ウルトラブライブ! 9人の少女と光の勇者達 (白宇宙)
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輝く絆 希と絆の巨人

どうも、白宇宙です。
初めましての方は初めまして、知ってる人はこんにちは。

今回は以前に放送されたウルトラマンエックスに出てきたネクサスに刺激を受けて、僕が好きな作品の一つである、ラブライブ!とのクロスオーバーを書いてみました。

まあ、前置きはこのくらいにして、お楽しみください!
どうぞ!


彼女は孤独の中にいた。

 

まわりがワイワイと賑わう中、彼女だけは一人本を読み、夕方になって学校が終わり、放課後になるまで本を読んで過ごす。

そして、クラスメイトがいなくなるのを見計らって一人で帰る支度をして夕焼け空の下、帰路に着く。

 

まわりに友達はいない。

話し相手もいない。

一人ぼっちの帰り道。

 

別に寂しいと思うことはなかった、慣れていたから。

親の仕事の都合で様々なところを転々とすることが多く、友達を作れる余裕はなかったし、そもそも友達になれるきっかけを作るタイミングを完全に遅れていたから。

まわりのみんなは既に話の会う友達を作り、和気藹々と話や遊びに花を咲かせる。

新たにクラスに加わった転校生のことなんて見向きもせずに…。

 

別にそれが寂しいとか辛いとかは思わなかった。

別に作ったとしてもどうせまたすぐに別のところに引っ越すんだ。

作った所でまた離れるのなら別に一人でも構わない。

 

帰宅した後も彼女は一人だった。

両親は共働きで家にいないのは珍しくない。

普通なら大抵の子どもは寂しいと感じるのかもしれないが、これに関しても彼女は慣れていた。

 

引っ越してきたマンションの玄関に申し訳程度に置かれている鉢植えを持ち上げて、その下に隠してある鍵を使って帰宅、薄暗い部屋にただいまを告げて、一人で用意されていた食事を食べて、風呂に入り、眠る。

 

寂しいからと言って親に泣きつくことはなかった。

二人とも忙しいのだし、わがままを言っても困らせるだけだとわかっていたから。

別に一人でも生活には困ることもないし怖いこともない。

 

ただ、たまにひどく日常が空虚に感じることがあった。

 

まわりの風景がくすみ、輝きを失っていることに、彼女は気づいていた。

しかし、それを見て見ぬ振りをしていたのだ。

 

自覚してしまった瞬間、自分はどうにかなってしまいそうだったから…。

 

泣いても、叫んでも、問いかけても、誰も答えてはくれない。

そんな孤独の中で泣き喚いても……世界に自分は助けを求めてはくれないだろう。

 

だから少女は孤独の中に慣れている、“ふり”をしていた。

 

 

高校生になり、彼女達と出会うその時までは…。

 

 

出会ったのは自分の席の前にいた一人のクラスメイトだった。

高校生活のスタートにおいて最も重要な第一印象をアピールする自己紹介で彼女は単に名前を言って、よろしくと言っただけだった、とても無愛想で誰も寄せ付けないような雰囲気を放ちながら席に座った彼女を見て、少女は今までにない感情を抱いた。

 

不器用で、自分に必死で、素直になれない。

 

まるで、自分のように…。

 

親近感とは少し違うと思う。

放っておけなかったのだ。

自分と似た彼女、経緯は違えど彼女もまた自分と似たような心境を持っているのかもしれない、彼女の姿を気付けば追いかけていた。

 

ホームルームが終わり、教室を出て行く彼女の姿を慌てて追いかける。

廊下を出て差し掛かった階段を降りて行く彼女の姿を見つけて、少女は咄嗟に声をかけた。

 

「あの!」

 

声に反応してか、目の前にいた彼女が振り向いた。

ポニーテールにした金髪を揺らして振り向いた彼女は日本人には珍しい碧眼を自分に向けてくる。

 

「あなたはクラスの……なにかよう?」

 

「あの……わ……わたし…」

 

思えばこのように積極的に声を掛けることなんて今までなかった。

故に少女はどう返答すればいいのか迷っていた。

なんの接点もない自分が彼女に言えること、そんなものはすぐには思いつかない。

 

なにせ初めて、ここで、偶然という不確定要素が重なってようやく出会うことができたのだ、そんな人物になにを話せばいいのかなんてわかるはずがない。

 

……いや、それで当然だ。

 

何においても始めては不安でどうすればいいのかなんて当たり前のことだ。

わからないから迷ってるんじゃない、自分は今不安だからわからない“ふり”をしているのだ。

 

もう、ふりをするのはやめよう。

 

 

 

この出会いはきっと、“運命”だ。

 

 

 

この運命を手に取るためにできること、それは自分から前に進むこと。

 

この運命を大切にしたい。

 

だから、最初は単純でいいのだ。

 

自分の理想とする形、そこから始まる友人の作り方…。

 

 

「………“うち”、“東條 希”!」

 

 

聞いただけで使ったことのない関西弁を使ったのは、単に親しみやすいかな、と感じただけだ。

でも、それでいい。

単純な初めましてでいいのだ。

 

 

 

彼女が結ぶ“絆”は、ここから始まることとなったのだから。

 

 

 

やがて、その“絆”は9人の少女達を繋ぎ合わせ、掛け替えのない仲間達と希は巡り会うこととなっていった。

 

 

 

 

 

 

「μ's!! ミュージック、スタート!!」

 

 

 

 

 

 

“音ノ木坂学院”、スクールアイドル、“μ's”。

 

彼女の、掛け替えのない。

大切な、奇跡の仲間達。

 

前に踏み出すことで得た彼女達との絆、やがてそれは希にとって掛け替えのない大切な宝物をくれた。

 

 

だが、彼女のであった運命というのはこれだけに終わらなかった。

 

 

 

これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。

 

 

 

 

 

 

~ウルトラブライブ! 9人の少女と光の勇者達~

 

「輝く絆 東條 希と銀色の巨人」

 

 

 

 

 

 

「そういえば、希は知ってる?」

 

帰り道、隣で並んで歩いていた友人、絢瀬 絵里がそう聞いてきた。

 

「知ってるって、なんかあったん?」

 

一年の頃からの友人として一緒にいる絵里の問いかけに応えるのは通常よりも下に結んだツインテールと少し特徴的な関西弁を話す少女、東條 希である。

首を傾げる希に絵里は人差し指を立ててそれがなんなのかを説明する。

 

「この前の流星群のことよ、ほら、うちでも話題になっていた」

 

「………あー、穂乃果ちゃんも言ってた9つの流れ星のこと?」

 

今から数日前、ここ音ノ木坂を中心にこの辺り一帯で突然の流星群が確認されたのだ。

 

ニュースにもそんなことは知らされてなかった、原因不明の唐突な流星群。

しかも、どういうことかそれらの流れ星は9つとも違う色を放っていたのだ。

一つはオレンジ、一つは銀色、一つは青、一つは金色など、色とりどりの不思議な光の尾を引きながら、その不思議な流れ星はそれぞれバラバラの方向に落ちていった。

 

その不思議な流れ星の噂は翌日、音ノ木坂学院でも話題となり、自分達が所属するスクールアイドル、μ's内でもその話題で持ちきりとなった。

どうやら絵里はそのことを言っているらしい。

 

「そう、そのことなんだけど…なんでも、普通の流れ星とはちょっと違うみたいってことが最近わかったらしいの」

 

「違うって、なにがなん?」

 

「通常の流れ星は宇宙のチリが大気圏に触れて摩擦熱を起こして発光しながら降下してくる現象なんだけど、どうにもその時の流れ星は9つとも大気圏よりも低い高度から発生したらしいの」

 

博識な面を持つ絵里の何気ないうんちく混じりの説明に希はふーんと相槌を打つ。

 

確かに普通なら大気圏に入らずして発光することはない流れ星が大気圏よりも下で光ということはありえないだろう。

それこそ、宇宙人かUFOなどの不可思議な存在でもない限り。

 

「へ~、それはまたかなりスピリチュアルな話やね、めっちゃおもしろそうやん」

 

「………」

 

「? えりち、どないしたん?」

 

普段と変わらない会話のはずなのに、なぜか絵里は腑に落ちないような反応を見せている。

なにかまずいことでも言ったのだろうかと思った希だが、そんな発言があったようには到底思えない。

 

すると絵里は逆に不思議そうな表情を浮かべた。

 

「いや、希ならこういう話、誰よりも一番好きそうなのに…知らないなんて珍しいなって思ったから…」

 

「え、そう?」

 

「だって希ならこういう不思議な話すぐにでも飛びつきそうだもの、スピリチュアルやね、って」

 

希の口癖を真似しながらそう言った絵里に希は一緒動揺した様子を見せたのち慌てて苦笑いを浮かべる。

 

「…あぁ、ちょっとその話はね、まだ知らんかったんよ」

 

「え、なんで? 希ならこの辺り一帯をしらみつぶしにしてでも調べかねないと思ったのだけれど…」

 

「いや、ほら、最初に話を振って来た穂乃果ちゃんも最近あんまりそのことについて話さなくなったし、うちももうええかなって思ってん」

 

「ふーん…」

 

あまり納得がいったという表情ではないが、彼女の言い分に渋々と相槌を打つ絵里。

しかし、彼女にはわかっていた、希の表情がいつもと違うというとこに…

 

「…ねぇ、希、あなたやっぱりなにかあったんじゃ」

 

「あー、そうや! うち今日も巫女さんしなくちゃあかんかったんや、えりちごめん、先行くね?」

 

「あ、ちょっと!」

 

絵里が聞こうとした矢先、希はそう言葉をはぐらかして足早にその場を立ち去ってしまった。

走り去っていく彼女の後ろ姿を眺めるしかない絵里は彼女のことを心配した表情を浮かべることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、東條 希はとある場所にいた。

 

赤く焼けたような空…。

 

立ち込める黒い煙…。

 

ひび割れたコンクリートの壁…。

 

崩れ落ちた周囲の建物…。

 

燃え盛る、“見慣れた街並み”…。

 

そこは彼女が高校からの三年間を過ごしてきた場所、彼女の暮らす音ノ木坂の街だった。

それがどういうわけかこんなに荒れ果て、炎に焼かれ、破壊し尽くされていた。

 

あまりにも理解できないこの異様な事態に希は半ばパニック状態で辺りを見回し、一心不乱に走り出した。

 

なんでこんなことになったのか…。

 

どうして自分はここにいるのか…。

 

どこに行けばいいのか…。

 

問いかけを自分の中に浮かべても、帰ってくる返答はない…。

荒れ果てた街を夢中になって走り続けていると、やがて希はある場所にたどり着いた。

 

彼女が“大切な人達”とであった場所…。

希の通う高校、音ノ木坂学園。

しかし、ここもいつもの様相をガラリと変えてしまっていた。

街並みと同じように壁が崩れ落ち、炎が所々で燃え上がっている。

 

その光景を目の当たりにした希は愕然とし、無意識のうちに足元をふらつかせてしまう。

混乱する彼女の思考はこんなことを認めたくなくて正常な働きを行わない、もうどうしたらいいかわからず彼女がその場に疼くまろうとした時だった…。

 

 

 

ーーーギャォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 

 

空を引き裂くかのような轟音、いや雄叫びという方がいいだろうか…。

突如として聞こえてきたその声に希は驚き、目を閉じて耳を塞いだ。

 

この世の物とは思えないようなその轟音を聞いた希は恐る恐る目を開くと…。

 

「…なに…これ……」

 

彼女の目の前には、見たこともない三首の怪物が立っていた。

 

 

顔の半分を焼きただらせたかのような犬の顔をした双頭を両肩に持ち、体の中央には恐ろしい牙をずらりと並べた巨大な口…。

三つの首を持つ地獄の番犬、“ケルベロス”……それを思わせるような凶悪な外見をした巨大な怪物が希の前に突如として現れた。

 

 

現実ではあり得ない、見たこともないその怪物を目の当たりにした希はその衝撃に呆気にとられ、その場でその怪物のことを見上げることしかできなかった…。

 

故に、気づくのに遅れてしまった…。

 

その怪物の足元に希の大切な8人の友人がいることに……。

 

 

 

「みんな………危ない!!」

 

 

 

咄嗟に彼女達の元に走り出そうとした希、しかし怪物は鋭い爪を持つ腕を振り上げ、彼女達に襲いかかる。

 

 

 

「だめ…だめぇぇええええええ!!」

 

 

 

 

必死に希がてを伸ばす…。

 

だが、もう届かない…。

 

次の瞬間、希の目の前にいた友人達に怪物の爪が振り下ろされた…。

 

 

 

そして、ギラリと光る爪が希の友人達を引き裂くのと……この時に希の目の前に“謎の石像”現れ、それに彼女の手が触れたのは同時だった……。

 

 

 

 

 

 

 

「っ!! ……はぁ……はぁ……はぁ」

 

閉じていた瞼を見開き、彼女が体をバネのように跳ね上げた時、希はここが住み慣れた自身の部屋であることに気づいた。

 

息を荒くし、早まる動悸を感じながら希が辺りを見回す。

そして、先程まで見た光景と違うことに気づいた希は理解した。

 

「………夢?」

 

なんという夢見の悪い夢なのだろう…。

希は頭を抱えながらため息をつき、同時に安心感を抱いた。

あんなこと現実で起きるはずがない……起きてはならないことだ。

 

「……シャワー、浴びよ」

 

気づくと、身体中にびっしょりと汗をかいていた。

今日は平日の最終日、学校まではまだ時間があるしシャワーを浴びてから用意をしようと考えた希はベッドから起きて風呂場へと向かった。

 

部屋を出て廊下を歩き、風呂場へと辿りついた希は着ていた寝間着とその下に身につけていた下着を脱いでいった。

高校三年生となって成長してるとはいえ、それでも平均よりも上はあるであろう胸と腰周り。

豊かな肉体に一糸纏わぬ姿となった希は脱衣所から風呂場へと移動し、シャワーの前に立って蛇口をひねる。

 

適度に調整された水滴がシャワーから流れ始め、体を伝う。

体に貼り付くような感覚を覚える汗をお湯で流す。

 

「…最近多いな…あぁいう夢」

 

その際に彼女はふと先程見た夢のことを思い出していた。

 

実はあの夢、見たのは今日が初めてではない。

ここ最近、似たような夢を何回も見るのだ、何度も何度も似た夢を繰り返し見続けて、そして見る度によりはっきりと、まるで現実のような感覚を覚えるのだ。

そのおかげで最近はこの夢のことばかりが気になって他のことに気が向かなくなっていた。

昨日、絵里から彼女が好きそうですぐに調べてそうな話を振られたのに反応が薄かったのはそのためである。

 

そんな何度も繰り返し見続けている悪夢、これ自体も相当気になるが……その中でも気になる物があったのを希は忘れなかった。

 

 

「……最後のあの石像……」

 

 

夢の最後に必ず現れる、謎の石像。

 

特徴的な形をしたあの石像。

あの悪夢の最後に現れる石像に触れた時、一瞬、ほんの一瞬だがまるで何かに包まれるような感覚と目の前が光で包まれるような感じを覚えた。

 

あの石像はなぜ毎回最後に現れるのか…。

 

あの石像はなんの意味を持っているのか…。

 

希の中であの石像はあの夢の中でとても重要な役割をになっているのではないかと感じていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…希、どうかしたのですか?」

 

「うん? ちょっとな~…」

 

その日シャワーを浴びたのちに学校へと登校した希は一通りの授業を終えたのち希は屋上に来ていた。

 

放課後、この時間は彼女の“スクールアイドル”としての時間なのだ。

 

 

音ノ木坂学院スクールアイドル、“μ's”

 

 

時代の進行による生徒減少にともない、学院を廃校から救うためにこの学院の二年生“高坂 穂乃果”を中心にして結成された、スクールアイドルである。

 

現在、スクールアイドルの祭典である“第一回ラブライブ”への活動を落ち着け、スクールアイドルとしての活動に専念してる彼女達はこの放課後はアイドルとしての練習に当てているのだ。

 

ダンス、歌、そして基礎体力などスクールアイドルとして必要な能力をこの時間に向上させる。

その間の休憩時間、希が何かしているのに気づいたμ'sのメンバーの一人、腰までさらりと伸びた綺麗な黒髪が特徴的な所謂、大和撫子というイメージが強い少女、2年の“園田 海未”が、彼女に問いかけて来た。

 

海未が見つめる視線の先には数枚のカードが並べられている。

 

「もしかして、占いですか?」

 

「うん、ちょっと気になることがあってね、迷った時はカードが教えてくれるんよ」

 

「希の占い、相当当たりますからね…」

 

実は希には昔から周りのみんなとはちょっと違う特殊な何かを持っていたのだ。

 

一般的には、霊感、とかいう類に属するらしいが希自身その能力を悪く思ったことはない。

むしろそれをある方法に割り振ることで役立てて来たくらいだ。

 

カードによる占い、これは彼女の得意分野の一つなのだ。

 

カードの出すお告げが偶然か、はたまた希の能力なのかは知らないがとにかく希の占いはよく的中するのだ。

 

彼女が始めようとする占いをちょうど見た海未も興味津々にその様子を見守る。

 

「まずは……」

 

そして、希が一枚目のカードをめくる。

そして、出てきた絵柄に希は眉をしかめた。

 

「……“闇”……」

 

なんとも不吉な結果、それを聞いた海未もほんの少し不安そうな顔をする。

 

「……次は……“恐怖”…?」

 

二回続けて嫌な結果…。

これには流石に希も表情を強張らせる…。

 

「あ、あの…希、これは何を占っているのですか?」

 

恐る恐ると言った様子で海未が問いかける、すると希は何処か不安そうな目をした後しばらく言葉を詰まらせ…。

 

「あー、別に対したことやないよ? うちのご近所さんが最近不運続きやからなにかなって気になっただけ」

 

「あ……あぁ、そうなんですか……」

 

 

嘘だ……。

 

 

希が占っていたもの、それは自分が今朝見た夢のことについてだった…。

あの夢がいったいなにを指し示しているのか、彼女は知るために試しに占ってみたのだ。

 

そして、出た結果が先程の“闇”と“恐怖”…。

 

 

 

(……なにか、嫌なものが来るの……?)

 

 

 

その結果に希は、今まで以上の不安を感じるのだった。

 

「海未ちゃん、希ちゃん! 休憩時間そろそろ終わるにゃ~!」

 

猫のような言葉使いが特徴的な短髪で活発的なイメージを持つ少女、同じくメンバーの“星空 凛”が二人のことを呼んだ。

 

その声に気づいた海未がなにかを考えているような希に声をかける。

 

「あ、はい、すぐに! 希、ほら今は練習に集中しましょう?」

 

優しげな笑みを浮かべて手を差し伸べる海未、その手を一瞥した希はしばし間を開けてから、その手のひらに自分の手を重ねた。

 

「うん…そうやね」

 

しかし、何時もの彼女らしからぬ不安そうな顔に海未は心配そうな顔を浮かべる。

 

「……あの、やっぱり無理しなくてもいいですよ? たまには休むのも……」

 

「大丈夫やって、なんやったら海未ちゃんのその小ぶりな膨らみ、わしわしして証明したろか? 今ならいつも以上のテクニックを出せる自信があるで~?」

 

「け、結構です! 大丈夫なら早くしてください!」

 

「うふふ…♪ はーい」

 

今はただの夢のことでこんなに不安になってても仕方ない。

自分には友達がいる、かけがえのない、仲間達が…。

自分がこんなに不安な顔をしてどうする…。

今はみんなとの練習に専念しよう、そしてまた、みんなで楽しい時間を過ごそう…。

 

そんなことを考えながら希はその手を引かれ、練習へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………』

 

 

彼女を見つめる“小さな人形”に気づくことなく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、希はいつもの神社の巫女としてのお手伝いをすることにしていた。

神社という場所は不思議と希は好きだった。

透き通った空気に神秘的な感覚に溢れたこの場所、ここにいると妙に心が安らぐ気がした。

いつものように希は境内の階段を竹箒で掃く。

 

「今日もいい感じやね」

 

巫女服に身を包んだ希は竹箒で掃除した階段を見つめて満足気な笑みを浮かべる。

 

「…と、そろそろ帰らないと…晩ご飯なんにしよう…」

 

気付けば空は夕暮れから夜の闇へと姿を変えようとしていた。

そろそろ帰らないと暗くなってしまう、夜の街は何かと物騒だったりするから、早く帰るに越したことはない。

帰りに晩ご飯の献立を気にしつつ彼女が神社に戻って着替えようとする。

 

 

 

 

 

ーーー……ーっ!

 

 

「………え?」

 

 

 

 

その時、一瞬だが希は何かを聞いた。

何処かで声が聞こえた。

僅かにだが確かに人の声がした。

普段なら気にも留めないほどの僅かな声だっただろう。

しかし、この時の希はこの声がどうにも気になってしまった。

 

 

その声にただ事ではない何かを感じたから……。

 

 

「………」

 

 

しばらく声が聞こえた方を見つめた希は意を決して、その方角へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

巫女服のまま歩き続けること数分、希は神社の近くにある森へと入り込んだ。

この辺りは街の自然保護団体によって保たれた僅かな自然が残されており、車も通ることができるちょっとしたドライブスポットである。

 

その雑木林を進んで行くと…。

 

 

ーーー……ぁさん! ……さん!!

 

 

 

さっきよりも声がはっきりと聞こえた。

この声はどうやら子どもの声のようだ。

よく聞くとなにやら切羽詰まったただならぬ声、それを聞いた希はすぐに駆け出して声がした方へと駆けつけた。

 

 

 

そして、そこで彼女は信じられない光景を目の当たりにする…。

 

 

 

 

「あっ!」

 

 

そこには家族と思われる三人の人物がいた。

だが、親と思われる男女の二人がどういうわけか大きくボディを凹ませた車の下敷きとなっている。

そして、その車の前に小学生くらいの男の子がいた。

 

「お父さん!! お母さん!! しっかりしてよ、ねぇ!! 起きてよ!」

 

必死に親に声をかける子ども、だが親は車の下敷きになっているせいか身動きを取れないらしい…。

それを目にした希は無意識のうちにその家族の元へと走った。

 

「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」

 

声をかけるが反応は薄い、しかも僅かに鉄の匂いがする。

どこかはわからないがもしかしたら出血しているのかもしれない…。

急いで助けを呼ばないと…。

 

「僕、ちょっとお姉ちゃん助けを呼んでくるから待っといて!」

 

子どもにそう言って希が助けを呼ぼうとする。

だが、子どもはどういうわけか希の巫女服の裾を掴んで首を必死に左右に振った。

 

 

 

「だめ! 行っちゃダメ!」

 

「だめって……このままだとお父さんもお母さんも大変なことになるよ!? 大丈夫、すぐ戻ってくるから…」

 

「だめ!! お姉ちゃん、“食べられちゃう”!!」

 

「………え?」

 

 

 

どういう意味なのか、希はすぐには理解出来なかった。

いったいこの子どもは何を伝えようとしているのか、希は困惑した表情を浮かべる。

 

 

 

「……逃げ……るん…だ…」

 

 

 

そんな時、希の耳に掠れた声が聞こえて来た。

その声は車の下敷きになった子どもの父親の声だった。

どうやら、まだ意識が残っていたようだ。

希は反射的に男性の元に駆け寄ろうとするが…。

 

「早く……その子を……! でないと……また、あの……“怪物”が!!」

 

「っ!」

 

男性が口にしたその言葉に、希は足を止めた。

 

“怪物”、その単語を聞いた時、彼女の脳裏にある光景が浮かび上がった。

 

それは、あの夢に出て来た……三首の怪物だった。

 

「今のって……」

 

そして、

 

 

 

 

ーーーギャォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!

 

 

 

 

 

同時に、周囲を揺らすほどのとてつもない騒音が鳴り響いた。

まるですぐそばに雷が落ちたかのような衝撃と鼓膜を破らんばかりの轟音に希は耳を塞いだ。

 

そして、同時に感じた……。

 

この音は聞き覚えがあると……。

 

そのすぐ後、希はすぐにあるもの異変を感じ取った。

地面が僅かに揺れるような感覚…。

 

それは徐々に大きくなり、こちらへと近づいて来ているような感覚を覚えた。

 

そして、その音がすぐ近くまで迫った時、希はふと上を見上げた。

 

 

 

「………なに、これ………」

 

 

 

そこには、“奴”がいた。

 

 

 

彼女が何度も見た悪夢の中に出てきた、あの“怪物”…。

 

 

醜悪な火傷を負った犬の顔のような双頭を両肩に持ち、巨大な肉体にギラリと光る爪を持つ両腕と、丸太以上に太い両足…。

 

そして、“ずらりと並ぶ血に濡れた牙”を持つ体。

 

 

 

ケルベロスを思わせる、巨大な三首の怪物が彼女とそばにいる子どものことを見下ろしていた。

 

「うそ……なんで……なんで……? だって、あれは夢……」

 

突然目の前に現れた怪物を前に困惑を隠せない希、身を僅かに震わせながらじっと怪物のことを見上げる。

 

その時、希の脳裏にあることが浮かび上がった。

 

 

 

「……恐怖と……闇……」

 

 

 

今日の放課後に行った占いで出た二つの言葉。

今目の前にいるこの怪物は、まさにその二つの言葉を体現したかのように、この時の希は思えた。

 

「怪獣……!」

 

「あっ……」

 

ふと、希は子どもの小さな声で気がついた。

 

今、怪物の両肩にある犬の瞳が怪物を見て怯える子どもとその家族へと向けられていることに……。

 

「だめ、早く逃げて!」

 

「でも、お父さん達が……!」

 

子どもは両親のことを心配して子どもは逃げる様子を見せない。

このままではあの怪物に真っ先に狙われてしまう。

しかし、親を見捨てることが出来ない子どもを連れて無理やり逃げるのはあまりにも残酷すぎる…。

 

希の中で迷いが生まれる。

 

だが、迷うばかりで時間は待ってくれなかった。

 

再び地を割るかのような轟音が鳴り響いた、またあの怪物が咆哮をあげたのだ。

そして、ギラリと光る爪をかざして希のそばにいる子どもへと狙いを定める。

 

 

 

「だめ……だめ……!」

 

 

 

希の脳裏に夢で見た光景が蘇る…。

 

 

友達の肉を引き裂き、血で目の前を染められる…。

あの、悪夢が……。

 

このままでは、この家族も怪物の餌食となってしまうだろう…。

 

あの怪物の口元を血で濡らすことになった、誰かのように…。

 

そんなこと……。

 

自分はなにも出来ないのか…。

 

夢の時のように、なにも出来ずただ手を伸ばすことしか出来ないのか…。

 

 

 

 

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええ!!」

 

 

 

 

怪物の爪が振り下ろされたその瞬間、希は無我夢中で叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

だが、いつまで経っても血の飛び散るような感覚も巻き添えによる痛みも来なかった。

 

 

 

 

 

「……?」

 

どういうわけか、希がうっすらと目を開ける…。

 

 

 

すると、そこには……

 

 

 

「………これは?」

 

 

 

青白い光が彼女の視界いっぱいに広がっていた、その光は彼女と子どもを守るように円形に広がって、怪物の爪を済んでのところで押しとどめていた。

 

希が周りをぐるりと見回すように視線を巡らせる。

すると、この光のおかげで子どもも親も無事ではあるがあまりのことに気を失ったようだった。

 

この光はいったいなんなのか……希が疑問を感じていると……。

 

 

 

『………諦めるな』

 

「っ!」

 

 

 

突然、目の前に何かが現れた。

 

それは……神秘的な姿をした“人形”だった。

 

銀色の人型の小さな人形、それが光の中で空中に浮かび上がるようにして希の前に現れたのだ。

しかも、どういうわけかその人形は希に対して話しかけているように思えた。

 

『……この力を、君に……』

 

人形から再び声が聞こえた、そして次の瞬間、その人形が光に包まれた。

眩い光が彼女の目の前に広がり、次の瞬間、その人形は形を別の物へと変えたのだ。

 

まるで小刀のようなサイズの何か、白の色合いに赤の宝玉が埋め込まれたかのような物、それはまるで心臓のような鼓動のリズムを刻みながら輝いている。

 

「………」

 

希はそれを見て、無意識のうちにその白い小刀を手にした。

その瞬間、不思議な感覚に希は包まれた。

まるで太陽の日差しような暖かさと安心感…。

 

………そうだ、これは……。

 

その感覚に希は理解した…。

 

そして、感じた……“可能性”を……。

 

 

 

「闇を打ち消す……“光”……」

 

 

 

それを理解した時、希はその白い小刀を腰に構え、思い切り引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーギャオオオオオオオ!!

 

 

 

恐ろしい声を上げる怪物、三首を持つ地獄の番犬を思わせる怪物の目の前に突然、眩い真紅の光が広がった。

その光に動揺を見せる怪物、そして、その光が徐々に弱まり始めた時、怪物の体についた巨大な顎に強烈な衝撃が走った。

 

一撃を受けて、堪らず吹き飛び倒れこんだ怪物。

唸り声をあげながらふらりと立ち上がり、光が現れた方を睨む……。

 

 

 

すると、そこには……“光の巨人”がいた。

 

 

 

光り輝く銀色の体、胸に輝く赤いY字の水晶、そして銀色の顔に光り輝く乳白色の目…。

神秘的な雰囲気を見に纏ったその巨人は赤い光の中から姿を現し、籠手のような物を装備した両腕を動かし、右腕を握り拳にして前に、左腕を開いて後ろに引くような構えをとった。

 

 

 

「シュア!」

 

 

 

突如として現れた銀色の巨人、三首の怪物はその姿を見た瞬間に再び顎を大きく開いて威嚇すらかのように叫んだ。

しかし、巨人は怪物を前にして身構えたまま動揺するような様子を見せない。

 

「……ヘアッ!」

 

巨人は威嚇する怪物に向けて走り出すと、勢いを載せてそのまま大きく跳躍した。

地響きと共にその巨体を大きく上昇させた巨人は右足を思い切り引き、間合いが詰まった瞬間を見計らってその足を前へと突き出した。

 

巨人の飛び蹴りが怪物に直撃する。

 

怪物が大きく体を揺らして後退し、巨人は着地すると同時にさらに追い打ちをかけようと怪物に接近し怪物へと掴みかかった。

 

だが怪物も抵抗を見せる。

爪を持つ右腕を大きく振るい、巨人を打ち据えて振り払う。

反撃を受けて横に押し返された巨人、そこに怪物が追い打ちをかけようと体当たりを繰り出す。

 

怪物の攻撃を受けて後ろに大きく吹き飛んだ巨人、地面を転がりながら倒れた巨人に怪物はさらにもう一撃を与えようと両肩の犬の双頭の顎を開いた。

そして、そこから灼熱の業火を何発か打ち出した。

 

しかし、巨人はすぐにその攻撃に対応してみせた。

受け身を取り、怪物の火炎を回避する。

 

「ヘェッ!」

 

体制をすぐに立て直した巨人はそのまま両腕を交差させて右腕を前へと勢い良く突き出した。

すると、右腕から光の刃が飛び、怪物の体に直撃し、怪物の体を穿った。

光の刃のエネルギーが火花となり、怪物の体を再び揺らす。

 

巨人の反撃を受けた怪物は怒りを燃やしたのか、今まで以上の強烈な咆哮を上げた。

そして怪物は大きく身を屈めると怪物は巨人に向けて走り出した。

対抗して、巨人も立ち上がりこちらに向かってくる怪物に立ち向かった。

 

二体の巨体の間合いがどんどん縮み、その距離が0になった時森の中に轟音と衝撃が響き渡った。

 

「オオォォ…!」

 

互いに掴み合い、互いを押し返そうとする怪物と巨人、どちらも一歩も譲らずに押し続ける。

地面が抉れ、森が揺れる、その戦いは壮絶を極め、どちらも譲らなかった。

互いに押しあい、互角の状態となった怪物と巨人。

 

その均衡を破ったのは……。

 

 

 

「デアァ!」

 

 

 

巨人だった。

 

 

渾身の力を込めて、怪物の首を持ち、巨人は三首の怪物を地面へと叩き伏せた。

大きな地響きとともに怪物の巨体が地面に倒れ伏し、巨人はすぐさま後ろへと飛んで大きく距離を開けた。

 

そして、この隙を突き、巨人は右腕を腰に、左手をその上へと翳した。

平行に並んだ両手の間から青白い光のスパークが走る。

両手のエネルギーを最大まで貯めるようにスパークを輝かせた巨人は、次の瞬間その腕十字に交差させる。

 

「デアァァァァァァァァ!!」

 

その瞬間、オレンジ色に輝く光の閃光が空中を走り抜けて行った!

 

光の光線はまっすぐに怪物へと駆け抜けて行き……。

 

 

 

ーーーガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

 

怪物の体に直撃し、今まで以上の大きな光のスパークが三首の怪物の体を包み込んだ!

 

断末魔の叫びを上げた怪物は次の瞬間、辺りを揺るがす程の爆発を起こした。

立ち上る爆炎、そして煙…。

その様子を戦いに勝利した巨人が静かに見つめていた…。

 

そして、しばらくして……。

巨人はまるで霞のようにその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はあ……はあ……はあ……!」

 

人気の無い森の中で希は大きく体を揺らして、その場に座り込んでいた。

汗を流し、酷く披露した様子の彼女はぼうっとした目を空へと向けている。

そして、その目を今度は手元へと向けた。

 

彼女の手に握られているのは、先ほど彼女を光で包み込んだ白い小刀があった。

そして、その小刀が再び光に包まれて先程の巨人と瓜二つの人形へと姿を変えた。

その人形を見た時、彼女は再確認した……。

 

 

今自分はこの人形と同じ姿をした巨人に変身して、あの怪物と戦ったのだと…。

 

 

「………あなたは、いったい………あっ」

 

 

人形へと希が声をかけようとしたその時、彼女が着ていた巫女服の胸元から何かが落ちた。

それは彼女が占いによく使うカードだった。

 

どうやら乱れて大きく開いてしまったため仕舞っていた巫女服の間から落ちたようだ。

 

「………っ!」

 

そして、地面に落ちたカードを見た時、希はハッと目を見開いた。

 

散らばった数枚のカード、その中で二枚、二枚だけが裏返って絵柄を見せていたのだ。

その絵柄を見て、希は……“運命”を感じた。

 

 

 

「……“光”……そして……“絆”……」

 

 

 

 

夢を占った時とは対比となる、全く逆の意味を込めた二つのカード。

 

それを見た希は右手に握った人形へと視線を移した。

彼女はこのカードを見て、感じた……この人形の、あの巨人の、自分を導いたあの光の巨人の名前を……。

 

 

 

その名は……

 

 

 

 

「……“ウルトラマン”………“ネクサス”……それが、君の名前……なんやね」

 

 

 

 

 

これが、“一人目の出会い”…。

 

 

μ'sのメンバー、東條 希。

そして、絆の巨人、ウルトラマンネクサスの出会いだった…。




いかがでしたか?
気まぐれ更新なので次の更新はいつになるかわかりませんが、気に入ってくれた方はお楽しみに…。

それでは…


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優しい勇気を振り絞って… 花陽と慈愛の勇者

どうも、白宇宙です!

ちまちま書いてなんとか仕上がりました、ウルトラブライブ第2話!

今回の主役は……かよちんこと花陽!
メンバーの中でもとても優しい彼女がふとしたことで出会ったのは……

それではお楽しみください、どうぞ!


 

 

 

 

その少女はアイドルに憧れていた。

 

 

 

幼き頃よりステージに立つアイドルに憧れ、いつか自分もあんなステージに立てることを夢見て、いつもアイドルになることを目指して勉強していた。

歌に踊り、どんな衣装が似合うか、いろんなことを考えてはいつか大きくなった時のアイドルになれた自分の姿に夢を膨らませた。

輝くステージを夢見て、みんなを幸せにする、夢を与える姿に憧れて……。

 

 

でも、いつからだっただろうか…。

 

 

憧れの存在だったアイドルが、とても遠い、手の届かないような存在に思えてしまったのは…。

 

 

ある日を境に、彼女は自分のような地味な人間がアイドルになれるのだろうかと疑問を抱いてしまった。

そして、それから彼女はアイドルを目指すことを心の奥底に仕舞い、気がつけば自分の憧れるアイドル達を応援する立場に立っていた。

自分と彼女達では、差がありすぎる…。

目を見張るような才能もない、平凡な自分にはまさに夢のまた夢…。

 

いつの間にか彼女は自身が目指していた夢から遠ざかっていたのだ…。

 

それは高校に入ってからも変わらなかった。

臆病で、引っ込み事案で、怖がりな自分のことを彼女は理解していた。

だから、これからも変わらず好きなアイドルを応援する立場に回るつもりでいた。

 

そんな風に変わった自分に、本当にこれでいいのかと考えたりもした…。

しかし、そんな彼女をずっと見ていた幼馴染は変わらず彼女の事を受け入れ、一緒にいてくれた。

 

大切な幼馴染と一緒に過ごし、好きなアイドルの事を応援する、それはこれからもずっと変わらない。

 

そしてこの時

世間では“スクールアイドル”と呼ばれるアイドル達が人気になっていた。

 

自分と変わらない年頃の、高校生の女の子達が学校を代表するスクールアイドルとなって活動を行う、一生懸命なその姿はとても魅力的で彼女もすぐにスクールアイドルについて調べ、そして今まで以上の速さでファンになった。

学校を代表し、スクールアイドル達がステージに立ち、歌い、舞う、その姿はなによりも輝いて見えたのを、彼女は忘れなかった。

 

そして、同時に思った。

 

 

 

……もし、私がステージに立てたら……と……。

 

 

 

だが、その思いもすぐに自分の心の奥底に仕舞い込んだ…。

やっぱり、自分なんかが前に出ても仕方が無い…そう感じたから。

 

 

 

しかし、そんな彼女の元にとある“運命”が訪れた。

 

 

 

音ノ木坂学院、スクールアイドル“μ's”との出会いである…。

 

 

 

自身の通う高校、“音ノ木坂学院”に突然知らされた“廃校”の報せ。

 

学院に訪れたその危機を救うために結成された音ノ木坂学院のスクールアイドルという存在に彼女は少し興味を抱いた。

 

最初こそ、2年生の三人だけで結成された小さなチームだった。

当然、最初のライブでは見に来る人はほとんどと言っていいほどいなかったし、まだ駆け出しのままだった。

 

 

だけど……それでも……

 

 

彼女達が秘めていた“可能性”という輝きは、どのアイドルよりも強かった。

 

気づいたら、自分は学院で行われたμ'sのファーストライブの最初の観客になっていた。

そして、彼女は見た。

例え、誰にも見てもらえなくても、誰にも応援されてなくても、一生懸命に歌い、踊り、ステージを輝かせていた彼女達の姿を…。

自分が見て来たアイドル達も、そのグループにしかない眩しい輝きを持っていた。

でも、彼女達には、彼女達にしかない、彼女達にしか出せない輝きをもっていた、そしてその輝きを目にした時、彼女の心が動き出した…。

 

 

それから、悩み、話し、葛藤した先で、彼女は決意した。

 

彼女達と一緒にいたいということを…。

 

彼女達と一緒に一度夢見た、あのステージを目指してみたいと…。

 

彼女はその日、決心した。

 

 

スクールアイドル、μ'sのメンバーとして加わることを…。

 

 

もう一度、夢を追いかけることを…。

 

 

 

 

「わ、私……“小泉 花陽”と言います……! ……一年生で、背も小さくて、声も小さくて、人見知りで……得意なことも何もないです……でも、でも! アイドルへの思いは誰にも負けないつもりです!」

 

 

 

 

これが、アイドルを目指し、一度はその夢から遠ざかった少女の“運命”の出会いの始まりだった。

 

そして、その運命は掛け替えのない仲間達と花陽を結びつけた。

 

 

 

 

「μ's!! ミュージック、スタート!!」

 

 

 

 

1、2、3年生、学年は違うが頼りになる9人の仲間達とともに作り上げたこの奇跡のチーム。

 

それは彼女にもう一度“夢”へと向き合う、“勇気”をくれた。

 

 

 

だが、彼女のであった運命というのはこれだけに終わらなかった。

 

 

 

これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。

 

 

 

 

 

 

~ウルトラブライブ! 9人の少女と光の勇者達~

 

「優しい勇気を振り絞って… 花陽と慈愛の勇者」

 

 

 

 

 

 

その日、音ノ木坂学院の放課後はいつもと変わらぬ穏やかさを保っていた。

学院の授業を終えて、部活に励み、それぞれの友人との話や遊びに励み、そしてこの時間にしか出来ないことを生徒達はこの放課後という時間を使って謳歌していた。

 

 

 

「誰か助けてぇぇ~~~~~~~~~~~~!!」

 

 

 

ただ一人、夕焼けの街並みを大型の野良犬に追いかけられる少女、小泉 花陽を覗いて…。

 

「な、なんで私を追いかけてくるの~~!? なんで凛ちゃんがいない時に限ってこんなことになるの~~!?」

 

「ワン! ワン! ワン!」

 

「ひぃぃぃいいいいいい!? 来ないでぇぇええええええええええ!!」

 

茶色のショートボブに何処か優しさと気弱な雰囲気を感じさせる、幼さの残る顔立ちが特徴の女子高校生が野良犬に追いかけ回される………なんともシュールな光景である。

 

普段からおとなしい花陽が、なぜ放課後に一人でいかにも凶暴そうな厳つい野良犬に追いかけられているのか…。

 

ことの始まりはいつもと違う帰り道が決定したことだった。

 

花陽には同じμ'sのメンバーであり、子どもの頃から一緒に過ごしてきた幼馴染の“星空 凛”がおり、普段は家も近いこともあって帰り道は一緒のことが多く今日も同じように一緒に帰るのだも花陽は思っていた。

 

だが……。

 

 

ーーー星空 凛さん、星空 凛さん、至急、職員室の担任の所まで来てください。

 

 

放課後に呼び出された凛、一体何事かとしばしあってから帰ってきた彼女に訪ねてみると…。

 

 

 

「かよちぃぃぃぃん! 凛、この前の小テストの点数が悪いからこれから再テストって言われたにゃ~~~!? 点数があまりにもひどからって!! あんまりだにゃ~~~!!」

 

 

 

どうやらこの前行われた数学の小テストであまりにも酷い点数を叩き出し、再テストを言い渡されたようで、凛は半泣きになりながら担任に連行され、勉強よりも運動が好きというタイプの典型的な例である凛にとっては地獄である、再テストの刑に彼女は叩き落とされることになってしまった。

 

小テストとは言え、彼女がすぐ帰ってこれるほどの実力がないというのは長い付き合いである彼女は知っている。

今日はμ'sの練習も休みだし、凛の再テストが終わるまで待っていても良かったのだが、タイミングの悪いことに今日は両親が家を空けており、彼女は家のことを任されていたのだった。

請け負った以上、あまり家を空けるのはよろしくない、凛には悪いが一人で帰ることにした花陽はそのまま下校。

 

そして、その道中…。

 

なぜか突然目の前に現れたいかにも凶暴そうな厳つい野良犬に目をつけられ、追いかけ回され、今に至るのであった…。

 

 

 

「ついてないとかのレベルじゃないよ! なんであんな怖い野良犬がいるの~!?」

 

このご時世に野良犬がいることを嘆きながら必死になって走り続ける花陽、だが彼女を狙っている野良犬も獲物を逃がすまいとする狼の如く彼女を追いかける。

 

「わ、私なんか追いかけてもなにもないのに~!?」

 

普段からμ'sの練習を受けてそれなりに体力は持ち合わせるようになった花陽、だが彼女は同じ境遇となった凛のように運動神経が言い訳ではない、というかむしろ徒競走などは苦手な部類に入る。

それ故に犬と壮絶な追いかけっこを繰り広げる花陽にとっては今親友が受けているだろう小テストという地獄と、同じくらいに辛い苦痛となっていた。

 

息を切らしながら走ることしばらく、彼女はやがて人気の少ない路地裏へと迷い込んでしまった。

 

そして最悪なことに迷い込んだその先は行き止まりとなっていた。

 

「そ……そんなぁ……」

 

絶望にも似た悲痛な表情を浮かべた花陽はもう限界とその場にぺたんと座り込んでしまう。

 

 

「……グルルルルゥ……」

 

「……ひいっ!?」

 

 

そこへ、彼女を追い回していた野良犬が現れ、行き止まりに差し当たってしまった彼女を追い詰める。

唸り声をあげながら今にも飛びかかりそうな雰囲気の野良犬に花陽はびくりと体を震わせて後ずさる。

構図的に言えば、壁際に追い詰められた小動物と肉食動物、まさにそんな感じだ。

 

「わ、私なんか……食べても、美味しく…ないよ…?」

 

効果があるかわからないが野良犬を説得してみるが、当然犬に言葉が通じるわけがなく、それどころか……。

 

 

『ぐへへへへ……何言ってやがんだ、程よく柔らかそうで食べ応えもありそうな肉が胸に二つもあるじゃねぇか…安心しろよ痛くしないし、たっぷり可愛がってから料理してやるよ……ぐへへへへ』

 

 

と言うような感じで、野良犬が牙を剥きじりじりと花陽に近づいてきた。

ちなみにこの野良犬のセリフは花陽から見たイメージから出た物なので野良犬が本当にそう思っているという確証はないが、まさにそんな感じだ…。

 

唸り声をあげながらじりじりと花陽に近づいてくる。

 

「ふぇぇ……凜ちゃん……!」

 

こんな時近くに凜が居てくれたら助かったかもしれない…。

あの時、彼女が終わるのを待っていたらもしかしたらこうならなかったかもしれないのに…。

自身の行いと幼馴染を置いて来たことを花陽はこの時、申し訳なく思ったと言う。 ……だからと言って現状をどうにかできるわけではないが……。

 

今にも泣き出しそうな表情を浮かべながらなんとか距離を取ろうと後ずさりをする花陽、しかしすぐ後ろには行き止まりの壁が迫っており、これ以上後ろに下がることは出来ない。

 

「そ…そんなぁ………ひっ!?」

 

そして完全に逃げ場を失ったのを野良犬が悟った瞬間、野良犬は花陽に向けて勢いよく走り出した。

獰猛な手足と牙を見せつけるようにしながら迫ってくる野良犬、花陽はもう恐怖のあまり動くことも出来なかった…。

 

野良犬が花陽に向かって飛びかかって来る。

 

「いや……だ……誰か……」

 

気弱で抵抗する術をまったく知らない彼女には、もうどうすることも出来ない…。

花陽は怖さのあまり、その恐怖を強制的にシャットアウトしようと反射的に目をぎゅっと瞑った。

 

 

 

「誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!」

 

 

 

そして、再度、助けを求める叫びを上げる。

今の自分にはそれくらいしかできることがなかったから……。

 

 

 

だが、花陽が上げた助けを求めるこの叫びが………“奇跡”を呼んだ。

 

 

 

「キャインッ!?」

 

 

突然、花陽に襲いかかろうとした野良犬が何かに弾き飛ばされるように後ろに飛んだのだ。

突然のことに地面に倒れる野良犬。

 

『……自分の家におかえり……』

 

ふと何処からか声が聞こえた気がした。

だが、いったいどう言うことか、わけのわからないと言った様子で立ち上がる野良犬は一度花陽をちらりと見るがあまりの出来事に驚いたのかそのまま何処かへと尻尾を巻いて逃げて行ってしまった。

 

途端に静かになった路地裏……残された花陽は怖さのあまりまだ目を開けずに震えている。

 

「……あれ?」

 

しかし、いつまで経っても何も起こらないことに疑問を抱いた花陽が恐る恐る目を開けた、するとどうしたことか目の前にさっきまでいたはずの厳つい野良犬がいなくなっているではないか。

目を瞑っていたためいったい何が起きたのかわからない花陽はあたりをきょろきょろと見回すが特にこれと言って妙なものはないし、誰かがいるわけでもない。

 

「いったい……何がどうなって……?」

 

首を傾げる花陽、しかし、何はともあれ助かったのに変わりはない、さっきまで恐怖のあまり早鐘のごとく鳴っていた胸の動機を落ち着けるかのように深く安堵の息を吐く。

 

「……そういえば、さっき誰かの声がしたような……」

 

その際に花陽はうっすらとだが犬に襲われそうになった時のことを思い出した。

うっすらとだが、一瞬、何者かの声を聞いた気がするのだ。

何処か安心感を感じる先ほどの声はいったいなんだったのだろう?

そんなことを考えながら、花陽が立ち上がろうとした時…。

 

「……あれ?」

 

彼女の目線がある位置で止まった。

 

ちょうど自分の目線の下、俯いてようやく確認することができる位置に花陽はあるものを見つけた。

 

「……人形?」

 

それは見たこともない人型のシルエットをした小さな人形だった。

人形は何故か花陽を見つめるようにこちらを向いて立っており、その体は全身をブルーの色合いに染めて所々に銀色の部分があるその人形は、人間を模した物とは思えない姿をしているものの人型で何やらとても綺麗な姿をしているように花陽は思えた。

 

しかし、なんでこんな人形がこんな所にあるのか…。

不思議に思った花陽がじっとその人形を見つめここに辿り着く前後の記憶を探る。

 

「確か、ここに来た時はこんな人形おいてなかったよね……ていうか、こんな所に人形があるのがおかしい気がするし……」

 

誰かの落し物にしては妙な点が多い。

疑問を抱いた花陽はふとその人形に手を近づけるの優しく両手でそっと握り、自分の顔の前に近づけて間近で観察してみる。

 

「普通の人形と変わらないみたいだけど……」

 

花陽がじっくりと人形を観察していると……。

 

 

 

『……怪我はないか?』

 

「ふえっ!?」

 

 

 

突然、人形から声が聞こえた。

 

 

しかもそれだけでなく、声に驚いた花陽が持っていたその人形を手放してしまった時、彼女が手放した人形が地面に落ちようとした瞬間、その人形が空中でぴたりと静止し、ふわりと浮かんだかと思うと態勢を立て直し再び地面に二本の足で立つようにゆっくりと着地した。

 

「う、浮いた……というか、それよりも今……喋った?」

 

突然目の前で起きたことに驚く花陽、警戒しながらもまじまじと人形を見ていると…。

 

 

『驚かせてすまない』

 

 

再び人形から声が聞こえはじめた。

 

『信じられないかもしれないが今君の目の前で起きていることは、紛れもない現実だ……しかし、驚いたとはいえ突然投げるのはこちらとしても……』

 

本物の人間のように話しを続ける青い人形…。

あまりにも現実離れしたその光景に、花陽は……。

 

「き………」

 

『?』

 

 

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!! 喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!?」

 

 

 

 

 

叫ばずにはいられなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後…。

 

「あ、あの……ごめんなさい、急に叫んだりして……」

 

『いや、状況が状況だったとはいえ私も驚かせてしまった事に変わりはない、私の方こそすまなかった』

 

ここは花陽の家の自室。

その年頃の女子高生らしいインテリアが施された部屋に用意された少し小さめのテーブル、その上に青い人形が乗っており、その前で学校の制服から普段着に着替え、コンタクトからメガネに変えた花陽がぺこりと畏まって小さくお辞儀をした。

 

あの後、あまりにも突然の事に驚いた花陽だったものの青い人形の話しを聞いているうちに落ち着きを取り戻し、あの時野良犬から自分を助けてくれたのが彼だと言うことを理解した花陽は人形にお礼をしたいと言って彼を持ってそのまま帰宅、そして今に至る。

 

「あ、あの……改めまして、助けてくれて…ありがとうございます…わ、私、音ノ木坂学院一年の小泉 花陽です」

 

テーブルの上にいる人形に自己紹介をする花陽、傍から見たらなかなかシュールな光景である。

 

『花陽か、いい名前だ……ところで……』

 

「な、なんでしょうか?」

 

『……これはいったい?」

 

青い人形が花陽にあることを問いかける。

問いかけた理由それは………。

 

 

「えっと……おにぎり、です……私が作った」

 

 

今人形の目の前に置かれた皿の上でほかほかと湯気を上げているている出来たての“おにぎり”だった。

 

青い人形の問いかけに答えた花陽は人形の問いかけに答えた後、なぜかあたふたと慌て始めた。

 

「あ、もしかして塩おにぎりじゃなくて梅干し入りの方がよかったでしょうか!? それともシャケとか、昆布とかが良かったですか!?」

 

『いや、そうではなくて……なぜおにぎりがここに置いてあるのかを聞きたいんだ』

 

出されたおにぎりが気に入らなかったのかと慌てる花陽、だがそれ以前になぜおにぎりが出されたのかが問題となっている青い人形は彼女にそう答える。

人形の言葉に花陽は落ち着きを取り戻すとなぜ人形におにぎりを出したのかについて答えた。

 

「それは……助けてくれたので、せめてお礼にって作ったんです」

 

どうやら彼女は助けてくれたお礼にと、おにぎりを作って来たらしい。

人形が目の前に置かれたおにぎりを一瞥する。

皿の上に置かれた二つの三角のおにぎりは程よいツヤが出ている白米にエッセンスとなる味付けの塩がまぶされて、見ただけでも分かる程に柔らかそうな仕上がりになっている。

白い三角を飾り付ける黒い海苔もまた食欲を引き立てる役目を果たしていて、一目見ただけで相当にこだわりが込められたおにぎりだというのが理解できた。

 

『……君はおにぎりが得意なのか?』

 

こだわりが見られるおにぎりから、彼女はおにぎりが得意な料理なのだろうかと感じた青い人形は花陽に聞いてみる。

 

「得意というか……私、白米が……ご飯が好きなんです、おにぎりだけじゃなくてお茶碗に盛り付けられたご飯も好きで……」

 

『……なるほど、だからこれほど見事なおにぎりを作れたのか』

 

「わ、わかりますか!」

 

青い人形が目の前に置かれたおにぎりの見た感想を言うと、花陽が今までにない程に目を輝かせた。

 

「今日のおにぎりは特に美味しく作れた自信があるんです! お米がとても綺麗に炊けて、ふわふわで、その感触を潰さないようにって意識して握ったんです!」

 

『…君はご飯が相当好きなようだね』

 

「はい! ご飯は食卓に上る素朴ながらも欠かせられない重要な食べ物なんです! 白くてふわふわで熱い炊きたてのご飯を口に入れた時の幸せ……はぁ、ご飯ってなんであんなに美味しいんでしょう……」

 

幸せそうな様子でうっとりとしながらご飯について語り出した花陽。

どうやら彼女の白米に対するこだわり、というより思い入れはとても強いようだ。

しばらくそのままご飯について語り続けそうなほどに恍惚な表情を浮かべる花陽、だがやがてハッと我に返ると慌てて青い人形と向かい合って申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい、私つい夢中になっちゃって……」

 

『構わない、夢中になれるのはいいことだ』

 

つい夢中に話していたことを申し訳なく思っている様子の花陽にそう言ってフォローする青い人形。

好きな物を他人がとやかく言うのは無粋であると感じたからだろう。

 

しかし、青い人形はしばらくするとこう返した。

 

『だが、すまない……私は見ての通りの姿だ、それに私は君達人間のように食事を必要とはしない、せっかく用意してくれたようだが……』

 

「あ……そうなんですか……ごめんなさい、私そうとも知らずに……」

 

『いや、気持ちは受け取らせていただくよ、ありがとう……このおにぎりは君が後で食べるといい、自信があるんだろう?』

 

「は、はい! ありがとうございます」

 

せめてもと言ってお礼を言った人形にさらにお礼を返す花陽、出来がよく少し自分も食べたかったようだ。

 

しかし、おにぎりのことで話が持ちきりになったが、今はそれよりも重要な話がある。

とりあえず雑談を済ませた花陽は気を取り直して本題へと話を移すことにした。

 

「あの、それでなんですけど……あなたはいったい? 人形なのに喋ったり、一人で浮かんだり、普通の人形じゃないですよね…?」

 

恐る恐ると言った様子で花陽が青い人形に問う、すると人形は首を動かすことが出来ない変わりか、体をピクリと動かしてみせた。

 

『ああ、君の言うとおり私は普通の人形と言うわけではない、私は今訳あってこんな姿になっているだけだ』

 

「じゃあ、あなたは……」

 

『……端的に言うと、私は君達にとって“宇宙人”と言うことになる』

 

「う、宇宙人!?」

 

人形が話した人形自身の正体に驚いた花陽、まさか人形だと思っていたのが本当は宇宙人だったなんて夢にも思わなかったからだ。

 

……まあ、人形が一人でに喋ったり、勝手に動いたりする時点で普通ではないのだが……。

 

『驚くのも無理はない、だが安心して欲しい、私は君達と敵対するつもりはない、むしろ君達地球の人間達に私は何度も救われたんだ……』

 

「そうなんですか……じゃあ、宇宙人さんはなんで地球に?」

 

宇宙人と聞いてもしかしたら侵略しに来たとでも言われるのかとドキドキしていたが穏やかな口調でそう言った青い人形からは嘘のような邪な物を感じなかった花陽は質問を続けた。

 

『……私はここに来る前、ある事情でこの姿となり、この惑星に流れ着いた……』

 

「事情、ですか……?」

 

『この姿はその際に負ってしまった怪我のようなものだ……だがこんな姿でも私にはやるべき事がある』

 

青い人形はそう言うと再び一人でにふわりと浮かび上がり、花陽の前を通り過ぎるとそのままゆっくりと部屋の窓へと辿り着き、その窓枠に足をつけた。

窓から外を眺めるかのようにじっと外を見つめる青い人形の小さな背中を花陽は見つめる、この時花陽にはこの人形の言葉になにか“強い思い”のようなものを感じた気がした…。

 

「その事情って、なんなんですか?」

 

『……君が気にする必要はない、これは私が果たすべき責任であり、私の役目なんだ』

 

「で、でも! なにか私にもお手伝いできる!……かもしれない……じゃないですか」

 

人形の言葉に花陽は最初強く訴えるようにそう言ったのに、次第にじょじょに声を小さくして自信をなくしたように曖昧な言葉になってしまった。

 

 

『……無関係な君を巻き込む訳にはいかない』

 

 

そしてその言葉に対して青い人形はそう返事した。

 

「そんな……無関係じゃないですよ! だって私、宇宙人さんに助けて貰いましたし……お礼がしたいんです」

 

『……それが危険なことでもか?』

 

「え……?」

 

花陽は人形の言葉にそう訴えかけるが人形が言ったその言葉に反射的に彼女は言葉を失った。

青い人形は再び体を動かし、顔についた二つの乳白色の目で彼女のことを見つめるように体を花陽の方に向けた。

 

『君はこの地球の人間だ、私は極力…関係のない君達を巻き込みたくない…それに……』

 

人形はそういうと体を再び動かして花陽に背を向けると……

 

 

 

『君はなぜだか……私の友人に似ている気がする……』

 

 

 

そう告げた瞬間、人形の姿が淡い水色の光に包まれて次の瞬間には窓際に立っていた小さな姿がどこにも無くなっていた。

 

「あ! ま、待ってください!」

 

慌てて花陽が辺りを見渡して部屋の中をくまなく探し始めるが、部屋のベッドの下、机の引き出しの中、タンスの裏などありとあらゆる物陰を探しても青い人形の姿はどこにもなかった。

おそらくは所謂瞬間移動、テレポーテーションのような力を使ってこの部屋から出て行ったのだろう。

 

「……もう遅いし、もう少しゆっくりしていってもよかったのにな……」

 

何処かへと去っていった青い人形の姿をした宇宙人のことを心配しながら花陽がふとベッドに腰を下ろす。

 

一体、あの青い人形の宇宙人はなんのために地球に来たのだろう…そして、果たすべきことと言うのはなんなのだろう…。

直前までいた彼のことを思い浮かべた花陽の脳裏に最後に見た青い人形の背中と彼の乳白色の目が浮かびあがる。

あの時の人形の言葉と小さな背中、花陽にはあの時見た人形の姿がとても固い決意を秘めているかのように見えたと同時に……その後ろ姿が小さな人形の体には収まりきらないような大きなものに見えた気がした。

 

安心感と、優しさと……そして、何故か胸の内が温かくなるような感覚……。

彼はなにを思って役割を果たそうとしているのだろうか……花陽は不思議な出会いを果たした青い人形のことを思い浮かべつつ、ふと近くに置かれていたスマホへと視線を移すと……。

 

「……あ、凛ちゃんからメールだ」

 

いつの間にか幼馴染から今日の再テストをなんとか終えたという報告と、明日の練習についてのメールが届いていた。

明日は週末で学校は休み、しかしμ'sの練習には絶好の日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かよちん、昨日はごめんね? ひとりで帰らせちゃって…」

 

「ううん、大丈夫だよ凛ちゃん、気にしてないから」

 

翌日、花陽はμ'sのメンバーと共にスクールアイドルの技術を磨く練習に励んでいた。

少しでも上達出来るようにと歌にダンスに励み、合間の休憩時間で彼女は凛と雑談に耽っていた。

 

明るい色合いのショートカットにボーイッシュなズボンと上着が活発さをこれでもかと引き出している格好をした凛が手を合わせて昨日のことについて花陽に謝るが花陽はそんな彼女に気にしてないと言ってフォローを入れる。

 

「でもでも、かよちんになにかあったら凛もう心配で心配で……本当になにもなかった?」

 

それでも彼女を心配する凛、長い付き合いの幼馴染は一番に花陽のことを思っているのである。

そんな彼女に心配されて、これ以上心配させるよりかはいっそ話してしまったほうがいいのかもしれない、と思った花陽は凛に昨日の出来事について話してみることにした。

 

「えっと……ちょっと大きめの怖い犬に追いかけられたりしたけど…」

 

「えええぇぇぇぇぇぇっ!? か、かよちん!! 全然大丈夫じゃないにゃーーー!!」

 

「で、でも大丈夫だよ!? ほら、怪我もしてないし」

 

「でも危機一髪には変わりないにゃ!! むぅ……かよちんを襲おうとした犬め、こんどあったら凛が懲らしめてやるにゃ!!」

 

「ほ、ほどほどにね…?」

 

しかし、むしろ逆効果だったようだ。

心配をかけさせないつもりが、余計な心配をかけさせてしまったようだ。

ぎゅっと両手を握り、意気込む凛に花陽がそう言って釘を指しておくがこの勢いだと凛は町中の野良犬を成敗しかねない気がする…。

そんなことを花陽が思っていると…。

 

 

「さっきからどうしたの? なんだか騒がしいけど」

 

「あ、“真姫ちゃん”、実は…」

 

 

そこへ同じμ'sのメンバーであり、花陽や凛と同じ一年生にしてμ'sの曲の作曲を担当している“西木野 真姫”が二人のいる所に近づいてきた。

 

メンバーの中で唯一釣り目気味な彼女の性格に合わせてか黒を基調とした練習着に彼女の赤毛を包む帽子も合間って同じ一年生なのにどこか大人びたクールさを感じさせる服装に身を包んだ真姫、そんな彼女に気づいた花陽が事情を説明する。

 

「……なにそれ、犬に追いかけられたくらいで大袈裟ね」

 

「大袈裟じゃないにゃ! 十分危険だにゃ! かよちんに怪我をさせるのはこの凛が許さないにゃー!」

 

「凛は心配しすぎよ、現に花陽は無事なわけだしまた同じことを繰り返すほど不注意な子でもないでしょ?」

 

メンバーの中でも冷静な真姫は花陽の性格からそのように告げる。

確かに花陽は積極的な性格ではないもののよく気が回るし、目が行き届いているところがある。

その点から彼女がまた同じことを繰り返すようなことはないと分析した真姫だが、それを聞いて凛はむっと頬を膨らませる。

 

「む~~…じゃあ真姫ちゃんはかよちんが怪我してもいいの?」

 

「えっ!? そ、そんなこと言ってないじゃない、凛は心配しすぎって言いたいだけよ!」

 

「かよちんを守るのは凛の義務だにゃー!」

 

「なにそれ意味わかんない!」

 

「ふ、二人とも落ち着いて……私は大丈夫だったから……ね?」

 

なぜかヒートアップする両者に戸惑いつつもなんとか落ち着けようとする花陽、すると…

 

 

「ほらそこ、なにしてんのよ! そろそろ休憩終わるわよ!」

 

「ご、ごめん“にこちゃん”…」

 

 

黒髪を両側で二つ結びにして、ピンクのフリルのミニスカートに赤いシャツを来た花陽よりもさらに小柄で、メンバーの中でも特に子どもっぽい見た目をしているがそれに似合わない性格の強さが目からびんびんと出てる、三年生にしてμ'sが所属する“アイドル研究部”の部長、“矢澤にこ”が三人にそう言って来た。

 

にこの言葉に花陽が二人に変わって謝るがにこはなにかいいたいらしく、三人の元に近づいてくる。

 

 

「まったく騒がしいったらないわね…いい、あんた達? アイドルってのは常に落ち着いてそれでいて華やかにあるものなのよ、それは練習も同じよ! それなのにそんなにぎゃーすか騒いでたら気品もなにもあったもんじゃないわ! しょーがないから、ここは私がそのお手本を」

 

「ところで花陽、よく怪我とかしなかったわね」

 

「無視ぃ!?」

 

 

アイドルとはなんたるかというにこの言葉をばっさりとスルーした真姫、まあ、このようなにことのやりとりはよくあることである。

特に真姫とにこの二人なら尚更だ。

 

そんないつものやりとりを目にしながら花陽は真姫の言葉に頷いて返す。

 

「うん、助けてもらったから」

 

「え? それって誰かが助けてくれたってこと?」

 

「う、うん…たまたま通りかかったんだって…」

 

実際にあの青い人形の宇宙人は偶然花陽を見かけたために助けてくれたらしく間違ってはいない。

すると、この言葉に食いつく人物が二人いた。

 

「へー! ねぇねぇどんな人どんな人?」

 

「な、なによそれ、まさか花陽! あなたスクールアイドルでもご法度にされてる恋愛に片足突っ込んだり…」

 

「ち、違う違う! そんなのじゃないよ……ただ……」

 

花陽の言葉に興味津々と言いたげな凛とにこに花陽は少し戸惑いながらも……

 

 

 

「ただ……すごく不思議で……優しい人だったんだ」

 

 

 

初めて会った時から感じたあの青い人形の印象を語ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、学院が週末の休みに入り、花陽はこの休日を利用して街に出かけることにした。

ゆったりとした白のシャツに緑のスカートという私服に着替えた花陽はある目的のために街に出るとあるものを探すために心当たりのある場所を片っ端から探し始めた。

 

あるもの、それは花陽を助けてくれた青い人形である。

 

あれ以来、どうにも彼のことが気になって仕方のない花陽はもう一度彼に会おうと街に出たのだ。

しかし、相手は小さな人形な上に超能力を使う宇宙人、そう簡単には見つけられない…。

初めて出会ったあの路地裏を探しても見つからない…。

 

「うーん…どこに行ったんだろ…宇宙人さん…」

 

見つけることができなかった花陽は少々溜息を尽きながら街から少し離れた山間にある自然公園にまで来た。

この辺りは自然豊かで落ち着ける場所としてはうってつけの場所だ。

少々捜索に疲れた花陽はここで休憩を取るために来たのである。

 

何処かに座って休もうかとしている花陽が、辺りを見渡していると…

 

花陽「……あれ?」

 

彼女の視界の先に小さな女の子がなにやら不安そうな顔で周囲をキョロキョロと見回している。

年は7、8歳くらいだろうか……女の子が一人でなにをしてるのか気になった花陽はなんとなしにその女の子の方へと近づくと、なにがあったのか聞いてみることにした。

 

「ねぇ、どうかしたの? 誰か探してるの? お父さんとかお母さんは?」

 

迷子の可能性を考えてそう聞くが、少女は首を左右に振ると右手を花陽に差し出して来た、右手にはなにやら紐のようなものがある。

どうやらそれは犬用のリードのようだった。

 

「ムサシがね…いなくなっちゃったの…」

 

「ムサシ? …もしかして、ペット?」

 

「うん……子犬なの……ちょっと目を離したら…」

 

「あ……そうなんだ」

 

どうやらこの少女は逃げ出したペットを探しているようだ。

子犬というのでまだ幼い分心配になっているのであろう、少女は今にも泣きだしそうになっている。

 

「……ねぇ、その子犬……ムサシって子のこと教えてくれる?」

 

「…え?」

 

「わ、私もね、今探してる人がいるんだ、だからそのついでに一緒に探してあげるよ、二人なら見つかるかもしれないし…」

 

「本当…?」

 

「うん、本当だよ」

 

「…ありがとう、お姉ちゃん…!」

 

子犬を探す少女を放っておくのは可哀想だと感じた花陽はそう言って少女と共に、“ムサシ”と言う名の子犬もついでに探すことにした。

 

 

 

 

 

「えっと……ムサシくーん?」

 

「ムサシー!」

 

少女から子犬の特徴が柴犬の子どもだとわかった花陽は少女と共に子犬の名前を呼んであたりを探し続けた。

探すに当たり、自然公園の奥へと入っていった二人、なかなかに広い敷地を持つこの自然公園を進んでいくと…。

 

 

 

ーーーワン!

 

 

 

微かにだがどこかで子犬の鳴き声が聞こえた。

 

「あ、ムサシの声!」

 

「え? あ、待って!」

 

その声を聞いた途端に鳴き声が聞こえた方向へと走りだした少女を花陽が追いかける。

やがて二人は自然公園の奥にある湖へとやってきた。

微かに聞こえた子犬の鳴き声を頼りに花陽と少女が周囲を見回すと…。

 

「ムサシ!」

 

少女が湖のほとりに柴犬の子どもがいるのを見つけた。

どうやらあれがムサシと言うなのを子犬のようだ。

子犬のもとに向かって走りだした少女に花陽が着いて行く。

 

「わん!わん!わん!」

 

「………?」

 

しかし、なにやら子犬の様子がおかしいことに花陽は気付いた。

なにやら、仕切りに湖の方に向かって吠え続けているのだ。

 

まるで何かを威嚇するかのように…

 

子犬の不可解な行動に疑問を抱いた花陽はふと湖の方を見つめる。

 

……そして、彼女はあることに気付いた。

 

 

 

湖の底から、何かが出てくるかのように湖から泡が出てきていることに…。

 

 

 

「ま、待って!!」

 

 

 

咄嗟に花陽が少女を止めようとする、しかし少女は湖に向かって吠え続ける子犬に意識が向いてしまっていて聞こえていない。

 

少女が子犬のすぐそばまで辿り付いて子犬を抱き上げたその瞬間、湖の異変は……姿を表した。

 

突如、湖から激しい水飛沫が上がりその中から巨大な姿をした偉業が姿を表した。

 

 

 

ーーーゴァァァァァァァァァァァアアアアアアア!

 

 

 

地を揺るがさん程の咆哮を上げる巨大な体、屈強な体にまるで恐竜のような四肢を持ち、頭部に赤い棘を幾つも生やしたような凶悪な見た目に、爛々と輝く深紅の目がその恐ろしさを体現しているかのようだ。

 

自分達人間の物とは明らかに違う巨大な“怪物”、その姿を見た花陽は驚きのあまりにその場で足を止めてしまった。

 

「あぁ………っ!」

 

足が震え、動悸が早まる。

恐怖が体を支配するのを感じる花陽、いったいこの怪物はなんなのか、誰に問いかけても答えは出ないだろう……こんな生き物がいるなんて聞いたこともない。

 

「っ!」

 

だがその時、花陽は咄嗟に思い出した。

湖の中から姿を表した怪物の前にいる少女と子犬のことを……。

 

少女と子犬がいたところに花陽が目を向けると、少女は子犬を抱えたまま声を出せずに固まっている。

そして、目の前にいる小さなその姿を見つけた怪物がまるで獲物を見つけた獣のように深紅の目を少女へと向けて狙いを定めた。

このままでは少女は怪物の餌食となってしまう…。

 

 

 

それを理解した時、花陽は無意識のうちに走りだしていた。

 

 

 

怖いか怖くないかと聞かれたら、当然怖かった。

あんな怪物を前にして怖くないわけがない、ただそれでも目の前で危機に瀕している小さな二つの命を見捨てられることはできなかった。

 

走りだした花陽が少女と子犬を庇うように両手で抱きしめる。

 

そして、その瞬間、少女に狙いを定めた深紅の目を持つ怪物が巨大な顎を開き、そこから燃え盛る火炎を花陽たちに向けて打ち出した。

 

 

 

 

 

その時!

 

 

 

 

 

激しい花火のような音とともに、花陽達に向けて打ち出された火炎が“何か”に憚られて弾けた。

 

「ひゃぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

その際に発生した強烈な爆風で、少女と子犬を庇った花陽は少女達と一緒に吹き飛ばされてしまった。

咄嗟に少女を守るように自身の体を下にして地面を転がる花陽、体に打ち付けられる衝撃をなんとか受け流す。

 

(い、生きてる……よね)

 

なんとか意識がはっきりしているのを確認した花陽はすぐに自分が庇った少女を見る。

少女の意識はない、しかししっかりと呼吸はしている。 どうやら今の衝撃と恐怖で気を失ってしまったようだ。

意識を失った主人を心配して、子犬が彼女の頬を舐める。

 

「よかった……って、そうじゃなくて……いったいなにが……?」

 

一人と一匹の無事に安堵する花陽だったがすぐに怪物がいる後ろを振り向いた。

 

すると、そこには花陽と少女を見据える巨大な怪物がいる危機的状況に変化はない…。

 

 

 

『……無茶を……するな……君は』

 

「ふえ!? ……あっ!」

 

 

 

だが、唯一違うのは……自分の足元に見覚えのある青い人形があるということ…。

 

「う、宇宙人さん! もしかして……また、助けてくれたの?」

 

『……下手をすると、今度は怪我だけでは済まなかった……それなのに

 

前にあった時とは違い、なにやら疲弊した様子の青い人形、おそらくまた何かの超能力を駆使して花陽達を助けたのだろう。

しかし、サイズの違いから完全な相殺とはいかず負担が大きかったようだ。

微かに煙を上げて、地面に横倒しになっている人形を花陽は咄嗟に広いあげる。

 

「だ、だって…」

 

『……君は、そこまで積極的な人間には見えない……だが、それでも……なぜあんな危険な真似を』

 

青い人形が花陽の行動について問いかける。

すると花陽はしばし間を開けてから……。

 

「……それは、宇宙人さんの一緒です……」

 

『……?』

 

「宇宙人さんだって今、そんなに傷つくのを覚悟で私たちを守ってくれました……」

 

真剣な眼差しを浮かべて、答えた…。

 

「……私も、このままじゃこの子達が危ないって思ったから……そしたら、無我夢中で……確かに怖いけど……誰かが酷い目に会うのはみたく、ないから」

 

『………』

 

 

 

……それは、花陽が咄嗟に振り絞った“勇気”だった。

 

 

 

目の前で危機に瀕した小さな二つの命を見捨てることを選ばなかった花陽が自分の身を顧みずに起こした行動の理由だった。

 

それを知った青い人形はそれ以上何かを問いかけるでもなく、押し黙った。

 

『………やはり、君は何処かにている………私の“友”に……』

 

「……え?」

 

ふと、そう呟いた…。

彼の言う友がなんなのか、花陽が咄嗟に考えていると…。

 

ーーーゴァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!

 

再び巨大な怪物が咆哮をあげる。

驚いた花陽が怪物の方を見上げると、怪物は再び巨大な顎を広げて火球を放とうとしていた。

 

『とにかく、今は逃げるんだ! あの怪獣は……“カオスゴルメデ”は、私がなんとかする!』

 

「え、で、でも……そんな体でなんて! それに、宇宙人さんは本来の姿じゃないんでしょ!?」

 

『たとえこの姿でも気を逸らすくらいはできる、その間に君はその子たちを連れて逃げるんだ!』

 

花陽達を逃がそうと説得を続ける青い人形、だが……。

 

 

「嫌です!」

 

 

それを花陽は首を左右に振って断った。

その返答に青い人形は驚いたのか、言葉を失う。

 

「私は……あなたに二回も助けてもらいました……なのに、このまま逃げるなんて嫌です! …だから…私もあなたの力になりたいんです! なにか、力になれることができるなら、手伝わせてください!」

 

花陽の訴えに青い人形は返答を出さない、その姿はなにやら迷いを見せているかのようなそんな感じに見えた。

 

青い人形が迷いを見せている間にも怪獣、“カオスゴルメデ”は次の攻撃を行おうとしている。

 

『……仕方ない……花陽、と言ったな? その言葉を信じてもいいか?』

 

「はい!」

 

『……それがとても危険なことでも、君は私に力を貸してくれるか? ……どんなに恐ろしくても』

 

「………は、はい! こ、怖くないわけじゃないけど……それでも、が、頑張ります!」

 

『………わかった』

 

質問に対する花陽の答えを聞いた青い人形はふわりと一人でに浮かび上がり、花陽の手を離れると花陽の目の前で淡い水色の光を放ち、その人形自身の体を包み込んだ。

 

突然発生した光に花陽が驚き、目を閉じるが次の瞬間、彼女の目の前にあった青い人形はその姿を変えて、白い某の先端に花の蕾のような装飾が備えられた何かへと姿を変えた。

花陽が目を開けると目の前に浮かんでいたそれをゆっくりと手に取る。

 

『それを天に掲げるんだ…そうすれば、君は私と一心同体となる…大丈夫、その後は私がなんとかする』

 

「……私と、宇宙人さんが……」

 

その言葉に花陽は一瞬の戸惑いを見せる、しかし後ろで気を失っている少女の姿を見つけた時、その迷いを捨て、こくりと首を縦に振った。

 

「わかりました……あ、そう言えば……まだ、聞いてないことがありました」

 

『…なんだ?』

 

「……あなたの名前です」

 

決意を固めた花陽はこれから力を貸す相手の、青い人形の姿をした宇宙人にその名を問いかける。

確かに、あの時は花陽しか自己紹介をしていなかったため、宇宙人の名を聞いていなかった。

 

花陽の問いかけに青い人形はしばらく間を開けて……。

 

 

 

『………私は、“ウルトラマンコスモス”………』

 

「……コスモスさん……よろしく、お願いします」

 

 

 

彼の本当の名前、“ウルトラマンコスモス”。

 

その名を聞いた花陽はその手に持った蕾を天に掲げて、花開かせる。

そして、その瞬間、彼女の体が淡い光に包まれた……。

 

 

 

 

 

口に滾らせた火炎を唸り声と共に、カオスゴルメデが吐き出す。

空をかける火炎の砲撃、その威力は見ただけでもわかるほど強力なのは目に見えて明らかだ。

 

しかし、次の瞬間……。

 

再びその火球が淡い水色の輝きに憚られ、相殺された。

一度ならず二度までも防がれたことにカオスゴルメデは怒りを滾らせているのか、再度咆哮をあげる。

 

だが、その咆哮はただ巨大な怪獣の怒りを表しているだけでなく、突然現れた巨大な“光の巨人”に対する威嚇の咆哮でもあった。

 

 

 

淡い光が徐々に収まり、その中からカオスゴルメデと同じ大きさを持った人型のシルエットが姿を表す。

青い体に走る銀色のライン、そのラインと同じ銀色の顔に輝く優しい光を宿した乳白色の二つの双眼。

 

そして、胸に光り輝く水晶…。

 

人間とは大きくかけ離れた姿をしながらも、その青い体から感じる安らかな何か……。

まるで月の光のような優しい光と共に姿を表した、その光の巨人の名は……。

 

 

 

 

“慈愛の勇者”、“ウルトラマンコスモス”…。

 

 

 

 

「シュア!」

 

 

 

 

両手を広げ、流れる水のようなゆったりとした動きと共にカオスゴルメデに向かって身構えたコスモス、それに対しカオスゴルメデは威嚇の唸り声を上げながら再度口から灼熱の火球を打ち出した。

だが、コスモスはその攻撃を身軽な動きでジャンプし、回避すると身を翻しながらカオスゴルメデの頭上を飛び越え、カオスゴルメデの背後へと着地する。

湖の中へと着地し、高い水飛沫が上がる。 そしてカオスゴルメデの背後をとったコスモスはまるで竜の如く強靭な太い尻尾を両手で掴むと、そのまま自身の方へと引っ張る。

 

カオスゴルメデは尻尾を掴まれ、思うように身動きが取れないのか左右に大きく体を揺らしてコスモスを振り払おうとする。

だが、コスモスもそう簡単にその手を離そうとはしない。

 

「ウオッ!?」

 

しかし、カオスゴルメデのパワーに押され、コスモスは振り払われてしまい湖の中へと倒れこんだ。

それを狙ってカオスゴルメデがコスモスに襲いかかろうと狙いを定めて強靭な右足をあげ、踏みつけるように下ろした。

だが、コスモスは踏みつけられる前に両手で防御姿勢を取り、その足を受け流した。

 

そしてすぐさま立ち上がったコスモスは膝立ちの体制でカオスゴルメデの横腹へと掌底を叩き込み、そのまま身を回転させて横薙ぎの水平平手打ちを打ち込んだ。

しかし、その攻撃はそこまで攻撃力を秘めてはいない。

それもそのはずだ、コスモスは元々、この怪獣を“傷つけるつもりはない”。

 

コスモスの攻撃にカオスゴルメデは腕を振り上げて反撃をしかける、だがコスモスはその攻撃を次々に両腕で受け流して行き、その隙をついて再度平手打ちを打ち込む。

大きく後ろに押し込んだカオスゴルメデとコスモスは距離を取ると、再度構える。

 

ウルトラマンコスモスの異名は“月の光のごとき、優しい慈しみの戦士”。

故に、慈愛の勇者の名を与えられたコスモスは相手が怪獣であろうと無闇に傷つける行為はしない、敵の攻撃を受け流し、極力ダメージを与えないような戦いを主体にしているのだ。

 

「テェァァァ!」

 

その後もカオスゴルメデの攻撃を回避し、受け流しては反撃の掌底を打ち込むコスモス、拳や蹴りと言った直接の攻撃力はなく、そこまでダメージはないものの、反撃を行うカオスゴルメデは着実に体力を減らされている。

カオスゴルメデが再び爪を翳して攻撃を仕掛けてくるがコスモスはそれを右腕で受け流し、左腕をカオスゴルメデの頭部に絡め、そのまま湖へと叩き込む。

 

湖に倒れたカオスゴルメデの上を転がるように乗り越えたコスモスは再び距離を取る。

立ち上がろうとするカオスゴルメデ、それをしっかりと見据えたコスモスはその両手を胸の水晶に添えるように構える。

すると、コスモスの周囲に優しい光が集まって行く。

 

「……ハァァァァア……!」

 

そのまま両手を上に広げて、光を両手に収束させると右腕を前へとゆっくりと突き出して掌から優しい光を溢れさせる。

ゆったりと流れる小川の如き光が空中を流れていく、そしてその光は立ち上がったカオスゴルメデを包み込んでいく。

 

その光にカオスゴルメデが苦しむような動きと唸り声をあげるものの、しばらくするとカオスゴルメデの動きが大人しくなり始め、やがてその動きを止めた。

 

光が収まると、カオスゴルメデはすっかり大人しくなり………次の瞬間、その体に変化が起き始めた。

 

刺々しかった赤い頭部が次第に青い甲殻に包まれた滑らかな形状のものに変わり、爛々と輝く深紅の瞳が青色の瞳に変わった。

その姿はカオスゴルメデの本来の姿、“ゴルメデ”……。

 

暴れていた怪獣を本来の姿に戻したコスモスは優しくうなずく。

 

その瞬間、ゴルメデの体が再び淡い光に包まれた。

そして、その大きな体がみるみるうちに小さくなって行く。

やがて小さな光となったその人形は湖のほとりへと移動し、光が収まると地面に先ほどのゴルメデと同じ姿をした“人形”が転がった。

 

「………シュワ!」

 

それを見届けたコスモスは両手を空へと広げ、遥か空の彼方へと飛び立って行った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こ、怖かったぁ……」

 

安堵を声を上げる花陽、先ほどのあまりの体験の後となると仕方のないことだろう…。

早まる動悸を抑えるように胸に手を宛がう花陽、その手には先ほど一体となったコスモスの人形が握られていた。

 

『……大丈夫か? 花陽……』

 

「は、はいぃ……なんとか……凄いんですね、コスモスさんってあんなに大きかったんだ」

 

『あぁ……それよりも、まずは先ほどのゴルメデの人形を回収してくれ……それと、あの子供と子犬を』

 

「あ、そ、そうでした!」

 

コスモスに言われ、花陽は慌てて立ち上がると気を失っていた子どもの元へと走り出す。

 

 

 

 

これが、“二人目の出会い”…。

 

μ'sのメンバー、小泉 花陽。

そして、慈愛の勇者、ウルトラマンコスモスの出会いだった…。




いかがでしたか?

次回もいつになるかはわかりませんが、できればお楽しみにしていてください!

さて、次は誰のお話にしようかな……


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出会いは眩しい光の中 真姫と大地の光

どうも、白宇宙です!

紅白や再放送などまだまだ終わりを見せないラブライブ熱、そして新たに書き上げたこの物語!

今回の物語の主役は、真姫ちゃん!

果たして彼女は、どんな出会いをしたのか!

それではお楽しみください、どうぞ!


 

 

 

その少女は、たくさんのものに恵まれていた。

 

 

 

親は大病院の経営者という家庭に生まれ、幼い頃より裕福な家庭で育った彼女は特に不自由することなく、多くのものを手に入れ、その中で育ってきた。

将来も、地位も、約束されたようなものだった。

いずれ自分が大人になった時は父が経営する大病院を継ぐのは必然的だった、せっかく用意されている就職先なのだ、これを逃す理由などない。

故に彼女はその未来を得るために、幼い頃からそれ相応の努力をしてきた。

 

医学の道に進むために幼い頃から勉学に励み、必要な力をつけて行ったのである。

ただ親の脛かじりで手に入れるのは気に入らなかったというのもある、そしてやるなら自分も努力して、必要な知識を手に入れたいという自分なりの思いもあった。

 

……だが、勉学に勤しむより少し前、幼い頃から彼女には他に“好きなもの”があった……。

 

 

………ピアノ………そう、“音楽”だ。

 

 

彼女が母親の進めで何気無く始めたピアノ、それにいつの間にか彼女はのめり込んでいた。

自分の指で奏でる白と黒の鍵盤の旋律、耳の中に流れてくる安らかながらも力強い音…。

ピアノを奏でている時、彼女はその音楽と共に自分自身を表現できているかのような感覚を感じた。

 

それがとても心地よくて、楽しくて、彼女の心を弾ませた…。

一度はこの音楽を追求してみたい、音楽関係の仕事もしてみたい、と思うようにもなった…。

 

 

しかし、決められた未来……医師としての道を逃れる訳にもいかなかった。

一人娘である自分が、親の病院を継がずに潰す訳にもいかない…。

己の人生というレールに用意された、その未来にとって……その道は不必要な要素でしかなかったということを彼女は幼い頃から理解していた。

 

だけど……未練もあった。

 

もう終わったと思っていた音楽の道に、振り返りたくないと言ったら嘘でもあった。

 

 

そんな時に、彼女は何度も思った…。

 

 

 

もし、今ここにいるのとは“別の自分”がいたら……。

 

 

 

……生まれた時からたくさんの物を持っているのに……自分では好きなものを選べない……そんなジレンマを彼女は感じながら……高校生になった。

 

音ノ木坂学院……彼女の住む音ノ木坂にある女子校で、彼女は高校生活を過ごすことになった。

何のこともない、自分の医師としての進路のためには必要な高校過程だ、彼女はそこでの三年間を何気無く過ごすつもりでいた。

しかし、その高校生活の中で彼女はある部屋によく出入りするようになった…。

 

 

“音楽室”である。

 

そして、これが彼女の“出会い”のきっかけとなった。

 

 

放課後、ちょっとした合間を見つけては無人の音楽室に入り、置かれているグランドピアノの前に座り、鍵盤に指を走らせる。

そこにピアノがあったから、こうして弾いてみたくもなる…。

音楽は……ピアノは自分にとっての安らぎなのかもしれない。

こうして指で白と黒の鍵盤を押して、旋律を鳴らし、自分で考えた歌詞を歌っていると、没頭できる…。

勉強の時の集中とは違う……夢中になれるこの感覚……。

 

やっぱり、ピアノが好きなんだなと自分が実感できる唯一の瞬間……。

 

そして同時に……出会いの瞬間でもあった……。

 

 

 

「あの!いきなりなんだけど……あなた!アイドルやってみたいと思わない!?」

 

 

 

そう言ってきたのは自分とはまるで正反対の雰囲気を感じさせる活気づいた明るい雰囲気をした、何を考えてるのか、そもそも何かを考えてるのかも怪しく感じる笑顔を浮かべた自分よりも一学年上の先輩だった。

 

 

 

そして、彼女との出会いを期にもう一つの運命の歯車が回り出した。

 

 

 

そして、自分のピアノを聞かれた彼女の元にその先輩は数回に渡って現れた。

“廃校”という学院の危機の対策として、その先輩が脱却を図るために掲げた“スクールアイドル”、その活動のために必要な歌の“作曲”を頼まれたのが、彼女のもう一つの運命の始まりだった。

一度は諦めた音楽の道に今更関わったところでなにも得るものなどありはしないだろう……。

そう感じた彼女は先輩の誘いを断った。

 

それに、自分の弾いてきた曲とはまったく違うスクールアイドルの曲は何処か好きではなかった。

 

そう自覚していたつもりだった……。

 

だが、それでも……ただの気まぐれだったのか、なんとなしに彼女は曲を作ってみることにした。

なんとなくだが、あの先輩はこのまますんなり引き下がるような性格には思えなかったからというのもある……。

 

だけど、心の何処かであったのかもしれない………“音楽への未練”が………。

 

だからこれは、高校生活の“思い出作り”……その証にするだけのつもりだった。

そして、自分が作った歌を彼女達が歌っているのを聞いた時……彼女はその“思い出作り”にもう少し向き合いたくなってしまった……のかもしれない……。

 

 

 

そして、気づいたら彼女は……その先輩と、同じ1年の二人のメンバーと共にスクールアイドル、“μ's”として、本来の用意された道とは違ったまた違ったルートに足を踏み出していた。

 

 

 

「……“西木野 真姫”よ」

 

 

 

一度は目を逸らしたこの道に目を向けた時、気づけば彼女は今まで生きてきた中で普通なら出会うことのなかった、新たな“出会い”を果たすことになった。

 

掛け替えのない大切な仲間として、まだ自分が歩んだことのない道を共に歩む…“友”との…。

 

 

 

 

「μ's!!ミュージック、スタート!!」

 

 

 

 

たくさんの物を得ていた自分が、自分一人で見つけた大切な仲間…。

 

掛け替えのない出会い、それが真姫にもたらせるのは…彼女が仕方ないと目を逸らした道を照らし出す“光”だったのか…。

 

 

 

だが、彼女の果たした出会いはこれだけに終わらなかった。

 

 

 

これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。

 

 

 

 

 

~ウルトラブライブ! 9人の少女と光の勇者達~

 

「出会いは眩しい光の中 真姫と大地の光」

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院の屋上、ここではこの学院のスクールアイドル、μ'sの練習場所として放課後によく利用されている。

雨が振ったら練習するのは難しいが、晴れれば気持ちのいい太陽の陽光の下で気持ちのいい風もたまに吹いてくる隠れた名所だ。

 

そこで今日も、μ'sのメンバー達は日々欠かすことのない練習に励んでいた。

柔軟体操から基礎練習、ダンス、歌、スクールアイドルとして必要となる能力は日々の練習から培っていくものである。

その練習は決して楽な物ではない、ハードな練習内容で疲れることも当然ある。

 

「…はい、一旦休憩にしましょう!」

 

「あ~……疲れた~!」

 

曲に合わせてステップを踏む練習、それを一通り終え、ステップのリズムをカウントしていた、海未のその言葉に中央に立っていた明るい茶髪をサイドテールに纏め、動きやすそうだが真ん中に「ほ」の字が描かれている女子高生でそのセンスはどうなんだと疑問を感じるシャツを着た、μ'sのリーダーにして発足のきっかけとなった2年生、“高坂 穂乃果”が疲労困憊した様子でその場にぐったりと倒れた。

 

曲のリズムに合わせてステップを踏む練習というのは数と時間を重ねれば当然疲れてくる物である。

 

「穂乃果、いきなり床に寝転ぶなんてはしたないですよ?」

 

「だって~、疲れてもう動けないよ~……」

 

「……まったく、休憩が終わればまた別の練習があるのに……」

 

「まあまあ、海未ちゃん、今は休憩なんだし、ゆっくりしよ? はい、穂乃果ちゃん、お水」

 

「わぁ! ありがとうことりちゃん! もう私喉からからだったんだよ~…」

 

床に倒れる穂乃果に呆れる海未をフォローし、ペットボトルの飲料水を穂乃果に渡したのは長いベージュの色がかかった髪を穂乃果とはまた違った形のサイドテールにした彼女は“南 ことり”。

穂乃果や海未と同じ、μ'sのメンバーにして小さい頃より一緒に過ごしてきた仲良しの幼馴染である。

 

μ's結成以前から一緒の幼馴染の三人、彼女達はμ'sとして活動するようになった今でも変わらず仲良しなのである。

 

「………」

 

そんな彼女達の様子をじっと見つめるメンバーが一人…。

 

「ぷはぁ! いや~、休憩の時に飲む水はうまい! いつも食べるパンと一緒くらい! ……あれ? 真姫ちゃん、どうかしたの?」

 

「うぇっ!? ……べ、別に、なんでも」

 

軽く息を整えながら屋上の柵に凭れかかり、彼女の特徴の一つでもある明るい赤髪を指先でくるくるといじりながら、つり目を穂乃果達の方に向けていたのは、黒を貴重とした練習着に身を包んだ、μ'sの1年生メンバーの一人、西木野 真姫だった。

 

その視線に気づいた穂乃果はことりから渡された水を飲むと、彼女に問いかけてみたが、真姫はすぐさま視線を別の方向に向けた。

 

「でも、今こっち見てなかった?」

 

「み、見てないわよ、見てない!」

 

「えー? そうかな……ことりちゃんはどう思う?」

 

普段から素直ではない真姫は穂乃果の言葉を否定する。

しかし、穂乃果は彼女から視線を感じたと明確に自覚しているため確認を兼ねて傍にいたことりに聞いてみることにした、するとことりはちらりと真姫の方を見てから口元に笑みを浮かべる。

 

「うーん、確かに見てたかな? 私もちょっと見られてた気もする」

 

「なっ!」

 

「やっぱり! もう、真姫ちゃんったら、嘘は良くないよ?」

 

「べ、別に嘘なんかじゃ……!」

 

ことりと穂乃果の言葉に戸惑う真姫、しかし何故彼女は穂乃果達のことを見ていたのか、この時穂乃果は同時に気になった。

 

「それで、なんで私達のことを見てたの?」

 

「……なんだっていいじゃない」

 

「えー……あ、もしかして!」

 

話を濁そうとする真姫だったが、なにやら穂乃果は何かを感じとったのか突然立ち上がるとじっと真姫の方を見つめ始めた。

 

「な、なによ急に……」

 

「……もしかして真姫ちゃん……」

 

何かを訴えかけるかのような意思の篭った目、その目が自分に向けられていることに真姫は若干の戸惑いを覚えた。

 

 

 

(……もしかして、バレた!?)

 

 

 

まさかとは思っている物の、彼女がこっそりと彼女達を見つめていた理由がよりにもよって一番鈍そうな穂乃果にバレてしまったのかと、真姫の脳裏に不安が横切る。

真姫のことを見据えながら徐々に近づいてくる穂乃果に真姫は反射的に距離をおこうとして後ずさろうとする。

しかし、彼女がいるのは鉄柵のすぐそば、下がろうにもすぐ背中には柵があって距離を開けることができない。

 

気づけば穂乃果との距離がかなり縮まり、妙な威圧感の篭った目がすぐそこまで来ていた。

 

「ちょ、ちょっと、ち、近いって……!そんなに近づかなくても……」

 

「……真姫ちゃん、もしかして……」

 

「うっ……」

 

完全に気どられているのだろうか、自分が彼女達を見つめていた理由を……。

真姫がそんなことを考えながら視線を再度明後日の方向に向けた。

 

すると……。

 

 

 

「………真姫ちゃんもお水、欲しかった?」

 

「………は?」

 

 

 

穂乃果はそう言って持っていたペットボトルを差し出して来た。

屈託のない笑顔でそう言って来た穂乃果に、変に身構えていた真姫は呆気を取られてその場でぽかんとした表情を浮かべた。

 

……まあ、結局は考えすぎだったのだ。

 

穂乃果に限って悟られるはずもない……。

最近、彼女が持ってしまったちょっとした悩みの種を……。

 

しかし、この悩みにとって穂乃果は一番わかりやすい例として見ることはできるのだ。

 

いつの間にか、自分達を引きつけていた彼女なら……

 

 

 

 

 

 

放課後の練習の後、真姫は一人普段の帰り道とは違う方へと歩いて行った。

1年生の中でも最も成績がよく、真面目な彼女は同じμ'sのメンバー達と一緒ならまだしも、たった一人で寄り道することはあまりないことだった。

夕日が街をオレンジ色に染め始めた頃、真姫はある場所へと足を運んだ。

 

「……今日もいるのかしら」

 

下校するために練習着から音ノ木坂学院の制服へと着替えた真姫は学院から少し離れた場所にある、小さな公園を訪れた。

 

高台に位置するこの小さな公園は来るまでにちょっとした坂を登るため、この時間帯に歩いてここまで来る人は少なく、この公園を利用するであろう子ども達も時間帯的に少ない。

真姫はそれを理解してここを訪れたのだ。

 

周囲に人影がいないのを確認すると、真姫は公園の中に入り、丁度公園の端にぽつんと生えている一本の木の下にまで近づく。

木の下には周りにはレンガ作りの囲いが設けられており、真姫はそれをベンチ代わりにしてその場に腰掛けた。

静かな公園で一人、真姫は何時もの癖で自分の髪を指先で弄り始める。

 

 

いったい、何故彼女がこんな場所に一人でいるのか……。

 

それは………。

 

 

 

 

『今日も来てくれたんだね』

 

 

 

 

待ち人がいたからだ。

しかし、その待ち人のことを真姫はあまり知らない。

 

「……別に、また来てもいいって言ったのはあなたでしょ?」

 

『そう、だったかな? ……確かに、また来てくれたのは嬉しいけど』

 

聞こえてきた声に真姫は驚くこともなく、そう返事を返した。

見る限り、公園にいるのは真姫一人のようにも見える。

しかし、会話は成立してる、真姫は今“姿も知らない”何者かと話をしているのだ。

 

「本来なら姿も見せないような怪しい人とあんまり関わりは持ちたくないんだけどね」

 

『うっ……ごめん』

 

「……まあ、あなたは怪しいけど悪い奴じゃないし、良しとしてあげるわ」

 

きっかけは些細なことだった。

真姫はμ'sの活動と共にチームの作曲を兼ねている。

そのため、たまにアイデアに行き詰まった時は気分転換をしたくなる時もあるのだ。

 

ある休日の日、真姫はμ'sの新曲を作曲しようとしていた。

その際にちょっと行き詰まったため、真姫は気分転換をしようと散歩に出かけたのだった。

そして、散歩の途中で訪れたのがこの公園だった。

 

こんなところに公園があったのかと始めて知った真姫はなんとなしにその公園に足を踏み入れてみた。

休日だというのに誰もいないこの公園にたった一人で訪れた真姫、人が来る気配もなく、その時も人がいなかった真姫はなんとなくこの公園がどこか寂しそうに見えた。

 

そんな公園を励ましたかった、そういうロマンチストな面が珍しく働いたのかは今でもわからない。

気づいたら真姫はその公園から見える音ノ木坂の街を眺めながら、今座っているこの木の下で歌を歌っていた。

 

 

あの日、穂乃果と出会った時にも歌っていたこの曲の名前は…“愛してるばんざーい!”。

 

 

彼女が密かに作曲して、完全に完成することなく諦めていた道と共に置きっぱなしにしている歌だった。

そして、この歌を歌っている途中だった。

あの時と同じように、突然の“出会い”を果たすことになったのは……。

 

 

『……綺麗な歌声だ』

 

 

と言っても、出会ったのは声だけでどこに姿を隠しているのかわからない、謎多き何者かだったのだが…。

 

最初は怪しく感じたし、正直不気味でもあった。

しかし、その声は真姫に何か気概を加える訳でもなく歌の感想を言うと、それ以上は特に行動を見せることもなかった。

 

この時は、何かの気のせいかとすぐに帰宅した真姫だったが、その後どうしてもあの声の正体が気になった彼女は数回に渡ってこの公園を訪れ、最初と同じように歌を歌った。

 

しかし、最初の時のような感想は帰ってこなかった。

なので、なんとなしに聞いてみた。

 

「……どうだった?」

 

すると、しばらくして……。

 

 

『……すごくうまいと思うよ、うん、すごく……』

 

 

なんとなく気の利いた言葉ではないが、確かに返事が帰ってきた。

この公園に誰かがいる、いったい誰なのかは知らないが、これをきっかけに真姫はこの姿が見えない誰かと関係を持つようになった。

新曲が出来たからどんな感じか聞いて欲しい、とか最近の調子はどうなのかとかの世間話など、いろんな会話を交わすうちにいつの間にか怪しさとかはなくなり、むしろ興味すら湧いてきたのだった。

 

そして、今日も彼女はこの公園に足を運んで、その何者かと会話をする。

 

「……で、今日も姿は表さないの?」

 

『う、うん……前にも言ったけどちょっと訳ありで君の前には出られないんだ』

 

この姿を出さない誰かと真姫は数回、このようなやり取りを交わしていた。

その度に何者かはそう返事を返してくる、訳ありで、と……。

なにが訳ありなのかと気になる所ではあるが、こうも徹底してるとどうにも気になって仕方ない。

 

「こうも姿を出さないなんて、あなたよっぽど恥ずかしがりやなのかしら? ……それとも、幽霊とか?」

 

『そ、そんなんじゃないさ! 僕は幽霊なんかじゃない! そもそも幽霊っていうのは本来地球に存在するプラズマによる現象や、なんらかの事象が伝承のように伝わって出来たイメージのようなもので……』

 

「分かってるわよ、幽霊なんていないって言いたいんでしょ? それ前にも聞いたし、それに幽霊がそこまで理知的な言い回しで自分を全否定するのもおかしいし」

 

とりあえず今までのやり取りの中で分かったのはこの何者かが幽霊ではないということ、そしてこういう化学的な言い回しをたまに見せるということ。

そしてそれでいて極度の恥ずかしがりや、なのかどうかは知らないが、とにかく姿を現したがらないということだ。

訳ありとは言うものの、こうも姿を出さないその人物がいったいどう言う人なのか、この時の真姫はちょっとした興味を抱いていた。

 

「ねえ、あなた本当に何者なの? 姿は見えないし…その割りには声ははっきり聞こえるし…そろそろ出てきてもいいんじゃないの?」

 

一か八か、真姫はそう提案するが、姿が見えない誰かはすぐに返答を返すことなくしばらく間を開けると……。

 

『……ごめん、どうしても姿は見せられないんだ』

 

その返答にやっぱりか、と真姫は小さくため息をついた。

いったいそこまでして姿を現したがらないのは何故なのか、どう言う訳があるのか、姿が見えない誰かは一行にしてOKを出してくれなかった。

もうすでに顔見知り、というより“声見知り”なこの人物が何故姿を現したがらないのか、気になる真姫。

別にやましい気持ちがないなら素直に出てきてもいいのにと真姫は思うものの、向こう側の気持ちも考えてあまり追求しない方がいいのではという迷いが彼女の中に生まれる。

 

 

これが彼女の最近の悩み、密かに出会ったこの人物のことをもっと知るために、どのように距離を詰めればいいのかということだ。

 

 

「……まあ、言いたくないなら別に言わなくてもいいけど」

 

『……うん……あ、そうだ、そういえば新しい曲はできたのかな?』

 

「え? ……あぁ、まあ一応はね……また聴きたい?」

 

『うん、お願いしてもいいかな?』

 

その方法の一環として彼女がしていることの一つ、それはこれ……“制作中の新曲”を聞いてもらうことである。

完成とまでは行ってない新曲を聞いてもらって感想を聞く、それだけでも作曲者としては十分なポテンシャルに繋がることもある。

彼女は早速鞄の中に入れていたポータブルプレイヤーを取り出すと市販の小型スピーカーと接続、新たに作曲していた曲を流し始める。

 

イントロからサビ、終わりまでが流れるまでの間、声だけの誰かは何も話さずにその曲を静かに聞き続けたのかなにも話さなかった。

 

『…うん、すごくいいと思うよ! 君はやっぱり、すごいな……僕じゃこんな綺麗な歌は作れない』

 

特に専門的な言葉はなく、端的な感想が曲が終わると同時に帰ってきた。

その言葉に真姫は少し何かを考えるように視線を俯かせると、再度自分の赤毛を指でくるくるといじり始めた。

 

「……そんなことないわよ、誰だって練習すればこのくらいは」

 

『いや、君なら音楽家としても通用すると思うよ? 少なくとも僕はそう感じる』

 

「………」

 

誰かの言葉に真姫は少し複雑そうな表情を浮かべる。

それもそうだろう、確かに彼女はピアノは好きで一度はその道を目指したこともあった。

だが、それは…仕方なく諦めることにした道…どの道自分が進むべき道は自分で決めている。

 

でも、もしも…音楽の道を進んでたらどうなっていたのか…。

 

『……どうかしたの?』

 

返答が返ってこないことに不審を抱いたのか、誰かがそう聞いてきた。

表情は見えなくても、雰囲気かなにかで感じ取ったのかもしれない……真姫はすぐに取り繕うと先程までの表情を消していつもの表情を顔に浮かべた、まあ、姿は見えないから表情がわかるのかはわからないが…。

 

 

「…別に? 私が仮にそういう道に進んだとしても、想像がつかないなって思っただけよ…私の進路はもう決めてるし」

 

『………ねぇ、君は“ガリバー”を知ってるかな?』

 

 

真姫の言葉を聞いた後、姿が見えない誰かは真姫にそう質問をしてきた。

 

「ガリバー? …ひょっとして“ガリバー旅行記”のガリバーのこと?」

 

童話、ガリバー旅行記。

誰しもが聞いたことはあるであろうそのガリバー旅行記については真姫も聞き覚えがあった。

ざっくりに言うと、ガリバーという人物が小人の住む島に流れ着いた話と言えるがそれが一体どうしたのか、真姫は首を傾げる。

 

『ガリバーの物語は社会風刺に基づいたフィクションの話だけど、それは違う見方をすれば少し面白い解釈に繋がるんだ』

 

「違う見方? なによそれ…」

 

『……“他世界解釈”、量子物理学に存在する論理の一つさ』

 

「……あの、私もそれなりに勉強はしたけど、一般の高校に通う女子高生がいきなり量子物理学なんてやってると思う?」

 

姿が見えない誰かが言った、他世界解釈という論理に対して首を傾げる真姫。

 

『あー……それもそうか……そうだね、わかりやすく言うなら君が本来いるこの世界とは違う、別の世界の存在を提唱するものなんだ』

 

「別の世界? ……それってもしかしてSF映画とかでよくある“パラレルワールド”ってやつ?」

 

『そう、まさにそのことだよ』

 

真姫の返答に誰かはどこか満足気な言葉で肯定した。

 

パラレルワールド、“平行世界”とも呼ばれる、こことは異なる形の世界。

映画や本などではたまに設定に使われることもあるこの事象のことを真姫は一応知ってはいた。

しかし、それがなんの関係があるのかと、再び真姫の中で疑問が生まれる。

 

『ガリバーは旅の中で本来ならあり得ない世界に訪れた、自分が見てきた世界とは違う世界を……つまりそれは見方を変えれば本来ガリバーがいた世界とは異なる別の世界を訪れたとも見て取れる、彼は言い方を変えれば違う世界を行き来した存在であるとも言えるんだ』

 

「……違う世界を……」

 

『そう、だからそれは他世界解釈における、もう一つの自分の違いにも当てはまるんだ……もしこことは違う世界で君が音楽の道に進んだとして……僕はきっとその君は音楽で、いい結果を残せてるんじゃないかって僕は思うな……』

 

なんとも空想的というか、不思議な事を言うなと真姫は思った。

実際にそうだという確証もないのに、もしもの世界のことをそんなに熱心に話せるなんて……この人はとても不思議な人だなと、真姫は感じた。

 

だが、もしも本当にそんな自分がどこかの世界にいるなら……ふと、真姫はそんなことを考えるが、ハッと我に返ると頭を左右に振る。

 

「……なにそれ、意味わかんない……ロマンチストのつもり?」

 

『……そう思っただけだよ、君のピアノはそれくらいに上手だと僕は感じたから……それに、少し違う生き方をしてる自分を考えるのもたまにはいいんじゃないかな?』

 

「………あっそ………まあ、一応褒め言葉と、アドバイスとしては受け取っておくわ」

 

どこか気恥ずかしくなったのか、真姫は頬をほんのりと赤くしながらそう言って立ち上がる。

なんやかんやと話し込んでしまったが、そろそろ帰らないと日がくれてしまう。

女子高生の夜道の一人歩きは危険を伴う、真姫はいつもここに来た時は日が暮れる前には帰路に着くように心がけていた。

 

「そろそろ帰らないと…ママとパパも心配性だから」

 

『…そうだね…気をつけて』

 

「……あなたは帰らなくていいの?」

 

『僕は……もう少しここにいるよ』

 

「……いつも、の間違いじゃないの、それ……」

 

姿が見えない誰かに真姫はそう言った、確かに何者かは気が付くといつもこの公園に来ているようだった。

どこに身を隠しているのかはわからないが、あながち間違った指摘ではないだろう。

その後、彼女は公園を出ようと歩き出そうとするが……なにを思ったのか、数歩歩いたところで足を止めた。

 

「……ねぇ、そういえばあなたの名前、なんて言うの?」

 

『……え?」

 

唐突に聞かれたことに誰かは呆気に取られたような反応を示した。

 

『ど、どうしたの? 急に…』

 

「もうそろそろ、名前くらい教えてくれてもいいんじゃない? はっきり言うと名前もわからないで、あんたとかあなたとか曖昧な表現で示すより名前くらい知っておいてもいいかなって思っただけよ」

 

確かになんやかんやがあったとは言え、彼女はこの人物とそれなりに関係を持ってきた。

そろそろ名前を知っていてもおかしくないだろうが、彼女は今だにたまに話す誰かの名前を知ってはいなかった。

姿は見せてはくれないが、名前くらいなら、と思い切って聞いてみたのだが返答はあるのだろうか?

そう思いながら真姫がその場で待っていると………

 

 

 

『………“ガイア”………』

 

 

 

そう返答が帰ってきた。

 

「……ガイア……それがあなたの名前なの?」

 

返答に対して真姫がそう聞き返すと、なにも言葉は帰ってこなかった。

肯定はしていないが、否定もしないと言うことはおそらくあっているのだろう。

そう判断した真姫はそれ以上の追求はしなかった。

 

「……まあ、悪くない名前じゃない? ちょっと意識しすぎな気もするけど……じゃあ今度はお返しに私の名前も教えないとね」

 

名前を教えて貰ったのでまだ名乗ってなかった自身の名前も言おうと真姫は背後の木の方に振り向いた。

 

 

「私の名前は、西木野 真姫………それじゃ、またね、ガイア」

 

始めて名前を言ってさよならを言えた。

これで少しは距離を縮めることはできただろうか……

そんなことを考えながら、真姫は公園を出て行った。

 

 

 

だが、この時真姫は気付かなかった…。

 

 

公園から出てくる真姫のことをじっと見つめる、黒ずくめの服に身を包んだ謎の人影がいたと言うことを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、真姫はいつも通りに音ノ木坂学院に登校し、一日を過ごした。

いつも通り授業を受けて、放課後になったらμ'sとしての練習に専念する。

そのため、真姫はまずμ'sの活動の拠点となっている“アイドル研究部”の部室を訪れた。

アイドル研究部の札がついたドアのドアノブに手をかけて、真姫はドアを開く。

 

 

 

「ん? あら、真姫一人できたの? …今日は早いわね?」

 

「……にこちゃんはそれよりも早かったみたいね?」

 

 

 

部室に入ると同時に真姫を出迎えたのはこの部室の主にして、彼女達が所属するアイドル研究部の部長、矢澤 にこだった。

一番奥の席の席に座って自分よりも早く来ていたのであろうにこにそう言うと、真姫は近場の席に座った。

自分の鞄をおいて、ふう、と息を吐いて席に着く真姫、そんな彼女をなぜかにこはじっと見つめる。

 

「……ねぇ、真姫、あんた最近穂乃果のことよく見てるわよね?」

 

「うえ!?…べ、別に? 気のせいじゃないの?」

 

唐突にそう聞いて来たにこに真姫は動揺した表情を見せる。

 

「ここ最近、暇さえあれば穂乃果のことよく見てるじゃない、一昨日もその前も、わたし見てたのよ?」

 

「そ、そんなこと…」

 

「昨日なんか穂乃果に気付かれてたじゃない」

 

「うっ……」

 

まさかにこちゃんにバレていたとは……と苦虫を噛んだような表情を浮かべる真姫ににこは席から立ち上がるとなにやらにやにやとした表情を浮かべる、そっと彼女の方に近づいてくる。

 

「……ねぇ~? もしかして~、真姫ちゃんって~……」

 

「な、なによ変な喋り方して…」

 

妙に間延びした声で迫ってくるにこを警戒する真姫、にこはさらに近づくと彼女の自慢の笑顔を真姫に向ける。

 

 

「実は女の子が好きで、穂乃果ちゃんのことが好きだったり?」

 

「しないわよ!!」

 

 

にこの冗談めいた発言に真姫はすぐさま否定して、勢いよく立ち上がった。

 

「なんで私がそんな趣味みたいになるわけ!?ていうか、恋愛はアイドルのご法度って言ったのはにこちゃんじゃない!!」

 

「じょ、冗談よ、単なる冗談、にこにーのかわいい冗談にこ♪」

 

「可愛くないわよ!むしろ心臓に悪いくらいよ!!」

 

あまりにも必死な真姫に戯けてみせるにこ、しかし、それで彼女の気が収まるわけもなく真姫は烈火のごとく顔を赤くしてにこを睨みつける。

 

「……でも、そう見られてもおかしくないわよ? 最近じゃ女の子同士の恋愛を好むファンも多いんだから」

 

「……意味わかんない!」

 

「……あのね~、わたしはあんたに気を付けろって言ってんのよ! こういう勘違いされるから!」

 

「勘違いもなにもそんなんじゃないって言ってるでしょ! 私はただ穂乃果がいい“お手本”になると思って……!」

 

そこまで言ったところで、真姫はハッと口を閉じた。

 

「お手本? なによ、お手本って……穂乃果から何か教わるものでもあるの?」

 

「い、いや…それは…その…」

 

つい出てしまった言葉に真姫は動揺しながらなんとか誤魔化そうとするが、にこはじーっと真姫を見つめたまま目を話そうとしない。

 

 

 

(絶対に言えない……穂乃果みたいにいつの間にか人との距離を埋めるにはどうすればいいのか知ろうとしてたなんて、にこちゃんには絶対言えない……!)

 

 

 

 

彼女がここ最近、穂乃果を見ていた理由、それは彼女が持ついつの間にか人を引き付ける何かを学ぼうとしたからだ。

 

理由は公園で出会った姿の見えない誰か……ガイアが、なんで姿を表さないか聞くためにはガイアともっと心の距離を近づける必要があると判断した真姫はその能力を一番秘めているのかを考え、結果、それは穂乃果が一番持っているのではないかと判断したのだ。

彼女は本当にいつの間にかμ'sのみんなを引きつけた彼女にしかない、特別な何かがある、そのため彼女をお手本にすれば人を引き付けるにはどうすればいいかを知ることができると思ったのだ。

 

しかし、その行為がそんな風に思われるなんて真姫は思っても見なかった。

特に、目の前にいるにこにだけは……。

ただでさえ、何かしらに自分に突っかかってくる彼女に余計なことを知られればなにを言われるかわかったもんじゃない。

 

「と、とにかく! なんでもないの! 私、先に屋上に行くから!」

 

これ以上話をややこしくするはわけにはいかない、真姫はそう思って半ば強引にこの部屋から出て行こうとした。

 

「あ、ちょっと待ちなさいよ真姫!」

 

「なによ、だからなんでもないってさっき!」

 

尚も聞いてこようとするにこを真姫は突っぱねようとするが……

 

 

「……屋上に行っても、今日雨で使えないけど……」

 

「………あ」

 

 

結局その後、真姫はにこに穂乃果を見ていた理由について追求されることとなった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、真姫は雨の中、傘をさしてある場所へと向かっていた。

行き先は今日も、ガイアと出会ったあの公園である。

雨なのでもしかしたらいないかもしれないが、念のためと思い、彼女は今日もガイアの元に向かおうと思ったのだ。

 

「……まあ、今日もいるとは限らないけど……一応は、ね」

 

そんな独り言を呟きながら真姫は公園へと続く坂道を登っていく。

雨が真姫がさしている傘を叩き、独特の音を真姫の耳に伝えてくる、それを聞きながら彼女が歩き続けていると……。

 

「……?」

 

その坂道の途中で、珍しく人影を見つけた。

坂道の端で雨が降っているのに傘も刺さずに全身を黒いコートで包み、頭にはこれまた黒の帽子を被っている謎の人物。

普段なら人があまり来ることが少ないこの場所に、人がいるのにも驚きだが……その人物を見た時に真姫は言い知れぬ不気味な何かを感じた気がした。

 

この黒ずくめの何者かにはあまり関わらない方がいい、そう判断した真姫は足早にその人物の前を通り過ぎようとする。

 

 

 

「………お前はガイアを知っているのか……?」

 

 

 

だが、真姫が前を通り過ぎたと同時に黒ずくめの何者かは彼女に深く響くような怪しげな声でそう聞いた。

突然声をかけられた真姫は反射的に足を止めて、恐る恐ると黒ずくめの何者かの方へと振り返る。

 

「………答えろ、奴は………どこにいる……」

 

すると、真っ黒な帽子を目深に被ったその人物は彼女の方に向き直り、帽子のつばに手を添えながら再度そう聞いて来た。

この人物はガイアのことを探しているのか、咄嗟に真姫はそう判断したが、その人物から感じる嫌な雰囲気に答えるのを躊躇した。

 

答えたら、自身とガイアに何かが起こるような気がしたから……。

 

 

「奴はどこに………“ウルトラマンガイア”はどこにいる……!」

 

「し、知らない!!」

 

 

血気迫るような黒ずくめの言葉と声に、怖くなった真姫はそう言い捨てると走りだした。

緩やかな坂道を、雨の中必死に走る真姫。

あの黒ずくめには話してはいけない、関わってはいけないと彼女の中にある、勘のようなものがそう告げる。

そう感じさせるほど、あの黒ずくめからはとても嫌な雰囲気を感じたのである。

足早に坂道を上がっていく真姫、ふと後ろの方を振り向くと…。

 

(……着いて来てる……!?)

 

あの黒ずくめが真姫を追いかけて来てるのだ、ゆっくりとした足取りだが確実に真姫を追いかけて来ている。

それに気づいた真姫は不安を感じて、さらに足早に走り出した。

このまま追いつかれたらなにをされるかわからない、真姫は慌てて走り、やっとの思いで緩やかな坂を登り切ると咄嗟にいつもガイアと話をしていた公園へと飛び込んだ。

 

「はあ…はあ……!」

 

雨水でぬかるんだ地面を早足で踏みしめながら、彼女は公園の奥へと向かう。

しかし、それほど広くない公園に逃げ場はなく、気づいた時には真姫は逆に追い詰められてしまったことに気づいた。

 

「あ……うそ……どうしよう……」

 

突然のことに動揺して追い詰められることを計算してなかった真姫はなんとか隠れる場所がないか、公園の中を見回す。

だが、そんなことをしている間に……公園の入り口に黒ずくめの何者かがたどり着いてしまった。

 

「っ! こ、来ないでよ!!」

 

真姫はその人物にそう言うが、そんなことはお構い無しと言いたげに黒ずくめの人物は真姫に近づいてくる。

 

「……言え、ガイアはどこだ……」

 

「……知らないわよ……そんなこと…!」

 

「……お前がここで……ガイアの名を呼んだのは、聞いている……」

 

「っ!」

 

その言葉に真姫は昨日のことをこの黒ずくめは知っているのだと、すぐに理解した。

この黒ずくめはガイアのことを知っていて、ガイアの居場所を聞こうとしている、だとしたらここはまずい、まずすぎる、下手をすればガイアの居場所を知らせてしまうような物だからだ。

それを瞬時に判断した真姫は……。

 

 

 

「ひ……人違いよ! 私は……なにも知らない!」

 

 

 

ガイアに何かが起こるのを避けるために咄嗟に嘘をついた。

黒ずくめの人物を睨みつけ、そう言い放った真姫、だがそれに対して黒ずくめは………

 

 

「………嘘を………着くな………!」

 

 

 

その言葉が嘘だと瞬時に見抜き、帽子を被った頭を上げ、目にも止まらないというのはまさにこのことと言えるスピードで、真姫との間合いを一気に詰めた。

 

「ひっ……あっ……あぐっ…!」

 

そして真姫は自身の首が締め付けられる息苦しさを感じた。

黒ずくめの男が乱暴に彼女の首に手をかけて片手で締め上げ始めたのである。

 

「………言え………さもなくばお前を、ここで殺す………!」

 

「っ……だ、れが……以下にも怪しそうな……やつに……!」

 

ぎりぎりと首を締められ、息苦しさを感じ、真姫は苦しそうな表情を浮かべる。

人間離れした力で首を締められ、持っていた傘を手放し、今にも窒素しそうになりながらも彼女はガイアと会っていたことを言おうとはしなかった。

 

「……最後の警告だ……ガイアは何処か言え……さもなくば殺す……!」

 

「っ……くふっ……ぅう…!」

 

黒ずくめがさらに手に力を込めてそう言ってくる。

しかし、真姫は絶対に口を割らないと言わんばかりに口を真一文字に結んで頭を振った。

 

息ができず、次第に意識が遠のいて行く…。

 

わけもわからずにこんなところで死ぬのかと、真姫は思ったが…。

同時に最近知り合ったばかりだが、少し興味を抱いていたガイアを売らずにすんでよかったと安心もしていた。

 

それはなぜか?

 

真姫の中でその答えは自然とすでに出てきていた…。

 

 

(……ここであいつを打ったら、人を惹きつけるも論外だものね………それに、最低なことをしなくて済むわ……“友達”を、売るくらいなら……!)

 

 

彼女がなぜガイアに興味を抱いたのか、それは心の何処かで……ガイアと友達になってみたいと思ったからだったのだ。

素直じゃないとよく周りから言われるが、全くその通りだと感じた、死ぬ直前でようやく理解したのだから。

 

(……ごめんね、ガイア……もう、私……!)

 

その思いを理解したが、真姫の意識はどんどん遠ざかっていく。

そして、彼女の視界が暗闇に包まれる………。

 

 

 

その直前、不意に彼女の首を掴んでいた手が何かに弾かれるように離れたのだ。

 

 

 

「ぐう………!」

 

「っ……ごほっ……けほっ、けほっ……!」

 

 

 

首を締める物がなくなり、ようやく息ができるようになった真姫はむせながらも反射的に呼吸をする。

息を吸い込み、吐き出して、次第に意識をはっきりとさせて行く。

そして、霞んでいった意識をハッキリとさせた真姫が顔をあげると……

 

「………え?」

 

自分と黒ずくめの人物の間になにやら“赤い光”が割り込むようにして入り、発光していた。

暖かさを感じさせる赤い光、それを見た真姫はあることを感じた。

 

「……助けてくれたの?」

 

この光が自分を助けてくれたのかと理解しながらも、不思議なその光をまじまじと見つめる。

 

 

 

『……真姫ちゃん、今のうちに!』

 

「うぇ!? 今の声……あ、ちょっ!?」

 

 

 

すると突然、頭の中に声が聞こえたかと思ったらその光に手を引かれるように、真姫は一瞬の隙をついて公園を出ていった。

 

「………今の光………そうか………あれが……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傘を手放し、雨に打たれながらも、赤い光のおかげでなんとか公園から抜け出した真姫は本来の帰り道とは逆の方に導かれ、人気のない、街から離れた場所にぽつんとある寂れた廃工場へとたどり着いた。

廃工場の中に飛び込むようにして隠れた真姫と、真姫を導いた赤い光。

 

「に、逃げ切ったの……?」

 

『いや、わからない、奴は僕を狙ってる……多分僕を見つけるまで追ってくるはずだ』

 

真姫の言葉に答える赤い光、その言葉に真姫はあることを感じる…。

 

 

「……ねえ、その声って……ひょっとしてあなた……ガイアなの?」

 

『………』

 

 

聞き覚えのある声と話し方、それらが彼女が先ほど脳裏に浮かび上がった友人、ガイアと酷似していることに気づいた真姫は赤い光にそう問いかける。

すると、赤い光はその問いかけにすぐに答えようとはしなかった……だが、しばらくすると、その光は次第に大きくなり……風船が弾けるように光が拡散した。

 

「うえっ!?」

 

それに驚く真姫、だが弾けた光の中から出てきた物を見た瞬間、さらに言葉を失い、目を見開いた。

 

「……人、形……?」

 

赤い光の中から現れたのは、人型の人形だった。

しかし、人型ではある物の人間をかたどったような物ではなく赤と銀色の配色が成された体に銀色の顔、乳白色の丸い目をした、少し変わった人形だった。

いったいなぜ浮遊する光の中から人形が現れたのか、あまりにも現実離れしたことに真姫が唖然としていると……。

 

 

 

『……これが僕の姿なんだ、真姫ちゃん……』

 

「え……! この声って……ガイア?」

 

『……そう、僕がガイア……本当の名前は、“ウルトラマンガイア”……』

 

 

 

突然話し始めた人形は浮遊しながら自分のことをガイアだと話し始めた、そのことに真姫は目を白黒とさせる。

確かに今までで何度かはガイアはどんな人物なのかを考えた時にあまりにも不思議な存在だから人間ではない何かかもしれないと思ったこともあった。

だが、それが人形だなんて思いもしない、と言うか考えもしなかった。

 

『驚くのも無理はないよ…いろいろと事情があってね…』

 

「じ、事情………?………それって、もしかしてあの黒ずくめのやつと関係あるわけ?」

 

説明しようとするガイアに、咄嗟に真姫はそう問いかけた。

すると、ガイアはしばらく黙り込むが……。

 

『………奴は僕を狙ってる………真姫ちゃん、これ以上君を巻き込ませる訳にはいかない、だから今の内に……別の道から』

 

「そうはいかない………」

 

「っ!」

 

あの黒ずくめの男の危険から真姫を逃がそうとガイアがしたその時、二人がいる廃工場の入り口にあの黒ずくめの人物が立っていた。

 

『もう追いついて来たのか…!』

 

「ガイア、抵抗は無駄だ……大人しくこちらに来い……」

 

『……それで従う訳にはいかないんだ』

 

不気味な声でガイアにそう言った黒ずくめ、しかしガイアは黒ずくめの言葉に対して否定的な返答を返す。

すると、黒ずくめは笑っているのかほんの少し肩を震わせて、被っている帽子の唾に手をかけた。

 

 

 

「………なら、仕方ない………そこにいる女を消し、お前を“あの方”の元に連れて行く!」

 

 

 

被っていた帽子を投げ捨て、そう言い放った黒ずくめの姿を見たとき、真姫は再び驚愕した。

 

黒ずくめの帽子のしたにあったのは人の顔ではなかった。

全体的な形は人間のシルエットだ、しかしそれはゲルのような半透明で濁りのある何かで構成されており、怪しげに蠢いていたのである。

 

明らかに人間ではない黒ずくめの正体に驚くのもつかの間、次の瞬間には人の形をしたゲルのような物はその形を徐々に変質させていき、どんどん大きく膨れ上がっていったのだ。

 

「な、なんなのよあれ!」

 

『まずい……ここは危険だ! 早く外に!』

 

屋根をも突き破りかねないほどの大きさに膨れ上がっていくゲルのような物、危険を感じたのかガイアは浮遊しながら真姫にそう呼びかけると彼女はガイアと共に廃工場の別の出口から外に出る。

 

「な、なんなのよ……いったい、なんなの……あなたは何か知ってるの、ガイア……」

 

息も絶え絶えになり、外になんとか出た真姫は自分を先導してくれたガイアにそう問いかける。

 

一体あれはなんなのか、なぜガイアを狙っているのか、“あの方”とはなんのことなのか、真姫の中で疑問が次々と生まれてはごちゃごちゃに混ざり合っていく。

だが、混乱するその思考に対して帰って来たのはガイアの答えではなく……

 

 

 

ーーードガァァァァアン!

 

 

 

 

まるで近くで爆弾が爆発したかのような凄まじい音と共に、突 廃工場の屋根を突き破り、外に出て来たゲルのような物が変質した“巨大な異形”だった。

 

 

「こ、今度はなんなのよ!? あれ…なんなの!?」

 

『………あれが奴の正体、“巨大異形獣 サタンビゾー”………』

 

「サタンビゾー…? ……あの怪物のことなの……?」

 

 

真姫の見つめる先にいる巨大な異形の怪物。

それは漆黒の楕円形の体に腕と足が付いたようなアンバランスな形で、その体の中央には黄色に輝くラインが縦に一本だけ刻まれており、怪しい光を放っている。

 

この世の物とは思えないような、まさに怪物を前にした真姫は愕然とするばかり…。

だが、そんな彼女のことは御構い無しとばかりに漆黒の怪物、サタンビゾーは真姫とガイアを見つけると二人の方に向き直り、腕を振り上げた。

すると、その腕から鋭利な二本の爪が伸びた。

 

そして、ずしり、ずしりと崩れた廃工場を出て、二人の方へと近づいてくる。

 

「ちょっと、こっち来るわよ!」

 

『……奴の狙いは僕だ、真姫ちゃんは逃げて』

 

「え……逃げろって……あんたまさか私だけ逃がすつもり!?」

 

『君を危険な目に合わせる訳には行かない、これは僕自身の問題だ、だから早く!』

 

迫り来るサタンビゾーから真姫だけでも逃がそうとするガイア。

確かに、本来の真姫ならこんなありえないことあまり首を突っ込みたくはない。

 

 

 

だが、この時ばかりは……違った。

 

 

 

 

「お断りよ!」

 

 

 

 

ガイアの言葉を真姫は真っ向から断った。

それに対して人形の体をぴくり、と震わせたガイアが真姫の目の前まで浮遊してきた。

 

『断るって……なにを言ってるんだ! 君が関わる理由は…』

 

「だって、ここであんただけ残して私が逃げたら……私が一生後悔するじゃない!」

 

説得を試みようとするガイアに、真姫はそう告げた。

 

 

「確かに関係ないかもしれない……でも、あんた一人で抱え込もうとしなくてもいいじゃない、困ってるなら隠してないでちょっとくらい相談しなさいよ……私たちはもう、他人じゃないんだから!」

 

 

 

ガイアに反論の余地を与えずにまくし立てた真姫、そして彼女の言葉にガイアはすぐに言葉を返せなかった。

 

『……真姫ちゃん……っ!』

 

だが、そんなやりとりをしているうちにもう既にサタンビゾーは二人のすぐそばにまで近づこうとしていた。

それに気づいたガイアはサタンビゾーのいる方に正面を向けてから慌てて再び真姫に向き直った。

 

『……こうなったらもう一か八かだ、真姫ちゃん君の力を貸して!』

 

「私の力って……何かあるの?」

 

『うん、僕はもともとこの状況をなんとかするための力を持っている……だけど、この姿じゃその本来の力を出すことが出来ないんだ、でももしかして君なら……いや、きっと真姫ちゃんなら』

 

説明するや否や、真姫の目の前で浮遊していたガイアが再び光に包まれ、その姿をさらに変質させた。

そして、光が収まり、姿を現したのは金色の縁取りが施された無骨なVの字を描いたシルエットに、中央の藍色のパネルが施された物だった。

 

「これは…?」

 

『これは“エスプレンダー”、これを掲げて、僕の名を呼べば君は僕と一体化して、僕は本来の力を出すことができる……もう一度言うよ、真姫ちゃん……力を貸してくれ!』

 

目の前で浮遊するエスプレンダーから聞こえてくるガイアの言葉、この状況で見つけた、唯一の希望の“光”。

そして、真姫はじっとエスプレンダーを見つめた後、決断した。

 

「……いいわよ、これしか方法がないんでしょ? あなたと私が一緒に助かる方法は!」

 

真姫は意を決した表情を浮かべるとエスプレンダーを手に取り、裏側の持ち手に手をかけた。

そして、こちらに向かってくるサタンビゾーを睨みつける。

 

サタンビゾーは右手の爪を振り上げ、彼女に向かって振り下ろそうとしている。

 

このままでは彼女はサタンビゾーの爪に引き裂かれてしまうだろう、だがそれでも真姫は億することなく手に持ったエスプレンダーを左肩にあてがうとそれを思い切り真正面へと突き出し、叫んだ。

 

 

 

「ガイアーーーーーーー!!」

 

 

 

それを合図に、エスプレンダーから解放された赤い暖かな光が真姫の体を包み込んだ。

その光は真姫の中にある不安や恐怖と言った感情を包み込み、ふっと彼女の心にこの絶望的な状況の中で安心感を与えてくれた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

サタンビゾーの真正面に、突然眩い真紅の光の柱が立ち上がる。

その光に気圧されるようにサタンビゾーが後ろに二三歩後退する。

地面から立ち上った赤い光の柱はその光の勢いを徐々に強めていき、やがて空高く登っていくと、その光が徐々に静まっていき………

 

 

 

「デュア!!」

 

 

 

光の柱の中から赤き巨人が姿を現した。

 

赤と銀色の体、胸に備わった金の縁取りに黒のプロテクターのような物、そして胸の中央の逆三角形の水色に輝く水晶。

 

光の中から現れた巨人はそのまま地面に向かって降下していき、そして腰を大きく落とした状態で着地した。

その瞬間、地面が爆発するかのような土煙が上がる。

 

そして、その中で巨人はゆっくりと立ち上がると目の前にいるサタンビゾーを銀色の顔にある乳白色の楕円形の双眸で睨みつけた。

 

「ディア!」

 

開いた左手を前に、握り拳にした右腕を曲げた構えを取り、サタンビゾーと相対する赤い巨人。

 

そう、この姿こそ人形の姿をしていたガイアの本来の姿。

 

 

大地の力を宿した地球の意思が生み出した戦士……“ウルトラマンガイア”である。

 

 

光と共に本来の姿を現したウルトラマンガイアを前にサタンビゾーは動揺するかのような素振りを見せる。

だが、すぐに右手を振りかぶり爪を構えるとガイアに向かって走り出した。

 

「……ダァ!」

 

それと同時にガイアも走り出し、サタンビゾーとガイアの間にできた間合いをどんどんと縮めていった。

そして、その距離が埋まった瞬間、サタンビゾーが右腕を振り下ろしてガイアを爪で攻撃した。

だが、ガイアはサタンビゾーの一撃を身を低く屈めて回避し、反撃にサタンビゾーの体に力強い回し蹴りを打ち込む。

 

鈍い音と共に漆黒の体を大きく揺らしたサタンビゾー、しかし、すぐに体制を立て直すと反撃とばかりに横薙ぎに爪を振るって攻撃してくる。

だが、ガイアは冷静にその一撃をバックステップをとって回避するとまた間合いをとって再び構えを取り、サタンビゾーを牽制する。

 

爪の間合いに入らないように気をつけながら身構えるガイア、それに対し、サタンビゾーは攻撃の隙を伺っているかの如くガイアを見据える。

 

「………っ!」

 

だが、サタンビゾーは接近してくることはなかった。

 

サタンビゾーの体の黄色のラインから突然、強力な光を放つ光弾が発射されたのだ。

 

「デュアァァァァア!?」

 

不意打ち同然の攻撃にガイアはたまらずその攻撃の直撃を受けてしまい、大きく後ろに後退する。

その隙を狙って、サタンビゾーは一気にガイアに接近するとアンバランスな体についた足を振り上げてガイアを蹴り飛ばした。

 

地面に轟音を立てて倒れこむガイア、サタンビゾーはさらに追い打ちをかけようと爪を振り上げ、ガイアに突き刺さんとばかりに振り下ろす。

だが、ガイアはその一撃を横に体を転がすことで紙一重で回避する。

そして、そのまま受け身を取りながら体制を立て直し、立ち上がったガイアは再度身構えると一気にサタンビゾーに向けて走りだし……

 

 

「ディア! ……デュァァァア!」

 

 

サタンビゾーの右腕を抱えるようにして拘束し、右腕から伸びる爪にめがけて思い切り肘を打ち下ろし、その二本の爪を纏めてへし折った!

 

武器を折られ、動揺するサタンビゾーにさらに追い打ちで回し蹴りと後ろ回し蹴りを立て続けに打ち込んで怯ませると、ガイアはさらにサタンビゾーな体に拳を叩き込んで大きく後ろに後退させる。

 

ガイアからの猛反撃を受けたサタンビゾーだが、まだ戦える武器は残っていると体の前で腕を交差させると、それを左右に開く動作をして、再び体のラインから破壊光弾を発射する。

 

「ディアッ!!」

 

しかし、ガイアは二度同じ手を喰らいはしない。

 

ガイアは両腕を前に突き出すと手の平からサークル状の光の障壁、“ウルトラバリアー”を展開し、サタンビゾーの破壊光弾を防いだ。

 

自身の攻撃を防がれて激しく動揺するサタンビゾー。

それを見てガイアは強力な一撃を放つべく、両腕を左右に大きく広げた。

 

「ディア! ……ァァァァア……!」

 

その瞬間にガイアの周囲に光の粒子が発生し、ガイアが身を低く屈めるとガイアの頭部に集まっていく。

そして、それはやがて鞭のようにしなる“光の刃”を作り出す。

両腕をあげて、ガイアは光の刃を大きく後ろに逸らす………そして………。

 

 

 

「ディァァァァァァァア!!」

 

 

両腕を前に振り下ろすと同時に頭部の光の刃を発射、“フォトンエッジ”をサタンビゾーに直撃させた!

 

 

ガイアの強力な一撃を受けたサタンビゾーはその威力のあまりに地面に倒れ伏し、そのまま轟音と共に、爆発した。

 

なんとかサタンビゾーを退けることができた、ウルトラマンガイアと真姫。

戦いが終わり、静寂が辺りを包み込む中、ガイアは空を見上げる。

 

すると、いつの間にか雨を降らしていた雨雲は何処かへと去り……その間から眩い“光”が差し込んでいた。

 

 

 

 

これが、“三人目の出会い”…。

 

μ'sのメンバー、西木野 真姫。

 

そして、大地の意思を宿した赤き巨人、ウルトラマンガイアとの出会いだった…。




いかがでしたか?

ていうかこれ二万字も使ってたのか…書いてて気づかなかった…。

さて、それはそれとしては……次回も更新は未定ですが、お楽しみに!

次は誰がどのウルトラマンと出会うのか…。


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諦めずに飛び立つために ことりと正義の巨人

どうも、白宇宙です!

久々にこちらを更新、一ヶ月くらい間が空きましたが、お待たせいたしました!

今回のお話は……ちゅんちゅんこと、ことりのお話!

彼女が諦めずに一歩を踏み出した時、正義の光が翼に変わる!

それではお楽しみください、どうぞ!


 

 

 

 

その少女は前で走れなかった…。

 

 

 

小さな頃、そうまだ子どものころ、ひょんな理由から出会った一人の少女と友達になったその時から、彼女には大切な居場所が出来た。

少女にはその時に出来た少女のような積極性も、活発に動き回る程の大きな度胸もなかった。

親のしている仕事が仕事でもあったので、他人の目を幼いながらも気にしていたのかもしれない…。

 

その時の少女は、まさに自分が生きている“巣”から勇気を出せずに飛び立つことのできない、“雛鳥”と同じだった……。

 

だが、そんな雛鳥が飛び立った時、彼女には掛け替えのない宝物がたくさん出来た。

今迄見ることのできなかった景色、今迄出会うことのなかった面白い事、今迄出会うことのなかった……たくさんの人……。

 

それを教えてくれたのは自分よりも遥かに元気で、いつも前を向いて勢いよく走り続ける自分と同い年の女の子だった。

同じ年なのにこんなに違う、自分よりもたくさんのことを彼女は出来る、それを知った少女は自然とその後ろについて行き、共にたくさんのことをしたいと思った。

 

まだ話したことのない同年齢の子ども達と関わり、普段行かないところに行き、普段はできないことをたくさんして来た。

中には木に登ってやや危ない目にあったりと言った物もあるのだがそれも今となってはいい思い出である。

 

そして、そんな大切な友と長い時間を共にしてやがて少女は高校生となった。

 

だが、その矢先に訪れたのは予期せぬ自体だった。

 

彼女達が通う高校、“音ノ木坂学園”が“廃校”の危機に瀕していたことである。

もともと女子校という、生徒が女子という限定された環境は少子高齢化社会の今ではなかなか厳しい物であり、同時に古くから存在する高校故に新しい学校ができて行くにつれて生徒もそちらに行き、入学志願者も少なくなる一方……。

 

高校生としての生活を謳歌する少女の友人は、その通達を受けた時、かなりのショックを受けていた…。

彼女はこの学校が大好きだから……この学校は彼女にとっての掛け替えのない物だったから。

 

だがそんな状況の中で、また少女の友は動いた。

 

 

 

スクールアイドルとして、この学校を存続させるために奮闘する道を……

 

 

 

この時、少女もまた決意した。

 

自分の大切な人達が通い、未来のために懸命に羽ばたこうとする……彼女達と共に………自分も、羽ばたくことを………。

 

 

 

「始めまして、μ'sの“南 ことり”です!」

 

 

 

自分の大切な友が守ろうとするこの学校を守るため……自分達がいるこの大切な居場所を守るため……彼女は小さな羽を大きく羽ばたかせる決意を固めた。

 

そして、その志を同じくする物が集まり始めて……気付いた時には……

 

 

 

 

「μ's!!ミュージック、スタート!!」

 

 

 

 

大切な仲間が……“居場所”が賑やかになり、彼女にとってより掛け替えのない宝物になっていた。

出会い、話し、経験し、学び、悩んで、笑って……彼女にとって、この“居場所”は何物にも代え難いものになっていた。

 

 

そして、同時に新たな“挑戦”もこの時から始まった…。

 

 

だが、彼女はある日、さらなる一歩を踏み出し…とある出会いを果たすこととなった。

 

 

 

これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。

 

 

 

 

 

~ウルトラブライブ! 9人の少女と光の勇者達~

 

「諦めずに飛び立つために ことりと正義の巨人」

 

 

 

 

 

休日、高校生にとって休日をどのように過ごすかは人それぞれである。

部活がある時は朝早くから昼過ぎまで練習に明け暮れる生徒もいれば、休日で空いた予定を有意義に過ごすために何処かへ出かけたり、趣味に没頭する生徒もいるだろう。

だが中には、ちょっとした理由から働く生徒もいる。

 

そう、“アルバイト”、つまりは“バイト”だ。

 

理由は人それぞれで、単に小遣いを稼ぐため、生活を助けるためなど人によって様々な理由でバイトをすることがある。

 

だが、それとは別な理由でバイトを始めることも少なからずある。

 

“彼女”がそうなように………。

 

 

 

「いらっしゃいませ、お客様、3名様でよろしいですか?」

 

 

 

その辺りの趣味を嗜む人間にとっては別名で聖地とも呼ばれる街、“秋葉原”。

多くの人たちが秋葉原の街を歩き回り、目当ての物を散策するこの街にある一件の喫茶店。

 

いや、ここは主に10代の少女がメイドと呼ばれる職に付いた人間が制服として着る衣装、所謂“メイド服”に身を包んで訪れた客を接客する飲食店、“メイド喫茶”だ。

 

現代、メイドという存在は二次元に多く見られることが多く、三次元のリアルなメイドを求める人物や、単に観光で訪れた人物が興味本位で訪れるこの店では、働くメイドとして接客を行う女性職員達がメイドとしての振る舞いを心掛けて、出迎え、席へのエスコート、そしてメニューの確認から料理を運ぶまで、リアルなメイドを意識したサービスを提供する。

 

そんなメイド喫茶に来店した3人の客を出迎えた彼女もまた、このメイド喫茶で働くアルバイトの一人、同時にこの辺りでは名がしれた“カリスマメイド”の二つ名を持つ人物であった。

 

「こちらの席にどうぞ、お冷をお持ち致しますので少々お待ちください♪」

 

灰色がかった挑発を上で一纏めにし、タレ目君のおっとりした眼差しで来店したお客を出迎えるメイド服に身を包んだ少女。

 

彼女の名はアキバのカリスマメイド“ミナリンスキー”。

 

 

本名、音ノ木坂学院2年、南 ことり。

 

 

音ノ木坂学院スクールアイドル、μ'sのメンバーである。

 

「今日も来ちゃったよ、ミナリンスキーさん」

 

「いやー…やっぱり癒されるなぁ、ミナリンスキーさんの笑顔…」

 

「俺もう今週5回目だよ、ここに来るの」

 

「いつもありがとうございます、今日もゆっくりして行ってくださいね?」

 

このバイトを初めて、もうしばらく経つ。

最初こそふとしたきっかけで始めたこのバイトだったものの、気づいた時にはカリスマメイドなんて呼ばれるようになり、自分を慕って来てくれるリピーターのお客も増えてきた。

 

こうしてリピーターの常連さんとも親しく会話しているものの、最初こそ、こうなるなんて思っても見なかったのだが…

 

「こちらメニューになります、お決まりになりましたらお手元のベルを鳴らしてお呼びください」

 

手際よく人数分のお冷を運び、メニューを渡して清楚な笑顔を浮かべるあたり、かなり慣れたものだ。

人間というのは何であれ回数を重ねれば慣れていくものなのだな、とふと感じてしまう。

 

「すみませーん、注文いいですかー?」

 

「かしこまりました、只今参ります」

 

別の席のお客のオーダーを確認し、メモを取る中、ことりは最初にこのバイトを始めた時のことをふと思い出した。

 

まだμ'sが三人だけで始まって間もない頃、スクールアイドルの情報収集とアイデアを見つけるために秋葉原を散策していた時にこのお店の勧誘を受けたのをきっかけに、このメイド服に袖を通した。

まだ半信半疑で、今では先輩となっている店員から太鼓判を押され、半ば押し流されるかのように連れて来られたこの店で初めてメイド服に袖を通して、気づいたらこのお店でアルバイトをしていた。

 

μ'sのメンバーの衣装作りの参考としてもメイド服が魅力的だったというのもあるが……なによりも、あの時のことりにとっては、このバイトはある意味で“挑戦”だった。

 

 

ことりはこの時、他のメンバーに比べて自分にはこれと言った自信に繋がるものがなかった。

そのため、自分には幼馴染である穂乃果や海未に比べて、“なにもない”と思っていたのだ。

みんなを引っ張るようなカリスマ性も、叱咤する強さもない自分はこれからμ'sとしてみんなの支えになれるのか……穂乃果のように前を向いて行けるのか、不安だった。

だからこそ、何かを見つけられるかもしれない……何かに繋がるかもしれないと、このバイトを続けたのだった。

 

(けど……まさか、あんな形でみんなにバレちゃうなんて、思わなかったな)

 

以前に、偶然にもメンバー全員にこの事が知られた時はどうなることかと思ったが、今となってはいい思い出になった。

あれがあったからこそ、ことりは新しい一歩を踏み出せたと言っても過言ではないだろう。

この秋葉原で行ったライブのことは今でも鮮明に覚えている。

 

(……よし、今日もバイトがんばって、次の練習にも繋げられるように頑張らなきゃ!)

 

以前のことを思い出して意気込むことり、彼女にとってこのアルバイトもμ'sとしての活動も同じくらいに大事なのだ。

 

 

 

「おい、そう言えばさ聞いたか? 例の妙な噂」

 

「あぁ、この辺りで最近話題になってる、“あの話”か? 目撃者とか増えてるらしいけど…」

 

 

 

 

ことりが人知れず意気込んでいる中、ふと彼女の耳になにやら気になる話が聞こえてきた。

この辺りで話題になってる話とは、一体なんだろうか? もしかしたらスクールアイドル関連の新情報かなにかだろうか?

 

「あの……あの話ってなんですか?」

 

気になったことりはメニューを聞くついでにその話をしていたお客に思い切って聞いて見た。

 

「お? なに、ミナリンスキーさん知らないの? 最近アキバで有名な噂」

 

「ミナリンスキーさんならもう知ってると思ったんだけどな……」

 

「す、すみません、なんだか気になっちゃって…」

 

ことりの問いかけに意外そうな顔を浮かべる二人の男性客、しかし、こちらは知らないのだからなんとも言い返し用がない。

とりあえずことりは申し訳なさそうに笑みを浮かべて答える。

 

「……まあ、ミナリンスキーさん忙しいみたいだし、知らなくても仕方ないかな? じゃあ、せっかくだし教えてやるよ」

 

だが人当たりのいい常連客のその男性はそう返すとこほんと咳払いを一つして上着のポケットに入れているスマホを取り出した。

 

 

 

「最近ネット掲示板とかで話題になってるんだけどさ、この辺りに出るらしいんだよ………“蛍”が」

 

「…蛍? …あの虫の、ですか?」

 

 

 

 

男性客がそう言って操作していたスマホをことりに手渡してくる。

ことりが男性客の言ったことに疑問を感じながらもスマホを受け取ると、スマホの画面にはこの秋葉原を中心にしたオカルト関連、所謂“都市伝説”の纏めページが表示されていた。

そして、そのサイトの現在トップとして上がっている話題が……その男性の言う、“蛍”に関する物だった。

 

「通称、“秋葉原の隠れホタル”、最近この辺りで目撃情報が絶えないんだよね、蛍を見たって」

 

「……でも、こんな都会で蛍なんて普通見ないですよね?」

 

「そう! そこなんだよ、聖地であり電気街であるここ、アキバに蛍が住めるようなとこなんて普通ないんだ、それなのに最近暗がりとか、夜になったらよく目撃されるようになったんだよ、その蛍が」

 

男性客が説明する蛍についての話題、それを聞きながらことりはなんとなしに纏めページに掲載されている秋葉原の隠れホタルについてのページをタップしてみた。

 

すると、ページが切り替わり、そこには幾つかの写真が添付されていた。

 

男性の言うとおり、夜の闇にぼんやりと小さな緑色の光が幾つか浮かんでいる。

しかもそれだけでなくまだ日が出ているような時間帯なのに、暗がりで浮かび上がる緑の光を捉えた写真も確認できる、その姿はまさに蛍その物のように見えた。

 

しかし、蛍が秋葉原のような都会で見られることはなかなかないと言うことはことりでも知っていた。

 

蛍は本来、綺麗な水の川などの水辺に生息する昆虫であり、秋葉原にはそんな蛍が生息できるような水辺が少ないはず……それなのに、なぜこんな大都会のど真ん中で蛍が確認されるようになったのか……。

 

「なんで蛍が見られるようになったのかはわかんないんだけど……噂じゃあ、この秋葉原の何処かに蛍が住み着いてる場所があるとか、誰かが遺伝子操作で作り出した進化した蛍を実験で外に出されたとか、いろんな情報が毎日更新されてるんだ」

 

「え? 俺は蛍に襲われた人がいるって話聞いたけど…」

 

「バカお前、蛍が人間を襲うはずないだろ? そんな凶暴でもないし」

 

興味深そうにスマホの画面を見つめることりをそっちのけで蛍に関するそれぞれの考えを交え始める男性客たち。

そんな中あまりこういう話題には疎いことりだが、なぜかこの時、彼女はこの話題に妙な興味を抱いていた。

 

蛍という都会離れしたロマンチックな存在に興味が湧いたと言うのもあるが、最近はこの秋葉原ではなにかと不思議なことが話題に上がると言うことが多くなっていたのだ。

 

「そう言えばこの前も不思議な流れ星があったし、不思議なことばかりですね」

 

「あー、確かに……思えばあの流れ星からこういう話題が上がるようになったんじゃないか?」

 

「まあ、最近はスクールアイドルもそうだけど、こういうオカルト話も人気になって来たよな」

 

「………あ、それよりも、お客様? ご注文はお決まりですか?」

 

そんな何気ない会話を交わしながら、ことりはこの秋葉原の隠れホタルがなんなのかを気にしながら、本来の務めを思い出した彼女は二人の男性客の注文を確認する。

 

すると……

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

突然、店の電気が数回点滅しだと思ったら停電したのだ。

 

「……なんだか最近多いですね、停電」

 

「確かに、ここ以外の店でもたまに停電するらしいよ?」

 

「電気会社はなにしてんだろうな……あ、そうそう、俺は……」

 

しかし、男性客もことりも始めてのことではないのかそう言ってメニューを確認し始める。

実はこの現象は今に始まったことではないのだ、しばらくしたら復興することもあってか、彼女も男性客もそんなに困ることはなかったのだ。

 

そのためことりはいつも通りに仕事を続ける。

 

 

 

 

だがしかし、この不思議な話と現象が、彼女の新たな出会いのきっかけになるとは思いもせずに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ことりは学院に登校し、休み時間を利用してある人物の元を訪れた。

 

 

「……え? 秋葉原の隠れホタル?」

 

「うん、希ちゃんなら何か知ってるのかなーって…」

 

 

同じμ'sのメンバーにして三年生の先輩である、東條 希のところである。

ことりが突然訪れて、いきなりそんな話題を振ってくるとは思わなかった希は若干珍しいと言いたげな表情を浮かべてことりを見つめる。

 

「ことりちゃんがそんなスピリチュアル満々な話をして来るなんて、珍しいね? なんかあったん?」

 

「ううん、特にこれと言った理由があるわけじゃないんだけど……実は昨日バイトしてたらその話を聞いてなんだか、気になっちゃって」

 

「あー、最近はそう言うのがよく話題にあがるからな~、お仕事しとったら聞いちゃうこともあるわけやな」

 

ことりの話を聞いてなにやら納得したような返答を返した希は柔らかな微笑みを浮かべた。

 

「そうやね、せっかくやしうちが知ってることを教えるわ」

 

そう言うと希は何処からか自前のタロットカードを取り出して、ぴっ、と一枚のカードを取り出してことりに絵柄を見せながら得意げな笑みを浮かべた。

 

「これも、このカードと同じ、“運命”かもしれんしね?」

 

「……運命……?」

 

希の言葉に首を傾げることり、だが彼女にはお構いなしに希はそのカードをとりあえずとポケットの中に仕舞うと話題に上がった秋葉原の隠れホタルについての話を始めた。

 

「まず秋葉原の隠れホタルが見られ始めた時期なんやけど……これは前に穂乃果ちゃんが見たっていうカラフルな流れ星さんが見られた時と重なるんや」

 

「え、そうなの? 結構最近なんだ……」

 

以前に穂乃果を含む数人が目撃したという色とりどりの流れ星、あれはつい先週かそこらだったことをことりは覚えていた。

ことりの言葉に希がこくりと頷く。

 

「そう、あの流れ星が見られた次の日あたりの夜から目撃されるようになったんや、名前にあるとおり秋葉原のあたりでな?」

 

「でも、どうして秋葉原なんだろう……蛍が住めるような場所ってわけじゃないのに……何処かに住める所があるのかな?」

 

希の説明にことりが不思議そうに首を傾げながらそう呟く。

すると希はそれを聞いた瞬間、にっ、と口元に笑みを浮かべた。

 

 

「………そう、この話題の大事な所はそこなんよ、ことりちゃん」

 

「………ほえ?」

 

「どうして秋葉原に蛍が見られるようになったんか……問題はその蛍がどこから来てるか」

 

 

希はことりにそう言うと、彼女のスマホを取り出して指を液晶画面に走らせる。

そして、しばらくして希は秋葉原の地図を映し出した地図アプリを立ち上げてそれをことりに見せる。

 

「実はな、蛍が見られてるのは秋葉原全域って訳やないんよ、見られるのは主に……この辺りやね」

 

希は画面に表示された地図に指で範囲を示すように小さく円を描く。

 

「発見情報とか、ネットに上げられてる画像から見るとどこもこの辺りを中心にした物が多いんよ」

 

「へぇ……あれ? この辺りって確か、結構前に別の噂があった場所じゃない?」

 

その範囲を目にした時、ことりはあることを思い出した。

この蛍の話を聞く以前に同じようにお客から今まさに希が示した範囲のあたりを中心にしたとある噂が広まっていたことを思い出した。

 

 

 

「おぉ、気づいたみたいやね? そうここは前にネットでも話題にあった都市伝説の一つ………“地下大空洞”があるかもしれんって言われた場所やよ」

 

 

 

“地下大空洞”

 

それはμ's発足より少し前まで話題にあった秋葉原の都市伝説だ。

 

内容は秋葉原のどこか、街の地下深くに謎の大空洞が存在するという物だ。

地下鉄の何処かにその第空洞に繋がる入り口が存在し、地下には自然に出来たとは思えない大きな空間が広がっているとのことだ。

この都市伝説に何人かの人間が独自に捜索を始めたらしいが、これと言った結果は得られず、時間とともに自然に消滅していった情報だ。

 

しかし、なぜその都市伝説があったとされる場所を中心に、今度は蛍が現れたのか。

 

「うちはな、この二つの都市伝説が何かしらの関係があると思ってるねん」

 

「関係? なんで? 蛍がその空洞となんで関係してるの?」

 

「………どこを探しても見つからない蛍の住処、それが地上で見られないなら、考えられるのは………“下”やん?」

 

「………あ」

 

そう言われてことりは理解した。

蛍が一体どこから来てるのか、一体どこに住処があるのか…。

この二つに関係するとしたら、上がるのは一番の謎とされている蛍の住処だろう。

 

「もしかして……蛍はその地下空洞から?」

 

ことりが希に問いかけると、希はなにやら満足気な笑みを浮かべてこくりと頷いた。

 

「実際に、地下鉄のホームでも蛍を見たって情報はあるしね」

 

確かに仮説とは言え、この二つの都市伝説が関係するとしたら理にかなった話だとは思う。

もし、その第空洞に蛍がいるなら……そこには見たこともない光景が広がっているのだろうか……。

 

ことりがもしもと考えてほんの少しばかり妄想してみる。

地下の第空洞に広がる暗闇の中でふわふわと浮かびあがる蛍の綺麗な光……想像するだけでも、幻想的な空間が広がっているのだろう…。

ことりはその光景を思い浮かべて、なんとも言えないロマンチックな雰囲気を感じずにはいられなかった。

 

「……ことりちゃん、見てみたいん?」

 

「…え? み、見てみたいって…?」

 

「蛍さん、その住処」

 

ことりの満更ではなさそうな表情を読み取ったのか希はそう提案してみる。

するとことりは表情を読み取られたことに対して苦笑いを浮かべるが内心は興味津々だったのか、すぐに首を縦に振った。

 

「ま、まあ、見たくないって言ったら嘘になるかな? 私も間近で蛍って見たことないし」

 

ことりがそう言うと、希はなにやら悪戯っ子のような笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

「ほんなら、ちょっと探してみる? 秋葉原の蛍さん」

 

「………ほえ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、μ'sの練習をひとまず終えたことりと希はそのまま秋葉原へと直行した。

今いるのは秋葉原の移動手段である地下鉄のホーム、そこにことりと希は来ていた。

 

「まさか本当に来るなんて……」

 

「うち自身こういうスピリチュアルな話には目がないからね~♪ せっかくやし、ことりちゃんもってね?」

 

「………まあ、確かに、見てみたいっていうのは本当だけど」

 

突然始まった希との都市伝説捜索ツアーにことりは何かしらの不安や、期待にも似た感情を感じながらも地下鉄のホームを希と一緒に歩き始めた。

 

「でも、本当にいるのかな? こんな所に蛍って」

 

「……まあ、おらんにしても何かしらの物がおるとは思うんやけどね?」

 

「の、希ちゃん? 変なこと言わないで……ちょっと怖い……」

 

冗談交じりなのか、隣を歩きながらそういった希にことりがそう告げると、希はほんの少しばかり申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

「あはは、ごめんやん? ……でも、なんや最近秋葉原でおかしなことが起きてるらしいやん? 停電とか」

 

「あ、うん、確かに最近多いよ? 停電とか……」

 

「もしかしたらその停電、何かが関わってるかもしれんで?」

 

「な、何かって?」

 

「それはうちにもわからへんな」

 

希のその言葉にことりは不安を募らせるが希はそんなことは露知らず、最後にそう告げるとことりは軽く呆気に取られて、その場でコケそうになってしまった。

 

「…まあ、なんかあったらすぐに逃げればええ話やん? いざとなったらうちが守ったるし」

 

「の、希ちゃん、なにかある前提で話を進めないでよぉ…」

 

希の話に不安を感じ始めたことりが彼女にそう告げる。

彼女が言うと、まさかと思っていたことも本当のことではないのかと思えて来てしまうから怖いのだ。

 

しかし、希はことりにまあまあと言いながら宥めると再度あたりを捜索し始める。

 

夕方近くとは言えまだまだ人が多い駅のホーム、正直に言うとこんな所に出るかどうかを考えても本当かどうかも疑ってしまうのだが…。

 

 

「……でも、ことりちゃん、ほんまにどうしたん? あんまりこういうの興味あるって感じやなさそうやったんやけど」

 

「あ、うん……まあ、なんていうか……私もちょっと、いろいろ前に進みたいなって」

 

 

希がふと気になってかことりにそう言うと、ことりは不安に感じながらも希にそう告げた。

 

前に進みたい、その言葉に希はなにやら予想してなかったと言いた気な表情を浮かべる。

 

 

「前にって?」

 

「……私ね、ちょっと前までみんなに大切なこととか言わないでいろいろ迷惑かけたり……なんだか、まだみんなみたいに進めてない所があるんじゃないかなって……思えることがたまにあるんだ」

 

 

あの時もそうだった。

 

ことりは積極的に前に出るような性格ではない、みんなの一歩手前に立って、表立って迷惑をかけたくはないと感じるあまりになにもできずに終わる。

そのせいで、彼女はなにか大切な物を失いかけた………。

 

でも、それを救ってくれたのは……自分の中で、いつの間にかみんなを見守りたいという思いを殻にして、嫌われたくないからと本心の何処かで感じていた己の殻を盾にしていた自分を………その思いのために迷走していた自分に手を差し伸べてくれたのは……あの時と同じ、始めて会った時と同じように手を差し伸べてくれた大切な幼なじみだったのだ。

 

彼女は、穂乃果のように率先的に前を進めなかった。

だが、それではいずれ彼女には追いつけなくなってしまう。

 

置いていかれないように、彼女と一緒に道を走り抜けられるように……ことりはあれから決意したのだ。

 

前に進もうと、そのためにもたくさんのことをしようと……

 

「あんまり関係ないかもしれないけど、私もいつもとしないことをしてみようかなって…それで少しでも何かに繋がるなら…」

 

「………頑張ってるんやね、ことりちゃん」

 

ことりの胸の内を聞きながら希はそう言うと、ことりに向き直り微笑みを浮かべた。

 

「……なら、何かに繋がるようにうちも協力しようかな?」

 

「あはは……本当はちょっと怖かったりするんだけどねぇ…」

 

そして、二人は再度都市伝説捜索を始めようとする。

 

すると………

 

 

 

「………あれ?」

 

 

 

ふと、辺りに視線を巡らせた時にことりが何かを見つけた。

 

人混みが行き交う、ホームの片隅、誰も目を止めることがないような目立たないホームの隅の暗闇に……一瞬だが、小さな緑の光が横切ったのを……

 

「いた……いたよ、希ちゃん!」

 

「え? ほ、ほんま!? あ、ちょ、ことりちゃん!?」

 

それを目にしたことりは希を置いてその光を見失わないように早足でその後を追いかけていった。

その後ろに希は着いて行く……だが、その際に希はさっきことりには見せたことのないような表情を浮かべた。

 

 

 

「っ………それ、ほんまなん? ………だとしたら、これ………ちょっと、悪い方の運命やったかもしれんな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふわふわと浮かぶ蛍を追いかけて、ホームを行くことりと希、見失わないように追いかけ続け、気づいた時にはことりと希はあまり人が来ないような人気のない場所へと来てしまった。

 

「あれ……ここ、どこなんだろう……」

 

ことり自身も夢中になっていたあまり、どうやってここに来たのかあまり覚えていない。

その場所に迷い込んだことりは後ろに希がいることを確認しようと振り返る。

 

 

だが、不運なことにそこには希の姿がなかった。

 

 

どうやら知らないうちにはぐれてしまったようだ。

 

「そ、そんなぁ…こんな所に一人って、流石に私も無理だよぉ…」

 

一気に不安が増していくことり、そのままあたりをキョロキョロしながらなんとか連絡を取ろうとスマホを取り出して希のスマホの番号を入力しようとするが……

 

「………圏外………」

 

とことんついてない…。

 

連絡手段も絶たれたことりががっくしと肩を落とす。

これからどうやってここから出たらいいのか………ことりが不安に思いながらもそんなことを感じていると………

 

「………あ」

 

そこに再び、あの蛍が現れたのだ。

 

ふわふわと浮かんで浮遊する場違いな蛍、状況がこんな状態とは言え、この蛍に出会えた時、ことりには安心にも似たような感情を感じた。

 

そしてその時、ことりはあることを思いついた。

 

「そうだ! 蛍が外にも出てるなら着いて行ったら何処かに出られるかも!」

 

蛍に道標を頼み、地上に出られる可能性にかけてみることにしたことり、本当に出られるかどうかはわからないがこの状況でなにもしていないよりかはマシだ。

そう思ったことりが蛍の後をついて行こうとすると……

 

 

 

 

 

ーーー……離れろ……ここは危険だ……。

 

 

 

 

 

「……?」

 

不意にどこからか聞こえた謎の声、それを聞いたことりは足を止めて辺りを見渡す。

だが、どこにも声がするような人影は見当たらない。

 

聞き間違いかなにかかとことりは首を傾げたことりはあまり気にすることもなく、目の前の蛍を再び追いかけ始めた。

 

 

 

……その後ろに、眩い光が彼女を見つめるように浮かんでいることにも気づかずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なに……これ……!」

 

ことりが蛍を追いかけていき、しばらくすると彼女はある場所に辿り着いた。

 

だが、そこで見た物を目にした時、ことりは驚愕のあまりに目を見開いた。

 

 

 

そこにはなんと、大量の蛍が群れをなし、ある物に集るかのように固まっていたのだ。

そして、蛍が集まっているもの……それはどうやら“発電機”のようなものらしかった。

数台配置された発電機全てに群がるように集まる蛍、その光景は正直に言うと、異様としか言えない光景だった。

 

バチバチと音と電気を放ちながらも蛍はまるで嬉々としているかのように蠢き続ける謎の蛍、あまりにも異様すぎるその光景にことりは本来のロマンチックさなど微塵も感じず、畏怖にも似た感情を感じた。

 

そして、反射的に察した……。

 

この蛍たちがこの発電機に群がる理由を………

 

 

 

「……もしかして、これ……電気を食べてるの……?」

 

 

 

だとしたら、最近このあたりで停電が頻発するようになった理由にも説明がつく。

この蛍たちは人知れず、地上にも姿を現し、今と同じように何処かで電気を貪るように食べていたのだ。

だからここ最近、この辺りで停電が相次いで発生してたのだ。

 

ことりはこの光景にそう仮説を立てたとき、同時にこの謎の蛍達を放っておくことは出来ないと反射的に感じた。

このままでは何か、嫌なことが起きると彼女の中にある本能がそう告げている…。

 

そう感じたことりはこの蛍達をどうにかしようとするが、対応策を思いつかない…。

ことりがどうしたらと迷いを見せてる中……。

 

 

「っ!? きゃっ!」

 

 

突然蛍が強い輝きを放ちながら発電機から一斉に離れた。

そして、一気にことりの方に向かってきたのだ、それに対してことりは反射的に目を瞑りその場にしゃがみ込む。

 

だが、謎の蛍たちはことりに目もくれることもなく通り過ぎて行った。

 

「………あ、あれ?」

 

恐る恐ると言った様子で目を開けたことりが、蛍が過ぎ去って行った方に目を向ける。

すると、蛍は一斉に進路を変えてさらに何処かへと消えてしまった。

 

「………ど、どうしよう………」

 

それを見たことりは戸惑いを見せる。

あのような自体を目の当たりにして自分になにができるかなんてわからない……自分にはあんな物に対抗するだけの手段があるわけではない、本当ならここから離れて、頼りになる人に助けを求めたい。

 

 

……だけど、あの様子では何かがいつ起きるかわかった物ではない。

 

 

何かが起きてからでは、もう遅い……。

 

 

なんとかしないと、何かが起きる、その前に…。

 

「………わ、私も、頑張らないと……だから!」

 

意を決したことりが蛍が向かった方向に行こうとした……その時だった。

 

 

 

「えっ!? な、なに!?」

 

 

 

突如としてことりがいた足元が急に大きく揺れ初めたのだ。

地震の如く揺れ始め、反射的にその場に座り込んだことり、するとあたり一体に亀裂が入り始めたのだ。

 

このままではこの辺りが崩壊するのも時間の問題だ、ことりは慌てて立ち上がりこの場から逃げ出そうとするが……

 

彼女が立っていた場所の床が崩壊した。

立つ場所が無くなり、自身の体にふわりとした浮遊感が襲いかかり、遅れて彼女は床がほうかいしたことで生まれた大穴の中に落下していった。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」

 

成す術なくそのまま落下して行くことり、暗闇が続く穴の中に落ちていく。

どうにかしようにも捕まる場所も足元も見えないこの状況ではどうすることも出来ない…。

 

 

 

(………私、ここで死んじゃうの………こんな………こんな突然………そんな………)

 

 

 

この事態にことりはどうすることもなく、この状況を飲み込むことも出来なかった。

あまりにも突然すぎることに着いていけていないということもある。

 

抗う術も知らずに流されるかのように穴の中へと落ちていくことり…。

 

待ち受けるのは永遠に繋がる闇か………。

 

 

 

(こんな時……穂乃果ちゃんならどうするのかな……?)

 

 

 

その時、ふとことりの脳裏にいつも自分の前に立って、引っ張ってくれていた幼なじみのことが浮かびあがった。

もしこんな時に穂乃果がいたら彼女ならどうしたのか……。

ふとそんなことが脳裏を横切ったことり、そしてその答えは自然とすぐに出てきた。

 

 

 

(多分………こんなことで、諦めたりしないよね………穂乃果ちゃんなら………)

 

 

 

彼女はすぐにめげたりしない…。

 

どんなに苦しいことがあったも、前を向いて走り続ける…。

 

どんなに転んでも立ち上がり、走り出す…。

 

どんなに辛くても、絶対に諦めることはない…。

 

 

 

(……ダメだよね……こんな所で諦めたら、笑われちゃうよね……!)

 

 

 

前に進む、そう決めたから…。

 

 

こんな所で諦めたら、穂乃果に追いつくことなんて出来ない。

なら、ここで諦めるわけにはいかない、なんとしてでもこの状況を打開してみせる。

 

強い決意を胸にことりが目を開ける。

 

 

すると………。

 

 

 

 

『この状況でそんな目をするとは………なにがお前をそうさせる』

 

 

 

 

また、頭の中に不思議な声が聞こえた。

すると、目の前にさっきの蛍とはまた違った明るい光が現れた。

 

「………そう決めたから」

 

いつもなら戸惑うところだが、さっきあんな物を目にしてこの垂直落下している状況で、逆にことりは落ち着いていた。

じっとその光を見つめることりは聞こえてきた声にそう返答を返す。

 

「ここで諦めてなにもしなかったら、もう終わり……だけど、諦めなかったら何かが変わるかもしれないから……私の大切な人は、いつもそうしてきたから……私も……だから……!」

 

彼女の言葉に、光は何も言わずに目の前で浮かび続ける。

だが、しばらくすると光が一回り大きくなり始めた。

 

すると、その光が突然弾け、ことりの目の前に赤い体に黒と銀のラインを走らせ、銀色の顔に二つの双眼を輝かせる一体の人形が現れた。

 

 

 

『こんな絶望的な状況で、諦めず………希望を持ち続けるか……』

 

「あの……あなたは……?」

 

 

 

目の前の人形にそう問いかけることり、だがそれに対して人形は再び光に包まれると手のひらに収まるほどの大きさに縮小し、ことりの手の中に収まった。

その光を手にしたことりが手に握った物を見る。

すると、そこには先ほどの人形とは違い、一対の翼が中心の水晶のような物に着いているバッジのような物があった。

 

 

 

『希望を捨てずにいるなら……この力をお前に貸そう……この状況を打ち破る力を……』

 

「……本当、ですか?」

 

『………だが、危険も伴う………お前に、どんなことがあっても逃げ出さない決意が………勇気があるか?』

 

 

バッジから声が聞こえ、ことりに問いかけてくる。

それに対し、ことりは先ほどと同じ強い眼差しを浮かべながら、手にしたブレスレットをそっと握りしめた。

 

「………このままじゃダメだっていうなはわかるから………今更、そんなことで逃げたくない………私も、頑張りたいから!」

 

ことりかそう言ったその瞬間、彼女の握っていたバッジがそれに答えるように力強い輝きを放った。

 

 

 

『…なら、この力をお前に貸そう…私の力を………“ウルトラマンジャスティス”の力を………』

 

 

 

 

その瞬間、ことりの体が眩い光に包まれ………暗闇が続く大穴を明るく照らし出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことりが落ちていった大穴の底、そこには見たこと間ないような大きさの巨大な空洞が広がっていた。

人口的な補強により、壁のような物で固められてはいない……まるで洞窟のような不思議な空間。

そう、ここが都市伝説の一つとして話題に上がっていた“地下大空洞”そのものだったのだ。

 

そして、この空洞の奥深く……そこにはことりが目撃した謎の蛍が先ほど以上の数で一つの個体として群がっていたのだ。

激しい電気をスパークさせながらより強く輝きを放つ蛍…。

 

そして、やがて蛍たちはその姿を変貌させ始めた…。

 

まるで巨大な一匹の蛍を思わせるかのような姿、それに不気味にも無機物のような機械がいくつも組み合わさったような体で構成された異形の存在。

 

赤く輝く不気味な光を放つ二つの目、昆虫のような顔が特徴的な巨大なこの生物………その名は、“カオスバグ”。

 

このカオスバグが地上の電気を吸収していた理由、それはこの体を構築するエネルギーを求めた結果だったのだ。

小型の分身に別れたカオスバグはその体を作り出すために電気をエネルギーとして吸収し、体を構築したのだ。

 

体を構築したカオスバグは赤く輝く目の上に着いた触覚から光線を発射し、周囲を爆破し始めたのだ。

轟音が響く地下空洞、このカオスバグは外に出るつもりなのだ……。

 

もしこの怪獣が地上に出たら、この上にある秋葉原の街は崩壊してしまう。

 

甲高い鳴き声を上げながら光線を打ち出すカオスバグ、振動と共に地下空洞に揺れが生じる…。

 

 

だが、その時……暗闇が包む地下空洞に、一筋の光が舞い降りた。

 

 

突然現れた眩い光に驚くような動きを見せたカオスバグ、注意を光へと向けたカオスバグ……そして、しばらくしてその光が静かに晴れると………。

 

 

 

そこには、巨人がいた。

 

 

 

光に包まれ、姿を現したのは真紅の体に黒と銀のラインを走らせ、胸には銀色のプロテクターとひし形の青い水晶を持ち、二つの光り輝く双眼を持った銀色の顔…。

 

 

凛とした姿で地下空洞に降り立った光の巨人、それを前にしてカオスバグは警戒を見せる。

 

「………シュア!」

 

巨人は両手で拳を作り、身構える。

それに対して、巨人を敵と判断したカオスバグもまた臨戦態勢にはいる。

 

 

正義の名を宿した光の巨人、“ウルトラマンジャスティス”とカオスバグが地下空洞で激突した。

 

 

目の前に現れたウルトラマンジャスティスにカオスバグは先制を仕掛けるべく額の触覚から光線を発射する。

それに対し、ジャスティスは両腕を前に突き出して光の障壁を展開し、その光線を遮る。

 

バリアによって攻撃を防いだジャスティスはそのままカオスバグに向かって走りだした。

そして、その勢いに乗せてジャスティスは強烈な膝蹴りをカオスバグに叩き込んだ。

 

轟音と共に揺れるカオスバグの体、だがカオスバグも反撃とばかりに左腕をふるってジャスティスを攻撃し始める。

 

「フッ! シュワ!」

 

しかし、ジャスティスはその攻撃を右腕で防ぎ、カウンターの蹴りを叩き込んだ。

 

「デュアァァァア!」

 

さらにジャスティスは猛烈なラッシュを打ち込み、とどめとばかりにアッパーカットでカオスバグを打ち上げた。

大きく身を後ろに仰け反らせて大空洞の地面に倒れこんだカオスバグ、ジャスティスはそこへさらに畳み掛けるように馬乗りになり、拳を打ち込もうとするが……。

 

「ウオォッ!?」

 

その瞬間、カオスバグが触手から光線を発射し、至近距離でジャスティスを攻撃した。

溜まらず後ろに倒れこむジャスティス、上に跨る者がいなくなったために立ち上がったカオスバグは倒れこんだジャスティスに追撃を仕掛けるべく足を振り上げると、ジャスティスの体を容赦無く踏みつけた。

 

周囲を揺るがしながら何度もジャスティスの体を踏みつけるカオスバグ、ジャスティスはなんとかそこから脱出しようと試みるがカオスバグはとめどなく足を振り下ろして畳み掛け続ける。

 

反撃を受け、苦戦するジャスティス…。

だが、ジャスティスはこんな状況で諦めはしない、ジャスティスは足を振り下ろされる前に素早く両腕を胸の前でクロスさせると踏みつけをまともに受ける前に防御し、衝撃を和らげる。

 

そして、一瞬のタイミングを見計らい、足を振り下ろした瞬間に足を掴んで受け止め、同時に右足を振り上げてジャスティスの上に立っていたカオスバグを蹴りつけた。

 

ジャスティスの戦闘センスを生かした攻撃を受けたカオスバグは身を揺らがせてジャスティスの上から後退した。

その隙を着いて素早くネックスプリングで身を持ち上げたジャスティスはそのまま受け身を取りながらカオスバグと距離を取る。

 

そしてジャスティスは身を持ち上げると、両腕を上に構え、エネルギーを収束させる。

暗がりを照らし出す、眩い光がジャスティスの両腕に集まっていく。

 

「ハァァァア……シュアァァ!!」

 

両腕に集まった眩い光のエネルギー、それを限界まで高めたジャスティスはそのまま両腕を思い切り前に突き出し、光の光線を発射した!

 

カオスバグに向かっていくジャスティスの光線、“ビクトリューム光線”、カオスバグはとっさに触覚から再び光線を放つ。

 

ぶつかり合う二つの光線、だがカオスバグの光線は激突したジャスティスのビクトリューム光線に押し返され、カオスバグの体にビクトリューム光線が直撃した!

 

「デェア!!」

 

甲高い鳴き声を上げて、その場に倒れこむカオスバグ、そして同時にジャスティスは両腕を上げて飛翔し、地下空洞の上にある穴に向かって行った。

遅れてカオスバグが轟音と共に爆発し、地下空洞が大きく揺れる。

そして、発生した爆炎を背にしながら、ジャスティスは体を光で包み、地下空洞の上にある穴へと入って行った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことりが落ちて行った大穴、そこが見えないほどに暗いその穴の奥がわずかに輝き、穴の奥から一つの光が出てきた。

 

その光は穴の淵に降り立つと、静かに光が収まって行き、やがてその中から穴の中へと落ちて行ったことりが姿を現した。

 

「ふ……ふえぇ……疲れた~……」

 

ぺたんとその場に座り込むことり、先程起きたことに驚くばかりのことりは乱れた息を整えながらある物を握る右手を見つめる。

彼女が右手に握るもの、それは……先程ことりが変身したウルトラマンジャスティスの人形だった。

 

「………一体、これって……」

 

「………運命ってこういうことやったんやね」

 

「え……?」

 

突然聞こえた声にことりが戸惑う、すると彼女の目の前にはぐれてしまった希の姿があった。

ことりをじっと見つめる希、それに対してことりは彼女がなにを言っているのかわからないと言いたげな目を向ける。

 

「の、希ちゃん……?」

 

「………休み時間に引いたカード、あれが“正義”を示したのは………こういうことやったんやね……」

 

そういうと、希は懐から一枚のカードを取り出すとその絵柄をことりに見せた。

絵が刻まれたカードの下、そこには正義を意味する“Justice”の文字が刻まれていた。

 

「………でも、ことりちゃんも選ばれるなんて………」

 

そして、希は肩にかけていた鞄の中からあるものを取り出した、それは銀色の体を持つ、ことりの持っているものと似ている人形だった。

 

 

 

「希ちゃん……それって……」

 

「………ことりちゃん、うちらは今、また違った道へと進もうとしとるみたいや………」

 

 

 

 

これが、“四人目の出会い”…。

 

μ'sのメンバー、南 ことり。

 

そして、正義の名を持った力強き赤の巨人、ウルトラマンジャスティスとの出会いだった…。




いかがでしたか?

これで出会ったのは四人目、次回は一体誰が誰と出会うのか……。

ちなみに今回の地下空洞、大きさはショウ達ビクトリアンの暮らす地下世界と同じくらいだと思ってください。

それでは次回でお会いしましょう!


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夢へ向かって全力で にこと熱き魂の勇士

どうも白宇宙です!
久々に更新することができた……

さてさて、第5話となる今回、主役はにこにーこと、矢澤 にこ!

果たして彼女はどんな出会いを果たすのか、お楽しみください!


 

 

 

その少女は夢に全力を注いだ…。

 

 

 

小さい頃からの夢だった、あの輝かしい、本当に夢のような存在、彼女はそれを目指して全てを賭けて全力で走り続けてきた。

憧れ、願い、希望、そのどれとも取れないこの思い、彼女にとってその夢を目指すことに妥協ということはしなかった。

 

必要なことは何か、テレビや雑誌媒体を活用してそれらを学び、自分が夢見たステージにいつか立てることを夢見て、彼女は走り続けて来た。

 

 

彼女はその夢を追い続けて、やがて高校生になった。

どんどん夢に近づいて行っている、この学校に入学してからの三年間もその夢を叶えるために、全力で駆け抜けよう。

そう心に誓った彼女は、この学校に入学してすぐにある部活を立ち上げた。

 

“アイドル研究部”。

 

そう、彼女の夢である存在、アイドルを知るために……そして、アイドルになるためにはどうすればいいかを学び、経験するための部活。

彼女はその部活を立ち上げ、早速アイドルとして必要なのはなんたるかを共に入学してきて、同じく興味を持った生徒とともに活動を始めた。

 

 

だがそこで、彼女は“孤独”ということを知ることとなった…。

 

 

彼女の目指した夢、そのためにと彼女が胸抱いた熱意が高すぎたのか……ついて行くことが出来ない、と一人、また一人とやめて行き……最後には彼女一人となってしまった。

 

だが、そんな中でも彼女は夢を諦めなかった………いつか必ず、その夢を叶えるためにとたった一人でも………。

しかし、現実はうまくいかない……一人ではうまくことが運べない……なにをしても、うまくいかない……。

 

やりたい、けどうまくいかない……たった一人の孤独に負けず、夢へと走り続ける彼女はこの時、言い知れぬもどかしさを感じていた。

そして、気がついたら彼女は……3年生になっていた。

 

だが、その年の始め……彼女の前にある少女達の姿が映った。

 

…彼女の通う学校、音ノ木坂学院で新たに結成されたスクールアイドルである。

 

はじめは彼女達のことを受け入れるつもりはなかった。

彼女達にはアイドルのなんたるかがわかっていない、アイドルに必要なもの、それが理解出来ていないような者たちをアイドルと認めるつもりは一切なかった。

そして彼女はそのスクールアイドルを結成した少女達に解散を忠告したりもした、だがそのしっぺ返しとでも言うかのように彼女の目の前に再び、その少女達は姿を表した…。

 

だが、この出会いが彼女の進む運命の道を照らす、新たな道標となって行った。

 

認めたわけではない、しかし少女達は言った……“このメンバーで”……と。

その中には含まれていたのだ、自分も……なら、覚悟は出来ているのだろう。

本気でスクールアイドルとして、活動する覚悟を……。

 

だからこそ、彼女は夢を目指して走り続ける中で、知らないうちに諦めかけていたその道を再び走り出した…。

今度こそ、夢へと辿り着くために………“全力”で………。

 

 

 

 

「にっこにこにー♪ あなたのハートににこにこにー♪ 笑顔届ける、“矢澤 にこ”にこ!」

 

 

 

 

本気でやると言うならどれだけの本気で挑めばいいのか、自分が教えてやろう。

言い出した以上、もう立ち止まることは出来ない。

 

今度こそ、叶えるんだ……このメンバー達で………。

最後まで、思い切り……走り抜けるために……。

 

 

 

「μ's!! ミュージック、スタート!!」

 

 

 

今の自分なら出来る気がする…。

だって、もう一人じゃないから……すぐそばには一緒にいる仲間がいる。

この出会いはきっと、まだ夢を諦めるには早いと神様が与えてくれたチャンスなのかもしれない…。

 

だからこそ、答えないと……夢を叶えるために……そして、今自分が“夢を見せている”、あの子たちのためにも……。

 

 

そして、その強い思いが……彼女に新たな出会いを手繰り寄せた。

 

 

 

これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。

 

 

 

 

 

~ウルトラブライブ!9人の少女と光の勇者達~

 

「夢へ向かって全力で にこと熱き魂の勇士」

 

 

 

 

 

長机が二つ並べられ、壁や本棚には所狭しと様々なアイドル関連グッズが並べられている。

棚にはアイドル関連のDVDが年代順であいうえお順に並べられており、壁には日本各地で有名な、名のあるスクールアイドルのポスターが掛けられていて、その中には彼女達が住む音ノ木坂から電車で少し離れた場所にある“UTX学院”のスクールアイドルにして、“第一回ラブライブの優勝グループ”である、“A-RISE”のポスターもある。

 

ここはこの音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sが活動の拠点としている部室、“アイドル研究部”の部室である。

 

彼女達がアイドルとしての知識、そして必要な能力を磨くため、その活動を行うための本拠地とも言える場所であるこの部屋に一人の少女の姿があった。

 

長机の端に置かれた椅子に腰掛けながらせっせと鞄の中に荷物を詰め込む彼女は音ノ木坂学院3年生の証である緑のリボンを首元に結んだ制服に身を包んだ小柄な体に似合った二つ結びの髪が特徴的な、一見すると可愛らしいという印象が強いその少女は夕方の夕日でオレンジの光が差し込むその部屋でなにやら時間を気にしながら帰る準備をしていた。

 

「…ちょっと練習はりきりすぎたわね…早く帰らないと」

 

彼女、スクールアイドルμ'sのメンバーである3年生、矢澤 にこは今日、練習が終わるとすぐさま帰らなければならなかった。

少し予定をオーバーしてしまった故に少し焦りながら支度を済ませたにこは鞄のチャックを閉めると、それを肩にかけて部屋を出ようとドアへと向かった。

 

ドアノブを回して部屋の外へと出たにこ、すでに放課後の学校の廊下はどこか閑散とした雰囲気を放っているがまだ何処かで部活をしている生徒の掛け声らしき声がちらほらと聞こえてくる。

その声を聞いながらにこは部屋のドアを閉めるとあたりをキョロキョロと辺りを見回す。

 

「そろそろみんなもこっちに来る頃ね……みんなが来る前に早く帰らないと」

 

にこは今日、この後の予定のために練習が終わるなりすぐさま部室へと戻り、帰るための支度をしたのだがその理由に関しては他のメンバーち言っていないのだ。

もし途中で誰かに会って詮索されては面倒くさい、誰かがこっちに来る前に早く学校を出よう……そう考えたにこはすぐさまその場を後にしようとするが……。

 

「あら、にこ、もう帰るの?」

 

「うっ! ……え、絵里……ま、まあね~」

 

少し遅かった……。

後ろから声を掛けられた瞬間、にこはぎくり、という擬音が似合いそうな感じで体を跳ねさせて後ろを振り向くと…そこには同じμ'sのメンバーであり、同学年である絵里の姿があった。

 

「いつの間にかいなくなったと思ったら……どうかしたの? なにか用事?」

 

「え、えぇ、まあそんなところよ、わたしだってプライベートってのもあるから詳しいことは言えないんだけど~、ちょっと外せない用事があるのよね~」

 

「へぇ……まあ、それなら仕方ないわね」

 

「そ、そうなの! だから今日は早く帰るわね! そういうわけだから絵里、なんかあったら代わりは任せたわよ!」

 

なんとかその場で言い訳を行い、部長としてこの後に何かあった時の対応を絵里に任せたにこは慌てるように足早にその場を後にした。

 

その後ろ姿を絵里はじっと見送る

 

「……よっぽど急いでたのね、引き止めたりして悪いことをしたかも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…なんとか絵里を言いくるめられたから良かったわ……もしもうまく行かなかったらもっと遅れてたかもしれないし……」

 

絵里に理由を言ってなんとか学校を後にすることができたにこは少し疲れた様子で息を乱しながら、家路へと付いていた。

少し時間に余裕がなかったからというのもあるが流石に学校の正門から家へと続く道をノンストップで走り抜けるのはやりすぎたかもしれない。

そんなことを自分自身の反省として言い聞かせながらにこはようやっと辿り着いた自身の家へと目を向ける。

 

「それに……もし怪しまれて着いて来られて、このにこにーが、まさかこんなとこに住んでるなんてバレたら一大事だし……」

 

にこの住む家、そこは………ありふれた街並みにひっそりと建つ、“ありふれたマンション”だった。

 

 

「なんやかんやでメンバーには、“普段は豪邸に住んでるお淑やかなお嬢様のにこにー”ってキャラで通してるから、バレたらなに言われるかわかったものじゃないし……」

 

決してそれは見栄ではない。

スクールアイドルとはいえ、ファンのみんなにはキラキラと輝くアイドルとして、一番に輝く自分を演出しなければいけない。

多少事実と違っていても、“キャラ”というのは何よりも大切なのである。

 

 

それは結局嘘なのではないか? ……細かいことはこの際気にしないでおいていただきたい。

 

 

彼女はそれによって、何よりも大切な彼女の“最初のファン”達に“アイドルである自分”を見せているのだから。

 

 

マンションの共同玄関を通り、エレベーターのボタンを押して上へと上がる。

目的の階に到着するとエレベーターを下りて、自分が生活してる部屋の前に辿り着くとやれやれと胸を撫で下ろしてそのドアを開ける。

 

「よし……ただいま~」

 

「あ、お姉さまです!」

 

「お姉ちゃんおかえり~!」

 

にこの声を聞いた瞬間、その声を聞きつけて早速元気な声が聞こえてきた。

 

ありふれた造りのマンションの一室、その奥の部屋へと続く廊下から元気な足音が二人分響いてくると早速にこを出迎えようと二人の小さな“ファン”が姿を表した

 

「ただいま、“こころ”、“ここあ”、ごめんね?ちょっと遅くなっちゃって」

 

「気にしてないです、なにせお姉さまはアイドルとして多忙ですから!」

 

「ねぇねぇ!今日はどんなことしたの?ライブ?もしかしてテレビ出演とか!?」

 

「そのことは後で話してあげるから、ほら二人とも通して? お腹減ったでしょ? すぐにご飯作るからね~」

 

そう、これがにこの“最初のファン”達。

自分よりも年下のまだ幼くて可愛い、二人の“妹”…。

 

次女の“こころ”、そして三女の“ここあ”である。

 

黒髪を向かって右側で纏めた礼儀正しい口調のこころ、反対に左側に髪を結んで活発なイメージを感じさせるここあ。

二人はにこが帰ってくるなり、彼女に群がって今日にこがなにをしていたのかを興味津々といいたげな目で聞いてくるがにこはそれを慣れた様子で流し、荷物を持ちながら部屋の奥へと向かう。

 

するとここでにこはあることに気づく。

 

「あ、そうだ…こころ、“虎太郎”は?」

 

「虎太郎は今は一人で遊んでますよ、こころたちの部屋です」

 

こころに言われ、部屋のドアを開けると台所のすぐ隣にある畳が敷かれた和室、そこで一人おもちゃのモグラ叩きでもくもくと遊んでるこころやここあ達よりも幼いファンがもう一人…。

 

「……おかえりー」

 

「虎太郎、ただいま、いい子にお姉ちゃんたちのお話聞いてた?」

 

「きいてたー」

 

ここあとこころよりも年下の末っ子、黒髪に一本のアホ毛を生やし、のんびりとした口調でにこを出迎えたのはにこの“弟”の“虎太郎”である。

 

 

そう、この子達こそが“アイドルである矢澤にこ”の“最初のファン”となった子達……。

 

にこの大切な“家族”である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

「ごちそーさまー」

 

「はい、お粗末さまでした」

 

満足と言いたげな子どもたちの声を背に、にこは嬉しそうに微笑んで答える。

まだ小さくて幼い三人の妹と弟は出された食事を残さず食べている、この先大きくなるためにも今はたくさん食べる時期というのもあるが、この子達の食欲には目を見張るものがあるとにこは改めて感じた。

 

今日、にこが他のメンバーよりも早く帰った理由、それはこころ達三人の晩御飯を作るためだったのである。

 

 

にこの母親は多忙な人であり、仕事で家を開けることや遅くに帰ってくることがしょっちゅうあり、そのために長女であるにこはまだ小さい妹二人と弟の面倒を見るために学校が終わったらこうして早く帰ることがあるのだ。

 

母親が自分達のために仕事をしてるのだ、ならそのお手伝いをするのも長女の勤め、母がいない代わりにこの子達を見守ることが出来るのは自分しかいないのだから…。

 

「お姉さま、今日は練習だったのですね、どうだったのですか?」

 

「んー、みんなやっとわたしに近づいて来たって感じかしら、あの子たちも頑張ってるみたいね」

 

「次の曲もお姉ちゃんがセンターなんでしょ! やっぱりお姉ちゃんはすごいなぁ…」

 

「ふふん、なにせ“スーパーアイドルにこにー”こと、このわたしがいるんだもん、当然よ♪」

 

「みゅーずー」

 

そして、“スーパーアイドル”という自分を彼女達に見せるというのも、自分の役目である。

 

当然、わかってはいる。

自分は未だにアイドルとしてまだまだではあるし、スーパーアイドルなんて遥か遠い存在だなんてことは…。

でも、彼女達はそう信じてるのだ。

 

姉である自身の夢を知り、応援してくれて、自分が高校でアイドル研究部を立ち上げてアイドルとしての活動を始めたあの時から、この子達にとって自分は、ステージでキラキラと輝くスーパーアイドル、矢澤にことなったのだ。

 

まだ幼いこの子達に余計な心配は与えられない、だからにこはこの子達にはなにも言わなかった……アイドルとして、自分はまだ始まったばかりの存在なのだということも………。

 

「……まあ、次のライブもわたしがいるから大人気間違いなしだから心配しなくていいわ、それよりもこころ達は今日はどうしてたの?」

 

もうそろそろ話題を変えようと思ったにこはそう言うと……。

 

「あ! そうでした! お姉さま!そのことでお願いがありまして…」

 

「………?」

 

なにやら珍しく、こころが自分にそう言って来たのだ。

こころは三人の中でも年上なだけにしっかりしており、礼儀も正しく、我儘もそんなに言うことはないのだが……どうしたことかとにこは首を傾げる。

 

すると今度はこころの隣に座っていたここあがそれに賛同するように頷きながらにこへと目を向けて来た。

 

「実はね、お姉ちゃんに合わせたい友だちがいるんだ」

 

「え……こころとここあのお友だち?」

 

「……ともだちー」

 

ここあの言葉に、遅れて虎太郎が手を上げながらそう言った。

どうやら三人合わせて、共通の友達らしい。

これは今までなかったことだ、確かにそれぞれに友達を持っていることはあっても、三人共通の友達を持ったなんてことは今までなかった……しかも、自分に合わせたいと言うほどに仲良しなのか……。

 

「それでその方と約束して……お姉ちゃんと合わせたいと……」

 

「……うーん」

 

普段は自分がアイドルであると信じてるからそんな簡単に友達を呼んだり、紹介したりすることはなかった三人。

その三人がこういうと言うことは、

余程仲が良いのだろうか……。

 

にこはどうしたものかとしばらく考えるが……答えを心待ちにしながらもどこか心配してる様子のこころとここあ、そしていつも通りぼーっとした様子ではあるがじっと自分を見つめる虎太郎の姿を見て、にこは悩みながらも答えをだした。

 

「……いいわ、ちょっとだけね? 丁度今度休みの日があったし」

 

「本当ですか!」

 

「やったー!」

 

「やったー」

 

仲良しのお友達を紹介したい、なんて始めてのことだ。

今回は特別に会ってみよう、この子達と仲良くしてくれてるお礼も言わなければいけないし……姉として。

 

だがその前に一応名前は聞いておかないと……そう思ったにこは三人に問いかけてみる。

 

 

「で、その友だちってどんな名前なの?」

 

「あ、えっとお名前は…」

 

 

こころが答えようとしてにこの方に向き直る。

だが………

 

 

 

「……“だいな”ー……」

 

 

 

それよりも早く答えたのは虎太郎だった。

 

「うん、そう! “ダイナ”! 虎太郎が最初に知り合って、最近ここあ達も知り合ったんだ!」

 

そして、それに付け加えるようにここあが答える。

それを聞いた末っ子の虎太郎が最初に知り合ったと言うのも驚くことだったのだが……。

 

 

 

「へぇ~……ダイナ……外国の子?」

 

 

 

まさか外人の友達がこの子達に出来たのかということに、一番驚いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして約束の日、にこはこころ達に連れられる形で三人の友達と会うための場所へと案内された。

 

「……こころ、ここあ、虎太郎、本当にこの先なの? ここ町外れの雑木林よ?」

 

「はい、いつもこの先で会ってますから、間違いないです」

 

「大丈夫、怪しいやつじゃないから! ほら着いて来て、虎太郎が行っちゃう!」

 

案内されたのは町外れにある雑木林、半ば道とは言い難いその道をこころとここあは慣れた様子でにこを導きながら進み、その先を末っ子の虎太郎が先導している。

 

小さい子どもの活発さというか……こういう探検的な興味がこの子達にもあったのか、と感じながら雑木林を進み続けるにこ、聞いた話によればとても面白くてカッコいいらしいのだが……まさか、この子達怪しい人に目をつけられたのではないのだろうかと心なしか不安を感じ始めるにこ……だがそれにしてもこんな雑木林に毎日いる怪しい人というのも不思議なものだ。

一体この子達は自分にどんな友達を紹介させるつもりなのだろうか、そんなことを考えながら進む中、しばらくすると……。

 

「よっと………うわ、音ノ木坂の町外れにこんな場所があったのね」

 

にこは三人に導かれ、まるで周りを木々で覆われた自然のステージのような開けた場所に出た。

近くに都会があるとは思えないとても綺麗なその場所、子供とはいえこういう秘密の場所的なスポットをよく見つけられたものだ。

なんて関心をしながら周りを見渡すにこ、すると……

 

「お姉さま、あそこです」

 

「いつもあそこにいるんだよ」

 

「え? あそこって……ただの木みたいだけど」

 

こころとここあが指差した先、そこには一本の木が生えていた。

一見すれば根元のあたりに大きめの穴が空いていること以外はなんの変哲もない木、だがそれを確かに指差した二人、そして、その木の前でにこに向かって手を振る虎太郎、一体どういうことなのかとにこが疑問を感じながらもその木へと近づく。

 

そして近くまで行くと、こころとここあがにこから離れると木の穴に近づいた。

 

「ダイナさん、いますかー?」

 

「今日はお姉ちゃんも連れて来たんだよー? 出ておいでよー!」

 

「だいなー」

 

穴に向かってそう言う三人、丁度子どもが一人やっと入れそうなその穴に小さな子どもが寄り添ってしきりに誰かを呼ぶ姿はなにやら少しおかしくも見えるような、ファンタジックにも見える気はするが、余計ににこの謎は増すばかり……。

 

 

だが………

 

 

 

 

『おっ、来たのか、虎太郎、ここあ、こころ!』

 

 

 

 

その声にはっきりと答えが帰ってきた。

それに対してにこは半ば驚くような表情を見せるが、三人は楽しそうに笑みを浮かべる。

 

「え、こ、こころ? ここあ? 虎太郎? そこにその……ダイナがいるの?」

 

「はい、お姉さま!」

 

「紹介するね、ここあたちの友だち!」

 

「…だいなー」

 

そして、にこの疑問に答えるように三人はそう言うと木の穴から何かを取り出すとそれを手に乗せるようにしてにこに差し出した。

 

そのお友達を目にした時、にこは驚きというか呆気というか、よくわからない何かに襲われ、ついその場できょとん、と立ち尽くしたという……。

 

こころ達が差し出した、お友達。

 

それは人型のシルエットをしながらも鮮やかな赤と青の色が走る銀の体を持ち、銀色の顔に乳白色の双眼を持ち、胸に小さな五角形の水晶を持った……“人形”だったのだから。

 

 

そして、なにより……。

 

 

 

『おう、お前が虎太郎達の姉ちゃんか! よろしくな?』

 

 

 

その人形が、喋ったのだから……。

 

 

 

「な、なによこれぇぇぇぇぇぇええええええ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやぁ、悪いな、いきなり驚かしちまって…こっちにはそんなつもりなかったんだけど』

 

「いや、今でもかなり驚いてるわよ……ていうか、着いていけてるかも怪しいわ」

 

突然目の前に差し出された喋る謎の人形を前にして驚いてから、なんとか落ち着きを取り戻し、その人形とこころ達から一連の話を聞いたにこ、だがそれににこは正直着いていけてるかどうか怪しかった。

 

 

 

『ん? そうか? 結構簡単に話したつもりだったんだけどな』

 

「いやいきなり理解出来るわけないでしょ! だって……あんた今は人形だけど元は宇宙人ってことでしょ!?」

 

『まあ、そうだな』

 

「それでこの前の“色付きの流れ星”が降った日にこの地球に来て、しばらくここに身を隠してたら偶然ここに来た虎太郎に会って、仲良くなってこころとここあとも仲良くなったってことでしょ?」

 

『おう』

 

「この際虎太郎達と会った経緯はいいとしても……あんたがいきなり宇宙人とか言われても、着いて行けるわけないでしょ!?」

 

 

 

 

自分の目の前にいる小さな人形に激しくツッコミを入れるにこ、しかしダイナと呼ばれた人形は特に反論する様子もなく小さな体を揺らしてみせるのみ。

 

『…そうは言われてもなぁ、実際宇宙から来たわけだし、他になんて行ったらいいのかもわからないしな…』

 

「……ねぇ、あんた本当に宇宙人? 本当は人形にスピーカーとか入れてるんじゃないの?」

 

『おわっ!? お、おい! 引っ張るんなよ!』

 

訝しげな目を向けながらダイナを手に取ったにこは確かめようとダイナの上半身と下半身を引っ張りはじめるがダイナはそれを嫌がるような発言をすると、すぐさま抵抗するように体を揺らしてにこの手を振りほどき、ふわりと空中に浮いた。

 

「う、浮いた!? ひ、紐とか着いてなかったわよね!?」

 

『だから言ってるだろ、俺は元は宇宙人で……ちょっとした理由でこの姿になってるんだって』

 

驚くにこに言い聞かせるようにダイナが言うと、ふわふわと浮きながら木の根元に着地した。

 

『本当ならあんまり人と関わらないようにしてたんだけど……虎太郎に見つかって、なんかいつの間にか仲良くなっちまってな……』

 

「……宇宙人がそんなあっさり地球人と馴染むなんてのも驚きよ」

 

『なんだと? これでもな結構長い間地球に居たんだぞ!』

 

少し離れたところで遊んでいるこころ達へと目を向けながらそんな会話を交わすにことダイナ。

他人からみたらとても不思議な光景であろうが、二人とも今はわりかし真面目に話している。

 

「……で、その宇宙人がなんでこの地球にいるのよ……映画とかみたいに地球侵略って感じじゃなさそうだけど?」

 

そんな中、ふとにこがダイナにこの地球に来たことに対する経緯に着いて問いかけた。

宇宙人、というだけでもかなり気になるがこの見た目で、しかも子どもの虎太郎にあっさりと見つかるあたり地球侵略を企むようなとんでもない宇宙人、とは考えにくいが……実際理由によってはなにが起こるかわかったものでもないし、聞いておくに越したことはない。

 

するとその質問に対して、ダイナは少し間を開ける。

 

 

『………命からがら逃げて来たってところだ』

 

「……はい?」

 

 

なにやら深刻そうな感じで答えたダイナ、その言葉の中に出た“戦い”という言葉がにこは気になった。

すると、その言葉の意味について……ダイナは話し始めた。

 

『“奴”はとんでもない強さを持ってた……俺達が力を合わせて、やっと太刀打ち……いや、もしかしたらまともにやりあうのがやっとってところだ……俺達はそいつと戦い、危ない所で逃げて来たんだ』

 

そういうダイナの姿を見て、にこは何かを感じた。

なにか大きなものに直面したというような、焦りにも、不安にも似た何かを……。

 

『でも、このままでいるわけにもいかない……早くどこかに散らばった仲間達を見つけないと……でないと……』

 

「……でないと、なによ?」

 

『………』

 

それ以上はダイナは答えなかった。

それ以上は何も言うこともなく口を閉ざしたダイナ、その小さな人形の姿をじっと見つめるにこ……。

 

だが、しばらくするとダイナは体を再び無邪気に遊んでいるこころ達へと向けた。

 

『……元気だよな、こころ達』

 

「ちょっと、さりげなく話題変えたでしょ?」

 

『……まあ、これはあくまで俺たちの問題だからな、言っても仕方ないことだしよ』

 

「なによそれ、用は都合が悪くなったんじゃない」

 

話題を変えたダイナを訝しげな目で見ながらそう言ったにこ、だがじっとこころ達を見つめるように体を向けているダイナにつられてか、自然とにこも三人の方へと目を向ける。

 

『いつも言ってたぜ? お姉ちゃんはすげースーパーアイドルなんだって、自慢気に話してた』

 

「……そう」

 

『……違うのか?』

 

「…あの子たちにとっては、そうなんでしょ…」

 

ダイナの言葉に対して、にこはそう返答する。

その表情は、どこか複雑そうで……。

 

「……あの子たちにとって、わたしはそう言う風に写ってるなら、私はそうでなくちゃいけないの……」

 

『……本当は違っててもか?』

 

「…今は違ってても…これからよ」

 

そう言うとにこはその複雑そうな表情を払うように表情を引き締めると、ダイナの方を向いた。

 

そして……。

 

 

「にっこにこにー♪ あなたのハートににこにこにー、笑顔届ける矢澤 にこにこ♪」

 

 

アイドルである自分の姿を、ダイナへと見せた。

トレードマークである笑顔をいっぱいに、両手は親指、人差し指、小指の三本を立てて頭の上に、いつもの“アイドルとしての自分の姿”を……。

それに対してダイナはなにも言わずにその姿を見据え続ける。

 

 

「………今はまだスタートしたばっかりでも、まだ始まったばかりだからこそ、わからないものでしょ? なら、あの子達の夢を本当にすることだって出来る」

 

 

まだそれは決まったことではない。

今はまだ虚像でしかない、目指した者の姿であったとしても……それは今はまだわからないもの、この先の未来でそれを叶えることだって出来るかもしれない。

 

いや、叶えるのだ。

 

ずっと昔から目指した、夢なのだから。

叶えてみせる……みんなと一緒に、最後まで走り抜けて……いつか必ず……自分の最初のファンであるこころ達のためにも……。

 

「……文句ある?」

 

ダイナに向かって目を細めながらそう聞くにこ、それに対してダイナは……。

 

『……いや、俺はなにも言わねぇよ』

 

なにも言い返すことはなかった……。

ただただそういったダイナににこは少し、呆気に取られた表情を浮かべる。

 

「……聞いといて返答はそれ?」

 

『……だって何か言っても仕方ないだろ? ……それは紛れもない“お前の夢”でもあるんだから』

 

「……え?」

 

なにを言うでもなく、なにを言い返すでもなく、ダイナはただ当然のことを言った。

そう、これはにこにとっての夢、にこが小さい頃から目指したにこ自身の夢である。

それはそれ以外の何物でもなく、誰のものでもない。

だが、その当たり前のことを、何故ダイナは言ったのかにこは不思議に感じずにはいられなかった。

 

そして、しばらくしてダイナが再び話し始めた。

 

 

 

『例えどんなに辛い道のりでも、全力で走り抜けた先で見える“光”がある、お前も夢に向かって全力で走ってるならそれに俺が文句を言う筋合いもないだろ? ……例え、今がそうでなくても、お前はそれを目指して、全力になれるんだから……頑張れよ、スーパーアイドル』

 

 

 

その言葉ににこはしばらく呆然とするが、しばらくするとどこか勝気な笑みを浮かべるとダイナに向き直り片手で先ほどやった指を三本立てる仕草をしてみせる。

 

「当然よ、見てなさい? いつか必ず……本当になってみせるんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやりとりをにことダイナが交わしてる中、そこから少し離れた場所の森の中に一人の人影があった。

体を漆黒のローブに包み込んだその人物は両手に何かを持っておりそれを目の前に持ち上げる。

 

「……この辺りにいるはずだ……なら、纏めて破壊した方が早い……」

 

そう呟くと右手に持っているなにやら凶悪な面構えをした獣のような人形の足の裏へと左手に持っていた何かを押し当てる。

 

 

 

 

『リヴァイブライブ! ダイゲルン!』

 

 

 

 

その瞬間、その人形は怪しげな光に包まれ、空へと向かって一人でに浮き上がり、飛んで行った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………っ!』

 

僅かだが、ダイナの体が震えた。

そして、さっきまでとは打って変わった様子ですぐさま空中に浮き上がったダイナは辺りをキョロキョロと見回すように体の向きを変える。

 

「ちょっとどうしたのよ、いきなりそんな忙しなく…」

 

その姿に只事ではなさそうな何かを察したにこは不思議に思い、ダイナにそう聞く。

 

 

『……何かが来る、しかもかなり近い……』

 

「……何かって、なにがよ?」

 

 

ダイナの呟きに対してにこが再度問いかけた、まさにその時だった。

 

 

 

「きゃーーーーーー!!」

 

 

 

 

甲高い小さな悲鳴が少し離れた所から聞こえてきた。

その悲鳴を聞いた瞬間、にこはまっさきにその声が聞き覚えのある声だと言うことに気づく。

 

「今の……こころの声!?」

 

『急ぐぞ! 嫌な予感がする!』

 

そして、この自体を事前に察知したのかダイナはすぐさま空中を滑るように飛び始め、にこはそれを追う形で先ほどこころ達が遊んで行った方向へと走り出した。

 

まさか、あの子たちに何かがあったのか……胸に詰まる不安を抱えながら木々の間を抜けていくと……。

 

 

 

「な……なんなのよあれ!」

 

 

 

そこには今までに見たこともないようなずんぐりとした、あまりにも巨大な怪物がいた。

まるでちょっとした山のように大きな体には恐竜のような太い尻尾に、強靭な手足が着いており、鋭い爪を光らせている。

そしてなによりも……凶悪な印象をこれでもかと与えてくる鋭い目に、ずらりと並んだ鋭利な牙……。

 

いったい、どこからこんな怪物が出て来たのだろうか……にこのそんな疑問は次の瞬間に吹き飛んだ。

 

 

 

ーーーガォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 

 

こんなものは映画などでしか見たことがない、まさに“怪獣”と呼べるような巨大な怪物はにこの目の前で凄まじい咆哮を上げた。

耳をつんざくような強烈な怪獣の叫び、それを聞いて反射的に耳を抑えたにこ、だがその時、彼女はあることに気づいた。

 

「っ!! こころ! ここあ! 虎太郎!」

 

怪獣の目の前、そこにこころ達がいたのだ。

三人は目の前の怪獣に怯えた様子でその場に座り込み震えている。

 

そして、その三人を前にして怪獣は見下ろすように目を向けると口を開き、ぎらりと口に並ぶ牙をのぞかせた。

 

あの怪獣はこころ達を狙っている、そうにこが判断するのに時間はかからなかった。

そして、同時に動くのにも時間はかからなかった。

 

『あ、おい!!』

 

咄嗟に走りだしたにこはそのまままっすぐにに怪獣が見下ろしているこころ達の元へと急ぐ。

 

(あの子達を……怖い目になんか合わせたりしない!!)

 

あの子たちの夢を守るためにスーパーアイドルとしての自分を見せて来た、それと同じようにあの子たち自身を守るのも自分の役目だ。

にこは一心不乱に走り出し、咄嗟にこころ達と怪獣の間に割り込むように入ると、そのあまりにも巨大すぎる怪獣を睨みつけながら手近にあった石を拾うとそれを思い切り怪獣目掛けて投げつけた。

 

「ちょっとあんた! この子達になにかしたら……わたしが許さないわよ!」

 

「お……お姉さま……!」

 

「あ、危ないよ……!」

 

「………」

 

「……安心して、絶対に守ってあげるから……」

 

不安そうな表情を浮かべる妹と弟達、だが彼女はこころ達を安心させようとそう言うと、じっと怪獣を睨みつけながら一歩も退こうとしなかった。

 

本当は怖い、でも逃げる訳にはいかない……この子達を守るためにも……。

 

この子達の“夢”を守るなら、この子達そのものも守ることが出来なくちゃ意味がない。

だからこそ、怖がる訳にはいかない、ここで自分が逃げる訳にはいかない……。

 

絶対に……。

 

その強い意思を自身の瞳に宿しながら、にこはまっすぐに怪獣を睨みつける。

 

しかし、怪獣はそれに対して先ほど石を当てられたことによってか、唸り声をあげながら今度は狙いをにこへと変えた。

 

そして、牙を覗かせる口を開くとにこ目掛けて頭を振り下ろす!

 

 

 

「っ!」

 

 

 

咄嗟ににこは目を瞑った。

情景反射で瞑った瞼で周りの世界の風景が強制的に遮断される。

だが、その次に来ると思っていた……体に走る痛みはなかった。

 

なにが起こったのかと、にこがゆっくりと目を開けると……。

 

 

 

「……なによ、これ……?」

 

「…お姉……さま…?」

 

 

 

自分の体を眩い光が包んでいたのだ。

まるでにこの体から溢れ出るかのように出てくる光、それを見て彼女だけでなく、後ろにいたこころ、ここあ、そして虎太郎達も目を大きく見開いて驚く。

 

彼女から溢れ出したその光は、まるで彼女を守るかのように大きくなり、その光の強さに怪獣も驚いたのか数歩後ろに後ずさる。

 

『ったく、無茶して突っ込みやがって……危ねえな』

 

「え……あ、あんた……!」

 

すると、にこの目の前にダイナが現れた。

同じように光に包まれているダイナがにこにそう言うと、次第にその光が強くなりダイナの姿が完全に光に包まれてダイナの体が変化する。

 

次の瞬間、彼女の目の前にあったダイナの人形の姿は全く別のまるで石で出来た彫刻のような物へと姿を変えた。

まるでダイナの顔が刻まれているかのようなそれをにこはじっと見つめる。

 

 

『でも、嫌いじゃないぜ、そう言うまっすぐな心』

 

 

 

すると突然、頭の中にダイナの声が響き、にこの目の前に浮遊していたその人面石とも呼べるようなアイテムがゆっくりと彼女に近づいてきた。

 

 

『……多分お前なら俺の力を解き放つことができる、こころ達を守るために……俺も力を貸すぜ』

 

「……あんた……」

 

 

 

ダイナのその言葉ににこはちらりと後ろにいるこころ達へと視線を向ける。

今、この子達を守るために自分が出来ること……それが……その唯一の方法がこれなら……。

 

 

「……しょうがないわね!」

 

 

アイドルは人を笑顔にする、そしてその大事な笑顔を守るためなら……。

 

 

 

「やってやろうじゃない! 見てなさいよ、絶対にこの子たちを守ってみせる! だから……力を貸しなさい、ダイナ!!」

 

『おう! 行くぜ、にこ! 本当の戦いは……ここからだぜ!!』

 

 

 

 

意を決したにこは目の前に浮遊する、“リーフラッシャー”と名の着いた石を手に取ると、それをすかさず上へと掲げた。

その瞬間、リーフラッシャーの中にあった光の水晶が外へと飛び出し、水晶から放たれた力強い光が彼女の体を包み込んだ。

 

 

 

 

 

にこの体から溢れ出した光に気圧され、後ろに数歩後退した怪獣、その怪獣の体に次の瞬間とてつもない衝撃が走った。

何かがぶつかるような感覚とともに大きく後ろに吹き飛んだ怪獣はそのまま地面に倒れこむ。

 

そして、倒れた怪獣の目の前に眩い光の柱が天に向かって駆け上る。

その光が徐々に晴れて行くと、その中から眩い光を放ちながら一人の巨人が姿を表した。

 

銀色のラインが走る、赤と青の体。

胸の金色のプロテクターと、その中央にある五角形の青く輝く水晶。

額に輝くクリスタルを持つ、銀色の顔に乳白色に光る二つの目。

右手で拳を作り、それを上に伸ばし、左腕を曲げて顔の横に起きながら現れたその巨人は、姿を表すや否や倒れこんだ怪獣へと視線を向けて両手を前へと突き出して身構えた。

 

「ディア!」

 

そして、その後ろ姿を見つめるこころ達……彼女達はこの時、反射的に理解していた。

この巨人は敵ではないということを……あの巨人は……。

 

「お姉さまが……」

 

「おっきなダイナに……変身した!」

 

自分達の味方であることを……。

 

そして………。

 

 

 

 

「………ウルトラマン………」

 

 

 

 

あの巨人こそが、“ウルトラマンダイナ”であるということを……。

 

 

 

 

姿を表した光の巨人、ウルトラマンダイナを前にして地面へと倒れていた怪獣は起き上がると凶暴な目をダイナへと向けてすぐさま威嚇の咆哮をあげた。

 

だが、ダイナは物怖じする気配もなく身構えると力強く地面を蹴り、まっすぐに怪獣へと向かって行く。

それに対して怪獣も迎え撃たんと地響きを鳴らしながら走り出す。

 

そして、その間合いに隙間がなくなった瞬間、ダイナと怪獣が激しく衝突した。

ずんぐりとらした体をした怪獣の体、そこにダイナが勢いを乗せた体当たりをしかける。

だが怪獣はそれを払いのけると強靭な腕をふるってダイナを攻撃する。

 

「フッ、ハッ!」

 

しかし、その攻撃を回避したダイナはすぐさまカウンターパンチを横腹に叩き込み、さらに追い打ちで蹴りを打ち込む。

 

その攻撃を受けてダメージを受けたのか、怪獣は数歩後ずさると反撃とばかりに体を翻し、尻尾で攻撃をしかける。

横薙ぎに振るわれた尻尾、まるで鞭のようにしなりながら振るわれたその一撃に対してダイナは果敢にもその上を飛び越えて回避し、さらに反撃の肘鉄を怪獣へと落とす。

 

「ダァァァア!」

 

さらに追い打ちとばかりに怒涛の拳による連打を叩き込む。

休む暇も与えない怒涛の攻撃の嵐、重く、正確なら攻撃の数々に怪獣も怯み始める。

 

そしてそこに、とどめとばかりにダイナが大きく拳を引いて怪獣の顔面へとストレートパンチを繰り出す。

 

だが、その一撃が繰り出された、まさにその瞬間、怪獣も同時に反撃出た。

 

繰り出されたそのパンチを真正面から口を開いて、その牙が並んだ口で受け止めたのだ。

そしてさらに顎を閉じ、その腕に鋭い牙を立てる。

 

「ウァァァァァァア!?」

 

拳と腕に走る痛みに、ダイナは必死に抵抗を試みる。

だが、怪獣の強靭な顎はダイナの腕に噛み付いたまま離そうとはせずに、むしろ軽々とそのままダイナを顎で振り回すと勢いをつけたまま口を開き、ダイナを地面へと叩きつけた。

 

そして、怪獣の反撃は続く、地面へと叩きつけられたダイナがなんとか立ち上がるとそこに追い打ちとばかりに口から高熱の炎を吐いたのだ。

灼熱の炎がダイナを包み込み、さらにダメージを与える。

 

その攻撃のあまりにダイナは堪らずその場に膝を着く。

すると、それを好機と見るや怪獣はすぐさま一直線にダイナへと突進して行く。

 

 

 

「頑張れ……頑張れお姉さま! ダイナさん!」

 

「負けるなー! 怪獣なんかに……負けるなー!」

 

「…だいなー」

 

 

 

その時、ダイナの耳にこころ達の声援が聞こえてきた。

 

……負けるわけには、いかない。

 

 

「………シュア!!」

 

 

再び自身を奮い立たせるように大きく頷いたダイナは向かってくる怪獣へと再び構える。

 

そして、距離が一気に縮まり怪獣の突進が直撃するまさにその瞬間に……

 

「ディアァァァア!」

 

下から身を返しながら怪獣の頭を抱え込み、そのまま思い切り、怪獣を背負い投げの要領で投げ飛ばしたのだ。

突進の勢いを乗せたまま大きく体を回転させて地面へと体を叩きつけた怪獣。

 

そして、その隙を逃さずダイナは再び怪獣に接近すると仰向けに倒れた怪獣に馬乗りになり、激しく拳を振り下ろしていく。

力強い音と共に直撃するダイナの拳、抵抗する怪獣の体を全体重を乗せて押さえつけ攻撃を加えて行く。

 

しかし、怪獣はダイナを振り払うべく口を開けるとそこから火炎を吐く、ダイナはそれを受けて堪らず怪獣の上から飛び退くと、怪獣はすぐさま立ち上がり、怒りの雄叫びを上げながらダイナへと向かっていく。

 

だが、ダイナは恐れない。

 

向かってくる凶悪な怪獣をしっかりと見据え、強靭な腕を何度も振り下ろし、爪で引き裂こうとする怪獣の連続攻撃、それを自身の腕を怪獣の腕に当てて弾いていく。

 

そして、一瞬の隙をついて怪獣の懐に蹴り込みを打ち込み、怯ませると素早く膝を曲げて高く跳躍し、怪獣の上を身を捻りながら飛び越える。

 

「フッ! ……デェェェェェエエエエエエ!!」

 

怪獣の背後を取ったダイナは怪獣の尻尾を両手でしっかりと掴むと、それを力いっぱいに引き、自分の体を軸にする要領でまるでハンマー投げのように怪獣の体を持ち上げると、遠心力の力に任せてその尻尾を手放し、怪獣を遠くへと放り投げた。

 

地面へと落下し、遠心力と衝撃によって昏倒する怪獣。

 

チャンスは今だ。

 

ダイナはバク転を数回きって距離を開けると狙いを地面に倒れた怪獣に定めてとどめの一撃を放つ。

 

 

「デュアッ!!」

 

 

両手を大きく回しながら右手を垂直に、左手を水平にして十字作るように構えた瞬間、ダイナの手から光線が打ち出された。

 

まっすぐに伸びて行く光の光線は地面へと倒れた怪獣に直撃し……次の瞬間、オレンジの光の光輪を浮かび上がらせながら激しく爆散した。

 

 

ダイナの持つ必殺光線、“ソルジェント光線”が決まり、怪獣を撃破したダイナ、すると彼は光線の構えを解くと戦いを見守っていたこころ達の方へと向き直る。

 

 

そして、三人へと向けて親指を立てたサムズアップを見せた。

 

 

それに応えるようにこころ達もダイナへとサムズアップをみせる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『え、俺も着いて行くのか!?』

 

「まあ、あの子たちが気に入ってるみたいだし、仕方なくね」

 

その後、ダイナと分離して無事にこころ達と合流したにこはこころ達に先を歩かせながら帰路に着く際にダイナも一緒に来てほしいと誘ったのだった。

 

「言っとくけど、ちゃんとあんた達になにがあったのか、そして、なにが起こってるのかちゃんとわたしに話した上でよ! ただでさえ訳がわからないんだからちゃんと教えてもらわないと」

 

『け、けどよ……本当にいいのか?』

 

にこの申し出になにやら渋る様子のダイナ、しかしにこはそんな人形の彼にこう言い放った。

 

「あんなことがあった以上、ちゃんと話してもらわないとわたしも気になるのよ! それに……ついでにあんたにも特別に見せてあげることにしたわ」

 

そう言うと、にこは得意げに笑みを浮かべる。

 

 

 

「このわたし、アイドル、矢澤 にこの夢が本当になる瞬間を……しっかりとね!」

 

『お、おう……まあ、しゃあないか……今は俺もお前の力を借りるしかないみたいだし』

 

「お姉さまー!置いて行っちゃいますよー!」

 

 

 

 

遠くの方でこころが呼んでいる。

それを聞いたにこはダイナの人形を手に取るとそれをポケットへと入れて走り始める……。

 

 

 

 

これが、五人目の出会い……。

 

μ'sのメンバー、矢澤 にこ。

 

そして、熱き魂をその身に宿した力強き巨人、ウルトラマンダイナとの出会いだった…。




いかがでしたか?

次回の更新も未定ですが、首を長くして待っていただけることを……(汗

それでは次回でお会いしましょう!


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限界突破な突然遭遇 凛と最強最速の戦士

どうも、白宇宙です!
さて、今回の新たな物語、主役は凛ちゃんこと、星空 凛!

彼女が果たすこととなった新たな出会い、お楽しみください!


 

 

 

その少女は自信が持てなかった…。

 

 

 

他の女の子よりも短い髪、活発で運動が得意で、誰よりも元気だった少女はその元気さのあまり自分には女の子らしさというのがないと感じていた。

自覚はしてはいるが自分だって女の子、その自覚は持っていた。

だからこそ、たまには女の子らしさに憧れたりもした……だけど、ある時をきっかけにそれが自分には似合わない物なのだと……遠い物なのだと知ってしまった。

 

小学校の頃のある日、ただなんとなく、母親に勧められて買ったもらったスカート。

フリルのあしらわれた可愛らしいデザインのスカート、それを履いて学校はと向かった日のことだった。

 

このスカートを履けたことに少女自身はとても嬉しく感じていた。

可愛いデザインのスカートを身につける……女の子らしい服を自分も着れる、その事実がなによりも嬉しくて、なによりもワクワクとした高揚感を感じずにはいられなかった。

みんな、今の自分をどんな風に感じるのか、どんな感想を持ってくれるのか、それがなによりも気になって、それでいて楽しみで仕方なかった。

 

その日の最初に会った昔からの幼馴染は同じ女の子ということもあり、可愛いと言ってくれた。

その一言だけでも、十分嬉しかった。

自分だって女の子なんだ、その事を自覚することが出来たような気がしたから……。

 

……だけど、それはすぐに別の意識へと変わって行った。

 

遅れてやって来た数人の男子がスカートを履いた自分の姿を見て、こう言ったのだ。

 

 

 

『スカート持ってたんだ』

 

 

 

人からしたら何気ない一言なのかもしれない、でも彼女にとってそれは自分がどんな女の子なのかを自覚させるには決定的なことになった。

 

 

自分は女の子だけど“可愛い女の子とは違う”のだと……。

 

 

やっぱり、自分は周りから見たら“女の子らしくないんだ”。

 

だからスカートを履いても、自分には似合わない……と。

 

 

それをきっかけに少女は自分は女の子らしさというものから少し距離を置くようになってしまった。

……だけど、それで良かったのかもしれない。

気ままに、自分は自分らしく、それでいいじゃないか……それの方が気楽じゃないか、開き直りとも取れるかもしれないが自分にはこれでいいのかもしれないと彼女は思った。

 

例えば、道端を自由気ままに歩く野良猫のように…。

 

例えば、夜空をちかちかと輝く小さな星のように…。

 

別に無理に自分を大きく見せなくても、猫も星も気ままに自分らしくいる。

猫はのんびりと、星も気楽にちかちかと……。

 

自分は自分らしく、それがなによりもいいことなのだ、きっと……きっとそうだと……。

 

 

 

そんなある日、彼女は光り輝く仲間達と出会いを果たすことになる。

 

 

昔から、ずっと昔から一緒にいた幼馴染が昔から夢見たもの、その幼馴染が再びその夢を追いかけようと決意し、一歩を踏み出したのだ。

そして、その一歩を……自分も並んで踏み出した。

 

女の子らしくなくて、可愛いものが似合わなくても……でも、それでもいい。

自分は、自分の持つ自分らしさを輝きにして今輝こうとしてる彼女達の……仲間達の光の1ピースになろう。

夢へと踏み出した掛け替えのない友達と、それを共に進んでいく仲間と共に……。

 

他のみんなには敵わない輝きだとしても、他のみんなの輝きをより輝かせられるように……出来ることをしよう。

 

 

夜空に浮かぶ月よりも小さく光る星のような“輝き”だとしても……。

 

 

 

「う~~~! テンション、上がるにゃ~~~! ……え? 凛? 凛は、“星空 凛”、よろしくね♪」

 

 

 

その輝きが誰かのためになるのなら、自分は自分の輝きを精一杯生かそう。

誰よりも元気が取り柄だからこそ、その自分らしさでみんなを支えられるように……。

 

 

 

「μ's!! ミュージック、スタート!!」

 

 

 

眩い輝きの中に立つ仲間達、みんなと一緒に、より輝く舞台に、光のように一瞬で過ぎて行く青春を彼女達と共に…。

自由気ままでほんの少ししかない光だとしても集まれば、自分にもなにかを残せるような強い光になれるような気がするから。

 

そして、少女はこの出会いをきっかけに今までどこか遠い存在のように感じていたステージへと足を踏み入れ……少しずつ、変わり始めた。

 

だが、彼女に起きた変化はこれだけではなかった。

突如として、彼女は目が眩むような“もう一つの光”と出会うこととなった…。

 

 

 

これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。

 

 

 

 

 

~ウルトラブライブ!9人の少女と光の勇者達~

 

「限界突破な突然遭遇 凛と最強最速の戦士」

 

 

 

 

 

「にゃ~…今日も1日疲れたにゃ~…」

 

高校生の癖に仕事疲れで帰ってきたサラリーマンのようなセリフだなとは自覚はしている。

しかし、若くても疲れた時は疲れるのだ、いくら自身が体力自慢とはいえ限界というのがある。

中学生の頃、陸上部に所属していた時も疲れた時は有無を言わさず帰って夕食を食べたらベッドに倒れこんで横になることがあった。

 

動く時はしっかり動いて、休む時はしっかり休む、それがなによりも体のサイクルを整える方法と言えるのではないだろうか。

 

「んー…このまま寝ちゃいそうだにゃ~…あ、でもまだお風呂入ってない…まあ、でも少しくらい後でもいいよね~」

 

なんてことを呟きながらゴロゴロとベッドの上で時間を持て余す凛、まだまだ寝るには早い時間、これを活用する方法と言ったら今は体を休めることに費やしたいのが彼女の現状だった。

 

というのも、彼女は今日も“スクールアイドル”としての練習に勤しんだからである。

 

「……“ラブライブ”はもう終わっちゃったけど、μ'sはまだまだこれからだもんね……みんなに負けないように、凛も頑張らないと!」

 

彼女が所属する音ノ木坂学院、スクールアイドルのμ's。

凛は今日もμ'sの練習に励み、たくさん体を動かし、たくさん汗を流し、その分たくさん頑張ったのだ。

この疲れはその証のような物だと言える、それゆえにこの疲労感は彼女にとってどちらかというと不快な物には感じなかった。

一生懸命に頑張った後に感じる疲労感はむしろ清々しく感じる位である。

 

だから、明日も練習が頑張れるように……。

 

「明日に備えて今は充電、パワーチャージだにゃ~…」

 

今はゆったりとしておくのが凛にとっての最善の選択だった。

 

 

「………?」

 

 

すると、ふと凛がベッドで横になりながら窓の方へと目を向けた。

窓の外には見慣れた音ノ木坂の街の風景と、その上を包み込むようにして広がっている夜の暗い空があった。

そして、その夜空には丸い円を形作って淡い光りを放つ月と、ちらちらと所々で輝いている小さな星達が夜空を彩っていた。

 

その風景を見た凛はなにを思ったのか唐突にベッドから起き上がると窓の近くへと移動し、スライド式の窓を開けた。

 

夜風の涼しげな風が外から室内へと吹き込んで来て、凛の頬を撫でる。

その夜風の感覚を肌で感じながら、凛は視線を空に浮かぶ星たちへと向けてみた。

 

「……星空にゃ」

 

星、星空……凛は空に浮かぶ星を見て、なんとなしにそう呟いてみた。

自分の名字にもある“星空”という名前。

この空の向こうでは大きく広がる、宇宙という空間で無限に瞬く星達、だけど地球からは夜にならないと見えないし、その光もどこか儚い……けど、その儚い光を放ちながらも夜という時間に空を彩る星が凛は好きだった。

 

どんなに小さくても気ままに光る星に凛はなんとなく惹かれていたのだった。

 

「……そう言えば、この前の流れ星綺麗だったな」

 

そんな中、凛は以前に自分が目にした“流れ星”のことを思い出した。

 

あれはまだ一週間くらい前だった、あの日も凛がふと窓から外の景色を見上げていたら、突然珍しい色とりどりの“流れ星”が夜空を駆け抜けて行ったのだ。

僅かな一瞬の時間ではあったものの、その時の光景を凛はしっかりと覚えていた。

いくつかの色の光を放ちながら次々と流れて行った流れ星、あの星達が……まるでμ'sのように思えたから。

 

真っ暗な夜空というステージの中で輝きを放ちながらその上に立つ、μ'sの仲間たちと自分、その流れ星達を目にした時に凛はなんとなしにそんなことを思ったのだった。

 

自分達がこれからどんなステージに立って行くのかわからない。

でも、だからこそ一瞬でも綺麗な光を出せるように………例えそれが流れ星のように一瞬だとしても、綺麗な光を出せるように………。

 

みんなと一緒に、これからも頑張っていこう……。

 

凛はその流れ星を見た時にそんなことを考えたのだった。

 

「……うーん、ちょっと凛らしくないかにゃ?」

 

我ながらなかなかのメルヘンな意識確認だと思った。

なんだか自分の思ったことに対して照れ臭くなった凛は頬を指で掻きながらそう呟き、再び視線を夜空へと向けた。

 

 

 

その時だった……。

 

 

 

「………あれ、流れ星?」

 

 

 

突然夜空の上を一筋の光が飛んでいるのが見えたのだ。

赤と金色が入り混じったかのような不思議な光を纏った光、それが空の上を駆け抜けて行く。

 

だが、よく見るとその流れ星はなにやら不自然な点があった。

 

「でも、なんか流れ星にしてはすごい低い気がするにゃ…」

 

そう流れ星にしては飛んでいる位置が低いのだ。

夜空の上、というより本当に街の上を飛んでいるかのような低さであり、しかもなにやら動きも一直線というより右往左往と落ち着きがなく忙しなく動いているのを見る限り、心なしか流れ星にしては妙である。

 

そんな不思議な流れ星を凛が首を傾げながら見ていると……。

 

 

「………あれ、ていうか……こっちに近づいて来てる?」

 

 

徐々にではあるがその流れ星がどんどんとこちらに近づいているような気がしたのだ。

素早く、周囲の空を駆け抜けながら確実にだがこちらに近づいているような気がする。

 

…というかもう、すぐそこまで来ていた。

 

 

「え、え、え!? な、なになになに!? こっち来る!!」

 

 

動き回る流れ星が一直線にこちらに近づいて来た。

それだけでも凛が戸惑うには十分だった、咄嗟になんとかしようとするものの、待ったを知らないかのように流れ星は一直線に凛の所へと向かって来ている。

 

まさに空を駆ける流れ星そのものかのような光の尾を引きながら一直線に向かってくる謎の光、そして近づいてくるその光を前に凛は半ば戸惑うばかり。

 

 

 

「ちょっ、待っ……」

 

 

 

待ってと言ってみようとするものの、まず止まる気配がないし、何より通じるとは思えない。

 

凛の言葉は虚しくも、彼女が言い切ることも許されず………次の瞬間………。

 

 

 

ーーーパコーーーーーーン!

 

 

 

「痛いにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?」

 

 

 

おでこに何かがぶつかることによって発生した痛みが走り、彼女は堪らず後ろ倒しに自室の床に倒れこみ、目を回してしまうのだった。

そして、その際の衝撃で彼女の意識は一瞬にして暗闇の中に沈んだのだった……。

 

 

 

故に彼女はこの時、気付くことができなかった。

 

 

自身に迫って来た光を追うようにして、音ノ木坂の夜の空に紛れ込むようにして黒い靄のようなものが浮かんでいるということに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~~……なんかまだ痛い気がするにゃ」

 

「凛ちゃんどうかしたの?」

 

翌日の朝、凛はおでこのあたりを手でさすりながらそんなことを呟きながら上の空で学校へと登校していた。

昨日のあれは結局なんだったのか、気がついたら自分は気を失っていたし、部屋の中を探してもなにもなかった……一体、昨日自分のおでこを直撃したのはなんだったのだろうか……。

 

そんなことを考えていると、隣で一緒に並んで歩いていた幼馴染で同じ音ノ木坂学院の一年生である花陽が凛の変化に気づいたのかそう聞いてきた。

 

「あ、別になんでもないよ? …でも、寝ぼけてたのかにゃ~…」

 

「なんでもないっていう割には気にしてるみたいだけど、何かあったの?」

 

「うん、実はね……昨日の練習で疲れてベッドでゴロゴロしてたら……」

 

花陽の問いかけに答えようと凛は昨日のことを話してみようと思い、ベッドで寝ていた時のことから口にし始めた。

今思えば、あの時若干眠くもあったからいつの間にか寝てて、何かの拍子に寝ぼけて見た夢のようなものなのかもしれないがせっかくだし話題作りに活かすのもありかもしれない。

 

そんなことを考えながら凛が一連のことを話そうとする。

 

 

 

しかし、その時……。

 

 

 

「……あれ? ……り、凛ちゃん!!」

 

「え? どうしたの、かよちん?」

 

「あ、あれ!! あれ!!」

 

 

 

突然花陽が凛を引き止めてガードレールで仕切られた道路の向こう側である車道を指差し始めた。

一体どうしたことかと、凛もその指が指し示す方向へと目を向けて見ると…。

 

 

「……ね、猫ちゃんがいる!?」

 

「しかも、車道の真ん中だよ! 危ないよ!?」

 

 

なんと、車道のちょうど真ん中のあたりに小さな子猫が一匹、うずくまるようにして伏せていたのだ。

幸い怪我はしてないようだが、かなり怯えているようで身動きが取れない状態になっている。

朝のこの時間帯は通勤や通学、その他諸々の事情で車の行き来が激しい、このままではあの子猫がいつ車に弾かれてしまってもおかしくない。

 

「ど、どうしよう…助けようにもあんな所じゃ…」

 

「でも、見捨てるなんて出来ないよ!」

 

「え……凛ちゃん!?」

 

別に見知っているわけではない野良の子猫、どうにかしようという義理は花陽にも、当然凛にもない。

だが、そうとわかっていても目の前の小さな命の危機を目の当たりにして、凛はいても立ってもいられなかった。

 

凛は持っていた鞄を花陽に預けるとガードレールの上を軽やかに飛び越える。

 

「り、凛ちゃん危ないよ!? ここ横断歩道でもないし、もし凛ちゃんに何かあったら…!」

 

「それでも猫ちゃんが怪我するかもしれないのを放っておけないよ!」

 

「で……でも……」

 

「……大丈夫にゃ、凛は足に自信あるもん」

 

心配そうに見つめる花陽にそう言い聞かせて視線を車道へと移す凛、確かに中学の頃の陸上部の経験があるため足の速さには自信がある、なんとか駆け抜けて子猫を助けられれば後は戻るか向こう側に走り抜けるかのどちらかだ……。

 

息を整えて、タイミングを見計らう…。

少しでも検討がずれて、目測を謝れば巻き添いになってしまう。

そうならないように細心の注意を払って子猫と車の両方に視線を行き来させるが……。

 

 

「……あっ!」

 

 

不意に子猫が立ち上がって動き出した、車の走る車道をなんとか横切ろうとしているのか……だが、それはこの状況では自殺行為である。

車道を走る車は急には止まれないし、都合良く待ってはくれない。

 

 

そして少しの間を開けて、子猫が渡ろうとする車道に車が走り込んできた。

それなりのスピードを出して走ってくる車、動いしまったばかりの子猫は車に気づいたものの引き換えすのも走り抜けるのも出来ず、その場に立ち止まってしまう。

 

このままでは確実に子猫は車に……!

 

そう理解した瞬間………凛の体は動いていた。

 

 

 

「凛ちゃん!!」

 

 

 

咄嗟に走り出した凛を危ぶんで花陽が叫ぶ、だが凛はもう止まれなった。

車道に飛び出した凛はそのまままっすぐに子猫へと向かって行く……。

 

だが、その間にも車は確実に凛と子猫へと近づいてくる。

凛が子猫を抱き上げたその時には、もう車は彼女のすぐ近くまで迫っていた。

 

そして、花陽は咄嗟に最悪の光景を予見して瞼を閉じて視界を遮ってしまった。

 

もう間に合わないと、わかってしまったから…。

 

罪悪感と恐怖にも似た感情を抱きながら目を閉じた花陽はそのまま強く目を閉じたまま最悪の事態が起きるのを予見する……。

 

 

 

………だが、そのあと……“なにも起こらなかった”。

 

 

 

「………?」

 

 

 

車と人が衝突する音も、ブレーキの音も聞こえない。

まるでなにも起きていないかのような異様な音も聞こえずに、車道を車が走り抜ける音だけが花陽の耳に入ってきていた。

 

どうなっているのか気になった花陽が恐る恐ると、片目を開けて車道を見る………。

 

 

……すると……

 

 

「………あ、あれ? 凛ちゃん……?」

 

 

どういうわけか、何故か車道には凛の姿も子猫の姿も見受けられなかったのである。

呆然とする花陽、一体凛はどこに行ったのかと視線を巡らせていると……。

 

「………凛ちゃん!?」

 

なんとか凛の姿を見つけることができた。

 

“車道の向こう側の壁の上”に立つ、凛の姿を……。

 

 

 

「………あ、あれ? ………くしゅん!」

 

 

 

この事に当の凛もなにがなにやらと言いたげな表情を浮かべる。

そして、彼女は前から持っている猫アレルギーの反応であるくしゃみを一つした。

 

 

……彼女の腕の中には車道にいた子猫がしっかりと抱きしめられていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんなんだろう……いったい……」

 

学院に登校し、午前中の授業である体育の途中、今朝起きたことを振り返りながら凛はあの不思議な出来事に首を傾げていた。

 

(猫ちゃんを助けなきゃって思って夢中で飛び出しのは覚えてる……でもそのあと猫ちゃんを抱き上げて夢中で走ったら……気づいたら向こう側にまで渡り切ってた……しかも、壁の上に飛び乗ってたにゃ……)

 

あの時のことを振り返りながら凛は再確認する。

あの車道を車の間を抜けて走り抜けるのは不可能ではない、だけどだとしてもあれはあまりにも“速すぎる”。

 

いくら足に自信があるとはいえ、あの時は普通なら衝突しかねないほどの距離まで車が近づいていた。

しかし、凛はそれを回避したのだ……夢中で走り抜けて……。

 

いくらなんでもあの一瞬で車道を渡りきるなんてことができるのだろうか。

あの車との距離は凛自身も大怪我、あるいは最悪の事態も覚悟していたほどだ……所謂、火事場の馬鹿力にしても違和感が残る。

 

(……本当になんだったんだろう……)

 

不思議なことを体感し、頭の中に疑問符ばかりが浮かび上がる凛。

だけどいくら考えても答えは出てこない、気づいたら車道を渡り切っていた、その事実だけが頭に残る。

 

そんなことを考えながら体育の授業を受けていると……。

 

「次、星空……星空?」

 

「……ちょっと凛、次あなたの番よ?」

 

「………にゃ? ……あぁ! ご、ごめんなさい!」

 

いつの間にか自分の番が来ていたようだ。

体育教師が自分の名前を呼んで、今か今かとホイッスルを鳴らすじゅんびをしている。

そういえば今日は100メートル走だった、練習として一人ずつ100メートルを走っている中、上の空になって自分の番が来ているのに気づかなかった。

 

近くで待機していた同じ1年でμ'sのメンバーの一人である真姫が教えてくれてやった気付いた凛は慌ててスタート位置につく。

 

考えすぎてぼーっとしてしまった。

一度あのことは忘れて、今は学生としての本文に努めよう、とにかく今は体育の授業に参加し、100メートルを走ることに専念しよう。

そう決めた凛は腰を深く落としてスタートの体制についた。

 

全力で走れば自然ともやもやしたことも無くなるはずだ。

そう信じながら、体育教師がホイッスルのを凛は待つ。

 

そして、体育教師がホイッスルを吹いた瞬間……。

 

 

 

凛は思いきり地面を蹴り、“風になった”。

 

 

 

「………あれ?」

 

 

 

比喩ではない、凛は走りながら感じた。

今自分は走っている、走っているのだが……まるで風になったかのような今まで感じたことのない疾走感があった。

 

「にゃ……にゃにゃにゃにゃにゃ~~!?」

 

これはおかしい、そう気付いた凛が慌てて走るのをやめて地面を踏みしめてスピードを落とす。

地面をがりがりと抉るような感覚を足に感じながら校庭の土煙を巻き上げ、ようやく止まることができた。

 

「な、なに今の……にゃ?」

 

先程感じた感覚に戸惑いながらも今自分が走ってきたコースを振り返る凛。

 

その瞬間、凛は自分の目を疑った。

 

スタート位置が、あまりにも“遠い”。

100メートルのまっすぐのコースのはずなのに、それがあまりにも遠かった。

ざっと見ても余裕で100メートルなんて超えている位置に自分はいる、そしてあまりにも離れた位置にいる自分へとクラスメイトや体育教師の先生の離れていてもわかる位の愕然とした視線が向けられている。

 

 

 

「………あ、あれぇ………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしい。

 

絶対におかしい。

 

凛は今朝から起きている自分の中の“異変”に確信めいたものを感じていた。

とにかく言えることとしたら、今日の自分は“何かが違う”。

 

確信と言っても単純な感想なのだが、今は確実にそうとしか言いようがない。

 

今朝の子猫を助けた時や、体育の時の異変……あの異様としか言いようのない“スピード”、これは流石にただ調子がいいというような理由で片付けられるようなレベルじゃない。

現役で陸上部だった自分でも、あんなに速く走ったことなんてないし、あんなスピードを出せる覚えもない。

 

実際、今日のμ'sの練習でも他のメンバーにはその話題で持ちきりとなっていた。

 

「すごいよ凛ちゃん! 聞いたよ! 世界記録だって!」

 

「凛ちゃんが足が早いの知ってたけど、そこまでだったなんてびっくりしちゃった」

 

「日々の努力が身を結んだのですね…おめでとうございます、凛」

 

二年生メンバーは体育の時の自分の功績を聞いて何故かお祝いムードだった。

と言っても、もともと記録なんて取ってないから世界記録かどうかもわからないのだが……。

 

「まさか凛がそんなポテンシャルを秘めていたなんてね…驚きだわ」

 

「はっ! ……ひょっとしてあんた、にこにーに対抗しようと陸上系スポーツアイドルってキャラで行こうと密かに計画して……」

 

「それはいいとして、凛ちゃんすごいな~…みんなにはない特技やん♪」

 

三年生メンバーも似たり寄ったりで、なにやらこの事実に感嘆にも似た感じで心配とかは微塵もなく、むしろ応援されてしまった。

これは異常だとは感じることなく……。

 

 

「……なんか納得いかないにゃ~……」

 

 

そのことを振り返りながら凛は放課後の帰り道、なんとも言えない複雑な物を胸に抱きながら二人の友人と一緒に帰路についていた。

右側に真姫、左側に花陽と二人に挟まれる形で夕焼けに染まり始めた音ノ木坂の町を歩きながらそんなことを呟く。

 

「別に気にすることもないんじゃない? 体調的にはなんの問題もないんでしょ?」

 

「今日の練習もいつも通りに出来たんだし、きっと凛ちゃん、今日は調子が良かったんだよ、凛ちゃんもともと運動神経もいいし」

 

「むー…かよちんも真姫ちゃんもわかってないにゃー!」

 

凛にあまり気にしないようにとフォローを入れるためか、二人がそう言うが当の凛は不服そうである。

 

「わかってないって…じゃあ、凛はどこか体が悪と感じるの?」

 

「違うけど! 体は確かに元気一杯だけど、おかしいんだよ! なにがおかしいのかわからないけど、凛にはわかるんだにゃ!」

 

「はぁ……意味わかんない」

 

「あ、あはは……」

 

凛なりに二人に訴えかけてみるが、真姫はどうにも理解してくれなさそうだ。

花陽も少し戸惑い気味の苦笑いを浮かべているが同じようにあまり凛が異変と感じている何かについてはあまり悪いイメージは持っていないようだ。

 

明らかにおかしいのに、周りはそれほど深刻に感じていない……これって周りから凛はそれほどまぇに足が早いと認知されているという証なのだろうか?

 

嫌ではないがなんとも複雑な物である……。

 

「……それほど悩む物でもないでしょ、それも凛のいい所って考えてみればいいんじゃない?」

 

「……真姫ちゃん」

 

「……それでもおかしいって感じるなら、一度なんでなのか自分のことでも振り返ってみれば? もしかしたら、わりかし近くに答えがあるかもね」

 

そう言うと真姫は歩く方向を変えて、凛と花陽とは別の方向へと足を向けた。

 

「それじゃ、私こっちだから」

 

「あ、うん、バイバイ真姫ちゃん」

 

途中で帰り道が違った真姫は二人にそう言い、別の道へと歩いていく真姫を花陽は手を振りながら見送る。

 

「真姫ちゃんが普段から素直じゃないのはわかってるけど、もう少しはっきり言って欲しかったにゃ~、なんだったらうちの病院で見てもらえば? ……みたいな」

 

「でも、真姫ちゃんも真姫ちゃんなりに気にしてくれてるんだよ、きっと」

 

「……それはうれしいけど……まあ、いっか」

 

花陽とそんなやり取りを交わしながら凛は彼女とともにいつもと同じ帰路に戻った。

夕焼け空から照らす太陽がオレンジに染まった道路に二人分の黒い影を映し出す。

 

しかし、その二人の後ろ姿を分かれ道の影からこっそりと覗き込む人影が一人……真姫である。

 

先程別れたように見せかけてこっそりと様子を伺うように壁際に隠れていた真姫、顔を出して離れていく二人の後ろ姿を見つめながら彼女はなにやら鞄を漁ると何かを取り出した。

 

「……ねぇ、あれ、どう思う?」

 

『……多分なんだけど……一人は真姫ちゃんの考えてる通りだと思う』

 

「……そう、やっぱり……」

 

会話をしてなにやら確信めいたものを確認した真姫、彼女の姿勢が追う物の先には……花陽の隣で今だになにやら気にしている様子の凛がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、凛は自宅までの道のりの途中で花陽と分かれて、それ以降は一人で帰路についていた。

花陽曰く、ちょっと用事を思い出したらしいが……晩ご飯の買い出しでも頼まれていたのを思い出したのか、程度に考えた凛はとりあえず花陽を見送って、後は一人で帰ることにした。

 

時間が経つにつれてどんどん傾いて行く夕焼けの太陽、その日を受けながら凛はいつもと変わらない帰り道を進み続ける。

 

 

……しかし、その最中に彼女はある違和感を感じ取った。

 

 

 

「………?」

 

どこからか、妙な視線を感じるのだ。

不意に背後を振り返って見るものの特に怪しい人影のようなものもなく、今自分が来た道の光景が広がっているだけだ。

 

「……今日はいろいろあって神経質になっちゃったのかにゃ?」

 

自分の気のせいかと思い、再び凛が歩きだそうと前を向く。

 

だが、それから数歩歩いた所で凛はまた立ち止まり、あたりを見回す。

 

 

 

(……なんだろう、このゾワゾワする感じ……気持ち悪いにゃ……)

 

 

 

さっきから時折感じるこの肌に着くような嫌な感覚、それを感じた何度か感じ取った凛はさすがに嫌悪感を抱き、訝しげに辺りを見回す。

だが、辺りには自分以外の人影が見当たらない……。

 

…やはり、今日の自分は少しどこかおかしいのか…そんなことを凛が考えていると…。

 

 

 

 

 

ーーー伏せろ!

 

 

 

 

 

「へ……っ!? にゃ!!」

 

 

 

突然頭の中で声が響いた。

その瞬間、凛は咄嗟にその場に身を屈めると遅れて自分の真上をとてつもないスピードで何かが通り過ぎて行った。

驚く凛が慌てて視線を上げる、すると今度はなにもない道路の上に、“何か”がいた。

 

まるで靄のような怪しげな動きを見せながら、ゆらゆらと揺らめく謎の浮遊物。

人魂にも見て取れるようなその浮遊する物体を目にした時、凛は驚きのあまりに目を一杯に見開いた。

 

一体これはなんなのか、凛の思考はこれでもかと稼働するもののまったく答えが導き出せない。

 

「な、なになに!? なんなの~!?」

 

慌てふためく凛、しかし、そんなことは構うことなくその浮遊物はゆらゆらと揺らめきながら再び凛へと近づいてくる。

 

ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる人魂のような何か……その距離が縮まっていくにつれてそれに比例するかのように凛の中で言い知れぬ恐怖のようなものが湧き上がってきた。

 

だが、その時……

 

 

 

ーーー走れ! 今はここから少しでも遠くに、走るんだ!

 

「にゃ!? う、うん! わかったにゃ!!」

 

 

 

 

また聞こえてきた謎の声、頭の中に直接響くように聞こえてくるその声に凛は三度驚くが、目の前に迫る謎の人魂への恐怖からその言葉を信じて踵を返すと、一目散にその場から逃げたした。

 

そして、地を蹴った瞬間にまた感じた“今までに感じたことのない疾走感”、凛は今日で二回も体感したことになったその感覚と共に再び人並み外れた超スピードを発揮し、その場から離脱した。

 

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!? や、やっぱりこの速さはおかしいにゃぁぁぁぁぁあ!?」

 

その速さに堪らず叫びを上げながらもなんとかその場から逃げ出した凛、だが彼女の前に現れた人魂は逃げさった凛が向かった方へと向けて空中を滑るようにして後をつけていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超常的な現象に遭遇し、謎の声に導かれるままにその場から逃げ出した凛、住み慣れた音ノ木坂の町並をなぜかは知らないが発揮できるようになった超スピードで走り抜けるてしばらく、彼女はいつの間にか町外れにある巨大施設の開発跡地にたどり着いた。

 

ここは以前に大きなドームだかなんだかを建てようとしたがいろいろな事情があって建造を断念して、そのまま放置された場所であり、この時間帯は人も少ない。

そんな場所になんとか逃げ込んだ凛は立ち止まると疲れた様子で息切れを起こしながらその場に座り込んでしまった。

 

「はぁ…はぁ…なにがどうなってるのかさっぱりだにゃ~…」

 

今朝から身の回りで起きている何かしらの異変、それに文句を言い放ちながら凛は息を整える。

 

 

ーーーすまない、こうなってしまったのはすべて、私の責任だ…。

 

「責任とか言われても、なんなのかわからないと凛もすっきりしないにゃ!」

 

ーーーあ、あぁ……そうか、申し訳ない

 

 

頭の中に響く声に凛が返事を返すとその声は律儀にも丁寧な口調で謝ってきた。

だがそれでも凛は不満そうに頬を膨らませる。

 

「だいたい今日はいろいろなことがおかしいにゃ! 昨日の変な流れ星とぶつかってからなんだかすごい速く走れるようになったし、いつもの練習もそんなに疲れなかったし、やけに体が軽いし、極めつけは人魂のお化けに襲われて、真姫ちゃんじゃないけど、もうわけわかんないにゃ~~~!」

 

ーーーす、すまない……

 

今日のことを振り返ってありったけのことを愚痴としてぶちまけた凛、高らかにそう言い切った彼女の勢いに押されてか彼女の頭に響く声もどこかたじろいでいるかのように感じる。

 

 

……だがここで凛はあることに疑問を抱いた。

 

 

 

 

「………ところで、なんで頭の中で声が聞こえるの?」

 

 

 

 

今更ではあるが頭の中に響くこの声がなんなのか、不思議に思った凛はそう口にしながら首を傾げる。

 

ーーー……そうだな、改めて説明させて貰おう……簡潔に言うと、今君の中には私という存在がいて、一時的にではあるが君の体の中に入ってしまっているのだ

 

唐突にそんなことを言い始めた声に、凛はわけもわからず首を傾げ続ける。

 

「……どういうことにゃ? 凛は元から凛だよ?」

 

ーーー……つまりは、今君の中には君とは違う者が入り込んで一体化となっているというわけだ

 

「あー、なるほど! なんとなくわかった気がするにゃ!」

 

さらにわかりやすく纏めて説明した声に凛は納得したのか手をぽんと叩いた。

 

「………」

 

だが、それから少し間を置いて凛はあることに思考を巡らせる。

 

一体化、今謎の声は自分が別の何かと体を共有していると言っていた、つまり今凛の体の中には凛ではない別の何かがいて……。

 

そこまでのことにたどり着いた凛は、一度思考を停止させると………。

 

 

 

 

「………って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええ!!」

 

 

 

 

今になって驚きのあまりの絶叫をひと気のない場所で響き渡らせた。

 

「ど、どういうこと!? り、凛、漫画とか映画とかでよくある二重人格とか、れいのーりょくみたいのに目覚めちゃったの!?」

 

ーーーいや、落ち着いてくれ、それは少し違うんだ

 

わたわたとパニックになる凛、そんな彼女を宥めるように頭の中に聞こえる声は言うと、彼女を落ち着かせてことの次第について話し始めた。

 

ーーーなぜ私と君が一体化したのか、それについてなんだが…君は昨日、光とぶつかったのを覚えているか?

 

「え? もしかして、あの変な流れ星って……」

 

ーーーそう、あれこそが今君の中にいる私自身だったんだ

 

昨日のあれは寝ぼけてみた夢などではなく現実だったのだ。

それを理解した凛は今度は頭の中に響くこの声がなぜあの時自分のところに来てしまったのかが気になった。

そして、なぜ一体化してしまったのかも…。

 

すると、まるで凛の思考を読み取ったかのように声はそれについても話し始める。

 

 

ーーーあの日、私はあるやつから逃げていた……今の私のままでは太刀打ちできず、逃げることしかできなかったため、必死に逃げ回っていた……すると、無我夢中で飛び回っているうちにいつの間にか目の前に君がいて……ぶつかった際の拍子に一体化してしまったんだ

 

「へぇ……じゃあ、今日凛の体が変だったのも」

 

ーーー私と一体化したことで身体能力が向上したためだろう、と言っても先程まで私も気を失っていたのだが……

 

 

 

なんともはた迷惑な偶然によって一体化してしまったものだ。

要するに今日のことはすべてこの一体化した人物が大きく関わっていたということのようだ。

 

だがそれに対して、凛は怒る様子も見せずにただ黙ったまま、俯きながら何か考えこむ。

 

 

 

(……てことは、あの時……この人が凛の中にいたから猫ちゃんも、そして凛も助かったんだ……)

 

 

 

……今朝のあの出来事、危うく子猫と一緒に大惨事になるところだった危機を乗り越えることが出来た。

その理由はその偶然に導かれた、あの出来事によるものだったのだ。

 

要するに自分は、今一体化している彼に助けられたのだ……。

 

凛は自分の中でそう考えを纏めると、胸のあたりに手を当ててそっと目を閉じる。

 

「……ありがとう、助けてくれて」

 

ーーー……? どうかしたのか?

 

「……なんでもないにゃ」

 

気を失っていてなにがあったのかは覚えてないのだろう、その声の人物にそう言ってはぐらかす。

なににしても助けられたのならお礼は言うのは当たり前のことなのだから……例え、覚えていなくても、その事実に変わりはないのだから。

 

 

 

 

だが、その時……

 

 

 

 

「………っ!?」

 

 

 

 

再び凛に、肌が泡立つような嫌な感覚が走った。

咄嗟に立ち上がった凛はその感覚を頼りに後ろを振り返る。

 

すると、そこには先程の謎の人魂のような浮遊物が空中に浮かんだいた。

 

「ま、また出たにゃ~!」

 

ーーー もう、追いついたのか……!

 

空中にふわふわと浮遊する、謎の人魂……するとその人魂はどんどん大きくなり始めた。

まるで風船が膨らむように大きくなっていく人魂擬き、そしてそれがちょうど人と同じくらいの大きさになった瞬間、その人魂は人型のシルエットへと姿を変えてまったく別の姿へと変わった。

 

全身を黒いローブで包み込んだかのような不気味な雰囲気を纏った謎の人物、その姿を見た凛は咄嗟に数歩後ずさる。

 

「や、やっぱりお化け……!?」

 

ーーー いや、それとは違う……奴は私を狙って来た、“刺客”だ

 

「し、刺客……? どういうこと?」

 

ーーー ……やつにとって私は邪魔な存在だ、故に速く潰しておくに越したことはないのだろう……

 

深刻な様子でそういった声、するとその声が刺客と言った謎のローブの人物は懐から何かを取り出した。

 

よく見るとそれは何かの人形のようだった。

青い体を持った両生類か爬虫類を思わせるような見た目をした見たこともない生物を模した人形、ローブの人物はそれを手に取るとその人形の足の裏へと空いているもう片方の手を押し当てる。

 

 

 

『リヴァイブライブ! ラゴラス!』

 

 

 

するとどこからか声が聞こえ、それと同時にローブの人物が取り出した人形が光を放ち始めた。

あまりの事態に動揺する凛、ローブの人物はそれを他所に手に持っていたその人形を自分の後ろへと高く放り投げた。

 

 

 

そして、次の瞬間……光を放ちながら投げられたその人形は空中へと浮き上がり……光を放ちながら、その大きさを一瞬にして巨大化させた。

 

 

 

ーーーギャォォォォォオオオオオオオオオオオオオン!!

 

 

 

凛の鼓膜を揺さぶる、けたたましい鳴き声。

その鳴き声はさっきまでローブの人物が持っていた人形と同じ姿をした、青い体の怪物だった。

まるで恐竜のような太い足に爬虫類のような質感を持つ体、左右に突き出た突起を持つ頭には二つの目があり、その双眸が凛を見下ろす。

 

 

「な、なに……これ、なに!?」

 

ーーー こいつは…“冷凍怪獣 ラゴラス”…まさか奴は、私ごとこの子まで…!

 

 

そして、青い体の怪獣…“ラゴラス”を呼び出した黒いローブの人物はそのまま姿を何処かへと消してしまった。

まるで霞のようにいつの間にかいなくなったことにも驚きだが、今はそんな余裕はない。

 

凛の目の前に現れた怪獣、ラゴラスをなんとかするのが先決である。

 

だが、凛はこんな見たこともない巨大な怪獣を前にしてどうしたらいいのかわからずに戸惑っている。

 

 

 

ーーー ………しかたない………今は、これしか!

 

 

 

 

すると、突然凛の体から光が発生し、凛の体から飛び出すようにして一つの光の球が出てきた。

 

「にゃ!? ……あ、昨日見た変な流れ星! 本当に凛の中に入ってたんだ……」

 

そのことに驚きながらもまじまじといった様子で光の球を見つめる凛、すると次第に光の球は姿を変えて行き、やがて小さな人型の形へと変化した。

 

それは、真紅の体に銀色のラインを走らせた体に勇ましい印象を与える銀色の顔に二つの輝く目を持った人型の人形だった。

 

 

「……これって……」

 

『……君に頼みがある』

 

「わっ、喋ったにゃ……」

 

 

驚く凛だが、彼女の目の前に現れたその人形は再びその体を光で包み込むと今度は金色と銀色の色彩が施された楕円形の形をしたアイテムへと姿を変えた。

 

『こんなことに巻き込んでしまって申し訳ないとは思っている……だが、頼む……私に力を貸してくれないか?』

 

「……力を貸すって……凛が?」

 

『…今の私では、私が本来持つ力を引き出すことはできない…だが、君の力があれば私は本来の力を一時的に解き放つことができる、だがら……頼む、私と共に戦ってはくれないか……』

 

浮かんでいる金と銀のアイテムから聞こえてくる声、それを聞いて凛はしばらく間を開けて黙り込む。

 

だが、しばらくすると凛は意を決したような表情を浮かべてそのアイテムを手にとった。

 

 

 

「いいよ、凛も助けてもらったし、こうなったらこれ以外出来そうなこと、ないしね!」

 

『……あぁ、感謝する! ……本当にありがとう』

 

「凛と猫ちゃんを助けてくらたお礼だよ! ……えっと……名前、なんていうの?」

 

 

 

決意を固めたものの、これから力を貸す相手の名前も知らないのはちょっとやりにくい、そう感じた凛は右手に持ったそのアイテムへと視線を落としてそう問いかける。

 

 

 

『……私の名は、マックス……M78星雲から来た、“ウルトラマン”……“ウルトラマンマックス”だ』

 

「……マックス……なんだかかっこいい名前! よろしくね、マックス! 凛は、星空 凛!」

 

『あぁ、よろしく頼む、凛! ……さて、では行くぞ……!』

 

 

 

互いの自己紹介を済ませた二人は覚悟を決めると目の前にいる巨大な青い体の怪獣を前にして、身構える。

そして、凛は右手に持っていた金と銀のアイテムを空へと翳した。

 

するとその瞬間、そのアイテムから虹色の光が溢れ出す。

 

 

 

「テンション、マックスに上がって来たにゃーーーー!!」

 

 

 

そして、凛はそのまま勢い良く右手に持ったアイテム、“マックススパーク”を自身の左腕へと押し当てる。

すると、たちまち凛の体が眩い光に包まれていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひと気のない開発予定地だった場所、そこに突如として出現した怪獣、ラゴラスは爬虫類のような独特の鋭さを持った目を動かし、低い唸り声を鳴らす。

闘争本能に焚きつけられたように体を揺らすラゴラス、すると突如としてラゴラスの目前に眩い虹色の光が立ち上った。

光の柱とでも言えるようなその光、ラゴラスは警戒して威嚇するような鳴き声を上げると、それと同時に目の前に現れた光が少しずつ晴れて行った。

 

そして、光が収まって行くに連れて徐々に何かが姿を露わにしていく。

 

ラゴラスと同じくらいの大きさだが、はっきりとした人型。

真紅の体に走る銀色のライン、そして胸の中央に金縁が施された青い水晶が施された胸と両肩を覆う銀色と金のプロテクター。

額に胸と同じ青い水晶を持った銀色の顔には鋭くも力強い光を放つ二つの双眸が光り輝く。

 

人間とは大きく離れた外見をした赤い巨人、だがラゴラスのような威圧感は抱かない、むしろ安心感を感じるかのような……例えるならそれは、“戦士”の放つまっすぐな闘志。

 

 

 

「シュア!!」

 

 

 

左腕に装着された彼専用の装備、“マックススパーク”。

その輝きを携えながら、戦士は両腕を握りしめてラゴラスと対峙する。

 

 

 

夕焼けに染まる、この無人の開発跡地で冷凍怪獣ラゴラスと、光の巨人……“ウルトラマンマックス”が向かい合った。

 

 

 

ーーーギャァァァァァアオオオオオオオオオオン!!

 

 

 

姿を表したウルトラマンマックスにラゴラスが威嚇の咆哮を上げる。

だが、それに対してマックスは怯むことなく身構えると地面を力強く蹴り、前へと走り出した。

 

そして、まっすぐにラゴラスへと向かっていくマックスは走る勢いをそのままに両足を揃えて跳躍すると、ラゴラスへと向けて飛び蹴りを打ち込む!

 

重い衝撃と共に大きく体が揺れたラゴラス、飛び蹴りを受け後ろに後退したラゴラスは反撃とばかりに鋭い爪を振り上げてマックスへと思い切り振り下ろす。

だが、マックスはその一撃を左腕をぶつけて受け止め、同時に横腹に蹴りを叩き込む。

 

「デュア!」

 

マックスの攻撃はまだ終わらない、攻撃を防御され、反撃を受けたことで怯んだラゴラスにさらに連続で拳を打ち込んでいく。

 

一発、二発、三発と力が込められた拳がラゴラスの体を打ち据え、とどめとばかりにマックスは右の拳を腰だめに構えるとその拳をラゴラスの顎に目掛けて思い切り打ち上げる。

 

マックスのアッパーカットがラゴラスの顎を捉え、ラゴラスはそのダメージから大きく体を揺らして怯む。

このチャンスを逃しはしない、マックスはすかさずラゴラスに組みつき、勝負をかけようとする、が……。

 

「ッ! ウオォォア!?」

 

ラゴラスがマックスが接近して来たタイミングを狙って口を大きく開き、そこから白い靄を纏った光線を打ち出したのだ。

不意を突かれて放たれたラゴラスの光線、ラゴラスの別名は“冷凍怪獣”であり、今マックスへと向けて放たれたのはとてつもない低温をまとった、マイナス240度の冷凍光線である。

 

ラゴラスの冷凍光線を受けてしまったマックスは堪らず後ろに吹き飛んでしまった。

地面を揺らしながら、仰向けに倒れこむマックス、そこへラゴラスはさらなる追いうちをかける。

 

ラゴラスはすかさず倒れこんだマックスの上にのしかかると、両腕を次々と振り下ろし、叩きつけ、マックスを滅多打ちに攻撃していく。

マウントポジションを取り、完全に優位に立ったラゴラスはそのまま攻撃の手を緩めずにマックスを攻めたて続ける。

苦戦し、窮地に立たされたマックス……。

 

しかし、例え危機の中にいても彼は……マックスは諦めなかった。

 

「グッ……シュアァ!」

 

渾身の気合と共に振り下ろされたラゴラスの右腕をなんとか打ち払ったマックスはさらに右腕を頭部の角飾りへとあてがい、そこから“刃”を抜き放ち、ラゴラスを横薙ぎに切りつけた。

 

まさかの反撃を受け、堪らずにラゴラスは弾かれるようにマックスの上から弾き飛ばされ、そのまま地面に倒れ伏した。

その隙をついて素早く起き上がり、受け身をとりながらラゴラスとの距離を開けると、マックスは右手に持った刃を構えて再びラゴラスと向き合う。

 

マックスが今先程、ラゴラスを退けるために使ったのは彼の持つブーメラン型の近接武器“マクシウムソード”である。

薄い刃に秘められた鋭さは並の刃物とは比べものにならない刃、それを構えたマックスに再び立ち上がったラゴラスはもう一度冷凍光線を発車する。

 

「デュ! シェア!!」

 

だが、マックスは同じタイミングで持っていたマクシウムソードを勢い良く投げた。

 

マックスの手から投擲されたマクシウムソードは高速回転しながら一直線にラゴラスへと向かっていくが、その際にラゴラスが放った冷凍光線を弾き、切り裂き、霧散させ、マックスに向かってくる冷凍光線を全て打ち消したのだ。

 

そして、そのままマクシウムソードは跳ね上がるような弧を描きながら軌道を変えるとラゴラスの頭部にある左右に突き出た突起の内の片方を両断する!

 

マクシウムソードによる強烈な一撃を受けたラゴラスは大ダメージを受け、今まで以上の動揺を見せたラゴラス、そこへマックスはさらなる追撃を仕掛ける!

 

「テェア!!」

 

マクシウムソードが自身の頭にある角飾りへと戻って来たのを確認すると、マックスは再び地を蹴ってラゴラスへと向かっていく。

だが、今度のは今までのような距離を詰める接近ではない……瞬間的に間合いを詰めて、敵に逃げられない高速の一撃を叩き込む、マックスの“最速の攻撃”!

 

残像が見えるほどの速さでラゴラスに接近したマックスはその勢いを乗せたままラゴラスへと思いきり体当たりをする、その衝撃は凄まじく、ラゴラスは大きく後ろに吹き飛び、地面に倒れこんだ。

 

マックスの最速の攻撃を受けながらも、ラゴラスはなんとか立ち上がろうとするが、ラゴラスはダメージが蓄積しているのかよろよろとした様子で立ち上がった。

 

 

チャンスは今しかない。

 

 

マックスはこの隙を逃さないため、すかさず左腕のマックススパークを天高く掲げるように左腕を突き上げる。

すると、それを合図にしたかのように彼の左腕に眩い光が集まり、それは輝く光の翼のような形を形成した。

これはマックスの持つ、“最強の一撃”……目前に立ちふさがる敵を撃退するためのマックスの必殺技!

 

 

 

「……シュアァァァァァァァア!!」

 

 

 

マックスは天高く掲げた左腕を下ろし、垂直に立て、その下に平行になるように右腕を添えることで腕を逆L字型に組んだ、その瞬間彼の左腕から鮮やかな七色の光線が発射された。

 

彼の打ち出した必殺光線、“マクシウムカノン”は一直線にラゴラスへと向かっていくと、ラゴラスの体に寸分の狂いもなく直撃、ラゴラスはその攻撃を受けると最後に鳴き声を一つ上げてから後ろ倒しにゆっくりと倒れ………。

 

 

 

激しい爆炎を上げながら、爆発した。

 

 

 

夕焼けに染まる空の下、ウルトラマンマックスが勝利を収めた瞬間である…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え? じゃあ、マックスには仲間がいるの?」

 

あの戦いを終えた後、マックスは凛との一体化を解除し、元の姿へと戻った。

そして、その後凛はマックスのことについて聞いている内に彼に仲間がいることを知った。

 

 

『あぁ、私を含めてこの地球に“9人”……まだ彼らは何処かにいるはずだ、早く見つけて合流しなければ……』

 

「……そっか、じゃあ凛もそれを手伝うにゃ!」

 

『手伝う? ……私を?』

 

 

凛の唐突な宣言に人形になったマックスは彼女の手の中で不思議そうに言った、それに対して凛は当然と言うように満面の笑顔を浮かべる。

 

「困ってるなら助けるのは当たり前、誰かが困ってるなら当然にゃ! それに……マックスにはなんやかんやで助けられてばっかりになっちゃったから、その恩返しもしたいにゃ!」

 

『……恩を作ったつもりはないのだが……』

 

元を正せば凛が人間離れした力を発揮できたのはマックスと偶然一体化したことによる副作用のようなものだし、ラゴラスとの戦いもどちらかと言うと巻き込んだ形に近い。

だが、それでもと凛は屈託のない笑みを浮かべてマックスに言った。

 

「それでも、このままなのは凛もちょっと嫌なの! それに、なんだかおかしなことがこの辺りで起きてるんでしょ? なら、凛も手伝うよ! その方がマックスもいいでしょ?」

 

純粋な目を向けてマックスを見つめる凛、それに対して人形のマックスはしばらく考え込むように間を開けると……。

 

『……仕方が無い、私もこの姿ではまともに力も出せないからな……』

 

「それじゃあ、決まりだにゃ! これからよろしくね、マックス?」

 

『……よろしく頼む、凛』

 

渋々と言う様子ではあるが凛の申し出を受けたマックス、改めて二人は挨拶をかわすと凛は早速マックスを制服のポケットに突っ込む。

 

「よーし! じゃあ早速、マックスの友達を探しにいくにゃ!」

 

『今からか!? …もう今日は遅いと思うのだが…』

 

「思いたったら……えーっと、なんだっけ? ……とにかく、ちょっとでも探して手がかりを見つけるにゃ、マックスも早くお友達と会いたいでしょ?」

 

一体この子にはどこまでの元気が詰まっているのだろうか…。

あんなことの後だと言うのに、これと言った疲労を感じさせないこの元気さ、マックスは驚きにも似た何かを感じずにはいられなかった。

 

意気込む凛は早速とマックスの仲間を探そうとする。

 

 

 

「別に、そんなに焦らなくてもいいわよ、凛」

 

「……にゃ?」

 

 

 

だが、そんな時彼女を引き止める声が何処からか聞こえてきた。

その声に凛は動きを止めて声が聞こえた方へと目を向ける。

すると、その視線の先には……見慣れた赤毛をした一人の少女がこちらを見つめていた。

 

「あれ、真姫ちゃん? 確か帰ったんじゃ……」

 

「どうにも気になってね、あなたを追って来たのよ……そしたら案の定、まさか凛も“会ってた”なんてね」

 

そう言いながら凛に近づいて来たのは先程途中で分かれて帰ったはずの真姫だった。

真姫はそう言いながら凛に近づくと凛のポケットに収まっているマックスをちらりと見る。

 

「え……どういうこと? 会ってたって……もしかして、真姫ちゃん何か知ってるの!?」

 

「……知ってるもなにも、薄々気づいてたからこうして追って来たのよ……だって、私も会ったんだから」

 

すると、真姫は自分の肩にかけていたカバンの中から何かを取り出すと、凛とマックスの二人に見えやすいように差し出した。

彼女が取り出したもの、それを目にした時凛…そしてマックスも驚きを隠せなかった。

 

なぜなら真姫の取り出したもの、それは……マックスと似ている姿をしている、人形だったのだから。

 

 

「……こ、これって」

 

『驚いた…まさかこんなに早く会えるとは思ってもみなかった』

 

『それは僕も同じだよ、マックス……無事だったんだね』

 

『……あぁ、君も無事だったようだな……“ガイア”』

 

 

まさかの再会を果たしたマックス、そして驚きの事実を知った凛。

再会した二人と、同じ出会いを果たした二人…。

 

この時、夕焼け空は次第に太陽が沈み、空は暗闇に包まれ始め、その中で一つ………“一番星”が輝いていた。

 

 

 

 

これが、六人目の出会い……。

 

μ'sのメンバー、星空 凛。

 

そして、最強最速と呼ばれた赤き光の戦士、ウルトラマンマックスとの出会いだった…。




いかがでしたか?
物語が進むにつれて、徐々に現れる怪しげな影……そんな中、次回は誰がどんな出会いを果たすのか。

次回もお楽しみに!


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手を伸ばす輝きは… 海未と蒼き光

どうも、白宇宙です!
久々のウルトラブライブ投稿、今回の主役は……ラブアローシュートを決める、μ’sのしっかり者、園田海未ちゃん!

ある日、彼女が訪れたある場所で感じた異変、それは新たな出会いの序曲となる……。

それではお楽しみください、どうぞ!


 

 

 

その少女は支えになることを望んだ…。

 

 

 

幼い頃、他人と関わるにはどうすればいいのかわからず何に対してもどうしようもなく臆病だった、そのせいで友達もいなくて、どこか寂しくて、なんとかしようと思うけどいざとなるとどうすればいいのかわからない…。

公園で元気に遊ぶ同年代の子たち、でもその輪の中にどうやって入ったらいいのかわからないから、ずっと木の影に隠れて見ることしか出来なかった。

 

少女が生まれ育ったのはこの街でも有名な日本舞踊の家元であり、少女もまたそれに見合った育て方を受け、それが当たり前だと感じていた。

だが、それ以外の外の世界、そこは自分が今まで生きてきた世界とは大きく違っているように感じて……自分がその世界の中で違うように思えて、周りと違う自分が他の子達と仲良くなるにはどうすればいいのか……考えても答えは出なくて、だからどうしていいのかわからなくて……。

 

だから彼女は誰かと目を合わせることが出来ずに、反射的に木の影に隠れててしまった。

これではダメだ、こんな弱い自分てまは家を継ぐことなんて出来ないと…頭ではわかっている、でも、どうしようもできない…それが悔しくて涙が出てくる、流したい訳じゃない、でもどうしたら止まるのかもわからない…。

 

わからないことだらけで、何も出来ない……そんな自分の前に、一人の少女が現れた。

 

 

 

『見ーつけた!』

 

 

 

まるで当たり前かのように、最初からそこにいたかのように、その少女は木の影に隠れていた自分を見つけるとそう言った。

突然の事に驚き、どうしようと動揺してしまう、こんな時なんでいいのかわからず、今にも声を出して大泣きしそうになる……だけど、次の瞬間、彼女の戸惑いの涙はピタリと止まった。

 

 

『次、あなたが鬼ね!』

 

 

まるで、当たり前かのように、前から一緒にいたかのように、誰と比べることもなく純粋な笑顔で向けられた笑顔。

 

始めてだった…こんな風に明るい笑顔を向けられたのは…。

こんなに安心を感じた笑顔を向けられたのは……。

 

それから少女には掛け替えのない友人が出来た、空に登る暖かな太陽のような…陽だまりのような安心感をくれるあの笑顔を浮かべる少女に、いつの間にか自分は着いて行っていた。

 

そして、やがて少女は今のままの自分ではダメだと思うようになった……誰かの影で隠れてばかりではダメだと……自分はもっと強くなりたい、大切な友人を支えるような存在になりたい、と……。

 

彼女のその思いは彼女を奮い立たせ、家の伝統の習い事から己の心を律する修練を欠かさず、前に、前に、前にと……昔の自分とは違う、新しい……強い自分へと……。

 

 

 

「私は…園田流日舞、家元の娘、“園田 海未”と申します」

 

 

 

やがて少女は高校生となり……引っ込み事案で恥ずかしがり屋だった彼女は、凛とした心を持つしっかりとした自分へと変わって行った。 そして、そこで彼女はまた新しい自分へと踏み出す、新たな出会いを果たすこととなる。

 

 

 

「μ's!! ミュージック、スタート!!」

 

 

 

とあるきっかけで始めることとなった“スクールアイドル”。

あまりにも突飛で、あまりにも無計画な提案から始まったこの活動に彼女は最初、あまり乗り気ではなかった。

 

だけど、彼女はそれを提案した少女に振り回されながらも…いつの間にか集まっていたたくさんの仲間と共に今まで考えていた自分とは大きく違う、あまりにも輝かしすぎてどこか恥ずかしさを感じてしまうこの活動を、彼女は支えることとなる。

 

そしてその出会いを果たした彼女は、とある日にまた別の……新たな“輝き”と出会うこととなる。

 

 

 

これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。

 

 

 

 

 

~ウルトラブライブ!9人の少女と光の勇者達~

 

「手を伸ばす輝きは… 海未と蒼き光」

 

 

 

 

 

それは数日程前に遡る、ある日の夜のことだった。

その日、音ノ木坂の街では空を駆け抜ける色とりどりの流れ星が見えた。

 

一つは赤く、一つは青く、一つは白く、一つは金に、一つは銀に……。

 

色とりどりの流れ星は全部で9つ、それがこの街の空を覆う夜空の中、数多の星々が煌めく夜空を駆け抜けた日のこと。

そのうちの一つが街から離れ、郊外の方に位置する山の方へと落ちて行ったのだ。

 

青く煌めくその流れ星、やがて地上に近づくに連れてその光が弱くなっていき、やがてそれは見えなくなった……。

 

 

 

そして、その後、その山奥にあるとある湖………そこに、一筋の光が……“落ちた”。

 

 

 

高い水飛沫をあげて湖の中に落下したその光……その後これが、偶然とも、そして奇跡とも呼べる、とある“出会い”のきっかけとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂から離れた、自然豊かな山岳地帯。

その麓近くの道路を一台のバスが揺れながら進んでいた。

そのバスの中にいるのは何人かの乗客、各々それぞれの目的に合わせて着てきたのであろう服装に身を包み、バスに揺られる人々、その中で一人まさにこの辺りに来た目的がはっきりとわかる服装に身を包んだ人物がいた。

 

「……そろそろ着きそうですね」

 

綺麗な髪を腰のあたりまで伸ばし、整った顔立ちに、凛とした雰囲気を纏った、まさに大和撫子という言葉が似合う彼女の服装はまさに山登りをしに来たという格好だった。

大きなリュックを荷物を置くスペースに置いて、窓の先の流れて行く景色を見る彼女、すると彼女がポケットに入れていたスマホから着信音が鳴った。

これはSNSの通知だと気づいた彼女はポケットに手を入れてスマホを取り出すと通知内容を確認する。

 

 

『海未ちゃん、もう着いた?(・8・)』

 

 

独特な顔文字をつけて来た相手は自分の幼馴染だ。

彼女はその顔文字に口元に微笑みを浮かべるとスマホの画面に指を走らせて返信する。

 

『もうそろそろ到着です』

 

飾り気のない内容の返答だが彼女はいつもこんな感じだ。

すると程なくして相手の幼馴染からまた返答が帰ってきた。

 

『新曲の作詞、頑張ってね! 私も衣装のアイデア考えるよ(^ ^)』

 

励ましの内容が込められた返信に彼女の表情にまた微笑みが浮かぶ。

 

「…ことりも頑張ってる以上、負けてられませんね」

 

幼馴染にして、同じスクールアイドルとしてステージに立つ仲間の激励を受けた彼女、園田 海未はこれから自分がしようとしてることを思い、再度気合を入れた。

 

 

 

彼女はこれからリフレッシュを兼ねてμ'sの新曲の作詞のために趣味を楽しみに来たのだ。

作詞という己のインスピレーションがものを言うこの作業はなにより自身のモチベーションが重要となる、そのため彼女は新たな曲に必要な新たな歌詞を考えるべく、趣味である“山登り”を休日を利用して久々に楽しみに来たというわけだ。

 

「“ラブライブ”がひと段落してμ'sは今、大きな目標が本来の音ノ木坂学園の存続に戻った以上、今後も気は緩めずにさらに精進しませんとね」

 

元々、自分が幼馴染である友人を見守る形で始めたスクールアイドル、μ's、その本来の活動目的は学園の存続のためにアイドル活動をすることにある。

その一環としてスクールアイドルの祭典、“ラブライブ”への出場を目指したものの、とあるきっかけを理由に途中で断念してしまった。

 

しかし、それでも自分達の目指すことは変わらない……彼女もまた、幼馴染の彼女が……穂乃果が走り出した時からそれを支えようと決めたのだから。

 

「……今頃、穂乃果は家でゴロゴロ…と言った所ですかね、念のためトレーニングのメニューも考えておきませんと……最近たるんでいる様子がよく見られますし」

 

故に厳しくするのも彼女のため、甘やかさないのが彼女のやり方だった。

ただでさえ穂乃果は怠け癖がよく見られるのだ、その分しっかりと鍛えないと彼女の力にならない。

今回のはみっちりとした内容にするか、と海未が考えていると……。

 

 

 

ーーー ~♪~♪……次は~……

 

 

 

軽快な音声と共にバスの中に聞こえてきたアナウンス、どうやらそろそろ目的地に到着するらしい。

 

「……さて、では参りましょうか」

 

山が呼んでいる……あの山で、何かに出会えそうな気がする……。

 

これはきっと自分達の新たな道を示す、新しいインスピレーションなのかもしれない…!

 

そう考えながら、海未は持っていた荷物を手に取ると早速自身に気合を入れ直した海未は車窓の窓から見える自然に包まれた山を見つめた…。

 

 

 

………だが、彼女は知らない………その予感が、別の意味であたることになるとは………この時の彼女には、知る由もなかった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山にはそれぞれ特徴が存在する。

ただ起伏が激しく、自然に包まれているだけが山ではない、それぞれの山にはそれぞれの特徴があり、その山でしかない特別な楽しみというのがある。

 

例えばその山は何百という長い年月の間その場所に存在し続け、世界遺産に指定されたとか、その山には大昔から存在する遺跡があるとか、その山にしか生息していない生き物がいるとか、用は特色のことなのである。

 

今回、海未が登ろうと決意して選んだ山、この山の特色は緩やかな中にも力強さを感じる起伏のある坂があり、何よりもこの山でしかみられない湖と滝が存在するらしい。

 

とりあえずはその滝と湖がある地点を目指すのが今回の目標だ。

 

「…できれば山頂アタックをかけたいところですけど、この辺りの天気は変わりやすいと情報がありましたしね、ここはとりあえず焦らず行きましょう」

 

山の麓、これから山道へと入っていく道すがら、山登りのための服装と大層なリュックで身を固めた海未は山の上を見上げながら呟いた。

 

山の天気は変わりやすいとはよく聞くことではあるが、天候は本当に気まぐれを起こしやすく油断をすれば大惨事を招きかねない。

なので無理はせずに今回は確実性のある目標を狙っていくことにした海未は早速山へと入って行くことにした。

 

まだ始まったばかりの地点だが、すでにこの場所には豊かな自然の姿がちらほらと見えている…。

都内の音ノ木坂とは違った独特の空気を味わいながら大きく深呼吸をした海未は早速意気込むと……。

 

 

 

「……子どもの頃はよく穂乃果に振り回されて、色んなところに行きましたね……」

 

 

 

好奇心旺盛、故に行動力に溢れていた穂乃果……彼女の提案により、幼馴染のことりとともに多くの場所に足を踏み入れた海未。

彼女にとって、子どもの頃に体験したそれはまさにちょっとした“冒険”そのものだった。

 

最初こそ怖気付いていた自分を、彼女は引っ張られ、彼女は…時に危ない目にもあったが…たくさんのものを見てきた。

 

「……もしかしたらこの趣味も、その影響かもしれませんね」

 

そんなことを考えながら山の中へと足を踏み入れた海未……目指すはこの山の名物となる、湖と滝だ。

 

「……もっと前に……もっと先に……よし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、この山の奥で、何か得体の知れないものが動き出そうとしていた……。

 

 

 

「………」

 

 

 

山の奥、深い緑に囲まれたその場所でその影は周囲を見回す。

そして、なにを思ったのか懐からあるものを取り出すと、それを手に持っていた“人形”へと押し当てた。

 

 

 

『リヴァイブライブ!』

 

 

 

そして、その時……ちょうどとこを同じくして……この山にどす黒い雨雲が迫りつつあった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山登りの醍醐味はただひたすら山道を登るだけではない、それ意外にも楽しみ方がある。

 

それは……。

 

「おぉ、お嬢さん、精が出るのぉ?」

 

「い、いえ、好きで来てますので…お爺さんも頑張ってますね?」

 

山を登る道すがらに出会う人々との関わりである。

こう言う風に一見険しく、疲れるだけに思える山登りも同じ道を共にする人々がいれば自然とその苦楽を共にすることで距離が縮まって来るのだ。

 

海未が道中に出会った老人と今現在話しながら山道を登っているのもそのためである。

 

「ほっほっほっ、まだまだわしは隠居はするつもりはないんでのぉ、この体が動く限りなんべんでも山に登って見せるわい」

 

「お元気なんですね、でも体を動かすのはいいことですけど、無理はしないでくださいね?」

 

「わかっとるよ、心配してくれてありがとう……いやぁ、しかし、こうして山に登るのはええことじゃわい……お嬢さんもそう思うか?」

 

口元の白い髭を手で撫でながらリュックを背負い、杖を使って山道を進んでいく老人が隣を歩く海未に問いかける。

 

「えぇ、私もこうして山に登るのは好きです、なんというか……自分をもっと磨ける、というか……精進できるような気がして」

 

「ほぉ…その年でそこまで言うとはのぉ…大したもんじゃわい…」

 

「いえ、まだまだです、私はもっと自分を高めて行きたいのです……未熟なところがあるのは自分が一番わかっていますから」

 

実際この山に登ろうと思ったのもμ'sの新曲の歌詞を考えるためのインスピレーションを得るためである。

自分達はまだまだ未熟、駆け出しで磨くべきところが多い、そのため少しづつでも前に進む努力が必要なのだと海未は考えている。

 

「ほっほっほっ、なるほど“すといっく”というやつなのじゃな、お嬢さんは……で、なにか見つけられたかの? この山を登ってみて」

 

そんな彼女の思いを感じ取ったのか老人は再び海未に問いかけた。

 

すると、その問いを受けた海未は一瞬だけ同様の色を見せると間を明けてから苦笑いを浮かべた。

 

「……お恥ずかしながら、まだこれだというものは見つけておりません」

 

実際山を登り始めてしばらく歩いたが、彼女のインスピレーションを擽るようなフレーズは浮かんでこない。

しかし、その答えを聞いた老人は口髭を蓄えた顔に温和な微笑みを浮かべるとこくこくと頷いた。

 

「いやいや、恥ずべきことじゃあらんよ…なにも山はがむしゃらに登ってなにかを得る場所ではないからのぉ…」

 

老人は今現在進んでいる山道の先を見つめながら続ける。

 

「一歩、また一歩、少しづつでも進んでいく中でなにを感じ、どうしたいのか、それを考えるのも山登りをするに当たっての心構えというやつじゃ…」

 

その言葉にある重み…年の功、というものなのだろうか?

老人から感じる言い表せない説得力のようなものに海未はなんとなく聞き入ってしまっていた。

 

「……自分がなにをしたいのか、ですか……」

 

「あぁ、そしてそれは山を登っていれば自然とわかって来ることもある……どれ、ここで一ついいことを教えてやろう、なにかの足しになるといいんじゃが」

 

「……そうですね、せっかくなので是非お聞かせください」

 

海未が微笑みながらお願いすると老人は再び温和な微笑みを浮かべ、遥か山の奥の方を見つめるように遠くへと目を向けた。

 

 

 

「…実はの、この山にある滝と湖が交わる場所…そこには昔“水神様”が住んでおられたという話があったそうじゃ…」

 

「…“水神様”?」

 

「…“水神様”は訪れた者の心の内を知り、今必要なものがなんなのかお恵みをくださる……心が清らかなものにのぉ……」

 

 

 

そう言って説明したのは、おそらくこの山を登るに当たって海未が目標としていた湖のことについてのようだ。

それに関しては知らなかったのか、海未は少し驚いたような表情を浮かべる。

 

「そんな伝説にも似た話がこの山にあったのですね…」

 

「ほっほっほっ……伝説というのはちと大袈裟すぎる気がするがのぉ……まあ、言い伝え程度な昔話じゃよ」

 

笑いながら老人はそう言ったものの、そんな昔話染みた言い伝えというのは、こうして聞くと何処か神秘性の感じるものに聞こえる。

 

恵みの施しをくれる水神様が住んでいたとされている湖……これは俄然そこに向かう気力が湧いて来たというものだ。

もしかしたら、そこに行けば新しいフレーズが浮かぶかもしれない……そう思った海味は再び意気込み、気合を入れて山を進んでいく決意を固める。

 

 

だが……。

 

 

 

「………おや?」

 

 

 

ふと老人が空の方を見上げて首を傾げた。

それにつられて海未もまた空を見上げて見ると…。

 

「………これは………雲行きが怪しくなって来ましたね」

 

遠くの方ではあるが次第に怪しい色合いをした灰色の雲がこちらの広がりつつあることに気がついた。

見たところ雨雲のようだ。

 

「……おやおや……山の天気は気まぐれじゃのう……こりゃ、湖までいけるかわからんのぉ」

 

「そんな……でも、仕方ないですよね……なんだが雷とかも落ちそうですし」

 

遠くの空に見える雨雲、あれがただの雨雲にしては少々たちの悪そうなものに見えた海未は残念そうな顔を浮かべるが渋々そう言って納得せざるを得なかった。

 

何かあってからは遅いのだから安全を第一に考えるのは基本中の基本である。

 

ここは老人の言うように湖までいけるかわからないし、あまり無理はせずにここは一旦様子を見るのも手かもしれない…。

 

 

 

ー………ー

 

 

 

「………え?」

 

 

 

 

だがその時だった、不意に海未はなにか妙な感覚を感じ取った気がした。

頭の中が今まで静かで、波打つこともなかった水面が波紋を広げるかのような、静かながらも心を揺らすざわめきにも似た感覚。

 

「………今のは………」

 

心の中に深く浸透してくるかのようなそのざわめきに、海未は疑問を抱く。

この感覚はなんなのか……なぜ、こんな感覚が胸の中に突然現れたのか?

 

そして、この感覚を……“どこかで感じたことがある気がする”のはなぜか……?

 

胸中のざわめきを不思議に思いながら、彼女は一度雨雲が包みつつある方の空を見上げる。

すると、僅かにだが雨雲の中で光が瞬いた気がした、恐らく雷のようだ。

 

 

 

ー………!ー

 

 

 

そして、その瞬間再び海未の胸中に異様なざわめきを感じ取った。

 

先ほどよりも近く、はっきりと感じたその感覚……海未はその感覚がなんなのかを知るべく、自身の心に問いかける。

 

(……なんで、私はこの感覚を知ってるのですか……これは……私も感じたことがあるから? ………なら、それはいつ?)

 

それを確かめるように自身の過去を振り返る。

 

この感覚、それを感じたのは……そう、遠い…遠い昔だ…。

今よりもずっと前の、自分がまだ幼かった頃……。

あれはそう………“あの出会い”よりも前の時だ……。

どうしたらいいのかわからず、なにもできず、もどかしさを感じながらもどうしたらいいのかわからずに戸惑っている……そう、あの頃の……まだ他人との関わり方を知らなかった幼い頃の自分が抱いていた感覚……。

 

そうだ、これは…それと似ている…。

 

 

そしてこれは、同時に求めているのだ………誰かが、このもどかしい感覚の中で“助け”を………。

 

 

口に出すことはできない、でもそれでも求めている……何処かで身を隠しながらも、本当はなんとかして欲しいと思っていて、戸惑っていた……あの頃の自分と同じ……!

 

 

 

「……おじいさん、申し訳ありません……私、ちょっと行って来ます」

 

「なに?い、行くってどこに…お、お嬢さん!?」

 

「誰かが呼んでるんです! 助けてあげないと……だから!」

 

 

 

それを理解した海未はそう言うと一目散に山の奥へと向けて走り出した。

誰かが求めている、助けを……あの時に自分に差し伸べてくれた、彼女のように……今度は自分がその手を差し伸べるために……。

 

なぜかはわからない、でも……彼女は走った。

 

そのままにしてはおけない、このままじゃいけない、だから…自分がなんとかしないと…!

 

この感覚を感じ取ったからこそ、海未は走り出したのだ。

 

 

 

自分に出来ることを、するために…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雲行きが怪しい中、山道を超え、先へと進み続けた海未。

自分が感じたこの感覚に導かれるように、それを感じ取った方向へと無我夢中で走る。

いつもの自分ならこんな危険なことには足を踏み入れなかっただろう、今にも落雷が落ちそうなこの天気の中で山に居続けるなんてこと……まずしない。

 

しかし、それでも彼女は止まらなかった。

 

自分が感じ取った、何かが……今にも消え入りそうな何かが、助けを求めているのに……止まる訳にはいかない。

 

怖がる訳にはいかない………。

 

 

……これも、もしかしたら幼馴染の彼女の影響なのかもしれない……だから、ここで止まっていたら絶対に後悔する……そう感じているのかもしれない……。

 

 

そんな思いを胸に抱きつつ、海未は走り続ける。

 

 

そして、やがて彼女切り立った崖のような開けた場所に出た。

周囲を森の木々に囲まれながらも高い崖に面したその場所は奥の方では川が流れているのが確認できる。

その川は崖へと向かって流れており、そのまま重力に従って崖から水が落ち、滝へと姿を変えている、轟々と聞こえる水が落ちる音がそれを物語っている。

 

「……?」

 

すると、海未はその川の近くで何かを見つけたのか目を凝らして滝のすぐそばへと目を向ける。

 

すると、そこにはなにやら身体を黒いローブのようなもので覆った謎の人物が崖の下の方へと目を向けていた。

いったい何者なのか、海未がその人物を見つめていると……。

 

 

「………」

 

 

そのローブは海未の存在に気づいたのか、後ろを振り返った。

目深にかぶったローブで顔は見えないがその視線はまっすぐに海未を捉えている様だ、実際にその瞬間、身体を貫く様な視線が自分に向けられているのを反射的に海未は感じ取っていた。

 

「……あの、そんなところでなにをしているのですか?」

 

体に感じる異様な感覚を肌で直に感じながらも海未は目の前のローブの人物に問いかける。

するとローブは海未に向けていた視線を外すと再び滝の下へと目を向けて……。

 

 

 

「………!」

 

 

 

右手を空へと掲げるとどこからともなく雨雲から稲光が走り、それが滝とは違う山の裏手の方へと落雷となって落ちて行った。

何事かと戸惑う海未、すると………

 

 

 

ー……グオオオオオオオオオオオオオォォォォォオオオオン!!

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

突如として聞いたことの無い様な獣の咆哮……いや、もはや獣とは言い難い地を震わせる程の何かの叫びが海未の鼓膜を震わせる。

 

そしてその瞬間、その山の裏手の方から先程の落雷よりも強力な光を放ちながら、青白い稲妻が今度は滝の下へと向かって放たれたではないか!

 

 

轟音と閃光、落雷の爆発めいた音を優に超えるかのような激しい音を響かせながら滝壺へと落ちた稲妻が再びスパークする。

 

その稲妻から発生したエネルギーの影響なのか、海未の肌が泡立つ様な感覚と、ぴりぴりとした肌を付く様な異様な感じに襲われる。

ローブの人物が手を上げたのを合図にしたかの様にして目の前で起きた頂上的な現象、それに海未は戸惑い数歩後ずさる。

 

 

 

「………お前には関係のないことだ………」

 

 

 

警戒を強め、後ろに後ずさった海未にローブの人物がそう告げる。

この時、海未は咄嗟に感じた……目の前にいるこの人物は……“普通ではない”、と……。

 

このままここにいたら、なにをされるかわからない……と……。

 

このローブになにを言ったとしても次の瞬間に自分がなにをされるかわかったものではない…言い知れぬ不安と恐怖が海未の身体を支配していくのを、海未自身は感じていた。

 

咄嗟に海未がさらにもう一歩後ろに下がり、ローブの人物に背を向けようとした……。

 

 

 

ー………っ……!

 

 

 

「あ………」

 

 

 

…また感じた…。

 

ここに来る途中にも感じていた、何かを求める様な感覚……。

 

声には出さないようで、それでいてか細く感じた……この感じは……。

 

 

「………っ!」

 

 

気付いた時には咄嗟に海未は再びローブの人物と向き合っていた。

 

「……聞こえなかったか? ここを去れと言ったはずだが?」

 

「………できません」

 

「………なに?」

 

海未の言葉にローブの人物は訝しげに問いかけるが、海未は一度目を閉じて大きくその場で深呼吸をすると目を開きローブの人物を見つめた。

 

 

 

「感じるんです………誰かが助けを求めてるって……」

 

「………?」

 

 

 

はっきりと聞こえたわけではない、助けの声を聞いたわけではない……ただ、彼女は感じたのだ……その誰かが、危険を知らせていることを……助けを求めていることを……。

 

「……あなたのやっていることがなんなのかはわかりません……ですが、このまま見過ごしたらダメだと言うことが理解できました……だから……」

 

そう言うと海未は背負っていたリュックをその場で降ろして、近くに落ちていた一本の木の棒を拾い上げた。

そして、それを両手で握り、感覚を確かめるように数回振ると、再び深呼吸をしてまっすぐにローブの人物を見据えた。

 

「……私は、ここで引き下がるわけにはいきません……あなたがなにをしようとしているのかはわかりませんが……」

 

両手に握った棒の先端をローブの人物へとまっすぐ向けた海未は自身の決意を固める。

 

……あの時、自分へと向けてくれたあの笑顔……あれが自分を救い出してくれた救いの手だった。

 

だからこそ、海未はこうして今の自分へと変わろうと思えた……変わりたいと思った。

 

彼女のように強く、彼女のようにまっすぐに、彼女のようにひたすらに何かと向き合える、心の強さ……。

 

そして、同時に思った……彼女と共に前に進みたいと……彼女のために自分ができることをせめて、と……。

 

でも、ここで背を向けてこの場を去ってしまったら…おそらく、それは叶わない…きっと彼女なら、手を差し伸べるだろうから…。

だからこそ、自分は逃げる訳にはいかない。

支えとなるべく今の自分があるのに、そのきっかけとなった彼女に顔見せできないことをする訳にはいかない…自分はもう、前までの自分とは違う…!

 

だから彼女は向き合った…。

 

 

 

「……あなたを止めさせていただきます」

 

 

 

………自分が感じ取ったこの感覚と………。

 

 

 

………そして、それを感じ取る要因となっているのであろう………目の前の頂上的な危険と………。

 

 

 

 

意を決してそう言い放った海未の表情にはもう恐れも不安もなかった…。

まっすぐな決意が露わになったかのようなまっすぐな思い、凛とした雰囲気を体に纏わせた彼女のその目にローブの人物は顔の見えないそのローブの奥で見据える。

 

「………そこまでする道理がどこにある」

 

「……正直、私にもわかりません……だけど、一つ言うとするなら……そうしたくなった、と言うだけです」

 

ローブの人物の問いかけに海未が答える、そして木の棒を正中線に構えると……。

 

 

「……あからさまに助けを求めているのに、無視することはできない……そういった、所でしょうか!」

 

 

一進、迷いのない動作で足に意識を集中させて海未は思い切りが前へと飛び出した。

リュックを先ほど取り去った分、身軽になった海未は地を滑るかのようなスムーズな動きで一気にローブの懐まで飛び込む。

 

海未の家は代々伝わる“日舞”の家元の家系であり、彼女は幼い頃よりその家柄の元修練に励んで来た、それは舞だけにとどまらず茶道や花道もあり、部活にしている弓道もまたその修練の一つとして始めた…。

 

そして、その中には“剣術”の手解きもあったのだ。

凛とした佇まいは全てに通ずる、自身がより前へ、より己を磨く術として受けてきた修練の感覚を海未は迷うことなく発揮する。

 

「…っ!」

 

懐に入ったその瞬間、両手に握っていた木の棒をローブで包まれた頭部にめがけて振り下ろす!

軽く、それでいて空気を切り裂くような鋭い音を鳴らしながらローブの人物の頭へと向かっていく木の棒…。

 

距離、間合い、タイミング、共に絶好の瞬間だった。

 

 

しかし、その棒がローブの人物に直撃する寸前、ぴたり、と前触れもなく止まった。

 

 

「なっ………」

 

 

直撃する寸前、ローブの人物が伸ばした手によって海未が握っていた木の棒が掴まれ、直撃を受ける前に止められてしまったのだ。

それなりにしっかりしていて、硬さも十分にある木の棒、形こそ整っていないが素手で受け止めるとなると相当な衝撃が伝わるはず……しかし、目の前のローブの人物はそれを感じさせないほど、スムーズにそれを受け止めたのだ。

 

「……邪魔をするのか……?」

 

「っ……この!」

 

先程の光景を目の当たりにして目の前のローブが普通の人間とは違うことは重々理解していた海未はすぐさま木の棒を引き戻し、その手を振り払うと怖気づくことなく果敢にさらに木の棒を振り抜く。

 

横一文字、袈裟懸けに振り上げ、洗礼された剣線にも似た打撃、並の物なら直撃するであろう距離とスピード、しかしそれをローブの人物は容易く躱していく。

その動作に全くの隙は見えない……既に海未の動きが、読まれているのだ。

僅かな体の動きを先読みし、それに対応していく…それはもはや人間の反応を軽く超えている。

 

「……なら、こちらも加減は無しだ」

 

大きく踏み込んで振り下ろした一撃、それを変わらず容易く避けながらローブの人物は海未の耳元で呟いた。

身体を横に流し、すれ違うようにして立ち位置が入れ替わった両者、滝の水が落ちる崖を背にすぐさま振り向いた海未はその勢いを利用して横薙ぎに棒を振るうが……。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

突如、自分の体を言い表せない衝撃が駆け抜けた。まるで身体全身を見えない大きな手で突き飛ばされたかのような衝撃、そのあまりの力に海未はとっさに持っていた棒を手放してしまった。

右手を順手にして握っていた木の棒を離しながら海未はこの時何が起こったのか疑問を抱いた。

 

目の前にあるのはこちらに向いて右腕を伸ばし手のひらを突き出す、ローブの人物の姿。

 

そして、それに対して自分は見えざる力によって突き飛ばされるかのような感覚を感じ、身体が後ろの方へと弾き飛ばされた。

 

「………邪魔をしなければ落ちることもなかったろうにな」

 

後ろには滝の水が轟々と音を立てながら落ちる切り立った崖……このままでは……そう海未が感じ取った時には、もうすでに自身の足は地についてはいなかった。

 

直後海未の身体は浮遊感を感じ、程なくして重力に引きよせられるかのように近くを落ちていく滝の水と同じように落下していく。

感じたのとがない高所から落下する感覚、声もあげる余裕もなくそのまま落下していく海未をじっと目深に被ったローブ越しにその人物は見ていた…。

 

 

 

(………私はこのまま落ちたら、どうなるのでしょうか………)

 

 

 

不意に海未の頭にそんなことが浮かび上がった。

人間は不思議とこういう状況に陥った時冷静になるということなのか、崖の底、轟々と滝の水が落ちて大きな湖を形作る滝壺、そこに向かって落下しながら海未は疑問を抱く。

 

 

 

(………何もできずこのまま………)

 

 

 

そして程なくして辿り着いた一つの答えに僅かに海未はある感情を抱いた。

 

恐怖? ……違う……。

 

不安? ……違う……。

 

悲哀? ……違う……。

 

これは………“悔しさ”だ……。

 

 

 

(誰かが助けを求めてる……それなのに、私は何もできずに……)

 

 

 

求められた願いに答えるべく、差しのばした自身の手……しかし、それがこのまま届かずに何もすることができずに自分はこのまま何も救えず終わるのか……。

 

何も出来ないまま、終わるのか……。

 

自分のしたことに……意味はないのか……。

 

 

 

 

………そんなの、嫌だ………。

 

 

 

 

(……私は……まだ、こんな所で終わりたくない……私はまだやるべきことがある……穂乃果と……ことりと……みんなと……成すべき夢が……そして今この場に来た理由も……まだ成しえてない……!)

 

 

 

 

このまま終わることなんて出来ない、差しのばした手はまだ引かない、その手を掴んでないから……。

 

そして、夢へと差しのばした手もまたまだ引く訳にはいかない……まだ、辿り着いてないから……。

 

“輝き”へと伸ばした手、それを諦め、引くにはまだ早すぎる。

 

まだ諦めたくない……諦めない……だからこそ、彼女は今も手を伸ばす……。

 

 

 

(私はまだ……まだ……!)

 

 

 

自身の思いを秘めて伸びした手……その時……不意に自身の視界を眩く、同時に安らかな青い光が包んだ。

やがてそれは彼女の右腕へと集まり、三角の金縁の翡翠が埋め込まれたブレスレットへと姿を変える。

 

滝壺へと海未の体が近づいて行く、その刹那……翡翠の上部に施された装飾が左右に展開し、ぐるりと180度回転した。

 

その瞬間、海未の身体を水ではなく“光”が包み込んだ。

 

まるで水の中にいるかのような感覚に包まれる感覚に一度は身体が滝壺に落ちたのかと錯覚するが衝撃は感じなかった。

代わりにこの時、海未が別に感じたのは……“名前”だった。

 

 

 

「……ア…グ…ル……?」

 

 

 

“アグル”という………名前が………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん………」

 

滝壺へと落ちていく海未を確認したローブの人物は再び本来の目的を果たそうと、再び空の雨雲を見上げて右手を振りかざそうとした。

この時、すでに雨雲はもはや“雷雲”と呼ぶのが相応しい程の黒雲へと変化し、青白い稲妻が火花のように雲の中で唸りを上げている。

 

おそらく、この雷撃を利用して次の一撃を湖へと落とせばほぼ目的の“標的”を討つことができるだろう…。

 

ローブの人物はそう高を括ると天高く、右腕を伸ばす…。

 

 

「……?」

 

 

だが、その時……不意にローブの人物が何かに気づいたのか視線を空の黒雲ではなく、滝の水が落ちる滝壺へと向けた。

先ほど、一人の少女を返り討ちにし、そこへと落とした、ならあとは纏めて雷撃で始末すればいいはず……しかし、この時ローブの人物はあることに気づいた。

 

 

 

滝壺は崖から落ちて行った水が溜まり、湖となっている。

轟々と音を立てる水が水面を揺らす中………その湖の湖面に、淡く輝く“光”が発生していることに………。

 

 

 

「………まさか………」

 

 

 

ローブの人物がその光がなんなのかを理解したのと同時に、湖面に発生した光はどんどんその輝きを増していく。

とっさにローブは雷雲へと腕を伸ばし、とどめの一撃を打ち込もうとするが………。

 

 

 

 

ー………デェア!

 

 

 

 

それよりも早く、その光の中から雷雲へと向かって光り輝くエネルギーで形成された光球が放たれた。

 

光球は寸分の狂いもなく雷雲へと命中、そのまま雷雲は四散、湖の上に溜まりつつあった黒雲は無くなった。

 

そしてその瞬間、湖面に浮かんでいた光がより一層の輝きを放ち、それは一筋の光の柱となり、その光が大きくなって行き、やがてその光から、何かが勢い良く飛び出して来た!

 

空へと舞い上がるように飛び立った光、それは不規則な起動を描くとそのまま山間の地面へと降下した、そしてその光が晴れるとその中から巨大な人型のシルエットが浮かび上がった。

 

 

 

「……この状況で“可能性”を持つ人間と出会えたというのか……!」

 

 

 

その姿を見たローブの人物がこの事態に動揺を隠せない様子でそういった。

 

ローブの人物が見つめる先にいたもの、それは……“青い巨人”だった。

 

全身を深い海の底のような蒼で包み、体を走る銀色のラインと同じく銀色の顔に胸の金縁のプロテクターと五角形の金縁に逆三角の形をした水晶。

頭部に黒のラインを刻みながら、鋭さを感じる光り輝く双眸を持つその巨人は凛と、そして堂々と山間に立つ……。

 

その姿を見てローブの人物は呟く……。

 

 

 

「………“ウルトラマンアグル”………!」

 

 

 

その巨人の、真の名を……。

 

 

 

「………ちぃ、パズズ!」

 

 

 

本来の作戦はこの事態によって失敗してしまったが、まだ手は残してある。

ローブの人物はアグルへと目を向けながら近場の山の方へと指示を飛ばすと、その瞬間その山全体を震わせながら巨大な獣の影が姿を現した。

 

 

 

ーグォォォォォオオオオオオオ!

 

 

 

胸と腹が赤く、それ以外の体表をくすんだ灰色に包み込み、まさに凶悪そうな顔つきをした頭には二本の太い角が備わっている。

獣のように折り曲がった太い二本の足で地面に立ち、牙を剥き咆哮をあげるその巨大な獣、怪獣がローブの人物がいた山とは別の山の裏手から姿を現した。

 

ローブの人物はこの怪獣、“宇宙雷獣 パズズ”の名前を持つ怪獣を利用して雷雲に溜まった電気をさらに強化し、湖へと放ち湖の中へと逃げ込んでいたアグルを仕留めるつもりだったのだ。

しかし、アグルが本来の力を解き放ったのなら仕方ない、こうなればパズズの力で抑え込むつもりらしい。

 

「………」

 

だが、アグルはパズズを前にして警戒する様子も見せず、凛とした立ち振る舞いを崩さずに右腕を伸ばし、数回挑発の意味を込めてか手招きをして見せた。

それを見たパズズはその挑発に反応してか唸り声を上げるとそのまま太い足で地面を蹴り、周囲を揺るがしながらアグルへと迫った。

 

間合いが詰まり、パズズの鋭い爪を持つ腕がアグルへと向けて振り下ろされる。

 

だがアグルは真正面からその攻撃をいなすと、俊敏な動きですぐさま反撃の拳を打ち込む!

 

「フッ! アイ! デェア!」

 

さらにそこに蹴り、手刀、後ろ回し蹴りと連続で攻撃を叩き込んでいく。

そのしなやか、かつ一瞬の揺らぎもない動きにパズズは圧倒されるがそれが余計にパズズの闘争本能の引き立てたのか、パズズは再び叫びを上げながらアグルに向かって突進する。

 

だがアグルはその動きを見切り、身体をひねりながら横へと回避するとその勢いを利用してパズズの首の後ろへと水平チョップをカウンターで打ち込み、さらにパズズが振り返った所を勢いをつけた回し蹴りを叩き込んで地面へと打ち倒した。

 

地面へと倒れたパズズにさらなる追い打ちをかけるためかアグルは灰色で太いパズズの尻尾を両手で掴むとそれを抱えて振り回そうとしてるのか力を込める。

 

「…っ! ウゥァァァァアアアアアアア!?」

 

だがその瞬間、アグルの体に途轍もない力の電撃が流れた。

一体何が起こったのか………よく見るとパズズの頭のツノが変形してアグルのいる背後へと先端が向いている。

どうやら反撃とばかりにパズズは頭のツノから電撃を発射し、アグルを痺れさせたようだ。

 

電撃の威力のあまり咄嗟に手を離してしまったアグル、追い打ちとばかりにアグルの身体をパズズの尻尾が打ち据える。

尻尾によって弾き飛ばされ地面を転がったアグル、そこにパズズが立ち上がりアグルの方へと振り返ると牙が並ぶ凶暴な口を大きく開き、そこから火球を打ち出した。

 

アグルへと殺到する火球、地面を転がったアグルはすぐさま体制を立て直そうと身を起こすが殺到した火球が直撃しアグルの周囲を火球が直撃したことで発生した爆炎が包み込んだ。

 

ーグォォォォォオオオオオオオン!!

 

それを見て勝利を確信したのか、パズズが地を揺るがす咆哮を上げる。

 

あたりに響き渡る轟音……。

 

しかし、パズズのその雄叫びは……上げるにはまだ早いものだった。

 

「………まだ終わってない………」

 

ローブの人物が発生した爆煙の中を見据えてそうつぶやく。

すると、次第に晴れてきた爆煙の中から……。

 

 

 

「………」

 

 

 

片膝をついた状態で両腕を垂直に立てたような体制のアグルが姿を現した。

爆煙が晴れた瞬間、伏せていた顔を上げたアグルはそのまま立ち上がると咆哮を上げたパズズを見据える。

 

勝利を確信した一撃を耐えられたことに苛立ちを感じたのかパズズは再び頭のツノの形状を変えて、電撃を再び打ち出す。

 

「……デェア!」

 

だがその電撃をアグルは素早く地面を蹴り、身を捻りながら跳躍して回避すると……。

 

「オォアアアアアア!」

 

身体を回転させながら落下の勢いをつけ、そのままパズズの頭のツノ目掛けて降下し、竜巻の如く回転しながらの蹴りを見舞い、ツノを破壊した!

 

ーグォォォォォオオオオオオオン!?

 

ツノを破壊されたことで電撃はもう放てない、戸惑う様子を見せるパズズを前に着地したアグルは両腕を額の前で交差させると右腕を上に左腕を下へと伸ばす。

 

すると、アグルの周囲に青い光が渦を巻くように発生し、それがアグルの額へと集まるとやがてそれは青く輝く光の刃を作り出す。

 

空へと立ち上るように伸びていく光の刃、アグルはそれをパズズへと狙いを定めると……。

 

 

 

「デェアァァァァァアアアアアアア!!」

 

 

 

伸ばしていた右腕を振り下ろし、パズズへと目掛けて光の刃、“フォトンクラッシャー”を打ち出した!

 

 

殺到するその一撃にパズズは回避する暇もなく直撃を受ける、そしてその直後、放たれた光のエネルギーがパズズの中でスパークし、パズズはそのまま爆散した!

 

 

「………」

 

 

目の前の敵を倒したアグル、空にかかる曇天から光が溢れ出した……どうやら、太陽が顔を出すのが近いようだ。

 

その光を浴びて凛とした雰囲気を纏い、その場に立つ青い巨人をローブの人物はじっと見据える。

 

 

 

「………またしてもか………ちっ」

 

 

 

舌打ちをしながら、その人物はその場を去る。

一体、何が目的なのか……なぜ巨人、光の戦士を狙うのか……。

 

そして、ローブの人物が姿を消したと同時にアグルもまた青い光に身を包み、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいお嬢さん、しっかりするんじゃ! おい!」

 

「………っ……?」

 

気がつくと、自分は川岸のそばで倒れ、すぐそばでさっきまで一緒にいた老人が自分に向かって必死に呼びかけて来ていた。

その声に反応し、うっすらと目を開けた海未はその目を自分の身体を揺さぶる老人へと向ける。

 

「……お爺、さん……」

 

「おぉ、よかった気がついたか……なにやらものすごい揺れと音が聞こえたと思って来て見たらお嬢さんが倒れとってな……一体なにがあったんじゃ?」

 

「……なにが……」

 

その言葉を聞いて海未は気を失う前の自身の記憶を探る。

確か、自分はここにたどり着いて謎のローブを来た何者かがしようとしてることを止めようとして………それで……。

 

「………私は確かあの時……」

 

そう、そのまま崖から滝壺に向かって落ちて行ったはずだ……。

しかし、ここは崖の上の川岸、一体どうしてここにいるのか……わけもわからず海未はその場で呆然とする。

 

「………?」

 

すると、ふと彼女は自身の右手が何かを握っていることに気がついた。

右手へと目を向けると、それはなにやら人型の形をした不思議な青い人形だった。

 

こんなものを自分は持っていただろうか?

 

疑問を抱く海未がその人形を見つめていると……。

 

 

 

ー………礼は言っておく………。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

自身の脳裏に何者かの声が聞こえてきた。

それを聞いた瞬間、海未はこの人形がなんなのかを理解した。

 

……これが……この人形が……彼が自分に助けを求めていたのだと……。

 

そして、自分の身にあの時なにが起こったのかも……。

 

 

 

「おいお嬢さん、本当になにがあったんじゃ? 覚えておらんのか?」

 

人形を見つめる海未に老人が問いかける、すると海未は再び彼へと目を向けると微笑みを浮かべ、晴れ間が見え始めた空へと目を向けた。

 

 

 

 

「………助けるつもりが………助けられたのかもしれません………“水神”とは少し違う………青い光に………」

 

 

 

 

伸ばした輝き、それが彼女に齎したもの………これは数奇な運命によって生まれた、一つの出会いだった。

 

 

 

これが、七人目の出会い……。

 

μ'sのメンバー、園田 海未。

 

そして、青き惑星の水の意思を宿した青き巨人、ウルトラマンアグルとの出会いだった……。




いかがでしたか?

さて、残りメンバーも少なくなってきたので残りが誰が出てくるかおおよその見当がつき始めた頃かと思いますが、今後も首を長くして続きをお待ちください!


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暗闇の中で蘇る光 絵里と超古代の勇者

どうも、白宇宙です!

今回のお話はついにμ’sのメンバー8人目、3年生のエリーチカこと絵里ちゃんが主役!

ある日、絵里はある場所でとある人物とある騒動に巻き込まれることになる、そしてその中で絵里が手にしたものとは?

それではお楽しみください、どうぞ…。


 

 

 

その少女は妥協を許さなかった…。

 

 

 

まだ幼い頃、とあるきっかけで始めたバレエ、習い事として始めたのではなく彼女はそれに本気で取り組んでいた。

より美しく、より華麗に、より高みへと…。

やるからにはと本気で始めたバレエは彼女にとって自身の本気を注ぐ、掛け替えのないものとなった。

自分のことを見守ってくれる、大切な人の期待に応えるために……その少女はバレエに全力を注いで行った。

昔から自分はその人にとても懐いていたというのは自覚している、自分の中に4分の1の割合で流れているロシア人としての血、その大元となった自分の祖母………自分は祖母とともに過ごし、多くの時間を共にし、たくさんの思い出を作った。

 

そして、ロシアから日本へと移住して、少女はある場所へと通うことを決意した。

祖母が日本にいた時に通ったという歴史ある高校、祖母が青春時代を過ごした思い出が詰まった学校、“音ノ木坂学園”。

 

祖母から話を聞いて通うならこの高校がいいと前々から思っていた彼女、祖母が歩んだルーツを自分も歩んでみたいという興味、そして何より同じ青春時代をこの学校で過ごしたいという思い、それらを胸に少女は高校生となり、この学校に入学することにした。

 

しかし、程なくして彼女はこの学校が危機に立たされていることを知ることになった…。

 

 

生徒の減少による、学校そのものの存続の危機…。

 

 

それを聞いた少女はいても立ってもいられなくなった。

自分の祖母が過ごしたこの学校が……思い出となっているこの学校が、なくなるなんて……そんなことはさせない……させてはならないと……。

 

程なくして彼女はその危機をなんとか乗り越えるべく、この学校の生徒会へと身を置くことを決意した。

そして、やがて少女はその学園の“生徒会長”という立場に身を置くことになった、全ての生徒をまとめ上げ、手本となり、より良い学園生活を築き上げる、学校生活において重要な役割を担うことになるその立場になったことで少女はさらにこの学園のためになることに力を注ぐ決意を固めていた。

 

だが彼女が生徒会長になっても、学校の危機が改善されることはなかった……。

そんな時彼女が学校のためにと奮起し続けながらも、時は過ぎ、ついに彼女が三年生になった春のこと……それは突然訪れた。

 

 

 

“スクールアイドル”。

 

 

 

それはとある生徒が唐突に立ち上げた学校の現状を打開するためにと立ち上げた活動だった。

それを聞いた彼女は最初、乗り気ではなかった……そんなその場凌ぎで考えたような活動でどうにかなるとは思えなかったのと……何より“素人”同然の者たちが集まったパフォーマンスが結果を生むことはないと思っていたからだ。

 

子どもの頃からバレエをしていた彼女は、そのバレエに力を注いでいたからこそ、そう理解していた。

結果とは努力と練習を重ねて実力を伸ばして行った者が始めて生み出すもの……昨日今日考えたような咄嗟の思い付きで結果なんて生まれない。

仮に練習を重ねて結果を生み出せたとしても、それに有する時間を考えてもそれで間に合うとは思えなかったからだ。

 

 

 

故に提案をして来た者たちの努力が実を結ぶことはない………そう思っていたのに………。

 

 

 

彼女の考えとは裏腹に、音ノ木坂学院に誕生したスクールアイドルの人気はさらに上がって行った。

自分が彼女達に現実の厳しさを教えるために行った行動も、裏目に出てしまい日を増すごとにその注目は上がっていった…。

 

そして、同時に彼女には理解できなかった。

 

なんとかしたいという気持ちは一緒なのに、なぜ自分のやろうとしたことは実を結ばないのか……自分が胸に秘めてる思いも……そのための努力もしてきた……なのになぜ、“素人”同然のパフォーマンスにしか見えない彼女たちの方がより前に進めているのか……いったい、なにがそうさせるのか……。

 

なぜ、自分のやることは彼女達のように身を結ばないのか…自分にはやるべきことがあるのに…そのためならなんだってする覚悟もあるのに…それなのになんでうまくいかないのか…。

 

自分にはやるべきことがあるのに……成さねばならない役目があるのに……このままではそれが敵わない……祖母の思い出が詰まったこの学校を……“妹”が通いたがっているこの学校を……守ることが出来ない。

 

少女が焦りばかりを感じる中、その間にもスクールアイドルとして動き出した彼女達はどんどん先へと進んでいった、そしてそんなある日……少女は妹にこう言われた……。

 

 

 

『これがお姉ちゃんのやりたいこと?』

 

 

 

………自分のしたいこと………そんなこと言われてもすぐに少女が理解できることはなかった。

いや、理解するわけにはいかなかった………今まで自分がしてきたこと、それなのに今更こんなことを言えるはずがない。

本気で挑んだバレエ…途中で挫折した過去…だからこそ知ってる、実力がすべてなのだと…だけど、彼女達はそれでも前へと進み続けている。

 

………この時、薄々とだが少女は感じていた………一つの“可能性”を………。

 

だが、その可能性に今更自分が関われるわけがないと……少女は思っていた……思っていたのに……。

 

 

対立してた筈なのに、距離を置いていた筈なのにそれでも彼女達は自分の前に出て、自分を呼んだ、力を貸して欲しいと言った。

 

最初はすぐに音を上げると思っていた……でもそれでも彼女達は食らいついて来た、そして、その目は………真剣そのものだった。

ダンスの基礎も出来ていないのに……素人の筈なのに……その目は本気で挑んでいる心が込められた目だった。

 

………彼女達は、自分自身の意思で今やろうとしていることに全力を尽くしている………それなのに、自分は………この時、少女は自分と彼女達の大きな違いを自覚した。

だけど、それに気づいても……もう遅い……自分から大きく距離を開けてしまった……今更、その距離を埋めることなんてできない………。

 

今更本音なんて、言えるはずがない………そう、思っていたのに……。

 

 

………彼女の前に……手が、差し伸ばされた。

 

 

 

「音ノ木坂学院、生徒会長…“絢瀬 絵里”、よろしくね?」

 

 

 

あれだけ強く、厳しく当たっていたのに……その可能性の輝きに自分も迎え入れられていた。

今更無理だと思っていたのに……なんとかしなくてはいけないからしょうがない……そんな焦りの思いもなにもかも、その手を見た瞬間に消えていった。

……きっと、彼女達なら……彼女達と一緒なら出来る気がする……自分にできなかったことを……彼女達となら……。

 

 

 

「μ's!!ミュージック、スタート!!」

 

 

 

役目じゃない…責任じゃない…使命じゃない…これは自分自身の意思…今、自分はここで彼女達と共に夢へと向かって走り出すと決めたのだ。

誰の物でもない、自分の思いで……走り出す。

 

みんなと一緒に………大切な、仲間と一緒に………夢の“光”へと向かって。

 

そして、彼女が新たな可能性の道へと進み始める決心を固めてしばらくした頃……彼女の前に新たな“光”が現れた。

 

 

 

これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。

 

 

 

 

 

~ウルトラブライブ!9人の少女と光の勇者達~

 

「暗闇の中で蘇る光 絵里と超古代の勇者」

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院、都内にある音ノ木の街に佇む歴史ある校舎、この音ノ木の歴史を街と共に歩んできた歴史ある建物の一つと言えるこの学院にて、この日もまたこの歴史ある校舎の今後の未来を左右する役目を担った少女達が今日もまた練習に励んでいた。

この音ノ木坂学院のスクールアイドルである彼女達、μ'sの練習は夕方ごろまですることが多い。

ダンスに必要となる柔軟性を養う柔軟体操とステップの練習、今までにやった曲の振り付けの見直しやフォーメーションの確認、ダンスの練習はハードだが同時にみっちりと丹念にやりこむ必要がある。

自身の力とするにはそれ相応の量と時間を有するのだ。

 

そして、今日もまた練習をこなして一日の活動が終わるころ…。

 

 

「ねえ、この辺りで目新しくて楽しめる観光スポットってないかしら?」

 

 

μ'sの活動の拠点となるアイドル研究部の部室にて荷物を纏めていた絵里が言った。

家系の影響で受け継いだ明るい金髪を後ろで結んで大きく、パッチリとした青い瞳をその場に居合わせていたメンバーに向けて、自身は音ノ木坂学院の制服へと袖を通しながら問いかける。

 

「え? 急にどうしたの絵里ちゃん、観光スポットなんて聞いて」

 

その問いかけにすぐさま返答を返したのは実質μ'sのリーダーである二年生、μ's発足のきっかけとなったメンバーの中心、穂乃果だった。

絵里問いかけに不思議そうな表情を浮かべながら彼女は制服のカッターシャツのボタンを上から止めて行く。

 

「えぇ、実はこの前に今度の休みに“亜里沙”と一緒に出かける約束をしたのだけど……行き先が浮かばなくて」

 

「亜里沙ちゃんと? ほえ~、2人でお休みにお出かけなんて本当絵里ちゃんと亜里沙ちゃん仲良いね」

 

同じ妹を持つ姉としての違いか、感心にも似た声を出しながらボタンを止め終えた穂乃果は目線を上に向けてなにかいいものがないかを考える。

 

「あ、じゃあうちに来たら? 和菓子の殿堂穂むら、おやつにおまんじゅうが出るよ♪」

 

「うふふ…それはいい提案だけど、どちらかというとそのお誘いは雪穂からのお誘いがいいんじゃないかしら、二人とも友達なわけだし」

 

「あ、そっか……確かにそっちの方がいいかも……」

 

穂乃果の妹である“高坂 雪穂”、そして絵里の妹である“絢瀬 亜里沙”の2人は同じ中学に通う同級生で友達だ。

ロシアでの暮らしが長かった亜里沙に和菓子を楽しんでもらうと言う意味合いではいいアイデアかもしれないが穂乃果の家、和菓子屋“穂むら”は当然雪穂の家でもあるため、そこにお呼ばれするなら一番親しい友達からの方が嬉しいだろうし、水入らずで楽しめるはずだ。

まあ、自分も行ってみたい気持ちもあるがそれはまた今度の機会にすることにしよう。

突っ込むなら観光スポットでもないし…。

 

「じゃあ、ベタな所でスカイツリーとどうかにゃ? 電車ならちょっとしたら行けるし」

 

「あぁ、ごめんなさい、それは日本に亜里沙が来た時にもう言っちゃったのよ…」

 

観光スポットと言う点から一年生の凛がスカートのチャックを閉めながらそう提案するがすでに大まかな観光スポットとして有名な所は回ってしまったのだ。

ぶっちゃけこんな提案をしてしまったのは行き先として新鮮味のある場所のネタがなくなりつつあると言うことも含めてのことなのだ。

 

「もっと、こう……目新しくて新鮮味がある感じのものがあればいいんだけど……」

 

「目新しさと言われても……最近そう言うのできたかにゃ?」

 

「外国暮らしが長かった亜里沙ちゃんが喜びそうな観光スポットかー……うーん……なんかあったかな~?」

 

なにかいい場所はないかと3人揃って頭を悩ませ続けていると…。

 

「……新鮮味があるって言うのとはちょっと違うけど、ちょうどええのがあるよ?」

 

不意にシャツのリボンをすでに結び終えた絵里と同学年であり、彼女と共にこの音ノ木坂学院で長い時間を共にした友人、希がそう言ってきた。

彼女の言葉に反応した絵里達は視線を同時に彼女に向けると希は鞄の中からスマホを取り出し、何度か画面をタッチするとあるサイトを絵里達に見せた。

 

それはどうやらとあるニュースサイトのようだが、その一面には一際目を引く内容が書かれていた。

 

 

 

「……発見された謎の古代遺跡の研究が終了、一般公開へ……」

 

 

 

見えやすいように大きめのタイトルで記されたその内容を絵里が復唱すると希は微笑みを浮かべながら、こくり、と頷いた。

 

「最近ちょっと噂になってる場所なんよ?」

 

「あ、そう言えば凛もちょっとテレビでみたにゃ、この前発見されたっていう遺跡、これのことだにゃ」

 

「この遺跡、私達も見れるの?」

 

「大まかな目処が立ったから博物館みたいな感じになったんやろうね、新鮮味っていうのとはちょっと違うけど目新しさなら亜里沙ちゃんにとってはええとこやない?」

 

確かに希の言うことは一理ある。

古代に作り上げられ、時間を超えて現代にその姿を復元された遺跡、新鮮味というより古ぼけたイメージがあるものの逆にその古ぼけた印象が神秘的な印象を感じる、観光スポットというほど大きな物ではないがたまにはこういう場所に足を踏み入れるのもいいかもしれない。

 

「そうね……日本独自の遺跡とするならいい場所かもしれないわ、ありがとう希」

 

「どういたしまして、他ならぬえりちやから教えてあげたんやよ? ほんまはうちが一番乗りしようかなーって思ってたんやから」

 

優しげな微笑みを浮かべながらそういう彼女、彼女との付き合いが長いからこそ分かる、なんやかんやで彼女の提案がハズレを出したことは無いのだ。

それこそ、彼女が得意とする占いのように…。

 

きっと、この提案もなにかいいことが起こるかもしれないという彼女なりの暗示……かどうかはわからないが、行ってみる価値は十分にあるだろう。

 

「でも来おつけてね、えりち……カードによるとなんやえりちに“暗闇”に難ありって出てるから」

 

こういう気遣いも含めて……彼女は本当に、自分には勿体無いくらいのいい友人だ。

 

「……ええ、気を付けるわ、いつもありがとう」

 

一枚のカードを取り出してそう忠告する友人に絵里は微笑みを浮かべながらお礼を言う。

そして、その後家に帰ったとき希の提案を亜里沙に話して、2人は次の休日その噂の古代遺跡に行くことが決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロシアにいた頃から妹とは仲が良かった、姉妹一緒にいろんな所に行って、たくさんの思い出を作った。

そして、それはここ……日本でも変わらない。

 

姉として絵里は妹の亜里沙にこちらでの暮らし方や楽しみ方をたくさん教えて来た。

ここ最近、μ'sに入って新たに知った楽しみもあるが……それはまた別として……単に今までそんな余裕を考えたことがなくて行く機会がなかったから知らなかっただけだし……。

 

まあ、何はともあれ自分たち姉妹にとってたまにこうして2人で居る時間はなんだか昔を思い出すようで……懐かしいような、新鮮なような……この時間は2人にとって大切な時間でもあった。

 

そして今日はその大切な時間を共に過ごす日、今日絵里は亜里沙と共に電車に揺られながら郊外にある自然が残る山間へと来ていた。

コンクリートで囲まれた都会にはない独特の自然の空気、それを体で感じながら絵里は亜里沙と共に電車を降りて乗り換えたバスから降りる。

 

「お姉ちゃん、この先なの?」

 

「ええ、らしいわね、少し歩かなきゃいけないみたいだけど大丈夫?」

 

「うん、大丈夫! ちゃんと歩きやすい靴にして来たから」

 

絵里とは違い、ブロンドに違い色合いの金髪をストレートに流した亜里沙は白のワンピースに薄いピンクの上着に身を包んでいた。

そして明るい笑顔を浮かべる妹を見守る絵里は白のシャツにライムグリーンのカーディガン、すらっとした足のラインを強調するズボン、外出用の服としてはこれが一番動きやすいものだった。

 

「それなら大丈夫そうね、じゃあ行きましょうか?」

 

「うん、希さんがオススメする遺跡ってどんなのだろう、ちょっと気になるな」

 

「希ってこういうの好きだったりするからね、彼女風に言うなら…スピリチュアルパワーに溢れてる、とかかしら?」

 

「ふふふ、もう、お姉ちゃんったら」

 

冗談交じりに希が言いそうなことを言うと亜里沙は微笑ましそうに笑う。

そして、それに釣られるようにして絵里も笑顔を浮かべる。

 

「そういえばねお姉ちゃん、最近亜里沙の学校でこういうちょっと不思議な話が流行ってるんだよ?」

 

すると亜里沙がふとそう告げた。

不思議な話、というと所謂オカルト的な話か何かだろうか?

 

「へぇ、どんな話?」

 

「いろいろあるけど……やっぱり最近はあれかなー」

 

なにやら思わせ振りに視線を上に向けた亜里沙はなにやら突然絵里に向き直ると、右腕を空へと向けて突き上げ、左手を握り顔の隣へと置いたなにかのポーズのようなものをとった。

 

 

 

「“光の巨人”だよ!」

 

「……光の……巨人?」

 

 

 

亜里沙が言ったその言葉を絵里は不思議そうに繰り返した。

それに対して亜里沙はどこか楽しそうに頷く。

 

「最近噂になってるんだよ? おっきな怪獣から人を守る正義のヒーローじゃないかって! ……まあ、まだはっきりと見た人は少ないんだけど」

 

「……そんな噂があるのね、希からは聞かなかったけれど」

 

「亜里沙、会ってみたいな~……光の巨人……」

 

最近の中学生はこういうミステリアスな話が流行ってるのだな、と感じた絵里は光の巨人に思いを馳せる亜里沙を微笑ましそうに見守る。

 

 

「……会えるといいわね、その光の巨人に」

 

「うん!」

 

 

その後も遺跡はどんな所なのだろうかとか、最近の学校の様子とか、他愛ない日常の話をしながら歩を進める。

こういう何気ない日常を共に過ごす、その時間がとても大事なことなのだ。

そんなやりとりを続けながら歩き続けることしばらく……道の両端に草木が並ぶ道を進んでいると……。

 

 

 

「………わあ」

 

「………ハラショー………」

 

 

 

やがて2人の視界にまるで突然別世界に来たかのような空間が広がっていた。

山間にひっそりと佇む石造りの大きな建物、周囲には幾つもの石造りの柱や銅像のようなものが奉られており、それらは草や蔓が絡みついているがそれも合間ってかなり深い年季が刻まれているのが分かる。

 

日本という国の、東京の近く…街並みから外れたこんな所に本当に遺跡があったなんて………絵里はとなりにいる亜里沙と同様に驚きに満ちた表情を浮かべて目の前に現れた遺跡をまじまじと見つめていた。

 

「ね、ねえ、お姉ちゃん! もっといろいろ見て回ろう! いろいろ見れるみたいだよ!」

 

「そ、そうね、この機会にいろいろと歴史について学ぶのも悪くないわ」

 

この神秘的で目を惹かれる光景に亜里沙は高揚した様子で絵里を急かす。

どうやらここに連れて来たのは当たりだったらしい、日本の古代遺跡というミステリアスな空間を亜里沙は楽しんでいるようだ。

そして、自分自身もまるで非日常に来たかのようなこの空間に若干の興奮を覚えている。

 

そう自覚した絵里が先に行った亜里沙を追いかけようと足を前に出す。

 

 

 

「………?」

 

 

 

だがその際に、絵里は不意にある人物とすれ違った。

体全身を真っ黒なローブで包み込んだ人物……なんとなしにすれ違っただけなのだが、絵里はふとその人物を目で追った。

 

(……もう夏は過ぎたけど……あんな厚着して大丈夫なのかしら……)

 

格好が特殊…というのが気になったのもある……だが、同時に彼女はその人物から感じるなにかが気になった。

それがなんなのか、うまく表現することはできないが………まあ、いいとしよう。

 

きっとなにかの気のせいだと割り切った絵里は視線を再び前へと向けるとそのまま歩を進め始めた…。

 

 

 

だが、この時絵里が感じていた違和感……それはあながち、気のせいではなかった……。

 

 

 

「………ここにいるのは………間違いなさそうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺跡は思っていたよりも広く、中央に建てられた大きな建物をぐるりと囲むように幾つかの小さな建物が存在していた。

絵里と亜里沙の2人はまずはその周囲の建物を見回ることにして、この遺跡の散策を始めた。

新たな観光スポットとして情報が出ていることもあり遺跡内にはちらほらと自分たちと同じような観光客がいる中、絵里と亜里沙の2人は遺跡に刻まれてきた歴史という時間の記録をその目で見て行った。

 

周囲の小さな建物はもともと他の使い道があったようだが、今はそれを利用してこの遺跡で出土した物を展示するためのスペースとして再利用されているようだった。

そして、それらはどうやらなにかの儀式を行う物や、神聖な器であるとされていた物が多く、もとはこの遺跡が祭壇のような役割を担っているようにも思えた。

 

ここは昔、なにか大切な物を祀り、なにかのお願いをしていたのだろうか…そんな疑問を抱きながら絵里と亜里沙が遺跡内の散策を続け………ついに2人は最後となる遺跡の中央へと入った。

 

中央の遺跡は特段に大きな創りになっていてまるでちょっとしたピラミッドかのように上に行くに連れて形が小さくなっていて大まかな見た目としては台形になっている。

変わった形の遺跡の壁にはたくさんの彫刻が掘られており、それらがより神秘的な雰囲気を醸し出している。

 

そして、2人が中に入ると遺跡の中は設置された照明によって明るくなっているが全体的に薄暗い作りになっているのだろう、中の壁は石造りになっているため外よりも気温が低く感じる。

この大きな遺跡の中央、ここにはどんな役目があったのだろうか……疑問と好奇心を抱きながら中に入って通路と幾つかの階段を進んでいくと……。

 

「……これは……」

 

やがて2人はなにやら開けた場所に出た。

今までに見たこともないほど広いその場所は石造りの四方の壁に囲まれ、その壁に開けられた長方形の穴から日の光が差し込みここまで来るのに見た通路よりも明るい印象が見て取れた。

壁の穴から差し込む光、それが部屋に充満してそこは今まで以上に神秘的……いや、神聖な雰囲気に満ちていた。

 

「ここがこの遺跡でとても大事な役目を担っていたのね……」

 

「お姉ちゃん、ねえ、これ……見て」

 

その様子に感嘆の声を漏らしていた絵里に隣にいた亜里沙がそう言って部屋の奥を指差した。

絵里が亜里沙に導かれて目を向けると、そこには正面の壁一面に描かれた“壁画”があった。

 

「ハラショー…こんな大きな壁に絵を描くなんて…昔の人はすごいわね…」

 

「なんだかこれ、ちゃんと意味があるみたいだよ? ほら、ここに説明が書いてある」

 

亜里沙がそう言って目を向けたのは壁画の前、仕切りとして設けられた鎖のアーチの前に設置された看板に刻まれた説明文だった。

絵里は亜里沙が目を向けているその説明文に目を向け、内容を確認し始める。

 

 

 

ー かつてこの遺跡は所謂儀式のための祭壇としての役目を担っていた ー

 

 

 

ー この部屋は村に迫る災厄を遠ざけるために神への祈りを捧げる舞を踊る、所謂“踊り子”達の舞台となっている ー

 

 

 

ー 古代の神への祈りと言った神聖な儀式はその場所や文明によって大きな違いがあり、この神殿の壁画にあるような踊り子達による舞による祈りは稀に見る儀式と言える ー

 

 

 

「……神様にお願いするために昔の人はここでダンスをしてたんだね」

 

説明文に記された内容を読んで亜里沙がそう呟いた。

絵里もまたそれに同意するように首を縦に振る。

 

「……当時の人たちにとってここがステージだったのね……」

 

「μ'sのステージみたいに?」

 

「ふふっ、そうね、悪いことが起きないようにするお祈りだもの、きっと大事なステージだったのね」

 

それはまるで自分たちのように…大切な目的のために…大きな想いを胸にダンスを踊る…それは今の自分達と同じではないだろうかと絵里は既視感を感じていた。

 

自分たちが住む場所に悪いことが起きないように、想いを込めて踊りを踊る。

それはまるで音ノ木坂学院を救おうとしてスクールアイドルを始めた自分達と似ているように感じた絵里は口元に微笑みを浮かべる。

 

「…ねぇ、もしμ'sが踊り子だったら神様もすぐお願いを聞いてくれたかな?」

 

「神様が気に入ってくれるかどうかはわからないけど……」

 

ふと気になったのか亜里沙が絵里にそう問いかけると絵里は彼女にどこか自信があり気な表情を浮かべるとウィンクをして見せる。

 

「…神様にも気に入ってもらえるように、私たちも頑張るとは思うわ…みんなで」

 

どんな人でも……どんな困難でも、みんながいれば頑張れる。

みんなで前へと進むことができる……。

やらなければいけないから、そうではなく自分達の叶えたい想いのために……。

 

きっと、昔の踊り子達もそれぞれの想いを胸にこの古代のステージで踊りを踊っていたのだろう……。

 

彼女達に習って今後は自分達も頑張っていかないと……そんなことを絵里が思っていると……。

 

 

 

ー………離れて………

 

 

 

「………え?」

 

不意に絵里の頭の中に声のような物が聞こえてきた。

不意に聞こえたその声に絵里は何かとあたりをきょろきょろと見回す。

しかし、あたりに人はまばらにはいるものの、自分に向けて声をかけた様子の人の姿は見当たらない…。

 

「………あれ?」

 

すると、亜里沙が何かを見つけたのか絵里の近くに移動してその場にしゃがみ込む。

 

「お姉ちゃん、なんだろうこれ?」

 

すると亜里沙はなにやらそこに落ちていたらしい何かを拾い上げて絵里に見せた。

 

亜里沙が手に持っていたのは……人型のシルエットをした不思議な人形だった。

銀色の顔に乳白色の双眼を持つ紫と赤色の二色の体に銀色のラインを持ったその人形を亜里沙は不思議そうに見る。

 

「……落し物かな?」

 

「かもしれないわね……でも、なにかしらねこんな人形見たことないわ」

 

そう言うと絵里は亜里沙の持っていた人形になんとなしに触れて見た。

 

 

……その時だった……。

 

 

「っ!?」

 

 

突然絵里の脳裏にまるで早送りにした映像のような、まるで体験したことのない、身に覚えのない映像がフラッシュバックし始めたのだ。

 

 

 

……燃え盛る街。

 

 

……崩壊して行く建物。

 

 

……そして、その中からこちらに向かって迫り来る巨大な異形の存在……。

 

 

 

脳裏に一瞬のような、それでいて長いようにも感じる感覚だったが突然自分の中に流れてきたヴィジョンに絵里は驚きながらも一度、深く深呼吸をすると気を落ち着かせようとする。

 

今のは一体なんだったのか……戸惑う絵里がじっと亜里沙が握っている人形を見つめる。

 

 

 

すると、その時……絵里はある異変を感じ取った。

 

「……?」

 

足元から感じた僅かな振動、どこからか響いてくるかのような揺れが断続的に足元を揺らす感覚があった。

 

そして、それが徐々に大きくなって行き……絵里と亜里沙がいた遺跡全体が不意に大きく揺れた。

 

「な、なに!?」

 

「地震!? でもそれにしては短かったけど……と、とにかく亜里沙、外に行くわよ!」」

 

今の揺れに驚いてか遺跡の中にいた自分たち以外の見物客は慌てて外へと向かっていった。

それを見て絵里も亜里沙の手を握り外へと出ようとする。

 

だが、その時………。

 

「っ!」

 

不意に遺跡の壁の穴から見える外の景色で、なにかが猛スピードで横切ったことに絵里は気づいた。

壁の穴すべてを一瞬にして影で覆い尽くすほどの大きさと思われるもの……嫌な予感を感じた絵里は不安そうな表情を浮かべる亜里沙へと目を向けると……。

 

「…ちょっと待ってて…」

 

そう言って遺跡の壁の穴から外を覗き込んだ………そして、そのから見える物を目にした時、絵里は驚愕のあまり目を見開いた。

 

 

 

ークワァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

 

空を切り裂くように飛翔する影、鳥とかそんなレベルの大きさではない、飛行機とかそんなレベルの大きさでもない……その大きさは絵里の持つ常識を遥かに超える、巨大な異形だった。

 

甲高い鳴き声を上げながら背中から生えている一対の羽を使い、空を駆け抜ける鳥のようでもありそれとは似て日なる生物。

両手に爪を持つその生物は体よりも細い印象を与える頭から光弾を放って遺跡周辺を破壊している。

 

これは一体どういうことなのか…なにが起こっているのか、この時の絵里には理解できなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………これ以上面倒ごとを増やす訳にはいかない………少々荒っぽいがやむを得まい………」

 

遺跡から少し離れた森林の中で身を隠すように佇む黒いローブに身を包んだ人物。

ローブの人物は今まさに襲撃を受けている遺跡へと目を向け、その上空を飛び回る怪獣に支持を飛ばす。

 

「………さあ、破壊しろ………“メルバ”! “奴”が目覚めるよりも前に始末しろ!」

 

そう言ってローブの人物は空を切り裂く怪獣、“超古代竜 メルバ”に指示を出す。

そして、それに反応したのかメルバは再び声を上げて頭から光弾を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどから徐々に衝撃と揺れが大きくなりこちらに近づいて来ている。

恐らく先ほど穴から見た怪獣がこの辺りを襲っているという証拠なのだろう……このままではこの中も危ない。

 

危険を感じた絵里はすぐさま亜里沙と共に外に出ようと振り返るが…。

 

「お、お姉ちゃん…なに…なにが起きてるの?」

 

不安を感じたのか亜里沙がすぐ近くまで来てしまっていたのだ。

今すぐに彼女と一緒にこの場から出なければ……焦りを感じた絵里は咄嗟に彼女の手を掴む。

 

「このままじゃここも危ないわ! 亜里沙、絶対に私の手を離したらダメよ!」

 

今彼女を守れるのは自分だけだ、姉の自分がしっかりと亜里沙を守らなければ……絵里はそう言って亜里沙の手を強く握るとすぐさま外へと出ようとする。

 

「あ! お姉ちゃん!?」

 

「え………!?」

 

だが、まさにその瞬間だった……。

 

 

 

遺跡の壁にとてつもない光が差し込み、次の瞬間とてつもない爆風が自分と亜里沙を包み込んだのは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ぅ」

 

体が重い……動かない……目を開けた時、絵里はそう感じた。

まるで鉛のように体が動かず、起き上がることができない……うっすらとした意識の中で絵里は今先ほどなにが起きたのかを思い出そうとする。

 

「……そうだ……私は亜里沙と……それに……怪獣が………」

 

しばらく自分の記憶を探っていると、やがて今先ほどなにが起きたのかを思い出した。

外からの襲撃を受け、咄嗟の爆発から身を守るために亜里沙をかばったのだ。

まわりはその影響で電気が使えなくなったのか、薄暗く視界も悪くなっている、どうやら自分は生きているようだが……これではなにが起きたのかわからない。

 

「………亜里沙………亜里沙は………?」

 

その時、絵里は自身のそばに亜里沙がいないことに気づいた。

絵里はすぐさま周囲を見回すが薄暗い視界の中ではすぐに見つけることができない。

 

「亜里沙!! 返事をして……亜里沙ぁ!!」

 

妹の名前を必死に叫ぶ絵里、だが返答は帰ってこない。

 

まさか………嫌な予感が絵里の脳裏に横切る……。

 

だが、その時。

 

 

 

「……ぅ……うぅ……」

 

 

 

不意に絵里の耳に呻き声が聞こえてきたのだ。

それにこの声には聞き覚えがあるし、近くから聞こえた。

絵里はすぐさま周りを見回してその声の主を探す、すると程なくして絵里の視界に見覚えのある人影がうっすらと暗闇の中で横たわっているのが見えた。

 

「亜里沙!!」

 

亜里沙だ、気を失っているようだが目立った外傷は見られない。

詳しく見て見ないことにはわからないがその姿を見つけることができたことに絵里は安堵の息を漏らす。

だが、安心してはいられない。

 

「っ!? ……まだ揺れてる……近くにまだいるのね」

 

遺跡全体がびりびりと揺れるような感覚を感じてあの怪獣がまだ近くにいることを感じた絵里は危険な状態に変わりないことを確認するとすぐさま妹を救おうと体を起こそうとする。

 

「うっ…ぐっ……うぅぅぅ…!」

 

しかし、いくら体に力を込めても起き上がることができないし、身動きも取れない。

どうしてなのか、絵里はここで始めて自分の状態を確認しようと視線を自分の体に向けた。

 

 

そして、彼女の目に映ったのは……自身の体の上に乗っている瓦礫だった。

どうやらあの爆発で自分は瓦礫の下に挟まれたようだ。

大きな怪我はしていないのか特に痛みは感じないし、感覚もあるが……これでは身動きが取れない。

 

「っ……せめて、亜里沙……だけでも……!」

 

この危険な状態から救い出そうと亜里沙へと手を伸ばす絵里、しかしその手は亜里沙に触れるには遠すぎる。

姿は見えるが自分と妹の間に出来た間があまりにも遠く感じる……手を伸ばしても届かないことに歯痒さを感じる絵里……。

 

そして、再び大きな揺れが遺跡を震わせる。

 

「っ! ……亜里沙! 起きて、亜里沙!!」

 

なんとか彼女を呼び起こそうと名を呼ぶが、亜里沙は目覚めない。

このままでは2人とも………絵里の中で最悪の状況を思い浮かぶ……。

 

 

 

こんなことで……こんなことで、自分だけじゃなく未来にまだまだ可能性を秘めた妹までもが終わってしまうのか……。

 

わけもわからず、なにも理解できないまま、こんな所で未来の光を絶たれるのか……。

 

そのことに絵里はとてつもない歯痒さと悲しさ、そして今までに感じたこともない悔しさを感じていた。

 

こんな所で終わりたくない……。

 

諦めたくない……。

 

まだ……まだ……掴んでいないのに……みんなと掴もうって約束した夢を、掴んでないのに……!

 

こんな……こんな終わりなんて認められない……!

 

 

 

こんなことで終わるなんて認められない………!

 

 

 

「……絶対に……絶対に助けてみせる……亜里沙……! あなたも……あなたや私が見た、夢を……!!」

 

 

 

絵里にも……亜里沙にも……まだ叶えてない夢がある……それなのにこんな所で終わる訳にはいかない……その一心の思いで絵里は亜里沙へと手を伸ばす……だが、やはりその手は届かない……。

 

すると、再び遺跡が大きく揺れ、周囲の瓦礫が揺れ、上から砂埃が落ちてきた。

 

咄嗟に絵里は身を守ろうとするが……その際に彼女の手に何かが触れた。

 

「……これは」

 

それがなんなのか、手にとって確認してみると…それは先ほど亜里沙が手にとっていた不思議な人形だった。

どうやら今の揺れで自分の近くまで来たみたいだ。

咄嗟にそれを手にとった絵里が人形を眺めていると……。

 

 

 

『………ごめん』

 

 

 

不意にまた何処からか声が聞こえてきたのだ、まるで頭に響くような感覚で聞こえてきた声に絵里は再び戸惑う。

 

『こんなことに君達を巻き込んでしまった……本当にごめん』

 

「え……え……? なに……誰なの……何処にいるの?」

 

頭に聞こえてくるその声に絵里は何処にいるのかと問いかける。

するとその時、絵里が持っていた不思議な人形が輝き始めたではないか!

 

「っ!? こ、これは……」

 

人形から溢れ出した光に咄嗟に目を覆う絵里、だがその眩い輝きを受けた時、ふと絵里の頭の中に再び声が聞こえてきた。

 

『……このままじゃ、君も……君の妹も危ない……でも、この場を切り抜ける方法はある』

 

「……この声は……もしかして、あなたなの?」

 

輝きを放つ人形を前にして、頭に響いてくる声を聞いた絵里は自分が握っている人形へと視線を向ける。

すると人形はまるで肯定するかのように再び輝きを放つ。

 

「……なら、答えて……今、あなたはこの状況をなんとか出来る方法があるって言ったわよね? それは本当なの?」

 

絵里が輝きを放つ人形にそう問いかける。

するとその瞬間、人形は一人でに動き始め、宙に浮かび上がり絵里の手を離れるとさらに眩い光を放ち始める。

 

そして、その光が治まると……絵里の前には、不思議な形をした道具が浮かんでいた。

 

白と金色で彩られたそれは持ち手と思われる部分の上に装飾が施されているものだった。

どこか神秘的な雰囲気を放っているその道具をじっと見つめる絵里、すると再び彼女の頭の中に声が聞こえくる。

 

 

『……これを使えば君と僕は一体となる……そうすれば、外にいる怪獣も君達もなんとかなるかもしれない……』

 

 

その言葉を聞きながら絵里目の前に浮遊している道具を見つめ続ける。

そして、それがゆっくりと自分の目の前に近づいて来た時、絵里はそれを右手で握りしめた。

 

 

 

『………覚悟はいいかい?』

 

 

 

頭の中に聞こえてきた問いかけに絵里はちらりと視線を亜里沙に向けてから強く頷く。

 

 

 

「……私は……未来の光を守りたい……!」

 

 

 

その言葉を絵里が言った瞬間……道具についていた装飾が左右に開き、その中から眩い光が溢れ出した………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺跡の外ではメルバが遺跡の周辺を荒らし続け、残るはもう中央の建物だけとなっていた。

頂点の部分がわずかに崩れているが形は保っている。

あとはここを破壊すれば大方かたが着くだろう。

 

遠巻きに様子を見ていたローブの人物は早くケリを付けようと最後の指示をメルバへと出す。

 

ークワァァァァァァァァァア!!

 

甲高い鳴き声を上げるメルバ、そして背中の羽を閉じ、地上へと降り立ったメルバが遺跡を破壊しようと両手の爪を振り上げる。

 

 

 

だが、その瞬間!

 

 

 

「テャァァァァァア!!」

 

 

 

突然遺跡の中から眩い光が溢れ、その光が外へと飛び出すと遺跡を破壊しようとしていたメルバを思い切り弾き飛ばしたのだ。

弾き飛ばされたメルバはそのまま地面へと倒れ、転がる。

 

どうしたことかと動揺したローブの人物、そして遺跡から現れた光へと目を向けた時、ローブの人物は忌々しそうに手を強く握り締めた。

 

 

 

「………“ウルトラマンティガ”………!」

 

 

 

ローブの人物が見つめる視線の先で輝きを放っていた光が徐々に治まって行く。

そして、その光が治まった時……その中から姿を現したのは、“巨人”だった。

 

銀色のラインが体に走る紫と赤の体、胸に備えられた銀色のプロテクターと中央には雫を逆さまにしたかのような形をした青い輝きを放つ水晶……そして、銀色の顔に乳白色の輝きを放つ双眼……。

 

遺跡の中から姿を表した巨人は再び身を起き上がらせたメルバを前に立ちふさがる。

 

その巨人……彼の名は、“ティガ”。

 

 

 

こことは違う世界で戦い抜いて来た光の勇者の一人、“ウルトラマンティガ”だ。

 

 

 

遺跡の前に立ち、メルバを見据えていたティガはふと左手へと目線を向けると体勢を低くしてその手をゆっくりと遺跡の近くの開けた場所に下ろす、そしてその手を開くとその手の中には気を失っている亜里沙の姿があった。

 

「………ん………っ」

 

外の光を受けて気が付いたのか亜里沙が目を開ける。

そして、目をゆっくりと開いた彼女はそのまま身を持ち上げ、目の前にある光景を見て驚きの表情を浮かべた。

 

「え……光の……巨人……?」

 

噂になっていた光の巨人が今目の前にいる、そのことに驚く亜里沙がじっとティガを見つめる。

すると、彼女は何かに気づいたのか首を傾げてぽつり、とあることを呟いた…。

 

 

 

「………お姉ちゃん………?」

 

 

 

なぜかはわからない、ただ目の前にいる巨人から感じたのだ……自身の姉に似た何かを……。

 

ティガは左手を地面につけると、亜里沙はその意思を察したのかなんとか立ち上がりそこから地面へと降りる。

そして、彼女が降りたことを確認したティガは立ち上がると再びメルバへと向き直り、相対した。

 

「………テヤ!」

 

右手を手刀の形にして前に、左手を握り拳にして構えたティガにメルバが威嚇の咆哮を上げる。

しかし、ティガは物怖じする様子もなく、身構えたまま走りだした。

 

「テェア!!」

 

距離がゼロまで縮まった瞬間、ティガはメルバに向かって手刀を振り下ろし先制攻撃を仕掛けた。

ティガの手刀を受けたメルバは僅かに後退するが、すぐさま持ち直すとティガに掴みかかってくる。

 

だがティガはその攻撃を素早く見切ると両手でメルバの爪を受け止め、そのまま腹へと横蹴りを打ち込み、怯んだ所にすかさずもう一発蹴り込みを放った。

 

ティガの連続攻撃を受けて怯んだメルバ、この隙を逃すまいとティガはさらなる追い打ちをかけようとするが……。

 

ークワァァァァァァァァァアアアアア!!

 

メルバがティガの接近を察知したのか、背中の羽を広げるとそのまま空へと舞い上がった。

メルバに殴りかかろうとしたティガは目標を見失いその拳が空を切ってしまう。

そして次の瞬間、ティガの背後からとてつもない勢いでメルバが体当たりをしかけて来た。

 

「デュァ!?」

 

スピードが乗った凄まじい勢いの体当たりに堪らずティガはその身を翻しながら地面へと倒れ伏す、そこへ追い打ちをかけるようにメルバが空中で方向転換、再びティガへと向かって行く。

 

ティガはなんとか立ち上がろうとするが、その瞬間メルバの追撃が決まり、ティガはそのまま地面へと再び倒れ、さらにそこにメルバの光弾が発射されティガはメルバの素早い連続攻撃をなす術なく受けて行く。

 

周囲が爆発し、その衝撃がティガを襲う。

 

膝をついてしまったティガ、そこにさらなるメルバの追撃が迫ろうとしている。

 

だが、それよりも早く…。

 

 

 

「がんばって!!」

 

 

 

ティガの耳に声援が聞こえてきた。

 

その声に反応してティガが声のした方向へと目を向けると、そこには自分の方へと目を向けて、声援を送ってくる亜里沙の姿があった。

 

 

 

「負けないで!! がんばれ!!」

 

 

 

彼女の心からの応援、それを受けたティガは力強く頷くと…。

 

「ティア!」

 

メルバがさらなる体当たりを仕掛けてくる直前に受け身を取りその攻撃をかわしたのだ。

そして、そのまま素早く立ち上がるとティガは両腕を自身の額の前で交差させる。

 

「ウゥゥゥゥン……ハッ!!」

 

そして、その両手を下へと下ろした瞬間、ティガの姿が一瞬にした変化した。

赤と紫の二つの色合いを持っていた体が紫一色に変わったのだ、紫の体へと変身したティガはそのまま空を飛び回るメルバを見ると力強く地面を蹴り、自身も飛翔する。

 

空をジェット機さながらのスピードで空中を高速飛行し続けるメルバだが、その後ろに紫の姿となったティガが追いすがる。

そのスピードはメルバに匹敵するか、いやあるいはそれ以上にも迫る勢いだった。

 

ティガの持つ得意能力の一つ、それは相手に合わせて自身の姿を変え、戦い方を変化させることなのだ。

今のティガの姿は“スカイタイプ”と呼ばれ、スピードに優れた敵に対抗するための姿で特に空での戦いに適しているのだ。

 

スカイタイプのスピードを最大限に発揮し、メルバを追跡するティガ。

メルバの背中を捉えたまま追いすがるティガはそのままメルバへと狙いを定め、一度右手を引くと勢いをつけてメルバヘと向けて振り抜く、その瞬間その手から光の手裏剣、“ハンドスラッシュ”が放たれた。

 

「ハッ!」

 

それは寸分の狂いなくメルバへと直撃し、メルバの背中から巨大な火花が飛ぶ。

さらにそこにティガは二連続でハンドスラッシュを放つ、狙いはメルバの持つ羽だ。

そして、二つのハンドスラッシュは見事にメルバの羽へと直撃し、その羽根を貫いた。

空を飛ぶ力を失ったメルバはそのまま地面へと落下、それを追ってティガもまた地面へと降り立つと再び額の前で両腕を交差させて、元の紫と赤の姿へと戻る。

 

ティガの攻撃を受けて地面へと落下し激突してしまったメルバはよろよろとした様子で立ち上がる。

 

チャンスはここしかない……!

 

「……フッ! ハァァァァァァ…!」

 

ティガはそのまま目の前で両腕を交差させると手を開いたまま両腕を左右に大きく広げる。

すると、それに従ってティガの前で光の線が伸び、両腕に光のエネルギーが集まって行く。

 

 

 

「………ハッ!!」

 

 

 

そして、そのエネルギーが最大まで溜まった瞬間、ティガは左腕を水平に、右腕を垂直に立てて組み、L字にするとその瞬間ティガの腕から白い輝きを放つ、光の光線が打ち出された!

 

それはまっすぐにメルバへと向かって行き、メルバに寸分の狂いなく直撃する。

 

そして次の瞬間、メルバは甲高い叫び声を上げながら爆発四散、遺跡を襲撃した超古代の怪獣はウルトラマンティガの必殺光線、“ゼペリオン光線”を受けて倒されたのだった…。

 

 

 

 

 

 

戦いに勝利し、立ち尽くすティガを亜里沙が見つめる……すると、ティガはその視線に気づいたのか彼女へと目を向けると乳白色の目でじっと彼女を見つめる。

 

そして、その体が徐々に光で包まれ始め………次の瞬間、その光とともにティガの姿が消えていき、やがて光が消えると亜里沙の目の前に見間違えるはずもない大切な姉の姿が現れた。

ティガが消える際の光の中から姿を現したように現れた姉に、亜里沙はすぐに駆け寄る。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「……亜里沙……よかった、無事で」

 

駆け寄って来た妹の姿を見て、絵里はどこか安心したような表情を浮かべる。

 

「うん……お姉ちゃんが助けてくれたし……でも、お姉ちゃん今のって……」

 

そんな彼女の姿を見ながら、亜里沙は絵里に先ほどまで起こっていたことがなんなのかを問いかける。

しかし、絵里はそれに対してわからないといいたげに首を左右に振る。

 

「……それはまだ私にもわからないわ……でも……」

 

すると、彼女は自身の右手へと目を向け、その手に握っている一つの人形を見つめる。

先ほどまで自分が変身していた姿……今、自分になにが起きたのが……そして、今なにが起ころうとしているのか……。

 

 

「………これから知って行く必要があるみたいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そんな中遺跡から離れた森林地帯でローブの人物は苛立ちを隠せない様子でその場を後にした。

 

「……こうなったら手段は選んでられない……なんとしてでも……」

 

そういいながら歩を進めるローブの人物はそのまま森の奥へと姿を消して行った。

果たして、なにを考えているのか……いったいなにが目的なのか……謎は深まるばかり……。

 

 

 

 

これが、八人目の出会い……。

 

μ'sのメンバー、絢瀬 絵里。

 

そして、超古代の光をその身に宿す勇者、ウルトラマンティガの出会いだった…。




いかがでしたか?

わりかしポンコツというよりも賢い面が強かった気がする今回のエリチカ、いいんです、これが本来のえりちです!

そして次回、ついに残った最後の一人が…!

それではまた次回でお会いしましょう!


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可能性は無限大 穂乃果と若き光の勇士

どうも白宇宙です!

久々のウルトラブライブ投稿!
最後の出会いとなる9人目は、やはり締めは彼女! 高坂 穂乃果ちゃん!

だがそれは新たなる始まりにすぎなくて?

ウルトラマンと出会う少女たちの物語、その根底ともなる謎へと近づく第9話!

それではお楽しみください、どうぞ!


 

 

 

その少女は可能性を感じた…。

 

 

 

彼女が入学したのは、自分の母と祖母が通った自分が生まれ育ったこの街の伝統ある学校、音ノ木坂学院高校。

 

彼女はこの学校に通うことを楽しみにしていた…待ちわびていたのだ。

伝統とか歴史とかそんな堅苦しいものよりも、より簡単で単純な理由、母が好きだったという思い出の高校に通いたいという願い、それが高校進学に伴い叶った、それは彼女にとってとても喜ばしく、嬉しいことだった。

いつも一緒だった幼馴染2人と一年生から共に学生としての生活を満喫し、学びに、遊びに、楽しい時間を共に過ごしていく………そんな日が3年間ずっと続くのだと………その時の彼女は信じていた。

 

それは突然、あまりにも唐突に彼女に知らされた非常の報せ、まさに災難だった。

 

 

“音ノ木坂学院の廃校の報せ”。

 

 

それを聞いた瞬間、取り乱したあまり違う高校に入学しなければならないのかと焦り、慣れもしない勉強に勤しむのかと絶望したものだが………不幸中の幸いなのか自分たちの学年とその下の学年である一年生が卒業するまでの間は学校はまだ存続するとのことだった。

それで一度は安心した……だけどすぐに、それでいいのか? と疑問を抱いた。

 

彼女はこの学校が好きだった、自分だけじゃないたくさんの人たちの思い出が詰まったこの学校がなんとなく好きだった……だから、他人事に済ませたくなかった……見過ごしたくなかった。

そして、彼女は行動することに決めた。

このままではいけない、できることをしよう、みんなが大好きだったこの学校をなんとかして守ろう。

そう決めた彼女は学校を廃校から守るために行動を開始した。

だがいざとなって動いてみてもことはそううまくいかないものだった、この学校の良いところをアピールしてみるや伝統をもっと前面に押し出す、などのアイデアを出すもののどれも普通というか変哲もなくて面白みがない、これでは廃校脱却など夢のまた夢……。

 

このまま、今の自分たちだけではない…後から入った一年生達は先輩達が卒業する中で後輩も出来ることなく、どこか寂しげな高校生活を送るのかと思うと……どこかやるせない気持ちになってくる。

 

だが、目前に立った問題はあまりにも大きくて……どうしようもないのか、と思っていたその時だった……。

 

彼女は出会ったのだ………。

 

 

 

“スクールアイドル”に………。

 

 

 

学校を代表する、その学校だけのアイドル、他の何よりも強い輝きを放ち、歌を歌い、ステージの上で踊るその姿に彼女は衝撃を受けた。

 

“これだ……これならきっと……学校を救える!!”

 

その輝きを目にした彼女は決断した、そして彼女は進み始めた…可能性という道を…すごく小さな光をその手に持って…。

 

最初は幼馴染の2人と一緒だった、あまり乗り気でなかったようだが最後には頼りになれる2人に支えられ、彼女は最初のステップを踏み出す。

しかし、その時……彼女はこの可能性がいかに不安定で消え入りそうな小さなものなのかを思い知ることとなった。

 

最初のライブ……学校で執り行ったそのライブに来た観客は……ほとんど居なかった。

その時のことは今でも忘れられない、一生懸命やってなによりも頑張って、自信を持って立ったステージの前にある座席の空席が………あまりにも悔しくて………寂しくて………。

 

………溢れそうになる悔し涙を堪え、辛い感情に押しつぶされそうになった………。

 

だけどその時だった………。

 

 

 

唯一の観客が、ドアを勢いよく開けてきてくれた。

 

 

 

たった1人、たったそれだけ…でもきてくれたその1人の一年生…彼女が来てくれたことが…とても嬉しかった。

 

諦めたくない、ここで終わりたくない、まだまだ始まったばかりなのに立ち止まってなんかいられない。

そこから少女は光に向かって走り続けた、叶えたい願い、守りたいもののために……。

 

そして、その走り続ける途中で次第にたくさんの仲間ができた。

 

手を取り合い、時にぶつかりながらも心を通わせて出来た、掛け替えのない仲間たち………最初は3人だけだったメンバーはやがて9人となり、共に走り出したチーム、その名前は………。

 

 

 

………“μ's”。

 

 

 

それぞれの思いを胸に、惹かれあい、繋がった掛け替えのない仲間たち、ステージに共に立つと頼りになる仲間たち…少女が見つけた可能性はやがて大きな絆を生み、少女の新たな宝物になり始めていた。

 

時に無理をしたこともあった……仲間が離れ離れになりそうになったこともあった……どうすればいいのかわからなくなったこともたくさんあった。

だけど、それでも自分が立ち上がり、もう一度走り始めたのは………一重に好きだったからかもしれない。

 

……この学校が……この学校で出会えた仲間たちが……ステージに立つことが……みんなと共に歌うことが………スクールアイドルが……。

 

たくさんの好きなものがあるから頑張れる、諦めずに走り続けることができる。

どんなに目の前が暗くても、なにがあるのかわからなくても、小さな光を目印にそれが大きくなるまで、がむしゃらにでも走り続けることができる……最初にやるって決めたから……絶対にやりとおすと決めた、あの日から……。

 

 

 

「皆さんこんにちは! スクールアイドル、μ'sのメンバー……“高坂 穂乃果”です!」

 

 

 

見つけた輝き、信じた可能性、それを胸に少女はステージに上がる。

光り輝くステージに、仲間と手を取り合って信じあって……。

スクールアイドルとしての自分なんて想像もしたことなかったのに、今はこうしてみんなといることが前よりも楽しく感じている、掛け替えのない時間になっている。

みんなといる……この時間が……。

 

 

 

「μ's!! ミュージック、スタート!!」

 

 

 

どんな小さな一歩でも、その一歩を大事に進んでいく。

新しいスタートを切って、自分たちは向かっていく、新しい夢に……自分たちを待ってる未来に……。

怖いことなんて、なにもないから…。

 

後悔したくない、だって目の前には自分たちの道が……“可能性”を感じたあの時から生まれた未来へと続く道が続いているんだから。

 

少女は信じた道を進み、新しい決意のもとに歩みを続けた。

だが、その時……少女の前にまた新たな“光”が現れることをこの時の彼女は知る由もなかった。

 

 

 

これは、本来めぐり合うことのなかった女神の名を持つ9人の少女達と、光をその身に宿し、戦い続けてきた光の巨人達との出会いの物語。

 

 

 

 

 

〜ウルトラブライブ!9人の少女と光の勇者たち〜

 

「可能性は無限大 穂乃果と若き光の勇士」

 

 

 

 

 

そこは見たこともない場所だった。

荒れ果てた荒野とか殺風景な平地とかとはまた違う、あり大抵に言い表すとするなら……現実離れした場所。

赤黒く染まった岩肌の大地、そしてその上を覆う空は漆黒の闇に覆われ、その中に散りばめられたかのような小さな光がいくつも瞬き、空を覆っている。

夜空………いや、これはそれ以上のもの……それを超える光の粒、星の数……。

まるでそこは……“宇宙”の片隅にある場所のような……。

 

そんな現実とは遠く離れた風景と同じく、そこでは現実離れした光景が存在した。

 

殺風景な宇宙の下の荒野、そこで何人もの巨人がたった一つの強大な“闇”に立ち向かっている姿があった。

 

爆散する荒野の地面、それを掻い潜りながら闇へと向かっていくのは体に“光”を纏った戦士たち。

対して、その戦士たちの先にいるのは漆黒を超えて“闇”そのものであるかのような…混じり気のない純粋な黒を身に纏った、強大な存在だった。

だが、その闇を前にしても光の戦士たちは恐れずに立ち向かっていく。

 

しかし……次から次へと光の戦士たちは倒れていき、1人、また1人とその場に膝を付いていく。

胸に輝く水晶のようなものを点滅させながら、闘志を薄れさせていく戦士たち……それと同時に純黒の闇がぬるりとした動きで腕を伸ばした。

その腕にさらに黒い闇が……全ての光を飲み込まんとする程の闇が集まっていく……。

 

 

 

危ない!

 

 

 

咄嗟にそう叫ぼうとした、まさにその時だった。

 

 

膝をついていた光の戦士のうちの1人が立ち上がったのだ。

その戦士は最後の力を振り絞るように立ち上がると体の奥底にまだ残っている闘志という炎を再び燃え上がらせるかのように……その身に“炎”を纏った。

 

 

 

そして、戦士はそのまま闇へと向かって果敢にも特攻を仕掛け………。

 

 

 

 

 

 

『無茶するんじゃねぇ! ーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

いつもの木製の天井、いつものカーテンの隙間から漏れてくる朝の陽光、いつもの微かに聞こえる時計の針が時間を刻む音を聞きながら、彼女……高坂 穂乃果は目を覚ました。

 

体にバネでも仕込んでいるかのような飛び起き方をして、上半身を起こした穂乃果は僅かに肩を上下させるようにして息を吸ったり吐いたりを繰り返す。

 

「………夢………?」

 

そしてその合間に今先ほどまで自分が見ていた物を再び思い返す。

あれは確かに夢だ、だが何故か夢とは思えないような緊迫感に満ちていた………それは自分の手と背中に滲んでいる汗が痛感させる。

 

「……なんなんだろう……さっきの……」

 

今までに見たことがない先ほどまで自分が見ていたのであろう夢の内容を思い返し、彼女は疑問を抱く。

なぜあんな夢を見たのか、その原因を考えようにも思い当たる節がない…。

 

「……うーん……うーん……あー! わかんない! よし、こうなったら…」

 

起きて覚醒したての思考をフルに活用させて考えたが何も思い浮かばない。

その結果彼女が起こした次の行動は………。

 

 

「………おやすみなさい」

 

 

思考を放棄して再び微睡みの中に戻ることだった…。

とりあえずは今はまだ未覚醒に近い様子の脳が求めている休息をしっかりと味わうことにしよう…それからまた後で考えても遅くはない、時間はまだ………。

 

………まだ………。

 

……………まだ?

 

 

ふと瞼を開いた穂乃果は枕元に置いてある、いつも使っている目覚まし時計へと目をやった。

正確な時間を刻んでいるはずのこの時計が示している時間を見る限り……今の時間帯は………。

 

 

 

「………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!?」

 

 

 

遅刻一歩手前だ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近たるんできてますよ、穂乃果!」

 

学校の屋上に聞き慣れた幼馴染のお叱りの声が響く、その矛先はまごう事なく自分に向けられてのものである事を改めて感じながら穂乃果はしゅん、とその場で落ち込むように萎縮する。

 

「だ、だって、今日のは仕方なかったんだもん! 目覚まし時計がちゃんと鳴ってくれなかったから!」

 

「おそらくあなたの事です、鳴ったけどすぐに止めて二度寝したか、そもそも鳴るように設定してなかったのどちらかでしょう」

 

「二度寝はしてないもん!ちゃんと一回で起きたもん! ………昨日の夜にいろいろあってセットするの忘れてたかもだけど……」

 

「やはりですか………まったくもう」

 

目を逸らしながらそう言う彼女にやれやれと言いたげな幼馴染、穂乃果と同い年の二年生であり穂乃果が所属するスクールアイドル、μ'sのトレーニングメニューを考え、体調面での管理にも目を光らせる、頼りになるのだが怒ると怖い彼女、園田 海未。

そんな彼女の言葉にぐうの音も出ないのか穂乃果は再びその場でしゅん、と落ち込む。

 

すると、彼女の様子を見たもう一人の幼馴染が海未のとなりに近づいてくる。

 

「海未ちゃん、とりあえずその辺で、ね? 穂乃果ちゃんもあの後慌ててここに来たんだし…悪気があったわけじゃないんだし、ね?」

 

「だからことりは穂乃果に甘すぎるのです! 今回に限った話でなく、もしも大事な時に遅刻していては元も子もありません!」

 

穂乃果をしかりつける海未に対して、宥めるように割って入ったもう一人の幼馴染、彼女も穂乃果や海未と同じ二年生にしてμ'sの衣装製作を担当している結成した時からの仲間であり、メンバー内での空気や雰囲気を和らげる、優しい性格の持ち主、南 ことり。

そんな彼女の言葉に対しても海未はまだお叱りモードを抑える気はないのか引こうとはしない。

 

「そもそもです、寝坊をするほど昨晩になにをしていたのかは知りませんが夜更かしを正すのは基本中の基本です…それなのに穂乃果は…」

 

「まあまあ海未ちゃん…」

 

目の前で交わされる二人のやりとり、それを前にしてこの時穂乃果は海未に叱られている内容について反省を感じる、という訳でもなく……。

フォローに回ってくれてることりに感謝をする、という訳でもなく……。

 

 

 

「………くー……くー……」

 

 

 

………眠気の波に再び攫われている真っ最中だった。

 

 

 

「………穂乃果ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!」

 

「………穂乃果ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああん!!」

 

 

 

そして、そのすぐ後それに気づいた海未とことりが声を揃えて彼女の名を叫び、彼女を覚醒へと引き戻したのは言うまでもない……。

 

 

 

 

 

 

 

「うー……だってぇ……!」

 

「だってもなにもありません! これで練習に支障をきたしたらどうするつもりなのですか!」

 

海未による怒髪天をついた恐らく最上級であろうお説教を受け、穂乃果は半べその状態で弁解しようとする。

だがこの時、ことりは穂乃果に対してある疑問を持っていた。

 

「……でも、珍しいよね、穂乃果ちゃんがここまで夜更かししちゃうことごあるなんて……穂乃果ちゃん、割とよく寝る方でμ'sの活動を始めてからは寝る時はぐっすりだって言ってたのに……」

 

ことりのその言葉を聞き、海未もまたそういえばと気がついた。

確かに穂乃果は好物であるパンと同じように、睡眠に関してはほぼ毎日欠かさず取っている、授業中も少し目を離したらすぐに机に突っ伏して夢の中に直行しているくらいだ。

それ程睡眠に関してはしっかりと取っているはずの穂乃果がなぜ昨晩に限ってそれを欠いたのか……。

 

「ねえ、穂乃果ちゃん、昨日はなにしてたの? 振り付けとか考えてたの?」

 

「え? あ、いや、そうじゃないんだけど……なんていうか、調べ物?」

 

「……調べ物?」

 

そう言うと穂乃果はスマホを取り出すと何回か画面に指を走らせ、二人に見えるように表示した画面を見せた。

 

「最近噂になってるって聞いて気になったんだ、これ!」

 

彼女が見せたのは数枚の画像と一緒に書き込まれたとあるサイトのページだった。

所謂オカルト系サイトの一つなのであろうそのページには添付されている画像とともに大きく目立つようにある書き出しがされている。

 

 

 

『謎の巨大生物の存在!? それに立ち向かう巨人とは!』

 

 

 

そのタイトルにある通り、画像には人間とは比べものにならないのであろう巨大な生物がいくつも載っており、それと同時にその怪物に立ち向かう巨人とも言えるような存在が映された画像が何枚も掲載されている。

 

「これは………」

 

「…………」

 

「この前の“色付きの流れ星”があった日から、この辺りで何度か確認されてるんだって! はっきりと見た人はあんまりいないみたいなんだけど、今ネットですごいことになってるんだよ!」

 

どこか意気揚々とした様子でスマホを見せる穂乃果、彼女の言う通りネット掲示板には画像に映し出されている怪物や巨人に関する書き込みがいくつか上がっている。

 

「偶然見つけてなんだか気になっちゃって調べてたらいつの間にか夜遅くになっちゃってて………あれ? どうかしたの? 二人とも」

 

そのことも踏まえて今に至るまでの経緯を伝える穂乃果、するとどうしたのか海未とことりの二人は目を泳がせたり、考え込むような仕草をしたりと落ち着きのない様子を見せる。

いったいどうしたことなのかと穂乃果が首を傾げる、するとそれにはたと気づいた二人は慌てて首を左右に振って見せた。

 

「な、なんでもない! なんでもないよ!?」

 

「そ、そうです、そのような眉唾ものの情報に惑わされるとはやはりたるんでますよ、穂乃果!」

 

「えー!? 眉唾っていうか現実味がないのは私も思うけど、それとこれとは別じゃない!?」

 

海未の言葉にそう返答する穂乃果だがこの時、なにやら二人から感じる違和感に疑問を抱いていた。

 

今の今までこんな表情をした彼女たちを自分が見たことがあっただろうか…。

 

しかし、彼女たち二人がなぜこんな表情を見せているのかまでは理解することができない、長い時間を共にしてきた穂乃果でも理解できない表情を浮かべている二人に、穂乃果はどこか不思議そうな目を向ける。

その視線に気づいているためか二人はそれでも目を合わせようとはしない。

 

「……ていうか2人とも、なんか急によそよそしくない?」

 

「だ、だから…なんでもないのよ、なんでも」

 

「そうです…それよりも今は…そ、そう! 練習です、“ラブライブ”が終わって、学校が廃校になることは避けられそうになってきたとはいえ、私たちμ'sの活動はまだ終わっていないんですから…て穂乃果もわかってるでしょう?」

 

海未の言うように、学生であると同時にスクールアイドルである穂乃果が所属するμ'sの本文、それはスクールアイドルとしての活動にこそあると言ってもいいだろう。

それを指摘された穂乃果は苦笑いを浮かべながら再び申し訳なさそうなに少し俯き気味になる。

 

「う、うん、そうだよね…ごめんね、海未ちゃん、今度から気をつけるから」

 

穂乃果のその言葉に海未も納得がいったのかそれ以上彼女を言及することはなく、やれやれといった笑みを浮かべながらこくりと頷いた。

 

すると、そんなやり取りを続けていた3人の元に1人の人物が近づいて来た。

動き安そうなスポーティーな服装に身を包み、海未の普段から漂う凛とした佇まいに似ているがどちらかというと漢字で表すより、シャキッといったカタカナでの表し方がしっくりする彼女が近づいて来たことに最初に気付いたのは海未だった。

 

「海未のお説教タイムはもう終わったのかしら?」

 

「お説教タイムって……絵里、それではまるでいつも私が穂乃果に説教をしているみたいではないですか」

 

「……え? 違うの?」

 

「穂乃果!!」

 

「ふえぇぇぇぇえ!? また怒った!!」

 

海未に対するイメージを、はっきりと言ってしまったに近い穂乃果が再び叱りつけられる。

その様子を見て絵里は、くすり、と笑いをこぼす。

 

「ふふ…本当に仲がいいわね」

 

「笑ってないで助けてよ絵里ちゃ〜〜〜〜〜ん!」

 

「ごめんごめん、ついね? ……ところでさっきちらっと話を聞いてたんだけど、穂乃果が寝坊したのって何か調べ物をしてたとか……」

 

「え? うん、これだよ、巨大生物と光の巨人!」

 

どうやら先程のやり取りを聞いていたらしい絵里も、なにやら気になったのか穂乃果に昨日彼女が調べていたらしい物について問いかける。

すると穂乃果は再びスマホの画面を絵里に見せるように差し出す。

 

差し出されたその画面を絵里はどこか真剣味の籠った目を向けながら見ていく。

 

「………ネットでも話題なのね、実はこの手の話、最近亜利沙もハマってるみたいでね、私も気になってたのよ」

 

「え、亜利沙ちゃんも知ってたんだ! へぇ、今度いろいろ聞いてみようかな……」

 

「けど、これはあくまで噂話、確証があるわけではないわ………でも、だからこそ………ちょっと気になるのよね」

 

そう言って何かを考えるような仕草を見せる絵里は視線をスマホの画面、ではなく“穂乃果へと向ける”。

 

 

「今までこの手の話よりもスクールアイドルに熱心だった穂乃果が……この話に興味を持つことが」

 

「………え?」

 

 

絵里のその言葉に穂乃果はきょとん、とした表情を浮かべる。

 

「……そう言われてみると……穂乃果ちゃんってこう言うのに、そこまでのめり込むタイプじゃないよね?」

 

「……お化け屋敷とかもあんまり積極的に行く性格ではありませんし」

 

「海未ちゃん、お化け屋敷、今関係あるのかな?」

 

それはどうやらことりと海未も思ったらしく、疑問を抱いた2人は穂乃果がなぜこの手の話に興味を持ったのかについて考え始めた。

 

「ねぇ、穂乃果、どうしてこれに興味を持ったの?」

 

「………うーん………どうしてって言われても………この噂が流行り始めた時期があの“色付きの流れ星”が降ってきた日と一緒だったから…それで…」

 

 

 

“色付きの流れ星”、それは先日……この街、音ノ木坂周辺で確認された謎の流星のことである。

 

それは色鮮やかに、何色もの光を纏った流れ星が次々と落ちてきたというものだ。

確認された限り、流星群というには数が少なく、合計で9つしか観測されなかったものの、その流れ星は一時期話題になったほどのインパクトを街に残した。

 

そしてその流れ星を穂乃果も見ていた。

 

彼女が部屋にいた時、ぐうせ視界に入っていた夜空をかけた流れ星、それを見ていた穂乃果は窓を開けて、その流れ星を見ていた。

暗く、ところどころで瞬く星とうっすらと夜の街を照らす月……。

そんな空を色鮮やかな光をいくつも纏いながら駆け抜けていく星はどこか神秘的で……見入ってしまうと光景だった。

 

一つは赤く、一つは銀に、一つは金に、一つは白く、そして一つは青く。

次から次へと違う光を纏った流れ星が夜空を駆けていくのを見る穂乃果。

 

あの時の星空を彩る、その流星は綺麗だった。

どこか力強い光を放ち、真っ暗な中を突き進みながらも……どこか儚さを感じるその光に興味を持った。

 

 

やがて、その流星は最後となる………オレンジ色の光を瞬かせ、空から地上に向かって行くような放射線を描き………。

 

 

 

「……っ! あっ……ぅ……!」

 

 

 

その時の光景を思い出していた穂乃果が急に顔をしかめ、頭を抱えた。

どういうわけか、突然彼女の頭を鋭い痛みが襲ったのだ。

 

「穂乃果!?」

 

「どうかしたの穂乃果ちゃん!?」

 

「穂乃果、大丈夫!?」

 

ずきずきと頭痛を感じながらも、穂乃果は自分の近くにいる3人が心配そうに声をかけるのを感じた。

慌てる3人を落ち着かせようと頭の中に広がる痛みの波になんとか耐えながらも穂乃果は微笑みを浮かべようとする。

 

「だ、大丈夫……ちょっと痛いだけ……休めば練習にも出られるよ」

 

「なにを言ってるの穂乃果ちゃん! この前そうやって無理して、あんなことになったのに……」

 

それはそう遠くない前のこと、穂乃果はラブライブの本戦出場がかかった大事なライブを前にして意気込みすぎるあまり、無理をしてしまった。

それがたたり、穂乃果はそのライブの途中に高熱のあまりに倒れてしまったのだ。

それが原因で一度穂乃果はスクールアイドルをやめると言うほどの事態になり、果てはμ'sそのものの活動中止になるまでに至った。

しかし、紆余曲折を経て穂乃果は自分の中にある本当の思いに気付き、μ'sに復帰し、こうして活動も再開するに至った。

 

そして、その事情を間近で知ったからこそ……ことりは穂乃果を心配せずにはいられなかった。

 

「……またあんなことになったら、私……嫌だよ?」

 

「………ことりちゃん」

 

彼女の目から感じる思いに嘘はない、子どもの頃にも見たどこか不安げで、心配そうな目……。

その目を知っているゆえに、穂乃果はここで痛みを堪えて微笑みを浮かべながらも立ち上がる、ということが出来なかった。

どこか申し訳なさそうな表情を浮かべる穂乃果、そんな彼女に海未が寄り添いながら肩に手をかける。

 

「……もしかしたら寝不足のために頭痛が出たのかもしれませんね」

 

「かもしれないわね……穂乃果、今日はもういいわ、家に帰って休みなさい?」

 

「………うん………じゃあ、そうしようかな………ごめんね、海未ちゃん、絵里ちゃん………ことりちゃんも」

 

自身を心配する3人に穂乃果はそう言って謝る。

そして、絵里の手を借りながら立ち上がると少しよろめきながらも歩を進め、彼女は部室へと向かっていった。

 

「………穂乃果ちゃん」

 

「なにも、なければ良いのですが………せめて穂乃果には」

 

屋上から下の階へと続く扉から去っていく穂乃果の後ろ姿を見送る海未とことり、しかしその目には彼女を案ずるがための眼差しではなく……それとはまた別の意思をその瞳に宿していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部室に置いてあった荷物を纏め、制服に着替えた穂乃果は絵里に見送られながら帰路へとついていた。

その間にもまだ彼女の頭には鈍く、じんじんとした痛みが残っている。

その感覚に顔を顰めながらも、穂乃果は穂を進める。

 

(……どうしてなんだろう……あの日のことを思い出そうとしたら……急に……)

 

すべては先ほど、あの色付きの流れ星を見た日のことを振り返ったときのことだった。

あの時、流れ星たちを見て、最後となったはずのオレンジ色の流れ星が空をかけた後……その先に何があったのか、それを思い出そうとした瞬間に自分の頭の中に鋭い痛みが走った。

まるで思い出すことを避けるかのように………。

 

だが、それと同時に穂乃果にはまた別の光景が頭の中に思い浮かんでいた。

頭に痛みが走った瞬間から、まるでフラッシュバックするかのように頭の中に映像が浮かび上がる。

 

(……これって……今日見た、夢の……)

 

それは今朝方に彼女が微睡みの中で見た夢の光景と同じものだった。

何人もの光の巨人が強大なプレッシャーを放つ、なにか大きな存在に立ち向かっていく……あの夢……。

その夢の中で膝をつき、何度も倒れていく巨人たちの中の1人………。

 

 

 

『無茶をするんじゃねぇ! ーーーーッ!!』

 

 

 

青と赤の体に銀色の顔、頭に二本の刃を持ち、鋭く光る双眸をしたあの巨人が言い放ったその言葉の先……彼はいったい、誰を引き止めたのだろうか……。

 

 

 

あの………燃え盛る紅蓮の炎を見に纏いながら強大な存在に向かっていった………あの戦士の名前なのだろうか………。

 

 

 

しかし、それを思い出そうとしても頭痛が彼女の邪魔をする…。

訳も分からないまま、穂乃果は頭を片手で押さえながら家路を歩き続ける。

 

「頭痛薬飲んだら治るのかなぁ……うー……」

 

そんなことを呟く穂乃果………。

 

だが、そんな時……彼女が歩いているところから少し離れた位置から、彼女を見据える人物がいたことに、この時穂乃果は気づかなかった。

 

道路に立つ電柱の上、穂乃果を見下ろすように見据えるのは黒いフードの付いたローブを目深に被った謎の人物。

顔を隠しながらもその奥から覗かせる目には鋭い眼光が宿り、その視線の先には穂乃果が写っている。

 

普通なら人間が立つには困難を有するであろう電柱の上で命綱もなしに立っているその人物は夕焼けがかった空の下で視界に映った彼女を見据え、だらん、と垂らしていた右腕を垂直に立てる。

 

その瞬間、その人物の右手に燃え盛る業火が発生した。

メラメラと揺らぎながら火力を増すように火の粉を散らせるその炎を手に宿し、その人物は黒いフードに覆われた顔の部分から少し覗かせている口を小さく動かす。

それと同時に口から出た言葉……それと同時に右手の炎がさらに火力を増す。

 

 

 

「………“可能性”を有する者………ここで、消えるがいい………」

 

 

 

そして程なくして、炎を宿した右腕を道を歩く穂乃果に向けて振り下ろした。

同時にその動きに合わせるように右腕で燃え盛っていた炎がその人物の腕から飛び出し………。

 

 

 

 

「………え?」

 

 

 

 

ー ドォォォォォォオオオン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、何の変哲もなく訪れたその日、普段なら大きな変化もなく何事もないまま昨日とあまり変わらない1日が始まるであろうその日。

海未とことりがいるクラスには、少しの………それでいて大きく感じる変化があった。

 

 

「………穂乃果、どうかしたのでしょうか」

 

「……うん……いつも来てる時間にも、ギリギリの時間にも来なかったし……学校にも連絡がないし……」

 

 

穂乃果はその日、学校に来なかったのだ。

昨日のこともあり、体調不良が一番考えやすい原因だろう、しかし学校は穂乃果からは何の連絡も受けていないらしく、原因は不明となっている。

 

「……昨日の頭痛が酷いってことだけなら……いいんだけど」

 

「……そうですね」

 

原因が分からない、それだけでこれほど不安になるとは海未もことりも思わなかった。

いや、原因がわからないからこそ2人は感じているのかもしれない。

 

言い知れぬ胸のざわめきを………。

 

「………やっぱりダメ、メールも電話も出ない」

 

「……連絡が取れれば、あるいはと思ったのですが………?」

 

2人がなんとか穂乃果と連絡を取ろうとしている中、ふと海未が教室の賑やかな談笑の中から気になる内容の会話を聞き取った。

 

 

「ねえ、知ってる? 昨日この近くで爆発事故があったって…」

 

「爆発!? うっそ…なんで? テロとか?」

 

「それはないわよ、うーん……なんか知らないけど……怖いよねぇ」

 

 

世界情勢の中でも比較的安全な治安を保持しているはずの日本で爆発事件というだけでも物騒な話しだ、しかし先ほどの話の内容……気になるのは……。

 

「あ、あの、すみません……その爆発事故っていつ、どのあたりで起きたのですか?」

 

「え? えっと……時間は確か夕方の5時前くらいかな……場所は、ほらこの辺り」

 

海未の問いかけに答えたクラスメイトがそう言ってスマホの地図アプリを開くとその現場らしい場所を指差した。

その場所を見ると……そこは海未にとっても覚えのある場所だった。

 

(ここは……確か穂乃果が使う通学路の……!)

 

そこはなんの変哲もないはずの道、しかしそこは穂乃果がいつも使う通学路のうちの一つだった。

行きも帰りも同じ通りを進む彼女ならこの道を通らないわけがない…時間帯的にも彼女ならここを通りかねない………。

 

海未の胸のうちに言い知れぬ不安が募っていく。

 

「海未ちゃん………!」

 

「……まだ、決まったわけではありません……穂乃果が巻き込まれたという確証もないではないですか」

 

「けど……穂乃果ちゃんにもしものことがあったら……」

 

「ことり、落ち着きなさい……大丈夫……きっと、きっと大丈夫ですから」

 

同じように不安を感じている様子のことりに海未がそう言って安心させようとする。

しかし、内心では海未も不安を感じずにはいられなかった。

彼女が昨日、寝坊して、珍しく妙な噂話に興味を持ち、頭痛で練習は早退した……ただそれだけのはずなのに……胸のざわめきは収まらず、不安と心配といった感情が大きくなっていく。

 

せめて、彼女の身に危険が及んでいないことを祈って……。

 

そう願いながら海未が窓の外へと目を向けた時だった。

 

「………?」

 

窓から見える景色、そこから見える学校の一角とも言える屋根伝いに1人の人影が見えたのだ。

あんなところに人がいるなんて……不自然な光景に海未は疑問を感じ、目を凝らしてその人物をよく見ると………。

 

 

「………っ!」

 

 

海未はその人物に見覚えがあった。

目深に被った黒いローブ、怪しげな雰囲気を纏うその人物に彼女は以前、会ったことがあったからだ……。

 

 

 

以前に行った登山……そこでの数奇な出会いで遭遇した……あの、怪しげな人物……。

 

 

 

それに気づいた瞬間、海未は教室を脱兎のごとく飛び出し、ある場所へと目指して走り出した。

 

「う、海未ちゃん! どうしたの!?」

 

「付いてきてはいけません! ことりは教室に!」

 

「ダメだよ! 海未ちゃん、なんだかただ事じゃないし……それに、危ないってわかるもん!」

 

「なら本当に危ないから付いてきてはいけません!」

 

「だったら尚更放っておけない!」

 

自分を追ってくることりを説得し、教室に残るように言おうとするがことりは頑として受け入れようとはしない。

普段ならすることはないだろう廊下を全力で走り、階段を駆け上がる海未……すると……。

 

「あっ!」

 

「きゃっ! う、海未? どうしたの、血相を変えて……」

 

「絵里……」

 

階段の踊り場で絵里とぶつかりそうになった。

ただならぬ気配を察したのか、絵里は海未に問いかけるが今は答えている余裕もない。

 

「すみません、事情とお叱りについては後で受けます、今は急ぎますので! あ、後、絵里! 屋上にはいかないでください! 絶対に!」

 

「え!? ちょっと海未!? ことりも!?」

 

「ごめん絵里ちゃん! 今は海未ちゃん、只事じゃないみたいなの〜!」

 

絵里にそう伝えた海未は再び階段を駆け上がり始める、彼女のあまりにも慌ただしく、それでいて決起迫る勢いを見せる姿と後ろ姿にこの時絵里は疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「………一体なんなの………まさか………」

 

本当ならこの階段を下りるつもりだった絵里はある予感を感じたかのように足の向きを変え、そのまま階段を駆け上がり始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半ば飛び出すように屋上へと出た海未、そのまま彼女は周囲を見回して先ほど教室で見た人物がどこにいるのかを探す。

それほど時間が経ってはいない、だから遠くには行ってないはず………あたりをしきりに見回し、あの影を探し続けていると……。

 

 

 

「………来たか………」

 

 

 

体の芯に突き刺さるような、鋭さを残した冷たい声色……。

その声が聞こえた方向へと目を向けると、そこには……先ほど見た黒いローブの人物の姿があった。

 

「あなた………なぜここに………!」

 

「う、海未ちゃん……知ってる人?」

 

彼女にとって、忘れられるはずもない……何せ自分は、一度この人物に“殺されかけた”のだから……。

 

あの時は紆余曲折があり、なんとかなったものの……この何者かの脅威については自分はよく知っている。

故に、海未は警戒を強める。

 

それに対し、屋上の出入り口の上に立つ黒いローブの人物は表情こそ見えないものの、明らかに異質とも言えるような冷たく、触れば切れそうなほどの鋭い気配を放っている。

 

いったいこの人物がなぜこの学校にいるのか………。

 

「……光を消す……」

 

その疑問に対し、程なくしてローブの人物から返答が帰ってきた。

 

 

「お前達と共にいる“光の戦士”……あのお方のためにも……ここで消す……纏めてな」

 

 

そう言って黒いローブの人物は袖口から何かを取り出すとそれを海未たちに見せるように前に出した。

それは黒と金の装飾が施され、手で握ることができる物だった。

味方によっては短刀や何かの道具に見えなくもない。

 

ローブの人物はその道具を振るうと、どこからともなく空中に一体の人形が現れた。

人型とは大きく異なる、獣のようなフォルムをしたその人形をもう片方の手で手に取ったその人物は右手に握る道具に人形を近づける。

 

 

 

「………手段は選ばん………お前もここで、消えるがいい」

 

『リヴァイブライブ! ベムラー!』

 

 

 

道具が人形の足の裏に触れ、その瞬間その人形が謎の闇に包まれる。

そしてローブの人物はその人形を放り投げると………その闇は空中で広がり、程なくして学校から少し離れた街中に強大な怪物が姿を現した。

 

 

 

ーギァァァァァァァアアアアアアアアア!

 

 

 

街中に降り立ったのはトゲトゲしい深い緑色をした体に短い手と太い足、そして長大な尻尾を持った巨大な怪物だった。

怪物は耳をつんざくような咆哮を上げ、街の中に突如として姿を現した。

遠巻きに人々の恐怖の叫び声が聞こえる……街の方では突然の巨大な怪物の襲来にパニックを起こしているのだろう。

 

「怪獣……しかも、街中に……!」

 

「くっ……あなた、あそこにたくさんの人がいるのがわかっているのですか!」

 

「……俺にとっては人間の命など、些細なものに過ぎない……」

 

「なっ!」

 

まるで何も気にしないとでもいうかのような口ぶり、この人物にとってはあの怪獣を街中に解き放ち、人々を危険に晒すことなど大したことではないと思っている……それほどまでの危険性を持っているのだと、海未は改めて実感する。

 

「……ベムラーはまっすぐにここを目指す、俺がそう指示したからな……」

 

「ここを……ということは、まさか……!」

 

その言葉に海未の脳裏に嫌な予感が浮かび上がる。

あの怪獣がここを目指すということはこの音ノ木坂学院が危険に晒されているということ……最悪の場合、この学校が破壊されてもおかしくないということだ。

 

「あなたは…! なんのためにこんなことを!」

 

「…言ったはずだ、俺はお前たちと共に…光の戦士を消す…それだけだ………」

 

そう言って黒いローブの人物はまっすぐにローブの下からまっすぐに海未を見る。

その瞳には……確かな殺意とも取れるような感情が込められている。

おそらくこのローブの人物は何かの怨恨、あるいは目的のために“彼ら”の存在が邪魔なのだろう……消すためには手段を選ばない、その目はそう物語らせるには十分すぎる意思が込められていた。

 

「……まずは貴様からだ……あの時に仕留め損なったその光……ここで焼き尽くす……!」

 

その殺意が炎に変わったかのように、ローブの人物の右腕に燃え滾る炎が灯る。

そして、そのままローブの人物は燃え盛る炎を纏った右腕を海未とことりに向けて突き出し………。

 

 

「海未! ことり!!」

 

 

放たれた業火の玉は海未とことりが先ほど立っていた場所に落ち、火の粉を散らしながら爆散した。

だがその一撃は放たれる直前に屋上の出入り口から飛び出してきた人物が海未とことりを庇いながら、地面に倒れこむようにして無理やり突き飛ばしたことで直撃することはなかった。

 

「………また邪魔者か………」

 

突然の乱入者に苛立ちの籠ったような言葉を放つローブの人物、その視線の先には2人を庇うようにして屋上の床に倒れこむ、1人の少女の姿があった。

 

「………間一髪ってところかしら」

 

「うっ……え、絵里……あなた、なぜ!」

 

ここには来ないように伝えたはずなのに姿を現した彼女、絵里に戸惑いを隠せない海未、しかし当の絵里は少々厳しめな表情を浮かべると海未とことりの両方に目を向ける。

 

「仲間なのに隠し事は水臭いにも程があるわ、それに後輩が危ない目にあってるのに助けに行かない先輩も、いないわよ?」

 

「……絵里ちゃん」

 

「絵里………」

 

「それよりも学校の中はもう避難放送がかかっているわ……早く、あなた達も逃げなさい!」

 

絵里がそう言いかけた時、海未が首を左右に振った。

 

「状況はあんまりわからないけど、私が時間稼ぎくらいにはなるから2人は早く!」

 

「ダメです! 私たちだけが逃げたとしても……!」

 

そう言って海未が再びローブの人物の方を見る。

ローブの人物は海未達と同じ屋上の床へと降り立ち、再び右腕に燃え盛る炎を纏わせている。

そして、その狙いは今度は2人を庇うように上になっている絵里へと向けられている。

このままでは絵里があの炎の餌食になってしまう、嫌が応にもそう感じた海未は咄嗟に絵里を押し返そうとする、しかし、それよりも早くローブの人物が燃え盛る右手を彼女へと向けたのだ。

 

「絵里! 逃げてください!」

 

「絵里ちゃん! 危ない!!」

 

咄嗟に声を出した2人、その言葉に反応した絵里が反射的に後ろを振り向く、右腕から放たれた炎はまっすぐに絵里へと向かって来ていた。

もう逃げるだけの余裕もない程の距離、仮にここで避けることができたとしても炎は確実に海未とことりを……。

 

どうすれば……。

 

絵里の中の思いと同調するかのように海未とことりも迷いが生まれた。

 

 

 

………立ち向えるだけの“方法”はある。

 

 

 

………しかし、その力をここで使ってもいいのか………?

 

 

 

………だが、このままでは大切な仲間だけでなく、この街も………この場所も危ない………。

 

 

 

………どうすれば………一体…………どうすれば………。

 

 

 

 

(………どうすればいいの………?)

 

 

 

 

迷いを心の中に抱き、声に出さずに求めたのは……道標を探すような思い。

 

真っ暗な暗闇の中で、手探りで辺りを探し回る……。

 

不安で、怖くて、どうしようもない、だけど止まるわけにはいかない………だからこそ、求めるのは………。

 

 

……暗闇の中で求める、“光”。

 

 

 

 

 

ー 〜〜〜♪

 

 

 

 

 

「………?」

 

突然、海未が何かを聞き取った。

聞き覚えのあるメロディ、聞き覚えのあるフレーズ、聞き覚えのある声。

 

そう、これは……歌だ。

 

そして、この歌は忘れもしない……自分と、ことりと、誰でもない……全ての始まりを踏み出した、彼女と共に誓い合ったあの日に歌った歌だ。

 

何もわからない、どうすればいいのかもわからない、そんな中で諦めずに“可能性”を信じたからこそ出てきた歌。

 

“可能性”を感じたからこそ、進み出す決意を固めた彼女が口にしたフレーズ……後悔したくないからこそ、目の前の光に向かって走り続ける決意を露わにした、あの曲……。

 

たとえ暗くても、道は確かにそこにあるから……だから、前に踏み出せる。

そう思わせてくれた、彼女の歌………。

 

 

 

「っ! ……なに………!」

 

 

 

次の瞬間、自分たちに迫っていた業火の玉が何かにぶつかるかのようにして四散し、ただの火の粉となって散った。

この事態に驚愕した様子を見せるローブの人物、そしてそれは海未達3人も同じだった。

 

いったいなにが起こったのか……動転して理解が追いつかない彼女達……。

 

 

 

「………私、やるって決めたから………やるったらやるって、決めたから」

 

 

 

そんな彼女達の耳に、聞き覚えのある……忘れるはずのない声が聞こえてきた。

その声に導かれるようにして、声が聞こえた方向に目を向ける。

 

するとそこには………。

 

 

 

「決めたからこそ………壊させるわけにはいかないの!」

 

 

 

自分達が出会うきっかけともなった……全ての始まりの一歩を踏み出した、彼女が………穂乃果が、そこにいた。

 

 

 

「穂乃果!」

 

「穂乃果ちゃん!」

 

「穂乃果………あなた、今までなにを……」

 

いつの間にか自分達よりも後ろの位置に立っていた穂乃果、驚き、嬉しさ、疑問、様々な反応を持つ3人であったが今は説明している暇はないというかのように穂乃果は3人に微笑みを浮かべて、ローブの人物へと向けて突き出すようにして伸ばしている左手をゆらり、と下ろした。

 

「………何故だ………何故貴様がここにいる………何故貴様がその力を有している………」

 

それに対し、ローブの人物はまるで怒りを滲ませるかのごとき声を出し、右腕を強く握りしめ、怒りに身を震わせるかのようなローブの人物を穂乃果はその様子を揺るぎない決意の籠ったような瞳で見つめ続ける。

 

「貴様は昨日………確実に葬ったはずだ……我が炎で確実に!」

 

「………助けてくれたんだよ、この人が………」

 

穂乃果はそう言うと左腕を垂直に立てて、ローブの人物に見せるようにその腕についた“ブレスレット”のようなものを見せる。

 

左腕についた、赤と金色の配色が成されたそれは中央に赤い球体が埋め込まれ、まるで炎のような力強い輝きを放っている。

穂乃果が見せたそのブレスレットを目にした時、ローブの人物はさらに激昂するかのように体を震わせ始めた。

 

「………ことごとく………ことごとく我らの邪魔をするのか………“ウルトラマン”! 十分な力を、出せるような状態になっても尚! それでも歯向かうと言うのか!」

 

ローブの人物が言い放ったその言葉に、穂乃果はたじろぐ様子を見せることもなく、小さく首を左右に振る。

 

「これは……この人だけの思いじゃない……私とこの人……2人で決めたこと! 2人で一緒に、守っていくって決めたことだから!」

 

「……黙れぇぇぇぇええええ!!」

 

遂に怒りを爆発させたローブの人物は人間とは思えない、常識破りの跳躍で穂乃果との間にいる海未達3人の上を悠々と飛び越え、ローブの裾をはためかせながら急降下し、穂乃果を強襲する。

 

「穂乃果! 危険です! 逃げて!」

 

本気で襲いかかろうとしていることを察した海未が穂乃果にそう警告する、しかし穂乃果は逃げるような素振りを見せず、それどころかまるで迎え撃つかのようにローブの人物を見据えている。

 

「………!」

 

そのままローブの人物が繰り出した蹴りが穂乃果を捉えようとした、まさにその瞬間だった。

 

穂乃果の体が僅かなオレンジの光を放ちながら発光し、彼女に迫った蹴りの攻撃を素早く回避したのだ。

常人なら見切るのも困難なはずの一撃を、彼女はあっさりと躱したのである。

 

身体の捻りを加えた横薙ぎの蹴りを姿勢を低くすることで回避した穂乃果はそのまま態勢を戻すと着地したローブの人物に向けて鋭い蹴りを連続で放つ。

ローブの人物はその攻撃を防ぐが、驚くのはそこまでに至る穂乃果の迷いのなく洗礼された動きにあった。

 

彼女はここまで格闘技に精通している訳ではない、それなのにあの動きが出来るとは到底思えない、それ故に一部始終を見ている海未達は驚愕するしかなかったのである。

 

「たぁーーー!」

 

「させるかぁ!」

 

穂乃果が繰り出した渾身の跳び蹴り、しかしローブの人物はその足を掴むと彼女の体を大きく振り回しながら屋上の外へと向けて投げ飛ばした。

彼女の体が鉄柵の上を越えて外へと落ちてしまう高さへと放り投げられる。

 

このままでは彼女は下に落下してしまう!

 

そう焦りを見せた3人であったが……。

 

「っ! やぁぁぁあ!」

 

なんとその鉄柵を越える前に態勢を戻して空中で身を翻し、鉄柵を足場にして落ちるのを回避するばかりかそれを利用して再びローブの人物へと向かって跳躍したのだ。

 

「たぁっ!!」

 

「ぐっ!!」

 

そして、その勢いを乗せて繰り出した穂乃果の飛び膝蹴りがローブの人物の体に直撃する、そのあまりの力に堪らず、ローブの人物は後ろに吹き飛び、屋上の床に転がった。

 

ローブの人物もそうではあったが、それについていくあきらかに人間離れしたその動き、穂乃果はどうしたというのか……。

 

(………あのローブの人の口ぶり………それにあの光………まさか………!)

 

疑問を感じた海未が先ほどの穂乃果とローブの人物のやり取り、そして今彼女の体を包み込んでいる光を見ながら思考を巡らせると……彼女はあることに気がついた。

彼女の身体の光は……海未自身もよく知っている光だったから……。

 

「っ………これで終わりと思うな……我らにあのお方がいる限り……俺は何度でも貴様らを……!」

 

飛び膝蹴りを受けた部分を抑えながらそう言い放ったローブの人物はそのまま再び跳躍し、屋上から飛び降りた……。

諦めて自殺を図った、とは思えない口ぶり……それにあの身体能力の高さからこの高さで落ちて死ぬとは考えにくい……恐らく逃げたと考えるのが明らかだろう。

 

「逃げた……のかな?」

 

「……ええ、恐らくは……」

 

当面の目の前の脅威が去ったことで僅かに安堵する海未たち。

 

「………安心するのはまだ早いわ、あれがまだいるんだもの」

 

だが、危機はまだ去ってはいない……。

 

 

 

ーーー ギァァァァァァアアアアアアアア!

 

 

 

こちらに向かってきている怪獣、ベムラーが残っている。

甲高い獣のような鳴き声をあげてこちらに向かって来ているベムラー、受けた命令はまだ機能しているということなのか……以前その足を止めようとはしない。

 

「どうしよう……このままじゃ、街も……学校も……」

 

「大丈夫だよ、ことりちゃん……」

 

その時、再び穂乃果が前に出た。

ことりを安心させるかのように微笑みながらそういった彼女は次に海未、そして絵里へと目を向けるとしっかりと頷いてみせる。

 

「穂乃果………あなた、やっぱり………」

 

「………行ってくるね」

 

そして、穂乃果はそのまま左手に着けたブレスレットへと目を向ける。

 

 

 

「行こう! “メビウスさん”!」

 

『はい! 守りましょう、必ず!』

 

 

 

穂乃果の呼びかけに答えるかのように、左腕のブレスレットが点滅し、穂乃果のものとは違う声が聞こえた。

それを聞いた穂乃果は左腕を垂直に立てると、大きく右腕を回し、ブレスレットの中央についた赤い球体に手を添える……。

 

そして、勢いよくその球体を回転させるとその球体から光が溢れ始める。

 

穂乃果はブレスレットにその眩いばかりの光を纏わせながら大きく腰だめに左腕を引くと………。

 

 

 

「メビウーーーーーーーース!!」

 

 

 

天高く左腕を掲げ、今まさに自身と“一心同体”になっている戦士の名を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベムラーが受けた命令は音ノ木坂学院に集まっている可能性が高いという“可能性を持つ存在”の抹殺だった。

その命令に忠実に従い、ベムラーは足元の街を突き進み、邪魔なものは全て可能性破壊しながら前へと進み続ける…。

 

慌てふためき恐怖する人間の叫び、泣き声、怒声、それらはベムラーにとってなんのこともない音に過ぎない、ただ出された命令に従うように進み続けるベムラー……。

 

そんな時だった……。

 

 

急に目的地である音ノ木坂学院の屋上に“無限大”の軌跡を描いた光が浮かび上がったのだ。

その光に何かを感じたのかベムラーが音ノ木坂学院に向けて顎を開き、そこから青い炎を溢れさせ、打ち出そうとする……しかし、その瞬間!

 

「………セアッ!!」

 

その光が真っ直ぐにこちらに向かって来たかと思うと、ベムラーを弾き飛ばし、街の中に降り立ったのだ。

あまりの衝撃に倒れこむベムラー、その現象に街を行く人々も驚きながらも目を向ける。

 

そして、ベムラーを弾き飛ばした光がゆっくりと街に降り立ち……その光が晴れ始めると……。

 

「………お、おい………あれ」

 

「あれってもしかして……ネットにあった」

 

「嘘だろ……実在したってのか……?」

 

その中から、光を纏った人型のシルエットが姿を現したのだ。

 

真紅と銀色に輝くその体、同じように銀色をした顔には光り輝く双眸、左腕には赤と金の燃え盛る炎のようなブレスレット、そして胸の中央にはひし形の青く輝く水晶。

 

 

 

「……光の、巨人……」

 

 

 

その巨人は光より姿を現し、街を恐怖に包み込んだ怪物と対峙する。

ゆっくりと街に降り立った巨人は腰に両手を当てるようにしてベムラーを見据える。

その姿は……まさに今、敵に立ち向かわんとする、“戦士”の姿そのものだった。

 

 

……そう、彼こそが光の戦士……。

 

 

こことは違う宇宙、違う次元の地球を守ってきた“M78星雲”から来た、若き勇者…。

 

 

 

その名は………“ウルトラマンメビウス”。

 

 

 

「シェア!」

 

誰もが息を飲む状況の中、メビウスは左腕を垂直に、右腕を手刀にして前に突き出すような構えを取る。

相対するベムラーもまた先ほどの攻撃を受けて臨戦態勢に入ったのか威嚇の咆哮を上げてメビウスに向けて身構えている。

 

ーーー ギァァァァァァアアアアアアアア!

 

先手を打ったのはベムラーだった。

 

トゲトゲしい体を震わせながら、こちらに向かってくる。

それに対しメビウスは回避を取らずその場に腰だめに構えると……。

 

「ヘアァァァァ!」

 

向かって来たベムラーを受け止め、足を踏ん張り、押し返し始めたのだ。

まだ人々がいるこの街中では下手に動けば大変なことになる、そう考えたメビウスは動きを最小限に被害を広げないように戦えるようにベムラーを人のいる場所から遠ざけようとする。

 

ベムラーの突進を抑え込んだメビウスはそのまま力を込めてベムラーの体を押し返し、一瞬の隙をついて体に拳をたたき込み、怯んだところをさらに回し蹴りを打ち込んで追撃する。

大きく体を揺らしたベムラー、周囲には人の気配はない、メビウスはそのまま再度ベムラーに接近するとベムラーの頭を押さえ込み何度も手刀を打ち込む。

 

だがベムラーもやられてばかりではないということは激しい抵抗を見せ、暴れ始めると抑え込むメビウスを振り払い、メビウスに頭突きを繰り出す。

 

「ウアッ! ……クッ……!」

 

思わぬ反撃を受けたメビウスは体をよろめかせ、僅かに交代する。

そこへベムラーが口を開き、そこから青く燃え盛る炎をメビウスに向けて打ち出す!

 

「ウァァァァァァア!?」

 

油断したところに追い打ちをかけられ、炎を体に受けてしまったメビウスは堪らずその場に膝をついてしまう。

 

さらにそこへベムラーが迫り、メビウスの体を蹴り飛ばし、メビウスはそのまま地面へと倒れ込んでしまう。

油断を許してしまったメビウス、そこにベムラーはそらに追撃とばかりに尻尾を動かし、起き上がろうとしたメビウスの体を打ち据える。

 

そのあまりの衝撃に再度地面を転がるメビウス、一連の反撃を受け、ダメージを受けたために動きが鈍くなり始めたのを見て、ベムラーは勝利に近づいたと感じ、本能的な興奮状態に陥ったのか咆哮を上げ、再び口に炎を滾らせる。

 

そして、ベムラーがそのまま炎を放とうとするが……この時、メビウスは気づいた。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

「っ!」

 

ベムラーが炎を放とうとしてる先に、まだ逃げ切れていない人々の姿があったのだ。

それに気づいたメビウスはダメージを残す体に鞭を打ち、受け身を取ると……

 

「グァァァァァア!」

 

打ち出された炎の先へと先回りし、炎に背中を向けて打ち出された炎をその身で受け止め、人々を守った。

 

「………ま、守って……くれたのか?」

 

「……私たちを?」

 

その行動に動揺する人々、それに対しメビウスは炎を受け、さらにダメージを受けたことで膝をつき、大きく息をするように肩を揺らしながらも人々へと目を向け逃げろと促すかのように頷く。

 

 

 

ーーー ピコン…ピコン…ピコン…ピコン

 

 

 

その時メビウスの胸についている水晶、“カラータイマー”が赤くなり、点滅を始めた。

これはメビウスの活動限界を知らせる、まさに“命のサイン”、彼が危険な状態になり始めた証である。

 

「………ハァァァ!」

 

だが、それを知らされても尚メビウスは立ち上がる、そしてベムラーへと振り返り、再び構えを取り、戦う意思を見せる。

 

……例え、どんな強敵でも、諦めずに戦う。

この世界を……惑星を……人々を守るために……。

 

 

 

「………頑張れ………頑張れ!」

 

「そうだ! 頑張れ!行けぇぇぇ!」

 

「負けないで!」

 

 

 

やがてその姿を見た人々からメビウスに向けての声援がかけられた。

その声に気づいたメビウスは人々へと一瞬目を向けると、大きく頷き、再び力強くベムラーへと向き合った。

 

再び立ち上がった敵、それを鎮めようとベムラーがまた炎を打ち出そうとする。

しかし、それよりも早くメビウスは両腕を前へと突き出すと………。

 

「シェア!!」

 

∞型の光の障壁、“メビュームディフェンサークル”でベムラーの繰り出した炎を防いだ!

まさかのバリアによる防御にベムラーは動揺したのかもう一度炎を出そうとするが……。

 

「フ……ハァァァァアアッ!」

 

メビウスは力強く地面を蹴り、大きく跳躍すると体を翻しながらベムラーへと向けて足を突き出し、急降下によって勢いを乗せた飛び蹴りを叩き込んだ!

その一撃に堪らず地面へと倒れこむベムラー、受け身を取りながら着地したメビウスはこのチャンスを逃す訳にはいかないとそのままとどめの一撃を打ち出そうとする。

 

左腕を垂直に立て、右手を左腕のブレスレット、“メビュームブレス”に添えたメビウスはそのまま左腕と右腕を左右に腕を広げ、ゆっくりと両腕を真上へと移動させる……。

 

そして………。

 

 

 

「………タァァァァァァァァァア!!」

 

 

 

よろめきながらも立ち上がったベムラーへと向けて、とどめの必殺光線“メビュームシュート”を発射した!

 

両腕を十字に組むことで打ち出された金色の光線はそのままベムラーへと直撃、ベムラーは最後の断末魔を上げて………爆散した。

 

なんとか勝利を収めることができたメビウス、組んでいた両腕を戻し、再び腰に両手を添えると、そのままゆっくりと空を見上げ………。

 

「………シュワ!」

 

大空へと向けて両腕を広げ、飛び去っていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか、穂乃果が……」

 

街で繰り広げられたメビウスとベムラーの激闘、それを音ノ木坂学院の屋上かは見ていた海未たちは驚きを隠せなかった。

それぞれが戸惑いを見せる表情を浮かべる中……不意に空から一つの光が降りてくると、3人の近くに着地し、その中から先ほどのウルトラマンメビウスとなってベムラーと戦った穂乃果が姿を現した。

 

「………穂乃果、あなたは何故」

 

「ごめんね、海未ちゃん、心配かけて……でも、今度はちゃんと理由があるんだ……ね? メビウスさん?」

 

『はい、それは僕からも説明します』

 

海未に向けてそういった穂乃果の言葉、それに答えるように穂乃果着ている制服のポケットの中から一体の人形がでてくる。

 

「じゃあ、穂乃果……教えてくれないかしら……あなたに何があったのか……」

 

「……うん、そうだね……部室に行こう? 多分みんな……希ちゃん達も学校に残ってるんじゃないかな?」

 

「みんな? もしかして……みんなに言うつもりなの?」

 

「うん、だって……みんな、一緒だと思うから……メビウスさんの仲間……ウルトラマンたちと……3人も、そうだよね?」

 

この穂乃果の言葉に3人は何よりも驚いた、まさかとは思っていたが彼女も……そして、周りにいた身近な仲間たちも同じ境遇になっていたということに……。

 

 

 

「これから話すよ、私たちが出会ったウルトラマンさんたちのこと……そして、私が考えてること」

 

 

 

彼女はいかにしてメビウスと出会ったのか……。

 

そして、彼女は何を知り、何を決意したのか……。

 

 

 

これから始まるのは、九人目の出会い……。

 

μ'sのメンバー、高坂 穂乃果。

 

そして、光の国の可能性に満ち溢れた若き戦士、ウルトラマンメビウスとの出会いの物語……。




いかがでしたか?
穂乃果とメビウスがどのようにして出会ったのかは次回に持ち越しです(汗

空白の時間に何があったのか、それはウルトラマン達が彼女たちの前に現れた原因とも繋がっていて?

次回もお楽しみに!

それでは…


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始まりの出会い 前編

どうも、白宇宙です!

久々のウルトラブライブの投稿!
今回は前回の穂乃果ちゃんの空白の時間に迫るお話です!

いったい彼女はどうやってメビウスと出会ったのか!
その真実が今語られる!

ちなみに少し長くなりそうなので前後編に分けます…

それでは、どうぞ!


 

 

………最後に光に出会った少女、それはある意味で“始まり”を告げる出会いでもあった。

なぜなら彼女と、9人目の光の戦士との出会いは音ノ木坂学院、スクールアイドル、μ's………そして、様々な世界線で平和と、かけがえのない惑星を、銀河を守ってきた、ウルトラ戦士達………交わることのなかった、二つの運命の歯車を噛み合わせるきっかけとなったのだ。

 

新たな出会い…新たな道…それが全て始まったのは………この時からだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー ドォォォォォォオオオン!

 

 

 

街中で突然激しい爆発が発生し、住宅地も近い道路の真ん中で爆煙が上がった。

地面のコンクリートが抉れ、辺りにその破片が散乱し、轟音が周辺を揺るがした。

あまりの衝撃とその音に周囲にいた住人は驚いて外に飛び出し、様子を見ようと現場に向かった。

 

「おぉ!?なんだなんだ!?」

 

「おい誰か警察呼んでくれ! あと消防と救急!」

 

「誰か巻き込まれたんじゃないの、ねぇ!?」

 

「おーい、誰かいるか〜!?」

 

周囲にいた住人や、偶然通りかかった人たちが騒然としている爆発現場にたむろし、どんな状況なのかと爆発が起きた場所に目を向ける。

爆発により、ひどい有様となっているその場所……道路の真ん中にできた窪みや亀裂がその威力の凄まじさを物語っている。

 

もしこの場に人がいたなら、ただでは済まないだろう……考えただけでもゾッとする……それほどの有様だ。

人々が現場に駆けつけて様子を見る限り、誰かが巻き込まれた様子はないようだが……。

 

………彼らは知らない………今まさにその場所に………一人の少女がいたということに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………う………ん?」

 

穂乃果が気がついた時、そこは見たこともない風景だった。

あんまり本を読むような性格でもないため、この表現があっているかはわからないが一言で表すなら………視界に入ってきたのは知らない天井だった………という表現が鉄板なのかもしれないが、今回の表現はそれにふさわしくない……。

 

 

言うなれば………視界に入ってきたのは“光の空間”だった………。

 

 

と言ったところだろうか……。

 

 

「………あれ? 私なんでこんなとこにいるんだっけ?…えーっと…確か、頭が痛くなって、練習早退して早く帰って……それで……あれぇ?」

 

 

まだはっきりとしない頭の中にある記憶をフルに回転させてここに来る前までの記憶を引き出そうとする。

しかし、なかなか出てこないのか穂乃果は困惑したまま首をかしげる。

 

確か覚えてるのはここに来る前、学校で体調不良を感じて無理をしては良くないというみんなの勧めもあり練習を早退して、そのあと家路についていたはずだった。

その後、なにか……なにかが起きた……しかし、どれだけ思考を巡らせてもその何かがなんだったのかを思い出すことができない。

 

一体、自分になにがあったのか……そう考えて一度周りを見回すと……。

 

 

「……ここ……どこ?」

 

 

……あたり一面はなにもない……いや、それでは何か足りない……言い換えるならば……あたり一面は、“光の海”といった感じだろうか……。

 

「なんで私こんなとこにいるの?……おーい!誰かいませんかー!」

 

とりあえず誰か人はいないのかと声を張り上げて穂乃果が周囲に呼びかける。

しかし、彼女の声に応えるものはいない…。

あるのは視界一面を包み込む光の空間だけ……彼女の発した声も反響してくることなく虚しく響きわたるだけだ。

 

すると、そんな時だった。

 

「………?」

 

不意に穂乃果は背後に気配を感じた。

さっきまで誰の気配も感じなかったのに不意に背中に感じた誰かの視線、それがいったいなんなのか気になった彼女は後ろを振り向いてその気配の正体を探ろうとする。

 

しかし、後ろを振り向いてもそこには誰もいない……。

 

「あれ?今確かに……」

 

キョロキョロと周囲を見回す穂乃果、人っ子一人いない光の空間の中で人影なようなものがないかくまなく探す。

だが、それらしきものは何も見当たらない………やはり自分の気のせいなのかと穂乃果が感じ始めた。

 

………その時だった………。

 

 

 

ーーー………すみません………。

 

 

 

「え………」

 

ふと、どこからともなく誰かの声が聞こえてきた。

その声が聞こえ、穂乃果は再びあたりを見回す。

 

ーーー………あなたを巻き込んでしまった……本当にすみません

 

「………あなたは誰? ねえ、どこにいるの! 誰なのかわからないとちゃんと話もできないよ!」

 

聞こえてくる声に穂乃果はそう告げる、すると彼女は次第にあるものを感じ始めた。

それは明らかな何かの“存在感”、圧倒的な何かのいる気配とはかけ離れた強い何か……彼女はその存在感に導かれるように、やがてゆっくりと上を向いた。

 

 

 

そして、そこにいたのは………巨大な人型のシルエットだった………。

 

 

 

「………え………えぇぇぇぇぇえええええええ!?」

 

 

 

 

突然目の前に現れた異様な存在、あまりにも大きなその人影に驚愕して声を上げる穂乃果。

そんな彼女の前に現れたその人影は……まるで靄のようなものに包まれており、しっかりとその姿を確認することはできないが頭と思われる部分についている光り輝く双眸が穂乃果のことを見下ろしているのがわかる。

 

「だ、だ、だ、誰!? なんなのこれ!?」

 

ーーー……驚かせてすみません……ちょっと待っててください……。

 

あまりの異様な事態に戸惑うばかりの穂乃果、そんな彼女を落ち着けようとしてか巨大な影はそういうと靄に包まれたその大きな影が徐々に薄れていき、やがて光の粒子のようなものへと変わると彼女の目の前に集まり始める。

 

その粒子が集まって行くとやがてその光は穂乃果やりも少し高いぐらいの人間の形へと変化していき……やがてそれはどこかの民族衣装のような衣服を身にまとった、一人の青年の姿へと変わった。

 

「こ、今度は人? さっきの大きなのにもびっくりだけど…いったい何がどうなってるの…?」

 

「……あれは僕の本来の姿、今のこの姿はあなた達地球人を模した姿です」

 

「………えっと、じゃあ、あなたは…誰?」

 

あの大きな人影が変化した姿という目の前の青年、一目見たところ心優しそうな好青年という印象を持つ彼に彼女はそう言って問いかけると……

 

 

 

「初めまして……“ヒビノ ミライ”です……」

 

 

 

青年はそう言って穂乃果のことをまっすぐに見つめたまま自身の名を告げた。

 

「ミライ……さん……あなたは誰なの? ていうか、ここどこ!?」

 

「……ここは言うなれば僕が作った精神世界、今僕はあなたの中にある意識そのものに呼びかけています」

 

ミライと名乗った青年に穂乃果はさっそくとばかりに質問を投げかける、彼女は今答えてほしいことがたくさんあるからだ。

自身では見出せることができないその問いかけをミライに問いかけると……ミライはどこか真剣な眼差しを浮かべてそう答える。

 

「精神………世界……? 意識って……私は今ここにいるよ?」

 

「えっと……簡単に言うとあなたが見ている今の姿はあなたが1番あなたらしい姿をイメージして可視化したもの……と言った感じです……けど………あんまりわかってないみたいですね」

 

詳しく説明はするものの穂乃果なとってはその説明は難しい内容だったらしく、首を傾げるばかり、それを見てミライは苦笑いを浮かべるがすぐにまた真剣な目を浮かべて穂乃果を見つめる。

 

「……それよりも……今のあなたは危険な」

 

「ねえ、じゃあなんで私はこの世界にいるの? さっきまで私、帰り道を歩いてはずなんだけど…」

 

「あ、あの……それも踏まえてこれから…」

 

「というより、なんで私を呼んだの? 私たちって多分初対面だよね? それなのになんでいきなり謝るの?」

 

「だ、だから……その……」

 

「……というか……私ってさっきまで何してたのか全然覚えてないんだけど……あなたは何か知ってるの?」

 

「………」

 

よほど気になることがあるのか、ミライに質問をし続ける穂乃果、完全に穂乃果のペースに巻き込まれているミライはタジタジとし続けるばかり……。

最終的にはなんと言えばいいのかわからずといった様子で黙ってしまった。

 

「? ……えっと、ミライさんだっけ? どうかしたの?」

 

さすがに黙り続けてるミライに疑問を抱いたのか、穂乃果はミライにそう言うとミライはふう、とため息をひとつついた。

 

「………えっと……とりあえずは順を追って話しましょ………っ」

 

しかし、その瞬間、ミライがいきなり肩を押さえてその場にがくり、と崩れ落ちた。

 

「え!? ど、どうしたの!? 大丈夫!?」

 

いきなりミライが崩れ落ちたことに驚いた穂乃果が慌てて彼に駆け寄ると、ミライは膝をついた状態でなにやら苦しそうに息を切らしていた。

 

「………あまり……時間がないみたいです」

 

「………時間がないって……どういうこと?」

 

「………穂乃果さん、これからいうことを……落ち着いて聞いてください……」

 

ミライは苦しそうにしながらも穂乃果を見つめてそう告げると………次の瞬間、衝撃の事実を告げた………。

 

 

 

 

「………あなたは………今、先ほど………命を落としました………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果が死んだ!?」

 

「そ、それって……うそ、だよね……穂乃果ちゃん」

 

ここはスクールアイドルμ'sの活動の拠点である、音ノ木坂学園、アイドル研究部の部室……ここに今、穂乃果を含めた合計で9人のメンバー全員、そしてさらに……その穂乃果の肩に乗るようにして立っている一体の人形、ウルトラマンメビウスが告げたその言葉にその場にいた面々は驚きの表情を浮かべていた。

 

「ことりちゃん……ごめんね、私も驚いたんだけど本当のことみたいなんだ」

 

「そんな………なんで………」

 

「じゃ、じゃあ! 今の穂乃果ちゃんはゆーれいってことなのかにゃ!?」

 

「ぴぃ!? ゆ、ゆうれい……!」

 

ことりの言葉に困り顔を浮かべながら答えた穂乃果、その言葉を聞いて咄嗟にそんなことを言い出した凛とそれに怯える花陽……すると、その姿を見て穂乃果は慌ててわたわたと両手を振る。

 

「ち、違う違う! ちゃんとここにいるよ? ほら、足もあるし!」

 

「……そうみたいだけど、じゃあそんなこと言ったのになんでここにいるのかも説明してくれるのよね? ……実際に穂乃果はそいつも連れてるんだし」

 

そう言うと穂乃果の肩に乗るメビウスへとつり目の鋭い眼差しを向ける真姫、すると穂乃果は少し間を空けてから小さく頷いくと、再び彼女はメビウスに目を向ける、

 

「………うん、それについてもちやんと話すよ……ね?」

 

『はい、皆さんと同じように……その時も穂乃果さんは驚いていました……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ど、どどどどどういうこと!? そ、そ、そ、それって私が……私……死んじゃったってこと!?」

 

「………信じられないかもしれませんが………はい」

 

言われたことに信じることができなのか動揺し続ける穂乃果、それに対してミライは悲痛な表情を浮かべて頷く。

 

「そ……そんな……私……こんなに早く死んじゃうなんて……まだやりきってないこともあるのに……うぅ」

 

告げられたそのあまりの事実にその場にへたん、と崩れ落ちて目尻に涙を浮かべる。

彼女はまだ高校二年生、その事実はあまりにも彼女にとっては衝撃的すぎるものだったのだろう……。

実際に目が覚めてこんな場所にいたらそれも信じざるを得ない……。

 

だがしかし、ここで穂乃果はある疑問を抱く…。

 

 

「……あれ? じゃあ、私はなんでそんなことに……」

 

 

彼女の中にある記憶には直接的に死につながるような出来事の記憶がないのだ。

だからこそ、なぜこのようなことになったのかはっきりとした要因を掴めずにいる。

再度彼女は頭の中にある記憶を巡らせる………。

 

「……あなたは……何者かの襲撃を受けたんです……ここに来る前に……」

 

「襲撃? ………」

 

ミライから言われた言葉を受け、再び記憶を探り始める穂乃果………すると………。

 

 

 

ーーードォォォォォォオオオン!

 

 

 

「っ! ………そうだ………確か………私………」

 

 

彼女は思い出した……帰り道、自分がいつも通るその道を歩いているその途中………突如として強烈な爆風と衝撃に襲われたことを……。

 

訳が分からず、何もわからないままに意識を飛ばした自分がその後何があったのかは想像するに難くない……。

 

「……じゃあ、私はその時に……」

 

「………はい………そして、僕があなたを呼びました」

 

全てを察した穂乃果のことを見つめながらそう言ったミライ、だが穂乃果は告げられたその事実にほぼ放心状態といった様子だ。

 

「………でも、大丈夫です………あなたはまだ完全に死んだわけではありません」

 

「………え?」

 

しかし、その穂乃果の思考をすぐさまに正す言葉をミライは告げた。

少し間を空けてからゆっくりとミライの方へと目を向けた穂乃果、するとミライはこくりと頷いた。

 

 

「……あの時、あなたは確かに命を落とす致命傷を負いました……でも、あなたはまだ死んでません……僕があなたと“命を共有”していますから」

 

「い、命を共有……それって……どういうこと?」

 

 

ミライのいうことをイマイチ理解できていないのか穂乃果が再度問いかけるとミライは彼女と彼自身の周囲に広がるこの光の空間を見渡した。

 

「この空間にあなたを呼べたのは……前から僕とあなたが一体化していたことにも由来するんです」

 

「一体化って……私、そんな……あなたにあったのも今日が初めてなのに……」

 

「………覚えてないんですか?」

 

彼の言うことに心当たりがない穂乃果は小さく頷くとどこか申し訳なさそうな顔を浮かべる。

それを見てミライはどこか複雑な表情を浮かべながらも、気にしないで欲しいという意味を込めてか首を左右に振る。

 

「………あなたは覚えてないかもしれませんが……僕はあの時、あなたの中にいた……だから致命傷を受けたあなたの命の肩代わりをすることができたんです」

 

……いったいいつから彼は自分の中にいたのだろう……その疑問が穂乃果の中に残ってはいるものの、その言葉に穂乃果はこれだけは理解することができた。

 

この人がいたから……自分は助かっているのだと……。

 

彼の浮かべている表情に嘘偽りをついているような感じはない、極めて自然な…ありのままの彼の意思だと、穂乃果はこの時なんとなく感じた。

 

「じゃあ……あなたが私を助けてくれたんだね」

 

「……でも……危ない状況に、変わりは………うっ…!」

 

突然、ミライが再び肩を押さえて苦しそうに顔を歪める。

するとそれを皮切りにしたかのように周囲の空間が歪に歪み始めたではないか、あまりにも異様な事態…穂乃果はすぐさまミライに駆け寄る。

 

「ね、ねぇ! どうしたの!? さっきからすごく苦しそうだけど…」

 

「…すみません…僕の方も…なんともないわけではないんです……こうして、あなたの命を繋ぎとめてるのもやっとな状態で……このままだと……」

 

「そんな……え……あ、あの! 体…体が!」

 

辛方な息使いをしながらも言葉を続けるミライ、するとその姿が徐々にではあるが薄く……透けはじめたのだ。

周りの空間も不安定に歪んでいく中、ミライの姿もどんどん薄れていく……穂乃果はこの状況に彼が只事ではない状態であることを理解した。

 

「………穂乃果さん……僕は……あなたの中にあるのは……僕の“魂”とも呼べるものです……でも、それはとても不安定で……それを維持する時間も少ない……このままだと……僕が消えると同時にあなたも……!」

 

「そんな……ど、どうすればいいの!? ねえ、ねえってば!」

 

「………“体”を………分離した僕の体を見つけてください………そうすれば……きっと……」

 

消えかかっているミライが苦しそうにしながらもそう言うと、彼は穂乃果のことをまっすぐに見つめながら……こう告げた。

 

 

 

「………思い出してください………あなたと僕が………“始めて出会った場所”を………」

 

 

 

そして、次の瞬間………穂乃果の視界はまるで白い強い光で照らし出されるかのように…ホワイトアウトしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ぅ………ぁ」

 

気がつくと、穂乃果はいつも通っていて見飽きるほどに見覚えのある場所にいた。

その場に座り込むようにして目を開けた穂乃果、少しぼーっとした思考の中、目に映り込んできたその光景を見て数回瞬きをする。

そして、とっさに彼女は自身の体をさすったり頬に手を当てるなどをして、あることを確かめた。

 

「………生きてる………よね?」

 

手に感じる自身の肌の感触、ほんのりと広がる自身の肌の温度……それらを感じ取った穂乃果は自分が今、生きているということを実感する。

 

ということは……先ほどまで見ていたものは………。

 

 

 

「…………夢…………じゃない」

 

 

 

あまりにも現実離れした先ほどまで見ていたあの出来事……それを夢と思いたかったのか……そう感じてはいけないということなのか……。

 

 

 

穂乃果に現実を突きつけるように、彼女の後ろには疎らな野次馬がいる中でもはっきりとわかる………道路に穿たれた大きな窪みがあった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまでの会話を聞いて、その場にいた一同は神妙な面持ちを浮かべざるをえなかった。

彼女がこうして生きている理由……そして、その要因となったミライという青年の言葉、それらを踏まえて彼女が昨日から今まで置かれていた状況が只事ではないということを彼女たちは理解した。

 

「……それで……そのあと、穂乃果はどうしたの?」

 

「……その後、私は家に帰ったんだけど……どうしてもその時に言われたことが気になってて……」

 

「……体を見つけて……初めて出会った場所を思い出して……って言葉ね」

 

先ほど穂乃果とメビウスから聞いていた話を元に絵里がそう言うと穂乃果はこくりと頷く。

するとその後、にこがそれに続くようにしてメビウスへと目を向けた。

 

「……その前になんで……メビウス、よね? あんたが穂乃果と前から一緒にいたのよ」

 

『それは……』

 

「まあまあ、にこっち焦りは禁物やよ?」

 

しかし、それを遮るようにしてにこの隣にいた希が微笑みながらそう言う。

 

「まだ話は終わってないし、最後まで聞くのがええちゃう?」

 

「……そうですね……希のいう通りです、にこも最後まで聞きましょう?」

 

「……なんであんたがそう言うのか気になるけど、それもそうね……で、その後どうなったの?」

 

希の提案に賛同する海未、それに少し気にかかるような形ではあるが同意したにこはとりあえずは穂乃果とメビウスの話を聞くことにした。

そして、それを確認した穂乃果とメビウスの二人もまた……話を続け始める。

 

「………その後、私は部屋に戻ったんだけど………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は、今生きている……でも、それは本当の自分の命とは違う……。

ここにある、今いる自分を繋ぎとめているのは…あの時に自分が出会った、あの謎の青年……ヒビノ ミライが繋ぎとめてくれている…彼の魂…。

そんなことを考えながら、その後なんとかいつも通り自宅に戻った穂乃果は自室でベッドに横たわり、天井を見上げていた。

 

あまりにも現実離れしている……未だに信じがたい話だと思う。

だけど、全てが……自分が体験したことすべてがあまりにもリアルすぎて……見たこと、聞いたこと、感じたことに……非現実にも似た感覚こそあっても、それすべてが自分とは無関係とは思えなかった。

 

故に、穂乃果の心は………今揺らいでいた。

 

(……あの人が言っていたことが本当なら……私……このままだと)

 

自分の中にある、ヒビノ ミライと名乗った青年の命……彼女が今こうしている生きているのは彼の命と繋がっているから。

しかし、あの時……最後に見たミライのあの様子を見て……なんとなくわかる……このままだと彼もまた危ないのだと……。

 

自分だけでない……自分の命を繋ぎとめてくれた彼も危ない状況なのだと感じた穂乃果はなんとかしなければいけないと思っていた。

 

だが、それ故に……彼女の心は揺らいでいた。

 

「………でも………思い出せないよー!」

 

彼が最後に自分に言った言葉………。

 

穂乃果とミライが、“初めて出会った場所”。

 

そこがどうしても彼女は思い出せずにいたのだ。

 

彼女が今まで生きてきた人生、その記憶のどこをめぐっても今日出会ったミライという青年の記憶がない。

子どもの頃も、小学生の頃も、中学生の頃も、そして高校に入ってからも……もしかしたら家族が何か知ってるのかと思ったが、妹も母も父もその名前に聞き覚えはないという。

 

なら、自分は……いったい、いつ、どこでミライと出会ったのか……。

 

もやもやとした思考の渦に飲み込まれるような感覚を感じながら穂乃果はやらなければという使命感を感じながらも何もできない無力感を感じざるをえなかった。

 

「………私………どうしたらいいのかな……」

 

何もできないことが歯がゆい………こんな感覚は久しぶりだった。

 

それはまるで、自分の学校に廃校の通達が来た、あの日と同じようで……。

どうしたらいいのかと右往左往に手探りの状態で打開策を探し回っていた時と同じだった。

あの時はスクールアイドルという存在を知った時に…これだ、と閃きにも近い感覚があったが…今はそれがない…。

 

閃きも……何も浮かばない……。

 

 

 

「………お姉ちゃーん?」

 

 

 

そんな時だった、ふと自身の部屋のドアが開き、長い時間を共に過ごしてもうすっかり聞き覚えという感覚を通り過ぎた声が、特定の呼び方をしながら自分を呼んだ。

その声に導かれるように顔をドアの方に向けた穂乃果、その視線の先にいたのは、彼女の妹……“雪穂”だった。

 

「雪穂…なに?」

 

「お風呂わいたよ? ……どうしたの? なんか今日、帰ってから元気ないけど」

 

付き合いが長い故にわかってしまうのか……雪穂の言葉にそう感じながらも穂乃果は誤魔化すための微笑みを浮かべながらベッドから立ち上がる。

気がつけば外はもう日が沈み、すっかり夜の様相を保っている。

いつの間にか、そんな長い時間考え込んでいたようだ。

 

「なんでもない………お風呂貰うね?」

 

「う、うん………変なお姉ちゃん」

 

雪穂のそんな言葉を背に受けながら誤魔化しきれていないのかと感じながらも、穂乃果はこの複雑な思考を落ち着けようと風呂場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

彼女の自宅の風呂場はごく一般的な家庭にある風呂場であり、タイルの壁に覆われ、彼女一人が入る分には十分な大きさの湯船が完備されている。

そして、湯船に張られたお湯に体を沈める穂乃果はその近くから見える小窓を開けて、そこから見える夜空を眺めている。

 

しんと静まり返った空気の中…暗闇という真っ黒な無地な世界でぽつぽつと輝く小さな光の点が綺麗に彩り、穂乃果はそれを見つめる。

暖かなお湯を肌で感じながら眺める星空……それは少し……少しだけいつもと違う感覚を味わえて彼女は好きだった。

 

元々、星空というのが好きだったのもあるのかもしれない。

小さな光だが一生懸命光り輝くその光がとても綺麗で…尊くて…。

 

「………ふぅ」

 

だから眺めているといつの間にか見入ってしまう、普段はそれほど意識してるわけではないのに…。

先ほどまで悩んでいたことも、この時間ばかりは忘れてしまいそうだった。

 

「………星、綺麗だなぁ……」

 

なんてベタなことを言う穂乃果が見上げる夜空は今日もとても静かで……星が穏やかな光を放っている。

都会は街の光のせいで夜になると星空は見えにくいのだが彼女が住んでいるあたりは元々の光の量が少ないためか、自然と見えるのだった。

 

「………そう言えば、あの日の流れ星も……綺麗だったな」

 

そんな時、彼女はふと思い出した。

先日自分が見た、“色付きの流れ星”のことを……。

 

あの日に見た流れ星は今でも印象に残っている、夜空を駆け抜ける星たちそれぞれに色があって次々に空を駆け抜けていくのはとても綺麗だった。

彼女が見た中でもあの日の流れ星は初めてだった………特に、最後に現れたオレンジと金色光が混じったような流れ星はとても印象強く残っている。

 

あの流れ星が見えた時ずっとその光を追いかけた。

駆け抜け始めた場所から、その光が消えるのを目で追いかけて………。

 

 

 

「………あれ」

 

 

 

……そこまで考えていたところで、穂乃果はふとあることに気づいた。

 

その流れ星を目で追って………目で追って、その後に……“何があったのか覚えていないのだ”。

 

そう言えばこれは今日の練習の時も似た感じがあった。

確かあの時もその先を思い出そうとした瞬間に頭痛に襲われたのだった………。

 

なんで思い出せないのか……すぐにその疑問が彼女に浮かんだ。

確かあの後、星が最後まで落ちるのを見た…見たはずなのだ…しかし、その後がどうしても思い出せない………あの後、自分は………どうしたのか……。

 

穂乃果は自分の中にあるその時の記憶を必死に巡らせて思い出そうとする。

あの日にあったことを……あの日に起きたことを………あの日見たことを……。

 

 

 

「………あっ!!」

 

 

 

そして、ついに彼女は……思い出した。

 

次々と彼女の中に浮かび上がってくる記憶の断片、それらが組み合わさり、穂乃果の中で記憶のパズルが完成した。

 

あの日彼女は見たのだ………色付きの流れ星が夜空を流れていき……やがてそれが地に落ちていった瞬間を………流れ星が“地表に落ちた瞬間”を……。

 

「そうだ……そうだったんだ! 思い出したよ!!」

 

その時のことを思い出した穂乃果は湯船から飛び上がるようにして出ると脱衣所のスライド式のドアを開けると体にタオルを巻いてそのまま廊下を早足で駆け抜けると一直線に向かったのは………。

 

「雪穂!!」

 

「うわぁぁぁ!? お、お姉ちゃんどうしたの!? そんな格好で!!」

 

雪穂の部屋だった。

突然裸も同然の姿で部屋に突撃してきた姉に驚いた雪穂だが、そんなことは御構い無しと言わんばかりに穂乃果は彼女に詰め寄る。

 

「ごめんちょっと自転車借りるね! すぐ返すから!」

 

「それはいいけどお姉ちゃん服着て!! タオル! タオル外れかけてるから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半ば強引に雪穂に頼んで自転車を借りた穂乃果はその後急いで自室で着替えを行い、準備を整えるとそのまま記憶を頼りにその時の行動を再現した。

 

(そうだ……私はあの後、最後の流れ星が落ちたところに行ったんだ……!)

 

夜の街を自転車に跨り、駆け抜けていく穂乃果。

その時に見た光景、記憶の中にある映像を頼りにペダルを漕ぐ彼女にとってはその浮かび上がった記憶こそが彼女にとっての最後の希望だった。

 

おそらくそこに………そこに穂乃果の求めている答えがある……彼女はそう信じてペダルを漕ぎ続けた。

やがて彼女は見覚えのある町並みを駆け抜け、街はずれにある林の方へと向かっていった。

 

近くに自転車を止めて、その中へは自身の足で向かっていく。

 

(そうだ……あの日もこんな風に……この奥に落ちていったのを見て……!)

 

自分が忘れていた記憶を頼りに、彼女は足を進めどんどん奥へと向かっていく。

あの日の夜もこんな風に静かな夜空に星が輝いていた…。

 

そんなことを思いながら林の奥、さらに奥へと進み続けていくと………穂乃果はやがて開けた場所にたどり着いた。

 

「………ここ」

 

木々の位置がまばらで上から差し込む月の光がぼんやりとあたりを照らす、そこに浮かび上がる風景、目に映るそのそれら全てを……彼女は知っている。

 

「……覚えてる……そうだ……ここだったんだ」

 

彼女の中にあった記憶の中の空白のページ、それが今完全に埋まったのを感じた。

 

 

 

穂乃果はあの日……色付きの流れ星を見たあの日、この場所に落ちた流れ星を見に来た……。

 

そして、彼女はここで……ここで……。

 

 

 

「っ………!」

 

 

 

記憶を頼りにその場所に足を踏み入れた穂乃果、自分があの日にしたこと、見たことが正しいのなら、きっとこの場所に………“いるはず”だ。

 

 

 

ーーー ………あれ? なんだろうこれ……

 

 

 

(あの日……あの日私がここに来て……拾ったもの……手にしたもの……そうだ……今ならわかる……あれが……あの時の……“人形”が……!)

 

 

 

あの日彼女が見たもの……その手に握ったもの……今思えば、今日出会ったあの青年、ミライが目の前に現れる前に見た巨大な人影……そして、夢の中で出てきた……あの戦士の中の一人と……酷似していたのだ。

 

だとするなら……ここに……ここにきっと……。

 

穂乃果はそのまま足を動かしながら、自身の記憶の中にある“それ”見た場所へと向かっていく。

 

 

 

 

 

だが、その時だった。

 

 

 

 

 

「っ!? え……わあっ!?」

 

 

 

突然、彼女の足元の地面が盛り上がり、何かがその場から飛び出してきたのだ。

突然のことに驚く穂乃果、いきなりのことに対応できずにその場で後ろ倒しに倒れ、尻餅をついてしまった。

 

「いったぁ〜い…! もう、なに?」

 

腰に響く痛みに堪えながらも一体なにが飛び出してきたのかを確かめようと目を開けて穂乃果は目の前を見る。

そして、そこにあったのは………。

 

 

 

まるで、自分を見下ろすように地面から伸びてその先端をゆらゆらと動かす………触手だった。

 

 

 

「………え?」

 

 

 

あまりにも異様なものが目の前にあることに穂乃果はその場で呆然となる。

それに対して、地面から伸びているその長く、かなりの太さを誇る触手は揺らめきながら徐々に穂乃果へと距離を詰めていくではないか。

 

「ちょ…な、な…な…なに!?」

 

反射的に目の前にある触手が普通ではないものと判断せざるを得ない状況になった穂乃果はたじろぎながら後ろにあとずさって行く。

 

だが、次の瞬間……触手が怪しげに揺らめいたかと思ったら、その体をしならせ、穂乃果に向かって勢いよく向かってきたではないか!

 

「ひゃあ!?」

 

身の危険を感じた穂乃果は咄嗟に横に転がるようにして回避行動を取り、触手の動きをかわすが……直後、激しい衝撃と僅かな揺れを感じた。

恐る恐ると顔を上げてみると……なんと、さっきまで自分がいた場所の後ろにある木が真っ二つに折れている。

 

もしあのままかわすことができなかったらと考えた瞬間、ぞっとした寒気が彼女の背筋に走った。

 

だが、まだこれで終わったわけではない、依然として触手はその場にとどまっており、怪しげな動きを見せながら再びその先端を穂乃果へと向けると狙いを定めるように徐々に距離を詰めてくる。

 

「ひっ……こ、来ないで……来ないで!」

 

おびえた様子で後ずさる穂乃果、しかし、触手はその狙いを外すことなくまっすぐと彼女に近づいてくる。

少しずつ、少しずつと距離を縮めてくる触手、それを避けるようにして後ろに後ずさる穂乃果は……やがて逃げ場をなくして、背後の木に背をつけてしまった。

これではもう後ろに下がることはできない……。

 

「あっ……あ……あぁ……」

 

もう逃げ場がない……これを好機と見たかのように、穂乃果の目の前の触手はまた怪しく揺らめきながら大きくしならせるように動く………そして、さながら鞭を振り下ろすかのような動きで彼女はと一気にスピードを上げて迫る!

 

もう避ける余裕がないと悟った穂乃果は反射的にその場で目を瞑る。

 

 

太い何かが空気を割く音、自分に迫ってくる驚異の存在、穂乃果の身に大きな危険が迫ろうとした………。

 

 

だがその時、その驚異の存在が…阻まれた。

 

 

 

ーーー……ドシュウ!

 

 

 

突然、穂乃果の目の前まで迫った触手に衝撃波のようなものが当たり、彼女を触手から守ったのだ。

その衝撃波の直撃を受けてたじろいだように大きくのけぞった触手は音を立ててその場に倒れ込む。

 

「………あ、あれ? …え? こ、今度はなに?」

 

立て続けに起きたこの異様な出来事に警戒しながらも目を開けた穂乃果、きょとんとした様子で目を何度も瞬きさせると今自分が助かったという事実だけは遅れながらも理解することはできた。

 

しかし、一体今の一瞬でなにが起きたのか…新たな疑問を彼女が感じていると……。

 

 

 

「……今のうちに早く行った方がええよ、穂乃果ちゃん?」

 

「え? この声って………え!?」

 

 

 

彼女にとってとても聞き覚えのある声が聞こえてきた……この声の主は彼女もとてもよく知っている。

だが、なぜこの場所に、しかもなんであんなものが近くにあるのにそんな落ち着いた言葉が出せるのか……彼女は半ば混乱しかけた思考を持ちながらも反射的に声がした方向へと目を向ける。

 

 

 

「……夜道の一人歩きは……ご用心やよ」

 

「の、希ちゃん!?」

 

 

 

μ'sの創設に強く関わり、そして……メンバーの中でも特に不思議な雰囲気を纏った、穂乃果よりも歳が一つ上の大切な仲間……。

 

 

 

東條 希がいたのだから…。

 

 




いかがでしたか?

次回は! 穂乃果のピンチに駆けつけたのんたん! そして、穂乃果は無事に目的に物を探し出せることができるのか!

次回もお楽しみに!


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始まりの出会い 後編

どうも! 長らくお待たせしました、白宇宙です!
リアルやらなんやらの都合、さらには四女神オンラインの発売などで更新が遅れました…(汗

気づけばオーブも終わってオリジン・サーガが始まり(まだ見ていない)、ウルトラマンゼロクロニクルも始まる始末(これは見てる)…。
しかし! こちらはまだまだ続きます!

さて、今回は前回のお話の続き、穂乃果の前に現れたのんたん!
果たして穂乃果はメビウスの元へといけるのか!
そして、穂乃果が下した新たな決断とは!

それではお楽しみください、どうぞ!


 

 

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええ!?』

 

 

 

穂乃果の話を聞いている中、突然アイドル研究部の中から複数の驚愕の声が響き渡った。

学校の校舎に響き渡るほどの声だったが、この声を出したμ'sの面々にとってはそれ相応のことだったのだ。

 

「な、なんで希ちゃんがそこにいるにゃ!?」

 

「どういうことなの希!? あんたまさか最初から知ってたの!?」

 

「ふふふ、さあー? どうやろなぁ?」

 

「そ、そんな意味深な返し方されても……これはもう知ってるとしか思えないよ……」

 

まさかの事実に聞かずにいられなかったのか、凛とにこが早速とばかりに希に詰め寄るが当の本人はなにやら面白そうな表情を浮かべてどこ吹く風と言いたげに答える。

そんな中、この状況においてもそれを面白がっている様子に花陽を含め戸惑いながらも確信したメンバーは複数人いた。

 

「というか、それなのになんでわざわざ隠してたわけ? あの場にいたのなら全部知ってるんでしょう?」

 

「そうね、それについても教えて欲しいのだけど……希も知ってることを」

 

「……お願いします、希」

 

真姫、絵里、海未の三人にそう言われた希はちらりと三人を見たあとゆっくりその視線を再び穂乃果へと戻した。

 

「……こういうのは、その場にいた目撃者に話を聞いた方がええんとちゃう? どっちにしろ、穂乃果ちゃんはうちのことも踏まえて言うてくれるやろうし」

 

微笑みながら告げた希の言葉に全員の視線が再び穂乃果へと向けられる、すると穂乃果はわかったと言いたげにこくりと頷くと再度続きを話し始めようと全員へと目を向けた。

 

「危ないところを希ちゃんに助けられたわけで、そのあと私は………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんで希ちゃんがいるの!?」

 

後に再び聞くことになる驚愕の言葉を受けながら、特殊な形をした銃を構えた希は穂乃果にふっと微笑みかけると、その狙いを再び目の前にいる地面から顔を出している怪しげな触手へと向けた。

 

「占いで出たんよ、今日の夜、運命が動きだすって!」

 

ーガシュン!

 

ハンドガンのような形状をしている銃の銃身の下側の部分をポンプアクションよろしく前後に動かした希はその狙いを外さずに再び銃口と思われる部分から強力な衝撃波を打ち出した。

 

それは再度触手へと直撃し、触手は怪しげに揺らめいた後に再び地面へと戻っていった。

 

「……ふぅ、なんとか撃退ってとこかな」

 

「……の、希ちゃん……銃なんて使えたんだ……すごい」

 

「ん? ……んー……ハワイに行った時にちょっとね〜」

 

「………ハワイ?」

 

意味深な発言をするとともになにか含みのある微笑みを浮かべた希、彼女の仕草というかその意味深な言動に穂乃果は戸惑いを感じながらも今は首を傾げることしかできない。

 

「そ、それより! 希ちゃん、占いでって言ってたけど、希ちゃんはもしかして、何か知ってるの?」

 

意を決して穂乃果は希に問いかける、すると希はその言葉に先ほど顔に浮かべていた表情を真剣なものに変えると手に持っていた銃を仕舞った。

 

「………それは穂乃果ちゃん自身が知ること………いや、気づくことやよ………うちはただその間の手伝いをするだけや」

 

「て、手伝い?」

 

「そう、邪魔をされないように、うちが露払いをするってこと…」

 

その時だった、再び二人が立つその場所が小刻みに揺れたかと思うとその揺れが地震さながらに大きくなり始めた。

その揺れに戸惑いながらもなんとか踏ん張る穂乃果、それに対して落ち着いた様子でその場に立つ希。

 

すると、しばらくして………穂乃果と希がいる地点から離れた位置の地面が大きく崩れ、そこから巨大な……あまりにも巨大な影が姿を現した。

 

「うぇぇぇぇええええええ!? な、なに!? 今度はなに!?」

 

「あれが邪魔者ってことや」

 

「なんであんなのを前にして落ち着いていられるの希ちゃん!?」

 

穂乃果が目の当たりにしたのは明らかに常軌を逸した存在だった。

その体躯はあまりにも大きく、優に街のビルや建物を超える巨大を有しており、その見た目も見たこともないものだった。

 

一見するとそれは昆虫などを思わせる独特の光沢感を持った硬い印象を受ける体表をしていた、だが印象こそそれではあるが実際の大きさは虫のそれを優に越している。

というか越しすぎていて道端にいたら気にも留めない小さな虫と目の前のこの凶悪な爪を持った昆虫のような怪物を比べものにする時点でおかしいと言っても過言ではないレベルだ。

 

「の、希ちゃん! 早く逃げないと! このままじゃ、私も希ちゃんも一緒にまとめてぺしゃんこだよ!? 漫画みたいに!」

 

「漫画みたいなんで済めばおもしろいけどなぁ、そうはいかへん……それに、ここで逃げてええの?」

 

穂乃果が希を説得しようとそう言いだしたものの、希はまっすぐに穂乃果を見つめそう言い放った。

 

 

 

「穂乃果ちゃんは何かやることあってここに来たんやろ?」

 

「…………あ」

 

 

 

そう言われて穂乃果は我に帰り、思い出した。

自分がここに来たわけを、ここに来た本当の理由を……。

 

「………うちがあいつを抑えとる、だから穂乃果ちゃんは見つけてきて………きっと、向こうも穂乃果ちゃんのことを待ってるよ?」

 

「え……で、でも……一人でなんて無理だよ!」

 

「大丈夫………うちは、一人やない」

 

自分の目的もそうだが目の前にいるメンバーのことも心配と言いたげな穂乃果、だが希はそんな彼女の不安そうな表情を安らげるかのような微笑みを浮かべた後地中から現れた怪獣へと視線を向けると数歩前に出た。

 

 

「……いくよ、ネクサス」

 

 

すると、どうしたことか希の周囲を何やら光り輝く何かが浮遊しながら飛び回り始めた。

それが何かと穂乃果がよく目を凝らしてみるがそれよりも早くその光は希望の手元に収まると、それは白い小刀のようなものへと姿を変えた。

 

脈打つ鼓動のように光を放つそれを手に持った希はそれを腰だめに構えると勢いよく抜き放ち、星たちが瞬く夜空へと掲げた。

その瞬間、小刀から抜き放たれた光が周囲を照らし出さんばかりに光り輝き、希の体を包み込むと、やがてそれは一本の光の柱となって天へと伸びていった。

 

あまりの眩い光にとっさに目を覆った穂乃果だったが恐る恐ると目を開き、前を向くと………。

 

 

 

「………うそ………希ちゃん………?」

 

 

 

そこには希の姿はなく、巨大な怪獣と相対するように現れた銀色の光の巨人の姿があった。

 

 

 

「………シェア!」

 

 

 

巨人は一度穂乃果の方へと目を向けた後、すぐに怪獣へと視線を戻し右腕を握り前に、左腕を手刀にして胸の前に構える独特のファイティングポーズをとった。

 

対する怪獣は突如として目の前に現れた巨人を見ると明らかな敵意を向け、両手の鋭い爪を構え耳障りな金切り声を上げる。

 

「………奴は“インセクトタイプビースト バクバズン”………」

 

『なんとなく、女の子が嫌いそうな感じやね、さっさと片付けよか、ネクサス!』

 

銀色の巨人、ウルトラマンネクサスは一度こくりと頷くと走り出すと昆虫型の怪獣、“インセクトタイプビースト バクバズン”に接近し、徐に両腕を振り上げると正面からバクバズンの体に掴みかかり、押さえ込みにかかった。

巨大同士のぶつかり合いで周囲が激しく振動する中、穂乃果はその様子に見入っていた。

 

「デェア! シュア!」

 

ネクサスを振り払おうと抵抗するバクバズン、しかし、ネクサスは押さえ込んでいるバクバズンの顎に膝蹴りを打ち込み、怯ませると体に数回拳を打ち込み、休ませる暇も与えず高く振り上げた右足で回し蹴りを繰り出しバクバズンの頭部を横薙ぎに蹴る!

 

強烈な攻撃の連続にバクバズンはたまらず大きく後ろに後退するとネクサスは再び身構えながらも視線を一度、穂乃果のいる方へと向ける。

 

「…………」

 

「………え」

 

何かを訴えかけるように見つめた後、首を少し動かしたネクサス、その動きを見て穂乃果はそれが何を意味しているのかを感じ取った。

 

 

早く行け、と………。

 

 

「………ありがとう!」

 

 

巨人と、その巨人となった大切な友達にお礼を告げた穂乃果は自分が本来為すべきことをするために走り出した。

 

 

 

林をかき分け、道無き道を進む穂乃果、背後では大地が揺れるほどの衝撃がぶつかり合い、地を時たまに揺らす。

だが、彼女は進み続ける。

自分の中にある何か………微かだが感じる何か………自分を呼んでいるものに導かれるように………。

 

あの日ここに落ちた流星、それを追いかけてきた穂乃果はここで確かに出会っていた。

そして、彼女はその記憶を忘れていた……いや、思い出せなかったのだ。

 

それはおそらく、自分自身ではなく、先日出会った青年…ミライが施したものだと、彼女は反射的に理解したのだ。

 

 

 

(あの時の夢……私が見たあの夢は、私のものじゃない、あれは…あれはあなたの夢だったんだ……)

 

 

 

巨人たちが強大ななにかに向かっていくあの夢、あれはきっと無意識のうちに彼と感覚を共有していたから……だから、あのような形で見てしまったのだ。

彼の記憶の一欠片を………。

 

自分の中にある、ミライという青年の魂から………。

 

早く戻してあげないと、彼も自分もまだやりきっていない……やり残したことがあるから……それに手を伸ばすためにも、はやく!

 

穂乃果の足取りが徐々に早まり、やがて彼女はある場所に来た。

雑木林の中、鬱蒼と茂る木々が生える場所……その中に唯一、どういうわけか左右に開けたかのように木々が生えていない場所。

 

「……はぁ……はぁ………ここだった……そうだよね………うん、絶対そうだ」

 

穂乃果は覚えていた。

 

あの日、色つきの流星が街に降り注いだ時、そのうちの一つの光がここに落ちたのだ。

それを家から見ていた穂乃果は気になって今日のように自転車を走らせ、ここにたどり着いた……。

 

 

 

『これ……隕石……じゃないよね』

 

 

 

紐解かれた自分の記憶、彼女がここで見たのはゴツゴツとした宇宙から落ちてきた石などではなかった。

それは弱々しく光を放つ、“光”だった。

 

まるで命の鼓動を繰り返すかのように胎動するその光を見つめていると、それはやがて穂乃果の目の前である姿へと変わった。

 

………それが、光の巨人………ウルトラマンメビウスとの、最初の出会い……ファーストコンタクトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの日、流星が街に降り注いだ日はウルトラマンの方々がこの地球に降り立った日だった……その日に穂乃果はもうすでに出会っていたのですね」

 

一連の話を聞いた海未がそう呟くと穂乃果はこくりと頷いた。

 

「……でも、その時の記憶はどの道後から思い出したことだから、それまでずっと忘れてたんだし」

 

「でも、なんで穂乃果はその時のことを思い出せなかったの?」

 

気になったのか絵里がそう問いかける。

確かにそのような出会いをしていれば嫌が応にも印象に残るだろうし、穂乃果が多少抜けていたとしても忘れることはさすがにないと判断したからだ。

 

『……それは、僕がそうしたんです……彼女を……穂乃果さんを守るために』

 

「穂乃果を…?」

 

質問に対して答えたメビウスに絵里が首を傾げる。

 

『………あの時の僕はダメージを受けていたせいでいつ消えるかもわかりませんでした、そんな時穂乃果さんが現れて………僕は一連の事情を話しました……自分が何者で、何があったのか……そして、穂乃果さんは言いました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私にできること、ある? こんなことで消えたらダメだよ! まだ、まだやり残したことあるのに!』

 

あの時、彼女は目の前で倒れこみ胸の水晶を点滅させる光の巨人にそう告げた。

メビウスはその言葉に僅かに驚きを見せるが、穂乃果は迷いのない瞳で自分のことを見つめてくる。

 

やがてメビウスは苦渋の決断を下し、己が肉体を光へと変換し、その一部を穂乃果の体へと避難させたのだ。

そして、その際に彼の体となるものと、彼の魂とも言える部分が分離した。

 

そうしたのは、己の存在を他の存在に気取られないようにするため。

 

もし、自分が瀕死の状態で生きていて彼女と行動を共にしていると知られれば穂乃果自身に危害が及ぶと考えたのだ。

そのためにメビウスは己の魂だけを分離させて穂乃果の中に避難した……傷ついた体を暫く休めるための緊急措置として……。

 

そして、その際にその時の記憶も封印させたのだ。

こうすればその時が来るまで彼女は普段と変わらない日常を送り、危険が及ぶことはないはずだと思ったから…。

 

しかし、その時は来てしまった………。

 

 

魂と体を分離させるというこの行動は緊急措置とはいえそれ相応の危険を伴う、時間が経過すれば己の肉体を残し、魂が消滅してしまう恐れがあったからだ。

 

時間が経過するにつれてその兆候が見られ始めた…。

 

そして、先日……限界が近づき始めたことで気取られたのか、穂乃果を危険に晒すことになってしまったのだ。

 

 

 

これが全ての経緯、穂乃果がメビウスと出会った、“本当の始まり”……。

 

 

 

「………私のことを守ろうとしてくれたんだね………」

 

 

そう呟いた穂乃果は雑木林の中で自分の中にいる、光の戦士にそう問いかけた。

すると、穂乃果の中から弱々しく光る、小さな光が出てきた。

これがメビウスの魂……穂乃果の中に身を隠しながら責任を感じ、彼女を精一杯に守ろうとした光だ。

 

『………僕は、あなたの好意に甘え……あなたを危険な目に合わせてしまった……』

 

「……気にしてないよ、私も多分そうなることもあるってわかってた気がする」

 

『………穂乃果さん』

 

「………だから、最後まで助けるよ……あなたのこと」

 

穂乃果はその弱々しく光る輝きを手で受け止めるようにすると、そのまま歩き出した。

やがてあるところで足を止めると地面をじっと見つめる。

 

「………ここだね………」

 

意を決した穂乃果がその光を持ったままその場にしゃがみ込む………すると、その時……。

 

 

 

ーーーギァァァァァァァア!!

 

 

 

後方の方で何かの咆哮が聞こえた。

慌ててそちらの方へと目を向けると……。

 

「っ!? もう一匹!?」

 

そこにはなんと新たに現れた二体目の怪獣がいたのだ。

まだ虫型の怪獣と戦いを繰り広げているネクサスの後方に現れた怪獣、同じ昆虫型のようにも見えるが今度は人型をしているその怪獣は唸り声をあげながらネクサスに接近すると背後から鋭い爪を振り下ろした。

 

「グォ! っ! ウァァァァ!?」

 

鋭い爪の一撃を浴び、怯んだネクサスに畳み掛けるようにもう一匹が頭突きを食らわせる。

すると、ネクサスは大きく後ろに吹き飛び、地面を転がった。

 

二体の怪獣は並び立つと違いに持つ鋭い爪をギラつかせてネクサスに狙いを定める。

 

「………シェア!」

 

それを見て、ネクサスは力を振り絞るようにして立ち上がると再び身構え、怪獣達に向かって突撃する。

しかし、二体一ではやはり分が悪い、片方の怪獣を狙おうとして拳を繰り出すがその後にもう一体が反撃を仕掛け、ネクサスは返り討ちに遭ってしまう。

 

「ウァァァァァァァァァァア!!」

 

人型の虫怪獣の鋭い爪が再びネクサスの銀色の体を切り裂く、そしてそこに間髪を入れずにもう一体、バクバズンの爪も振り下ろされ、ネクサスは二体の怪獣の爪攻撃を受けて大きくよろけた。

 

奇しくもこの二体、形さえ違うがその名には同じ名前が当てはめられている。

人型の怪獣の名称は“バクバズン ブルード”、形は違うが同一個体とも言えるこの二体は互いの特質を理解した戦い方を行えるようだ。

予想もしないタッグ怪獣に苦戦を強いられるネクサス、その場に膝をつきながらも闘志をまだ見せるネクサスだが………

 

「っ!? ウォッ! オォォ!?」

 

突如としてその腕にバクバズンの尻尾が迫り、その尻尾についている凶悪な顎でその腕に噛み付いてきた。

突然の不意打ちをつかれたネクサスは腕に走る痛みに耐えながらそれを振りほどこうとするが顎の力は強く振り払うことができない。

その間にもブルードの方が再び爪を立ててネクサスに迫る………。

 

「希ちゃん! 大変……どうしよう……」

 

ネクサスの危機を感じ、動揺する穂乃果。

このままではネクサスは………自分にできることはないか……何かないのか………そう模索する彼女はふと、自分が手のひらに乗せている光へと目を向ける。

 

「………そうだ………ねえ、ミライさん!」

 

『っ!』

 

突然名前を呼ばれたことに驚いたのか、光はぴく、と動く。

それに対し、穂乃果は真剣そのものな表情で光を見つめる。

 

 

「あの巨人さんを………希ちゃんを助けることってできる?」

 

 

その問いかけは自身の大切な友人を思って下した問いかけだった。

だが、それはメビウスにとってもさらなる苦渋の決断を強いられるものでもあった。

 

『……僕の魂を肉体に戻せば可能ではあります……ですけど、今の僕は不完全……本来の力を出すためには……僕だけの力じゃ足りません』

 

「なら、もう一度私も協力する! それなら」

 

『いけません! あなたはもう十分に巻き込まれ、危険な目にもあった、これ以上………あなたを危険に晒すわけには!』

 

「今は私のことはいいの!!」

 

メビウスの言葉をかき消すかのように穂乃果が叫ぶように告げる。

その勢い……いや、必死さに押されたかのようにメビウスはたじろいだ。

 

 

「………大切な……大切な友達を……助けたいから……あなただけじゃない、希ちゃんも………あなたの仲間も助けたいから………だから!」

 

 

ともに誓い合った仲間、手を取り合った友達、だからこそ……穂乃果は諦めない……。

 

 

 

「助けられるなら! 私も戦う! 可能性があるなら……あなたも、希ちゃんも、みんなも助ける!!」

 

 

 

………ああ………。

 

 

 

………なんて………。

 

 

 

………なんて………。

 

 

 

『………強い人なんだ………』

 

 

 

彼女の揺るがない決意の心、曲がらないその真っ直ぐな瞳に宿る輝き……メビウスはそれを間近に見て初めて理解した。

彼女の“強さ”を……果てしない、“輝き”を………。

 

だからこそ、自分は彼女の命を……自分の命と共有するという危険な賭けをしてまでも……守りたかっ他のかもしれない……。

 

 

 

『………僕はあなたのことを守ります………絶対に………』

 

「………私も、あなたのことを守るよ………」

 

 

 

 

ならその輝きを……互いに見た、この輝きを……守りたい………だから………。

 

 

 

「だから………」

 

 

 

 

 

「『いっしょに!』」

 

 

 

 

 

直後、メビウスの魂の光が一層強い輝きを放つと天高く舞い上がった。

夜空に光り輝く太陽の陽炎、それを思わせる光の揺らめきとともに勢いよく降下したその光はやがて穂乃果の目の前の地面へと突き刺さる。

 

そして、その地面を突き破るように一体の人形がその姿を現した。

目と思われる部分ち力強い輝きを放つその人形は穂乃果と向かい合う。

 

『行きましょう、穂乃果さん!』

 

「うん、ミライさん……うぅん……メビウスさん!」

 

互いの名を呼びあう二人、するとメビウスの人形は光を放ちながら穂乃果の左腕へと近づくと光を放ち、赤と金の装飾が施されたブレスレット……“メビウスブレス”へと姿を変えた。

 

そして、穂乃果の周囲に眩い光を纏いながらブレスの中央にある球体部分に右手を当てて回転させ………。

 

 

 

「『メビウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウス!!』」

 

 

 

天高く左腕を突き上げながら穂乃果はともに戦い、守ると誓った戦士とともに叫んだ。

 

光の巨人としての、戦士の名を………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オォォォォ……!ウッ……アァァァ…!」

 

ギリギリと締まるバクバズンの尾の顎、腕に噛み付かれたままネクサスはその場で苦しむ声を上げる。

このままではいつネクサスの腕が噛みちぎられてもおかしくない、だがその前に着実に近づいてきているブルードも危険だ。

 

『ネクサス!』

 

ネクサスと一体化している希が彼を心配して名を呼ぶ、一体化しているとはいえ戦闘で負ったダメージの大体がネクサスに蓄積されるためだ。

 

 

このままでは………希が危惧を感じ始めた、その時………!

 

 

 

ーーーギェェェェ!

 

 

 

突如としてバクバズンの体から火花が上がった、その瞬間ネクサスの腕に噛み付いていた顎の力が緩んだ。

 

「ッ! シェア!!」

 

その隙を見逃さなかったネクサスはバクバズンの尾を振り払うと接近していたブルードに回し蹴りを打ち込み、怯ませるとすぐさま後ろに飛んで後退した。

 

突然のことに動揺を隠しきれない様子のバクバズン達、だがネクサスはそれが何によるものなのかを知っていた。

 

バクバズンの体から火花が上がったのは自分よりも後ろから飛んできた“光の刃”によるもの……そして、それを飛ばしたのは……。

 

 

 

『………うちの占い通りや………』

 

 

 

後方へと目を向けるネクサス、その視線の先にいたのは………。

 

 

 

右腕をまっすぐに伸ばした体制で佇む、赤と銀の体を持つ、もう一人の光の巨人………ウルトラマンメビウスだった。

 

 

 

「………目覚めたか………メビウス」

 

「遅くなってすみませんでした……でも、ここからは」

 

 

 

ネクサスの言葉にメビウスはそう返すと彼に近づき自身の右腕をさしのばした、ネクサスはその手を見つめた後その手を取るとそれを支えにネクサスは立ち上がる。

 

 

 

『私たちもいくよ、希ちゃん!』

 

『……やっぱり、穂乃果ちゃんならそうする思っとったわ……それじゃあ、うちらももうひと頑張りや!』

 

 

 

そして、二人の巨人と一心同体となっている穂乃果と希もまた同じように意気込む。

並び立つようにたった二人の巨人は握り合っていたその手を離すと、目前の敵へと目を向けて再び身構える!

 

『よーし……ファイトだよ! メビウスさん!』

 

『諦めんでいくよ、ネクサス!』

 

「セア!」

 

「ヘァ!」

 

二人の少女の言葉に答えるように身構えるメビウスとネクサス、対するバクバズンとブルードの二体も二人のウルトラマンを威嚇する。

 

これで戦況は二体二、五分五分となったこの戦いで再び先手を打ったのは、ネクサスだった。

 

「………フッ、ヘア!」

 

一歩前に出たネクサスは自身の胸のY字型の赤い水晶、エナジーコアに左腕を当てがうとそれを斜め下へと下ろした。

 

その瞬間、ネクサスの銀色の体に変化が起きる。

 

銀と黒の体を持つネクサスの体に赤色が加わり、さらにシャープながらも力強さを思わせる姿へと変わったのだ。

 

『さあ、第ラウンド行こうか……“ジュネッス”はまた違うよ!』

 

「シュア! …………オォォォォ………」

 

赤き姿、“ジュネッス”へと変わったネクサスは腕を十字にクロスさせると青い光を右腕に纏わせ、それを左から右へと移動させると………。

 

「………ヘア!!」

 

それを天高く掲げ、青い光を天高く打ち上げる。

やがてその光は空で弾けると、そのままメビウスとネクサス、さらにはバクバズンとブルードの二体を包むドーム型の光を形成する。

そして、その光が地面にまで達すると……四体の巨人と怪獣はその場から姿を消した……。

 

だが、これはその場から姿を消した訳ではない。

今は二人と二体はこことは違う、“異空間”へと移動したのだ。

 

 

 

『ここって………』

 

『………“メタフィールド”………ジュネッスになったネクサスが使える技や、ここなら周りを気にせず思う存分やれるよ』

 

 

 

メビウスと一体化している穂乃果は周囲を見回す。

そこは赤土の荒野ような大地にところどころに光が輝き、空もオレンジがかったオーロラのような不思議な空間……。

 

ここは、“メタフィールド”……ウルトラマンネクサスのみが使用することができる現実世界への被害を最小限に抑えるとともに自分が有利に戦える環境そのものだ。

 

その場所に立つメビウスとネクサスの二人、そしてその空間へと引き込まれたバクバズンとブルード……それを前にして二人の巨人は互いの顔を見合わせて頷くと怪獣達に向かって走り出す!

 

「デェア!」

 

「タァァ!」

 

距離を縮めるとメビウスはブルードに、ネクサスはバクバズンへと飛び掛る。

それに対して二体の怪獣も抵抗を見せ、暴れる。

 

上から押さえ込むようにバクバズンに飛びかかったネクサスは振り払われそうになりながらもそれを押さえつけ、バクバズンの体に膝蹴りを打ち込む。

 

メビウスもブルードの体を両手で掴むとその勢いのままにブルードを投げ飛ばし、体を捻りながら飛び蹴りを叩き込む。

 

二体の巨人の攻撃を受けた怪獣は反撃しようと爪を振り上げる。

だが、二人のウルトラマンはその腕を素早く片手で受け止めるとネクサスは右腕、メビウスは左腕で肘打ちを打ち込み、同じタイミングで追撃の拳を打ち出す。

さらに二人は怪獣達に追いすがると鋭い回し蹴りを頭部に叩き込み、更なるダメージを与えていく。

 

「シュア!」

 

「セェア!」

 

怒涛の連続攻撃を受けてひるんだバクバズンとブルードの二体、メビウスとネクサスは負けはしないとばかりにファイティングポーズを向ける。

 

だが、それに対してバクバズンもまた負けじということなのかふと体を小さく震わせると……背中が開き、そのから巨大な翅を外へと出す!

途端にその翅が震え、バクバズンはブルードを残して飛翔するとブルードはその後ろに立つ。

そして、そのまま二体はネクサスとメビウスの二人に向かってくる。

 

空中と地上の同時攻撃を仕掛けてきたようだ。

 

しかし、それに怯む二人ではない、メビウスがネクサスの前に立つように移動すると左腕を右斜め上へと掲げる。

 

すると、メビウスブレスから∞型の光が閃くと……そこから光の剣がブレスから伸びた。

これはメビウスが持つ武器であり、彼の得意とする戦法の一つ……光の剣、“メビュームブレード”だ。

 

そして、その背後でネクサスは両腕の籠手型の武装、“アームドネクサス”を体の前で交差させる。

 

その間にも空中と地上の二つから接近してくるバクバズンとブルードの二体、だがメビウスは臆することなくメタフィールドの光の大地を踏みしめると………。

 

 

「………ハッ!」

 

 

勢いをつけ走り出す!

 

そして、接近するバクバズンと背の翅を………

 

「ハァ!」

 

袈裟懸けに切り落とす!

 

さらに身を翻しながら……

 

「セァァァァァァアアアアアアアアア!」

 

すれ違いざまにブルードの爪を切り捨てる!

 

メビウスの剣技を受けたバクバズンとブルードは勢いを止め、地面に落下し、足を止める。

そして、そこにトドメとばかりに………

 

 

 

「オォォォォォォ………フッ! デアッ!」

 

 

 

両腕の間に走る青い光のスパークを纏わせながら垂直に立てると両腕を上へと上げ、その腕をL字型に組むと………その腕から青白い光の破壊光線、“オーバーレイ・シュトローム”を放つ!

 

そして、その光線は地上に落ちたバクバズンを先に直撃すると、さらに後続のブルードにも直撃し…………。

 

 

 

ーーーバガァァァァァァァァァァン!

 

 

 

二体の怪獣は青い光の粒子となって爆散、消滅した!

 

 

「………」

 

「………」

 

 

メタフィールドに静寂が訪れ、共に戦った二人の巨人が互いを見合わせる。

そして、二人は互いに頷くと……やがてその巨人達もまた、光に包まれてその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが………あの日に起きたこと、私とメビウスさんが出会った話だよ」

 

皆が知りえない二人だけのこと、それをメンバー達に改めて伝えた穂乃果に他のメンバー達は驚きとも似て取れるような表情を見せる。

 

「……それがあなた達の出会いだったのですね」

 

「私達の知らないうちに…穂乃果ちゃんも戦ってたんだね…」

 

「………うん、ごめんね、海未ちゃん、ことりちゃん……びっくりさせちゃって」

 

幼馴染二人に対して謝罪をする穂乃果、だがそれに対して二人は気にしていないと言いたげに首を左右に振る。

 

「最初なら私はあなたを止めたでしょうが……こうなってしまってはもう後戻りはできませんからね」

 

「……私たちも、一緒に戦うことになるんだし………ね? みんな?」

 

ことりの言葉にその場にいた全員が頷くとそれぞれに鞄や制服のポケットの中に手を入れてある物を取り出す。

 

それはまぎれもない、メビウスと同じように人形へと姿を変えたウルトラマン達だった。

 

「やっぱり、みんなも同じだったんだ」

 

「………穂乃果ちゃん、これからどうふる? うちらにはスクールアイドルって役目がある………でも、それだけやなくてウルトラマンたちと出会ったことでもう一つやるべきことを背負ってしまうことになるよ?」

 

 

全員を代表するように、希がそう言う………スクールアイドルとして活動してきた彼女達が背負う、もう一つの役目……。

 

それは、本来なら少女達のものではない、戦士達が背負う役目……。

 

あまりにも大きな圧倒的に大きな役目……。

 

 

だが、それを受け、穂乃果は尚もその瞳にまっすぐな光を灯す。

彼女は隣に浮遊しているメビウスへと目を向けるとこくりとうなずき、メンバー全員へと目を向ける。

 

「……昨日、希ちゃんと別れた後メビウスさんと話したんだ……これから、私たちがすること……私がしたいこと……スクールアイドルとは違うもう一つの……!」

 

穂乃果はそういうと指でピースサインを作ると、それを前へと突き出す。

そして、その上に人形のメビウスが移動する。

 

 

 

『今この世界は、大きな脅威に晒されています、そしてそれがこの世界に来たのは僕たちのせいでもある……これを退けるためにも、どうかお願いします……ウルトラ戦士の光と同調した皆さん!』

 

「一緒に………ウルトラマンのみんなの手伝いをしよう、私達………μ'sで!」

 

 

 

 

メビウスの願いと穂乃果の宣言、互いに話し合って出した結果、それを皆に伝えた穂乃果………その言葉を聞いたメンバー達は………。

 

「………昔から、言い出したら聞きませんものね」

 

「うん、だったら……私達も」

 

穂乃果をよく知り、共に走り出した幼馴染の二人はその隣り合わせになるようにピースサインを作り、それに合わせ……。

 

「こうなったらとことんまでついていくにゃ!」

 

「ちょっと怖いけど……みんながいれば大丈夫だよね」

 

「仕方ないわね………まあ、こっちも途中で降りたりなんかしたら、後味悪いしね」

 

そして、その後に共に足を揃えて走り出した一年生の三人もまた、それに続くようにピースサインを合わせ……

 

「………まったく、しょうがないわねぇ、スーパーアイドルにこにーも加われば百人力だから安心しなさい」

 

「あはは、みんなノリノリやな? まあ、焚きつけたのはうちなんやけど」

 

「………まったく、希ったら………でも、そうね………これはもうウルトラマンたちだけの問題じゃない……」

 

そして、最後に共に手を取り合わせ、走り出した三年生の三人もまたピースサインを合わせる……。

 

………これで全員が揃った………。

 

穂乃果の心はこの時、大きな安堵と、計り知れない心強さに包まれていた。

あまりにも大きなこの出来事、自分達の世界を包みこもうとする“闇”………だが、それはこの仲間達なら薙ぎ払うことができる………自分たちだけの、“光”で。

 

 

 

「よーし! 行くよ、みんな!」

 

『はい!』

 

 

 

ここに集ったのは、女神の名を持つ歌姫の9人の少女と光を宿した、9人の光の勇者達…。

 

「1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

「4!」

 

「5!」

 

「6!」

 

「7!」

 

「8!」

 

「9!」

 

………少女達と光の勇者達の戦いは、ここから始まる………。

 

 

 

「μ's! ………うぅん、今は改めて………“ウルトラμ's”!!」

 

 

 

 

 

 

ーーー ウルトラミュージック、スタート!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………まさか、奴らが揃うとは………」

 

そしてまた、闇も動きだす……。

 

音ノ木坂の街のはずれ、廃墟となっている場所に訪れたローブの男は壁にもたれかかりながらその頭にかぶったフードを取り去る。

 

「………だが、所詮はあがきでしかない………奴らの“切り札”はすでにこちらの手に………」

 

ローブのフードを取り去った男は白髪と黒髪の混ざったような髪に鋭い目つきをしており、そういうと天井、いや、その先にある夜空のはるか先へと目を向ける。

 

 

 

「………我が主よ、お待ちください………あなたの目的を果たしてみせます………この私が………“キリエル人”たる、この私が………!」

 

 

 

“キリエル人”………男が確かにそういったのと同時に、その廃墟の上を鋭い轟音を上げて三つの影が飛び退る。

 

目にも止まらぬとはこのことか猛スピードで空を切り裂かんばかりに飛行するそれは鉄で出来た翼を持つ、“英知の結晶”とも言える、人類の力の証だ。

 

その3機の翼で空を切り裂く乗り物、言うなれば“戦闘機”とも見て取れる機体に乗る人物のうち、1番先頭の機体に乗る人物はコクピットの中で操縦桿を握る。

 

 

 

「………テスト終了……これなら実戦でも使えそうだな………こちら、“ヴァルキリー1”、これよりベースへと帰投する………土産にこの機体の性能報告を用意しておく」

 

 

 

コクピットの中でヘルメットをかぶった人物がそういうと先頭の戦闘機が先を言う形でその場で急速旋回し、3機の戦闘機は空を駆け抜けていった。

 

 

 

月光に照らされて輝く、“VDF”という文字を煌めかせながら…。




いかがでしたか?

ここからウルトラブライブの物語が本格始動することとなります(笑)
さてさて、次回は……なにやらえりちにフォーカスが当たる予感?

それではお楽しみに!


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みんな一緒に!

前回のウルトラブライブ!

絵里「穂乃果がウルトラマンメビウスと同化したことを知った私たちμ’s、他のみんな全員が似た境遇だってことを知ったり、穂乃果が一度命を落としたってことを知って驚くことばかりだったけど、彼女の提案もあって私たちはスクールアイドルだけではないもう一つの道を見つけた!」

ティガ「僕達とμ’s、みんなで力を合わせてこの世界の危機に立ち向かう事に…なったんだけど…」




光の巨人、その存在が世間でも認知されるようになったのは街に突如として現れた巨大怪獣、ベムラーとそれに立ち向かった1人の若きウルトラ戦士が地上に姿を現した……その日から数日経った日のことである。

 

 

 

『続いてのニュースです、国家防衛局は先日起きた巨大生物、通称“怪獣”とされる存在に対する防衛策として、怪獣専門の特別機関を創設することを発表しました』

 

 

 

『先日、東京都千代田区に出現した怪獣により多数の被害が発生したものの、その直後に現れた“巨人”によって怪獣は撃破され、大きな被害は免れたものの、今後いつこのような事態になるかわからないとし、防衛局は急遽……』

 

 

 

朝のテレビから流れるニュース、いつものように朝を迎えた絵里はそれを見ながら朝食のトーストにバターを塗っていた

 

「……やっぱり国側もこのままではいられないってなったのね」

 

街に突如として現れた怪獣、そして、それを倒すために自分は……自分たちはその怪獣に立ち向かってきた戦士たちと協力することを選んだ。

それに関してはどうこうというわけではない……ただ、自分たちはいいとして、世界がこのままというわけにはいかないだろうというのも絵里は予想していた。

 

なにせ、巨大な生物が現れて街を破壊し、人々の脅威として現れたのだ。

それを得体の知れない存在に任せてばかりという方がどうかしているだろう。

 

「すごいね、お姉ちゃん! ティガさん以外にもいたんだね!」

 

「……ええ、そうね、私も心強いわ」

 

机の正面で無邪気な笑みを浮かべる妹に微笑みを浮かべる、ちなみに絵里はまだ亜里沙には他のメンバーたちも同じ状況にあるということは伝えていない。

まだ真実を伝えるには少しかかると判断したための配慮だ。

そんな中、絵里はまたニュースに目を向ける。

 

 

 

『世間ではこの巨人は我々人間に味方する存在という見方が強く、SNSやインターネットではこの巨人を“ウルトラマン”という呼称を使っているようですね』

 

 

 

「………偶然ってあるのね」

 

『違う世界なのにその名前で浸透することになるとは思わなかったよ』

 

ニュースの内容に呟いた絵里の言葉に返答したのは朝食の置かれた机の上で人形の姿でテレビの方を見る、ウルトラマンティガだった。

 

彼らウルトラマンは、違う世界では大きな影響力を持ち、その名を知らないものはいないとされる英雄的存在ではあるがここはその概念がない別世界、それでもその名前で浸透するというのは偶然か、あるいは必然か……不思議なものである。

 

「ねえねえ、ティガさん、この前のウルトラマンさんはティガさんの仲間なんだよね?」

 

『え? ……うん、一応はね、住む世界は違うけど』

 

「わぁ……あってみたいなぁ……」

 

そして、そのウルトラマンという存在を板に気に入っている妹の様子を見て絵里は口元に苦笑を浮かべた。

 

「……あははは……迂闊にあわせられないわね」

 

もし身近な人物、しかも憧れの人がウルトラマンと一心同体になっている……なんてことが知れたらどうなるのか、絵里は複雑な心境だった。

ともかく、亜里沙にはまだしばらく自分以外のメンバーたちのことは伏せた方がいいだろう。

あまりにも大きな影響力を与えるこの出来事、一気に真実を知ってしまったら何が起こるかわからない…………それに………“あのこと”もある。

 

妹に隠し事という若干の後ろめたさを感じながらも絵里はトーストを口に運びながらあることが思い浮かべた。

 

 

 

音ノ木坂学院に突然現れた………あの“謎のローブの人物”のことだ。

 

 

 

突然校舎の中に現れ、そしてウルトラマンの存在を知り、なによりも………“怪獣を呼び出した”……。

あの人物が何者なのか……あの人物が何を目的として動いているのか……謎が多い、それ故に一番警戒するべき存在だと……。

 

「……ティガ、学校に行ったらちょっといいかしら」

 

『……え?』

 

 

 

だからまずは………自分たちにできることは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………会議をはじめるわ!」

 

 

 

音ノ木坂学院、スクールアイドル研究部の部室に絵里の威勢のある声が木霊した。

ホワイトボードに書き込まれた、『第1回 ウルトラμ's会議』の文字を手で叩きながら宣言したその言葉にその場に集められた8人は一瞬だがきょとん、とあっけに取られた顔を浮かべた。

 

「ど、どうしたのよ……急に……」

 

「あれから考えたの、私達はこうしてウルトラマンと協力していくことを選んだ…でも、だからこそこちら側も動く必要があるって思ったの」

 

『……具体的にはどういうことだよ?』

 

絵里の突然の提案に戸惑い気味のにこと彼女の頭の上に乗って同じように問いかけるダイナ、すると机の上にいたティガがふよふよと浮遊し、絵里の肩に乗ると今度は彼が説明を始めた。

 

『あれから僕たちの方も考えたんだ、まず一番になんとかする問題は……僕たちを狙って現れたあのローブの人物だって』

 

ティガのその言葉にそのばにいたぜんいんがハッとしたような表情を浮かべた。

 

「……確かにあの人はおそらくですが、私達の知らない何かを知っている……というよりも、ウルトラマン達の側に対して明らかな敵対心がありました……それを突き詰めていけば自ずとこの世界の異変を知ることができるということですね」

 

「ええ、そうよ……今、海未の言ったように私達は知ってることがかなり少ないわ……だから私たちなりに活動し、私たちなりにこの問題も解いていかないことには何も変わりはしない……この世界で起きていることをまずは探り当てるの」

 

「………でも、わざわざそいつを探さなくてもよくない?」

 

「え?」

 

絵里とティガの提案に頷く海未、それに付け足すように説明した絵里の言葉にも全員がふむふむと真剣に聞いている中、ふと真姫がそう言い放った。

 

自分の髪を人差し指でくるくるといじりながら、真姫は視線を自分のカバンに向けるとその中からガイアの人形が飛び出し、机の上に着地した。

 

「当事者、ここにいるんだし、知ってることをガイアたちに説明して貰えば早くないかしら?」

 

「おお! なるほど! 真姫ちゃん賢い!」

 

「………ていうか、あなた達そのローブのやつにばかり気を取られてて当事者がすぐそばにいること忘れてたんじゃ」

 

真姫のその言葉に彼女の提案を褒めた穂乃果を含め、真姫を除く全員が………そういえば………と言いたげな顔を浮かべていた。

 

それを見て真姫は大きく一つため息をつくと……

 

「……ガイア、あなた達の知ってることとりあえず教えてくれない?」

 

『あぁ………それに関してはいいんだけど………』

 

真姫のその言葉にガイアはそう言いながら彼女の鞄から顔を出すとふわりと浮き上がって机の上に降り立った。

しかし、なぜかガイアの放つ雰囲気はどことなく不安げなように感じた。

 

「どうかしたの? 何か言いにくそうだけど」

 

『……この際だ、ガイア……奴らが何者なのか改めて確認しよう』

 

『……ああ』

 

絵里がガイアに問いかけた後、ティガは諭すようにそう言ってガイアは渋々と言った様子で承諾した。

そして、彼は全員が囲むようにして座っている椅子の中央へと移動すると人形の体をぐるりと一回回転させて全員へと目を向けた。

 

『………奴らは言わば僕たちを習っている刺客………光の巨人を排除しようと動いている、僕達はその存在を仮に“エージェント”と呼んでいる』

 

「エージェント………なんか映画とかで聞いたことあるよね、アクション映画!」

 

「エージェントということは人知れずに役目を全うする、そういう存在……ということですか?」

 

『単純に言うとその通り……だけどそのエージェントの役目は……』

 

ガイアがそこまで言いかけたところで全員は何かを察したのか息を飲み、ふと穂乃果の方を見た。

当の本人は首を傾げて、頭に疑問符を浮かばせているようだが……彼女の方に目が行くのも無理はないだろう。

何せ彼女は明確に、そして確実に命を狙われたのだ………自覚がなかったもののウルトラマンと一心同体となっていたが故に………。

 

そこから予想される答えはひとつ。

 

 

 

「………光の巨人と、その力を引き出す人間の排除………ていうわけやね?」

 

『………うん』

 

 

 

希がそういうとガイアは肯定するように身体を揺らして頷いてみせた。

 

現に襲われたのは穂乃果だけではない、海未、真姫、凛もその人物の姿を見ている。

彼女たちも明らかにウルトラマンに対しての敵意のようなものを感じ取っていた。 ローブの人物の行動自体も明らかにウルトラマン達を排除しようとするものと見て、相違ないものだった。

 

「でも、そもそもなんでウルトラマンたちをそんなに狙うのかにゃ……そんなに仲が悪いの?」

 

「いや、仲が悪いとかそんなレベルじゃないでしょ、あれ……」

 

『………あいつらにとって俺たちは邪魔なんだよ』

 

そう言ったのはにこの鞄の中から顔を出したダイナだった。

ダイナはそのまま鞄から出てくるとにこの座る席の前に移動した。

 

『あいつらは俺たちを消そうとしてる……その後にこの世界を掌握しようとしてるんだ』

 

「世界を掌握!? そ、それって…せ、世界征服とかですか!?」

 

『それで済めばいいけどな……あいつが狙ってるのはこの世界……つまりは地球だけじゃない……この“宇宙”、そのものだ』

 

世界ではなく宇宙そのものが狙い、そのあまりにもスケールの大きすぎる一言に、その場にいた全員はなにも言わずにしんと静まりかえった。

無理もないだろう、地球だけじゃない、その外にすらも視野を入れてるというほどに大きな目的を持った存在なんて、現実世界に早々いやしない、故に彼女たちも理解が追いついていなかった。

だが、同時に………絵里はありえない話ではないと思った。

 

(………ウルトラマンの力………今まで現れてきた怪獣達………そして、あのローブの人が使った力………私たちにとってはありえない、それこそ現実とは思えないこと………それがすべて現実………)

 

それだけでも不安要素としては十分すぎるものだった。

だからこそ、やはり自分達はここで手を拱いているわけには行かない…。

 

 

 

「………止めないと………なんとしてでも」

 

 

 

絵里は全員へと目を向けながら改めて決意を固めた。

自分たちの大切な場所、大切な思い出、大切な時間を過ごしたこの学校を……この世界を好きにさせはしない。

守る力を持っているのなら、その役目を果たさなければ……それが……。

 

(………それが新しい、私のもうひとつの使命………ね)

 

決意を固めた真っ直ぐな瞳をする絵里、その姿はμ'sとしての絢瀬 絵里ではない……“音ノ木坂の生徒会長”としての役目を担っていた時の絵里と、どこか同じに見えた。

 

そして、そんな絵里を………穂乃果はじっと見つめていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、絵里は練習をした後に夕焼け空になり始めた街を歩きながら周囲に目を向けていた。

相手はどこに潜んでいるかもわからない、見落とすことがないように……念入りにとばかりに目を向けていく。

 

「………やっぱり人目が多い所には出てこないのかしら………穂乃果の時は人通りの少ない所で襲われたって言ってたし………」

 

相手はいつどこで目を光らせているかはわからない、それ故に学校の帰りも油断はできない。

ふとした隙を突かれて襲われることも十分あり得るからだ……例えばそう……。

 

(あのゴミ箱………怪しいわ)

 

ちょうど人が入れそうなポリバケツ型のゴミ箱、その中に隠れていて突然出てきたと同時に襲ってくる……なんてこともあり得るし……。

 

(マンホールの下………なんてこともあり得るわね)

 

地上ではどうしても見つかってしまう可能性がある、その時のことを考慮して地下に隠れているなんてことも考えられる。

今目の前にあるマンホールの蓋が突然開いて………ありえなくもない。

 

(まさか………すでにこの人だかりの中に……!)

 

木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中……街の人間に紛れて、突然背後から襲ってくるなんてことも……。

 

なんということだろうか、身を隠す所なんてどこを探してもあるではないか、これでは油断も隙もない……常に警戒しないと、次の瞬間にもなにかが……!

 

 

 

「えーりちゃん♪」

 

「ちかぁぁぁぁああああああああ!?」

 

 

 

突然背後から肩を叩かれ、絵里は思わず妙な叫び声をあげてしまった。

びくり! と体を跳ねさせ、慌てて後ろを振り返った絵里はかなり驚いた表情を浮かべながら自分に声をかけた人物が何者なのかを確認する。

 

だが、その人物の姿を見たとき、絵里は目を点にした。

 

「………ほ、穂乃果………?」

 

「び、びっくりしたぁ………もう! 絵里ちゃんいきなり大きな声出さないでよ! 穂乃果までびっくりしちゃったよ!」

 

「ご……ごめんなさい……じゃなくて! 驚かさないで欲しいのはこっちもよ! 私もすごく驚いたのよ!?」

 

「あ、ごめん………なんかつい、あはは……」

 

絵里に声をかけてきたのは穂乃果だった。 いつものような笑顔を浮かべながら申し訳なさそうにしている。

しかし、彼女はどうしてここにいるのだろうか……先に帰った自分の後を追いかけてきたのだろうか……。

 

確かこの道は彼女の帰り道とは違う方向だったはず……それなのになぜわざわざ……。

 

 

 

………まさか………。

 

 

 

「………あなた、本当に穂乃果?」

 

「………はえ?」

 

 

 

絵里のまさかの言葉に穂乃果はきょとんとした表情を浮かべずにはいられなかった。

一気に警戒を強めた絵里は彼女と少し距離を開けながら疑いの眼差しを彼女へと向けてきた。

 

「わざわざ違う道を一人で追いかけてくるなんて………まさか、私が一人になったのを狙ってきたニセモノ………?」

 

「えぇぇぇぇ!? なんでそうなるの!? 違うよ! 本物だよ! 正真正銘! 穂乃果は穂乃果だよー!」

 

「………怪しい………」

 

じとー、とした目を穂乃果に向け続ける絵里。 あわあわとしながら否定をする穂乃果だが彼女の疑いの目はなかなか晴れない…。

 

「だ、だったら穂乃果が本物ってこと証明してあげるよ! 絵里ちゃんと私にしか知らないことを教えてあげる!」

 

「………例えば?」

 

「えっと………絵里ちゃんと初めてハンバーガーを食べに行ったとき絵里ちゃん、ハンバーガーを受け取った後に『ナイフとフォークはないの?』って店員さんに聞いてた!」

 

「なっ!? そ、そのことをこんな所でしかもそんな大声で言わないで!!」

 

生徒会長としての責務が忙しかった時代、まともに女子高生としての楽しみ方をしてなかった彼女ゆえに、世間知らずなことを言ってしまったその時のことを絵里は恥ずかしい思い出としてしっかりと覚えていた…。

 

「あと、学校のアルパカ小屋に行くのをなんとなく避けてたり、前に秋葉でライブした後衣装のメイド服がなかなか脱げなくて涙目になってたり……最近絵里ちゃん練習のたびになんだか胸を気にしてて、希ちゃんが調べたらまた大きくなったって……」

 

「わかった! わかったからそれ以上はやめて!! 本当にやめて!!」

 

後から出てくる何気に気にしている恥ずかしいエピソード、それをよく街中でつらつらと出せるものだ……これはある意味、穂乃果の恐ろしさの一つだ……純真無垢故にできることなのだろうか、わざとでないことを願いたい……。

 

だが、こんなエピソードを話せるということは当事者でないとわからないこと、最後のは別としてハンバーガーやアルパカはその時に穂乃果がいたからこそ理解しえるものだからだ。

ニセモノではないというのは確かなようだ。

 

「はあ………それよりも穂乃果、なんでこんなところに? あなたの帰り道はこっちじゃないでしょ?」

 

「あー、うん、そうなんだけどね……絵里ちゃんのことがなんか気になっちゃって……」

 

「……私が?」

 

唐突にそう言ってきた彼女に絵里は小首を傾げる。

すると、穂乃果は頷きながらじっと絵里のことを見つめた。

 

「……絵里ちゃん、無理、してない?」

 

「………え?」

 

予想だにしていなかった彼女のその言葉に絵里は呆気にとられた。

無理をしているつもりはなかった、それ故になにをどうして無理をしているように見えてしまったのかがわからなかった。

 

「………む、無理なんてしてないわよ? 私は単に帰ろうとしてただけで」

 

「けど、周りをずっとキョロキョロ見てたよね? それに私が声をかけて驚いたし、ニセモノかもって疑ってたし…」

 

「あ………」

 

あまり外に出すつもりはなかったのだが、彼女は無意識のうちに警戒を強めているのを表に出してしまっていたようだ。

穂乃果はそれを彼女についていきながらしっかりと見ていたのだ……だからそう感じたのかもしれない……。

 

絵里はそう分析すると彼女を安心させようと微笑みを浮かべて見せた。

 

「……ごめんなさいね、けど大丈夫よ、いざって時は私が」

 

「そうじゃなくて、絵里ちゃん………もっと、穂乃果たちのことも頼ってほしいな………それにそんなに気負わなくてもいいと思うし」

 

「………た、頼ってって……私はあなたたちのことを信用して……」

 

「けど、絵里ちゃん………なんか凄く一人で無理してるよ………」

 

絵里を見つめながら次第にだが心配そうな表情を浮かべる穂乃果に絵里は戸惑いを隠せなかった。

みんなを、メンバーを信じていないわけではない、同じ境遇となりウルトラマンと力を合わせることを誓い合った同じ志を持つ者として信じていないわけはない……だが、それなのに……何故穂乃果にはそう見えたのだろうか……絵里の頭の中はその疑問でいっぱいになっていた。

 

だが、絵里は次の瞬間、穂乃果に言われた言葉にハッとした…。

 

 

 

「………μ'sに入る前の時みたい………」

 

「っ!」

 

 

 

………μ'sに入る前………音ノ木坂学院の生徒会長として、祖母の通ったこの学校を守るためにと奮闘していたあの時………その時の自分と同じ………そう言われるとは思ってもなかった。

 

いや、今思えば……確かにそうだったかもしれない……。

 

自分達が………自分が他の人たちにはない特別な力を持ち、その力を持つ意味がこの世界に迫っている危機から世界を守ること………それは他の誰にもできない自分の役目……。

 

(………本当………似てる………あの時と………)

 

音ノ木坂の生徒会長という特別な席に座っていたが故に、この学校の危機をなんとかできるのは生徒会長としての自分の役目………そう思いながら自らも動いていたあの時と………。

 

そう感じた時、絵里は自覚した。

 

自分が無意識のうちに守ろうとして一人で抱え込もうとしていたことを…。

 

「………そっか………私、また、やっちゃったのね」

 

「………絵里ちゃん」

 

「………ダメね、私って……大切な仲間とか言ってたくせに………一人でなんとかしようとして………悪い癖ね」

 

3年生だから、生徒会長だから、自分にしかない技術があるから、やらなければいけないことだから、守りたいものがあるから………。

 

たくさん理由がある中でそれらすべてを自分でなんとかしようとして………自分の役割と、心の中でそう決めて………。

 

本当に悪い癖だ。

前の時と変わってない………生徒会長としての役割も残りわずかだというのにこんなのでは………次の世代にバトンを渡すのもまともにできるかわからなくなってくる。

μ'sのメンバーたちにこれからのことをと会議まで開いて……何をしているのだろう………何をそんなに、焦っているのだろう。

 

「………絵里ちゃん………」

 

穂乃果が目の前まで来て顔を覗き込んでくる、純粋な輝きを秘めた瞳がじっと自分のことを見つめてる。

その瞳を真正面から見た時、絵里の胸の奥が、どきり、と跳ねた気がした。

 

まるで、誰にも見られたことのない………自分の弱いところを見られてしまうような、そんな気がしたから……。

 

自分は本当は誰かの前に立ってどうこうできるような、そんな強い器じゃない……本当は怖いだけなんだ……。

自分の大切な物が……宝物が……ふとした拍子に壊れてしまうことがないように……だからよく見える位置に立とうとしていた、壊れそうになる要因から守れるように……よく見える位置に立って……一人で……全部を……。

そんな器用なこと………できるはずがないのに………。

 

無理をしてばかり………。

 

 

 

「………絵里ちゃん、あのね………わっ!」

 

「きゃっ! な、なに!?」

 

 

突然、地面が大きく揺れ始めた。

穂乃果がその揺れに足を取られて倒れそうになるのを、絵里は咄嗟に彼女を受け止めて転倒するのを止める。

 

「穂乃果、大丈夫!?」

 

「大丈夫だよ、だけど…この揺れって…」

 

「普通の地震って感じじゃないわね……」

 

あたりに響き渡るのは地震のようなグラグラと続く横揺れではない。

まるでそこから響いてくるかのようなドドドド、という断続的な揺れだ。 しかも、それは徐々に大きくなってきている……まるで何かが近づいてくるかのように……。

 

すると、次の瞬間、街のコンクリートで固められた地面が割れた。

いや、正確には……突き破られたと言ったところだろうか。 何かが地面を貫いてくるようにして飛び出して来たのだ、しかもかなりの大きさをしている……その姿を目の当たりにした時、絵里は反射的に理解した。

 

……また、来たと……。

 

 

 

ーーーグァァァァァァァァァァア!

 

 

 

咆哮を上げて地上に飛び出して来た巨体を持つ生物、そう、怪獣だ。

鋭角な形をした頭部に牙の生えた顎を持つ、土色の体をした体をまるでドリルのように体を回転させながら地面から飛び出してきた怪獣は地上の街を見下ろした。

 

その瞬間、街のあちこちから驚嘆と悲鳴の声が上がり、たちまち人々はパニックに陥った。

再び現れた怪獣の脅威に恐怖する人々、怪獣はそれを見てまるでさらに人々を威圧するかのように叫び声をあげる。

 

「また怪獣が………てことは………まさか!」

 

そんな中、絵里はふと周囲へと目を向けた。

街中を慌てて駆け抜けていく人々の合間、街中の物陰、建物の屋上、くまなく目を凝らしていくと……。

 

「っ! いた!!」

 

電柱の上、明らかに人間が立つにしては不自然な場所に立っているローブをかぶった何者かの姿、間違いない以前に音ノ木坂学院を襲撃してきたあのローブの人物だ。

 

ということはやはりあの怪獣はあのローブがまた呼び出したということなのか……。

 

「これ以上こんなことをさせるわけには…!」

 

絵里はローブの人物の元へと向かおうとする……だが、その手を穂乃果は咄嗟に掴んだ。

 

「ま、待って絵里ちゃん! このままだと怪獣が!」

 

「でも………!」

 

怪獣は街を破壊しようと暴れ出している、このままだと被害は広がっていく一方だ。 しかし、ローブの人物をここで見過ごしてしまったら相手の尻尾を掴むせっかくのチャンスを無駄にしてしまうかもしれない。

 

どうすれば……!

 

焦りを見せる絵里、だがそんな彼女を穂乃果は腕をぎゅっと掴むと絵里と向き合うように彼女を自分の方へと向けた。

 

 

 

「大丈夫! 穂乃果たちも、みんなもついてるから!」

 

 

 

迷いのない、彼女を奮い立たせるようにしっかりと彼女の肩を掴んでそう告げた。

絵里はそれを聞き、逸る気持ちを抑待っていくのを感じながら彼女を見つめ返した。

 

「………みんな?」

 

「うん、みんなだよ………絵里ちゃんには、μ'sのみんなと………私がいるよ!」

 

「………!」

 

その言葉に絵里は再び気づかされた。

そうだ、一人で無理なことでもみんななら頑張れる……みんながいるから前へと進めた……そうだった……そう知ったはずだったのに………また自分は………。

 

「ほら……来てくれたよ!」

 

「え? ………あ!」

 

穂乃果がそう言ってローブの人物のいた方に目を向けた、絵里がそれにつられて再度その方向に目を向けると…。

 

「見つけたわよ! あんたが怪獣を呼び出してる奴ね! にこがいる限りこれ以上好きにさせないにこ!」

 

「そんなこと言う前に早くあいつを捕まえないと………逃げられるわよ」

 

「わかってるわよ! あいつが怪獣を呼び出してるなら、こっちには借りがあるんだから!」

 

パニックになった人々が安全な場所に向かっていったためか人通りが少なくなったそこに、にこと真姫の二人が駆けつけたのだ。

駆けつけた二人に見つかったローブの人物は二人の方を見下ろすとバツが悪そうに微かに見える口元を歪めた。

 

「なんで、あの二人が……」

 

「あの後みんなで話したんだ、もしもの時のために練習終わりはパトロールしながら帰ろうって……何かがあったらすぐに駆けつけられるように場所も割り振って」

 

「……いつのまに……」

 

自分の知らないうちに彼女はメンバーにそんな提案をしていたのか…しかもみんなも練習の後は疲れているはず…それなのに…。

 

「絵里ちゃん、1人で頑張らなくても……みんなで頑張ればなんとかなるよ、きっと! だから、1人で抱え込まないで!」

 

いつになく真剣な目を向けながら言い放つ穂乃果、その言葉を聞き絵里は自分の中にあった焦りが徐々になくなっていくのを感じた。

 

………やはり、穂乃果は侮れない………他人のことをしっかりと見ていて、そのために一生懸命に手を伸ばせる……。

 

(………本当にすごい子………)

 

自分にはできなかったことを、彼女は平然と出来る……だからここまでμ'sを……みんなを一つに出来た。

彼女と一緒なら………きっと………この危機も………世界も………。

 

「………ええ、そうね………みんなで、ね?」

 

「………うん!」

 

スクールアイドルも、ウルトラマンたちのことも……。

 

自分の弱い所も……彼女と一緒なら、乗り越えられる……。

 

「あ! こら! 逃げるなぁぁぁ!」

 

「にこちゃんが変なこと言ってるから! もう、早く追いかけるわよ!」

 

電柱の上にいたローブの人物が跳躍し、どこかへと逃亡したのを見てにこと真姫の2人もその後を追いかけていった。

 

「……あっちはとりあえずにこちゃんと真姫ちゃんに任せよう、私たちは……」

 

「そうね………一緒にいきましょう、穂乃果!」

 

穂乃果の提案に頷いた絵里はその言葉に嬉しそうに微笑んだ。

その後、2人は横に並ぶと穂乃果はメビウスの人形を取り出し、絵里はティガの人形を取り出した。

 

『………絵里ちゃん』

 

「ティガ? どうかしたの?」

 

ふと、ティガの言葉に耳を傾ける絵里、するとティガは二つの光る双眼で彼女のことを見つめながら……告げる。

 

 

 

『君が不安に思う必要はない……その不安という闇を君なら打ち払える………仲間と一緒にいる、君なら』

 

 

 

………その言葉に、絵里は強く頷いた。

 

そうだ、自分の力の原動力は使命でも、役割でもない。

 

守りたい物のために、みんなと力を合わせること……それが、自分の力の原動力となる。

 

 

 

「行くわよ………ティガ!」

 

「メビウスさん! 一緒に、ファイトだよ!!」

 

 

 

心の中から湧き上がってくるものを感じながら2人はそれぞれの人形が形を変えたアイテムを掲げ、光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方の街に突如として現れた怪獣、ギラリと光る目で辺りを見回しながら建物に狙いを定めると顎を開き、そこから強力な火力の火炎放射を放つ。

溶岩もかくやというほどの熱量の火炎が街のビルを包み込む。

 

だが、そこに二筋の光が現れた。

 

天へと昇るようにして現れた光の柱、それが晴れるとその中からウルトラマンメビウスとウルトラマンティガの2人が現れた!

 

「奴は“地底怪獣 テレスドン”、気をつけてください、地面に潜られたら厄介な相手です」

 

「あぁ、行くぞ、メビウス!」

 

「はい!」

 

メビウスとティガは街で暴れる怪獣、テレスドンと対峙し身構えた。

テレスドンも現れた光の巨人2人を前にして臨戦態勢に入った。

 

ーーーグォォオオオ!!

 

叫び、テレスドンが動き出した。

ずしん、ずしん、という足音と地響きを響かせながら2人のウルトラマンに突進してくる。

だが、メビウスとティガは怯むことなく構えを維持したまま迎え撃つ。

 

突進してきたテレスドンを2人は真正面から押さえ込むように立ちはだかった。

足で地面を踏みしめ、押し込まれまいとする。 そして、テレスドンの突進はそれによって勢いが徐々に収まり始め失速したタイミングを狙い、反撃に転じる。

 

「テァ! ハッ!!」

 

「シャア! セアァァァ!」

 

ティガとメビウスはタイミングを合わせてテレスドンを押し返し、同時に横蹴りを放って後退させた。

2人の蹴りを受けてよろめくテレスドン、2人はすかさず追い討ちをしかける。

 

ティガが跳躍し、テレスドンを頭から抑え込むとその顎に重い膝蹴りを繰り出す。 さらに怯んだところに連続でパンチをたたき込んでいく。

数発のパンチを連続で浴びせた後、ティガはメビウスと交代するように入れ替わり、前に立ったメビウスは体をひねりながらテレスドンの横腹に水平チョップを打ち込んだ。 そのまま攻撃の手を緩めることなくメビウスは連続回し蹴りを放ってテレスドンを攻め続ける。

 

2人のウルトラマンの息のあったコンビネーションを受けたテレスドン、連続攻撃を受けてこのままではまずいと感じたのかテレスドンは追い討ちを仕掛けてこようとしたメビウスに向けて灼熱の溶岩熱閃を吐いた。

 

「ウァァァァァ! グッ…アァ!」

 

かなりの熱を持つ炎がメビウスを襲い、メビウスは攻撃の手を緩めてしまった。

その隙をついてテレスドンは反撃を始めた。

体を回転させて長い尻尾をメビウスに横薙ぎに叩きつけた。

 

重い一撃を受けたメビウスはたまらず横倒しに倒れ込む、それを見たティガはすぐさま彼の救援に入ろうとするが………。

 

ーーーグォォオオオオオオオオオオオオオ!!

 

テレスドンはそれを許さずさらなる攻撃を仕掛けてきた。

咆哮と共にテレスドンは地面を蹴ると、なんとまるでドリルのように自身の体を回転させながら突進してきたのだ。

 

先程の物とは比べ物にならない勢い、ティガは咄嗟に防御しようとするがその攻撃はその防御をも弾いた。

 

「ジュアッ!?」

 

ティガの体を浮き上がらせるほどの一撃、その場に倒れ伏したティガをよそにテレスドンはそのまま回転しながら再度地面へと穿孔しながら潜っていった。

 

『地面に潜っちゃった!』

 

「しまった……地底怪獣のテレスドンはあの方法で地面を自在に動くことができる、どこから出てくるか……!」

 

警戒して辺りを見回すメビウス、だがそれを嘲笑うかのようにテレスドンはメビウスの背後の地面から飛び出し、メビウスに奇襲攻撃を仕掛けた。

不意打ちにも近いその攻撃をメビウスは背中に受けてしまった。

 

地上からは見えない地面の中に再度潜っては飛び出し、攻撃してくる。

厄介なこの攻撃を前に2人のウルトラマンは苦戦し始めた。

 

ーーー………ピコン、ピコン、ピコン、ピコン

 

2人の胸の水晶、カラータイマーも活動限界を知らせる点滅を始める。

 

「このままじゃ………」

 

『……ティガ、あれ、無理やりにでも止めることって出来そう?』

 

「絵里ちゃん? ………わかった、やってみよう」

 

なんとか状況を打開するべく、絵里はティガにそう問いかけると何かを察したのかティガは立ち上がり、両腕を額の前で交差させた。

 

「ウゥゥゥゥゥン………! ハッ!!」

 

その両腕を勢いよく下に降ろす、すると紫と赤に銀のラインが入っていたティガの体が次の瞬間、赤と銀の体に変化した。

これはメルバとの戦いの時に使ったタイプチェンジ能力、スピードを活かした戦法が得意だったスカイタイプとは違う戦い方を得意とするティガのもう一つの姿だ。

 

タイプチェンジで姿を変えたティガは意識を集中させる、そして………。

 

 

『……あっ! 絵里ちゃん! ティガさん! 右!!』

 

 

咄嗟に穂乃果が言った方向にすぐさま対応したティガ、すると彼女の言う通りテレスドンはティガ右側の地面から飛び出して来た!

すかさずティガは回転しながら突っ込んでくるテレスドンと向き合うと………。

 

「テァァ!!」

 

回転を恐れることなく真正面からがっしりとその手で掴んだ。

そのまま脇に抱えるようにしてテレスドンを抑え込むとその回転に負けないように腕に力を込める。 するとテレスドンの回転があっという間に止まってしまった。

 

ギリギリと締め付けるような腕の圧倒的な力で体を抑えこまれ、テレスドンは動きを止められてしまったのだ。

 

そう、この圧倒的なパワーこそが赤いティガの得意とする戦い方。 これこそがティガ、“パワータイプ”の真骨頂なのだ!

 

「フン! ハァァァァァァア!」

 

そのままティガはテレスドンを抱えたまま、力強く体を回転させてジャイアントスイングさながらにその巨体を振り回す。

そして、その勢いそのままにテレスドンを投げ飛ばし、地面に叩きつけた。

 

力強い投げにテレスドンは多少のふらつきを見せるがまだ闘志は消えてないようだ。

再び身構えるとティガに向かってくる。

 

『ティガ、一気に畳み掛けるわよ!』

 

「あぁ! テャァア!」

 

それに対してティガは燃える闘志をそのまま拳に乗せるかの如く、真正面からテレスドンにぶつかっていく。

先程とは比べ物にならない重い拳がテレスドンの顔を捉え、その衝撃にたまらずテレスドンがよろけた。

さらにそこに回し蹴り、肘打ちなどを織り交ぜた力強い連撃が次々と放たれていき、テレスドンを押し返していく。

 

「デュァァァアアアアアア!」

 

トドメとばかりに放たれたアッパーカットがテレスドンを空中に舞い上げた。

 

地底怪獣のテレスドンは空に打ち上げられてはなす術がない、チャンスは今!

 

「フン! ハァァァァァァア…!」

 

ティガはそのまま両腕を斜め下に広げ、両手にエネルギーを集中させるとそれを胸の前で手の平サイズの球状にする。そして、それを大きく振りかぶり……。

 

 

 

「『デラシウム光流!!』」

 

 

 

力強く、それを空中のテレスドンに向けて放った。

球状にしていたエネルギーはそのまま燃え盛る隕石のような尾を引きながらテレスドンに向かっていき、直撃する。

 

そして、それを受けたテレスドンは堪らず断末魔を交えながら空中で爆散した!

 

テレスドンが爆散したのを見たティガはパワータイプの必殺光線、“デラシウム光流”を放った体制を解くとメビウスの方へと向きなおる。

メビウスもそれを見て膝をついた体制から立ち上がった。

 

『………す、すごい、絵里ちゃん………』

 

『………ふふふ、時には大胆にね? でも、あの時あなたが奴がどこから出てくるか教えてくれなかったらわからなかったわ……ありがとう、穂乃果』

 

『うぅん! 私別にそんなこと……偶然地面が盛り上がってるのを見ただけだし……』

 

なんとか勝利を収めた2人はその気持ちを分かち合うように談笑する。

メビウスとティガも互いを見て頷いた後、勝利を分かち合うように拳を向けあった。

 

この勝利は1人のものではない、助け合ったからこそ……勝ち取ったものなのだと、言うように……。

 

「………シュワ!」

 

「………ジュア!」

 

2人のウルトラマンが夜になり始めた空に向かって、並んで飛翔する。

赤みがかった空は夜の暗闇へと変わり始めた頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ〜………昨日は結局あいつに逃げられた〜………あんたがこっちに行けば先廻りになるとか言うから!」

 

「なっ! それを言うならにこちゃんだって足が遅いのよ! だから私はその方がいいと思って!」

 

「まあまあ2人とも……わかったからそのくらいに」

 

翌日、にこと真姫が追いかけていったローブは結局どこかに行ってしまい、また行方が分からなくなってしまった。

テレスドンによる被害もティガとメビウスによって抑えられ、大惨事とまではいかなかったのは不幸中の幸いだが……まだまだ油断は許されないようだ。

 

朝から互いに睨み合うにこと真姫の2人を宥めながら絵里はそう感じていた。

だが、心の中ではもう、焦りや不安はなかった。

 

「次はまた頑張ればいいじゃない、なんなら私も手伝うから、ね?」

 

「………まあ、絵里がいるなら少しは安心できるかもね」

 

「にこちゃんよりはマシかしらね…」

 

「ぬぁんですってぇ!?」

 

「まあまあにこ、真姫も! 喧嘩しない!」

 

なんだかんだ言っても、ここにいるみんな……仲間と一緒ならなんとかなる。

 

 

例え、それがどんな大きな困難でも……きっとみんなでなら……μ'sなら……。

 

 

 

 

 

「………絵里ちゃん、なんだか昨日よりいい顔してるね」

 

「うん、なんだか楽そうっていうか……いつもの感じに戻ったっていうか……」

 

「とにかく、これで一安心ですね」

 

その様子を後ろの方で見ながら話すのは穂乃果を中心に左右を挟むようにして並んで歩くことりと海未の3人だった。

昨日までの気を張り詰めさせた絵里よりも今の絵里の方が彼女らしい……そう思った穂乃果はどことなく嬉しそうにその様子を見つめた。

 

「………よーし! 今日もみんなで頑張るよー!」

 

「あ、そうそう、頑張るといえば穂乃果ちゃん……後でお母さんが来て欲しいんだって」

 

「え? なんで? ……はっ!? まさか追試とか!?」

 

「あなたまさかこの前のテストの成績が悪かったのですか!? 勉学もおろそかにしてはいけないとあれほど!」

 

「違う違う違う! そうじゃなくて、スクールアイドルとしての話なんだって」

 

ことりの言葉に冷や汗をかく穂乃果、それを見て海未がまさかと穂乃果を問い詰めようとするが慌ててそれをことりが間に割って入って止めた。

スクールアイドルとして、ことりの母、この学園の理事長が話があるとは……一体なんなのか……。

 

 

 

「その………会いたいっていう人がいるんだって………私たちに………」

 

 

 

この時、穂乃果たちの背後の方……学校の校門のすぐ近くでは、黒い外車が止まっていた。

 

バタン、という音とともに運転席が開き、そこからすらりとした足が出てくるとハイヒールを鳴らしながら車から運転者と思われる人物が下りてきた。

 

スーツに身を包んだ黒髪の凜とした雰囲気を纏った女性、彼女は校門から見える学院の様子を見つめながら、目にかけていたサングラスを外した。

 

 

 

「………久しぶりだな、音ノ木坂学院………そして………」

 

 

 

女性はそのままその視線を校門を通り、校舎に入ろうとする穂乃果たちの姿を捉えた。

すると、女性は口元に微笑を浮かべ……。

 

 

 

「………お手並み拝見と行こう………スクールアイドル、μ's………」




次回のウルトラブライブ…

にこ&真姫「「VDF!」」


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VDF!

前回の!ウルトラブライブ!

真姫「ウルトラμ'sとして新しいスタートを切った私たち、だけどなんだか絵里が責任を感じてか焦り気味に…そんな絵里を穂乃果が心配していると、また新しい怪獣が! 怪獣は穂乃果と絵里が力を合わせてなんとかしてくれたけど、あのローブのやつ…本当になんなの? けど、絵里は穂乃果のおかげで何だか吹っ切れたみたいだから結果オーライかしら? ……そんな中、学校に見覚えのない人の影が……」


それはいつものように音ノ木坂学園の教室で穂乃果達が1日を学業に専念させている時だった。

普段なら授業が終わり、少しの休憩を挟んで次の授業に移るということを繰り返し、放課後は屋上でスクールアイドルとしての活動を始める、そんな流れだった。

しかし、今日……この日だけは違った。

いつものように過ごす中、お昼を迎えたことによる昼休みのことだった。

 

 

「今日のお昼は〜……限定品のパン! あぁ、ここにくる途中のコンビニを除いてよかったよ〜、最後の一個だったんだ〜」

 

「相変わらずですね、穂乃果のパン好きも……今に始まった事ではありませんがちゃんと栄養のバランスを考えて食事をしないと後が大変ですよ?」

 

「もう、海未ちゃんは気にしすぎなんだから、この後練習で動くし大丈夫! それに今日は絵里ちゃんの柔軟運動と筋トレなんだし、ちゃんと食べとかないと……そのための限定唐揚げからしマヨミックスなんだから!」

 

「絶対太りますよその組み合わせは!!」

 

意気揚々とカバンの中にしまっていたパンの袋を取り出して目を輝かせる穂乃果、和菓子屋の娘故のパン好きなのだがスクールアイドルとしてカロリーというのも気をつけて欲しいのが海未の願いでもあった。

しかし、そんなことはつゆ知らず。

穂乃果はいつもの薄い食パンで具材を包み込んだメジャーなこのシリーズのパン、その限定品の封を切ろうと手をかける。

 

「………あれ? ところで海未ちゃん、ことりちゃんは?」

 

いつもなら穂乃果は海未とことりの3人で食事をするのが定番になっていた。

しかし、今日はどういうことかいつもならいるはずのことりがそばにいないことに今気づいたのだ。

 

「あ、そう言えば……先ほど理事長に呼ばれてから帰ってきてませんね」

 

「まさかことりちゃんの身になにか!?」

 

「大袈裟です、恐らくは理事長直々からことりへの話ではないでしょうか……μ's関係のものだと思いますけど」

 

音ノ木坂学園理事長、ことりの実の母である彼女から学園でことりに直接話したいことというのも珍しい気もするが……。

海未はそんなことを思いながら、なにやら変な反応を見せる穂乃果を一瞥する。

 

μ'sの活躍、ラブライブに出場することを決意し活動してから得た実績によってこの学園は最初の危機から脱することはできた。

ラブライブ本戦への出場こそ叶わなかったものの、本来の目的を果たした今、μ'sのこれからはどうなるのか、それを穂乃果は考えているのか……そんなことをふと考えていると……。

 

 

 

ーーーピンポンパンポーン♪

 

 

 

ーーー二年、高坂 穂乃果さん、園田 海未さん、至急理事長室に来てください。

 

 

 

「………あれ?」

 

「今度は、私たちですか……」

 

校内放送がかかり、ことりに続いて自分たちも呼ばれた。

これは恐らく十中八九、先ほどことりが呼ばれたのはμ's関係なのは間違いなさそうだ。

だから自分たちも呼ばれたのだろう、そう感じた海未はだとしたらあまり待たせるわけにはいかないと判断し、パンを片手にキョトンとしている穂乃果へと目を向ける。

 

「とりあえずことりがなぜ呼ばれたのかも気になりますし、理事長に会いに行きましょう」

 

「………パン食べてからじゃダメかな?」

 

「………40秒で支度しなさい」

 

「海未ちゃん!? さすがに無理だよ!? それにそのセリフ聞いたことあるよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早々に支度を済ませ、穂乃果と海未は理事長室の前にきていた。

この学園にある多くの扉の中でも特に存在感を放つ特別な扉、そうここがこの音ノ木坂学園の理事長が仕事に励む部屋、理事長室だ。

理事長にしてことりの母親という、なんとも学生にとっては遠いようで知人としては近しいような不思議な人物、彼女には幾度となくお世話になったことを穂乃果はしみじみと感じている……。

実際、理事長の後ろ盾と提案がなければここまで来れなかったかもしれない……そう考えるとある意味では理事長もμ'sにとっては重要な存在に他ならない。

 

「よぉし………高坂です!」

 

一呼吸を置いて理事長室のドアをノックし、ハキハキとした声を出しながらそう告げる。

 

『どうぞ』

 

程なくしていつもの落ち着いた声と共に返答が帰ってきたのを聞き、穂乃果は理事長室のドアノブに手をかけて扉を開けると中に足を踏み入れる。

 

「失礼しまー…………」

 

「………どうしたのですか、穂乃果? 早く中に………」

 

ここまでは良かった………ここまではごく普通の動作であり、いつもなら荘厳な風格ある理事長室の風景とその奥にある机に座る理事長の姿があるはずだった。

だからこそ視界に飛び込んできた光景に驚き、二人は硬直してしまった。

 

…………そこにいたのは…………。

 

 

 

「…………予定より40秒の遅刻だな、何をしている、自体は一刻を争うぞ」

 

 

 

きっちりとした女性用のスーツに身を包んだ、長い黒髪にキリッとした目が特徴的な見たことも知り合った記憶もない、そう、まさに「誰この人?」という反応をせざるを得ない初対面の人物が腕時計を片手に、理事長室の椅子に座って言い知れぬ風格を放ちながらこちらを出迎えたのだ。

鋭さを感じさせるつり目ぎみの目尻の女性は部屋に入ってきた穂乃果と海未をじっと見つめながら椅子から立ち上がる。

 

「学生とはいえ甘えるな、この先場合によっては一分一秒が先のことを左右することになるかもしれない……もっと早い行動を心がけるように」

 

「は、はい!? すみませんでした!」

 

「………って、そうではないでしょう! それよりも………あなたはいったい、なぜ理事長の机に?」

 

女性から放たれる言い知れぬ威圧感に押されるあまり、反射的に敬礼をしながら返答した穂乃果だが、すぐさま海未が重要なのは今はそこではないことに気づく。

 

そう、二人はこの女性のことを知らないのだ。

学校関係者というようには見えないし、なにより初めて会ったのだ、そんな人物がこの学園の1番の重要人物が座る椅子に堂々と座ってるのは普通ではないだろう。

海未は女性にそう問いかけるが、女性は前に出て穂乃果と海未のすぐ目の前まで来ると、かなり大人っぽさを感じさせる凛々しいその顔をぐいっと二人の目前に近づけた。

 

その行動に反射的に二人は顔を硬らせる、一見すれば美女と言える女性にこんなに顔を接近されては同じ女性であってもどきりとするものだ。

ましてや自分たちは女子校の現役女子高生、蝶よ花よと青春時代を謳歌しながらもこれといって男性との関わりがない、無垢な年頃と環境にいるため、尚更とも言える。

 

そんな二人を遠慮なしにまじまじと見つめる女性はしばらくその鋭く、例えるなら鷹を思わせるような目を向け続け、にっと口元に笑みを浮かべた。

 

「ふっ、やはり適任だな……」

 

「な、なにが……ですか?」

 

「適任……?というか、あの、質問に……」

 

「やはり見込んだだけのことはある、ここまでわざわざ足を運んだ甲斐があるというものだ」

 

((人の話を聞いてない!?))

 

こちらの意思は何処へやら、自分で話を進める女性に二人は心のうちで同じことを思った。

女性はくるりと黒髪をなびかせながら背を向けると窓際まで移動し壁にもたれかかると女性用スーツではあるがズボンを履いた足を交差させるように組み、凛々しくもどこか楽しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

「二年生、高坂 穂乃果、および園田 海未、両名……お前たち……いやお前たちにμ'sに匿名を与える」

 

「「は、はい!?」」

 

 

 

一般人では到底出せない威圧感、それに押されて二人は反射的に返事を返す。

それを見た女性は再び鋭い目を向け……

 

 

 

「スクールアイドル、μ's! お前たちを国家特殊防衛機動部隊 “VDF”結成セレモニーでの、ライブを任命する!!」

 

 

 

「………………ほえ?」

 

 

 

 

そして、与えられたその匿名というのを聞いた時……穂乃果は間の抜けた声を出して、首をかしげるしかなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、待っておいてとはいっていたけども……勝手に話を進めてとは言ってなかったはずよ?」

 

「む? だが私は目的の対象に接触できたのだ、話は早い方がいいだろう、無駄な労力はなるべく避けたいんでな」

 

「はぁ……全く変わらないわね、目的のことになるとなりふり構わないんだから」

 

「そういうお前は落ち着きがさらに強くなったな、ちゃんと動けるときに動けなければややこしいことになるぞ、今回の音ノ木坂廃校の件のようにな」

 

「わたしだってちゃんと動いてました! あまりそういう意地悪なことは言わないでくれる? 本当、昔と変わらないんだから……」

 

仲睦まじいといえば聞こえはいいが、それは見慣れた人物同士での会話を目にしたとき……だが今回のこの光景に関しては違和感と言えるだろう。

 

今、穂乃果たちが見ているのは先ほど自分と海未に向けて謎の匿名を与えてきたスーツの女性と自分たちμ'sのメンバー、南 ことりの母でありこの学園のトップである理事長が自分たちからしてみれば関係性が見えない仲の良さを見せながら話している光景だった。

 

 

あの後、少し時間をおいて理事長が部屋に戻って来て、遅れてさらにことりがμ'sの他のメンバーを引き連れて部屋に入って来た。

そして、その時点でこの二人はなにやら仲良さげに話をし始めた。

どうにも関係性がわからないが、二人のやりとりは旧知の仲ゆえに見せる何かを感じさせた。

 

「………ねえ、ことりちゃん、あの人誰なの? 理事長さんと仲良いみたいだけど」

 

「えっと……実は私もさっき会ったばかりでよくは知らないんだけど、お母さんのお友達みたい……同級生の」

 

「理事長の同級生……ということはもしかして、この学院のOBということですか?」

 

「それがなぜ今ここに? それよりも穂乃果、あなたさっきこの人からなにか言われたみたいだけど……」

 

「うん………なんだか………ライブを任命されちゃった」

 

理事長と親しく話す女性にμ'sの面々がひそひそと話しながら考察をしていく、その中で絵里の質問に穂乃果は先ほどのことを思い出しながら答えた。

 

ライブを任命された、というのはあながち間違ってはない表現だ。

あの言い方はお願いというよりもそれに近い、彼女の放つ威圧感のようなものはそう感じさせるものだった。

 

「まったく………あ、ごめんなさいみなさん、わたしたちだけで勝手に盛り上がって」

 

「い、いえいえ!? お構いなく!? ……えっと、ところでその人は……」

 

μ'sの面々が取り残され気味になってることに気づいたのか理事長はそういうと穂乃果の問いかけに微笑みを浮かべながら隣の女性に手を向けた。

 

 

 

「こちらの方は“綾小路 蘭華”……かつてわたしと一緒にこの学院でともに過ごしたわたしの友人、そして……“防衛省職員”なの」

 

 

 

『ぼ、防衛省!?』

 

 

 

あまりにも衝撃的な女性、綾小路 蘭華というらしい彼女のプロフィールを聞いて9人は揃って声をあげて驚いた。

 

「………って、どういうお仕事?」

 

しかし、驚いたものの穂乃果はあまり理解していないようだった……。

驚いたがその発言を聞いた残りの8人はそれを聞いてがくっ、と軽く体制を崩した。

 

「あ、あのね、穂乃果……防衛省っていうのは要するにこの国を守るためのお仕事、警察とは違う、自衛隊とかを主に管理している職業のことよ………」

 

「へぇ………え! じゃあ、この人は自衛隊の人ってことなの!?」

 

「突き詰めるとその自衛隊の中でも偉い人ってことやね」

 

絵里と希の説明を聞いて目の前にいる彼女の正体をようやく理解した穂乃果、先程から感じていた言い表せない威圧感はそれ故のものだったのかと思いながら興味深そうに蓮香を見つめる

 

だが、それを理解したからこそ湧き上がる疑問も新たに生まれる

 

「………けど、なんでそんな人がわざわざこの学校に来たわけ?」

 

真姫が投げかけた疑問ももっともだ。

防衛省とは国の安全を守るために動く組織、そんな人物がこの女子校の、それもスクールアイドルである自分たちになぜわざわざ会いに来たのか……。

 

「実はね、先ほど彼女が穂乃果さんと海未さんの2人に言ったんだけど……あなた達にVDF結成セレモニーのイベントに参加してもらいたいの、そこでライブをしてほしいらしくて…」

 

「そのぶいでぃーえふって凛たちはわからないにゃ」

 

「うん、聞いたこともないし……あの、それって何かの略称なんですか?」

 

“VDF”聞きなれないアルファベットの並びに首をかしげる凛と花陽の2人、その疑問に答えるように理事長の隣で腕を組んでいた蘭華が前に出た

 

 

 

「正式名称 国家防衛特殊機動部隊 Valkyrie Defense Force、通称VDF………今回防衛省が発足した日本独自の新たな防衛組織だ……“怪獣専門のな”」

 

 

 

その組織の正式名称、そしてそれがなにから守るために発足されたのかを知った瞬間、穂乃果達は反射的に息を飲むのんだ

怪獣専門という、あまりにも大きな任務を追った組織というのもあるがなによりも……自分たちの状況的にも驚かずにはいられなかったからだ

 

彼女達はウルトラマン達と力を合わせている、それ故に怪獣とは無縁というわけではないからだ。

 

「………もしかして、この前ニュースでやっていた怪獣専門の防衛機関って………」

 

「察しが早いな……お前は三年生の絢瀬 絵里だな? そう、お前のいう通りそれが我々だ、そして私はそこで隊長をしている」

 

「た、隊長!? 隊長って、あれですよね、リーダー的な…」

 

「その通りだ、まあ、まだこれからの予定なのだがな」

 

しかも、彼女はその部隊の隊長だった。

彼女達の中に妙な緊張が走る……もしかして、自分たちとウルトラマン達の関係性がバレてしまったのでは?

その一抹の不安を感じた9人は警戒心を強める。

 

「………どうした? 表情が硬いぞ?」

 

さすがにそれは表に出ていたのか蘭華によって見破られてしまったようだ。

 

もし彼女達の不安が的中していたら厄介なことになりかねない…なんとか取り繕わなければ……。

そう誰しもが感じていた中、前にではのは……。

 

 

 

「……なんで、にこ達を……選んだんですか?」

 

「にこちゃん……!」

 

 

 

μ'sの活動拠点である、アイドル研究部の部長である…にこだった。

全員の先頭に立って恐る恐ると問いかける………すると、それに対して蘭華は口元に微笑みを浮かべたあと………

 

「それはな…………」

 

「………それは?」

 

「……………それはな」

 

「「「それは………?」」」

 

「……………それはな……………」

 

『それは……!?』

 

 

 

 

 

 

 

「……………ファンだからだ」

 

 

 

 

 

 

 

帰ってきたのはあまりにも予想外の返答だった。

 

メンバー全員が集まった理事長室、話の根源である蘭華と部屋の主人である理事長を除くμ'sの九人は………驚きのあまり、沈黙せざるを得なかった……。

 

そして、その沈黙から約30秒……

 

 

 

『ええぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?』

 

 

 

学校どころか音ノ木坂全体に響くような驚きの声がこだましたのは言うまでもない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

要するに要件をまとめるとこうだ。

今回、日本を中心に現在頻発し始めた巨大生物、怪獣への対抗策として防衛省及び自衛隊の派生組織として新たな“対怪獣対策防衛組織”が結成された。

 

それが“VDF”、正式名称“Valkyrie Defense Force”ということだ。

 

なぜ戦乙女、ヴァルキリーの名をつけたのかはわからないが隊長が女性ということもあってそうなったのかもしれないということにしておくとしよう。

 

ともかく、今回日本ではそのような組織を新たに設立することとなった。

しかし、一般人からしてみたら馴染みのない組織であり、同時に自国防衛という目的とは別に怪獣への対抗策として作られた組織は馴染みがないというか、あまりどうと言われてもこれといった印象を得ることはできない。

 

そこで一般人の信頼を得るためにVDF設立セレモニーを開催し、そこで自分たちの存在を報せようということ………。

 

そのための足がかりに………。

 

 

 

「私たちμ'sを宣伝のダシにするってわけ……?」

 

 

 

アイドル研究部の部室、長机をいくつか繋げた状態で座り、聞いた話を纏めている中で真姫がそう言い切った。

その発言に他のメンバーはどこか苦々しいというか、あまり好感触な印象を受けない顔を浮かべる。

 

というのも、そう言い切った真姫の表情がいつになく不機嫌という感じのものだからだ。

心なしかいつもの彼女のつり目とその中央の瞳に鋭利な鋭さを感じる気がする。

 

「……真姫ちゃんがなぜか怒ってるにゃ」

 

「怒ってない」

 

「そう言いながら耳を引っ張るのは怒ってるっていうにゃ〜〜〜!?痛い痛い痛い!!」

 

近場にいた凛の耳を引っ張りながら怒ってることを否定する真姫だが、凛の言う通りこの反応は完全にそうとしか見えない…。

 

「……真姫、あなたがそこまで怒るのって……」

 

「だから怒ってない、気に入らないのよ、こういうの」

 

絵里の言葉にそう返答し、凛の耳を離した彼女はいつもの癖で自身の髪を指でいじりながら不機嫌そのままに呟く。

 

「私たちはあくまでこの学校のため、それにいい結果は出せなかったけどラブライブを目指して練習してきたんでしょ……宣伝のために利用するようなやり方が気にくわないの」

 

「うーん………まあ、確かにあなたの言い分も分からなくもないけど………」

 

実際、真姫の言うことはある意味では芯をついている。

自分たちスクールアイドルは学校を代表して活動するスクールアイドルであり、このような場に出るために結成された存在ではない。

このステージはμ'sにはあまり関わりのないステージと言えるだろう。

 

「しかし、国を代表する組織のセレモニーで私たちが出たということはスクールアイドルとしての宣伝効果にも期待はできるかも……しれません……たぶん」

 

「花陽の言う通り、何かを広めるためには限られた場でなく範囲を拡大した広めるのも1つの手と言えるのは確かです……以前にことりのバイト先でライブの告知をしたのもその結果の1つですしね」

 

「けどそれとこれとは違うでしょ!」

 

そういってさらに強い剣幕で言い放つ真姫に花陽は反射的にびくっ、と怯え、海未は困り顔を浮かべた。

 

「………穂乃果はどう思う? このこと、受けた方がいいと思うかしら」

 

「うぇ? ………うーん………学校の宣伝をしてくれるって蘭華さんは言ってくれたから、その点ではいいとは思うけど……それよりも」

 

みかねた絵里が穂乃果に話を振ると穂乃果はふと鞄に手を伸ばし、その中に手を突っ込むとガサゴソと何かを漁り始めた。

何を出そうとしてるのか全員の視線が彼女に集中する……そして、しばしの間を明けてから彼女が鞄からあるものを取り出した。

 

 

「パン先に食べていい? お腹すいちゃって……」

 

 

ーーーずてっ

 

 

穂乃果を除く全員がずっこける音がシンクロした気がした。

 

「あんたねぇ……!」

 

「あはは、ごめんごめん、だって食べようとする前に呼び出されたんだもん……あむ、んー……! いやぁ、今日もパンがうまい!」

 

「相変わらず図太いねぇ、穂乃果ちゃんは……でも、逆にそのくらいがええんかもしれんよ?」

 

にこが穂乃果の言動に眉をひそめると、希が突然そう告げた。

すると、今度は希が自身の鞄を机の上に置いてチャックを開ける。

それを合図にしたようにそこから今は彼女の力となっているウルトラマン、人形となっているネクサスがふわふわと浮かびながら出て来た。

 

「たぶん、うちらはスクールアイドルとしてではなく、今後ウルトラμ'sとしての関係性をVDFと持つことになるかもしれんとうちは思う」

 

「どう言うこと?」

 

『俺達は…………人間と協力し、今まで戦って来た』

 

首をかしげることりにネクサスが静かに答える。

するとそれにつられるように穂乃果の鞄が空いたためかメビウスも同じように出てくると机の上に着地した。

 

『僕達ウルトラマンはどの世界においても地球人と力を合わせて困難に立ち向かってきたことがたくさんあります……僕も、かつて大切な仲間と共に……戦いました』

 

何かに想いを馳せるようにそう語り始めたメビウス、ついでそれぞれのメンバーの鞄の中から各ウルトラマンが出てくるとそれに同意するような反応を見せた。

 

『私たちの世界では同じように怪獣への対策を目的とする組織が存在した……私の世界では“チームEYSE”、そして“SRC”という組織が人間と怪獣との共存や地球への脅威に向き合っていた』

 

『俺たちもだ、異常現象、怪獣被害への対策として“GUTS”が作られ、その後継組織として“スーパーGUTS”が作られた、VDFと同じチームをずっと前にな』

 

『そして、人類への危機に共に立ち向かった………この世界もその方向へと向かいつつある、僕達だけでは人類も不安なんだろう』

 

それぞれの世界にも怪獣への対策を目的とした組織が存在することを知った彼女達だが、ここでティガが何気なく呟いた言葉に疑問を抱く。

 

「う、ウルトラマンさんたちがいるのに……ですか?」

 

『………私たち、だからだ………花陽』

 

花陽の問いかけに対してコスモスがそう返答する。

 

『君達以外の地球人からしてみれば私たちも怪獣と同じ脅威になり得る存在……未知の存在だ、必ずしも味方とは言い切れない以上、不安を抱く者もいる』

 

『………だからこそ、人類自身も立ち向かう術を得なければならなかった………病原菌に対抗するために人間の体内で抗体が作られるのと同じだ』

 

「そんな! コスモスさんたちは悪い人たちじゃないです!」

 

「そうにゃ! みんなのために戦ってくれたにゃ!」

 

『しかし、凛……全ての地球人が私達の事情を知っている訳ではない』

 

コスモスとアグルの言葉に抗議する花陽と凛だがマックスがそれをなだめるように告げた。

 

『それに彼女達のような組織は今後のことを考えても存在していた方がいいこともある、私達は無敵の戦士ではない……だからこそ……人間も頑張らなければいけない時もある』

 

まとめる様にそういったティガの言葉にどこか納得のいかない様子を見せる面々ではあったがその場は治った。

彼女達はウルトラマンが自分たちの味方であることを知っている、だからこそ不安要素になり得るかもという事実を真っ向から否定できてしまう……それ故のジレンマなのだろう。

信じれる存在なのに、信じることができない……それが何よりも歯がゆいから……。

 

メンバーが沈黙する中、ふとここでみかねた様ににこが立ち上がるとその場で腕組みして短くため息をついた。

 

「しょうがないわねぇ………とにかく、なんであれ今は目先のことよ! せっかくのステージを用意してもらったんだもの、全員手は抜かずちゃんとパフォーマンスするわよ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!!」

 

にこの発言にすかさず真姫が食い下がった、それに対してにこは真姫に訝しげな目を向ける。

 

「なによ、まさか新曲の楽譜無くしたとかいうんじゃないわよね?」

 

「ちゃんとあるわよ! ってそうじゃなくて! なんでやる方向になってるの! ただ体良く利用されてるみたいなものなのに!」

 

「そんなこと? そんなの決まってるじゃない」

 

なにを今更とでもいいたげな仕草を見せたにこはじっと、まっすぐに真姫を見つめながら次の瞬間、言い放った。

 

 

 

「………ファンからのお願いだからよ」

 

 

 

………ただ、それだけを………。

 

 

 

「………うぇ?」

 

この返答にさすがに困惑を隠せない真姫、だがにこはそんなの御構い無しと言いたげに言葉を続ける。

 

「いい? にこたちは確かにスクールアイドルなの、アイドルはまずファンを楽しませるもの! それができなくちゃ意味がないの!!」

 

びしぃ! と勢いよく指をさして言い放ったにこに真姫は戸惑いながらも食い下がろうと目つきを再び鋭くさせる。

 

「意味わかんない! だいたいそれが本当かどうかもわからないのに、こんな申し出を受けるの? にこちゃんは勢いで判断する前にちゃんと考えてから物を言った方がいいんじゃないの!?」

 

「はぁ!? ちゃんとにこだって考えてるわよ! 真姫ちゃんこそ細かいことを考えすぎなのよ! そんな石頭で疑り深いから目がつり上がったのよ! 少しは頭を柔らかくしなさい!」

 

「なんでそうなるのよ! つり目は生まれつき!! それに少なくともにこちゃんよりは頭は柔らかいわよ!」

 

「なっ!? それってにこがバカって言いたい訳!? そうよね! そういう意味よね! そう受け取るにこ!!」

 

「ふ、2人とも落ち着いて!?」

 

「真姫ちゃんとにこちゃんが喧嘩したらキリがないにゃ〜!」

 

終わりのなさそうな口喧嘩が勃発し、話の方向性があらぬところに向かって行く中、立ち上がって距離を詰め合いながら睨み合うにこと真姫を絵里と凛が慌てて下がらせる。

なぜこの2人はここまで仲が悪いのか……アイドル活動において積極性の強いにこと積極性が強くなく利己的に物事を進める真姫、正反対の2人は反発しあい、視線の火花を散らし合う。

 

『………なんだか、似たようなのを前に………“GUYS”でもみたことあるような………確かことわざでもありましたよね?』

 

『………そうだね、こういうのは………』

 

2人の様子を見て呟くメビウスにガイアが同意してあることわざを呟く……。

 

 

 

『………喧嘩するほど仲がいい、かな?』

 

「「仲良くない!! 」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波乱の緊急会議から、数日後の放課後……結局あの後は部長のにこの判断により、VDFの申し出を受けることになり、μ'sは当日に向けて練習を開始した。

しかし、その間真姫はあまり納得のいかない様子ではあったが一応は練習に参加した、しかしその間どことなくだがにこと真姫の間には妙なわだかまりのようなものができてしまっていた。

 

その日の放課後、練習を終えて荷支度を整えた真姫だったが……

 

(あ、屋上に忘れ物しちゃった……)

 

荷物を整理していた時に愛用の水筒を屋上に置いてきたことに気付き、凛と花陽に先に行くように促して自分は屋上に向かい、それを回収してから校門へと向かった。

 

そんな時だった………。

 

 

 

「「…………あ」」

 

 

 

偶然、本当にばったりと、校門の前でその問題の相手、にこと遭遇してしまったのだ。

ここしばらく妙な緊張感を持ってしまった2人ゆえに互いにどこか警戒しながら視線をそれぞれ向けあう。

 

「………なんでこっち見てるのよ」

 

「そっちこそ見てるでしょ……」

 

「そっちが見るから見るんだってば……」

 

「ほら! やっぱり見てるじゃない!」

 

目を合わせるだけでこれだ、視線だけで簡単な口喧嘩ができてしまう。

よほど彼女との相性が悪いのかと思えてしまう…。

 

しばらく睨み合ったあと真姫はとりあえずスルーしようとして校門に向かう。

すると、どういうわけかにこもそのあとをついてきた。

 

「………なんでついてくるの?」

 

「あんたこそなんでついてくるの?」

 

「こっちが帰り道だから……」

 

「にこもこっちから帰るの……」

 

ただでさえあの口喧嘩の後空気が気まずいのになぜ同じ方向に帰り道が被るのか……軽くため息をつきながら真姫はもう気にしないでいようと歩を進め続けた。

 

それにしても、前々からなぜこうも自分たちは反発しあうのか……。

年も少し離れてて、性格も全然違う、自分はよく大人っぽいと言われて彼女はよく子供っぽいと言われる。

考え方も正反対、相性は悪いはずなのに……なぜかよく関わってしまう。

 

実際に今にしてもそうだ、偶然かそうでないのかは定かではないとしてこうして一緒の道を歩いている。

 

……結局、自分たちはどのような関係性なのだろうか……。

 

ふと真姫はこの時、そう思った。

 

「ねえ、ちょっと」

 

突然にこが真姫に声をかけた。

また何か口喧嘩のきっかけになるようなことを吹っかけるのかと思い、真姫が彼女の方を振り返ろうとすると……。

 

「危ないわよ」

 

「うぇ? ……うぇぇぇぇぇ!?」

 

何を言っているのかと思った矢先、自分の目の前を高速で二輪車が横切って言った。

考え事に老け込むあまり、左右への注意が怠った、校門前の車道に危うく出てしまうところだった。

驚いたあまり、その場で尻餅をついてしまった真姫は軽く腰をさすりながら息を整える。

 

「いたた………もう、なんなのよ」

 

「………しょうがないわねぇ………はい」

 

「………え?」

 

すると、見かねたにこが真姫に手を差し伸べてきた。

その行為に戸惑う彼女だったが、それに対してにこは首を傾げた。

 

「なによ、ほらはやく掴みなさいって」

 

「べ、別にそんなことされる理由……!」

 

「人が折角心配してるのにその態度? どっちでもいいけどさっさと立ちなさいよ、パンツ見えてるわよ」

 

「うぇぇぇぇええええええええ!?」

 

それを聞くや否や顔を赤くして慌てて足を閉じてスカートを抑える、そんな彼女を見かねてかにこはため息をつくとしゃがみこんで真姫と同じ目線になる。

 

「ほら、いいからはやく立つ!」

 

「あっ………ちょ………うぅ」

 

有無を言わさず真姫の手を取り、にこは彼女を引っ張って立ち上がらせた。

そして、さりげなくその際に制服にできたシワやちょっとした汚れを手でぱんぱんと払う

 

(……にこちゃん、意外と面倒見いいのかな)

 

細かなところまで意識を回らせる彼女の行動に真姫はふとそう感じた。

 

「あ、ここも……まあ、尻餅ついたから仕方ないわね」

 

「うぇぇえ!? ちょ、そ、そこはいいから!?」

 

危うくお尻の方にも手が伸びそうになったところで慌てて自分でそれをはたいた真姫は落ちていた鞄を拾い上げるといそいそと肩にかける。

そして、ふと視線をにこの方に向けると……。

 

 

 

「…………あ、ありがとう」

 

 

 

その言葉ににこはあっけにとられたような顔をしばらく浮かべた後、なんの前触れもなく小さく笑いをこぼした。

 

「………くふっ!」

 

「な!? なんで笑うの!」

 

「ち、違う違う! あんたって真姫ちゃん意外と律儀なとこあるなーって、あんなに喧嘩したのにありがとうって素直にいうから」

 

「い、言うわよそのくらい! 人を天邪鬼みたいに………実質、危なかったし………逆に言わない方が失礼って……思っただけ……それだけ」

 

強がってそうは言うものの、なんだか照れを隠しきれてない。

自分のことながらも真姫はそう感じてしまった。

 

子供っぽい見た目と思考をしてるくせになぜかこの時見せたにこの姿は、冷静な年上っぽさを感じさせる。

逆に自分はこの時子供っぽく強がってることがいくつかあった。

まるでさっきまで感じていたお互いの印象が真逆になったように………。

 

(………本当は………似てるのかも………どのか)

 

そう感じながら真姫はまだ照れから感じる顔の暑さをごまかそうと目をそらし、そのまま歩き始める。

すると、またその後をにこがついてくる。

 

「………まだついてくるの?」

 

「夕方だし、1人じゃ危ないでしょ? ついでだから近くまで一緒に行ってあげるにこ」

 

あれだけ言いっあったのにそんな気も回してくる……にこも意外に冷静な思考を持っているのか、ふとそんなことを思った真姫は視線前に戻しながら……あることを呟いた。

 

 

「………私たちってなんなんだろ」

 

「………なにが?」

 

 

それを聞いていたにこは横で歩きながら返してきた。

 

「まるで正反対と思ってたら、どこか似てるかなーって……なんとなく感じたり……ほんと、どうしたいんだろうなって思ったの……」

 

「なによ、いきなり………うーん、まあ、それはにこも気になるかも」

 

「……にこちゃんも?」

 

「当たり前よ、だって………」

 

にこはそう言うと真姫の数歩前に出て唐突に彼女の方に振り返ると、右手をいつものあの形にするとひたいの方に当てるようにして笑顔を見せた。

 

 

 

「真姫ちゃんも、にこと同じμ'sのメンバー! ただの仲良しかライバルか、気になるのは当たり前にこ!」

 

 

 

仲良しか、ライバルか、その笑顔はどこか強気でなんとなく仲良しな相手にむけるやうな笑顔のような、それでいて負けないぞと言いたげな笑顔のような印象を感じる。

 

「………同じメンバーなのに?」

 

「同じだからこそ、一番身近なライバルはすぐ近くにあるし、一番の仲良しもすぐ近くにあるものでしょ? 今はそれがわからないから……つまりは………えっと………そういうこと!」

 

「なにがよ………」

 

不思議な返答を返してきたにこに真姫はじと、と目を細めてみせるが……なんとなく今、何かを言おうとして隠したのは見て取れた。

 

言いたいことはあるけど本音はまだ言えないってことなのだろうか…。

 

そんなことをされたら……余計に気になってしまう……。

 

「………何か言いたいことでもあるの?」

 

「別にー? なんでもないにこー」

 

「誤魔化さないで! ちゃんと教えてくれないと気になるじゃない!」

 

「だったら、あんたももっとにこに近づくことね!」

 

「うぇ?」

 

先ほど見てる見てないで揉めた後に出てきたその言葉に真姫は意味を汲み取ることができずに動揺する。

 

すると、それを見てにこはまた会議の時のように真姫をまっすぐ見つめながら……告げた。

 

「にこはスクールアイドルとしてμ'sの中でも誰にも負けないくらいファンを笑顔にできるアイドルになりたいの、あんたも同じスクールアイドルなら同じくらいにファンを笑顔にできるようにならないと、置いてっちゃうわよ?」

 

………誰よりも、ファンを笑顔に………。

 

その言葉に真姫はにこの中にある1つの真意を、見た気がした。

彼女は何よりもアイドルにこだわっている……そして、あの時もファンのことを思って提案を受けた。

 

……ファンを笑顔にしたいから。

 

利用されてるだけかもしれないという、ファンという人を疑った自分とは違って……。

 

「確かに気に入らないことはあるのもわかる、けどステージに立ってみんなを笑顔にできるならにこは全力を尽くすわ……なんて言われてもね」

 

「………意味わかんない………けど」

 

 

 

 

 

ーーー…………すごい。

 

 

 

 

 

その言葉は口にはせず、真姫は本音を隠した。

にこが本音を隠したように、自分も……これでおあいこだと、子供っぽくは感じながらもちょっとお返しをして見たのだ。

 

「……けど、なによ? 言いなさいよ」

 

「………言わない、仲良しかライバルかわからないんでしょ?」

 

「あぁ〜〜! なんかそれずるい〜! ちょっと! 隠し事はなしにこ! あ! ちょっと! 先に行かないでよ! こっち来なさい! ねぇ!!」

 

今のやりとりはにこが自分との間にできたわだかまりを面倒なことになる前に取り去るため仕掛けた“罠”なのかもしれない。

味方みたい、それとも敵か、曖昧な表現ではあるが………わからなかった自分とにこの関係性を、真姫はなんとなく理解したような気がした。

 

 

今回の申し出は気に入らない、それでも………。

 

 

負けたくないから、本気を出す。

 

 

この時、そう思った真姫は……それから数日、本番のステージに向けての練習に力を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セレモニー当日、VDFの拠点となる基地という場所になんとも重厚な車に乗せられて連れてこられたμ's達はその装いに素直に驚いていた。

 

目の前にあるのはダムのような巨大な壁を持つ建造物、そこらの高層ビルや一度見たA-RISEの拠点であるUTX高校とはまた違った迫力を感じさせる。

 

「うわぁ……すごい」

 

「いつの間にこんなの作ってたんだろうね……」

 

「これが怪獣を相手にする防衛組織の拠点………」

 

「VDF作戦司令基地 “天宮”にようこそ、待っていたぞ、μ's諸君」

 

その基地の大きさに圧倒される中、ことの始まりの人物、蘭華がメンバー達の元に現れた。

以前に見たスーツ姿ではなく、この組織の専用の制服なのか、レザー質な白と青を基調とした衣服を纏っており、左胸にはVDFを象徴する翼を携えた剣を思わせるシンボルマークが輝いている。

 

「蘭華さん! 今日は、あの、よろしくお願いします!」

 

「こちらこそ、よろしく頼む……この天宮の初披露にふさわしい晴れ舞台を君達に託させてもらう」

 

「……あの、天宮ってこの建物の名前ですか?」

 

「ああ、そうだ、組織の名前は英語でまとめてはいるがここは日本、故にそれらしい名前をつけた……戦乙女の拠点となる場所、といったところか」

 

結構なロマンチストなのかと思わせる発言に質問した絵里は少し意外性を感じながらも、周囲に目を向ける。

よく見ると遠くの方では既にこのセレモニーを一目見ようと大勢の人たちが集まっているのが見えた。

 

「………君たちの輝かしい舞台を観るために集まってきた人たちだ、私も楽しみにしている………頑張ってくれ」

 

「………はい!」

 

微笑みながらそう告げた蘭華に穂乃果は元気の良い挨拶を返す。

そんな中、真姫はふとセレモニーの会場へと向かっていく人達の方に目を向ける中……何かに気づいた。

 

 

「………っ!」

 

 

会場へと向かう人物の人混みの中にちらりと……見覚えのあるローブが目に飛び込んできたのだ。

 

まさか、そう思った彼女は今とっさに近くにいたにこに声をかける。

 

「にこちゃん………ちょっと」

 

「なに? これからなのよ、今からやっぱりやめないは聞かないわよ?」

 

「違うわよ! ………例のローブのやつかもしれないのが、一瞬………」

 

「え………」

 

彼女の言葉ににこはすぐさま表情を変えた、そんな時だった………。

 

 

 

 

 

 

ーーー………ビー!ビー!ビー!ビー!

 

 

 

 

 

突然けたたましいサイレンの音が鳴り響き始めたのだ。

この警報にその場にいた全員、セレモニーに参加しようとしていた人々は困惑し始める。

 

 

 

ーーースクランブル! スクランブル! VDFに出動要請! 繰り返す、VDFに出動要請!

 

 

 

広い範囲に聞こえるサイレンと放送を聞き、彼女達を迎え入れに現れた蘭華は表情を変えると耳元に既に装着されていた小型イヤホンのような物に手を当てた。

 

「こちら綾小路、司令室、なにがあった」

 

『ポイント A_012に怪獣を確認しました、クラスA相当、こちらに向かって進行してきています!』

 

「っ! 天宮に向かって……」

 

イヤホンから流れてきたその言葉に蘭華は表情を硬らせる。

だが、すぐに表情を落ち着いたものへと変えて自身の役目を全うするべく行動を開始する。

 

「………よし、セレモニーに参加する民間人を中に避難させると共に迎撃に出る、“雷電”の発進準備急がせろ!」

 

『ガッチャー!』

 

素早く指示を飛ばした蘭華はイヤホンから手を離す、そしてμ'sの面々の方に向き直る。

 

「君達も中に、ここに怪獣が向かってきている、早く避難を!」

 

「え!? な、なにか、私たちにできることは……!」

 

「悪いが君達を危険な目には合わせたくはない……1人のファンとして安全は確保させよう……彼女達を中に避難させろ! 私も向かう!」

 

「ガッチャー!」

 

近場にいた隊員と思われる人物に指示を出し、蘭華は走り出すと天宮の方へと向かっていった。

穂乃果はその後ろ姿をじっと見つめる。

 

「………あれ?」

 

するとふと、ことりがあることに気づいた。

 

「にこちゃんと真姫ちゃんがいない!」

 

「…………え!?」

 

彼女の言う通り、いつのまにか先ほどまでいたはずのにこと真姫の姿がないのだ。

周囲を見回しても近くに姿は見えない、いったいこんな時にどこにいったのかと穂乃果が思っていると……。

 

『………穂乃果さん、大丈夫です』

 

(メビウスさん……?)

 

ふと荷物の中に入れていたメビウスから頭の中に直接届かせる形でそう告げられた。

 

『2人は……やるべきことをしに向かいました』

 

(………あ)

 

その言葉の意味を穂乃果は理解した。

よく見ると遠くの方で2人並んで走る後ろ姿が見える………彼女達は真っ先に為すべきことを果たすために向かったようだ。

 

 

「………よし、私たちもやれることをやろう!」

 

「やれることって……なにをですか?」

 

「なんでもだよ! ここに来てくれた人たちを不安させないように、私たちでできることをやろう! ……2人が頑張ってるから!」

 

 

穂乃果のその言葉に残されたメンバー達は互いの顔を見つめあった後、力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天宮から数十キロ離れた地点、そこでは恐ろしい光景が広がっていた。

街中を二匹の怪獣が揃って突き進んでいるのだ、建物を破壊し、邪魔なものを蹴散らしながらまっすぐに人が集まっている天宮の方角へと……。

 

片方は頭に鋭いツノを持ち、屈強な四肢を持った巨大な恐竜じみた爬虫類を思わせる姿を持つ怪獣……“凶暴怪獣 アーストロン”だ。

 

対してその隣で同じように街を突き進んでいくのは、両手にハサミを持ち土色の大きな体に凶悪な目を持つのは、“岩石怪獣 サドラ”。

 

同時に二体の怪獣が現れ、天宮へと真っ直ぐに向かう。

まるで何かの目的を果たそうとするかのように……。

 

だが、その進行を阻む者たちが現れた。

アーストロンが何かの音に気づいて、それが聞こえる方、空へと目を向ける。

すると、進行方向の空に3つの細身のシルエットを持つ影が高速でこちらに向かってくるのが見えた。

空を切り裂くジェットエンジンの音、それによって発生する飛行機雲の尾を引きながらまっすぐにこちらに向かってくるのは……まぎれもない、飛行機だ……だがそれはただの飛行機ではない………。

 

この怪獣たちを相手取るために作られた、専用の“戦闘機”だ。

 

 

 

「目標を視認! これより迎撃行動に移る! 演習と思うな、私達の手に多くの人の命がかかっている………行くぞ! 私達人間の底力を見せてやれ!!」

 

『ガッチャー!!』

 

 

 

激震するコックピットの中で対怪獣用として開発された特殊戦闘機、“雷電”の操縦桿を握る蘭華は左右についてくる部下に激励を飛ばし、操縦桿を握る力を強めた。

雷電は自衛隊が所有する戦闘機を元にさらに性能を向上させ、怪獣に有効打を与える装備を搭載した最新鋭機である。

だがそのために相当な操縦の癖があり、慣れるのには訓練を必要とする。

体に負荷をかけるGを全身で感じながら、目標を攻撃射程内に収めた蘭華はスピードを落とし、左右の同型機とともにタイミングを合わせる。

 

ターゲットを絞るスコープが自身の被るヘルメットのバイザーに直接表示され、それが標的を絞った瞬間に操縦桿のボタンを押し込む。

 

 

途端に機体下部に装備されていた二門の銃口が火を吹いた。

マシンガンのように連射されるのは威力を高めるために実弾ではなくレーザー兵器を使用した、特殊兵装バルカンだ。

怪獣の体に浴びせかけ、直撃したそれらの攻撃は火花をあげて怪獣の動きを怯ませる、ダメージを与えられたようだ。

 

続けて他の二機も攻撃を開始し、怪獣たちを攻撃していく。

けたたましい銃撃音と怪獣の咆哮が街に響き渡る。

 

ーーー行ける、この兵装なら戦える。

 

蘭華はコックピットの中でそう感じた。

再度怪獣に攻撃を仕掛けようと方向転換してはバルカンを連射する。

 

しかし、向こうもただやられる存在ではなかった。

 

受け続ける攻撃に怯みながらも怪獣の片方がいきなり叫びを上げると、異変が起きた。

なんと、体から霧のようなものを出してあっという間にあたりを包み込んでしまったのだ。

サドラの持つ特殊な能力だ、これではどこにいるのか見分けがつかない、下手に攻撃すれば街を破壊してしまう。

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる蘭華は周囲を旋回しながら様子を見る………すると。

 

「っ! 回避!!」

 

霧の中で怪しく光る何かを見た瞬間、ついて来ていた二機に指示を飛ばした。

すぐさま回避行動をとる三機、そこに向けて霧の中から燃え盛る炎が飛び出して来たのだ。

霧に隠れて反撃をして来たのだ、間一髪のところで回避することができたが……このままではこちらは下手に動くことはできない。

 

「……厄介な」

 

こうしている間にも霧は広がっている、これに紛れて怪獣が天宮に向かえば大変なことになる……何か打開策はないかと蘭華が思考を巡らせていたその時……!

 

『隊長!!』

 

「っ!」

 

気づいた時、すぐそこにまで炎が向かって来ていた。

まずい、このままでは直撃する……だが今更回避はできない、蘭華が息を飲んだ………次の瞬間!

 

 

 

「ジュワ!!」

 

 

 

赤い光が目の前に広がり、迫っていた炎を霧散させた。

何事かと蘭華が一瞬、その光に目を眩ませるが……次に目を開けるとそこには……。

 

「…………例の、巨人………ウルトラマンか」

 

銀色と赤色の体を持つ巨人が自分の前に現れて腕を交差した体制で炎を遮っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間一髪のところで戦闘機に直撃しかけた炎を防いだウルトラマンガイア、腕をクロスさせて霧の中から出てくる炎を防いでいる。

 

「デュゥゥ………!デア!!」

 

腕に力を込め、それを思い切り振り払うと受けていた炎を弾き返す。

火の粉となって弾けた炎、ガイアは背後にいた戦闘機が無事なのを確認すると小さく頷いて霧の中へと再度目を向けた。

霧はかなり濃く、この中に飛び込むのは不利な状況に陥るのと変わらない………だからこそ、対策の手を打ってある。

 

「よし、ダイナ!」

 

「おぉ! 後は任せとけ!!」

 

上空へと合図を送るとそれに答えるように空へと待機していたウルトラマンダイナが答える、するとダイナは両手の拳を握るとそれを自身の胸のカラータイマーに添えるように腕を交差させる。

 

「フゥゥゥゥゥゥン! デェァァァァァ!」

 

気合いとともにその腕を左右に広げると、額にある“ダイナクリスタル”が銀河系を思わせる光を発し、その体を包む。

そして、次の瞬間赤、青、銀の体を持つダイナの体が青と銀色の姿へと変わった。

 

ダイナはティガと同じように相手に合わせて姿を変えるタイプチェンジ能力を秘めている、この姿だからこそ発揮できる能力、それは……。

 

 

「フッ! ………デアッ!!」

 

 

額の前で腕を交差させ、意識を集中させて指先を霧へと向ける。

すると、霧の中に突風が巻き起こり、あっという間に霧を吹き飛ばしてしまったのだ!

 

それはまさに、“超能力”のなせる技……。

 

 

これこそがウルトラマンダイナ、“ミラクルタイプ”の真骨頂である!

 

 

身を隠す霧を剥がされ、姿を露わにさらたアーストロンとサドラは動揺した様子を見せている。

地上に降り立ったダイナはガイアと共に相手を見据え、身構える。

 

『ここで食い止めるわよ、にこちゃん!』

 

『みんなの笑顔を作るのがアイドル、けど今はみんなの笑顔を守るにこ!』

 

ガイアとダイナの中に意識を宿した真姫とにこ、それを感じ取った2人はちらりと互いを見合わせる。

 

「………なんやかんやで」

 

「息ぴったりだな……へへっ、負けてらんねぇな! 行くぜ!」

 

「あぁ!」

 

こちらも互いの息を合わせ、ガイアとダイナは目前の敵に向かって走り出す!

 

ダイナはサドラに、ガイアはアーストロンを相手取り、それぞれ繰り出される攻撃に素早く対処して反撃を繰り出して行く。

サドラのハサミを振り下ろした一撃をダイナは左腕で払い、横腹に蹴りを打ち込み。

アーストロンの体当たりをガイアは横に動いて回避し、背中に向けて手刀を放つ。

 

2大怪獣と2人のウルトラマン、一進一退の攻防が繰り広げられる。

 

しかし、怪獣側も反撃に移る。

鋭いハサミを光らせてサドラがダイナの腕を挟み込む。

一瞬の隙を突かれたダイナは腕をハサミで挟まれ、その腕を締め上げられる。

 

「ウァァァ!?」

 

「っ!グァァァァァァ!」

 

それを見て一瞬意識をダイナへと向けたガイアの隙をついてアーストロンが力強く腕を振り下ろしてガイアを打ち据える。

そこへアーストロンが倒れたガイアをのしかかるように押さえつけて何度も腕による攻撃を繰り返す。

 

一瞬の隙を突かれ、怪獣に反撃を許してしまった2人、ダメージを受け続ける今の状態は非常にまずい…。

 

だが、そこに!

 

 

 

「各機! 2人のウルトラマンを援護! 借りを返すぞ!」

 

 

 

周囲を旋回していた3機がウルトラマンを攻撃し続ける怪獣たちに向けて攻撃したのだ。

サドラの頭を横合いから、アーストロンの背後から、搭載されたレーザーバルカンを浴びせかけ続ける。

予想外の攻撃を受けて、たまらず二体の怪獣は攻撃の手を緩めた瞬間、ダイナとガイアはそれぞれ距離を取り、体制を立て直す。

 

2人が自分たちを助けてくれた3機に目を向けると、先頭を飛ぶ機体のコクピットに座る蘭華が自分たちに向けてサムズアップをしてるのが見えた。

 

 

ーーー今だ

 

 

それを伝えるかのように……。

 

その意思を感じ取ったダイナとガイアはこのチャンスを逃さず、一気に勝負をかける!

ダイナとガイアはタイミングを合わせて走り出すと同時に飛び上がり、そのまま急降下しながら飛び蹴りを叩き込む。

あまりの衝撃に倒れこんだ二体、そして同時に着地した2人は頷きあうと、ガイアは前に出てしゃがみこみ、ダイナはその後ろに立つ。

 

立ち上がったアーストロンとサドラは互いに先に行け、お前が行けというかのような動きを見せた後、サドラによって前に突き出されたアーストロンが炎をヤケクソ気味に放つが……。

 

『させない! 止めるわよ、ガイア!』

 

「あぁ! デュア!!」

 

左手を握って垂直に立て、そこに右手を交差させるようにあてがうとそのまま上に半円を描くように左から右に、赤い光の尾を引きながら動かして……。

 

 

 

「『クァンタムストリーム!』」

 

 

 

左腕を垂直に立ててL字を組むと、そこから灼熱の光線を放った!

迫り来るアーストロンの炎をガイアの光線、“クァンタムストリーム”が相殺する!

 

そして、完全に相殺され動揺したところに後ろに控えていたダイナがトドメを打つべく構えた。

 

『邪魔をする奴は、宇宙の果てまで吹っ飛ばすわよ! ダイナ!』

 

「おっしゃあ!! 任せとけ!!」

 

両腕を額の前で交差させ、光のエネルギーが渦を巻くようにダイナの右腕に集まり、それを腰だめに構え………。

 

 

 

「『レボリウムウェーブ!!』」

 

 

 

そのまま溜め込んだ右腕のエネルギーを前へと放ち、それを二体の怪獣の“背後”へと炸裂させる。

強烈なエネルギーがその空間を湾曲させ、それが小さなものではあるが……ブラックホールを作り出し、次の瞬間二体の怪獣をその中に引きずり込んだ!

 

ウルトラマンダイナ、ミラクルタイプの必殺光線、“レボリウムウェーブ”が決め手となり天宮に進行する2大怪獣は消滅した。

 

それを確認したダイナとガイアは援護してくれた機体へと顔を向け……ダイナがお礼を込めてのサムズアップを返した。

 

 

 

「………助けられたのはこっちだ……これより帰投する!」

 

 

 

 

それを見届けた蘭華の指示により、三機はそのまま基地へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、みなさん! いろいろと大変なこともありましたが……今日は集まってくれてありがとうございます!」

 

多くの観客たちを前にステージに立つ穂乃果が挨拶をする。

光り輝くライトを浴び、前線基地 天宮の前に設営されたステージから来てくれた全ての人への感謝の言葉を告げる。

 

その後、騒動はあったものの無事にセレモニーは開催された。

怪獣がこちらに向かってきている間、残されたメンバーは避難に戸惑う人々を誘導したり、落ち着けるように呼びかけたりした。

その甲斐もあり、パニックが起こることもなく大きな被害も起きなかった。

 

無事に開催されたセレモニー、最後の大トリを務めることになった彼女たちは華やかな衣装に身を包み、スクールアイドルとしての役目を果たそうとしている。

 

「こうして滅多にないステージを与えてくれて、そしてみんなのために頑張ってくれたVDFの皆さんには感謝しています! だからこそ、私たちはそのお礼も兼ねて! みんな!」

 

 

 

 

「μ's!! ミュージック!」

 

 

 

 

 

ーーースタート!!

 

 

 

 

 

「………遅れないでよ?」

 

「誰に言ってるのよ……あんたこそ……!」

 

 

 

 

この日、μ'sが取り行ったライブ……その中でいつになく輝き、息の合っていた2人がいた。

それは見た目はまるで正反対、だけどもぴったりと合わさった……まるで“磁石”のような息の合い方だった……。

 

正反対、だと思ってたのに引かれあう。

 

不思議な磁力のようなこの2人の距離は……なんとなく、この日をきっかけにさらに縮まった………のかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりいいなぁ、隊長も最高なことをしてくれるぜ……」

 

「あぁ、本当に……一時はどうなるかと思ったけど、このために頑張れたってのもあるよな………ところで隊長は?」

 

「最前列でサイリウム振ってるって」

 

「…………さすがファンクラブ会員ナンバー1」




次回のウルトラブライブ

希「もう少しだから…」


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