救世主の贖罪 (Yama@0083)
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1. プロローグ ~偽りの救世主~

どうも、Yama@0083です。別小説とちゃんぽんで投稿するので、亀更新になる可能性大です。ご了承ください。
では、プロローグです。今回のほとんどは最終決戦の内容なので、IS要素は最後に少しだけしか入りません。ごめんなさい!!!!


どこまでも暗い宇宙に、赤と青の機体が対峙していた。

 

 

 

―俺を救い、俺を導き、そして今また俺の前で神を気取るつもりか!

―いいや、神そのものだよ。

 

 

 

 

 

 

 

―共に歩む気は無いと・・・分かり合う気は無いのか!!

―人間が自分達の都合で動物達を管理しているのと一緒さ。

それに、純粋種となった君に打ち勝てば、

僕の有用性は不動の物となる。

 

 

 

 

―そのエゴが世界を歪ませる・・・

貴様が行った再生を、この俺が破壊する!

―良い覚悟だ!

 

 

 

 

 

 

―・・・君のその力、オリジナルのGNドライヴの恩恵があればこそだ、返してもらうぞ!

―誰が!

―そうさ、そうでなければ僕が造られた意味が無い。存在する意味も!

―違う。

―ッ!ティエリア・アーデ!ヴェーダを使って!

―人類を導くのではなく、人類と共に未来を作る。それが僕たちイノベイドのあるべき道だ!

ティエリア・アーデのプレッシャーが、リボンズの眼前に現れ、消えた。

―下等な人類などと一緒に!

―そうやって人を見下し続けるから、分かり合えない!

―・・・その気は無いよ!

 

 

 

リボーンズガンダムとダブルオーライザーの勝負の結果は相打ち。しかし、彼はダブルオーのオリジナルのGNドライヴを斬り落とし、それを持って宇宙をさまよっていた。

―ハッハッハッハ・・・遂に手に入れた、オリジナルの太陽炉を!これさえあれば、僕はイオリア計画の体現者、いや、それすらも超越した存在となる。

その時、リボンズの体を衝撃が襲った。

―くっ・・・機体のダメージが。このままでは・・・ん?

すると、彼の視線に一つの機影が映った。その機体はトリコロールカラーで、全てのガンダムタイプの原点とも言える機体。そして、彼が歪んだ思想を持ち始めたきっかけとなった理由でもあるその機体は・・・

―0ガンダム・・・フッ、これは運命だ。まだ僕は、戦える!

 

 

 

その頃、リボーンズガンダムとの相打ちで大破したダブルオーの中で、刹那は目を覚ました。

―うっ・・・くっ、あああ・・・

彼はコックピットに浮かんでいた花に手を伸ばした。しかし、幾ら伸ばしても届かない。すると彼の目にもまた、一つの機影が映った。

―あれは・・・!

 

 

 

―GNドライヴ、マッチングクリア。行ける!

彼はかつて乗っていた機体に搭乗し、刹那を捜した。

―どこに居る、刹那・F・セイエイ・・・ピピッ そこか!

カメラが捉えたのは、搭乗者及び残りのGNドライヴが消えたダブルオーの姿だった。

―太陽炉が無い!まさか・・・まさか!

彼が上を向くと、宇宙に一閃の閃光が奔った。それはどんどんこちらに接近してくる。そして、彼の目に映ったのは・・・

―ガンダムエクシア・・・!

 

 

―ガンダムエクシア・・・刹那・F・セイエイ、未来を切り開く!

ジャキン、と音を立て、エクシアの右腕に取り付けられたGNソード改が展開された。

―くっ・・・このぉ、人間風情がぁ!

エクシアにビームライフルを向け、乱射する0ガンダム。エクシアはそれを悉く回避し、0ガンダムに体当たりをした。二機はそのまま月に落下し、月面で戦闘を続行した。エクシアの放ったビームが、0ガンダムのビームガンに直撃し、爆発する。0ガンダムは仕返しとばかりにエクシアに接近し、パンチを繰り出した。エクシアは0ガンダムを抱え、背負い投げを繰り出した。そして月面に衝突した0ガンダムに、エクシアはGNビームサーベルで斬りかかる。ビームサーベルは0ガンダムのコックピットをかすり、操縦席が露わになった。

―このっ!

対する0ガンダムも、ビームサーベルでエクシアのコックピットに斬りかかった。そしてエクシアの操縦席もまた露わになる。

二機は距離を置いて立ち上がり、互いを見据えた。不意に0ガンダムがシールドを投げ捨て、ビームサーベルを構えた。対するエクシアもそれに応えるかの様に、GNソードを構える。ようは一騎打ちで勝負を決めるつもりなのだ。

エクシアのGNドライヴのリミッターが解除され、大量のGN粒子が放出される。そのGN粒子が描く輪はまるで天使の輪の様だった。エクシアは0ガンダムに向かって走り出す。そしてツインアイを光らせ、一気に0ガンダムに肉薄した。0ガンダムもまた、エクシアに飛びかかった。そして二機が交差し、まばゆい光が奔った。

光が収まると、GNソードが0ガンダムのコックピットを貫いており、0ガンダムは火花を散らしていた。そしてゆっくりとツインアイから光が消え、0ガンダムはエクシアを巻き込み爆発した・・・

 

 

 

 

 

 

 

―全く、皮肉な物だね・・・まさか、かつて救った少年に討たれるとは。

暗い、暗い闇の中、リボンズ・アルマークは独白した。しかし、その顔はどこか晴れやかな表情だった。

―だが、これで良かったのかもしれない。刹那・F・セイエイが純粋種となった様に、他の人間にもまた、純粋種に覚醒する可能性がある。それが分かっただけでも良かった。人間も・・・案外侮れないかもしれないね。

すると、リボンズの目の前の景色が光に包まれた。

―僕は役目を果たした。刹那・F・セイエイを純粋種に覚醒させる手助けをやり遂げた。もう十分だろう。世界の事は・・・君たちに任せるよ、

 

 

             ソレスタルビーイング、そして人間達・・・

薄れゆく意識の中、彼は再び目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある研究所で、一組の男女が争っていた・・・というより、女が一方的に怒鳴り散らしていた。

「何で男なんか作り出したのよ!もし篠ノ之 束並の能力を持っていたとしても、ISが使えないんじゃ意味無いじゃない!」

「すいません!手違いがあったようで・・・どうしますか?」

「決まってるじゃない、処分よ。男なんか作っても無駄なだけよ。それにもう一体の方は成功したみたいだし。」

「ッ!いくらなんでもそれは・・・!」

「黙りなさい!これは命令よ!アンタはそれに従ってりゃいいの!」

「くっ・・・分かりました。」

「それでいいの。ほら、ちゃっちゃとやっときなさいよ。」

女は踵を返し、どこかへ去っていった。

「・・・アイツ!いくら実験で作り出したとは言え、命をなんだと思っているんだ・・・!」

そして、彼は成功体の方に目を映した。

「こいつは成功か。思考パターンも篠ノ之 束並。まさに完璧・・・と言って良いだろう。だが・・・」

研究員は失敗作と評された方に目を向けた。

「こいつの思考パターンは『測定不能』だと?もしかすると、篠ノ之 束を超えているかもしれないぞ。」

研究員は二人の資料に目を通した。

「成功体の名は『ルビ・スファイア』か。ならこいつの名前はどうしようか・・・」

彼は数分脳をフル回転させて考えた。そして出てきた名は、

「この歪んだ世界を・・・女尊男卑の思想に染まってしまった世界を再生してくれ・・・

 

 

 

                

 

                  『リボンズ・アルマーク』。

 

 

彼の戦いは、まだ終わっていない。




おわりです!最終決戦の台詞はモロコピーですが、たまに原作には無い台詞も入れてます。(つっても少しだけですがwww)次話からIS要素ガンガン入れていくのでお楽しみに!


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2. 再生の目覚め ~天災との遭遇~

今回はちょっと長めです。そしてIS戦闘は次にだそうかと思っています。それではどうぞ!


緑色の液体の中で、彼―リボンズ・アルマークは目覚めた。

(これは培養液か・・・?それは良いとして、ここはどこだ?)

彼は辺りを見回した。まず目に入ってのは・・・自分の入っているポッドに繋がれた複数のパイプ。それを見て、彼は自分が誰かに作られた存在であると理解した。

(全く、また人間の手で作り出されるなんてね・・・正直、もう勘弁して欲しいよ。)

そして、彼は横を見た。すると、別のポッドの中にも人が入っていた。恐らく僕と同類だろう、と彼は感じた。中に入っていたのは少女で、彼女もこちらを見ていた。彼女の目は赤と緑のオッドアイで、とても透き通っていた。

(成程、恐らく僕と彼女は同時期に作られたと見て良いだろう。・・・そういえば、脳量子波は使えるのかな?)

彼は脳量子波が使えるかどうか試す事にした。

 

 

数分後

(ふむ・・・全盛期(最終決戦時)程ではないけど、問題なく使えるようだね。これは良い。)

彼はしばらく脳量子波を発し続け、人の気配を探し続けた。

(! 一人近づいてくる。恐らく研究員か何かだろう。なら問題は無いか。)

彼は目を閉じ、脳量子波の使用で少し疲弊した頭を休ませる事にした。

 

 

 

 

 

数十分後

ドォン!

彼が眠っていると、突然轟音が鳴り響き、研究所全体が揺れ動いた。

(敵襲か?全く、静かに眠らせて欲しい物だよ。)

彼は再び脳量子波を張り巡らした。すると、彼のレーダーに今まで察知されなかった場所に、突然人の気配が現れた。

(!? 僕の脳量子波の監視を掻い潜っただと!?人間にそんな芸当できる訳が・・・いや、いくら人間とは言え、侮ってはいけないな。いい加減に学ばなければ、また自ら身を滅ぼす事になる。)

彼は警戒しながら、その人間が来るであろう方向を見ていた。すると、通路の奥から話し声が聞こえた。

「本当なのですか?束様の思考パターンを埋め込み、人工的に『天才』を生み出す実験というのは。」

「この天才の束さんが調べたんだから間違いないよ!それにしてもナンセンスだよね、人工的に『天才』を生み出そうなんてさ。束さん、久しぶりにキレちゃったよ。」

「ええ、あんなに怒った束様を見るのは私も初めてです。」

その声に、彼は疑問を抱いた。

(二人?しかも女だと?男ならまだしも、女がこの研究所を襲ったのか?)

「あ、着いたみたいだね。じゃあ早速回収しよっか!」

「分かりました。」

小さな電球の光に照らされて見えたのは・・・

銀色の髪をたなびかせ、どこか清楚な感じを醸し出している少女。

そして、彼が自分の目を本気で疑ったのは・・・

「あ、男も作り出してたんだ。・・・う~ん」

その女は、異様な程胸元が開いたドレスの様な物を着ており、その頭には謎の物体が乗っていた。

(あれは何だったか・・・かつてヴェーダで調べた中で見たような・・・確か「ウサミミ」とか言う名前の。)

「・・・ふふっ、中々面白いじゃん、君。」

そう言って、彼女は側に落ちていた資料に目を通した。

「『リボンズ・アルマーク』・・・再生か。この名前を付けた人、中々良いセンス持ってるんじゃないかな?」

彼女はもう一人の少女に声をかけた。

「そうですね。恐らくこちらの少女は違う者が名付けた様ですが。」

「へぇ、なんて言うの?」

「『ルビ・スファイア』。恐らく彼女の目の色が赤と緑のオッドアイなのでそう名付けたのではないかと。」

「ルーちゃんにリっくんか・・・我ながら良い名前だと思わないかいク―ちゃん!!」

「そうですね。束様のネーミングセンスにも多少問題はあるかと。」

「ぶ~、そんな事言うと束さん拗ねちゃうぞ~?」

「拗ねるのは後で結構ですから、とりあえず御二方を運びましょう。」

「分かったよ・・・もぉ、ク―ちゃんつれないなぁ・・・」

すると、建物の天井が崩落し、上空に輸送機が現れた。

「じゃあ、君たち二人をこの束様のラボに連れてくから、どこでもいいから掴まっててね~」

(いや、この培養液で満たされたポッドの中の何処を掴めと言うんだい?)

「じゃあ行こうかク―ちゃん!ぶっとばして行こ~!」

「了解しました。」

その輸送機はゆっくりと研究所を後にし、帰りざまにミサイルを数発研究所に撃ち込んだ。そして、その研究所は壊滅した。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ着いたよ!っと、その前にその中から出して上げないとね!」

彼女はポッドにパソコンを接続し、数秒もしない内にシステムに入り込み、そしてポッドを開放した。

培養液から突然解放された少年と少女は、床に叩きつけられた。

「うっ・・・くはっ、あ・・・」

少女は肺に溜まっていた培養液を吐き出し、床を這いずった。

「げほっ、げほっ・・・全く、勘弁して欲しいな。いきなり解放するとは。」

対する少年は、若干苦しそうにしながらも、その足で立ち上がり、しかも話しかけた。

「あれれ、君は立てるの?凄いね、大抵は床を這いずって、数時間してようやく立ち上がるんだけど。」

「ああ、僕は問題ないよ。それより・・・」

彼は床で蹲っている少女を見て、こう要求をした。

「とりあえず、僕と彼女に服をくれないかな?このままでは寒いんだ。」

「おっけい!この束様にお任せあれ!」

彼女は一瞬で服を持って帰ってきた。

(この女・・・本当に人間か?)

彼女が持ってきた服は、かつて彼が着ていた服と似ていた。

(ふふ・・・やはりこの服は着ていると何か安心するね。パイロットスーツよりこちらがずっと落ち着くよ。)

彼が服に満足していると、何故か自己紹介が始まった。

「私は條ノ之 束。君達のある意味オリジナルとも言える、世界が認める超☆天☆才なのだ!」

「私はクロエ・クロニクルです。訳あって束様に仕えています。これから宜しくお願いします。」

(僕の目にはこのクロエという少女の方が天才に思えるのだが・・・僕だけかな?)

「むっ、リっくん私を天才だって思ってないな~?」

(!?何故分かった!?)

「そりゃあ、私は天才だからね!ぶいぶい!」

どん、と胸を張る天才(笑)、束。

「とてもユニークな自己紹介感謝するよ。僕はリボンズ・アルマーク。これから宜しく頼むよ。」

「もうちょっとひねっても良いんじゃないかな?例えば『救世主なんだよ僕は!』とかさ。」

「・・・ボソッ 人の黒歴史を掘り返さないでくれるかな?」

「何か言ったかいリっくん?」

「こちらの話さ、気にしないでくれ。ところでリっくんとは?」

「そりゃあ君だよ!『リボンズ・アルマーク』だから『リっくん』!良い名前でしょ!」

その独特過ぎるとも言えるネーミングセンスに、彼は絶句した。

「・・・君のネーミングセンスにはかなりの問題があるという事は理解したよ。」

「あー!リっくんまでそんな事言う!助けてク―ちゃん!」

「束様、彼の言う事はもっともです。」

「私全否定!?酷いよみんな~・・・しくしく・・・チラッ」

「さて御二方。私がこのラボを案内しますのでついて来て下さい。」

「それは有り難い。是非頼むよ。」

「る・・・ルビも行く・・・」

「おや、もう立てるのかい?しかしまだふらついているではないか。肩を貸すよ。」

「ありがと・・・お兄様。」

「お兄様?僕は君の兄では・・・ああ、僕の方が君より作られた日にちが早かったのか。」

「うん・・・だから、お兄様はお兄様・・・」

「その呼び方で構わないよ。じゃあクロエ、案内お願いするよ。」

「分かりました。ではこちらへ。」

「ああっ!?待って待って!無視しないで~!!」

彼らは今日初めて会ったにも関わらず、まるで家族の様な雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

彼らが束のラボに保護されてから、早一週間が過ぎた。リボンズは今日、束に呼び出されていた。

「束、失礼するよ。」

「あ、リっくん!さぁ入って入って!」

今はもう名前で呼び合う程の仲になったが、彼は束がどんな研究をしているのか気になっていた。どこに束を「天才」と言える要素があるのか、今だ掴めずにいたのだ。今日それが判明するかもしれないので、彼は内心喜んでいた。

「さて、今日リっくんを呼んだ理由なんだけど・・・これ、触ってくれるかな?」

そう言って彼女が出してきたのは、パワードスーツの様な物だった。

「これは何だい?見たところ何かしらのスーツの様だけど。」

「これは『インフィニット・ストラトス』。通称ISと言ってね、この束さんが作ったスペシャルなパワードスーツなのだ!!まあ、世間的には兵器で通してるけど。」

彼は束から渡された資料に目を通して、感嘆の声を上げた。

「ほう、これが君の発明というわけか。成程、これほどの物を作り上げていれば、君が天才と言われているのも頷ける。」

「そうでしょー!でね、このISなんだけど一つ欠点があるんだよ。それは男には使えないこと。」

「それは・・・兵器としては最低の発明だね。でも、それなら何故僕を呼んだんだい?僕も男なのだから例外ではない筈だ。」

「普通はそうなんだけど。でも、リっくんはこの天才束さんの思考パターンから生み出されたんだから、もしかしたら・・・って思ってね。」

「成程。開発者に関係しているのだから、ISを使える可能性が少なからずはあるという訳だね?」

「さっすがリっくん、呑み込みが早いね!そういう事なら話は早い、早速触ってみてよ!」

「了解したよ。」

そして、リボンズがISに触れると・・・

 

突然、ISが光りだした。多くの情報がリボンズの脳に入り込んでくる。

(な、なんだこれは!?この情報は全てISの物なのか!?)

そして、光が収まると・・・

第二世代型IS、「打鉄」を身に纏っているリボンズの姿があった。

「これが・・・これがISか・・・」

「おお~、さすがリっくん!やっぱり私の読みは間違ってなかったね!」

掌を開閉したり、武器を取り出したりするリボンズ。

「初めてでそこまでできるんだ・・・じゃあ、一回飛んでみよう!」

「分かったよ。」

リボンズは取り敢えず意識した。すると、打鉄が徐々に浮きはじめ、そして、その数分後にはそこら辺を飛び回っていた。

「これは凄い・・・流石だね、束。こんな代物を作り出してしまうとは。」

「でしょー?で、こんなこともあろうかと、もうリっくん専用のISを作っておいたよ!」

「・・・君は本当に仕事が早いね、称賛に値するよ。」

「ふふん、ではそちらをご覧あれ!」

すると、壁の一部がスライドし、中から一機のISが出てきた。リボンズは、その造形に見覚えがあった。

ISには珍しい全身装甲(フルスキン)。トリコロールカラーの機体。頭部のV字アンテナとツインアイ。そして背中にあるコーン型のスラスター。

「これには私の新しい技術が取り込まれててね、なんと、この機体は特殊な粒子を使用して飛んだり、その粒子を圧縮すればビームを撃てたり出来るんだ!これはリっくんの入ってたポッドに微量ながら付着していた物なんだよ!」

(成程、僕がこちらの世界に来たと同時に、GN粒子も少し移って来たのか。これは嬉しい誤算だ。)

「で、この機体の名前なんだけど・・・」

「束、それは僕が決めるよ。君に任せては不安だからね。」

「酷いよリっくん!まぁ・・・元々君に託すつもりだったからいいんだけどね。じゃあどうする?」

(そんな物決まっているさ。この機体の名は・・・)

「・・・0。0ガンダムだ。」

「ほほう、()と書いて(オー)と読むんだね。いやぁ、中々良い名前じゃないか!じゃあ、この機体は『0ガンダム』で登録っと・・・ポチポチ」

リボンズは、ずっと0ガンダムを見ていた。

(0ガンダム・・・まさか、君にまた会えるとは思ってもみなかったよ。今度は僕を導いてくれ。

 

 

                    

 

 

 

                    正しき道へ・・・

 




はい、一気に物語が進みましたね!リボンズが最初からIS使えると確信して0ガンダム作った束さんスゲェ・・・次回、オリキャラのルビのISも出す予定です!お楽しみに!


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3. 模擬戦 ~O and T~

今回は模擬戦です!そして、オリキャラであるルビのISが登場します!案外00×ISのSSには敵キャラとして出てきてる機体なので、大方予想が付くと思います。オリジナル要素も入れました。戦闘描写は苦手ですが、頑張って書いたんで楽しんでくれれば幸いです!!!ではどうぞ!


「リっくん、せっかくだしテストをしてみたらどうかな?きっとリっくんなら使いこなせると思うよ!」

「心遣い感謝するよ。それではまた後程。良い結果を期待しておいてくれ。」

「うんうん、りょ~か~い」

部屋から出ていくリボンズを見送り、束は一人独白した。

「きっとリっくんならスペック以上の性能を引き出してくれる筈だね!さて、リっくんの戦闘データを採って、そこからルーちゃんの機体を作りますか!!頑張るぞー!!」

 

 

 

シミュレーションルーム

その頃、リボンズは訓練及びテストを行っていた。動き回る的に、次々とビームを当てていく。

「全く、こんな物じゃテストにもならないだろうに・・・そこ!」

そして、最後の的にビームを当て、訓練が終了した。

「他愛も無い・・・まぁ、むやみにISを浪費する訳にもいかないし、しかもここには4人しか住んでいる者が居ないからね。ISを動かすパイロットが少ないから仕方あるまい。」

すると、室内に束の声が響いた。

『その心配はないよリっくん!』

「束かい?すまないね、大したデータの採取は出来なかっただろう。」

『ううん、とても良いデータが採れたよ!そのおかげでまた新しいISが出来たしね!!』

「この短時間でもうISを作ったのかい?全く、君には驚かされてばかりだ。」

『それほどでもあるよ~。そうだ、ルーちゃんを新しいISのテストパイロットにしたから、模擬戦よろしくね!』

「人使いの荒い・・・まぁいいさ。これでやっとまともな戦闘が出来そうだしね。了解したよ。」

『えへへ、ありがとね!じゃあルーちゃん、よろしく~』

『ん・・・分かった。』

おそらくルビも束の研究室に呼び出されたのだろう。

(本当に人使いの荒い・・・毎日束の相手をしていたクロエを今は尊敬するよ。)

彼は素直にクロエの精神力に感心した。以前の彼ならそんな事はしなかっただろうが、やはり彼も刹那・F・セイエイに討たれた事で多少変わったのだろう。

「取り敢えず、ルビが来るまで武装の再確認をするとしよう。」

 

まず、彼はビームガンを取り出した。まだ試作段階のこれだが、第二世代のIS程度なら難なく渡り合う事が出来る。

次に、ビームサーベル。おそらく、0ガンダムの武装の中で一番相手のシールドエネルギーを削りやすい物だと言えるだろう。

最後に、ガンダムシールド。表面にGN粒子をコーティングして防御力を上げる事が可能な盾。しかし大きいため、取り回しはあまり良くない。

「今の所これで全てか・・・シールドはむやみやたらに取り出さない方が良いね。かえって機動力が悪くなってしまう。使い所を見極める必要がありそうだ。」

そして全て確認した後、ルビがシミュレーションルームに到着した。

「ごめんなさいお兄様・・・待った?」

「問題無いさ、今まで武装の確認をしていたからね。ところで、新しいISとはどんな物なんだい?」

「待ってて。ん・・・」

少しルビが念じると、ルビの体を光が包み、そしてそのISが姿を現した。

「これ。これが・・・ルビのIS。」

「これは・・・!」

それは、先程纏った「打鉄」に似ていた。しかし、所々にスラスターが付けられ、また右肩の盾は廃止されて大きな砲身が追加され、そして左肩に通常より小ぶりな盾が付いているので、実質別物と化していた。

『それは「打鉄」を束さんなりに改造した奴だよ!と言っても、スペック上の問題でそこまで大きな改造は出来なかったけどね。でも、性能はかなり上がってるから、第二世代のISなんか普通に倒せるんじゃないかな?あ、ちなみにまだ名前は決めてないから、リっくんが決めてもいいよ!』

「ふむ・・・」

(そうだね・・・右肩の巨大な砲身といい、左肩の小ぶりな盾といい・・・あの機体に似ているね。)

「・・・スローネ。この機体の名はプロトスローネだ。」

『プロト?という事は、これをまた改造するつもりなの?』

「心配しなくとも、それは僕が請け負うつもりさ。」

『おっけい!あと、それにはこの天才束さんも力を貸そうではないか!!』

「助かるよ。ではルビ、準備は良いかい?」

「良いよ・・・やろう。よろしくね、スローネ。」

ルビが「打鉄」改め「プロトスローネ」に搭載されたブレード「閃光」を構える。対するリボンズもビームサーベルを構え、戦闘態勢に入った。

『それじゃあ、これからリっくんとルーちゃんの模擬戦を始めまーす!!ドンパフドンパフ~!』

「「早くしてくれないかな?」」

『はいは~い、じゃあすたーと!!』

先に仕掛けたのはルビ。追加スラスターにより高速戦闘が可能なプロトスローネの特徴を生かし、一瞬でリボンズに肉薄し、閃光を振りかざした。しかし、リボンズはその重い一撃を受け止め、逆にパワーで押し返した。なら、とばかりに肩部の大型プラズマ砲、「星落」を向け、発射した。リボンズはそれを躱し、更に高速でルビに接近する。ルビは接近させまいと星落を次々に撃つが、リボンズはそれを時には避け、時にはビームで相殺させ、時にはガンダムシールドで防御して、確実にルビに近づいていた。

数撃っても勝てないと悟ったルビは、星落をリボンズの足元に向け発射し、何とか足止めをしようとした。リボンズはそれを躱すが、プラズマ弾が地面に当たった際の衝撃波で若干リボンズがふらついた。ルビはその絶好の機会を見逃さず、星落を正確にリボンズに発射した。プラズマ弾はまっすぐリボンズの下に向かい、直撃した。砂埃が周囲を包む。

「や・・・やった?」

ルビは確実に当てた。それは間違いない。だが・・・

「それが全力かい?」

「えっ・・・ッ!?」

不意に後ろから聞こえた声に、ルビは慌てて振り返る。しかし、気づけば首元にビームサーベルを突き付けられていた。

「チェックメイトだよ、ルビ。」

「・・・うん。」

ルビは素直に敗北を認め、ISを解除した。それを確認したリボンズもビームサーベルをしまい、ISを解除した。

「ルビ、君は確かに技量はあるし、発想も良い。あのプラズマ弾の衝撃波を使って僕のバランスを崩し、その隙を突くとは中々の物だったよ。」

(それ、偶然だったんだけど・・・でも良いか、お兄様に褒めてもらえたし・・・)

「だが、やはりまだまだ経験が足りないね。だから、これから様々な戦闘を通して学べばいいさ。君の成長に期待しているよ。」

「うん・・・ルビ、頑張るよ。」

『おー、これが兄の愛って奴かな?本当に見ていて素晴らしいね!!」

「むぅ・・・束、空気読んで。」

『いやーメンゴメンゴー!じゃあ後で私の所に来てね、リっくんとルーちゃん!」

「「了解したよ(ん・・・分かった)。」」

二人はしばらく、互いの戦闘の感想を言い合っていた。まるで、仲睦まじい兄妹の様に。

 

 

 

 

 

 

 

        そして、彼の存在が世界に知られる日は突然やって来る。




てことで、ルビのISはスローネでした!モデルとしてはスローネアインを採用しています。次回はモンドグロッソの話に移ります!リボンズはどうやって一夏を救い出すのでしょうか?


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4. モンド・グロッソ ~戦場に舞い降りる天使~

何かいつのまにやらUA1500越えてました・・・見てくださった皆様に感謝です!!!これからも慢心せずに頑張りますので、よろしくお願いします!


その日も、リボンズは束に呼び出されていた。

「リっくん、今日はドイツに行ってくれないかな?確かモンド・グロッソが行われる筈だから、良い経験になると思うよ!」

「モンド・グロッソ?何だいそれは?」

「簡単に言えばISの世界大会だね!世界各国の代表者が集まってドンパチして、総合優勝者にはもれなく最強の称号『ブリュンヒルデ』が与えられるんだよ!!」

「とてもアバウトな説明感謝するよ。成程、各国の手練れ達が集まって戦うのだから、中々良い勉強にはなるだろう。だが・・・君の本当の目的はそれじゃないよね?」

「さすがだねリっくん。そう、今回は私の数少ない友達の弟君を影から護衛して欲しいんだ。」

「やはり裏があったか・・・して、その護衛対象の顔は?」

「これだよ!この男の子!」

束が取り出した写真を見ると、どこで撮ったのか分からないが黒髪短髪の少年の顔がアップで写っていた。

「この少年だね・・・それで、この少年の名は?」

「織斑 一夏。私はいっくんって呼んでるよ!」

「成程、記憶したよ。では、今から向かえば良いかな?」

「お願いね!なんか裏で怪しい奴らが動いてそうだから、出来るだけ早く!」

「分かったよ。それでは出撃するとしよう。任務は必ずこなすさ。」

「ありがと~!!早く済まして早く帰って来てね~!」

「ああ。リボンズ・アルマーク、0ガンダム、行く!」

彼はGNドライヴを起動して、空へ飛翔した。

 

 

 

 

 

 

モンド・グロッソ会場

その頃、織斑 千冬とアメリカの代表選手の試合が行われていた。織斑千冬のISは、「暮桜」。刀剣型近接武器「雪片」のみを備え、単一仕様能力「零落白夜」によって今までモンド・グロッソを勝ち抜いて来た。まあ、今まで勝ち抜いて来たのは千冬自身の技量もあるが。だが、相手もこれまで勝ち進んで来ただけあって、両者互角の戦いをしている。

(このままでは埒が明かない・・・「零落白夜」を使うか!)

千冬が零落白夜を起動して勝負を決めようとしたその時、

ドォォォォォン!!

天が揺らぐかの様な爆発が、観客席の一部で起きた。千冬は異常を感じ、ドイツ軍に連絡をした。

「おい、どうした!襲撃か!」

『はい!おそらくテロリストかと!現在、我が軍のシュバルツェ・ハーゼ隊が事態の鎮静化を行っております!』

「分かった、私も援護する。どこに行けば良い?」

『ただ今位置情報を転送します!ん?ふむ・・・何だと!?そんな、そんな事が・・・!?』

「おい、どうした!何が起きた!」

『織斑 一夏君が・・・

 

 

 

            貴女の弟が、テロリストによって誘拐されました!!』

 

 

 

リボンズは、モンド・グロッソ会場の近辺を移動していた。先程の爆音で、彼はもう戦闘が始まっている事を理解した。

「こちらリボンズ・アルマーク。束、状況はどうだい?」

『大変だよリっくん!いっくんが誘拐されちゃったよ!!』

「何だと!?一足遅かったか・・・仕方ない、救助に向かう。位置情報の転送を頼むよ。」

『りょーかい!急いでねリっくん!』

彼は送られた位置に、GNドライヴをフル稼働させて向かった。

 

 

 

その頃ドイツ軍本部では、織斑 一夏の場所の特定を大急ぎで行っていた。おそらく今回彼が狙われたのは他でもない、彼が「世界最強(ブリュンヒルデ)」の弟だからだろう。シュバルツェ・ハーゼ隊の副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフは、外見には出さないものの、かなり焦っていた。軍において上官が焦るのは愚かな事だが、なんせこれは人命に関わる任務なのだ。1秒でも早く彼を救出しなければ、その1秒の間に殺されていた、という事態になっては冗談では済まない。だからこそ、彼女は焦っていたのだ。

「織斑 一夏君の居場所特定は済んだか!」

「もう少しで割り出せそうです!推定約20秒!」

「20秒だと!?もっと早くできんのか!!」

「これが最速です・・・あれ?ちょ、ちょっと待って下さい!」

「どうした、何か問題でも発生したのか!!」

「所属不明のISが接近!映像を出します!」

「何だと!?早く映してくれ!」

そしてモニターに現れたのは、全身装甲(フルスキン)のIS。頭部にV字のアンテナが付いており、そして、そのISの背部から、何やら緑色の粒子の様な物が噴出している。その神々しい姿に、誰かがこう漏らした。

「て・・・天使・・・?」

そのISは、急に背部から排出する粒子の量を増幅し、それと共に機体のスピードが上昇した。

「・・・しょ、所属不明ISに交信をしろ!」

「了解しました!・・・あ、あれ?交信不可能です!何やらノイズが聞こえるだけで・・・」

「何?なら、あのISの挙動を監視しろ!!」

「了解です!あ、何やらある一点に向かっている様ですが・・・」

「どこだ!予測して位置を特定しろ!」

「は、はい!・・・出ました!この会場の近くの倉庫です!」

「もしかすると、そこに織斑 一夏君が・・・ブリュンヒルデに連絡を!」

「はい!通信を開始します!」

 

 

 

織斑 一夏は、どこかの倉庫に監禁されていた。彼は姉の活躍を見にドイツまで来たのだが、突然テロが起き、その混乱の中でまんまと捕まってしまったわけだ。

(くそっ・・・俺さえ、俺さえちゃんとしていたら・・・!千冬姉、心配してるだろうな・・・情けねぇ。)

彼は、自分を誘拐した女を見た。

「あぁ!?援護が回せねぇだぁ?オイ、テメェちゃんとしやがれ・・・オイ、オイ!!チッ、切りやがった・・・」

この口の悪い女は誰なんだろうか。そして、何の目的で自分を誘拐したのか。彼はそれだけを考えていた。すると、その女がこちらへ向かってきた。手に銃を持って。

「ったくよぉ・・・こっちはこっちでイラついてんだよ。大体何でこんなガキを『誘拐』しなきゃなんねぇんだ・・・チッ、スコールとは連絡つかねえし、雑魚共は使い物になんねぇし・・・あぁムカつく!」

その女は、こちらに銃を向けた。カチャリとトリガーに手が添えられる。彼は一瞬で体が凍った気がした。それほどの「死」への恐怖が彼を襲った。

「悪ぃが、お前を今ここで殺す事にした。恨むんならテメェの姉を恨みな!!」

(ちくしょう・・・ごめんな、千冬姉・・・)

銃のトリガーが引かれようとしたその時、

 

 

ズキュウウウン!

一筋の桃色の光が、銃を貫いた。

「なっ・・・どこのどいつだ!!私の邪魔をしようって野郎はよぉ!!」

彼女はISを纏い、周囲を警戒した。すると、彼女の目線の先に全身装甲(フルスキン)の、トリコロールカラーのISが居た。

そのISは頭部のツインアイを光らせ、彼女に突進した。

「何ッ!?・・・ハッ、度胸は良いがなぁ!」

彼女は自分のISに搭載されていた大剣のような物を構え、そのISに振り下ろした。当たった、と彼女は確信した。しかし、そのISは現存するISでは有り得ない速度で、自分の攻撃を回避したではないか。しかも、すれ違いざまに光る剣で彼女を切りつけた。

「何だと・・・この私が、押されてるってのか!?」

彼女が自分の残りシールドエネルギーを見てみると・・・

「なっ、3割減っている・・・!?たかが一撃で3割だぁ!?ふざけんじゃねぇぞ!」

彼女は再び接近し、自分の得物を振りかざす。だが、今度は躱された挙句に刀身を光る剣で斬り裂かれてしまった。

「なッ!?・・・クソッタレが!」

「もう止めたまえ、これ以上やっても無駄なだけだよ。分からないのかい?」

「この声・・・!男だってのか!?んな馬鹿な、男はISを動かせない筈じゃ・・・」

「フ、そういう物言いだから器量が小さいのさ。もう諦めたらどうだい?君の役目は終わった筈だよ?」

「チッ・・・覚えてやがれ、クソが!」

彼女は捨て台詞を吐いて去っていった。

「結局、あの女はどこの差し金だったんだろうね・・・おっと、束に連絡をしなければ。」

彼は通信回線を開き、束につないだ。

「束、織斑 一夏の救助は完了した。これからドイツ軍に引き渡しに行くよ。」

『おっけい!それじゃ・・・あ、リっくんすぐそこから離れた方が良いよ。』

「何?どうしたんだい突然に「そこのIS、今すぐ一夏から離れろ。」・・・」

彼が後ろを振り返ると、織斑 千冬・・・「世界最強(ブリュンヒルデ)」がそこに居た。

「聞こえないのか?離れろと言っている!」

更に語尾を強めて迫る千冬。

(参ったね・・・いくら何でも0ガンダムで「世界最強(ブリュンヒルデ)」と相対するのは難しい・・・どうする?)

彼がどう戦闘を回避するか模索していると、織斑 一夏が前に出た。

「千冬姉!俺、この人に助けられたんだ!この人は敵じゃない!」

その言葉に、織斑 千冬は動揺した。

「何だと?なら、お前を誘拐した犯人はどこにいる?」

「ああ、あのおっかない女の人なら逃げてったぜ。」

「そ、そうか・・・」

彼女は戸惑いながらも雪片を収めた。

(彼が証言してくれたおかげで、無駄な戦闘を起こさずに済んだ・・・感謝するよ、織斑 一夏。さて、僕は帰るとしようか。束達も待っているだろうからね。)

彼は何も言わずに、GNドライヴを起動した。独特な起動音と共に、GN粒子が放出される。そして、彼は戦場に多くの謎を残したままその場を後にした。

「なぁ千冬姉・・・何なんだろうな、あのIS・・・」

「分からん・・・だが、何れまた会うかもしれん。」

「そっか・・・そうだよな。その時また、改めてお礼を言うよ。」

「フッ・・・それでこそ私の弟だ。ああ、そうすれば良い。そして、いつかは恩を返せよ?」

「分かってる!俺、決めたよ!俺は強くなって、千冬姉や箒、それに皆を守る!そんで・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          いつか、あのISに乗っていた人に恩返しするよ!!」




やはり戦闘描写は難しい・・・やりましたよ、やったんですよ、必死に!!他の作者様の作品や、00の小説を少し読んで参考にしたり、自分の数少ないボキャブから必死に単語を探し出したりと、必死に!!これ以上・・・これ以上、何をどうしろって言うんですか!?(涙目)


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5. シュバルツェ・ハーゼ ~天使の正体~

今更ですが、ルビのキャラクター像は種死のステラ・ルーシェの目の色を赤と緑にした感じです。一応同じ造られた存在なので、丁度いいかな~と思ってこうしました。
さて、では第五話です!タイトルは単語別で見ると何も関連性ないですが、一応タイトル詐欺はしてないつもりです!!


「お帰りリっくん!凄い活躍だったね!」

「別に大した事はしていないさ。僕はただ、任務を全うしただけだよ。」

「それでもだよ!もしリっくんが居なかったら、今頃いっくんはアイツらに殺されてたんだよ?それを阻止してくれたリっくんにはもう感謝感激だよ!!」

「大げさな・・・まぁ、悪い気はしないかな。・・・ん?何だいそれは?」

リボンズは、彼女が手に持っている紙束に目を付けた。

「これ?これはドイツの『シュバルツェ・ハーゼ』隊についてまとめた資料だよ。織斑 千冬・・・もといちーちゃんが、いっくん捜索に協力してくれたドイツ軍へのお礼にこの隊で教官になるらしいから、ちょっと調べてみたんだけど・・・まぁ、特に悪い所はないね。ただ、この子・・・」

束は、クロエと顔がよく似ている少女の写真を指差した。

「この子、多分ク―ちゃんと同じ試験管ベビーだね。まぁ、ただ似てるだけかもしれないけど・・・」

リボンズは、ある一つの単語の意味が気になった。

「束、その『試験管ベビー』とは何だい?」

「簡単に言えば、リっくんとルーちゃんと同じ『造られた存在』。この子はかつてこの隊で最強だったらしいから、多分遺伝子から強化されてるね。」

造られた存在。その言葉に、彼は反応した。

(人間というのは・・・何とも業の深い生物だろう。だが、その人間を正し、正しい道へ導くのもまた人間だ。僕の出る幕じゃない。しかし、この少女は・・・)

そして、彼は知らず知らずに、こんな言葉を口にしていた。

「束・・・その教官となる任務、僕も参加させてもらおう。」

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、織斑 千冬は荷物の整理をしていた。シュバルツェ・ハーゼ隊の教官を明日から務めるので、軍の寮で寝泊まりするからだ。

そして、もうすぐ終わるという時に、携帯が鳴った。

「誰だ、こんな時間に・・・」

彼女は通話ボタンを押し、携帯を耳に当てた。

「はろはろー!元気してるかいちーちゃ「間違い電話だ」ブツッ・・・」

彼女は容赦なく通話を切った。だが、再び携帯が鳴ったので、彼女は仕方なく再び携帯を耳に当てた。

「いきなり切るなんて酷いよちーちゃん!!」

「何の用だ束。ふざけた内容なら即座に切るぞ。」

「大丈夫だよー!今回は至って真面目な話だし。ちーちゃん、シュバルツェ・ハーゼ隊の教官になるらしいじゃん?」

「ああ。それがどうした?」

「それがねー、私が養ってる子の一人が、自分もその任務に参加したいって言ってるんだよ。ダメかな?」

「駄目だ。それに、これは私自身の問題だ。手を出すな。」

「だけどー・・・その子もその子自身の問題があるらしいんだよね。それでもダメ?」

その言葉に千冬は、少し考え直した。

「・・・1カ月だ。1カ月だけなら良い。しかし、それ以上は駄目だ。」

「ほんと!?ほんとに良いの!?いやったああああ!ありがとねちーちゃん!じゃあ明日その子来るからよろしくー!じゃあねちーちゃん!ブツッ ツーツーツー・・・」

(全く・・・本当に嵐のような奴だ。しかし・・・)

「アイツが、あそこまで他人の事で喜ぶとはな。・・・お前も変わったのか?束。」

千冬は、友人の変化に小さい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「ねぇリっくん、何であの隊の教官をしようと思ったの?」

「そうだね・・・実は、僕自身でも良く分からないんだ。ただ、何故か彼女の境遇が他人事には思えなかったんだよ。」

「そっか・・・ふふっ、リっくんはほんとに優しいね!」

「そんな事は無いと思うけどね。僕はただ、自分がやろうと思った事をしようとしているだけさ。」

「謙遜しちゃって~!ふふふ、リっくんが先生か~。楽しそうだなぁ~。」

 

 

そして、次の日・・・

「織斑教官、お待ちしておりました。お荷物をお持ちします。」

「済まない。所で貴様は?」

「これは失礼しました。私はシュバルツェ・ハーゼ隊の副隊長を務めております、クラリッサ・ハルフォーフと申します。」

「クラリッサか、これから宜しく頼む。さて、早速で悪いが全隊員を集めてほしい。改めて自己紹介をする。」

「了解しました。」

 

 

 

その後、クラリッサの指令で全隊員がフィールドに集まった。

「全員集まったな。よし、では訓練を始める・・・前に、今日から諸君等を指導して下さる人を紹介しよう。織斑教官、どうぞ。」

すると、突然現れた千冬の姿に、隊員達は驚きの声を上げる。

「諸君、今日から指導役となる織斑 千冬だ。宜しく頼む。」

「「「「「は、はいっ!」」」」」

やはり皆動揺を隠せないようだ。すると、その動揺に更に追い打ちをかける出来事が起こった。

「く、クラリッサ副隊長!あ、織斑教官もおられましたか!!丁度良かった、緊急事態が発生しました!!」

「何だ?言ってみろ。」

「所属不明のISが基地に接近しています!しかも、送られた画像から見るに・・・恐らく『天使』かと!!」

その言葉に、モンド・グロッソの時にドイツ軍本部に居た隊員達は更に身を強張らせる。しかし、逆に出撃していてその概要を知らない隊員は、ただ首をかしげるだけだった。

「待って下さい。その『天使』とやらは何ですか?」

この少女、ラウラ・ボーデヴィッヒもその一人だった。

「そうか・・・お前はあの時救助活動に向かっていたな。『天使』とは、昨日のモンド・グロッソのテロ行為の際、誘拐された織斑教官の弟君を救助した未確認のISだ。その詳細・所属は不明だが、緑色の粒子の様な物を背部から排出するその姿から、我々は『天使』と呼んでいる。何か質問はあるか?」

「いえ、ありません。成程、そのISが今ここに向かって来ていると?」

「そういう事だ・・・どういう思惑かは知らないが、各自武装しておけ!」

「「「「「はっ!!!」」」」」

そして、彼女等は『天使』が現れるであろう上空を見上げていた。すると・・・

「あの・・・今、緑色の光が見えた気が・・・」

「何だと!?どの方向だ!!」

「ひゃっ!?ちょ、丁度3時の方向です・・・」

全員が右を見ると、そこには空からゆっくりと姿を現す全身装甲(フルスキン)のISが居た。そのISは、背部から緑色の粒子を放出している。

「て、『天使』・・・各自警戒を怠るな!いいか、何があってもいいように、あらかじめ武器のロックは外しておけ!」

多少動揺しながらも、部下達に的確な指示を出すクラリッサ。そして、少しずつ降下して来た「天使」は、とうとうフィールドに降り立った。それと同時に、全員が一斉に武器を向ける。それを確認したのか、未確認のISはゆっくりと両手を挙げた。

「所属不明ISのパイロットに告ぐ!いますぐISを解除しろ!さもなくば・・・武力行使で貴様を拘束する!」

そのISは、少し考える仕草を見せ、やがて光と共にISを解除した。すると、彼女等にとって予想外の出来事が起きた。

 

光が止んで、そこに居たのは・・・薄緑色の髪と紫色の目を持った「少年」だった。

「な・・・何だと・・・?何故男性が、ISを・・・?」

その少年は、微笑を浮かべてこう言った。

「初めまして、僕はリボンズ・アルマーク。これから1カ月間、君達の指導を織斑教官と共に行う事になった。宜しく頼むよ。」

 

今度こそ、全隊員が絶句した。




はい、という事で、リボンズがシュバルツェ・ハーゼ隊の臨時教官になりました!最初は裏で怪しい動きを見せる者を排除させる予定だったんですが、作者がどうしてもラウラと交わらせたかったので・・・コレジャナイ感満載でしたらすみません。


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6. 交差する二人 ~天使と枝~

今回はVSクラリッサですね。さぁ、どうなるのでしょうか!!!


ISから出てきたのが「男」だった事に対する混乱が収まった後、一人の隊員・・・ラウラ・ボーデヴィッヒがリボンズに質問を投げかけた。

「その・・・何だ、『天使』を操縦していた者が男だったのは正直まだ信じられんがそれは後だ。問題は、何故お前が織斑教官と共に私達を指導するのか、だ。別にお前には何のメリットも無い筈。むしろ捕らえられる可能性の方が高い。それなのに何故だ?」

その質問に、隊員達が一斉にリボンズを見た。

「簡単な事さ。昨日のテロリストの様な輩が再び現れたら、正直今の君達の実力では対処は難しいだろう。」

その言葉に、クラリッサは少し憤りを感じた。しかし、彼の言っている事は事実。実際、クラリッサもそれは薄々感じていた事だ。今は良くても、いずれは限界が来る。

「くっ・・・ああ、その通りだ。」

「そこで、織斑教官と併用して君達を指導する事にしたのさ。そうすれば織斑教官の負担も減るし、君達もちゃんと実力が上がる。まさに一石二鳥だろう?」

そのどこか上から目線の言葉に、クラリッサは言い返した。

「待ってくれ、その我々を指導する云々の前に、君は実力はあるのか?君が指導する以上、我々よりも強くなくては話にならんぞ。」

「その点なら心配ないよ。今からそれを証明してみせるさ。という事で、僕と模擬戦をしてもらってもいいかな、クラリッサ副隊長。」

その挑発的な口調に、クラリッサは若干苛立ちながら、こう答えた。

「良いだろう。その代わり、両者手加減は無しだ。」

その答えに、リボンズは満足そうに頷いた。

 

 

 

 

「副隊長、何故あんな事を言ったのですか?」

ラウラは、先程の発言の真意をクラリッサに問い質していた。

「ラウラか・・・いや、もし彼が本物の実力者ならば、私如き倒すのは容易だろうと思ってな。」

「成程、副隊長自らあの男を試すのですか。」

「ああ、そういう事だ。隊長は今留守だが、まぁ問題は無いだろう。さて、私はツヴァイクの準備をするとしよう。お前はフィールドに戻っておけ。」

「はっ、了解しました。」

 

 

 

 

 

そして、勝負の時。

リボンズは、カタパルトで既に準備をしていた。

(クラリッサ・ハルフォーフ・・・この隊の副隊長。おそらく中々の手練れだろう。それに、彼女の専用機・・・シュヴァルツェア・ツヴァイクだったか。あれはおそらく第三世代。僕の0ガンダムは第二世代のISだ。性能も若干あちらが上だろう。だが・・・)

「機体の性能が、強さの決定的差ではないのさ。この勝負・・・必ず勝たせてもらうよ。」

その時、アナウンスが鳴った。

『クラリッサ副隊長、そしてリボンズ・アルマークの両者は発進準備をして下さい。まもなく模擬戦開始です。』

リボンズはGNドライヴを起動した。

『それでは、始めてください!』

「よし。リボンズ・アルマーク、0ガンダム、行く!」

カタパルトが火花を散らしながら押し出され、リボンズはフィールドへ出る。すると、前方に黒を基調としたISが佇んでいた。

「天使・・・いざ対峙してみると、やはり凄まじい程のプレッシャーを感じるな。」

「そうかい?僕としては、その黒い機体の方がよっぽど威圧感があると思うけどね。」

「フッ、そうか・・・そういえば、自己紹介がまだだったな。私は『シュバルツェ・ハーゼ』隊の副隊長を務めているクラリッサ・ハルフォーフだ。そしてこの機体は『シュヴァルツェア・ツヴァイク』。お互いに良い勝負をしよう。」

「丁寧な自己紹介感謝するよ。僕はリボンズ・アルマーク。この機体は『0ガンダム』だ。君達は『天使』と呼んでいるようだけどね。」

「そうか・・・それでは、そろそろ・・・」

「ああ、始めようか!」

先手を取ったのはクラリッサ。彼女は手に持ったサブマシンガンを構え、それをリボンズに向け発射した。リボンズは、それを流れる様に避けた。しかし、彼女はそれを分かっていたかのように再び銃口を構えた。

「させないよ!」

リボンズはその隙を見て、ビームガンのトリガーをクラリッサに向け、引いた。突如、桃色の閃光がクラリッサに向け放たれる。

「ビーム兵器だと!?くっ!」

彼女にとって予想外だった、光学兵器の使用。一瞬驚いた彼女だったが、すぐに持ち直してそのビームを回避した。

(くっ・・・まさかビーム兵器を搭載しているとは・・・だが、今の所近接武装は見当たらないな。まだ出していないのか、それとも拡張領域(バススロット)の関係で近接武装が無いのか・・・いや、それは無いな。という事は!)

彼女は手首からプラズマ手刀を展開し、リボンズに斬りかかった。対する彼は背中にある筒の様な物を握り、それを引き抜いた。すると、その筒から桃色の光が発生し、それが剣の様な形状になった。

「ビーム・サーベルか、面白いッ!」

プラズマ手刀とビーム・サーベルがぶつかり合い、激しい火花が散る。両者はしばらく鍔競り合いの接戦を演じた。しかし、不意にクラリッサがプラズマ手刀を解除し、リボンズのバランスが大きく崩れた。その隙を突いて、クラリッサは近距離からサブマシンガンを連射した。多くの弾丸が0ガンダムの装甲を削り、火花が散る。

「これ以上は!」

リボンズはビームガンを連射し、クラリッサを遠ざけた。

(くっ、中々やるじゃないか・・・シールドエネルギーは今ので4割持っていかれたか。これは痛いね。だが、彼女があの武装を解除し僕のビーム・サーベルが空振った瞬間、僅かだが手応えがあった。おそらく相手も多少はダメージを受けているだろう。)

リボンズの予想通り、ビーム・サーベルは僅かにクラリッサを掠っていた。

(・・・掠っただけで2割減っただと!?これが光学兵器の力か・・・だが!)

「そうこなくてはな!」

クラリッサはサブマシンガンを投げ捨て、両腕のプラズマ手刀を展開した。そして、スラスターを全開にして一気にリボンズの前に躍り出た。対するリボンズも、ビームガンを投げ捨てビーム・サーベルを構えた。そして、再び両者は激突した。一撃、また一撃と、両者にダメージが加わる。

「久しぶりだ、これ程私を苦戦させた者は!」

「ああ、それはこちらもさ!」

しかし、リボンズがビーム・サーベル一本なのに対し、クラリッサはプラズマ手刀2対。徐々にリボンズが押され初めていた。しかし、突如ビーム・サーベルの刀身が消えた。

(なっ!?まさか、こんな時に粒子切れと言うのか!?)

「どうした?胴体が丸空きだぞ!」

その隙を見逃さず、リボンズをプラズマ手刀で斬り裂くクラリッサ。0ガンダムの装甲には、X字の傷が刻まれていた。

(不味い、残りシールドエネルギー3割・・・どうする?粒子が切れたからビーム・サーベルは使えないし、ビームガンも・・・ん?あれは・・・!)

彼の目には、先程投げ捨てたビームガンが、こちらに銃口を向ける形で落ちていた。

(この状況を覆すには、この方法しかない・・・だが、それが実現できる可能性はほぼ0だ。)

すると、クラリッサがゆっくりと彼に近づいて来た。

「ここまでか?リボンズ・アルマーク。確かに、あれだけの事を言える程の実力はあるが・・・」

彼女は再びプラズマ手刀を構えた。

(このままでは敗北してしまう・・・!仕方ない、成功するかは分からないが・・・!)

「これで・・・!」

彼女がプラズマ手刀を振り下ろすと同時に、彼は手に持っていたビーム・サーベルの柄を放り投げた。

「終わりだッ!」

プラズマ手刀がリボンズに振り下ろされ、皆がクラリッサの勝利を確信していた。しかし、

 

 

 

 

ズキュウウウウン!!

「な・・・んだと・・・?」

どこからか撃たれたビームが、クラリッサの背を直撃した。そして、シュヴァルツェア・ツヴァイクのシールドエネルギーが0になった。今、この勝負でビーム兵器を使う者など一人しか居ない。

「ま・・・まさか・・・?」

クラリッサはリボンズの顔を見た。そこで見た彼の表情は、どことなくいたずらに成功した子供の様な顔だった。

「フフフ・・・まさか、本当に成功するとはね・・・」

「貴様・・・一体何を・・・?」

「簡単さ・・・ビーム・サーベルの筒を、あそこに転がっているビームガンのトリガーに向けて投げた。それだけさ。」

クラリッサは、彼の言葉に絶句した。そんな芸当は、言うなれば数キロ離れた針穴に糸を通す位の事なのだ。それ程、精密な技術がなければ出来ないだろう。

「成程な・・・貴様には確かに、この隊を指導する実力はあると見た。・・・悔しいが、合格だな。これから宜しく頼む、リボンズ『教官』。」

「ああ、こちらこそ宜しく頼むよ。クラリッサ副隊長。」

この日、シュバルツェ・ハーゼ隊に異例の男性教官が着任した。




リボンズが魅せた、イノベイドでも難しいかもしれない芸当。一体これは何なのか・・・後、シュバルツェ・ハーゼ隊の隊長は次くらいに登場させる予定です。


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7. 訓練開始 ~飛来する脅威~

すいません、今回は訓練要素少ないです・・・次回は訓練というか戦闘入れますんで、どうかこの作者めにお慈悲を・・・!


模擬戦が終わってリボンズがフィールドへ戻ると、一人の隊員が近づいて来た。

(この少女がラウラ・ボーデヴィッヒ・・・僕と同じ、造られた存在。)

「リボンズ・・・教官。先程の模擬戦、見事でした。まさか、あのクラリッサ副隊長相手にあそこまで立ち回り、そして倒すとは・・・」

「いいや、彼女は中々手強かった。最後に勝ったのはほぼまぐれさ。して、ラウラ・ボーデヴィッヒ。いきなりそんな口調になってどうしたんだい?」

「こ、これから教授して下さる方ですので、敬意を示した方が良いかと・・・」

「成程・・・まぁ、好きにすればいいさ。それで、何の用かな?何かしらの用があって来たのだろう?」

「はい。私の個人的な頼みを聞いて下さいますか?」

「・・・内容によるね。それで、何だい?」

「私の・・・」

ラウラは一瞬目線を落とし、そして覚悟を決めたかの様にリボンズを見て、こう言った。

「私の、専属教官になって下さいませんか!?」

その言葉にリボンズはあっけに取られたが、すぐに微笑を浮かべた。

(これは好都合だ。まさか、本人から言ってくるとはね・・・そんな物、とっくに答えは決まっているさ。なんたって僕は、その為にこの隊に来たのだから。)

思考するリボンズの顔を見て、ラウラは不安そうな表情を浮かべた。

「駄目・・・でしょうか?」

「おっと、失礼・・・答えから言わせて貰うと、良いよ。」

「え・・・ほ、本当ですか!?」

「だが、それ相応の覚悟はしておく事だね。多少の怪我は我慢して貰うよ?」

「それ位の覚悟はすでに出来ております、リボンズ教官!」

「フ・・・良い覚悟だ。それでは、早速訓練と行こうか。先ずは君の実力を見たい。ISを纏ってフィールドに来るんだ。」

「了解しました!」

意気揚々と整備場に向かうラウラを見るリボンズの目は、どこか悲しげだった。

 

 

 

 

~訓練後~

ラウラの実力を一通り見たリボンズは、感想をラウラに述べていた。

「はっきり言わせて貰うと、弱いね。射撃も的を外していたし、何よりISの動かし方もなっていない。」

「も、申し訳ありません・・・」

「だが、格闘技術には目を見張る物があったよ。しっかりと相手を仕留める、ちゃんとした軍人の動きだった。」

その言葉に、ラウラの表情が和らいだ。

「あ、ありがとうございます・・・」

「それに射撃の時だけど、君は撃つ瞬間かなりの機体のブレが見られた。しかし、あの時機体がちゃんと制御出来ていれば、あの弾は的に直撃していただろう。」

「と、言いますと?」

「君は根本的な戦闘における技術はしっかりしているという事さ。だから、これからはISの動かし方を学ぶ訓練をするとしよう。きっとそれさえ出来れば、君はすぐに良いパイロットになるさ。」

「本当ですか!?ありがとうございます教官!!」

「感謝をするのは結果が出てからだ。もう昼時だし、まずは食事をしよう。その後から、本格的な訓練をするよ。」

「了解です、教官!」

二人は揃って食堂に向かった。

 

 

 

 

~食堂~

二人は取り敢えずカレーを頼み、適当な椅子に座って食事をしていた。

「そういえば、ここにはドイツが所持するISの内の三機があるそうだね。」

「はい、クラリッサ副隊長のIS『シュヴァルツェア・ツヴァイク』。そして、AICと呼ばれる特殊機能を搭載した『シュヴァルツェア・レーゲン』。先程私が使用していたISです。まあ、私が使用するにはまだまだ未熟ですが・・・」

「成程、(ツヴァイク)(レーゲン)か。では、残りの一つは?」

「はい、それは我が隊の隊長・・・」

その時、食堂に一人の女性が入って来た。その姿を見た隊員達が、一斉に敬礼をする。

「隊長!もうお戻りになられたのですか!」

「ああ。何やらクラリッサから連絡があったのでな、予定を早めて帰ってきた。」

すると、クラリッサがその女性に近づいた。

「隊長、この度は遠征お疲れ様でした。」

「ん?まあ、そこまで大変でも無かったがな・・・それで、例の教官は誰だ?」

「はい、あの男性です。」

すると、その女性がリボンズに近づいてきた。

「君か、織斑教官と共に我が隊を指導してくれるのは。」

「初めまして。リボンズ・アルマークと申します。これから一か月、宜しくお願いします。」

「ほう。まさかとは思ったが、本当に男性とはな。君の事は聞いている。何でも、クラリッサを倒したらしいじゃないか。」

その言葉に、リボンズは苦笑を浮かべた。

「いえ、あれは運が良かっただけですよ。クラリッサ副隊長も、かなりの腕を持っていました。」

「フッ、この『シュバルツェ・ハーゼ』を嘗めてもらっては困る。おっと、そう言えば自己紹介がまだだったな。私はレーヴェ・ハンブルク。この隊の隊長を務めている。少しの間だが、宜しく頼むぞ。」

リボンズは敬礼をし、こう答えた。

「了解しました。」

「ああ、期待している。」

彼女は食堂を後にした。

(敬礼をするのは初めてかもしれないな・・・まあ、悪くはないね。)

リボンズとラウラは食事を済ませ、席を立った。

「ラウラ、それでは訓練を開始しようか。ISの準備をしておくように。」

「はっ!承知しました!」

リボンズはフィールドに向かい、訓練の準備をする事にした。

 

 

 

 

リボンズがシュバルツェ・ハーゼ隊に行って丁度一週間の頃。束はある悩みを抱えていた。

「う~~ん・・・リっくんの0ガンダム、中々単一使用能力(ワンオフアビリティ-)を見せてくれないな・・・なんか、私が造った時からブラックボックスに入ったままだし・・・ロックされてるのかな?」

束は考え、やがて一つの結論に辿り着いた。

「なら、その封印を解き放つまでだよ!さあリっくん、その機体の真の力を今こそ解き放つのだ!」

彼女はピンク色のボタンを押し、笑みを浮かべた。

 

 

 

~アメリカ軍基地~

その頃、ある隊員が司令部でシステムのチェックを行っていた。すると、ある異常を発見した。

「何だ?このウサギのマーク・・・」

彼が気になってそれをクリックすると、突然画面全体が赤くなり、「WARNING」の文字が表示された。

「な、何だ!?何が起きている!?」

彼が驚いて再度画面を見ると、何やらウサギがミサイルを発射している絵が現れていた。と同時に、別の隊員が焦った様に告げた。

「き、緊急事態です!!ミサイル迎撃システムが何者かに乗っ取られました!!・・・ああっ!!ミサイルが・・・!」

彼らが衛星写真を見ると、そこには大量のミサイルが発射される光景が映し出されていた。それを見た司令官らしい者が驚き、すぐに指示を下した。

「大変だ・・・!すぐにミサイルの目標を探知しろ!それにIS部隊も投入し、全力でミサイルの撃墜に当たれ!」

「了解!第一IS部隊、第二IS部隊共に出撃可能です!」

「よし、発進させろ!」

「はい!3・・・2・・・1・・・0!IS部隊発進しました!」

「よし・・・なら、ミサイルの目標地点は特定出来たか!!」

「はい、ミサイルの目標が特定しました!」

「どこだ!!すぐに警告を促す!!」

「ドイツの・・・

 

 

 

 

 

          『シュバルツェ・ハーゼ』隊本部です!!!」




訓練描写、少しすっぽかして申し訳ありません。次回は、お馴染みのあのシステムが登場します。そういや、千冬さん空気・・・何とか次は登場させます。


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8. 「T」の解放 ~トランザムシステム~

遅くなりました!今回もバリバリ戦闘やっていきます!あと、宣言通り千冬を登場させてます!まあ、ほぼモブですが・・・それでも、ちゃんと戦闘はさせてますんで安心して下さい。ではどうぞ!


リボンズがラウラの専属教官を務め始めて一週間が過ぎた。最初はおぼつかなかったラウラの動きもこの一週間でかなり改善されて、今では多少ふらつきながらも飛ぶことが出来る。今回は、相手の攻撃を避ける訓練をしていた。

「さて、では訓練を始めよう。ラウラ、シュヴァルツェア・レーゲンを起動するんだ。」

「了解です!」

すると、ラウラの体が光に包まれ、そして黒を基調とした装甲を纏った。何より目を引くのは、やはり非固定部位に装備された巨大なレールガンだろう。

「完了しました、リボンズ教官。」

「見事だ。」

リボンズも0ガンダムを纏い、背部のGNドライヴを起動した。

「先日教えた空中移動はもう出来るね?」

「はい!まだ未熟ではありますが、戦闘に支障をきたす事はありません!」

「よし、では今から僕が君に攻撃を仕掛ける。君はそれを回避してくれ。」

「了解です!」

「その意気込みや良し・・・では、スタートだ!!」

リボンズは素早くビームガンを構え、トリガーを引いた。桃色のビームが次々ラウラに飛んでいく。

「!? くっ!」

ラウラは一発目は避けた物の、焦って他のビームに全て当たってしまった。リボンズはため息をつく。

「ハァ・・・僕は回避するように言った筈だけどね?」

「も、申し訳ありません・・・」

「仕方ない、もう一度だ。ビームが撃ち出されてから見て回避するだけではなく、相手の挙動も見てそこから相手の狙いを予測する事も心掛けるようにね?」

「はい!」

 

 

~十分後~

「とっ!たあっ!はっ!」

ラウラはふらつきながらも、何とかリボンズの攻撃を避けきっていた。リボンズは頃合いを見て、攻撃を止めた。

「お疲れ様だね。先程よりかは格段に動きが良くなって来ているよ。」

「本当ですか!?」

「ああ。だけど、やはりまだ少しのブレが見られるね。あとはそこを改善するだけだ。それが終われば、IS同士の戦闘訓練を行う事としよう。分かったかい?」

「了解しました!これで、やっと・・・!」

ラウラは歓喜すると同時に意味有り気な微笑を浮かべた。

(何だろうか・・・?まあ、さほど気にする必要も無さそうだね。おっと、もう5時か・・・少し早いが、これで今日は終わりにしようか。)

「ラウラ、今日の訓練は終わりだ。自室に戻ってゆっくり休むと良いよ。」

「ありがとうございます・・・その、教官はどうするのですか?」

「僕かい?そうだね・・・君の今日の訓練の成果を隊長に報告する位かな?」

「そうですか・・・では、私と」

食事でも、と言おうとした瞬間、基地中に警告音が鳴り響いた。

『緊急事態だ!この基地に、何やら大量のミサイルが接近している!向かえる者は迎撃に当たってくれ!』

「・・・どうやら、するべき事が増えた様だね。取り敢えず、織斑教官に連絡を・・・」

「その必要は無いぞ。」

リボンズが横を見ると、そこには千冬が暮桜を纏ってスタンバイをしていた。

「驚いたね・・・何時から居たんだい?」

「いやな、たまたまフィールド周辺を歩いていたら、先程の放送が流れたのでな。そこを駆け付けただけだ。」

「まあ、そういう事にしておくよ。どっちにしろ、援護は必要だったからね。なんせ・・・」

彼らの目の前の上空は、既にミサイルで埋め尽くされていた。

「あれだけのミサイルを一人だけで対処するのはかなり至難の技だ。助かるよ、織斑教官。」

「なに、貴様には一夏を助けて貰った恩がある。その借りを返すと思ってくれ。それに・・・」

彼女は雪片を構え、戦闘体勢に入った。

「ここにはまだ世話になるのでな、指を咥えて見ている訳にもいくまい。」

「フ・・・確かにそうだね。では、僕も少々本気を出そうかな?」

彼はビームガンとビーム・サーベルを持ち、ミサイル群を見据えた。

『織斑教官、そしてリボンズ教官!二人は兎に角ミサイルを撃ち落としてくれ!こちらも誘導ミサイルで迎撃する!』

「「了解。」」

その時、ラウラが声を上げた。

「た・・・隊長!私も、その作戦に加わってもよろしいでしょうか!?」

『何だと?駄目だ!!これはとても危険な任務だ!確かに貴様は腕は立つが、まだ実戦に出れるレベルではない。自分でも理解しているだろう!?』

「私は軍人です!軍人は、市民を守るのが任務です!その軍人が、自分の基地位守れなかったら示しがつきません!」

しばらくの沈黙が続き、やがてレーヴェが折れた。

『ハァ・・・仕方の無い奴だ。ならば、その機体に搭載されているレールガン。それで後方援護を行う位は許可する。しかし、それ以上の事はするな。以上だ。』

「あ・・・ありがとうございます、隊長!」

『うむ。では三人共、任務を全うしてくれ!』

「「「了解。」」」

ミサイルの雨は、すぐそこにまで迫っていた。

 

 

「では、役割分担を決めようか。僕が右方のミサイルを迎撃するから、織斑教官。君には左方のミサイルを任せるよ。」

「了解した。くれぐれも無茶はするなよ?」

「分かっているさ。そしてラウラ。君は僕達が撃ち漏らしたミサイルを撃ち落として欲しい。出来るかい?」

「はい!」

「良い返事だ。それでは・・・任務開始といこうか!!」

その言葉と共に、彼らは分散した。リボンズは右、千冬は左、そしてラウラは後ろへと、それぞれの持ち場に向かった。

(それにしても、何処からこんな数のミサイルが・・・まあいいさ、発射地点など後で特定出来る。今は・・・)

「このミサイルの雨をどうにかしなければね!」

リボンズはビームガンを構え、ビームを連射した。ビームは一部のミサイルを貫通し、ミサイルが爆発した。そして、その周囲のミサイルもその衝撃で誘爆した。

「こんなミサイル如きで・・・この僕を墜とせるとでも?」

次々とミサイルを墜としていくリボンズを見て、千冬は感嘆した。

(ほう・・・流石は天使のパイロットだ。いや・・・確かあの機体は『0ガンダム』だったか?第二世代のようだが、それにしては性能が高すぎる・・・どいつが造った?)

千冬がそこまで思考した所で再び爆発音が聞こえ、彼女は思考を一旦止めた。

「おっと、どちらにせよあいつにだけ任せる訳にはいかないな。私も働かなければ。」

彼女は雪片を腰に構え、居合切りの体勢をとった。

「切り捨て・・・」

そして、勢いよく雪片を振り抜いた。

「ごめぇぇぇん!!」

それだけで斬撃がミサイルを襲い、数多のミサイルが破壊された。

(何だあれは・・・いくら何でもオーバースペック過ぎやしないかい?)

リボンズはその光景を見て、一瞬戦慄を覚えた。しかし、すぐにミサイルに意識を戻し、迎撃を再開した。

「くっ、やはりビームガンは粒子消費量が比較的多い・・・ビーム・サーベルに持ち替える必要がありそうだ。」

彼はビームガンを0ガンダムに収納し、あらかじめ左手に持っていたビーム・サーベルを右手に持ち替えた。

「おおお!」

ビーム・サーベルでミサイルを切り落とし、爆発の際に生じる衝撃波をシールドでしのぐ。

「・・・この程度の衝撃なら近距離でも耐えられる筈だ、いけるぞ!」

彼は次々とミサイルを切っていった。その度に激しい衝撃が彼を襲うが、彼はそんな事では止まらない。しかし、ここで予想外の事態が起きた。彼が切り落とさんとしたミサイルが、突如分裂し小型のミサイルを放出した。

「多弾頭ミサイル!?ぐっ・・・!」

彼は即座に機体を反転させてビーム・サーベルを振るうが、その切っ先は僅かの小型ミサイルしか撃破出来なかった。しかも、ここでまた悪い事態が起こる。その撃墜し損ねたミサイルが向かう先は・・・

「ラウラ!?危険だ、回避しろ!!」

「なッ・・・!?」

そのミサイルは、もうラウラの目の前まで迫っていた。咄嗟にリボンズはビームガンを再び構え、トリガーを引いた。ビームは幸いにも最もラウラに近づいていたミサイルを撃破した。リボンズはシールドを持ってラウラの下に向かう。

「危なかった・・・そちらは無事かい?」

「はい、ありがとうございました・・・教官、危ない!」

「何っ!?」

見ると、もう眼前までミサイルが迫っていた。リボンズはGN粒子でコーティングしたシールドを構えた。そして、数多のミサイルがシールドに着弾した。

「ぐあッ!?」

「教官!?」

形容し難い程の衝撃がリボンズの腕を襲う。

(これは全て耐えきれるか!?盾は数値上保つ筈だ。しかし・・・)

すると、警告音と共に目の前のモニターにディスプレイが現れた。機体に異常が発生したのだ。

(やはりか・・・!右腕関節部に異常、そして装甲全体に損傷・・・非常に不味いね。何か反撃の糸口は・・・?)

やがて、スパークと共に右腕が爆発し、その衝撃でシールドを手放してしまった。

(盾が!?くっ、ここまでか・・・)

彼は被弾を覚悟した。しかし、ここでもまた予想外の出来事が起こった。

突如モニターが赤く染まり、中央に文字が現れた。

「TRANS-AM・・・?まさか!」

徐々に機体が赤く染まり、大量の粒子が放出される。その異様な光景に、ラウラは絶句した。

「教、官・・・それは、一体・・・?」

「トランザム・・・丁度良い、すぐに終わらせるとしようか!!」

そう言うと、彼は赤く光る機体を駆り、ミサイル群に突撃した。

「おおおおお!」

ビーム・サーベルを構え、ミサイル群の中を縦横無尽に飛び回る。次の瞬間、目の前に存在したミサイル全てが爆散した。

「な・・・何だあれは・・・」

千冬程の実力者でも、0ガンダムの姿は捉えきれなかった。それ程、物理法則を無視した加速だったのだ。おそらく瞬発的な加速は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を遥かに超えているだろう。

「あれで第二世代だと?化物か、あのISは・・・」

千冬は戦慄すると共に、確信した。あのISを造ったのは篠ノ之 束(あの問題児)だと。やがて煙が晴れ、0ガンダムの姿が現れた。その機体はいまだ赤く染まり、装甲の各部にスパークをはしらせながらも、悠々と空に佇んでいた。青く澄み渡る空とは対照的なその姿に、誰もがしばらく口を開けないでいた。すると、ようやくレーヴェが口を開き、作戦終了を告げた。

『・・・周囲に熱源反応は見られない、よって作戦終了とする。三人とも良くやってくれた。あと・・・リボンズ教官。少し、私の所に来てくれ。以上。』

(僕の知っている0ガンダムにはトランザムシステムは搭載されていなかった筈。なのに何故・・・?)

リボンズ本人にも分からない謎を残した0ガンダムは、妖しくツインアイを光らせていた。

 

 

 

 

 

「うひゃ~、まさかこんなシステムを隠し持っていたとは・・・流石の束さんでも予測出来なかったな~。本当に面白いよ、あの機体。それにしても・・・」

彼女は0ガンダムの装甲を凝視した。

「あのよく分かんない加速に、0ガンダム自体の装甲が耐えきれていないね。多分、当分修理しないと・・・じゃあ、新しいリっくんのIS、造っちゃおっか!今回はちゃんとリっくんの意見も聞かないとね~♪」

彼女はとても楽しそうに笑い、モニターの電源を落とした。

「さて、じゃあ私はGNドライヴをもう2、3個造っちゃおう!頑張るぞ~!」

真っ暗な部屋で、束は口元を歪ませた。誰にも見られる事無く・・・




という事で、また束さんが何かしそうです・・・次回、リボンズの新機体が決まるかもです。あと皆さん、よいクリスマスを!因に作者はひ☆と☆り☆き☆りでございます!いやぁ、時間があっていいですね!ハハハハ・・・ハァ・・・(泣)


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9. 騒動の後 〜0 to 1〜

すいません、めっっっっっちゃ遅れましたぁぁぁぁ!!!ちょっと旅行に行ってまして・・・読者の皆様、申し訳有りませんでした。


レーヴェの下に向かったリボンズは、彼女から質問を受けていた。その場には彼の教え子であるラウラと、何故か千冬も同席していた。

「まあ、聞きたい事はそれなりにあるが・・・まず一つ聞かせて貰おう。あのISはなんだ?ビーム兵器を搭載している事は、まあ光学兵器試験機とすれば問題は無い。だが、圧倒的な加速と言い、あの粒子と言い・・・謎が多すぎる。一体誰が製造した?」

その言葉に、ラウラは確かにそうだ、と感じた。

(教官のあのIS・・・第二世代型にしては性能が良すぎる。正直、もう第三世代と言っても良い程だ。では、どこからあれほどの性能が・・・)

リボンズは少し考え、そして口を開いた。

「そうだね・・・まあ教えても問題は無いだろう。まず、このIS・・・0ガンダムを造ったのは、篠ノ之 束本人さ。」

「「何だと(ですって)!?」」

「やはりそうか・・・」

篠ノ之 束。その名前にレーヴェとラウラは驚き、そう予想していた千冬はため息をついた。

「おや、君は感付いていたのかい?織斑 千冬。」

「ああ、あんな機体を作り出す事が可能なのは実質アイツだけだからな。」

「確かにね。さて、君達の認識では、この機体は『ビーム兵器の搭載を目的とした試作機』。こんな感じだろう?」

その問いかけに、全員が静かに頷いた。

「だが、それだけの目的にしては性能が高すぎる。いったいどこからあれ程の力が出るのか・・・今から、それについて説明するよ。」

彼は0ガンダムの情報が記載された資料を取り出した。

「この0ガンダムは、ただのビーム兵器搭載機ではないのさ。これは彼女が発見した特殊な粒子『GN粒子』の使用を目的とした試作機だ。ビーム兵器はその副産物にすぎない。」

GN粒子。その言葉にレーヴェは納得した様に頷いた。

「成程、あの緑色の粒子はそれだったのか・・・その粒子にはどんな効果がある?」

「主に機体の制御や電波妨害、装甲の耐久力の上昇。僕がモンド・グロッソ会場に現れた時、電波障害が起きたでしょう?」

「確かに、あの時だけ通信機器が使用できない事態に陥っていたが・・・その粒子が原因か。という事は、ビーム兵器もその粒子の恩恵なのか。」

「ええ。GN粒子を圧縮する事で、ビーム兵器に転用する事が可能です。」

「そうなのか・・・では、あの爆発的な加速はなんなんだ?」

「『トランザム』。それがあの加速・・・正しくはシステムの名称です。機体内部に蓄積された高濃度の圧縮粒子を全面的に開放する事で、機体スペックを3倍にまで引き上げる事が可能。しかし使用後は機体性能が著しく下がる、諸刃の剣と言える機能です。」

一通り説明した所で、千冬がリボンズに問いかけた。

「・・・その機体の事は分かった。そのGN粒子とやらもなんとなくだが理解はした。だが、それを踏まえて貴様に聞きたい。貴様は・・・いや、貴様等はその粒子を発生させるコーン型のスラスターを量産し、世界にばらまく気でいるのか?」

リボンズは少し考え、こう言い放った。

「いや、これはとても危険な物だ。もし彼女がそれをしようとすれば、僕がそれを阻止しよう。だが、僕達が使用する分には目を瞑ってほしいな。」

千冬はしばらく疑惑の目で彼を見つめていたが、やがて緊張を解き表情を和らげた。

「そうか、それなら別に構わない。ただ、一つ条件・・・と言うより頼みがある。」

「内容によるね。」

「束を・・・宜しく頼む。どうやら、お前には心を許している様だからな。」

「その位の事なら構わないよ。まあ、こちらは彼女に世話になっている身だしね。それ位承知の上さ。」

「ははは・・・また借りが増えてしまったな。」

「フ、お互い様さ。だが・・・彼女の相手はかなり疲れるけどね。」

あからさまに疲れの色を見せるリボンズに、千冬は苦笑するしかなかった。

「そういえば・・・教官。機体の方は大丈夫なのですか?」

「いや、トランザムの際の負担で装甲が全体的に破損している。しかも右腕が吹き飛んだから、かなりの間修理しないといけないだろうね。」

それを聞いたラウラは突然リボンズに顔を下げた。

「・・・申し訳ありません。私がミサイルの接近に気がついていれば・・・」

「君が謝ることはないさ。元々あれは、僕が多弾頭ミサイルが紛れていると予測出来なかったから起きた事故だ。君の非ではない。」

「しかし・・・」

「それよりも、君は幾つのミサイルを墜としたんだい?」

「・・・10です。勝手ながら、教官が撃ち漏らしたミサイル以外も狙ってしまいました。」

彼女は、勝手な行動をした事を咎められると思った。しかし、彼が発した言葉は真逆だった。

「10か、中々上出来じゃないか。それに、君は射撃の腕はあるんだ。別にどんどん撃って貰っても構わなかったんだよ?とにかく、良くやったね。賞賛に値するよ。」

リボンズからの思わぬ賞賛の言葉に、ラウラは嬉しそうに顔を綻ばせた。

「ありがとうございます・・・教官。」

 

 

 

 

少しして、彼等の下に一人の隊員が訪れた。

「隊長、それにリボンズ教官に織斑教官。お話中に失礼します。先程のミサイルがどこから飛来して来たのか判明しました。」

その報告に、レーヴェが応じた。

「そうか、ご苦労だったな。して、どこからの攻撃だった?」

「アメリカです。そして問い合わせた所、何やら迎撃システムが何者かにハッキングされた模様。その際のモニターの様子が送られていますので、ご覧下さい。」

隊員が端末を操作すると、壁のディスプレイに一つの写真が現れた。その写真には、ウサギがミサイルを発射している絵が写し出されていた。そのウサギに彼は見覚えがあった。彼が千冬を見ると、千冬も苦虫を噛み潰した様な顔をしている。

「・・・すまない。連絡をしないといけない相手がいたのでね、僕は失礼するよ。」

そう言って彼は部屋を出て、少し離れた場所で端末を操作し、電話をかけた。相手は・・・束だ。

 

 

「やあ、束かい?君に聞きたい事が「はろはろー!皆のアイドルぷりてぃきゃわたん束さn」すまない、どうやら人違いだった様だ。じゃあ失礼するよ。」

「切らないで!ちゃんと聞くからお願い切らないでリっくん!」

「・・・なら最初から真面目にしたらどうだい・・・まあいいさ。今回は少し聞きたい事があってね。今日、シュバルツェ・ハーゼ隊の訓練場に大量のミサイルが飛来してきた。僕や織斑教官達がそれを迎撃したよ。」

「そっか〜、大丈夫だった?」

「ああ。別に負傷はしていないさ。ところで、そのミサイルを撃ったアメリカ軍は、どうやら何者かに迎撃システムをハッキングされ、遠隔操作されたと主張している。まあ、実際にウィルスが侵入した形跡があったから嘘ではないだろう。それで、今回誰がこの事件を起こしたのかだけど・・・」

リボンズは束の端末に先程見た写真を送った。

「このウサギ・・・これは君だろう?」

束はしばらく沈黙し、やがて口を開いた。

「あちゃー・・・やっぱりリっくんにはお見通しか。うん。私がハッキングしたよー。」

「やはりか・・・まあ、別にそれで責めはしないさ。問題は何が目的であんな事をしたかだ。君は何故、あの様な事をしたんだい?」

彼の口調には、若干怒気が含まれていた。

「怒らないでよー、別に無意味にやった訳じゃないよ。束さんなりのちゃーんとした理由があるのだよ!」

「ほう、なら説明してくれないかい?」

「リっくんの0ガンダムに搭載されていた、あのシステム・・・トランザムだっけ?あれを発動させるためだよ。」

「トランザムを?何故だい?」

「あのシステム、固くロックされててね。私の天才的な頭脳をもってしても解明する事が出来なかったんだ。なら、もう強制的にロックを解除させよっかなーって・・・」

「・・・成程、本当は今すぐにでも君にビームガンを撃ち込みたいところだけど、まあ怪我人も出なかったし良しとするよ。だが、一つ条件がある。」

「ありがとリっくん!もうハグハグしたいよ!で、条件って何?」

「今から機体のデータを送るから、それを僕が帰ってくるまでに完成させておくんだ。0ガンダムも整備が必要だけど、それは後回しで良いよ。」

「リっくんが帰ってくるのって一週間後だよね?なら問題無いよ!!」

「そうかい?それは助かるよ。ではデータを送るから、まあ頑張ってくれ。」

彼は二機のISのデータを送信した。

「ふむふむ・・・一つはルーちゃんのスローネを完成させるんだね。で、もう一つは・・・」

「それは0ガンダムの後継機さ。デザインはかなり変わるが、武装はそこまで変わらないから問題無い筈だ。名前は・・・

 

 

 

 

                       

 

 

                   1ガンダム。




というわけで、リボンズの次のISは1ガンダムとなりました!リボーンズガンダムだと思った方、もしくは主人公格の四人の機体と思った方は申し訳ありません・・・まあ、リボンズの小説を投稿しているからにはいずれリボーンズガンダムも登場させるんでご安心を。なんか今回リボンズ丸過ぎ・・・昔なら「余計な事を・・・」とか言ってたと思うんだけど・・・まあ良いや!今更ですが皆さん、明けましておめでとうございます!今年も良いお年を!


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10. レーヴェ・ハンブルク ~黒き風~

すいません、旅行から帰ってきたらノロウイルスか何かに感染してダウンしてました。お待たせしてごめんなさい!!!では、どうぞ!!


一週間が過ぎ、リボンズが臨時教官もといラウラの専属教官としてドイツ軍に就く期限の日が訪れた。彼は何時ものように訓練を終え、部屋に戻ろうとした。しかし、そんな彼にラウラが声をかけた。

「教官、少し食堂に来て下さい。」

「別に食事なら問題ないさ。今は空腹を催していないからね。」

「いえ、そう言う事では無く・・・とにかく来て下さい。」

彼女はリボンズを半ば強引に食堂に連れて行った。

 

 

 

「一体どうしたというんだ、何かこの中で行われるのかい?」

「まあ・・・入って下されば分かると思います。」

「・・・そこまで入って欲しいのなら、お言葉に甘える事とするよ。」

彼は訝し気にドアを開けた。すると・・・

 

 

「「「「「「リボンズ教官!!この一カ月間お疲れ様でした!!!」」」」」」

パパーン!

突如クラッカーの音が鳴り響き、シュバルツェ・ハーゼ隊の隊員達が皆笑顔で彼を迎えた。

「・・・これは?」

「教官は今日で引退でしょう?ですから、細やかではありますがこのようなパーティーを催す事としました。」

ラウラの言葉に笑顔で頷く隊員達の姿に、彼は微笑を浮かべた。

「全く、余計な事を・・・それに僕は、あくまで臨時の教官だ。別にここまでしてくれなくとも・・・」

その言葉に、別の隊員が答えた。

「ご謙遜を、リボンズ教官はラウラ隊員の訓練が終わった後、時たま我々も指導して下さっているではありませんか!!ここまでするのは当然の事です!!」

そうですよ、と口にする隊員達。彼はその言葉に、少し心を打たれた。

「と、いう事だ。ここまで言われたら断る理由もあるまい?」

意地悪い笑みを浮かべるレーヴェに、彼は苦笑した。

「これはしてやられましたね・・・まあ、そこまで言うのならお言葉に甘えましょう。」

身近な席に座るリボンズ。それに続いて、皆席に着いた。

「全員揃っているな?では、音頭を取らせて貰おう。」

レーヴェの言葉に、食堂中が静まり返った。

「では、一カ月間我がシュバルツェ・ハーゼ隊の向上に尽くしたリボンズ・アルマーク教官に・・・」

「「「「「「乾杯!!!!」」」」」」

その一声で、リボンズ退職記念パーティーが始まった。所々から隊員達の談笑が聞こえてくるその状況に、リボンズは自然と口元を綻ばせた。

「ほお・・・貴様も、その様な笑みをするのだな。」

「・・・中々失礼な事を言ってくれるじゃないか、織斑教官。僕は普段から笑っているつもりだけどね?」

リボンズは、いつの間にか近くに居た千冬に顔を向けた。

「そう気を悪くするな。確かに普段からお前は笑うには笑うが、その時の笑みは何かを企んでいる様に見えた。だが・・・先程のは、純粋な心からの笑みだろう?」

「純粋な笑みか・・・まあ、世界最強(ブリュンヒルデ)の君が言うのならそうなんだろうね。」

「・・・その名はやめてくれ、あまり好きでは無い。」

「おや、それは済まなかったね。知らなかったんだ、悪く思わないで欲しいな。」

その白々しい物言いに、千冬はジト目でリボンズを見た。

「・・・貴様、わざと言ったのではないか?」

「どうだろうね?フフフ・・・」

わざとらしく笑う彼に、千冬は溜息をついた。

「ハア・・・もういい。別にその名前を毛嫌いしている訳ではないしな。そこまで怒る必要もあるまい。」

「そうしてくれると助かるよ。」

彼等はしばらくの間、談笑を楽しんだ。横に座っているラウラがそれを羨ましそうに見ていたのは秘密である。

 

 

 

 

 

 

リボンズはパーティーが終わった後部屋に戻り、束と通信をしていた。

「はろはろ~リっくん、元気してた~?」

「ああ、問題無いよ。そちらこそ何事も無かったかい?」

「だいじょ~ぶ、別に何も起こらなかったよ~。」

「それは良かった。それで、例の二機は?」

「何とか完成したよ~。どっちもまだテストしてないけど、完全に動くと思うよ。」

「流石だね。では明日帰るから、それのテストを「ちょっと待ってリっくん!」何だい?」

「1ガンダムを今からそっちに送るから、そこでテストしちゃって~!」

「・・・何を言っているんだい君は?」

「とにかく、今から私の輸送機で1ガンダムを送るからちゃんと受け取ってね!それじゃ!ブツッ」

一方的に伝言を残し、束は通話を切ってしまった。その時のリボンズの表情は・・・

「・・・我慢ならないな。」

阿修羅すら凌駕する様な物だったらしい。

 

 

 

何とかリボンズが怒りを抑えると、彼は即急にレーヴェに通信をした。

「レーヴェ隊長。少しよろしいでしょうか?」

『何だ、こんな時間に・・・と言ってもまだ九時だしな。まあいいだろう。それで、何の用だ?」

「0ガンダムの損傷が激しいので、篠ノ之 束に新しい機体を頼んでいたのですが・・・それをこの基地に届ける様です。おそらくもうじき輸送機がこの基地に到着するでしょうから、そのおつもりで。」

『成程、そういう事なら許可する。だが・・・一つ、条件がある。』

「条件?それは一体・・・?」

『ああ、それは・・・』

 

 

 

 

 

 

 

レーヴェに事情を伝えた数分後に束の輸送機が到着し、上空から1ガンダムを落とし帰っていった。彼はその扱いに内心驚いたが、この程度で1ガンダムの装甲が傷つくとも思えないのでそれに関しては目をつむった。

「しかし、1ガンダム・・・資料を通して見た事はあるが、実物を見るのは初めてだ。つくづく、リボーンズガンダムに似ているね。まあ、あれはこの機体をベースに造ったのだから当然か。」

1ガンダム。それはかつてヴェーダが検討していた、「人間ではなく、イノベイドのガンダムマイスターによる武力介入」のために作られたガンダム。(オー)ガンダムの後継機であるため、(アイ)ガンダムと名付けられている。

「GNドライヴも新しい物になっているね。全く、つくづく驚かされるよ、君には。」

(おそらく僕の1ガンダムの物とは別に、ルビのスローネに搭載する分も造っている筈だ。この一週間で太陽炉を量産するとは・・・ソレスタルビーイングのメンバーが聞けば卒倒するんじゃないかな?おっと、早い所これのチェックをしないとね。)

彼は早速1ガンダムを纏い、動作確認をした。軽く掌を開閉し、肘に搭載されているGNビームサーベルを展開した。そして最後に、完成したGNビームライフルを取り出し、トリガーを数回引いた。

「ふむ、動作、武装共に問題無いか・・・そう言えば、シールドは・・・」

彼は左腕に装備されている巨大な盾の様な物を見た。その形状はガンダムエクシアのシールドに似ているものの、こちらの方がかなり大きい。

「シールドは相変わらず、か。まあ、予想はしていたけどね。ただ、これを展開するとこれの裏側にビームサーベルが搭載出来るのか・・・これは良い。取り回しはあまり良くなさそうだけど、常時展開していても問題は無いだろう。」

最終的な1ガンダムの武装はこうだ。

 

まず、GNビームサーベルが二本。シールドを展開していない際は両腕部に装備されるが、彼はシールドを常時展開するようなので、左腕のビームサーベルはシールド内側に装備される事となる。

 

次に、GNビームライフル。肘に大量のGN粒子を蓄えた大型コンデンサーと直結しているため、GNバスターライフル程では無いが高濃度のビームを放つ事が可能。又、そのコンデンサーもGNドライヴと繋がっているので、粒子切れを起こす事も無い。

 

最後に、GNシールド。GNフィールドを表面に展開する事が可能な盾。機能自体は0ガンダムのガンダムシールドと同じ。しかしGNドライヴの改良と、粒子発生装置が腕に移ったため、盾自体は格段に軽くなり、GNフィールドの防御力もかなり上がっている。とは言え大きいのには変わりはなく、使い所を選ぶ装備である。

 

「こんな感じかな?束も良い仕事をしてくれる物だ。そう言えば、GNフェザーもあったが・・・あれは粒子の消費が激しい。きっと滅多に使わないだろうね。」

さて・・・と彼が見たのは、ISを纏ったレーヴェだった。先程彼女が出した条件とは、1ガンダムで彼女と模擬戦をする事だったのだ。

「ほう、それがお前の新しいISか。名は何と言う?」

「1ガンダム、それがこの機体の名称です。その名の通り、0ガンダムの後継機となっています。」

「成程な。ふむ、外見はかなり変化しているし、見た所武装もかなり強化されている様だ。違うか?」

「その通りです。元々試作型だったビームガン、ビーム・サーベル共に完成していますので、性能は段違いの筈です。」

「ハハハ、それは楽しみだな。おっと、散々人の機体の情報を喋らせておいて、自分は何も喋らないのは不公平だな。おおまかだが、この私の機体について説明しよう。」

「ぜひお願いします。私も、この隊の隊長を務める貴方のISについて興味がありました。」

「それは嬉しい。さて、では私の機体について説明しよう。名称はシュヴァルツェア・ウィンズだ。」

(ウィンズ)ですか・・・意外と単純な名前ですね。」

「うぐっ・・・そんな事を言われたのは初めてだな・・・だ、だがその性能を馬鹿にするなよ?この機体はクラリッサとラウラの機体の姉妹機だ。それに、それを私が好きなように改良したからな。実質性能は一番上だ。さらに高機動・近接戦闘を主とする。油断をしていると足元を掬われるぞ?」

「無論、油断をするつもりはありませんが・・・お手柔らかにお願いしますよ、レーヴェ隊長。こちらはこの機体を動かすのは初めてなのですから。」

「心配するな、そこは考慮してやる。では・・・始めるか?」

「ええ、貴重な情報ありがとうございました。」

「どういたしまして、だな。それでは・・・スタートだ!!」

レーヴェはスラスターを吹かし、リボンズに高速接近した。そして、自身の身長程ある大剣「ドロック」を構え、力強くリボンズに振りかざした。

「はあっ!」

対するリボンズは、右腕に搭載されたビームサーベルで応戦した。ギリギリギリ、と両者の機体が衝撃で軋む。そして、ガギン!という音と共に、両者共に互いを弾いた。

「やはり流石だな!この『ドロック』は単純に、相手を斬るのでは無く叩き潰すために造られた物なのでな、その破壊力は目を見張る物だ!それに互角に渡り合うとは、それでこそだよ!」

「そちらこそ、この機体にパワーで互角とは・・・流石はこの隊の隊長を務めているだけの事はある!」

そして、両者は再びぶつかる。先程よりも早いスピードで、互いの得物をぶつけ合う。ガン、ガン、ガン、ガガガガ!と両者共に押し合い、そして弾き合う。並の模擬戦を凌駕した戦いが繰り広げられていた。

(このままパワー押しでぶつかり合っても駄目だ・・・今はとにかく彼女を突き放し、遠距離戦に持ち込む!)

リボンズはGNドライヴの出力を上昇させた。独特の起動音と共にGNドライヴが増して緑色に光り、粒子の放出量も増加した。それに応じて1ガンダムの出力が増加し、レーヴェを無理矢理弾き飛ばした。

「今だ!」

リボンズは右腕にGNビームライフルを展開し、トリガーを引いた。太いビームが放たれ、正確にレーヴェに向かった。

「甘いぞ!」

それをレーヴェは最小限の動きで躱し、自身の射撃武装を構える。

「避けられるか!」

そして、トリガーを引いた。その瞬間、

ドッ!とレールガンを超える速さで弾頭が射出された。

「なッ!?」

リボンズはそれを紙一重で避け、レーヴェを見据えた。

「これを避けるとは驚いた。こいつは弾数が多くない代わりに、貫通力と速度を極めた物だ。大抵の者は避けきれずに被弾してしまうのだが・・・どうやら、多少本気を出さなければいけない様だ!」

彼女はもう一つロングライフルを取り出し、丁度二丁拳銃(ツーハンド)の要領で二つの銃を構えた。

「行くぞ!これを避けてみろ!」

刹那、プラズマ弾と音速の弾頭が一気にリボンズに向かって降り注いだ。

「不味い・・・!」

リボンズは大きく横に動き、その弾幕の嵐から逃れた。レーヴェはそれを追う様に弾幕を撃ちまくる。外れて行き場の失った弾は、フィールドの壁に当たり轟音を鳴らした。その音に驚いたのか、次々と隊員達がフィールドに集まって来る。その中にはラウラもいた。

「あれは・・・教官?まさか、もう新しい機体を用意なさったのか!?と言うより・・・」

(あの弾幕を避けるとは・・・流石です、教官!)

彼女はより一層、リボンズへの尊敬の意を強めた。

 

 

 

 

(この圧倒的物量は脅威的だ・・・だが、このまま逃げているだけでは!)

突如、リボンズの瞳が金色に光った。脳量子波を使用したのだ。感覚が研ぎ澄まされ、反応速度が上昇する。リボンズは目の前の弾幕を避けるルートを一瞬で脳内で構築し、それを実行に移した。

「これしきの事で・・・!」

リボンズは被弾しそうなプラズマ弾をシールドで防御しながら弾幕の中を縦横無尽に駆け回り、すり抜ける様に弾を回避する。そして、とうとうレーヴェの下に辿り着いた。

「負ける訳には・・・!」

リボンズはビームサーベルを二本取り出した。そして、その二本でレーヴェに斬りかかる。

「いかないのさ!」

レーヴェは弾幕の中から飛び出してきたリボンズに反応が遅れ、その一撃をくらってしまった。ピンク色に光る剣が彼女を襲う。

「くっ・・・!はあっ!」

レーヴェも負けじとリボンズの懐に入り込み、拳に搭載されたナックル「シュプレング」をリボンズの腹部に叩きこんだ。

「がっ・・・このぉ!」

リボンズは再びビームサーベル二対を構え、レーヴェに突撃した。レーヴェはそれに、二本の長刀「シックル・ウィーズル」で応えた。ズバン!と再び衝撃波が周囲を襲う。それこそ遠くで見ている隊員達にまで衝撃が届く程だ。

リボンズはGNドライヴをフル稼働させた。太陽炉が放つ光が一層激しくなり、粒子の放出量も凄まじい物だった。それと同時に、レーヴェも体中の全スラスターをフルパワーにした。急な加速に両者の顔が歪むが、それを無視して彼等は自分の得物を打ち付けあった。

「「はああああああああ!!!!!」」

ガガガギギギガガガガ!と激しく音を立て、そしてバン!と互いの体がフィールドの端に吹き飛んだ。それぞれ反対側の壁が土煙を立てる。隊員達が息を飲んで見つめる中、先に姿を現したのはレーヴェだった。所々装甲が壊れ、火花を散らしていた。二本の長刀にもひびが入っていた。しかし、機体がそんな状況なのにも関わらず、彼女は笑っていた。それはとても楽しそうに。

「ハハハハハハ・・・アッハハハハハハ!!!久しぶりだ、この高揚感は!!!この頃忘れていたよ、この感覚を!!!さあ立て、立つんだリボンズ・アルマーク。立って私を倒してみろ!!!」

すると、反対側からリボンズも姿を現した。

「全く・・・結局、こうなるじゃありませんか・・・まあ仕方ありません、ここまで激しい戦いは私も久しぶりですからね、最後まで手は抜きませんよ!!」

リボンズはビームサーベルを一つ持ち、それをレーヴェに向けた。

「よく言った教官!そうでなければこの戦いの意味が無い!さあ再開するぞ、全力でだ!!!」

(残りシールドエネルギー40パーセント・・・初めてでここまで酷使させるとは、流石は隊長だ。一瞬も気は抜けないね。さて、では・・・次で決めようか。)

リボンズはGN粒子を全てGNビームサーベルに配給した。大量のGN粒子が流し込まれ、刀身が通常の倍以上の大きさになった。

「成程、次で決めるか。良いぞ、それも良い!では私も切り札を使おうか!!『起死改威(リアミネーション)』、発動!!!」

レーヴェはドロックを取り出した。すると、黒いオーラがドロックを纏う。

「これは今まで受けたダメージを倍にして返すと言う、私の機体の単一使用能力(ワンオフアビリティー)だ。これは自機が受けたダメージが大きい程威力が増す。さあ、これでケリをつけるぞ!!」

「望む所さ、返り討ちにしてあげるよ!!」

彼等は瞬時に接近し、互いの得物を大きく振りかざした。

 

 

「「おおおおおおおお!!!!!」」

 

 

そして、互いの得物がぶつかった瞬間、彼等を中心に大爆発が起きた。

凄まじい爆風が、隊員達を襲う。そのあまりにも激しい衝撃波に、全員が転んでしまった。

そして、衝撃波が消え土煙が晴れたフィールドに居たのは・・・

 

 

「フッ・・・惜しかったな、リボンズ教官。もう少しで私を倒せていたぞ?」

折れたドロックを掲げ、誇らしげに佇んでいるレーヴェと・・・

「全く、新しいISが早速損傷してしまった・・・そこまで損傷は酷くないから良かったものの、もし損傷が激しかったらまた束に負担が増える所だったではないですか。」

苦笑して地面に膝をつくリボンズだった。

もはや模擬戦の域を遥かに超えていた戦いは、レーヴェの勝利で終わった。




つ、疲れた・・・あ、レーヴェの機体ですが、また今度詳しく紹介いたします!


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11. 束の間の安息 ~次なる試練の始まり~

遅くなりました・・・ていうか、最近この言葉しか前書きで言ってない気がする・・・今回は主に会話回です。


「お疲れ様でした、教官・・・しかし、『あの』レーヴェ隊長と互角以上の戦いを繰り広げるとは・・・」

「ほう、彼女はそんなに強いのかい?まあ、確かにかなりの腕は持っている様だけどね。」

「強いも何も・・・彼女は風の様なスピードで相手を翻弄し、そして嵐の様な破壊力で相手を蹂躙する戦闘スタイルから、『ドイツの烈風』と呼ばれています。しかも世界でも屈指のIS操縦者ですよ?」

「異名を持つほどだったのかい・・・確かに、僕が扱うのは初めてとは言え1ガンダムに勝利したんだ、それも頷ける。」

「かと言う貴方も、ドイツではかなりの有名人ですが?」

「・・・何時からだい?」

「貴方がモンド・グロッソ会場に現れた時からです。あの全身装甲(フルスキン)の装甲と言い、あの粒子と言い、良い意味にも悪い意味にも人々の印象に残ったのでしょう。ある者は貴方を救世主と崇めるでしょうし、またある者は貴方を危険視するでしょう。」

(『救世主』か・・・かつて僕はその言葉に執着し、自ら人類を導かんとした・・・多くの人間達を犠牲にして。もう、そんな言葉に縋りはしない。あの時、刹那・F・セイエイに討たれた事で僕は理解した・・・人間は、そんなに弱い存在では無い事を。僕が再び彼等を導くのは、それこそ傲慢だ。)

「僕はそんな御大層な者では無いさ・・・所詮、僕も生きる者の一部だ。」

「そうですか・・・しかし、私にとって貴方はそれに近しい物ですよ?」

ラウラの言葉に、リボンズは怪訝な顔をした。

「それは・・・どういう意味だい?」

「自慢ではありませんが・・・私はかつて、この隊でも上位の成績を収めていたのです。しかし・・・」

彼女が言いよどむ事から、どうやらあまり良い思い出では無い様だ。

「そこから先は僕が話そう。ISが登場し、シュバルツェ・ハーゼ隊の全隊員は『ヴォ―ダン・オージェ』と呼ばれるISの適合力を向上させる処置を施された。その『ヴォ―ダン・オージェ』は理論上、その被験者との不適合のリスクは無い筈だったが、何故か君とは適合せず、結果暴走・・・それにより、君は全ての訓練において後れを取るようになった。そうだろう?」

ラウラは見事に言い当てたリボンズに驚いたが、まあ専属教官だし自分の事は調べていても当然か、と割り切った。

「はい、私は『出来損ない』の烙印を押され、自分も徐々に落ちぶれて行きました。」

「その時に、僕が来たと言う訳か・・・成程、事情は大体分かったよ。」

ラウラはその言葉に若干表情を緩ませ、そしてまた顔を引き締めた。

「教官、かつて堕落していた私をここまで引っ張り上げて下さって感謝しています。私にとって貴方は、それこそ救世主の様な物です。しかし、私にはまだ一つの疑問が残っています。」

「何だい?僕が答えられる範囲であれば答えるよ。」

「では・・・教官は何故、私の専属教官を引き受けて下さったのですか?正直、あの頃の私はもう見込みの無かった筈です。それなのに何故・・・」

(やはり、そういう思考に至ったか・・・まあ本当の事を言っても良いのだけど、今はまだその時ではない。取り敢えず、適当な事を言ってごまかすか・・・)

「・・・そうだね。まあ、強いて言えば同族としてのよしみ、かな?」

「?それはどういう・・・」

「・・・さて、僕はそろそろここを出発しなければならないのでね。失礼させて貰うよ。」

「!? 待って下さい、まだ話は・・・!」

「・・・ラウラ、どうしても聞きたいのであれば話してあげるよ。しかし、今はまだいけない。今はまだ話すべきでは無いんだ。理解してくれるかい?」

「しかし・・・いえ、理解しました。勝手な要望をしてしまい申し訳ありません。」

「別に構わないさ。さて、ではそろそろ行くとするよ。くれぐれも訓練を怠らないように。」

「はい・・・了解しました。」

彼は満足そうに微笑むと、GNドライヴを起動させ空へと飛び立った。ラウラはその機影をいつまでも見上げていた。

「・・・教官、貴方にとって、私は・・・」

その独白は誰にも聞かれる事無く、虚しく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュバルツェ・ハーゼ隊本部を出発して三十分後、リボンズはドイツ上空で束と通信をしていた。

『はろはろ~リっくん。1ガンダムはどうだった?』

「良い完成度だったよ。これなら運用にも問題は無さそうだ。感謝するよ束。」

『えへへ、束さん久しぶりに頑張ったからね!!もっと褒めてくれても良いよ!!』

「まあそれは後だ。そう言えば、ルビの方はどうなんだい?」

『今ドイツの方に向かってるよ!ちょっとやって貰いたい事があったからさ、スローネのテストも兼ねて行って貰ってるよ!』

「やって貰いたい事?ドイツで何かあるのかい?」

『いやあ、何かドイツのデパートでテロが起きるかも知れないんだよね。ちょ~っと怪しい感じがしたんだよ。多分奴らそのデパート占拠して政府に色々と要求する腹積もりだろうから、出来るだけそれをルーちゃんと阻止してね!』

「了解。いますぐ現場に向かうよ。」

彼は通信を切り、機体に光学迷彩を施しドイツ中心部へと向かった。

 

 

 

 

その頃ルビは、現場のデパートのカフェで優雅にコーヒーを飲んでいた。彼女はリボンズが出発する一時間前からドイツへ向かっていたので、案の定早く着き過ぎたのだ。よって彼女はとても暇だったので、予め怪しい人物を探す事にしたのだ。しかしそれらしい人物は見つからず、仕方ないので少し休憩する事となった。

「・・・苦い、けどおいしい・・・」

彼女は初めて飲むコーヒーを堪能していた。コーヒーを啜ると共に綻ぶ表情が何とも可愛らしい。

(それにしても、お兄様遅い・・・まあ仕方ないよね、お仕事忙しかったみたいだし・・・その内来るかもしれないし、これもう一個頼んどこ・・・)

彼女は店員にもう一つコーヒーを注文した。その行動を見ていた周りの男性客達が色々な妄想をし始めたが、無論それはリボンズの分である。すると不意に、彼女の端末に通信が入った。ルビがそれを見ると相手はリボンズだったので、彼女は嬉々とした表情で通信に応じた。

「久しぶり、お兄様・・・元気?」

『ああ。そちらも調子は良さそうだね、安心したよ。』

久々に聞く兄の声。それを聞くだけで、彼女は胸の奥が暖かくなるのを感じた。

「ふふふ・・・ありがと。今何処に居るの?」

『丁度デパート周辺に着いたところさ。君こそ何処に居るんだい?出来るだけ早く合流したいんだ。』

「ルビは・・・デパートのカフェに居る。お兄様の分もあるから・・・来てね。」

『それは・・・心遣い感謝するよ。ああ、直ぐに向かう。』

ルビが応答しようとしたその時、デパートを爆音と共に振動が襲った。

『この音は・・・!始まってしまったか。ルビ、君は待機しているんだ。おそらく幾ら君でも一人では無理だろう。僕も直ぐに向かう。』

「ん、分かった・・・じゃあね。」

彼女は通信を切り、完成体となった自身の愛機・・・「ガンダムスローネ」を見た。今現在はオレンジ色のネックレスとなり首にかかっている。彼女はこれを握りしめ、こう誓った。

(絶対、誰も死なせない・・・悪い奴らを倒す、そしたら皆死なない!)

 

 

 

その頃デパートの一階では、武装したテロリスト達が民間人達を一か所に集めていた。民間人は彼等を憎しみ、あるいは畏怖の目で見つめた。この張り詰めた空気の中、一人の少女が突然泣き出した。彼女の母親であろう女性は必死に彼女を宥めるが、一層泣き声は増すばかりだった。それを見かねたテロリストの一人がその親子に銃を向けた。

「おい!そこのクソガキ!死にたくなけりゃ泣くんじゃねえ、撃つぞ!!」

それを見た比較的良識な仲間が、慌てて彼を止めようとする。

「お、おいよせ!幾らそいつが女だとしてもまだ子供だ!」

「うるっせえ!結局はこのガキもあの薄汚ぇ思想に染まるんだろうよ!!ならいっその事、純粋なまま殺した方が・・・!!」

「馬鹿かお前は!今すぐやめろ!!」

「止めんじゃねえクソが!女は何であろうと俺達の『敵』だ!お前も分かってんだろ!」

「だ、だが・・・!」

「黙れ!俺は本気だ!今分からせてやるよ!!」

そう言うと彼は安全装置を外し、トリガーに手をかけた。カチャリ、という無機質な音が、その場の空気を凍り付かせる。

「じゃあなクソガキ・・・!地獄へ堕ちろ!」

そして、無慈悲にも引き金は引かれた。

 

 

 

ガガガガガガガ!

 

 

 

 

親子が居た辺りが砂煙で包まれた。周りの者は皆青ざめ、その煙を呆然と見つめていた。しかし徐々に煙が晴れると、五体満足の親子が現れた。皆は安堵すると共に疑問に思った。この親子はどうやって助かったのだろう?その疑問は数秒後に判明した。

 

 

煙の中に、もう一つの影があった。その姿は徐々に明白になっていき、やがて一機のISが姿を現した。

 

 

青と白のカラーリングで、全身を覆う装甲。

 

 

親子を守ったのであろう大きな盾。

 

 

そして、極め付けはまるで天使の翼を思わせる、背中から出る緑色の粒子。

 

 

 

「よう、せいさん?」

泣いていた少女が、目をぱちくりさせ呟いた。その機体はゆっくりと頷き、手を少女の頭の上に乗せた。その機械の手は無機質ながらも、何処か暖かさを持っていた。少女は安心したのか、そのまま眠ってしまった。慌てて抱き留める母親を後目に、その機体は驚くテロリスト達と対峙した。

 

 

 

           

 

 

 

 

              天使(1ガンダム)が、この混沌の地に舞い降りた。




次回、ルビ主観の戦闘も出すかと思います。


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12. 次なるガンダム ~Reviving 0~

超!超!長!蝶!遅れましたアアアア!み、皆さん、今日はちゃんとした言い分はありますよ!?今回作者は中間試験にプレゼンテーション、レポートの提出とクソ忙しかったのです!これ以上の理由があるでしょうか!?・・・とにかくすいません・・・ひとまず、12話どうぞ。


「うっ、撃てええええ!!」

ガガガガガ!とテロリスト達が携帯していたアサルトライフルが火を噴き、突然現れたISに集中砲火を浴びせた。しかし、そんな攻撃でISがやられる訳は無く、銃弾は装甲に弾かれただ無駄に弾を消費する事となった。

「なっ、何なんだよ、コイツはぁぁぁぁ!?」

「クソッ、バズーカだ!バズーカ持ってこい!」

「駄目だ、んな事してる時間は無え!」

「チッ、八方塞がりかよ!何とかコイツを倒す手段は無えのか!?」

怒号と悲鳴が飛び交う中、そのISはただ立っているだけだった。幾ら彼等が攻撃をしようが、自分には意味が無いと嘲笑うかの様に。

そして、彼等の儚い抵抗は終わりを告げる。

「カチッカチッ た、弾が無ぇ!?」

彼等が予め用意していた弾薬全てが切れてしまったのだ。しかし、彼等が用意していた弾の数は千を超える。普通のISなら傷の一つ二つ付いていてもおかしくないのだが、そのISには傷どころか汚れすら付いていなかった。

『・・・これで終わりかい?全く、こんな事なら最初からテロなんて起こさないで欲しいね。』

機械から発せられる合成音が、彼等に落胆した様に告げた。

「な・・・何なんだよ、お前は・・・」

そのISはガシャン、ガシャンと音を立てながら一歩ずつ彼等に近づいて行く。

「お前は一体・・・何なんだぁッ!?」

テロリストは皆、恐怖で銃を落としてしまった。しかし、それすら気づかない程、彼等は追い詰められていた。

『ふむ・・・何なのか、か。別に僕は何者でも無いんだけどね。まあ、強いて言うなら・・・』

そしてISは一瞬で彼等に肉迫し、左腕に装着した盾の様な物で彼等の意識を奪った。そして、その際彼等が聞いたのは・・・

『咎人、かな?今の僕を表すのにこれ程ふさわしい言葉は無い。』

「お・・・とこ、だとぉ・・・!?」

まだ若く、どこか諦めと自嘲を孕んだ青年の声だった。その言葉と共に、彼等の意識は深淵に沈んでいった。

 

 

 

一方その頃ルビは、テロリスト達相手に一人で挑んでいた。

「はああああ!!」

彼女は完成した「ガンダムスローネ」に搭載された巨大な大剣「GNバスターソード」を振り回し、彼等を蹴散らす。勿論、ビーム剣は発動させていない。実体剣のみ相手にぶつけ、その衝撃で意識を刈り取っている。

「クソッ、この野郎!!」

一人のテロリストが、背後からロケットランチャーでルビを狙った。

「! そんなの!!」

それをルビはバスターソードで叩き落し、そしてそれを相手の脳天目掛けて振り下ろした。

「ドゴッ が、あ・・・」

「邪魔しないで・・・お兄様と合流しなくちゃ・・・!」

青と白のカラーリングのスローネは、ものの数分もしない内に敵を殲滅した。それを確認したルビがリボンズと合流しようとしたその時、

「あ~待て待て。悪ぃがちょっくら俺の質問に答えてくんねえか?」

カチャリ、と銃を突きつける音が聞こえると共に、ルビは反射的に持っていたバスターソードを全力で後ろに振った。すると、ガギィィィン!と鉄同士がぶつかり合う音が聞こえた。当たった、とルビは思った。しかし、それにしては手応えが無い、とも感じた。では何故手応えが無い?答えは簡単だ。

 

 

 

                

 

 

               敵は、今の攻撃を受け止めた。

それに気付いたルビはすぐさま剣を収め、腰に装着されたGNハンドガンを構え後ろを振り返った。そこで彼女が見たのは、一人称が「俺」とは思えない程美しい、長い茶髪の女だった。

「・・・そう警戒すんな。俺は戦闘狂だが、民間人を巻き込んでまで殺り合いたい訳じゃねえ。取り敢えず、質問に答えてくれりゃ良い。」

女は若干疲れ気味に銃の安全装置をロックした。その行動に、ルビも渋々銃を収めた。だが、別に信用した訳ではない。万が一の為に、直ぐに右肩の「GNランチャー」を発射出来るように準備はしている。それに、ガンダムスローネや、兄弟機である1ガンダムは特殊な材質で造られているので、ライフルの一発でどうこうなるような物ではない。それらを踏まえて、ルビは取り敢えず話に応じる事にした。

「・・・怪しい事しようとしたら、撃つからね。」

「おう。じゃ、質問だ。お前・・・

 

 

               

               あのISを操縦出来る男と関係あんのか?」

「ッ!?」

その言葉にルビは息を呑んだ。この女は、イレギュラーな存在である自分の兄をどうするつもりだ?男性IS操縦者と聞いて、マッドサイエンティスト共が思い付きそうな事は・・・そこまで考えが及ぶと、ルビは怒りのあまり叫んだ。

「お兄様を・・・お兄様を解剖するの!?」

「へえ、お前あの野郎の妹か。」

「あっ・・・ち、ちが・・・」

「安心しな、少なくとも俺はそんなクソみてえな事考えちゃいねえよ。」

ルビは自分の迂闊な発言に後悔したが、その女の返答に取り敢えずは安堵した。

「良かった・・・もしそんな事するつもりなら、今頃暴走してたかも・・・」

それを聞いた女は、若干冷や汗を流した。

「・・・少なくとも、そのビーム砲をここでぶっ放すとかは止めろよ。民間人にも被害行くぞ。」

「わ、分かってる・・・で、もうお話は終わった?」

「ああ、お蔭様でな。んじゃ、俺はもう帰るとすっか。スコールも待ってるだろうしな。」

「・・・もう帰るの?てっきり貴方がテロリストの総本山かと・・・」

「バーカてめぇ、俺があんなクソ共と同類って言いてえのか?俺もあそこまで落ちぶれたつもりはねえぞ。」

「そっか・・・あ!お兄様に連絡しないと・・・」

ルビは安心してすっかり忘れていた兄の存在を思い出し、慌てて通信をした。

『こちらリボンズ・アルマーク。ルビ、どうかしたのかい?』

「こっちの制圧は終わった・・・お兄様はどう?」

『ああ、こちらも既に完了したよ。負傷者がいないか確認したかい?』

「そう言えば・・・まだやってなかった。ごめんなさいお兄様、今からする・・・」

『いや、その必要はないだろう・・・少し、そこに居る女性に代わってくれないかな?』

「え・・・?分かった。」

何で分かったんだろう、と戸惑いながらも、ルビは女のISにも通信が入るように設定した。

「よお、久しぶりじゃねえか。三週間ぶりか?」

『こちらこそ久しぶりだね。あれからちゃんと撤退出来たかい?』

「あーうっせーうっせー・・・それはもう言うんじゃねえよ。」

『フ、まあそれはそうと、二人共無事で何よりだ。そう言えば、君は何と呼べばいい?』

「オータムだ。呼びたきゃそう呼べ。」

『成程、オータムか。ではオータム、君が今まで見た中で一人でも負傷者はいたかい?』

「あー・・・問題無え。一応、民間人に被害が及ばない程度に殺りあったつもりだ。」

『それなら良い。早くテロリストの身柄を拘束しよう。放っておいたら、その内ドイツ軍が回収するだろう。』

「ああ、一応全員縛ってんぞ。・・・つかお前、案外容赦無えのな。」

『何の事かな?それより、早く戻ったらどうだい?こちらに接近してくるISを探知したよ。恐らくシュバルツェ・ハーゼ隊だろうね。』

「なッ、何でそれを早く言わねえ!?あぁクソがッ!今度こそ俺は帰る!お前等も早く撤退しな!」

それだけ言い残すと、オータムと名乗った女は壁に穴を開け飛び去って行った。

『派手なご退場だね。さて、では僕らも帰ろうか。束とクロエも待っているだろう。』

「うん・・・帰ろ。」

 

 

 

 

「ふう・・・ルビも一般人達も無事の様だ。そうと分かれば、束に報告をしなければいけないね。」

ルビとの通信を終えたリボンズは、今度は束に通信をした。

『やっほー、皆のアイドル束さんだよー!リっくんどうしたのー?』

「指定された場所に居たテロリスト達の無力化に成功したよ。幸い負傷者も居ない様だ。」

『おっけー!それならもう帰ってきてね!今日のご飯はこの束さん特製カレーだよ!』

「ほう、それは楽しみだ。では、今からルビも連れて帰るよ。数十分で戻るから、用意をしておいてくれるかい?」

『りょーかーい!じゃー待ってるねー!』

「ああ。期待しているよ。」

リボンズは通信を切り、ルビの下に向かった。

 

 

 

デパートから去った二人は、上空で話合っていた。

「ところでルビ。その『ガンダムスローネ』の事は理解しているかい?」

「うん。長距離砲撃・前衛・戦闘支援の機能の三つを、状況によって使い分ける事が出来るんだよね。」

「その通りさ。本来ガンダムスローネは『アイン』、『ツヴァイ』、『ドライ』と三機に分かれ、それぞれの役割を果たしていた。そして、それぞれの性能を一機に集約したのが、その『ガンダムスローネ』なんだよ。」

「そうだったんだ・・・じゃあ、何で一機にしたの?」

「それは下手に三機も製造して、万が一盗まれて悪用でもされたら厄介だからさ。それを防ぐ為に、一つに集約したんだよ。少し難しい作業だけど、それを束は一週間で終わらせてくれた。それに余談だが、僕等のガンダムに装備されているGNドライヴは束が新しく造った物だからね。通常、GNドライヴの量産にはかなりの時間を要する筈なのだが・・・流石は束、と言うしかないよ。」

「束・・・やっぱりオーバースペック・・・」

そんな会話をしながら、彼等はラボへと帰っていった。

 

 

 

「リっくんにルーちゃんお帰りー!さあハグハグしよう!」

「スキンシップが過ぎるよ、束。もう少し控えたらどうだい?」

「幾ら束でもダメ・・・お兄様は、ルビの物。」

「ルーちゃん、最早兄妹愛を超えてるよ!?」

「愛さえあったら、兄妹なんて関係必要無い。」

「いや、そこまで行ったらもうダメじゃん!?」

ルビと束がコントを繰り広げている間、リボンズはクロエと話していた。

「リボンズ、お疲れ様です。ドイツはどうでしたか?」

「中々良い物だったよ。皆社交的で、ビールを無理矢理飲まされそうになったのは良い思い出さ。」

「ふふ・・・ドイツの人々はビールが好きですからね。ビールの本場もドイツですし。」

「ソーセージも美味しかったね・・・最初は豚の腸に詰めた肉なんぞが美味いのか、と思っていたけど、蓋を開けてみると中々良い物だ。目から鱗とはこの事だね。」

「それは何よりです。そう言えば、シュバルツェ・ハーゼ隊は・・・?」

「ちゃんと皆指導して来たよ。まあ、主に一人の少女を指導したけどね。」

「そうですか・・・まあとにかく、何事も無く終わって何よりです。では夕食の準備をしますね。リボンズは待っていて下さい。」

「ああ、そうさせて貰うよ。」

キッチンへ向かったクロエから視線を外し、リボンズは未だコントを続けている二人に目を向けた。

「君達・・・そろそろ止めたらどうだい?もうじき食事だよ?」

「で、でもリっくん!このままじゃルーちゃんがリっくんを襲っちゃうかもしれないよ!?」

「・・・きっと大丈夫さ。それより君達、早くしないとせっかくの食事がもう来てしまうよ。早急に席に着くんだ。」

「分かったよ・・・そういやさ、0ガンダムってどうするの?あれ確かトランザムの影響でボロボロの筈でしょ?」

「ああ、そう言えば・・・そうだね、夕食後に修復と改修に当たろうか。」

「おっけい。具体的にはどんな改修をするの?」

「そうだね・・・これは少し長くなるから夕食中に話そうか。」

りょーかい、という束の返答と共に、丁度クロエが夕食を持ってきた。

「遅くなりました・・・それでは皆さん、食事にしましょう。」

彼等の前に、束特製のカレーが運ばれた。リボンズはそのカレーを見て感嘆の声を漏らす。

「ほう、外見は素晴らしいじゃないか。さて、では・・・」

「「「「いただきます。」」」」

彼等はまず、カレーに手を付けた。そして、それを口に入れた・・・

 

 

 

 

「ど、どうかな!?美味しい!?」

束がそわそわしながら、満面の笑みで彼等にコメントを求める。それに対する彼等の答えは・・・

「・・・美味しい・・・の?」

「私のよりは断然ましですが・・・なんというか、微妙です・・・」

「えー!?おっかしいなぁ・・・リっくんはどう?」

束は黙々と食べ続けるリボンズにも回答を仰いだ。

「・・・そうだね、まず野菜に芯まで火が通っていないから若干硬い。あと、カレールーも何か水っぽい・・・ドイツ軍の食堂の方々に一度指導してもらうと良いよ。」

「そんなに美味しくないの!?」

がーん!とショックを受ける束にリボンズは苦笑し、そして先程の話を持ち掛けた。

「そうだ、さっきの話の続きをしようか。どのような改修をするのか、だったね。」

「そうそう、それが分からないと改修しようがないからさ。て事で教えてリっくん!」

「了解したよ。これは1ガンダム・スローネと共に考えていた、0ガンダムをベースとした改造計画さ。簡易装着型の増加装甲や新たな武装を搭載し、各部に搭載する追加スラスターによる機動力の向上を目的としている。恐らく性能的には第三世代位にはなるんじゃないかな?」

「相変わらず、リっくんの考える事は凄いね!第二世代の0ガンダムの性能をそこまで引き上げようなんてさ!」

「いや、僕はあくまでガンダムの改良プランを提案しただけさ。そもそも、君が0ガンダムを造りださなければ、この計画も浮かばなかっただろう。」

「またまた~!あ、そう言えばこの計画に名前とかあるのかな?V作戦とか、オペレーション・メテオとかそう言うカッコいいの。」

「ふむ、格好良いかどうかは分からないけど、一応名称はあるよ。正式名称、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          

 

 

 

 

 

                『FSWS計画』。




今回出てきた「FSWS計画」。これは知ってる方は「あ~あれねwww」となるかもですが「なぁにそれぇ?」て方はぜひggってみて下さい。さて、今回の進展としては、まあ0ガンダム復活の予感とルビがブラコンに目覚めたって感じですかねwきっと、どこかでシンが「ステラァァァァァッ!?」ってなってるでしょうwww
では、また次回!


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13. FSWS ~ガンダム開発計画~

ちょっち遅くなりました。今回は戦闘無しです。
あ、そういえばこの前感想で「リボンズさん弱くなってね?」という内容の感想を頂きました。単刀直入に言うと、僕もそう思いますwww「じゃあ書くんじゃねえ!!!」とお怒りになってるそこの貴方、ちょっと待って下さい。本来ならISは男には使えません。原作で唯一の男性操縦者であるいっくんでさえ、最初はあんな感じでした。しかし、リボンズはISに乗って数分でISの操縦方法をほぼマスターし、そして一カ月ちょいで設定上(今決めた)千冬並の強さを誇るレーヴェとほとんど互角の戦いを繰り広げました。しかも、MSとISでは操縦の仕様が違います。それでも戸惑う事なくISを乗りこなした彼は、言っちゃえばもう十分IS搭乗者としては成長しているのです。それでもまだ足りねぇ!って方はもうちょっと待って下さい。物語が進むにつれ、彼も「変革」します。その時まで、どうかこの作品をよろしくお願いします!

さて、屁理屈で埋め尽くされた長話すみませんでした。ではどうぞ!


「FSWS?何かの略称かな?」

「『Full armor System and Wepon System』。先程言ったように簡易装着型装甲と武装で機体を包み、装甲自体にスラスターを搭載する事で機動力を失う事無く耐久性を向上させる事が出来る。この他にも『アサルトシュラウド』や『フルウェポン・0ガンダム』と言うのも考えていたが・・・結局採用するのはこれにしたよ。」

「へえ・・・じゃあ聞くけど、その二つはなんで不採用にしたのかな?」

「そうだね、『アサルトシュラウド』はFSWSと同様、追加装甲と武装を0ガンダムに施すプランだったが、総重量がFSWSを上回ってしまったからね。それに、FSWSの方が武装のバリエーションが多い。これらの点から、『アサルトシュラウド』は不採用としたのさ。」

「そっかー・・・まあ仕方ないね。じゃあ、『フルウェポン』は?」

「そちらは装甲を搭載せずに、ただ夥しい数の武装を搭載するだけのプランだ。確かに火力は凄まじい事になるけど、やはり重くてね・・・プロペラントタンクを兼ねた大型ブースターユニットを搭載する事も考えたが、それでも機動力が激減してしまうのさ。それでは只の的となってしまうだろうから、このプランも採用しない事にした。」

「まあ、このFSWSを採用した0ガンダムも結構かっこいいし万事OK!名前は無難に『フルアーマー・0ガンダム』にする?」

「いや、もう『フルアーマーガンダム』で良いと思うよ。では早速、武装について話をしようか。」

「そうだね、リっくんのプランでは『2連装GNビームライフル』に『GNミサイル・ベイ』、『360mmロケット砲』を搭載するって感じだけど・・・本当にこれだけで良いの?まあ、束さんはこれでも十分と思うけど・・・」

「これでも、戦艦レベルの火力はあるんだけどね。それに、0ガンダムの拡張領域(バススロット)の関係で、これ以上武装を入れるのは困難だ。これ位が無難だろう。」

「ま、やっぱりそんだけ火力があったら十分だよね。よーし、じゃあ早速開発に取り掛かるよ!!」

「いや、ちょっと待ってくれないかい?その前に、一応誰が搭乗するのか決めておく必要がある。まあ、もう決まっているも同然だけどね。」

「そうだねー。リっくんは1ガンダム、ルーちゃんはスローネ、この天才束さんは生身でも問題ナッシング!てことは・・・」

彼等はにこやかにクロエの方を向いた。一方、クロエは二人の顔を見て固まっている。

「・・・あの、私は遠慮しt「「君しかいない!!」」私に拒否権は無いんですか!!?」

戦艦レベルの火力を誇る機体を強制的に託される事となり、半ば悲鳴の様な声を上げたクロエであった。

 

 

 

 

 

 

その頃ラウラ・ボーデヴィッヒは、一人フィールドで自己鍛錬をしていた。次々と的を射抜くだけの単純な訓練。しかしそれをこなしていく彼女は、どこか浮かない表情をしていた。

「ボーデヴィッヒ、そろそろ休憩したらどうだ?訓練するのは良いが、休息を取る事も軍人にとって重要だぞ。」

そんな彼女を見かねて、レーヴェがラウラに話しかけた。

「レーヴェ隊長、私はまだ・・・いえ、お言葉に甘えさせて頂きます。」

それを聞いたレーヴェは満足そうに頷き、ラウラにスポーツドリンクを投げ渡した。

「これは・・・?」

「何、私からのささやかな差し入れだ。水分補給は大切だぞ?脱水症状を起こして医務室行きなんて事にはならんようにな。」

「・・・善処します。」

相変わらず気分が優れないラウラに、レーヴェはうんざりした様に言い放った。

「まったく・・・そんなにリボンズ教官が去ってしまったのが辛いか?」

「い、いえ、そういう訳では・・・」

「それなら良いんだがな。いつまでも奴に頼っていては、かえってお前の成長が遅くなる。弟子はいつか、師から自立しなければならない。分かっているだろう?」

「はい、それは自覚しております。」

「ならば良し。では、私はそろそろ失礼するとしよう。まだ仕事が残っているのでな。」

「そうですか・・・ありがとうございました、レーヴェ隊長。」

「フ、隊員達のメンタルチェックをするのも隊長の役目なのでな。まったく、多忙な役割だよ。」

「それを貴方が言っては駄目なのでは?」

「おっと、これは失念していた。まあ、だからこそやり甲斐があるのだが。お前もやってみるか?」

「ハハハ・・・前向きに検討します。」

そうか、楽しみだな。とレーヴェは言い残し帰っていった。残されたラウラは相変わらずあまり良い表情ではなかったが、何か吹っ切れた様な顔だった。

「・・・さて、私ももう少し鍛錬を積むか。いつになっても良い、教官に少しでも近付けるようにな。」

そして、彼女は再び訓練を開始した。

 

 

 

 

 

 

「リっくん、GNドライヴはどうする?装甲の上から再装着する?それとも背中の追加装甲をGNドライヴを避ける様にして設計する?」

「そうだね、後者で行こう。背部の追加装甲にGNドライヴが収まる程度の穴を開けてくれ。」

「りょ~か~い。ふっふっふ、この天才束さんの仕事人っぷりをご覧あれ!」

シュババババ!と効果音が出そうな程高速で作業をこなす束を後目に、クロエは深い溜息を吐いた。

「はぁ・・・まさか、私まで『ガンダム』を使う羽目になるとは思いませんでした・・・」

「心配しないでくれ、僕は君の操縦技術を高く買っているよ。」

「確かに、常人よりかは上と自負していますが・・・あのシリーズは元より性能が高い上に、『トランザム』とか言った未知のシステムまで搭載しています。私から言わせて貰えばあれは、暴れ馬とかそんな温い代物ではありません。最早ロデオですよ・・・」

「・・・その内慣れるさ、と言いたいけど僕も鬼ではない。予め束にトランザムを制御出来る様に頼んでおいたよ。まあ、アレのプロテクトは恐ろしく強固だから、幾ら彼女でも無理かと思うが・・・」

「お気持ちだけ受け取っておきます。確かに束様は『あのシステムだけは自分でも分からない』と言っていましたから・・・」

「まあ、恐らくアレは危機的状況に陥った時に発動するのだろう。僕の場合はミサイルの雨をまともに食らいそうになった時だし・・・それ程の状況に直面しなければ大丈夫と思うよ。」

「束様の仕業とは言え、ミサイルのシャワーに突っ込むなんて事一生に二度とありませんよ。」

更に深い溜息を吐くクロエに、リボンズは苦笑する事しか出来なかった。

 

 

 

 

その頃ルビは、スローネの整備を行っていた。本当は束に任せようとしたのだが、今束はフルアーマーの設計でそちらには手を回せないし、何より自分でやった方が良いと思ったからだ。かと言って今回は特に何処かが破損した訳では無く、ただ武装の点検を行うだけなのだが。

「・・・うん、GNバスターソードも、GNハンドガンも何の異常も無い。それ以外は・・・あ」

彼女は腰部のバインダーに四基ずつ搭載されている「GNファング」を見た。

「これ、結局なんなんだろう・・・お兄様は『小型ブルー・ティアーズ』って言ってたけど、ブルー・ティアーズ・・・イギリスが開発してる第三世代型ISの事で・・・それが搭載してる『BT兵器』の事だっけ・・・?」

ブルー・ティアーズ。イギリスが開発している第三世代型ISで、遠距離射撃を得意とする。これの本領は、第三世代兵器「BT兵器」。遠隔無線誘導型の武器で、相手の死角からの全方位オールレンジ攻撃が可能。しかも、それを六基も搭載しているのだ。それだけでも驚きなのだが、スローネはそれより二基も多く積んでいる。これまで苦労してやっと六基作り上げたイギリスに対し、束はものの一週間で八基作ってしまった。ブルー・ティアーズの設計担当者が涙を流しているのが目に見える。

「確か、これを扱うにはかなりの集中力が必要なんじゃ・・・でも、頑張って使ってみようかな。」

彼女は若干気合を入れると、再び整備に取り掛かった。




さて、ここを使って少しレーヴェのISの説明をしましょう。




シュヴァルツェア・ウィンズ(黒き風)
搭乗者・レーヴェ・ハンブルク


シュバルツェ・ハーゼ隊現隊長、レーヴェが使用している第三世代型IS。ラウラのシュヴァルツェア・レーゲン、クラリッサのシュヴァルツェア・ツヴァイクの姉妹機。元々「圧倒的な機動力で相手を翻弄し、その隙を突いて相手をじわじわと墜とす」というコンセプトで作られた機体で、そのスピードは凄まじい。しかし、その機体をレーヴェが自分の戦闘スタイルに合わせて「魔」改造した結果、機動力は勿論接近戦、遠距離射撃においても格段に能力が上がり、かつてのコンセプトなどどこ吹く風になってしまった。その戦闘シーンを見た者たちが付けた仇名は「ドイツの烈風」。ちなみに彼女自身はその仇名を気にしていないが、「どうせなら嵐が良かった」などとぼやいている。


武装

ドロック
機体背部に常時装備されている無骨な大剣。それは相手を断ち切るより、相手を叩き潰すために造られたものなので破壊力は凄まじい。しかし、巨大故に取り回しが効き辛いという欠点もある。因みにドイツ語で「圧力」の意味を持つ。

シュプレング
拳に装着するナックル。常時装備はされていない。そのナックルで相手を殴ると、その衝撃が相手の芯まで伝わり、パイロット自身にもダメージを与える少し危険な代物。意味は「爆砕」。

シックル・ウィーズル
腰部に一本ずつ装着されている二本の長刀。それぞれに「シックル」、「ウィーズル」という名称がつけられているが、大抵二本セットで呼称する。軽い材質で出来ていながら、それが繰り出す斬撃は強烈で雨をも切り裂く・・・と、言われている。また強度もそれなりに高い。意味はシックルが「鎌」、ウィーズルが「鼬」。モデルはスサノオの「シラヌイ」、「ウンリュウ」。

プラズマサボット・ショットライフル 「トーデス・ブロック」
携行式の大型ライフル。Sabotとはドイツ語で「装弾筒」、Todeselockは「死刑台」「死の塊」の意。
その名の通り弾頭をプラズマに包み高速射出するもので、プラズマを帯びた高熱エネルギーによって弾の威力も増加している。モデルはEx-Sガンダムの「ビーム・スマートガン」で、原理はカラミティガンダムの「トーデス・ブロック」と同じ。


こんな感じですかね。では、また次回!


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14. 正史へのカウントダウン ~Road to Story~

3月中は作者ではなく、読者として様々な作者様の作品を見て行こう!と思って面白い小説を発掘していたら、いつの間にかこんな時間に・・・いけませんね、これは。

と言う事で、最新話です。どうぞ!


ルビは整備が終わった後、リボンズの下に向かった。大抵はただ談笑をするだけだったが、今日は明確な目的が彼女にはあった。

「お兄様・・・ちょっと、お願い。」

「何だい?今出来る範囲であれば大丈夫だよ。」

「ルビに『ファング』の使い方教えて?」

「・・・そうか、あの武装か・・・少し待ってくれ。」

そう言うとリボンズは束に話し掛けた。

「束、今どこまで出来ているんだい?少し用事が出来たのでね、出来れば少しの間君一人でやって貰いたいんだが・・・」

「んー、上半身の装甲は大方完成したかな。残りは下半身と追加装備位だから、あと半日位で全て完成するよ!」

「流石だね。では、少し僕は席を外す事としよう。後は頼んだよ。」

「ん、行ってらっしゃーい。」

彼は束から離れ、再びルビと向き合った。

「という事で、許可は下りた。では早速、『ファング』について説明していこうか。」

「お願い・・・」

ファングについての勉強会は、小一時間続いた。

 

 

 

 

「・・・と、この様な感じかな。何か質問はあるかい?」

「ううん、大丈夫。ありがと、お兄様・・・」

「礼はいらないさ。どうせ後々教授しようと思っていたからね。おかげで手間が省けたよ。」

「ふふ・・・それにしてもやっぱり凄いね、このファングって。」

「ああ、既存しているBT兵器はただビームやミサイルを撃つだけだが、このファングは自らにビームの刃を纏う事で近接戦闘も可能になるのさ。自分で言うのもあれだけど、画期的な発想だと思うよ。」

「確かに・・・BT兵器自体が近接戦闘を仕掛けて来るなんて、初見じゃ分からないかも。」

「BT兵器は強力だ。しかしそれの制御に全神経を使ってしまい、自身の移動がままならなくなるという欠点を持ち合わせている。つまり、近づかれたら一気に窮地に陥ってしまうんだ。でもこのファングなら、敵が接近戦を仕掛けて来ても対応出来る。まさに理想的じゃないかな?」

「・・・でも、大剣とかで攻められたら・・・」

「・・・確かに、それではファングがパワー負けしてしまう・・・ファング同士を連結させ、巨大にするのもありか・・・?」

「いっそ、数を多くして圧倒するのは・・・あ、そっか。そうしたら脳への負担が凄い事に・・・」

「そういう事さ。よし、ではフルアーマーが完成した後、ファングを少し改造してみる事としよう。だがルビ、その前に実際にファングを使用してみるんだ。何事もまずは実践しなければ身に付かないよ。」

「分かった・・・準備、してるね。」

二人は一旦別れ、ルビはシミュレーションルームへ、リボンズは束の下へと歩を進めた。

 

 

 

 

「そっか。それにしてもルーちゃんがファングを使いたがるなんてね。ルーちゃんはどっちかと言えば自分の身でガンガン攻めて行く方が得意かな、って思ってたんだけど・・・まあ、使えないって事はまず無いよね!元々それなりに素質はあったみたいだし?」

「確かにそうだね。一応君の思考パターンを埋め込まれている訳だから、そんな事態はまず無い筈だ。むしろ常人より制御が容易に出来るかもしれないな。」

「ま、ルーちゃんなら大丈夫でしょ。多分、早い内に使いこなせるようになると思うよ。」

「フ・・・では、僕はこれで失礼するよ。」

「うん、頑張ってねー。」

リボンズはシミュレーションルームへと向かって歩き出した・・・が、ふと立ち止まった。束はそれを見て怪訝な表情をした。

「? リっくんどうしたの?」

「・・・束、一応僕は君に託す分のISも考えてはいるんだが・・・必要性はあるかい?僕としては一応君も持っていた方が良いと思うのだけど。」

「リっくん・・・ありがとね。でも、その必要は無いかな。この天才束さんはその気になれば生身でもISとやり合えるしね。」

「そうか・・・まあ、君がそう言うのであれば、僕は何も言わないよ。だが・・・」

彼は一息つき、再び声を発した。

「きっといつか、必要になる時が来ると僕は思う・・・もしISを受け取る気になったら、直ぐに知らせてくれると助かるよ。」

それだけ言い残すと、彼は今度こそ去っていった。残された束は、ふと呟いた。

「・・・この束さんがISを使う時なんて・・・それこそ超危機的状況じゃないかな?出来れば、そんな時は来て欲しくないね。」

 

 

 

 

 

 

「お兄様、束となに話してたの?」

「ああ、彼女にもISをプレゼントしようかと思ったんだが・・・断られてしまったよ。まあ、彼女は別に問題無いだろうが・・・」

「へえ・・・因みに、どんなISを送ろうとしてたの?」

「そうだね・・・詳しくは言えないけど、彼女に合った機体さ。さて、この話は一度置いておこう。まずはファングの演習だ。」

「うん。で、どうやって動かすの?」

「方法は至ってシンプルだ。ただ全神経をファングに集中させる。そうすれば案外動く物だよ?」

「・・・うん、お兄様がそれで出来たのは異常だと思う・・・」

でも事は試しと言う訳で、ルビも挑戦してみることにした。すると・・・

「あ・・・動いた?」

「・・・まさか本当に動かすとは思ってもみなかったよ。」

腰部に搭載されているファングの内三基が、空中にスッと浮かび上がった。少し雑な説明だったとは言え、これでファングを容易に動かしてしまったルビにリボンズはかなり驚いていた。

「ふむ・・・まあいいか。ではまず、少し動かしてみてくれるかな?」

「分かった・・・ファング。」

すると、ルビの周りに浮いていたファングは、少し直線的だが動き始めた。それを見たリボンズは感嘆の声を漏らす。

「ほう、見た所簡単な制御は出来る様だね。初めてにしては素晴らしい成果だ。」

「ふふふ・・・ありがと、お兄様。」

「それでは、今から標的に当てる訓練を開始しようか。確かこのスイッチを・・・」

リボンズがそこら辺にあったスイッチを押すと、「訓練開始~!せいぜい足掻いてくれたまえ!」と言う束の声と共に、無数の的が様々な場所から現れた。

「わぁ・・・凄いね、こんなのがあったんだ・・・」

「おや、ルビはまだ使用した事が無かったのかい?少々鼻に付くが、それなりに技術が身に付く効果的な訓練だよ。」

「鼻に付くって・・・どう言う意味?」

「やってみれば分かるさ。」

「???」

ルビは頭上に疑問符を浮かべながら、取り敢えずファングを射出した。

「行って・・・ファング。」

スローネから射出されたファングは、直線的ながらも的確に的へと向かった。

「ここまでは良い。しかし・・・」

ルビは疑問に思いながらも、取り敢えずファングからビームを発射した。すると・・・

 

「当たらなければどうと言う事は無い!!」

ギュン!とあり得ない速度で的が動き、そのビームを回避した。一々鬱陶しい束の声と共に。

「・・・え?何、これ?」

呆然とする彼女を見て、リボンズはしみじみとした感じで言った。

「そう、この的は回避するだけでは無く、一々口出しして来るのさ。全く、本当に忌々しい・・・」

只の的に憎しみの籠った目線を向けながら歯ぎしりするリボンズも大人げないかとは思うが、確かにこれは鬱陶しいとはルビも思った。

「でも・・・この訓練方法はあながち間違ってないかも。人って、負の感情を糧にしてもの凄い成長する事があるから。」

「確かにね。特に恨みや嫉妬などを抱えた者は何をするか検討がつかない。本当に恐ろしい物だよ。」

その言葉を聞いたルビの脳内には、何故か黒髪で紅い目を持った少年が移った。その少年は、何故かガンダムの様なロボットに搭乗していた。彼女は何故そんな光景が頭によぎったのか分からなかったが、取り敢えず気にしない事にした。

「はぁ・・・仕方ない。ルビ、もう一度やってくれるかい?」

「・・・分かった。」

という訳で、もう一度鬼畜的当てにチャレンジする事に。その時の一部始終をご覧頂こう。

 

「行け・・・ファング。」

ルビは最初四基のファングを射出し、適当な的に攻撃を開始した。ファングは時にビームを放ち、そして時にビーム・サーベルを纏って突撃するが、その全てを悉く的に回避されていた。そして、その度に口出しされたルビは、

 

 

とうとう、ブチ切れた。

「このッ・・・!!死ね、死んじゃえーーーーーッ!!!」

普段温厚なルビの表情は瞬時に変わり、まるで鬼神の様な雰囲気を醸し出していた。

「うああああああーーッ!!」

するとルビは、残りのファング四基を全て射出し、自らもGNバスターソードを取り出し、突撃した。

「ルビ!?落ち着くんだ!!幾ら素質があるとは言え、初めてファングを使用する君の脳には莫大な負担が・・・」

「墜としてやる・・・絶対、絶対に!!」

ここから、怒涛のイライラボイスラッシュとなる。

 

「なんとぉぉぉぉ!!」

 

「雑魚めぇ!」

 

「外れ、下手糞!」

 

「馬鹿め、何処を見ている!私は此処だ!!」

 

「大した腕も無いくせに!!」

 

「子供の遊びじゃないんだよ!」

 

「今の私は、阿修羅すら凌駕する存在だ!」

 

「へっ、怯えてやがるぜ、このIS!」

 

「やる気の無い弾など!」

 

「獅子奮迅!」

 

 

などなど、もうフィールド中から聞こえる始末である。だが、ルビとて黙って躱されている訳では無い。これまでも数個の的を粉砕している。その際の的の断末魔がこちらだ。

 

「暴力は、いけない・・・!!」

 

「強い子に会えて・・・」

 

「オ・ノーレェェェェ!!」

 

因みに、ルビはファングを八基から五基に減らし、今度はGNランチャーで的を薙ぎ払っていた。

「あっはははは・・・これで、終わりだァァァ!!」

ルビの様子を見ていたリボンズは、これは不味いと思ったのか1ガンダムを装着し、ルビにGNビームライフルを向け、引き金を引いた。発射されたビームはルビの目の前を通過した。

「お兄様・・・邪魔しないで、コイツ等潰せない・・・」

「ルビ、今は退くんだ。今の君の脳は、一度に演算出来る容量の限界に達しつつある。このまま続ければ卒倒は免れない。」

「でも、だって・・・」

渋るルビに、彼は仕方ないと思いながら再度、ビームライフルの引き金に指を添えた。

「警告はしたよ?」

「・・・ごめんなさい。」

兄の目が本気なのを悟ったルビは、素直にファングを腰に収納した。

「全く・・・君は感情が高ぶると周囲が見えなくなる性質があるようだ。戦場において冷静さを失う事は致命的だ。なるべくこの様な事は無いようにね。」

それを聞き、ルビは申し訳なさそうに下を向きながら答えた。

「・・・本当にごめんなさい。あんな数の的から罵倒されたから、つい・・・」

「気持ちは分からない事も無いけどね。でもあの時の君は、ファングの制御をほぼ完璧にこなしていた。癪に障るが、的としての役割はちゃんと果たしているようだ。兎に角、今の課題は激昂せずともファングの制御を完璧にする事だね。まあ、今日の所はこれで十分だ。部屋にでも戻ったら・・・ルビ?」

反応が無いルビを見てみると、なんと彼女は立ちながら睡眠していた。

「・・・知恵熱を出すよりはましか。」

そのままにする訳にもいかないので、彼はルビをおんぶする形で彼女の部屋に運んだ。

 

 

 

 

 

 

次の日

リボンズは起きて直ぐに束の下へ向かった。

「おはよう束。徹夜の作業ご苦労様だったね。取り敢えず朝食をクロエと僕が作ったから、一度作業を止めて貰えるかな?」

「おーリっくん!見て見て、今しがた完成したんだよ追加装甲!・・・でも、結局トランザムは無理だったよ・・・ごめんね。」

「謝るなど君らしく無いではないか。それにトランザムはきっと束でも無理だろうと思っていたし、そこまで問題視はしていないよ。まあ完成して何よりだ。良くやってくれたね、束。」

「えへへへ・・・いやぁ、それ程でもあるよ!!」

胸を反らしてふんぞり返る束に、リボンズは軽いチョップを喰らわした。

「だが、慢心はしないようにね?」

束は額を抑えながら言った。

「むー・・・少し位いーじゃん!」

「経験者の僕が言うんだ、信憑性は高いよ?」

「分かったよー・・・リっくんの意地悪・・・」

何とでも言うがいいさ、とリボンズは軽くいなし、二人は歩いていった。

 

 

 

 

~朝食後~

「と言う事でクロエ、君の機体が完成したので早速使用してみてくれ。」

「分かりました。んっ・・・」

クロエが強く念じると、数々の情報が彼女の頭に流れ込んで来た。

 

 

 

『武装確認・・・・・・・・完了。

 

各駆動部チェック・・・・・異常無し。

スラスター・・・・・・・・異常無し。

 

GNドライヴ・・・・・・・マッチングクリア。

 

GNフィールド・・・・・・100%。

 

生体認証・・・・・・・・・完了。パイロットをクロエ・クロニクルに設定。

 

初期セッティング終了。型式番号「GN-000FA」、フルアーマーガンダム、運用可能。』

 

「これが・・・私のガンダムですか・・・」

「第二世代型IS『0ガンダム』を強化改修した機体だけど、気に入ってくれたかな?」

「ええと、その・・・なんていうか、こんなにもイメージが変わるものなんですね・・・」

「確かに、元の0ガンダムを知る者が見たら目を疑うだろうね。色合いも変更したから、嘗ての0ガンダムの名残は表面上存在しないと言っても良いだろう。」

もっとも、装甲をパージしたら素の0ガンダムが出て来るけどね、と話すリボンズ。

「武装は・・・成程、確かにこれなら戦艦レベルと言えますね。そして、この重武装でも機動性が下がらないように追加のスラスターを搭載した訳ですか。」

「そういう事さ。では早速、的当てをしてみよう。」

「頼みますから、普通の的にして下さいよ?あの温厚なルビすら怒りを爆発させる物なんて、私は御免ですからね。」

「分かっているさ。」

リボンズが「イージーモード」と書かれたボタンを押すと、動く事もなければ喋る事もない的がフィールドの床から多数現れた。

「では、訓練開始といこうか。」

「了解です。対象を殲滅します。」

まずクロエは各スラスターの出力を上げ、軽く飛んでみた。すると、機体は元の0ガンダム以上の速度で飛翔した。続いて彼女は上空から、右腕に搭載された『2連装GNビームライフル』を乱射した。ビームは吸い寄せられる様に次々と的に当たっていく。そして次に右肩に搭載されている『360mmロケット砲』を地面に向け、一発発射した。巨大な弾頭が高速で地面に向かって行き、そして着弾した瞬間ドッ!と衝撃波が発生し、その周囲にあった的を吹き飛ばした。また、爆心地にあった的は跡形も無くなっていた。最後に肩部、膝部にある『GNミサイル・ベイ』のハッチを開き、そこから計10発の小型GNミサイルを射出した。ドドドドド!という轟音と共に、ミサイルはそれぞれの目標へと向かい、そして起爆した。フィールドの至る所で爆発が起こり、煙が晴れると的が全滅していた。

「これは・・・分かってはいましたが凄い性能ですね。」

「僕が立案し、束が造ったISだ。性能は保障するよ。」

「それでいながら、ベースは0ガンダムなのでそこまで操作が難しい訳ではないとは・・・やはり、素晴らしい機体ですね。」

トランザムがなければですが、と彼女は忘れずに付け足した。

「何もトランザムは日常的に発動する物では無い、そう心配することはないさ。」

「それなら良いんですが・・・あ、そう言えばリボンズ。今この機体を操作して、思った事が一つあるんですが・・・」

「何だい?改善点なら幾らでも言ってくれ。」

「このミサイル・ベイですが・・・弾幕を張るには少々火力不足と思います。ですのでミサイルポッドなどを追加装備するのが良いかと。」

「ふむ、それならば両足にミサイルポッドを追加してみる事にするよ。貴重な意見をありがとう。」

「構いませんよ。この様な高性能な機体を託して下さって、こちらこそありがとうございました。」

その後、簡単な模擬戦をして、フルアーマーガンダムの性能実験は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

それから年月がたち、「ある一つのニュース」が世界を驚愕させた。

 

                

 

 

                

 

 

 

                「世界初の男性操縦者発見」




因みに言い忘れていましたが、シュバルツェ・ハーゼ隊の隊長であるレーヴェのモデルは、艦これのグラーフさんです。ドイツ人だったらビスマルクかなーと思ったんですが、何か人物象と合わなかったんで・・・グラーフさんも可愛いしかっこいいから良いよね。
あと、このままでは話が全然進まないということで、この強行手段を取らせて頂きました。すみません・・・み、皆さんだって、早く我らのリボンズさんと原作ヒロイン+主人公がどんな交じり方をするのか見たいですよね!?ね!?


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15. 前日譚

もうこんな時期か、投稿しないと・・・→でも思い付かん・・・→明日でいいや!→えっ!?もう1カ月過ぎてんの!?やべぇ!!→よ・・・よし、終わったぞ・・・←今ここ


という感じなので、今回は少し読みにくいかもしれません・・・すいませんでしたァッ!!

あと、今回の話は正直名前つけるのどうすればいいか分からなかったので、かなり単純にさせて頂きました。






・・・ごめんね?|ω・`)


「あ、リヴァイブさん!おはようございまーす!」

「ああ、おはよう。今から授業かい?」

「よりにもよって一時限目から数学ですよ!なんか、居眠りしないか心配です・・・」

「勉学は必ずしも将来メリットになるとは言えないけど、やっていて損は無い筈だ。ちゃんとしないのは感心しないな。」

「そうですよねー・・・うしっ、やるか!ありがとうございましたリヴァイブさん!少しやる気が出た気がします!!」

「そうかい、それは良かったね。くれぐれも授業に遅れる事は無いようにする事だ。」

「はいっ!じゃあまた後で!」

リボンズ・アルマーク。この世界において「本当」の世界初の男性IS操縦者だ。それと同時に、人類で今の所初めて多次元を移動した人物でもある。そんな彼が、今何をしているかと言うと・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・学園の用務員と言うのも、中々面白い役職だね。やはり、多少無理を言ってでも頼み込んだ甲斐があったか。」

未来のIS操縦者を育てる「IS学園」。そこで彼は用務員の仕事をしていた。

 

 

 

 

何故彼はIS学園に居るのか。それを説明するには、少し時間を遡る必要がある。

 

~数カ月前~

テレビで写し出された「世界初の男性IS操縦者」というのは、何の因果か織斑 千冬の弟、織斑 一夏だった。

「これは・・・驚いた。まさか、あの少年がISを動かすとはね・・・」

「ほえ~、まさかいっくんがね~・・・流石はちーちゃんの弟ってトコかな?」

「・・・だが、これは喜ばしい事だ。もしかするとこれのお蔭で、女尊男卑の風潮が多少なりとも薄れるかも知れないからね。」

「そうだね・・・でもその代わりに、いっくんが狙われる確率が格段に上がったよ。」

「ふむ、それならばまた僕が護衛に行ってあげよう。」

「え、本当?それは嬉しいんだけど・・・どうやって?」

「大丈夫さ、僕に良い考えがある。」

そう言うと、彼は受話器を取り出し、何処かへ電話を掛けた。

 

 

 

~IS学園~

その頃、IS学園において「表向き」の学園長である轡木 七葉(くつわぎ ななは)の下に、一本の電話が入った。彼女は息を吐き、いつもの調子で通話に応じた。

「はい、こちらはIS学園です。どう言ったご用件でしょうか?」

『こんにちは、君がIS学園の長で間違い無いのかな?』

「ええ、私が学園長ですが・・・」

『ふむ、では君の夫・・・轡木 十蔵に代わってくれるかな?』

「・・・貴方は?」

『僕かい?僕はリヴァイブ・C・スタビティという者だ。少し彼に用があってね。』

このリヴァイブと名乗った男は何者か、何が目的かという考えが頭に残ってはいるが、取り敢えずは自分の夫に任せる事にした。

「どうしたんだ七葉?私への電話かい?」

「ああ、貴方・・・リヴァイブっていう男性からなんだけど、お知り合い?」

「リヴァイブ?少なくとも私の知人にはそんな名前の者はいないが・・・少し、代わってくれ。」

七葉から受話器を受け取った十蔵は、それを耳に当てた。

「こんにちは、私が轡木 十蔵だ。君は誰だい?」

『さっき君の妻に名乗ったばかりなのだが・・・僕はリヴァイブ・C・ステビティだ。君に少し訪ねたい事があるのさ。』

「ふむ、訪ねたい事か・・・内容によっては答えられない物もあるが、それでも構わないのなら大丈夫だ。」

『織斑 一夏の件について。先程のニュースは見ただろう?』

「・・・確か、世界初の男性IS操縦者だったか。あれには私も驚かされたよ。それで、彼が一体?」

『彼は男にしてISを使えるという極めて貴重な存在だ。そんな彼に世界は何も手出ししないと思うかい?』

「いいや・・・それはあり得ないな。今は急な事だからそんな暇はないかも知れないが、その内様々なアプローチを彼にする筈だ。最悪、誘拐されて実験体にされるかも知れない。」

『勿論それは僕としても遺憾だ。そこで、だ。彼をそちらの学園に入れてみるのはどうかな?そちらの学園に居る内は、どこの国、企業、はたまた組織にも属さないという決まりだろう?これならば、彼の身柄も保障されるのではないかな?』

「その意見は私も同意しているさ。私としては、彼を学園に入学させるのはいつでも問題ない。世界各国の首脳達には、私から話をすればいい。だが、それは彼と彼の姉・・・織斑 千冬の意見も尊重しなくてはならない。」

『そういう事かい・・・まあ、その件に関しては問題は無いだろう。彼女の事だ、きっと弟をそちらに入れると思うよ。』

「そういう物なのかな・・・?まあ、あちらから連絡が来たら、是非前向きに検討させて頂くよ。」

『そうか、それはありがたい。あと、出来ればもう一つ頼みを聞いてはくれないかな?』

「? まだあるのかい?」

『ああ。少し無理を言ってしまう様だけど・・・僕を、IS学園の用務員として雇ってはくれないかい?』

 

 

 

「・・・なんだって?」

『勿論、ちゃんとした目的はあるのだが。僕は用務員として働きながら、影で織斑 一夏の護衛を務めようと思っている。無論、学園全体の護衛もするつもりだけどね。』

「いや、その前に質問があるのだが・・・君は男だろう?確かに今回の彼については特別だが、男性でISを使えるのは今の所彼だけだ。それに、ISに対抗し得るのはISしかない。もし君が銃器等の扱いに慣れていたとしても、IS相手では話にならない。」

『ふむ・・・成程。では君にこの言葉を贈るよ。「そんな固定概念は捨てた方が良い」だ。』

「? それはどういう・・・」

『済まないが、時間が来てしまった様だ。よい知らせを期待しているよ。』

それだけ言い残し、通話は切れてしまった。十蔵はゆっくりと受話器を下した。

(リヴァイブ・C・スタビティ・・・彼は一体何者なんだろうか?それに、彼の言った固定概念とは・・・ISはISでしか対抗できない事か?それとも・・・いや、まさかそんな筈は・・・)

「貴方、一体要件は何だったの?」

深い思慮に沈んでいる彼を、妻の言葉が引き戻した。

「ん?ああ・・・かなり大胆な案件だったよ。それに、とても厄介な案件でもある。・・・これは、よく検討しなければ。」

そう呟き、彼は再び思考の波の底へ沈んでいった。

 

 

電話を終えたリボンズに、束が相変わらずのテンションで話掛けた。

「リっくんリっくん、一体誰とお話ししてたのかな?まさか・・・彼女さんとか!?そんなの許さないよ!リっくんは私たち束さん一家の共有財産なんだから!!」

「君の行き過ぎた想像力には感動すら覚えるよ。それに、僕に色恋沙汰などある訳がないだろう?」

「んー、まあそうだけどさー、リっくんを狙ってる泥棒さんは、束さん自ら粛☆清しなきゃならないからね!」

「はぁ・・・心配性にも程があるよ、束。」

(そうさ、僕にはそんな事をする資格は無い・・・多くの人間の「日常」と「人生」を奪った僕には、そんな誰かと愛を育むなどという行為は、許される物ではない。と言うより、今こうして生きている事すら、本来はいけない事なのだろうね。)

難しい表情をして悶々とネガティブなオーラを発し始めたリボンズを見て、束は珍しく心配そうな表情をした。

「あ・・・ごめんごめん、ちょっと調子乗り過ぎたかな?」

「・・・ああ、大丈夫さ。別に気にしてはいないよ。さて、話を元に戻すけど、誰と電話をしていたのかだったかな?」

「うん、そうだよそれそれ。さて、誰と電話をしていたのかな?さあ吐くのだリっくん!」

「別に大した事では無いさ。織斑 一夏の受け入れを少しIS学園の理事長にお願いしたまでだよ。あと、IS学園の用務員として僕を雇ってもらえる様にお願いしたかな。」

「なんと!!リっくんはそんな事をしようとしていたの!?やっぱりすげェよリっくんは!そこに痺れる憧れるゥ!」

「だが、織斑 一夏の件は問題ないとして、用務員の件は正直先が見えないな。彼の僕に対する疑問と好奇心を底上げする一言を用意したつもりだったけど、それを彼がどう取るか・・・」

「う~ん・・・まぁ、果報は寝て待てって言うし、取り敢えず連絡を待ってみたら?」

「そうだね。採用通知か、はたまた所謂『お祈りメール』か・・・」

「うん。最悪の場合、いっくんに危害が及びそうになった時に限ってIS学園に突撃すればいいからね。そこまで気にする必要もないよ。」

「そう言われればそうか。じゃあこうしていても仕方無いし、昼食を作るとしよう。クロエとルビを呼んで来てくれないかな?」

「はーいリっくん!すぐ戻るねー!」

 

 

 

 

 

リボンズの下に轡木 十蔵から連絡が来たのは、以外にも早く一週間後だった。

「リっくん、どうだった?」

「ひとまず学園に来てくれとの事だ。という訳で、行ってくるよ。」

「おっけい!気を付けてね!」

「了解したよ。では1ガンダム、出る。」

1ガンダムを纏ったリボンズは、そこら辺の窓を突き破り天高く飛翔した。

「ちょっとリっくん!壊すんなら壁にしてよ!ガラスの片付けめんどくさいんだから!」

束のどこか間違った叫びが、リボンズを見送った。

 

 

 

 

その頃、轡木は自分のPCと格闘していた。一週間前、リヴァイブと名乗る男がコンタクトを取って来た時から今までずっと彼についての情報を探していたのだ。時に世界政府に頼みこんで、彼等の大きな情報網を借りてまで探した事もあった。しかし、そこまでしても彼に関する情報は一つも見つからなかった。ただ・・・戦場に突如と現れる「天使」と呼ばれている機体の情報は、わずかながら存在した。何でも、今のISには珍しい全身装甲(フルスキン)で、それでも第三世代型ISにも匹敵する強さを持つという。轡木は、このISがその彼と関係があるのではないか、と推測した。理由などないが、強いて言えば今まで培ってきた「勘」が働いたと言うべきか。とにかく、一度彼ともう少し詳しく話をしないと何も始まらない。という事で、彼は異例ながら男性をこのIS学園に招き入れる事としたのだ。勿論、万が一の事態に対して警備の者も付けてはいるが。

(きちんと確かめなければいけないな・・・彼が言っていた事の意味と、その真意を。)

そうこう考えていると、七葉が彼の下へやって来て、一言だけ呟いた。

「どうやら、来たみたいよ。」

「場所は何処だい?」

「勿論、正門の所よ。今警備の方が対応しているわ。」

「そうか。では、私自らお出迎えをする事としよう。七葉はお茶を入れておいてくれ。あくまでも客人なんだ、それ相応のもてなしはしなくては。」

「ええ、じゃあ気を付けて。」

轡木はコクリと頷き、理事長室を後にした。

 

 

またその頃、リボンズはと言うと・・・

 

 

「おや、理事長から聞いていないのかい?僕は一応招かれた身なんだけどな。」

「いえ、客人が来るとは聞いていましたが・・・まさか、男性だとは思いませんでした。」

絶賛、警備の女性と会話中だった。

「ふむ・・・君も、世界を取り巻く女尊男卑の風潮に毒された身かい?」

「まさか、そんな事はありませんよ。大体、ISを上手く使えるのも一部の女性のみなんですから。上手く使える方が男性を蔑むのならまぁ千、いや一万歩譲って良しとしますが、何も出来ない一般の女性達が男性を卑下するのはそれこそ傲慢です。」

「ほう、君の様な考えを持つ女性がいるとはね。感動すら覚えるよ。」

「そんな大げさな・・・それに、少なくともこの学校にいる教師の方々や関係者達は、そう言った思想を持っている人は居ませんよ。何しろ生徒にその思想を植えつけられたらたまりませんからね。」

「成程、流石にここで教師をするにはその最低条件が必要なんだね。」

「ええ、そうです。あとは、人に教えられる程の学力があれば多分採用ですね。」

その言葉を聞いたリボンズは、若干呆れた表情をした。

「・・・少しゆるすぎやしないかい?」

女性はアハハ・・・と苦笑して頷いた。

「まあ、うちはあくまでISの専門学校ですので・・・専門知識以外は、正直普通の学校と一緒ですね・・・」

そんな感じで談笑をしている彼等の下へ、リボンズの目的だった人物が現れた。

 

「君は・・・どうしてここについて早々警備員と仲良く話しているんだい?」

「何、君が来るのが少し遅かったので談笑していたまでさ・・・それで、君が轡木 十蔵でいいのかな?」

「ああ、私がこのIS学園の理事長を務めている轡木 十蔵だ。そう言う君もリヴァイブ・C・スタビティで?」

「そうとも。さて、先日の答えを返してくれるのかな?」

「いや、その前に確認したい事がある。君が言っていた『固定概念』。その意味はなんだ?今の所候補は一つに絞られているのだが、それが本当なのか確かめたくてね。」

「ああ、その事かい。それならば、君も薄々感づいているのだろう?『男性のIS操縦者は一人では無い』と言う事さ。なんなら、今証明してあげようか?」

「ああ、頼むよ。一応聞くが、この警備員の方はどうする?」

「まあ、一人位に知られても良いだろう。それに、理解者は多い方が良い。」

「そうか、じゃあ今度こそ頼むよ。」

その時、唯一話に付いていけない警備員の女性は・・・

「え?ちょ、ちょっと待って下さい。警備員って私の事ですよね?私が聞いちゃったらヤバい話ですか?な、なんなら退席・・・い、良いんですか?そ、それに理解者ってどういう意味で・・・?」

明らかに困惑しまくっている。しかし、彼等の耳にその言葉は届かなかった。

「では、少々早いが始めようか。」

そして、リヴァイブはただ一言言い放った。

「1ガンダム。」

その瞬間彼の身を青色の光が包み、そして光が晴れると、そこに一機のISが佇んでいた。色は青と白の二色で、頭部には特徴的なV字アンテナ、そして背部には緑色の粒子を排出するコーン型のスラスターが搭載されていた。

『これで分かったかな?僕の発言の意味が。』

そのISから発せられる声は、間違いなく今まで目の前に居た彼の声だ。

「やはり・・・そうだったか。いや本当、世界とは狭い物だ。」

『さて、証拠は見せた。では、判決を下してくれ。滅び(不採用)か、それとも再生(採用)か。』

轡木の下した判断など、言うまでもない。




という訳で、以上です!ちなみに、リボンズは「お祈りメール」という単語をクラリッサから聞いています。ほら、彼女日本のネタかなり知ってそうだし・・・それくらい知っているかと・・・べ、べつにこの単語を使いたかったってわけじゃ、ないんですからね!?

あと、リボンズの偽名であるリヴァイブ・C・スタビティですが・・・

リヴァイブ→リヴァイブ・リバイバル
C→ヒリング・ケア
スタビティ→ブリング・スタビティ

この三人のキャラから取りました。


誰か、分かるよね・・・?


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16. IS学園 ~阿鼻叫喚~

・・・ええ、皆さまの言いたい事は分かってますよ。よく分かっています。言い訳と言えるか分からないけど一応理由はあるのですが、でも遅れてしまったのは事実ですから。ようするに・・・






        投稿、2カ月くらい遅れて申し訳ありませんでしたッ・・・・


そしてめでたく採用されたリボンズは、轡木の私室に案内された。両者が向かい合って座る中、轡木が口を開いた。

「・・・さて、では君が何故ISを使えるのか、説明してもらえるかな?」

「それについては、僕もそこまで分かってはいないんだ。今の所、僕が『篠ノ之 束の思考パターンから生み出されたから』だと解釈しているよ。」

「つまり、デザインベビーとほとんど一緒か・・・そう言えば最近、世界政府が目を付けていた非合法な研究を行っていた研究所が、突如壊滅したという情報を耳にしたが・・・もしや君はそこで?」

「さあね、そこは君の想像に任せるよ。まあ、あくまで憶測だからそこまで気にしなくとも良い。」

「分かった。それはそうと、君の扱いはどうしようか?まさか今この状況で二人目の存在を明かす訳にもいくまい。」

「確か、君は表向きは用務員なのだろう?ならば僕も用務員と言う肩書でいかせて貰うよ。」

「そうかい?ではそれでいこう。一部の勘の良い者達は何か探りを入れて来るだろうけど、そこも含めて私が対処するよ。君は何も心配せずに、君の仕事をすれば良いさ。」

「ほう、それはありがたい。おかげで僕自身が情報の操作をする手間が省けた、感謝するよ。」

「ああ、この位はどうと言う事ないさ。君は今日からこの学園の一員なんだ。それ位の事はさせて欲しい。」

「すまないね。君のご期待には答えよう。必ず彼とこの学校を守護してみせるさ。」

二人は立ち上がり、共に握手を交わした。

 

 

 

 

・・・と、こんな感じで晴れて用務員となった彼だが、如何せん彼にはそう言った職務をした事はない。と言う事で、彼は轡木にどの様な事をするのか教わった。かと言って彼一人に全てを任せる訳にはいかないので、夏休みまでの間はひとまず花壇の整備や夜間の見回りを命じられた。彼はその仕事内容に、内心歓喜していた。というのも、彼は最近クロエから花について教わっており、それぞれの花に多数の意味が込められている事に大変興味を抱いていたのだ。それに夜間の見回りについても、彼はそこまで不安を見出していなかった。仮に不埒な輩が襲ってきたとしても1ガンダムで撃退すればいいからだ。その後自分の部屋を急遽用意してもらって、泊まり込みで学園の校則やら花壇の整備やらを学んでいたらあっという間に入学式の日になり、壇上に上がると女子生徒達に絶叫された。

 

そして、今は入学式の数日後。彼は今丁度1-1組前の廊下付近の掃除をしていた。これは彼本来の仕事ではないが、ずっと花壇に居るよりかは生徒達との距離も縮まるかと思ったからだ。事実、彼の人気はこの数日で急上昇しており、噂によるとファンクラブ設立の動きもあるとか。

まあ、彼は陰で「リヴァイブさんって独特な雰囲気持ってるよねー。なんか大人の魅力みたいな?ミステリアスな感じ!」と所々的を射ている評価を受けているのだが。さて話を戻すが、彼が教室の目の前を掃除していた時、

 

 

「決闘ですわ!!!」

 

と叫ぶ少女の声が廊下まで聞こえてきた。

「おや、この声はセシリア・オルコットだったかな?確か、女尊男卑の風潮に見事に染まってしまっていた生徒だったね。まあ、代表候補生らしいし実力はあると思うが。」

(それでも、BT兵器の使用と他の動作を同時に行う事が出来ない内は、まだ半人前と言った所か。)

本来そんな芸当を簡単に出来る訳がないのだが。だが確かに彼が元居た時代では、ビット兵器を操作しながら自衛を行っていたり、狙撃を行ったりしている者が多い。なら彼からすれば、BT兵器と他の動作を両立する事は普通のことなのかもしれない。

「まあ、それでも彼女が勝つだろうね。初見でBT兵器の猛攻を見切れる者はそうそう居ない筈だ。」

ふと、リボンズが教室の窓から中を覗くと、なにやら一人の少年が、そのセシリアと思しき少女と言い争いをしているのが見えた。

「あれは・・・!織斑 一夏か。まさか、入学早々代表候補生と口論とは・・・ある意味尊敬するよ。しかし、あの勇ましさと言い、あの目と言い・・・やはり、姉弟と言う訳か。」

やはり遺伝子の力と言うべきか、彼の目元は千冬そっくりだった。その目にリボンズは、かつての刹那・F・セイエイの様な物を感じていた。

「フフ・・・面白い事になりそうだ。」

リボンズはそう言い残し、その場を後にした。

 

 

そして休憩時間の時、事件は起きた。

彼が廊下を歩いていると、後ろからある少女に声を掛けられた。

「ご機嫌よう、リヴァイブさん。少しお話ししたい事があるのだけど、よろしいかしら?」

「・・・君は」

リボンズが振り向くと、そこには扇子を持った水色の髪の生徒が佇んでいた。

 

 

更識 楯無。IS学園の生徒会長にて、最強の女が彼の前に現れた。

 

 

 

 

「貴方、会長さんがリヴァイブさんに接触したらしいんだけど、どうなってるの?」

「うーん・・・一応説明はしておいたんだけどな・・・やはり、あれだけの説明では足りなかったかな?」

「そりゃそうよ、いきなり『新しい用務員の方を採用する様になったから宜しく。男性だが、何故採用したかについては一切聞かないで欲しい。』なんて言われて、疑わない人はいないわ・・・」

七葉は、少し抜けている自分の夫に溜息を吐いた。

 

 

 

所変わって生徒会室。そこにリボンズと楯無は対峙していた。そこには他にも会計の布仏 虚や、その妹の本音が居た。一見両手に花の状態なのだが、その場は緊迫感に包まれていた。

「さて、一体何の用だい?ただの用務員でしかない者をわざわざ生徒会に呼び出すなんて聞いた事が無いね。」

「とぼけないで頂戴。貴方の目的は何なの?言っておくけど、仮に貴方がこの学園に、そして生徒に危害を加えようなどとすれば、私が直々に潰すわよ。」

「・・・ふむ、流石は生徒会だ。大半の生徒は僕に警戒心など抱いていなかったが、君達はしっかりと僕の事を今日まで裏で探っていたらしいね?そうだろう、更識 刀奈(・・)?」

その名前を出された楯無・・・いや、刀奈は明らかに動揺していた。

「何でその名前を・・・!」

「フフ、僕の情報収集能力を舐めて貰っては困る。それより勘違いしている様なら言っておこう、僕は別にこの学園に危害を加える意思は無い。むしろ護衛する役目にある・・・いや、どちらかと言えば『織斑 一夏』のかな?」

「・・・残念だけど、その役は私達だけで間に合ってるわ。全ての生徒の安全を守る、それが私達生徒会の役目。貴方の助けなんて要らない。」

「いいや、それは違うね。今の君達ではこの学園の全てを守るにはまだ足りないのさ。今のままではいずれ来る脅威に対抗する事は出来ないよ。」

「それは・・・つまり、私達が力不足だと言いたいのかしら?」

彼女は自他共に認めるIS学園「最強」。その称号を受け入れつつも慢心はせず、日々実力を高めていった。また、自分と同じ生徒会の仲間も、それぞれの活躍をしている。・・・まあ、布仏 本音は別かもしれないが。だが、それを曲りなりにも何処の馬の骨とも分からないような男に「力不足」などと言われる筋合いは無い。

「・・・本気で言ってるの?何なら、今ここで私達の実力をみせてもいいのよ?」

それを聞いたリボンズは、肩を竦めながら心底呆れた様な顔をした。

「君はISを使えない男、しかも一般市民に手を出すのかい?そんな事をしたらかなり問題になるんじゃないかな?それに・・・」

その瞬間、ぞくりとした感覚が彼女たちを襲った。それはその男から発せられた圧倒的なプレッシャー。そう、まるで自分の実力など「ちっぽけな物」に思えてしまう程の物だった。

(な、何・・・?この男は一体何なの・・・?私がここまで悪寒を感じるなんて・・・)

「君の様な『小娘』に、この僕が倒せるとでも?・・・僕を甘く見るなよ。君は目の前の男と自分の力量差すら理解出来ないのかい?」

刀奈は一瞬、彼女らしくない事を考えてしまった。

(この男には・・・勝てない・・・!?)

動かなくなった刀奈を前にリボンズは溜息を吐き、生徒会室の扉を開けた。

「・・・っ、何処へ行くつもりですか?」

先に我に返った虚が、彼を引き留めようとする。

「僕も暇ではないのでね。今から花壇の整備をしなければいけないのだよ。呼び出した更識 刀奈は放心しているようだし、僕がここに居る意味が無いだろう?まだ用があるのであれば、手数をかけるが僕の部屋まで来てくれないかい?織斑先生の部屋の横だから、すぐ分かると思うよ。」

それでは、と軽く手を振りながら部屋を出るリボンズを、彼女等は黙って見送る事しか出来なかった。

「・・・会長。あの男性は異様です。そしてきっと・・・私達より強い。どうするおつもりで?」

「・・・そうね。私だって、自分より強い相手に無闇に攻撃する事はしないわ。彼もこの学園を襲う気は無いって言ってたし。」

ま、あまり信用出来ないけどね。と何時もの微笑を浮かべる刀奈を見て、虚は安堵した。

「でも、これから長らく監視しなきゃいけないわね・・・うーん・・・」

しばらく考えていた刀奈は、不意に何かを思いついたかの様な表情を浮かべた。

「ふふ、今こそ生徒会長権限の使い時ね。虚に本音、ちょっと手伝ってほしい事があるのだけど・・・」

「はい、何でも仰ってください。」

「私の部屋にある荷物、あれを一緒に運んでくれない?」

その言葉を聞いたとたん、虚の表情が一気に引きつった。

「ええと・・・何をするつもりで?」

「そんなの、今までの話の流れで分かるでしょ?」

生徒会長とは言えどそれは駄目だろう、と本気で感じた虚であった。

 

 

 

 

 

その後花壇の整備を終え、食堂へ向かっていたリボンズだったが、またしても後ろから呼び止められた。

「待て。貴様、リボンズ・アルマークだな?」

「その声・・・千冬かい?随分と久しぶりじゃないか。」

リボンズが振り向くと、予想通り千冬がそこに居た。千冬は普段の彼女とは思えない様な穏やかな笑みを浮かべていた。

「ああ、久しぶりだな。尤も、こんな所で再会するとは思ってもみなかったが・・・いや本当、貴様はいつも私の予想の遥か上を行ってくれる。」

「褒め言葉と受け取っておこう。ああ、それと先に言っておくけど、僕は君の弟とこの学園を守る為に来たんだ。別に害を与える気はないよ。」

「そんな事はとうに分かっている。貴様はその様な事をする下賤の者じゃあるまい。」

「フ、信頼してくれている様で嬉しいよ。」

「まあ、これからも同じ学園で仕事をする仲になるのだ。宜しく頼む。」

「こちらこそ、宜しく頼むよ。」

「ふむ・・・それはそうと今夜、私の部屋に来てくれないか?良いワインがあるのでな、出来れば共に飲もう。」

「ほう、ワインか。これでもワインには少しうるさくてね。とても楽しみだよ。」

「それは良い趣味をしている。ではまた後でな。」

「ああ。君も教務員の業務、頑張ってくれたまえ。」

お互いにな、と千冬は言い残し、彼女は先に食堂へ向かった。

「・・・さて、では僕も昼食を摂るとしよう。まあ、多少覚悟を決めるべきだと思うが・・・」

そう、彼はただでさえ学園内で人気の人物なのだ。そんな彼が、生徒の大半が集まる時間帯に食堂へ向かえばどうなるか・・・

「いつの間にかすぐ近くまで来てしまった・・・よし」

彼は意を決して、食堂に足を踏み入れた。と次の瞬間。

 

 

「「「「「「きゃあああああああ!!!!」」」」」

案の定、黄色い悲鳴が彼を出迎えた。

「ハァ・・・君達、食堂ではもう少し静かにしてくれないかな?」

「ああっ、リヴァイブさんもっと注意して下さい!!」

「私達が理解するまで教え込んで!!」

「出来ればからd・・・ゲフンゲフン」

最後にまずい発言があった気がするが、そこはスルーしてもらいたい。

「やはり、この空気にはまだ慣れないな・・・とにかく、食堂の隅の方で座ろう。」

彼は何も注目を浴びたい訳ではない。よって出来るだけ注目されないように端っこでひっそりと食べる事にした。

「おっと、その前に料理を受け取らないと・・・ここは無難にカレーにするか。」

彼がトレーを手に取って列に並ぶと、そこには意外な人物が居た。

 

「あ、リヴァイブさんじゃないですか!」

「君は・・・この前の警備員ではないか。」

「はい、笠谷 衣恵(かさたに きぬえ)といいます。たまにここでも仕事してるんですよ。それで、何をご所望ですか?」

「ああ、カレーを一つ頼むよ。」

「はーい。・・・お待たせしました、こちらがカレーです。ここのカレー、とっても美味しいんですよ!」

「ほう、ドイツ軍のカレーも中々の絶品だったけど、あれに匹敵するカレーがあるのかい?」

「ああ・・・あのカレーも美味しいですよねぇ~・・・じゃなくて、あそこのカレーと同等の美味さを保障します!」

「おや、君もドイツ軍に行った事があるのかい?」

「ええ。私、これでも昔は代表候補生の端くれだったんですよ。まあ、腕はそこまででもなかったのですが・・・」

照れくさそうに笑う衣恵に、リボンズは好印象を持った。この女性とは中々気が合いそうだ、とも思い始めている。

「まあとにかく、このカレーは頂くよ。そうだ、今夜千冬の部屋でワインを嗜む事になってるのだけど、良ければ君も来てくれ。」

「えっ!?良いんですか?ありがとうございます!!ふふ、ワインかぁ~、楽しみだなぁ~。」

「ああ。中々良いワインらしいのでね。期待してくれ。」

「分っかりました!!じゃあまた今夜!」

その後彼はカレーを堪能して、再び仕事に戻った。余談だが、そのカレーもまた絶品だったらしい。

 

 

 

そして、その夜。その三人は千冬の部屋に集まっていた。

「よく来てくれたな。リボンズ、そして衣恵。では早速だが酒盛りをしよう。さあ、お待ちかねのワインだ。」

千冬が机の上に置いたワインの銘柄は・・・

「「ろ、ロマネ・コンティ・・・!?」」

「なんだ、飲むのは初めてか?」

千冬は慣れた手先で栓を抜いて、中身をワイングラスに注いだ。

「は、初めてって・・・これって極めて稀少性が高く、世界で最も高値で取引されるワインですよ!?確かに千冬さんなら普通に変えるかもしれませんけど、私じゃ到底買うのも難しい奴ですよぉ!?」

「流石は千冬、と言った所かな?」

「まあ、昔はそこまで飲む機会が無かったのでな・・・今くらいは飲ませてもらおう。」

千冬はそう言いながら、一口で注がれたワインを飲み干した。

「「もっと味わって飲んだらどうだい(どうですか)?」」

「気にするな、私はこの飲み方が好きなんだ。」

この後、酔った千冬と衣恵が脱ぎだそうとする事態が発生したが、それはリボンズが少々荒々しい行動で止めさせたので問題は無い。

 

 

 

 

 

次の日の朝。彼は自室で休息を取っていたが、横で何者かの気配がしたので、注意深く目を開けた。すると、そこには・・・

 

 

「う~ん、何?もう朝ぁ・・・?」

「・・・君はここで何をしているんだい?」

空いていたもう一つのベッドで眠る、刀奈の姿があった。

 

 

 

 

おまけ

 

 

その1・入学式

「貴方達はISと言う『兵器』を扱うという事をくれぐれも忘れないようにして下さい。では次に、新しい用務員の方を紹介します。リヴァイブさん、どうぞ。」

ドンナヒトダロウネー?

カワイイヒトジャナイ?

「初めまして、リヴァイブ・C・スタビティと申します。皆さん、廊下でもし出会ったらぜひお声掛け下さい。」

 

 

 

 

「「「「「・・・きゃああああああああああああ!!!!!」」」」」

「男性よ男性!!しかも超イケメン!!」

「あれはクール系?ええ、そうとしか考えられないわ!!」

「ああっ、天国のおばあちゃんに良い冥途土産が出来たわ!私この場で死んでもいいかも!!」

 

 

(くっ、脳量子波が乱れる・・・!?この少女達、中々侮れない・・・!)

 

 

 

その2・刀奈がリボンズの部屋にアポ無し突撃した時

シュバルツェ・ハーゼ隊本部

 

「・・・はっ!?何か今壮大に出し抜かれた気がッ・・・!?」

「なんだ、恋する乙女の勘と言う奴か?全く、羨ましいものだ。」

「隊長!?い、いえそういうのでは無く・・・!」

「ハハハ、冗談だ。」

「そ、そうですか。からかうのもほどほどに・・・」

「しかし、お前が色恋沙汰に目覚めるとなると・・・フフッ」

「なッ!?だ、だから違うと・・・ああああ!!!」




はい、久しぶりの投稿なんで駄文でしたね。大変申し訳ありません。

因みに前回から出て来た警備員、笠谷 衣恵さんですが、容姿は名前からも想像できるように艦これの衣笠さんです。それを穏やかにした感じ。まさかの艦これキャラ二人目ですよ、早くも。搭乗ISは・・・あれしかないですよね?そろそろタグに「艦これキャラ(容姿のみ)」付けよう。うん、そうしよう。
さて、次回は一夏とリボンズを会わせてみようかと。次回はもっと早く投稿するようにします。頑張るのです。


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17. 織斑 一夏 〜Romance Flag Breaker〜

・・・すみません、ここはいつもの様に遅れたお詫びをと行きたい所なんですが・・・




・・・何が起きたんです!?



たった1話投稿しただけで一気にお気に入り百人位増えたんですけど・・・皆さん、何処にそこまで皆さんの興味を引く様な要素があったんですか?まあ、理由は人それぞれだと思うので敢えて聞きませんが・・・とにかく、お気に入り登録ありがとう御座いました!おおお・・・この溢れる登録者数は!作者感激ぃ!

・・・すいません、調子こきました・・・では気を取り直して、最新話どうぞ。あと、今回訳あってスマホから投稿しているので、文章がおかしいかもしれません。ご了承下さい。


「う~ん、何?もう朝ぁ・・・?」

 

 

「・・・君はここで何をしているんだい?」

リボンズは困惑していた。何故この少女がここにいるのだろうか、と。

「あら・・・おはようございます。」

「・・・ああ、おはよう。それより何故君はここに?」

「私では貴方に敵わないんでしょう?でも私は生徒会長として、貴方を野放しにする訳にはいかないの。だから・・・」

「私生活から監視する、と言う事かい・・・」

だからと言ってこれは如何な物か。監視される事は彼自身別に構わないのだが、その方法に問題が少なからず・・・いや、かなりあるだろう。

「・・・君の思惑は理解したよ。確かに、僕は君達からしたらまだ疑わしい存在だろう。『疑わしきは疑え』、それは基本の事だからね。しかし、やり方を考えたらどうだい?考えてみたまえ、曲がりなりにも生徒会長の君が男性と相部屋など、風紀もへったくれも無い。」

「別にいいじゃない。こんな美少女がいつも貴方を監視するのよ?逆に得だと思うのだけど。」

彼女が扇子を広げると、そこには「眼福」と書かれていた。

「そういう事では無く・・・ハァ、もう良い。元々此方は雇って貰っている側なのだからね。君が僕の目的の邪魔さえしなければ、別に構わないよ。」

「賢明な判断痛み入るわ。それはそうと、朝だしちょっとお腹が空いたわね・・・」チラ

「・・・」

「あー、けどお財布生徒会室に置いてきちゃったなー。でも今取りに行ってからご飯食べてたら時間無いしなー。ああ、本当どうすればいいのかしらー。」(棒)

彼等は暫く互いに見つめ合っていたが、先に折れたのはリボンズだった。

「・・・今回だけだよ?」

「さーんきゅっ♪」

という訳で、二人は着替えて食堂に向かった。

 

 

 

食堂に付いた二人を出迎えたのは、案の定黄色い悲鳴だった。しかし一部、刀奈へのブーイングもあったが。

「結局こうなるか・・・勘弁して欲しい物だ。」

「ふぅん。やっぱり織斑君と同様、生徒の皆からの人気は凄まじいみたいね。」

いや、それ以上かしら?と隣でくすくす笑う彼女を軽くいなし、リボンズはどうしたものかと考えていたが、それは杞憂に終わった。

「貴様等、悲鳴を上げる暇があればさっさと食事を済ませろ。1秒、いや1コンマでも授業に遅れたら『コレ』だぞ?」

千冬が手に持った出席簿を素振りすると、食堂は一瞬で静まりかえり、カチャカチャと食器がぶつかり合う音だけが残った。

「助かったよ千冬。正直この状況にはいい加減うんざりしていた所だ。」

「何、この位どうと言う事は無い。少なくとも私のクラスではこの様な事は日常茶飯事だ。」

全く、あの馬鹿共が・・・と言ってはいる物の、その表情に拒絶の色は無かった。

「おっと、それは良いとして・・・更識姉、貴様は何故リボ・・・いや、リヴァイブと共にいる?」

「ああ、彼女は僕の監視役さ。僕が不埒な行動に移らないようにね。」

「そう言う事ですので、ご心配無く♪」

「別に心配などしていない。それにその行動に意味があるとは甚だ思えんが・・・まあ好きにすれば良い。私もこれ以上は言及しないさ。」

「恩に着るよ。僕もそこまで深入りして欲しくはない。これ以上僕に不利となる出来事が増えるのは御免だ。」

それだけ言い残し、リボンズは食堂の奥の方へと消えていった。それに続く様に刀奈も、千冬に軽く会釈をした後去って行った。

「さて、どうなる事か・・・おっと、もうこんな時間か。リボンズは良いとして、更識姉は大丈夫か?」

まあ考えても仕方無いか、と割り切った彼女は、生徒達を急かすため再び声を張り上げた。

 

 

 

 

「うーん、美味しい!やっぱりここのご飯は最高よね!!」

「確かにね。どうやらここの厨房には多くの手練れがいるらしい。」

「私がまだ一生徒だった時から、ここの料理はとっても美味しかったの。あ、それ貰うわね。」ヒョイパク

「・・・それは僕の焼き鮭なのだが?」

「まあまあ、半分位貴方が食べてたし良いじゃない。お返しに私の卵焼き、食べる?」

「まぁ、対価としては妥当かな。ありがたく頂戴するよ。」

後になってこの行為が間接キスだと気付いた刀奈は、少し顔を赤らめた。

 

 

 

 

 

そしてその日の夕方、リボンズは早めに校内の見回りをしていた。道行く生徒達と軽い会話を交わしながらも、脳量子波を飛ばして不届き者がいないか確認していた。その様な人物には明確な「悪意」がある。彼はそれを脳量子波で感じ取るのだ。もっとも、それをはっきりと感じ取れるようになったのは此方の世界に来てからだが。

「不思議な物だ・・・この世界に転移した頃から、どうも第六感とやらが敏感になっている気がするな。もしや、イノベイターとは違う別の力の概念でも此方には存在するのか・・・?いや、やはりそれは無いだろう。我ながら下らない事を考え付いたものだ。」

考えを放棄した彼が更に歩みを進めると、剣道部の部室の前にたどり着いた。

「剣道・・・確か日本の武道の一つだったね。せっかくだし、少し覗いてみるか。どの様な活動をしているのか見てみるとしよう。」

彼が部室のドアを開けると、そこでは二人の生徒が互いの竹刀をぶつけ合っていた。彼が暫しそれを見つめていると、やがて二人はそれをやめ、面を取った。何やら言い争っている様だったが、活動の邪魔をしないよう遠くで見ていたので、内容までは聞こえなかった。しかし、両者の顔はかろうじて確認出来た。

「織斑 一夏と・・・ああ、束の妹君の篠ノ之 箒か。確か、彼等が四人で写っている写真を見せてもらった記憶がある。」

その写真とは、まだ彼らが幼い時に撮られた写真で、おそらく束がまだISを発表していない時に撮ったであろう物だ。それを見せながら話をする束は楽しそうであったが、何処か悲しげだった。

「だが篠ノ之 箒は別として、彼はこんな事をしていて大丈夫なのかい?一週間後には、クラス代表を決める決闘とやらがあると言うのに。」

そう、彼はあろう事かイギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットに喧嘩を売り、怒った彼女と口喧嘩をしていたらなんだかんだでクラス代表の座をかけて戦う事になってしまったのだ。普通ならISの練習なりなんなりして対策を立てると思うが、何で剣道などやっているのだろうか。彼等の真意を確かめる為、リボンズは彼等にアプローチする事にした。

 

 

 

 

 

箒は憤りを感じていた。久しぶりに一夏と対局をしてみたものの、一夏の腕が著しく落ちていたのだ。箒がその事について言及しようとすると、部室の静寂を打ち消す様に、手を打ち鳴らす音が部屋中に響いた。

「君達の対局、拝見させてもらったよ。中々素晴らしい物だね、剣道と言うのも。あの男が嗜んでいただけの事はある。」

「お前は・・・確か、新しい用務員だったか。何の用だ?」

「おい箒、幾ら何でもそんな言い方は無いだろ。すみません、箒が失礼な口聞いちゃって。えーと・・・リヴァイブさんでしたっけ?」

「ああ、リヴァイブ・C・スタビティだ。初めまして、と言うべきかな?織斑 一夏、それに篠ノ之 箒。あと、口調を崩してもらっても構わないよ。」

「そうですか。じゃあこれから宜しくな、リヴァイブさん!」

「こちらこそだ。同じ男同士、良い関係を築いていこう。」

二人が握手を交わす中、箒は未だリボンズに疑惑の視線を向けていたが、やがて警戒を解き、微笑を浮かべた。

「リヴァイブさん、先程は失礼した。少々気が立っていたのでな、ついあんな口調になってしまった。」

「なに、こちらも許可を得ずに君達の対局を見ていたからね。僕にも多少なりとも非があった。」

「その位ならば、何時でも見せてやるさ。い、一夏と私で・・・な。」

先程とは一転、自身の頬を紅く染める箒に、リボンズは全てを察した。しかし、当の一夏はそんな彼女の想いに全く気付いていない様なので、リボンズは箒に同情の視線を向けた。

(・・・篠ノ之 箒。君の恋路、応援するよ。)

結局何故剣道をしているのかは聞けなかったが、彼は2人にISの練習もちゃんとするよう念を押した後、剣道部を後にした。

 

 

 

 

 

 

「えーと・・・つまり、その篠ノ之 箒ちゃんが、織斑 一夏君の事が多分好きだけど、肝心の一夏君が鈍感過ぎて箒ちゃんの気持ちに全然気付いてない、って事ですよね?」

「その通りだ。 その事について何かアドバイスをくれないかい?」

夜。彼は偶然、食堂で夕食を摂っていた衣恵と出会った。最初は何人かの生徒と会話をしていたが、暫くすると再び一人で食事を再開していた為、彼は衣恵の正面に座る事としたのだ。そして今、彼は先程出会った二人の事について彼女に相談をしていた。

「でも、私からも質問良いですか?・・・何で、私に相談しようと思ったんです?」

「僕は恋愛経験など無いから、こう言った事例については全く分からないんだ。だから、女性の意見も聞きたくてね。そこに運良く、君がいた訳だ。」

「そういう事ですか・・・いや、別に良いんですけど。でも、私も恋愛とか一切無かったんですけど、それでも良いんですか?」

「ああ、別に構わないさ。あくまで女性としての考えを聞きたいんだ。別に経験者のありがたい体験談を聞くつもりも無いよ。」

「分かりました・・・私としての考えですが、そう言う人はやっぱりどんなにアピールしても殆ど効果は無いんですよ。更に告白しても、それをちがう意味に取ってる事もあります。」

「それはどういう意味だい?自分の想いをそのまま伝えれば、それなりに響くと思うのだが。」

「ええと・・・例えばプロポーズの言葉に、『毎日私の作るお味噌汁を食べてくれますか?』っていう台詞があるんですよ。これは『結婚して欲しい』って意味だったはずなんですけど・・・鈍い人はそれをそのまま捉えてしまうんですよ。例えば、『毎日味噌汁を奢ってくれる』とか・・・」

「・・・いや、いくら何でもそれは・・・きっと無いと信じよう。」

「・・・ええ、そうですね・・・」

普段から彼がその鈍感っぷりを遺憾無く発揮している事をある程度知っている二人は、遠い目で窓から見える景色を見ていた。今の彼らの心境は計り知れた物では無いが、簡単に要約するとこうだ。

 

((ああ・・・多分それやらかすだろうな・・・))

 

黄昏タイムは、二人の頭を千冬が何処からか取り出したハリセンで叩くまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、一週間があっという間に過ぎ、クラス代表決定戦当日となった。

 

 

 

おまけ

千冬にぶっ叩かれた後

 

ゴハンナニニスルデチ?

ヒガワリノヤツデイイノ!

イクッテタイテイソレヨネ…

ハッチャン、シュトーレンタベタイナ…

ハッチャン、ソレゴハンジャナイデチ

「あ、あの子達・・・」

「ああ、あれは確か伊東4姉妹だったか。衣恵、お前の知り合いか?」

「まあ、友人って程じゃ無いですけど、たまに会ったら立ち話する位の仲です。私のISと、彼女達のISは同じ所が作ってますからね。それなりに面識は有るんですよ。」

「お前の機体と言えば・・・ああ、そう言う事か。確か食堂で働いている人員の半分位は、そのシリーズの所有者ではなかったか?」

「確かにそうでしたね。まあ、初めて此処に来た時はびっくりしましたけど、今思えば良い相談相手になってくれていると思います。皆良い人ばっかりですし、 彼女達がどの様にそれぞれの機体を物にしているか聞けますしね。」

「まあ、お前達の機体はかなり特異な物だし、扱いもその分難しいだろうな。」

「はい。それはもう・・・ISなのに空飛べないから地上戦では走るしか無いし、海の上を走る時はバランス取りずらいしで・・・最初なんか良く転びましたよ。あの子達の機体は潜水艦を元に作られているので別かも知れませんが。」

「それは難儀だったな。だが、別に機体性能自体は悪くないのだろう?」

「ええ。装甲は普通のISよりも強固で、実弾の攻撃で受けるダメージは通常の半分位です。しかも水上での戦闘においては一般ISの速力を軽く超えています。面倒な事には変わりませんけど、少なくともそこらのISに引けは取らせませんよ。」

そう言って微笑む彼女を見て、千冬も笑みを零した。

「ああ、『衣笠』の名は伊達ではあるまい。いつかお前とも一戦交えてみたい物だ。」

千冬は再び笑ったが、肝心の衣恵は軽く足が震えていたと言う。




・・・はい。てな訳で、またキャラ増えそうです(震え
語尾にでちってついてるなー。
シュトーレン食べたいらしいねー。
イクって名前なのかなー?
一人常識人っぽいなー。
誰だろ〜?(すっとぼけ)

あと、衣恵さん達が所持している機体の正式名称は、ISF《インフィニット・ストラトス・フリート》です。詳しい概要はまた別の機会とさせて頂きます。ではまた次回。首をデビルガンダムのガンダムヘッド位長くしてお待ち下さい。


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18. 淑女との演舞 ~深い霧の乙女~

突発的に思い付いたネタと本編を同時進行で書いていたら、気が付けばこんな時間に・・・
ラプラスの箱を使って時間を増やしたい・・・!!!
そのネタは後々番外編として投稿します。一応ガンダム×ISの話なんで。


あと、艦これファンの皆様に言っておくべき事があります。




この小説に・・・




二ムバs・・・じゃなかった、26バスは出てきません。

でも可愛かったですね、26バス。その内「艦隊の騎士たる、この私が相手だ!」とか言ってくれないかな。隠し要素としてEXAM起動したりしないかな。


クラス代表決定戦当日。リボンズは箒を正座させていた。

「・・・篠ノ之 箒。僕は言った筈だよ、『ISの練習もちゃんとしておけ』と。」

「あ、ああ。そうだったな。」

「ならば何故・・・彼はISの練習はしていないと言っているんだい?」

「・・・・・」

「目 を 反 ら さ な い で く れ る か な?」

「リヴァイブさんストップ!?箒が柄にも無く怯えてるからもう説教は止めてやってくれ!」

「いいや、まだだよ。この際しっかりと言っておく必要がある。」

「違う、違うんだよリヴァイブさん。箒は俺の為に精一杯練習に付き合ってくれたんだ、剣道のだけど。箒は出来る限りの事をしてくれたし、誰が悪いかと言えば途中でISの練習をしようって切り出せなかった俺だ。」

「・・・まぁ、君が構わないのならそれでいいが・・・だが、今後はちゃんと訓練もするように。幾ら武道を嗜んでいても、それを実戦に活かせる技能が無ければ意味が無い。難しい計算が出来たとしても、問題文の意図が分からなければ元も子もないようにね。理解したかな、篠ノ之 箒?」

「うぐ・・・肝に銘じておく。」

「素直で結構だ。さて織斑 一夏、君は今から打っ付け本番で代表候補生と1戦交えなければならない。彼女は君より何枚も上手だ、勝てる確率などたかが知れている。それは分かっているかい?」

「ああ、そんな事最初から分かってる。そもそも俺は最近ISに乗り出したド素人なんだ。あいつとの実力差なんて目に見えてるよ。」

「そうだね、本来ならこの勝負は無謀と考えるべきだろう・・・だが、君にはまだそうとは言いきれない要素がある。」

「・・・専用機、だよな?千冬姉から聞いたよ。」

「そう、君には国から専用機が支給される。専用機は量産機とは性能が段違いだ。どんな機体が支給されるかは知らないが、そこにこそ可能性がある。未知の力と言うのは相手にとっても脅威だ。その隙に突き入る事が出来れば、君にも勝機はあるさ。」

「・・・でも、その事を分かっていながら未だ不安だよ、俺は。もしかしたら勝負にもならないんじゃないかってさ。」

「・・・僕の知り合いが、この様な言葉を口にしていた。『不安を感じるのは自分を信じきれていないからだ。そしてその様な体たらくでは勝てる勝負も勝てない。それなら私は自分を信じ、時には過信すらして相手に突っ込む。その方が、相手に怯えながら勝負に挑むより遥かにましだ』とね。要は戦意の問題と言う事さ。満身創痍でも、戦意が残っていれば人は戦い続ける事が出来る。僕はその様な者達を何人も見てきた。」

「そうか・・・そうだよな。戦う前から諦めかけてる様じゃ話になんねえよな。サンキュー、リヴァイブさん。お蔭で目が覚めた。俺はいつも通りの自分を信じて、戦ってくるよ。」

「フ・・・それでいい。さて、僕はそろそろ行かなければならない。少し野暮用があるのでね。」

「ああ、分かった。じゃあまた後でな、リヴァイブさん。」

「ああ、幸運を祈っているよ。」

彼は部屋に入ってきた真耶と行き違いになる形でその場を去った。

 

 

 

 

 

 

クラス代表決定戦が行われるフィールドとは別のフィールド。そこで刀奈は自身の愛機を纏い佇んでいた。

彼女のISの名は「ミステリアス・レイディ」。ロシアがかつて設計していたIS「モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)」のデータを元に彼女が作った機体だ。その特徴は何と言っても、機体全体を覆うナノマシンで構成された水のヴェールだろう。それは搭乗者である麗き少女の命のままに、乙女の体を包み込んで守る盾になり、また主の敵を貫く矛ともなるのだ。

「ふう・・・まさか、本当にこの勝負を受けてくれるなんてね・・・」

彼女が言っている勝負とは、無論ISを使用してでの模擬戦だ。では、IS学園最強の座に就いている彼女と誰がそんな事をするのか。それは、彼女に久方振りに悪寒と圧倒的な「敗北」のイメージを思い浮かばせた人物・・・

「やあ、どうやら少し遅れてしまった様だね。大変申し訳ない。」

「ええ、本当に。女性を待たせるのは男性としてどうかと思うわよ?」

リヴァイブと名乗りこの学園の用務員として働いているこの男。彼は男なので織斑 一夏という例外を除けばISに搭乗出来ない筈なのだが、それを踏まえても彼女は、彼に勝利するビジョンを想像する事が出来なかった。だから、確かめたかったのだ。彼と自分との間にある「差」を。

「と言っても、これで貴方がISを使えない普通の男性だったら、私はとんだピエロね・・・」

「心配せずとも、君の憶測はまちがってはいないよ。僕はISを使用する事が出来る、織斑 一夏と同様にね。」

次の瞬間彼の体が淡く光り、その体全体を装甲が覆った。

全身装甲(フルスキン)・・・珍しいわね、それが貴方の機体?」

「そうさ。第三世代型IS『1ガンダム』、それがこの機体の名だ。始めに言っておくけど、負ける気など更々無いよ。」

「それは私も・・・と言いたいけど、今回はそこまでの自信は無いわ。ま、本気で行くけどね?」

「当たり前さ、そうでなければこの勝負をする意味がない。」

「そうよね。じゃ、始めましょうか!」

両者は互いに距離を置き、自分の得物を構えた。そして、互いの得物を打ち付ける音と共に、戦いは始まった。

 

まず、刀奈は手に持った大型ランス「蒼流旋」を勢い良くリボンズに叩きつけた。表面を覆う超高周波振動の水がドリルの様に回り、相手のGNビームサーベルと接触する度にギャリギャリと嫌な音が発生する。そして、徐々に刀奈のランスがリボンズのサーベルを圧し始めていた。元よりランスはサーベルよりパワーが上なのだから、こうなるのも必然と言えるだろう。

しかし、それだけで勝負の流れを劣勢に持っていかれる彼ではない。彼はもう1本のビームサーベルを密かに展開し、素早く刀奈の腹部目掛けて突きつけた。

「!? くっ・・・」

刀奈はそれを後ろに退る事で回避した。なにせ、相手の機体の事を彼女は何も知らない。だから何が飛び出てくるのか分からないのだ。今は先走ってこちらから突撃してしまったが、本来何も考えずに突っ込むのはあまり良くない。

「じゃあ、これはどうかしら?」

彼女はランスに内蔵された4門のガトリングガンをリボンズに向け、一斉に発射した。

 

ドドドドドッ、と轟音と共に数多の弾丸が射出され、それら全てが正確に彼を捉えた。すると、彼は左腕に付けられたやけに巨大な盾を構えた。

激しい衝撃と共に、弾丸がその盾に着弾する。そして斉射が終わる頃には、彼の姿は砂煙に包まれていた。しかし、それを見据える刀奈の目は険しい。やがて煙が晴れると、彼はその姿を現した。

 

無傷、だった。

その白い装甲に傷が付いた様子はなく、またその身を守っていた巨大な盾にも、大きな損害は見られない。

「やっぱり、一筋縄では行かないわね・・・」

「この程度、何の障害にもならないよ。さあ来たまえ。それとも、今のが君の全力かい?」

「言ってくれるわね!」

すると、彼女は今出せる最高出力でリボンズに向かい加速した。

(ほう、先程とはスピードが段違いだ・・・恐らく、全スラスターをフルスロットルにしたのか。)

「それじゃ、お言葉に甘えてこちらから行かせて貰うわよ!ついて来れるかしら?」

彼女はギュン!とその最大出力を生かし、瞬時にリボンズに肉薄した。そして、そこからはしばしの間一方的な猛攻が続いた。ランスで突撃し、突き放されればガトリングガンを放ちながら再び接近戦に持ち込む。その一連の動作を短時間に何度も繰り返している。だが、彼女はこの連撃で彼を倒せるなど考えていない。現に彼はこの攻撃に対し、まるで手慣れているかの様に全ての攻撃を受け流しているのだ。だから彼女にとって、この行動は只の時間稼ぎでしかない。そう、彼女が持つ手札の中でも数少ない、彼に多少なりとも手傷を負わせる事が出来るであろう技の準備の為の。

(『ミストルテインの槍』は強力だけど、これは私にも多大な被害が及ぶ・・・もし大怪我をして、その休養中に敵がこの学園に攻撃を仕掛けてきたら対抗出来ない。それに、これはあくまでも模擬戦。模擬戦で怪我人を出すのは問題だわ。なら・・・!)

そして、その刀奈の行動にリボンズも何かしらの疑問を持ち始めていた。

(彼女は一見僕への攻撃に集中している様に見えて、実は他の目的があるね・・・もし仮にこれで勝負を決めるつもりなのだとすれば、これが全く通じない事に多少は動揺する筈だ。しかし、そういった素振りは全く見せていない・・・なら、これは彼女の切り札では無く、本当の切り札を使う為の下積み、と言った所だろう。それに先程から、彼女は僕の周辺に何らかの物質をばら撒いている。・・・どんな攻撃をするのかは知らないけど、僕のやる事は一つだ。彼女の攻撃を全て受け止めた上で、彼女に勝利する。)

そして彼女が何度彼に突撃したのか数えるのも億劫になってきた頃。彼女は不意にその動きを止めた。

「おや、どうしたのかな?先程までの激しさが嘘の様ではないか。」

「・・・貴方、分かってたでしょ?私が時間稼ぎの為に動いていた事。」

「まあ、気付いてはいたさ。最も、君がどんな技を使ってくるかは予想しようもないが。」

「・・・殆どダメージが無いなんて思っても見なかったわ。ここまでしても貴方に微量しかダメージを与えられないだなんて。」

「生憎、あの位の加速は僕にとっては遅いに等しい。フォローしておくと別に君が弱かった訳ではないし、むしろあの加速をよく続行出来ていたものだ。少し無理をしていただろう?」

「あはは、バレちゃった?実は若干ふらふらするのよねー・・・でも、お蔭で舞台は整ったわ。」

彼女はおもむろに右手を前に突き出し、微笑んだ。

「かちっ」

彼女がスイッチを押すような仕草をした瞬間、

 

 

 

 

リボンズの体が、突如起きた大爆発の中に消えた。爆発の後には多くの爆煙がもうもうと立ち込めていた。

 

 

 

「・・・当たった、わよね?逃げた様でもないし。それなら、かなりシールドエネルギーが削られている筈だけど・・・」

清き熱情(クリア・パッション)』。ナノマシンで構成された水を霧状にして攻撃対象へ散布し、それを発熱させることで水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こす技だ。それに伴う衝撃と熱は圧倒的で、ナノマシンの拡散範囲は限られるものの、有用性に優れる。

「それにしても、まだ動けるなら動けるで出てくるのが遅い・・・も、もしかして勝った?」

その煙の中からは、まだ彼の姿は確認出来ない。本来はまだ警戒を続けるべきだが、今まで殆どダメージを与えられず、たった今やっと一矢報いた事に対する達成感から、彼女はそれを欠いてしまった。

「そう言えば・・・久し振りね。私が戦闘をこんなに楽しいと感じたのは。今まで戦闘って言えば殆ど裏の関係だったから・・・そんな血生臭い状況で高揚感を覚える様な者にはなりたくないけど。」

彼女は更識家という裏で暗躍する一族の現当主だ。そうである以上、嫌でもこの世界の汚点・・・歪みを幾度も目にする事になる。彼女は普段、学園の生徒会長として飄々と振舞っているがその背には底知れない程の闇を抱えている。彼女自身はそうは思っていないだろうが、彼女もまたリボンズと同じ様に出生で未来を決められた「血の呪縛」に囚われた人間なのだ。

 

「成程。君のその実力は、君の家の境遇が少なからず影響している様だね。家を守る為か、それとも裏の世界で生き残る為か・・・まあ、力を欲した理由に等興味は無いし、それを知った所で僕のやる事は変わらない。君に真っ向から挑み、そして捩じ伏せる。只それだけさ。」

その時、彼女の目は大きく見開かれた。目の前に広がっていた煙が薄くなっていき、やがて完全に晴れる。

 

 

 

彼は依然として、悠々とそこに立っていたのだ。

彼の機体全体を覆う様に、緑色の膜の様な物が張り巡らされていた。更に彼は拡張領域(バススロット)から取り出したのか、巨大な砲身を両手で抱えていた。

「嘘でしょ・・・そんなバリア紛いの物が張れるなんて聞いてないわよ・・・」

「君が繰り出すであろう切り札の為に、粒子の使用量を最低限にしておいて正解だった様だ。お蔭で瞬時にGNフィールドを解放する事が出来た。」

『GNバズーカ、チャージ完了まで残り30秒』

「・・・まんまと貴方の掌で踊らされてたって訳ね。覚悟はしていたけど、こうもしてやられるなんて・・・」

「先程も言った様に、君は決して弱くは無い。まさかあの物質全てが爆発するとは思わなかったよ。あの駆け引きにおいては君が上手だった。だが子供だからかな、詰めが甘い。相手が墜ちたかきちんと確認しないと、その慢心が悲惨な結果を生み出す事になる。」

『チャージ完了まで残り10秒』

「確かに・・・貴方の言う通りだったかもね。初めて自分の攻撃が通用した事が嬉しくて、ついつい油断しちゃったわ。ふふ、私もまだまだってトコね。」

「『勝って兜の緒を締めよ』、この言葉をよく覚えておく事だ。それでは・・・」

『GNバズーカ、チャージ完了。』

「これで終わりだよ、更識 刀奈。君の実力、中々の物だったよ。」

もう避ける気力も無い。彼女の今出せる 全てを出し尽くしても尚、相手の損傷は少ないのだ。きっとこれ以上悪足掻きをしても無意味だ。それを悟った彼女は、ゆっくりと目を閉じた。

 

                    『BURST MODE』

 

 

野太いピンク色のビームが彼女の視界を多い尽くした瞬間、彼女の意識は途絶えた。

 

 

 

次に彼女が目覚めた時には、もう太陽が西に傾いていた。

「ん・・・あれ、ここは・・・」

「おや、気が付いたかい?」

「!?・・・ああ、貴方ね。もう、びっくりさせないでよ。」

「それに関しては申し訳ない。随分と気持ち良さそうに眠っていたから起こさない様に入ったのだけど、裏目に出てしまったかな?」

「そうだったの・・・心遣い感謝するわ。」

そこまで言った所で、彼女はある重要なことに気付いた。

「あれ・・・そう言えば、私が寝てる間の授業と、生徒会の仕事って・・・」

みるみる内に顔が青ざめていく彼女を見て、リボンズはある事を伝えた。

「ああ、心配せずとも各教科の担任の先生達には事情を伝えてある。皆物分りが良くて助かったよ。今日の分の課題も既に回収済みだから、後程取り掛かると良い。」

「そ、そっか・・・全く、今日は貴方に頭が上がらないわね。じゃあ、生徒会の方は・・・?」

「生徒会?生徒会・・・ああ、僕とした事が布仏 虚に事情を伝えるのを忘れていたよ。今頃彼女はさぞ怒っているだろうね。」

その瞬間、顔色が戻りつつあった彼女の顔が再び真っ青になった。

「な、な・・・なんて事してくれたの!?正直先生達より虚の方が怖いのよ!?それはもう果てしなく!!」

「フフ、僕は今日君にいきなり模擬戦を挑まれ、それを行う為に急ピッチで仕事を終わらせる羽目になったのさ。君にもそれ相応の苦しみを与えるべきだと思わないかい?」

「うっ!!?それは・・・確かに悪かったけど、でもこんなのって!!」

 

『話 は 終 わ り ま し た か? 会 長。』

ビクッ!と背筋を伸ばした刀奈がゆっくり振り向くと、そこには・・・

 

「あれだけ迂闊な行動はよせと忠告しましたのに・・・あまつさえその影響で授業はおろか生徒会の仕事までほっぽり出すとは・・・どういう了見なんでしょうねぇ、会 長?」

 

居た。背後にどす黒い怒りの業火を燃やしている虚が。しかも、その姿は何処か不動明王を思わせる。

「う、虚!?違うの!こ、これは彼が!!」

「リヴァイブさんが私に報告しようとしまいと、私がやる事にどの道変わりは有りませんでしたよ? 会長が私達に何の宣告も無しに勝手な行動をしたのは事実ですから。」

「そ、そんな・・・」

絶望に打ちひしがれる彼女を前に、虚はあくまでも淡々と言い放った。

「さあ行きますよ!!会長にはこれから本日分の課題と仕事、そして反省文を10枚書いてもらいますから!!」

「い、嫌ああああああ!!!助けてええええええ!!!」

為す術もなくずるずると引き摺られて行く刀奈を、リボンズの高笑いが見送った。




さて、今回は刀奈との戦闘でした。うん、ホントの切り札はミストルテインの槍なんですけどね。あれは普通に人が乗ってるISに使っちゃいけない奴だと思うんですよね。絶対防御があるにしても、下手したら死にますやん、食らった相手。

そして、今回1ガンダムの追加武装としてGNバズーカを登場させました。と言っても、これは作者が別のとある武装を登場させたいからが為の布石なんですけどね。でも、バーストモードは良いと思うんだ。

そんで最後に、要するに「突っ込んだら勝ち」と言う名言(迷言?)をリボンズに言ったのは、毎度お馴染みレーヴェ隊長です。彼女は一つの隊のトップでありながら、生粋の武闘家でもあるんですね。それにこれは彼女が強者だからこそ言える言葉です。普通の人が実際にやったらそれ只の動く的でしかありませんからね。まずはミサイルのシャワー位ではビビらなくなる位の根性を身に付けなければ。まあ、これは只の自論ですがねwww

それでは、また次回お会いしましょう。次回は恐らく日常回になるかと思います。取り敢えずもう既に書き始めてるので、もう少し早く投稿できると・・・いいなぁ。


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19. ウェルカム・トゥ・ファニー・アルゼナル! ~Infinite Weapons Variation~

ううん・・・更新速度がやばいなぁ・・・一日一日思い付いた事をちびちび書いてって、その後何回も見直して修正するんじゃやっぱり効率悪いかな・・・取り敢えず、最新話です。
今回は日常回で、新キャラがもう続々と出てきます。それこそ重要、もしくはこれからも結構な頻度で登場するであろうキャラからサブキャラまで。ちょっと詰め過ぎた感はある・・・かも。でも、この後はそこまで増えないかな。ではどうぞ。


『あー、あー。マイクテスマイクテス。大丈夫?聞こえてるのかなぁ?まあ取り敢えずアナウンスするね。えーと、用務員のリヴァイブ・C・スタビティさん、もし暇なら整備室まで来てほしいかも!あ、もし今仕事があるなら放課後でも良いよ!宜しくお願いするかも!』

午前中の仕事を終わらせ一息ついていた彼は、無情にも即座に呼び出される羽目となった。

 

 

 

 

 

 

怪訝な表情で整備室に向かった彼を迎えたのは、薄紫がかった銀髪をツインテールにした少女と、緑がかった銀髪を後ろで束ねた少女だった。

「あ、リヴァイブさん!お会い出来て光栄かも!あたしは平賀 彩季奈(ひらが あきな)!1年だよ、宜しくね!」

「すみません、妹の我が儘に貴重なお時間を頂いちゃって・・・あ、私は平賀 芽遠(ひらが めのん)、2年です。姉妹揃って整備科に所属してます。」

「あたしは整備よりかは武器の改造とか、新しい武器の開発の方が好きかな。そうだ!折角来てくれたんだし、リヴァイブさんにあたしの発明品、見せてあげるかも!付いて来て!」

意気揚々と整備室の奥に向かって行く彼女を見て、芽遠は微笑んだ。

「あの・・・もし良ければ、見てあげてくれませんか?あの子、自分の作った物を他の人に評価してもらうのが好きなんです。それにあんな感じの子ですが、改造や開発の腕はその手のプロも顔負けレベルですので、きっと面白い物を見せてくれると思いますよ。」

「ふむ・・・休憩時間を費やしてまで此処に来たんだ、このまま何もせずに帰るのは確かに勿体無いな。ではしかと拝見させて頂こう。」

彼は部屋の奥へと消えて行く彼女を追った。

 

 

 

「遅いかも!メロンお姉ちゃんと何話してたの?」

「そのメロンとは芽遠の事かい?彼女に少し君の事について聞いていたのさ。」

「ふーん、まぁいいや。さて、じゃあお披露目するかも!いっつしょうたいむ!」

彼女が部屋の電気を付けると、そこには数々の整備用の機材が並んでいた。しかしそれ以上に目を引くのは、部屋中に転がっている奇怪な武器達だろう。

「これは・・・中々の数だね。これら全てを君が?」

「勿論!設計・開発ぜーんぶ、あたしがやってるかも!じゃ、順を追って説明するね!」

まず、彼女は1番身近にあった物を手に取った。

「えーと、これは超高インパルス長射程狙撃ライフル、名前は『成層圏を墜す者(ストラトスブレイカー)』!イギリスのブルー・ティアーズ2号機『サイレント・ゼフィルス』の武装であるライフル『星を砕く者(スターブレイカー)』の試作品を貰ったから、それをあたしなりに改造した奴かも!」

彼女の身長程あるライフルを嬉嬉として振り回す彼女に隠された腕力に、リボンズは驚いた。

「しかし、それだけでは外見と性能が違うだけにしか見えない。君の姉が言う『面白い物』には到底見えないな。」

その瞬間、彼女の目がギラりと光った。

「へえ・・・これを見てもそれが言えるの?」

その瞬間、彼女はおもむろにそのライフルを弄り始めた。すると、今まで一つのライフルだった物が二つの異なる長銃に分かれた。

「じゃじゃーん!なんと、瞬時にガンランチャーと高エネルギーレーザーライフルに早変わりかも!」

「・・・ほう」

珍しく、リボンズが驚きを露わにした。

「どうどう?驚いたかも?このガンランチャーはレールガンの他に散弾も撃てるんだ!それでこっちのレーザーライフルは元の『星を砕く者(スターブレイカー)』の威力と同じで、さっきの連結状態ではそれ以上の高威力で敵を狙い撃てるよ!あと、この二つの組み合わせ方で攻撃が大きく変化するの!まあ、それは使って見てのお楽しみかも。じゃあ次行こ!」

更に部屋を進むと、巨大な砲台が天井から無造作に吊るされていた。

「・・・あれは?」

「あー・・・あれはメガ・バズーカ・ランチャーで、主に巨大な敵や拠点制圧に用いるビーム砲。一応威力は折り紙付きかもなんだけど、狙いが超定めにくいかも。あと、おっきさ故の取り回しの悪さやエネルギー効率の悪さとか・・・欠点のオンパレードかも。なんとか改良しようとしてるんだけど、結構難航してるから今はこうして吊り下げてるかも。」

「ふむ・・・エネルギー、か。少し、これを僕に預けてくれないかい?もしかすると改良出来るかもしれない。」

「! リヴァイブさんが?まあやってくれるのはありがたいんだけど、これを渡す以上、あたしにも何か預けてくれなきゃアンフェアだよ。何か直す必要がある物とか改良したい物とかないの?お礼としてやってあげるかも。」

それを聞いた彼は、すぐさま手元の端末を操作し、何かを彩季奈の端末へ送った。

「今君に、ある武装のデータを送った。君にはそれを改良してほしい。」

彼女は早速そのデータを確認する。

「ふむふむ、アサルトシュラウド・・・ISをスラスターと武装付きの追加装甲で覆って、ISの火力と機動性を向上させる・・・へぇ。」

その時、彼女は束と同じ様な笑顔を浮かべた。彼女が何か新しい案を思いついた時にする、そんな笑みを。

「面白そうじゃない、やってみるかも。じゃあ、あれは後で下ろしとくね。」

「ああ、宜しく頼むよ。」

その後、連射性を極めたサブマシンガン『聖痕(スティグマト)』や、敵の周囲に三つのプラズマ結界発生器を発射し、その三点で囲んだ中にいる機体を行動不能に陥らせるプラズマ・リーダーなる武装といった、高性能な武装の数々を彼女は披露した。

「おや、この大剣は一体何だい?」

「お!それはあたしの発明品の中でも一二を争う位の傑作かも!長距離・近接なんでもござれの多機能型兵装、『タクティカルアームズ』!これはその二つ目かも!」

巨大な刀身の中にガトリング砲を搭載しているそれは、近接ではその巨体に見合った凄まじい破壊力を発揮し、遠距離にいる敵には砲台に変形し弾幕を浴びせる等、様々な戦況に対応出来る。

「成程・・・特殊ではあるが、かなり実用性に長ける武装だね。では、それが二つ目なら、一つ目は一体何処にあるんだい?」

「お、やっぱり気になっちゃうかも?でも今はテストも兼ねて、とある先輩に貸し出してるかも。今日その結果を報告しに来る予定だけど・・・」

『彩季奈、居る〜?例の武器のテスト結果報告しに来たけどー。』

「噂をすればなんとやら、だね。はいはーい、今行くかもー。」

とてとてと元来た方向へ小走りで戻っていく彼女を、リボンズは追った。

 

「どうしたんです、先輩?こんな時間に来るなんて珍しいですね。」

整備室に訪れた一人の生徒に、芽遠が話しかける。

「ホントは放課後に来る予定だったけど・・・妹達と用事入っちゃって。だから急遽この時間にしたんだけど、大丈夫?」

「別に問題無いと思いますよ、あの子大抵暇してますし。でも、今日別にお客さんがいるので、少し遅れるかも知れませんけど。」

そっか、と呟いたその人物は、長い髪をポニーテールにしている。しかしその髪の色は紅く、毛先だけ水色という不思議な色だ。

「ごめーん、お待たせかもー!」

そこへ、部屋の奥から走って来た彩季奈とリボンズが現れた。

「別に良いわよ、それ位・・・ていうか、私が今一番気になるのはその男の人なんだけど。確か新しい用務員さんよね?」

「リヴァイブ・C・スタビティだ。君は三年生かい?まあ何にせよ宜しく頼むよ。」

「そ。三年の伊東 厳弥(いとう いむや)よ。厳弥で良いわ、宜しくね。」

「厳弥さんは日本の代表候補生の一人かも。といっても、もう並の代表と良い勝負が出来る程強いんだけどね。」

「茶化さないの、私なんてまだまだよ。っと、それより早く本題に入りましょうか。」

「うん。じゃあ、タクティカルアームズ0の感じはどうだった?」

「特に問題は無いわね。素早く展開出来るし、何よりスタンバイ時の形状がね・・・まさかあれが武器になるなんて相手は思わないだろうってくらい見事なカモフラージュだわ。」

「ふふん、当然かも。この『開発の彩季奈』の名は伊達じゃないよ!」

「君は・・・どのような物を作ったんだい?」

「厳弥さん、見せてあげてくれるかも?」

それを聞いた厳弥が取り出したのは・・・

 

浮き輪だった。

 

「・・・んん?」

「驚くのも無理ないかも。でも、ちゃーんとした武器なんだ!厳弥さん、やって見せてよ!」

りょーかい、と応えた彼女は浮き輪の一部を横にぐい、と引っ張った。するとその部分がスライドし、浮き輪の内部が露わになった。そこには長い棒状の物体があり、厳弥がそれを両手で持ち再び引っ張ると、全体が中心から二つに分かれ、二つの剣となった。

「・・・君はそんなに分かれる武器が好きなのかい?」

解除・合体(パージ・アンド・ドッキング)は人類共通のロマンかも!!ほら、合体するロボットとか武装って・・・なんかこう、来るものがあるでしょ?」

先程以上に瞳を輝かせて語り始めた彼女を、芽遠等は『また始まった』とでも言いたげな表情で見ている。

「そ、それより彩季奈、アンタこれの解説しなくても良いの?と言うかその話するのこれで何回目よ!?」

「そもそも変形は・・・はっ!?ま、またやっちゃったかも・・・」

自分の世界にトリップしかけていた彼女は我に返ると、顔を羞恥心から両手で覆った。

「・・・えーと、何の話だっけ・・・ああ、タクティカルアームズ0の事か。これはダブルブレード形態とサーキュラソー形態に変化する、白兵戦特化の個体かも。因みにあたしが一番最初に作ったタクティカルアームズなんだ。まだ二つしかないけど、全てのタクティカルアームズの原点だから0。あと形もまんまるだしね。いい名前でしょ?この先もこのシリーズを始めとした新しい武器を作っていくよ!さっき面白いデータも貰った事だし。」

「何?アンタ達もう密約でも交わしたの?まったく手回しが早いわねぇ。」

「む、そんなんじゃないかも。リヴァイブさんがあたしの作品を改良してくれるみたいだから、あたしもそれ相応の働きをするだけかも。」

ぷくーと頬を膨らませた彼女。すると唐突に芽遠が「あ。」と声を出した。

「そういえば・・・ねえ彩季奈、結局リヴァイブさんを呼び出した理由はなんだったの?」

ふとそれを思い出し問いかける芽遠に、彩季奈はさも当然の様に応えた。

「え、だってこの人持ってるんだよ?自分のIS。それを見せてもらいたいなーって。」

その瞬間、部屋の空気がビキリと凍り付いた。

 

 

リヴァイブサンガニゲタカモ-!

エ、チョットマジデモッテンノ?

ソコラヘンハゴホンニンニカクニンシナキャワカリマセンネ

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・・散々な目に遭ったものだ。まさかあそこまで追及してくるとは・・・」

リボンズは一度逃走を図ったものの直ぐに捕まり、三人娘による尋問にも近い事をされた。結果的には彼が折れ、言いふらさないと言う条件の下最低限の事を教えたが。

「いつかは打ち明ける事とは言え、こうも多くの者に知られると・・・これ以上の情報の漏洩は避けなくては。」

そうぼやきながら、彼は午後の仕事にかかった。

 

 

 

 

放課後。食堂は、何時もとは違った賑わいを見せていた。

 

「じゃあみんな!織斑君のクラス代表就任を祝ってかんぱーい!!」

 

「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」

そこでは、一夏がクラスの代表になった事を盛大に祝うパーティーがクラス全員によって行われていた。といっても、ちゃっかり他のクラスの者まで参加しているが。

 

「きらりーん!美味しいお料理、お持ちしましたぁ〜!」

「クラス代表が決まったらしいので、今日は腕によりをかけて洋風ディナーをご用意しちゃいました!勿論、間宮さんと鳳翔さんが作った料理とかもありますよ!是非、召し上がって下さい!」

テーブルに次々と並べられる料理達が、パーティーを更に華やかにさせる。

「これって・・・シュトーレン?」

「うん!この阿賀野さんが頑張って作ったのよ!」

「・・・大丈夫だよね?」

「だ、大丈夫だってばぁ!?」

「ふーん・・・あ、美味しい。」

「ね?」

 

各々が盛り上がる中、リボンズは一人しかめっ面をしていた。

「君という者は・・・何故あれだけ言っておきながら、バラしてしまうんだい?」

「だからごめんって。妹達に貴方と話した事を伝えたら、どんな事を話したのかって問い詰められて・・・」

未だ機嫌を直さない彼に、厳弥はただひたすら謝り倒す。少し前から続いているこのやり取りを見兼ねたのか、食堂の従業員らしき女性が助け舟を出した。

「まぁまぁ・・・さっきからずっと謝っているのですし、そろそろ許してあげては如何ですか?」

「そうは言えども・・・万が一彼女等からその情報が漏れたら、学園どころか世界が大混乱に陥る。前例があるとは言え、だ。」

因みにこの女性・鳳翔だが、 彼女も実はその情報を少しではあるが把握している。何故なら、衣恵が食堂の一部の者にその事を伝えたからである。彼女が教えたのは、間宮・金堂等の以前から食堂で働いている十分信頼に値する人物である。なので、それに比べ新参者の者達にはまだ伝えていない。

「あの子達にしても、大丈夫と思いますよ。あんな感じだけど、何だかんだでしっかりしてますし、約束もちゃんと守ってくれますから。」

「そう評価されている割には、速攻で約束を破ったね。しかも長女ともあろう者が。」

うーん、と厳弥は頭を抱えたが、今回は彼女の失態なので反論する権利は無かった。と、そこに一人の生徒が近付いて来る。彼女は金髪と、これまた日本人にしては珍しい髪色をしていた。

「Guten Tag。何の話してるの、二人共?」

「おや、君は一体?」

「厳弥の二つ下の妹、四姉妹の内末っ子の華です。はっちゃんでも良いよ、宜しくお願いします。貴方が、厳弥が言ってたリヴァイブさん?」

「如何にも、僕がそうだが・・・何か用でも?」

「ううん、今は何もないよ?あ、そうだ。お近づきの印に・・・シュトーレン、お一つ如何ですか?」

「ん?ああ・・・有難く頂くよ。しかし華、だったか。君は確か別のクラスだった筈だけど、何故ここにいるんだい?」

「色々と話題の織斑君を見に来たのと、おやつを食べに・・・ですね。そちらは、お早い夜ご飯ですか?」

「僕は軽食をつまみに来たのさ。と言っても、もうこの勢いで夕食も済ませてしまおうかとも考えているがね。」

「なるほどです。それはそうと・・・厳弥。今日言った約束、覚えてる?」

「ああ、姉妹全員でISの練習するって奴ね。勿論覚えてるわよ。用事はもう済ましてるし、どうせなら今からやる?」

「ほんと?Danke!じゃあ幾と恵も呼んでこないと・・・」

「と言うことだから・・・ごめん、お説教は後にしてくれる?」

「・・・了解したよ、そちらも鍛錬に励んでくれたまえ。・・・厳弥、今回の事は君の妹達の向上心に免じて不問とするが、次は無いよ?」

「わ、分かってるって!!もうしないわよ!?」

そう喚きながらフィールドの方へ向かう彼女を尻目に、彼は鳳翔に日本酒のおかわりを要求した。

 

 

 

 

 

その頃、刀奈はリボンズの部屋・・・もとい、彼女の部屋に帰っていた。

「ふう、今日も疲れたわね・・・少しシャワーでも浴びたい気分だわ。」

彼女が部屋のドアを開けると、正面の壁に無骨な砲台が立て掛けられていた。

「・・・ナニコレ?」

自分達の部屋にいつの間にか現れたそれに、しばらくの間空いた口が塞がらなかった彼女だった。




はい。めっさ増えましたね、キャラ。彼女達の詳しい事は、案外早いうちに分かるかもです。特にあの四姉妹とか。
あと、この話を読んで「武器開発なら芽遠の方じゃね?」と思った方も一部いるかと思います。これは彩季奈を「無邪気なサイエンティスト的少女」に作者がしたかったのと、あと中の人が某ガンプラバトルアニメの主人公だったのもあったので・・・キャラとしたら、束にコミュ力をめっちゃ足したような感じになるかな?彼女が何故リボンズがISを所持している事を知っていたのか・・・それはまた別の機会に。と言ってもそれはそこまで重要にはならないと思いますが。
さて次回には、かなりまな板の鈴ちゃんを登場させうわなにをするやめ・・・←パンパンパン


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20. 中国からの使者 ~更なる修羅場~

皆様、明けましておめでとうございます!今年もこの作品を宜しくお願い致します!

・・・というお決まりの社交辞令(?)は置いといて、今回はなんと一週間くらいで投稿出来ましたよ!いやぁ、これだけ早くできたのは何カ月ぶりだろうか・・・でも、早く出来た分量は少し短いのでご了承下さい。ちなみに、今回も日常回です。では、どうぞ。


「やっとついたわ!にしても、これがIS学園かぁ・・・おっきいわね〜。」

IS学園の正門に、一人の少女が立っていた。髪をツインテールにし、胸は・・・まな板、もしくは飛行甲板といい勝負の気強そうな少女だ。

「ここにアイツがいる・・・ううん、どんな感じで会えばいいかしら・・・」

彼女はある者に会うためにここに来たと言っても過言ではない。幼い頃からその者に対して抱いている感情を胸に秘め、彼女は意気揚々と学園の中に足を踏み入れた。

「えーと、まず総合受付で編入手続きをするのね・・・じゃ、そこに行ってみようかな。」

 

 

 

「あーもう!総合受付ってどこにあんのよ!!全っ然見つからないし!!何なのこの学校、幾ら何でも広過ぎじゃない!?」

案の定、絶賛迷子中だった。というか、学校の構造に文句を言うのもアレだと思うが。とにかく、長い間学園内を放浪したものの、それらしき所は無かった。

「どうしようかな・・・まさか、早々からこんな事になるなんて・・・」

彼女の周囲にはどんよりとしたオーラが漂い始めていた。

 

 

 

 

彼女が一人怒っている時、少し離れた所から彼女を見つめる二つの影があった。

「恵、なんか怒ってる子がいるのね。」

「んー?あんな子見覚えが無いけど・・・でもここの制服着てるし、編入生か何かと推測するでち。 」

「なるほどー、言われてみれば見た事が無かったの。でも、編入生なら総合受付に行かなきゃ駄目なのね。何で此処に?」

「多分、迷ったんじゃねーでちか?この学校無駄に広いからなぁ・・・」

「あ、今度は頭を抱え始めたの。」

「感情豊かな子でちね・・・リアクション芸人目指せるよ。」

「また歩き始めたのね。どうする?」

「いや・・・流石に可哀想だから助太刀してやるでち。」

 

 

 

「ああもう、ほんっとについてないわ・・・」

そうぼやきながら再び歩を進めようとしたが、ある声が足を止めさせた。

「ストップ!ちょっと待ってなの!」

彼女が後ろに振り返ると、二人の生徒らしき人物達が立っていた。

「えっと・・・何か用?」

「貴方、総合受付を探してるんでしょ?あそこは只がむしゃらに歩いてても見つからないのね。」

「という事で、恵達が案内してやるでち。」

「ホント!?凄く助かるわ!」

「じゃあ、付いて来るのね。」

 

 

 

「いや〜、ホント助かったわ!お陰で編入手続きも無事終わったし、二人共ありがとね!」

「ま、この学園の事で分からない事があったら聞きに来るといいでち。」

「そういえば、貴方の名前は何ていうの?私は伊東 幾(いとう いく)なの。ちなみにこっちは姉の(めぐみ)。」

「あたしは凰 鈴音!鈴って呼んでね!それにしても、あんた達日本人だったの?その髪の色から外人だと思ってたんだけど。」

「外人さんでもこんな髪の色してないと思うの・・・」

「まあ、それもそうか。それって地毛なの?凄いわねー・・・人類の神秘って奴かしら?」

「・・・ってか、手続き終えたんなら早いとこクラスルームに行ったらどうでち?」

「ああっと、いけないいけない・・・じゃあ二人共、またね!」

「「もう迷ったら駄目でちよ(なのね)ー」」

「う、うっさいわねぇ!?分かってるわよ!!」

疾風の如く走り去っていった彼女を見、二人はこう思った。

((やっぱり芸人の素質あるなぁ))

 

 

 

 

次の日の正午、衣恵は何時ものように食堂に昼食を摂りに来た。すると、そこで複数の女子と食べている一夏を発見した。

(ほほう・・・一夏君も中々やるぅ。どんな話してるのかなー・・・)

彼女は彼等が座っている座席の近くに座り、少し悪いと思いながらも聞き耳を立てた。そして、彼女はそこから様々な情報を得た。

(へぇ、箒ちゃんとあの鈴ちゃんは一夏君の幼馴染なんだ。じゃあ、多分どっちも一夏君の事狙ってるわね・・・うわあ、リアル修羅場来るかも・・・?)

そう身震いしながら、彼女は昼食に手を付けた。

「あー、やっぱりカレーは最高ね。でも、ドリンクにラバウル風珈琲を買ったのは間違いだったかな・・・何よラバウル風って。確かにラバウルは珈琲の産地だけどさぁ・・・」

そう言いながらもズズズと珈琲を飲む。一通り味わった後、彼女はふぅと息を吐いた。

「うん、普通の珈琲ね。」

 

 

 

 

 

 

時間は変わり夜。彩季奈は珍しく自分の整備室と言う名の武器工廠から出て、寮にある自室に戻っていた。理由は特に無いが、強いて挙げるなら余裕が出来たからか。改良に難航していたメガ・バズーカ・ランチャーはリヴァイブに預けたので、やる事が殆ど無くなってしまったのだ。

「はぁ・・・やっぱベッドで寝るのが一番かも。それじゃおやすみぃ・・・」

彼女が眠りにつこうとした瞬間、近くから大きな音と声が響き渡った。まどろみかけていた彼女は仰天し、テンパりまくった。

「ぬわあああああ!?なになになに、小惑星でも落ちてきたかも!? 」

彼女が勢い良く部屋から出ると、一人の女子生徒が項垂れながらとぼとぼ歩いていた。しかもよく見ると涙を流している。

「え、えっと・・・どうしたの?やな事あったかも?」

何も答えない彼女に、そういえば知らない者同士だったな、と気付く彩季奈。取り敢えず警戒を解かせる為に軽く自己紹介をする事にした。

「あたしは彩季奈。多分貴方と同じ一年かも。取り敢えず話位聞かせてよ。こういうのは一人じゃ解決出来ないよ?」

彼女は少し悩む素振りを見せたが、しばらくするとコクリと頷いた。

「よっし、そうと決まれば場所を変えるかも。ついてきて。」

 

 

「・・・で、僕の部屋に来たと?」

「リヴァイブさんのありがたーいご意見を聞きたいかも!」

「本音は?」

「あたしの部屋にお茶とかいう小洒落た物は無いからたかりに来たかも!」

「やはりか・・・せめて客に出すお茶くらい用意しておくべきだよ。」

「うっ・・・善処するかも。」

彼女等が向かったのは、何故かリボンズの部屋だった。先程まで泣いていた彼女だったが、この学園内で一夏とは別の男性がいた事に涙も引っ込んで驚いていた。

「な、何で一夏以外の男がここに・・・!?」

「それは僕がここの用務員だからさ。教師はともかく、男性の用務員ならここにいてもおかしくはないだろう?それより、君は王 留美(ワン リューミン)だったかな?」

凰 鈴音(ファン リンイン)よ!何、その微妙に似てる名前!?」

「ああ、すまない。そんな名前の者がいたような気がしてね。では凰 鈴音、何があったのか詳しく聞かせてくれないかい?」

「・・・分かったわ。」

 

 

 

鈴から事情を聞いた直後、リボンズの部屋は混沌と化していた。

「いやいやいや、流石にそれはふざけてるかも!日本男児として有るまじき行為かも!」

「やっぱりそうよね!!ったくアイツ、『毎日酢豚を奢ってくれる』とかどんな解釈してんのよ!!あの時私がどんな思いで告白したのか、分かってんのかコノヤロー!!」

「もしもし、衣恵かい?今時間があるならすぐ来てくれないか・・・いや、例の彼がまたやらかしてね。最早僕の手には負えない。・・・すまない、宜しく頼むよ。」

一夏のあまりの鈍感っぷりに女子二人は激怒し、もうリボンズだけでは手に余ってしまうので、彼は援軍を要請した。

 

 

数分後部屋に到着した衣恵は、取り敢えず迫力満点のお姉さんスマイルを駆使して女子二人を黙らせた後にリボンズから事を聞いた瞬間、目を見開き飲んでいた紅茶を吹き出した。

「ゴホッ、ゴホッ・・・そ、それ本当なんですか!? 」

「残念ながら、事実だよ。どうやら僕等の予想は的中してしまった様だ。」

「一夏君・・・まさかそこまでなんて・・・衣恵さん、侮ってたわ・・・」

まさか現実になるなんて・・・と衣恵は驚愕した。

「うーん、流石にここまで来ると将来的にも駄目よねぇ・・・あ、でも鈴ちゃんには一つ言う事があるわ。」

「?」

「いくら一夏君の言葉が論外だったとしても、それで怒りに任せてビンタしちゃうのはいけないと思わない?」

「うっ・・・」グサッ

「それに、一夏君はそれが正しい解釈なんだって思ってるんだから、幾ら彼を責めたって彼は貴方の本当の気持ちを分かってくれないよ?きっと彼は今頃、理不尽に殴られたって思ってるわね。」

「ううっ・・・」グサグサ

「一夏君が好きなんでしょ?だったらそんな遠回しな言葉じゃなくて、もっと単純に自分の気持ちをぶつければいいじゃない。とにかく、日を挟んでもう一度話してみたら良いと思うな。」

「・・・そう、ね。そうよね。よくよく考えてみればそうだった。アイツの鈍感は今に始まった事じゃないしね。うん、これ位の事で泣くなんて私らしくなかったわ!ありがとね皆、お陰で目が覚めたわ。それじゃお休み!」

彼女は吹っ切れた様な表情をしてリボンズの部屋から出ていった。

「これで終わると良いが・・・」

「そうですね・・・」

「・・・ところで、さっきから何度も言ってた一夏って誰なの?教えてほしいかも。」

「「え?」」

 

 

 

 

 

「アイツ・・・私の事貧乳って!!もう堪忍袋の緒が切れたわ!!」

「胸なんて飾りかも!男子にはそれが分からんかも!」

「鈴ちゃん、衣恵さんが許すわ。徹底的に殺りなさい。」

「織斑 一夏、何と業の深い・・・君の罪は止まらない、むしろどんどん加速しているよ・・・」

結局、切り札である千冬を召喚して彼女等を止める羽目となった。千冬はその後鈴に、後日行われるクラス代表戦では容赦無くやってやれと言い残し去っていった。その言葉に触発されたのか更に闘志を燃やす鈴を見て、リボンズは一夏に黙祷を捧げた。

 

 

 

 

 

その頃、束は自分の研究所で何かを作っていた。とそこへ、クロエが音もなく現れた。

「束様、作業はどれ程お済みになりましたか?」

「おおクーちゃん!えっとねー、今プログラムを見直してる最中なのだよ!だからもう直ぐ完成だね!」

何とも楽しそうに話す彼女に、クロエは若干表情を曇らせた。

「しかし、あそこにはリボンズがいますが・・・ 宜しいので?」

「ああ、そこら辺は問題ナッシング!この子が目標として認識するのはISだけだから。各クラスの代表がドンパチするクラス代表戦の時にこの子を乱入させるの。観客とかには手を出さないように設定はしてあるさ。それに、リっくんが守ろうとしている物を潰すなんて出来ないよ。家族なんだし、ね?」

「・・・それなら結構です。」

「よっし!じゃあプログラムを確認した後、ついでにハッキング対策も万全にしておこーっと。」

彼女の目の前には、鋼の巨人とも言える姿のISが立っていた。




はい。今回は衣恵さんが頼れるお姉さんっぷりを発揮しました。
・・・ところで彩季奈さん、貴方多少は胸ありますよね?鈴ちゃんとはえらい違いですわ!流石にセシリアとか箒には負けるけど・・・


関係ないんですが、作者は秋津洲はアッシマーと言うよりかは、ツィマッドだと思うんですよね・・・秋ツィマッド・・・水上機母艦からMS開発・運用母艦に改装されたら面白そう。


それと関係ないけどもう一つ。紅茶を吹き出すと言えばオットー艦長が真っ先に浮かび上がるのは作者だけでしょうか。


さて、次回はいよいよクラス代表戦です。戦闘回なので頑張ります。
・・・あ、流石に今回位早くは出来ないよ?


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21. クラス代表戦 ~伊号、出撃~

に、二カ月以上お待たせしてしまい申し訳ありませんでした・・・今回は多少オリジナル展開も織り交ぜた事もあって、かなり文章にするのに苦労しました。



では、長らくお待たせしました。最新話です、どうぞ。


クラス代表戦当日。アリーナには三人の生徒がそれぞれのISを展開し、試合開始を待っていた。

 

「鈴、俺が勝ったらあれがどういう意味だったのか教えてくれよな。」

「・・・良いわよ、まあアンタが『勝ったら』の場合だけどね!!」

謎にお互い火花を散らしている二人を他所に、残りの一人は気怠そうにしていた。

「はーあぁぁぁ・・・何であたしがこんな事しなきゃなんないのー?正直面倒かも・・・」

彼女が身に付けている機体は学園から支給された『ラファール・リヴァイブ』。だが、彼女はラファールの拡張領域(バススロット)を二、三倍まで追加しており、そこに彼女の発明品をぶっ込んでいる。更に、安定した武装の運用を行う為に、各部にスラスターの追加やら装甲強化措置を施しているので、実質彼女の専用機と化していた。

「むー、これは専用機じゃなくて技術試験用の機体だって何度も言ってるのに・・・」

と、そこまで文句を言った所で一旦言葉を切り、拡張領域から『成層圏を墜す者(ストラトスブレイカー)』を取り出し、笑みを浮かべた。

「まっ、こうなったからにはあたしの発明品達の性能実験、ついでにやっちゃうかも!」

その瞬間、試合が始まった。

「先手必勝!避けなきゃ当たるよ!」

彼女は連結状態のそれを構え、目の前の二人に向け散弾を発射した。

不意をつかれた二人はそれを紙一重で避け、それぞれの敵を見据えた。

「ちょっと彩季奈、あたしはコイツと白黒はっきりさせなきゃなんないんだから邪魔しないでよ!」

「どうぞご自由に!あたしはそんなお二人を適当に攻撃するかも!」

際限なく降り注ぐ散弾を避け、鈴は恨めしげに彩季奈を見た。と、その時。

「うおおおおおお!!」

一夏が雪片弐型を構え、彼女に突進してきた。

「このっ・・・見え見えなのよ!!」

振り下ろされたその一撃を双天牙月で受け止め、逆に弾き飛ばす。

「おっ、一夏とかいうのも入って来た。これは好都合かも!」

彼女は一度『成層圏を墜す者(ストラトスブレイカー)』の連結を解き、そして先程とは前後逆に二つの長銃を連結させた。

「よーし、いっくかもー!」

彼女はそれのトリガーを引いた。するとそこから太い黄色のレーザーが飛び出した。それは明後日の方向に飛んで行ったが、彼女は銃身を動かし、丁度薙ぎ払う様に一夏達の方向にレーザーを向けた。

「うわっ!?あ、危ねえ・・・」

「ホントにうざったいわね!良いわよ、そっちがその気なら!」

鈴は両肩にある砲身の無い衝撃砲『龍咆』を彩季奈に連射した。

「ちょ、耐久力はあんまり無いかも!」

その攻撃を、大きく横に移動して何とか避ける彩季奈。

「あぁんもう、ちょこちょこと!鬱陶しいのよ!・・・それに、アンタも!」

彼女は『龍咆』を撃ちながら双天牙月を背後に向けて振りかざし、一夏の攻撃を再び受け止めた。

「くっ・・・マジかよ!?」

「ふん、少しは気付かれないように攻撃したらどう?」

戦闘において素人ではあるものの、一度に二人を手玉に取られているという状況に、彩季奈は焦りを感じていた。

(これは・・・不味いかも。あたし達が素人だという点を踏まえても、こうも好きにやられるなんて・・・勝つ事にはこだわらないけど、このまま何もせずに終わるのは癪かも。・・・よし!)

「まだ使った事が無かったけど、この際使ってやるかも!いでよ虎の子、タクティカルアームズ!」

拡張領域(バススロット)からタクティカルアームズを取り出した彼女は、その強固な刀身を盾にして、鈴への突撃を開始しようとした。

 

しかし、その時。

 

 

 

突如、アリーナを覆うバリアーを太いビームが突き破り、アリーナの中心に爆煙が立ち上った。

 

 

 

「な、何が起こったのよ・・・」

「ッ!鈴、アイツだ!」

一夏が指した方向には、全身装甲(フルスキン)の巨大なISが佇んでいた。馬鹿でかい腕部をだらりと垂らし、静かに彼等の方向を見ている。この異常を観客席の人々も確認したのか、アリーナ内がざわめき始めた。

 

『試合は中止!織斑、凰、それに平賀の三人は即刻戻ってこい!他の生徒も、今すぐ避難を開始しろ!言っておくが、これは訓練ではない!非常事態と言えば分かりやすいか!』

アリーナに響き渡ったそのアナウンスにより、全員が今起こっている事を理解したらしく、あちこちから悲鳴やどよめきが聞こえ始めた。すると何故か観客席のシャッターが次々と降り始め、ついには先程の喧騒も聞こえなくなっていた。

 

「何あれ・・・全身装甲(フルスキン)?今時珍しいわね。しかも識別不明・・・」

「どっかの国が秘密裏に開発したって可能性もあるけどな。鈴、そういう情報聞いたことないか?」

「あたしはまだ代表候補生だから、知ることが出来る情報は限られてくるけど・・・少なくとも、そんな計画があったなんて事は聞いてないわね。っていうかアンタ達、早く逃げなさいよ!あたしが時間を稼ぐから、早く!」

「馬鹿、お前だけを置いて逃げる訳にいくかよ!」

「そもそも、話が通じる相手かどうか確認する必要があるかも。さっきのは間違えて撃った可能性も無くはないし。」

彩季奈がそれに声をかけようとした時、そのISは不意に両腕を前に構えた。よく見るとそこには何かの発射口らしきものがあり、そこに少しづつエネルギーが集まっている。

「・・・前言撤回。攻撃来るかも!じゃあなかった、来るよ!」

彼等が左右に分かれた瞬間、ついさっきまで彼等が居た場所を太いビームが通過していった。

「ビーム兵器!?しかも、セシリアのライフルより出力が上だぞ!」

「どうやら、逃がしてくれる感じじゃなさそうね・・・仕方ない、こうなったらあたし達でアイツを倒すわよ!一度散開した後、彩季奈は援護射撃をお願い!あたしと一夏は合流して切り込むわ!」

「分かった!」

「りょーかい!本当はアレをじっくり観察といきたいけど、ここは素直に従うかも!」

そう言葉を交わした後、彼等はバラバラの方向に飛翔した。

 

 

 

 

 

その頃、管制室では真耶が必死にアリーナに居る三人に通信を試みていた。

「もしもし織斑君!?織斑君聞いてます!?鳳さんも、聞いてます!?平賀さんに至っては通信切っちゃってる!?」

彼女が慌てふためく一方で、千冬は澄ました顔をしていた。

「まあ落ち着け、山田先生。あの様子を見るとどうやら、奴等がアレを倒すつもりらしい。ならばやらせてみるのも良いだろう。」

「織斑先生、なに呑気なこと言ってるんですか!?」

「そう焦るな。珈琲でも飲むか?糖分が足りないから苛々する。」

そう言って珈琲をマグカップに注いだ千冬だったが、何を血迷ったのかそこに大量の塩を入れた。

「あの、織斑先生・・・それ、塩ですけど・・・」

「・・・何、少し新しい組み合わせに挑戦しようとしただけだ。」

絶対嘘だ、と言いたかった真耶だったが、千冬の虎をも殺しそうな眼光を受けて黙り込んだ。

緊迫感が再び管制室に充満し始めた時、千冬の端末に一件の通信が入った。その相手を確認した彼女は、管制室の隅に移動してそれに応じた。

「私だ。どうした?」

『千冬、出撃許可をくれ。1ガンダムを使って未確認機を撃退する。彼等を危険な目に合わせる訳にはいかない。』

「・・・それは分かる。が、今アリーナ遮断フィールドが、何者かによってレベル4に設定されていてな。更に、外へ出る為の扉は全てロックされている。現在三年の精鋭達がシステムクラックを実行しているが、今直ぐあそこに救援に行くのは難しいだろう。」

『その位、フィールドに繋がるドアなりシャッターなりを破壊すればどうとでもなるさ。』

「それに、だ。確かに生徒の安全を考えるのは最もだが、お前のISもまた、奴等から見ると未確認の機体。奴等を更なる混乱に陥れさせかねん。平賀にもまだ、お前の機体を見せていないのだろう?」

「・・・その通りだ。全く、あの時潔く見せるのを渋ったツケを、この様な形で払う事になるとは・・・」

彼の口調には、自分に対する苛立ちが込められていた。

「まあ、万が一奴等に命の危機が訪れた時は出撃してくれ。それまでは・・・遺憾だが、見ている事しか出来んな。」

そう言って通信を切った千冬の表情は、険しい物に変わっていた。

 

 

 

 

 

フィールドでは、一進一退の状況が続いていた。初めは上手く連携出来ていたのだが、予想以上に相手の動きが早く、また時たま攻撃を受けていた為、たびたび連携を崩されていたのだ。そんな中、彩季奈は謎の敵に対しある疑問を抱いていた。

(うーん・・・さっきから思ってたんだけど、あれって本当に人間?さっきから体の負担を考えていないような動きを連発してる気がするかも。それこそ、千冬先生並の身体能力が無いと失神しちゃうレベルだし。まさか、人が乗ってないとか?・・・確かめてやるかも。)

すると彼女は、自ら謎のISに向かって突撃を開始した。

「ちょっと彩季奈!?何やってんの、正気!?」

「少し確かめたい事があるの!援護宜しくかも!」

「ええ!?・・・ったくもう、仕方ないわね!」

射撃役が突如前に出た事に面食らいながらも、鈴はすぐさま『龍咆』を未確認機に向かって連射し、その注意を彩季奈から外させようとした。 その甲斐あってか、今まで彩季奈を凝視していたそれは再び鈴達の方向に腕を向けた。

「っ!一夏、来るわよ!」

「おう!」

次の瞬間、小さなビーム弾が彼等に向かって連射された。彼等はそれを避け続け、少しでも長く未確認機をこちらに釘付けにしようと試みた。そして、それがビーム砲の斉射を止めた瞬間、彩季奈が敵の背後を取った。その顔にはいつの間にかゴーグルの様な物が付いている。

「ふっふーん。さぁーて、喰らうといいかも!彩季奈特製スタングレネード、投下!」

彼女は未確認機の顔面目掛けてそれを投合した。

「スタングレネード!? 目ぇ閉じなさい一夏!」

そう言われて一夏が目を閉じた瞬間、通常のスタングレネードよりも激しい閃光が発生した。

「・・・やっぱり、思った通りだったかも。」

ゴーグル越しに未確認機を見つめていた彩季奈は、不意にタクティカルアームズを全力で振り回し、それの腕に叩きつけた。それの左腕は肩から下がスパッと切れ、地面に落下した。

「ちょっと彩季奈!?何やってんのよ、パイロットの腕が・・・!」

「いや、断面を良く見て欲しいかも。」

そう言われた彼女が敵の左腕をズームして確認すると、そこからは血が一滴も出ておらず、あるのは時折飛び散る火花とだらりと垂れたコードだけだった。

「な・・・何よあれ、あれじゃまるで・・・!」

「アイツは無人機。人が乗ってないかも。」

「でも・・・でも、もし人が入ってたらどうするつもりだったのよ?」

「さっきのフラッシュバンはアイツが人間か否かを確認するためだったの。あれだけの光を至近距離で見て、人間が只で済む筈がないかも。いくら屈強な兵士でも、心を無くした機械みたいな人間でも、顔を背けるなり手で目を覆うなり何かしらの反応を示す筈。ここまで言えば分かるでしょ?」

「つまり・・・アレには、それが無かったって事?」

鈴の言葉に、彩季奈は軽く頷いた。

「それがどうしたとばかりに、あたしを見てた。それで確信したかも。コイツは人間じゃないって。もしそれで何か反応したら、あんな真似しないよ。」

そこまで語った彩季奈に続き、一夏も付け足す様に語り始めた。

「あと、この際だから言っとく。俺も、少し前からそんな気はしてた。ほら、アイツ俺達が話をしてる時には攻撃して来なかっただろ?普通はその隙に何らかのアクションを仕掛けて来る筈だ。そんで、話が終わってまた俺達が動いたら、アイツも動き始めた。流石にこれはおかしいと思わないか?」

その言葉に、鈴はそういえば・・・と今までの敵の動向を思い返していた。

「ま、アイツの腕の断面から血の一滴も出ないのが何よりの証拠かも。よーし、これで遠慮なくやれるね!」

「でも、無人機と分かってもアイツの脅威は変わらないわ。まだビーム砲も一つ残ってるし、あの馬鹿でかい腕で殴られたらひとたまりもないわね。」

「どうする?アイツは無人機だから疲れも感じない筈だ。数ではこっちが勝ってるけど、このまま長引けばこっちの疲れが溜まるばかりで不利になるぞ。」

二人がどのようにして倒すか話し始めた時、今まで何かを考えていた様だった彩季奈が突如口を開いた。

「二人共・・・ちょっと作戦を考えたかも。聞いてくれない?」

「作戦?どんな奴か言ってみなさいよ。」

「役割としては、鈴はまた囮になってもらうかも。その衝撃砲を撃ちまくって、なんとかアイツの注意をそっちに引き付けて。」

「分かったわ、やってやろうじゃない。んで、アンタや一夏はどうすんのよ?」

「あたしと・・・ええと一夏は、アイツに突っ込むかも。でも、この作戦の要となるのは一夏だよ。その刀、雪片の系譜でしょ?だったら、零落白夜もあるはずかも。」

「ああ。確かにコイツは雪片だし、単一仕様能力(ワンオブアビリティー)として零落白夜もある。」

「オッケー、それじゃあ話は早いね。あたしがアイツにもう一度接近して拘束するから、一夏はその隙に零落白夜を叩き込んで欲しいかも。」

「分かった。でも、どうやってアイツを拘束するつもりなんだ?あの図体の割に結構素早いぞ。」

「これを使うかも。」

そう言って彼女が取り出したのはタクティカルアームズ。するとその先端が二つに割れ、レンチの様になった。

「これでアイツを挟み込んで動けなくする。そこを突いて欲しいかも。」

「了解、そういう事なら任せてくれ。」

二人の答えを聞いた彩季奈は、満足気に頷いた。

「よし。時刻はヒトサンマルマル、これより作戦決行するかも!」

その掛け声と同時に、鈴が再び前に飛び出し『龍咆』を連射した。

「ほらほら、鬼さんこちらよ!」

雨霰の如く降り注ぐ衝撃の弾丸が未確認機を襲うが、それはその機動力でほぼ全てを回避した。しかし彩季奈の目論見通り、それは鈴のみに視線を注いでいる様だった。

「かかった!今よ、行きなさい!」

「分かってるかも!」

彼女はタクティカルアームズを前に構えて突撃を始めたが、未確認機は鈴の攻撃を受けながらも、腕のビーム砲を彩季奈に向けた。

「っ、させるもんですか!!」

鈴は咄嗟に双天牙月を敵に向かって投合した。それは寸分の狂いも無くその腕に直撃し、今まさに彩季奈を撃たんとしていたビームは明後日の方向に飛んで行った。

「ナイス支援!このまま・・・!」

そして、彼女はそのまま弾丸の如く未確認機に突っ込み、レンチ状になったタクティカルアームズの先端をその胴体にねじ込んだ。

「拘束するかも!」

メキッ、という金属が軋む音と共に、タクティカルアームズは未確認機の胴体をガッチリと掴んでいた。

「やった!じゃあ一夏、早く止めを!」

「ああ!」

とその時、予想外の事態が起きた。未確認機は何とか拘束から逃れようと、不意に彩季奈の体をむんずと掴んだのだ。

「きゃっ!?このぉ・・・!」

彩季奈はそれに驚愕したものの、咄嗟に柄にあるガトリング砲のトリガーを引いた。

ガガガガガ!と弾丸が至近距離で発射され、未確認機の胸部装甲がズタボロになっていく。それでもそれはその手を話さず、むしろ彩季奈を掴む力をギリギリと強めていた。

「ぁっ・・・一夏、早く!このままじゃこっちもヤバいかも!」

彼も零落白夜を使用するためのエネルギーがまだ十分に溜まっていないため、迂闊に手出し出来ない状況にあった。しかし、彼は何かを思いついたのか、鈴にこんな事を要求した。

「鈴、今すぐ衝撃砲を撃ってくれ。最大威力で頼む。」

「はぁ!?何言ってんのよ、あんな密着してる状態じゃ撃てないでしょ!」

「別にアイツに当てろとは言ってないだろ!とにかく、今すぐやってくれ!」

鈴はかなり困惑していたが、一夏の真剣な表情から渋々『龍咆』のチャージを開始した。チャージは直ぐに完了し、鈴はそれを放とうとしたが、何故か一夏が鈴の目の前に出た為出来なかった。

「ちょっと一夏、何やってんのよ!そこ退きなさい!」

「いいから、このまま撃て!」

「っ・・・ああんもう、どうなっても知らないわよーッ!」

ドッ!と鈴の両肩から衝撃砲が発射され、一夏の背に直撃した。

「ぐっ・・・!」

すると、白式がその衝撃砲をエネルギーへと転換していく。そして・・・

 

『エネルギー転換率90%以上。零落白夜、使用可能』

その言葉がディスプレイに表示された瞬間、一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用して一気に未確認機に肉薄した。

「うおおおおおおおお!!」

一夏はまず、彩季奈を掴んでいた腕を切り飛ばした。

「俺は守る!俺が関わる人達、俺の手が届く範囲の人達を、全て!そう、決めたんだ!!」

更に、勢いを利用して胴体を一閃した。その一撃がコアをも破壊したのか、未確認機は地面に倒れたまま動かなくなった。

「終わった・・・のか?」

「周囲に他のISの反応は無し・・・って事は、作戦成功じゃない?ったく、アンタ達二人共無茶するんだから。見ているこっちがヒヤヒヤしたわよ。」

すると、彩季奈が唐突に地面に仰向けに倒れた。その表情はとても晴れやかな物だった。

「この強度、この性能、予想以上かも!まさかここまで凄いなんて、やっぱりあたしは有能かも!」

「彩季奈、アンタいきなりどうしたのよ・・・」

鈴がそんな彩季奈を見て呆れていると、管制室から通信が入った。

『あっ!やっと繋がりました・・・皆、怪我はありませんか!?』

「山田先生?はい、俺達は大丈夫です。」

『そうですか・・・大事に至らなくて良かった。それはそうと、今すぐ退避して下さい!』

「え?」

『別の未確認ISの反応が・・・かく・・・ださい・・・』

真耶からの通信に何故かノイズが入り、ついには何も聞こえなくなった。

「どうしたんだ、一体・・・」

「それよりも、別のISがどうとか言ってたわよね?全く、次から次へと・・・!」

「とにかく、やるしかないだろ。」

三人は、再びそれぞれの武器を構えた。

 

 

 

 

「二体目が来てるみたいだよ。どうするの?」

「先生達からの情報によれば、一夏君はもうシールドエネルギーが残り少ないらしいわ。他の二人もあまり期待しない方が良いわね。」

「じゃあ、私達の出番って訳なの?でも、フィールドに出るにもシャッターが閉まってるのね。」

「そこなのよね・・・これ、壊しちゃっても良いのか分からないし・・・」

三人がどうやって外に出るか話し合っている中、恵がうんざりした様な表情で声を上げた。

「全く・・・皆思い切り悪過ぎでち。結局、こうする方が一番手っ取り早いでち。」

すると、彼女は自分のISFを起動した。そして周りの者が止める間も無く、魚雷をシャッターに向けて複数発射した。派手な爆発音と共に強固なシャッターは吹き飛び、真ん中にぽっかりと穴が開いていた。

 

「恵、アンタねえ・・・」

「まあ、これで進めるようになったから、良いんじゃない?」

「ったく、仕方ない・・・先生には私が上手く言っておいてあげるから、後は自分で何とかしなさいよ。」

「恩に着るでち。」

「よーし、それじゃ出撃するの!腕が鳴るのね!」

そして、彼女達は各々の機体を展開し、フィールドに飛び降りた。

 

 

三人は困惑していた。謎の敵を倒したと思えば二体目が来るとの情報が入り、それで気を引き締め直した途端にフィールドを囲うシャッターの一つが爆発。そしてそこから出てきたのはスクール水着らしき物を着た女子生徒集団。そんなもの誰でも不審に思うだろう。しかし、彩季奈はその正体にいち早く気付き歓声を上げた。

「あっ、あれ厳弥さん達かも!おーい!」

「あ、あれって彩季奈なの?それに鈴と今話題の男性操縦者もいるの!」

「い、幾に恵!?アンタ達なんでそんな格好なのよ!?」

「なんでって、これが恵達の機体だからでち。」

それぞれがお互いに様々な反応をする中、一夏は混乱していた。

「え、えっと・・・多分先輩達、だよな?何でここに?」

「あ、貴方が一夏君ね。ここは自己紹介と行きたい所だけど、今はそんな時間は無いの。二体目は私達が排除するから、他の子と一緒に撤退しなさい。」

「そんな!俺はまだ・・・」

戦える、と言おうとした所で彼はふと思い出した。先程の戦いで、全員が多くのシールドエネルギーを消耗してしまっていた事を。

(確かに、今の状態じゃすぐにやられる・・・でも、先輩達だけで本当に大丈夫なのか!?どんな奴が出てくるか分からないのに・・・)

そんな彼の心中を察したのか、厳弥は朗らかな笑みを浮かべた。

「大丈夫だって、私達に任せときなさい。こう見えても結構強いんだから。」

その笑みは柔らかく、どこか人を安心させる力があった。

「そう、ですか・・・それじゃ、後は任せました。二人共、ここは一旦退こう。」

「了解!幾に恵、負けたら駄目なんだからね!」

「いっひひ、私達の実力を見て恐れおののくがいいのね!」

「心配しなくても、一年に後れは取らないでち。」

鈴達から少し離れた場所で、彩季奈と華の二人も声をかけ合っていた。

「おお・・・先輩達やる気まんまんかも。あの調子なら心配無さそうだね。じゃ、華も頑張って。」

「うん。はっちゃん、頑張るね。」

そして、三人が撤退した直後。空から一機の金色のISがゆっくりと降りてきた。

「来たわね・・・!伊東四姉妹の力、見せつけてやるわよ!」

「「「おー!」」」

 

 

 

 

 

『また別のISだと?しかも、未確認の?』

「ああ。先程の三人は撤退した。その代わりに、伊東姉妹達が迎撃に向かっている。」

『厳弥達か・・・彼女は日本の代表候補生らしいから、そこまで問題は無いと思うが・・・その妹達はどうなんだい?』

「そうだな。四番目はまだ分からんが、二番目と三番目はそれなりに実力はある。それに、奴等は個々の実力よりも連携を重視しているからな。それぞれの足りない部分を、それぞれが補い合っている。例え一人が多少劣っていても、奴等は何とかするだろう。」

『ほう、君がそこまで評価するとはね。分かった、そう言う事なら彼女達に任せてみよう。』

「ああ。ところで、先程少し妙な事が起きた。山田先生が奴等三人と通信をしていたのだが、そのISが学園の丁度上まで到達した時、何故か通信が途絶えてしまってな。余程高性能なジャミング装置でも搭載されているのか・・・?」

『通信が途絶える?千冬、そのISの特徴は?』

「ふむ・・・全身装甲(フルスキン)で、体全体が金色に塗装されている。そして大きな一対の翼のような物が背中にあるな・・・」

取り敢えず千冬は、見たままの感想をリボンズに伝えた。それを聞いた瞬間、モニターの中の彼の表情は驚愕に染まった。

『・・・千冬、今すぐにそのISを拡大し、よく観察してくれ。僕の予想が正しければ、それは・・・』

千冬は言われた通りに、映像を拡大して観察してみた。すると彼女の目にある物が映り、彼女もまた目を見開いた。何故なら、そのISの背部辺りからオレンジ色の光が排出されていたからだ。それは彼女にとって、良くも悪くも見覚えのある物だった。

「・・・なあ。私の目がおかしくなければ、あの機体はGN粒子と酷似している物を、背中から発生させているのだが・・・」

彼女の言葉に、リボンズはやはりか、と呟いた。

『その機体の名はアルヴァアロン・・・かなりの火力を誇る機体だ。しかも、GN粒子を使用しているようだね。恐らく、一筋縄ではいかないだろう。』

 

 

 

 

 

 

「うわっ・・・何よあのIS、全身キラッキラじゃない。」

「アレを設計した奴は、絶対ナルシストでち。うん、間違いない。」

「全部金色にする為に、どれだけのお金を使ったのか気になるのね。」

「生体反応無し・・・という事は、無人機?」

四人がそれぞれの反応を示す中、そのISは只突っ立っているだけだった。

「さて、じゃあ仕掛けましょうか。まずは小手調べとして・・・華、魚雷撃ってくれる?」

「種類は、普通の物でいい?」

「うん、只の威嚇射撃みたいな物だからそれでいいわよ。」

その答えを聞いた華は、拡張領域から一冊の厚い本を取り出した。表紙に『Torpedo』と書かれてあるそれを、彼女は広げた。

「了解・・・Fire!」

すると、その本から魚雷が数本飛び出した。それらはそのまま金色のISに突き進み、そして着弾した。しかし、その魚雷は膜の様な物に阻まれ、そのISにダメージを与える事は出来なかった。

「ちょっと、バリアとか狡くない!?」

「下々の野郎共には触らせねーよって事でちか?益々ナルシストに磨きがかかってるでち。」

「あのバリア、私のライフルの弾も防いじゃうのね。」

「じゃあ、魚雷の種類を変えてみるね。大型推進魚雷(トルピード・ブースター)、Fire!」

次に、彼女は通常の物よりも一回り大きな魚雷を射出した。それは金色のISを覆う膜に当たると推力を増し、まるでドリルの様に膜を突き破ろうとしていたが、やはり貫通は出来ずに終わった。

「ゴリ押しも駄目かぁ・・・となると、あれを突破するのは難しいわね。」

「接近戦を仕掛けてみたら?」

「無理無理。実弾である魚雷が防がれたんだから、多分タクティカルアームズも防がれるわ。」

「じゃあどうするの?このままじゃ埒が明かないのね。」

「そうねぇ・・・取り敢えず、あのバリアの効果が切れるのを待つしかないか。多分あれは、展開するのに相当のエネルギーが必要な筈。そのまま維持し続ける事は出来ないだろうしね。」

それを聞いた恵は、華にある要求をした。

「・・・華、BM魚雷を数本頼むでち。」

「いいけど・・・どうするの?」

「厳弥の言ってる事が正しいならば、あのバリアはエネルギーが切れれば消える。じゃあ、ありったけの攻撃を食らわせて、それを防御させる。エネルギーを沢山使わせて、バリアが切れる時間を早めた方がいいでち。」

そういう事なら、と彼女は要望通りに搭載している爆薬の量が通常の三倍であるBM魚雷を、恵に手渡した。

「よし。それじゃ、その鬱陶しいバリアをとっとと剥がしてやるでち。」

恵は、それらを一斉に相手に向けて撃ち出した。それらはバリアに接触した瞬間に大爆発を起こし、爆炎を上げた。バリアは二発目までは防げた様だったが、流石にその威力に耐えきれなかったのか、三発目には段々その色が薄くなっていき、遂には消失した。

「お手柄よ恵!こんなにも早く消えたって事は、まだ試作段階だったんでしょうね。でも、相手がどんな武装を持っているのかまだ分からないし、少し様子見を・・・って、普通はなるんでしょうけど、ここは敢えて突っ込むわよ!皆、用意はいい?」

「予め魚雷は補給しておいたから、大丈夫でち。」

「狙撃なら何時でもOKなのね!」

「はっちゃんは、後方支援に回るね。」

妹達の力強い返答に、厳弥は笑みを零した。

「よぉし・・・それじゃ、突撃よ!」

まず、厳弥と恵が金色のISに向かって駆け出した。そしてその勢いのまま、厳弥はタクティカルアームズを振りかざした。が、金色のISはそれを上に飛翔する事で回避した。

「っ、恵!」

「分かってるでち!」

彼女は自動的に相手を追尾するホーミング魚雷を射出した。だが、金色のISはライフルを右手に展開し、複数回トリガーを引いた。そこから発射されたオレンジ色のビームは、それに迫っていた魚雷を全て撃ち落とした。

「ビーム兵器か、中々良い武器持ってるじゃない!」

「撃って来るでち!」

魚雷を撃ち落とした金色のISは、次に彼女達にライフルを向けビームを発射したが、彼女達はそれをすんでのところで回避した。

「くっ・・・あのビーム、結構弾速が高いわね。それに、威力も高そう。」

「一発でも当たったらヤバそうでちね・・・っと!」

彼女は側面に回り、遠隔操作が可能なBT魚雷を三本撃ち出す。金色の機体はそれを撃ち落とすべく再びそれらに向けビームを放つが、BT魚雷は恵の操作によりそれを紙一重で避け、そして金色の機体の装甲に着弾した。

「当たった!でも、あんまり効いて無さそうでち。」

「アイツに少しでも接近出来たら、どうにかなるんだけど・・・あのライフルが厄介ね。」

「私に任せるのね!」

彼女達が声が聞こえた方向を見ると、幾が大型推進魚雷(トルピード・ブースター)に跨り彼女達の方向に向かって来ていた。

「要するに、あの銃を撃てなくしちゃえばいいのね?だったら・・・!」

すると、幾は大型推進魚雷(トルピード・ブースター)から飛び降り、先程持っていた物とは別の狙撃銃を構えた。

「ぶち抜いてあげるの!」

彼女がトリガーを引くと、銃口から一閃のビームが飛び出し、それが金色の機体の手にあるライフルを貫いた。貫かれたライフルは数秒後に爆散した。

「いひひっ、これで丸腰なのね!」

「わざわざここまで来た意味があったのかは分かんないけど、良くやったわ幾!後は私に任せて!」

武装を失った金色の機体はオレンジ色に光る剣を取り出し、厳弥に向かって斬りかかった。

「へえ・・・私に接近戦を挑むなんて、いい度胸してるわね!」

厳弥はそれを片方の剣で受け止め、もう片方の剣を胴体目掛けて勢い良く突き刺した。が、思ったより装甲の強度が高く、損傷は表面に穴が空いた程度だった。それを確認した彼女は、少し離れた所にいる華に向かって叫んだ。

「華、銃貸して!出来れば連射能力が高い奴!」

それを聞いた華は、「Feuerwaffe」と表紙に書いてある本を開いた。彼女はその中から一丁のピストルを取り出し、厳弥に向かって放り投げた。

「ありがと、これで決めるわ!」

それを受け取った厳弥は、素早くそれをその穴にねじ込んだ。

「覚悟なさい!その胴体に、大穴開けてやるんだから!」

そして、トリガーを引いた。何回も、何回も。一発撃つ度に金色の機体の体は大きく跳ね上がるが、彼女は引き金を引く指を止めようとはしなかった。そして・・・

「ふう・・・こんな物かしらね。」

厳弥は引き金を引く指を止め、その機体を蹴り飛ばした。金色の機体はそのまま力無く地面に倒れ、その後動かなくなった。

「うわー・・・相変わらずやる事がエグいのね。」

「アレも無人機だったらしいから、別に問題無いでち。」

「まあ、これで任務も終わった事だし、皆でおやつ食べに行こ?」

彼女達がフィールドから去った後、襲撃してきたISの残骸は教師達が回収した。

 

 

 

 

 

 

IS学園の地下室には、先程の二機の残骸が運び込まれていた。そしてそこにはリボンズ、千冬、真耶の三人がいた。

「・・・成程、この機体は粒子貯蔵タンクを使用して稼動していたのか。」

『リっくんが送ってくれたサンプルを調査してみたけど、私が造ったGNドライヴが発する粒子とは少し違うみたい。』

「つまり、あの金色の機体はお前が寄越した訳ではない、という事か?」

『まあ、そうなるね。それに、私がちーちゃんとの約束を破るわけないじゃん!』

「とにかく、この機体は僕等が預かり、然るべき処分をするよ。それで良いね、千冬?」

「ああ、それで構わない。どうせ私達が調査しても、何一つ分からん。」

『理解が早くて助かるよちーちゃん。じゃあまた後日、受け取りに行くね。それじゃ!』

そう言って、束は通信を切った。彼等の会話が終わった後、千冬は大きく息を吐いた。

「全く、忙しい奴だ・・・まだ聞きたい事は山ほどあったと言うのに、速攻で切ってしまった。」

「まあ、彼女らしいと言えば彼女らしいさ。」

苦笑する二人に、真耶はふとした疑問を投げかけた。

「そのGN粒子?という物は、確かリボンズさん達だけが所有しているんですよね?それがどうして・・・」

その問に、リボンズは首を横に降った。

「それはまだ分からないさ。少なくとも、彼女が他者にGNドライヴを明け渡したという事は無いだろう。しかしどちらにせよ、あまり好ましく無い事態が起こっているようだ・・・僕等が知らない所でね。」

それから彼等は暫くの間、重い表情をしたままだった。




さて、今回はここで機体説明といきましょう。



ISF-MS1 「伊168」
素の「伊168」を近接戦闘向けに改装した機体。装甲や外見は他の3機とそこまで差異は無いが、水上での機動力と出力は一番高く設定されてある。

ISF-MS2 「伊58」
素の「伊58」から何も改装をしておらず、全4機ある伊号の中で唯一元の性能のままで運用されている機体。とは言え、水中ではハイパーセンサーで認識されなくなる等水中での性能は高い。が、水上でとなると使用者のセンスが求められる機体である。

ISF-MS3 「伊19」
素の「伊19」を長距離狙撃向けに改装した機体。他3機と比べハイパーセンサーが強化されており、更に大規模の範囲で敵を見つけたり、高速で動く相手をより正確に撃ち抜く事が可能となっている。

ISF-MS4 「伊8」
素の「伊8」を後方支援向けに改装した機体。拡張領域(バススロット)を追加しており、多数の武器を収納出来る。更に、これ専用に開発された本の形をした特殊な武装は、拡張領域(バススロット)と繋がっており、その状況に応じた武装を的確に取り出す事が可能。


こんな感じですかね。ちなみに、作中に登場したBM魚雷やBT魚雷とかありましたが・・・

BM魚雷→爆薬増しまし魚雷
BT魚雷→ブルー・ティアーズ魚雷

これらの略です。BM魚雷の名前は最早おふざけでしかありませんが・・・まあ、良いよね。


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22. 転校生 ~再開、弟子よ~

い・・・やったあああああああああ!
今回、頑張って一カ月も経たずに終わらせましたよ!しかも、少し戦闘入りで!今の作者は、NJCのデータを手に入れた時の盟主王ぐらい喜びに打ちひしがれています!いや、本当に早く出来て良かった・・・


では、最新話です。どうぞ!


明くる日の朝、いつもの様にホームルームが始まった。

「え~と、今日はなんと転校生が来ています!では入って下さい、デュノア君。」

君?さんじゃなくて?と皆が思っていると、教室のドアが開きその転校生が姿を現した。

 

流れる様に美しい金髪。

 

ありえない程輝いている肌。

 

とても澄んだ紫色の瞳。

 

華奢な体躯。

 

そう、簡潔に纏めるならば、彼は紛うことなき美少年だった。

 

「シャルル・デュノアです。ここに僕と同じような境遇の人が居ると聞いて、フランスからやって来ました。」

 

 

「「「「きゃあああああああああああああああああ!!!!」」」」

案の定、教室内は歓喜の声に包まれた。

 

 

 

 

 

その頃食堂では、リボンズと衣恵が会話をしながら朝食を摂っていた。

「ほう、転校生か。噂には聞いていたが、まさか男性だったとは。それは生徒達もさぞ嬉しい事だろう。」

「ええ、しかもかなりのイケメンだとか。名前はシャルル・デュノア君だったかな?デュノア社の社長のお坊っちゃんですよ。でも、なーんか引っかかるんですよねぇ・・・」

「どういう事だい?」

「いや、私の姉から聞いた情報だと、確かデュノア社の社長には息子なんて居なかった筈・・・私の姉、記者なんですよ。だからそういう情報には詳しいんです。」

「成程・・・衣恵、済まないが噂の彼がどの様な人物なのか確認して来てほしい。そうだね、今頃は第一アリーナで訓練を行っている筈だ。」

「潜入捜査ですね?そういう事なら、この衣恵にお任せです。姉程ではありませんが、上手くやってみせます!」

そう言って衣恵は朝食を素早く済ませ、第一アリーナへと向かった。

 

 

 

 

彼女が第一アリーナに着いた時には、もう授業が始まっていた。

「よーし、それじゃあこれで・・・」

彼女は懐から双眼鏡を取り出し、遠目からの視察を開始した。彼女の視線の先には一組と二組の生徒達が整列しており、その前には千冬が立っていた。

「あ、いたいた。えーと、噂の彼は何処かなー・・・」

彼女が視察を続けていると、千冬がセシリアと鈴の二人を呼び出し、ISの実戦をして見せるように言った。初めはどちらも良い顔をしていなかったが、千冬が彼女等に何かを耳打ちするとその態度は一変し、意気揚々とした表情でそれぞれのISを展開した。

「うっそ、あの不満そうだった二人がああも簡単に?まあ、大方一夏君絡みの事を言われたんだろうけど・・・」

彼女がそう言いながら視察を再開しようとすると、空から何かが降ってきていた。

 

『ど、どいて下さあああああい!!』

その降下物の正体は、ISを装着した真耶だった。彼女は流星の如く、地上に向かって急降下している。しかも、それが行き着く先は・・・

 

『う、うわあああああああ!?』

一夏が避ける間も無く、真耶は彼に突っ込んだ。彼女が落下した所にはもうもうと土煙が立つ。

 

「うわー、派手にやらかしたわねぇ・・・真耶はISを展開してるからいいけど、一夏君は大丈夫なの?」

すると徐々に煙が晴れていき、彼等の状態を確認出来る程となった。皆は最初、一夏が無事な様子を見て胸を撫で下ろした。が、完全に煙が晴れた時、全員の表情が固まった。

なんと、一夏は真耶の豊満な胸を鷲掴みにしてしまっていたのだ。しかも、肝心の真耶は満更でもなさそうである。

「あちゃー・・・一夏君、それはダメでしょ。とんでもないラッキースケベね。」

一夏が慌ててその胸から手を離した後、千冬がこれから行う模擬戦について説明した。何でも、真耶と彼女達の1対2で対戦をするらしい。その事に彼女達は少し心配そうだった。

「まあ、そりゃそうか。普段のあの子頼りないからなぁ、ISを操る技量は高いんだけど。」

まあ多分勝っちゃうでしょ、と彼女は楽観視していたが、ある事に気付いた。何故か、遠目にいる千冬がこちらを直視しているのだ。

「!? 嘘、まさか気付かれた?」

彼女はハラハラしながら、最早転校生そっちのけで千冬を注意深く見ていた。すると、千冬が突如口を開き言った。

『仕方が無い。衣恵、悪いが山田先生とタッグを組んでコイツ等と模擬戦をしてやってくれ。』

(やっぱりバレてたかー・・・結構いい線行ってたと思うんだけどなぁ。)

彼女は観念して、物陰から出てアリーナに足を踏み入れた。

 

 

 

 

「は、はーいっ!衣恵さんの登場よ!」

少し引き攣った笑みを浮かべ出てきた衣恵に、千冬は話しかけた。

「すまんな、コイツ等は山田先生一人だけを相手にするのは少しご不満らしい。」

「そ、そうですか・・・真耶は結構強いんですけどねぇ。まあ、普段の感じからは分からないか。良いですよ、お相手します。二人共、宜しくね。」

「うん、宜しく。言っとくけど、今日のあたしは容赦出来ないわよ?ねえ、セシリア。」

「その通りですわね。今は無様な醜態を晒す訳にはいきませんので、覚悟してもらいますわ!」

大方一夏にいい所を見せたいのだろう、と予測した衣恵は苦笑いをした。

「千冬さん・・・やる気出させ過ぎです。」

「さて、何の事か。」

(・・・それはそうと、いつからバレてました?)ボソッ

(お前がこちらの覗き見を始めた時からだ。)ボソッ

(最初から気付いてたって・・・はぁ、まだまだ青葉には及ばないか。)

そして、彼女は自分の機体を起動した。その機体もまた風変わりな物で、セーラー服を模した物を纏っており、体にはまともな装甲が見当たらない。唯一それらしく見えるのは、背中にある軍艦の艦橋を模したバックパックだけ。そんな中、彼女が両手に持つ二つの連装砲が妙な存在感を醸し出していた。

「えっと・・・衣恵さん、それって・・・」

「え?私の機体に決まってるじゃない。」

「見た所、装甲の様な物が見当たりませんが・・・ほ、本当に大丈夫ですの?」

「この服が装甲みたいな物だから、怪我をする事はないわね。それに、これにもちゃんと絶対防御はあるわ。」

まあ、それなら・・・と納得した二人は、そのまま上空へ飛び臨戦態勢に入った。

「真耶、私は飛べないから本格的に参戦は出来ないけど、地上から援護するからね。」

「すみません、先輩。それじゃあ宜しくお願いしますね。」

そう言って真耶も飛び上がった。

「よし。衣恵は機体の特性上飛行出来ないが、遠慮なくやれよ小娘共。それでは、始め!」

千冬が勢い良く腕を振り下ろした所から、試合は始まった。

まず、セシリアと鈴は二人がかりで真耶を攻撃し始めた。

(ふぅん、まずはそれなりに腕が立ちそうな真耶を二人がかりで墜として、その後私を空からの攻撃で消耗させるって策ね?その選択は間違ってはいないけど・・・)

「お生憎、そうやすやすとそんな事させる訳がないのよね!」

衣恵は手に持った連装砲を構え、それをセシリアに向け発射した。轟音が鳴り響くと共に、二つの砲弾が勢い良くセシリアに向かう。彼女はそれを少し遅れて回避したが、その内一発の直撃を許してしまった。鈍い音がすると同時に、彼女の体が大きく仰け反った。

「きゃっ!?何ですの、この凄まじい衝撃は!!」

その砲撃の威力はビーム兵器に劣るものの、体の芯まで響く様な衝撃がセシリアを襲った。

「ふふっ、凄いでしょ?ビーム兵器は勿論、ミサイルやバズーカが直撃した時ともまた違う感じじゃない?ほら、もう一発!」

今度は両手の連装砲を構え、次々と砲撃を繰り出した。それは最早一発どころではない。

「ぐっ・・・こんな砲撃を何発も食らっては、機体は良くても私の意識が飛んでしまいますわね。それだけは避けないと!」

セシリアは苦悶の表情を浮かべながらも、砲撃の合間を縫って真耶へと攻撃していた。が、その攻撃のペースは明らかに落ちていた。

「へえ、流石は現役の代表候補生。中々やるじゃない。だけど、いつまでそれが続けられるかしらね!」

不敵な笑みを浮かべながら砲撃を行う衣恵を見て、千冬は苦笑した。

「全く・・・少しはっちゃけ過ぎだ、馬鹿者。さて、では山田先生が使用しているISを・・・デュノア、解説してみせろ。」

彼は急に話を振られたものの、落ち着いた様子で答えた。

「あ・・・はい。山田先生のISは、デュノア社製『ラファール・リヴァイブ』です。第二世代でありながら、そのスペックは初期第三世代型にも劣りません。現在配備されている量産ISの中では最後発ですが、世界第三位のシェアを誇り、装備によって格闘・射撃・防御と言った全タイプに切り替えが可能です。」

「うむ。いい説明だ。ではもう一人の方、衣恵が使用している機体についてはどうだ?」

彼はアリーナの中央で、砲撃戦を展開している衣恵を見た。

「彼女の機体は・・・詳細までは分かりませんが、恐らくインフィニット・ストラトス・フリートの内の一種でしょう。インフィニット・ストラトス・フリート、通称ISFは、日本の平賀博士を中心に開発された機体達の総称で、その全てが世界大戦時に実在した艦船をモデルとして設計されています。その特徴は通常のISと違い飛行出来ない事で、理由としては元々海上護衛の為に作られたからとも、単なる博士のこだわりとも言われています。しかし、実弾兵器に対する耐性がISよりも高い事や、携行している実弾兵器が、既存の実弾兵器の威力を上回っている等メリットも存在します。最初は日本でしか配備されていませんでしたが、ここ最近ではアメリカやドイツに技術を提供するなど、海外進出も果たしています。」

「ご苦労、見事な解説だった・・・おっと。そうこうしている内に、この戦いも終わりそうだな。」

その頃、セシリアは止めど無く続く砲撃を避ける為に、上空を右へ左へと大きく移動していた。しかし、それがいけなかった。彼女は知らない内に、少しづつ鈴との距離を縮めていたのだ。また、鈴も真耶からの攻撃を避ける度にセシリアがいる方向へとどんどん近づいていた。そして・・・

 

ガチャン!と二つのIS同士がぶつかり合い、両方の動きが止まった。真耶はグレネードランチャーを取り出し、重なり合った二機に対して一発発射した。

 

「「きゃぁぁぁぁぁぁあああ!!」」

爆煙の中から二人の悲鳴が上がり、そして二人は地上に落ちた。

 

 

「ったく、なに良いように誘導されてんのよ!」

「それは鈴さんも同じでしょう!?それに鈴さんは迂闊に突っ込み過ぎですわ!」

「なんですってぇ~!!」

二人が取っ組み合っているのを尻目に、千冬が口を開いた。

「これで諸君も、教員や学園関係者の実力は理解出来ただろう?以後はもう少し敬意を持って接するように。さて、次はグループになって実習を行ってもらう。リーダーは専用機持ちがやる事。では別れろ!」

すると、女子達はそれぞれの下に集った。多少一夏とシャルルの所に女子が集中したが、鈴とセシリアの下にもちゃんと集まったので、そのまま続けられた。

「えーと・・・私はもう帰ってもいいのかな?ていうか警備の仕事があるんだけど・・・」

「まあそう急ぐな。この際、お前もここで私達と共に生徒達のサポートをしてもらう。何、一応代わりの警備員を向かわせるよう連絡はしておいたから心配はいらん。」

「そんなぁ・・・」

衣恵は溜息を付きながらも、生徒達の指導に入った。

 

 

 

 

時刻はお昼時。リボンズは珍しくカウンターの近くと言う生徒達の目に付きやすい所で食事をしていた。更に正面に厳弥と恵、隣には幾と周りを囲まれた状態である。

「ごめんなさいね。妹達がどうしてもリヴァイブさんと話がしたいって・・・」

「恵はそんな事言ってないでち。どっちかって言ったら幾の方が言ってたでしょ。」

「んー、まあそれは否定しないのね。だってリヴァイブさんは二年生の間でも結構人気なんだから、一度話をしてみたかったの。」

「まあ、僕は別に構わないけどね。そういえば、華は何処へ行ったんだい?珍しく姿が見えないではないか。」

「華は一夏君に誘われてご飯食べに行ったから、別の所にいるわ。」

「けど一夏君が誘ったと言うより、彼に誘われた彩季奈が誘った感じだったの。」

「華とあいつ仲良いしね。ま、そうなるのもおかしくはないでち。」

「何にせよ、他者との関係を築いておいて損は無いだろう。彩季奈はいい判断をしたね。」

 

 

 

 

「・・・はっ!今誰かに褒められた気がするかも!」

「急にどうしたの、彩季奈?」

「ぁ・・・いやいや、やっぱなんでもないかも!」

丁度その頃、彩季奈と華、そしてシャルルは一夏に連れられて屋上に来ていた。既に集まっていた箒、セシリア、鈴の一夏ラブ勢は不機嫌そうだったが、皆がそれぞれの弁当を広げた頃にはその態度は一変し、途端に上機嫌になった。

(あー、あれって絶対あれかも。各自で作ってきたお弁当を一夏に食べさせてキャッキャウフフするつもりかも。あーあ。いいなぁ、青春してて。こちとら今まで恋愛事情に関しては、青い春どころか灰色の冬だったかも。)

そんな事を思いながら、彩季奈は持参した弁当をもそもそと食べ始めた。

「一夏さん。今日はたまたま早起きしましたので、こういう物を作っておきましたの。イギリスにも美味しい物がある事を納得して頂きませんとね。」

セシリアのバスケットの中には、多くのサンドウィッチがぎっしりと入っていた。

「へぇ、言うだけあって美味そうだな。それじゃ、頂くよ。」

一夏はそれを一つ取り、一口齧った。しかしそれを咀嚼した瞬間、彼の顔色が真っ青になった。

「一夏さん、どうでしょうか・・・」

セシリアが顔を赤くしながら、一夏に問う。

「ど、独創的で・・・刺激的で、な、中々美味しいよ・・・ハハ・・・」

体を小刻みに震わせながら、一夏はなんとか答えた。

「良かったですわ・・・さぁ、どんどん召し上がって下さいな!」

「あ、いや・・・後で貰うよ・・・」

その一夏の様子を見て、彩季奈はこそっと一夏に問いかけた。

(・・・美味しくなかったの?)

(さ、殺人的な味だった・・・)

(それは・・・同情するかも。)

一夏のセシリアの料理に対する感想を聞いた時、彩季奈の中に一つの興味が生まれた。

「セシリア、このサンドウィッチ一つくれるかも?」

「彩季奈さん?ええ、勿論構いませんわよ。」

彼女はセシリアから受け取ったサンドウィッチを、サランラップに包んで保管した。

(これをあの人に食べさせたらどうなるか・・・気になるかも。)

その後、一夏ラバーズが一夏と食べさせ合いをしているのを不穏なオーラを発しながら見つめる彼女であった。

 

 

 

 

 

リボンズ達が食事を終え、しばらく談笑をしていた頃。食堂に彩季奈と華が現れた。

「あれ、アンタ達もう帰ってきたの?」

「あ、皆まだここにいたの?じゃあ丁度良かったかも。 今からちょっと実験をするよ!」

「実験だと?それはどんな内容なんだい?」

それを聞いた彩季奈は、懐から一つのサンドウィッチを取り出した。

「これはセシリアが作った、一夏曰く殺人的な味のサンドウィッチかも。これを・・・金堂さんに食べさせてみるかも。」

それを聞いた厳弥は、呆れた様な表情をした。

「え~と、それって何?メシマズにメシマズが作った料理を食べさせるって事?」

「うん、そんな感じだね。」

「やめときなさいって・・・金堂さんの味覚は普通・・・の筈だし。それに、そのサンドウィッチそこまで不味いの?」

「んー・・・じゃあ、厳弥さんが食べてみる?」

そう言って差し出されたそのサンドウィッチを、厳弥は訝しげな顔をしながらも少しちぎって口に入れた。しかしその瞬間、彼女の目が大きく見開かれ、冷や汗が流れ始めた。その変わりようを心配した恵と華が声をかける。

「・・・大丈夫でちか?」

「このカフェオレ、飲む?」

そのパック入りのカフェオレを、厳弥は素早く受け取って飲み干した。

「はぁ・・・」

「厳弥さん、どうだった?」

水を得た魚の様な表情をしている厳弥に、彩季奈は問いかけた。

「・・・本気で死ぬかと思ったわ。こんなの絶対金堂さんに食べさせちゃ駄目だからね!!」

「まあまあ、見ててほしいかも。」

「あ、ちょっとコラ!」

厳弥の制止も虚しく、彩季奈はカウンターへと向かった。

「すみませーん。金堂さん、いるかもー?」

彼女が呼びかけてから少しして、食堂の奥からショートヘアの女性が現れた。

「はい、お呼びになりましたでしょうか?」

「金堂さん、お疲れ様かも!」

「あれ、彩季奈ちゃん。どうしたの?」

「実は、金堂さんに差し入れのサンドウィッチを持ってきたかも。食べる?」

「差し入れかぁ。うーん・・・気持ちは嬉しいけど、皆頑張ってるのに私だけ食べるのもなぁ・・・」

「心配しなくても、後で他の人にも渡すつもりかも。」

「そうなの?じゃあ、頂こうかな。」

彼女は彩季奈の手からそのサンドウィッチを取り、そして口に入れた。少し咀嚼した後、少し表情を歪めた。

「んー?なんか妙な味が・・・変な物でも入ってる?別に食べられなくはないんだけど・・・」

「それを作ってくれたのがセシリアだから、もしかしたら高級な食材でも入ってるのかもしれないかも。」

「なるほど、庶民には分からない味って事か・・・確かに、高級フランス料理とか行っても、私達にはその美味しさがいまいち分かんないもんね。そう考えると、この味も納得かも。」

コンドウサーン、サラアライツイカハイリマシタ-。

「あっ、はーい。彩季奈ちゃん、サンドウィッチありがとね!よーし、気合い!入れて!洗います!!」

そう言って彼女が平然と仕事に戻っていくと、彩季奈は渾身のドヤ顔で皆の下へ帰った。席では厳弥が、信じられない物を見たような目をしていた。

「嘘、でしょ・・・あのサンドウィッチを、あの名状しがたい程カオスなあの味を『妙な味』程度で済ますなんて・・・」

「ふふーん。やっぱり、メシマズにはメシマズを、ってね!彩季奈の考えはこれで証明されたかも。」

「ええ、今回はアンタの勝ちね・・・あ、華。さっきのカフェオレありがと。後で何か奢ったげるわ。」

「ほんと?じゃあブルーマウンテンコーヒー、飲みたいな。缶に入ってる奴で良いよ。」

そんなこんなで、彼等の昼は平和に過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

そしてその夜。リボンズは夜間の見回りの前に、自分の部屋で一休みをしていた。彼のベッドのすぐ近くにある机では、刀奈が黙々と生徒会の仕事をこなしていた。彼がそれを黙って見ていると、彼女が不意に口を開いた。

「そう言えば・・・知ってる?明日、もう一人一年生に転入生が来るのよ。」

「何?今日一人来たばかりではないか。」

「まあ、そんな事もあるわよ。それで、その子はドイツからの転入生なんだけど・・・」

「・・・ドイツだと?」

「ええ。ドイツの代表候補生の子。あと、シュバルツェ・ハーゼ隊の隊長も務めてるとかだったかな。」

(代表候補生で、しかもあの隊の隊長だと?レーヴェ隊長はまず無いとして・・・クラリッサ副隊長?いや、彼女ももう学校に行くような歳ではないはずだ。では、彼女(・・)か?・・・いや、まさかね。)

彼はその予想が間違っていなかった事を、次の日に知る事となる。

 

 

 

 

 

次の日のSHR。朝の教室には妙な空気が漂っていた。

「え、えっと・・・今日も嬉しいお知らせがあります。また一人、クラスにお友達が増えました・・・ドイツから来た転校生の、ラウラ・ボーデヴィッヒさんです。」

フツカレンゾクデテンコウセイ?

イクラナンデモヘンジャナイ?

「皆さん、お静かに!彼女の自己紹介はまだ終わっていませんよ!」

「・・・挨拶をしろ、ラウラ。」

「はい、織斑教官。」

彼女は咳払いをしてから、自己紹介を始めた。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。こんななりからは想像できないかもしれんが、軍人をしている。この様な学校に生徒として入るのは初めてでな、多少慣れない所もあるだろうが、宜しく頼む。・・・ん?貴様は・・・」

自己紹介を終えた彼女は、急に一夏の席の前に立った。

「貴様が、織斑 一夏だな?」

「あ、ああ・・・」

一夏が急な出来事に混乱していると、彼女は一夏の顔を覗き込んだ。

「・・・ほう、良い目をしているじゃないか。成程、これならあの方が貴様の事を気にかけるのにも納得だ。」

そう言って微笑を浮かべた彼女は、一夏が何かを言う間も無く自分の席へ向かった。

(な、何だったんだ、一体・・・)

 

 

 

 

 

その日の授業が全て終わった後。ラウラは夕焼け空の下、寮へ向かっていた。

「今日一日過ごしてはみたが・・・なんなんだここの生徒達は。ISをまるでファッションか何かと勘違いしているのか?自分達が使用しているのが兵器だと言う自覚が、まだまだ足りん様だな・・・人間的にはいい奴らが多いのだが。」

そう言いながら、彼女は空を見上げた。

「こんな極東の地の夕日も・・・美しいものだな。」

すると、後ろから誰かの話し声が聞こえてきた。彼女は最初気にも留めなかったが、その声が近付いてきてよりはっきりと聞こえる様になった時、彼女の表情は驚愕に染まった。彼女はとっさに、そこら辺にあった木の陰に隠れた。

(そんな、あの声は・・・いや、だがそれなら何故こんな所に・・・!?あの方はあの日から、何処に行ったのかも分からなかったのに・・・)

そう、こんな所に居る筈がない。そう自分に言い聞かせている彼女だったが、その心臓は意に反して鼓動を増していく。そして遂に、その声が彼女が隠れている木の前を通過した。

「いや、それにしてもあれは凄いですよ。中性的って言うんですかね、ぱっと見男の子ですけど、見ようによっては女の子にも見えるんですよ。」

「成程ね。それにしても警備の仕事があっただろうに、あの様な事を引き受けてくれて感謝するよ。」

「いや、こっちも報告するのが一日遅れちゃいましたから。これでおあいこですよ。」

その声を聞いて、彼女の中に渦巻いていた疑問が確信に変わった。

(あの声の感じ・・・あの口調、間違いない。)

彼女の心臓の鼓動が、更に加速する。 その嬉しさのあまり、彼女の目からは涙が零れ出していた。彼女は慌ててその涙を拭う。そしていてもたってもいられなくなった彼女は、思わずその声の主の下へ走り出していた。

(ああ、あの後ろ姿も・・・雰囲気も、全くお変わりない。やはりあれは・・・)

緩みそうになる表情を必死で抑え、彼女は走った。

「それじゃあ、私はここで失礼しますね。まだ警備の仕事が残ってるんですよ。」

「そうか、では頑張ってくれたまえ。」

相手の女性が何処かへ走り去ったと同時に、ラウラは息を切らしながらもその人物の下へ辿り着いた。

「ハァ、ハァ・・・お、」

上がっていた息を何とか抑え、彼女はその人物に敬礼をした。

「お久しぶりです、リボンズ教官!」

彼女は今までに無い程の可憐な笑顔を浮かべた。涙混じりのその笑顔に、その人物・・・リボンズ・アルマークは少し驚いた様だったが、直ぐに普段の笑みに変わった。しかし、その笑みはいつもより少し穏やかな物だった。

 

もうじき沈みそうな夕日が、長年ぶりの再開を果たした彼等を明るく照らしていた。




はい。今回はラウラとシャルが登場しました。そして、久しぶりの戦闘に燃え過ぎちゃう衣恵さん可愛い。

シャルル・・・ごめんね、君にISFの説明を任せてしまったよ・・・


あと、ついにその正体が分かった金堂さんですが、姿は普通の方です。改二の方ではありません。ちなみに衣恵さんは改二の方です。


さて、次回は更にラウラの出番が増えるかな。ご期待下さい。


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23. ドイツから来た少女 〜ラウラ・ボーデヴィッヒ〜

お久しぶりです・・・二ヶ月ちょいぶりの投稿でございます。皆様、大変長らくお待たせしましたァッ!!!中間テストやら学園祭やらが重なりに重なり・・・小説を書く暇が・・・でも、話的にはそれなりに進んだので、ご安心下さい。
では、どうぞ。


久方ぶりの再開を果たした彼等は、学生寮に移動していた。

「ここが君の部屋だよ。入りたまえ。」

「は。案内して頂き、恐縮です。」

部屋に入ったリボンズは、ラウラをベッドに座らせた後、部屋にあったコーヒーメーカーを使い珈琲を煎れた。

「君の分だ、飲むと良い。」

「ありがとうございます。」

彼女は珈琲を一口飲み、一息ついた。

「・・・懐かしい。」

「うん?」

「私が、貴方にIS操縦のノウハウをご指導頂いていた頃・・・貴方は訓練の後、時たまこうして、私に珈琲を注いで下さいました。それがどうも懐かしく思え・・・とにかく、またこうして教官が注いで下さった珈琲を飲む事が出来るとは、喜ばしい限りです。」

「そうだね。僕も、こんな所で君に会うとは思ってもみなかった。まさか、君がシュバルツェ・ハーゼ隊の隊長にまで登りつめていたとは・・・僕がいない間、何があったんだい?」

「貴方が任期を終えた後・・・私は、織斑教官とレーヴェ隊長より直接ご指導を受けました。あれは中々ハードな物でしたよ。今思えば隊長は、あの頃から私を次期隊長にするつもりだったのでしょう。一体何度意識を飛ばされた事か・・・」

「それはご愁傷様、としか言いようがない。それで、隊長としての仕事はどうだい?」

「そうですね・・・日々の訓練メニューを考案、会議への出席、それに隊員達のメンタルケアなど、かなり多忙な日々を送っています。」

「成程、さぞかし大変みたいだね。では隊員との仲はどうかな?」

「コミュニケーションはしっかりとっておけ、と隊長に言われていましたので・・・努力しております。」

「それはいい心掛けだ。まあ、これからも精進する事だね。」

「はい。そしてこれからもご指導ご鞭撻、宜しくお願い致します!」

それを聞くと、リボンズの表情が困った様な表情に変わった。

「? どうされましたか、教官?」

「・・・ラウラ。残念ながら、ここで僕は君を指導する事は出来ない。僕がISを使えるということを隠しているからね。」

それを聞いたラウラは、少し残念そうな表情をした。

「む、そうでしたか・・・それは残念です。」

「あと、人前で僕を本名で呼ぶのは避けてほしい。一応、ここではリヴァイブ・C・スタビティという名で通っているからね。それに、教官とも付けないでくれ。」

「なっ!?お名前の方はまだ理解出来ます。しかし、教官と呼ぶなというのは承認しかねます!私の恩師で、最も敬愛するお方を、呼び捨て又はさん付けで呼べと!?」

「落ち着きたまえ。僕は織斑 一夏の護衛をする為ここにいる、言うなれば裏方さ。しかし、君の余計な発言により、僕の素性が勘づかれてしまっては、どうなるか分かった物ではない。分かるだろう?」

「うぐ・・・分かり、ました。」

彼女は苦悶の表情をしながらも、渋々それを承諾した。

「物分りが良くて助かる。それでは、僕はこれで失礼させてもらおう。それではまた明日、ラウラ。」

彼はラウラの肩を軽く撫で、彼女の部屋を去っていった。

「・・・ふふ。全く、本当にお変わりない。」

彼女はリボンズが手を置いた箇所に、その感触を確かめる様に、自らの手を置いた。

 

 

 

 

翌日。学年別トーナメントが近づいている事もあり、多くの生徒達がアリーナで自主訓練をしていた。

そんな中に、3人の少女より指導を受けている少年、織斑 一夏はいた。

 

「いいか?こう、シュバーッとやって、ガキッとした後、ズバン、だ!」

 

「そうねえ・・・感覚よ、感覚。何となく分かるでしょ。え、分かんないですって?なんで分かんないのよ、このバカ!」

 

「いいですか?防御の時は、右半身を斜め上前方へ五度傾けますの。そして回避の時は、後方へ二十度反転ですわ。宜しくて?」

 

「・・・本音を言っていいか?お前らが何を言いたいのか全く分からん!箒は説明に擬音語ばかり使うから、結局何が言いたいのか分かんねえ!鈴は何でもかんでも感覚で済ませようとするな!そんでセシリアは、丁寧に教えてくれるのは良いけど、理論ばかりでやっぱり分からん!」

一夏の的を得ている主張に、3人はすっかり黙り込んでしまった。

「ねえ、一夏。一度白式と戦ってみたいんだけど、良いかな?」

するとそこに、シャルルがやって来た。彼は己の機体である『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』を展開していた。

「ん?ああ、勿論だよ。じゃあ、早速やろうぜ。」

「うん、ありがとう。」

 

 

 

 

一夏とシャルルの勝負は、シャルルの圧勝で終わった。

「くそっ、何で勝てねえんだ?」

「う〜ん、一夏が勝てない理由は、ただ単に射撃武器の特性を理解していないからじゃないかな?」

「一応、分かってるつもりだったけど・・・本来はどんな物なんだ?」

「そうだなあ・・・うん、口で説明するだけじゃあれだし、試しに僕の銃を撃ってみなよ。」

そう言われて武器を受け取った一夏だったが、再び疑問の声をあげた。

「あれ、他人の武器は使えないんじゃなかったのか?」

「普通はそうだね。でも、その武器の使用者がアンロックすれば使えるんだよ。」

「へえ。なんか、シャルルの説明って分かりやすいな。」

一夏はシャルルの助けを借りながら、銃を構えた。その様子を見ていた女子三人は仏頂面だった。

「ねえ、あの二人仲良すぎない?」

「フン、私の説明は聞かなかったがな。」

「何故私の理論的指導が・・・」

そんな女子達を尻目に、二人は射撃演習を続けていた。すると、フィールドの一角からどよめきが聞こえた。

 

「嘘、あれってドイツの第三世代じゃない?」

 

「未だ本国ではトライアル段階って聞いたけど・・・」

 

そこにいたのは、先日転校してきた少女、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。彼女はドイツの第三世代型ISである、『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏っていた。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・」

「ああ、アイツなの?ドイツの代表候補生って。」

ラウラはフィールドを見渡す素振りを見せ、そして一夏の方向を向いた。

「織斑 一夏、貴様も専用機を持っている様だな。ならば丁度いい、 私と戦ってもらう。」

「別に良いけど・・・なんで今なんだ?もうすぐクラスリーグ戦なんだから、その時にやればいいだろ。」

一夏は昨日の件で少し彼女に警戒心の様な物を抱いており、また彼女から発せられるただならぬ雰囲気を感じ取っていた。

「そうか・・・強引な手は使いたくなかったのだが、それならばっ!」

そう言うなり彼女は、肩に装着されたレールカノンを構え、一夏に向け発射した。

「なっ!?」

「っ!」

一夏に当たるかと思われた弾丸は、シャルルによって防がれた。

「いきなり攻撃するなんて、ドイツの人は随分と沸点が低いんだね!」

ラウラはシャルルを一瞥し、呆れたような表情を見せた。

「フランスの第二世代型如きで、この私に盾突くとはな。」

「未だ量産化の目処も立たない、ドイツの第三世代型よりかは動けると思うけどね。」

二人の間には、一触即発の空気が流れていた。しかし、その空気を打ち消すかの如く、二人の間を何かが高速で通り過ぎ、そして壁に激突した。彼らが驚いてそれが飛んできた方向を見ると、そこにはISを展開した彩季奈がいた。

「ごめーん、試作段階の大艇ちゃんが急に暴走しちゃったかも!怪我とかしてないー!?」

ひたすら謝る彼女をラウラは一瞥し、そしてISを待機状態にした。

「戦いの空気ではないな・・・仕方が無い、今日の所は退くとしよう。それでは、また別の機会にな。」

そう言い残し、彼女は去っていった。

「二人共、大丈夫?なんかちょっとした不具合があったみたいで、急発進しちゃたの。」

「幸い僕らには突撃してこなかったから、大丈夫だよ。それより彩季奈のその機体、もしかしてラファールなの?」

「うん。作った武器を目一杯積んで運用出来るように、色んな改造をしたかも。ラファールとかの量産機は元がよく出来てるから、改造もしやすいし。」

「そっかぁ・・・えへへ、なんか嬉しいな。僕の機体も、ラファールを改造した物なんだ。そうだ、後で模擬戦してみない?」

「OK!同じ改造ラファール使いとして、シャルルの機体にも結構興味あるかも!」

「ありがとう!じゃあ一夏、取り敢えず練習を続けようか。」

「あ、おう・・・でも、ホント何なんだよアイツ・・・」

一夏はそうボヤきながらも、シャルルとの訓練を続けた。

 

 

 

 

 

時は流れ夕方。ラウラは自分の部屋で、今日の事を思い返していた。

「あのラファール使い・・・奴は少々腕が立ちそうだな。だが、肝心の織斑 一夏とは一戦も出来なかった・・・残念だ。まあ、元々そこまで期待はしていないが・・・」

ラウラー、シャワーアイタヨ-

「む、そうか。今行く!」

 

 

 

 

「うん?これは・・・生徒手帳?持ち主は・・・彩季奈か。全く、仕方がない。」

その頃、寮の見回りをしていたリボンズは、彩季奈が落としたのであろう生徒手帳を見つけていた。彼は軽いため息を吐き、彼女に届けるべく歩みを進めた。

 

 

 

 

同時刻、一夏は自分の部屋にいた。シャルルは只今シャワーを浴びている最中である。

「あ、そういやボディーソープがもう切れてたな・・・」

彼は戸棚に置いてあったそれを手に取り、シャルルに渡す為バスルームの扉を開いた。

「おーいシャルル、これボディーソープの替え・・・だぞ・・・」

しかし、彼の言葉は途中で途切れた。目の前には、同時にシャワー室の扉を開けたのであろう丸裸のシャルルがいた。二人はしばしの間、互いに、顔を赤らめながら見つめあっていた。

「あ、えーっと・・・これ、ボディーソープ・・・」

「うっ、うわあああああ!!?」

羞恥心に耐えきれなくなったのか、シャルルは 胸部を腕で隠して叫び声を上げた。しかし、その行動が更なる悲劇を呼ぶ。

「大丈夫かい!?今しがた君の部屋から悲鳴が聞こえたのだが、まさか敵襲・・・では・・・」

なんと、その悲鳴を聞いて異常事態と勘違いしたリボンズが、部屋に入ってきてしまったのだ。胸部を隠しながら赤面しているシャルルを彼は二・三度見て、自分を落ち着かせるかの様に息を吐いた。

 

「・・・どうやら、お取り込み中だった様だね。僕はこれで失礼するよ。」

「待ってくれリヴァイブさん!?これは誤解だ、誤解なんだーッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

シャルルがシャワーを済ませた後、3人はベッドに腰を下ろした。

「・・・確認しよう。君がシャルル・デュノアで間違いないね?」

「うん・・・でも、それは男性の格好をしていた時の名前で、本当はシャルロット、って言うんだ。」

「シャルル・・・なんで、変装なんてしてたんだ?」

「これは・・・実の父、言うなれば社長からの命令でね。ああ、でも僕は父の本妻の子供じゃないんだ。」

「なっ・・・」

それを聞いた一夏は、驚愕の表情を見せた。

「僕のお母さん・・・父の愛人が亡くなった後、デュノア社の人が迎えに来た。父と本妻の間には子供が生まれなかったから、だから僕をデュノア社の次期跡取りにしようって思ったんだろうね。そして色々と調べていく内に、僕のIS適性が高いことが分かったんだ。それから僕は、非公式のテストパイロットをしていてね。でも、それから・・・会社が経営危機に陥ったんだ。」

「経営危機?でも、デュノア社製の量産機は世界シェア率が第三位の筈じゃなかったか?」

「それはそうだけど・・・でも、結局リヴァイブは第二世代型だから・・・今のISの開発主流は第三世代型になって来てるし。」

「・・・ふむ。 会社の抱えている問題から見るに、君が男装までしてここに潜入した理由は・・・成程、予想は出来たよ。」

「え、リヴァイブさんはもう分かったのか?俺はまだ分からないんだが・・・」

「簡単な事さ。彼女がこの学園に派遣された理由・・・さしずめ、自社から二人目の男性操縦者が出たと発表し、世間の注目を再び向けさせる事と、君の機体データの入手。同じ男として接すれば、それがやりやすいと考えたんだろう。」

「凄いね、リヴァイブさん・・・そこまで分かるんだ。そう、僕に課せられた指示は、まさにその二つだったんだ。だけど・・・」

彼女は更に俯き、暗い表情を無理矢理歪ませる様に自嘲をした。

「こうしてバレちゃったから・・・その内僕は、本国に強制送還になる。そこから後は・・・多分、無事では済まないかな。良くても牢屋入りは免れないかも。ごめんね一夏、今まで騙してて・・・」

それを聞いた一夏は黙り込んだが、突如として立ち上がった。

「本当に・・・本当にそれで良いのか、シャルル!?」

「い、一夏?どうしたのさ急に・・・」

「親がいなきゃ子供は生まれない、それはそうだ!けど、だからと言って子供の運命まで決めて良い訳じゃない!!お前はそれで良いのか!?」

「え・・・?」

「親の命令でこんな事させられて、挙句の果てには牢屋行きなんて・・・シャルルは、本当にこのままで良いのかよ!?納得してんのかよ!?」

そう言われたシャルロットは、苦しげな表情を浮かべた。

「っ・・・納得してるわけ、ないじゃないか。出来る事なら、もっと皆と・・・一夏と、一緒に居たいよ!!でも、それは多分父が許さない。それに僕は今まで、皆を騙して来たんだ。今更そんな事・・・」

再び俯いてしまった彼女に、リボンズが声をかけた。

「・・・では、この際決断してしまえば良い。このまま自分の理不尽な運命に、悲観しながらも従うか、それとも抗うかをね。別に君がどちらを選ぼうと、僕は責めはしないよ。」

横にいる一夏から少し非難する様な視線を受けたが、それを気にせず彼は少し間を置き、再び口を開いた。

 

「さあ選びたまえ、決めたまえ。その自由は君だけの物だ。君の親も生まれも関係なく、君自身のみにある。」

 

「・・・僕、ここにいても良いの?」

「先程も言った様に、これは君の気持ちの問題だ。善し悪しの問題ではない。・・・それに」

彼は一度一夏に視線を向け、言葉を続けた。

「君の目の前にいる彼は、君が何であっても受け入れると思うけどね。」

シャルロットが驚いた様に顔を上げると、そこにいる一夏は少し照れ臭そうに笑っていた。

「えーと・・・シャルル、お前はここに居たいんだろ?だったら居れば良いじゃないか。お前がIS学園にいる内は、親父さんは手出しが出来ない。IS学園における生徒者は在学中において、あらゆる国家・団体・組織に帰属しない。特記事項にもそう書いてある。」

一夏はシャルロットの肩に手を置いた。

「つまりここにいる三年間は、シャルルの身の安全は保証されてるってわけだ。その間に、どう問題を解決するか考えれば良い。だから・・・ここにいてくれ。こんな形で別れるだなんて、言うなよな。」

そう言った一夏の姿は、シャルロットの目にはどの様に映っていたのだろうか。だが少なくとも、一夏の言葉を聞いた彼女の表情は、今までとはまるで違う、晴れやかな笑顔に変わっていた。

「本当に・・・本当にありがとう、一夏!!」

「おう!じゃあこれからも宜しくな、シャルル!」

すると、彼女の表情が少し不機嫌な物になった。

「・・・シャル。せっかくだからシャルって呼んでよ。本名を明かした以上、偽名を使う意味も無いんだから。」

「ああ、それもそうだな。んじゃ改めて、宜しくな、シャル。」

「うん!宜しくね、一夏!」

 

 

この問題はこれにて一件落着かと思われた。が、唐突に部屋のドアがノックされ、彼等に緊張が奔った。

「一夏さん、いらして?」

「せ、セシリア!?」

「シャル、隠れてろ!」

「う、うん。でも、どこに隠れれば・・・」

「仮病を使うんだ、シャルロット・デュノア。その場凌ぎにはなるだろう。」

「一夏さん?入りますわよ。」

リボンズの指示通りにシャルが布団にくるまった瞬間に、ドアが開いた。

「あら一夏さん、いらしたのですね。しかし、リヴァイブさんもいらしたの?」

「僕はシャルル・デュノアの調子が宜しくないと聞いたから、様子を見に来た所さ。」

「まあ、そうでしたの。シャルルさんは大丈夫でして?」

「う、うん・・・ちょっとだるいけど、大丈夫かな・・・」

「それはなによりですわ。お体は大事になさって下さいな。」

「そういや、セシリアの用事はなんなんだ?」

「いえ、折角ですから、ご一緒に夕食でも、と思っていたのですが・・・」

「ああー・・・行きたいんだけど、シャルルを看なきゃなんないからなぁ。」

「ですわよね・・・まあ、仕方ありませんわ。」

彼女が口では軽く言っているものの、実際にはかなり残念そうな表情をしている事にリボンズは気付いた。

「・・・では、彼はその間僕が看ておこう。君達は食堂に行って来るといい。」

「リヴァイブさん!でも、良いのかよ?」

「何、たかが数十分程待つだけだ。ついでに、彼に食べさせる物を持ってきてくれ。」

「分かった!シャルルの事、宜しくな!じゃあ行くか、セシリア。」

「はい!」

セシリアは部屋を出る際、リボンズに対して深くお辞儀をして出ていった。

「・・・もう出てきても構わないよ、シャルロット・デュノア。」

それを聞き、シャルロットはベッドの中からのそのそと這い出てきた。

「ありがとう、リヴァイブさん。上手く口を効かせてくれて。」

「礼には及ばないさ。それより、謝るのは僕の方かもしれないな。」

それを聞いたシャルロットは、不思議そうな顔をした。

「どうして?リヴァイブさんは僕に対して何もしてないし、むしろ一夏と一緒に僕を助けてくれたのに?」

「いや、折角の彼と君の二人きりの時間を潰してしまったか、と思ってね。君は彼に対して好意を抱いているのだろう?」

意地悪い笑みを浮かべながら問う彼に対し、シャルロットは赤面した。

「そっ、そんな事・・・ないよ!?」

「素直になりたまえ。君が彼を少なからずは好いているのは一目瞭然だ。」

「う、うう・・・そんなに分かりやすいかなぁ・・・」

「少し鋭い者なら分かるくらいにはね。それより、君は本当にこれで良かったのかい?・・・まあ、答えは分かりきっているがね。」

「うん。僕は一夏や皆と、もっと一緒に居たい。もっと皆と喋ったり、遊びに行ったりしてみたいんだ。」

「それは良い。今の内しか味わえない青春を満喫しておきたまえ。」

「うん・・・ありがとう。」

その後、一夏が来るまで少し今後について語り合った二人であった。

 

 

 

 

次の日の朝、学校中ではとある噂が流れ、生徒達を賑わせていた。

「ねえ恵、聞いた聞いた?」

「ん?聞いたって、何をでち?」

「学年別トーナメントで優勝したら、織斑君やデュノアくん、あとリヴァイブさんの内誰か一人と付き合えるんだって!!」

そのあまりにも突拍子もない話に、恵は目を見張った。

「・・・は?いや、流石にそれは・・・てか、なんでリヴァイブさんまで巻き込まれてるんでちか・・・」

「さあ?でも可能性があるなら、私も頑張っちゃおうかな!」

「はぁ・・・まぁ、頑張って。」

「うん!恵も頑張りなよ!」

そう言って他の所に行った級友を見送り、彼女は軽くため息を吐いた。

「そもそも、私達とは学年が違うんだけど・・・ま、どーせろくな事にならないでち。」

 

 

 

 

鈴は学年別トーナメントの為、アリーナへ自主練をしに来ていた。

「ふぅ、私が一番乗りか。」

「あら、鈴さんではありませんの。」

すると、同じくアリーナに来たセシリアより声をかけられた。

「アンタも、トーナメントに向けた特訓?」

「ええ。そういう鈴さんもですか?」

「当ったり前よ、優勝に向けてね。」

「私も全く同じですわ。」

「むっ・・・そうねぇ、この際どっちが上か、この場ではっきりさせるってのも悪くないんじゃない?」

「ふふっ、宜しくってよ。どちらがより強く優雅であるか、この場で決着をつけて差し上げますわ。」

「まっ、私が勝つのは目に見えてるけどね!」

「弱い犬程よく吠えると言いますけど、本当ですわね。自分が上とわざわざ大きく見せようとする、典型的な例ですもの。」

「なっ・・・その言葉、そっくりそのまま返してやるわよ!!!」

両者はISを展開し、互いに睨み合った。そして鈴は双天牙月を構えて突撃しようとした。が、

 

 

ドッ!

 

 

突如、二人の間に砲撃が撃ち込まれ、爆発が起きた。二人が弾丸が飛んできた方向を見ると、そこには黒いISを纏った少女が佇んでいた。

「ふむ。イギリスのブルー・ティアーズ、そして中国の甲龍か。データ上の情報で見た方が強そうに見えるな。」

カチンと来た二人は、思わず言い返した。

「何、アンタ?馬鹿にしてるわけ?」

「鈴さん、この方は共通言語が通じない様ですわよ。あまり虐めるのも可哀想ではなくて?」

そんな二人を見て、ラウラは冷笑を浮かべた。

「ふん、数だけしか取り柄が無い国と、只の骨董品に有り余る程の価値を見出す国は、どうやら余程人材不足と見える。」

その挑発に、更に額に青筋を浮かべる二人は、今にも怒りが爆発しそうな状態にある。

「ほう、やるか?良いぞ、私は一向に構わん。まあ、私はあんな腑抜けを取り合う様な女には負けんがな。」

その瞬間、二人の中で何かが切れた。

「祖国のみならず、この場にいない人に対する侮辱まで・・・!許せませんわ!!」

「コイツッ・・・!ぶっ飛ばす!!」

こちらへ突撃してくる二人に対し、余裕そうな表情をラウラは見せた。

「良いだろう。我がドイツの力を見せつけてやる、歌の様にな!!」

 

 

 

ネエネエ、イマアリーナデ、ダイヒョウコウホセイガモギセンシテルラシイヨ。シカモ、ニタイイチデ。

ホント!?ハヤクシナイトオワッチャウカモシレナイシ、イコ!

「代表候補生?て事は、セシリアと鈴か?」

「でも三人って事は・・・ボーデヴィッヒさんも?」

「・・・なんか、嫌な予感がする。俺達も行こう。」

彼等は少し急いでアリーナへ向かった。

 

 

 

「どうした、その程度か!?これではドイツの人間である私が、英国人である貴様を嘲笑う事になるぞ!」

その頃アリーナでは、一方的な展開が続いていた。いや、最早これは蹂躙と言った方が正しいのかもしれない。彼女はワイヤーブレードやAICを巧みに使用して、二人に攻撃を加え続けている。しかし、相手には攻撃させる暇を与えないでいた。

「・・・ふん、本当に不甲斐ない。まさかここまで弱いとはな。一応私と同じ代表候補生なのだから、少しは楽しめると思ったのだが・・・期待外れだな。貴様等、それでも代表候補生か?恥を知れ。」

しばらく続けた後、最早彼女等には興味が失せたのか、ラウラから闘争心は完全に消えていた。彼女は早く戦いを終わらせようと、肩にあるレールカノンを彼女達に対して構えた。だが、それが発射される事はなかった。何故なら・・・

 

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」

激昂した一夏が白式を用いてアリーナのシールドを破り、ラウラに向かって突撃して来たのだ。

「織斑 一夏・・・?まさか、貴様自ら来てくれるとはな!正直予想外だったが、丁度いい。貴様の実力を測ってやる!!」

ラウラは二人を乱雑に投げ捨て、一夏の方に体を向けた。

「どうしてここまで!?二人にはもう戦う力は残ってなかっただろ!?」

「奴等には代表候補生の座に伴う実力が無かった。それを奴等に思い知らせただけだ!!」

「ッ、この野郎ォ!」

一夏はラウラに斬りかかった。が、ラウラのAICにより、その行動を妨げられた。

「クソ、体が!?」

「感情的で、直線的な動き。成程、使い時によっては良い結果になるかもしれん。が、今の貴様が使っても的になるだけだ!!」

そう言うなり彼女は、肩のレールカノンを稼動させ、一夏に向けた。

「結局は貴様も、私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では有象無象の一つにしか過ぎなかったか・・・ならもう用は無い、消えろ。」

しかし、彼等の間に弾丸の雨が降り注いだ。それがラウラの集中を乱した事で、一夏はなんとかAICの拘束から逃れる事が出来た。

「チッ、デュノアか。」

ラウラは降り注ぐ弾丸を、右へ左へと移動して避けた。

ラウラがシャルの相手をしている間に、一夏は横たわっている二人を回収した。

「おいお前等、大丈夫か!?」

「い、一夏・・・」

「無様な姿をお見せしました・・・」

「良かった、意識はあるみたいだな。」

その頃、ラウラはワイヤーブレードを用いてシャルを捕らえる事に成功していた。

「フ。ようやく捕まえたぞ、カトンボが。」

シャルはそれでも、諦めずにアサルトライフルをラウラに向け連射する 。だが、それもAICによって防がれてしまった。

「面白い。貴様に世代差という物を見せつけてやろう。」

ラウラはプラズマ手刀を展開し、シャルに斬りかかった。しかし、

 

ガン!ガン!ガン!

「何!?くっ・・・!」

突如、ラウラに向け三発の弾丸が放たれた。彼女はそれを避けるため、AICを解除する事を余儀なくされた。

「初めまして、ね。 私も一応、日本の代表候補生なんだけど・・・やり合ってみる?現役軍人の候補生さん。」

その声の主を見たラウラは、ほんの一瞬だが戦慄を覚えた。

(これ程の殺気・・・一般人に出せる物なのか!?)

「・・・貴様、何者だ?」

「私?私は伊東 厳弥。そういう貴方はラウラ・ボーデヴィッヒちゃんだっけ?」

(・・・コイツは、強い!!)

彼女はシャルを遠くに投げ捨てると、肩のレールカノンを、彼女に向け発射した。

「攻撃してきたって事は、勝負を受けるって事で良いのよね?だったら・・・」

彼女はハンドガンを拡張領域に収納し、タクティカルアームズ0を展開した。

「精一杯、相手してあげる!!」

そして、高速で向かって来た弾丸を、虫を叩くかの様に振り払った。

「ほう・・・!ならば、これならどうだ?」

彼女は全てのワイヤーブレードを、厳弥に向け射出した。

「ふぅん、これでセシリアちゃんや鈴ちゃんをボコしてたってわけね。確かに、厄介な武装だけど・・・」

彼女は再びハンドガンを展開した。そしてワイヤーブレードの猛攻を掻い潜りつつ、それらを一つ一つ破壊していった。

「軌道さえ読んでしまえば、こっちのもんよ!」

やがて全てのワイヤーブレードを破壊した彼女は、ラウラに向かって走り出した。

「まさか、全て破壊するとはな・・・しかし!」

ラウラは真っ直ぐ向かってくる彼女に、レールカノンを次々と発射した。

「そんな物、避けるまでもないわ!」

タクティカルアームズ0を展開した彼女は、それをX時にクロスさせ、目の前に構えた。それが盾として機能し、彼女は砲撃をものともせず走り続けた。

「そこよっ!」

すると彼女は、何を思ったのか片方のタクティカルアームズを投合した。

「武器を投げ付けるとは、血迷ったか!」

ラウラはそれをプラズマ手刀を用いて弾いた。しかし、その隙に厳弥はすぐそこまで近づいていた。

「はぁぁぁぁ!!」

残った片方のタクティカルアームズで、厳弥は斬りかかる。しかし、そこはAICの間合いでもあった。

「フッ、馬鹿め!!」

にやりと笑ったラウラは、即座にAICを展開した。厳弥の腕が、あと数センチの所で止まる。

「あー・・・これの存在すっかり忘れてたわ。」

ラウラはレールカノンの砲塔を改めて厳弥に向けた。

「確かに、貴様は他の有象無象とはかなり違う様だ・・・しかし、やはりこの停止結界の前では無力も同然だ!」

「う、撃たないで・・・なーんちゃって。」

「何・・・ッ!?」

レールカノンを放とうとしたラウラだったが、それは彼女の背後から迫る魚雷によって阻まれた。彼女は投げつけたタクティカルアームズにラウラが気を取られている隙に、ホーミング魚雷をラウラの背後から襲い掛かるように投げていたのだ。

「くっ、当たるか!!」

ラウラは機体の高度を上げ、魚雷の追撃を躱した。魚雷はそのまま地面に着弾し、爆発を起こした。

「・・・煙に紛れたか。奴は何処にいる・・・?」

煙が薄れつつある中、彼女は静かに警戒していた。すると、後ろから接近してくる物体がレーダーに映った。ラウラはそれをAICで止めたが、それは厳弥ではなかった。

「また魚雷・・・ッ、まさか!?」

ラウラが後ろを振り向くと、タクティカルアームズを振り上げた厳弥がいた。

 

「知らなかった?奇襲は潜水艦の十八番なのよ。」

「く・・・おのれぇぇぇ!!」

急ぎプラズマ手刀を展開し、彼女は反撃を試みた。だが、

 

ガギィン!!

「全く・・・これだから、餓鬼の相手は疲れる。」

そこには、両手に1本ずつ持つ打鉄の刀で、二人の武器を受け止めている千冬がいた。

「お、織斑教官!?」

「織斑先生、相変わらず凄い事しますねぇ・・・ISの武器を生身で二本持つとか、人間じゃないでしょ?」

「何か言ったか、伊東長女?」

「イエ、何デモナイデス。」

ギロと睨まれた厳弥は、思わず片言になってしまった。

両者が武器を収めたのを確認した千冬は、再び口を開いた。

「模擬戦をやるのは結構だ。だが、アリーナのバリアまで破壊される事態になられては、教師として黙認しかねる。・・・織斑、貴様の事だぞ?」

「あ、ああ。すみません・・・」

一夏の返答を聞いた千冬は、一先ず表情を元に戻した。

「この決着は、学年別トーナメントでつけてもらう。まあ、伊東長女とボーデヴィッヒは学年に差がある故、戦う事は出来んが・・・異論は無いな?」

「・・・織斑教官がそう仰るなら。」

「まあ、私は半分勢いで乱入しただけだしね。私もOKです。」

「よし。織斑・デュノアもそれで良いな?」

「あ、はい。」

「僕も、それで構いません。」

「よろしい。では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

ラウラと千冬が去った後、厳弥はふぅと息を吐いた。

「取り敢えず、そこの子達を保健室に運ばないとね。私が一人運ぼうか?」

「いやいや、大丈夫ですって。今回ばかりは俺達に任せて下さい。」

 

 

 

 

 

 

保健室

「別に、助けてくれなくても良かったのに・・・」

「あのまま続けていれば、間違いなく勝っていましたわ。」

「なーに強がっちゃってるの。貴方達、ISが強制解除される位ボッコボコにされてたじゃない。 」

「そうだよ。あれだけ無理しちゃって・・・二人共、好きな人の前で負けちゃったから恥ずかしいんだよね?」ボソッ

シャルがそう囁いた瞬間、二人の顔がポッと赤くなった。

「べべべ別に、そんなんじゃないんだからね!!」

「そ、そうですわ!ただ、女のプライドを侮辱されたと言いますか・・・」

「女のプライド・・・?何だそれ?」

「・・・ああ!もしかして、一夏の・・・」

と、その先を言おうとしたシャルを、二人は必死に止めに入った。

「アンタってホント一言多いわね!!」

「本当ですわ!!」

「おいおい、止めろって。二人共怪我人だろ?その癖にさっきから動き過ぎだぞ。」

一夏は鈴とセシリアの肩に手を置いた。すると二人は痛みから悶え始めた。

「ほら、やっぱり痛いんじゃないか。馬鹿だなぁ、だから休んでろって。」

「なっ、馬鹿って何よ馬鹿って!?この馬鹿ぁ!」

「一夏さんこそ、大馬鹿ですわ!」

「バーカ!バーカ!バーカ!」

「お前等、ホントなんなんだよ・・・」

すると、ゴゴゴゴと地面が震えた。何事かと彼等が思っていると、保健室のドアが勢い良く開け放たれると同時に、多数の女子生徒が一夏達の下に押し寄せた。

「な、なんなんだ?」

「み、皆・・・どうしたの?」

「「「「「「これ!!」」」」」」

女子生徒達は、一斉に一枚の紙を取り出した。

「えーと・・・今月開催される学年別トーナメントは、より実践的な模擬戦闘を行う為、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた者との組み合わせとなる。締切は・・・」

「兎に角!私と組もう、織斑君!!」

「私と組んで、デュノア君!!」

困ってしまった一夏は、ある手段を思いついた。

「えーと・・・悪い!俺はシャルルと組むから、諦めてくれ!」

そう言った瞬間、それなら仕方ない・・・と女子が一斉に去っていった。ふぅ、と一夏が息を吐くのも束の間、鈴とセシリアが彼に迫った。

「あたしと組みなさいよ、一夏!幼馴染みでしょうが!」

「いえ!クラスメイトとして、ここは私と!」

すると、厳弥が思い出したかの様に口を開いた。

「あっ、そうそう。貴方達のIS、ダメージレベルがC以上だから、トーナメントの参加は許可出来ない、って山田先生が言ってたわよ。」

「そんな、あたしはまだ戦えるのに!」

「私も、納得いきませんわ!」

それを聞いた厳弥は、呆れた表情を見せた。

「はぁ・・・あのねぇ、半端な修繕でトーナメントに出たって、絶対良い結果は出ないわよ。それに、後々致命的な欠陥が出るかもしれないし。分かってんでしょ?だから今は大人しく、修繕に専念させときなさい。」

厳弥が二人を諭す様に言うと、二人は押し黙った。そして、彼女等は一夏達の方に向き直った。

「アンタ達、絶対に優勝すんのよ!!良い!?」

「私達の分まで頑張って下さいな。心から応援致しますわ!」

「お、おう!任せとけ!」

「ありがとう、二人共。気持ちに応えられるよう、頑張るよ。」

そんな彼等を尻目に、厳弥は一人しみじみと呟いた。

「うーん、青春ねぇ。」

 

 

 

 

その夜。ラウラはトーナメントの事について考えていた。

(トーナメントでは、何としても勝たねば・・・ここにリボンズ教官がいらっしゃると分かった今、あの方の前で負ける事など許されん。)

「きっと、織斑 一夏とシャルル・デュノアは勝ち進むだろう・・・手加減は出来んな。」

彼女は、トーナメントで何としても優勝する事を心に誓った。

 

 

 

 

そして、トーナメント当日。一夏とシャルは、控え室で着替えを済ませていた。

「へぇ・・・しかし、すげぇなこりゃ。」

一夏は、備えてあるモニターに映る重役達を見て言った。

「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね。」

「へぇ、そりゃご苦労な事だ。」

「・・・一夏は、ボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね。」

「ん?ああ・・・まあな。」

「あまり感情的になっちゃダメだよ。ボーデヴィッヒさんは恐らく、一年の中では現時点最強。下手に突っ込んだら、今までの練習の成果が無駄になっちゃうかもしれないから。」

「ああ、それは分かってるさ。」

そして、モニターにトーナメントのマッチングが表示された。

「対戦相手が決まったみたい・・・って、えぇ!?」

「どうしたんだ・・・って、マジかよ!?」

目の前のモニターには、こう記されていた。

 

 

『第一試合[織斑 一夏&シャルル・デュノア]VS[ラウラ・ボーデヴィッヒ&伊東 華]』

 




彩季奈がアサルトシュラウドの改造そっちのけで作ってる大艇ちゃんですが、その機能の紹介はまた後ほど紹介致します。

それと、厳弥がタクティカルアームズを使ってレールカノンを防いだ方法ですが、エクバのイフリート改の特射をイメージとしています。

そして、ラウラが言ってた歌は、「イングランドの歌」です。「イギリス掃討歌」とも言うのかな?作者的にはあの猛々しい男達の声も好きなのですが、ルナマリアの中の人が歌ってる方も好きですね。


というわけで、次回は学年別トーナメント回でございます。次は・・・なるべく早く・・・しなきゃ・・・


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24. 暴走 ~À mon seul désir~

よし!なんとか二ヶ月を切らずに済んだ!というわけで、最新話です。今回は約八割戦闘、約二割が会話という構成です。少しキャラ崩壊があるかもしれませんが、ご了承ください・・・


では、どうぞ!


ラウラがモニターを見ていると、ある一人の生徒が遠慮がちに声をかけてきた。

「あの・・・貴方がボーデヴィッヒさん、だよね?」

「うん?ああ、如何にも私がそうだが。このタイミングで話掛けてくると言う事は、貴様が伊東 華とやらか?」

「う、うん。宜しく・・・ね。」

ラウラの放つ雰囲気に、彼女は少し気圧されている様だった。

「・・・そう緊張するな、過度な緊張感はコンディションを悪くする。それに私と貴様は、今日一日はパートナーなのだからな。そう警戒しないでくれ。」

「え・・・ああ、うん。ごめんね。」

華は未だ彼女に対する畏怖を拭い切れなかったが、少なくともラウラが悪い人間ではない、という事を理解した。

「そうだ、貴様に頼みたい事があるのだが、良いか?」

「・・・何?」

「私は織斑 一夏と決着を付けたい。だが、奴の相方であるデュノアが、そう簡単にはやらせてくれないだろう。だから、貴様に奴の足止めを頼みたい。まあ、出来るのならば倒してしまっても構わんが・・・」

(足止め・・・今まで厳弥や恵、幾が居たから何とかなったけど・・・私一人で、出来るかな・・・?)

彼女は少し迷ったものの、その迷いをすぐに振り切った。

(私も、少しは一人でも戦えるようにならないと・・・!)

「うん。私の機体は後方支援向きだけど、やってみるね。」

「すまんな。私も、隙を見つけては援護しよう。」

「Danke。でも、大丈夫だよ。ラウラさんは、織斑君との戦いに集中してて。」

「む、そうか・・・承知した。期待しているぞ。」

「・・・うん!」

 

 

 

 

 

「まさか、一番最初から彼女と当たるなんてね・・・」

「あと、この相方の子も気になる。伊東 華・・・確か、あの金髪で眼鏡を掛けた子だったっけ?この前皆で一緒に飯を食った時にいた・・・」

「うん、その子で間違いないよ。でも、彼女がどんな機体を所持しているか分からない以上、油断しないに越した事はないね。」

「ああ、油断は禁物だな。でも、そこさえ気をつければ、俺達が勝てる可能性も出てくる。何しろ、タッグでの連携の熟練度は、俺達の方が上の筈だからな。」

「確かに、彼女が率先してパートナーを選んだとは思えない。恐らく抽選で選ばれたタッグだろうから、連携も僕等に比べれば、そこまで確立されていないと思う。そこに勝機があるんじゃないかな?」

「おう。それじゃ、そろそろ行くか。アイツに、俺達の特訓の成果を見せつけてやろうぜ!」

「うん!頑張ろうね、一夏!」

 

 

 

数分後、両方のチームがアリーナに集まった。

「まさか、一戦目から当たるとはな。これで待つ暇も省けたと言うものだ。」

「そりゃあ何よりだ。俺も同じ気持ちだからな。」

「ほう?その面構え、余程自信がある様だな。」

「そりゃあ、この日の為に散々特訓してきたしな。それに、どんな時でも戦意を・・・自信を持てって、リヴァイブさんに教えてもらった。」

「・・・成程、それは結構な事だ。さて、では・・・準備は良いな?」

「ああ・・・」

『試合開始、3秒前。2、1...』

「「叩きのめす!!!」」

試合開始のブザーが鳴ると同時に、一夏がラウラに急速接近し、雪片弐型を振り下ろした。しかし、ラウラは即座にAICを発動させ、一夏の動きを止めてみせた。

「開幕直後の先制攻撃、単純ですぐに読めたぞ。前回から何も学んでいないのか?」

「そりゃどうも、以心伝心で何よりだ。」

ラウラはレールカノンを一夏に向け、発射しようとした。しかし、

「やらせないよ!!」

一夏の後ろから現れたシャルが、ラウラに向けマシンガンを放った。

「やはりそう来るか・・・伊東、奴は任せるぞ!」

「うん!」

ラウラの後ろからも華が飛び出し、シャルに向け魚雷を数本放った。

「くっ、伊東さんか・・・」

「デュノア君、ごめんね。行かせる訳には、いかないの・・・!」

迫る魚雷を、シャルはマシンガンを使って撃ち落とした。

「なら・・・意地でも通させてもらうよ!!」

シャルが、華に向けマシンガンをばらまく。だが彼女は、それを地走する事で回避した。

「おっと・・・案外速いな。でも!」

シャルは華が走る先に向け予測射撃をした。すると、華の周囲を浮遊していた本が一斉に閉じ、彼女を弾丸から守る様に集まった。そしてそれらに着弾したものの、本の表紙には傷一つ付いていなかった。

「この本は、シールドビットとしても使えるの・・・!そう簡単に、やられないんだから!」

再び本が開き、そこからBT魚雷が放たれる。そして、別の本から現れたガトリング砲を、彼女は構えた。

「よく狙って・・・Feuer!」

ドドドドド!という轟音を発生させながら、高スピードで弾丸が射出される。

「凄い弾幕だね・・・でも、回避出来ない程じゃない!」

シャルは不規則に動くBT魚雷を破壊しつつ、ガトリング砲から発射される弾幕を回避した。

「やっぱり・・・当てずらい、これ・・・!」

「これで終わりなの?じゃあ、今度は僕から行かせてもらうね!」

マシンガンをもう一丁取り出したシャルは、二つの銃口を華に向けた。

 

 

 

 

その頃管制室では、リボンズ・千冬・真那が試合を観戦していた。

「デュノア君、先に伊東さんを倒すつもりでしょうか?」

「賢明な判断だ。伊東四女の機体は後方支援向き、なので下手に野放しにして織斑の方に向かえば、間違いなく圧倒的物量をもって後ろから突かれる。それに奴自体、デュノアに比べればまだまだ経験不足だからな。倒せる敵はさっさと片付けてしまった方が良い。」

「確かに、その様だね。彼女自身、タイマンでの戦闘はあまり得意ではない様に見受けられる。」

画面には、シャルに押され気味な華の姿が映し出されていた。

「それにしても、織斑君・・・デュノア君の援護があるのを踏まえても、よくあのボーデヴィッヒさんと渡り合えますね・・・」

「実際、デュノアの存在が大きいだろう。遠方からでも織斑の援護が出来る程の余裕と技量が、今の奴にはある。」

「それを警戒して、今の所はそこまで踏み込んでいない、と言う事か。君やレーヴェ隊長の影響を受けて、血気盛んになったり、無闇矢鱈に突っ込む様になっていたらどうしようかと思っていたが・・・杞憂に終わって良かったよ。」

「おい貴様・・・それはどういう意味だ?」

「おや、聞きたいかい?フフフ・・・」

「ほう・・・」

「ちょ、ちょっとお二人共!ボーデヴィッヒさんが何かしそうな感じですよ!あと管制室で喧嘩しないでください!!」

 

 

 

 

その頃、華は防戦一方の状態に陥っていた。時折BT魚雷を発射して、シャルの死角からの攻撃を試みるも、焦りから集中力を欠いている彼女が操作するそれ等、最早只の的でしかなかった。

「そこだっ!」

シャルは華の隙を突いて、アサルトライフルを連射し、彼女に直撃させた。

「きゃっ!エネルギーが・・・」

それにより、装甲の薄い彼女の機体は、シールドエネルギーの内四割を持っていかれてしまった。

(このままじゃ・・・なんにも出来ないまま、やられちゃう・・・やっぱり、はっちゃんじゃ無理だったのかな・・・?)

華が諦めかけたその時、ラウラのワイヤーブレードが彼女の胴体に巻きついた。

「ら、ラウラさん!?」

「む、驚かせてしまったか。いやなに、やはり貴様には、デュノアの足止めは荷が重過ぎたかと感じたのでな。前衛は私に任せてもらおう。」

さらりとそう言ってのけた彼女に、華は驚きの表情を見せた。

「でも、それじゃラウラさんは、1対2で戦うことになっちゃうよ・・・?」

「それでもあまり負ける気はせんが・・・万が一という時もある。貴様には、私の戦闘のサポートをしてもらいたい。このワイヤーはその為のものだ。貴様を宙に浮かせ、空中からの援護を可能にさせる。」

「・・・出来るのかな?地上戦でも一度失敗したのに・・・」

「私の部下が、この様な事を言っていたぞ。『出来るか出来ないかは関係なく、只やるのみ』とな。何、心配する事はない。私は貴様の足としてしっかり動いてやるし、貴様も後先考えずに動いてくれればいい。」

「・・・ラウラさん、Danke。もう一度、やってみるね。」

そう言った彼女の表情は、先程とは打って変わった力強い物に変わっていた。

「フッ・・・良い面構えになったな。さぁ行くぞ、貴様本来の実力を見せてみろ!!」

「Ja!」

 

 

 

 

その頃、3年のシード選手である厳弥と恵は、華の試合を見に来ていた。

「へぇ。ラウラちゃん、結構面白い事するわね。」

「華の機体はサポート特化型だから、1体1の勝負を挑むのはそもそも間違ってたし。ああいう形で、あの眼帯のサポートに回るってのも悪くはないでち。」

「その分、宙に浮いてるから狙われやすくはなるんでしょうけど・・・多分、そのことも視野に入れてるだろうし、ちゃんと対策も考えてあるかもね。」

「まあ、見た感じでは大丈夫そうでちね。じゃあ、ちょっと幾の方の観戦行ってくる。」

「オッケー。次の試合までには戻ってよ?」

「分かってるでち。それじゃ、また後でね。」

恵と別れた厳弥は、再びアリーナの方に向き直った。

 

 

 

 

 

「伊東、織斑が接近中だ!」

「!大型推進魚雷、射出準備!」

一夏が雪片弐型を構えて接近戦を仕掛けて来るが、彼女はギリギリまで一夏を引き付けた。

「今です、Feuer!」

発射されたそれは、丁度一夏の胴体に直撃し、彼を圧倒的推力で押し戻した。

「ラウラさん、撃って!」

「任せろ!」

ラウラはレールカノンを発射し、一夏諸共魚雷を吹き飛ばした。

「ハハッ、素晴らしい花火だな!」

「でも、まだ動ける筈。あの魚雷、威力はそこまで高くないし。」

「だろうな。まあこの程度で終わってしまっても、興が乗らんというものだ。どれ、もう一発お見舞いしてやるか?」

ラウラは再びレールカノンを発射したが、それはシャルによって防がれた。

「おっと、デュノアか・・・さて、どう料理してやるか?」

「任せて。BM魚雷、連続射出! 」

本が開き、BM魚雷がシャルに向かって複数放たれ、それ等は横に一直線に並んだ。

「はっちゃんなりの、これの使い方・・・やっと、分かった!」

華は再びガトリング砲を取り出し、シャルに向かう魚雷に照準を合わせた。

「Feuer!」

そして、横薙ぎにガトリング砲を掃射した。放たれた多くの弾丸は、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、と言う言葉通りに魚雷に着弾し、アリーナの半分を爆煙が包んだ。

「まずいな、早く煙から脱出しないと・・・!」

いち早く危険に気付いたシャルは、素早く上に飛んだ。アリーナの上部までには、煙が及んでいないと判断したからだ。だが、彼女がそうさせる筈が無かった。

「遅い、遅いぞ!」

ラウラがいつの間にか猛スピードで、煙を吹き飛ばしながら突っ込んで来ていたのだ。彼女は残る全てのワイヤーブレードを射出し、シャルへと向けた。シャルはそれの回避を試みたが、ついには足に巻き付かれてしまった。

「捕まえたぞ!もう今までの様には飛び回れんな、バッタが!」

ラウラは得意気な顔でそう叫び、シャルを地面へと叩き落とした。

「ぐっ・・・それでも!」

シャルはショットガンを両手に持ち替え、ラウラに向けて連続で放った。

「フン、そんな散弾ではな!」

ラウラはそれを、AICを使って防いだ。が、それにもかかわらずシャルは笑っている。

「・・・ッ!ラウラさん、後ろ!!」

「何・・・!?」

華が叫ぶと同時に、どこからか弾丸が飛来し、ラウラのがら空きの背中に直撃した。

 

「なん・・・だと・・・ッ!?」

そして二発目も当たった所で、ラウラは何とかその場から離れた。

「ラウラさん、大丈夫!?ごめんね、まさか織斑君が、デュノア君のアサルトカノンを持っていたなんて・・・」

「いや・・・あれは私のミスだ。少々温まり過ぎていたよ、すまなかった。」

ラウラは、モニターに表示されている残りシールドエネルギーに目を向けた。

(かなり減らされたか・・・装甲の薄い背部を狙われたのは痛い。戦闘中にヒートアップしてしまうのは、悪い癖だな。いや、あのお二人に感化されたと言うべきか・・・)

 

その頃、一夏とシャルも合流して相談をしていた。

「大丈夫か、シャル?」

「なんとかね・・・結構ゴリ押しだったけど、一夏が成功してよかったよ。」

「にしても・・・ラウラはもちろんだけど、あの子も結構厄介だな。」

一夏のその言葉に、シャルは頷いた。

「多分伊東さんは、誰かをサポートする時にその実力を発揮出来るんじゃないかな。きっとラウラさんはそれに途中で気が付いて、僕達を各個撃破する戦法から、伊東さんを自分のサポートに従事させる戦法に変えたんだよ。」

「やっぱ、アイツの機転の良さは半端ねえや・・・とにかく早いとこあの子を倒さないと、ラウラに攻撃をする事さえ出来ないかもな。」

「うん。あの連携の良さは、正直予想外だったよ。どうにかあれを崩したいけど、ああも互いに密着されてる状態じゃ、連携を乱させるのは難しいかな。」

「と、なると・・・どうにかして、あの子を行動不能にまで持ってかないといけねぇって事か。」

「そうなるね。でも、さっきみたいな手はもう通じない筈。どうするかな・・・」

シャルが次の手を考える中、一夏もまた自分に出来る事を考えていた。

(いつまでも、シャルに任せっきりじゃダメだ・・・でも、どうする?どうすれば、アイツの隙を突いてあの子に攻撃出来るんだ?どうにか、一瞬でも隙を作れりゃ良い。考えろ、俺にあるのは刀一本と、零落白夜。あとは・・・)

瞬時加速(イグニッション・ブースト)・・・そうだ、それがあった!」

「何か思いついたの、一夏?」

「シャル、少しやってみたい事があるんだ。協力してくれないか?」

 

 

「・・・さっきから攻撃、してこないね。どうしよう?」

「おそらく、作戦を練り直しているのだろう。この隙を突いて攻撃する手もあるが・・・やめておくか。それに、もう話は済んだ様だしな。弾幕を張る準備を頼む、来るぞ!」

「うん!」

彼女等が気を引き締め直すと同時に、一夏とシャルが再び突撃を開始した。

「シャル、頼んだぜ!」

「了解!一夏も無茶しないでね!」

「おう!」

そう言った一夏は、更にスピードを上げた。

「もう、ちゃんと分かってるのかなぁ・・・ッ、来る!」

シャルは即座にアサルトライフルを両手に構え、目の前で展開された弾幕を撃ち落とし始めた。

(零落白夜を予め発動させた一夏が、ラウラさんがAICを発動させる寸前で瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って、伊東さんを撃破する。頼んだよ、一夏。進路は僕が拓いてあげるから!)

華が放った魚雷が次々と墜されていくのを見たラウラは、レールカノンを連射しながらワイヤーブレードを射出した。それ等は一夏を拘束すべく彼に襲いかかるが、彼はそれ等を雪片弐型で斬り捨てた。

「まさか、二度もワイヤーブレードを破壊されるとはな・・・だが、手札はこれだけではない!」

するとラウラは、華から借り受けたサブマシンガンを放った。一夏はそれを避けるが、避けた先に更にレールカノンを撃ち込まれる。

「うおっ・・・っと。危ねぇ・・・」

「ほう、よく回避したな。少しは成長している様だ。だが・・・」

(っ、来るか!?)

一夏とラウラの間の距離は、残り少ない。彼は瞬時加速を使用するタイミングを見定め始めた。

「そんなに正直に突っ込んで来ては・・・」

ラウラがサブマシンガンを撃つ手を止め、右手を前に出す。だが、AICが展開された様子はない。

(まだだ・・・もう少し!)

一夏が飛び出したい衝動を抑えて進んでいると、ついにその時が訪れた。

「またこいつの餌食となるぞ!」

(来たっ!今だ!)

一夏は無理矢理体の向きを変え、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用した。彼の体が爆発的な速度で空中にいる華の方向に向かい、そして一気に彼女の前に躍り出た。

「うおおおおおおお!!!」

そして、その勢いのまま華を斬りつけた。

 

「え・・・」

彼女は、何が起こったのか分からないという目で一夏を見た。零落白夜の影響で、彼女の機体のシールドエネルギーがみるみる減っていく。

「やだ・・・嘘、シールドエネルギーが・・・」

そして遂に0になり、戦闘不能状態に陥った。

「そん、な・・・ごめんね、ラウラさん・・・」

「クソッ、織斑 一夏!」

ラウラは華を地面へと下ろし、離脱しようとしていた一夏をAICで止めた。

「よくもまあやってくれたな・・・今貴様も墜としてやる!!」

「・・・忘れてねえか?俺達は2人なんだぜ?」

一夏の声と共に、シャルがアサルトライフルを放ちながら、高速でラウラに接近した。

「そのスピードは・・・瞬時加速(イグニッション・ブースト)!?その様なデータは無かった筈・・・」

「無いのは当たり前だよ。なんたって、今初めて使ったからね!」

「この短時間で覚えただと・・・!くっ!」

ラウラは後ろに退避するが、彼女を再び背後からの衝撃が襲った。彼女が振り返ると、一夏がシャルのアサルトライフルを構えていた。

(同じ手を二度も食らうとはッ・・・!)

「何処を見てるの?」

「なっ!? 」

いつの間にかラウラの目の前まで来ていたシャルは、腕にあるシールドの先端をパージした。するとそこから、彼女の切り札であるパイルバンカーが顔を出した。

盾殺し(シールド・ピアース)!?」

「この距離なら、外さないっ!」

そして、それでラウラの腹部を殴りつけた。

「がッ・・・!」

ラウラの目が大きく見開かれ、アリーナの壁まで吹き飛んだ。

「まだまだ!」

シャルは再びラウラに接近し、パイルバンカーを連続で叩き込む。撃ち込まれる度にラウラの体が跳ね上がり、シールドエネルギーもレッドゾーンまで減少した。

(嘘だ・・・こんな事で、こんな事で負けるなど・・・!)

やがて、彼女は力なく地面に倒れ伏した。

「いよっしゃあ!やったな、シャル!」

「うん!上手くいったね、一夏!」

シャルがラウラを倒した事により、アリーナは大きく盛り上がった。

 

 

 

ー私は、負けたのか?負けて、しまったのか・・・?

 

彼女は暗闇の中、一人思った。

 

ーそうか、負けてしまったか・・・教官の、前でッ・・・!

彼女が、最も恐れていた事が起こってしまった。まず彼女が心配するのは、勿論彼についてだ。

 

ーこの無様な私を、あの方はどう思うだろうか・・・?あの方の指導を受けていながら、敗北を喫した、この私を・・・

すると、彼女の中に一つの不安が生まれた。それは彼女にとって、とても受け入れ難い物だった。

 

ーもしかすると・・・あの方は私に失望しているかもしれない。見切ってしまうかもしれない。・・・見捨てられるのか、私は・・・!?

彼女の中の不安が加速していき、どんどん大きくなる。

 

ー嫌だ・・・嫌だ!あの方に見捨てられてしまったら、私にもう、生きる意味は・・・

見捨てられたくない。彼女のその思いは爆発的に強くなってゆく。そして、彼女は望んだ。

 

ー力だ・・・力が欲しい。あの方に認められる程の力。絶対に、誰にも負けない程の力が!

彼女の歪んだ望みに、ISが応える。

 

『汝、力を望むか?』

ーああ、寄越せ!私に残された唯一の光、失う訳にはいかん!その為なら、マシーンにだって魂を売ってやる!

 

 

 

 

その頃、ラウラの体に異常が起こっていた。

「うぐッ!?があああァああああああ!!」

苦しそうな叫び声を上げる彼女を、黒い塊に変化したシュヴァルツェア・レーゲンが取り込んだ。

「なんだ!?一体ラウラに何が起きてるんだよ!?」

「分からない・・・とにかく、伊東さんを避難させなきゃ!」

「分かった、俺が行ってくる!」

 

 

 

 

「い、一体ボーデヴィッヒさんの身に、何が起こっているんでしょうか?」

「分からんが、これは非常に不味い事態だ。状況をlevelDとして、 観客に避難勧告を出せ。」

「分かりました、放送で伝えます!」

「頼む。・・・リボンズ、お前はアレをどう見る・・・リボンズ?」

返答がない事を訝しんだ千冬が横を見ると、そこに彼の姿は無かった。

「・・・成程、教え子の危機を誰よりも早く察知したか。全く、良い教官を持ったな、奴は。」

 

 

 

 

アリーナの観客席にシャッターが降りてアリーナと遮断された頃、ラウラを取り込んだ黒い塊は、徐々に人の形を形成していく。そして、その手には一本の刀の様な物があった。

「あの刀、雪片・・・!千冬姉の物と同じじゃないか!」

一夏が怒りのあまり震え出す中、黒い塊は彼の神経を更に逆撫でするような形状に姿を変えた。

 

頭にある特徴的なV字アンテナ。

一般のISよりも人間に似たフォルム。

左側のみ金色に輝いているツインアイ。

 

そう。それは色こそ違うが、姿形は紛れもなく『1ガンダム』だった。

 

「コイツっ・・・こんの野郎ォ!」

一夏は雪片弐型を固く握りしめ、黒い『1ガンダム』に斬りかかった。だが、それは圧倒的なパワーでそれに対応し、逆に一夏を押し飛ばした。

「うあっ!?」

その衝撃のあまり、一夏は雪片弐型を手放してしまう。それに追い討ちをかける様に、黒い『1ガンダム』は雪片を振り上げた。

(クソ、やられるっ・・・!)

一夏は目を閉じ、身構えた。が、いつまで経っても攻撃は来ない。彼がゆっくりと目を開くと、そこにあったのは・・・

 

 

 

白く輝く本来の1ガンダムが、GNビームサーベルで攻撃を受け止めている姿だった。

 

 

 

 

(間に合ったか・・・彼等に何事も無くて良かった。)

リボンズはGNドライヴの出力を上げ、相手の雪片を徐々に押し戻す。そして、がら空きの胴体に蹴りを入れた。

「ラウラ、聞こえているかい?聞こえているなら応答を・・・いや、無駄か。」

リボンズは通信を試みるも、相手は再び雪片を構えて臨戦態勢に入った。よって彼は説得による事態の鎮静化という選択肢を捨て、実力行使に出る事を決断した。

「そういえば・・・君の相手をするのは久しぶりだね。丁度いい、数年振りに君の実力を測ってあげよう。」

彼がGNビームライフルを展開すると同時に、相手はリボンズに向かって突撃した。

 

 

 

「一夏、落ち着いて!そんな状態で乱入しても、やられるだけだよ!」

「シャル、離してくれ!アイツ、雪片どころか千冬姉の技まで真似しやがって・・・!でも、それだけじゃない。あのIS、 少し形は違うけど、間違いなく俺を助けてくれたISと一緒だ!俺の人生の恩人二人を、アイツは・・・!」

「一夏・・・」

すると、一夏達に一通の通信が入った。

『デュノアの言う通りだ、織斑。今のお前があの戦いに介入しても、恐らく1分ともたん。』

「千冬姉!?けど、アイツは・・・!」

『織斑先生だ、馬鹿者。さて話を戻すが、お前にどの様な事情があろうと、お前があの戦いに介入する事は許さん。本当なら、お前達も強制的に避難させている所だ。』

「何でだ!?どうしてだよ千冬姉!そりゃあ、アイツを一発ぶっ飛ばすって事もあるけど・・・あの人に、あのISに乗ってる人に恩を返すチャンスなんだよ!確かに俺は素人だけど、こっちの数が多い方が・・・」

『それが駄目なんだ。強者にとって、自分との実力差があり過ぎる味方は、むしろ邪魔になる。お前が突入する事で、あのISのパイロットを戦いにくくしてしまうのかもしれないのだぞ。お前はそれで良いのか?』

「うっ・・・それ、は・・・」

『・・・案ずるな。奴は絶対に負けん。お前達はアリーナの端に避難していろ。』

 

 

 

 

 

リボンズは、接近してくる相手に向かって、GNビームライフルを連続で放つ。桃色のビームが正確に相手に向かうが、相手はそれを次々と回避してみせた。

「弾丸が撃たれてから回避するのではなく、相手の挙動から狙いを予測する、か。かつて僕が君に教えた事だったね。さっきの試合から見て、ちゃんと習得出来ている様だ。」

彼は斬りかかって来た相手に、再びビームサーベルで応戦した。今度は押し返されない為か、かなりの力を込められている。

「力で押せば、自分に有利な状況を作れるとでも?甘いな、君は。」

彼は鍔迫り合いの状態にあるビームサーベルを敢えて収納し、相手のバランスを崩れさせた。

「この距離だ、外す事はしないよ!」

そして相手の背後に回ったリボンズは、ビームライフルのトリガーを引いた。ビームは相手の背部に直撃し、小規模の爆発を起こした。足が止まったそれに、彼は更に追い討ちをかける。

「君のその力、千冬のそれと似通っている・・・しかし、結局は千冬の技術の模造品。他人の真似事だけで終わってしまっている様なら、僕の敵ではない。」

GNドライヴの出力を全開にし、システムすら追いつく事が出来ない動きで相手を翻弄していく。

「さて、そろそろ終わりにしよう。僕の教え子を返してもらうよ。」

そして、相手の胴体にビームサーベルを突き刺し、縦に切り開いた。その裂け目の中からゆっくりと出てくるラウラを、リボンズはISを解除し、優しく抱きとめる。

「・・・ぅ、きょう、かん・・・?」

「・・・ああ。疲れただろう、今はゆっくり休むといい。」

 

 

 

 

 

 

保健室

「・・・っ、ここは・・・」

「保健室さ。随分と長い休眠だったね。」

ラウラが眠るベッドの側には、リボンズが一人、椅子に座ってラウラを看ていた。

「り、リボンズ教官!?今日は見苦しい様をお見せしてしまい・・・!」

「落ち着きたまえ。僕は別に気にしていないよ。」

「そ、そうでしたか・・・」

「・・・VTシステムという物を、知っているね?」

「ヴァルキリー・トレース・システム・・・ですね?」

「そうだ。国際条約で研究や開発が禁じられているシステム。それが、君の機体に秘密裏に搭載されていたらしい。発動条件には、搭乗者の強い願いが含まれていたらしいが・・・まあ、何を願ったのか、なんて野暮な話か。」

「・・・いえ、お話しします。私が、何を望んだのか。貴方には、聞いてもらいたい・・・」

「・・・分かった、話を聞こうじゃないか。」

 

 

ラウラは、ぽつりぽつりと語り始めた。

「私が望んだのは・・・力です。誰にも負けない様な、圧倒的な力。ですがそれは、只負けたくないから願ったわけではありません。」

「ほう・・・では、他に何を?」

「・・・貴方です。貴方に、認められたい。見捨てられたくない。その一心で私は、力を望みました。」

ラウラのその答えに、彼女の過去を知っているリボンズは何も言わなかった。

「かつて、出来損ないと蔑まれ・・・疎まれた私にとって、手を差し伸べて下さった貴方は・・・私にとって、光です。しかし負けてしまえば、貴方も、私を見捨ててしまうかもしれない。たった一つの光を、失ってしまうかもしれない・・・そう考えてしまうと、感情が抑え切れず・・・」

そこまで話すと、ラウラは毛布をぐっと掴んで俯いてしまった。

「・・・僕は、君が言うような大層な人間ではない。僕が君を教授したきっかけも、君の境遇に同情心を抱いたからに過ぎない。・・・僕も、君と同じ作られた存在だからね。・・・だが」

 

「今の僕にとって君は、十分信頼に値する人物さ。そうでなければ、こうして室内で二人きりになる事もないよ。」

俯いていたラウラの顔が、上がった。

「それに先程の試合を見て、僕がいない間も鍛錬に励んでいた事が良く分かった。たしかにこの実力なら、君がシュバルツェ・ハーゼの隊長にまで登りつめたのも頷ける。」

「あの・・・それは、どういう・・・」

ラウラは、どこか期待混じりの表情で彼に問う。そんな彼は、柔らかい笑みを浮かべた。

 

 

「おめでとう。君はもう、立派なIS操縦者だ。本当に、良く頑張ったね。いつかは僕の背中を預けて良いかもしれないな。」

 

 

「・・・ぁ、ああ・・・」

一滴、二滴と、ラウラの掌に涙が零れ落ちる。それはやがて、毛布を濡らす程のものになった。

「はっ、申し訳、ありません・・・!教官の前で、二度も泣き面を、晒してしまうなど・・・」

彼女はそう言うが、流れる涙は止まる事を知らず、とめどなく溢れ出す。

「無理に止めようとしなくても構わないさ。今まで散々待たせてしまったのはこちらだ、申し訳なかった。」

「いえ。その事はもう、気にしていません・・・只、貴方が私を認めて下さった。それだけで、十分なのですから・・・」

そのまま彼女が泣き止むまで、彼はその場に居続けた。

 

 

 

 

 

「そろそろ、落ち着いたかい?」

「はい。取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。」

「良いんだ。君にもそういった一面がある・・・それを知る事が出来ただけでも、儲け物だよ。」

さっきまでの自分の姿を思い返した彼女は、顔を赤くした。

「っ・・・と、とにかく!明日からはまた、授業に通常通り出席しますので、ご心配なく。」

「ああ。では、僕もそろそろお暇させてもらうよ。」

ラウラは手を出しかけたが、すぐに引っ込めた。

「あ・・・はい。今日はありがとうございました、教官。」

「礼には及ばないさ。・・・ああ、それと」

部屋を出ようとしていた彼は、ふと立ち止まった。

「? 何でしょうか?」

「ラウラ、君は僕にはなれないよ。幾ら鍛錬を積んでも、君は君でしかない。・・・だからここで、自分のあり方を再度見つける事だ。僕も出来るだけサポートしよう。」

「・・・はい!」

そう言い残したリボンズは、保健室を後にした。

 

 

 

「まさか、彼女の中の僕の存在が、あそこまで大きかったとは・・・今回の事件は、彼女の心境に気付いてやる事が出来なかった僕にも原因がある・・・か。」

夕暮れに染まる廊下を、物憂げな表情で彼は歩く。

「心とは・・・本当に複雑なものだ。君はどうやって、来るべき対話を成し遂げるんだい?刹那・F・セイエイ。」

彼は、元いた世界の未来を託した刹那・F・セイエイや、ソレスタルビーイングのメンバー達に思いを馳せた。




本当、人間の心って難しいですよね・・・刹那は一部を除いてポンポン和解しちゃうから凄いです。


さて、次回は恐らく日常回になるかと。では、また次回に!


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25. 閑話休題 〜少女達の休日〜

二週間ちょっとぶりですかね。一ヶ月もかからなくて、作者は感激しています!
さて、今回は閑話休題、なので短編っぽくしております。それに、存在が仄めかされてた人物(ある警備員の姉)が登場します。

あとは・・・


今回、はっちゃけ過ぎました・・・

まあとにかく、最新話です。どうぞ。所々にガンダムネタも織り交ぜていますので、良ければ探してみて下さい。


学年別トーナメントから数日後。休日で仕事が休みのリボンズは、いつもより少し遅く目覚めた。

「おっと、もうこんな時間か・・・」

彼がベッドから身を起こすと、優雅に紅茶を嗜んでいる刀奈が目に映った。

「あら。やっと起きたの、リボンズさん?」

「・・・おはよう。相変わらず、君は起きるのが早いね。 」

彼女が、何故リボンズの本名を知っているのか。何故なら、シャルが自分の自分の本名と本当の性別を明かしたと同時に、彼もまた本名と目的を明かしたからだ。勿論彼がISを使えるという事は公表していないが、一夏を含めた専用機持ちにのみ、その事実は伝えられた。

「ふふ。規則正しい生活を心掛けるよう、昔から教えられて来たもの。これ位当然よ。」

「成程、良い心掛けだ。さて、では僕は準備をして出かけるとしよう。」

「出かける・・・って、どこに行くの?」

「何、ちょっとしたお出かけさ。別に君の監視は必要ないよ。」

「・・・そう?じゃあ、いってらっしゃい。」

「ああ、君も良い休日を。」

そう言って、リボンズは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

一方その頃。一夏とシャルは、修学旅行で着る為の水着を買いに、街の大型ショッピングモールに来ていた。が、一夏が例の如く乙女キラーの発言をした為、シャルの機嫌は早速少し悪くなっているが。

「おいシャル・・・なんでそんなに怒ってるんだよ? 休みの日の朝くらい、気楽に行こうぜ。」

(こっちは色んな意味で気楽じゃいられないよ!もう、一夏のバカぁ・・・)

彼女が未だムスッとしているのに困り果てる彼だが、何かを閃いたかの様に手を差し出した。

「そうだ。シャルはここら辺の事よく知らないだろうし、手を繋いで歩くか。はぐれたりしたら大変だからな。」

その思わぬ提案に、彼女は目を丸くした。

「えっ・・・良いの!?」

「良いのかって・・・別に良いだろその位。それとも、やっぱり男子と手を繋ぐのは・・・」

「うっ、ううん。全然良いよ!寧ろ一夏だったら大歓迎だよ!!」

「そ、そうか・・・んじゃ、しっかり掴んでろよ?」

「うん!」

彼女は満面の笑みで、一夏の手を握った。そして二人は、ショッピングモールの中へ歩き始めた。

 

 

 

 

その二人を、離れた場所から見つめる二つの影があった。

「ねぇ、セシリア・・・あれ、手ぇ握ってない?」

「握ってますわね・・・しっかりと。」

それは一夏に恋する黒い二連星こと、鈴とセシリアである。目のハイライトが消え、背後に黒いオーラを纏わせている二人の姿は、まさしくその異名に相応しい物だった。あと一人、彼女等と同じオーラを持つ者が現れた時、めでたく三連星が完成し、一夏にジェット・ストリーム・アタックをかけるのである。

「そっかぁ・・・私の見間違いでも、白昼夢でも、幻覚でもなく、事実なんだ・・・」

そう呟くなり彼女は、甲龍の右腕を部分展開した。

「よし、殺そう!!」

「判決、死刑ですわ!!」

炎の如きオーラを纏い、目標を駆逐しようとする彼女達だったが、ある少女の登場で、それは妨げられた。

「なんだ、随分と楽しそうじゃないか?」

その声に、ギョッとして振り返る二人。その先には、先日彼女等を散々痛めつけたラウラの姿があった。

「ら、ラウラさん!?」

「ッ!アンタ・・・!」

彼女達は咄嗟に警戒態勢をとる。だが、ラウラは少しばつが悪そうに二人に話しかけた。

「まぁ、お前達がその反応をするのは分かる。先日のあれは、少しやり過ぎた。申し訳ない。」

そう謝罪された二人は面食らったが、思わず胸を撫で下ろした。

「それで?お前達は一体何をしているのだ?何故そんな場所でこそこそしている?」

そう聞かれた鈴は、一夏達を指差した。

「・・・成程。想い人とシャルロットの関係が気になる、という訳か。」

「お、想い人!?ま、まぁ・・・そんな所ね。」

「ふむ・・・面白そうだ、私も混ぜてくれ。どうせ私は、これから行く所があるのでな。隙を見て、奴に聞くとしよう。」

ラウラのその提案に二人は顔を見合わせたが、戦力は多い方がいいと言う事で、その案は可決された。

かくして、黒い三連星は結成されたのである。彼女等は物陰に隠れつつ、追跡を始めた。

 

 

 

 

 

そして更に、一夏達と黒い三連星を興味深げに見つめる者がいた。

「・・・んん?あれは最近話題の、織斑 一夏君では?その横には可愛らしい女の子がいて、そしてその後ろをつけているのは、もしかして中国、イギリス、ドイツの代表候補生?これはこれは・・・」

その女性は、掛けていたサングラスを外し、ニヤリと笑った。

「青葉、見ちゃいました!」

 

 

 

 

その頃。黒い三連星の三人は、一夏達の追跡を続けていた。

「状況はどうですの、鈴さん?」

「相変わらず、楽しそうに話してるわ。」

「それに、手も繋いだままだ。なんとも仲睦まじい事だな。」

「「それを言わないで(下さい)!!!」」

「す、すまなかった・・・うん?」

その時、ラウラが何かの気配に気がついた。彼女が後ろを向くと、胡散臭そうな女性が一人、音も立てずに近づいて来ていた。

「・・・貴様、何者だ?」

「?ラウラ、どうしたのよ・・・って、誰よアンタ!?」

「い、いつここまで近づいて来ましたの・・・!?」

三人が驚いて本気の警戒態勢に入ると、その女性も驚いた様な表情をした。

「あ、あれぇ?もしかしてバレちゃいました?おかしいなぁ・・・」

「何者だ、と私は聞いたぞ?」

ラウラは語尾を強めて、再び問う。

「おっと、これは失礼。私、笠谷 青葉と申します!雑誌『インフィニット・ストライプス』の編集長をしている者です!あ、名刺をどうぞ。」

三人が受け取った名刺には、確かにそう書かれていた。

「『インフィニット・ストライプス』って・・・ここじゃ結構メジャーな雑誌じゃない。じゃあ、結構偉い人なんじゃ・・・」

「いえいえ、それ程でもありませんよぉ。私は、自分の好きな事をやってるだけですから。・・・それで、なんですけど。貴方達が何をしていたのか、詳しく聞かせてくれません?」

妖しく目を光らせる彼女を前に、三人は互いに顔を見合わせた。

「いや・・・笠谷さん?には関係ない事でしょ?悪いけど、お断りするわ。」

「ええ。身元が分かったと言え、貴方が私達にとって怪しい人物なのは変わりませんし。」

「まあ、この二人がそう言っているのだ。潔く諦めた方が賢明だと思うが?」

三人に拒否されても尚、彼女は笑みを崩す事はなかった。

「ほうほう、成程・・・では、『これ』なんかどうです?」

そう言った彼女は、ポーチから一つの手帳を取り出し、三人に差し出した。すると、それを見た鈴とセシリアの目の色が変わる。

「「お、織斑 一夏の生態レポート・・・!?」」

「どうですか?いい情報、ありますよぉ?」

にんまりと笑う彼女にまんまと買収された二人を、ラウラは呆れ顔で見つめた。

 

 

 

「ふむふむ。つまり貴方達は、織斑 一夏君とあの女の子の仲が気になって、追跡をしている、と?」

「まぁ、ね。あたしが居ない間にカップルが成立なんかしてたら、たまんないじゃない。」

「いやはや、良いですねぇ。女の子三人が、好きな人と別の女の子がそのまま恋に落ちないか心配で、後ろを付け回る。いやぁ、中々危険な感じというか、愛が重いというか・・・青葉、ワクワクしちゃいます!」

「いや待ってくれ、私をこいつ等と一緒にしないでくれないか?」

「貴方も、リボンズさんに対しては同じ様な感じではなくって?」

「!?そ、そんな筈が無いだろう!?私はストーキングなどした覚えは無いぞ!!」

「え、なになに、何の話ですかぁ?」

「えっとね、コイツつい最近にね・・・」

「やっ、止めないか貴様!?さもなくばここが貴様の墓場となるぞ!?」

目を爛々と輝かせ聞いてくる青葉に鈴が暴露しようとするのを、ラウラは必死で止めようとする。しかし、彼女達がどんちゃん騒ぎをしている間に、一夏とシャルが行ってしまった事を、誰一人として気付かなかった。

 

 

 

 

「・・・と、色々あって、その教官がラウラを助けたらしいわ。」

「へぇ〜、ISに取り込まれ暴走している人を助けるなんて・・・どうやったんですかね?まさか、ISを使えるって訳でも無いでしょうし・・・」

「教官・・・私は、どうすれば・・・」

目の前で事の次第をバラされるという公開処刑をされた彼女は、虚ろな目で空を見上げていた。

「それは・・・まぁ、説得じゃないの?あはは・・・」

鈴は、リボンズがISを使ってラウラを止めたと聞かされていた為、それをなんとか誤魔化した。

「まあ、それしかないですよね。暴走する女の子を止める言葉なんて・・・もしかして、告白されたんですか!?」

予想の斜め上を行く彼女の言葉に、ラウラは思わず噴き出した。

「な、何故そうなるのだ貴様!?」

「『ラウラ、お前が好きだっ!お前が欲しいーッ!』みたいな感じですかねぇ?」

「そ、そんな訳が無いだろう!?大体教官は、そんな暑苦しいお人ではない!あの方はもっと冷静沈着で、叫ぶ事などもってのほかだ!」

慌てながらもそれを否定したラウラを見て、青葉は思考を巡らせる。

(無意識的に、その人の良い点を挙げている・・・これはもう、見事にホの字ですね!ご馳走さまです!)

彼女は流れる様に手帳を取り出し、ラウラについての情報を追加していく。

するとここで、ようやくセシリアがある事に気付いた。

「あの、鈴さん・・・私達、目的を忘れているのではなくて?」

「目的?・・・ああっ!!!一夏とシャルロットは!?」

彼女は先程彼等が居た場所を慌てて確認するも、そこにはもう彼等はいなかった。

「み、見失った・・・」

「・・・作戦、失敗ですわね・・・」

彼女等は二人を見失った事を、まるで世界の終わりが来たかの様な表情で嘆いている。青葉は唯一平然としているラウラに、コソッと話しかけた。

(あ、あのー。これって、青葉が原因ですかね?)

(かもしれんな。まぁ私としては、別に構わんが。)

青葉は、未だ嘆き続けている二人に近づく。

「すみません・・・調査のお邪魔、しちゃいましたね。お詫びとしてその手帳、貴方達に差し上げます。」

「・・・まあ、過ぎたことだし仕方ないけど・・・本当に貰って良いの、これ?」

「はい。情報は持ってて嬉しいコレクションですけど、同時に使うべき時には使わないと。これは貴方達が持っていた方が、有効に使えるかと思います。」

「・・・これには、どの様な内容が書かれてありますの?」

「そうですねぇ・・・彼の好きな物、行きつけのお店、好みの味、友人関係とか、かな。彼の家の中までは探れませんでしたが、その他の場所から洗いざらい調べました。複数の人から聞き込みをした上で作ったから、信憑性は保証しますよぉ!」

「成程。つまりは料理で勝負、って訳ね!やってやろうじゃないの!」

「ええ!私も腕を磨きますわ!」

すっかりやる気になった二人を見て、青葉は満足そうに頷いた。

 

「そういえば、ラウラ・・・アンタの用事って、結局なんだったの?」

「ああ、そういえば・・・おい貴様、ここに花屋はあるか?」

「お花屋さん、ですかぁ?勿論ありますよ。折角ですし、ご案内しますね!」

「そうか?助かる。お前達はどうする?先に帰っても構わんぞ?」

「うーん・・・いや、付き合ったげるわ。どーせ今帰っても暇だしね。」

「私も、ご一緒しますわ。」

「了解です!情報も潜入も道案内も、青葉にお任せ下さい!」

彼女達は青葉の先導の下、花屋へと歩を進めた。

 

 

 

「着きましたよ!ここがお目当てのお店、花屋『乙女座』です!」

その花屋は、看板にある店名が筆で書いたのであろう力強い文字で、しかも無駄に達筆と来た。どう見ても花屋の可愛らしい印象など微塵も感じられない。

「ね、ねぇ・・・これ、本当に花屋さんなの?どう見ても何かの道場にしか見えないんだけど・・・」

「いえ、鈴さん・・・一応、店先にお花が置いてありますわよ・・・?」

二人の言葉に、青葉は苦笑した。

「まあ、そういう印象を持っちゃうのも仕方ありませんね。店主さんもかなり濃い人ですし・・・でもでも!ちゃーんと丁寧に教えてくれますので、心配は無用です!では、 入りましょう!」

そう言って店に入って行く彼女に続き、三人も入店した。

店に入ると、内装は以外にも普通の花屋と変わらないものだった。店内に置かれている様々な花を彼女達が見ていると、店の奥から店員らしき人物が歩いて来た。

「あっ、店長さん!お久しぶりです!」

「おお、青葉ではないか!いらっしゃいませ、と言わせてもらおう!!」

 

(((!?)))

 

「む、君達は見ない顔だな。恐らくこの店に来るのは初めてだと思うのだが、違うかな?」

彼の問いに、ラウラが動揺しながらも答える。

「あ、ああ。そもそも日本に来たのもつい最近だからな。」

「やはりな。では、自己紹介と洒落込ませて頂こう。初めましてだな、少女達!!私がこの『乙女座』の、店長兼店員だ!!花の事なら、この乙女座である私に聞くが良い、ハッハッハッ!!!」

爽やかな笑みを浮かべながらも物凄くテンションが高いというギャップに、彼女達は大いに困惑した。

「わ、私は恩師にお渡しする花を探しているのだが・・・何か、他人に送るのに良い花はないだろうか?」

すると彼は、先程とは打って変わって真面目な表情になった。

「ふむ・・・恩師に渡す花、か。その恩師というのは、男性かね?」

「あ、ああ。私の人生を、変えて下さった方だ。」

「成程。それならば定番なのは、やはり白バラ等か。花言葉は『尊敬』という事もあり、生徒が恩師に渡す時等に好まれる花だ。・・・が、君が花を通して伝えたい事は、どうやらそれではないらしい。」

ラウラが、驚きの表情で彼を見る。その様子から見るに、どうやら彼の推測は正しいようだ。

「失礼。不躾な事を聞くが、君はその恩師に・・・好意を抱いているのかな?」

そのストレートな質問に、ラウラは更に目を見開き、彼を見た。

「・・・ああ。私はあの方に、どうやらそれに近しい感情を抱いているらしい。全く、何故ここまで人の心が読めるのだ、貴様は?」

「何故なら、私は乙女座だからな!!それに、女性の気持ちや思いを理解出来ない様ではこの仕事は務まらんし、そもそも『男』としてもまだまだ未熟だ!!まあ、完璧な『男』などそういるはずもないが・・・」

そこまで言うと、彼は仕切り直す様に咳払いをした。

「ゴホン。すまない、話が脱線してしまったな。とにかく、君はその恩師に対して好意を抱いている。まあ少なくとも、興味以上の対象、という事だろう。」

「ッ・・・ああ、そうだな。」

「ならば、この花を君に薦めよう。」

そう言うと彼は、近くからある花を取り出した。その花を、ラウラは興味深げに見つめる。

「これは・・・?」

「リナリア。姫金魚草とも言う花だ。この小さく可愛らしい姿が、まるで手弱女の様な印象を感じさせないかね?」

ラウラはそれをしばらくの間眺め、そしてポツリと呟いた。

「・・・私はこういう、年頃の乙女らしい事には疎いのだが、この花は私から見ても、その・・・可憐だな。」

「うむ。そして、この花の花言葉なのだが・・・少し、耳を貸したまえ。」

彼がラウラの耳元で何かを呟いた。すると、彼女の顔がポッと赤く染まる。

「そ、それは・・・少し、直接的過ぎるのでは・・・」

「面と向かって言うのが難しい事を、花を介して伝えるのだ。これ位でないと、正確に伝わらんぞ?この花を渡す事で、その恩師はセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられなくなるだろう。そしていずれ気付く。その気持ちが、正しく愛だと!!!」

「あ、愛・・・!?」

すると二人のやり取りに、じっとしていられなくなった青葉が乱入した。

「先生と教え子の垣根を越えての禁断の恋、的な奴ですね!少し憧れちゃいます!」

「そうだ、よく言った青葉!!本来男女とは、愛さえあれば立場を押し退け、天すらも凌駕し得る存在なのだ!しかし、それが今や女尊男卑の世界になってしまい、男女の間の確執が更に広がってしまった・・・寒い時代だと思わんか?」

「おっ。その名言、頂きました!」

青葉がメモを取る中、ラウラは何かを決意したかの様な表情で、店長に言った。

「・・・分かった、その花を頂こうか。」

「どうやら、覚悟が決まった様だな?よろしい、では色を選ぶのだ。」

ラウラは陳列されてある中から、ある一つに目を付けた。

「・・・これだ。これが良い。」

「ほう、紫色か。それは何故だ?」

「あの方の目の色が・・・紫色だからな。」

「なんとストレートかつ、シンプルな理由!私は嫌いではないぞ!して、本数はどうする?」

「ふむ・・・そうだな、一本で充分だ。」

ラウラのその言葉に、鈴が異論を唱える。

「えぇ!?花束の方が見栄えが良いじゃない!!戦いは数だって言うでしょ!?」

それに、ラウラは平然とした顔で答えた。

「確かに、それは一理ある・・・だが、花束にして渡してしまうと、なんと言うか・・・私の思いが、花の一つ一つに散らばってしまう気がしてな。それならばいっそ、一本の花に思いを全て託した方が良いかと・・・」

その返答に、鈴は意外そうな顔をする。

「む、なんだその顔は?」

「いや、アンタって案外乙女チックなトコあるんだなーって。」

「っ、私が乙女、だと?馬鹿な事を言うな。」

「否!今の言葉は、充分乙女力が高い物だったぞ!中々やるではないか少女よ!」

「そ、そうですわ!私の母国にも、先程の様な思想の女性はそういませんわよ!」

「軍人さんでも、恋をすればあんな風になるんですねぇ〜。勉強になりました!」

彼女達は店長を筆頭にして、鈴に便乗しラウラを褒めちぎった。

「み、皆して茶化すな!ええい、さっさと支払いを済ませて帰るぞ!」

 

 

 

「お買い上げありがとう!君の恋路を応援しよう、上手くやりたまえよ!」

「ああ、感謝する。」

「礼には及ばん。ではまたのご来店、待っているぞ!」

こうして、四人は花屋を後にした。

 

 

「さて、目的の物は手に入った。私はこれより帰るが、お前達はどうする?」

「そうねぇ・・・時間も時間だし、あたしはご飯食べてくわ。」

「あら、それでしたらご一緒しますわ。ラウラさんも、ご一緒に如何?」

「昼食か・・・まあ、悪くない提案だな。よし、その案に乗ってやろう。青葉とやら、貴様もどうだ?」

「あー・・・ご一緒したいのは山々ですが、この後用事があるんですよ。ですので、私はここいらでお暇させて頂きますね。」

「む、そうだったか・・・では、ここでお別れだな。今日は世話になった、礼を言おう。」

「いえいえっ!こちらこそ、お役に立てて嬉しいです!また青葉をよろしくね!あ、あと雑誌もよろしくお願いしまーす!」

そう言って彼女は、何処かへ走り去って行った。三人はそれを見送った後、近くのファストフード店で昼食を済ませてショッピングモールを後にした。

 

 

 

 

 

 

その日の夜。リボンズはある人物とビデオ通信をしていた。

「成程・・・では、『シュヴァルツェア・レーゲン』の修復には、少し時間を要すると?」

『ああ。全く、まさかあの機体に、VTシステムが組み込まれていたとはな・・・気が付く事が出来なかった自分が忌々しい。』

その相手とは、元シュバルツェ・ハーゼ隊隊長、レーヴェ・ハンブルクだった。

「それは致し方ないでしょう。アレはかなり巧妙に隠されていましたからね。無理もありません。」

『まあとにかく、この情報が漏れれば、軍の上の奴らも相当苦労するだろうよ。なんせ、開発・使用を禁止された禁忌のシステムなのだからな。今頃、この事実をどう隠し通すかで必死になっているに違いない。』

「・・・その事についてなのですが・・・」

リボンズは、自分の考えを彼女に話し始めた。

 

 

『成程。つまりお前は、「自分達がその情報の漏洩を完全に防いでやる代わりに、ラウラの機体を引き渡せ」と言っている訳だな?』

「大まかな内容は、その通りです。しかし一つ訂正させて頂くと、別に引き渡すからと言って、彼女の機体がこちらの所有物になる、という訳ではありません。一時的に彼女の機体をお借りして、所属はドイツのまま、こちらで改造やその後の整備を担当する、という形です。」

『ふむ、中々興味深い話ではある。して、それを申し出てきた理由は・・・以前の襲撃事件だな?』

「・・・ええ。何者かがGNドライヴの模造品・・・『擬似太陽炉』の生成に成功し、それを搭載した機体を差し向けたと言う事は、今後更なるアプローチがあっても可笑しくはありません。それも踏まえて、パワーアップ出来る機体はさせておいた方が宜しいかと。」

それについて話す彼等の顔が、それの深刻さを物語っていた。

『・・・分かった。話は通しておこう。上の奴らは良い顔をしないだろうが、「上手く」口を聞かせておく。』

「ありがとうございます。それでは。」

そう言って、彼は通信を切った。その顔には、若干疲れの色が見えている。すると、部屋のドアを誰かがノックした。彼がドアを開けると、そこにはラウラが立っていた。

「ラウラ?どうしたんだい、こんな時間に。」

「夜分に失礼します、教官。実は、お渡ししたい物が御座いまして・・・」

「僕に渡したい物?それは一体・・・」

ラウラが後ろに隠していた手の中にある物を見た瞬間、彼の言葉は止まった。

「先日、私を助けて下さったので・・・そのお礼、と言うべきでしょうか。どうか、お受け取り下さい。」

彼は静かに、それを受け取った。しかし、彼は何やら複雑な表情をしている。何故なら、彼は知っているからだ。ラウラから受け取った花が持つ意味を。

「・・・ありがとう。だがラウラ、これは・・・」

リボンズは、その困惑と動揺が色濃く出ている表情を、彼女に向ける。

「ッ・・・失礼します!」

ラウラは目を背けると、すぐさま部屋のドアを開け、彼が止める間も無く走り去った。

 

 

「・・・リナリア・・・花言葉は、『この恋に気づいて』、か・・・」

自分以外に誰も居ない部屋の中で、彼はポツリと呟いた。

(花の色は紫色・・・ただ僕の目の色に合わせて購入した可能性もある。だが・・・紫色の花は他にも色々とある筈だ。それだけの理由でこの小さな花を選んだとは考えにくい。と、言うことは・・・)

「ラウラ・・・まさか、本当にそうなのかい?・・・しかし、仮にそうだとしても、僕は君の思いに応えてやる事は・・・」

リボンズ・アルマーク。人の心を手に取る様に見透かす彼だが、今まで他人から向けられた事のなかった「好意」という感情に、戸惑いを隠せないのであった。

 

そして、彼の独白を影から千冬が聞いていた。

「全く・・・不器用な奴等だ。本当に、お前達師弟は似ているよ。さて、リボンズ。お前はどうする?」

そう影で言った千冬は、苦笑いをしてその場を去った。




・・・はい。ちょっと、おいたが過ぎましたかね?今回、結構深夜テンションで書いた部分が多いので、こんなギャグパートになってしまったのですが・・・まあ、日常回だし、ね・・・


あと、ラウラの新機体は次回判明します。ついでに言うと、00本編の機体ではありません。皆様、予想をしながら次回にご期待下さい。

さて、では次はいよいよ修学旅行ですね!ISの転換期とも言える回なので、頑張ります!それではまた次回にお会いしましょう!


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26. ウェルカム・サマー 〜揺らぐ思いは、陽炎の様に〜

皆様、お待たせ致しました!今回はお待ちかねの、臨海学校です!

さて、今回でラウラの新機体が判明致します。少しオリジナル要素も入っていますが、基本的には元の機体と一緒ですので、ご安心下さい。


あと、ここで悲しいお知らせがございます。
この小説で・・・





前回登場したあの花屋の店長は、グラハム・エーカー上級大尉ではございません。あくまで、彼に似た別人という設定です。ですので、彼はこの世界に転生しておりません・・・


では、お知らせもこの位にして、本編です。あと、今回も戦闘シーンはございません。ご了承下さい。


臨海学校当日。生徒達は皆水着に着替え、ビーチサイドに集まっていた。

「みなさーん!では、16時までは自由時間としますが、常に安全を心掛けていて下さいねー!」

「「「「「はーい!!!」」」」」

真耶の一声と共に、皆一斉に駆け出した。早速海で泳ぎ始める者もいれば、水辺で遊ぶ者、砂に埋もれる者等、各々が好きな事をしている。

「うーん、海かぁ。なんか、無性にうずうずしちゃうかも!」

「はっちゃんも、ひと潜りしようかな。」

「素潜りするの?じゃああたし、ゴーグルもらってくるね!」

そう話している彩季奈と華は、学園指定のスクール水着に身を包んでいるが、妙に似合っている。

 

その中リボンズは、ビーチパラソルの下で冷えたレモンティーを飲んでいた。そんな彼に、やけに色気のある水着を装着した千冬が近づく。

「なんだ、お前は泳がないのか?普段着のままじゃないか。」

「正直、あまり気は進まないな。それに、僕の目的は海で遊びに興じる事ではないしね。」

「成程、お前らしい。・・・おや、あそこにいるのはラウラではないか?」

「なんだって?一体どこに・・・」

千冬が指さした方向を見ると、そこにはタオルで体を覆い隠しているラウラがいた。

「・・・ラウラ、何をしているんだい?」

「きょ、教官!?いえ、お気になさらないで下さい・・・」

(・・・ほほう?)

千冬はもじもじしているラウラを見て、悪い笑みを浮かべた。

「ラウラ、少し失礼するぞ?」

「お、織斑教官!?タオルを掴んでどうなさるおつもりですか!?」

「なぁに、心配するな。すぐに終わる。」

そう言うなり彼女は、ラウラの体からタオルを剥ぎ取った。すると、彼女がその下に妙に可愛らしい水着を着ている事が発覚した。

「ほう、やけに気合が入っているじゃないか。リボンズに見せる為に買ったのか?」

「は、はい。あの・・・おかしくは、ないでしょうか・・・?」

ラウラはそう言いながら、不安げな目でリボンズを見つめる。

「・・・まさか。良く似合っているよ。」

リボンズからの言葉に、ラウラは嬉しそうに顔を綻ばせる。すると、彼等の所にシャルが近づいて来た。

「あ、ラウラ。もうリボンズさんに水着を見せたんだね。」

そう言ったシャルに、千冬が声をかけた。

「デュノアか。織斑はどうした?」

「一夏は今、セシリアと用事がありまして・・・それより、リボンズさん。ラウラの水着はもう見てるよね。 可愛かったでしょ?」

「勿論さ。しかも、髪型まで変えて・・・かなり力を入れている事が分かったよ。」

「そうそう!ラウラったら、もうすぐ臨海学校だって事を思い出した瞬間に・・・」

「シャ、シャルロット!?それ以上は言うな!!」

裏話を口走りそうになったシャルを、ラウラは必死で止めた。

「ふふふ、ごめんごめん。そうだ、これから布仏さん達がビーチバレーをするらしいんだけど、一緒にやらない?よければ、リボンズさん達も。」

その誘いに、ラウラと千冬は首を縦に振ったが、リボンズはあまり乗り気ではなさそうだった。

「おいおい、お前は参加しないのか?つまらん奴だな。」

「なんとでも言いたまえ。こうして海をじっと眺める機会は滅多にないんだ、邪魔をしないで貰えないかな?」

これはてこでも動かなそうだな、と推測した千冬は、別の作戦に出た。

「ほう・・・つまりお前は、私と対局するのが怖い、という訳だな?」

その言葉に、彼はピクリと反応する。そんな彼に、千冬は更に畳み掛けた。

「まあ、確かにそうか。いくらなんでも、花壇弄りばかりしているお前のもやしの様な体では、私に到底かなう筈もない。」

すると、唐突に彼は立ち上がった。

「・・・言ってくれるじゃないか。用務員の仕事で鍛えられた持久力を、君に見せつけてあげるよ。」

性格が軟化しても、負けず嫌いな点は変わらない彼であった。

 

 

そしてビーチバレーが始まったのだが、千冬の圧倒的なパワーを持つスマッシュに、早速リボンズのチームの何人かが吹き飛んだ。

「良いか貴様等!織斑教官の球は爆弾と思え!扱いを間違えれば死ぬぞ、いいな!?」

ラウラはチームメイトに必死にそう呼びかけるが、仲間は千冬の猛攻により次々と減っていった。

 

結局、千冬とまともな戦いを繰り広げる事が出来たのは、神がかった瞬発力を持つリボンズとラウラの二人だけだった。

 

 

 

日もすっかり沈んだ頃。彼等は旅館で豪勢な日本料理を堪能していた。

「ふむ、美味いな。流石本わさ、と言うべきか。この蕎麦も、良い酒の肴になる。」

「本当ですねぇ。と言うより、臨海学校にこんな高級旅館を借り切ってしまう学園も、流石と言いますか・・・」

「確かに。それはそうと、千冬・・・君はそんなに呑んで、明日に響かないのかい?」

「案ずるな。この程度、まだまだ序の口だ。」

そうあっけらかんと答える千冬の顔は、ほんのり赤く染まっているが、酔っている様子は見られない。

「焼酎を二本も呑んで、まだ序の口なんですか!?凄いですね・・・」

「別に、褒められる物ではない。・・・突然なんだが、明日は7月7日・・・篠ノ之の誕生日だ。」

彼女はお猪口に注がれた焼酎を飲み干し、少し真面目な表情になった。

「えらく唐突な話題だね。まあ確かに、その日は彼女の誕生日だと、束からも聞いているが・・・」

「身内に異常な程甘いアイツの事だ、何かするかもしれん。まあお前がいるから、そこまで大きな事はしでかさんと思うが・・・一応、 気にかけておいてくれ。」

「分かった、心に留めておくよ。」

彼等がしばらく飲み交わしていると、丁度隣にある生徒達の部屋が急に騒がしくなり始めた。

「・・・全く、奴等め。こんな所でも相変わらず騒がしい。どれ、奴等を一喝してくるか。」

「お手柔らかにね。なにせ、今まで待ち望んでいた臨海学校だ。恐らく、皆気が浮ついているのだろう。」

「分かっている。あくまでも、注意をするだけだ。」

彼女が部屋を出ていって少しすると、旅館が震える程の怒号が響き渡り、やっぱり分かっていないじゃないか、とリボンズは苦笑した。

 

 

 

食後、一夏が自室に戻ると、そこでは箒を始めとした五人のヒロインズが、千冬の前に正座させられていた。

「え・・・お前ら、どうしたんだよ?また器物破損とか暴力事件とかか?」

その言葉に、一部の者がギクリと肩を震わせるが、彼女達の前に座る千冬の表情から、説教ではなさそうだと彼は推測した。

「おお、織斑か。すまんが今から売店に行って、この小娘達に飲み物を買ってきてやってくれんか?」

「おう、別に良いけど・・・なんか、希望とかはないのか?」

「その辺は、適当に見繕ってくれ。あまり急がなくてもいいぞ、私達はこれより、少しガールズトークをするからな。」

「ああ、そういう事か。分かった。それなら、少しゆっくり選んで来るよ。」

そう言って一夏は部屋を後にした。千冬はそれを確認すると、再び彼女達に向き直った。

 

「さて、ではボーデヴィッヒを除く四人。お前達は、一夏の何処に惚れた?」

「「「「えっ!?」」」」

彼女のいきなりの発言に、四人は顔を赤くした。

「確かに、アイツは使える男だ。性格も良いし、家事も出来るし、マッサージの腕もある。・・・どうだ、欲しいか?」

「「「「くれるんですか!?」」」」

四人が期待を込めた目で見る中、千冬はいたずらっぽい表情を浮かべ、告げた。

「やるか、バカが。」

ええ〜っ、と落胆の声をあげる彼女達に、千冬は笑って言った。

「まぁ、この私から奪い取る位の気構えでいけよ、小娘共。それに、その位ガツガツ行かんと、奴にその気持ちは伝わらんぞ。良いな?」

「「「「はい!!!」」」」

彼女達の元気よい返事を聞いて、千冬はさて、とラウラの方に体を向けた。

「では最後にお前だ、ボーデヴィッヒ。お前は何故、奴が・・・リボンズが好きなんだ?」

千冬の言葉を受け、ラウラは考える。

「理由・・・ですか。好意を抱くにまで至った様々な要因は、ある程度予想はつきますが・・・明確な理由は、私にもよく分からないのです。ただいつの間にか、あの方を一人の男性として慕っていたとしか・・・」

「ああ、今はそれで構わん。正直今重要なのは、理由などではない。お前が奴を好いているという事実さえあれば、それでいい。」

「は、はあ・・・」

困惑する彼女を前に、千冬は真剣な表情をして、話を続けた。

「ボーデヴィッヒ、お前に伝えておかなければならん事がある。奴は・・・恐らく、相当な業を背に抱え生きている。それこそ、そこらの殺人犯など比べ物にならん程の物をな。」

「業・・・ですか?」

「そうだ。奴は今も、それに縛られて生きているんだろう。ではボーデヴィッヒ、お前に問う。お前に覚悟はあるか?奴の抱える業を共に背負い、支え続けていく覚悟はあるのか?」

「それは・・・」

「よく考えろよ、これは今急いで決めるべき問題でははない。時間をかけて熟考し、そして答えが出たら・・・本人に、お前の思いを包み隠さず伝えろ。分かったか?」

「・・・了解しました。」

ラウラとの話が一段落着いたその時、外から一夏の声が聞こえてきた。

「タイミングが良いな。よし、ではこの話は終わりだ。上手くやれよ、小娘共。私は応援する。」

彼女は笑ってそう言い、ふすまを開けて一夏を迎え入れた。

 

 

 

 

 

 

翌朝。一夏が旅館を歩いていると、箒が何かをじっと見ているのを見つけた。

「おはよう箒。何見てるんだ?」

「ああ一夏か、おはよう。いや、これなんだが・・・」

彼女が指さした先には、何やら機械的なウサ耳がひょっこりと顔を出していた。

「な、なあ箒。これってもしかして・・・」

「・・・私が知るか。」

何やら苦い顔をした彼女は、どこかへ歩いて行ってしまった。

「・・・どうすっかなあ、これ・・・」

彼が反応に悩んでいると、そこにセシリアがやって来た。

「あら。おはようございます、一夏さん。何をしていらっしゃいますの?」

「ああ、おはようセシリア。いや、ちょっとな・・・」

一夏は少し迷ったが、最終的にそれを抜いてみようと決意した。

「せー・・・のっ!」

一夏はそれを引っこ抜いたが、その下から何かが出てくるという事はなかった。が、代わりに地響きの様な音が聞こえ始めた。

「おや、君達も随分と起きるのが早いね・・・ん?この音は・・・」

「リボンズさん!?なんかヤバい感じがする、来ちゃ駄目だ!!」

すると次の瞬間、空から巨大な物体が隕石の如く落下し、地面に激突した。その際に発生した衝撃波と土埃が彼等を襲う。そして土埃が消え去ると、その物体は真っ二つに開き、中から一人の人物が飛び出した。

「あっははは!!引っかかったねぇ、いっくん!あ、リっくんもいるじゃ〜ん!ぶいぶい!」

そう言って現れたのは、天下の天才科学者、篠ノ之 束だった。

「・・・束、何をしているんだい?」

彼女が巻き上げた土埃により、少し汚れてしまったリボンズが、不穏な空気を纏いながら問う。

「いやあ、普通に登場しても面白くないから、どうせならインパクトのある奴を、って思ってね!少しドッキリにかかって貰ったわけだよ!」

満面の笑みで答える彼女を前に、彼は静かに1ガンダムの右腕を部分展開した。

「はははは・・・え、ちょっとリっくん、なんでガンダムを部分展開してるのかなー・・・?」

「・・・少し、お仕置きが必要な様だね。」

彼はGNビームサーベルを展開し、彼女に斬りかかった。

「わーっ!?ちょ、ちょっとリっくん、タンマタンマ!!ちゃんと言われてた作業はやっておいたし、 ドッキリも、周りに被害が出ない程度でやったからぁ!?」

ビームサーベルを避けながら、彼女は自らの行いを後悔した。

 

 

 

その後、千冬から集合命令が出されていた一夏・箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ、そして彩季奈と華は、海岸に集合していた。

「先生、なんで箒がここにいるんですか?箒は専用機を持ってないでしょ?」

「その理由は、今説明する。篠ノ之には、本日より専用機が・・・」

千冬がそこまで言うと、どこからか聞こえてくる地響きが、それを遮った。

「ちぃぃぃぃちゃぁぁぁぁん!!!」

その声が聞こえるや否や、リボンズと千冬の表情が引き攣った。猛スピードで飛びかかってきた彼女を千冬は掴もうとするが、一度失敗した。

「何・・・!?」

「残像だよ、ちーちゃん。」

しかし、千冬は神がかった反射速度で、束の頭を掴むことに成功した。

「全く・・・リボンズと過ごす事で少しは良くなった様だが、こういう面は相変わらずだな、束。」

「ありがと、ちーちゃん!そういうちーちゃんこそ、相変わらずすんごいゴッドフィンガー・・・あ、ちょっと待って、ヒートエンドまではしないで!?流石の束さんでも死んじゃう!!」

「お前が死ぬだと?笑わせるな。」

そう言いながらも、彼女は掴む手を離した。

「もう、痛いなぁ・・・っとと、じゃあそろそろ本題に入ろっか。」

「待て、その前に自己紹介をしろ。」

「ええ?うーん・・・やっほー、天災であり皆のアイドル、束さんだよー! よっろしくぅ!ぶいぶい!」

「・・・という訳で、コイツが篠ノ之 束、篠ノ之の姉だ。」

千冬の言葉に、一夏とセシリアを除く全員がどよめいた。

「束って・・・ISの開発者じゃない!?なんでそんな人がここにいるのよ!?」

「えーと・・・鈴ちゃん・・・だっけ?それを聞くなんて愚問だよ!今日束さんは、凄く重要な用があって来たんだからね!さあ、ここで上空をご覧あれ!」

すると、上に待機していた輸送機から、地上に向けて二つのダイヤが落とされた。

「まずはこちらっ!これが箒ちゃん専用機こと、紅椿!!束さん自らが開発した、超スペシャルな第四世代型ISだよぉ! 」

ダイヤの中から現れたのは、まだ稼動していない状態にある、真紅の機体だった。

「第・・・四世代!?世界各国が試験的な第三世代型の開発に着手したばっかりなのに、もう四世代を作っちゃうなんて・・・やっぱり、束博士は凄いかも!」

目をキラキラと輝かせて、彩季奈は束と紅椿を見つめる。

「おっ! そのかもかも口調からするに、君は多分彩季奈ちゃんかもだね!この前のメガ・バズーカ・ランチャーは良いサンプルになったよ、ありがとね! 」

「え、あれの改造に当たってくれたの、束博士だったの?光栄かもです!」

「いいよいいよ〜、お陰ですっごい高火力の武器が出来たし!」

開発者同士で会話に花を咲かせる彼女達を、千冬が咳払いをして諌めた。

「あー・・・話の腰を折る様で悪いが、そろそろ話を続けてくれんか?」

「おっとと、そう言えばそうだね。じゃあまたお話しようね、あーちゃん!」

「はーい!待ってるかも!」

どうやらいとも簡単に打ち解けたらしい二人は、会話を一度中断した。そして束は、もう一つのダイヤに目を向けた。

「そしてもう一つ!壊れちゃったシュヴァルツ・・・なんちゃらを、束さんがその予備パーツを一部流用して改造した、 そこにいるラウラちゃん専用機!」

するとそこから出てきたのは、黒を基調とした色で、どこかシュヴァルツェア・レーゲンの面影を感じさせる機体だった。

「その名も、『ガルムガンダム』!!こっちは第三世代型だけど、その性能は圧巻の一言!今ある第三世代型なんか、簡単にふんす!って出来るよ!」

ラウラはその機体を、ゆっくりと見上げる。

「『ガンダム』・・・教官のISと、同じ名を持つ機体・・・」

「そうそう!中々ロマンを感じるでしょ?ささ、じゃあフィッティングとパーソナライズをするから、二人共ISに搭乗してくれる?」

 

 

「箒ちゃんのデータは予め入れておいたから、あとは細かい部分を設定するだけだね。ラウラちゃんのは前の機体と一緒のコアを使ってるから、適当に済ませれば・・・よし、完成!!」

束はひと仕事終えた様な表情で、目の前のモニターを収納した。

「よぉし!じゃあ二人共、試しに飛んでみてよ!ちゃんとイメージした通りに動く筈だよ!」

彼女達が軽く念じると、それぞれの機体が瞬時に反応し、大空へと舞い上がった。

「流石、スピードが段違いですわね・・・」

「これが第四世代・・・そして、篠ノ之博士自らが開発したISのスピード、って訳か・・・」

そのスピードに驚く彼女達を尻目に、二人は別々の方向に飛翔した。

 

太陽が照りつける下、ラウラの駆るガルムガンダムは、颯爽と大空を飛行していた。

「成程・・・機体出力も速度も、シュヴァルツェア・レーゲンを遥かに上回っている。流石は、博士ご本人が製作なさった機体だ。」

すると、束から通信が入った。

『二人共、良い感じじゃ〜ん。じゃあ次は、これを迎撃してみて!』

すると地上から、彼女に向かって複数のミサイルが飛来した。

「ミサイル迎撃か・・・昔を思い出すな。かつては後方援護しか出来なかったが、今は!」

彼女は、手首に搭載されたGNビームサーベルを展開し、次々とミサイルを切り刻んでいく。

「凄い・・・!なんて圧倒的な加速とパワーだ!これまでのISとは比べ物にならん・・・これが、『ガンダム』。教官と、同じ力!!」

そして彼女は、最後のミサイルを破壊した。

 

 

「二人共、お疲れー!じゃあ試験運用も済んだ事だし、この機体は二人にあげるよ!あ、そうだラウラちゃん。一旦それを待機形態にして、返してくれる?」

「?はい、構いませんが・・・」

待機形態のガルムガンダムを受け取った束は、それをリボンズに手渡した。

(ほらリッくん、リッくんからラウラちゃんに渡してあげなよ。)ボソッ

(僕が?何故・・・いや、ありがとう。僕がやるよ。)ボソッ

彼はラウラに近づき、その手に持つガルムガンダムを、彼女の掌に握らせた。いきなりの事に、ラウラの顔がほんのりと赤く染まる。

「ラウラ、君の腕を見込んで、この機体を君に預け・・・いや、託したい。頼めるかな?」

彼が自ら、自分に新しい力を託してくれた。その事が、彼女の胸を踊らせた。

「喜ばしい限りです、教官・・・!この機体、必ずや物にしてみせます!!」

 

するとそこへ、ジャージ姿の真那が急いで走って来た。

「たっ、大変です織斑先生!!これを見て下さい!」

真那が差し出した端末には、『緊急事態発生』の文字が映し出されていた。

「・・・成程な。各員、指定する宿の一室に向かえ。お前達にやってもらいたい事がある。」

 

 

 

十分後。指定された部屋では、先程のメンバーが全員集まっていた。

「二時間前の事だ。ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型IS、『シルバリオ・ゴスペル』・・・通称、『福音』が制御下を離れて暴走し、監視空域を離脱したとの連絡があった。情報によれば、有人・無人の両方での稼動が可能な機体で、今は無人の状態だそうだ。」

皆が話に集中する中、千冬は言葉を続けた。

「その後の衛星による追跡の結果、今から五十分後、福音はここから二キロ先の空域を通過することが判明した。そして、学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処する事となった。」

千冬は、そのISの情報を提示した。その機体は武装から見るに、セシリアのブルー・ティアーズと同じく一対多の戦闘を視野に入れた機体だろう。

「今現在も、『福音』は超音速飛行を続けている。恐らくアプローチ出来る機会は、たったの一度だけだ。」

「なら、一撃必殺の火力を持っている機体と、それを背負って飛行出来る機体のコンビが一番望ましいかも。で、一撃必殺って言ったら・・・」

全員が、一斉に一夏を見た。

「え・・・ちょ、ちょっと待て!お、俺がやるのか!?」

「あったり前でしょ。瞬発的にそれだけのダメージを与えられるのは、アンタの白式しかいないじゃない。」

「でも・・・俺なんかに、そんな重要な役を任せて良いのかよ?」

未だ不安そうな表情をしている彼を見て、当たり前かの様に作戦会議に参加していた束が話しかける。

「はーい、ちーちゃん先生!ちょっと言いたい事がありまーす!」

「・・・お前、何時からそこに居た?まあいい、話してみろ。」

すると、彼女は一夏に近付き、珍しく真面目な表情になった。

「いっくん、これは実戦なんだよ。訓練とかいう生温い物じゃない。だから、もし自分じゃ出来ないって思ってるんなら・・・この作戦を降りてくれたって良いんだよ?いっくんはまだまだ実力不足だって、みーんな分かってるんだから。それに、束さんも万が一の為に、いっくん抜きでも出来るスペアプランは考えてあるしね。」

彼女は一夏に優しくそう話した後、ただまあ・・・と付け加えた。

 

「試練無くして、人は次の段階には行けないと思うけどなー。」

 

その言葉に、一夏はギュッと手を握りしめる。そして、千冬の方を向いた。

「俺が・・・俺がやります。やってみせます!」

そう言った彼の目は、覚悟を決めた男の目をしていた。

「さっすがいっくん!そう言ってくれると思ってたよ!」

「織斑・・・感謝する。さて、では織斑を奴まで配達していく役を決める。この中で、現在最高速度が最も速い機体はどいつだ?」

千冬がそう問いかけると、皆はラウラと箒を見た。

「さっきのアレを見て、アンタ達二人の機体がぶっちぎりで速い、って事は分かったわ。」

そう言った鈴の後に、シャルが続ける。

「でも、第三世代と第四世代の間には、性能面で大きな差がある。ここは箒のISを使う方が良いんじゃないかな。」

シャルの言葉に、束は大きく首を縦に振った。

「うんうんうん!束さんも、今回はそれが良いと思うな!箒ちゃんの紅椿は、いっくんの白式とセットの運用を前提とした機体だしね!」

他の面々も、その意見に同意している様だった。それを確認した千冬は、再び口を開く。

「よし、メインの作戦はこれで決まった。では束、お前の言うスペアプランとやらを話して貰おうか?」

千冬がそう言うと、束は待ってましたとばかりに、元気よく立ち上がった。

「はいはいはーい!それじゃあ万が一、いっくんと箒ちゃんがしくじっちゃった時の為のプランを、ぱぱっと説明しちゃうよ〜!」

束は自分の端末をモニターに接続し、そこに複数の資料を表示させた。

「今画面に映ってるのは、毎度お馴染みリッくんの1ガンダムだね!この機体は、このままでもかなり速いスピードが出せるけど、それでも紅椿には遠く及ばない・・・そこで、束さんは今回スペシャルな追加武装を作ったんだ!それがこちら!」

すると、複数あった資料の内の一つがズームアップで表示された。皆が一斉にそれに目線を向ける。

「じゃじゃーん!これが今回、1ガンダムの性能を更に引き上げる、可変式バインダーだよ!これは様々な形態になる事が出来て、今回は高機動形態で一気に接近、って算段さ!その時のスピードは紅椿には劣るけど、第四世代に片足を突っ込んでる位には出るはずだから心配ないね!」

自信満々でそう言う束に、セシリアが問いかける。

「篠ノ之博士。質問があるのですが、宜しいでしょうか?」

「えーと、セシリアちゃんだっけ。何かな?」

「リボンズさんの機体が、『福音』に到達し得るスピードを持つ事は把握致しました。では、ダメージを与える役は、どうするのでしょうか?」

「おっ、よくぞ聞いてくれたよ!うんうん、確かに零落白夜が無いと、この作戦を成功させるのは難しいよね。だから、束さんはこういう武器も作ってみたんだ!」

次に彼女は、長い銃身が特徴的な武装のデータを表示した。

「これは、彩季奈ちゃん・・・あーちゃんのメガ・バズーカ・ランチャーを改造して、粒子ビームを放てるようにした奴だよ!チャージにかなり時間はかかるし、粒子の消費も激しいけど、威力は零落白夜に負けずとも劣らない、まさに一撃必殺の武器だね!名前は・・・無難にGNバズーカ・ランチャー、かな?」

「成程、それで『福音』を仕留める、という事だね?ならば、その役は僕が請け負うよ。」

「おっけー!じゃあ、後でバインダーを接続するから、その時に拡張領域(バススロット)に入れておくね!それと、一応援護役として、クーちゃんを連れてったらどうかな?」

「おや、クロエも来ているのかい?ならば丁度いい、彼女にも手伝ってもらおうではないか。」

「はいは〜い。じゃあクーちゃん、入っておいで〜。」

すると、ふすまを開けて一人の少女が入室した。

「なっ・・・!?」

ラウラは、その姿に驚きを隠せないようだった。何故なら、その少女の顔立ちが、彼女と瓜二つだったからだ。その少女はラウラを、ちらと目を開いて一瞥するも、すぐに顔を皆の方に向けた。

「お初にお目にかかります、皆様。私はクロエ・クロニクル、束様の従者・・・もとい、お目付け役をしております。以後、お見知り置きを。」

そう言ってぺこりとお辞儀をした彼女は、束の側に座った。

「じゃあスペアプランは、ガンダム2機による『福音』討伐作戦って事で。良いよね、ちーちゃん?」

リボンズはまだしも、部外者が作戦に参加する事に難色を示していた彼女だったが、少し考える素振りを見せた後に、諦めた様に溜息を吐いた。

「・・・分かった、宜しく頼む。確かに『ガンダム』が持つ力は、圧倒的の一言に尽きる。今回の場合、戦力は多いに越したことはない。では、作戦会議は以上だ。作戦開始は30分後、各員は、直ちに準備にかかれ!」

 

 

 

会議が終わった後、千冬はリボンズや束達を集めた。

「ちーちゃん、お話ってなぁに?私もとっとと、1ガンダムにバインダーをくっ付けて、1.5(アイズ)ガンダムに改装しなきゃなんないからさ。出来るだけ早くしてね!」

そんな束に、千冬は厳しい表情で問う。

「束、単刀直入に聞く。今回の『福音』暴走は・・・お前の仕業だな?」

彼女の言葉に、リボンズが同意して続けた。

「偶然だね、僕も全くの同意見だよ。『福音』はかのアメリカとイスラエルが共同で開発した、文字通り最新鋭の軍用ISだ。恐らく、相当強固なセキュリティが施されていた事だろう。それをいとも容易く破ってしまえるのは、君しかいない。」

そう言って疑惑の視線を向ける彼等に、束は参った、という様な表情をした。

「やれやれ・・・流石はリッくんにちーちゃんだね。うん、今回の件はこの束さんが、いっくんに次のステップへと踏み出してもらう為に仕組んだ事だよ。」

束の告白に、千冬は呆れた様に溜息を吐いた。

「やはりな・・・しかし、それだとしてもまだ疑問が残る。お前の目的は、一夏を『福音』と戦わせる事で、奴に成長を促す事だろう?では何故、お前の所からガンダムの増援を出す必要があった?万が一奴が失敗しても、ガンダムを追加で出すまでも無かったと思うのだが。」

「うーん・・・確かにあれは、最悪リっくんだけでも倒せるかな。まあ、少し苦労すると思うけど。でも問題はアイツじゃないんだ、ちーちゃん。」

「・・・どういう意味だ?」

束のその一言に、千冬は更に厳しい目付きをした。

「いや、虫の知らせって言うのかな?今日の朝から妙に胸騒ぎがしてたんでね。なんか、リっくんだけじゃヤバそうな事が起きる様な・・・まあ、あくまで勘なんだけど。・・・でも、」

 

「この束さんが『ヤバい』って表現するんだから、どんだけかってのは分かるよね?」

彼女の言葉に、彼等は作戦の雲行きが怪しくなっているのを感じたのだった。




・・・はい。というわけで、ラウラの新機体は「ガルムガンダム」になりました。い、一応00本編の機体ではないから、嘘はついていませんよね・・・?

ちなみに、00外伝におけるガルムガンダムと、この小説におけるガルムガンダムには、少し差異があります。一部を挙げますと、

・GNビームサーベルが手首(プラズマ手刀があった場所)に収納されている。(外伝では腰に搭載されている)
・色が黒を基調としている。(外伝では白)
・右肩に砲台が追加されている。

などです。本格的な機体説明は、次回かその次にしようかと思います。


そして、リボンズの新しい機体・・・1.5ガンダムは、今の所は元の機体との差異はありません。違う点と言えば、オリジナルの太陽炉を積んでいることと、オリジナルの武装であるGNバズーカ・ランチャーを持っていることでしょうか。形状は、スローネアインのGNランチャーを手持ち武器にした様な感じです。

最後に「福音」ですが、原作小説ではナターシャが搭乗している有人機、アニメ版では無人機とされていますが、この小説ではちょっとした事情により「両方での運用が可能」という設定にさせて頂きます。

さて、次回はいよいよ「福音」と激突します!皆様、乞うご期待下さい!


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27. 天からの福音 〜忌まれし訪れ〜

さ、三ヶ月もかかってしまうなんて・・・読者の皆様、長い間お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした・・・


「とうとうこの作者もエタったか・・・」と思われた方もおられると思います。大丈夫です、今回は書くのが本当に難しい話でして、試行錯誤しながら日々書いていた結果、こんなに長くなってしまっただけなんです・・・


と言うわけで、今回の話はかなり・・・読みづらい点も多いと思われます。かなりの文を詰め込んでありますので・・・
自分の文章力の足りなさを痛感しました。流石に今後は三ヶ月もかからないと・・・思いますが、読者の皆様にこの作品を最後までお届け出来る様に精進して参りますので、今後とも宜しくお願いします!!!



さて、これだけ期間を空けてしまったので、前回の内容を忘れてしまっていると思います。なので、軽く前回のあらすじをここに書いておきます。覚えて下さっている方は、飛ばしても構いません。


1. 臨海学校!IS学年の一年生は海に!
2. 千冬、箒達5人の恋を応援
3. 束、箒に「紅椿」、ラウラに「ガルムガンダム」をプレゼント。ついでに1ガンダムを1.5ガンダムに改装。
4. 福音暴走。一夏と箒でそれを迎撃する作戦となる。リボンズとクロエはそれが失敗した時のスペアプランとして同行。


こんな感じです。もしあまりピンと来なかったら、お手数ですが前の話を軽く読み返して頂けると幸いです。


それでは、お待たせしました!最新話、スタートです!


作戦開始時刻の数分前。作戦に参加する四人は、それぞれのISを展開して、作戦の開始を待っていた。

「さて。各員、準備は整ったな?」

千冬は彼等にオープン・チャンネルを開き、問いかける。

「ああ、バッチリだ。」

「私も、準備は出来ています。」

「バインダーは既に接続済みだ、何時でも行けるよ。」

「機体に問題はありません、出撃命令を。」

彼等の準備が万全な状態にある事を確認した千冬は、箒を除く三人にプライベート・チャンネルを開いた。

『織斑、リボンズ、クロニクル、聞こえるか?』

「は、はい!」

「ああ、どうかしたのかい?」

「通信に異常はありませんが・・・何か、問題でも起きましたか?」

『問題と言うわけではないが・・・篠ノ之に、気を配ってくれんか?奴は今、自分の専用機を手に入れて少々浮かれている。あの体たらくでは、必ず何かしらのミスを犯すだろう。いざという時は、お前達がサポートしてやれ。』

「箒が?・・・分かりました。」

「成程。確かにそれは、あまり宜しくないね。留意しておこう。」

「新しい力を手にした時は、誰しもその様になってしまうものです。仕方がありません。」

『頼むぞ。では諸君、健闘を祈る。』

 

一方その時、箒にも束とのプライベート・チャンネルが開いていた。

『やっほー、箒ちゃん!紅椿の調子はどうかな〜?』

「・・・問題ありません。何の用ですか?」

『いやぁ、出撃前にちょっと言いたい事があってね!』

「言いたい事・・・?」

『うんうん!箒ちゃんに、一つ忘れないで欲しい事があるんだ!』

彼女はゴホン、と仰々しく咳払いをし、言葉を続けた。

『今回この作戦に箒ちゃんが選ばれたのは、箒ちゃん自身の実力じゃなくて、その紅椿の性能のお陰って事。忘れないでね!』

「っ・・・話はそれだけですか?それでは。」

苛立たし気な顔をしながら、箒は一方的に回線を切る。

そして千冬は、再度オープン・チャンネルに切り替え、全員に通達した。

『ではこれより、作戦を開始する。全員、出撃!』

千冬の号令と共に四人は、「福音」が飛行しているであろう大空へと飛翔した。

 

「織斑先生・・・篠ノ之さんは、本当に大丈夫でしょうか・・・?」

真耶は不安気な表情で、千冬を見つめる。

「・・・今は、奴等を信じるしかあるまい。」

(篠ノ之・・・今まで散々お前を甘やかしてきた束が、初めてお前に忠告をした。その意味を、今気付くべきだったな。)

 

 

 

一夏を乗せる紅椿と、リボンズとクロエの駆るガンダム達は、衛星情報により導き出された「福音」が飛行している位置に向かっていた。

「目標との接触まであと10秒だ。一気に加速するぞ、一夏!」

「おう!」

紅いオーラを纏いながら更に加速する紅椿を見て、リボンズは驚きの声を上げた。

「更に加速が可能とは・・・よし、バインダーをハイスピード・モードに移行させる。クロエ、何処にでも良いから掴まっていてくれるかな?」

「了解。安全運転でお願いしますよ、リボンズ?」

「ふむ・・・善処はするよ。」

彼はバインダーを後方に広げ、更に加速して紅椿を追いかけた。そしてついに彼等は、大空を飛行する福音を捉えた。

「見えたぞ一夏、あれが『福音』だ!」

「ああ!」

一夏を乗せた紅椿は、福音に攻撃を仕掛けるべく、真っ直ぐ福音の方向に向かう。

「目標、捕捉。こちらは彼等を援護しましょう。」

「分かっているさ。これより戦闘状態に突入、彼等の後に続く。」

「分かりました。」

リボンズ達も、各々の武装を展開し、彼等の後に続いた。

 

「行くぞ!うおおおおおおおお!!」

一夏は立ち上がって零落白夜を発動し、雄叫びを上げながら福音に斬りかかった。しかし、それは彼等の接近にいち早く気付いたのか、進路を変えて上へと飛んだ。

「箒、このまま押し切るぞ!」

「ああ!」

上空へと飛んだそれを再度追う紅椿の上で、一夏は再び雪片弐型を構えて、福音に振り下ろした。が、福音はそれを宙返りをする事で回避し、逆に一夏達の背後に回った。

「躱された!?」

すると福音は、背部のウィング状のスラスターから多数のエネルギー弾を発生させ、それを二人にばら撒いた。

「ヤバい・・・箒、一旦二手に別れよう!」

「分かった!」

彼等は別々になって、迫り来るエネルギー弾から逃れた。福音はそれを追跡しようとするが、リボンズ達によって妨げられた。

「おっと、そちらへ行ってもらっては困るな。」

「こちらの相手もして頂かないと、ですね。」

二人は左右に別れ、十字砲火を繰り出した。福音はそれを避けたが、彼等の目論見通りに、福音は彼等を目標に移した。

「君が単純で助かる。クロエ、頼んだよ。」

「はい。GNミサイル・ベイ、展開します。」

彼女は、全身に搭載されたミサイル・ベイのハッチを開いた。その数は、明らかに以前よりも多くなっている。

「GNミサイルの小型化により、更に高密度になったこの弾幕・・・回避する事が出来ますか?」

そう言うなり彼女は、全身のミサイル・ベイよりGNマイクロミサイルを発射した。それ等は一斉に福音を狙って軌道を描く。だが福音は、それに対してエネルギー弾で応戦し、ミサイルを全て撃ち落とすという荒技をやってのけた。

「まさか、全て撃墜するとは・・・しかし、甘いですね。」

しかし、その爆煙に紛れて、クロエは福音に接近して蹴りを入れ、後方へ吹っ飛ばした。即座に福音は体勢を立て直すが、同じく体勢を立て直した一夏達が、後ろから近づいていた。

「よし。リボンズさん達が上手くアイツを引き付けてる、今がチャンスだ!」

「私が奴の動きを止める。後に続け、一夏!」

彼女は背部の展開装甲をパージし、福音に向けて射出した。それ等はまるでブルー・ティアーズの様に、自立飛行をして福音に攻撃をする。それを見たリボンズは、感嘆して声を上げた。

「あれは・・・BT兵器?いや、どちらかと言えばファングの発展系か。装甲を丸ごと自立兵器にしてしまうとは・・・全く、君の発想力には驚かされるよ、束。」

展開装甲の繰り出す打突攻撃にバランスを崩した福音に、箒は刀を構えて斬りかかった。それを防御した福音と拮抗状態に陥った彼女は、一夏に叫んだ。

「今だ一夏、やれ!!」

「おう!!」

彼は今度こそ、と雪片弍型を振り上げ、福音に接近する。しかし、途中で急に進路を変え、福音の真横を通り過ぎた。

「一夏!?何をしている、そっちではないぞ・・・ぐっ!?」

一夏のその行動に驚く箒を、福音のエネルギー弾が襲う。

「何をしているんだい、君は!?目の前に敵がいるだろう!?」

一夏は、流れ弾を斬り払いながら答える。

「船だ、船がいるんだ!ここらの海域は、先生達が封じている筈なのに・・・」

彼等が海を確認すると、そこには彼の言う通り、識別不明の漁船らしき物があった。

「密漁船か・・・こんな時に!!一夏、奴等は犯罪者だ。構うな!」

「馬鹿、見殺しになんか出来るか!!」

しかし、零落白夜を起動したままエネルギー弾を斬っている白式のシールドエネルギーは目に見える様に減っていき、そしてとうとう時間切れとなった。

「くっ、零落白夜が・・・」

それを狙っていたかの様に、福音は彼に追撃をかけるが、それは彼等の間に割り込んだリボンズがカットした。

「君はひとまず後退してくれ、織斑 一夏。零落白夜が使えなくなった以上、君が居ても的にしかならない。」

「ああ・・・悪い、リボンズさん・・・っ!?」

しかし、彼の目にある物が映った。いや、映ってしまった。福音が見境無しに発射するエネルギー弾の一つが、船への直撃コースに入っている光景が。

「まずい・・・間に合ってくれーッ!!」

一夏はリボンズが制止する間もなく、彼の後ろから飛び出した。そして、一夏の全身は爆炎に包まれた。

「い・・・一夏ぁッ!!」

箒の叫びも虚しく、彼は気を失い海に落ちていった・・・

 

 

 

「・・・篠ノ之 箒。君は彼を回収して、撤退するんだ。僕とクロエが殿を務めよう。」

箒は生気を失った目でリボンズを見、力なく頷いた。

「よし、分かったならば早く行きたまえ。これは彼の生死にも関わる事だ。」

彼の言葉を受け、一夏が墜落した地点に向かっていく箒に、福音は顔を向ける。が、リボンズはビームライフルを一発放ち、福音を威嚇した。再び彼等の方向に向き直った福音を前に、クロエは彼に話しかける。

「さて・・・ああは言ったものの、どうするつもりですか?」

「心配しなくとも、作戦は考えてあるさ。僕は正面からあれを迎え撃つ。君は左から接近、攻撃してくれ。狙うべき場所は、あの背中の翼だ。」

「成程。スラスターと攻撃手段を、一気に潰してしまおうという事ですね。分かりました、その作戦に乗りましょう。」

「決まったね。では、頼んだよ。」

そう言って、リボンズは前に飛び出した。福音は移動しながら彼にエネルギー弾を浴びせるが、彼はシールドを構えつつ、するりとその弾幕の中を抜けて行く。

「その程度かい?では、こちらから行かせてもらう!」

彼は急激に速度を上げ、迫るエネルギー弾を意にも介さず福音に接近する。福音は彼から離れようとしたが、クロエが遠方からビームを連射し、それを妨害した。

「良い援護だ。これならば・・・」

福音の目の前まで到達した彼は、手を伸ばしてそれの頭を掴んだ。

「一瞬で終わらせる事が出来る。」

そして、その勢いのまま、福音の頭部に強烈な膝蹴りを食らわせた。直前までの速度が乗ったそれに、福音は大きく仰け反る。その隙を彼は見逃さず、次の行動に移った。

「おや、どうしたのかね?後ろががら空きだよ!」

彼はその場で宙返りをしながらGNビームサーベルを展開し、そのまま福音の片方のスラスターを両断した。

「クロエ、今だよ!」

「承知しました!」

彼の指示通りに側面から接近していた彼女は、両手にGNビームサーベルを持ち、福音に突進する。福音はそれに対して、残った翼からエネルギー弾を放つが、彼女は止まらない。

「その程度では、この装甲に傷は付きません!!」

そのまま突撃した彼女は、もう一つの翼を根元から叩き斬った。

「良くやった、クロエ。では・・・」

彼はGNバズーカ・ランチャーのチャージ状況を確認したが、まだ発射出来るまでには至っていなかった。

(まだチャージは完了していないか・・・ならば!)

彼は即座に、福音の体にビームサーベルを突き刺し、それに向けバインダーを前面に展開・・・「アルヴァアロンキャノン・モード」に移行させた。肩越しに展開したバインダーの間に、徐々に粒子が圧縮されてゆく。

「零距離での砲撃ならば、躱すことも出来まい・・・さあ、消し飛ぶがいいさ!」

そして、圧縮された粒子が一気に照射され、福音の体の殆どを飲み込む程の粒子ビームが、それを襲う。

(凄まじい反動だ・・・だが、このまま行けば!)

やがて照射が終わると、福音は全身からスパークを発生させていた。それは体を身じろぎさせたものの、糸が切れた様にぷつりと動きを止め、そして海に落ちていった。

「・・・福音の反応は?」

「いえ、反応は未だ健在です。しかし、あそこまでダメージを負っているのですから、シールドエネルギーが底を尽くのもあと少し・・・」

と、そこまで彼女が言った瞬間、ドッ!と天に昇る程の大きさの水柱が上がった。二人が驚いてそれを見ると、その中心に、バリアの様な物に包まれた福音が居た。それはゆっくりと二人の方を向くと同時に、背中から純白の翼の様な物を展開した。

「まさか・・・二次移行(セカンド・シフト)をしたとでも言うのか!?搭乗者も無しに・・・」

「ISの防衛機能が、あれを強制的に進化させたという事でしょうか・・・?」

すると福音は、その翼をはためかせ、クロエに急速接近をした。

「速い!?ですが、その程度なら!」

彼女はビームサーベルを展開し、福音に斬りかかる・・・かと思いきや、直前でそれを収納し、そのまま背後に回り込んだ。

「貰いました!」

クロエは、2連装GNビームライフルのトリガーを引いた。が、 福音は素早く身を屈めてそれを回避し、逆に彼女を捕らえた。

「しまった!?」

彼女を捕らえた福音は、その翼の間にエネルギーを溜め始めた。

(リボンズの1.5ガンダムと、同じ攻撃を・・・!?)

しかし、その圧縮されたエネルギーに、咄嗟にリボンズが放ったビームが数発着弾し、中規模の爆発を起こした。その爆風に、クロエと福音の双方が吹き飛んだ。

「大丈夫かい、クロエ?」

「なんとか・・・至近距離での爆発の影響で、上半身に損傷が見られますが。しかし、頭上であれ程の爆発を起こされたあちらも、それなりの被害を被っている筈です。」

リボンズは、後ろから福音が追って来ていないのを確認すると、それにしても、と口を開いた。

「あの反応速度と言い、あの翼と言い、想定外の事態だった。体勢の立て直しが必要か・・・作戦は、失敗だ。クロエ、ここは撤退しよう。」

「はい。誠に遺憾ですが・・・」

二人は踵を返し、その空域を後にした。そのガンダムフェイスの下の表情は、決して明るいものではなかった。

 

 

 

 

夕方。待機命令を出されていた専用機持ち達は、千冬達がいる部屋に来ていたが、門前払いをされてしまっていた。

「お前達の心境は分かるが・・・今は、織斑教官の指示に従うべきだ。」

「でも、先生だって心配してる筈・・・だって、家族なんだよ?」

「作戦失敗を言い渡してから、一夏の容態を見に行ってすらいないなんて・・・」

「それに、箒さんとも言葉を交わしていませんし・・・幾ら作戦を遂行出来なかったとは言え、冷た過ぎるのでは無くて?」

そう零す彼女達に、ラウラは冷静に答える。

「今一夏の方に気を割いて、何になる?今箒に労いの声を掛けて、この事態は好転するか?・・・何も、進展する事はない。それどころか、仮に福音を見失ってしまっては、寧ろ悪い方向に行きかねない。今優先すべきは、奴を捕捉し続ける事。織斑教官は、やるべき事をやっているに過ぎん。」

彼女達を、沈黙が襲う。すると、彩季奈が唐突に立ち上がった。

「・・・ちょっと、ISの整備してくるね。」

「このタイミングで・・・?」

「確かに、二人の事は心配だし・・・福音の動向も、気になる所かも。でも、福音は先生達が見てくれてるし、一夏も・・・今は、箒が看てる。あたしたちも、今出来る事をしないと。」

そう言って彩季奈は、旅館の中へと入っていった。残された彼女達は考える素振りを見せた後、互いに顔を見合わせ頷いた。

 

 

夕日が差し込んでいる旅館の一室では、気を失い布団に寝かされている一夏の側に座る、箒の姿があった。髪をだらりと下げて俯く彼女の暗い表情から、彼女が後悔の念に苛まれている事が伺える。

「一夏・・・私は、間違っていたのだろうか?・・・いや、そうだったのかもしれん。専用機の持つ圧倒的な力に魅了され、そして酔っていた・・・」

彼女は、出血する事も厭わないというかの如く、拳を強く握りしめた。

「姉さんの言った通りだった・・・!私は強大な力を手に入れた事で、驕り、高ぶり・・・自分の実力でもないのに、まるで自分自身が強くなったかの様に振舞って・・・ISの性能を盾に得意気になっていた、虎の威を借る狐だったんだ・・・!」

すると、部屋のふすまを開いて真耶が入ってきた。

「篠ノ之さん・・・貴方も、少し休んでください。根を詰めて、貴方まで倒れてしまっては・・・皆、心配しますよ?」

「・・・私は、ここに居たいんです。」

「いけません、休みなさい。これは、織斑先生の要請でもあるんです。」

「・・・分かり、ました。」

そう言って部屋から立ち去った彼女を、真耶は心配そうに見つめていた。

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

部屋から飛び出した彼女は、浜辺を走り続けていた。それが、自分への罰だと言い聞かせているかの様に。

「なーに青春漫画みたく、必死に走っちゃってんのよ。」

唐突に聞こえた声に箒が振り向くと、そこには鈴がいた。

「・・・鈴か?何故ここに・・・」

「決まってんじゃない、アンタを誘いに来たの。あたし達で、福音を倒すって作戦にね。」

鈴はそう言って箒に手を差し出したが、肝心の箒は、変わらず暗い表情のままだった。

「・・・私は、もうISは使わない。いや、使う資格など無い・・・」

その瞬間、鈴は差し出していた手で箒の胸ぐらを掴み、叫んだ。

「一回の失敗位で、凹んでんじゃないわよ!!確かに今回は、一夏が危険な目にあったりした。アンタにも、その責任の一端はあるわ。でも、それだけでアンタが終わったって訳じゃ無いでしょ?アンタにはまだ、やるべき事が残ってる。仮にも専用機持ちなら、それをなんとしてでも果たそうとしなさいよ。それとも何?アンタは肝心な時に戦えない、責務からも逃げようとする臆病者な訳!?」

その言葉に箒は唇を噛み締め、感情を爆発させるかの如く叫んだ。

「・・・どうしろと言うんだ・・・!福音は今や何処に居るかも分からん、今の私は、一夏の仇を討つ事すら出来ない!もし戦えるのなら、私だって戦う!!」

箒の心からの叫びを聞いた鈴は、表情を崩した。

「ったく、最初からそう言えば良いのに・・・皆、言質取ったわね?」

箒が驚いて振り返ると、そこには専用機持ちのメンバー達が集まっていた。

「お前達まで、何故・・・!?」

その箒の問いに、皆が笑って答える。

「皆思いは同じ、って事だよ。」

「教官が、一時撤退する程の相手・・・我々では分が悪いと、私は意見したのだがな。まあ、こうして参加している限り、私も同類か。」

「敗者のまま終わるだなんて、出来ませんものね。」

「一応、録音はしておいたけど・・・聞いて、みる?」

「本当に採ってたのね・・・ま、これでもう後に退けないでしょ?」

不敵に笑う鈴に、箒は力強く頷いた。

 

 

「ラウラ、今の福音の状況は?」

「ああ、既に確認済みだ。」

ラウラはISの右腕を部分展開し、ウィンドウを立ち上げた。

「ここから30キロ離れた沖合上空。ここで目標は静止している。ステルスモードに入っていたが、どうやら光学迷彩は搭載されていないらしい。衛星カメラを介した目視で発見した。」

「上出来ね。流石は、ドイツ軍の特殊部隊ってトコかしら?」

「この程度、褒められる程の物でもない。で、お前達はどうなんだ?準備は出来ているのだろうな?」

ラウラの問いに、皆は当然、と言うかの様に頷いた。

「勿論、皆準備万端よ。・・・でも、彩季奈がまだ来てないわね・・・」

鈴がそう言った時、彩季奈が台車を押しながら、皆の下に駆けて来た。

「お、お待たせ〜・・・」

「お疲れ様、彩季奈。皆はもう準備出来てるけど、大丈夫?」

「心配しなくても、いつでも行けるよ。大艇ちゃんも、ちゃんとテスト飛行をしたからね!サブフライトシステムとしては、十分な働きをしてくれるはずかも!」

彩季奈は台車に乗せていたそれを、ISを部分展開して砂浜に下ろした。

「箒、アンタも少しは準備しなさいよ。」

「ああ・・・だが、これは命令違反になるのではないか?」

「それが何?アンタも、さっき戦うって言ったじゃないの。今度こそ、アイツを墜すのよ。」

「・・・ああ、そうだな。今度こそ、私は戦って勝つ。もう負けはしない。」

 

「おや・・・皆様、何をなされているのですか?」

 

全員が驚いて声が聞こえた方向を見ると、そこにはクロエが、静かに立っていた。

「何よ・・・アンタ、止める気?」

「いえ。私には、その権限はありません。ですが、止めておいた方が身のためかと思われますよ?」

「・・・それでも、行くわ。これはあたし達に与えられた任務なの。一夏の仇を討ちたいって気持ちもあるけど・・・それ以前に、任務をやり遂げる義務があるのよ。」

他の者も皆、鈴と同じ面持ちをしていた。それを確認したクロエは、微笑を浮かべた。

「成程・・・こう言っておりますよ、リボンズ?」

すると、リボンズがどこからともなく現れた。皆がまたそれに驚く中、彼は口を開いた。

「ふむ・・・君達の私情を挟まず、あくまで任務遂行に徹しようとする姿勢は、称賛に値するよ。しかし、やはり君達だけで福音に対抗するのは難しい。本来、君達を止めるべきなのだろうが・・・僕とクロエが同伴するという条件を呑むなら、君達の無断出撃に僕は目を瞑ろう。」

「ほんの僅かな時間でしたが、私達はアレの力の片鱗を、身をもって体感しました。少しは力添えが出来るかと。」

「もし、それも断ると、どうなるの・・・?」

華が恐る恐る問うと、リボンズは平然と答えた。

「その時は、千冬を呼び出すまでさ。」

彼女等に、選択の余地はなかった。

 

 

 

 

 

日が沈み、月明かりが辺りを照らす中、福音は繭の様に自身をバリアで包み、空中に佇んでいた。すると、そこに一発の弾丸が飛来し、着弾した。

「初弾命中!」

福音がバリアを解き、ゆっくりと彼等の方を向く。

「福音の攻撃は恐らくどれも強力だ、出来る限り回避に徹してほしい。良いね?」

「「「「「「「了解!!!」」」」」」」

その掛け声と共に全員が散開し、様々な方向からの福音への攻撃を開始した。

 

 

 

 

ー・・・ここ、は・・・?

 

 

一夏が目を覚ますと、そこは不思議な空間だった。目の前には青く澄み渡る空が広がり、足元には透き通る様な波が打ち寄せている。彼が辺りを見回していると、純白のワンピースを着た少女と、甲冑を着た女性が、彼の目の前に現れた。

 

 

『・・・力を、欲しますか?』

甲冑を着た女性が、凛とした声で一夏に問う。

 

 

ー力、か・・・うーん、そうだな。やっぱり、力は欲しいよ。

 

 

『・・・何の為に?』

 

 

ー俺は、自分の手が届く範囲の人は、全力で守りたい。けど、心の中ではそう決めてるのに、実際は助けられてばっかりだ。箒、シャル、リボンズさん・・・千冬姉。他にも色んな人に助けられて、今の俺はいる。

なのに、俺はその恩すら、まだ返せていない・・・俺が、それをするにはまだまだ弱いから。

 

 

『・・・』

 

 

ー志だけじゃ駄目なんだ、それをやり通せる程の力が無きゃ・・・何も出来ない。だから、俺は強くなりたい・・・いや、強くなる。今度こそ皆を守る為に。俺の決意を、貫き通す為に!

 

 

すると、ワンピースを着た少女が、にこりと微笑んで彼の手を取った。

『分かる?今も皆が、貴方の為に戦ってるんだよ?・・・貴方を、待ってるんだよ?だから・・・行かなきゃね。』

徐々に遠のいてく意識の中、彼は声を聞いた。

 

 

「「貴方に、力を。」」

 

 

 

一夏は部屋に差し込む月光の中で、ゆっくりと目覚めた。

「・・・夢、だったのか・・・?」

彼は、その内容を詳しくは覚えてはいなかった。が、今自分がすべき事を、どこかで確信していた。体に取り付けられている医療機器を取り外し、彼は傍にあった自分の愛機に手を伸ばす。

「白式・・・もう一度、俺に力を貸してくれ。俺はお前と一緒に、強くなってみせる!」

彼の体を眩い光が包み、ISが展開する。展開した白式の姿は、以前の物から変化していた。

 

『雪羅』、白式の第二形態の姿へと。

 

一夏は部屋の外に出て、仲間達が戦っているであろう、夜の空を見据えた。そんな時に、ふと彼の頭に千冬がよぎる。

「・・・また、心配かけちまうな。千冬姉、ごめん・・・俺は、行くよ。」

新たな力、『雪羅』を纏った彼は、暗い夜の空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

一方、リボンズ達は窮地に陥っていた。二次移行(セカンド・シフト)をした福音は、以前とは桁違いのスピードで夜空を飛び回り、また背部に広がる翼を駆使し、様々な方法で彼等を苦しめる。

「ぐあっ!?」

福音の砲撃を避けきれなかった箒が、咄嗟にそれを防御するも、威力に耐えきれず弾き飛ばされてしまう。

「箒さん!?」

福音は次にセシリアに目を向け、一瞬で彼女に近づき、大きく広げた翼で彼女を包み込んだ。 そしてそれをゆっくりと広げると、気を失ったセシリアが落ちていった。

「セシリア!?奴め、何というスピードだ・・・ならば!」

ラウラはガンダムを以ってしてもスピードでは勝てないと判断し、逆に自ら福音に接近する。福音はラウラに気付くと、彼女に向け砲撃を放った。

「そんな直線的な砲撃、当たらんよ!」

彼女はひらりとそれを躱し、肩部のカノン砲を構えた。そのカノン砲は弾頭にGN粒子を纏わせ発射する事が出来る、さしずめパーティクル・カノンと言った所か。

「照準良し・・・コイツを喰らえ!」

砲身から、巨大な弾頭が射出される。GN粒子の影響で、強度と速度が強化されたそれは、狂いなく福音の胸部に直撃した。しかし、福音は破損を気にする素振りも見せずに、ラウラにエネルギー弾を浴びせた。

「なっ!?くっ、防御兵装は・・・これか!」

ラウラは咄嗟にGNフィールドを展開し、難を逃れた。が、その一瞬の隙をついて、福音が彼女の目の前まで迫る。そして、そのエネルギーで構成された翼を振りかぶり、彼女に叩き付けた。

「ぅぐっ・・・この出力、このISは化物かッ・・・!?」

彼女の防御も虚しく、福音は彼女を叩き落とした。海面に落ちた彼女に向け、福音は再び砲撃体勢に入った。

「ラウラ!?くっ、このぉぉぉ!!」

リボンズは咄嗟に二機の間に躍り出、アルヴァアロンキャノンを展開し、発射した。それは福音の放った砲撃とぶつかり、相殺した。

(不味い・・・幾ら何でも、一時的に行動不能に陥った彼女達を守りながら、これと戦うのは分が悪い。このままでは・・・)

すると、レーダーが彼等に接近してくる機体を察知した。

(IS・・・?千冬からの増援か?・・・いや、これは)

その機影を確認したリボンズは、口元を綻ばせた。

 

 

 

 

ー・・・会い、たい・・・一夏に、会いたい・・・

岩場に叩きつけられて気絶した箒は、暗い意識の底でさまよっていた。 すると、彼女は自分を呼ぶ声を聞いた。

 

ー・・・この声は・・・?・・・ああ、そうか。この声は・・・

 

 

 

 

箒がゆっくりと目を覚ますと、そこには一夏の姿があった。

「おお、起きたか箒。」

「い、一夏!?体は、体は大丈夫なのか!?傷は!?」

「大丈夫だ、俺は戦える。」

「あ・・・そう、か・・・本当に、本当に大丈夫なのだな・・・」

彼女の胸が、安心感と嬉しさで満たされる。すると彼女は、一夏が何かを手にしているのに気付いた。

「ん?一夏、お前が持っているそれはなんだ?」

「ああ、これか?何って、プレゼントだよ。今日はお前の誕生日だろ?」

そう言って彼は、持っていた白いリボンを箒に手渡した。

「お、覚えていてくれたのか・・・」

「当たり前だろ?幼馴染の誕生日を忘れる程、俺は鈍感じゃないぜ。」

どの口が言うか、と思いつつも、一夏からの思わぬサプライズに、箒は思わず涙を流す。すると二人の周りに、メンバー全員が集まった。

「一夏さん・・・ご無事で何よりですわ。お体に異常はございませんの?」

「ああ、大丈夫だ。ありがとな、気を使ってくれて。」

「ったく、怪我人なんだから休んでたら良かったのに・・・ホント、懲りないわね。」

「皆がアイツと戦ってるんだ、おちおち布団の中で寝てる訳にはいかねぇだろ。」

「まあ何にせよ、一夏が元気になってくれて良かったよ・・・あれ?一夏、そのリボンって・・・」

「ああ、箒へのプレゼントだよ。今日は箒の誕生日だからな。」

「ふーん・・・」

するとシャルは、箒にプライベート・チャンネルを繋いで話しかけた。

『箒の誕生日って、今日だったんだ・・・ごめんね、何にも用意してなくて。』

『いや・・・私も言っていなかったからな。お前が気にする事はない。』

それでもまだ納得できないシャルは、そうだ、とある提案をした。

『じゃあ、折角の誕生日なんだし・・・少し位は、抜け駆けさせてあげるよ?』

『・・・そいつは有難い事だが、何故少し上から目線なんだ・・・』

箒がそう問いかけると、シャルはセシリアと鈴にも回線を開き、小悪魔の様な笑みを浮かべた。

『だって最後には僕が、一夏を勝ち取るからね♪』

その言葉に、鈴とセシリアが食いつく。

『ちょっと、今のは聞き捨てならないわね!?』

『そうですわ!私達だって、譲る気はありませんわよ!!』

すると、そんな彼女等を見かねたのか、リボンズが彼女達に対して回線を開いた。

『君達、痴話喧嘩は後にしてくれないかな?こうして彼が復帰してくれた以上、僕達がまずやるべき事は・・・分かっているね?』

彼の言葉に、彼女等は再び気を引き締め直す。そう、まだ問題は何も解決していない。現に福音は、彼等を嘲笑うかの様に大空を飛び回っている。

「織斑 一夏。君にもう一度、切り札の役割を務めてもらいたい・・・ 頼めるかい?」

「ああ、今度は任せてくれ。もうさっきみたいに、勝手な行動はしない。」

すると一夏は皆の方を向き、頭を下げた。

「皆・・・俺の身勝手で皆を心配させちまって、ごめん。自分の役割も考えずに、只自分の理想だけを追い求めて・・・情ねぇけど、これからもまだ、皆の助けが必要になると思う。でも、俺は必ず強くなる。皆の為に、必ずだ。・・・だからもう一度、皆の力を俺に貸してくれないか?」

一夏がそう言うと、皆は何を今更、と言うように笑った。

「無論、そのつもりでしてよ。私達は一夏さんが助けを求めたら、いつでも力になりますわ。」

「そうだね。また危険な真似をされても困るし・・・そうだ、次またあんな事をしたら、女子の制服で登校させるってのはどうかな?」

「あ、それ名案ね。ホント、こう何度もヒヤヒヤさせられてたら、心臓が幾つあっても足りないわよ。」

何やら恐ろしい事を提案された一夏は、引き攣った笑みを浮かべた。

「そ、それは確かに御免だな・・・けどまあ、ありがとな。そこまで俺の身を案じてくれて。よし、じゃあ・・・行くか。箒は回復したら、戻って来てくれ。」

そう言うと、一夏は皆を引き連れ、再び空へと飛び立った。

 

 

 

「一夏・・・」

すると、そう呟く彼女の中で、ある思いが強くなっていく。それを理解した彼女は、心の底から強く願った。

(私は、守りたい・・・私達の為に強くなると言ってくれた、一夏の背中を守りたい!)

すると紅椿の全身が、金色に輝き出した。箒が何事かとモニターを見ると、そこには

 

『絢爛舞踏』

 

と表示されていた。

「シールドエネルギーが、回復している・・・?『絢爛舞踏』・・・そうか、これがお前の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)か!」

箒は一夏から貰ったリボンで髪をくくり、いつもの髪型に戻した。その顔は、普段の凛々しい表情に戻っていた。

「行くぞ、紅椿・・・お前の力で、今度こそ一夏を守る!」

箒はそう言って、遠くに小さく見える一夏の背中を追いかけた。

 

 

 

 

「セシリア、シャル、援護してくれ!」

「承りましてよ!」

「了解!」

二人は左右に分かれ、一夏の後ろから援護射撃を開始した。セシリアが狙撃して、その隙を埋める様にシャルがアサルトライフルを放ち、福音に反撃の機会を与えさせない。

「うおおおぉぉッ!!」

彼女達が作った隙を生かして、一夏は福音に接近し、雪片弍型を振り下ろした。が、福音はそれをすんでの所で回避し、一夏にエネルギー弾を放った。

「くっ・・・雪羅、シールドモードだ!」

一夏は、新たに追加された多機能武装腕『雪羅』を眼前に構える。するとそこからシールドが展開され、エネルギー弾を防いだ。しかし、それは零落白夜で構成されている物なので、長く使う程シールドエネルギーも減っていく。

(マズい、このままじゃまたやられちまう・・・遠くから、荷電粒子砲で攻撃するか?いや、俺の射撃の腕は所詮付け焼き刃だ。あのスピードの福音に、到底当てられるとは思えない・・・クソ、どうすれば・・・)

すると、そこに紅椿の展開装甲が飛来し、一夏と福音を強引に引き離した。更にシャルとセシリアがそれを追撃し、福音を一夏から遠ざけた。

「箒!もう大丈夫なのか?」

「ああ、問題無い。それより一夏、これを受け取れ!」

彼女がそう言って一夏に触れると、白式と紅椿に金色の光が灯り、白式のシールドエネルギーがみるみる内に回復した。

「一夏、お前に託した。お前が奴を討て!」

「・・・ああ!」

はっきりとそう答えた一夏に対し、鈴が忠告をする。

「一夏、今度は馬鹿みたいに突っ込むだけじゃダメなんだから。次はちゃんと、零落白夜の使い所を見極めなさいよね。」

「一夏は、あくまで切り札だからね。あんまり前に出て消耗され過ぎても困るから、ここぞっていう時に攻撃してくれないかな?」

「そうだな、分かった。でもそれなら、どうにかしてアイツに気づかれずに・・・それか、アイツが大きな隙を見せた時じゃないと、とても俺の装備じゃ接近出来ねえぞ?」

すると、それに彩季奈が名乗りを上げた。

「じゃあ、あたしと華でアイツを足止めしてみる。だから皆、その後は各自の判断でお願いするかも!」

彩季奈はそう言って、指定したポイントを皆に送信した。

「成程・・・即興で踊る事も、たまには悪くないですわね。鈴さん、もし宜しければ手伝って下さいな。」

「OK!やってやろうじゃないの!」

「僕は、セシリアと鈴に合わせて福音に攻撃するよ。箒はどうするの?」

「私は・・・紅椿のスピードで、一気に強襲をかける。」

彼女達を初めに、全員がそれぞれの配置へと移動した。

「華、作戦は聞いた通りかも。これはあたし達が成功しなかったら台無しになっちゃうから、気張って行こうね!」

『うん。じゃあはっちゃんは、このポイントで待機してるね。』

華はそう言って、海に潜った。それを確認した彩季奈は、よしっ、と自らの気を引き締め直した。

 

「さーて、砲撃用意!大艇ちゃん、姿勢制御よろしくね!」

彩季奈は二式大艇の上で、『成層圏を墜す者(ストラトスブレイカー)』を連結させ、飛行する福音の進行方向に向け放った。しかし、福音はそのスピードを以てそれを回避し、彩季奈に迫った。

「やばっ!?大艇ちゃん、目標地点まで全速前進ーッ!!」

彩季奈は移動を二式大艇に任せ、後ろから迫り来る福音にサブマシンガンを放って牽制した。

「もー、いい加減しつこいかも!!」

背後から迫る福音の攻撃は、二式大艇に搭載された自動操縦システムがそれを探知し、かろうじて回避する。ギリギリの状況が続く中、彼女は確実に福音を海面の近くまで誘導し、目標地点にまで連れて来ていた。そしてその地点に到達した時、彼女は華に向け通信を開き、叫んだ。

「華、今だよ!!」

その瞬間、福音の足元の海面より華の魚雷が飛び出し、福音に直撃した。

「ぃよっし、ドンピシャかも!」

足が止まった福音に、彩季奈は至近距離まで近付き散弾を放った。福音がバランスを崩したところに、華が水上に出てガトリング砲を構える。が、水上に出た事で彼女の反応を察知した福音は、華にその翼を伸ばした。

「・・・ラウラさん!」

福音の翼が彼女に触れるかと思われた瞬間、福音が前のめりになって、翼の軌道が逸れた。

「ラウラさん・・・ナイス、ショット。」

『いや、お前の陽動があってこそだ。』

福音はたまらず上空に避難した。しかしその道を、あらかじめ周辺で待機していたセシリアのブルー・ティアーズが阻む。

「そう簡単には逃がしませんわよ!」

「アイツの攻撃は消してあげるから、思いっきりやっちゃいなさい、セシリア!」

福音が放ったエネルギー弾を、鈴は龍咆を連射し、物量で相殺した。

「足を止めるね!」

福音に向け、シャルが二丁のアサルトライフルを連射して更に硬直させる。すると業を煮やした福音は、全方位に数多のエネルギー弾を放った。

「ッ、これは!!」

「流石に捌き切れないわよ、この数じゃ!」

「私に任せろ!」

箒はエネルギー弾を刀で斬り払いつつ、福音に接近した。

「はあぁぁぁぁぁっ!!」

箒と福音は何度かの接触をした後、鍔迫り合いとなった。

『箒、退け!』

ラウラからの通信を聞いた箒は、展開装甲を射出して福音を足止めしつつ、後ろに下がった。すると、ラウラが放った砲弾が福音を掠め、通過した。

「くっ、外したか・・・」

福音はラウラの方を向くと、多数のエネルギー弾を発射した。するとそこに、ラウラを守るようにクロエが割って入り、エネルギー弾をシールドで防御しつつ、福音に肉薄した。福音はセシリアの時と同じ様に、翼を大きく広げる。

「同じ技が、二度も通用するとお思いですか?」

クロエは両手に一本ずつGNビームサーベルを持ち、左右より迫る翼をそれ等で受け止めた。

「ここまで近づけば、外しません!」

クロエは胴体のミサイル・ベイを開き、至近距離からGNマイクロミサイルを直撃させた。福音の体の各所で爆発が起き、装甲の一部が内側から弾け飛ぶ。その衝撃に、福音は大きく吹き飛ばされた。

『リボンズ、今です!』

彼女の通信と同時に、リボンズは少し離れた場所でGNバズーカ・ランチャーを展開した。

「チャージ完了・・・今度は喰らわせてあげるよ!」

彼がトリガーを引くと、 野太いビームの奔流がドッ!と福音に向け発射された。それを察知した福音は、全てのエネルギーを翼にまわし、それを盾にした。しかしそのビームのあまりの威力に、翼に亀裂が奔る。その亀裂は徐々に広がり、遂にはその威力に耐えきれず霧散した。しかしそれと同時に、ビームの照射も終わってしまった。

『そんな、あの砲撃でも倒し切る事が出来ないなんて・・・』

クロエが落胆の声を上げるも、リボンズに焦った様子は無い。

「いや、これでいいのさ。今は、彼がいる。」

彼がそう言った瞬間、一夏が翼を失った福音に向かって突進し、腕を振り上げた。

 

「今度は・・・逃がさねぇぇぇッ!!!」

一夏は福音を掴み、その勢いのまま孤島の浜辺に叩き付けた。そして雄叫びを上げながら、福音の胸部に雪片弐型を突き刺した。福音は必死に抵抗しようとするが、彼はそのまま力を込めて、装甲の奥深くにまでそれを到達させた。

その瞬間、福音は動きを止め、遂に地に堕ちた。

 

 

 

 

「終わった・・・わよね?」

「福音、反応無し・・・作戦、成功だね。」

「・・・何かもう、流石にへとへと・・・お布団が恋しいかも・・・」

「彩季奈・・・残念だけど、その前にお説教があると思うよ・・・」

「げっ・・・今回くらい勘弁してくれないかなぁ・・・」

そんな気の抜けた会話をしている彼女達を尻目に、リボンズは怪訝そうな表情をしていた。

(なんだ・・・?福音は確かに討った。事実、反応も消えている。それなのに・・・何故か、不安が拭い切れない・・・ッ!?)

そこで彼は猛烈な悪寒を背筋に感じ、反射的に振り返った。すると、

 

 

ピュン!ピュン!ピュン!

 

 

一夏が雪片弍型を収納しようとしていたその時、彼等に向けて複数のビームが放たれた。

「何!?」

「何なのよ、敵はコイツだけじゃなかったの!?」

皆は、ビームが向かってきた方向を見上げた。すると雲の中より、一つの機影が徐々に姿を現した。

 

「なッ・・・!?」

その姿を見たリボンズの目が、大きく見開かれる。

 

『人類を救済する「福音」の名を持つ機体が、人間に牙を剥くなんて・・・皮肉な話ね。』

その機体のパイロットから、リボンズに通信が入った。

 

「何故だ・・・何故、何故『君』が・・・」

リボンズは声を震わせ、目の前の物を信じられないと言うような目で見る。

 

『あら・・・そんな所でぼーっと突っ立って、どうしたのかしら?まあ取り敢えず、まずはご挨拶と洒落こみましょう。』

その機体は、背後からオレンジ色のGN粒子を排出し、夜が明けた空とは真反対の、赤と黒で染まっていた。

 

「何故、『君』がここに・・・!?」

リボンズは恐る恐る、その機体の名を口にした。

 

 

 

 

 

 

「ガンダム・・・

 

 

 

 

 

                               

 

 

 

 

 

                エクシア・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『初めまして、リボンズ・アルマーク・・・出来損ないのイノベイドさん?』

 




・・・はい。この様な感じです。いかがでしたか?今回の話は、原作にリボンズやクロエ、それに彩季奈や華と言った原作でここにはいないキャラをどの様に活躍させるか、と言う所で苦労しました・・・その結果、原作キャラの描写が少しおざなりになっている感も否めませんね・・・原作ファンの方々、申し訳有りません。


さて、今回は「敵」と思わしき人物が初登場しましたね。彼女の目的や、何故リボンズの事を知っているのか・・・今後にご期待下さい。



よし。三ヶ月もお待たせしてしまいましたので、次の話は来年の一月中に、必ず投稿します。では皆様、良いクリスマス、そして良い新年を!また来年にお会いしましょう!


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28. 舞い降りし因縁 〜堕ちた能天使〜

1月に投稿するとか言っておいて、結局遅れて4月に投稿するとか笑えないんですけど(真顔)

皆様、大変長らくお待たせ致しました・・・最新話、ようやく完成しました。


ここで、前回のあらすじを説明します。

1. 福音討伐へ向かったリボンズ達は、福音を撃墜寸前まで追い詰めるも、福音が二次移行(セカンド・シフト)をしたことにより撤退
2. 専用機持ち達が、独断で福音討伐作戦を決行。リボンズとクロエもそれに加わる。
3. 苦戦するも、一夏の復帰もあり、福音は沈黙。
4. 帰還しようとした時、ガンダムエクシア乱入。

この様な感じです。分かりにくければ、お手数ですが前の話を軽く読み直していただけると幸いです。
いや、本当にお手数おかけします・・・


それでは、最新話スタートです。どうぞ。


『初めまして、リボンズ・アルマーク・・・出来損ないのイノベイドさん?』

 

妖艶な声と共に、雲の合間よりガンダムエクシアが舞い降りた。

 

 

「あれは・・・ガンダム?まさか、篠ノ之博士の差し金か?」

「いえ・・・束様は、あの様な機体の開発はしておられませんでした。それにあの粒子は、束様のGNドライヴから発せられる粒子とは色が違います。」

皆が混乱する中、リボンズが只ならぬ声色で、皆に呼びかけた。

「・・・ラウラ、そしてクロエを除く全員は、撤退してくれ。あの機体は、僕達のISと同じガンダムタイプ・・・専用機に乗っているとは言え、先程の戦闘で疲弊している君達に、あの機体と優位に立ち回る事が出来るとは思えない。」

彼等にそう指示するリボンズに、一夏は確認する様に問いかけた。

「そのくらい・・・アイツは危険だって事なんだよな?」

「そうだ。君達には一度帰還して、千冬達にこの事態を報告してほしい。」

「・・・分かった。皆、いいな?」

本当は、一夏も共に戦いたかったが、リボンズのその真剣な声色から、事態の深刻さは十分に伝わっていた。

「・・・リボンズさんも、昨日から出撃しっ放しなんだからさ・・・無理するなよ。」

「心配には及ばないさ。さあ、早く行きたまえ。」

そうして、皆を引き連れ撤退した一夏だったが、彼はどうしても不安が拭えずにいた。

 

 

彼等が戦場から離脱してから、リボンズは目の前の相手に問いかけた。

「・・・君は、何者だい?いや、そんな事は今は良い・・・何故君の様な者が、その機体に乗っている!?」

彼はGNビームライフルをエクシアに向けた。それに対してエクシアのパイロットは、変わらず飄々としている。

『もう、そんなに声を荒げちゃって・・・押しが強過ぎる男は嫌われるわよ?』

彼はその言葉を無視し、敵意を剥き出しにして強引に話を続ける。

「僕の問いに答えろ・・・それに、それは本来君が乗るべき機体ではない。」

『あら、ISは兵器なのよ?誰が使おうと、変わりは無いと思うのだけど。』

「君から見ればそうだろう。しかし、中には使用者によって、違う意味合いを持つ兵器も存在する・・・特に、君が今装着している『それ』は。」

そう言いながら、彼は思い返した。自分を「歪み」と断じ、最後まで相互理解を訴えていた、あの青年を。

『ふぅん・・・随分この機体に思い入れがあるみたいけど、何かあった訳?そうねぇ・・・例えば、この機体と戦って負けた、とか?』

その言葉に、リボンズは少しの反応を見せる。

『ああ、図星だったの?それは失礼。・・・けど、これだけは聞かせてくれる?』

彼女はそう言って、小馬鹿にする様な声で続けた。

『ねえ、どんな気分?「対話」なんていう漠然とした目的の為に、世界に喧嘩を売るような馬鹿げた奴等に負けるのって。』

「・・・ッ!!」

その言葉が、彼の逆鱗に触れた。彼は視認出来ない程の速度でGNビームサーベルを展開し、即座にエクシアに斬りかかった。

「その言葉、撤回して貰えるかな!?」

相手はそれを容易く受け止め、更に煽る様な口調で言い放った。

『ふふふっ・・・悔しかったら、私を倒してみせなさいな!!』

 

 

 

一方旅館では、千冬と束達が、その状況をモニターで確認していた。

「これは・・・かなり厄介な事が起きたな。束、お前はこうなる事を予測していたのか?」

千冬の問に、束は冷や汗を流しつつ答えた。

「確かに、ヤバい事が起きるとは言ったよ?けどまさか、ガンダムが敵として現れるなんて・・・リっくん達、大丈夫かな・・・」

そう答えた束は、いつにもなく不安を感じていた。

 

 

 

 

リボンズは、中距離での射撃戦に徹していた。福音との戦闘でかなり消費した粒子残量をカバーする為、バインダーを右肩に寄せる・・・「アタックモード」に換装させ、粒子コントロール効率を良くした状態で、GNビームライフルを連射する。

『大方、エクシアに接近戦を仕掛けられるのを避ける為、こうしてるんだろうけど・・・この機体にもビームライフルが搭載されている事、忘れたの?』

相手はGNソードをライフルモードに換装し、オレンジ色のビームを複数放った。

「その程度の攻撃!」

彼は攻撃を避けつつ、再びビームライフルの引き金を引いた。しかしビームは発射されず、カチッ、という気の抜けた音が鳴るだけだった。

(弾切れ!?僕がこんな初歩的なミスを・・・!)

ビームの連射が途切れるや否や、相手はGNビームダガーをリボンズに投げつけ、彼が右手に持つGNビームライフルを破壊した。

「くっ・・・」

彼は即座にそれを手放し、ビームサーベルに持ち替える。しかしその一瞬の隙に、エクシアは彼の懐に飛び込んでいた。

『まずは一撃、頂くわね?』

ジャキン、と音を立て、エクシアの右腕に装着されたGNソードが展開される。

(まずい、反応が遅れて・・・!?)

その切っ先が彼を切り裂く寸前、1.5ガンダムに砲弾が直撃し、機体を大きく吹き飛ばした。エクシアはそれを追おうとするが、彼等の間にラウラが割り込み、それを牽制する。

「・・・何のつもりだい?クロエ。」

彼の鬼気迫る声色に動じず、クロエは淡々と答えた。

「・・・これならば手早く、貴方の頭を冷やす事が出来るかと判断したまでです。」

そして彼女もまた真剣な声で、次の言葉を続けた。

「リボンズ、退いて下さい。貴方とあの機体にどんな関係があるのかは知りませんが・・・今の貴方の精神状態では、本来の実力を出し切る事は難しいでしょう。それに、彼から言われた事をもう忘れたのですか?」

彼女にそう言われた瞬間、彼のヒートアップしていた頭が一気に冷めた。

「・・・確かに、君の言う通りだ。一時の感情に任せて我武者羅に力を振るっては、勝てる勝負にも勝てない。」

「ええ、その通りです。今は敗走してしまっても、帰ればまた、いつかはあの機体と相見える事が出来ます。ですから・・・撤退を。」

彼女の懇願する様な声に、リボンズは少し沈黙した後、ポツリと答えた。

「・・・了解。これより撤退行動に移るよ。」

彼の返答を聞いて、クロエは安堵した様子を見せた。

「あの機体は・・・私と彼女で応戦します。その隙に撤退して下さい。」

リボンズは頷き、踵を返して旅館の方向へ向かった。

 

 

『あらあら、逃げちゃった・・・じゃあ、次は貴方達の番?』

クロエ達をエクシアのツインアイが捉えるが、彼女達に臆した様子は見られない。

「ここから先に行かせる訳にはいきませんので・・・貴方が何者かは存じませんが、撤退を要求します。」

『断る・・・と言ったら?』

「力ずくで、という事になるな。」

彼女達の言葉を聞いたエクシアのパイロットは、心底愉快そうな笑い声を上げた。

『ふふふふ・・・一方は、ガンダムに搭乗して日も経っていない。そして慣れている貴方も、操っているのは数年前の型落ち機体。こんな状況で、貴方達に私の相手が務まるのかしら?』

「・・・確かに、この機体は数年前から運用されています。しかしいくら型落ちとて、これは『ガンダム』なのです。そう簡単に撃墜される程、やわに作られてはおりません。」

そう答えたクロエの声には、僅かながら怒りの色があった。

『そう?なら良いのだけれど。さて、じゃあ・・・行かせてもらうわ。』

そう言うなり、相手はギュン!と二人に急接近し、GNソードを振り下ろした。

「させん!」

それを、ラウラがGNビームサーベルで受け止める。そして彼女は肩部のカノン砲を稼動させ、眼前のエクシアに向け発射した。

『遅いのよ!』

相手はGNソードを収納し、鍔迫り合いを止めて弾頭を回避した。更にお返しとばかりに、腰部マウントからGNビームサーベルを取り出し、一閃した。

「ッ!」

ラウラはカノン砲を放った反動が残っていたものの、辛うじてそれを躱した。

『へぇ・・・今のを避けるなんて、反応は良いみたいね。』

「舐めてもらっては困る!」

彼女はエクシアの腹部を蹴り飛ばし、一度距離を離す。するとそこに、クロエがプライベート・チャンネルを用いて話し掛けてきた。

「大丈夫でしたか?」

「貴様か。ああ、先程の攻撃はなんとか回避した。それよりも、あのガンダムに酷似した機体、どうするか・・・」

「装備から見て、敵機は近接戦闘に秀でている様ですね・・・では、私は後方支援に当たります。貴方は前衛を務めて下さい。」

「了解した。私としても、そちらの方がやりやすい。」

「ありがとうございます。では、ご武運を。」

「ああ、互いにな。」

二人は通信を切り、前方の敵を見据えた。

『作戦会議は終わった?じゃあ、再開しましょうか。』

それと同時に、両者は再びぶつかった。

 

 

 

「・・・リボンズさんが、負けた・・・!?」

未確認機の乱入。その情報を伝える為、急いで帰還した彼等に告げられたのは、この信じ難い事実だった。

「ああ。正確に言うなれば、撤退を余儀なくされた、と言ったところか。」

千冬のその言葉に、一夏とシャルが疑問を投げ掛ける。

「そんな・・・なんで、リボンズさんは負けちまったんだ!?」

「うん・・・あの人程の操縦者が、そう簡単に負けてしまうなんて思えない。先生、リボンズさんは戦っている間、どの様な状態だったんですか?」

千冬は少し考えた後、口を開いた。

「端的に言うと・・・いつもの奴らしくはなかったな。先程の奴の動きは、何処か感情的だった。」

「ちーちゃんの言う通りだよ。いつものリっくんなら、もっと理性的に事を進めてる。でも、さっきはまるで後先考えてない動きをしてたね。」

それを聞いて、セシリアが思い出した様に言った。

「そういえば・・・リボンズさんが私達に帰還を促した時、何か・・・あの未確認機を見て、怒っていらした様でしたわ。」

「・・・どうやら、あのガンダムタイプと思しき機体と関係がありそうだな。」

「今敵と戦ってるの、ラウラさん達なんでしょ?大丈夫かな・・・」

華の呟きに、束が何時もとは違う調子で答える。

「だいじょぶだいじょぶ、ラウラちゃんとクーちゃんなら万事オッケーさ!・・・って、普段なら言ってるだろうね。残念だけど、今回はそう簡単にいかないかな・・・」

「奴等の能力は決して低くない。数の利も奴等にある・・・が、相手は本調子ではなかったとは言え、あのリボンズを追い詰める程の実力者だ。そう易々とやられるとは思えん・・・束、もしもの時には、お前にここを任せる事になる。頼めるか?」

「別に良いけど・・・っ、ちーちゃん、まさか・・・!?」

束は千冬の真意に気付き、思わず息を呑む。そんな彼女に、千冬はこくりと頷いた。

「奴等の勝ち筋は最早無いと判断した時・・・私と山田先生で、救出に向かう。」

 

 

 

「はあっ!」

ラウラは両腕のビームサーベルを展開し、エクシアと接近戦に持ち込んだ。

『さっきから突っ込んでばかりで、芸がないわね!』

「フン、言っていろ!貴様も同じだろうに!」

両者は拮抗状態に陥った。互いにビームサーベルを押し付け合い、閃光を奔らせる。

「・・・貴様、つい先程芸がないと言ったな?では望み通り、少し趣を変えてやる!」

『? 何を・・・』

ラウラはガンダムフェイスの奥で不敵な笑みを浮かべ、ビームサーベルの出力を急激に上昇させた。

「これならば、出力はこちらが上だ!」

彼女はそう言って、ビームサーベルを力任せに振り回す。相手はそれに対抗しようとしたが、力で負けて片方のビームサーベルを手放してしまった。

『な・・・!?』

相手の意識が、一瞬そちらへ移る。その隙を見逃さず、ラウラは次の行動に出た。

「今だ、放て!」

ラウラの合図と共に、彼女の後ろについていたクロエが、ラウラの肩越しにロケット砲を放った。

『・・・!』

砲弾が相手に着弾すると、ラウラの目の前で大きな爆発が起き、激しく煙が舞い上がった。

「・・・どうだ?」

彼女は、すぐ側にいるクロエに問い掛ける。

「反応は消えています・・・しかし、この程度で倒したとは、とても・・・」

目の前でもうもうと立ち込める爆煙を眺めつつ、彼女は考えを巡らせていた。

(・・・おかしい。直撃したとはいえ、こんなにも派手に爆発する物なのか?それにこの状況、既視感がある・・・故意的に、煙をまかれた?・・・まさか!?)

と、彼女の思考がそこまで行き着いた時、煙の中より傷一つ無いエクシアが、GNソードを展開しつつラウラに迫った。

『盾で残念だったわね!』

「ちぃッ・・・!?」

(盾の内部に、起爆剤とスモーク弾を仕込んでいたのか・・・!)

彼女は咄嗟にGNフィールドを展開する。しかし、それは間違った選択だった。

『勉強不足ね。この剣は・・・』

振りかざされたGNソードは、そのままGNフィールドを切り裂いた。

『それごと敵を叩き斬る為にあるのよ?』

いとも容易くGNフィールドを突破された事に、彼女は驚愕した。

(馬鹿な・・・!?エネルギーの塊に等しい福音の翼をも防いだバリアが、こうも簡単に・・・!?)

『驚いている暇があるのかしら!』

表面を赤く光らせたGNソードは、ラウラの機体の胴体に深い傷を刻む。

「ぐっ・・・」

「不味い・・・!一旦その機体から離れて下さい!」

クロエは2連装GNビームライフルとロケット砲をエクシアに向け連射する。相手は目標をクロエに移し、迫るビームと実弾の雨をものともせず、彼女に斬りかかった。

『そんな射撃じゃ、このエクシアは捉えられないわよ!』

「くっ・・・分かってはいましたが、やはり速い・・・!」

クロエはなんとかビームサーベルを展開し、攻撃を受け止めた。しかし、機体出力の差か、徐々に押されていく。

『へぇ、よく耐えるじゃない。けど、胴体ががら空きよ!』

相手はそのままクロエを押し飛ばし、バランスを崩した彼女に容赦なくGNソードを叩き込んだ。

「ッ・・・!」

損傷を受けながらもなんとか後退する彼女を見て、相手は彼女らを侮蔑の目で見つめた。

『あーあ・・・もう少しはやれると思ってたんだけど、期待外れね。所詮は人に作られた紛い物・・・哀れなお人形ってことかしら? 』

「戯れ言を・・・!」

『だったら何?戦闘用に生み出された癖して、貴方達は私本体に、まだこれといった損傷を与えられていないじゃない。使命を果たすことすら出来ない人形は・・・ガラクタでしかないわ。』

彼女の言葉に、ラウラは酷く動揺した。

(そう、だ・・・私は元々、戦う為に作られ、兵器となるべく生きてきた・・・では、今の私は何だ?目の前の敵一人倒せない・・・戦えない。・・・私は、何の為に生きている!?)

彼女の心を、混乱と恐怖が埋め尽くす。その言葉は、良くも悪くも愚直なラウラにとって、彼女を悩ませるには十分だった。

 

「・・・それが、何だと言うのですか?」

 

その時、ラウラの体の震えが、ピタリと止まる。

「私達は、貴方達人間に作り出された存在・・・そこは認めましょう。しかし、私達を作り出したのは貴方ではない。使命だの何だのと、私達の生き方に口出しされる義理はありません。」

『あら、中々言うじゃない。けど「・・・それに」・・・まだ何か?』

「それに・・・勝った気でいるには、少し早すぎるのではないですか?」

その瞬間、彼女の機体に変化が起きる。装甲が徐々に赤みを帯びていき、ついには全身が赤く光り輝いた。

『この機体の発光現象・・・まさか!?』

驚愕するエクシアのパイロットとは逆に、クロエは懐かしい感覚と共に笑みを零していた。

「お久しぶりですね、暴れ馬・・・今は存分に、あの時の様な力を発揮して下さい!」

 

 

その身を真紅に煌めかせるクロエのガンダムは、通常の3倍以上のスピードでエクシアに迫る。

『っ・・・たかが速くなっただけで、何が変わるって言うのよ!』

彼女は接近して来るクロエに、取り回しの良いビームサーベルで対応しようとする。しかし、クロエはトランザムによる圧倒的なスピードをもって、エクシアの周りを縦横無尽に飛び回った。

「貰います!」

クロエは不意に、エクシアへ上空からの強襲を仕掛けた。

『! 幾ら速くても、動きは直線的ね!』

彼女はクロエの一撃を受け止めてみせたが、直ぐに出力で押されていった。

『エクシアの出力を、上回って・・・!?こん・・・のッ!』

彼女は押し通される前に、ビームサーベルを振り払う事で力を受け流した。

「まだ・・・終わりません!」

クロエは再び攻撃を開始した。彼女は急ブレーキと突進を連続し、反応を許さない程の動きで相手を翻弄する。

『このっ・・・!』

上から、下から、左から、右から。様々な方向から繰り出されるクロエの連撃に、相手は対応に追われていた。

(何なのよ、この動き・・・!無茶苦茶だけど、まるで先が読めない!?)

クロエは突撃しては離脱し、ビームライフルを放って別方向から接近という動きを繰り返す。 それは相手にとって、多方向からの絶え間ない攻撃に対し、即座に判断して対処しなければならないという事だった。

(先程は失敗しましたが、相手が混乱している今なら!)

彼女は今度こそと、エクシアに背後からの奇襲を図った。ぐんと迫るエクシアの無防備な背中に、彼女はビームサーベルを振り上げた。だが・・・

『後ろ!?』

相手はおもむろに振り向き、ビームサーベルを彼女の顔面目掛けて突き出した。

「ッ!!?」

クロエは直感的に、首を左に逸らした。それにより直撃は免れたが、右肩のロケット砲は破壊されてしまう。だが、彼女はそれに構うことなく、ビームサーベルを振り下ろした。

『ぐぅぅッ!!!』

しかし、相手もそう簡単にはやられず、GNソードを展開してそれを防いだ。激しく火花が散り、力が拮抗した両者を明るく照らす。

「くっ・・・では、これならば!」

クロエはもう一本のビームサーベルも展開し、 思い切り相手のGNソードに叩きつけた。すると、二つのビームサーベルがGNソードの出力を上回り、徐々にGNソードの刀身に食い込んでいく。

『嘘!?GNソードが、たかがビームサーベルに・・・!?』

そして、ビームサーベルはGNソードを真っ二つに叩き斬った。

『・・・エクシアの剣が、斬られた・・・これが、トランザムシステムの力だって言うの!?』

その圧倒的な力に驚愕するエクシアのパイロットに、クロエは淡々と告げる。

「お得意の接近戦に必要な兵装は、全て無くなってしまいました・・・これでもまだ、続けますか?」

彼女の言葉を受け、相手は思考する。

(まだGNビームライフルは残ってる・・・けど、接近戦を重視したこの機体で、射撃戦を展開するのは無謀過ぎるわね。癪だけど・・・ここは退くしかないか。)

『・・・分かった、今回は私の負け。彼を諦めて、大人しく帰る。でも、そのシステムの原理は大体把握した・・・次はこうはいかないわよ。』

そう吐き捨てると、エクシアは高度を上げ、オレンジ色の粒子を撒き散らしつつ、雲の向こうへと消えていった。

「旧式だからと、この束様が作り、リボンズから受け継いだ機体を甘く見た事が・・・貴方の敗因ですよ。」

そう呟いたクロエは、唐突にフラ、とバランスを崩す。それを見たラウラが、慌てて彼女の体を支えた。

「大丈夫か!?すまない。私は終盤になって、何も出来なかった・・・」

「いえ、貴方は良くやってくれました・・・でも少し、お互い無理をし過ぎましたね。帰りましょう、私たちにも休息が必要です。」

 

 

 

戦闘が終わって、少しした頃。リボンズは千冬に呼ばれ、報告を受けていた。

「・・・そうか。彼女達は、敵を撃退する事に成功したのか・・・」

「ああ。どうやら、例の機体が赤く変色するシステムが発動したらしい。あれのお陰で、私が出るまでの事態になる事は避けられたのだが・・・あれが無ければ、奴等は負けていただろうな。」

「成程・・・今回は運が味方した、と見ていいだろうね。」

彼は黙り込み、自分の部屋に戻ろうとした。しかし、そんな彼を千冬が呼び止めた。

「待て、こいつを受け取れ。先程の戦闘を、映像として記録してある。どうせ部屋に戻るのなら、よく見ておく事だ。」

「・・・すまない、恩に着るよ。」

彼は端末を受け取り、今度こそ自室へと向かった。

 

 

 

帰還したラウラは、外に出てある場所に来ていた。彼女の目線の先には、渚の方を向いて佇むクロエの姿がある。すると、クロエがラウラに気付き、くるりと振り返った。

「おや、貴方でしたか。何か御用で?」

ラウラは、改めて彼女の顔を見る。長く伸ばした銀髪も、目や鼻といった顔のパーツの配置も、全てが同じ。ここまで容姿が一緒で、只の他人と思えと言うのは無理な話だろう。

「・・・単刀直入に聞く。貴様も、私と同じ試験管ベビーなのか?あの鉄の子宮と、人工の羊水の中で生まれた・・・」

クロエは硬直するも、やがてフッと緊張を解いた。

「・・・そうですね。もう、貴方も察しがついている様ですし・・・良いでしょう、お答えします。」

クロエは一拍置き、再び口を開いた。

「ええ、貴方の言う通りです。私と貴方は、遺伝子強化実験の被験体・・・兵器となるべく生み出された、『造られし命』ですよ。」

「・・・そうか。やはり、そうだったのか。」

俯く彼女に、クロエが問いかける。

「・・・どうかしましたか?何か気になる事でも?」

そう聞かれたラウラは、少し躊躇う素振りを見せながらも、やがてゆっくりと問を投げかけた。

「・・・何故だ。何故、お前はああも割り切れる?何故、あの事実を突きつけられても、平然としていられるんだ?」

そう聞かれたクロエは、目を丸くした。そして、『なんだ、そんな事か』というように微笑を浮かべた。

「簡単な事ですよ。私には、明確な目的があるからです。それがあるので、私は只の人形とは違う、明確な『自己』があると断言出来ます。」

「目的・・・?」

「ええ。束様を・・・いえ。リボンズ達も含めた、私の大切な『家族』を守る。 私が私自身に課した、生涯に渡って成すべきことです。」

クロエの語った「目的」に、ラウラはそれを眩しく思いながらも、同時に疑問を抱いた。

「それは・・・素晴らしい事だ。だが・・・私には、その『目的』というものが分からん。教官は、私に自分のあり方を見つけろと仰った。しかし、私達は戦闘用に作られた・・・ならば戦う事が、本来あるべき姿ではないのか?」

その問に対し、クロエは困った様な表情を浮かべたが、はっきりと答えた。

「確かに、私達は戦闘用として生み出されました。しかし何の為に、何を求めて戦うのか・・・それは、明確に示されていません。それに、作られた身とは言え、私達の体は人間です。物事を考える脳があり、何かを思う心が存在します。ですから・・・それは自分で考え、決断する事かと。」

未だ腑に落ちない表情をしているラウラに、クロエは分かりにくかったですか、と苦笑した。

「・・・では、軍人である貴方に馴染み深い言葉で言い換えましょう。ラウラ、『心』に従いなさい。他の何でもない、貴方自身の心に。選択を迫られた時には、それに選択を委ねて下さい。」

その時ラウラは、空いていたパズルのピースがストンと埋まる様な、妙に納得した気分になった。

「・・・成程。『心に従う』、か。確かに、軍人である私にもしっくり来る言葉だ。」

そう呟いたラウラの表情は、憑き物が落ちた様に晴れ晴れとしていた。

「礼を言おう。お前のお陰で、私は教官のお言葉の意味を、正しく理解する事が出来たよ。」

「恐らく、貴方は考え過ぎる癖がある様に思います。もう少し割り切ってしまった方が、貴方の為にも良いかと。」

「ハハ、耳が痛いな。だが確かに、お前の言う通りかもしれん。その忠告、ありがたく受け取っておこう。いつか、今日の日の礼は必ずさせてもらう。」

そう言って、ラウラはその場を後にした。

 

 

クロエが彼女を見送っていると、そこに束がひょっこりと現れた。

「やあやあ、クーちゃん!中々嬉しい事言ってくれるじゃ~ん!」

「・・・束様、見ておられたのですか・・・」

「うん!最初から最後まで、ぜーんぶ聞いてたよ!」

いつもの調子でそう言う束に、クロエは思わず笑みをこぼした。

「それにしても、クーちゃん・・・良かったの、あれで?」

束の問に、クロエははっきりと答える。

「はい・・・もう、隠し通すのも面倒ですから。・・・それに」

彼女は、遠ざかっていくラウラの背を見た。

「彼女は完成体・・・つまり、私よりも完璧でなければいけない。彼女のあんな事で悩んでいる姿は・・・見るに忍びないので。」

それを聞いた束は、笑顔でクロエに抱きついた。

「・・・それって結局は、ラウラちゃんの事心配してるって事だよね!ちゃんとお姉ちゃんしてるじゃん、このこの~!」

「た、束様・・・息苦しいので、離して頂けると・・・ 」

そう言いながら、クロエは歩いて行くラウラを、普段は開けないその目を開き、優しい眼差しで見送った。

 

 

 

一方、リボンズは旅館の一室に籠っていた。

(ガンダムエクシア・・・あの機体と、再び対峙する事となるなんてね。あのパイロットも、かなりの直感と技量を持ち合わせている。まさか、トランザムに初見であそこまで対応してみせるとは・・・)

彼は千冬から借りた戦闘時の映像を見つつ、一人思う。そして映像が、ラウラとクロエがエクシアと対峙した場面に移ると、彼の表情は険しくなった。

(あのまま自分の感情に呑まれず、先に撤退させた彼等の内数人にも後方援護を任せていれば、もしかしたら・・・あのパイロットを逃がす事は無かったのかもしれない。彼女達二人も、危機的状況に陥る事は無かったのかもしれない・・・)

彼は先程の自分を思い返し、頭を抱える。

(何という、何という失態だ・・・!僕が自分の感情を・・・私情を優先してしまった事で、彼女達を危険に晒してしまうとは・・・!!何故、一人であれと戦えるなどと考えていたんだ!?)

その時、彼は何かに気が付いた。彼はそれを認めたくないかの様に、ゆっくりと思考していった。

(刹那・F・セイエイは・・・ソレスタルビーイングは、変わる事が出来た。だから武力による戦争根絶から、相互理解による平和の実現に方針を変えた・・・この世界でもそうだ。僕の周りの者達は、以前の自分から変わろうとしている・・・ならば僕は、どうなんだ?)

今まで、彼はかつての自分から少しでも変わろうと、日々頭の何処かで意識していた。しかし、今日の事件で、彼はある事に気付いてしまった。

「同じだ・・・。人間に対する意識は、大きく変わった。でも、僕の本質は何も、変わっていなかったのか・・・!」

確かに、彼が人間を見下す事はなくなった。だが、自分の力しか信じないその傲慢さは、彼の無意識下にまだ存在していた。その事に気付いた彼は、苦悶の表情を浮かべ、その場にうずくまった。

 




・・・はい。というわけで、最新話でした。いかがでしたか?今回は登場させるキャラこそ少なかったものの、久々の完全オリジナルの展開でしたので、かなり考えるのに時間をかけましたね・・・
全部自分のオリジナルで書いている投稿者さんや、実際の作家さん達は凄いなぁと、改めて思いました。


では、いつぞや言っていた通り、今回はガルムガンダムと、今回登場したエクシアの機体説明といきましょう。




ガルムガンダム

ラウラの為に、束が作った機体。学年別トーナメントで暴走し、大きなダメージを負ったシュヴェルツェア・レーゲンを、束がその予備パーツを一部流用・改造し、完成した。コアはシュヴァルツェア・レーゲンの物と変わりなく、装備も似通った物になっているので、ラウラにとって馴染みやすい機体となっている。


武装

・GNビームサーベル
両腕の手の甲に搭載されたビームサーベル。束が腕部の予備パーツを流用した時、使い慣れた形がいいだろうということで、プラズマ手刀から変更する形で搭載された。腕のGNコンデンサーに直結している為、大幅な出力の変更が可能。

・GNパーティクル・カノン
右肩に搭載された大型のカノン砲。実体弾にGN粒子を纏わせ発射することで、弾の強度と速度を上げ、着弾時の威力を高める事が可能。

・GNフィールド
GN粒子を機体周辺に展開し、球状のバリアを形成する。これを搭載するにあたって、AICはオミットされている。強度は調整可能だが、長時間の使用は不可。



ガンダムエクシア

謎の女性が搭乗していた機体。赤色と黒色が基本色になっていて、本来のエクシアとは正反対の印象を与える。確認出来た武装はGNソード、GNビームサーベル×2、GNダガー。他にも、高濃度のGN粒子を自身に纏わせ、一時的に他の太陽炉搭載機のレーダーから消失する機能がある様だ。


この様な感じですね。このエクシアは、アストレアtype-Fや、ガンダムエクシアダークマターの色合いをイメージしています。


余談ですが、「心に従え」っていう言葉、凄く好きですね・・・本来は、マリーダがジンネマンに言われた言葉ですが、ラウラはマリーダと境遇が結構似ているので、この言葉が使えるかなぁと思って、今回採用しました。


では、また次回にお会いしましょう。次は確か日常回のはずだし、ここまで遅くはならないかな・・・?


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29. それぞれの思い 〜変革の兆し〜

・・・皆様、お久しぶりでございます。
大変遅れて、申し訳ありませんでしたァ!!!
リアルの方が色々と忙しくなってきていたので、かなり遅れてしまいました・・・

というわけで、今は絶賛冬なのに、真夏の話を投稿する羽目になってしまった次第です。

これまでの話は、簡単に説明すると、福音倒した後に現れたエクシアに事実上敗北して、リボンズが落ち込んでしまった感じですね。
今回は、他オリキャラ達をメインとした日常回です。リボンズは最後にちゃんと出てきます。原作でいうと、ちょうど4巻の内容ですね。

というか、間空きすぎて皆様オリキャラ達を忘れてしまっているのでは・・・

とにかく、7ヶ月越しの最新話です。どうぞ。


トラブルの続いた臨海学校も終わり、生徒達が落ち着きを徐々に取り戻した頃。時期は8月となり、夏真っ盛りであった。太陽はぎらぎらと照りつけ、地上のあちこちから、人々が苦しむ声が聞こえる。

そして、彼女もまた。

 

「・・・あっづぅ・・・」

彼女、凰鈴音もまた、その暑さに苦しめられていた。

(ほんっと・・・この国の夏は嫌いだわ。幾らなんでも暑すぎるのよ!大気圏に生身で突入してるんじゃないかって位!!)

勿論、そこまで温度が高いわけがない。本当にそうなら、今頃人類はとっくに宇宙へと逃げ出している。しかし、この様な軽い冗談でも考えていないとやっていけない位に、彼女にとって日本の夏は辛かった。

「・・・でも今だけは、この暑っ苦しい気候に感謝したい気分ね!」

彼女はそう言って、目の前の机に置かれた、2枚のチケットを見た。

(友達がキャンセルしたのを引き取って手に入れた、最近オープンしたばっかのウォーターワールドの前売り券・・・一夏と二人きりになれるチャンスを、逃す手はないわ!)

「そうよ、これが成功した暁には・・・一夏なんて、あっという間に落としてみせるんだから!!」

悪い笑みを浮かべながら、彼女はそのチケットを手に取り、一夏を探しに行こうと部屋のドアを開ける。すると幸か不幸か、部屋を出た瞬間に、彼女は一夏と遭遇した。

「ひゃあっ!?」

「うお!?・・・って、鈴じゃねえか。どうしたんだ、急に大声出して?」

いきなりの事に、鈴はパニックになってしまっていた。

「なな、なんでアンタがここにいるのよぉ!?」

「え・・・いや、偶然通りかかっただけだぞ?」

「・・・そ、そうよね!偶然よね!あはは・・・」

(少しでも『鈴に会いに来た』なんて、回答を期待したあたしが馬鹿だったわ・・・)

先程からころころ表情を変える彼女を、一夏が訝しげな顔で見る。

「ったく、鈴・・・大丈夫か?なんか怪しい顔しながら出てきたもんだから、てっきりまた襲われるのかと思ったぞ。その内、すれ違いざまに『お前を殺す』とか言い出すんじゃ・・・」

「い、言わないわよバカっ!」

結局二人は、またいつもの様な夫婦漫才を繰り出すのであった。

 

「ところで・・・アンタ、どっかに遊びに行く予定とか無いの?こんなにいい天気なのに。」

「あー、天気はいいっちゃいいんだけど・・・暑くねぇか?ここまで暑いと、何かする気も失せるっていうか・・・」

「ったく、情けないわねぇ。そんなアンタに良いもの、持ってきてあげたわよ?」

「良いもの・・・なんだ?」

鈴は緊張しているのか、チケットを持つ手をきゅっと握り締めていた。

(うう・・・ええい、ままよ!)

「ほ、ほらこれ!ありがたく受け取りなさい!」

一夏は言われるがままにそれを受け取り、まじまじと見つめた。

「これって・・・新しいウォーターワールドのチケットじゃねえか?よく手に入れたもんだな。」

「そうよ、あたしに十分感謝しなさいよね!」

「へえ、大したもんだな。んで、いくら払えばいいんだ?どーせ多少は金取るんだろ?」

「えっ・・・」

鈴はしばし思考した。別に自分は金を要求する気などないが、下手にそう言うと、逆に怪しまれるのではないかと。

(あー、でも・・・ここで印象良くしておくってのも・・・いや、でもあからさま過ぎるかな・・・)

「・・・あ、当たり前じゃない。流石にそんな上手い話は無いわよ。」

「そうだろうと思ったよ。ま、ありがたく買わせて頂きます、ってな。んじゃ早速、いつ行くか決めようぜ。」

「あー・・・また後で連絡するわ。その時に決めましょ。」

「そうか、分かった。じゃ、また後でな。」

立ち去っていく一夏の背中を見つつ、彼女はため息を吐いた。

「あー、ホント・・・まだまだ奥手ねぇ、あたし・・・」

 

 

 

そして、当日。

ウォーターワールドのゲート前にて、鈴は一夏を待っていた。その様子はすこぶるご機嫌である。

(ふふん。今日の日のために、服も新調したんだから。一夏の奴、腰を抜かせてやるわ!)

彼女が意気揚々と一夏を待っていると、そこに見知った顔が現れた。

「え、セシリア?」

「あら・・・鈴さん?こんな所でどうしたのですか?」

「あー・・・ちょっとね。人を待ってんのよ。」

「それは・・・奇遇ですわね。私も、ここで待ち合わせの約束をしておりますの。」

「ふーん、そっかあ・・・」

それきり二人はすっかり黙って、互いの待ち人を待ち続けた。

 

 

(・・・遅い!!アイツ、何処で油売ってんのよ!?)

一向に現れない一夏に、彼女は苛立ちを隠せないでいた。ふと横を見ると、セシリアもどこかそわそわしていた。

(あっちもあっちで、中々来ないみたいね・・・お互い大変だわ、ホントに。)

彼女がそんなことを考えていると、ポケットの中の端末が震えた。鈴は慌ててそれを取り出し、通話を始めた。

「一夏!?アンタ、今どこにいるのよ!?」

彼女がそうまくし立てると、一夏は申し訳なさそうな口調で答えた。

『鈴、悪い・・・今日、俺は行けそうにないんだ・・・』

「・・・は?」

あまりに突然のことに、鈴は思わず素っ頓狂な声を出した。

「・・・いや、いやいやいや、待って。それ、どういう事よ?」

『それがだな・・・つい昨日、山田先生に今日は学校にいるよう言われたんだ。なんでも、この前進化した白式のデータを、計測しなきゃいけないみたいでさ・・・』

「なっ・・・んの馬鹿ァ!!なんでもっと先に言わないのよ!?」

『いやいや、俺もそうしようとしたぞ!?でもお前、電話には出ないし、部屋に行ってみても、ルームメイトの子に寝てるって言われたからさぁ・・・』

「・・・あ」

彼女は前日、今日の日の為に早く就寝し、ルームメイトには緊急時以外起こさないよう釘を指していた事を思い出した。

(これこそ緊急事態じゃないのよ!?あぁもう、やっぱり彩季奈に頼んで、一夏接近警報的な物を作ってもらうべきだったわ・・・)

そう悔やんだ彼女だったが、時すでに遅しであった。

『そういう事で・・・悪い!今日はセシリアと一緒に行ってきてくれ・・・』

「ハァ!?ちょ、嘘よね!?シャレになんないわよそれ!!」

『え、もう始める?分かりました、すぐ行きます!・・・ってな訳だ。鈴、本当にすまん!セシリアにもよろしく言っておいてくれ!』

「ちょ、ちょっと!待ちなさいったら!待っ・・・」

彼女の静止も虚しく、通話はぶつり、と切られてしまった。

「あ、あ、あんの馬鹿・・・!」

ぷるぷると、端末を怒りのあまり握りしめる鈴だったが、不意にふっとその力を緩めた。その変わりようを心配したセシリアが、彼女に声をかける。

「あ、あの、鈴さん・・・大丈夫ですか?お顔が怖いですわよ?」

「アイツを殺す」

「!?」

 

 

 

園内に入った二人は、取り敢えずカフェに行き、 今の状況を整理することにした。

「・・・事情は分かりました。つまり一夏さんは、自分の代わりとして、私をここに寄越した、という訳ですわね?」

「ま、端的に言えばそうなるわね。」

その鈴の返答に、セシリアはため息をついた。

「もう・・・一夏さんには、毎度振り回されてばかりですわ・・・」

「全くよ・・・乙女の純情は、おもちゃじゃないってのに・・・」

注文したジュースを飲みつつ、二人は再び重いため息を吐く。

「・・・で。どうするのよ、これから?」

「そうですね・・・正直、もう泳ぐ気分ではありませんわ・・・」

「そうよねぇ、あたしも帰るかな・・・」

彼女らが気を落として帰ろうとした時、あるアナウンスが放送された。

 

『えっと・・・イベントのお知らせをします!水上ペア障害物レースの受付は、12時までです!優勝商品はペアの旅行券なので、皆こぞって参加して下さいって!』

「「これだっ!!!!」」

 

 

 

 

その頃、厳弥は彩季奈の工廠に赴いていた。

「ふぅん、それが今作ってる奴なんだ。」

「うん!リボンズさんから預かったまま、ほったらかしちゃってたからね。丁度大艇ちゃんも一段落ついた事だし、次はこれの改造をやってみるかも!」

目の前に広げられた『アサルトシュラウド』の図面を、厳弥はまじまじと眺める。

「・・・スラスターと兵装を内蔵した追加装甲でISを覆い、ISの火力と機動性を向上させる、ねぇ・・・このままでも、中々良い代物だとは思うけど?」

「まあね。追加装甲、内蔵兵器、スラスターの増加・・・皆の心をくすぐる、ロマンが詰まった良いプランだと思うかも。でも・・・」

彼女はわなわなと震える拳を握りしめ、きっぱりと言い放った。

「まだまだ、あたしからしたらロマンが足りないかも!もっと装備を増やしたり、装甲を付け足したりとか・・・そう、盛り合わせは正義だよ!!」

そう言ってやる気に燃える彩季奈を、厳弥はたしなめる。

「んー・・・程々にしなさいよ?詰め込みすぎて、際限なく巨大化していくなんてオチはゴメンだからね。」

「分かってるよ!うーん、まずは打鉄みたく、シールドを付けてみようかな?それで、右肩のレールガンを盾の裏に移して、空いた所に別の武器を仕込んでみるのも面白そうかも!」

「あーあ・・・こりゃ駄目ね。」

厳弥はため息をつき、自分の端末に目を向ける。するとそこへ、芽遠が急いだ様子でやって来た。

「あ、先輩!ここにいたんですか。探しましたよ〜!」

「芽遠?どしたの、私に何か用?」

厳弥がそう尋ねると、彼女は首を横に振った。

「いえいえ、今回は私じゃないんです。なんでも一年の子が、先輩に会いたいらしくて・・・」

「一年生が?珍しいわね。まあ取り敢えず、話を聞くわ。その子は今どこにいるの?」

「今は、この部屋の入口で待機してもらってます。じゃあ私、その子を呼んで来ますね!」

芽遠が部屋を出てから少しすると、一人の生徒が姿を現した。その相手を見た厳弥は、思わず目を丸くした。

「これは・・・予想外ってもんじゃないわね。」

「・・・こうして会うのは二度目になるな。改めて、自己紹介をしよう。私はラウラ・ボーデヴィッヒだ。伊東 厳弥、今日は貴女に頼みがあってきた。」

「頼み・・・?」

厳弥が目を丸くしていると、ラウラは彼女に頭を下げ、懇願した。

「頼む。私と、一戦交えてはもらえないだろうか?」

 

「・・・へぇ」

彼女の目つきは一転して、鋭いものになった。

 

 

 

 

 

その後、厳弥とラウラは、アリーナにて対峙していた。

「・・・模擬戦の相手を引き受けてくれた事、感謝する。」

「いいわよ、この位。それにしても、随分と急なお願いだったわね。最近、何かあったの?」

そう彼女は問いかけたが、ラウラは何も答えなかった。

「・・・そう。ま、理由は後で聞くわ。」

そう言うと厳弥は、自身のISFを展開した。スクール水着を模した装甲を身に纏い、その手には浮き輪形のタクティカルアームズが握られている。

それを確認したラウラは、ガルムガンダムを展開した。それを見た厳弥は、感嘆の声を上げる。

「わお・・・ISを乗り換えたって噂は聞いてたけど、まさかそれなんてね。これは、油断は禁物かな・・・」

彼女はタクティカルアームズを構え、臨戦態勢に入った。ラウラはそれを見て、彼女の戦法を今一度確認する。

(・・・織斑教官が提示して下さったデータによると、奴の得意とする距離は主に接近戦。特に、魚雷の爆発によって生じた煙や砂埃に紛れて奇襲、という戦術を用いる。前回は、この戦法の前に、私は為す術もなかった・・・できるのか、私に?)

彼女は不安を覚えたが、すぐにそれを振り払った。

(この機体も、接近戦に強く調整されている・・・恐れるな。勝てずとも良い、一撃でも奴に反撃できれば・・・!)

腕部のGNビームサーベルを展開し、彼女もまた戦闘態勢に入った。

「・・・準備は整った?」

「ああ、いつでも良い。」

「オーケイ。じゃ、こっちから行くわね。」

厳弥はまず、魚雷を二本発射した。ラウラはそれを難なく避け、右肩のGNパーティクル・カノンを展開した。

(接近戦に持ち込まれるのは危険だ・・・なるべく遠距離からの攻撃に徹し、奴の領域から離れる!)

砲身から、粒子を纏った砲弾が次々と射出される。厳弥はそれを、地を走りながらすいすいと回避した。

「ただドカドカ撃ってるだけじゃ、当たらないわよ!」

砲撃の合間を縫って近付いていた厳弥は、ここぞとばかりにラウラの目の前に踊り出た。

(先日の敵性ガンダム程ではないが、やはり素早い・・・だが!)

ラウラはGNフィールドを展開し、厳弥の攻撃を防御した。

「これって・・・前の金ピカのバリアと一緒!?」

「貰った!!」

彼女はこれを好機と見て、すかさず腕部のビームサーベルを厳弥に突き出した。

「っ!!!」

咄嗟にタクティカルアームズをクロスさせ、彼女はその一撃を受け止めた。そして彼女は衝撃に身を任せ、ラウラから離れた場所に着地した。

「・・・少しの間に随分変わったわね、貴方。反応速度も上がってるし、思い切りが良くなった気がする。」

「・・・貴方程の使い手にそう言われるとは、光栄な事だ。」

「ここまで成長してるんじゃ、手加減なんてしてられないな・・・じゃ、これから本格的に攻めさせてもらうからね。」

厳弥は再び、ラウラに向かって一直線に走り出した。ラウラは再び砲撃を行うが、それはタクティカルアームズに防がれる。

(まずいな・・・一度上昇して、体勢を立て直す!)

ラウラは機体高度を上げ、上空で再び砲撃体勢に入った。

「成程ね・・・確かに、私の機体は飛行は出来ない。だから、そうするのは妥当な判断よ。」

けどね、と厳弥は笑う。

「それに対する対策を、考えてないなんて思わないでよね!!」

ラウラが砲撃を放つと共に、彼女は魚雷を砲弾に向け投げ付けた。小規模の爆発が起き、厳弥の体が煙に包まれる。それと同時に、彼女の反応がレーダーから消失した。

(消えた!?やはりあれが、奴の機体の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)か!)

しかし、と彼女は続けて思考する。

(あれでは、いつもの奇襲戦法は使えない。なのに、奴は反応を消した。一体何を考えている・・・?)

すると、彼女の思考をかき消すように、接近警報が鳴り響いた。

「くっ、魚雷か!?」

レーダーが捉えた数は2つ。彼女は撃墜しようかと考えたが、それでは煙が発生してしまう為、回避する事を選んだ。

 

すると突如として、レーダーにもう一つの反応が現れた。

(奴の反応!・・・後ろだと!?)

 

彼女が反撃するより前に、厳弥はタクティカルアームズを容赦なく振り下ろし、ラウラを地面に向けて叩き落とした。

「相手の思考を縛り付けて、予想もされなかった方向から攻撃。奇襲ってのはそういう物よ!」

(このまま落下すれば、奴に多くの隙を与えてしまう・・・そうはいくか!!)

なんとか機体のバランスを取り戻し、地面に激突する事を免れたラウラに、厳弥は息付く間もなく攻撃を仕掛ける。

(砲撃をする暇はない・・・やらざるを得んか!)

彼女はやむなく、近接戦闘に持ち込む事を選択した。もう目と鼻の先にまで迫っている厳弥に、彼女は警戒を強める。

しかし次の瞬間、厳弥はバンと地を蹴り、ラウラの頭上を飛び越えた。

「な・・・!?」

すると、彼女は空中でハンドガンを展開し、それを構えた。その銃口の向く先には・・・

 

 

彼女が故意的に落としたのであろう、一本の魚雷があった。

 

 

「相手を、自分のテリトリーに引き摺り込むの・・・多少強引にでもね。」

彼女が、いくつかの弾丸を魚雷に撃ち込んだ直後。激しい爆発が起こり、辺りを爆煙が覆い尽くした。

 

(くっ、読みが甘かったか・・・まさか、あんな手段をとってくるとは。下手をすれば、自身をも巻き込みかねなかったというのに・・・)

もうもうと立ち込める煙を見、彼女は厳弥の大胆な行動に驚いた。

(しかし、まんまと相手の策に嵌ってしまった。これで、ここら一体は奴の領域・・・狩場だ。もう、反撃は不可能に近いか・・・?)

ネガティブな思考に陥りかけた彼女は、我に返って深呼吸をした。

(何を弱気になっている・・・何も相手は、存在自体を消している訳ではない。)

彼女は、目の前でもうもうと立ち込める煙を注視した。

(幾ら潜水艦をモチーフにした機体といえど、その隠密性は完璧ではない筈だ。動いた時に、必ず何か痕跡を残す筈。探せ、奴の『航跡』を・・・!)

彼女はモニターを駆使し、全方位をくまなく観察した。すると、突如として接近警報が表示される。彼女は一瞬、厳弥が姿を現したのかと考えたが、即座にその可能性を否定した。

(違う、あれは恐らくダミー。私がそれに対応している隙に乗じて、攻撃を仕掛ける・・・さっきと同じ、奴の常套手段だ。なら、何か変化が起きる筈・・・!)

ラウラは更に監視の目を強める。

そしてついに、彼女は目にした。煙の中のある一点が、不自然に動いているところを。

「っ、そこォ!」

彼女は迷わず、カノン砲を発射した。砲弾の弾道の部分の煙が晴れていき、そしてその先に、彼女へと向かっていた厳弥の姿があった。

「嘘っ・・・気付かれた!?でもね!」

厳弥はすんでのところで砲弾を回避し、そして武器を収納し勢いよくスライディングした。彼女はそのまま滑り続け、ラウラの股下を潜り抜けた。

「何・・・!?」

その時、ラウラは感じた。厳弥が自分の背後で、再びタクティカルアームズを展開し、振り上げている姿を。

「く・・・させるかァ!!」

彼女はその感覚のままに、振り向いて腕部ビームサーベルを思い切り突き出した。

「ッ!?」

厳弥はその時、戦慄を覚えた。今度こそ後ろを取った、と確信していたら、次の瞬間には、眼前に鮮やかに光るビームサーベルを突き付けられていたのだから。

(な・・・避け、切れない!?)

彼女も思わず、自分の得物を全力で前に突き出していた。

 

 

互いの得物が互いの体をかすめ、それと同時に、ラウラに厳弥が先程放っていた魚雷が直撃した。

 

 

 

 

「ハーッ、ハーッ、ハーッ・・・」

ラウラは息を切らし、その場にへたりこんだ。その身に纏っていたISは、解除されてしまっている。

(ISを維持出来ない程、脳の消耗が激しいという事か・・・っ、頭痛が・・・)

ラウラの状態を見て、厳弥は彼女を抱きかかえ、アリーナの隅の壁に持たれ掛けさせた。

「ちょ・・・大丈夫!?保健室行く!?」

「い、いや・・・大丈夫だ。」

彼女は壁に背を預け、深呼吸をして呼吸を整えた。

「ふぅ・・・ハハッ。今回も、負けてしまったな。完敗だ・・・」

彼女は苦笑いし、改めて実力差を痛感している様だった。

「いやいや・・・貴方、凄く成長してるわよ。さっきも言ったけど、反射神経は上がってるし、動きのキレも良くなってる。しかも、私の居場所を見抜いてみせたじゃない。」

「いや、あれは運が良かっただけさ・・・あれすらも私を欺く罠だったとしたら、私は負けていた。確実にな。目とカメラの性能の良さが、あわや命取りになる可能性もあったわけだ。」

彼女の言葉に、謙遜しちゃって、と厳弥は呟く。

(ラウラちゃんが最後に見せた、あの人間離れした反応。 あれ、なんだったのかな・・・)

それが気になったものの、彼女はまず、目の前のラウラを優先する事にした。

「取り敢えず、何か飲み物買って来てあげるから。帰ってくるまで、そこで休んでて。」

「あ、ああ。すまない・・・」

「いいのよ、お礼なんて。じゃ、すぐに戻るから!」

そう言い残し、厳弥は走って最寄りの自販機へと向かった。残されたラウラは、一人呟く。

「ハァ・・・やはり、とんでもない奴だった。かつての船乗り達の気持ちが、今なら分かる・・・居場所の分からない敵が、こうも恐ろしいとはな。ISに慣れてしまった今では、そう味わえん感覚だ。」

厳弥との戦いを思い返していた彼女は、ふとある事に気づいた。

「何だ?左目に、違和感が・・・?」

そう感じた彼女は、一度眼帯を外してみた。しかし何かが分かる訳もなく、ラウラは気のせいだろうと思う事にした。

しかし、彼女は気付いていなかった。彼女の左目の虹彩が、ほんの一瞬、微弱に輝いていた事に。

 

 

 

 

 

一方、厳弥を除いた伊東姉妹達は、鈴達と同じくウォーターワールドにいた。

「わぁ・・・すごいのね!あちこちに色んなプールがあるの!」

辺りを見回し目を輝かせる幾に、恵は苦笑した。

「そりゃあ、ウォーターワールドだし?むしろプールが無きゃおかしいでち。」

「人、多いね・・・恵がここのバイトじゃなかったら、来られなかったかも。」

「うーん、こんな水の楽園みたいな所で働けるなんて、夢みたいなのね・・・あれ?じゃあ、恵の仕事はいつからなの?」

「心配しなくても、シフトの時間はまだ先でち。」

そうして三人が園内を回っていると、アスレチックと思しきものが多く設置されている、一際大きなプールに辿り着いた。

「あれ?ここ、女の人しかいないのね。他のプールには男の人もいたのに。」

幾の疑問に、恵はそういえば、と答えた。

「そういや今日は、ここで何かの大会をやってる筈でち。にしても、この状態は・・・大方、スタッフさんが睨みを利かせたんでしょ。野郎の水着姿なんか見せるなってさ。」

「・・・ちょっと可哀想なの・・・」

「まあ、しょうがないよ。皆が見たいのは、華やかな女の子の水着姿なんだし。」

そう話しながら、三人はそこを通り過ぎようとした。しかしその時、会場はどよめきに包まれ、実況者は興奮と困惑が混じりあった様な声で叫び始めた。三人が何事かと目を向けると、そこにあったのは・・・

 

セシリアと鈴が、ISを纏っていがみ合っている姿だった。

「何やってんのアイツら?」

 

 

ISを用いた喧嘩を目の当たりにした恵は、静かに自分のISFを展開し、パーク内スタッフである事を示すタグを、首からぶら下げた。

「ちょ、恵・・・何する気なの!?」

「別に、ちょっと早めからシフトに入るだけでち。悪いけど、二人でどっか回っといて。」

そう言って、彼女は手すりを飛び越え、会場のプールへと飛び込んだ。

 

会場では、互いのISを装着した鈴とセシリアがにらみ合っていた。すると、両者間の緊張を打ち消す様に、どっぱーん、と大きな音を立てて何かが着水した。二人が驚いてその方向を見ると、恵が水中から顔を出し、支給されていたホイッスルをピーと吹いた。

「はいそこの二人ー。他のお客様のご迷惑になりますのでー、園内での戦闘行為はお控え願いまーす。」

「め、恵!?なんでここにいるのよ!?」

「いや、なんかここら辺歩いてたら、偶然このアホみたいな喧嘩に遭遇したわけで。んで、何がどうしてこうなったんでちか?」

彼女の問いかけに、二人は思い出した様に言い合いを再開した。

「あたしはただ、向こうから仕掛けてきた喧嘩を買ってやっただけよ!!」

「なっ!?元はと言えば、鈴さんが私を踏み台にしたのが悪いのではなくて!?」

未だ張り合おうとする二人を、彼女は呆れたような口調で窘める。

「あのさぁ・・・自分たちのやってること、ちゃんと理解してるの?非殺傷設定だとしても、戦闘の流れ弾が当たっただけで、一般人は怪我しちまうんでちよ?」

彼女の言葉に、二人はハッとして、ISを収納した。

「いい判断。んじゃ、詳しいことは中で聞くから、大人しく付いて来て。」

 

 

 

 

「とにかく!!今回の事はしっかりと反省して、今後絶ッッ対、こういう事はしない事!!良い!?」

「「はい、申し訳ありませんでした・・・」」

謝罪の言葉を聞いた従業員の女性は、ひとまず怒りを収めた。

「よろしい。伊東さん、貴方もISを使ってはいたけど・・・武装を使わずに仲裁をしてくれたし、私からは何も言わないわ。でも、次は無いわよ?」

「了解でーす。じゃあ二人とも、さっさとおいとまするでち。」

スタッフの女性にこってりと絞られ、心がズタボロの彼女達二人を引き連れ、恵はスタッフルームを後にした。

 

「あ、恵おかえり・・・って、後ろの二人がすっごくどんよりしてるのね・・・」

「・・・ジュースとか、買ってきてあげようか・・・?」

華の申し出を、恵はきっぱりと跳ね除ける。

「ダメだよ華。今回は完全に、この二人の自業自得でちからね。ましてや、あんな下らん事にISを使うとか・・・言語道断でち。」

彼女のごもっともな言葉に、鈴とセシリアは更に縮み上がる。

「ったく・・・取り敢えず、帰るよ。次からは気をつけることでちね。」

「「はい・・・」」

そうして、彼女たちは帰路についた。しかし、彼女たちから発せられるもんもんとした空気に、恵は内心うんざりしていた。

(・・・うーん、このテンションのまま帰るってのも、なんだかなぁ・・・あ、そういや今日って・・・よし)

その鬱屈とした雰囲気に耐えられなくなった恵は、あることを思いついた。

「ねえ、そこのバカ二人。浴衣とか持ってたりする?」

「え?・・・あたしは、一応持ってるわよ。」

「申し訳ありません・・・私は、持ち合わせておりませんわ。」

「なら、私か幾のお古を貸してやるでち。とにかく皆、寮に帰ったらソッコーで準備を始めること。いい?」

「任務了解なの!」

「ふふ。今宵は宴、だね。」

恵の意を察した二人は、元気の良い返事をする。一方で、状況が呑み込めない鈴とセシリアは、ただただ困惑していた。

「ちょ、ちょっと待って。展開が読めないんだけど・・・」

そんな彼女たちに、恵は朗らかな笑みを向けた。

 

「いーから、黙って準備して。傷心中のお二人の為に、ちょっといい所に連れてってやるでち。」

 

 

 

 

 

模擬戦の後、ラウラは厳弥に連れられ、保健室で診察を受けた。異常は無しとの事だったが万一のことを考え、少し保健室で休んだあと、二人は帰路についた。

「いやー、良かったわ。何も悪い所は無くて。」

「だから言っただろう。何も保健室に行かなくとも、私は大丈夫だと。」

「何言ってんの。ラウラちゃんみたいな真面目な人の『大丈夫』程、危なっかしい物はないんだから。」

「う・・・」

確かにその通りだ、と、ラウラは押し黙る。

「それより・・・何でまた、私に模擬戦を申し込んで来たの?」

「理由・・・単純だよ。私はただ、更なる力を求めた。それだけだ。」

彼女は歩きながら、毅然として話していく。

「私は、教官にはなれない。ならばせめて、あの方の力になれればと思った。だからこそ・・・教官が私に、あの機体を託して下さったことが、嬉しかった。」

「だが、結果はあのザマだ。私にはまだ、あれを完璧に乗りこなす技量が無かったのだ。」

「・・・しかし、いつまでもそんな事は言ってられん。未知の敵に対して、我々は常に牙を研いでおく必要がある。そこで今の私が、何をすべきなのか・・・考えた結果が、先程の模擬戦だ。」

ラウラはそこで立ち止まり、厳弥の方を向いた。

「我々は恐らく、これからあの敵と何度も対峙する事になるだろう・・・私はその時に、これ以上教官に気を使わせる訳にはいかん。奴とも対等、少なくとも足に喰らいつける位には、更に実力をつけなければならない。・・・その為には」

ラウラは、厳弥の目を真っ直ぐに見据えた。

「無礼な事を言うようだが・・・貴方如き、倒せるようにならなければならない。」

彼女の言葉に、厳弥は楽しそうに笑った。

「・・・ふふ、言ってくれるじゃない。ま、今回の模擬戦で、私の戦い方もまだまだ穴がある事が分かったしね。おかげさまで、こっちも良い勉強になったわ。言ってくれれば、いつでも相手してあげるわよ。」

「本当か!?それはありがたい・・・また、よろしく頼む。」

「勿論よ。何度でもどんと来い、ってね。」

笑ってそう言う厳弥につられて、ラウラもまた自然と笑顔を零した。

「そうだ!ラウラちゃん、この後なんか予定ある?」

「いや、特には無いが・・・それがどうした?」

厳弥は、にこりと微笑んで言った。

「今日の夜、近くの神社でお祭りがあるんだけど・・・折角だし、一緒に行かない?」

 

 

 

 

夜になり、日も暮れた頃。厳弥とラウラは浴衣を着て、お祭りが開催されている神社に訪れていた。

「わお、結構人がいるわねぇ・・・ラウラちゃん、離れちゃダメよ。」

「了解した。・・・それにしても、これが日本の祭りか・・・そこら中に露店が並んでいるな。」

「そ。こんな感じで、色んなお店があるのよ。じゃあ、どこから行きたい?」

「そうだな・・・では、まずはあそこだ。」

 

 

 

一方、恵たちもまた、そのお祭りに来ていた。

「おお〜・・・こっちもこっちで、 人が一杯なの!」

「はぐれちゃダメだよ、幾。」

「ったく、アイツはいつも元気なんだから・・・おーい1年。そっちもはぐれないでよ。」

「は、はい!鈴さん、よそ見をしてないで行きますわよ。 」

「え?・・・ああ、うん!」

そう答えた鈴だったが、彼女の目線は道行くカップル達の方に向いていた。

「どーしたのね、鈴?さっきからぼーっとしてるけど。」

「べ、別に、何も無いわよ・・・」

彼女の目線の先を見た幾は、ニンマリと笑みを浮かべた。

「はは〜ん・・・さては、あの人たちが羨ましいの?」

「ハ、ハァ?別に羨ましくなんかないし!」

「コラ幾、あんまり一年弄るのはよしなよ。」

「んもう、恵ったら人聞きが悪いのね。恋バナはガールズトークの鉄板なの!」

幾はいたずらっぽく笑い、悪びれもなく答える。恵はその態度に、お手上げといった様子で両手を上げた。

「全く・・・好きにするといいでち。」

「さっすが恵、分かってるのね!」

恵のお許しを得た彼女は、嬉々とした顔で鈴の方を向いた。

「ねぇねぇ、やっぱり鈴も、そういう展開に憧れちゃうの?」

「別に、そんな事ないし!ほら、こういうのは同性の友達と行った方が楽しいってよく言うでしょ!?」

「う〜ん・・・でも、ほんとは織斑君と一緒に来たかったんじゃない?」

「ちょっ・・・なんでアイツなのよ!?そんなの、絶対ゴメンだわ!!!」

ニヤニヤと笑う幾に対し、鈴は必死に反論する。

「あんなテンプレなツンデレ見せ付けてたら、誰でも分かるのね。」

「つ、ツンデレって・・・デレてなんかないわよ!?」

「ツインテ、そういうとこでちよ。」

「〜ッ!!ああもう、とにかく!あたしはこれっぽっちも、アイツの事なんか好きじゃないんだから!!」

(((((だからそういうところだって・・・)))))

皆が暖かい目で鈴を見つめる中、彼女は恥ずかしさがピークになって、軽く興奮状態になっているようだった。そして、こんな人が密集している場所で暴れるとなると、結末は一つしかない。

「おい、ちょっとツインテ!後ろ後ろ!」

「アイツ、今回は一発引っぱたいて・・・きゃっ!?」

「ふむ。先程購入したこの仮面、中々悪くない。店でこれを着けて接客でも・・・ぬおっ!?」

案の定、鈴は仮面を着けた金髪の男性と激突し、転倒してしまった。

「あいたた・・・す、すみません・・・」

「いや、こちらこそ申し訳ない。久々の祭りに、少々気が浮わついていたようだ。立てるかな?手を貸そう。」

「ありがとうございます・・・ん?その声、なんか聞き覚えが・・・ああっ!?」

立ち上がりながらいきなり大声を出した鈴に、その男性はビクついた。

「アンタ、この前の花屋のむさ苦しい店長じゃないの!?」

「如何にも、私は花屋を営んでいるが・・・む、そう言われると、私も君たちに見覚えがあるな・・・」

彼は鈴をまじまじと見つめ、それからセシリアに目を移した。

「おお、思い出したぞ!君たちは先日、あの銀髪の少女と共に来店していたな!まさか、この様な形で出会えようとは!」

そう言って喜ぶ彼に、鈴はいやいや、と突っ込む。

「いや、また会えたのは嬉しいんだけど・・・なんなのよ、そのダッサイ仮面?」

「随分な言われようだな!この仮面は先程、露店で売っていたのを購入したのだ!」

「はあ・・・でも、どうしてよりにもよって、その様な仮面を選んだのですか?」

セシリアの質問に、彼は笑って答える。

「うむ、良い質問だ。私がこれを手に取った時、脳に電流が奔ってな。これしかないと感じたのだよ。これぞまさに、私の武士道に対する愛の成せる業と言えよう!!」

そう豪語する彼に、恵は少し引いた様子で幾に話しかけた。

(あのおっさん、絶対武士の事を間違って認識してるでち)

(まあ、海外の人たちは結構勘違いしてるのね)

(着地の隙を誤魔化す為に、ステップしてクナイ投げるのが忍者、みたいな?)

(流石にそこまでのは無いと思うの)

彼女たちがひそひそ話していると、彼がスススッと二人に迫った。

「君たち!私は他にも仮面を買ったのだが・・・よければ如何かな?」

彼はそう言って、懐から複数の仮面を取り出した。

「寄るな変態」

「流石に、そんな仮面は趣味じゃないのね・・・」

「フッ・・・振られたな。」

彼の態度にイラっときた恵を、皆は必死に引き止めた。

 

 

 

 

「「「「あっ」」」」

そして、彼女たちは偶然にも、人混みの中ばったりと遭遇した。

「恵、アンタ達も来てたの?」

「うん、ちょっとね。色々事情があって、この一年二人を連れてきたんでち。」

「うんうん、今日の恵はいつもより気が利くのね!」

「おい幾、そりゃどーいう意味でちか?」

「いつもこうだったら、良いのにね。」

「いやいやあんた達、恵が普段からいい子ちゃんっていう姿を想像してみなさいよ。私は軽く鳥肌立ったわ。」

「うーん・・・あー、確かに似合わないの。」

「やっぱり恵は、いつもみたいにガサツな方が良いね。」

「よし。あとでじっくり話をしようね、お前ら。」

 

 

 

彼女たちが会場を歩き回っていると、射的の店を発見した。

「あ、射的があるのね。」

「セシリア、あんた狙撃得意でしょ?やってみなさいよ。」

「そうですわね・・・では、折角ですし。」

「むむっ!じゃあこっちからは、対抗馬として厳弥を出すの!」

「ほら厳弥、ご指名でちよ。」

「えー・・・私、射的苦手なのよねぇ・・・」

渋々引き受けた厳弥は、お金を払って銃を手に取った。

「いいかな?じゃあ、二人同時に撃つのね!」

「華、掛け声は頼んだ。」

「お任せあれ。ふふ、それでは・・・Feuer!」

それと同時に、二人は銃の引き金を引いた。一方の放った弾は見事景品を落とし、もう一方は虚しく景品をかすめていった。

「やりましたわ!」

「ほらぁ、やっぱ私には無理だって・・・」

弱音を吐く厳弥に、恵たちは激励を飛ばす。

「おーい、諦めたらそこで夜戦終了でちよ?」

「銃身が焼け付くまで撃ち続けるのね!」

「無茶言ってくれるわね・・・ま、いいわ。やってやろうじゃない!」

そう言って闘志を燃やす彼女だったが、その後も次々と、見事に外してしまうのだった。

 

そして、残すところは、最後の一発となった。

「うう・・・私、こんなに下手だったっけ・・・?」

「厳弥・・・代わろうか?はっちゃん、厳弥よりは出来ると思うけど・・・」

彼女はしばし考えたが、結局首を横に振った。

「・・・いや、決着は私の手でつけるわ。皆は手を貸さないで。」

「なかなか強情でちね・・・」

「てか、決着つける程の問題じゃないと思うのね。」

「う、うるさい!気持ちの問題よ、気持ちの。」

そう言った厳弥は、再び銃を構え直した。

(落ち着け私・・・この程度、アンタならいける筈でしょ?)

ア、オジチャン!イクモイッカイオネガイスルノ!

オーライ!ヨクネライウチナ、ジョウチャン!

(集中よ、集中・・・精神を統一・・・)

オイイク、オメーナニタクランデルンデチカ?

イヒヒ。シー、ナノネ♪

幾が何やらよからぬ事を考えている事など知らずに、彼女は目の前の目標に集中していた。そして・・・

(見えたっ!?水のひと雫!!)

彼女はすぐさま、引き金に当てた指に力を込めた。が、彼女が引き金を引く寸前に、目の前の標的が倒れた。

「え・・・」

「ふふーん、百発百中なの!」

厳弥が横を見ると、こっそりと参加していた幾が銃を構えていた。

「・・・幾、アンタ・・・人の獲物に何してくれちゃってんのよ!?」

「まあまあ、落ち着くのね。これは厳弥に贈呈しちゃうから。」

「別に、特段それが欲しかった訳じゃないわよ!一撃で仕留めちゃって・・・私のこれまでの努力はなんだったの!?」

「悲しいけど、これって早いもの勝ちなんだよね。」

「遅かったなぁ!って感じでちね。」

「いひひっ、これじゃあ道化なのね!」

「黙らっしゃい!さっさと500円返却しなさいな!!」

ぎゃーぎゃー騒ぐ伊東四姉妹と、それを見て笑う一年組の笑い声は、祭りの喧騒の中に響いた。

 

 

 

 

 

彼女たちが、お祭りを楽しんでいた頃。IS学園内の食堂に、千冬はリボンズを引き連れ訪れていた。

「あ、お二人共!今日も一日お疲れ様です!」

「ああ、お前もな。カレーを二つ頼む。一つは少なめにしてくれ。」

「分かりました!じゃあ、少し待ってて下さいね。」

衣恵が厨房の奥に姿を消すと、リボンズは千冬に声をかけた。

「・・・先に席を見つけておくよ、千冬。」

「すまんな、宜しく頼む。」

彼が席に向かった時と同じくして 、衣恵がカレーを持って厨房から戻った。

「お待たせしました!・・・って、あれ?リボンズさんはどうしたんです?」

「奴ならついさっき、席を取りに行ったぞ。ほら、あそこだ。」

千冬はそう言って、歩くリボンズの背を指差した。

「・・・最近元気無いですよね、リボンズさん。臨海学校の時に何かあったんですか?」

彼女は力無く歩くリボンズの背中を見て、心配そうな表情を浮かべた。

「心当たりはある・・・が、私も何度か聞いてはいるのだが、一向に答えてくれんのだ。衣恵、お前も聞いてみてはくれないか?」

「・・・分かりました、やってみます。」

衣恵は他に注文が無いことを確認すると、持ち場を一時的に他の者に任せ、食堂の隅の方に座るリボンズに声をかけに行った。

 

「こんばんは。ご一緒してもいいですか?」

「・・・衣恵か。ああ、別に構わないよ。」

「ありがとうございます!じゃあ、遠慮なく・・・」

彼からの了承を得た衣恵は、彼の正面に腰を下ろした。

「いやぁ、最近暑くなって来ましたねぇ。」

「そうだね・・・こうも暑くては、気が滅入る。」

「警備の仕事の時とか、もう暑くて暑くて・・・用務員の仕事はもっと大変だと思うんですけど、大丈夫ですか?」

「今の所は問題ないさ。しかし、水分補給を怠ると、すぐに倒れてしまいそうでもあるがね。今程用務員にならなければ良かったと思う時は無いよ・・・」

一見、普通にやりとりは出来ている様に見える。しかし衣恵は、いつもと明らかに違う点を見つけ出していた。

「・・・やっぱり。少しおかしいですよ、リボンズさん。」

「・・・何がだい?」

「リボンズさんって・・・私たちと話す時、大抵笑ってるんですよ。なんか余裕そうな笑顔ですけど・・・それが、リボンズさんのチャームポイントでもあるんですけどね。」

でも、と衣恵は続ける。

「最近・・・今だってそう。リボンズさん、まるで笑ってません。」

「・・・」

「何か、あったんでしょう?話してみてくれませんか?」

彼女の真剣な目つきに、とうとうリボンズは折れた。

「・・・分かったよ。全く、君にはかなわないな。」

「お節介な性分でして。それで、何があったんです?」

 

 

 

「成程・・・あの時、そんなことがあったんですか・・・」

彼女の言葉に、リボンズは静かに頷く。

「結局僕は、『自分なら出来る、アレに勝てる』という思いを、まだ捨てきれていなかったのさ。あれだけ、今度は変わってみせると思っていたのにね・・・」

彼がそう言って落ち込む一方で、衣恵は目をぱちくりさせながら、恐る恐る答えた。

「・・・あの、個人的な意見なんですけど・・・リボンズさん、少し考え過ぎだと思いますよ?」

「・・・何?」

リボンズは怪訝な表情をし、彼女を見た。

「その時感情に呑まれてたと言っても、リボンズさんは二人をその場に残したんでしょう?それって無意識に、二人の事を信じていたって事じゃないんですか?」

「・・・しかし、それは彼女らの実力ではなく、ガンダムの性能を信じていた、ともとれないかい?」

「いくら機体が高性能でも、それを操縦する人がダメでは、何も出来ません。使いこなすには、それ相応の実力が伴います。リボンズさんもそれを理解した上で、ラウラさん達に託したんでしょう?」

「それは・・・」

言い淀む彼に、衣恵は更に畳み掛ける。

「それに、ですけど・・・個人的に、傲慢さって、人間には必要な物だと思いますよ。」

「・・・何だと?」

その言葉に、彼は驚いた顔をした。

「えっと・・・傲慢ってつまり言うと、自信の延長線上の物じゃないですか。他人を見下しちゃうから、悪い意味にとられているだけで。勿論、自信過剰過ぎるのは駄目なことですよ?行き過ぎた自信は、視野を狭くしちゃいますから。でも、何をするにおいても、自信は必要だと思います。」

思わぬ事を聞かされた彼は、思わず頭を抱えた。

「・・・じゃあ、どうすればいい?僕は今まで、傲慢だった頃の自分を憎み、それを抹消しようと心掛けていた・・・しかし、それが人間に必要な物となると・・・僕は、一体どうすればいいんだ?」

「そうですねぇ・・・あ!じゃあ、こんなのはどうですか?」

何か思いついたらしい衣恵を、リボンズは藁にもすがるといったように見る。

「その傲慢さを、少し過剰程度の『自信』に戻しちゃえばいいんですよ。自分の力は信じてるけど、不安に感じたら、他の人の力もちゃんと信じて頼るって感じで。多分、それが理想形なんだと思います。」

「傲慢を、自信に・・・?」

「はい。馬鹿と天才は紙一重って言うでしょ?この場合、他人を信じるか否かが、その紙一重の差なんですよ。」

彼女はリボンズの目を見据え、真面目な様子で続ける。

「不安かもしれません。本当に信じて、任せてしまってもいいのか。自分が全部やった方が、皆は安全なんじゃないか・・・そう、思うかもしれません。」

「でも、信じてあげて下さい。あの子たちは・・・ラウラちゃんは、他でもないリボンズさん自身が育て上げたんでしょう?」

リボンズは黙って、彼女の言葉を噛みしめていた。

「・・・そうだね。僕も、教官と教え子という関係に、色々と甘えていたのかもしれない。彼女の実力をその目で見てもなお、僕はまだ不安だったのかもしれないな。」

「じゃあ・・・どうすればいいか、分かりますよね?」

彼女の問いかけに、彼はああ、と答える。

「今度こそ、彼女を信じてみせるよ。そろそろ・・・僕も、『弟子』離れをしなくては。」

その返答に、衣恵は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

その後、すっかり普段の調子を取り戻したリボンズは、衣恵と談笑をしていた。

「ありがとう。君の意見はとても参考になった・・・僕がこれから、どうしていくのかを決める点においてね。」

「いえいえ、気にしないで下さい。同じ職場で働く仲なんですから。・・・ふふ。それにしても、リボンズさんにも悩む事ってあるんですね。」

「当たり前じゃないか。僕とて、結局は『人間』なんだ。悩み事の一つ二つはあるさ。」

「でもほら、リボンズさんって普段、あまり表情を変えないじゃないですか。それに、特にこれといった欠点とかも見せてなかったですし。だから私、リボンズさんって、もしかしてアンドロイドなんじゃないかって思ってたんですよ。」

それはあながち間違いではない為、リボンズはビクリと肩を震わせた。

「でも、そんな風に悩んで、自分を責めて、後悔していたなんて・・・こう言ってはなんですけど、私、少し安心しました。」

「安心?それはまた何故だい?」

「かつての自分が嫌で、何とか変わろうとするけど、それが上手くいかない。それでもなお悩み続けるって事は、それだけ真剣に、自分自身に向き合おうとしてたって事ですよね。なんだかそれって・・・とっても魅力的じゃないですか、人間くさくて。」

そう言って衣恵は、照れくさそうに笑った。

(・・・フ。かつて人間を見下していた僕が、人間くさいと言われるとは・・・昔の僕が聞いたら、激怒しかねないな。)

「人間くさい・・・か。フフ、それは褒め言葉として受け取っていいのかな?」

「ほ、褒めてますって!疑ってるんですか!?」

「ハハ、冗談さ。素直に嬉しいよ。」

「全くもう・・・自信が戻ってきたらきたで、意地悪になっちゃって・・・」

「これが本来の僕なんだ、君も素直に受け入れてくれ。」

「むう・・・まあ、良いですよ。丁度、笑顔も戻ったみたいですしね。」

そう言われた彼は初めて、自分が無意識に笑っていた事に気が付いた。

(成程・・・これか。これが仲間、というものか・・・中々いいものじゃないか。)

「あ、見て下さいあれ!花火ですよ、花火!」

「ああ。綺麗なものだね、この国の打ち上げ花火は。」

「あー、今頃あそこでは、お祭りやってるんだろうなぁ・・・リボンズさん、今からでも行きませんか?千冬さんも一緒に!」

「ふむ・・・いい考えだとは思うけど、もう遅いんじゃないかな?」

「ですよねぇ・・・ああ、行きたかったなぁ・・・」

夜空を彩る色とりどりの花火に触発される様に、彼の中の何かに火が灯る。

(刹那・F・セイエイ、ティエリア・アーデ・・・そういえば君達も、再結成された後と前では、えらく性格が変わっていたな・・・それもやはり、仲間を信じるということを覚えたからなのかい?)

彼は花火を見ながら、ふとそんなことを考えた。

(ならば、やってみせるさ。マイスターの中でも、特に人格に問題があった君達がやってのけたんだ。僕にできない筈がない。)

失礼な事を考えながら、彼は決意を胸に手を握りしめた。

 

 

 

 

 

おまけ

 

別の日。彼は千冬に勧められ、以前ラウラ達が訪れたショッピングセンターに来ていた。

「・・・情報によると、ここに良い花屋があるらしいのだが・・・まさか、コレか?まるで道場じゃないか。」

彼は疑念を抱きつつも、恐る恐る入店した。

「む、お客様か!?いらっしゃいませ、と言わせてもらおう!!」

(ブシドー!?)




・・・はい。というわけで、最新話はこのような感じです。


ではここで、今回ラウラと戦った厳弥のIS、もといISFについてもう少し詳しく説明します。


ISF-MS1 「伊168」
本来水中運用を想定していた「伊168」を、搭乗者である伊東 厳弥の要望に応え、陸上での近接戦闘を行えるよう改装した機体。本人の戦闘スタイルに合わせた調整の結果、陸上でもかなり機敏に動くことが可能となった。また、ISFの例に漏れず空を飛ぶことはできないが、その代わり跳躍力が大幅に強化されている。

武装

・タクティカルアームズ0
彩季奈が開発した多機能型兵装。普段は浮き輪の形をしているが、真ん中から分けることで、2対のブレードに変化する。強度は相当高く、盾としても機能する程。これは彼女がこれを開発する際、その形状から貫通力には期待できないと判明した時、「貫けないなら叩き壊せばいい!」との発想に至ったことから。よって、その破壊力には目を見張るものがある。

・ハンドガン
装填速度と連射性を強化したハンドガン。元は華の「伊8」に搭載された武装であったが、彼女から譲り受ける形で装備している。

・各種魚雷
用途に応じて使い分ける魚雷。
 ・大型推進魚雷(トルピード・ブースター):主に自身の移動や、敵に当てて押し返す為の魚雷。威力は並。
 ・ホーミング魚雷:相手を自動追尾する魚雷。操縦者に負担がかからない分、小回りはあまり利かない。
 ・BT魚雷:操縦者本人の意思によって操作可能な魚雷。イギリスのブルー・ティアーズの技術提供により作られている。
 ・BM魚雷:通常のものより、爆薬を多く搭載している魚雷。厳弥は主に、煙幕を張る際に使用している。


 ・単一仕様能力(ワンオフアビリティー) 「眼下の伊号」
本機を始めとした全4機に搭載されており、相手のハイパーセンサーに反応されなくなる。水中にいる際は、自動的に発動する仕様となっている。厳弥はこれを要所要所で発動させ、相手を撹乱することを重点に置いて使っている為、常時の発動はしていない。


こんな感じです。

さて、これからの投稿ですが、勿論続けさせては頂くのですが、以前と違い結構不定期な更新になると思います。それでも、なるべく早く皆様にお届けできるよう善処するので、よろしくお願いします。

さて、次は学園祭の話ですかね。なるべく早く投稿できるよう、頑張ります!


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再開直前・キャラクターの振り返り

この回は、2年越しの最新話投稿故、誰が誰だか忘れてしまった方々が大勢いると思われるので、原作からかなり設定が変わったキャラクターや、この小説オリジナルのキャラクターの設定を整理する回となっています!
もし覚えて下さってて、必要ないよって方はとばして頂いても結構です!
続けて投稿している最新話にお進みください!


リボンズ・アルマーク    登場話:全話

刹那・F・セイエイとの一騎討ちに敗れた後、この世界にて再び生を受ける。以前は束やクロエと共に暮らしており、千冬と同じく臨時の教官として、ドイツ軍に所属していた時期もあった。ラウラとはその時に出会い、彼女の指導を務めた。一夏が世界初の男性IS操縦者として学園に入学したのに合わせて、彼の身を守るべく、表向きは用務員として学園と協力している。

以前の反省から、自身にあった傲慢さと人間を見下す心を消し去ろうと勤めていたが、臨海学校にて敵性のガンダムエクシアに惨敗したことで、自分が未だ無意識に「自分の力のみを信じている」ことを悟り、一時自暴自棄に陥った。しかし、その後衣恵の助言で、仲間を信じて頼ることの大切さを改めて教えられ、それを実行できるよう意識している。

 

搭乗機体:1.5(アイズ)ガンダム

1(アイ)ガンダムの性能を向上させるべく、バックパックに一対の可変式バインダーを装着した形態。元の1ガンダムと比べて、全体的な性能が1.5倍にまで向上している為、その名が付けられた。バインダーには様々な形態があり、必要に応じて自由に変形させることが可能。

 

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ   主な登場話:7〜11、22〜29

IS学園一年生。ドイツ軍の特殊部隊「シュバルツェ・ハーゼ」隊の隊長で、それに伴い優れた実力を持っている。遺伝子強化実験の試験体であるが故、軍ではかつて好成績を収めていた。しかしISの適合力を向上させる『ヴォ―ダン・オージェ』の処置を施された際、それが彼女との適合に失敗した結果、優れたパフォーマンスを残すことができなくなり、徐々に落ちぶれていったという過去を持つ。そんな時、ドイツ軍に教官として赴任し、彼女を鍛え上げたリボンズには、とても深い感謝と尊敬、そして親愛の念を持っている。IS学園に来て彼に再会したことで、その思いはより深くなったようで、それが仇となり自身のISに搭載されていた「VTシステム」を暴走させるまでに至った。その際、彼女の専用機である「シュヴァルツェア・レーゲン」は酷く損傷してしまったが、束が自らの手で「ガルムガンダム」に改装し、彼女に与えた。

 

現搭乗機体:ガルムガンダム

束がラウラの専用機として作り出した機体。暴走し、大きなダメージを負ったシュヴェルツェア・レーゲンを、その予備パーツを一部流用・改造し、完成した。コアはシュヴァルツェア・レーゲンの物と変わりなく、装備も似通った物になっているので、ラウラにとって馴染みやすい機体となっている。

 

武装

・GNビームサーベル

両腕の手の甲に搭載されたビームサーベル。束が腕部の予備パーツを流用した時、使い慣れた形がいいだろうという配慮の下、プラズマ手刀から変更する形で搭載された。腕のGNコンデンサーに直結している為、大幅な出力の変更が可能。

 

・GNパーティクル・カノン

右肩に搭載された大型のカノン砲。実体弾にGN粒子を纏わせ発射することで、弾の強度と速度を上げ、着弾時の威力を高める事が可能。

 

・GNフィールド

GN粒子を機体周辺に展開し、球状のバリアを形成する。これを搭載するにあたって、AICはオミットされている。強度は調整可能だが、長時間の使用は不可。

 

 

 

 

篠ノ之 束    主な登場話:1〜5、9、13、26

言わずと知れた、ISの生みの親。自他共に認める天才であり、それと同時に世界屈指の問題児。束の思考パターンを埋め込み、人工的な「天才」を産み出そうと試みた実験により生み出されたリボンズとルビの二人を、まとめて引き取った。以後、クロエと一緒に家族の様に扱っている。また、彼らと過ごした影響かどうか定かではないが、他者に対する接し方がかなり丸くなった。しかし、未だ初対面の相手の名前を覚えるのは中々苦手らしい。

 

 

クロエ・クロニクル   主な登場話:14、27、28

リボンズたちが束に拾われる前から、長く束と共に暮らしている少女。彼女に忠誠を誓っている。ラウラは同じ実験で生み出された存在で、彼女の姉にあたる。面には出さないが彼女を気にかけている様で、ラウラが自身の存在意義に揺れた時は、彼女なりの助言を与えた。搭乗機は、リボンズから譲り受けた0ガンダムに装甲と装備を追加した、フルアーマー・ガンダム。

 

 

 

     これより下、全てオリジナルキャラ

 

 

伊東 厳弥(いとう いむや)    主な登場話:19、21、23、29

IS学園三年生。伊東4姉妹の長女にあたる。基本的に面倒見がよく常識的な性格で、多くの生徒と良好な関係を築いている。日本の代表候補生であり、その実力は国家代表にも引けを取らない程。それ故時折、任務が彼女の下に舞い込んでくる。キャラクターのモデルは、艦隊これくしょんの「伊168」。

 

専用機:ISF-MS1 「伊168」

大戦時に実在した艦船をモデルとした、ISF(インフィニット・ストラトス・フリート)の一つ。本来、本機は水中運用を目的に開発されていたが、搭乗者の厳弥自身の要望に応え、陸上での近接戦闘を行えるよう改装された。本人の戦闘スタイルに合わせた調整の結果、陸上でもかなり機敏に動くことが可能となった。このシリーズの特性上、空を飛ぶことはできないが、その代わりに跳躍力が大幅に強化されている。

 

武装

・タクティカルアームズ0

彩季奈が開発した多機能型兵装。普段は浮き輪の形をしているが、真ん中から分けることで、2対のブレードに変化する。強度は相当高く、盾としても機能する程。これは彼女がこれを開発した際、その形状から貫通力には期待できないと判明した結果、「貫けないなら叩き壊せばいい!」との発想に至ったことから。よって、その破壊力には目を見張るものがある。

 

・ハンドガン

装填速度と連射性を強化したハンドガン。元は妹の華の「伊8」に搭載された武装であったが、彼女から譲り受ける形で装備している。

 

・各種魚雷

用途に応じて使い分ける魚雷。これらの武装は、同じシリーズである「伊58」「伊19」「伊8」にも、標準装備として装備されている。

 ・大型推進魚雷(トルピード・ブースター):主に自身の移動や、敵にぶつけて姿勢を崩させたり、押し返す為の魚雷。

 ・ホーミング魚雷:相手を自動追尾する魚雷。操縦者に負担がかからない分、小回りはあまり利かない。

 ・BT魚雷:操縦者本人の意思によって操作可能な魚雷。イギリスのブルー・ティアーズの技術提供により作られている。

 ・BM魚雷:通常のものより、爆薬を多く搭載している魚雷。厳弥は主に、煙幕を張る際に使用している。

 

 ・単一仕様能力(ワンオフアビリティー) 「眼下の伊号」

本機を始めとした全4機に搭載されており、発動中は相手のハイパーセンサーに反応されなくなる。水中にいる際は、自動的に発動する仕様となっている。厳弥はこれを要所要所で発動させ、相手を撹乱することを重点に置いて使っている為、常時の発動はしていない。

 

 

 

 

 

伊東 (めぐみ)     主な登場話:20、21、22、29

IS学園三年生。伊東4姉妹の次女にあたる。少し粗雑でひょうきんな面はあるが、姉と同じく面倒見は良い方で、なんだかんだで人の手助けをすることも多い。語尾によく「でち」をつける。キャラクターのモデルは、艦隊これくしょんの「伊58」。

 

専用機:ISF-MS2 「伊58」

元の「伊58」から何も改装をしておらず、全4機ある本シリーズの中で唯一、元の性能のままで運用されている機体。水中ではハイパーセンサーで認識されなくなる等、水中での性能は高い。が、水上での運用となると、センスが求められる機体である。

 

 

 

 

伊東 (いく)     主な登場話:20、21、22、29

IS学園二年生。伊東4姉妹の三女にあたる。自由奔放でいたずら好きだが、妙に理性的な面も持ち合わせている。語尾によく「なの」をつける。キャラクターのモデルは、艦隊これくしょんの「伊19」。

 

専用機:ISF-MS3 「伊19」

元の「伊19」を長距離狙撃向けに改装した機体。他3機と比べハイパーセンサーが強化されており、更に大規模の範囲で敵を見つけたり、高速で動く相手をより正確に撃ち抜く事が可能となっている。

 

 

 

 

伊東 華      主な登場話:19、21、24、27

IS学園一年生。伊東4姉妹の末っ子にあたる。穏やかで物静かな性格であり、少し間延びした話し方をする。キャラクターのモデルは、艦隊これくしょんの「伊8」。

 

専用機:ISF-MS4 「伊8」 

元の「伊8」を後方支援向けに改装した機体。拡張領域(バススロット)を追加しており、多数の武器を収納出来る。更に、本機専用に開発された本の形をした特殊な武装は、拡張領域(バススロット)と繋がっており、その状況に応じた武装を手早く取り出したり、そこから直接攻撃を行うことも可能。

 

 

 

 

 

平賀 彩季奈(ひらが あきな)   主な登場話:19、20、21、22、27

IS学園一年生。整備科に所属し、基本オリジナルの武器の開発・改造に取り組んでいる。開発バカな故変わったところはあるが、天真爛漫な性格であり、他人とのおしゃべりも楽しんで行うタイプ。多種多様な武装を作っており、中には実用性が高いものから、とてつもなく使いづらいものまで存在する。作った武器を試用するときには、専用の改造を施した個人用のラファール・リヴァイヴに乗り込む。語尾に「かも」をよく付ける。キャラクターのモデルは、艦隊これくしょんの「秋津洲」。

 

彼女が開発・改造を担当した武器一覧

・タクティカルアームズ

・メガ・バズーカ・ランチャー

・プラズマ・リーダー

・サブマシンガン「聖痕(スティグマト)

・超高インパルス長射程狙撃ライフル「成層圏を墜す者(ストラトスブレイカー)

・サブフライトシステム「二式大艇ちゃん」

・IS用強化パーツ「アサルトシュラウド」(未施工)

 

 

 

平賀 芽遠(めのん)   主な登場話:19、29

IS学園二年生。妹の彩季奈と同じく整備科に所属している。妹が作業中にどんどん暴走していくことが多々ある為、ストッパー役となることがしばしば。ISの整備に精通している。キャラクターのモデルは、艦隊これくしょんの「夕張」。

 

 

 

 

笠谷 衣恵(かさたに きぬえ)   主な登場話:16、17、20、22、29

IS学園の警備員。仕事熱心で、時折食堂でも働いている。彼女も伊東4姉妹と同様、ISF『衣笠』の所有者であり、かつては日本代表候補生の端くれでもあったらしい。姉の青葉が様々な情報を扱う仕事をしていて、彼女の情報網に助けを求めることも多い。キャラクターのモデルは、艦隊これくしょんの「衣笠改二」。

 

 

 

 

 

 

ルビ・スファイア    主な登場話:2、3、11、14

リボンズと同じ研究で生み出された、彼の妹にあたる存在。生まれた当初は精神的に幼く、リボンズへの依存傾向が少し見られたが、年月が経った今ではなりを潜めている。現在は束やクロエと一緒に暮らしている。搭乗機は、三機スローネの機能の全てを一つに統合した、ガンダムスローネ。キャラクターのモデルは、機動戦士ガンダムSEED DESTINYの「ステラ・ルーシェ」。

 

 

 

レーヴェ・ハンブルク  主な登場話:7、9、10

ドイツ軍の所属の軍人で、元「シュヴァルツェ・ハーゼ」隊隊長。豪胆な人物で、いつも余裕をもち、冷静に物事を解決する。しかし、戦闘中はその戦闘スタイルも相まってか、少し熱くなる悪癖がある。現在は隊をラウラに託し、軍本部にて勤務をしている。キャラクターのモデルは、艦隊これくしょんの「Graf Zeppelin(グラーフ・ツェッペリン)」。




はい、以上がキャラ一覧でございました。
こう並べて見たらかつての自分、めっちゃオリキャラ増やしてますね...

オリキャラたちですが、元ネタを知らなかったり、一度調べたけど忘れてしまったりしている方は、是非モデルとなったキャラの名前を検索してみて下さい。一回見たら外見だけはしばらく覚えられると思います、結構特徴的なデザインしてるので。アズレンの方じゃなくて、艦これの方のキャラデザインですよ!

さて、ここまで読んでくださった方は、お待たせいたしました。次二話が最新話となります!


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30. 学園祭(前編) 〜亡霊の幻惑〜

こんなにも長く、時間がかかってしまった...
前の投稿から約2年...ガンダム界隈にはいろんなことがありましたね。
閃光のハサウェイの劇場版制作が決定されたり、動くガンダムが建設されたり、リライズがまさかまさかの神アニメだったり...
そしてそんな長い期間、作者のスランプにより皆様をお待たせさせてしまったこと、申し訳なく思います。そして、諦めずに長い間待ってくれた皆さんに、心から感謝します。

それでは、学園祭の前後二編、どうぞお楽しみ下さい!


時期が移り、IS学園は二学期に突入した。生徒達が再び勉学や訓練に励む中、リボンズはいつもの如く、用務員の業務をこなす。 そんな彼は今、日々の仕事を終え、その報告をしに生徒会へ向かっているところだった。

 (今日の業務も終了...それにしても、夏も終わるというのに、まだ暑さは残っているじゃないか。早く帰って、シャワーでも浴びたいものだ。)

彼が生徒会室のドアを開けると、中には虚と本音の布仏姉妹がいて、姉の虚は真面目に黙々と作業をしている。

「失礼するよ。今日の業務が終わったので、その報告をしに来たのだが・・・」

「ああ、リボンズさんですか。本日もお勤め、お疲れ様でした。」

「ありがとう。そちらも、生徒会の職務に励んでいるようで何よりだ。...彼女を除いて、だが。」

二人は、机に突っ伏して幸せそうに寝ている本音を見た。

「むぇへへ・・・まてまてー・・・えへへ・・・」

「本音...いい加減に起きなさい。お客様の前よ。」

虚はそう言って、本音を揺り起こす。

「...ふぇ?あれぇ、綺麗な鳥さんはどこ・・・?」

目をぱちくりさせる本音に、リボンズは呆れつつ話しかける。

「目は覚めたかい?全く、君は一体どんな夢を見ていたんだ・・・」

彼の存在に気が付いた彼女は、いつものふんわりとした笑顔を浮かべた。

「・・・あ、リっさん?おはよ〜。えへへ、さっきねー、とってもいい夢見てたんだぁ。」

「ほう、それは興味深いな。仕事を放り出して見た夢なんだ、さぞかし良いものだったろうね。」

「ぶー...リっさん、嫌味〜。ま、いいや。えっとね〜、周りがぜーんぶお星様でいっぱいの所で〜、金ぴかの鳥さんを追っかける夢だったよ〜。」

「宇宙空間に金色の鳥・・・それで?」

「うんうん。それでねー、その鳥さん、とっても速かったんだ〜。青く光ったーと思ったら、びゅーん、って感じで〜。」

「成程、なんともメルヘンチックな夢だったね。まったく君らしいよ。」

「でしょ〜?ふふふ、なんかいい事ありそうだよねぇ。」

「あら、それは良かったわね。それじゃあ姉直々に、とてもいい物をあげるわ。」

すると虚は、ドスン!と大量の書類を本音の前に置いた。

「やだ〜!私は働かないぞ〜!」

「いいえ。今日ばかりは、少しは働いてもらいます!もう、少しはリボンズさんを見習いなさい。」

「ハハ・・・まあ、こんなしがない用務員で良ければ、幾らでも参考にすればいいさ。それはそうと、幾つかの用具にガタが来ていてね。代えの物を取り寄せて欲しい。」

「それはいけませんね。分かりました、ではすぐに取り寄せます。」

「助かるよ。では、そろそろお暇させてもらおう。」

「ええ、お疲れ様でした。さあ本音、さっさと書類に取り掛かりなさい!」

「ひーん、お姉ちゃんの鬼〜!」

布仏姉妹の攻防を背に、リボンズは生徒会室を後にした。

 (相変わらず、仲の良い姉妹だ・・・そう言えば、ルビは元気にやっているだろうか?こちらに来てから、一度も会えていないが・・・)

扉の奥から聞こえる本音が抗議をする声に、リボンズは束たちと共に暮らしているであろう妹に思いを馳せた。

 

 

その後彼が自室に戻ると、刀奈が机に向かって黙々と作業をしていた。

「おや。今日はいつもより仕事に精が出ているね、刀奈。」

「あら、おかえりなさい。そうね・・・次の朝会で学園祭のことについて話さないといけないから、それの準備を、ね。」

「成程。確かに、事前に準備しておく事は大切な事だ。しかし、学園祭か・・・どんな物なのか想像もつかないな。」

「うーん...あんまり普通の学校と変わりはないわよ?各クラスや部活がお店を出して、お金を稼ぐっていう基本は同じ。」

でも、と彼女は続ける。

「毎年同じ様な内容じゃ、少し物足りないのよねぇ。今年は、何か新しい取り組みをしてみようかと考えてるの。」

「ふむ・・・それならば、この学校には彼がいるじゃないか。世間的にも有名な彼を上手く使えば、それなりに成功すると思うが・・・まあ、余り悪目立ちするのもどうかと思うけどね。」

それを聞いた刀奈は、何かを考えついた様だった。

「・・・いいわねそれ。じゃあその方向で、何か考えておくわ。」

そう言って、彼女は再び作業を再開した。

 (・・・邪魔をするのも悪いか)

そう思ったリボンズは、静かに就寝の用意を済ませた後、彼女に一杯のコーヒーを差し出した。

「あ・・・入れてくれたの?わざわざごめんなさいね。」

「長くかかりそうだと思ってね。君の口に合うかは分からないが...」

「ううん、ありがたく頂くわ。じゃあ、お休みなさい。」

「ああ。君も無理はしないようにね。」

そうして机に向かい直した刀奈を尻目に、彼は眠りについた。

 

 

そして、次の日の朝礼。

「・・・というわけで、今回の学園祭では『各部対抗織斑一夏争奪戦』を行います!ルールは簡単、出し物のクオリティが1番だった部活に、織斑 一夏を入部させる権利が与えられます!なので各部、例年以上に精を出して、学園祭に向けて準備を進めて下さい!」

刀奈の言葉で一気に盛り上がる女子たちとは裏腹に、リボンズと一夏の男組は顔を引きつらせていた。

 

「・・・悪目立ちにも程があるぞ。何故だ?何故、そんな方向に持っていってしまったんだい・・・」

「...てか、俺の意思は・・・関係無いよな、ハハ・・・」

 

 

 

その日の放課後。各クラスは出し物を決める為、いつもより盛り上がりを見せていた。それは一夏の属する1組も例外ではなく、むしろ一番湧き上がっていた。

「んで、今出てる案は・・・ツイスターゲーム、ポッキーゲーム、ホストクラブ、教室クリーン作戦...って、あのなぁ・・・」

司会進行役の一夏は呆れ顔で、ため息をついた。

「却下」

その返答と同時に、教室にブーイングがこだました。

「当たり前だろうが!!皆が参加してこその学園祭だろ?なんでどれもこれも、やるのが俺だけなんだよ!?」

「心配しないで織斑君、需要はあるから!!」

「お姉さん達が全身全霊をかけて貢いでくれるよ!」

「う、勘弁してくれよ・・・」

提案がどんどんエスカレートしていく様子に、一夏は困り果てる。しかし、そんな彼を救うかの如く、ラウラが声を上げた。

「水を差すようですまないが・・・私も、これらの案には反対だ。」

思わぬ伏兵に、教室はたちまち静まりこんだ。

「お前達の言っている事は分かるが・・・来る客の事も考えろ。学園祭には、一般客も多少は来るのだろう?そんな中で、このような一部の者にしか需要がない内容で出店してどうする?もっと皆が楽しめるものにすべきだ。」

そのごもっともな発言に、教室は落ち着きを取り戻した。

「ラウラ、助かった。じゃあ、お前は何かアイデアあるか?その皆が楽しめるって路線で。」

「・・・では、喫茶店はどうだ?食事処や休憩所として利用できる。あとは・・・そうだな。コスプレでもしてやれば、客受けもいいだろう。」

ラウラからの意外な提案に、教室は再び盛り上がり始める。

「つまり、コスプレ喫茶って訳ね!いいわね、燃えてきたわ!」

「やっぱりド定番のメイド喫茶?いや、ここは逆に紳士服でもいいかも!」

「イロモノ枠で、ISスーツ着て接客とかは!?」

再びおかしな方向へ向かい始めた教室に、一夏は一人、頭を抱えた。

 

 

 

夜、リボンズはラウラと共に食卓を囲んでいた。

「成程。それで君のクラスはコスプレ喫茶になったと。随分と珍妙な物を選んだものだね、ラウラ。」

「はい...自分でも、おかしな発言をしたと思っています。今思えば私も、場の空気に呑まれていたのかと・・・」

そんな彼女に、リボンズは感慨深いといった表情で続けた。

「しかし、君もそんな事を言うようになるとは...誰かの影響かな?」

「ええ、あるいは。まあ、あれでも優秀な部下ですので。」

「ハハ、違いない。」

二人がそうやって談笑していると、そこへ彩季奈と芽遠の姉妹がやって来た。

「あ、ラウラとリボンズさん!今日もお疲れ様かも!」

「すみません、今日はいつもより人が多くて...席、ご一緒してもいいですか?」

「・・・ああ、私は問題無い。構いませんか、教官?」

「勿論さ、遠慮なく掛けたまえ。」

 (・・・なんだろうか、何かとても損をしたような・・・)

そうして彼女らを受け入れたものの、リボンズとの師弟水入らずであった状況を、少し名残惜しく思うラウラであった。

 

彼女らが同席していの一番に始まったのは、学園祭についての話だった。

「え、そっちの出し物もう決まったの?いいなぁ・・・」

「ああ。なんだ、そちらはまだ決めていないのか?」

「うーん、うちのクラスは元気な子が多いから...一人が案を出したら、じゃああれもこれもって感じになっちゃって。結局、今日は方向性すら決められなかったかも。お姉ちゃんの所は?」

「私のクラス?いや、そんなに決めるのには苦労しなかったかなぁ。」

「そっかー。三年の人たちはどうなってるんだろうなぁ、今年が最後でしょ?」

「三年ねー・・・厳弥さんとか恵さんに聞いてみたら?アンタ、結構会うでしょ。」

「うーん、じゃあそうしてみるかも・・・」

そんな会話を聞いていたリボンズは、ふとある事に気付いた。

「そういえば...今日は厳弥の姿が見えないな。二人共、何か知っているかい?」

リボンズの問いかけに、より事情に詳しいのであろう芽遠が答える。

「えーと・・・先輩でしたら、今日は仕事に行ったって聞いてます。ご存知と思いますけど、あの人は国家代表にもう少しで届くってくらい、実力があるんです。なので、たまにこうやって仕事が舞い込んでくることがあるんですよ。」

「ふむ、中々多忙みたいだね。今度彼女を労ってあげようじゃないか。」

「そうですね・・・彩季奈、アンタも自分の発明品押し付けるばっかじゃなくて、たまにはお礼とかしてあげなさいよ?」

「ひ、人聞き悪いかも!!流石のあたしでもお礼はしてるよ!?」

それを聞いたリボンズは、意地悪な笑みを浮かべて彩季奈に尋ねた。

「ほう、それは殊勝な心掛けだ。では、少し前に依頼した『アサルトシュラウド』の改造も完了した、という事かな?」

「ゔっ・・・あ、当たり前かも!」

苦しげに豪語する彩季奈だったが、それを芽遠が容赦なく否定する。

「終わってませんよ。彩季奈は最近まで、二式大艇ちゃんの開発にお熱でしたからね。それの改造プランも、つい最近考え始めたばかりです。」

「ちょ、メロンお姉ちゃん!!?それ言っちゃ・・・」

全てバラされ慌てふためく彩季奈に、リボンズは呆れた表情を見せた。

「まあ・・・そうだろうとは思っていたよ。何もすぐに完成させろとは言わないさ。しかしそれに甘えて、いつまでも取り掛からないのは感心しないな。」

「・・・次の休みの日から始めるかも...いえ、始めます・・・」

「そうしてくれると助かる。ただ、僕は君の腕の良さと発想力には信頼を置いている。だからこそ、完成品には期待しているよ。...さて、もうこんな時間だ。僕はこの辺りで失礼しよう。君たちも、なるべく早く自室に戻るようにね。」

はーい、と気の抜けた返事を聞きつつ、彼は席を立った。しかしそれを、ラウラが呼び止める。

「・・・教官。少しお時間を頂いてもよろしいですか?」

 

 

リボンズは彼女の話を聞くため、2人で彼の自室に戻った。

「ここならいいだろう。では、話を聞かせてもらおうか。」

「私が、先日伊東 厳弥と模擬戦をしたということは・・・ご存知ですか?」

「ああ、勿論耳にしたよ。ラウラ、再度戦った事を踏まえて、君は彼女の実力をどう見る?」

そう問われたラウラは、彼女との戦闘を思い返しつつ答えた。

「そうですね...彼女の戦い方は、とても洗練されています。あの機体で、如何に相手を自分の術中に嵌め、そして勝つか・・・彼女はそれを、よく考えて練っている。あの戦法も、彼女の戦闘スタイルと機体特性が上手く噛み合い成り立っているものです。」

「ああ、そのようだ。して、本題は何だい?どうやら、只それを報告しに来た訳ではなさそうじゃないか。」

「はい...少し、お見せしたいものが」

ラウラは端末を操作し、先日の戦いの映像を表示した。その映像を、リボンズはまじまじと見つめる。

「これは・・・やはり、凄まじいな。まるで生ける潜水艦のような戦い方だ。」

「・・・教官、この時です。」

そう言って、ラウラはビデオをある時点で止めた。そこは、ラウラが背後から来る厳弥の攻撃に、まるで後ろに目があるかの様に対応してみせたシーンだった。

「この瞬間、私は異様な経験をしました。彼女がこちらに攻撃してくる様を感じた、と言いましょうか・・・」

 (この反応速度・・・普通の人間では考えられない。かつてラウラに施された改造処置が、今更活性化したのか?)

「この時何か、体に異常を感じたかい?」

彼女がその時の事を思い返すと、あることを思い出した。

「そういえば・・・目に、何か熱を帯びた様な感覚がありました。しかし後に保健室で検査を受けましたが、異常は見受けられないと・・・」

 (となると、その線はないか。しかし以前の彼女に、それ程までに優れた反射神経は見られなかった。・・・仮に、ISをGNドライヴ搭載機に乗り換えた事が原因だとすると、彼女は・・・もしや)

リボンズがある一つの可能性に行き着きかけたその時、そこに刀奈が帰ってきた。

「ただいまー。はぁ、今日も一日疲れたわぁ...」

「おや、今日は随分と早いんだね。」

「ちょっと野暮用があってね、一旦部屋に戻る必要があったのよ。あら、ラウラちゃんもいるの?ごめんね、お邪魔しちゃったかしら。」

「あ、いや・・・問題ない。」

ニヤニヤと2人を見つめる刀奈に、リボンズはムッとした感じで顔をしかめた。

「・・・なんだい、そのにやけ面は」

「あはは、ごめんなさい。それにしても、この状況・・・貴方も案外隅に置けないのね。」

「うるさいよ」

少しいらついたような表情を見せる彼を見て、刀奈は更に楽しそうに笑った。

「冗談よ、そんなに怒らないで。でも、何か話してたんでしょ?すぐ済ませるから待ってて。」

そう言うと彼女は、自分の私物をまとめにかかった。

「どうしたんだい?急に荷物をまとめ始めて。」

「ちょっと訳があってね。今日から、一夏くんと同居することになったのよ。」

「何、彼と?・・・まあ、あまり彼をからかう事はしないように。」

「ふふ、善処するわ。それじゃ、短い間だったけど...ありがと。」

「...ああ、こちらこそ。中々楽しかったよ、君との同居生活は。」

簡易的な別れの挨拶をすませ、彼女は部屋のドアに手をかけた。しかし突如振り向き、思い出したかの様に彼らに一言告げた。

「あ、そうそう。今日からここは貴方たちお二人の部屋になるから、よろしくね♪」

その一言で瞬時に凍り付いた二人に目もくれずに、刀奈はハミングをしながらその部屋を後にした。そして少しすると、一夏の悲鳴が寮内にこだました。

「...取り敢えず、君も荷物をまとめてきたまえ。僕も手伝おう。」

「...お手数おかけします、教官・・・」

 

 

 

 

 

それから数日後、リボンズが校内を見回っている時、歓談室で机に突っ伏している一夏を発見した。彼からはまるで覇気が感じられない。

「どうしたんだい、一夏?随分と疲れている様じゃないか。」

「あ、リボンズさん...会長が凄い強烈で、こっちのペースが乱されまくりでさ・・・色々と疲れるんだよ。てか未だに慣れねぇな、リボンズさんに呼び捨てで呼ばれるの...いや、嬉しいんだけどさ。ちょっと恥ずかしいっていうか、むず痒いっていうか・・・」

彼は夏から、もっと『仲間を信じる』ことをしようと決めた。そしてその第一歩として、比較的頻繁に接触する人々は、ファーストネームで呼ぼうと決めたのである。

「すまないね。まあ、そのうち君も慣れるさ。現に女性陣たちは、比較的早く順応してくれたじゃないか。」

「そうだけどさあ...前までのフルネーム呼びも悪くなかったんだよな。なんつーか、ミステリアスな感じがあって。あの感じが、リボンズさんに合ってたんだよ。」

「君は僕に何を期待しているんだ・・・まあいい、ところで夕食は頂かないのかい?そろそろいい頃合いだよ。」

「あー...いや、無理だ・・・会長のしごきがキツくて食欲が・・・」

「ああ、そういうことか。なら、僕の部屋に来るかい?軽いお茶請け程度だが、ご馳走しよう。」

「え、いいのか?...あ、そういやリボンズさんの部屋、男同士なのに行ったことなかったな・・・じゃあ、遠慮なくお邪魔させてもらうよ。」

「よし、ではついてきてくれ。案内するよ。」

 

 

「ここが僕の部屋だ。正確には僕とラウラのシェアルーム、だが。」

「え?リボンズさんって、一応用務員だろ?生徒と一緒の部屋でいいのかよ?」

「さあね。質問なら楯無会長が受け付けているよ。」

「ああ...なるほどな。」

一夏は彼女の名前で全てを察した。楯無、もとい刀奈がこういうことをやりそうな人物である事を、彼は彼女と暮らしたこの数日間で、十二分に理解している。

「この時間なら、ラウラも戻っているだろう...帰ったよ、ラウラ。開けてくれるかい?」

彼はそう言って、ドアを数回ノックする。すると数秒も過ぎない内にドアが内から開かれた。部屋の中には、エプロンをかけたラウラの姿があった。

「戻られましたか、教官...む。一夏、お前もいるのか?」

「ああ、彼に少し茶菓子でもと思ってね。彼はどうやら、今日はあまり食欲が湧かないらしい。」

「つーわけだ...悪いな、急にお邪魔して。」

「いや、気にするな。それに、こういった突然の来客に備えて、丁度練習をしていた所だ。日本でいう『オモテナシ』のな。」

少し得意気なラウラに、リボンズは水を差すように指摘する。

「...ラウラ、やかんが怒り狂っている音が聞こえるが、大丈夫かい?」

「ああっ!?すぐに止めて参りますっ!!」

ラウラは慌ただしく、キッチンに入っていった。

「...見ての通り、練習に励んでいる最中なのさ。」

「ああ、うん・・・でも、意外だな。ラウラが料理...というか、家事に熱心に取り組んでるって。」

「そう思うかい?まあ確かに、僕もここまでとは思ってもみなかったが。それはさておき、入って好きな所にかけたまえよ。客人を立たせたまま喋るのもいけない。」

「ああ、サンキュ。よっ...と。」

彼らが席に就くと同時に、ラウラがお茶を運んできた。

「教官、茶が入りました。一夏、お前も飲んで行け。」

「ありがとう。では頂こう・・・ふむ、悪くない味に仕上がっている。着実に上達しているね、ラウラ。」

「どれどれ・・・お、普通に美味いな。」

「恐縮です、教官。それで一夏、お前はなぜ食欲が無いと?」

「いや、会長の訓練が死ぬ程キツくてな。少しグロッキーになってる・・・って感じなんだ。」

「そんな事か。ならば、織斑教官にも稽古をつけて頂いたらどうだ?恐らくすぐに、奴の訓練が苦でなくなるぞ。」

彼女が冗談半分で提案したことに、一夏は苦笑しつつ答える。

「苦痛を苦痛で制してどうすんだよ・・・それに、今の分に追加で千冬姉の特訓を受けた日には俺は死ぬ。絶対死ねる。」

「僕としても、身に余る程の負担をかけるのには賛成しないな。そういう意味では、彼女は訓練を君のレベルにちゃんと合わせて行っていると思うよ。」

「うむ、私は軍人として訓練を受けていたからともかく、お前にはまだ厳しいだろうさ。まあ、順序立てて地道に励むことだな。」

「そうだな・・・はぁ、次の訓練も頑張るか...」

そんな調子で、彼らは一時の団欒を楽しんだ。

 

 

「ごちそうさまでした...ふぅ、結構飲んじゃったな・・・」

「では、僕が片付けるよ。君たちはしばしゆっくりしていてくれ。」

「え?いや、俺が片付けるよ。ご馳走になった身だしさ。」

「君は客人だろう。これは部屋主である僕の仕事さ。」

そう言うと、彼はさっさとキッチンに入ってしまった。時間を持て余した一夏は、ふと感じた疑問をラウラにぶつけた。

「なあラウラ。どうしてそんなに、家事を頑張ってるんだ?」

「何?決まっているだろう、己を磨くためだ。一般的に女性に必要とされているスキルを、そつなくこなすための準備、と言うべきか?」

「へえ...要するに花嫁修業ってやつか。」

「花嫁・・・ま、まあ、そうとも言えるな。」

その言葉に、ラウラはほんのり顔を赤らめる。

「ふーん・・・じゃあ、誰と結婚したいんだよ?やっぱリボンズさんか?」

その瞬間、彼女は耳元まで顔を赤くした。

「んっっ!?!!!?お、お前に一言でも話した覚えは無いぞ!??」

「いやー、見てりゃ結構分かるだろ。多分そこまで行き着くのに難しくないと思うぞ。」

「・・・そこまで気付いておきながら、何故奴らの思いには鈍感なのだ、お前は...」

「? なんか言ったか?」

「いいや、何もない。こんな下らん形でお前に話しても、奴らに悪い。」

「??? まあいいや。んで、なんでリボンズさんが好きなんだ?なんで結婚したいと思ってるんだよ。」

「け、結婚・・・そうだな。私は・・・私はただ、ただ...あの方を支えたいのだ。」

そして、ラウラは寂しそうな笑みを浮かべながら、自分の思いを打ち明け始める。

「教官は素晴らしいお方だ。強く、そしてお優しい。私はあの方に何度も心を救われ、憧れ、そして惹かれた。だが...そんなお人柄だからこそ、教官はお一人で、全てを背負おうとしてしまう。なまじそれができてしまう力と、そんなご自分に対する自負を持っておられるからな。」

「・・・でもさ、そんなの人の身に余るだろ。俺たちは漫画のヒーローじゃねえんだ。何でもかんでも、自分一人でできるなんて・・・」

一夏の言葉に、ラウラは頷く。

「その通りだ。 結局人間は、一人で全てを解決し、その身一つで生きられる様にはできていない。このままのしかかる重石の尽くを引き受ければ、あの方はいずれ押しつぶされてしまう・・・私は、そんなことは望まない。許してなるものか。だから...」

「もっと頼って欲しいって訳か。今家事を学んでるのも、少しでもリボンズさんへの負担を減らすためなんだな。」

彼女はそれに、無言で首を縦に振った。

「成程...大体分かった。でもそれ、結構近い内に叶いそうだぞ?」

「何?それはどういう...」

と、その時リボンズがキッチンから帰って来たので、2人は会話を中断せざるをえなかった。

「すまない、少し時間がかかってしまってね。何を話していたんだい?」

「れ、練習するのにオススメな料理のレシピだよ!な、ラウラ!!」

「そ、そうだな!とても有意義な時間だったぞ!!」

「ああ!それじゃ俺、そろそろ部屋に戻るよ。リボンズさん、呼んでくれてありがとな!ラウラも、色々と頑張れよ!!」

「礼には及ばないさ。ではまた明日。」

「...ああ、それではな。」

一夏が元気よく部屋を後にするのを、二人は見送った。

「ふむ、どうやら少しは気力を取り戻したみたいだね。彼が元気になって何よりだ。」

 (近い内に叶う...?一体、どういう・・・)

 

 

 

 

 

 

そして迎えた、学園祭当日。エントランスでは多くの人々が列を成して並んでいた。

「うーん、今年も賑わってるわねぇ...あ、次の方どうぞー!」

警備員の衣恵は、来客の招待券を確認する係として、エントランスでせかせかと働いていた。

「なんか例年より、女の子の数が多くないですか!?やっぱ一夏くん目当てですよねぇ、これって!」

近くで同様の作業をしている同僚が、彼女に軽口を叩く。

「それだけじゃなくて、企業の人も多いわよ。彼のISに自社の製品を使ってもらうことで、あわよくば・・・って感じでしょうね。」

「いい宣伝になりますしねぇ。あ、こちらへどうぞ!」

彼女らはそうして、列を捌いていった。そして、ある1人の女性の順番が来た。

「お待たせしました。企業の方ですか?それとも招待客の方ですか?」

「前者です。『みつるぎ』の巻紙と申します。」

女性がそう言って差し出した名刺には、「IS装備開発企業 『みつるぎ』」とあった。

「以前の記録にない名前ですね・・・失礼ですが、御社は最近成立されたのですか?」

「ええ。まだ新参者なので、日本でのISの最先端を知る事が必要だとトップが判断し、こうして参加を命じられました。」

「成程...では、御社の資料を拝見しても?」

「勿論です、ここに。」

彼女は提示された資料をまじまじと眺めた。

「・・・確認しました。ご提示ありがとうございます。それでは、どうぞお入りください。」

女性が軽く礼をして去った後、衣恵は神妙な面持ちで電話をかけた。

「・・・もしもし、青葉?ちょっと調べて欲しい事があるんだけど・・・」

 

その企業の使者の女性・・・否、「亡国企業(ファントムタスク)」所属のオータムは、歩きながら先程の事を思い返していた。

 (あの女・・・勘づいてやがったな。こっちが目立つコトは起こさないだろうと踏んで、わざと泳がせたか...流石、天下のIS学園サマは伊達じゃねえか。)

「ああ・・・その通りだよ。こちらとしても、ド派手なコトを起こす気はねぇ・・・今はまだ、な」

そう呟いた彼女は、口元を妖しく歪ませた。

 

 

 

 

 

1組では、計画通りにコスプレ喫茶が開かれていた。可愛らしい服装を来た女子たちが場の雰囲気を華やかなものにしているのに対し、一夏の表情は少し憂鬱そうに見える。

「はぁ・・・」

するとそこへ、伊東姉妹が二人、厳弥と恵がやって来た。

「やっほ、調子はどう?」

「おーおー、皆いっちょ前に仮装しちゃって。てか織斑、なんでそんなキザな服着てるんでちか?笑うぞ。」

ニマニマと嫌な笑顔で、恵はにたつく。

「や、やめてくださいよ!俺だって好きでこんな服着てる訳じゃ・・・」

「そうですか?僕は似合ってると思うけどなぁ・・・」

一夏の格好をいじられて少し不満げなシャルに、厳弥は慌ててフォローをする。

「あーいや、気にしないで。この子ひょうきん者だから。とにかくさ、折角並んだ事だし、なんか食べて行きましょうよ。」

「分かった分かった。どれどれ...『執事にご褒美セット』?なんだこれ。」

「げっ、それは・・・・・・・・です。」

「聞こえねーでちよ。」

「あーもう、俺にポッキー食わせることができるっていうセットです!!!」

「は?なに客の金でタダ飯食いしようとしてるんでちか?商売舐めてんの?」

「仕方ないじゃないですかぁ!?うちのクラスのほぼ全員が、これは絶対外せないって...」

「物好きもいるもんねぇ...まあ、気持ちは分からなくはないけど。織斑くん、顔は良いしね。」

「にしても、これはないわ。何が悲しくて野郎にポッキー食わせなきゃいけないんでちか。」

恵が呆れつつ別の商品に目を向けようとした時、鈴が1組に訪れた。

「お邪魔するわよ!一夏いる?」

「鈴?俺は今接客中だけど・・・」

「お、ツインテ突撃娘がおいでなすったでち。...結構チャイナドレス似合ってんじゃん、弄り甲斐のない・・・」

「ちょっと、どういう意味よそれ!?素直に褒めなさいな!!」

「ほんとだ、凄く様になってるね。」

「そりゃあ、れっきとした民族服だし・・・中国出身のアイツに似合わない訳がないわな。」

一夏が珍しく気の利いた感想を口にした事で、鈴は嬉しそうな顔を一夏に向けたが、その直後に噴き出した。

「アッハハハ...一夏それ、ほんっっっっっと合ってないわねアンタに!!!」

「コイツっ...せっかく褒めたのに、なんだよそれ!しかも何も言い返せねぇよチクショウ!!!」

「あー!鈴までそんなこと言うの!?確かに、一夏にしては見慣れない格好ではあるけどさあ・・・でも、かっこいいじゃん!?」

「うっ・・・それは・・・まあ、そうね・・・」

彼女は満更でもなさそうな表情をしたが、案の定一夏がそれに気付く事はなかった。

「やあ君たち、どうやら大盛況の様だね。素晴らしいじゃないか・・・ックッ、失礼...」

その後、ラウラの様子を見に来たリボンズも、彼の姿を一目見て吹き出してしまう始末であった。

「あ゛っっ!今笑った!!リボンズさん今笑っただろ!?くっそー、こんなんならやっぱり厨房がやりたかった・・・」

「おーい織斑、注文決まったからよろしくー。てか仕事しろよ。」

彼の受難は、もう少し続きそうである。

 

 

一方、校内のあるスペースには、大きな人だかりが出来ていた。

「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!あたし特製の武器やオプションの、特大出血大解放セールだよ!触るも解析するも、なんでもOKかも!」

そこでは、彩季奈が自らが開発した武器を大々的に解放していた。

 (ISに関わる色んな企業の人が注目する、この学園祭・・・絶好のビジネスチャンス、逃す手は無いかも!)

勿論彼女は何もタダでこれを開いた訳ではない。これをきっかけにまた別の企業の協力を得よう、という魂胆の下である。

するとそこへ、例のビジネスウーマン・・・もとい、オータムが姿を現した。

 (任務の時間まで、少し学園内を回ってみりゃ・・・まさか、こんな現場に出くわすたぁな。何だ?所詮ガキが作ったもんに、えれぇ人だかりが出来てやがる。)

彼女は、たかが子供が作った武器の為に、何故ここまで人が集まるのか疑問に思った。そして、それに興味を唆られた。

 (・・・まだ時間はある、ちとここで暇を潰すのも悪くねぇ。)

気まぐれでそう思った彼女は、その人だかりの中に足を踏み入れる。

「あ、また別の人かも!いらっしゃい、好きなだけ見ていってね!」

「ええ、遠慮なく拝見させて頂きますね。」

彼女は即座にビジネスウーマンの皮を被り、注意深く陳列されている武装や設計図に目を向けた。そして次に、目を丸くした。

 (・・・なんだこりゃ?砲台に変形する大剣?合体するライフル?追加装甲?しまいにゃ、ISを介して操縦する大型ユニットだと?どういうこった、コイツの設計した武器はまるで・・・)

困惑した様子で武器を見つめるオータムに、彩季奈が話しかけた。

「お姉さん、今あたしの武器のこと、生産性とか効率性が無いって思ったでしょ?」

彼女の思っていたことをずばり言い当てた彩季奈に、彼女は驚いて取り繕う。

「あっ...いえ、そんな事は・・・」

「いーのいーの。初めてあたしの武器を見る人、大体そんな反応だもん。」

彼女のその言葉に、オータムは思わず口を閉ざしてしまった。そして、恐る恐る彼女に問いかける。

「・・・では、それが分かっていながら、何故この様な...非効率的な物を作るのですか?」

「うーん、色々理由はあるけど・・・やっぱり一番は、楽しいからかも。変形、合体、性能の極端化とかのロマンを、自分の技術と妄想の限りを尽くして形にする。それに、すっごくワクワクするんだよね。」

「...成程、要するに『好きな物を作っている』という事ですね。それは理解できましたが、何故ここまでの観客が?見た所、彼らはIS関連の開発者。彼らも、これ等の武器はとても効率的とは言い難いと理解している筈です。なのに何故・・・」

「確かに、兵器は効率化してナンボだよ。敵を向こうよりも早く、多く倒す為に、性能を研ぎ澄ませたり。でも、今は戦争にISを使ってないし、むしろ競技としての側面が強いよね。だったら、そんな事にこだわる必要はないんじゃないかなって、あたしは思うんだ。兵器じゃないISだからこそできる、色んなことや可能性・・・それを、どこまでも追いかけてたいの。」

そこまで語った彼女は一拍置き、こう締めくくった。

「だからこうやって、みんなでお互いにアイデアを出し合って、子供みたいな想像を形にするのが、とっても楽しい。みんな普段は企業の開発担当として、堅苦しいことを重視して武器を作るけど・・・たまにはそんなのほっぽって、好きなように盛ったり、変形させたりしたいんじゃないかな。開発者は、ロマンを忘れちゃ終わりだからね」

そう言って彩季奈は、快活に笑った。オータムがふと周りを見ると、そこにいる人々は皆、少年の様な面持ちで武装を眺め、議論を交わしていた。

 (成程ねぇ、開発者の性って奴か。まあ、理解できなくはねぇな。)

「...貴方の熱意、伝わりました。宜しければ、私も一つデータを頂きたいのですが・・・」

「いーよいーよ!一つと言わず、後腐れ無いようにたっくさん持ってって!これ以外のときはお得意さんしか相手にできないからね!」

「お気遣いありがとうございます。ですが、これだけで十分ですよ。」

「そう?じゃあいっか。お姉さんの好きな様に使っちゃってね!」

ばいばーい、と元気に手を振る彼女を背に、オータムはその場を後にした。

 (こうして貰っちまったは良いが...バカか、あのガキ?こんな風に悪人に使われる可能性は考えなかったのかね。あるいは悪用されてでも、新たな珍兵器を求めるイカレ野郎か・・・いや、流石にそれはねぇか。)

彼女はしばし考えた後、深いため息をついた。

「・・・何にせよ、コイツの量産化は難しそうだしな。専用の装備を開発させる位にしておくか...ったく、精々感謝しやがれってんだ。」

 

 

 

時間は昼過ぎ。一夏は刀奈の申し出で、彼女に残りシフトを任せ、少し早くから自由行動となっていた。

「あー、やっと解放された...後で楯無さんにお礼しなきゃな...」

 (リボンズさんもラウラと一緒に行っちまったし...適当にぶらぶらして、出店を回ってくか。あ、箒たちと合流するのもいいな。)

一夏がそうして歩き出した矢先に、オータム扮するビジネスウーマンが彼に接近した。

「申し訳ありません、少しお時間頂けますか?私、こういう者です。」

そう言って彼女は、偽りの名刺を彼に手渡した。

「えーと...IS装備開発企業『みつるぎ』の、巻紙...さん?」

彼女は見事に猫をかぶり、爽やかな営業スマイルを浮かべている。

「初めまして、織斑さん。この度、是非私どもの開発した装備を貴方に使用して頂けないかと、ご提案をしに参りました。」

 (ああ、またこういう話か...勘弁してくれよ、夏休みそういう話で半分使っちまったんだから・・・大体、白式の方が武器を選り好みするから、どこのも大抵使えないんだよなぁ)

彼は経験則から、そそくさとこの場から立ち去ろうとした。

「あー、すみません、いきなりそう言われても・・・取り敢えず、学園を通してから改めてよろしくお願いします。えぇと、それじゃ!!」

彼女の一瞬の隙を突き、彼は走ってその場から遠ざかった。

 

「あら?織斑くん、こんな人混みの中で走っちゃって。何かあったのかな?」

「どーせいつもの痴話喧嘩でち。違ったらうちのクラスの商品タダにしてやってもいいよ。」

「言質、とったからね。恵。」

「まあでも、恵の言う通りだと思うのね。きっと女の子関係なの。」

偶然通りがかった彼女らは、ふと彼の走ってきた方向を見た。視線の先には、先程一夏を逃したビジネスウーマンがいた。

「んー?あの女の人、ここの生徒じゃないの。」

「スーツだから...そもそも生徒でもないよ。企業の人、じゃない?」

「なーんだ、つまらんの。いや待てよ、女絡みって点では合ってるでち。残念、タダ飯はおあずけだよ。」

「もー...ほんと予想を裏切らないのね、織斑くんは。ざーんねん、恵のクラスのご飯食べそびれちゃった。」

「いや、普通に店来いよ。来て買って食べてよ。厳弥も、今からでもうちのクラスに...厳弥?」

不審に思った恵が厳弥を見ると、厳弥の目線はかの女性に集中していた。

「あの顔、まさか...いや、私の勘違い?・・・いやでも、雰囲気こそ全く違うけど、あの顔は・・・」

厳弥は彼女から目を離さない。そして、彼女がほんの一瞬、冷酷な笑みを浮かべたのを見逃さなかった。

「『亡国企業(ファントムタスク)』・・・ッ!」

彼女の目の奥底には、とてつもない激情が渦巻いている。そして、そんな彼女の情緒を、恵は目ざとく察知した。

「厳弥、落ち着いて。まさかこんな所で戦闘なんて、シャレにならないでちよ。」

「...ごめんなさい。そうね。ここは狭いし、大勢の人が密集してるもの・・・巻き込む訳にはいかないわ。」

「分かってるならよし。じゃあ、アイツどうする?私らで隙を見てシメるのもありっちゃありでち。」

「うーん・・・厳弥がキレるってことは、さっきの人、アブない人なの?じゃあ、私たちが勝手に対処していい案件じゃないと思うのね。」

「うん。それに下手に騒ぎになったら、逆にお客さん達を危険に晒すかもしれない。ここは大人たちと連携して、事態の収拾を図りましょ。」

「私は...会長さんに、この事を伝えに行くね。」

「私は職員室に行くの!先生たちが居たら心強いのね!」

「んじゃ、私は衣恵さんに話してくるでち。警備の人たちの協力は不可欠でしょ。」

次々と己の役割を決め動こうとする姉妹たちの姿を見て、厳弥は笑顔を取り戻す。

「ありがと、皆。私は校長先生の所に行くわ。それじゃ、お互い気張って行きましょ。みんなを不安にさせないよう、慎ましくね。」

「「「おーっ!」」」

彼女らは勇ましく掛け声を上げ、散り散りとなって人混みの波の中へ姿を消した。



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30. 学園祭(後編) 〜濃霧の晴れ時〜

リボンズはラウラと共に、学園祭を回っていた。今二人は、他クラスが出店しているレストランで休息をとっている所であった。

「シフト業務、ご苦労だったね。そつなくこなしていたようで安心したよ。ウェイトレスの衣装も、中々似合っていたじゃないか。」

「そ、そうでしょうか?私には少し、ひらひらとし過ぎていた気が・・・」

「クラリッサにも見せてやればどうだい?きっと喜ぶんじゃないかな。」

「...いえ。一度やってしまうと、奴の要求がエスカレートしていく一方ですから。過度な餌は断固として与えませんよ。」

「ああ・・・彼女ならやりかねないな。」

彼らが談話していると、リボンズに衣恵からの着信が入る。

「おっと...すまない、電話だ。少し席を外すよ。」

「いえ、お気遣いなく。私はここで待っておりますので。」

彼はラウラに詫びを入れ、一旦店の外に出て通話に出た。

「やあ衣恵、どうしたんだい?」

『リボンズさん、緊急事態です。亡国企業のメンバー「オータム」が、企業の使者に扮して学園に侵入しました。』

「オータム...ああ、彼女か。原因の追求はひとまず後だ。当人が危険物を持ち込んでいる可能性は?」

『少なくとも、検問をクリアしているので...銃火器・爆発物・劇薬の類を持ち込んでいる可能性は低いと思います。けど、ここに丸腰で来るっていう線は考えられません。』

「となると、ISを所持している可能性を考慮すべきか・・・して、現状は?」

『今、第一発見者の伊東さんたちが、各所にコンタクトをとって、情報を共有してくれています。侵入者が「オータム」だということも、あの子たちの証言を元に、登録されている情報とカメラの映像を照合して、確証を得ることができました。それでどうやらその女、織斑くんと接触したみたいです。』

「彼と?奴め、また彼を攫う気か?まあ、敵の目的がなんであれ、僕は彼の護衛にまわる。対象の捜索と確保は、君たちに任せても構わないかな?」

『はい!私たちや教員の皆さんは、元より彼女の確保は勿論、人々の避難誘導等にも人員を割かなくちゃならないので...そちらが織斑くんを守ってくれるのなら、心強いです!』

「ああ、任せてくれ。では、互いの任務に移ろう。」

『はい、くれぐれも気を付けて!』

電話を切った彼は、再び店の中に戻る。

「待たせたね。ラウラ、すまないが今すぐここを出る。少々面倒な事になったのでね。」

「...非常事態ですか?」

「ああ。亡国企業(ファントムタスク)の構成員が、学園内に侵入した。目的はどうやら一夏にあるらしい。僕は今から彼と合流し、護衛の任に就く。」

「了解しました。どうかお気をつけて・・・私にも何か、お手伝いできることは?」

彼はその言葉を受け、彼女をこの作戦に参加させるか否か、一瞬躊躇した。しかし彼は、もうどうすべきかを知っていた。

「ラウラ、君に侵入者の捜索をお願いしたい。衣恵たちと協力して、奴の足取りを探ってくれ。多少変装しているようだが、特殊部隊出身の君なら、見破ることもできる筈だ。頼まれてくれるかい?」

ラウラはぱあっと表情を明るくし、そして即座に姿勢を正し、リボンズに向き直った。

「感謝します、教官。必ずや、有益な情報を見つけ出してご覧に入れます!」

「ありがとう。詳細な情報は、彼女から聞いてくれ。では、互いに健闘を。」

リボンズは彼女と別れ、一夏の捜索を開始した。

 (まずは彼と合流することが先決だ、彼と連絡をとらなければ。電話番号は...これか)

彼は何度も、一夏の端末にコールをかけた。しかし、幾度やっても彼は「圏外」と表示される。彼は忌々しげにコールを止めて、この状況を協力者たちにメールで共有した。

「奴め...彼に妨害電波を仕込んだな」

 

 

オータムはその頃、放送室を占拠していた。部屋の隅には、彼女によって眠らされた生徒が横たわっている。

「ふんふん...いいねぇ。奴さんら、動きが活発になってきやがった。そろそろ、俺がガキにつかませたジャミング装置にも気付いた頃かね?クク、焦るよなぁ。お前らにとっちゃ、あのガキと合流さえできりゃあほぼ勝ちは確定なのに、そんな簡単な事が簡単じゃあなくなっちまった。と、そこにこいつだ。」

オータムは、放送用のマイクのスイッチをカチリと入れる。

 

 

『ダメね、まだ見つかった報告はない。手の空いている教員と、警備員のほとんどを動員して探してるけど、それでもこの広い学園内を隅々まで探すには、人員が足りないのよ。ラウラちゃん、何かアイデアはある?』

「はい、放送室です。私が邪な目的で一夏に近付く悪人ならば、まずは人知れずあそこを占拠する。学園側の人間に対象を呼び出され、そのまま保護されると、その時点で作戦の遂行はほぼ不可能になってしまいますので。逆に言えば、我々もあそこを抑えてしまえば、奴に対して優位に立つ事ができます。」

『放送室ね。じゃあ、すぐにでもあそこに...』

しかし、彼女らの出鼻を挫くように、校内放送がこだまする。

 

【お知らせを致します。この後13時より、シアターにて音楽系部活動合同の演奏会が行われます。皆様、是非ともお越しください。】

【続いて業務連絡。1年1組 織斑 一夏君、シアターの楽屋にお越しください。】

 

 

 

「これでよし...今のでこっちの位置は割れた、とっとと次に行くか。んじゃ、次の手に出ましょうかね・・・」

 

 

 

『シアター!?彼、確か軽音部でもなんでもなかったわよね!?』

「クソッ、やはり!!衣恵女史、至急何人かを放送室へ!奴は既に行方を眩ませているだろうが、被害を受けた生徒がそこにいる筈です!」

『分かったわ!ラウラちゃんは!?』

「引き続き、奴の目先の目的と動向を探ります!何かあれば、また連絡を!」

彼女はそう言って、一旦通信を切った。

 (奴め、シアターと言ったか?確かに、演奏会の時間帯と合わせれば、そこにいる事を気取られずに、目的を果たすことができる。だが・・・あまりにも奴にとって好条件が過ぎる。それに、あれだけ大胆にやっては、我々に来いと言っているようなものだ。一斉に突入されれば、ひとたまりもない筈。籠城する気か、それとも他人の目さえなければ、すぐにでも済むことなのか...)

小走りしながら、ラウラは思考を巡らせる。すると、妙な光景を目にした。

 (なんだ?トイレの周りに、いやに人が多く集まっている...封鎖中、だと?少し前はこの様な状態ではなかった筈・・・)

その時、再び衣恵より彼女に通信が入った。

『各所の警備員から連絡が入ったんだけど、今面倒な事になってるわ!学校中のランダムな場所のトイレが、勝手に封鎖されてるの!しかも、学園祭に使われてない一部の教室に、ロックがかけられてる始末!これって、完全に散らされてるわよね!?』

 (そうか...!奴は立てこもりなど、少しも考えていない!奴の残す痕跡全てが、我々の注意を散らす為のブラフ!こちらは奴の足跡を見過ごす訳にはいかず、全て調べる事を強制される!そうして時間と人員を無駄に使わせて、本命に行き着くまでの時間稼ぎをするつもりか!)

「ええ、これは確実に罠です。我々は恐らく、ハズレの回答を引かされ続ける...しかし、万が一の事もある。無視をする訳にもいかないでしょう。」

『癪だけど、乗ってやるしかないか...もうここはさ、相手の本命を直接見破ってやるしか、道はないんじゃない? 』

「そうしたいのはやまやまですが、如何せん情報があまりにも少ない。しかもその情報も、信頼性に著しく欠けています。せめて奴の目的...いや、どうやって一夏に再び接触するつもりかを予測さえできれば・・・」

彼女が行き詰まりかけた時、ある人物たちが目に入った。それは恐らく、この学校の中で最も一夏を慕い、よく交流している者たち。ラウラはすぐさま彼女たちの下に駆け寄った。

「...お前たち、すまないが知恵を貸してくれ。一夏の身に関わることだ。」

 

 

 

「おーおー、慌ただしいこった。そのまま俺の幻影とよろしくやっといてくれや。さて...そんじゃ、こっちもシメにかかるか。」

彼女の視線の先には、一夏の姿があった。彼女は仮面を被り直し、彼と接触する。

「あ...先程ぶりですね、織斑さん。」

「あれ、さっきの...巻紙さん?えっと、どうしたんですか?前と比べて元気が無さそうというか...」

「いえ、実はですね・・・重要な書類をどこかに落としてしまったらしく。我が社の将来に関わる情報が詰まっている物なのですが・・・」

「えっ...それ、かなりマズいじゃないですか!?早く探しに行かないと!俺も手伝いますよ!場所の心当たりとかありますか!?」

「申し訳ありません、助かります...そうですね、先程まで学園施設の視察をしていたので、第四アリーナ、ですかねぇ...」

一夏が持つ善良な性根が、ここに来て仇となった。彼の背後で彼女が邪悪に笑っていた事など、彼は知る由もない。

 

 

 

「く、ここも違うか...!」

リボンズは、学園中を回る事が多い用務員としての経験を頼りに、比較的人が集まりにくい場所をしらみ潰しに探していた。しかし、それにしてもこの広い学園を探して回るのは手間がかかり、時間だけが過ぎていく。

 (僕がここまで、彼女に翻弄されるとは...!認めたくはないが、今回ばかりは相手が一枚上手だった・・・いや、言い訳をしている暇はない。少しでも早く、彼らを見つけ出さなくては...)

彼の表情が、どんどん険しさを増していく。とそこに、ラウラからの通信が入った。彼は藁にもすがる気持ちでそれを繋げた。

『教官、奴の居場所を割り出しました!』

「ラウラ・・・!よくやってくれた。して、その場所は?」

『は、恐らく第四アリーナ付近と思われます!しかしお急ぎ下さい、奴はもう一夏と接触している可能性が高い!』

「了解。これより急行する!」

 

 

一夏はオータムを連れ、第四アリーナの更衣室に入った。

「今はアリーナじゃイベントがやってるから、中には入れないですけど...もしかしたら誰かが拾って、ここに置いててくれてるかも。探しましょう!」

「・・・いえ、もう大丈夫です。たった今、見つけましたから。」

「本当ですか!?よかっ...」

言い切る前に、一夏の体は大きく吹き飛ばされた。

「あっ...がッ・・・!?」

攻撃された、恐らく蹴りで。彼がそう理解するまでには、少しの時間を要した。

「よーし、やっっとあの堅苦しい口調ともオサラバだ。ったく、事前に緻密な作戦組んで、その通りに動くってのは性に合わねえってのに。やっぱ慣れねぇ事はするモンじゃねえな。テメェもそう思うだろ、ガキ?」

「あ・・・アンタは、一体...!?」

その豹変ぶりに、一夏は苦痛に悶えながら尋ねる。

「おいおい、忘れちまったのかい?寂しいなあ、顔くらい覚えといてくれよな!まあいいさ、今一度名乗ってやるよ!」

すると、彼女のスーツが背中から引き裂かれていき、そこからIS『アラクネ』が持つ鋭利な爪が次々と姿を表していく。

「俺ァオータム!『亡国企業(ファントムタスク)』の構成員が一人だ!姉貴の大会ぶりだなぁ、ガキンチョ!」

「ISかよっ...『白式』!!」

彼女のISより放たれる先制攻撃を、一夏はすんでのところでISを展開し、それを回避する。

「大会...?千冬姉のか?それと何の関係があんだよ!」

「しらばっくれてんじゃねえぞ!第二回モンド・グロッソだよ!この俺が、テメェを攫ってやっただろうが!!その結果、姉貴は負けちまった訳だがなァ、ハハッ!」

「・・・そうか。テメェ、あん時の!!」

「思い出したか!嬉しいね、再開を祝してハグでもしようかい!!」

彼女は『アラクネ』に搭載された八本の脚を大きく展開し、次々と鋭い攻撃を繰り出す。しかし一夏も負けじと、訓練で教わった事を活かし、粗削りながらそれらを回避していく。

 (よし・・・動ける、動けてる!楯無さんたちとの訓練の成果が、まだ危なっかしいけどちゃんと出てるんだ!これなら...!)

そうして躱し続けている内に、彼女に明らかな隙が現れた。

 (ここだ、今しかない!!)

瞬時加速(イグニッション・ブースト)!!」

一夏が猛スピードで突っ込んでくるのに対し、彼女は余裕の表情を崩さない。

「偉い偉い、ちゃんと見つけられたじゃねぇか!ご褒美にコイツをくれてやんよ!」

彼女は真正面から、単一仕様能力(ワンオフアビリティー)で生成した糸の塊を彼に向け投げつけた。一夏はそれを零落白夜で切り払おうと試みたが、その前に糸が絡まり、体を拘束されてしまう。

「畜生、なんだこれ!?クモの糸!?」

「そら、一丁上がりってなあ!さーて、そんじゃ仕上げに移るぜ。コイツを使ってな!」

ガン!という鈍い音と共に、オータムは謎の機械を取り出した。

「ぐっ・・・なんだよ、それ...」

「歯ぁ食いしばれよ、ガキンチョ!コイツの作動中は、ちっとばかし痺れんぞ!」

彼女は一夏にその装置を接続し、起動させた。瞬間、彼の体に電流に似たエネルギーが流しこまれ、彼は刺さる様な激痛に襲われる。それが少しの間続いた後、徐々にそれが弱まり、痛みは収まっていった。

「これで終わりっ...と。よし、もう動いてもいいぜ。」

一夏の体が、装置から解放される。その隙を見て、彼はオータムに反撃しようとしたが、すぐにある違和感に気付いた。

 

「・・・!? 無い...俺の、白式が!?」

 

激しく動揺する彼の姿を見て、オータムは下卑た声で笑う。

「楽しんで貰えたかよ、この『剥離剤(リムーバー)』の痛み!中々いい刺激になったんじゃねぇの?」

まだ痛みがじくじくと残る体を支えつつ、彼は目の前の女を睨みつける。

「ふざっ...けんなよ!俺の白式に、何しやがった!?」

「心配すんなよ。ちゃんと『ここ』にあるってえの、ほら。」

彼女はそう言って、手に持った白式を見せびらかした。

「白式!?なんでアンタが...!」

「だーから、さっきの『剥離剤(リムーバー)』だよ。コイツは展開されたISを強制的に解除しちまうって代物でな、結構なレアもんなんだ。イイ経験できたと思うぜ?コイツをその目に拝むだけじゃなく、実際にその身で体験したんだからよ!」

「クソっ・・・返せ、返せよ!」

必死に食い下がる一夏を、オータムは赤子をあやす様に簡単にいなしてしまう。

「悪いが、これも作戦でね。んじゃ、目標も達成したし、俺はズラからせてもらうぜ。テメェの命は見過ごしてやる、とっとと失せな。」

「くっ・・・馬鹿言ってんじゃ、ねぇっ!!」

彼はまた立ち上がり、彼女に飛びかかる。しかし、彼の必死の抵抗も虚しく、ISを纏った彼女に一蹴されてしまった。

「バカ言ってんのは、どっちだってんだよォ!」

「がっ...」

いとも簡単に捕まった彼は、そのまま壁に叩きつけられた。

「ぐっ...ああっ!!」

「生身の人間が、ISに勝てるわけねェだろうが!それに軽くやり合っただけだが分かるぜ。お前、全然コイツを使えてねぇじゃねえか!ハッキリ言わせて貰うが、お前にゃコイツは釣り合わねぇんだよ、ガキ!!身の丈にも合わねぇ玩具与えられて、内心持て余してんじゃねえか!?さっさとソレを諦めて、全てから逃げちまえよ。ならこんな面倒事にも巻き込まれずに済むんじゃねえのか、ええ!?テメェも、テメェのお友達も!!」

彼女は次々と捲し立て、確実に一夏の心を抉っていく。すると徐々に、彼が抵抗する力は弱まっていった。

「ハッ。生意気だが、テメェの実力はちゃんと分かってるみたいだな。ならさっさと、尻尾巻いて逃げな。俺はガキと遊んでる暇はねえんだよ。」

彼女は先程とは違い、比較的優しめに彼を地面に降ろした。しかし、彼の緩みかけていた手が、再び固く握り締められる。

「...あ?おい・・・」

「...分かってる。分かってんだよ、俺は元々白式を任せられる様なタマじゃないって。たまたま身内が最強の人で、たまたま俺もISを動かせた...それだけだ。本来の俺に、そこまでの価値なんてないんだよ。高校受験の日、俺が学校名を間違えなけりゃ・・・俺は普通の一般人として生きて、死んでいく筈だったんだ。」

弱々しい声とは裏腹に、下を向いていた彼の顔は徐々に前を向き、再びオータムの顔に面と向きあっていく。

「でも、皆はいつだって俺を助けてくれる!そんなバカみてぇな偶然で選ばれた俺に、強くなれるよう、色んな事を教えてくれる!こんな俺の為にだ!!だから誓ったんだ、必ず強くなって、皆の思いに全力で応えるって!!これまで助けてもらった皆に、いつか必ず報いる為に!だから...!」

一夏は、彼女の右手に握り締められた己の機体に手を伸ばす。

「頼む、白式!それにはお前が必要なんだ!必ず、お前をものにしてやる!!お前からの期待にだって、背くつもりはねぇっ!」

すると、彼の叫びに共鳴する様に、奪われた白式が輝き始めた。

「な・・・何だってんだ、この光!?テメェ、何しやがったぁ!?」

彼女は昏倒させんばかりの勢いで、彼を壁へと投げ付けた。

 

「あら、させないわよ?私の大切な同居人だもの。」

 

そこに、刀奈駆る「霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)」が割って入り、一夏を受け止めた。

「う…楯無さん?どうして、ここに・・・」

「遅れてごめんなさい、一夏くん。私たちが間に合わなかったせいで、痛い思いをさせちゃったわね。」

「その通りだ。今回は僕も、君に何度謝罪をしても足りない。だが、一人でよく頑張ってくれた。」

そこに颯爽と現れたのは、彼女以外のもう一人。

リボンズの搭乗する1.5ガンダムが、迷いなくオータムに向かい、ビームサーベルを展開して斬りかかる。

「フン、そのスカした顔の全身装甲(フルスキン)...見覚えがあるぜ。こんな所でまたテメェと会うことになるたぁ思いもしなかったな!!」

「ああ。どうやら君と僕の間には、妙な縁があるみたいだね。...だが生憎、今日君と戦うのは僕ではない。」

そう言うと、彼はビームサーベルを収納し、その場を退いた。

「ありがと、リボンズさん。後は任せて頂戴ね。」

そうして堂々と前に出る刀奈を、一夏は止めようとする。

「楯無さん、待って下さい!大丈夫なんですか!?」

「大丈夫よ、心配しないで。一夏くんも知ってるでしょ?私がとっても強いこと。」

彼女はそう言ってウインクし、ISを展開しつつオータムににこやかに話しかける。

「貴方の作戦、良い物だったわ。初手から彼との直接・間接的コンタクト手段の双方を無くし、続けて怒涛のダミー情報祭り。私たちは来客の方々を不安にさせない為、表立っての大規模な捜索ができなかったとはいえ、まんまと嵌められた。あ、一応感謝もしてるのよ?今回の失態を踏まえて、警備体制を見直す事ができるもの。...でもねえ」

否。彼女は一見笑っている様に見えるが、オータムを見つめるその目はどこまでも冷たい。

「それ以上に頭に来てるのよ。柄じゃないんだけどね。ええ、ひっさびさにキレちゃってるわ。だ・か・ら...」

飄々として、掴みどころのない普段の雰囲気から一転、明確な怒りと殺意が彼女から放たれる。

 

『貴方には、教えてあげないといけないわね...自分が誰に喧嘩を売ったのか。』

 

(後ろからも声が!?じゃあ、目の前のコイツは!)

突如聞こえてきた背後からの声に、オータムは即座に反応し、振り向いて一閃する。しかし手応えは無く、背後に現れた刀奈の姿形は一瞬で崩壊した。

「なっ...こりゃあ、水・・・?」

「どうしたの、急に後ろなんか向いちゃって?私の幽霊でもいたかしら?」

くすくす、と笑うその声は、オータムの精神をこれでもかと逆撫でする。

「くそ、テメェ遊んでんじゃ...!?」

彼女は再び刀奈に向き合おうとしたが、次の瞬間には眼前にランスを突き付けられていた。

「ッ!? 舐めんな!!」

咄嗟に一部の脚を盾にして、彼女はその攻撃を受け止めてみせた。

「いい反応ね。じゃあどこまで耐えれるかの我慢勝負、いってみましょうか。」

すると、受け止めたランスを包む水が振動し、超高速で循環し始める。それはまるでドリルのように、激しく火花を散らして敵の装甲を削った。

「ハッ...これがどうした!ただのこけおどしかぁ!?」

「そう思う?私は既に、貴方の顔面に狙いを定めているのだけど。」

次の瞬間、ランスに内蔵された四つの砲門から、ドドドドド!!とガトリング砲が勢いよく発射された。それらは凄まじい衝撃を伴って、オータムに襲いかかる。

「うおッ!? ク...ソがァ!!!」

しかしオータムも負けじと、ランスを蹴り飛ばし、刀奈に得物を手放させた。

「あらら・・・」

これを好機と、オータムは八本の脚を、全て攻撃に回す。斬撃と射撃が入り交じったその怒涛の攻めに、刀奈は防御こそすれど、反撃の素振りは見せない。

「どうしたどうしたぁ!!武器がなけりゃその程度か、ジャリンコ!!」

「ふぅん、流石に重い攻撃ね。伊達に八本も脚が付いてないか。」

「オイオイ、これだけと思うなよ?今からテメェに、とびきりのをお見舞いしてやるんだからさぁ!」

オータムはここぞとばかりに、一夏にも使用した糸の塊を放出した。しかし当たるかと思われた直前に、それはピタリと動きを止める。刀奈が操る水に絡め取られたのだ。

「あぁっ!?止めてんじゃねぇよ、ガキの分際で!」

「そりゃあ、貴方が奥の手を出したがってるのがバレバレだったもの。警戒くらいはするわ。ところで、次の手に出なくていいの?それとも、今のが本当に『蜘蛛の糸』だった?」

薄ら笑いを崩さない彼女に、オータムは苛立ちを露わにする。

「ケッ、ぬかせ!!まだまだ終わりじゃ...」

しかし彼女の怒りも束の間、刀奈はその隙をついて、もう一つの武器である蛇腹剣を展開し、動きの鈍ったアラクネの脚を瞬時に数本破壊した。

「テメッ・・・まだ持ってやがったのか!?」

「いちいち馬鹿正直に、私の言葉に反応してるからこうなるのよ。貴方のその怒りっぽい性格、直した方がいいんじゃない?せっかくの腕が台無しよ。」

彼女は軽口を叩きながらも、地響きを起こす勢いで、ガン!と床を踏み鳴らした。その所作からは、彼女の怒り具合が見て取れる。

「分かる?私たち皆、貴方たった一人に辛酸を嘗めさせられたの。突然の事態だったけど、皆よく動いてくれたわ。しかも、一部の生徒まで。でも、彼を無傷で守るというミッションに失敗して、色んな感情がごちゃ混ぜになってるでしょうね。それは勿論私も。本当は磔にして、校内を練り歩かせてやりたい位だけど・・・そんな事したら、学園総ぐるみの私刑になっちゃう。」

だから、と彼女は続ける。

 

「私が皆の分まで、全部貴方にぶつける。貴方がもう二度と、舐めたマネが出来ないようにね。これはこの学園の会長として...そして更識家当主としての、私の務め。暗部の人間がどれだけ暗部の人間を虐めても、誰も気に留めないでしょう?」

 

どこまでも冷たい声色で話す刀奈に、オータムは戦慄を覚えた。

(こ、コイツ...ガキの癖して、なんつう殺気してやがる。これが、この学園の会長!!じゃあ、昼間に感じたあのどす黒ぇ殺気もコイツか!?)

「成程なァ...確かにこりゃ、一人じゃ分が悪ぃわけだ。」

そう呟き、彼女は笑う。だがそれは、最早虚勢でしかなかった。

「...あー、ダメだわ。厳弥さんにならって、冷酷非道を演じてはみたけど・・・やっぱり、私にはお気楽におしゃべりしながらの方が合ってるかな。それじゃ、軽いお遊びでもしない?水のかけっことか。ほーら、パシャパシャ♫」

すると彼女は一転して、まるでプールではしゃぐ無邪気な子供のように、自分を包む水のベールの中に手を入れ、オータムにすくった水をかけた。

「うおッ!?誰がやるかよ、んなもん!!大体、テメェの武器はその水だろ!何が仕込まれてるか分かったもんじゃねえ・・・」

「んもう、つれないわね。ただ、ちょーっと警戒するのが遅かったかしら。」

怪訝な表情をするオータムに、刀奈は笑って問いかける。

「ねぇ、さっきからこの部屋暑くない?」

その言葉に、オータムは慌てて辺りを見回す。そこで目にしたのは、彼女の周囲にのみ広がる・・・否、彼女にまとわりついている、異様に濃い霧だった。

「これが私の必殺技。ざっくり言えば、相手を強制的にナノマシンの地雷原の中に放り込めるって技ね。起爆タイミングはこっちの気分次第。発動させる為に少し準備が必要なのと、こういう閉所でしか威力を発揮できないのが玉に瑕だけど...発動させてしまえば、相手をほぼ確実に沈められる。ついでに保湿効果にも期待できるかもね?」

「・・・へっ、良いのか?敵である俺に、ベラベラと得意気に喋っちまってよ。」

「あら、分からない?嫌がらせよ、嫌がらせ。だってこの先どう足掻いても、貴方に勝ち目なんか無いもの。言うなれば、淑女の余裕かしら?そんな事も分からないのね、おばかさん♡」

たっぷりの皮肉と侮蔑を込めた彼女の笑顔に、オータムは顔を忌々しげに歪める。

「ハン、そうかい。ならよォ、あそこで見てるアイツらの近くに寄っちまえば、爆破は出来ねぇよなぁ!?」

彼女は最後の足掻きとばかりに、少し離れた場所で見ているリボンズと一夏の下へ全力で飛ぶ。しかし一見面倒な展開に見えるが、彼女は涼しい顔を崩さない。

「ええ、貴方がそうすることも知ってた。だからこれ、お返しするわね。」

刀奈は、先程水で受け止めた糸を、今度は彼女に向かって意趣返しとばかりに放った。目の前の丸腰の2人にばかり意識が向いていたオータムは、まんまとそれに引っかかり、そのまま後ろの壁にへばりついてしまう。

「これは...俺の糸!?しまっ...」

 

「どっかーん。」

 

刹那、ゴッ!!!という爆音と共に、オータムの全身が爆発に飲み込まれた。爆炎が収まると、既に彼女の姿はなかった。彼女が居た場所には、爆破の衝撃でできた大穴が空いている。

「逃げられたわね・・・追撃しに行くわ。」

「いや、それには及ばない。それにはラウラたちを任せてある。」

「あら、そうなの?じゃあ、私はこのまま事後処理に移るわ。リボンズさんは、一夏くんを医務室まで運んで。」

「承知した。では、また後で。」

その鮮やかな勝ちっぷりに、一夏は思わず目を見開く。

「す...すげぇ。楯無さん、強いことは十分知ってたけど、ここまでかよ・・・!?」

「ああ、これが君たちのトップに立つ者の実力だ。しかも以前僕と戦った時よりも、更に腕を上げている...君も良い勉強になっただろう?」

「ああ!ほんと、ここにはすげえ人が沢山いるな...俺も、早く追いつける様にならねぇと。」

一夏は自身の手に戻ってきた白式を見つめ、改めて己を奮い立たせた。

「そうだね。さて、では君を医務室まで送り届けよう。今はゆっくり体を休めるといい。」

 

 

 

 

 

その後、刀奈から運良く逃げおおせたオータムは、学園から離れた公園まで来ていた。

「畜生・・・えれぇ目に合った。まさか、あそこまでやりやがるとはな。ガキのISも、結局取り逃しちまうし...踏んだり蹴ったりだ、クソが。」

爆発のダメージが強く肉体に残っている彼女は、呻きながら街路樹に一度体を預けた。しかしその時、背中に冷たく固い物が押し付けられる。彼女は追っ手が来たのだと即座に理解した。

「動くな。『亡国企業(ファントムタスク)』所属、オータムだな。貴様を拘束する。ゆっくりとこちらを向け。」

その言葉に従い、彼女は両手を上げ、その方向を向く。

「テメェ確か...ドイツの候補生か。解せねぇな、AICで俺の動きを止めりゃいいものを。」

「無駄口を叩くな、貴様は質問に答えていればいい。それと、不用意な行動は慎んで貰おう。貴様は今、こちらの狙撃手の距離にいる事を忘れるな。」

「そいつは恐ろしいこった。で、質問だって?悪ぃが、話すことなんざ何もねえな。」

「そうか。ならば残念だが、尋問に頼るしかあるまい。一時も気の休まる時間は無いと思え。」

ラウラが身柄の拘束に乗り出そうとしたその時、狙撃役のセシリアから通信が入った。

『ラウラさん、離れて下さい!!別の機体が近づいて来ていますわ!』

ラウラは直感的に上半身を屈ませ、続けてその場から素早く立ち退いた。すると丁度彼女がいた位置に、レーザーが複数発着弾した。

『す、凄まじい回避力ですわね!?とにかく、後は私が!』

先程のレーザーの弾道から、セシリアは相手の位置を予測し、その場所にロックを向けた。しかし・・・

『ああっ!?・・・そんな、まさか!?』

「セシリア!?どうした、何がこちらに迫っているんだ!!」

そうこうしている内に、もう一人の襲撃者のシルエットが、はっきりと視認できる程になった。

「私の狙撃を生身で躱すとは...中々やるな、ドイツの候補生。」

空より降り立ったのは、蝶のようなシルエットを持つ、紫がかった青色の機体だった。

「その機体...!知っているぞ。セシリアのブルー・ティアーズの二号機だな。貴様の様な輩が、どうやってその機体を手に入れた?」

「それは言えんが・・・大方、予想はつくだろう?そら、迎えに来たぞオータム。中々手堅くやられたらしいな。」

「うっせえ...そもそもこの作戦、立案したのはテメェだろうが。」

『逃げられてしまう!?どうにかしませんと・・・!!』

「待て!我々は今、学園の範囲外にいるんだぞ!下手に騒ぎを起こす訳には・・・」

 

「このまま行かせると思うの?テロリストの癖に、ずいぶん能天気な思考してるのね。」

 

そこに、普段着を着た厳弥がどこからともなく現れた。しかし、カジュアルな服装とは裏腹に、その顔にいつもの様な快活さや光はない。ただただ怒りと憎悪が存分に込められた視線が、襲撃者2人に向けられる。

「貴様・・・そうか、貴様が噂に聞く伊東 厳弥...お初にお目にかかるな、テロリスト狩りの女。」

「アンタ等と交わす挨拶も言葉も無いわよ。私はただそこの、うちの会長が叩きのめした女に用があるだけ。」

厳弥はすたすたと、ISを纏わずに、怯える様子もなく彼女らに近づく。そしてオータムの前に立つと、右の拳をきつく握り締め、それを容赦無く彼女のみぞおちにぶち込んだ。

「ご...がっっ・・・!?」

「会長が私たちの分まで、アンタを徹底的に叩きのめしてくれた事は軽く想像できる。あの子は義理堅くて、責任感も強いから。...でも私はやっぱり、自分の手でやらないと気が済まないの。アンタみたいな奴らを潰す時にはね。」

厳弥はそう言って、深々と刺さった拳を戻す。腹部の圧迫感から解放されたオータムは、勢いよく咳き込んだ。

「ガハッ...そうか・・・昼間に感じたあの殺意。ありゃあのガキ(会長)のもんじゃなくて、テメェだったかッ...」

しかしそんな彼女には目もくれず、 厳弥は踵を返して2人に背を向ける。

「癪だけど...本ッ当に不本意だけど、今はこの程度で済ませてあげる。・・・でも次は絶対に潰す。アンタ達の思想も目的も尊厳も、全部真っ向から捩じ伏せて、徹底的にすり潰す...覚えてなさい。」

「はは、思ったよりもお慈悲が深いのだな。ならばありがたく、ゆっくりと帰還させてもらうよ。では、また会おう。そこの貴様らもな。」

そう言い残して去っていく襲撃者二人を、三人は黙って見つめていた。そして姿が完全に見えなくなった時、厳弥はふっと警戒を解き、いつもの笑顔でラウラの方を向いた。

「ごめんね、横入りしちゃったかしら。セシリアちゃんもいるのよね?じゃあ、私たちも帰りましょ。二人共今日は、学園祭に襲撃事件と疲れただろうし。」

『は、はい・・・分かりました・・・』

(セシリア・・・明らかに動揺しているな。まあ、無理もあるまい。自身のISの姉妹機が、何故か敵の手に渡っていたのだからな・・・しかし、それより)

ラウラは目の前を歩く厳弥を見て、先程の彼女の修羅の如き様相について考える。

(あれ程の殺意と憎しみを、何故持つことができる?身内に、テロリズムによる犠牲者がいるのか...?ダメだ。あまりに繊細な内容で、迂闊に聞き出せん・・・伊東 厳弥、何が貴女をそうまでさせるのだ?)

 

 

 

 

「・・・うん?何だこれは。」

彼女らのアジトに向けて飛行する少女は、オータムの腹部に鈍く光る物があるのを発見した。彼女は、それを強引に外して手に取る。

「これは・・・発信機か。殴った時に、密かに取り付けていたのか...伊東 厳弥、まったく食えん奴だ。」

 

 

 

 

時刻は夜になり、日もすっかり沈んだ頃。一夏はリボンズ・衣恵・刀奈と共に、学長室を訪れていた。

「本当に、申し訳なかった。今回の件は、僕の気の緩みが起こした事だ。全ての責は、この僕にある。」

「いやいやいや!そう言うなら、彼女の違和感に気づいておきながら、学園内に通してしまった私の責任ですよ!警備員を代表して、私が罰を受けます!」

「いいえ、これは会長である私の責任よ。内部のセキリュティがもっと強固な物であったなら、ここまでの事態に発展していなかった筈だもの。処罰は私が、甘んじて受け入れるわ。」

彼らから一斉に謝罪された一夏は、あまりの絵面に慌ててフォローをする。

「や、やめて下さいよ!!俺、別に皆が悪いとか思ってませんし!いやむしろ、結局俺が弱いのが...」

「「「今それは関係ない!!!」」」

「アッハイ...」

三人から一斉に突っ込まれ、一夏は押し黙ってしまった。

「埒が明かないわね...こうなったら、十蔵さんに決めて貰いましょ。」

「そうだね。実質的な学園の長である彼の決定ならば、文句は言うまい。」

「た、確かに!学長先生、私を選んで下さい!!」

それぞれの非を強く主張する彼らに、学園の長である轡木は、思わず苦笑する。

「普通は、自分の責任を回避しようとするものなんですがねえ...それで、誰に責任の所在があるのか、でしたね。ううむ・・・」

彼の答えを、三人は静かに待つ。

「...そうですね。本人が良いと言っていますし、彼が受けた被害に関しては、不問で良いのではないでしょうか。しかし、国際的なテロ組織の構成員を招き入れ、あまつさえ生徒に手を出されたという事実は、明確な失態です。これは貴方達の内一人に責任があるというより、我々大人たち全員に非があったと言うべきでしょう。よって、明日にでも緊急会議を行います。関係者全員を集めて、今後の防止策を話し合いますので、各自自身の考えをまとめておいて下さい。」

三人は少し不満そうだったが、一先ずそれで納得したようだった。それを満足そうに見た彼は、続けて一夏に話しかける。

「織斑君。今回は災難でしたが、君の言ったことも間違いだとは言い切れません。十分理解していると思いますが、君は表向きには世界で唯一の男性操縦者なのです。今後も、あの手この手で君に接触しようとする輩が現れるでしょう。そういった不埒な者たちから身を守る為、貴方は技能面でも知識面でも、もっと実力をつける必要があります。なので、より訓練に励んで下さいね。」

「は、はい!勿論です!!」

「ならせめて、これからも私に訓練を見させて。他の子達とやる訓練も合わせれば、多分万人力よ?」

「僕もそうしたい所だが...校内とはいえ、不用意にガンダムを人の目に晒すわけにはいかない。ここは君に譲ろう。」

「うう、私の機体もかなり特殊だからなあ...あんまり参考にできないかも ・・・ごめんね、織斑くん。」

「いやいや、ホント大丈夫ですって!ていうか、今ですらいっぱいいっぱいなんで!!」

「ははは・・・まあ無理はせず、実力に合った訓練を行って下さい。ところで、リボンズ君。君にはまだ、話をすべき人がいるのではないですか?ほら、丁度扉の向こうで待っている様ですよ。」

その言葉を受けて彼がドアを開けると、その向こうにはラウラの姿があった。

「教官・・・申し訳ありません、盗み聞きの様な真似を...」

「・・・いや、丁度よかった。僕も君に、伝えなければならないことがある。」

 

 

 

 

リボンズは、ラウラを連れて外に出た。昼間とは違って、夏の過ぎた夜は少しひんやりとしている。

「...まずは、君に感謝を。今日の事件で、僕は何も出来ずにいた。遅れてしまったとはいえ、彼を救出し、『白式』強奪阻止ができたのは、間違いなく君の助けあってこそだ。改めて、ありがとう。」

彼の感謝の言葉に、ラウラは嬉しそうにしつつも、申し訳なさそうに顔を彼から逸らしてしまう。

「いえ・・・買いかぶりですよ、教官。私も、シャルロット達の協力無しには、あの結論に行き着く事はできませんでした。」

「ならば、迷わず彼女らに頼った君の判断力が、僕を救ったと見るべきだろう。...君は僕よりも利口だ。なんせ僕はここに来てようやく、他者を信じて頼る事の大切さに気付かされたのだからね。もっと早く分かっていれば、臨海学校でもあんな失敗は・・・いや、むしろあれがあったから、僕は僕の道を見つめ直せた、と言うべきか。」

「私も同じようなものです。自身の存在意義を見失っていた時、自分の心に従い生きろと...それが、人を人たらしめている物なのだと、ある者に教えられました。あの言葉のおかげで、私は私の思いを・・・願いを見つけることができた。」

ラウラはそこで顔を正面に向け、彼と向き合う。

「私の願いとは・・・貴方の支えとなることです。貴方が我々を守ろうとする時、私は自身の無力さをいやでも痛感させられる...私はまだ、それ程までに弱いのでしょうか?教官から、ガンダムという力を頂いても、まだ・・・」

彼女は彼の目をまっすぐ見て、そう訴えかけた。

「・・・そう、君に聞いて欲しい事とは、他でもないそれに関する事だ。」

「!!」

その時、ラウラは胸を躍らせた。一夏がなんとなしに言っていた『近頃』が、本当に訪れたのかと。彼女は今か今かと、期待感で溢れそうになる胸を押さえつけ、彼の言葉を待った。

 

「ラウラ、君を破門とする。これより君と僕は、師弟の間柄ではない。」

 

「・・・は?」

あまりに唐突で、予期していなかった言葉に、ラウラは間の抜けた声を出してしまう。

「聞いた通りさ。君と僕は...ああすまない、ちゃんと説明をさせてくれ。まったく初めてだな、君がそんな顔をするのを見たのは・・・」

彼は、今にも泣きそうになりながらふくれっ面をしているラウラを慌てて宥めた。

 

「では、話を続けよう。君の実力は僕も認めているさ。君がここまで実力を伸ばしてみせたこと、僕も鼻が高いよ。・・・だが、師弟という関係がある限り、僕はいつまでも、無意識に君を庇護下に置こうとしてしまう。以前の僕はその関係に甘えて、君を盲目的に守ろうとしていた。だからそれを無くして初めて、僕たちはただの人と人同士、対等に接することができると考えたんだ。」

「それでは・・・これからは、もっと我々に...私に、背中を預けて頂けると?」

「約束するよ。もう僕は、今日の件も踏まえて僕の『程度』を知った。今後は状況に応じて、積極的に君たちの助けを借りよう。」

その言葉を聞いて、彼女はやっと安堵した様子だった。

 

 

 

 

 

 

その後、彼らの間にしばし沈黙が訪れた。二人揃ってぼうっと景色を眺めていた時、ラウラから口火は切られた。

「まだそんな時期ではありませんが・・・少し、冷えてきましたね。名残惜しいですが、そろそろ戻りましょう。」

「そうだね...だがその前に、先日の君からの『贈り物』へのお返しをさせてくれ。」

「贈り物...?もしや、あの花の事ですか?」

「そうだ。僕の自惚れでなければ良いのだが...あれは、遠回しの告白だったんじゃないかい?」

「・・・やはり...気付いておられましたか。」

「少し...いや、かなり悩んだ。己の理性との間で葛藤した。君は僕などでいいのか、そもそも自分は、誰かとの色恋を許されるような者なのか・・・だが、このまま君の思いを無下にし続ける事を、僕の感情が何よりも許さなかった。そしてこれが、僕の出した結論だ。」

彼はすうと息をつき、意を決してその答えを口にした。

 

 

「僕は愛し、愛されるという関係にあまり馴染みがない。だから、今でもぎこちなさは拭えないが...君が大人になって、未だにその気持ちを変わらず持ち続けていたなら・・・僕は君に、一人の男として応えよう。君という、一人の女性の思いに。・・・長らく待たせてしまったね。これで漸く、君の思いに報いることができる。」

 

 

少し受け身気味の答えではあるが、彼なりに考え抜いた結果であろう事は、彼女に十分に伝わっていた。

「・・・ははは...教官、私の執念深さを甘く見て頂いては困ります。私は数年間貴方の影を追い続け、その情念からISを暴走させた程なのですよ?あと数年など、楽なものです・・・ですので、どうかお待ち下さい。私も、すぐさま追いつきますから。」

「...ああ。心配せずとも、他の女性になびくことはないさ。焦らずに、堂々と成長して、大人になっていってくれ。僕もいつまでも、君を待ち続けてみせるよ。」

 

 

 

 

「そうだ、今日の君の働きへの感謝の印として、君の頼みを何でも一つ聞こう。」

「な、何でも・・・教官、本当によろしいのですか?」

「遠慮することはない。何でも言ってくれたまえ。」

「それでは、その...私を、抱擁して頂けると・・・」

「そんな事でいいのかい?では、少し失礼するよ。」

彼はラウラの目の前で少ししゃがんでから、彼女に両手をまわした。ラウラもはにかみながら、同じ様に手を彼の背中にまわす。

「教官は、大きいのですね・・・いつもお近くで見ていた筈なのに、こうして密着するまで、実感がありませんでした。」

「そう言う君こそ。いつもは大人びていて、一見成熟している様に見えるが...蓋を開けてみたら、まだうら若い少女だ。・・・もう少し、近付いてみるかい?」

「ええ、お願いします」

二人は更に近付き、互いの心音が聞こえそうな程の距離まで密着した。ラウラは嬉しそうに目を閉じて、頭をゆっくりと彼の左肩に預けた。

「不思議なものです・・・こうしていると、世界が一段と輝いて見える。世界が、希望で満ち溢れている様に思える。皆の、幸せそうな声が・・・ははっ、どうしてしまったんだ、私は・・・?これではまるで詩人か、異常者じゃないか...」

「きっとそういうものさ。昔から決まっているじゃないか、誰かに書いて送ったラブレターは、傍から見れば痛々しいものだと。」

「ふふふ...しかしもう、これ以上御託を並べることはしません。回りくどい方法も、あれきりです。伝えます。今、目の前の貴方に、私自ら・・・!」

 

彼女は感極まった様子で、眼帯を乱雑に外した。その両の目は、溜まった涙できらきらと輝いている。そして大粒の泪をぼろぼろと流し、リボンズの肩を濡らしながら、彼女は精一杯の笑顔で伝える。

 

 

「愛しています・・・愛しています!!!貴方が軍を去ったあの日から、ずっと...!!」

 

 

そこにあったのは、なんの飾りも含みもない、ただただ純粋な彼女の思い。彼女の中で渦巻き、力強い奔流となって、ついに溢れ出したもの。彼女のリボンズに対する、海よりも深い思いであった。

 

彼の背中にまわされた彼女の手が、きゅっと彼の服を掴んだ。その瞬間、彼に電流のような衝撃が奔る。

(何だ、この感触は...?暖かい。なんてことのない行為の筈なのに、とてつもない安心感を覚える。これが、人と人を繋ぎ、人間の世を紡ぎ出しているもの・・・僕はこれを、かつて支配しようとしていたのか。この暖かさを、暴力的なまでに冷たい、武力と圧力で押さえつけようと・・・)

彼は、かつて自分がやろうとしたことがどういうことなのかを、改めて理解した。そしてここで彼は、己の使命を自ずと導き出した。

 

(ならば...僕がこの世界で生を受けた意味は、きっと「これ」だ。あの世界で犯した罪を、帳消しにすることなどできない。しかし少しでも、かつての大罪の償いをする為・・・守らなければ。この暖かさを持つ人間を...そして、彼らが織り成すこの世界を。)

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「そういえば教官、私たちはもう、師と教え子の関係にはないと仰りましたが・・・もう『教官』と呼ぶべきではないのでしょうか?」

「そういえば確かに・・・まあ、君の好きな様に呼んでくれて構わないよ。」

 (わ、私の好きな様に...な、ならば!!!)

「・・・り、リ・・・ボン...ズ・・・ああいや、 だん・・・な、・・・〜〜ッ!!ダメだぁぁぁ!!!」

「ハハハ、それはいささか気が早すぎるな。どうしても難しいというなら、今まで通りでもいいさ。それに、人前でその様に呼ばれるのは、幾ら僕でも気恥ずかしいものがある・・・」

 

 

 

 

「ラウラ、アンタ・・・やればできるじゃないの、やれば!!ヤバイ、ちょっとこっちまで泣けてきちゃうわ...」

「ええ・・・プラトニックと言いましょうか、とても清らかなものを感じますわね。」

「凄いなぁ...あの二人を見てると、なんだか僕まで、ほわほわした気持ちになってくるんだ。心から幸せな人って、周りの人もあったかくしちゃうのかな・・・」

「ああ・・・私もいつか、あの様になりたいものだ。」

「ちょっと箒、それは聞き捨てなんないわよ。...まあでも、それに関しちゃ同感ね。一夏をくれてやるつもりは無いけど!」

「まあまあ、これ以上覗き見をするのも失礼ですし・・・私たちは、いち早く退散致しましょう。」

「うむ。それにこれからは、思い切り奴らの世話を焼いてやらんとな!!」

「頼ってくれるって言ってたし、そこは悪い気はしないわね...てか、アンタはまだ焼かれる側でしょ、バカ!」

「しーっ!声が聞こえて、雰囲気を壊しちゃったらどうするの!静かにだよ、静かに!」




ということで、ひっさびさの最新話でした。如何だったでしょうか。
リボンズがどのように成長するか、どのように変われるのか。それを考えたら、この道に行き着きました。仲間を信頼することと、人間を守るという道。しかし、これが彼の贖罪の完成形ではありません。今後多少なりとも変わります。ですが、少なくともリボンズ自身は、これで完全に変革しました。あとはほぼ駆け上がるだけです。

そして、この小説のラストに関わることですが、一応ちゃんと考えてあります。ですので、期間はあいても未完で終わらせることは絶対に無いとお約束します。もちろん、作者自身もなるべく早く投稿できるよう努力いたしますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。


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31. 揺らめく焦燥 〜Tracer not〜

お久しぶりでございます、八ヶ月ぶりの投稿です・・・皆様、いかがお過ごしでしたでしょうか。
ハサウェイの劇場版やGレコ第3部も無事公開されて、ガンダム界隈の盛り上がりは中々好調でしたね。自分もハサウェイは3度見にいっちゃいました・・・

さて、今回は本来一話で投稿する予定だったものを「流石に長過ぎるか・・・?」と思い、前回と同様二つに分けた話となっております。その関係で二つ目の話の長さが短めとなっておりますが、ご了承ください。


学園祭から少し経ち、生徒たちの浮つきも落ち着きを見せた頃。リボンズは自室で一人、物思いにふけっていた。

 (あれから密かに、ラウラの前で脳量子波を発生させてみたが...これといった反応は見せなかった。となると、本当に極わずかな変化なのかもしれない。だがいかにこの学園の設備でも、そんな小さな変化を感知できるかどうか・・・やはり、ここは彼女に頼むべきか。)

リボンズは端末を懐から取り出し、束に電話をかけた。すると数コールとしない内に、端末から彼女のハツラツとした声が流れる。

『はろはろー!久しぶりだねぇリっくん!』

「臨海学校ぶりだね、束。そちらの調子はどうだい?」

『そりゃー勿論、ファイトまんまんだよ!クーちゃんとルーちゃんも当然元気さ!』

「それは何よりだ、二人にもよろしく伝えておいてくれ・・・それで、だ。君に1つ、頼まれて欲しい事があるのだが...大丈夫かな?」

『ん、なんだいなんだい?束さんは毎日忙しいけど、家族の頼みならなんでも聞いちゃうよ!』

「助かるよ。実はラウラの身体に、何らかの変化が起きているらしい。僕はそれを、新しい機体に乗り換えた影響だと見ているのだが...確かめる術がない。そこで君に彼女の身体、主に脳を検査して貰いたい。」

『おっけー!そっちの時間帯は・・・うん、全然余裕だね!じゃあ、今からぱぱっと準備してそっち向かうねー!』

「今から?それは...まあいい、ならば僕の部屋の位置を送るから、ベランダから入ってきてくれ。臨海学校の時のような騒ぎは御免だからね。」

『大丈夫だって!逃げも隠れもしてるけど、約束は守るのがこの束さんだからね!!それじゃ、また後でねー!』

相変わらずの彼女の奔放さに呆れながらも、彼はそれに少しの懐かしさを覚え、笑みを零した。するとそこに、ラウラがドアを開け帰宅してきた。

「おかえり、今日はいつもより遅かったね。」

「はい、訓練が少し長引いたもので。近々『キャノンボール・ファスト』が控えておりますから。」

「確か、ISを用いた競技レースだったか。自信の程は如何かな?」

「私は個人のISを所有しているので、いつもの面子と争うことになりますが...皆、各々のISをレース向けに調整するそうです。今勝利の確信を得ることはできませんが、負けてやるつもりはありませんよ。」

「良い心意気だ。ところで、訓練が終わって疲れている所申し訳ないが、君にやってほしい事がある。」

「いえ、お気遣いなさらず。私は何をすればよろしいのでしょうか?」

「大層なことではないさ。近々、恐らく一時間以内に、束がこの部屋にやってくる。彼女には君の身体の精密検査を頼んであるから、それに付き合ってほしい。」

「精密検査...ですか?直近で行ったものでは、これと言った異常は見られませんでしたが・・・」

「ああ。しかし、この学園の設備にも限度がある。先日の模擬戦で君の身に起きた事象を調べるには、彼女を頼るのが手っ取り早いと考えてね。」

「成程・・・そういう事でしたら、こちらとしても喜ばしい限りです。自分の身体の事は、詳しく知っておくべきですので。」

「そう思ってくれるなら嬉しいよ。さあ、では部屋を整理しよう。恐らく専用の器具を持ち込んで来るはず、それ用のスペースを確保しなくては。すまないが、手伝ってくれるかい?」

「分かりました。では、小物の退去は私が。」

 

 

部屋の整理があらかた終わった時、部屋の窓がコンコンと叩かれた。

「連絡からおおよそ40分...結局、一時間もかからなかったか。」

「教官、まさか・・・篠ノ之博士は、学園のセキュリティをかいくぐって、直接この部屋に来たと?」

「この学園のセキュリティは、学園祭での一件から大幅に強化されている...だが彼女の手にかかれば、それすらも児戯に等しい。そう驚くことでもないさ。」

そう言って彼がカーテンを開けて窓を開くと、案の定、そこには束の姿があった。

「リっくぅぅぅぅん!!!久しぶりだねぇ!!いやぁ、家族との再会はいつの時代も胸が躍るね!ささ、束さんの胸に飛び込んでおいで!!」

束は満面の笑みで両手を広げて抱き着いてくるよう促すが、彼は涼しい顔でそれをスルーした。

「ああ、僕も君に会えて嬉しいよ。だが、過度なスキンシップは慎んでお断りしよう。」

あくまで抱きつくまいとする彼に、束は不満そうにむくれる。

「むー、リっくんのいけずぅ。包容力はあるつもりなんだけどなあ・・・」

「その包容力とやらは、後日千冬にでもぶつけてくれ。ところで、君が手に持つ巨大なソレはなんだい?」

彼は、束が手に持つ大きな袋を指さす。

「これ?これには検査で使う機材一式が入ってるんだよ!いやー、詰めるの苦労したなぁ...よいしょっ、と」

そう言って重そうな袋を部屋に置く彼女は、さながら季節外れのサンタクロースの様であった。

「冬も来ていないのに、随分働き者のサンタもいるものだ。とにかく、突然の頼みを快諾してくれたこと、感謝するよ。」

「水臭いなぁリっくんは、家族の頼みに応えるのは当然じゃん!さてさて、それじゃちーちゃんにバレない内に、ちゃちゃっと済ませちゃおう!ラウラちゃん、ちょっと服脱いでくれる?」

「おっと、では僕はしばし失礼しよう。女性の無防備な姿を見る訳にはいかない。」

そう言って部屋を出ていった彼を、ラウラは少し残念そうな表情で見送った。

 (教官にならば、別に着替えを見られても構わんのだが・・・さ、流石にまだ気が早すぎるか...?)

 

 

10分後、リボンズは束から呼び出され、部屋に入った。

「お疲れ様。それで、結果はどうだったんだい?」

「んふふ、中々面白い結果が出たよ。これなんだけど...」

束はモニターを指さしながら、説明を始める。

「これ、微弱だけど未知の脳波が出来てるんだよね。ここら辺のやつは一般的に見られるものなんだけど、これだけは見たことがない。それで、ここからが興味深いんだけど...」

束はその横に、別のデータを表示した。

「これ、ここに来る前についでに採っておいたクーちゃんのデータなんだけど・・・こっちにもあるんだよね、ラウラちゃんのと同じのが。」

限りなく似ている二人のデータを見て、ラウラは思わず目を丸くした。

「私と彼女に、同じ未知の脳波が...?そんな事が有り得るのでしょうか?」

「考えてみれば、起こりうる要素は幾つかあるよね。二人ともデザインベビーで、同じ実験から生み出された姉妹。それで・・・」

「ガンダム...正確には、GNドライヴ搭載機の操縦者、か。」

彼の言葉に、束はその通りといった感じで頷く。

「そう、その辺の要素がこの変化をもたらしたのかも。クーちゃんは普段戦闘とかしないから、特に変化とかは感じなかったみたいだけど。だからこれが、あの子にいつ発現したのかを特定するのは難しいかな。」

彼女の説明を受けてリボンズは、少し考える。

(ラウラとクロエの二人に、同じ脳波・・・僕の脳量子波が彼女に伝わらなかったのは、単に彼女のそれが弱いだけでなく、僕と波長が合わないからかもしれない、ということか。答えを明確にする為、僕の脳もついでに調べるか?...いや、これ以上彼女を長居させる訳にもいかない。今日の所はここで切り上げよう。)

「成程。しかしひとまず、ラウラの身に異常はないことを知れただけでも収穫だった。協力ありがとう、束。」

「ご協力感謝します、篠ノ之博士。」

「いいっていいって、結局そこまでの情報は得られなかったしね。ていうかリっくん、さっきから気になってたんだけど・・・もしかして、ラウラちゃんと同居してる?いつの間にそこまでの関係に発展してたの!?」

彼女のもっともな問いに、リボンズはとうとう来たかという顔をした。

「同居については、生徒会長のお節介の結果さ。ただ...仲が発展したという点は否定しない。それについては、後々君にも話そう。一部の者にはもう話してあるのでね。」

それを聞いた彼女は、楽しそうににやけた。

「へーえ、そっかあ・・・ふふふ、クーちゃんとルーちゃんへのいい土産話ができそうだよ!特にクーちゃん、聞いたら喜ぶだろうなー。クールぶってるけど、その実とってもラウラちゃんの事気にしてるんだ。まったく困ったツンデレお姉ちゃんだねぇ、ラウラちゃんもそう思わない?」

「えっ?は、はあ...?」

話が長引きそうだと悟ったリボンズは、そこで強引に会話を打ち切らせる。

「束、積もる話もあろうが、それはまたの機会にしてくれ。長居し過ぎると彼女に勘づかれる。」

「ちぇ、折角なら箒ちゃんにも会いたかったのになぁ。ま、ちーちゃんのゴッドフィンガーを喰らうのもごめんだし...残念だけど、今日は大人しく帰るよ。んじゃリっくんにラウラちゃん、またねー!」

そう言いながら彼女は窓の外に出て、その姿をふっと消した。

「行ってしまわれた・・・本当に、神出鬼没の嵐の様な方だ。」

「本当にね。さて、ではお茶でも淹れようか。明日は休日だし、少し寝るのが遅くなっても問題ないだろう。」

「そうしましょうか。ならば良い機会ですし、私は茶菓子作りに挑みます。最近、シャルロットにクッキーの作り方を教わったので...」

「それは良い、完成を心待ちにしているよ。分からない事があればいつでも聞いてくれ。」

「ありがとうございます。では・・・いざ!」

エプロンの紐をぐっと締め、彼女は万全の体制でクッキー作りに臨んだ。その後、クッキーの焼き加減を巡って一悶着あったのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

翌日。リボンズは軽い雑務を済ませて、自室にて休日を謳歌していた。すると唐突に、彼の端末に千冬から連絡が入った。

「もしもし?君が休日にかけてくるなんて珍しいじゃないか。」

『ああ、急用でな。羽を伸ばしている所悪いが、至急整備室まで来い。お前宛てに届け物が来ている。』

「届け物...?何かを注文した覚えはないのだが。それに、なぜそれをわざわざ整備室に?」

『それが、件の荷物が中々の大きさなのでな。しかも送り主が(あの馬鹿)と来た。奴が常識的な贈り物をする筈がなかろう?』

「ああ...そういうことなら仕方ない。すぐに向かうよ。」

彼はため息をつきながら、通話を切った。

 

彼が整備室に着くと、千冬がフランクな調子で出迎えた。

「来たか。すまんな、せっかくの休日に呼び出して。」

「君が謝ることはないさ。して、その荷物とはどれなんだい?」

「あのコンテナだ。もっとも、コンテナと言うにはいささか小ぶりだが。」

千冬の視線の先には、縦向きに置かれたコンテナが鎮座していた。確かにそれは荷物としては大きめだが、一般的なコンテナと比べるとかなり小さい。丁度、ISの全長と同じくらいの大きさのものがそこにはあった。

「分かった、では中身を確認しよう。悪ふざけでこれを送った訳ではないと思いたいが・・・」

「今の奴はそこまで悪質ではないと思うが...万が一ということもある。一応、用心はしておけ。」

彼がそれに近づくと、コンテナのハッチがひとりでに開き始める。すると、その内容物が徐々に姿を現した。

「これは・・・IS用の装備、だろうか?」

「そうなのか...?私には放熱板の類にしか見えんが」

そこに入っていたのは、白と青の塗装が施されている、一対の折り曲げられた板の様な物体だった。すると、コンテナに内蔵されていたスクリーンに突如光が灯り、束の姿が映し出される。

 【はろはろ〜!これを見てるってことは、この荷物は無事届いたんだね。じゃ、パパっとこれについて説明してしんぜよう!】

「メッセージを残しておいてくれたのか。相変わらず、準備が良くて助かる。」

「いつもの奴ならば、届いた頃を見計らって連絡を寄越して来そうだが・・・こういうこともあるのだな」

相手の都合を考えられるようになったのか...と、静かに感激している千冬を後目に、映像の中の束はさっさと話し始める。

 【今目の前にあるのは、スローネに搭載されてるファングを火力特化に改装したものだよ!ビームサーベルを展開する機能はオミットして、純粋に粒子ビームを撃つことに特化させたんだ!まだ試作段階だから、色々と欠陥もあるけど...完成したら、今のBT兵器なんか目じゃない火力が叩き出せる筈。だからリっくん、その為に実戦データを採ってきて!後々それを回収して、そのデータを元にパーペキな物を作りたいからね!】

「火力重視のファング・・・それにしても、些か大き過ぎやしないかい?」

「リボンズ。つかぬ事を聞くが、そのファングとやらは一体何なのだ?BT兵器の一環の様だが。」

「そういえば、君は見たことがなかったか。簡単に説明すると、現在のBT兵器を更に小型化した物さ。出力はその分低めだが、独自の機能を搭載しているんだ。」

彼が千冬にファングについて軽く説明する傍ら、映像の中の束は新たな装備の説明をつらつらと進めていった。

 

 

 【...という訳で、頼んだよリっくん!そうそう、ちなみにこの武装の呼称だけど、取り敢えず「フィン・ファング」って登録してあるからね!いやー、束さんにしてはイイ感じの名前を付けたと思うんだよね。それじゃよろよろ〜!】

フィン・ファング。その名前に、彼は僅かに眉をひそめる。

 (フィン・ファングか・・・フ、皮肉なものだ。僕が望まずとも、このガンダムはあの機体(リボーンズガンダム)に造形が近付いていく...これが神からの戒めという物なら、よく分かっておいでだ。)

彼は一人そんなことを思いつつ、近くのドックに自身の愛機を展開させた。

「では、一度1.5ガンダムにこれを接続してみよう。すまない、一つドックを借りるよ。」

「構わん、元よりそのつもりで呼んだのだからな。信頼のおけるメカニックたちも招集してある。」

「ありがたい。ではまずバックパックを...」

彼は展開された1.5ガンダムの背部バインダーを取り外そうとした。しかし、試作型のフィン・ファングを再度見て、彼はあることに気付く。

「・・・いや、違うな。これはガンダム本体に直接接続できるようにはなっていない。となると、バインダーを介して接続する他ないか?」

「コンテナの隅に幾つかパーツが転がっているが、その改造を行う為の物ではないか?」

「やはりそうか・・・とんだ未完成品を寄越してくれたものだ、束も。」

リボンズは不満げにしつつ、改装を行う為の準備に取り掛かった。

 

 

 

その後、改修が完了した頃に、一度席を外していた千冬が再び戻ってきた。

「よう、その後の進捗はどうだ?」

「ああ。君の集めてくれたメカニック達のおかげで、想定よりも早く終わったよ。今度彼女たちに礼をしなくては。」

ガンダムの背中に上乗せとばかりに備え付けられた一対のそれを見て、千冬は見たままの感想を述べる。

「しかし、本当に巨大だな・・・ブルー・ティアーズのそれより、更に大きいかもしれん。」

「まだ試作段階にしか過ぎないからね。完成すれば、この問題も改善される筈だ。では早速、これを使ってみようじゃないか。今空いているアリーナはあるかい?」

「少し待て、確認する。...そうだな、今は全てのアリーナに利用者がいるが、第3アリーナにならお前をねじ込めそうだ。そこにいるのはオルコット一人だけだからな。」

「なら丁度いい、同じ場所を使わせてもらうよ。彼女には幾度かガンダムを晒しているし、そこも問題はないだろう。」

 

 

 

 

 

他に生徒が誰一人いないアリーナで、セシリアは黙々と訓練を行っていた。彼女は照準をあえて標的の少し上に向け、引き金を引く。

 (...曲がって!!)

彼女は強くそう念じたが、虚しくも放たれたレーザーは、その銃口の向く方向にまっすぐ飛んでいった。

 (っ、今回も・・・)

長い時間休まずにこの訓練を続けていた彼女だったが、ついに気力が尽き、その腕に構えていたライフルを下ろした。

「はぁ・・・今日はここまでですわね。...ブルー・ティアーズ、待機モードに。」

彼女は肩を落とし、自身のISを解除する。そして控え室に戻ろうとした時、ある声がそれを引き止めた。

「やあ。突然で申し訳ないが、少し失礼するよ。」

彼女がその声に振り返ると、そこには見慣れた機体があった。

「リボンズさん...?珍しいですわね、ここにいらっしゃる事は滅多にありませんのに。」

「ああ、束から送られてきた試作兵装を試す必要があってね。それでやむを得ず、という訳さ。」

「試作兵装・・・もしや、お背中に増えた一対のそれのことですか?」

そう言って、彼女は彼の背中にあるフィン・ファングをちらと見る。

「そう。君の機体と同じ、遠隔攻撃端末だ。曰く完成すれば、現行のBT兵器のどれよりも強力な物になるらしいが...」

「そう・・・ですか。篠ノ之博士ご自身が開発なさっている代物ですもの、完成が楽しみですわね。」

そう言いつつも、セシリアの表情はどこか暗い。彼女の異変に気が付いたのか、リボンズもすぐ彼女に問いかける。

「...何やら浮かない顔をしているね。悩みでもあるのかい?」

彼女はしばし沈黙を貫いたが、やがてゆっくりと口を開いた。リボンズは一度ISを解除し、彼女に近付く。

「これは機密事項なのですが・・・米国の軍事基地が、例の組織の襲撃を受けたそうですの。なんでも、そこに保管されていた先日の『福音』を狙ってのことだそうで。幸い、守備隊の尽力のお陰で、奪取はされずに済んだそうですが・・・」

「あの機体を?目的はなんであれ、あれ程の性能の代物を奪われなかったのは幸運か。あれが悪人の手に渡ったらどうなるか...」

「ええ。そしてその際、襲撃に使われたのが・・・『サイレント・ゼフィルス』。私のティアーズの姉妹機にあたる機体ですわ。」

「ラウラの報告からも聞いているよ。『サイレント・ゼフィルス』・・・英国が君の機体のデータを元に建造した、より強力な2号機。それを知らぬ間に奪われてしまっていたのは、君にとってもさぞ屈辱的だろう。」

「祖国のISをあんな蛮族に奪われてしまった事は、確かに腹立たしいのですが...今の私にとっての問題は、そこではありませんの。」

セシリアはそこまで言って、次の言葉を口にすべきか迷っている様だった。しかし最終的に、彼女は意を決して口を開いた。

「『偏向射撃(フレキシブル)』・・・という技術を、ご存知でして?」

「名前だけなら聞いた事がある。確か、BT兵器特有のテクニックだったね。」

「はい。偏向射撃...正確にはBT偏向制御射撃は、ビットから発射されるビームを、操縦者の意思で自在に操る・・・有り体に言えば、ビームを曲げる技術ですわね。...私には使えず、あの者(襲撃者)が使える技術。」

リボンズは最後のその一言にはっとして、彼女の顔を見る。そして、全てを悟った様だった。

「・・・成程、最近君の調子が悪いという噂は小耳に挟んでいたが...理由はそれか。」

「報告にありましたの。襲撃者は、この高等技術をいとも容易く使いこなしていた、と。理解はしています。相手はテロリストの実働部隊、片やこちらは候補生とはいえ、所詮一介の学生・・・経験の差は歴然。でも、私は祖国からティアーズを任されている身...このまま終わらせていい筈がありません。だからあの機体だけは、私の手で・・・!」

そこまで言った彼女は、不意に口を止め、自嘲気味に笑った。

「...散々御託を並べましたが・・・根底にあるのは、私の下らない意地ですわ。どうぞ嗤って下さいな。」

「・・・君の気持ちは分かるつもりだ。そういう時は、決まって周りが見えなくなる・・・しかし、自分だけで解決しようと最初から決め込むのは、それこそ傲慢だとは思わないかい?」

その痛い指摘に、セシリアはバツが悪そうに目線を逸らす。

「...それも分かっています。ええ、分かっていますとも」

「最終的にことを為すのは、君の力でも構わない。だが、そこに至るまでに誰かの手を借りた時と、借りようともしなかった時では結果が全く異なる。もし、借りずに解決できてしまったら・・・君の中に驕りが生まれ、いつか必ずその代償を払うことになる。君達は、僕と同じ道を辿る必要はない。」

「・・・貴方にそう言われると、返す言葉もありませんわね。高い実力を持つ貴方があの時、敗北を喫したのを私たちは目の当たりにしましたもの。」

彼女の言葉に、リボンズは苦笑する。

「そうさ。結局、人が我が身一つでできることはあまりにも少ない。僕は真にその事を理解するのに、こんなにも長く時間がかかってしまった。しかし君にはまだ時間がある、認識を改めるにはまだ遅くないさ。」

彼はそう語りかけるが、彼女は何か思うところがある様で、彼の言葉に答えない。

「もっとも・・・君にこれを強いるつもりはない。自尊心は人間にとって不可欠なものだからね。それも、まだ学生である君たちには尚更だ。・・・だが、どうかその気高い自信を、傲慢という形で腐らせないでほしい。君は聡明だ、その線引きは自ずと見えてくる筈だよ。」

「...そんな、買い被りですわ。私は・・・」

それっきり彼女は黙ってしまい、二人の間に気まずい空気が流れる。彼は一度、ここで話題を変えることにした。

「・・・それはそうと、『偏向射撃』か・・・これからBT兵器を運用する者として、中々興味深い。よし、僕も一度試してみよう。その発動条件とやらを知りたいのだが。」

「・・・えっ!?ええ...別に構いませんわよ。まず、IS適性が高水準であること...は、問題ないでしょうね。あとは、ビットをフル稼働させること。これらが発動の条件ですわ。」

彼女が口にした二つ目の条件を聞いて、リボンズは苦笑する。

「フル稼働か...新品、しかも試作品をいきなり全力で飛ばしても良いのかどうか・・・だが、所詮試作品だ。いっそ現時点での限界出力を見てみるのもいいだろう。」

彼は再びISを展開し、背部の2基のフィン・ファングを停滞させる。続いて発射する粒子ビームの出力を限界値に設定し、発射口を的の少し上に向けた。

「これで準備は整った。それでは・・・!」

ガシャンと音を立て、フィン・ファングがバレルを展開し、その中心部に光が集まっていく。その様子を、セシリアは固唾を呑んで見守る。

 (当たり前の様にビットを展開して、そして稼働させている・・・本人はああ言っていたけれど、やはり彼ならもしや...)

そして満を持して、彼はフィン・ファングを現在の最大出力で発射した・・・

が、そこより放たれたビームは曲がるどころか、まるで水飛沫の様に広く細かく拡散し、的に当たることすらなかった。それを目の当たりにした二人は、困惑を隠せない。

「...どういうことだい、これは」

「ビームが分散...いえ、拡散しましたわね・・・」

「粒子を圧縮しきれなかったのか...?全く束め、いくら未完成品とはいえこれは・・・」

そう言ってISを解除した彼の表情は、目に見えて不満げだった。そんな彼の様子を見たセシリアは、思わずといった調子で吹き出した。

「...ふふっ、ふふふふ・・・」

「うん?急に笑い出してどうしたんだい?」

「いえ・・・リボンズさんが、おあずけを食らった子供の様な顔をしていましたので...」

「ああ...見苦しい所を見せたね。やはり身内が絡むと、感情がいつもより表立ってきていけない。」

「あら、新鮮で案外悪くありませんでしたわよ?貴方があんな表情をするのは普段ありませんもの。」

「フ、茶化すのは止してくれ・・・では、今から戻ってこの問題を報告してくるよ。本来は稼働データを採るだけなんだが、こればかりは直接言ってやらないと気が済まない。」

「ふふ、仲がよろしいんですのね。あの篠ノ之博士とそんな風に接するだなんて。」

「まあ、彼女は僕の家族と呼べる存在だからね。意外とチャーミングな所もあるし、彼女といると退屈しない。君もまた会う機会があれば、臆せず話しかけてみるといい。」

「そうですわね。臨海学校では、結局一言二言しかお話し出来ませんでしたし・・・もしご迷惑でなければ、ぜひ博士にもその旨をお伝え下さい。」

「約束しよう。では、引き続き鍛錬に励んでくれたまえ。」

そう言って戻ろうとした彼を、セシリアが呼び止める。

「ああ、その前に私からも、BT兵器を扱うにあたってのアドバイスをさせて下さいな。話を聞いて下さったお礼を兼ねて、ね?」

「確かに...これの扱いについては、君に一日の長がある。是非とも聞かせてくれ。」

彼の言葉にセシリアは微笑み、説明を始める。

「私がビットを展開している時は、その制御に意識を割かれ、他の武装を同時並行で運用する事ができません。なので私は、全てのビットを一挙に相手に向かわせるのではなく、常に2つ、手元に残すようにしていますの。それは主に、接近された時の自衛手段としての役割と・・・」

「懐に入って、もう障壁は無いと思っている相手を奇襲する奥の手...と言ったところかな?」

「ええ、その通りですわ。しかし、これは私のティアーズだからできる戦法。対してリボンズさんのそれは、元からその2つのみ。仮に片方だけを運用して、もう片方を残すという方法をとっても、効果は薄いでしょう。」

「そうだね。一方がビットとして運用されていれば、誰もがもう片方も同じだと気付く。それでは奇襲をするどころか、手数不足で押されてしまうかもしれないな。」

「そこで・・・こう考えてみるのは如何でしょう?2基のビットを平常運用するのではなく、ここぞという時の必殺の反撃技にする...というのは」

彼女の案を聞いたリボンズの表情は、まさに目から鱗といった様子だった。

「・・・成程、それは盲点だった。いや、その使い方自体は視野に入ってはいたが、ビットそのものを平時は無きものとして割り切り、ここぞという時の切り札として使うという発想は、僕には無かった。この装備は欠陥はあれど、威力は彼女のお墨付き故、上手く嵌れば殺人的な火力を叩き出せる・・・中々良いアイデアだよ、セシリア。」

「ふふ、お気に召したようで何よりですわ。とはいえ私も、そんな無茶な運用をした事はありませんので、実際に有効かは・・・」

「確かにね。だが、どうせこの武装は近々彼女に送り返すんだ、実戦で使うことはまずないさ。 」

「それもそうですわね。では、戦術のほんの参考程度に留めておいて下さいな。」

「いいや、素晴らしい意見をありがとう。君も是非、誰かに意見を仰いでみるといい。明確な答えはその時は出ないかもしれないが、いつか思わぬ形で花開くかもしれないよ。」

それでは、とリボンズは今度こそアリーナを後にした。それと同時に、彼と入れ違う形で鈴がアリーナに現れる。

「あれ、セシリアじゃない。ぼっちで練習なんてどうしたのよ?ていうか、さっきリボンズさんとすれ違ったんだけど、もしかしてさっきまでここにいた?珍しいわねー。」

「鈴さん...ええ、彼は先程までここに。少しアドバイスを頂いていまして・・・」

「へー。それって『キャノンボール・ファスト』に向けて?んじゃ、着々と準備は進んでるって感じね。」

「そうですわね・・・鈴さんも?」

「そうよ。ふふん、今回のレースはぶっちぎりで一位を獲ってやるんだから。」

「あら、言ってくれますわね。私とて、勝利を譲る気はさらさら無くってよ?」

「そう来なくっちゃね。ま、お互い頑張りましょ。」

鈴はそう言いながら、好戦的な笑みを浮かべる。そんな彼女を見て、セシリアも思わず表情を崩した。

 (...全く、何を迷う必要があったのかしら。私には今、頼れる人たちが何人もいるというのに・・・)

「鈴さん・・・よろしければ、貴方からもご意見を聞いても構いませんか?私がやろうとしていることについて...」

 

 

 

セシリアと別れた彼は早速束に連絡し、彼女に先程発見した問題点を報告した。

「...というわけで、君が寄越してきたフィン・ファングは欠陥が多い。早急に改善して欲しいのだが。」

『あちゃー、ちょっと火力にこだわり過ぎたかなぁ。流石にそれじゃあとんだポンコツだね。ごめんねリっくん、ほんとはすぐにでも回収しに行きたいんだけど・・・今はちょっと手が離せないんだ。だからそれまで、できる範囲で試験を続けてもらえないかな?もちろん、終わり次第それの改修に取りかかるからさ!』

「そういうことなら仕方ない。だが、できるだけ早くしてくれると助かる。君の能力ならば、作業スピードを幾らでも早められる筈だよ。」

『ふふ〜、嬉しいこと言ってくれるねぇリっくん!そう言われちゃあ、束さんどんどんスピードアップしちゃう!あ、そういえばリっくん。ラウラちゃんとデートに行ったりしたの?』

その唐突な質問に、彼は戸惑いながらも答える。

「デートだと?いや、まだそういった事は・・・」

『何やってんのリっくんっ!!こういう時はチキらずに、自分からどんどん誘っていくんだよ!別にレストランみたいなシャレオツな所に行かなくてもさ、下町の小さな電子部品の店とか、ジャンク品市とかでもいいからさ!』

それはそれでおかしいのでは?とリボンズが思った矢先、別の声が通話先から入ってきた。

『束様・・・貴方様も十分、一般常識からかけ離れた認識を持っていることを自覚なされた方がよろしいかと。リボンズ、久しぶりですね。調子は如何ですか?』

「おや、クロエじゃないか。こうして話すのも臨海学校ぶりだね。ルビは息災かな?」

『ええ、彼女も変わりありません。今は少し席を外しているので、話すことはできませんが...』

「いや、元気でやっているなら何よりだ。今度会った時、存分に話をするさ。」

『是非とも。それはそうと...束様から聞きましたよ。なんでも、彼女と交際することになったとか。』

「将来的にそういった関係になる事を約束しただけで、今はそうというわけではないんだがね。しかしそうか、ラウラの姉である君にとっては、やはり気になる事だろう。」

『別に・・・そこまで気にかけているつもりはありません。相手も貴方ですし、問題はないと確信しています。ただ...』

電話の向こうのクロエは、少し気恥ずかしそうにしながら、言葉を続けた。

『ただ彼女に、青春というものを体験させてやって下さい。学び、友人、そして恋・・・私には、できませんでしたから。』

「クロエ...」

彼が慰めの言葉をかけようとすると、もう我慢ならんといった様子で、束が割り込んで来た。

『クーちゃああああああん!!!!ま〜たそんなツンデレかましちゃってもおおお!!可愛いなぁほんとに、もうハグハグしよう!!ねっ!!』

『た、束様・・・ちょっと、苦しっ・・・!』

しばし雑音が続いた後、ドン!という鈍い音と共に、束の情けない悲鳴がこだました。

『ふぅ...失礼しました。』

『イチャイ...イチャイ...』

「今のは・・・フフ、君もやるようになったね、クロエ。」

『束様のお目付け役も、私の責務ですので。さて、先程束様が仰ったことは忘れて頂いて結構です。私見ですがデートに行くのならば、やはり買い物に行くことなどが定石かと思います。』

「まあ、それが最もメジャーだね。では今度、彼女に声をかけてみるよ。彼女も学生である故、色々と忙しいみたいだからね。」

『いーやいや、ここは今日今すぐ行くべきだよリっくん!!そうやって後回しにしていい事なんて何もないじゃん!ていうかぶっちゃけ早く進展が見た...あっ痛!?クーちゃんそれはヤバイって!?』

またもや向こう側で制裁を受けているであろう彼女の悲鳴を聞き、彼はため息をついて仕方なくといった感じで答えた。

「・・・ハァ、あまり期待はしないでくれよ?僕としても、彼女のスケジュールを乱してまでこれを実行するのは不本意だ。」

『リボンズ...無理をしなくてもいいのですよ?』

「いや、僕が少し奥手過ぎるのも事実だし、ここで一歩踏み込んでみるのも悪くはない。では一度電話を切るよ、ルビにもよろしく伝えておいてくれ。」

『分かりました・・・健闘を祈ります。』

『あてて・・・それじゃーリっくん、頑張ってラウラちゃんをエスコートするんだぞ!!』

「フ、望むところさ。ではまた後日に。」

 

 

 

ラウラはアリーナの一角で、厳弥と共に訓練に励んでいた。二人は長らくぶつかり合っていたが、ちょうど一区切りがついた時、厳弥が手を止め口を開いた。

「ふぅ...ここらで少し休憩しましょうか。あ、そういえばラウラちゃん、今度の『キャノンボール・ファスト』には参加するのよね?その機体で出場しても大丈夫なの?」

「ああ。私もそう思って学園と軍に確認したが、問題は無いとのことだ。確かに私のISは篠ノ之博士が開発されたものだが、所属は一応ドイツ軍ということになっている。それに博士自家製という例なら、箒の機体もそうだからな。」

「へぇ...でも、そんな高性能な機体を軍の所属にしちゃってよかった訳?博士の技術が盗用されたりしないかしら。」

「実際に、ご本人の了承のもと解析を行ったらしいが・・・何も分からなかったそうだ。まあ、彼女の技術を少しでも理解できると思っていた者は一人としていなかっただろうよ。 」

「ま、そうなるわよね。あの人の考えてることを完全に理解するなんて...うちの彩季奈でも無理なんじゃない?」

「フ、かもな。それで、そういう貴方は出場するのか?正直、あの機体でいい結果を残せるとは到底思えないのだが。」

「お察しの通り、私たち姉妹は全員出場しないの。皆がキュンキュン飛び回ってる中で、走って跳ねることしか出来ないし。だから今回は大人しく、皆の活躍を見てるわね。」

二人がそんな他愛もない話をしていると、ラウラの端末にリボンズからの着信が入る。

「教官?珍しいな、あの方から電話とは...すまない、少し出ても良いだろうか?」

「全然大丈夫よ、気にしないで。」

彼女の了承を得たラウラはその場から離れ、電話を取った。

「お待たせ致しました。如何しましたか、教官?」

『やあ、訓練中の所すまないね。今少し話せるかな?』

「は。ただ今休息をとっていますので、少しの間でしたら可能です。」

『ありがとう。それで要件なのだが・・・今日、外に出れる時間はあるかい?僕ら二人で...その、デートをしてみようと思ってね』

《デート》。藪から棒に飛び出して来たその言葉に、彼女はしばし目を白黒させる。

「...はっ?で・・・デート、と?」

『ああ。思えば、僕らは今まで一度も二人で出歩いたことがない。丁度天気も良いし、この際どうかと思ったのだが・・・』

「あ・・・し、少々お待ちを!!」

彼女は一度端末から顔を離し、頭を抱える。

 (どうする...どうする!?折角の教官からのお誘いだ、是非ともお受けしたい・・・しかし『キャノンボール・ファスト』も近い、訓練は欠かさずに行うべきだ・・・ええい、どうすればいいのだ、私は!?)

彼女が悶々としていると、ニヤニヤ微笑みながら厳弥が近づいてきた。

「ラ・ウ・ラ・ちゃん?聞いちゃったわよ~、デートに行くんだって?」

「はっ!?き、聞いていたのか!?」

「私のところまで余裕で聞こえたわよ、ラウラちゃんがデートって言ってたの。いいじゃないの、今から支度して行ってきたら?」

「し、しかし訓練がまだ・・・」

「毎日何かしらの形で鍛錬はしてるでしょ?今日くらい休んだってバチは当たらないって。」

「むむ・・・だが...」

「もう、焦れったいわね・・・ごめんねっ!」

彼女は一瞬の隙を突いて、ラウラの手から端末を抜き取り、リボンズ相手に話を進める。

「あっ...!?」

「あ、もしもしリボンズさん?私よ私、厳弥。うん、さっきまで訓練に付き合ってもらってたの。それで、デートに行くって?...買い物?いいじゃない!今日はここまででいいから、今からラウラちゃんを送り出すわね。本人の意思?とっっても行きたくてうずうずしてるって感じ。・・・あー、いいのいいの。いつも付き合わせてるのは私の方もだし。...うん、じゃあ外で待ってて。はーい・・・」

あっという間に話をまとめてしまった彼女は、ふんだくった端末をラウラに返却する。

「という訳で、今日はこれでお開き。ちょっと乱暴な真似してごめんなさいね。」

「...全く、一杯食わされた。仕方あるまい、こうなった以上、貴方の好意に甘えるとしよう。こちらこそすまんな、気を遣わせて。」

「気にしないで。ストイックなのはいい事だけど、メリハリ付けて気を休めるのも大切よ?...ふふ、そんなこと言っても、私じゃ説得力ないか。」

「確かに貴方も、休日は訓練ばかりだからな。では、今日も世話になった。教官が待っておられるのなら、長くお待たせする訳にはいかん。私は先に失礼する。」

「ん、目一杯楽しんできてね。」

厳弥はウィンクをして、ご機嫌な様子でその場を後にするラウラを見送った。

 

 

 

その後控え室に戻りシャワーでささっと汗を流したラウラは、着替えるべくロッカーへと向かう。彼女はそこで、偶然にも恵と鉢合わせた。

「貴女は...伊東 恵。」

「お、ドイツの候補生。今日も厳弥の訓練相手?せっかくの休みの日に、うちの姉が申し訳ねーでち。」

「いや、貴女が気にする必要はない。私が望んでやっている事だし、彼女は訓練相手として素晴らしい実力者だ。むしろ、私の方が礼を言うべきだろう。」

「なーるほど。んじゃ、変に気を遣う必要も無いでちね。にしても休日くらいは、もう少し気を抜いてもいいと思うけどねぇ。まったくうちの訓練バカと来たら・・・」

そう言って呆れた様子を見せる彼女に、ラウラはこの際以前から抱いていた厳弥に対する疑問をぶつけることにした。

「もし、よければ・・・彼女について聞きたいことがあるのだが、よろしいだろうか?」

「ん、何?厳弥が世話んなってるし、なんでも答えてやるでちよ。」

「彼女の...伊東 厳弥の過去に、何かあったのか?・・・例えば、テロリズム関係の何かが。」

その質問を聞いた途端に、のほほんとしていた彼女の表情は一気に険しくなった。

「・・・なんでまた、そんなことを」

「先日の学園祭の日、『亡国企業(ファントムタスク)』の一員を拿捕せんとしていた時、彼女はその現場に現れた。そして奴らは、彼女のことを『テロリスト狩り』と呼んでいた。これで何も無いと考える方が不自然だろう。」

その答えに対し、恵は沈黙を貫く。

「無遠慮な質問であることは承知している。身内の不幸など辛い経験であるのなら、答えなくて構わない。だが私は知りたいんだ、何が彼女を...あの明朗な人を、あそこまで駆り立てるのか。」

ラウラがそう訴えると、険しい顔を崩さなかった恵はふぅと息をつき、その表情を少し和らげた。

「・・・あー、それに関しちゃ大丈夫。うちの家庭は家族はおろか、従姉妹に至るまで不幸に見舞われたことは今までないし。爺さん婆さんだって、まだまだ元気だしね・・・けど、悪い。この件に関しては、私の口からは話せない。どうしても知りたきゃ、厳弥に折を見て直接頼んでみるでち。」

「そうか・・・申し訳なかった。本人の知らぬ所で、その親族を通して過去を暴くような真似をした。」

「いんや。いきなり本人には直接聞き辛いもんだし、デリカシーってもんがない。お前の選択は人として間違ってなかったでちよ。...でも、そうだな。一つ私が言えるとすれば・・・アイツは、単なる被害者根性であんな事をしてるんじゃない。もっと色々と...複雑なんだよ、うん」

重苦しい空気が二人を包み込む。するとそんな空気をかき消すが如く、恵はパンパンと手を叩いた。

「さ、話が終わったんなら行った行った!愛しのカレが外で待ちぼうけ喰らってるよ?」

その瞬間、ラウラの顔はうってかわってぼぅっと赤く染まった。

「んなっ...何故それを!?」

「ククク、おめーとリボンズさんの間に何かあったのはお見通しでち。ほーら、とっとと仕度してデートに行っちまえ。」

「くそっ、今日は貴方たち姉妹にしてやられてばかりだ...この借りは必ず返させてもらうぞ!」

ラウラはバタバタと着替えを済ませて、外で待つリボンズの下へ駆けていった。一人その場に残された恵は、ぽつりと呟く。

 

「...身内の不幸、ね。むしろその方が、アイツにとってはマシだったかも・・・なんて」

 



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32. 二人の魔法 〜Bright Noon〜

合流した二人は、両者共に何度か訪れているショッピングモールに行くことになった。学園の最寄り駅から数駅のところにあるそれに着いた二人は、まずその人の多さに面食らった。

「やはりと言うべきか・・・凄い人混みだ。」

「休日ということもあって、かなり賑わっていますね・・・はぐれないよう、気をつけましょう。」

「よし・・・では、しばし歩こうか。僕も特にこれといったプランは考えていないのでね、中を見て回ってめぼしい店を探そうじゃないか。」

「それが良いでしょう。私も、ここの構造に詳しいわけではありませんので・・・」

 

 

そうしてショッピングモールの中をぶらぶらと歩いていると、ラウラは婦人服を取り扱う店を見つけ、その前で立ち止まった。

「教官、この店を覗いてもよろしいですか?」

「勿論さ。何か気になる服があるのかい?」

「いえ、お恥ずかしい話ですが、私は私服の類を殆ど持ち合わせておらず...寝間着を含めても、数える程しか無いのです。なのでこの際、自分で選んで購入してみようかと。」

「ほう、良いじゃないか。僕も君に似合いそうな服を見繕ってみよう。とはいえ、ファッションに詳しいわけではないが・・・」

「お気になさらずとも、教官が選んで下さった物ならば、喜んで身につけますよ。では、一度二手に分かれましょう。」

 

そうして始まった服選びだったが、ラウラに早くも問題が発生していた。

(分からん...分からん!どんな服が私に似合うのだ!?今まで日常生活を隊服や制服で過ごしていたツケが、ここで回ってきたか・・・クッ、かくなる上は・・・)

彼女は手元にある端末に手を伸ばし、本国の部隊のメンバーたちに意見を仰ごうかと考えた。しかし、すんでのところでその手を止める。

(ハッ・・・何を考えている、私は!?教官が自ら選んで下さっているのに、私が自分で選ばないでどうする!!)

「そうだ。難しく考えずとも、私が気になるものを探せば良いだけのこと。なんとでもなる筈だ...!」

彼女が気を取り直して、再び服を吟味していた時。一枚の白いワンピースが彼女の目にとまった。彼女は服の色などに特別こだわりを持ってはいなかったが、今はそのワンピースに妙に目を奪われていた。

(白...そういえば、花嫁の衣装は白であるのが定石であったな。私もいつかは、着ることになるのだろうか・・・)

彼女は自身の花嫁姿を夢想し、顔を緩ませる。しかしその事に気付き、即座に姿勢を整えた。

(しかし...この服、やけに気になる。なんと言うべきか、私自身がこの服を着た自分を見たがっているというか・・・)

その後少し考えた後、彼女はその服を恐る恐る手に取った。

「フッ・・・まさか私が、このような服を自ら選ぶようになるとはな。今更可愛げとやらが芽生えてきたか?」

 

 

満を持して、二人は合流した。出会ってすぐ、ラウラはリボンズが選んだ服に目が釘付けになった。

「教官、それは...」

「ああ。見ての通り、白のワンピースだよ。」

そう言って差し出された彼の手には、ラウラが選んだ物と全く同じ服があった。ラウラはその事実を敢えてここでは明かさず、初めて見るかのようなリアクションをとった。

「...今までの私の服装とは、かなり雰囲気が違いますね。もしよろしければ、選考理由を聞かせて頂いても?」

彼女の言葉に、リボンズは頷いて答える。

「君はやはり、黒のイメージが強いが・・・だからこそ、別の色に身を包んだ姿を見たくなってね。君の普段の雰囲気を消し去り、見る者に全く新しい印象を刻みつけるような服はどれかと考えたら...これに手が伸びていた。」

手に持つそれを軽く持ち上げ、彼は続ける。

「いつもの君は大人びていて、美しいという言葉が似合うのだろう。しかしこの服は、君の新たな一面を見せてくれるのではないか・・・そう思って、これを選んだのだが...」

彼の無意識の褒め言葉に、ラウラの頬が紅く染まる。

「っ...成程。ご説明頂き、ありがとうございました。では、私の選んだ服ですが・・・」

そうして彼女が差し出した服を見た瞬間、彼は文字通り固まった。ラウラは彼の口から、声にならない悲鳴が聞こえた気がした。

「...これは、もしや・・・」

「はい、奇しくも同じ物です。どうやら、我々は全く同じものをお互い選んだらしく・・・」

彼はそれを聞いて頭を抱えたが、ふとある事が気になり、ラウラに問うた。

「・・・ちなみに、だが...君はこの服を、何を基準に選んだんだい?」

「そうですね...実の所、自分でもよく分かっていません。何となく、これに目を奪われた・・・と言いましょうか。」

「僕も同じさ。先程は小難しく言葉を並べたが、結局は『君に似合うと思ったから』、それが全てだ。これを纏った君は、きっと可愛らしくなるだろうと...」

そこまで話した二人は、堰を切ったように笑い始める。

「ふふふ・・・となると、我々は自分の直感を信じた結果、見事に被ってしまったと。もしかすると、ファッションセンスも似ているのかもしれませんね。」

「ハハ...全くだ。君の選んだ服を見た時は、『やってしまった』と思ったが・・・ポジティブに捉えると、これも僕らの互いへの理解のなせる業、と言えなくもないか。」

「それで良いではないですか。それにしても・・・本当に私に似合うのでしょうか、この服は」

「心配には及ばないさ。適当ならともかく、お互い悩み抜いた末での直感で選んだものがこれなんだ。きっと似合うと信じているよ。...失礼、試着室をお借りしたいのですが・・・」

通りがかった店員に試着室の場所を聞き、彼らは早速試着しに向かった。選んだ服がラウラに似合っていたかどうかは、わざわざ言うまでもないだろう。

 

 

その後、二人は軽い昼食を済ませ、もののついでに日用品の買い出しを行った。そして今は、丁度帰路につこうとしている。

「本日はありがとうございました、教官。」

「ああ。こちらこそ、急な誘いを受けてくれてありがとう。君が楽しめたのなら幸いだ。」

「ええ、とても。またこうして二人で出歩きたいものです。しかし・・・本当に良かったのですか?まさか、服の代金を支払って頂けるとは・・・」

「何、ああいう時は男性が支払いを受け持つのが粋と言うものさ。何も気にすることはない。」

「・・・では、次は私が教官の服を見繕いましょう。費用も私が支払います。」

「うん?選んでくれるのは勿論嬉しいが、君が支払う必要は...」

「いえ、私にお任せ下さい。でなければ、私の気が済まないのです。」

「・・・しかし、男性用の服を上下揃えるとなると、今回の代金よりも高くなる可能性もある。どうしても払うと言うのなら、半分は僕が受け持とう。そこだけは譲れないな。」

「む・・・承知致しました...ん、あれは・・・」

彼女は腑に落ちない顔をしていたが、何かを見つけたのか、近くの雑貨店のショーウィンドウに近寄った。

「色以外の装飾は、全て共通のティーカップ・・・?教官、これは何でしょうか?」

「ああ、ペアカップか。恋人たちや結婚を迎えるカップルたちが、お揃いで買うものさ。」

「結婚を迎える、カップルが...」

彼女はしばし展示されているカップを見つめ、リボンズの方に振り返った。

「唐突で申し訳ありません。少し、この店も見ていきたいのですが・・・」

「おや、興味があるのかい?ならばせっかくだ、二人用に買って帰ろう。支払いは・・・半分ずつで良いかな?」

「...!はい、是非とも!」

 

 

 

 

 

 

その日の夜、一夏が二人の部屋を訪ねて来た。

「こんばんはー、リボンズさん・・・ってあれ、今いねぇのか?」

「教官なら、先程私用で出ていかれたぞ。すぐに済むそうだし、ここで待っていると良い。」

「悪いな。じゃ、お言葉に甘えて・・・」

彼は椅子に腰掛け、ふぅと一息ついた。そこにラウラが、あらかじめいれてあった紅茶をカップに注ぎ、彼に差し出す。

「折角だ、飲め。今回は特に力を入れたからな、前回よりもいい味に仕上がっている筈だ。」

「お、サンキュ。じゃあ頂きます・・・ん、本当だ。前も美味かったけど、もっと良くなってるな。」

「ふふん、当然だ。伊達に練習を続けてきた訳ではないからな。」

二人が紅茶を嗜んでいると、一夏はふとある事に気が付いた。

「あれ、ラウラのティーカップ前と変わったな。新しいやつか? 」

「中々目ざといな。ああ、これは今日新調したものだ。」

「へえ...結構可愛い見た目してるのな。正直、ラウラがそういうのを選ぶなんて意外だよ。」

「そう思うか?フフ、私も自分自身に驚いているよ。」

ラウラは穏やかに微笑み、再びカップに口をつける。するとそこへ、リボンズが戻ってきた。

「おや、一夏じゃないか。今日も食欲が無いのかい?」

「おっ、おかえりリボンズさん!いやそうじゃなくてな、ちょっと一緒に飯食いたいなって思ってさ。」

「ああ...すまない、夕食はつい先程済ませてしまってね。タイミングさえ合えば、喜んで誘いを受けたのだが・・・」

「げっ、マジかぁ。ちょっとISのことについて、飯でも食べながら相談しようと思ってたんだけど...」

「そういうことなら、今から食堂に共に行って、シャルロット達と合流しよう。いい機会だし、彼女らも交えて意見交換会を行おうではないか。」

「あー、その手があったか!どうせなら、皆の意見も聞いといた方がいいよな。」

「『キャノンボール・ファスト』も近い事だし、丁度いいだろう。ラウラ、もし良ければ君もどうだい?」

「...いえ、今夜は遠慮させて頂きます。本日はかなり体力を使ったので・・・」

「そうか...では、少しの間行ってくるよ。鍵は持っていくから、先に就寝していても構わない。」

「ありがとうございます。では、お先に失礼します。」

「じゃあラウラ、また明日な!紅茶もご馳走さん、美味かったよ!」

そうして二人が去った後の部屋で、ラウラはすっと立ち上がり、自分のクローゼットを開けた。そこには今日二人で選んだワンピースが、堂々と真ん中にかかっていた。

(この服を着て・・・次は、教官と何をしようか。今日の様に買い物も良いし、街を二人で散策するのも悪くない。洒落た店で食事というのも魅力的だ・・・テーブルマナーを今一度覚え直さねば)

色々と想像を巡らせる彼女だったが、そこでハッと我に帰る。

(マズイな...以前は、あの方を支えられさえすれば、それ以上は望むまいと思っていたが・・・いざそれが達成されると、それで満足できなくなる。二人でやりたい事が、あれもこれもと次々と湧いて出てきてしまう...全く、人の欲とは恐ろしいものだ)

彼女は愛おしげにその服を見つめながら、静かにクローゼットの扉を閉じた。そしてゆったりと寝支度を整え、その体をベッドの上にぽすんと横たえる。

(本当に良い一日だった・・・彼女にも、改めて礼を言わんと、な・・・)

余韻を感じる暇もなく、彼女はそのまま静かに眠りに落ちた。その寝顔は、とても安らかなものだった。




という訳で、今回の最新話でした。いかがだったでしょうか。

今回新たに登場したフィン・ファングの試作型、つまりプロトタイプは、「ガンダムデルタカイ」の「プロト・フィン・ファンネル」がモチーフです。外見等に変わりはありません。
ただ、ビームの散弾が出るという設定は、本作では試作型のフィン・ファングにあった欠陥の産物として偶然発生した現象として取り扱います。言うなれば、V2の光の翼と扱いは同じです。

そして、少し前から少しづつ出している本作のオリキャラ「伊東 厳弥」の何やら暗い部分ですが、臨海学校で遭遇した敵性ガンダムの話をそれなりに進めてから、彼女の過去について触れる話を入れていきたいと思っています。ですのでよろしければ、皆様にはこのキャラにも今後目を向けて頂けると幸いです。

さて、次話ですが、次の次の話にちょっと重要な戦闘回が来ますので、その前座としてのかなり短めの話を近々お送りいたします。もしかしたら、1ヶ月もかからずに投稿できるかも・・・?もしかしたら超えるかもしれませんが、2ヶ月以内には必ず投稿するよう頑張ります。


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33. キャノンボール・ファスト 〜燻る火種〜

皆様、こんにちは。
宣言通り、なんとか一ヶ月程度で終わらせることができました・・・クロスブーストにリボンズの0ガンダムが実質参戦してテンションがぶち上がったおかげで、かなり筆が乗りました。運営さんありがとう!!


さて、今回は次の重要な戦闘回に力を注ぐため、少し短めの話となっております。それでもそれなりに内容は詰め込んだつもりですので、どうぞお楽しみください。


「皆さん、おはようございまーす。今日は開催日が近付いてきた『キャノンボール・ファスト』に向けて、高速機動実習を行いますね。」

山田先生の一声と共に、その日の授業は始まった。

 

 

「さて。以前説明した通り、この第六アリーナは高速機動の実習に適したものになっています。ですので今日はしっかりと練習して、高速機動に慣れていきましょうね。」

「「「「はいっ!!!」」」」

生徒たちの元気の良い返事を聞き、彼女は微笑みながら話を続ける。

「ではまず専用機持ちの皆さんに、実演をしてもらいたいのですが・・・オルコットさん、織斑君、前に出て下さい。」

彼女の呼びかけと同時に、指名された二人は皆の前へ歩み出た。

「お二人の機体には、それぞれ高速機動に適した装備や、チューンナップが施されています。まずは彼らのデモンストレーションを通して、それがどのような感じか見てみましょう。二人共、準備はいいですか?」

「ええ、お願いします。一夏さん、準備はよろしくて?」

「ちょっと待てよ、これで・・・よし、バッチシだ!」

一夏は高速戦闘用のバイザーを機動させ、威勢よく応える。

「準備が整ったみたいですね。それでは、よーい・・・スタート!」

彼女の掛け声と同時に、二人はギュン!と一気に飛び立ち、空へ繰り出した。勢いよく舞い上がる風と共に、二人の体はアリーナの上空に躍り出る。

 (こ、これは...すげぇな・・・)

見るものが目まぐるしく過ぎ去っていくその光景に、一夏は圧倒されていた。するとそこに、セシリアがいつもの調子で彼の横に並ぶ。

『一夏さん、大丈夫ですか?』

「セシリア!いや、正直これはちょっとキツイな...なんか、ずっと瞬時加速(イグニッション・ブースト)を吹かしてるみたいだ」

『初めはあまり余計な所に目を向けないように。慣れていない内は酔ってしまいますわ。』

「お、おう。サンキュ。」

『では、お先に失礼♪︎』

そう言うと彼女は更に加速し、一夏を突き放す。

「うおっ!?セシリア、速ぇ!?」

『うふふ、あまりぐずぐずしていると置いていきますわよ?』

「くっそぉ、負けねえぞっ!」

常時に比べて倍以上の速度で飛行している為、万一衝突事故でも起きたらただでは済まない。それを重々理解している二人は、両者ともに慎重に、しかし時には大胆に、己の機体を操作しドッグファイトを繰り広げた。

 

 

「はいっ、お疲れ様でした!オルコットさんも織斑くんも、素晴らしいお手本を見せてくれましたね!」

彼女が二人の健闘を讃えると同時に、千冬が前へ出て生徒たちに指示を出す。

「両者、ご苦労だった。それでは早速訓練に移る、訓練機組は割り振られたチームで集まり、専用機組は各々のペースで鍛錬に励め。ぼさっとするな、開始!」

彼女の鶴の一声で、生徒たちはアリーナ中に散らばった。

 (よし、そんじゃ俺も早速・・・)

一夏が自分の訓練を始めようとした時、千冬が彼を呼び止めた。

「待て織斑。お前の機体も追加のスラスターは装備しないのだったな?では訓練を行う前に、一度篠ノ之とエネルギー調整の相談をしてみろ。何か得るものもあるかもしれんぞ。」

「あー、それは確かに。じゃあ、行ってみます。」

彼女の助言を受け、彼は何やら難しい顔をしている箒のところに向かった。

「よぉ箒、調子はどうだ?」

「い、一夏!?私は上々だが・・・どうした、藪から棒に」

「いや、ちょっとお互いのISについてな。同じエネルギー分配に四苦八苦する奴ら同士、共有できることもあるんじゃないかって。」

「そうか!では丁度よかった...これを見てくれ」

箒はそう言って、彼に『紅椿』のデータを示したウィンドウを見せる。

「んー・・・こりゃつまり、高速機動に適した展開装甲を起動させていたら、エネルギーがおっつかない...ってことだよな?」

「ああ。単一仕様能力(ワンオフアビリティー)でシールドエネルギーが逐一供給される事を前提に作られているから、そのまま使うと燃費が悪くて敵わん。」

「一部の装甲だけ運用するってのは?例えば脚の装甲は閉じて、背中の部分だけ開放させるとか...」

「それも考えたが、どうもそれだけでは出力が足りない。逆に脚だけ運用するとなると、機体バランスが不安定になるかもしれん。」

「じゃあいっそ開き直って、全部閉じちまえば...勝てねぇよな、それじゃ。」

「そういう事だ。全くあの人は、どうしてこうも極端な・・・」

そう言って彼女はため息をついたが、少し思い直したように表情を改めた。

「...しかし、あの人が私にこれ程の機体を授けてくれたのも事実。今のこの状況も、私が『絢爛舞踏』を任意で発動できるようになっていれば、全て解決していたこと・・・ふ、私もまだまだ未熟者というわけだ。」

「俺もさ...亡国企業(ファントムタスク)の奴にボコられた時、言われたよ。『白式はお前に釣り合ってない』ってな。俺もそう思った・・・いや、今もまだ思ってる。」

「一夏・・・」

「でも、だからっていじけててもしょうがねえ。俺を鍛えてくれる皆や、俺の力になってくれる白式・・・その全てから受けた恩を、俺は裏切りたくない。だからせいぜい必死こいて腕上げて、コイツと釣り合うような操縦者になってやる。」

その勇ましい言葉に、箒はつられて笑顔を見せる。

「...フッ、熱いことを言ってくれる。そうだな、私もあの人に恩義を感じていない訳じゃない。色々と言いたいことはあるが、まずはそれに報いねば、な。」

「ああ。お互い頑張ろうな、箒!・・・あ、そういやリボンズさんのIS、背中に付いてる奴がお前の展開装甲に似てねぇか?もしかしたら、何か参考にできるかも...」

「確かに・・・あの装備も、用途に合わせて形態を変化させる物だったな。よし、今日の授業が終わったらまた話を聞いてみるか。一夏、お前も付き合ってくれるか?」

「おう、勿論だ!じゃ、また後でな!」

ああ、という箒の返事を聞き届けた彼は、一度彼女と別れ、良い練習場所を探し始めた。

 

 

(やっぱ、箒の機体もとんだじゃじゃ馬みたいだな。いや、エネルギーの消費先がある程度限られてる分、白式の方がまだマシか?負けてらんねぇぞ、俺・・・)

そんな事を考えながら歩いていると、次に彼はラウラとシャルロットに出会った。

「あっ、一夏!さっきはお疲れ様、すっごく良かったよ!」

「うむ、初めてにしては悪くない出来だ。その調子で励むことだな」

「おお...ありがとな、二人とも。」

彼女らからの賞賛の言葉に、一夏は照れくさそうに笑う。

「えーと・・・二人は確か、外付けのスラスターを増設させるんだったよな。今どんな感じなんだ?」

「僕は今ちょうど、それのセッティングが終わったところ。ラウラはまだちょっと...」

「私の増設スラスターは、篠ノ之博士が本番に向けて最終調整をして下さっているのでな。その関係で今回の授業には間に合わなかった。」

「あー、整備担当はあくまであの人だもんな。いくらラウラの機体でも、素体での高速機動は難しいのか。」

「ああ。いくらガンダムとは言え、第四世代機と比べると性能は一歩劣る。教官の機体の爆発的な加速性能も、あの追加装備があってこそのものだ。」

「やっぱそうなんだなあ。にしても、せっかくの実習の日なのに残念だったな・・・」

彼はそう言ったが、当のラウラは即座にそれを否定する。

「いや。実戦でどれほどの速度で動けるかは、既に何度かの運用試験で把握済みだ。それに本国にいた時に、高速機動は何度も経験しているしな。レースの勝敗はともかく、実際にそれを行うに当たっての不安はない。」

「おー...流石、軍属は経験が違うなぁ。あ、そうだ。ちょっとシャルの飛行を見せてもらってもいいか?さっきはセシリアに食らいつくのに必死だったから、経験者の動きがどんなのかを改めてちゃんと見てみたいんだ。」

「勿論いいよ。せっかくだし、僕の視界も共有しておくね。ラウラも一緒にどう?」

「断る理由はないな。チャンネルは...これか」

二人が自分の視点とリンクしたのを確認したシャルロットは、ISを展開し準備を完了させた。

「準備はOK?じゃあ一周まわってくるね。」

彼女はそう告げて、悠々とアリーナの中を飛び始める。

 (おお...これが上級者の飛び方か。セシリアも、こんな感じで見てたのか・・・)

勉強になるなぁ、と思いながらそれを見ていた彼だったが、ふとある事に気がついた。

 (あれ?結構所々で激しい動きをしてるのに、シャルの視点はそこまでぐらついてないな・・・あっ)

「なあラウラ。もしかしてこれ...」

「気付いたか。シャルロットはまだ不慣れなお前の為に、視点の移動を普段よりも少なくしている。これで滞りなく飛べているのは、どのタイミングでどの行動をすればいいかを完全に理解している証拠だな。」

それを聞いた彼は、シャルロットの人の良さと、そして何より彼女の技術の高さに改めて度肝を抜かす。

「す、すげえ・・・ラウラ、お前にもできるかこれ?」

「私か?やろうと思えば造作もないが・・・実際にはやらんだろうな。教官ならともかく、織斑教官にも師事を受けた私が、そんな優しいことをすると思うか?」

「あー、成程。そりゃ絶対にないな、はは」

そんな軽口を言い合いながらも、二人はシャルロットの実演を真剣に見つめていた。

そして、あっという間に一周まわってきた彼女は、何食わぬ顔で二人の下に降り立った。

「こんな感じかな。一夏、少しは参考になった?」

「ああ、めちゃくちゃ為になった!特に減速と再加速のタイミングが分かりやすくて、俺の動きにも取り入れられるなって!シャル、俺の負担にならないように目線の移動を減らしてただろ?あれのお陰で、お前の動きにより集中できたんだ。」

「あ、気付いてた?えへへ・・・どうせなら、一夏が少しでもヒントを見つけられたらなって思って。まあ、視点移動も大事なんだけどね。」

「その通りだ。だが、初めは比較的応用しやすい事を覚える方が、今のお前には良いだろう。それより...」

ラウラはプライベートチャンネルに切り替え、意地の悪い笑みを浮かべながらシャルロットに問いかけた。

『時折、お前の視線が一夏の方に向いていたのだが・・・何があったんだろうな?』

「えっ!?な、なんでもないよ、もうっ!」

「ん?シャル、何かあったのか?」

「あっ・・・もう、ラウラってばぁ!!」

 

 

 

 

 

時間はあっという間に流れ、とうとう大会を明日に迎えた。生徒たちがそれぞれ最後の訓練に励む中、リボンズはそれをアリーナの観客席から見つめていた。

 (今年から試験的に、一年生もキャノンボール・ファストに出場させることになったとは聞いていたが...なかなかどうして、悪くない仕上がりだ。流石はこの学園の生徒たちということか・・・)

彼が感心していると、そこに伊東姉妹が四女、華が現れる。

「Guten Tag. こんにちは、リボンズさん。」

「おや、君が一人とは珍しい。他の3人はいないのかい?」

「みんなは今、それぞれ用事があって。私は特になかったから、お友達の訓練の様子を見に来たんです。」

「そういえば、君たち姉妹は全員出場を見送るのだったね。とにかく君の友の訓練の応援か、良いことじゃないか。ちなみに、件の友人はあの中のどこに?」

「ええっと・・・あ、いました。(かんざし)ちゃん...あの子です。」

彼女がそう言って指さした先には、刀奈と同じ髪色をした、眼鏡をかけている大人しそうな生徒がいた。

「彼女は・・・確か、更識会長の妹か。君たちは仲が良いのかい?」

「はい。よく、色んな本を借りたりしてますね。私、結構雑食なので...マンガとか、ライトノベルとかをよく貸してくれます。」

「成程、それはいい友人を持ったね。それにしても彼女は・・・ここの生徒の中でも特に、真剣というか、鬼気迫る表情をしている。」

「簪ちゃんは、お姉さん...生徒会長に対して、コンプレックスがあるみたいで。多分、今回の大会でいい結果を残して、証明したいんじゃないかな・・・自分も、ここまでできるんだって。」

「ああ...確かに彼女は優秀だから、それに引け目を感じてしまうのも無理はない。しかし、それを克己心に昇華させ原動力としているのは、むしろ健全とも思えるが。」

「うん・・・そうだと、いいんですけど」

そうして二人はしばらくの間、世間話をしながら訓練を見学していた。すると華の端末が、いくつかの通知を受け震える。彼女はポケットからそれを取り出し、内容を確認した。

「あっ...みんな用が済んだみたい。それじゃあ、お先に失礼しますね?」

「ああ、立ち話に付き合ってくれて感謝するよ。」

アリーナから去っていく彼女を見送ったリボンズは、再びフィールドに目を向ける。

「彼女の妹、か・・・自身の専用機を持っていないというのは、意外だったな。」

その目線の先には、学園が所有する量産型IS「打鉄」に身を包み、訓練に打ち込む彼女の姿があった。

 

 

 

 

 

 

そして迎えた大会当日。会場には多くの観客が押し寄せ、人々の熱気が全体を包んでいる。そんな中、一夏たち一年生の専用機組は、ピットにて彼らの出番を待っていた。

「すげえなぁ・・・歓声がここまで聞こえてくるぞ。」

「前のトーナメント戦と同じで、それだけ注目されてるってことだね。みんなは緊張とかしてる?」

「まさか!候補生に選ばれた時点で、こういうのには慣れっこよ。逆に、一夏とか箒はあんま慣れてないんじゃないの?」

煽る様な鈴の口ぶりに、箒がむっとした表情で反論する。

「あまり舐めてくれるなよ。私は剣道の関係で、今までこの様な催しには何度も参加してきた。」

「あー、確かにそうだったわね。でも箒はともかく、一夏は途中でやめちゃったんでしょ?」

「まあな。でも、人の視線じゃもう緊張はしねぇよ。この程度、入学式の日に比べたらな・・・」

彼はその時のことを思い出し、遠い目をした。その時の光景を知っている初期メンも、思わず渋い顔をする。

「あたしはその時の事は知らないけど...想像はつくわ。」

「あ、そっか。僕もその時はまだいなかったから...どんな感じだったの?」

「シャルロットさんがいらした時の皆様の歓声が、そっくりそのまま好奇の視線に置きかえられたようなものですわ。」

彼女はセシリアの説明を受けて、サッと顔を青くした。

「うん・・・辛かったね、一夏...」

「いやあ、あん時はマジで全身鳥肌が立ったなぁ・・・ま、アレに比べたらこの位はどうってことないさ。」

彼がそう言うと、ラウラが一夏の方を見る。

「ほう。では一夏、要するにお前は、今日のコンディションは抜群ということだな?」

「おう、多分そうなるな」

それを聞いた彼女は、仰々しく手を振りかざし、全員を仰ぎ見る。

「それは僥倖だ。これで心置き無く、お前たち全員を実力で叩き伏せることができる。今日のこの大会、取らせてもらうぞ?」

彼女のその言葉は、皆の闘争心をかき立てるには十分だった。それぞれがまるでリングの上のプロレスラーのように、次々と互いに向けて宣戦布告をする。

「ふ〜〜〜ん、言ってくれるじゃない?いいわよ、あたしがボッコボコにしてやるんだから。」

「あら。敵がラウラさんだけと思っていては、後ろから刺されますわよ、鈴さん?」

「待て。この大会こそは、私が勝利を貰い受ける。あの人に力をもらっている以上、敗北を喫することは私が許せんからな。」

「ふふふ...次世代機の力にかまけてる様じゃ、僕のラファールに足元を掬われちゃうかもね。」

笑顔でバチバチと火花を散らす彼女らは、続いて一斉に一夏の方を見る。彼女らの表情からは、「そっちも早く啖呵を切れ」という意思がありありと伝わってきた。

 (あ、俺もやるんだなこれ・・・)

彼はそれには消極的だったが、とりあえず何か一言残すことにした。

「ええっと...ゴホン。お互い、いい試合にしようぜ!!」

敵意が一ミリも感じられない彼の言葉に、全員が盛大にズッコケた。

「あーもう...アンタほんと空気読みなさいよね!!」

「一夏、お前という奴は・・・威勢よく煽りの言葉の一つも言えんとは、それでも男か!?」

「まったく、逆に緊張感が足りていないのではないか?やはりお前は、織斑教官に稽古をつけてもらえ。」

「うわっ!?す、すまん!もう一回、もう一回やらせてくれぇ!!」

千冬の稽古と聞いて一気に顔が強ばった一夏を見て、シャルロットが苦笑いをして助け舟を出す。

「ま、まあまあ・・・一夏のお陰で、いい感じに肩の力が抜けたと思うよ。ほらっ、もうすぐ僕らの出番なんだから行かなきゃ。」

彼女の言葉を受けて、彼女らはしぶしぶといった感じで会場に向かって移動し始めた。そんな中、鈴が密かにセシリアに話しかける。

「で、結局アレは習得できた訳?偏向射撃(フレキシブル)だっけ。」

「いえ、残念ながらまだ...ですが今は、ひとまず目の前のことに集中しませんと。」

「ま、それもそうね。それにそんな小手先のことをしなくても、普通にバシッと当てればいいのよ、当てれば。」

「ふふっ、鈴さんらしいですわね・・・この勝負、譲りませんわ。」

「当然。あたしも全力で勝ちに行くわよ。」

そう言って笑い合った二人を含めた皆が、勝負の場に足を踏み入れた。

 

 【それではこれより、一年生の専用機組のレースを開催します。各競技者は所定の位置に―─】

 

 

 

 

一方リボンズは、警備室から警備員の制服を借りて、場内の見回りを行っていた。彼が廊下を巡回していると、試合会場の方からけたたましいアラーム音と共に、観客たちの沸き立つ声が響く。

「始まったか。本当は応援に行きたいところだが、気を抜く訳にはいかないな。さて...」

彼が気を取り直して見回りを再開したその矢先、曲がり角から歩いてきた女性にぶつかってしまった。

「あっ...!」

出会い頭の衝突に、絢爛な衣服に身を包んだその女性は転んでしまう。

「これは・・・!失礼致しました。お怪我はございませんか?」

「ええ...大丈夫よ、気にしないで。」

「こちらの不注意で...大変申し訳ありません。手をお貸しします。」

彼が己の右手を差し出すと、彼女は優雅にその手を取った。しかしその瞬間、彼は奇妙な感覚に襲われる。

 (...うん?彼女の手に、何か・・・気のせいか?)

その一瞬の疑心は、彼女が立ち上がって手を離してしまったことで、引っ込まざるをえなかった。

「ありがとう。フフ、こんな一介のイベント会場のいち警備員にしては、随分と礼節を弁えてるのね?」

「滅相もありません。今のこの時代、この程度は当然のことです。ところで、お席をお探しですか?もしよろしければ、ご案内させて頂きますが。」

「至れり尽くせりね。でも、私一人で大丈夫よ。」

「そうですか...では、お気をつけて。」

「ええ、あなたも」

そう言って二人は別れたが、彼はどうにも彼女への違和感を拭えないでいた。

 (あの女性の手...やはり、何かがおかしかった。確証はないが、先程感じたあの僅かな感触は、生身の物では・・・)

彼がその時のことを深く思い返している時だった。

 

ドォン!

 

突然、派手な爆発音と共に建物が揺れ、会場からは一転して人々の悲鳴が届く。その後、轟音と共に観客席のシャッターが閉まる音が響いた。

「これは!?まさか、会場の警備は厳重だった筈・・・」

彼が知る限りでは、先日の学園祭の一件を省みて、この会場でもより入念な検問が行われていた。 しかしここで彼はふと思い出す。この建物には、どうしても外敵からの侵入に弱い場所が存在すると。それは・・・

「そうか、侵入者は会場の上空から...しかしここ周辺の空も、ISの警備隊が張っていた。だが未だ侵入者の報せがないということは・・・もしや」

仮にその侵入者が警備隊を撃墜し、連絡が間に合わないほどの速さで会場に奇襲をかけて来たとしたら、この世界でそんな芸当が可能な存在を、彼は数える程しか知らない。

 

【非常事態発生。各警備員は、来客の避難誘導に当たって下さい。繰り返します。各警備員は―─】

 

「また彼ら(亡国企業)か、全く・・・!」

 

 

 

 

それは一夏たちが、間もなくレースの二周目に突入しようという時だった。突如として上空から何者かの攻撃が降り注ぎ、地上のあちこちで爆発が起きた。

「な、何だ!?一体何が・・・うおおッ!?」

一夏が意識を下に向けた瞬間、攻撃の主は彼に狙いを定め、レーザーを発射した。辛うじてそれを白式の「雪羅」のシールドで受け止めた彼だったが、その背筋には冷や汗が伝っていた。

 (この速度で動いてるISに、こんな正確に攻撃を当てれるもんなのか...!?)

それは続けて箒たちにも攻撃を浴びせたが、全員が間一髪でそれを回避した。突如として起こったその事態に、全員が一旦レースを中断し、周囲を警戒する。

「っ、今の攻撃は・・・!?」

「あっ...皆、上!!」

シャルロットの声に、皆が一斉に上空を見る。その襲撃者の姿を見たセシリアは、ギリッと歯を噛み締めた。

「サイレント・ゼフィルス・・・!」

皆から敵意を向けられた襲撃者の少女は、不気味に口元を歪ませた。

 

 

 

 

 

 

 (あら?この爆発音は・・・ああ、先客がいるのね。助かるわ、これなら余計な邪魔は入らない)

亡国企業の襲撃から間もない頃、遠くからその様子を眺める機体があった。

 (前の戦いから数ヶ月...あの時はあの二人(人形)に不覚を取ったけど、今回はそうはいかないわよ)

その機体は背部からオレンジ色の粒子を発し、悠然と空を飛ぶ。黒と赤の2色で占められているその姿は、刺々しい印象を見るものに与える。しかし一方で、肩や脚部に新たに増設されたのであろう追加装甲及びユニットは、まるで要塞のような重さをかもし出していた。

 (さて、今回は少しは張り合いがあるといいのだけれど・・・ねえ?リボンズ・アルマーク。)

その機体のパイロットは更に速度を上げ、ぐんぐんと会場に近づいていく。ガンダムフェイス(・・・・・・・・)の下の彼女の表情は、到着をいまかいまかと待ち侘びている様子だった。

 

 

「ガンダムエクシアイラプト、目標を駆逐する・・・なーんて、ね」




ということで、久しぶりの敵性ガンダムの登場でした。話数的にはそこまで離れていないんですが、間に開いた年月がね・・・
本作オリジナルの発展型である「ガンダムエクシアイラプト」に改装されて装いも新たに、次回本格的にリボンズとぶつかり合いますので、ご期待下さい。

また、詳しい機体説明は次回に行いますが、名前の意味だけは今回解説しておきます。
機体名の「イラプト」は、英語で「噴火」を意味する「erupt」を当てはめたものです。もしかしたら、これだけでどの機体をモチーフにしてるか分かるかも ?

次話はとりあえず、年内に出せればいいなと思っております。無論、バリバリの戦闘回のため遅れる可能性もありますが・・・なんとでもなるはずだ!


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34. 強襲 〜蟲蝶の躍動〜

お久しぶりでございます、皆様・・・また投稿に2年かかってしまった・・・

この一年、就活やら何やらでリアルがてんてこまいでしたが、なんとか投稿までこぎ着けることができました。お待ち頂いた皆様に、心から感謝致します。

それでは、大変長らくお待たせ致しました。どうぞ!


〈キャノンボール・ファスト〉のレースに割って入り、どこからかひらりと舞い降りた亡国機業(ファントムタスク)の少女を、一夏たちは注意深く見すえる。顔の上半分はバイザーで覆われており、その表情をうかがい知る事はできないが、その下でニタリと歪む口元からは、彼女の淀んだ悪意が感じられた。

 

「サイレント・ゼフィルス・・・!」

 

セシリアは敵意をむき出しにし、ググッと拳を握りしめ彼女を睨みつける。そして他の面々もまた、それぞれ訝しげな表情でその機体を見つめている。

 

「なんだ、あのIS・・・雰囲気は全然違うけど、なんかセシリアの機体みたいだ。」

「サイレント・ゼフィルス。ブルー・ティアーズの姉妹機だね。確か、まだ試験段階だった筈...まさか、あんなヤツに奪われていたなんて」

「となると、奴もBT兵器を持っているということか?厄介な・・・」

 

シャルロットの説明を聞き、一夏と箒は警戒心を強める。その一方で、セシリアは鬼神の如き様相で相手から目を離さない。

 

「セシリア、今は落ち着け。奴は我々一人一人が対峙しても、容易に勝てる相手ではない・・・分かるな?」

「・・・ええ、分かっていますとも」

 

ラウラの忠告に彼女はそう答えはするが、依然として強い怒りを相手に向けている。その危うげな様子に、ラウラは不安感を覚えた。

すると、そこへリボンズより通信が届く。それを確認した彼女は、少し安堵した様子でそれに応じた。

 

 

「教官! ご無事で何よりです。」

『僕は問題ないさ。それより、そちらの状況はどうなっているんだい?』

「亡国機業の構成員による襲撃です。こちらで確認できるのは、件の2号機のみ...ですが、別働隊が潜んでいる可能性もあるでしょう。外部と一時的に遮断されている以上、我々がひとまず対処に当たります。」

『成程、把握したよ。僕は来客たちの避難誘導に当たらなければならないが、完了次第すぐにそちらに向かおう。』

「ありがとうございます。では、ご武運を」

『ああ、君たちもね』

 

 

話を終えたラウラが改めて敵に向き直った頃には、既に戦闘は始まっていた。暇は与えぬとばかりに繰り出されるBT兵器の猛攻を回避しつつ、彼らはプライベート回線で作戦を共有する。

 

「申し訳ありません、私は後方での狙撃に専念しますわ! この人数での混戦となると、ティアーズでは皆さんを誤射してしまうかもしれません!」

「なら前衛は任せて! ラファールなら、中距離の撃ち合いで優位に立てる!」

「あたしも行くわ! 格闘戦はこっちの方が得意だし、多少は弾幕張れるし!」

「了解! 一夏、お前は奴ら二人の後ろにつけ! 好機があれば切り込んで構わん!」

「よし、分かった!」

 

一夏は勢いよく頷き、先行して敵へ向かった二人の後に続く。それを確認した箒もまた、突撃役として名乗りを上げた。

 

「私も切り込み役に回る! 紅椿の機動性ならば、奴を翻弄することも可能な筈だ!」

「よし、ではそちらも頼む! 私はセシリアの援護にあたるが、万一の時にはお前の機動性が頼りだ、良いな!」

「ああ、任せろ!」

 

少し遅れて前線へ赴く彼女を見送ったラウラは、後方にて狙いを定めているセシリアの横につく。

 

「案ずるな、降りかかる火の粉はこちらが払う。お前はいつもの様に、敵を仕留めることに集中しろ。」

「ラウラさん・・・ありがとうございます」

 

その頼もしい言葉に笑みを零しながら、セシリアはライフルをがちりと構え直した。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「敵は現在、現地の候補生達が対処しています! 落ち着いて行動して下さい!」

 

会場の入口周辺では、警備員たちが観客たちの避難誘導に追われていた。一刻も早くその場から離れようとする人々に、彼らは声を高くして皆に呼びかけ、パニックが起こらないように務めている。そして、そこにはリボンズの姿もあった。

 

 

(ラウラを初めとして、彼女たちは相応の実力を持っている。全滅はないと思うが・・・幾ら相手が一人といえ、襲撃者はテロ組織の実働部隊だ。楽観視はできない)

 

 

拭いきれない一抹の不安を抱えながらも、彼は今の自分の職務を全うすることに意識を向けた。するとチクリとした感覚が、前触れも無しに彼の頭を襲う。

 

 

(この...感覚。この邪気は!?)

 

 

緊迫した状況と不釣り合いな程快晴の空には、何者の姿も見えない。しかし、はるか遠くからその『何者か』が発する悪意に、彼は覚えがあった。

 

 

(...来たか、君までも!)

 

 

敏感にそれを感じ取った彼は、即座にこの場を取りまとめている責任者の下へ向かった。

 

「失礼します。会場内に生徒が取り残されていないかを今一度確認するため、ここは皆様にお任せしたいのですが」

「ああ、IS学園の人! はい、こっちの人員はもう足りてるし大丈夫ですよ。手伝ってくれて助かりました!」

「痛み入ります。それでは、こちらはよろしくお願いします。」

 

礼の言葉も早々に、彼は踵を返して会場の中へと駆け出していく。その顔には、いつかの難敵に対する焦りの色が見えていた。

 

 

(君だけは、彼らの戦いに介入させる訳にはいかない...急がなければ)

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

かの襲撃者は、平静を決め込むその顔の下で、静かに苛立ちを覚えていた。簡単に制圧できるだろうと高を括っていた者たちが、中々どうしてしぶとく彼女に抵抗しているからだ。

 

現在最前線を張っているのは、独自のカスタムが施されたラファール・リヴァイヴに搭乗するシャルロットである。

取り回しに優れた多くの武装を巧みに用いて、その間合いに相手を近づかせない。かと言って、それに乗じて遠距離攻撃を行おうとすると、格闘兵装とアサルトライフルを用いた絶え間のない攻撃に切り替え妨害をする。武装構成の相性も含め、相手にとってこの場で最も面倒な敵と言っても過言ではなかった。

 

「弾切れ、カバーお願い!」

「りょーかいっ、とぉッ!」

 

リロードの際に生まれる僅かな隙を埋める様に、今度は後ろについていた鈴が立ち塞がった。両手に持つ双剣で次々と斬り込んでくる彼女に、相手は鬱陶しさを感じつつ対処する。

 

 

(単純そうな顔をしているが、戦闘においてはそれなりに考えが及ぶようだな。受け流すことは容易いが、こちらから仕掛けることは難しい...か)

 

 

すると、装填を終えたシャルロットが鈴の背後から飛び出し、ライフルを放ちながら盾を構えて突撃する。そして炸裂と共にシールドがパージされると、そこから彼女の決戦兵器が鈍く光り、その姿を現した。

 

 

(パイルバンカー(シールド・ピアース)...! ここで決めに来るか!!)

 

 

ニィ、と愉しそうに歯を覗かせた相手は、急速にスラスターを吹かし、競り合っていた鈴をパワーで弾き飛ばす。次いですぐ側にまで迫っていたシャルロットに対し、躊躇なく得物のライフルを叩きつけた。

 

「くうっ...!」

 

パイルバンカーが貫いたライフルは爆発し、相手の姿を彼女の目から隠す。そしてその一瞬を突かれ、レーザーナイフで杭部分を切り落とされてしまった。

 

「うっそ、あんなぶっといの斬れるもんなの!? なら最初から使ってきなさい、よっ!」

 

その凶刃がシャルロットに向けられる前に、体勢を立て直した鈴が再び相手に噛み付く。彼女は両肩に搭載された衝撃砲を次々と発射し、まとめて当たれば容易くシールドエネルギーを消し飛ばせる程の弾幕を生み出した。

 

 

(あの肩の砲門、衝撃砲。それにこの感じる圧は・・・散弾か)

 

 

小さく舌打ちをした相手は、シャルロットをビットで追撃しつつ、ひとまずその空間から身を退ける。逃がすまじと鈴は砲撃を続けるが、弾の隙間を縫うように相手はそれを回避し、時には搭載されている2基のシールドビットも用いて、被弾を完璧に防いでみせた。

 

「あーもう、その機動力でそれ(シールドビット)は反則よ! イギリスも、こんな面倒なモノ作ってくれちゃってえ!!」

「ならば、こちらも速度で押し通る! 行くぞ、一夏!」

 

鈴とシャルロットの援護と共に、二手に分かれて突撃を仕掛けてきた二人・・・天災の妹(篠ノ之 箒)世界最強の弟(織斑 一夏)は、その肩書きとは裏腹に、他の四人よりも技量が劣っていると、相手は如実に感じていた。

 

「フ...ISの時代を作り上げた張本人と、ISで世界最強へと成った者。その身内ともあろう貴様らが、なんとも不甲斐ないことだな」

 

ここで彼女は初めて口を開き、その声を響かせる。その嘲りの言葉に二人は表情を歪めるが、現実に彼らの攻撃は、彼女に完全にいなされていた。

 

「やはり私たちでは届かん、か。ならば追い立てる(・・・・・)ぞ、一夏!」

「おう!」

 

二人は共に頷き、その攻勢をより強める。箒は更に機体を加速させ、一夏は手に持つ雪片弍型を輝かせ、切り札(零落白夜)を発動させる。

 

 

(あれは...零落白夜か。今の状況でもう切り札を使うとは・・・先のフランスの候補生といい、何を考えている?)

 

 

そう思考しながらも、まともに喰らうと危険だと認識した相手は、万が一を排除するために彼の攻撃を捌く。しかし、それでも一夏と箒は怯まず、ひたすらに彼女を追い立てる。そうしている内に、やがて3人はステージの中央付近へと引き寄せられて行った。

 

「くそっ...マズい、エネルギーが!」

 

シールドエネルギーを度外視して攻めに攻めていた一夏が、そこで苦しげに零落白夜を解除した。それを確認した相手は、嬉々として邪悪な笑みを浮かべる。

 

「ハッ、必殺にかまけて無駄に振り回すからそうなる! やはり貴様は──!」

 

シャルロットの最大火力(シールド・ピアース)は潰し、最大の懸念事項であった零落白夜も底を尽きた。あとに残るのは、全て対処が容易な一般兵装の範疇に過ぎない。そう考えた彼女は、すぐさま一夏を仕留めにかかった。

 

 

 

 

 

「......今です!」

「ああ!」

 

 

 

 

瞬間、彼女を強烈な悪寒が襲う。その感覚のままに彼女が身をそらすと、GN粒子の膜を纏った砲弾が、目の前の空気を切り裂いていった。

 

 

(砲撃...狙撃か?・・・いや、まだ(1号機)が!?)

 

 

それが本命ではないと直感した彼女は、一拍遅れてシールドビットを展開する。そしてその予想通り、二の矢で放たれたレーザーがビットを破壊し、彼女の肩を削っていった。

 

「嘘だろ、アレを防ぐのかよ!?」

「なんという奴だ、全く...!」

 

 

(成程。奴らが大技を惜しみなく使っていたのは、この為だったか。私の意識を奴ら(狙撃手)から逸らさせるための・・・)

 

 

減っていくシールドエネルギーを確認し、彼女は口角を下げる。戦闘続行は依然として可能だが、所詮一介の学生たちに不意を突かれたという事実が、彼女には不快であった。

 

 

(スコールからの指令は未だない・・・増援が来るその前に、奴らを潰さねば。その為にも──)

 

 

彼女は手に再びナイフを展開し、かちりと構える。そして、背部に搭載されている蝶の羽の如き巨大なスラスターユニットを、一斉に後ろに向けた。

 

 

(この脆弱な壁は、ここで突いて崩す!)

 

 

 

────瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

 

 

刹那。

 

相手はシャルロットの懐に潜り込み、圧倒的な速度のままにナイフで切り込んだ。彼女は咄嗟に近接用ブレードを展開し受け止めるが、その激しい勢いには抵抗できず、皆から離れた場所へ連れ去られてしまった。

 

「シャル!?」

「はっやあ!?」

 

相手の殺人的な加速に耐えながら、シャルロットはサイレント・ゼフィルスの凄まじい加速性能に驚嘆していた。

 

 

(なんてスピード...! 瞬発力だけなら、箒の第4世代機にも負けてない!)

 

 

「こ...のっ!」

 

押されながらも、彼女は片手にショットガンを展開し、がむしゃらに放つことで相手を退ける。しかし、相手の離脱と同時に全てのビットが射出され、彼女を取り囲んだ。

 

「セシリア以上の物量・・・でも!」

 

サイレント・ゼフィルスが誇る、ブルー・ティアーズを超える数のビットより放たれる集中攻撃を、彼女は全力で体を捻らせ、なんとか全弾の直撃は回避してみせた。

だが、必殺のつもりで放ったのであろう攻撃が不発に終わってもなお、相手に動揺は見られない。それに違和感を覚えた後方のセシリアは、直後に一つの結論に至った。

 

「ハッ...いけません、シャルロットさん!!」

 

セシリアは咄嗟に叫んだが、最早間に合わない。彼女が回避したと思われたその攻撃は、ぐにゃりと軌道を変え、再び牙を剥き襲い来る。

 

 

(『偏向射撃(フレキシブル)』!? まさか、そんな...!?)

 

 

予想だにしなかった出来事に対し、彼女は最早目を瞑る事しかできなかった。

しかし、直後に来た物理的な(・・・・)衝撃と妙な浮遊感に、彼女は思わず目を開く。

 

 

その瞳に映ったのは、シャルロットがいた位置と入れ替わる様に現れた鈴が、少しづつ遠ざかっていく光景だった。

 

 

「あ・・・鈴っ!?」

 

 

ようやく彼女の頭が状況を理解し、必死にその名を叫ぶ。しかしそれも虚しく、鈴が四方八方から光線に貫かれる光景が、彼女の眼に焼き付いた。

 

「くうぅ・・・偏向射撃(フレキシブル)って、こんな気持ち悪いくらい曲がるもんなの!? こんなの習得してるって、絶対性格悪いでしょアンタぁ!!」

 

甲龍(シェンロン)の全身から火花が散り、満身創痍となった彼女は、苦し紛れに得物を全力で投げつける。だがあっさりと相手に避けられたそれは、虚しく地表へと落ちていくだけだった。

 

「ごめん、あたしはここまでね...絶対アイツをメッタメタにしなさいよ、皆!」

 

声色に悔しさを滲ませながら、彼女はそう言い残して上空から撤退していく。当然、それを逃すまいと相手は鈴に目を向けたが、シャルロットがアサルトカノンを放ち、それを牽制する。

 

「まんまとしてやられたね・・・けど託された以上、もう好きにはさせない! 合わせるよ、二人とも!」

 

彼女は両手に武器を展開し、一夏・箒と共に再び相手に向き合った。

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

前線から少し離れたラウラたちも、鈴があえなく離脱したその顛末を確認していた。

 

「鈴がやられたか...クソッ」

 

 

(こうなると、前線で奴を抑えきれるのはシャルロットしかいなくなる・・・私が、出るべきだ。しかし...)

 

 

本来なら、すぐさまラウラも前線に加わるべきだろう。しかし、彼女が側についているセシリアの存在が、それを躊躇わせていた。

彼女が後方で一人になってしまうと、狙われた時のリカバリーが非常に難しくなる。そんな状況の中、自分も前へ出てしまっていいものか。だが、鈴を欠いた今の状況で、シャルロットたちがいつまで保つか・・・そんな考えが、フル回転するラウラの頭の中で堂々巡りをしていた。

 

「...ラウラさん、どうぞ行って下さいな。今の状況が続いては、シャルロットさんでも場をもたせられません」

 

その葛藤を察してか、セシリアが自ら彼女に声をかける。それに対しラウラは目を見開き、わずかに弱った様な声色で応える。

 

「セシリア。しかし・・・」

「私への心配は無用です。あの者と相対することはできなくとも...逃げおおせることはできますわ。いざとなったら、野兎の様に跳ねてみせますとも。」

 

一見気丈に振舞っている彼女だったが、その手が微かに震えていることを、ラウラは見逃さなかった。しかし、恐怖をおくびにも出さない様子から、彼女はセシリアの覚悟を理解した。

 

「...フ、そうだな。その時には、奴の面を後ろ足で蹴り飛ばしてやるといい。きっとよく跳ねる筈だ」

「うふふ...ええ、きっと。さあ、早く」

 

彼女に背中を押される形で、ラウラは前線へとその身を急がせた。生娘の様に手を震わせながらもそう言ってのけたセシリアに報いるため、彼女は改めて決意を固める。

 

 

(すまない、セシリア・・・お前には危険な橋を渡らせてしまう。だが決めたからには、我々はここで奴を沈める。必ず、必ずだ!)

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

啖呵を切った三人は、シャルロットを中心にして敵に近接戦闘を仕掛けていた。相手は後退しながらビットを次々に放つが、それぞれに攻撃が分散してしまい、中々決定打とすることができないでいた。

 

 

(やはり彼奴の機体は、こちらの武装構成と相性が悪い...実に厄介だ。先の一撃で仕留めておきたかったが・・・)

 

 

彼女が三人の連携に手を焼いている所に、一夏が再び仕掛けた。

 

「だああああッ!!」

「! いくら機体の格闘性能が良くとも、パイロットが貴様ではな!」

 

渾身の不意打ちを呆気なく対処された彼は、苦しげに叫ぶ。

 

「クソッ、やっぱ反応が速ぇ!?」

「それでいい!そのまま抑えていろ、一夏!」

 

拮抗した両者の元に、後方から駆けつけたラウラが箒と共に、彼の者を仕留めんとビーム・サーベルを展開し突撃する。それと同時にシャルロットも、どこにも逃がすまいと銃器を構えた。

 

 

(囲まれたか。ナイフは(織斑 一夏)で塞がっている今、残るは自爆覚悟のビット攻撃・・・いや、ここは)

 

 

しかし、彼らの研ぎ澄まされた戦意は、相手の次の一手によって瓦解することとなる。

 

 

 

「...はあ!?」

「何!?」

「嘘...!?」

 

 

 

彼女はバイザー以外の装甲を突如解除し、ひらりとその身を重力に任せた。

為す術もなく地上へと落ちていく敵の姿に、全員がぎょっとして動きを鈍らせる。

 

 

 

「・・・フフ」

 

落下しながら、彼女は再びISをその身に纏う。ぐにゃりと口角を上げてほくそ笑み、上空で密集している一夏たちに向け、展開したビットよりレーザーを斉射した。

 

「これしきのことで...っ!」

 

ラウラは咄嗟にGNフィールドを起動し、己の身を守った。一方で彼女ほど防護範囲が広い盾を持ち合わせていないその他の面々は、あえなくダメージを負ってしまう。

 

「クソッ!! アイツ、マジかよ!?」

「敵の目の前でISを解除するなど...正気か!?」

「あ・・・ダメだ、セシリアが!!」

 

彼らに痛手を負わせた彼女は止まらず、そのままセシリアに接近する。今までは集団戦に持ち込み、狙撃手が正確に狙いを定めることを妨げていた。だが前線が乱れた今、孤立している彼女を瞬時に始末することなど、相手にとっては造作もないことだった。

 

「不味いっ...箒!!」

「分かっているッ!!」

 

少し遅れ、箒がセシリアのカバーに向かう。しかし紅椿の機動性をもってしても、最早間に合わない所にまで相手は迫っていた。

 

 

※※※※※※※※

 

 

(撃てなかった...撃てなかった!! せっかく、皆さんが作り出した大きな隙を...! アレは祖国の機体を奪った、野蛮なテロリスト! 同情の余地もない、その筈でしたのに・・・!)

 

 

敵の姿がぐんぐんと大きくなっていくその光景に、セシリアは緊迫感で視界がくらむのを感じた。しかし、湧き上がる恐怖心を無理矢理に押し込め、その姿を決して目から離さない。

 

 

(このまま何も貢献できずに墜とされる訳には・・・祖国に、そして皆さんに、面目が立ちません!!)

 

 

「っ...ティアーズッッ!!」

 

敵が目と鼻の先にまで近づいたその時、彼女はビットを展開し、地面に向けミサイルを放った。周囲に爆煙が立ち込め相手は煩わしそうにするも、すぐにある異変に気付く。

 

 

(奴の反応が、消えた? 馬鹿な、あの機体にセンサーを欺く機能などある筈が...)

 

 

彼女は少し思考した後、先程自分がやってのけた芸当を思い出し、心底不愉快そうに鼻を鳴らした。

 

 

(フン...大したタマだ。ご令嬢がよくやる)

 

 

それと同時に、煙の中から生身の状態のセシリアが転がり出る。彼女の無事を確認した箒は、すぐさま彼女の身柄を回収した。

 

「セシリア! まさか・・・やったのか、奴と同じことを!?」

「ええ...あの者にできて、私にできない道理はありませんもの」

「なんと無謀な・・・だが、よくやったぞ!」

 

そのまま皆と合流した箒は、腕に抱えたセシリアを地面に降ろす。そこで彼女は再びISを展開し、無事戦線へと復帰した。

 

「大丈夫か、セシリア!? 悪い、俺たちがミスっちまったから・・・」

「いいえ、ご心配おかけ致しました。...もう、問題ありません」

 

彼女はそう言ったが、内心は穏やかなものではなかった。先程感じた恐怖は勿論のこと、自分のミスで全員を危険に晒してしまったことに、彼女は独り悔いていた。

 

 

(私が、平静を失い・・・『偏向射撃(フレキシブル)』について伝えることを失念していたばかりに、お二人を危険に晒してしまうなんて。それどころか、敵を撃ち抜く絶好のチャンスまで逃して...!!)

 

 

自責の念と憤りが、先程の恐怖と相まって、彼女の体を震わせる。どうすれば、あの難敵を倒すことができるのだろう。どうすれば、あんな邪悪に笑い、底冷えのする声を発する者を? どうすれば、どうすれば─────

 

 

 

 

と、そこで。彼女は戦闘中の記憶を辿り、ある事に気が付いた。

 

 

(...そう、いえば。あの敵は、一夏さんに対してはやけに口数が多い・・・何故でしょう? 唯一の男性操縦者だから? それとも、織斑先生(世界最強)の弟だから? いえ、理由は分かりませんが、もしこの認識が正しければ・・・!)

 

 

あの敵は、一夏に対して執着心を持っている。

かつて、自分が彼に突っかかっていた様に。

セシリアは、そう結論付けた。

 

 

(なら・・・この方法なら、もしかして!)

 

 

もう猶予はない。全員が無事合流したことに相手が警戒しているその内に、彼女はプライベート・チャンネルを通じて皆へ呼びかけた。

 

 

 

「皆さん、作戦がありますの! 一か八か、もう一度あの敵の隙を作ることができるものが!」

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「会長。ただ今をもって、来賓が全員避難を完了した模様です。」

「そう...よかった。うちの生徒はどう?」

「そちらももうじき完了します。リボンズさん含めた、警備員や教員の方々の誘導が功を奏しましたね。」

 

虚の報告を聞き、刀奈はひとまずホッと胸をなで下ろした。

 

「ありがたい限りだわ。じゃあそろそろ、私もあの子たちの加勢に...」

「それは困るわね。貴方にまで介入されると、流石のあの子も厳しくなるもの」

 

突如として一つの声が、彼女の言葉を遮った。刀奈は驚き、その第三者に振り返る。

 

「こんにちは。ご機嫌いかがかしら、生徒会長さん?」

「・・・貴女は」

 

そこに立っていたのは、先刻会場内でリボンズが出会った女。

『スコール』。それが亡国機業の、彼女のコードネームであった。

 

「・・・そう、そういうこと。改めまして、初めてお目にかかるわね、亡国機業」

「ええ、初めまして。先日はウチの二人がお世話になったみたいね。」

「それはもう、元気にはしゃいでくれたわ。彼女の調子はどう?オイタした怪我が残ってなければいいのだけど。」

「あの程度の傷、どうとでもなるもの。お腹にはまだ少しアザが残っているけれど・・・敵を五体満足で返すだなんて、貴女の学び舎は随分とご教育がよろしいみたいじゃない?」

 

嫌味を込めた刀奈の言葉にも、女は表情一つ変えることなく、飄々と対応してみせた。その様子に彼女は、目の前の女に対する認識を引き上げる。

 

「あらあら、お褒めに預かり光栄ですわ。もし宜しければ、そちらのお嬢様を私の学園に入学させてはいかが?どんなやんちゃで手の付けようのない子でも、立派な淑女に育て上げてみせるわよ。」

「そうねえ・・・せっかくだけれど、辞退させて頂くわ。色々とトラブル続きみたいで、怖いんだもの」

 

困ったように目尻を下げる女に、誰のせいだと、と毒づきたくなる衝動を必死に抑え、彼女は扇子を持つ力をぐぐっと強めた。

 

「...それは、私たちの不徳と致す所よ。それで?貴女たちの目的は何なのかしら。」

「なんだなんだと聞かれれば、って奴かしら?ごめんなさい、私たち(亡国機業)はフィクションほどお人好しじゃないのよ。」

 

そう言い放ち、女は金色に輝くISの腕部を部分展開させる。その絢爛かつ禍々しい姿に、刀奈は人知れず冷や汗を流した。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

「ハアッ!!」

 

勇ましい掛け声と共に、箒が真正面から二つの刀で斬りかかる。高い機動性と純粋な武器の数の差に、相手は防戦一方ではあるが、それでも苦しい様子は見られない。

 

「たった一振りのナイフでよくも...! しかし、捕らえたぞ!」

 

二人が斬り結ぶ中、2基の展開装甲が紅椿から分離し、相手の背後から迫る。それらはGNファングの如くエネルギー状の刃を纏い、単体でも痛手になりうるものだった。

 

 

(ほう、自ら突撃するBT兵器か。だが、そう図体が巨大では!)

 

 

後ろの脅威を確認した彼女は、箒にわざと押し負ける形で後ろへ飛び、自らを狙う展開装甲へ手を伸ばした。そして1つをむんずと掴むと、自身の機体の加速性能を利用して、展開装甲の制御を無理矢理(・・・・)奪い、逆に箒へそれを叩き付けた。

 

「な...ッ!?」

「箒っ!? んの野郎!!」

 

激昂した様子の一夏が、次いで彼女に攻撃を加えた。しかし、前回にも増して単純な太刀筋だったそれを、彼女は難なく受け止める。

 

「ハ! 生憎だが届かんよ、貴様のそれでは!」

「ああ、そうかよ...だったら、コイツはどうだ!?」

 

その言葉と共に、彼は突如『雪羅』を荷電粒子砲に変形させ、容赦なく相手の顔面目掛けて放つ。予想だにしなかった彼の更なる隠し玉に、彼女は反応が遅れてしまった。

 

 

(白式に、射撃武装だと!? 馬鹿な、そんな情報は...)

 

 

視界を突然覆い尽くした光に、彼女は反射的に目をつぶってしまう。そして、鈍い衝撃が彼女の頭部を襲った───

 

 

 

が、数刻して彼女は再び目を開ける。バイザーに隠れたその目は、困惑の色で染まっていた。

 

 

「・・・こ、れは・・・?」

「ははっ...なんつってな。コイツは、そこまで威力が無いんだ。あれ、もしかして・・・ビビっちまったか? お前が、俺みたいな雑魚に負けるって?」

 

そう言って煽る彼の表情は、誰がどう見ても無理をして作っているものだった。だが、本人にとっての絶好のチャンスを、わざとこんな形で無駄にされたというその事実が、彼女のプライドを強く踏みにじった。

 

「き、さまァッ・・・!!!」

 

とうとう怒りの感情を露わにした彼女は、一夏を力に任せて吹き飛ばし、会場の壁に叩きつける。対する彼は苦しそうにしながらも、気丈に口元を上に吊り上げた。

 

「ぐ......実は、さ。アンタのこと、少し千冬姉みたいだって思ってたんだよ。戦闘の時の、あの底知れない感じが・・・でも、勘違いだったみたいだ」

 

「千冬姉なら、今のアンタみたいにブチ切れたりしねえ!! きっと俺が煽る間もなく、一刀両断してそれで終わりだ! でも、アンタはそうじゃなかった・・・だったら、もう何も怖くねえ」

 

「───ッ!!」

 

激情のまま、彼女は歯を噛み締める。そして一夏の体を片手で持ち上げると、その周囲にビットを展開し出力を上げ始めた。

 

「いいだろう・・・最早塵の一つすら残してやるものか」

 

彼を取り囲むビットが、眩い光を発し始める。そんな絶望的な状況の中でも、彼は冷や汗を流してはいたが、その目に諦めの色は無かった。

 

「消えろ、織斑 一夏ッ!!!」

 

 

 

 

 

彼女のどす黒い怒りが、光となってぶつけられる寸前。遠方からセシリアが放った一筋のレーザーが、展開されたビットを貫いた。

 

 

 

 

「何っ......!?」

 

一夏を確実に仕留めるべく、ありったけの殺意とエネルギーが込められていたそれは、彼らの頭上で大爆発を起こす。それにより生まれたあまりにも大きな隙を、彼が見逃す筈がなかった。

 

「い、まぁぁぁぁっ!!!」

 

一夏は彼女の拘束を振りほどき、ここぞとばかりに再び零落白夜を起動する。そして、がら空きの彼女の胴体をザン、と大きく斬り払った。

 

「ガあっ・・・く、ううッ!!」

 

彼女は残ったビットから、がむしゃらにレーザーを放ちつつ彼から離れようとする。最早その動きには、先程までの精錬さは存在しなかった。

 

「逃がさねえッ!!」

 

一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を吹かし、後方へ退避する彼女にグンと追いついた。力強く、これでとどめと言わんばかりに雪片弍型を振り上げる。

 

 

 

「うおおおおおおッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その一撃が、彼女を喰らわんとしたその時。

 

 

 

 

突如。

 

 

 

 

オレンジ色のビームが、隕石の如く彼に降り注いだ。

 

 

 

 

 

「は・・・・一夏ぁっ!?」

「そんな...今度は何!?」

 

 

皆が一斉に、無数の光が堕ちる空を仰ぎ見た。すると、雲の合間より濃いオレンジの粒子が、まるで黄昏の夕陽の様に顔を覗かせる。やがてそれが霧散していくと、同時に一つの影が姿を現した。

 

「奴は...!!」

「嘘・・・こんな時に」

「ラウラさん、アレは...!」

 

次はラウラが、少なからず因縁のある相手を前に、顔をしかめる番となった。

 

 

 

 

「ガン、ダム・・・ッ!」

 




というわけで、最新話でございました。今回は、原作組の活躍がメインとなっていましたね。次回、本格的にガンダム同士の対決となりますので、どうぞお楽しみに!

今回も2話連続投稿をしようと考えていたのですが、あと1話の完成がまだ少し時間を必要とするため、一足先にこちらを投稿させて頂きました。次の話も、1週間を目安に投稿したいですね・・・


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35. 閃光のEXIA 〜Eruption〜


お待たせしました! 宣言の一週間は少し越してしまいましたが、無事完成しましたよ!

今回も宣言通り、ゴリゴリの戦闘回となっております。ガンダム同士の対決も本格化しますので、どうぞお楽しみ下さい!



戦場と化したアリーナに突如現れたのは、彼らが以前臨海学校で出くわした、黒いガンダムであった。亡国機業(ファントムタスク)の刺客との死闘で全員が消耗している中、それは彼らを嘲笑うかの様に傷一つ無く、鋭く光を反射していた。

 

「あらまあ、皆さんお揃いで。私が来る前から、随分と盛り上がっていたみたいじゃない?」

 

呆然とそれを見つめる彼らに、操縦者の女は軽い調子で話しかける。ただそれだけで、彼女はその場の流れを一気に支配した。

 

 

(間違いない...姿は違うが、奴は以前の! 何が変わった? どう仕掛けてくる?)

 

 

ラウラは注意深く、再び姿を現したガンダムの姿を観察する。最初の会敵から顕著に変化している点は、何よりその外見であった。

カラーリングこそ似通ってはいるが、スマートだった前回とは違い、上半身を中心に全体がマッシブになっている。特に肩に増設された装甲は、武士が羽織る甲冑を彷彿とさせた。

 

 

(それに、あの"剣"が無い? 両腕には、砲身が長いライフルの様な武装が搭載されている...アレで一夏を狙ったか)

 

 

見た目から推測される情報を整理した彼女は、冷静に新たな脅威に対処する。

 

「貴様、先日の敵性ガンダム・・・何故ここに来た? 何が目的だ。」

「そんなこと、教えるわけないじゃない。でも、貴方なら察しはつくんじゃないかしら。ねえ? お人形さん。」

 

女の相変わらずの物言いに、彼女は不快感を覚えながらも毅然と皮肉を返す。

 

「言いたいことはそれだけか? 機体のナリは変わったようだが、語彙はまるで増えていないじゃないか。英国人(イングランダ)のジョークでも見習うことだな」

「あら、貴方に『人形』以外の言葉は必要? それとも、『自動人形(オートマータ)』にでも格上げしてあげましょうか。」

 

最早語る言葉はない、と答えるかのように、ラウラは無言で両手のビーム・サーベルを展開する。その様子に、相手は少し楽しそうな声色で応えた。

 

「へえ...前はお姉さんにおんぶにだっこの有様だったけど、今回はまだ面白そうじゃない。」

 

相手の背部に搭載されていた一対の三角形のユニットが、サブアームにより稼働し、両腕のライフルの下部に接続される。それが銃身と合体することで、全体がまるで歪な鉈の様な形状になった。

 

 

(あの武装...形状こそ違うが、以前GNフィールドを切り裂いた"剣"か? 留意しておかねば)

 

 

そうして彼女が臨戦態勢を整えると、シャルロットもその隣に立ち、敵のガンダムへと相対した。その両手には、銃火器の代わりとしてブレードが握られている。

 

「手伝うよ。弾薬はほぼ残ってないけど、斬り合いをする位は・・・」

「感謝する。だが、決して深追いはするな。奴の剣を実体剣で受けるのはリスクが高い。」

「分かった。なるべく受け流すようにするね」

 

二人が情報を共有する中、相手は興味深そうにシャルロットのラファールを見つめていた。

 

「貴方はフランスの...なら、丁度いいわね。彼の前に、イラプトの肩慣らしに付き合って貰うわよ」

 

彼女がそう言い放つと共に、戦闘の火蓋は切って落とされた。

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

(...なんだ、この状況は? 一体、何がどうなっている)

 

 

亡国機業の少女は、目の前で繰り広げられている状況に唖然としていた。敗北が目前にまで迫っていた彼女だったが、突如として現れた正体不明のISによって、結果的に窮地を救われる形となっていた。

 

 

(あの機体は、奴等を攻撃対象としている・・・こちらの増援か? いや。あの全身装甲(フルスキン)は、ドイツの候補生やオータムが遭遇した個体に見られる特徴の筈。一体奴は、どこの勢力だ...?)

 

 

彼女は思考を巡らせるが、ついぞ思いつくことはなかった。そして、彼女にとって深刻なある事実が、再び頭の中を支配した。

 

 

(負けていた、あのままでは。奴が割って入ってこなければ、私は織斑 一夏に・・・!)

 

 

織斑 一夏(ヤツ)に負けたくない」。その一心で、なりふり構わずに彼から逃げた自分の醜態に、彼女は表情を酷く歪ませる。するとそこへ、彼女に指示を下す立場であるスコールが、通信を寄越してきた。

 

 

『M、状況を教えて頂戴。そっちで何が起きているの?』

「...乱入者だ。恐らく、我々とは全く別の目的で動いている。」

『乱入・・・? そう、分かったわ。こうも場が混沌としていると、これ以上は厳しそうね。作戦は中断よ、直ちに撤退なさい』

 

 

彼女の指令に、"M" と呼ばれた少女は歯噛みし、不快感を露わにする。しかし引き際を見誤るほど、彼女は未熟ではなかった。

 

「了解した・・・クソッ」

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

更なる敵襲により場が混沌としている中、亡国機業の少女がどさくさに紛れてアリーナから去っていく姿を、セシリアは目撃していた。

 

 

(ラウラさんとシャルロットさんは、例の敵で手一杯。箒さんも、一夏さんが撃墜されてそれどころではないでしょう......私が!!)

 

 

「待っ・・・逃がしませんわよ!!」

 

思考が終わる頃には、彼女の体は既に動いていた。飛び去っていった少女を追い、ブーストを吹かして上空からフィールドの外へ躍り出る。

 

 

 

自分が、やらなければ。

 

決着を、つけなければ。

 

皆の尽力を、無駄にしない為にも。

 

 

 

心の中で反芻しながらも、自分を動かしているのはもっと単純な感情であることに、彼女は気付いていた。

 

 

(一夏さん...ごめんなさい。貴方をお慕いする身でありながら、今は貴方の下へ駆け寄る事よりも、こんな醜い感情を優先してしまいます)

 

(そして、リボンズさん...諭して下さった貴方にも、私は泥を塗ってしまう。本当に、申し訳ありません)

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

その頃箒は、少女の後を追うようにフィールドから飛び去ったセシリアを確認した。

 

「セシリア!? く、たった一人で行かせる訳には......」

『・・・ってえ...なんなんだよ、アイツは』

「あ...一夏っ!!」

 

その声を聞いた箒は、攻撃を受け墜落した一夏の下へ駆け寄った。彼は苦しそうではあったものの、ISの絶対防御機能が働いたらしく、なんとか身体への影響は免れていた。

 

「一夏、一夏! 大丈夫か!?」

「なんとか・・・けど、シールドエネルギーがもう残ってねえんだ。『絢爛舞踏』を頼む、いけるか?」

 

圧倒的に格上の相手と戦った後だというのに、今度は規格外の存在を相手にするつもりか。箒は目をつりあげて怒り、一夏の両肩を掴む。

 

「馬鹿者! あれだけの戦闘をして、まだ動くつもりか!?」

「相手はリボンズさんを倒した奴だぞ!? そんなのを、ラウラとシャル二人に任せっきりにはできねえよ! それにセシリアだって・・・」

「確かに、そうだが...しかし!!」

「迷ってる暇なんかない、リボンズさんがまだ来れない以上、俺たちしかアイツを止められねえだろ! 繋ぐんだよ、今の俺の全部を使って、リボンズさんに!」

 

今の自分にできることを、という使命感に突き動かされる一夏と、ただ一心に彼の身を案じる箒の間では、議論は平行線に進むだけだった。

新たな一つの声が、彼らの間に介入するまでは。

 

「───いや、それには及ばない。君たちは、既に素晴らしい働きをしてくれた」

 

その声に、二人は一斉に振り向く。するとそこには、既に1.5ガンダムをその身に纏うリボンズの姿があった。

 

「リボンズさん、待ち侘びたぞ! 」

「リボンズさん! 皆は!? リボンズさんも...怪我とか、してないよな?」

「心配は無用さ。君たちの尽力あって、無事避難は完了したよ。ありがとう...そして、もう大丈夫だ。」

 

彼の答えに、一夏は安心し体の力を抜く。そして、彼らの現状を簡潔に説明した。

 

「亡国機業の奴は倒せそうだった。でも、今度はアイツが・・・あのガンダムが、急に乱入してきたんだ。」

「その様だ。箒、君は一夏と共に撤退を。これ以上、君たちが無理を重ねることはない。」

「分かった。一夏、良いな?」

「・・・ああ。今回も、リボンズさんの力になれねえのは悔しいけど...正直、これ以上雪片を振れそうにない。こんなんじゃ、足でまといにしかならないしな」

 

口惜しそうにする一夏だったが、その代わり、と次の言葉を続ける。

 

「今度は、勝ってくれよな。アイツに、あの時のリボンズさんとは違うって、目にもの見せてやってくれ!」

 

そう言ってニッと笑った一夏は、リボンズへ拳を突き出した。その意図を瞬時に把握した彼は、装甲に覆われた自身の拳をそっと合わせる。

 

「任せてくれたまえ。君は安心して、悠々と体を休めるといい。今日は千冬を存分にこき使っても文句は言うまいさ」

「へへ...かもな。じゃ、箒。」

 

一夏の目配せを確認し、箒は彼を抱き抱え、撤退の体勢に入った。

 

「了解した。ではリボンズさん、後は頼む」

 

そうして二人は、アリーナと施設を繋ぐ扉から姿を消した。その後ろ姿を、リボンズは慈しみを込めた目で見送る。

 

 

(...全く、君という人間は。君は既に、ここまで皆の力になっているというのに・・・周囲の者に恵まれ過ぎるというのも考え物だ)

 

 

後ほど一夏を労うことを心に決め、彼はラウラとシャルロットが戦っている仇敵へと目を向けた。

 

 

(やはり、あの突き刺さる様な情念は彼女の・・・全く、悪い勘はよく当たる)

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

一方、ラウラはシャルロットと共に、ガンダムと戦闘を始めていた。主となって敵と斬り結ぶラウラは、何か有力な情報を引き出すべく、口を開いた。

 

「貴様の機体、随分と装備も変わっているな。彼女(クロエ)に負わされた傷は、相当なものだったか?」

「そう言う貴方は、てんで代わり映えしないじゃないの。それに、こうなったからこその使い方もある。」

 

その物言いに疑問を覚える彼女だったが、直感的に鍔迫り合いを解き、その場から退避する。すると、先程まで斬り合っていた相手の得物から、粒子ビームが勢いよく放たれた。

 

「あら残念、もう少しで当たったのに」

「...銃剣(バヨネット)か」

 

ラウラは、以前のGNソードはライフルを使用する際、刀身を折り畳んでいた事を思い返していた。

 

 

(あの予備動作が無くなったということは、格闘戦の際にいつでもライフルで虚をつける、ということか。成程、これは些か分が悪い・・・だが!)

 

 

それでも彼女は、あえて接近戦で勝負を挑む。それは相手の間合いが長く、小回りが効きにくい武器であることから、懐に潜り込む事ができれば付け入る隙がある、と考えた為だった。

 

 

(貴様を倒すのは、あくまで私である必要はない。今、貴様の手札を一つでも多く暴いてみせる! 曝け出せ、その鎧に隠すものを全て!)

 

 

ラウラはライフルから次々と放たれるビームを回避しながら、着実に相手との距離を詰めていく。そして、再び自分の間合いに持ち込むことに成功した。

 

「ハアッ!!」

 

彼女は相手のライフルを押し退け、がら空きになった胴体めがけてサーベルを叩き込もうとした。

しかしそれより前に、唐突に現れた2本の光が彼女を貫く。

 

「脚部に、サーベルだと...ッ!?」

「おめでとう、一つ見つけられたわね。でも、これ以上はくれてあげない」

 

思わず怯んだ彼女に、相手は容赦無く剣を振り下ろす。そこへ、共に戦っていたシャルロットが無理矢理に割り込んだ。

 

「ラウラ!!」

 

不意打ちにより痛手を負ったラウラを庇い、相手の剣をシャルロットが受ける。だが、彼女はすぐさま機体の性能差を思い知ることとなった。

 

「ぐっ、うぅ・・・!」

 

 

(なんてパワー...! ラファールはもちろん、さっきの機体とも訳が違う! こんなヤツを、リボンズさん達は相手にしてたの!?)

 

 

サイレント・ゼフィルスをも凌駕する、その圧倒的な力に彼女は戦慄する。万全の状態ではないことを加味しても、彼女のラファール・リヴァイヴが敵う相手では到底なかった。

 

「フランスの候補生さん、いいISに乗ってるわね。量産機であるラファール・リヴァイヴのカスタム機...なんともロマンに溢れた機体だわ」

 

女はシャルロットの機体を称えながら、GNドライヴの出力を上昇させる。背部から排出されるオレンジ色の粒子が増えると共に、剣はジワジワとラファールのブレードに食い込み、ヒビを生じさせた。

 

「でも、お生憎様。ロマンは現実に押し潰されるものよ」

 

そしてとうとう、彼女の得物は砕かれてしまった。その勢いのまま、剣はシャルロット本人を容赦なく切り裂く。

 

「ああっ!!」

「シャルロット!! これ以上は危険だ、退け!」

 

ラウラの警告も虚しく、シャルロットがもう一撃を食らいそうになったその時。どこからか放たれたピンク色のビームが、女に直撃した。

 

「チッ・・・セキュリティを色々と弄っておいたんだけど、思ったより早かったじゃない」

 

相手が一旦引き下がると同時に、リボンズが二人の所へ駆けつけ、武器を構えた。

 

「教官!」

「待たせたね、ラウラ。シャルロット、君もよく持ち堪えてくれた。後は僕が引き継ごう」

「全然、このくらいへっちゃらだよ...なーんて、口が裂けても言えないかな。ふふっ・・・」

 

ビームライフルを敵に向けて牽制をしつつ、彼は二人に激励の言葉を送った。二人は笑みを浮かべながらも、同時に悔しそうな声色で、彼に話しかける。

 

「教官、遺憾ですが...我々は、ここまでです。お力になれず、申し訳ありません」

「僕は臨海学校の時に戦っていないから、比較はできないけど・・・あの機体、もの凄いパワーを持ってるよ。気を付けてね」

 

二人がそのまま撤退しようとする時、ラウラは去り際に補足する形で、彼に自らの身をもって得た情報を伝えた。

 

「彼奴の両腕の武装は、銃剣の様な機構になっている模様です。また両足には、ビーム・サーベルが隠されていました。接近戦に持ち込む際は、お気を付けて。」

「隠し腕か・・・ありがとう、留意するよ」

 

 

 

そして、この瞬間。アリーナにおいて、ガンダム二機が再び対峙した。

 

 

※※※※※※※※

 

 

「真打ち登場ね。お久しぶり、リボンズ・アルマーク。あれから息災だった?」

「...ああ、お陰様でね。あれから自分を見つめ直すことができたのは、君が僕を打ちのめしてくれたからとも言える。その点では、君に『ありがとう』とでも言うべきかな?」

「あら、随分と素直じゃない? なら、一皮剥けた貴方にお願いがあるのだけど。」

 

エクシアはグンと彼に接近し、ライフルに接続された剣を構える。

 

「今一度、負けてくれるかしら?貴方の輝かしい進歩と、私が望む未来の為に」

 

彼女の言葉と共に振り下ろされた剣を、リボンズはビーム・サーベルで受け流す。いきなりの接近戦の最中、彼は敵のガンダムの情報を分析していた。

 

 

(彼女のエクシア...見た目は違うが、あの肩の形状からして、恐らく『アヴァランチエクシア』。粒子を解放すれば、トランザムを使わずとも驚異的な速度を引き出すことができる・・・厄介な物を引っ張り出してきたものだ)

 

 

彼は警戒しつつ、敵のエクシアから一旦距離を取る。それは大仰なライフルが増えているとは言え、彼女の機体がエクシアを元にしている以上、格闘戦を得手としている筈だと考えた為だった。

 

しかし。

相手はその先入観を、いとも容易く打ち砕く。

 

彼女は待ってましたと言わんばかりに、一切の躊躇なく右手のライフルを構える。そしてそこから放たれたのは、一夏を撃ち落とした時とは比べ物にならない程、野太いビームの砲撃であった。

 

 

(エクシアに、これ程の射撃兵装を? 一体何を考えて・・・)

 

 

エクシアとは不釣り合いな程の威力のビームに、彼は疑問を抱きつつも回避する。それを確認した相手は頭部装甲の奥で不気味に笑い、合わせてグンと右腕を振りかぶる。

するとその動きに合わせ、照射されているビームが鞭のようにしなり、リボンズを襲った。

 

「何...!?」

 

彼は咄嗟にシールドを構え、直撃を避ける。しかし、ビームはまるでサーベルの如く継続的にダメージを与え、照射が一旦の終わりを向かえた頃には、盾は見るも無惨な姿に変わり果てていた。

 

 

(GNフィールドを纏わせたシールドでも、ここまでの損壊を? それに、先程のビームの動きは......粒子の圧縮率や指向性を、自在にコントロールしている? だがあれ程の制御となると、相応のクラビカルアンテナが必要な筈だ。・・・まさか)

 

 

彼は信じられないといった表情で、敵の得物を見つめる。そんな彼の様子を察したのか、彼女は上機嫌で彼の抱いている疑念に答えた。

 

「気付いたみたいね。このライフルから放たれるビームは、下に接続されたクラビカルアンテナによって制御されている。更にアンテナ自体にも粒子を供給することで、耐久性を底上げさせて近接戦闘にも対応できるって仕組みよ。まあ、脳筋戦法と言われても仕方ないけれど。」

 

 

(・・・ならばあの武装は、最早ビームライフルという枠には収まらない。規模こそ比較にならないが、簡易的な『ライザーソード』と言ってもいい。アヴァランチユニットを素体に選んだ理由は速度ではなく、大型コンデンサーによる圧倒的な粒子保有量、という訳か...成程、一杯食わされたよ)

 

 

彼はその武装のコンセプトに、心の中で驚嘆する。だがそれを悟られぬ様、外面は冷静さを崩さぬ様に、感情を抑えて相手に話しかけた。

 

 

「やはり、か。それにしても、粒子の制御を司るアンテナを、まさか武器にしてしまうとは・・・随分と思い切った真似をするじゃないか。」

「フフ、何も初めてって訳じゃないでしょう? なんて言ったかしら......アクウオス、でしたっけ。アレにも、アンテナの機能を有した武器が搭載される予定だったんでしょ? 粒子のコントロールという訳ではなかったみたいだけど。」

「...その情報をどこから手に入れた、とは最早聞かないさ。そのエクシアも、『アヴァランチ』を元にしているんだろう? 君は一体何者なんだ。いやに僕らの世界・・・いや、『ガンダム』に関わる事象について知り過ぎている。」

 

 

例えば、リボンズが以前出会った、ミスター・ブシドーに酷似した花屋の店主。初めて見た時には度肝を抜かれたが、彼も結局は「よく似た他人」であり、単なるこの世界の住人であった。

 

だが、目の前の女はどうか。ガンダムに隠されたその姿を推し量る事はできないが、彼女は『あの世界』について、やけに詳細な知識を持っている。

 

 

(彼女は『イノベイド』という言葉を知っていて、前回僕をそう呼んだ。それに、ソレスタルビーイングの存在や、僕の慢心の結末までも。まさか、彼女も?)

 

 

彼は記憶を辿るが、ソレスタルビーイングにもアロウズにも、彼女の様な人物は存在していなかった。そして彼のそんな考えを見透かしたか、彼女はふっと軽く笑う。

 

 

「そんなに警戒しなくても、私はあくまでただの研究者よ。この世界で生を受けて、この世界で死ぬ運命にある、ちっぽけな存在に過ぎない。ただ───」

「ある日、運命的な『天啓』を受けた...そこだけは、違うかもね」

 

 

彼女は威風堂々と両腕を大きく振り上げ、再び野太いビームを銃口から放った。そこからリボンズに叩きつけるかの様に、勢いよく振り下ろす。

 

「くっ・・・」

 

シールドが使い物にならなくなった今、彼は二つのビームの奔流を掻い潜りながら、反撃の機会を伺う。暴れ回る大蛇の如く変則的なうねりを見せるそれらは、いつ気まぐれに彼の体を呑み込んでもおかしくはない。

 

「ふふふっ。ほぉら、避けてるだけじゃ終わらないわ、よッ!」

 

彼女の笑い声と共に、突如として砲撃が中断される。粒子の不足かと思われた次の瞬間、彼女の右側の銃口が激しく瞬いた。

 

 

(────ッ!!!)

 

 

背筋を奔った、電撃の様な悪寒に身を任せ、彼は全神経を回避に集中させた。すると一拍もしない内に、高密度の粒子ビームが、光の尾を引いて1.5ガンダムの背部バインダーを穿っていった。

 

「へえ・・・あの一撃を避けるなんて、大したものね。」

 

 

(今の速度は、狙撃・・・そうか、あの出力と粒子制御能力の高さならば、あんな芸当も可能な筈だ。そこに思考が及ばなかったとは......失態だね)

 

 

そう分析しながら、彼は自身の機体の現状を確認する。本体は無傷だが、身を守る盾は既にボロボロになり、バインダーは先程の攻撃でお釈迦となった。元々ライフルとサーベルだけのシンプルな武装構成だとは言え、あれ程の火力を誇る機体と対峙するには、今の状況は心許なく思えた。

 

「理解したでしょう? これはもう、刹那・F・セイエイ(ガンダムマイスター)の物じゃない。私が生み出した、エクシアの新たなカタチ...大樹すら呑み込むマグマの様に、貴方のガンダムを純粋な火力で圧倒する。その為に作ったのよ、この『イラプト』は!!」

 

まるで勝ち誇る様に、彼女は高らかに声を上げる。それと対比して、リボンズは静かにその様子を見つめていた。

 

 

(彼女は、僕の機体の詳細な情報を既に持っている。だが『イラプト』と呼ばれるあのエクシアは、未知の部分があまりにも多い・・・馬鹿げた火力と言い、こちらの不利は歴然だ)

 

 

しかし、彼に負ける気などは毛頭無い。

かつてソレスタルビーイングのガンダムとして、戦争根絶の為にその力を振るい・・・最後には、(リボンズ)という歪みを破壊した。

そのエクシアが、行動に何の意志も見出せない、破壊の徒の道具と成り果ててしまっていることに、彼は静かに憤りを覚えていた。

 

 

「・・・ならば、その機体は返してもらおう。君が何を言おうと、僕の考えは変わることはない。そのガンダムは『彼』にとって、変革の意志の象徴......君がそこに介在することは、僕が認めない」

「・・・へぇ、まだ言うのね。なら、やってみせなさいな!」

 

冷ややかな声と共に、再び砲撃が再開される。リボンズは機体を操作しつつ、なんとか逆転の糸口はないかと考えていた。

 

 

(彼女は恐らく僕の機体と、それで取り得るあらゆる戦法を把握している。ここから流れを変えるには、彼女の意表を突ける一手が必要だ。何か方法は・・・)

 

 

そこで彼はふと、この機体に残されたもう一つの(・・・・・)武器の存在を思い出した。

 

 

(そういえば・・・束から送られたフィン・ファングの試作品を、装備したままにしていたような。バインダーの機能が利用できなくなるからと、拡張領域(バススロット)に放り込んでいたが...)

 

 

その時。彼の脳内に、付随してある記憶が蘇る。それは初めてプロト・フィン・ファングを扱った時、セシリアとの会話の中での物だった。

 

BT兵器を切り札(虎の子)として扱う、というアイデア。

 

かつて平然とファングを扱い、マイスター達を苦しめたリボンズ一人では、行き着くことはなかったであろう考えだった。

 

 

(セシリア...あの時、君と話をしていて正解だった。あのアイデアを、早速使わせてもらうよ)

 

 

彼はほんの数秒間、口元を緩め彼女に思いを馳せる。そして瞬時に思考を切り替えると、先程とは打って変わって攻勢へ出た。砲撃を大振りに躱すと、相手の頭上から一息に突撃をかける。

 

「離れたと思ったら近付いて、忙しないわね! 」

 

彼女はアンテナをGNフィールドで覆い、接近戦用の剣として取り扱う。二人の得物がぶつかり合い、一進一退の攻防が続く。するとその最中、リボンズはあろうことか、残された数少ない武装であるビームライフルを投げ捨てたのだった。相手は思わず目を疑うが、その真意をすぐに知ることになる。

 

彼は自分の手から離れたライフルを、そのままビーム・サーベルで真っ二つに切り裂いた。次弾がチャージされていたのか、限界まで溜め込まれ圧縮された粒子が、爆発と共に一気に解放される。その膨大な粒子の嵐に、両者のレーダーが瞬間的に異常をきたした。

 

「何よ...ステルスフィールドのつもり? この程度じゃ、すぐに計器は回復──ッ!?」

 

彼女の言葉を遮る様に、リボンズは黒煙を突っ切り攻撃を仕掛ける。その一撃を難なく受け止めた彼女であったが、表情は困惑に染まっていた。

 

一方で彼の勢いは止まらず、遂にビーム・サーベルだけに留まらず、もう片方の腕のマニピュレーターをも用いて、格闘戦へと持ち込んだ。サーベルで相手の剣を牽制する傍ら、強く拳を握り締め、躊躇なくエクシアの顔を殴り付ける。装甲と装甲が幾度も激しくぶつかり合い、鈍い金属音がアリーナに響き渡った。

 

「ぐっ・・・何のつもり。 やけっぱちにでもなったの?」

 

彼がその言葉に応える代わりに、1.5ガンダムの背部スラスターから、急激に粒子が放出される。まるで翼の様に粒子が広がっていくそれは、GNフェザーと呼ばれる物であった。

 

「だから、意味が無いと言ってるの! そんなこけおどし、何の意図があって・・・」

 

それは、彼女の心の底からの疑問の言葉だった。彼女には彼の一連の行動の目的が、てんで掴めなかった。するとそこで、彼がようやく口を開く。

 

「意図、と言ったかい? ああ、確かに対ガンダム戦では、そこまで大きな意味を持たない。しかも今は、君と僕の一騎打ちだ。レーダーに影響を与えたからと言って、嫌がらせにもなりようがない」

 

リボンズは飄々とした様子で、彼女の言葉に応える。しかし彼の目線は、彼女の背後の空間にあった。

 

彼女の至近距離に展開された二基のフィン・ファングが、バレルの間で粒子を圧縮していく。最大出力で稼働するそれらは眩い光を発しているが、展開されているGNフェザーの輝きとジャミング効果により、彼女がそれに気付くことはなかった。

 

 

「簡単な話さ。君もまた、『あの世界』の情報に囚われている。お互い、もっと視野を広く持たねばね」

 

 

 

そして、その言葉と共に。

圧縮された粒子は遂に水風船の様に弾け、相手の全身を背後から焼き尽くした。

 

 

 

「な...あッ・・・!?」

 

彼女の目の前が、機体の損傷を知らせるアラートで埋めつくされる。それらはまるで血反吐の様に、べっとりと彼女の顔を赤く照らした。

 

「認めよう、君のガンダムは手強い。今の僕とこの機体では、勝つことは難しいだろう...だから、策を弄させてもらったよ」

「ぐッ・・・そう。貴方も隠し玉を持ってたって訳。確かに、予想もしなかったわ...でも、まだよ。私にだって、まだ奥の手はある!」

 

すると、エクシアの擬似太陽炉が出力を増し、同時に装甲が赤みを帯びていく。その機体の発光現象に、彼はよく覚えがあった。

 

「まさか......トランザムを!?」

「爆発させなさい、エクシア。どの世界でも変わることのない、人間達への怒りを、熱へと変えてッ!!」

 

 

 

彼女が吼え、エクシアの全身が真紅に染まる。機体はキイイイ、という悲鳴の様な甲高い音を立てながら、ツインアイを鋭く輝かせた。

 

 

(あの粒子放出量...間違いない。彼女は擬似太陽炉を暴走させることで、トランザムを実現させている。全く、無茶な真似を・・・!)

 

 

無数の残像と共に、エクシアはアリーナを縦横無尽に飛び回る。それと同時に、両腕のライフルから赤黒いビームを放ち、無茶苦茶に振り回した。

超速で移動するビームの光柱が、会場の地面を、防護シールドを無惨に溶かしていく。

 

 

(く...こうも滅茶苦茶だと、彼女の動きを読む所の問題ではない。バインダーさえ生きていれば、あの速度にも追い縋ることはできたかもしれないが・・・今は、時間切れを待つ他ないか)

 

 

彼はそう判断するも、そんな悠長な策を取っている暇は無いことを理解した。

彼女の移動に合わせて、大小の破片が上空から飛来してきている。リボンズの不意打ちにより大打撃を与えられた事に加え、無理なトランザムがエクシアをひっ迫し、機体が所々爆発を起こしていたのだった。

 

 

(不味い...あの様子では、機体が自爆を起こしかねない。 せめてエクシアだけは回収を・・・!)

 

 

決断したリボンズは、意を決して閃光の様に動き続ける彼女の下へ飛び立った。エクシアは依然として砲撃を続けており、地上は地獄絵図と化している。時折自身にも向けられるビームを回避しながら、彼は全速力で上へ上へと駆けた。

 

「ハァッ、ハァッ、ハッ......リ、ボンズゥゥッッッ!!!」

 

のこのこと近付いてくる彼の姿を確認した彼女は、激情に任せて自ら彼の方へと出向く。そうして機体同士の距離がぐんぐんと近付くことで、リボンズはより鮮明に、相手の状態を確認することができた。

 

 

 

 

その装甲は焦げ、トランザムによる加速と爆発により弾け飛び。

 

 

 

各部のスラスターからは、機体の稼働に合わせて炎が吹き上がり。

 

 

 

背部からは、暴走する擬似太陽炉より生み出される粒子が、際限無しに溢れ続けていた。

 

 

相手の顔が見えない全身装甲(フルスキン)の上からでも、彼は彼女の気迫が溢れ、立ち上っているかの様な錯覚を覚えた。そのなりふり構わず、鬼気迫る姿は、まるで───

 

 

 

 

(───まるで、猛り爆ぜる火山の様だ)

 

 

 

エクシアの紅い一撃を、彼はサーベル一本で受ける。その強い衝撃に機体の各部が悲鳴を上げ、目の前に点々と赤いアラートが増えていく中でも、彼は一歩も譲らなかった。

 

一方相手は脚部の隠し腕を展開し、ビーム・サーベルを不意打ちでけしかけた。ラウラによりその存在を知らされていた彼は、紙一重でそれを回避し、カウンターでアームを両断する。だが、これによりサーベルでの防御はがら空きとなってしまった。

 

「これでぇッッ!!!」

「させないよ」

 

彼は半壊しているシールドを再び展開し、全力で振り下ろされた剣を防いだ。ミシミシという音が響き、盾は今にも決壊しそうな勢いにある。しかし、彼の表情に迷いはなかった。

 

「腕はくれてやるさ。君のその力の源を、絶たせてもらう!!」

 

 

盾が砕かれ、腕からスパークが奔るのもお構い無しに、彼は片腕で相手の攻撃を受け止める。そしてそのまま懐に潜り込み、粒子を吐き出し続けるエクシアの背中のスラスターに、勢いよくサーベルを突き立てた。

 

 

「・・・あ」

 

スラスターが激しい爆発を起こし、二人は勢いよく吹き飛ばされる。両者は激しくアリーナに叩き付けられ、息も絶え絶えになるも、ゆっくりと自らその身を起こした。

 

「・・・つ、ぎは。次こそは、貴方を斃してみせる。必ず......ッ!!」

 

爆心地となった彼女のエクシアは、酷い有様だった。全身装甲(フルスキン)であった筈の機体は、大部分の装甲が剥がれ落ち、その下の生身が剥き出しになっている。しかしそれでも、彼女はその覇気を未だ失ってはいなかった。

 

「...次があると思うのかい? もう、まともに飛ぶことすら難しい筈だ。」

 

彼の言葉に何も返さず、彼女は満身創痍の機体を浮上させ、雲の合間へと姿を消した。GN粒子を使用せずに、どうやって...と思ったのも束の間、彼は根本的なISの仕組みに気が付いた。

 

 

(そうか...機体の動力を、PIC(・・・)へと切り替えたのか。それならば戦うことは出来ずとも、逃げることはできる・・・あの柔軟なISへの発想は、やはりこの世界の住人と見ていいだろうか)

 

 

彼はその機転を敵ながら賞賛し、先程彼女から感じた強いプレッシャーのことを思い返していた。彼にとってそれは、何らかの「強い意志」を持つ人物が発する物であり、あのエクシアの使い手は、本来ならそれに当てはまらない筈だった。しかし───

 

 

(あの気迫は...厳弥のそれに、似通っているものがあった。ただの戦闘狂かと思っていたが・・・君は何のために、その機体(エクシア)に乗っている?)

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

(く・・・やはり、当たらない...!)

 

 

一方、単騎で襲撃者を追跡していたセシリアは、会場の外で空中戦を繰り広げていた。彼女は手負いの相手を仕留めるべく、次々とライフルを放つが、その尽くが回避されていた。

 

 

(絶対に、逃がしません。皆さんが...一夏さんが、死力を尽くしてここまで追い詰めた。それを無駄にさせる訳には!!)

 

 

かくなる上はと、彼女は唯一の近接武器である小型ブレードを展開し、相手に慣れない接近戦を仕掛ける。そこにはどんな手を使ってでも、相手に食らいつかねばという彼女の焦りが見て取れた。

 

「待ちな、さいっ!!」

 

勢いよく迫り来るセシリアに対し、少女もそれに応えてナイフを展開する。

 

「...何の真似だ。お前が得意とするのは長距離戦で、こんなお粗末な格闘戦(キャットファイト)ではないだろう。それとも・・・お前が、私に敵うとでも?」

 

少女の悪意が再び自分一人に向けられ、セシリアは思わず体を硬くする。しかし、なんとか言葉を紡ぎ出そうと、己を必死に鼓舞し続けた。

 

 

(喋って。喋りなさい、セシリア! あの者の意識を、私に縫い付けるのよ!)

 

 

「っ...ええ、まさしく。貴方の飛び方が、あまりにもお上品で・・・まるで、可憐な蝶。さしずめ子猫の様に、悪戯をして差し上げたくなってしまいまして」

 

彼女は自分がイギリスに生を受けてよかったと、心の底から思った。

こんな危機的状況の中でも、皮肉を返せる胆力が残っていたのだから。

 

「・・・気が変わった。せめて貴様だけは、ここで終わらせてやる!!」

 

そして、それは幸か不幸か、一夏に実質的な敗北を喫した相手を強く刺激した。今の彼女には「弱者の強がり」こそが、屈辱を想起させる最大の地雷と化していたのだった。

 

「ハアッ!!」

「このぉっっ!!」

 

二人は機体の速度を上げながら、激しく己の得物をぶつけ合う。激しい音と火花をまき散らしながら、いつしか両者は《キャノンボール・ファスト》のレースを超える速度を叩き出していた。

 

 

「死ね! 所詮貴様は、あの男(織斑 一夏)ではない! 私に狩られるだけの、弱者に過ぎんのだ!」

「あら、随分と必死ではありませんの!? そんなに恐ろしいものでしたか、弱者の意地は...私たちの、一夏さんは!!」

「〜〜〜ッッ! 黙れ、黙れぇッ!!!」

 

 

彼女は激昂し、修羅の如き様相で一斉にビットを放った。無数のレーザーが不規則な軌跡を描き、セシリアへと迫る。

 

 

(あんな精神状態でも、変わらず偏向射撃(フレキシブル)を使えるなんて...! けれど、狙いが雑になっていましてよ!)

 

 

彼女はバレルロールを繰り返し、追尾してくるレーザーを回避していく。だが相手はそれで止まらず、自らセシリアに急接近し、ナイフでの連続攻撃を与えた。

 

「ああっ...!!」

 

その攻撃により、セシリアのシールドエネルギーは危険な領域にまで迫っていた。もう猶予はない事を自覚した彼女は、あることを決断する。

 

 

(もう後は無い・・・覚悟を、決めなさい!!)

 

 

彼女は腹を括って、高速戦闘用にスラスターへと回していたビットを展開する。そして、それら全てを最大出力で稼働させ始めた。

 

「ティアーズ! フル・バーストッッ!!!」

 

閉じられていた砲門をレーザーでこじ開け、自壊すらも厭わない全開同時発射。偏向射撃(フレキシブル)が未だ使えない以上、これが今の彼女が出しうる、最大火力の必殺技であった。しかし、相手はそれすらも鼻で笑い、いとも簡単に回避してみせた。

 

「それが貴様の切り札だと? 下らん!!」

 

とうとうISの防御を突き破り、相手の凶刃が彼女の肉体を襲う。ナイフにより切り裂かれた腕からは、どくどくと熱い血が流れていた。

 

「ぐっ...あああッ!!」

 

腕から全身へと広がる、突き刺された痛みと嫌な熱。頭が様々な感情でぐちゃぐちゃになる中、彼女はふと鈴との会話を思い出していた。

 

 

『ふーん、ビームを曲げる、ねぇ・・・それって、そこまでがむしゃらになってまで習得すべきなもんな訳?』

『え? ・・・ええ、当たり前ですわ』

『でもさぁ。射撃演習の記録、あたし達の中ではアンタが一番じゃない。そりゃあ、機体の特性上って言っちゃえばそれまでだけど。でもそんだけ当てられるんだから、わざわざソレ(偏向射撃)に固執する必要はないんじゃないの?』

 

 

その時はあまり納得がいっていなかった、彼女の言葉。それが今この時に、初めてセシリアに気付きを与えた。

 

 

(そう......でした。私はただ、「曲げる」ことを目的に、訓練を重ねて。目的と手段を、いつの間にか取り違えていた)

 

 

 

一夏や箒曰く、『明鏡止水』という言葉があるらしい。曇り一つない鏡の様に、澄み切っている水たまりの様に、余計な己の中の雑念を取り除く。そうすれば、落ち着き払った純粋な心で、事に臨むことができる...という意味であるそうだ。

 

それを聞いた時、セシリアは今一つその意味を理解し切れていなかった。「いつでも冷静でいるべし」程度の認識しか、持ち合わせていなかったのだ。

 

だが、今は────

 

 

 

(ああ...そういう事でしたの。ようやく理解できましたわ。『ブルー・ティアーズ(青い雫)』とは、貴方のポテンシャルを、極限まで引き出す方法とは・・・!!)

 

 

彼女はもう、撃ち出したレーザーの行方に目を向ける事はない。その目はただまっすぐに、目の前の討つべき相手だけを見据えていた。

 

 

(何が何でも必ず当てる(一発必中)という、絶対的な強い意志!!)

 

 

すると、彼女の無傷の左腕が、無意識に相手の方へ伸びる。その手はピストルを形作っており、人差し指の銃口は少女へと向けられている。

 

「は......?」

 

唐突に静まり返った彼女の行動の意図が掴めないのか、少女は間の抜けた声を出してしまう。

それに対しセシリアは、無邪気な子供の様な声で、たった一言を呟いた。

 

 

「ぱんっ」

 

 

その瞬間。

過ぎ去ったレーザーがまるで魔弾の如く、少女の体を背後から貫いた。

 

 

「ぐ、ガあっ・・・っ!?」

「ふふ・・・ご機嫌はいかが? (ティアーズ)の矜恃...ご覧に入れましたでしょう?」

 

 

『姉』。

同じ親から生まれた、年上の女性を指す言葉。

その何の変哲もない言葉は、何故か少女の琴線に触れた。

 

 

「───ッ!! 私の、前で」

 

彼女は残った力を振り絞り、ナイフを握りしめセシリアに突撃した。

 

その言葉(・・・・)を口走るなぁッ!!」

 

セシリアにはもう、それを回避する力は残っていない。彼女は静かに微笑み、潔く痛みを受け入れようとする。しかし、それが彼女を襲うことはなかった。

 

ナイフを突きつける敵の背後で、紅い髪をたなびかせた女が、まるで水着そのままのISを身にまとい、巨大な武器を振り上げていたのだ。

 

「セシリアちゃん、お待たせ。あんまり速く飛ぶもんだから、追いつくのに時間かかっちゃったわ」

 

背後から響いた声に少女は勢い良く振り向き、その姿を捉えて戦慄した。

 

「貴様は...ッ!?」

「言ったでしょ? 次は絶対に潰す、って」

 

淡々とした声と共に、彼女は容赦なくタクティクスアームズを振り下ろした。ドオッ、という鈍い破裂音と共に、少女の体は一瞬で遥か下の大地へと叩き落とされる。その圧倒的な一撃により、彼女はそこで気を失った。

 

 

※※※※※※※※

 

 

激しい連戦と負傷により、セシリアは力を使い果たし、ISを維持する気力すら失っていた。機体が待機状態へと戻る粒子と共に落ちていく彼女を、厳弥がすんでの所で受け止める。

 

「セシリアちゃん、大丈夫!? ......って、酷い怪我してるじゃない!! 早く看てもらわないと...」

「あ・・・いえ。問題、ありま...ううっ」

「その出血は大丈夫じゃないでしょ!? 待ってて、簡易医療キット持ってきてるから! 拡張領域(バススロット)に突っ込んどいて正解だったわ・・・」

 

生身の状態となったセシリアを寝かせ、厳弥は医療キットを取り出すと、手早く傷口の処置に移った。医療用ナノマシンの塗布をする下準備の為の消毒に、彼女の口から苦悶の声が漏れる。それを聞いて、厳弥は申し訳なさそうに目線を下に向けた。

 

「ごめんね、セシリアちゃん...また、アイツの相手をさせちゃって。それにこんな怪我まで・・・」

 

救援が遅れてしまった事に責任を感じているであろう彼女に、セシリアは毅然としてそれを否定した。

 

「厳弥さん、どうか謝らないで下さい。私は自分の下らない意地の為、己を...皆さんを危険に晒した、ただの愚か者ですわ。実に愚かで、とっても未熟な小娘。勝ちはしたものの、これは皆さんの力のお陰・・・喜んでいい筈がありません」

「...そうね、そうかもしれない。それでも貴方たちのお陰で、こうしてアイツを倒すことができた。言わせてもらうわ、本当にお手柄よ。セシリアちゃん、皆」

 

その労いの言葉に、セシリアはようやく緊張が解け、表情を緩めた。そうして彼女の応急処置が終わると、厳弥はすっくと立ち上がり、倒れている少女の下へ近付いた。

 

「さて、と。それじゃあ一足先に、アイツの顔を拝んでやろうじゃない。ほんとはもっとぶん殴ってやりたい所だけど・・・流石に、派手な私刑はマズイしね。セシリアちゃんもそれでいい?」

「え...ええ、構いませんわ。私は、彼女に一矢報いただけでも十分ですから」

 

その過激な発言に戸惑いながらも、セシリアは彼女の案に賛同した。少女が狸寝入りをしている可能性を考え、厳弥が先んじて彼女の横に立ち、顔を隠すバイザーに手をかける。そして、それをゆっくりと外すと、そこにあったのは────

 

 

「・・・え?」

 

 

彼女の口から、あまりにも呆けた声が漏れる。

 

 

「う、そ? 何で? 何が、どうして、こんな...ッ!!?」

「厳弥さん? 一体何が・・・っ!?」

 

その狼狽えようを見て、セシリアも続いて少女の顔を覗き込む。次いで彼女もまた、衝撃のあまり言葉を失った。

 

 

 

 

「何で織斑先生(・・・・)と同じ顔なのよ、アンタはッ ...!?」

 

 




というわけで、最新話でございました。如何でしたでしょうか。

自分の中では、ここまで長くなるとは思っていませんでしたが...いつの間にやら、ここまでになっておりました。これを見ると、前回と今回を連続2話投稿にしなかったのは正解でしたね・・・

今回登場したオリジナル機体である、「ガンダムエクシアイラプト」の解説は、次回の後書きに回そうかと思います。今回の文字数がだいぶ多くなってしまったので...ご了承ください。

次回は恐らく、戦闘の無い回になると思います。少しでも早く皆様にお届けできるよう頑張ります!


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