Fate/kaleid and hero (MZMA)
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転界


見切発車ですから自分にも完結する未来がみえません

息抜きで書いたのですごく文も短いし雑で見にくいと思います



「踏みとどまれ下郎! (オレ)がその場に戻るまでな!」

 

既に聖杯の穴に半身を食い尽くされたかの英雄王は自身が悔しながらも強者と認め、屠ろうとした贋作者(フェイカー)の腕に鎖を巻きつけ、必死に喰われまいと、踏みとどまろうと抵抗する。

 

「ふざけるな! こうなったら腕を千切ってでも…!」

 

だか、正義の味方(エミヤシロウ)はそれを許さない。

共に飲み込まれないように必死に踏ん張りながらも、自身の腕を切り飛ばしてでも人類の王たる英雄王を滅ぼそうとする。

 

そしてーーー

 

「ふん、お前の勝手たが、その前に右に避けろ」

 

消えた筈の赤き弓兵(アーチャー)の声が辺りに響きーー

 

運命の針は狂った。

 

ズルリ、と士郎の足が滑る。

つんのめり、鎖に引っ張られる形で一直線に穴へと向かう。

それを見て、血相を変えた英雄王は王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から更なる宝具を取り出そうとしーーー

張っていた鎖が撓んだ事で仰け反りアーチャーの弓が頭上を通過する。

 

 

そして本来、武具が出る筈の空間の歪みにその矢は吸い込まれーー

衛宮士郎が自らの元へと突っ込んで来たと同時に、爆破を起こした。

 

「っ! 貴様らァァ!」

 

王の財宝の中身を穴の中に撒き散らしながら英雄王と未来の弓兵は、

 

 

聖杯と共に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐるりぐるりと世界が回る。

 

悪意に体が汚染され、魂を砕かれ、自分が自分で無くなるような感覚。

 

様々な怨念や怨嗟の声。

 

負の感情が、煮詰められ濃縮され醸造される。

 

脳髄を直接に冒され、侵され、犯されていく。

 

ぐちゃぐちゃになった脳が耳や目、鼻から溢れてくる様だ。

 

そんな中ではあれだけ憎い存在だったかの英雄王でさえ、頼もしく、存在するだけで安心するような気さえしてーー

 

だから、必死に手を伸ばす。

 

黄金の輝きを持つ宝をまき散らしているその人影へと。

 

右手の平が焼鏝を強く押し付けられた様に痛み、そしてその体に触れた。

 

黄金の輝きがその場を満たし、そしてあたりの宝具も共鳴する。

 

そしてその輝きが一際強くなった時、またしても2人の姿は

 

 

消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うっすらと目を開く。

 

何処にでもある様な天井。

 

ゆっくりと首を動かしてみれば、カーテンから漏れる光はまだ無く、日が昇りきっていない事が理解出来る。

 

時計を確認してみるとまだ5時であった。

 

少々早いが、二度寝するのも憚られる。起きられない時間でも無い、とゆっくりとベットから起き上がる。

 

そして、

 

「っ⁉︎」

 

衛宮士郎は驚愕した。

 

生きている。

それは平々凡々な生活を送る青年にとっては普通の事だが、衛宮士郎は別だった。

 

(俺はあの時、死んだ筈じゃあ…)

 

眠気は完全に吹き飛び、辺りを見渡す。

目につくのは勉強机と椅子とクローゼットのみ。飾り気の無い小綺麗な部屋だった。

 

そして体に感じる幾つかの違和感。

記憶が、2つ存在する。

 

1つはこの一軒家に引き取られ、家族と共にごくごく平凡な生活を送っていた高校生の物。

 

そしてもう1つは、あの戦争を経験した、正義の味方の記録(・・)

 

そう、記録だ。

あの戦争が始まる前の衛宮の屋敷で平凡な生活を送りつつも魔術の修行をしていた頃は、記憶と呼べるものだった。

もう1つの、自らの物であって自らの物でないこの家の記憶とはすんなり馴染み、感覚としては共に暮らす人が増えたんだ程度の認識で問題は無い。

 

だが、あの戦争から先がどうしても感情移入出来ない。

いや、赤き弓兵との闘いや、そこで得た答えはちゃんと衛宮士郎としてのこの身に定着している。

だが、それ以外は小説でも見ているかの様な無機質な感覚しか湧いてこないのだ。

あの、英雄王に対する嫌悪感までもがへー、そうなんだ程度で終わってしまう。

 

そんな自分に辟易しながら、何気なく右手に視線を向けると、

 

「なんでさ」

 

赤い、三角の令呪が刻まれていた。

 

 








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英雄女王

なんかもう、いろいろと酷いです

キャラ崩壊が…


令呪に僅かながらの魔力を流すと、カチリと何かが噛み合い、パスが繋がる。

そして、その令呪に繋がるパスの方向に顔を向けると、

 

「むぅ、(われ)に気づくのが遅いぞ! この雑種が!」

 

妙に高飛車な態度を取る、金髪赤目の小柄な少女が霊体化する。

年は10歳くらいだろうか?

何処となくあの慢心の権化たる英雄王の様な雰囲気を持つ少女だ。

 

そして、少女は士郎が問いを投げかける前にビシリと指をさすと可愛らしい声で、士郎に命じた。

 

「我はお腹が空いたぞ! 早くご飯を持って来い!」

 

「いや、その前に君は一体ーー」

 

だが、彼女はそんな士郎の言葉に耳を傾けず、更に驚愕の言葉を発する。

 

「この英雄王たる我の勅命だぞ。光栄に思え雑種!」

 

英雄王。エイユウオウ。えいゆうおう。えーゆーおー。AUO。

 

この少女が、英雄王。

 

「はぁぁぁあ⁉︎ なんでさ‼︎」

 

だから、朝早くから自室で大声を上げた士郎は悪く無い…筈だ。

 

 

 

 

 

「はあ、朝から不幸だ…」

 

早朝から大声を出したために叩き起こされ、機嫌の悪いセラに問答無用で家から叩き出された士郎は、制服姿で公園のベンチに腰掛ける。

ノックも無しにいきなり部屋に入られた時はさすがに肝が冷えた。

英雄王だという少女が奇妙な程に気が利き、咄嗟に霊体化する事で事案が発生する事なく事無きをえた。

そして、制服に着替えさせられ家から放り出された士郎は霊体化したままの英雄王を連れてコンビニへと入り、今へ至る。

まだ、時間は6時前。空は薄暗く肌寒い。

 

そして、士郎を悩ませるもう1つの悩みは…。

 

 

「ううむ…。この、めろんぱん? という奴はなかなかに普通なたべものであるな」

 

はむはむと、士郎の隣で小動物の様に両手でメロンパンを掴み頬張っている少女である。

 

「じゃあ、食うなよ。人類最古の英雄王様」

 

士郎は食べ終わったおにぎりの包装をポケットに突っ込みながら皮肉る。

 

「何を言う! きさま、この我からごはんを奪う気か⁉︎ いかに、強者と認めてやった奴とはいえ、許容出来ぬ事もあると知れ!」

 

「いや……。もう何でもいいや」

 

はぁ、とため息1つ。チラリと横目で満面の笑みで公園に来る前に寄ったコンビニの袋から新たに取り出したクリームパンに齧りつく英雄王を見る。

いや、英雄女王と言うべきか?

彼女によれば、この世界は自分たちの元いた世界の並行世界で、開きっぱなしだった王の財宝の中から運良く世界移動の宝具が溢れ、発動したらしい。

彼女も良くわかっていないそうだ。

遠坂辺りが聞いたら発狂しそうな適当具合である。

 

「はあ、こんなのが英雄王だなんて…。とてもじゃないが、想像出来ないよなぁ…」

 

「む? 失礼な奴だな。この王たるふうかくをまとうに相応しいのはてんじょーてんげ、この世のすべての中でも我しかおるまい?」

 

えっへん、と薄い胸を張る英雄王の姿は、どう見ても背伸びをしたいお年頃な少女そのものである。

 

「まぁ、確かにおとなであった時はいささか傲慢が過ぎたがな。それは我も反省していない事も無いな。許せよ、雑種」

 

ぽんぽんと英雄王は項垂れる士郎の頭を軽く撫でる。

 

「はぁ」

 

これが、あの慢心の王そのものであったのなら、記録の様に敵意を持って相対する事が出来たのかもしれない。

だが、目の前にいる少女は少し生意気が過ぎる少女そのものなので、士郎としてもあまり強く出る事が出来ないでいるのだ。

 

「ううむ。我はこのくりーむぱんとやらがいたく気に入ったぞ! 雑種、もう1つ献上せよ!」

 

「メロンパンはダメでクリームパンはいいのか? あと、雑種はやめてくれ」

 

「このくりーむぱんは金色が入っているではないか! 王たる我が食べるに相応しいとは思わぬか、しろうよ?」

 

雑種はやめてくれとものは試しと言ってみたがあっさりと受け入れられて少々驚く。

 

「やけに素直だな。お前、本当にあの金ぴかか?」

 

「我は強者と認めてやった者には寛大なのだ! あの器の小さき大人と一緒にするでない!」

 

「仮にも自分自身だろう…。いや、だからこそ色々と思うところがあるのか? まあ、いいか」

 

「うむ! 細かい事をあまり気にするな、ハゲるぞ!」

 

「わかったわかった。あと、クリームパン買ってやるからいちいち声を張り上げないでくれ」

 

「おお、そうか! っ…いや、そうか。感謝してやろう」

 

「素直でよろしい」

 

英雄王の頭を撫でると士郎はもう一度コンビニへ行こうと立ち上がるが、ふと今まで流してきた事を聞こうと後ろを振り向く。

 

「なぁ、ところで英雄王」

 

「なんだ? そてと、我の事は名前で呼べ。許可してやろう」

 

「ああ、じゃあギル。お前と契約している事もそうだが、お前はなんで子供に、それも女の子になってんだ?」

 

「なに?」

 

士郎の質問が理解できないギルはきょとんとした表情を浮かべるが、次の瞬間ああ、と納得した表情に変わる。

 

「ふふふ。しろうも我のますたーとしてはまだまだであるな。契約は、あの空間で、双方が生きたいという本能に従い行ったから。我がこの姿になっているのは、そういう宝具のせいだ。若返りと女体化だな」

 

さも当然とばかりに言い切るギルに、士郎はああ、こいつはこういう奴なんだな。と納得してしまう。

 

「なんかもう考えるのもバカバカしくなってきた…。コンビニに入る時はちゃんと霊体化しておけよ。こんな早朝から幼女を連れ回してるなんて下手したら通報されかねない」

 

「あいわかった! さて、それではこんびにとやらに再び参ろうぞ!」

 

ぱたぱたと走っていくギルの背中を見ながら士郎は少し微笑んだ。

 

「まぁ、なる様になるか。この世界でも、オレはきっと正義の味方を張り続けてみせる」

 

思い出すのは、この世界では未だに存命な養父との月下誓い。そして、剣の荒野にてあの弓兵に宣言した自分自信のあり方だ。

 

 

「だから、きっと守れなかったイリヤだって、他の人達だって守ってみせるさ」

 

士郎はそう、誰に向けるでもなく呟く。

 

 

「おーい! しろう、早く来い! くりーむぱんが待っているのだぞー!」

 

「わかったから、叫ぶな。近所迷惑だろ」

 

そうして、士郎は小走りにギルの後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




幼女ギル様を描いてみたかったがための小説ですし。おすし。

そして、漂うこのやっちまった感。

最早誰? ってかんじですね。ハイ

まぁ、後悔はしていない(キリッ


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王の財宝

なんでかギルと士郎の絡みを書いているとくだらない事とかも書きたくなる。不思議!

そして未だに原作に介入しないどころかはじまってすらいないこの小説(笑)

そして更に加速するキャラ崩壊…。
自分で書いててヤベェって思うもんマジで。





「なあ、もう一度聞くけどさ。本当に元の世界には戻れないのか?」

 

クリームパンをギルに与えた後、特にする事も無くなった士郎は学校に行く事にしたのだった。

今はその道すがらである。

 

「何度も言わせるでないわ。我はしょゆーしゃにして担い手にあらずだ。発動させる事は出来なくもないが飛ぶ世界を指定することはできん」

 

「令呪を使って強化してもか?」

 

「しかり。令呪とは己のさーばんとと宝具に適応される物だ。いくらしろうが令呪で我の宝具たる宝物庫を強化したところで、せいぜいが最大しゃしゅちゅしゅうーー」

 

かの英雄王が盛大に噛んだ。

 

「射出数な」

 

士郎がそこを指摘するとたちまち顔を真っ赤にして士郎をポカポカと叩いてくる。正直、全く痛くはない。

 

「う、うるさい! しゃしゅち、ち、射出数! 言えた! 言えたぞしろう! 褒めるがいい!」

 

そして、言えた途端に顔を綻ばせ、胸を張る。

見ていてとても微笑ましい光景に思わず士郎も頭を撫でる。お兄ちゃんスキルの面目躍如である。

 

「わかったから。それで?」

 

「ご、ごほん! うむ。射出数が増えるだけで我の蔵の宝具には一切の影響力が無いのだ。残念な事にな。無理矢理に発動させようものなら今度こそ何処とも知れん世界に放り出されるかもしれんからオススメはせんぞ。それに、仮にできたとしてもだ。向こうならば聖杯戦争中の出来事ゆえに聖堂協会が秘匿するだろうが、この世界で消えたとなるとーーー」

 

「ああ、行方不明事件になる…か。そうか、残念だな……」

 

わかっていた事とはいえ、筋道を立てて説明されると改めて元の世界に戻ることは困難なのだと思い知らされる。

 

「そういえばさ、ギル」

 

「なんだ?」

 

「お前、元に戻れるのか?」

 

士郎は気になっていた事を聞く。幼女になる事が出来るのなら元に戻るのも可能なのでは? と。正直言って士郎としては戻ってほしくは無いのだが。

 

「可能だぞ? 最も今はまだ戻る気はいがな」

 

そう言ってギルは王の財宝を発現させ、歪みに手を入れる。

その直後、ギルガメッシュの顔が硬直した。

 

「? どうしたんだ、ギル?」

 

「な、ない…」

 

「何がだ?」

 

見ている内にギルの顔色はどんどん悪くなり、目にも大粒の涙が浮かんでいく。

そして、

 

「無い! 無いのだ! 我の財宝の6割もが、宝具がなくなっているのだーー!」

 

遂には泣き出し、士郎に抱きついた。

 

「お、おい⁉︎ どうしたんだよ⁉︎ あと抱きつかないでくれ、制服が濡れちまう!」

 

それに、こんな場面を周囲の人間に見られたらこれから士郎が行く場所が、学校からブタ箱に変わってしまう。

 

 

 

 

 

 

士郎がなんとか英雄王女を泣き止ませたのはそれから数分後の事だった。

 

「うっ。ぐすっ」

 

「ちゃんと順序立てて教えてくれ。財宝がどうしたって?」

 

道に立ち止まりギルの両肩に手を置き、目線を合わせる。

未だにしゃくりあげるギルを必死に宥めながら士郎は先ほどの言葉のについての質問をする。

 

「ぐすっ。あの空間で、我の財宝が撒き散らされていたであろう? ぐすっ。それでな、それでな? 我としては数百の宝具が消えただけだと思っていたのだが…。我らの意識が消えて、この世界に移るまでにも撒き散らされ続けていたらしいのだ」

 

「それで、6割が欠損?」

 

「そうだ。それも高ランク宝具、武器、防具ばかりが無くなっているのだ。ついでに言えば男性化や老化薬も飛んでおる」

 

「それって、2度と戻らないのか?」

 

「いや、そんな事は無い筈だ。幸いにも宝具回収宝具は残っておる。だから、時間をかければあの何処とも知れぬ空間からも回収できると思うのだが…」

 

「それでも取り乱して泣いちゃったって事か?」

 

「むし返すでない! しろうといえど我をはずかしめる事は許さんぞ!」

 

涙に濡れた瞳で小さな少女に睨まれても、目の周りが真っ赤な為にいまいち迫力に欠ける。

何処か愛らしくもあるその姿に士郎は思わず顔が綻ぶ。

すると、何を勘違いしたのかギルが己の体を抱くようにして士郎から一歩離れる。

 

「お、おぬし、我のような幼気な少女に睨まれたというのに笑うとは、どえむの上にろりこんか⁉︎」

 

「待て待て待て! ちょっと心がほっかりしただけーーーってあれ? これってアウト⁉︎」

 

士郎は不名誉な誤解を解くべく思わずギルに向かって1歩進む。が、ギルは3歩ほど退がる。

 

「こ、こっちに来るなーー! 我を襲うと後が怖いぞ? すごく痛くするぞ⁉︎」

 

「いや、そんな事はしない! 頼むから大声で襲うとか言わないでくれ! 言わないで下さい!」

 

辺りに人影が無いとはいえ、住宅街。何処で誰が聞いているかも分からない状況でのこの展開は非常にマズかった。

 

 

士郎から逃げるべく霊体化したギルから誤解を解くのに、士郎はまたまた数分の時間を要するのだった。

 

 

 

 




一家に1人は欲しいロリギル様←若干ロリコンの気がある俺氏(笑)

なんかもうロリギルと士郎がにゃんにゃんするだけで良いんじゃないかな。とか思います(遠い目)

冗談ですけどね⁉︎

あと2、3話で原作介入ないし、原作開始予定です。

嗚呼、文字数が上がらない…orz


何処かおかしな所があればバンバン教えて下さい。
でも、あんまりdisらないでね⁉︎ 作者のハートがブロークンファンタズムります(・ω・)ノ

次話くらいで士郎の固有結界の諸々や、ギルのアインツさん家での説明とか入れたいなー。


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日常の中の異変


お久しぶり、という程でも無いですねハイ。

これからは1週間にだいたい1話くらいのペースで更新できたら良いなと思っています。

今回も、英雄王が、キャラ崩壊です


「ギル、良いか? 学校ではずっと霊体化してろよ?」

 

穂群原学園高等部の校門をくぐりながら士郎は見えずとも隣にいるだろうギルガメッシュにそう釘をさす。

 

『うむ! 問題はない。だが、士郎よ気をつけろよ? 我と話す時にいちいち声に出していると、端から見れば虚空に向かって話しかける変なやつになってしまうぞ?』

 

『…こうか?』

 

『それで良い』

 

士郎は経験上、セイバーという霊体化の出来ない特殊なサーヴァントとしか契約していないのでいまいち念話について理解していなかった。

 

『しかし、こんな物で本当に出来るのか?』

 

現在、士郎の左手首には梵字がびっしりと彫られた金のリングが嵌っている。ギルが誤解したお詫びという事で渡してきた物だ。

本当にあの英雄王と同じ人間なのかと疑いたくなる。性別とあいまって最早詐欺だ。

 

『出来るぞ。その宝具は宿主から魔力を吸収、貯蓄するだけの能力だがときおみの娘とのリンクも切れた今、あのこゆーけっかいを発動するだけの魔力はしろうにはあるまい?』

 

『まあ、そうだけどさ…。そういう事なら有難く受け取っておくよ』

 

士郎とギルガメッシュは1度は死んだ(・・・)。肉体はあの聖杯の中で滅び、今此処に存在するのは士郎の魂と、ギルガメッシュの魂だ。故に受肉した筈の英雄王もサーヴァントとして限界しているのである。

 

『我が直々に宝具を下賜してやったのだ。無くすでないぞ? ただでさえ数が大幅に減ったのだ。なくしたら我、泣くぞ! 泣いちゃうぞ⁉︎』

 

『無くさないさ。また、1から魔術回路を鍛えなおさなきゃいけないのはちょっと気が遠くなるけどな…』

 

だからーーーといってはなんだが、士郎の魔術回路は未だ開いていない。肉体はあくまでもこの世界の衛宮士郎の物なのだ。いくら魂が、記憶が様々な武器の構成を覚えていても魔術回路が未熟な為にそれを行使する事は出来ない。

 

『それは、がんばれとしか言う事が出来ぬな…。だが、はーどが未熟なだけで、そふとは元の世界のしろうとは変わらん。比較的すぐに元の実力を取り戻せるだろう。経験は体に染みついているのだからな』

 

『よくそんな言葉知ってるな?』

 

『当然だ。我は唯一にしてぜったいの王なのだぞ?』

 

えっへん、と胸を張るギルが幻視出来る自分に士郎は苦笑する。

 

『な、なんで笑うのだ⁉︎ 我を笑うなど、ばんしにあたいするぞ! これは、くりーむぱんの刑だな』

 

『なんだよそれ』

 

『くりーむぱんの刑とは、我にくりーむぱんを献上するという物だ! がっこーとやらが終わればしろう、こんびにに行くぞ!』

 

『コンビニので良いのか? 帰りなら街のパン屋も開いてると思うんだけど……あ』

 

士郎は自分の口がうっかり滑った事を理解した。

 

『ぱんや? 何だそれは。くりーむぱんがたくさんあるのか⁉︎』

 

『はぁ、いらん事を言ってしまった…』

 

パン屋のパンは往々にしてコンビニのそれよりも高額だ。士郎は自分の財布からどんどんお金が減る事に涙が出てきた。

 

『ギルには黄金律があるんだから自分で買えるだろ…』

 

『自分で買ったら刑にならんではないか』

 

『なんでさ』

 

士郎は溜息をつくことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。友人である柳洞一成からの昼食の誘いを断り、士郎は1人、学校の屋上へと来ていた。

 

「それで、どうしたってんだよギル。念話じゃあダメなのか?」

 

そう。士郎が屋上に来た理由とは他でもない、あの唯我独尊を地で行くかの英雄王に呼び出されたからに他ならない。

士郎の声に反応するように黄金の魔力粒子が舞い、ギルガメッシュが実体化する。

 

「遅いぞ、しろう。我が呼び出したのだから疾く駆けつけよ」

 

「……………………」

 

「ん? どうしたのだ?」

 

「……なんで、ウチの初等部の制服着てんだよお前⁉︎」

 

そう。ギルガメッシュが着ている服は、今朝の王族が来ているような金銀宝石をあしらった高そうなものでは無く、士郎の来ている高等部の制服と同色の、薄茶色をした初等部の制服だった。ご丁寧に帽子まで被っている。

 

「ん? コレか? この此処では我の姿は目立ちすぎるからな。違和感の無い服にと思ったのだがよくわからなくてな」

 

どうやら、実体化した時にこの町で違和感の無い服を選びたかったらしいのだが、よくわからずとりあえず自分の見た目と同じ様な年齢の少女が着ている服を選んだらしい。

だが、外見年齢としても違和感が無くマッチしすぎている為、士郎もなんとも言えずにポリポリと頬をかく。

 

「なんだ? これではダメだったのか?」

 

ギルガメッシュが士郎の微妙な反応を見て、上目遣いでそう尋ねる。

 

「っ! いや、大丈夫だ問題無い」

 

「とうしたのだ? 顔が赤いぞ?」

 

「いや、なんでもない。その制服、よく似合ってるぞ」

 

いくら幼くとも、神が創ったかのように整った美しい少女にそんな反応をされては士郎が思わずドキリとするのは仕方の無い事なのだろう。断じて士郎はロから始まりンで終わる特殊な嗜好を持った人間では無いのだ。……多分。

 

「そうか、そうか。似合っているか。なら褒めよ!」

 

ギルガメッシュは嬉しそうに顔を綻ばせるとずいっと頭を士郎に突き出す。

撫でろ、という事なのだろう。

 

「はいはい」

 

ポンポンと頭を軽く撫でてやると猫の様に目を細め、ふにゃりと顔が惚ける。気のせいだろうか、髪の毛と同色の猫耳と尻尾が見える気がする。

 

士郎の手が頭から離れると僅かに残念そうにするが、ホレと渡されたクリームパンーー士郎が購買で買ってきた物だーーを渡されると再び笑顔になる所からしてやはり、精神年齢もそれ相応なのだろう。薄々気がついてはいたが。

屋上のフェンスを背もたれにして士郎が座り、おにぎりを食べ始めると、さも当然であるかのようにその脚の中にすっぽりと収まり、クリームパンを食べ始める。

もしも、他の生徒に見つかったら即座に生活指導の教師が飛んでくるだろう。その為、士郎としては学校は勿論の事、自室以外では基本的に霊体化していて欲しいのだが、言ったところで聞きはしないだろう。

 

「それで、服はいいんだけど結局どうしたんだよ?」

 

食事にひと段落つくと、士郎は今日、屋上に呼び出された原因を知るべく、ギルガメッシュに問いかける。

コホンと咳払いをするといつに無く真面目な表情でビシリと眼下にある、とある1点を指差す。

 

「校庭がどうしたって?」

 

ギルガメッシュが指差す先は穂群原学園高等部の中央。陸上部三人娘や他の生徒たちが駆けずり回っている校庭だった。

 

「嫌な気配がする」

 

「嫌な気配? 何もないじゃないか」

 

士郎は校庭の中央を眺めてもなにも感じずに顔を顰める。あるいは、魔術回路が開いていたのなら気づけたのかもしれないが、今の士郎は分類上、魔術の知識だけしか持たない一般人なのだ。

 

「むむ。わからんか……。この町に同じ様なのが此処を含めて6つ程あるのだが…」

 

「そうなのか? まあ、ギルが言うのならそうなんだろうけど今の俺には何も分からないぞ。とりあえずは帰ったら魔術回路を開くつもりだけど」

 

切嗣のヤツ、まだあの屋敷持ってるのかなぁ…などと呟きながら頭の中で予定を組み上げる士郎を一暼するとギルガメッシュもまた、自らの思考に埋没する。

 

(しろうは気づいてはいないが、確かにこれはさーばんとの気配…。それも、知った様なのが幾つかあるな…。だが、しろうが魔術師として行動できる様になるまでは様子見だな…)

 

「よし、しろう! むつかしい事は今は無しだ! 取り敢えず、当面の目的はーーー」

 

「目的は?」

 

士郎は真剣そのものの顔をしているギルガメッシュに、視線を戻す。

 

「ぱん屋のくりーむぱんだな!」

 

「は?」

 

「しろうはまだ、使えぬのだし下手に動くと危ないからな。取り敢えずは今朝の刑の執行だ」

 

「いや、まて! クリームパンはもう渡しただろ⁉︎」

 

「1つで良いなどと誰が言ったのだ?」

 

ニタリと、蛇の様に笑う金髪赤眼の幼女。

ああ、やはりあのギルガメッシュに相違ないのだな、と士郎は財布の中からお金が羽を生やして飛んでいく幻想を幻視する。

 

「は、ははは…………なんでさ…」

 

何かを悟った様なかおをした士郎の口からは乾いた笑い声しか出てこなかった。

 

 





士郎の固有結界や、魔術回路うんぬんが解決しましたね!
流石ロリギル様! 王の財宝とかなんでもありますから(グフフフフ

何処かおかしな点があったら教えてください。

猫耳ロリギルは一回書いてみたかった。

番外編とかで、『俺のペットが猫耳ロリギルなわけが無い』とかやってみたい(≧∇≦)

それでは!


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始動


年末年始よごたごたで更新が遅れました

申し訳ないぜ!m(_ _)m

あ、駄文注意です。今回は思ったよりも文がまとまらなかった…


深山町。

それは、冬木市と冬木大橋で繋がる静かな町だ。

そんな深山町の中で、敷地面積では五本の指に入るであろう武家屋敷。

 

平行世界から飛ばされてきた魔術使い、衛宮士郎は現在、その屋敷の土蔵にいた。

 

「よし、だいぶ綺麗になったな」

 

ふーっ、と息を吐き額の汗をぬぐいながら、士郎は達成感に顔を綻ばせ辺りを見回した。

長い間、無人の屋敷だったのだ。整備などされている筈もなく当然の如く雑草は伸び放題、埃は積もるは所々壊れているわで廃墟の一歩手前状態という、自分の家であっても入るのに些か抵抗を覚えた程だ。

本来は、新都のホームセンターに駆け込み、少量の木材を買い今すぐにでも修理を始めたい所だが、今の自分の目的はあくまでも再び魔術回路を開き、魔術師としての力を取り戻す事にある。

 

いくらソフトが優秀でもそれを扱いきれるハードが無ければ、宝の持ち腐れである。

まあ、それ以上に木材を買うほどの資金が無いーーというのも理由の一つだが。

 

故に土蔵の片付けと門から玄関にかけての草むしりのみで我慢しているのであった。

そして士郎は文句を言いたげな半眼で、土蔵の上に座り足をパタパタと楽しげに振り回している金欠の元凶(ギルガメッシュ)を見やる。

 

かの英雄王は新都で士郎に買わせたクリームパンをもきゅもきゅと小リスの様に両手で持って咀嚼している。

そして、士郎の視線き気がついたのか顔を上げると小首をかしげた。

 

「なんだ? このくりーむぱんはやらんぞ?」

 

………クリームがほっぺに付いているのは彼女のプライド的な問題で言わない方が良いのだろうか?

 

「………なんでもないよ」

 

士郎は目線をすっと逸らしながらそう答える。

 

「そうか。にしてもしろう。この言峰(・・)パンのくりーむぱんは実に美味だ。びっくりしたぞ」

 

「ああ、言峰パンってのも吃驚だが、店長があいつってのが吃驚だよな…」

 

士郎がこの衛宮邸に来る前に寄った新都の個人経営のパン屋の名は『言峰パン工房』である。

店の前に『辛さ控えめ、麻婆パン! 麻婆は商店街の中華料理店『泰山』の店長の太鼓判を貰いました』と書かれた看板が有り、店の名前と看板の文字を見て反射的に立ち止まり、二度見してしまった。

 

怖いもの見たさというか、何というか…。名前からしてまさか? という気持ちも確かにあった。故に変に気になり「どうせ何処のパン屋でも一緒か」と思い入れば、コック服を着たあの聖杯戦争の監督役とバッタリエンカウント。

あれよあれよと言う間に、クリームパンを買うだけの筈が、麻婆パンも買わされてしまい、余計な出費となった。ギルガメッシュの要望の為、クリームパンは複数個買わされた事と相まって、士郎の懐は寒いどころの話では無い。

 

…………魃さんの太鼓判という、怖すぎる麻婆パンは未だに誰も手を付けていない。当然だろう。魃さんの太鼓判と言う程、辛さ控えめが信じられない物は無い。

流石のギルガメッシュもそのパンからは何かしらの危険を感じるのか触ることもせず、クリームパンを全て出し、袋に包んで放置している。

 

(明日、慎二にでもやるか……)

 

士郎は思考を切り替えるとーー考える言を放棄したとも言えるかもしれないーーギルガメッシュに向き直り、

 

「じゃあ、時間も無いし始めるぞ」

 

言峰パン工房に寄ったり、セラの説得に思いの外時間を要したり、掃除をしたりと、日は既に落ち、周囲は夜の帳が支配していた。

 

「うむ」

 

ギルガメッシュも最後の一つをぱくりと口に放り込むと土蔵から飛び降り、士郎の前に立つ。

 

「ギルガメッシュは外にいるか?」

 

「いや、中にいよう。しろうならば大抵のアクシデントには対応できるだほうが、万が一という事もあるしな」

 

そして、土蔵の中に入り、扉を閉める。

 

そして、唱える。

自己に埋没する、士郎が魔術師であるために必要な唯一の呪文。

 

解析(トレース)ーー開始(オン)

 

 

 

 

新都、冬木大橋の上空。

そこでは、星が瞬いていた。否、星では無い。

赤と青。流星と見紛うソレの正体は、赤と青のドレスに獣耳を付け、ステッキを片手に携えた……有り体に言えば、魔法少女のコスプレの様な格好をした2人の少女だった。

 

そんな、人前にあまり出たく無い格好で高速で空中を飛び回る少女達は、時にステッキを振り魔法の様な攻撃を放ち

時に………ステッキで直に殴り合っていた。ーー何故かお互いを激しく罵り合いながら。

 

魔法少女に憧れる少女が見たら卒倒しそうな光景である。

 

更に、使用されているステッキが問題だ。

死徒二十七祖の第四位。宝石翁ゼルレッチが作成した、無限の魔力を持つという規格外の魔術礼装。精霊を宿し、意志のある礼装でもある《カレイドルビー》と《カレイドサファイア》。任務の為に貸し出されたのなら私的利用など以ての外、本人達の私怨による喧嘩に使用されるなど最早論外だ。まあ、状況を見るに喧嘩以外の何物でも無いのだが。

 

魔術師が知ったら卒倒しそうな光景である。

 

故に、意志のある魔術礼装でもあるルビーとサファイアが主人を見限る、というのはある意味当然なのかもしれない。

誰だって自分を使う理由が、くだらない喧嘩ばかりならボイコットしたくもなるだろう。

 

契約を強制的に解除された2人の少女ーー魔術師は、重力に引かれ一直線に落下する。

 

ルビーとサファイア。

二つの魔術礼装は新しい主人を探す為、夜の闇の中に消えていった。

 

 

これより始まるのは、魔術師達の命懸けの闘い。

 

万華鏡の魔法少女(kaleid)(and)平行世界の正義の味方(hero)の出逢いはーー

 

 

 

 

ーー運命の夜(fate)は、近い。

 

 

 

 





言峰さんは何処かのタイミングで出したかった…!

本編では平行世界の麻婆ラーメン屋の店長だったので、こっちでは麻婆パン屋の店長をしていただきました(笑)

今回はあまりロリギル様の尺はありませんでしたが、次回からはまた増えると思います。

あ、コメントでロリギル様の声のイメージは?
みたいな質問があったので自分なりに考えてみたんですけど…
丹下 桜さんとかどうですかね?


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名前を言ってはいけないアレ

少し遅れました。舞雪タコです。


今日は少し長く書けました!


では、どうぞ!





 

「ふぅ…」

 

士郎は息を吐き出すと、肩の力を抜いた。

ピンと張り詰めていた緊張の意図が解れ、士郎の雰囲気が人ならざる者のそれから、何処にでもいるような高校生ーー失敬。女性受けが良さそうな高校生に戻る。

 

「今はこれが限界か…」

 

だが、言葉を発する士郎の顔は険しい。

その原因は目の前に無造作に置かれている一対の陰陽剣である。

 

「なあ、しろう。それではダメなのか? 我からすればどれも同じに見えるのだが…」

 

士郎の背後から実体化したギルガメッシュが肩越しに覗き込むようにして士郎の前に置かれている投影物を見る。

 

「いや、ギルにとっては贋作って時点で優劣なんか無い様に見えるんだろうけど…。全然ダメだ」

 

士郎は黒の陰陽剣ーー干将を手に持つ。そして、莫耶を反対側に持ち、大きく振り上げると、素早く振り下ろし干将に叩きつけた。

 

ビキリ、と剣が鳴る。

打ちつけた莫耶は、剣の腹から背にかけて一直線に罅が入り、打ちつけられた干将は、刀身に傷がつき刃が歪む。

 

士郎はその様子に改めて大きな溜息をつくと、二つの剣を適当に放り投げた。陰陽剣は地面にぶつかる前に魔力の粒子となり、虚空に溶けるようにして消える。

 

「ほらな?」

 

士郎は背後に顔だけ向けると呆れたような表情で笑う。

 

「むう…。やはりわからんな。贋作とはそういうものではないのか? 先の戦争で我の宝具とぶつかった贋作は砕け散っていたではないか」

 

ギルガメッシュは本当に理解できない様でこてんと小首を傾げる。

士郎はその仕草を見て、やらり可愛いな、と場違いな感想を抱く。

 

「いやそれは……。まあ、いいや」

 

そうか、とギルガメッシュは頷くと蔵の扉に両手をついて開け放つ。

蔵の中から見上げた空は、白み始めていた。ひゅぅと、朝特有の冷たくも何処か落ち着く風が吹き込み、その寒さに士郎は思わず身震いした。

 

ギルガメッシュは懐から黄金の懐中時計を取り出すと士郎に見せる。

時間は既に寅の刻に入り、今から寝たとしても寝た気にはなれないだろう。

 

「もうこんな時間か…。寝ても寝足りないだろうし…朝食でも作るか」

 

士郎は昨日の言峰パン工房の前に寄ったスーパーで買った食材を思い出しながら立ち上がる。

 

「今朝は……そう、だな。………よし、決めた」

 

一つ頷くと、士郎は中庭で面白そうに改めて衛宮邸を眺める制服姿のギルガメッシュを見て、ふっと顔を綻ばせると玄関へ向かって歩き始める。

 

「おいギル! 暇なら食器とか運ぶの手伝ってくれ!」

 

「む? あいわかった! 今朝の朝ごはんはなんだ、しろう?」

 

ててて〜っと子犬の様に駆け寄り、じゃれついてくるギルガメッシュを適当にあしらいながら、士郎は別世界ではあるものの、赤き弓兵の主や、剣の師でもあった清廉なる騎士王との思い出が詰まった家の玄関を、ゆっくりとくぐった。

 

 

トントントントン

 

規則正しい、包丁の音が響く。

 

ギルガメッシュは現在、木の踏み台の上に乗りながらキャベツを千切りにしている士郎の横に立ち、その手元を覗き込んでいた。

士郎の手際を見て、しきりに感心したようにほへー、と呟きながら目を丸くしている。

 

「なんというか……すごいな」

 

「そうか? 慣れだよ慣れ。ギルも練習すればすぐに出来る様にーーってダメだな」

 

「なっ⁉︎ しろう貴様、我に出来ないことがあると申すのか?」

 

「いや、単純に危なっかしいから。俺は小さい子を台所に立たせるのはあまり賛成出来ないんだよ」

 

「なんだと⁉︎ 我を子ども扱いするな!」

 

「コラ、踏み台の上で暴れるな。落ちたらどうする」

 

「ぐぬぬぬぬぬ……!」

 

ギルガメッシュが唸る。

 

「かくなる上は我が至高の財で……!」

 

虚空に黄金の波紋が浮かび上がり、黄金の小さな柄が出現する。それを素早く掴むと、引き抜く。

神々しいまでのオーラを放ち、出現したのは、全てが黄金で出来た装飾過多の小ぶりな剣。いや、形状としてはふた回りほど小さいが士郎の持つ包丁に近い。

 

「ふふふっ! 我の宝物にはこんな物ですらーー」

 

「コレ」

 

「あうっ⁉︎」

 

士郎のチョップがギルガメッシュの頭に直撃する。サーヴァントである以上、魔術を伴わない攻撃は意味を成さないが、それでも衝撃は伝わる。ギルガメッシュの手から零れ落ちた装飾過多な包丁は、床に突き刺さると黄金の粒子となって消えた。

 

「なにをする!」

 

「料理にそんな派手派手しいのを使うな。それに言っただろう。あんまり子供は台所に立たせたくないって」

 

「む? 我は立っているではないか」

 

「言葉の綾だ。それに今、子供って認めたな?」

 

「んなっ⁉︎」

 

ギルガメッシュの恨みがましい視線を綺麗にスルーすると、士郎くすくすと笑いながら、刻み終えたキャベツを温水の入ったボールに漬け、今度はフライパンに油を引き始める。

 

「む? きゃべつは温めるのか?」

 

興味が他に移ったのか、ギルガメッシュは士郎に問いかける。そういう、無邪気な所を見て士郎はギルガメッシュを子供として扱っているのだが、当の本人は全くきがついておらず、見た目のせいだと思っている。

 

「ああ。後で冷水で一気に冷やしてパリッとさせるんだ」

 

「むむむ……料理というのは難しいのだな…」

 

士郎の言葉を聞き、ギルガメッシュは顎に手を当て難しい顔をする。

 

「いや、手を抜こうと思えばいくらでも出来るさ。でもーー」

 

そんなギルガメッシュを見てか、士郎は料理の手を止め、彼女の方向に体を向ける。

 

「でも?」

 

「どうせ食べるなら、多少手間がかかっても美味い物が食べたいだろ?」

 

そう、士郎は言いながら笑った。

それをポカンと見ていたギルガメッシュは、次の瞬間顔がぱぁっと明るくなり、太陽も霞むであろう程の明るい笑顔になる。

 

「うむ‼︎ そうだな、そうであるな! 確かにしろうの言う事は正しい!」

 

うむ、うむ! と何度も笑顔で頷きながらギルガメッシュは踏み台を降り、居間の方へ駈け出す。

 

「どうしたんだ? そんなに嬉しそうに」

 

士郎はギルガメッシュを顔だけで追いながら尋ねる。

ギルガメッシュは適当な場所の座布団にぽふりと座ると机に上半身を乗せ、士郎を見ながらえへへーっと嬉しそうに笑う。

 

「なんだよ急に……。変な奴だな」

 

だが、そう言う士郎の口元も僅かに綻んでいる。

 

「ふふふ、なんでもない。さあ! 早く我に朝ごはんを献上せよ!」

 

「はいはい。仰せのままに、お姫様」

 

そうして、和やかに朝のひと時は過ぎ去っていった。

 

 

「成る程な。昨日、ギルが言っていた違和感ってのがわかったよ」

 

昼休み。襲いかかる睡魔との必死の戦闘に勝利した士郎は、屋上から自校の校庭を見下ろしていた。

 

「あそこだ。明らかに空間が変調をきたしている」

 

士郎が指差す先は、校庭のある一点。本人は未だ知らないが、その場所は鏡面界にクラスカードが眠っている場所である。

 

「魔術回路を開いた事で知覚できるようになったか。あと一週間もすれば魔術回路は体に慣れ、向こうと同じ様に魔術を行使できる様になるだろうーーん?」

 

ギルガメッシュが屋上の入り口に顔を向けた瞬間、霊体化する。

それを見た士郎は、ギルガメッシュが一瞬前まで見ていた屋上の扉に目を向けたーー瞬間。

 

バンッ!

 

と。大きな音を立てて扉が開かれた。

 

「えーーみーーやぁぁーー‼︎」

 

「ん? 慎二か? どうしたんだ、そんなに口元を腫らして」

 

士郎は、慎二を見た瞬間に頭に思い浮かんだ麻 婆 パ ン(名前を言ってはいけないアレ)を思考から追い出して素知らぬ顔で問いかける。

 

「なんだ? なんだ、だと⁉︎ 衛宮、お前! このパンはなんだ! とてもじゃないが、食べられる物しゃないぞ!」

 

慎二は、そうして右手に握りしめた麻婆パン(ダークマター)を振り回す。大きな歯型が付いている所を見るに、思い切り口に含んだのだろう。

 

「そ、そんな事無いさ。言峰パン工房のイチオシって書いてあったんだ。麻婆パン。良いじゃないか、斬新で」

 

「斬新すぎるだろ! だったらお前も食ってみろよ! それにこの麻婆、どう考えても泰山のじゃないか!」

 

「慎二、お前、あの麻婆食べた事あるのか? ……勇者だな」

 

「黙れ!」

 

「に、兄さん。落ち着いて下さい」

 

と、今まで慎二の惨状ばかりに目が行っていた士郎は、おずおずと進み出てきた自身の後輩に気がついた。

 

「お、よお。桜じゃないか」

 

「はい。こんにちは、先輩」

 

桜は行儀よくぺこりと頭を下げる。

 

「ええい! どけ、桜!」

 

「おいおい、妹に乱暴な事はーーーはい、ごめんなさい」

 

慎二から魔王すら殺しかねない程の視線を向けられ、士郎は素直に謝罪する。

 

「…衛宮」

 

「……はい」

 

「………正座」

 

「…………はい」

 

「……………先輩…」

 

 

「よ、よぉ。お疲れさん、一成」

 

生徒会の仕事か? と問いかける士郎の顔には、生気が無く、あるモノがあった。

 

「早いなーーってどうした衛宮⁉︎」

 

「いや、なんでもない。、なんでもないんだ…」

 

ボソボソと呟く士郎からは何処か近寄り難い黒いオーラが滲み出ていた。

 

「そ、そうか…。それより、お迎えが来た様だぞ?」

 

「天からか? ……いやーーああ」

 

「本当にどうした⁉︎ まあ、その、なんだ。頑張れ、よ?」

 

ではな、と一成は背を向け、門内へと戻っていく。

そして、入れ違いになる様にーー実際に、一成が気を利かせたのだろう。まあ、今の士郎から離れたかっただけかもしれないがーー元気な声が背後から聞こえてくる。

 

「お兄ちゃん!」

 

「オオ、オマエモイマカエリカ?」

 

その少女とはーー

 

「イリヤ」

 

かつて正義の味方が救えなかった、冬の少女だった。

 

「うん! 一緒にーーってどうしたのお兄ちゃん⁉︎」

 

だが、そんな感動の再会の様な雰囲気も士郎の顔にあるモノーーというよりも、大きく腫れた口元によって台無しになってしまったのだが。

 

それでも、救い損ねた少女を見る事で、幾分か元気を取り戻す。

 

『やはり、しろうはろりこんだったか……』

 

「いや、違うからな⁉︎」

 

「本当にどうしたのお兄ちゃん⁉︎」

 

突然大声をあげた兄に、イリヤは本格的に兄を心配し始める。主に頭とかを。

 

「いや、大丈夫。これは報いなんだ」

 

だが、聖人の様に何処か悟りを開いた様に微笑む兄を見て、喉まで出掛かった言葉が引っ込んだ。主に、得体の知れない不気味さというか、何処となく漂っている哀愁を感じさせるオーラによって。

 

「さあ、一緒に帰ろう。と、言っても今日も武家屋敷に泊まるんだけどな」

 

「う、うん」

 

イリヤには、頷くしか取れる手段が無かった。




いや、すいません。なんか締まらない感じのラストでm(_ _)m

今回は、ロリギル様成分は多く入れられたと思います。

そして、慎二君の登場ですよ。この小説では二人は普通に仲は良いです。

さて、士郎も麻婆パンの恐怖を知ったワケですが(笑)(笑)

あと、料理に関してなんですが、あまり詳しくないのでキャベツの所で違和感を感じても多めに見てください(><)

ちなみに、朝食のメニューは

キャベツの千切り
生姜焼き
豆腐味噌汁
白ご飯
緑茶
おひたし

という、なんともしっかりした朝食です。


士郎君のステータスに新たな項目が加わりました(笑)

固有スキル

幼女落とし EX

幼女とにゃんにゃん出来るようになるスキル

くっ……羨ましぜ!

では、また今度(。・ω・)ノ゙


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鏡面界

お久しぶりです!

覚えてる人いるのかな…

今回は、イリヤ対ライダー姉さんが主体です。原作と大して変りは無いので面倒だったら後半部分まで飛ばしちゃって下さい

後半ぐだくだ注意報発令です(^○^)


 

「しーろーうー。ご飯はまだなのかー?」

 

時刻は午後6時。凡そのどの家でも主婦が夕飯を作るべく台所(せんじょう)包丁(エモノ)を握っている頃合いだろう。

そんな何気無い日常の1ページは衛宮邸でも同じだった。

 

「おい、ギル。早く食べたいなら少しは手伝えって。それに、サーヴァントは飯を食べなくても良いんじゃないのか?」

 

座布団の上で寛ぐギルを見て士郎は少し懐かしさを感じた。

 

ーーセイバーも似たような事を言ってたよな…

 

「……まあ、そうなのだがな。美味しいものは食べたいではないか」

 

迷惑だったか? と此方を潤んだ目で上目遣いに見てくるギルを見て士郎はこれ以上言及するのをやめる事にした。確かに誰だって美味しい物は食べたいのだ。

 

「迷惑じゃないよ。それでも、この日本には『働かざる者食うべからず』って諺があってだな」

 

「む? 我は王ゆえにその責務を存分にはたしているではないか?」

 

「いや…そういう意味では無くてだな…まあ、良いか」

 

火にかけたフライパンを小刻みに揺らしながらも士郎は今日の学校で感じた違和感の原因について考える。

 

「なあ、ギルーー」

 

「今夜行くのだろう?」

 

「……なんでわかった?」

 

「しろうの事だ。気づいた以上は放ってはおかないと思ってな」

 

「………仰るとおりで」

 

士郎は大皿に炒めた炒飯を盛り付けるとシンクの上に置いてあった他の料理と共にトレーに載せてテーブルの上に運ぶ。

 

「だが、魔術の訓練は良いのか? セラとやらにはここの掃除をする為に数日間滞在する事を許可されているのだろう?」

 

「まあ、そうなんだけどさ。それでも、何かあってからじゃあ遅いからな」

 

いただきます、と士郎が手を合わせるとギルもそれに習い手を合わせ食前の挨拶をした。

 

「流石は正義の味方といったところか?」

 

「よしてくれ。そんな大層なもんじゃない」

 

「では、少しばかり鍛錬をした後に穂群原学園こうとうぶの校庭に向かうとしようか! 我の宝具も牛の歩みではあるが徐々に取り戻しつつあるのでな!」

 

「そうなのか? よかったじゃないか」

 

「まぁ、それでも総数で言えば全体の4割程度と全く回収する出来ておらなんだがな…」

 

炒飯を食べた瞬間に顔を綻ばせたギルは、自身の宝具が未だに半数も戻らず、なまじ総数が多い為に回収できた数も割合を変動させるに至らないものであり、がっくりと肩を落とす。

それでも既に数百は回収しているというのだから驚きだ。星の数程の宝具というのは伊達ではないのだろう。ーーそれが果たして役に立つ宝具なのか否かは置いておくとしてだが。

 

「ま、まあ。今は食事中だし、そんな暗い話題は置いておいてさ。どうだった? オレが高等部で授業を受けている間はイリヤの教室に行ってきたんだろ?」

 

「なんだ? 我を通して幼女の生活状況を知りたいのか?」

 

「違うわ!」

 

イタズラっ娘の様に笑うギルの頭を軽く叩いた士郎は、改めて尋ねた。

 

「それで、実際の所どうなんだよ?」

 

「ふむ…。何といったら良いのだろうか……」

 

「なんだ、随分と焦らすじゃないか」

 

難しい表情で唸るギルに士郎は、面白いものを見たとばかりに茶々を入れた。

 

「なんと言うか……虎?」

 

暫しの熟考の末、捻り出した答えがこれである。

微妙な表情になる士郎と対象に、ギルは至極真っ当な表情でそう答えた。その瞳からは嘘偽りは感じ取れない。

 

「は?」

 

ーー虎。トラとな?

 

士郎の頭の中で様々な虎の姿が走馬灯の様に駆け巡る。

動物園にでもいる様な普通の虎、ホワイトタイガー、スマトラ虎。その際、竹刀を持った冬木の虎が頭を巡ったのは、人としての扱い的には如何なものなのだろうか。

その際に、猛獣関連で何故か腹ペコ騎士王(セイバーライオン)槍の兄貴(いぬ)が捕食される平行世界のサバンナの風景(カニバルファンタズム)的な何かが脳裏を過ぎったが、この際置いておこう。

 

「いや、しろうよ。今、しろうの脳裏を巡った虎に相違ないぞ。あの虎教師だ」

 

「イリヤの担任って藤ねぇだったのか…」

 

どうりで高等部で見かけない訳だ、と一人納得する士郎。

 

「それで、藤ねぇが印象的なのは分かったけど…」

 

「それ以外は何もないぞ。殆ど寝ていたしな」

 

「さいですか…」

 

ギルの発言に士郎はこれ以上の追撃を諦め、炒飯を掻き込む。

気がつけばギルは自分の皿を既に開けていた。

 

「そんなに急がなくとも我は逃げぬぞ?」

 

「そう言う問題じゃなくてだな…」

 

「まあ、良い。この場合は……ごちそうさまでした…だったか? 美味かったぞ、しろうよ」

 

「お粗末さまでした。ちゃんと『ごちそうさま』が言えたな。偉いじゃないか」

 

ギルの成長? に謎の感動を覚えた士郎はポンポンとギルの頭を撫でた。

 

「ふにぁ〜〜〜〜〜ーーはっ‼︎」

 

「いや、そんなに睨まなくても…」

 

「うっ、うるさい! 士郎の手は宝具か何かなのか⁉︎」

 

「なんだそれ?」

 

士郎を睨み、先程のだらしなく蕩けた顔を隠す様にそっぽを向いたギルの頭をもう一度撫で、士郎は食器を片付ける為に立ち上がる。

 

「それを止めろと言っているのだ!」

 

「うぉぅ⁉︎」

 

真っ赤な顔をして立ち上がったギルの気迫に士郎はいそいそと退散した。

 

 

その後、

 

ーー俺、何か悪いことでもしたのかなぁ…

 

そんな、場違いというか、的外れな感想を抱きながら皿を洗う正義の味方の姿があったとか無かったとか…。

 

 

 

 

非日常にちょっと憧れ、兄が大好きな普通の女の子である、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは今現在、非日常の真っ只中にあった。

具体的には、深夜の町を魔法少女服で徘徊するという知人に見られれば発狂しそうなシチュエーションだ。ーー非日常と言うよりも非常識と言うべきか?

イリヤが望んだ非日常は断じてこんな恥辱プレイみたいな状況では無い。そう、例えばーー兄との禁断の恋…みたいな…?

そこまで考えてイリヤは顔をトマトの様に赤くしながら、その妄想を振り払う。

 

「ル、ルビー。此処で良いんだよね?」

 

『ハイ! 凛さんから指示された場所は此処ですよ!』

 

イリヤの相棒(笑)である " バカステッキ " ことマジカルルビーは穂群原学園高等部の校門前に立ち尽くす少女の周りをふよふよと飛び回っていた。

 

そうして、一歩歩く度に重くなる錯覚を覚える足を引きずって校内へと歩を進めた。

 

「お、ちゃんと来たわね」

 

校内に入ってすぐ。校庭の端には一人の少女が立っていた。

遠坂 凛。

イリヤをこの非日常に巻き込んだ元凶であるルビーを制御しきれなかった、いわば元凶の更に元凶的な存在である。本人曰く、魔法使いと考えてくれーーだそうだ。詳しいことはイリヤには理解出来なかった。現在理解出来ているのは、面倒事に巻き込まれた上にこれから町を吹き飛ばせる程のナニカと戦うという事だけだ。

考えて、更に気が重くなった。

 

「そりゃあんな脅迫状だされたら…」

 

「ん? なに?」

 

「いえ、なんでも…」

 

どうやら無自覚らしい。

脳裏に、放課後の下駄箱に入っていた脅迫状の文面が思い浮かぶ。

『今夜0時高等部の校庭まで来るべし。来なかったら■■。帰ります。』

ご丁寧に、殺すと書かれた部分だけ塗り潰されている。まあ、塗り潰しきれていないのだが。

 

「ってかなんでもう転身してるのよ?」

 

『さっきまでいろいろ練習してたんですよー。付け焼き刃でもないよりマシかと』

 

そう、飄々と告げるのはルビーだ。どうやらイリヤはイリヤ努力しようとしていた様だ。

 

『とりあえず基本的な魔力弾射出くらいは問題なくいけます。あとはまぁ…タイミングとハートとかでどーにかするしか』

 

「なんとも頼もしい言葉ね…」

 

続けられたルビーの言葉に凛は何とも言えない様な表情をする。

だが、そんな事は言ってられないのが現状だ。

 

「正直かなり不安ではあるけど…今はあんたに頼るしかないわ」

 

準備はいい? と尋ねる凛に対して、イリヤは何処か緊張した面持ちで、だがしかしハッキリと答えた。

 

「う…うん!」

 

そう、と呟き凛は校庭の中央へと歩き始めた。イリヤは慌ててその後を追う。

 

「カードの位置はすでに特定しているわ。校庭のほぼ中央…。歪みはそこを中心に観測されている」

 

「中心…ってなにもないんだけど?」

 

そう言うイリヤの視線の先には、成る程見事に何も無い。

 

ここにはないわ(・・・・・・・)。カードがあるのはこっちの世界しゃない。ルビー」

 

『はいはーい。それじゃあいきますよー』

 

「わっ⁉︎」

 

その言葉共にイリヤの持つステッキから膨大な魔力が溢れ出す。

 

『半径2メートルで反射路形成! 鏡界回廊一部反転します!』

 

「えっ…な…なにをするの?」

 

カードがある世界(・・・・・・・・)に飛ぶのよ」

 

そう説明する凛の表情はとても落ち着いたものだ。イリヤは未だ戸惑いを隠せないでいるが、凛を見てとりあえずは安全だと判断する。

 

「そうね…無限に連なる合わせ鏡。この世界を像のひとつとした場合ーーそれは鏡面そのものの(・・・・・・・)世界」

 

世界が反転し、自身が世界と乖離していくのをイリヤは感じた。気分が悪くなるその感覚に思わず目を閉じそうになりーーそして、驚愕に目を見開く。

 

「鏡面界。そう呼ばれるこの世界にカードはあるの」

 

「な、なに…この空…?」

 

マス目の様に垂直に交わる幾重にも線の入った、限りある空。さっきと風景はなに一つ変わらない筈なのに、明らかに別の場所だと断じれる雰囲気。目隠しをされたら、自分は同じ場所だと気づかないであろう。素人のイリヤでさえ感じ取れる程の異常な空間だった。

「詳しく説明している暇は無いわ! カードは校庭の中央!」

 

弾かれた様に視線を向けると、待っていたかの様に校庭中央の歪みから目隠しをした紫の長髪を振り乱す女性が現れた。

 

「な、なんか出てきたっ⁉︎」

 

キモッ! というイリヤの身も蓋も無い良い様にツッコむ事なく、凛は真剣な面持ちでその女性を睨む。

 

「報告通りね……実体化した! くるわよ!」

 

その言葉と同時にその女性ーー理性無き怪物(メドューサ)は一直線に突っ込んできた。

 

「わわっ⁉︎」

 

咄嗟に左右に開いて避ける二人。凛は魔術礼装(ルビー)が無くとも、イリヤよりも安全に、正確に攻撃を避けていた。常日頃からルヴィアと殴り合って鍛えられたのか、その動きは経験豊富な実力者を彷彿とさせるものだった。

 

Anfang(アンファン)ーー!」

 

素早くポケットから宝石を三つ取り出すと、躊躇無くメドューサに投げつけた。

 

ーーー爆炎弾三連‼︎

 

着弾と共に、爆発。一般人ならまず助からないだろうし、並の魔術師でも防ぐのに精一杯だろう。

だかしかし、相手は反英雄とは言え英霊だ。当然、強弱はあれど対魔力を有しておりーー無傷だ。

 

「やっぱ魔術は無効か……! 高い宝石だったのに!」

 

そう憎々しげに吐き捨てた後、

 

「じゃ、後は任せた! 私は建物の陰に隠れてるから!」

 

先程までの真剣味は何処えやら。恥も外聞もなく、イリヤに任せた。

所謂、丸投げである。

 

思わず、『ええっ⁉︎ 投げっぱなし⁉︎』と叫んだイリヤを責める事が出来る者など何処にも存在しないだろう。

 

『イリヤさん、二撃目きますよ!』

 

だが、それは敵には関係の無い話しだ。標的を凛からイリヤに変更すると、真っ直ぐに鎖付きの短剣を投擲する。

 

「おひゃあッ⁉︎」

 

咄嗟に避けるが、背中を掠る。

 

「かすった! 今かすったよ!」

 

『接近戦は危険です! まずは距離を取ってください!』

 

先程の攻撃が掠った事に余程動転したのだろう。ルビーの言葉を耳にするなり、

 

「キョリね! そうね、取りましょうキョリ!」

 

と、キョリを連呼し、

 

「キョリーーーーーー!」

 

敵に背中を見せながらのと逃走を敢行した。ルビーによって強化されているとは言え、ボルトも真っ青なスピードだ。

 

「……逃げ足だけは最強ね、アイツ」

 

敵前逃亡の前科を平然と踏み倒しながら、凛は呆れた様な眼を向ける。

 

「たっ、戦うってホントに戦う事だったんだね! ファンタジーすぎるよアハハハハ‼︎」

 

イリヤは、恐怖が一周回ってハイテンションだった。泣きながら高笑いし、猛スピードで駆ける少女。もしも他人に見つかれば確実に通報沙汰の絵面だった。鏡面界故にそんな愉快な出来事は起こりえないが。

 

『落ち着いていきしょうイリヤさん! とにかく距離を取って魔力弾を打ち込むのが基本戦術です! 魔力弾は先程練習した通り!』

 

ルビーが必死に宥めすかす。イリヤに先程の練習を思い出して貰うために。

 

『攻撃のイメージを込めてステッキ(わたし)を振ってください!』

 

「あーもー」

 

こうなればもうヤケクソだ。イリヤは額に青筋を浮かべながら、振り向きざまにルビーを一閃した。

 

「どーにでもなれ!」

 

「ッ‼︎」

 

その攻撃に初めて怪物か反応する。それは、動揺だった。だが遅い。

一閃の延長線上に存在するものが、残らず爆撃に巻き込まれた。

怪物を含めた辺り一帯を吹っ飛ばした自身の攻撃にイリヤの目が点になる。

 

「スッ…スゴッ⁉︎ なにコレ⁉︎」

 

『いきなり大斬撃とはやりますね!』

 

滅殺ビーム⁉︎ と興奮冷めやらぬ様に騒ぐイリヤに、苦しげな声が聞こえた。

 

「■■■■■■ーーッ‼︎」

 

明確な負傷。怪物の体には、確かな傷がついていた。

 

「効いてるわよ!」

 

ーーやはり魔術では無い純粋な魔力の塊なら通用する!

 

だが、そう叫び思考する凛はーー

 

「……遠いなぁ…………」

 

果てしなく遠かった。主に物理的な距離が。イリヤがボヤくのも無理は無いだろう。

 

『相手は人じゃありません! 遠慮は無用ですよー!』

 

「ちょっと殺伐としすぎな気もするけど……なんか魔法少女っぽくなってきたかも!」

 

だが、ルビーの声に気を取り直しもう一回。

 

「たーーーッ‼︎」

 

砲撃を放つ。が、二連、三連と続けても捉える事が出来ない。それはひとえに怪物の認識が変わったからだろう。自身が一方的に蹂躙する事が出来る生贄から、自身を傷つける事が可能である外敵へと。怪物はイリヤを明確な敵として認識したのだ。

故にーー

 

「うえっ、すばしっこい!」

 

本気となった彼女(メドューサ)を素人がピンポイントで捉える事など出来るはずも無いだろう。

 

『砲撃タイプでは追い切れませんね。散弾に切り替えましょう、イメージ出来ますか?』

 

「やってみる!」

 

そうして、両手でステッキを掲げーー

 

「特大のーーー散弾!」

 

振り下ろした。

絨毯爆撃の様に小規模な爆発がイリヤの視界の先にある空間全てを覆った。

 

「や…やった?」

 

『いいえ、おそらく今のではーー』

 

楽観的なイリヤの意見にルビーが警告を飛ばす。

 

「バカ! 範囲広げすぎよ! あれじゃ一発当たりの威力が落ちる! 反撃に気をつけーー」

 

それは、凛も同じ意見だったのだろう。イリヤに注意を払うように指示をする。ーー遠距離から。

そして、土煙が晴れた先にあったのはーー。

 

ダラリと脱力して立つ怪物と、その体から噴き出した血液によって構成された巨大な魔方陣だった。地面と垂直に、此方に面を向けて存在する魔方陣からは異常な程の魔力か迸っていた。

 

「 " 宝具 " を使う気よ! 逃げて!」

 

『イリヤさん退避です‼︎』

 

「え、ど、何処へ⁉︎」

 

『とにかく敵から離れてください!』

 

「なっなななななにが起きるのーー⁉︎」

 

騎英の(ベルレ)ーー」

 

もう、手遅れかと思われた時、不意にその声は響いた。イリヤにとっては聞き慣れた声。だが、此処にいるはずの無い人物の声。

 

「ギル」

 

そして、次の瞬間。

 

「■■■■■■ーーッ‼︎」

 

虚空から唐突に現れた黄金色の鎖に全身を絡め取られた怪物は、背後から物凄いスピードで飛来した一本の矢が着弾と同時に爆発した事により、一瞬で弾け飛んだ。

 

イリヤは咄嗟に自身の後方ーー矢の飛来した方向へと目を向ける。そこには、

 

「お兄ちゃん?」

 

 

 

 

士郎がギルの空間歪曲宝具を使って、鏡面界なる場所に辿り着いた時には既に戦闘は佳境へと移行していた。

今は何故こんな場所に魔法少女のコスプレをひたイリヤや、嘗ての戦友であった遠坂凛が居るのかは取り上げず置いておくとして、士郎はまず最初に今まさに宝具を発動しようとしている女性サーヴァントーーライダーを討つべく迅速に行動した。

 

自身は黒い大弓を投影、矢には完成には程遠い劣化品の偽・螺旋剣(カラドボルグ ll)をつがえる。今、求められているのはライダーの宝具発動を止める事であり、討伐する事では無い。

 

ーー我が骨子は、捻れ狂う(I am the born of my sword.)

 

心中で手早く詠唱を済ませると、自身の横で霊体化している少女(サーヴァント)に短く一言。

 

「ギル」

 

彼女はそれだけで察してくれた様で、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から天の鎖(エルキドゥ)を射出する。Eランクとは言え、神性を持つライダーにはうってつけの拘束具だ。

そして、士郎は螺旋剣を解き放った。一筋の赤い流星が真っ直ぐにライダーの額へと直進し、貫通。同時に爆発した。

 

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)と呼ばる宝具を自壊させ、爆発させる技術だ。宝具を投影できる士郎だからこその技である。

 

『我に友を使わせた対価…高くつくぞしろうよ?』

 

『わかってる。今度クリームパン買ってやるから』

 

念話てそう話をつけ、ライダーへと視線を向けた士郎は驚いた。ライダーが今の未熟な一撃で跡形もなく吹き飛んだのだ。

 

「あれ?」

 

士郎は呆然と呟いた。

 

『ふむ…どうやら理性の無い現象として現界したのだろうな。大分弱体化されている』

 

「なんだかな…。すごく拍子抜けなんだが…」

 

士郎はライダーと命懸けの戦闘をする覚悟をしていた。それなのに、贋作とも呼べない様な出来損ないの矢を爆発させただけで終了。戦闘狂で無くとも不完全燃焼気味に感じてしまうのは仕方の無いことだろう。

 

「お兄ちゃん?」

 

「ちょ、ちょっと! 衛宮くん⁉︎」

 

イリヤの驚愕の声が聞こえる。凛の困惑した叫びもだ。

 

『取り敢えずは、クラスカードを回収しちゃいましょう! 鏡面界が崩れてしまいます!』

 

「そ、そうね‼︎ どうして衛宮くんが居るのかはじっくり現実界(向こう)で聞かせてもらうとして……イリヤ! 取り敢えずは鏡面界から出ましょう! ふふふ、ルヴィアの悔しがる顔が目に浮かぶわ…!」

 

「う、うん!」

 

凛は素早く士郎が仕留めたライダーがいた場所へと向かい、『Rider』と書かれたクラスカードを拾い上げる。

 

「お兄ちゃん。こっち!」

 

「え?」

 

「良いから早くしなさい、衛宮くん!」

 

「わ、わかったよ」

 

よくわからないままに、士郎はイリヤが作り出したと思わしき魔方陣の上へと足を乗せた。

 

接世(ジャンプ)!」

 

そうして、士郎はよくわらないままに鏡面界から離脱したのだった。

 

 

 




今回は、文の量が多い割に大して進んで無いですね…

ロリギル成分も薄めですし…楽しみにしてくださった皆さん、申し訳ございません!

誤字脱字があれば是非ご報告を…(^◇^)

あ、完全に余談というか、蛇足なんですけどこんなのも作ってみたので書こうか迷ってます。↓








書き割りの様な月が浮かぶ闇夜。
長髪の陣羽織を羽織った和装の男性は、山門の上から長大な階段の途中途中に設けられている踊り場を見下ろす様に佇んでいた。
それに対峙するのは二つの人影。

「此処にたった二人だけで乗り込んでくるとは、まあ見上げた根性よな」

長髪の男性は、背負から外した長刀の柄を弄びながら面白そうに告げる。

「そりゃあどうも。こちとら剣術バカ主従でな。侍の英霊が現界したとなっちゃあ斬り合わずにはいられないだろ」

飄々とそう述べるのは、人影の一人。長髪の男性と同じく和装ーーだが、羽織の代わりに皮のジャケットを着ている青年。その身に纏う全ての衣装は黒一色である。

「ちょ、ちょっとマスター! 私までそんな括りに入れないでくださいよ!

慌てたように黒ずくめの青年に掴みかかるのは、白いノースリーブの着物に、黒いマフラーが特徴的な白髪の少女だ。

「面白い。ならば、このサーヴァント■■■■、佐々木小次郎を打ち倒し進むが良い。最も、簡単には通さんがな」

「ハッ! かの有名な剣豪、佐々木小次郎と打ち合えるなんざ滅多にある機会じゃねえ。胸を借りるぜ先輩」

「マスター…。いつもの様に一人で突っ込まないで下さいね。マスターはあくまでも人間なんですから」

「わかってるって。そういうオマエも気をつけろよ? 病弱スキルなんざ発動した時には…」

「ありがとうござます。スキルに関しては…まあ、運で?」

「…不安だ」

「準備は良いか? ならば、参るぞ侍達」

佐々木 小次郎は、長刀を抜き放ち、

「来いや! 現代の侍ーー常過 盈虧、いざ参る!」

常過 盈虧は無造作に引き抜いた刀を肩に乗せ、

「新撰組一番隊隊長ーー沖田総司、行きます!」

沖田 総司は凛とした雰囲気のまま、刀を構える。


此処に、侍達の戦闘の幕が切って落とされた。







って感じなんですけど…。
まあ、詳細とか細かいところは違いますけどだいたいこんな感じです。二話くらいは書けてるんですけど、連載載せたら皆さん見ます?



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ファーストコンタクト

フハハハハ!

まさかこの俺がこんなに短いスパンで投稿するとは思わなかっただろう!

だがしかし、俺は倒したのだ! テストを!

と、いう訳で投稿です。

と、言うか感想欄の変態紳士多すぎワロタww
どんだけロリギル様が見たいんですかぁ‼︎(笑)(笑)

タグで気づいた方もいるでしょうが、後書きで初めての試みにチャレンジしました!



 

 

 

「ルヴィア⁉︎」

 

鏡面界から帰還した遠坂 凛を待ち受けていたのは、自分と同じ任務を帯びたーー非常に気に食わないがーー金髪縦ロールこと、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトだった。その傍らには、黒髪金眼の大人しそうな少女の姿もある。サファイアを握り、イリヤ同様転身している事から、新たなサファイアのマスターなのだろう。

その少女は、鏡面界から出てきた士郎を見るなり大きく目を見開いたのだが、何か関わりのある少女なのだろうか?

 

「遠坂凛⁉︎ さては、貴方の仕業ですのね‼︎ 鏡面界への通路を封鎖するなど、一体どんなインチキを使ったのだか。流石は、資産も胸も貧しい、ミス・ゴリですわね!」

 

「はぁ⁉︎ 何の事よ! ……ああ、そういう事。私の成果に嫉妬してるのね? 雌ゴリラにも人間らしい所があるなんて、動物園にでも行ったら? 人間みたいなメスゴリラとして、テレビが沢山来るでしょうね!」

 

納得した様な表情になり、おーーっほっほっほ! と、まるで水を得た魚の様に勝ち誇った笑いを上げながらこれが見よしにライダーのクラスカードを振る凛にルヴィアは今にも飛びかからんばかりに殺意を込めた視線で睨みつける。

そしてーー

 

(わたくし)が貴方に嫉妬? 寝言は寝てから言いなさいーーなッ‼︎」

 

「痛ったぁ⁉︎ アンタ、いきなり蹴ってくるなんて何考えてんのよ⁉︎」

 

「はっ! 私、生憎とゴリラ語はわかりませんのよ」

 

「そう。…良いわ、その喧嘩買ったわッーーーー!」

 

「貴方、乙女の延髄にマジ蹴りをーー」

 

三人と二本と霊体化したままの一王が見守る中、可憐な乙女を自称する彼女達(ゴリラ系女子)は殴り合いを始めた。

 

「な、なんなんだ一体…」

 

げんなりとした士郎の発言に激しく同意なのだろう。イリヤはうんうんと頷く。

 

『相変わらずですねー、あの二人は』

 

「ルビーは何か知ってるの? あの人のこと」

 

『ええ、勿論! 知ってるも何もーー』

 

と、其処に割り込む物静かな声。

 

『私の元マスターです』

 

士郎とイリヤが揃って顔を向けると、其処には黒髪の少女がいた。

声の主はあの青いステッキだろう。

 

「えっと……君は?」

 

士郎が代表として、目の前の少女とステッキに問いかける。少女の顔がより一層強張った様に見えた。

士郎ははて、と内心首をかしげる。出会ってからーーと言っても顔を合わせただけなのだがーーの短い間に何かをしてしまったのだろうか?

 

「……っ! その、美遊(みゆ)…と言います。サファイアのマスターで………」

 

顔を伏せて、なるべく士郎と目を合わせない様に喋る少女ーー美遊の言葉は尻すぼみに小さくなる。

 

『お兄さん、お兄さん』

 

「ん? 俺の名前は士郎だぞ」

 

『では、士郎さん 。この子と面識があるんですか?』

 

そんな姿を見て、疑問を抱いたのだろう。ルビーが士郎に問いかける。その方に顔を向ければ、イリヤも同じなのだろう。不思議そうな顔をしている。

 

『うむ…。見たところ、しろうは幼子(おさなご)と奇妙な縁があるようだな。流石はろりこーー』

 

『それ以上は言わせんぞ、ギル』

 

『むぅ……』

 

台詞を遮られたギルが念話越しにむくれた声を出す。頬を膨らませて不満気な顔をするギルの姿が容易に想像出来た。此処まで鮮やかに想像出来るという事実に、本当に自分は"ろ"から始まる変態紳士なのでは無いのかと不安になる。

 

「えっと…美遊ーーさん? その、私のお兄ちゃんと何かーー」

 

ーーズドオオォォォォォン

 

イリヤが何とも言えない場の雰囲気に耐えきれず、美遊に話しかけようとした時、近所迷惑甚だしい轟音が響いた。人払いをしていなければ確実に見つかるだろう程の音だ。

その方向に目を向けるとーー

 

『「「「 うわぁ… 」」」』

 

ギルとサファイアを除くその場にいた全員(ただし当事者たる自称乙女は除く)が異口同音の呟きを漏らした。物静かなイメージと言うか、塞ぎ込みがちな第一印象を士郎達に与えた美遊でさえ、だ。

 

其処には、とてもでは無いが乙女が作り出すには相応しく無い景色が広がっていた。

 

あちこちがひび割れたグラウンドで互いに睨み合っている血だらけの乙女。死屍累々という訳では無いが、凡そ少女二人が作り出す様な状況では無い。

だが、特筆すべきは二人が放つそのオーラ。人の身にして単独で、倒せないしても相性次第では英霊と渡り合えるという、人間の中でもトップクラスに位置するであろう戦闘力を持つ士郎も思わずたじろぐ程のオーラが放たれていた。

 

「この私が攻めきれないとは………。生意気にも攻撃の精度が上がってきてますわね貴女ッ………!」

 

「単純タックルがいつまでも通用するとは思わないことね。来るとわかっていれば対応策はある……!」

 

そんな二人の様子に一同は、彼女達は本当に魔術師なのかと真剣に考え始める。

現にルビーは、『其処の魔術師お二人、肉体言語で語り合わないでください』などと、ツッコミを入れていた。

 

二人は互いに再び一睨みした後、フン! と互いにそっぽを向いた。ルヴィアと呼ばれた青いドレスを身にまとった金髪縦ロールの少女はズンズンと乙女(笑)と呼ばれても仕方の無い様な歩き方で此方へと歩み寄ると、イリヤを一瞥。ふっ、と何処と無く馬鹿にした様な笑いを漏らし、二人は美遊に言いつける。

 

「美遊、野蛮人である遠坂凛の仲間達と共にいると我々まで野蛮と思われてしまいますわ! さあ、帰りましょう!」

 

「…はい」

 

少女は、ルヴィアを見て何とも言えない表情を浮かべる士郎達をちらりと見ると、か細い声で返事をする。

 

何も言えないまま背を向け去って行くルヴィア達を眺めていた士郎に、途中で踵を返した美遊が小走りで駆け寄ってくる。

そして、

 

「ーーごめんなさい」

 

そう短く一言。

士郎に抱きついた。そして胸元に顔を埋め数秒。空気が完全に凍りつき、唖然とする周囲を気にする素振りも無く美遊は士郎から離れた。

ほんのりと桜色に染まった頬で士郎に小さくお辞儀をすると、最初と比べて幾分か上機嫌な様子でルヴィアの元に辿り着くと、フリーズしたままのルヴィアを引っ張って夜の闇に消えていった。

そして、数瞬の後ーー

 

『「「ナニゴトーーーー⁉︎」」』

 

士郎を除く少女二人(+ステッキと念話越しの英雄王)の困惑した声が学園高等部の校庭に響き渡った。

 

 

 

 

「はぁ、一体何だったんだ…」

 

士郎は、衛宮邸の自室に戻ると畳の上に仰向けに寝転がった。久しぶりに極度に緊張した所為だろう。酷く眠い。

そんな士郎のすぐ横にサーヴァントが実体化する。

何処でそんな服を揃えたのか、ギルは現代の女の子の衣装を可憐に着こなしていた。

黒いキャミソールに、同色のホットパンツとベビ柄のベルト。その上から十字架の意匠を施した白いパーカーを羽織っている。その姿は何処からどう見ても可憐で不敵な乙女であった。

 

「くくく、リンと呼ばれていた雑種の反応はじつにおもしろかったな」

 

「いや、笑い事じゃ無いんだけどな…。一体、あの美遊って娘は何だったんだ?」

 

「ん? きづかなかったのか?」

 

「気付くって何をーーって、俺の上に乗るなよ」

 

ギルは仰向けに寝転がった士郎のお腹の上に座ると、そのまま背後に倒れこんだ。具体的には士郎の胸を枕にする様に。

ふわりと漂う甘い香りに士郎は自分の顔が熱を帯びるのを感じた。微かに微笑むギルの紅い眼と目が合い、それは更に加速する。

見た目は幼くとも、彼女は人類最古の王。幼い容姿に釣り合わない妖艶な仕草も似合っていた。

 

「ふふふ、しろうよ? まさか、我によくじょーしたか?」

 

「するわけあるか! と素直に断じられないのが何とも悔しいな…」

 

「む? ずいぶんと素直だな。よい子だ」

 

「どうせ嘘言ってもバレそうだしな。ーーって頭を撫でるな」

 

士郎の上に寝たまま器用に撫でてくる小さな手をペシリとはき落とす。若干不満そうな表情になるが、それもまた可愛くてーーではないと士郎は窮屈な状態のまま頭を振って思考を振り払う。

 

「よいではないか、よいではないか」

 

「止めろって! それで、気付かなかったかと聞かれてもな……。何処か懐かしい感じがしたってところか?」

 

「まあ、あの娘の中身(・・)を考えると当たり前であろうな。満ちているもの(なかみ)は違うとはいえ、根本的な部分は似通っているからな。しろうも我と共に一度は感じたことのある雰囲気であるはずなのだぞ?」

 

「?」

 

「分からぬのならよい。知ったときのしろうの反応が楽しみであるがゆえに、その無知をゆるそう」

 

「よくわからんが、ありがとう?ーーと言うか、いい加減降りてくれ」

 

明日の言い訳を考えないといけないんだ…、と士郎はつい先程、イリヤ達と別れる際に凛から言われた言葉を脳裏に反芻させていた。

 

『何故、衛宮くんが鏡面界(あんなところ)に居たのか…という事や、魔術師なのかどうかという事は明日きっちりお話し(・・・)しましょう、ね?』

 

そう告げるあの満面の笑みは、世界が違えど関係がない。あかいあくまのそれだった。

 

「くく、魔術うんぬんはともかくとして、さいてーげん我のことは誤魔化せよ? しろうがバレてもいいと言うのならべつだが」

 

「いや、ギルの事は最低限誤魔化すつもりだ。でも、後々バレたら余計な疑いを掛けられそうだし、多分真実をぼかしつつ話すーーって感じになるんだろうな」

 

「うむ、それが妥当であろうな」

 

イリヤ(かぞく)遠坂(ともだち)に嘘をつくのは忍びないが、衛宮 士郎が魔術師もどきの英霊候補(シロウ)であってごくごく普通の高校生(しろう)ではないという事を知られる訳にはいかないのだ。魔術の行使する所を見せておいて今更何をと思わなくもないが、少なくともイリヤにとってはショックは少なくて済むだろう。

英雄王のお墨付きを貰えた士郎は、そのままゆっくりと意識を手放した。

 

 

 

 

夢を見た。

黒い三つの円柱を積み上げた様な刀身を持つその"剣"の夢を。

 

黒い雲に覆われた空。赤く燃える大地。紫電迸るその原初の世界に突き立つ一振りの"剣"

 

神々でさえもまだ知らぬ太古の大地を創り、壊した原初の"剣"。

 

熱を帯びた体は、本能の赴くままにその"剣"へと手を伸ばす。

 

だが、届かない。

 

見ようとすればする程に、視界はノイズに塗れていく。

 

読み込めない。剣である筈のこの身でさえも、見えない。

 

そして、

 

ーーあ

 

其処に一人の女性が現れた。金髪紅眼の美女だ。その美貌は人と言うには些か整い過ぎており、神の造形物の様であった。

 

ーー×××××××?

 

知っている。俺は彼女を知っている。

容姿こそ違えど、その身から溢れ出る黄金の"王気"には酷く覚えがあった。

 

そして、その女性が、地に突き立つ"剣"を引き抜いた。

 

途端に、世界が揺れた。

 

轟々と刀身が回転し、断世の風を纏う。

 

ーー×××××××××‼︎

 

彼女は聞くものを魅了する美しい声を高らかに張り上げ、振るう。

 

世界が崩落する。神の世から人の世へと。新たな世界を作り出す天地開闢の一撃。

 

地を砕き、天を裂き、空間でさえも滅ぼし尽くすその"剣"の名はーー

 

 

 

 

 

ーーI am the born of my sword .(体は無限の剣で出来ている)

 

 

 

 

 

無限の剣製(オレノココロ)に、ノイズが走った。

 

 

 

 

 

『しろう?』

 

「んあ?」

 

頭の中に響く様な声で思考が現実に引き戻された。念話だ。

となると、士郎に念話を飛ばせる相手は一人しか居ない。

途端に、今朝見た不思議な夢から、学校の教室内へと意識が戻る。余談だが、朝起きてもギルは士郎の上から降りている事は無く、士郎に『き、昨日は随分と激しかったな…。我をあんなにめちゃくちゃに……』などと言い激しく動揺させていた。

 

『どうしたんだ、ギル?』

 

『どうしたもこうしたもあるか。前を見ろ、前を』

 

『前ってーー……』

 

『うとうとしている暇などあるまい?』

 

『仰る通りで……』

 

そう、目の前ーーと言うよりは教室の前方。互いに睨み合っている金髪ドリルと黒髪ツインテールの姿を視界に収め、士郎は面倒ごとの予兆を感じ、溜息をついた。何故なら、

 

ーー遠坂達が高等部(ここ)に来たって事はイリヤの方にもおそらく……頑張れよ、イリヤ。

 

 

 

「さあ、それじゃあ説明して貰おうかしら、衛宮くん?」

 

高等部校舎の屋上。士郎は転校生である遠坂凛に呼び出されていた。無論、告白などという青春の甘酸っぱい一ページを刻む為などでは無い。イリヤも凛に呼び出されたのか、転身し屋上へと来ていた。凛ご屋上に人払いの魔術をかけているので見られる心配は無いはずだ。いつも屋上で昼食を食べている人間からしたら良い迷惑だろうが。

 

「説明って…。俺が衛宮家の長男だってだけでわかるだろ?俺としてはどうしてイリヤが魔術なんてものに関わっているかの方が気になるんだけどな…」

 

「うげっ」

 

『成る程、そういう事ですか〜。これで、士郎さんが魔術師である事に関しての疑問は無くなりましたね。イリヤさんが関わってきまっている訳ですが…それはこのステッキにすら見限られるダメ凛さんに聞いてください』

 

「グハッ!」

 

士郎の呆れた様な表情と言葉に凛は苦虫を噛み潰した様な声を漏らし、ルビーは納得の声を上げる。

ルビーのさりげない毒に凛が血を吐いた様な気もするが、まあ気のせいだろう。

 

「そうなの?」

 

『はい、衛宮という家が魔術師の家系だったーーというだけの話です』

 

「え? なら、私にもーー」

 

「良い、イリヤ。魔導の家系っていうのはね、後を継げるのは一人だけなの。だから、衛宮家の次期当主は衛宮くんって訳。それ以外は魔術の存在すら知らされる事は無いーーまあ、他家の養子に行く事もあるのだけれど…。というか貴方達って兄妹だったのね…」

 

「血は繋がって無いけどな。俺は切嗣(オヤジ)の養子だ」

 

ふむ。と一通り納得した様子で凛は頷く。

 

『なかなかの策士だな、士郎よ。魔導の家の長男と言ってしまえば勝手に向こうが都合の良い様に解釈してくれるーーか』

 

『俺はそこのところ全然知らないからな。遠坂の話に合わせた方が良いだろ?』

 

念話での会話に意識を割いていると、

 

『それじゃあ士郎さん、貴方の近くに憑いている霊体に関しても説明して頂けるのですか? ルビーちゃん気になります!』

 

「ん?」

 

どうやってギルの事を切り出そうかと考えていた士郎に、ルビーがファインプレー発言をした。

 

「霊体? なんの事よ」

 

『凛さんもニブチンですねー。昨日も士郎さんの周りに居たじゃないですか、ねえイリヤさん?』

 

「ほえっ⁉︎ 私に振るの⁉︎」

 

慌てた様にイリヤは手をばたつかせる。そして、数瞬、考え込むと、

 

「そ、そう言えば昨日、お兄ちゃんが来た時に『ギル』って言っていた……気がする」

 

「おお、よく聞いていたなイリヤ」

 

「え、えへへへ」

 

ポンポンと士郎がイリヤの頭を撫でると、とても嬉しそうに顔を綻ばせた。ギルが素直になれない猫なら、イリヤは仔犬かなぁ、と士郎は思った。

 

そして、

 

『イリヤさん! 良い顔です! これは永久保存モノですね!』

 

自身の下部にカメラの様なナニカを取り付け、イリヤの周りを飛び回るルビー。シャッター音が断続的に響く。

 

「ふぇっ⁉︎ ちょっとルビー!止めてよ!っというかそれ何⁉︎」

 

ふにゃりと蕩けた表情から一転。焦った顔のイリヤが見事なツッコミをルビーに炸裂させる。

 

『コレですか? 24の秘密機能(シークレットデバイス)の一つ、カメラモードです!』

 

「なんか…凄いな。イリヤのステッキって」

 

「言わないで、お兄ちゃん…」

 

混沌としたその場を収めるには、多少の時間を要したのだった。

 

「それで! 衛宮くんの周りの霊体って?」

 

「ああ、わかってるって。但し、他言無用だぞ。……特にルビー」

 

『ええっ、私ですか〜。嫌だな〜ルビーちゃんが人様の秘密をそう簡単に漏らす筈が無いじゃないですか〜』

 

「よく言うわね、このバカステッキ!」

 

「うん、ルビーが秘密を守るって言っても…ねぇ?」

 

『酷くないですか⁉︎』

 

「「普段の自分を振り返りなさい‼︎」」

 

『もぉ、わかりましたよ。サファイアちゃんにも言いません』

 

「よし、それじゃあギル。頼む」

 

 

ーーくくく、あいわかった。

 

 

唐突にその場に、幼げな声が響く。されど、その声は天上の神々の如く澄み渡り、聴く者を魅了する美声だ。

 

「なっ何? 何なの?」

 

「動かないで、イリヤ! こんな霊格、普通じゃないわ!」

 

『これは、ルビーちゃんでも少し予想外ですねー』

 

場に満ちる全てがその声に服従したかの様に、イリヤ達に圧力を与える。

 

そして、士郎の前で黄金が弾けーー

 

 

「くく、我の威容にひれ伏すが良い、雑種」

 

 

黄金の王が降臨した。

 

 

 





【挿絵表示】



【挿絵表示】



【挿絵表示】



上から、

ロリギル&士郎

ロリギル ネイキッドモード

いろいろなロリギル

です。


いやぁ、絵が上手く描けない!
ロリギルを見てこれじゃあ無いな…と思われる方もいるでしょうから、其処らへんは自分の想像(妄想とも言う)でお願いします。
自分的にはこんな感じかなぁ、って描いただけですので!



士郎「俺、絵が薄いな…」

ギル「我、ネイキッドモードだとポニーテールなんだな…」


それでは、また!

一週間以内には投稿したいです!


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説得と敗戦

お久しぶりです!

一週間居ないに更新出来なかった…

いや、でも聞いてください。てっきり更新予約をしたと思ってほっぽっといたら感想が来ないな〜と思い見てみれば…やってもうた!(笑)

あ、一時期とはいえ日間ランキング2位に乗りました。ありがとうございます!

fate/go…。アヴェンジャーを出したくて十連を引いたらアストルフォたんが出てビックリ。
そのまま最終再臨までいってもうた…。マリーの素材が…


 

 

 

 

 

「ギル、やりすぎだ」

 

「むぅ、この程度で動けなくなるとは……。これだから雑種(ニンゲン)というものは…」

 

蛇に睨まれた蛙の様に固まってしまったイリヤ達を解放したのは、士郎のそんな呑気な声だった。

途端に、今まで自身の体を縛り付けていた威圧感が消え、膝から崩れ落ちそうになる。

と、そんな時だ。

 

「お、予鈴が鳴ったな…」

 

校舎の中から聞こえてきた鐘の音に、士郎は屋上の扉に顔を向けると、

 

「悪い、遠坂。ギルについては放課後ーー場所は衛宮邸で良いか?」

 

サラサラと何かを紙に書くと、凛の前に置く。

 

「イリヤも」

 

「へうっ⁉︎」

 

「…どうした?」

 

「ううん、なんでも無いよ⁉︎」

 

「そうなら良いんだが…。それじゃあ、また放課後に。授業に遅れない様にするんだぞ」

 

そう言いながら屋上から去って行く士郎(あに)の姿をイリヤは未だに理解が追いついていない様な、ポカンとした表情で見送った。

 

その日、午後の授業では凛からの刺すような視線を感じたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

「そ・れ・で! ちゃーんと説明してくれるんでしょうねぇ、衛宮くぅん?」

 

「わ、わかってるから! なんか顔が怖いぞ遠坂!」

 

「り、凛さんも落ち着いて…」

 

『いやー、相変わらず騒がしい人ですねー』

 

放課後の衛宮邸。その居間には四人と一つが存在していた。

 

 

魔術師もどきの英雄候補(フェイカー)である、衛宮 士郎。

 

冬木の管理者(セカンドオーナー)である、遠坂 凛。

 

巻き込まれた一般人?(カレイドの魔法少女)である、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

キシュア・ゼルレッチに造られし魔術礼装(カレイドステッキ)である、ルビー。

 

そして、

 

人類最古の英雄王(士郎のサーヴァント)である、ギルガメッシュ。

 

凡そ、一般家庭のお茶の間を囲む面子とは思えない顔触れである。

そんな中、凛は自身の向かいに座る士郎に対して卓に両手を叩きつけ、腰を浮かしながら問い詰めていた。それも物凄い形相で。

だが、士郎は困った様に頬をかくだけで、ギルに至っては凛の事すら見ていない。

凛の隣に座るイリヤは必死に宥めるが、士郎達の態度にその怒りのボルテージは上昇するばかりだ。

 

「お、お兄ちゃん〜」

 

「わかったって…」

 

そして、んんっ! とせきばらい一つ。士郎は尚も此方に身を乗り出す凛と、その横で不安そうな表情をしているイリヤに真剣な表情で語り始めた。

 

「こいつの名前はギル。滅茶苦茶強いんだが正体はーーよくわからん」

 

「はぁ⁉︎」

 

「ええーー…」

 

『士郎さんー。それはちょーっと微妙すぎません?』

 

三者三様、士郎の適当な答えに怒りの声だったり、気の抜けた声だったり、呆れの声だったりを上げる。

 

「い、いやでも。実際に俺もよくわかってないしな、サーヴァントシステムって」

 

「「『サーヴァントシステム?』」」

 

「ああ。ギル曰く、偉業を成し、人より一つ上の領域に召し上げられた者達を使い魔として召還するーーだったか?」

 

「微妙に違うというか足りないが、ほぼ合っているぞ」

 

今まで一言も喋らずに目を瞑っていたギルは士郎のぞんざいな説明を肯定した。正直なところ、ギルも詳しい仕組みまでは分かっていないのだろう。

 

「なに? じゃあ、そのギルって()は英霊だっての?」

 

「そうなるーーのか?」

 

「わからん。我は記憶を失っている(・・・・・・・・)からな」

 

「なにそれ、そんなもので誤魔化せるとでも?」

 

「仕方あるまい、我を召還した何処ぞの三流の腕が悪かっただけだ」

 

ギルの言い分について、納得がいかない凛は、尚の事問い詰めようとするが、

 

「ま、まあ、落ち着けって。ギルの言ったことは真実だし、現に『ギル』ってヒント以外は、自分の真名すら分からないんだから」

 

士郎は明らかに疑っている凛に、咄嗟にギルの記憶障害だという嘘を支持し、誤魔化そうとする。

 

「ギルから始まる英雄なんて、英雄王しか居ないじゃないの…」

 

「ギルがそう見えるか?」

 

「…無理ね」

 

「おい、雑種。今のは聞き捨てならぬぞ!」

 

「やめろって!」

 

凛の発言には、流石に我慢が出来なかったのか机越しに飛びかかろうとするギルを士郎は腰に手を回し、自身の膝の上に乗せて拘束する。

だが、それでも「むぅぅう…」と士郎の膝の上で威嚇する様に凛を睨みつける。

 

「ああ、話についていけない…」

 

『イリヤさん、ファイトです!』

 

話に置いてけぼりの小学生が、ぽつりとぼやいた。

 

 

 

ギルが暴れてから数分後。居間は一応の静寂を取り戻した。

 

「話に納得はいかないけど、理解はしたわ」

 

凛は不機嫌そうな顔で士郎の膝の上に乗っかっているギルを見て、溜息をつく。

 

「でも、疑問に残ることが一つだけある」

 

『あ、それは私も気になってました!』

 

「疑問に思うこと? えっと、ギルーーさん? が凄い人でお兄ちゃんの使い魔(サーヴァント)って話だったんだよね?」

 

「そう、それよイリヤ」

 

「え?」

 

「どうして英霊なんてモノがただの人間に一方的に使われているのか。それが全くわからないのよ」

 

『そうなんですよねー。普通、英霊なんて一癖も二癖もある様な人物ばかりです。そんな人が自分よりも格下の相手に仕えますかね?』

 

「ああ、そういう事か。それなら、ホラ」

 

そう言って士郎は凛の前に自身の左手、その甲を見せつける様に突き出した。

 

「これは…魔紋?」

 

『いえ、どちらかと言えば聖痕って感じですねー。何です、これ?』

 

「コイツは"令呪"って言ってな。サーヴァントに対する絶対命令権みたいなものなんだ。三回しか使えないけど、空間転移とかも出来るんだ」

 

「なにそれ…。そんなもの、ほとんど魔法の領域じゃない…。一体誰が……」

 

「それはわからないけど、ギルと契約した時に手の甲に浮き上がった」

 

『えーと、ギルさん。ギルさんは令呪については何かーー』

 

「知らん。それと、魔法使いの玩具(がんぐ)如きが我の名を気安く口にするな」

 

『ええー。そう言われましても…。なんと呼べばいいのですが?』

 

「……アーチャーとでも呼べ」

 

ギルは暫くの熟考の後、そう答えた。真名とクラス以外での呼び名の心当たりなど無かったのだろう。相変わらずよく話を理解していないイリヤは蚊帳の外に、話はどんどん進んでいく。

 

「ねえ、アーチャー。つまりは、衛宮くんの手の甲にある令呪を奪えば貴女を使役出来るって事よね?」

 

なら、と。

 

使い魔(サーヴァント)って事はマスターから魔力を貰ってる事になる。なら、魔力量が衛宮くんより多い私が貴女と契約した方がーー」

 

そう言った凛の瞳には、魔術師としての探究心、英霊を使役出来るという優越感の様なものが浮かんでいた。無論、ルヴィアを見返せるという感情も。

それは、人として切り離す事の出来ない"欲"だ。

そして、それを易々と見逃す程に英雄王は懐が広くなかった。

 

「ギル‼︎」

 

士郎の鋭い制止の声も遅く。

ギルは立ち上がり、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を起動させた。うたた寝しかけていた、イリヤを叩き起こす程の殺気と共に。

 

「雑種、もしやと思うが我のますたーになろうとでも言うのか? 凡百の魔術師である貴様が?」

 

ギルの背後に展開された王の財宝からは、凛に狙いを定める様に一振りの宝剣がその切っ先を向けていた。

 

「な、なによ! 衛宮くんよりも私の方が魔術師としては下だって言いたい訳⁉︎」

 

「弁えろよ、下郎が。我のますたー足り得るのは、我が認めた者のみ。多少魔術を心得えている程度では我のますたーたる資格は無い。そこに魔術師としての優劣など存在しないのだ」

 

ギルは怒りに染まった紅い眼で凛を睨んだ後、

 

「貴様を主と仰ぐのならば、そこの小娘に使われた方がまだマシだ」

 

「ええっ⁉︎ なに、なんの話⁉︎」

 

そう言ってイリヤを顎で指すギル。そうして再び凛に顔を向けると、

 

「貴様は確かにこの中で最も魔術師としては有能なのだろう。だか、貴様は有能なだけだ。家臣としての忠誠を誓った訳でも無く、我を興じさせる様な才も、身に余る程の大望も、我を倒し得る程の実力も持っていない」

 

そう言ったギルは、王の財宝を消し去り背を向けた。

そして、霊体化(去り)際に一言。

 

ーー次は無いぞ、ときおみの娘。

 

黄金の粒子となった英雄王が消えた居間は、嵐の過ぎ去った後の様に静かだった。

 

 

 

 

それからの居間の空気は気まずいなんてレベルでは無かった。

凛は俯いて何も言わず、イリヤもどうすれば良いのかわからずにオロオロとしている。あのお調子者のルビーでさえも所在なさげにふよふよと宙に浮かぶのみだ。

かくいう士郎も何も言えずに時折、凛の方を盗み見る事しかできない。

そして、時計の長針が一周したかしないかの頃、

 

「あーー! もう、なんなのアイツ!」

 

その間の沈黙が何事も無かったかの様に凛が机を両手で叩き、叫ぶ。

凛なりのケジメなのだろう。叫んでスッキリしたのかその顔からは先程ぶつけられた言葉に対する負の感情は抜けていた。所々に悔しさが滲んでいるが、叫ぶ気概があるのだろう。時間が折り合いを付けてくれる筈だ。

 

「衛宮くん、あの幼女ね、性格ひん曲がってるわよ! ホントなんなのアイツ!」

 

『あんな殺気を向けられたのに、相変わらずタフな人ですねー』

 

「うるさいわよ! 私はね、割り切れる女なの」

 

ーーえー? 結構根に持つタイプじゃあ…?

 

そんな事を考える銀髪の幼女が一人いるが、口に出さない為に誰も反応しない。

 

「取り敢えずは彼女も戦力として考えましょう。衛宮くんも前回のを見た感じ戦えるんでしょ?」

 

「あ、ああ。一応はな。魔術師としての戦い方じゃあ無いだろうけど」

 

「はぁ?」

 

「いや、俺の戦い方は剣で斬るか、弓で射るか。もしくは剣を吹っ飛ばすってくらいだし。魔術なんて強化と投影くらいしかロクにできないぞ?」

 

「………」

 

『………』

 

「あれ、どうしたの? 凛さんもルビーも黙って?」

 

イリヤは魔術に対しての造詣がお世辞にも深いとは言えない。故に士郎の言っていた事に対しても違和感が無いのだろう。

現に、

 

ーーほえー。お兄ちゃんって弓だけじゃなくて剣とか触れるんだ。

 

などと、剣術を心得ている兄に対して感心というか、賛賞の感情を向けている。

 

「衛宮くん? 聞き間違えかしら? 今あなた自分が使う魔術をサラッと吐いて(ゲロって)なかった?」

 

「え? だってそりゃあ俺が使える魔術を知っておかないと遠坂達もやり辛いだろ?」

 

『そういう問題じゃなくてですねー』

 

凛とルビーは士郎の魔術に対する態度に疑問を持っていた。普通はそう易々と他の魔術師に手の内は明かさない。

 

「ん? ……………あ、いや! これは自分の力を秘匿して変に期待をさせない様にする為というか何というか…」

 

疑われたかと焦った士郎へ慌てて言い訳をする。だかしかしジトっとした凛の視線は変わらずに、士郎の顔は苦笑いに変わっていく。

 

「…まあ、良いわ。それより、夕飯は出してくれるのかしら?」

 

凛が顔を向けた先には時計が掛けられており、時刻は六時を指していた。

 

「それは勿論…と言いたいけどイリヤは大丈夫なのか? セラに言ってないなら…」

 

既に手遅れかもしれない時間だが、連絡を入れないよりはマシだろう。士郎は自宅に帰った際の洗礼(説教)を想像し、一人顔を青ざめさせた。

 

「あ、うん。今から大丈夫かどうか電話で聞いてくるね」

 

そう言ってイリヤは廊下にあるであろう電話を使いに居間の外へ出て行く。イリヤの事をマスターと仰ぐルビーも同様だ。

そして、イリヤが襖を閉めた途端、

 

「ねえ、衛宮くん」

 

凛は真剣な顔を士郎に向けた。

 

「本当に他には隠している事は無いの? ギル(あの娘)の事もそうだし、そのーー。上手く言えないけれど、もっと根本的な部分で貴方は何かを隠している。そう感じてしまうのだけれど、どうかしら?」

 

間違っていたらごめんなさい、と最後にそう言った凛だが自身の考えが間違っているとは微塵も思っていないのだろう。士郎を見つめる眼光は、魔術師のそれであり、鋭く冷たかった。

 

「………」

 

士郎はその目を見て、怯えるわけでも動揺するわけでもなく、一度目を閉じると、キッパリと言った。

 

「すまん」

 

「はぁ?」

 

「遠坂が考えている事は分かる。その上でーーごめん、言えない」

 

「………はぁ…」

 

凛の口から、漏れた溜息は先程の呆れるようなものでは無く、何かを悟った様な穏やかなものだった。

 

「衛宮くんってホントにーー。何も無いって言えば私はそれ以上追求出来ないってのに、もう…」

 

「遠坂に嘘は吐きたくないからな。でも、本当の事をそのまま言うわけにもいかないし…」

 

「もぉ良いわよ。これ以上は聞かないわ」

 

衛宮くんらしいわね、と言いながら笑う凛の頬は微かに赤く色づいている。そんな穏やかな笑みを浮かべる凛の内心に気がつかず、顔が赤いのは風邪のせいではないのだろうかと心配する朴念仁は、きっとその内天罰が下るだろう。

 

「お兄ちゃん! ご飯食べたらすぐに帰ってきなさいって!」

 

笑顔で言いながら居間に飛び込んできたイリヤの方に顔を向けながら、士郎は今夜の夕飯は時間的にもパスタにしようかと夕食のレシピを考え始めた。

 

半刻後、料理の美味しさに対するあかいあくまの驚愕の声が衛宮邸を震わせ、黄金のお姫様の機嫌を損ねたり、色々と不機嫌になったお姫様の機嫌をとる為に、正義の味方があの手この手を駆使したのはをまた別の話。

 

 

 

 

それから数時間。

衛宮邸での夕飯後。一度家に帰り、再び彼女らは集まり、鏡面界へと乗り込んだ。その際、士郎についてルヴィア陣営と一悶着あったのだが、それは別の時に語るとして。

いざ勢いよく突撃をかましたカレイドの魔法少女+αは数分と持たずに返り討ちにあった。

 

『いやー、ものの見事に完敗でしたね』

 

歴史的敗退ですー、などと今更だがステッキらしからぬ人の様にボヤくのはボロボロになったルビーだ。

 

「な、なんだったのよ、あの敵は……」

 

「ちょっとどういうことですの⁉︎」

 

所々を魔術による光線で煤けた凛が悔しがる様に頭を押さえる。

ルヴィアに至ってはカレイドの魔法少女は無敵なのではなくて⁉︎ とサファイアを力の限り引き伸ばしていた。最もそんな事をすればルビーの怒りを買うのは当然で、ボロボロの上に眼球を攻撃され、身内にトドメを刺されていた。

場所は冬木大橋下部の川沿いにある広場の様な開けた場所。人払いの結界の効果により淑女を自称する者としてはどうかと思う様な行動の目撃者は身内以外は誰もいない。尤も、身内にこそ最大の敵がいるのだと、凛とルヴィアは思っている。余計な所で気の合う二人だった。

 

魔力指向制御平面。

 

それが、今回大敗を喫した最大の理由であり、突破しなければならない壁だ。魔力を反射してしまう反射壁の前では幾らカレイドの魔法少女が無限の魔力を持っているとは言え、厳しいものがある。

 

「あれ?」

 

唐突にイリヤが漏らした声に、その場に居た三人と二本が其々の反応を見せる。

そう、

 

三人と二本(・・・・・)が。

 

「お兄ちゃんとアーチャーさんは何処?」

 

『『「「「‼︎」」」』』

 

はた、と気付く。そうだ。士郎がこの場に居て全員の心配をしない筈が無い。なんせ敵の魔術砲はランクAの魔術障壁すら楽々と突破して来るような代物なのだ。当然、ボロボロにもなる。

そして、この場に居ないという事は当然鏡面界(むこう)に取り残されたという事になりーー

 

「お兄さん‼︎」

 

『美遊様⁉︎』

 

その回答にいち早く辿り着いた美遊が、サファイアの驚愕の声に耳すら貸さずに離世(ジャンプ)する。

その時間、およそ一秒。

イリヤは勿論、魔術師である凛やルヴィアですら呆気にとられる中、美遊は再び鏡面界へと姿を消した。

 

 

音が聞こえる。

美遊は士郎が居ないと気付くなり即座に鏡面界にとって返していた。

場所は再び橋の下。

そして、その中から覗けた外の光景に思わず動きを止めた。

金色の目は大きく見開かれ、目の前に起こっている現実を信じられない様な面持ちで見つめていた。

 

『美遊様、これは…』

 

サファイアですら言葉が出ない様だ。

それもそうだろう。

何故なら、

カレイドの魔法少女でもない衛宮 士郎(兄に似た誰か)が、あのアーチャーと名乗る金色の幼女の助けを借ているとは言え、英霊と対等にやり合っているのだから。

理性が無いとは言え、英霊は英霊。本来なら人の身では決して敵わない存在だ。

 

『しろうのサーヴァントだ。アーチャーと呼ぶがいい、雑種共』

 

橋の下に集まった時に黄金の幼女に言われた言葉が脳裏を掠めた。

先程会った彼女はそれ以降は一言も喋る事なく何を尋ねても無視を押し通して結局は何もわからなかった。

そして、イリヤスフィールの兄と名乗る青年も、英霊討伐に参加すると言う。

イリヤスフィールの兄であり、現地の魔術師だと聞いて、黄金のサーヴァント共々ある程度の納得をしたルヴィアと違い美遊にはどうしても理解が出来なかった。

幾ら身内が自身の住む町で起こっている事件に巻き込まれているとは言え、一魔術師になにが出来るのかーーと。

だが、どうやらそれは間違いであった様だ。

魔力指向制御平面があるにも関わらず、黒化英霊と千日手の状態にまで持ち込んでいる後ろ姿を見て、美遊は思った。

 

兄によく似た青年は魔術師などでは無い。

かと言って戦士でも無ければ騎士でも無い。

 

ーー嗚呼、

 

勝てる保証も無いのに真っ直ぐひたすら向かって行くその在り方。

仲間と共に戦場を駆け、必死に戦うその後ろ姿。

赤い礼装に身を包んだ彼の真剣な眼差し。

 

ーーきっと彼の事はこう呼ぶべきなのだろう。

 

英雄(ヒーロー)ーーと。

 

だが、しかし。

 

そんな英雄(兄もどき)の背中が、美遊にはとても空虚で空っぽの様に思えてしまった。

真に守りたいと思えるものを持たぬ、張りぼての英雄に。

 

 

 

 

 

偽・螺旋剣(カラドボルグ l l )‼︎」

 

 

 

 

赤き弓兵から放たれた偽りの魔弾が、魔術師の障壁に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 





ギル様の上から目線感(笑)

えー、今更ですが本作のロリギル様は子ギル君とは違い、慢心こそしていませんが、基本的に人間を雑種と見下してます。
ですが、一度何かしらで認めれば途端に打ち解け、可愛くなります。
今の所ギル様の好感度、というかマスターにしても良いなーと思っているのは

士郎→美遊→イリヤ→凛・ルヴィア

の順番ですね。
と言っても士郎くんの好感度はカンストしてメーター振り切ってるんで…羨ましいなオイ!
まあ、それだけ男のギルガメッシュにすら強者と認めさせた効果は強いって事ですね!

あ、予定ですが大人の女性バージョンの方もその内に出す予定です。
性格は…惚れた相手にはとことん尽くす感じのお姉さん…ですかね?
雑種には見下すのでは無く、物凄く厳しく接します。超スパルタ教育。

誤字があればどんどん言ってください〜。


ーー以上。


あ、守れるかわかりませんが取り敢えず一週間以内の更新を目指してみます!
ーー以上。って聞くと某バハムート級都市艦の自動人形思い出しません?(笑)





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