水鬼の視線 ー完結ー (電動ガン)
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page1 オオキクナッタワ

各鎮守府に宝島の噂が流れている。やれ旧帝国海軍の秘密財産が眠る、一生使っても使いきれない資材がある、豊かな自然があり食料に困らなくなる、そういう島があると。しかしその島へたどり着くには気流、海流、ありとあらゆる『流れ』が乱れる嵐を抜けなければならない、そしてその島は今まで見たことないような深海棲艦が守っているという。

 

「ふあぁ~あ~」

 

私はその島で暮らす黒い髪、白い角を持つ一人の深海棲艦。かつては泊地棲鬼と人間に呼ばれていた。資材の魅力に魅いられて集めまくっていたらこんな島に流れ着き出られなくなった。しかしここは私にとって夢の島だ。湯水の如く鋼材燃料弾薬ボーキサイトを始めその他色々涌き出てくる。今までは他の深海棲艦を食って集めてきた資材がなんの苦労もなく手に入る。

 

「今日も、いい天気、向こうは、嵐だけど。」

 

基地型の私はこの夢の島を拠点にして鬼の時から発展し続けてきた。平和に何事もなく。運良く艦娘に会うこともなく。

 

「さて、今日は、どれぐらい沸いた、かしら。」

 

のっそりと巨体を動かし、島を巡る。結構な大きさの島だが、私の体では一週するのにそんなにかからない。楽でいい。あ、決して太っているわけではない。資材で肥えてはいるけれど。

 

「ふむ、今日は、オイルと、鋼材四千くらい、か。」

 

資材の数は五百万を越えたあたりで数えるのを止めた。まぁこの数も自分換算だから正式な数なんて知らないし、深海棲艦と呼ばれている我々と人間の数え方は違うだろうし、なんでもいいが。

 

「お、これは、怪我が治る、不思議な水、汲んでおこう。」

 

海岸で見られる海水が変異したと思う不思議な水、エメラルドグリーンで綺麗だ。艤装にげっぷが出るまで飲ませて蓄えておく。

 

「ふむ、暇だ。今日も何も起こらな・・・」

 

海岸から戻る時に見つけたそれは小さな小さな少女。手のひらで掬い上げてじっくりと観察する。煙突、艦橋、魚雷、高角砲・・・あぁこれは艦娘か。長い間見てなかったから艦娘だとすぐ気づかなかった。

 

「損傷して、いるのか、どう、しようか。」

 

暫く手のひらの艦娘を見つめた後、少し思い付いた。私は艦娘や人間に憎悪等無い。資材さえあればそれでいい。

 

「いい、だろう。直して、やろう。」

 

艤装の前に寄せて、飲ませたばかりの怪我が治る水を滝のように浴びせてみた。

 

「どれ、くらい、浴びせれば、いいのか、わからない、わ。」

 

「あぶぶぶぶ!?」

 

「お、起きた、か。」

 

「げっほげほげっほ!なに、なに!?何が起きたの!?」

 

「艦娘、大丈夫、か?」

 

「え・・・?ひぃぃ?!」

 

「燃料も、弾薬も、ある、ぞ。補給、する、?」

 

「あ、ぇ、ひ・・・?!」

 

この小さな艦娘は、言葉が不自由なのか?さっきは喋ってたのに。

 

「し、深海棲艦!?ど、どうして・・・」

 

「弾、と、燃料、ほら。」

 

ざらざらと弾薬とドラム缶を出して見た。怯えるばかりで手をつけない。ふむ。艦娘ならここはさっさと補給して私に砲を、向けるかと思ったが

 

「私は、敵意、ない。早く、補給、しなさい。」

 

「あ、あわわわわ・・・」

 

「あら、気絶、したのね。」

 

仕方ない。適当に葉っぱ敷き詰めて寝かせておきましょう。起きて落ち着いたらこの島の事を話してあげましょう。

 

ーーーーーーーー

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

「ひゃあああ~!」

 

起きても、変わらなかった。艦娘とは思っているよりも情けないな。

 

「あなた、名前は、なに?」

 

「はぇ!?」

 

「名前は、なんだ、と聞いた、の。」

 

「あ、暁・・・」

 

「そう、アカツキ、あなたは、運が悪かったの、ね。この島からは、出られない、わ。」

 

「あ、貴方を倒せば!出られるわ!」

 

ほぉ勇ましいことだ。しかしそうじゃない。私を倒しても仕方がない。

 

「わわわ私を治した、ことを!こっここ後悔するのです!」

 

「私を、倒しても、無駄。あれを見て。」

 

「へっ?ちょっ!?」

 

アカツキを掴んで私の頭と同じ高さまで持って行くとさらに怖がって泣いていたが、そんなに泣いたりしていたら話が進まない。

 

「びゃあああーーー!!!じれーがーーーん!!!」

 

「泣くな。」

 

「ぴいっ!?」

 

「あの、雲の壁が、見えるか?」

 

「・・・!!!」

 

ぶんぶんと頭を振っているがこれは肯定でいいのか。まぁ見えてないわけないので進めよう。

 

「あれは嵐、それも特大の。気流も、海流も狂わせる嵐。普通は、入ったら、体をバラバラにさせる。強い、嵐。アカツキは、ぐちゃぐちゃの、海流を、上手く抜けてきた、と思う。」

 

「・・・!!」

 

こっちを見て頭を振る。なるほど、嵐を理解したか。じゃあ次は。

 

「ここ、嵐の目、ずっと晴れ。私も出れない。無理。私は、何もしない。資材があれば、それでいい。」

 

「・・・た、戦わないの?」

 

「戦ったら、資材、すごく減る、だろう?だから、戦わない。それに、アカツキ、は、ここで、初めて会った艦娘、よろしく。」

 

「・・・よ、よろしく。」

 

「閉じ込められた、仲間、だな。」

 

「は、はは、あはははー・・・」

 

「とりあえず、アカツキ、は、補給する、?」

 

「補給できるの?」

 

「燃料、弾薬、鋼材、いっぱいある、わ?」

 

艤装の口をあけてざらざらと資材を吐き出すと、アカツキは顔を青くしていた。フフ、怖いか?

 

「い、いっぱい、あるのね・・・」

 

「アカツキ、一人分、なら、余裕。」

 

大きな手でブイサイン。にしてもアカツキは小さいなぁ。まぁ話は出来るみたいだし、暫くはひまじゃなくなるか。

 

「えっと、貴方は、私を、艦娘を攻撃したりしないの?艦娘が憎くないの?」

 

「攻撃、は、しない。理由、は、さっき、言った。資材、が、減る。艦娘、は、たぶん、憎くない。それより、資材が、欲しい。」

 

「・・・と、とりあえず!停戦!停戦よ!暁は早く司令官のとこに帰らなきゃならないんだから!」

 

「だから、帰るの、は、無理。」

 

話を理解してないのか。意外とポンコツだな。アカツキ。

 

「どうする、アカツキ。今、ここで、出来ること、は、ない、わ。」

 

「そ、それは・・・どうしよう。」

 

こうして、艦娘と私の無人島生活が始まった。資材が集まれば私はそれでいい。アカツキは帰りたいらしいけどそれは無理だから、どうしたいのかわからない。まぁ、なんとかなるでしょ。

 

 

 




小ネタ

「ねぇー!どぉーしてそんなにおっきくなったのー?」

「まじめに、資材、を、集めてきた、から、かな?」



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page2 アカツキトノデアイナノヨ

「・・・なにもすることがないのね。」

 

「もう、すること、終わった、わ。この島に、涌き出る、資材を、回収、した、もの。」

 

「・・・資材が涌き出るの?」

 

「そう、山には、金属、浜には、燃料、地中に、大量の、弾薬、あと、怪我が、治る水。毎日、採れる。あと部品の集まり、ネジ、とか。」

 

「・・・不思議な島なのね。ここが噂の宝島なのかしら。」

 

「噂?」

 

「艦娘の間で流行ってるの。宝島があるって。」

 

「興味、ない。」

 

「この島かもしれないのよ?」

 

「この、島、は、私の、拠点。全部、私の、物。私が、集める。」

 

「ひとりじめは良くないわ!」

 

「じゃあ、誰かが、採りにこれる、かしら?」

 

「・・・無理ね。あの雲、通り抜けられる気がしないわ。」

 

「アカツキ、みたいな、ちっこいのは、なおさら。」

 

「ちっこい言うな!ぷんすか!」

 

砂浜で海と雲を眺める。というか資材集めが終わったらそれしかすることがない。アカツキもどうしようもないのか隣で座って海を見ている。

 

「ちっこいって言うなら、貴方はとっても大きいのね。今までみたどんな深海棲艦よりもおっきいわ。」

 

「そう、なのか?最近、他の、生き物、に、出会ってない、から、わからない。」

 

「それにお話もとっても上手だし。誰かに教わったの?」

 

「わか、らない。気が、ついたら、こんな、だったの、よ。」

 

「ふーん。」

 

アカツキ、私が何もしないとわかったからか大分リラックスしたようで。砂浜に落書きをしながら聞いてくる。

 

「貴方くらいおっきいのを見るとメガトラマンを思い出すわ。」

 

「めが・・・なに?」

 

「メガトラマンよ!テレビで夕方からやってるのよ。宇宙から地球を壊しにやってくる怪獣をやっつけるために、選ばれし戦士がメガトラマンに変身して戦うのよ!山よりおっきな怪獣と戦うからメガトラマンもおっきいの。」

 

「・・・?宇宙・・・?怪獣・・・?」

 

「あーっ!こ、この島にいたらメガトラマン見れないじゃない!・・・今週は確か要塞怪獣ドリルドンだったかしら・・・ねぇ!テレビとかないの!?」

 

「テレビ、とは、なんだ?」

 

「あぁー・・・そん、なぁ・・・」

 

「すま、ないな・・・」

 

「これも全部しれーかんのせいだわ・・・」

 

テレビ、とはなんだろう。アカツキがこんなに落胆するなんてそれほど楽しいものなのだろうか。しかし、そんなのは見たことないし、漂流物にそんなものがあったようには思えないしなぁ・・・

 

「しれーかんったらひどいのよ!?対潜哨戒もレディーの仕事だーとか言って!そんなの関係無いじゃない!暁だってそれくらいわかるわ!」

 

「そう、か。シレイカンと、いうのは、悪い、やつ、なのか。」

 

「ん・・・悪い人じゃないのよ。いつもみんなのこと心配してくれてるし。おやつもプリンにしてくれるし。遠征から帰ったらなでなでしてくれるし・・・たまにいじわるするけど嫌いな人なんていないわ。」

 

「そう。アカツキは、シレイカン、が、大好き、なのね。」

 

「ち、ちちち違うわよ!そ、そんな大好きだなんて・・・えへへ・・・」

 

アカツキは顔を真っ赤にしてくねくねしてる。よく、わからないな。艦娘も。それにしてもアカツキはよくしゃべる。

 

「こんなに、おしゃべり、した、のは、久しぶり、ね。」

 

「・・・うぇ?」

 

「アカツキ、は、たくさん、おしゃべり、する、のね。」

 

「貴方は、あんまりしなかったの?」

 

「深海棲艦、会話、なんて、しなかった。艦娘、と人間に、対する、憎しみで、おしゃべり、に、ならない。」

 

「そうなの。確かに戦ってるとお話しして連携しているようには見えないわね。」

 

「それに、あいつら、私の、資材、狙う。だから、嫌い、なのよ。」

 

「深海棲艦にもいろいろあるのね。」

 

「わたし、だけ、かも。」

 

「そういえば、貴方お名前はなんていうの?」

 

「人間は、泊地棲鬼、と、呼んだ。まだ、髪が、白かった頃。大分、前のこと。」

 

「じ、じゃあ、今は姫級・・・!?そこから更に進化したってこと・・・!?・・・じゃなくて名前よ!泊地棲鬼なんて可愛くないわ。暁がとびきり可愛いの考えてあげるんだから!」

 

ーーーーーーーー

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

「うーーーーん・・・・これも、いまいち、ね・・・レディっぽくないし・・・うーーーーん・・・」

 

アカツキはうんうん唸って砂浜に文字をいくつも書いた。私は字が読めないのでぼんやりと海と空を眺めて待った。

 

「決まったわ!」

 

「そう。」

 

「貴方の名前はパクチーよ!」

 

「パク、チー・・・」

 

「たしか・・・なんとかダーっていうお野菜の名前なのよ。サラダにいれると美味しいの。素敵な名前でしょ?」

 

「パクチー・・・私の、名前。」

 

「それと泊地とパクチーってなんか似てるじゃない?」

 

「良い、と、思う。私の、名前。初めての、名前。」

 

「良かった!よろしくパクチー!」

 

「よろ、しく。アカツキ。私は、パクチー、だ。」

 

どうやら私の名前はパクチーらしい。アカツキが一生懸命考えてくれた名前だ。なんだか、こういうのも、良いな。私はパクチー。音の響きは可愛いと、思う。

 

「・・・今日すること、他に何かあるかしら。」

 

「アカツキ、寝床、は、どこに、したい?」

 

「あ!そうよ!砂浜でなんて寝られないわ!ど、どうしよう・・・」

 

「・・・とりあえず、葉っぱを、集め、よう。」

 

「そうね!前に漫画で読んだわ!サバイバルでのベッドの作り方!パクチー手伝って!葉っぱを集めるわ!」

 

「わかっ、た。」

 

マンガってなんだろう。ともかく、アカツキが楽しそうでよかった。私も一日中海と空を見て過ごす日常が変わりそうで、少しわくわくした。




小ネタ

「メガトラマンは身長48メートル、体重4万6千トン。マッハ10で空を飛ぶスーパーヒーローなのよ!宇宙合気道で怪獣と戦って必殺技はコスモタイガースパーク!光エネルギーをプラズマと混ぜて腕を交差させて打ち出すの!変身するときは選ばれし戦士虎田勇人がプラックエンブレムを掲げて・・・」

「(さっぱりわからん)」




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page3 サバイバルスルミタイナノヨ

「おはようパクチー。よく眠れたかしら?」

 

「私達、は、寝ない。睡眠、を、必要と、しない。」

 

「ふぇっ!?」

 

とりあえずヤシの木を何本か張り倒してシェルターを作った。アカツキはゆっくり眠れたようでよかった。

 

「じゃ、じゃあ一晩中なにしてたの?」

 

「星を、見てた、の。きれい、よ。」

 

「そ、そう・・・」

 

「さ、今日、も。資材、集め、に、行くわ。」

 

「あ、待って!私も行く!ちょっと!立ち上がったら私の声届かないんじゃないの!?ねぇったら!」

 

アカツキが何か言っているけど、まぁ、いいか。まずは島中心部の山、火山みたいだけど・・・しずかだし。ここで鉄鋼とボーキサイト・・・次は湾岸沿いに、弾薬と、燃料を集めよう。

 

「うん、大漁、大漁。」

 

後ろからのしのし付いてくる私の艤装へ資材を放り投げて食べさせる。また大きくなったわ。ぶい。

 

「アカツキ、補給、させないと。」

 

帰りは艤装に乗って。あ、これ、森がそのうち荒れ地になるわね。あまり環境を変化させると採れるものも採れなくなるかも。

 

「ただ、いま。アカツキ。」

 

「置いてきぼりにするなんてひどいわ!ぷんすか!」

 

「とりあえず、補給、アカツキ。」

 

「へ?燃料も弾薬も使ってないし。破損してもいないから鉄鋼もいらないわ。」

 

「どう、して。お腹、空かない?」

 

「あ、そうね。べつに艦娘はお腹空かないわ。別に食べ物が食べられないわけじゃないけど。そうそう、だからっておやつばっかり食べてたら鳳翔さんに怒られるのよ?」

 

「おやつ・・・?」

 

「羊羹とか、アイスとか、プリンよ!甘くて美味しいの!」

 

「甘くて、美味しい・・・知らない、わ、ね?」

 

「じゃあ私がご馳走して・・・って、この島から出られないのよね。それにパクチーは深海棲艦だし、すっごくおっきいからラバウルには連れていけないわね。」

 

「私は、この島、から、出ない。資材、あるから。」

 

「海はもっと広いのよ?もーっといっぱい資材があるかもしれないじゃない。」

 

「この、島、から、出たら、艦娘と、戦う。戦う、と、資材、減る。だから、出ない。」

 

「そうね・・・でも、もったいないわ。プリンやアイス、おやつを知らないなんて。」

 

「おやつ、そんなに、いい、資材?」

 

「資材・・・うーん、しれーかんはよく、間宮券を渡しておやつにするから、ある意味資材・・・?」

 

「欲しい、おやつ、欲しい。聞いた、ことの、無い資材だ。是非、欲しい。」

 

おやつ・・・甘くて美味しい資材だそうだ。甘いのはよくわからないが美味しい資材なら是非とも欲しい。

 

「わ、わかったわ。か、顔が近いと怖いわね。食べられちゃうかもと思ったわ。」

 

「・・・艦娘、食べても、少ししか、資材、無い。私達、と、一緒。」

 

「ぴっ!?た、食べたこと、あるの!?」

 

「昔、私の資材、奪おう、と、した。倒して、艤装、に食べさせた。資材、弾薬、と燃料、少し、しか、持って、なかった。」

 

「・・・やっぱり、パクチーも深海棲艦なのね。」

 

「アカツキ?どう、した?」

 

アカツキがそっぽを向いてしまった・・・何か悪いことしたかな?

 

「アカツキ、もう、おしゃべり、終わり?」

 

「ごめんねパクチー・・・しばらく一人にして・・・」

 

アカツキは砂浜を歩いて離れていってしまった・・・今日はおしゃべり終わりか・・・少し、寂しい・・・ん?寂しいってなんだ。

 

「アカツキ、待って、ひとり、嫌。」

 

「パクチー!一人にしてって言ったじゃない!」

 

「!!」

 

「あ・・・」

 

「・・・わかっ、た。今日は、島、の、反対側、に、いる。明日、戻って、くる。」

 

アカツキ・・・しかたない・・・艤装に乗って、反対側まで、泳いで行こう。海の中に何か落ちてないかな・・・

 

「ごめんね・・・パクチー・・・やっぱり、艦娘と深海棲艦って仲良くなれないのかしら・・・」

 




小ネタ

「資材ってどんな味がするの?」

「ほんのり塩味」


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page4 オトモダチナノヨ

今年になってから朝雲、夕雲、香取、うーちゃん、山雲、初明石、大鯨・・・ドロップ運凄杉内?


忘れていたわ。島の反対側、断崖絶壁じゃない。

 

「しかた、ない。艤装の、上、で、過ご、そう。」

 

アカツキは・・・どうして怒ったのだろうか・・・艦娘を倒したことだろうか・・・でもそれならアカツキも同じ筈。私と同じ深海棲艦を倒している・・・何がいけないのか・・・そういえば艦娘は仲間意識が強かったな・・・そのせいか・・・

 

「アカツキ・・・」

 

とりあえず、明日になるまで待とう。明日になればアカツキもまたおしゃべりしてくれる筈だ。

 

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-

 

「・・・パクチーは深海棲艦、でも私を助けてくれたわ。電じゃないけど、戦わないで済むなら、仲良くなれるなら・・・その方が絶対いいわよね。」

 

シェルターに置いてある艤装を背負って海に出る。直してもらってから海に出てなかったから少し不安だったが問題はないようだ。暁は背中の機関が唸り出すと海上を滑るように走りだす。

 

「ええっと・・・パクチーは島の反対側って言ってたわよね・・・か、かなり遠いじゃない・・・あら?」

 

暁の足下にただようビン。コルクで蓋がしてあり、中になにやら丸められた紙が入っている。

 

「へぇー・・・ここに流れ付いたのかしら・・・なになに・・・?ってなによこれ。何語かしら・・・?」

 

紙に書かれている文字は暁の知る文字では無かった。英語もドイツ語も判別がつく程度はわかるがそのどれでもない。全く知らない国の文字・・・

 

「・・・もしかして、これなら外にメッセージを送れるんじゃないかしら!?それなら早速パクチーに相談ね!!!急がなきゃ!!!」

 

暁は艤装の煙突から煙を吐き出すとスピードを上げ島に沿って走り出した・・・

 

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-

 

「・・・。」

 

私の目の前には岩にひっかかっている大きな小豆色のコンテナ。ボコボコに変形している様子を見ると嵐の中を抜けてきたらしい。

 

「・・・。」

 

そして開けて見ると中には黒いセーラー服のちっちゃな影が。艤装があって艦娘なのはわかるが既に動かないところを見るともう・・・どうするべきか。恐らく捕食しても資材は得られない。ならばアカツキに任せるか。

 

「前、は、こんな、時、すぐ、に、捨て、おいた、のに。」

 

手の中のコンテナを見つめて動けない私は、コンテナを崖の上に置いて艤装に座り、海の遠いところを見る作業に戻る。

 

「・・・。」

 

艦娘と深海棲艦、敵同士だ。なのに私はアカツキと、仲良くなりたい思っているのか。まぁ戦う気がないから・・・と言えば聞こえはいいが、以前までは無関心を決め込んでいた。

 

「・・・。」

 

「パクチーーーー!」

 

「アカツキ・・・?」

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ここに・・・いたのね・・・岩礁が多くて大変だったわ・・・」

 

「アカツキ・・・私、は・・・」

 

「いいのよ・・・パクチーは深海棲艦だもの・・・私達とは物のありかただってきっと違うわ。」

 

「・・・。」

 

「仕方ない・・・とは言えないわ。でも、妹の雷だって言ってたもの、出来れば敵でも救いたいって。割り切る、とは違うけど・・・えーっと、わかりあうっていうのが大事だと思うわ。」

 

「アカツキ・・・私、は、深海棲艦、も、艦娘も、関わり、が、なかった、から、何も、知らない。でも、アカツキを、もっと、知りたい。」

 

「わかったわ。私もパクチーみたいな深海棲艦がいるなら仲良くしたいもの・・・で、でも私のことは食べないでね。」

 

「もう、艦娘、深海棲艦、食べない。」

 

「約束よ。パクチーはこれからね、良い深海棲艦になるの。この島から出ることが出来たならみんなと仲良く出来る様な優しい人になるのよ。」

 

「わか、った。」

 

「それじゃあ向こうに戻りましょ。こっちは風が強くて髪が乱れちゃうわ。」

 

「待っ、て、アカツキ、コンテナ、見つけた。」

 

「何か入ってたの?」

 

「・・・艦娘。」

 




小ネタ

「そういえば・・・艦娘を食べるって、体の一部になるのよね?もしかして近代化改修って・・・」

「知ってしまったか。君には消えてもらう。」


「!?」


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file1 大嵐の捜索

『提と・・・これ・・・じょうは、いくらなんでも!!!』

 

「くそっ・・・!!榛名!周囲に敵影は!!」

 

『重巡2、空母1、戦艦3・・・倒しても倒してもきりがありません!!』

 

「暁・・・!!」

 

『電が被弾!中破です・・・!』

 

「・・・撤退!撤退しなさい!榛名、青葉、加古は殿!川内は中破した電と響を抱えてちょうだい!」

 

『よーそろー!』

 

『し、司令官・・・待ってください!』

 

「電・・・」

 

『電は・・・電はまだ動けます・・・!海流の流れを見ても、この先にお姉ちゃんがいるのは間違いないのです・・・!』

 

『そうだよ・・・暁はもっと大変な目にあっているかもしれないのに・・・私達が・・・』

 

「・・・ちっくしょおおおお!!榛名!!力尽くでも電と響を連れ帰るのよ!」

 

『司令官・・・!』

 

「電、響・・・この嵐じゃあもう無理よ・・・暁も、はぐれてから3日以上経ってる・・・もう・・・!」

 

『う・・・うわぁぁぁぁん・・・お姉ちゃぁぁぁぁん・・・・』

 

『・・・姉一人救えないのか・・・私は・・・』

 

「提督!これ以上は司令船も敵の射程に入ります!」

 

「榛名達を回収したら反転!最大船速で離脱よ!砲雷長!援護射撃用意!」

 

「よーそろー!」

 

「よーそろー!!」

 

・・・こうして、暁の捜索は失敗に終わった。

 

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--

 

-

 

暁が艦隊とはぐれたのはマーシャル諸島に棲まう深海棲艦を撃破し、海域を開放する私主導の「M作戦」中の出来事だった。見たこともないような大嵐に巻き込まれ、右も左も分からず、羅針盤の妖精も怯えるばかりで役に立たない・・・そんな作戦だった。

 

『提督・・・聞こえますか・・・?』

 

「ばっちり聞こえるわ。どうしたの霧島?」

 

『水偵の妖精から連絡が途絶ました・・・私に積んだ水偵はこれで最後です。』

 

「わかった・・・一度司令船に戻って補給してちょうだい。」

 

『了か・・・敵艦見ゆ!!!』

 

「霧島!敵の編成は!?」

 

『戦艦3!重巡1雷巡1駆逐1です!!』

 

「空母はいな・・・」

 

『敵機来襲!!対空迎撃用意!!』

 

「ばかな!!」

 

『きゃああっ!!』

 

『うわぁーっ!!』

 

『くぅ速い・・・うあああっ!?』

 

『お姉ちゃん!!雷ちゃん!!川内さん!!』

 

「霧島!!状況を説明して!!」

 

『て、敵の航空機による攻撃です!川内、暁が小破、雷が大破です!しかし、周りに空母無し・・・どうし・・・あれは!!レ級!!戦艦レ級です!!!』

 

「そんな・・・霧島!逃げるのよ!なんとか振り切って!!」

 

『了解!電ちゃん響ちゃん!暁ちゃんと雷ちゃんを曳航して!川内は私の後ろに!!』

 

『これはやば・・・』

 

通信機から聞こえる声は絶望に染まっていた。他の提督に助けを求めようにもこの嵐の中ではお互いの位置を伝えるのも難しい。どうすれば・・・

 

『っああ!!弾丸夾叉!!距離を測られました!!』

 

「逃げて!!!お願い・・・逃げて・・・!!」

 

『たっ、高波注意ーーーっ!!!ザーーーーーーーーーーーーー』

 

「霧島っ!?霧島返事をして・・・!!」

 

『ザーーーーーー』

 

「そ、そんな・・・」

 

『こちらショートランドの日向だ。戦闘中の艦隊はどこか。』

 

「!ら、ラバウル!うちの艦隊よ!!」

 

『承知した。目視で確認している。すぐに援護する。』

 

「お願い・・・急いで・・・!」

 

この後、ショートランドの日向達がなんとか深海棲艦を追い払うことに成功し、大破した霧島達を抱えて私の司令船まで送ってくれた・・・しかしそこには、いるべき子が一人足りなかった。

 

「すまない・・・一人だけ、どうしても見つからなかった・・・」

 

「そんな・・・」

 

「波にのまれて大型の私以外は転覆・・・すみません・・・提督・・・」

 

「手を・・・手を繋いでた筈なのに・・・目を開けたらいなくなってたのです・・・ごめんなさい司令官、ごめんなさい・・・!」

 

「す、すぐに探さないと!!!」

 

「この嵐では無理だ!!ラバウルの・・・それくらいわかるだろう・・・」

 

「くぅ・・・!!!」

 

「ショートランドの私の提督も、作戦に参加した他の提督も貴方の命令を待っている・・・先ほどの戦艦レ級は追い返したが、次がないとは限らない。」

 

「・・・。」

 

「し、司令官・・・!お姉ちゃんは・・・」

 

「全司令船に、通達、艦娘を回収したのち、これより作戦海域を離脱・・・いそいで・・・」

 

「・・・了解、私達は自分の船に戻る・・・暁は、見つけられなくてすまなかった・・・」

 

「いいえ・・・援護感謝します・・・ありがとう。」

 

「しれ、司令官!お姉ちゃんは、お姉ちゃんは置いて行くのですか!?まだ敵がいっぱいいるのに!」

 

「電ちゃん・・・この嵐の中じゃ探せない、探しにいった子も同じ目にあってしまうわ・・・」

 

「そんな・・・」

 

「霧島、簡易ドックにみんなを連れて行って・・・技術長に伝えておきます・・・」

 

「了解、提督・・・」

 

「お姉ちゃんは・・・お姉ちゃんはどうなるのです・・・!?」

 

「ラバウルに帰投した後、すぐに捜索隊を結成し暁を探しに出ます・・・マーシャルでは島に流れ付く海流が多いから・・・きっと、どこかの島に流れ付いてるはず・・・」

 

「・・・私も、探しに行くのです・・・」

 

「わかってるわ・・・」

 

--------

 

------

 

----

 

--

 

-

 

 

「司令官!話が、話が違うのです!!!お姉ちゃんを!お姉ちゃんを探すって・・・」

 

「ごめんなさい・・・」

 

「謝らないで欲しいのです!高速修復材を使ってすぐにでも探しに・・・」

 

「電・・・やめるんだ・・・」

 

「響ちゃんは悔しくないのですか!?」

 

「電・・・!」

 

「響ちゃんは後から来たから、ほんとうはお姉ちゃんのこともとっくに諦めているに決まっているのです!」

 

「なんだと・・・!」

 

「やるのです!?」

 

「二人ともやめて!やめなさい!」

 

電と響がとっくみあいの喧嘩を始めてしまった。お互い先ほどの戦闘でボロボロの体なのに・・・

 

「響ちゃんはッ・・・お姉ちゃんのことを・・・お姉ちゃんだと思ってないのです・・・!!電は知っているのです!!前にいた鎮守府のお姉ちゃん達と連絡を取り合っているのを!ここの電たちのことを、本当は姉妹だと思っていないのです!!!」

 

「っ・・・」

 

「やぁっ!!」

 

「ぐぁっ・・・!?」

 

「電は諦めないのです!!!一人でも捜しにいくのです!!!」

 

「待て!電・・・行かせるものか・・・!」

 

「うるさいのです!」

 

「電ちゃん!!待ちなさい!!一人でいくなんて許可しないわよ!?」

 

「司令官も・・・どうして捜索をやめちゃうのですか・・・お姉ちゃんはきっと生きているのです・・・どこかで、助けを待っているのです・・・なのに・・・どうしてやめちゃうのですか・・・どうして・・・」

 

「電ちゃん・・・」

 

「高速修復材、使わせてもらうのです・・・」

 

「待ってくれ電・・・私から・・・私から姉妹を連れて行かないで・・・お願いだ・・・暁もいなくなってしまったのに・・・電まで、いなくなってしまったら・・・」

 

「・・・まだ、雷ちゃんも、いるのです・・・」

 

「電ちゃん・・・くっ・・・もしもし、技術長・・・?艦娘の艤装は今から全て停止させて・・・お願い・・・誰も外に出さないで・・・お願いよ・・・?」

 

「司令官・・・どうしよう・・・」

 

「響ちゃんは簡易ドックに行ってて・・・?電ちゃんは、なんとかするから・・・」

 

「・・・わかった・・・電を頼むよ・・・」

 

「もしもし、榛名、聞こえる?」

 

『はい、なんでしょうか?』

 

「電ちゃんを止めてちょうだい・・・あの子一人で出ようとしてるの・・・!」

 

『こ、この嵐の中でですか!?わかりました!榛名、全力でいきます!』

 

「ありがとう・・・」

 

電はこのあと榛名に押さえ込んでもらって事なきを得た。大分暴れたようで、悲しい顔をした榛名が報告に来た。暁を探すには、もっと大がかりな準備が必要だ。そしてこの嵐、どうもおかしい。ずーっとあの場所に居座っていて治まる気配も動く気配も無い・・・マーシャル諸島を奪還出来たはいいがあの嵐がある限り深海棲艦にすぐ制圧されてしまう・・・時間がかかればかかるほど暁は・・・お願い暁、生きていて・・・

 

 




小ネタ

一方その頃暁は

「見てパクチー!キレイな泥団子でしょう?砂を使って磨くとキレイに磨けるのよ?」

「わたし、手が、大きい。泥団子、アカツキ、よりも、おおきく、なった。磨く、の、難しい。」

「パクチーサイズだと圧巻ね・・・私も手伝うからぴかぴかの泥団子作るわよ!」

「おー」



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page5 テンゴクッテナンナノヨ

「うぇ・・・!」

 

「この、艦娘、うごか、ない。死んでる・・・?」

 

「・・・腐ってる・・・ごめんね・・・見つけられなくて・・・」

 

コンテナを砂浜に持ってきてアカツキに中身を見てもらった。やはり艦娘らしい。

 

「・・・空の缶詰とポリタンク・・・うぇ・・・それに壁のひっかきあと・・・大分漂流してたのね・・・制服は・・・うぷ・・・睦月型の誰か・・・ひぃ・・・髪の毛・・・汚れてて元の色がわからないわ・・・」

 

「アカツキ・・・」

 

「お願い、パクチー・・・手伝って・・・!」

 

「わかっ、た。なに、すればいい?」

 

「穴を掘って・・・埋めてあげましょう。レディーは・・・仲間思いなのよ。」

 

「仲間・・・思い・・・わかった。」

 

「砂浜じゃだめよね・・・どこかキレイな場所がいいわ・・・」

 

「キレイな・・・場所・・・アカツキ・・・こっち、だ。」

 

コンテナの扉をしめて、アカツキを肩に乗せる。艤装君はお留守番だ。

 

「パクチーどこいくの?」

 

「キレイ、な、場所。」

 

「そんな場所があるの?」

 

「わから、ない。でも、キレイ、な、場所、みたいな、とこ、ある。」

 

「そうなんだ!いいわね。」

 

島の中央にある山の東側。そこに前に見て、気になった場所がある。資源は取れないが見てて気持ちが良い、というのか、そんな気分になる場所だ。

 

「ここ・・・」

 

「わぁ・・・すごいお花畑・・・!」

 

「ここ、資源、出ない。けど、不思議、落ち着く。」

 

「そうね・・・ここにしましょう!」

 

「わかった。」

 

アカツキを降ろして花畑にむかわせると良い具合の場所を見つけたのかここだここだと小さな体を大きく飛び跳ねさせている。

 

「ここ、か。よし・・・」

 

「ひゃぁ!そんなに深く掘らなくていいわ!」

 

「そう、か・・・これ、くらい?」

 

「そうね・・・それくらい。じゃあコンテナを置いてちょうだい?」

 

「わか、った。」

 

「よい・・・しょ・・・う・・・待っててね、すぐ、ちゃんと弔ってあげるからね・・・」

 

「・・・アカツキ、これは、いったいなにを、している?」

 

「これはね・・・お墓を作ってあげてるのよ。」

 

「お墓・・・?」

 

「そうよ。死んじゃった人はね、天国に行っちゃうからお墓を作って忘れないようにするの。」

 

「テン・・・ゴク・・・?」

 

「あー・・・えっとね・・・天国っていうのは、死んじゃった人がたどり着く場所で、幸せになれるところなんだって。」

 

「幸せ・・・?資源、いっぱい、か?」

 

「うーん・・・パクチーの幸せがそうなら・・・そうなんじゃないかしら?」

 

「私も、深海棲艦、の、私も、行ける、か?」

 

「・・・大丈夫よ!きっと行けるわ!」

 

「そう、か・・・!」

 

「よいしょ・・・崩さないように・・・そーっと、そーっと・・・うう・・・感触がぁ・・・」

 

「・・・テンゴク、か・・・」

 

「パクチー、お水を汲んできてもらえる?」

 

「わかっ、た。」

 

手に掬った水を持って戻って来ると・・・アカツキがコンテナに入っていた艦娘の艤装を使って十字の何か作っている。

 

「アカツキ・・・水・・・」

 

「・・・ふぅ。これでよし。パクチーお水・・・って手で掬ってきたの!?・・・まぁいいわ。お願い水浴びさせて?どろどろだもの。」

 

「わか、った。」

 

アカツキは私の手の中で服を洗い、体を洗い、掬ってきた水はあっというまに真っ黒に汚れてしまった。アカツキぱんつだけ・・・風邪ひくわ。

 

「ふぅ・・・あとは埋めてあげるだけよ。」

 

「・・・。」

 

「パクチー?一緒にやるわ。」

 

「一緒、に・・・」

 

私がやれば一掬いで終わるが・・・どうやら二人でやることに意味があるらしい。

 

「終わったわね。最後はね、両手を合わせて、お祈りしてあげるのよ。ちゃんと天国で幸せになれますようにって!」

 

「テン・・・ゴク・・・幸せ・・・」

 

花畑のすみっこに鉄のオブジェのお墓・・・私にはわからないが・・・私の知らない、艦娘の、人間の弔いというやつなんだろう。・・・不思議だ。

 

「・・・名前も知らない誰か・・・ゆっくりおやすみなさい。」

 

「・・・。」

 

「さぁコンテナを片付けて戻りましょう。」

 

「なぁ・・・アカツキ。」

 

「うん?なぁにパクチー?ひゃわっ!?」

 

アカツキを掴み上げて、よく見えるように持ってくる。アカツキは、今、間違いなく、幸せではない。私は、この初めての友達を、幸せにしたい。

 

「アカツキは、幸せか?友とはぐれて、幸せでは・・・ない?」

 

「パ、パクチー?」

 

「アカツキ・・・私、は、アカツキに幸せになってほしい。死ねば、幸せ、に、なれる?テンゴク、行ける?」

 

「ぐっ・・・が・・・パ、パクチー・・・違うわ・・・!」

 

「違う?」

 

「私も、ぐ・・・詳しく、は知らないわ・・・でも、パクチー・・・!でも天国に行く前でも幸せになれるわ・・・!」

 

「・・・。」

 

「パクチーは、私のこと心配してくれているのね。・・・あのねパクチー、誰もが天国に行くことの幸せを望んでいるんじゃないわ。」

 

「なぜ・・・?幸せは、嬉しい、だろう?」

 

「パクチーにとって資源に囲まれているのが幸せだけど、私は友達や姉妹と楽しく過ごすのが幸せなの。一人一人幸せは違うのよ、パクチー。だから間違っても誰かを死なせて天国に行ってもらおうとするなんてダメよ。」

 

「・・・わかった。」

 

「ふぅ・・・ありがとうパクチー。さ、帰りましょ。」

 

「・・・難しい、のね・・・いまま、で、こんなこと、考えたこと、なかった、のに。」

 

「ずっとひとりぼっちだったのよね?仕方ないわ。だから私が教えてあげる。ね?少しずつ学んでいけばいいのよ。」

 

「アカツキ・・・ごめん・・・」

 

「いいのよ。暁はレディーだからちゃーんと許してあげるわ!」

 

「・・・ありがとう、アカツキ。」

 




小ネタ

「私とパクチーの大きさの差ってどれくらいあるのかしら?」

「まか、せて・・・計算、は得意・・・むむむ・・・わかった。」

「おぉ!それしってるわ!指の長さで距離を・・・ってそれ違うやつじゃない!」

「およそ、わたし、は、アカツキ、の20倍、の、大きさ・・・」

「・・・適当言ってない?」

「言ってない(流暢)」

「ファッ!?」



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page6 ロマンッテナンナノヨ

「はぁ・・・ひまね・・・」

 

「今日、は、資材、あんまり、取れなかった・・・」

 

「そういうときもあるわ。」

 

「知って、る。」

 

「もう!!」

 

だが実際資材集め以外のことをしたことはない。島を回っても花畑以外に興味を引く物はなかった。たまに流れ付く漂流物も大体ボロボロでそのまま捨ててしまう。

 

「・・・そうだわ。この前拾った空き瓶を使って手紙をだしましょう!」

 

「・・・?」

 

「暁は生きてるわよって手紙を書いて空き瓶に入れて海に流すの。前に読んだ本にそうやって遠くの国の人と文通するシーンがあったわ。」

 

「なる、ほど。」

 

「じゃあ早速書いて見ましょう!えーっと紙とペンないかしら・・・ってないかぁ」

 

「ある。」

 

「え!?」

 

「これ、で、いい?」

 

艤装が地響きさせながら近づかせて口を開けさせる。一瞬えづいたがまぁ気にしない。前に丸呑みにしたコンテナに紙がいっぱい入ったやつがあったはず。

 

「ヴォエ!ヴェェエエ!!」

 

「ぴぃっ!?」

 

「たぶん、この、コンテナ。」

 

「うわぁ・・・」

 

「開ける、わ。」

 

「ダンボールがたくさん・・・中身は・・・新聞?」

 

「しんぶん・・・?」

 

「12月10日・・・大分前の新聞ね。書く物、書く物・・・ボールペンみーっけ!」

 

「楽しそう、ね。アカツキ。」

 

「当たり前じゃない!うまくいけばおうちに帰れるのよ!」

 

「そう・・・か・・・アカツキ・・・帰りたい、だった、な。」

 

「あ・・・だ、大丈夫よ!パクチーのことも連れて行くわ!しれーかんやみんなには私が話すから安心しててよね!大船に乗った気持ちでいなさい!」

 

「いや、ここ、出たら、資材、ないから、けっこう。」

 

「えぇーっ!?そこはありがとう・・・ってならないの!?」

 

「それに、どんな、に、大きな、船で、も、基地、は、乗れな、い。アカツキ、ちんまい、し。」

 

「もぉぉぉーーーっ!!!」

 

「フフ・・・」

 

「あ・・・笑った。笑ったの初めて見たわね。」

 

「・・・?今、わたし、は、笑った?」

 

「そうよ。意外と可愛い笑い方するのね。」

 

「・・・笑う・・・笑う、のか・・・」

 

「ねぇ、やっぱり帰れるようになったら一緒にいかない?絶対、みんなを説得してみせるし、資材も私が遠征して持ってくるから。」

 

「・・・わか、らない、アカツキ、は、今、敵意、が、わかない、けど。たくさん、艦娘、いたら、どうなる、か・・・」

 

「きっと、乗り越えられるわ。だってパクチーは私を助けてくれたじゃない。出会ってから少ししか経って無くてもパクチーは大事なお友達だもの。パクチーも最初に仲間だって言ってくれたじゃない。だからパクチーが大変な時は私が助けてあげるわ。」

 

「・・・わか、った。」

 

「ぜーんぶレディにお任せよ!さて、お手紙書くわ!」

 

「・・・ありがとう、暁。」

 

「・・・?」

 

暁は新聞をビリビリと破り、白紙部分に一言ずつ書いてはビンに詰めた。残ったコルクで蓋をして海岸から海に流す。・・・嵐の壁の中でバラバラに割れてしまうのではないかと思ったが・・・アカツキの希望に影をさすわけにはいかない。今日することはそれで終わった。あとは散歩して、お昼寝して・・・1日を終えた。

 



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file2 魔の海域と宝島

前の視線とは違ってお気に入りの増えない時間がないこっちはすげーなと思う。いつもありがt顔はやめてー!


今のラバウルは最悪だ。暁がいなくなってからはや一ヶ月が経った。その間にもなんどもマーシャル諸島近海へと捜索に出撃したが一向に晴れる様子が無い嵐に阻まれ捜索は進まなかった。

 

「・・・電ちゃん?何を見てるの?」

 

「・・・メガトラマンなのです。」

 

電が見ているのはメガトラマン。突如として宇宙からやってきた怪獣から地球を守る為に青年が同じく宇宙からやってきた戦士と融合し戦う男児向けの特撮番組だ。もうひとつに何の変哲も無い少女が光の力で変身し、地球侵略をもくろむ闇の僕と戦う女児向けアニメ番組、妖精戦士プリティキャノンがある。・・・実はこの二つ軍が作らせた番組だったりする。どちらも未知の脅威である深海棲艦に対抗する意識を持たせるように大本営が作らせたのだ。本来なら電くらいの子達はプリティキャノンを好んで見る。うちでもそうだった。しかし暁は違ってメガトラマンの方を好んでよく見ていた。放送時間帯が被らずに安心したのを覚えている。ちなみにプリティキャノンは朝、メガトラマンは夕食時の放送時間だ。

 

「・・・お姉ちゃんが、いつ帰ってきてもいいように、お話を教えてあげれるように見ているのです。」

 

「・・・ごめんね・・・」

 

「司令官さんは何も悪くないのです!!八つ当たりして、雰囲気を悪くしてしまった電が悪いのです・・・」

 

「それでも・・・ごめん・・・」

 

今このラバウルはずーっと葬式をしているような雰囲気だ。駆逐艦、軽巡艦娘は絶え間無くマーシャル諸島へ出撃し、戦艦、重巡艦娘は邀撃に、空母達は索敵にと忙しくはあるが・・・会話は少なく、執念で動いているような感じだ。暁を見つけようとまとまっている・・・と言えば聞こえはいいが、どう見てもアンデッドのようである。

 

「・・・お姉ちゃん、メガトラマン大好きだったのです・・・電達がプリキャノを見ようと早起きしていてもお姉ちゃんはお寝坊さんで、でも出撃はメガトラマンに間に合うよう早く帰ろうとしたりして・・・どことなく男の子っぽかったのです。」

 

「うん・・・」

 

「遊ぶときもみんなはなにをする?って言ってもおままごととか言うのにお姉ちゃんは野球とかサッカーとか・・・お外で遊ぶの大好きだったのです・・・」

 

「・・・うん。」

 

「今ではメガトラマンの時間に帰ってくる人はいないし、野球道具もサッカーボールも押し入れで埃被っているのです・・・」

 

「・・・。」

 

「どうして・・・どうしてお姉ちゃんなのです?電じゃダメだったのです?出来るなら・・・電が代わりになっていれば良かったのです・・・」

 

「ごめん・・・ごめんねぇ・・・」

 

「ひっぐ・・・司令官さん・・・もう、もう捜索は・・・中止にした方がいいと思うのです・・・だって・・・お姉ちゃんがいなくなってから・・・メガトラマンを何度もみたのです・・・最初の方、もう覚えていないのです・・・もう教えて、あげられ、ひっぐ、ないのです・・・ひっぐ・・・」

 

「・・・くっ・・・」

 

「もう・・・お姉ちゃんは・・・」

 

《第一艦隊が帰投しました。第一艦隊が帰投しました。》

 

「・・・電ちゃん、ごめんね・・・行ってくるね・・・」

 

「・・・はいなのです。」

 

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-

 

「第一艦隊帰投しました!全艦損傷無し!捜索結果は・・・ハズレでした・・・」

 

「ご苦労様・・・みんな補給してきて?」

 

「了解!」

 

「あ、神通ちゃん、旗艦を勤めてもらってすぐで悪いんだけど捜索結果をまとめて持って来てくれる?」

 

「はい、わかりました。」

 

補給をしに歩いていく第一艦隊のみんなは悔しさに顔を歪めている。やはり・・・生存率絶望として・・・捜索を止める方がいいのかな・・・もう一ヶ月も捜索にあててしまい海域攻略も進んでいない。このままでは大本営から苦言を呈されてしまうかもしれない。

 

「みんな・・・ごめんね・・・」

 

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--

 

-

 

「・・・以上が捜索結果です。残る未捜索エリアはもうここだけです。」

 

「・・・そう、わかった。」

 

「ここ、捜索するには嵐が晴れるの待つしかありませんが・・・ここ一ヶ月出撃する度に全く同じ場所にあります。普通じゃありません。」

 

「・・・いったいこの嵐の中には何があるのかしら。潜水艦のみんなからの報告によると海の中もそうとう荒れてるらしいの。近づけなくて困っているらしいわ。」

 

神通がいう未捜索海域、ここはずーっと大型台風並の嵐が吹き荒れている。その為様々な噂が飛び交い情報が全くまとまらない。いわく見たこともないような深海棲艦が牛耳っていてる。深海棲艦の本拠地がある、資材に溢れる宝島があるなどどれも信憑性があまりない。だが普通の嵐と違う点も数多く悪魔の海域として第二のバミューダとも言われている。この嵐についてわかることは風速が強く艦娘の航空機が近づけない。海流の流れが不確定で海中まで狂わせている。妖精の羅針盤さえも狂わせ進むべき方向が定まらない・・・まるで何人たりとも近づけさせない為の要塞だ。

 

「海流の流れがめちゃくちゃですが・・・暁ちゃんはこの中に流されていった可能性も・・・」

 

「だけどこの嵐の中がどうなっているのかはわからない・・・不用意に近づくとこっちが沈んでしまうわ。指揮官として、この嵐の中の捜索は許可できません。」

 

「・・・くっ!」

 

「気持ちはわかるわ神通ちゃん・・・でも、他に被害を出すわけには、いかないの・・・」

 

「くぅ・・・ううう!暁ちゃん・・・!!」

 

「・・・現時刻をもって特Ⅲ型駆逐艦一番艦暁を・・・MIAとします。捜索隊も全て解散・・・通常通りの海域攻略の艦隊へ再編成します・・・」

 

「ううぅ・・・了解・・・現時刻を、持って・・・捜索艦隊を解散します・・・」

 

「・・・ありがとう神通・・・」

 

「・・・みんなに伝えてきます。お見苦しい所を見せて大変失礼致しました・・・」

 

神通ははちがねを締め直し、執務室を出ていった。その後も大変だった。捜索を止めるなと暴れる者、涙を流し崩れ落ちる者、悔しさで壁を破壊する者・・・だが電の笑顔のみんなに戻って欲しいという言葉で落ち着いた。電も、さぞ辛いだろう・・・だがしかし私達の本分を忘れてはいけない。今は再発を防ぐ為に注意して作戦を練ることしか出来ないのだ。

 

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-

 

さらに時は一週間過ぎて、場所はショートランド泊地。

 

「ふっふふーん・・・今日のおかずに一品加えたいクマァ~とりゃーっ!」

 

大きくしなる釣り竿から瑠璃色のルアーを飛ばし、波止場に座る彼女は球磨型軽巡洋艦一番艦の球磨。この様子だといつもの食事にさらに色を添えるべく釣り竿を握ったのだろう。

 

「いなだ~ぶり~はまち~・・・クマ?」

 

球磨は防波ブロックの中に陽光を受けて輝くものを発見した。

 

「ゴミ・・・じゃないクマ。中に何か入ってるクマ・・・はっ!」

 

それはビンだった。球磨が見るに中に何か紙の束が入ってるのが見えて、コルクを取って取り出すのが面倒くさくなったのか手刀でビンの上を切り落とす。

 

「もしかして遠くの国からの手紙クマ?球磨は英語しかわからな・・・マジかクマ。」

 

何枚かの紙を読むと釣り竿を放り投げ、紙の束を握りしめて球磨は本舎の方に走った。その額には玉のような汗をかいている。よほど驚く内容だったのだろうか。

 

「えらいこっちゃクマ・・・えらいこっちゃクマ!!提督ーーーー!!!!」

 

波止場には放られた釣り竿と空のバケツが取り残され、寂しそうに空を眺めた。

 




小ネタ

「よいしょ・・・よい、しょ!」

「アカツキ、それ、なにしてる、の?」

「これはゴールポストよ!パクチーが倒した木がそのままだったから使ってみたの。サッカーするためにね!」

「サッ、カー・・・?」

「ボールはこれ!ちょっと硬いけど椰子の実よ!艦娘パワーなら痛くないんだから。」

「サッ、カー、って、なん、だ?」

「サッカーっていうのは11人ずつ二チームにわかれてボールを蹴る・・・あ。」

「?」

「今私とパクチーしかいないじゃない・・・」










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Another page バレンタインッテタノシイワ

まさかの公式資材大好きっ娘。ほんとに出るとは・・・

あ、その眼鏡棲姫さんは甲ですずやんのロケラン三式コンボで木端微塵にしました。ダメージ400オーバー連撃のオーバーキルは脳汁出ますね。

これからもパクチーをよろしくお願いいたします。


「バレンタインよ!」

 

「バレン・・・タイン・・・?」

 

砂浜で小さな胸を張るアカツキは背中に巨大な箱を背負っている。重くないのか、それは。ピンクのリボンで装飾された箱はどこで調達したのか。

 

「バレンタインデー(英: Valentine's Day)、または、聖バレンタインデー(せいバレンタインデー、英: St Valentine's Day[† 1][† 2][1])は、2月14日に祝われ、世界各地で男女または男男、女女愛の誓いの日とされるわ。もともと、269年にローマ皇帝の迫害下で殉教した聖ウァレンティヌス(テルニのバレンタイン)に由来する記念日だと、主に西方教会の広がる地域において伝えられているの。」(Wikipedia参照)

 

「お、おう・・・」

 

「まぁ難しいことはさておいて日本では女の子が好きな男の子にチョコレートを送る日よ!最近では男性から女性に送る逆チョコ、女性同士で送り合う友チョコなんていうのもあるわ。」

 

「そ、そう、なの、か・・・」

 

「特別編だし、その変な深海しゃべりじゃなくてもいいわ?」

 

「そう?わかった。」

 

「今日はバレンタイン!だから私からパクチーにチョコを用意したのよ!」

 

「チョコってなんなのよ?」

 

「あまーいお菓子よ!」

 

「そ、そう・・・」

 

「今日はバレンタイン!だから私からパクチーにチョコを用意したのよ!」

 

「お、おぉそれは嬉しいな。しかしどうやってチョコなんか用意したんだ?資材の中にはそんなものなかったが・・・」

 

「そうね。この島にあるものだけじゃ無理ね。だから特別ゲストを呼んだわ!みんなー!」

 

「・・・みんな?」

 

アカツキが海の方へ向いて叫ぶと遠くに白波が立つのがみえる。・・・あれはコンテナか?コンテナが自走するなど・・・

 

「なのでーーーす!!!」

 

「うらーーーーー!!!」

 

「頼ってーーーー!!!」

 

「ファッ!?うーん・・・」

 

「私の妹達にチョコの材料とチョコ作りの道具を運んでもらったわ!褒めてもいいのよ?」

 

「なんでもありなのね。」

 

「特別編ぐらいはっちゃけないとダメよ!」

 

「うん・・・うん?」

 

海からきた三人が砂浜にコンテナを置くとこちらによってくる。・・・みんなアカツキより頭良さそうな顔だ。

 

「私は電なのです。、貴女がお姉ちゃんを助けてくれたのです?本当にありがとうなのです!これは電からのチョコなのです!」

 

「あ・・・これはどうも、ご丁寧に・・・」

 

「ハラショー。響だ。これは私からのお礼のウォッカだ。それと親愛の印のウォッカ。あとバレンタインプレゼントのウォッカだ。」

 

「たまげたなぁ・・・」

 

「もーっと頼っていいのよ!!!!」

 

「君はなんなの?」

 

「みんな暁の自慢の妹よ!戦っても強いんだから!」

 

「そ、そうなのね・・・」

 

アカツキが背中の箱を降ろすと軽々と持ち上げる。いや、それ降ろした時にずしーんって言ったぞ。

 

「パクチーサイズに作るのは苦労したわ!!!さぁパクチー!ハッピーバレンタイン!」

 

「これが・・・チョコ・・・!」

 

ピンクのリボンをほどいて箱を開けるとハート型のチョコというお菓子・・・甘い匂いがする。美味しそうね。

 

「いただきます・・・!!」

 

「召し上がれ!」

 

パクりとひとくち。うむ!甘い。これがチョコ・・・良いものだ・・・!

 

「そういえばしれーかん・・・私達があげたチョコを、資材に変えちゃう時があるのよね・・・ひどいと思わない?」

 

「なに!?チョコは資材なのか!?」

 

「ふぇっ!わ、わからないけど資材に変わっちゃうのよ。」

 

「きっと艦娘のチョコとして闇市で捌いているのです。高級品なのです。」

 

「ふむ。そういうことはウォッカでも飲んで忘れよう。ほら、暁も。」

 

「もが!?」

 

「暁、頼る?」

 

「そうか・・・資材か・・・!!チョコ、私の備蓄は今食べた分だけね、集めに行かなければ・・・!」

 

「ふえぇ~ぱ、パクチーも行くなら私も行くわぁ~し、しゅつ、しゅつげきよぉ!」

 

「なのです!電もいっぱいチョコもらうのです!」

 

「うん、たまにはウイスキーもいいと思うんだ。思わないか?料理は得意でね。」

 

「頼って・・・」

 

「行くぞアカツキ!目指すは資材、チョコレートなのよ!」

 

ーーーーーーーー

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

「モウ、カエレヨォ!!」

 

「黙れ。あるだけ出すのよ。出さないなら貴女ごと食べてチョコレートをもって帰る。」

 

「ソンナノモッテナイッテイッテルダロォ!」

 

とりあえず深海棲艦を強襲した。響いわく菱餅も秋刀魚も正月飾りも深海棲艦から奪うものらしいからだ。見つけた深海棲艦を片っ端から艤装に食べさせたが誰もチョコレートは持っていなかった。

 

「ハラショー。パクチーサイズになるとイベント海域も解放前に進攻可能だ。規格外だね。」

 

「やっちゃえ!パクチー!」

 

「焼き払えなのです!」

 

「頼ってくれないの?」

 

「ウフフ・・・モウトベナイノ・・・?飛んでみなさいよ。まだ持ってるでしょう?」

 

「モッテナイヨォ!カエレヨォ!」

 

「チョコレートあくしろよ。」

 

「ウワアアアアア!!」

 

とりあえず見たことの無い深海棲艦を襲ってみた。残念ながらこいつもチョコレートは持っていなかった。どこに行けばチョコレートを持っている深海棲艦に会えるのよ・・・

 

「パクチー!前に秋刀魚を集めに行った時は北方海域まで行ったわ!」

 

「北方・・・遠いなぁ。しかしチョコレートの為だ。全ての資材は私のものだ!」

 

「全て奪い尽くすのです!」

 

「ハラショー。いい心がけだ。力を感じる。」

 

「もっと頼ってよぉ!」

 

これが後の世界を又にかける凶悪な海賊誕生の瞬間であった。艦娘と深海棲艦が手を組んだこの海賊は世界のどんな勢力も敵わない最強の海賊となるのはそう遠くない未来の話・・・

 

ーーーーーーーー

 

ーーーーーー

 

ーーーー

 

ーー

 

 

「・・・はわぁぁぁぁっ!?・・・ゆ、夢・・・?」

 

「ど、う、した。アカツキ。」

 

「う、ううん。ちょっと恐い夢を見たの。」

 

「そう、か・・・なら、すこ、し、星を、眺め、る、と、いい。」

 

「そうね、ありがとう。パクチー。」

 

 



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page7 ユメノシマナノヨ

「とりゃーーーっ!」

 

「ないす、ぴっちん、ぐ」

 

アカツキの投げたビンがきらきらと陽光を反射し、放物線を描いて着水する。ゆらゆらと漂うそれは沖を目指していった。

 

「ふぅ・・・今日のやること終了!」

 

「おつ、かれ。」

 

「これで流した手紙は30個・・・ちゃんと届いてるといいなぁ・・・」

 

「海は・・・静か。」

 

「ま、遭難中だし。気長に待つわ。」

 

艤装から黒い煙を噴かして砂浜へ逆戻りする・・・と、海底を泳ぐ何かがいる。この大きさ・・・まさか。

 

「アカツキ・・・こっち、へ。」

 

「ふぇ?なにパク・・・っきゃああああっ!!」

 

巨大な水柱と共にアカツキは空高く打ち上げられた・・・海底から現れたのはクジラのような外観をした巨大な下等深海棲艦だった。おかしい。あの嵐を越えてきたの?

 

「ぴゃああああっ!!!」

 

「アカツキ!!!」

 

「!!!!」

 

金属を引き裂いたような鳴き声をあげるそいつは喉の奥から漆黒の砲身でアカツキを狙う・・・私を無視してだ。

 

「オノレッ!!」

 

「!!?!?」

 

艤装の両腕でそいつを持ち上げ、豪快に引きちぎってやる。私ほどの上位になれば容易い。黒い液体を撒き散らしながらビクビクとのたうつそいつは次第に海に沈んでいった。

 

「アカツキ!!」

 

「ぴぃ・・・だ、大丈夫よ・・・」

 

「早く・・・浜、に、戻ろ、う。」

 

「そうね・・・なんでパクチー以外の深海棲艦が・・・」

 

「わから、ない・・・」

 

アカツキを大事に掴み、浜辺へ急ぐ。嵐が弱まってきたのか・・・はたまた嵐の外に大挙して押し寄せてきたのか・・・原因はわからないが、ひとつだけ理解した。

 

「ここ・・・は、危険・・・だ。」

 

「・・・でも、どうするの?あの嵐からは出られないんじゃないの?」

 

「おそ、らく、嵐、が弱まって、いる。島、の、近く、で発生、した奴、なら、わかる、から。」

 

「じゃ、じゃあ出られるの!?」

 

「出て、も、外、は、敵がいっぱい、かも・・・」

 

「う・・・それは怖いわね・・・」

 

「少し、様子、を、見る。だい、じょうぶ。私、強い、から。」

 

「そ、そうね・・・さっきのロ級も、まっぷたつだったし・・・」

 

「強い。」

 

危険が迫ってはいるのはアカツキに対してだ。私はよっぽどでなければ脅威にはならない。アカツキは鎮守府に帰ることを望んでいる。ならば友としてそれを手伝ってやらないと・・・

 

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-

 

時は一週間ほどさかのぼり。夕暮れ時のラバウル。

 

「俺達もあのM作戦に参加していたし、暁捜索に・・・協力してやりたいが・・・これは罠なんじゃないか?」

 

「・・・。」

 

「・・・なんてったって都合が良すぎる。なぁ鈴木よ。そこんとこどう思う?おい。」

 

「私は・・・」

 

「まぁまぁ若林君、そうカッカするなよ。鈴木君、これはレアケースだ。罠だなんだと決めつけるのは早計だと思うよ?」

 

「だけどよ!森本のおっさん!この手紙の内容が本当ならとんでもねぇ事態だぞ!?超大型深海棲艦・・・ここらのちっさい泊地なんか一晩で焼け野原だ!」

 

「・・・。」

 

「だから、その内容通りならその超大型深海棲艦は友好的なんだろう?話も出来るらしいじゃないか。」

 

「ですが森本さん、暁ちゃんが脅されて書かされた、という可能性も捨てきれないです。」

 

「ううーん・・・」

 

「とりあえず・・・だ。鈴木、若林、森本。この手紙の内容が本当なら・・・駆逐艦暁はあの嵐の中だ・・・」

 

「一通目は俺のショートランド。二通目はテテパレ島、そのほかソロモン諸島、ツバル、ニューカレドニアなどかなり広範囲に漂着しているようです。一番遠くてオークランド・・・」

 

「我がトラック泊地にも毎日漂着物はあれど手紙のようなものは確認されていない・・・かなり大規模に捜索しているがな。」

 

「山尾中将・・・既に捜索は打ち切ってしまいました・・・再開するべきなのでしょうか・・・?」

 

「鈴木、お前はどうしたい?」

 

「私は・・・ど、どうしたら・・・これ以上他の艦娘を危険な嵐の海域に送り出すのは・・・」

 

「その超大型深海棲艦・・・手紙を読めば随分仲良くやっているようではないか。我が輩は捜索再開しても悪い事にはならんと思っている。」

 

「山尾中将・・・!本気でありますか!?」

 

「若林君!」

 

「良い・・・森本、若林も自分の艦隊を危険に晒せんと言いたいのだろう?」

 

「そうであります!確かに助けられる可能性があるなら助けたい・・・ですがこの賭けは負けたら南方一帯が火の海になるんですよ!?駆逐艦娘一隻と・・・どちらが助けるに値するか・・・」

 

「くっ・・・」

 

「・・・ならばこうしよう。ただいまよりトラック、ラバウル、ブイン、ショートランドの各泊地は協力し超大型深海棲艦を捜索し、撃滅する。」

 

「!!」

 

「りょ、了解!」

 

「了解。」

 

「漂着物により判明したこの脅威・・・放っておくわけにはいかないだろう。後日、正式に作戦を開始する。」

 

「それなら僕は先に偵察艦隊を編成すればいいですかな?」

 

「・・・頼めるか?」

 

「了解。」

 

「鈴木は我が輩の艦隊と連合艦隊を組む準備をしておけ。若林、お前は漂着物の捜索だ。超大型の手がかりを見逃すな。」

 

「了解っ!」

 

「了解!」

 

「た、大変です!!」

 

「こ、こら榛名!会議中よ!」

 

「も、申し訳ありません!緊急事態です!タスマン海に大型の嵐が発生、嵐内部より深海棲艦が出現しオーストラリア、ニュージーランドに甚大な被害が出ているとのことです!各国政府が日本に艦娘の出撃を要請して、すぐさま出撃するようにと・・・!」

 

「・・・話は聞いたな?先にこちらからだ。急げ!!」

 

--------

 

------

 

----

 

--

 

-

 

時は戻り、どこともわからない、暁の漂着した島。

 

「アカツキ。」

 

「なに?パクチー。」

 

「明日、の、おてがみ、は、私が、書きたい。」

 

「えーっと・・・パクチーが書ける大きさの紙もペンもないから、私がパクチーの言葉をお手紙にするわ!それにパクチー、日本語書けるの?」

 

「・・・書けな、かった。」

 




小ネタ

「じゃあパクチー!ドラム缶に思いっきりぎゅーって絞るのよ!」

「わかった。」バキバキメシメシボタボタ

「・・・うわぁ!すごいわ!ココナッツミルクたっぷり!何リットルくらいあるのかしら・・・これで夢にみたミルク風呂ができるわね!」

「(ミルク風呂のミルクとは動物性の乳ではないのか?)」

「これでお肌ぷるぷるよ!」


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page8 ダイセンカンナノヨ

「えいっ」

 

投合されたガラス瓶がぽちゃりと音を立てて波間を漂っていく。もういくつ投げただろうか材料の続くかぎりは投げてきた手紙入りの瓶。暁には予想も出来ない。

 

「ねぇパクチー」

 

「な、なに?」

 

「手紙、ちゃんと届いてるかしら。」

 

「わか、らない。」

 

「そうよね。」

 

幾百と続けたこのやりとり。島から出ることも出来ず、繰り返し続けた行為に暁のメンタルは限界であった。

 

「助け、来ないわね。」

 

「きっと、嵐、抜けられない。」

 

「そうよね。」

 

ぼんやりと波の向こうの雲の壁を眺める。天気は快晴。雲の壁は頭上までを覆うことは決して無かった。

 

「私、ちゃんと帰れるのかしら」

 

「・・・アカツキ、採集、行こう。」

 

「そうね。」

 

ぐらりと大きな体を揺らし立ち上がる。差し出した手のひらに暁を乗せ島の反対側、崖と暗礁の広がるオイルの海へ向かう。

 

「飲んで。」

 

到着したらば艤装にオイルを飲ませひたすら採集する。すると手のひらの暁が何かに気づいた。

 

「・・・パクチー!あれ!」

 

「どう、した、?アカツキ?」

 

「あれ艦娘じゃない!?」

 

「?」

 

暁の指さす方向を見ると雨合羽につつまれた、暁と比肩すると大きい艤装、座礁したと思われる艦娘だった。

 

「パクチー!あの艦娘のとこへ連れてって!」

 

「わか、った。」

 

「・・・生きてる、助けなきゃ!」

 

「・・・。」

 

「パクチー!手伝って!」

 

「・・・。」

 

「パクチー?」

 

「・・・こいつ、は、私の、資材、狙って、きた、のかも、しれない。」

 

「そうかもしれない・・・でも見捨てるなんてレディーのすることじゃないわ。」

 

「・・・。」

 

「パクチー、私が説得する。ダメだったときは・・・私ごと海へ投げ出していいから。」

 

「・・・それは、いや、だ。アカツキ、を投げ出す、なんて、したく、ない。」

 

「お願いパクチー・・・」

 

「・・・。」

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

明るい・・・これは太陽の日差し・・・?私は・・・嵐の中を突っ切ってきたはず・・・

 

「目が覚めた?」

 

声・・・仲間の物じゃない・・・

 

「大丈夫?もっと修復材かけてみよ。」

 

なに・・・?かけて・・・?

 

「おぼぼおぼぼぼぼ!」

 

「あ!目覚めたわ!」

 

「ぷはぁっ!げっほげほ・・・あれ・・・?」

 

「私は暁よ。あなたは誰?」

 

「貴方が私を助けてくれたのですか・・・?」

 

「座礁しているところを見つけたの。」

 

「そうだったのですか。私は大和、大和型戦艦一番艦の大和です。」

 

「戦艦大和!貴方が大和なのね。初めて見たわ!私は暁。」

 

「助けてくれてどうもありがとう。でもここは・・・?」

 

「場所はわからないわ。私も遭難中だから。」

 

「そうだったのですか・・・」

 

「大和さんあなたはどうしてこの島に来たの?」

 

「私は・・・横須賀からラバウルへの救援として出撃しました。嵐の中より現れた深海棲艦を迎え撃つために。」

 

「嵐の中・・・?」

 

「はい。タスマン海に発生した大型の嵐と同時に深海棲艦の進攻がありまして・・・ここは・・・あの嵐の中・・・?」

 

「少なくともここで深海棲艦は見たことないわ・・・一体を除いて。」

 

「・・・?それはどういう・・・」

 

「大和さん、貴方を助けたのは私じゃないわ。見つけたのは私だけど。」

 

「暁さん・・・?」

 

「パクチー!」

 

私がみたのは大きな水柱をあげて現れた・・・巨人だった。



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page9 キョジンッテイワレタワ

「あ、ああ・・・」

 

巨人、神話等で語り継がれた物語に存在する巨大な人型の怪物。私の目の前にいるのはそれそのものであった

 

「助けてくれたのは私の友達の彼女よ。名前はパクチー。」

 

「え、は、ええ?」

 

「驚くのも無理はないわ。わたしもそうだったもの。」

 

「あ、あれは・・・いったい・・・」

 

「・・・。」

 

開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。暁が言う友とは巨人であった。

 

「おま、え。」

 

「はえ?!」

 

「おまえ、の狙いは、なんだ?資材、か?」

 

「し、資材・・・?な、なんのことでしょう・・・」

 

「じゃ、何が、ねらい?」

 

「私は、タスマン海に出現した深海棲艦を討伐するために派遣された艦娘の、大和です。」

 

「わたし、の、資材が狙い、じゃ、ない?」

 

「そ、そうです。資材の回収が、目的じゃないです。」

 

「大和さん、パクチーは資材を集めるのだけが目的の深海棲艦なの。資材に手を出さなければ何もしないわ。」

 

「深海棲艦・・・!?こんな、巨大な・・・」

 

巨大な深海棲艦など見たことがない。勝てるわけがない。本能的に、負けを確信した。

 

「暁さん・・・貴方は、深海棲艦といて、大丈夫なんですか?」

 

「最初はびっくりしたわ。でも襲ってこないし無視されるし。こんな深海棲艦初めてだったもの。でも今は大丈夫。資材を横取りしたりとかしなければ平気よ。私のことも助けてくれたし。」

 

「暁さん、貴方・・・」

 

洗脳されているのでは。そう思ったが口にしなかった。まだあの巨人の深海棲艦が見ている。

 

「ところで、大和さん。これからどうするの?」

 

「へ?ああ・・・助けてくれてありがとうございます。ですが私はここを離れすぐに味方の艦隊へと合流しなければなりません。」

 

「それは、できない。」

 

「何故です?」

 

「厚い雲の壁・・・すごい、嵐・・・この、島、出るの、わたしでも、できない。」

 

巨人が指さす先・・・そこにはそびえ立つ黒い雲の壁。大嵐なのだろう

 

「助けがこないか空き瓶にお手紙いれて流してるんだけれど、来なかったわ」

 

「そうなのですか・・・?」

 

「出れないなら誰かに助けてもらうしかないじゃない。」

 

「それは・・・そうですが・・・」

 

「大和さん、改めて聞くけど、どうする?」

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・

 

・・・・

 

・・

 

 

 

暁と大和の二人は砂浜に座りいそいそと空き瓶に手紙を詰めている。

 

「無線でも一応呼びかけてみてはいますが・・・このような原始的な手段に頼るのも悪くないですね。」

 

「私は大和さんのようにいい無線は積んでなかったから助かるわ。」

 

「それよりも・・・」

 

横で膝を抱えてこちらを見ている巨人型深海棲艦。何かいうわけでもなくじーっと暁達をながめていた

 

「あの・・・暁さん・・・彼女は・・・何をしているんでしょうか・・・」

 

「何って・・・なにもすることがないからぼんやりしてるんじゃないかしら。」

 

「そうですか・・・」

 

そう言われてしまうとそう見えてくるものがある。大和は警戒を崩さないでいた。

 

「あの・・・一日どんなことをしているのですか?」

 

「えっと朝、パクチーと資材集めの為に島を回って歩いて・・・」

 

「島・・・ここ島だったんですね。」

 

「それ以外にあるとおもってたの?」

 

「いや、そういうわけじゃないんですけど・・・そうするとここは台風の目みたいな場所なんですね。」

 

「そうね、そうなるわ。」

 

「それで、朝は資材集めをして・・・そのあとは?」

 

「終わりよ。」

 

「へ?終わり?」

 

「そう。」

 

「あ、たまにSOS発信したりしてるわ。」

 

「はぁ・・・」

 

「何もすることが無いのよ。島の奥地に入って迷子にでもなったら大変だし、雲の壁に近づこうとしても近くは大しけで近寄れないし。」

 

「えと・・・その・・・パクチー、さんは・・・?」

 

「朝、資材を収集したらこの浜辺でぼんやりしてるわ。」

 

「そーだ、大和さん!今日はあれやりましょ!ココナツミルク風呂!」

 

「え・・・?」

 

「ココナツを集めてパクチーにぎゅーっと絞ってもらってドラム缶いっぱいにして・・・」

 

「暁さん。」

 

「これでお肌もぷるぷ、はい?」

 

「暁さんは、帰りたくないんですか?」

 

「え?」

 

「帰るためのアイデアを考えたり、装備の点検をしたり、やるべきことはある筈です。帰るためにもっと全力で取り組むべきです。」

 

「・・・。」

 

「大和はこれから雲の壁に行ってきます。そのまま出られるようなら出ます。暁さん、一緒に行きませんか?出られないからと胡坐をかいて助けが来るのを待っていては何も進展しませんよ。」

 

「・・・・。」

 

「・・・・。」

 

暁と大和の間に重い沈黙が流れた。

 

「・・・行ってきます。」

 

沈黙を破ったのは大和で一人、艤装に火を入れて海へと繰り出していった。

 

「・・・私だって、帰りたいわ・・・でも、小さな私じゃ何もできないのよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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page10 ヨウジンニコシタコトハナイワ

待たせたな


雲の壁が近づく、目の前に迫る壁は体感より遥かに大きいものだった。

 

「すごい雲・・・でもなにか・・・」

 

時化る海の直前まで来た大和は不安定な波に揉まれながら辺りを見渡していた。

 

「・・・?何か様子が・・・変な感じが・・・」

 

波が渦を巻き、暴風が蠢くそれを注視し観察する大和。

 

「やっぱり。これは戻って暁さんに聞いてみたほうがよろしいですね。」

 

目前の嵐に背をむけ引き返す大和。

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

「暁さん。」

 

「なぁに大和さん。」

 

「暁さんは・・・あの、雲の壁に近づいたことはありますか?」

 

恐る恐る大和が暁に聞く、暁は少し伏し目がちに答えてくれた。

 

「無いわ・・・暁みたいに小さいと近づくだけでも転覆しそうで・・・」

 

「そうでしたか、では、あの、パクチーさん、は?」

 

「わたし、か?」

 

パクチーは大きな体を屈め二人に顔を寄せた

 

「わたし、は、近づいたこと、ある。閉じ込め、られた、と、わかった、とき。」

 

「その時に、何か違和感を感じた事は?」

 

「わか、らない。ただ、出れそうに、ない、とだけ。」

 

「(これだけの巨体を持つ深海棲艦が出られないと感じる・・・)」

 

大和は思案し、パクチーと暁に視線を移すと再び口を開く。

 

「あの、暁さん・・・先ほどあのような物言いをしてしまったところ申し訳ないのですが・・・」

 

「大丈夫よ。私も臆病になってたから・・・」

 

「わかりました・・・改めてご相談をしたいのですが、暁さんも大和と一緒にあの雲の壁を見に行ってもらえないでしょうか。その、大変危険なので、パクチーさんに手伝ってもらって・・・」

 

「?なにか気になることがあるのね。パクチー!」

 

「わか、った。アカツキが、やるなら」

 

パクチーが巨大な艤装に合図を出すと艤装が腕を伸ばした。

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

「ここで止まってください。」

 

「わか、った。」

 

海をかき分け進むパクチーと追従する艤装、それに乗り揺られる暁と大和。

 

「暁さん、ここから先は危険なので、ここから見える状況で何か感じることはありますか?」

 

「えっと・・・?」

 

帽子を被り直し辺りを見渡す暁、じーっと雲の壁を見つめてハッとなったように気づく。

 

「この海、確かに時化てるけど何か変よ。」

 

「そうなんです・・・暁さんには何が変に見えますか?」

 

「え・・・それは・・・うーん・・・」

 

首を傾げながら雲の壁を見つめる暁。

 

「・・・あ、え?嘘、どういうこと?」

 

「気づきましたか。」

 

「あの雲の壁の下・・・水面はどこ?」

 

暁が指さした雲の壁の麓と呼ぶような場所は加工写真のように雲の底面とあったはずの水面が混じりあって境界がわからなくなっている。

 

「大和はこれが嵐が起きているから海流も風向きもぐちゃぐちゃになっているんだと思ってました・・・でも逆です。これは、海流もなにもがおかしくなっているから嵐のようになっているんです。」

 

「なに、わから、ない。」

 

「えっと、ですね、パクチーさん、この嵐は私たちが想像するよりももっと厄介なものだと大和は想像しました。」

 

「え、じゃあ私たちが書いた手紙・・・」

 

「残念ですが・・・どうなっているかは・・・」

 

「そんな・・・」

 

二人の顔が曇り、消沈していく。しかしいつも表情の動かないパクチーの口角が僅かに上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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page11 キョウリョクシタイノヨ

雲の壁から離れ、再び砂浜に戻った3人は顔を突き合わせていた

 

「全然わからなかったわ・・・只の嵐じゃ無いとは思ってたけど・・・」

 

「致し方ありません。駆逐艦の小さな体躯ではあっという間に飲み込まれていたでしょうし。」

 

「うん・・・」

 

「暁さんはここに辿り着いた時のことを覚えていますか?」

 

「ええと・・・覚えてないわ・・・大和さんと同じく漂着していたの。」

 

「そうでしたか・・・では他に入ってきた人は?」

 

「他には・・・最初からいたパクチーだけよ。・・・あっ」

 

「なにか?」

 

「人じゃないんだけど深海棲艦が入ってきたわ。」

 

「深海棲艦が・・・パクチーさんにも聞いてみましょう。」

 

「なん、だ?」

 

パクチーは屈んでいても顔が結構な高さにあるため二人は見上げることになる。

 

「パクチーさん、あなたがここに入ってきた時、どうでしたか?」

 

「・・・。」

 

パクチーは思案する。大きな顔が動くと迫力があり大和は思わず身構える。

 

「わたし、が、来た時、ここ、に、嵐は、なか、った。」

 

「!」

 

「ほんと!?」

 

「わたし、が、ここに、きた、とき、資材も、なかった。」

 

パクチーが艤装を呼び口を開けさせると中に暁達から見ると山のような各種資材がある。

 

「いつから、か、わからない。でも、資材、あるの、わか、って、集めた、とき、には嵐、あった。」

 

大和の表情が少し曇る

 

「嵐に、も、近づいた。雲の壁、入るとここに戻ってくる。いろいろ、投げ込んだり、した。戻ってくるもの、と、こないもの、あった。」

 

「具体的に、戻ってきたものとこないもの、わかりますか?」

 

「おぼえ、てない。」

 

「・・・そうですか。ありがとうございますパクチーさん。」

 

「良い、アカツキの友達、なら、わたしの、友達」

 

「(本当に変わった深海棲艦ですね・・・)」

 

・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・・

 

・・・

 

・・

 

 

夜、今日は珍しくパクチーは海に出て海の上から星を眺めていた。

 

「・・・暁さん。」

 

「なぁに大和さん。」

 

「暁さんが出した手紙、きっと届いてると思います。大和の推測が正しければ。」

 

「えっ!?本当!?」

 

「はい。大和の推測、聞いてもらえますか?」

 

砂浜のシェルターで横になっていた大和は暁に向き直り、真剣な顔で口を開く。

 

「あの嵐、原因はこの島の資材にあると思っています。」

 

「資材・・・?」

 

「はい。」

 

暁は身を起こしちらりと海の上で星を眺めるパクチーを見た。

 

「資材が、どう関係あるの?」

 

「おそらくなんらかの力がこの島から資材を出さないようにしているのではないかと思っています。」

 

「なんらかの力・・・」

 

「パクチーさんが言ってたことが本当なら、パクチーさんは嵐に入り、ここに引き戻されている。そして嵐に投げ込んで戻ってきたものはこの島のものではないかと思います。戻ってこなかったものは流れ着いた島の外のもの。」

 

「うん・・・」

 

「暁さんが出した手紙と瓶はこの島にあったものではないですよね?」

 

「そうよ。パクチーが流れ着いたものを拾ったって・・・」

 

「この島のものではないなら手紙入り瓶は嵐の外に出ていると思います。」

 

「・・・!じゃあ!私たちは出られるんじゃない!?」

 

「これも推測ですが・・・おそらく今のままでは無理です。」

 

「え・・・どうして。」

 

「暁さん、この島の資材を使って補給をしたりしませんでしたか?」

 

「あっ・・・」

 

「大和のこともこの島の資材で修復しましたよね?」

 

「・・・ごめんなさい・・・」

 

「いえ、いいんです。あのままでは大和も朽ち果てていたことでしょうし・・・」

 

「・・・うん。」

 

「大和達が出るためにには・・・補給した資材以上の損傷を被る必要があると思っています。」

 

「大破状態で・・・あの嵐に突っ込むの?」

 

「・・・現状そうすれば・・・出られる可能性が高いです。」

 

二人は少し見つめあった後・・・遠くの嵐の壁を睨みつけた。

 

 

 

 

 

 



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page12 タノシカッタワ

日が昇り辺りを明るく照らす。砂浜の葉っぱで作ったシェルターの中で眠る二人の頬に朝日が差した。

 

「ん・・・ふわ・・・暁さん、朝みたいですよ。」

 

「んん・・・んむ・・・」

 

二人は森の小川まで歩き顔を洗う、海に近いからか小川の水はちょっとしょっぱい。

 

「ふぅ・・・すっきりした。大和さん?」

 

「ええ、大和も・・・?」

 

「どうしたの?」

 

「パクチーさんは・・・どこでしょう?」

 

「そういえば・・・どこ行ったのかしら。」

 

パクチーがいない。あの巨体からか目に入らないということ自体がかなり珍しいことだった。そもそも暁を大層気に入っておりパクチーから離れることなどこれが初めてだった。

 

「おかしいわね・・・ッ!?」

 

「暁さん!!!」

 

二人が海を向くとじわりじわりと赤い侵食海が拡がりはじめ、空を暗雲が立ち込めている。

 

「パクチー!!!!どこなの!!!パクチー!!」

 

「パクチーさん!!!どこですか!!!」

 

すると砂浜から少し沖で水柱が上がり巨大な影が浮かび上がる。その姿はドス黒いオーラを纏い煌々と眼を光らせる・・・パクチーの姿があった。

 

「おおォオオぉおおオォオオオ!!!!!!!」

 

「パクチーーーーーッ!!!!」

 

「暁さん避けてッ!!!」

 

大和が暁を掴んで振りかぶった。次の瞬間衝撃波が砂浜を吹き飛ばし下の岩盤を露にした。

 

「大和さん!!!!!」

 

「げほっ・・・・大丈夫です!!直撃はしてません!!」

 

直撃はしていないと豪語する大和だったが艤装の半分が焼け焦げ使い物にならなくなっている。

 

「パクチー・・・なんで・・・」

 

「えあああアアアッッッ!!!!」

 

パクチーの艤装から伸びる砲身が暁に向く。次の瞬間発砲炎が辺りを巻き込み渦を巻いた。

 

「うぁあああああっ!!!」

 

爆風、衝撃波、瓦礫、あらゆるものが渦を巻き暁に襲いかかった。艤装はひしゃげ、魚雷が暴れ、砲身が捻じ切れていく。

 

「暁さん!!!パクチーさん!!あなたは!!!」

 

大和の46サンチ砲が火を吹きパクチーに命中するも露ほどの損害も与えられていない。そして次の瞬間その巨体からは到底想定出来ない速度で接近を許し、巨腕が振り上げられる。

 

「ごめんね・・・」

 

「!?」

 

巨腕が振り下ろされ、大和の立っていた岩盤ごと吹き飛ばす。

 

「がぁっ!?げほ・・・」

 

大和は地面へ何度も叩きつけられながら転がっていく。ちょうど辿り着いた先は満身創痍で倒れる暁がいた。

 

「・・・ぐぅ・・・暁・・・さん・・・」

 

パクチーが浜へと乗り上げると巨腕を振るいながら迫ってくる。

 

「・・・二人は・・・」

 

「う・・・」

 

「さよう、なら」

 

パクチーの拳が振り下ろされる、それが大和が見た最後の光景だった。

 

 

 



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file3 帰投

・・・・・

 

暗い・・・そしてうるさい・・・何も見えないのに謎の喧騒が耳につく・・・

 

ここは・・・私は・・・

 

・・・・・

 

「開いたクマァ!」

 

ゴリゴリと分厚い金属が歪む音がしてコンテナに光が差していく・・・ここは一体どこなのだろうか。私は何をしていたのだろうか。思い出せない・・・

 

「うわっ!!こりゃ大変だクマ!提督ゥーーーー!!!」

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

「う・・・あれ・・・」

 

「気がつきましたか?」

 

「ここは・・・」

 

「入渠ドックですよ。ご自分の事はわかりますか?」

 

「はい・・・ラバウルの・・・暁、です。」

 

「わかりました。私はここ、ショートランド泊地の鳳翔です。暁さんはまだ完全に修復なさってないのでゆっくりしていてください。」

 

「はい・・・ってあの!大和さんは・・・!?」

 

「大和さんもいらっしゃいますよ。隣のドックでまだ眠っています。大破状態でしたからね・・・。」

 

「あっ・・・そう、ですか・・・」

 

暁はホッと胸を撫で下ろすとドックに浸かり直す、それを見た鳳翔はまたあとでと出て行った。

ふと自分に何があったのか思い出そうとする暁だったが頭にモヤがかかっているように断片的にしか思い出せない。ずいぶん長いこと漂流していたのだと察した

 

「・・・。」

 

大和のことも考えるが一緒だったということしか思い出せない。あとは・・・巨大な何か・・・

 

「あ、メガトラマン・・・」

 

大好きだったテレビ番組、長い事見ていない気がした。司令官が録画していたりしないかと考えていると隣のドックが騒がしくなる。

 

「大和さん、起きたみたい・・・」

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

ショートランド泊地の宿舎に案内された暁と大和は提督である若林に状況説明と報告を行っていた・・・

 

「・・・以上です、後は暁さんから・・・」

 

「了解だ。でだ、暁。この瓶の手紙、覚えはあるな?巨大な深海棲艦について報告をしてくれ。」

 

「は、はい・・・でも・・・瓶で手紙を出したのも・・・うろ覚えで・・・巨大な深海棲艦についても・・・」

 

「ふむ・・・その辺も大和と一緒か・・・いったいどうなっちまってんだ・・・」

 

「すみません・・・」

 

「いや、いい。8ヶ月もの間音信不通の漂流状態だったんだ。どれだけ過酷だったのか想像も容易い。無理して思い出さなくて良い。」

 

「あの、若林提督、大和が同行する予定だった任務については・・・」

 

「それなんだがな・・・大嵐が消えると同時に深海棲艦もふっと消えちまった。横須賀の艦隊もとんだ空振りに遭ったもんだ。」

 

「それでは、大和はこの後横須賀に帰投でしょうか。」

 

「ああいや、横須賀の艦隊はラバウルに残ってる。大和が漂流した3ヶ月の間は嵐の深海棲艦再出現に備えて山尾中将が指揮を持ってる。大和は暁と共にラバウルに行ってもらうつもりだ。」

 

「了解。」

 

「いいか?まだタスマン海含嵐の深海棲艦と超大型深海棲艦の警戒中だ。休む時間もあると思うが、気を緩めるなよ。艤装の修理が終わったらすぐラバウルに出立する。それまで体を休めておけ。」

 

「了解!」

 

「大和の艤装が直るまでまだかかるからな。・・・艤装があんな状態なのによく生きて帰れたな。よく頑張ったな。」

 

「ありがとうございます・・・何か思い出したことがあればすぐ報告しますので。」

 

「おう、助かる。しっかり休めよ」

 

 

 

 

 



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page13 オオキクナッタノヨ

暁と大和を大破させ、コンテナに詰めて嵐の外に追いやった後

 

「・・・。」

 

細波が足を打ち、雲ひとつない夜空を見上げるパクチー

 

「おおきく、なったわ。」

 

ひとりごちるパクチー、その手には無数の空き瓶が握られており月明かりと波の反射でキラめいて見えている。

 

「・・・。」

 

パクチーは拳を握りバキバキと瓶を潰していく。その顔は表情が読めず、瓶を粉微塵にしていった。

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

場所はラバウル、ショートランドの装甲連絡船が到着しつつあった。波止場にはラバウルの皆が集まり今かいまかと連絡船の到着を待ち望んでいる。

 

「・・・!」

 

連絡船が埠頭に着くと同時に荷物の陸揚げが始まる。そして皆が待ち望んでいた小さな影が船を降りてきていた。

 

「・・・駆逐艦暁!帰投しました!」

 

暁が帽子を直しながら敬礼をする。待ち人達も揃って敬礼し、鈴木提督が一歩前に出る。

 

「・・・おかえりなさい。」

 

あちこちで今にも飛びかからんと堪える者、涙を堪える者で溢れたラバウルの波止場に笑顔があふれている。

 

「ただいま!」

 

暁の返事と共にタガが外れたのか歓声に包まれる波止場、暁はもうもみくちゃにされて帰投を喜ばれている。

 

「手紙読んだぞ!」「生きてて良かった!」「無茶しやがって!」

 

様々な言葉の嵐に包まれる暁は涙して再開を喜んでいる。

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「電・・・」

 

「お姉ちゃんがいない間、とっても辛かったのです・・・みんなにひどいこといっぱい言っちゃって・・・すっごく辛かったのです・・・」

 

「そう・・・ちゃんとごめんなさいした?」

 

「したのです!いっぱい・・・いっぱいしたのです・・・」

 

「そ・・・じゃあよろしい!ただいま電!」

 

「お゛か゛え゛り゛な゛さ゛い゛な゛の゛て゛す゛ぅぅぅあああああああん!!」

 

電と抱き合って再開を喜ぶ暁、その後ろで横須賀の艦隊が大和を迎え入れている。

 

「さぁ!みんな!いつまでも喜んでる場合じゃないわよ!まだやることが残ってる!!暁は報告!よろしくね!!」

 

はぁいと返事が聞こえた後各々が持ち場に戻っていく。暁は提督に連れられ執務室へと向かっていった。

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

「さて、暁、大和さん、報告をお願いします。」

 

「はい。」

 

執務室のテーブルを囲みお茶を一杯すする。

 

「報告なんですが・・・実はあまりよく覚えていないのです。」

 

「うん・・・」

 

「はい、まるで漂流自体が大したことではなかったように記憶が薄いというか・・・」

 

「うん・・・それは若林提督の報告でも聞いているわ。わかる範囲で良いの、二人とも教えてくれる?」

 

「とりあえず漂流していた場所なんですが嵐の中心部のような場所だったのを覚えています。その嵐が晴れているところを見たことがないです。大和さんが来たときも晴れた形跡はなかったです。司令官の方でそういう場所なかったです?」

 

「あったわね・・・ええっと、場所はこの辺りかしら。」

 

テーブルの海図に丸がかきこまれていき、漂流地域の断定を図る鈴木。

 

「この辺りにずっと嵐が居座っている場所があるの。現在進行形で・・・」

 

「おそらくそこでしょう。ショートランドに着いた関係から大和もそう思います。」

 

「中には島があって・・・えっと、」

 

「資材が山のようにあったエネルギースポット、だったのよね?」

 

「そうです・・・でもそれも曖昧で・・・」

 

「わかった。次なんだけど・・・超大型深海棲艦について。」

 

「それもよく覚えていないのです・・・さらに言うと深海棲艦と会っていたとも感じてなくて、巨大な何かと一緒にいたくらいにしか覚えてなくて・・・」

 

「うーん手紙にも襲われたとか何かあったとは書いていなかったわね・・・」

 

「大和も一緒です。確かに巨大な存在と一緒にいて・・・ううーん。」

 

「じゃあどうやって島と嵐を出たとかは?」

 

「それが一番わからないんです・・・なぜ大破していたのかも・・・」

 

「・・・わかった。だいたい若林提督の言っていたことと同じね。」

 

「すみません・・・」

 

「いいのよ。言ってることがガラッと変わる方が驚くし。暁はこのまま自分の宿舎に戻って休んでちょうだい。大和さんは横須賀の艦隊に貸してる宿舎へ行って休んでください。我々は今タスマン海に出現した深海棲艦を伴う嵐に対する作戦行動中です。今は治っていますが・・・警戒中ですので。」

 

「了解!」

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

「ふぅ・・・」

 

暁は久しぶりの自分のベッドで横になっていた。砂の上にはっぱを敷いて寝る生活はもうだいぶ昔のことのように感じている。

 

「・・・パクチー・・・」

 

ふと口をついて出た言葉に驚いた。

 

「・・・大事なこと忘れている気がするの・・・」

 

暁は日が落ちて間もない時間だが眠気に襲われ、瞼を閉じた。

 

 

 



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page14 束の間の安息

場所はタスマン海、嵐の内部にて・・・

 

高波に呑まれながら蠢く深海棲艦達は獲物を狙い爪を研ぐようにひしめいていた。

 

その中で一際大きな体躯も持つ深海棲艦が一体吠えている

 

「ーーーーーーーーッ!!!!」

 

咆哮すると同時に巨大な体躯を翻しとある方向へ向かって舵を切っていった。

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

一方ラバウル

 

「これを見て。」

 

最新の情報が印刷された海図を広げ今後の指揮の参考にするべく鈴木提督はある場所に指を刺し、秘書艦の霧島に問うた。

 

「嵐の予想図ですか?」

 

「そう、タスマン海のものはここラバウルへ進路を取り始めてる。それだけじゃない。暁達がいたと思われる嵐も進路を示しつつある・・・」

 

「嫌な予感がしますね・・・」

 

「その嫌な予感が当たりそう・・・とにかく南方全域に非常事態を出さなきゃならないわ。」

 

「すぐに準備させます。」

 

「よろしく。・・・不安材料は多いけど頼むわ。」

 

「了解・・・。」

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

『メガトラスマッシャー!!!』

 

『ギャオオオオオ!!!』

 

「・・・。」

 

暁は宿舎でお菓子を食べながらテレビを見ていた。遭難から帰ってきた差し入れにと大量のお菓子をもらっていたのだ。

 

『今日の怪獣も強敵だった・・・だがメガトラマンは負けない!』

 

「暁さん・・・いますか?」

 

「ん・・・はぁい。」

 

暁の元へ大和が訪れていた。その手にはカステラが乗っている。

 

「おやつを一緒にどうかと思いまして・・・」

 

「わかったわ。一緒に食べましょう!」

 

暁はテーブルの上を片付け大和のスペースを作る。カステラが置かれると大和は丁寧に切り分け暁に手渡した。

 

「そのお菓子・・・皆さんが?」

 

「そうなのよ。今まで食べられなかったぶんって。こんなに食べたら太っちゃうわ。」

 

「愛されてますね。かく言う大和もなのですが・・・」

 

「ご飯が食べられるくらいに節制しないと。」

 

「そうですね。」

 

2人でカステラを頬張りテレビを視線を向ける。

 

「これは・・・メガトラマンですか?」

 

「そうよ。電が録画しておいてくれたの。」

 

「海軍主導のテレビ番組と聞いていましたが・・・初めて見ましたね。」

 

「面白いのよ!」

 

「そうですね・・・」

 

『今日の脅威は去った・・・しかし再び怪獣が現れし時、メガトラマンは戦うだろう!』

 

「・・・パクチーさんは、」

 

大和が口を開くとぴくりと暁は動きを止める。

 

「なんだったのでしょうね・・・」

 

「わからないわ・・・私達の知る深海棲艦ではないと思うのだけれど・・・」

 

「不思議な感じでしたね。」

 

「そうね・・・でも悪い感じじゃなかった。」

 

「朧気ですが最後の・・・鬼気迫るあの感じは・・・」

 

「わからない・・・でも私達を外へ・・・家へ返す為にやったんだと思う・・・」

 

「そう、ですよね・・・」

 

2人は空になった皿を持ったまま・・・パクチーへの想いを言葉にしていた。

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

この数日後、タスマン海で滞っていた嵐から再び深海棲艦が出現し緊急事態が布告された。



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page15 もう一人の巨人

そんな短い時間で移動できるわけないだろとかいうのはナシで


タスマン海の嵐がラバウル周辺へと進路をとって嵐より現れた深海棲艦が周辺海域に蔓延っているとの報せが届くのに時間は掛からなかった。

 

「すぐに当該海域へと出動!深海棲艦を食い止めて!!」

 

「嵐により羅針盤が乱れています!!妖精さんもこれにはお手上げのようで・・・」

 

「乱れていても目的地は一緒!出撃用意早く!」

 

「了解!」

 

嵐に僅かに近いショートランドとブイン基地への連絡と反復出撃の用意で執務室は慌ただしくなっていた。

 

「司令官!」

 

「暁!」

 

「私も出るわ!いつまでも休んでいられないもの!」

 

「私としてはもうちょっと休んでても良かったけどそうは言ってられないわね・・・お願い!」

 

「了解!」

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

タスマン海周辺、そこはすでに出撃したショートランド泊地の艦娘が激戦を繰り広げていた。

 

「一匹も通すな!的はそこらじゅうにある!撃ちまくれ!!」

 

「伊勢さん!航空機が!!」

 

「構わん!空母は直掩の艦娘に任せろ!我々は水上艦だけを狙え!!」

 

「了解!」

 

伊勢の砲門が火を吹き深海棲艦の一体を屠る。しかし一体倒す間に二体、三体と次々と現れてくる。

 

「くっ・・・多勢に無勢だな・・・他基地からの救援も来る!それまで持ち堪えろ!!」

 

「伊勢さぁん!!!」

 

「どおした!!」

 

「あれを・・・!」

 

「なに・・・」

 

重巡が指し示した方向には雷鳴と共に蠢く巨大な影が存在していた。それは山よりも大きく海を割りながらこちらへ向かってきていた。

 

「・・・あたしたちは夢でも見ているの・・・!?」

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

「これよりタスマン海へ深海棲艦掃討へ出撃する!無人高速艇より降りたらすぐさま作戦行動開始!現場にはすでに山尾中将指揮下のショートランド泊地の艦娘が戦闘に入っています!」

 

「みんなは到着次第山尾中将の指揮下に入って!いい!?」

 

「了解!」

 

「通達は以上!出撃!高速艇へ乗り込め!!」

 

ラバウルの艦娘たちが無人高速艇へと乗り込んでいく、高速艇を積んだ装甲艦へ鈴木提督も乗り込んだ。そこへすぐさま通信が入る。

 

『鈴木・・・聞こえるか?』

 

「聞こえるわ若林提督。」

 

『不確かな情報だが超巨大深海棲艦がいるとの報告が入っている・・・例の二人は・・・』

 

「大丈夫です。戦えます。」

 

『そうか・・・それならいいが。』

 

鈴木は内心は不安だった。超巨大深海棲艦といえば暁と大和が接触したと思われるものだと思った。友好的に接触したと聞いていたが今は海を進撃している。だが二人とも任務ならば・・・鈴木は頭を振った。大丈夫だ。二人ともよく覚えていない様だし。きっと戦える。今はそう信じるしかなかった。

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

「無理矢理にでも後ろに下がって補給しろ!気を見てなんて遅すぎる!」

 

「伊勢さん!ラバウルとブイン基地からの増援が来ます!!」

 

「助かる・・・!すぐに隊列に入れろ!!」

 

「了解!」

 

暗い空、黒い海、蔓延る深海棲艦。ショートランドの全員でかかってなんとか戦線のスピードを抑える程度だったがこれで光明が見えそうだ・・・そう伊勢が思ったその瞬間だった。

 

「(あれ・・・?なんでみんなが下に見えるんだ・・・?あたしどうなって・・・)」

 

次の瞬間海面に叩きつけられ衝撃が伊勢を襲う。

 

「がはっ・・・げぼ・・・」

 

伊勢は空高く投げ飛ばされたのだ。巨大な手によって。伊勢が激痛に耐えながら見上げたその先には巨大な漆黒の深海棲艦がこちらを見下ろしていた。

 

「それは・・・反則だろ・・・」

 

同時に艦娘の増援艦隊が到着し、超巨大深海棲艦と人類は初遭遇した。

 

 

 



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page16 開戦

「なんなんだ!なんなんだあいつは!!」

 

轟音が海を裂き砲弾を散らしていく。そこには無情で巨大な暴力しか存在していなかった。

 

「どうなっているんだ!?味方は!?」

 

凄惨な状況を想像した伊勢だったが味方は持ち堪えていた。あちこちで悲鳴が入り混じり戦線はとっくに崩壊している。

 

「みんな一時撤退!持ち直すぞー!!!」

 

無線で呼びかけるも聞こえてくるのは悲鳴ばかり、超巨大深海棲艦に狼狽するばかりであった。

 

「くっ・・・!」

 

伊勢が撤退することでそれに混じり撤退する艦娘達が目立ち始めた。しかし漆黒の巨大な手がそれを阻み艦娘達を散らしていく。

 

「間に合わない・・・!!」

 

伊勢は感じ初めていた。敵うわけがない。相手は自分の何十倍もある巨大な相手だ。みんな殺されてしまう・・・そう感じずにはいられなかった。

 

「全砲門開け!撃てぇーっ!」

 

「な・・・大和!?」

 

「みなさん撤退してください!戦線を立て直します。急いで!」

 

大和の鶴の一声で艦娘達は撤退し始める。狼狽えていた艦娘達に目に光が灯った。

 

「撃てぇーっ!」

 

大和の砲撃が巨大な手を払い除け退路を作っていく。艦娘達は瞬く間に撤退し、巨大な魔の手から退いていった。

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

「・・・超巨大深海棲艦はタスマン海周辺を屯ろするだけで進軍する意図は見られません・・・今は斥候らしき深海棲艦を撃破するのみとなっています。」

 

「どうすればいいんだあんなデカいのを!!!」

 

「大和君、君たちが見た深海棲艦とは、違うものなんだね。」

 

「はい山尾中将・・・私たちが見たものは、こう牧歌的というか・・・邪悪な意志を感じるものではなかった気がします。」

 

「ふぅむ・・・超巨大深海棲艦が・・・まさか二体もいるとは・・・」

 

海軍の指令船の中は阿鼻叫喚だった。それもそのはずだった。二体目の超巨大深海棲艦の存在は南方だけではなく本土にまで影響をもたらしていた。

 

「大本営からはどこへの上陸も絶対阻止するように、との通達が出た。もはやなりふり構っていられないぞ。」

 

「暁君、君はどう思うかね。」

 

「はい・・・えっと・・・私たちと一緒に過ごしていた方は心配及ばずという感じですが・・・タスマン海の方は絶対に倒さなければいけないと思います。」

 

「わかった・・・今は停滞しているようだが今のうちに叩くしかない。決戦打撃艦隊を編成し、すぐさま打って出る。本当に倒せるかどうかも怪しいが絶対に奴を自由にはさせられない。いいか?」

 

「「「了解!」」」

 

「横須賀からの大和君達を中心に編成する。暁君にも入ってもらう。気づいたことがあればすぐにでも報告してくれ。」

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

「これよりタスマン海へと再突入し、超巨大深海棲艦を打倒します!総員前へ!」

 

大和達が檄を飛ばすとそれに続いて艦娘達は前へと進み嵐の中へと突入していく。嵐の中は先刻と何も変わらず海を裂き海流を曲げ突風が吹き荒れている。そこには無慈悲な自然の脅威ではなく明確な悪意をもっているかのように感じられた。

 

「見えた・・・!」

 

暗雲立ち込める視線の先に雷に照らされた巨大な影が浮かぶ。それは海上に漂う塔のように見えていた。

 

「総員展開!露払いは任せました!」

 

艦娘達が戦列を整えると同時に発砲が開始される。大和達は支援艦隊を背に超巨大深海棲艦へと肉薄する。

 

「皆さん!個々に撃ってもダメです!タイミングを合わせて一点集中!全砲門開け!腕を狙え!」

 

「ぐっ・・・」

 

「暁さん波に呑まれないように注意して!」

 

「ッ・・・はい!」

 

「撃てぇーーー!」

 

艤装が一際激しく唸り、砲口が火を噴く。放たれた砲弾は超巨大深海棲艦の左腕へと吸い込まれていく。

 

しかし圧倒的な巨躯への攻撃は全くダメージを与えられていなかった。

 

超巨大深海棲艦は大和達へと振り向き巨大な艤装から砲を向けた。

 

「みんな避け・・・」

 

お返しとばかりに巨大な砲弾が放たれ大和達へと撃ち込まれる。大和達は避けるのも間に合わずバラバラに飛ばされていった。

 

「戦艦霧島、榛名、中破!」

 

「球磨!大破したクマ・・・」

 

「愛宕、高雄小破!」

 

「暁、無事です!」

 

「くっ・・・たった一撃で・・・戦列を立て直します!みんな集合して!」

 

無線で呼びかける大和だったが次の瞬間相手の砲がこちらを睨んでいた。大和は逃げられないと悟ったがもうどうしようもない。

 

「みんな避けてーーー!」

 

最後の無線を飛ばし、衝撃に堪える姿勢を取るので精一杯だった。また轟と砲弾を放つ音がしたが体に生じる筈の衝撃がこない。恐る恐る目を開けてみたのは黒い巨体にしがみつく白い巨体であった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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last page17 ワタシガタタカウナンテ

白い巨体が超巨大深海棲艦を投げ飛ばす。その際に生じた大波に浚われそうになりながらも堪える艦娘達は何が起きているのか把握出来ずにいた。

 

「パ、パクチー・・・?!」

 

「ウオオオオオッ!!」

 

その光景に誰もが疑問符を抱いたままだった。二体の超巨大深海棲艦がぶつかり合っている。それ以上の感想は出てこない。

 

「アカ・・・ツキ・・・」

 

「パクチー!パクチーなの!?」

 

「ソウ・・・アカ・・・ツキ・・・」

 

「パクチー!!」

 

暁が叫ぶと同時に大和は本部司令船へと無線を飛ばす。

 

「ハアアアッ!!!」

 

「グオオオオオ!!」

 

パクチーと超巨大深海棲艦がぶつかり合い嵐の海を更に荒々しく砕いていく。そこには誰も立ち入ることの出来ない様相だった。

 

「こちら大和です!超巨大深海棲艦が二体に・・・!」

 

『確認した・・・黒い方を戦艦水鬼と呼称する・・・ザー・・・白い方は・・・暁達との接触があった深海棲艦か?』

 

「それで間違いないようです!パクチーと呼称していた個体かと・・・」

 

『ザー・・・わかった・・・』

 

「無線が・・・」

 

大和が無線連絡している間にも海上はパクチーと戦果水鬼のぶつかり合いで荒れていくばかり。

 

「パクチー!頑張って!そいつをやっつけて!!!」

 

「グ・・・アアアアッ!!!」

 

「キサマ・・・ナゼ、ジャマヲスル!!」

 

「喋った・・・!?」

 

「ワカラナイ・・・デモ、トモダチガイルンダ・・・!!」

 

「トモダチダト!?」

 

パクチーの艤装が戦艦水鬼の艤装に食らいつき、パクチー本体が戦艦水鬼本体へと肉薄する。白い腕が左の黒い腕を握り潰し、黒い腕が白い腕に拳を打ち込んでいく。

 

「グアアアア!!オノレ・・・!!」

 

「・・・ッ!!!」

 

「パクチー!!!」

 

「皆さん!左腕に集中砲火!撃てッ!!」

 

「グアアアアッ!?」

 

「暁さん!パクチーさんを援護しましょう!!」

 

「はいっ!」

 

艦娘たちもパクチーが敵ではないと感付き始めているのか援護するまで時間は掛からなかった。周りの露払いも済んでいるので援護は容易い。

 

「ーーーーーッ!!!」

 

戦艦水鬼が巨腕を振るおうとするがパクチーに阻まれがっしりと組みあっている。そこに戦艦水鬼は艤装の力も加えパクチーを背負い投げしていた。

 

「あの巨体を投げるなんて・・・!」

 

「皆さん集中して!敵の左腕だけを狙って!!!」

 

「はい!」

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

「大和さん・・・!」

 

戦艦水鬼は膝を付き、パクチーは立っている、勝敗は決したかに思えた。

 

「ソウカ・・・オモイダシタゾ・・・。」

 

「ナニヲ?」

 

「オマエ・・・シザイアツメノフネダナ?」

 

「シラナイワ・・・。」

 

「シラナクテケッコウ・・・ハハハハ・・・ソウカ・・・ナニヲシテイタノカトオモエバ・・・。」

 

「・・・。」

 

「クラウガイイ・・・ワタシノマケダ・・・モウタツコトモデキン・・・」

 

「ソウ・・・。」

 

パクチーの艤装が口を大きく開けて戦艦水鬼の前に立つ。

 

「サヨナラ。」

 

ガブリ、と一口で体の大半を平らげられた戦艦水鬼の残りは漆黒のオイルのようなものに変化し海へと溶けていった。パクチーはそっと艤装の口を拭う。

 

「アマリ・・・オイシクナカッタワ・・・。」

 

「パクチー!」

 

パクチーは振り返ると足元にいる小さな暁を見つめた。

 

「パクチーなんでしょ!?思い出したわ!暁よ!」

 

「アカツキ・・・」

 

パクチーは掬うように暁を手に乗せ自分の目線まで持ち上げる。

 

「大和さんも頑張ったのよ?」

 

「シッテル・・・ミテタ・・・カラ・・・」

 

「パクチーなんか喋り方が変よ?」

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

「あれが暁が言っていた超巨大深海棲艦・・・」

 

「見る限りは敵意は無さそうですが・・・」

 

「下手に刺激して暴れられても困る。今連戦する余力は残っていないからな・・・」

 

「鈴木提督、ここは暁君と大和君に任せよう。」

 

「はっ中将。」

 

司令船の中はパクチーのことでいっぱいであったが嵐が晴れつつある外を気にしているようだった。一方外では暁がパクチーの側にいてこれからの方針等を話し合っているようだった。

 

「ねぇパクチー、あなたこれからどうするの?」

 

「ワカラナイ・・・ワタシハ・・・」

 

「パクチーさえ良ければ、私の鎮守府に来ない?」

 

「ソコニ、シザイハアル・・・?」

 

「うーんパクチーに少しずつ分ける程度なら出来ると思うけど・・・」

 

「シマニイタトキノシザイハ・・・スベテステテキタ・・・アカツキニメイワクハカケタクナイ・・・」

 

「そっか・・・」

 

「ウン。」

 

夕日が水平線の向こうに沈みだし、辺りが暗闇に呑まれつつある時間。暁はパクチーとは一緒にいられないことを薄々と感じ取っていた。

 

「ねぇパクチー・・・私どうしたら良い・・・?パクチーと離れたくないわ・・・」

 

「デモイッショニハイラレナイ・・・ワタシハ、テキ・・・ダカラ・・・」

 

「敵じゃないわ・・・こうして仲良くお話し出来るじゃない・・・」

 

「・・・ワタシハ、シンカイへ、モグロウトオモウ・・・」

 

「パクチー・・・」

 

「イツカ、マタアエルトキマデ・・・キットマタアエルカラ・・・」

 

「・・・わかったわ。司令官にお話ししてきていいかしら。」

 

暁が司令船へと戻っていく背中を見つめながらパクチーは小さく暁に謝るのだった。

 

ーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

「・・・ということでした。」

 

「そう・・・わかったわ。争うようなことにならなくて良かった。」

 

「ええ・・・でも・・・」

 

暁は俯き言葉を続けなかった。

 

「・・・暁は立派なレディになったのね。」

 

「本当は・・・本当は!」

 

「うん・・・」

 

「・・・言わないわ。私は一人前のレディだもの・・・。」

 

「ええ・・・じゃあ私も挨拶しに行こうかしら!それぐらいは許されるでしょ!」

 

「・・・うん。」

 

司令船をパクチーに近づけ甲板に二人は出てくる。

 

「あなたがパクチーさん?」

 

鈴木提督が声をかけるとパクチーは顔を近づけ応対した。

 

「ソウ・・・アナタガシレーカン?」

 

「そうです。鈴木と言います。」

 

「・・・パクチー。」

 

「まずは・・・暁と大和のこと、どうもありがとう。」

 

「ベツニ・・・イイ。キマグレ、ダカラ。」

 

「それでも・・・ありがとう。」

 

「・・・。」

 

「パクチー!私・・・私ね!」

 

「・・・ウン。」

 

「短い間だけど楽しかったわ・・・パクチーに会えて良かった。」

 

「ウン・・・」

 

「パクチーは・・・どうだった?」

 

「ワタシモ、タノシカッタ・・・シラナイコトイッパイシレタ・・・アカツキトヤマトニカンシャシテル・・・アリガトウ。アカツキ。」

 

「うん・・・うん!」

 

「ダカラ・・・モウ、イカナキャ。」

 

パクチーが波を掻き分け徐々に暗い夜の海へと潜っていく・・・二人はその背中を見つめながら再びありがとうと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

報告書

 

タスマン海海戦における報告書

 

超巨大深海棲艦二体の脅威を確認しこれを撃破。

 

当方の損失戦力、無し

 

20xx\aa\dd

 

 

 

 




これにて水鬼の視線完結です。

失踪したりなんだりしましたが無事完結まで持っていくことが出来ました。

これも感想や評価をいただけて励みになったことこそだと思います。

出来としては正直イマイチだったかなとも感じますがそれでも勉強になったと感じます。

次回作はこちらになります。

https://syosetu.org/novel/276490/

良かったら読んでみてください。

よろしくお願い致します。




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