはならない。

 頭は無いが、腰をおることは出来る。空っぽの鎧だけの身体なので、腰も無いと言えば無いのだが、そこは気分の問題だ。

 

『拙者の方こそ礼を言わねばならぬ。このような馬鹿者のために、貴重な物を使っていただき、誠にかたじけない。今この時より、貴女が拙者の主。命の恩は、命で返す所存』

 

 拙者の背より、黒い悪魔の翼が飛び出す。

 死んだはずの身が未だ生きており、そしてそれを助けてくれたのが上級悪魔。

 さらにこの身に今までに無かった力が宿っているとなれば、大体の経緯を察することは出来る。

 それに何より、何かしらの繋がりがあることが分かるのだ。

 失われた頭とのそれに近い何かが、拙者とリアス殿との間に確かに存在している。

 剣が手元に在れば、古き世の騎士の真似ごとをしたかったところだ。

 

「ありがとう。あなたは私の『戦車(ルーク)』。でも、デュラハンならチャリオットでも良いのかしら?」

 

 デュラハンには戦車を呼ぶ能力を持つものがいる。拙者もその中のひとりだ。

 戦車と言っても、無限軌道をキュリキュリと鳴らす砲塔を乗せた鉄の車ではない。馬に引かせ、敵を轢く古の馬車である。

 

「リアス。あっちの彼が目を覚ましたみたいよ」

「そう……。スミス、実はあなたの他にも怪我人がいるの。私はその子の様子を見に行って来るわ。朱乃、スミスのことをお願い。あと、彼は言葉が話せないから……」

 

 新しく現れた黒髪の女性は、アケノと言うらしい。

 どうやら他所へ行くと言う主に代わり、このアケノが拙者に説明をしてくれるようだ。

 しかし、主は拙者の頭のことを気に病んでおられる様子。気にされるなと伝えたいのだが、それを文字として書く前に他の者の所へと行ってしまわれた。

 まずは速筆の技を身につけねばならぬのであろうか。

 




批判されがちな赤い髪の部長さんが好きです。
例によって続きませんが、リアスがデュラハンアーマーを着こんで、滅びの魔剣とか、滅びの盾とか作ってバリバリ前線で戦う話を書いてみたいなーなんて思ったことがありました。

魔力はリアス、剣技はスミス。慶王さまと冗裕みたいなって言えば分かる人は分かるかもしれません。



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