仮面ライダー龍騎 ~EPISODE Kanon Trilogy~ (龍騎鯖威武)
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日常 ~Continue for Day~
「2人の剣士」


ザァン!

「…逃がした」

舞は今日も、魔物退治を続けていた。

「あまり無茶するなよ?足だって全快じゃないのに」

「そうですよ~。それに夜は女の子には危険なんですよ」

「佐祐理さん、そこですか…」

そう言ってくるのは祐一。隣には佐祐理も居る。共に、舞のサポートを行っているのだ。

「でも、こうしないと何も変化は無い…。待っていても…」

舞が呟く。彼女の足の痣の謎は、未だに解明されない。しかし、ここで立ち止まっているわけにもいかないのだ。立ち止まっていたら、きっと後悔するかもしれないから…。

 

その帰り道…。

「…舞。そういえば、動物園に行きたいって言ってたよな?」

「…どうして?」

「明日、行かないか?」

祐一の突然の申し出に首を傾げる舞。

「おまえ最近、切羽詰りすぎだ。肩の荷を降ろして、穏やかに過ごすことも悪くないだろ?」

「祐一さん、デートですか?」

くすりと笑って、質問する佐祐理。祐一は苦笑して返す。

「はやし立てないでくださいよ佐祐理さん。舞はそんなつもり無いですよ」

「それでも…良い…」

舞は俯いて答える。

「祐一とデートするのは、多分きらいじゃないから…」

あまり表情の変化が無い舞だが、今は恥ずかしがっていることがよく分かる。顔がほのかに赤い。

祐一はそれを見て、優しく声をかける。

「決まりだな。明日の12時ちょうど。いいか?」

「はちみつくまさん」

 

次の日の朝。

百花屋で祐一は、ある3人を呼び出した。

「…という訳だ。言ったのは良いが、何をしてやればいいか、分からなくてな…」

「祐一がデート~?」

「相沢がなぁ…」

「あまり、そんなことを悩む人には見えなかったけど…」

祐一が相談を持ちかけたのは、潤、香里、名雪の3人。

クラスも同じで、行動が一緒になることが多いこの4人は、クラス内でも有数の仲良し組みである。

「おまえら、何気に酷いこと言ってないか?」

ジト目で文句を言う祐一。今まで友達をイジってきたしっぺ返しなのだろうか。

「わたし、デートのやり方なんて…く~」

「寝るな!…ったく、こいつは考え事をすると寝る癖でもあるのか」

名雪自身、必死に考えを絞ってはいるのだが、どうしても睡魔には勝てないらしい。

香里に目を向けるが、彼女も首を左右に振る。

「残念だけど、わたしもそういった経験は皆無よ。何も教えられないわ」

「じゃあ、おれと行かないか?」

潤が、席を立って誘う。

「出直してきなさい」

「そんなぁ~…」

「こいつらに聞いたのは間違いだったな」

祐一は3人を放って、店を出た。

 

「うーん…」

「見つからないね…」

辺りを見回しているのは、竜也とあゆ。

一応、本編の主人公とヒロインなのだが、今回は探し物をしている祐一達の友人という形に留めておこう。

今回の主役は祐一と舞なのだから。

「よ、竜也とうぐぅ」

「あ、祐一くん!…って、ボクうぐぅじゃないもん!」

「祐一、あゆをイジメるのは、いい加減にやめてよ…」

早速あゆイジり。さっきのことに懲りていないようだ。

「悪い悪い。ところで、聞きたいことがあるんだが、良いか?」

「なに?」

「おまえら、デートしたことあるか?」

「「えぇっ!?」」

声をハモらせて驚く2人。

「そ、そんなことないし、それにボクと竜也くんは、そんな関係じゃないよ…!?」

「そうそう、昔からの古い友達!」

慌てふためいて否定する2人。なんとも初々しいというか…。

「…なら質問を変える」

 

今までの流れを説明し終えた祐一。

「なるほど…」

「舞さんと祐一くんが…」

先ほどとは打って変わって、首を傾げて唸っている竜也とあゆ。

「なにか、いいプランがあったら知恵を貸してくれ」

「…案外、何も無いほうがいいと思うな」

何気ない様子で答える竜也。

「おれ、そういう経験は全く無いけど、色々考えるほうがなんか違う気がする。自然体で接することが大切なんじゃないのかな?」

「…確かに」

祐一は竜也の言葉を聞いて、考えが変わり始めた。

舞を喜ばせることばかりに気が行ってしまって、基本的なことを忘れていた。

「貴重な意見をありがとよ」

そう言って、手を振りながらその場を後にする祐一。

ふと思い出したかのように振り返り、こう告げた。

「そういえばおまえら、古い友達って言ってるけどな、どう見たってカップルだぞ。ちょっと竜也がロリコンみたいだがな」

「えっ!?」「うぐっ!?…って、ロリコンってどういう意味?」

2人は真っ赤。あゆは真っ赤になってはいたが、そのあと聞きなれない言葉の意味を竜也に聞く。

「確か…年下の女の子好きの人だっけ…?」「うぐぅっ!ボクは竜也くんと同い年だよっ!」

もう見えなくなった祐一に向かって叫ぶあゆ。

 

待ち合わせの場所である動物園の入り口の前には、一足早く舞が辿り着いていた。

「祐一、遅い」

「まだ時間まで10分あるだろうが」

舞は20分早く来ていた。実はここに来る前に、佐祐理から一つ聞いていたのだ。

 

「舞、良いですか~?女の子が待ち合わせに早く来ると、男の子は申し訳ない気持ちになるから、お願いを聞いてくれやすくなるんですよ~」

 

この言葉を聞いて、試しにやってみることにしたのだ。

「女の子を待たせるのは、最低」

「はいはい。じゃあ、これで許してくれるか?」

祐一はやれやれといった感じで、舞の手を握る。

「…っ!」「さ、行こうぜ?」

舞の応答を聞かず、動物園内に入場した。

 

…で。

「そればかり見てるんだな」

祐一の目線の先には、ウサギをじっと見つめる舞。

入園してから結構時間がたったのだが、ずっとこれだけを見ている。

「お母さんとの思い出だから…」

「そっか…」

 

舞の母親は浅倉によって殺害された。

 

それ以前にも、虚弱体質で命が危機に瀕したことは何度もあった。

「舞、動物園に行きましょうか」

「でもおかあさん、かぜが治らないんでしょ?」

「いいのよ…わたしは…けほっ!けほっ!」

「おかあさん!」

このころより少し前、身体が治ったら動物園に行く約束をしていた。

しかし、一向に良くならなかった。

あることを機に全快したのだが…それはまた別の機会に話すとしよう。

 

ちょうど10年ほど前の冬

「ねぇ、おかあさん!」

「舞?」

舞が手を引いて入院している病院の庭に出ると

「ほら、動物園だよ!」

舞が作った雪ウサギがたくさん並べてあった。

「本当…」

こうして約束は守られたのだが…。

 

結局、本当の約束が果たされることは無かった。

 

「祐一は…居なくならない?」

「舞?」

振り向いて不安そうに尋ねる舞。

「お母さんみたいに、居なくならない?」

もう一度聞く。

祐一は、舞の目の前に歩いてきて、彼女の頭を優しく撫でる。

「安心しろ。竜也や斉藤ほどじゃないが、おれは意外と強いぞ?少なくとも、おまえを守ることくらいは出来ると思う」

「祐一…」

舞は、祐一の胸に身体を預ける。

「ちょっと…だけ」

「あぁ…」

彼の存在を、強く感じながら、少しだけ目を閉じた。

 

「よし、デートはこれからだ。もっと他のやつも見ようぜ?」

祐一の言葉に、少しだけ頷いた舞は、祐一の手をもう一度握る。

「甘えん坊だな、舞は」

「祐一だから…」

 

 

 

これから降りかかる戦いの間の小さな安らぎのときである…。

 

彼らは、この安らぎを果てるまで続けられるようになるため、戦い続けるのだ…。

 

仮面ライダーとして…

 

そして人間として…。

 

 

 

 

 





キャスト

相沢祐一=仮面ライダーナイト

川澄舞=仮面ライダーファム

舞の母親

倉田佐祐理
北川潤=仮面ライダーライア
美坂香里
水瀬名雪

月宮あゆ

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎



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「無力ではない今」

「おまえらに相談したことが間違いだった」

そう言って、百花屋から出て行った祐一。

「あ…祐一、居なくなっちゃった…」

目をこすりながら目覚めた名雪がポツリと呟く。

先ほど、舞とのデートについて知恵を貸してくれと頼んできた祐一。

結局力になってくれない3人をおいて出て行ってしまった。

「まぁ、あいつのことだ。何とかやってるだろ。それよりも香里さぁ~ん、たのみますよ~」

今回の主役である潤は、香里に両手を合わせて拝むように頼み込んでいる。

「だから、出直してきなさいって言ってるでしょ!」

「んなこといっても~」

「あ~もう!やめなさい!」

香里はシッシッといった感じで、手を払いながら潤を追い払う。

と、そこへ…

「あれ、おねえちゃんに水瀬さん、それに北川さんも!」

現れたのは栞。ふと百花屋に立ち寄ったようだ。

「こんにちわ~栞ちゃん」

「よ、栞ちゃん!いや、おれの将来の妹よ!」

「いい加減にしなさい!」

ドゴッ!

「ごほっ!?」

潤の言葉に痺れを切らして、肘打ちを決める香里。相変わらず鋭く、強力な一撃だ。

その攻撃を受けた潤は、テーブルの下へ撃沈。

言っておくが、彼は立派な仮面ライダーライアである。

「あ~ぁ。北川さん、大丈夫ですか?」

よいしょ、よいしょと言いながら、潤を起こす栞。

「やさしいなぁ、栞ちゃん。お姉ちゃんに見習わせてやれよ」

「何言ってるんですか。おねえちゃん、すごく優しいですよ?」

「あっ!?栞、やめて!」

栞の言葉に、香里はあたふたと慌てながら、彼女の口をふさごうとする。

が、物凄く早口で喋りだす栞。

「だっておねえちゃん、北川さんが怪我したとき、心配ばかりしてるんですよ。「北川君に何かあったら、わたしは~!」って」

「いやああああぁ!やめてえええええ!」

耳をふさいで、店内に響き渡るかのような絶叫で叫ぶ香里。

「えへへ~。本当のことですよ、北川さん!」

そう言った後は、あらかじめ頼んだアイスを美味しそうに食べていた。

「香里、おまえ…」

「えぇ、そうよ!あなたが怪我ばかりするから、心配なの!文句ある!?」

開き直ったのか、先程まで隠そうとしていた内容を、大声で叫ぶ。

しかし、潤は…

「そうだったのかよ…」

いつもなら、悪ノリして香里に色々言うのだが、今回は黙って俯いた。

「なによ、そんなにバカバカしい?」

香里の質問に首を左右に振って、こう答えた

「…すまないな。そんなに気に掛けてるなんて思わなかった」

「え…?」

「おれは、おまえを守りたかったのに…。心配なんてさせてるんじゃ、ライダー失格だな」

潤は、本気で落ち込んでしまったようだ。

栞もこんな事態になるとは予測していなかった。

「えぅ~…こんなつもりじゃ無かったのに…」

居辛さを強く感じ、アイス代をその場に置いて、栞はその場から去った。

 

残った二人に、新しく友達が現れる。

「なんだ、ずいぶん静かなピンクだな」「あ…!」

ミツルと真琴である。

「…よう、斉藤」

明らかに、テンションが低い。

「美坂、何があった?」

ミツルに香里が一通り説明する。

「ほう、ようやく自覚したのか。だが、自覚できたってことは、それを改める気持ちがあるんだろう?」

その言葉にも、まったく反応を示さない。

それを見ていた香里は…

「北川君、行きましょ!」

「お、おい香里!?」

潤を連れて、百花屋を出て行ってしまった。

「よくわからん…」「あぅ…」

首をかしげているミツルに、真琴が袖を引っ張ってあるものを指差す。

それは…

「ちっ…仕方ない、サービスしてやる。おい水瀬、帰ってから寝ろ!そうじゃなければ、ここの支払い、3人分払わせるぞ!?」

「うにゅ~…」

 

「おい、何処まで連れて行くつもりだよ!?」

「今からデートよ!」

「は?」

香里の言葉で目が点になる潤。

「デートしたかったんでしょ?」

「お、おぉ…」

「あなたを元気付けるためと、いつも頑張ってるご褒美よ。感謝しなさい」

それだけ言うと、顔を背けてしまう。それは、恥ずかしさゆえに顔が赤くなっていることを気付かれないためだ。

「…よっしゃああああ!まじかよ香里!なら、とっとと行こうぜ!」

「きゃっ!」

今までの暗さは何処へやら、急に元気ハツラツになって、香里の手を引いていく潤。

 

祐一と別れたばかりの竜也とあゆに、新たな来客。

「竜也さ~ん!」

「へ…?」

ドンッ!

「おわぁっ!?」

背後から栞に抱きつかれ、バランスを崩して倒れてしまった。

「し、栞ちゃん!?」

隣でその様子を見ていたあゆは、黙っていない。

すぐに引き剥がそうとする。

「竜也くんから離れてよ~!」

「はっ…すみません」

すぐに離れる栞。

「どうしたの?」

「それが…」

栞は、竜也とあゆに一部始終を説明する。

「…と、言うわけなんです」

竜也が難しそうに首をかしげている

「う~ん…」

 

「安心しろ。お前の判断は間違っていない」

 

不意に声を掛けられる。

その方向を見ると、少し離れた場所に、オレンジの上着を着た若い占い師が居た。

占い師だと分かったのは、それを思わせるような机に商売道具等を並べて座っているからだ。

机の上にある紙の上で、糸に通したコインを揺らす。

「お前、姉の恋を実らせたいんだろ?」

「え、えぇ…」

「そのために取った行動が、悪影響を及ぼしてるんじゃないのかと考えているんだな?」

見事に当てる占い師。

先程の話を聞いていたのかとも考えたが、よく考えたら、それは距離的にありえない。

3人の話し声が聞こえるには、どんなに耳が良くても、今の距離の半分くらいは無いといけないはずだ。

「今、2人はデートに行っている。お前の姉が起こした行動だ。相手を気遣ってな。お前の行動が、きっかけを起こした」

「本当ですか!?」

栞の喜びと驚きに満ちた言葉に軽く笑い、こう言った。

 

「俺の占いは…当たる」

 

「わたし、見てきます!」

そう言って走り去った栞。

「あぁ…行っちゃった」

栞の姿が消えた後、竜也とあゆが占い師の居た方を向くと…。

 

占い師は最初からその場にいなかったように、消えていた。

 

「あ、見つけた!」

栞はデートに行きそうな場所を手当たり次第に探していると、遂に2人を見つけた。

「…それにしても遊園地なんて急すぎるし、子供っぽくないかしら?」

「んなわけあるかよ!香里といれば、何処だって楽しいぜ!」

2人は、街から少しはなれた遊園地に辿り着いた。

「もう…」

口では呆れたようだが、心は違う。自分をここまで想ってくれる潤に何よりも嬉しい気持ちになった。

「なぁ、香里。さっさと…」

潤が振り向いたとき…。

 

香里の唇が、潤の頬に触れた。

 

「早く行くわよ?」

そう言って、足早に歩いていく香里。

「…!?か、かかか香里ぃ!?」

さすがの潤も真っ赤。

しかし、彼の性なのか…。

「アンコール!もう一回お願いします、香里さぁぁん!」

彼女を追いかけていった。

 

2人をほほえましく見つめる栞を含めて、それを見ていた者がいた。

先ほどの占い師だ。

誰に言うことも無く、潤の未来を占っていた。

「北川潤…。これから凄まじい困難と苦しみを味わうことになるだろう」

先ほどと同じ言葉だが、次は悲しそうに言った。

「俺の占いは当たる…」

しかし、次は期待を持った様子でこう言う。

 

「だが、運命は変えられる。それが出来るかどうかは…お前次第だ」

 

これから降りかかる戦いの間の小さな安らぎのときである…。

 

彼らは、この安らぎを果てるまで続けられるようになるため、戦い続けるのだ…。

 

仮面ライダーとして…

 

そして人間として…。

 

 

 






キャスト


北川潤=仮面ライダーライア

美坂香里

美坂栞

水瀬名雪
沢渡真琴
相沢祐一=仮面ライダーナイト
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

若い占い師

月宮あゆ

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎


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「欲に忠実に…」

家で、学校での課題…いわゆる冬休みの宿題というものに取り組む久瀬。

最近の戦いの激化で放置していたのだ。

一人だけのつもりだったのだが…。

「…ん?何か違うような…」

「あはは~、それ違いますよ~。ここは、このページを参照にしてくださいね」

何故か、佐祐理が居る。

どうして、こうなったのかと言うと…。

 

その日の帰り道。

「そういえば、課題を放置したままだ…!」

何気なく思い出したこと。このままでは、提出物の評価が下がってしまう。いままで、何とか必死に勉強してきたのに、3年のこの時期に失敗することは痛手だ。

「おう、生徒会長!」「あ、久瀬先輩だ~」「久瀬さんだね」

そう言って現れたのは、潤と名雪とサトル。

「やぁ。どうしたんだ、珍しいチームだな」

「まぁ確かにおれと虎水は、全員が集まったとき以外に顔を合わせること少ないけど…」

そういえば、と久瀬は思い出した。

何故か潤とミツルが鉢合わせになり、よく喧嘩していることはあるが、サトルと潤が一緒にいるところはあまり見ない。

だが、どうでもいいことなので、置いておくことにした。

「で、久瀬さんは何をあせっていたの?」

「あぁ、課題だよ。ここ最近、放置したままでね」

「へぇ~…学生って大変だね」

サトルは中卒なので、その様な経験が無い。ちなみに竜也、ミツルも同様である。

「…聞いた」

と、背後から物静かな少女の声。

久瀬が振り向くと、舞がいた。

「生徒会長さん、佐祐理と勉強すると良い」

舞が何かを察したような発言をし、それに久瀬は少し戸惑う。

「い、いや、倉田さんは忙しいんじゃないでしょうか?」

「勉強すると良い」

…ゴリ押しである。

 

それで、なんだかんだ言いつつも…。

「はぇ~、佐祐理は頭悪いですよ?ね、舞」

「佐祐理は頭が良い…」

舞は佐祐理を呼んで、久瀬のことを話した。なぜか、今回の舞はかなりアクティブだ。

結局、久瀬は佐祐理と勉強することにした。

佐祐理は、3学年でも首席に到達しても、なんら不思議ではないほどの成績優秀者だ。

一方の久瀬も成績はかなり優秀。佐祐理と並ぶほどといっても良い。

そんな彼が一緒に勉強する人といえば、自然に佐祐理になるであろう。

「あはは~、なら行きましょう!」

そう言って、佐祐理は楽しそうに歩いていった。

舞は、その様子をじっと見つめて、久瀬に囁く。

「あとは…頑張って」

それだけ言うと、すぐにその場から立ち去った。

「佐祐理を悲しませたら…許さない」

なぜか、脅し文句のような一言を残した。

「本当にいいのだろうか、僕なんかと…」

 

「いいんじゃない?」

 

その言葉に振り向くと、弁護士バッジつきのスーツを着た30代ほどの男性と、少し無愛想にしている男性の2人組みが居た。

話しかけたのは、スーツの男性らしい。

「人ってのはさ、自分の欲に忠実にならないと面白くないのよ。さっきからお宅、全然自分の欲を出してない。そんな人生つまらないと思わない?」

久瀬は佐祐理のことが最近気になりつつある。だが、それは誰にも言っていない。舞は、なんとなく気付いているようだが、この初対面の男がなぜ、こんなにすらすらと自分のことを言っているのだろう…。

「は、はぁ…。というより、貴方は一体誰ですか?」

「ま、黒を白にするスーパー弁護士ってとこ?」

やはり弁護士のようだ。さらにかなりの自信家である事が、今の発言から伺える。

「俺にもさ、狙ってる人はいるよ。「令子さん」って言うんだけど、なかなか振り向いてくれなくてね。でも、しょっちゅう食事に誘ってるよ。お宅もさ、がんばんなよ。自分の欲を出さないと、時として人を悲しませることもあるのよ。ここ、重要ね」

それだけ言うと、手を振って後ろを向いて去っていった。

「ゴロちゃん、今日の夕食は、あっさりした懐石料理がいいな」

「分かりました。じゃあ、それに合う美味いもの買って帰りましょう」

「令子さん誘ってみようかな?薔薇の花を百万本。やっぱ男は薔薇でしょ。それに俺の角度「右斜め45度」が加われば、令子さんも落ちるかもね」

そんな会話を残して…。

「久瀬さ~ん!早く~!」

「あ、はい!」

遠くから呼ぶ佐祐理の声に返事をして、元の場所を向くと…。

 

弁護士の男とゴロちゃんと呼ばれた男は居なくなっていた。

 

一方、相変わらず探し物をしている竜也とあゆ。

「商店街以外の場所でなくしたのかも…」

「うぐぅ…思い出せないよぉ~」

彼女の記憶も頼りにならないので、手がかりはかなり少ない。

「竜也、あゆ」

舞が現れ、話しかけてきた。

「あ、舞さんこんにちは。どうしたの?」

あゆの質問に、先ほどのことを話す形で返答した。

「久瀬さんと佐祐理さんが…しらなかったなぁ…」

「わたしは、佐祐理に幸せになって欲しい。わたしに思いつくその手助けは、生徒会長さんと一緒に居るようにさせることだと思う」

「…そうだね、おれも舞さんに賛成。何が最善の方法かなんて分からないけど、なにか行動を起こすことが大切だと思うな」

 

そして、元の時間まで戻る。

順調に課題を終わらせているが、突然、佐祐理が久瀬に聞く。

「久瀬さん。最近、佐祐理の顔を、ちゃんと見てくれなくなってませんか?」

「ぼ、僕がですか…?」

「はい。門矢さんたちが来るちょっと前から、面と向かって話してるとき、すぐにそっぽを向いてますよね?」

心当たりはあった。

「何か悪いことしましたか…?佐祐理はバカですから、わからなくて…」

佐祐理は悲しそうにうつむいている。その様子から、泣いているようにも見えた。

「あ、いや、違うんです…。それは…」

久瀬にとって自分の行動は、彼女のことが気になりつつある故の反応であって、拒絶ではない。

あの弁護士の言葉を思い出した。

 

自分の欲を出さないと、時として人を悲しませることもあるのよ。ここ、重要ね。

 

まさに、今がその状況だった。

彼女を悲しませたくはない。

だから久瀬は、自分の思いを自分なりに言葉にした。

「その…。正直に言います。あなたのことが気になってました。だから、どうやって接したらいいのか分からなくなって…」

「…そう…だったんですか…」

佐祐理はその言葉を聞いて、安心と心が温かくなる感覚を覚えた。

今、目の前にいる人が自分にとって、どういう存在なのかも…。

「じゃあ、佐祐理は…」

「待ってください」

佐祐理の言葉を途中でとめる久瀬。

「この続きは、ちゃんとしたときに言いたいんです。だから、待っててくれませんか。きっと、僕はあなたに相応しい人間になります」

「はい…待ってます!」

 

これから降りかかる戦いの間の小さな安らぎのときである…。

 

彼らは、この安らぎを果てるまで続けられるようになるため、戦い続けるのだ…。

 

仮面ライダーとして…

 

そして人間として…。

 

 

 






キャスト


久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ

倉田佐祐理

川澄舞=仮面ライダーファム

北川潤=仮面ライダーライア
水瀬名雪
虎水サトル=仮面ライダータイガ

スーパー弁護士を名乗る男
ゴロちゃんと呼ばれた男

月宮あゆ

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎


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「英雄」

「本当に助かってます、サトル君。いつも買い物に付き合ってもらって」

「ううん、平気ですよ秋子さん。僕だって、何かお手伝いがしたいですから」

「ありがとね、サトちゃん」

夕方の買い物帰り。

買い物袋を抱えたサトルと、名雪、秋子の3人が並んで歩いている。その姿はまさに家族といえるだろう。

「あ、竜也君とあゆちゃん!」

名雪が嬉しそうに駆けてゆく。その先には、探し物をしている2人の少年と少女がいた。

「こんにちは、名雪さん!」

「見つからないよぉ…」

あゆは名雪に気付かず、未だに探し物の最中。

「まだ見つかりそうもない?」

「うん…。あゆの大事にしてた物みたいだから、絶対に見つけたいんだ。あゆも、あんなに必死になって探してるんだけど…」

竜也と名雪が会話している姿を見ていた秋子は、口に手を当てて、サトルにこう告げた。

「私、少し思い出した用事がありますから、先に帰りますね。名雪をお願いできますか?」

「はい。なゆちゃんは僕が責任を持ってつれて帰ります!」

「まぁ、頼もしい。じゃあ、よろしくお願いします」

少し微笑んだ後、秋子はその場を去った。

すると…。

 

「昔の事、思い出してみない?」

 

ふと聞こえる声。その方向を振り向くと、大学生くらいだろうか。小説を右手に持った青年がベンチに腰掛けていた。

その小説の名は、カフカの「変身」。

「何故、君が英雄になりたかったのか…知りたいな」

「え…?」

 

 

 

7年前のことである。

 

 

 

「もぉ…いやだ…」

1人で泣きじゃくる少年。

彼は、両親から愛情を、全くそそがれなかった。家に居れば常に両親から受ける虐待。外に出ても、誰一人彼を気にするものはいない。少年に居場所はなかった。

「僕は…どこに行けばいいの…?」

誰も答えてはくれなかった。

…今までは。

 

「雪、積もってるよ?」

 

そう言って話しかけてきたのは、青い髪を三つ編みに結んだ、同じ年頃の少女だった。

彼女の言葉で、自分の頭を手で触れると、少量の雪だったであろう冷たい水滴が手についた。

「…もしかして、泣いてたの?」

どんなに泣き虫であっても、女の子に涙を見せたくないのが男の子の意地。一生懸命、涙を拭いて返事をした。

「泣いてないよっ!」

「でも、目が赤いよ?」

涙は拭いても、その証拠までは隠し通せないのが悲しい。少女は簡単に見抜いた。

観念した少年は、何故泣いているのかを話した。

「…僕は、どこに行けば良いか分からない」

「お家に行けば良いと思うけど…迷子なの?」

「やだっ!家はやだ!君まで、そんな事言うの!?」

怒鳴り散らして、暴れる少年。

家には、彼の恐怖の対象が居る。戻るなどまっぴらごめんだろう。

「ご、ごめんね!…もしかして、もっと遊びたいの?」

困ったように謝る少女。落ち着いた少年を見て、彼女なりの考えを言ってみた。

「…そうすれば、どこに行けばいいか分かるかな…?」

少し不安そうだが、同時に期待を込めて聞く少年。

「うん、きっと!一緒にあそぼ!わたし水瀬名雪!あなたは?」

「虎水サトル…」

「じゃあ、サトちゃんだね!」

これがサトルと名雪の出会いだった。

 

「ねぇ、どう?雪ウサギ作ってみたの!」

「…かわいいね」

名雪が嬉しそうに雪ウサギを作って話しかけても、どこか虚ろな表情でかえすサトル。

「…えいっ!」

「うわっ!?」

雪を丸めて、サトルに投げつけた。

「…なんだよっ!」

ムキになったサトルは、名雪に雪玉を投げ返した。

「きゃっ!あは、雪合戦だよっ」

 

その日の夕方頃まで2人は遊びつくした。

「はぁ…はぁ…僕の勝ちだね…」

「う~…負けちゃった…」

雪玉をあてた数は圧倒的にサトルが勝っていた。

「…そろそろ夜になるね。サトちゃん、もうお家に帰る時間だよ?」

「家…?やだ、かえりたくない!かえったら、また叩かれる…」

サトルは、相変わらず家のことになると異常なほど拒絶するような様子を見せる。

「う~ん…。じゃあ、わたしのおうちにおいでよ!」

「え、でも…」

「ほら、いこ!」

 

その日、秋子はサトルを受け入れた。

「どうして、君のお母さんは優しいの?」

「だって…お母さんって優しいものだよ?」

名雪の言葉はサトルを無意識に苦しめる言葉となった。

「そうなんだ。羨ましいな…。僕のお母さんはいつも怒って、僕を殴るんだよ。お父さんも同じ。どうして、僕だけ…?」

「あ…」

幼い彼女にも、どういう事なのかは、分かってきた。

「じゃあ、わたしのお母さんが、サトちゃんのお母さんになればいいんだよ!」

「君…もしかして、バカなの?君のお母さんが、僕のお母さんになれるわけないよ!」

「了承」

ふと、声がしたほうを振り向くと、頬に手を当て微笑む秋子が立っていた。

「あなたの両親には、わたしから言っておきます。もしサトル君が良いのなら、わたし達の家族になってくれませんか?」

「僕は…いいのかな?」

「やった~!サトちゃん、今日からわたしの家族っ!」

こうして、サトルは水瀬家の家族の一員となった。

 

それから何日もたった。

サトルは随分と水瀬家に打ち解けられ、以前の暗い性格は明るく変わっていった。

「なゆちゃん、ごはんが出来たって!おきなよ!」

「うにゅ~…」

何気ない日々。サトルにはとても新鮮に感じられ、そして何よりも幸せだった。

 

だが…。

「ねぇ、サトちゃん。もうすぐね、わたしのいとこの祐一が来るって!」

「祐一…君?」

「うん、昔からよく遊んでいたけど、これからはずっとわたしの家に住むんだって!」

「そう…なんだ…」

サトルは彼女の様子を見て、何か孤独な感情を覚えた。

「名雪、サトル君、ご飯ですよ」

「あ、サトちゃん、ごはんだって!」

「…今日はいいよ。おなか減ってない」

その日の夜。

「なゆちゃん…祐一君のことが好きなんだ…」

彼女は祐一が来ることを何よりも嬉しそうに話していた。

嫉妬…なのだろうか。だが、それに抵抗するほど、その頃のサトルは強い感情を持っていなかった。

「そっか。僕のことを好きになってくれる人なんて、いないんだ。あはは…ははははは…」

静かな部屋で、サトルの乾いた笑い声と鼻をすするような音が響いていた。

 

サトルは、名雪達の前から去った。

いずれ、独りぼっちになるくらいなら、自分から消えたほうがいいと考えていたからだ。

だが、自分の家に戻るつもりはない。一人で生きることを決意した。

 

それから、6年ほど経ったある日。

サトルは、様々なところを放浪しながら、何とか生きてきた。死のうとしたことも何度かあったが、結局、恐怖が勝り、実行できなかった。

この日、彼は想像も出来ない出来事に巻き込まれる。

「ミイイイイイイィ!」

「ひっ、怪物!?」

目の前には、黄色いセミを模した異形「ソノラブーマ」が居た。

一瞬、逃げようとしたサトルだが…。

「ここで死ねばいいのか…。僕は自分で死ねないもんね」

あきらめたように、目を閉じたサトル。

ソノラブーマは好機と見たか、腕先の巨大な鉤爪でサトルに襲い掛かる。

…筈だった。

 

「ヌンッ!」

 

ドゴオオオオオオオオオォ!

「ギャアアアアアアアアァ!」

突如、目の前を黄金の光が包み込み、ソノラブーマは跡形もなく消えた。

悟るが恐る恐る目を開くと、そこには光り輝く影がいた。

「似ている…。英雄になりたくはないか?皆に愛される英雄に」

「…英雄?」

 

英雄。

 

その言葉に、サトルは異常なほど心地よさを感じた。

「みんなに好きになってもらいたい…。英雄に…なりたい!」

その瞬間、目の前に青い長方形の物体が投げつけられた。

カードデッキだ。

「使え。英雄に近づくための武器だ」

そのカードデッキをゆっくりと掴む。

 

英雄になるために…。

 

「変身っ!」

 

 

 

話は、今の時間へと戻る。

「それで…。今もなりたい?」

そう問いかける青年。

竜也と話している名雪を見ながら、笑顔で返した。

「…ううん。僕は英雄になりたいんじゃなくて、なゆちゃんに好きになってもらいたかった。だから…」

「へぇ…。なら、大丈夫だね。英雄ってさ、なろうとした瞬間にアウトらしいからね」

「うんっ!…って、あれ?」

強く頷きながら、振り返ると…。

 

あの青年はいなくなっていた。

 

「よう虎水。名雪と一緒か?」

祐一と真琴、さらにミツルも居た。

真琴はおなかを押さえ、元気がない様に呟く。

「あうぅ…」

「真琴が腹をすかせているんだ。そろそろ竜也とあゆを呼び戻す。竜也しか、家で料理できる奴はいないからな」

「おれも腹へってさ。名雪と虎水が居ないと晩飯が食えないんだ」

今は、みんなが自分のことを大切にしてくれている。

彼は、なるつもりはなかっただろうが、いつの間にか「英雄」になっていた。

「じゃあ、かえろ。僕たちの家に!」

 

これから降りかかる戦いの間の小さな安らぎのときである…。

 

彼らは、この安らぎを果てるまで続けられるようになるため、戦い続けるのだ…。

 

仮面ライダーとして…

 

そして人間として…。

 

 





キャスト


虎水サトル=仮面ライダータイガ

水瀬名雪

水瀬秋子

沢渡真琴
斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー
相沢祐一=仮面ライダーナイト

金色の影(仮面ライダーオーディン)

小説を読む青年

月宮あゆ

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎


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「春が来たら…」

「てぇあぁ!」「だあああああああああああああぁ!」

ドガアアアアアアァ!

凄まじい爆発。その理由は、龍騎とインペラーにあった。

たった今、モンスターを倒したところなのだ。

ちょうど、サトルたちと別れた後に遭遇したのだが、仮面ライダーに休み無しとは、よく言ったものだ。

「よっし!」

2人は変身を解き、ミツルと竜也の姿に戻った。

「平気だった?」「あうぅ…」

物陰で見守っていた真琴とあゆが近づいてきた。

「大丈夫、これくらいなんとも無いよ」「まさか、おれ達があんなモンスターに苦戦するとでも?」

「よかったぁ…」「あぅっ…!」

あゆは2人の反応を見て安堵し、真琴はミツルに飛びついた。

「ったく、いつまでも子供のつもりか?」「あぅ…?」

飛びついた真琴をうっとうしそうに押しのけるミツルだが、それは本意ではない。彼女の自立をほんの少しでも導くためなのだ。

ただ、真琴はそのことが分からないため、少しだけ不安げな眼差しでミツルを見る。

少しいたずらげな笑みを浮かべて、ボソッと呟くあゆ。

「ミツルさん、真琴ちゃんにメロメロのくせに…」

「そうだ。悪いか?」

「あ、あれ?」

あゆは、ミツルの隠している本音を暴くつもりだったのだが、意外にも慌てふためくことはせず、さらりと本音を述べるミツル。

「おれは自分の感情を押し殺すことは苦手だし、真琴もおれの事を好きでいてくれる。おれが隠す必要があるとでも思ったか?」

「うぐぅ…参りました…」

ぺこりと頭を下げ、謝るあゆ。それを見ていたミツルは仕返しを開始した。

「おまえは隠しているだろうな。おれよりも感情を押し殺すことは上手いようだしな」

「え…な、なんのことかな?」

ミツルの振りに、冷や汗を一筋たらすあゆ。

 

「いやぁ、羨ましいなぁ~!初々しいなぁ~!」

 

近づいてくる声。

振り返ると、警備員らしき青年が屈託の無い笑顔で歩み寄ってきた。中くらいの大きさのダンボールを抱えている。

「若い少年と少女の恋!あこがれるなぁ~!」

「なんだ貴様?」「ミツル、失礼だって!」

少し怪しむミツル。

「あぁ、ゴメンゴメン。名乗りたいんだけどね、名詞忘れちゃってさ。まぁ、ここは偶然、出会ったイケメン警備員ってことで!」

随分とフレンドリーな警備員である。

「ところでさ、そこの君」

そう言って、警備員はミツルを指差す。

「なんだ?」

「お宅さ、いろいろ吹っ切れたんだ。昔は自分の願いにだけ執着して、周りを見てなかったみたいだけど、今は目の前のこと以外にも見えてるんだね。教えたいことが色々あったんだけど、君に関しては大丈夫そうだな。自分の本当の願いが叶ったとき、残った叶えるための力を正しく使えている。俺も「百合絵さん」って婚約者がいてね。彼女と出会えたとき、残された力を上手く使えなかった…」

「わけが分からん…」

彼はどうやらミツルに伝えたいことがあったらしいが、今はその必要はなくなったらしい。

「そうだ。教える代わりに、この子、貰ってくれない?周りの住民がうるさくてさ。保健所に引き渡すのも可哀想でね」

ダンボールをあけると、そこには小さな猫がいた。

「ウニャ~」

「あ、たい焼きつまみ食いしてた、猫ちゃん!」

「うそ!?」

覚えているだろうか。第2話であゆが竜也に伝えたことを…。

 

「たい焼き屋さんでたい焼きを買ったんだ…。でも、お金がないことに気がついて…」

「そのとき、猫(・)ちゃんがやって来て、置いてたたい焼きをつまみ食いしようとしてたの…。そしたら、おじさんがものすごい怒って、それで怖くなって…」

 

その猫がこれなのだ。

「泥棒する猫を、おれ達が飼えって言うのか?」

呆れ口調で言うミツル。

「あうぅ…!」

突然、真琴が首を振り、猫を抱きかかえる。少しだけ上目遣いになり、涙を目に溜めてミツルを見つめる。

「くっ…。竜也、家にこいつを飼えるスペースの余裕あるか? エサ代諸々は、おれが払う」

「おれは良いよ。それにエサ代とかだって、おれもちょっとは出すよ。家族がまた増えるなんて、嬉しいからね。あゆは?」

「ボクも賛成!」

満場一致。この猫は竜也の家に住むことになりそうだ。

「助かったよ。じゃ、後よろしく!あ、最後に言っとくよ。大切なのは願いを叶えるまでじゃなくて、叶えたあと」

「まったく…。猫を押しつけやがって…ん?」

猫をチラリと見た後、警備員のいた方向を見ると。

 

彼は消えていた。

 

「どこ行ったんだろ?」「逃げ足だけは速いらしいな…」

「この前の占い師の人と言い、最近は急に消える人が多いね」

警備員のことはさほど不思議に思ってはおらず、早速、猫の名前決めが始まる。

「こいつ、名前どうする?」

「あうぅ…」

真琴が地面の砂で文字を書き始めた。

 

‘’ピロ’’

 

それを書くと、ミツルの腕に抱きつく。

「ピロ…それでいくか。名前決めに時間かけることも面倒だしな。異論はあるか?」

「ピロ、良い名前貰ったね!」「よろしく、ピロ!」

 

「みんなぁ!」

 

遠くから2人を呼ぶ声がする。

名雪とサトル、そして久瀬だった。

「さっき、爆発がきこえたんだが…」

「遅いぞ久瀬。もうおれと竜也で片付けた」「ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」

「そ、そうか…。とりあえずは安心したよ」

ミツルと竜也の言葉で安堵する久瀬。

「わぁ、猫だぁ!」「な、なゆちゃん!猫アレルギーでしょ!?」

名雪は、真琴が抱いているピロを見た途端、大好きなものを見つけたかのように近寄ろうとする。

しかし彼女は、猫に触れると涙や鼻水が出てしまう、いわゆる猫アレルギーなのだ。そのことを知っているサトルは、何とか引き離そうとする。

「ピロって言うんだよ。あ、今からピロの世話道具を買いにいかないと…。ミツル、真琴ちゃん、先に帰って、ピロと遊んであげて。久瀬さん、あゆ、手伝ってくれる?」

「あぁ、構わないよ」「うん、いいよ!」

そう言って、3人は街へと戻っていった。

「そういえば、クリスマスが近いね。なにか、計画してみようかなぁ…」

ふと独り言を呟きながら、竜也は歩いていった。

 

名雪とサトルと別れ、帰り時の途中。

「そういえば真琴。おまえ最近、マンガをよく読むな」

ミツルがそういったのは、ときより書店に立ち寄ったとき、真琴はよく少女マンガを立ち読みしている姿を見るからだ。

「あうぅ…」

ミツルの初任給で買い与えたマンガがあるのだが、それを真琴は肌身離さず持っている。

ページをめくり、一つの単語を指差す。

 

結婚

 

少女マンガではよくある話なのだが、彼女はこれをずっと見ていたらしい。先ほどの警備員が言った婚約者等の話も、真琴はかなり聞いていたような気がする。

「結婚か…」

真琴は以前、ミツルと一度別れる前のときに、高熱を出していた。そのとき、おぼろげに彼女が自分と結婚をしたいと呟いていたことをふと思い出した。

 

「あうぅ…くるしい…」

「しっかりしろ。いたずらを成功させるんだろ?」

「ミツルぅ…そばにいてくれる?」

「…」

そのときのミツルは復讐に燃えており、自分と一緒に居れば、彼女を巻き込んでしまう。そのことは良く思っていなかった。

だから、その答えは出せなかった。

「そうだ…結婚…。結婚したら、ずっと…一緒なんだよね?」

彼女はミツルと、どうしても一緒にいたかった。

だから、彼女が知っている大好きな人とずっと一緒にいることの出来る唯一の方法を、口にした。

「…春が来たらな」

真琴を悲しませないための嘘だった。

その言葉を嬉しそうな表情で受け止めた。

「そうだね…春が来て…結婚して…ずっと春だったらいいのに…」

 

だが、今は違う。

「…大丈夫だ。結婚なんてしなくても、おれがおまえを離さない。でも…おれにおまえを絶対に守ることの出来る自身が着いたら…」

一呼吸置いて、真琴と正面を向いて言う。

「真琴、結婚してくれ」

今までの中で、これ以上無いほど幸せそうな表情で頷く真琴。

「あ…ぃあぁ…と…」

かすれるような声だったが「ありがとう」と言った事は分かる。

「こっちこそありがとな」

 

「ふふ、盗み聞きは無粋と思いましたが、聞かせていただきました」

「天野…!?」

物陰から、美汐が現れた。

「あうぅ…」

真琴も恥ずかしいらしく、顔を真っ赤にしてミツルの後ろに隠れる。

「わたし、2人の婚約の証人にさせていただきますね」

「…くえない奴だな。さて帰るか。竜也とあゆも帰ってきたら、一緒に飯を喰うぞ。天野もどうだ?」

美汐がニコニコしているのが気に食わないのか、ぶっきらぼうに言い捨て、歩き去ってしまったミツル。

真琴は美汐の腕を引っ張り、彼を追いかけた。

「大丈夫ですよ。あの人はとても優しい人ですから…」

 

これから降りかかる戦いの間の小さな安らぎのときである…。

 

彼らは、この安らぎを果てるまで続けられるようになるため、戦い続けるのだ…。

 

仮面ライダーとして…

 

そして人間として…。

 

 





キャスト

斉藤ミツル=仮面ライダーインペラー

沢渡真琴

天野美汐

虎水サトル=仮面ライダータイガ
水瀬名雪
久瀬シュウイチ=仮面ライダーゾルダ

警備員

月宮あゆ

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎


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序曲 ~EPISODE Kanon First~
「再臨」


 

「はぁっ…!はぁっ…!」

少年が死に物狂いで走っている。

彼は、ある青年に託された。

 

「ここで、正しい心を持った仮面ライダーを潰えさせては駄目だ。お前なら正しい心を持って戦えると信じている。仮面ライダー龍騎になって戦え!そして、お前が本当に信頼できる仲間に他のデッキを託して、共に人々を救え!」

 

「僕が継がないと…そうしなきゃ!」

少年…竜也はひたすら走る。

すると…。

 

キィィン…キィィン…

 

「な…!これが、モンスターの気配!?」

突如、耳鳴りのような音が聞こえる。

モンスターの接近音だが、これを聞くのは初めてだ。

「グウウウゥ!」

現れたシアゴーストの群れ。恐らく、追っ手だろう。

辺りを囲うように立ち塞がり、逃げ場はないように思える。

…と思ったが、よく観察すると、何とか抜けられそうな隙間がある。

ここから逃げ出そう。今は、逃げなくては。

だが…。

「…そうだ。逃げてたら、真司さんと、また会えない…!人を…守れない!」

意を決する。

この選択が例え修羅の道になるとしても。

竜也は決めた。

「…っ!」

青年…城戸真司から託されたモノであるカードデッキを、モンスターに見せるように突き出す。

使い方は熟知している。

彼のイメージどおり、腰に白銀のベルト、Vバックルが装着される。

右手を平たく斜め上に突き出し、大きく叫ぶ。

「変身っ!」

そして、カードデッキをVバックルに装填する。

すると、竜也の周りに幾つもの虚像が現れ、眩い光と共に彼を包み込む。

そこには、竜也の姿は無かった。…いや、姿を変えたのだ。

 

仮面ライダー龍騎へと…。

 

「しゃあっ!」

かつて城戸真司が意気込んでいたように、彼も意気込み、モンスターに向かって走り出す。

「だあぁっ!」

ドガァッ!

「グゥウウ!?」

自分の力とは思えなかった。

まるで、小石が遠くへ飛ぶように、シアゴーストは吹き飛ばされた。

「これが…仮面ライダー龍騎…」

両手を見つめて、改めてその力の凄まじさを実感する。

だが、敵は怯まず次々と襲い掛かってくる。

「…なら!」

デッキからアドベントカードを引く。そこには、青龍刀が描かれている。

左手にあるドラグバイザーに挿入し、セットするベントインを行なった。

<SWORD VENT>

右手にカードに描かれていたドラグセイバーが現れた。

「はあぁっ!」

ザンッ!

「グゲェアウ!」

襲い掛かってきたシアゴーストに向かって、それを思い切り振り下ろす。

少し抵抗があったが、結局あっさりと強固なシアゴーストの皮膚は切り裂かれた。

地面に倒れ、もがき苦しむシアゴースト。

その光景を見て、龍騎に一つの言葉がよぎる。

 

モンスターも生きているんじゃないのか…?

 

そう、モンスターには凶暴性しかないものの、確かに生命体ではある。

人を守ると言うことも、究極は命を守ると言うことだ。

ならば…たとえ、人の命を奪う存在だとしても、彼らの命を奪うことは、許される行為なのか?

さっきまで決めていたはずの決意は、早くも揺らぎ始めた。

 

ズガァ!

「ぐあぁ!?」

自問自答している間に、背後から攻撃を受ける龍騎。

スーツ越しだからと言って、その攻撃のダメージ全てを防ぐことが出来るわけではない。

もちろん、怪我もするし、痛みも伴う。戦うとは、こういうことなのだ。

苦痛を体験して、再確認するとは皮肉だった。

ただ、そこで立ち止まるわけにはいかない。

…とは言え、今の彼にこれ以上の攻撃は出来なかった。

「ガアアアアアアアアアアァ!」

「ドラグレッダー!?」

ドガアアアアアアアァ!

「グウウゥ!?」「グゥエェ!」

突如、契約モンスターである、無双龍ドラグレッダーが龍騎のもとに現れ、シアゴーストを薙ぎ払った。

「ドラグレッダー、ここから逃げるから手を貸して!」

龍騎はドラグレッダーの背中に飛び乗り、そのまま、大空へと飛んでいく。

ドラグレッダーが守っていたはずの城戸真司のことが脳裏をよぎったが、今の彼にはどうすることも出来なかった。

 

大空を舞うドラグレッダーの背中は、何故か心地よかった。

少しずつ、睡魔が襲う。

そのまま、紅い龍の背中に身を預け、変身を解いた竜也は意識を闇の中に落とした。

 

 

 

 

 

夢…。

 

夢を見ている…。

 

毎日見ている夢。

 

終わりのない夢。

 

赤い雪、赤く染まった世界。

 

夕焼け空を覆うように、小さな子供が泣いていた。

 

せめて、流れる涙をぬぐいたかった。

 

だけど、手は動かなくて。

 

頬を伝う涙は、雪に吸い込まれて。

 

見ていることしかできなくて、悔しくて、悲しくて…。

 

大丈夫だから…。

 

だから泣かないで。

 

約束だから…。

 

それは誰の言葉だったろう…夢は別の色に染まっていく。

 

 

 

夢の中にいる竜也。

これは…何の夢なのだろう…?

何気なく、外に出ていた自分。鼻を啜り、寒さに身震いする。

その姿は、7年前の姿だった。

「…?」

背中に何かぶつかった感触があった。振り向くと、同い年くらいの少女が、泣きじゃくっていた。

「うぐぅ~…」

「な、なんだ?」

いきなり目の前に現れた、泣きじゃくる少女に対して、竜也は困り果てる。この場合、どうすればいいのだろう…。

必死に考え、思いついたアイデアは、名前を聞くことだった。

我ながら、捻りのないアイデアだと落胆しつつ聞いた。

少女を怯えさせないように、穏やかな表情を見せることも忘れない。

「とりあえず、名前を教えて…?僕は龍崎竜也」

「ぐすっ…あゆ…」

なんとか、名前は名乗ってくれた。だが、苗字が分からない。改めて聞く。

「えっと…苗字は?」

「あ、あゆぅ…」

…あゆ?

名前があゆで、苗字もあゆ。

ということは…。

「…じゃあ、あゆあゆなの?」

「ち、ちがうよぉ…」

あゆと名乗る少女は、身を揺すって否定する。その表情に悲しさが、さらに浮き出た。

「じゃあ、苗字は…?」

「…ぐすっ」

何故か答えてくれない。聞かない方がいいのだろうか…?

「う~ん…」

首を捻って、これからどうするか考えていると、周りの人からヒソヒソと話し声が聞こえた。

「なに、いじめられてるの?」「あぁ~あ、かわいそうに…」

不味い、勘違いされている。

「よ、よし、場所変えて、話し聞かせて、あゆ!」

「うぐぅ…」

あゆの手を引いて、走り出した。

 

 

 

そして、夜は明けていく…。

 

 

 

「…?」

目を覚ますと、そこは何処かの事務室のようだ。

「大丈夫?」「あ、起きた!」

「驚いたよ。まさか、あんなところに倒れてるんだからな」

話しかけてきたのは、一人の男性と、竜也のことを興味深そうに覗き込む、メガネをかけた奇抜な髪型の女性と、いかにも今時と思わせるようなファッションに身を包んだ女性。

遠くには、仕事に生きる姿を体現したような女性が、パソコンに向かっている様子も伺えた。

「あぁ、安心しろ。ここは怪しくて、おっかないとこじゃねぇよ」

二カッと笑う男性。悪い人達ではないようだ。少なくとも、竜也にはそう思えた。

「自己紹介がまだだったな。俺は、この情報配信社「OREジャーナル」編集長、大久保大介」

「あたしは浅野めぐみ!「めぐみ」って呼んで!」

「あっちに居るのは、桃井令子。ここに運んでくるとき、手伝ってくれたんだよ」

「私は島田奈々子。君は?」

3人が、パソコンに向かっている「桃井令子」を含めて自己紹介をしてくれたので、自分も自己紹介した。

実はこの令子、後に久瀬に話しかけた「スーパー弁護士を名乗る男」がアプローチしている女性なのだ。

だが、それを知る術は、今の竜也にはない。

「あ、僕は龍崎竜也です。助けていただいて、ありがとうございます」

「竜也って言うのか」

名乗ってくれたことに喜んでいるのか、竜也の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「お前、なにか背負ってるな?」

「えっ?」

大久保の突然の質問に、竜也はうろたえる。しかも、的中しているから尚更だ。

「昔な。ここに、おまえとよぉ~く似たヤツが来たときがあってな。名前も顔も知らないヤツなんだけど、初対面なのに俺や令子達のことを知ってるように接した。そいつも、何か重いモン背負ってる気がしてよ」

大久保編集長の脳裏によぎる、その青年。

 

…それが竜也の「誰よりも尊敬する人物」だと、誰が予想できたであろうか…。

 

「結局たった一日で、ソイツは居なくなっちまった。ソイツと同じ顔してるんだよ、お前。何があったか知らないけど、気負い過ぎんなよ?」

もう一度、ニカッと笑う大久保。

「…僕、わかんないんです。助けたい人がいて…でも助けようとすると、別の人を犠牲にしなくちゃいけなくなるんです。…どっちも犠牲にしたくないとき…どうしたら…っ!」

「アッハハハハハハハハハ!」

言い続ける言葉を遮るように、大久保が大口を上げて笑い出した。

突然のことに、竜也はビクッと驚く。

「上等だよ、コンニャロ!良いんだよ、答えなんか分かんなくて!考えてんだろ、その出来の悪そうな頭で。それだけで十分じゃないのか?…俺はそう思うぜ?」

「大久保さん…」

次に大久保編集長は真面目な表情になって、竜也の肩に手を置く。

「ただしだ。何が分からないかは良いが、そのなかにお前の選択肢も、ちゃんと入れとけよ?」

「僕の選択肢…?」

 

「…お前が信じるモノだよ。お前も心の中に「芯」がないと、話し合いにもならないし、誰もお前の話なんか聞いてくれない。…な?」

 

「僕の…信じるモノ…」

竜也の中に何かが生まれようとしていた。

今まで興味がなさそうにしていた令子だが、後姿の竜也を見て、優しく微笑んだ。

それは、めぐみと奈々子も同様だ。

 

キィィン…キィィン…

 

「…大久保さん、それに令子さん、めぐみさん、奈々子さん、ありがとうございました!」

そういい残して、外へ飛び出した竜也。

自分の「芯」を強く持ち直し、あらためて戦いの場へと赴くために…。

 

 

 

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

あゆ

桃井令子
島田奈々子
浅野めぐみ

大久保大介

城戸真司=仮面ライダー龍騎(初代)


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「異形」

あれから6ヵ月後。

竜也は、NoMenに召集され、城戸真司のスクーターを使って、指定された場所に呼び出された。

本部はあるらしいが、実際の場所は知らない。

指定された場所は、人が集まりそうにない、静かな空き地のような場所だった。

そこには、2人の男性…香川ヒロユキと仲村ソウイチの姿があった。

城戸真司と離れて以来、会うのは初めてだった。

「…おや、城戸真司さんの姿が見えませんね?」

もちろん、そのことを香川は知らない。気になった言葉に、竜也は苦虫を噛み潰すような表情で答えた。

「…何処にいるか分かりません。おれにこのデッキを託して…」

手元にあるのは龍騎のデッキと装着者のいない4枚のデッキ。

後の仮面ライダーナイト、仮面ライダーファム、仮面ライダーライア、仮面ライダーゾルダの変身者に受け継がれるものだ。

仲村は、それを見て合点がいった様子で言う。

「では、今は貴方が仮面ライダー龍騎ですか。手続きは私共の方で済ませておきましょう。これからも変わりなく、報酬を定期的に渡します」

「ありがとうございます」

「…そのデッキ、私達に預けるつもりはありませんか?」

香川が少し興味を示す。

何を隠そう、彼は科学者。未知の技術が込められた塊に興味を示すことは、至極、当たり前のことなのだ。

「それはできません…。真司さんから「心から信頼できる人に渡して、共に戦え」って言ってましたから…」

「我々が信用できないと?」

「違います。「共に戦う」ってことです。…仮面ライダーになるってことは、自分が思っていたことより辛いことでしたから…」

そう言ってスクーターにまたがり、走り去った。

 

「…やはり信用できないのですね。まぁ、私も「仮面ライダー」など、微塵も信用していないのですが」

 

 

 

 

 

夢…。

 

夢を見ている…。

 

毎日見ている夢。

 

終わりのない夢。

 

赤い雪、赤く染まった世界。

 

夕焼け空を覆うように、小さな子供が泣いていた。

 

せめて、流れる涙をぬぐいたかった。

 

だけど、手は動かなくて。

 

頬を伝う涙は、雪に吸い込まれて。

 

見ていることしかできなくて、悔しくて、悲しくて…。

 

大丈夫だから…。

 

だから泣かないで。

 

約束だから…。

 

それは誰の言葉だったろう…夢は別の色に染まっていく。

 

 

 

夢の中。

「えっと…なんで泣いてたの?」

あゆがようやく落ち着きを取り戻したので、理由を聞いてみた。

「おかあさんが…居なくなったの。もう、二度と会えないの…」

…幼い竜也にもどういう意味か、一瞬判断に迷ったが、今はちゃんと理解した。

だから、どう声をかければいいのかがわからない。

 

くぅ~…

 

泣いていて赤かった顔がさらに赤くなり、うつむくあゆ。

「もしかして…おなか減ったの?」

無言でこくりと頷く。

「…ちょっと待ってて!」

 

それから数分後。

「はい!」

竜也は手に紙袋を持ってきて、その中からあるものを渡した。

「…たいやき?」

「うん、近くで売っててさ。食べなよ!」

おずおずと、あゆはたいやきを頬張る。

「おいしい?」

「…甘いけど、ちょっとしょっぱい…」

不思議そうな顔をして言う。竜也はあゆの頬を見て意味を理解する。

「泣いてるからだよ。泣かなかったら、きっと甘くておいしいはずだよ!」

「そうなのかな…?」

「そうだよ!だから、笑って?…僕も笑うから!」

 

 

 

そして、夜は明けてゆく…。

 

 

 

 

 

 

 

さらに一週間が過ぎた。

時期は夏。

暑さで渇いた喉を潤すために、喫茶店に入った。

 

その名は「花鶏」。

 

「すいません、アイスコーヒーください」

店内で注文するが、店主らしき女性はきっぱりと返す。

「コーヒーは無い。紅茶だけ」

「あ…あの、じゃあそれのアイスティー…ですか?それください…」

ちょっと、怖気づきながらも改めて注文する。

「はい!」

ウエイトレスだろうか。同い年くらいの少女が、元気に返事をしてアイスティーの準備を始めた。

「いい娘でしょ」

「え?あ、はい…」

突如、先ほどのウエイトレスについて、店主の女性から話しかけられたので、戸惑いつつも返事をする。

「よく似てるのよ。あの写真の娘に」

顎でさす先には、コルクボードに数枚の写真が貼り付けられ、どの写真にも2人の少年と少女が写っていた。

「優衣って言ってね、アタシの姪っ子。もう一人は、その兄の士郎。優衣はこの世に居ないし、士郎も行方不明だけど」

「あの…なんかすいません」

竜也が申し訳なさそうに謝ると、店主は豪快に笑う。

「いいのよ!アタシがペラペラ喋ったことだからね!…そうそう、さっきの娘!優衣によく似てるだろう?」

「…そうですね。いわれてみれば」

実際は、写真よりも大きいが、雰囲気などは結構酷似している。生き写しとまでは行かないが。

「偶然にも「ユイ」って言ってね。あの娘も身寄りが無くて、アタシが引き取ったの。苗字も無かったから、アタシの家の苗字を使ってるわ。あ、アタシは「神崎沙奈子」って言うのよ」

ユイの紹介ついでに自分の名前も名乗った沙奈子。

「おまたせしました、アイスティーです!」「ありがとうございます」

ちょうど、ユイがアイスティーを持ってきた。

「あ、ちょうど良かった。ユイ、このお兄さんとお話したら?同い年のお友達が欲しいって言ってたでしょ?」

「え、でも…」

「そうそう、アタシこれから「アマゾン同好会」に行かなくちゃならないの。悪いけど2人で店番頼めない?」

「ぼ、僕、客ですよ?…信用できないでしょう?」

「大丈夫、アタシの勘に間違いは無いわ!じゃあ頼むわね!」

かなり強引に物事を進める沙奈子。肝っ玉の雰囲気が身についている女性だと、竜也は感じた。

そう感じていると、すぐさま沙奈子は店から去っていった。

「えっと…ユイさん、ですよね?」

「はい!よろしくお願いします!あと、ごめんなさい、沙奈子おばさんが余計な事言って…」

元気さが取り柄と言った雰囲気だ。しかし、謝るときはすこし、しおれてしまう娘と言う印象を受けた。

「そんなことありませんよ。僕は龍崎竜也です、よろしくお願いします」

ユイに対して嫌悪感は無く、自然な会話は出来た。

ただ、これ以上関わってはいけないようにも感じた。

 

なぜなら、自分は仮面ライダー龍騎だから。

 

「竜也さんですね!…えっと、この近くに住んでるんですか?」

「あ、いや。僕はずっと遠くに住んでいて、今は色んな所を転々としながら生活してます。だから、友達もあまり多くはなくて…」

それを聞いたユイは聞いてはいけないことを聞いたのかと思い、すこし申し訳なさそうに言った。

「あ、えっと…ごめんなさい」

「ユイさんは悪くないですよ。僕は…」

 

キィィン…キィィン…

 

「っ!?」「竜也さん?」

突如、モンスターの接近音が聞こえ、竜也の表情は自然と険しくなる。

「キィィィ!」

「きゃあぁっ!?」

花鶏の中に、猿型モンスター「デッドリマー」が侵入する。

「やだっ!来ないで!来ないでよ!」

ユイは取り乱し、壁際に逃げる。

「こっちです!」

竜也はユイの手をとって、花鶏を飛び出す。

 

かなり走った後、2人は地面に座り込んで荒い息遣いをしつつ会話する。

「はぁ…はぁ…ごめんなさい、急に驚いて…」

「いや…良いですよ。あんなの見たら、ビックリしますよね…」

竜也の言葉に、首を振るユイ。

「わたしに身寄りが無いって話、沙奈子おばさんから聞きましたよね?…わたしのお父さんとお母さん、あの怪物に殺されたんです」

「そんな…」

モンスターが呼ぶ悲劇は、こんなところにまで来ていた。その事実に竜也は絶望した。

「そのときの事が、頭から離れなくて…」

再び、顔を伏せるユイ。

竜也は、彼女の気持ちを何とか拭いたかった。

「…僕が行ってきます。あなたは、ここでじっとしていてください!」

「た、竜也さん!?」

 

「あれか…!」

走りついた先には、デッドリマーが暴れていた。

竜也に気付いたデッドリマーは、手に持っていた銃型の武器を構える。

「キィィィ…!」

「僕は戦う!倒すためじゃない。おまえ達のために傷ついた人達の苦しみを取り除く!それが僕の戦う意味だ!」

決意を胸に、デッキを構える。

「変身っ!」

現れたのは、一人の戦士。城戸真司の願いを受け継いだ、決意の紅い騎士。

 

「しゃあっ!」

 

「竜也さん…!」

その姿をユイが見ていた事を龍騎は知らない。

 

「くっ…」

決意したとは言え、戦う事に躊躇する気持ちがなくなったわけではない。

「はああああああああああああぁ!」

それでも心の迷いを必死に振り払い、目の前のモンスターに、思い切り拳を突き立てる。

ドガアァ!

「ギャアアァ!」

「ひっ!?」

吹き飛ばされた先には、ユイがいた。

デッドリマーは、ユイに目を向け、新たに狙いを定める。

「グウウウウゥ!」

デッドリマーが掴みかかり、ユイは錯乱する。

異形に殺されるかもしれない恐怖で正常な意識が働かなかったのだろう。

「ゆ、ユイさんっ!?」

「きゃあっ!離してっ、助けてええええぇ!」

ユイを救うべく、デッドリマーを突き飛ばす。

「はあっ!」

「グギァ!?」

デッドリマーと距離を置き、ユイに近寄る龍騎。

「大丈夫ですか!?」

手を差し伸べるが…。

 

「いやっ!こ、来ないでバケモノ!」

 

「ち、違います!僕は、あなたを守ろうと…」

「いや…いやあああああああああああぁ!」

なんとか弁解しようとしたものの、話は全く聞いてもらえず、彼女は走り去ってしまった。

「どうして…?僕は、守りたいだけなのに…。こんなことなら…いっそ…」

悲しかった。

人のために戦っていたつもりなのに、その人から拒絶される。

 

「キィィィ!」

立ち上がったデッドリマーは、ユイに銃口を向ける。

「っ!?ユイさん、避けて!」

 

ダァン!

 

間に合わなかった。

「…あぁ…かはっ…」

鮮血を噴出しながら、ゆっくりと地面に倒れ伏すユイ。

「ユイさんっ!ユイさんっ!」

龍騎は駆け寄り、必死に抱き起こすが…。

彼女の口から漏れた言葉は、残酷だった。

 

「…い…や…バ…ケ…モノ…」

 

それが最後の言葉だった。

「…ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!!!!!!!」

頭の中がぐるぐる回る。凄まじい頭痛が襲い、意識を自然と手放してしまった。

 

 

 

 

気がつくと、目の前には肉塊となったデッドリマーだったであろうモノが散らばっていた。

「ガアアアアアアアアアアアァ!」

それをドラグレッダーが捕食している。

こうする事によって、モンスターとライダーの契約は果たされていくのだ。

 

 

あの日、城戸真司が言っていた事がなんとなく分かった。

 

「竜也。仮面ライダーになる事は、ただ人を守る存在になるだけじゃない…」

 

 

 

 

「僕は…バケモノ…もう…人間じゃないんだ…」

 

 

 





キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

あゆ

神崎ユイ
神崎沙奈子

香川ヒロユキ
仲村ソウイチ

城戸真司=仮面ライダー龍騎(初代)


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「故郷へ…」

 

ユイと沙奈子との出会いから5ヶ月。季節はすっかり冬になった。

竜也が城戸真司からデッキを受け継いで、もう1年近くが経とうとしている。

あれ以来、竜也は人と関わる事を、自然と避けていた。

だが、ひとたびモンスターの気配を聞き取ると、その場へ赴く。

モンスターはある程度のダメージを負わせて、追い払うのみ。

無意識のうちにデッドリマーを惨殺したとき以外、未だモンスターを自分の手で倒した事はない。

そこでモンスターと対峙したら、幾度か、人から避難の言葉を受けた。

 

「テメェがいるから、あのバケモンが来るんだろ!?」「あなた自身、バケモノじゃないの!?」

 

必要以上の中傷を受ければ、自分の心が壊れてしまいそうだった。だから人とは基本的に関わらないつもりだ。

しかし…。

「この期に及んで、まだ迷っているのか僕は…」

情けなかった。いくら、人と関わらず生きようと思っても、心の奥底で寂しさが募る。

もともと竜也は、寂しがりな性格だった。

それが急に、孤独に生きようとするほうが無理のある話だ。

 

キィィン…キィィン…

 

「…またか」

それでも向かう。ただ仮面ライダー龍騎としての使命を果たすために…。

 

「グウゥゥ!」

シアゴーストの群れが、破壊活動をしている。

すぐさま戦うため、デッキを構える竜也だったが…。

 

「ハイイイイィ!」

 

「…!?」

突如、一人の青年が現れ、シアゴーストたちに攻撃を始めた。

一般人とは思えない動きだ。

その勇姿に一瞬、見とれていたが、すぐに気を取り直す。

「変身っ!」

改めて龍騎に変身し、青年を庇う様に立ち、シアゴーストと対峙する。

「君は…!?」

「早く逃げてください!ここは僕が!」

<SWORD VENT>

ドラグセイバーを呼び出し、シアゴーストを睨む。握っている右手に力を込めて駆け出した。

「はあああああああああああああああぁ!」

ザァン!ズバァ!

縦横無尽に駆け回り、シアゴーストを蹴散らしてゆく。1年で戦いの実力は、かなり身についた。

モンスターを自力で倒した事はないものの、動きや城戸真司から聞いたことから行動パターンを読み、先手を打つといった戦闘スタイルが身についていた。

一通り、モンスターを切りつけると、龍騎はこう言い放った。

「…帰れ!二度と、人を苦しませるな!」

モンスターにも恐怖という感情は存在するのだろうか、逃げ出してしまった。

 

先ほどモンスターと戦っていた青年が、龍騎に声をかけた。

変身を解くつもりはない。また罵倒や貶しの言葉を浴びせられそうだからだ。

龍騎という仮面を被る事によって、脆い心を守っているように感じた。

「君が、噂の赤い騎士なのか?」

「噂…?」

青年が近くに落ちていた新聞を拾い、龍騎に見せる。

 

 

 

‘’正体不明の赤い騎士、出現!?’’

 

 

 

大きな見出しに、そう書かれていた。

「マスコミも、僕のことを苦しめるんですか…」

「違う。記事をよく見るんだ」

青年の言葉に、記事をもう一度目を凝らすと…。

 

 

 

この騎士の正体については全く不明だが、同時期に現れた謎の怪物を攻撃し、人々を守っている行動が見受けられる。騎士については賛否両論。

ある人は災厄を呼ぶ災厄と言い、ある人は脅威から自分達を守ってくれる希望とも言う。

以前、騎士と接触した事のある少女「Y(18歳)」は、怪物に負わされた怪我で大手術も行なわれたが、奇跡的に一命を取り留めた。

彼女は次のように語っている。

「あのとき、わたしは彼の事を偏見の目で見てしまっていました。でも今、冷静になって考えて分かったんです。彼は純粋に人を助けたくて戦っていました。なのに、わたしは彼のことを、バケモノって…」

涙ぐみながら取材に応じるY。彼女の胸中には、何があるのだろうか…。

現在Yは、ある病棟でリハビリを受け、もうすぐ退院できるそうだ。

最後に彼女は「また彼に会ったら、ちゃんと謝りたいです」と答えた

(執筆者…大久保大介)

 

 

 

「ユイさんだ…!生きてたんだ!…それにこの記事を書いた人って、大久保さんだ!」

驚いた。まさか彼女が生きているとは思わなかった。

「君がどんな経験をしてきたのかは分からない。でも君の事を応援している人だっているんだ!だから卑屈になるな。俺も君の事を応援する!」

肩に手を置き、強く激励する青年。そして、肩から手を離す。

「…あの!」

そう言って、お礼を言うために振り向いた龍騎だが…。

 

青年の姿は、見せていた新聞を残して消えていた。

 

以前、城戸真司はこう言っていた。

 

「誰かから信じられたいなら、自分から信じるしかない。信じるためには、心を強く持つんだ」

 

もう一度、新聞に目をやる。

 

 

 

‘’謎の怪物、ある地方に大量出没!’’

 

 

 

この地方は、自分の生まれ故郷だった。

 

 

 

キィィン…キィィン…

 

それから数週間後。

竜也は、強い決意を秘めて、モンスターの前に現れた。

そこには、蜘蛛型の脚に胴体が付いた、継ぎ接ぎの様なモンスター「ディスパイダー・リ・ボーン(以下、ディスパイダーR)」。

「変身!」

仮面ライダー龍騎に姿を変え、アドベントカードをデッキから引く。

<STRIKE VENT>

バイザーの音声とともに、ドラグレッダーが飛来する。戦いの中で、かなりの連携がとれるようになった。

「ガアアアアアアアアアァ!」

「はああああああああああぁ…だあぁっ!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオォ!

「ギシャアアアアアアアァ!」

ドラグレッダーと繰り出すドラグクローファイヤーは、ディスパイダーRにかなりのダメージを負わせる事になった。

新たにカードを引く。そして、ドラグバイザーにセットした。

一瞬、躊躇ったが手に力を込めて、ベントインを行なった。

 

<FINAL VENT>

 

この力を使うのは初めてだ。

しかし、迷う事はできない。

「ふんっ!はああああああああああああああああああああぁ!」

かつて、城戸真司がやったように、力を込めて構えを取る。

そして、高く高く飛ぶ。

「はあああああああああああああああぁ…だああああああああああああああああああああああああああぁ!」

喉が張り裂けそうになるほど叫び、発動した必殺技。

 

ドラゴンライダーキック。

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!

凄まじい爆音とともに、ディスパイダーRは燃え尽きた。

「はぁ…はぁ…」

息遣いを荒くし、再び立ち上がる龍騎。

戦った龍の騎士を癒すかのように、白い小さな結晶が空から舞い落ちる。

「雪…?」

一瞬、そう思った龍騎だが、それは…。

「…灰か」

存在していたものが燃え尽きたと言う証拠の灰だった。

 

 

 

 

 

夢…。

 

夢を見ている…。

 

毎日見ている夢。

 

終わりのない夢。

 

赤い雪、赤く染まった世界。

 

夕焼け空を覆うように、小さな子供が泣いていた。

 

せめて、流れる涙をぬぐいたかった。

 

だけど、手は動かなくて。

 

頬を伝う涙は、雪に吸い込まれて。

 

見ていることしかできなくて、悔しくて、悲しくて…。

 

大丈夫だから…。

 

だから泣かないで。

 

約束だから…。

 

それは誰の言葉だったろう…夢は別の色に染まっていく。

 

 

 

 

「落ち着いた…?」

「うん…」

今までずっと下を向き、顔すら合わせなかったあゆ。

しかし、少しだけ顔を上げ、不安そうにこちらを見た。

「あ、やっと目が合った!…って、あっ!?」

近くに備え付けられた時計を見て、竜也の顔は青ざめた。

「大変だ!お母さんから、お使い頼まれてた!」

 

この記憶は、いずれ偽りと気付くときが来るが、それは別の機会の話。

 

「ごめんね、あゆ。じゃあね!」

手を振って走り去ろうとした竜也の服の袖を、弱々しく握るあゆ。

「また…」

「…?」

「また明日も、一緒に…」

あゆは、小さかったが強く言う。

「はい」

竜也は小指を立てた右手を出す事によって、返事をした。

「指きりしよ!僕は指切りしたら、約束守るよ!」

「…うん」

 

「指きった!」

 

「じゃあ、また明日。同じ時間にこの場所に!」

「うん…!」

 

 

 

そして、夜は明けてゆく…。

 

 

 

 

 

目を覚ました竜也。

「また、あの夢か…」

時折見る、あの夢。少女が涙を流し、それをなぐさめる自分。

「あの…あれ?」

なんども、名前を聞いたはずなのに…。

 

あの少女の名前が思い出せない。

 

不自然だ。

ド忘れにしては、出来が良すぎる。

「もしかして…」

ふと、ある考えが浮かんだ。

(あの街に行こう…)

おそらく、記憶や夢の真実が隠されている。真相を確かめたい。例え分からなかったとしても、何か意味はあると思っている。

それに頻繁にモンスターが現れるならば、なにか不穏な動きがあの街で起こっているはずだ。

もしかしたら、そこに住み続けるかもしれない。

そのためには、強くなければいけない。

 

 

そう。

 

 

 

例え、偽りでも。

 

 

 

 

もう迷わない…。

 

迷えない…。

 

僕は…いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

おれは…

 

 

 

 

 

 

仮面ライダー龍騎だ。

 

 

 

 

 

 






キャスト

龍崎竜也=仮面ライダー龍騎

あゆ

一般男性
一般女性

モンスターと戦った青年

城戸真司=仮面ライダー龍騎(初代)



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間奏曲 ~EPISODE FINAL AFTER~
「終わりと始まり」


 

 

 

 

「死ぬなよ…蓮…!」

 

「お前もな…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

思い返せば、ここで全てが終わり、ここから全てが始まったのかもしれない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい時間がたったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮…」

 

横たわっている青年「秋山蓮」は目を覚まさない。

「仮面ライダー龍騎サバイブ(以下、龍騎S)」は一人で立ち尽くしていた。

ハイドラグーンとの壮絶な戦いの果てに、この世界は結局、壊れてしまった。

 

 

 

この世界で生きている命は唯一人。

 

 

 

 

秋山蓮=仮面ライダーナイト、死亡。残るライダーは1人…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…いや、2人。

 

 

 

 

 

「最後の一人だな」

「お前は…」

そこには今まで見たことのない仮面ライダーがいた。

黄金の翼を髣髴とさせる鎧。明らかに他のライダーとは格が違う事を感じさせる威厳さ。

名を仮面ライダーオーディンと言う。

「14人目の仮面ライダー…?」

「否、私こそ13人目、仮面ライダーオーディン。リュウガは数えられない。奴こそ、イレギュラーの存在「14人目の仮面ライダー」だったのだ」

「戦うのか…?」

龍騎Sがそういうのも仕方ない。今まで自分以外のほぼ全ての仮面ライダーは、自分に攻撃を仕掛けてきた。

 

願いを叶えるために…。

 

愛する者を目覚めさせるために戦った、秋山蓮、仮面ライダーナイト。

頂点を目指し、様々な卑劣を尽くした、須藤雅史、仮面ライダーシザース。

永遠の命を求め、最後には限界で脱落した、北岡秀一、仮面ライダーゾルダ。

運命を変えて命を落とした、手塚海之、仮面ライダーライア。

戦いをゲームのように楽しんだ、芝浦淳、仮面ライダーガイ。

最後まで戦いだけを求めた、浅倉威、仮面ライダー王蛇。

姉を取り戻し、復讐しようとした、霧島美穂、仮面ライダーファム。

更なる力を渇望し続けた、高見沢逸郎、仮面ライダーベルデ。

英雄に憧れるあまり、狂気と化した、東條悟、仮面ライダータイガ。

平穏な幸せだけを求め、ライダーの重荷に負けた、佐野満、仮面ライダーインペラー。

総てを自分の支配下に置こうとした、鎌田槙三、仮面ライダーアビス。

今、目の前にいる新たな存在、13人目、仮面ライダーオーディン。

 

そしてイレギュラーであった、もう一人の自分。14人目、仮面ライダーリュウガ。

 

他者を犠牲にしてまで、叶えたい願いを持った仮面ライダー。

彼らは1人、また1人と願いの糧に散っていき、戦いを望まなかった自分が最後の2人のうちの1人として生き残ってしまった。

自分が願った結末はこんな筈ではなかったのに…。

「そのつもりは無い。私は自分の意志を手に入れた。もう神崎士郎の思惑通りにはならん」

「神崎の…?」

「そうだ。私は神崎士郎が最後のライダーを潰すために用意した存在」

彼の言葉が本当ならば、仮面ライダーの戦いは神崎士郎の狂言。

12人は初めから、この仮面ライダーに消されるため、口車に乗せられていたのだ。

しかし、何故か怒りは湧いてこなかった。

目の前にいる存在は、そのことを好んで行おうとしているようではなかった。

「これを見て思わないか?この惨劇を…」

オーディンが見る先には、荒廃した世界が広がっている。

もう、この世界にオーディンと龍騎S以外の生命体は存在しない。

この世界は死んだ。

「全て、人間が引き起こしたものだ。私は納得がいかない。人の欲望の行く末は破滅。ならば、抑制し、管理する選ばれた者が必要だ…その選ばれた者こそ仮面ライダーなのだ!」

そう言って、デッキから一枚のアドベントカードを引く。

時計が刻まれたカード…。裏で何度も世界をやり直すときに使い続けたカード。

 

タイムベント。

 

「次は…私の望む形に…!」

そう言い掛けたとき…

ズガアアァ!

龍騎Sが、そのカードをドラグバイザーツバイで打ち抜いた。

「貴様…!」

「過ちを犯しても…それを無かった事にするなんて、俺は認めない」

この世界が破滅してしまったとしても、リセットする事を龍騎Sは許せなかった。

それでは、テレビゲームと同じではないか。

「ならば…ここで13人の仮面ライダーの戦いに決着でもつけるか?どうせ、このままでは世界は終わりなのだからな」

淡々としていたオーディンの口調が、一気に凄んだのが分かった。威圧感で押し潰されそうにもなった。

しかし、すぐにその威圧感は消える。

「…いや、オマエは戦うことを望まないライダーだったな。では…こうしよう」

オーディンは、Vバックルからデッキを引き抜き、変身を解いた。

「…!?」

それを見て驚愕した。

 

そこにいたのは霧島美穂、仮面ライダーファムであった女性。

 

ただ、その瞳には生気が感じられない。

「私には実体が無い。デッキが本体であり、死したこの者の肉体を借りているに過ぎない。そして今、この肉体を手放す事により、私は脱落した」

今までの低い男性の声とは違う、霧島美穂の女性らしい声でそういうと同時に、デッキが宙に浮き、霧島美穂は消滅した。

これにより、オーディンの変身者は一時的にだが居なくなった。

 

仮面ライダーオーディン、脱落。

 

 

 

この戦いの勝者は…

城戸真司=仮面ライダー龍騎。

 

 

 

変身が解けた城戸真司の目の前に、光り輝く物体が現れる。

「これが…願いを叶える力…」「1人分の命だがな」

デッキからオーディンの声が聞こえた。

「神崎優衣の命を永らえさせるモノだ。これを手にしたオマエは、1人分の命を手に入れた。これで満足か?」

その言葉のあとに、だがと付け加えるオーディンのデッキ。

「私は、それでは足りない。一人分の命では、私の願いは果たされない!」

そう叫ぶと、デッキは秋山蓮の腰に装着される。

 

オーディンは自分の器を、彼に選んだらしい。

 

「やめろっ!」

城戸真司は傷だらけの手を伸ばし、オーディンのデッキを外そうとする。

なんとしてでも、自分を認めた友が抜け殻の状態であったとしても、彼に利用されたくない。

だが、それは叶わなかった。

「変身」

新たにオーディンの身体を形作った。

「まだ手はある」

「その身体を放せ!蓮を…蓮を返せ!」

そう言って、赤くなった龍騎のデッキを構える。

「変身っ!」

 

城戸真司の体を赤い光が包み込み、龍騎Sへと変えさせた。

 

備えられたドラグバイザーツバイからドラグブレードを展開させ、オーディンに向ける。

「ムンッ!」

ガギィ!

しかし、相手もサバイブの仮面ライダー。しかも最強の「無限のサバイブ」を常時発動している。

効果的な一撃にはならなかった。

「邪魔をするならば、貴様も消す!」

その直後、オーディンの姿は消えた。

龍騎Sが背後に気を向け、ドラグブレードを構えた瞬間…。

ガギイイィ!

「ぐぅっ…!」

凄まじい力が両腕にかけられた。それは、オーディンのゴルドセイバーによるものだ。

「ハアアアアアアアアアァ!」

ガガガガガガガガガガ!

強力な刃を何度も振りかざすオーディン。力と速さを兼ね備え、隙が全く無い。

だが…。

「ドラグランザーっ!」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

龍騎Sの契約モンスター「烈火龍ドラグランザー」が咆哮を上げながら、反撃の出来ない龍騎Sの援護に向かう。

しかし、その攻撃も見抜いていたオーディンは、瞬間移動で避ける。

「くそ…どうして蓮を…!」

「死んだ者の肉体の再利用だ。生きている者ではないのだから、問題は無いはずだ。なぜそこまで拘る?」

「死んだからって…その死者を好き勝手に扱っていい理由にはならない。そいつは…俺の「最後の友達」だ!絶対に返してもらう!」

<<SHOOT VENT>>

ドラグランザーと共にドラグバイザーツバイを構え、「メテオバレット」を放つ。

「はあっ!」

<<GUARD VENT>>

「ヌンッ!」

しかし、その渾身の一撃すら、オーディンには傷一つ付けられない。

 

<<FINAL VENT>>

 

「オマエはここで消えるが良い」

オーディンはこのまま戦いを長引かせる事を好まないのか、早急に決着をつけるべく、最強の一枚を使った。

<<FINAL VENT>>

それを龍騎Sも自身の最大の力で迎え撃つ。

「オオオオオオオオオオオオオオオオォ!!」

「キイイイイイイイイイィ!」

オーディンは雄叫びと共に現れた「ゴルトフェニックス」と一体化し、凄まじい光を放つ。

「はあっ!」

一方の龍騎Sはバイク形態となったドラグランザーに搭乗し、その光の中に飛び込んでいった。

「エターナルカオス」と「ドラゴンファイヤーストーム」。

『龍騎の世界』に存在する最大の威力の技同士。

前も後も分からなくなり、ただ真っ白な世界になった。

 

 

 

死んだのか。

 

 

 

そう思った瞬間…。

 

 

 

「真司君…」

「優衣ちゃん…!?」

 

 

 

その光と爆風の中で、龍騎Sは不思議な体験をした。

 

 

 

それから2年…。

 

大きな大木の下で、倒れている少女に寄り添う少年。

おそらく、少女は転落したようだ。頭部から出血している。

どちらも10歳程度だろうか。

 

「竜…也くん…また…ボクと…遊んで…くれる…?」

 

「何度だって遊ぶよ!あゆに誕生日プレゼントだって…用意したんだよ!?」

 

「うれ…しい…。約…束…ゆび…きり…」

 

「あは…手…も…うごかな…い…。これじゃ…ゆびき…り…できない…」

 

「ほら、これで指きりだよ!約束!」

 

「うん…約…束…だよ…」

 

「ほら…一緒にきらないと…指きりにならないよ…?」

 

「あゆううううううううううううううううううううううううううううううぅ!!!」

 

 

 

少年は気を失い、その身体から幽体離脱のように、もう一人の少年が現れ、歩き去る。

異様な光景だった。

城戸真司はその場に立ち尽くしていた。

 

意識しないうちに、少女と少年に駆け寄る。

「おい、大丈夫か!しっかりしろ!」

両方とも、返事は無い。

ともかく、この場所に2人を置いていけば、どちらも凍死してしまうだろう。

2人を抱え、その場を去った。

山を降りてすぐ近くにあった病院に駆け込み、2人の事を医師に聞いた。

「男の子は、一瞬で極度のストレスが溜まった事で「意識障害」「記憶障害」の恐れがあります。女の子の方は…頭部に深刻な陥没が見られ、このまま「植物人間」になるでしょう…。最善は尽くしますが…万が一の場合も覚悟なさってください」

「そうですか…」

それだけ言うと、城戸真司は病院を出た。

 

外に出た瞬間、目の前に「銀色のオーロラ」が現れ、彼を飲み込んでいった。

 

 





キャスト

城戸真司=仮面ライダー龍騎サバイブ

龍崎竜也
月宮あゆ

神崎優衣

霧島美穂≠仮面ライダーオーディン

秋山蓮=仮面ライダーナイトサバイブ≠仮面ライダーオーディン



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「異世界」

 

 

光の中で龍騎Sは城戸真司の姿に戻り、ある女性と対面していた。

「真司君…」

神崎優衣である。

かつて、ライダー同士の戦いを止めるために、戦えないが、自分なりに奔走していた女性。

だが、皮肉な事に彼女自身がライダー同士の戦いの引き金なのだ。

そして城戸真司さえも引き金だった…。

「優衣ちゃん…。じゃあ俺、今度こそ死んだのか…?」

「それは少し違うよ。真司君は世界から切り離されたの。崩壊しかけた世界で、オーディンとファイナルベントでぶつかった衝撃で、世界を飛び越えた」

神崎優衣が目をやった先を見ると、崩壊が始まった地球が見える。

おそらく、先程まで龍騎Sとオーディンが戦っていた場所だ。

「わたしはあの世界…『龍騎の世界』の要だから、魂は死ねないの。そして真司君はその中核に当たる存在…『仮面ライダー龍騎の主人公』。わたしと真司君は…「世界の真実」を知ったの」

「どういう意味…」

言いかけたとき、頭の中に膨大な情報が入ってきた。

その中には、様々な情景があった。

 

 

 

7人の仮面ライダーに取り囲まれる、ナイトS。

「蓮…お前にも、答えが分からなかったんだろう?」

「お前は答えを見つけるために戦っていたんだ…」

「俺も戦う。…お前の探していた答えを、見つけるために…!」

 

血まみれになりながら力なく座り、秋山蓮に手を握られている城戸真司。

「やっぱり…ミラーワールドなんて閉じたい…戦いを止めたい…。きっと…すげー辛い想いしたり、させたりすると思うけど…それでも止めたい」

「それが正しいかどうかじゃなくて…俺もライダーの一人として…叶えたい願いが…それなんだ」

 

ナイトSの亡骸の前で、空を見上げて叫ぶ龍騎S

「オーディン、見ているんだろう!早く戦え!俺の望みは…」

「俺の望みは…こいつを生き返らせることだ!」

 

他にも全く見覚えの無い人々や戦士が見えた。

「一条さん…俺、良かったと思ってます。だって…一条さんに逢えたから」

「じゃあ、見ていてください。俺の…変身」

 

「運命がお前の手の中にあるというなら、俺が…俺が奪い返す!」

「変身!」

 

 

 

気が付くと、この情景全てが、異世界であった出来事だという事が理解できた。

「これが「世界の総て」。そして、それを知った真司君は「オリジナルの仮面ライダー」になった」

神崎優衣の宣言にも見える言葉と共に、銀色のオーロラが現れ、そこから2人の青年がやってきた。

先程の情景に映っていた青年だ。

「君も…世界を守る運命を背負ってしまったんだね…」

優しい笑顔だったが、どこか悲しそうに言っていた。

一方のもう一人の青年は人懐っこい笑みを浮かべ、手を差し出した。

「俺はオリジナルライダーの津上翔一です。こっちは五代雄介さん。一番最初のオリジナルライダーです」

彼等の基へ歩いていく途中、ふと神崎優衣の居た場所を振り返ると…。

 

彼女は居なくなっていた。

 

声が聞こえる。

「真司君、これでお別れ。ごめんね…これから貴方は、ずっと戦わなければいけない…」

どんどん遠くなっていった…。

だが、過酷な未来が待っていたとしても、

 

「俺は…終わりの無い戦いを…決して恐れはしないよ」

 

城戸真司は「オリジナルの仮面ライダー」として、全ての世界を守りながら旅を続ける運命を背負った。

死以外に、この運命から逃れる事はできない…。

 

 

 

5年の月日が経った。

それからも様々な青年達が、オリジナルライダーになった。

 

人間が蘇生した怪人、「オルフェノク」が支配した世界からやってきた、乾巧。

友であり、「アンデッド」である青年の幸せを守るために自分を犠牲にした、剣崎一真。

2人の少年を、師として立派に育て上げ、役目を終えた、ヒビキこと日高仁志。

荒廃した世界を変え、家族の道を示した、天道総司

時間と記憶と想いを守り抜き、その絆を未来にさえ繋げた、野上良太郎とイマジン達。

五代雄介によると、人の中に流れる音楽を守っている青年が、まもなく仲間の一人になるらしい。

 

城戸真司は、あれからずっとオーディンの行方を捜していた。

2つの世界が融合を始めたという、不可思議な世界に干渉を続けている。

故に崩壊の危機を迎えている「雪の街」。

2つの世界の内『Kanonの世界』の舞台となる場所。

その世界を4年も探している。

 

辺りを探し回っていると、一人の少女がベンチに座っていた。

…あの日、病院に送った少女だ。

一目で分かった。彼女は、今ここに存在しているわけではない。

理由は分からないが、肉体と意識が分離し、意識が実体化している。

声を掛けた。

「…君は?」

「待ってるの。ボクの大切な友達を、ずっとずっと…」

城戸真司のほうを見て、儚げに笑う少女。

「そうか…。そういえば名前は…?」

「月宮あゆ。あなたは?」

名前を聞かれ、少し考えて、こう名乗った。

「旅人だよ」

「そうなんだ…」

あまり干渉が過ぎてはいけない。

それに、彼女の名前…。

月宮あゆは『Kanonの世界』の要だったはず。

オリジナルの仮面ライダーは、世界の崩壊を止めるためや、その世界の歴史や物語を改変するため以外は、その世界の人物への過ぎた干渉は許されない。

「じゃあな。君の待っている人、いつか会えるだろう、必ず」

それだけ言うと、すぐに離れていった。

 

キィィン…キィィン…

 

…モンスターが近付いている。

「…きたか!」

そう思った瞬間、オーロラが現れ、城戸真司をさらっていく。

 

「久しぶりだな。城戸真司、仮面ライダー龍騎」

呼び出し主はなんとなく予想していたが、やはりオーディンだった。

「オーディン…この世界で何をしているんだ…?」

「あのときと変わらん。あの『龍騎の異世界』と『Kanonの世界』が融合した世界を抑制し、管理する。見ろ」

そういうと同時に、オーディンは12枚のカードデッキが置いてある机を指差す。

「残念ながらリュウガは造れなかったが、それ以外は複製に成功した。さらにサバイブもな…」

その手には、疾風と烈火のサバイブがある。

「今回呼び出したのは、複製したが行方不明になった「最後のサバイブ」。在り処を教えてもらおうと思ってな」

「最後の…サバイブ…?」

「無限」ではないらしい。

まさか…。

「知らないのか?オリジナルライダーのオマエにならば、理解できると思っていたのだが…」

違う、ついさっき在り処を見つけた。おそらく、月宮あゆ。

彼女の存在も、それなら説明がつく。

しかし、知られるわけにはいかない。

「知らない。それよりも、そのデッキを悪用させない。仮面ライダーを破壊のために使わせる訳にはいかない。渡してもらう!」

「私もオマエから欲しいものがある。2枚のサバイブを渡してもらおう」

そう言うと、オーディンはゴルトセイバーを構え、城戸真司を睨む。

上手く話をはぐらかし、赤い龍騎のデッキを構える。

「変身!」

<<SURVIVE>>

その姿は龍騎Sとなる。

だが、彼は戦うつもりはない。真正面から一人で立ち向かっても、まともに立ち合える相手ではないことは、よく理解している。

デッキから1枚のカードを引く。

<<ACCEL VENT>>

本来、龍騎Sはこのカードは所有していないのだが、オリジナルの仮面ライダーになった事により、コンファインベント、フリーズベント、コピーベント等の特殊系アドベントカードは、タイムベントを除いて、全て所持している。

オルタナティブのカードさえ、思いのままに使えるのだ。

高速移動をして、オーディンとは別の場所に向かう。

「やはり、そちらにいくか…」

オーディンの推測どおり、その先は「デッキを置いていた机」だった。

デッキを奪い、この場から退散するつもりのようだ。

「ハアッ!」

しかし、そうはいかない。オーディンは、龍騎Sの動きを見切り、衝撃波を放つ。

ドガアアアアアアアアアアアアアアアァ!

「くっ…!」

アクセルベントの高速移動のため、直撃は免れたが、右腕にダメージを負う。

このままでは、負ける。

「すまない蓮…!またいつか、絶対に助ける!」

すぐにオーロラを呼び出し、オーディンの魔の手から逃れた。

「逃げたようだな…」

そう言って、机を見ると…。

デッキが数枚ない。

しかもサバイブの力を最も引き出しやすい、龍騎とナイト、そしてファム、ライア、ゾルダのデッキが消えている。

高速移動中、上手く手にしていたらしい。

「おのれ…まんまと、してやられたか…!?」

 

 

元の世界に戻るが、右腕の怪我は深刻だ。

「…手当てをするべきだな」

平然とした口調だが、耐えがたいほどの痛みが脳を支配している。

彼はこの世界の住民ではないから、病院などは使えない。

右腕を押さえ、何とかする術を探す。

スカイブルーのジャケットに、少しずつ血が滲んでいく。

「あの」

ふと声をかけられ、ふりかえると、三つ編みにした鮮やかな薄紫色の髪の毛の女性がいる。年は同い年くらいだろうか…。

「誰です…?」

「水瀬秋子。この近くの情報配信社「WATASHIジャーナル」の編集長です」

誰だか分かった。彼女は『Kanonの世界』の住民の1人。

あまり関わるわけにはいかない。

「それより、その右腕、大丈夫ですか…?」

「平気です。心配ありません」

すぐさま、立ち去ろうとしたが…。

「放っておくのは良くありませんよ。すぐに手当てしてください!さぁ、はやく病院へ」

「…俺は病院が使えないんです」

彼女が病院へ連れて行こうとしていた。

彼は保険証や身分証名称などの類がない。免許証はこの世界に対応していない。

身元の証明を請求され、自分が異世界の人間、しかも「オリジナルの仮面ライダー」だという事がバレたら、まずいことになる。

「なら、私が手当てします。一緒に来てください」

「いえ、俺は…!」

されるがままに左手を引かれ、彼女の家に向かってしまった。

 

水瀬家。

「はい、おしまいです」

「ありがとうございます。助かりました…」

彼女の手当ての技術は素晴らしい。そこらの医師にも負けていないと思えた。

「どういたしまして。城戸さんでしたよね。どうして怪我を?」

「転んだだけですよ」

口が裂けても、仮面ライダーとして戦っていたなどとは言えない。

あれから、観念して名前だけは明かした。

だが、これ以上は…。

 

キィィン…キィィン…

 

好都合だ。おそらく、オーディンの差し向けた追っ手だろう。

「嗅ぎ付けられたか…」「え…?」

「秋子さん、ありがとうございました」

それだけ言って、水瀬家を出て行く。

 

「クエエエエエエェ!」

家から出て少し走った先には、ガルドストームがいた。

「悪いが、デッキは渡せない!」

赤い龍騎のデッキを取り出そうとしたが…。

「城戸さん!」「秋子さん!?」

秋子が彼を追いかけてきた。これでは龍騎Sになることは出来ない。

だが…。

 

オリジナルのライダーだということがバレなければ、問題は無いはず。

 

つまり、この世界のライダーに変身する事は可能。

先ほどオーディンから奪った、5枚のデッキを広げ、その中から今まで使っていたモノと酷似している「黒い龍騎のデッキ」を手に取り、翳す。

「え…」

腰に銀色のベルトが装着された城戸真司。秋子は驚いた様子で見つめる。

「変身!」

Ⅴバックルにデッキを装填し、異形へと姿を変える。

「あなたは…一体!?」

 

「俺は…仮面ライダー龍騎」

 

「しゃあっ!」

気合を入れて、ガルドストームに向かって駆けていく。

「なんだ…あれ!?」

それを見ていた少年は、目を見開いていた。

 

通常形態の龍騎で戦うのは5年ぶりだ。「あのとき」以来、ずっと龍騎Sとして戦っていたのだから。

戦闘スタイルをある程度、変化させなければならない。

「クワアアアアアアアアアァ!」

ガルドストームの火焔弾を上手く避け、アドベントカードをベントインする。

<SWORD VENT>

手にはドラグセイバーが握られた。これを握るのも久しぶりだ。

「はあああああぁっ!」

ザァン!

一気に駆け寄り、ガルドストームの懐に入り込み、思い切り、切り裂く。

「グエエアアアアアァ!」

強力な一撃だったらしく、後退して蹲った。

だが、すぐに立ち上がり、近くで戦いを見ていた少年に狙いを定める。

「クアアアアアアァ!」「うわあぁ!?」

ガルドストームの火焔弾が、少年に向かっていく。

「危ない!」

<ADVENT>

「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」

ゴアアアアアアァ!

咆哮と共に現れたドラグレッダー。ガルドストームの火焔弾をその長い身体で防ぎきった。

すぐに少年へと駆け寄る龍騎。

「大丈夫か!?」「は、はい…!」

その少年にも見覚えがある。

あの月宮あゆと一緒に病院に運んだ少年だ。

…とすると、彼が「Kanonの主人公」である「相沢祐一」なのだろうか?

「早く逃げろ!」

とにかく、彼の安全を確保する事が最優先だ。すぐに逃げるよう促す。

少年が視界から消えたことを確認して、アドベントカードをベントインする。

<FINAL VENT>

「ふんっ!はああああああああああああああああああぁっ…!」

懐かしい構えを取り、地面を蹴って高く飛ぶ。

「だああああああああああああああああああああああぁっ!」

ドラゴンライダーキック。

その力で、ガルドストームは成す術もなく吹き飛んだ。

炎が消え去ると変身を解除し城戸真司に戻る。

「城戸さん…」

まだ見届けていたらしい。

「見られましたね」

ある程度の事情は話さねばならないかもしれない。

「仮面ライダー…龍騎…。少しだけ真実に近づけた気がします」

秋子は優しく微笑む。

「きっと…貴方はその真実を話せないのでしょう?だから、わたしは自分の力で真実を探ります。もちろん、貴方を救う術も含めて」

軽く会釈をして歩き去っていく秋子。

「またいつか…会えたときは、きっと貴方が幸せで包まれますように」

そう言い残して…。

だが…。

「俺は…戦い続けなければいけません。命ある限り戦う…。それが「仮面ライダー」だから」

 

「あの…!」

 

次は、先ほどの少年が話しかけてきた。

「お前は…」「さっきのは…あの怪物を倒せる手段なんですか!?」

懇願するように聞く。

「あぁ、そうだ」「お願いします!その力を身につけさせてください!」

突然、少年は頭を下げる。

「父さんや母さんを殺した怪物に負けない力を…!」

「お前には出来ないよ…相沢祐一」

 

「え…祐一って…?僕は龍崎竜也ですよ?」

 

「…!?」

想定外のことが起きた。彼は相沢祐一ではない。では彼は、どちらの世界の住人…?

調べる必要がある。

「…わかった。来い」

 

これが、また一つのきっかけになった。

 

 

 

 

 

 




キャスト

城戸真司=仮面ライダー龍騎/仮面ライダー龍騎サバイブ

龍崎竜也
月宮あゆ

水瀬秋子

五代雄介¬=仮面ライダークウガアルティメットフォーム
津上翔一=仮面ライダーアギトシャイニングフォーム

神崎優衣

仮面ライダーオーディン




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「果てなき希望」

 

 

竜也と行動を共にして1年になろうとしている。

その世界の異常現象の調査や解決を目的として行動する、政府組織「NoMen」とかかわりを持ち、世界崩壊の原因を探ったり、モンスターの討伐を主に活動している。

時折、あの『龍騎の異世界』と『Kanonの世界』が融合した世界から離れ、オリジナルライダー達に状況を報告していた。

今回の相手は、剣崎一真と紅渡だ。

「世界の融合のきっかけはハッキリしていないが、おそらくオーディンだ」

「そうですか…。しかし気になるのは、彼が世界を飛び越えられる力を、どうやって手にしたか…ですね」

「大方、鳴滝辺りだろう。彼は世界を巡る力を持つディケイドを、異常なほど憎んでいるからな。上手く転がせば、彼がディケイドを破壊するかもしれん。もしそうならなかったら…俺が消す」

城戸真司は快活な雰囲気から、随分と陰のある雰囲気に変貌した。

理由は一つ。

 

秋山蓮を救うことを諦めたからだ。

 

どんなに足掻いても、秋山蓮を救ったとして、そこにあるのは消滅。

人間らしい死を与える事は不可能なのだ。

だから、最後にせめて…自分の手でトドメを刺すつもりだ。

 

刺し違えてでも。

 

 

 

そして、2009年8月。

世界を守る使命を背負った城戸真司達に、最も大きな事件が起きた。

ディケイドの影響による全世界崩壊。

これに伴い、極力の干渉を避けていた紅渡と剣崎一真が動き出した。

「今から僕の仲間が、貴方の旅を終わらせます」

「ディケイド…お前を倒す」

「「変身」」

<TURN UP>

ほぼ、全員のオリジナルライダーが動き出した。

オリジナルライダーの大半が、同時に1つの世界へ干渉する事は、非常に稀な事である。

今回のような事態か、彼等自身の世界に近い世界での問題の解決を要する場合のみ、あり得ることなのだ。

 

ただ五代雄介だけは、最後まで今回の戦いに参加しなかった。

 

城戸真司も本当は気が進まなかった。

ディケイドとは言え、1人のライダーに対して、オリジナルライダーが8人という信じられないほどの絶望的な状況を作り出してまで、世界の崩壊を止めようとした。

心の中で、仮面ライダー龍騎という仮面を被った城戸真司は呟き続けた。

 

「すまないディケイド…。でも世界の崩壊を止めるには、もうこれしか…」

 

「結局こうなる運命か…変身!」

<KAMEN RIDE DECADE>

「来るなら来い!…全てを破壊してやる!」

 

結果的にディケイドは暴走し、無意識から自分の意思で世界を崩壊させようと動き出した。

 

「巧、天道。見ろ、結局ディケイドは世界を破壊させるように動き出した。しかも自分の意思で」

城戸真司は、ディケイド抹殺に賛成した2人に詰め寄る。

「うるせぇな…。心配するなよ、手は打ってある」

「城戸、俺達はディケイドの破壊を目的としていない。…破壊の後にある創造を目的としている。俺達のコピーも放った。現在、スカイライダー、スーパー1、J、龍騎、ブレイド、カブトが残っているが、これらをディケイドに倒させた上で、誰かに彼を消せば、世界の消滅は免れる。最有力候補は…光夏海だ」

2人の言葉に嘘はないことを、城戸真司はよく知っている。事実、ディケイドの破壊の先にある目的も…。

「俺が伝えろというわけか…」

 

荒地で3枚のカードを握る仮面ライダーディケイド。

カードの中には「アギト」「響鬼」「電王」が描かれている。先ほど戦っていたライダーをカードに封じ込めたものだ。

それを見つめる彼の前に、城戸真司は現れた。

「アンタは…剣崎一真の仲間…龍騎だな」

敵意を剥き出しにして睨むディケイド。しかし、彼は仮面ライダーとして戦わなければ、基本的に攻撃してくる事はない。

だから戦うつもりは無い。ただ真実を伝え、彼の動向を聞くだけだ

それが分かったのか、ディケイドも変身を解き、門矢士の姿に戻る。

「ディケイド…いや、門矢士。お前は捻くれただけか?」

「なんだと…?」

今の自分の言葉が、間違いなく士の神経を逆撫でしたことは理解できる。現に士は解除したばかりの変身を再び行なおうと、カードとディケイドライバーを取り出している。

「分かっている。仲間だと信じていた異世界のクウガ「小野寺ユウスケ」の暴走と「究極の闇」への半覚醒や、ディエンドである「海東大樹」が裏切ったことが、お前の心をズタズタにしたんだろう」

その言葉は意を捉えたか、士は俯く。

「…俺はどんなに足掻こうとも全ての世界から拒絶される。だから、ぶち当たる壁は正面からブッ飛ばす!」

「その通りだ門矢士。お前は世界の壁を破壊できる。あれは全て、俺達が図ったことだ」

このままでは、彼は破壊の限りを尽くしてしまう。真実を伝えなければ。

「全ての世界は、最初からお前を拒絶していない。ディケイドは異世界に介入し、その世界の中核を倒すことで、「壁」を破壊して繋ぐ。そしてディケイドが消滅する事で新しく再構築する力がある。それで消滅の危機を迎えた世界を救うことが出来るんだ」

その言葉で、士はカードを少し下げた。敵意をなくしたことを理解した城戸真司は、淡々と続ける。

「それを利用して、俺達「オリジナルの仮面ライダー」が、世界を再構築するために、繋がり始めた世界「ライダー大戦の世界」でお前を抹殺しようとした。ディエンドはそれを知り、俺達からお前を逃がそうとしただけだ。結果的に誤解が生じたお前は「世界の『壁』の破壊者」として覚醒した」

ある程度、要点をまとめて説明をした。次は、自分の考えを述べる。

「だが、分かってくれ。俺はお前を消す事に最後まで反対した。剣崎や渡も、それが本音ではない。この世界を救うために…どうしても必要だった」

これで彼の考えは変わるだろうか…。下手をすれば、言い訳に聞こえてしまっても不思議ではない。

「これからオマエはどうする…?」

そして、聞く。だが士は…。

「俺は全ての破壊者だ。俺に触れるものは全て破壊する…全てな」

そう言い捨てて、歩き去ってしまった。

 

「…破壊するのは触れているもの…。つまり仲間との壁、世界との壁…そして物語を閉ざす壁か」

 

その後、世界の破壊現象は治まった。

どうやらディケイドは、彼自身の物語を手にしたらしい。

だが…。

まだ世界の融合が進んでいる場所がある。

竜也のいる世界だ。

 

ディケイドの件が治まって、やっと戻ってきた。

家にしている場所には、竜也がいる。

「真司さん、おかえりなさい。あの…どうでした?」

「心配するな。全て上手くいった」

彼には、仮面ライダーとして最大の大役があるとだけ言って、留守にした。

安堵の表情を見せる竜也は謎の存在だ。

仮面ライダーになりたいと願うのは、竜也の感情論なのだろうが…。

『Kanonの世界』の住民に深く関わりつつも、『龍騎の異世界』に近い存在なのに、『龍騎の異世界』の住民ではない。

だが、世界の融合に深く関わっている事は間違いない。

 

まさか…。

 

考えたくはないが、オーディンではなく竜也が、世界の融合の元凶…。

 

まだ未熟な考えを持っているが、こんなにも優しく勇敢な少年が…?

 

すでに世界の40%が融合している。

このままでは1年ほどで世界は完全に融合し、消滅するだろう。

最悪の場合…。

 

竜也を消さねばならない可能性もある。

 

「俺にできるか…?」

彼のような優しい少年を、手にかけられるか分からない。

「真司さん…?」

はっとすると、目の前に竜也が不思議そうな顔で立っていた。

「悪い、考え事をしていた。今日は餃子にするか?」

「本当ですか!?やった!」

まるで無垢だ。こんな少年を手にかけるなど出来ない。急いで、世界を救う術を見つけなければ…。

 

数日後。

あのベンチの前に来た。

「久しぶりだな」

「あ…旅人さん」

月宮あゆは、未だにそこで竜也を待ち続けている。

「君は…ずっと待っているのか?」

「うん。約束したから」

この世界の人間は優しすぎる。時として残酷に思えるほど…。

「君が待っている男の子は…もう来ないかもしれない」

「え…?」

「その男の子は、君の事を忘れている。今は大きな困難に立ち向かっている」

これ以上、彼女が待ち続けていても、悲しいだけだ。

遠回しにだが、真実を伝える。

「じゃあ、それが終わるまで待つよ」

「…!?」

「約束だからね」

約束を守るためだけに、肉体のない状態で7年近くも待っているのに、それが破られそうになっても待つのか…。

「君は…強いな。分かったよ。教えよう、俺の名は「城戸真司」。月宮あゆ、君も信じて待ってくれ。俺も、君とその男の子を信じる」

「うん。じゃあ、指きり!」

あゆは小指を差し出す。城戸真司は戸惑いながらもその指に自分の小指を絡める。

 

「指きった!」

 

「じゃあ、いつかまた会おう」

そう言って、城戸真司は少女の頭に手を翳した。

「うぐ…?」

すると彼女は突然、眠った。

「すまない…」

城戸真司は、彼女から記憶を抜き取った。

今まで、自分と接してきた事。

そして…彼女が肉体のない存在だという事を。

 

数日が経った。

竜也の件以外で、恐れていた事態が起こった。

「渡してもらいましょうか、5枚のカードデッキを」

シザース、アビス、ベルデが現れた。おそらく、オーディンの手先だろう。

遂に本格的なデッキの奪還に動き出したようだ。

「竜也、下がってろ」

「でも…ライダー3人相手なんて…!僕がナイトやライアになれば少しは…!」

確かに通常形態の龍騎では、いくら戦闘慣れしているとはいえ、圧倒的に不利だ。

だが竜也を戦わせたくはない。彼は約束を守らなければいけない。

「変身!」

Vバックルにデッキを装填し、龍騎へと変身する。

「フン、身の程知らずが…!すぐに捻り潰してやる!」

ベルデが彼を嘲笑い、突進する。

「ふっ…!」

やはり変身して間もないらしく、単調な攻撃だった。すぐに避ける。

だが彼等はオーディンの手先であるが故に、カードの扱いは熟知しているだろう。

油断は出来ない。

<STRIKE VENT><STRIKE VENT>

ザザザザザザ!

「セェアアァ!」「ヌアアァ!」

シザースがシザースピンチを構え、アビスマッシュの水流に乗って龍騎に向かう。

速すぎて避けられそうもない。

<GUARD VENT>

ドガアアアアアアアアァ!

「ぐぅあぁ…!」「真司さん!」

ドラグシールドを呼び出し、防御に徹するが、やはり威力が強すぎた。ダメージ自体はないが…。

<CLEAR VENT>

ベルデは姿を消し、奇襲を仕掛ける作戦を取る。

「くそ…!」

<SWORD VENT>

ドラグセイバーを呼び出し、気配を必死に探る。

ズガアァ!

「セアァ!」「ぐっ…!?」

背後から、衝撃を受ける。痛みには慣れていたつもりだが、どうやら、そうもいかないようだ。

<SWORD VENT>

よろけた瞬間、アビスセイバーとシザースピンチを持ったアビスとシザースが攻撃を仕掛ける。

ガギィイ!ズガァ!

「がはっ…!」「真司さん、大丈夫ですか!?」

地面を転がった後に、竜也に抱き起こされた。

「くっ…まずい…!」

オリジナルライダーと言えど、3対1の劣勢に加え、明確な存在ではない竜也の前では本来の龍騎Sになれない。「Kanon」の存在だった場合は、世界の崩壊を助長させてしまう。

このままでは、竜也も殺されるかもしれない。

「私達の勝ちですね。おとなしく、5枚のカードデッキを渡してください」

「オマエは生存競争に負けた。強者に従え!」

「それとも、この場で処刑して差し上げましょうか?」

近付いてくる3人の仮面ライダー。勝てる方法は見つからない。

だが、手立てがないわけではない。

<ADVENT>

「ガアアアアアアアァ!」

現れたドラグレッダーはドラグブレスを吐き出して、ベルデ達を覆いつくす。

時間稼ぎだ。

「竜也、ドラグレッダーが戦っている間に、これをもって逃げろ!」

そう言って、ナイト、ファム、ライア、ゾルダのデッキを渡した。

今は彼に託したほうが良い筈。オリジナルライダーとして戦うには、龍騎Sを見てはいけない竜也がここを離れるしか方法はない。

「じゃあ、真司さんはどうするんですか!?」

当然、竜也は拒絶した。傍から見れば、自己犠牲にしているようなものだ。

だが、彼なら自分の考えを理解してくれるはずだ。

「あいつらは、俺がデッキを持っていると思い込んでいる。ここで奪われるよりマシだ!」

「でも、そんなことをしたら真司さんが!」

「ここで、正しい心を持った仮面ライダーを潰えさせては駄目だ。お前なら正しい心を持って戦えると信じている。仮面ライダー龍騎になって戦え!そして、お前が本当に信頼できる仲間に他のデッキを託して、共に人々を救え!」

彼なら龍騎を継げる。この世界の「仮面ライダー」になってくれるはず。

こんなに純粋で優しいならば、絶対にできる。

そして、あの約束も…。

「真司さん…」

「早く行け!」

変身を解いて、無理やり龍騎を含めた5枚のデッキを押し付けた。

「また、会えますか…?」

「お前が人々を守り続けていれば、いつかまた会える」

嘘だった。おそらく、彼とはこれで最後になるだろう…。

だが、嘘でも約束した。そうすれば、竜也は強くいられるかもしれないと思った。

「…ぜったいに死なないでください。真司さん!」

「…お前もな!」

 

「「しゃあっ!」」

 

竜也の姿が見えなくなった位に、都合よくドラグブレスは消えた。

「ドラグレッダー。竜也を頼む」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

このドラグレッダーに命じるのは最後になるだろう。竜也に向かって空を飛んでいく。

「完全に出し抜きましたね…」「貴様…!」「あの少年だけでも、逃がしたわけですか…」

目の前に、再び3人のライダーが立ちはだかる。

竜也がいない今、『龍騎の異世界』の住人である彼等には、龍騎Sを晒す事は問題ない。

「止むを得ない。これを使う」

そう言って取り出したのは…。

 

赤い龍騎のカードデッキ。

 

「変身!」

<<SURVIVE>>

城戸真司は赤い虚像に包み込まれ、龍騎Sへと変わった。敵を見据える。

しかし、シザース達には睨みつけたように見え、一気に焦りの表情に変わる。

「まさか…サバイブですか!?」「やはり使ってきましたか…!」「チィッ…!」

ゆっくりと歩く。出来れば、この威圧だけで退散してくれる事が一番、良かったが…。

「おい、怯えるな!コイツのサバイブを奪う事が、最重要任務だろうが!?」

ベルデの喝で、怖気づき始めたアビスとシザースは奮い立ち、再び龍騎Sと対峙する。

「死ねェ!」「ウオオオオオオオオオオォ!」

襲いかかってきた。不本意だが、戦う。

<<SWORD VENT>>

ドラグバイザーツバイからドラグブレードを展開し、握る力を込める。

「はあっ!」

ズガアアアアアアァ!

「ガアアアアアアアアアアアァ!?」「グオアアアアアアアアアアァ!」

やはり、力の差がありすぎた。異世界のライダーが3人がかりとて、オリジナルライダーを超える事など不可能なのだ。

「チッ…ノロマめ!」

<FINAL VENT>

ベルデは足に、呼び出したバイオグリーザの舌を絡め、突進してくる。「デスバニッシュ」を発動するつもりだ。

だが、そんな攻撃は通用しない。

<<GUARD VENT>>

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」

ドラグランザーを呼び出し、炎の防御壁「ファイヤーウォール」を作る。

真正面に向かってきたベルデは、炎の餌食になった。

「グワアアアアアアアァ!」

竜也を必要以上に苦しませたくはない。

だから…。

「ここで…お前達を倒す!」

この場で、この3人のライダーを消す。ドラグブレードを構えて、ゆっくり近付く…。

「ヒッ…く、来るな!」「待て!私の負けだ!」「もう貴方には干渉しません!」

無視して、どんどん近付く。

「…っ!」

ドラグブレードを振り上げる…。

そのとき…。

 

「お前は…唯一の友と…呼べるかもしれない」

 

秋山蓮の言葉がリフレインした。

そう…彼が友と認めた城戸真司は、どこまでも人の命を奪う事を拒絶し、どこまでも真っ直ぐで、どこまでも優しい城戸真司。

「蓮…」

ドラグブレードを振り下ろす事ができなくなっていた。

「今です!逃げましょう!」

その隙にアビスが波を作り出し、姿を消した。

「くそ…」

やはり甘い。自分は仮面ライダーとして甘すぎる。

そう思い、悔しさから空を見上げると…。

「あれは…?」

 

空に亀裂が走っている。

 

世界の融合が進みすぎたようだ。

これ以上は干渉できない。

「ここまでか。竜也、後は頼んだぞ」

そう言ってオーロラを使い、城戸真司はこの世界を離れた。

 

野上良太郎にこれからの動向を説明している。

「俺はこれから『ドラゴンナイトの異世界』に向かう」

「もしかして『ドラゴンナイトの異世界』って…」

「そう。ドラゴンナイトのほかにも、『バカとテストと召喚獣の世界』や『けいおんの世界』が融合しているのに、全く崩壊の危機を持たない、特殊な世界だ。その世界に『Kanonの世界』と『龍騎の異世界』の崩壊を阻止する、ヒントがあるかもしれない」

答えとはいかずとも、ヒント…もしくはそれに近しい力があるかもしれない。それを探す。

「真司さん…竜也君のことを守りたいんですね」

「あいつもそうだが、あいつの約束もだ。いつかまた会えるときは…彼が幸せで包まれますように…」

以前、秋子から贈られた言葉。それを竜也にも贈った。

 

そして…

「ここに…あるだろうか…?」

『ドラゴンナイトの異世界』に入り込み、術を探す。

竜也が…救われ、約束を果たせるように…。

 

 

 

そして…

 

 

 

「城戸さん」

ふと、津上翔一に呼ばれる。

「名残惜しいですか?」

たった今、『龍騎とKanonの世界』での最終決戦を終え、竜也達と別れを告げた直後だ。

「いや…また会うつもりです」

「あの世界には干渉できないんだぞ?」

城戸真司の言葉を、ヒビキがきっぱりと切り捨てる。

「そうでしょうか?また来る事になるかもしれませんよ」

そう言って、2人を残して歩き去った。

 

とある砂浜に来た。ここは『クウガの世界』と『アギトの世界』の狭間。

そこでは、五代雄介がジャグリングをしている。彼の特技の一つだ。

「五代さん、ありがとうございます。あの世界は救われました」

「君達の力だよ、真司。竜也君やあゆちゃんを最後まで信じ続けて、そして救った。君の信じた人達と君の力が「奇跡」を起こした」

ジャグリングをしながら答える五代雄介。

「俺…オリジナルライダーから抜けたいんです。方法はありますか?」

「無いけど、抜けても良いよ」

耳を疑った。拒否されると思ったが、あっさりと五代雄介は受け入れた。自分たちがこの役割を担わなければ、消滅する世界が増えるはずなのに。

「大丈夫だよ。今回の件で分かった。世界には強く優しい人がいる。俺達が世界に干渉する事が間違いだよ。俺達も自分たちの世界に戻ろうと思うんだ。オリジナルライダーの運命からは逃げられないから、時々は召集が掛かるけどね」

振り向いて、ニッコリ笑う五代雄介。

「翔一も、巧も、一真も、仁さんも、総司も、良太郎も、渡も、居場所がある。もちろん、俺にも。久々に、一条さんや桜子さんに会いたいな」

そう言って、身体を強く伸ばす。

「真司には、あの世界に居場所がある。行きなよ。大切な人たちが待ってる」

「…ありがとうございます」

そう言って2人は別れた。

だが近いうちに再会するだろう。仮面ライダーとして。

でも、それまでは…彼等にも安息が与えられた。

 

 

 

 

 

 

「叶えたい願いは…」

 

 

 

 

 

 

~Fin~

 

 

 





キャスト

城戸真司=仮面ライダー龍騎サバイブ

龍崎竜也
月宮あゆ

門矢士=仮面ライダーディケイド

須藤マサキ=仮面ライダーシザース
高見沢イツキ=仮面ライダーベルデ
鎌田マサト=仮面ライダーアビス

紅渡=仮面ライダーキバ エンペラーフォーム
剣崎一真=仮面ライダーブレイド キングフォーム

津上翔一=仮面ライダーアギト シャイニングフォーム
乾巧=仮面ライダーファイズ ブラスターフォーム
ヒビキ(日高仁志)=仮面ライダーアームド響鬼
天道総司=仮面ライダーカブト ハイパーフォーム
野上良太郎=仮面ライダー電王 ライナーフォーム

五代雄介=仮面ライダークウガ アルティメットフォーム

秋山蓮=仮面ライダーナイトサバイブ


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