彼は憧れた。ただ強く、ひたすらに美しい。『黄金の獣』『愛すべからざる光』とも呼ばれた男、ラインハルト=トリスタン=オイゲン=ハイドリヒに。『Dies irae』という創作の彼に始まり、少々ながら現実の彼も調べる程度には知識を得。ここまでなら単なるファン、または信者の一人でしかない。だが彼は違った。
ーー狂っていたのだ、その有様が。ただ極端に注がれる愛であり情熱、執着であり依存。それは彼を知ることがなければ死んでいたと豪語する程のモノで、『邪なる聖者』と呼ばれた神父と似て非なるモノだった。
ああなりたい、何故己は彼でないのか。自問自答を繰り返しながらも安寧とした日常を繰り返し、気が付けば冴えない会社員として30の誕生日を迎えようとしていた。
『HAPPY BIRTHDAY俺』
祝ってくれる友人もいなければ恋人もない。家族からは電話の一つが寄越されるに留まり、虚しく侘しいひとりぼっちの誕生日。翌日が休日なこともあってか、買ったケーキを貪りながら彼は誕生日を迎えた。
瞬きをした刹那、そこは未知だった。
あまりにも自然であったため、そのままケーキを一口食べてしまったが、すぐに脳が適応する。ここは異界だ、己は未知に至ったのだ、審判者は来たり。他愛もない戯事を思いながら、自分と共に付いてきたテーブルと椅子を後にして未知の探究を始めようとしーー心が打ち震えた。
ケーキを食する際に使用していたナイフに一瞬、この場にない黄金色が映った。もしや、と逸る心を抑えながらナイフを手にする。生クリームで汚れた刀身を指で拭い、鏡のような刃に顔を映す。
ーーそこには、己が愛して止まない黄金の姿が在った。
彼は歓喜し、狂喜した。何故今に至るのか、理屈など興味もないし知りたくもない。彼にとってはただ己が黄金である事だけが重要で、他の事なぞ知った事か。ただ蹂躙し、
彼は気付かない。己が成ったのが、
これがハロルドの全力
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