ストライクウィッチーズ 大怪獣空中決戦 (サイレント・レイ)
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プロローグ 謎の環礁

――― 大西洋 ―――

 

 

 謎の存在ネウロイとの交戦が始まって5年が経過した西暦1944年、人類は連合軍統合航空団を組織するもネウロイに欧州の大半を奪われていた。

 そんな危機的状況を打破する為にリベリオン合衆国の特務艦隊が帝政カールスラントから世界で始めて生成された放射性物質・プルトニウムを極秘裏に輸送していた。

 そのリベリオン艦隊の旗艦であるポートランド級重巡洋艦『インディアナポリス』の艦長は第一主砲塔部分の甲板で輪形陣を構成する艦隊中央の、プルトニウムが関連科学者達と共に積まれている最新鋭エセックス級空母『タイコンデロガ』を不安そうに見詰めていた。

 しかも不安をより一層強める程の新月の真夜中である上に星1つ見えない曇り空であるだけでなく、波も静かな凪の状態がより不気味にさせた事から何か恐怖心を感じた艦長は艦橋に向かった。

 

「…っ!? 艦長、どうなされたのです!?」

 

 艦長代理として当直の指揮をとっていたジム・ボーガン少佐はほんの少し前に自室に戻った筈の艦長が艦橋に現れた為、“自分に何か落ち度があったのか?”と思いながら驚いた。

 

「いや何、考え事をし過ぎて眠れなかったんだよ」

 

 そんなジムの不安を艦長は苦笑しながら否定した。

 

「…いえ、アレが何なのかを知っていればそうですよ」

 

「君はプルトニウムがどんな物なのか知っているのか?」

 

「自分は怪盗ルパンの愛読者でして、その中の1つの放射性物質を巡る物語である“三十棺桶島”で放射能が人体に危険を及ぼす事を素人知識で知っています」

 

 若干間違った知識ではあったが、右舷の『タイコンデロガ』を揃って見詰めながら彼女の積み荷を思っていた。

 此の点随分前から眠りについている艦隊司令部の面々と比べればジムや艦長はしっかりしているとも言えた。

 

「…だがなジム、それだけじゃないぞ。

最重要機密だが『タイコンデロガ』のプルトニウムで、たった1発で大都市1つを消せる新型爆弾が作れるそうだ。

しかも新型爆弾を運用可能の新型爆撃機の生産が間もなく始まるそうだ」

 

 艦長の言葉にジムはギョッとし、此の任務が行われた理由だけでなく自分達の祖国リベリオンが企んでいる事も察する事が出来た。

 

「…それで今回ウィッチ(魔女)達の同行が無かったのですね」

 

「ああ、実際ブリタニアも何か作っているらしい」

 

 現在ネウロイとの戦いは通常兵器が余り有効的ではない為にウィッチと呼ばれる魔力を有する少女達が現代の箒と呼ばれる機械装置ストライカーユニットが主体となっていたが、少なからずいるウィッチを快く思わない者達が連合軍内での国家間の主導権争いもあってストライカーユニットに変わる新兵器を開発していた。

 しかも『タイコンデロガ』のプルトニウムが精製されたカールスラントの研究施設は輸送直後にネウロイの勢力下に落ちており、それ以前に国土の大半を失って南米に亡命国家(ノイエ・カールスラント)を作っている以上カールスラントに戦後主導権を握る力が失われている事から新型爆弾の開発後にはリベリオンの天下は間違いなく約束されていた。

 

「……まあ、我々一介の軍人が給料を貰っている以上どうこうは言えないが取り合えずプルトニウムを無事に運ぼう」

 

「はい、既に安全海域ですので……?」

 

 プルトニウムの事で嫌な予感を感じていたが、兎に角自身の職務をやり遂げようと改めて思った直後に艦内電話が鳴ったのでジムはそれを取った。

 

「……此方艦橋…」

 

『緊急報告!! 『タイコンデロガ』座礁!!!』

 

「座礁!!? 『タイコンデロガ』が座礁したのか!?」

 

 ジムの言葉を遮って悲鳴に近い形で伝えられた報告に誰もがギョッとした。

 だが実際に急いで右舷に振り向いたら、先程までそこにいた筈の『タイコンデロガ』がいなかった。

 勿論、艦長もその1人であったが、自分を何とか落ち着かせながらジムの電話を奪った。

 

「艦長だ! 此所の水深は数千mはあるんだぞ!

なのに『タイコンデロガ』が座礁したと言うのか!?」

 

『し、しかし、『タイコンデロガ』は間違いなく座礁しています!』

 

 艦長が出た事への驚きが感じられたが、慌てて右舷見張り台に飛び出して確認すると、後ろの方で何処か混乱している様な動きをしている僚艦の駆逐艦群の探照灯に照らさた『タイコンデロガ』は艦首を持ち上げながら右に傾いて停止していた。

 勿論、艦長が『インディアナポリス』の機関を停止させ次いでに司令部を呼びに行かせていたが、なにより『タイコンデロガ』の救出を次々命じていた。

 

「ネウロイだ!! ネウロイが来たぞ!!」

 

「撃て撃て!!!」

 

 艦隊全体で誤報から何所かに向けて主砲や機銃を撃つ者達が多数いたが…

 

「環礁だ!! デカイ環礁が見えるぞ!」

 

「撃つな! ネウロイじゃない!」

 

…当の『タイコンデロガ』の外にいた乗組員達は正体までは分からなかったが自分達の船が乗り上げたのがネウロイではない事(それ以前にネウロイは何故か水と寒さが苦手で渡洋能力が著しく悪い)に気が付いた。

 だがその直後に『タイコンデロガ』が更に傾いた所為で格納庫内のプルトニウム入りの容器が次々に固定鎖を引き千切って岩礁に転がり落ちていった。

 勿論、『タイコンデロガ』では直ちにプルトニウムの回収命令が出されようとしたが、その直前に『タイコンデロガ』が今度は左に………否、元通りに戻り、此の反動で乗組員達の何人かを吹き飛ばしながら左右にゆっくり揺れていた。

 

「戻ったぁ!!?

座礁したんじゃなかったのか!?」

 

『そ、それが環礁の方が自分から潜航して離れて行ったみたいなのです』

 

 通信報告を受けた『インディアナポリス』艦長達もそうだったが、伝える『タイコンデロガ』側も自分達の見て判断した事を疑っているみたいだった。

 だが環礁にプルトニウムが奪われた事に変わりがなく、駆逐艦の何隻かが岩礁への爆雷攻撃を始めていた。

 

「攻撃を止めさせろ!!

仮にもプルトニウムが乗っかっているんだぞ!」

 

 艦長が駆逐艦群の攻撃を止めさせようとしたが、その前に駆逐艦が突然爆雷攻撃を止めた。

 

「どうしたんだ!?」

 

「艦長!! 環礁が潜航しながら当艦の真下を通過しています!」

 

 ジムの報告に艦長がギョッとしながら海面を覗き込んだ。

 そして暗い為に直接は見えなかったが、『インディアナポリス』の真下を巨大な何かが通過しているのを感じた。

 

「…こんな……こんな環礁が…こんな環礁があってたまるか!!」

 

 誰にも気付かれずにリベリオン艦隊を奇襲し、プルトニウムを奪い、今艦隊から離脱しようとしている環礁に艦長が叫んでいた。




 感想・御意見御待ちしています。

 酒飲んだ勢いで作っちゃったけど、以外に少ない怪獣ガメラがメインの二次クロスを作っちゃったけど反応どうかな?
 後『インディアナポリス』と『タイコンデロガ』が選ばれた理由も分かってくれたら嬉しいなぁ………って?


…あのゴジラさん、今本番中なんですけど、何をしに………浮気?
 い、いやだな、そんな事無いですよ。
…だったら“vsモゲラ”の続きをはよ書けt(『放射熱線』直撃)


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第1話 501JFWとリベリオン艦隊

――― アイスランド ―――

 

 

 リベリオンとブリタニアのほぼ中間点に位置するアイスランドは両国を結ぶ重要拠点として機能していたが、大西洋のほぼ真ん中に位置する事もあってネウロイに狙われる可能性は限りなく()であった。

 此の為、現在はブリタニア本土には入りきらない航空機を受け入れる予備の飛行場を兼ねた補給基地として平和な一時が流れていた。

 

「早く走れ!!」

 

「逃げろ!!」

 

 だが雷を伴った豪雨の夜を兵士達が背後の何かに向けて発砲しながら港を目指して全力で走っていた。

 

「あれだ!!

船があったぞ!」

 

 港に着くまでに何割かが消えていたが、停泊していた輸送船を見つけるや直ぐ様そこへ全速力で駆け込んだ。

 

「…っ!? おい、どうした!?」

 

「早く船を出せ!!

船を出してくれ!!」

 

 入港してから響き続けていた銃声もそうだったが、ずぶ濡れの兵士が艦橋に入ってきた事に乗組員達が驚いていたが、当の兵士は必死に出港を願い続けていた。

 

「無茶言うな!」

 

「頼む!!

早く出し……っ!!」

 

 当たり前だが理由も分からず「ハイ、そうです」と言う訳にもいかず、それでも兵士は出港を懇願していたが、突然外から雨音をかき消す程の絶叫が響いた。

 否それだけでなく、何かの金属音が聞こえたら船内からも悲鳴と銃声が響き出していた。

 

「…来た……彼奴等が来た!!」

 

「…おい、此の島で一体何が起こっている!?」

 

 恐怖を感じた乗組員が兵士にアイスランドの現状を訊ねようとしたその直後、艦橋の真上に何かが降り立ったと思われる金属音が響いた。

 

「ネウロイだな、ネウロイが攻めてきたんだな!?」

 

「…違う、アイツは……アイツ等はネウロイじゃない!!」

 

「じゃあ何なん……!?」

 

 そして艦橋の天井が金属が軋む音が鳴った直後…

 

「…と、鳥だ……鳥だぁぁーー!!!」

 

…天井が剥がされ、艦橋にいた者達全員が悲鳴を上げると同時に何かが破壊口から侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― スカパ・フロー ―――

 

 

 秘匿任務が破綻したリベリオン艦隊は座礁事故を起こした『タイコンデロガ』をなんとか引き連れてブリタニア北東部に位置するオークニー諸島の一大軍港であるスカパ・フローに緊急入港していた。

 

「……船底に穴が空いたのに、よくもまぁ此所に辿り着けたもんだねぇ…」

 

 入港後、『インディアナポリス』以下の護衛艦艇が沖合いで停泊しているのに反してドックに入って修理を受けている『タイコンデロガ』と、その『タイコンデロガ』が入渠しているドックに先日まで入っていて現在はドックの前方で停泊している扶桑皇国海軍の空母『赤城』を司令部の壁に凭れながらシャーロット・E・イェーガー(通称シャーリー)は見つめていた。

 尚、『タイコンデロガ』は座礁による船底損傷で機関室と缶室の大半が水没した為、長期ドック入りとなった。

 

「ああ、新兵ばっかりだけど優秀な者達が乗り込んでいたお陰で、なんとか応急修理(ダメージコントロール)で此所まで来れたそうだ」

 

「…流石リベリオン海軍だね」

 

 『インディアナポリス』艦長代理兼リベリオン艦隊司令代理として此の場にいるジムがシャーリーと同じリベリオン人とあるだけでなく同郷の腐れ縁であった事から砕けた説明に彼女はニッと笑った。

 

「…書類に不備は無かった。

『タイコンデロガ』がドック入りしたとは言え、死者が出ずにすんで良かったな」

 

 その間にジム達リベリオン艦隊の書類確認を終えた坂本美緒にジムは頭を下げた。

 

「貴女方、501JFW(第501統合戦闘航空団)が来てくれたからこそです。

リベリオン艦隊を代表して感謝いたします。

特に扶桑の『赤城』には『タイコンデロガ』の曳航をしてもらいましたし」

 

 何故501JFWことストライクウィッチーズのシャーリーと美緒がいるのかと言うと、どうも混乱の中で駆逐艦の1隻が誤って501JFWに救援要請を出したらしく、環礁の離脱後に彼女達がリベリオン艦隊の所に駆け付け、更に遅れて救援に到着した『赤城』以下の扶桑艦隊と共に溺者達の救助や味方の誤射で傷付いた負傷者達の治療を行い、『赤城』が航行不能となった『タイコンデロガ』をスカパ・フローまで牽引したのだった。

 

「だ~けどさぁ~…プルトニウムを無くした事には変んないんだけどね~」

 

 此のお陰で死者行方不明者が全く出ずにすんだのだが、リベリオンがカールスラントから猛抗議を受けるだけでなく、リベリオンの抜け駆け行為が発覚した為に各国から批難が殺到した。

 此の結果、面目を完全に潰されたリベリオンは艦隊司令部及び『タイコンデロガ』上層部だけでなく参加艦艇の艦長達全員までもを更迭した為に一介の中佐(どういう訳だか、リベリオン艦隊が入港して直ぐに昇進)であるジムが上記の肩書きで艦隊の代表として此所にいたのだった。

 因みに此の事で少しややこしい事が起こった為、此の職務をやるべきの501JFWの戦闘隊長であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケが現在連合国軍司令部に赴いていたので、そのミーナの代理として美緒がいたのだ。

 

「分かっています。 だからこそ我々は次の任務に志願しました。

敵討ちとは言い過ぎかもしれはせんが…」

 

「お前達もあの作戦に参加するのか?」

 

 当然ながら人柱ごときで怒りが収まる訳がないリベリオンは大統領命令の下に特別艦隊をただちに編成して環礁の捜索及びプルトニウムの奪還作戦が行う事を決定していた。

 更に面倒臭い事に501JFWにも捜索艦隊に自国民のシャーリーに加えて探索魔法に秀でたミーナかサーニャ・V・リトヴャクのどちらかに一時的編入の要請が出ていてその事に関しての打ち合わせもあって現在ミーナが此の場にいなかったのだ。

 で当然ながら戦闘隊長であるミーナは論外だが、サーニャが外れると夜間哨戒に支障が出るとの事(501JFWにて私情でサーニャの編入拒否、するなら自分も加えろと駄々を捏ねる者が一名いたが…)で反対し、リベリオンの支援物資削減と言う名の脅迫に加えて此れを期に501JFWの力を削ごうとする者達の影響もあって紛糾していた。

 だが少なくともジム達現場の将兵になろうとしている者達のやる気は十分の様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 501JFW基地 ―――

 

 

「…おう、お帰り」

 

「……ただいま…」

 

 連合軍司令部から日が暮れて暫くしてから帰ってきたニーナと彼女に着いていったゲルトルート・バルクホルンを美緒が出迎えたが、美緒が見た範囲ではミーナは疲労が目に見えていたので老け込んd…

 

「……」(拳銃、多数発砲)

 

「…ミーナ、何やってんだ?」

 

「なんでもないわよ、美緒。

なんでもね…」

 

……き、気持ち、窶れて…見えていた……ぐふっ…(作者不慮)

 

「…でどうだった?」

 

「……何とかサーニャさんの引き抜きを諦めてもらったけど、代わりにトゥルーデ(バルクホルン)と宮藤さんには行ってもらう事になったわ」

 

「……シャーリーだけでなく、バルクホルンまでが抜けるのは少し痛いな…」

 

「ああ、全くリベリヤンの石頭どもめ…」

 

……え、え~と、ど、どうやらミーナの疲労は前述の通りに、サーニャが抜ける事からの危険性を上層部に認めさせる為からきていた様だった。(注:作者治療離脱によってナレーション代理・シャーリー)

 最も愛する妹のクリスティアーネ(通称:クリス)に似た芳佳が同行出来る事を内心は頑固で石頭なカールスラントの軍人は…(シャーリーさん、そんな台詞は有りません!)…え~…い~じゃ~ん。

 

「…ニーナ、借りるぞ」(拳銃、多数発砲)

 

……バ、バルクホルン…は…心の片隅で、は…喜んでいた……ぐふ…(シャーリー不慮)

 

「兎に角、私もシャーリーと一緒にリベリオン艦隊の面々と会ってきたが、やはりアイツ等からの話でもかなりリベリオンの上層部が怒り心頭である事は分かったぞ」

 

「ええ、でもそのリベリオンが補給の要である以上、奴等の機嫌を損ねる行為をすると何をされるか分からんぞ」

 

「その事で伝える事があるから、美緒悪いけどシャーリーさんと宮藤さんを呼んできてくれない?」

 

「ああ、分かった」

 

「………しかしナレーションが流れんな」

 

「どうしましょう?

此れじゃあ、先に進めないわ」

 

「…ミーナ、バルクホルン」

 

「「……御免なさい」」

 

……と、取り敢えずナレーション停滞を招いた事への謝罪があるだけでなく、リベリオンへの悪口を言いつつ食堂へと向かう事となった。(シャーリーまで治療離脱の為にナレーション代理の代理・大和)

 

「「「大和!!?

何でまだ出ない船の奴が、しかも関係の無い艦これのキャラが出るんだ!?」」」

 

 そんなの近くを通ろうとしてただけの大和が聞きたいです!!(大和さん、落ち着いて下さい!)

 後、時間が無いので早く移動して下さい!

 

「「「…あ、はい」」」

 

 

 

 

 

 と言う風に少し(?)強引に舞台が変わりましたが、食堂に入ったミーナ達を本日の食事当番であった宮藤芳佳が出迎えた。(代理・大和)

 

「おう、帰ってきたぞ!」

 

 只、問題だったのは厨房にいたのが芳佳ではなくジム以下のリベリオン海軍の将兵達がいたのでミーナ達3人が揃ってギョッとしていた。(代理・大和)

 しかも筋骨粒々の男(筋肉モリモリマッチョマン)達が女性用のエプロンを纏って料理と家事をやっていたのだから尚更であったが、当の本人達に案内されるがままにミーナ達が席に着かされるとジム達はテキパキと料理を並べていった。(代理・大和)

 

「…何をやっているのてすか?」

 

 ウィッチが男性に関わる事に私情もあって冷酷無比なミーナは直ぐ抗議をした。(代理・大和)

 

「ワシントンから501JFWの指揮下でいるようにと通達されましたので、掃除や料理をやらせてもらってます」

 

「ジムさん達のお陰でかなり助かってます」

 

「だからと言ってこう言うのは困ります!」

 

「御言葉ですが扶桑では“働かざる者は食うべからず”との言葉がありますので、それを実行しているだけですので気になさらずに」

 

 元々リベリオンだけでなく欧米人は休暇を求める傾向が強いのに、どちらかと言うと扶桑人に近い思想のジムに美緒だけでなくバルクホルンまでが感心していた……だからと言って「ハルトマンも習って欲しい」と言うのはどうかと思いますよ、バルクホルンさん…(代理・大和)

 因みにジムがこうなのは、彼が幼少期を扶桑で過ごしていたからであった。(代理・大和)

 

「…でしたら長期間の仕事に着いて貰いますよ」

 

「決まりましたか!?」

 

「ええ、明日シャーリーさんだけでなく、此所のトゥルーデと宮藤さんと一緒にリベリオン大西洋艦隊の一部と合流して捜索任務に着くようにと言伝てを貰ってます」

 

 ミーナの通達にジム達が一斉に敬礼した後、非番だった筈なのに何故か包帯を身体の至る所に巻いているシャーリーを筆頭に501JFWの面々(但し夜勤のサーニャはいない)が次々に現れて………ジム達に驚いてはいたが彼等が振る舞うリベリオン料理を楽しんでいた。(代理・大和)




 感想・御意見御待ちしています。

大和
「…こう言う事は二度と起こさないで下さいよ」(怒)

 はい、ナレーションに2度も不手際を起こしてすみませんでした。

大和
「今度はシャーリー達3人が環礁捜索と併合してアイスランドに移るんですよね?」

 はい、原作では姫神島であったのをアイスランドに変えましたが、そこにリネットとペリーヌにもう1人(現時点で最有力なのはハルトマン)が+αと共に行く予定です。
 で先行情報ですが、ガメラ原作での閉じ込め作戦は福岡ドームが使われましたが、本作では『赤城』で行う予定です。

大和
「あ、それで赤城さんが前日から色々鍛練をやっているのですね?」

赤城
「はい、何せ捕獲だけでなく怪獣とやりあう予定ですからね」

 と言う訳で次回をお楽しみに。









芳佳
「…あれ?
“ストライクウィッチーズ対ミステリアン”みたいに、後書きが艦これに乗っ取られてる?」


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第2話 2つの出動

――― 大西洋 ―――

 

 

 501JFWの基地を早朝から出港したジム達はリベリオン本国からの増援と無事に合流を果たしてブリタニアの離れて西進していた。

 

「……しかしまさかシスター・サラが投入されるとはねぇ…」

 

 そして現在、シャーリーとジムはシスター・サラこと世界最大の空母であるレキシントン級空母『サラトガ』の艦橋を飛行甲板のほぼ中央部分で見上げていた。

 只、同世代に当たる扶桑の『赤城』が姉妹艦の『天城』共々未だに第一線にいるのに反して、此の『サラトガ』は老朽化だけでなくエセックス級空母の大量竣工(更には近々エセックス級処か、レキシントン級さえ超えるミッドウェー級空母が順次竣工していく予定、更にミッドウェー級をも超える大型空母群も建造開始)した事から練習艦(扶桑で言えば『鳳翔』と同じ扱い)となっていた。

 現に此の『サラトガ』の艦長に中佐のジムが就いた事から、嘗てはコロラド級やテネシー級の戦艦群(ビッグ5)と共に愛し親しまれた此の船がどんな扱いであるかがよく分かった。

 因みに『サラトガ』の姉妹艦である『レキシントン』(レディ・レックス)は現在も太平洋で活動し、何故か変態艦長の事で少し有名になっていた。

 

「それにしても精鋭艦隊とは聞いて呆れるな…」

 

 しかもジムが言う通り、『インディアナポリス』以下の護衛艦艇以外はオハマ級軽巡洋艦、ファラガット級やポーター級にマハン級、グリッドレイ級、バッグレイ級駆逐艦等、いずれも近海警備や船団護衛しか出来ない旧式艦艇(ボロ船)であり、更に別動隊群にいたってはどれもがカリブ海での訓練途上のを無理矢理引き抜いたエセックス級空母やフレッチャー級とアレン・M・サムナー級駆逐艦で編成された新兵艦隊であったのだから…

 

「まっ、此れが此の船の最後の御奉公になるかもしれないって事だから盛大な花道を用意してやらんとな」

 

 此の任務後に『サラトガ』はエセックス級やミッドウェー級の建造資材として解体される公算が大である事を伝えられていたジムは艦橋の前後に背負い式に配備された20cm連装砲4基に目線を移した。

 因みにこの20cm連装砲は当初は12.7cm連装両用砲に改装していたのだが、今回の任務の為にわざわざ外されて倉庫の片隅で埃を被っていた物に再改装されたのだ。

 勿論、最悪の場合は環礁をこの20cm連装砲で吹き飛ばしてやろうとの上層部の目論みから来ていて、対空火器が貧弱で上空を高速で飛び回るネウロイには役立たずのグリッドレイ級とバッグレイ級のリベリオン艦屈指の重雷装駆逐艦が投入された事にも繋がっていた。

 

「ジムさん、シャーリーさん、そろそろ打ち合わせをしたいので来て欲しいそうです」

 

「ああ、すまん」

 

 自分達を呼んだ芳佳に続いてジムとシャーリーは直ぐ艦橋に上がった。

 

「…環礁の動きが分かったのか?」

 

 航海艦橋に着くや、ジムは敬礼して出迎えた部下達に報告を求めた。

 

「環礁は浮上して海流に流されているらしく、漁船を初めとしたブリタニアの艦船だけでなく西欧諸国のモノからもかなり情報が入っています」

 

「それ等に加えて潮の流れを測定した結果、大体此の円内部に存在していると思われます」

 

「……おい、此れ結構な範囲だぞ」

 

 航海長がブリタニアからかなり離れた大西洋にコンパスを用いて円を描いたが、かなりの大きさだった為にバルクホルンが思わず文句を言った。

 

「…この海域は……『タイタニック』が沈んだ海域も入ってますよね?」

 

 更に兵卒の1人が円の中に『タイタニック』沈没地点が入っている事に気づいたが、でしゃばった為に上官から怒られていた。

 

「『タイタニック』って、30年前に氷山にぶつかって沈んだ豪華客船ですよね?」

 

「ああ、そうだよ。

だがな、『タイタニック』にはちょっと面白い噂があるんだ」

 

「リベリアン!!」

 

 芳佳の質問に答えたシャーリーだったが、余計な事を言おうとした為に露骨に顔をしかめたバルクホルンに怒鳴られた。

 

「『タイタニック』に何があったのです?」

 

「……『タイタニック』が沈んだ時、多くの乗客が真冬の海に投げ出された上、救命ボート群が怖じ気づいて救援に向かうのが大遅れをした為に大半が凍死したんだ。

処が、何人かの子供とその親達は環礁によじ登っていたお陰で凍死を免れたんだって噂が有るんだよ。

しかもその環礁は子供達がボートに乗り移った直後に沈んだ」

 

 現存(・・)する世界最古の『タイタニック』沈没を描いた作品“夜と氷の中で”がカールスラント製であった事からか、えらく詳しかったバルクホルンの溜め息を吐いてからの説明に芳佳は納得した様だった。

 因みに、同コンセプトに“夜と氷の中で”より僅差で早いリベリオン製の“Saved from the Titanic”が存在するが、残念ながらこの作品はフィルムが散逸状態となっていた。

 

「しかもその環礁から何かの生物らしい鳴き声が聞こえたそうだ」

 

「今回のと『タイタニック』のとの関係も疑われるが、答えがどうであれ、害を及ぼす存在であればネウロイ同様に撃退するだけだ」

 

 シャーリーの補足に続いてのジム言葉に芳佳以外の全員が一斉に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 501JFW基地 ―――

 

 

「……警察の方々が何のご用で?」

 

 芳佳達が大西洋にて活動を始めていたのとほぼ同時刻、501JFWの基地にて新人ウィッチの1人であるリネット・ビショップを求めてスコットヤードの面々と言う珍客が訪れていた。

 

「アイスランドが音信不通である事はご存知ですよね?」

 

「ええ、その事で先日から私の兄が部隊を率いて調査に向かったのですが…」

 

 刑事の質問に答えたリネットだったが、彼女なりに何か嫌な予感を感じている様だった。

 

「もしかして兄さんの身に何かあったのですか!?」

 

「…それがよく分からないのです」

 

「分からない?

分からないと言うのですか!?」

 

 兄の身を案じたリネットの質問に答えられなかった刑事達に、此の場に同席していたミーナが怒鳴った。

 

「いや、基地や島民にアイスランドに入港した艦船からは通信がある事はあるのですが、どれもが“鳥”“鳥だ”としか…」

 

「……鳥…ですか?」

 

 汗を拭いながらの刑事達の報告に、彼等の許容範囲を超える何かがアイスランドで起こっている事はミーナ達にも察する事は出来ていた。

 

「…リベリオンには知らせたのですか?」

 

「ええ、ですがリベリオン処か連合軍はネウロイで手一杯でして門前払いを受けてしまいまして…」

 

「だから貴女方にお願いにまいったのです」

 

 元々ネウロイ戦勃発後に占領した事からアイスランドはリベリオンが防衛を行うのだが、明らかにネウロイを免罪符にした厄介払いが行われていた事を察し、しかもその張本人だと簡単に予測出来る、とある空軍大将の顔をニーナは思い浮かべていた。

 だが501JFWもネウロイで手一杯である上、主力の2人(+α)が不在である事から正直な処は余り余計な事に関わりたくないのがミーナの本音であった。

 

「………」

 

 最も警察官達の必死の訴えに加えて、なにより兄の身を案じているリネットが行きたそうにソワソワしている事から、返事を表す大きな溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― アイスランド ―――

 

 

 警察達来訪から数日後、ネウロイ襲来が暫く無いとの予測もあって、結局折れたミーナの命によって501JFWからリネット、美緒、エイラ・イマルタル・ユーティライネン、ペリーヌ・クロステルマンの4名が空母『赤城』以下の扶桑艦隊の協力下でアイスランドに派遣されていた。

 只、基地を空にしない為の人選だったが、エイラは基地残留のサーニャ・V・リトヴャクを連れてけと駄々を捏ね、美緒の同行を望んだペリーヌが無理矢理着いて、拒絶されたがフランチェスカ・ルッキーニが行きたいと言った為にミーナに変な頭痛が起こっていた。

 だがアイスランド基地のあるレイキャビクに到着する前に海上で多数の艦船が無人となって漂流、中には浅瀬に座礁している光景に早くも不吉な予感を感じさせた。

 そして沖合いで待機している『赤城』に残留している美緒以外の501JFWの面々が辿り着いたレイキャビクの基地は破壊の限りを尽くされて、人処か犬や猫すらいないゴーストタウンならぬゴーストベースとなっているのが確認出来た。

 

「この島で何が起こってんだよ!?」

 

「分かりません。

生存者処か遺体すら見つからないんです」

 

 残骸と化している航空機群だらけの飛行場に先行上陸した警察と扶桑陸戦隊の誘導で着陸したリネット達だったが、ストライカーユニットを脱ぐと直ぐ様陸戦隊員を捕まえていた。

 だが彼等陸戦隊も現状を理解しておらず、現在も基地の遠くで生存者捜索の為のモノと思われる呼び掛けが多数聞こえていた。

 

「…此の基地に何人ぐらいが駐留していたのですか!?」

 

「少なくとも数千人は…」

 

「それが全員行方不明になったのですか!?」

 

「はい、しかも近くの町村の住民達も姿を消しているらしいのです」

 

「ありえません!!

こんなのが出来るのはネウロイ以外で考えられるのは人間しかいません!」

 

 基地の現状にリネットとエイラが顔面蒼白になって早くも来た事を後悔していたが、若手ながら一部を野沿いてしっかりしているペリーヌが質問して、その返事に3人揃ってゾッとしていた。

 

「…此れ等は……ネウロイの仕業…じゃないな」

 

「ええ、ネウロイはビーム主体だから、こんな壊され方はしませんから…」

 

「それに火災も起きた形跡がありませんし…」

 

 早速生存者と犯人の捜索を始めたエイラ達は、基地の破壊痕から真っ先に犯人と思われたネウロイだとの予測が外れていると判断した。

 

「それに“鳥”の単語が全く分かりませんね」

 

「ああ、ネウロイは基本兵器みたいな形ばかりだし、偶に陸上型で節足動物型はいるけど…」

 

「鳥型は確認されていませんから…」

 

「って事は気になるのが鳥だな………どうしたリーネ?」

 

 全く予測出来ないでいるペリーヌ達だったが、倉庫群の1つの影で何かを見つけて駆け寄っていた。

 

「…何だよ、此れ!?」

 

 それは白くドロドロした山型の物体であり、凄まじい悪臭を放っているだけでなく数多の虫達が寄って集っていた。

 

「…糞なのか?」

 

「…いえ、ペレット…未消化物の塊みたいですね」

 

「はい」

 

 エイラが距離を取っていたが、此の物体に手掛かりがあると判断したリネットが倉庫の中にある手袋を見つけ、更にリネットに同感のペリーヌも続いて物体に手を突っ込み……見るからに不快感を表情に出しながら調べていた。

 

「……っ!?」

 

「リーネさん?」

 

「どうしたんだよ?」

 

 でリネットが物体から何かを取り出すと、それを見つめながら硬直した為、ペリーヌとエイラがキョトンとしていた。

 少し間を置いてリネットは両手を開いて取り出した物を2人に見せた。

 

「……ペン?」

 

「…中々良さそうな万年筆ですけど、これが何か?」

 

「……兄さんのです。

此のペンは………兄さんの万年筆です!!」

 

「なんですって!!?」

 

「それじゃ、コイツは……人間、リーネの兄貴の成れの果てだって言うのか!?」

 

 リネットの報告に叫んでしまったペリーヌとエイラは暫く物体を見つめながら硬直していた。

 だがその物体からベルトの止め金と思われる金属体が流れ落ちていた…




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第3話 夢見るバルクホルン

――― ????? ―――

 

 

「…此所は……私は『サラトガ』にいた筈…っ!?」

 

 少しの間自分の状況を分からずにいたバルクホルンだったが、足下から爆発音が聞こえた事から正気に戻り、今いる街が多数のネウロイの攻撃で至る所で火災と爆発が起きていて、その中を人々が阿鼻叫喚を上げながら逃げ回っていた。

 勿論、人間側も黙ってやられている訳ではなく、カールスラント空軍(ルフトバッフェ)の主力戦闘機Bf109の編隊だけでなく、本来は空軍とあまり仲が良いと言えない陸軍(どちらかと言えば空軍側に原因があるが…)の高射砲隊が援護射撃を行い、バルクホルンの同僚のウィッチ達も戦闘機を模した現代の魔女の箒であるストライカーユニットを両足に装着してネウロイの迎撃に当たっていた。

 だが元々魔法力が無いと倒す事が極めて困難なネウロイが今回は多数おり…

 

『駄目だ! 逃げ切r…』

 

『隊長がやられました!

誰か救援を…うぎ!?』

 

…左耳のインカムからは戦闘員達の悲鳴しか聞こえてこない通り、戦闘不能となっているウィッチが少なからずおり、正規軍に至ってはBf109群や高射砲隊が早くも壊滅寸前になっていた。

その為、ネウロイの一部は逃げ回っている民間人へ攻撃目標を変えていた。

 

「まさか…」

 

 そしてバルクホルンは此の場所、此の時がカールスラント撤退時に起き……現在も彼女自身を苦しめる悪しき出来事が起こった街である事を理解した。

 

「……っ!」

 

 現にバルクホルンが辺り一帯を見渡すと…

 

「…走れ!!

走れ、クリス!!」

 

…逃げている一団の中に妹のクリスことクリスティアーネ・バルクホルンが父に押されながら走っていた。

 

「クリス! 父さん!」

 

「クリス、走るんだ!」

 

 疲労から泣きかけているクリスを父が必死に励ましていた。

 

「逃げ切れたら、新しい服を買ってやるからな!」

 

「うぅ…」

 

「人形も沢山買ってやるぞ!

ケーキも食べ放題だ!」

 

 周囲の人達の一部がネウロイのビーム攻撃や、そのビーム攻撃で落ちてくる瓦礫に殺られるのが多々あるのを、父がクリスの目に入らない様にしていた。

 

「…っ! 不味い!!」

 

「その代わりギブアップしたら暫く飯抜きだぞ……っ!?」

 

 何かを感じたのか、不意に背後を振り向いた父が、ネウロイの一体が向きを変えて自分達の方に向かってきたのに気づいた。

 しかもネウロイが自分達目掛けてビームを放とうとしていた。

 

「…糞ぉぉー!!!」

 

 当然、父と妹を助けようとバルクホルンは急行したが、ネウロイが先端部を赤く光輝かせ……ビームを発射しようとした。

 

「…ダッシュ!!」

 

 自分が助からないと瞬時に判断した父は、せめてもクリスだけは助けようと彼女の背中を思いっきり突き飛ばした。

 

「ファーター!?」

 

「走れ、クリs…」

 

父の突然の行為に驚きながらよろめいたクリスが背後の父の方に振り向いた直後、その父がネウロイのビームによって後続の人達諸共蒸発した!

 

「父さん、父さぁーん!!」

 

「……ファーター…」

 

 目の前で父を見てしまったクリスが父の死に場所となった所の黒い染みの前で踞って泣いていた。

 だが此の行為が幸いして、ネウロイがクリスの真上を過ぎて、先を行く人達に攻撃を始めたお陰で、彼女は難を逃れる事で出来た。

 だが後方でネウロイ独特の不気味な呻き声が聞こえたと思ったら、別のネウロイが二体も向かってきていた。

 此のネウロイ達に気づいたクリスは父の最後の言葉を思い出して、直ぐに立ち上がって泣きながら走り出した。

 

「クリス!」

 

「…お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

 

 当然、バルクホルンは両手の機関銃を先頭のネウロイ目掛けて射ちながらクリスに向かった。

 だかバルクホルンの銃撃はネウロイの表面こそ破壊出来てはいたが、ネウロイの急所であるコアを捉えていない為に直ぐに再生しながら、ビーム発射体制に入ろうとしていた。

 その為、バルクホルンは撃破は無理だとしてもクリスの楯になろうと飛ばしていたが、何処かのウィッチのモノと思われる砲撃(直後に此のウィッチのモノと思われる悲鳴が聞こえたが…)が上方から翔んできて先頭のネウロイを真っ二つに引き裂いた。

 

「…っ!?」

 

 此の出来事に、後方のネウロイに狙いを変えるか、クリス保護を優先しようかと迷ったバルクホルンだったが、先頭のネウロイは前部を消失してコアを剥き出しにしながらクリス目掛けて飛んできていた。

 しかもネウロイがビームを放とうとしていたが、バルクホルンの動きが僅かに遅れてしまった。

 

「…っ!?」

 

「ああ!!」

 

 だが突然、クリスの右側の建物が破壊されたと思ったら、何故かボロボロの別のネウロイと先頭のが衝突して二体共に破壊され………しつこい事に後方のネウロイが仲間(?)の残骸で自分自身が傷付く事を気にせずにクリス目掛けて突進してきたが、そのネウロイも真上から落下してきた何かに潰されてしまった。

 だが後者の余波で、吹き飛ばされたクリスが半ば転がって姉の所に来て、そのバルクホルンも機関銃を二丁とも捨てながら妹を抱き止めた。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」

 

 姉に抱きついた事で安心したからのか、クリスは泣きじゃくっていた。

 

「…あ、ああ……無事で良かった」

 

 バルクホルンもそんなクリスの頭を優しく撫でていたが、違和感を感じていた。

 

(…違う……あの時、私はクリスを守れなかった)

 

 此れが夢だと自覚し始めていたバルクホルンの経験では、クリスに襲い掛かったネウロイはギリギリの処で自分が撃破したが、そのネウロイが砕けた欠片の一つがクリスに直撃して、ある意味彼女自身がクリスを傷つけてしまったのだ。

 その為にクリスは現在も昏睡状態であり、バルクホルンは妹の医療費として自分の給料を全額注ぎ込んでいた。

 

「「……っ!?」」

 

 だが先程のネウロイが、しつこい事に呻き声を上げながら這い出ようとしていた事に気づき、より強く抱き付いたクリスを抱えたバルクホルンも、直ぐ近くの機関銃の一方を拾って身構えたが、ネウロイの真上の何か……否、巨大な右足が体の大半諸共コアを踏み抜き、ネウロイが消失した後も直下の地面を踏みにじっていた。

 此の出来事にバルクホルンとクリスが呆然と右足を見つめていたが、今度は二人の直ぐ脇に垣と一瞬勘違いてしてしまう程の巨大で長い尻尾がゆっくりと下りた。

 

「……何だ、コイツは?」

 

 クリスと共に目の前の右足と尻尾の主を見上げたバルクホルンだったが、生物感がある手足に反して岩とも装甲とも思える、見るからに強固な背中を見て、首に傷みを感じる程の巨体である主は、彼女が知る実在・空想問わずに見た事のない巨大生物……否、もはや怪獣と言うべき存在であった。

 そして此の怪獣からあらゆるネウロイと比較出来ない強大な力を感じ取れたが、何故か拒絶反応や恐怖を感じられず、逆に信頼感や安心感らしいモノを感じ取れ、どうもクリスも見た処、バルクホルンと同じ様であった。

 だが混乱しているバルクホルンに反して、絶滅したサーベルタイガーを連想させる牙を生やし、巨体の割りに比較的小さい顔を上げた怪獣は唸り声を上げて前上方の空を睨んでいた。

 

「…あ!?」

 

 怪獣の存在に忘れかけていたが、現在此所は戦場であり、怪獣が撃退した三体以外にネウロイはまだまだ多数いるのを思い出したバルクホルンだったが、ネウロイ側も此の怪獣を脅威と判断して総掛かりで押し寄せて来ていた。

 だが問題はその数で、歴戦のバルクホルンでさえ血の気が引く程の大多数であった。

 

「…っ!?」

 

「迎え撃つ気か!?」

 

 だが怪獣は僅かに伏せた後、上半身を後ろにゆっくり反らしながら大きく息を吸い込み始め、此の余波で残骸が大小問わずに吹き飛ぶ嵐級の大風が吹き……クリスを抱えていると言え、バルクホルンがストライカーユニットの出力を全開にして必死に耐えていなくてはならない程のモノであったが、怪獣は右足と尻尾を使って二人を守っていた。

 そして不意に怪獣が息を止め、ほぼ同時に大風も止んだ後、怪獣が攻撃体勢の最終段階に入ろうとしていたのを察したネウロイ達も、迎え撃とうと一斉にビームの充填を始めた為に空が不気味に赤く光っていた。

 

「…!? クリス!!」

 

 顔を上げてネウロイ達を睨んでいる怪獣の僅かに開いた口から、火の粉を含んだ白煙が出たのを見たバルクホルンがクリスの上に被さりながら伏せた直後、頭を激しく揺らした怪獣が特大の炎を爆音と熱波と共に吐き出した。

 ネウロイ達も遅れてビームの一斉射撃を行ったが、それ等は怪獣の炎に打ち負けるだけでなく、ネウロイ達もその炎に飲み込まれ……悲鳴とも絶叫とも思える呻き声を上げながら表面が沸騰するかの様に泡立って焼失していき、剥き出しとなったコア諸共一斉に破壊された。

 

「……うぁ…凄い…」

 

「……あれだけのネウロイが………唯の一撃で…」

 

 落ち着いたのが感じられ、クリス共々立ち上がったバルクホルンは、ネウロイ達が蒸発するだけでなく、射線上の建築物群までが消し飛んで地平線の彼方まで伸びていそうな更地が出来ている光景に呆然としていた。

 だが怪獣は数歩前進すると、勝利の雄叫びとも「二度と来るな!!」と言わんばかりのモノとも思える特大の咆哮を天上へと上げた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― サラトガ ―――

 

 

「……さん……ルンさん…」

 

「……?」

 

「…バルクホルンさん!」

 

「…っ! クリ、いや、宮藤か」

 

 目を覚ましたバルクホルンは少し寝ぼけてクリスと勘違いしたが、芳佳が体を揺らして起こそうとしている事に気づいた。

 らしさがあまり無いとは言え、軍人である以上は芳佳が何の為にやったのかをバルクホルンは何となく察した。

 只、素っ裸で寝ていたとは言え、芳佳の口から涎が僅かに垂れているのが気になっていたが……寝起き直後に彼女の両手が気になる動きをしていたし…

 

「…何があった?」

 

「先程、別動隊から例の環礁を発見したとの一報が入ったんです」

 

 芳佳の言う通りなのだろう、夕焼けで赤くなり始めている窓の外を見て、『サラトガ』が最大速度で走っているのが分かり、なにより部屋の外で乗組員達が叫びながら走り回っていた。

 

「着替えたら直ぐに行く。

先に艦橋に行ってくれ」

 

 芳佳が「はい!」と答えて直ぐ艦橋へと向かったが、その芳佳(元々クリスにそっくり)が退室直前にクリスと重なって見えた。

 

「……何故、今さらあの夢が形を変えて見たんだ?」

 

 直ぐ着替え始めたバルクホルンだったが、先程の夢がどうしても頭から離れなれかった為に動きが遅かった。

 更に着替え終えても窓の外を見つめていて艦橋に行こうとしていなかったが、『サラトガ』が減速を始めたのを感じると慌てて部屋から飛び出して艦橋へと走った。

 

「…よう、えらく遅かったじゃないか」

 

 で艦橋に着いて早々にシャーリーに笑われながら茶化されたが、普段なら言い返す処のバルクホルンが一瞬睨むもそのまま無視した為、シャーリーが逆に驚き戸惑っていた。

 

「…環礁まで後どれくらいなんだ?」

 

 バルクホルンの質問にジムが答えようとしたが…

 

「レーダーに感!!

友軍艦隊と環礁と思われます!」

 

「見張り所より前方にエセックス級空母と多数のフレッチャー級駆逐艦を確認した模様です!」

 

…その前に報告がもたらされ、環礁までもう間も無くである事が分かった。

 

「…総員戦闘配置!

艦載機、発進準備!」

 

 ジムの号令下、『サラトガ』や僚艦群が砲撃体勢に入ろうとし、更に『サラトガ』ではアヴェンジャー攻撃機が三基のエレベーターで格納庫から次々に上がって甲板上で暖気が始まり、その内の先頭の二機が艦首の射出機(カタパルト)に乗せられていたが、環礁その物は双眼鏡が無い者達には全く見えず、501JFWの場合は此所にいない美緒ならば彼女の固有魔法の『魔眼』で見る事が出来たかもしれないが、残念だが美緒をいない上にバルクホルン達三人にも見えなかった。

 最もそうこうしている間に水平線の彼方の目的のモノが序々に見え始め……主砲(両用砲)や魚雷だけでなく、役に立つか怪しい機銃さえも向けたリベリオン艦隊が包囲している中、防護服を纏った一団が環礁に上陸して調査を行っていた。




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バルクホルン
「…此れ、ある意味サブタイ詐欺だよな?」

 でも嘘はついてませんよ。
 さあ皆さん、いよいよ次回ギャオス登場です。


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第4話 怪鳥、飛翔す

――― アイスランド ―――

 

 

 ロンドン警察や扶桑陸戦隊の協力下に、ペリーヌ達3人によるレイキャビク基地及び周辺町村の生存者捜索が休み無く行われていたのだが、生存者処か遺体すら見つける事が出来ずに日暮れを迎えようとしていた。

 

「……リーネェ~…もう帰ろう…」

 

 だが、兄の成れの果てを見つけてからリネットが、生存者より犯人捜索に動き回っていた為、他の者達も引きずられて、とうとうエイラが音を上げていた。

 

「間も無く日暮れです。

今日は『赤城』に戻りましょう」

 

 更にリネットに同調していたペリーヌも、流石に時間的理由でエイラに賛同したが、当のリネットはと言うと、彼女らしくなく不満を露にして空の彼方を見つめていたが、突然ハッとした。

 

「……もしかしたら、夜行性なのかも?

だから昼間は姿を眩ましていたのかもしれない」

 

「だ、だったら尚更『赤城』に戻った方がいい!

録な装備が無いんだからな」

 

 リネットの予測にペリーヌが驚きながら同感としていたが、エイラや警察官達は顔を青くしていた。

 

「…せめて……せめて、一目だけでも見たいんです」

 

 自分でも我が儘な意見だとリネットは自覚し、更にそれが万に一つも叶わない事だと思っていた。

 だが不意に妙に冷たい風が吹いた後…

 

「「「……っ!?」」」

 

…何処か不気味な生物の咆哮が聞こえ……少しした後にリネット達の頭上を鳥の様な大型生物(以降は暫定的に“鳥”と呼称)が翔び去っていった。

 

「…リ、リーネさん、い、今の見ました!?」

 

「はい、アレがそうなんですよ!」

 

 どう考えても此の惨劇を作ったとしか思えない鳥を見て、少し混乱しているペリーヌがリネットに寄ってきたが、そのリネットは自分自身でも内心驚いている程に冷静であった。

 

「だとしたら…もう私達の任務じゃない…」

 

…此所では年長者ウィッチの筈のエイラは鳥の咆哮と姿に驚いて尻餅を着いてヘタレていたが、そんなエイラを何処か冷たい目線で見つめている警察官達も、彼女とほぼ同じ体勢であったのだから人の事は言えない。

 

「…っ! 何所に行く気だよ!?」

 

「ストライカーユニットの所です!

あの鳥を追いかけないと!」

 

 だがエイラが『赤城』の美緒に連絡を取ろうとしていたが、リネットが走った事に気づいて呼び止めたが、そのリネットの返事にギョッとした。

 

「何言ってんだよ!?」

 

「きっとあの鳥は餌を求めて飛び立ったんです!」

 

「無茶だ!

私達が食われる!」

 

「ですが、あの大きさに加えて此の現状から、あの鳥は人間を食べるんですよ!

ほおっておいたら、まだまだ犠牲者は出ますよ!」

 

 リネットだけでなくペリーヌ(表情が少し嫌そうだったが)も追跡すべきとの意見にエイラも嫌々ながら続いた。

 最も飛行場に戻ってストライカーユニットを履いて飛び立つ迄にかなり時間が掛かったが、幸いな事に雲が全く無い夕焼けで赤い空で南に向かって飛んでいる巨体の鳥を見失う事はなかった。

 

『…は? 鳥?』

 

 で、此の間にエイラが『赤城』の美緒に連絡を取っていたが、彼女の報告を美緒は疑っていた。

 

「…ただの鳥じゃない!

翼長が……だいたい15mもあるんだ!」

 

「アレは鳥なんかじゃありません!

私達が追っている鳥には羽毛が無くて、牙があるんです!

こんな鳥は存在しえません!」

 

 そんな美緒になんとか説明しているエイラに、異様に美緒を慕っているペリーヌまでが、血相を変えての報告してきた事に美緒が少し驚いている様だった。

 

『……だがな、信じられんぞ。

お前等を含めて……その鳥ってのが、電探に映っているらしんだが…』

 

「電探……って、レーダー?」

 

「兎に角!! 周辺海域に警戒を促して下さい!

此の鳥は人間を捕食するんです!」

 

 リネットの絶叫しながらの要請に美緒も、やっと事の重大さを理解した様だったが、リネットの「あ!!」との不意の叫びに驚いていた。

 何故かと言うと、前方の鳥が降下しだし、嫌な予感を感じながら鳥の向かう先をよく見たら、ブリタニアのと思われる遠洋漁業船団がいたからだ。

 

「……っ!」

 

「やるのかよ!?」

 

 リネットがライフルの弾を装填したのを見たエイラが、まだ怖じ気づいている様だった。

 

「やらないと、あの人達がやられます」

 

「だがな」

 

「リーネさん、行きますよ」

 

 引き吊った表情をしているペリーヌが、エイラに冷たい目線を少し向けた後、リネットに続いて銃を身構えると、リネットと共に速度を上げて鳥を追いかけ、それにエイラも嫌々続いた。

 

「…リーネさん、出来ますか?」

 

「……駄目です。

速すぎる」

 

「間に合わね!!」

 

 リネット達が追い付けない事に焦っている間に、鳥は遠洋漁業船団の前方の1隻に狙いを付けていた。

 

「……ん? 何だ?」

 

 その船の船首で作業をしていた男性が、自分達に近づいてきている鳥に気づいた。

 

「……うあぁ!!!」

 

 男性はなんの気なしに鳥を見つめていたが、その鳥の口が開けているのに気づいて、慌てて逃げようとした直後、頭から鳥に食べられてしまった!

 男性の悲鳴に加えて、突然の突風が吹いた後、仲間達が気づいて、船首に出てきて男性を探していたが、男性の左足が血を撒き散らして操舵室の壁にぶつかって落下したのを見て一斉に悲鳴を上げた。

 

「何をやってんだ!

早く中に逃げろ!」

 

 男性が鳥に食べられるのを目撃した他の船の者達が叫んでいたが、男性を飲み込んだ鳥は旋回して、今度はその叫んでいる者達の船を目掛けて鳥が近づいてきていた。

 勿論、鳥に狙われた船の者達は慌てて船内に逃げ込もうとし、最後尾の者に鳥が襲おうとした直前にリネットの銃弾が飛んできて、鳥が変な鳴き声を出して避けた為に難を逃れた。

 

「……間に合わなかった…」

 

 鳥への銃撃を続けるリネットは犠牲者が出た事に加えて、自分の銃撃が外れている事に悔しそうにしていた。

 

「ですが、アイツが犯人である確証は得られました」

 

「あわわ…」

 

 なんとか鳥を遠洋漁業船団から引き剥がせたが、リネットの銃撃を避けながら上昇していた鳥は、どうやらリネット達の存在に気付いて、急旋回をすると彼女達に向かってきた。

 

「…当たらない!」

 

 不味い事に鳥は奇襲となった初弾と違って、リネットの銃撃を悉く避け続け…

 

「来ました!!」

 

「来るな!!」

 

…更にペリーヌとエイラも射程内に入ったので、機関銃を撃ちを始めたのだが、それ等さえも鳥は体を捻るだけの必要最小限の動きで避けながら彼女3人に接近していた。

 

「ひぃ!!!」

 

「…っ! リーネさん!?」

 

 距離的に危なくなってエイラが何か変な小声を上げて退避し、ペリーヌも続こうとしたが、リネットが全くその素振りをしないのに気付いた。

 

「リーネさん、何をやっているのですか!?」

 

「……っ!」

 

 当然、ペリーヌは直ぐにリネットに駆け寄ったが、当のリネットは彼女を無視して鳥への銃撃を続けていた。

 

「リーネさん!!!」

 

「…兄の……兄さんの仇です!」

 

 リネットをなんとか引っ張ってでも退避させようとしたペリーヌであったが、リネットの呟きから彼女が復讐心で冷静な判断力が失われている事を察した。

 更にペリーヌが見た処、リネットは自分自身をも見失っている様で、鳥に避けられ続けていると言え、彼女の弾道が明らかに乱れていた。

 

「リーネ、ペリーヌ、逃げろ!!!」

 

 援護射撃をしてはいたが、えらく遠くにいるエイラが二人に叫んでいたが、ペリーヌの行為に反してリネットが全く動こうとせずにいる間に、涎を派手に撒き散らしながら咆哮した鳥と接触しようとしていた。

 

「……っ!」

 

「…ふえ!?」

 

 だがその直前にペリーヌがリネットから照明弾を奪って前方に投げると、照明弾を撃ち抜いて発光させた。

 此の照明弾に鳥が悲鳴を上げてフラつきながら失速するも2人をまだ狙っていた。

 

「…『トネール』!!!」

 

 照明弾では効果不足だと瞬時に判断したペリーヌが前に出て、固有魔法である雷遁を発動……本来は魔法力を雷に変換して放出して攻撃するモノなのだが、今回はそうせずに必要以上に発光した為、目が眩んだ鳥が悲鳴を上げながら直ぐ脇を過ぎていった。

 

「…っ! そうか、夜行性だから!」

 

 ペリーヌとリネットから逃げた事に驚いたエイラは、その理由を理解して直ぐにペリーヌと同じ様に照明弾を使って、未練がましく自分に近付こうとしていた鳥を追い払った。

 そして鳥が自分達の所に戻ってこない事を確信したペリーヌはリネットの左頬をおもいっきり張たいた。

 

「何をやっているのですか!?」

 

「……すみません…」

 

「分かっているのですか!?

死んでしまっては、仇も元も無いんですよ!」

 

 どうやらペリーヌのビンタでリネットは正気に戻ったみたいで、暫くペリーヌから目線を逸らしていた。

 況してやペリーヌはガリア脱出時に目の前で両親が死んだ壮絶な過去の持ち主なのだったから、余計に重みが感じられた。

 

「ペリーヌゥ~!! リーネェ~!!

早く此方に来てぇぇー!!!」

 

 でその間、鳥は何故かエイラを追いかけ回し、エイラが照明弾を使いながら必死に逃げ回り、ふらつきながらの鳥の突進を悉く避けているのは流石の一言だが、半ば泣き顔になっていて先輩の威厳が殆ど失われていてた。

 勿論、ペリーヌとリネットは直ぐエイラの救援に向かおうとしたが、その直前に鳥は何かに気付いて急に離れていった。

 

「…おぉ~い!!!」

 

「…っ!?」

 

「少佐!!」

 

「助かった!」

 

 どうやら美緒がシーファイアとF6Fの戦闘機隊を引き連れて来たのが原因の様だった。

 因みにシーファイアとF6Fの2種類の戦闘機だが、『赤城』がブリタニア回航時にネウロイとの遭遇戦(芳佳の初陣)で本来の搭載機の九六艦戦と零戦を全て失った為、ブリタニアからシーファイアを支給され、更に大破した『タイコンデロガ』の予備に搭載していたF6Fを拝借していたのだった。

 まぁ、戦闘機がどうであれ、シーファイア群は遠洋漁業船団の上空で展開し、F6F群は鳥を無理せずに追撃して、当の鳥もエイラ達に未練さを感じさせながら退いていた。

 

「ペリーヌ、アイツがそうなのか?」

 

「…はい……アイツ、見た目以上に狂暴です」

 

 美緒は自分なりに鳥の危険度を察していたが、報告するペリーヌも現実を受け入れる事への拒絶反応が顔に出ていた。

 

「…ですけど、状況はもっと不味いかもしれませんよ」

 

「……どう言う事だ!?」

 

 リネットの指摘を理解出来ないでいた美緒達だったが、リネットが指し示した方角を見て3人揃ってギョッとした。

 何故なら、アイスランドの上空には自分達が追い掛けていた鳥の他にも5頭もおり、計6頭の鳥達は咆哮し合いながら旋回していた。

 F6F群も鳥達を警戒して遠方で旋回しながら待機していた。

 

「なんで分かったんだよ?」

 

「被害者の数が多すぎましたし、なにより生物学的に一頭だけとは思っていませんでしたから」

 

 エイラの質問からリネットは鳥に仲間がいる事を早い段階で予測していた様で、エイラとペリーヌが驚いて美緒は関心していた。

 

「……戦艦を呼び寄せる必要があるな。

それも1個戦隊分をだな…」

 

 顔を引き吊らせる美緒の意見にリネット達は黙って頷いた。




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第5話 環礁の金属

――― サラトガ ―――

 

 

 リネット達が上層部を巻き込んで鳥群への対応策を練る事に追われていた夜間、環礁捜索艦隊に参加していたバルクホルン達三人はと言うと『サラトガ』の作戦室にて環礁の調査報告を纏めながら読み漁り続けていた。

 

「……ソナーによる測量結果、形状は敢えて言うなら楕円形、長径60m、短径40m、か…」

 

「思っていた以上に大きいですね」

 

「まぁ、殆ど水没しているからな」

 

 バルクホルンの測量報告に芳佳が驚いて、ジムが補足事項を言った。

 

「土壌の調査結果は、簡易のだから外れている可能性があるが、どうも北極の海底のモノとほぼ同じだそうだ」

 

「と言うと、アイツは元々北極にあったって言う事か?」

 

 土壌調査の報告書を読み上げたシャーリーにジムが質問したが、シャーリーは「そこまでは私は知らん」と答え、バルクホルンがムッとしていた。

 因みに環礁の土壌が分かれたのは、過去に行われたリベリオンの北極調査隊に参加していた者が偶々いたので、奇跡的に判明したのだ。

 

「でも潮に流れと目撃情報を纏めますと、環礁が北極から流れてきたのは確かな様です」

 

「だがな、プルトニウムを奪った時も含めてアイツは何度か潮に逆らっているぞ」

 

「まぁ、それを含めてあんなデカイのが、何で流されてきたのかが全く分からん」

 

 芳佳の指摘にバルクホルンが疑問を感じていたが、此の件に関してはジムの事実上のギブアップ宣言通りに完全にお手上げになっていた。

 

「だとしたら、もうやる事は一つしかないねぇ~…」

 

 シャーリーの意見に全員が頷いたが、そのシャーリーが後頭部で腕を組む何処かやる気の無さそうな感じもあって、シャーリーに同感である事への不満がバルクホルンの表情から出ていた。

 

「…環礁に危険性は無いのか?」

 

「放射能レベルは通常な上に人体に悪影響を及ぼす毒物は一切確認されていません。

ですので、上陸班は既に防護服を脱いで調査作業にあたっています」

 

 プルトニウム強奪もあって慎重な姿勢のジムは部下からの報告に頷いていた。

 因みにと言うか、当然と言うか、プルトニウムの捜索は真っ先に行われ、プルトニウムの容器は全て発見されていたが、肝心のプルトニウムは完全に失われていていた。

 そして不思議な事に、プルトニウムの容器全てに超高温でのモノと思われる損傷があり、此の事で関係者達は仕切りにくびを傾げていた。

 まぁ、此の為にプルトニウムが海に流出した事が奇遇され、更に環礁の放射能汚染が心配されていたが、そんな事が全く無く、此れも関係者達の首を傾げてさせる要因となっていた。

 

「じゃあ、短艇を用意させろ。

それと念の為にストライカーユニットも乗せておけ。

そう言う事でいいですよね?」

 

 ジムにバルクホルン達三人が了承し、シャーリーから「爆弾もたんまりとね」とのオマケが付き、バルクホルンが眉間に皺を寄せていた。

 で、バルクホルン達三人が退室しようとしたが、その直前にバルクホルンをジムが思い出したかの様に呼び止めた。

 

「………環礁に何かあったら、有無を言わずに魚雷と砲弾を撃ち込みますので…」

 

「…言われなくても分かっているよ」

 

 “何を今更言う”とバルクホルンが発して退室し、芳佳が続こうとしたが、シャーリーはジムに変な笑みを向けていた。

 

「…アンタ、あんなのが好みだったの?」

 

「はぁ?」

 

「アレはやめたといた方がいいよ。

あんな堅物、付き合ったら苦労するだけだ」

 

「何言ってんだ、お前は?」

 

「宮藤、リベリヤン、さっさと来い!!!」

 

 シャーリーとジムのやり取りに芳佳が理解出来ずにキョトンとしていたが、バルクホルンの怒鳴り声で芳佳は「はい!!」と答えながら急いで行ったが、シャーリーはなんかわざとらしく「御免あそばせぇ~…」と言いながら行った。

 

「……?

何やってんだ!

さっさと仕事しろ!」

 

 更に言うと、何かをしようとしていたジムが『サラトガ』の皆さんがニヤついていた(一部は口笛を吹いていた)のに気付いて怒鳴り、一斉に「へいへ~い…」との返事が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 環礁 ―――

 

 

 バルクホルン達三人が環礁に上陸しようとしていた時は既に日が落ち、しかも新月で変に雲が掛かった闇夜となっていた。

 当然ながら光源が一切無い大西洋のど真ん中にいるのだから、本来は一寸先も見えない闇の中なのだが、環礁を囲む駆逐艦群が探照灯で環礁を中心にあたり一帯を照らしていたので、航海や調査作業には全く支障が出ていなさそうだったが、照らされた環礁が何処か不気味(元から不気味だったかもしれないが…)にしていた。

 

「…行くぞ」

 

「はい」

「おう」

 

 此の為にバルクホルン達は環礁の岸辺に着いても怖じ気ついて少しの間硬直していたが、意を決したバルクホルンに芳佳とシャーリーが続いて三人揃って短艇から降り、靴越しに真冬の大西洋の水温に驚きながら歩き上がった。

 だが実際に環礁に上陸すると、何故か警戒心が無くなるだげなく、それに反比例して自分でも分からない安堵感が出て、そんな戸惑いを誤魔化す様に三人各々に環礁の辺りを見回した。

 

「……なんだかなぁ~…ガキの頃にオヤジと遊んでた時の記憶が変に思い起こされるなぁ~…」

 

「シャーリーさん、実は私もお父さんとの記憶が色々と…」

 

 シャーリーの頭を掻きながらの独り言に芳佳も同感である事を伝えていて、そんな二人に目線を向けていたバルクホルンも幼き日の父親との思い出が色々と甦っていて内心驚き戸惑っていた。

 

(まさか此の環礁が父さんとの思い出を思い起こさせているのか?)

 

 バルクホルンは環礁の最頂部を見詰めながら推測していたが、その理由までは分からず硬直し、今朝方にその父親と妹のクリスの夢を見ていた為に無性に妹の顔が見たくなっていた。

 

「…戻ったら、クリスの所に行くか。

そして父さんの墓参りもしとこうかな………?」

 

 苦笑していたバルクホルンだが、不意にシャーリーの変な声が聞こえ、そちらに振り向くとそのシャーリーが少し離れた場所で錆びた金属を掘り出していた。

 

「…何なんだ、そいつは?」

 

「船の装甲の欠片みたいだ。

かなり錆びてるから『タイコンデロガ』のじゃないな。

コイツは『タイタニック』のヤツのだと思うぞ。

調べてみる価値はあるかもよ?」

 

 シャーリーは金属片を手の中で投げては転がして子供みたいに笑っていたが、そんなシャーリーが不愉快に思ったバルクホルンはなんの気無しに最頂部へ向かおうとしたが、数歩歩いたら右足の下に違和感を感じた。

 『タイタニック』の欠片だと予想したバルクホルンは右足で湿気った砂利を掘ってみたら、予想に反して銀色の手のりサイズの金属が埋まっていた。

 

「……何だ、此れ?」

 

 金属を掘り出したバルクホルンは、その金属が見た事にが無い形をしていた事もあって正体を探ろうと色々回して確認していたが、芳佳が何の気無しに覗いて思考して、思い出したのかハッとしながら手を叩いた。

 

「バルクホルンさん、此れ勾玉ですよ!」

 

「勾玉? 何だそりゃ?」

 

「私も詳しくは分かりませんが、確か扶桑の古代のアクセサリーだったと思います」

 

「じゃあ、何で扶桑の古代のモンがこんな大西洋のど真ん中にあんだ!?」

 

「私だって分かりません。

ですけど学校の授業で見た勾玉と同じ形をしているんです」

 

 バルクホルンは内心大人気ない事は自覚していたが、彼女の言う通りに扶桑の遺物が地球の裏側に存在している事は疑問であった。

 此の為にバルクホルンは勾玉は“『タイタニック』に乗船していた扶桑の考古学者の落とし物かな”と少し無理のある予想を立てていたが…

 

「…貴女方も見つけたのですか」

 

「貴女方? 他にもあるのか?」

 

「“見つけてくれ”と言わんばかりにありますよ」

 

…偶々近くを通り過ぎようとしていたリベリオンの士官に、数的理由で否定された。

 実際、士官が持っている木箱の中に勾玉が大量に入っていただけでなく、いつの間にかにシャーリーも勾玉を大量に持ってきていた。

 更にまだまだあるらしく調査隊の大半が環礁の至る所で勾玉を掘り起こしていた。

 

「コイツが言うには此の金属は扶桑の勾玉らしいんだが、正体は分かってるのか?」

 

「そこまでは分かっていません」

 

「その為に持ってくんだろ?」

 

「はい、ですが一つだけ言えるのは、此の環礁自体その物が宝島とまでは言わなくても、遺跡や古墳みたいな物なのかもしれないと言う事です」

 

「ジムに此の事は伝えているのか?」

 

「はい、今頃は『サラトガ』から本国へ考古学界への協力要請が出ている筈です」

 

 自分のに続いてからのシャーリーのやり取りを聞きながらバルクホルンは環礁が予想外の価値が秘められている事を察して驚いていた。

 

「おーい!!!

誰か来てくれぇー!!」

 

 でこんな時に、最頂部から大声での呼び声があって、勾玉を士官に託して急いで向かい、芳佳やシャーリーも続いたが、シャーリーが勾玉だけでなく『タイタニック』の金属片まで託されて士官が渋い表情をしていた。

 

「どうした!?

何があった!?」

 

 で、バルクホルンがたどり着いた時には最頂部に早くも人だかりが出来ていたが、その人だかりを掻き分けながら現場に入った。

 

「此れを見て下さい」

 

 で、呼び出し人と思われる水兵が指し示した場所にバルクホルンが視線を向けると、そこには大きな直方体の金属が埋まっていた。

 尤も地表に出ている部分は荒れていたが、大型金属はかなり深い所まで埋まっているみたいで、そしてなによりバルクホルン達素人目でも大型金属から何らかの重要さを感じさせていた。

 

「……うわぁ~…」

 

「こりゃすげぇ~…」

 

 更に遅れて着いた芳佳とシャーリーも同じ様な反応をし、バルクホルンは大型金属に近付いて簡単に触って確認して掴むと、彼女の魔法力(犬の耳と尻尾)と個有魔法の『筋力強化』を発動させて引き抜こうとしたが、大型金属は全く動く気配が無く“立ち位置”“姿勢”“掴み所”を変えて何度やっても駄目であった。

 

「…駄目だ」

 

 バルクホルンが引き下がった事にシャーリーが驚きを表情に出し、そんなシャーリーに芳佳が驚いていた。

 

「発破使いますか?」

 

「葉っぱ?」

 

「爆薬の事だよ」

 

「馬鹿!! コイツごと吹っ飛ばす気か!」

 

 “発破”に芳佳が何か勘違いをしてシャーリーが正していたが、バルクホルンが怒鳴って却下した。

 

「バルクホルンさん、どうするのです?」

 

「…ツルハシとスコップ、ああ、後バケツを沢山持ってこい」

 

「やっぱり、そう言う事?」

 

「ああ、掘るぞ」

 

 大方の予想通りにするしかない事にシャーリーが大きく溜め息を吐いた。

 

「……今夜、寝れるかな…」

 




 感想・御意見お待ちしています。

シャーリー
「…今回、此れだけ!?」

…なんで?

シャーリー
「だって、SPACEBATTLEGAILヤマトと比べて寂しいんだもん!」

芳佳
「シャーリーさん、あのハチャメチャな後書きを他でもしろって言うのは、酷だと思いますよ」


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第6話 悪手の始まり

――― スカパ・フロー ―――

 

 

「…兎に角、基地に帰らせて下さい!」

 

「アンタに来て貰わないと困るんです!」

 

 アイスランドでの鳥との出来事から数日後、扶桑艦隊と共同での“アイスランドの島民達の避難”と“鳥群の監視”をリベリオンとブリタニアの両海軍に引き継ぎをして、やっとブリタニアに戻った501JFWの面々はミーナと合流した。

 美緒達の報告でアイスランドの鳥の脅威性を理解したミーナは直接での駆除は危険と判断して、ブリタニアか扶桑の戦艦部隊を主体の艦砲射撃で巣があるだろうレイキャビク諸共焼き鳥(フライドチキン)にするのが1番として連合軍司令部に要請する事を決めていた。

 ところがミーナ達の要請は連合軍司令部だけでなく、ブリタニアと扶桑の両国からも拒否され、更に警察を経由してリネットに出頭要請が出された。

 

「お願いします!」

 

「ですが、着替えや資金も無いんです」

 

「用意します!!

我々が衣食住を責任を持って用意します!」

 

 只、出頭の理由が一切無かった事もあって、拒絶し続けているリネットを警察官達が必死に了承させようとしていた。

 

「いい加減にしろ!!!」

 

 で、彼等のあまりにしつこい要請にリネットに付き添っていた美緒が、彼女の意を察して怒鳴った。

 

「分かってあげなさい!!

リーネさんは兄が殺されて辛いのですよ!」

 

 更に一緒にいたミーナも彼等を睨んで注意し、“此れ以上やったら唯じゃおかさない”と表情に出していた。

 此の2人の上官の行為にリネットも安堵の息を小さく吐いていた。

 

「…リネットさんの気持ちは考えていませんでした」

 

 美緒とミーナに怯えて少し下がった警察官達だったが、我に返ったらしく直ぐリネット達3人に頭を下げて素直に謝った。

 

「ですが、あの鳥がブリタニアにやってきたらと思う我々の気持ちも分かって下さい」

 

 だが警察官達の言う事にも一理あり、更に彼等の無茶ぶりは使命感等から来ている事も察し、ミーナと美緒は“言い過ぎたかな?”とお互いの目線を合わせていた。

 

「……私は何所に行けばいいのですか?」

 

 リネットもそれ等全てを察して警察官達の要望に従う事とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 同・海軍司令部 ―――

 

 

「…失礼します……っ!?」

 

 美緒とミーナの同伴を条件に警察官達の案内でやって来たリネットが入室した司令部の一室には、ブリタニア軍の陸海空三軍の将校達がずらりと並んでいた。

 

「…初めまして、リネット・ビショップ軍曹」

 

「「…っ!?」」

 

 将校達の雁首に既に気が引けたが、彼等将校達の首班として自分達に背を向けて立っていて、リネット達の存在に気付いて振り返った人物がトレヴァー・マロニー空軍大将だった事に、気後れしているリネットは兎も角として、ミーナと美緒はギョッとした。

 元々、一挙一足処か存在そのモノが“傲慢”を表していたマロニーは、501JFW司令官ヒュー・ダウティング空軍大将の政敵であるだけでなく、過去の作戦会議でミーナに論破された事を逆恨みしていた事から501JFWの反対勢力の急先鋒で、彼の存分から自分達501のブリタニアや扶桑への要請が揉み消されていたのはマロニーだなと察した。

 当然ながらマロニーにミーナと美緒は警戒心から睨んでいたが、当の本人は(一方的な)因縁のミーナに微笑して、直ぐにリネットの方に振り向いた。

 

「……え、え~と…」

 

「…ふむ、幼いが中々優秀そうだな」

 

 目線が胸主体だったような気がするが、リネットを観察したマロニーは、ミーナの様に彼女が自分の政敵にはならないだろうと判断したようだった。

 

「…それで、空軍大将達が私達に何の用があるんだ?」

 

「なに、君達には今朝の内閣の決定を伝えるのだよ」

 

 リネットの前に出た美緒の質問へのマロニーの返しに、彼が不敵な笑みを浮かべた事もあって、美緒とミーナが嫌な予感を感じていた。

 

「我々ブリタニアはアイスランドの鳥の捕獲を決定した」

 

「なんですって!!?」

「なに!!?」

 

「此れは学術的側面ばかりでなく、稀少動物の保護と言う観点からも意義のある事と思う」

 

 ミーナと美緒が驚いている通り、只でさえ獰猛な上に複数もいる鳥の駆除に困難が予想されていたのに、駆除よりも遥かに困難な捕獲作戦の実施を決定したブリタニアを疑っていた。

 だが実際問題、とある陸戦ウィッチの「ブリタニア人は恋愛と戦争では手段を選ばない」との言葉通りに手段を選ばない傾向の強いブリタニアには前科があり、ネウロイ戦勃発前の1863年にカールスラントのゾーレンホーフェンで発見されたアルケオプテリクスの化石が始祖鳥(鳥類の先祖)である事が判明するや金にモノを言わせて買い取った為にカールスラント考古学会を怒らせる出来事(此の憎悪からカールスラントは10年後により完成度の高いアルケオプテリクスの化石を発掘した)があった。

 

「そして鳥捕獲作戦には君達501が主体となり、ビショップ軍曹には作戦主導をやってもらう」

 

「私が、ですか?」

 

「若いが、鳥に的確な対応をした以上は適任だと思うぞ」

 

 しかも捕獲作戦を501にやらせるだけでなく、作戦主導はリネットだと言われて、当のリネットが驚き戸惑っていた。

 リネット一任は一見したら小飼のブリタニアのウィッチである事からと思われるが、実際は基地訓練中に501へ編入された嫌がらせ人事だった事もあって、やはり此れも別ベクトルの嫌がらせ人事であった。

 

「で、でも、軍曹である私がやるのは…」

 

 全員が士官である501JFW唯一の下士官であると同時に最低位の階級だった事(此れは芳佳が編入された以降も同率で継続、その芳佳にも少尉昇進の形で後日抜かれる事になる)、更に内気な性格もあってリネットは先任達を引き抜いての抜擢に気が引けていた。

 まぁ、実際問題、リネットの人間性やミーナと美緒が説き伏せるだろうが、やはりペリーヌや出張で不在のバルクホルンあたりが反発しそうだった。

 

「ああ、その心配は無い。

此の作戦期間中、君は少佐への戦時特進が決まっているよ。

明日ぐらいに正式に通達される筈だ」

 

 尤も後者のは直ぐに手が打たれていて、“えっ”となっているリネットは兎も角として、その事を察していたミーナと美緒は揃って溜め息を吐いた。

 

「閣下、そろそろ説明を開始しても?」

 

「ああ、頼む」

 

「相手は行動範囲が広く殺傷能力も高い、作戦実施は貴女方501が担当ですが、作戦実施時のネウロイ防衛代行も含めて我々は協力は惜しみません。

他国にも必要な物が発生したら我々から打診を行いますので…」

 

 マロニーの許可の下に海軍中将が説明を開始したが…

 

「危険が大き過ぎます!!」

 

…それをミーナが遮った。

 

「習性も何も、確かな事はまだ殆ど分かっていないのに、推測だけでの捕獲はリスクが大き過ぎます!」

 

 只でさえネウロイ防衛戦に予断が許されない状況下での捕獲作戦の参加にミーナは危惧していたが、彼女なりに鳥捕獲作戦自体に本能的に危険性が高そうな事を感じていた。

 だからミーナは、捕獲作戦の中止は出来なくても、501JFWの作戦参加はなんとしてでも阻止してみせる、その為ならダウティング大将に迷惑が掛かろうと前回と同じくマロニーを論破してみせると、美緒でさえも驚く気迫を出していた。

 だが当のマロニーは、ミーナにニンマリと笑っていた。

 

「ヴィルケ中佐、此れは政府の決定事項なんですよ。

つまり、私の命令はチャーチル卿の命令でもあるのですよ」

 

 マロニーが、チャーチル卿……現ブリタニア首相である英傑ウィンストン・チャーチルの名前を出した事で、ミーナは“万事休す”な現状を悟った。

 少なくとも、ブリタニアはシビリアンコントロール(文民統制)がしっかりしている以上、軍最高司令であるチャーチルを味方にしているマロニーが絶対的であり、現に彼が勝ち誇った笑みを浮かべているのに反してミーナが唇を噛んでいる光景が物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 同時刻・環礁 ―――

 

 

 昨夜に発見された、勾玉とは別の大型金属の掘り出しが、バケツとスコップ片手の交代制の夜通し作業で続けられていたが、それがつい先程終了して、大型金属が絵文字に近い未確認文字が描かれた金属碑である事が判明した。

 

「すげぇな」

 

「やはり此の環礁自体が、遺跡みたいなモノみたいだな」

 

 金属碑のカメラ撮影が行われている光景を、リベリオンの水兵達と掘り出し作業をやっていたシャーリーとバルクホルンは、溜め息を吐きながら見ていて、手空きの水兵達も……金属碑を掘り出した事で大きく抉れた穴の上で同様に見ていた。

 

「バルクホルンさーん、あと1時間ぐらいしたら工作船が到着するらしいですよ!」

 

「ああ、そうか!」

 

「おお、意外に早いな」

 

 そんな時に、1度『サラトガ』に戻っていた芳佳が、伝令として状況を伝えて、バルクホルンは了解して、シャーリーは工作船の早い到来に驚いていた。

 プルトニウムの奪還こそ出来なかったが、環礁から発掘された多数の勾玉だけでなく、金属碑の発見にリベリオンは環礁のニューヨークへの曳航を決定して、捜索艦隊にその為の準備をするようにと命じていた。

 予定では、アースドリル付きの工作船で大型の杭を打ち込んだ後、『サラトガ』がニューヨーク沖まで曳航(途中で大型曳航船と交代予定)した後に本格的な学術調査が実施予定であった。

 此の為、環礁の西側に移動して艦尾を向けている『サラトガ』から牽引用の極太綱が複数伸ばされていて、一部の水兵達は杭打ちの為の場所の特定と、緊急時に備えて爆薬の設置作業をしていた。

 因みに捜索艦隊の一部は、大量の勾玉と環礁の各種サンプルと共に、リベリオンへ帰還していた。

 

「もう少ししたら、私達は『サラトガ』へ撤収だそうです!」

 

「分かった、先に行ってろ!」

 

「あ~あー…、やっぱコイツは無駄になったな…」

 

 バルクホルンとシャーリーは、自分達のストライカーユニットであるBf109とP51を念の為に持ってきて、近くに突き刺していたが、それが無駄になったので、シャーリーが自分のストライカーユニットを抜き抜いて担ぐと特大の溜め息を吐きながら穴を登っていったので、バルクホルンに睨まれていた。

 

「まっ、私達自身が無駄骨だったって事だな……?」

 

 バルクホルンも自分のストライカーユニットを引き抜いて、苦笑しながら金属碑を何の気なしに叩いたが、此の時に金属碑から何かを感じて硬直した。

 

「…どうしたんですか?」

 

 そんなバルクホルンに、シャーリーに続いて撤収しようとしていたカメラマンの1人が気付いた。

 

「…暖かい……体温と同じくらいだ」

 

「えっ?……太陽で熱されただけじゃないですか?」

 

 カメラマンもバルクホルンと同じように金属碑に手を当てたが、どうやらカメラマンはバルクホルンと違って違和感を感じていない様だった。

 

「それと、音がする……何だろう?

鼓動音みたいな音だが…」

 

「耳鳴りじゃないんですか?」

 

 バルクホルンが金属碑に耳を当てて何かを感じていたが、これもまたカメラマンは何も感じていなかった。

 だがバルクホルンは鼓動の様な音だけでなく、徐々に強まっていく何か頭に響く不快な音も聞いていたが、2つの音が突然途切れたと思ったら、何かが割れる音が聞こえ、此の音に関してはカメラマンも聞こえたようだった。

 だがカメラマンのギョッとした表情から嫌な予感を感じて、バルクホルンが金属碑から顔を離すと……彼女が耳と両手を当てていた3箇所がひび割れていた。

 しかもバルクホルンが思わず退いた直後に、3つのひびが一気に全体に広がって、そのまま金属碑は砕けてしまった。

 

「何だ、今の音は!!?」

 

「穴の方からしたぞ!!」

 

 金属碑の抱懐音に、環礁にいた全員が穴に殺到して、バラバラになった金属碑にギョッとした。

 

「…バ、バルクホルン……アンタ、何やった!?」

 

 シャーリーが叫んだ通り、金属碑の瓦礫の真ん前に立っているバルクホルンに、カメラマンが腰を抜かしている状況下だったから、バルクホルンが犯人にしか見えなかった。

 

「…ち、違う、私じゃない!!!

私は何もしていない、!!?」

 

 芳佳さえもが含まれていた、全員の驚きと冷気に満ちた視線に、バルクホルンが金属碑の瓦礫と周囲の者達に何度か振り向いた後に自分の無罪を主張しようとしたが、環礁が突然揺れ始めた。

 しかも立つ事すら出来ない激しい揺れだけでなく、炎と勘違いしかねる橙色の光を放ち出したので“環礁が爆発・沈没する”と思い、全員が一斉に環礁からの離脱を開始した。

 だが、短艇に上手く乗れたり、転げながら大西洋に落下するも短艇に引き上げられたのは少数で、殆どの者達は落下した大西洋で足掻いていた。

 昼間と言え、極寒の大西洋に落ちた以上は心不全等での死亡の危険性が高かったが、幸いな事に捜索艦隊も環礁の発光で違和感を感じて、直ぐに『サラトガ』以下の艦艇から救出の為の短艇が次々に下ろされていた。

 

「環礁が沈むぞ!!

沈没する!!!」

 

「助けて、俺泳げないんだ!」

 

「…っ! 掴まれ!!」

 

 P51を纏って無理矢理離陸したシャーリーは、穴から這い出たバルクホルンの近くで悲鳴を上げていた若い水兵を救い上げた通り、3人を助けた後に『サラトガ』へ飛んで行き、バルクホルンも彼女に習おうとしたが…

 

「うあぁぁー!!!」

 

「っ! 宮藤!!」

 

…芳佳が穴に落ちそうだったのに気付いて彼女を掴み、自分のBf109を履かせると、そのまま頭上に投げ飛ばした。

 

「バルクホルンさぁぁーん!!!」

 

 芳佳は此のお陰でなんとか飛翔して助かったが、バルクホルンは彼女を投げた反動もあって、滑り落ちてしまい……途中にあった出っ張りに左肩から激突して跳ね飛んだ後に海に頭から落下した。

 バルクホルンは着水の影響で失神するも、左肩の痛みで正気に戻った時にはかなり沈んでしまったが、気泡や上昇している水兵達が視界に入ったので、上下の感覚が失われなかったので、少なくとも彼女の近くで水没していく者が見当たらなかった事もあっての、彼等に続いて上昇しようとしたが、環礁の底が動いた事に気付いて、そちらに目線を向けた。

 

「……っ!?」

 

 なんとそこに巨大な右目と牙があって驚いたのだが、バルクホルンはその目と牙……否、此の謎の巨大生物の横顔自体に在視感のある自分自身にも驚き戸惑っていた。




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第7話 発令、鳥捕獲作戦(前編)

――― 501JFW基地 ―――

 

 

 マロニーの思うがままにアイスランドの鳥捕獲作戦を了承しまったリネット達3人は、基地に帰って早々に501JFWの全員を作戦会議室に集合させての作戦会議を始めていた。

 

「先程も言いましたが、鳥捕獲作戦に名案があったら、さっさと出して下さいね!!」

 

 但し、嫌々請け負った事から、ミーナは見るからに機嫌が悪かった為、美緒とリネットは彼女と一緒に壇上にいるも、明らかにミーナから距離を取っていた。

 只、作戦会議自体はミーナは真面目に検討をしていた。

 

「こー、飛び立った処に麻酔でパァーンとやってしまうのが、手っ取り早くない?」

 

 で、いの一番に出されたのが、バルクホルンと共にミーナと長く組んでいる、見るからに眠そうにしている通りに超怠惰(当初は生真面目だったが、とある伯爵ウィッチが原因で性格が反転)なカールスラント四強の一角のトップエースであるエーリカ・ハルトマンの麻酔弾の使用であった。

 まぁ、鳥獣の捕獲作戦では定石(ベタ)と言ったら定石(ベタ)だが、有効な方法ではあった。

 

「論外ですね」

 

「何でだよ!」

 

 だがハルトマンの提案は、しかめっ面のミーナが何かを言うより先に、ペリーヌに否定された。

 

「此の場合、使われる麻酔は筋肉を弛緩させる物なのです。

少なすぎると効かないし、多すぎると呼吸機能や循環機能までが弛緩して死んでしまう危険性があるのです。

鳥のデータが無いに等しい現状での麻酔弾の使用はリクスが大きすぎます」

 

 元々ペリーヌは実家が魔法医であり、魔法適正が高かった為に軍人になった事から医者への道を自分自身で閉ざしてしまったが、ミーナがペリーヌに頷いている事からも分かる通りに此の手の知識は豊富の様だった。

 まぁ、正論とは言え、傲慢にも感じる口調的から、ハルトマンがペリーヌにムッとしていた。

 

「それに例え麻酔弾を使ったとしても、海か地上に落ちてしまいますから、海なら溺れて溺死、地上なら墜落死する可能性が高いですよ」

 

 更にペリーヌにリネットが補足して、麻酔弾が有効な手であるものの、生半可な麻酔弾の使用は出来ないとの結論に達した。

 

「だったらさぁー!

檻作って、そこんとこに閉じ込めちゃえばいいじゃん!」

 

「あのですね、(ザル)で雀を捕まえるのとは違うのですよ!

あの鳥が入る程の大きな檻を作ってアイスランドに置くのに、どれだけ時間が掛かると思っているのですか!?」

 

 そこで今度は501JFW最年少でロマーニャのウィッチであるフランチェスカ・ルッキーニが檻の使用を提案したのだが、全員が一斉に溜め息を吐いた時点で分かってはいたが、ペリーヌが常識的な意見で否定した。

 

「それに、その方法ではもし逃した個体がいたら警戒するから、やるなら6頭一気に捕まえないといけません」

 

「……難しい、な…」

 

 ミーナの檻使用の難しさの補足に、美緒が唸り声を上げた。

 

「ですけど、麻酔弾を使うのも、檻を使うのも有効な手に変わりありません。

何とかして鳥達を何処かに閉じ込めてから麻酔弾を使うのが一番の方法だと思います」

 

「流石、サーニャ!!!」

 

 サーニャ・V・リトヴャクの指摘にベタ誉めしているエイラは兎も角として、確かに一番の手段はサーニャの言う事であった。

 

「だとしたら、やはり問題は檻だな。

まぁ、檻じゃなくても6頭一挙に閉じ込められる物が必要だ」

 

「だからと言って、あまり時間の掛かる物は作れませんよ」

 

 美緒が捕獲に必要品の1つにボヤいていたが、そんな彼女の隣でのリネットの呟きに“ん?”とした。

 

「…どう言う事だ、ビショップ?」

 

「今にして思ったんですけど、鳥の1頭はほぼ南に向かってました。

おそらく、あの鳥は……(人間)が大量にあるブリタニアを目指そうとしていたんじゃないかと思うのです」

 

 リネットの言葉に全員がギョッとしたが、よくよく考えたら鳥が獰猛な食欲がある以上は餌が無くなるだろうアイスランドに止まり続ける訳が無かった。

 

「本当か、それは!!?

アイツ等はブリタニアに来る可能性があるのか!!?」

 

「あ、は、はい!

進路方向が正しかったので、多分~…あの鳥には、渡り鳥と同じ様な地磁気を読む能力があると思います」

 

 思わず美緒がリネットの両肩を掴んで揺さぶり、そんな美緒の行為にペリーヌがギョッとしたのは置いておいて、リネットの予想が正しい場合はかなり不味い出来事が起きるのは目に見えていた。

 

「だとしたら、尚更アイスランドの鳥達を早く捕獲しないといけないわね。

チョット、マロニーに賛同するのは癪だけどね…」

 

「でもさぁ~…今んとこ、その手段が無いじゃん」

 

 ミーナが改めて気を引き締めたは良いが、バルクホルンの言う通りに捕獲手段………特に鳥6頭を閉じ込める物や場所がどうしても浮かぶ事が出来ずに只空しく時間が過ぎていった。

 

「……お開き、だね」

 

「そうだな」

 

 手詰まりと判断して、ハルトマンが立って更にエイラが続いて退室しようとしたが…

 

「…すみません、宮藤軍曹はおられますか?」

 

…こんな時に、何かを手に持った兵卒が不在の芳佳を求めて入室した。

 

「すみません、芳佳ちゃんは任務で出向いているのですけど」

 

「失礼しました。

ですけど、宮藤軍曹宛の荷物が届いたのです」

 

 ミーナが兵卒を睨んでいたが、少なくとも美緒の無言の了承の下でリネットは芳佳宛の荷物の包みを開いた。

 

「お、こりゃ扶桑人形じゃないか!?」

 

 でその中に入っていたのは、スオムス義勇飛行中隊(いらん子中隊)(現507JFW(サイレントウィッチーズ))所属の扶桑のエースウィッチである穴拭智子を象った扶桑人形だったので、美緒が驚いた。

 しかも、人形自体が今にも動き出しそうな精巧な出来であるだけでなく、硝子ケース入りと言う見るからに高級感が漂う1品だったから、並の人間が手に入る代物ではなかった。

 

「此のウィッチって、いらん子中隊の奴だよな!?」

 

「あ~…、ウーシェ、元気にしているかな?」

 

 早速、501の面々が一斉に注目して、扶桑人形のモデルが自分の祖国を守った部隊の1人である事からエイラが真っ先に気づいて、その事からハルトマンがウーシェこと双子の妹ウルスラ・ハルトマン(元いらん子中隊所属)を思っていた。

 

「処で、此の人形はどうしたのですか?」

 

「はい、杉田大佐を初めとした空母『赤城』の乗員一同からのお礼品です」

 

「ああ、あの時のか」

 

「困ります!!

こんな事をされては!!!」

 

 リネットの質問からの返しから、美緒が芳佳の初陣である彼女のブリタニアまで送り届ける途上にあった空母『赤城』の防衛戦からだと分かって笑ったが、排他的感情を持っているミーナは直ぐに何の罪もない兵卒に怒鳴っていた。

 

「…あ、有った!!!」

 

 だが、そんなミーナの怒鳴りは直ぐにエイラの叫びで打ち止めになった。

 

「…有ったって、何が有ったのですか?」

 

「直ぐに用意できるだけでなく、鳥6頭をいっぺんに捕まえられる檻が!」

 

 ミーナが眉間に皺を寄せながらエイラ質問をしたが、そのエイラの返しに他共々理解出来なかった。

 

「此れだよ、此れ!!!」

 

 只、エイラが扶桑人形を指し示したので、取り合えずはその扶桑人形を暫く見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― アイスランド・南方沖合い ―――

 

 

 エイラの提案が主軸となった鳥捕獲作戦案が連合軍司令部に即日了承を受けた翌日の暗くなり始めた夕暮れ時、扶桑・ブリタニアの連合艦隊がアイスランドの沖合いに展開してからの最後の準備が調えられようとしていた。

 尤も、ブリタニア艦隊は空母『イラストリアス』を初めとした主力艦艇はアイスランドの近海にいて、駆逐艦の多くは周辺海域から漁船群を追い出したり近づかないように見回りをしていたので、此の海域にいるのは扶桑艦隊のみであった。

 

「まさか『赤城』にこんな事をさせる事になるとは思いませんでしたよ」

 

「本当にすみません、杉田艦長」

 

 エイラの提案である、誘き寄せた鳥6頭を空母の格納庫に閉じ込めた後に麻酔弾で捕獲する作戦を実施する艦に『赤城』が選ばれた為、『赤城』艦長の杉田淳三郎大佐が苦笑して、ペリーヌと共に彼の隣にいるリネットが直ぐに頭を下げていた。

 因みに『赤城』が選ばれた理由は2つ、1つは母艦航空隊が再編中であった事、2つには『赤城』が密閉型格納庫(ブリタニア空母群は全て開放型)を採用している為であったからだ。

 此の為に、撒き餌の準備や作戦指揮所兼任の狙撃陣地作製作業等が行われている『赤城』は必要最低限の乗員しか乗り合わせておらず、艦長の杉田がその他乗組員共々旗艦の重巡『筑摩』に一時的に移って指揮を取っていた。

 

「本当に『赤城』を此所に配置していいんだな?」

 

「…あの鳥達は、その後も南方に向かって飛行されたのが確認されたので、餌が豊富にあるブリタニア本土を目指していると思います。

追い散らすと言え、その進路上に『赤城』を配置しておけば成功率はかなり高くなる筈です」

 

 で貧乏クジを引かされた杉田の隣にいるリネットに、ご丁寧に現場に出向いてきたマロニーが彼女に訊ね、当のリネットは目線が冷たかったものの取り敢えずは返した。

 

「成功してもらわないと困る。

もし失敗してブリタニア本土に浸入させたら、大変な事になるぞ」

 

「お言葉ですが、こんな頼りない状況下で捕獲を命令したのは貴殿方です!」

 

 ペリーヌが睨みながらマロニーに返していたが、リネットはマロニーの外見や態度に反しての小者振りを感じ取っていた。

 

「ですけど、どんな状況下でもベストは尽くします」

 

「……宜しく頼むよ」

 

 最後にリネットの返し通りに501と連合軍は本気度合いは本物で、現にミーナは現場指揮を取っているから他共々此所にいなかったし、更に『赤城』の護衛に『秋月』『照月』『凉月』『初月』の扶桑でも貴重な防空能力に優れた秋月級駆逐艦が4隻も動員されていた。

 だがリネットは本作戦の501の指揮官の立場と言え、ミーナにマロニーの対応を押し付けられたのではないかと心の片隅で疑っていた。

 

『此方ミーナ、リーネさん、聞こえますか?

鳥が6頭全て飛び立ったわよ!!

此れからそっちに追い込むからね!』

 

「『赤城』に備えさせろ!!!」

 

 そして鳥達が飛び立った事がミーナの無線から伝えられ、捕獲作戦開始となって直ぐに杉田が動いたが、マロニーは“6頭全て”の単語にギョッとした。

 

「6頭もいるのに、ちゃんとやれるのか!?」

 

「その為にミーナさん達6人が動いていますし、ソードフィシュを6機用意させたのです!」

 

 事前にした筈なのにオドオドしだしたマロニーに、リネットが他共々呆れながら説明した通り、鳥達はミーナ、美緒、エイラ、サーニャ、ハルトマン、ルッキーニとの501の凄腕6人が照明で追い散らしているだけでなく、旧式を通り越してまもなく化石の域に入ろうとしている複葉機ソードフィシュ艦攻6機が、今回はその旧式度合いが幸となってミーナ達を支援していた。

 因みに追い散らし隊の6人の中で、エイラは嫌がってペリーヌに押し付けようとしていたが、サーニャの参加を知って直ぐに掌を返しての参加をしたと言う事を書いておく。

 まぁ、マロニーの事など関係なく作戦は順次進んでいたのだが、そんな彼の不安が具現化したのか『凉月』から変な一報が届いた。

 

「『凉月』より発光信号!

西方より此方に接近する機影2!!!」

 

「機影?

しかも西からだと?」

 

 現在、捕獲作戦実施期間中はブリタニアとリベリオン両国で此の海域一帯での飛行禁止令が出ていたので、しかも方角的にもおかしかったので、全員が頭に思い浮かべた単語は“ネウロイ”であった。

 

「対空戦闘ぉ、用意!!!」

 

「ペリーヌさん!!!」

 

「ええ、勿論!!!」

 

 此の為に、『筑摩』艦長が戦闘配置を命令し、リネットとペリーヌは艦橋を飛び出してストライカーユニットがある艦尾飛行甲板に向かった。

 

『戦闘中止、戦闘中止!!!

接近中の機影2は友軍ウィッチ、友軍ウィッチなり!!!』

 

 だが2人してカタパルトに乗せられたストライカーユニットを履こうとした直前に、接近するのはネウロイではなくウィッチである事が艦内放送で伝えられた。

 

「まったく、はた迷惑なウィッチですわ!!」

 

「でも何所のウィッチでしょうか?」

 

 取り敢えずカタパルトから下りたペリーヌが毒を吐いてリネットが宥めながら疑問を感じていたが、当の2人の……やたらとガソリン缶を背負ったり担いでいた上になんか見覚えのあるP51と零戦のストライカーユニットを各々に履いた2人のウィッチは、当初は『赤城』に着艦しようとしていたが旗艦が『赤城』ではなく『筑摩』てある事が分かった事から、大きく旋回してから『筑摩』や艦隊側の静止を無視して『筑摩』の飛行甲板ギリギリ一杯に着艦した。

 

「貴女達何をやって、え!!?」

 

「シャーリーさん!!、と………バルクホルン、さん?」

 

 『筑摩』の甲板要員共々ウィッチ2人に怒鳴ったペリーヌとリネットだったが、その2人が別任務に行っている筈のシャーリーとバルクホルンだった事に驚いていた。

 尚、何でリネット(とペリーヌ)がバルクホルンの認知が遅れたのかと言うと、バルクホルンが飛行距離の関係でBf109(航続距離が短い)でなく芳佳の零戦を履いていただけでなく、ドテラを羽織って口にマスクを着け、多分当初は氷が入っていたと思うが、水袋を頂頭部にくくり付けられていたからである。

 後者のは、バルクホルンが真冬の大西洋に落ちた事から風邪をひいていた為であり、現にシャーリーがガソリン缶全てを投げ捨てながら軽やかにストライカーユニットから飛び下りたのに反して作業員2人の手を借りてのヨタヨタだった上、顔が真っ赤になっていた。

 

「2人ともどうしたのですか?」

 

「環礁の捜索はどうしたのですか?」

 

「此所の司令部に会わせろ!!!」

 

「大変なモノが近づいているぞ!!!」

 

 リネットとペリーヌがバルクホルンとシャーリー2人の来訪理由を訊ねようとしたが、当の2人はそれを無視して逆にリネットとペリーヌに大声での要望をした。




 感想・御意見を御待ちしています。

 今回の投稿前に第4話での鳥(ギャオス)は5頭でしたが、此れを1頭増やしました。

芳佳
「……私だけ、出番と台詞が無かった…」


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第8話 発令、鳥捕獲作戦(後編)

――― 重巡『筑摩』 ―――

 

 

「…巨大、不明生物?」

 

 アイスランドの鳥群捕獲作戦が開始するとのほぼ同時に現れたシャーリーとバルクホルンの警告に近い報告に対し、マロニーは驚き戸惑っていた。

 通常のマロニーだったら501の一員であるシャーリーとバルクホルンの言葉など馬鹿にしながら笑って否定していた筈だが、今回2人はジム達リベリオン艦隊の正式な報告書類を持ってきていたので………多分信用はしていたと思う…

 

「それが真っ直ぐ此所に向かってるんだ!」

 

「今すぐ、此の海域から離れろ!」

 

「シャーリーさん、バルクホルン大尉、そうは言われても、ですね…」

 

 当然の事だが、突拍子もないとも思えてしまう2人の言葉はマロニーだけでなく、少なくとも『筑摩』の艦橋にいる者達全員が完全に信用する事が出来ず、現に同僚のペリーヌでさえ疑っていた。

 

「バルクホルン大尉、お伺いしますが、その巨大生物はどれぐらいの大きさなのですか?」

 

「少なく見積もっても60m以上!!!」

 

 此の時点で既にそうであったが、リネットは感情の高まりもあって顔が赤いバルクホルンの自分の質問への返しに、ペリーヌと目線を合わせて益々疑っていた。

 因みにバルクホルンの頭上の水袋は『筑摩』の乗組員の厚意で氷入りの新しい物と取り替えられていた。

 

「此方は15mの生物で手一杯だ!」

 

 だがバルクホルンとシャーリーの訴えは、マロニーによって取り付かれる事はなかった。

 マロニーに同意なのが若干癪と思われるが、ペリーヌとリネットは無言で“仕方がない”と示していた。

 

「もういい、お前達じゃ話にならん!!

ミーナに話を着ける!

ミーナは何所だ!!?」

 

「ミーナさんは今、小佐達と鳥を追い込んでますから無理です」

 

 バルクホルンはミーナを最後の頼みにしていたようだが、リネットにそのミーナが不在である事を伝えられて露骨に舌打ちをし、そんなバルクホルンをシャーリーが笑っていた。

 

「…お2人方、リーネさんにミーナさんと同じ様に上官としての扱いをして下さい。

此の娘は今、戦時小佐として作戦指揮を取ってますので」

 

「「…え?」」

 

 おそらくバルクホルンがリネットに八つ当たりをすると思ったのか、ペリーヌがムスッとしながらリネットが戦時昇進してバルクホルンとシャーリーの2人より上官になっているのを伝えて注意し、更にリネットが苦笑しながら揃って疑っていた2人に襟の階級証を見せたので、揃って顔を青くしながら少しの間固まった後、一斉に「失礼しました!!」と言いながら頭を下げた。

 此のバルクホルンとシャーリーの揃っての謝罪に、リネットが戸惑っていた事もあって、マロニーが馬鹿にした様に笑っていて、ペリーヌが彼を軽く睨んでいた。

 

「ヴィルケ中佐より通信、“2020(ニーマルニーマル)に艦隊上空に到着”だそうです!」

 

 此の直後に伝令越しに入ったミーナからの通信で、リネットは腕時計を確認して捕獲作戦の次の段階に入ろうとしていると判断した。

 

「『赤城』に移ります。

短艇を用意して下さい」

 

「ほぉ~…頑張ってるな…」

 

 リネットがマロニーが頷いての了解を得ると、直ぐに艦橋から出ていこうとして、そんな彼女にペリーヌが付いていくのを見て、杉田が感心していた。

 で2人が出ていって直ぐに入れ違いに近い形で、妙な報告が伝令から伝えられた。

 

「『イラストリアス』より通信、哨戒機が沖合い50kmの所属不明の物体が航海中!!」

 

「物体?

船じゃないのか?」

 

 また作戦に水を指しかねない報告に、マロニーが露骨に嫌な顔をした。

 

「速度、65ノット!

当艦隊を目指して直進中だそうです!」

 

 “65ノット”の単語にマロニー達上層部が一斉にギョッとしたが、此の当時の艦艇………例えとして扶桑のを上げるが、海軍期待の最新鋭駆逐艦『島風』は40ノット、更に扶桑海軍が誇るもネウロイ戦では役立たずの酸素魚雷でも約48ノット(但し設定や型式で若干前後する)、後日に魚雷艇『震洋』(ロケット推進有りの6型)が50ノットを出すも、不明物体の速度は当時の人類の科学技術では出すのは不可能だったのだから仕方がなかった。

 更に新たな伝令による追加報告で、物体が潜航していた事が伝えられて、不明物体が艦艇ではないと簡単に断定出来たが、その正体までは分からずにいたが、シャーリーとバルクホルンはギョッとしながら目線を合わせて正体を察した。

 

「奴だ!!」

 

「もう来たのか!!?」

 

 シャーリーとバルクホルンは接近しているのは、自分達が追っていた生物だと判断したが、“なるようになるしかない”とも同時に思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 空母『赤城』 ―――

 

 

 リネットがペリーヌと共に『赤城』の格納庫に入ると、既に6個の檻が組み立てられ、完成したバリケード付きの銃座で配置に着いた扶桑海軍陸戦からの狙撃班が三八式歩兵銃の確認作業をしていて、そして鳥用の撒き餌である豚の死骸が次々に山積みにされていた事から、準備はほぼ出来ていると判断した。

 

「サクシニルコリンの飽和溶液が3ccずつ、間違いありませんか?」

 

「ええ、数秒で筋肉の弛緩が始まる筈です」

 

 リネットは狙撃班の所に赴き、班長や軍医から麻酔の確認を取っていたら、此の直後に接近している鳥6匹が目視で確認されたのが伝えられた。

 

「…照明を落として下さい」

 

 リネットの指令は直ぐに実行され、同時に作業員が一斉に撒き餌から離れていった。

 暫くの間、リネット達は撒き餌か天井を見詰めていたら、ソードフィッシュの発動機の音が聞こ出し、その音は徐々に大きくなっていた。

 

「鳥、真上に到着!!!

『陽炎』『曙』『潮』『長月』『皐月』が探照灯の照射を開始しました!」

 

 そして伝令によって鳥群が着いた事が伝えられ、第二段階に入ったと判断したら、リネットは前方のエレベーターの開放部から鳥の1匹が見えた様な気がした。

 リネット達は知らなかったが、旗艦『筑摩』も命令を出しながら『霰』『秋月』『照月』『涼月』『初月』と共に探照灯を照射開始し、『赤城』を中央に配置した輪形陣を展開する艦隊による探照灯による光の檻で鳥群全てを艦隊上空に止める事に成功した。

 

『リーネさん、美緒が行きますよ!!!』

 

 続けて『筑摩』以下の11隻は探照灯の光を中央に向かって徐々に角度を落として鳥群の高度を落とさせ、更に美緒が先導としてわざとストライカーユニットを派手に吹かしながら急降下で第二エレベーターから『赤城』の格納庫に突入、此の行為で鳥群は『赤城』に降下をゆっくりとしだした。

 

「鳥が来るぞ!!!」

 

「…射撃、用意!!!」

 

 『赤城』の格納庫に入った美緒が銃座に飛び込んでストライカーユニットを脱ぎ捨てながら鳥の到来を報せると班長の号令で陸戦隊員が一斉に三八式歩兵銃に弾を装填して身構えた。

 尚、リネットとペリーヌもそうであり、美緒もペリーヌから受け取っている三八式歩兵銃は1905年から扶桑陸軍に採用され、東アジアを主に多くの国々にも輸出された名銃の1つであったが、流石に40年近くの月日が経つと“火力不足”“長槍の要領もあって長い銃身が邪魔”等の不満や不具合が指摘されるようになった為に5年前の1939年から、後世“キング・ボルトアクション”と称される九九式小銃に更新されつつあったが、今回の捕獲作戦で“低火力”と“弾道性の良さ”もあって敢えての使用となり、扶桑の工業力の無さや扶桑陸軍の予算難から未だに携帯者が多々いた事が今回は幸いとなって在庫に困りはしなかった。

 話を戻して、最後に美緒も三八式歩兵銃を身構えてもなお、鳥群は彼女達の前に姿を現さなかったが、鳥群の羽音が徐々に大きくなっていた。

 

「っ、来た!」

 

 第二エレベーター部分に探照灯の光が一瞬差した時に鳥の1羽が『赤城』の格納庫に進入、ペリーヌが思わず叫ぶのとほぼ同時に撒き餌に気付いた事による鳴き声を軽くしてからホバリングでゆっくりと撒き餌に近付き出すと、他の5羽も次々に進入しては同じ様に撒き餌に近付いていった。

 鳥の先頭は銃座バリケードの影に潜んでいるペリーヌ達の気配を感じて警戒しているのか、撒き餌の前で止まってしまったが、他の5羽も辿り着いて少しした後、6羽が次々に撒き餌を囲む形で降り立った。

 

「…エレベーターを上げて下さい」

 

 リネットは鳥群がまだ撒き餌に張り付こうとしていなかったが、鳥群が『赤城』の格納庫から逃げないと判断すると、銃座のほぼ反対側にいる通信士に慎重にしてゆっくりと近付いて格納庫の閉鎖を命じた。

 通信士はリネットに「了解!」と答えると、先ずは背負っていた通信機で『筑摩』の杉田に連絡して許可を了承を貰い、『筑摩』以下の随伴艦が鳥群に警戒されない様に探照灯を切ると、先ずはリネット達から見て奥の方の第一エレベーターが上昇を開始した。

 

「……ゆっくりですよ………ゆっくり、とです…」

 

「分かってます」

 

 リネットはエレベーターの上昇に慎重さを通信士越しに求めていたが、当の鳥群は撒き餌を貪りだし………瞬きが一切無しのギョロ目を初めとした強烈な不気味さでリネット達が少し引いていたが、此の為にエレベーターに全く気付いていなかった。

 そして第一エレベーターが上昇しきって音を出した時、鳥群は一斉に頭を上げたので美緒達狙撃班が強張ったが、少しの間だけ硬直した後に口内の肉を飲み込んでまた貪りだした。

 

「…良し、次は第二エレベーターをお願いします」

 

 リネットの指令で第二エレベーターが上昇を開始、彼女達の後方の第三エレベーターは既に上昇しきっていたので、此の第二エレベーターが上昇したら鳥群を格納庫に閉じ込められる筈であった。

 

「……出来るだけ6羽を1度に、だぞ…」

 

 美緒は最終段階が目前に迫った事で狙撃班に変な緊張感が出たのを察して確認を促したのだが、彼女の言い方が不味かった為に班長が攻撃命令だと勘違いして右手を振り上げた。

 

「…っ、まだエレベーターが」

 

「撃て!!!」

 

 リネットが班長の勘違いからの行為に気付いて止めようとしたが、その直前に班長は右手を振り落としながら命じ、美緒とペリーヌがギョッとしながら班長に振り向くと同時に狙撃班は一斉に発射、美緒の制止が無視される形で前方の1羽の背中に麻酔弾が次々命中した。

 

「3羽が逃げる!!!」

 

 だが此の射撃で奥側の3羽が驚いてしまい、その3羽は閉じきっていない第二エレベーター開放部に向かって飛び出していった。

 陸戦隊員達は次弾装填中で動けなかったが、リネットとペリーヌに美緒の3人は逃亡する3羽の最後尾の背中になんとか麻酔弾を打ち込む事に成功した。

 此の結果、陸戦隊に打たれたのは直ぐ卒倒し、リネット達3人のはよたついて天井に激突した後に墜落したが、あとの2羽はそのまま閉じきっていないエレベーター開放部から抜け出してしまった。

 だが更に不味かったのは残りの2羽はリネット達狙撃班に気付いて、彼女達目掛けて突進してきた。

 当然ながら陸戦隊は直ぐに打ち始めたが、比較的近距離だったにも関わらずに全弾を回避してしまった。

 

「…っ!」

 

 そのまま鳥の1羽が取り付こうとしたが、直ぐに班長がボタンを叩く様に押して鳥用の防御装置である点滅照明が次々に起動、鳥はその場に急停止して悲鳴を上げ、その隙に狙撃班が鳥が墜落するまで連射をし続けた。

 だが狙い通りに鳥が泡を吹きだして墜落すると、此の墜落したのを楯にした最後の1羽が飛び出してきた。

 

「やられる、っ!?」

「しまった、っ!?」

 

 リネット処か美緒でさえ誰か1人が食べられると覚悟をしたが、その直前にペリーヌが飛び出し………大きく開けた鳥の口の中に三八式歩兵を横向きに捩じ込んだ。

 三八式歩兵銃が嫌な金属音を出したが、ペリーヌは取り敢えずは鳥を抑えこんだ。

 

「…『トネール』!!!」

 

 ペリーヌはそのまま雷遁魔法を発動、鳥は稀に骨が一瞬見えてしまう程の強力な電撃で変な悲鳴を上げ続けたが、ペリーヌが『トネール』を止めると直ぐに墜落した。

 美緒達は“大”の字(と言うより“木”に近い)で仰向けに倒れている鳥の状態からペリーヌが鳥を殺害したと思ってしまったが、少し間を置いてから全身から薄い黒煙を上げながら白目を剥いた状態で痙攣をした事で生存が判明し、全員が揃って溜息を吐いたら、ペリーヌが目線で抗議していた。

 

「……撃ち方止め!」

 

 残った鳥4羽が再び起きないかを警戒して、美緒が三八式歩兵銃を身構えながら陸戦隊員を数人従えてゆっくり前進………慎重に4羽を順に確認して暫くは起きないと判断して警戒を解くように命令し、陸戦隊員達やペリーヌとリネットの全員が一斉に三八式歩兵銃を下ろし、まだ点いていた防御装置の電源が切られた。

 直ぐに陸戦隊が鳥4羽を各々に硬質金属製の檻に入れ始めていたが、ペリーヌとリネットは息を乱してお互いの顔を見つめて暫くした後に苦笑しあい、美緒は鳥のプレッシャーで疲労感が重く感じながら予想以上の汗に驚いていた。

 こんな状態だったので、全員が逃げた2羽の事を完全に忘れていた…




 感想か御意見、両方かどちらかでもお願いします。

 此の場で言っておきますが、ガメラ原作では最終的なギャオスの生き残りが2羽のどちらかは不明でしたが、本作では最後にペリーヌの『トネール』にヤられたのが最終的な生き残りとします。
 その理由はしっかり決めてますので、まぁガメラ原作で“ギャオスが東京を占拠する”場面の該当辺りで書きますが、此の影響で本作のギャオスはガメラ原作より若干強くなっています。

 さぁ皆さん、次回いよいよアイツが本格的に姿を現します。


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第9話 環礁は現れ、真の姿を示す

――― 北海 ―――

 

 

「あ、鳥!!!」

 

「2頭も逃げた!!」

 

 此の時、ミーナ達5人は『赤城』の直上で非常事態に備えていて、鳥6頭が『赤城』に降りたってから時間がかなり経過した事から気を抜いた時、『赤城』から鳥が2頭も飛び出したのをハルトマンとルッキーニが気付いて叫んで報せた。

 

「どうしたのよ、美緒!?」

 

 『赤城』の艦内での現状を知らない為、ミーナが無線で報せる等をしなかった美緒を疑問に思って叫んでいたが、そのミーナ達の現状は2の点で不味かった。

 1つ目は鳥2頭は北に向かってアイスランドに戻ろうとせずに逆方向の南に向かい………要するに危惧されていたブリタニア本土に向かっていた。

 そして2点目はと言うと、ミーナ達4人の内のミーナとハルトマンが、ストライカーユニットが燃料切れ寸前だった為に『筑摩』に着艦しようとしていた(更に言うと、バルクホルンとシャーリーが『筑摩』から発艦する気配無し)ので追撃出来なかったからだ。

 

「追います」

 

「あ、待って!!!」

 

 まぁこんなんであったが、サーニャが直ぐに鳥の追跡に入り、エイラも慌てて彼女に続いた。

 

「私も!!」

 

「ルッキーニさんは駄目!!!」

 

「え~…」

 

 更にルッキーニも続こうとしたが、ミーナが他にも鳥が脱走する事に備えて彼女は止まるように指令した。

 

「でもさ、サーニャ、追い掛けるのは良いとして、追い付いたらどうすんのさ?」

 

 エイラの質問にサーニャは何も言わずにロケットランチャーを軽く持ち上げる事で、殺害を示したのでエイラが「あ~…」と呻いた。

 

『501、決して鳥を殺すな!!!

本作戦はあくまで鳥の捕獲だ!!!

殺害は決して許さんぞ!!!』

 

 だが、作戦司令部も2人による鳥殺害を予想したので、直ぐに『筑摩』(厳密に言えばマロニー)から注意勧告がもたらされた。

 

「……アレが素手で捕まえられるんなら、『赤城』を動員しないよ…」

 

 エイラが呆れて溜息を吐いたら、サーニャに小突かれて注意された。

 

「前方に灯りを多数確認」

 

「くそぉ!!!

サーソーだ!」

 

 遂に最悪の事態が目に見えてきて、どう見ても鳥2頭がブリタニア最北端の町サーソーを狙っているのが分かった。

 

「ミーナ、不味いぞ!!!

鳥がサーソーに着いちまうぞ!」

 

『……エイラさん、サーニャさん、私が責任を取ります…』

 

 エイラとサーニャはなんとか鳥2頭が機銃やロケットランチャーで狙える距離にまで追い付いたが、どうしても攻撃に踏み切れない為、エイラがミーナに泣き付いてしまった。

 ミーナは鳥攻撃がマロニーに501JFWを追い込む致命的な要因になる事(だからこそ、マロニーは攻撃禁止を言っているのかもしれない)を予想して少しの間沈黙していたが、暈しながらも攻撃する様に一様命じた。

 

「もうどうにでもなれ!!!」

 

「エイラ、待って」

 

「…え?」

 

「右前方の海面に未確認物体」

 

 エイラが半ば自棄糞(ヤケクソ)で機銃の銃把(グリップ)を握った直後、エイラが固有魔法『全方位広域探索』で見つけたのを報せて、エイラは先日鳥に襲われた漁船群を思い出しながら嫌な予感と共にそちらに振り向いた。

 処が、そこに存在していたのは、暗闇なので詳細には見えなかったが、明らかに艦船等ではない存在がほんの僅かな一部のみを海面上に出しての潜水でド派手に波を砕きながら航行していた。

 しかも謎の存在は目に見えて以上な速度を出していた。

 

「…何か岩の様に見えます」

 

「もしかして、アレがシャーリー達が言っていた環礁擬きか?」

 

 サーニャとエイラは謎の存在に気が行きすぎて鳥2頭を失念していたが、その謎の存在は超高速航行で鳥2頭とサーソーの間に割り込もうとしていた。

 そしてサーソーの町並みが詳細に見える距離まで来た時、謎の存在が鳥2頭の正面に達した直後…

 

「「…っ!!?」」

 

…謎の存在の周囲の海面が巨大な水柱を上げたので謎の存在が自爆でもしたのかと思ったら、その水柱の中から巨大生物の顔と両手が突き出た。

 まさかの巨大生物………否、怪獣の出現にエイラとサーニャだけでなく鳥2頭も驚いていたが、エイラとサーニャが驚きのあまり急停止して硬直したのに反して、鳥2頭は驚きの鳴き声を上げながら怪獣に向かって飛行を続けていた。

 怪獣はエイラとサーニャは取り敢えず無視して、自分目掛けて飛んでくる鳥2頭に向かって咆哮を上げ、振りかぶった右掌を鳥2頭の先頭の1頭に叩きつけ、被弾した鳥1頭は変な鳴き声を出しながら海に叩き付けられた。

 

「環礁が怪獣に化けた!?」

 

「違います。

環礁は元から怪獣だったのです」

 

 驚き戸惑っているエイラの意見を修正したサーニャの言う通りなのだろう、脇を過ぎてサーソーに加速して逃げる鳥に振り向いた事で、2人に向けられた怪獣の背中には岩石が調査隊の器具等と共にへばり着いていたが、一斉に崩れ落ちてほぼ楕円形の硬質の背中が剥き出しとなった。

 

「なんだアイツは!!?」

 

「デカイ、デカ過ぎる!!!」

 

 一方サーソーでは怪獣の報告で存在が分かるだけでなく、その怪獣が鳥を追い掛けてサーソーに上陸しようとしているのが分かって住民達が大慌ててで逃げ出し始めていた。

 だがサーソーの住民達は気付いていない幸運だったのは、鳥が怪獣を警戒していたので上空を不規則に旋回し続けていたので、住民達を補食しようする気配が無かった。

 

「どうすんだよ、アレ?」

 

 エイラは唖然としてサーニャが硬直していた間、怪獣はサーソーに上陸して建物を幾つか蹴飛ばしながら鳥を追い掛けていた。

 鳥と怪獣から逃げれないと判断したらしく、反転して怪獣の方に向かい、怪獣の目を回してやろうと怪獣の近くで旋回を始めた。

 だが怪獣は鳥の思うようにならず、むしろ怪獣は鳥の動きを読み取りながら唸り声を上げ………鳥があまい動きをした隙を狙って、鳥に向けて口が開いたら、火球こと『烈火弾』を3連続で吐き出し、1発目と2発目は鳥に避けられてサーソーに着弾して火柱を上げたが、実は2つは牽制であって、2連続の回避で動きが鈍った鳥に3発目が見事に着弾、火達磨(ヒダルマ)と化した鳥は絶叫しながら頭から落下を始めて、そのままサーソーの中心部に墜落して派手な砂煙を上げた。

 怪獣は鳥を撃ち落としたら勝利の雄叫びとも思える特大の咆哮を上げたら、鳥の死を確認するのか、はたまた生きていたらトドメを刺しに行くのか、兎に角言えるのは怪獣は鳥の墜落地点目指して全員を開始した。

 此の間、サーソーの住民達は怪獣だけでなく、怪獣の起こした火災からも悲鳴を上げながら必死に逃げ回っていたが、抱き上げられたり手を引かれている子供達だけは妙に落ち着いていて、一部は怪獣に向かって手を振ったり歓声を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 空母『赤城』 ―――

 

 

 エイラとサーニャの目の前でサーソーが怪獣と鳥2頭によって酷い事になっていた時、『赤城』は『筑摩』以下の随伴艦群と共に作戦終了としてスカパ・フロー目指して航行していた。

 

「こんなモンを捕まえていたのか…」

 

「なんだろうな、コイツ等?」

 

 更に突き詰めると501JFWの面々は『筑摩』を通して『赤城』格納庫に集結、全員で各々に檻の中で眠っている鳥3頭や死亡した鳥1頭を見ていて、シャーリーが半ば呆れていて、バルクホルンは鳥3頭を凝視していた。

 

「コイツ、食べて良い?」

 

「駄目に決まってるでしょう!!!」

 

 更にルッキーニが死亡した鳥を食べたがっていたが、それはペリーヌに怒鳴られる結果になった。

 だがそんな時、『赤城』全体で警報が鳴り響いたのでギョッとせざるをえなかった。

 

『ミーナ、逃げろ!!!

環礁だった怪獣がそっちに行くぞ!!!』

 

「…怪獣?」

 

 更にミーナがエイラから悲鳴に近い形で通信報告を受信したが、当のミーナはまともに受けていなかったが、艦外から砲撃音が鳴り始めたので、取り敢えず美緒達7人を従えて飛行甲板に登った。

 

「何ですか、アレ!!?」

 

 そして飛行甲板に出ると、直ぐにリネットが叫んで右舷を示したら先に、ブリタニア本土の方から、暗い上に火災による赤い光による逆光で詳細には見えなかったが、ハートに近い形の何かが此方に向かってきていた。

 当然、扶桑艦隊は接近物に黙っているわけがなく、『赤城』右舷側に展開していた『長月』『皐月』『曙』『潮』『陽炎』の5隻が各々艦長の意思で接近物目掛けて砲撃を始め、左舷側にいた『霰』『秋月』『照月』『凉月』『初月』の5隻も回り込んで砲撃に参加しようとしていた。

 

『撃つな!!!

此の海域はブリタニアのモノだ!!!

扶桑艦隊が勝手な事をするな!!!』

 

 只、『筑摩』はマロニーによって左舷側に止まって攻撃せずに『陽炎』以下11隻の砲撃を止めさせようとしていたが、『赤城』までもが、役立たずと言われていた艦尾のケースメイト式副砲である20cm単装砲3門が砲撃を開始して高角砲群や機銃群の砲員達が戦闘配置に着こうと走っていた。

 

「アレが環礁だったの?

なんかスッゴく早く来ているよ」

 

「エイラがそう言ってるのなら、そうなんでしょ!」

 

 妙に冷静なハルトマンの質問に、ミーナが少し苛つきながら答えていたら、夜と化した事もあって砲撃が悉く怪獣から外れている事から『長月』と『皐月』が怪獣に向けて探照灯を照射開始、怪獣の詳細な姿を鮮明に照らし出し、巨大感もそうであったが、空想上のも含めての古今東西のあらゆる生物に一致しない怪獣の姿に誰もが驚いていた。

 

「……アイツは…」

 

 だがバルクホルンのみは怪獣を夢の中で見て知っていた為、他のは別ベクトルに驚いていた。

 此の間にも怪獣に砲弾が次々に当たり出しただけでなく、『霰』『陽炎』『秋月』『照月』『凉月』『初月』が魚雷を多数投下、暫くした後に魚雷群の何割かが怪獣に命中したが、当の怪獣は咆哮を上げはするが傷付いた気配がなく、更には怯んだりはせずに艦隊を………近付いてきたので分かったが、『赤城』目指して前進を続けていた。

 

「馬鹿な!!!

12.7cm砲弾だけでなく、酸素魚雷でさえ効かないと言うのか!!?」

 

「物凄い強靭さです!!!」

 

 駆逐艦群の砲撃処か、下手な巡洋艦級でさえ一撃で撃沈に至らしめる酸素魚雷さえ無力である事に、美緒が愕然として、ペリーヌが唖然とし、そして誰もが怪獣からネウロイと同等かそれ以上の脅威を感じていた。

 だがその間にも怪獣は『赤城』に向かっていて、魚雷が装填中で使えない上に距離的な問題から、『陽炎』と『曙』が揃って怪獣に向かって突進………体当たり(衝角(ラム)戦)で怪獣を押さえ込もうとしたが、怪獣は『陽炎』と『曙』をあっさりはね除けてしまった。

 此の結果、『陽炎』と『曙』が大破するだけでなく、駆逐艦群が距離的に『赤城』への誤射を危惧して砲撃出来なくなり、怪獣に向かって砲撃しているのは『赤城』の高角砲と機銃のみになってしまった。

 

『総員退艦!!!

『赤城』の乗員は速やかに退艦せよ!!!』

 

 だが杉田は『赤城』は怪獣から助からないと判断し、『筑摩』からのスピーカー越しに退艦令を発した。

 此の為、『赤城』では杉田の命令に乗員達が従い………否、一部の砲員達は命令を無視して怪獣への砲撃を続けていたが、次々に士官に引き剥がされて、比較的安全な左舷に向かって、そこから海に次々に飛び込んでいった。

 

「私達も逃げるわよ!!!」

 

「でも、鳥が…」

 

「そんな事を云ってる場合じゃないだろ!!!」

 

 501JFWもまた、杉田の命令に従い、リネットが鳥3頭を危惧したがシャーリーに怒鳴られ、全員が次々に自分のストライカーユニットを履いて『赤城』から発艦を始めた。

 

「…っ!?

トゥルーデ、何をやってんの!!?」

 

「馬鹿、早くしろ!!!」

 

「あ、ああ…」

 

 だがバルクホルンは硬直したまま迫り来る怪獣を呆然と見つめ続けていて、その事にハルトマンが滑走直前に気付いてらしくない彼女を怒鳴り、更に美緒も怒鳴ったので、バルクホルンはぼんやりとしながらストライカーユニットを履いて最後に滑走し出した。

 バルクホルンが『赤城』から発艦してミーナ達がいる所へ上昇していた時に、怪獣は『赤城』に接触して両手を『赤城』目掛けて勢いよく振り下ろし、此の事で『赤城』が一気に右に傾いたので、飛行甲板左舷に集結していた『赤城』乗員達が右舷に吹き飛ばされるか、滑り落ち出して、右舷側の海に落下し出していた。

 だが怪獣はそんな『赤城』乗員達に見向きもせずに、そのまま『赤城』の飛行甲板を力任せに捲り上げ始めた。

 そして此の時、格納庫内の檻にいた鳥3頭は一斉に起きて、破痕から怪獣の下顎が見えると、顔を上げて口を開くと檻のネジや『赤城』の鋲が激しく揺れる程に喉を鳴らし始め、更に口の中が光出していた。

 

「……何でなんだよ…」

 

 『赤城』を破壊しようとしている怪獣の行為を誰もが見つめるしかなかったが、不意にバルクホルンは呟いた。

 

「…何でアイツは『赤城』を攻撃するんだ!!?」

 

 此の時、バルクホルンは夢で見た怪獣がネウロイから自分達を守りながら殲滅した事が何度も頭を(ヨギ)り、“怪獣は自分達(人類)の味方”との思いが否定されていた事から、偶々隣にいたシャーリーの胸倉を掴み上げて(ワメ)いた。

 

「そ、そんな事、私が知るか」

 

「何で『赤城』なんだぁぁぁー!!?」

 

「トゥルーデ、落ち着きなさい!!!」

 

「さっきからどうしたのトゥルーデ!!?」

 

 彼女らしくなく錯乱しているバルクホルンに、シャーリーだけでなく、彼女を背後から引き剥がして抑えようとするミーナとハルトマンも驚き戸惑っていた。

 だがバルクホルンの言う通り、怪獣は『赤城』のみに執着して、他の艦艇には見向きもしていなかった。

 リネットは此の事に気付き、他艦と『赤城』の違いを思案して少ししてから、決定的な違いに気付いた。

 

「鳥です!!!

『赤城』には鳥がいます!!!

怪獣は鳥を狙っているんですよ!!!」

 

 リネットの叫んでの指摘にミーナ達が一斉に振り向いた時、怪獣が『赤城』の飛行甲板を大方取り払って檻の中の鳥3頭を見つけての興奮から右手を振り下ろして、『赤城』の艦首をへし折った直後、鳥3頭が揃って口から光線のようなの(後日『超音波メス』と命名)を放って檻を切断し、そのまま飛び上がって怪獣の目の前を過ぎる形で上空に舞い上がった。

 

「鳥3頭が!!!」

 

「ちょっと待って!!!

どうやって逃げました!!?」

 

 ルッキーニが逃げ出した鳥3頭を見付けて報せたが、ミーナが言った通りに、檻を破った方法が分からないので、驚き戸惑うしかなかった。

 だが怪獣は直ぐに鳥3頭を追い掛けようとしたが、『赤城』にめり込んだ右手を抜く事に苦戦していて、右手が抜けた時には鳥3頭は既に空の彼方へ消えていた。

 此の為、怪獣は悔しそうに咆哮したら『赤城』から僅かに離れて、前のめりに体を倒して海に潜った。

 誰もが怪獣が潜航して逃げると思われたが、怪獣がいる海面が白く光ると、頭と両手足(あと尻尾)が消えた胴体………否、僅かに顔が見えた事から5体(正しくは6体)を胴体に収納した形で、なんと両手足各々があった4ヶ所から火炎を噴射して垂直に上昇し始めた。

 此れだけでも驚きだったが、怪獣は一定高度に達したら時計回りに高速回転をしだし………猛突風を起こしながら高速飛行で鳥3頭を追い掛けていった。

 

「…結局、何だったの、アイツ?」

 

 怪獣出現から立て続けて理解不能な事が起き、ハルトマンのボヤきに近い質問に、たった今合流したエイラとサーニャも含めて誰も答えられずに硬直していた。

 只分かっていたのは、後に残っているのが大破して沈没しようとしている『赤城』と、遠方で火災の光を複数放って消防車の警笛が鳴り響いているサーソーだけであった。

 

 

 

 

 

 少し間をおいてから、『赤城』の自沈処理(数時間後、『霰』の雷撃で処分)が決定した為、『潮』が左舷から接舷した形で『赤城』乗員達の救出と奇跡的に無事だった鳥の遺体回収が行われている『赤城』の格納庫にミーナは美緒とリネットと共に1度戻っていた。

 そして3人は鳥が入っていた檻3個を見詰めていた。

 

「…どうすれば、こんな風に壊せます?」

 

「分からない。

いったい鳥は何をしたのかしら?」

 

 リネットとミーナは檻の壊され形を疑問視していて、美緒が何の気なしに抜刀術で檻の柵1本を切った。

 美緒による檻の柵の断面はボヤけていたが、鳥のと思われるのは鏡の様に滑らかであった。




 感想または御意見、或いは両方でもいいので、宜しくお願いします。

 初期から読んでいた人には分かると思いますが、鳥(ギャオス)を5頭から6頭に増やしたのは、本作で怪獣(ガメラ)に海に叩き付けられる個体が欲しかったからです。
 と言うのも、まだ検討中ですが、海に叩き付けられた個体は重傷だったが、生き長らえて海中に適応進化して、ジグラ(に近い存在)と化すとしているからです。
 此の為、本作品ではガメラは中盤の終わり辺りで、ギャオスとジグラを同時に相手取る事になるかもしれません。

 最後に今回で『赤城』が沈む事になりましたが、ストウィ原作最終回でのネウロイ化した『赤城』は出ませんが、ウォーロックは出ます。
 此処で決定事項を発表、ウォーロックは501JFWと共闘してギャオスの最後個体と戦いますが、原作と違ってショボい退場をします。


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第10話 騒動の後に…

――― ロンドン ―――

 

 

 “怪獣、サーソーに一時上陸し、空母『赤城』を襲撃!!!”

 

 5日前に起きた出来事の一報はネウロイとの大戦真っ只中で連合軍の功績以外には基本的に反応しなくなっていたロンドンやブリタニア処か、世界中に瞬く間に広まっていた。

 此の為、リネットと芳佳の2人は買い出しに来ていたロンドンの至る所で怪獣関連の号外新聞が売られているのを多数見付けていた。

 

「…“怪獣はネウロイの生物兵器”だって。

だから軍拡を主張しているよ」

 

「こっちは“怪獣は思い上がる人類への警告、故に人類は悔い改めよ”、完全な宗教勧誘になってる…」

 

 尤もリネットはその号外の幾つかを確認したら、殆どの内容が出任せ(フェイク)だったので、芳佳と共に呆れながら苦笑するしかなかった。

 

「…怪獣か………なんか来たら面白そうだ!」

 

「え~…ちょっと怖いよ」

 

「まぁ、君みたいな娘は真っ先に襲われるだろうな」

 

 更に号外片手に町行く人々は怪獣の話題で盛り上がっていて、怪獣だけでなくネウロイに狙われているのに妙に呑気なロンドン市民にリネットと芳佳は目線を合わせて溜息を吐いてもいた。

 只、怪獣の所為で逃げてブリタニア本土に潜伏した鳥3頭に誰も感心がない事をリネットが自分でも解らずに危惧していた。

 まぁ各々に怪獣や鳥に思う事は有っても、今のリネットと芳佳には現時点ではあまり関係がない事であり、2人はさっさと目的地である食品市場へ入っていった。

 

「…ねぇ、此の魚、高すぎない?」

 

「ああ、それはね、例の怪獣が北海に潜伏したって聞いてるでしょう。

その所為で北海の魚が全く入ってこないのよ」

 

「あ~…アレね。

今、議会で関連案が最優先で審議されているらしいけど、さっさと決めてほしいわね」

 

 市場に入って早速、鮮魚店の1つで子連れの主婦が店長へ文句を言ってそのまま雑談に入っていた。

 芳佳は思わず鮮魚店を覗いてみると、確かに此の手はほぼ素人の芳佳から見ても若干質が悪そうな魚に異様な高値が付けられていた。

 

「ギャオ~!!!」

 

「こら!!!」

 

 主婦(母親)と店長の長話に飽きたのか、何故か近くの柱を引っ掻いていた子供が怪獣の真似をして近くの木箱を叩いたら、直ぐに主婦に木箱から引き剥がされながら怒られていて、芳佳にはその光景が微笑ましく感じられた。

 

「芳佳ちゃん!!!

ちょっと頼まれた野菜を買ってきて!」

 

「あ、御免!!!」

 

 芳佳が鮮魚店を見ている間に、目的の精肉店でやり取りをしていたリネットが芳佳を呼び、芳佳も慌てて言われてた店に向かった。

 尚、リネットと芳佳が各々に大量買いした肉類と野菜類は怪獣の影響をもろに受けた魚類とは違って、まぁ戦時下故に多少は高かったものの、適正な値段で売られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 501JFW基地 ―――

 

 

 夕方を迎えた此の日、『サラトガ』が『インディアナポリス』と直轄の駆逐戦隊と共に接舷(他の艦艇は哨戒や船団護衛等でいない)している501JFW基地の滑走路では、香しい焼き肉の匂いが大量発生していた。

 何故こんな事が起きているかと言うと、環礁捜索任務への助力の感謝とお互いの勤労を祝った、リベリオン艦隊主催のバーベキューが合同で行われようとしていて、昼間のリネットと芳佳の買い物は此れの為の準備であった。

 尚、501JFWは本来なら此の時間帯は哨戒飛行が行われるのだが、その任務は数日前に復帰した『タイコンデロガ』が随伴艦艇を引き連れて代わりとして行っていて、流石にネウロイ襲撃による緊急時は501JFWが即刻駆け付ける手筈なのだが、501JFWの皆さんは普段滅多にお目にかかれない肉祭り故にそれが無い事を祈っていた。

 

「「「…(ニーク)そ~れ、肉ほ~れ、肉ドッコイ♪…(繰り返し)…」」」

 

 まぁ、バーベキュー開始秒読み段階に至ってはそんな事は雲散霧消していて、現にエイラとハルトマンにルッキーニが3人揃っての入り込み状態で皿片手にお肉コールを歌い続けて周囲に引かれていた。

 

「こらこら、食べるにはまだまだ!!」

 

 意外な事に、こう言う事に先陣をきりそうなシャーリーは入り込み状態にはならずに、フライングしかけたルッキーニを抱き上げて止める等をして3人を抑えていた。

 

「……もう少し焼いた方がいいな…」

 

「…シャーリーって肉奉行?」

 

「アレを見たら確実ですね」

 

 いやむしろ、矢鱈と細かく焼き加減を確認したので、どうやらバーベキューには口煩い事が判明して、サーニャとペリーヌが呆れていた。

 

「おい、上手に焼けてるのか?」

 

「俺の親父(オヤジ)はニューヨークで名を知られたステーキ店をやってます。

下手な仕事をしたのがバレたら、俺が親父に火炙り刑(ステーキ)にされちまいますよ!」

 

 更にジム監督の下にバーベキューが物足りない人向けのステーキも焼かれていて、更に更に成年への付け合わせのビールやウィスキー等のアルコール類も大量に用意されていた。

 尤も、502JFW(ブレイブウィッチーズ)(厳密に言えば無類の酒好きの似非(エセ)伯爵ことヴァルトルート・クルピンスキー空軍中尉、生真面目だったハルトマンを怠惰人間に変えた淳楽主義の楽天家)なら兎も角、飲酒を嗜む者がいない501JFWには需要が殆ど無いかもしれないが、今回はウィッチの面々だけでなく整備兵等の基地要員達だけでなく基地周辺の近隣住民にも交流も兼ねて提供する予定なのであった。(実際は禁酒法の名残でアルコール類が艦内持ち込みが厳禁のリベリオン艦隊の自分自身への物だと思うが…)

 

「良ぉ~し!!!

上手に焼けましたぁ~♪」

 

「こっちもOKだ。

客入れろ!!!」

 

 近隣住民達がそれなりにやって来たのとほぼ同時に、シャーリー監修(?)のバーベキューとジム達によるステーキが必要分量に出来あがって誰もが待ちわびたバーベキュー(肉祭り)が開始、各々の形で歓声を上げながらバーベキューかステーキへ突撃していった。

 

「押さないで押さないで!

料理はまだまだ有りますから!」

 

「コラ!!!

野菜も食べなさい!」

 

 直ぐ様無礼講の(サマ)と化し、501JFWの面々も各々にバーベキューやステーキを取っている中で、リネットは性分的に自分は食せずにウェイトレス代りに物を取れないで騒ごうとする者達を取り付くっていえ、同時期にペリーヌは肉食のみで野菜を残す子供達を見つけて注意して当人達に睨まれて彼女も睨み返していた。

 

「ジム中佐、ウィスキーのロックです」

 

「ああ、御免ね!」

 

 少し間をおいて、部下達と共に調理に勤しんでいたジム、暑くなった上に汗だくになった為に上半身タンクトップのみになっていた所に芳佳がやってきて、彼に頼まれたウィスキー入りグラスを差し出した。

 ジムは後を任せた部下達の睨みを尻目に、芳佳からウィスキーを受け取ると一口飲んで幸せな溜息を吐いた。

 

「…あの中佐、私達楽しんでいて良いのですか?」

 

「何で?

此れは君達への頑張りに相応しいと思うぞ」

 

「いえ、私達じゃなくて、他のリベリオンの船の人達は出ていますから…」

 

「あ~…アイツ等なら気にするな。

アイツ等にも任務完了後に上陸休養が言い渡されるよ」

 

「でも…」

 

「それにアイツ等、バーベキュー以上の楽しいぃ~大人だけの楽しみを夜のロンドンでやる気だろうよ」

 

「大人の?」

 

「芳佳ぁ、まだまだピュアな君は知らなくていい事だよ~」

 

「あ、シャーリー!!

お前、未成年のクセに酒飲んだな!?」

 

「へっへーん!!

こんな場で進められた酒を無視すんのが無礼ってもんだ!」

 

 ジムが芳佳の憂いを解くも、最後の部分をあやふやにした為に芳佳が首を傾げた直後、明らかに酔いで顔が赤いシャーリーが芳佳の背後から彼女の首に右腕を巻き付けて自分の胸元に寄せた。

 シャーリーはジムの呆れながら注意に完全に悪びれていなかったが、此の間中に芳佳は自分の状況に託つけてシャーリーの胸に頬ずりをしながら高揚とした表情でいた。

 

 

「此れは私のだ!!!」

 

「ヴェアアァァー!!!」

 

「エイラ…」

 

 因みに他の501JFWの衆はと言うと、ルッキーニは子供達とバーベキューの争奪戦を繰り広げていて、進められた酒を飲んだエイラは泣き上戸を起こしてサーニャにあやされていた。

 

「うあぁーはっはっはあぁー!!!

ラッシャアァーイ!!!」

 

……下戸の美緒、進められたワイン(度数は低い)一口飲んだ事で、時折奇声を上げての高笑いをしながら滑走路を走り回っていたが、誰も彼女を止めようせず………いや、寧ろ関わらないように無視されていた。

 なにせ美緒信者のペリーヌでさえ彼女の奇行に呆れ、暴走中の美緒と目線を合わせる直前に慌てて顔を背けていた。

 

「あ、でも、気にするとしたら君達501JFWの方だろ?」

 

「バルクホルンさんですよね?」

 

「え~…あんな堅物いないから楽しめるんだよ。

やっぱりお前、アイツ狙ってんじゃん!」

 

「シャーリー!!!

誰か此の酔っぱらいにぶっかけるバケツ一杯の水持って来い!」

 

 実はジムの指摘通り、此の場には501JFWの面々で唯一バルクホルンがいなかった。

 と言うのも、バルクホルンは先日の騒動で風邪っぴきの体調で無茶な長距離飛行を行った上、その直後から数度も変な興奮した為に風邪が悪化して発熱が40度越えして肺炎の併発が疑われので、検査入院として妹クリスと同じ病院へ強制連行をされたのだった。

 しかもバルクホルンは入院中にバーベキューが行われるのを知って、強制連行時に基地残留を激しく主張しながら大暴れをした所為で負傷者が複数人出ていた。

 

「あ~…あ~あ~…、絶対トゥルーデ、後で面倒臭い事をするだろうから悩みが尽きないよ」

 

「まったく、こう言うウィッチとの交流は断固拒否なのに、何でこうなったのかしら!」

 

「それに入院してるトゥルーデに申し訳ないから、私達だけでも、控えるべきだよね」

 

「…ふぅ~、トゥルーデじゃないけど、此れだからリベリオンの性質に不快感を感じるわよ!!」

 

 群衆から離れたテーブル席にて、ハルトマンがバルクホルンを憂い、ミーナが断固反対だったバーベキューに対して文句を言っていた。

 

「……アレって、冗談で言っているんですよね?」

 

「いや、酔ってるだけだろ」

 

 だがそんな2人を芳佳とジムを遠方から怪訝に見詰めていた。

 

「あ、ビールもう1杯とバーベキュー10本持ってきて!!」

 

「次のステーキはまだ?

持ってくるのなら、ライスとワインも付けてきて」

 

 何故なら机上のハルトマンの右腕の近くの空き皿には大量の串が置かれて空のビールジョッキが複数、ミーナの右脇には山積みになったステーキ用鉄板の近くにワインの空瓶が大量に捨てられていたからだ。

 要約すると、此の2人は何だかんだ言いながらバーベキューを1番堪能していた。

 

 斯くして、1名を欠いた501JFWによるブリタニア防衛戦時の休養を兼ねた最大級イベントは大団円に向かって順調に驀進していた。




芳佳
「作者に代わって、感想や御意見等を宜しくお願いします」

シャーリー
「いやあぁ~…今回の話は実に良かった!!
ストウィの二次創作小説でもこんなのはないだろう!」

芳佳
「ガメラファンなら分かってくれると思いますが、今回のはガメラ原作での草薙邸での焼き肉の場面に該当するのです」

シャーリー
「て事は、いよいよ石板の翻訳からの勾玉の覚醒をやるんだな?」

芳佳
「ええ、次回にそれをやるつもりらしいです」





























































芳佳
「…処で作者は何所ですか?」

シャーリー
「作者なら向こうにいるよ」






























…ぎぃやあぁぁー!!!

バルクホルン
「待てゴラアァァー!!!」

…話をさせてえぇぇー!!!

バルクホルン
「問答無用ぉぉー!!!」











シャーリー
「バルクホルンが乗ったA-10の攻撃から逃げ回ってるだろ?」

芳佳
「大原部長オチの亜種だ…」


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