緋弾のアリアー緋弾を守るもの (草薙)
しおりを挟む

プロローグー運命の出会い

―空から女の子が降ってくると思うか?

 

少なくても俺、椎名 優希はそう思わない。

なぜなら、そんな事態は異常事態に決まっているからで武偵である俺はそれを、見過ごせないからだ。

 

「おい、糞ガキ、今度サボりやがったら殺すからな!」

 

マスターズの鬼武偵の折檻も怖いが何より留年だけはしたくない。

だからこそ、今日から巻き込まれ体質を改善するのだ。

 

「さて、今日も気合入れていくか!」

 

3丁の銃をそれぞれ装備し、

部屋を出て鍵をかけてから腕時計を見る。

時刻は7時57分、もうバスは間に合わない時間だ。

なら自転車で行くかと俺は自転車置き場に向かうのだが俺はこのバスに乗れなかったことを後悔半面、幸運半面だったと生涯で語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後、俺は半泣きだった。

 

「そのチャリには爆弾が仕掛けてありやがります」

 

機械的な妙な声、聞き覚えがあるようなその声。

 

「チャリを 降りやがったり 減速 させやがると 爆発 しやがります」

 

「なんでだ! ちくしょおおお!」

 

俺は怒鳴りながら自分の自転車を並走するタイヤつきのかかしみたいな乗り物に向けて怒鳴った。

その乗り物にはスピーカーと短機関銃が装着されている。

銃に手を伸ばそうとして嫌な予感がしてサドルの裏に何かがあった。

ぞっとしてそれをなでるとプラッチック爆弾だと確信した。

これじゃ、この変な乗り物を破壊したとしても・・・

いや、破壊した方がいいのか?

とりあえず助けを・・・

と、携帯に手を伸ばすと

 

「助けを求めてはいけません 携帯を使用した場合も爆発しやがります」

 

ああ、そうかよ了解だ。

 

伸ばした手を止めて俺は悪態をついた。

まずいぞ、チャリジャックで死ぬなんてお笑いにもならないじゃないか

武偵を志した日から死ぬ覚悟はできているがこんな情けない死に方は嫌だ!

 

「加速させてください。 増加が認められない場合爆発しやがります」

 

まじかよちくしょう!

 

俺はペダルを踏む力を入れて自転車をわずかに加速させる。

とりあえず人気がない場所に・・・

そう思って前を見た時だった。

俺と同じように自転車をこいでいる人が見えた。

って、あれキンジじゃねえか何してんだ?

あ、あいつもかよ!

 

昔、といってもそんなに前じゃないが強襲科つまり、アサルトでよくコンビを組んでいた友人だ。

彼の兄が事故で亡くなり、ショックだったのかアサルトをやめ探偵科、つまりイケスタに転科していった遠山 キンジもまた、俺と同じようにチャリジャックに合っているのだった。

俺はとりあえず彼の横に自転車をつけ

 

「ようキンジおはよう」

 

「優! お前もか!」

 

一瞬で自分と同じ状況に陥っているとキンジは理解してくれたようだった。

とはいえ、どうしようもないのが現状だが・・・

 

「どうしよう? これ?」

 

半笑いで俺は自転車を指さした。

 

「人気のない所に向かってるんだが・・・」

 

「そこで爆死なんて嫌だぞ俺は!」

 

「じゃあ、どうすんだよ!」

 

「とりあえず、誰かが気付いてくれるまで第2グランドをぐるぐる回るのはどうだ?」

 

「それしかないか・・・」

 

キンジは諦めたように言うと武偵高の第2グランドへ自転車を向ける。

ほぼ、並走するように俺も続きやがて、グランドが見えてきた。

金網越しに見たが誰もいないようだ。

 

「なあ、キンジ短い人生だったなぁ」

 

「おい優! もうあきらめたのかよ」

 

「嫌、だって俺だけならなんとかなるよたぶん。 でも、キンジも同時に助けるとなるとなぁ・・・」

 

そう、実の所打開策はある。

俺の特技を使えば俺だけなら助かるのだが・・・

 

「おい! 見捨てるのか優!」

 

「いや、だからそうしたくないから困ってるんじゃないか」

 

どうするかなと思っていた時、俺とキンジは信じられないものを見た

グランドの近くにある7階建ての女子寮の屋上に女の子が立っていたのだ。

遠目にも分かるピンクのツインテールがいきなり屋上から飛び降りた。

 

「ええええ!」

 

俺とキンジは仰天してその光景を見た。

少女はバラグライダーを展開してゆっくりとこちらに向かってくる。

 

「ば、馬鹿こっちにくるな! この自転車には爆弾が・・・」

 

キンジが慌てた様子で言っている。

少女が左右の太もものホルスターから黒と銀の大型拳銃を抜いた。

あ、あの銃、俺と同じ銃だな。

 

「ほら、そこの馬鹿ども! さっさと頭を下げなさいよ」

 

2丁拳銃の水平撃ち。

俺とキンジの横に張り付いていた乗り物はばらばらになってぶっ壊れた。

おお、すごい腕だ。

少女は2丁拳銃をホルスターに戻すとさらに近づいてくる。

あ、まさかこの子俺達を助ける気か?

一瞬で、少女がやることを理解した俺は少女に向け怒鳴る。

 

「おいあんた! 俺は助かる方法がある! こいつを助けてやってくれ!」

 

そういうと俺は少女の進行方向から離れるため右にハンドルを切る。

 

「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!」

 

後ろから少女の声が聞こえてくるが俺は無視して全力疾走した。

振り返るとやはりと言うべきか少女が逆さ吊りの姿勢になっている。

キンジを受け止めて自転車だけ進ませ爆発させる気なのだろう。

一時を置いて後方で爆発が起こった。

爆風を背中に受けて俺の自転車が加速する。

うわ! あぶねえ!

 

こけそうになりながら競輪選手と同等ぐらい出てる自転車はみるみる川に迫る。

ミスしたら死ぬよな絶対。

 

俺は右手を川の前に生えている枯れた木に向かい向けボタンを押しこむと同時に爆発するような反動と共にワイヤーが飛び出し木に巻きつく。

そして、ペダルを最後に踏み込むとワイヤーに引っ張られ自転車から離れる。

ボタンをもう一回押しこんでワイヤーが俺の体をひっぱりあげる。

自転車は川に落ちたかと思った瞬間、巨大な水しぶきが川に現れる。

あれが、けつの下で爆発したらと思うとぞっとする。

ワイヤーにぷらぷら揺られながら衝撃に強いデジタル時計を見るとまだ、時間は問題なかった。

まあ、全力疾走したのだから時間短縮にはなったか・・・

 

「たく、キンジ達大丈夫かな?」

 

そういや、これニュースでやってた武偵殺しの手口にそっくりじゃねえか。

また、巻き込まれたのか俺?

 

「あ、自転車・・・」

 

命は助かったが1万円で買った自転車は廃車らしかった。

買ってまだ、2か月しか乗ってないのに・・・

ため息をつきながら俺はワイヤーを回収し腕の中の器具に戻すととぼとぼと校舎に向かい歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ、武偵高こと武偵高校はレインボーブリッジ南に浮かぶ南北およそ2キロ・東西500メートルの長方形をした人口島である。

学園島と言われているこの島は武偵の総合教育機関である。

武偵とは凶悪化する犯罪に対抗するために作られた国際資格で武偵免許を取ったものは武装を許可され逮捕権を有するなど警察に近い活動ができる。

警察と違うのは金をもらうことで武偵法の許す範囲ならどんな荒事でもこなす。

ようは、便利屋だ。

ちなみに、武偵には武偵憲章というものが存在しその1条はこうだ。

『仲間を信じ、仲間を助けよ』

ようはあの少女はこれに従ってキンジを助けたのだろう。

 

そこでだ。

 

「なんじゃこりゃ?」

 

俺がそこに着いた時、全て終わっていた。

いや、始まりか?

先ほど俺とキンジを追いまわしていた乗り物の残骸が散らばる仲先ほどの少女が後ずさるキンジに突進している。

2つの日本刀だ。

まてよ、2丁拳銃に2つの刀ってことは双剣双銃かよ。

ってあれは!

 

キンジがはっとして右を向いた。

あれに気付くってことはお前、ヒステリアモードか。 あの子でなんかしたな?

 

「待て!アリア」

 

怒りで血が上ってるのか少女・・・アリアというらしい少女は気付いていない。

茂みから機関銃を装備した乗り物が飛び出してきたのだ。

キンジがアリアに向け走り出した。

かばう気か!?

俺はとっさに右手を前に突き出した。

腕に衝撃が走りワイヤーは飛び出すと同時に機関銃が発射された。

飛び込むようにアリアにタックルしたキンジ達がいた場所に射線が横切る。

同時にワイヤーが乗り物に絡みつき俺は引き戻しのボタンを押しこむとホルスターのガバメントではなくデザートイーグルを取りだしぶっ放つ。

迫撃砲のような轟音と共に乗り物がばらばらになる。

うん、破壊力だけなら抜群だなこいつは

自動式拳銃では最強クラスの破壊力のこの銃は俺は今のような速度ではなく破壊力を求められる時に使用している。

はっとして、殺気を感じ見ると乗り物が3体4体と現れる。

 

「キンジ!アリア!」

 

俺は巻きついた右手のワイヤーを切断するとグリップに炎のイメージで描かれた黒の装飾のガバメント2丁を2人に投げる。

2人は状況が読めたのかガバメントを受け取ると応戦し乗り物を破壊していく。

そして、最後のデザートイーグルの1撃により破壊される。

周りを確かめたが打ち止めのようだった。

 

「なんて日だよ今日は」

 

デザートイーグルを太もものホルスターにしまいながら俺は再びため息をついた。

とおもったらキンジが走りだした。

一瞬、遅れてアリアが声を張り上げる。

 

「強猥男は神妙に・・・わきゃお!?」

 

ステーンと倒れたアリアが踏んだのは銃弾のようだった。

なんであんなとこに?

 

「こ、このみゃおきゃ!?」

 

再びステーン転ぶアリア、おいパンツ見えたぞ。

 

「優、逃げるぞ」

 

すれ違いざまキンジが言ってきたので俺も走り出す。

おい、ヒステリアモードだけあって早いな。

追いつくの苦労するじゃないか。

それでも、なんとかついていきながら

 

「キンジ何やったんだよあの子に? ヒステリアモードで強猥男ってまさか・・・」

 

「誤解だ」

 

キンジは短く返しながらガバメントを俺に渡してくる。

あ、そういえばアリアに貸したガバメントどうしよう?

振り返るとツインテールを揺らしながら両手の腕をぶんぶん振っているアリアが見えた。

うーん、今話しかけたら切られそうだな。

まあ、手段はあるかと思いながら走っているとアニメ声の怒声が空に響き渡る。

 

「このひきょう者! でっかい風穴あけてやるんだからぁ!」

 

これが後の長い付き合いになる遠山キンジ 神崎・H・アリア 椎名優希の硝煙にまみれた最悪の出会いだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第01弾 3P疑惑

「いやぁ、不幸だったなキンジ」

 

クラス分けで俺とキンジは2-Aだった。

教室に入るなり机に突っ伏してしまったキンジに話かまくるが落ち込んで反応を返してこない。

まあ、無理もないこいつは女性にヒステリアモード見せたがらないからな。

ヒステリアモードとは正式にはヒステリア・サヴァン・シンドローム

一定以上の恋愛時脳内物質が分泌されるとそれが常人の30倍以上の量の神経伝達物質を媒介し大脳・小脳・脊髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進させる。

その結果、判断能力や思考力が劇的に上昇するいわゆるスーパーモードになるわけだ。

すごい能力なのにその発動条件が性的に興奮することだから余計嫌っている。

なんでも中学の時、ひどい目にあったらしいのだがあまり、それをキンジは語りたがらない。

まあ、想像はつくけどな。

 

「おう、優にキンジ! お前らもAか!」

 

声のした方を見ると車輌科、つまりロジの武藤 剛気が右手を上げながら歩いてきた。

また、こいつと同じクラスかよ。

 

「相変わらず元気だなお前」

 

俺が言うと武藤はキンジを指さし

 

「どうしたんだ? 星伽さんと一緒のクラスになれなかったのが悲しいとか?」

 

「武藤・・・今の俺に女の話題は振るな・・・」

 

本気で怒ってるらしく武藤が一歩引いた。

ちなみに星伽白雪はキンジの幼馴染で何回かキンジのついでに御飯を作ってもらったこともある。

まあ、一言で言うなら大和撫子だな。

少しだけヤンデレが入っているが・・・

 

「まあ、いいや。 優お前、進級できる単位あったんだな」

 

「春休み中にクエスト受けまくってなんとかな。 最後の方はかなり運がよかった」

 

実は0.1単位足りずにお前留年なと言われたのだがその日、運よく?銀行強盗に出くわしそれをぼこぼこにして逮捕したら単位をくれたのである。

いやあ、銀行強盗様様だな

あ、そういや神崎ってどこのクラスなんだろ? ガバメント返してもらわないと・・・

 

 

 

 

 

 

 

「先生、私あいつらの真ん中に座りたい」

 

結論から言えば問題はあっさり解決した。

クラスメイトの黄色い悲鳴が響く中、神崎・H・アリアが同じクラスになったからだ。

かわいそうにキンジ怯えてるぞ。

一体何したんだ?

 

「な、なんでだよ」

 

「なんか知らないけど諦めろキンジ。 諦めて死ね」

 

「アサルトの連中のようなこというな!」

 

「いや、俺アサルトなんだが・・・」

 

「そうだったな・・・」

 

キンジが頭を抱える。

うーん、いじめすぎたか?

ちなみにアサルトには死ね言う言葉があいさつになっている。

あそこでは友達に合ってもよう、まだ生きてたのか? さっさと死んでくれと

普通の高校生なら精神崩壊するようなことを平気で言いまくるとんでもない学科でもある。

死ねと言う言葉に違和感がない俺もアサルトに染まってるな。

 

「よ、よかったなキンジ、優、なんか知らんがお前らにも春がきたみたいだぞ。 先生、俺喜んで席かわりますよ」

 

武藤がいそいそと席を変わる。

黄色い悲鳴は続いている。

 

「キンジ、これ、さっきのベルト」

 

そこへ、アリアが歩いてくるとベルトをキンジに投げ捨て俺の机には炎の装飾が施されたガバメントをゴトリと置いた。

うん、銃は投げたら駄目だからな。緊急事態以外はね。

 

「優、返す」

 

待て、いきなりあだ名かよ。 まあ、名乗ってなかったからまあいいか

しかし、キンジベルト貸すなんて本当に何したんだよお前。

その時、

その推測をしてくれるものが現れた。

 

「理子分かった! 分かっちゃった! これフラグばっきばっきに立ってるよ」

 

キンジの左に座っていた峰理子が、がたんと席を立つ。

 

「キー君してない! そして、ベルトをツインテールさんが持ってた! これ謎でしょ! 謎でしょ! でも理子には推理で来た! できちゃった! あれ? ユーユーの銃は何かな?何かな? あ!分かっちゃった!」

 

大体アリアと同じくらいの小柄のこの子は探偵科、つまりインケスタで№1のおばかさんだ。

制服もごすろり風に改造している

 

ちなみにキー君やユーユーはこいつがつけたあだ名だ。

どうでもいいがユーユーはやめてくれまじで

 

「キー君は彼女の前でベルトを取る何らかの行為をした! そして、彼女の部屋にベルトを忘れてきた。 でも、ユーユーがそこに銃をもって乱入! そして、彼女と! 3P!

つまり、3人は彼女を挟んで恋愛の真っ最中なんだよ」

 

待て!待て! 3Pってなんだよ! そんな馬鹿な推理誰が信じ・・・

 

「き、キンジと優がこんな可愛い子といつのまに」「影の薄い奴らだと思ってたのに」「3Pなんてふけつだわ」

 

忘れてた。

ここは武偵高なんだからこいつらならこうなるよな。

 

「お、お前らなぁ」

 

キンジが頭を抱えて机に突っ伏した瞬間

 

 

ずぎゅぎゅん!

 

鳴り響いた2発の銃声が教室に響きみんなぴたりと止まる。

真っ赤になったアリアが銃を撃ったのだ。

 

「れ、恋愛なんてくだらない!」

 

いや、3Pを先に否定してくれ頼むから。

あーあ、壁に穴あいてるぞ

馬鹿理子はすすすと席に戻ると着席

ちなみに、銃は必要以上に発砲しないとルールにあるがしてはいけないとはないとはない。

まあ、自己紹介中に銃をぶっ放したのはアリアが初めてだと思うが・・・

 

「全員覚えておきなさい! そんな馬鹿なこと言う奴には・・・」

 

耳にタコができるぐらいその後聞かされるその言葉をアリアは言い放つ

 

「風穴あけるわよ!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第02弾奴隷宣告

昼休みになると同時に質問攻めに合うのはわかっていた俺は窓から飛び出し例のワイヤーで隣の校舎に飛んで逃げた。

後ろからキンジの悲鳴が聞こえてきたが許せ友よ。

 

「さてと」

 

念のためもう一つ校舎を飛んで屋上に腰を落として昨日買っておいた梅のおむすび6つを取り出す。

包みを破りながら携帯のメールを確認していると今朝のチャリジャックの周知メールが送られてきていた。

ご丁寧に写真まで添付されている。

モザイクかけてるが、俺達を知ってる、やつならばればれだろ。

というか見てたなら、助けろよ。

まあ、武偵高2年となれば危機は自分できりぬけろと言う方針の教務課、つまりマスターズが助けてくれると考えるのは甘いのか・・・

それにしてもなんだろうなあの子?

俺は今日初めて会ったアリアを思い出してみる。

昨年の3学期に転入してきたらしいということしかわからないが何をする気なんだ?

まあ、とりあえず成り行きに任せるかな。

 

「うわ!」

 

3つ目のおにぎりを口に入れて4つ目に手を伸ばそうとした瞬間、俺は仰天して後ずさった。

なぜなら、人形のような少女がそこにいたからだ。

壁を背にしてロシアの古い狙撃銃を肩にかけ、カロリーメイトを口に入れている。

確かドラグフ狙撃銃だったな。

 

「れ、レキ」

 

俺はその少女の名前を呼ぶが彼女は無反応。

ただ、カロリーメイトを口に入れている。

通称、ロボットレキ、美人は美人だが無愛想で無口。

耳には何を聞いているのか授業中でもヘッドホンを付けている。

しかし、何より特徴的なのは武偵としての腕だ。

彼女はSランクの武偵なのである。

所属は狙撃科、つまり、スナイプである。

熱狂的なファンもいるらしいが正直、俺はこいつが苦手だった。

だって、何話しかけてもあまり反応してくれないし。

 

「れ、レキも昼飯か?」

 

コクリと首だけが動く。

うーん、反応してくれるだけましか?

 

「いつもここで食べてるのか?」

 

フルフルと首が左右に振られる。

 

「じゃあなんでここに?」

 

「風がそういったから」

 

「風?」

 

コクリ

その後、俺が何話しかけてもレキは反応してくれなかった。

いたたまれなくなった俺はまたなと逃げるように屋上を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

自転車が爆発してしまったのでバスでアサルトの寮に帰るか迷いながら俺は探偵科の寮の前に来ていた。

大きめのカバンを持って部屋のベルを押す。

 

「はい?」

 

「よう、キンジ遊びに来たぜ」

 

「優か? あがれよ」

 

「おじゃしまーすと」

 

律儀に挨拶してキンジの部屋に入るがこの部屋には彼しかない。

元々、4人部屋だがキンジがインケスタに転入した時期等の問題で今は1人で使っているらしい。

うーん、うらやましいぜ。

とはいえ、個室は一応あるんだが風呂を独占できたりリビングを独占できるのはうらやましすぎる。

アサルトの連中と同室になるテレビの奪い合いで銃撃戦になることも珍しくないからな。

 

「その荷物、今日は泊っていく気か?」

 

「いや、それがさ同室の馬鹿がリビングでテレビ吹き飛ばしたから俺の部屋しばらく使えないんだよ。 しばらく泊めてくれねえ? テレビの優先権は譲るからさ」

 

「相変わらずだなあそこは・・・」

 

キンジが思いだしたのかため息をつく。

うん、気持ちは分かるぜキンジ俺だって部屋に戻ったらリビングが黒こげになってるなんて思わないよ。

あいつら風呂まで破壊しやがったからな。

アサルトにもまともな奴はいるにはいるがあんまりいないんだよ。

 

「さて、ゲームしようぜ」

 

いそいそと俺はテレビに配線を繋いでいく。

ソフトは空戦のゲームで戦闘機がミサイルを撃つゲームだ。

キンジもソファーに座るとリモコンを手にそれを見ている。

 

「ところでさ、キンジ戻る気はないのか?」

 

セットを続けながら俺は言った。

元論、アサルトへだ。

 

「何度も言ってるだろ。 俺は来年の4月に武偵の世界から足を洗うんだ」

 

「残念だな。 俺はお前とチーム組みたかったのに」

 

「優なら他にいい奴と組めるだろ」

 

いや、それは違うぜキンジ、お前ほど優秀な武偵はそうそういないんだ。

不知火とか実力者はいるが組むならお前がいい。

あれ? なんか言い方が変な気もするがとにかく残念なんだよ俺は

 

「そういえばアリアのことなんだが」

 

話を無理やり変えるようにキンジが口を開く。

 

「なんか俺達の資料を漁ってたらしいぞ」

 

「まじかよ。 ストーカじゃねえか」

 

一体何がしたいんだよと思いながら俺はゲームを起動した。

うん、F15でいくか。

おい、キンジF22は卑怯だろ。

そういや、朝の爆弾事件どうなったんだろうな?

あれのせいでアリアと・・・

 

ピンポーン

 

「ん?」

 

俺はチャイムのした方を見てからキンジを見るが彼は居留守を使う気らしかった。

いや、何か考えて聞こえていないのか?

 

ピンポンピンポーン

 

おいおい、キンジ何考えてんだ?集中しすぎだろ

 

ピポピポピポピポピピピピピピンポーン

 

キンジが顔を上げる。

ああ、居留守使いたかったんだなやっぱ

 

「誰だよ」

 

キンジはだるそうに立ち上がると玄関に向かう。

面白そうだったので後ろから俺もついていく。

そして、ドアが開くと

 

「遅い! あたしがチャイムを押したら5秒以内に出ること!」

 

両手を腰に当て、赤紫色の目をぎぎんとつりあげたのは

 

「か、神崎!?」

 

制服姿の神崎・H・アリアだった。

 

「アリアでいいわよ」

 

キンジを押しのけて部屋に入ってくるもんだから俺とアリアの目があった。

 

「やっぱり優もいたのね。 ちょうどいいわ」

 

「へ?」

 

間抜けにも変な声を出してしまったぜ。

キンジの制止の声も無視しアリアはトイレに入っていってしまった。

トランク中に入れておきなさいという言葉を残して

俺が外を見るとなるほど、車輪付きのブランド物のトランクがある。

仕方ない運んでやるか。

うお、なんだ重いぞこれ

キンジも廊下に女物のトランクがあってはまずいと思ったのか2人でリビングに運ぶとちょうどアリアがトイレから出てきて部屋の様子を見まわしている。

 

「あんた達2人暮らしなの?」

 

「いや、俺は一時的に今日から住むだけなんだが」

 

「まあいいわ」

 

何がいいんだよ。

アリアは窓のそばまで行き夕日を背に浴びながら振り返ると俺たちを指さした。

 

「キンジ、優。あんた達あたしの奴隷になりなさい!」

 

っと奴隷宣告しやがった。

まじかよ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第03弾Sランク以上のクエスト

さすがの俺も目が点になったぞ。

キンジも目が点になってるし。

だって、いきなり奴隷になれだぞ? ありえないって

 

「ほら! さっさと飲み物ぐらいだしなさいよ! 無礼な奴ね!」

 

その宣告をしたアリアはぽすっとソファーに座ってしまう。

 

「コーヒー! エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ! 砂糖はカンナ! 1分以内!」

 

すみませんエスプレッソまでしかわかりません。

心の中で俺は謝ると目でこいつ簡単に諦める感じじゃねえぞとキンジにアイコンタクトをとる。

彼もそれを承知してかインスタントコーヒーをアリアに出した。

 

アリアは不思議そうにコ―ヒの匂いを嗅いだりしてから

 

「これ本当にコーヒー?」

 

「それしかないんだからありがたく飲めよ」

 

「変な味、ギリシャコ―ヒに似てるけどちょっと違う」

 

駄目だそれすら俺知らねえぞ。

コーヒーってインスタント以外にもあることは知ってたが名前が全く分からん。

と、インスタントコーヒーを飲んでコーヒー好きとか思っていた過去の自分を殴り飛ばしながら俺はコーヒーをすすった。

 

「今朝助けてくれたことには感謝してる。 それにその・・・お前を怒らせるようなことを言ってしまったのは謝る。 でもなんでだからってここに押し掛けてくる?」

 

アリアは目だけをキンジに向け

 

「分からないの?」

 

「分かるかよ!」

 

いらだった様子で言うキンジ

ああ、なんとなくだけど俺はわかった。

まあ、あの状態のキンジ見たらな。

面白いから黙ってよ。

 

「優も分からない?」

 

今度はアリアは俺に目を向けてきた。

なんというか猫を印象させる子だなこの子。

 

「さあ? 俺馬鹿だし」

 

「あんたたちならすぐわかると思ったのに。 んー、そのうち思い当たるでしょ、まあいいわ」

 

よくねえ!

キンジと俺は心の中で同時に叫んだ。

 

「おなかすいた」

 

そして、盛大に話題を変えやがったぞ

あ、なんかそのソファーの手すりにもたれかかるしぐさかわいいな。

キンジ大丈夫かな?

見るとキンジは顔を赤くして顔をそらしている。

 

「なんか食べ物はないの?」

 

「ねーよ」

 

「ああ、おにぎりならあるぞ」

 

俺が言うとアリアが考え込むしぐさを取った。

 

「おにぎり?」

 

「まあ、賞味期限昨日切れだがまだ・・・」

 

「風穴あけられたいの?」

 

「すみません」

 

俺は素直に謝る。

確かに女の子に賞味期限切れを進めるのはどうかと思う。

あれ、レキのせいで食べ損ねた残りものだしな。

 

「じゃあ、コンビニに買いに行くかキンジ」

 

いつも俺達はそこで飯を買っている。

まあ、泊りに来た時だけだけど

 

「こんびに? ああ、あの小さなスーパーのことね。 じゃあ、行きましょう」

 

「じゃあってなんでじゃあなんだよ」

 

「馬鹿ね食べ物を買いに行くのよもう、夕食の時間でしょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日が落ちて行き電気の光だけが頼りの世界になるこの時刻、俺はキンジの寮の屋上にいた。

焼肉弁当がなければ任せる。 ただし、キノコ関連はやめてくれと言ってからキンジと別れて屋上に来たのである。

風に当たりたかったのもあるがなんか今日はいろいろありすぎた。

チャリジャックにあったり、奴隷にされたりとか・・・

 

「はー、結局、徹底的に巻き込まれてるじゃないか俺」

 

アリアがあんなことを言うのはおそらく何か理由があるのだろう。

理由教えてくれたら手伝うかもしれないのに。

 

ピロロロロ

 

ん? メールか?

俺は携帯電話を取り出すとメールを開いた。

 

「なんじゃこりゃ?」

 

差出人は不明。メアドはあるがめちゃくちゃな文字列だ。

タイトルはSランク以上クエストの依頼

開いてみると電話番号と一緒に何か書いてあった。

 

『君の近くにいる人が君の知らない所で死ぬのが嫌なら』

 

とだけあった。

なんだこれは?

電話しろということか?

普段なら無視するところだが今日はいろいろありすぎている。

これもまた、重大な局面なんじゃないか?

電話しなければ俺の知る誰かが俺の知らない場所で死ぬ。

冗談じゃないぞくそったれ

 

ピっと電話番号を押し発信ボタンを押しこむ

コール音が3回し接続の音が耳を鳴らす。

 

「誰だお前は? どうして俺のメアドを知っている?」

 

「椎名 優希・・・」

 

変えられたものだろうその声は機械的、朝の乗り物と同種かと思ったがこんな音誰でも作れることから頭の端に追いやる。

 

「君に依頼を頼みたい」

 

「クエストか? そんなもの学校を通じて言えよ。 俺より優秀な人間が対処してくれるさ」

 

「君の近くにいる人が君の知らない所で死ぬのが嫌ならこの依頼を受けなくてはならない」

 

脅迫かよ

舌打ちしながら

 

「内容による。 犯罪に手を染めるのは嫌だからな」

 

「それに関しては心配はいらない。 まっとうな依頼だ」

 

「で?」

 

「とある人物の護衛を頼みたい。 報酬は前金で100万」

 

「はっ?」

 

とんでもない金額に俺は心臓が止まりそうになった。

 

「月に50万ずつ依頼が完了するまで君の口座に降り込もう。成功報酬は・・・」

 

「ま、待てよ!俺はAランクの武偵だぞ! その護衛対象の敵はなんなんだよ」

 

「それは言えない。 君は彼女に向かう敵を排除してくれればいい。それに・・・」

 

女の護衛かよ。

 

「私は君が隠している切り札を知っている」

 

嘘か本当か・・・だとしたらこいつは何者だ?

一瞬実家の連中が頭に浮かぶがあいつらとは勘当状態である。

それに切り札は知らないはずだ。

 

「お前・・・何者だ?」

 

かすれた声で言う

 

「それは言えないと言った。では、聞かせてもらえるかな?」

 

「何を?」

 

「この依頼受けてもらえるのかな? アリアの護衛を」

 

「1つだけ条件を付けたしたい」

 

「何かな?」

 

「・・・」

それを言うと電話の相手はすぐに答えを返してきた。

 

「いいだろう引き受けてやるよアリアの護衛をな」

 

後に死ぬほど後悔しつつもあの決断は間違ってなかったという決断の瞬間だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第04弾一方通行

することに一体どういうことだこれは!

俺は絶望的な状況に目を白黒させた。

 

3人でテーブルに座りアリアとキンジが並び俺がキンジの正面という配置だ。

キンジはハンバーグ弁当でアリアはももまんという謎のまんじゅうを食べている。

そして、俺の前にあるのは松茸弁当だった。

おいおい今、4月だぞ!

そして、俺はキノコ関連が大嫌いだ。

 

「おい、キンジ! キノコ関連やめてくれって言っただろ」

 

「それしかなかったんだ」

 

「なら、そのハンバーグ弁当よこせ!」

 

「これは俺のだ。 ついてこなかった優が悪い」

 

くそったれ! なんてことだ。

なら、この際謎の食べ物で妥協しよう。

 

「アリア、ももまんとこれを・・・」

 

「嫌」

 

一言で断られた。

くそ・・・レキじゃないがカバンに入れてあるカロリーメイトで今日は我慢するか

俺はカバンからチーズ味のカロリーメイトを取り出してぼそぼそと食べ始める。

松茸は冷蔵庫に入れておいた。

明日、キンジに食べてもらうか腐るかの運命だお前は俺は絶対食わんからな

 

「・・・ていうかな奴隷ってなんなんだよ」

 

お、さっそく本題か?5つ目のももまんを食べていたアリアがキンジの方を向いたぞ

 

「アサルトであたしのパーティーに入りなさい。 そこで一緒に武偵活動するの」

 

「何言ってんだ俺は、アサルトが嫌で武偵高で一番まともなイケスタに転科したんだんだぞ。 それにこの学校からも、一般高校に転校しようと思ってる。 武偵事態やめるつもりなんだよ。 それによりによってあんなとち狂った所に戻るなんて無理だ」

 

おい、キンジよ俺もアサルトだぞ。

まあ、とち狂ってると言う点は否定できんが

 

「あたしには嫌いな言葉が3つあるわ」

 

「聞けよ人の話を」

 

「『無理』『疲れた』『めんどくさい』この3つは人間の持つ無限の可能性を押しとどめるよくない言葉。 あたしの前では2度と使わないこと」

 

アリアは指についた餡を舐めながら

 

「2人はそうね・・・あたしと同じフロントがいいわ」

 

おいおい、フロントっていや武偵のパーティーで最前衛の位置じゃねえか。

しかも、怪我の確立はかなり高い。

 

「よくない! そもそもなんで俺と優なんだ?優だけじゃダメなのか? こいつはアサルトだし丁度いいじゃないか」

 

こらキンジ!友達を売るな! 昼休みに見捨てた仕返しかよ!

 

 

「太陽はなぜ昇る? 月はなぜ輝く?」

 

おいおい、この子人の話聞く気ないのか? 話がいきなりとんだぞ

 

「キンジは質問ばっかの子供みたい。 仮にも武偵なら情報を集めて推理しなさいよね」

 

「ようは何か事情があるんだろ?」

 

俺は電話の相手を思い出しながら言った。

あの電話の内容から推測してこの子が戦っている。あるいは戦おうとしている相手は強大な敵なのだ。

 

「その事情を推理してみなさい」

 

うーん、そうきたかどうしようかな?

 

「それは分からんが1つ言っとくと俺はAランクの武偵だぞ? もっと強い奴がいるだろう」

 

「そうくるの優? あたし知ってるのよあなたの秘密」

 

げっ! まさか、あれを知ってるのか! だとしたら厄介だぞ

 

「ど、どこでそれを知ったんだ?」

 

「質問するより推理してみなさい」

 

駄目だ分からん。 謎と言えば・・・あ!

 

「これか?」

 

俺はそう言って右手の制服をまくる。 そこには金属の筒のようなものが取り付けられている。 特殊仕様のワイヤーだ。

 

「正解、優アサルトでそれ使ってるの見たことない。 本気で戦ってない証拠よ」

 

そうか、朝のあれでとっさに使ったのを見られたわけね。

そうかそっちなら問題ない。

 

「ただ、戦闘で使いにくいだけさ」

 

「どうかしらね?」

 

駄目だこの子完全に気付いていやがる。

ワイヤーの戦闘はもう、完全に解禁した方がいいかもしれん。

プライベートと鍛錬の時しか使っていなかったんだがまあいいか。

だが、まだアリアと組むと決めたわけじゃないぞ。

 

「とにかくだ!」

 

お! キンジが強気にでたぞ

 

「帰ってくれ! 優は仕方ないがお前は帰れ!」

 

「まあ、そのうちね」

 

「そのうちっていつだよ」

 

「何が何でも入ってもらうわ! 私には時間がないの、うんといわないなら」

 

「言わねーよ。 どうするつもりだやってみろ」

 

「言わないなら泊っていくから」

 

ハハハ、キンジお前頬がひきつってるぞ。

しかし、この子面白いな。

純粋に護衛対象じゃなくてもいてもいい気がしてきたな

それに、護衛するなら近くにいた方がいいしな。

そして、依頼主様の条件はこうある。

アリアに君が護衛していることを気付かれてはならない。

護衛対象に護衛の意志を伝えないのは難しいんだが相手はさらにこう付け加えた。

四六時中一緒にいる必要はない。

君の目の届く範囲、そして彼女が助けを求めて来た時助けてあげてほしい。

 

「ちょっちょっと待て! 何言ってんだ! 帰れうぇ」

 

きたねえ! キンジてんぱりすぎだ! ハンバーグ吐き出すなよ!

 

「うるさい! 泊ってくったら泊ってくから! 長期戦になることも想定済みよ」

 

アリアが指してるのはトランクだ、ああ、お泊りセットだったんだな

 

「なあ、アリア俺は別に・・・」

 

パーティーに入ってもいいぜと言おうとしたのだが

 

「―でてけ!」

 

これは、キンジじゃないアリアだ。

ここキンジの部屋だぞ

 

「な、なんで俺が出てかなきゃいけないんだよ! ここはお前の部屋か!」

 

「分からず屋にはお仕置きよ! 外で頭を冷やしてきなさい! しばらく戻ってくるな!」

 

猫のようにフカーと威嚇しながら言うアリアは目が細くなれば猫そのものだぞ。

 

「何してんのよ優?」

 

「へ?」

 

キンジが蹴りだされ、アリアが俺を睨みつけてるぞ。

 

「さっさと出て行きなさい! 風穴あけるわよ!」

 

俺もかよ!

 

こうして、キンジと俺は夜の外へと追い出されるだった。

とほほだな

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第05弾 前門にヤンデレ後門にツンデレ

たく、なんでこうなるんだ?

 

「ありえんだろあいつ」

 

「まあ、確かにな」

 

俺はキンジに相槌をうちつつ雑誌をめくっている。

お、このアクセサリーいいな。

ネットにあるかな?

 

「優はどうするんだ? あいつと組むのか?」

 

俺は顔をあげ

 

「んー、そうだな。 あの子面白い子じゃないか、組んでもいいかなって思ってる」

 

「じゃあ、お前らだけで組んでくれ。 俺を巻き込むな」

 

「そりゃ無理だろ? あの子、キンジと俺を両方とも奴隷にしたいらしいからな」

 

「なんでこんなことになったんだ・・・今日は最低な日だ」

 

「まあ、確かに最低な日だけどあの子に会ったのはなかなか刺激的かな?」

 

「優はアサルトなんだから知ってたんだろ?」

 

「いや、キンジも知ってる通りアサルトではワイヤー封印してるからSランクのアリアに目を向けてもらえることなかったよ」

 

「前から思ってたんだがなんでワイヤーを使わないんだ?」

 

「さあな?」

 

切り札はここぞと言う時まで隠しておくもんだと昔、俺は教えられた。

運が良ければ相手は過小評価してくれるかもしれないし切り札で戦況を変えることも可能かもしれない。

本来俺の戦闘スタイルはワイヤーで変幻自在に立ちまわり相手を圧倒することにある。

広い場所や狭すぎる場所は不利になるが広く、障害物が多い場所は俺の最高の戦場と言っていい。

 

「そろそろ戻るか?」

 

数十分ほど立ち読みしてからキンジが言った。

そうだな、コンビニで立ち読みも限界がある。

俺も雑誌を戻してキンジが律儀に1冊雑誌を買うのを見ながらコンビニを後にする。

 

「じゃあ、お先」

 

「あ! 優!」

 

キンジの声を無視して俺はワイヤーをキンジの部屋のベランダに絡めるとさっと巻き戻して一気に上昇する。

うーん、このワイヤーやっぱり便利だな。

装備科のあの子に感謝しないとな。

ベランダから部屋に入るがアリアの気配がない

まさか、帰ったのか?

なら、キンジが帰る前に風呂でも沸かして入ろうかな

そして、風呂の扉を開けた俺は死ぬほど後悔する。

 

ちゃぽん

 

風呂場から音がした

見れば曇りガラスの向こう側で電気がついている。

 

ちょっ!まじかよ!

焦って周りを見ると洗濯かごに制服と拳銃と日本刀が覗いていた。

そして、トランプ柄の・・・

こ、殺される! ここにいたら間違いなく殺される。

俺はそっとふろ場から出ると逃げるんだぁとばかりに玄関に忍び足で迫る。

丁度、そこにキンジが帰ってきた。

 

「おい! 優、俺より先に・・・」

 

「シー」

 

俺はキンジがドアを閉めたのを見てから武偵に通じる指信号で

 

アリア 風呂 危険と送った。

キンジ冷や汗をかきながらドアに手の伸ばしたその瞬間

 

・・・ピン、ポーン・・・

 

ありえん!ありえんだろこれは!この慎ましやかなチャイムは

 

(し、白雪だ!)

 

俺とキンジは指信号するまでもなく意思疎通した。

てんぱった俺はふらついてドアにごんと手を当ててしまう。

しまったぁ!

 

「き、キンちゃんどうしたの? 大丈夫?」

 

だめだもう、居留守は使えねえ!

諦めたようにキンジがドアを開くとそこには巫女装束の白雪が立っていた。

うーん、相変わらず美人だな

 

「あ、優君もいたんだ」

 

「あ、ああ」

 

かすれた声で俺は言う。

まずいぞこの状況は

 

「な、なんだよお前その格好は」

 

バスルームを見ながら言うキンジ、おい! 気づかれたらまずいぞ!

 

「あっ・・・これ、私授業で遅くなっちゃって・・・キンちゃんに御夕飯作って届けたかったから、着替えないで来ちゃったんだけど・・・い、嫌なら着替えてくるよっ」

 

「いや、別にいいから」

 

まあ、キンジがバニーガールになれとかいっても平気でやりそうな子だからな。

それが、正解だ。

白雪は超能力捜査研究科という学科に所属しているが俺もよくあそこはわからん。

白雪は優等生らしいんだが超能力って電気でも飛ばすのか?

 

「ねえ、キンちゃん、朝出てた自転車爆破事件の周知メールってキンちゃんのこと?」

 

おい、白雪さんおれもいたんですよ。 相変わらずキンジ一筋かよ。

くそう、DEで撃ち抜いてやろうか幸せ者め

 

「あ、ああ俺だよ」

 

おお、キンジが白雪が10センチ飛び上がったぞ。

ワイヤーもないのにな

 

「だ、大丈夫? 怪我とかなかった? 手当てさせて」

 

「俺は大丈夫だから触んな」

 

「は、はい、でもよかったぁ無事で。それにしても許せないキンちゃんを狙うなんて! 私絶対犯人を八つ裂きにしてコンクリ・・・じゃない、逮捕するよ」

 

こ、こえええ。駄目だこの子だけは絶対に敵にしないようにしないと東京湾に沈められる。

 

「し、白雪! 大丈夫だってここでは日常茶飯事のことだろ? この話は終わろう」

 

俺は慌てて言う。

 

「は、はい、えっと・・・はい」

 

ふぅ、キンジの前だとすぐ聞く子だよなぁ

アリアにも見習ってほしいよ本当に。

素直なアリアか・・・

 

『優ごめんなさい』

 

アリアが可愛く謝るのを想像してみたがだめだ、想像できん

 

「でも、今夜のキンちゃん達少し変だよ」

 

「へ、変? どの辺が?」

 

キンジぃ!冷静になれ!

 

「なんかいつもより冷たい気が・・・」

 

「し、白雪すまん! 俺達ゲームしててさ。 いいとこなんだ。 それで早くゲームに戻りたくてさ」

 

「ゲーム?」

 

俺の言い訳に白雪は首を傾げたが納得してくれたようだった。

 

「じゃあ、これ」

 

白雪がもじもじと持っていた包みを渡してくる。

 

「筍ごはん作ったの、今旬だし、それに私明日から今度は恐山に合宿でキンちゃんの御飯作ってあげられないから」

 

「ああ、ありがとありがと、よし、用事は済んださあ、帰ろうな」

 

ぐあああ筍かよ! まあ、キンジ中心だからしかたねえな

 

「い、一日に2食も作っちゃうなんて、 な、なんか私お嫁さんみたいだね・・・って何言ってるんだろ私。 あは、あはは変だね。 うん。 キンちゃんどう思う?」

 

「わ、分かったからお引き取りください白雪さん」

 

「分かったって・・・それはつまりキンちゃんお嫁・・・」

 

おいキンジ! やばいぞ今後ろで水の音がしたぞ!アリアが出てくる!

 

「? 中に誰かいるの?」

 

やばい!やばいぞ!

 

「中に誰もいませんよ」

 

なんで敬語なんだ! ばれるだろ馬鹿キンジ!

 

「キンちゃん? 優君? 私に何か隠してることない?」

 

「「ないない!」」

 

2人ではもる。

ばれるって!

 

「そう、よかった」

 

ようやく白雪が背を向けて帰っていく。

ふぅ、白雪でよかった。

よし!

俺とキンジはがっつポーズしつつ風呂場に走る。

次は後門の狼をなんとかしなければ

風呂の途中に帰ってきたのがばれたら殺される。

武器を没収しとこう

後に考えればさっさと外に逃げればよかったのだが俺達は余裕がなかった。

風呂に駆け込みアリアの制服が入ったかごに手を突っ込んだ瞬間、風呂場のドアが開いた。

 

一瞬、俺とキンジとアリアは目を合わせ沈黙時は止まる。

ああ、いいにおいがするなと場違いに考える俺とたぶんキンジ

ツインテールをほどいてロングヘアーになっていた全身つるぺたなアリアは

 

「へ、変態!」

 

ばっと右手で胸を左手でお腹の下を隠した。

 

そして、俺たちの手が制服に突っ込まれてるのを見て鳥肌をたてている。

やばい! 弁解しないとまずいぞ!

 

「「ち、ちが!」」

 

キンジと同時に弁解しようと手をあげるが

キンジの手にした日本刀の鞘にパンツ

俺の手にしたホルスターにブラが

小さなトランプのマークがいっぱいプリントされた子供っぽい・・・

 

「死ねぇ!」

 

キンジが腹を蹴り飛ばされたのをみて俺は死の恐怖を感じて転げるように逃げようとリビングに飛び出した。

 

「逃がすか! ど変態!」

 

素っ裸のまま、飛び出してきたアリアは俺がワイヤーで窓から逃げるより先に股間をけり上げてきた。

悲鳴をあげて俺は意識を失った。

神よ、俺何かしたのか?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第06弾 アリアvs優希

「バカキンジほら起きる!」

 

朝の鍛錬から帰ってきた俺が聞いたアリアの第一声はそれだった。

部屋からは朝ご飯の催促をするアリアの声と抗議するキンジの声が聞こえてくる。

うーむ、とりあえず汗を流してカロリーメイトをかじっているとアリアがとキンジが玄関に向かってくる。

 

「うまいこといって逃げるつもりね」

 

風船みたいにむくれてアリアはキンジの腕にかみついてしまう。

 

「やだ逃がすもんか! キンジ達は私の奴隷だ!」

 

ハハ、俺も奴隷かよ

 

困り果てたキンジをみてから

 

「なあ、アリア俺と登校しないか? どうせキンジとは教室で会うんだからさ」

 

「優と?」

 

アリアはキンジと優を見比べたがやがて

 

気か変わるかもしれないから外まで考えると結局外までキンジに引きずられるように出て行った。

うーん、キンジうらやましい気がするぞ。

嫌、俺はロリコンじゃないからな。

 

とはいえ、同じバスなのは変わらない。

アリアとキンジ、俺と3人の乗ったバスは難なく学校に到着し、5時間目は専門教科の授業になる。

つまり、アサルトの授業になるわけで・・・

 

 

 

 

まじか

 

今、俺はアリアと一対一の勝負を強いられている。

それもこれもマスターズの不良教師、蘭豹の気まぐれからだ。

アリアが俺にいきなり勝負を申し込むと蘭豹の野郎、おうやれやれの一言だもんだ。

 

「優、あんたの本当の実力ここで見せなさい」

 

ガバメント2丁を構えるアリア。

まじかよ、アサルトの連中が見てる所であまり、ワイヤーは使いたくないが・・・

ここでアリアの絶望されたら護衛できなくなるかもしれない。

アリアに勝たないまでもそれなりの戦績は残さなくては

 

「おら! 始めろ! 糞ガキ共」

 

蘭豹の開始の宣告と共にアリアが発砲した。

ああ、分かったよ本気でやってやる。

ワイヤーを発射し右斜め上に飛んだ俺は飛びながらガバメントを3連射する。

アリアはそれをかわしつつ発砲するがワイヤーを外し勢いを削いだ俺には当たらない。

ちっ、一撃で決まらねえな。

アリアはさらに2発発砲してくる。

直撃コースだが俺はそれを同時に発射した銃弾で弾く。

アリアと俺の銃技はほぼ互角と仮定する、ならワイヤーで勝利をもぎ取るしかない。

どこぞのクモ男のように俺は右に左にグランドを駆け巡る。

アリアは狙いをしぼれないようで右に左にガバメントを揺らしている。

補足しておけば俺のワイヤーは壁にめり込ませて固定する。

何点かバージョンがあるが今日はめり込ませてもとれる機構が付いているワイヤだ。

ワイヤーの先端は矢のような形になっている。

 

ドドドン

 

「あ!」

 

一発の銃弾がアリアの右肩をかすめた。

いけるかとさらに4発撃ったところで弾切れ。

カートリッジを入れ替えれるすきにアリアが日本刀を構え突進してくる。

俺は空中に向けワイヤーを発射した瞬間、アリアの右手に黒のガバメントがあるのを見た。

上空への予想位置へ発砲。

くそったれ!

俺はワイヤーを高速で巻き戻すと右にワイヤーを撃こんで巻き戻す。

強烈な力に引かれて右に無理やり軌道を変える。

今度は邪魔されないようにDEでアリアをけん制した。

アリアはそれをかわす。

どうでもいいが、怖い!

すでに20メートルぐらい上空で俺はワイヤーの制動のみで飛び回っている。

落ちたら助かる高さじゃないぞ。

DEをしまい空中でガバメントのカートリッジを押しこんでから地上に落下する勢いをワイヤーで殺す。

右のワイヤーのみなので動きは制限される。

地上に降り息を吐きながら攻略手段を探る。

互いに銃を構えながら動かない。

ちくしょう、強いじゃないか。

アリアは小柄なだけに簡単に当てられる相手ではない。

じゃりっと砂を踏み、一歩動く。

接近戦に持ち込まれれば勝敗は明らかになる。

 

と、ここでアリアが先に動いた。

2丁拳銃から続けざまに2発

そして、風のようにこちらに突進してくる。

接近戦か!

俺はワイヤーで距離を稼ごうとと発射した瞬間、10発の銃声が響いた。

 

「なっ!」

 

なんとアリアは残弾を全てワイヤー先端の突起物に命中させたのだ。

計算が狂いワイヤーが失速し天井に届かない。

 

「終わりよ!」

 

ガバメントをホルスターに収めアリアは日本刀を抜き放つと一気に加速し。剣を振り下ろした。

 

「っそたれ!」

 

ギイインという音が響き渡る。

日本刀とガバメントがぎりぎりと押し合いになる。

銃をクロスさせてアリアの一撃を防いだので後が続かない。

嫌、俺は巻き戻っていたワイヤーを発射し右に飛ぶ。

押し合いの格好のまま撃ったので右にただ、飛んだだけだったが距離は稼げた。

と思って振り返った瞬間、アリアの日本刀が迫っていた。

足にワイヤーが巻かれてる。

くそ、準備してやがったな

俺はアリアを引っ張ってしまったらしい。

 

ガバメントを向けようとした瞬間

 

「そこまでだ糞ガキ共!」

 

蘭豹の制止の声。

見るとアリアの日本刀は俺の首に突き付けられている。

俺の・・・負けだ。

こいつやっぱり強い。

仮にアリアが敵になるなら殺すぐらいの気でいかないと負けるのは俺だろう。

改めてアリアの評価を高める俺だった。

だが、アリアは俺を見下ろしながら

 

「この程度なの?」

 

「え?」

 

なんだ? 何かアリアが悲しそうだぞ。

 

「私の見込み違いだったの・・・ 優?」

 

こうして、後悔を残した俺とアリアの一騎打ちは短いながらも俺の敗北で終わるのだった。

俺はアリアを失望させちまったんだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第07弾アリア観察記録

その翌日の女子寮の前の温室で俺とキンジは理子を待っていた。

 

「聞いたぞ優、アリアに負けたんだってな」

 

「ああ・・・」

 

アリアを失望させてしまった・・・俺は少し落ち込んでいるんだ

 

「やっぱり、アリアと組むのか?」

 

「さてな?」

 

俺はアサルトの授業が終わる前にアリアに言ったことを思い出す。

 

「協力してやるよ」

 

不思議そうにアリアは振り返る。

 

「キンジをお前の奴隷にするの手伝ってやるっていってるんだよ」

 

「いいの?」

 

友達でしょ?という目を向けてくる。

まあ、確かにそうなんだがこの件は俺にとっても利点が多いのだ。

まず、俺はキンジにアサルトに戻ってきてほしい。

これは、アリアも同じだろう。

これが一つの利点

二つ目はアリアに内緒だが護衛の件だ。

キンジがいれば敵がどんな奴でも勝率はかなり上がる。

これが3つ目の利点。

そして、最後の利点は俺がこの子を気に行ってきてる点だな。

まだ、正式には組むと決めてないが・・・

 

「俺もキンジにはアサルトに戻ってきてほしいと思ってるんだ。 利点もあるんだよ」

 

「それじゃあ・・・」

 

アリアは俺をとことん利用してキンジを陥落させようと考えたらしい。

うん、スパイの気持ちがわかるね。

 

 

 

 

 

そして、今に至るのだが・・・

 

「キンジは何してたんだ今日?」

 

「猫探しだ。 0.1単位のEランクの依頼をこなしてた」

 

「ふーん」

 

探しものとか俺苦手なんだよな。

 

「キーくーん! ユー―――――――ユー――――」

 

温室の入り口から理子が右手を振りながら軽いステップでこちらにやってくる。

なんでユの間が俺だけ長いんだ?

 

「理子」

 

「よう」

 

キンジと俺はそれぞれ口を開く。

うーん、馬鹿理子だが、こいつ相変わらず美少女だよなアリアと同じ小柄なくせにふたえのめはきらきら大きく緩いウェーブのかかった髪はツーサイドアップ。ふんわり背中に流した髪に加えてツインテールを増設した欲張りな髪型である。

 

「相変わらず改造制服だな、そのひらひらはなんなんだ?」

 

「ゴスロリってやつだろ?」

 

俺が言うと理子は

 

「これは武偵高の制服白ロリアレンジだよ。 キ―君、ユーユーいい加減ロリータの種類ぐらい覚えようよぉ」

 

「きっぱり断る! お前は制服を何着持ってるんだ?」

 

おいおい指で数えるほど持ってるのか?

武偵高の制服は防弾制服だから結構高い。

まあ、金があれば簡単に手に入るし手を加えることも不可能ではないのだが・・・

 

「理子、こっちを向け。 いいか? ここでのことはアリアには秘密だぞ」

 

「うー! らじゃー!」

 

びしっと敬礼のまねごとをする理子にキンジが紙袋を渡した。

ああ、あれか・・・俺も買いに走らされたなぁ・・・秋葉原まで俺行ってきたんだぞ

 

「うわああああ!『しろくろっ!』と『白詰草物語』と『妹ゴス』だよおおお!」

 

ぴょんぴょんと兎のように跳ねながらぶんまわしているのはR15指定のギャルゲーだ。

こいつ、オタクなんだよ実はゴスロリとかのギャルゲーは大好きという困りもの

身長が身長なので自分では買えなかったそうだ。

中学生に間違えられたんだぜ? ハハハ、アリアなら小学生だな

キンジの奴アリアの情報を集める気だな?

まあ、俺も護衛対象の情報は欲しいから丁度いい

 

「あ・・・これとこれはいらない、理子はこういうの嫌いなの」

 

ん?2とか3とか書いてある奴だな。

 

「なんでだよ?」

 

決して安くないからな当然の答えだ。

 

「違う。 2とか3とか蔑称。 個々の作品に対する侮辱。嫌な呼び方」

 

ん?なんか今、理子一瞬表情が悲しそうに見えたぞ。

気のせいかな?

 

「まあ、 とにかく続編以外のゲームはくれてやる。 その変わりこの間依頼した通り、アリアについて調査したことをきっちり話せよ」

 

「―あい!」

 

理子は馬鹿なんだがネット中毒患者でノゾキ、盗聴盗撮、ハッキング等のいかにもインケスタ向けの能力を持っているから情報収集能力がずば抜けて早い。

実際、何度か俺も理子に依頼している。

そのたびにゲームを探し回っているんだが・・・

 

「ねーねー、キ―君とユーユーは尻にしかれてるの? 彼女のプロフィールぐらい自分で聞けばいいのに」

 

「彼女じゃねえよ」

 

おいおい、キンジよおかしいだろ俺達2人がまるでアリアと付き合ってるみたいな言い方だぞ理子の言い方だと

 

「えー2人はアリアを取り合って結局どっちとも付き合うことにしたって噂だよ?

寮からアリアと出てきてアリアファンクラブが2人とも殺すって息まいてたんだ。 がおー」

 

「指で角をつくらなくていい」

 

ああ、まあ寮から女の子と出てきたらそう見えなくもないわな

 

「ねえねえどこまでしたの?」

 

「どこまでって?」

 

「3P」

 

「馬鹿するか!」

 

「嘘つけぇ健全な若い男女のくせに。 アリア挟んで毎晩えっちいことを・・・」

 

そんな満面の笑みで言われてもなぁ・・・

 

「お前はいつもその方面に話を飛躍させる。 悪い癖だぞ」

 

「ちぇ」

 

「それより、本題だアリアの情報、そうだな・・・アサルトでの評価を教えろ」

 

「ユーユーもある程度は知ってると思うけどランクはSだって、Sランクって2年では片手で数えるぐらいしかいないんだよ」

 

それは知ってる。

Sランクの連中とやり合うのは毎回大変だからな。

ワイヤー封印してたから勝った回数もそれほど多くない。

あいつら俺の弱点知ってるしな。

 

「理子より小さいくせに徒手格闘もうまくてね。 流派はボクシングから関節技までなんでもありの・・・えーと、バーリー・・・バーリー・・・バリっ・・・」

 

「バーリ・トゥードか?」

 

「そうそうそれそれ! イギリスでは縮めてバリツって呼ぶんだって」

 

「拳銃とナイフはもう天才の領域、どっちも二刀流なの。 両効きなんだよあの子」

 

「それは知ってる」

 

「じゃあ、2つ名も知ってる?」

 

アリアの奴2つ名まで持ってるのかよ。

あれは優秀な武偵自然とつくものだからな。

俺は持ってないけど。

知らないと言う顔をすると

理子はにやりと笑う

 

「カドラのアリア」

 

武偵用語では2刀流のことはタブラという

ようはカドラは4つの武器ということだ。

俺の場合ワイヤーもあるから何個武器携帯かは決まってないけどな。

 

「笑っちゃうよね。 双剣双銃だってさ」

 

何が笑いどころか分からないんだが

 

「アリアの武偵としての活動の実績はどうなんだ?」

 

俺が聞くと

 

「あ、それはすごい情報があるよ。今は休職してるみたいなんだけどアリアは14歳からヨーロッパ各地で武偵として活躍しててね・・・」

 

目と声を少しシリアスにしながら

 

「・・・その間1度も犯罪者を逃がしたことがないんだって」

 

「まじか?」

 

そりゃすげえ

 

「狙った相手を全部捕まえてるんだよ。 それも99回ともたった1度の強襲でね」

 

「なんだそれ?」

 

キンジが絶句しているな。

まあ、普通、武偵に回ってくる犯罪者は凶悪な連中が多いからな。

俺もAランクと言われて受けたクエストの犯罪者捕まえるの結構苦労したしな。

どのみち断ってても逃げられないってことかアリアからは

 

「他には・・・体質とかは?」

 

「うーんとね。 アリアってお父さんがイギリス人とのハーフなんだよ」

 

「てことはクォーターか」

 

日本人離れしてるわけだ。

 

「そう、でイギリスの方のミドルネームが『H』家なんだよね。 すごく有名な一族らしいよ。 おばあちゃんはディムの称号を持ってるんだって」

 

なんだって! てことはアリアは貴族のお嬢さんじゃねえか。

ディムはイギリス王家から女性に与えられる称号だからな。

キンジもびっくりした顔でいる。

 

「でも、アリアはH家の人たちとうまくいってないみたいなんだよね。 だから家の名前を言いたがらないんだよ。 理子は知っちゃってるけどあの一族はちょっとねぇ」

 

H? うーん、思い当たることないなぁ。 そもそも日本の有名な家の名前ぐらいは分かるが外国はあんまり関わらないからな

 

「教えろ! ゲームやっただろ」

 

「理子は親の七光とかそういうの大嫌いなんだよぉ。 まあ、イギリスのサイトでもググれば当たりぐらいは付くんじゃない?」

 

「俺英語駄目なんだよ」

 

俺も駄目だ。 世界に出て働くんだから勉強はしてるんだがなかなかな・・・

 

「がんばれや!」

 

キンジの背中を叩こうしたららしい手が彼の腕時計を弾いた。

あ、曲がってる。

壊れたな

 

「うあーっ! ご、ごめーーん!」

 

「別に安物だからいいよ。 台場で1980円で買った奴だ」

 

俺の時計はいくらだったかな? ネットで購入したからな。

 

「だめ! 修理させて! 理子にいっぱい修理させて! 依頼主の持ち物壊したなんて言ったら理子の信用問題に関わるから」

 

そういうと、理子は胸の谷間にキンジの時計を入れてしまう。

で、でかいな。アリアとは段違いのでかさだ。

 

「キンジ他には?」

 

「い、いやもういい。 行くぞ優」

 

「あいよ」

 

まあ、このままだとお前ヒスルしな。妥当な判断だ。

じゃなと俺は理子に右手を挙げて温室を後にするのだった。

ちなみにいうと理子の下着は金色だった。

ちなみにだがな

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第08弾ロボットレキ地獄を制す

理子やキンジと別れた俺はそのまま、寮には帰らず学内をうろついていた。

まあ、さっさと帰るのは簡単なんだがな。

 

俺は屋上に出ると風に当たりながらごろりと寝転がると情報を整理した。

まず、アリアの護衛を俺に依頼してきた奴はおそらくだが、アリアのことをよく知っているはずだ。

となると家の関係者と言う線も考えられるがH家ね・・・

本気で調べたらわ分かるかも知れんがな・・・

 

キイイイイ

 

ん?

 

その時、屋上の鉄製のドアが開く音が響いた。

振り返るとそこにいたのはドラグノフ狙撃銃を背負ったレキだった。

相変わらず無表情だなお前は

 

「レキか? お前もまだ、残ってたんだな」

 

「・・・」

 

レキは何も言わずに俺の隣まで来ると屋上から見える海を見ている。

うう、やっぱりこの子苦手だよ。

何か言ってくれたらいいのに・・・

 

「そ、そうだ一緒に飯でも食いにいかないか?」

 

何言ってんだ俺は! レキが承諾するはずないだろ

 

「・・・・」

 

レキは俺を見ると

 

「構いません」

 

ほらことわ・・・え?

 

「今何て・・・」

 

「いいといいましたが?」

 

つまり、晩御飯はレキと食うことになったわけだ。

なんでこんなことに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分後、俺とレキは学園島の中にあるラーメン屋に来ていた。

この時間、学生たちが込み合う中席を確保した俺達はメニューを見ながら

走り回っていたバイトの女の子を捕まえて

 

「俺はギョーザとチャーハンと味噌ラーメン。 この子には一番高いメニューを」

 

「かしこまりました! お客様チャレンジャーですね」

 

はっ? 何が?

聞き返す前にバイトの子は行ってしまう。

むぅ、あまり考えないでいいか

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

おいおい、話が弾まないぞ! 俺はこういう子、苦手なんだよ! 早く料理よ来てくれ!

 

「そ、それにしても珍しいなレキが飯を食いに行こうなんていう誘いに乗るの」

 

「風がそう言いました」

 

風? なんだそれは? 宗教なのか?

 

「風ってなんだ?」

 

「風は私の頭から直接響いてくる。 遥か故郷から」

 

駄目だ訳がわからんぞ。

俗にいう不思議ちゃんか?

 

「おまたせしましたぁ!」

 

バイトの女の子が一気に御飯を持ってくる。

レキの前にも・・・

 

「なんじゃそりゃ!」

 

俺は絶句した。

レキの前におかれたラーメンは真っ赤で煮えたぎっていた。

 

「本店自慢の地獄ラーメンでございます」

 

「じ、地獄ラーメンだって!」

 

確かに真っ赤なそのラーメンは地獄そのものだ。

レキはじっとしれを見つめている。

 

「ちなみにいくら?」

 

「はい♪一万円です」

 

「いっ!」

 

俺の財布には3000円しか入っていない。

どう考えても足りない。

 

「れ、レキお前いくら持ってる?」

 

「カードならあります」

 

駄目だ! こんなボロラーメン屋クレジットが使えるわけがねえ! アリアの護衛の報酬百万が口座にあるがもう、しまってるぞ。 コンビニに・・・駄目だカードも通帳も部屋だ」

 

「時間は30分です。 スープも飲み干せたらただになります」

 

「なんだって!?」

 

地獄に仏とはこのことだ。

しかし、俺の前には味噌ラーメン、チャーハン、餃子が並んでいる。

駄目だ、俺は食えんぞ

 

「れ、レキ頼む! 食えるよな」

 

「・・・」

 

レキはそれに答えず割り箸を割ると麺を咥えちゅるちゅると食べ始めた。

そして、5分後

 

「ば、馬鹿な」

 

バイトのお姉さんは驚愕した様子でレキを見ている。

続いてスープをごくごくと飲んでいく。

ありえん、からしを直接飲むようなもんだぞ! 大丈夫なのかレキ!

 

そして、レキは器を置くと

 

「私の感覚ですがあなたが計測を始めてから12分03秒です」

 

「よっしゃ! レキよくやった!」

 

俺は感動に涙しながらレキに向けガッツポーズをとった。

「くっ、店を始めてから初めての敗北・・・いいでしょう。負けを認めましょう! あなた達はただです!」

 

よくわからんが勝ったぞ。

 

味のしない食事を終えてこの世界にあれを食べれる物がいるとはとか言ってがっくり膝を落とした店主を見ながら俺達はラーメン屋を後にした。

てか、

 

分かれ道でレキは俺の方を向いた。

 

「ごちそうさまでした優さん」

 

「いや、どちらかというとレキにおごってもらったようなもんだぞ」

 

「優さん。 また明日」

 

「おう! またいつか御飯食べに行こうぜ」

 

その時、俺は上機嫌だったんだ。

絶対絶命の状況から好転したもんだから・・・

レキがくると振り返る。

その顔は無表情だが街灯に照らされるの顔は前へ小さく動くのだった。

そして、レキはドラグノフを肩に女子寮の方へ歩いて行った。

うーん、レキも謎だが辛いの大丈夫だったんだな改めて知ったよ。

さて、帰るか。

俺は探偵科の寮に向かい歩き出すのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第09弾 キンジ陥落

「あんたならあたしの奴隷にできるかのしれないの! アサルトに戻ってあたしから逃げた実力をもう一度見せてみなさい」

 

「あれは・・・あの時は偶然うまく言っただけだ。 俺はEランクの大したことない男なんだよ」

 

「嘘よ、あんたは入学試験の成績Sランクだった」

 

おいおい、部屋に戻るなりなんだこれは?

リビングの方からキンジとアリアの怒鳴り合いが聞こえるぞ。

キンジの入学試験時か・・・俺もあいつと戦ったが正直、少し本気を出したんだが負けたんだよな。 ワイヤーの戦闘もその時、キンジにばれた。

全ての切り札を出したんじゃいんだが切り札1だけじゃヒステリアのキンジには勝てん。

その時、受験生を始め、まぎれていた教官も全て俺とキンジが倒したため、入試当時俺とキンジはSランクだった。

ワイヤーを封印したから俺は1年の時Aに下がったけどな。

アサルトのSランクって言うのは特殊部隊一個中隊に匹敵する戦闘力と言う意味だから仕方ないのだが・・・

 

「つまり、あれは偶然じゃなかったってことよ! あたしの直感に狂いはないわ!」

 

「と、とにかく・・・あ、優」

 

キンジが俺に気付いたらしい。

 

「遅い! どこ行ってたのよ優」

 

「ああ、いやレキと晩飯食ってた」

 

「よくレキが承諾したな」

 

キンジは話題を変えるチャンスだと思ったのか話に乗ってくる。

 

「まあ、しょうだ・・・」

 

「キンジ! あたしの話は終わってないわよ!」

 

駄目だ、狙われたら逃げることは難しいぞキンジ

 

「と、とにかく今は無理だ! 出てけ!」

 

ああ、キンジ自爆だぞその言葉

 

「今は? ってことは条件でもあるの? 行ってみさいよ協力してあげるから」

 

うーん、その協力ってアリア分かってないから言えるんだよな。

ヒステリアモードを発現させるならキンジを性的に興奮させる必要があるからな。

例えばキスするとか胸を触らせるとか下着を見せるとかまあ、この子が進んでできるとは思えんことばかりだぞ。

ほら、キンジも想像したから顔赤くなってやがる。

 

「教えなさい! その方法! ドレイに上げる賄い代わりに手伝ってあげるわ」

 

ずずいとアリアがキンジに迫る。

やばいな、ヒステリアになったら・・・

いや、むしろあのモードの方が陥落させやすいかもしれんがな。

あの状態では女の子の頼み事はほとんど断らないからな。

ま、潮時だぜキンジお前が選びなヒステリアになって承諾するか素のまま承諾するかだな

 

「キンジ、お前の負けだ」

 

俺が言うとキンジは裏切り者と言う目で見たが状況判断で妥協したらしい。

 

「1回だけだぞ」

 

「1回だけ?」

 

ちっ、無条件降伏しやがらねえか。

これを気にアサルトに戻ってきてくれるんじゃないかと思ったんだがな

 

「戻ってやるよアサルトに ただし組んでやるのは1回だけだ。 戻ってから最初に起きた事件をお前と一緒に解決してやる。 それが条件だ」

 

「・・・」

 

「だから、転科じゃない自由履修としてアサルトの授業を取る。 それでもいいんだろ?」

 

キンジ、お前の考えは分かる。

組んでもいいかなと思いながらも切り札を隠す俺と違い。

お前は組みたくないからヒステリアモードではない通常モードでアリアを失望させる気だな?

通常モードなら俺より弱いからなお前。

 

「いいわ。 この部屋から出て行ってあげる」

 

アリアもついに妥協したか

 

「あたしも時間がないしその一件であなたの実力を見極めることにする。 もちろん、優あなたももう1度だけ見極めさせてもらうわ。 優も入学試験はSだったんだから」

 

仕方ねえな・・・なんかこの子に絶望されるのは激しく嫌なんだ。

護衛の件もあるがやってやるかな。

 

「どんな事件でも1件だぞ」

 

「OKよ。 その代りどんな大きな事件でも1件よ」

 

「分かった」

 

「ただし、手抜きしたら風穴あけるわよ。 優も!」

 

「ああ、約束する全力でやってやるよ」

 

「はいはい」

 

キンジと俺が言うのだった。

でも、久しぶりにキンジと組めるんだな。

俺は事件の神様がいるならどうか大きな事件が来ますようにと願うのだった。

だって、どうせなら暴れ回りたいだろ?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10弾 明日なき学科強襲科

 アサルトいって言うのは100人に97人しか卒業できない。

まあ、必ずしもそうではないし100人全員が卒業できた年もあるにはあるらしい。

それはおいといて、この学科の訓練で命を落としたり依頼中に命を落としたりとその3人の理由はそれぞれだ。

もちろん、3人以上の時もあるのだが・・・

ん? キンジが入ってきたな。

ハハハ、囲まれてるな。

こちらまで声が届いてくるぞ

 

「おーぅ! キンジ! お前は絶対帰ってくると信じてたぞ!さあ、ここで1秒でも早く死んでくれ!」

 

「まだ死んでなかったのか夏海! お前こそ俺よりコンマ1秒でも早く死ね!」

 

「キンジぃ! やっと死にに帰ってきやがったか! お前みたいな間抜けはすぐ死ねるぞ! 武偵っていうのは間抜けから死んでいくからな」

 

「じゃあ、なんでお前が生き残ってんだよ村上」

 

あれはアサルト流のあいさつなのだ。

死ね死ねと言うのがおはようやこんばんはと同義なのがここなのだ。

俺も行くか

 

「キンジぃ! 俺は嬉しいぜ! さあ、死の世界にGOだ」

 

「何言ってんのか分からねえよ! お前こそ爆発に巻き込まれて死ね優!」

 

もみくちゃにされながらもみんな楽しそうだ。

ハハハ、アサルトは死ぬ確率は確かにあるが楽しいんだよな。

みんな、キンジに一目置いてるからな

 

 

 

 

 

 

 

夕方、アサルトを出ると俺は笑いながらキンジに話しかけていた。

 

「ハハハ、面白かったなキンジ」

 

「だから戻りたくなかったんだ」

 

キンジは肩を落としてるな。

諦めろ。

お前はアサルトに戻る宿命なんだ。

アリアと俺の包囲網はすでに完成してるぜ。

 

「お、アリア」

 

「何?」

 

キンジが顔を上げると校門の前にいたアリアがこちらにかけてくる。

キンジを俺挟むように歩き始める。

 

「あんた、人気者なんだねちょっとびっくりしたよ」

 

「こんな奴らに好かれたくない」

 

「おい! キンジ!俺も含まれてるのかよそれ」

 

「当たり前だ」

 

くそ、ずばっと言いやがった。

アリアはそんな俺達を見ながら

 

「あんたって人付き合い悪いし、ちょっとネクラ?って感じもするんだけどさ・・・ここのみんなは・・・あんたや優には一目置いてる感じがするんだよね」

 

そうだな、それは入試の時のあれを覚えてるからじゃねえか?

教官を含めて最後に俺とキンジは対立し、まさしくSランク武偵の戦いを繰り広げ結果、俺は負けた。

誤解すんなよ?切り札は1つしか見せてねえからな。

アリアはちょっと視線を地面に下ろしながらキンジを見る。

 

「あのさキンジ」

 

「なんだよ」

 

「ありがとね」

 

「何をいまさら・・・」

 

小声ながらも心底うれしそうにするアリア

 

むう、キンジなぜかお前にむかつく。

 

「勘違いするなよ。 俺は仕方なくここに戻ってきただけだ。事件を1件解決したらすぐにインケスタに戻る」

 

「分かってるよでもさ」

 

「なんだよ?」

 

「アサルトの中を歩いているキンジなんかかっこよかったよ」

 

キンジ、顔が赤くなってるぞ

 

「あたしになんかアサルトでは誰もよってこないからさ、実力差がありすぎて誰も近寄ってこられないのよ・・・まあ、あたしは『アリア』だからそれでもいいんだけど」

 

まあ、確かにな。

記憶をたどればアリアは確かに転校してからも一人でいた。

かわいいだのという噂を聞いて俺もアリアは見ていたがあいつは浮いていた。

実力ね・・・

俺はかつて言われた師匠の言いつけを守り、本気を出さない。

出せば、きっとアリアと並べるだろう。

でも、本気で戦うことはもう、できない。

できなくなってしまった。

 

「『アリア』って、オペラの『独奏曲』って意味もあるんだよ。1人で歌うパートって意味なの―1人ぼっち・・・あたしはどこの武偵高でもそう。 ロンドンでもローマでもそうだった」

 

「それで俺達を奴隷にして女王様にでもなるつもりか?」

 

俺が聞いてやるとアリアはクスクスと笑った。

 

「あんたおもしろいこと言えるじゃない」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

うーむ、アリアの笑いのつぼがわからんぞ

 

「キンジはアサルトに戻った方が生き生きしてる。 昨日までのあんたは自分に嘘をついているみたいでくるしそうだった。 今の方が魅力的よ」

 

「そんなことは・・・ない」

 

ハハハ、キンジ今度お前の部屋にワイヤー仕込んでやる。

死ね

俺がアサルト風のあいさつを気持ちで言うとキンジは

 

「俺と優はゲーセンに寄っていく。 お前は1人で帰れ! ていうかそもそも今日から女子寮だろ。 一緒に帰る意味がない」

 

あ!そうだったな。 今日こそエース●ンバットの空中戦にけりをつけてやるぜ。

せっかくだから、ゾンビゲームのあれも決着をつけるか?

余談だがこの学園島にあるゲーム設備の特にシューティング系は日本一の高レベルである。

理由は言うまでもないだろう。

 

「バス停までは一緒ですよーだ」

 

アリア嬉しそうだな。

たく、この子を失望させて何やってんだろなおれは

 

「ねえ、げーせんって何?」

 

「ゲームセンターの略だ。 そんなことも分からないのか?」

 

「帰国子女なんだからしょうがないじゃない。 じゃあ、あたしもいく。 今日は特別に一緒に遊んであげるわ。 ご褒美よ」

 

「いらねえよ。 そんなのご褒美じゃなくて罰ゲームだろ」

 

いやいや、キンジ女の子と遊べるなんて最高じゃないか。

アリアは可愛いし。

まあ、胸は残念だが顔は可愛い。

彼女いない歴と年齢が一致する俺が言うことじゃないが・・・

っておいお前ら!

俺を置いていくように2人は早歩きを始めた。

正確にはキンジが早歩きを始めアリアがそれを追い加速加速

ついに全速力になる2人を見て俺は悲鳴を上げた。

 

「お前らゲーセンに行くだけで競争するな!」

 

まったく、こいつらといると体力がいくらあってもたらねえよ

などと思いながら俺は2人とゲーセンに入るのだよ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11弾レオポン争奪戦

ありえんこいつら早すぎるだろ。

ぜえぜえと息を吐きながら俺はゲーセンの柱に背を預けた。

うええ、気持ち悪い。

1キロ以上全速力で走ったらこうなるわな。

一応、アサルトで動き回った後なんだぞ。

タフな奴らだ。

 

そのキンジとアリアは興味深そうにクレーンゲームを見ている。

なんだその中のぬいぐるみ?

おいおい、アリアよ口を逆三角形にしてよだれはやめろ。

 

「かわいー・・・」

 

「やってみるか?」

 

キンジが言うとアリアの顔がぱっと輝く。

 

「できるの?」

 

「やり方を教えてやろうか?」

 

コクコクと頷くアリア。

今日は素直だなアリア。

俺はその場を離れて千円を小銭に変える。

フフフ、アリアの護衛の金を下ろしたから今日の俺は金持ちだぜ。

まあ、高額な買い物もしたから使いまくれないんだがな。

 

戻るとアリアが今度こそ本気の本気と言いまくっていた。

ハハハ、とれないんだな?

見かねたのかキンジが何か言おうとした時

 

「ここは俺に任せろ」

 

ずいっと前に出てアリアをどかす。

プライドの高いアリアは当然のごとく反発するが強引に押しのけた。

俺の実力を見せてやるぜ。

 

10分後

俺は、地面に両手をつけていた。

 

「全然だめじゃない優」

 

アリアの呆れたような声

 

「一万円は使ったぞ」

 

憐れむように言うのはキンジだ。

く、くそうこんなはずでは。

 

「もう一回だ!」

 

「やめとけって! 今度は俺がやるよ」

 

俺はアリア同様にぎゃぎゃー言ったが結局、キンジに押しのけられて見る羽目になる。

くそう、キンジも一万ぐらい使って敗北を味わうがいい。

ハハハだ。

だが、その願い敵わずキンジの操るクレーンは人形を掴みあげた。

落ちろ!落ちろ!落ちろぉ!

邪念を送り込むが人形は上がっていく。

 

「キンジ見て!3匹釣れてる」

 

ば、馬鹿な

 

「キンジ放したらただじゃおかないわよ」

 

「もう、俺にどうこうできねえよ」

 

「あ、あ! 入る! 行け行け!」

 

くそ、こうなったらやけだ!いけえええええ!

クレーンが開く、一匹が落ち2匹3匹と引きづり込まれるように落ちて行った。

 

「やった!」

 

「っしゃ!」

 

「ナイス!」

 

無意識に本当に無意識にパチイと俺達はハイタッチしてしまった。

 

「「「あ」」」

 

目と目が合い俺達は目を背ける。

くそう、負けたのになんだこれは

アリアは―

 

「ま、まあ馬鹿キンジにしては上出来ね」

 

取り出し口から人形を3匹わしづかみにし取り出す

タグにはレオポンと名前があった。

知らないキャラだな。

 

「かぁーわぁいいー!」

 

ぎゅうううとアリアはレオポンを思いっきり抱きしめている。

レオポオオン!逃げるんだ! 破裂するぞ

と内心思いながら

この子も年相応の女の子なんだなと思った。

何かがこの子の本音を曲げている。

そんな直感があった。

やはり、護衛の件に関係があることはほぼ間違いない。

理子に調べてもらう手もあるがこいつは独自の調査した方がいいかもしれない。

もしかしたら・・・もしかしたらだが、あいつに関わることなのかも知れない。

 

 

 

 

 

炎の中、銀髪を熱風に揺らしながらその紅い目を俺に向けるあいつ。

俺が武偵になることを決め、必ず逮捕することを誓ったそいつと繋がるなら・・・

 

「キンジ、優!」

 

はっとして顔を上げるとアリアが俺とキンジに人形を押しつけてきていた。

 

「3人で分けましょう。 キンジの手柄だけど優も1万円使ったからご褒美よ」

 

釣り目気味の細目をにっこり細めたアリアに俺は不覚にもドキッとしてしまった。

ちくしょう可愛いじゃねえか

 

「なんだか悔しいけどな」

 

俺とキンジはレオポンを受け取りながらそれが携帯のストラップになっていることに気付いた。

キンジがつけ始めたので俺もつけ始めるとアリアもつけ始めたぞ。

おいおい、俺ら3人ストラップ無しだったのか。

まあ、俺は1月前にちぎれたからそのままにしといたんだがな。

 

「先につけた方が勝ちよ」

 

何い!アリアめ、俺に負けの屈辱を増やす気か! くそ! 勝つぞ!」

 

やけになって必死に押し込もうとするがこの紐太いぞ! 設計者でてこい!

 

結果はまあ、アリア、俺、キンジという順番だった。

まあ、ほぼ同時だったんだがな・・・

その後、俺達はゲーセンのゲームをあそびつくして帰ったんだが財布を確認すると10円しかなかったんだよ。

泣きたいぜ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12弾緊急事態

ふあ

欠伸をしながら俺は時計を確認する。

時刻は午前5時だ。

2段ベッドを降りながら向かいの2段ベットにアリアがいないのを見てトレーニング用の服に着替えてキンジの部屋を出る。

30分ほど、ランニングしてからアサルトの訓練場に行く。

 

うーん相変わらずひとがいないな。

 

俺は普段人に見せない訓練をしてだがこいつは空間認識力を高める訓練だ。

ワイヤ―の戦術はワイヤーの使い方を謝るわけにはいかない。

俺の場合、切り札はあるがこのワイヤーの戦術が基本なのは変わらないのだ。

よし、今日は別の手段を・・・

それがいけなかった。

俺はこの日、ワイヤーの操作をミスり両手にぶつけのだ。

おかげで痛みで両手がずきずき痛む。

 

家に帰りシャワーを浴びてからソファーで仮眠しているとキンジが起きてきた。

俺は両手に手袋をつけており

 

「ん?なんだそれは優」

 

「気分だよ。 気にすんな」

 

と俺がいうとキンジは納得したらしい。

ふぅヒステリアならばれてたな確実に・・・

 

寝ぼけまなこに今何時だと聞くと時間はまだまだ、余裕だった。

なら寝るかと仮眠したのだが・・・

 

なぜなんだ・・・

7時58分のこの時間バスは混む。

しかも、今日は雨だ。

さっき振りだしやがったんだよ。

予測はできたはずなにのに・・・

 

「やった! 乗れた! やった!やった! よう、キンジ、優おはよう」

 

く、くそう、武藤のやろう万歳してやがる。

 

「の、乗せてくれ武藤!時間が!」

 

俺とキンジが必死に言うが奴は残酷だった。

 

「そうしたいところだが無理だ! 満員! お前ら自転車で来いよ」

 

駄目だ! 俺たちの自転車は爆発しちまったんだよ!

 

「無理なもんは無理だ! 大人しく遅刻するんだな」

 

「くそ! 悪魔め!てめえなんか呪われろ!」

 

ちくしょう! 武藤!てめえ呪いが降りかかるぞ!くそったれえええ!

俺の悲鳴むなしく扉が閉まってしまった。

もうだめだ・・・おしまいだ

 

 

 

 

結局バスにはのれず、俺とキンジはとぼとぼと道を歩いていた。

 

「なぁ、キンジ最悪だなこれは・・・」

 

「いうな、分かってる」

 

学校に行ったら救護科に行こうと思ってたんだが

いっそのこと1時間目はふけてゲーセンでもいくかと思った瞬間、キンジの携帯がなった。

 

「もしもし」

 

キンジがレオポンの携帯をストラップを引っ張り出る。

 

「キンジ今どこ?  優はいる?」

 

ん?アリアか?

 

「アサルトのすぐそばだ。 優も隣にいるぞ」

 

ん? 時刻は完全に1時間目だぞ? なんかあったか?

キンジは携帯をスピーカーモードにしていった。

 

「丁度いいわ! すぐそこでC装備に武装して女子寮の屋上に来なさいすぐに!」

 

「なんだよアサルトの授業は5時間目だろ?」

 

「授業じゃないわ事件よ! あたしが来ると言ったらすぐ来なさい!」

 

おいおいまじかよ。

C装備ってのはヘルメットや防弾ベストなどのいわゆる強襲用の装備だ。

俺の奴はワイヤーも仕込むからわずかに形が違う。

優希専用C装備ってやつだな。

 

事件か・・・

アリアの言い方からしてろくな事件じゃねえぜキンジ

俺はにやりとしてキンジと屋上に出ると通信機を怒鳴りつけるアリアそして、階段の廂の下に知った顔を見つける。

 

「ようレキお前もアリアに呼ばれたのか?」

 

「・・・」

 

置物のように微動だにしない。

無視しないでレキさん!

レキの肩をとんとんと叩くとようやくレキはヘッドホンを外してこちらを見上げてきた。

 

「飯食った以来だな。 アリアに呼ばれたんだろ?」

 

「はい」

 

抑揚のないレキの声。

 

「いつも何の音楽聴いてんだ? 一回聞いてみたかったんだ」

 

「音楽ではありません」

 

「じゃあなんなんだ?」

 

キンジも興味があるのか聞いてくる。

 

「風の音です」

 

分からねえ

レキがドラグノフ狙撃銃を肩にかけ直した。

 

「時間切れね」

 

通信を終えたアリアが俺たちの方を見る。

 

「もう1人ぐらいSランクが欲しかったとこだけど他の事件で出払ってるみたい」

 

アリアの中では俺ら全員Sランクなんだな・・・って

なんだ?両手がずきずき痛むぞ

 

アリア達に見えないように手袋をそっとめくると赤くはれ上がっている。

ヤバいな、ひびでも入ってなきゃいいんだが・・・

グーパーしてみたがなんとか動くが長時間戦えるか?

 

「・・・」

 

うわ!

思わず心の中で悲鳴をあげてしまった。

レキが俺の手をじっと見つめていたのだ。

黙ってろよと指信号でレキに伝えるとレキはこくりと頷いた。

まあ、こいつならあえて言わないだろう。

手袋をつけ直して振り返る。

さて、何の事件なんだろうな・・・

やっぱり軽いのがいいけどアリアがSランク扱いする4人のチームの事件なんだから楽じゃないだろうな・・・はぁ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13弾バスジャック事件

「バスジャックだって!」

 

ここは、ヘリの中、装備の確認をしながら俺達はアリアの説明を聞いていた

 

「武偵高の通学バスよあんた達の寮の前に7時58分に止まった奴」

 

ワハハ、まじかよ文字通り天罰だ武藤め! ってそれどこじゃねえか

 

「犯人は車内にいるのか?」

 

緊迫した状況だと理解したのかキンジが尋ねる。

 

「分からないけどたぶんいないでしょうね。 今回のバズジャックもたぶん同一犯。 あんたたちの自転車に爆弾を仕掛けた犯人と同じ犯人ね」

 

「ちょうどいいな。 俺もあの犯人は捕まえてやるって思ってたんだ。 どうやってこの情報を掴んだんだアリア? 東京武偵局も動いてるんだろ?」

 

東京武偵局と言えば当然のことながらSランクの武偵も保有する集団だ。

それより早く動けるアリアは一体・・・

 

「奴は毎回減速すると爆発する爆弾をしかけて自由を奪い。 遠隔操作でコントロールするの。 でも、その操作に使う電波にパターンがあって今回もあんた達を助けた時もその電波をキャッチしたのよ。 東京武偵局は動いてるわ。 でも、相手は動き回るバスよ? 準備が必要だわ」

 

「でも、武偵殺しは逮捕されたはずだぞ?」

 

「それは真犯人じゃないわ」

 

どうして断言できるんだアリア?

まあ、こうして事件は起こってるが模倣犯って線もまだ、ある。

どうして、そうやって・・・

犯人・・・犯人・・・えっとニュースで見たような・・・

か・・・か・・・かんざ・・・駄目だ思いだせねえ。

後、一文字だと思うんだが

 

「とにかく! 事件はもう、起きている! 作戦目的は車内にいる全員の救助」

 

「リーダーをやりたきゃやれ! でも状況をもっと・・・」

 

「武偵憲章1条仲間を信じ仲間を助けよ! 被害者は武偵高の仲間よ! それ以上に説明はいらないわ」

 

だから、諦めろキンジ。

この子は1度発射されたら止まらない砲弾見たいな子なんだよ。

 

「とにかく、救出すればいいんだろ? ハハハ、キンジご愁傷様大事件だ」

 

「キンジこれが約束の最初の事件になるのね」

 

キンジはがくりと肩を落としながら

 

「大事件だな。 俺はとことんついてないよ」

 

「約束は守りなさい。 あんた達が実力を見せてくれるの楽しみにしてるんだから」

 

でもなぁ・・・キンジのこの状況じゃなぁ・・・

一瞬アリアのスカートでもめくってキンジに見せてやろうかと考えたがC装備はスカートじゃないんだよな残念だが

俺はキンジを見るといいのかとアイコンタクトで訪ねるとキンジはいいんだよと無言で返してきた。

 

「見えました」

 

レキの声に俺達は防弾窓の下を見る。

台場の町が見えるがバスなんて見えない。

 

「どこだレキ!」

 

おれが怒鳴ると

 

「ホテル日光を右折しているバスです。 窓に武偵高の生徒達が見えています」

 

「よ、よくわかるわねあんた、視力いくつよ?」

 

「左右共に6.0です」

 

お前はアフリカの原住民かとと突っ込みながらアリアが作戦を説明する。

 

「パラシュートでバスの上に降りる。あたしはバスの外側をチェックするからあんたは周囲を警戒。 優は先行して車内の様子を調べてきて」

 

なるほどな、ワイヤーで3次元的な動きができる俺にうってつけの任務ってわけだ

にしても、この子強襲で全てかたをつける気か・・・

理子の言ってた情報も正しいわけだがお前が独奏曲(アリア)なのが分かったよ。

 

「先行する!」

 

俺はそういうとヘリから飛び降りパラシュートを開いた。

 

 

 

 

 

 

 

見る見るとバスが迫ってくる。

雨もあって操作を慎重にしてからパラシュートを外しワイヤーをバスの屋上に発射。

その瞬間、俺は激痛に右手をぶれさせた。

しまった!

 

ワイヤーはバスの横を抜けて地面に突き刺さる。

バスが行ってしまう。

俺は落下していく。

距離的に死にはしないがバスが追えない。

 

『何やってるのよ優!』

 

レキの報告を受けたらしいアリアが通信機越しに怒鳴りつけてくる。

大丈夫だ問題ない。

俺はとあるゲームのセリフを言いながらワイヤーを戻し空中から街灯に向けてワイヤーを発射しめり込ませて引き戻す。

ようは引っ張って上空に飛び、ワイヤーを外してどこぞのクモ男のように前進したわけだ。

バスを捉えた。

今度こそワイヤーを撃ちこみ、バスの屋上にドンと音を立てて着地した瞬間、雨で足を滑らせて転んだ。

 

「うわ!」

 

ワイヤーがめり込んでるのでひっくりかえっただけで済んだがカッコ悪いこと

空を見上げるとアリア達が降下してくる所だった。

俺は、伸縮棒のついたミラーで仲を確認してから右手のワイヤーをめり込ませたまま車内に侵入する。

バスの中は騒ぎになっていたが俺を見ると何か言い始めた。

聞きえねえよ。

 

「優!」

 

見ると見知った顔だったので俺は嫌みたっぷりに

 

「よう武藤、早い再会だったな!」

 

「あ、ああちくしょう。 俺はなんでこんなバスに乗っちまったんだ」

 

「友達見捨てた罰だ」

 

「優、この子だ」

 

武藤の指した女の子が泣きそうな顔で携帯を差し出してくる。

 

「し、椎名先輩助けて」

 

あん? なんだ?

差し出された携帯を耳に当てると

 

「速度を落としやがると爆発しやがります」

 

くそったれあいつだ。

機械的なその声は俺の自転車を吹き飛ばした武偵殺し。

やはり、真犯人は捕まってないのか?

 

「優! 状況を説明しなさい!」

 

アリアの声が通信越しに聞こえてくる。

 

「アリアの予想通りだ。 遠隔操作されてる! 爆弾は!」

 

「バスの下にプラッチック爆弾! このバスなんか簡単にけし飛ぶ量よ」

 

「アリア! 後方から!」

 

「え?」

 

キンジの警告とアリアの戸惑いの声が通信機からもれる。

 

見ると後方から1台のオープンカーが距離を取っている所だった。

追突してきたのか

しかも、無人かよ!

その座席には俺達を追いまわしたあの乗り物が・・・

やべえ!

 

「みんな伏せろ!」

 

みんなが伏せた瞬間機関銃が車内にぶち込まれる。

1発が俺の右腕のワイヤーの発射機構に当たる。

 

 

「ぐぅ!」

 

しゃれにならないぞこの激痛。

ひびでも入ってんのか?

 

「優!どうした!」

 

俺の声が聞こえたんだろう。

キンジの声が聞こえてくる。

 

「大丈夫だ・・・それよりアリ・・・」

 

ぐらっとバスが変な揺れ方をしたので慌てて運転席を見ると運転手がハンドルにもたれかかるように倒れていた。

運転で避けられなかったのかよくそ!

 

「武藤!運転変われ早く!」

 

ヘルメットを投げながら俺が言うと武藤は慌ててそれを頭につけて運転席に座る。

 

「俺この間改造車がばれて1点しかもう、違反できないんだぞ?」

 

「ハハハ、友達見捨てた罰だ。 速度違反で免停だな」

 

俺はワイヤーを戻しながら言うと後ろから武藤の怒声が響いてきた。

 

「落ちやがれ引いてやる!」

 

やだよ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14弾 役たたずの奴隷達

バスは高速でレインボーブリッジに入っていく。

おいおいまじかよ!こんなもの都心で爆発したら大惨事だぞ!

 

「キンジ! アリアはどうした!」

 

ワイヤーで上に戻ると同時にアリアもキンジの力を借りて昇ってくるとこだった。

 

「アリア!ヘルメットはどうしたんだ!」

 

キンジが怒鳴る。

 

「さっき、ルノーにぶつけられた時ぶち割られたのよ! 優はヘルメットどうしたのよ!」

 

「武藤に渡してきた。 あいつが運転してるんだ」

 

「優! アリア!」

 

キンジの声に俺は慌てて振り向くと猛スピードでルノ―が突っ込んでくる。

 

「くそったれが!」

 

破壊力を求められると判断した俺がデザートイーグルを引き抜くと発砲。

迫撃砲のような轟音と共にルノーのエンジンを撃ち抜き機関銃が発射されるがそれは明後日の方へそれる。

くそ! 銃のそものも破壊するはずだったんだがぶれた。

手の怪我は深刻の部類だ。

しかも、今のデザートイーグルの洒落にならない反動でびりびりと震え、もう撃てない。

手の感覚がないのだ。

 

「後ろ! 伏せないさいよ馬鹿!」

 

振り返るともう1台ルノ―がこちらに前から来る。

しまった。

デザートイーグルを向けようとするが手が動かない。

アリアがキンジにタックルして被弾音が2つ鮮血が飛び散った。

ごろごろとアリアが転がってくる。

 

「アリア!」

 

俺は両手が動かないので覆いかぶさるようにアリアを受け止める。

今撃たれたら終わり・・・

死ぬのか俺は・・・

そう、思ったが銃撃はこない。

見ると機関銃が破壊されている。

アリアが交差の時にやったらしい。

 

パアァン

パアァン

その時、2発の銃の音が聞こえてきた。

音に続いてルノ―がスピンを始めガードレールにぶつかり爆破炎上した。

見るとヘリが並行してきている。

レキか!

 

『私は1発の銃弾』

 

レキのお決まりのセリフだ。

撃つ時、レキは集中のため言う言葉だと俺は思っている。

 

『銃弾は人の心を持たない。 故に、何も考えない』

 

「ただ、目的に向かって飛ぶだけ」

 

 

 

銃声が3発、

 

「私は1発の銃弾」

 

続けて1発

バスの鹿から部品が落ちて転がっていく。

部品から火花があがり宙を飛び、ガードレールを飛び越え海に落ちて行った。

 

遠隔操作されてたのだろう。

海中に落ちた爆弾は巨大な水しぶきを上げた。

さすがだな、レキ

俺はレキの方を見てから駆け寄ってきたキンジにアリアを渡した。

 

「優?」

 

キンジが俺の方を見てからアリアの応急処置を始める。

額から血がでてる・・・

くそ、早く病院に・・・

バスは次第に減速して止まった。

情けないな・・・

アリアの護衛を請け負っておきながらこのざまかよ・・・

もしも、次があるなら・・・

今度こそ・・・

だから、アリア・・・死ぬな

死なないでくれ・・・

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15弾アリアの失望

「君こんな手でよくデザートイーグル撃てたものだよ」

 

「へへへ」

 

翌日、俺は苦笑いしながら武偵病院の一室で、手の手当てを受けていた。

ひびこそ入っていなかったが手が炎症を起こし、かなり、まずい状態だったらしく

塗り薬を渡されおまけに包帯でぐるぐる巻きにされてしまった。

1週間は銃を持つのも禁止、もちろん、他の武装も禁止されてしまった。

 

「さてと・・・」

 

診察を終えた俺は病院の1室に向かった。

 

神崎・H・アリアと書かれたその部屋のドアを開く。

病室はロビーが挟んだ個室だった。

すげえ、初めて見たぜVIPなんて待遇。

 

「・・・」

 

丁度、部屋からはレキが出てくるところだった。

お見舞いに来たんだな。

俺は黙って包帯ぐるぐる巻きの手を見せるとレキは立ち止りそれをじーと見ていたがやがて興味を無くしたのかドアの外に出て行ってしまった。

見るとロビーに飾られている花の中にレキよりとかかれたものがあった。

ま、いいか

 

「よう、アリ・・・」

 

「あ・・・」

 

俺とアリアは一瞬視線が交差する。

そして、沈黙、なぜなら着替えをしようとしたらしいアリア様はトランプ柄のブ・・・

 

「か、風穴ぁ!」

 

「ぎゃあああああああ!」

 

ドドドン

 

ガバメントの三連射を防弾制服にもろに受け俺は悲鳴を上げて床をのたうち回った。

痛いって! 防弾制服の上からでもバッドで殴られたぐらいの衝撃があるんだぞ!

しかも、ガバメントは大口径だ! デザートイーグルほどじゃないがな。

 

がるるるとライオンのような声をあげさっとパジャマを着直したアリアを見て俺はあっと声をあげてしまう。

アリアの額に一瞬見えてしまった。

額の傷は真っ赤に浮き立ってしまい2発の銃弾はアリアのおでこを2本の交差する線のような傷後を残しいつも自慢するように露出させていたおでこを台無しにしている。

俺の視線に気づいたのかアリアはばっと手を傷跡に当てて近くにあった包帯でそれを隠してしまった。

 

「な、何しに来たのよ優! お見舞い?」

 

顔を赤くしながらアリアはガバメントを俺に向けながら言った。

撃たないでください。

 

「あ、ああ怪我の治療だよ」

 

手を見せてやると今、気付いたのか

 

「その怪我どうしたの?」

 

ああ、レキ言わないでくれてるんだな。

秘密という観点から言えばお前は最高だな。

 

「バスジャックの時に切ったんだよ。 ざっくりいったからしばらく使うなだとさ」

 

「そう、それで何しに来たの優? お見舞いなら私の状況がわかったでしょ? 軽傷よ」

 

無意識なのか分からない。

だが、アリアはそっと自分の額に触れた。

女の子にあの傷はきついだろうな・・・

 

「悪かった・・・」

 

無性に謝りたい気分だった。

朝の怪我さえなければ・・・

あの後に及んでも俺は本気を出しきっていなかったこと・・・

あれは、俺の責任だ。

 

「武偵憲章に従っただけ。 仲間を信じ仲間を助けよ。 あたしはそれにっしたがっただけ」

 

「武偵憲章か・・・」

 

俺もあの項目は2番目に好きだ。

1番は違うんだけどな。

でも・・・

 

「もう、用は済んだでしょ? さっさと出て行って・・・」

 

「アリア! 俺は!」

 

全てをぶちまけたかった。

切り札や護衛なんかどうでもいい。

この子を失望させたくない!

だが、次の言葉は俺の言葉を躊躇させちまったんだ。

 

「優・・・私の見込み違いだったんだね・・・キンジも・・・私にはもう時間がないのに・・・」

 

時間?

それは、パズルのピースみたいなもんだ。

今までの記憶を頼りに俺は推測してみた。

真犯人・H家・時間がない・・・そして・・・

駄目だ、まだわからない。

 

「優、もう私に関わらないで。 欲しいならお金でも払う」

 

「いらねえよそんなもん!」

 

俺は反射的に怒鳴り返していた。

くそ、なんでこんなにイライラすんだよ。

なんだよこの無力感は!

これじゃあの時と同じじゃねえか!

 

「優、 一つ分かったことがあるわ」

 

アリアは俺を見ながら

 

「あたしが探していた人はあなたたちじゃなかった」

 

くそ・・・

その言葉は俺にとって重すぎる言葉だったんだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16弾 アリア護衛イギリスへの道

あの後、アリアと別れた俺は屋上で電話をかけていた。

3コールの後に出た男の機械的な声。

 

「報酬は気に行ってもらえたかな?」

 

先日送り届けられたもののことを言っているのだろう。

 

「あれは返す。 俺は依頼を果たせそうにない」

 

「ふむ」

 

相手は一瞬沈黙し

 

「アリアに失望されたのかな?」

 

どうしてわかると思ったが少し考えればわかることだ。

こんな電話をする時点で・・・

 

「ああ、俺はアリアに失望された。 護衛はもう続けられない」

 

「なるほど、では一つ条件を加えよう」

 

「条件?」

 

「アリアの護衛だ。 君は彼女につき従いイギリスに行って欲しい」

 

「イギリスだって?」

 

アリアの祖国はイギリスだ。

あの状況では帰国してしまう可能性は十分に考えられる。

 

「アリアが乗る飛行機のチケットは私が手配しよう。 イギリスに着いたならそこで護衛は終わりとしよう。 成功報酬1億は振り込ませてももらうよ」

 

その機械的な言葉に俺は違和感を覚える。

イギリスについたらだって? それじゃ、途中で何か起こるみたいな言い方じゃないか

 

「おまえ・・・誰だ? アリアのなんなんだ?」

 

すると、電話の向こうでは微笑する声が聞こえ

 

「君がアリア・遠山 キンジと共にいるなら会う機会はあるだろう。 だが、一つだけ言うならば・・・」

 

俺は息を飲む

 

「君は2人のそばにいなければならない。 いずれ起こるであろう戦争のために」

 

「戦争?」

 

意味がわからず聞き返すが相手はそれに答える気はないらしかった。

 

「君が求める情報は与えよう。 だが、彼女と戦うためにも君はアリアといる必要がある。 緋弾を守るものとして」

 

「緋弾? なんだそれは?」

 

「それもいずれわかるだろう。 アリアと遠山キンジと共にいればね」

 

「誰なんだお前は! H家の人間なのか?」

 

「椎名 優希。 君達はこれから困難に立ち向かうことになると私は推理している。 そのために君は最大の力を出せるだけの努力が必要だ」

 

こいつ知ってるのか?

俺が本気を出せない理由を・・・

 

「私は確信を持って言う。 君が本気を出せないならアリアは死ぬ。 君の知り合いと同じように」

 

「・・・」

 

「だから守ってほしいアリアを。 私は君達が成長することを心待ちにしているからね」

 

「・・・」

 

電話が途切れても俺は無言だった。

ただ、分かるのはアリアがイギリスに帰ってしまうことと、そこで何か起こる可能性があると言うことだ。

 

「・・・」

 

包帯が巻かれた両手を見ながら俺はいろいろと考えるが答えはでそうになかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17弾 悲しみ

アリアと別れた次の日、俺は手のトレーニング禁止を言い渡されランニングだけだけしてキンジの部屋に戻ると目玉焼きをトーストに乗せてもぐもぐしているとキンジが起きてきた。

 

「よう、おはよう」

 

「おう」

 

キンジと俺は挨拶してからねぼけながらトーストを焼いて席に座るキンジ

 

「その、優はアリアと組むのか?」

 

一番いやな話題。

俺は首を横に振った。

たぶん・・・わからんからな

 

「お前はどうなんだよキンジ」

 

聞いた話によればキンジはアリアと怒鳴り合いになりもういいと言われてしまったらしい。

だが、キンジよ。

俺は知ってるんだぞ。 迷ってんだろ?

 

結局、俺とキンジはぶらぶらするかということで学園島のクリーニング店によりその帰りにアリアを見つけた。

前髪を作るアリアが美容院から出てきたとき俺は胸に痛みを覚えた。

くそ、あれは俺の責任でもあるんだよな・・・

どうするという指信号を見て俺は追跡と即断した。

キンジも異存はないらしく追撃が開始される。

アリアは私服で白地に薄いピンク柄の入ったワンピースを着たアリアは電車に乗り新宿で降りる。

ちくしょうデートか?

ん?ちくしょうって何言ってんだか

俺は別にアリアの恋人や好きな相手じゃないんだぞ?

新宿警察署? こんなとこに・・・

 

「下手な 尾行しっぽがちょろちょろ見えてるわよ」

 

振り返らずにいきなりいってきたアリアに俺達はへへへと笑いながら

 

 

「質問せず自分で探るのが武偵だろ?」

 

「教えるかどうか迷ってた・・・でも、ここまできたらついてきちゃうでしょ?」

 

なんなんだと思いながらも俺とキンジは警察署にアリアに続いて入っていった。

 

留置人面会室でその人を見た瞬間俺は確信した。

ああ、この人はアリアの・・・

 

「まあ、アリア その人達は彼氏さん?」

 

「ち、ちがうわよママ」

 

へー、アリアの母さんってどちらかといえばお姉さん見たいな感じだな

って間違ってますよお母さん! なんで俺ら2人とも彼氏みたいになってるんだ?

いわゆる天然さんかな?

 

「じゃあ、大切なお友達かしら? へーえ、アリアもボーイフレンドを作るお年頃になったんだ。 友達を作ることも下手だったアリアがねぇ ふふ、うふふ・・・」

 

 

「違うのこいつは遠山 キンジ! こっちは椎名 優希! ―そういうのじゃないわ絶対に」

 

くそう、そこまではっきり言う必要ないだろアリアよ

俺はアリアの母と目が合い

 

「…優さん、キンジさん初めまして、私アリアの母で―神崎かなえと申します。 娘がお世話になっているそうですね」

 

「「い、いやぁ」

 

同時にどもる俺とキンジ

しかし、アリアはそれを無視するそうに

 

「ママ、時間が3分しかないから手短に話すけどこいつら武偵殺しの3人目と4人目の被害者なのよ。 先週武偵高で自転車で爆弾を仕掛けられたの」

 

う、改めて聞くと間抜けな話だよな

 

「・・・まあ・・・」

 

かなえさんは表情を固くする。

 

「さらにもうひとつ、奴は一昨日バスジャック事件を起こしてる。 奴の活動は急激に活発になってきているのよ。 ってことはもうすぐ尻尾をだすはずだわ。 だから、あたし狙い通りまず武偵殺しを捕まえる。 奴の件だけでも無実を証明すればママの懲役1064年から942年まで減刑されるわ。 他の事件も最高裁までに全部なんとかするから」

 

事実上の終身刑か・・・

 

「そして、ママをスケープゴートにしたイ・ウ―の連中を全員ここにぶちこんでやるわ」

 

「アリア気持ちは嬉しいけどイ・ウ―に挑むのはまだ早いわ―『パートナー』は見つかったの?」

 

「それは・・・どうしても見つからないの。 誰も、あたしにはついてこれなくて・・・」

 

ちらりと俺とキンジを見て言うアリア

だよな

 

「駄目よアリア あなたの才能は遺伝性のものでも、あなたは一族のよくない一面 ―プライドが高くて子供っぽい一面も遺伝してしまっているのよ。 そのままではあなたは半分も能力を発揮できないわ。 あなたにはあなたを理解し。 あなたと世間を繋ぐ橋渡しができるようなパートナーが必要なの。 適切なパートナーはあなたの能力を何倍も引き出してくれる。 曾お爺様にもお祖母さまにも優秀なパートナーがいらっしゃったでしょ?」

 

「…それはロンドンで耳がタコになるぐらい聞かされたわよ。 いつまでもパートナーを作れないから欠陥品とまでいわれて・・・でも・・・」

 

「人生はゆっくり歩みなさい。 早く走る子は転ぶものよ」

 

かなえさんはすいうと長い睫毛の目をゆっくりまばたかせた。

 

「神崎時間だ」

 

管理官が時間を見ながら告げる。

 

「ママ、待ってて!必ず公判までに犯人は全員捕まえるから」

 

「焦っては駄目よアリア。 あたしはあなたが心配なの1人で先走ってはいけない」

 

「やだ! あたしはすぐにママを助けたいの」

 

「アリア私の最高裁は弁護士先生が必死に引き延ばしてくれてるわ。 だからあなたは落ち着いて、まずはパートナーを見つけなさい。 その額の傷はもう、あなた1人では対応しきれない危険に踏み込んでいる証拠よ」

 

「やだやだやだ!」

 

「アリア・・・」

 

「時間だ」

 

興奮するアリアをなだめようとアクリル板の向こうから身をのりだした管理官がはがいじめにする。

 

「やめろ! ママに乱暴するな」

 

アリアは激高してアクリル板に飛びかかるがびくともしなかった。

かなえさんはアリアを悲しそうな目で見ながら管理官2人に力づくで引きずられ向かいの部屋から運ばれていった。

 

 

 

 

 

「訴えてやる! あんな扱いしていいわけがない。 絶対に訴えてやる」

 

曇り空の下で新宿駅に向かうアリアの後ろで俺達は声をかけられずにいた。

ああ、分かったよアリア。

お前が戦う理由と俺が護衛すべき敵が

イ・ウ―という組織に濡れ衣をきせられた母親を助けるために・・・

 

「・・・」

 

そのアリアが突然止まる。

俺たちも止まり見るとアリアは手を握り締め肩を怒らせ顔を伏せていた。

その足元に水滴がぽたぽたと落ち始めている。

アリアの・・・涙だ。

 

「アリア・・・」

 

「泣いてなんかない」

 

怒ったようにいうアリアの肩は震えていた。

町を歩く人々は道の真ん中で立ち止まる俺たちを見てにやにやしている。

痴話げんかとでも思っているんだろ。うせろ!

俺は本気で殺気をぶつけてやると慌てて目をそらして行ってしまう。

 

「おい、アリア」

 

キンジがアリアの前に出て声をかける。

俺も行くとアリアは歯を食いしばりきつく閉じた目から涙をあふれさせ続けていた。

 

糸が切れたように泣き始める。子供のように・・・大きな声で

 

「うあああああぁあ! ママぁー・・・ママあああぁぁぁぁぁ!」

 

新宿のネオンの光が道を照らしまるでアリアの涙に呼応したように通り雨が降り出す。

ただ、悲しいと言う感情だけが俺の心を支配していた。

でも、泣き続けるアリアに俺もキンジも何もしてあげることはできない・・・

できないんだ。

ただ、無言でその時間は過ぎて行く。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18弾 ハイジャック事件幕開け

東京が強風に見舞われた週明け、俺は部屋で包帯を外して塗り薬を塗ってから手の状態を確かめた。

まだ、無茶はできないが握力は銃を撃つ分には問題ない。

デザートイーグルとガバメントの弾を確認して予備のマガジンをカバンに放り込んでから最後にナイフを確認してワイヤーを腕につける。

防弾制服に手を通しながら部屋を出るとキンジも個室からでてくる所だった。

 

「よう! 俺今日サボるな」

 

「え?」

 

突拍子もないことを言った俺にキンジが首をかしげている。

 

「ああ、クエストか?」

 

「まあ、そんなとこだな」

 

そう、これはクエストだ。

あの電話の相手がくれたチケットを手に寮を出る。

キンジに言うか迷ったがあいつの分のチケットは貰ってない。

強引に乗ることはまあ、できるといえばできるが緊急事態でもないのだから何も起こらなければ問題になる。

アリアがイギリスに帰ることはあのかなえさんの件の後、電話で知らされた。

何者か知らんが随分、迅速な情報だ。

アリアが帰る件を言うか迷ったがキンジにはそれも黙っておいた。

 

 

 

 

 

 

羽田の第2ターミナルで手続きを終えて飛行機に乗り込む。

武偵であれば帯銃で乗ることも可能なのだ。

 

「おお、すげえすげえ」

 

通された場所はホテルみたいな部屋だった。

確か空飛ぶリゾートとかいう超豪華旅客機だ。

こんな機会じゃなきゃ一生のらないだろうな。

だが、その一生に一回かもしれない機会に用はない。

部屋を後にして機内を回る。

特に不審な点はないようだがすみずみまで調べるのも難しい。

アリアの個室をフライトアテンダントに聞いてから部屋に戻る途中離陸準備のアナウンスが聞こえてくる。

1度戻るかと俺の個室に向かう途中

 

「―武偵だ! 離陸を中止しろ!」

 

「お、お客様失礼ですがどういう・・・」

 

聞き覚えがあったので行ってみるとフライトアテンダントに怒鳴りつけてるのは・・・

 

「説明している暇はない! 今すぐこの飛行機を止めるんだ!」

 

フライトアテンダントが走っていき両膝をついたキンジに声をかける。

 

「ようキンジ」

 

「ゆ、優か!? なんでいるんだよ!」

 

目を丸くして驚くキンジ

 

「お前こそ・・・」

 

機体が揺れた。

離陸準備に入ったのだ。

さっきのフライトアテンダントが膝を揺らしながら

 

「あ、あの・・・駄目でしたぁ。 き、規則でこのフェーズは管制官からの命令でしか止めることはできないって・・・」

 

「ば、馬鹿野郎!」

 

「おい!キンジ! 何があったんだ! 説明しろ!」

 

なんとなくわかるけどなアリア関連で何かが起こったのだ。

 

「優、アリアの部屋は分かるか?」

 

「ああ、説明しろよ」

 

歩きながら俺はキンジに簡単に説明を受けた。

武偵殺しがアリアを狙っている。

それは知ってる。

だから、俺はここに乗り込んでるんだ。

 

「優はなんでここにいるんだ?」

 

「ああそれは・・・」

 

まいったなどう、キンジに説明しよう。

アリア護衛の話は本人以外にも話さないように言われてるからな。

 

「悪いけど言えないんだ。 クエスト関連だと思ってくれたらいい」

 

「分かった」

 

時間がないらしくアリアの個室の前に来るとノックもしないでキンジはいきなり扉を開いた。

 

「な、何!? キンジ!? 優まで!」

 

アリアは驚いたらしく紅い目をまん丸に見開いた。

そりゃ、地上にいるはずの俺達がいたら当然の反応だな。

 

「さすがリアル貴族様だなこれ片道20万するんだろ?」

 

「断りもなく部屋に押し掛けてくるなんて失礼よ」

 

「いや、アリアそれ言う資格ないだろ」

 

と俺が言うと怒りながらもアリアは黙った。

 

「武偵憲章第2条 依頼人との約束は絶対に守れ」

 

「・・・?」

 

「俺はこう約束した。 アサルトに戻って1件目の事件をお前と一緒に解決してやる。 武偵殺しの1件はまだ解決してないだろ?」

 

「何よ! 何もできない役立たずのくせに」

 

がぅと!小さいライオンが吠えるようにアリアは犬歯を向く。

 

「帰りなさい! あんたたちのおかげでよくわかったのあたしはやっぱり独奏曲(アリア)あたしのパートナーになれるやつなんか世界のどこにもいないんだわ!だからもう武偵殺しだろうがなんだろうがこれからずっと一人で戦うって決めたのよ」

 

「ならもっと早く言えばよかったろ?」

 

俺はそういうとソファーに腰を下ろした。

キンジもアリアの向かいの椅子に座る。

 

「ロンドンに着いたらすぐ帰りなさい! エコノミーのチケットぐらいは手切れ金代わりに買ってあげるから! あんた達はもう他人 あたしに話しかけないこと」

 

「元から他人だろ?」

 

「うるさい! しゃべるの禁止!」

 

飛行機は東京湾を出る。

俺はふくれっつらで窓の外を見るアリアに苦笑しながら装備を確認していた。

飛行機の中だからな。

こいつは使いたくないな。

破壊力だけなら絶大な大口径のデザートイーグルは今回は出番は少ないかもしれない。

そうなるとガバメントを始めとした・・・

 

「―お客様にお詫び申し上げます。 当機は台風による乱気流を迂回するため到着が30分遅れることが予想されます」

 

機内放送か・・・

 

ガガ―ンガガガ―ン

うわ!雷か?

この機の操縦下手だな。

あるいは、運が悪いのか雷雲の近く飛んでやがる。

 

「怖いのか?」

 

俺がキンジの声に振り向くと

 

「こ、怖いわけない。 バッカみたい。 ていうか話しかけないで」

 

ガガ―ン

お、また近い

 

「きゃ!」

 

ほほう、アリアの苦手なもの発見だ。

雷が苦手なんだな。

キンジも苦笑いしてるし

 

「雷が苦手ならベッドにもぐって震えてろよ」

 

「う、うるさい」

 

「ちびったりしたら一大事だぞ」

 

「バ、ババ馬鹿!」

 

ガガ―ン

 

「うあ!」

 

アリアは飛び上がってベッドに飛びこんで布団をかぶってしまう。

 

「ハハハハハ!」

 

「ば、馬鹿優!笑ったわね! 風穴地獄に・・・」

 

ガガ―ン

 

「~き、キンジぃ」

 

ついにアリアは毛布から助けを求めるように手を伸ばしたので俺は苦笑しながらその手を握ってやった。

アリアはそれでも怖いのかキンジの袖を掴む。

キンジが気をまぎわらすようにテレビをつけるとそこに映ったのは有名な時代劇だった。

 

「この桜吹雪見覚えねえとは言わせねえぜ」

 

遠山の金さんだな。

なんでもキンジの先祖らしい。

この人もヒステリアモードが使えたんだからさぞ暴れたんだろうな。

 

「ほら、これでも見て気を紛らわせろよ」

 

「う、うん」

 

話しかけるなというアリアルールは消えたらしい。

ぶるぶる震えながらぎゅっと俺とキンジの手と袖を握る姿はかよわい女の子そのものだった。

守ってあげたい。

そう、思える。

 

 

 

パン パァン

 

銃声!

俺は立ち上がる。

 

「アリア! キンジ先に行くぞ!」

 

返事も待たずに廊下を飛び出すと大混乱になっていた。

無理もない。

1日に必ず聞く音として認識している俺達とは違うんだからな

銃声のした機体前方を見るとコクピットの扉があけ放たれている。

そこにいたのは・・・

さっき、キンジと話してたアテンダントか

 

「おいお前!何してる!」

 

俺は両手のガバメントを抜くとアテンダントに向けた。

なぜならその手には機長と副操縦士が引きずられていたからだ。

 

「―動くな!」

 

キンジも拳銃を向ける

 

「お気をつけくださいでやがります」

 

というと何かを投げる。

やばい!

 

「みんな部屋に戻ってドアしめろ!」

 

缶からガスが出るのを見て俺は怒鳴り雷の恐怖を押し殺してでてきたアリアをキンジと押し戻すとドアを閉めた。

ばちんと機内の照明が落ちて紅い非常灯が照らす。

 

「キンジ! 優大丈夫?」

 

大丈夫みたいだな。

手にしびれはあるがこいつは毒とは関係なさそうだ。

息もできるし意識もはっきりしてる。

 

「アリア、あのふざけたしゃべり方、やっぱり武偵殺しだ。 やっぱり出やがった」

 

「待て! キンジもあいつがここに出てくることを知ってたのか?」

 

「も? ってことは優も知ってたのか?」

 

「俺の場合は手助けもあったからなんだがな」

 

「武偵殺しはバイクジャック、カージャックで事件を初めて、さっきわかったんだがシージャックである武偵をしとめた。 そして、それはたぶん直接対決だった」

 

つまり、キンジの説明はアリアが電波を傍受しなかった理由は武偵殺しが直接船に乗り込んでいたということになる。

まあ、いきなりチャリジャックって小さくなってるがこれはアリアに対する宣戦布告と言うわけだ。

かなえさんに罪を着せて・・・

 

「・・・今お前と直接対決しようとしてる。 このハイジャックでな」

 

悔しそうに歯を食いしばるアリア

そこにベルト着用サインが点滅を始める。

和文モールスだなこれは

訳すと

 

おいでおいで イウ―はてんごくだよ おいでおいでわたしはいっかいのばーにいるよ

 

「誘ってやがる」

 

「みたいだな」

 

「上等よ風穴あけてやるわ」

 

アリアは眉をつりあげてガバメントを2丁スカートから取り出す。

 

「俺たちも一緒に行ってやるよ。 役にたつかどうかは分からないけどな」

 

「こなくていい!」

 

ガガ―ン

 

雷鳴が鳴り響く。

 

「く、くれば?」

 

不謹慎だがなんというか可愛いなお前・・・

さて、これで片だ。

武偵殺しを捕まえてな

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19弾 アリアvs武偵殺し

バーに入ると先ほどのアテンタントがカウンターに足を組んで座っていた。

ん? 武偵高の制服? それにあのフリフリは・・・

 

「今回もきれいに引っかかってくれやがりましたねえ」

 

アテンダントはその顔にかぶせられた薄いマスクみたいなお面をべりべりとはがし始めた。

 

「り、理子か!」

 

驚いて言うと

 

「こんばんは」

 

青いカクテルをくいっと飲みぱちりとウインクしてきた。

 

「アタマとカラダデ戦う才能ってさけっこー遺伝するんだよね。 武偵高にもお前達見たいな遺伝形の天才がけっこういる。 でも・・・お前の一族は特別だよオルメス」

 

オルメス?アリアが硬直したのを見るとHの名前か?

 

「あんた・・・一体・・・何者?」

 

「理子・峰・リュパン4世―それが理子の本当の名前」

 

リュパン・・・あ! あれかフランスの大怪盗の・・・

 

「でも家の人間はみんな理子のことを名前で呼んでくれなかった。 おっ母様がつけてくれたこの可愛い名前を、呼び方がおかしいんだよ」

 

「おかしい?」

 

アリアが聞き返す

 

「4世4世4世さぁ! どいつもこいつも使用人どもまで・・・理子をそうよんでたんだよひどいよねぇ」

 

「そ、それがどうしたってのよ。 4世の何が悪いのよ?」

 

なぜかはっきり言ったアリアに理子は目玉をひんむいた。

 

「悪いに決まってんだろ!! あたしは数字か! あたしはただのDNAかよ! あたしは理子だ! 数字じゃない! どいつもこいつもよ!」

 

この怒りは俺たちに向かってじゃない。

だが、一つだけ分かるのはこいつを野放しにしてたらだめだ。

 

「曾おじい様を越えなければ一生あたしじゃない! リュパンの曾孫として扱われる」

 

アリアは深刻な面持ちで聞いてた。

 

「少しだけ・・・俺にもわかるぜ理子」

 

「ああ?」

 

理子が俺を睨みつける。

 

「だが、今はそんなこと話すときじゃない。武偵殺しは全部お前の仕業なのか?」

 

「武偵殺し? あんなものプロローグをかねたお遊びだ。 本命はオルメス4世アリアお前だ」

 

その目はいつもの理子の目ではなかった。

獲物を狙う獣の目

 

「100年前曾おじい様同士の対決は引き分けだった。 つまり、オルメス4世を倒せばあたしは曾おじいさまを越えたことを証明できる。 キンジ、優おまえらどちらでもいい。ちゃんと役割を果たせよ」

 

俺たちに向けられる理子の目

 

「初代オルメスには優秀なパートナーがいたんだ。 だから条件を合わせるためにお前らをつけてやったんだよ」

 

「迷惑な話だな」

 

俺は言いながら銃を理子に向ける。

 

こいつは演じてたんだ。 馬鹿理子をずっと・・・

俺たちに気付かれずにずっと・・・

 

「バスジャックもお前が?」

 

「くふ、キンジぃ武偵はどんな理由があっても時計を預けたりなんかしたら駄目だよ。 狂った時計見たら遅刻しちゃうぞ」

 

つまり、あの時から理子は細工を始めてたんだな。

 

「何もかもお前の計画通りかよ!」

 

キンジが言う

 

「んーそうでもないよ。 予想外のこともあったもん。 チャリジャックで出会わせてバスジャックでチームも組ませたのにどちらともくっつききらなかったのは計算外だったもの。 優はもう、あきらめてたけどキンジがお兄さんの話を出すまで動かなかったのは意外だった」

 

「兄さんを・・・兄さんをお前が?」

 

キンジの兄さん?

シージャックで死んだあの人のことか?

 

「くふ、ほらパートナーさんが怒ってるよ。 一緒に戦ってあげなよ。 いいこと教えてあげるあなたのお兄さんは理子の恋人なの」

 

「いいかげんにしろ!」

 

「キンジ! 理子はあたしたちを挑発してるわ! 落ち着きなさい!」

 

「これがおちついていられるかよ!」

 

「冷静になれ! キンジ!」

 

駄目だこいつ完全に頭に血が上ってやがる。

キンジは反射的に銃を理子に向けたがその瞬間、飛行機が揺れた。

 

「うわ!」

 

気付いた時にはキンジのべレッタはばらばらになり地面に落ちていた。

理子の手を見るとワルサ―P99が握られている。

潮時だな

 

「アリア、キンジ下がってろ!俺がやる!」

 

「駄目よ優! あんたなんかに何ができるのよ! あいつは私をご希望よ!あんた達は隠れてなさい!」

 

ばんと床を蹴り2丁拳銃を構えてアリアは理子に襲いかかる。

武偵の戦いは防弾制服があるため拳銃は一撃必殺の武器にはならない打撃武器なのだ。

ワルサー1丁とガバメント2丁の装弾数は互角。

 

「アリア2丁拳銃が自分だけだと思ったら間違いだよ」

 

そういうと理子はカクテルを投げ捨てると新たなワルサ―をスカートから取り出した。

だが、アリアは止まらない。

 

「くっこの!」

 

「アハハ」

 

2人は至近距離から互いに銃を撃ち、射撃戦を避け、かわし、相手の腕を自ら弾いて戦う。

次の瞬間、弾切れをおこしたアリアは両脇で理子の両腕を抱えた。

2人は抱き合うような姿勢になり銃声が止む。

 

格闘ではアリアが上か

 

「優! キンジ!」

 

言われるまでもねえな

 

俺はガバメント、キンジはバタフライナイフを理子に向ける。

 

「終わりだな理子」

 

「カドラ―奇偶よねアリア、理子とアリアはいろんなとこが似てる。 家系、キュートな姿、それと2つ名」

 

「?」

 

「あたしも2つ名を持ってるのよカドラの理子。 でもねアリア」

 

な、なんだ?あれは

 

「アリアのカドラは本物じゃない。 お前はまだしらないこの力のことを」

 

まるで神話のメデューサのように動いた理子の髪は背後の隠していたと思われるナイフでアリアの襲いかかる。

1撃目はなんとかよけたアリアだが反対のナイフがアリアの頭に鮮血を飛び散らせた。

 

「うぁ!」

 

反射的に後ろに下がるアリア

ちっ!

 

「キンジ! アリアを連れて下がれ」

 

ドドン

ガバメントを2連射牽制で撃った銃弾は理子には当たらない。

キンジがアリアを抱えて出て行く時間さえ稼げればいい。

 

「優!」

 

キンジの声が聞こえてくるが俺は振り返らずに

 

「心配すんな」

 

俺は目を閉じた。

2人が出て行く気配がする。

 

「キャハハ、優希は逃げないの? 殺しちゃうよ」

 

10秒・・・11秒・・・

 

「なあ、理子聞きたいことがあるんだ。 教えてくれないか?」

 

「いいよ! 理子は今気分がいいからね。 スリーサイズでもなんでも答えてあげる」

 

20秒・・・21秒

 

「アリアを殺すのか?」

 

「もう、死んじゃったかもしれないねぇ。 心配しなくても優も後を追わせてあげる。 それともイ ウ―に来る? 歓迎するよ」

 

29秒・・・

 

「お断りだ4世」

 

俺は目を開く

 

「お前・・・今何て言った?」

 

理子の怒気が伝わってくる。

この言葉は彼女には一番言われたくない言葉だ。

だが、俺はあえて言う。

 

「4世って言ったんだよ。 聞きえなかったのかなぁ?」

 

俺は口を盛大に笑みに釣り上げると理子を見下すように言い放つ。

 

「殺してやる」

 

理子はそういうとワルサ―をこちらに向けてくる。

見せてやるぜ理子。

こうなった以上。お前は終わりだ。

俺はガバメントの引き金を引いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20弾 優希vs武偵殺し

弾を補充した理子のワルサ―と撃ちあえば結果は見えてる。

理子の銃撃を銃弾撃ちつまり、ビリヤード撃ちで弾く。

ガバメントの弾数が3を切った瞬間、俺は右のガバメントを撃ちながら理子に向けてワイヤーを発射した。

 

「きゃはは!」

 

理子は笑いながらそれを軽々と避ける。

予想済みだ!

俺は左のガバメントを発射しながら左のワイヤーを発射した。

 

「!?」

 

理子の顔に驚愕の表情が浮かび上がった。

隠してきた切り札の1つ!

 

「なーんちゃって♪」

 

理子は口元を歪めながらそれをかわした。

俺がずっと隠してきた2つ目のワイヤーの攻撃をかわしたのだ。

でもなぁ違うんだよ!俺の狙いは!

 

理子を交差するようにワイヤーは後ろの壁に突き刺さっている。

一気に両側のワイヤーを引き戻し俺は前方に加速した。

 

「なっ!?」

 

接近戦は出来ないとたかをくくっていたのか突っ込んでくる俺に理子は目を見開いた。

だが、それは一瞬で理子は俺に向けワルサ―を2連射する

甘いな理子

右の腰から再びワイヤーが飛び出し機内の壁に突き刺さり、左のワイヤーと同時に巻き戻し操作をする。

左手は壁から放して巻き戻しているので理子はその動きを見ざる得ない。

右にぐんと引っ張られた俺は機内の斜め上の空中で右越しのワイヤーを外し右のワイヤーの巻き戻しで理子に突撃する。

この間1秒もない。

理子も腰のワイヤーがあるのは予測できなかったかあるいはこんなタイミングで使われるとじゃ思っていなかったのか致命的な隙を俺は見つけた。

 

「俺は女だからって手加減したりなんかしねえぜぇ!」

 

超加速を加えた右ストレートが理子の腹にめり込んだ。

 

「ぐっ!」

 

同時に右のワイヤーを壁から回収し巻き戻す、理子は通路に沿うようにぶっ飛び地面にたたきつけられるかと思ったが爆転し、体制を立て直す。

浅かった。

理子は打撃の瞬間、衝撃を和らげるため後ろに飛んだのだ。

距離的に5~6メートルの距離

俺は追撃をかけずにこの間にガバメントの弾の補充をし、理子に向ける。

 

「フフフ、きゃははは」

 

なんだこいつ?いきなり笑いだしやがった。

 

「何がおかしいんだ4世ぃ?」

 

今の俺は徹底的に相手を罵倒し戦闘を楽しんでいる。

キンジのヒステリアモードとは少し違う。

これは暗示だ。

特定の動作と条件で俺は普段の数倍の集中力を高めることができる。

集中力だけだからキンジのように身体能力が上昇するわけじゃないがな。

だが、困ったことにこの状態、戦闘狂になっちまうんだ。

 

「くふふ、ひっどいなぁユーユー、うそつきだねぇ。 接近戦はEランク並みだったんじゃないのぉ?」

 

「はっ! 授業が全てだとでも思ってたのか? それにお前が言えるセリフじゃねえだろ?」

 

俺は笑みを浮かべて返してやる。

そう、俺は接近戦はできないと装ってきた。

Aランクにいるのもそれが理由だ。

Sランク任務は銃技だけじゃ死ぬ危険があるからな。

だが、強さをセーブし、ここぞと言う時に投入する。

理子もおそらくは俺のことを調べていたはずだ。

何せ、こいつには左のワイヤーのことはすでにばれてるんだ。

入学試験の時にキンジと戦った時に使ったからな左のワイヤー。

 

「アハハハ! 私達も似てるねぇ! 切り札を隠し持つ状況とかさ。 それでどうするの優希?」

 

「アリア達の復帰を待つまでもねえよ。 ここでお前は逮捕だ!リュパン4世」

 

ぐっと加速のため右足に力を入れたその時、機がぐらりと揺れた。

 

「っ!」

 

体制を崩されガバメントの発射ができないため右腰のワイヤーを発射した瞬間、ワイヤーに銃撃が命中した。

やられた。

アリアにやられたワイヤー撃ちだ。

失速してワイヤーは壁に突き刺さらず床に落ちて行く。

その一瞬で、理子は滑るようにして接近してきた。

アリアと同じように銃撃戦、に持ち込まれる。

まずい!

本能がそう告げている。

こいつと長期間の接近戦は不利だ。

銃を撃ち手を弾きながら俺は理子の髪が動いているのが見えた。

ナイフが来る。

ばーいというように理子に髪のナイフが一閃、二閃する。

 

「くそったれが!」

 

ナイフを手に持つガバメントで受け止める。

理子の目が獲物を捉えた鷹の目のように細まる。

ワルサ―が俺の胸を向き・・・

 

その瞬間、俺は後方に飛んできた。

普通に飛んだのではない。

ワイヤーの力を借りている。

腰の後方に設置されたワイヤーに引かれ後ろに飛びつつ理子の放った弾丸をビリヤード撃ちで迎撃した。

アリア達が逃げたドアの前まで後退した俺は再び理子と対峙する。

 

「・・・」

 

「やるじゃない。 その技能ならSランクとして通用しちゃうよ優希ぃ」

 

「ランクには興味ねえよ。 Aランクで十分だ」

 

「キャハハハ! でもね。 理子知ってるんだよ! その両手もう、限界じゃない?」

 

「何のことだ?」

 

笑みを崩さず言うが内心ではばれたかと思う。

そう、バスジャックのあの日に受けた傷が、ぶり返してきてる。

通常ならあの、理子に叩き込んだ腹の一撃で決めるつもりだった。

理子が後ろにとんだのもあるが威力がかなり低かった。

正直、ガバメントを持つ左手はぶるぶる震えており感覚がほとんどない。

右手はまだ、あるが後1発撃てればいい方だ。

時間稼ぎはしてやったぜ。キンジ、アリア後はお前らがやれ

押しつけるようになっちまうがな。

 

「決着をつけようぜ4世ぃ」

 

「その名前で呼ぶな! 私は理子だ!」

 

俺は理子を睨みなながら発砲。

互いの銃弾が激突したその瞬間、激しい光が当たりを包んだ。

 

「なっ!」

 

理子の声が聞こえる。

こいつは武偵弾の1種閃光弾だ。

一流の武偵しか持てず特注のため、1発100万はするとてつもない弾丸。

俺はそれを躊躇なく使い。

理子に気付かれないため目を閉じなかった俺も視力が飛ぶ。

一時的な失明だ。

理子も一時的失明したはずだがこの腕でとどめは難しい。

背後のドアに入り閉めて歩き回り記憶した廊下を走り感覚でアリアの部屋の前まで来る。

まだ、目は何も写してはいない。

ここにアリア達がいる保証はないがキンジならここに逃げ込むだろうと言う確信があった。

俺は扉をあけると転げこむようにその中に飛び込むのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21弾 3人で

「「優!」」

 

部屋に足をもつれさせるように入った俺はアリアのアニメ声とキンジの声を聞いた。

 

「怪我したの! 理子は?」

 

ああ、アリア無事だったんだな。

 

「怪我はしてねえよ。武偵弾の閃光で一時的に失明してる」

 

「武偵弾って・・・そんなものよく持ってたな優」

 

キンジが驚いたように言ってくる。

 

「あんた大丈夫なの? 理子と戦ったんでしょ?」

 

「倒す気だったんだが手がもう、限界だ。 キンジ、ガバメント使ってくれ」

 

「ああ、後は俺とアリアに任せろ」

 

その言葉を聞いて違和感を覚える。

ああ、なったんだなヒステリアモードに

 

「ヒステリアモードになったなキンジ? 何したんだよ、アリアにキスでもしたか?」

 

「き、キキキ・・・キンジ・・・責任・・・」

 

ん?アリアの反応まさか・・・

 

「どんな責任でも取ってあげるさ」

 

「おいおい、まさか本当に・・・」

 

「悪かったな優。 お前はゆっくりしててくれ」

 

「そうはいかねえよ。作戦を話せ。俺も協力してやる」

 

「分かった。 3人で協力して武偵殺しを逮捕しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バッドエンドのお時間ですよー。 くふふっ。 くふふふふふ」

 

理子はどこからか用意した鍵でアリアの部屋に入ってきた。

髪でナイフを握り、両手にワルサ―を持ってベッドの隣に立つ俺を見てくる。

 

「よくできましたユーユー。 びっくりしちゃった。 武偵弾はさすがに予想できなかったよ。 でも、残念だねぇ。 あれが閃光じゃないタイプの武偵弾なら勝ったかもしれないのに」

 

「武偵憲章9条破ったら意味ないだろ?」

 

「あはっ、まだ、持ってるんだ武偵弾?」

 

「さあな? 俺は嘘つきだからな」

 

「くふっ、アリアとキー君は・・・ああ、ユーユーの部屋? ユーユーがおとりになり、背後から強襲ってシナリオだね? アハハ、理子にばれてる時点でバットエンドだねぇ」

 

「それは俺を死体にするか瀕死の俺にでも言ってくれ。 まだ、死ぬ気はないからな」

 

「くふ、そんな腕で言うのぉ?」

 

「それとも怖いのか4世?」

 

「・・・」

 

理子の目が細まった。

ワルサ―の引き金に力が入った瞬間、俺はワイヤーを引き戻した。

そのワイヤーの先に巻きつけておいた酸素ボンベが勢いよく理子に飛んでいく。

撃てば爆発する。

そう思わせて、ワイ―ヤ―で接近してけりを叩き込んで決める。

俺がワイヤーを発射しようと左腕を理子に向けた瞬間飛行機が突然大きく傾いた。

大きく体制を狂わせた俺にワルサ―が2発俺の額に向けられ発砲。

俺は右手のワイヤーの発射用の部分でそれを弾いた。

再びワイヤーを理子に向けた。

直接当たる距離だ。

 

「動くな!」

 

「アリアを撃つよ!」

 

俺の方が早いと判断した理子がシャワールームにワルサ―を向ける。

ガタン

天井の荷物入れに潜んでいたアリアが転げ出てきながら

ガンガン!

黒銀のガバメントで理子のワルサ―を両手から落とした。

その瞬間、キンジが理子の背後から襲いかかった。

すさまじい速度でバタフライナイフを一閃。

アリアの日本刀と同時で2人の斬撃は理子のツインテールをナイフごと切り落とした。

 

「うっ!」

 

理子は両手で切られた部分を抑え焦った声を出した。

キンジとアリアはガバメントを理子に向けて言い放つ。

「峰・理子・リュパン4世」「殺人未遂の現行犯で」「逮捕だ」

 

「そっかぁ、ベッドにいると思わせてシャワールームにいると見せかけてどっちも武ラフ、本当はアリアのちっこい体を活かして、キャビネットの中に隠してたのか。 すごーい、ダブルブラフってよっぽど息が合ってないとできないんだよ。 3人とも誇りに思っていいよ。 理子、ここまで追い詰められたのは初めて」

 

「追い詰めるも何ももう、チェックメイトよ」

 

「ぶわぁーか」

 

なんだ? 髪が動いてる?

まさかこいつ!

俺が飛びかかろうとした瞬間、飛行機がぐらりと傾いた。

俺が転び、アリアも壁にぶつかり、キンジも立っているのが精いっぱいと言ったところ、

理子はスイートルームから飛び出す。

 

「逃がすかよ!」

 

俺は出口に向かいワイヤーを発射し、巻き戻すと傾いている廊下を走る理子の姿を発見する。

ワイヤーを発射し、壁にめり込ませて巻き戻し加速。

理子が振り返る。

甘かったな理子、多少の悪地でもワイヤーを使えば動けるんだよ。

理子の口がにやりと歪んだ。

 

「くふっ、本当に予想外だったよユーユー。 今回は理子逃げるね。 またね」

 

ぱちりとウインクした瞬間、理子の背後が爆発した。

おい!まさか!

事前に準備していたのか、円にくりぬかれた穴から理子が落ちて行く。

突然の出来事に俺も機外に放り出される。

やばいやばい!

急行下で高度が下がっているとはいえ、このままでは死ぬ。

まだ、死ぬわけにはいかない。

だから

 

「くそったれが!」

 

ワイヤーを穴に向け発射、みるみる遠ざかる穴、それはわずかに届かない。

 

「!?」

 

絶望が俺を襲った瞬間、俺の体がぐんと宙に固定される。

誰かがワイヤーを掴んでくれたのか?

 

「間に合えぇ!」

 

暴風の中、ワイヤーを引き戻して機内に戻った瞬間、背後の穴は消火剤とシリコンのシートでふさがった。

ああ、死ぬかと思った。

 

「無事か優?」

 

「そうか、キンジお前に助けてもらったんだな。 ありがとう」

 

「立てるか?」

 

「ああ」

 

俺はキンジの手を借りて立つと窓の外を見た。

パラグライダーが見える。

理子はあれで脱出したらしいな。

って嘘だろおい!

 

眼下に見えたのはあれはミサイルだ。

 

ズドオオン

ズドオオン

 

2発の轟音と共に機が激しく揺れる。

窓の外を見ると内側のエンジンが2機やられていた。

持ちこたえたが急降下している。

 

「キンジ操縦席に行くぞ!」

 

俺が走り出すと同時にキンジも続く。

 

「今、アリアが行ってる」

 

「あいつ操縦できるのか?」

 

「分からないが優は経験あるか?」

 

「あるわけないだろ! せいぜいゲームのシュミレーションぐらいだ」

 

俺達は言いながら操縦室に飛び込むのだった。

ああ、絶対今日は人生最悪の日だ!そうだろ神様

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22弾 武偵は諦めるな!決して諦めるな

機長と副操縦士は麻酔弾を撃たれたらしく昏倒していた。

 

「遅い!」

 

犬歯をむき出しにして言ったアリアは操縦席に座る。

 

「アリア―飛行機操縦できるのか?」

 

「セスナならね。 ジェット機なんて飛ばしたこともない」

 

アリアがぐっと操縦悍を引くと機体が水平に保たれる。

窓の外を見ると海面からそう遠くない。

あぶねえ

高度は300というところか

 

キンジが無線機を探し当てて羽田に連絡を取ると管制塔から問いがあり、この機の状態をト伝えた。

俺は、その間に機長から拝借した衛星電話を操作する。こいつは、どんな速度でとんでいようが電話回線につながるすぐれものだ。

スピーカ―モードにする

 

「誰に連絡してるの?」

 

アリアの問いに向こうが答えてくれる。

 

「もしもし?」

 

「よう、武藤俺だよ優だ」

 

「ゆ、優! お前ハイジャックされた飛行機にいるんじゃ! お前とキンジの彼女が大変だぞ」

 

「彼女じゃねえよ。 キンジとアリアなら隣にいるぜ」

 

「ちょっ・・・お前ら何やってんだよ」

 

「か、かの・・・かの・・・」

 

自分が彼女扱いされてることにアリアはぼぼぼぼとまた、赤面癖を発揮した。

キンジが渡せと手を出してきたので俺が渡す。

 

「武藤、よくハイジャックのこと知ってたな。 報道されてるのか?」

 

「とっくに大ニュースだぜ。 客の誰かが機内電話で通報でもしたんだろ? 乗客名簿はすぐにコネクトが周知してな。 アリアと優の名前があったんで今、教室に集まってたところだ」

 

キンジはエンジン2基が破壊されたことや犯人が逃亡したことを伝える。

 

「安心しろ武偵遠山 その飛行機は最新技術の結晶だ。 エンジン2基でも飛べるし悪天候でもその状況は変わらない」

 

羽田コントロールの声にアリアはほっとした顔になる。

 

「それより、キンジ、破壊されたのは内側の2基っていったな。 燃料計の数字を教えろ」

 

「数字は今540だ。 535になった」

 

「くそったれ! 盛大に漏れてるぞ」

 

「ね、燃料漏れ! 止める方法を教えなさいよ」

 

「方法はない。 わかりやすく言うと機体側のエンジンは燃料系の門も兼ねてるんだ。そこを破壊されるとどこを止めても露出は避けられない」

 

「あ、あとどれくらいもつの?」

 

「残量はともかく露出の速度が速い。 いいたかないが後15分といったとこだ」

 

「さすがは最先端技術の結晶だな」

 

ぐちりたくもなるよなキンジ。

残された手はすくないか・・・

 

「キンジ、さっきコネクトに聞いたがその飛行機は相良湾上空をうろうろ飛んでたらしい。 今は浦賀水道上空だ。 羽田に引き返せ、距離的にはそこしかない」

 

「元からそのつもりよ」

 

アリアが武藤に返す

 

「操縦はどうしてる! 自動操縦は決して切らないようにしろ」

 

「自動操縦なんてとっくに破壊されてるわ! 今はあたしが操縦してる」

 

くそ、理子め! 自動操縦まで破壊することないだろ!まずいぞこの状況は

 

「というわけで着陸の方法を教えてもらいたいんだが・・・」

 

「すぐに素人ができるようなものではないのだが・・・現在近接する航空機との緊急通信を準備している。 同型機のキャリアが長い機長を探して・・・」

 

「時間がない近接する航空機との全ての通信を開いてほしい。 できるか?」

 

「い、いやそれは可能だがどうするつもりだ?」

 

「彼らに着陸の方法を1度に言わせるんだ。 武藤も手伝ってくれ」

 

「一度にってキンジ聖徳太子じゃないんだから」

 

「できるんだよ。 今の俺には! いいからやってくれ」

 

アリアが驚きの様子でキンジを見ているのが分かる。

ああ、キンジお前はやっぱりすげえよ。

お前は武偵になるべくして生まれてきたんだからな

やめるなんていうなよ。

 

一気にしゃべる機長達の言葉は俺はわずかに拾っただけだがキンジは理解したらしかった。

こいつなら羽田に着陸は可能だろう。

ああ、疲れた。

 

俺がそう思った瞬間

 

「こちらは防衛省。 航空管理局だ」

 

な、何!防衛省だと!

 

「羽田空港の使用は許可しない。 空港は現在自衛隊により閉鎖中だ」

 

「何いってんだ!」

 

叫んだのは武藤だ。

 

「誰だ?」

 

「俺は武藤剛気! 武偵だ! 600便は燃料切れを起こしてる! 飛べてあと10分なんだよ! ダイバードなんてどこにもねえ!羽田しかねえんだよ」

 

「武偵武藤。私に行っても無駄だぞ。 これは防衛大臣の決定なのだ」

 

嫌な予感がして横を見ると俺は絶句した。

F15イーグル。

F22を除けば最強クラスの戦闘機が横を飛んでいる。

 

「おい、防衛省。 あんたのお友達が横を飛んでるんだが・・・」

 

「それは誘導機だ。 誘導に従い千葉にむかえ。 安全な着陸場所を指定する」

 

キンジが通信を切る。

 

「海に出るなアリア、あいつらは嘘をついている。海に出たら撃墜するつもりだ」

 

 

 

「向こうがその気ならこちらも人質を取る。アリア、地上の上を飛ぶんだ」

 

だが防衛省を排除しないと危険は付きまとう。

嫌だが頼るしかなさそうだな・・・

 

「キンジちょっと電話するぞ」

 

「優?」

 

俺は副操縦士の衛星電話を使い電話する。

コールは3

 

「はい、椎名でございます」

 

懐かしい声を聞き俺は口を開いた。

 

「俺だ。 椎名 優希だ」

 

「ぼ、ぼっちゃま!?」

 

電話の向こうから驚愕したような声が帰ってくる。

スピーカーモードなのでアリアとキンジもこちらの声を聞いている。

 

「時間がない。 かあ・・・志野さんはいるか?」

 

「当主様は今、部屋にいらっしゃいます。 しかし、ぼっちゃまとは・・・」

 

「代われ! 時間がない! 東京のハイジャックの飛行機に俺がいると伝えろ!」

 

「え? は、はい!」

 

時間にして30秒。

もう、2度と会いたくないと思っていた声が聞こえてくる。

 

「何の用です?」

 

「お久しぶりです。 志野さん。 時間がないので手短にいます。 羽田の自衛隊と隣接するイーグルの退去をお願いします」

 

アリアとキンジが目を見開くのが見えた。

電話の相手はそれほどの権力者なのか・・・

 

「椎名面汚しが・・・」

 

吐き捨てるような声が電話のむこうから響いた。

 

「俺が死ぬとあなたたちには不都合でしょう? 大丈夫。 東京に突っ込むなんてことにはなりませんよ」

 

「イーグルの退去はすぐに可能ですが自衛隊の退去は20分ほどかかります」

 

その数字に俺は絶句する。

間に合わない。

 

「この飛行機は後、10分しか飛べないんだ!5分でなんとしてほしい」

 

「不可能を可能とは言えません。 努力はしましょう」

 

電話が切れる。

ちくしょう。

俺は衛星電話を叩きつけて隣をみた瞬間、F15が遠ざかっていくのが見えた。

 

「あんた何者なのよ? 自衛隊を下がらせるなんて・・・」

 

「そんなことは今はいい。 羽田は駄目だ。 キンジ何か案はあるか? 武藤、なんとか20分以上飛ばせる方法はないのか?」

 

「ない、10分しか飛べねえよ」

 

「武藤、滑走路にはどれくらいの距離が必要だ?」

 

「まあ、2450メートルだな」

 

「そこの風速は分かるか?」

 

「風速? レキ学園島の風速は?」

 

「私の体感では南南東の風風速41.02」

 

レキいたのかよ

 

「じゃあ、武藤、風速41メートルに向かい着陸すると滑走距離は何キロになる?」

 

「まあ、2050ってとこだ」

 

「ぎりぎりだな」

 

「おい、キンジまさか・・・」

 

「違うよ優。 浮島だ」

 

「できるのかキンジ?」

 

俺が聞くとキンジは頷いた。

 

「できるさ優の好きな武偵憲章の通りさ」

 

「へっ、武偵憲章第10条、諦めるな!武偵は決して諦めるな!だな」

 

そうだ。

俺は死ぬわけにはいかない。

アリアもだ。

俺達は諦めるつもりはないんだ。

 

「あんたちなんかと心中なんてお断りよ」

 

アリアはべーっと舌をしだしてくる。

 

「待て、キンジ空き地島は雨でぬれてる! 2050じゃ着陸できねえぞ」

 

「そこはなんとかする」

 

「か、勝手にしやがれ! しくじったら引いてやるからな」

 

叫ぶと武藤は切れたのか教室のみんなにわーわー叫ぶと電話を切ってしまった。

 

俺は死なない。だから、キンジ、アリア、お前たちに俺の未来を預けるぜ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23弾風穴あけるわよ

あと、3分

短い滑走路を着陸するためには減速しなくてはならないこともあり600便はいらただしいほど悠々と東京ドームを飛び越え東京駅、銀座と渡っていく。

ここまできたら俺ができることはほとんどない。

 

「アリアこの機は東京タワーより高く飛んでいる。 くれぐれもぶつけないでくれよ」

 

「馬鹿にしないで!」

 

車輪を出すとアリアはキンジに操縦を明け渡した。

頼むぜ。キンジヒステリアモードのお前ならできるさ

だが、次の瞬間俺はキンジが冷や汗をかいているを見る。

ヒステリアモードだろ?

やはり、お前でも見えないか?

そう、着陸すべき場所は闇に包まれている。

浮島なんてまるで見えていないのだ。

 

「キンジ大丈夫あんたならできる。 できなきゃいけないのよ! 武偵をやめたいなら武偵のまま、死んだら負けよ。 あたしだって、まだママを助けてない」

 

そうだな。

まだ、俺も死ねないんだキンジ

 

「俺もまだ、やることがある。 絶対にやると決めたことがな。 だから、俺達は死ねない」

 

「そうよ! こんな所で死ぬわけがないわ」

 

その時、ベイブリッジの手前にある空き地島に光が見え始めた。

 

「キンジ見えてるか馬鹿野郎!」

 

「武藤!?」

 

「お前が死ぬとしらゆ・・・いや、泣く人がいるからよぉ! 俺ロジで一番でかいモーターボートぱくっちまったんだぞ! アムドのマグライトも! みんなで無許可で持ち出してきたんだ! 後で全員分の反省文をお前らで書け!」

 

その会話に続けて通信に次々と割り込みがあった。

 

「キンジ!」 「優!」 「機体が見えてるぞ!」「後少しだ!」

 

この声・・・どこかで・・・いや、だがありがたい。

誘導灯を作ってくれたことに感謝しながら俺は2つの武偵憲章を思い出す。

 

仲間を信じ仲間を助けよ

 

諦めるな! 武偵は最後まで諦めるな

 

この2つを最後まで押し通せたからできた奇跡なんだこれは

後は生き残るだけだ

 

600便は強行着陸を断行した。

衝撃が機体を襲い、メガフロートを滑っていく。

 

「止まれ止まれ! 止まれ!」

 

アリアのアニメ声に合わせるように俺も心の中で止まれと連呼を続ける。

キンジの操作を受けて機体がカーブする。

そこにきて俺はようやくキンジの思惑を知った。

たく、かなわねえな。

目前に迫った風力発電の風車に機体が突っ込んだ。

ドオオン

とすさまじい衝撃に上下に俺達は揺られ俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

いてて

がんがんする頭をなでながら俺は自分が狭い所にいることに気付いた。

前にいするがあるから操縦席・・・ってええええ!

なんと、俺の前にあったのはトランプ柄の・・・

っと思った瞬間、スカートにその部分は隠される。

あ、やばいでれない。

てか、今のってアリアの・・・あれだよな。

幸い気絶してるみたいだが・・・

ああ、もういいわ。 今回の護衛はこれでおしまい。

じゃあな

張りつめていたものが消え俺は再び意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイジャック事件も終わった後日、全治1週間延長と救護科にどなり散らされ俺は解放された。

 

「あんた知ってただろ理子が武偵殺しだってこと」

 

「そこまで私は万能ではないよ。 全ては推理に基づき君に行動を促したに過ぎない」

 

俺は男子寮の屋上で例の依頼主様と電話をしていたのである。

護衛の報告を兼ねて

 

「武偵弾は助かったけどな。 敵うなら理子がアリアを狙う中で一番強い相手で会ってほしいけどどうなんだ?」

 

「世の中には君が本気で戦わないと決して勝てない相手はいるとだけいっておこうか」

 

「つまり、理子以上の奴がこれからアリアの前に立ちふさがるってか?」

 

「彼女が相手にするイ ウ―の全貌は私も掴めてはいない。 だが、武偵殺し以上の実力者がいても不思議はない」

 

「まじかよ・・・」

 

つまり、これから俺はもっと強い相手と命がけで多々敵わないといけないわけだ。

 

「ありがとう。 椎名 優希、君の護衛はこれで終わりだ」

 

「ああ、これからも・・・って は? 終わり?」

 

「アリアはイギリスに帰る。 だが、君には選択の余地がある。 アリア護衛を続けたいなら・・・」

 

 

 

 

 

 

 

電話を切った俺は屋上から飛び降りていた。

ワイヤーを使い巻き戻しと発射を続けながらいつの間にか来ていた携帯のメールを開いた。

 

『題名 ありがとう

 

  本当は直接あって言いたかったんだけどあんた・・・ううん、優の電話通じなかったからメールする。 あたしね・・・イギリスに帰ることにしたの。

パートナーを探しにね。 本当は優やキンジならよかったんだけど・・・優、あなたと理子の戦い見ていた乗客がいたの知ってる? あたしを一度は倒した理子相手に互角以上の戦いをした優がいなければあたしやキンジは死んでたかもしれない。

ありがとう。

もし、パートナーになってくれる気があるなら・・・

また、会いに来て。

その時は、もう奴隷なんて呼ばない。

だから・・・』

 

 

 

 

 

アリア・・・アリア

 

「女子寮の屋上だ。 そこからアリアはイギリスに帰る」

 

依頼主の情報が頭に反映する。

UFOキャッチャーをむきになって遊んでいたアリア

かなえさんを助けられなくて子供のように泣いていたアリア

俺達を奴隷といいながらも楽しそうに笑っていたアリア

 

その少女が血だまりに倒れた光景が頭に浮かぶ

 

「君が本気を出せないならアリアは死ぬ」

 

依頼主さんよ。

分かったよ。

俺はアリアのそばにいる。

パートナーなのかチームメイトなのかはわからない。

第2グランドに着地した俺は駆けだす。

空を見上げるとヘリが着陸してくる所だった。

そして、俺の前には走る少年の姿があった。

俺はその横に並び驚いた顔をするキンジと同時に頷くと空に向かい叫んだ。

 

「「アリアぁあああああ!」」

 

変化はない。

走りながら行くなと2人で思いながら大声で叫ぶ

 

「アリアぁ!」

 

屋上に誰かが立っている。

そのツインテールの少女は俺達を見下ろしながら

 

「優! キンジ! 遅い!」

 

あの時と同じように屋上から飛び降りた。

ワイヤーで降下してくるがその動きが寮の半分ぐらいで止まった。

 

「あ、あれ?」

 

動作不良を起こしたのかそれ以上動かない。

屋上におそらくイギリスの武偵局の人間が見える。

一瞬、やり合うかと思うが相手は部外者だ。

アリアのワイヤーに手をかけて引っ張ろうとている。

 

「キンジ! アリア受け止めろ!」

 

「お、おい優!」

 

俺はアリアの上に向かいワイヤーを発射したがガガガと手に衝撃が走りワイヤーが失速しアリアの下に突き刺さってしまう。

げっ!動作不良かよ! 理子の時、無茶に使ったからなぁ。

イギリスの武偵局の人間がアリアのワイヤーを引き上げ始めた。

アリアは小太刀でワイヤーを切断しようとしているがイギリスの人間はワイヤーを巧みにゆらしてそれを妨害する。

アリアの下の壁に張り付いた俺は

 

「アリア! 動くな!」

 

ドドドン

 

三連射でアリアのワイヤーを切断する。

 

「キャッ!」

 

かわいらしい悲鳴をあげて落ちてくるアリア

 

空から女の子が落ちてくると思うか?

少なくても俺は2回経験したな。

ドンと俺の腕に落ちてきたアリア、同時に俺のワイヤーが壁から外れてしまう。

ちなみにここは3階の高さだ。

ハハハ、落ちたらやばいよな。

 

「優! アリア!」

 

衝撃と共に下からぐえっという蛙がつぶれたような声が聞こえた瞬間俺も、腹に圧迫を感じてぐえっと言ってしまう。

 

「っ・・・」

 

「いたたた・・・」

 

「ば、馬鹿キンジ! 馬鹿優!」

 

アリアが犬歯をむき出しにして怒るが同時に俺は心の底から笑みがこみあげてきた。

 

「くく、フフフ、アハハハハ!」

 

また、救護科に怒鳴りつけられるであろう手を見ながら俺は笑った。

 

「な、何笑ってるのよ。馬鹿優!」

 

「いや、アリアお前といると飽きないな。 なってやるよ。 俺とキンジのセットでパートナー兼チームメイトだ」

 

「お、おい優!」

 

「そのつもりで来たんだろ? 今更隠すなよキンジ」

 

図星なのかキンジは黙ってしまう。

 

「キンジ、あなたには何かをスイッチにして高まるスイッチがある。 それがなにかはあたしにはわからない。 あんたも制御できていない」

 

「・・・」

 

「でもね、今思いついたのなら、制御できるように調教してやればいいんじゃない。 簡単なことじゃない」

 

「ちょ、調教!?」

 

「アハハハ! ご愁傷様だキンジ」

 

「あんたもよ優」

 

「へっ? 俺? 俺にキンジ見たいなスーパーモードなんか・・・」

 

「メール見たでしょ? 乗客があんたの感じがいきなり変わったって言ってるのよ」

 

げっ! そこまで見てたのかよ!

あれは暗示なんだが実は極度に空間認識能力を要求される多数のワイヤー戦術は極限まで集中力が高まっていないと使いこなせない。

 

「つまり、2人とも常時そのスーパーモードを出せるように調教が必要なのよ」

 

「ちょっ!それは物理的に・・・は可能かもしれんが倫理的には無理だ!」

 

「俺も勘弁してくれアリア!」

 

「男が二言するんじゃないわよ!」

 

「「してねえよ!」」

 

「うるさいうるさーい! あんた達をあたしのパートナーにして曾おじいさんみたいな立派な『H』になるの! そう決めたんだから」

 

「だからなんなんだそのHは!」

 

「まだ、分かってなかったの! ギネス級の馬鹿!馬鹿の金メダル!」

 

なんだよ馬鹿の金メダルって!

 

「もう、あんた達で決定したんだから教えてあげるわよ! あたしの名前は―」

 

アリアは犬歯を向くとぐいっとない胸を張りながら

 

「神崎・ホームズ・アリア」

 

「ほ、ホームズ!」

 

「そう、あたしはシャーロック・ホームズ4世よ! で、あんた達はあたしのパートナーワトソンの位置づけに決定したの! もう、逃がさないからね! 逃げようとしたら!」

 

依頼主さんよ。 この子やっぱり面白い子だよ。

 

「風穴あけるわよ!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24弾 ヤンデレ強襲

深々とその金属は肉を貫いて彼女の意識を奪っていく。

目を見開く少年は泣き叫びながらその相手の名前を呼び続ける。

相手は口元に微笑みを作り俺の頭をなでて力なく崩れ落ちた。

そして、相手の背後には炎の中たたずむ紅の瞳を持つ銀の髪をした魔女がいた。

妖艶な笑みを浮かべながら女は笑う。

 

「おいしそうですわ。 でも、今は食べ頃じゃありませんの。 いつか、会いにいきますわ。優希」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイジャック事件から5日後、救護科にOKの診察を受けてから俺はクエストを受けて学園島の外、東京の街中に来ていた。

どこぞの金持ちの坊ちゃまの護衛任務だったのだが特に何かおこるわけもなく。

終わってしまった。

アリアやキンジを誘いたいところだったが募集はアサルト1名だったのでやむおえず来たのだが・・・

 

「さて、これからどうするかな?」

 

腕時計を見ると午後6時、空も暗くなりつつあるこの時間、珍しいのかどうか知らんが武偵高の制服に身を包む俺をちらちらとみてくる人を適当に無視しながら歩き出す。

晩御飯どうしようかな?

うーん、さっさと帰ってコンビニ弁当ですますか?

よし、そうしよう。

アリアもいるだろうしな。

実は、アリアはあのハイジャック事件の後、キンジの部屋に戻ってきてしまっている。

俺とキンジの切り替えモードの鍵を探るのが目的らしいが・・・

ああ、いいたくねえ

切り札は隠すからこそ意味があるんだからな。

同居は勘弁してくれと言うキンジに理子を捕まえてないから武偵殺しの件は解決してないと言われてしまいキンジはしぶしぶ納得したのだ。

 

「や、やめてください!」

 

ん?

そんな声が聞こえた俺は路地の裏の方から聞こきえた方を見る。

断片的だが男の集団と女の声が聞こえてくる。

なんだよ

一瞬、無視するという選択肢がよぎるがこういう時、俺は動かずにはいられない。

路地に入ると予想通り3人の柄の悪そうな男たちが女の子を囲んでいた。

 

「おい、お前らやめろよ」

 

「ああ? なんだてめえは?」

 

鼻にピアスを開けてサングラスをつけモヒカンというあり得ない格好の男が俺に酒臭い息を吹きかけてくる。

くせえな

 

「その子、嫌がってんだろ? やめてやれよ」

 

「ハハハ、勇敢な子でちゅね。 でも、正義の味方ごっこなんかしたら死んじゃいまちゅよ」

 

馬鹿にしたようにUSAと帽子をつけた髭の男が俺に向かいいきなり、メリケンをつけて殴りかかってきた。

理子のナイフの一撃と比べりゃ止まって見えるな。

最低限の動きでそれをかわすと俺は男の後ろに回り込むとワイヤーで男の首を軽く絞めた。

 

「ひっ!」

 

男が小さな悲鳴を上げる。

 

「の、ノリちゃん!」

 

モヒカンの男が仲間を助けようと動こうとする。

 

「お前らが動くよりこいつの首を千切れ飛ばすほうが早いぜ?」

 

「や、やめ・・・」

 

ノリちゃんという男が仲間を止める。

そうそう、いい子だ。

ぎりぎりと力を強め、首を絞めながら

 

「なあ? 帰ってくれないか? お前らが束になっても武偵高のアサルトの人間には勝てねえよ」

 

「こ、こいつ武偵か?」

 

今更気付いたらしくモヒカンが悲鳴を上げる。

 

「なあ?まだ、やるか?」

 

戦闘狂の笑みを浮かべる。

あの暗示はかけてないが顔だけなら演技は可能だ。

この手合いは圧倒的な戦闘力を見せつければ逃げるからな。

ぎりぎりと力を込めるとノリちゃんはこくこくと頷いてきたので解放してやる。

 

「げほげほ! ちくしょう覚えてろ!」

 

慌てて逃げて行ってしまう3人

おお、王道なセリフだな

さてと

俺は、女の子の方を見た瞬間、その子はいきなり俺に頭を下げてきた。

 

「あ、ありがとうございます!助けていただいて!」

 

「い、いや気にするな」

 

どもったのはこの子めっちゃ美人なんだよ。

大きな黒い瞳に栗色の髪は肩までのツインテール。

理子やアリアと違い、子リスを想像させる容姿だった。

 

「じゃあな。 後は一人で帰れるだろ?」

 

時計を見ながら立ち去ろうとすると

 

「あ、あの名前!」

 

「ん?」

 

「名前を教えていただけませんか?」

 

名前ぐらい構わんかな?

 

「武偵高アサルト2年、椎名 優希だ」

 

それだけいうとさっさとその場を後にする。

美少女との出会いは嬉しいんだがさっさと帰らないとアリアに逃げただのと言われるからな。

 

 

 

 

 

繁華街の喧騒の中、栗色の髪の少女は彼の後姿を見ながら

 

「椎名・・・優希・・・先輩・・・た」

 

小さくつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオオンバリバリバリ

な、なんだ!

ようやく、学園島に戻り、ものすごい音が聞こえたのでキンジの部屋に飛び込むと俺の目の前を45ACP弾が通り過ぎて行った。

 

「うお!」

 

慌てて、外に飛び出すと中から

 

「この泥棒猫!」

 

「なんなんなのよ!」

 

と、アリアのアニメ声と・・・

 

「し、白雪だと!」

 

あのキンジ大好き好き好き好き大好き!のヤンデレさんということは・・・

キンジとアリア同居→キンジをアリアに取られた→許すまじアリア抹殺!キンちゃんだまされないで!

分かりやすい。

なんてわかりやすい構図なんだ。

というかこれを止められるキンジは・・・

ああ、防弾物置に退避しやがったな。

一瞬、依頼人との護衛の話を思い出すがまあ、こいつは別に大丈夫だろう。

 

「うう! この泥棒猫! キンちゃん様から離れろ!」

 

「この!風穴あけてやる!」

 

ホームズVSバーサーカー白雪ね・・・止められるわけないだろ・・・

部屋の中は戦争のような銃撃戦と暴れる音が聞こえるし

命がいくらあっても足りねえよ。

俺はため息をついて戦いが終わるまで廊下で携帯をいじる。

ま、そのうち終わるだろ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25弾 優希絶対絶命!対ヤンデレの危機

ん?静かになったな。

戦争映画のような音が止んだので部屋に入ると壁のいたるところに弾痕や刀傷ができている。

っておおい!俺のPSPが真っ二つになってるぞ!

で、原因の2人は髪の毛はばさばさ服は乱れに乱れ汗やほこりにまみれて東西の美少女が台無しと言う格好で力尽きていた。

予想通りベランダからキンジが出てきたので

 

「ただいまキンジ」

 

「おう」

 

2人で挨拶してから

 

「はぁはぁ・・・なんて・・・しぶとい泥棒猫」

 

白雪は日本刀を杖のようにしてなんとか立っている。

ああ、床が刀の傷が・・・まあ、俺の部屋じゃないがな。

悲しかな。

武偵高の寮ではこんな傷珍しくない。

まあ、アサルトほどじゃないんだが・・・

 

「あ、あんたこそ・・・とっととくたばりなさいよ・・・はっ・・ふうう」

 

アリアは尻を床につけ両手を床につけて体を支えている。

つまり、引き分けだな。

 

「―キンちゃん様!」

 

キンジがでてきたことに今気付いたらしい白雪が刀を横においてよろよろとその場に正座しなおした。

俺のことは気付いていないのか無視してるのか背を向けている。

悲しい。

両手で顔を覆いながら

 

「し、死んでお詫びします! き、キンちゃん様が私を捨てるならアリアを殺して、わ、私もここで切腹してお詫びします」

 

いやいや、待て白雪!アリア殺すなら俺が戦わないといけないだろ!嫌だぞ俺は!ヤンデレと戦うのは! 負けたらキンジはヨットで首だけか?

 

「あ、あのなー捨てるとか何言ってんだ?」

 

そこで白雪の気持ちに気付かないお前はどうなんだ!

 

「だ、だってハムスターもオスとメスを同じかごに入れておくと自然に増えちゃうんだよぉ!」

 

「意味がわからん上に飛躍しすぎだ!」

 

白雪が泣き顔を上げる。

 

「アリアはキンちゃんのこと遊びのつもりだよ! 絶対にそうだよぉ!」

 

「ぐえ!ぐえぅ!首を掴むな!」

 

しかたねえ助け船をだしてやるか

 

「なあ、白雪」

 

「え? 優君?」

 

その声で初めて俺に気付いたらしい白雪が俺を見てくる。

うう、なんか悲しくなる

 

「アリアとキンジが同棲してるって思ってるんだろ? 大丈夫だ俺もここに住んでるがそんなことはないから!」

 

「本当? 優君?」

 

嘘だったら殺すからねという目はやめてください・・・お願いだから

 

「あ、ああ本当だ! なあキンジ!」

 

「なんなのよあんた」

 

「キ、キンちゃんと恋仲になったからっていい気になるなこの毒婦!」

 

ああああああ!アリアの馬鹿野郎! せっかく白雪が落ち着きかけたのに逆戻りじゃねえか!

 

白雪はキンジを床に放り投げると袖に仕込んでいた鎖鎌をアリアに投げつけた。

おお! 俺のワイヤーに似てる隠し武器だな。

 

「こ、恋仲!」

 

アリアは漆黒のガバメントでそれを受けながら

鎖の引き合いになる。

 

「ば、馬鹿いうんじゃないわよ! あ、あたしは恋愛なんかどうでもいい!」

 

ラブ関連が大の苦手のアリアがぶあああと顔を真っ赤にしながら

 

「れ、恋愛なんか・・・あ、あんなの時間の無駄! したこともないしするつもりもない! あ、あこがれたこともないんだから! 憧れたこともない! 憧れたりしない!」

 

「じゃあ、アリアはキンちゃんのなんなの! 恋人じゃないの!」

 

「そういう関係じゃないィ!」

 

声を裏返させるアリア

 

「キンジと優はあたしの奴隷! 奴隷にすぎないわ!」

 

なんで俺も含まれるんだ!

てかアリア!お前俺たちのことを奴隷なんて言わないと言っただろ!あれはどうなった!

 

「ドっ、ドっ、奴隷!?」

 

白雪はあんぐり口を開けたと思うと顔を真っ赤にする。

 

「そ、そんな行けないあそびまでキンちゃんにさせるなんて」

 

もはや俺のことは無視だな・・・泣いていい?

 

「な、何馬鹿なこと言ってるのよ!違うわよ! 優も何か言いなさいよ!」

 

俺か!

 

「し、しら・・・」

 

 

「違わない! 私だってその逆なら考えことあるもん!」

 

俺の存在無視ですか・・・

 

「違う違うちがーう! キンジ!」

 

俺が床に突っ伏して無視しないでと泣いているとアリアはキンジを睨みつけている。

 

「このおかしな女がわいたのは100%あんたの責任よ! 何とかしなさい! そうしないと後悔させてやるんだから!」

 

「えーとだな・・・おい!白雪」

 

「はいっ!」

 

呼ばれた白雪はばっと鎖鎌をはずしてキンジに正座し直す

 

反動でアリアがひっくり返ったがまあいい

 

「よく聞け。アリアと俺は武偵同士一時的にパーティーを組んでいるにすぎないんだ。優も含めて3人でな」

 

「・・・そうなの?」

 

「・・・そうだぞ白雪。 お前、俺のあだ名知ってるだろ? 言ってみろ」

 

「・・・女嫌い」

 

「だろ?」

 

「あと、昼行灯」

 

「それは今、関係ない」

 

「は、はい」

 

「というわけでお前のよくわからない怒りは誤解であり無意味なんだ。 大体俺がこんな小学生みたいなチビと」「風穴」「そんな仲になったりするわけないだろ?」

 

ハハ、キンジアリアを無視しやがった。

 

「で、でもキンちゃん」

 

「ん?」

 

あれ? 白雪がキンジに口応えなんて珍しい

 

「なんだ?」

 

「それ」

 

白雪の手がキンジの携帯のストラップのレオポンを指してからアリアのポケットからやあと突き出しているレオポンを指さして

 

「ペアルックしてるぅううう!」

 

涙を流す白雪

ペアルック?

ああ、あれか! カップルが同じものを持つ・・・

 

「ペ、ペアルックは好きな人同士ですることだもん! 私、私何度も夢見てたのにぃ!」

 

「待て!白雪さん! 俺もだ!ほらほら!」

 

慌てて誤解を解こうと俺もレオポンを見せるのだが

 

「だーからぁ! あたしとキンジは1ピコグラムもそんな関係じゃないのよ!」

 

ええい! アリアまでか!無視するな!俺泣くぞ!

 

 

「こら白雪!」

 

おお、キンジが白雪の肩を掴んだぞ。

さっさと収束させろ幸せ者!

 

「お前、俺のいくことが信用できないのか!」

 

「そ、そんなんじゃないよ! 信じてます。 信じてますっ」

 

ふう、ようやく終わりだな。

しかし、白雪はキンジとアリアを見回して

 

「じ、じゃぁ、キンちゃんとアリアはそういうことはしてないのね?」

 

「そ、そういうことってなんだよ?」

 

「き、キスとか?」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

黙り込んでしまう2人

 

「おい!お前らまさか!」

 

「・・・し・・・た・・・の・・・ね?」

 

俺が問い詰めるより早く絶対零度を感じたので俺は後ずさった。

ふふふと虚ろな笑い声まで聞こえてくる。

駄目だ・・・勝てるわけがない。

こいつとは戦いたくない。

 

「そ、そういうことはしたけど」

 

馬鹿野郎アリア! その言葉は炎の仲に火薬を投げ入れるみたいなもんだ!

 

「で、でででも大丈夫だったのよ!」

 

 

「昨日分かったんだけど、こ、ここ」

 

「子供はできてなかったからああああ」

 

チ―ン

な、なんだ今の音?

 

白雪がどてっと後ろに倒れ魂が抜けてしまう

 

「おい、アリア!キスで子供ができるかよ!」

 

さすがに見かねたおれがいうと

 

「こ、この馬鹿キンジ! あたしあれから人知れず結構悩んだのよ!」

 

「な、何に悩むんだよ」

 

「だ、だってキスしたら子供ができるって子供の頃、お父様が・・・」

 

おい!ホームズ家!ちゃんと教育ぐらいしろよ!いまどき小学生でも知ってるぞ!

 

「あんなことで子供ができるわけないだろ! 小学生でも知ってるぞ! そんなこと」

 

「何よ何よ! じゃあどうやったらできるか教えなさいよ!」

 

「教えるかこの馬鹿!」

 

教えられるわけないだろ!

そんなことしたか風穴じゃすまないしな

 

ぐぬぬとにらみ合う2人を見ながら俺が白雪を見るとその姿は煙のように消えていた。

おいおい、どうなるんだよこれ・・・

まあ、刺されて死ぬなよキンジ

俺は知らないからな!お前の護衛は請け負ってないし・・・ってアリアが狙われたら俺が白雪と戦うのか!勘弁してくれ!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26弾 昼食の一時

とまあ、あれから俺と白雪が激突すると言うことはなく平和な日々が過ぎていた。

朝の5時に起きて鍛錬してキンジ達と登校といういつも通りの時間を過ごしたとある日の昼休み

 

「椎名君、遠山君。 ここ、いいかな?」

 

がやがやとうるさい学食の中、俺が焼肉定食、キンジがハンバーグ定食、アリアが持ち込みのももまんを食ってたら目の覚めるようないけ面男が話しかけてきた。

優男スマイルをして椅子に座るこいつは不知火亮。

何度かパーティーを組んだことがあるがこいつはバランスがいいから結構組むのが好きだ。

アリアやキンジと組む前ならよく、クエストに誘っていたりする。

基本的にこいつすごい、いい奴なんだよ。

彼女がいないのが疑問だな。

 

「聞いたぜキンジ、優ちょっと事情聴取させろ」

 

キンジを押しのけるように入ってきたのはロジの武藤だ。

ああ、こいつには借りがあるんだよなめんどくせ

 

「なんだよ事情聴取って」

 

キンジが聞く

 

「キンジお前、星伽さんと喧嘩したんだって?」

 

ははぁん? 武藤の野郎白雪が好きだから探りを入れてやがる。

俺は笑みを浮かべながら肉を口に入れる。

 

「星伽さん沈んでたみたいだぞ? どうしたんだ?」

 

「白雪とはどうしたも何も・・・武藤お前、白雪見かけたのか?」

 

「今朝、温室で花占いしてたのを不知火が見たって言うからよ」

 

「ポピュラーじゃないか」

 

不知火が言う。

 

「知らねえよ。 優、アリア聞いたことあるか?」

 

アリアが知らないと首をふりふりした。

ももまんを食ってるから静かだなアリア

 

「あれだろ? 花弁ちぎりながら好き嫌いって奴」

 

俺が不知火に言うと不知火はにこりとして

 

「うん、それだよ」

 

いまどきそれをやるか? あの大和撫子さんは・・・

 

「僕にみられて気付いたのと。1時間目の予鈴がなったのとで占い自体は中断したけど。 なんか涙ぐんでるみたいだったよ? で、なんで別れちゃったの? もう、愛がさめちゃったとか?」

 

うきゅぅとアリアがももまんを詰まらせる音がした。

いちいち可愛いなお前

 

「あのなぁどこでどう話がこじれてそうなるんだ? そもそも俺と白雪はそういう関係じゃない。 ただの幼馴染だ」

 

「幼馴染かぁ。 はぐらかし方としてはポピュラーな選択肢だね。 噂では独占欲の強い神崎さんがやきもちを焼いて星伽さんに発砲したって聞いたよ? だから、僕の読みは神崎さんが椎名君と遠山君を独占しようとして、女子二人が決闘したってセン。 だって神崎さん遠山君と椎名君のことアサルトで楽しそうに話してるもんね」

 

そこで俺に振るな不知火!

俺のいないとこだろそれは!

アリアは一気にももまんをほおばると

 

「こ、こっ、この変態!」

 

「ぐっ!」

 

「痛て!」

 

キンジの顔面にパンチ、俺の膝にけりを入れてきたアリア

痛いだろうが!殴るなら不知火を殴れ!

 

「ハッキリいっておくけどねぇ! あたしが白雪を追い払ったのはや、やきもちとかそういうんじゃないの! あたしとキンジと優はパートナー! す、好きとかそういうんじゃない! 絶対絶対そういうんじゃない! これは本当に本心の本音よ!」

 

「へぇ、そうなんだ。 じゃあ、遠山君。 星伽さんと復縁の可能性もあるってこと?」

 

「復縁ってなんだ復縁って! ていうか不知火さっきの話だがな。 今朝の予玲の時には俺と一般校区の廊下で出くわして挨拶もせず女子トイレに逃げ込んでるんだよ! だから何かの間違いだ。 それに仲直りしないなんて、お前の個人的意見なんて求めていないだろ!」

 

「そういえば、そうだったね。ごめんよ」

 

にこりとしつつ、アリアに遠山君機嫌悪いねとか言ってるな。

 

「そういえば、不知火、優」

 

 

「ん?」

 

俺は顔を上げる。

強引に話題変える気だなお前

 

「お前らアシアードはどうする? 代表とかに選ばれてるんじゃないのか?」

 

アシアードとはまあ、簡単に言えばインターハイみたいなもんでスナイプやアサルトのオリンピックみたいなもんだ。

 

「たぶん、競技にはでないよ。 補欠だからね」

 

「俺はガンシューティング代表補欠が回ってきたけど辞退した」

 

「じゃあ、イベント手伝いか? 何をするんだ? 何かやらないといけないんだろ?、手伝い」

 

「まだ、決めてなくてねぇどうしようか?」

 

「アリアはどうするんだアシアード」

 

「あたしは競技にはでないわよ。ガンシューティング代表に選ばれたけど辞退した。

 

「優の補欠はアリアのかわりなんだな」

 

「まあな」

 

キンジの問いに答えてやる。

まあ、出てもいいんだが護衛の観点から言えばアリアが辞退したなら辞退すべきだ。

練習もめんどくさいからな。

鍛錬だけでいい。

 

「じゃあ、お前もイベント手伝いか?何やるか決めたか?」

 

「あたしは閉会式のチアだけやる」

 

「ああ、アル=カタか」

 

アル=カタは拳銃を組み合わせてやるダンスだ。

女子はチアと呼ぶんだが・・・

 

「優とキンジもやりなさいよ。どうせ手伝いなんでもいいんでしょ?」

 

「あ、ああ」

 

「別にいいよ」

 

アリアの護衛と言うがまあ、襲撃もないだろ

別に一緒にいても問題はない。

 

「音楽か・・・得意でも不得意でもないしそれでいいか」

 

「あ、遠山君と椎名君がやるなら僕もそれにしようかな? 武藤君も一緒にやろうよ」

 

「バントかぁ、かっこいいかもなよしやるか!」

 

ノリがいいな武藤

 

「でも、神崎さん、椎名君、代表を辞退するなんてもったいない。 ポピュラーな話だけど知ってる? アシアードのメダルを持っていると、人生バラ色になるんだ。 武偵大も推薦で入学できて、就職にも有利。 武偵局にはキャリア入局できるし、民間の武偵企業だって一流どころの内定がよりどりみどりだって話しだよ?」

 

「そんな先のことはどうでもいい。 あたしは今すぐやらなきゃいけないことがある。 協議の練習なんてでている暇なんてないわ」

 

「俺もだ。 俺もやらなきゃいけないことがある。 練習にはでれないんだよ」

 

あの、銀髪の魔女を捕まえる。

だから、俺は強くなる。

そして、アリアの願いであるかなえさんの無実の証明とアリアの護衛。

競技なんて出る暇はねえよ。

 

「アシアードなんかよりもね!」

 

ん?

 

「キンジ、優あんたちの調教が先よ」

 

「ち、調教! お前ら変な遊びでもしてるんじゃないだろうな!」

 

「してねえよ!」

 

「そうだ! 白雪と似たようなことをいうな武藤! 後、アリア、人前では訓練と言ってくれ!」

 

「うるさい!奴隷なんだから調教!」

 

アリアさん!あなた奴隷とか言わないと言ってませんでしたか・・・

 

「ていうか調教って何するつもりなんだ具体的には」

 

「んー、そうね。 明日から毎日一緒に朝練しましょ」

 

ハハハ、キンジ顔が引きつってるぞ。

まあ、朝連は前からしてるから俺は慣れてるけどな。

俺がそこまで思った時。

いきなり、俺の視界が闇に包まれた。

 

「だーれだ♪」

 

アリアじゃねえよな? 誰だろう?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27弾私の○○になってください

「誰だよ」

 

「私です♪」

 

俺が振り返ると見覚えのある少女が武偵高の制服を着て笑顔で立っていた。

 

「あ、お前・・・」

 

「椎名君の彼女かな? 神崎さんがいるのに隅におけないなぁ」

 

おい、にこりとして言うな不知火!

 

「残念だけど違います! 私、先日、椎名先輩に助けてもらったんです」

 

「そうなのか?」

 

完全に話題が飛んだのでキンジが言ってくる。

いまが話題を変えるチャンスだとか思ってんだろキンジ!

 

「護衛のクエストの帰りにな。 あり得ないモヒカンの連中に絡まれてたから助けただけだ」

 

「もう! 椎名先輩かっこよかったんですよぉ! 相手の首を絞めて生きるか死ぬか選べって!」

 

 

ぶんぶんと右手を振りながら言う少女

いちいち動きがでかいなこの子

 

「ゆ、優お前こんな可愛い後輩と!」

 

「椎名先輩! お弁当作ってきたんです! どうぞ!」

 

「え? 俺、焼肉定食食い終わったばか・・・」

 

「どうぞ!」

 

ずずいと可愛いバラのマークが入った弁当箱を渡してくる。

助けてくれとアリアを見るがアリアは俺を睨んでいる。

ももまんを口にしながら・・・

 

「あ、ああ・・・」

 

退路は断たれた。

俺は弁当箱を受け取りながら

 

「所でお前、名前は? 」

 

よく聞いてくれましたとばかりに栗色の右のサイドテールを揺らしながらびしと生徒手帳を見せてくる。

 

「1年B組 ダギュラ! 紅 真里菜です! マリって読んでくださいね椎名先輩♪」

 

ダギュラっていや尋問科だ。

あの科は犯人を自白させるのにあらゆる技術を叩き込む。

俺は教師の綴梅子のことを思い出しながら

 

「じゃあ、マリお礼ならいらないぞ? ああいう、クズを倒して報酬もらってたんじゃ俺の部屋弁当だらけになっちまうよ」

 

そういいながら弁当箱を開いた。

 

「う・・・」

 

「うわ、すごいね」

 

「これは・・・」

 

不知火とキンジが絶句している。

アリアも覗きこんでボンと顔を赤くする。

 

「なんだよ。俺にも見せろって・・・おお」

 

武藤でさえ目を丸くしているぞ。

何せ、ノリでLOVEの文字がごはんにのってやがるんだからな。

公開処刑なのか?

 

「ま、マリなんだこれは?」

 

「私の気持ちです。 あ、全部食べてくれないと嫌ですよ♪」

 

いやあん恥ずかしいと呟きながら両手で頬を触るマリ

その間で俺は一気に御飯をかきこんでLOVEの部分をかき消す。

普通にうまいんだがなんか悲しい・・・

 

「お、おいしいぞ」

 

なんとかそれだけ言うとマリはにこにことして不知火が開けてくれた椅子に座る。

 

「よかったぁ。 椎名先輩にまずいって言われたらどうしようかと思ってました」

 

「思い出したわ」

 

唐突にアリアが口を開いたので見ると最後のももまんを手にしながらアリアがマリを見る。

 

「ダギュラで今年、唯一の1年のSランク武偵がいるって。 名前は紅 真里菜」

 

「私も先輩達のこと知ってますよ。 ロジの武藤先輩にアサルトの不知火先輩。同じくアサルトの神崎先輩、そして、インケスタの遠山先輩、そして、椎名 優希先輩♪」

 

な、なんで俺だけフルネームなんだ?

 

「そのあなたがあたしの奴隷になんのようなの?」

 

「ど、奴隷ですか!?」

 

マリは俺とアリアを見て頬に両手をあてて真っ赤になる。

 

「椎名先輩ってそんな遊びが好きなんですか・・・でも、椎名先輩なら」

 

「待て待て待て! アリア! 後輩に変なこというな!」

 

「何よ! 優とキンジはあたしの奴隷よ! どういおうが勝手じゃない」

 

がぅと犬歯をむき出しにしていうアリア

 

「し、しかも3Pですか!」

 

「ば、馬鹿! キンジも黙ってないで何か言え!」

 

普段俺にからかわれることが多いためかキンジも何も言わずに成り行きを見守ってやがる。

武藤も不知火も見てるだけだしちくしょう。

 

「誤解だ! アリアとキンジはパートナーなんだ!」

 

「なんだ・・・よかった」

 

ほっとしたようなマリ。

なんで、ほっとするんだ?

 

「じゃあ、椎名先輩」

 

真剣に俺の目を覗き込んでくる。

な、なんなんだ?

そして、この子はとんでもないことを言ってきたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の戦兄妹(アミカ)になってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28アミカ強襲

翌朝7時、5時起きで通常の鍛錬を終えて待ち合わせの場所で寝てたら

 

「おい、優起きろよ」

 

「んあ?」

 

目を開けるとキンジが来ていた。

 

「今何時?」

 

ふぁとあくびする。

 

「7時だ。 アリアは来てないのか?」

 

「みたいだ・・・」

 

俺が言おうとした瞬間、背後から迫ったアリアがキンジの目を塞いでしまった。

 

「だーれだ」

 

キンジも振り返るが俺もびっくりした。

か、かわいい

 

「んもう、こんなに背後取らせるなんて甘いわね。 次は優もやるからね」

 

背伸びをすとんと解除して腰に手を当てたアリアはチアガールの格好をしていたのだ。

武偵高のチアガールが黒を基調とした珍しいコスチュームを着用する。

ノースリーブのトップには胸の上部に穴が開いていて穴からはアリアの真っ白な肌が覗いている。ふつうはハート形とかなんだろうが銃弾型はいかにも武偵高らしいよな。

スカートはデフォルトでガンチラ(スカート内に隠した拳銃がちら見すること(命名武藤))するほど短い。

 

「か、かわいい」

 

思わず口にだしてしまったらしい。

アリアがぼぼぼと顔を赤くしてしまう。

 

「きゃ、きゃ・・きゃわいい?」

 

なんで舌をかむんだよ。

ああ、もういいか

 

「かわいいよな? キンジ」

 

「あ、ああ」

 

「か、風穴ぁ!」

 

「「なんでだああああ!」」

 

ドドドドドン

 

ご丁寧に2発ずつ防弾制服に直撃した45ACP弾に痛みに俺達は地面をのたうちまわるのだった。

 

 

 

 

 

「で?なんなんだその格好は?」

 

ようやく落ち着きを取り戻したアリアが答える。

 

「見てわからないの?チアよ。 あんたそんなことも分からないの?」

 

「お前にだけは言われたくないぞ。 ていうか今のはなんでその格好なんだって意味だ」

 

「そうならそうといいなさいよこのドベ! これはあんたちを調教する間にあたしがチアの練習をする準備なの。 同時にやれば時間を無駄にしないですむでしょう?」

 

と、アリアは誰もいない周囲を見回す。

ここは、武偵高が乗る浮島の外れにある通称『看板裏』。レインボーブリッジに向けて立てかけてある巨大な看板の裏であり体育館との間に挟まれた細長い空き地だ。

転入生のくせにアリアはここを目ざとく発見し練習の場所にしようという腹らしい。

俺はあんまり使ってないけどな。

 

「それで何を・・・」

 

「椎名先ぁーーーーーーい!」

 

するんだという言葉は乱入者により止められてしまう。

げっ!あいつは!

 

「おはようございまーす♪」

 

「紅 真里菜!」

 

「嫌ですよぉ先輩。 マリって言ってください私達アミカなんですから」

 

そうなのだ。 実はあの後、アミカなんていらない俺は、エンブレムを仕掛けようとしたのだが逃げ回る時間もめんどくさいので偶然武藤が持っていたトランプで一番上のカードを引いて俺のカードが強ければアミカは諦める。マリが強ければアミカになるという勝負をしたのである。

結果、俺は負けた。

設定では一番強いジョーカーを真里菜は引いたのである。

 

「な、なんでここが?」

 

「私、椎名先輩のことならなんでも知ってますよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

う、その笑顔が怖い・・・

紅 真里菜この子はSランク武偵でありながらアサルトとしての技能も欲しいらしくアミカになってくれる先輩を探してたんだそうだ。

実は、アリアも目をつけていたらしいが申し込む前にアリアのアミカが決まったため断念したらしい。

ちなみにアサルトとしてのランクでいうならはE

 

「だから、しっかり鍛えてくださいね♪」

 

だあああ抱きついてくるな!

あれ? この匂い・・・どこかで・・・

 

「な、ななな何してるのよあんた!」

 

すさまじい殺気が俺の後ろで膨れ上がる。

見るとアリアが真っ赤になってこちらを見ている。

 

「先輩と後輩のスキンシップでーす♪」

 

「ゆ、優はあたしの奴隷よ!」

 

まずいと思った俺はマリを抱きかかえるとワイヤーを発射し看板の上に

 

「優ぅ!」

 

振り返ると上にガバメントを向けたアリアが見えたので俺は慌てて看板から飛び降りて逃走を図るのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29弾ナイフ投げ授業

待ってくださいよぉと追いかけてくるマリをワイヤーの速度で引き離して俺は教室でうつぶせになって眠っていた。

教室ががやがやうるさくなってきたので顔を上げると丁度、キンジとアリアが教室に入ってくるところだった。

アリアと俺の目が合う。

ああ、神様・・・

この後、俺が風穴地獄の刑を受けたのは言うまでもないので省略させてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、時刻は5時間目の少し前の休み時間、正確には移動時間なんだがアサルトの訓練場に行くためアリアと歩いている。

 

「いたた、まだ痛えぞ。アリア」

 

腹を抑えながら言うとアリアはふんと目を閉じながら

 

「自業自得よ。 あたしとの調教をほっぽり出して逃げた罰」

 

「いや、だってああしなければお前、撃ってただろ?」

 

まあ、結果的に後で撃たれるんならあそこで撃たれてもよかったんだろうけどな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

本日のアサルトの授業は対投げナイフ技だ。

簡単に言えば蘭豹が投げてくるナイフをなんとかしろというんだが・・・

 

「おら!椎名いくぞ!」

 

10メートルぐらい離れた場所からナイフを投げてくる。

はええよ!

銃を使って弾くのは禁止。

無論避けるのも禁止だ。

どうにかできなかった奴は防弾制服にナイフの衝撃を受けることになる。

馬鹿な避け方したら死ぬけどな。

俺は右腕を横に振るとナイフをはじく。

 

「おし!次 神崎!」

 

そして、アリアはと言うと投げナイフを・・・おお!

周りからもおおという声が響く。

アリアは真剣白羽取りでナイフを受けとめたのだ。

 

「すごいね。 神崎さん」

 

ん?

よこを見ると不知火が立っていた。

 

「まあ、白羽取りできる奴はあんまりいないからな」

 

「椎名君はできないのかい?」

 

「俺?」

 

うーんと考えてみる。戦闘狂モードならできるかもしれんが通常モードじゃ失敗する方が多いと思うな・・・

 

「不知火はできるのか?」

 

「アハハ、質問を質問で返されたね。 僕はできないよ。 遠山君ならできるかもしれないけど」

 

「ああ・・・」

 

ありえるな。

ヒステリアモードならの話だが・・・

 

「話は変わるけど椎名君アミカ作ったんだって?」

 

「その話はしないでくれ不知火・・・」

 

ずーんと頭を抱えて俺は下を向いた。

勘弁してくれよ。

あの、マリって子が来てから生活が乱れまくりだ。

ああ、白雪に付きまとわれるキンジの気持ちが少しだけ分かったぜ。

そのマリは今は専門科目の時間なのでダギュラにいるはずだ。

なんの授業するんだろ?

拷問の練習か?

 

「おっし! 全員終わったな!」

 

声に頭を上げると蘭豹が不吉な笑みを浮かべて俺達を見まわしている。

げ!

俺は不知火の背中に隠れようとしたのだが・・・

 

「おら!椎名!でてこい!」

 

「呼んでるよ椎名君」

 

か、勘弁してくれよ

その後、どうなったのかと言えばナイフの間をかいくぐって蘭豹に飛びかかった瞬間、像殺しと呼ばれる巨大拳銃M500を防弾制服に受けて気絶したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたた」

 

ひりひりする箇所をさすりながら「優!明日には死んでろよ!」という声に「うるせえ! お前が死んでろ!」というやり取りをしながらアリアとアサルトを出る。

 

「ちくしょう蘭豹の野郎思いっきりやりやがって・・・」

 

「あんたって気絶してばかりね優」

 

「前の気絶したのはお前のせいだろ! お前が風呂ですっぱだ・・・「風穴ぁ!」うわ!」

 

真っ赤になったアリアのガバメントをビリヤード撃ちで弾く。

そうそう、何度も食らうか!

 

アリアはガルルルとライオンのように威嚇してくる。

ああ、もう

 

「も、ももまん買ってやるから機嫌直せよな? キンジ迎えに行くんだろ?」

 

「今度変なこと言ったら風穴プレスよ!」

 

な、なんなんだ風穴プレスって?聞かないのがいいんだろうな・・・

 

 

 

そんなこんなでインケスタの建物の前でキンジを待っているとキンジが出てきた。

 

「さ、行くわよ優」

 

はいはいお嬢様と心の中で言いながら俺はアリアの後を追うのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30弾ぽこぽこするわよ

「キ―ンジ」

 

アリアがとててと夕焼けのグランドをかけてキンジに近づいていく。

 

「言っておくが放課後は訓練なんかしないぞ。 俺は一般科目の宿題をやるんだからな」

 

「まだ何も言ってないじゃない。 放課後は優を訓練するから」

 

「俺かよ!」

 

「優、朝逃げた補修よ」

 

「よかったな優」

 

「キンジてめえ!」

 

アリアはとててと、バス停に向けて歩いていく。

そして、振り返りひまわりみたいな笑顔を俺たちに向け

 

「朝練はやるからね。 優も」

 

俺の自由な時間よさらばだ。

俺が心の中で自由とさよならをかわしながら俺達は並んで歩く。

アリアを真ん中にして右にキンジ、左に俺と言った構図だ。

アリアは楽しそうにアサルトで習った投げナイフの話をしている。

 

「それで、優ったら先生にぼこぼにされてね」

 

その話はしないでくれ情けないから・・・

 

 

「ねえ、キンジ、優」」

 

「「なんだ?」」

 

俺とキンジの声がはもる。

 

「ふふ。 なんでもなーい」

 

少し前に行ったアリアは道すがら振り返り俺達がいるのを確認してはランランとセーラー服をちらつかせて道に戻るアリア。

機嫌いいな。

 

「お前さあ。 俺たち以外のパートナーはもう探さないのか・・・? せめてもう2、3人仲間を加えてチームを組んだほうがいいんじゃないか?」

 

「仲間なんかいらない。 みんなで何かやるって苦手だもん」

 

仲間ね・・・一瞬、レキが頭に浮かんだがSランクがアリアのチームメイトになるなら護衛も楽になるんだがな・・・

 

「そもそも、あたしは1人で戦えるし、あたしについてこれるパートナーがいればそれでいいの。 あんた達の調教が済めばそれで十分。 あんた達だけいればいいの」

 

まあ、神様とか訳のわからない力を使う連中じゃなきゃ対応は可能だがな

キンジが頭を抑える。

 

「頭痛がしてきた。 お前に頭をぽこぽこ殴られたせいだ」

 

「アスピリンでも飲めば?」

 

「俺は頭痛とか風には大和化薬の『特濃葛根湯』しか飲まねえんだよ」

 

「特濃? なにそれ」

 

「生薬の成分を濃縮したって意味だ。 漢方薬がいろいろ入ってる」

 

「じじむさ! じゃあ、それ飲んでおきなさい。 あしたもぽこぽこするから」

 

ぽこぽこって・・・

 

「ちょうど今切らしてるんだよな・・・あれはアメ横にしか売ってねえし結構、面倒なんだよ。 あそこに行くの上野と御徒町の中間ぐらいの薬屋でどっちの駅からも遠いし」

 

「キンジ、優」

 

いきなり立ち止まるアリア

ああ、キンジ聞いてなかったみたいだぞこの子

 

「これ見て!」

 

「なんだ?」「ん?」

 

キンジと俺がマスターズの掲示板を覗き込む。

 

『生徒呼び出し 2年B組 超能力捜査研究科 星伽 白雪』

 

白雪が呼び出し? 珍しいなあの子、超まじめで偏差値75の優等生で生徒会長で園芸部部長で手芸部部長で女子バレー部部長、性格はキンジの対するあれを除けば完璧なんだが・・・

はて?

 

「アリア、お前この前白雪に襲われたのちくったのか?」

 

キンジがアリアに尋ねる。

アリアは心外よというように

 

「あたしは貴族よ」

 

紅い瞳がキンジを睨みつける。

 

「プライベートなことを教師に告げ口するようなことは卑怯な真似はしないわ。 いくら売れた喧嘩でもね」

 

アリアは何か考えるようにしながら

 

「キンジ、優これはあの女を遠ざけるいいチャンスだわ。 この件を調査してあの女の弱みを握るわよ」

 

おい、アリア!貴族は卑怯な真似をしないんじゃいのか?

 

「弱みってなんだよ。 白雪はあれから来てないだろ?」

 

「来てるじゃない」

 

「え?」

 

「最近あたしが一人だとドアの前から気配がしたり物陰から見られている感じがしたり・・・電話が盗聴されてるみたいに断線したり一般校区でも渡り廊下から水をかけられたり、どこからともなく吹き屋が飛んできたり、落とし穴に落とされたり」

 

陰湿ってレベルじゃねえ! まじで白雪がやったのかよそれ!

 

「『泥棒猫』ってかかれた手紙が送られてきたり、猫のイラストつきで」

 

それはかわいい

 

「とにかくあたしはあの女に嫌がらせを受けているのよ。 気付いていないなんてあんた達どこまで鈍感なの! この無能!」

 

まあ、それぐらいなら護衛が出張る必要はない。

命こそ・・・

 

「それだけならまだいいわ」

 

ん?

 

「こないだなんか女子更衣室のロッカーを開けたらピアノ線が仕掛けてあったのよ! あたしが・・・その・・・まあ、身体的な理由によってロッカーの奥に潜り込まないと服を取れないのをわかってて・・・首の位置に仕掛けてあったんだから」

 

それはしゃれにならん。

下手すりゃ俺の知らない所でアリアは首をすぱっといって俺の護衛は終了という流れになっていたかもしれないんだな・・・

説得して聞いてくれるか?

うーむ、嫌だな。白雪とは戦いたくない。

実力も未知数だし・・・

 

「あんたたちこの白雪が呼び出されている時刻に一緒に・・・」

 

嫌な予感が・・・

 

「マスターズに潜入するわよ!」

 

勘弁してくれ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31弾危険地帯潜入任務

東京武偵高は隅からすみまで危険な学校だが特に危険極まりない場所が3つある。

強襲科(アサルト)

地下倉庫(ジャンクション)

そして、教務課(マスターズ)だ。

え?なんで教師がいる場所が危険かって?

答えは簡単。

武偵高の教師は危険人物の宝庫なんだよ。

元特殊部隊だったり、元暗殺者やマフィアだったなんて噂がある奴もいるし・・

正直、本気で戦っても勝てないかもしれないなんて奴がいるのもこのマスターズだ。

まあ、インケスタやコネクトのような常識的な教師もいるがそれは少ないんだ。

悲しいが・・・

 

「キンジ届かない。 抱え上げて」

 

と無声音でいうアリアと俺達はその虎の穴に侵入しようとしている。

 

「・・・はいはい」

 

「おい、キンジ早くしろ。 誰かきたらまずい」

 

マスターズの廊下に忍び込み、天井のダクトにアリアをキンジが抱え上げる。

俺は周りの警戒役だ。

 

「ほーれ、たかいたかーい」

 

あ、馬鹿

 

「風穴」

 

ゴスとキンジの鳩尾にアリアの黒二―ソがめり込んだ。

 

「うおおお」

 

とキンジが苦痛の声をあげているとアリアは懸垂の要領で上がってしまう。

 

「優!」

 

アリアの手を借りキンジに押してもらい俺もダクトに上がった瞬間。

 

「おーう、遠山。 マスターズに何か用か?」

 

げっ! この声、蘭豹じゃねえか!

音を立てずにダクトのふたを閉める。

下からキンジが裏切り者という目で俺を見ていたが俺はダクトの中から頑張れと親指を立てた。

 

「上になんかあるんか?」

 

「い、いえなんでもない・・・です」

 

悪いなキンジ生きていたらまた会おう。

後ろから遠ざかっていくキンジの声を聞きながら俺は犠牲者に黙とうするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

シャカシャカシャカとまるで某虫のように匍匐前進で進んでいくアリアは短いスカートなのだが悲しかな。

暗くてよく見えない。

 

「アリア」

 

「何?」

 

「キンジは残念だったな」

 

「仕方ないじゃない。 置いてこないとあたし達も見つかってたんだから」

 

「まあな、それはそうと匍匐前進はやいなアリア」

 

「得意だもの。 アサルトの女子では一番早いわ」

 

「なるほど胸が平らだか・・・」

 

ゴスっと俺の頭にアリアの蹴りが食らわせられた。

痛いよ。お!白雪発見! どうやら呼び出しをした教師の所にいたらしいな。

狭い通気口からアリアと俺で下の様子をうかがう。

アリアとは頭と頭をくっつけたような格好で下を見る羽目となる。

ち、近い・・・クチナシのようなにおいもするし・・・

目をアリアに向ける。

通気口から漏れる光に照らされるアリアは本当に可愛かった。

お人形さんみたいに整った顔。

人形と言えばレキを思い出すがアリアは表情が豊かなのだ。

守らないとなこの子のこと・・・

俺がそんなこと思っていた時

 

「星伽ぃ」

 

女にしては低めの声に下に目を戻すと室内では2年B組の担任ダギュラの綴先生が足を組んで座っていた。

白雪は迎えの椅子にうつむいて座っている。

 

「お前最近急に成績下がってるよなぁ」

 

室内なのに黒いコートを着て煙草を口にくわえている。

目が少しおかしいし年中ラリってる奴だからなあの先生は

てか、あの煙草日本じゃ販売禁止っぽいし

 

「あふぁー、まあ勉強はどうでもいいんだけどさ」

 

煙を口から出しながら言う。

そんなこというから武偵高は馬鹿といわれるんだ! まあ、否定はしないけどな。

 

「なーに・・・何? あ、変化・・・変化は気になるんだよね」

 

単語を忘れたのか?

頭すかすかだと言いたいがこの先生、尋問に関して日本で5本の指に入る。

何をされるかわからんがこいつに尋問されたらそいつは綴を女王様とかあがめられるらしい。

そういや、紅 真里菜はどんな尋問するんだろうな?

まあ、今気にすることじゃないか

 

「ねえぇ、単刀直入に聞くけどさ。 星伽、あいつにコンタクトされた?」

 

「デュランダルですか?」

 

ピクっとアリアが眉を動かした。

確か周知メールできてたな。

確か、超能力用いる武偵『超偵』ばかり狙う誘拐魔

アリアは超偵じゃないから気にとめてなかったんだがそもそもあのデュランダルというのは存在自体デマと言われている。

失踪した武偵もこいつにやられたんじゃないかという都市伝説のような存在である。

いるのかまさか?

 

「それは・・・ありません。 というかデュランダルが実在していたとしても、私なんかじゃなくもっと大物の超偵を狙うでしょうし」

 

「星伽ぃ、もっと自分に自信を持ちなよ。 あんたは武偵高(うち)の秘蔵っ子なんだぞ?」

 

「そ、そんな」

 

「星伽ぃ、何度も言ったけどいい加減ボディーガードつけろってば。 レザドはデュランダルがあんたを狙ってる可能性が高いってレポートを出した。 SSRだって似たような予言したんだろ?」

 

「でもボディーガードはその・・・」

 

「にゃによう?」

 

「私は幼馴染の子の、身の回りをしたくて・・・誰かがそばにいるとその・・・」

 

「星伽ぃ、教務課(うちら)はあんたが心配なんだよぉ。 もうすぐアシアードだから、外部の人間もわんさか入ってくる。 その期間だけでも誰か有能な武偵をボディーガードにつけな。 これは命令だぞ!」

 

「で、でもデュランダルなんて存在しない犯罪者で・・・」

 

「これ命令だぞー。大事なことだから先生は2度いいました。 3度目は怖いぞぉ」

 

ふうーと煙を白雪に吹きかける綴。

 

「けほ、は、はい分かりました」

 

とうとう頷いた白雪を見ながら俺は情報を整理してみる。

なるほどね。

いるかもわからない犯罪者に狙われている白雪にマスターズが護衛をつけろと言ってるわけだ。

SSRの予言なんて俺は信じてないしレザドの情報はガセも少なくない。

マスターズの過保護って奴だ。

まあ、仮に狙われているんだとしてもアリアの護衛と両立なんて・・・

 

がしゃん

 

とアリアが通気口のふたをパンチでこじ開けた。

 

「っておおおおい!」

 

俺が止める間もなくアリアはすたっと2人の前に降りてしまった。

スカートがめくれ上がっていたが角度的に見えなかった。

そして、またこの子はとんでもないことを言い出すんだよな。

 

「―そのボディガードあたしがやるわ!」

 

やっぱりね

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32弾元気人形とお人形さん

ああ、もう駄目だ。

観念した俺は通気口から降りる。

その瞬間、綴が不審者とでも勘違いしたのか一気に距離を詰めてくる。

思わず戦闘態勢を取るが後ろに回り込んだ綴は俺とアリアの襟元を掴まれて壁際に投げ捨てられた。

な、なんて力なんだよこいつ!

 

「んー? 何これ?」

 

しゃがみこんで俺達を見てきた綴

 

「なんだぁ。 こないだのハイジャックの2人じゃん。 1人足りないけど」

 

うすら笑いを浮かべて煙草を吸うとこきこきと首を鳴らす。

ヤバい、なんというかヤバいぞこの状況。

 

「これは神崎・ホームズ・アリア。ガバメントの2丁拳銃に小太刀二刀流。双剣双銃(カドラ)。 欧州で活躍したSランク武偵。 でも、書類上ではみんなロンドン武偵局が自らの業績にしちゃったみたいだね。 協調性がないせいだまぬけぇ」

 

綴アリアのツインテールの根元を掴んで言った。

 

「い、痛いわよ。 それにあたしはまぬけじゃない。 貴族は自分の手柄を自慢しない。 たとえそれを人が自分の手柄だと吹聴しても否定しないものなの!」

 

「おい! やめろよ!」

 

 

俺が飛びかかるが、がしっと頭を掴まれ万力のように握力が加えられる。

 

「いたたたたたた!」

 

悲鳴をあげる俺をよそに綴は続ける。

 

「へぇー。 損な身分だねぇ。 あたし平民でよかったぁー。 そういえば欠点・・・そうそうあんたおよ・・・」

 

「わぁー!」

 

綴の言葉がアリアの叫びでさえぎられる。

 

「そそ、それは弱点じゃないわ! うきわがあれば大丈夫だもん」

 

なるほど、アリア泳げないんだな。

 

「んで」

 

綴はアリアの髪から手を話すとぎりぎりと頭を掴む俺を見る。

 

「こっちは椎名 優希君」

 

「いたたたたた! いい加減に離してください!」

 

相手が教師なのでまともに戦うわけにもいかず俺が悲鳴をあげているとあっさりと綴は手を離した。

 

「性格はまぁまぁ社交的だがどこか本心を見せていない所あり」

 

思いだしながらいう綴、こいつ全部頭に生徒のデーター入れてやがるのか?

 

「どんな状況でも全力で戦ったことがなくAランク、しかし、Sランクの疑いもあり。

解決事件は銀座の銀行強盗の制圧に某金持ちの護衛、ANAのハイジャック事件。あ、留年直前で強盗捕まえたんだ」

 

「人のプロフィール言わないでくださいよ!」

 

「武装(えもの)はガバメント2丁にデザートイ―グール一丁に特殊仕様のワイヤーが最低3本。 しかし、その本質は・・・」

 

「わあああああ!」

 

今度は俺が悲鳴をあげる番だった。

こいつがどれだけ知ってるか知らんが切り札全部露呈しかねん。

 

 

「でぇー? どういう意味? ボディーガードやるってのは?」

 

「言った通りよ。 白雪のボディーガード24時間体制あたしが無償で引き受けるわ」

 

護衛する相手が護衛のクエスト・・・最悪の事態になりそうだな。

 

「星伽、なんか知らないけどSランク武偵が無料で護衛してくれるらしいよ?」

 

「い、嫌です。 アリアがいつも一緒だなんてけがらわしい」

 

「大丈夫よ。 優もつけるから」

 

俺もかよ!

 

「そ、それでも嫌です!」

 

すまない白雪さん。 今の言葉会心の一撃ぐらいのダメージが胸を襲いました。

 

「じゃあ、どうしたら受けるのよ!」

 

「どんな条件を出してもお断りします!」

 

ぐぬぬとアリアと白雪がにらみ合いになり殺気が高まっていく。

か、勘弁してくれここで戦ったらマスターズの鬼どもが大挙してくるぞ。

命の危険を感じた俺はある提案をする。

 

「なら、キンジも白雪の護衛につけるのはどうだ?」

 

白雪の顔がぱっと輝く。

よし、最後の一撃だ!

 

「白雪の家に行くか白雪がキンジの部屋に来るかだ? これで万事解決だろ?」

 

後で、キンジに怒られそうだがお前の幼馴染なんだから妥協してくれキンジ。

何より、俺の命のためにも・・・

かくして、白雪の護衛+の二重の護衛生活の始まりなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を要塞にする道具を取りにいくと言って女子寮に帰ったアリアと別れた俺は携帯電話を取り出すと電話をかける。

数回の回線を得て、最後に3コールの後相手が出る。

 

「何か不都合が起こったのかな? 椎名 優希」

 

この依頼主との電話も慣れたものだ。

最近ではアリアの護衛関連ではレザドより正確なのでよく電話をかけている。

たまに繋がらないこともあるが・・・

 

「単刀直入に聞くんだがデュランダルは実在するのか?」

 

「ふむ、本当に単刀直入だね。 実在する確証はないが高い確率で実在しているといっておこう」

 

ん? 依頼人にしては引っかかる言い方だな。

 

「デュランダルの名前を聞いた時、アリアの様子が少し変わったんだ。 そいつも、かなえさんの事件の関係者か?」

 

「デュランダルが関わったかもしれない事件で確かに神崎 かなえは冤罪をきせられている。 アリアがデュランダルを追うのはそれが原因だろう」

 

なるほどね。

 

「で? デュランダルってどんな装備とかわからないのか?」

 

理子の時は聞き忘れたが今回はちゃんと聞いておくと思ったのだ。

 

「私も詳しくは知らない。 だが、1つ言うならばデュランダルは超偵という話だ」

 

「超偵か・・・」

 

超偵は白雪のような超能力や異能の力を持つとされる武偵のことだ。

眉つばものかと思いたいのだが今回は嫌な予感がする。

 

「武偵は超偵には勝てないと言われている。 お望みの装備がいるなら手配するが?」

 

一応、授業としての知識はある。

 

「じゃあ、純銀弾と・・・後はそうだな・・・」

 

俺はいくつかの装備を手配すると携帯をしまった。

 

「ちっ! けちだな」

 

武偵弾を12発ほど頼んだがそれは君の金でやることだよと断られてしまった。

金さえ渡せば作ってくれる職人とパイプがあるだけましということだろう。

普通はよほどの実力者じゃなければ武偵弾は金を積んでも手に入らない。

全部オーダーメイドだからな。

 

「椎名先ぱぁーい!」

 

げっ!

振り返ると紅 真里菜がツインテールを振りかざしながら走ってくる。

サイドテールと使い分けてるらしいな髪型

とっさに周りを見渡すとうまい具合に知り合いがいた。

そいつに走り寄る。

 

「れ、レキ! 頼む! これから俺と約束があることにしてくれ!」

 

ロボットレキと呼ばれる少女は無言で道を歩いていたのだ。

帰る所だったらしい。

 

「・・・」

 

レキは無言。

だが、立ち止まってくれた。

そこに、マリが追いついてくる。

 

「捕まえました♪ さあ、椎名先輩の家に行きましょう」

 

「な、なんで俺の家なんだ?」

 

「アミカは部屋の鍵の交換から始めるんですよ! これ私の部屋の鍵です! いつでも来てくださいね」

 

「行かねえよ! 女子寮だろう!」

 

「・・・」

 

はっと、視線を感じてみるとレキが無表情に立ってこちらを見ている。

表情一つ変えていないな。

 

「あれ? レキ先輩じゃないですか?どうしたんですか?」

 

「い、嫌、実はこれからレキと御飯食べに行く予定なんだ。 悪いな」

 

俺がレキが答えるより先に答えてからレキを見て頼むとまばたき信号でお願いする。

レキは何も言わない。

 

「そうなんですか?」

 

マリが聞くとレキは動かなかったがこくりとゆっくり顔を前に倒した。

ありがとうレキ!

 

「そうなんですか・・・椎名先輩やりますね。 神崎先輩だけじゃなくレキ先輩まで手を出すなんて」

 

「飯食いにいくだけだろ!」

 

「いえいえ、レキ先輩にはファンクラブがありますからね。 狙撃されないように注意してくださいね。 椎名先輩」

 

そんなものがあるのか・・・

俺はレキを見る。

まあ、確かに美少女なんだがとっつきにくいんだこいつは・・・

ん? そう言えば、最近レキとよく食べに行く機会が多い気がするな。

 

「それはそうと、私も一緒に行っていいですか御飯?」

 

はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「椎名先輩のおごりぃ、フフフ」

 

「・・・」

 

「お兄さんやりますね。 不思議系美少女の次は元気いっぱい後輩ですか」

 

以前、レキと来た小さな中華料理屋だ。

あの時のバイトの女の子も健在で俺達を見るとさっと水を出してきたのだ。

 

「こいつらはそんなんじゃない」

 

俺は壁に飾られた地獄ラーメン制覇という紙の下に張られたレキの写真(無論無表情)を見ながら

 

「チャーハン1つに酢豚と豚骨ラーメン」

 

「私は餃子とチャーハンお願いします!」

 

「はい、了解です!」

 

さっさと厨房にメニューを伝えに行ってしまったバイトの子を見送りながら

俺は今の状況を整理する。

俺の横にはマリ、正面にレキと言った配置だ。

レキは誘ったからおごるのは当然としてヤバいぞ・・・俺の財布がピンチだ。

毎月50万、理子を退けたから特別報酬に100万貰ったがほぼ、全部装備品に消えた。

武偵弾もそうだしワイヤーの整備等、金かかるんだよ今の状況は。

財布の中には3000円しかないんだ。

 

「それで、椎名先輩いつ、訓練してくれるんですか?」

 

「今は無理だ。 護衛のクエストを受けてるからな」

 

「護衛ですか? ああ、星伽先輩の護衛ですね?」

 

「お前、なんで知ってるんだよ!」

 

「偶然耳に挟んだんです。ほら、星伽先輩の担任ってダギュラの先生ですし」

 

なるほどな。

 

「デュランダル捕まえたら私に回してください。 腹から何も出ないぐらいにはかせてあげますから」

 

一瞬、ぞわっと黒いものがマリの後ろからでた気がしたが幻覚だ! うん、幻覚だ間違いない。

 

「ま、まあその時は頼むな」

 

「お待たせしましたぁ!」

 

丁度その時、料理が運ばれてきた。

早いな!

 

「わー、いただきますね先輩」

 

「これでよかったか?」

 

酢豚と豚骨ラーメンをレキの前において聞くとレキはこくりと頷いた。

俺の前にはチャーハンが1つだけ貧乏はつらい・・・

こうして食事が開始されたわけだが

 

「具体的に護衛の期間はいつまでなんですか?」

 

「んー、アドシアートが終わるまでだな。 ま、何も出ないにこしたことはないが・・・」

 

ふと、思いついたので

 

「そうだ。 レキ、お前も白雪の護衛やらないか?」

 

だが、レキは首を横に振った。

 

「そうか・・・まあ、レキの場合はアドシアートの練習があるからな」

 

「あ! じゃあ私! 私がやります!」

 

「お前は弱いだろ! 護衛なんかできるわけないだろ」

 

「うう・・・残念です」

 

まあ、ダギュラの人間に頼むのは最後の最後だけだ。

ふと、レキが俺を見ているのに気付く。

 

「優さん・・・」

 

いきなり、しゃべりだしたのでびっくりしていると

 

「よくない風を感じます。 敵はゆっくりとせまっている」

 

また、例の風か・・・

しかし、敵ね・・・

デュランダルはいる。

そういうことを前提に動いた方がいいのかもしれんな。

ちなみに今日の残金3円である。

ああ、貧乏ってやだなぁ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33弾粗大ごみは処分しないと

食事を終えた俺達は帰るというレキと別れ、キンジの部屋に行くため階段を上がっていた。

紅 真里菜も俺の横を並んでいる。

ついてくるなと言っても行くと聞かなかったのだ。

 

「そう言えばマリの銃はなんだ?」

 

「私のですか?」

 

マリはスカートを軽くめくり、銃を取り出した。

 

「Cz75B型か、使ってる奴久しぶりにみたぜ」

 

こいつはキンジのべレッタ同様9ミリパラベラム弾を使用している自動式拳銃である。

チェコが開発した銃で歴史はさほど古くはないがこのタイプなら仕様に問題はない。

初期型ならBを進める所だからこれでいい。

俺はまりに銃を返す。

 

「本当は先輩と同じ大型拳銃にしようとおもったんですけど反動がすごすぎて扱えませんでした」

 

「ガバメントか?」

 

「デザートイーグルです」

 

「いや・・・」

 

無理だろう。

こいつの反動は半端じゃない。

一昔前の日本人は誤解してるやつが多いが自動車のエンジンを撃ち抜けるだの女性が打てば撃てば肩が外れるなど結構誇張も多い銃だ。

実際は姿勢さえきちんとしていれば女性でもこいつは扱える。

 

「反動が弱いCzで我慢しとけよ」

 

「そうします」

 

そんな会話をしながらキンジの部屋の前に立つ、仲から人の声が聞こえるので誰かいるんだろう。

扉に手をかけ中に入った瞬間、けたたましい警報音が鳴り響いた。

な、なんだ!

 

「かかったわね! デュランダル!」

 

廊下から飛び出してきたのはガバメントを構えたアリアだったが俺の顔を見た瞬間銃を下ろした。

 

「何よ。優じゃない」

 

「い、いいから警報を止めろ!」

 

「え? 聞こえないわ!」

 

「とーめーろお!」

 

俺はけたたましい音を立てる装置に向けて発砲。

デザートイーグルに貫かれてようやく警報は鳴り止んだ。

 

「何するのよ!」

 

「近所迷惑だろ! 開けるたびにこれじゃ死者でも飛び起きるぞ!」

 

「うるさいうるさい! それ直しておきなさいよ!」

 

こ、これをか? 見るも無残に壊れた装置を見て思う。

 

「あらら、これはもう、治せませんよ神崎先輩」

 

マリがひょいと俺の横から顔を出した。

 

「な、なんでその子がここにいるのよ!」

 

「それは、私は椎名先輩のアミカですから先輩の部屋に来るのは当然です」

 

正確には俺の部屋じゃないんだが・・・

正式な俺の部屋は何があったのか跡形もなくけし飛んでいた。

マスターズに問い合わせたらもう、そこに住めと言われたのだ。

さらば、俺の部屋よ・・・

 

「ああ、そのアリア。 マリはデュランダルの尋問を任せてほしいそうなんだが・・・」

 

「それは最後の段階でしょ? 今はダギュラの生徒に用はないわ。 それとも護衛のスキルでもあるの?」

 

「私、戦闘は全く駄目なんです。 ちょっとお邪魔したら帰りますから駄目ですか?」

 

そう言われればアリアも反対する理由も特にないらしい。

しぶしぶと言った感じだが

 

「じゃあ、トラップ仕掛けるの手伝いなさい。 優もよ」

 

「了解」

 

これ以上、アリアに逆らうと風穴なので大人しく部屋の中に入るとキンジと白雪がいた。

 

「あ、優君お邪魔してます」

 

「遅かったな優。 何してたんだ?」

 

「あ、椎名先輩は私とレキ先輩で御飯食べてたんです」

 

再び俺の後ろから現れたマリが説明する。

 

「こんばんは! 星伽先輩! 遠山先輩!」

 

「ああ、優のアミカの・・・」

 

認めたくないがもう、認めるしかないんだろうな・・・

 

「星伽先輩は初めましてですね。 ダギュラの1年紅 真里菜です。 椎名千先輩のアミカでやってます!」

 

「こら!腕に抱きつくな!」

 

ぶんぶんと右を振るがマリは手を離さない。

う、胸が当たってるぞ!

 

「星伽 白雪です。 よろしくね紅さん」

 

「あ! マリでいいですよ! 私名前の方が好きなんです」

 

「な、なななにしてるのよ優!」

 

げっ!

振り返ると顔を真っ赤にしたアリアがガバメントを向けるところだった。

は、離れろマリ!

 

「れ、冷静になれアリア!違うんだ! これは違う! 」

 

焦って後ろに後ずさり何かを踏んだ瞬間、頭に激しい衝撃を受けて俺の意識は暗転した。

か、かなだらい!?一体いつの時代のトラップ・・・なん・・・

こうして、めでたく3度目の気絶を俺は体験するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

サイド 紅 真里菜

 

「椎名 先ぱーい?」

 

ペチペチとマリは優額を叩くが完全に伸びているようだ。

 

「自業自得よ!」

 

アリアはそう言いながらガバメントをしまい自分の作業に戻る。

 

「あらら、どうしましょう先輩方、椎名先輩」

 

「まあ、放っておけば目も覚ますだろ」

 

以外にひどいんですね。 遠山先輩

 

「マリ! ちょっと手伝って!」

 

天窓に手が届かないらしいアリアが声をかけてくる。

 

「はい!」

 

アリアの踏み台になりトラップの設置を手伝いつつ遠山先輩と星伽先輩の言葉に耳を傾ける。

 

「フフフ、粗大ごみも処分しなくっちゃね」

 

そんな声が聞こえてきた。

思ったより混沌としてますねこの部屋の人間関係。

でも、星伽先輩私は応援しませんからね。

だって、遠山先輩には神崎先輩と付き合ってもらわないと椎名先輩が開かないじゃないですか。

私は気付いているんですよ。

椎名先輩がアリア先輩を見る目が他の女の子と少し違うことに・・・

でも、椎名先輩、レキ先輩には結構自然に話してたな・・・

うーん、ライバルは多いってことですね。

でも、最後に・・・を手に入れるは私なんですから・・・フフ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34弾宣告される未来

いいにおいがしたのでがんがんする頭をさすりながら上半身を起こす。

いたた、こぶできてるじゃねえか

 

「起きたか優?」

 

リビングの椅子の上から振り返ってキンジが言った。

 

「ああ、いてて」

 

手を頭にやりながらリビングの椅子に座る。

キンジの前には中華料理のフルコースが並んでいた。

まあ、俺は食ってきたからないのは当然なんだが・・・

 

「で? なんであたしの席には食器がないのかしら?」

 

なぜか、腕組みしてこめかみをひくひくしているアリア

 

「アリアはこれ」

 

絶対零度の声でアリアの前にどんぶりを置く。

丼には大盛りの白米に割り箸が突き刺さっている。

しかも、割ってない。

 

「ひでえ!」

 

「なんでよ!」

 

俺とアリアの声が重なった。

 

「文句があるならボディーガードは解約します」

 

つーんとそっぽを向く白雪にアリアはひりぎりと犬歯を食いしばってからがしゅがしゅと御飯をかきこむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

動物奇想天外2時間スペシャルと日曜動画劇場を見たいというアリアとキンジがチャンネル争いをしているのを見ながらデザートイーグルを解体して整備していると白雪がリビングにカードゲームみたいなものを持ってきた。

 

「キンちゃんこれ、巫女占札っていうんだけど・・・」

 

「巫女占い?占いか?」

 

「うん、キンちゃんのこと占ってあげるよ。 将来のこと気にしてたみたいだから」

 

「ふーん、じゃあやってもらおうか」

 

「あ、面白そうだな。 白雪俺もいい?」

 

占いなんか所詮、判断基準の一つにすぎないがよく、キンジが白雪の占いは当たると言っているので興味がある。

チャリジャックで女難というのも当たってたみたいだし

アリアも興味があるらしくなにそれと録画をセットしてからこちらに来る。

 

「キンちゃんは何がいい? 金運とか恋占いとか恋愛運みるとか健康運占うとか恋愛占いがあるけど」

 

白雪2回恋愛っていったな・・・

 

「じゃあ、数年後の将来、俺の進路がろうなるか占ってくれ」

 

「チッ」

 

ん? 幻聴かな?今、白雪が舌打ちしたような・・・

天使のような笑顔でカードを星型に並べて伏せて並べ何枚かを表に返しが始めた。

 

「どうなのよ?」

 

アリアが尋ねると白雪は少し険しい顔をしていた。

 

「どうした?」

 

「え、あ、ううん。 総運、幸運です。 よかったねキンちゃん」

 

「おい、それだけかよ?何か具体的なこととか分からないのか?」

 

「えっと黒髪の子と結婚します。 なんちゃって」

 

それって白雪のことか?

でも、なんだろう?

白雪何か隠してるな。

あ! まさか、アリアと結婚とかそんな結果が出たんじゃないだろうな?

 

「はい! じゃあ、次はあたしの番!」

 

うずうずしていたらしいアリアが机に乗り出して急かす。

 

「アリアは最後」

 

絶対零度の声をアリアに向けて今度は俺に白雪は向き直った。

 

「優君は何を占いたいの?」

 

横で、アリアがなんでよと!抗議をしているが俺は苦笑しながら

 

「じゃあ、俺も将来かな? 武偵として成功してるか占ってくれよ」

 

「分かった」

 

先ほどと同じようにカードを並べて占いを始める白雪

うーん、俺の将来か・・・

たぶん、アリアの護衛も終わっていて銀色の魔女を捕まえてできたら可愛い女の子が彼女とか結婚とかしてるといいな。

 

「っ!」

 

最後の札をめくった白雪の顔が再びこわばった。

え? なんなんだ?

 

「どうしたのよ?」

 

再びアリアが白雪に聞く。

俺もなんか怖くなってきたので

 

「ど、どうなんだ?」

 

「え? うん武偵として成功するよ」

 

「ハッキリしないな。 まあ、成功するならいいか」

 

「じゃあ、今度こそあたしよ!」

 

白雪は白けた顔で並べた札をめくり

 

「総運、ろくでもないの一言に尽きます」

 

適当すぎる! 白雪、アリアの態度ひどすぎるぞ

 

「ちょっと! ちゃんと占いなさいよ! あんた巫女でしょ!」

 

「私の占いに文句いうなんて・・・許さないよそういうの」

 

「―闘ろうっての?」

 

ばちばちと火花が散り始めたので

 

「おい! たかが占いごときで・・・」

 

「「たかが占い?」」

 

アリアと白雪の声が重なり火花が出る視線が俺に向けられる。

こ、こええええ

だが、敵は俺ではないと2人は考えたのか再び火花を散らし合いながら

 

「アリアが戦いたいんだったら、私は受けて立つよ。 星伽に禁じられてたから使わなかったけど、この間はまだ、切り札を隠し持ってたし」

 

し、白雪も切り札もちか・・・

やはり、戦いたくないな

 

「あたしだって切り札・・・えっと2枚隠し持ってたもんね」

 

「あたしは3枚隠してました」

 

「じゃあ4枚!」

 

「5枚!」

 

「いっぱい」

 

「あー!もう静かにしろ! お前らなんで占い一つ平和にできないんだよ! 優」

 

俺はアリアを後ろから脇を抱えて押さえつけ、キンジも白雪を抑えつける。

 

「ふーんだ」

 

アリアはするりと俺の腕から抜けると俺の耳を掴む。

 

「いたたたた! 何するんだアリア!」

 

「うるさいうるさい! 来なさい優!」

 

俺はアリアが占有している個室に引きずりこまれドアを閉める。

中にはコネクトから借り手きた通信機器が置いてあった。

ようは手伝えと言うことだろう。

ああ、これどう使うんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その日の深夜。

全員寝静まり、トイレに行ってふらふらとリビングを横切ろうとした時

 

「優君」

 

「白雪?」

 

闇で姿は見えないが声が聞こえてくる。

 

「どうしたんだ? こんな夜中に?」

 

「うん、占いの結果を知らせようと思って・・・」

 

「武偵として成功するんだろ?」

 

「あれは嘘なの」

 

「嘘?」

 

「優君・・・今、私の護衛のほかにクエスト受けてるよね?」

 

「受けてるよ」

 

アリアの護衛ということは伏せて言うと白雪は深刻そうな声で

 

「そのクエストはすぐに放棄した方がいいよ。 占いの未来はそのクエストをたどった先にあったから」

 

「引っかかる言い方だな? クエストを受けてたらどうなるんだ?」

 

「何年後かは分からない。 1年先かあるいは明日かもしれない未来に優君は剣で貫かれる」

 

「・・・」

 

それが、俺の最期なのか?

 

「それは、俺が死ぬ瞬間ってことか?」

 

「それ上の未来は見えなかった。 おそらくはそういうことだと思う・・・優君が死んだらキンちゃんも悲しむと思うからクエストを・・・」

 

「ありがとうな白雪」

 

俺はそういうとベッドに足を向ける。

 

「クエストを放棄するんだね?」

 

俺は闇の中で足を止めて

 

「しない。 この、依頼は完遂する。 元々、占いなんて判断基準の一つしかないんだし。 誰が相手だろうと俺は死ぬ気はないからな。 この件はキンジ達には内緒な」

 

「そう・・・」

 

悲しそうな声が布団に入る俺の耳に届くのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35弾黒衣の襲撃者

アドシアートの準備委員会に行くと言う白雪の護衛をキンジに任せて俺は校内の1室でノートパソコンを開いて情報を収集していた。

理子がいなくなったので少し、時間がかかるがこの前はそもそも信頼していた相手が敵だったわけだからな。

 

「ふぅ・・・」

 

ノートパソコンを閉じて誰もいない教室を見渡してから携帯電話を取り出す。

 

「ん?」

 

見ると着信アリとなっていたが非通知の相手だった。

依頼主かと考えるが用があるならまた、かかってくるだろう。

 

「そろそろ帰るかな」

 

パソコンをかばんにしまってから教室を出た瞬間見覚えのある後ろ姿を見つける。

 

「あれ? 白雪?」

 

俺が声をかけるより早くその影は廊下の向こうに消えてしまった。

追うかどうか迷うがどうせ、近くにキンジもいるはずだから気にかけないでおく。

 

「椎名先輩はっけーん!」

 

その時、どーんと後ろに衝撃があり誰かが背中に抱きついてきた。

 

「うお! マリか!」

 

勢いに一瞬前に足を踏み出すが彼女は悪びれた様子もなく。

 

「昨日は椎名先輩伸びてましたから挨拶できませんでしたが今日も、お供しますね」

 

「いや、白雪の護衛はお前じゃ無理だろ!」

 

「でもほら、最後の尋問は私がやりますから関係者ですよ私は。 もう、マスターズに単位の申請もしてますし」

 

「いつの間に・・・」

 

なし崩し的にマリも白雪の護衛パーティーに加わってしまったようだ。

 

「レキ先輩もパートタイムですけど参加してますし神崎先輩の許可ももらいました」

 

「レキも?」

 

昨日は断ったレキの顔を思い出しながら言うとマリは、はいと頷いた。

 

「神崎先輩が雇ったみたいですよ? アドシアートの練習の合間しか参加しないそうですけど」

 

アリア・・・情報は共有しようぜ・・・俺、知らなかったぞそれ

 

「じゃあ、そろそろ星伽先輩迎えに行って帰りますか先輩?」

 

「そうだな・・・いや、その前にちょっと出かけるか」

 

「どこにですか?」

 

「ちょっと約束があるんだよ」

 

「私も行きます!」

 

「駄目だ! ついてくるな!」

 

俺はそう言って窓から飛び降りるとワイヤーを使って一気にマリを引き離す。

後ろから椎名先輩ひどいという声が聞こえてくるが知ったことじゃない。

1人でこいと言われてるからな。

 

 

 

 

 

 

その約束とは武偵弾の職人からの引き取りである。

依頼主が紹介してきた奴は変わった奴で直接取引しかしないのである。

100万円を渡して武偵弾1発を受け取って学園島に戻ってきた時にはすっかり遅くなってしまっていた。

時刻は9時半を回っている。

やばいな、アリアに何言われるかわからんぞ。

大急ぎでキンジの寮に向かう途中

生温かい風が髪をゆらした。

それに気づけたのは幸運としか言いようがない。

 

「何!?」

 

満月の光から影ができて視界が少し暗くなった瞬間、俺は右に飛んでいた。

 

ガアアアン

 

とアスファルトが粉砕される。

 

「ちっ!」

 

飛びながらガバメントを引き抜くと襲撃者に向ける。

奇妙な襲撃者だった。

顔や髪をすっぽり覆う仮面、体を隠すような黒いマント、そして、それとは対照的に

襲撃者の背丈はあろうかと言う巨大な西洋式の剣が手に握られている。

デュランダルという言葉が脳裏に浮かぶ。

情報収集の段階でデュランダルは剣の使い手という情報を見たのだ。

何が起こってるかよくわからんが、なら丁度いいじゃねえかここで逮捕すりゃ白雪の護衛は終了だ。

 

「デュランダルかお前!」

 

確認のために行ってからガバメントを3点バーストで放つ。

だが、襲撃者は大剣を盾のように構えて銃弾を弾く。

同時に、地面をけりすさまじい速度で接近してきた。

はええ!

横殴りの一撃を街灯に巻きつけたワイヤーを引き戻してかろうじてかわす。

強い!

本気で戦わないと殺される。

襲撃者は武偵憲章など関係ないのか殺す気の一撃を繰り返している。

だが、戦闘狂モードの発動はこの状況では難しい。

発動条件の1つは30秒の黙とうが必須だ。

後の方法はこの状況では使えない。

そう、強者相手に30秒は致命的な隙になる。

都合よく援軍がくるという展開は期待せずアスファルトの上に着地する。

相手は接近戦一筋なのか再び接近してくる。

 

ドドドン

 

45ACP弾をものともせず接近してくる相手

銃弾を切る銃弾切りまで使いものともせず迫ってくる。

ならば

俺はデザートイーグルを抜くと相手に向ける。

それでも、敵の接近は止まらない。

こうなれば、アル=カタで至近距離からこいつをぶち込んでやる。

 

「デュランダルは超偵という話だ」

 

脳裏に浮かんだ依頼主の言葉が浮かんだのは間一髪

横殴りの一撃を下にもぐりかわした俺がデザートイーグルを叩き込むより早く敵は左手に小太刀を持ちふるったのだ。

かわせない!

デザートイーグルで受け止めるか迷ったが右手の防弾制服でその一撃を受ける。

 

「ぐっ!」

 

バッドで殴られたような衝撃を受けながら俺は交代する。

見ると受けた部分が少し焦げている。

炎を使う超偵か・・・

小太刀から青白い炎が纏われており、その炎は大剣に映りゆらゆらと陽炎を起こす。

襲撃者が小太刀をしまい人差し指をくいくいと自分の方にまげてさあ、こいよというように挑発してくる。

馬鹿にしてやがるなこいつ・・・

それにな・・・

 

「てめえ馬鹿にしてのか? 公開させてやるぜ?デュランダルさんよ!」

 

戦闘狂モードの発動。

2つ目のキーは怒り。

特に俺は炎と戦場が重なればこのモードになれる。

 

極限の集中と戦闘狂モード

体に仕掛けてあるワイヤーと拳銃で無数のパターンを作り出す。

デザートイーグルとガバメントを手に持ちじゃりとアスファルトの地面を横に少し移動する。

相手は、これを待っていたのか両手で剣を握り直すと下段に剣を構え直す。

互いの距離は10メートル。

動いた瞬間、勝負は決まる。

そんな、状況。

 

「答えろよ。 てめえ何者だ? デュランダルなのか?」

 

「・・・」

 

相手は何も答えない。

その時だった。

 

ドドドン

 

突然の銃撃に襲撃者が後ろに飛ぶ。

 

「優!」

 

「アリアか!」

 

アリアが路地裏から飛び出してきてガバメントを連射しながら俺に走り寄ってくる。

 

「大丈夫なの! 銃声が聞こえたから来たんだけどなんで優が襲われてるのよ」

 

「知らねえよ! デュランダルに聞け」

 

「あいつがデュランダル?」

 

交代してこちらをうかがうように動かない敵をアリアは見る。

 

「気をつけろアリア。 あいつは、炎を使うぞ」

 

「優、援護しなさい。 アル=カタで行くわ」

 

「はっ! 悪いなアリア。 逆だ。 俺が前衛に立つ。 あいつを沈める手札はもう、俺の頭の中にあるからな」

 

アリアがはっとして

 

「それが、優の覚醒モードなのね? いいわ。 やってみなさい」

 

「ああ」

 

そういうと俺は地面をける。

後ろからアリアがガバメントで牽制しながら敵が動く。

あのマント防弾製らしく貫通には至らないようだ。

大剣を小枝のように扱う相手を沈める方法はある。

それに、剣の相手は昔、実家でさんざん叩き込まれているからな。

右手のみで大剣をマントの敵が振り下した瞬間

 

ガアアンン

 

金属と金属が激突する音と共にマントの敵の剣が浮かび上がった。

続けてマントの男が数回、衝撃を受けるようなしぐさを向ける。

こいつは、狙撃・・・まさか、レキか!

最大のチャンス

相手の懐に潜り込もうとした瞬間、男がマントから何かを放り出す。

 

「しまっ!」

 

目を閉じようとした瞬間、閃光手投弾が炸裂した。

後ろに交代しながら一時的に失明している状態で全神経を集中させる。

今、襲われたらと恐怖が襲うが相手の襲撃はなかった。

 

「優!」

 

後ろからアリアが駆け寄ってきたのが気配で分かる。

 

「アリア! 敵は!」

 

「逃げたわ。 レキ、犯人まだ、追えてる?」

 

携帯電話の相手はレキのようだ。

 

「目標を見失いました。 追撃は不可能です」

 

「ありがとうレキ助かったわ」

 

そういうと、アリアは携帯の電源を切った。

 

「優! キンジの部屋に戻るわよ! あいつ白雪の所に行ったかもしれない!」

 

そう言って、アリアは路地においてあったらしいカバンとももまんが大量に入った紙袋を持って走り出した。

 

「お、おい! 待てよアリア!」

 

ああ、なんでこうなるんだか・・・

護衛してるつもりが自分が襲われるなんて情けないよな本当に・・・

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36弾風穴タイム

「・・・やめて! 離して!」

 

「おとなしくしろ!」

 

そんな会話聞こえてきたので

くそ! 遅かったか!

 

「キンジ! 白雪!」

 

ドアを蹴飛ばすようにアリアと飛び込んだが・・・

俺とアリアが見たのは白雪の巫女装束をまるで脱がすかのように掴む上半身裸のキンジと巫女装束の白雪だった。

アリアの持っていた松本屋のももまんが1個転げ落ちて白雪の足に当たる。

 

「お前ら何やってんだ?」

 

「こ・・・こんのぉおおお・・・」

 

がる・・・がるるるとライオンのようなアリアのうなり声

 

「この馬鹿キンジぃいい!」

 

俺が止めるより早くアリアがガバメントをキンジに向け発射する。

 

「うお!」

 

慌ててキンジがかわす

 

「お、おい!やめろってアリア! キンジ上半身裸なんだぞ! 死ぬって!」

 

後ろからはがいじめにしてアリアを止めるがアリアは収まらない。

 

「―ちょっ、ちょっと任せたらこれ? この 強猥魔! 死ね!」

 

「ぐあ!」

 

アリアの右足が俺の股間に直撃し俺は激痛に後ろに倒れる。

お、男の急所だそこは・・・

俺が倒れたため、アリアはガバメントを連射しキンジを後退させていく。

そして、ついにキンジをベランダまで追い詰めてしまった。

ちなみにベランダの下はきたない東京湾だ。

 

「あ、ああああたしに強猥したあげく今度は白雪!? こ、このど変態!」

 

「ち、違うのアリア! もう、負け惜しみはやめて!」

 

白雪に妙なことを言われアリアが振り返る。

 

「な、なんであたしが負け惜しみなのよ!」

 

「あれはキンちゃんが無理やりしたんじゃないの! 合意の上だったんだよ!」

 

そうなのか!

 

「ご、合意!?」

 

「そ、そうなのあれは私が自分で脱ごうとしてたの!だから、キンちゃんは悪くない!」

 

「ぬ、脱ぐってあんた達なにしようとしてたのよ!」

 

その隙を見て、白雪がアリアから拳銃を奪おうとするがアリアに投げ飛ばされてきゃんと悲鳴を上げる。

 

「って、いうか―た、たたたた例え合意の上であったとしてもォーっ! キンジ! そ、そそそれはボディーガードのタブーよ!」

 

白雪の上を乗り越えてアリアがキンジに迫っていく。

キンジが助けてくれと俺に目を向けてくるが俺は別にキリスト教徒じゃないが十字に切った。

 

「な、仲良しぐらいならまだ大めに見るけど!く、クライアントとそ、そういう関係になるなんて武偵失格! 失格大失格ぅ!」

 

バリバリバリと銃弾の嵐がキンジを襲いキンジはベランダから腰のワイヤーで宙づりになった。

 

「アタマ冷やしてきなさい! 浮き輪はあげない!」

 

非常なアリアの銃弾はキンジのワイヤーに命中し、キンジがまるでゴミのように落下防止用のフェンスに当たりバウンドしてバシャアアンと海に落ちてしまった。

 

「アリア・・・かわいそうだからこれぐらいで・・・」

 

「強猥魔をかばうなら風穴」

 

「なんでもないです・・・」

 

バシャバシャと下から聞こえてくるがすまないキンジ・・・死ぬなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の日、見事に風邪をひいてしまったキンジを置いて3人で学校へ

白雪が最後まで残ると聞かなかったがキンジを休ませてあげてくれ白雪さん・・・

なんとか学校について1時間目が終わった休み時間、俺は屋上にいた。

 

「昨日は大丈夫だったか? 一時的に失明しただろ?」

 

「片方の目は閉じていました。 それに失明は一時的なものでもう回復しています」

 

無表情にドラグノフ背撃銃を肩にかけ風に髪を揺らしながらまっすぐとフェンスの向こうを見るレキを見ながらコンビニで買ったアイスティーを飲みつつ周知メールで黒衣の襲撃者のことを見ながら

 

「たく、デュランダルの野郎護衛の排除に目的を変えたのか?」

 

あいつがデュランダルと言う確証は全くない。

だが、一つ言えるのはあいつは強い。

全て手を明かしたわけではないがレキが狙撃で援護していなければ勝てていたかと言えば絶対勝てたとは言い切れないのだ。

それに・・・

炎・・・

嫌な光景だ。

椎名の家を追い出されるきっかけになり俺が武偵になることを決意させたあの事件でも炎が周りを包んでいた。

あの時の記憶はほとんどない。

ただ炎に揺れる銀の髪の魔女。

今、思えばあいつも超偵だったのかもしれない。

いや、

武偵でないなら魔女と言う方が正しいかもしれない。

 

「・・・優さん」

 

レキの声にハッとして顔を上げるとレキが下に向け指を指していた。

 

「どうしたレキ?」

 

「アリアさんです」

 

「アリア?」

 

フェンスから下を見ると長いツインテール揺らしながらをアリアが校庭を横切り、門に向かっている。

もうすぐ、2時間目だぞ?

さぼるのか?

あ、まさかかなえさんの面会か?

 

「レキ俺、2時間目サボる。 白雪の護衛俺らがいない間、頼むな」

 

「・・・」

 

こくりとレキは首を前に倒したのでまた、飯おごるよと言ってからワイヤーで校庭に降りるともう見えなくなったアリアを追うため門から外に飛び出すのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37弾最強の戦闘狂

俺が前にアリアに見つかったのは戦闘狂モードじゃなかったからだ。

あっさりとアリアを見つけた俺は電車を乗り継いでとある駅に降りる。

ここは・・・

上野駅だ。

アリアは武偵高の制服のまま携帯電話を見ながら歩いていく。

GPS機能を使ってるみたいだな。

ああ、ここは・・・

予想通りアリアはとある薬局に入っていった。

にやにやしながらアリアが出てくるのを待ち

 

「よう、アリア」

 

「ピッ! ゆ、優! なんでここにいるのよ!」

 

アリアはびくりとして飛びあがって言う。

 

「クエストの帰りだ」

 

無論、嘘だがアリアには余裕がないらしい。

 

「そ、そうなの」

 

「ああ。それキンジのだろ?」

 

アリアは慌てて紙袋を後ろに隠す。

 

「ち、違うわよ! これは別に・・・」

 

ばればれだってアリア

 

「キンジを東京湾に叩き落としたの後悔してるんだろ? 早く持って言ってやろうぜ」

 

「う・・・ううう」

 

アリアは顔を真っ赤にしながら何かを言いたそうにしているが結局、認めるしかないのかついてくる。

なんだかんだ言ってもこの子は優しいんだ。

付き合いは短いがそれは俺にも分かる。

まあ、日常の風穴を無くしてくれればいいんだが・・・

駅に向かいながら

 

「ゆ、優、黒衣の犯人のことだけど・・・」

 

ああ、あれか

 

「何か分かったのか?」

 

「分からないの。 レザドも何も掴めてないみたい。 あれがデュランダルだとしたら納得できない点もあるけど・・・」

 

確かに今に至るまで確信的な情報を掴ませなかったデュランダルが情報を掴ませるのは妙な話だ。

となるとあれは・・・

 

「あれ? そこにいるのは椎名君かな?」

 

声に振り返るとそこにはスーツ姿のイケ面の男が立っていた。

ネクタイをつけずに胸元を開けているいわゆるホステスのような優男

 

「げっ!」

 

本心からそういうと優男は

 

「御挨拶だね椎名君。 その子は彼女かい?」

 

「か、かの・・・」

 

アリアがぼぼぼと赤く赤面してしまうのを片目に

 

「違う!久しぶりだな 沖田 刹那」

 

沖田はアハハと笑いながら

 

「確かに久しぶりだね。 模擬戦で叩き潰した以来かな?」

 

「今やれば俺が勝つ」

 

「へぇ」

 

沖田の目が細まる。

 

「ゆ、優この人は?」

 

アリアが訪ねてくるのでしかたなく

 

「沖田 刹那巡査部長。 公安0課の糞野郎さ」

 

「アハハ、椎名君。 あまり調子に乗ってると殺すよ?」

 

それは冗談ではない。

公安0課は殺しのライセンスを与えられた集団だ。

キンジの父もそこに所属していたらしいがこの集団は戦闘のプロだ。

この沖田に俺は数年前半殺しに会っているのだ。

 

「今やろうか?」

 

本気で言うと沖田は笑いながら

 

「君を半殺しにするのもいいけど僕はこの後デートなんだ。 そのつもりはないよ」

 

「またかよ・・・何人目だ?」

 

「ハハハ」

 

沖田は笑って答えない。

こいつは、付き合っている女の数は計り知れない。

美形というのあるがこいつは一言で言うなら危ない感じを纏っているのである。

危険な香りがする男に引かれる女性は少なくないということ

公務員だから給料も安定してるし。

 

「ここで、会ったのも縁だね。 コ―ヒーぐらいならおごってあげるよ」

 

「いらねえよ!」

 

本気でおれは言う。

正直言えばこいつは嫌いだ。

1度半殺しにされた過去もあるが性格が嫌いなのだ。

 

「そう言わないでおごられなよ。 それに神崎 かなえの娘とも話してみたいしね」

 

 

「っ!」

 

アリアの目が見開かれる。

 

「ママのこと知ってるの?」

 

沖田は微笑みながら

 

「冤罪をかぶせられてる 人なら知ってるよ」

 

「・・・」

 

公安0課は公務員であり警察官である。 それが冤罪と言うのは問題がある。

だが、沖田はそれを問題とは捉えていないようだった。

 

「上から圧力がかかってるから冤罪きせられてるけど無罪でしょあの人?」

 

「・・・」

 

アリアは何も言わない。

 

「まあ、僕ら公安には関係ない話だけどね。 後ろにいる組織が相手なら僕が皆殺しにしてあげるけど」

 

「後ろの組織だと?」

 

 

「あれ? 知らないの?」

 

アリアがぐっと唇をかむのが見えた。

 

あれか・・・イ・ウ―・・・存在を知るだけで消される可能性がある組織。

俺が戦うべき組織だ。

 

「まあ、それはおいとこうか。 僕、現金がないんだちょっと銀行についてきてよ」

 

どうするとアリアに視線を向けるがアリアは情報がもっと欲しいらしい。行くわよと指で俺に知らせる。

こいつとはあまりかかわりたくないんだが・・・

こうして、俺達は沖田と銀行に入ったのだが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめえら動くな!」

 

なんでこんなことに・・・

沖田が受付に呼ばれて進んだ瞬間銀行強盗が押し寄せたのだ。

覆面をかぶった5人組の男が拳銃を構えて金を出せと受けつけに言っている。

 

(アリア)

 

俺はまばたき信号でアリアにどうするか聞くがアリアは現状維持を俺に通達してくる。

人質がいる以上妥当な判断だ。

だが、次の瞬間、俺は目を見開く。

 

「お姉さん。 20万おろしたんだどいけるかな?」

 

まるで強盗なんていないように沖田は受付に肩肘をついて笑顔で話しをしている。

 

「え、あの・・・」

 

受付のお姉さんが困ったような顔を浮かべた瞬間

 

「てめえ! なめてんのか!」

 

安全装置すらついていない悪質な銃、黒星を沖田に向けるリーダーらしい覆面の男

 

「うるさいね君」

 

ドオオン

 

次の瞬間、リーダーの男が悲鳴を上げた。

 

「ぎ、ぐわあああ!」

 

見ると男の人差し指が吹き飛んでおり黒星が血痕とともに床に落ちている。

 

「て、てめえ!」

 

仲間の強盗が銃を撃とうとした瞬間、沖田が動いた。

 

ドドドド

 

4発の銃声

男たちが悲鳴を上げて倒れる。

殺してこそいないがあれはもう戦闘不能だ。

 

 

「邪魔しないでもらいたいなぁ」

 

沖田はデザートイーグル2丁をしまいながらリーダーの男の肩を踏む

 

「ぎ、ぎああ!」

 

血がにじむ場所をぐりぐりと踏みながらデザートイーグルを男の額に向ける。

沖田は口元を歪め悲鳴を楽しむようにぐっぐっと力をこめる

 

「君みたいなクズは死んでもいいよね?」

 

「え? あ・・・助け・・・」

 

涙を流しながら強盗が言う。

圧倒的な戦闘力。

大型自動拳銃デザートイーグルを2丁同時に使いこなしているこいつは悔しいが強い。

沖田は笑いながら

 

「駄目だよ」

 

引き金に力が籠った瞬間

 

「やりすぎよ!」

 

アニメ声と共に沖田が後退する。

 

「公務執行妨害だよアリアちゃん」

 

沖田は笑いながらデザートイーグル2丁をアリアに向ける。

対するアリアはガバメント2丁を向けながら

 

「あいつらは戦意を失ってるわ! これ以上は必要ない!」

 

「ふーん」

 

沖田はアリアに銃をむけるが

 

「やめろよてめえ」

 

おれが立ちふさがると沖田はふっと笑みを浮かべて銃をしまう。

 

「犯罪者をかばうのは罪だけど。まあ、いいよ」

 

その瞬間、警官が飛び込んできた。

沖田は警察手帳を見せながら人の波に消えていった。

 

「優・・・あたしあいつ嫌い」

 

「ああ、俺もだよ」

 

キンジの父が所属していたと言う公安0課。 殺しのライセンスを持つ集団・・・

全てが沖田のような正確ではないのは分かっているがなんともやりきれない気分だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38弾その名はももまんフルスペシャル

キンジの部屋に戻った時はすでに昼になっておりアリアが荒い息を吐いて眠っているキンジの横にそっと 特濃葛根湯を置いて、そっとキンジの額に小さい手を置いている。

 

「・・・」

 

俺はその光景を静かに見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

よく晴れたその日、俺は学校の屋上でぽかぽかと日差しを浴びながら携帯をいじっていた。

体育館の方からはアドシアートの練習の音が聞こえてくるが俺はサボりだ。

キーボードを割り振られているが練習はちゃんとしてるから問題はない。

それより・・・

 

「・・・で黒衣の襲撃者がきたんだが」

 

俺はアリアの護衛の依頼主と話をしていたのである。

昨日のことをありのままを伝える。

 

「炎を使う相手か・・・」

 

依頼主は何か考えるような時間をとって

 

「それはデュランダルではないよ」

 

「分かるのか?」

 

「私が集めた情報によればデュランダルは実在する。 そして、能力は炎ではない」

 

「というと別の力か?」

 

「そうだ。 だが、君にこれ以上教えることはできない」

 

「え? なんでだよ。 知ってるなら教えてくれよ」

 

「私は君のサポートは約束したが排除は君の仕事だよ。 相手が使う力を見定めて戦うのもいい経験になる」

 

意地悪だな今日の依頼主は・・・

 

「じゃあ、それはもういいけど黒衣の奴のことなんだがあんた知ってるだろう?」

 

「残念だが分からない。 しかし、しばらく襲撃はないだろう」

 

「まさか、あれがあんたなんて言わないよな?」

 

「フッ、 もしそうならどうするのかな?」

 

「どうもしないさ。 ただ、あいつが現れたら今度は捕まえてやる」

 

どの道暴行罪の現行犯で逮捕する権利はある。

だが、実質Sランク3人を相手に立ちまわった奴だから警戒は必要だが・・・

 

「少なくても君がデュランダルと対峙するまでは、黒衣の相手は動かない。 そう私の推理は結論している」

 

「推理ね・・・」

 

そこまで言った時

 

「だーれだ」

 

俺の目が真っ暗に染まる。

 

「・・・」

 

無言で携帯の電源を切ってから

 

「マリだろ?」

 

「正解で―す♪ サボりですね椎名先輩」

 

にこにこしながらすとんと俺の横に女の子座りをしたマリは俺の方を見てくる。

 

「なんだよ?」

 

「なんでもありません。 ただ、先輩の隣にいるのが嬉しいだけです」

 

よくわからんのだが・・・

 

「マリはアドシアートの手伝いはしないのか?」

 

「1年ですからね。 雑用はありますけどクエストを受けてる私はあまりやることがないんです」

 

「ふーん」

 

ああ、白雪の護衛ね・・・

とはいえ、マリが戦うような状況はまずないと思いたいけどな。

 

「ところで椎名先輩さっきの電話なんですが・・・」

 

♪♪♪

 

「ん?」

 

携帯の着信メロディーが鳴ったので画面を見るとアリアだった。

 

「もしもし? アリアどうし・・・」

 

「優! 今どこにいるのよ!」

 

おいおい、声からして怒ってるぞアリア

 

「な、何かあったのか? 今屋上だが・・・」

 

「すぐに校門まで来なさい!」

 

「待てって何が・・・」

 

「風穴!」

 

「分かった」

 

ぷつんと電源が切れたので俺は呆れながら携帯をしまう

 

「悪いなマリ、というわけだ。 俺帰るな」

 

「いえいえ、先輩私も行きますよ。 デュランダル関連でしたら大変ですからね」

 

なのが大変なのか分からんがまあ、アリアも一人でこいとか言ってなかったしいいかな・・・

そして、30分後

 

「バカキンジ! バカキンジ! バカキンジィ!」

 

ばくばくとももまんを平らげていくアリアを前に俺達はなんといっていいのか沈黙していた。

ちなみにアリア、俺、マリ、レキと言った配置だ。

場所はレキとよく来る中華料理店である。

 

「お兄さんやりますね。 今度はロリですか?」

 

ぐっと親指を立てるのやめろ!

 

「同級生だ!ロリっていうな!」

 

「いえいえ、さすがに3股となるとナイスボートに・・・」

 

「なんだよそれ! ていうかここにいる2人は友達! 後は後輩だから!」

 

最近、1人でもよく来るからこの店員とも知り合いになっていたがどうやらこいつ武偵高の生徒らしい。

学科はアンビュラスというから驚きだ。

まあ、1年らしいマリとは知り合いではないらしいが・・・

名前は天童 アリス

外国人とのハーフらしく髪は黒く蒼い目をした女の子だ。

日本のアニメが大好きでよくそのネタを振られるが俺は分からん。

そして、俺のことを一貫してお兄さんと呼び楽しんでいる。

マリと言い後輩はどうなってるんだ武偵高・・・

 

「で? 何があったんだアリア?」

 

アリスに注文してから俺が聞くとアリアが顔を真っ赤にして怒りをぶちまける

要約するとキンジと喧嘩したらしい。

 

「あれ? 神崎先輩黒衣の襲撃者のこと遠山先輩に説明しなかったんですか? そこを強調して説明したら遠山先輩も納得したかもしれないのに・・・」

 

「あれはデュランダルじゃないわ」

 

「根拠はなんなんですか?」

 

「勘よ」

 

ま、アリアにはシャーロックホームズ1世の推理力が遺伝しなかったらしいからな。

うまく説明できないんだろ

 

「まあ、俺も独自の情報であれがデュランダルでないと考えてるけどな」

 

難しい顔をしていたアリアの顔がぱっと輝く

 

「信じてくれるの優?」

 

「ん?」

 

どうやらキンジの時は勘と言っても全く相手にされなかったらしい

 

「信じるよ」

ここで余計な補足入らないだろうと考えて言うとアリアはそっかぁと嬉しそうにしながらバカキンジも信じたらとか呟いている。

そんな時

 

「お待たせしましたぁ!」

 

「おう、きたってええええええええええ!」

 

俺は仰天したアリスが持ってきたのは山のように積み重なったももまんだった

40個はあるぞ!

 

「な、なんなんだアリスこれは?」

 

「はい? お姉さんが注文したものですけど? ももまんフルスペシャルです」

 

「ふ、フルスペシャルだと!」

 

「ちなみに地獄ラーメンに代わる新メニューです」

 

「!?」

 

ばっとメニューを見るももまんスペシャル・・・あ!あった

 

「い、1万だと!」

 

「はい! 1人で食べきらなかったら払ってもらいますよ」

 

「レキ様!」

 

俺は救世主であるレキに頼もうと見るが

 

「これは誰にも上げないわよ。 あたしのものなんだから」

 

「はい、開始です」

 

「ま、待て!」

 

「あーん」

 

幸せそうにももまんをほおばるアリア

やばいぞ・・・

 

「レキ! いくら持ってる!」

 

ちゅるちゅると醤油ラーメンを食べ始めたレキに聞く

 

「カードしかありません」

 

だあああ!駄目だ!

 

「マリは!」

 

「私今月ピンチなんですよね。 先輩のおごりですから来ましたけど300円しかないです」

 

なんてこった!

 

「アリア! 金持ってるか?」

 

「カードと1000円しか持ってないわ」

 

俺の財布は・・・3000円・・・駄目だ全く足りねえ!

何の因果かここに大人数で来るたびにひどい目に会ってる気がする。

レキは食えたがアリアは食えるのか?

 

「お兄さん大丈夫ですよ」

 

にこにことアリスが俺を見ている。

 

「ん?」

 

「お兄さんは常連ですからつけでいいですよ」

 

「え!? まじ!」

 

「はい、利子は十 四で」

 

「高けぇよ! サラ金でもそこまで高くねえぞ!」

 

まずいぞ本当にまずい

そう思ったのだが・・・

 

「あれ?」

 

見るとももまんは半分以上減っていた。

 

「ば、馬鹿な・・・」

 

アリスが引いている

そりゃそうだろ。

アリアの小さな体のどこにあの量が・・・

 

「あむ、ん・・・幸せぇ」

 

笑顔で頬に右手をあてるアリア

かわいい!っていうか行けるのか!

そして、5分後店の店長が床に両手をあてていた

 

「くっ・・・地獄ラーメンに続いてももまんスペシャルまで・・・兄さんあんたの連れは化け物か?」

 

は、ハハハ

苦笑いしながら満面の笑みでももまんスペシャル制覇という写真をアリアが取られお兄さん!また来てくださいねというアリスの声を聞きながら店を俺達は出るのだった。

女の子の胃ってブラックホールなのかな?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39弾ロボット少女のお部屋

「優どこ行くのよ?」

 

「え?」

 

中華料理店を出て俺が帰ろうとするとアリアが声をかけてくる。

 

「どこってキンジの部屋と言うかもう俺の部屋でもあるが」

 

「帰ったら風穴」

 

「なんでだよ!」

 

そこで、俺はアリアがまばたき信号をしているのに気付いた。

それを読み取ると

デュランダルが盗聴してる可能性がある。

そのため、キンジとは喧嘩したふりをして護衛をキンジ一人に任せる

だ。

ふりって・・・本気で喧嘩したくせに・・・

 

「で、でもそうなると俺はどこに行けばいいんだ? 不知火の家か武藤のとこか?」

 

「レキの部屋よ」

 

「まずいだろ! 女子寮だぞ! っていうかレキはいいのか!」

 

話はついているらしいこくりとレキが頷く

 

「駄目です! 椎名先輩は私の部屋に来てください!」

 

焦ったようにいいだしたのはマリだ。

ええい!お前も女子寮だろうが!

 

「それじゃ意味ないのよ!」

 

「意味ってなんですか! 椎名先輩私の部屋に来てください! 精一杯おもてなししますから」

 

「こ、こら腕を掴むな!」

 

「こいつはあたしの奴隷よ! 優! どちらに行くか選びなさい」

 

1 アリアに従いレキの部屋に行く

 

2 マリの部屋に行く

目の前に選択肢があるみたいな状況じゃねえか!

しかし、アリアにも考えがあるみたいだしここは1だな

 

「悪いがアリアの提案に乗る」

 

「そんなぁ・・・」

 

がくりとマリは肩を落としアリアは当然よと言うようにない胸を張る。

かくして、俺の女子寮ライフが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

女の子の部屋ってぬいぐみとか一杯とかイメージがあるが現実はそうじゃないんだな・・・

レキの部屋に足を踏み入れた俺がいだいた感想はまず、それだった。

一言で言えば何もない。

武器を整備する道具は揃っているがカーペットもカレンダーすらかかっていない部屋だった。

アリアが先に持ちこんだらしい寝袋などはあるがレキの私物がほとんどない。

レキの部屋なのにだ・・・

 

「お前はこんな部屋で生活してるのか?」

 

「・・・」

 

無言でコクリと頷くレキ

 

「ふーん」

 

窓から外を見ると丁度キンジの部屋が見える位置にこの部屋は会った。

なるほどなアリアはここからキンジ達を護衛するつもりらしい。

レキならこの程度の距離、問題なくサポートできるしな

そして、この晩寝袋って寝にくいんだなと俺は実感することになるが困ったのは隣で眠るアリアのクチナシの匂いのせいでどうしても寝れなかったんだ。

クレイモア地雷を仕掛けられなかったのは多少は信用してくれたのかな?

拷問だちくしょう!

隣の部屋ではレキが寝ているはずだがさすがにドアを開くのはまずいからな

リビングの端で俺は目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

それから数日後、レキがキンジに呼び出されたと言う情報を聞いた俺はレキと一緒に学園島唯一のファミレスに来ていた。

 

 

「武藤か不知火の所にいると思ったんだがまさか、レキのところとはな・・・」

 

呆れたようにいうキンジ

 

「まあ、いいじゃねえか。 仮住まいだよ。 アリアと仲直しろよキンジ」

 

「あれはあいつが悪い・・・いもしない犯人に振り回されて・・・」

 

困ったもんだ。

アリアには黒衣の襲撃者の情報はキンジには与えないように言われているしキンジはそこまで警戒してないようだ。

まあ、デュランダルじゃないと言われてるから俺以外がそこまで、警戒する必要はないのかもしれんが・・・

 

「キンジ、多少は警戒しとけよ」

 

「優までそんなこというのか?」

 

少し怒ったような声で言うキンジ

アリアとの喧嘩が尾を引いてる結果か・・・

ヒステリアモードにならないと本当に駄目だな。

 

「悪い忘れてくれ。 そんなに怒るなよ」

 

「いや、俺も悪かった。 それで・・・」

 

キンジから白雪の近況を聞きながら俺達は雑談をかわす。

レキは終始無言。

何度か会話を振ったがこくりと頷いたりふるふると首を横に振るだけだった。

そして。アリアの話になり

 

「白雪とは大違いだ。 特濃渇根湯も買ってきてくれたしな」

 

「はっ? おい、それって・・・」

 

「あ、もうこんな時間か。 悪い優、レキ今日は用事があるんだ」

 

「用事?」

 

「ああ」

 

「用事とは外出ですか?」

 

いきなりレキが口を開いたのでびっくりして俺がレキを見ると

 

「だったらなんだ?」

 

「気を付けてください。 ここ数日は風に邪なものが混ざっている」

 

「うちの高校そのものがよこしまだろ」

 

といって行ってしまうキンジ

あれ! キンジ会計払ってくれたのかラッキー

そして、同時に俺は思い出す。

 

「あ! そういや今日は・・・」

 

俺は横にいるレキを見て少し考える。

 

「なあレキ!」

 

「・・・」

 

無言

 

「今日これから花火大会があるんだよ。 一緒に行かねえか?」

 

「・・・」

 

無言の無言

言ってから俺はとんでもないことを言ったんじゃないかと思い返す。

女の子と出かけるのってデートじゃないのか?

いやいや、違う! レキは友達だ。

ってあれ? レキと俺っていつ友達になったんだ?

去年はクエストでしか接点がなかったのに・・・

ぐるぐるといろいろ考えていたが

 

「はい」

 

レキの声が聞こえる。

 

「はい?」

 

バカみたいな声を出す俺

 

「花火大会に私も行きます。 優さんと」

 

おいおい・・・どうなるんだよこれ・・

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40弾レキデート前編

「なんで今日なんですか! なんで!」

 

電話の向こうから聞こえてくるマリの声

 

「ああ、だから誘ったんだが・・・」

 

「今すぐ行きます! 超ダッシュで・・・」

 

「あ~、何言ってんの?」

 

「きゃっ! 離してください綴先生! 乙女の危機なんです!」

 

どうやら横にダギュラの綴いるらしかった。

ということは学校にいるのかマリは

 

「駄目駄目。 これから・・・えっと・・・そう、犯人の尋問だよ。 紅の担当は12人いるんだからさっさと行くよ」

 

「嫌です! 12人も尋問してたらお祭り終わって椎名先輩がぁ!」

 

「はいはい」

 

ズドン

という音が向こうから聞こえマリの声が止まった。

 

「ま、マリ?」

 

俺が電話越しに言うと

 

「ああ、椎名ぁ? 紅は無理だからあきらめな」

 

ぷつんと電話が切れる。

よくわからんがマリは駄目ということだな・・・

アリアには電話したんだがつながらなかった。

となると武藤や不知火当たりだが野郎を誘ってもなぁ・・・

まあ、たまにはいいかな

 

「じゃあ行くかレキ」

 

祭りだから浴衣を来ているとかそういうこともなくいつもの防弾制服にドラグノフを肩にかけているレキはこくりと頷いた。

ま、レキに限って俺に気があるとかそういうのじゃないのはわかってるさ。 白雪達も行くみたいだから護衛が同じ会場にいる方が安心だからな。

武偵憲章第5条 行動に疾くあれ。 武偵は先手必勝を旨とすべしだ。

 

モノレールや電車を乗り継いで目的地の葛西臨海公園についたときには花火は始まっていた。

レキは無表情に空を見上げている。

うーむ、ここに来るまで会話がほとんどなかったんだよな・・・

ロボットレキは伊達じゃないってか?

 

「おっ! 屋台があるぞ! 行こうぜレキ!」

 

こくりと頷いてくれたが1歩を踏み出さない。

後から後から人が来てはぐれてしまいそうだ。

よし、俺はレキの右手を掴んだ。

小さくてひんやりとしている。

 

「?」

 

レキが不思議そうにこちらを見てきた。

 

「はぐれるといけないからな。 よし! 行くぞ!」

 

状況が分かっているのかいないのかレキは何も言ってこない。

どーんと花火が会場を照らす中、レキの手を引いて屋台を回りまくる。

5分程したときには俺の手には食べ物がこんもりと乗っていた。

 

「おじさん! フランクフルト2つ!」

 

「あいよ! 兄ちゃんデートかい? サービスしてやるよ幸せ者め」

 

「違うって!」

 

そんな何度目かもわからない会話をしながらレキの手にフランクフルト渡す。

食べながらだと手をつなげないのではぐれないように注意しながら歩く。

レキは小さな口でぱくぱくとフランクフルトを平らげていく。

この子はこんな状況じゃないとカロリーメイトしか食べない。

戦闘食としては優秀なんだが味気ないからなあれ・・・

しかし、レキ・・・お前本当に表情1つ変えないんだな・・・

笑えばかわいいだろうという確信はあるのだがそれを実行する手がまるでない。

 

「そういえば、もう終わりなんだな・・・」

 

花火はまだ、上がっているが人が減り始めている。

キンジは間に合ったのかな?

 

「・・・」

 

ぱくりとフランクフルトを平らげたレキは

 

「・・・優さん」

 

「ん?」

 

俺がレキが見ている方を見ると1件の屋台があった。

 

「ああ、射的か? よしやるか」

 

レキの返事も待たずに屋台の前まで来て俺は絶句した。

 

「やあ兄ちゃん。 俺の超豪華射的やってってくれよ」

 

「すげえ商品だな・・・」

 

PS3やPSPといった最新機種のゲーム機やIPODやテレビまであるぞ。 でもあんなものコルク銃じゃ落とせないって」

 

周りにはカスのような商品が置いてあるだけだ。

ひどいのはオヤジのプロマイドとかまである。

誰がほしがるんだ?

 

「やめといたほうがいいよ学生さん」

 

「え?」

 

俺が振り返ると少し気が弱そうな男性が小声で

 

「その屋台ぼったくりなんだ。 絶対に落とせないよな重いものばかりおいて参加者を釣って荒稼ぎしてるんだよ」

 

見ると浴衣の女の子があれとってと彼氏に行っているが商品にはあたっても棚から落ちない。

まあ、PS3だから結構重い。

 

「どうなんだい? 兄さんやるのかい?」

 

「レキ、ここはやめて・・・」

 

「やります」

 

「え?」

 

スナイパーとしてのプライドか何かが火を付けたのかコルク銃を手に取る。

 

「ほらよ。 こいつで落とせたら商品はやるよ。 姉ちゃんかわいいから弾いた玉があたった商品もやるぜ?」

 

それってあんたのブロマイドもだろ!いらないし

 

「っておい!」

 

なんとレキはドラグノフを肩から下ろして構えようとしたのだ。

 

「ドラグノフを使うな! これでやるんだ!」

 

俺がコルク銃を渡すとレキはじーとコルク銃を見ていたがやがて、構え直した。

ふー、そりゃドラグノフならPS3だろうと問答無用で取れるだろうさ。

破壊されるけどな。

レキがコルク銃を構える。

まるでスナイパーのよう・・・いや、本物のスナイパーのレキの周りの空気が変わる。

冷たい空気が背を撫でた気がする。

ほ、本気だレキのやつ

 

ギャラリーも狙撃銃をもった女の子が射的をすると知ってか増えている。

ごくりと誰かが息を飲んだ。

 

「私は1発の銃弾」

 

レキのいつものセリフが会場に響く。

 

「銃弾は人の心をもたない。 故に何も考えない。 ただ、目的に向かって飛ぶだけ」

 

その瞬間強い風がレキの後ろから吹いた。

 

パン

 

軽い音と共にコルクが発射される。

それは、PSPの箱に命中。

ぐらりと箱が揺れ落下を始める。

 

「馬鹿な!」

 

オヤジが悲鳴を上げる。

だが悲劇はそれで収まらなかった。

比較的上の方に配置されていたPSPが落ちた先にはなぜかバケツが置かれていた。

それが風の影響とPSPの激突でぐらりと揺れる。

勢い良くそれがPS3の箱にぶち当たり一番下の棚のPS3が落下する。

 

「ひいいい!」

 

オヤジの顔が青ざめていく。

まあ、当然といえば当然なんだが・・・

 

「私は1発の銃弾」

 

続けてレキは2発目を放った。

正確無比に箱の端に当ててコルク銃でも落とせるように商品をたたき落としていく。

3発4発、命中精度は百発百中だ。

ひでえ・・・自業自得とはいえ高額商品ばかりレキはたたき落としていく。

10万超えるって

 

「や、やめてくれ!じょうちゃんあんたは化け物か!」

 

「私は1発の銃弾」

 

そんなオヤジの声を無視してレキは非情に言い放つ。

そして、とうとうブロマイドを除いて最後に残ったのは巨大な液晶テレビだ。

あれは無理だろ

 

パン

 

最後の銃弾をレキが放つ

それは、屋台の上部に命中する。

 

「?」

 

「は、ハハハ、これはさすがに無理だったようだな?30万のテレ・・・」

 

オヤジが行った瞬間ばちんという音と共に鉄骨がテレビの箱に命中し、下段においてあったテレビに命中するとその存在を床に沈めた。

 

「あ・・・ああ」

 

この世の終わりみたいな顔でオヤジが膝をついた。

ああ、屋台を組み立てる時の鉄骨狙ったんだな。

いい加減に作ったんだろうなこのオヤジ・・・

わああと歓声があがる。

どうやら、誰も高額商品を取れなかったらしいがこの荷物どうするんだ?

もって帰れないぞ

 

「オヤジさん郵送とかできる?」

 

びくりとオヤジが肩を震わせる。

そりゃそうだろわずか1000円程度の銃弾で100万近い損害なんだからな

しかも、渡す気がなかった商品ばかり・・・

 

「か、勘弁してくれ! 金は返す! これを渡したら俺は破産だ!」

 

「いや、あんたも商売人なら覚悟を・・・」

 

「わかりました」

 

「きめ・・・え?」

 

レキの声に振り向く

 

「ほ、本当か!」

 

オヤジが顔を輝かせる。

きめえ

 

レキはこくりと頷くと歩きだしてしまう。

 

「あ、おい! レキ! おやじ金返せ」

 

「は、はい!」

 

「もうこんな馬鹿なことするなよ」

 

「はい!

 

俺はレキの射的の金をもらうとレキを追った。

 

どうでもいいんだが最後に残ってたオヤジのブロマイドが親指立てて笑顔だったのが何かわわえるよな

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41弾レキデート後編

「レキ!」

 

すたすたと歩くレキにようやく追いつくと俺はレキの手をとった。

レキが振り向く

 

「どこ行くんだよ」

 

「キンジさんです」

 

「キンジ?」

振り返ったレキが指さした方を見ると、浴衣姿の白雪とキンジが歩いているのが見えた。

レキは護衛の観点から2人に接近したのだろう。

でもなぁ・・・

俺はレキの手を引っ張る。

 

「?」

 

レキが首をかしげる。

 

「お邪魔は野暮だろ? 祭りも終盤なんだからデュランダルの襲撃もないだろうしな?」

 

周りの情報に敏感なやつだ。

こんな人ごみのなかでは襲ってはこまい。

 

「それではそうするのですか?」

 

レキが聞いてくる。

 

「決まってるだろ?」

 

「?」

 

「最後まで祭りを楽しむのさ!」

 

レキの手を引いて祭りの人ごみの中に飛び込み屋台を回る。

レキは抵抗せずに付いてきてくれた。

そうして、時はすぎ

祭りの最後の花火が上がったとき俺たちは帰るために公園をでる道を急ぐ。

すっかり遅くなっちまった。

射的のオヤジが泣いて神様とレキを拝むのでふりほどくのにデザートイーグルまで使う羽目になった。

キンジたちも帰っただろうな・・・

 

暗い公園を歩きながら俺は無言で歩くレキを見る。

表情は無表情。

結局、俺はレキを笑顔にすることは叶わなかった。

だが、一つ聞いて見たいことがある。

 

「レキ」

 

「はい?」

 

「俺と遊んで楽しかったか?」

 

「・・・」

 

無表情・・・だが、レキはこくりと前に首を倒してくれたんだ。

それだけで報われる気がする。

 

「そっか」

 

その言葉だけで来たかいがあるよレキ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園島に戻り部屋に先にもどるというレキと別れコンビニで雑誌を読んでから

外に出る。

さて、女子寮に帰るかと道を歩いていた時

 

「椎名ぁ!」

 

「あ?」

 

突然の夜の闇の中の怒鳴り声に振り向くと数人の人影があった。

 

「誰だよお前ら」

 

1歩メガネをかけた男が進み出る。

 

「我々はレキ様ファンクラブRRRだ!」

 

「・・・」

 

空いた口が塞がらないんだが・・・

 

「れ、レキ様ファンクラブ?」

 

「そう! レキ様のためのレキ様だけのレキレキファンクラブだ! 貴様椎名 優希! レキ様と同棲するだけでは飽きたらず祭りで、で、デートだと!許すまじ!」

 

ああ、そういえば学校にはレキを神様と崇める熱狂的なファンクラブがあったな・・・

こいつらがそうなのか?

 

「で? そのレキ様ファンクラブがなんのようだ?」

 

「決まっている!」

 

メガネの男の後ろからデブの男が進み出る。

 

「すぐにレキ様から手を引け! このハーレム野郎! 貴様はロリと後輩で満足しておけ!」

 

「はっ? デートだとか後輩とかロリとか意味わかんねよ。 俺とレキは友達だ。 手を引くとかはねえよ」

 

「そうか・・・なら、貴様は抹殺するとまではいかなくても半殺しにあってもらおう」

 

まあ、殺したら武偵3倍の刑で最悪死刑だからな・・・

 

「てか、お前思い出したぞ! アサルトの村上だろう!」

 

「そのとおり! レキ様ファンクラブ会長村上 正だ!」

 

確か、アサルトでは中くらいの位置にいる奴だったなランクは確かCだった気がする。

 

「椎名 優希貴様の力は知っている! だがAランクといえこの人数に勝てるかな?」

 

ぞろぞろと路地裏から武偵高の生徒が出てくる。

まじか! レキ様ファンクラブって何人いるんだよ!」

 

「フフフ、我ら行動派以外もファンクラブがあるぞ」

 

ざっと数えて20人か

戦闘狂モードでやるか?

さすがに、20人、ランクを識別できない状態で戦うのはきつい。

だが、30秒目をつむらないと・・・

 

「ものどもかかれぇ!」

 

しかし、そんな時間が与えてもらえなかった。

20人が臨戦態勢に入る。

その瞬間、数人の銃や剣が弾き飛ばされた。

 

「なっ!これは狙撃!」

 

「レキか!」

 

「ば、馬鹿な! レキ様はここまでこの変態を・・・」

 

おい!変態ってなんだよ!

 

「かくなる上は傷ぐらいは!」

 

構えたのはドイツのMP5 短機関銃2丁だ。

 

ガアアン

 

しかし、それも狙撃によりはじかれる。

 

「くそ! 撤収だ!」

 

村上達が逃げていく。

なんだったんだ?

その後、レキの部屋に戻ってレキにお礼を言ったのだがレキはこくりとなずいただけだった。

うーん、アリアといるのも面白いけど結構この子といるのも面白いかもな

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42弾ケースD7発生

連休が終わりアドシアートが始まった。

女子寮ライフもなんとか慣れてきて寝不足も解消してきている。

俺たちのアルカタは閉会式なのでやることと言えば白雪の護衛関連なのだが白雪の姿を俺は見失っていた。

理由は簡単報道の控え室に続く控え室のシフトなのだ。

具体的にいえば12~14時の2時間。

 

「暇だな・・・」

 

「アハハ、まあそういわないでがんばろうよ椎名君」

 

俺とこのゲートの担当なのは先に来ていた不知火だ。

13時までのシフトである。

時折、通るカメラマン等の報道を横目に

 

「ところで椎名君は誰が本命なんだい?」

 

「はい?」

 

横を見ると不知火が微笑を浮かべながら

 

「最近椎名君、レキさんとも仲がいいよね。 もう1人後輩に手を出したハーレム野郎って村上君が言ってたよ」

 

あ、あのやろおおおお!

今度会ったら血祭りにあげてやる!

そんな会話をしながら不知火の時間が終わり武藤が交代にやってきた。

それじゃあねと笑顔で去っていった不知火を見て

今度は武藤と雑談を始める。

 

「なあ、優」

 

「ん?」

 

俺はペットボトルのジュースを飲みながら

 

「恋ってなんだと思う?」

 

「ごほ・・・こ、恋? ああ、白雪か?」

 

「ち、違うよばかやろう」

 

「隠すな隠すな」

 

にやりと笑って言ってやる。

 

「優だって女の子とっかえひっかえしてるじゃないか! だから、経験豊富な優にアドバスを・・・」

 

「って待てぃ! 誰がとっかえひっかえだ! 俺は武偵高に来てから1度も恋はしてねえ!」

 

「ってことは昔は付き合っていた子とかいたんだな? 俺はそれすら居ないんだ・・・教えてくれよ」

 

「あ・・・」

 

そう、昔、好きな人は確かにいた。

まあ、今にして思えば叶うはずもない恋ともいえないものだったんだろうがな・・・

その人は俺のあこがれで目標だった。

でも・・・

あいつが・・・

あの魔女が全てを・・・

 

「・・・う・・・優!」

 

はっとすると武藤がこちらを見ていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「い、いやなんでもねえよ。 この話は終わりだ終わり」

 

「まじかよ!」

 

強制的に話を打ち切って俺たちはバイクの免許の話やヘリの免許をとったんだと自慢する武藤の話を聞いて

 

「優、交代だ」

 

キンジがやってくる時間になった。

 

「白雪は?」

 

「今日はまだあってない」

 

「そうか」

 

それだけ言うと俺は外に出ていく。

まず、白雪に電話をかけたがつながらない。

続けてアリアにもかけるが同じく通じなかった。

おいおい、何かやばいことになってなけりゃいいが・・・

白雪を探し回りそろそろ、1時間と少しが経過する時ピピピと携帯にメールが届いた。

 

「周知メールか・・・っておい!」

 

その内容はケースD7発生。星伽 白雪が失踪した。

D7とは事件かもしれないがわからないので連絡は一部のものに行く。 保護対象者のためむやみに騒いではならない。 武偵高もアドシアートを予定通り遂行する。極秘裏に事件を解決せよだ。

 

「くそ!」

 

キンジに電話をかけるがつながらない。

 

「何やってんだバカやろう!」

 

電源を切ってアリアにかける。

 

「優、白雪が消えたわ」

 

「ああ、メールは読んだ。 どうする?」

 

「アドシアートの期間中に人の目をごまかして外に連れ出すのは困難よ。 学園島のどこかに白雪はいる」

 

「捜査範囲が広すぎる!」

 

「わかってるわよ! だから可能性が高い場所から潰していく。 優はジャンクションに向かって」

 

「よりによってあそこかよ・・・」

 

ジャンクションは簡単にいえば武器庫なんだがその場所には凄まじい量の火薬が満載されている。

1歩間違えば学園島が大爆発する大惨事になりかねない。

 

「ああ、もう!」

 

また、貧乏クジ引かされた気分だ。

デュランダルがいるなら怒りをぶつけてやるからな。

俺はケータイの電源を切ってからジャンクションに急ぐ。

武偵高の地下は船の多層構造のようになっており地下2階より下は水面下になっている。

そこまで降りてエレベーターを動かそうと試みるが沈黙して動かない。

 

「ちっ」

 

近くのマンホールをあけワイヤーを固定してたんたんと降りていく。

このマンホールは浸水時の防水の役割を兼ねてるからあけるのに時間がいる。

地下4階 5階と降りてきてマンホールに向かおうとしたとき、俺はワイヤーを後ろに放った。

 

「・・・」

 

ヒュンと風を切る音がしワイヤーが剣に絡まった。

後ろに後退しながら

 

「後ろから不意打ちとは卑怯なマネするな。 やっぱり、てめえがデュランダルか?」

 

「・・・」

 

黒衣の襲撃者は何も答えない。

ただ、ぶんと剣を振るとワイヤーが外れる。

前と剣が違うな・・・

黒衣の襲撃者が持つ剣は以前の大剣ではなく日本刀だった。

あのデザインどこかで・・・

黒衣の襲撃者が動く。

ちっ、やるしかねえか

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43弾優希VSデュランダル

黒衣の襲撃者が何かを投げる。

的外れだ!

足元に突き刺さるそれはヤタガンと呼ばれるフランスの銃剣だ。

猛烈に嫌な予感がし後ろに飛ぼうとした瞬間、左足がぐんとすいつけられるように動かなかった。

何かの薬品か?

敵が接近してくる。

俺は即座に左の靴を脱ぎ捨てると右にデザートイーグル、左にガバメントを構える。

両者とも3点バーストで6連射する。

 

「無駄だ」

 

初めて聞いた黒衣の襲撃者の声は女性のもの。

ぶんとマントを振ると防弾マントに吸い込まれた銃弾はカチンカチンと音を立てて床に落ちる。

 

「どうした椎名? リュパンに聞いたお前はもっと強いはずだぞ?」

 

「お前、理子の知り合いか?」

 

チャンスだ。

薄暗い闇のなかで黙祷を開始する。

 

「お前のことはリュパンに聞いている。 ゆえに・・・」

 

地を蹴る音とともに俺はワイヤーで上部に飛び上がった。

一瞬、遅れて剣が俺がいた空間を薙ぎ払う。

 

「戦闘狂モードにはさせん」

 

黒衣の女は振りかぶるようにヤタガンを投げつけてくる。

左のワイヤーで機動を変えて床に着地し走りながらガバメントを構えた瞬間、右腕に激痛が走った。

 

「っ・・・」

 

見ると右手の一部が避けており血が溢れている。

ピアノ線か・・・

 

「気を付けたほうがいいぞ椎名うかつに逃げ回ればピアノ線で死ぬかもしれんな」

 

なるほど・・・事前準備をしていたのか・・・

 

「お前は特に危険だとリュパンに念を押されたのでな。 ここで死んでもらおう。 だが、もう一つイ ウーにくるという選択肢も存在する」

 

「ふん、それは犯罪者になれってことだろ? お断りだ」

 

「ワイヤーは封じた。 接近戦ならばこちらに部がある」

 

アルカタか・・・だが、脳が警告を発している。

あいつと接近戦をやるのは危険だと。

だがやるしかないよな・・・

口元に笑を作り地を蹴る。

 

もとより、接近戦を望んでいたのだろう。

黒衣の女も滑るように接近してくる。

右に振りかぶった剣をしゃがんで交わすと右のデザートイーグルを撃とうとした瞬間、マントの中からヤタガンが振りかぶられデザートイーグルと激突する。

ぎりぎり押し合いながら左のガバメントを構えた瞬間右手がひんやりとしたかと思うとぱきぱきと氷始めた。

慌ててデザートイーグルを離そうとするが離れない。

 

「捕まえたぞ」

 

女の声が響く。

くそ!

 

ガバメントを撃とうとしたが引き戻された日本刀と激突し手から吹っ飛ぶ。

 

「しまっ」

 

離れようにも氷が右手を固定してしまっている。

右のホルスターからもう1丁のガバメントを取り出そうとするが

 

「遅い!」

 

同じように左手が黒衣の女に掴まれてしまう。

パキパキと音を立てて氷が右手と左手を被っていく。

まずい!洒落にならんぞこの状況は

 

「このまま心臓まで凍らせてやろう」

 

「お、お断りだクソやろう!」

 

右足を相手に叩き込む。

敵が愚かなと言うような感じがしたがブーツは氷に侵食されることなく黒衣の女の腹にめり込んだ。

 

「ぐふ・・・」

 

ヤタガンを離したのを見て後ろに跳躍して距離をとる。

腕を振りかぶって氷を地面に叩きつけた。

がしゃああんと言う音を立てて氷が砕けちる。

手の感覚が全くない。

凍傷にでもかかった感じだ。

 

「ぐっ・・・椎名そのブーツは・・・」

 

「気づいたか? こいつの内面は銀製だ。 対ステルス用のな」

 

なるべく余裕を持つように俺は言う。

馬鹿高いので手までは用意できなかったが切り札でなんとか皮一枚つないだ。

だが、このままでは勝てない。

手が使えず銃ももう、使えない。

そんな状況で頼りになるのは1つ。

手が動かなくても腕は動く。

なら、選択肢は1つしかない。

戦闘狂モードでなくてもあの切り札は使えるはずだ。

そのためには

 

「見せてやるぜデュランダルさんよ」

 

「!?」

 

デュランダルが警戒したように後ずさる。

戦闘狂モードになれば戦闘力が上昇する。

別の知らない方法でなったと思ったのだろう。

そう、これは演技。

一代の芝居だ。

 

「おら! いくぜ!」

 

再び接近戦を挑む。

 

「愚かだな椎名! いかに戦闘狂とはいえもう、手は使えんだろう?」

 

足技を警戒しているのか下に意識を集中させているらしいデュランダルは突きを放ってきた。

剣の戦いは慣れている。

それを交わし懐にもぐりこむとヤタガンがマントの中から振るわれる。

ガアアアンと右手のワイヤーの筒と激突する。

パキパキと氷を作りながら

 

「ふ、フフフ、先ほどと同じじゃないか?」

 

「いーやー?違うなデュランダル」

 

不敵に笑った俺を見て何かあると感じたのだろう。

だが、もう遅い

 

至近距離から右腕、左腕 右腰 左腰 右足 左足同時にワイヤーがと飛び出しデュランダルに激突した。

補足しておくとこのワイヤーは鉄ぐらいなら軽くめり込むぐらいの威力を持つ。

今回、右手以外の先端に付けてきたのは銀の玉だ。

 

「フルバースト」

 

デュランダルがぶっ飛ばされ壁に叩きつけられた。

そのまま、ずるずると崩れ落ちて動かなくなる。

それを見て俺は息を吐きながら勝利宣言をする。

 

「切り札2つめ。 俺を甘く見すぎだろデュランダル」

 

やれやれ、これで事件解決だ。

白雪を見つけてな

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44弾銀の魔女

白雪を見つける前にこいつを縛っておくかと腰のベルトに固定されたワイヤーを手に警戒しながらデュランダルに近づいていく。

ぴくりとも動かない相手は完全に伸びているのだと信じたいところだ。

薄暗い闇の中俺の歩く音だけが響く。

コツコツコツ

カツン

 

「!?」

 

俺の足音に混じった異音に気づいたときには既に敵は剣を振りかぶっていた。

西洋式の大剣を振りかぶった黒衣の襲撃者が横殴りに振るわれる。

その襲撃者の剣の刃ではない幅広い部分でまともに俺は体に受ける。

 

「ぐ・・・」

 

激痛と共に俺は吹き飛ばされ数メートル以上先の壁に叩きつけられる。

 

「がっ・・・」

 

気が遠くなる。

意識が遠のきかけ視界がぐらぐらと揺れている。

だ、だめだ・・・

デュランダルとの戦闘のダメージに加えてこの一撃

左ひざががくりと床におち俺は右手でなんとか床を支えて倒れまいとする。

 

「あらあら、優希ならこの程度軽く交わすと思いましたのに」

 

仮面の下から聞こえてくるのは先程の声とは別の女性の声だった。

 

「だ、誰だ・・・てめえ・・・」

 

床に沈んでいるデュランダルと思われる奴とは違う。

誰だこいつは・・・

 

「わかりませんの?」

 

ゴゥと青い炎が剣から沸き上がる。

そして、仮面とマントを外した相手を見て俺は驚愕する。

 

「ごきげんようですわ。 優希」

 

理子がよくつけているリボンをふんだんに使った黒いゴシックロリータ風のドレス

ツインテールの銀の髪、赤い瞳。

 

「お、お前・・・」

 

見間違うはずがない。

あいつは・・・俺の

 

「あの時は名乗れなかったので自己紹介にきましたわ」

 

にこりと聖女のように微笑む少女は炎を背景にして美しかった。

剣を床に刺しドレスの端と端を持ち左足を1歩下げる。

 

「ローズマリーと申しますの。ローズとお呼びくださいな」

 

「・・・ローズマリー」

 

「はい。 なんですの優希?」

 

戦闘狂モード

激痛に耐えながらも俺は立ち上がる。

 

「俺は・・・お前を逮捕するために生きてきたんだ・・・お前が・・・俺達の人生をめちゃくちゃにしたから・・・」

 

「美味しそうですわ。 でも、今はまだ、食べごろじゃありませんの」

 

右の人差し指を唇に当てて、記憶のなかにある言葉と同じセリフを言うとローズマリーはこつこつと背を向けて歩きだした。

 

「待て! 待てよ!」

 

1歩踏み出すがそれが限界だった。

がくりと足から力が抜け地面に倒れる。

脳震盪状態になってるのか・・・

その間にもこつこつと音は遠ざかっていく。

 

「ちくしょう・・・仇が目の前にいるのに・・・」

 

意識が遠のいていく。

ちくしょう・・・

そして、意識は闇に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・う・・・優!」

 

仇を・・・

 

「優! しっかりしろ! おい!」

 

「椎名先輩!」

 

「う・・・」

 

がんがんする頭を振りながら目を開ける。

 

「優!」「椎名先輩!」

 

キンジとマリだった。

マリは泣きそうな顔で胸に飛び込んでくる。

 

「よかったぁ先輩が無事で」

 

「いたたたた! 離れろマリ怪我してんだぞ!」

 

「あ! すみません。 うれしくてつい・・・」

 

「ったく・・・キンジ状況を教えてくれ」

 

「状況も何も、白雪が失踪したからレキにここを調べるように言われて降りてきたんだ。

地上でマリと会ってついてくると聞かなくて優が倒れてるのを見つけて声をかけたところだ」

 

「デュランダルとローズマリーはどうした!」

 

「ローズマリー?」

 

初めて聞く名前にキンジが首をかしげる。

デュランダルが倒れていた空間を見ると何もなくなっていた。

ローズマリーも消えている。

 

「私たちが降りてきた時には誰とも会いませんでしたけど・・・」

 

逃げたか・・・

いや、ここにはまだ、下がある。

 

「白雪が心配だ。 先を急ごうキンジ」

 

「待てよ優。 何があったんだ?」

 

「ああ・・・」

 

歩きながら要所要所を説明していく。

ローズマリーと俺の因縁は省いてデュランダルとの激突と気絶させたことも話す。

 

「マリは地上に戻れ」

 

「で、でも先輩の話だとローズマリーって敵がまだ、残ってるかも・・・」

 

それを指摘されて舌打ちする。

確かにばらばらに行動するのはリスクがでかすぎる。

援軍を呼ぼうにも局内基地局が破壊されたのか携帯は圏外になっている。

 

「いいか? 俺たちはお前を守る余裕がなくなるかもしれない。 その時は戦おうなんて思うな。逃げろ」

 

「で、でも・・・」

 

「レキか誰かを呼んできてくれ。 それだけでも助かるからな」

 

「は、はい」

 

よし、後は、右手の感覚が徐々にではあるが戻りかけている。

だが、武器はワイヤーとガバメント1丁、左手は使えない。

戦力は普段の半分もなく援軍もない。

頼れるのはヒステリアモードではないキンジのみ。

だが、無理やりヒステリアにするわけにもいかないので現状の戦力でやるしかない。

デュランダルは多少ダメージを負っているはずだから後は、迅速に沈めること。

だが、もうフルバーストは使えないだろう。

あれは、1度見られたら警戒されるからな。

まさに、一撃必中の技だ。

防弾制服でなく、ワイヤーの先がナイフなら確実に殺害できる技でもある。

もっとも9条があるから俺が殺害目的で使うことはないだろうが・・・

開け放たれたマンホールをおりついに地下7階についた。

さて、救出作戦スタートだな

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45弾大ピンチ

人の気配がする。

誰かの話し声も聞こえてくるのを見ると当たりらしい

 

キンジとマリが銃に手を伸ばしたのを見て俺は無言でちょいちょいと上を指した。

見ると

『KEEP OUT』や『DANGER』などの警告があちこちに書かれている。

そう、ここは火薬庫。

誘爆なんてものおこしたら俺たちは100%死ぬし武偵高が吹き飛ぶ。

ばらばらになった高校生の肉片が飛び散るなんて光景想像しただけでもぞっとした。

キンジがバタフライナイフを音がしないように慎重に取り出す。

ものの影に隠れてキンジのバタフライナイフを鏡のように突き出して先を見ると

白雪がいた。

まりが口を開きかけたので慌てて口を抑える。

それで分かったのだがマリは震えていた。

無理もない。

ダギュラでは命懸けの実戦なんて皆無だっただろう。

ぽんと頭を叩いてから大丈夫だと瞬き信号を送るとこくりとマリは頷いた。

 

「どうして、私をほしがるのデュランダル。 大した能力もない私を」

 

怯えきった白雪の声

やはりあいつか

その声は俺が戦ったあの女のものだ。

 

「裏をかこうとするものがいる。 表が裏の裏であることを知らずにな。 和議を結として偽り陰でそなえるものがいる。 だが、闘争ではさらにその裏をかくものが勝る。 我が偉大なる始祖は陰の裏―すなわち光を纏い。 陰を謀ったものだ」

 

「何の話?」

 

「敵は影でステルスを練磨し始めた。 我々はその裏でより強力なステルスを磨く。 その大粒の原石―それも欠陥品の武偵にしか守られていない原石に手が伸びるのは自然なことよ。不思議がることではないのだ白雪」

 

「欠陥品の武偵? なんのこと?」

 

白雪の声に怒りが含まれる。

大して相手の声は嘲るように

 

「ホームズは少々手こずりそうで椎名は予想外の力で向かってきたが撃退してやった」

 

「まさか・・・殺したの優君を?」

 

「さてな? ここに私がいるということがその証拠だろう? そして、遠山 キンジはお前たちをばらばらにすることに一役買ってくれた」

 

「キンちゃんは・・・キンちゃんは欠陥品なんかじゃない!」

 

「だが現にこうしてお前を守れなかったではないか」

 

「それは・・・それは違う! キンちゃんはあなたなんかに負けない!迷惑を掛けたくなかったから私が呼ばなかっただけ」

 

フンとデュランダルが言った。

 

「迷惑をかけたくないか? だがな白雪、お前も私の策に一役買ったのだぞ?」

 

「私が・・・?」

 

「電話を覚えているだろう?」

 

思わずキンジの方を俺は見てしまった。

それほど奴の声まねは似ていたんだ。

キンジの声にな。

 

「すぐ来てくれ白雪! バスルームにいる」

 

「―っ!」

 

白雪が息を飲む

 

「ホームズは無数の監視カメラを仕掛けていたがお前たちの部屋を監視していたのは私の方だ。 お前はリビングの窓際にいて遠山の入っていたバスルームの灯が消え・・・そこに丁度椎名 優希と神崎 アリアが帰ってきた。私はそう言う好機を見逃さない性でな」

 

なるほどな・・・すでにあのときから監視されてたのか・・・

レキの言うこともあながち間違いじゃないみたいだな

 

「キンちゃんのふりして私を動かして私たちを仲間割れさせたの?」

 

「後は転がる石のようにだ。 数日とかからず神崎アリアはお前たちの下から離れた。椎名 優希も同時に離れるのは嬉しい誤算と思っていたが・・・どうやらわざとだったようだな椎名 優希」

 

最後の声はこちらをむいている。

黙祷から目を開ける。

戦闘狂モード

キンジとアイコンタクトで物陰から飛び出す。

 

「白雪逃げろ!」

 

キンジの声と共に俺は銀玉を仕込んだワイヤーを発射した。

しかし、それはデュランダルに当たるより早く何かにぶち当たって床に落ちる。

 

「!?」

 

「そうくると思っていたよ」

 

 

デュランダルが何かを投げる。

まずい!

 

「キンジよけろ!凍らされるぞ!」

 

俺は右のワイヤーを天井に打ち込み空に逃げる

 

「え!?」

 

しかし、対応しきれなかったらしいキンジは床に縫いつけられてしまう。

 

「キンジ!」

 

「次はお前だ」

 

デュランダルが仮面越しに俺を見上げてくる。

 

「遠山先輩!」

 

助けようとでも思ったのだろう。

マリが物陰から飛び出してきた。

 

「馬鹿! 出てくるな!」

 

「で、でも・・・」

 

「まだいたのか?」

 

再びヤタガンをマリに向かい投げる。

俺はワイヤーを操りターザンのようにマリに近づくとマリを蹴飛ばした。

 

「あう」

 

マリはザザザと地面を滑る。

同時にヤタガンが地面に突き刺さりその一帯が氷の床になる。

 

「!?」

 

違和感を感じて上を見ると氷がワイヤーを覆っていっている。

見ると短刀がワイヤーに絡まっていた。

ぴきぴきとワイヤーは氷手に迫る。

 

「くそ!」

 

俺は右のワイヤーを切断して切り離すとバランスを崩して氷の地面に叩きつけられた。

背中から落ちたので床に縫いつけられる。

 

「しまっ・・・」

 

「椎名先輩!」

 

「逃げろ! マリ! 早く!」

 

「嫌です! 先輩を置いて逃げられません」

 

「この馬鹿!」

 

その瞬間、室内の非常灯が消えた。

 

「い、嫌! 何するの!―う」

 

ちゃりちゃりと白雪のいる方から聞こえてくる。

 

「―白雪!」

 

キンジが叫ぶ。

やばいぞこれは、さっきの比じゃない。

殺されるぞ。

 

「くそったれが・・・」

 

渾身の力を込めて脱出にかかる。

 

「まずはお前だ椎名。 死ね」

 

びゅっと刃が降り下ろされるのが分かった。

だけど、恐怖はない。

だってな・・・

そうだろアリア?

 

ぶん―もう一つ刃が飛ぶ音が後ろから上がり―ギン!

空中に一瞬、火花が散った。

 

「じゃあバトンタッチね」

 

「ああ、タッチだな」

 

そのアニメ声に俺は返答した。

 

ちかっと部屋の片隅の天井であかりが灯る。

その体育館が明かりを一周するように付いていく。

 

「そこにいるわねデュランダル! 未成年略取未遂の容疑で逮捕するわ」

 

ぎゅむぎゅむと俺を踏みつけてついでにキンジの頭を踏みつけて現れたのはアリアだった。

 

「ったく遅いだろアリア」

 

「優があまりにも遅すぎたからこっちが当たりみたいね」

 

「ホームズか?」

 

見るとデュランダルの姿は消えている。

白雪も火薬庫の影に引きずり込まれたらしい。

そのとき、銃剣が2本アリアに向けて投げつけられてきた。

アリアは小太刀でそれを弾く

 

「何本でも投げてくれば? こんなのバッティングセンターみたいなものだわ」

 

アリアがバッドのように小太刀を構えると同時にどこかの扉が締まる音がした。

 

「逃げたわね」

 

アリアは俺たちの近くに刺さっていた銃剣を引き抜いてぽいっと捨てる。

 

「まぁ、少しは役にたったわね。バカキンジも」

 

「な、なんだよそれ?」

 

「勇を使え蛮を使え。 賢を使え愚を使えっていうでしょ? バカキンジモードのバカキンジにもそれなりに使い道はあるのよ」

 

「ま、キンジはデュランダルを動かすのに役立ったってわけだ」

 

俺はばりばりと氷を引きはがしながら立ち上がる。

アリアは刀を宙に動かすと何かを切った。

 

「何かあるんですか?」

 

マリが聞くと

 

「ピアノ線よ。 あたしの首の高さにあった。 こっちはキンジと優のぶんね」

 

ぷつんぷつんと刀でそれを切るアリア。

デュランダルめ・・・用心深いやつだな・・・上の階にもピアノ線張り巡らせてたし。

 

「でも無駄無駄。 あたしの目はごまかせないわ」

 

「アリア、デュランダルには強烈な1擊を与えておいた。 追撃をかけるなら早いほうがいい」

 

「その言い方からすると1度戦って逃がしたのね?」

 

「あ、ああ・・・気絶までさせたんだが乱入者がいてな」

 

「それっデュランダル以外にも敵がいるってこと?」

 

「いや、もう逃げたみたいだが前に戦った黒衣のおと・・・いや、ローズマリーっていうステルスだ」

 

ぎりっと歯をくいしばる。

 

「分かったわ。 でも、1番は白雪よ」

 

アリアは刀を拾うと白雪の方まで行くとすぐに持ってきた。

 

「どうなんだ?」

 

俺が聞くと

 

「怪我はしてなかった。 でも、縛られてる。 助けるのあんたたちも手伝いなさい」

 

氷をはがし終わったキンジが立ち上がる。

 

「アサルトの屋上で喧嘩したのは作戦だったのか?」

 

「武偵憲章第2条。依頼人との契約は絶対に守れ。 あたしは1度受けたクエストは絶対に投げ出さない。 屋上で寝てたあんたにはマジギレだったけどね。 デュランダルは敵が複数いる場合はまず、距離を置いて、遠くからうまく敵の戦力を分断し、1人ずつ1対1で片付けようとする。 これが戦術パターンよ」

 

なるほどね。 俺が1対1で激突したのも計算のうちか

 

「ただ、ああいう策士は計画に歪みが生じると全てを無にしようとする傾向があるわ。 だとしたら改めて戻ってきて白雪を殺そうとする可能性もある。 まずは、白雪を開放するわよ」

 

「「いだだだだだだ」」

 

と、アリアは俺たちの耳をつかんで歩いていくのだった。

 

「尻にしかれてますね先輩方・・・」

 

ふぅとため息をついてマリもその後に続くのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第46弾信じてるぜ

倉庫の壁際にいた白雪は立ったまま壁際に縛られていた。

口を布で縛られうーうーと唸っている。

布をキンジが外すと

 

「キンちゃん大丈夫!? ケガとかしなかった?」

 

やれやれ、いきなりキンジの心配かよ。 デュランダルの話し方なら俺殺されたことになってたんだがな・・・

 

「俺は大丈夫だ。 お前こそ・・・」

 

白雪の胸の下には鎖が巻かれていた3箇所ロックされている。

分厚さから考えてデザートイーグルでも破壊は難しい。

最も、ここでデザートイーグルを使おうものなら大爆発を覚悟しなければならないが・・・

俺とアリアとキンジは武偵手帳から解除キーを取り出して解除にかかるが複雑にできているのかあかない。

こういった細かいことは苦手なんだよ俺は

 

「キンちゃんごめんなさい・・・私ここに・・・この服で誰にも内緒でこないと学園島を爆破してキンちゃんを殺すって・・・」

 

「いつからいわれてたんだ?」

 

「昨日キンちゃんが線香花火を買いに行ってくれている間に脅迫メールが来て・・・私キンちゃんが傷つけられるのが怖くて・・・従うしかなくて・・・ふぇ・・・ぇ」

 

 

なんてこった。

レキと遊んでたときにそんなことになってたなんて・・・

レキは護衛を気にしてたからそうするべきだった・・・

でも、白雪の言葉を聞く限りあの場で白雪に付いていても結果は変わらなかっただろう。

 

「アリアもごめんね・・・私アリアにあんなひどいことばかりしてたのに・・・助けに来てくれたんだね」

 

白雪に言われたアリアは「えっ」と少し赤くなる

 

「あ、あたしは依頼を受けたからあんたを守ってただけ。 あたしの目的はデュランダルを捕まえることなの。 だから感謝なんてしなくていい」

 

ハハハ、顔が赤いぞアリア

 

「優君もごめんね・・・私のせいでその怪我・・・」

 

「ああ、まあ気にしなくていいよ。 右手はなんとか動くし左手も治療さえすれば治るしな」

 

包帯を巻いてある右手はピアノ線で切った部分だ。

まあ、時間があれば治るだろうし深刻なほど切ったわけではない。

 

「椎名先輩。 先輩のデザートイーグルなら・・・」

 

「いや、駄目だ。 誘爆して大爆発を起こす危険がある」

 

マリの言葉を即座に否定して考える。

くそ、どうすりゃいいんだ。

アリアが白雪に聞く

 

「デュランダルの姿は見た?」

 

「ううん。 仮面とマントを付けてからそこの扉から逃げたときも仮面とマントは外さなかった」

 

「しかたないわ。 デュランダルは決して素顔をさらさない」

 

どうやら、アリアは俺が集めた情報よりもかなりの知識を持っているようだった。

 

「アリア、さっきの水」

 

「私より直接戦った優の方が詳しでしょ」

 

「ああ、あれは超能力だな。 しんじたくねえが・・・」

 

「国際的にいえばクラスⅢのステルス。 たぶん魔女だと思う」

 

「ありえねえ・・・」

 

アリアの補足にキンジが頭を抱える。

 

「ありえなくないの最近じゃもう、一流の武偵は驚かないものよ。 うちだってSSRがあるでしょ?」

 

「ああ・・・」

 

「恐ることはないわキンジ。 能力者は経験上大道芸人や手品師みたいなものだったわ。 鉛玉の敵じゃない」

 

「いや、アリア俺もデュランダル以外の超偵の戦いの経験があるが油断できない化け物もいる」

 

「? どういうこと優?」

 

アリアの言葉を遮るように

 

ズズンとくぐもった音が地下倉庫に響きわたった。

俺たちが周囲を見渡すと

床にあった排水溝から水があふれ出てきている。

 

「海水だわ」

 

「どこかの排水系を壊しやがったか・・・」

 

補足しておけばここは地下7階、地下2階からは水面下なのだから周りは海だ。

 

「キンジ、先に行っておくがアリアは泳げないんだ」

 

「!?」

 

キンジが目を見開く

 

「アリアは上に上げる。 キンジお前が決めろ。 俺はどうすればいい? ここに残り解除の手伝いをするかアリアとデュランダルをぶちのめすか?」

 

「アリアと行ってくれ」

 

キンジは即答した。

 

「OKリーダー」

 

「ちょっ、優!」

 

「先輩!」

 

俺はアリアとマリを抱えると走りアリアを押し出すように上へと上がった。

いや、上がる前に

 

「キンジ! 絶対に白雪を助けて上がってこい! デュランダルは俺とアリアがぶちのめす」

 

「ああ」

 

キンジの声を聞くと俺は上のはしごを登るのだった。

 

 

 

 

 

 

「優! キンジ達を見捨てる気!」

 

顔を真っ赤にしたアリアが上に登ると待っていた。

 

「武偵憲章第10条」

 

「!?」

 

「諦めるな武偵は決して諦めるな。 大丈夫だよキンジは信じろよ」

 

そう、あいつはヒステリアモードになれば、頼れる存在だ。

俺やアリアが背をあずけても全く心配しないレベルのな。

 

「わ、分かったわ。 1秒でも早くデュランダルを沈めてもどるわよ優」

 

「1度は沈めた相手だ。 やるさ」

 

さあ、第3ラウンドだ。次は沈めるぞデュランダル。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第47弾狩りの時間ですの

敵は不利な状況では戦わないのだろう。

大型のコンピュターが並び迷路のようになっているこの階では交戦する意思が見受けられなかった。

敵をおびき出すため別れて行動しているが俺の後ろにはマリがいる。

 

「し、椎名先輩・・・」

 

怯えながら声を出すマリ

 

「先に上に戻してやりたいんだが・・・」

 

上への道は全て塞がれていた。

デュランダルを撃破しない限り上へと上がるのは難しいだろう。

先を慎重に進みながらガバメントを右に構える。

デザートイーグルは氷ずけにされつかうのは怖いしガバメントの1丁は寒冷地使用ではない。

使える銃は1つだけガバメントだけだ。

 

マガジンは後3個、武偵弾もあるがこの状況では使いたくない。

慎重に、トラップが仕掛けていないかを確認しながら神経をすり減らしていく。

どれほど、そうしていただろう・・・

やはり、デュランダルは戦うつもりがないようだった。

 

「・・・だ」

 

「ん?」

 

「どうかしたんですか先輩?」

 

「人の声だ。 キンジたちかもしれない。 1度もどるぞ」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

そして、コンピューターの影に人影を感じガバメントを構える。

3丁の銃が同時に標的を向き合った。

 

「「キンジ」」

 

俺とアリアが同時にその人物を見て呼ぶ。

 

「よかった。無事だったのね」

 

「まあ、俺はお前が死ぬとは思ってなかったがな」

 

「なんで逃げなかったの? あんたは戦わないくていいのに」

 

「可愛いアリアを見捨てて逃げられるほど俺は理性的じゃないんでね」

 

「な、なによそれ」

 

がう犬歯を向くアリア。

そのやりとりで俺は直感する。

 

「なったなキンジ?」

 

それに対しキンジは頷く

 

「ああ、優、デュランダルは?」

 

「俺らと戦う気はないようだな。 特に俺は1度沈めたからか警戒されてるみたいだ」

 

「そうか」

 

「この部屋にいることは確かよ。 上に続く階段やエレベーターは内側から塞がれてた」

 

「敵はこの階で決着を付ける気らしいな」

 

「ねえ、さっき声が聞こえたけど白雪は救出できたのよね? ケガとかしなかったのね?」

 

いがみあってても白雪のこと心配なんだなアリア・・・責任感あるいい子だな・・・

 

「ああ、だがここで見失ってしまったんだ。 戦力を分散したまま各個撃破されてしまったら敵の策どおりになる。 まずは、白雪と合流・・・」

 

けほけほ

 

戦闘狂モード、ヒステリアモード、動物並みの鋭敏な聴覚

マリ以外の俺たちは同時に振り向いた。

 

「白雪だわ。 あっちにいる」

 

「行こう。 だがデュランダルがどこから襲ってくるかわからない。 アリア盾にならせてくれ」

 

「ならキンジ。 FWは俺とお前でアリアは後ろのフォーメーションでいいな?」

 

「ああ、それで行こう」

 

 

 

 

 

 

 

白雪はすぐ見つかった。

エレベーターホールで人魚姫のようにぺたんと座り込んでいたのだ。

 

「けほ・・・けほ、敵は?」

 

「姿は見えないわ。 白雪あたしたちから離れないで」

 

その背中をさすってあげながらアリアはかがむ

 

「よかった」

 

マリが安心したように言うが俺は何か直感が危険と告げていた。

なんだ?何がある?

 

「キンちゃん」

 

白雪は弱々しく半べそをかきつつキンジを見ている。

濡れた巫女装束はぺっとりと体に張り付き高校生らしからぬボディーを露にしている。

何かしたに鎧のようなものを装備してるのか?

 

「唇大丈夫かさっきの?」

 

周りを警戒しつつキンジの言葉に耳を傾ける。

 

「うん、大丈夫」

 

白雪がこくりとうなずく

 

「血が出てただろう見せてみろ」

 

「ううん。 大したことなかったよ口の中を切っただけ」

 

「アリア逃げろ!」

 

キンジのその言葉だけで俺は瞬時に、判断する。

キンジの攻撃に合わせガバメントを発砲した。

 

白雪? もそれは予想済みだったらしく振袖で俺たちの弾丸をそらした。

 

「キンジ!」

 

驚くアリアの側面に白雪が驚く速度で回り込む。

くそ!間に合わねえ!

フルオートで放ったガバメントとベレッタをいなして白雪はアリアの体を盾に取る。

アリアは本能的に危険を察してガバメントを白雪に向けようとしたが白雪は日本刀をアリアの頚動脈に当てる。

人体の急所。

少し切れば数分もかからず失血死する。

 

「しら・・・ゆき・・・なによどうしたの?」

 

 

喚くアリアの拳銃をもったままの右拳にふっと息を吹きかける。

 

 

「うあ!」

 

アリアは焼きごてでもあてられたように覗ける

落ちたガバメントが氷に染まる。

 

「くそ! アリアそいつはデュランダルだ!」

 

さらに、白雪がアリアの左手に息を吹きかけた。

 

「きゃあ!」

 

ついに漆黒のガバメントも離してしまうアリア

 

「只の人間如きが」

 

こいつ・・・あの時の・・・

 

「ステルスに逆らうとは愚かしいものよ」

 

そうか、キンジはかまをかけたんだ。

白雪とキンジしか知らない何かを言ってデュランダルの嘘を見抜いた。

戦闘狂モードでも気づかなった・・・

完璧な変装だ。

 

「デュランダル・・・」

 

アリアは手の痛みに耐えながら言う。

 

「私をその名で呼ぶな。 人に付けられた名前は好きではない」

 

「あんた、あたしの名前に覚えがあるでしょう! あたしは神崎・ホームズ・アリア! ママにきせた冤罪107年分はあんたの罪よ! あんたが償うのよ」

 

「この状況でいうことか?」

 

ふんとデュランダルが嘲るように笑う。

 

「それにお前の名前。 たかが150年ほどで歴史で名前を誇るのは無様だぞ? 私の名前はお前よりはるかに長い600年にわたる光の歴史をたどるのだしな」

 

「笑わせるなデュランダル?」

 

「何?」

 

デュランダルが俺を睨みつけてくる。

 

「祖先なんて関係ねえよ。 大切なのは目の前にいる奴がどれほど実力があるかだろ?」

 

「そうかもしれん。 だが、私はジャンヌダルク30代としてお前らを倒す」

 

「嘘よ! ジャンヌダルクは10代で死んだ! 子孫なんていないわ」

 

「あれは影武者だ。お前が言った通り我が祖先は火刑になるところだったのでなその後代々この力を研究してきたのだ」

 

ジャンヌの手がアリアの太ももにのびるとアリアが激痛に体をねじった。

 

「きゃう!」

 

見るとアリアの膝小僧に氷が張り付いている

 

「てめえ!」

激怒の感情が打開策を探る。

何かないのか・・・何か・・・

 

「ふん、椎名、ホームズがそんなに大事か? お前に借りがあるが今は動くな」

 

くそ、ワイヤーもガバメントも使えねえ・・・

 

「遠山、椎名、そこの女も動くな。 アリアも動かした場所を凍らせる」

 

「キンジ・・・優撃ちなさい」

 

無理だアリア・・・俺たちはお前ごと撃つ選択肢はできないんだ。

 

「しゃべったな。 アリア、悪い口はいらないな」

 

アリアの唇に寄せていく。

あの氷のアリアの口に流し込むつもりか!

くそ! なら特攻で・・・

 

「やめろ!」

 

キンジの声が響く

俺が床をけろうとした瞬間

 

「アリア!」

 

室内に響いたその声は勇敢で心強い。

鎖がデュランダルの剣に絡みつく。

アリアの首から剣が離れた。

その隙を見逃さず俺がガバメントのフルオートで放つ。

 

 

「キンちゃん! アリアを助けて!」

 

本物の白雪が鎖を引き剣を手に取る。

白雪はデュランダルに切りかかるがそれを振袖で受けようとしたデュランダルをアリアが足で妨害する。

ジャンヌがバランスを崩す。

アリアは転がりながら俺たちの前まで来て片膝だちになる。

アリアを守るように白雪が立つ。

よし、これで戦力は怪我人もいるが4対1だ。 勝てる。

 

「白雪・・・貴様が命を捨ててまでアリアを守るとはな」

 

デュランダルが何かをほおると煙が出始めた。

発煙筒か

 

スプリンクラーが水を巻き始める。

 

「ごめんねキンちゃんやっつけられるかと思ったけど逃がしちゃったよ」

 

「上出来だよさすがしらゆきだ。 アリア、だいじょうぶか?」

 

「や、やられたわまさか白雪が2人いるなんてね」

 

ぐーぱーで手を確かめるアリアだが握力がまるでない。

俺の左手と同じ状況だ。

くそ、なんか室内が冷えてきやがった。

 

「白雪一つ答えてくれないか?」

 

「はい」

 

「アリアのロッカーにピアノ線を仕掛けたか?」

 

「ロッカー? そんなこと誓ってしてないよ」

 

「あともうひとつ、白雪は花占いしてるところを不知火に見られたか?」

 

「え、あ、うん」

 

少し恥ずかしそうに白雪は答える。

 

「俺は同じ時刻に白雪とすれ違っている。 あの女はずっと白雪に化けて武偵高に潜り込んでいたんだ。だから、俺たちを細かく監視し分断できた。 アリア、お前のロッカーにピアノ線を仕掛けたのもジャンヌだ。 さっき、下の階に仕掛けられていたピアノ線を覚えているだろう? 木を隠すなら森、白雪のアリアへの嫌がらせの中に殺人トラップを仕掛けたんだ」

 

「キンジあんたまたなったのね」

 

アリアが目を見開いて言った。

 

「デュランダル! あんたがジャンヌダルクですって? 卑怯者!どこまで似合わないご先祖様ね」

 

挑発されたアリアの言葉に煙の向こうだいぶ遠くから

 

「お前もだろうホームズ4世」

 

エレベーターホールか・・・

その時、俺たちは気づいた。

スプリンクラーから巻かれた水が凍りつき雪のように降っている。

ダイヤモンドダストという現象だ。

 

「キンちゃん、アリアと優君達を守ってあげて2人はまだ、戦えない」

 

「・・・」

 

否定はできない。

確かに右手は銃が撃てる握力はあるが完全じゃない。

 

「魔女の氷は毒のようなもの。 それをきれいにできるのはシスターか巫女だけ。でも、この氷がグレード6か8ぐらいの強い氷、私の力で治癒しても元にもどるまで5分はかかると思う。 だから、その間キンちゃんが守ってあげて、敵は私が倒すよ」

 

「何を言うんだ白雪。 お前を1人で戦わせることなんてできない」

 

「キンちゃん。 そういってくれるのは嬉しいよ。でも、今は超偵の私に任せて。 アリア、優君これすごくしみると思う。 でもそれで良くなるからがまんして」

 

言うと白雪は呪文のような言葉をつぶやいた。

 

「あ・・・んく・・・」

 

アリアが覗ける。

俺も手に激痛を感じながら唇を噛んでその痛みを押し殺す。

 

「んく・・・」

 

制服の袖をつかみ除けったアリアの前髪がはねる。

その額には×字の傷。

そう、俺とキンジが作った原因の傷・・・

ごめんな・・・アリア

この償いはするから・・・

 

俺たちの治療を終えた白雪は袖からロウ紙のようなものを取り出すと壁のようなコンピューターに貼り付けると暖かくなってきた。

すげえ。これが超能力ってやつか

 

「白雪・・・」

 

キンジは決めたらしい。

ここは白雪に任せると

 

「ジャンヌ・・・」

 

白雪は俺たちがアリアを守るように下がったのを見て

 

「もう、やめよう。 私は誰も傷つけたくないの。 それがあなたであっても」

 

それに対しフンという笑い声が聞こえてくる。

 

「笑わせるな。 原石でしかないお前にイ・ウーで研磨された私を傷つけることなどできん」

 

「私はグレード17のステルスなんだよ」

 

笑い声が返ってこない。

なるほど、白雪の言葉はそれほど凄まじいものなのか・・・

 

「ブラフだG17などこの世に数人しかいない」

 

「あなたも感じてるはずだよ。 星伽には禁じられてるけどこの禁布を解いた時に」

 

「仮に真実であったとしてだ」

 

ジャンヌの言葉には緊張が混ざっている。

 

「お前は星伽を裏切れない。 それがどういうことを意味するかわかってるからな」

 

「ジャンヌ。 策師策に溺れたね」

 

白雪の声が強まる。

 

「それは今までの私。 でも、今の私は星伽のどんな掟だって破らせる。 たったひとつの存在のそばにいる。 その気持ちの強さまではあなたは見抜けなかった」

 

ジャンヌの言葉が止まっている。

予想外の展開に策を展開するモノは弱い。

おそらくこれは想定外に近い状態だ。

室温はすでに常温、スプリンクラーも止まっていく

 

「やってみろ。 直接対決の可能性も想定済だ。 グレードの高い超偵はそのぶん精神力を早く失う。 持ちこたえれば私の勝ちだ」

 

覚悟を決めたのだろう。

煙の向こうから姿が現れていく。

やはり、西洋式の甲冑

 

「リュパン4世による動きにくい服装も終わりだ」

 

べりべりと薄いマスクをはいだ。

目はサファイアの色。

2本のつむじの辺を沿った髪は氷のような銀色

ジャンヌダルクは見た目は美しい白人だった。

 

「キンちゃん。 ここからは私を見ないで」

 

白雪は震える声で言った。

 

「・・・白雪?」

 

「これから私は星伽に禁じられている技を使う。 でも、それを見たらきっとキンちゃん私のこと怖くなる。 きっとありえないっておもう。 嫌いに・・・なっちゃう」

 

言いながら白雪は頭にいつも付けている白いリボンを手にかける。

くだらないよな・・・キンジ・・・

俺は言う。

 

「なあ、キンジ。俺たちと白雪はどんなことをしても友達だよな」

 

「ああ」

 

キンジが頷く。

 

「どんな、化け物のような力があっても俺達は怖がったりしねえよ。 武偵憲章仲間信じ仲間を助けよだ。 信じてるぜ白雪」

 

「白雪、安心しろ。 俺がお前を嫌いになることはありえない」

 

補足するようなキンジの言葉に白雪は無理に微笑んだ顔を向けながらリボンを振りほどいた。

 

「すぐ戻ってくるからね」

 

剣を学んだオレだからわかる。

白雪が今構えている構えは一切の流派に存在しない構えだ。

 

「ジャンヌ、あなたをもう逃すことはできなくなった」

 

「?」

 

「星伽の巫女がその身に秘める。禁制鬼道を見るからだよ。私たちもあなたたちと同じようにしその力と名前をずっと継いできた。 アリアは150年。 あなたは600年。 そして、私たちは2000年ものの永い時を・・・

 

くっと白雪がその手に力を込めた

刀の先端に緋色の炎が灯る。

それが刀全体に広がった。

 

炎の剣だ。

 

「白雪という名前は真の名前を隠す付せの名。 私の諱、本当の名前は緋巫女」

 

いい終わると同時に白雪が地を蹴る。

ジャンヌは低くかがむと後ろに隠していた洋剣でそれを受け止める。

ぶつかり合うのは火花ではなくダイヤモンドダスト

いなされた白雪の刀がコンピューターをまっぷたつにした。

ざっと、ジャンヌは後退する。

 

「炎・・・」

 

その顔には明らかに恐怖と怯えが混ざっている。

ジャンヌダルクは火刑により命を落としかけた。

その恐怖と戦いながら代々研究をしてきたのが氷の能力。

 

「今のは星伽候天流の初弾、火焔毘、次は緋火虞槌―その剣を切ります」

 

白雪は炎の剣を頭上に掲げる。

 

「それでおしまい。 このイロカネアヤメに切れないものはないもの」

 

「それはこちらのセリフだ! 聖剣デュランダルに切れないモノはない」

 

ジャンヌは勇気を振り絞るように剣を構える。

その剣はクレイモア

ギンギギンと激しい激突を繰り返しながらクレイモアと日本刀は切り結ぶ。

互いが切れるものはないと言った名剣同士の戦い。

互いの剣は傷一つ付いていない。

 

「これが超偵の戦いなのね」

 

アリアが言った。

 

「アリア」

 

俺たちはかがんで小声で話を始める。

 

「動けそうか?」

 

「でも、銃が床に張り付いているしはがしても使えない。 あたしの銃は寒冷地仕様じゃないの。 完全分解して整備しないと多分生き返らないわ」

 

「俺も同様だな。 ガバメント1丁は使えるがデザートイーグルと、1丁のガバメントは正直使いたくない」

 

「作戦を立てよう」

 

キンジの言葉にアリアが頷いた。

そういえば、マリがいないな・・・隠れてろという支持を守ってるらしいな。

そういえばマリのCZ78をアリアに貸せば・・・

 

ギギギン

 

「くっ!」

 

明らかに白雪が苦悶の声を上げる。

俺達がそちらを見ると

 

「苦戦してますのね。 ジャンヌ」

 

最悪だ。

にこりと、大剣を構えるローズマリーが白雪に対峙するように立っていたのだ。

赤い瞳を俺に向けてにこりと微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狩の時間ですの優希」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第48弾封じられた切り札

最悪だ。

青い炎を纏う大剣を持つローズマリーに白雪は冷や汗を書いている。

 

「形勢逆転だな星伽」

 

ジャンヌが面白そうに言った。

 

「くっ・・・」

 

白雪は剣を構えるが先に踏み出せない。

1対2では片方を相手にした瞬間、背中から切れられる。

 

「キンジ、アリア・・・」

 

俺たちも援護しようと言おうとした時だった。

ローズマリーが俺たちを・・・いや、俺はを見る。

 

「優希、あなたに一騎討ちを申込みますの。 受けていただけるのでしたらあなた以外には私は手出ししないことをお約束しますわ」

 

「何?」

 

一騎打ちだと? それは望むところだ。

お前は俺が絶対に逮捕する。

 

「いいぜ。 ローズマリー! キンジ、アリア! 白雪! こいつに手を出すな! こいつは俺が倒す!」

 

1歩前に出る。

ローズマリーはにこりと微笑むと

 

「ジャンヌ、そちらの戦いには干渉いたしませんわ。 どうぞ続けてくださいまし」

 

「ふん、そうさせてもらおう」

 

白雪とジャンヌが再び切り結ぶ。

記憶が・・・正しいのならこいつは・・・ローズマリーは真正の化け物だ。

 

「アリア」

 

「え?」

 

いきなり呼ばれたので目を俺に向けてくるアリア

こいつには新たな切り札がいる。

 

「小太刀を貸してくれ」

 

アリアのカメリアの目が大きく見開かれる。

 

「優、あんた、剣士なの?」

 

「ま。実家が実家だからな。 銃と同時に使えるんだよ」

 

使えるよな俺・・・

あれから何年も立ってるんだ。

使ってみせろ。

 

「つくづく、底がしれないわねあんたは」

 

「悪い」

 

アリアから1本小太刀を受け取る。

鞘をつかんでも違和感はない。

いけるな。

 

「それでよろしいんですの?」

 

ローズマリーが聞いてくる。

 

「ああ、お前と戦えると思うと嬉しいぜ」

 

「私もですの。 では、食べ頃か見極めさせてもらいますわ」

 

ローズマリーが大剣を構える。

俺は小太刀を俺は鞘に収めると右腰に添えると腰を低く構える。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

一瞬の沈黙。

それが終わった瞬間、ローズマリーが地を蹴る。

一瞬、遅れて俺が手に力を込める。

 

「飛龍1式! 風凪!」

 

その速度は神速。

高速の居合。

鞘から抜き放たれた小太刀は音速に迫る。

 

「ふふ」

 

それをローズマリーは微笑みながら大剣で受け止める。

炎は使わない。

俺は剣を引き戻すと再び剣を鞘に収める。

 

「風凪・・・椎名の剣術ですのね。 小太刀では本来の力を発揮できませんの」

 

「みたいだな・・・」

 

正直小太刀で戦うのは初めてだ。

威力が従来の力ではない。

なら、別の選択肢も存在する。

一撃で沈める。

剣を構え殺気をこくしていく。こいつは、なるべくやりたくないんだが……

だが、こいつはそれを使わないと勝てない。

 

右手に力を込める。

その時だった。

俺の脳裏にあの時の光景が蘇る。

赤い・・・赤い・・・赤い・・・ただ、赤いだけのその色の中、血に染まった剣を手に笑う子供の・・・

 

「う・・・」

 

剣を落とし俺は口を抑えて嘔吐する。

敵の眼前にもかかわらず。

 

「げほ・・・おえ・・・」

 

それをローズマリーはつまらなさそうに見ている。

 

「まだ、克服出来ていませんの優希? 食べごろじゃありませんのね」

 

ローズマリーはそう言うと背を向ける。

 

「ま、待て!」

嘔吐した口を拭いながら呼び止めるがローズマリーは止まらない。

こつこつと歩きながら

 

「優希、次は克服してくださいまし。 できなければあなたは大切なものを失いますの」

 

影がローズマリーを侵食していく。

逃がすか・・・逃がすかよ

ガバメントを構えるとフルオートを射撃。

中身は全て銀弾だ。

全てが命中したかに思えたが

ローズマリーはくすくすと笑うだけだ。

 

「さようなら優希、私の騎士様」

 

闇がローズマリーを包みその姿を完全にかき消した。

 

「くそ!」

 

俺はそれを見て床に拳を打ち付けることしかできなかったんだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第49弾デュランダル事件護衛終了

俺がローズマリーと戦っていた時、キンジ達はデュランダルに目標を絞っていたらしい。

俺が見たときは、もう終の時だった。

ジャンヌの首筋にベレッタを突きつけるキンジの姿。

 

「だが、私は武偵ではないぞ?」

 

そう、ジャンヌが言った。

終わりだよジャンヌなぜなら・・・

 

「キンちゃんに手をだすなぁ!」

 

白雪が飛び込む。

 

「緋緋星伽神!」

 

その炎の一撃はデュランダルを通過し、大爆発を起こすような音とともに凍りついた天井をガラスのようにくだいてしまう。

がらがらと降ってくるガレキの下でジャンヌは断ち切れたれたデュランダルを見て呆然としている。

 

「デュランダル!」

 

そんなジャンヌの右手にアリアが手錠をかける。

ステルス用の銀の手錠だ。

 

「うっ・・・」

 

「逮捕よ!」

 

アリアは肉食獣のように飛びかかると左手首にも手錠を付けてしまう。

やれやれ・・・今回もしんどい戦いだった・・・

泣きじゃくりながらキンジに泣きつく白雪を見ながら俺は破壊されたエレベーターホールを見る。

ローズマリーは逃げたようだな・・・

隠れていたらしいマリが出てくるのを横目に俺はため息を履いた。

 

「もう、勝手に俺の前から居なくなるんじゃないぞ白雪」

 

そんなことを言うキンジの言葉を聴きながら俺は傷口が開いたらしい右手を見ながら

ああ、あと任したキンジ、アリア・・・俺寝るな。

意識を手放すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、お兄さん。 今回も大活躍ですねぇ」

 

「うるさい・・・」

 

前にいるアリスに手当を受けながら俺はため息を付く。

ここは武偵病院。

アンビュラスの生徒のアリスに手当をしてもらいつつアドシアートの閉会式のアルカタは手の具合から参加禁止と言い渡されてしまった。

まあ、この手でキーボードは触れないよな。

すまんみんな・・・

 

 

 

 

治療が終わった俺は打ち上げをするというアリアの言葉に従い、学園島唯一のファミレスロキシーに集まっていた。

デュランダルを捕まえたのでかなえさんの刑期が短縮になったアリアは今日は私のおごりよと言ってくれたのでステーキセットとハンバーグセットを頼む。

キンジも一番高いステーキセット食ってるしな。

 

「ありがとうございます。 神崎先輩!」

 

マリはチョコパフェとシーザーサラダである。

小食だなと言ったらデリカシーがないです先輩と言われてしまった。

なんでだろう?

 

料理を待っていると白雪とアリアが何かそわそわしている。

お互いに何かを言おうとしてやめているのだ。

 

「「あ、あの」ね」

 

白雪とアリアの声がハモる。

 

「あ、アリアが先でいいよ」

 

「あ、あんたが先に言いなさいよ」

 

「外すか?」

 

キンジがしらゆきに言うと白雪は首を横に降る。

 

「キンちゃん達にも聞いておいて欲しいの・・・私、アリアにどうしても言っておかないといけないことがあるから」

 

ん?なんだろう?

 

「あの、この間キンちゃんが風邪を引いていたとき私嘘ついていました」

 

「ウソ?」

 

「うん、あの時キンちゃんが飲んだ薬私じゃないの。 あれは、アリアが買ってきたものなんでしょ?」

 

「アリアだったのか・・・」

 

キンジが目を丸くしていう。

 

「キンジが風邪ひいた日に行ってきたんだよ」

 

俺が細くするとアリアは白雪とキンジをちらちらみながら

 

「な、なーんだ。 そんなこと?」

 

両手を頭に載せて後ろに体重をかける。

 

「話があるって言うからもっと大変な話だと思って損したわ」

 

「いやな女だよね私。 でも、嫌な女でいたくなかったから・・・ごめんなさい」

 

頭を下げた白雪の顎をアリアは持つと姿勢を元に戻させた。

 

「別に気にしてないからいいわよ。 はい、この話は終了。 今度はあたしの番ね」

 

「う、うん」

 

どうやらこの2人前もって話があるって前置きしてたみたいだな

 

「ぉほん」

 

アリアは咳払いすると姿勢をただし

 

「白雪、あんたもあたしの奴隷になりなさい」

 

白雪、俺達ボックス席の男子数人が固まる。

こっみんな!

ってあいつ村上!

おのれしいなああとか言ってやがる。

 

「ありがとうアリア」

 

おい! その流れでありがとうはおかしくないか白雪さん!

 

「デュランダルを逮捕出来たのは3割はあんたのおかげよ。4割はあたし。 2割はレキで0.5はマリ」

 

俺たちは0.25ですか・・・

 

「私分かったのあの、ジャンヌやローズマリー、私たちが1人1人ならきっと負けてた4人がかりでやっと勝てた。 それは認めるわ」

 

あの、アリアさん・・・その4人にキンジと俺は入ってますよね?

 

「あたしたちの勝因は力を合わせたことよ。 今までの敵はあたしは自分と自分の力を引き出すチームがいればいいと思ってた。 でも3人じゃどうしようもない相手もいるわ。 つまり、私のパーティーに特技をもった仲間が増えるのはいいことなの。 特に白雪みたいにあたしにない力を持ってる仲間はね」

 

雨降って地固まるってやつだな。

あれほどいがみ合ってたアリアと白雪がねぇ・・・

奴隷って・・・でもきんちゃんの奴隷ならとかぶつぶついっている白雪を見る限り前途多難だがなキンジ

 

「というわけで契約は満了したけどあんたもこれからはキンジと一緒に行動すること! 朝から晩までチームで行動してチームワークを作るのよ。 はい、これキンジの部屋の鍵。

今後自由に入ってよし」

 

「おおおおおい!」

 

キンジが悲鳴をあげてボックス席から転げ落ちる。

白雪は偽造カードキーを光速で胸のポケットにいれてしまった。

 

「だめだだめだだめだ! そもそもあそこはだんしりょ・・・」

 

「奴隷1号! 文句あんの!」

 

「神崎先輩! 私も奴隷になります! 鍵ください!」

 

「おいこら!」

 

バンとテーブルを叩いて俺も立ち上がる。

 

「はい」

 

絶対用意してたんだろう。

偽造カードキーをアリアがマリにも渡す。

フフフ、椎名先輩の部屋にいつでも入れますとニコニコしているまり

 

「奴隷2号も何か言うの?」

 

「「俺たちの話も検討してくれ!」」

 

アリアがガバメントを抜く。

ちょうど、そこにウェイトレスさんが料理を運んできた。

 

ステーキセットやミネラルウォーター等、そしてももまん丼

一体なんだそのメニューは

 

「はい、奴隷3号4号の誕生にかんぱあああい!」

 

「かんぱい! 嬉しい! 嬉しいよ! 合鍵、愛の証だよ」

 

「これから毎日行きますね椎名先輩!」

 

女3人でかんぱいするのを見て俺とキンジはやけくそ気味にかんぱいに付き合うのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第50弾 恐ろしやヤンデレ

「以上が今回の報告な」

 

男子寮の屋上で少し前まで暮らしていたレキの部屋を見ながら俺は依頼主に電話をしていた。

 

「ご苦労だった。 報酬は振り込んでおいたので使ってくれ」

 

電話の向こうから聞こえてくる男の声を聴きながら俺は紙を見ている。

 

「ああ、あんたの依頼のおかげで今回は収穫があったよ」

 

「それは良かった」

 

ローズマリーの手掛かりはこれまでほとんどなかった。

だが、今回奴が現れたこと逮捕の一口がつかめると思ったのだが実際は、ローズマリーは学園島からすでに姿を消したらしい。

日本にいるのかも怪しいものだ。

 

「私の騎士様・・・」

 

「ん?」

 

つぶやくように俺が行ったのを依頼主は拾ったのだろう。

 

「ローズマリーが言い残した言葉だよ」

 

「君の話を聞く限り、ローズマリーは必ず君の前に現れるだろう。 おそらく、アリアも狙われるはずだ」

 

「だろうな・・・」

 

あいつは、記憶通りなら目的のためには周りの被害を気にしない奴だ。

俺がアリアのそばに入れば・・・

 

「なあ、俺はアリアの傍にいていいのかな?」

 

湧き上がった疑問を依頼主にぶつけてみる。

 

「前に言った通りだ。 椎名 優希。 君がアリアを護衛しないならアリアや君の知る人間が君の知らない場所で死ぬ。 それを看過したくないならアリアの護衛は続けるべきだ」

 

「なあ、あんた本当にアリアのなんなんだよ? そこまでして、アリアを守ろうとする理由は・・・」

 

「武偵であるなら推理してみることだ」

 

その言葉を最後にツーツーと電話が切れる。

 

ま、やれるだけはやるさ。

俺も友達が死ぬところなんて見たくないからな・・・

そのためには・・・

克服するんだ。

あのトラウマを・・・

次の切り札を開放するために・・・

 

 

 

 

 

 

その日の晩、動物奇想天外の2時間スペシャルを録画で見ているアリアを横目にテーブル6つのワイヤーを分解して整備していると

 

「かぁーわいー! ほら、優! キンジ見てみて! ラッコの大群!」

 

こらポンポン跳ねるな! ホコリが飛ぶ!

なんで、いちいち仕草がかわいいんだお前は。

それにしても、この部屋、女子と男子の比率がついに並んでしまった。

いや、マリをいれたら男2で女3で逆転だ。

男子寮だろここ?

白雪はファミレスの帰りに風呂敷包みを手に来ているし靴は玄関にぶちまけ状態で黒ニーソは床に脱ぎ散らかされている。

「てかアリア、さっきのファミレスでの計算だが・・・」

 

CMを飛ばしにかかったアリアの横にキンジは座り俺とアリアを挟み込むような構図になる。

 

「なによ」

 

「デュランダル事件の貢献度の割合だ。 お前が4割、白雪が3割、レキが2割、マリが0.5ってことは俺たちは0.25かよ」

 

「あんたは最後にちょっと動いただけじゃない」

 

いや、アリアさん・・・いくら見てなかったからって1度は俺デュランダル沈めたんですよ。

逃げられたから貢献度には入らなかったらしいが・・・

ちなみにマリの尋問だがあのジャンヌがやめてくれと言うまで情報を引き出したらしい。

恐ろしいな・・・

 

「お前とのパートナー本気で解消したくなってきたぜ」

 

「ま、そういうなよキンジ、こんなこと言ってもアリアはお前のこと認めてんだぜ?」

 

「あの時のあんた達ちょっとかっこよかったけど」

 

上機嫌のアリアは俺たちにウインクしてきた。

ぐわ、何か今胸に刺さったような感触が・・・

こいつのたまにする可愛い動作殺人的にかわいいから困りものだ。

 

「チームメイトさん。 テレビを1度止めてあげるからちゃんと聞きなさいね。 あんたたちも白雪と同じで調子に波はあるしいつまでも底を見てたりしないけどあんたたちはあたし、ホームズ家に必要な力をちゃんと持っている。 今回の戦いでそれを再認識した。 だから、あんたたちもあたしの穴を埋める」

 

んしょアリアは立ち上がり腕を後ろで組んでにこりと微笑むと俺たちと目線を合せ

 

「―大切な人よ」

 

たく・・・この子は時折、どきっとすること言ってくれるよな。

そして、すごく嬉しいことを言ってくれる。

もっと強くなって必ず護衛の任務をかんす・・・

 

「「い・ま・な・ん・て・い・っ・た・の(ま・し・た)」

 

「「!?」」

 

俺とキンジが慌てて振り向くとバーサーカーとかした白雪が立っておりなぜか、マリも銃をもって立っていた。

 

「「『大切な人』って何! (ですか!)」」

 

一体どういうことだ! どす黒いオーラーを放ち、瞳孔が開いた目はこおおと言う音でも聞こえてきそうだ。

白雪はわかるがなぜマリまで!

 

「~言っておきますけどねアリア」

 

「な、なによ」

 

白雪の剣幕に押されてアリアが少し後退してテーブルに足を当ててむきゅと倒れる。

トランプ柄のあれが見えたので慌てて目をそらす。

 

「勝ったとは思わないこと! 私だってキンちゃんとキスしたんだからぁ!」

 

「椎名先輩は渡しません!」

 

「うお!」

 

びゅおんとどこからか、取り出した日本刀が俺の首のあった空間を薙ぎ払う。

アリアが後退したのでその位置に来たんだろうが反応が遅れてたら死んでたぞ間違いなく。

さらに、白雪がアリアめがけてと言っても俺の真後ろにいるので振り下ろしてきた日本刀

 

「ぎゃあああ死ぬ!」

 

パアアアン

刀を挟み込むようにぎりぎりと・・・

し、真剣白羽どり! すげえ! まぐれとはいえできるもんなんだな

と、自分を褒めてると

 

「邪魔するの優君?」

 

いや、正当防衛だから! その瞳孔が開ききったヤンデレ目で見るのやめてください白雪様!

そして、左手で刀押すのやめて!まじで!

行動がどうやら、アリアの味方と白雪のヤンデレレーダーに引っかかってしまったらしい。

もう、だめだおしまいだ!

って、キンジぃ!おま!

さっさと防弾物置に逃げ込んでしまったキンジを見ながら俺は後ずさる。

 

「浮気ものは死んでください!」

 

パンパンとCZ78Bから銃弾が発射される。

銃弾はテレビに命中しコアラの大群が写っていた映像がブラックアウトする。

アリアが目を見開いた。

 

「あ!」

 

テレビどころじゃないだろ!

 

「や、やめろマリ!れれ、冷静になれ!」

 

ていうかお前、素人射撃はやめろ! 危ないって

 

「こ、こら奴隷3号、4号!奴隷の分際で主人に何するのよ! 静まれぇ!」

 

アリアがガバメントを威嚇に天井に放つが白雪はまったくひるまない。

 

「そ、そっちこそ妾の分際で盗人たけだけしい!」

 

「恋する乙女を甘く見ないでください!」

 

「き、キンジ!クライアントにキスってなによ! あんたそんなことまでしたの! このハレンチ武偵! どうにかしないよこれ!」

 

防弾物置に向かいアリアが叫ぶが当人は出てこない。

まあ、そうだろうな・・・

いや、一言

 

「後片付けはお前たちがするんだぞ」

 

逃げやがった!

 

「こ、こうなったらやるぞアリア!」

 

ええいもうやけだ!

俺はデザートイーグルとガバメントを構える。

アリアもやるしかないと思ったのかガバメントを構える。

 

「キンジも加勢しなさい! しないと風穴あけるわよ!」

 

 

ちなみにその後、戦闘狂モードではない俺は白雪に窓からたたき落とされワイヤーが整備中だった俺は東京湾にゴミのように落ちたとさ。

ヤンデレ怖いよ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第51弾 ツンデレ強襲!?

戦場のような1日が終わり、朝の5時俺は朝特有の気持ちいい空気を吸いながら看板裏の前に来ていた。

手にもっているのは木の箱である。

木箱を開けると中にあったのは日本刀。

それなりの業物であるがこれまで使用することは皆無だった。

先日のローズマリーの戦いで剣術の解放の必要性を認識させられた。

だが、こいつは単に隠していた切り札ではない。

ドクンドクンと心臓が高鳴る。

右手をそっと柄に近づけて・・・

 

「だーれだ」

 

いや、お前の声は特徴的すぎるからな

 

「アリアだろ」

 

視界を手で塞がれている状態から開放されると予想通りアリアが防弾制服を着て立っていた。

 

「自主的に朝練なんて感心感心」

 

アリアは嬉しそうに言うと木箱に目を向ける。

 

「それ小太刀じゃないわね」

 

「ああ、大刀だよ。 お前も見ただろ? 俺はこいつを使えないんだ」

 

技1発分は持ったがあの光景を思い出してしまえば吐き気が体を襲う。

 

「1度聞いてみたいと思ってたのよ」

 

「なんだよ? 切り札なら明かす気はないからな」

 

「違うわ。 ローズマリーの時にあんた言ってたわよね。 飛流、そんな流派日本には存在しない」

 

「・・・」

 

続けてアリアが調べたのか言う。

 

「あたし考えたの。 優のその剣術は代々受け継がれてきた剣術なんじゃないかって・・・つまり、あんたは誰かを先祖に持つ??世なんじゃない?」

するどいな・・・

 

「でも、おかしいのよね。 椎名なんて剣豪は過去をさかのぼっても存在しない。 本当になにものなの優は?」

 

「さあな? 宮本武蔵とか佐々木小次郎とかじゃねえの?先祖」

 

「ないわね。 あの2人の流派は全く違うわ。 それに、子孫もいるわ」

 

いるのかよ。

まあ、それはそれとして

 

「いずれにせよ。 今は語る気はないんだよ」

 

調べられたくない。

俺が椎名の家を話せばあのことをアリアに知られてしまう。

いやなんだ・・・あれを・・・あのことをこの子に知られてしまうのは・・・

関係が壊れてしまうかもしれない・・・

だから・・・

 

「話は終わりだ。 俺は訓練して帰るから帰れよ」

 

アリアはまだ、不満そうにしていたが

いいこと思いついたというように

 

「その剣を握って使えるようにするんでしょ? なら、相手も必要よね」

 

そう言いながら小太刀を抜く。

 

「行くわよ!」

 

「ちょっ!」

 

弾丸のように突進してきたアリアの小太刀を日本刀で受ける。

アリアは左の小太刀を俺の脇腹に向かい振るうが鞘を抜いてそれを受ける。

ぎりぎりと力比べをしながら俺は押し返した。

パワーは俺が上だ。

たんたんと軽いステップで後退したアリアに追撃をかけるべく地面をけろうとした瞬間、視界がブラックアウト、いや、赤い・・・赤い・・・あの・・・

 

「う・・・」

 

「優!」

 

がしゃんと剣と鞘を取り落とす。

手を地面につけ俺は再び嘔吐する。

 

「げほ・・うえ」

 

「優! 大丈夫なの! 優!」

 

アリアは慌てて走りよってくると俺の背をさすってくれた。

 

「震えてるの?」

 

「い、いやなんでもねえよ」

 

無理やり立ち上がると日本刀を見る。

ダメなんだ・・・今は・・・

 

その後、アリアと30分ほど訓練を続けたがついに俺が、日本刀を持ち続けることは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「金がない・・・」

 

その日、俺は比較的暇な時間帯に中華料理屋『炎』に来ていた。

がらがらの店内で俺はテーブルに通帳を広げ唸っていた。

 

「うちの店でバイトでもしますかお兄さん?」

 

目の前に座っているアリスが通帳を勝手に見ながら言ってくる。

 

「いや、バイトでどうにかなる金額じゃねえんだよ・・・支払い今月までだからな」

 

「ほほぅ、つまりお兄さんはついに臓器を売ってしまうわけですね」

 

「まじでそうなりかねん・・・」

 

「おお、冗談でいったんですがそれは深刻ですねぇ」

 

アリスが少し引き気味にノートパソコンを開く。

おい、お前仕事中だろ! いいのかよ!

店の店主を見るが何も言わない。

大丈夫かこの店?

まあ、忙しい時はアリスはよく働いているのは知ってるが・・・

 

「アリスは金に困ってないのか?」

 

「ん~、私ですかぁ?」

アリスが顔を上げて、にやぁと口元を緩める。

 

「貯金が5000万ほどならありますよぉ」

 

「貸してください!」

 

恥も外聞もなく俺は頭を下げていた。

アリスは悪魔のようににこりと微笑み

 

「じゃあ、利子は十 九で」

 

「ありえねえよ! ヤクザに金借りたほうがましだろその利子!」

 

「では、10 10で」

 

「増えてるじゃねえか! しかも、返済倍かよ!」

 

「しょうがないですねぇ・・・お金を貸すのはいいんですがこのクエストやったらどうですかお兄さん?」

 

アリスがノートパソコンを逆転させるとそこにはマスターズが掲示するクエストの依頼がは乗っていた。

 

「なになに?」

 

内容 3~7日護衛

 

クエストランク A

 

募集 アサルト、インケスタ、レザド、スナイプ、レピア等最低5名最大7名

 

単位 0.5単位

 

報酬 各100万

 

こいつだ!

 

「さっそく人集めだな! サンキューアリス!」

 

がたんと立ち上がろうとした俺の防弾制服の上着をアリスがつかんでくる。

 

「なんだよアリス?」

 

「いえいえ、まさかお兄さん水だけで出て行く気ですか? ここは、お持ち帰りでこのチャーハンをお買い上げください」

 

「!!!!!!!!!!!!!!!」

 

こうして、俺の財布から380円が去っていったのだった。

アリス商売根性たくましいぜ。

医者の卵のくせに

 

 

 

 

 

次の日、アリアたちに話す前に情報を整理してから俺は学校にいた。

マスターズに連絡する前にまず、人を集めねば・・・

うーむ・・・

そうだ!

屋上に走る。

鋼鉄のドアを開くとそこにいたのは・・・

 

「レキ!」

 

最近、よくここにいることの多いスナイプのロボットレキことレキ、

苗字は本人も知らないらしい。

レキはその、無表情な顔を俺に向けてくる。

ドラグノフ狙撃銃を肩にかけ、オレンジ色のヘッドホンを付けるいつもの姿で

 

「今、大丈夫か?」

 

「・・・」

 

レキはこくりと頷いた。

俺はさっそく、護衛の件を持ちかけてみる。

レキとは白雪の護衛を担当したばかりで少しだけ一緒に暮らしたから慣れもある。

 

「・・・」

 

レキは空を見上げ何かを考えているように見えたが

 

「わかりました」

 

とだけ簡潔に答えた。

よし! 

 

「じゃあ、後で連絡する! 俺は人数集めしてるからまた後でな!」

 

「・・・」

 

こくりとレキが頷くのを見てから俺はその日いろいろなところを駆け巡る。

教室でアリアとキンジを見つけると早速、持ちかけてみる。

 

「護衛?」

 

眠そうに座っているアリアを中央に俺たちは話をしている。

ちなみに席はアリアを挟んで黒板側から見て右に俺、左にキンジだ。

今は来てないがキンジの後ろは武藤の席だ。

 

「ああ、高額で単位も0.5でるぞ」

 

「そんなにでるのか?」

 

よしよし、キンジが食いついてきたぞ。

お前、単位不足だからな。

 

「ああ、アリアもやろうぜ? 俺たちチームだろ?」

 

「あたしは別に構わないけど・・・」

 

よし、承諾はとった!

 

「じゃあ、キンジ、アリア! 決定な!」

 

これで4人だ。

後、最低1人・・・

マリが思い浮かんだが却下だ。

今回はダギュラ向きじゃない。

武藤か不知火辺をさそうか・・・

その放課後、2人に聞いてみたところ、不知火は別のクエストが入っており武藤は妹と用事があるとのことで断られてしまった。

放課後に結構、聞いて回ったんだがみんな駄目の1店張りでもう、諦めるべきか・・・と思っていた。

一応、マスターズには今日の0時までに申請すればOKと言われていたがダメかもしれん。

ちなみに白雪はSSRの合宿で居ないから最初から選択肢にない。

一瞬、アリスが浮かんだがあいつはアンビュラスだし、あの場でうけると言わなかった以上受ける気はないだろう。

護衛には向かないが医者が入れば助かるんだがな・・・

 

「ああ、理子でもいてくれたら誘うんだけどな・・・」

 

乗りのいい理子なら案外OKと言ってくれるかも知れんがその理子はハイジャック事件から身をくらませている。

ま、もう敵としてしか会うことはないだろう。

半分、諦めながらキンジの寮に戻りドアを開けるが中に人の気配はなかった。

誰も帰ってないのか?

よし、なら1番風呂と洒落込むか。

お湯を張ってから衣類を手に個室を出ようとして日本刀に手をつけようとしてやめる。

怖い・・・

そういう感情が正しいんだろ・・・

 

「情けねえな・・・」

 

本当に情けねえよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

風呂は天国とはよく言ったもんだ。

 

「ああーー」

 

オヤジのような声を上げながら湯船につかる。

ちなみに45度だ。

男は暑い風呂に限る。

アリアはこの温度だと激怒するけどな。

周りを見るとアリアのものと思われるシャンプーやリンスが置いてある。

よく知らんが外国の超有名な高級メーカーだった気がする。

俺やキンジが使ったら風穴開けられる。

俺たちが使うのは500円ぐらいまでだな

 

「アリアか・・・」

 

あの子とあってからまだ、そんなに日にちはたっていないが理子、ジャンヌ、ローズマリー、敵はどんどん強くなってきている。

守れるのだろうか・・・アリアを・・・

そう考えれば考えるほど俺は過去を思い出してしまう。

嫌な・・・あの、赤い過去を・・・

 

「ただいま」

 

ん? アリアが帰ってきたらしいな。 あのアニメ声は間違いない。

 

ガチャリ

へっ?

今、浴室に続くドアが空いたような・・・

 

「優? キンジ? お風呂入ってるの?」

 

ドアの向こうにぼんやりと浮かんだシルエットは間違いなくアリアだ。

ツインテールが影になって扉に写っている。

 

「悪い。 先に入ってる。 もうちょういででるから・・・」

 

「じゃ、あたしも入っちゃお」

 

「ああ、ってなにいいいいいいいい!」

 

ドアの向こうのアリアの影がいきなり服を脱ぎ出す動作を始める。

 

「ま、待て! アリア! 俺が入ってるんだぞ!」

 

「知ってるわ。 だから一緒に入るのよ」

 

何が知ってるだ!一体どういうことだ! 誰か説明してくれ!

だが、説明してくれる人など居るはずがない。

そうこうしているうちにアリアがついに下着のあれを抜いだような動作を影で見せてきた。

風呂場に脱出口は1つだけ、アリアがいる脱衣所だけだ。

つまり、逃げられない。

まずいぞ! 史上最悪の大ピンチだ! ジャンヌや理子との戦いなんて比にならん!

 

「入るわよ優」

 

恥ずかしそうな声でドアに手をかけるアリア

ど、どうなるんだよこれ!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第52弾 小悪魔理子りん

逃げる場所はないのか! 逃げる場所は!

そうだ!

 

「ゆーう」

 

バシャアアン

息を大きく吸って湯船に潜る。

目を思いっきりつぶりこれは夢だ!夢なんだといいきかせる。

だが、そんなこと出来る訳がない。

1分後限界が来た

 

「ぶは!」

 

湯船から顔を飛び出し息を整え目の前にいたのは・・・

バスタオル姿1枚のアリア。

だが・・・

意に介さない黙祷で俺は戦闘狂モードになっていた。

それが発見してしまう。

アリアの胸はもっと小さい

少なくてもあんな巨乳ではない!

 

「誰だお前!」

 

風呂場に置いてあったデザートイーグルをアリアの姿をした誰かに向ける。

 

「あたしはアリアよ?」

 

「アリアはそんなに胸大きくないんだよ! そして、そんな行動とったら絶対顔が赤くなる!」

 

本人に聞かれたら殺されるようなことを言いながら

引き金に力をいれた瞬間、アリアの姿をした誰かは妖艶に笑を作った。

人差し指を唇に当てると

 

「くふ、やっぱりばれちゃった」

 

ばりばりと薄いマスクのようなものをはがし、ツインテールを外すとそこにいたのは

 

「やはり、お前か理子!」

 

「りっこりっこりーんでーす! くふふ、ただいまぁ!」

 

きらきらと星でもまたたいていそうなふたえの目をを嬉しそうに細めた理子はウィッグで巧みに隠していた長い蜂蜜色のロングヘアーをばさりと下ろしてくる。

 

「ユーユー理子を助けて」

 

や、やめろ! しゃがみこんで言ってくるな! そ、その胸が強調される。

ってん? 助けてだと?

 

「ていうかそもそもね。 せっかく理子がダブルスクールしてたのにユーユー達のせいでイ ウー退学になっちゃっなんだよ? ぷんぷんガオー!」

 

イ ウーに退学なんてあるのかよ!

 

「理子ユーユーにもお願いがあるの。 だから、お母様が教えてくれた男の子のことを言うことをきかせる方法を初めて使っちゃう。 くふ、ここから先は理子ルートのパッチをお買い上げくださったお客様専用の甘い甘ぁーいイベントシーンなのでぇーす」

 

そんなもの買ってねえ!

興奮した獣のように熱い域を吐きながら顔を近づけてくる。

だ、駄目だ!まずい! このままでは・・・

 

「ユーユ、えっちいことしよ?」

 

バスタオルに手をかける理子

ど、どうすりゃいいんだ・・・

 

 

 

 

 

 

だが、その心配はとりあえず杞憂で終わった。

 

「くふ、残念でしたぁ」

 

理子が着ていたバスタオルの下はスクール水着だった。

しかも旧型で、胸には理子と書かれている。

 

「お、おまなんてかっこしてる!服を着ろ!」

 

その道の人間には凄まじい破壊力を誇る格好。

それが、旧スクール水着である。

 

「ユーユ興奮してる? くふ、理子はしてるよ? 」

 

そう言いながら湯船に入ってくる理子

丁度俺の背中に入り込むよう入ってくる。

俺は抵抗したが混乱もありするりとはいられてしまう。

理子は俺の体を抱きしめると

 

「理子ね。 この間戦った時からユーユーのこと忘れられなくなっちゃんたんだぁ、初めて、本当の恋ってものしてみたい。 ユーユ大好き 好き、好き」

 

や、やめろ!胸が背中に!

だ、誰か助けてくれ!

 

「や、やめろ理子!」

 

実質、俺は誘惑と激闘していた。

人間の3大欲求のひとつと・・・

 

「だーめでぇす。 ここからは理子ルートなの。 くふ」

 

そういいながら理子は背中から俺の下腹部に右手をすすすとよせ・・・

ああ、もういいかも・・・

 

ドゴオオオオオン

といきなり、浴室の扉が吹き飛んだ。

そこにいたのは・・・

 

「理子ぉ! あんた奴隷2号にも手を出す気!」

 

阿修羅と化したアリアだった。

顔は怒りで真っ赤でガバメントを手にがるると唸っている。

俺たちの状況を見て

 

「優ぅ! あんた何してるのよ!」

 

「ち、違うんだ! これは!理子が!」

 

手をアリアに向けて弁明するが

お前の格好で理子が乱入しようとしたなんて口が裂けてもいえん・・・

 

「ユーユーだってその気だったんだよ。 理子がここの位置にいるのが証拠。 これからイベントシーンなのに理子3Pは嫌いなんだよね。 それにユーユーだって理子に溺れる3秒前だったんだから」

 

「お、おぼ・・・」

 

色恋沙汰が苦手なアリアは拳銃を落としそうなほど動揺している。

 

「か、風穴あけてやる! あけてやるから」

 

ガンガンガン

ぎゃああああ!やめろ!俺裸なんだぞ!

 

45ACP弾を湯船に潜り交わしながら俺は悲鳴を上げる。

 

「くふ♫」

 

理子は懐中時計を投げるとそれが炸裂する。

武偵弾のフラッシュと同じ効果をもつ閃光手榴弾。

理子と戦ったときに使ったが今度は俺たちの番だった。

視力が吹っ飛ぶ。

 

「きゃっ!」

 

アリアがかがみ込む。

そして、湯船から理子が出ていく気配がして

閃光が収まり視力が回復してくるとアリアが鬼の形相で俺を見る。

 

「理子はどこよ!」

 

バタンとドアが閉じる音が聞こえてくる。

外だ!

俺とアリアは飛び出し・・・いや、俺は服を来てから理子の追撃へと向かうのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第53弾 りっこりこにしてやんよ

屋上に逃げた理子を追う途中、キンジとばったりとあった。

どうやら、アリアと戻ってきていたらしい。

いや、正確に言うなら理子はまず、キンジにアタックをかけ、アリアの乱入でその場は逃走し、俺のいる場所を強襲してきたらしい。

やっぱり、本気じゃなかったんだな・・・

密かに背中に残る柔らかい感触を思い出し・・・い、いや思い出すな!

今は理子だ!

1度は勝ったとはいえ、油断大敵だ。

 

「―理子!」

 

屋上のドアを蹴飛ばしてあけたアリア

そこで理子は屋上のフェンスに腰掛けて子供のようにぷらぷらさせていた。

夜空に輝く満月が理子の笑を妖艶に見せている。

 

「ああ、今夜はいい夜。 オトコもいて硝煙の臭いもする。 理子どっちも大好き」

 

理子の目がすっと細まった。

ハイジャックで俺たちと戦った時と同じ眼だ。

 

「峰・理子・リュパン4世。 今度こそ逮捕よ! ママの冤罪償わせてやる」

 

アリアはガバメントを理子に向ける。

そう、グリップにかかれているアリアの母、神崎 かなえさんは冤罪を着せられて刑務所にいる。

イ ウーという集団がそれをしているのだ。

そして、理子はその一員。

 

「待てよアリア。 こいつは俺の獲物だ」

 

戦闘狂のモードが理子との再戦を望んでいる。

ワイヤー、ガバメント、デザートイーグル。

右手も全快している。

引き分けでなく今度こそ勝利してやる。

 

「ダメよ優! こいつだけは譲らないわ! あんたは見てなさい!」

 

「なら、どっちが沈めるか勝負するか? キンジもどうだ?」

 

「優、女の子の戦いに男が出るのは野暮だ」

 

「あ?」

 

あ、そうかヒステリアモードか・・・

確かにアリアが戦いたいと言っているのにねじ曲げるのはモードが許さないだんだろう。

 

「ちっ、譲ってやるよ」

 

俺が一歩下がった瞬間、アリアが動いた。

 

「やれるもんならやってみなライミー」

 

にやぁと白い歯を見せてフェンスから飛び降りた理子が言った。

 

「言ったわねフロッギー!」

 

2人はイギリス人とフランス人の蔑称を口にする。

まあ、アメリカ人が日本人をジャップといったり、日本人が中国人をチャンコロや支那、朝鮮をチョンと言うのと同じ意味だ。

つまり、悪口。

 

アリアが2丁拳銃を発射しながら突っ込んでいく。

ああは言ったが、アリアが不利になったりしたら乱入させてもらうからな。

 

「くふっ」

 

初弾を側転でかわした理子は屋上の中央でアリアと交差した。

たん!

その場でムーンサルトを切り、アリアの頭上を飛び越える。

がちゃりと理子の背負うランドセルが開いた。

その中から2丁のワルサーP99が出てきて理子の小ぶりの手に握られる。

バ!

ババ!

 

理子とアリアの銃弾が互いに交差する。

防弾制服を前提としたアル=カタ戦。

銃が一撃必殺にならない以上、これは打撃戦と言っていい。

 

「くふふっ、鬼さんこちら」

 

再びムーンサルトを決める。

理子

 

振り向きざまにアリアがガバメントを撃つ。

だが、同時にアリアのガバメントがスライドをオープンさせてしまう。

ガバメントはパワーは勝るが装弾数がワルサーに劣るのだ。

アリアは新体操の選手のようにとびのきざまにガバメントの弾倉に再装填する。

 

「かわいい!戦うアリアってかわいいい! アリアかわいいよアリア」

 

早口言葉でまくしたてる理子

どうでもいんだがその言葉変態みたいだぞ・・・

理子は笑いながら戦っている。

戦闘狂だなあいつも・・・

アドレナリンによったような表情・・・俺も、戦ってるとき似たような表情してるからなぁ・・・

 

 

「遊ぼ遊ぼおちびちゃん! もっと遊ぼ! くふふふ」

 

「こ、このぉ・・・」

 

互いを射線に収めようとせめぎ合う。

めちゃくちゃ、高度なアルカタ戦だ。

俺のようにワイヤーもないから純粋な銃対銃の戦い。

動物番組見てぽんぽんはねていたアリア、教科書にギャルゲーの同人誌を重ねて読んでいた理子と同一人物とは思わんよな普通・・・

 

 

「互角だな。 どっちが勝つと思うキンジ?」

 

アル=カタ戦を見ながらキンジに尋ねる。

ヒステリアモードのキンジは目をすっと細めると

 

「そろそろだな」

 

発泡音がやんだ。

互いに弾を切らした2人は距離を取ると小太刀とナイフを抜く。

 

「あんたブサイクだから今気づいたんだけど」

 

アリアはちょっと背をそらし無理やり理子を見下すように言う。

 

「髪型元に戻したのね」

 

さっきのおちびちゃんと言われた仕返しだろう。

皮肉で返すことにしたようだ。

アリアがハイジャックで切断した理子のツーサイドアップのことを持ち出して・・・

今の理子は改めて髪を結、元に戻している。

 

「よく見ろオルメス! テールが少し短くなった! おまえに切られたせいだ」

 

男しゃべりで言った理子にアリアはほほほとわざとらしく笑った。

 

「あら、ごめんあそばせ」

 

「言ってろちび!」

 

「なによブス!」

 

「チビチビ」

 

「ブスブスブス」

 

お前ら小学生か!

と突っ込みたくなるほどの喧嘩だなこりゃ・・・

 

「チビチビチビチビ」

 

「ブスブスブスブスブうっぷえ!」

 

ハハハ!アリア舌かみやがった。

 

「優」

 

キンジが俺を見てくる。

一瞬で、理解した俺たちは風のように2人の間に割り込んだ。

キンジのバタフライナイフがアリアの小太刀を受け止め。俺は右のワイヤー発射機構でナイフを受け止めるとデザートイーグルを理子の胸に向けた。

アリアは犬歯をむいて目を見開き、理子は俺と戦闘狂同士の目を合わせながらふんと鼻を一つ鳴らす。

 

「悲しいよ」

 

低く憂いを帯びた声を後ろに聞きながら説得はこいつに任せるかと俺は考える。

だって、女の子の扱いはヒステリアの時のキンジの方が俺より上だからな。

 

「き、キンジあんたまた・・・?」

 

「今はこらえてくれアリア。 それに愛らしい子猫同士の喧嘩を鑑賞するのは俺の趣味じゃない」

 

俺は理子とにらみ合いながら、状況的に振り返れんがアリアは真っ赤になってんだろうなたぶん・・・

 

「・・・こ、こね、こね、ね・・・」

 

ほらな

 

「―理子」

 

次にキンジは理子の説得を始めるが理子は答えない。

 

「本気じゃない恋も、本気じゃない戦いも味気ないものだとは思わないかい?」

 

まあ、確かに理子はハイジャックで使った髪を使ったカドラを使わなかった。

あれを使えばアリアを圧倒することも出来たはずだ。

理子は少し寂しそうな目をするととんと後ろの1歩下がるとぽんぽんとナイフを頭上に投げる。

戦意が消えたな。

俺はデザートイーグルを下げる。

 

「半分ハズレ、理子キー君とユーユーには本気なんだもん」

 

理子は背中のランドセルを振ってカバーを開け落ちてきたナイフを身もせずにカバンに入れてカバーを閉じた。

ゆるい天然パーマの髪が揺れる。

 

「でも、半分あたり、今の理子は万全じゃない。 だから、今のアリアとは決着を付ける時じゃないんだよ」

 

「そうかい」

 

キンジはそう言うとバタフライナイフを腰に収めた。

俺もデザートイーグルをホスルターに戻した。

ああ、なんとなく分かった。

理子は・・・

 

「アリア理子とはもう戦えねえよ」

 

「ゆ、優! あんた理子に何されたのよ! 

 

俺が寝返ったって思ってるのか?

それは、たぶん・・・絶対にないよ

 

「アリアを犯罪者にしたくないからさ」

 

キンジが補足を入れてくれる。

 

「さすがキーくん、ユーユー分かってくれちゃった?」

 

理子は手をぽんぽんと叩きながら1回転した。

 

「理子とキー君とユーユー体だけじゃなくて心も相性ぴったりだね」

 

アリアは俺たちの間に流れる妙な空気に焦りを覚えたようで

 

「犯罪者ってなによ?」

 

ぎろりとカメリアの目を向けてくる。

 

「司法取引だろ理子?」

 

「あったりー! そうでぇーす! 理子4月の事件についてはとっくに司法取引済ませてるんですよきゃは」

 

司法取引っていうのは犯罪者が共犯者の情報を渡したり、事件を解決する情報を渡すことで成立する制度だ。

まあ、犯罪者を法の外に出すようなこの制度は近年の日本で導入されている。

 

「つまり理子を逮捕したら不当逮捕になっちゃうのでーす」

 

ちっちっちっちと人差し指を左右に振る理子

アリアはそれをぎりぎりと歯を噛みながら小太刀を怒りに震わせる。

 

「嘘よ。 そんな手にあたしが引っかかるとでも?」

 

「嘘かもしれないが本当かもしれない。 俺たちはここでそれを確かめられない」

 

アリア、ここはキンジの言うとおりだ。

理子を捕まえればお前は不当逮捕などの罪で捕まりかねない。

ただでさえ、日本の上層部はおかしなことが多いんだ。

かなえさんの濡れ衣だがあれは正規の捜査だけでなったものではないだろう。

それに、公安0課の沖田ははっきりと免罪と言い切った。

これは、上に何かがあると見ていい。

アリアがつかまれば冤罪をかぶせられかねない。

冤罪を証明するため間違っても公安の連中とはやり合いたくないからな。

ぐぬぬとアリアは歯ぎしりするがなんとか飛びかかることは避けてくれた。

だが、アリアは小太刀を理子に向ける。

 

「でも、ママの武偵殺しの冤罪をきせたのは別件よ! 理子!その罪は最高裁で証言しなさい!」「いーよ」「嫌というなら力づくでも・・・え?」

 

「証言してあげる」

 

「ほ、ほんと?」

 

疑いの目を向けながらもアリアは嬉しさを隠していない。

基本的にアリアは人のことを疑わないんだよな・・・

悪い男につかまれば落ちるとこまで落ちるだろうな・・・

そこを含めて守らないとな依頼の間ぐらいは・・・

 

「ママ、アリアもママが好きなんだもんね。 理子はお母様が大好きだからだからわかるよ。 アリアごめんね。 理子は・・・理子は・・・」

 

そこまでいうと理子は顔を伏せ

 

「お母様・・・ふぇ・・・う・・・」

 

涙を流し始め

 

「ふぇえええええ」

 

理子が泣き出した。

 

「えっ? え? えええ!」

 

そんな理子にアリアはあたしがなかしたのという感じでオロオロしている。

「ちょ、ちょっと何泣いてるのよ! ほら、ちゃんと話しなさい」

 

小太刀をしまいながらアリアは理子をなだめにかかる。

おいおい、アリアお前本当に騙されやすいな・・・

理子の口みたらにやりとしてるのわかるぞ・・・

にしても、なんで理子はここに戻ってたんだ?

理子は泣きながら語りだした。

 

「理子・・・理子、アリアとユーユー達のせいでイ ウー退学になっちゃったの。 しかも、負けたからって、ブラドに理子の宝物取られちゃったんだよぉ」

 

周囲の空気が張り詰める。

見るとアリアが殺気を目に宿らせていた。

 

「ブラド?無限罪のブラド? イ ウーのナンバー2じゃない」

 

「そーだよ。 理子、ブラドから宝物取り戻したいの。 だから、アリア、キー君、、ユーユー、理子を助けて」

 

「助けろってなにすりゃいいんだ?」

 

俺が聞くと理子はわざとらしく

 

「泣いちゃダメ、理子は本当は強い子、いつでも明るい子、さあ、明るくなろう」

 

などといい満月を背に

 

「キー君、ユーユー、アリア、一緒に・・・」

 

にやりと笑顔になり

 

「ドロボーやろうよ」

 

と、とんでもないことを言ったんだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第54弾 大人気理子ちゃん

武偵少年法により犯罪を起こした武偵の情報の公開は禁止されている。

その情報のやりとりは武偵同士でも禁止されており、知れるのは1部の司法機関や公安0課といった特別な部門のみ。

これは、明らかな悪法なんだが改善されることはないだろう。

道徳的な問題とか言うんだがよくわからん・・・

まあ、だからこそ理子がハイジャックの犯人だとは俺たちは誰にも言ってないんだ。

 

「たっだいまぁっ!」

 

いきなり、ひらひらの改造制服で2-Aに現れた理子に教室はわーっ! と盛り上がった。

どうやら、理子は極秘調査でアメリカに行っていたということになっているらしい・・・

手回しいいよな・・・

俺には無理だ。

 

「みんな久しぶり! りこりんが帰ってきたよ!」

 

教壇にあがってくるくる回った理子の周りにクラスメイトたちが集まっていく。

どうでもいいが、後でキンジに聞いたところ、理子に駆け寄った順がクラスのアホランキング上位と言うわけだ。

りこりん!りこりん!と腕を振り回している奴らもいる。

ハハハ、まあ理子はかわいいから気持ちはわからなくはないんだがな・・・

 

「理子ちゃんおかえり! あ、これなに?」

 

「えへへ、シーズン感とりいれてみました」

 

理子は赤ランドセルの側面にてるてるぼうずを吊り下げている。

女子にはかわいいとおおうけだ。

理子は人気ものだからな・・・

俺も社交性はキンジよりはいいと思うが理子にはかなわん・・・

戦闘狂モードでも絶対に理子には勝てないなあのおばかきゃらには・・・

最近俺はハーレム野郎とか言われてるらしいがなんでだろう?

俺、恋人いないんですけど・・・

 

「くふっ、キー君もユーユーもおいでよ」

 

理子が手招きしてきたので俺はふんと目を背けてやった。

キンジも同様だ。

ばきっと音がしたので隣を見るとアリアが机に突っ伏して鉛筆をへし折っていた。

気持ちはわかるが落ち着くんだアリア!

約束もあるんだからな・・・

 

 

 

 

 

で、放課後帰宅した俺たちは・・・

 

「あー腹たつ、あむ」

 

「まったくだ」

 

「理子にはいずれおしおきが必要ねはむ」

 

「おう、やれやっちまえ」

 

「そして、はむ、はむぅ、風穴地獄にはむ」

 

「なんかすごそうな地獄だがそのへんにしておけアリア。 腹壊すぞ」

 

「うるふぁい」

 

ばくばくとももまんを食べていくアリアにキンジが注意するが無駄だ。

アリアが空になった紙袋を後ろに捨ててしまう。

ゴミ箱横にあるだろ・・・

 

「でも、理子先輩人気ありますよね」

 

ぎろりとアリアに睨まれたマリが1歩引く

 

「理子先輩? 峰先輩じゃなくてか?」

 

俺が聞くとマリははいとうなずきながら

 

「理子先輩がそう呼んでくれって言ってましたよ。 りこりん先輩でもいいって行ってましたけど・・・それはそうとそろそろ椎名先輩も優先輩と・・・」

 

「で、いいのかお前は? 理子は俺たちに盗みの片棒を担がせる気だぞ」

 

マリを遮るように俺が言う。

 

ま、ことの経緯はこうなるんだが

 

 

 

 

 

 

「ドロボーしようよ」

 

理子の言葉にアリアとキンジが何も言わないので俺は面白そうに

 

「いいぜ」

 

「優!」

 

なに考えてるのよとアリアに睨まれるが俺は続ける。

 

「その代わり条件がある」

 

「うん、いいよ。 なんでも言ってユーユー」

 

「1つは俺はあるクエスト受けようとしてるんだ。 お前も参加しろ」

 

理子は一瞬考えてから

 

「期間はどれくらい?」

 

「最高1週間の護衛任務だ。 アリアとキンジ、レキと俺は参加確定済みだ」

 

理子は小悪魔めいた笑を浮かべて

 

「くふ、なら丁度いいかも」

 

ちょうどいい? 何がだ?

 

「いいよ。 次の条件は?」

 

「ローズマリーだ」

 

言葉に怒りを込めて俺は言った。

 

「ローズマリーの情報を全てよこせ。 あいつはジャンヌの知り合いだった。 イ ウーにいるんだろ?」

 

「いいよぉ。 理子が宝物取り戻したら全部話して上げる」

 

「先には話してくれないのか?」

 

「理子はユーユーのクエストを受けるよ。 全部ユーユーが先手は卑怯じゃないかな?」

 

むぅ、そう言われると確かにそうだ・・・

アリアの護衛の観点から言ってもブラドとはいずれぶつかる相手・・・か

 

「OKだ。 理子、その条件でいこう」

 

もちろん、その後アリアはわめいたが理子がかなえさんの裁判で証言すると確約してくれたのでしぶしぶだが納得してくれた。

 

で、今に至るんだが・・・

 

「良くないに決まってるでしょ。 リュパン家の人間と組むなんてホームズ家始まって以来の不祥事よ。 けど、今は状況が状況よ」

 

「それは結構だけどな。 前科一犯がつくんだぞ? まぁ武偵なんてそのへんがきれいな奴なんて少数派だけどな・・・それも覚悟の上か?」

 

俺は・・・今更だけどな・・・

俺は・・・過去に大罪を犯している・・・

椎名の力で闇にほおむられたがあれは・・・

 

「ああ・・・そこは心配しなくていいのよ。 これは犯罪にはなりえないわ」

 

 

「・・・なんでだよ?」

 

「理子の言ってたブラドって奴はイ ウーのナンバー2―相手がイ ウーなら法律の外。 仮に窃盗罪で起訴されても逮捕されないわ」

 

「アリア・・・」

 

俺はアリアの言葉を遮るように口を出す。

 

「俺はローズマリーを追っている。 あいつはイ ウーにいる。 それはこの間のジャンヌとの戦いで確信したんだ」

 

アリアはわずかに目を開いてから

 

「優、教えてもらえないの? ローズマリーのこと?」

 

アリアの言葉に俺は憎悪の感情を増幅させる。

手にもっていたガラスのコップを握力で握りつぶした。

 

「アリア達には関係ない」

 

「あるわ」

 

「何?」

 

「ローズマリーもあたしのママに数百年の免罪をきせている。 だから、無関係じゃないわ」

 

なんてこった。

ローズマリーもかなえさんの・・・

だがそれでも・・・

 

「かなえさんの無罪は・・・少なくてもローズマリーの分は俺が責任を持つ。 だけどな・・・

あいつのことは言えないんだ」

 

言える訳がない。

言いたくないんだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第55弾 護衛の始まり

しばらくは原作にないオリジナル章です


「・・・」

 

「・・・」

 

 

アリアと俺が沈黙してしまったのでキンジが口を開く。

 

「それはそうと、アリア、いい加減にイ ウーとやらのこと教えてくれ。 お前、俺はイ ウーのこと聞くとはぐらかすのはなんでだ? チームを組んでるんだから俺だけのけものはないだろ?」

 

いや、キンジ俺もイ ウーの全貌は掴んじゃいない。

知ってることはわずかだ。

 

「チームだから教えられないわ」

 

「なんだよそれ?」

 

「聞いたらあんた消されるわよ」

 

「殺されるって意味か?」

 

「それですまない。 戸籍、住民登録、レンタルショップの会員登録までありとあらゆるあんたの痕跡が消える。 この国に存在しなかったことになる」

 

「なんだって!」

 

「イ ウーの情報はイギリスでは王国A機密、日本でも特I級国家機密だわ。下手に知って公安0課や武装検事に追われたくないでしょ?」

 

公安0課と武装検事ねぇ・・・

あの沖田が所属する殺しをしても罪に問われない最強の戦闘集団

その最強の名は伊達ではない。

俺は公安0の沖田に過去半殺しにされているし、正直な所、本気で戦っても未だに沖田に勝てる気がしない。

公安0の人間には何人かあったが奴らは真正の化け物集団だ。

「そんなことよりもね優」

 

ん?

 

「あんたどういうつもりよ。 理子をクエストに誘うなんて」

 

ああ、まあホームズ家とリュパン家は対立してきたらな怪盗と探偵としてな・・・

 

「別にいいだろ? 一緒に行動すれば監視にもなるし、理子の能力や戦闘能力はお前もよく知ってるだろ?」

 

「それは・・・」

 

その点は認めているのかアリアが言い返さない。

よしと思った週瞬間、アリアが犬歯を向く

 

「リュパン家は代々世界からよりすぐった少数精鋭のパーティーを組むわ! あんたたちもあたしから取り上げてパーティーにいれよう言って気にちがいなんだから! そんなの絶対に許さないんだから!」

 

泥棒パーティーか・・・

それはそれで楽しそうな人生だが・・・

 

「あんた達はあたしだけの奴隷なの! だから、ほかの人に仕えちゃダメなんだからね! そこんとこちゃんとわきまえときなさいよ!いい!」

 

「大体キンジといい優といい。 理子に騙されるのはあれ1回きりにしときなさいよ! 裏切ったら人間レンコンにしてやるからね!」

 

こ、怖そうだな

 

「大体あんたたちは結構たらしなんだから優はレキとデートしたり、キンジは白雪といちゃいちゃと・・・」

 

ん? レキとデートなんてしてないぞ? 遊びにはいったが・・・

 

「そうですよ。 椎名先輩いって結構もてますよね」

 

もてる? 何ってんだ?

 

「し、白雪にキスして・・・あ、あたしにもしたくせに・・・」

 

がるるとライオンの威嚇のようになってきたのでしょんべんと席を立つキンジを見て俺はコンビニでジュース買ってくるとその場を離脱するのだった。

だって、あのままじゃ風穴だろ・・・

コンビニで雑誌を読みながら俺はひとつの雑誌を手にとった。

旅行の雑誌だ。

場所は神戸。

そう、今回依頼の主がいる場所だ。

兵庫武偵高に依頼がいかないとなるとワケありだろうな・・・

今晩にも荷造りだな・・・

雑誌を閉じながら俺は思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神戸市謀区某所

 

「お姉ちゃん。 東京の武偵高の護衛の人たち明日くるんだって。 さっき連絡あったよ」

 

暗い部屋の中で少女はぎゅっとくまのぬいぐるみを抱きながら

 

「そう・・・」

 

「迎えに行ってみる? 神戸空港にくるみたいだから・・・」

 

「千夏・・・私たちは狙われるのよ。護衛の人に迷惑はかけられないわ」

 

「うん・・・」

 

そういうと妹は部屋に入り少女のベッドの中に入る。

 

「千夏?」

 

「お姉ちゃん・・・今日は一緒に寝ていい?」

 

闇の中で少女は笑を作りながら

 

「うん、一緒にねよう」

 

「うん♫」

 

2人の姉妹は互いを離すまいとパジャマを握り締めながら闇の恐怖に上がらっていく。

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「ん?」

 

「前の生活に戻りたいよ・・・こんな怖い生活はもうやだ・・・」

 

涙を流す妹の頭を撫でながら少女は微笑んだ。

 

「大丈夫よ。 千夏、私があなたを守るから・・・」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第56弾 神戸へ!

「うおおおお!」

 

その日、俺は全力疾走していた。

なぜなら、離陸の時間は9時で今は8時45分

 

「キンジとアリアのバカやろう! なんでおこしてくれねえんだ!」

 

9時に成田を離陸する飛行機に乗るために俺は成田空港のターミナルを突っ走る。

 

「止まりなさい!」

 

警備の人間は前をふさいでくるがしかねえ!

 

「武偵だ!」

 

と、武偵手帳を見せながら突っ走る。

見るとフライトアテンダントがドアをめようとしているところだった。

すでに、人間の脚力では飛び越せないほど距離が空いている。

 

「待ってください!」

 

そういうと俺はワイヤーを発射した。

ドカアアンとドアの隙間に挟まったワイヤーにびっくりしたのかフライトアテンダントが硬直した姿が見えた。

一気にワイヤーを巻き戻して機内に着地する。

 

「よし! 完璧!」

 

フライトアテンダントの人が硬直しているので訳を説明してから俺は部屋に向かう。

成田から大阪まで大して時間は掛からないがこの、依頼主相当の金持ちらしく、600便のような豪華な飛行機のチケットを用意してきたのだ。

いやぁ、危なかった、

これに、間に合わなかったら新快速乗り継いで神戸になんてなりかねんからな・・・

それだけはごめんだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

「おい! お前ら!」

 

「あ! ユーユーだ! くふ、間に合ったんだ」

 

部屋の中央でトランプをしている理子が小悪魔めいた笑を浮かべて言った。

なんと、豪華なことか部屋の中央には座席が並んでおり、理子、アリア、キンジ、レキ、マリが・・・っておい!

 

「なんで、マリがいるんだ!」

 

「もちろん、申請したからです。 理子先輩に頼めば1発OKですよ」

 

くふっと笑う理子を見て俺はやられたと思った。

ダギュラは尋問しか今は役に立たないがまあ、この場合仕方ないのか・・・

 

「よく間に合ったな優」

 

「うるさいぞ裏切り者! 起こしてくれよ!」

 

「あんたソファーでゆっくり寝てて後で起きるから先に行っててくれってメモ書いてたじゃない」

 

アリアがむすっとして言う。

そんなメモあったっけ?

理子ががくふっと笑う。

お、お前か!

 

「理子ぉ!」

 

別に倒す気がないが叫ぶと理子は手招きしながら

 

「ユーユーもおいでよ。 ババ抜きしよ」

 

そして、6人でババ抜きが始まるがレキ・・・お前の表情はよめん・・・

最後の2枚なんだが

 

「・・・」

 

レキはまったくのポーカーフェイス。 眉一つ動かさない。

駄目だこれは・・・

 

「さっさとしなさいよ」

 

アリアの言葉を背景にやけくそ気味に1枚を引く。

結果はババだった。

 

「ユーユー10連敗!」

 

なんてこったい・・・理子の言葉を聞きながら俺は床に突っ伏した。

 

「レキ・・・お前、プロにでもなったほうがいいんじゃないか」

 

「・・・お断りします」

 

そうか・・・

即答されてしまったがその直後機内アナウンスが入る。

 

「当機はまもなく、神戸空港へ着陸いたします。 乗客のみなさまはシートベルトを付けてお待ちください」

 

俺は理子と目があったので

 

今度はハイジャックするなよとまばたき信号で送ってやると

 

くふ、やってもいいけど今回は大丈夫だよとウインクを返してきやがった。

まあ、信じるぜ

 

神戸空港と兵庫県の大都市、三宮は無人航行システムを搭載したモノレール。

ポートライナーで繋がれている。

依頼主がいる場所まではポートライナーで三宮まで出て、JRで向かう必要がある。

三ノ宮についたのは午前11時。依頼主との接触は午後6時だから数時間遊ぶ余裕があるのだ。

実の所、この遊ぶ部分は今回結構、重要らしい・・・

12時前に理子が見つけ置いた三宮の海側にあるパン食べ放題のスパゲティー屋から出るとそのあとはしばらく自由行動だ。

人ごみにまみれて4人を巻いた俺はごみごみとした三宮の街で息をすった。

 

「ああ、東京ほどじゃねえがあいからずゴミゴミしてやがるなこの街は! 適当に店でだらだらするか・・・」

 

「くふっ♫」

 

笑顔のまま、俺は固まる。

嫌な予感がして振り返ると

 

「どっか行くのユーユー?」

 

理子が立っていやがった。

赤いランドセルを身に付けているひらひらのロリータ服を来ている理子。

道行く人が美少女の理子を見て顔を赤くしている男とかが見える。

 

「どこに行きたい?」

 

理子を巻くのは無理だ・・・それこそ、直接攻撃を選択肢に入れない限りはな・・・

覚悟を決めて言うと理子が指を指す。

 

「理子、あそこ行きたいなユーユー」

 

 

そこはセンタープラザ、アニメイトやゲーマーズやとらのあな等、アニメ好きにはたまらない聖地らしい・・・

秋葉でいいんじゃないかと疑問が残るが俺達はそこに付き合うのだった。

理子は次々とゲーム等を買いあさり、15才以上、の商品は俺を遠慮なく使いやがった。

一応、学生証は持ってるけどな・・・

 

「ユーユー! 今度理子あそこ行きたいな♪」

 

こ、こら右腕に胸を押し付けるな!

アリアと同じ小柄なのに理子のその・・・胸はでかい。

白雪には及ばないが・・・

 

「優! こっちに飛べ!」

 

おきなり男しゃべりになった理子の言葉を聞いた瞬間俺は理子に引かれて移動した。

直後、猛スピードで車が通過していった。

キキキとその車、現在では大衆車となったトヨタのプリウスが道路で反転して

再び突っ込んでくる。

 

「理子!」

 

この手口に覚えがあった俺が理子に避難の声を送ると理子は焦ったように

 

「これは私じゃない!」

 

といいながらランドセルからワルサーを取り出す。

俺もデザートイーグルを抜くとタイヤに向けて発泡した。

ドオオン

迫撃砲のような轟音に道行く人々が悲鳴を上げるが直後、タイヤに命中した弾がはじかれる。

 

「!?」

 

「防弾タイヤだ優!」

 

理子がエンジンを狙いワルサーを3点バーストで6発打ち込むが同様だ。

あの車無人の上、プリウスに似てるが防弾装備されてやがる!

デザートイーグルで破壊できないなら手持ちの武器で破壊できるのは武偵弾しかない。

それを使わず、こいつを破壊するならアンチマテリアルライフルが欲しいとこだがそんなものここにはない。

くそ、とりあえず、理子を抱えてワイヤーで・・・

 

「わああああん」

 

「!?」

 

振り向くと逃げ遅れたのか子供が泣いている。

ば、馬鹿やろう!逃げろ!

 

子供に駆け寄ろうとした直後、プリウスがこちらめがけて速度を挙げた。

まずい・・・

武偵弾!

マガジンを取り出そうとするが間に合わん。

 

その直後、プリウスが大爆発を起こした。紅蓮ぼ炎と破片が周囲に飛び散る

 

「熱ぃ! 理子! 武偵弾使ったのか?」

 

「私じゃない!」

 

じゃあ、誰だ?

 

「相変わらず、戦闘狂モードにならへんと弱いな優」

 

この声・・・

俺たちが声のした方を見るとマグナムリサーチ社の拳銃マイクロ・イーグルを右手に持った俺たちと同年齢の奴が立っていた。

面白そうににやにやしながら俺を見ているこいつは・・・

 

「プリンか!」

 

「プリンいうなや! 月島 虎児や!」

 

ちなみにプリンはこいつのあだ名だ。

理由は茶髪の髪で先端だけ金髪に染めている特徴的な髪からこのあだ名がついた。

本人は虎の色を真似てると言っているがプリンだってその髪

 

「ハハハ、悪い悪い。 で、虎児? 何やってんだこんなとこで?」

 

「それはこっちのセリフや。 クエストで三宮張ってたらお前がおるんやからな。 しかも、えらいべっぴんな子つれてな。 大丈夫やったか?」

 

「理子は怪我してないよ」

 

裏理子から表に戻り明るくいう理子。

 

「ねえねえ、ユーユーこの人誰? ユーユーの友達?」

 

こら!腕にしがみつくな!

ん?なんだ虎児の奴、ショック受けた顔しやがって

 

「な、なあ優その子もしかして、お前の彼女か?」

 

なっ!

 

「そうでぇーす! ユーユーと理子は熱い恋愛の最中なんだよ」

 

「ま、待てちが・・・」

 

ありえへんと虎児は地面に手を付けてしまった。

背中に背負った日本刀が露になる。

 

「こんな天然に彼女なんかありえへん! しかも、こんな美少女となんて神が許しても俺は許さへん!」

 

「違うって!お前は誤解・・・」

 

「ねえ、ユーユー今日の晩ご飯終わったらユーユーの部屋行っていい? また、優しくしてね」

 

ウインクするな! てかお前焦っている俺見て、絶対に楽しんでるだろう。

そもそも今夜から護衛だろうが!

 

「兵庫武偵高付属の時もそうやったけどなんでお前ばっかり美少女集まるねん・・・理不尽やろ」

 

は? 何の話だ?

 

「ユーユー、中学時代は兵庫にいたんだよね」

 

わざとらしく聞いてくる理子だが、それくらいとっくに調べてるだろ?

そう、俺は中学時代はこの兵庫県の武偵高付属の中学に通ってたんだよ。

虎児とはその時、よく組んでた相棒だ。

 

「東京に行ったかと思えば彼女持ちで凱旋か? ほんまにありえへん・・・しかも、こんばフランス人形みたいな美少女と・・・く、くそう」

 

再び虎児は固まってしまった。

こいつ、彼女いない歴年齢とかぶるからな・・・いや、俺もだけど・・・

 

「おい、理子もう、これぐらいで・・・」

 

「くふっ」

 

明らかに面白そうに理子が笑った。

こ、この小悪魔め・・・

 

「と、虎児。 お前、クエストでここに来たって言ってたよな? この件関係あるのか?」

 

「ん? ああ、それやけどな・・・」

 

涙目で立ち上がった虎児は真剣な顔になり

 

「ちょっとな、今、兵庫武偵高は厄介な事件抱えてるんや」

 

「厄介な事件?」

 

「ああ、あんまり大きい声で言える話やないんやけど・・・」

 

「優、パトカーがくるぞ。 捕まるといろいろ時間を取られる」

 

遠くからサイレンの音が聞こえてきたので裏理子の言葉に従いその場を4人で離れる。

大騒ぎになっているがまあ、大丈夫だろう。

 

場所を駅から少し離れたマクドに変えてざわざわと少し騒がしい場所で俺たちはハンバーガーを頼んでから席に付く。

 

「で? 虎児? 厄介なことってなんだ?」

 

「まあ、インフォルマもまだ、完全に調査を終えたんやないんやけどな中国人の犯罪組織が兵庫県内に潜伏してるってたれこみがあったんや」

 

「中国人?」

 

理子が一瞬、顔をひきつらせたのを俺は見逃さなかった。

 

「何か心当たりでもあるのか理子?」

 

「え?なんのこと? 理子わかんない」

 

お馬鹿キャラでごまかそうとした時点で何か知ってるな・・・

となると、イ ウー関連に中国人がいるかもしれないということ・・・

ま、わかるのはそれぐらいだな

 

「で? お前らは神戸に何しにきたんや? まさか、彼女と観光旅行なんて言ったらしばき倒したるからな」

 

「ちげえよ! クエストだ。 護衛のな」

 

「護衛?」

 

虎児は怪訝そうな顔をする。

 

「なんで、俺らじゃなくて東京武偵校に依頼がいってるんや?」

 

「さあな、お前らが無能じゃないのか?」

 

「言うてくれるな優」

 

俺がにやりとして言ってやると虎児はむっとした顔になった。

 

「久しぶりに勝負するか優? お前のワイヤーはもう、俺には通用せえへんで」

 

「馬鹿か? こんな街中でやりあうわけないだろ?」

 

「兵庫武偵高でやればええやろ?」

 

兵庫武偵高か・・・もしかしたら、進学してたかもしれない武偵高だができれば行きたくない・・・中学時代の連中には嫌な思い出がある奴もいるからな

 

「クエストがあるからパスだ。 またの機会だな」

 

「ふん、逃げおったな」

 

何とでもいえ、戦闘狂モードなら買った喧嘩だろうが通常モードじゃ買わん。

 

「こら! プーリン! ユーユー喧嘩はめっ! だぞ」

 

理子が俺の頭を軽くぽかと叩いてから言ってくる。

 

「ぷ、プーリンってなんや?」

 

唖然として虎児が聞いてくる。

 

「ん? プリンみたいな頭だからプーリンだよ」

 

「ぎゃはははは! プーリンプーリン! ハハハハハ!」

 

「笑うな優! 理子さん! プーリンはやめてーな!」

 

無駄だ虎児、理子は1度つけたあだ名は取り消さん。

 

「くふっ、ダーメ」

 

「うおおお! そんなかわいいあだ名いらへん! 俺は虎のように荒ぶる名前がいいんや!」

 

なんかかわいそうになってきたな・・・

 

「おい、理子それぐらいで・・・」

 

「いたいた! 優!理子! あんたたち勝手にいなくなるんじゃないわよ!」

 

そのアニメ声に振り向くとアリアを先頭にキンジ、マリ、レキの4人が店内に入ってくるところだった。

 

「し、椎名先輩! 理子先輩とデートですか!デートなんですか!」

 

だからマリ! なんで瞳孔が開くような恐ろしい目になるんだ!

キンジ! お前もフォローしろよ!

レキは相変わらず無表情だし・・・

ん? 虎児がなんか静かなんだが・・・

詰めなさいよとアリアに言われて奥に移動しながら虎児はアリアを見てぼーっとしている。

レキがすとんと空いている虎児の横に座るが気づいていないのか・・・

 

「それで、優達は何してたの? 本当にデートなんていったら・・・」

 

ガバメントに手が行くアリア。

や、やめろ!

 

「アリア、注文をとってくる。 何がいい?」

 

キンジがフォローを入れてくる。

助かるぜ

 

「桃まんバーガー」

 

あるのか! あるのかよ!

 

「分かった。 レキとマリは何がいい?」

 

「お任せします」

 

「・・・」

 

こくりとレキは頷くだけ

 

キンジが言ってしまうとアリアが前に座る見知らぬ男を見る。

まあ、虎児な。

カメリアの目と黒い瞳が合う。

 

「あ、アリアさん!」

 

さん?

 

「え? な、何?」

 

どうしたんだ虎児の奴、いきなり立ち上がりやがって

 

「お、俺! 月島 虎児って言います! 一目惚れしました! つきあってください!」

 

「ふえ!?」

 

突然の告白にアリアがぼんと顔を赤くする。

理子がおおというように面白そうに見ていたんだが・・・

 

ドゴオとすさまじい音がし、虎児が吹っ飛んでいた。

あ、あれ? 俺がやったのか?

ぼーとしていたからか虎児は冗談のように吹き飛んで床をざざざと滑りながら沈黙した。

客が呆然とした顔になったので俺は慌てて

 

「あ、すみません。 こいつ精神異常者なんです。 ちょっと眠ってもらっただけで心配ありません」

 

と、武偵手帳を見せながら言うと客はなんだそうかといい食事に戻る。

都会だからこんなことなれっこなんだろ。

赤面してぼぼぼと火でもでそうなぐらいなアリアを見ながらマリが何やらつぶやいている。

嫉妬ですね・・・嫉妬なんですね・・・フフフ・・・

い、意味わからんが何か怖い・・・

キンジが戻ってきたので

 

「キンジ! みんなもう出よう!」

 

マックの店員さんが白い目で見てくるのでここはもうだめだろう。

キンジが持ってきたハンバーガー類を袋に入れてもらって俺は虎児を背負うと全員と店外に出るのだった。

まあ、俺がやったんだから責任があるからな。

その後、冷静になった。アリアは風穴開けてやると虎児を探したが俺が警察保護してもらった後だから虎児に風穴があくことはなかったんだが・・・

ちなみに三ノ宮を離れて電車の中で来た虎児からのメールを書くと

 

件名 死ねや優!

 

本文 何、警察に引き渡してくれてんねん! 頭下げなあかんかったろうが!

それは、そうとあの子! あの子や! アリアちゃん! 俺まじで一目惚れしてもうた!

メアドと電話番号知っとるんやろ! 教えてくれへん! 後、どんなせいか・・・」

 

メールを削除しますか? はいっと

 

「どうかしたのか優?」

 

隣で窓の外を見ていたキンジが聞いてくるが俺は携帯を閉じながら言ってやった

 

「虎の恋いは実らないもんさ」

 

「はっ?」

 

怪訝そうな顔をするキンジを横目に俺は携帯をポケットにいれた。

「次は・・・次は・・・」

 

「次の駅ね」

 

アリアが言った。

そう、次の駅で依頼主がいる街に到着する。

いよいよ、護衛のスタートだな。

でも、三宮のことといい今回もしんどいことなりそうと思うのは俺だけか?

 

「優」

 

ん?

正面のアリアがにこりと微笑んだ。

え? 何?

 

「さっきの理子とのデートの話、後でゆっくりと聞かせてもらうわ」

 

「覚悟してくださいね」

 

マリが付け足す。

ああ・・・もう、東京に帰りたい・・・

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第57弾 奴隷は正座してなさい!

ピンポーン

 

どこにでもありそうな住宅街の1角にその家はあった。

2階建ての1軒屋である。

 

「あれ?おっかしいな? 留守かな?」

 

理子が首をかしげながらピンポーンとインターホンを押した。

だが、沈黙した状態で返事はない。

 

「ここであってるのか?」

 

キンジが携帯のGPSで確認しながら言った。

 

「どうなのよ優?」

 

アリアが聞いてくる。

今回の依頼を受けたてまえリーダーは俺だからな

 

「間違いないはずなんだが・・・すみませーん! 藤宮さーん!」

 

「・・・」

 

レキがドラグノフを担いだまま雨戸のしまった家を見上げている。

返事はない。

 

「約束の時間は18時だよな? 一応、5分前だから18時まで待つか?」

 

「中に誰かいます」

 

「何?」

 

レキの言葉に俺は窓を見上げる。

すると、さっとストレンドグラスの小窓から人影が下がるのが見えた。

 

「対象は拳銃を所持しています。 狙撃しますか?」

 

おいおい、まさか・・・

護衛する前に襲撃者に制圧されたんじゃないだろうな?

出てこない理由もそれで、納得がいく。

 

「理子! 鍵頼む!」

 

「OK! ユーユー」

 

ガバメントを抜きながら理子がピッキングを開始する。

さすが、泥棒一族、1秒も掛からずピッキングを解除してドアを開けるが中から内鍵がかかっているらしい。

がちゃんと行く手を阻まれる。

この!

 

デザートイーグルを取り出すとその部分に発砲。

ドオオンと凄まじい轟音が住宅街に響きわたった。

 

「アリア! キンジ! お前らは1階頼む! 理子! レキは周囲の警戒してくれ!マリは理子についてろ」

 

目を開けると戦闘狂モードで突入する。

階段を駆け上がり先程の小窓があった部屋の前まで来ると中から人の気配がする。

2人以上はいるな・・・

 

「ふっ!」

 

ドアを蹴破ると中に転がり込んだ瞬間パンと銃声がする。

 

「いて!」

 

それを防弾制服の防御力で無理やり突破して、相手の銃を蹴りばす。

 

「きゃっ!」

 

相手が悲鳴を上げる。

ずいぶん、可愛らしい悲鳴だな。

 

「終わりだ!」

 

左手で相手の首を掴むと床に叩きつけてガバメントを額に押し当てる。

え?あれ?

今、分かったんだが押し倒したのは女の子だった。

中学生ぐらいの髪の長い女の子。銃を突きつけられてるのに気丈に俺をにらみ返してきている。

 

「こ、殺しなさいよ。 どうせ、私の命を狙いに来た殺し屋でしょ?」

 

え? あの、なんなんだ? 銃撃ったのこの子だよな?

 

「ひとつ聞きたいんだが・・・いいか?」

 

「・・・」

 

無言で睨んでくる女の子。

 

「えっと、間違ってたらすまん・・・藤宮 奏か?」

 

「そうだったらなによこの人殺し!」

 

なんてことだ!

俺は慌てて銃を離すとその場に土下座した。

 

「ごめんなさい!」

 

当然、戦闘狂モードなんてとっくに消えてたさ。

なんたって、この子は護衛の対象 藤宮 奏さんなんだからな・・・

 

 

 

 

 

 

数十分後、一同、一階にあるリビングで顔合わせをしていた。

アリア、キンジ、理子、レキ、マリ、そして、奏と隠れていた妹の千夏ちゃん。

みんなソファーに座っているが俺だけ地面に正座だ。

理子がくふふと笑っていやがる。

く、くそう自業自得だとはいえ悔しい・・・

 

「本当に信じられません!」

 

1人用のソファーで腕を組んで激怒しているのは俺に押し倒された奏ちゃんだ。

中学2年生らしい。

 

「いきなり、鍵を壊して突入してくるなんて本当に武偵なんですか?」

 

「理子達はちゃんと時間通りに来たよ。 でも、出てこなかったのにも原因があるんじゃないかな?」

 

理子が俺をちらりと見て援護してくれる。

 

「っ、そ、それは・・・本物かどうかわからなかったから・・・」

 

「それなら、せめてインターホンにでるぐらいはしてくれてもいいと思いますけど?」

 

マリも援護に加わってくれる。

 

「まあ、いきなり飛び込んだ優も優だが・・・」

 

キンジ・・・お前は敵なのか?

 

「わ、悪かったわよ! 私も悪かったからもう、この話は終わり!」

 

強引に奏が話を打ち切った。

じゃあ、そろそろ・・・

 

「あんたはそのままよ」

 

アリアが俺に下した正座命令を解いてはくれなかった。

クライアントを押し倒したと聞いたアリアは奴隷はそこで正座してなさいと命令してきたのである。

 

「・・・」

 

レキは無言で何も言わない。

助けてくれよレキ・・・

 

「まーまー、アリア、ユーユーだって反省してるんだからさ。 理子に免じてもどしてあげなよ」

 

「奴隷はそこにいなさい!」

 

奴隷と聞いて奏が俺をゴミを見るような目で見てくる。

最悪だ・・・徹底的にクライアントに嫌われたぞこれは・・・

 

「ち、違うんだ奏さん! これは!」

 

「その変にしておかないと護衛の人かわいそうだよお姉ちゃん」

 

声のした方を見るとさくらんぼの髪飾りでツインテールにしている奏の妹、千夏ちゃんだった。

お盆に人数分の紅茶をのせて足元がオボついていない。

 

「危ない!」

 

俺がさっおぼんを手に取ると千夏ちゃんはありがとうございますお兄さんと言ってきた。

なんか、アリスを思い出すなこの子・・・

 

その頃、中華料理屋『炎』

 

「ふぇくしゅん!」

 

「どしたいアリス? 風邪か!」

 

「いえいえ、どうも私のここと噂している人がいるみたいです店長。 おおかたお兄さん当たりでしょう」

 

「すみまーせん! 注文いいですか?」

 

「あ、はいはーい!」

 

いつも通りの炎だった。

 

 

 

 

 

 

 

その夜。2階の2部屋女性陣で使用し、下の階の客間を俺とキンジが使うことになった。

しかし、本日より護衛いう立場である

最近では一緒に寝ていることが多いという2人の部屋のなかにはレキがつくことになった。

もう1人は外の警戒だ。

言うまでもないが男性陣は絶対に外。

中に入ったら射殺してくださいと奏は特に俺を見てレキに言っていたんだがレキはこくりと頷いていた。

れ、レキさん・・・本当に撃たないでね・・・

レキは噂通り体育座りで眠り常に敵の襲撃にそなえているという噂は本当だったらしい。

キンジもびっくりしていたが俺も驚いた。

あんなかっこで俺は眠れんよ。

 

「おやすみなさいみなさん」

 

「おやすみ」

 

奏と千夏が眠ってしまうとドラグノフを抱えたまま部屋の中について行ったレキ以外の面子はリビングで打ち合わせだ。

 

「ああ・・・もう、クライアントに俺完全に嫌われちまった・・・」

 

「くふふ、ユーユーどんまいだよ」

 

「自業自得じゃない優のあれは・・・」

 

うう・・・確かに・・・初対面の女の子に暴力振るったんだから嫌われて当然だ・・・

 

「まあ、私は新しい女の人ができないのはいいですけどね」

 

マリがなにやら言っている。

なんのことなんだ?

 

「そんなことより、明日からの行動の説明をするね」

 

と、説明を始めたのは理子だ。

今回は理子はどうしてもやりたいとうから護衛をプランを任せたんだが・・・

 

「まず、護衛組と調査組に分かれるんだよ。 かなでんとちーは学校に行くからかなでんはユーユーとキー君とマリリンでちーはアリアが護衛担当だよ」

 

なんなんだ? かなでんとちーってあの2人のあだ名か・・・クライアントにまで付けてるなんて・・・

というのも理子はお得意のお馬鹿キャラであっという間に2人と親交を深めてしまっている。

こいつにはこのスキルでは絶対に勝てんな。

 

「それはいいんだが、あの2人学校に行くのか?」

 

ろくに口も聞いてくれなかったので理子から補足もかねて聞いておくか・・・

 

「うん、転校生として学校に潜入。 キー君やユーユーはやったことあるでしょ?」

 

「ああ、前にやったな・・・」

 

「俺もやったっけな・・・」

 

中学時代だがキンジはお金持ちの学校、俺は一般校に潜入調査をした経験がある。

 

「あたしはどうするのよ? 千夏の護衛は転向するわけにはいかないじゃない」

 

アリアの意見は最もだ。

千夏は小学4年生だ。アリアは高2・・・ってあれ? 理子まさか・・・

俺がまさかという目を理子に送ると理子はおもしろそうに笑うと

 

「そうでーす! アリアには小学4年生としてちーのクラスに転校してもらいまーす!」

 

「え?」

 

はじめは理解できなかったらしいアリアは俺たちと自分の体を見下ろしてから顔を真っ赤にして激怒した。

 

「あたしは高2だ! 理子! 何考えてるのよ! 」

 

「えー、アリアなら小学4年生でも十分通じるよ。 小さいし」

 

「あんたも小さいでしょ! あんたもやりなさいよ!」

 

「えーでも理子はこの胸が邪魔して小学生には見えないかなぁ」

 

大きな胸を理子は触りながらおもしろそうに言っている。

キンジはヒステリアモードを避けるためか顔をそらした。

アリアはぐぐぐと悔しそうにはぎしりしながらがるるとライオンのような唸り声をあげだした。

おいおい、理子よ。 アリアの怒りのはけ口を俺たちに向けるなよ。 いや、俺に

 

「ちなみに衣装は用意してまーす!」

 

どこからか取り出した理子の手には小学生の制服らしい服に名札。ご丁寧にアリアちゃんとまで書いてある。

 

「「「「プっ」」」」

 

アリアを除く全員が吹き出した。

想像したらあまりにハマりすぎて困る。

 

「く、あんたたちみんな風穴あけてやる・・・あけてやるんだから・・・」

 

がるるがどがるるるるとランクアップしそうだったので理子が話題を変えてくる。

 

「で、こっちがキー君達の制服ね」

 

ばさりと出された男子中学生の制服と女子制服2着?

 

「おい、理子間違ってるぞ男子制服が1着たりんし女性制服が1着多い」

 

「くふっ、間違ってないよ。 女子制服の1着はユーユーのだもん」

 

「・・・」

 

唖然としてから

 

「冗談だよな?」

 

「メイクは理子に任せろがおー! 男子でもメロメロになるようにしてやるぞぉ」

 

「椎名先輩の女装・・・」

 

マリが何か考えるようにしていいと言っている。

 

「待て待て待て! 俺も男子の制服でいいだろ!」

 

「駄目でーす! マリリンじゃ、女子しか入れない場所で襲われたらまずいからユーユーが適任なんだよ。 綺麗な顔してるんだから大丈夫大丈夫」

 

こ、この顔はコンプレックスなんだ! 怒るぞ理子!

 

「お前が護衛したらいいだろ理子! い、いやレキでもいい!」

 

この際逃げられるならなんでもいい。

 

「理子とレキュはやることがあるんだよ。 サポートはするからがんばるんだぞ」

 

まじか・・・神は俺は見放したのか・・・

アリアは優が女装と訝しげな顔をしているが理子は自信満々に

 

「明日の朝は早いよユーユー! りこりんにお任せ!」

 

と、ぱちりとウインクまでしてきやがった・・・

かわいいんだが・・・誰か助けてくれ・・・

このクエストを受けたことを俺は心底後悔するのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第58弾 あなたの評価は変態です

私は・・・ただ、今の生活を守りたかった。

お母さんは小さい頃亡くなったけどお父さんと千夏と私の3人で変わらない日常を送りたかった。

でも、一ヶ月前のあの日に私の日常は崩れた。

それは、本当に唐突だった。家に、名前の知らない兵庫武偵局の人が来て

 

「君たちのお父さんは職務中に犯人と交戦し殉職された」

 

訳が分からなかった。

3日ほど留守にすると出ていった父が帰ってくるはずのその日に、そんなことを言われても納得なんか出来るはずがない。

武偵局の人は違反なんだけどねと言いながらも父が使っていた拳銃を渡してくれた。

名前なんか知らない・・・黒くてとても重い銃だった。

父の遺体は上がらなかったらしい。

密入国しようとしていた中国人グループとの戦闘で撃たれ海に父は落ちたという。

私は訳が分からなくて・・・武偵局の人に狂ったように罵声を浴びせ続けたがごめんねと武偵局の人は言うだけだった。

遺体のない父の葬儀やお墓まで全て武偵局が面倒を見てくれた。

1週間も掛からない手際の良さだった。

父の残した生命保険は莫大とはいかなくても2人が大学を卒業するまでなら十分な金額が残されていた。

武偵は殉職する可能性が決して低くない。

父はそれを見越して多額の生命保険を自分にかけていたのだろう・・・

千夏はただ、泣いて私は姉として武偵局の人に罵声を浴びせたとき以外は人前では泣かなかった。

泣くのはお風呂の中だけ・・・それも湯船に顔をつけて涙が枯れるまで泣き続けた。

涙も枯れたその頃、ようやく落ち着きを取り戻してきたとき、再び日常は壊れた。

 

「君のお母さんはとある財閥の娘なんだ」

 

初老の男が訪ねてきてそういった時は本当に驚いた。

父と母は駆け落ち同然に一緒になったという。

とある日本でも有数の財閥の私の祖父に当たる人も父と同時期に亡くなったらしくその遺言が娘の孫にすべての財産を譲るというものだった。

知りもしない人からいきなり、そんなことを言われても困る。

私は初老の男に財産相続を拒否すると言うと初老の男はなんども私を説得してきたが私の決意は硬かった。

 

「では、10日後にある弁護士立会いの場で遺産相続破棄を宣言してもらいたい」

 

お安い御用だ。

そんなことで日常が守れるなら・・・千夏とお父さんたちと暮らしたこの家で暮らせるなら・・・

 

「だが、君と妹はその時まで命を狙われることになる」

 

「え?」

 

「今から3日後に親戚に仮発表という形で君たちが相続することを通達される。 当然、快く思わない親戚の誰かが君たちを殺そうとするかもしれない」

 

「ま、待ってください! 私、遺産相続を破棄するんですよ! なのになんで!」

 

金持ちの事情というやつだろう。

継ぐ可能性があるなら潰す。

まして、相手が小娘なら尚更というわけだ・・・

 

「護衛は私が手配しよう。 腕利きが多いという東京武偵校に依頼してみよう」

 

関西県の武偵校にクエストを出さなかったのは親戚の手が伸びている可能性があるからだということだ。

武偵局も危険だ。

警察は狙われているかもでは動いてくれない。

なら、学生であり、関東の武偵高に頼むのが一番いい方法なんだそうだ。

資金も初老の男が出してくれるという。

どんな人が来るんだろう・・・

父と同じ武偵を目指す高校生達

命を狙われるということは迷ったが千夏にも打ち明けた。

この1週間生き残って見せよう。

絶対に日常にもどるんだ。

そう、思って仮発表がある6時間前の18時、ピンポーンとインターホンがなった。

出ようと思ったが

まず、どんな人が来たのか見てみよう。

万が一に備えて千夏をクローゼットに隠し、父の形見の銃を手に小窓から様子を伺う。

暗くてよく見えない。

 

「すみませーん! 藤宮さーん!」

 

男の声が聞こえてくる。

大きな銃を肩に持っている女の人がこちらを見上げてきたので反射的に引っ込んでしまった。

そろそろでないとダメかな・・・

 

ドオオン

 

「え?」

 

そんな時、下から轟音が響きわたった。

そして、どたどたと言う音。

ああ、なんてことだろう。

彼らは護衛の人間ではなく襲撃者だったんだ。

扉を銃で破壊して入ってくるなんてそうに決まっている。

 

「千夏! 絶対に出てこないで!」

 

震えてるで銃を扉に向ける。

安全装置を解除してから・・・

 

「ふっ!」

 

掛け声のような声と共に扉が蹴破られた。

千夏は私が守る!

 

パンと予想外の反動にびっくりしながらも再び引き金を引こうとする。

 

「いて!」

 

命中したんだろうか? 襲撃者は苦痛の声をあげたが撃退は出来ていない。

影は一気に迫ると父の形見の銃を蹴り飛ばし私の手から無くしてしまう。

 

「きゃっ!」

 

悲鳴を上げながら銃を探す。 お父さんの銃が!

 

「終わりだ!」

 

影は私の首を掴むと床に押し倒して大きな銃を私の頭に突きつけた。

私は屈しない。

怯えた顔なんて見せるものか

 

「こ、殺しなさいよ。 どうせ、私の命を狙いに来た殺し屋でしょ?」

 

「ひとつ聞きたいんだが・・・いいか?」

 

戸惑うようにいう襲撃者

私はそれを無言でにらみ返す。

 

「えっと、間違ってたらすまん・・・藤宮 奏か?」

 

「そうだったらなによこの人殺し!」

 

「ごめんなさい!」

 

そういうと襲撃者・・・いや、椎名 優希は土下座した。

これが、出会いだった。

 

 

 

 

 

 

朝、7時になりピピピとなる目覚ましを止める。

 

「う・・・」

 

妹はまだ寝ているようだ。

起き上がると一瞬、ぎょっとした。

壁のすみで大きな銃を肩にかけて体育座りをしている少女と目があう。

 

「・・・」

 

無表情だが吸い込まれそうなその瞳、お人形のような印象を受けるその少女はレキと言うらしい

 

「お、おはようございます。 レキさん」

 

「・・・おはようございます」

 

最低限の挨拶をレキさんは返してきた。

それ以上無駄なことは言わない。

昨日ちょっとだけ、話したが自分からは余計な会話は一切ふらないのだレキさんは

そして、あの格好で眠るのだから信じられない。

 

「あのできれば着替えたいので出ていってもらえないでしょうか?」

 

「それはできません」

 

レキさんが返してくる。

まあ、護衛中なんだし、同性だからいいかと私は考えるのだった。

 

 

 

 

着替えてからドアの外に出て1階に降りる。

洗面所で顔を洗ってからリビングに行くといい匂いがしたので台所に行くと金髪の少女が鼻歌を歌いながら何やらケチャップを付けていた。

 

「おはようございます。 峰さん」

 

「おっはよー! かなでん! もうすぐご飯できるよ」

 

護衛の間、ごはんは毒等を考慮して護衛のメンバーがつくることになっていた。

普段は私が作るのだから楽ではあるが・・・

 

「何作ってるんですか? 峰さん?」

 

「もう、かったいぞぉー! りっこりんでいいってば」

 

「り、理子さん」

 

「りっこりん」

 

「理子さん」

 

「りっこりん」

 

「り、りこりん」

 

「そうそう、くフフフ」

 

なんというか嫌な人ではないのだがりこさ・・・りこりんはパワルフすぎて困りものだ。

 

「手伝いましょうか?」

 

「今日の担当は理子だからかなでんはゆっくりしてて♪」

 

「はい」

 

台所を後にしてリビングに戻る。

庭に人影が見えたので見てみると縁側に座っているのは護衛の男の2人のうちの1人遠山 キンジさんだ。

窓を開けると遠山さんが振り返ってくる。

 

「あ、おはよう」

 

「おはようございます。 何してるんですか?」

 

「ん? 2人お訓練を見てたんだよ」

 

「訓練ですか?」

 

遠山さんが指を指した方を見ると少し広めの庭では護衛メンバーの1人、紅 真理奈さんと・・・

誰だろうあれ?

昨日のメンバーに明らかにいなかった

女性がいる。

黒のジャージを着込んでいるが日本人形のような黒い長髪にほんのりと化粧をかけているのか美しい女性だった。

 

「ほら! 早く撃ち込んで来い!」

 

乱暴な言葉遣いだがその声は女性の声そのものだった。

 

「はい!」

 

マリは拳銃を持ったまましゃがみこむと足払いをかける。

 

「遅い!」

 

女性はそれを跳躍して交わすと拳銃を抜いてマリの肩に押し付けた。

 

「あう・・・」

 

マリが降参ですというように動きを止める。

 

「よし、これぐらいにしとくか」

 

「はい! ありがとうございました」

 

私はそれを見ながら遠山さんに訪ねてみる。

 

「あ、あの人新しい護衛の方ですか? 昨日はいませんでしたよね」

 

すると、遠山さんは困ったような顔になって

 

「あ、あいつ・・・いや、あの子は・・・」

 

「キンジ! 次はおまえ・・・」

 

女性の笑顔が固まった。

 

「あ、はじめまして! 藤宮 奏です。 新しい護衛の方ですか?」

 

「い、いやお・・・私は・・・その・・・」

 

冷や汗を書いているが私にはん?と首をかしげるしかできない。

何を戸惑っているのだろう?

そんな時、後ろからアニメ声が聞こえてくる。

 

「優! キンジ! マリ! ご飯で来たって理子が・・・」

 

ピシと今、何かが砕けたような音がした。

空気が固まる。

マリがあちゃーと言う顔をしキンジがあさっての方向を見る。

まさか・・・

 

「椎名さんなんですか?」

 

「は、はい」

 

絶世の美女・・・いや、変態女装男椎名 優希は諦めたように言った。

 

「へ、変態!」

 

私の椎名 優希に対する評価が暴力男+変態に変わった瞬間だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第59弾 潜入護衛

うおおお! なんでこんなことになったんだ・・・

あの後、食事をとる時も理子が運転する車でこの学校にくるときも奏ちゃんは俺と目を合わせず位置も一番遠い場所に取り続けている。

理子が女装の説明はしてくれたが印象は最悪を通り越してマイナスになったようだった。

その奏ちゃんは今も俺を軽蔑しきった目で見ている。

とはいうのも・・・

 

「せ、千堂 キンジだ。 両親の都合で引っ越してきた」

 

千堂と名前を変えてクラスの前で自己紹介をしているキンジ。

大丈夫か?3才も年下の連中だがミスるなよ。

よし、次は俺だな

 

「せ、千堂 優です。 これからクラスメイトとしてよろしくお願いします」

 

と、理子に教えられた満面の笑顔をクラスに振りまく。

おいこらそこの男子! 顔を赤くするな!殺すぞ

 

「し、質問いいですか?」

 

顔を赤くした男子生徒が手を上げる。

 

「はい、川上君」

 

ショートカットの先生が生徒を指さす。

 

「ゆ、せ、千堂さんはどこから来たんですか?」

 

「東京です」

 

めんどいから簡単に答えておこう。

 

「じゃ、じゃあ趣味とかは・・・」

 

「おいおい川上! 転校生を質問攻めにするなよ」

 

「うるせえ!」

 

ぎゃははとうるさくなりかけた教室を先生が教科書を丸くしてぱんぱんと手で叩く。

 

「はいはい、騒がない! 名前からわかるように千堂 キンジ君が兄で優さんが妹だからね。 2人の席は・・・」

 

「はい!はい! ここあいてます!」

 

川上が手を上げるがお前の席は奏ちゃんから遠すぎる。

 

「先生、私たちあそこがいいです」

 

前にアリアがしたみたいに指したのは奏ちゃんの後ろと左横だ。

奏ちゃんが心底嫌そうな顔をした。

そんな顔するなよ・・・俺だってこんな格好やだよ。

 

 

 

 

 

 

次の時間の休み時間、転校生の宿命というべき質問攻めに合う。

俺は男子に、キンジは女子にたまらないので逃げたくなりお昼休みは奏ちゃんの手を引いて屋上に逃げ出した。

鍵がかかっていたがそこは武偵、ピッキングで開けてから鍵をしめる。

ここなら誰もこないだろう。

 

「ああ! もう! うぜええええ」

 

大声で叫んでから屋上に寝っ転がる。

 

「大丈夫か優?」

 

キンジが少し面白そうに言うので俺はキンジをにらみつつ

 

「大丈夫じゃねえよ。 女装して潜入なんて俺の人生で初めてだ!」

 

虎児とかいなくてよかったぜ本当に・・・

 

「変態」

 

ぼそりと、奏ちゃんが理子作の弁当を広げながら言うので俺の精神は大打撃を受ける。

いっそ、殺してください・・・

泣きなら理子の弁当を開く。

ご飯にLOVEの文字が書かれていたが即効でかき消して口にいれる。

うん、美味しいな。

定時連絡の時間になったので俺が理子に電話を入れる。

しばらくしてから

 

「あなたのりこりーんでーす。 くふっ、ユーユー理子のこと忘れられなくて電話しちゃった?」

 

「してねえよ! 定時連絡だろうが!」

 

いつものお馬鹿キャラで言ってくる理子の言葉を聞きながら

 

「で? アリアの方はどうなんだよ?」

 

「問題ありません」

 

5人同時通話でレキの声がした。

 

「アリアさんは周りに対して関係は良好ではありませんが護衛に問題はありません」

 

そりゃ、小学校に潜入してるんだもんな・・・それに違和感がないというのはある意味すごい・・・

 

ぶつんと言う音がして

 

「り、理子おおお! あんた帰ったら風穴あけてやるんだから!」

 

アリアのアニメ声だな

 

「くふ、アリア小学生姿似合うよ。 むしろ、高校生なんて嘘なんじゃない?」

 

電話の向こうからがるるると言う声が聞こえてくる。

ま、まずいこのままでは俺が風穴だ。

 

「れ、レキと理子はどこにいるんだ?」

 

話題を変えるようにキンジが言うと

 

「キンジさんから右に見えるビルの屋上です」

 

あ、あれか。

小学校と中学校がどちらも狙える位置にあり狙撃にはむいている場所だ。

だが、2キロぐらいは離れている。

 

「本当に狙撃できるの?」

 

と奏ちゃんが聞いてきたので俺は無言でボールペンを取り出すと

 

「レキ、これ狙撃してくれ」

 

と上へポーンとなげる。

奏ちゃんが上を見た瞬間、ヒュンと風邪を切る音と共にボールペンがばらばらに砕け散った。

奏ちゃんが目を丸くする。

まあ、レキならこれぐらいはできるよな。

 

「とまあ、変わったことはこっちもない。 引き続き護衛を継続だな。 じゃあな」

 

俺とキンジが電話を切ると今度は、マリから電話だ。

 

「もしもし」

 

「椎名先輩ですか?」

 

「ああ」

 

「家の方は問題ありません」

 

そう、マリはアリアに言われてキンジの部屋の時のように藤宮家の要塞化を図っているのだ。

デュランダル事件のように襲撃してくるかどうかもわからない相手だがアリアの部屋の要塞化がデュランダルを躊躇させたのは紛れもない事実だ。

まあ、俺的には襲撃してきた奴をぼこぼこにして黒幕を吐かせて逮捕が一番手っ取り早いんだが・・・

 

「じゃあ、引き続き頼む」

 

「はい! 椎名先輩が寝ている部屋の監視カメ・・・いえ、間違いました監視カメラもっと付けときますね」

 

大丈夫なのか?

少し不安になるが

 

「じゃあよろしく頼む」

 

電話を切る。

と、奏ちゃんが俺を見ていた。

 

「ん? どうした?」

 

「今の子、アミカなんでしょ?」

 

誰からから聞いたのだろう。

 

「よくアミカのことを知ってるな」

 

キンジが目を丸くしていった。

確かにアミカなんて制度があるのは武偵だけだ。

 

「お父さんが武偵だったからアミカの話は聞いてるの」

 

と、少し寂しそうに奏ちゃんは言った。

が、すぐに俺を見て

 

「変態のアミカなんてあの子かわいそうね」

 

「ハハハ・・・」

 

苦笑いをしながら俺は思う。

東京に帰りてえ・・・

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第60弾 風穴!皆殺しだ!

ああ、天国ってこんなに近かったんだな・・・

俺は嵐にような銃弾の中そう思った。

俺がなぜこんなことを思っているのかと言えば数時間前に遡る。

1日目の護衛が終わり、奏ちゃんの家に帰ってきて女装を脱ぎ捨ててしばらくしてからのこと

アリア達がマリが仕掛けた要塞化の様子を見ているとき俺は暇なので縁側に座って日本刀を取り出していた。

無論、触るのではなく目の前に置いているだけだが・・・

 

「・・・」

 

こいつが使えればずいぶん楽なんだがな・・・

そう思いながら日本刀を見つめていると

 

「それ本物?」

 

振り返ると奏ちゃんだった。

少し前かがみになりながら刀を見ている。

 

「ああ、それなりの業物だよ」

 

「武偵って銃を基本に扱うのよね? 刀なんて役に立つの?」

 

「ああ・・・」

 

俺は銃以外の武器も持つ連中を頭に浮かべた。

沖田、白雪、ジャンヌ、アリア、実家の連中・・・

どれもこれもまともじゃない力を持っている。

銃弾切りできるキンジもこの中に入るのかもしれんが・・・

 

「ランクが上なら使い道はあるんだよ」

 

「変態のランクは?」

 

おま・・・変態はやめてくれよ

 

「Aランクだ。 ちなみにキンジはS、理子はA、レキはS、マリはS、アリアもSだ。 まあ、学科は異なるけどな」

 

あえて、キンジはSにしておく。

俺の評価ではキンジはSランクだからな

奏ちゃんの目が丸くなる。

 

「そんなに高位なんだ変態って」

 

「変態はやめてくれ・・・」

 

しくしくと目に涙を浮かべながら俺は言う。

 

「・・・かんがえとく」

 

ランクを聞いて見直してくれたのだろうか?奏ちゃんがそう言ってくれる。

よし、関係改善の第一歩だ。

 

「そろそろご飯よ。 へん・・・椎名さん」

 

「あ、ああ」

 

立ち上がった奏ちゃんに続いて俺もリビングに向かうのだった。

それから、5分後、俺は絶句していた。

 

「な、なんだこれは・・・」

 

「晩ご飯ですが?」

 

と、レキが言う。

 

「ば、晩ご飯ってこれがですか?」

 

マリが冷汗をかきながら言った。

なんと、テーブルにあるのはカロリーメイトの箱が人数分置かれている。

 

「いや、だからってこれはないだろ! レキ!」

 

 

俺が言うとレキは何が悪いのかわからないのか首をかしげている。

なんてことだ・・・

レキに晩ご飯担当は無謀だったのか・・・

見ると理子とアリアとキンジが姿を消している。

ご飯の調達に行ったらしい。

 

「悪いな奏ちゃん。 千夏ちゃん。 飯は今から・・・」

 

「これでいいです」

 

「うん、1度食べたかったし」

 

奏ちゃんと千夏ちゃんはカロリーメイトの袋を破くともぐもぐと食べ始める。

味気ないが不味くはないんだよな。

 

「俺たちも食べるか」

 

「うう、カロリーメイトだけなんてあんまりです」

 

 

俺とマリはもくもくとカロリーメイトをほおばるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は過ぎ、ももまん弁当や焼肉弁当、ハンバーグ弁当等を食べたキンジ達に文句を言いつつ。

俺はソファーで目をつぶり、気づいたら部屋は真っ暗だった。

 

「やべ・・・寝ちまったか・・・」

 

周りを見るがもう、誰もいない。

 

「起こしてくれよ。 みんな・・・」

 

俺って人望ないよねと思いながら風呂に向かう。

湯船が残ってくれるといいんだが・・・

今日、風呂入ってないからな・・・

そして、風呂の扉を開けた俺は・・・

 

「あ・・・」

 

アリアと奏ちゃんと目があう。

風呂から出たばかりらしくアリアはトランプ柄のパンツを手に、奏ちゃんは薄い緑のブラを・・・

 

「ゆ、優・・・あんたって奴はこんなところまで来て・・・」

 

 

がるるるるとライオンの唸り声に続き奏ちゃんが再び

 

「変態・・・人間のクズですね」

 

胸を隠しながら言われ

 

「へへへ」

 

とりあえず、昔見た某格闘漫画の主人公みたいに右手を頭の後ろに置いて笑を浮かべた

 

「風穴ギムゼルオール!」

 

「まっ!」

 

荒れ狂う45ACP弾。 嵐のようなそれを防弾私服に受けながら俺は思った。

ああ、天国ってあるんだな・・・

そんな護衛1日目の終了だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第61弾 闇の中の声

神戸 某所

 

「では、藤宮の小娘どもには学生の護衛がついたのだな?」

 

広いがカーテンにより薄暗い下手の中で車椅子の老人が言った。

 

「ええ、東京武偵高の学生です。 予想が外れましたね」

 

面白そうに闇の中から声が聞こえる。

 

「関西ではなく関東の武偵を雇うとはな・・・護衛のメンバーのランクはどうなのだ?」

 

「Sランクが4人、Aランクが2人ですね。 うち、戦闘限定においてはSが3人、Aが2人」

 

老人がうなるような声を上げる。

Sランクは1人で特殊部隊一個中隊と同等の戦力を意味する。

そんな化け物が2人も付いているとなるとうかつには手が出せない。

 

「それと、もう一つ」

 

影が言う。

 

「Aランク評価だが椎名 優希は日本でいう超人ランクで50位以内に入っています。 油断はできないですよ」

 

「すると、Sランククラスが3人か・・・依頼を果たせない場合は報酬はないぞ?」

 

「分かってますよ。 ただし、ランパンと交わした約束を破らないでいただきたい」

 

「わ、分かっている」

 

老人が焦ったように言った。

 

「それでどうするのだ? 藤宮の2人の殺害を出来る自信があるのか?」

 

「それは問題ありません」

 

「頼むぞ。 公安0が私を狙っているという噂もある。 くれぐれもミスはするなよ?」

 

「それはあなた次第ですよ」

 

影はそういうと姿を消した。

 

「ふん、チャンコロの劣等民族が・・・」

 

姿を消した空間を見つつ老人が悪態をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

護衛2日目、学校についた俺たちに訪れた最大の危機は体育の授業だった。

 

「あれ? 椎名さん気分悪いの?」

 

更衣室のベンチに座りながら俺は

 

「うん、ごめんね・・・」

 

女装のまま、返事を返す。

なんて、拷問だ・・・周りは着替えをする女だらけ。 きぶんがわるいといって目をつぶっているがキンジならヒスルな・・・

でも、俺は男の子、目を少し開けた瞬間目を、チョキで潰された。

 

(ぐあああああ)

 

マリがやったらしいぞ

失明したらどうするんだ!

 

「じゃあ、椎名さん。 ゆっくりしててね」

 

「あ、はい」

 

最後の女子が出ていったのを確認してから俺はさっと服を着替える。

ジャージを着てから体育館へ。

見ると男子はバスケ、女子はバレーだった。

奏ちゃんが俺を変態という目で見てくる。

チーム訳の結果、俺は奏ちゃんとマリと敵チームだった。

そして、俺のサーブなんだが・・・

 

「・・・」

 

変態という目で見てくる奏ちゃんにおとこのプライドを見せてやりたいという俺の闘士がそうしたんだろう。

 

「はあああ!」

 

どごおおおと体育館の床にバレーボールをめり込ませる。

わああと歓声があがるがそれで終わる訳がない。

次々とサーブで決めていく俺。

フフフ、風凪容量で完全試合をきめてやるぜ

大人げないことだが俺一人で試合は進攻していく。

アリア達がいない以上、勝ち目などないのだ。

そして、予想通り試合が終わると圧勝。

マリや奏ちゃんはぜぇぜぇ言いながら悔しがっていたが知ったことではない。

勝利こそ正義だ。

 

そして、昼休み、再び屋上に集まった俺は・・・

 

「最低です!」

 

「最悪・・・」

 

マリと奏ちゃんに集中砲火を浴びていた。

なぜなんだ・・・

 

「普通、女の子相手なら少しは手加減するのに全力で叩き潰すなんて最低です!

 

「やはり、変態は性格も悪いんですね・・・」

 

うおお、最悪だ!

理子のLOVEのりを消しながら俺は頭をがっくりと下げる。

 

「すまない・・・」

 

「大変だな優・・・」

 

同情してくれるのはお前だけだキンジ・・・やっぱり友達は違うぜ

 

「それでも、女の子相手なら手加減するんのが普通です」

 

「そうよ。 変態はそのへんわかってない」

 

ダメだ。 泣きたいよ・・・

 

そんなこんなで学校の護衛が終わり理子の防弾車に乗り、藤宮家に戻ってきたんだが

俺への奏ちゃんの評価は最悪の最悪・・・

近寄らないようにしているらしく姿すら見えない。

しくしく泣きながら縁側で日本刀を持つ訓練を始める。

トラウマこそ、あるが徐々にこいつを持てる時間は増えている。

時間さえあればきっと、こいつを使えるようになる、

そう、思いながら剣を握る。

思い出すのは赤い・・・ただ、赤い光景

 

「やめて! 死にたくない!」

 

記憶の中にあるのはその言葉

 

「・・・フフ」

 

無慈悲に降り下ろされるその剣を見て俺は・・・

 

「泣いてるの変態?」

 

奏ちゃんだった。

俺は目の涙を拭う。

 

「どうしたんだ奏ちゃん?」

 

笑を浮かべて言うと少し奏ちゃんは顔を赤くしながら

 

「別に、変態がなんか元気なかったから・・・」

 

なんていうかこの子も結構優しい子だよな・・・・

 

「大丈夫さ。 気にすることはねえよ」

 

そういいながら刀を仕舞いながら言う。

 

「ねえ・・・」

 

しならくは無言だったが唐突に奏ちゃんが声をかけてくる。

 

「・・・」

 

俺は無言で刀をしまっていく。

 

「なんで私の護衛を引き受けたの?」

 

それは返事に困るぞ・・・

まさか、金がないから受けたなんて言えない感じだ。

少し間上げてから

 

「俺には・・・守らないといけない人がいるんだ」

 

昔は、依頼されたから・・・

でも、今は俺の意思で最悪、かなえさんの免罪までは付き合いたいと思うカメリアの瞳の少女。

 

「今いる、人の中にその人はいるの?」

 

奏ちゃんが聞いてくる。

アリアを思い浮かべ俺は頷いた。

 

「ああ、いるよ」

 

「そっか・・・」

 

奏ちゃんは夜空を見上げながら

 

「少し見直したかな変態」

 

「変態はやめてくれよ・・・」

 

「いやよ」

 

奏ちゃんはべっと舌を出して言った。

俺はため息を付きながら

 

「まあ、もういいけど。 奏ちゃん達本当に狙われてるのかね? 護衛終了日まで何も起こらなかったりしてな」

 

それはそれでいい。

何もせず報酬が入るんだからな・・・

 

「うん、だといいね・・・」

 

奏ちゃんの言葉を聞きながら俺は後日、その考えが甘かったことを思い知るのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第62弾 襲撃

護衛も4日目になってくると暇に感じてくる。

 

潜入の時はなるべくめだたないほうがいいからな

アリアの方も同様らしく、今では近寄ってくる人も限られてるそうだ。

ていうかあの、性格で小学生の友だちが出来るのかね・・・

 

そうして、今日の学校生活も何一つ起こることなく終を告げる。

だが、今日の護衛任務はこれだけに終わらない。

 

「え? 寄りたいところがある?」

 

防弾車の中でのことである。

情報収集のため理子やレキ、アリアがいないため、俺、キンジ、マリ、千夏ちゃん、奏ちゃんというメンツで俺が運転する状態で奏ちゃんが話しかけてきたのである。

 

「ダメかな?」

 

「どうしても、今日じゃないといけないんですか?」

 

マリが後部座席から聞いてくる。

 

「はい・・・」

 

どうすると? キンジが俺に視線を向けてくるので

 

「その用事ってのはなんなんだ?」

 

「今日はお父さんの誕生日なの・・・だから・・・お墓参りしたいなって・・・」

 

両親か・・・

俺はいい思いがないんだがアリアの母親のかなえさんを思い出す。

あの人は、免罪だ。

それは間違いない。

イ・ウーが免罪を着せているのならそれを潰す。

 

「いいじゃないですか。 行きましょうよ椎名先輩、遠山先輩」

 

援護するようにマリが言った。

 

「椎名先輩も遠山先輩もSランクですし、少しぐらいなら大丈夫ですよ」

 

「おい、マリ俺はEランク武偵だぞ?」

 

キンジが言う。

 

「いや、お前はSだよ。 心配しなくても俺がいるじゃねえか」

 

正直な話、周囲警戒には視力6.0のレキが居てくれればいいんだがそう甘くはない。

 

「どうなっても知らないぞ・・・」

 

キンジが諦めたように言った。

 

「ありがとう」

 

奏ちゃんと千夏ちゃんは笑顔で言うのだった。

うん、女の子は笑うとかわいいよな。

レキにも見習わせたいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、やってきたのは集団墓地だ。

お墓が並ぶその光景は一言いうなら不気味とも言えるが藤宮家のお墓は霊園の奥にあった。

線香をあげながら手を合わせている千夏ちゃん達を見る。

かわいそうに思う。

中学生と小学生で両親を亡くし、今命を狙われる立場にあるのだ。

過酷な運命とも言える。

 

「?」

 

奏ちゃんが俺を不思議そうに見てくる。

ああ、命を狙われてるのかなんて変わらねえよ。

でも、護衛の期間ぐらいは守ってあげるからな・・・

そう、思った時だった。

周囲から殺気を感じる。

目をつぶり、キンジに小声で話しかける。

 

「キンジ、敵だ。 複数に囲まれてる」

 

「何?」

 

キンジはそれに初めて気づいたように警戒感を強める。

ヒステリアモードじゃないとだめだな・・・だが、ここにはアリアも理子もいない。

ヒステリアモードにする条件が整わない。

マリや奏ちゃん達を条件にできるかといえば難しいだろう。

年下はキンジには射程外なのだ。

 

「マリ、キンジ2人を守れ。 あいつらは俺が仕留める」

 

返事を待たずに戦闘狂モードになった俺は地をかける。

木の影に隠れていたクロボシを持つ2人を発見する。

2人は俺に銃を撃とうと慌てている。

 

「遅え!」

 

右手と左腰から飛び出したワイヤーが男2人の眉間に直撃する。

悲鳴を上げるまもなく倒れる2人。

直後、背後に感じた殺気にガバメント2丁を抜くと発砲、悲鳴をあげて5人の襲撃者が肩を抑えてのたうち回る。

よし、この程度なら1人でも・・・

 

「きゃああああ!」

 

「何?」

 

見ると千夏ちゃんが不良っぽい男に首を腕に抱えられて悲鳴を上げている。

 

「千夏!」

 

奏ちゃんが悲鳴をあげているがキンジとマリに抑えられる。

 

「やめろ、行っちゃ駄目だ」

 

「でも、千夏が!」

 

「ちっ!」

 

舌打ちしながら地をけろうとした瞬間

 

「おっと動くなよ」

 

「う・・・」

 

止まらざる得ない。

男が千夏ちゃんの首にナイフを突きつけたからだ。

 

「ひっ」

 

泣きそうな顔で千夏ちゃんが凍りつく。

 

「ハハハ、いい顔で怯えるねえ。 俺はそんな顔大好きだよ」

 

鼻にピアスをつけた不良が千夏ちゃんの頬を舌で舐める。

 

「てめえ!」

 

怒りが感情を支配するが動けない。

 

「きたねえ言葉遣いの女だなまずはてめえだな」

 

背後に不良の仲間が立つ。

 

「つっ・・・」

 

「お前ら、そいつを痛めつけろ」

 

千夏ちゃんを抑えている男が言った瞬間、俺の頬に衝撃が走る。

 

「ぐっ・・・」

 

頬を抑えた瞬間、男が蹴りを放つ。

おせえよ!

 

「よけるなよ?」

 

後ろから聞こえた声に俺の動きが止まる。

腹にもろに不良の蹴りが決まる。

 

「ごほ・・・」

 

劇痛に腹を抑えながら膝を地面に付ける。

ちくしょう・・・

 

「さっきまでの勢いはどうしたんだ?」

 

モヒカンの男が蹴り始めたのを始め周囲から殴打の嵐が俺に吹き荒れる。

俺にできるのは痛みに耐えることだけだ。

 

「ハハハ、どうしたんだ? Aランク武偵ってのはその程度なのかよ?」

 

こ、こいつら・・・知ってやがる俺達が護衛についてることを・・・

打開策をさぐるがちょっと、力を込めるだけで殺せる位置にいる男を無力化させることなどそれこそ紫電の雷神とか言われるぐらいの技量がなければ不可能だ。

キンジもまた、機会を伺っているようだが、俺が気絶したら今度はキンジ、そして、マリだろう。

 

「おら!」

 

「ぐっ!」

 

胸に蹴りを受けて俺は顔をしかめる。

 

「も、もうやめて!」

 

千夏ちゃんが泣きそうな声で言う。

 

「ああん?」

 

「ね、狙いは。 わ、私達じゃないの? し、椎名さんたちは・・・」

 

震える千夏ちゃんに男は興奮するのかにやにやしながらその光景を楽しんでいる。

 

「おい、お前らもういい。 殺せ」

 

殴打の嵐が止まるが俺の目に飛び込んできたのはくろぼしを俺の頭に向ける男。

終わるのか・・・

こんなクズのような奴らに殺されて・・・

俺はまだ、仇を討ててないのに・・・

ちくしょう・・・

男の引き金に力がこもる。

 

「優先輩!」

 

「変態!」

 

マリと奏ちゃんの悲鳴をあげた瞬間

 

ガアアン

 

クロボシが男の手から吹っ飛ぶ。

狙撃?

レキなのか?

断続的に銃撃が続き、俺の周りの男たちが悲鳴をあげて倒れていく。

 

「ぎゃあああああ!」

 

声のした方を見ると千夏ちゃんを抑えていた男の両腕から金属の刃が突き出ていた。

男の両手が千夏ちゃんから離れる。

素早くキンジがそれを保護した瞬間、串刺しにされた男は後ろに倒れる。

あれは痛いぞ。

両腕を串刺しにされてるんだから痛みで傷口を抑えることすらできないんだからな。

 

「串刺しのその格好犯罪者にはお似合いですよ」

 

そう言いながら奴は姿を表した。

兵庫武偵高校の制服に身を包み、糸のような細めを男に向けると剣を腕から引き抜いた。

 

「ぎっ!」

 

劇痛に男が悲鳴を上げるが兵庫武偵高の男はゴミを見るような目で血を払ってから腕の中に剣を戻した。

折りたたみ式の刀身を腕の中でワイヤーと直結させてやがる。

 

「春蘭? ミンそっちはどうです?」

 

インカム越しに誰かと話しているようだった。

 

「問題ないシン。 もう、近くまで来ている」

 

「周りの連中はのうたうち回ってるわキャハ」

 

すっと、墓の影からポニーテールの小柄と髪を赤く染めた少女が現れる。

ポニーテールが肩に背負っているのは狙撃銃だな。M700か・・・

赤い髪のミンは大きな槍を持っている。

相変わらずだなこいつら

シンと呼ばれた俺と同年齢ぐらいのやつが俺と視線を合わせる。

糸目だが、その目からは軽蔑が見て取れた。

 

「護衛対象をこんな襲撃しやすそうな場所にまで連れてきた挙句、人質を取られ、各個撃破されてしまう状況。 東京の武偵というのは素人集団の集まりみたいですね」

 

「ぐっ・・・」

 

言い返す言葉がない。

シンが言うことは正しい。

これは、俺なら大丈夫という過信から来た明らかな失敗だ。

どうしても、くるのならアリアたちと合流してからにするべきだった。

 

「あ、あの・・・」

 

奏ちゃんが泣きついている千夏ちゃんを撫でながらシンを見る。

シンは口元に笑を浮かべ

 

「ご心配には及びません藤宮さん。 今から僕らがあなたの護衛に付きますから」

 

「・・・」

 

春蘭と呼ばれたポニーテールの少女が頭を軽く下げる。

 

「え?」

 

「無能な東京武偵じゃなくあたしらがあんた達の護衛してあげるって言ってんの」

 

髪の赤いミンが言う。

戸惑ったように奏ちゃんが俺を見てくる。

 

「久しぶりだなシン、ミン、春蘭」

 

「?」

 

春蘭が軽く首をかしげる。

 

「どこかでお会いしましたかね?」

 

シンも聞いてくる。

ああ、あまり言いたくはないがお前らが俺の前に出てくるなら話は別だ。

 

「このままじゃわからねえか?」

 

俺はかつらを右手で掴むと一気に外す。

 

「!?」

 

3人の目が大きく見開かれた。

 

「優希君ですか?」

 

「ああ、卒業式以来だなシン」

 

シンの言葉に俺は怒りを込めて返答してやった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第63弾 暴かれし過去の一部

「椎名? 椎名 優希? キャハハ、なにその格好?」

 

赤毛のミンがバカにしたように俺を見て言った。

 

「優希君。 お久しぶりです。 元気そうでなによりですよ」

 

「よく言うなシン、俺が兵庫にいられなくしたのはお前らだろ?」

 

「なんのことです?」

 

ふん、とぼけるか?

 

「優? こいつらは?」

 

キンジがベレッタをしまいまがら聞いてくる。

ちっ、こいつらの説明なんてしたくないんだが・・・

 

「僕たちは兵庫武偵校のものです。 クエストを受けて藤宮の方々を護衛しにきました」

 

先にシンが口を開いてきた。

 

「僕はシンといいます。 兵庫武偵校ではアサルト2年、ランクはSです」

 

「あたしは、ミン。 兵庫武偵校アサルト2年、ランクはAよ。 よろしくね」

 

赤毛のミンが好戦的な瞳を向けていう。

 

「春蘭です・・・兵庫武偵校スナイプ2年、ランクはAです」

 

アサルトのランクSは特殊部隊1個中隊と同程度の戦力とされているつまり、戦力はそれ以上

 

「俺は遠山 キンジ。 東京武偵校所属、インケスタ2年。 ランクはEだ」

 

名乗られたら名乗り返すと思ったのだろうキンジが名乗り返す。

 

「私は紅 真理奈です。 東京武偵校所属、ダギュラ1年。 ランクはSです」

 

「俺は名乗らなくてもいいよな?」

 

 俺が言うとシンが頷いた。

 

「もちろんです。 友達の情報は分かっていますから」

 

「友達なんていうんじゃねえ」

 

怒気を込めて俺は3人を睨む。

 

「ゆ、優先輩?」

 

マリが聞いてくるが俺はそれを無視する。

 

「友達だと? 本気で言ってるなら今、解消しろ。 俺はお前らがしたことを忘れたわけじゃねえぞ」

 

すでに、怒りで戦闘狂モードが発動している。

それほどまでに、この3人がおれは好きではない。

 

「何か誤解があるようですね。 わかりました。 ですが、護衛はさせていただきますよ。クエストは受けているのですから」

 

「誰が護衛を依頼したんだ?」

 

俺が聞くとシンはにこりとして

 

「クライアントの情報は明かせませんが兵庫武偵校の許可はありますよ。 確認していただいて結構です」

 

こいつがそういうんだ・・・兵庫武偵校に連絡しても正式な命令があるだけだろう。

 

「必要ねえよ」

 

「ご理解いただいて幸いです」

 

シンが言った。

舌打ちして奏ちゃんの手をつかむ

 

「え? いた、ちょっと変態・・・」

 

「キンジ、マリ千夏ちゃんを連れてきてくれ。 家に帰る」

 

そう言った俺達の前に2人が立ちふさがる

 

「どけよシン」

 

「いえ、どけません。 2人の護衛は僕らに任せていただきます」

 

「ああ? これは俺たちが先に受けたクエストだ。 後から割り込んでくるんじゃねえよ」

 

「僕らは正式にクエスト受けました。 邪魔をするのであれば実力で排除します」

 

「おもしれえな・・・」

 

言ってから俺は気づいた。

春蘭のライフルが俺にむいている。

シンとミンも戦闘体制だ。

Sランク1人、Aランク2対Sランク1人、E2人。 スナイパーがいる時点で勝ち目はない

せめて、キンジがヒステリアモードなら・・・

 

「ちょっと! 待ってください! なんで護衛同士が争うんですか!」

 

一瞬即発の空気の中に入ってきたのは奏ちゃんだ。

真っ向から、シンの目を睨みつける。

 

「それは、優希君が護衛にふさわしくないからです」

 

「だから、なんでそんなことを・・・」

 

「簡単です。 犯罪者に護衛なんて務まらない」

 

言いやがったか・・・

 

「え?」

 

信じられないというように奏ちゃんが俺を見る。

マリや、キンジ達も同様だ。

 

「・・・」

 

言えることなどない。

 

「椎名 優希、裁かれるべき重犯罪者ですよ彼は」

 

一つ・・・幸運なことがある・・・アリアがいなくてよかったな・・・

それだけが救いだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第64弾 風は言っています

「一体どういうことなのよこれは!」

 

怒りで顔を真っ赤にしているアリアを筆頭に理子、キンジ、マリに囲まれ俺は壁に背を付けて座っていた。

藤宮家のリビングにはレキ、ミン、シン、春蘭が付いている。

戦力としては過剰すぎるほどの戦力だが俺は問い詰められていた。

当然のことながらいきなり、護衛に割り込んできた3人ことだ。

 

「あいつらは・・・中学時代の知り合いだ」

 

友達ではないというように知り合いだと強調しておく。

 

「あいつらはみんな中国からの留学生だ。 常に3人で行動してるが戦闘能力は高い。特にあのシンには俺でも正直勝てるかわからん。 ミンはアリアやキンジとほぼ同等の実力者だ。 春蘭もAランクを名乗っているがレキと撃ちあえるかもしれん」

 

「優、あいつらが言ってたあんたが犯罪者ってこと話しなさい」

 

まっすぐに俺の目を見てアリアは言ってきた。

 

「おい、アリア」

 

キンジが静止しようとするが

 

「いや、いいよキンジ。 少しだけ話してやるよ」

 

諦めたように俺は話し始める。

 

「俺の家はアリアやキンジみたいに歴史の表に出てくる家系じゃないんだ。 いわば、裏の家系だな。 もう、10年近く前になるのかな・・・そこで、俺は犯罪を犯した。 まだ、武偵じゃなかったが武偵法に照らし合わせると死刑になるような犯罪だ」

 

「・・・」

 

アリアたちは黙ってそれを聞いてくれている。

 

「理由はあった。 でも、それを俺は正当化する気はない。 裁かれるべき犯罪者の俺は実家の・・・椎名の家の力で何もなかったことにされたんだ」

 

「司法取引したの?」

 

アリアの問いに俺は首を横に降る。

 

「違う。 何かは今は言えないけどな。 ただ、ローズマリーはこの件に関わっている。 あいつだけは俺がこ・・・逮捕する」

 

「それで、あのシンって奴はなんでそれを知ってるの?」

 

これまでの会話からシンが俺の過去を知り、その情報を元に俺を追い出したと推測したのだろう。

 

「わからん・・・情報は秘匿されてたはずだが物事に完璧はないからな」

 

「そう・・・」

 

アリアはカメリアの目を1度とじると

 

「理子、キンジ、マリ、レキには後で話すけどこの件はこれ以上探るは禁止よ。 探ったら風穴」

 

「・・・アリア」

 

ばれるかと思った。

兵庫武偵高の生徒を調べれば俺の噂にたどり着く可能性が高い。

俺の罪の内容に・・・

でも、この子は人の本当に嫌がることはしないんだ。

ありがとう・・・アリア

 

 

 

 

 

 

なんでこんなことになったんだろう・・・

私はリビングに流れる重い空気を感じながら思った。

 

「? どうかしましたか奏さん」

 

にこりと微笑みながら糸目の青年、シンさんが千夏が入れてくれた紅茶を左手に掲げる。

 

「なんでもありません」

 

テレビはバラエティー番組をやっていたが全然耳に入らない。

千夏は私の肩に寄りかかり寝息を立てているが部屋に戻る前に変態たちにあって置きたかった。

ちらりと、横を見ればレキさんがドラグノフ狙撃銃を持ってソファーに座っている。

その先には銃剣が付けられている。

聞けば、レキさんが接近戦をすると気に使用するという。

 

「てかさあ、あんたレキっていったっけ? 何、殺気出しながらうちらみてるわけ?」

 

くるくると名前は知らないが軍用ナイフを回しているミンさん。

槍は組立式らしくリビングの壁に立てかけられている。

 

「風が言っています。 あなたたちを警戒しろと」

 

「風ですか?」

 

シンが困ったように首をかしげる。

 

「スナイプとしての隠語か何かですか春蘭」

 

「ううん、知らない」

 

こちらもM900狙撃銃をレキ同様肩にかけているポニーテールの少女、レキさんとほぼ、同じくらいの背丈のこの子の名前は春蘭という。

 

「そうですか」

 

それ以上、深く聞かずシンが言うがミンは好戦的にレキを睨みつける。

 

「うちらと殺りあうなら相手になるよ」

 

ミンが槍を手にした瞬間、レキが動いた。

瞬間、何が起こったかわからなかった。

風が吹くその一瞬で2人の武器はその顔の直前で止まっていた。

レキさんの銃剣、ミンさんの槍。

神速とはこういうことを言うんだろう。

 

「へー、やるじゃない狙撃手」

 

「・・・」

 

レキは何も言わない。

だが、動けない。

このまま、動けばよくて相打ち、悪ければ死だ。

それに接近戦ならレキは部が悪い。

彼女は狙撃手であり、接近戦は本来、専門外なのである。

 

「ミンやめなさい」

 

シンの声が静かに部屋に響きわたる。

 

「ふん」

 

ミンはしらけたように槍を下げた。

同時にレキもドラグノフを下ろした。

 

「信用してくれとは言えません。 優希君以外の東京武偵高の護衛の方々は僕は信頼してますよ」

 

まただと私は思った。

この人の言う変態の過去・・・

犯罪

それも、死刑になるほどの重犯罪をあの変態は起こしたという。

殺人かもしれない。

父が死んだのも犯罪者のせいだ・・・

中国の犯罪者がお父さんを・・・

あの変態はその同類なのかもしれない・・・

お父さんを・・・

 

「・・・私は優さんを信用しています」

 

はっとしてレキさんを見ると顔は無表情なのだがどこか、怒気を含んでいるような気がするその言葉はまっすぐな言葉だった。

 

「・・・ほう」

 

シンが面白そうにレキさんを見た。

 

「彼の過去を知らずに死刑になるような犯罪を犯したと聞いてもあなたは優希君を信用すると」

 

「・・・はい、風は言っている。 信用できないのはあなた達だと」

 

シンの目が一瞬、開いた。

背筋が凍りついたようにひんやりとした。

それはレキに向けられたものだろうか?

だが、それは一瞬だった。

 

「やめましょう。 護衛同士がいがみ合っていても仕方ない。 僕らが怪しい動きを見せたらそのドラグノフで僕らを撃ち抜けばいい」

 

「・・・」

 

レキは何も言わない。

 

「できるならねぇ」

 

ミンはアドレナリンに酔ったような表情でレキに言う。

戦闘狂という言葉が頭に思いつく。

怖いと私は思った。

千夏をぎゅっと抱きしめる。

隣にはレキさんがいる。

でも、3人が敵なら私は一瞬で殺されるだろう。

怖い・・・

 

「悪い遅くなったなレキ」

 

そんな時、声が聞こえた。

 

「・・・大丈夫です」

 

レキさんが言った先にいたのは変態だった。

続いて、アリアさん、キンジさんと東京武偵高のメンバーが入ってくる。

 

変態とシンの目がぶつかり合う。

 

「まだ、いたのかシン? さっさと帰れよ」

 

「それはできませんよ優希君。 僕らはクエストを受けてきたんですから」

 

ちっ・・・

 

「ふーん」

 

舌打ちしながら俺は別室で調べた情報を思い出す。

 

 

 

 

 

 

「ああ、確かに護衛のクエストはでとるな。 でも、すぐにシン達が受け取る。 めっちゃ高額なクエストやしアリアさんとかぶるんやったら俺が受けたかったわ!」

 

「それで、虎児? 少し調べてもらいたいというかお前経由で頼み事がある」

 

電話の相手は虎児だ。

 

「なんや? 俺もメンバーに加われって言うんやったらくわ・・・」

 

「千鶴に兵庫県で起きてる事件と中国人の後ろにいる連中の調査を依頼したい」

 

「千鶴か・・・直接頼めばええやん?」

 

「いや、千鶴俺の携帯着信拒否にしてるんだよ・・・」

 

「ああ・・・千鶴お前が東京行くって決まってからめちゃくちゃ怒っとったからなぁ・・・」

 

「学校の関係者には言うなよ? あくまで、お前と千鶴だけでこの件を処理して欲しい。報酬は出すよ」

 

「それは賛成やな。 この事件兵庫武偵高の内部に敵がおる可能性もあるからな・・・信頼してくれて嬉しいで優」

 

ま、兵庫武偵高で俺が心から信頼できるのは虎児と千鶴ぐらいなものだからな・・・

 

「ま、友達だしな」

 

中学時代のことを思い出しながら俺は微笑んだ。

あいつらは、孤立する俺と最後まで友達でいてくれたんだ。

千鶴は怒らせちまったけどな・・・

 

「ところで優!」

 

「ん?」

 

「ちょ、ちょっとでええからアリアさんとでんわか・・・」

 

ぶつん

 

電源をおして携帯をポケットにしまう。

 

「ゆーう」

 

ん?

 

アニメ声に振り返るとなぜか、ご立腹のアリアさんがいた。

え? 何?

 

「今の電話女の子でしょ?」

 

「え! 違う違う! プリンだよ! お前も三宮であっただろ?」

 

「嘘! 千鶴って聞こえたわよ! 護衛の最中にか、彼女に電話なんていい身分ね」

 

どんな地獄耳だよお前は!

つうか断片的に間違ってるし

 

「ちょっと、兵庫武偵高の昔の知り合いに調査を依頼しただけだ! やましいことは何もない!」

 

「じゃあ、携帯貸しなさいよ」

 

「あ、ああ」

 

俺がアリアに携帯を渡すと少し操作してからどこかに電話をかける。

 

「もしもし?」

 

「あ、アリアさん!」

 

げっ! 電話の向こうから聞こえんのは虎児だ! 発信履歴の1番上にあったのに電話したみたいだぞ!

そんなに奴隷がほかの女の子と話すのが嫌か!

 

アリアは1言2言話してから納得したように頷いて

 

「そう、ありがとうねプリン」

 

「え? いややなぁアリアさん俺の名前はつき・・・」

 

ぷつん電話が切れた。

ひでえ・・・

そういや、俺虎児のことプリンで登録してたな・・・

 

「優」

 

「はい!」

 

カメリア色の目が俺を見てくるので背筋をぴんとして言うと

 

「疑いは晴れたわ。 風穴デストロイは勘弁してあげるから」

 

風穴デストロイってなんですか?

そんな疑問が浮かんだがろくなことにならないのでスルーしておく。

 

「そろそろ、理子達に声をかけてリビングに戻りましょ。 3人をレキだけに任せるのは危険だわ」

 

そう言って歩き出すアリア

いつもと変わらないアリアの態度に俺は・・・安堵感を覚えるよ。

 

アリア

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第65弾 遊園地に行こう

護衛5日目の朝、不機嫌目にリビングでシンたちを含めた全員で朝食をとっているところだった。

今日の料理担当は俺なので無難にトーストを焼いてトーストの上に目玉焼きを載せてある。

シン達の分は作りたくなかったがな・・・

 

「え? でかけたい?」

 

コーヒーを飲みながら眠気を消す努力をしていると奏ちゃんがいきなり口を開いたのだ。

今日は土曜日、学校は休みの日だ。

護衛の観点で言うなら要塞化しているこの家で過ごすのが1番安全なのだが・・・

 

 

「うん、動物園に・・・ダメかな?」

 

おそるおそる言う奏ちゃん。

 

「護衛の観点からいえば賛成できませんね」

 

「・・・」

 

おずおずといった感じだが、俺たちの方を見てくる奏ちゃん

賛成に回ってほしいんだな

 

「無茶苦茶なことを言ってるのはわかってるの。 でも、今日は前からお父さんと行く約束してた日だから千夏のためにも言ってあげたいなって・・・」

 

「ちーも無理してるからね」

 

理子がまだ、寝ている千夏ちゃんがいる2階を見上げる。

護衛にはレキが付いているはずだ。

 

「学校ではどうなんだアリア?」

 

キンジが食パンを手に取りながら言う。

 

「孤立してる」

 

アリアが口を開より先に言ったのはポニーテールの狙撃手春蘭だ。

3人の中で主に千夏ちゃんの護衛を担当している。

とはいえ、千夏ちゃんの小学校を狙い打つのに最適な場所で監視ているだけだが・・・

まあ、春蘭の腕は確かだ。絶対半径(キリングレンジ)は非公開だが2000以上確実である。

つまり、レキと同等の実力者ということになる。

レキが狙撃戦で負けるところは想像できんがレキ以上の狙撃手がいることに不思議はない。

世界には化け物のような連中なんざ、ざらにいるからな

 

「正確には、千夏のお父様が亡くなってからね。 家では明るくしてるけど学校では半分いじめられてるみたい」

 

 

アリアが補足を入れる。

聞くにそのいじめをアリアが撃退しているためにアリアもまた、孤立しているんだそうだ。

そりゃ辛いだろうな・・・家族を失ったんだから・・・

 

「だから、気分転換も兼ねて連れて行ってあげたいの。 お願いします」

 

頭をさげる奏ちゃん。

 

「いいわ」

 

「本当ですか!」

 

アリアの言葉に奏ちゃんがぱっと顔を輝かせる。

 

「待ってください」

 

そこに口を挟んできたのはシンだ。

 

「失礼ですが先日の優希君達の失態をお忘れですか? 彼女たちは狙われている。 幸い我々には要塞かしたこの家がある。 防御に徹するのが得策でしょう」

 

「それは・・・」

 

正論にキンジが唸る。

 

「大丈夫よ。 優だけじゃなくてあたし達も行くんだから」

 

まあ、入れたくないが俺たちを倒そうとするならシン達を入れれば選りすぐりの精鋭を何個中隊も投入しなければならない。

そんな、大戦力を動物園で投入することは難しいだろう。

 

「仕方ありませんね」

 

シンは諦めたように言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっわいいい! ほら! 優、キンジ!千夏!見てみて!うさぎうさぎよ!」

 

「おい、アリア! あんまりうさぎを抱きしめるな潰れるだろ」

 

「もふもふです」

 

千夏ちゃんも嬉しそうだ。

すっかり体験コーナーでうさぎにでれでれのアリアを見ながら俺は柵の中で苦笑していた。

 

「よし、俺も」

 

手を伸ばすが黒のうさぎは逃げていってしまった。

なぜなんだ・・・

 

「ほらレキ! お前もだっこしろよ」

 

こんな場所に来てまでもドラグノフを背負っているレキは首を少し下げてうさぎの大群を見ていたが興味は薄いらしく再び視線を虚空に戻してしまう。

 

「ん?」

 

見ると理子がそーとアリアの後ろに歩み寄ったかと思うと耳に・・・

うさぎ耳をつけた。

しかし、うさぎに夢中のアリアは気づかないらしく耳をぴこぴこ揺らしながらうさぎをもふっている。

だ、駄目だ。

なんていうか可愛すぎるだろその格好。

猫耳が強力なアイテムだと理子に前に力説されたがうさぎ耳でもそれは同じらしい。

加えてアリアは小柄で可愛いので余計に破壊力を増加させるのだろう。

 

「いけないうさぎちゃんだ」

 

横を見るとキンジがヒスっていた。

おいキンジヒスするなこんな時に・・・

まあ、止めるのが俺の役目だろ?

と、キンジに声をかけようとした時だった。

 

「ありがとう」

 

横を見ると奏ちゃんだった。

清楚なワンピースに白いポシェット

何か香水でも付けているのか獣臭いこの場所でほんのりいい香りがした。

 

「何がありがとうなんだ?」

 

「反対しなかったじゃない。 東京武偵高の人達。 あなたがリーダーだからあなたにお礼を言おうと思って・・・」

 

ああ、そのことか・・・

俺は柵に背をあずけながら

「なんていうかさ・・・千夏ちゃんも心配だったけど。 奏ちゃんも無理してただろ?」

 

「私も?」

 

「肉親を失って悲しくない奴なんていないからな・・・」

 

「変態に家族はいるの?」

 

「ま、俺の家族はいろいろと複雑だし俺は嫌われてるからな」

 

嫌われて当然んことをしたんだ俺は・・・

恨まれてない訳がない。

 

「変態?」

 

はっとすると奏ちゃんが心配そうに俺の顔をのぞき込んでいた。

いけないいけない。

 

「ど、どうしたんだよ奏ちゃん」

 

「なんか変態元気がないから私悪いこと言ったのかなって・・・」

 

「違う違う。 そんなことより、うさぎだ! よし! こいこいうさぎ!」

 

奏ちゃんは何か考えるように俺を見ていたが

 

「行こ変態」

 

突然俺の右手を掴むと歩きだした。

 

「へ?」

 

「千夏はアリアさん達に任せてちょっと私の気分転換に付き合ってよ」

 

え?え?どういうことなの?

レキと目があったがその表情は無表情。

どういうことなのレキさん教えてください!

心の中で悲鳴をあげるがレキはただ、静かに俺たちを見送るのだった。

そう、これって奏ちゃんとデートなの?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第66弾 追跡者

この王子動物園は動物園の他に隣接している遊園地がある。

つまり、チケットはいるが動物園と遊園地両方が遊べる子供にとっては最高の場所なのだ。

 

「見てみて変態! 私あれ乗りたい!」

 

どうでもいいが変態はやめてくれ! 大声で言われると警備員さんがこっち見てくるから!

 

奏ちゃんが指してきたのは空中をくるくる回る椅子だ。

前にテレビで韓国の遊園地であれの天井が潰れるの見たことあるから怖いんだが・・・

 

「い、いや俺は・・・」

 

ワイヤーで飛び回っていてなんだがああいう固定されるもんは嫌いだ。

いざというとき何もできなくなるからな。

 

「なによ変態って高所恐怖症なの? いいからいこうよ」

 

な、なんて強引なんだ。

無理やり乗せられ奏ちゃんはきゃーきゃー言っていたが俺は椅子を固定している鎖がちぎれるんじゃないかと気が気でなかったぞ。

降りてから携帯を開くとアリアからメールが来ていた。

内容は死んでも奏は守りなさいと理不尽なものだった。

まあ、守るけどな。

周囲の警戒はしていたが敵が出てくる気配はない。

まあ、人でもあるから襲いかかるのは難しいんだろ。

 

「ねえ変態次あれ乗ろ」

 

「はいよ」

 

あ、なんか懐かしいなこの感覚。

 

 

 

 

 

「兄様!」

 

「兄さん!」

 

二人の妹と弟の記憶

あの事件前はこんな感じで遊んでたっけな・・・

 

「よし! 遊ぶか!」

 

ああ、分かった奏ちゃんは妹に少し似てるんだ。

 

「な、なによ。 急に素直ね変態」

 

「変態じゃねえ椎名 優希だ!」

 

回り出したコーヒーカップを中央の皿をつかんで思いっきり回す

 

「うりゃあああ!」

 

「きゃああ!」

 

悲鳴をあげつつも笑っている奏ちゃん。

ここにきたのは千夏ちゃんのためだがあちらは恋のマスターヒステリアモードのキンジがいるから大丈夫だろう。

レキや理子もマリもいるからまあ、大丈夫だろう。

全員がキンジにメロメロになっていたらと思うと面白くないんだが・・・

ま、時間制限もあるしな

マリは考えなくてもなんとなくだがキンジにはなびかない気がする。

 

5つほどのアトラクションを周り時刻は14時を指していた。

 

「ああ、楽しかった。 ねえ変態そろそろご飯食べない?」

 

「そうだな・・・」

 

遊園地のジュースとかご飯ってなんでこんなに高いんだよ。 理不尽だろ

売店で売っていたサンドイッチセットとジュースを片手にテーブルに戻る途中、俺は顔を曇らせた。

 

「やあ、優希君」

 

シンが俺を糸目の笑顔で見て嫌がった。

奏ちゃんの横に座っている。

 

「あ・・・」

 

奏ちゃんは困ったように俺を見ているぞ。

まあ、同じ施設内だ。

バレてもしょうがいないんだが・・・

 

「よく見つけられたなシン。 千夏ちゃんはいいのかよ?」

 

「問題ありませんよ優希君。 彼女には春蘭とミンが付いています」

 

ばちばちと火花が散るような感覚。

俺はシンが大嫌いだ。

公安0の沖田とは違う嫌悪する嫌いだ。

 

「これから、僕もこちらの護衛に付きます。 問題ありませんよね」

 

にこりと護衛の役目を追っているシンは微笑むのだった」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第67弾 奏の迷い

それからのデート?は 散々たるものだったよ。

何せ、ことあるごとにシンは俺に突っかかってくる。

中学時代はことあるごとにこいつらとは対立していたがこいつは周りと同調するのが凄まじくうまい。

理子とは別の意味で周囲の心を惹きつけるのだ。

その結果、俺は本当に信頼してくれる友以外は友人を失った。

まあ、中学時代は俺の態度にも多少問題があったんだが・・・

 

「どうかしましたか優希君?」

 

観覧車を待ちながらシンが聞いてくる。

時刻は午後4時40分。

アリア達とは合流は5時と約束しているのでこれが実質最後の乗り物になる。

 

「なんでもねえよ」

 

多少なりとも憎悪を向けながらも俺は奏ちゃんににやりと笑い

 

「じゃあ、最後の乗り物だな」

 

男2人、女一人で乗る観覧車って結構、厳しいものがある。

信用してくれたのかどうだか奏ちゃんは俺の隣の座り、シンが俺の正面という構図で観覧車は回っていく。

 

時間にして15分ぐらいか・・・

 

「こうしてみる景色もいいものですね」

 

観覧車から見える光景を見ながらシンは言った。

 

「ええ・・・」

 

奏ちゃんが言った。

夕日と光景というのは結構マッチするものだからな・

 

「・・・」

 

俺は無言で外の光景を見ていた。

人ごみの中にはアリア達もいるのかもしれんがここからじゃわからんな

俺がそんなことを思っていたとき

 

「所で、奏さん」

 

「え?」

 

「藤宮の財産ですが本当にあなたは受け取る気はないんですか? 受け取れば莫大な資産を得てこの後の人生を苦労せず済みますよ」

 

「・・・」

 

2日後の迫った財産相続の期日。

奏ちゃんは迷っているようだった。

妹に苦労させないかもしれない財産の相続。

依頼を受けた頃はうけないと言っていたが千夏ちゃんのいじめの現状から見て心象が変化しているのかもしれない。

 

「・・・」

 

奏ちゃんが俺を見てくる。

人生は自分で決めるもんだぜ

無言で俺は伝える。

俺が武偵を目指すのは自分で決めたからだ。

 

「私は・・・」

 

戸惑いつつも奏ちゃんは言う。

 

「正直迷っています。 千夏の幸せのためにはお金がいるかもしれないから・・・」

 

本当に迷っているような言葉。

シンは一瞬、細目を動かしたが俺はそれに大した意味を見いだせなかった。

ただ、一言

 

「そうですか・・・」

 

その言葉の意味に気づけなかった俺は後日、後悔することになるがそれをこの時点で気づくことはできなかったんだ・・・

 

 

 

 

 

 

余談だがキンジ達の方は春蘭やミンといった面々もいたせいかキンジも思うように成果を挙げられなかったそうだ・・・

まあ、よかったと言えばよかったのだが・・・

そして、合流した時のアリアの言葉は

 

「勝手に別れたりして風穴ぉ!」

 

「ぎゃああああああ!」

 

とまあ、いつものやりとりだったが奏ちゃん達が笑いながら見ていたのはまあ、よかったのかな・・・

痛いけど

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第68弾 ももまん戦争

さて、日にちは変わって日曜だ。

明日には遺産相続の会議があるからそれに向けての準備に追われている。

襲撃があるとすれば今日か明日だが・・・

あの墓場での襲撃以来襲撃らしい襲撃はない。

リビングに置いてある監視カメラの映像を見ながらももまんを食べながら動物奇想天外の再放送を見ているアリア。

同じくテレビを見ているマリ。

ちくちくと何やら服を編んでいる理子。

ソファーでドラグノフを肩にかけながらぼーとしているレキ。

なんとなく、アリアと一緒に動物奇想天外を見ているキンジ。

シンはコーヒーを片手にスマートフォンをいじってるな。

春蘭はPSPをしてるしミンはつまらさそうに動物奇想天外を見ている。

まあ、こいつはダイハードとか爆発したりする派手な奴の方が好きなんだよな。

血が降り注げばもっといいらしいが・・・

 

千夏ちゃんは宿題をしてるし、奏ちゃんは・・・

 

「ねえ、変態銃の撃ち方教えてくれない?」

 

となぜか、俺の銃の講座を聞いている。

奏ちゃんのお父さんが使っていた銃はグロッグ18だ。

見た目は悪くなるが最大装填33発という結構えげつない銃でもある。

おい、マリヤンデレ目はやめろ!俺が何をした。

 

「その銃でしたら優希君より、僕の方が詳しいですよ」

 

と言ってシンが出してきた銃は同じグロッグ18

 

「あ、本当ですね」

 

「よければ、コツとかお教えしますよ。 優希君の銃は大口径ですから同じ銃の僕の方が効率がいいでしょう」

 

ちっなんだよ。 シンのやつ俺の役目取りやがって・・・

 

「あ、でも・・・」

 

困ったように奏ちゃんが俺を見てくる。

 

「別にいいじゃねえか。 シンは銃の腕だけは悪くないからな」

 

「褒めていただいて恐縮ですよ優希君。 では簡単なところから行ってみましょうか」

 

「・・・よろしくお願いします」

 

「ん?」

 

腕を引っ張られるような感触を感じて振り向くと理子がちっちっちと右手の人差し指を振りながら

 

「わかってないなぁユーユー。 かなでんはユーユーに教えて貰いたかったんだよ」

 

「へ? なんで?」

 

小声で理子が言うので俺も小声で返す。

 

「くふっ、キー君といい乙女心に鈍感だなユーユーは」

 

「??」

 

わからん理子は何が言いたいんだ?

 

「あああああ!」

 

そんな時、リビングにアリアの悲鳴が響きわたる。

な、なんだ?

 

「あんたそれあたしの!」

 

「1つぐらいいいじゃん」

 

ももまんを口にいれながらミンがバカにしたように言った。

げっ!ミンのやつなんて事するんだ!

 

「そ、そのももまんは大きかったから最後までとっておいたのに!」

 

じたばたとじたんだと踏むアリア。

ぺろりと指についたあんを舐めるとミンは好戦的に

 

「1度言おうと思ってたんだけどさあ。 あんた、高2ぃ? 胸もぺたんこだし背も小さいし、小学生なんじゃないのぉきゃはははは!」

 

「こ、この・・・風穴あけてやる!」

 

禁句を言われたアリアがガバメントを抜くと同時にミンも足に固定していた連結槍を一瞬で組み立てるとアリアと対峙する。

 

ドドド

 

ガバメントが3点バーストで発射される。

止める間もなかった。

 

「ふん」

 

ミンは槍をぶんと振り回すと銃弾がはじき返される。

壁と天井に穴が空いた。

 

「きゃああああ!」

 

千夏ちゃんが悲鳴をあげてアリアがはっとして動きを止めた瞬間、ミンが目を大きく見開いてにたあと口元を歪めた。

ぶんと横を見たアリアの首めがけてミンの連結槍が降り下ろされる。

 

「ちっ!」

 

なりふり構わず俺はアリアの前に飛び出すと両手をクロスさせて槍を受け止めた

ガアアアン

鉄と鉄が激突する音。

ワイヤーの発射機構に命中した槍がはじかれる。

アリアがハッとした瞬間、ミンは両手から右手に槍を持ち帰ると再び槍を横殴りに振るう。

狙いはアリアだ。

俺は足でヤリの中間部分を蹴り上げると槍の機動をそらした。

さらに、ミンは攻撃を仕掛けようとしたが

 

「ミン」

 

その場が凍りつくような声にミンの手が止まる。

シンが細い目をわずかに開けてミンを睨んでいる。

 

「やめなさい」

 

ミンは一瞬、アリアを睨んでから舌打ちして槍を収めた。

レキ、理子も武器を手にして立ち上がりかけていたがそれをやめる。

今、ミンはアリアを殺すつもりだったのは間違いない。

変わってねえなこいつら・・・

表向きはともかくこいつらは9条 武偵は決して人を殺害してはならないという分を破っているという噂がある。

あくまで、噂だが今の行動を見ていれば・・・

中国では殺害がありなのかもしれんが日本では違うんだぞ。

 

「すみません。 アリアさん。 ミンには後でよく言って聞かせますので。 ももまんを弁償しますよ」

 

「わ、分かってくれればいいのよ」

 

怒るタイミングを逃してしまったのかアリアもそれ以上ミンに攻撃をかけようとはしなかった。

ただ、目が合うとアリアとミンは威圧し合うのでこの2人は後2日、近づけないようにしないとな。

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

夜空を見上げながら俺は藤宮の家を出て近くの公園に来ていた。

この時間になると誰もいないな。

携帯電話を取り出すと1つの番号にかける。

 

3コール

 

「もしもし・・・」

 

どこかうっとおしそうな声が聞こえてくる。

 

「千鶴か?」

 

「そうよ」

 

「久しぶりって1年ぶりか?」

 

「無駄話する気はない。 虎児から依頼と聞いたから拒否を解除しただけだから」

 

「まだ、怒ってるのかよ。 勝手に東京に進路決めたこと」

 

「・・・」

 

くそぅ、本当に余計なことはしゃべらないつもりらしいぞ。

千鶴は俺の兵庫時代の友達だ。

親友と思ってたんだが現在はほぼ、断絶状態。

ランクSのインフォルマの学生だ。

法外な料金をふっかけるがやろうとも思えば軍関連の機密にまで侵入できるらしい。

本人曰く割合わないからやる気はないそうだが・・・

 

「それで依頼の件なんだが・・・」

 

「まず、はじめの事件は2か月前から始まる。 盗難車を改造した無人の車が姫路駅前で発砲。 幸い死者はでなかったけど重傷者1名、継承40名の大事から始まった」

 

確か、新聞で読んだな・・・

使われたのは全てゴム弾で殺害目的ではないと・・・

重傷者もただ、転んで地面に頭打ちつけたということらしいし・・・

 

「2つめの事件はその2日後、尼崎にある兵庫県警の警察学校に3台の盗難車が侵入し、グランドを訓練中だった学生に無差別発砲。 でも、これも同じくゴム弾で、居合わせた警察官が制圧しているけど犯人の手掛かりはなし」

 

「それから1週間に2回、3回と続いている。丹波 龍野  西脇福知山、場所も高速道路、山中、海岸と共通点がない」

 

そう、最初の頃はマスコミも報道していたんだがゴム弾で死者もですとなってくると兵庫県警の無能。 兵庫武偵高、兵庫武偵局の無能と叩きまくるという無能ぶりを晒している。

おそらく、警察も武偵もやっきになって犯人を探しているのだろうがてかがりはないらしい」

 

「他に情報はあるか?」

 

「関連はわからないけど第1の事件が起こる2日前に武偵局が不法入国しようとした中国人達と小競り合いが起こっている。 その際、武偵が1人殉職している。 名前は 藤宮 誠二」

 

「!?」

 

奏ちゃんたちの父さんじゃないか・・・

その頃から、すでに無関係じゃないんだな・・・

 

「大きく動き出したのは三宮、ばらまかれはしなかったけどあの車には実弾が装備されていた」

 

三宮と言えば俺たちが倒したあのプリウスか!

 

「それ以降は、今のところ出現していない。 何かを待っているのかもしれないか打ち止めかは調査中だけど」

 

なるほどね。

 

「サンキュー千鶴。 できたら後、3日ぐらいは着信拒否にしないで欲しいな」

 

「分かった」

 

ツーツーと接続が切れた音。

千鶴さん

あんた怒りすぎだよ。

にしても、無人車による無差別攻撃ね・・・

武偵殺し、つまり理子も同じような技術を使っていたがこれは理子じゃない。

陽動か・・・となると・・・

俺はもう一つの電話をかけるため携帯をいじる。

切り札を用意しておくか・・・

保険はかけとくべきだからな

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第69弾 向けられる牙

そして、護衛最終日がやってきた。

月曜のため、奏ちゃん達は学校にいったのである。

23時59分までに指定された会議の場所まで行き、遺産相続の意思を確認する。

学校が終わってから行けば間に合うだろう。

 

「えー、短い間でしたけどこのクラスで楽しかったです」

 

俺とキンジの自己紹介が終わる。

そう、名目上今日で再び転校することになっていたのだ。

なるべく、人を避けていたため、残念だとか元気でねとか形式的な言葉をかけてくるクラスメイトと話しながら5時間目後の休み時間が始まる。

 

「これで、終わりか。 どうだよキンジ? 普通の学校ってやつは?」

 

「アサルトの連中がいないだけで静かでいいな」

 

「ふーん」

 

この先どうするかはわからないがキンジは一般校に転校を望んでいる。

いわば、これは予行演習みたいなもんだな。

個人的にはずっと武偵高でチーム組んで欲しいだけどな・・・

 

ガタ

 

「ん?」

 

 

横を見ると奏ちゃんが携帯を手に立ち上がっていた。

 

「どうしたんだ?」

 

「あ、変態・・・」

 

一瞬、目が合うが奏ちゃんはにこりと笑い

 

「ちょっとお手洗いにいってくるね」

 

「あ、じゃあ私が一緒に・・・」

 

教室に来ていたマリが言った。

 

「う、うんお願い・・・」

 

「俺も行こうか?」

 

「デリカシーないですね優先輩」

 

別にいいだろとは言わない。

いくら女装でも俺は男だしな。

2人が出ていったのでなんとなく携帯を開く。

 

「そういえば、優?」

 

「んん?」

 

「マリに優先輩いって呼ばれてるけどいつ許可したんだ?」

 

ぴたりと携帯の操作を止め・・・

そういえばいつ、変わったんだ?

まあ、いいか

深く考えずに携帯に目を戻す

 

着信 理子

 

「え? 理子?」

 

通話ボタンを押すと理子の男言葉が飛び出した。

 

「優! キンジ! 千夏の小学校で爆発があった! そっちも、奏を・・・」

 

「キンジ!」

 

立ち上がると走り出す。場所は女子トイレだ。

ドアを蹴破るようにしてあけるとそこにマリが倒れていた。

 

「マリ! おい!」

 

ぱんぱんと頬を叩くが気絶しているようだった。

 

「優!」

 

キンジが走り込んでくる。

窓の枠に手をかけ外を見るが何もない。

 

「くそ!」

 

やられた。

敵はマリを気絶させ奏ちゃんを拉致したのだ。

 

「奏!」

 

念のため叫ぶが返事はない。

そういえば、シン達の姿がない。

電話をかける。

 

「レキ! そこからシン達の姿は見えるか?」

 

「春蘭さんのいた、場所には誰もいません。 優さんの学校から黒い車が出ます」

 

ドン

 

電話の向こうからドラグノフの狙撃音が聞こえてくる。

やったのか?

 

「どうなったレキ!」

 

電話に向けて怒鳴る。

 

「妨害されました。 春蘭です。 車内に奏さんとシン達の姿も見えます」

 

アホか俺は!

壁を殴りながら自分のうかつさに怒りを覚える。

シンは信用ならないやつだと分かっていた。

だが、拉致など武偵法にてらしあわせれば死刑に近い罪になる。

そんなリスクを払ってまでこんなことするわけないと心の中で思っていたのかもしれない。

俺の責任だ。

 

「レキ! シンの車の番号わかるか?」

 

「ね 31―○○です」

 

よし、さすがSランク

レキの電話を切ってもう一人にかける。

 

「はい?」

 

「千鶴! 今から言う番号の車の追ってくれ。 大至急だ!」

 

「分かった」

 

緊急ということを理解してくれたのか千鶴は追跡に入ってくれたようだった。

 

「おい、優。 俺たちも追わないと」

 

キンジの頭に浮かんでいるのは護衛に使っていた防弾車だろう。

だが、それじゃおそらく追いつけない。

 

「マリを頼むキンジ!」

 

マリをあずけて後ろからキンジの声を聞きながら学校を飛び出す。

そして、空き地の草むらからそれを取り出した。

スズキ・GSX1300Rハヤブサ。

ノーマル改造で333キロ出る米国のY2Kに抜かれるまでは世界最速のバイクと言われ今なおその圧倒的な性能からアルティメットスポーツと言われる化け物オートバイ。

 

「久しぶりだな・・・相棒」

 

インカムで携帯を操作できるようにしてからヘルメットをかぶりオートバイにまたがる。

アリアや理子達は千夏ちゃんの護衛で動けない。

となると、動けるのは俺だけか・・・

追いついても3対1・・・きついな。

でも、やるしかないよな。

ドン

ん?

後ろに感触があったので振り返る。

 

「レキ」

 

なんとレキがハヤブサの後ろのシートに座っていた。

 

「あなたでは春蘭に勝てない」

 

「助かるぜレキ」

 

狙撃対拳銃に持ち込まれれば勝ち目は薄いからな。

 

「アリア、理子みんな聞こえてるな?」

 

「優? あんたどこにいるのよ」

 

「アリアか? 俺とレキは情報が入り次第奏を追う。 お前たちは千夏ちゃんを頼む」

 

「レキュもそこにいるの?」

 

「はい」

 

リコの言葉にレキが言う。

 

「優、聞きなさい。 あたしたちも千夏の安全を確保したらすぐに援軍に行くから回線は開いと来なさい」

 

「了解、っと」

 

「優希聞こえる?」

 

「千鶴か!」

 

「該当の番号の車の所在がわかった。 そこから高速に入って時速130キロで大阪方面に向かってる」

 

130キロか、なら追いつけるな。

 

「行くぞ、レキしっかりつかまってろ」

 

「はい」

 

腕が俺の腰に回されぴったりと付いてしまう。

お、おおなんか柔らかいものが背中に・・・ってそれどこじゃないよな。

爆音を響かせハヤブサが住宅街を走る。

待ってろよ奏ちゃんすぐに追いついて助けてやるからな。

高速道路の入口が見えてくる。

あ、やば金教室に忘れてきた・・・

みるみる入口が迫ってくる。ごめんなさい

俺はETCのバーを激突して破壊すると一気に加速した。

免停じゃすまないだろうな・・・これ

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第70弾 助けて

「う・・・」

 

ずきずきする頭を押えながら目を開けるとそこは車の中だった。

 

 

「ここは・・・」

 

「目が覚めましたか?」

 

シンさん?

助手席からこちらを振り返っているのは私の護衛を担当していたシンさんだ。

 

「シンさんここは・・・」

 

「申し訳ありませんがあなたには中国にきてもらいますよ」

 

「え?」

 

あまりに唐突すぎるシンの言うことが理解できなかった。

一体何を・・・

 

「まだ、わかんないのあんた?」

 

運転しながらミンはにたりと笑う。

 

「あんたはこれから中国に拉致されてランパンで奴隷になるか北朝鮮あたりに売られるかもねぇ。 キャハハ、ご愁傷さま」

 

現実味のない言葉だが私はぞっとした。

北朝鮮、中国・・・どちらの国も私から見たらろくな印象がない。

 

「そんな、嫌です! 家に返して!」

 

「遺産相続の意思がないなら放置の予定だったんですけどね」

 

糸目で微笑みながらシンが振り返る。

 

「奏さんは遺産相続を迷っているといいましたよね。 あれが拉致の決定打です」

 

「そんな、あれは・・・」

 

「僕たちのクライアントはあなたが邪魔なんです。 殺されないだけありがたく思ってくださいね」

 

「嫌!」

 

逃げようとするが手錠で固定されている。

逃げられない。

 

「ああ、逃げようとしないでくださいね。 逃げるなら殺していいと依頼主には言われてますから」

 

ずっとする言葉。

シンは本気だ。

ああ、なんで変態と一緒にトイレにいかなかったんだ・・・

護衛期間中くらいはそれぐらい許容すべきだった。

 

「言っておきますが救援は期待しないほうがいい。 イ・ウーの事件では警察はうかつに手を出せませんからね」

 

「?」

 

その組織名らしい言葉の意味はわからない。

だけど、私が期待したいのは・・・

 

「ああ、優希君達の助けを求めるのは無駄ですよ。 あの防弾車は120キロしか出ない。 僕らの車は130キロ今、出しています。 つまり・・・」

 

変態たちは追いつけない。

 

「最も、どのルートを通っているかなどの割り出しには数時間かかかるはずです。 大人しくしてるなら諸葛に口添えをしてあげてもいいですよ」

 

次々絶望的なことを言い。

希望を奪っていく。

私はもう、妹に二度と会えずに異国の地で死んでいくのか・・・

ぽろぽと大粒の涙が溢れてくる。

 

「・・・て・・・い」

 

「ん?」

 

「助けて・・・優・・・」

 

「・・・」

 

「どうかしましたか春蘭」

 

シンの言葉を無視して春蘭はM700狙撃銃を手に車の天窓を開ける。

 

「追っ手がきた」

 

「公安0が動くのは早すぎますね」

 

「違う。椎名優希とウルスの姫」

 

シンの目が見開かれる。

 

「オートバイ、ハヤブサ。 改造なしで333キロでる化け物・・・追いつけれるこのままでは」

 

ライフルを構えながら春蘭が言う。

 

「ミン、最高速度をお願いします。 日本の警察は気にしないでいいですよ」

 

「了解! カーレースって久しぶりだわ」

 

日本の大衆車のプリウスに偽装してあるがこの車は500キロまで出せる。

そして、春蘭はそれを維持できる実力者だった。

 

「春蘭、万が一の時は頼みますよ」

 

「ん」

 

まだ、互いのキリングレンジに入っていない目標を見ながら春蘭が言葉を返す。

変態が来てくれた・・・

 

「希望を持つのは早いですよ。 奏さん」

 

「え?」

 

「合流地点まで付ければ僕らの勝ちです。 それに、対峙するようなことがあっても優希君は僕より弱い。 つまり、殺してしまえばいいだけですよ」

 

「ウルスの姫は私が仕留める。 諸葛も喜んで報酬も出るかな?」

 

「油断はしないように」

 

「キャハハ、私の相手がいないじゃん。 ねえ、椎名の後継の殺害私に譲りなさいよ」

 

「できませんよ」

 

ゾクリとするような殺気を放ちながらシンは目を開け、戦闘狂のような笑を浮かべて言った。

 

「優希を殺すのは僕ですから・・・」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第71弾 追撃戦

気を抜けばぶっ飛びそうなほどの爆風を感じながら俺の駆るハヤブサは300キロの速度で高速道路を疾走する。

もちろん、速度違反なのは疑いようがない。

捕まれば後ろのレキ共々交通刑務所かな・・・

 

「優、対象は速度をあげた。 150・・・160・・・プリウスの限界を超えてるから多分改造車」

 

耳のインカムから兵庫武偵高のインフォルマSランク武偵の千鶴が的確に支持してくれる。

 

「了解」

 

前方を走る車をよけながら高速道路を走る。

聞けば千鶴は存在さえしないはずのスパイ衛星を乗っ取ってシンたちの車を追っている。

後は各所の警察の情報等をハッキングしている。

違法と言えば違法なのだがバレなきゃ罪にならないらしく千鶴はバレたことは1度もない。

何度かあいつの部屋に入ったことあるがマジでキーを叩く手が見えないから驚きだ。

直線距離にして5キロ先ハヤブサなら追いつける。

 

「・・・」

 

俺はぎょっとしたさ

レキがいきなり後ろで立ち上がるとドラグノフを俺の肩に乗せるように構えたのだ。

 

「危なねえレキ! 座れ!」

 

立っているだけで恐ろしいバランス感覚だ。

ゴーグルに頭を覆うだけのヘルメットを付けたレキは髪をばたばたと揺らしながら

インカム越しに

 

「敵は狙撃銃でこちらを狙っています。 キリングレンジに入り次第攻撃を仕掛けてくるつもりです」

 

「何?」

 

「その子のいうことは本当よ優。 衛星からでも天窓から身を乗り出してる人影が確認できた」

 

なぜか、不機嫌な声で千鶴が言ってくる。

春蘭か・・・

前を見るが俺には見えない。

レキや春蘭には5キロ先の互いの敵が見えているというのか・・・

 

「レキ、せめてワイヤーだけでも巻いとけ。 落ちたら死ぬぞ」

 

「はい」

 

レキは言うとおりに俺の背中のワイヤーで自分の体を巻いた。

 

「奏ちゃんは見えるか?」

 

「後部座席中央にいます。 拘束されているようです」

 

絶対に許さねえ。 拉致なんてきたねえことしやがって

はやぶさをさらに加速させる。

 

「優、シンの車の速度が340キロに達した」

 

それはつまり、ハヤブサの最高速度を超えたことを意味する。

 

「了解だ!」

 

俺はハンドルの横についている青いボタンを押した。

ドンと一瞬、衝撃が走りスピードメーターが振り切れる。

 

「・・・」

 

何したのと聞いて欲しかったがレキは無言でスコープを見ているので

説明すると今のはリミッター解除だ。

燃費は悪くなるが限界速度を超えられる。

昔、ロジの生徒に金を積んで改造してもらったんだが今になって役に立つとな・・・

 

「優さん」

 

そんな時、レキが声をかけてくる。

 

「どうしたレキ?」

 

「今から私は敵と撃ち合います。 私のいう方向に回避行動をお願いできますか?」

 

「別にいいがそれだど狙いにくいんじゃないのか?」

 

「車を避ける以外はまっすぐに走ってください。 私の銃弾は確実に相手の動きを射抜く」

 

言うまでもないか・・・

狙撃に関してはこの子に俺は絶大な信頼を置いている。

レキがそういうならそうするのがベスト

第1の関門は狙撃手だしな。

 

「分かった」

 

まもなく、速度は400キロを超えようとしている。

一歩制御を間違えば俺もレキも地面に叩きつけられて死ぬだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「振り切れませんか・・・」

 

「うん、あのハヤブサ改造車」

 

春蘭の言葉にシンはにこりと微笑んだ。

 

「キリングレンジに入り次第殺りなさい春蘭」

 

「了解。 シン」

 

「や、やめ」

 

春蘭の下半身に体当たり仕様としたが頬に強い衝撃を感じて私は吹き飛んだ。

 

「あ・・・」

 

「大人しくしてなさい劣等民族の日本人」

 

舌に鉄の味がしたので舐めてみると血の味がした。

シンは私をゴミを見るような目で睨んでから糸目に戻ると座席に座る。

 

「ああ、こわいこわい」

 

運転しながらミンが言う。

 

「シンの日本鬼子嫌いは変わらずね」

 

「馬鹿な民族ですよ日本民族というのは自分たちを侮蔑する日本鬼子という言葉すらくだらだないイラストにして喜んでいるんですからね」

 

「シン、キリングレンジに入る」

 

春蘭の言葉にはっとした瞬間、ドンと発砲音が聞こえてくる。

狙いは変態達だ。

 

「死なないで・・・お願い・・・」

 

願わずにはいられなかった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第72弾 レキVS春蘭

「右です」

 

レキの言うとおり右にハンドルを切る。

ヒュンと風を切る音がしたのでおそらく、春蘭の狙撃銃だ。

発砲から着弾まで2秒半の間にレキは回避行動を支持したのだ

だが、それは2キロ距離が離れているからで近づけば回避指示は間に合わない。

かといって春蘭、相手に突っ込むのは危険すぎた。

 

「どうするんだレキ! 距離を詰めるか?」

 

言いたくないがリミッター解除した状態だと燃費が凄まじく悪くなる。

先に燃料が尽きるのはこちらだろう。

ハヤブサが動かなくなればもはや、打つ手はない。

 

「まっすぐに進んでください」

 

「それでいいんだな?」

 

「はい」

 

このやりとりは信頼関係がないと成り立たない。

敵の銃弾は自分がなんとかするとレキは言っているのだ。

 

「私は一発の銃弾・・・銃弾は人の心をもたないただ、目的に向かって飛ぶだけ」

 

いつもの暗示のようなレキの言葉

 

ドン

 

ドラグフの狙撃音。

同時に速度を俺は上げた。

敵からの銃撃はない・・・

 

 

 

 

 

 

「すごい・・・」

 

「どうかしましたか春蘭?」

 

シンの言葉の春蘭が答える。

 

「ウルスの姫、狙撃の弾をビリヤード撃ちで落とした」

 

「ほう」

 

シンもまた、驚いているようだった。

狙撃の銃弾を狙撃銃で叩き落とす、あるいはそらすなんて芸当はランパンでもそうはいないだろう。

 

ドンドン

 

続けて春蘭が銃撃を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光と同時にレキは敵の狙撃銃の弾を狙撃で叩きおとしているようだった。

神業とかいうレベルじゃねえぞ。

距離は徐々につまりつつある。

それと同時に周りの車の姿もほとんどなかった。

平日の夕方としては異例の時代だが理由もあった。

自衛隊が道路の封鎖を行なっているのである。

それも、神戸から大阪以後に至るまで広範囲に至ってだ。

ハイジャックの時に続いて、また、実家の力を借りてしまった。

本当に俺は人に頼ってばかりだな。

イ・ウーが関わる事件のため、警察や自衛隊で直接シンたちを抑えることはできないが間接的になら支援してもらえる。

 

ドン

 

再びレキの銃弾が春蘭の銃弾をたたき落とす。

すでに、戦場は神戸の中央部に入り、左に鏡のようなビル、クリスタルビルが見えてくる。

燃料を見ると後10分しか走れない。

 

「レキ!」

 

そろそろ決めないまずいぞという意味で言うとレキは

 

「優さん、周辺の避難は終わっていますか?」

 

「あ、ああ自衛隊がやってくれてるとは思うが・・・」

 

「では武偵弾を使います」

 

「え?」

 

止めるまもなくレキは

 

「私は一発の銃弾」

 

ドン

 

武偵弾を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

前方で起こった爆発に春蘭は慌てて急ブレーキを踏んだ。

同時に前方で爆発が立て続けに起こる。

 

「きゃああ!」

 

私は悲鳴を上げながらシートベルトが体に食い込むのを感じながら目をぎゅっと閉じた。

一瞬、気絶してたのかもしれない。

目を開けると

 

「やってくれますね。 ウルスの姫」

 

顔を上げると道路はなくなっていた。いや、正確には20メートルほど道路に間が出来ている。

破壊された後と共に

 

「どうすんのよシン」

 

「こうなっては仕方ありませんね。 迎えが来るまでここで優希とウルスの姫を殺害します」

 

「キャハ、ウルスの姫は私に譲りなさいよ。 あの女むかついてるのよ私」

 

「いいでしょう」

 

春蘭は爆風と急ブレーキの影響で気絶しているようだった。

実質2対2だが春蘭とレキでは接近戦の優越は明らかだ。

それに、シン自身、優希に負けるつもりなどない。

今度こそ殺してやる椎名 優希

お前が守ろうとしたこの女の前で絶望を見せながら首をはねて見せしめにしてやる。

 

バイクが止まる音と共にシンは奏の髪を掴んで車から引き出した。

 

「痛!」

 

悲鳴をあげる劣等民族を見ながらシンは外に出る。

激怒の表情を浮かべる少年を目にシンはにこりと微笑んだ。

 

「やあ、優希君」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第73弾強くあれただしその前に正しくあれ

はやぶさを降りて俺がはじめに見たのは奏ちゃんの髪をつかんで薄く笑っているシンの姿だった。

 

「変態・・・」

 

泣きそうな顔でこちらを見ている少女の右頬は赤くなっていた。

くそったれが!

 

「その手を放せ! クズ野郎!」

 

激怒の感情は戦闘狂モードを引き起こす。

ガバメントをシンに向ける。

奏ちゃんと目が合う。

怯えているその目に必ず助けるとアイコンタクトを送った。

 

「構いませんよ。 この状況で離しても結果は変わりませんから」

 

「レキ! 奏ちゃんを頼む!」

 

シンの手が奏ちゃんの髪から離れた瞬間、俺はフルオートで2丁拳銃でガバメントを発砲する。

シンはグロッグを抜くと同じくフルオート射撃で応戦する。

空中で火花が散り、45ACP弾が全てたたき落とされる。

ビリヤード撃ちだ。

パワーはこちらが勝るが装弾数ではデザートイーグルを入れてもシンの方が上だ。

ガバメントが弾切れになると同時に防音用の壁に左腰のワイヤーを打ち込むと空中に飛びあがる。

シンがグロッグを向けてくる。

デザートイーグルで迎撃しつつ、右と左のワイヤーを発射した。

右は短刀、左も短刀だ。

今日ノワイヤーはステルス戦を想定していない装備である。

 

「ワイヤー使いは君だけじゃありませんよ」

 

そう言うとシンもまた、手を振りかぶると先に折りたたみ式の剣がついたワイヤーを発射した。

空中で激突する4本ワイヤー群。

右足のワイヤーを地面に発射し巻き戻して地面に着地し、残りのデザートイーグルの残弾をシンに叩き込むがそれもシンは予想していたらしくビリヤード撃ちで迎撃する。

これで、残弾0

シンの残弾はまだ、10発以上ある。

再び防音用の壁にワイヤーを叩きこんで、空中に退避しつつ、シンの弾丸を交わしながらマガジンを入れ替える。

左のガバメントを3点バーストで放ちつつ、右手のワイヤーをハヤブサの方に向けて放つ。

 

「気でも違いましたか?」

 

シンもマガジンを入れ替えながら言った。

 

「はっ!」

 

ワイヤーははやぶさにくくられていた木筒に突き刺さると巻戻り、木筒が俺の手の中に来る。

素早く、木筒から日本刀を取り出す。

防弾壁を両足で蹴ると一気にシンとの距離を詰める。

狙うは居合、左腰に鞘をあてて柄を右手でつかむ。

 

「飛龍1式、風凪」

 

一気に抜き放つ、ガアアンと金属音が響き、シンの折りたたみ式の剣と日本刀が激突する。

シンの口元が笑む。

どうだか受け止めてやったぞと

だが、残念

「ぐっ!」

 

防弾制服の肩にあったであろう衝撃にシンは1歩引くと後ろに交代する。

 

「今のは?」

 

剣は確実に受けたはず、理解できないだろう。

音速の斬撃、これが生み出す衝撃破は1擊に続けて2の攻撃につなげることができる。

我ながら人間技ではないと思うが椎名の家では筋肉がこれに適するとように徹底的に

鍛えられる。

10年近く剣から離れていたが体は覚えている。

風を薙ぎ払う剣、風凪。

居合の境地だ。

 

「もう一回いくぜ」

 

剣を鞘にしまうと低く構える。

剣を抜き放つ

 

「なるほど、ソニックブームですか」

 

「!?」

 

剣は止められない。

シンは突っ込んでくると両手の剣で日本刀と激突した。

こ、こいつ

 

「それなら、音速に至るまでに剣を止めてしまえばいい。 それだけです」

 

さすがSランク武偵、一撃で技の特性を読みやがった。

まだ、あの赤い光景は見えない。

鞘に収めてベルトに鞘を付けて柄をしまいガバメントを抜く。

 

「椎名の後継、知っていましたよ。あなたが剣を使うことは」

 

「それは今はいい。 なんで、奏ちゃんをさらった? 武偵法は知ってるだろ?」

 

「フっ、あんな劣等民族が決めたものなど僕らランパンには関係ありません」

 

ランパン・・・中国の組織だが、多くが謎に包まれてる組織だ。

 

「いつからだ? いつから、犯罪組織に手を貸してやがった?」

 

「最初からですよ。 優希、僕ら3人は日本に潜入し、機会を待っていたんですよ」

 

「機会だと?」

 

「そう、知っていますか?藤宮の財閥は日本のありとあらゆる事業に関わっているんです。 その、財閥を中国の企業が全て裏から接収する。 どうなるかわかりますよね?」

 

そうなれば、日本の企業は中国の好きなように裏から操られることになるだろう。

実質、日本の企業が死ぬようなもの。

無論、全企業を買収する訳ではないが・・・

だが、そんなことは関係ない。

 

「んなことはどうでもいい。 なんで奏ちゃん達を狙う!」

 

ふぅとシンは軽く息を吐いた。

 

「相変わらず君は馬鹿ですね。 優希、財閥の関係者はほぼ、ランパンが抑えていましたがそこに、2人の隠された後継者がいるなんてことになると困るんですよ。 心配することはありませんよ。 彼女は中国か北朝鮮で可愛がってもらえるでしょう。 将軍様のお膝下なんてどうです?」

 

わかりやすい挑発だというのはわかる。

だが、怒らずにはいられねえ・・・

 

「ああ、そうそう」

 

 レキに保護されている奏ちゃんを見るとシンは楽しそうに

 

「君の父親を殺したのは僕ですよ。 心臓を一つき、あっけないものです」

 

奏ちゃんの目が見開かれる。

 

「お・・・とうさん・・・を?」

 

シンは小馬鹿にしたように両手を左右に広げ

 

「所詮、劣等民族の武偵、僕の敵じゃありません。 ああ、弱い相手でした。 クズな相手ですね」

 

「っ!」

 

奏ちゃんが拳を握り締めてシンに走り出す。

シンが口元をにやりと歪める。

 

「奏さん」

 

レキがそれを止めようとするが突如、レキは銃剣を付けたドラグノフを横に振るった。

ガキイイン

と槍と激突し、レキが後退する。

 

「あんたの相手はわ・た・し」

 

ひゅんひゅんと槍をぶんまわしながらミンは言う。

あ、あの槍は・・・

槍の刃先は青龍刀のような形をし、青龍が彫られている。

青龍偃月刀、確か、三国時代最強クラスの武人関羽が使っていた槍と同じ種類のものだ。

 

「きゃは、連結槍よりやっぱりこれよね」

 

くそ、レキは動けない。

 

「やめろ奏ちゃん!」

 

「うああああ!」

 

怒りで我を忘れているのだろう。

折りたたみ式の剣を構えるシン

 

「シン!」

 

ガバメントを向けようとして射線に奏ちゃんが入っていることに気づく。

横に飛びながら射線から離そうとするがまにわん!

 

シンが剣を奏ちゃんに振り下ろした瞬間、シンの剣がががんと弾かれた。

レキか!

 

ドラフノフのシンの剣を弾き飛ばしたらしい。

その隙にワイヤーを投げて奏ちゃんに巻きつけて引きながら左手のワイヤーで崩落した20メートルの穴を飛び越え、崩れたガレキの影に奏ちゃんを隠す。

 

「離して変態! あいつは! お父さんの! お父さんを殺した!」

 

怒りで言葉が少しおかしくなってるな。

無理ないか。

 

「いいから落ち着け! シンはお前が勝てる相手じゃねえ!」

 

「わかってるそんなこと!」

 

ぼろぼろと涙を流しながら奏ちゃんは泣き崩れた。

 

「じゃあ、どうしたらいいの! 仇を前にして何もするなっていうの! ねえ優希!」

 

「奏ちゃん・・・」

 

「私たちの生活をめちゃくちゃにしたあいつが許せない! お父さんを奪ったあいつが許せない! 殺したい! あいつは許せない!」

 

「分かった」

 

「え?」

 

俺は立ち上がるとマガジンを全部入れ替えた。

 

「俺がかわりにシンをぶん殴る。 逮捕して罪を償わせるさ」

 

「殺してよあんな最低な奴!」

 

「武偵憲章第3条」

 

「え?」

 

「強くあれ、ただしその前に正しくあれ。 武偵は人を殺害しちゃいけない。殺人は犯罪だ。 それは相手が犯罪者でもな。 シンを殺して正しくない道へ行く道もある。 でも、俺は君に人を殺してほしくない。 あれは、耐え難い罪だから・・・」

 

「優希・・・」

 

奏ちゃんは黙って聞いてくれている。

 

「でも、それでもシンを殺したいというなら今度は俺は君を逮捕しないといけなくなる。 でも、俺はそんなことしたくない。 だから、あいつを許せとはいわない。 俺がぶん殴ってやる。 それじゃダメか?」

 

「・・・ずるい・・・そんな言い方されたら私あいつ殺せないじゃない・・・」

 

「・・・」

 

「優希、あいつを倒して! 私のかわりに! お父さんの無念・・・私たちの無念を晴らして!」

 

俺はにっと笑うと

 

「了解! 分かってくれてありがとうな」

 

ぽんと奏ちゃんの頭を撫でて言った。

 

「・・・」

 

その顔が少し、赤みを帯びていたのに俺は気づくことはなかった。

さて、レキ1人じゃ危うい。

倒すぜシン、ミン。

てめえらは、俺達が処刑台に送ってやるぜ・

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第74弾 優希VSシン レキVS春蘭

物陰から20メートルの隙間を飛んだ時見た、光景は明らかにレキが劣勢に立たされていた。

レキは手首、首筋といった急所を攻撃しているがミンは巨大な青龍偃月刀を振り回し防御姿勢をとっている。

その顔には焦りはかけらもない。

レキも焦りのようなものは見えないが彼女は下から無表情だ。

その表情から焦りがあるのかを見いだせることはできない。

崩せるものなら崩してみろとレキの銃剣の攻撃をあざ笑うかのようにいなしている。

レキが弱いんじゃない。

狙撃ならレキの圧勝だろうが槍戦ではレキが勝てる見込みは少ないだろう。

アリアたちに連絡を取ろうとしたが妨害されているらしくつながらない。

なら、ミンが遊んでいるうちに2人を沈めればいいだけの話。

 

「シン!」

 

2人の戦いには目もくれず俺が着地するのをシンは見てくる。

 

「お別れはすみましたか?」

 

それを俺は戦闘狂の笑で返す。

 

「誰の別れだよ? てめえこそ処刑台に送られる覚悟は出来たのかよチャンコロ」

 

「日本鬼子が・・・」

 

互いに侮蔑の言葉をはき合いながら地を蹴る。

シンの剣付きの右のワイヤーを交わしながら体を右にひねり日本刀を横殴りに切りつける。

シンはそれを左のワイヤーつきの剣で受け止めるとグロッグで俺に向けて3点バーストで発砲する。

俺はガバメントで同じく3点バーストビリヤード撃ちで迎撃し、空中に火花が散る。

銃技はほぼ五角。

剣、日本刀、銃の3つの組み合わせに加え格闘能力もこの戦いには重要だ。

 

「驚きましたよ優希。 剣を開放した君はランパンの1流の連中とでもやり会えるでしょうね」

 

「そりゃどうも!」

 

右足で回し蹴りを放った瞬間、足からワイヤーを発射するがシンはそれを読んでいたようで交わす。

 

「無傷で勝つのは難しそうだ」

 

その瞬間、シンは特攻をかけてきた。

防御を捨てた捨て身の刺突。

迷いはない。

俺は刀を左に一瞬で持ち帰るとそのがら空きの脇腹に渾身の一撃を叩き込んだ。

 

「ぐっ・・・」

 

「くっ・・」

 

互いの1歩2歩引きながら打撃された場所を抑える。

見ると少し右肩が出血している。

防刃制服の突き抜けやがったか・・・

だが、針で刺されたような血の後だ。

戦闘にはなんの問題もない。

それより、シンの方が重症だろう。

あばら、数本折ってやった手応えがあった。

防刃制服の上でも打撃は有効な攻撃になる。

右手で脇腹を抑えているシンだったがその細目を少し開けて微笑んだ。

なんだ?

 

「君の負けだ優希」

 

「何? っ・・・」

 

ぐらりと、視界が揺らぐような感覚。

しまった毒か・・・

 

「てめ・・・」

 

立ってられない訳ではない。 だが、呼吸が荒くなってきている

 

「その毒は後から効いてくるものです」

 

シンは剣をぺろりと舐めながら微笑んでいる。

長期戦はまずいか

なら、一気に決めてやる。

マガジンを切り替えてからガバメントを3点バーストでシンに放つ。

シンはそれを再び、ビリヤード撃ちで迎撃したがその瞬間、俺とシンの間で大爆発が起きた。

武偵弾炸裂弾。

同時に俺は防音壁に向かいワイヤーを発射し空を飛ぶ。

狙いは空へ、爆発を盲ましにし爆風でさらに舞い上がる。

日本刀を両手に持ち替え、圧倒的な重力を得る。

 

「くっ・・・」

 

シンは一瞬だが、俺を見失い。気づいたときには全てが遅かった。

 

「飛龍1式! 雷落とし!」

 

雷が落ちたようなその重加速を得た剣は避けようとしたシンの右手に叩き込まれた。

 

「ぐあ!」

 

悲鳴をあげてのぞけるシン。

地面に着地してありえない方向に曲がっている右手を抑えているシン。

脇腹ががら空きだぜ。

止めをさそうとしたその時だった。

ドクン

心臓が高鳴り手が震え出す。

このタイミングで・・・

目の前に現れるのは赤いあの光景。

駄目だ、ここで決めなければ

降り抜け!

 

「うおおおお!」

 

居合の速度で振るうそれはまさに必殺の一撃。

シンの脇腹にそれが突き刺さる直前

ギイインと甲高い音がしたかと思うと剣が割り込んだ槍に阻まれる。

 

「何!」

 

それは、青龍偃月刀。

槍の底に付けられているらしいワイヤーでそれを手元に引き戻したミンは

にいいと笑うとごおおと爆風をおこしながら横殴りに切りつけてきた。

それを日本刀で受け止めるがたまらずにぶっ飛ばされる。

毒のせいで受身もとれずに背中を強打し高速道路を滑る。

くそ・・・

首を持ち上げてミンがさっきまでいた場所を見るとレキが倒れされていた。

ここからじゃ死んでるのかもわからない・・・

くそ、レキ・・・

シンの劣勢を見たからかどうかは知らないがまずいぞ。

体はまだ、動く。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

息を吐きながら日本刀を杖にようにして立つとがしゃんと肩に青龍偃月刀を置いたミンが歩いてくる。

 

「キャハ、シン油断しちゃった? したわよねぇ。 情けない有様よね」

 

「黙れミン・・・僕はまだまけてない。 殺すぞ」

 

敬語で話すことも忘れているのか細目を開き激怒の表情を浮かべながらシンは右手を押えながらミンの横に立つ。

 

「椎名の後継は譲ってもらうわよ」

 

「ウルスの姫は殺したのか?」

 

「殺せたけどころしてないわぁ、せっかくだからランパンに連れていったら喜ばれるわよねぇキャハハ」

 

よかったレキはまだ、生きてるな。

体は毒が回りつつあり、状況は2対1。

1人は重傷だが、敵はほぼ無傷のSランク。

レキを助けて奏ちゃんを助けて俺も生き残る。

そんな都合がいい方法は援軍以外は1つだけ。

やるしかないのか・・・

ここで、殺され、レキ達を連れ去れれるぐらいなら・・・

ミンが青龍偃月刀を構える。

 

「はーい、終了の時刻よー椎名の後継きゃはははは!」

 

左手を前に出して日本刀を持つ手を右肩の上まで持っていく。

まだ、諦めねえ

武偵は諦めるな決して諦めるな!

 

「その構え・・・」

 

シンが口を出してくる。

覚えがあるらしいな・・・

でもまあ、取り越し苦労だったか・・・

 

ドルンと甲高いエンジン音

 

「!?」

 

シンとミンがその場を飛び去った時、45ACP弾が地面に穴を開ける。

 

「遅いぜ。 キンジ、アリア」

 

「悪い遅くなった」

 

「ここからはあたしたちに任せて寝てなさい優」

 

オートバイから降りた2人は言うのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第75弾 アリア・優希VS春蘭・シン 決着

キンジとアリアが来てくれた。

これで、形勢は3対2だ。

だが・・・

キンジお前、ヒステリアモードじゃねえな・・・

だが、シンさえ抑えればアリアはミンに集中できる。

キンジは後方援護を担当すれば戦える。

 

「アリア、キンジ千夏ちゃんは?」

 

「理子とマリが見てるわ」

 

よし、後は・・・

 

「キンジ、レキを頼む。 死んではいないと思うが・・・」

 

「分かった」

 

俺の言葉にキンジがベレッタを手にレキの方に走っていく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・くっ」

 

「優?どうしたのよ! 汗びっしょりじゃない」

 

俺の異常に気づいたのかアリアが駆け寄ってくる。

 

「大丈夫だアリア。 ちょっと疲れただけだ」

 

「嘘よ。 毒にやられたわね優! 動いたら毒の周りが早くなるわよ」

 

「なら、10分以内に決めて病院行くかな」

 

日本刀を右手にアリアの横に立つ。

 

「分かったわ。 無理なようなら下がりなさい。 あたしとキンジであの2人は逮捕する」

 

ガバメント2丁をを取り出しながらミンをアリアは猫のように威嚇しながら睨みつける。

 

「あの女は風穴開けてやりたいと思ってたしね」

 

「アリア、気をつけろよ。 ミンの接近戦は間違いなく一流クラスだ。 接近戦は可能ならするな」

 

「お話はおわりましたか?」

 

糸目のまま、シンが微笑みながら聞いてくる。

時間が経てば経つほど、自分たちに有利だとシンは思っているのだろう。

現にその状況だ。

時間が経てば毒は回るし、敵の援軍の可能性あってある。

シンの言葉に耳を貸さずに俺とアリアは右と左にかけた。

 

それぞれ、1丁づつシンとミンに同時に45ACP弾を叩き込む。

別方向からの同時射撃。

ビリヤード撃ちでシンは迎撃しようとしたが何発かもらう。

ミンは青龍偃月刀を回転させ銃弾を全てたたき落とした。

うちあわせた訳ではない。

だが、アリアとはここしばらくチームを組んでいるのだ。

動きはわかる。

 

互いに疾風のように疾走するとクロスするようにして互いの正面の敵を入れ替える。

シンはアリア、ミンは俺

 

「アハ」

 

ミンは嬉しそうに青龍偃月刀を横殴りに振るった。

俺はそれを右手のワイヤー、腰のワイヤーを青龍偃月刀にぶち当てた。

同時に日本刀に激突するが威力は減退している。

ピシ

 

「!?」

 

嫌な音がし、日本刀にヒビが入る

威力はジャンヌ時に確認済みだ! 半分持って行け!

 

左手のデザートイーグル、左手のワイヤー、左腰のワイヤー、左足のワイヤー、右足のワイヤーが一気に飛び出してミンに迫る。

ジャンヌ戦の時に使ったフルバーストの本数少なめ版だ。

 

 

「がっ!」

 

ミンが悲鳴をあげて後退する。

 

「止めだ!」

 

さらに追撃をかけようとした瞬間、ミンがにたりと笑った。

 

「なんてね!」

 

ミンは青龍偃月刀で猛烈な突きを放ってきた。

1発2発・・・すさまじい刺突

リーチは日本刀よりもはるかに長い。

それを紙一重で避ける。

 

「っ!」

 

さすがSランク武偵、接近戦には自身があったが想像以上の実力者だ。

ステルスを除けばミンに勝てる奴はそうはいないだろう。

いや、ステルスでも勝てるかはわからない。

だが、俺には守るものがある!

負けられねえんだよ!

 

「優!」

 

アリアのアニメ声が響く。 同時に、俺たちは標的を入れ替えた。

アリアがミン、俺がシンだ。

 

「はっ! 小学生! 殺したげるわ」

 

「うるさい! 馬頭!」

 

それぞれが罵倒を浴びせながら切り結ぶ。

 

「優希ぃ!」

 

アリアにおられたのか右手の剣だけになったシンが俺に切り込んでくる。

ひびの入った日本刀でそれを受けながら戦闘狂の笑で返す。

 

「はっ! どうしたシン! 動きが鈍いな!」

 

互いに満身創痍と言っていい状況だ。

シンは余裕を失いつつあり俺も余裕はもはやない。

アリアもまた、決着をつけられずにいるらしく互いに後退して相手を睨みつける。

くそ・・・左目がぼやけてきやがった・・・

次の一撃で全てが決まるという確信がある。

アリアの方はともかく、俺とシンは次で決まる。

 

「優希・・・お前にだけは負けるわけにはいかない・・・僕の顔に泥を塗ったお前には・・・」

 

鬼神のような表情を浮かべるシン。

泥か・・・

おそらくは、兵庫武偵中でのことを言ってるんだろう・・・

当時の俺は・・・自信にまみれたシンを完膚なきまでに叩き潰している。

シンの油断もあったがあの時の俺は絶対に負けたくないと思いがあったからな・・・

だからこそ、シンは恨んでいるんだろう。

それ以後は無敗で通してきた自分の戦績に泥を塗った男として俺を・・・

浮かべるは1つの型、左手を前に、剣を持つ手を後ろに上段に構える。

これは公安0の沖田が得意とする型だ。

昔、公安0の人間に教えてもらったただひとつの必殺の剣

今、なら活用できるな。

 

「過去の因縁とかめんどくせえよ。 お前がランパンだろうがイ・ウーだろうが関係ねえ。 ここでお前は 負けて処刑台にいくんだ」

 

「ふん」

 

交差は一瞬、金属がぶつかり合う音と共に俺とシンの場所は入れ替わっていた。

俺の肩から血が溢れ出す。

シンはにやりと笑い地面に崩れ落ちた。

 

「シン!」

 

アリアと切り結んでいたミンが驚いたように言った。

アリアが小太刀で切り結ぶ。

 

「なめるな! 小学生!」

 

小太刀を迎撃しようとしたミンの青龍偃月刀が持ち上がる。

ギンと金属が激突する音、見ると意識を取り戻したらしいレキがキンジに支えられてミンの青龍偃月刀を撃ったらしい。

最高だレキ

 

「終わりよ!」

 

「っ!」

 

驚愕の表情を浮かべてミンは防御しようとしたがアリアの小太刀がミンの脇腹にめり込んだ。

ボキボキと骨が折れる音

 

「がっ!ああああああ!」

 

悲鳴をあげてミンは崩れ落ちた。

よし! 一瞬だが油断した。

気づいた時にはシンが前に居なかった。

 

「っ!」

 

気づいたときには奏ちゃんのいる20メートル先の道路にシンは着地した瞬間だった。

追おうとするが俺が向こうの道路に着地してホルスターのガバメントをつかむのとシンがグロッグ18を奏ちゃんの頭に押し当てるのはほぼ同時だった。

 

「動くな優希 他の奴らもです」

 

泣きそうな顔で俺を見てくる奏ちゃん。

最後の1発、右のホルスターのガバメントを右手でつかみながらもホルスターから抜けないそんな格好。

 

「今回は僕らの負けです。 優希。ですが、この劣等民族は中国に連れていきます。 奴隷として一生を送るのでしょうねフフフ」

 

「シン!」

 

激怒が感情を支配するが何もできない。

 

「アハハハ、 悔しいですか優希君。 せいぜい後悔してくださいね」

 

ヘリの音が近づいていくる。

おそらくシン達の迎えだ・・・どうする・・・どうすればいい・・・

その状況で俺はキンジから聞いた1つの技を思い至る。

おうおい、できるのかこれ?

いや、できるよな・・・

ヘリが防音壁の向こうから現れた、シンが意識をこちらから離した一瞬、俺は居合の要領でガバメントを抜き、銃弾を放った。

振り抜く一撃でシンのグロッグが吹き飛ぶ。

驚愕に目を開く、シンに肉薄し、手をふりかぶる。

 

「シン!」

 

「!?」

 

俺はシンの顎に渾身の拳を叩き込んだ。

悲鳴をあげずにシンは宙をまい、地面に叩きつけられた。

 

「奏ちゃん!」

 

俺は奏ちゃんを抱きかかえた瞬間

 

「キヒ」

 

そんな声が聞こえたかと思うとヘリから狙撃銃を構える小柄な敵が見える。

ワイヤーで距離を取りながら岩陰に隠れる。

レキも銃弾を使い果たしたようで反撃はない。

ヘリから、ワイヤーのようなものを出してシン、ミン、春蘭を回収していく。

 

「ま、待て!」

 

攻撃しようとしたが狙撃銃がこちらをむいた瞬間慌てて、岩陰に戻る。

どのみち銃弾はもうない。

 

「シン、ミン、春蘭撤収ネ、三十六計逃げるが勝ち」

 

ドン

と発砲音が聞こえた瞬間、夕闇の阪神高速道路に莫大な光が生まれた。

閃光弾か!

 

「きゃっ!」

 

俺の腕の中で奏ちゃんが悲鳴をあげる。

襲撃に備えながら日本刀を手に備えていると

 

ドン

ギイイン

2つの音が聞こえてきた。

 

「あいやや! しとめそこなったね」

 

狙撃手の声。

光の中

 

「優希はやらせませんの」

 

ローズマリーの声が聞こえた気がした。

ヘリの音が遠ざかっていく。

視力が戻り辺を見回すが敵の姿はない。

音のした方を見るがもはや、追いつけまい。

 

「あ、優」

 

奏ちゃんが心配そうに見上げてくる。

俺はぽんと頭を撫でながら左目を閉じた。

 

「ごめんな。 怖い目にあわせて。 敵もうってやれなかった」

 

俺と目があった奏ちゃんはぼんとアリアと同じように顔を赤くしてうつむいてしまった。

ハハハ、こんな反応の子多いな流行ってんのか・・・な

 

「!? 優!」

 

がくりと地面に崩れ落ちた俺を奏ちゃんが支える。

ああ、まずい・・・毒が・・・回ってきやがった。

地面に崩れ落ちる。

アリア達が声を上げながら駆け寄ってくるのがぼんやりした意識の中で分かった。

今回の気絶は起きれんのかな・・・まあ、無事を祈ろう俺のな

 

「優! 死なないで! 優!」

 

泣きながら奏ちゃんが俺を見てくる。

あれ? 泣いてんのか?

泣かないでくれよ・・・あの日の・・・泣いてた妹のこと思い出すんだよな・・・

そこで、俺の意識は完全にブラックアウトするのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第76弾 報い

「失敗しただと?」

 

その初老の男は呆然とした声で言った。

その場にいた十数人の男女も狼狽の声を上げる。

 

「どういうことだ。 藤宮の小娘が生きていれば我々の分の遺産はなくなるんだぞ!」

 

「聞いてないわよこんなこと!」

 

電話に出ていた男、藤宮 香西は悲鳴をあげるように電話に絡みつく。

 

「どうしてくれるんだ! こんなこと警察にばれたら我々は・・・」

 

「そうですね。 さっさと国外逃亡をおすすめします。 何かの縁です。 中国の土地を用意しましょう」

 

静かな男の声が電話の向こうから聞こえてくる。

 

「ふざけるなミスターC! お前が協力してくれるというからこの暗殺計画に加担したんだ! それがなんだ! 藤宮の小娘の妹の方は爆死させることに失敗。 せめて、姉の法だけでもなんとかしていれば・・・」

 

「予想外の戦力がいたのですよ。 私は椎名の後継とウルスの姫、そして、その仲間達を過小評価しすぎていたようです。 こちらの戦力も過大評価してしまいましたがね」

 

「くそ! お前らは疫病神だ! 何がビジネスだ! この劣等民族が!」

 

「物事には引き際が大事です。 あなたがたのビジネスはここで破綻といたしましょう。日本を手に入れられなくて残念です。 それでご武運を」

 

「まっ!」

 

電話が切れる。

 

「くそ!」

 

香西は携帯を床に叩きつけた。

 

「すぐに逃げましょう。 外国に知り合いがいるの」

 

でっぷりと太ったドレスの女が立ち上がった。

遺産にたかるハイエナどもめ・・・

それに呼応して次々とその場にいた人間が立ち上がっていく。

みんな、ミスターCに巨額を払うかわりに遺産相続の分配を確約された物たちだ。

とにかく、ここは逃げるんだ。

兵庫県で多発していた事件の資金援助をしていたなんてバレれば・・・

その瞬間、神戸市街から離れた場所にある屋敷は闇に包まれた。

 

「て、停電か!」

 

分かりきったことをそこにいた男が言う。

 

「ぎゃあああああ!」

 

「!?」

 

突然の悲鳴のその場にいた全員が扉を向く。

ボディーガードの男が銃を抜いて扉に向けて香西の前に立つ。

 

「な、何が・・・」

 

男の言葉に答えるようにぎいいいと木の扉が開いていく。

雲に隠れていた月明かりが部屋全体を照らす。

男が一人立っていた。

男は日本刀を手にバカにしたように微笑みながら

 

「君たちかな? 中国の連中に資金援助して日本を売り渡そうとしていたのは?」

 

「香西様下がって!」

 

ドンとボディガードが銃を撃った。

ギン

それを男は右手を一閃しただけで払った。

ボディガードは目を丸くしてさらに撃とうとするがそれは叶わなかった。

男が左手に持った大型拳銃がボディガードの肩、足、を撃ち抜いたからだ。

 

「ぎ! ぐあ!」

 

悲鳴をあげて地面に倒れる。

 

「まったく、土方さんの命令だから来たけど雑魚しかいないんじゃ殺しがいもないよね」

 

「な、何ものだ! 警察か!」

 

にっと男は戦闘狂の笑を浮かべながら手帳を取り出して見せた。

 

「公安0課 沖田 刹那」

 

「こ、公安0!」

 

悲鳴をあげながらその場の人間は後ずさる。

当然だろう。

公安0は殺しを容認された戦闘集団。

国内最強と言われている化け物集団だ。

この男がここにいるだけでもすでに実力は明白だ。

この屋敷には100人以上の警備員がいた。

それをこの男は無効かしてきたのだ。

 

「た、助けて・・・」

 

悲鳴をあげるようにデブの女性が沖田にすがった。

沖田はにこりとして

 

「ダメだよ。 君たちはやりすぎた」

 

ひゅんと風を切る音と共にデブの女性の首が舞った。

 

血が噴水のように床を濡らす。

「ひっ!」

 

その場にいた人々は逃げようとするが唯一の出口は沖田がふさいでいる。

 

「た、助けて! なんでもする! 金ならいくらでも払う! だから・・・」

 

ドオン

 

デザートイーグルが命乞いをした男の頭を貫いた。

みんなしりもちを付いている。

 

「ち、中国の情報はどうだ! 私は相手の電話番号を知ってるぞ! 私は役に立つ!」

 

メガネをかけた中年の男が言った。

沖田は日本刀を自分の肩に置きながら

 

「情報収集はもう、すんでるんだよ。 相手はランパン、諸葛静幻、イ・ウーも多少絡んでるけど今回はランパンが僕らに売った喧嘩だよ」

 

「ランパン? イ・ウー?」

 

訳の分からないというように中年の男が首をかしげる。

ドオン

男が崩れ落ちる。

 

「こ、こんなことが許されるはずがない! 弁護士を呼べ! 私を誰だと思ってるんだ!」

 

「裁判にかかっても金の力でなんとかする気だよね? 政治家の祖父を持つ君ならなおさらだ」

 

「そ、そうだ私の祖父を誰だと思っているんだ! みんし・・・」

 

「だからこその公安0なんだよ」

 

一閃。 誰かの名前を語ろうとした男の顔はまっぷたつに切り裂かれた。

その後、次々、命乞いをする男女を沖田は殺していく。

そして、血の海の中、香西は最後の一人となった。

 

「君で最後だね」

 

日本刀を額に突きつけられ香西は失禁した。

 

「た、助け・・・」

 

「駄目だよ」

 

香西の首が宙を飛んだ。

香西が見たのは血を剣を振るうことで払う美男子の姿であった。

 

 

 

 

 

 

ぱしゃりと、血の海を歩きながら沖田は携帯電話を取り出した。

 

「ああ、土方さん。 終わりましたよ?」

 

「そうか、ご苦労だった。 東京に戻ってくれ」

 

電話の向こうから男の声が聞こえてくる。

 

「藤宮の2人の娘は殺さなくていいんですか? なんなら僕が殺してきますよ」

 

「疑いはあったがあの2人は完全に白だ。 余計なことすんじゃねえ」

 

「はいはい、じゃあもどりますよひじか・・・」

 

ぴりりりりり

 

「ん?」

 

沖田が見ると血の海の中でなる携帯電話があった。

位置的に香西のものだろう。

 

着信はミスターC

 

「もしもし」

 

「今回はおめでとうございますと言っておきますよ公安0」

 

諸葛静幻、おそらくは奴だ。

 

「相変わらず、臆病だね君。 僕ら公安0とやりあうのが怖いのかな?」

 

「挑発は無駄ですよ。 沖田さん。 私は臆病でしてねあなたがたと戦う気はないんです」

 

「刹那代われ」

 

「はいはい」

 

沖田は土方の携帯とつながっている自分の携帯を香西の携帯に押し当てる。

 

「お前らが何を企もうとしったことじゃねえ。 だが、これ以上日本で好き勝手するんなら容赦しねえぞ」

 

「では、中国まで我々を狩りくればいいではないですか。 元新撰組副長、土方歳三4世」

 

「ちっ」

 

それが出来ていればとっくにやっている。

いくら、公安0が最強の戦闘集団とはいえ、外国でドンパチするのはやはり、まずいのだ。

 

「今回は椎名の家のものに邪魔されましたが次はうまくいきたいものです。 ああ、ご心配なく公安0と本気でやりあう気は私にはありません。 イ・ウーの存在もありますしね」

 

電話が切れる。

 

「土方さん。 僕を中国に送り込んでもいいですよ? 皆殺しにしてきてあげますから」

 

「馬鹿いってんじゃねえ。 イ・ウーの存在がある以上、国内以外では俺たちは動けねえんだよ」

 

「つまらないなぁ……あなたはいつもそうやって僕を抑える」

 

「そうでもしなきゃ刹那。お前はRランクの連中にも喧嘩を売るだろうが」

 

RランクはSランクを更に超えた存在でその戦闘力は小国の軍隊を壊滅させる力を持っている真正の化物なのだ。

 

「どうです土方さん?アメリカが躍起になって説得を試みてるRランク僕が殺してきましょうか?」

「馬鹿いってんじゃねえよ。アメリカが躍起になって暗殺しようとしてことごとく失敗してる相手だぞ?」

 

沖田はすっと目を細めた。

 

「だからこそ楽しいんじゃないですか。戦う機会があったら戦わせてくださいね土方さん」

 

「その話は帰ってからだ。お前に用事を頼みたい」

 

「なんです?」

 

それを聞いてから沖田は携帯を切った。

ぱしゃりぱしゃりと血の海を歩きながら沖田は思った。

殺したりないと

 

 

 

 

 

「俺は! 俺は!てめえなんかに負けねえ!」

 

 

 

ふと、昔半殺しにした少年の姿が思い起こされる。

 

「あれぐらい歯向かってくれたら面白いよね」

ごろりと転がる首を蹴飛ばしてから沖田は部屋を後にした。

この事件が表に出ることはない。

公安0がすべての情報を消去し、無かったことになるからだ。

だが、この事件の唯一の生き残り、香西のボディガードは語る。

公安0の沖田は鬼神であると・・・

そして、この男も表の世界から姿を消すことになる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第77弾 司法取引

「やだよめんどくさいしさ」

 

大きな岩に座り空を見上げながらその少女は言った。

それでも、少年は少女にたのみこむ。

すると、少女は面白そうに笑い。

 

「じゃあさ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きなよ」

 

「なっ! うわああああ!」

 

がしゃああああん

目が覚めた時目の前にあったのは壁だった。

顔に直に激突して顔を押えながら俺は立ち上がった。

 

「あたた・・・」

 

反射的に腰に手を当てるがそこには何もない。

 

「起きたね。優希君」

 

「沖田 刹那・・・なんでお前が・・・ここはどこなんだ?」

 

見渡すとそこは白い壁と小さな窓。 病院か・・・

 

「まったく、土方さんも人使い荒いなぁ」

 

そういう沖田は手に持っていた紙の束を床に投げ捨てる。

 

「これは?」

 

「司法取引の書類だよ。 書いたら郵送して返さないといけないよ。 仲間の分もあるから渡しとかないとだめだよ」

 

司法取引と聞いて、1枚紙を取り出してみた。

請求書と書かれた紙、

ちょっと上に上げてみると

 

阪神高速道路修繕費と書かれた欄があったのでそっと元に戻した。

あれ、やったのレキだからね! 俺じゃないよ!

まあ、武偵弾使ったから皆無というわけじゃないんだが・・・

 

「それじゃあ、僕は東京に帰るよ。 君に時間取られるのやだし」

 

「あ、待てよ!」

 

呼び止めると沖田はめんどくさそうに振り返った。

 

「何?くだらない用だったら殺すよ?」

 

「公安0のお前がここにいるってことは兵庫の事件絡みだろ! シン達とも無関係じゃないんだろ?」

 

「ランパンの連中は取り逃がしたけど、兵庫の事件を裏で資金援助していた連中なら僕が皆殺しにしてあげたよ? 裁判になっても金で保釈されたり逃げられる連中がほとんどだったからね。 ちょうど、君達が遺産相続の会議といっていた場所でのできごとだから君の護衛対象の2人の親族ってことになるのかな?」

 

自業自得か・・・腐った金の亡者を一掃してくれた公安には感謝しなくてはならないのかもしれない

そういえば、奏ちゃん達は・・・

 

「じゃあね」

 

「まっ!」

 

沖田が出ていってしまったので部屋には誰もいなくなる。

開け放たれた窓から心地よい風が肌をなでる。

ベッドを元に戻してから眠気が襲ってきたので静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

武装検事の名乗る人に事情聴取を千夏やアリアさん達と受けてから私は変態が・・・ううん、優が入院している病院に1番乗りした。

病院の入口で日本刀を腰に指した人とすれ違いぎょっとしたがその人は微笑して去っていった。

看護師に優が眠っている病室を聞いて中に入る。

眠っているらしく静かに寝息を立てている優がいた。

私は椅子に座る優の寝顔を見つめた。

シンは俺が必ずぶん殴ると言う言葉をこの人は守ってくれた。

私を守ってくれた・・・

うう・・・

なんか、顔を見てると顔が熱くなってくる・・・

どうしたんだろ私?

 

「ううん」

 

「ひゃっ!」

 

優が寝返りを売ったので私はびくりと肩を震わせた。

 

「うう・・・アリア・・・風穴だけはやめて・・・白雪さん・・・剣を押し込まないで・・・」

 

よくわからないが優は悪夢を見ているようだ。

アリアの言葉が出てきたとき、なぜか、心が傷んだ。

 

「ねえ、優・・・」

 

私はそっと優の右手を布団の中で掴んだ。

優も悪夢を見ているからか握り返してくる。

 

「私感謝してるんだよ? きっと、優が居なければ私たち死んでいた・・・」

 

武装検事から全て聞いた。

親族は全ての遺産相続を遺言で残された私たちを暗殺しようとしていたことを・・・

中国の組織と組んでいたことも・・・

これは、だから本心から言うね

 

「ありがとう優・・・私たちを守ってくれて・・・」

 

ぎゅっと握った手が握りかえてしてきた気がした。

 

「私ね。 武偵になる。 お父さんみたいな立派なね。 遺産は千夏に譲るつもり、だから・・・いつか優のチームメイトになれたらいいななんて・・・」

 

聞こえてないことをいいことに私は願望を口にする。

 

「あの・・・それでもし、できたら・・・いつかつ・・・」

 

「ああああああああああああああああああああああ!」

 

その時、病室に悲鳴が響きわたる。

 

「ま、マリさん!」

 

優のアミカのマリだった。

ふふふと、マリは肩を震わせながらCZ78を取り出した。

丁度、そこへ

 

「優! 起きてるの!?」

 

アリアが現れ

 

「ユーユー! お見舞いにきたよぉ! っておお!」

 

理子

 

「・・・」

 

手に包帯を巻いているレキ

 

「優・・・」

 

哀れむようなキンジ

 

「お兄さん・・・」

 

千夏ちゃん

 

「ふえ?」

 

目を覚ました俺は寝ぼけながらみんなを見て

 

「よう、みんな・・・あの、なんでマリはヤンデレ目でアリアは怒りモード?」

 

「浮気ものは死んでください!」「風穴デストロイ!」

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああ!」

 

ドンドン パンパン

 

兵庫武偵高付属病院に響きわたる銃声と悲鳴。

ある意味、事件が終了を告げた瞬間でもあった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第78弾 別れ

実の所、神戸の最終日は市内で遊んでいうこうと言う案もあったのだが、武装検事の事情聴取や俺の入院でそれは叶わなかった。

なので、朝1番の飛行機に乗るために俺たちは神戸空港に来ていた。

搭乗開始まであと30分か・・・

お土産を見に行くというキンジとアリアとマリに続いてマリも行ってしまった。

レキはいつの間にか消えているし、俺は椅子に座ってぼんやりと天井を見つめていた。

 

「武偵になるんだってな?」

 

「え?」

 

天井を見ながら俺は隣に座る奏ちゃんに話しかけた。

 

「武偵なんていい仕事じゃねえぞ? 財閥で過ごす方が幸せなんじゃないか?」

 

ぼろぼろになるし一歩間違うと死ぬしな。

今回だって最悪、俺は殺され、レキや奏ちゃんは中国へ、千夏ちゃんは爆死してい他最悪の未来だってありえない話じゃない。

武偵に限った話じゃないがそんな世界と隣あわせなんよなこの世界は・・・

 

「優がいるから・・・」

 

「え?」

 

よく聞こえなかったんだが・・・

 

「だから・・・!」

 

顔を真っ赤にして奏ちゃんが何かを言おうとした時

 

「おーう! 優間に合ったな」

 

「・・・久しぶり優」

 

プリン頭の虎児とメガネを掛け、ポニーテールに結っている少女がロビーから人並み和変えて歩いてくる。

 

「虎児! 千鶴! 見送りに来てくれたのか?」

 

「俺はそうなんやけどな・・・」

 

冷や汗をかきながら虎児が横を見る。

 

「ん」

 

千鶴が紙を俺に突きつけてくる。

なんだろう?

受け取って見ると凍りついた。

 

請求書 400万

 

「待てなんだこれは!」

 

「私への依頼料」

 

「法外だ!」

 

400万てなんだそれ!

 

「今回は自衛隊のやばい衛星も使った。 結構苦労した部分になったからその金額。びた一文巻けるつもりはない」

 

まずいぞ、今回は依頼でかかった金は

 

日本刀破損100万→すでに調達のために支払い済

 

武偵弾 100万

 

千鶴依頼料 400万

 

高速修繕費 司法取引で0ただし、単位剥奪報酬なし

 

報酬0

 

結果、マイナス600万

 

借金だ! 増えてるじゃねえか!

 

「ぶ、分割で・・・」

 

俺がたのみこむように言うと千鶴はこくりと頷いた。

 

「利子は4割。 期限は今年中に」

 

無理です! 破産するから! あんたは悪魔ですか!

そういえば、アリアを守ると言う点では依頼主から報酬も出るはずだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってろ!」

 

俺は3人から離れると電話をかける。

3コールののち・・・でねえ・・・

もうだめだおしまいだ

とぼとぼと戻ると千鶴が領収書を突き出してくる。

うう・・・

泣きながら受け取ろうとすると奏ちゃんが領収書を受け取った。

 

「私が払います」

 

千鶴の目が見開かれる。

 

「400万よ? 払えるの?」

 

眼鏡の奥の目が少し攻めるように細まる

 

「少し利子がついても構いません。 私が払います」

 

毅然たる態度で彼女は言った。

 

「い、いやあの・・・」

 

それは嬉しいんだがあまりに申し訳ない

 

「心配しないで優」

 

奏ちゃんはにこりと微笑んだ。

 

「あなたは私たちの命を救ってくれた。 これぐらいさせて」

 

お言葉に甘えるしかないか・・・

最悪実家に金借りるなんてことになったら最悪だしな。

あいつにばれたらぼっちゃまは金使いが荒すぎますと薙刀を持って追い回されかねん

 

「ごめん・・・いつか返すよ」

 

「期待しないで待ってる」

 

からかうように奏ちゃんは言う。

 

「じゃあ!」

 

千鶴はなぜか、不機嫌にそう言ってきびすを返した。

おい!待てって!

 

「千鶴!」

 

千鶴は振り返らない。

なので、その背に

 

「ありがとうな! それとごめん! 東京に行って! できればまだ、友達でいてほしいんだ千鶴!」

 

千鶴は一瞬、振り返ってから人ごみの中に消えていった。

ダメか・・・

あいつとは友達でいたかったんだが・・・

 

「優・・・」

 

ぽんと虎児に肩を叩かれたので

 

「あ?」

 

「浮気はあかんでハーレム優。 理子さんって彼女おるやから女の子にフラグたてたらあかん?」

 

だれがハーレムだ! 付き合ってる奴なんていねえよ

 

「え? 理子さんと優って付き合ってるの?」

 

奏ちゃんがショックを受けたように目を開く。

え?何この反応

 

「せや、理子さんと優はらぶら・・・」

 

「てめえは寝てろ!」

 

怒りまかせに虎児の頭を殴ると虎児は白目をむいて気絶してしまった。

 

「理子と付き合ってねえよ。 誤解だ奏ちゃん」

 

「よかった」

 

ほっと胸をなでおろした仕草をとる奏ちゃん

なんなんだろう?

 

「わ、私お手洗い行ってくる!」

 

顔を真っ赤にしながら人ごみの中に消えていく奏ちゃん。

入れ替わりに、千夏ちゃんがレキとやってきた。

レキ、千夏ちゃんについてたのか

 

「どうかしたんですかお兄さん? お姉ちゃん真っ赤でしたけど?」

 

小悪魔っぽく口元を緩めながら千夏ちゃんが聞いてくる。

むぅ・・・将来、理子みたいな性格になるんじゃないかこの子・・・

 

「さあ? トイレ行くらしいけど顔が赤いってことは熱かな?」

 

「・・・」

 

レキに聞いてみたがレキは無言で何も言わない。

わからないということか・・・

話題を変えよう。

 

「傷は大丈夫なのかレキ?」

 

俺はレキの体のあちこちに見えている包帯を見ながら言った。

 

「動けない傷ではありません」

 

「そりゃよかった」

 

短い会話が終わってしまう。

今度は千夏ちゃんにふろう。

 

「短い間間だったけどお世話になったな」

 

「いえいえ、お兄さんならいつでも大歓迎ですよ? 神戸にきたらぜひ寄っていってくださいね。 おねえちゃんも喜びますから」

 

片目をウインクして彼女は言った。

 

「了解、また寄らせてもらうよ」

 

「ところでお兄さんこれいります?」

 

「ん?」

 

千夏ちゃんが何かを取り出したので受け取ってみる。

 

「ぶっ!」

 

思わず吹いちまった。

だって、小学生に混じり、廊下を歩いているアリアの・・・

 

「ゆーう・・・それは何かしらぁ?」

 

ひっ!

その場に張り詰めた空気に俺は凍りついた。

殺される・・・

ぎぎぎとロボットのように後ろを見るとアリア様が・・・

空港だからかガバメントは抜かずに飛びかかってくるところだった。

 

「風穴ぁ!」

 

「ぎゃああああああああああああ!」

 

床に叩きつけられ俺は絶叫を上げるのだった。

余談だが目覚めた虎児がアリアに詰め寄ろうとしたので再び沈黙させたのは本当に余段である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い・・・」

 

打ち付けた顔をさすりながら来た時と同じVIPの部屋で空の旅をする俺達だがメンバーの大半は眠っていた。

昨日からの激戦もあるがみんな疲れがたまってるんだろう。

俺も寝るか・・・

 

「ユーユー」

 

眼を閉じた瞬間、声をかけられたので目をあけると理子が俺の膝に手をおいてしゃがみこんでいた。

 

「り、理子なんだよ!」

 

理子はくふふと笑いながら

 

「理子依頼手伝ったよ。 忘れてないよねご褒美」

 

ご、ごごごご褒美!? あ、ああ泥棒ね・・・

 

「紛らわしい言い方すんなよ。 心配しなくても忘れてねえよ」

 

「ユーユーって頼りになるなぁ。 かなでんとチーを狙ってた連中を撃退は大手柄だよ」

 

「単位と報酬は剥奪だけどな・・・」

 

涙目になりつつも収穫はあったと思う。

あまり、利益等でいいたくないが財閥のお嬢様が知り合いになったんだから役に立つこともくるかもしれない。

 

「かなでんは最初は、ユーユーを毛嫌いしてたのに最後は一番ユーユーを信頼してた。 これってすごいことだと理子思うんだ」

 

「信頼ねぇ・・・まあ、それは嬉しいけどな」

 

「だからね・・・て」

 

小さく理子は何かを言った。

底抜けに明るい彼女の顔に一瞬指した闇

 

「理子・・・」

 

俺が何か言おうとした瞬間、

 

「さってと! 理子も寝よっと!」

 

そういいながらふりふりのアイマスクを取り出し耳栓で耳を塞いでしまう。

そして、くーくーとかわいらしい寝息を立て始めた。

な、なんて寝つきの速さなんだ。

椅子に座り直しつつ俺はため息をついた。

最後の理子の言葉・・・

あれは確かにこう言った。

 

助けてと・・・

 

うーむ、理子の泥棒作戦無傷でおえたいもんだが・・・無理な気がするな・・・

もう、切り札解放はしたくないぜ・・・

ま、俺に出来る範囲でなら助けるよ友達だしな理子・・・

眠気が襲ってきたので俺は目を閉じた。

 

そして、舞台は東京に戻る。

神戸でのクエストが終了し、新たなる日々の始まりだった。

 

               オリジナル神戸編 完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第79弾 ヤンデレ強襲再び

東京に戻った翌日、一応、レキもそれとなく泥棒作戦に誘ってみたが療養ののために断られてしまった。

なので理子やマリと別れ、アリア、俺、キンジで部屋に戻ってきた。

 

「それはあたしのよ」

 

「これはおれのだ」

 

「なぜなんだ・・・」

 

再び、アリアももまん、キンジハンバーグ弁当、俺きのこご飯という構図・・・

きのこ嫌いなのに・・・

ってまたかよ!

 

 

「キンジ! 交換しろよ!」

 

いつかと同じようにキンジに詰め寄る。

 

「早い者がちだからな」

 

「お前が買ってきたんだろ!」

 

そうこういううちにキンジは食べ始め、アリアもももまんを食べ始める。

く、くそお・・・

やけくそぎみに弁当を口入れる。

うええまずい。

まさしく、そのタイミング

 

「キンちゃん! 帰ってるのキンちゃん」

 

ばんばんと扉が叩かれる音

げっまさか!

冷や汗をかきながらキンジを見る。

見るとキンジの手が止まっている。

 

「白雪?」

 

アリアは立ち上がろうとしたとき扉が轟音をたてて切り裂かれた。

や、ヤンデレ白雪・・・別名黒雪・・・

こおおとヤンデレ目の白雪はひたりと1歩部屋に踏み入れる。

気のせいか周囲の闇が濃くなり髪がざわざわ動いているような・・・

こ、こええええ

 

「キンちゃん」

 

「ど、どうかしたのか白雪?」

 

キンジが言う。

 

「アリアと旅行したって本当?」

 

「そ、その・・・」

 

なぜか詰まったキンジがアリアを見る。

 

「クエストで神戸に行ってきたんだよ。 それだけだ」

 

「本当? 優君?」

 

ひいいい! 殺気をこっちに向けるな!

ヤンデレとだけは戦いたくない!

それは、この先アリアを狙う相手に現れても絶対に戦わんぞ!

 

「ほ、本当だ!」

 

「・・・」

 

こおおおというヤンデレ目をやめてホッとした様子の白雪は両手をあわせてにこりと微笑んだ。

 

「じゃあ今回もキンちゃんとアリアには何もなかったんだね」

 

「というと?」

 

俺が聞き返す。

 

「抱きついたりとか・・・そういったこと」

 

赤くなって言った時、アリアがぼんと赤くなった。

あ、ああ・・・あったよね・・・・バイクとかバイクとか・・・

正確にはキンジの背中にアリアが捕まっていたというのが正しいんだが・・・

 

「そ、そういうことはしたけど・・・」

 

「ばっ!」

 

慌てて中間に割り込もうとするが既に手遅れだった。

がしゃん

 

鉄の鎖についていたモーニングスターのような武器が床に落ちる。

もうだめだ! おしまいだ!

 

「フフ、フフフフ」

 

「き。キンジなんとかしろ!」

 

恐ろしい笑を浮かべる白雪に恐怖した

俺は慌ててキンジの背中に隠れた。

こ、こえええ! シンやミンとの戦いなんて比較にならん!

別に俺が狙われてるんじゃないのは分かっているのだがそうせずに居られない。

 

「ま、待て白雪!」

 

キンジが慌てて白雪を遅止めようとしたたが

 

「泥棒猫は死んで!」

 

と、白雪が跳躍するのとアリアが

 

「こ、こらやめなさい!奴隷3号!」

 

と交戦を始めた瞬間、俺たちは全速力で逃げた。

とりあえず、キンジの背中を踏んで窓から飛び出した瞬間

戦場のような轟音が背後から聞こえ、キンジが海に落ちていくところだった。

ワイヤーで屋上に逃げるとばりばりと聞こえてくる音を聞きながら電話をかける。

 

3コール後

 

「やあ、久しぶりだね椎名 優希」

 

アリア護衛の依頼主様だ。

 

「今回の敵もハードだったよ」

 

「シンやミン達だね。 彼らもイ・ウーに所属していることは私もつかんでいる」

 

「やっぱりそっち絡みか・・・」

 

沖田が動いていた時点で、分かっていたことだ。

イ・ウーは法律では裁けない。

だからこそ、公安0が動いたのだろう。

だが、今回シン達とは決着を付けることができなかった。

奴らが所属するランパン・・・ああ、やばい・・・実家にばれたらいろいろ言われそうだな・・・

もう、バレてると思うけど・・・

なんかアリアと友達になってから敵がどんどん増えているのは気のせいか?

 

「ローズマリーも神戸にいたそうだね」

 

「ああ、どういうつもりかは知らんが今回はあいつに助けられちまった」

 

「感謝していると?」

 

「冗談やめてくれよ。 俺はあいつを絶対に許さない」

 

怒気を込めて言うと依頼主はふむと頷くような気配を見せ

 

「では、次は君が依頼を果たす番だね」

 

知ってるのか理子が依頼してきたことを・・・

 

「参考までに聞きたい。 ブラドは俺より強いか?」

 

それは戦ってみればわかるよと言う言葉が帰ってくる気がしたが

 

「力量が上でも勝つ方法は必ずある。 椎名 優希君には仲間もいる。武偵憲章仲間を信じ仲間を助けよだ。 いいかい? 今回はこの言葉を忘れてはいけない」

 

「どういう・・・」

 

ツーツー

 

電話が断線した音

むぅ依頼主め・・・相変わらず訳の分からないコトばかりいいやがって・・・

今回の相手もしんどそうだな・・・

 

助けて・・・

あの言葉が聞き違いじゃないなら・・・

切り札のもう一つ解禁する必要があるかもな・・・

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第80弾 小悪魔りこりん再び

翌日の中間試験、てまじか!全然勉強してないぞ!

壊滅的な試験を受けたあと昼休みを挟みスポーツテストを受けている。

テスト8種目を終わらせた俺はキンジと第2グランドのすみで腰を下ろす。

そうしながら教師陣を見る。

普通じゃねえメンツだ。

まず、香港のマフィアのボスの愛娘蘭豹とかマリの所属するダギュラの綴、背後にたっただけで手刀で気絶させた南郷、レザドのチャン・ウーは声は聞こえるが姿が見えない。

さすがというべきなのか?

おお、インターンの3年なんか理子に似ているふりふりだな。

麒麟と書かれているんだが・・・

あっ、確か去年の理子のアミカか・・・

まあ、それはそれで・・・

ツインテールを解いたアリアが50メートルを走っている。

そういえば、アリアの護衛・・・かなえさんの免罪が証明されたら終わるんだよな・・・

 

「・・・」

 

そりゃ、無罪が証明されるのはいい。

でも、そうなればアリアはイギリスに戻るかもしれない・・・

せっかく出来た友達なんだ・・・それは残念に思う・・・

そんなことを考えていると片手にスポーツドリンクを持ったアリアが俺たちの真ん中に座る。

 

「うわなにそれ! バカキンジモードのあんたって体力までバカになるのね。 優もさんざんじゃな」

 

くそ・・・毒のせいで本調子じゃないんだよ。

シンの毒はアンビュラスによればほぼ感知らしいがどうもな・・・

 

「うっせえな現文とか古文じゃうとうとしてるくせに体育だけ元気になりやがって」

 

「よっと・・・」

 

アリアはくちなしのにおいを出しながら俺たちの間に座り込んできた。

どきっとするがこの子は結構むとんちゃくなのだ。

 

「随分張り切って走ってたな」

 

「確かに」

 

俺とキンジが言う。

 

「そう見えた?」

 

「誰かにいいところ見せて認めて貰いたかったのか?」

 

「なにそれ?」

 

アリアが首をかしげている。

確かになんだそれキンジ?

アリアは膝小僧を抱えちょっと考えながら

 

「ま、私の能力はチームメイトが認めてくれればそれでいいわ」

 

といった。

ううん、前のアリアなら別に誰にも認めてもらえなくていと言うだろうな・・・

変わってきたんだな・・・

アリアも・・・

体力試験の後、1時間はアサルトで汗を流した後、6時間目は生物の小テストを受けることになっていた。

前回のクエストは単位剥奪されたからな。

この試験をクリアしたら0.1単位もらえる。

ようは貴重である。

なるほど遺伝学のDVDを流すからレポートだな。

いけるぜこれ!

 

「ほらみなさん着席して、TPOをわきまえて」

 

女子に黄色い悲鳴を浴びながら入ってきた小夜鳴

女子からは王子なんていらわれるがなんか気に入らねえ・・・

 

「ほらほら君たちこれじゃDVD再生できませんよ。 席に戻らない子は単位あげませんよ」

 

女子たちが引いたのでようやくかと思った矢先

 

「ダーリン!」

 

うお! バニラみたいなにおいの理子が抱きついてきやがった。

 

「おい理子今はアサルトの・・・」

 

「しってるよ。 きちゃった」

 

 

その瞬間、部屋が暗くなる。

どうやらDVDが始まったらしい。

集中集中と

 

じーとDVDを見ながらレポートの中身を考えていると

 

「ねえユーユー」

 

「話しかけんな今、テスト中だぞ」

 

ぼそぼそと小声で返すと理子は俺の右腕に胸を押し付けてきた。

 

!!!!

 

焦ったように回りを俺は見回した。

 

「聞いてくれなきゃ大声あげちゃうぞ」

 

なにい!それはまずい

 

「わ、分かった聞いてやるから離れろ」

 

キンジ見たいな性的興奮で別に何の変化があるわけじゃないんだが……

 

「くふ、やっぱりキー君とユーユーは似てるよ。同じような反応してる」

 

お前、キンジにも同じことやったのか……そういや、インケスタも補修あったな……

 

 

「ねえ、ユーユー」

 

理子は頭を俺の膝に乗せるようにしなだれかかってきた。

 

「ユーユーもなでなでして」

 

やらなかったら大声あげるきだな……

諦めて理子の頭を撫でる。

 

「あん、ユーユー激しい。もっと優しくしてくれないと理子壊れちゃう」

 

神様……もう帰らせてください。

ハイジャック戦では圧倒した相手に今や俺は圧倒されていた。

俺は優しくするイメージで……そうだ妹の頭を撫でるイメージで……

 

「気持いい。もっとぉ」

 

訂正だ妹はこんなこと言わん……

だが、理子お前美少女なんだから困るよ……アリアもなんだが仕草がいちいちかわいい……

人気があるのは納得だな。

ってやばい!遺伝の話なのに早く書かないとあれ?

シャーペンが……

 

「ユーユーのシャーペンもかくれんぼしてるよ」

 

「なっ」

 

見るとシャーペンは理子の胸の谷間に収まっていた。

な、なんて幸せなシャーペ……いや

 

「か、返せ」

 

「あん」

 

うお! やばい、なんか柔らかい物をつかんじまった。

こ、ここか?

 

「ゆ、ユーユー乱暴、本当に理子壊れちゃうよ」

 

く、くそこうなりゃやけだ!

 

「もう容赦しねえぜ」

 

「あん、ユ、ユーユー」

 

戦闘狂モードになると理子の胸に右手を突っ込んだ瞬間、パッと電気がついた。

 

はっとして顔をあげると小夜鳴先生が立っていた。

 

「し、椎名君もですか?」

 

「先生、理子教室間違っちゃいました」

逃げやがった!

 

と、とりあえずここは……

 

「へへへへ」

 

と笑っておいた。

追試を食らったのはいうまでもない

最悪だ……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第81弾 優希の位置づけ

ザアアと降ってきた雨を強行突破しようと試みるがやはり、無謀だったか・・・

びしょびしょになりながらシャッターの閉じた店の軒下に避難する。

うええ・・・ついてねえ・・・

雨は理子のせいじゃないがなんとなく、あいつのせいにしたくなる・・・

携帯電話を開いてから誰かに傘を頼もうか考える。

なんだかマリなら持ってきてくれそうな気がしたが選択肢からなんとなく外す。

そうなると・・・

そんなことを思っていると着信があった。

 

実家

 

「・・・」

 

ディスプレイに表示された文字を見ながら

無言で通話ボタンを押し込んで耳に当てる。

 

「・・・」

 

相手も無言

 

「・・・」

 

「・・・」

 

20秒ぐらい沈黙が続いたあと

 

「優兄?」

 

なんだお前かよ

 

「悪い悪い。 お前か咲夜久しぶりだな」

 

「う、うん。 どうしても優兄に電話したくて月詠に頼んで電話した」

 

「ってことは月詠もそこに?」

 

「う、うん。 近衛の人達を警戒してから優兄によろしくって」

 

「たくあいつは・・・」

 

椎名の家の人間にはとことん甘いんだから・・・

咲夜は俺の妹だ。

義理とかじゃねえぞ正真正銘の妹だ。

 

「それで、何か用か?」

 

「よ、用はないんだけど・・・優兄こっちに戻ってくる予定あるの?」

 

「いや、ないけどなんで?」

 

「月詠に聞いたの。 優兄剣を使えるようになったって」

 

「ああ・・・」

 

俺が椎名の家を追い出されたのはあのトラウマのせいで剣が握れなくなったのが原因の1つだからな・・・

単純に咲夜はそれが取り除かれれば戻れると思っているのかもしれない。

実際はそれだけじゃながな・・・

 

「予定は今のところ無いな」

 

「そう・・・なの?」

 

しゅんとした様子が向こうから伝わってくる。

うーん、1回ぐらい実家に戻ったほうがいいかな?

どうせ、自衛隊を乱用したことについても呼び出し受ける可能性もあるし・・・

ま、約束はできんから話題を返る。

 

「鏡夜は元気か?」

 

「鏡兄は元気すぎるぐらい元気。 今日も近衛の人たちを相手に引けをとっていなかった」

 

「へー、月詠は倒せたのか?」

 

「ん? 月詠には勝ててない」

 

だろうな・・・

月詠は椎名の持つ戦力『近衛』総隊長である。

いわば椎名の血を継いでいないという条件での椎名の最強の戦力である。

俺が家を出たのはずいぶん前だが、あいつには最後までかつことができなかった。

それは鍛錬を続けているはずの弟も同じようだった。

うん、今やっても負けるかもな俺。

 

「志野さん元気か?」

 

「お母さん? 今日も部屋で1日中仕事してたみたい。 体は最近、よくないみたいだけど・・・」

 

「そう・・・か」

 

志野さん、俺の母親を母と呼ぶことはできない。

椎名の家からは勘当と同じ扱いになってるからな・・・

 

「ねえ、優兄、帰ってこないの? こないなら東京行っていい?」

 

「馬鹿言うなよ。 志野さんが許すはずないだろ?」

 

「うう、つまらない・・・」

 

電話の無効でぷくうと頬を膨らませる妹の姿を思い浮かべながら俺は笑った。

 

「ハハハ、心配するなってそのうちまた、帰るからさ」

 

「いつ?」

 

うーむ、具体的に言うのは難しいんだが・・・とりあえず

 

「今、事件を抱えててな。 それが終わらないと帰れないんだ」

 

時期を曖昧にしておく。

 

「仕事?武偵の仕事なの?」

 

「あ、ああ」

 

まさか、泥棒するんだと言えない。

理子め、妹に嘘つかせやがって。

おしりぺんぺんしてやるぞ。

雨が振る空を見上げながら俺はいろいろなことを妹としゃべった。

東京での暮らしや出会い。

 

「じゃあ、そのアリアさんって優兄の恋人なの?」

 

ま、まてなんでそうなるんだ?

 

「はぁ? そんな分けないだろ」

 

「じゃあ、レキさん?」

 

なんで、レキが出てくるんだ?

 

「違う!」

 

「理子さんなの?」

 

「いや、だから女の子=恋人はないだろ」

 

「で、でも同じ屋根の下で結婚前の男女が寝泊まりするなんて・・・その・・・」

 

ああ・・・咲夜は純粋培養だからな・・・よくいえば純粋。悪くいえば鈍感なのだ。

 

「違うって。 みんな友達だ! 恋人なんていねえよ!」

 

「そ、そうなの? よかった」

 

何がいいんだよ・・・

 

「優兄さんに恋人ができたらますます、帰ってきてくれないかなって・・・」

 

そうか・・・寂しいのか?咲夜・・恨んでないのか? 俺を・・・

なあ・・・咲夜・・・

その言葉は怖くて口にすることができなかった。

 

「咲夜・・・」

 

「ん?」

 

「お前は・・・」

 

「咲夜誰と話している?」

 

そんな時、電話の向こうで男の声が聞こえてくる。

 

「あ、鏡兄・・・」

 

「鏡夜兄様だ。 ん? その電話番号・・・貸せ!」

 

「嫌!」

 

電話の向こうで咲夜が抵抗するような音が聞こえた。

 

「おい! 鏡夜! 昨夜に乱暴するな!」

 

「やはりお前か人殺し」

 

突き刺さるようなその声に普段の俺なら

黙るが今回は妹のこともある。

 

「それとこれとは関係ないだろう。 咲夜に乱暴するな」

 

「妹をどうしようと俺の勝手だ。 家から追い出された犯罪者は黙っていろ!」

 

「く・・・」

 

 

「大体、家を出たかと思えば武偵なんかになって剣を捨ててクズな人生を歩むお前が一体なんだ? この前から椎名の家の力を乱用しやがって。 恥を知れクズ」

 

「・・・志野さんの許可はもらってる・・・そうやすやすと乱用したりなんてしてねえよ・・・」

 

「なら、2度と椎名の家に関わるな。 お前のような犯罪者が兄だったと思うと嗚咽が走る」

 

あいかわらずきついな・・・弟にこんなこと言われるの・・・

 

「鏡夜」

 

「なんだクズ?」

 

「紫電は扱えるようになったか?」

 

一瞬、鏡夜が息を飲んだのが分かった。

そうか・・・まだ・・・

 

「余計なお世話だクズ。 もう、2度とかけてくるな」

 

ぶつりと電話が切れる。

 

「はぁ・・・」

 

携帯を閉じてからそっと、軒下を離れる。

雨に打たれて帰りたい気分だった。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第82弾 驚愕の泥棒計画

翌朝、なんだか疲れた様子のキンジやアリアと共に理子の呼び出しを受けて俺たちは秋葉原にいた。

ちらっと見えたんだが、そのメール件数白雪だな・・・

ご愁傷さま

 

「何泣きそうな顔をしてるのよ突入するわよ」

 

ちらりと窓の外を見るがこの街は武偵にはいい場所じゃないんだよな・・・

人は多いし道は入り組んで居て銃が使いにくい。

別名武偵封じの街だ。

 

理子は泥棒大作戦をこの街でやろうと提案してきたのである。

アリアも始め、初めて来た秋葉原に目を丸くして歩いていてさらに自分を見ていた人がツインテールだ。 アホ毛だ。 ミク・・・と囁くから???と首を傾げていたが・・・

安心しろアリア。 俺もアリスに熱弁されるまでは知らなかったから。

アンビュラスの後輩の顔を思い浮かべながら

 

「行くぞ」

 

犯罪組織のアジトに突入する体制、キンジが取っ手を握り、俺とアリアは2丁拳銃で突入し攻撃を仕掛ける。

このチームならそれがベストだ。

戦闘狂モードになるか迷ったが結論は必要なし。

なんか理子のことだしこれは・・・

 

がちゃり

扉が開く

 

「「「ご主人様、お嬢様おかえりなさいませ!」」」

 

そう、ここはメイドカフェ、こんなものが当たり前にあるのがこの街の恐ろしいところだ。

理子はここを待ち合わせ場所に指定してきたのだ。

うう、相変わらず入りにくい・・・

興味本位で昔、虎児と神戸で入ったことあるんだがあの時はそそくさと退散したからな

 

「・・・じ、実家とおなじ挨拶だわ。 まさか、日本で聞くことになるとは思わなかった」

 

と、隣のアリアも引いている。

キンジも帰らせてくださいと言う顔だ。

神戸では個室なんてなかったので勝手がわからないのでメイドさんに連れられるままに部屋に入り、胸の空いたデザインのメイド服をみた瞬間、俺とキンジはアリアに耳をつかまれ着席させられる。

いたた離せアリア!

 

メイドさんが出ていくとアリアは腕組みをし

 

「な、なによあの胸! じゃなくて衣装! いくら給料が良くてもあれはないわ。イギリスならともかく日本で着るなんて場違い。 恥っずかしい! なんて店なの! あたしだったら着ない。 絶対絶対着ない!」

 

悪口を俺たちにぶちまける。

まあ、落ち着かないのはわかるが落ち着けよ・・・

 

「理子様おかえりなさいませ!」「きゃー! お久しぶり」「理子さまがデザインされた制服お客様に大好評なんですよ!」

 

まがもたないので各々、時間つぶしをしていた俺たちの耳に声が聞こえてきた。

理子がきたか・・・

ここの常連らしいなあいつ

んん・・・しかし、改めて見るとメイド喫茶というのも・・・

 

「ごめっぇーん!遅刻しちゃったぁ! 急ぐぞブゥーン」

 

ゴスロリ制服にしましまタイツ、首には鈴を増設した理子が走ってやってくる。

飛行機のように広げた両腕にはフィギアやらゲームの紙袋が・・・それで遅刻したのかお前・・・

 

「んと、理子はいつものパフェとイチゴオレダーリン達にはマリアージ・フレールの春摘ダージリン。 そこのピンクいのにはももまんでも投げつけといて!」

 

水を得た魚のごとく注文をする理子。

ま、俺だけだからなこの街に出入りするの・・・

いや、誤解するなよ? 1年の時、理子のゲーム買に来だけだからな・・・

考えてみれば俺その頃からこいつに振り回されてるのか・・・

 

「まさか、リュパン家の人間と同じテーブルにつくことになるとはね・・・偉大なるシャーロック・ホームズ卿も天国で嘆かれてるわ」

 

いいながらアリアはももまんをもふもふと食べている。

理子はといえば、タワーのようなパフェを半分くらい平らげている。

女の子の胃ってブラックホールだよな甘いもの限定でレキは例外として。

鼻にクリームついてるぞ理子

 

「理子、俺たちは茶を飲みにきたんじゃない。 俺たちにした約束はちゃんと守れるんだろうな? 」

 

キンジが念をおしている約束は3つ。

 

かなえさんの裁判で理子が証言する。

キンジの兄さんの情報

俺にはローズマリーの情報だ

なんだかんだで俺たちには利得があるのだ。

 

「もちろんだよダーリン」

 

「誰がダーリンだ!」

 

「ぷは、キー君とユーユーに決まってるじゃん。 理子たち恋人どうしじゃーん」

 

それはおかしいぞ理子日本は一夫多妻制じゃねえ!

と内心突っ込みながら黙っておく

 

「コンマ1秒たりともお前とそんな関係であったことはねえ!」

 

「ひどいよユーユー、キー君、理子にあんなことまでしておいてヤリ逃げだ」

 

「なんにもやってねえだろそもそも!」

 

と、キンジはいうが・・・

ああ・・・

理子のその・・・背中にかんじたあの感触を思い出して・・・

ぶんぶんと首を降って煩悩を払う。だんだんと裁判長みたいに机を叩くアリア

拳銃で

 

「そこまで! 風穴開けられたくなければいい加減にミッションを説明しなさい!」

 

「お前が命令するんじゃねえよオルメス」

 

いきなり乱暴な男言葉になり三白眼の目でアリアを射殺すような目で見たので俺も少し引いた。

理子は紙袋から取り出したノートパソコンを広げて起動させつつテーブルに放り投げる。

 

「横浜郊外にある『紅鳴館』―ただの洋館に見えてこれが鉄壁の要塞なんだよぉ」

 

表理子に戻ったのを見ながら画面を見ると地下1階、地上3階の見取り図が詳細に記されている。

少し、いじれば、逃走ルート等まできちんと書かれてある。

それも、想定されるケースなどいくつも書かれている。

これは・・・すごい・・・タイプは異なるがこれと同等のことが出来る奴は兵庫武偵中には少なくても知り合いにはいなかった。

 

「これあんたが作ったの?」

 

「うん」

 

「いつから?」

 

「んと先週」

 

奏ちゃん達の護衛の時か・・・

そういや、影でパソコンいじってたな

アリアも目を丸くしてるぞ。

まあ、俺もそうだが、作戦よりも圧倒的な戦力で強襲してねじ伏せる戦略でいくことが多いからな

作戦を立てるとしても現場でだ。

 

「どこで作戦立案術を学んだの?」

 

「イ・ウーでジャンヌに習った」

 

ああ、ジャンヌね・・・

できれば2度と戦いたくないあいつを思い出しながら

 

「キー君、アリア、ユーユー。 理子のお宝はここの地下金庫にあるはずなの。 でもここじゃ理子1人じゃ破れない。 鉄壁の金庫なんだよ。 もう、まじでマゾゲーでも息のあったチームと、1人の外部連絡員がいればなんとかなりそうなの」

 

「それであたしたちをセットで使いたいってわけね」

 

と、アリアはツインテールを揺らして椅子にもたれかかる。

 

「・・・で、理子、ブラドはここに住んでるの? 見つけたら逮捕しても構わないわよね?

知ってると思うけどブラドはあんたたちと一緒にママに冤罪を着せた敵の1人でもあるんだからね・・・」

 

やっぱりかよ

 

「あー、無理ブラドはここ何十年もこの屋敷に帰ってきてなくて管理人とハウスキーパーしかいないの。 管理人もほとんど不在で招待をつかめていないんだけどねぇ」

 

アリアはそれならそうと教えときなさいよと口をへの字に曲げる。

やばい、八つ当たりしそうだ。

わ、話題を変えよう

 

「それで俺たちは何を盗むんだ?」

 

「理子のお母様がくれた十字架」

 

「あんたってどういう神経してるの!」

 

アリアは犬歯を剥き出しにし眉をつりあげ立ち上がった。

沸点がはやいってアリア

 

「あたしのママに冤罪を着せといて自分のママからのプレゼントを取り戻せですって? あたしがどんな気持ちか考えてみなさいよ」

 

「おい、アリア落ち着け! 理子の言うことでいちいち腹を立ててたらきりがないぞ」

 

キンジガフォローするがアリアは収まらない

 

「頭にもくるわよ。 理子はママに会いたければいつでも会える。 電話すればすぐに話せる! でも、あたしとママはアクリル越しに少ししか・・・」

 

「うらやましいよアリア」

 

「あたしの何が羨ましいのよ! 

 

アリアは等々ガバメントを振り上げるが理子は銃を抜かない。

かわりに寂しそうにぷらぷらと足を揺らす。

 

「アリアのママは生きてるから・・・」

 

「・・・っ!」

 

アリアが目を見開く

 

理子にはお父様もお母様ももういない。 理子はお二人がお歳をめされてからやっとできた子なの。 お二人とも、理子が8つの時になくなってる。 

 

「・・・」

 

「十字架は理子が5才の頃お母様からもらったものなの・・・」

 

アリアのガバメントが下がっていく。

そして、着席した。

 

「あれは理子にとって大切なものなの。 命の次ぐらいに大切なもの。 でも・・・」

 

理子は顔を伏せたと思うと

 

「ブラドの奴、あいつそれをわかってて、あれを理子からとりあげたんだ。 それをこんな警戒厳重な場所に隠しやがってちくしょう・・・」

 

憎悪に満ちた声でぼそぼそつぶやいている。

悔し涙まで浮かべて・・・

理子・・・お前はそんなに憎むやついがいるんだな・・・

気持ちはわかる。

 

「ほ、ほらそんなに泣くんじゃないの。 化粧がくずれてブスがもっとブスになるわよ」

 

そんな理子の前にアリアはトランプ柄のハンカチを投げる。

さっきの母親罵倒のお詫びかな?

 

「ま、まあそれはともかくその十字架を取り戻せばいいんだな?」

 

キンジの言葉に理子はアリアのハンカチで少し目を抑え、涙をすいこませながら頷いた。

 

「泣いちゃダメ、理子はいつでも明るい子。 だから、さあ。 笑顔になろ」

 

暗示のような独り言を理子が行ったとき、メイドさんが入ってきてお冷をついでまわってくれた。

場が少し和む。

理子もいたずらっぽい笑に戻り

 

「・・・とはいえこのマップね」

 

ばしっと理子はパソコンを閉じながら

 

 

「ふつーに侵入する手も考えたんだけど。 それだと失敗しそうなんだよね。 奥深くのデーターもないし。 お宝の場所も大体しかわからないの。 トラップもしょっちゅう変えてるみたいだからしばらく潜入して内側を探る必要があるんだよ」

 

「せ、潜入?」

 

俺たちが尋ねると理子はばんざーいと言うように宣言した。

 

 

「アリアたちには紅鳴館のメイドと執事になってもらいまーす。あ、ユーユーはメイドね」

 

へ?まさか・・・

また、女装するのか?

 

丁度いいかもと言っていた理子の言葉を思い出す。

そんな・・また・・・女装?

 

 

「いやだああああああああああああああ!」

 

秋葉原のメイド喫茶に俺の絶叫が響きわたるのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第83弾 レキ「のぞき現行犯で逮捕します」

まあ、潜入捜査ってのは長らく日本では違法だったんだが凶悪犯罪が増えている現状ではなりふり構ってられなかったんだな・・・

今では定着した捜査法だ。

奏ちゃん達の学校には潜入したが今回は少し違う

泥棒大作戦では俺たちはブラドの屋敷にハウスキーパーとして雇われる。

というのも、ブラドの屋敷のハウスキーパー2名が休暇をとるらしく。管理人も帰ってくるらしいで、雑用2名を募集していたんだが理子は派遣会社を装い2名では不安のため、3名の募集を提案したんだそうだ。

相手の返答はOKということ。

まあ、慣れたハウスキーパーじゃないんだから1人ぐらい補助は必要だろうということ。

うう・・・しかし、やろうとしてること泥棒なんだよな・・・

月詠とか鏡夜にばれたら殺されかねんぞ。

 

それでだ・・・

 

「だよねー」「ですよねー」「あれはくさいよね」「しらないーいめんどいよね」

 

と、薄い鉄の扉の向こうから聞こえてくる女子の声。

ここはアンビュラス等1階、第7保健室

キンジや俺たちに専用のメニューを作ったという理子のメールでここにきたんだがキンジと誰もいねえなと途方にくれていたんだが外から女子の声が聞こえてなんかまずいぞということで俺たちはそれぞれ隠れたんだが・・・

 

それぞれ対面に存在するロッカーに俺達は隠れた。

キンジが入った方には武藤がいたがあいつ・・・

俺はというと1人でもうひとつのロッカーには……

 

「なんでてめえがいるんだ村上!」

 

「そういうな椎名、今日は騒ぐ訳にはいかないから命は預けるが共にレキ様の体を拝もうではないか」

 

そう、レキ様ファンクラブRRR会長、村上が潜んでいたのだ。

 

「てめえと一緒にすんな!」

 

「まあまあ、お!始まるぞハーレム野郎」

 

「誰がハーレ……」

 

村上の横の隙間から外を見てみる。

 

ぶっ!

心の中で悲鳴をあげる。

なんと、女子たちが服を脱ぎはじめたのだ。

殺される・・・ここにいたら確実に殺される。

逃げたいがここはロッカーの中、思わず、武偵弾閃光弾を握りしめるが駄目だ・・・

レキがいる・・・

あいつは風はいっています優さんがいますとなんて言われれば・・・

おしまいだ・・・

正面にあるロッカーを見ながらとりあえず様子をみるか・・・

目をつぶろうとするが俺も男の子、なんとなく外を見てしまう。平賀文、理子、キンジのアミカの風魔、マリ、アリス、レキにアリアか・・・

理子がなんだか携帯でキンジ達のいる方を見ながら何か操作している。

何やってるんだ?

 

「さーて、アリア、先生が来る前にスリーサイズはかっちゃお」

 

「そ、それぐらい自分でできるわよ!」

 

「理子がはかりたいんでーす」

 

わたわたと真っ赤になりながらアリアのスリーサイズを図る理子

なんとなくなんだがキンジヒステリアスモードになっていそうだな・・・

にしても・・・ここにいる連中、みんな高ランクの連中だな・・・偶然か?

 

がらっと音がして教師の小夜鳴が入ってきた。

女子達が黄色い声を上げる。

 

「ぬ、脱がなくてもいいんですよ。メールでも書いたじゃないですか採血だけですから。 はい、服を着る」

 

丸イスに座りながら苦笑いし、何かをつぶやいた。

 

「フィーブッコロス? ん? 日本語じゃねえな・・・なんだ?」

 

って? レキ?

 

「おお!我が神!」

無声音で村上が歓喜の声を上げる。

無地の下着、どちらも白で両方で980円ぐらいで売ってそうな白い下着をしたレキが俺達のロッカーの前に・・・

げっ!

 

ごっとレキは一気に距離を詰める。

や、やばい!

村上もやばいと思ったのか抑える。

とっての部分に指でつかんで渾身の力でつかむが駄目だ・・・

扉が開放される。

バンという音と共に・・・

 

「ほぁ!」

 

村上が悲鳴を上げる俺はレキと目が合って固まる。

も、もうだめだ・・・

 

「へへへ」

 

と笑いながら逃げようとするがレキに胸ぐらをつかまれて前に引き出される。

きゃあああと女子たちが悲鳴を上げる。

「「ゆ、優!」

 

「優先輩!」

アリアとマリの声が聞こえるがそれどころじゃねえ。

 

「ま、待ってくれレキ、これには事情があるんだ! 話せばわかる!交渉を!」

 

無表情なんだがかえってそれがレキが怒ってるんじゃないかと思わせる。

 

フフフ、椎名レキ様に殺害されるがいいハーレムめ

後ろで村上が何かいっている。

いや、俺が血祭りになってもお前も血祭りだと思うが……

まずい、明日俺はドラグノフで貫かれて死ぬのか・・・

そう思った時だった。

がしゃあああんと窓ガラスが破れると同時に何かの影が俺が入っていたロッカーをぶっ飛ばした。

 

「うわああああレキ様ぁ!」

 

レキにより引き出されてなかった村上の入ったロッカーは空中に飛び、バンと村上を中に閉じ込めると入口が床に向いてゴミのようにバウンドして壁に叩きつけられた。

村上の声が途絶える。

げっ!レキもしかして、これ知ってて助けてくれたのか?

ロッカーにいたら大怪我だったかもしれん・・・

てかレキさん!村上なんで助けなかったの?まさか、本当に怒って俺だけ引き出したのかな?

まあ、とりあえず置いといて警戒だ

何せ、俺の前には絶滅危惧種であるコーカサス白銀狼がいたんだからな・・・・

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第84弾 追撃戦2

「「優!」」

 

事態を重く見たらしいキンジ達がロッカーから飛び出してくる。

 

「お前ら早く逃げろ!」

 

武藤が天井に威嚇射撃を1発放つ。

轟音が室内に響くがこの狼全くひるんでいない。

そして、柔肌を晒している女子に向かい跳躍する。

 

「武藤! 銃を使うな!女子が防弾制服を来ていない!」

 

キンジの言葉を聞きながら狼の前に向かい俺は2発ワイヤーを発射した。

丁度くもの糸のように狼の前に展開されたワイヤーに狼は激突して跳ね返る。

峰打ちで意識を飛ばす

俺は左腰の日本刀を抜くと上段から狼にたたき落とす。

 

「ぐるおん!」

 

狼は鳴き声をあげるとそれを交わす。

ちっ!

さらに追撃をかけようとするが室内では銃同様剣も使いにくいし攻撃方法も限られてしまうのだ。

殺すことを選択肢にいれるならやりようがあるが・・・

再び狼が跳躍する。

ロッカーが冗談のように吹き飛ぶ

 

「うわあああ!」

 

武藤がその吹っ飛んだロッカーの下敷きになる。

 

「武藤!」

 

俺が言った瞬間、今度は狼は小夜鳴先生に襲いかかった。

 

「あ!」

 

小夜鳴先生は吹っ飛ばされ床に叩きつけられる。

同時に、狼は窓ガラスを破りながら逃走を図った。

 

「この!」

 

逃がすかと窓から飛び出そうとしたところ

 

「優! 使え! そこの向こうの茂みにバイクがある」

 

それを受取りながら

 

「キンジ! こっちの方頼むぞ!」

 

「ああ!」

 

返答を待って、バイクを見つける。

武藤・・・改造隼を所持する俺が言うことじゃないがどこまで逃げる気だったんだ?

BMW―1200R、世界最強のエンジンを搭載するネイキッド・バイクだ。

かいぞうされてるらしいエンジンをかける。

やっぱり、バイクはいいよな。

虎児に預けてる隼返してもらおうかな

そう思っていた時、俺の肩に誰かが手を置いた。

降り返るとドラグノフ狙撃銃を肩につけて下着姿のレキが・・・

 

「ちょっ! レキ、お前何やってんだよ!服着ろよ!」

 

「優さんではあの狼を探せない」

 

いや、まあたしかにそうなんだが・・・

このスタンス、神戸での追撃戦の時と同じだな。

 

「じゃあ、今回も頼むぜレキ!」

 

「はい」

 

レキの返答を待ってからバイクを発進させる。

相棒の隼ほどではないがこのバイクもなかなか使い勝手がいいな。

 

「なあ、レキ・・・」

 

「はい?」

 

とりあえず言っておこう。

 

「わざとじゃないからな」

 

「?」

 

レキが首をかしげる気配

 

「その・・・別に覗きとかしてたんじゃなくてだな・・・怒らないでくれよ」

 

「何を怒るのですか?」

 

本当にわからないというような返答だな・・・

 

「いやいい・・・」

 

だって、下手に言ってレキが怒るようなことしたくないしな・・・

というか・・・

こ、困るよこの状況・・・

神戸の時と違い、さらに、薄い下着姿でレキは俺の背中につかまってるんだ・・・

その・・・やはり、女の子の体って柔らかいんだな・・・

 

「人工島の南端工事現場です」

 

はっとしてレキの言葉に俺は頷いた。

 

「さすが視力いいなレキ!」

 

ごまかすようにおれはいうのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第85弾 覗きはもうやらねえ!

オートバイを狩り、無人の工事現場に突入する。

なるほど、土嚢が破られた形跡がある。

レキが背中から、胸の前にドラグノフを持ち直す。

 

「レキ、麻酔弾持ってるのか?」

 

「いいえ」

 

「・・・」

 

 

となると、射殺することになるか・・・

俺も麻酔弾をもってないしな・・・

猛獣駆除は武偵の仕事の中で俺は嫌いな部類に入る。

 

「通常弾で仕留めます。 追ってください」

 

神戸でもその戦闘力は見せつけられたがレキは任務を眉一つ動かさず着実にこなす。

ミンとの戦いにこそ敗れたが春蘭との狙撃戦では圧勝した。

レキがいなければ奏ちゃんを助けることはできなかったし、俺も死んでいただろう。

オートバイをローにしてそろりと、足跡を追跡していく。

殺気!

はっとして、ミラーを見ると狼が迫ってきている。

後ろには無防備のレキが・・・

 

とっさに、バイクを飛び降り、狼と相対する。

日本刀を逆に持つと薙ぎ払う。

狼の前足と日本刀が激突し、狼は奇襲で勝てないなら撤退するように訓練されているらしい、後退し、10メートルはある学園島の工事の亀裂を飛んでいた。

 

「へっ、なめるなよ」

 

オートバイに飛び乗ると加速、クレバスにそのまま突入する。

当然、そのままでは超えられない。

 

「レキ! つかまれ!」

 

工事のクレーンに向けてワイヤーを発射した俺はレキと共に空に舞い上がる。

オートバイがクレパスに落ちていったがすまん武藤・・・

落下しながらガバメントを抜くが駄目だ・・・すでに、射程外だ。

そんな時、少女の声が俺の耳に届いた。

 

「私は1発の銃弾」

 

ドラグノフの先端には建設中の新棟がある。

その工事用の階段を狼はたんたんとジャンプしながら駆け上がっていく。

レキの射程内だ。

この距離なら確実にレキなら殺る。

 

「銃弾は心をもたない。故に何も考えない。 ただ、目的に向かって飛ぶだけ」

 

あばよ狼

 

ダン

 

空中からの射撃で薬莢が宙をまい、銃弾は狼に命中せず、その背中をかすめただけだった。

外したのか?レキが?いや、そりゃ、人間なんだからミスぐらいするだろうが春蘭とうちあったあのレキがミスるとは・・・

 

「レキが外すなんて珍しいな。 狼だから躊躇したのか?」

 

狼がさらに一飛びして屋上に逃げてしまう。

あの先は海だから追い詰めたな。

レキは無表情のまま、ドラグノフを肩にかけなおした。

そして、抑揚のない声で歩きながら言った。

 

「外していませんよ」

 

 

 

 

 

 

レキと共に屋上に向かい、そっと扉の影から屋上の様子を伺う。

まず、飛び込んできたのはフェンスのない屋上、そして、あの銀狼が悠然と立ってこちらを睨んでいる。

止めをさそうと、ガバメントを持って近づこうとした瞬間、俺の防弾制服をレキが掴んだ。

 

「レキ?」

 

見るとレキはふるふると首を横に振り、狼の方を指さした。

 

「?」

 

見ると、狼がぷるぷると足を振りわせたかと思うとどぅと地面に崩れ落ちた。

見ればその背、首の付け根あたりに小さな傷がある。

 

「脊椎と胸椎の中間、その上部を銃弾でかすめて瞬間的に圧迫しました」

 

レキはそっと、狼に語りながら近づいていく。

 

「今、あなたは脊髄神経が麻痺し、首からしたが動かない。 ですが、5分もすればまた、元のように動けるようになるでしょう」

 

外したなんてとんでもない・・・

なんていう射撃だよ・・・

俺のウィークポイントである遠距離ができる子。

狙撃の距離でレキを敵に回せば絶対に勝つことはできないな・・・

ある意味、俺にとってはアリア以上に戦いたくない相手だ。

 

「逃げたければ、逃げなさい。 ただし、今度は2キロ四方、どこに逃げても私の矢があなたを射抜く」

 

噛んで含めるように、しかし、無表情でレキは言う。

狼は言葉を分かっているかのようにレキを見ている。

1分・・・2分・・・時は過ぎていく。

 

「主を変えなさい。 今から、私に」

 

その言葉に答えるように狼はよろよろち立ち上がるとレキのふくらはぎにすりすりと頬ずりを始めた。

全くこの子は・・・本当に凄い奴だよ

ガバメントを仕舞いながら

 

「で? どうすんだレキそいつ」

 

「手当します。 怪我してますから」

 

「で?」

 

「飼います」

 

「ええええ!」

 

「そのつもりで追いましたから」

 

そ、そうだったのか

 

「だが、女子寮はペット禁止だぞ! いくらなんでもそいつを隠して買うのは無理だろう」

 

「では、武偵犬ということにします」

 

武偵犬とは警察犬などの武偵版なんだが、普通はレピアやインケスタが飼うことが多い。

少なくてもスナイプ飼ってる奴なんて俺は見たことも聞いたこともない。

 

「狼だろ! 武偵狼だ!」

 

「似たようなものです」

 

ま、まあ似てるのか?

 

「お手」

 

といわれると狼は早くも手をレキの手に乗せた。

変り身はええ!

 

「まあ、そいつはレキに任せるんだが・・・」

 

「?」

 

「そろそろ服を着ようぜレキ」

 

そういいながら俺はそっと上着をレキに差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

あのあと、レキと別れてから学校にもどるのもなんなので寮に直接帰ったんだが・・・

 

「ただい・・・ま?」

 

がちゃりと扉を開けた先には、窓を前に俺を背中にしたアリアさんの後ろ姿だった。

ま、まずい。

本能的に感じた恐怖に逃げようとしたが

 

「ゆーう。 次はあんたの番よ」

 

え?どういう意味?

 

「キンジは東京湾で泳いでるわ。 説明してもらおうかしら? なんであんなところにいたの?」

 

「ま、待てアリア!誤解だ! 誤解なんだ! あれは村上のせいで!」

 

「村上? ああ、あの眼鏡の生徒ね。 女子全員で風穴地獄に送ったわ」

 

死んだな村上・・・いい奴ではなかったがまあ、自業自得だな。

 

「それとのぞきに何の関係があるのかしらゆーう」

 

逃げるんだ!

俺は全速力で部屋を飛び出そうとした。

だが。扉の前に立ちふさがるものがあった。

 

「ま、マリ!」

 

「どうしてですか?」

 

マリはツインテールの前髪で目が見えない。

 

「と、というと?」

 

「どうして、優先輩は私だけじゃなくて他の女の人に浮気するんですか! 覗きなんかしなくてもいつでも見せてあげます。 矯正が必要なんですねフフフ」

 

そういいながら、CZ78を取り出すと

 

「浮気ものは死んでください」

 

パンパンパン

 

「ぎゃあああ!」

 

「風穴ぁ!」

 

ドドドド

 

部屋に飛び込みながら左手でマリの銃弾をビリヤード撃ち、アリアのガバメントを銃弾切りで交わしながら死にものぐるいで窓に飛び乗る。

前は海だ。

2人は銃を俺に向ける。

合計3丁の銃が・・・

 

「ま、待てアリア、マリ!話せばわかる! 話せば!」

 

「問答・・・」

 

「無用です!」

 

ドドドドドドドドド

 

パンパンパンパンパンパン

 

「わああああ!」

 

ベランダから俺は悲鳴をあげて落下した。

ワイヤーを発射したがアリアがワイヤーに銃弾を打ち込み軌道を強引に変える。

 

「!?」

 

落下防止用のネットでトランポリンのように跳ねると俺は暗い東京湾に落ちていった。

 

「ぶは!」

 

海面に出るとキンジがいたので

 

「なあキンジ・・・覗きはダメだよな」

 

「ああ・・・」

 

そういいながら俺たちは力尽きたように海に沈んでいった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第 86弾 ジャンヌ再び

アリアとマリに海にたたき落とされて生死の境目をさ迷った次の日、俺は執事とメイドの特訓をするというアリアとキンジと別れ、とある建物に来ていた。

女装で・・・

鏡を見てみると黒い背まであるロングの黒髪、武偵高の女子の制服・・・

理子が調達したものなんだが・・・

ほんのり化粧したのは理子である。

我ながらこうしてみるとちょっと背の高い女の子にしか見えないのが泣けてくる・・・

コンプレックスなのになこの顔・・・

ため息を付きながら校舎のドアを開けるとまず、飛び込んできたのは香水の臭いだ。

うお、なんて臭いだ。

ここは特殊操作研究課、通称C研ハニートラップの技術を磨く学科で絶世の美女しか入科できない。

そんな校舎になんでいるのかといえば・・・

 

「ユーユーはC研で女装のスキル磨いてきて」

 

と、理子の命令。

奏ちゃんの中学では相手が中学生だからなんとかなったが今回は大人が相手になる可能性もある。

そこで、この学科なんだが・・・

 

201号室と書かれたドアの前にくる

確か、理子に指定されたのはここか・・・

覚悟を決めてノックする。

 

「はーい、空いてるわよぉ」

 

「失礼します」

 

といって中に入ると俺は絶句した。

絶世の美女といえばそうなのだろう。

長い黒髪に目の下に泣きぼくろ、和服を着た女性がいたからだ。

 

「あ、あの古賀先輩ですか?」

 

絶世の美女は微笑むと

 

「ええ、3年C研古賀 美雪よ。峰からあんたを女性のしぐさを叩き込むように言われているからびしばし行くわよ」

 

帰らせてください・・・

本心からそう思いながら

 

「よろしくお願いします古賀先輩・・・」

 

と、諦めるように俺は言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ・・・」

 

古賀先輩の講習を受けたあと、メイドとしての心得の本を読みながら俺は帰宅の道を歩く。

すごい先輩だった。

仕草から男を落とす、そのテクニックまで全て短時間で俺に叩き込んできた。

最後はその・・・男が喜ぶあれすら教えそうになってきたので慌てて退散してきた。

冗談じゃないそんな教授はいらねえよ。

本気で月詠や鏡夜、そして、咲夜にばれないようにしないとと思っていたとき

音楽室の中からピアノの音が聞こえてきた。

この曲なんだっけ・・・確か

 

「火刑台上のジャンヌ・ダルク・・・」

 

まさかな・・・

音楽室を見上げた瞬間、そいつと目があったので

俺は走り出した。

音楽室のドアをあけると

 

「ジャンヌ!」

 

そう、そこには白雪の誘拐の時、俺たちが戦ったあのジャンヌダルクがいたのだ。

彼女はびっくりした顔で俺を見ていた。

 

「久しぶりだなジャンヌ。 なんのつもりだ? 素顔を晒しているなんてよ」

 

ガバメントを抜きながら言う。

 

「誰だお前は?」

 

怪訝そうにジャンヌが言った。

 

「忘れたか? てめえを1度戦闘不能に追い込んでやった椎名 優希だ」

 

ジャンヌの目がますます、見開かれた。

 

「答えろ! てめえなんでここにいる!」

 

東京武偵高制服を着るジャンヌに言う。

 

「司法取引だ。 この学校に通うことが司法取引の条件にあったからな」

 

「同じ歳だったのか? 似合わねえ制服だな」

 

「お前に言われたくないぞ椎名」

 

「ああ?」

 

ジャンヌの前だと戦闘狂の口調が出てしまうな・・・

 

「その・・・似合ってはいるが私とお前は同じ格好だ」

 

「!?」

 

そ、そうだ・・・俺の今の格好は武偵高の女子せ・・・

 

「それで男のお前がなんでそんな格好をしているんだ椎名?」

 

「・・・はは・・は」

 

ジャンヌの問いに俺はしばらく答えることができそうになかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第87弾 蘇る記憶

「なるほどな……」

 

ジャンヌは俺から一部の情報を伏せて話したのを聞いて納得したように言った。

 

「それで女装か?似合ってるぞ椎名」

 

ローズピンクの口が馬鹿にしたように笑みを作る。

 

 

「お前もな」

 

皮肉まじりに言ってやる。

 

「遠山にも言われたが私とて恥ずかしいんだぞ?」

 

「なら、互いに突っ込むのやめようぜ」

 

「そうだな」

 

互いの利害が一致したので制服のことは突っ込まない。

じゃあ次の質問だな

 

「ローズマリーのことを教えろ」

 

ストレートに聞くとジャンヌは少し目を開いてから

 

「豪快に聞くものだな。遠山でさえ遠回しにイ・ウーのことは探っていたぞ」

 

どうやら俺が来る前にキンジがいたらしいな……

だが、今は関係ない。

 

「教えろ。教えないなら力ずくでも答えてもらうぞ」

 

ざわりと体内で戦闘狂モードになりそうになる。

 

「ほう、いつぞやの決着ここでつけるのも悪くはない……がやめておこう。話してやってもいい」

 

その言葉でなりかけてた戦闘狂モードが収束する。

 

「だが、私と戦っていたら最悪、捕まるぞ椎名。司法取引をした相手を襲うのはただの暴行だ」

 

「ローズマリーの情報が手に入るなら安いもんだ」

 

ジャンヌは俺を探るように見てから

 

「椎名、お前のことは調べさせてもらった。なぜ、ローズマリーを追うのかもその情報を見れば分かる。だが、復讐は身を滅ぼすぞ?」

 

「そうかもな……」

ジャンヌはため息をついてから

 

「とはいえ私もローズマリーのことは詳しくは知らんのだ。彼女はイ・ウーに所属こそしていたがほとんど、世界中を飛び回って姿を見せることがほとんどなかったからな」

 

「なんだよそれ。結局、何も知らないってことか?」

 

「いや、彼女はおそらく人間ではない」

 

「どういうことだ?」

 

「おそらくと言っただろう。私も全部知ってる訳ではない」

 

化物か……

 

「で?次の情報は?」

 

「それだけだ」

 

「は?」

 

「それだけだと言っている。実力は定かではないが私より強いのは確実だ」

 

「待てよ。アドシアートの時、おまえら共闘してたんじゃないのか?」

 

「いや、ローズマリーは縛られるのが嫌いらしくてな。気のむくままに事件を引っ掻き回しただけだ」

 

「それでよく俺達から逃げられたな」

 

 

「結果的にお前達は黒衣を着たローズマリーに疑いを向けざる得なくなり私への警戒心が分散された。自由とはいえ損はなかったさ」

 

ますます、わからねえ……ジャンヌの話を聞いていくらか分かったパズルのピースがある。

 

「おいしそうですわ。でも今は食べ頃じゃありませんの」

 

あのセリフの意味はやはりわからないな……

 

「ローズマリーの話はこれぐらいだ。ブラドについてならもう少し情報を与えてやれるぞ?」

 

「頼む」

 

とりあえずローズマリーの情報はこれだけということは次は激突する可能性が高いブラドが問題だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

音楽室を使いたいという合唱部が来たので俺たちは場所を中華料理屋炎に移した。

もちろん、俺は着替えて着ているぞ。

 

「おお!お兄さん、今度はクール系銀髪美少女ですか!さすがに5股は私も引きますよぉ」

 

「5股?」

 

ジャンヌが珍しそうに店内を見回しながら怪訝そうに聞いてくる。

 

「いつもいつも誤解招くようなこというなアリス!さっさと注文したもん持ってこいよ!」

 

「フフフぅ、了解です!」

 

くるくる回りながらアリスは行ってしまった。

大丈夫なのかこの店……

 

「で、聞きたいんだが理子のことだ。ブラドと理子過去に何があった?」

 

「理子は少女の頃監禁されて育ったのだ」

 

どこかジャンヌは哀れむように言った。

監禁……まじか?

 

「理子が未だに小柄なのはその頃、ろくなものを食べさせてもらえなかったからで……衣服に対して強いこだわりがあるのはボロ布しか纏うものがなかったからだ」

 

「なんで理子は監禁されたんだ?リュパン家といやアリアの祖先のホームズとやりあえるほどの名家だろ?」

 

「リュパン家は没落したのだ。使用人は散りじりになり、財宝は盗まれた。最近、母親の形見の銃は理子は取り返したようだがな」

 

「……」

 

その後はなんとなく想像がつくな……理子はブラドに……

 

「お前の考えてるとおりだ椎名。まだ、幼かった理子は親戚を名乗るものに養子として引き取られルーマニアに渡った。そこで捕らわれ監禁されたのだ」

 

あの馬鹿理子にそんな過去が……

つらいなんてもんじゃない……変えたい過去を持つ俺でさえ味方はいたんだ……虎児や千鶴、月詠、咲夜、あの人もいた。

俺が笑っていた時も……理子は……

 

 

 

 

「……て」

 

「う……」

 

その時、脳裏に何かが浮かんだ。

何だこの違和感は……

 

 

「……も……けて師匠!」

 

ザザザとまるで砂嵐のような画面に浮かぶ記憶がフラッシュバックする。

こいつは……そして、その場面だけは妙に繊細に蘇る。

 

「あなた……だれ?」

 

死んだ魚のように絶望に染まったその瞳。

対面の鉄格子の中にいたボロ布を纏う少女

 

「僕?椎名優希。君は?」

 

「……子……」

 

かすれるように少女は力なく言った。

 

「峰・理子・リュパン4世」

 

そうだ……俺は過去に理子に会ってる。

世界中を師匠と回ってるときルーマニアの城で……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第88弾 決意

「何?」

 

俺は過去に理子に会っているという言葉にジャンヌが目を見開く。

 

「フランスで俺は拉致されたことがあるんだ。多分、その時に俺は理子に会ってる」

 

「拉致だと?ブラドにか?」

 

「多分な……8歳から10歳まで俺は世界中を師匠と巡ってたんだ」

 

「だが、椎名。理子を見た時、なぜ思い出さなかった?」

 

「記憶がな……あの2年間の記憶がほとんどないんだ俺には」

 

思い出せたのも理子が関わる前後だけだ。

その後も、それ以前も記憶にもやがかかっている。

日本に帰ってしばらくしてローズマリーの件が起こったのは覚えてはいるんだがな。

 

 

「そして、俺は多分、ブラドと戦ってる」

 

「8~10歳の子供がか?無謀だ」

 

ジャンヌが驚いたように言う。

記憶の中の俺は黒い圧倒的な存在に剣で戦ったが負けた。

勝てるわけのない戦いだったんだろう。

だが、ブラドに突きつけた条件だけは覚えている。

 

僕が勝ったら理子ちゃんと僕を解放しろだ……

だけど……

駄目だまだ、この記憶にももやがかかってるどうやって助かった……

 

「なら、話は早い。遠山にも教えたが椎名にも教えておこうあいつは危険すぎるからな」

 

まあ、記憶の中で俺はブラドに手も足もでなかったからな……今の半分も力がないガキだったから……

 

「ここらの話は非常時のみアリアと共有しろ。いいな?まず先日ここに現れたというコーサカス白銀オオカミのことだ。あの狼はインフォルマで調査中だが私の見立てではブラドのしもべとしてまず間違いない」

 

「こっちの動きがばれてるのか?」

 

「そこまでは私も確証がない。狼はスナイプの少女に奪われて帰れなかったし。奴の僕は世界各地にいてそれぞれかなり直感便りに行動するみたいだからな」

 

「詳しいなジャンヌ」

 

「我が一族とブラドは仇敵なのだ3代前の双子のジャンヌダルクが初代リュパンと組んで引き分けている」

 

「ブラド本人ってことか?吸血鬼なら」

 

「そうだ奴は人間ではないからな」

 

俺はコップの水を飲みながら続きを促す

 

「それで?」

 

「うむ、ブラドは理子を拘束することに異常に執着していてな檻から自力で逃亡した理子を追ってイ・ウーに現れたのだ。理子はブラドと決闘したが敗北した。ブラドは理子を檻に戻すつもりだったんだが成長著しかった理子にとある約束をした。それは、理子が初代リュパンを超える存在にまで成長し、その成長を証明できればもう手出ししないと」

 

 

そうか……理子があれほどアリアに執着した理由、チームを組ませて戦った理由もようやく分かった。

理子……お前は俺が城を逃げても、忘れてしまっても自由になりたくて戦ってたんだな……

なら、俺がやるべきことは決まった。

 

 

「椎名、ブラドの姿は覚えてるか?」

 

「いや、なんか大きい相手としか……」

 

「なら、私が絵に書いてやろう」

 

そういいながら眼鏡をかけたので

 

「目が悪いのか?」

 

「ほんの少し乱視なだけだ普段は眼鏡はかけない」

 

ノートとサインぺンを使い何か書いていく

 

「いいか?ブラドが留守にしてる屋敷に潜入するのはいいが、もし万が一ブラドが帰ってきたなら即刻作戦を中断して逃げろ。絶対に勝てない」

 

理子から潜入は聞いたのか……でもジャンヌ俺は決めたんだ

 

「それはできないジャンヌ」

 

「何?」

 

「ブラドが現れたなら逮捕する」

 

「聞いていなかったか椎名?絶対に勝てない。もし戦いになっても逃げるための戦いをしろ。双子のジャンヌダルク達は銀の弾丸でブラドを撃ちデュランダルで貫いても死ななかったとある。奴は死なないのだ」

 

「不死身ってわけか……だがイ・ウーのリーダーはブラドを倒したんだろ?ブラドがリーダーになってないならな」

 

「私も直接見たわけではないがブラドが敗れたのは理子との決闘のあとにイ・ウーのリーダーと戦った時だけだ。ブラドを倒すには全身にある4箇所の弱点を同時に破壊しなくてはならないらしい」

 

そういいながらサインぺンを動かすジャンヌ。

な、なんだそれ……

 

「弱点のうち、3箇所は判明してる。こことこことここだ……奴は昔バチカンから送り込まれたパラディンに秘術をかけられて一生消えない目の文様をつけられてしまったのだ。よし、たいぶかけたぞ」

 

「ら、落書きか?」

 

「ら、落書きだと椎名、遠山と同様に失礼だぞ!」

 

だってな……

 

「ブラドはこういうやつなんだ。お前は私を疑うのか?」

 

「いやまあ……」

 

なんとなくはわかるけど……記憶にあるブラドってこんなお化けみたいなやつだっけ?

 

「これはちゃんと似ている椎名もとっておけ」

 

まあ、もらっとくか……相手は絶対に倒せないやつじゃない。

ならやり方だってあるはずだ。

今回はアリアの護衛だけじゃねえ。

 

ブラド、お前が俺の前に出てくるなら倒す。

理子を救うためにな……

 

「ああ、それとなジャンヌ」

 

「ん?」

 

 

「俺が昔、理子に会った話は誰にもしないでくれ」

 

「なぜだ?」

 

「理子も多分、覚えてないんだろうからな……余計なことは知られたくないからな」

 

過去の記憶にはもやがかかってるが俺は逃げて、理子は城に残された……要は、俺は理子を見捨てたんだ。

だから、こそ今回は理子を見捨てない。

「分かった」

 

ジャンヌが言った時

 

「おまたせしましたぁ」

 

アリスが料理を運んできた。

俺はチャーハンに餃子。ジャンヌは……

な、なにぃ!

 

「ももまんフルスペシャルです」

 

と、ジャンヌの前に置かれた化物

ジャンヌも絶句してる。

ば、馬鹿な

 

「じ、ジャンヌお前……」

 

「い、いや写真で神崎が制覇したというのが見えたのでな……まさかこんな……」

 

そう、この店には地獄ラーメン制覇とももまんフルスペシャルを制覇したレキとアリアの写真が飾られている。

それを見て頼んだのか……

ああ……神様

 

その後、食べきれる訳もないももまんフルスペシャルをジャンヌは必死に食べたが力尽きて凍らせてお持ち帰りしましたとさ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第89弾 美人2人

6月6日、いよいよ潜入開始の日が来た。

これから俺、アリア、キンジは2週間横浜の紅鳴館に潜入する。

学校には理子に言われた通り、民間の委託業務を通じたチームワーク訓練と書類をマスターズに通したらあっさりと通ってしまった。

この泥棒大作戦は理子が外部からサポートする役目である。

 

 

 

 

 

 

 

 

どんよりとした気分で待ち合わせ場所のモノレール駅に俺は向かった。

前日まで古賀先輩に女らしさを悲鳴をあげるまで叩き込まれていたのだ。

男を喜ばす技術とやらは断固拒否したが……

お、アリア達だ。

 

「おはようございます。アリア、キンジさん」

 

「「!?」」

 

何やら言い争っていたアリアとキンジは振り替えるとびっくりしたように俺を見ると

 

「ゆ、優よね。あんた?」

 

確かるようにアリアが言う。

 

「ええ、アリア。私は今回は月島 優と名乗りますから間違えないでくださいねアリア。キンジさん」

 

「き、キンジさん?」

 

キンジが引いてるよ……

そう、俺は武偵高の女子制服に黒髪ロングのかつらに青いリボンで少しだけ後ろをまとめてる。

古賀先輩にも言われたがプロでも一目見ただけでは男だと見破れないんだそうだ。

この先の人生で潜入捜査に使えるかもしれんがこれは……

 

「キー君、ユーユー、アリア、ちょりーっす!」

 

理子の声に振り向く。

おお、えらいかわいい子に化けてきたな理子

 

「おお!おお!ユーユー似合うよぉ。」

 

「ええ……ありが……ってやってられるか!」

 

とうとう我慢の限界に来た俺は本心のままにぶちまける。

 

「あ、やっぱり優ね」

 

アリアが言う。

小型のボイスレコンジャーのせいで声は女声だが気にせずに

 

「ああ、ユーユー駄目だよ。今日からしばらくメイドさんなんだから女の子らしくしないと。しないとぷんぷんガオーだぞ」

 

 

と指を頭に二本立てて理子が言う。

 

「屋敷についたらでいいだろ!」

 

「仕方ないなぁユーユーは」

 

変装した理子を見ながら思う。

やはり、今までの言動からして理子も覚えてないらしいな……

無理もないかもしれんが……

 

 

「り、理子……なんで、その顔なんだよ」

 

ん?

 

 

「キンジ、知り合いの顔なのか?」

 

「あ、ああ」

 

俺の問いにキンジはあいまいに答える。

 

「くふっ。理子ブラドに顔割れちゃってるからさぁ。防犯カメラに映って、ブラドが帰ってきちゃったらやばいでしょ?だから変装したの」

 

 

そうなら願ったり叶ったりなんだがな……俺はブラドを逮捕する。

アリアのため、理子を助けるために……

今回、ブラドが出てこないなら別の機会に逮捕する。

 

 

「だったら他の顔になれ!なんでよりによってカナなんだ」

キンジの動揺ぶり見るに相当な人物らしいな……ま、まさか元恋人とかか?

 

 

「カナちゃんが理子の知ってる世界一の美人だから。それにカナちゃんはキー君の大切な人だめんね。 理子、キー君の好きな人の顔で応援しようと思ったの。怒った?」

 

「いちいちガキの悪戯に腹を立てるほどガキじゃない。行くぞ」

 

「心の奥では喜んでるくせにぃ」

 

黙ってキンジが改札に歩いていく

 

「な、何。急にどうしたのよキンジ、理子誰なのよそれ!」

 

「まあまあ、アリア。キンジも男なんだから過去に恋人ぐらいいてもおかしくないだろ」

 

「こ、恋!」

 

アリアがぼんと赤くなったのを笑いながら

 

「ま、冗談は置いといて友達だろ多分」

 

俺も女の子の知り合いはいるからな。

 

手に持った旅行用のカバンを見る。

ヴィトンのそれは古賀先輩に言われ買ったものだがこの中には今回の準備の道具がたくさん入っている。

無論、切札も用意してきたさ。

キンジと友達の会話をしながらトンガリコーンを食べる理子を見て顔をあげるとタクシーの窓から今回のクエストの場所、紅鳴館が見えてくる。

不気味だな……本当に化物でも出てきそうだ……

まあ、今回は最悪、化物退治になるからな……

さて、どうなることやら……

理子がインターホンを押すのを見ながら俺は思うのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第90弾 泥棒大作戦スタート!

「初めまして、正午から面会の予定をいただいているものです。本日よりこちらで家事の手伝いをさせていただくハウスキーパー3名を連れてきました」

 

おいおい、理子顔ひきってるぞ……というかいきなり失敗じゃないのかこれ……なにせ、この屋敷の管理人……

 

「い、いやぁ。意外なことになりましたねぇー……あはは……」

 

そう、彼は武偵高の非常勤講師の小夜鳴先生だったのだ。

館のホールに入ると、狼と槍……いや、串? の紋章の旗が壁に貼られてある。

おいおい、アリア大丈夫か?びびりすがだろ……

 

「いやぁ、武偵高の生徒さんがバイトですかぁ。まぁ、正直な話難しい仕事でもないので誰でもいいと言えばいいんですがあはは、ちょっと気恥ずかしいですね」

 

前に、銀狼にやられた腕にギプスをつけている小夜鳴先生。

理子とアリアがソファーに座るとにこにこしながら俺に

 

「さあ、あなたもどうぞ」

 

ああ、そうかレディーファーストか……この様子じゃ俺の正体もばれてないな。

 

「ありがとうございます」

 

とぼろを出さないようにアリアの横に座る。

どかりとではなくゆっくりと

小夜鳴とキンジが座る。

 

「小夜鳴先生、こんな大きな屋敷に住んでるんですね。びっくりしました」

 

「いやぁ、私の家じゃないんですけどね。私はここの研究施設を借りることが時々、ありましていつのまにか管理人のような立場になってしまっていたんです。ただ、私は研究に没頭してしまう癖がありますからね。その間に不審者に入られたりしたら、後でトラブルになっちゃいますから……むしろ、ハウスキーパーさんが武偵なのは良いことかもしれませんね」

 

「私も驚いております。まさか偶然、学校の先生と生徒だったなんて」

 

さすがの理子も想定外か……

 

「ご主人様がお戻りになられたら、ちょっとした話の種になりますね。まあ、この2人の契約期間中にお戻りになられればの……話ですが」

 

理子がブラドが帰ってくるか確認してるな。

さて……

 

「いや、彼は今とても遠くにおりまして。しばらく、帰ってこないみたいなんです」

 

そうか……帰ってこないのか……

安心したようなキンジを横目に俺は逆に残念に思う。

ここで逮捕すりゃ手間も省けるんだがな。

ジャンヌに脅されてもまだ、俺は戦う気だからな。

 

「ご主人は……お忙しい方なのですか?」

 

カナの顔で理子が訊ねる。

 

「それが実は、お恥ずかしながら詳しくは知らないんです。私と彼はとても親密なのですが直接話したことが無いものでして」

 

親密なのに話したことがない?

それは親密と言えるのか?

 

「ところで月島さんでしたか?」

 

「はい」

 

小夜鳴にいきなり声をかけられても慌てずに穏やかな笑みを浮かべて言った。

古賀先輩いわく、大和撫子が大人の男性 の心をくすぶるらしい。

もちろん、個人差はあるが……

 

「あなたも武偵高の生徒さんですか?私の授業では見た記憶がないんですが……」

 

「実家の都合で人材派遣会社で働かせて頂いています。私は武偵じゃありませんので警備ではお役にたてませんが家事では精一杯奉公させて頂きたいと思っています」

 

「今は絶滅した大和撫子のような方ですね月島さん。こちらもよろしくお願いしますよ」

 

と好印象なんだが……はやく、終われこの生活と心の中で俺は思うのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第91弾 闇の中の目線

別動隊の理子がさり、俺達は2階に自分達を部屋をあてがわれた。

 

「すみませんねぇ。この館の伝統といいますかルールで、ハウスキーパーさんは男女共に制服を着ることになってるんです。むかし、仕立てられた制服がそれぞれの部屋にあってサイズもいろいろありますから、選んで着てくださいね。仕事については前のハウスキーパーさんたちが簡単な資料を台所に置いておきましたから……それを読んで適当にやっちゃってください」

 

あは、と好感度の高い笑顔で小鳴が言った。

 

「で、申し訳ないのですが私は研究で多忙でして……地下の研究室にこもり気味の生活をしてるんです。ですから、みなさんと遊んだりする時間はあまり取れないんです。ほんと、すみませんねぇ」

 

別にそこまで謝らなくてもな……自分の家なんだから

 

「ヒマな時はそうですねぇー……あ、そこの遊戯室にビリヤード台があるんですよ。それで遊んでていいですよ。誰も使ってないからラシャもほとんど新品なんです。それじゃあ早速ですが、失礼します。夕食の時間になったら教えてくださいね」

 

そう言いながら彼は地下の研究室にとじ込もってしまった。

 

「そんじゃま、働くか」

 

「そ、そうね」

 

「はい、行きましょう」

 

念のため女の言葉月島優になりきって俺たちはそれぞれの自室に入る。

 

クローゼットを開くと執事服とメイド服が並んでる。

とりあえず、いっぱいある中から古めかしいデザインの露出が少ないメイド服を取り出す。

胸が強調されたの着たらばれるからな。

胸はCカップだがこいつは、C研の秘密兵器、シリコンで出来た胸だ。

さわり心地も本物に似てるらしいが試す気にはならんな。

素早く着替えて外に出るがキンジもアリアもまだか……

 

「アリア、着替えましたか?」

 

コンコンとノックしてからドアを開いた瞬間、くるくる回っていたアリアと目が合う。

赤面モードを発動させて

 

「か、かわいいな」

女性モードがとけて俺は言う。

いや、アリアお前、それは反則的だろう……

 

まず、レースとフリルを重ねたカチューシャは、手前がフリルで奥がレース。二段構造になった豪華なもの。

黒いワンピースの胸元は俺のと違いざっくり開かれており、そこには何段重ねにもなった純白のフリルが露出している。あれはブラウスの代わりにフリルだけでできたチューブトップを着ているんだろうな。

さらに、エプロン。アリアの細い腰からミニスカートの前面上部までは白いカクテルエプロンで短く覆われている。対照的にバックの帯は長く、オシリの上で大きく蝶々結びされている。いいコントラストだ。

短いスカートをもって中からふわっと広げる4段、いや5段階層の白いペチコート。幾重にも重なった布のひだひだをカーネーションのヨウニ咲かせている。

ストレートでありながらおぼろげに女の子っぽい曲線を感じさせるアリアの脚の付け根を演出するのは、ドロワーズ先のペチコートとの合わせ技により、スカート内の布量は完全にメーターを振り切り爆発寸前だ。

素材は質の高いベルベット、シルク、そして明らかに職人作りの精緻なレース布で作られていた。

長らく語ったがアリアの容姿と合わせて殺人的にかわいいのだ。

だが、その顔は真っ赤でずんずんと怒りの表情で向かってくる。

 

「ま、待ってアリア。これは素直に……あぅ」「あ、いや、呼んでも反応が無かったかおうっ」

 

いつの間にか来ていたキンジと俺を飛び蹴りで沈める。

床に倒れた俺たちはをアリアは手を腰に当てて

 

「で?ご用件は何ですかご主人さま?」

 

な、なんで怒るんだ?かわいいって言っただけなのに……なぜだ……

怒りが頂点に達したのか震える声は冷静だ。

 

「お、おちついてアリア!話し合いましょう」

 

「そ、そうだアリア!優の言う通りだ!」

 

俺とキンジは必死に命乞いをするがアリアはにこりと微笑んで

 

「次、のぞいたら―脳天風穴地獄!」

 

ダンとアリアは飛び上がるとひじを俺とキンジの腹に叩き落とした。

ぐふ……また……気絶かよ……

意識を失い30分後に思ったのは迂闊に女の子にかわいいというのはまずいのかもしれないという教訓だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、時刻は夜22時だ。

散々な1日だったが仕事は大体覚えた。

というか3人も実際はいらないのでいろいろと地下室以外を見回らせてもらった。

俺の得意技は戦闘狂モードの空間認識能力。

昔、師匠にも言われたがこいつだけは一流の上をいく才能が俺にはあるんだそうだ。

まあ、それは置いといて、バラの垣の庭を歩きながら屋敷を見回す。

本当に化物でも出てきそうだな……

遠くから犬の遠吠えが聞こえてきた。

そろそろ戻るか……

屋敷に足を向けたその時

 

「……」

 

俺は振り返った。

何か得体の知れない視線を感じた気がしたのだ。

スカートの中のガバメントに意識を向けながら視線を感じた方を見る。

 

「誰かいるんですか?」

返事はない。

気のせいか?

警戒しつつも屋敷の自分の部屋に向かう。

部屋が見えた時、丁度アリアの部屋が開いた。

 

「あ、優でかけてたの?」

 

もうすぐ寝るためかメイド服を脱ぎ、ネグリジェ姿のアリアだった。

 

「ええ、探検してたの」

 

にこりと女性スマイルを浮かべる。

アリアはため息をつきながら

 

「本当にあんたそうしてると女の子にしか見えないわね」

 

「アリア」

 

俺はにこりと微笑む

「な、何よ」

 

俺の発する怒気にアリアは引く

 

「私、顔のこと言われるの嫌いなの。二度と言わないでね」

 

「わ、わかったわよ。そ、それよりそのむ、む……胸なんだけどどうなってるの?」

 

「これ?」

 

なんかたまらなくなってきたので

 

「アリア、部屋に入りましょう」

 

中で説明しよう男言葉に戻してな

 

「し、深夜の部屋におと……あ、あんたを入れられるわけないでしょ!」

 

なぜか顔を赤くしたアリアが言う。

 

「じゃあ、私の部屋にくる?」

 

「お、同じことよ!、あたしはもう寝るわ」

 

そういいながらアリアは自室に戻ってしまう。

なんなんだ?

まあ、もう精神的に限界だ。

部屋に戻った俺はベッドに横になると目を閉じるのだった。

ああ、眠い



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第92弾 クッキー爆砕

それから数日、以外に執事の才能があったらしいキンジやアリア達と小鳴先生に新聞を届けたり、電話番したり門番したりしながら屋敷のことを調べていった。

どちらかと言えばインケスタやレザドの得意分野なんだろうがキンジがインケスタで助かったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、7日目の21時30分

コンコンというノックの音に、俺はベッドから体を起こしてから

 

「はい?アリア、キンジ?」

 

「……」

 

しかし、部屋の外の気配は返事をしない。

机の上においてあるデザートイーグルを掴むとドアに慎重に近づくと一気にドアを開け放った。

 

「?」

 

誰もいない。

廊下を見渡すが誰も……いや……

 

「まさかな……」

 

一瞬、見えた銀髪が廊下を曲がるのを捉えていた俺はそちらに向かい走り出した。

あいつがこんなとこにいるわけがねぇ

そう思いながら走るが銀髪の人物はおちょくるように俺が直線で目視できる場所にくるたびに廊下の角を曲がる。

なびかせる銀髪だけを残して……

ローズマリーか?

確証はある。

廊下に漂うこの匂いはローズマリーという花から作られていた特殊な香水だ。

 

そういや、マリも最近通販で買って使ってるんですよとか言ってたな。

確か、ローズマリーの花は愛を象徴するとか言ってた気がする。

 

「!?」

 

はっとして、足を止める。

目の前でぱたんと閉じた木の扉。

逃げ込んだならここしかない。

この通路の扉はあそこだけだからな。

 

アリア達を呼ぶか一瞬迷うが、悠長に待つことが俺にはできなかった。

ジャンヌの進言に従いデザートイーグルに銀弾を込めてからドアをゆっくり開き中の様子を伺う。

ローズマリーは……いた。

いつもの黒いゴシックロリータの黒いドレスを着て窓ガラスに頭ををつけて座っている。

見た目だけならお人形を思わせるその容姿はアリアやレキ、理子といったいわゆる美人とはまた、違う美しさを兼ねていた。

 

「動くなローズマリー!」

 

デザートイーグルを向けながら俺は言った。

ローズマリーは憂鬱そうな顔を窓から離して俺を見るとにこりと微笑む

 

「こんばんわですの優希」

 

「ふん、のこのこ出てきやがって。そういや、お前、イ・ウーの関係者だったな。ブラドならいないぜ」

 

「彼に用はありませんの優希」

 

「何?」

 

「クッキーを作ってきましたの優希食べて下さるかしら?」

 

そういうとローズマリーはバスケットを取り出し床に置いた。

 

ドオオオン

 

運がいいのか悪いのか雷が鳴ると同時にバスケットがデザートイーグルの弾丸で貫かれた。

中にあったクッキーが飛び散る。

 

「ひどいですわ優希」

 

ローズマリー人差し指を唇に当てる。

たったそれだけなのに妖艶な姿に見える。

だが、俺の心は痛まない。

 

「ふざけるなよお前、毎回毎回」

 

まるでもてあそぶように現れるローズマリー。

あるときは助け、ある時は敵になる。

今回だってどちらか分からない。

 

「頭に両手を乗せてうつ伏せになれ!」

 

「優希はそんな体制が好みですの?」

 

にこりとローズマリーは微笑む。

すでに、俺の体は汗びっしょりだった。

底知れない化物。

それがこの女だ。

準備は万端ではない。

やり合って勝てるのか?

 

そう考えていた時、ローズマリーの姿が消えていた。

陽炎のように部屋が揺れている。

しまったこいつは炎か幻覚

 

「優希」

 

「うっ!」

 

優しい聖母のような声は後ろから

 

ふわりと俺の背中からローズマリーは両腕を首に巻き付けてきた。

締め付けるのではなく優しく母が子供を抱きしめるように

部屋にある鏡越しに俺たちは目が合う。

 

赤い瞳のローズマリーはクスクス笑いながら

 

「捕まえましたわ」

なんて失態だ。

ローズマリー相手にろくに準備もせずアリア達に援軍要請しなかった俺の致命的なミス。

殺される。

この女がその気になれば俺を焼死させるなど赤子の手を捻るより容易いだろう。

 

「……」

 

打開策を探る中でローズマリーは微笑みながら

 

「優希ブラドと戦うんですの?」

 

ここは会話で時間を稼ぐしか……

 

「だったらなんだ?」

 

「そうですの?では、言いこと教えてあげますの」

 

「くっ!」

 

ぞくりと背筋が凍るような感触。

ローズマリーが俺の首筋をなめたのだ。

ドオオオオン

 

再び雷がなった瞬間俺は渾身の力でローズマリーを背負い投げる。

だが、ローズマリーはふわりと地面に着地するとまるで俺の首の味を楽しむように人差し指で自分の舌を舐めてから。

 

「優希、死なないでくださいましね。私の騎士様」

 

窓が開け放たれて雨が振り込んでくる。

 

「ま、待ちやがれ!」

 

雷と同時にデザートイーグルをフルオートで撃つがローズマリーは蒼い炎に包まれながら窓から落ちていった。

窓に駆け寄って辺りを見るがローズマリーの姿はなかった。

逃げたか……

多分、追っても無駄なので窓を閉めて廊下に出た時、着信があった。

 

「ん?アリアか?」

ディスプレイに表情されたアリアの文字を見ながら通話ボタンを押す

 

「はい」

 

なるべく平静を装って俺は電話に出た。

「ゆ、優あんたもきなさい!アプリで遊ぶわよ!遊戯室であたしもキンジも待ってるわ」

 

アプリで遊ぶは以前に決めた暗号で理子との連絡を意味する。

だがあれ深夜2時からだぞ

 

「まだ、早いだろ」

シャワー浴びたいしな

ドオオオオン

 

再び雷が落ちた音。

近いな

 

「ひゃああ!」

 

ああ、そういや……アリア

 

「い、いいからすぐ来ること!あたしが来いといったらすぐ来るっ!こなきゃ風穴」

 

「了解。今から行くよ」

 

苦笑しながら切れた電話を見ながらローズマリーに舐められた首筋を撫でるとネトリと粘膜が感じられた。

 

いいこと教えてあげますの。

これだけでは分からない。

あいつは何が言いたかったんだ?

アリアの電話で気持は晴れたがその疑問だけは考えなければならないだろうな……

そんなことを考えながら俺は遊戯室を目指すのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第93弾 レオポン姉弟現れる

「何……してんだ?」

 

遊戯室に入るなり俺は言った。

なぜなら、アリアとキンジが抱き合うように倒れていたからだ。

 

 

「こ、ここここれはちが……ちがうんだか……」

 

ガガアアアン

 

うお、雷近いな。

 

「くぅ~」

 

小動物のように震えながらキンジに抱きつくアリアを見て納得した。

ああ、アリア雷怖いもんな。

 

スカートの裾をぎゅぅーと掴んで恐怖に震えるアリアは、それでも貴族のプライドは捨てていない。

頼ってるんじゃないって感じに涙目を下向きに逸らしているのだ。

キンジがごまかすように横を向いた。

ああ、確かに今のアリアはやばいよな……ぶるぶる震える小動物のようなアリアは殺人的にが虐殺的なぐらいかわいいのだ。

「ほ、ほら、怖くないって。大丈夫だ。俺が、この部屋にいてやるから」

 

キンジが言いながらアリアを離すがアリアは相変わらず怯えきったままでびくびくしてる。

仕方ねえ助け船を出すか

 

「キンジ、こ……っと」

 

不味い不味いローズマリーのせいで女性モードが切れていたな。

よし、集中してと

 

「キンジさん。これを」

 

言いながら携帯のレオポンをキンジに見せる。

キンジは納得したらしく

 

「アリア、雷なんか怖くない取って置きの助っ人を呼ぶわ」

柔らかに微笑んでアリアを安心させるように言う。

 

「す、助っ人?」

 

「そうだ。いまこの館にいる」

 

「こ、ここにはあたし達しかいないじゃないっ。先生は地下室に籠ってるし」

 

まあ、ローズマリーもいたんだがこの際あいつは無視しよう。

俺たちははビリヤード台を挟んで反対側に回ると屈んで台に身を隠すと俺たちはは携帯のレオポンをビリヤード台伸ばして上に押し出す

 

「おっすアリア奥入瀬レオポン君」

 

「私はレオポンちゃん」

 

互いにレオポンの前足を挨拶するように掲げて見せる。

 

「地上最強の猛獣だぞ。おぉーアリア、お前、何か、怯えた顔してんなぁ」

 

「どうかしたのアリアちゃん?」

 

俺のレオポンは女性みたいに心配そうに前足をを合わせて見せる。

こっそりアリアを見るとアリアはレオポン達にこくこくと頷いていた。

 

「何か怖いのか話そうアリアちゃん。私達姉弟が話を聞くわ」

 

言ってみてから姉弟なの!と自分で突っ込む。

 

「……か、カミナリ」

 

アリアよ……やっていてなんだがいいのか……

 

「はっ、心配すんな!そんなモン、おいら達レオポンスキル双頭の吠え声術で追っ払ってやるぜうおー!」

 

 

「がおー!レオポンちゃんだぁ!」

 

俺たちは前足を持ち上げ熊が威嚇する時と同じようなポーズをとらせる。

 

 

「お、追い払ってくれてるの?」

 

「ああ、おいら達の吠え声は邪悪なカミナリ雲を遠ざけるんだ!うぉー」

 

「ガオーアリアちゃんから離れろカミナリ雲ぉ!」

 

やばい、やってて少しだけ恥ずかしくなってきた……

まあ、これはでたらめでもない。

いや、レオポンにそんな力はないが雷は近づいたら必ず遠ざかっていくのだ。

現に再び雷が鳴るが距離はかなり遠い

 

「……た、確かに遠ざかってるわ!すごい!」

 

アリアはレオポン姉弟の力を信じたらしくビリヤード台を回ってきた。

俺とキンジもレオポンを走るように動かしてアリアを迎え、レオポンはアリアにむしりとられ、ぎゅうううう。

 

「ありがとう!ありがとうレオポン姉弟」

 

つり気味の目を細めて思いっきりレオポン君を両手で抱いて頬擦りした。

ついでに俺たちをふんわりスカートのオシリで押し退けて、レオポン3人の世界に没収する。

ま、雷が怖いのをレオポンに依存して恐怖をまぎらわそうとしてんだな。

隣でキンジが不満そうにしてるのでフフフと笑いながら

 

「キンジさん。私たちはレオポン姉弟以下の存在なのね」

 

「そうだな……」

 

ま、かわいいアリアが見れたからいいとしときますか……

さてと、次は理子との定時連絡だがまだ、時間あるな。

そう思いながら窓の外を見る。

当然、ローズマリーの姿はなく闇が世界を覆っている。

 

「……」

 

嫌な夜だなと俺は思いながら窓から離れた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第94弾 ヒーロー

時刻は深夜2時。理子との定時連絡の時間がきた。

まあ、使う通信機器は携帯である。

今回はドロボーが任務なのでコネクトの支援は無理だからな。

複数の人数が話せるサービスを利用して通話を開始する。

 

「みんな聞こえるか?」

 

「聞こえてる」

 

と、キンジ

 

「聞こえてるわ。理子、あたしの声はどう?」

 

「うっうー!トリプルおっけー!それじゃアリアから中間報告ヨロ!」

 

テンション高いな理子……夜型なんだな。

 

「理子。あんたの十字架はやはり地下の金庫にあるみたいよ。一度、小夜鳴先生が金庫に出入りするのを見たけど……青くてピアスみたいに小さな十字架よね?棚の上にあったわ」

 

「そう、それだよアリア」

 

「だが、地下にはいつも小夜鳴がいるから侵入しにくいぞ。どうする」

 

「だからこそのチームなんだよ、アリアとキーくんは。超・古典的な方法だけど「誘きだし」を使おう。先生と仲良くなれた二人が先生を地下から連れ出して、その隙に一人が十字架をゲットするの。具体的なステップは……」

 

と理子の説明が終わる。

 

「分かったユーユー?」

 

なぜ、俺が名指しされるかわからんが……

 

「ああ」

 

毛布を頭に被り小声で返す。

 

「あ、アリアそれと後一つ確認なんだけどね」

 

「何よ?」

 

少しだけ理子の言葉が沈む

 

「十字架と一瞬に何か横に置かれてなかった?」

 

「何かって……銃弾が一発ケースに入れられて置かれてたわ」

 

「口径は分かる?」

 

「45ACP弾よ。あたしも使ってるから多分、間違いないわ」

 

「おい、何の話してるんだ?」

 

キンジが会話に割り込む

 

「その銃弾に何かあるのか?それも理子のなのか?」

 

だとしたらおかしな話だ。

理子のワルサーと違うそな銃弾。

武偵弾か何かか?

 

「理子の宝物だよ。でも、十字架を優先して回収して」

 

会話が終わり電話を俺は切るときれたばかりの携帯を見ながら思った。

その銃弾何かあるな……

取り戻す必要があるな……

そのためにはこの泥棒作戦をなんとしても成功させないとな……

そう思いながら俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。

あのルーマニアの城の夢だ。

牢獄の鉄格子越しに少年は少女に話しかけてブラドを倒すと少年は宣言した。

少女は虚ろな目で少年を見て無理だよと言った。

 

「無理じゃない!僕は椎名の天才なんだ!理子ちゃんは必ず僕が助ける!師匠と合流できたらどんな相手にだって勝てるよ!」

 

 

 

ああ、これは俺の記憶だ……どうしようもないぐらい世間知らずのガキだった俺の……正義の味方は絶対に負けないと信じていたあの頃の……

 

「本当?」

 

少女……幼いぼろ布を纏う理子が言った。

 

「本当に助けてくれるの?私この城から逃げられるのブラドから解放してくれるの」

 

「うん、だって僕はヒーローだから!」

 

「ヒーロー?」

 

理子が何を言ってるか分からないというように首をかしげる。

 

「ヒーロー知らない?ヒーローはね。女の子を決して見捨てないんだ。だから、僕は世界一のヒーローになるんだ」

 

「じゃあ……は……の……ね」

 

理子が何かを言った。

瞬間、俺は目が覚めた。

体を起こして辺りを見回す。

 

「最低だな……俺……」

 

あの夢は記憶だ。

だが、今まで忘れていた記憶……

あんなことを言って俺は理子を見捨てたのか……

もし、今回ブラドを逮捕できなくてもいずれ、必ず逮捕してやる。

ローズマリー共々な。

決心を固めると俺は洗面所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

潜入10日目の夜、窓から雲間に満月が見えてる。

広い食堂で俺達は小夜鳴に夕食を出していた。

潜入捜査ってのは怪しまれないようにするのが基本だからな。

 

「山形牛の炭火串焼き、今日は柚子胡椒添えです

 

俺が作った料理をキンジが出している。最初はアリアに任せようとしたんだがアリアは理子との特訓でオムライスだけは作れるようになったが別のメニューはキッチンで爆発が起こったりとんでもない味のメニューが出たりと命が危ないので俺が担当することにしたのだ。

ちなみに、料理は古賀先輩に叩き込まれたのもあるが元々、ある程度は作れるので腕前はアリア以上ではあるのだ。ま、とはいえ古賀先輩に叩き込まれた料理もあまり意味を為さなかった。

なぜなら、小夜鳴は簡単な料理しか注文してこなかったのだ。

串焼き肉。

毎晩それでニンニクを使うなとか注意はあったが実に簡単な料理なのだ。

栄養は片寄るがまあ、正直この先生のことだしどうでもいいな。

料理を出したら食堂の片隅で立って指示を出すだけだ。

楽なバイトだな。

小夜鳴が選んでいた古い洋レコードが夜想曲を奏でている。

 

「フィーブッコロス」

 

ん?

月光に照らされ出された庭のバラ垣を見て気分良さそうに呟いた小夜鳴にアリアが何か外国語で話しかける。

 

「驚きましたね。語学が得意なんですか神崎さんは」

「昔、ヨーロッパで武偵をやってましたから必要だったんです。先生こそどうして……ルーマニアをご存知なんですか?」

 

「この館の主人が、ルーマニアのご出身なんですよ。私たちは、ルーマニア語でやりとりするんです」

 

といった小夜鳴は初めてアリアに興味を持ったように

 

「神崎さんは何ヵ国語できるんですか?」

 

「えっと。17か国語喋れます」

 

「フィーブッコロス!素晴らしい。もしかして、月島さんも数ヵ国語がしゃべれたりしますか?」

 

どうやら、女装してる俺は知的に見えるらしく小夜鳴が聞いてくる。

 

「私はアリアと違って頭が悪いので7ヶ国語しか喋れません。ルーマニア語も……申し訳ありません」

 

「いやいや、謝らないでください! 最近の女性は優秀な方が多い。遠山君はどうですか?」

 

「日本語だけです……」

 

劣等感を感じたのかキンジが小さく言った。

ま、アリアはともかく俺は我流で覚えたからな。

というか覚えないと死にかねない状況もあったから……

感謝はしてるけどな。

 

「しかし、神崎さんはぴったりですね」

 

「?」

 

「あの庭のバラは私が品種改良したもので17種類のバラの長所を集めた優良種なんです。まだ、名前だけが無かったんですがアリアにしましょう」

 

深紅のバラにいきなり自分の名前を命名されたアリア目を丸くした。

 

「フィーブッコロス。アリア。いい名前です。神崎さんのおかけで、しっくり来る名前をつけられた。フィー・フエリチート―アリア」

 

ワインで酔ったのか小夜鳴はご満悦だった。

面白くない……アリアを口説いてるわけではないんだがあの空気はなんとなく腹が立つな……

そういえば、小夜鳴は武偵高の女子生徒に手を出すとか噂があったな……

うぉーんと森から野犬か何かの遠吠えを聞きながら俺は小夜鳴の食事が終わるのを待つのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第95弾 優希vsブラド―炎のガバメント

その日の夜も電話会議を行なった。

作戦結構は4日後、ここで働く最終日だ。

 

「理子、優、キンジマズいわ。掃除の時調べたんだけど……地下金庫のセキュリティが事前調査の時より強化されてるの、気持ち悪いぐらいに厳重。物理的な鍵に加えて、磁気カードキー、指紋キー、声紋キー、網膜キー。室内も事前調査では赤外線だけってことになってたけど、今は減圧床まであるのよ」

 

「な、なんだそりゃ」

 

キンジが言うのも無理はない。

こんな馬鹿みたいな警戒、米軍だってやらないぞ。

もう、俺だけなら手も足もでない。

小夜鳴をぶっとばして強奪するぐらいしか思い付かん。

もう、ブラド探してぶっ飛ばして返してもらうのがいいんじゃないか?

 

「よし、そんじゃプランC21で行くかぁ。キーくん、ユーユー、アリア何にも心配いらないよ。どんな厳重に隠そうと理子のものは理子のもの!絶対お持ち帰り!はう~!」

 

ま、俺一人には無理でも理子のサポートがあればいけるかな……

にしても夜中にハイテンションだな学生なのに

 

「んで、いま小夜鳴先生と仲良しランキング上位は誰かな?かなかな?」

 

「俺とアリアだな。」

 

「確かに、新種のバラにアリアとか命名されて喜んでたもんな」

 

とげのある言い方だなキンジ

 

「よ、喜んでないわよ!何言ってんの馬鹿なの?」

 

「おいアリア、気をつけろよ?小夜鳴には、女関係で悪いウワサがある」

 

「やめてくれキンジ!女装してんだから俺も気をつけねえと駄目じゃねえか」

 

まあ、万が一そんなことになったらボコボコにするけどな

 

「別に……悪い人には見えないけど」

 

意地を張ってるのかアリアが言う。

 

「いや。俺には怪しく見えるぞ。少なくても、あまり好きじゃない」

 

「だな、俺も気に入らない」

 

「おお?おおおー?痴話ゲンカってやつですか?」

 

嬉しそうに理子が割り込んできたので違うと三人の声がはもる。

 

「じゃあ、とりあえず先生を地下金庫から遠ざける役目はアリアとユーユーに決まりね!どう?できそう?」

 

「彼は研究熱心だわ。誘き出しても、すぐ研究室のある地下には戻りたがると思う」

 

「そこは俺もサポートする。古賀先輩にいろいろ教えてもらったからなんとかなるだろ」

 

「キーくん、ユーユー、アリアじゃあ時間でいえば何分くらい先生を地下から遠ざけられそう?」

 

「10~15分だな」

 

「うーん」

 

理子は少し考え込んでいるようだった。

さすがに厳しいか?

 

「なんとか15分頑張れないかな?例えばアリアが」

 

「たとえばあたしが?」

 

「ムネ……はないからオシリ触らせたりして。くふっ」

 

「ば、ばか!風穴!あんたじゃないんだから」

 

やれやれだな

 

「じゃあユーユーが熱烈に迫って……」

 

「断る!」

 

冗談じゃないぞ

 

「くふっ、まぁその辺は理子が方法考えとくよ!じゃ、また明日の夜中2時にね!りこりん、おちまーす」

 

ぷつんと理子との電話が切れてしまう。

 

「俺も落ちる。おやすみ」

 

まだ、回線が繋がってるはずのキンジとアリアの回線を切ってから携帯を枕元に投げて横になる。

さて、いよいよ大詰めだなこの作戦も……ブラドは帰ってくる気配を見せていない。

やはり、今回で理子を助けるのは無理か……この作戦が終わったら千鶴や実家に協力してもらってブラドを探してみるかな……

公安0も居場所ぐらいは掴んでるかもしれないし……

土方さんあたりに今度、ダメ元で聞いてみるかな……

 

そんなことを考えながら目を閉じていると眠気が襲ってくる。

ああ、寝るか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲゥゥウアババババハハハハハハハ。どうした椎名の天才とやらの力はそんなもんか?少しは期待した俺が馬鹿だったかぁ?」

 

「がっ……くそ……」

 

 

この記憶……

相手は闇がかかったような巨大な化物。

その正面には日本刀を地面に指してなんとかたっている。

少年の姿があった。

思い出した……これは……

 

「撒き餌は大人しく檻に戻れ。それとも4世と交配させるか?ゲゥゥウアババババハハハハハハハ!」

 

「お、お前は悪だ……僕は理子ちゃんを助けるんだ!ヒーローは絶対に負けない!」

 

「ゲゥゥウアババババハハハハハハハ!ヒーローだぁ?おい、餓鬼、笑わせてくれるよなぁ。そのヒーローさんはどうやってメス犬を助けるんだぁ?」

 

「くっ……」

 

ぽたぽたと落ちる血痕。

今、少年のもつ全ての剣を叩き込んでもブラドは倒せない。

だが、それでも少年は荒く息をはきながらも目を細めて構えを取る。

 

「まだ、やんのか?いい加減あきてきたな」

 

「うわああああ!」

 

その突進は少年の持つ最大の速度だった。

ブラドが右腕を震う。

刹那の瞬間、交わすと少年は一瞬、しゃがみこむと加速する。

 

「飛龍一式断風!」

 

「おっ!?」

 

ブラドの右腕が落ちる。

背後に回ってきた少年は追撃を緩めない。

石を蹴ると空に舞い上がる。

殺すつもりでやると少年は思った。

それぐらいやらなければ勝ち目はない。

 

「飛龍一式!雷落とし!」

 

「ぐぎゃあああああ」

 

ズンと手応えがありブラドが悲鳴をあげ、頭からまたまで真っ二つに切り裂かれる。

同時に、少年の剣が限界を迎えて折れる。

やったと少年は思った。

だが、それは絶望だった。

 

「やるじゃねえか」

 

「!?」

 

驚愕に目を見開いた少年の頭を闇からぬっと現れた手が掴む。

 

「ぐっ、なんで!」

 

「ゲゥゥウアババババハハハハハハハ!やったかと思ったか椎名?」

 

ぎりぎりと万力のようにブラドの手が握力を強める。

 

「ぎ、あああああああ!」

 

激痛に悲鳴をあげるとブラドは喜ぶように笑いながら

 

「どうしたヒーロー。もう終わりか?」

ぎりぎりと力が込められる。

何もできない自分が悔しい。

激痛と悲しみに少年は泣いた。

やがて、少年の手はだらりと下を向き持っていた折れた剣が地面に落ちた。

 

「ゲゥゥウアババババハハハハハハハ!悪にまけたヒーローか?こんなことするなんてお仕置きが必要だなぁ4世」

 

ブラドが言った時

 

シャン

 

「ああん?」

 

鈴の音だ。

 

ドドドドドド

6発の銃声が轟き、ブラドは握力を失ったことに気付いた。

少年が地面に落ちる。

 

「あ……」

 

目をあけ、闇から現れた人を見て少年は言った。

 

「師匠……」

 

シャンと髪につけた鈴の髪飾りをつけたその少女は炎の装飾が施されたガバメントを手に微笑んだ。

 

「随分、ぼろぼろだね優希」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると外は明るかった。

そうか……また、思い出した……

ブラドと戦った時、やっぱり師匠が助けてくれたんだ……

枕元においてある炎の装飾が施されたガバメントを手に取る。

 

「姉さん……」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第96弾 女装の真髄

そして、ついに紅鳴館で働く、最終日がきた。

作戦決行は俺たちが館を去る1時間前―午後、5時。

アリアと相談した結果、最終日だから、庭で改良種のバラアリアの話を聞きたいという理由で小夜鳴をおびきだすこととなった。

その間にキンジは理子の宝物を取り戻す。

俺はキンジに頼んで余裕があればケースに入ってるという45ACP弾も回収してくれるように頼んだ。

そうなると陽動は重要だ。

俺は古賀先輩に頼んで花の知識等を電話で教えてもらい挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました神崎さん月島さん」

 

研究室から出てきた小夜鳴。

さて、ラストミッションだ。

 

「いいえ、お忙しいところを無理にすみません」

 

アリアが言うがぼろがでないのを祈るだけだな

 

「構いませんよ。あまり、時間はとれませんがそれでよろしければ」

 

「フフフ、今日を私楽しみにしてました小夜鳴さん

 

 

あえて、先生とは言わずさんで呼ぶ。

古賀先輩いわく仲良くなるステップだ。先生→さん

 

「ハハハ、じゃあ行きましょうか神崎さん、月島さん」

 

スルーされたか……あるいは鈍感なのか……

とりあえず作戦開始だな。

 

「ユーユー、アリアキーくんが動いた」

 

理子の声が小型のイヤホンから聞こえてくる。

キンジは地上階から金庫の天井までもぐらのように穴を伝って到達し……そしてその天井から、コウモリのように逆さ吊りになったキンジがお宝を頂戴するのだ。

今、キンジは理子の支持を受けて作業を開始してるのだろう。

 

「……のように私は改良を施したのがこのバラ、アリアなんです」

 

「素晴らしいです。こんなに美しいバラを作ってしまわれるなんて小夜鳴さんはすごい方なんですね」

 

とにかく、誉められれば気分は悪くならない。

小夜鳴が調子に乗れば話を長引かせることも不可能ではないだろう。

 

後3分……余裕で引き延ばせる。

と思った時

嘘だろおい

雨粒が頬に当たる。

 

「おや?雨のようですね」

 

小夜鳴が空を見上げながら言った。

ま、まずいぞ。

 

「雨も降ってきましたしそろそろ戻りましょうか?楽しかったですよ神崎さん、月島さん」

 

屋敷に戻り始める小夜鳴先生を見て俺達は焦った。

小声でメイド服に仕込んだマイクで理子に状況を伝えてから

アリアが瞬き信号でなんとかしなさいよ言ってくる。

 

「アリア。ユーユー、まだ、キーくんは時間がかかる。なんとか会話ひっぱって。もたせて」

 

 

理子の指示を受けてからアリアが焦ったのか

 

「さ、小夜鳴先生」

 

「なんです?」

 

「あ、いえ、なんでめないんですけど。えっと」

 

「……はい?」

 

「いい天気ですね」

 

「えっ……?雨、降ってきてますけど……」

 

「え?あっ。えーっと、あ、雨好きなんですあたし!あははは」

 

駄目だ。

アリアには任せられんか……てんぱりすぎだ。

ハニートラップは嫌ならと古賀先輩に教えられた手段を使うしかないか……

俺はポケットから素早くカプセルを飲み込む。

その瞬間、理子との回線が切れた音がしたが……気にはしない。

全神経を使ってなりきるのだ。

 

「あっ……」

 

小夜鳴に聞こえるように言ってから額を押さえて庭に座り込む。

 

「月島さん?どうかしたんですか?」

 

よし、小夜鳴が戻ってきたぞ

 

「はぁ……はぁ……すみません……小夜鳴さん……アリア……私、黙ってたんですが病気なんです……今朝、飲まないといけない薬を飲み忘れて……」

 

「どうして黙ってたんですか?」

 

顔は真っ青になっているだろう。

実際、こいつは貧血を誘発する薬だからな。

 

「じ、小夜鳴先生に働けないと迷惑かくたくなくて……すみません……」

 

「辛いんでしょう?なんとか館まで戻れませんか?」

 

「はぁ……はぁ、あ、アリア」

 

「え? な、何?」

 

突然、名指しされたのでアリアが聞き返してくる

 

「く、薬を取ってきてください……私の部屋の机の中に……」

 

「わ、分かった。戻るまで頑張りなさい」

 

アリアまで本気にしたのか!急ぐなアリア!ゆっくりしろ!

 

「で、では私は傘を……」

 

「ま、待ってください!」

 

ここで戻られたらアウトだ

必死に小夜鳴の服を掴む

 

「つ、月島さん」

 

「て、手を握っていてください……この病気は精神的なものでもあるんです」

 

「わ、分かりました」

 

そっと、小夜鳴が俺の右手を握ってくる。

今、の奴には病弱な少女にしか見えていまい。

古賀先輩いわく、病弱な美少女は男心をくすぐるらしい

 

「ああ……最後まで迷惑かけてすみません小夜鳴さん」

 

「とんでもありません。すぐに、救急車を……」

 

携帯を取り出そうとした小夜鳴の手を俺はそっと上から押さえ、上目遣いに見上げる。

 

「救急車は嫌いなんです……薬があれば楽になりますから……」

 

「し、しかし……分かりました」

 

ザアアアと雨が降るなか時間は稼いだぞ。

案の定、アリアが高速で戻ってきて薬を差し出してきたので水がないと飲めませんとアリアを走ら、更に時間を稼ぎ薬を飲み終わると小夜鳴に肩を借りて、ソファーまで行き。

結果的に一時間以上という時間を俺は稼ぐことに成功したのだ。

 

もう、今後一切!二度と!絶対にやらないぞ!女装なんかな!

 

 

 

 

 

 

 

こうして、キンジと合流し、小夜鳴は何度かすみませんと謝りながら研究室に戻ってしまった。

 

やれやれと、私服に着替えキンジに肩を借りながら紅鳴館を後にした。

ちなみに、キンジとアリアは武偵高の制服だが俺は外で着替えた。

防弾私服でGパンとジャケットとシャツだな。

かつらだけはある理由からつけているから半女装状態ではあるが男ものの服を着る女性もいないわけではないので問題はないのだ。

 

「で?キンジ手に入ったか?」

 

タクシーを待ちながら俺が言う。

 

「ああ、優が言ってた分も手に入った。理子も嬉しそうにしてたな」

 

そういいながらキンジはポケットからケースに入った弾丸を俺に見せてくる。

 

「ちょっといいか?」

 

「ああ、優が持ってろよ」

 

俺はキンジからケースを受け取りまじまじと弾丸を見てみる。

なんのへんてつもない。

ただの45ACP弾だ。

だが、その瞬間頭痛がした。

 

「……っ!」

 

思い出した……こいつは……

横浜ランドマークタワーのエレベーターで上昇しながら俺は弾丸をポケットにしまった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第97弾 裏切り

ランドマークタワーの屋上にいるということを理子に聞いて外に出ると湿った海風が強く吹いていた。

うわ、空の雲、雷雲じゃないよな……

周りフェンスないから落ちたら死ぬなー

 

「キーくぅーん!ユーユー!」

 

蜂蜜色の髪を風になびかせながら例の改造制服を着た理子が駆け寄ってくる。

そして、キンジに抱きついた。

 

「やっぱりキーくん達チームは最高だよ!理子にできないことを平然ととやってのける!そこにしびれるあこがれるぅ!」

 

理子は大きなふたえの目をキラキラさせて胸元からこっちを見上げてくる。

頭にでかい赤りぼんを増設してるな。

 

「キンジ、優。さっさと二つともあげちゃて。なんかソイツが上機嫌だとムカつくわ」

 

「おーおーアリアンや。チームメイトとられてジュラシーですね?わかります」

 

ハハハ、アリアんって

理子はアリアを横目で見ながらキンジの胸に頬擦りしている。

ちがうわよぎぃー!とアリアが怒鳴るのを見て俺はケースに入った弾丸を渡す。

「ほら」

 

「あ……」

 

短く理子は言ってケースを一瞬見てから何かを決意するように目を閉じて開いた。

 

「それ捨てといてユーユー」

 

え?

目を丸くして

 

「捨てる?大切なものなんだろる?大切なものなんだろ?」

 

「うん……大切な宝物だよ……でも、理子のヒーローは理子を助けてくれなかったからもういらないんだ」

 

それってまさか……

 

「さ、さ!キー君出して出して!」

 

俺が何かを言う前に理子はキンジにおねだりを始めてしまったので弾丸はポケットに入れておいた。

 

「やるから離れろ」

 

十字架を見た理子は弾丸とは対照的に声にならない喜びの声をあげたかと思うと首につけていた細いチェーンに、手品のような素早さで繋いでしまう。

 

「乙!乙!らん・らん・る―!」

 

理子は跳び跳ねたり両手をしゃかしゃゃかふりまわすわ最高のハイテンションぶりだ。

おい、理子スカートの中見えるぞ……キンジ目をそらしてるし……

にしても……

弾丸の入ったケースをギュッと握ると俺はため息をついた。

 

「理子。喜ぶのはそのくらいにして、約束はちゃんと守るのよ」

 

怒りモードのアリアさんが腕組みしてこめかみをぴくぴくさせながら釘を刺す。

 

「アリアはほんっと、理子のこと分かってなぁーい。ねえ、キーくぅーん」

 

理子がキンジを手招きする。

キンジが近づくと理子は蜂蜜色の髪を留めている大きな赤りぼんを向けている。

「お礼はちゃんとあげちゃう。はい、プレゼントのリボンをほどいてください」

 

ん?なんだろう?

キンジが理子のリボンをといた瞬間、理子はキンジにそっとキスをした。

おいおい……

一瞬、意味がわからなかったがキンジの感覚が変わったのを見て納得した。

ヒステリアモードに

 

「ぷはぁ」

 

唇を離した理子がぺろっとおまけにキンジの鼻をなめる。

 

「り……りりりりり理子おッ!?な、なな、ななな何やってんのよいきなり」

 

「ごめんねぇーキーくぅーん、ユーユー。理子、悪い子なのぉ。この十字架さえもどってくれば理子的にはもう欲しいカードは揃っちゃったんだぁ」

 

にい、とあのハイジャックの時俺と戦った時の目で笑った。

 

「もう一度言おう悪い子だ、理子約束は全部ウソだった、って事だね。だけど……俺は理子を許すよ女性のウソは罪にならないものだからね」

 

相変わらずお前、ヒステリアモードの時は背筋かかゆくなるセリフを平然と言うよな……

まあ、それはそれとして

 

「ローズマリーの情報も嘘……か。ま、別にいいけどな」

 

理子が知ってる範囲の情報はジャンヌに貰ったからな

 

「とはいえ俺のご主人様は理子を許してくれないんじゃないのかな?」

 

怒りモードのアリアさんはキスのショックで固まってる。

 

「アリア」

 

キンジがパチンと指をならすとアリアははっとして犬歯をむいた。

 

「ま、まあ……こうなるかもって、ちょっとそんなカンはしてたけどね!念のため防弾制服を着ておいて正解だったわ。キンジ、優、闘るわよ。合わせなさい」

はいよ

 

日本刀に手を伸ばしながら俺は思う。

だが、戦闘狂の暗示はまだ、かけない。

 

「くふふっ。そう。それでいいんだよアリア。理子のシナリオにムダはないの。アリア達を使って十字架を取り戻して3人を倒す。キーくんも頑張ってね?せっかく理子が、初めてのキスを使ってまでお膳立てしてあげたんだから」

 

「先に抜いてあげる、オルメスここはシマの外、その方がやりやすいでしょ?」

理子はスカートからワルサーをP99を2丁取り出した。

 

「へえ、気が利くじゃない。これで正当防衛になるわ」

 

アリアもガバメント2丁を抜く

 

「なあ、理子」

 

その間に割り込むように俺は立った。

 

「何?ユーユー?最後だから聞いてあげるよ」

 

もし、この事実を知っていたなら俺はハイジャックの時、理子と戦えなかった。

忘れていたからこそ戦えたのだ。

 

「ジャンヌから聞いたんだお前がアリアを狙うのはブラドに成長を証明させるためだろ?」

 

「ジャンヌから聞いたんだ?それで?」

 

「なら、一つ提案がある」

 

俺はにやりと笑いアリアとキンジ、理子を見回しながら

 

「みんなでブラドを逮捕しようぜ」

 

理子が目を見開いた。

だが、すぐに目を落とすと

 

「無理だよユーユー……ブラドには勝てない……」

 

「やってみなくちゃわからないだろ?」

 

子供の頃より俺は強くなった。

一人で無理でもみんなで力を合わせれば……

 

「なあ、理子、アリア達と戦わなくてもいいだろ?二人が嫌がっても俺がブラドを……」

 

「……ざけ……な」

 

「え?」

 

理子はかっと悪魔のような表情で俺を睨み付ける。

 

「ふざけるな優希!お前のその言葉を8歳の時、聞いた!でもお前は戻ってこなかった!ブラドから逃げ出してイ・ウーから武偵高に来たときお前を見てまさかと思った!だけど神戸で確信したよ!上辺だけ助けて、奥までは助けない!お前は最低な男だ!」

 

「理子!」

 

「私を助ける?はっ、笑わせる!お前は今、銃を私に向けてるじゃないか!」

 

これは理子の悲しみ……裏切られた俺への失望……

そうか……理子ごめんな……

 

「なら」

 

俺はすっと理子に背を向ける。

 

「ゆ、優あんた!」

アリアが戸惑った声で俺を見る。

 

「悪いなアリア、キンジ、今回だけ俺、理子のヒーローになるから」

 

「ど、どういうつもりだ優希!」

 

理子が戸惑った声で俺に言ってくる。

 

「言ったろ?」

 

俺は静かに思い出した言葉を紡ぐ

 

「必ず……いつかブラドに勝てるだけの力をつけて帰ってくるから!絶対に理子ちゃん助けられるヒーローになって絶対に帰ってくるだから待ってて」

 

我ながら子供の頃とはいえ陳腐なセリフだな。

 

「でも、これが終わったらブラド倒すぞ理子。キンジ、アリア気絶したら負けな」

 

ルールを作ってキンジと対峙する。

そういや、キンジと戦うのはじめてだな。

依頼主さんよ……ま、気絶させるくらいなら契約違反じゃないよな?

 

「2対2だな」

 

キンジがべレッタを抜いたので俺もガバメントを抜きながら

 

「そうだな。キンジ、悪いけど俺の勝ちだ」

 

「どうかな?」

 

「ふざけるな!」

 

振り返らず俺はその言葉を背中に受ける。

そして、静かに振り替えると

理子の左右のツーテールが大振りのナイフを抜いていた。

 

「優希!お前は私の敵だ!お母様がくれたこの十字架は理子に力をくれる!」

 

「なら、後ろから撃てよ。抵抗しない」

 

そういって俺は再びアリア達と対峙する。

 

「優希!オルメス!遠山キンジ!お前達はあたしの踏み台になれ!」

 

駄目か……まあ、罪を受ける時が来たってことか……

背中に攻撃を覚悟した瞬間

 

バチッッッッッ!!

 

小さな雷鳴のような音が上がった。

音に俺が振り替える。

その愛らしい顔をいきなりこわばらせた理子は半分だけど、振り返った。

 

「……なん……で、お前が……」

 

と呟きその場に膝をついた。

 

「理子!」

 

理子が倒れてその理子を倒した相手が見えてくる。

な、なんでお前が!

 

「小夜鳴!」

 

 

そう立っていたのは大型の猛獣用のスタンガンを持つ紅鳴館の管理人だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第98弾 ドラキュラ

訳が分からない。

いや、最初から小夜鳴は敵だったと考えるべきだろう。

何せ、ブラドと知り合いなのだから。

じゃりと、足を動かした瞬間

 

「おっと3人とも動かないでくださいね」

 

「う……」

 

足を止めざる得ない。

小夜鳴は倒れた理子の後頭部をなんのためらいもなく狙う。

奏ちゃんの時と状況は似ているが銃に手がついていない今はあの時より状況は悪い。

だが、あの小夜鳴の銃……

クジール・モデル74。

社会主義時代のルーマニアで生産されていたオートマチック拳銃……

ん?

小夜鳴の後ろから二匹の銀狼が現れる。レキが従えたやつと同種か……

 

「前には出ない方がいいですよ。今より少しでも私に近づくと襲うように仕込んでありますんで」

 

「はっ、そんなもんで脅しになると思ってんのか?」

 

すでに怒りは沸点を越えて戦闘狂モードになっている。

だが、距離がありすぎて一手が打てない。

 

「月島さん。あなたは、そこのお二人の学芸会よりは演技はうまかったようですね。それがあなたの本性ですか?」

 

ん?

違和感を感じる。

どうやら小夜鳴は俺を椎名優希と認識さていないらしい。

好都合だなら、脅しをかけてやるか……

 

「よろしければ所属を言いましょうか?」

 

女性モードの時のように俺は微笑んだ。

 

「ええ、是非」

 

「公安0、月島優」

 

「公安0?ほう、本当なら彼らが何故、二人に協力してるのかは知りませんがこれは少し厄介ですね。ま、嘘でしょうが」

 

ばれたかまあ、かもしれないのレベルでも牽制にはなる。

日本国内で公安0と戦いたいと願う馬鹿はそういないはずだ。

そうこうしているうちに、銀狼が理子の拳銃やナイフをテキパキとビルの縁まで運んでは眼下に捨ててしまった。

 

「動かないで下さいね。この銃は30年前に造られた粗悪品でしてトリガーが甘いんです。つい、リュパン4世を射殺さてしまったら勿体ないですからねぇ」

 

ブラドから聞いたのか……リュパン4世と本名を知る人間は少ない。

なるほどな……潜入の前にばれてたのか……どうりで警備が厳重だったわけだ。

 

「どういうこと?なんでんたが、リュパンの名前を知ってるのよ!まさか……まさか、あんたがブラドだったの?」

 

「違うアリア!そいつはブラドじゃねえ!」

 

小夜鳴=ブラドという説を俺は否定する。

 

「彼は間もなくここに来ます。狼たちもそれを感じて昂ってますよ」

 

「それにしても、そのブラドから理子のことも聞いて、銃も狼も借りて、そのくせ会ったことがないだなんて半月前はよくも騙してくれたわね」

 

「騙したワケではないんです。私とブラドは会えない運命にあるんですよ」

 

「あの時あんた、ブラドはとても遠くにいるなんて言ってたけど……あのあと、コッソリ呼んで立ってわけね。あたしたちを泳がしてたのは一人じゃ勝てないからブラドの帰還を待ってたんでしょ?」

 

なんとか……理子さえ助けたら……

小夜鳴の戦闘力はたいしたことはない。

人質さえいなければ銀狼がいても勝てる。

だが、ブラドがくれば人質と合わせてキンジ達がいても不利だ。

特攻をかける手もあるが……

俺は銃を頭につきつけらる倒れた理子を見て歯をくいしばる。

必ず……助ける!

 

「遠山くん。ここで君に一つ補講をしましょう」

 

 

「補講?」

 

「君がこのリュパン4世と不純な遊びに耽っていて追試になったテストの補講ですよ」

 

やはり、気づいてないか……俺の名前を出さないということは……

アリアがキンジを睨み付ける。

にしてもあの補講がなんだ?

 

「遺伝子とは気まぐれなものです。父と母、それぞれの長所が遺伝すれば有能な子、それぞれの短所が遺伝すれば無能な子になります。そして……このリュパン4世は、その遺伝の失敗ケースのサンプルと言えます」

 

そこまで言うと、小夜鳴は倒れたままの理子の頭を蹴った。

まるで、ゴミ袋を蹴るような無慈悲さで。

 

「やめろ貴様!」

 

ぐっと足に力をいれかけるが動けない。

俺が動くより確実にトリガーを引く動作が早いからだ。

動けないことを知ってか小夜鳴が続ける。

 

「10前、私はブラドに依頼されてリュパン4世のDNAを調べた事があります」

 

「お、お前だったのか……ブラドに下らないことを……ふ、吹き込んだのは……」

 

足元で理子がもがきながら男喋りでうめく

 

「リュパン家の血を引きながらこの子には」

 

「い……言、う、な……!お、オルメスたちには……関係……な、い……!」

 

「優秀な能力が、全く遺伝していなかったのです。遺伝学的にこの子は無能な存在だったんですよ。極めて希なことですが、そういうケースもあり得るのも遺伝です」

 

言われてた理子は俺達から顔を背けるように地面に額を押し付けた。

 

本当に聞かれたくない相手にそのことを聞かれた絶望的な表情

 

「いいかげんにしろ……貴様……」

 

怒りで声が震える。

沸き上がるのは殺戮衝動。

目の前の男を殺したいという純粋な破壊衝動。

二度と使わないと決めたあの状態に俺は近づいている。

 

「自分の無能さは自分が一番よく知ってるでしょう、4世さん?私はそれを科学的に証明したに過ぎません。あなたには初代リュパンのように一人で何かを盗むことができない。先代のように精鋭を率いたつもりでも……ほら、この通りです。無能とは悲しいですね。ねえ4世さん」

 

無能、4世という言葉を繰り返す小夜鳴の足元で理子は涙を溢していた。

喉の奥から絞り出すように泣いている。

小夜鳴は手元からキンジがすり替えたニセモノの十字架を取り出した。

 

「教育してあげましょう4世さん。人間は遺伝子で決まる。優秀な遺伝子を持たない人間はいくら努力を積んでもすぐ限界を迎えるのです。今のあなたのようにね」

 

小夜鳴はその場に屈み、身動きが取れない理子の胸元から引きちぎるように青い十字架を奪いとった。

そして、ニセモノの十字架を痺れのせいで何の抵抗もできずにいる理子の口に押し込む。

 

「う! んん!」

 

理子が悲鳴をあげてのぞけるが小夜鳴は楽しそうに笑いながら

 

「あなたにはそのガラクタがお似合いでしょう。あなた自身がガラクタなんですからね。ほら。しっかり口に含んでおきなさい。昔、そうしていたんでしょう?」

 

背を伸ばした小夜鳴が、がすッと理子の頭を踏みつける。

 

「うう!」

 

理子の悲鳴

怒り、激怒。

自身でもわかる。

俺が小夜鳴に向けているのは殺気だ。

 

「い、いい加減にしなさいよ!理子をいじめて何の意味があるの!」

 

耐えかねたアリアが叫ぶ。

俺と同じく怒っているのだ。

 

「絶望が必要なんです。彼を呼ぶにはね。彼は絶望の詩を聴いてやってくる。この十字架も、わざわざ本物を盗ませたのはこうやってこの小娘を一度喜ばせてから、より深い絶望にたたき落とすためでしてね。おかげで……いいカンジになりましたよ。遠山くん。よく見ておいてくださいよ?私は人に見られている方が掛かりがいいものでしてね」

 

なんだ?何か小夜鳴の感じが変わっていく。

 

「ウソ……だろ……?」

 

キンジが絶句している。

まさか……

 

「そうです、遠山くん。これはヒステリア・サヴァン・シンドローム」

 

やはりか……

キンジ以外の家系にも持ってるやつがいたとはな

 

「ヒステリア……サヴァン?」

 

アリアが眉を寄せているがキンジも俺も何も言わない。

 

「遠山くん。月島さん。神崎さん。しばし、お別れの時間です。これで彼を呼べる。ですがその前にイ・ウーについて講義してあげましょう。この4世かジャンヌに聞いているでしょう。イ・ウーは能力を教え合う場所だと。しかしながらそれは彼女たちのように低い階梯の者達による、おままごとです。現代のイ・ウーにはブラドと私が革命を起こしたこのヒステリア・サヴァン・シンドロームのように能力を写す業をもたらしたのです」

 

「聞いたことがあるわ。イ・ウーのやつらは何か新しい方法で人の能力をコピーしてる」

 

アリアの指摘に小夜鳴は首を小さく振る

 

「方法自体は新しいものではありません。ブラドは600年も前から交配ではない方法で他者の遺伝子を写し取って進化させてきたのです……つまり、吸血で。その能力を人工化し、誰からも写し取れるようにしたのが私です。君たち高校生には難しいかもしれないので省略しますが優れた遺伝子を集めることも私の仕事になりました。先日も武偵高で遺伝子を集める予定でしたが遠山くんたちが除いていたおかけで失敗してしまいました。狼に不審な監視者がいれば襲うように教えたのがあだになりました。特にレキさんの遺伝子は惜しかった」

 

なるほどな……あれにはそんな理由が……

アリアがぎりと歯ぎしりした

 

「ブラド。ルーマニア。吸血……そう、そういうことだったのね。どうして気づかなかったのかしら。キンジ。優。ナンバー2の正体読めたわドラキュラ伯爵よ」

 

 

まじか……勘弁してくれよ

 

「ドラキュラ?それは架空のモンスターの名前じゃなかったのか?」

 

キンジが言う

 

「違うわドラキュラ・ブラドは、ワラキア今で言うルーマニアに実在した人物の名前よ。ブカレスト武偵高で聞いたことあるの。今も生きてる、って怪談話つきでね」

 

「正解です。よくご存じでしたね。三人ともまもなくそのブラド公に拝謁できるんですよ。楽しみでしょう?」

 

「でたらめだ!そもそも兄さんの力をコピーしたのならどうして理子を苦しめられる」

 

ヒステリアモードは女性を守るものだ確かにおかしい

 

「いい質問ですね。講師は生徒の質問に答えるのが仕事です。順を追って説明しましょう……むかーしむかし……」

 

どこまでもふざけやがって……

 

「この世には吸血で自分の遺伝子を上書きして進化する生物吸血鬼がいましあ。無計画だったらほとんどの吸血鬼は滅びましたが、人間の血を偏食していた一体ブラドは人間の知性を得て、計画的に多様な生物の吸血を行い強固な個体となって存在しました。しかし、ブラドは知性を保つために人間の吸血を継続する必要学生ありました。結果、ブラドには人間の遺伝子が上書きしてされ続けブラドはとうとう私と言う人間の殻に隠されることになりました」

 

ま、まさか……

 

「隠されたブラドは私が激しく興奮したとき、つまり私の脳に神経伝達物質が大量分泌された時に出現するようになっていきました。しかし永い時が流れるうち私はあらゆる刺激になれ激しくは興奮できなくなってしまったのです」

 

「なるほどな。それでキンジの兄さんのヒステリアか?」

 

にい、と笑った小夜鳴は踏みつけていた理子の頭をもうひとけりした。

 

「……」

 

理子の口からニセモノの十字架が地面に落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ かれ が きたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的な存在感がその場に現れようとしている。

この感覚は覚えがある。

公安0の沖田、ローズマリー……

化物が殺意を持って現れる前兆

だが、関係ない。

必ず勝つ……それだけだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第99弾 約束の弾丸

「へ……変、身……!?」

 

アリアが絶句した声をあげる。

今や小夜鳴は俺たちの前で洒落たスーツが紙みたいに破けその下から出てきた肌は赤褐色に変色し熊のように筋肉が盛り上がっていく。

文字通り変身だ。

だが、今しねえ!

呆然とするアリアとキンジを後ろに俺は地面を蹴った。

奴の銃が変身のために理子からそれた。

「ぐるおん!」

 

俺が動いたため狼達が動き出す。

走りながら右のワイヤーを発射するとポールに食い込ませ、宙を飛ぶ。

いかに、獣の足でも飛べない場所まできて、壁に足をつけてから弾丸のように理子と変身中のブラドに迫る。

狼が後ろから追ってくる気配がするがべレッタの発砲音とともに狼はきゃんと泣いて動かなくなる。

キンジが援護してくれたらしい。

みるみるブラドが迫る。

こいつは、化物だ。

そう言い聞かせて日本刀で右腕をぶったきる。

 

「飛龍一式!風切!」

 

居合いのモーションから膨れ上がった筋肉をまっぷたつに切り裂く。

理子をお姫様だっこし背中のワイヤーを巻き戻すと貯水タンクが置かれている高台に着地し、ブラドをにらむ。

 

「悪い助けるのが遅れた」

 

「……」

 

理子は複雑そうな顔で俺を見ていたが何も言わないし抵抗もしない。

ただ、目線をブラドに向ける。

 

「痛いじゃねえか女。変身中に攻撃はタブーじゃねえのかぁ?」

 

理子が萎縮したのが分かった。

久しぶりに聞くなこの声

 

「初めましてだな」

 

すでに声帯までの変わっている。

 

「おれたちゃ、頭ん中でやり取りするんでよ……話は小夜鳴から聞いてる。分かるか?ブラドだよ、今の俺は」

 

こちらを名乗る凶暴そうな目は黄金の輝きを放っている。

 

「久しぶりだなブラド」

 

理子をお姫様だっこしたまま戦闘狂の目で上から見下すようにブラドをにらむ。

 

「あん?だれだてめえ?いや、さっきの攻撃……飛龍……ゲゥゥウアババババババババ!そうか女、お前は椎名の直系だな?数年前に捕まえた犬に椎名の人間がいやがったな。逃がしちまたがな」

 

「その逃げたのが俺だブラド」

 

ばさばさと風を長いかつらに受けながら俺は言う。

 

「椎名優希だ」

 

「ほう」

 

ブラドは目を少し細める。

 

「あの時の撒き餌が何しにきたんだ?」

「てめえを逮捕しにきたんだよくそやろう」

 

「ど、どういうこと優。あんた、あいつと知り合いなの?」

 

アリア眼下にわけが分からないと言う風に言ってくる。

 

「黙ってて悪かったなアリア。俺は数年前にブラドと戦って負けたことがある」

 

正確には忘れてたんだがな……

 

「その話は後で聞くとして今は、あいつよどういうことなの優?」

 

ブラドの変身か……

 

「たぶん……」

 

俺が戦った時はブラドは最初からあの姿だった。

小夜鳴がまだ、刺激に慣れきってない時なんだろう「擬態、みたいなもんだったんだろ?」

 

キンジが説明をいれてくる。

俺に話させるとヒステリアモードの話になるかもしれないからな。

 

「ぎたい?」

 

「アリアの好きな動物番組でもたまに出てくるだろう。例えばトラカミキリはハチを装って自然界で有利に生きようとするが、その際は単に姿を真似るだけじゃなく動作までハチそっくりにせわしなく動く

 

「う、うん。それは見たことある」

 

「ブラド・小夜鳴の変身はそれの吸血鬼・人間バージョンなんだ。あいつは元々、あの姿をした生き物だったんだよ。それが進化の家庭で人間に擬態して生きるようになった。その擬態は高度で、姿だけじゃなく……小夜鳴という人格まで作り出した。厳密には違うようだが二重人格みたいな状態で吸血鬼の姿と人格を内側に隠してたんだ」

 

ヒステリアモードになってるとアリアは気づいたらしくちょっと慌てたようにブラドを見て

 

「人間という役になりきってたのね。まるで人間社会への潜入捜査だわ」

 

「まあ、そんなとことだ」

 

詳しく説明する気はないらしい。

ブラドはその目を俺たち……正確には俺の腕にいる理子を見る。

 

「おぅ4世久しぶりだな。イ・ウー以来か?」

 

理子はぎゅっと俺の服を掴んでくる。

震えている。

 

「4世そういえば、お前は知らなかったんだよな俺が人間の姿になれることを」

 

「ようはてめえ、最初から理子を騙してたんだな?アリアを倒したら理子を解放するって約束を」

 

「お前は犬とした約束を守るのか?ゲゥゥウアババババババハハハ!」

 

理子が悔し涙を流す。

 

理子……

 

「檻に戻れ繁殖用牝犬。少しは放し飼いにしてみるのも面白ぇかと思ったんだがな。結局お前は自分の無能を証明しただけだった。ホームズには負ける。盗みの手際も悪い。弱ぇ上で馬鹿で救いようがねぇ。パリで闘ったアルセーヌの曾孫とは思えねえほどだ。だが、お前が優良種であることは違いはない。交配しだいでは品種改良されたいい5世が作れてそいうからいい血がとれるだろうよ。椎名。お前の遺伝子でも掛け合わせてみるかぁ?」

 

このクズ野郎が……

こいつは今まで会ってきた奴でも最悪にむなくそが悪い。

シンがかわいく見えるほどにゲス野郎だ。

 

「いいか4世お前は一生俺から逃れられねぇんだ。イ・ウーだろうがどこだろうと関係ねぇ。世界のどこに逃げても、お前の居場所は檻の中だけなんだよ。椎名達を殺したらルーマニアに帰ろうぜ4世ぇゲハッ、ゲバババババッ!」

 

「り、理子」

 

「理子」

 

「理子……」

 

俺たちの声に理子は目を閉じてぼろぼろと泣いていた。

 

「あ……アリア……キンジ……優希……」

 

そして、理子は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……た、す、け、て……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「言うのが遅い!」」

 

アリア達がブラドに向かう。

 

ああ

俺は心の中で頷くと理子をブラドから見えない位置にそっと寝かした。

 

「優……今すぐアリア達を退かせてブラドは強い。強すぎるんだよ!あたしはイ・ウーで決闘したけど手も足もでなかった。あいつは初代リュパンですら勝てなかった。何をやってもかなわない……過去それは証明されてることなんだよ」

 

「大丈夫だ理子。俺は負けない。昔とは違う」

 

「ムリ!ムリなんだよ!絶対にムリなんだよ!今すぐここから脱出するしか、生き延びる道は無い!」

 

「勝てない相手じゃない。それに俺はあいつを倒せる連中と知り合いだ。連中はここにはいないが倒せる奴がいるならそれは無敵じゃない」

 

「誰が倒せるって……」

 

「公安0の沖田、実家の薙刀娘、それと師匠……」

 

思い出すように俺は言った。

理子は合ってないが確かに師匠はブラドを圧倒した。

 

 

「理子」

 

俺は彼女の右手にそって握らせた。

 

「これ……」

 

「覚えてるか?城を逃げる前に俺が私した約束の弾丸だ」

 

「うん……覚えてるよ……毎日これを見て……理子をヒーローが助けてくれるのを待ってた……」

 

その言葉に胸を痛めつつ俺は頷いた。

約束の言葉を俺はあの時の気持ちで言う

 

「いつか助けにくるから……その弾丸は僕の宝物なんだ……預かってて……」

 

師匠に初めてもらった銃弾なんだがあの時はそれしか持ってなかったんだ……

子供ながら思い出になるようなもん渡せなかったのかね俺は……

 

「だから、今俺は約束する。その弾丸を俺たちが勝つまで持ってろ。ブラドから解放してやる」

 

ちゃりと理子の十字架を渡す。

ブラドからすっといたんだ。

 

「今の俺は理子を助けるヒーローだからな。任せとけよ」

 

そういうと理子は顔を赤らめた、

演技じゃない女の子らしい……

ハハ、新鮮だな

 

刀を鞘から抜いて理子に背を向ける。

 

「ゆ、優……」

 

「ん?」

 

「ブラドの4つめの弱点……は……胸の中央にあるの」

 

最期の弱点か……よし、それが分かればブラドを沈めることができる。

ブラドが視界に入る前に俺は思いだしたように止まり

 

「なあ、理子」

 

「?」

 

「これが終わったらまた、あのメイドカフェ行こうな」

 

返事を待たずに俺は飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キンジ、アリア!」

 

ブラドと交戦中だった二人に合流する。

 

「優、理子は?」

 

「大丈夫だ。それよりブラドは?」

 

「銃弾が効かない。あの目玉模様を狙ってみたがジャンヌの言う通り4つめ目を見つけないと……」

 

キンジの言葉に俺は頷く。

 

「それは理子から聞いた。キンジ、アリア少し、俺に任せてくれ。ブラドを沈める方法がある」

 

「一対一でやるのね?あの化物と」

 

「ああ、一度負けた相手だからな。リベンジもしたい」

 

「いいわ。やりなさい優」

 

「サンキュー」

 

「ゲゥゥウアババババババハハ話はすんだか?」

 

ブラドが現れる。

 

「糞吸血鬼!お前と俺の一騎討ちだ」

 

「ゲゥゥウアババババババハハ。下らないジョークだな劣等種」

 

「ハっ」

 

戦闘狂の笑みで地面を蹴る。

行くぞブラド!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第100弾 理子のヒーロー

まずは牽制だな

右手のワイヤーを壁に食い込ませると飛翔。

ブラドが見上げてくる

空中を飛びながらガバメント2丁を三点バーストで放つ。

目玉模様3つに直撃するがわずかな時間を得て弾が弾き出される。

 

「無駄だ椎名」

 

ああ、そうだな。

ブラドの嘲笑に同意しながら再び三点バーストでガバメントを放つ

再び、目玉模様に命中する。

 

「ほぅ、法化銀弾か?ガキが大層なもん持ってやがるな。だが、俺は銀も克服済みだ!」

 

ちっ!

再び、出てきた高価なホーリーを見ながら俺は左手のワイヤーをポールに巻き付け、ターザンのように屋上に降りて走る。

ブラドの後方だ。

こいつを沈める方法は一つジャンヌの時に使った。

フルバーストでの四点同時破壊しかない。

昔、選択肢になかった方法だ。

さっさときめさせてもらうぜ、吸血鬼

牽制に、ガバメントをフルオートで撃ちながらブラドに走りながら刀を抜く。

だが、ブラドは牽制にひるまず、5メートルはあろうかという携帯基地局アンテナを屋上からむしりとったところだった。

馬鹿力だな。

 

「人間を串刺しにするのは久しぶりだな椎名ぁ」

 

ごっと、横殴りに振るわれたヤリを飛んで交わす。

さらに、接近する。

片手のガバメントをしまいながら完全に油断しているブラドの懐に潜り込む。

 

「飛龍一式!風切り!」

 

居合いのモーションから振り抜いたそれはブラドの両手を切り落とす。

 

「おっ?」

 

ブラドが声を上げる。

数トンはあるかというヤリが地面に落ちていく前に俺は戦闘狂の笑みで

 

「あばよ吸血鬼」

 

両肩にガバメント、右脇腹に左腰のワイヤー、そして、胸の中央に右腰のワイヤーをそれぞれ照準する。

 

この距離もらった!

一気にワイヤーと銃弾を発射する。

先端がナイフになっているワイヤーがブラドの目玉模様に突き刺さり、ガバメントの銃弾が両肩に食い込む

 

「ぐ、ぎゃああああああ!」

 

断末魔の咆哮をあげてブラドが地面に仰向けに倒れる。

 

「優!」

 

アリア達の声が聞こえるがなんだ?あっけなさ過ぎないか?記憶のブラドがこんなに簡単に倒せるものか?

嫌な予感がして、後方に飛ぼうとすると突き刺さったワイヤーが抜けない。

 

「おしかったなぁ椎名ぁ」

 

こ、こいつ……

筋肉を膨張させてワイヤーを抜けなくしてやがる。

ワイヤーを切り離すより一瞬早く、ブラドがワイヤー郡を掴むと一気に引き寄せる。

馬鹿力にあがらえず前に引き寄せられ

 

 

「捕まえたぜ椎名」

 

「くっ……」

 

巨大な手に捕縛されてしまった。

 

「優!キンジ!」

 

俺が捕まったのでアリアが助けようとしたのだろう。

だが、無用だ。

 

「来るなアリア、キンジ!」

 

「いいのか椎名ぁ?」

 

「ぐっ……」

 

ブラドが握力を少しずつ強めてくるな、なんて力だ。

 

「ほらどうした?握りつぶすぜ?俺を倒すんじゃないのかぁ?」

 

ドン

右手のガバメントから一発だが、検討違いの方角だ。

 

「ゲルババババハハハとこ撃って……」

 

ブラドが言った瞬間、ブラドの背中に紅蓮の炎と爆発が起こった。

 

「おお!」

 

ふわりとブラドが浮いた瞬間、握力が弱まった。

背中のワイヤーでブラドが距離をとるとキンジ達の場所まで戻る。

 

「優!」

 

アリアが駆け寄ってくる。

ひりひりする両手ををさすりながら

 

「駄目だアリア、4つ目が見つからない」

 

「そ、それよりあんた今、何したの?」

 

ん?

 

「跳弾と武偵弾だな?」

 

「さすがだな。キンジ。っても……」

 

起き上がるブラドを見ながら舌打ちする。

背中に武偵弾受けて無傷かよ……

化物だな……

とはいえ……

大半のワイヤーはブラドに引きちぎられてしまった。

もう、フルバーストは使えないか……

俺の手で決めたかったが仕方ない。

 

「アリア、キンジ力を貸してくれ。4つめを見つけて四点同時攻撃で決める」

 

「分かったわ。でもあたし、実はもうたまが二発しかないの。たがら、同時攻撃の時は撃てって言って。それまで弾切れしたふりをする」

 

貸してやりたいが俺のガバメントも弾切れだ。

大量にマガジンは持ってきたが銀狼に理子の武器もろともカバンは捨てられたからな。

 

「ホームズ4世。おめぇもリュパン4世と同じようなホームズ家の欠陥品みてえだな。うさぎみたいにすばしっこい射撃の腕はともかく初代ホームズの推理力がまるっきり遺伝してないと聞いたぞ」

 

「それが何?遺伝、遺伝って粘着質ね。たまにいるのよ。そういう家系マニア。あのねぇ。あんたは遺伝子の書き換えと才能だけで強くなったみたいだけど人間は遺伝子だけじゃきまらないのよ。先天的な遺伝は確かに人間の能力をある程度決めてしまうわ。でも人間はそれ以上に努力や鍛練で自分後天的に高める事ができるのよ!理子に何も遺伝してないって言うんなら、あの子はその生きた証拠だわ」

 

理子……聞いてるみたいだな

 

「現にブラド!今、てめえが相手にしてる俺は数年前より遥」

かに強いだろ?」

 

「雑魚が群れをなして強気か椎名?だが、ホームズ家の人間が欠陥を補うパートナーがいるときは気を付けろときいたんでな。一人減らすか」

 

ぎろりとブラドがキンジを見る。

 

「ワラキアの魔笛に酔え」

 

ビャアアアアアアアヴァイイイイイイイイイイイイイ!

 

その咆哮ランドマークタワーを震度させるほどの大音量だ。

街にも聞こえたはずだ

 

ぐらぐらしながらなんとか息を整える。

 

「ど、ドラキュラが吠えるなんて聞いてないわよ」

 

尻餅をついてたアリアが震える膝で起き上がってきた時

な、何?戦闘狂モードの暗示が解けた?

見ると、キンジのヒステリアモードもとけているようだ。

ヒステリアモード破り……暗示破りかよ……厄介だな。

ブラドが金棒を担いだまま近づいてくる。

「キンジ逃げろ!」

 

俺もがくりと膝が落ちる。

くっ、今の咆哮で……

横殴りにブラドが鉄棒を振るう。

日本刀を盾にぶっとばされるがキンジはアリアがかばったらしい。

よし、ワイヤーで……っ!

俺の視界にキンジが見える。

俺のようなワイヤーがないキンジは落ちるぞ

 

「キンジ!」

 

携帯用のワイヤーを投げてキンジに巻き付けると引き寄せ渾身の力で蹴飛ばす。

屋上に落ちたキンジにほっとしながら右足と左足のワイヤーで戻ろうとしたが作動さない。

ちょ……おい、嘘だろ?

ランドマークタワーの虚空に投げ出される。

言うまでもなく地上に叩きつけられたら即死だ。

ち、チクショウ……こんなとこで俺は死ぬのか?

みるみる遠ざかる空を見上げると屋上から飛び降りる影があった。

あれは理子……?

 

理子が必死に手を伸ばしてくる。

俺も必死に手を伸ばす。

数度触れ合い空中で手を繋ぐと理子は改造制服をひっぱるとそれはいつかみたパラグライダーに変わる。

空中を滑空しながら

 

「助かった理子。にしてもどうするかなぁ?」

 

理子に髪で体を支えてもらったので空中で腕を組んで俺は言う。

 

「このまま、逃げよう優!ブラドにはやっぱり勝てない!」

 

「逃げないよ俺は」

 

「で、でもブラドには……」

 

「ここで逃げたらもう、俺は自分が許せなくなる。理子はいいのか?」

 

「え?」

 

「いつか俺はいったな。4世4世さんって……」

 

ぎゅっと理子が唇を噛む

 

「今、謝らせてくれ。お前は4世じゃかい。峰 理子だ。ごめんな理子……」

 

 

「優……」

 

「倒すんだ奴を。倒さない限り俺も理子も前に進めない。あいつを倒して自由になろうぜ理子」

 

「やっぱり、優は理子のヒーローだね……優……私の名前を呼んで」

 

「理子」

 

「呼んで!」

 

ああ、何度でも呼んでやるさ。

 

「理子ぉぉ!」

 

理子の目が戦闘狂の目になる。

俺も目を開けると戦闘狂モードを覚醒させる。

 

「そうよ……私は理子!峰理子よ!」

 

パラグライダーが上昇していく。

 

「どうするのユーユー?ブラドの四つ目の弱点は……」

 

「それについてはローズマリーが教えてきた」

 

そう、戦闘中可能性を考えて狙ってみたんだ。

 

「いいこと教えであげますの」

 

首をなめたのはおまけだがローズマリーは初め、舌を指で指した。

そして、ブラドは口を庇う動きを一瞬だがした。

理子に聞いた場所をはじめは狙ったがフルバーストが使えるなら次は舌を狙うつもりだった。

つまりあいつはブラドの弱点を知ってたんだ。

 

「理子銃はあるか?」

 

これは過去を断ち切る戦いだ。理子にもブラドと戦わせたい。

 

「うん、あるよお母様と同じとこに隠してる」

 

「よし、まずはキンジとアリアを回収して説明して攻撃に入ろう」

 

「うん!」

 

キンジをかばいながら戦うアリアが見えてきた。

さあ、ブラド次で決めるぞ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第101弾 絶望の時間

「理子!説明任せたぞ!」

 

「うん!」

 

パラグライダーから俺は飛び降り、理子がキンジとアリアを抱えて空へ飛び立つのを横目に俺はデザートイーグルを取り出すとブラドが現れるのを一瞬、待つ。

 

「ああん?椎名死んでなかったのか?」

 

現れたブラドは鉄棒をとんとんと手で叩きながら言った。

 

「生憎だなブラド。俺があの程度で死ぬと思ったか?」

 

「ほぅ」

 

ブラドは黄金の目を少し細めると空中にいる理子達に目を向ける。

 

「何か作戦を立てたようだが無駄だ無駄だ。まあ、万が一もある椎名は殺しておくか」

 

ぶんとブラドが鉄棒を振りかぶった瞬間、俺はにやりとしてデザートイーグルをブラドに向けて一発放つ。

 

「どこ撃って……うお!」

 

再び、ブラドの後方で爆発が怒る。

跳弾射撃

 

「おらどうした吸血鬼!」

 

走りながら再び一発撃つと今度はブラドの頭に跳弾は命中した。

紅蓮の炎の中から上半身がぶっ飛んだブラドが見えたがすぐに再生される。

武偵は決して人を殺してはならない。

そんな決まりがなけりゃ、武偵弾で決められるんだがな……

「雑種が……ぐっ」

再びブラドの下半身が消し飛ぶ。

容量が大きいためか多少の再生時間は必要なようで時間稼ぎにはなる。

最期にフルオートでブラドに弾丸を叩き込むがこれは武偵弾でなく通常弾だ。

武偵弾は弾切れ……ハハ、500万ぐらいこの戦闘で使ったな。ブラドがにやりとして鉄棒を拾う。

 

「小僧。武偵弾は弾切れかぁ?処刑の時間だ」

 

再びブラドが息を吸い込む。

ワラキアの咆哮で戦闘狂モードを解除する気か。

ならここが勝負どころだ!

 

疾風のようにブラドに走り、切り札を組み上げる。

 

じゃきじゃきじゃきとミンの連結槍のように組み上げたそれは黒い日本刀

さらに、腰から日本刀を抜き取る。

二刀流

 

「蒼龍!」

 

跳躍し二刀を上に振り上げる。

 

「流星!」

 

ズンと体重と技をこめた二刀がブラドの両手を切り落とす。地面に着地すると回転しながら両刀でブラドの足を切り飛ばす。

再生する暇は与えねえ!

椎名の二刀は速度と手数。

ぐちゃっとブラドの頭に刀を差し込むと戦闘狂の笑みで真っ二つに切り裂く。

手足を切断すればブラドは攻撃できない。

このまま、押してやる!

 

「なめるなガキが!」

 

一瞬、再生が早かった右手でブラドが鉄棒を振るってくる。

しゃがんでかわした俺はバックにとんとんと後退しながら建物の影に隠れる。

準備は整ったな。「優あんた!」

 

あきれたようにアリアが俺を見て言ってくる。

 

「今度は二刀流?あんたって……今度は三刀流にでもなるの?」

 

隠されたことが気に入らないのかアリアは怒りぎみだ。

 

「仕方ないだろ?これが俺の基本的な戦闘スタイルだからな」

 

「優、次の模擬戦は本気で戦いなさいよ。手を抜いたら許さないんだから!」

 

ああ、初めて戦った時のこと言ってるのな……

それはそうと

 

「みんな、理子から作戦は聞いたな?」

 

「ああ、だが優、ブラドは俺たちがどこに、弱点があるか気づいていることに気がついてるかもしれない。チャンスは一度しかないぞ」

 

キンジの言う通り、弾数から四点同時攻撃は一回のみ

 

「任せとけよ。そこは俺がなんとかするよ」

 

「ガキども!作戦会議はすんだか?」

 

背後からブラドが現れる。

二刀を構えて俺は振り返った。

 

「行くぞみんな!」

 

「オッケー」

 

理子は胸の谷間から小型の銃デリンジャーを取り出す

 

「いいわ」

 

「ああ」

 

アリアとキンジもスタンバイ完了だ。

俺が走り出す。

ブラドが鉄棒を振りかぶるが一気に加速し、両手ををクロスさせ十字を切るようにブラドの手を切り飛ばした。

だが、これでは、すぐに再生されてしまう。

再生する場所、関節部分に刀を置くと再生に刀が巻き込まれる。

異物が入ったことにより、ブラドの手がだらりと下がる。

さらに、鉄棒を踏んで俺はブラドの顎を蹴飛ばした。

 

「ぐお!」

 

ブラドが悲鳴をあげた瞬間だった。

雷鳴が夜空に轟いた瞬間、四発の銃声が響く。

地面に落ちながら見たのはブラドの舌に描かれた目玉模様に理子の銃弾が命中し、肩にアリアの一発、脇腹にキンジの一発が命中した。

だが……嘘だろ……

 

雷で照準がずれたのだろうか……アリアの一発が最期の目玉模様から外れた。

 

ブラドの目が歓喜にうち震えた目で呆然とする俺に向か再生された右手を張り手のように振るった。

完全に油断した俺だが、なんとか刀で防御態勢は作るがバンと冗談のような張り手で吹き飛ばされコンクリートの壁に背中から叩きつけれた。

 

「が……は」

 

肺から息がもれ、受け身もとれずに地面に落ちる。

視界が……赤く染まってる……

立たないと……

だが、体に力が……

 

「優!」

 

理子が駆け寄ってくる。

ば、馬鹿……逃げろ……この攻撃に失敗したら銃弾を失った俺達に勝目は……

 

「どうだぁ?4世?お仲間と共闘しても所詮、勝目なんかないんだ」

 

「ぶ、ブラド……」

 

震える手で理子は俺の刀を掴んだ。

 

ズンズンとブラドが歩いてくる。

目が笑っている。

 

「私は!理子だ!4世じゃない!」

 

ハイジャックの時に見せたような素早い斬撃だったがブラドは切られた部分を再生させ、理子を掴み上げてしまう。

 

「う……」

 

ブラドは顔に理子を近づけると嬉しそうに

 

「よかったな4世最後に解放されるかもしれない夢を見られてよ」

 

「理子!」

 

アリアが小太刀を抜いてブラドに突撃をかける。

キンジもアリアの小太刀を片方借りて、ブラドに攻撃をしかけようとしている。

 

「そういや、お前も優秀な遺伝子の持ち主だよなぁホームズ」

 

ザクリとブラドの右手に小太刀を突き刺し、理子を解放させようとアリアは試みるが再び、雷鳴が空を鳴らした瞬間、アリアの動きが鈍った。

 

「ほーら、捕まえたぜホームズ」

 

まるで、疾風のようにブラドの空いた手が伸びアリアを捕まえてしまう。

 

「アリア!理子!」

 

キンジが切りかかるより早く、ブラドが吠えた。

 

ビャアアアアアアアヴァイイイイイイイ!

 

衝撃波でキンジが吹き飛ばされ、地面に転がる。

気絶したのか……

 

「は、離しなさいよ!」

 

アリアがブラドの手の中で暴れるがびくともしない。

理子も同様だった。

アリア、理子……キンジ……体が動かねえ……

まるで、精神と体が分離してしまったようだ。

ブラドが背中から羽のようなもの……いや、コウモリのような羽を出した。

 

「さあ、ホームズ、4世、ルーマニアに招待するぜ」

 

「お、お断りよ!」

 

アリアが拒絶するが逃げることができない。

まずいぞ……あれで飛んでいかれたら……

 

「っとその前に」

 

ブラドは倒れて動かない俺の方にゆっくり歩いてくる。

 

「ほっときゃ死ぬだろうが椎名、お前、はふざけたことをし過ぎたからな。殺しとくぜ」

 

アリアと理子を掴んだまま、ブラドが足を上げた。

俺の頭を踏み潰す気か

 

「ゆ、優!起きて!はやく!」

 

焦ったようにアリアが言うが体が……

 

「い、いや優希!優!」

 

理子の声も聞こえる……ああ、結局俺は君を……

 

ズンとブラドの足は地面に振り落ろされた。

 

「「優!」」

 

二人の少女の悲鳴が夜空にこだまする。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優希はやらせませんの」

 

ごっと、風を切り現れたローズマリーはブラドの足の裏に剣を叩きつけた。

ブラドが後退していくのを見ながらローズマリーは俺に向かいにこりと微笑むと

「助けにきましたの」

 

と、とんでもないことをいい放った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第102弾 私は理子だ!

じゃりとコンクリートを削りながら身長を越え大剣を右手にゴシックロリータのドレスを風になびかせるローズマリー。

彼女は俺とブラドの間に立っている。

 

「どういう気だぁ?ローズマリー?」

 

ブラドはアリアと理子を離さないまま、言った。

 

「どうもこうもありませんの」

 

ローズマリーはにこりと微笑みながら

 

「優希は私の騎士様。殺すならお父様でも容赦しませんの」

 

その場で意識がある俺達は同時に驚愕する。

ローズマリーがブラドの娘だと?

 

「くっ」

 

なんとか体を起こし、壁にもたれ掛かれながら立ち上がる。

 

「優希寝てなくていいんですの?」

 

可愛らしく首をかしげながらローズマリーは言った。

 

「お前なんかに……心配される覚えはねえよ」

 

「そうですの?」

 

ローズマリーはそういうと再びブラドを見る。

 

「てめえ、ローズマリー俺と殺る気か?」

 

ブラドが言うのを聞きながらローズマリーの力は確かに強い。

ブラドを倒すなら間接的にでも力を利用するのがベスト。

ローズマリーがブラドを殺しても武偵憲章には引っ掛からない。

だが、その考えは甘かった。

 

「私、優希以外には興味ありませんの。優希に手を出さないなら邪魔はしませんわ」

 

な、何?

 

「ほぅ、つまりそこの小僧を見逃せばホームズと4世を連れていくのを見逃すってんだな?」

 

「ぶっちゃけちゃえばそうですの」

 

笑顔で言うローズマリー。

 

「いいだろう。椎名は見逃してやるよ」

 

ブラドが背中を向ける。

ま、まずい。

ローズマリーが現れる前と状況が変わってない。

震える手で武偵手帳からラッツォを取り出す。

そして、注射器を胸に突き刺すとびくんと体が痙攣する。

ラッツオは復活薬だ。

こんなぼろぼろの状況で使うのは初めてだが、よし、動ける。

ぽたぽたとしたたり落ちる血を見ながら日本刀を手に取る。

 

「待てよブラド」

 

ブラドは振り返る。

 

「ゆ、優!もういいわ!寝てなさい!」

 

「優……」

 

アリアと理子がブラドの手ににぎられながら言ってくる。

はっ、寝てろだあ?

ここで見逃してアリア達を連れ去られてしまうくらいなら死んだ方がましだ。

万が一を考えて携帯で土方さんと実家にはメールを出した。

俺が死んでも公安0と椎名の家がアリア達を救出してくれるはずだ。

 

「優希?まだ、やるんですの?」

 

「当たり前だ」

 

「そうですの」

 

ローズマリーはそういうとばさりと羽を広げると屋上の鉄塔の上に立つ。

見学するということか……

 

「おい、ローズマリー!この場合はどうなるんだぁ?」

 

ブラドは俺の殺害をローズマリーに確認しているのだろう

 

「殺さなければ私は何もしませんわ」

 

「つまり、腕一本もぎ取るぐらいは許されるって訳だゲルババババハハハ!」

 

ズンズンと地鳴りをあげながらブラドは歩いてくる。

なめられたもんだな……足だけで倒す気かよ。

だが、無限の回復力がある以上……

 

「……」

 

一本剣をしまい、黒い日本刀で右手を上段、左手を剣の刃に持ってくる。

刺突の四連撃。

沖田ははこれを0.1秒で繰り出せるが俺は最速で0.5秒かかる。

怪我で更に速度は落ちるだろう。

これまでのブラドとの戦闘で魔臓の再生は0.3秒と目星は付けた。

怪我の状態からもうとっくに限界は越えている。

大技は後、一回が限度だ。

だが、やるしかねえよな……武偵はあきらめるな!決して諦めるな!

 

「悔しいか4世?」

ブラドが理子を盾のように構える。

 

「う……」

 

締め付けられて苦しいのか理子は苦悶の声を上げる。

 

「理子!」

 

魔臓の上に理子を持ってくる。

盾にする気か……

これじゃ……

 

「お前のヒーローさんが再び、沈む絶望を見せてやるゲルババババハハハ!」

 

理子は泣きながら俺を見る。

 

「優……助けて……」

 

理子の涙が地面に落ちていく。

それと、同時にかしゃんと音を立てて、あの弾丸が落ちる。

一発のみの弾丸では状況は変わらない。

その時、ごっと風が吹いた。

 

(優希、それをブラドに撃ち込め)

 

え?

とっさに振り返るがローズマリー以外、誰もいない。

そして、あの声は……もう、この世にいない……

 

「どうした椎名!こっちから行くぜ!」

 

ブラドが右足を振りかぶり、熊をも一撃で粉砕できそうな蹴りを放ってきた。

 

「っ!」

 

携帯用のワイヤーを投げると巻き戻して、壁を蹴る。

ブラドの足元を抜けて、弾丸を回収する。

ガバメントを抜いて、マガジンに弾丸を詰める。

 

「ブラドぉ!」

 

「また、無駄弾か?こりねえな」

 

ドン

 

私は一発の銃弾。

なぜか、レキのセリフが頭に過った

ギン ギンとアリアや理子を盾にされないように跳弾射撃の弾丸はブラドの魔臓の1つに命中する。

 

「無駄だ椎名。傷なんぞ……ん?」

 

ブラドが怪訝そうな声を上げる。

傷が塞がっていない。

 

「椎名、何しやがっ……うお!」

 

「お姫様は返してもらうぞ」

 

と、ヒステリアモードのキンジが小太刀でブラドの手を切りつけ、二人を脇に抱えると俺の方に走ってくる。

 

「キンジ!」

 

「キー君」

 

アリアと理子が驚いてキンジを見ている。

やれやれ、気絶したふりかよキンジ……ヒステリアモード破りを防ぐ方法何か見つけたのかな

 

「どういうことだ?傷が塞がらねえ!」

 

ブラドが困惑した声をあげている。

これは……

 

「ゆ、優ブラドはどうしたの?」

 

「あの弾丸は何?」

 

アリアと理子がきいてくる。

だが、チャンスは今しかねえよな

 

「分からんが、恐らく、魔臓の動きを破壊するか一時的に停止させる作用があったみたいだな。差し詰め、ヴァンパイアジャマー」

 

たく、師匠……あんたまさか、昔にこの状況、予測してたのかよ……

 

「ヴァンパイアジャマー?」

 

アリアが聞いてくるが作用がいつ、切れるか分からない。

今なら、同時破壊でなくてもブラドを倒せる。

 

「みんな、俺は舌の魔臓を破壊する。後は任せる。決めるぞ理子!」

 

「うん!」

 

理子にバタフライナイフを渡し、キンジに日本刀一本をかすと俺達はブラドに駆けた。

 

「く、来るな!」

 

魔臓という圧倒的なアドバンテージを失ったブラドが怯えた声を上げる。

初めてだろうな魔臓が止まった状態で戦うなんてよ。

 

「終りだブラド!飛龍一式!風切り!」

 

口を閉じたブラドに風切りをお見舞いする。

歯ごと舌の魔臓を切り飛ばす。

 

「ぐあ!」

 

「キンジ!」

 

「ああ、行っておいでアリア!」

 

ブラドを牽制していたキンジの手に足を乗せて高く舞い上がったアリアがブラドの肩刺し貫く

これで初期の弾丸で破壊されてない魔臓は後、1つ。

 

「「「行け(きなさい)!理子!」」」

 

「よ、4世!」

 

ブラドが右手を振るう。

理子は戦闘狂の笑みで髪をブラドに巻き付けるとくるりと腕を支点にブラドの懐に入りこんだ。

 

「よ、4世ぇ!」

 

「私は!理子だ!」

 

理子は渾身力でブラドの最後の魔臓にバタフライナイフをねじ込んだ。

 

「ぎゃああああ!」

 

絶叫をあげて、ブラドは魔臓から血を吹き出し、その巨大な体を地面に沈めた。

ピクピクと痙攣している。

やったの……か?

ブラドは起き上がらない。

つまり……

 

「勝った?」

 

ローズマリーの方を見上げてみるがすでに奴はいなかった。

ということは……

 

「勝ったの?」

 

アリアも俺を見ていってくる。

 

「ああ、俺達の勝ちだ」

 

「しゃあああ!勝ったぞ理子!ブラドを倒したんだ!」

 

「あ……本当に?」

 

理子が呆然とて言う。

あの絶望的な状況から一変した勝利。

まさに、奇跡の勝利と言ってもいいだろう。

 

「約束守ったぞ理子」

 

おれはにっと笑い。

理子は感動を飲みこむようにしながら一瞬、目を潤めて、次にかあああと赤くなった。

 

「か、勘違いするなゆ……」

 

あれ?景色がぐらりと揺れる。

あ、やべ今回は流石にやりすぎたか……

 

「ゆ、優!」

 

理子の腕の中に落ちながら俺の名前を呼ぶ少女の声を聞きながら思った。

諦めなくてよかった……

理子……これでお前は自由だな……おめでとうそこまで思ってから俺の意識は途切れるのだった。

はい、今回の護衛……おしまい



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第103弾 バニラ色のキス

サイド 理子

 

私は倒れた優希の傷の手当てをして膝枕で寝かせて彼の寝顔を見つめていた。

ありがとう……優

、アリア……キンジ

「神崎・ホームズ・アリア。遠山キンジ」

 

キンジが出口を塞ぐようにたっている。優をそっと地面に寝かせる。

 

「あたしはもう、お前たちを下に見ない。騙したり利用したりする敵じゃなくて対等なライバルとみなす。だから下に約束は守る」

 

空に滞空させてたパラグライダーをリールで巻き戻す。

 

「Au revoiir Mes rivaux。あたし以外の外の人間に殺られたら許さないよ」

 

「理子!」

 

背後にアリアの声を聞きながら私はパラグライダーで空を飛んだ。

気分がいい。

まだ、あいつの問題はあるけど優達に頼るかはまた、考えよう。

助けてと言えば優は助けてくれる……

だって彼は理子のヒーローなんだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド アリア

 

「やられたな。これで二度目だよ」

 

キンジの言葉を聞いてあたしは目をぱちくりした。

そうね。

理子の一番の得意技は逃げ足なのよ。

 

「ったく派手にやりやがる」

 

突然の声にあたしとキンジは振り替えると黒い髪にスーツ、右の腰に日本刀を付けた男が歩いてくる。

 

「だ、誰?」

 

まさか、ブラドの知り合いなんて線もありうる話だが男は左目をとじながらめんどくさそうに

 

「よせ、神崎、遠山。俺は公安0を率いてる土方 歳三だ。そこに寝てる椎名 優希の知り合いでもあるけどな」

 

「公安0だって!」

 

キンジが目を丸くした。

あたしも驚いた。

以前に、公安0の沖田と会ったが今度は公安0を率いているという人まで出てきた。

こいつの人脈はどうなってるのだろう……

 

「そんなに驚くんじゃねえ。別にとって食おうってわけじゃねえんだ。ブラドを引き取りにきたんだよ」

 

「今更、後から出てきてか?」

 

キンジが言う。

無理もない。

言い方からして公安0はあたしたちの戦いを見てたんだ。

 

「そんなに怖い顔すんじゃねえよ。俺達にもいろいろある」

後ろから警察がわらわらと倒れたブラドに群がっていく。

どうやら、逮捕はしてくれるようだ。

 

「あ、でもブラドはあたしのママの裁判の証言を……」

 

そうだ。

これをしないと戦った意味が薄れてしまう。

しかし、土方さんはふっと微笑むと

 

「裁判には出るように計らってやるよ。迷惑かけちまったからな。神崎、明日の朝時間とれるか?」

「え?う、は、はい」

 

「短くてすまねえが1時間だけ神崎かなえとの面会を取り付けておいた。アクリルバンなしの面会だ。野暮な監視はなしだ。ただ、神崎かなえを脱走させようとしたりなんかするなよ?やれば俺達が責任を持ってお前を殺さねえといけなくなるからな」

 

え? ママに?

1時間も……アクリリル版なしで?

今までは面会時間はわずか数分、しかもアクリリル版越しだった。

常識では考えられない。

 

「一体どういうルートを使ったんです?」

 

キンジがあたしの考えを読んで言う。

 

「大したことじゃねえよ。仕事柄、上には顔が聞くんだよ。それに、今回の面会は優希の希望だからな」

 

「優の?」

 

あたしは驚いて優を見る。

 

「ああ、ブラドを倒して逮捕させてやるからアリアとかなえさんを面会できるようにセッティングを頼まれてな。いくらか、こいつには仮もあるから頼まれたんだがな。それに、個人的にも不当逮捕の人間に会えないのはおかしいと俺は考えてる」

 

まただ……沖田といい公安0の人間はママが無罪だと確信しているようだ。

 

「ま、神崎かなえの無罪を知ってるんなら!」

 

なぜ、助けてくれないのと言おうとしたが土方は首を横にふる。

 

「証拠が揃っちまって裁判で有罪が確定してんだ。俺達公安0に出来るのは証拠を捏造した。犯人を殺すことだけだ。だから、神崎、神崎かなえの無罪を証明したいなら犯人を捕まえ続けろ。俺も可能な範囲で協力してやるよ」

 

ぐっと唇をかんでそれ以上の追求はやめる。

ママと直接面会できる。

今はそれでいい

気絶している。

優を見てなぜか顔が暑くなった。

ど、奴隷のくせに本当によくわからないやつね……

理子を助けて、あたしを気づかって公安0に働きかけてくれていた。

 

ありがとう優……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、お兄さん相変わらず不死身ですねぇ。化物と戦って打撲や擦り傷、軽い輸血や点滴だけで2日入院だけですむなんて」

 

「余計なお世話だアリス!てかなんでお前が武偵病院にいるんだよ!」

 

頭に包帯を巻いて全身、擦り傷だらけの俺が言う

 

「私、お兄さんの担当ですからぁ」

 

「最悪だ……」

 

いつも中華料理屋炎でバイトをしているアリスはアンビュラスのSランク武偵でもあるのだ。

 

「今日は安静にしといてくださいよお兄さん?明日には退院できますからねぇ」

 

出ていってしまったアリスの方を見ながら俺はため息をついて書類を取り出した。

司法取引の書類だ。

また、書くのかよ……

まあ、ランドマークタワーの屋上で炸裂弾使ったりしたから仕方ねえか……

でも、夜でいいや。

ぱさりと書類の束の作成を諦め、布団を被るといい眠気が襲ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かちゃりと音がする。

浅い眠りと半覚醒状態の俺はバニラの香りから理子だと推測する。

だが、眠いから体を動かしたくないから寝たふりするか

 

「寝てるのか?優?」

 

男しゃべりで理子が言ってくる。

裏理子だな。

 

「……」

 

しばらく沈黙が続く、うう……理子俺の寝顔見てるのか?

 

「ありがとう……優助けてくれて……」

 

バニラ香りが濃くなり、唇に何かが……

!?

慌てて目だけ開けると目を閉じた理子がどあっぷで……さらに、理子がゆっくり目を開けた。

 

「……」

 

「……」

 

キスしたまま、一瞬、固まる。

 

「!!!」

 

理子が慌てて離れる。

 

「り、理子?」

 

「か、勘違いするな!こ、これはお礼だ!」

 

「いや、お礼って」

 

ぼんとアリアみたいに赤くなった理子は目をそらしたが

小悪魔の笑みに戻る。

 

「ん?くふ、ユーユかっこよかったよ。理子の二番あげちゃった」

 

「はい?」

 

俺が言った瞬間、ばさりと何かが落ちる音。

床を転がるのはも、ももまん?

まさか!

 

「ゆ、優……」

 

「優先輩……」

 

「……」

 

げっ!

うつむいてるアリアにマリ、レキは無表情に花を持っている。

レキが二人の前に出ると

 

「優さん。お見舞いです」

 

「あ、ああ」

 

とレキが病室を出ていく。

それだけ!レキさん!助けてください!

「り、理子二番って何?」

 

アリアが理子に聞く。

 

「くふ、二番は二番だよ」

 

そういって理子は俺にパチリとウインクして病室の窓からワイヤーで降りていった。

 

に、逃げやがった。

 

「優先輩……今度は理子先輩ですか……私が目を離した隙に……」

 

「せっかく、ママに会えたから気分よく来たのに調教が必要ね優」

 

ゆらりと二人が拳銃を取り出した。

ハハハ……土方さん約束守ってくれたんだな……

にしても理子のキスは相変わらずのアリア達をからかうためだった訳ね……

二人の銃が俺に向くのがゆっくり見えてくる。

防弾布団を蹴飛ばしながら

 

「助けてくれぇ!」

 

と窓に走るのと

 

「風穴ぁ!」

 

「浮気者は死んでもください」

 

と、ふたりの銃が火を吹いたのはほぼ同時だった。

ああ、日常だなぁ……

 

 

 

ブラド編完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第104弾 椎名優希の1日

アリア達に病院の窓から叩き落とされた次の日、退院した俺は装備科。

つまり、アムドを訪れていた。

 

ひらがあやと書かれた部屋をノックする。

 

「はーい!開いてるのだぁ」

 

ドアを開けると、平賀さんは何かの作業をしていた。

実質、Sランクであるのだが法外な金を吹っ掛けたり少しだけいい加減な仕事をする彼女だが唯一この学校で信用してる点がある。

 

 

「おお、椎名君なのだ!今日はどうしたのだ?」

 

「急で悪いんだがこいつのオーバーホールを頼みたいんだ」

 

子供っぽい平賀さんの声を聞きながら外して置いた、ワイヤーの装置郡を机の上に置く。

 

「まいどありーなのだ!値段は同じで引き落としでよかったのだ?」

 

「ああ、それと、新しい日本刀ないかな?」

 

前の奴は、ブラドのせいでぼろぼろになってしまったからな。

 

「それなら丁度いい業物があるのだ」

 

そう言って平賀さんは木筒を取り出してくる。

箱を開けると俺はほぅと唸った。

見事な業物であることが分かる。

 

「名付け名は『蒼神』、『機神』。どちらも同じ人が打った一刀限りの名刀なのだ。名前もしびれるかっこいい名前なのだ」

 

こ、こいつは欲しい……実家にあるあれらには及ばないものの、銀のコーティングまでされていて、対ステルスには非常に有効な武器だ。

切れ味も一目見ただけでも疑いようがないぐらい鋭いだろうな。

試し切りしたいとうずうずするが……

 

「ちなみに、いくらだ?」

 

「椎名君はお得意さまだし、負けにまけてセットで800万でどうなのだ?もってけドロボーなのだ」

 

それくらいするよな……先日まで使ってた日本刀が100万くらいなのを考えると破格だ。

1000万以上を提示されても可笑しくない刀なのだ。

 

「分割24回払いでいける平賀さん?」

 

「オッケーなのだ」

 

そういうと平賀さんは筒を俺に渡してきた。

 

「い、いや今、持ち合わせが……」

 

「月末までに用意してくれれば問題ないのだ。お金に関しては椎名君は信用してるから裏切ったらひどいのだ」

 

クエストやらないとダメだなこれ……

 

日本刀の一本『蒼神』を手にとり、鞘から抜く。

 

「おお!かっこいいのだ!」

 

パチンと鞘に戻してから

 

「それで、ワイヤーの整備はいつ終わる?」

 

 

「明後日までには終わらしとくのだ」

 

「じゃあ頼む」

 

了解なのだという声を後ろに聞きながら俺はアムド棟を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ」

 

外に出ると見知った顔を見つけたので

 

「レキ!」

 

黙ってこちらを見てきたレキに走りよる。

 

「昨日はお見舞いありがとな。そいつはあの銀狼だろ?」

 

こくりとレキは頷くと、付き従うように歩いていた銀狼の頭を撫でながら

 

「ハイマキと名付けました」

 

「ハイマキ?そうか、よろしくな」

 

俺も頭を撫でようとしたんだが……

 

ガブリ

 

「いたたた!」

 

手を噛みやがったこいつ!

 

「ハイマキ、やめなさい」

 

レキの声に口を引っ込めるハイマキ。

こいつ、俺に敵意持ってやがる。

なんでだ?

まあ、いいか

 

「レキ、飯食ったか?お見舞いのお礼におごるぞ。ハイマキにも肉を出してもらうからさ」

 

お見舞いにお礼ってへんな感じだけどな。

だが、レキは首を横に振る。

 

「そうか……無理には言わないけどな。じゃあ、またな」

 

「はい」

 

レキはそう言うと歩き出してしまった。

ハイマキが振り返ってまるでざまあみろと言われてる気がした。

なんかむかつくぞ

ん?

振り替えると影がさっと建物に引っ込む。

まあ、いいけどな……

さて、どっかで飯食ってぶらぶらするか

今日は休日なのでアムドに顔を出したら学校にはもう用がない。

都心部に繰り出そうかな……

そんな時、携帯の着信音。

ん?誰だ?

 

理子

件名 助けて

 

え?

 

慌てて、内容を確認すると秋葉原の前に理子と待ち合わせした店の住所と写真が添付されていた。

そこには理子が縛られ、猿轡をされている写真

そして、誰にも言わずにこいとかかれている

理子!まさか、ブラドの仲間か?

くそ!

舌打ちしながら

走り出す。

携帯用のワイヤーを駆使しながら寮まで戻ると、虎児から返してもらった隼に飛び乗るとエンジンをかける。

爆音と共に発進する。

理子……

ただ、彼女のことを考えながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20分後

 

「で?なんだこれ理子……」

 

「やだなぁユーユー約束したじゃん!また、このお店こようって」

 

「いや、したけどさ」

 

回りはメイドさんばかりだ。

胸元を強調してるメイド服を着ている理子と俺はプライベートルームでなぜか話をしていた。

というのも刀を手に飛び込んだらここに案内されて今に至る。

 

「紛らわしいメール送るなよ……本気にしただろうが」

 

 

「くふっ、ユーユー理子のこと心配だったんだ?」

 

小悪魔みたいな笑みを浮かべる理子

 

「ま、友達だからな心配ぐらいするさ。それにな……」

 

ありふれたことかもしれないがこの手に届く相手だけでも守りたいと俺は思ってるから……

あの赤い光景の中で憎悪に満ちたあいつの目が忘れられない。

あの罪を償うために俺は……

 

「ユーユー?」

 

理子がきょとんとして見てきたので首を横に振る。

 

「いや、なんでもない」

 

「そうなの?嘘ついてるならプンプンガオーだぞ?」

 

それから2時間ぐらいメイドさん達を交えて王様ゲームで理子とポッキー遊びしたりといろいろあったがめんどくさいので割愛する。

ともかく俺達は店を出て

 

「で?どうする理子?学園島に帰るなら送ってくぞ?」

 

隼を指しながら言うと理子はちょっとだけ迷ってから

 

「うーん、理子もう少し、秋葉原にようがあるんだ」

 

「そうなのか?付き合おうか?」

 

「わあ、本当?じゃあ、ユーユーの新しい女装のコスチュームを……」

 

「帰るよ」

 

「あ、ユーユー」

 

理子が腕に絡み付いてくる。

あ、おい胸を腕におしつけるな!

 

「はーなーせ!」

 

「やーだ」

 

なんかデブの男がリア充爆発しろとつぶやきながら歩いて言ったぞ。

ともかくも、女装させようとする理子から逃れて学園島に戻ってきた。

どうしようかな……ゲーセンでも行くか

隼でゲーセンに行くと以外な人物と出会った。

 

「ジャンヌじゃないか」

 

「椎名か?」

 

振り返ったジャンヌのそばにいくと

 

「なんだよ。お前も来るんだなゲーセン」

 

「いや、少し、興味本意で入っただけだ。だが……」

 

ジャンヌの視線の先にあるのは聖剣デュランダルと書かれた剣を持つ獅子のぬいぐるみだ。

一昔前に流行ったゲームのヒロインが気に入っていたデザインが商品化されたらしい。

 

「ほしいのか?」

 

「な、何を言う椎名!私が興味があるのはデュランダルの名前であってだなぬいぐるみに興味など……」

 

ああ、つまり欲しいんだなジャンヌ……初めは本当にデュランダルに引かれたのかもしれんが

言い訳を続けるジャンヌの横でお金を入れてチャレンジしてみる。

 

「む?」

 

ジャンヌもその光景をじっと見つめる。

いけるか?

下降のボタンを押し込むとクレーンが下がり、人形にひっかかる。

丁度、体と剣の間に入った。

よし、いける!

レオポンの時とは違い、一回でとれたな。

 

「ほら」

 

人形を差し出すとジャンヌは戸惑ったように

 

「お前にもらう理由がい」

 

「ブラドの情報くれただろ?安いお礼だがほしいんだろ?」

 

「べ、別に私はそんな可愛いものに興味など……」

 

かわいいって言っちまったな。

恥ずかしそうにするジャンヌも違う一面を見てるようで新鮮だな

 

「じゃあ、捨てといてくれよ」

 

「な、何?こ、こら椎名」

 

ジャンヌにポンと人形を投げ渡すと俺はさっとゲーセンを後にする。

 

「す、捨てろと言うなら捨てておいてやる」

 

と、後ろから聞こえてきたので苦笑しながら隼を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一旦、部屋に戻ってみたが部屋には誰もいなかった。

時計を見ると午後5時を回ったところだった。

軽く汗を流すかな?

ピーンポーン

 

ん?このつつしみやかなチャイム音は?

 

「あ、優君こんばんは。キンちゃんいるかな?」

 

巫女服姿の白雪だった。

手には重箱らしき包みを持っている。

 

「いや、キンジもアリアもいないんだ」

「アリアもいないの?」

 

まさか、デートと呟き出したのでこいつはやばいと冷や汗が出る。

 

「キンジは武藤か不知火と遊ぶって聞いたけどな。アリアは多分、公安0に行ってると思う」

 

半分嘘で半分は真実だ。

キンジがどこにいったかは知らんがアリアは昨日、かなえさんと会った後、土方さんにかなえさんの事件の資料を閲覧させてもらえることになったらしく公安0に行っているのだ。

「公安0……」

 

白雪はちょっと、考えるようにしていたがデートでないとわかるとヤンデレオーラを発するのをやめてくれた。

ふう……

 

「あの、これよかったらキンちゃんに渡してくれかいかな?優君もよかったらどうぞ?」

 

「ありがとう白雪」

 

受け取ってから食べるのはキンジとだなと思った。

だって、俺一人で食ったのばれたらなんか怖いし

 

「じゃあ、私掃除してから帰るね」

 

「いつも悪いな」

 

「ううん、キンちゃんのためだから」

 

確かにそうなんだがキンジと同じスペースで生活してるので必然的に白雪が掃除してくれたら部屋はピカピカになって過ごしやすいのだ。

なのでお礼を言うのは間違いではないのである。

 

「じゃあ、俺はでかけるよ」

 

「いってらっしゃい優君」

 

白雪の声を背に俺は出掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

軽く走り込んでから筋トレして、素振り等を行う。

トラウマがほとんど消えたので素振りもメニューに加えたんだがやはり、多少の鈍りはあったらしく、軽い筋肉痛になったりもしていたが最近ではそれもなくなった。

蒼神と機神を抜くと夕闇が近い空に掲げてみる。

いいな、この刀気に入った。

なんか試し切りするものないかなと思ったが人工物ばかりでそれはお預けだった。

 

「そらそろ、飯にするか」

 

食べにいくので汗を吹いて看板裏を後にしようとした時、電話がなった。

 

「ん?」

 

見ると藤宮 奏と書かれている。

おお、久しぶりだな

相手がテレビ電話希望なのでボタンを押すとぱっと相手が映る。

 

「お久しぶりですお兄さん」

 

「あれ?千夏ちゃん?」

 

相手は奏ちゃんの妹の千夏ちゃんだ。

 

「はい、その節はありがとうございました」

 

「気にすんなって。助けたいから助けたんだから」

 

あの神戸の事件でランパンが完全に敵になってしまったりしたがいい、出会いもあった。

それが、今では日本でトップクラスのお嬢様となったこの二人、性格には千夏ちゃんだ。

 

「本当ならもっとお礼したいんですけど1億くらい」

 

「ええ!」

 

「嘘でーす」

 

直後に言われたのでなんかがっかりだよ千夏ちゃん……

千夏ちゃんはクスクス笑いながら

 

「でも本当にお金に困ったら頼って下さいね。お兄さんなら無利子で貸しますから」

 

貸すの!まあ、魅力的だけどな……

 

「ところで奏ちゃんは?それ奏ちゃんの携帯だろ?」

 

「あれぇ?お兄さんお姉ちゃんが気になるんですか?私と話ながら」

 

なんだそのチシャ猫見たいな笑い方は

 

「ま、あの後どうなったか聞いてないしな」

 

ブラドとの一見でいろいろ忙しかったからな。

 

「お姉ちゃんは兵庫武偵高付属に転校していろいろと勉強してますよ」

 

「へー、学科は?」

 

「まだ、仮決めなんですがアサルトです。ちなみにランクはEですね」

 

なんで、またアサルトなんだ?

まあ、仮決めだからいろいろとまだ、考えてるんだろうな

 

「で?その本人はどこに?」

 

「お姉ちゃんですかくふふっ」

 

千夏ちゃんがチシャ猫の笑みをした瞬間

 

「千夏?誰と話してるの?それ私の携帯……」

 

 

「はい、お姉ちゃん」

 

「え?」

 

画面がくるくる回る。

投げられた携帯が奏ちゃんの手に入ったようだ。

 

「よう……ひ……さ……しぶ……り?」

 

「え?優?え、えっえ?なんで?」

 

俺は全身に汗を書いていた。

トレーニングじゃなくて冷や汗な……

 

「どうですかお兄さん?お姉ちゃんのサービスショットは?」

 

こ、この小悪魔め

 

「や、やだ!きゃあああああ!」

 

風呂上がりらしかった奏ちゃんはバスタオル一枚だった。

くるくると携帯が回り、地面に落下したようだ。

 

「ち、千夏ぅ!」

 

怒ったような声が携帯から聞こえてくる。

 

「お姉ちゃん何度もお兄さんの携帯にかけようとしたのにそのたびにやめるから後押しだよ」

 

 

「だからって風呂上がりにやることないでしょ!」

 

「フフフ、ごゆっくりぃ」

 

「ち、千夏ぅ!」

 

パタンとドアが閉まる音。

どうやら千夏ちゃんは部屋を出ていったらしい。

 

「おーい、奏ちゃん!」

 

「こ、この変態!少し待ちなさいよ!」

 

奏ちゃんはぱたぱたと何かをしていたようだが10分も待たされた時、画面がようやく動いた。

 

「お待たせ」

 

なぜか、奏ちゃんは髪を整え、兵庫武偵中の制服を着ていた。

なかなか、似合ってるな。

 

「遅いだろ!なんで10分もかかるんだよ!」

 

「し、仕方ないじゃない!バスタオルのまま話せって言うの!相変わらずの変態!」

 

「テレビ電話切ればいいだろうが!」

 

「そ、それだと…ゆ…かおが……ない」

 

ん?なんだ?後半が聞こえにくかったぞ?

 

「なんだって?」

 

「ああ!もういいの!優は何してたの?」

 

「俺?新しい刀を手に入れたからトレーニングしおわって帰るとこだ」

 

「ふ、ふーん。また、女の子と一緒じゃないの?」

 

「女の子?」

 

「れ、レキさんとか……マリさんや、りこりんさんとか……あ、アリアさんとか」

 

「いやいや、俺年がら年中女の子といるわけじゃないぞ?」

「じゃあ一人?」

 

「ああ」

 

「そうなんだ」

 

なをか奏ちゃんの機嫌が治ってきたな。

 

「兵庫武偵中のアサルトだって?」

 

「千夏から聞いた?うん、全然私駄目で……」

 

それから一時間以上話してから携帯の電源がやばくなってきたので

 

「そろそろ電池がやばいから切るな。頑張れよ奏ちゃん」

 

「あ、優!」

 

「ん?」

 

「また、神戸にくることあったらとま……」

 

ピーと携帯が切れた。

ああ、電池切れか……

帰ってメールだなと思いながらその場を後にする。

時刻は午後7時、飯食わないとな

一度戻って隼で行くかな

 

 

 

 

 

 

 

 

中華料理屋炎は夕食時であり、武偵高の生徒で混雑していた。

 

「いらっしゃいませ!あ、お兄さんじゃないですかぁ」

 

アリスが動き回りながら言ってくる。

流石に、止まる余裕はないらしい。

 

「すみません!チャーハン追加で!」

 

「はいはい、店長!チャーハン1追加です!」

 

「おう!」

 

厨房から野太い声が返ってくる。

さて、座る席あるかな……

 

「優せんぱーい!」

「ん?マリか?」

見知った顔の後輩を見つけたのでテーブルに向かう。

 

「一緒に食べましょうよ!偶然先輩に会えるなんてもう、運命ですね!」

 

「そこまで大げさな……」

 

ん?マリの前に座っていた二人が軽く頭を下げた。

 

「あ、優先輩紹介しますね。私の友達の火野ライカと後輩の島麒麟です」

 

「ども」

 

「初めましてですの」

 

それぞれ、まったく特徴が違う二人だな。

一人は見覚えがある。

アサルトで男女と後輩に言われてるのを聞いたやつだな。

ちらっと見たが、筋はいいやつだな。

もうもう一人は……

ああ、確か、去年の理子のアミカだ。

フリフリの制服は理子が指示したんだろうな。

 

 

「ネギラーメンとチャーハンと餃子!」

 

「はいはーい!」

 

アリスに注文してからマリの横に座る。

そこしか空いてなかったんだ。

 

「優先輩はどうしたんですか?」

 

「今日は一人だったからな。いろいろと遊んでたんだ」

 

「ちっ……」

 

は?舌打ちが聞こえたぞ?

気のせいかデートチャンスがとか聞こえたし……

 

「あなたが椎名様なんですの?マリ様のアミカの」

 

島麒麟だ。

 

「まあな、お前は去年の理子アミカだろ?何回か見かけたからな」

 

「理子様の知り合いですの?」

 

「ああ、友達だ」

 

「……」

 

無言でマリが俺をにらんでくる。

なんなんだ?

 

「アタシも一度話してみたいと思ってたんすよ」

 

「ああ、アサルトで何回か見たな」

 

「アリア先輩との模擬戦も見てたんすけでやっぱ、アリア先輩には敵ませんか?」

 

「ん?」

 

「いえ、椎名先輩ってアサルトでは伝説的な先輩じゃないすか?入学試験で遠山先輩と教官を叩き潰してSランクに選ばれた……それに、最近では先輩が本気で戦ってないって周りでは言われてますし」

 

チラリと横に置いた刀を見てライカは言ってるようだな。

ま、切り札は隠すから切り札なんだが使ったらもう、ばれてると思った方がいい

 

「で?本当のとこはどうなんすか?」

 

「本当だよ」

 

「かっこいいんだよ優先輩!中国のSランクの犯罪者相手にしてもまったく引かなかったし」

 

マリの敬語じゃないのを聞くのは初めてだな。

 

「へー、今度戦闘訓練お願いしたいんすけど駄目ですか?」

 

「お前は確か、アサルトライフルだろ?構わないけど……」

「よっしゃ」

 

「麒麟は不服ですの」

 

「私も……不服です……」

 

ゴゴゴと二人に睨まれて俺達は引いた。

 

「な、なんだよ」

 

「お姉さまは麒麟のアミカですの!お姉さま麒麟のですの!」

 

「優先輩は私のです!」

 

いや、それぞれに言われてもな……

 

「お待たせしましたぁ」

 

そんな時、アリスが料理を持ってきた。

 

「両手に花とはこのことですねぇお兄さん。今度は後輩ですか?たらしですねぇ」

 

「はい?」

 

くるくる回りながらアリスは言いたいこと言って言ってしまう。

 

「たらし?」

 

うお!3人の目が痛い!

 

「断じて違うぞ!」

 

「優先輩って意外に持てるんですよね」

 

「へー、詳しく聞かせてくれよマリ」

 

ライカが興味を持ったらしく聞いてくる。

 

「まず、私が知ってるだけでアリア先輩、レキ先輩、理子先輩、私、アリス、神戸では千鶴先輩、藤宮姉妹……後は……ローズマリー?知ってるだけで9人いますね」

 

「最低ですの……」

「流石に引くぜ」

 

「おいこら!お前ら!みんな友達とか後輩だ!マリ!変な誤解を招くこと言うな」

 

「気づかずは本人のみなんですね」

 

「大変だなマリ」

 

「たらしがアミカなんて同情しますの」

 

なぜなんだ……後輩にはたらしと認識されちまったらしい……く、くそお!

誤解だと言いながら飯を食ったが解けるかは怪しいとこだな……はあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事が終わり、三人と別れた後、バス停でアリアを見かけたので隼を押しながら声をかける

 

「優?今帰りなの?」

 

俺に気付いたアリアが言ってくる。

私用なのでワンピース姿のアリアだ。

 

「お前も帰りかアリア?」

 

 

「ママの裁判の件で公安0の土方さんに会ってきたのよ。いい人ね土方さん」

 

「ま、あの人は俺も尊敬してるからな」

 

「へー、優も尊敬してる人いるんだ」

 

「まあな……」

 

師匠もその一人だった……土方さんは師匠の知り合いでその縁で知り合いになった。

 

「乗ってくか?」

 

もうひとつ、以前にレキが被っていたヘルメットをアリアに投げる

 

「気が利くじゃない優」

 

アリアはそういうとヘルメットを被ると隼にまたがると背中に手を回してくる。

くちなしの臭いが花をくすぐりドキッとした。

 

「ファミリーマートに寄ってももまん勝って帰るわよ?優?」

 

「あ、ああ」

 

そういや、隼に女の子乗せるの二人目だな。

一人目はレキだが戦闘が絡まないで乗せるのはアリアが初めてだ。

 

「んじゃ帰るか」

 

「うん」

 

隼を発進させる。

にしても今日は疲れたな……

にしても……

今日一日中誰かに見られてたが誰だったんだ?

バレバレで稚拙な尾行だったから放っておいたんだが……

ま、いいか

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第105弾 日常→非日常

サイド??

 

やっぱり噂は本当だったんだ。

あたしは今日、1日ある噂について調べていた。

 

「本当に優先輩はたらしだから困るの……レキ先輩や理子先輩、神崎先輩まで…… 」

 

噂は友達のマリからだった。

椎名優希、最近アリア先輩のチームメイトになりアリア先輩に付きまとう悪い虫。

アミカのマリに聞くとかなりのたらしと言う情報でレキ先輩の家に上がり込んで一緒に暮らすわ峰先輩にメイド服着せてはあはあしてるわわ、神戸ではお金持ちのお嬢様二人を虜にして金を貢がせているらしい。

女性関係はいい加減すぎる男だ。

まさしく、女の敵だ。

それだけならまだ、いいがあの男ついにはアリア先輩にまでその魔の手を伸ばしてきたのだ。

聞けば嫌がるアリア先輩にメイド服を着せて萌えていたらしい。

しかし、アミカのマリはその男がかっこいいと言う。

なんでなんだろう?

噂は真実なのかあたし、間宮あかりは椎名優希を尾行した。

そして、得られた結果はこうだ。

 

1、レキ先輩をデートに誘うも犬に噛まれて断念

 

2、峰先輩やメイド達と王様ゲームをした後、秋葉原をくっついて歩く

 

3、白雪先輩を部屋にはあげる

 

4、テレビ電話で中学生姉妹の裸を楽しむ5

5、あたしの後輩や友達をナンパしようとして失敗

 

6、さ、最後はアリア先輩とバイクでデート

 

「ゆ、許せない」

 

ハンカチを噛んで怒りの炎をたぎらせながらアリア先輩が帰ってきたら椎名優希のことを聞いてみた。

 

「え?優のこと?」

 

あたしはアリア先輩のアミカで一緒の部屋で寝泊まりすることが多いからこういう機会に恵まれるのだ。

 

「一言で言うなら馬鹿ね」

 

「ば、馬鹿ですか?」

 

「うん、あいつは馬鹿よ。自分が死にそうな状態でも護衛対象を守るために命懸けで戦ったり、敵うかもわからないような化物と互角にやりあったりね……」

 

アリア先輩の椎名 優希に対する評価は低いのかな?

なら、心配は……

 

「でも……」

 

とアリア先輩は付け足す

 

「あいつはまだ、底が知れないけどいい奴で、悪人じゃない。それだけは分かるわ」

 

な、なんかアリア先輩が嬉しそう……

やっぱり椎名優希はたらしなんだ。

 

「で、でも女性関係にはだらしないって聞きますけど?」

 

「そこは、否定しないわ」

 

しないんですかアリア先輩!じゃあ、やっぱりあの男は……

 

「さっきも言ったけどねあかり」

 

アリア先輩は優しく微笑みながら

 

「あいつはいい奴よ。よく分からないけど何か誤解してるわねあんた」

 

「ご、誤解なんてしてません!」

 

「そうだわ」

 

アリア先輩は携帯を取り出すとどこかにかける

 

「あ、優?明日、あたしのアミカをクエストに連れていきなさい。え?何でですって?奴隷はご主人様の言うことを聞く!」

 

えええと電話の向こうから椎名優希の声が聞こえたがアリア先輩は電話を切ってしまった。

 

「というわけであかり、明日の放課後は優についてクエストを受けてきなさい」

 

「え、えええ!あたしが椎名優希……先輩とクエストですか!」

 

相手はたらしの椎名だ。

ホテルに連れ込まれてしまうかもしれない。

 

「大丈夫よ。優についてれば安全よ」

 

乙女の貞操がピンチですアリア先輩

 

「あ、あのアリア先輩は?」

 

「あたしは、明日の放課後も公安0に顔を出すから無理よ。」

 

「そ、そんなぁ……」

 

こうして、あたしと椎名優希のクエストは決まってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、月曜の放課後だ。

教室で武藤とたべっていると

 

「椎名君。お客さんだよ」

 

「ん?」

 

不知火の声を聞いて振り替えると栗色の頭に白いリボンで短いツインテールにした後輩が立っていた。

 

「椎名君また、新しい女の子かい?やるね」

 

「くそう!なんで優ばかりもてるんだ!」

 

「馬鹿か!アリアに頼まれて後輩の面倒を見るだけだ」

 

教室をキョロキョロしている後輩の前に立つ

 

「悪いな来てもらって」

 

「あ、あのアリア先輩は?」

 

不安そうにその後輩、間宮あかりは言った。

 

「神崎さんなら先に帰ったよ?何か、用事があるみたいだったけど」

 

にこりと人当たりのいい笑顔で不知火が言う。

ちなみにキンジも先に帰っている。

さらに、理子は秋葉原に再び行くと言って授業が終わると飛び出している。

 

 

「そ、そうですか……」

 

がっかりとした後輩に首をかしげながら

 

「んじゃ行くか。不知火、武藤また、明日な」

 

「おう」

 

「またね椎名君」

 

二人と別れて間宮あかりと歩き出す

な、なんか敵意を向けられてる気がするな……

 

「クエストっても気楽な奴だ。そんなに気構えなくていいぞ」

 

「どんなクエストなんですか?」

 

「簡単に言えば見回りだな。俺達みたいな例外を除いて未成年者の飲酒やタバコをやめさせたり、かつあげや暴行を阻止するクエストだ」

 

ちなみにこのクエストはほぼ、毎日提示されている。

人出不足の警察が武偵に金を出して治安維持向上を図る。

まあ、最悪揉め事に巻き込まれるし単位はわずかに0.05で報酬は5000円と安いから受けたがる奴は少ない。

俺はちょっとでも金をいれようと受けたに過ぎない。

受けとかないと飯にも困りそうだしな。

 

「アサルトでアリアのアミカだろ?アリアに実力を見せるチャンスじゃないか」

あかりはむっとしたように

 

「アリア先輩のこと呼び捨てなんですね」

 

「ん?最初は神崎だったけどいつの間にかな」

 

そういいながら駐車場に止めてある隼の前に来るとヘルメットをあかりに渡す。うん、仕事絡みだから三人目の女の子だ。

 

「クエストは東京の中心だからな。乗れよ」

 

「え?バイクって……背中に抱きつかないといけないんじゃ……」

 

確かにそうだな。

 

「じゃなきゃ落ちるぞ?出すことはないがこいつは500キロ出るんだからな」

 

「ご……あ、あのか電車じゃ駄目ですか?」

 

「時間がないから却下だ。どうする?乗らないなら俺一人で行くぞ。おま……間宮はおまけだからな」

 

「行きます……」

 

ここで逃げたら駄目だと思ったのかあかりはヘルメットを被り、俺の背に抱きついてくる。

 

「よし」

 

隼のエンジンを蹴って始動させる。

 

「あ、あかりちゃん!これはどういうこと?」

 

なんだ?

俺が振り替えると白雪のような長い黒髪を二つの髪飾りで纏めている美少女だ。

「し、しのちゃん」

あかりが言う。

 

「き、今日は私とエステーラ限定のシュガーリーフパイを食べにいく約束をクエストが出来たから仕方なく断念しましたのに男とデートなんて……」

 

な、なんかすごい誤解されてねえか?

 

「ち、違うの志乃ちゃん!これは!」

 

あかりが慌てて隼から降りて、弁明するがやばいなあんまり時間はとれねえ

強引だが仕方ねえか目をつぶる

 

「悪いけど行かせてくれないか?えっと志乃ちゃん?」

 

「佐々木です。名前で呼ばないでください!」

 

「ああ、悪いな」

 

30秒

 

「けどお前に関わってる時間ないから行かせてもらうぜ?間宮、早く乗れよ」

 

「え?」

 

急に感じが変わったので戸惑ったようにあかりが言う。

 

「行かせません!あかりちゃんは私が守ります!」

 

志乃が手に持った武器は物干し竿と言われる長剣だ。

 

「へえ」

 

剣相手なら銃は野暮だな。

そう考えて蒼神を抜く。

二刀はいらん。

 

「あまり舐めない方がいいですよ先輩」

 

そういうと志乃は居合いの構えを取る。鞘に納めないのか?

へえ

刀を両手に持ち、防御の構えを取った瞬間、志乃が動いた

居合いの神速

ガアアンと刃が激突する音がする。

 

「そ、そんな……」

 

驚愕の声を出したのは志乃だった。

未完成とはいえ必殺の燕返しが……

 

「へぇ、風凪と似てるな」

 

ぎりぎりと蒼神の先で物干し竿の刃を止める。

 

「風凪?」

 

志乃が冷や汗をかきながら聞いてくる。

 

「完成してたら一矢は報いただろうがそれ、未完成だろ?」

 

「っ!」

 

志乃が後退し、再び燕返しの構えを取る。

 

「遅いぞ!」

 

志乃が刀を振るうより先に

 

「飛龍一式風凪!」燕返しの完成形を放った。

 

「きゃああああ!」

 

一撃目は刀で防いだ志乃だが、燕返し、正確には風凪は音速を超える一撃でカマイタチを巻き起こす二番目の攻撃がある。

シンのような連中には一撃で正体で見破られるが後輩相手なら一撃だ。

2撃目を浴びて、志乃はぶっ飛んだ。

 

「志乃ちゃん!」

 

あかりが駆け寄る。

 

「防刃制服の上だから軽い打撃ですんだろ?」

 

志乃は上半身を起こすとあかりに抱きつき

 

「うわあああん!あかりちゃんをとられちゃったぁ!」

 

えええ!泣くの!

周りに他の生徒達がなんだなんだと集まってくる。

 

「見ろ椎名が女の子泣かせてるぜ」

 

「後輩だろ?何かの修羅場か?」

 

ま、まずいここにいたらなんか不味いぞ。

 

「ま、間宮!いくぞわ!」

 

「え、きゃ!」

 

強引にあかりを隼に乗せると有無を言わさずに発進させる。

「あ、あかりちゃああああん」

 

「志乃ちゃああああん!」

 

二人の声を聞きながらなんか俺人さらいみたいだと泣きながら都心部に向かうのだった。

志乃ちゃんは携帯でアリスに手当を頼んだから大丈夫だろうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり椎名先輩は最低です」

 

「返す言葉がないな……」

 

 

俺は著しく、俺に対する評価を下げたであろう後輩を見ながらため息を着いた。

仕方ないんだよ……クエスト開始は午後6時からで、最寄りの交番で始めることを申告しないといけないからな……

依頼人との契約は絶対に守れ。武偵憲章にもあるだろ?

 

「椎名先輩は乱暴です!アリア先輩は先輩のことを馬鹿と言ってましたけど本当に馬鹿です!」

 

ごめんなさい……俺のライフはもう0です。

しくしく内心泣きながら猛烈に批判をぶつけてくる後輩とビルが並ぶ、町を歩く。

腰に刀でを下げてるのが珍しいのか道行く人の目が少し気にかかるがまあ、学園島の外では慣れたもんだ。

 

「?……馬鹿って言われて反論しないんですね」

 

「ま、俺が悪いのは事実だからな」

 

ふーんと言う感じであかりが見上げてくる。

そんな時に今夜の一つ目の事件が起こった。

 

「ひったくりよ!誰か捕まえて!」

 

「ひったくり!」

 

あかりが動く前に俺は人混みをぬって走る黒い帽子の男を見つけた。

うーん、武器は使えないなここじゃ……

あかりが手に短機関銃のウージーを出してきたので手で止めると携帯用のワイヤーを電柱に巻き付けて巻き戻すと戦闘狂モードで電柱の上から二本目のワイヤーを男に投げると足に絡み付いて男が転んだ。

 

「ぐえ!」

 

つぶれたカエル見たいな声を上げた男に向かいワイヤーを伝って、男の頭にガバメントを押しつける。

 

「武偵だ。ひったくりの現行犯で逮捕する」

 

「くそ……」

 

ひったくりは悪態をついたが、逃げられはしないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

サイドあかり

 

15分後、交番にひったくりを引き渡して再び、見回りに戻る。

そこでアタシの椎名優希に対する評価は少し変わっていた。

さっきは、志乃ちゃんが倒されたから深く考えなかったがこの先輩はすごい。

複雑なワイヤーをまるで手足のように扱い、剣の腕も立つ。

志乃ちゃんとはアタシも一度戦ったからわかる。

先輩というのもあるがやはり、実力的にはアリア先輩と並ぶ力は持っているようだ。

悔しいと思った。

いつか、アリア先輩とチームを組みたいと思っているアタシにとっては残酷すぎるぐらいの実力差だ。

 

「ん?どうかしたか間宮?」

 

「え?さっきは何もできなかったなって……」

 

「気にすんなよ。1年なんだから焦ることないない。そういや、間宮のランクは?」

 

う、聞かれたくない話題だ……

 

「い、Eランクです……」

 

「ああ……」

 

なんと言っていいか迷っている顔だ……

 

「俺のアミカなんだけど」

 

「あ、はいマリですね」

 

「あいつも俺が戦闘訓練してるんだ。よかったら訓練に来るか?」

 

「遠慮します。アタシのアミカはアリア先輩ですから」

 

「そうか?」

 

というのもアミカ制度は先輩が後輩の面倒を一対一で見る制度であってアタシは椎名先輩のアミカじゃないのだ。

でも、この先輩なりの優しさなんだと言うのはわかるな……

 

「ありがとうございます椎名せ……」

 

いいかけて椎名先輩が横にいないのに気付いた。

あ、あれ?

回りを見ますと路地裏に入り込んだ先輩は数人と何やら話をしている。

あたしは慌てて、路地裏に入った。

 

「つまり、兄ちゃんはこういいたいわけだ?ワシの一張羅をアイスクリームで汚したその二人を見逃せってんだな」

 

「ひいい」

 

見るとカップルらしい二人が8人ほどの屈強な男に囲まれていたのだ。

どうやら、ぶつかって男の服をよごしてしまったらしい

 

「だから、クリニーング代払うってんだろ?」

 

「ああん?ガキ、いきなり出てきて、何抜かしてんだこら!精神的損失はクリーニング代だけじゃすませられねえんだよ」

 

「だったら、法廷にでも持ち込めよ。ここで話すことじゃないだろ」

 

弱味につけこんで難癖つける最低な連中のようだった。

 

「せ、先輩」

 

アタシが声をかけるとチンピラ達がこちらを見てくる。

 

「女連れで見回りてか武偵ってのは気楽な仕事だな、おい」

 

「こいつも武偵だ。そんなんじゃねえよ」

 

めんどくさそうに先輩は言っている。

この手の輩は暴力で沈めるか、逮捕するか説得するしかないが説得は難しそうだった。

 

「たく……」

 

腰に手を回して、椎名先輩が刀に手をつけた瞬間だった。

 

「とーりゃんせ~とーりよんせ、かーごの中のとーりーはぁ」

 

「な、なんだてめえ!」

 

それは唐突に路地裏の闇から現れた。

全身を覆う黒いローブを身につけた小柄な何か。

とーりゃんせを歌いながらしだいにこちらに近づいてくる。

ぞくりと悪寒が走る。

あれは危険だ。

 

「なめとんのかわれ!」

 

チンピラがローブの何かにつかみかかると顔のローブが外れる。

 

「え、あれ?」

 

後ろを向いて歩いてきてたのかその顔は 後ろの頭。

 

「うしろの少年だーあーれ」

 

ギギギギギ

 

「う、うわあああああ!」

 

突如人間ではらあり得ない首を180度回した何かは丸い赤い目と赤い口をにいいと歪めた瞬間、男の頭から何かが突き出た。

ぽたぽたと赤い何かが……

頭から出てるのは……刃?

 

「うわあああああ!」

 

その場にいたチンピラたちが腰を抜かした。

殺人事件だ……

Eランクのアタシにとってはあまりの非現実に体が動かない。

 

「間宮!こいつら連れて逃げろ!」

 

疾風のように椎名先輩が動いた。

 

ギギギギギギギギギ

木と木が擦れるような音を立てて、赤い目が男を投げ捨て、すさまじい回転で腰を抜かしたチンピラに切りかかった。

 

「ちっ」

 

椎名先輩はガバメントを抜くと三点バーストで何かの刃を弾く。

 

ギギギギギ

 

それはぶっ飛んだ刃を見るように顔を動かしたが次の瞬間、手を身近にいた男に叩きつけた。

 

「げっ……」

 

脳を潰されたチンピラが断末魔の声を上げた。

 

「あ、ああ……」

 

アタシは怖くて動けなかった。

ライカと銃を撃ったり、志乃ちゃんと戦闘訓練をしたりアリア先輩と模擬戦をしたりした。

銃を持つ犯罪者と戦ったこともある。

だけどあれは……人間じゃない怪物……

「ちっ!」

 

椎名先輩が舌打ちして刀を抜いて、相手の右腕を切り飛ばした。

鮮血が走るかと思うが何もでない。

 

「なんだこいつ!」

 

椎名先輩が困惑した声を上げる。

 

ギギギギギ

 

異質の何かは左手を振りかぶり、椎名先輩に叩きつけた。

 

「くっ!」

 

刀でそれを受け止めたがザザザと後ろに滑る。

すさまじいパワーを相手は持っているらしい。

 

ギギギギギ

 

「に、逃げて!」

 

ウージーをアタシは肩を狙い発射したがそれは全て、頭に命中し、肝を冷やした。

こ、殺しちゃたの?

ギギギギギ

 

「うわあああ」

 

チンビラ達とカップルが悲鳴を上げて逃げていく。

逃げなくちゃと思っても体が動かない。

ギギギギギ

 

異質の何かがアタシに向かい走り出した。

 

「こ、こないで!」

 

ヒュンと異質の何かにワイヤーが巻き付いた。

更に、飛んできた刀が異質の何かの左足を貫通し地面に縫い付ける。

 

「てめえ、人の後輩に手だしてんじゃねえぞ」

 

助かったと思った瞬間

 

バキン

 

異質の何かがワイヤーの巻き付いた首と左足を切り離してザザザとまるで走るゾンビのように私に迫り、バンと左手だけで地面を叩くと跳躍してアタシの頭に振りかぶる。

 

(あ、アリア先輩!)

 

死を覚悟した時、

 

「飛龍一式!雷落とし!」

 

ズンと異質の何かがローブごと真っ二つになった。

椎名先輩はアタシの前に立ち、数歩後退して刀を真っ二つになった何かに向ける。

1分後動かないのを確認し椎名先輩は相手から目を話さずに……

 

「大丈夫か間宮?」

 

「は、はい。でも……」

 

人が二人殺された……明らかに人間じゃない何かに……

パキと椎名先輩が何かを踏んだ。

 

「これは木か?とりあえず、ここを出るぞ間宮」

 

そ、そんな……

 

「おい!っ!」

 

先輩も振り替える。

 

ギギギギギ

ギギギギギ

ギギギギギ

ギギギギギ

 

破壊した異質の何かじゃない。

新たな異質の何かが四対闇から再び現れた。

一対でも相当な戦闘力

を持つ化物

 

「ちっ」

 

椎名先輩は舌打ちしてアタシの手を引いて路地裏から出ようとする

 

ギギギギギ

ギギギギギ

ギギギギギ

 

「おいおい、まじかよ」

 

半笑いで椎名先輩が言う

逆方向からも四対

ポタポタと血をしたたらせてることから逃げた人は殺されたのだろう。

 

「たく、予備ワイヤーしかないときにこれはな……」

 

椎名先輩はデザートイーグルを取り出しながらアタシを守るようにたつ

 

「し、椎名先輩……」

 

大嫌いな先輩。

だが、頼れるのは今はこの人だけだ。

 

「間宮、一点突破で抜けるぞ!こけるなよ」

 

ギギギギギ

 

私の返事を待たずに8対はアタシ達に襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア先輩……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第106弾 魔女連隊

やばいぞこれは……

敵が動き出す直前に考えた俺は状況を分析する。

刀をなんとか振り回せる路地裏で二対八、しかも一人はEランクの後輩だ。

間宮には悪いがEランクは素人に毛が生えたレベルだ。

背中を預けるのはきつい。

これが、アリアやレキ達だったら背中を合わせて互いに迎撃できるのに……

それに、いつも使うワイヤーが整備中が痛い。

いつものワイヤーなら二人まとめて、屋上まで飛ぶ力があるが携帯用のワイヤーはどうしても人を引っ張る力が弱く、二人まとめては引き上げられないのだ。

援軍を呼ぼうにも周知メールを出す余裕はない。

運がよければ警官が気づくもしれないがあの異質の何か……あえて木偶人形と呼ぼうか……

に、対抗はできないだろう。

ここまで、考えた時木偶人形が動いた。

 

二対が左右両方から並んで突っ込んでくる。

一気に両方は相手できないな。

一人ならともかく、今は二人だ。

 

「く……」

 

ばっとデザートイーグルをフルオートで内つくす。

バキバキと言う音を立ててスナックなっちゃんと書かれた巨大な看板が木偶人形の群れに落ちて、轟音を立てる。

後ろに、集中しようとしたら木偶人形一対看板の隙間から飛び出してくる。

反対側の木偶人形もあと少しでキリングレンジに入る。

 

「間宮!少しでいい!弾幕をはれ!」

 

携帯用のワイヤーを投げて、先についたナイフが壁に突き刺さると、張り巡らされたワイヤーに木偶人形が突っ込んでバネのように弾かれる。

間宮が、ウージーで弾幕射撃を開始する。

が、もう構う余裕がない。

もう、片方のサイドの木偶人形は目と鼻の先に迫っていたからだ。

技のモーションをとる暇はなかった。

 

ギイイイイン

裏路地に鉄と鉄が激突し、火花が散りつばぜり合いになる。

だが、あと一体が並んで俺に剣を振りかぶった。

 

「くっ!」

 

左手でガバメントを抜いて三点バーストで刃を吹っ飛ばすがチンピラにしたときのように俺を潰そうと手を振りかぶる。

食らうとやばい!

先端に鉄を仕込んである靴でつばぜり合いをしてる木偶人形の腹を渾身の力で蹴飛ばして後退すると木偶人形の手が俺がいた空間をなぎはらった。

 

ドオオオオン

 

冗談のような爆砕音と共に、コンクリートの壁にひび入れる木偶人形

なんつうパワーだよ!

 

間宮の横まで後退する。

 

「椎名先輩!」

 

「弾幕切らすな!」

怒鳴りながら構えは刺突

半分かけだが多分、間違いないはずだ。

殴りかかってきた木偶人形の胸に、渾身の突きを放った。

バキバキと木が割れる音と共に、何かを破壊した感触があった。

木偶人形がだらりと動かなくなる。

そうか、なんらかのこいつらを動かしてる動力は胸にある!

 

「間宮!木偶人形の胸を狙え!」

 

「は、はい!」

 

短機関銃なだけあって木偶人形も攻めあぐねてるようだった。

だが、弱点が分かれば簡単に勝てる相手だ。

 

デザートイーグルのマガジンを入れ換えると、突っ込んでくる残り三体の胸に、デザートイーグルの弾丸を叩きこんだ。

 

ガシャンガシャンとおもちゃのように崩れ落ちる木偶人形。

さすが、デザートイーグル。

破壊力は抜群だな。

 

「きゃあああ!」

 

はっとして振り替えると間宮が刃を失った木偶人形に倒される瞬間だった。

 

「間宮!」

 

デザートイーグルを向けるが駄目だ。

この位置では核を破壊するには跳弾しかないがそれだと敵が間宮の頭を潰す方が早い。

 

ギギギギギ

 

きしむような音を立てて、木偶人形が手を振りかぶる。

 

「い、いや!アリア先輩!」

 

間宮が悲鳴を上げる。

 

「間宮!」

 

地を蹴って蒼神を振りかぶるが間に合わない!

木偶人形が手を降り下ろす直前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、何か大変ですねぼっちゃま」

 

この声……まさか

 

ふわりと着地したその女性はしかし、鋭く、手に持つ獲物で木偶人形を突いてぶっ飛ばした。

再びふわりと飛び上がるとギギギギギと起き上がろうと上半身を起こした木偶人形を頭から真っ二つに切断した。

がしゃんと力を失い倒れる。

木偶人形

 

その女性はにこりと微笑むと長刀を右手に頭を下げた

 

「お久しぶりですぼっちゃま」

 

「つ、月詠!?」

 

白雪や佐々木とはまた、違う大人の雰囲気を持った和服の女性微笑みながら答えた。

 

「はい、月詠です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、2時間後、気絶した間宮の手当をするため、学園島に戻った俺達は部屋に戻り、本来アリアが寝ているベッドに手当を施したあかりを寝かせた後、リビングのソファーで俺達は話をしていた。

 

「現場はよかったのか月詠?あのままにしてて?」

 

「はい、公安0の関係者があの場所は封鎖してるはずですから」

 

「公安0が?ってことは……」

 

「あれは優様が戦ったランパンとはまた、違う組織、恐らく魔女連隊のもの仕業かと」

 

「魔女連隊?」

 

声の方を見ると、正座し、スパッツの上にミニスカートを履き、Tシャツを着た少女がいた。

特徴的なのはウェーブのかかった長い髪だろう。

 

傍らには槍が置かれている。

 

「はい、ドイツの魔女です。北朝鮮やイランなどのテロ国家で暗躍する連中です」

 

「なんでその魔女連隊が日本で一般人を襲うんだ?」

 

「それについては調査中です優様」

 

「ふーん、で?なんて、椎名の近衛筆頭とその弟子が東京にきてんだ秋葉?」

 

目の前にいる月詠に言う。

説明がいるな。

和服で長刀を持ったさっき俺達を助けてくれたのは月詠。

名字は俺も知らない。

で、正座して目をつぶってるこいつは、山洞(さんどう) 秋葉(あきは)

月詠は詳しくは知らんが秋葉は弟の鏡夜と同い年だ。

 

 

「それは……」

 

秋葉が何かを言おうとした時、

 

「邪魔するぜ」

 

すっと部屋に入ってきたのは

 

「土方さん」

 

公安0の土方さんだった。

 

「ご無沙汰しています土方様」

 

月詠が頭を下げ、秋葉も遅れて頭を下げる。

 

「おう」

 

土方さんはソファーに座ると俺を見てきた。

 

「ます、先に言っておく。今回の件は誰にも言うな」

 

「え?なんで?」

 

「んなに目くじら立てなくても巻き込んじまった以上説明してやるよ。今回、お前が戦った木偶人形な。今月だけでお前が戦った8体以外に20体以上が都内で事件を起こしてる」

 

「で、でもそんな事件ニュースでは……」

 

「情報統制してるからな」

 

土方さんはタバコを取り出したが

 

「ここは学生寮です土方様」

 

秋葉が目をつぶったままで言ったのでタバコをしまう。

 

「ともかくだ。殺人人形が都内で殺人を繰り返してるなんて知れたらパニックになるからな。一度ジャーナリストが嗅ぎ付けたが消えてもらった」

 

「殺したんですか?」

 

「いや、今ごろは離島で農作業でもしてるだろうな」

 

まあ、仕方ないな……

 

「犯人の組織が分かって俺達も動いちゃいるが殺人人形の出現パターンが複雑でな。後手に回らざるえない状況だ。いろいろ警備の手配はしてるが人手不足が現状だ。殺人人形と戦えるだけの実力者も少ない訳じゃねえがな」

 

「じゃあ、俺も警備に……」

 

手伝いを申し出るが土方さんは首を横に降る。

 

「ありがてえ提案だが、これは公安0に売られた喧嘩だ。外国の勢力がいつまでも東京で好き勝手させやしないさ。今、公安0の戦力を東京に呼び戻してる。刹那が戻ってきてから殺人人形の駆逐は本格的に始める」

 

「それに、ぼっちゃまは……」

 

「月詠……ぼっちゃまはもうやめてくれ……」

 

「はい、では優希様は実家に戻ってもらいたいんです」

 

「げっ!なんで!」

 

そこまで言うと土方さんが立ち上がった。

 

「身内の話を聞く気はねえよ。それと悪いが間宮あかりの今日の記憶は消させてもらった。代わりの記憶は埋めといたがな」

 

はっとして寝室を見ると黒いスーツの女性が頭を軽く下げた。

記憶操作ができるステルスか……

その方がいいだろうな……あんなことEランクには早すぎる

 

「わかりました」

 

「今は学園島は俺達は警備してねえ。学園島に殺人人形が現れたらすぐに連絡してくれ」

 

そう言って土方さんは帰っていった。

 

さてと……

 

「で?なんで俺が実家に帰らないと行けないんだよ?」

 

「後継者選びの会議が数日後に控えてます」

 

「俺はもう、継承権はないはずだが?」

 

「いえ、優希様もリストに入っています。というのも優希様を強く押す、分家もいますので無視はできません」

 

 

「もう、鏡夜でいいだろ?俺も実家を継ぐ気はないからな」

継げといわれても俺は断る。

そう、あの日から決めてるんだ。

 

「ですが……」

 

秋葉が口を開く

 

「優様は鏡夜様より実力は上です」

 

「買い被りすぎだ秋葉」

 

「ですが……」

 

「秋葉!」

 

俺が睨むと秋葉は黙った。

 

「っと悪い怒鳴る気はなかった」

 

「いえ……出すぎたことをいいました」

 

「ああ……悪い……ま、まあとにかく断るからな帰れ月詠、秋葉」

 

「あらあらうふふ……駄目ですよ優希様。帰らないなら力ずくで連れ帰るように命令されてます」

 

げ!

 

「それで、お前らが派遣されてきたのかよ!」

 

「はい」

 

秋葉が槍を手に、月詠が長刀を手に取る。

ま、まずいこいつら本気だ。

俺が帰らないと言えば力ずくで連れ帰る気だ。

たが、帰りたくねえ!

蒼神に手をかけてソファーから後退して対峙する。

 

「無駄な抵抗はやめてください優様」

 

すうと音もなく展開する秋葉

 

「うるさいぞ秋葉!お前一人なら余裕で勝てるんだからな!」

 

そう、神経を集中しないといけないのは月詠だ。

 

「最後に聞きます。帰る気はないんですね?」

 

「ない!」

 

ごっと殺気の風が月詠から発せられた。

浴びるものが素人なら失禁してしまうほどの……

く、くそ!よりによってワイヤーがオーバーホール中にこれかよ!

一瞬即発のその時、月詠はにこりとして壁に長刀を置き、秋葉も正座する。

え?と思った時

 

「ただいまぁ」

 

このアニメ声……まさか……

 

「優帰ってるの?今日のクエストの件なんだけど……」

 

とリビングに入ってきた私服のアリア。

や、やば女連れ込んでるなんて知られたら……

慌てて月詠達を見るがあ、あれ?

 

「どうかしたの優?」

 

「い、いや……」

 

窓を見ると開け放たれている。

退散したらしいな……

よかった……

これで、あきらめたとは思えんが今日はなんとか……

 

「あかりはどうしたの?どこで別れたの?」

 

し、しまったああああああ!

今、寝室で間宮が寝てるよおい!

 

「疲れたわ。優コーヒー入れなさい」

 

「あ、ああ」

 

とりあえずインスタントコーヒーを入れに台所に向かう。

 

「な、なあアリア。今日は自分の寮に帰らないのか?」

 

できればその間に間宮を……

 

「今日?今日は帰らないわよ?あかりがどうだったか聞きたいしね」

 

望みは絶たれたか……い、いやかくなる上は……

 

 

「あ、アリア実はなマリが相談があるそうなんだ」

 

「マリが?何かしら?」

 

「そ、それで内密な話らしくてアリアの部屋の前で待ってるらしいんだ」

 

 

「ここに来たらいいじゃない」

 

それじゃあ駄目なんだぁ……

 

「な、なあ頼むよ。なんか大切な話らしくてな。アミカの俺からも頼む」

 

アリアは何か考えていたが

 

「優、何か隠してない?」

 

「隠してないです!」

 

なんで敬語になるんだ!やべえ

 

「……」

 

アリアは俺を疑いの眼差しで見たが

 

「チームメイトに嘘つくなら風穴あけるわよ」

 

といいつつ部屋に一度戻ってくれるようだ。

よし、その間に裏工作すれば完璧だ。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

 

「おう、ゆっくりな」

 

「? うん」

 

パタンとドアがしまり足音が遠ざかる。今しかない!

俺は寝室に飛び込むとよく眠っている間宮あかりをお姫様だっこして夜の闇に紛れて家に送ろうとした。

住所は武偵手帳見たらわかるからな。

とにかく必死だったんだ俺は……

ドアに手をかけたところで

 

 

「優、そこでマリにあった……んだ……けど……」

 

「優せんぱ……」

 

ドアの外にはアリアさんとマリが……

 

固まる3人

 

「ど、どどど……」

 

やがて、アリアが震えだした。

怒りでね。

 

「ま、待てアリア!これは違うんだ!違う!」

 

「どうして、あかりをお姫様だっこしてるのか説明しなさい」

 

「それは……」

 

他言無用という土方さんの言葉がよぎる。

恨むぞ土方さん!

 

「じ、実はな!間宮が滑って転んでだから手当を……」

 

「ふーん、じゃあなんであかりの胸元が乱れてるんですか?」

 

え?

マリの指摘で今、気づいたが寝かせるときに治療するためか楽にするためか防刃ネクタイを外したらしい。

 

見ようによっては何かしたあとに見えそうだ

 

 

「ゆ、ゆうう!あんた、そんなことだけはしない奴だと思ってのに……あたしのアミカを!」

 

「フフフ……なんであかりなんですか……同じ1年なのに」

 

い、いかん!これはまずい!

2丁の銃が現れる。

もぎ取るようにアリアが間宮を抱き寄せると

 

「さようなら先輩」

 

「ヘル風穴!」

 

「ぎゃああああああ!」

 

こうして、二日目の風穴祭を浴びた俺。

誤解が溶けるのは深夜までかかり、帰ってきたキンジが寝ても誤解を解く作業は続いたのだった。

トホホだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、楽しそう」

 

優希の断末魔の悲鳴を聞きながら月詠はクスクスと女子寮の屋上で笑った。

 

「いいんですか?月詠様?優様を連れて行かなくても」

 

背後で優の悲鳴を聞きながら秋葉は言った。

 

「うふふ、強引に連れていくより自分から来てくれる方がいいでしょ」

 

「しかし、今東京は危険です。公安0と魔女連隊の抗争の場では……」

 

「そうね。魔女連隊の目的は分からないけど公安0に喧嘩を売ったことは公開することになるでしょうね」

 

公安0の戦力は国内最強の戦闘集団。

なるほど、東京という対魔に優れた場所での戦闘は魔女連隊には都合が悪いだろう。

勝算ありと見てはきていない?

 

「もしや、これは……」

 

「だとしても」

 

秋葉がいいかけて口を開く。

 

ギギギギギギギギギギギギギギギ

 

「私達は成すべきことをしましょう」

 

長刀をトンとコンクリートに起きながらバラバラになった木偶人形20体の雨を背後に月詠は微笑んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第107弾 秋葉

「いててアリアとマリの野郎本気で撃ちやがって……」

 

なんとか誤解は説けたが(最終的に土方さんに嘘の説明をさするはめになった)まだ、怒りが収まらないらしいアリアは寮に戻っちまった。

 

「大変だな優」

 

「うるさいぞキンジ……最近、俺の方がアリアに撃たれること多くないか?」

 

「いいことじゃないか」

 

キンジと歩きながらんなことあるかと隼の前まで来て、キンジにヘルメットを渡す。

アリアは今日は女子寮から来るのでなら、乗せて行ってくれとキンジに頼まれたのだ。

断る理由はないからな。

行くか……

エンジンを始動させて男子寮を飛び出して学校に入り、アリアに睨まれ、理子のお馬鹿トークに付き合う、そして、ホームルームに……

ここまでは普通の日常だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「山洞 秋葉です。よろしくお願いします」

 

なんでだよ!

アリアの時のキンジのように俺は頭を変えた。

なんであいつが武偵高の制服を来てるんだ!

昨日と同じなのはスパッツぐらい。

 

「うおおおお!」

 

うるさいぞ男子!秋葉は確かに美少女だが、あいつの性格と付き合うの大変なだぞ

 

「じゃあ、山洞さんの席は……」

 

「先生、わたしはあそこがいいです」

 

「あら?椎名君の後ろの席?」

 

うわあああ!

 

「はい、優さ……」

 

だんと俺は飛び上がると一瞬で秋葉の背後に回り込んで口を封じ手抱き抱えると廊下に飛び出してた。

 

「おーお!ユーユーが女の子さらっちゃったぞ!」

 

理子の声と男子の怒号が聞こえるが気にしてられるか!

屋上に出ると秋葉を立たせてから

 

「あ、秋葉お前、いきなり教室で優様って言おうとしただろう!」

 

秋葉は首を傾げて

 

「何か問題が?」

 

お前はレキか!いや、この際どうでもいい。

 

「どうせ、月詠辺りの差し金だろう!だから、深くは聞かんが教室では椎名君と呼べ!」

 

「ですが先程私は優様の後ろを指示しました。親密な仲だと思われてるかと……さらに、ゆうさ、まで言ったので椎名君では違和感を感じます」

 

なんてこったい!

 

「う……じゃあ、せめて優希君か優君にしろ……」

 

「はい、わかりました」

 

「で?俺を連れ戻しに来たお前がなんでここに?」

 

「優さ……優君の護衛です」

 

な、なんかこいつに優君と言われると違和感が……

 

「護衛?いらねえよそんなもん」

 

「いえ、私は椎名の近衛です。帰っていただけるまでどこまでも護衛します。永久までも」

 

それってつまり、家に帰らないならずっと俺に付きまとうってことか!

 

「いいから帰れ!」

 

「嫌です」

 

「帰れ!」

 

「嫌です」

 

強情な奴だ……

昔から、融通がきかんやつだとは思ってたが更に、拍車がかかってやがる……

 

「……」

 

絶対に引きませんという目でこちらを見ている秋葉に俺は諦めた。

 

「分かったよ。帰らねえけど近くにいていい」

 

あきらめたよ申し出るが……

そう思い俺は歩き出すと

 

「優君」

 

振り替えると秋葉がお辞儀していた。

 

「ありがとうございます」

 

まあ、こいつがいたら助かるといえば助かるんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前言撤回だ……こいつは疫病神だ……

教室に入った俺達に待ってたのは質問攻めだった。

 

「ねえ、変なことされなかった?」

 

「たらしの優希に連れてかれてみんな心配してたんだよ」

 

「おい、優!あの子とはどんな関係だ!白状しやがれ」

 

ぐえ!首を絞めるな武藤

 

「椎名君はハーレムでも作るのかい?」

「みたいだぞ」

 

こら、不知火!キンジ!何言ってんだ

秋葉も女子に囲まれて質問攻めだし……

 

「ねっね!アッキーはユーユーとどんな関係なね?Sまでした仲?」

 

こら、理子!何聞いてんだ!Sってなんだよ!

アリアもなんか聞き耳立ててるし

 

「私はと優君ね関係ですか?主従関係です」

 

 

こ、こら秋葉!

 

「主従関係!?おお!おおぉ!ユーユーが攻めでアッキーが受けな訳ですな。ご主人様お慈悲をみたいなかな?」

 

鼻を膨らませて興奮するな理子!

 

「よくわかりませんが主は優君で私は下僕です」

 

爆弾発言に周囲がざわめく

 

「まじかよ!椎名どれだけ女の子に縁があるんだよ」

 

「不潔だわ!」

 

「リア充爆発しろ!」

 

「で?本当のとこはどうなんだい椎名?」

 

「もう嫌だぁ!」

 

教室を飛び出して言った俺の背後から様々な声が聞こえてきたが無視だ!

平賀さんからワイヤーを受け取ってからいつもの屋上に向かう。

秋葉の奴……あいつが来たせいでめちゃめちゃだ……

東京都内は木偶人形、内は秋葉かよ……ああ、どうしたらいいんだと頭を抱えた時、

キイイイイイイと鉄の扉が開く音

 

「レキか……」

 

ドラグノフ狙撃銃を肩にかけてレキだった。

ハイマキは……いないみたいだな……

 

「……」

 

レキは無言で俺の横に来ると外を見ながら体育座りを……

慌てて、一歩下がる。

武偵高のスカートは短いんだよ!一瞬見えちまったじゃえか!その……しろの……

 

「その、レキもう少し座り方に気を付けろよ?」

 

「?」

 

レキが無表情にこちらを見て首をかしげる。

まあ、いいか……

ごろりと寝転がり、空を見上げながら目を閉じる。

ああ、この沈黙がいいなぁ……騒がしい教室とは大違いだ。

レキがいるがレキは騒いだりしないからな

 

「優さん……」

 

「ん?」

「よくない風を感じます。気をつけてください」

 

もしかして、レキは知ってるのか?木偶人形が都内で殺人を犯してる状況を……

だが、そうと決めつけるのは早すぎる。立ち上がりながら

 

「レキ、都内でクエストを受けたときに万が一変なものに襲われたら胸を撃てば止まる」

 

「……」

 

レキが無言で見上げてくる。

やっぱり知ってるか判断つきかねるな……

公安0が動いてるとはいえ、知り合いが木偶人形に殺されるなんて事態は避けたいからな……

 

「分かったかレキ?」

 

「はい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優!」

 

授業が終わると休み時間だけ逃げて秋葉や他の連中の追求を避けながらなんとか授業をこなしてから専門分野の時間、アサルトの授業になった。

 

「山洞秋葉です」

 

なんで……アサルトなんだぁ……

槍を手に、現れた秋葉に俺は頭を抱えた。

 

「転校生が美少女で知り合いって割りとポピュラーなことだよね椎名君」

 

「そんなポピュラーはいらねえ……」

 

教室で囲まれてように秋葉を囲むアサルトの連中、秋葉が使う槍が珍しいんだろう。

槍使いはアサルトではほとんどいないからな。

 

「何、デレデレしてんのよ優」

 

「デレデレなんてしてない!」

 

後ろから聞こえたアニメ声に振り返えるとアリアだった。

となりには……

 

「き、昨日はありがとうございました椎名先輩」

 

間宮 あかりか……

土方さんに聞いた話では暴漢に教われて、俺が片付けたがあかりは一発殴られて気絶したという記憶を埋め込んだらしい。

殺人人形の件は完全に忘れてるようだな。

 

「いや、後輩を守りきれなくて悪かったな間宮」

 

「いえ」

 

昨日までは敵対心丸出しだったが仮の記憶でいい先輩ぐらいにはなったらしい……よかったよかった

 

「それで優?あの子本当は誰なの?仲いいみたいだけど……」

 

「ああ……まあ、秋葉は……」

 

なんとでも言えるんだがなんか罪悪感がある……まあ、アリアだしいいか……

 

「秋葉は俺の実家がの戦闘集団『近衛』の一人だ。小さい頃から一緒にいるがまあ、幼なじみだな」

 

言ってないこともあるがこれは事実だ。

 

「近衛?」

 

あかりが首を傾げる。

まあ、馴染みがない言葉だよな

 

「ま、うちの警備や護衛の専門部隊と思っていいさ」

 

「で?なんでその子がいきなり転校してくるの?」

 

それは話せば長くなるが……

 

「私は優君を守りに来ました」

 

うわ!びっくりした!いきなり現れるなよ

 

「守る?」

 

「はい、優君は私達にとって大切な人です。優君を守るためなら私は全てを差し出して構いません」

 

こ、こら秋葉!言い方がまずいだろ!

補足するなら代々、山洞家は椎名の近衛として支えてる一族だ。

今の言い方も様なら違和感ないが君だと違和感ありすぎる……

 

「す、全てを差し出すって……」

 

何を想像したのかアリアが真っ赤になってるぞ。

 

「はい、この体全ては椎名のために」

 

その顔を見て、俺はため息をついた。

忠誠心は立派だが昔以上に頑固になった秋葉はなんか見ていて悲しくなる……

 

「それって山洞さんと椎名君は深い仲ってこと?」

 

し、不知火このタイミングでそれは……

秋葉は誇らしげに

 

「はい」

 

「優!風穴ぁ!」

 

「や、やめろ!」

 

俺は逃げようとしたが俺とアリアの間に秋葉が立つ。

 

「優君に手を出さないで下さい」

 

さすがにいきなり発砲はまずいと思ったのかアリアが躊躇している。

助かるか?

 

「なんや、お前ら喧嘩か?」

 

げ!蘭豹!こいつがくるとろくなことにならんぞ。

 

「転校生の実力もみたいしなぁ……神崎、山洞お前ら模擬戦やれ」

 

「ちょ!蘭豹……先生!」

 

何考えてやがるこいつ!

 

「いいわ」

 

「はい、わかりました」

 

アリアも秋葉もおい!

二人ともきめてしまえば強情だ……

もう、止められないんだうなぁ……

はあ……

こうして、アリアvs秋葉の模擬戦が決まってしまった。

どうなってもしらんぞ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第108弾 一撃必槍

「あたしをなめてるの!」

 

 

防弾ガラスに守られた闘技場にアリアのアニメ声が響き渡る。

名目上は体育館なんだが……

 

「いいえ。舐めてませんよ」

 

秋葉は目を閉じたまま言った。

訓練用に義務ずけられているC装備を秋葉は断り防弾制服のまま、闘技場にたっている。

これにはプライドの高いアリアも対等な条件でやりたいと蘭豹に焚き付けたんだが蘭豹の奴あっさりと

 

「おーおー、やれやれ」

 

ときやがった。

 

「いくらなんでも目をつぶったままじゃ神崎には勝てないんじゃないかな山洞さん」

 

防弾ガラスの向こうを見ながら不知火が言う。

 

「いーや、アリアに勝目は薄いぞ不知火。あいつは予備知識なしに初戦を戦うとえげつないやつだからな」

 

「アリア先輩は負けません!」

 

横に並んで、アリアのアミカのあかりが言うがまぁ……

 

「見てろよ間宮」

 

蘭豹の銃が轟音を鳴らした瞬間戦いは開始された。

秋葉は身長ほどある細長い槍を下に向けたまま、目を閉じて動かない。

アリアが先に動いた。

ガバメントを抜いて三点バーストで六発

当然、全てを防弾制服に絞ったんだろうが秋葉はすっと動くと銃弾をぎりぎりの所でかわした。

おおとアサルトの連中が驚愕の声を上げる。

 

「山洞さん目を閉じてかわしたよね遠山君?」

 

「ああ」

 

キンジと不知火がびっくりしている。

まあ、あいつには銃弾はきかないんだ。

狙撃手が風を読むように秋葉も風を読む。狙撃手は遠距離だが秋葉は近距離でそれをやるのだ。

アリアの銃を振り上げる空気を割く瞬間、ガバメントから銃弾が空気を震わす瞬間を秋葉は読んでいるのだ。

 

「くっ、この!」

 

ガバメントが弾切れになるとアリアは小太刀を抜いてアル・カタを仕掛けるべく突撃する。

 

「……」

 

秋葉は動かない。

上段からの二等をやはり最低限の動きで交わす。

右を振り抜いたアリアは回転しながら鋭い回し蹴りを放つが秋葉はそれすら、交わす。

アリアが動く直前にもう、回避の手順を終えているのだ。

 

アリアはアル・カタで秋葉に猛攻を加えるが秋葉には当たらない。

 

うわ、秋葉の奴、腕あげたな……

昨日は余裕で勝てるとか言ったが俺でも当てられなくなってるかもしれんな……

まあ、秋葉を沈める手順はあるがワイヤーあってこそだからな。

 

「あれは、ただ、回避してるだけじゃないね椎名君。もしかして、山洞さんは予知能力とか持ってる超偵かい?」

 

「当たらずも遠からずだな不知火」

説明してやる気はないが秋葉は武偵で言うならば超偵だ。

だが、能力は予知能力ではないけどな。

 

「あんた超偵?」

 

目を閉じたままでいる秋葉にアリアが少し息を乱しながら言った。

 

「はい、私は風を操ります。あなたの行動は全て、風が応えてくれます」

 

レキ見たいに聞こえるなそういうと……

 

「風?わかったわ。あんたのその目を開けない理由は神経を極限まで研ぎ澄ましてるから」

 

「正解です」

 

秋葉は槍を持ち上げながら

 

「ですが、それが分かったからと私に勝てるとは限りません。どんな強力な攻撃も当たらなければ意味がありません」

 

「……っ」

 

ある意味では秋葉はアリアにとって最悪の相手だろう。

いや、ここにいるアサルトの人間でも秋葉に勝てる奴はそうはいまい。

 

「敗けを認めますか?」

 

「っ、まだあたしは傷1つつけられてない!」

 

「そうですか」

 

刹那に秋葉が動いた。

下段の槍をいきなり上に振り上げたのだ。

金属音がし、アリアの小太刀の片方がはねあがる。

 

「っ!」

 

秋葉はさらに、右側の後ろに槍を引くと猛然と突きを放つ。

「う……」

 

アリアはなんとか交わしたが、秋葉の槍は少し戻りアリアに突きの猛攻を加え出した。

 

「っ!あ」

 

耐えてるアリアも流石だな……あの槍は能力も使ってるからな……

普通に使うよりも早さが段違いだ。

秋葉は空気抵抗を減らすため長刀ではなく槍を使ってるからな。

 

「おい、まさか終わっちまうのか神崎の無敗記録」

 

アサルトの生徒の言葉を聞きながら

俺は思う。

武偵は諦めるな決して諦めるな。

アリアは猛攻にさらされながらも辛うじて、小太刀で受け流している。

一歩間違えば防刃制服に直撃して骨折しかねない。

 

「……」

 

ビュンと再び、槍がアリアを掠めたしゅんかん、アリアは右の小太刀を離すと槍を掴んだ。

 

「う……」

 

既に引き戻す動作をしていた秋葉の懐にアリアが接近して、小太刀を奮った。

うまいな

 

「……」

 

秋葉はあっさりと槍を手放すと後ろに跳んだ。

更に、着地してアサルトの誰かのだろう剣を手に取るが槍を失った以上、秋葉の戦闘力はかなり落ちる。

アリアはガバメントのマガジンを入れ換えると再びフルオート射撃を開始する。

今度は走りながら角度を作る。

たが、秋葉には当たらない。

やはり、最小限の動きでかわしきるのだ。

 

「すごい……」

 

Sランクの戦いにあかりが呟く。

時計を見ると授業終了まで三分引き分けかな……

 

「お、おい優」

 

「あ?」

 

キンジの声に秋葉に目を向ける。

秋葉のウェーブのかかった髪が揺れている。

スゥと秋葉はアリアの弾丸をかわしながら剣を右後ろに……

あ、あいつ!馬鹿か!

扉を破って闘技場に飛び込む。

後ろで蘭豹が叫んだが無視だ!

回りを確認してからワイヤーで加速する。

 

「アリア!伏せろぉ!」

 

「え?ゆ、きゃあ!」

 

アリアを押したおした瞬間

 

「一撃必槍……」

 

秋葉の声が聞こえ光が図上を通過した。

ドオオオンと爆砕音が闘技場を揺らし、慌てて、秋葉の投げて剣の方を見ると

剣が通過した防弾ガラスの場所が溶けて巨大な穴を作っていた。

さらに、その先には融解したらしい赤い鉄が飛び散っていた。

馬鹿かあいつは……殺人技を使いやがって

 

「おい!秋葉!」

 

むにゅ

ん?なんか、柔らかい……げっ!

見ると俺はアリアを押し倒した形になっており多分、ブラジャーごと胸をわしづかみにしていた。

わなわなと顔を真っ赤にするアリア

 

「ゆ、ゆゆゆ、優こんなところで!」

 

「い、いや俺はアリアを助けようとだな」

 

「風穴ぁ!」

 

「ぎゃああああああ!」

 

授業終了のチャイムの中、体育館に結局、俺の悲鳴は響き渡るのだった。

ちなみに、秋葉はその様子を見ながら槍を手に戻しながら見ているだけだった。

ちなみにこの後、俺と秋葉は蘭豹に呼び出され、防弾ガラスの修理費を支払わされたのだった。

経費で落とすと秋葉が払ってくれたがお前が原因だからな!

こうして、強制終了という形で模擬戦は終わりを告げたのだった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第109弾 内なる怒り

アリアと秋葉が戦ったその日、寮に戻ってシャワーを浴びてからにソファーに倒れ込むように転がる。

つかれた……今日はいつも以上に疲れたぞ……

秋葉が転校してきてようやく落ち着けたぞやれやれ……

 

「あむ、ん……優君も食べますか?」

 

そう、目の前にチョコレートケーキを食べてる秋葉がいるわけないんだ……って!

 

「あ、秋葉!」

 

「はむ?」

 

もぐもぐと口を動かしながら秋葉が首を傾げる。

 

「なんで秋葉がここにいるんだ!」

 

ていうかどこから入ってきたんだ?

秋葉は俺が聞きたいことを理解したのか窓を指差す。

風の能力で飛んできたのか……

理子の過去を思い出した副産物でステルスのことも大部思い出したが秋葉の風は応用が聞く……いいなぁ……

 

「すみません。能力を使用した後はこれを食べないといけませんので」

 

秋葉の前に並べられたチョコレートの山。

そう、グレードが高いステルスは能力を使うと何かでエネルギーを補いといけないらしい。

個人によってちがうが酒であったり食事であったりとするようで秋葉の場合は甘いものがその対象だ。

 

「まあ、ゆっくり食べたらいいが食べたら寮に戻れよ」

 

「寮ですか?」

 

「ああ、女子寮だ」

 

「今日から私はここに住みます」

 

「ああ、ここに……ってなに!」

 

「私は椎名の近衛です。主の傍から離れず守らないといけません」

 

いやいや!お前、アリアと戦ったし、なんか誤解されてるからやめてくれ!

 

「き、キンジの許可とらないと駄目だ!」

 

「必要ありません。」

 

駄目だ……こいつどうにかしないと……

 

「椎名の家に帰るなら私はここには住みません優様」

 

「だから……嫌なんだ」

 

「なぜですか?」

 

「……」

 

帰れば否応なしに過去に触れることになる。

それに……咲夜と鏡夜を初めとして、実家の連中には味方がいないような気がするんだ。

もちろん、実際は違う。

咲夜は帰ってきてほしいと本当に思っているだろうしな……だが、秋葉……お前は……

 

「お前は俺に帰ってきてほしいのか?」

 

「はい、椎名の家の意思は……」

 

「違う。山洞秋葉としての意見だ」

 

秋葉はチョコレートを机に置いてから俺を真っ直ぐに見ると確かな怒りを俺に向けた。

 

「……」

 

だが、結局何も言わずに立ち上がる

その背中を見ながら幼い秋葉が泣いているあの光景が

 

「……」

 

炎の中、彼女は……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

そうだな……逃げ回ってても償いにはならないんだよな……

 

「分かったよ秋葉」

 

「?」

 

「家に帰る」

 

 

すこしは、過去に向き合わないといけないらしい……

でも、できたら帰りたくないな……

 

 

 

 

「……」

 

秋葉は黙って、玄関の方を見た。

長い蜂蜜色の髪が一瞬だけ見えたが気にもとめなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第110弾帰還へ

家に帰るという俺の意思に秋葉の行動は素早かった。

1時間後には次の日の夕方6時に寮の前に車を回しますと言って姿を消してしまったのだ。

マスターズに休む理由をいわないといけないという理由を秋葉に言わなければすぐにでも車を回してきかねない素早さだった。

ま、明日は金曜だから月曜と火曜ぐらい休むことをいえば大丈夫だろう。

キンジに月曜火曜まで寮にいないとことを告げる。

アリアには話したんだが、

 

「ふーん」

 

と言われただけで特に何も言われなかった。

なんか不気味だなと思っていたんだがなぜかは18字時になって初めて分かった。

 

「おい・・・」

 

寮の前に止められた馬鹿みたいに大きなリムジン

その後部座席には、アリア、キンジ、レキ、理子、マリが座っていたのだ。

 

「準備終わりましたか優君」

 

と、運転席から顔を出したのは秋葉だ。

 

「いったいどういうことなんだよみんな!」

 

「くふ」

 

俺の問いに小悪魔のような笑を浮かべて答えたのは理子だ。

 

「甘いなユーユー」

 

何がだよ!

 

「こんなお誘い受けて断らない手はないんだよ」

 

「せっかく、誘って貰ったんだから断るのは貴族としてどうかと思ったのよ」

 

え?アリアさんなんのこと?

 

「・・・」

 

レキはこくりと頷いただけ

お前何が言いたいんだよ!

 

「まあ、俺は巻き込まれただけだ」

 

と、キンジ

なるほどな・・・なんとなく分かった。

 

「秋葉、ちょっとこい」

 

「?」

 

秋葉は運転席から出ると俺の方にやってくる。

小声で

 

「お前、あれはどういうことだ?」

 

こいつが誘ったとしか思えん

 

「いけませんでしたか?」

 

「当たり前だろ!」

 

実家にみんなが来るなんて想像しただけでも気が重くなるぞ

 

「ですが、東京は今、危険です。 優君の仲間を避難の意味を込めて、招待するのはいけないことでしょうか?」

 

「・・・」

 

そう言われると正当性があるように思えるな・・・

東京は今、木偶人形が暴れているし、学園島にも1度とはいえ現れたらしい・・・

手の届かない場所で友達が死ぬなんて絶対に嫌だ・・・

そう考えるならむしろお膳立てしてくれた秋葉には感謝するべきなのだろうな。

白雪は恐山に合宿中だから、問題はない。

 

「分かったよ」

 

諦めて車に乗り込む。

 

「旅行楽しみだねユーユー!」

 

理子が隣に座り込んでくる。

甘いバニラのような香りにドキッとする。

ブラド戦で理子を救ってからこいつは、少し俺から離れてたんだがこういうこところは相変わらずだな。

 

「俺の実家なんて行っても面白くないぞ?」

 

「だから行くのよ」

 

俺の正面に座ったアリアが備えられた冷蔵庫からジンジャエールを取り出すと口に運ぶ。

 

「あんたは、いろいろ、謎が多い。 調査は武偵の基本よ?」

 

「はぁ・・・お前ら・・・行っても気分のいいもんじゃねえぞ俺の実家は」

 

「どういうこと?」

 

アリアが聞いてくる。

 

「行けばわかるよ」

 

窓の外を見ながら俺は目を閉じる。

 

「優! 説明しなさい!」

 

アリアのアニメ声を聞きながら、秋葉の出発しますという声を聞きながら俺は意識を手放した。

実家に帰る前に体力温存しとかないとな・・・

少しだけ、目を開くと俺の横にいるレキは何も言わずに窓から見える夜空を見上げていた。

こういう時は、レキだと助かるよな

そういえば、レキはなんでついてきたんだろうな?

他の連中は面白そうだとか理由はわかるんだがこいつはわからん・・・

ちなみにハイマキは助手席できちんとオスワリしている。

シートベルトまでしてやがる・・・

まあ、いずれにせよ目的地まで約8時間ぐらいか・・・

到着は真夜中になるだろう。

鏡夜とかみんな寝ていてくれると嬉しいんだがな・・・

 

「なあ、アリア」

 

「何? 優?」

 

この子には言っとかないとな

 

「もし、実家で俺に失望するようなことがあればチームメイト解消でいいからな」

 

あのことを知られたくない・・・

知れば、アリアは俺から離れるだろう。

いや、レキも理子もキンジもマリも知れば・・・

 

「何言ってるよの優?」

 

アリア?

 

「武偵憲章にもあるでしょ? 仲間を信じ仲間を助けよ。 あたしはあんたを信じてる。

理子を助けたときもそうだし、神戸で藤宮の2人を助けたあんたは悪人じゃない。 違うの?」

 

「さあな」

 

自分が悪人じゃないなんて俺は言えない・・・

少なくても秋葉の前では言えないんだ・・・

俺の犯した罪は未来永劫消えない。

だが、それでも・・・

周りを見渡しながら俺は思う。

みんなは、あのことを知っても俺を仲間だと思ってくれるだろうか・・・

突き刺さるような視線を浴びたあの日々・・・

 

椎名に名前に泥を塗った男 生きてる価値すらない

 

我ながらよくグレなかったもんだな・・・

 

 

 

 

 

「俺はお前を尊敬していた・・・」

 

 

 

 

 

 

あいつの言葉も重い・・・

 

くそ、家のことを思い出すとどうしても嫌なことしか思い浮かばない・・・

でも、恨もうとは思わない。

俺が恨むとすれば1人だけだ・・・

ローズマリー・・・あいつこそ俺の人生をめちゃくちゃにした張本人なんだから・・・

高速道路に入るリムジン

やはり、帰りたくないな・・・

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第111弾レキの膝枕

旅行ということで理子はいろいろと遊ぶものを持ってきてはいたが騒いでいたのは最初の1時間だけ、みんな、眠気が勝ったらしく気づいたら眠っていた。

俺もみんなが寝息をたててるのを聞きながら携帯をいじっているとこてんと理子が俺の肩に頭をのせてきた。

 

「こら理子! 寄りかかってくるな!」

 

「んん・・・やーだ」

 

起きてるのか?

そう思った寝息が聞こえてくるので本当に寝ているようだ。

守れてよかった・・・

ブラドに勝つことができて・・・

自然と笑が溢れてきて携帯を閉じて窓の外を見ようと右を向く。

 

「・・・」

 

レキも目を閉じている。

いつもの格好ではなく、少し首を前に倒した眠り方だ。

 

「寝てるのかレキ?」

 

「いいえ」

 

レキが目を開いた。

高速道路の橙色の光の照らされながら見るレキはなんというか神秘的に見えるな。

 

「お前はなんで来たんだ?  いや、誤解するなよ? 嫌いだとかそういう理由じゃないからな」

 

「風に命じられました。 優さんとともに行けと」

 

また風か・・・

 

「風ねえ・・・」

 

秋葉は黙って運転している。

風と言えば秋葉なんだが、レキの言う風はどうも、ステルスとは違うらしい・・・

 

「っ・・・」

 

頭に殴られたような頭痛がした。

これは・・・また、過去の記憶か?

どこまでも、広がるその大地の先にその少女はいる。

風に髪をなびかせ・・・

 

「優さん?」

 

はっとして我に帰るとレキが無表情にこちらを見ていた。

同時に見えていた光景が霧散する。

ま、まさかな・・・理子に続いてレキとまで、俺、過去に会ってないよな?

そんなわけないと思いながら首を横に振る。

 

「なんでもねえよレキ。 そういって、俺は目を閉じた」

 

あれ・・・そういえば、レキって俺と初めてあった時から優さんだったよう・・・な

だが、その疑問をレキにぶつける前に俺に意識は闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん・・・寝ちまったか・・・

目を開けると奇妙な光景だった。

世界が横になってるぞ・・・

寝ぼけながら目をこする。

なんか、この枕あったかいな・・・

って!

慌てて、起き上がると理子が寄りかかっていたらしく理子はそのまま、窓に頭をゴンとぶつけたがそれどころじゃねえ!

どうやら、俺はレキの膝枕で寝ていたらしい。

レキを見るがレキは寝ているらしい

よ、よかった・・・

一番騒ぎそうなアリアはキンジの肩に頭をのせて寝てやがる。

今はいいなとか言わんぞキンジ・・・

時計を見るとすでに6時間経過していた。

ずっと、レキの膝枕で寝ていたのか俺は・・・

 

「起きましたか優君?」

 

「ぐるおん」

 

秋葉とハイマキが前から言ってくる。

ハイマキは多分、やっと起きたかまぬけといっているように聞こえるぞ

 

「あ、ああ・・・なあ、秋葉俺・・・」

 

「優君がレキさんの膝で寝ていた時間は5時間58分です」

 

ほとんど!最初からじゃねえか

 

「ちなみに、レキさんはさっきまで起きていました」

 

ぎゃあああああ!やべえ!後で、なんてレキにいえばいいんだ!

 

「お、起こせよ秋葉!」

 

「私は運転中です。 1度ハイマキさんが優君に飛びかかろうとしましたがレキさんに止められました」

 

「ぐるおおん」

 

運のいいやつ目かな?

ま、まあ不幸中の幸いはアリア達が寝ていたことか・・・

 

「今どこなんだ秋葉?」

 

「滋賀県です。 ごへいもち食べて行きますか?」

 

秋葉は滋賀県のサービスエリアーで売られている名物を言う。

 

「いや、遅くなってもしょうがねえからな・・・このまま行こう」

 

「はい」

 

それ以後、会話がなくなってしまう。

寝てしまうのは簡単だったがこいつとはもう少しだけ話しておこうかと考えてやめた。

後にして思えば・・・ここで、話しておればと悔やむ時間だったんだろうな・・・

何も生み出さないただの、惰眠のために俺は目を閉じた。

そして、俺たちはついに踏み入れる。

京都に入り、高速を降りる。

そう、俺の実家は京都にあるのだ。

ああ、ついに戻ってきちまったんだな・・・

京都の街を外れて向かう先にため息を付きながら俺は周りを見渡した。

みんな寝てるが俺の大切な仲間たち・・・出来たら、一緒に友だちとして卒業したいな・・・

そんな願いを思いながらため息を付くのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第112弾 弟登場!

「つきましたよ」

 

「「「「「……」」」」」

 

おい、みんな無言になるなよ……

まあ、仕方ないか?

俺も見るのは久しぶりだからな。

 

「じ、実家と同じくらい大きいわ」

 

これに匹敵する屋敷って……

アリアはやっぱり貴族なんだな。

 

「まさか、これほど大きいとは想像してなかった。優お前金持ちだったんだな」

 

「俺の金じゃないけどな」

 

キンジに言ってからレキを見たが相変わらずレキはドラグノフ狙撃銃を背負い、無言で屋敷を見上げている。

 

「ユーユー嘘つきだぁ!」

 

「何がだよ!」

 

屋敷に入りながらホールのようなとこに出ながら理子に言う。

 

「いつも貧乏みたいなこといってたのにユーユーお金持ちぃ!」

 

「いや、だからな!高校からは一円も俺は援助しともらってねえぞ!実家からは」

 

まあ、実は金額無制限のクレジットカードがあるんだがあれは中学の学費意外には使ってない。

高校からは全部、クエストで稼いで学費も納めてるからな。もう、このカードは使わないと決めている。

まあ、自衛隊とか実家の力を借りたのは事実なんだけどな

 

「くふふ、ユーユーと結婚したら逆玉だぁ」

 

聞いてねえな馬鹿理子……

 

「失礼します。お荷物を……」

 

すうと寄ってきたのは数人の仲居だ。

屋敷はメイドと決まりものだがこの家は少し変なとこがあるからな……

 

「ああ、わる……」

 

ボストンバックを渡そうとして40代くらいの仲居の手に触れた瞬間、その仲居は

 

「ひい!」

 

悲鳴をあげて後退り、俺のボストンバックが床に落ちる。

 

「だ……」

 

「も、申し訳ありません!」

 

その仲居は悲鳴をあげて土下座してきた。

大丈夫かと言うつもりだった俺はため息をついてボストンバックを肩に担いだ。

「いや、いいから顔をあげろよ」

 

だが、仲居はぶるぶる震えながら申し訳ありません申し訳ありませんと繰り返しながら頭を上げない。

 

他の仲居に荷物を渡していたアリア達もびっくりした顔でこちらを見てる。

他の連中もそうだな……仲居達は我関せずを貫き、俺と視線が会わないようにしている。

 

「もう行っていいですよ」

 

秋葉だった。

ぽんと仲居の背中を叩くと仲居は弾かれたように立ち上がり失礼しますと走り去ってしまった。

 

「優君の荷物は私が持ちます」

 

「いや、いいよ。部屋に案内してくれないか?」

 

「はい」

 

「ち、ちょっと待ちなさいよ優!なんなのよこのメイド達の態度!」

 

 

怒りで顔を真っ赤にしたアリアだった。

ハハ……タコみたいだな

 

「いいんだよ」

 

「よくない!あんた、実家ってことは主の子息でしょ!メイドは主の関係者には敬意を払うのが普通よ!」

 

まあ、蔑ろにしちゃダメなのはなんとなくわかるけどな

 

「だから、いいんだアリア。俺を避ける理由はわかるからな」

 

「何よ理由って!説明しなさい優!」

 

戸惑ったように仲居達がアリアを見ている。

理子は成り行きを見守るためか静観してるな……

さて、どうごまかすか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そのクズが犯罪者だからだ」

 

唐突に頭上から響き渡った声に顔をあげると、ホールの正面の階段の上に少年が立っていた。

右手には刀、トレーニングをしていたのかタンクトップにジャージという姿

一言で言えば日本男子という言葉がふさわしいそいつは……

 

「久しぶりだな鏡夜。直接会うのは家を出て以来か?」

 

「黙れクズ、お前と話す気はない」

 

ぎろりと怒気、殺気をぶつけながら鏡夜は言った。

直接、会っても態度変えないか……

 

「だ、誰よあんた!」

 

アリアが口を挟んでくる。

鏡夜は殺気を止めるとアリアを見て

 

「俺は椎名鏡夜、そこのクズの弟だ。お前も名乗れ。礼儀を知らないのか?クズの仲間は」

 

「く……クズって……あんた優の弟なんでしょ?なんで、そんなに優にかみつくのよ」

 

鏡夜は不愉快な顔をしながら

 

「黙れ、他人が俺をクズの弟と呼ぶな!それより名前も名乗れないのか?」

 

「あたしは貴族よ!神崎・H・アリア!」

 

「H?なるほどな」

 

ふんと馬鹿にしたように俺を見下す鏡夜

 

「クズが必死になって免罪を証明するために動き回ってるホームズ家の女はお前か」

 

調べたのかお前……

 

「女女って!あたしはアリアって名前があるのよ!」

 

ガバメントに手を持っていこうとするアリアの手を慌てて止める。

 

「ゆ、優放しなさいよ!あいつ貴族を侮辱したわ!」

 

「いきなり、ぶっぱなすな!一応実家なんだ!」

 

近衛の連中がアリアを抹殺対象にしたら大変なことになる。

「ふん、お前らは名乗らないのか?」

 

鏡夜はキンジ達の方を見て言う。

 

「遠山キンジだ。あいにく、アリアみたいに貴族じゃないがな」

 

「峰・理子だ」

 

 

理子怒ってるのか?男しゃべりに戻ってるぞ

 

「レキです」

 

最後に名乗ったレキを鏡夜は見てから

 

「なるほどな。クズの仲間というから見に来たが弱いものは群れるとはよくいう」

 

 

顔を真っ赤にしてアリアが口をパクパクしている。

怒りで声もでないらしいな。

 

「おい……お前、あんまりあたしの友達を侮辱するな」

 

げ!理子のやつ!

 

「あ、秋葉!」

 

「はい、理子さん。落ち着いて下さい」

 

「くふ、理子悪い子なんだぁ」

 

ざわざわと髪が動き出したぞ。

ま、まずいぞ!

思わずレキの方を見たが幸いレキは微動だにしていなかった。

助かったと思った瞬間、レキがドラグノフを肩から外して……

ちょ!レキ!お前、妙な風の指令でも受けたのかよ!

 

「レキ!やめろ!」

 

「ふん、面白い」

 

鏡夜も刀に手を付けて構える。

あ、あれは風凪の構えか!

 

「みんなやめろ!」

 

もうだめだと俺が思ったその時だった。救いの天使は現れた。

 

「優兄!」

 

ホールに響き渡る声、二階から和服を来て、右目に眼帯をつけ小柄でおかっぱ頭の少女が満面の笑みで階段を降りてくる。

そして、アリアを抑える俺に向かい飛び込んできた。

当然、アリアの胸に飛び込む形になるから……

 

「きゃあああ!」

 

「うわ!」

 

アリアと俺の悲鳴が重なり俺達三人は押し倒されるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第113弾 妹登場!

いて!

 

油断していたこともあり、床に尻餅ついた俺の体にアリアが悲鳴をあげながら倒れ込んでくる。

アリアの前には小柄な少女。

びたーんと漫画みたいな音がしその場が沈黙に包まれる。

 

「あれ? 優兄じゃ……」

 

「ど、どきなさいよ!」

 

「す、すみません!」

 

アリアから飛び退いた眼帯の少女はペコリと頭を下げる。

アリアも立ち上がり、俺を睨もうとした、瞬間少女と俺の目が会った。

 

「よう咲夜ひさ……」

 

「優兄!」

 

猪突猛進という言葉がある。

まさに、言葉通り俺の妹、咲夜が胸に弾丸のように満面の笑みを浮かべながら飛び込んできた。

 

「ぐえ!」

 

つぶれたひきがえるのような声を出しながら俺は倒れた。

 

「なっ……」

 

アリアが絶句しているな。

 

「あたた、いきなり飛び込んでくるなよ咲夜」

 

そういいながら俺はぽんと妹の頭に手を置いた。

 

「でも、久しぶりでうれしくて」

 

リスのようなつぶらな瞳を向けてくる咲夜。

ハハ、変わってないなお前は

 

「ただいま咲夜」

 

「はい、お帰りなさい!優兄」

 

少しだけ戻ってきてよかったなと思った時

 

「咲夜!そのクズから離れろ」

 

鏡夜が怒りのこもった声で言ってくる。

「クズなんかじゃありません!優兄です!鏡兄」

 

「咲夜!」

 

「鏡夜……兄様」

 

ぎゅっと俺の服を掴みながら咲夜は言いなおした。

 

「おい!鏡夜あんまり、妹をいじめるな」

 

「黙れクズ、椎名の家を追い出された人間なぞもう、兄弟でもなんでもない!」

この野郎……いい加減しろよ……

戦うべきかと思ったその時

 

「おや?これはなんの騒ぎですか?こんな夜中に?」

 

鏡夜の横の通路から仲居さん二人を連れた白髪まじりの脂ぎった男が歩いてきた。

 

「新吾叔父さん……」

 

鏡夜が言った。

 

「ふむ」

 

口ひげをたくわえた新吾はホールを見回すと

 

「おお!優希君じゃないか!久しぶりだね」

 

「お久しぶりです……」

 

内心で笑いながら俺は言った。

 

「ね、ユーユー!誰誰?」

 

理子が多分、咲夜のことも含めて聞いてくる。

 

「ああ……」

 

俺が言おうとすると

 

「これはこれは可愛らしいお嬢さん達だ。優希君の恋人かな?」

 

ハハハと人なつっこい笑顔で新吾が言う

 

「こ、こい……」

 

アリアがぼんと赤くなったが理子は調子にのったのか

 

「はいおじ様!ユーユーは私の恋人でーす」

 

「違うだろ理子!」

 

即座に否定すると理子はぷーと頬を膨らませ

 

「ええ、キスまでした仲じゃん理子達」

 

「い、いやあれは……」

 

言ってから後悔する今の発言はしたことを完全に認める言葉だ。

 

「優兄……」

 

咲夜が泣きそうな目でこちらを見上げてくる。

ど、どうしたらいいんだ……

 

「……」

 

ぐあ!レキさん!無表情なその視線が痛い!

 

「ゆ、優!あ、あんたやっぱり理子と!」

 

ぎゃああああああ!やめろ!

アリアがガバメントを抜こうとした瞬間

 

「ハハハハハハ、実に楽しい仲間ですな優希君」

 

新吾おじさんが太った体を揺らしながら言った。

 

「自己紹介が遅れましたお嬢さん方と優希君のお友達。私は葉山新吾、椎名の家の代表代理をさせて頂いています」

 

「椎名の家の?そもそも、優の実家は何をしてるところなんですか?」

 

疑問に思ったことをキンジが聞いている。

まあ、気になるのはわかるが……

 

「ハハハハハハ、それについてはまた、明日以降にしましょう。君達、お客様を部屋にご案内しなさい」

 

すっと後ろの仲居が動き出す

 

「志野さんはもう寝たのか?」

 

できれば挨拶をしておきたいんだが……

 

「お母様は今は寝てると思う……最近、体調が優れないから……」

 

悲しそうに咲夜が言う。

 

「そうか……」

 

アリアが何か言いたそうにこちらを見ているが階段を降りてきた仲居の一人が俺の前にやってきた。

 

「お荷物お持ちしますよ!優希ぼっちゃま」

 

「いや、いいよ……」

 

どうせ怖がるんだろうと思い、断ると

 

「駄目ですよ!荷物運びは仲居の仕事なんです!」

 

強引に荷物を奪われてしまう。

以外に思ってその子を見るとかなり、若かった。

というか小さい。

中学生か下手したら小学校だぞ……

そばかすがついた田舎娘といった感じの少女はうんしょっと荷物を担ぎ上げる。

 

「こら、睦月!優希様に失礼でしょう」

 

「ええ、だって中々、荷物渡してくれないもん」

 

「優希様すみません、この子まだ、見習いなもので」

 

仲居かと思えばこのポニーテールの子は近衛だな……

椎名の近衛は私服の着用が許可されている。

仲居は一貫して着物だ。

にしても驚いたな……俺にこんなに普通に接してくれる連中がまだ、実家にいたのか……

 

「いや、いいよ。とりあえずみんなまた、明日だ。ゆっくり休んでくれ」

 

何か言いたそうな面々を見ながら俺達はそれぞれの部屋に通される。

無駄に広い屋敷だな……中身の構造調べないと戦闘になったときは不利になる。

実家で戦闘なんか考えたくもないが新吾叔父さんが現れた時、ふんと言って姿を消した鏡夜の態度を見る限り一戦交えるぐらいはしてきそうだからな……

名残惜しそうにしながらも眠そうな咲夜をまた、明日、会えるからと部屋に帰らせて小学校見たいなメイドと秋葉に見送られ部屋に入ったんだが……

右にシャワーを浴びる部屋があるがもう、今日は寝るか……

念のためにデザートイーグルを枕の下に隠して蒼神を布団の中に納めてから横になると目を閉じた。

ああ、明日からのこと考えると気が重い……

滞在は予定では火曜までだが、戻ってきたならやりたいことも多かった。

この椎名の家じゃない旧本家……秋葉の話なら当時のまま、放置されてるらしい。

 

「行くんですか?あそこに?」

 

秋葉の言葉が重いな……結局、行くとは秋葉には言わなかった。

あそこは誰が決めた訳ではないが椎名の家には禁忌的な場所になってるらしい。

だろうな……わかる……おれは……

そこまで考えて眠気が俺を包む。

ただ、最後の片隅の意識、誰かが部屋に入ってくる気配を感じた。

敵意はまったく感じられない。

だ……れだ?

そして、俺の意識は闇に包まれた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第114弾 若奥様騒動

「え? 師匠でかけるんですか?」

 

木の玄関に腰を下ろし、ブーツの紐を縛る師匠を見ながら少年は言う。

 

「ああ、ちょっと用事があるんだ。なんだい優希?私がいないと寂しいのか?」

 

かっと顔を赤くした少年……優希は顔を真っ赤にしながら

 

「うるさい馬鹿師匠!さっさと、出掛けろよ!」

 

「はいはい」

 

女性だというのに黒のコートを手に取ると女性は出ていった。

 

「帰りは夜になると思うけど今日は最低限の鍛錬したら遊んでていいぞ」

 

「え!本当!」

 

少年がぱっと顔を輝かせる。

 

「うただ家の本宅からはでちゃ行けないぞ?」

 

「なんでだよ?」

 

女性はふっと笑いながら

 

「お前はよく迷うからなぁ。フランスしかり、中国しかり、ルーマニア、ロシアしかりな」

 

「ルーマニア……」

 

少年の顔が曇る。

思い出すのはあの金髪の少女……

 

「優希」

 

それを察したのか女性は優しく

 

「あの時は仕方なかった。でも、彼女はもう、ルーマニアのブラドの元を逃れてるはずだ」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

疑う余地はなかった。

この人のいうことに間違いなんてあるわけがないのだ。

 

「あの子に会えないかな?」

 

自分で助けられなかったことは不本意だが逃げられたならあってみたかった。

 

「そのうちな」

 

そういいながら師匠は出ていってしまった。

 

「よし、じゃあやるか」

 

今日もあそこに行こう。

きっと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ちゅんちゅんと雀の声を聞きながら重たい目蓋をうっすらと開く。

無駄に広い天井を見ながらため息をついた。

今の夢はあの日の朝か……

どうも最近、忘れてることが夢に出てくることが多い気がするな……

同時に悲しくなってきた……

師匠……

そこで、俺は何気なく横を見たんだが……

 

「……」

 

「え?……」

 

「おはようございます優さん」

 

ええええ!なんでレキが俺の部屋の壁で寝てたんだ!

なんと、体育座りでドラグノフを肩に置いたレキがいていたのだ。

 

「ち、ちょっと待て!レキ」お前いつからそこに……」

 

「深夜からです」

 

無表情に無感情の抑揚のない声でレキは言う。

部屋に入ってきたのお前か!

 

「不法侵入だ!まあ、レキならいいか……」

 

本心から言う。

キンジ以外だと大変なことになりそうだからだ。

理子は布団に潜り込んで来かねないし、アリアは俺を踏みつけるだろうからな

 

「で?なんで俺の部屋にいたんだよ一晩中」

 

俺だからいいけど好意もない男の部屋に夜中にくるなよレキ……相手が悪かったら襲われるぞ

 

「風に命じられました。優さんの傍であなたを護衛しろと」

 

ハハハ、この子も結構、ずれてるよな……

すっとレキが立ち上がり俺の前までやってくる。

 

「着替えるから出てくれよレキ」

 

「はい」

 

流石に、女の子の前で着替えるわけにはいかないからな

レキが外に歩き出そうとした瞬間

 

「優兄!起きてる?」

 

コンコンと控えめなノック……

ま、まずい

 

「や、やばいどうしよう」

 

「?」

 

レキがお構いなしに部屋の出口に向かったので慌てて手を掴んで引っ張る。

うわ、軽いなお前とか言ってる場合じゃねえ!

 

「寝てるのかな?フフフ、起こしちゃお」

 

や、やばい入ってくる!

朝に女の子と二人きり、夜中に見つかるよりはいいがどう考えても死亡フラグばっきばっきにたってるよ!

 

「こ、こいレキ!」

 

焦った俺はレキをベッドに押し倒して動くなと懇願してから俺もベッドに飛び込んだ瞬間、ドアが開いた。

 

「あれ?優兄起きてるの?」

 

「あ、ああおはよう咲夜」

 

「うん」

 

ありえんだろこれは!

布団が分厚いのとレキが小柄だからばれてないが俺の布団の中にはレキとドラグノフ……

なんて、カオスなんだ!

と、とにかく咲夜を

 

「さ、咲夜なんだ?」

 

「うん、ご飯食べに行こう優兄」

 

「わ、分かった!い、今俺、今、下、トランクス一丁だから着替えたいから出ていってくれないか?」

 

「え?」

 

咲夜がじーと布団を見てくる。

ま、まずいてか、今気づいたが俺の足にレキの体のどこかが接触してるよ!

 

「さ、咲夜?」

 

「あ、ごめん優兄直ぐにでるよ」

 

ぱたぱたと和服を揺らしながら外で待ってるねと出口に向かう。

た、助かったぞ。

だが、運は味方しなかった。

 

「おはようございます!咲夜様、優希様」

 

「おはようございます」

 

げ!昨日の小学生仲居と近衛じゃねえか!

「おはよう睦月、日向」

 

 

咲夜は当然知ってるらしい。

小学生仲居が睦月(むつき)でポニーテールの近衛が日向(ひなた)か……

ってそんなこと考えてる場合じゃねえ!

 

「き、着替えるから出ていけ3人とも!」

 

「お着替え手伝います優希様」

 

ニコニコしながら睦月が部屋に入ってくる。

 

「く、来るな!」

 

「? 優希様何を焦ってるんですか?」

 

日向が首を傾げながら俺を見てくる。

 

「あ、あの優兄の布団の下は……」

 

咲夜が何か言おうとしたが睦月の方が早かった。

 

「シーツかえますからどいてください」

 

「や、やめろ!」

 

俺はレキが潜んでいる布団を必死に押さえつけようとしたが睦月が下から布団を上にまくりあげたために下半身だけが持ち上がり

 

「はやく起きて……え?足が二つ?」

 

も、もうだめだ

 

「申し訳ありません優希様……」

 

ひゅんと風の音がし日向が一瞬で俺に肉薄すると布団を掴むと一気に引っ張った。

慌てて、力を込めようとしたが後の祭り。

布団の下からレキが現れる。

もちろん、彼女は無表情で上半身を起こした。

 

「……」

 

ぜ、全員が沈黙してるぞ!

 

「い、いやこれは……」

 

「わーあ!次期椎名の奥様候補ですね優希様」

 

「違う!」

 

全力で否定するが突き刺さるような視線にはっとすると咲夜がアリア見たいに顔を赤くしながら

 

「ご、ごめんなさーい!」

 

と走り去ってしまった。

あああああ!やばい!

 

「それで優希様のどこが気に入ったんですか若奥様」

 

「?」

 

きょとんとしているレキとなんだかいらん誤解と原因を作った睦月

とりあえず頭に拳骨を叩き込んでおいた。

はあ……また、家での立場が悪くなるよ……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第115弾 優希調査記録その1―秋葉編

なんとかみんなの誤解を説いたのもつかの間、案内されたのは大人数が食事するための広間だ。

すでに、案内されていたらしいアリア達

 

「あ、ユーユーおっはよーん」

 

理子が朝からハイテンションに手を降ってくる。

少しは自重しろ!

 

「おはようございます優君」

 

ペコリと頭を下げてきたのは秋葉だった。

 

「おはようみんな」

 

「ふん」

 

不愉快な声が聞こえたので見ると鏡夜だ。

その横には咲夜が座っている。

上座を見るが空席だ。

まだ、着てないみたいだな

 

「やあ、おはよう優希君」

 

と、でっぷりとした腹を揺らしながら朝からのワインを手にしている葉山の叔父さんだ。

和食には合わないだろうにワイン……

 

「さあさあ、ここに座りなさい。と、横を指してきたが」

 

「すみません叔父さん。俺は友達と食べます」

 

「そうかい?」

 

それ以上しつこくは葉山は誘わなかったので空いていたアリアの隣に座る。

続いて当然のようにレキが俺の横に座る。

ちなみに、アリアの対面には理子、理子の隣にはキンジが座っている。

席は下座に近いがまあ、いいさ……

部屋に入ってきた時の周りの空気は冷たかった。

やはり、好意的に俺を受け止めてくれるのは少数らしい。

 

「優、今日はどうする予定なの?」

 

並べられていく和食を見ながらアリアが聞いてくる。

 

「そうだな。俺達はこの辺のことを知らないんだ」

 

「ああ、悪いみんな……今日は昼からちょっと用事があるんだ」

 

「用事ってなになに?」

 

理子が聞いてくる。

 

「ああ……」

 

少しだけあの人の顔を思い出すと

 

「お墓参りだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、上座の主である志野は現れなかった。

納豆に悲鳴をあげるアリア達を見つつ、食事を終えるとついてきた秋葉に

 

「志野さんとの面会はできないのか?」

 

「1000に部屋にとのことです。お昼はお弁当を作ります」

 

「お前が作るのか?」

 

「私の手作りをご希望ですか優君」

 

「ああ……いや」

 

女の子に失礼かもしれんがなんか秋葉って料理失敗しそうなんだよな……アリアも壊滅的だし……多分、レキも駄目だろうな……あいつはカロリーメイトばかり食ってるからな……

理子やキンジは知らんがなんかあいつらはできる気がするぞ。

ハハハ、今度聞いてみるかな?

 

「優君?」

 

「え?あ……」

 

はっとして秋葉を見る。

 

「変わりましたね……今の生活は楽しいですか?」

 

「……」

 

答えられない……この子の前で幸せだなんて絶対に言えないんだ……

 

「ごめんな……秋葉」

 

「何を謝るんですか?」

 

無表情だがその目は俺の目を真っ直ぐに見てくる。

 

「いや……」

 

ため息をついてから足を速めた。

ちょっと準備してから志野さん……いや、母さんの部屋にいかないとな……

 

 

 

 

 

 

 

サイドキンジ

 

「怪しい」

 

「怪しいねぇ」

 

「……」

 

な、なんだみんな優の奴が出ていった途端、話始めたぞ。

レキは相変わらず無言だが視線だけアリア達に向けている。

 

「決めたわ」

 

と、アリアが立ち上がった。

 

「キンジ、理子、レキ。あいつの過去を調べるわよ」

 

「うーん、理子的にはあまりやりたくないんだけどユーユー、自分から話してくれなさそうだしねぇ」

 

「武偵憲章第5条行動に疾くあれ先手必勝を旨とすべしよ」

いや、アリアよあれは、過去を暴くための口実じゃないんだぞ

 

「そうと決まったら役割を分担するわよ。理子は過去にこの辺りで起こった事件を洗って」

 

「ほーい」

 

「あたしは屋敷の人間に聞き込みをするわ。望みは薄いでしょうけど……」

 

確かに……優の実家に来てから、あの鏡夜とかいう弟をはじめとしてなんか優を避けてるというか怯えられてる気がする……

 

「レキは優の監視ね」

 

「はい」

 

レキが素直に頷いたな。

 

「俺はどうするんだアリア?」

 

「キンジ?うーん、あんたが決めなさい。誰に同行するかは任せるわ」

 

「おお、キー君分岐ルートだ。くふふ、誰ルートを選ぶのかな?」

 

にやにやしながら言うな理子。

それに冗談じゃない。

ただでさえ、女といるのは嫌なのにルート選択とやらなんかしてたまるか

 

「俺は一人で調査するよ。お前らもあんまり無茶すんな」

 

つまんなーいという理子にでこぴんしてから俺達調査に乗り出した。

とはいえ、みんなバラバラになっての調査だからな。

何をしたらいいんだ?

インケスタでやるようなことを馬鹿正直にやる必要はないだろう。

理子の方がインケスタの能力は上だからな。

ホルスターのベレッタも見るがこいつも今回は出番はなしだな。

優の家はなんだか強者揃いが揃ってるみたいだからな。

 

「ん?」

 

廊下を歩いてると知った顔が一人で歩いてくる。

 

「山洞」

 

山洞秋葉が足を止めて俺を見てくる。

無表情だがなんか、レキに似てるぞこいつ

 

「遠山君?どうかしましたか?迷ったんなら……」

 

 

「いや、迷ってない。それより今、暇か?」

 

「暇ではありませんが2時間は自由な時間があります。それと、私のことは秋葉で結構です。山洞の名前はこの家ではあまり呼ばれたくありませんから……」

 

「どういうことだ?」

 

「答えたくありません」

 

聞いても無駄そうだ。

 

「分かった。秋葉、じゃあ俺もキンジでいい」

 

「では、キンジ君で」

 

「それでいい」

 

女の子と話すのは苦手だがなんの情報も得ずに戻ればアリアに風穴開けられるからな。少しは、頑張らないと

 

「立ち話も何ですし、部屋で話しましょう。お茶も出します」

 

「分かった」

 

どうやら、客間か何かに案内してくれるらしい。仲居さんもついてるからヒステリアモードの心配も気を付けていれば大丈夫だろう。

幸い、秋葉はアリアよりはあるが子供体系だからな。

だが、俺は甘かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここです」

 

「う……」

 

部屋に踏み込んで俺は躊躇した。

それなりに広い部屋だが、明らかに生活の跡がある部屋だ。

 

「そこのソファーに座ってください。今、お茶かコーヒーを」

 

「あ、秋葉」

 

「なんですかキンジ君?」

 

「なんですかじゃない!ここお前の部屋か?」

 

「そうですが?」

 

そうですがじゃないだろ!

 

「何か問題があるんですか?客間も考えましたが優君の知り合いですから信頼の証として部屋に呼んだんですが……」

 

そういわれると反抗しずらいな……

 

「何か期待してるなら無駄ですよ。私に手を出したら空の彼方まで旅に出てもらうことになります」

 

「そ、そんな期待はしてない」

 

「では」

 

秋葉が行ってしまったので仕方なしにソファーに座り、回りを見渡してみる。

うう……女の子の部屋なんて落ち着かないな……

気晴らしに部屋の中をチェックする。

青いソファーに正面には巨大な液晶テレビ、DVDプレーヤーもきちんと揃ってるし……

回りを見渡すと壁のすみにはベッドがあり、その横にはタンスに大きな本棚が並んでるぞ。

漫画やDVDばかりだな……

もしかして、理子みたいな趣味があるのかこの子

机の上にはノートパソコンもある。

ここまでならちょっとへんな普通の女の子だが異質なのは部屋の逆側の端にはトレーニング用の機材が置かれているな。

壁には立派な槍が3つ並んでいる。

近衛といったか……やはり、戦う女の子なんだなこの子も……

普通じゃない……

 

「お待たせしました」

 

特に注文もなかったので玉露のお茶を出されつつ正面に座る秋葉に話しかける。

 

「アニメや漫画好きなのか?」

 

「嫌いではありません」

 

ということは好きなんだろうな

 

「そんなことを聞きに部屋に?」

 

「い、いや、違う」

 

まずいな、ストレートに聞いても多分、答えてくれないぞ……

こういったことはダギュラの分野だが、あいにく、優のアミカのマリは今回は留守番だ。

 

「こ、この家にはいつから住んでるんだ?」

 

とりあえず話を繋げないと追い出されるぞ。

 

「生まれた時からです。私は椎名の近衛の家系ですから」

 

「その近衛ってのは何をするんだ?」

 

「一番、分かりやすいのは護衛です。椎名の家の人間は役割上、戦闘に巻き込まれる可能性が高いので」

 

「戦闘?何と戦うんだ?」

 

「椎名とかの家に弓を引くもの全てです」

 

「かの家?」

 

「恐らく、日本人なら誰でも知っている家系ですが口に出すことはできません」

 

さっぱりわからん。

日本人なら誰でも知ってる家なんて腐るほどあるぞ。

例えば織田信長の家系なんて誰でも知ってるし、今なら、首相だって日本人なら誰でも知っている。

まあ、答えてはくれないなら省くか

 

「それで、優はその椎名の家の跡取りってことか?」

 

有名な家なのは分かる。

何せ、ランパンの連中は優を椎名の後継と呼んでいた。

何年も優は外国を飛び回ってたらしいから外国にも知り合いは多いらしいし

 

 

「いえ、優君は恐らく後継者にはなれません。後は鏡夜様が継ぐことになるかと」

「ん?でも今回の帰宅は後継者を決めるためのものなんだろ?優は長男なんだからな。それともその鏡夜は優より強いのか?」

 

「優君は最近まで、剣を持てなかったと聞いています。椎名は剣の家系です。剣を持てないなら椎名にいる価値なしと後継者から外されていました。ですが、最近、剣を持てるようになり、後継者としての資格はわずかながらあります。本気で戦えば私は優君の方が鏡夜様より強いと考えています」

 

「じゃあ、なんで優は後継者になれる可能性が低いんだ?才能もあるし剣も持てるなら……」

 

「それは……」

 

秋葉は少し躊躇しながら

 

「あの人が罪を犯したからです」

 

 

「その罪ってなんだ?」

 

「……」

 

秋葉は答えてはくれなさそうだ……

 

「お邪魔したな。そろそろ帰るよ」

 

俺が立ち上がり出口に向かう途中

 

「キンジ君」

 

「ん?」

 

「昼に優君はある場所に行きます。送りますのでついてきてくれますか?仲間のみなさんも一緒に」

 

そこで何かわかるかもしれなさそうだな

 

「分かった。ありがとう」

 

戦果は十分だろう

そう思いながら俺は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド 秋葉

 

キンジ君が出ていき、部屋に取り残された私は机まで歩くと写真たてを手に取ります。

危ないところでした……もし、キンジ君にこれを指摘されたら私は何を言ったか分からない……

そっと家族が並んだ写真を私は机の引き出しに入れて閉じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第116弾 椎名優希調査記録―咲夜編

サイド 椎名 咲夜

 

「ちょっと話していい?」

 

「は、はい」

 

食事が終わり、部屋に戻る途中に声をかけてきたのは優兄の連れの女の子神崎・ホームズ・アリアさんだった。

私と同じくらい小さな女の子だな……

 

「よろしければ部屋を用意します咲夜様」

 

「あ、うん、睦月いいよ。私の部屋で話すから。護衛もいらないから部屋の外で待っててね」

 

「はい、では散歩は後ほど」

 

「散歩?」

 

アリアさんが聞いてくる。

 

「食後の散歩です。そうだ、アリアさんも散歩しながら話をしませんか?」

 

「いいわ」

 

こうして、始まった。

散歩、私の散歩コースは敷地内にあるガーデニングが施された庭だ。

昔の家は日本式だったが迎撃の観点から西洋式に変えられている。

これは好きではあるが和服とはミスマッチしてると思う。

 

睦月が見えるか見えないかの位置についてるのを見ながら生け垣でできた迷路にアリアさんと入る。

 

「それで聞きたいことってなんなんですかアリアさん」

 

迷路を見ていたアリアさんは

 

「優のことよ。あいつのことを教えてほしいの」

 

「優兄の?」

 

「過去にあいつに何があったの?あの、弟だって優に対する態度が兄弟じゃなくまるで、仇のように感じられたわ」

 

「……鏡兄は……許せないんだと思います……」

 

「許せない?」

 

言っていいのかどうか迷うけど私は優兄が連れてきた友達になるべく真実を伝えたい。

隠して、こじれて一人になっていく兄の背中はもう見たくなかった。

 

「アリアさん」

 

私はほぼ、同じ視線でアリアさんのカメリアの瞳を除く

 

「すべては話せませんがこれから言うことを聞いても……優兄が過去を話しても友達でいてあげてください」

 

「あいつはど……チームメイトよ。私たち武偵は仲間を信じるわ。特に優には私は命を助けられてる。大丈夫よ」

 

ほっとした。

目の前の女性は小さいが信頼に値する人だと私は確信したのだ。

 

「わかりました。アリアさんを信じます。まず、優兄が昔、師匠と世界中を旅をしていたのを知ってますか?」

 

「理子を助けた話ね。知ってるわ。具体的にどこをまわったのかまでは知らないけど」

 

「私も全部は知りません。優兄はイギリスにも行ったと行ってましたからアリアさんともすれ違ってるかもしれませんね」

 

「そうね」

 

「優兄を連れていた師匠の名前は水無月希」

 

「水無月……」

 

「そうです。アリアさんが思い至った人です」

 

 

「あの紫電の雷神レイン・ハートと並ぶ生きた伝説と呼ばれた世界最強の武偵じゃない!武偵に限らず、戦いに身を置くものなら誰でも知ってる超有名人よ!あの人を優は師事してたの?あいつの強さの一端が少しだけ分かったわ」

 

やっぱりすごい人だったんだ……

 

「その死因は聞いていますか?」

 

「なぜか、報道は控えめだったけど知ってるわ。依頼の最中に命を落としたって……死体も見つからなかったとも聞いてるわ……どこで亡くなったのかも死因も発表されなかった」

「水無月 希さんが亡くなったのはあそこです」

 

そう言って私は山の頂上を指差す。

森に阻まれてすべては見えないが巨大な民家のような建物が見えた。

 

「水無月希が京都で?それは、優が実家に帰ってる時に亡くなったってことなの?」

 

椎名の家は京都にある。

亡くなったのが京都なら推理と言えるほどのものではない考えだ。

私は驚いたアリアさんに頷きつつさくさくと道を歩きながら

 

「あの山の上は椎名の旧邸なんです。昔、あそこで事件がありました。水無月希はそのために命を落とし、多くの人間が不幸になった場所です」

 

「事件って何があったの?」

 

「6年前……あそこで優兄は罪を犯しました……誰が見ても仕方なかった罪……私はそれを罪とは見ていませんが回りの多くは優兄を恨みました」

 

「何をしたの優は!あいつが冷たい目で見られるのはなんで?」

 

そういえばアリアさんはホームズ家では居心地が悪かったという。

少しだけ優兄とアリアさんは似ているのだ。

だが、これ以上は罪の根本になる。

 

「私からはこれ以上話せません。罪は優兄から直接聞いてください」

 

アリアさんはまだ、何か言おうとした。

だがら、私は眼帯を外してアリアさんを見た。

アリアには右目に僅かに残る刀傷が見えるだろう

 

「1つだけ言うならこの右目を失明させ切ったのは優兄です」

 

「そんな……あいつはあんたのこと溺愛してたじゃない……なんで……」

 

「誤解しないでください。アリアさん。理由を知れば分かるはずです……私はこの傷を恨んでいないし、仕方ないと言えるんです。でも、他の人は納得できない人も多いんです」

 

「あんたの目のことで?」

 

私は静かに首を横に降る

 

「それ以外の罪もあるんです優兄には……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会話が終わり、アリアさんが去った後、部屋に戻ると横を歩いていた近衛の日向が

 

「よろしかったんですか?あんなにアリアさんに話して」

 

「うん、優兄の友達だからね……多分、優兄も機会があれば話すんじゃないかな?」

 

「受け入れてもらえるんでしょうか?」

 

「じゃなきゃ困るよ……優兄にもそろそろそろ幸せになってもらいたいの」

 

そう、馬鹿みたいに回りとはしゃいでるように見えた優兄も家の人間と話すとどこか悲しげな顔をする。

それは一瞬だができればそんな顔をしてほしくない。

私は兄や家族が大好きだから昔みたいに笑って過ごせる日々が欲しい。

そのためには優兄には過去に向き直ってもらわないといけない。

 

「ですが、咲夜様……最悪の場合、優希様はまた、一人になってしまいますよ」

「う……ん」

 

それは最悪の結末だ。

優兄からアリアさん達が離れていく……兄は罪と並べて仕方ないと苦笑するんだろう……

だが、きっと心は泣いている。

でも、咲夜には勘ではあるが確信ある。

アリアさん達は誰一人として兄を見捨てないと……

それに、私は決めている。

誰が敵になろうと自分だけは兄を信じようと……

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第117弾 椎名の当主

あの人に会うのも久しぶりだな……

木でできたドアを俺は軽くノックする。

 

「入りなさい」

 

「失礼します」

 

部屋に入ると畳が広がっている。

靴を脱いで奥のすだれがかかった場所の前まで歩いていく。

回りは薄暗くほんのりとすだれの中から明かりが漏れている俺はすだれの前で正座する。

 

「お久しぶりです志野さん」

 

「ええ、直接会うのは5年ぶりですか優希」

 

すだれの中で体を動かす気配がする布がする音から布団から上半身を起こしたんだろう。

咲夜の話では志野さんは体が悪いらしい。

椎名 志野、現在の特例的な椎名の家の当主に当たる。

 

「ええ、それぐらいです」

 

「最初に言っておきます。今回あなたを呼び戻したのはあくまで、体面的な問題で私の後は鏡夜に継いでもらいます」

 

まあ、分かってたことだ……

 

「明後日には掟に従い、鏡夜と戦ってもらいます」

 

あれか……椎名の家には昔から、決まりがある。

もし、当主の候補である男が二人以上いた場合、剣の勝敗にて決着をつける。

 

「その、勝負であなたは負けなさい。できるだけ自然に」

 

「……」

 

きついな……別に家に未練がある訳じゃないがなんか悲しいんだ……

 

「分かりましたか?」

 

「はい……」

 

「もう1つ、あなたは鏡夜を支える必要はありません」

 

これは掟にあるが負けた方は勝者を補佐していけという話だ。

だが、志野さんはそれを必要とせずさっさと用がすんだら出ていけと言うことだ。

 

「話はそれだけです。部屋に戻りなさい優希」

 

冷たく凍りつくような言葉……すぐにでも帰りたくなるがこの人と直接話せるのはこれが最後になるかもしれない。

 

「俺の方からもいくつか話があります」

 

「……聞きましょう。これが最後になるかもしれません」

 

「まず、神崎かなえさんの不当裁判の調査の継続をお願いします」

 

「その件はあなたに最大の譲歩はしました。神崎・ホームズ・アリアに対し神崎かなえとの直接面会を叶えてあげました」

 

「ですが……」

 

アリアの話ではあれは一回限りで再び5分のアクリル版に戻ってしまったそうだ。

土方さんに聞いた所、上から圧力がかかったらしい

それを撤廃できるのが椎名の家ではないのか

 

「イ・ウーが神崎かなえの裁判に干渉しています。これ以上は私達でも関われません」

 

やはり、全ての元凶はイ・ウーか……

 

「では、今後俺がイ・ウーとやり合うと言えば?」

 

 

「椎名は協力しません。それでもいいなら止めはしません」

 

十分だ。

 

「後、旧邸に入る許可を頂きたいんです」

 

「なんのためにですか?」

 

「師匠の……お墓参りと所要のために」

 

「……」

 

志野さんは迷ってるようだった。

だが、それも一瞬で

 

「許可します」

 

「ありがとうございます」

 

「明後日の決闘は午前に行います。決して逃げないように」

 

「はい」

 

そういうと俺は立ち上がり、扉に向かう。

ああ、もう生涯会わないかもしれないしな……

扉をあけながら俺は振り返る

 

「長生してくれよ……母さん」

 

息を飲む声が聞こえた気がしたが声をかけられるより早く俺は扉を閉じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第118弾 墓参り

サイドキンジ

 

なんでこんなことになってるんだ?

と言われれば時間は1時間くらい前に遡る。

 

「ここからは歩きになります」

 

車を止めて、山道を指差しながら秋葉が言う。

 

「どれぐらいで着くの?」

 

アリアが訪ねる。

 

「歩いて2時間くらいです」

 

というやり取りをしたのが1時間前になる。

 

理子は相変わらずフリフリのリボンのついたリュックを背負い鼻唄を歌いながら山道を軽快に登ってやがる。

アリアはこれはまた、小柄でてくてくと山道を歩いている。

レキはといえばショルダーバッグをつけて、肩にはドラグノフ狙撃銃を背負っているのに汗1つかいていない。

やはり、うちの女子共は化け物だな。

 

「情けないわねキンジ」

 

「仕方ねえだろ。アサルト止めてから運動量は減ってるんだ」

 

「くふふ、キー君、理子はインケスタだよー」

 

お前は別の目的で鍛えてるだろ!一瞬にすんな

 

「……」

 

レキ……お前はなんで汗ひとつかいてないんだ?

優はといえば先に行っているそうだ。

 

「後、1時間くらいです」

 

1番先頭を歩いている秋葉だが呼吸を乱していない。

左手に巨大な槍を持ってんのにな……

 

「ち、ちょっと休憩しようぜ」

 

こいつらのペースで昇ったら心臓が爆発しそうだよ

 

「では少しだけ休憩しましょう」

 

助かった……

ほっと息を撫で下ろしながら俺は近くの石に座るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド 優希

 

変わってねえなここも……

崩れ落ちた門に出来た穴を潜り抜けると広い場所に出る。

正面には焼け落ちた黒い建物が見え、午後3時だというのに 不気味な雰囲気を出すのに一役買っている。

中には燃え落ちてない建物もあるがここにはもう、誰も住んでいない文字通り廃屋だ。

 

「さてと……」

 

目的の場所は裏庭の方にある。

そちらに俺は足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド??

 

暗い森の中で、水晶を覗き込む影がある。

 

「こっちは大丈夫そうねぇ」

 

がしゅとビーフジャーキーを噛み砕きながら、ローブの女は言った。

彼女の使い魔は椎名の旧邸に入り込み、椎名 優希を監視している。

彼女の依頼主の依頼の1つは監視であるがちょっかいを出しても構わないことになっている。

 

「アハハハ、少しだけ後で遊ぼうかな?」

 

ギチ……木と木がずれるような音が女が振り向いた場所から聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド 優希

 

あった。

リュックから一輪の百合を取り出すと墓に置いた。

誰か前に来たのか?

墓は綺麗に掃除されており、花も枯れかけてはいたが備えられていた。

咲夜辺りだろう……近衛に守られてここに来ているのかもしれない……

バッグから水を取り出すとそれを墓にかける。

水が落ちていき彫られた名前に沿って流れていく

 

水無月 希

 

俺の知る限り世界最強の武偵だった人の名前だ……

 

「5年ぶりだな……師匠」

 

その場に座り、静まり返った空気を感じながら墓を見上げる。

 

「もう、6年も立つんだな。あんたが死んで……俺なんかのためにさ」

 

当然、墓は何も言わない。

それ以前にここの墓には遺骨すら入っていない。

炎の装飾が施されたガバメントを墓の前に置きながら

 

「師匠の銃だ……なんか取ってしまった感じになったけど今も活躍してるぜ……」

 

この銃は形見だ。

あの人の……

 

「あんたが怒ってないのは分かる……でも、俺は……」

 

誰もいないのも手伝い涙腺が少しだけ緩んだのか涙が頬をそう

 

「自分が許せない……あんたが死ぬ必要なんてない……死ぬのは俺でよかったんだって……」

 

仲間が聞いたらそんなことないって言ってくれるかもしれない……でも俺は

 

ガタン

 

!?

物音に振り返ると廃屋の中で何かが動いている。

この屋敷は一般人が立ち入れる場所じゃない。

蒼神に手を付けた瞬間、それは廃屋から飛び出してきた。

 

「鬼!?」

 

そんな言葉が出たのは敵の特徴だった。

白い鬼の仮面に黒いローブに4本の手にはそれぞれ西洋式の剣が握られている。

ここで戦うのはまずい。

俺はワイヤーを発射して燃え落ちていない屋根に飛び移ると走り出す。

ダンと音がしたので振り返ると2対の鬼の仮面は物凄い速度で追ってくる。

俺は走りながら戦闘狂モードになると同時に失態に気づく。

しまったガバメントを墓に置き忘れた。

だが、今更、取りには戻れない。

まだ、デザートイーグルもある。

デザートイーグルを発射しながら一体の動きを止めると直進してきた相手と切り結ぶ。

鬼の仮面は4本を同時に振るってくる。

ちっ!

更に、機神も抜き、二刀流で受け流しながらナイフを先端に付けた予備ワイヤーを投げる。

鬼の仮面はそれを振り払いながら4本を同時に叩き落とした。

ズウウウウンと轟音を立てながら鬼の仮面が屋根をぶち抜いて落ちていった。

なうつうパワーだよ。

だが、まだ終わってない。

今のはかわしたが、後一体が無傷だ

切り刻んでくる相手に特攻する。

 

「飛龍一式風切」

 

擦れ違いざま居合いから鬼の仮面を切り裂くが浅い

 

「!?」

 

振り替えると理解する。

そうかこいつ……

 

黒衣の中から現れたのは木の骨格だ。

東京に現れた連中の上位種か?

ハードなことだな

 

鬼の仮面が動くそれだけなら対象できたが後方で爆音がする。

 

「!?」

 

屋根を突き破ったのは先ほど落ちた鬼の仮面

同時に前後かは襲いかかられ、剣で受ける

 

「っ!」

 

ギギギギギ

 

2対目が剣を振りかぶった瞬間右に転がりながらデザートイーグルを三点バーストで放つ、一瞬ひれんだ鬼の仮面たがずぐに追撃をかけてきた。

 

「くっ!」

 

 

墓をかばいながらでもきついぞ

そんなことを思った瞬間背後に気配

 

「しまっ!」

 

三体目の鬼の仮面が剣を振りかぶった瞬間それは真っ二つに切り裂かれた。

 

「風凪」

 

技の名前を言った少年

 

「き、鏡夜」

 

鏡夜は一瞬俺を見ていい放つ

 

「勘違いするな優希、俺はお前を助けにたわけじゃない。お前を倒すのはこの俺だからな」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第119弾 零式

新たな敵の出現に、鬼の仮面も出方を伺っているようだ。

下に落ちた鬼の仮面の動向も気になる。

 

「気を付けろよ鏡夜、あいつAランク並みの力がある」

 

「Aランク?ふん、雑魚だな」

 

鏡夜はずいっと俺の前に出ると赤い柄の日本刀に手を置いた。

 

「手を出すなクズ。お前の力なんか借りなくても十分だ」

 

そういや、こいつが戦うのを見るのは随分久しぶりだな。

俺が答えるより早く鬼の仮面が動いた。

爆発するような加速で4本の西洋式の剣鏡夜に振りかぶる。一瞬、鏡夜と交差する。

普通のひとが見たらただ、すれ違ってだけに見えるだろう。

ぎちぎぎち

 

鬼の仮面が再び攻撃しようと振り返り走り出した瞬間、鬼の仮面が真っ二つになって地面に倒れる。鏡夜はそれを蹴飛ばすと地面に落下した残骸は炎を出して燃え始めた。

 

「飛龍零式瞬影

 

燃える残骸を見ながら鏡夜はふんと息を吐いた。

零式を極めてたのか鏡夜……

椎名の剣の一刀流の中の上位種の1つ、瞬影。

こいつは、居合いから剣を抜いて仕舞うまでの動作がまるで見えない。

超高速の斬撃だ。

子供の頃の俺は筋肉不足でできなかった技で今なお、俺も練習中の技。

そうか、お前俺を越えたか

子供の頃は泣き虫だったお前がな

 

ボンと爆発する音に振り向くと一体の鬼の仮面が正門に向かい逃げるところだった。

まずい、あんなもん町中に逃がしたら……

 

「……」

 

鏡夜はそれを見てるだけ

 

「くそ!」

 

屋根から飛び降りると走り出す。

だが、運動能力は格段に相手が上らしい。

森の中に、鬼の仮面は入っていく。

 

「優!」

 

正門から飛び出すとアリア達が丁度到着したらしかった。

 

「何かあったんですか?優君?」

 

そうだ、秋葉なら

 

「秋葉、東京で出た木偶人形だ!上位種らしいそいつと鏡夜と俺は交戦して一匹逃がした!お前なら風の乱れを追って追跡できるはずだ!仕留めてきてくれ」

 

「はい」

 

秋葉は事態を理解したらしくだん、と飛び上がる。

風を身にまとい10メートルくらい飛び上がると森の中に消えていった。

 

「な、なんなのよ?」

 

事態を詳しく理解してないアリア達は困惑している。

ただ、レキだけは何かを感じているのか秋葉が消えた方を無表情に見つめている。

そういや、木偶人形の件、アリア達に話してなかったな……公安0に話さないように言われていたのもあるが……

 

「ユーユーそろそろ白状した方が理子いいと思うなー」

 

情報を秘匿されて

ああ……理子なんか怒ってるのか?

 

「実は……」

 

断片的に情報を伝える。

東京で起こっている事件と関連性を

 

「魔女連隊……厄介な連中がでてきたわね」

 

「おい、アリア、魔女連隊って?」

 

キンジが聞いてくる。

 

「北朝鮮やイランなんかで暗殺やテロなんてしてる犯罪集団だよキー君」

 

「なんだってそんな連中が優の家に?」

 

「さあな?最初は公安0に喧嘩を売ってまで手に入れたいもんが東京にあるのかとも思ったが違うみたいだな」

 

「じゃあ、東京は陽動?」

 

俺は頷いた。

 

「公安0を東京に釘付けにしてここに現れたんだ。連中が狙ってるのはし……」

 

「し?」

 

いや、これは言っちゃっいけないか……

 

「まあ、ともかく心当たりはある。そっちは任しといてくれ」

 

「待ちなさいよ優!秋葉を追わなくていいの?」

 

「やばくなったら撤退できる判断能力は秋葉にはあるさ。それより、俺忘れ物したからちょっと戻る。じゃな」

 

「待ちなさいよ!理子!キンジレキ!」

 

「りょーかい!逮捕だぁ」

 

右手を理子の腕に巻かれぐいっと右手の人差し指と親指で背中を引っ張っるのは無表情のレキ、

 

「すまん」

 

キンジには左手を捕まれてしまった。

 

「お、おいお前ら!」

 

「さあ、優忘れ物取りに行きましょう。絶対に逃がさないわよ」

 

にこりと微笑むアリアさん。

うん、逃げられないねこれ……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第120弾 罪の告白

もう、強制連行に近い形で先ほどの墓の前に来る。

アリアにはガバメントを押し付けられてるから犯罪者の気分が少し分かるな……

「もう、逃げないから離せお前ら!」

 

目的地に着いたため、理子達が俺を解放する。

人形は跡形もなく燃え落ちていた。

多分、証拠隠滅の機能があるんだろうな……

 

「……」

 

墓の前に置いていたガバメントをホルスターに戻す。

 

「このお墓が優の師匠の?」

 

誰かに聞いたんだろうな……咲夜あたりか……

 

「そうだよ」

 

アリアの問いに答えてやる。

 

「水無月 希、世界最強と呼ばれた武偵だね」

 

「俺も名前くらいなら聞いたことはある」

 

「レキは?」

 

アリアの問いにレキはこくりと頷いた。

知ってるってことだろう

 

「中東のテロリストの根拠地を一人で壊滅させたり、誘拐されたどっかの国のお姫様を助けた返し刃にその誘拐グループを壊滅させたりとかいろいろ噂はあるよ」

 

「一人で壊滅って……いくらなんでもないんじゃないの?」

 

「ああ……いや、事実だ」

 

思い出しながら俺は苦笑した。

アリア達が目を丸くする。

まあ、例をあげるとさる有名なテロリスト集団を壊滅的な打撃を与えた理由が

 

「私の昼寝を邪魔したから」

 

などとは知られたくない……

いろいろと規格外の化け物だったからな……あの人は

昼寝を邪魔されたというのも寝不足でホテルに入ってようやく寝れると布団に飛び込んだ瞬間ホテルの隣が大爆発

切れた師匠は実行犯を見つけて血祭りに上げた後、上へ上へとテロリストの上司を見つけていき、最後は

 

「ちょっと、アフリカに言ってくる」

 

と俺を置き去りにして、アフリカに乗り込んで行ってしまい。

数日後、アフリカにあるとある有名なテロリスト集団がのきなみ逮捕されたと報道があった。

名前はなかったがあれは師匠がやったことだ。

もちろん、聞いてみたんだが熟睡して機嫌がよかった師匠は

 

「○○ぅ?ああ、楽しく血祭りにあげてやったな」

 

テロリスト集団を楽しく血祭りにあげるなと言ったのは別の話したが……

 

「「「「……」」」」

 

みんな絶句してるぞ……

いやまあ、分かるんだけどね……めちゃめちゃな人だったのは俺も知ってるから……

 

「そ、それが本当だとしても」

 

まだ、信じられないのかアリアが続ける

 

「なんで水無月希はここで亡くなったの?あんたの言うのが本当なら……」

 

ああ……

多分、俺は今悲しそうな顔をしてるんだろう……

 

「水無月希は俺が殺したんだ」

 

「「「「!?」」」」

 

ああ……ついに言っちまったな……

みんな固まってるしレキは無表情だが、こちらを見ている。

こんな時でも動揺とかしないんだな……

「まあ、これだけ言ってもわからねえだろう?」

 

俺は壁に背をつけながら

 

「もう、話してやるよ。あの日の出来事を……」

 

俺は静かにあの日のことを思い出しながら口を開いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第121弾 忌まわしき過去-出会い

「だめだな」

 

少年は後ろに飛びながら刀を抜き放った。

 

「風凪!」

 

カマイタチがショートの髪をした女性に襲いかかる。

 

「んー不合格」

 

つぶやきながら、少女といってもいい若い容姿の女性は体をひねって、見えないはずの鎌鼬かわしきる。

 

「終わりか? 優希?」

 

薄く笑いながら彼女は言う

 

「まだ・・・」

 

いけると俺は言うはずだったが直後に腹に受けた衝撃に吹き飛ばされた。

地面を滑りながら起き上がろうとするが体が動かない。

ちくしょう・・・

 

「そこまでです!」

 

縁側に座っていた少女が言う。

 

「まだ、いける・・・秋葉止めるな」

 

刀をなんとか杖がわりにして立つが膝が笑っている。

 

「いいえ、止めます。 優様の負けです」

 

駆け寄りながら秋葉は救急箱を開ける。

 

「全部×だな優希ぃ」

 

声の方を舌打ちしながら俺が見るとショートの女性、水月 望にやにやしながら立っていた。

体に装備された刀、銃は一切抜かれていない。

素手で俺を圧倒したのだ。

 

「やれやれ、数年間の世界巡りの修行も大した成果はなかったようだ」

 

「いえ、優様は強くなったと私は思います望様」

 

秋葉が援護してくれる。

 

「んー、お前の方が強いんじゃないか秋葉?」

 

目をつぶって面白そうに腕を組んで師匠が言う。

 

「そんなことは・・・」

 

「ま、どちらにせよ。 ハンデ付けても私には適わないってことだよ優希。 大人しく留守番してな」

 

「また、クエストですか?」

 

「ああ、なんか厄介な奴が入り込んだらしくてな。 こっちに直接依頼があったんだ」

 

「だから、俺も連れてけよ!」

 

「足でまといだからな。 いらん。 たまには、1人でやりたいし、お前一撃入れられなかったじゃないのか?」

 

そう、師匠に一撃でも当てられたらクエストに連れていくという約束だったが結果は今の通りだ。

 

「・・・」

 

「そう、ふくれることないさ。 お土産ぐらい気がむいたら買ってきてやるよ」

 

そういいながら、師匠は黒い防弾コートを揺らしながら門へ向かい歩いていった。

呼び止めようにも、無駄だとわかるからな・・・

ま、それならそれでいいか・・・

チャンスはまたあるさ

 

 

 

 

 

それから、数時間後

 

「・・・4999!・・・5000!」

 

すぶりが終わると息をはいて座り込む。

 

「タフですね。 優希様」

 

「ん? ああ、葉月さん」

 

160センチほどの身長近い槍を手にした長い黒髪の女性がすっと頭を下げて言った。

山洞 葉月、秋葉のお母さんで近衛である。

 

「課せられたノルマは3000回だと秋葉に聞きましたよ?」

 

その秋葉は木に背をあずけて寝息を立てている。

 

「俺は弱いからね。 人の数倍努力しないと駄目だから3000回と言われればそれ以上やるんだ。 師匠にも一発も当てられなかったし」

 

「望様を基準にしてはみんな弱くなってしまいますよ優希様。 あの方は規格外の化け物と言ってもいいでしょうから」

 

「ハハハ、まあ確かにそうなのかもしれないけどさ。 なんか、悔しいんだ」

 

刀を見ながら

 

「俺は師匠と旅した数年、強くなりたいと何回も思った。 救えなかった人もいたし、救えた人もいた。 でも、あと少し、力があればと思うこともあった」

 

「その経験はきっと、椎名の後継者として役に立つはずです。 私たちの上に立ち、私たちを指揮すれば優希様はもっと、大きな力を手に入れることができますよ?」

 

「うん、そうだな・・・」

 

個人で救える命には限りがある。

より多くの人を救うためには人の上に立ち、人を使えるようにならないといけないとイギリスであった知り合いに教えてもらった。

でも、それでも師匠のようになりたいと俺は思う。

圧倒的な強さでどんな、理不尽も粉砕する。

それは師匠にだけできることなのかもしれない。

だから、俺は椎名の家を継いで、自分も強くなり、複数の人と椎名の家を率いていこう。

そう、俺は旅の中で決めたんだ。

 

「雨が降りそうですよ優希様。 中に入りましょう」

 

「ん? そうだな。 あ、秋葉」

 

木陰で寝息を立てている秋葉を見ると葉月が近づくと背中におんぶした。

まだ、9歳の少女だが秋葉を背負う、葉月の目は優しかった。

 

「この子ったら・・・優希様の前で」

 

「いいよ。 寝かせておいてやってくれよ」

 

「すみません。 優希様」

 

家の中に入り、2人と別れると俺は自分の部屋に戻るため、長い木の廊下を歩いていくと、弟の鏡夜のばったりと出くわした。

 

「あ、兄さん。 修行終わったの?」

 

「ああ、ちょっと休んだらまた、やるけどな」

 

「すごいなぁ兄さんは」

 

「すごくねえよ。 鏡夜も一緒に修行しないか?汗流して体鍛えるのは悪いことじゃないぞ?」

 

「え? でも、僕刀怖いし・・・」

 

「まあ、無理には言わないけどな・・・」

 

「あ、それより、兄さん。 咲夜の熱が上がったんだ」

 

「咲夜の?」

 

「お医者さんには見てもらったけど兄さん時間あるなら咲夜のお見舞いに行かない?」

 

「行こう」

 

返事なんて決まっていた。

咲夜は俺の妹だ。

妹の心配をしない兄はあまりいないだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜の部屋に入ると少し息を乱しながら布団で寝ている咲夜が顔だけをこちらに向けてくる。

 

「あ、優兄・・・鏡兄」

 

「起きなくていいぞ咲夜」

 

俺はそう言いながら鏡夜と咲夜の横に座ると手を咲夜の額に当てる。

 

「熱いな・・・薬は飲んだのか?」

 

「うん、さっき飲んだよ」

 

「それならいいんだが・・・」

 

そう思いながら俺はあることを思い出していた。

そういや・・・

 

「ねえ。 優兄?」

 

「うん?」

 

「今回はいつまで家にいるの?」

 

不安そうな妹の布団をぽんぽんと叩きながら

 

「多分、半年ぐらいはいるんじゃないかな? 師匠しだいだけどな」

 

「望・・・は?」

 

「クエストで出ていった。 しばらく帰らないと思う」

 

「そっか・・・」

 

なんだか、残念そうだな・・・

 

「ごほ・・・ごほ」

 

「大丈夫?」

 

鏡夜が心配そうに言う。

 

「う、うん。 ごめん、優兄、鏡兄風邪が移ると行けないからもう、寝るね」

 

「ああ」

 

こうして、俺達2人は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと・・・

部屋に戻った俺は汗に濡れた服を着替えてから玄関に向かう。

早くしないと遅くなっちまうからな

 

「優希どこに行く?」

 

げっ!

おそるおそる振り返ると

 

「と、父さん」

 

椎名 明人、現、椎名の当主であり、俺たちの父親だ。

 

「ちょっ、ちょっと師匠の用事で・・・」

 

「望か?」

 

仕方ないという風に父さんは息をはいてから

 

「あんまり、遅くなるなよ?」

 

「分かってるよ」

 

「返事は、はいだ!」

 

後ろからそんな声が聞こえたが無視して俺は飛び出した。

そんな、俺を見ていた父さんはため息を吐いて

 

「まったく・・・望に似てきたな優希も・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

門を抜けて、山を駆け下りながらとある地点で、獣道に入る。

しばらく、行ってから広い空間があり、その先には洞窟があった。

昔、熊か何かがいたのかもしれないがその、洞窟の前には多くの薬草が生えているのだ。

前に教えてもらった風邪によく聞く薬草を・・・

あ、あった!

丁度、洞窟の前に咲いているのでそれをむしり取るとカバンに入れる。

よし、後は戻るだけだな

 

「・・・・い・・・」

 

「ん?」

 

人の声が聞こえた気がするけど気のせいか?」

 

「・・・ぐす・・・痛い・・・」

 

いや、気のせいじゃないな。

声は洞窟の中から聞こえてくる。

 

「だ、誰かいるのか?」

 

声がぴたりとやんだ。

洞窟は暗闇に包まれており、周りも暗くなりかけている。

恐怖と戦いながら

 

「なあ! 誰かいるのか!」

 

「・・・」

 

俺は恐怖で凍りつきそうになった。

洞窟の中に2つの目が見えたからだ。

赤い、その瞳はまっすぐに俺を見ている。

こ、怖くねえ

一瞬、刀を抜きかけたがカバンから懐中電灯を取り出すとぱっと明かりを目の方に向けた。

 

「っ!」

 

明かりを嫌うように手を前に出したのは少女だった。

黒いフリルのついたドレスに綺麗な長い銀髪の髪

人間離れした可愛さだった。

 

「君は誰?」

 

顔を赤くなるのを感じながら聞くと少女は手で涙を拭いながら

 

「あなたは? 誰ですの?」

 

「俺? 椎名 優希」

 

「優希?」

 

「名乗ったんだからお前も名乗れよ」

 

「・・・リー」

 

「え?」

 

「ローズマリーですの」

 

そう、あいつは名乗った

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第122弾忌まわしき過去ー銀の少女

「で? なんで、こんなとこにいるんだよ?」

 

人に会いたくないというローズマリーの言葉に従い、迷ったが秋葉に連絡して救急箱を持ってきてもらうことにした。

ついでに、いろいろと頼んでおいた。

 

「怖い人が私を追ってくるんですの・・・」

 

「悪い奴か?」

 

俺が聞くとローズマリーははいとうなずきながら

 

「とっても、悪い人ですの」

 

「まあ、それは詳しくあとで聞くとして」

 

切り傷によく聞く薬草を石ですりつぶしてから、ローズマリーの足にすり込んでいく

 

「ひぅ」

 

しみるのか、小さく悲鳴を上げる。

 

「我慢しろよ。 っと縛るもんがねえな・・・」

 

カバンをまさぐるが丁度いいものが見当たらない。

ポケットからハンカチを取り出すと傷口に巻きつける。

 

「・・・」

 

ローズマリーはそれを興味深そうに見ていた

 

「手馴れてますのね」

 

「師匠と散々、世界を回ってたからな。 生傷と耐えることなかったから自然と覚えた」

 

「師匠ですの?」

 

「ああ、戦闘訓練の師匠。 よし、出来た。 にしてもローズマリーって呼びにくいな略してローズにしよう」

 

「ローズ?」

 

「外国人だから知らないか? 日本人は友達には愛称を付けて呼ぶんだ」

 

「友達?」

 

いちいち、きょとんとして聞いてくるなこの子・・・天然さんか?

 

「そうだよ。 ローズって歳いくつ? 俺と同じぐらい?」

 

「1歳?」

 

「嘘つくな!」

 

ばしっとローズの頭を俺は軽く叩く

 

「あう・・・痛いですの」

 

どう見ても、10歳かよくても12歳ぐらいにしか見えない。

頭を抑えるローズを見ながら

 

「そういや、お前・・・」

 

「優様」

 

風が髪を揺らし、空を見上げると秋葉が降りてくるところだった。

秋葉は風を使える一族だ。

短時間なら空を飛んだりできるから、一緒にいることも多い。

 

「頼まれていた物をお持ちしました。 その子は?」

 

カバンを受取りながら中身を確認する。

 

「ローズマリーだ。 ローズって呼んでやってくれ」

 

「わかりました。 よろしく、ローズ、私は山洞 秋葉。優様に仕える近衛です」

 

「よ、よろしくですの秋葉」

 

そう、この出会いこそが後に死ぬほど後悔するすることになる一幕の幕開けだったんだ・・・

屋敷に連れて行こうとするとローズは嫌がった。

自分はもう、大人なんだと思い。

しばらくなら、面倒をみようと秋葉にも口止めし、俺達は1ヶ月に渡る日々が始まったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローズと出会い、半月後。

俺と秋葉は食料等を持って、よく洞窟に出かけて修行したり、遊んだりした。

最初は、距離を置きがちだったローズもしだいに俺たちと遊ぶようになっていった。

その日も、遊んだあとに別れ屋敷での夕食の時間

 

「ねえ、兄さん毎日どこ行ってるの?」

 

「ん? 修行だ修行」

 

「最近、優兄、秋葉と屋敷の外ばかり言ってるよね・・・」

 

すっかり、風邪の治った咲夜が不満そうに言った。

 

「外の訓練なんだよ。 秋葉はいると便利だしな」

 

ローズマリーのことは弟と妹にも秘密だった。

というのもローズマリーが

 

「私がここにいることを誰にも言わないで欲しいですの」

 

と言ったからだ。

女の子を守るのは男の務めと考えていた俺はすぐに快諾した。

秋葉も俺が頼めば嫌とは言わない。

まあ、いつか紹介することもできるだろうさ。

 

「私はもう少し、家にいて欲しいなぁ・・・」

 

「そうだよ兄さん。 明日は家にいてよ」

 

お? なんか困ったな・・・

でも、ローズのご飯も届けないといけないし・・・

まあ、秋葉に任せればいいか?

 

「分かったわかった。 明日は家にいるよ」

 

「本当、優兄?」

 

「おう」

 

「みんないるな?」

 

声の方を3人で見る

 

「父さん。 今帰ったの?」

 

鏡夜の言葉に頷きながら明人が上座に座る。

仲居たちが食事を運んで明人前に素早く並べていった。

 

「ありがとう」

 

手を合わせてから明人が食事を開始する。

椎名の家は家族全員揃って食事することはあまりない。

俺も師匠に連れられて家を開けていることが多いし、母親は体が悪いためあまり、部屋からは出てこない。

そして、当主の明人は多忙なため、家にいることがあまりないのだ。

比較的、よく家にいるのは鏡夜と咲夜だけ

 

「今日はどこに行ってきたんだ? 父さん」

 

「東京だ」

 

簡潔に答えてくれる。

何をしに行っていたのか等は教えてくれない。

まだ、早いと判断されているのだができれば、教えて欲しいところだ。

家を継ぐのもあるが人脈を作りたいのだ。

師匠と外国を回って痛感したのは人とのつながりが重要だということ。

諸外国に知り合いがいればいざというときに協力してもらえるなど何かと便利なのだ。

 

「東京…行ってみたいな」

 

鏡夜が想像しながらなのか上を見上げながら言う。

家から出ることあまりないからな咲夜と鏡夜は……

よく出て京都市内が限度という有様だ

 

「別に東京行ったって京都と代わり映えしないって、ビルがにょきにょき立ってるだけだ」

 

一応、東京にも行ったことはあるからな。

もちろん、師匠について行ったときに警察関連と知り合いになった。

闇の公務員と言われる公安0の人達にも会ったがさすがに、一目見ただけで化け物クラスだと思い知らされたよ。

直接、戦闘することはなかったけど今、戦ったら絶対に勝てないよな・・・

もっと、修行して強くならないと

 

「兄さんはすごいな・・・世界中を旅していろいろな経験して」

 

「ああ、まあ大変なこともあったけどな・・・吸血鬼のブラドにさらわれたときはさすがにやばいと思ったし」

 

「吸血鬼」

 

想像したのか咲夜が顔を青くした。

 

「そうそう、こう闇の中からいきなり現れてかぷっとかんで血を吸うんだ。 咲夜なんて一瞬で干からびるな」

 

「ゆ、優兄のいじわる! トイレ行けなくなるよ!」

 

「ハハハ! まあ、家なら大丈夫だろ。 近衛もいるし俺たちもいるんだからな」

 

泣きそうな顔の咲夜に笑いかけながらあの時のことを思い出す。

そういや、理子ちゃんどうしてんだろうな・・・

ブラドから逃げる手はずは整えられてると師匠には聞いたけど連絡先知らないんだよな・・・

談笑の中、明人が口を挟んでくる。

 

「吸血鬼か・・・ルーマニアのブラドのことだな? 良く無事だったな優希」

 

「師匠が助けに来てくれたんだよ」

 

「希か・・・あいつなら確かに、ステルスの攻撃も、ものともしないだろうな」

 

「ステルス?」

 

「秋葉も使うだろ? 風とか雷とか肉体強化とかとにかく超能力みたいなものを使える奴の総称。 能力者とか呼び方もあるけどな」

 

咲夜の問いに答えながら俺はお茶を口に運んだ。

 

「優希、お前は旅の中でステルスと戦うことはなかったのか?」

 

「ほとんどなかった。 師匠にはステルスと戦う時は逃げられるなら逃げろと言われてたから」

 

「そうか・・・優希お前はまた、希と旅に出るのか?」

 

「うん、まあ師匠次第だけど。 またまだ、外国には行きたいし知り合いも多いから会いたいし」

 

やり残したことも多い。

外国では死にかけたこともあるけどきっと、それは未来の経験につながるだろう

 

「・・・」

 

 

父親は黙って俺を見ていたがやがて

 

「お前は椎名の家を継いでくれるんだな?」

 

「当たり前だろ? そのために俺は努力してるんだから」

 

「優希」

 

食事中にも関わらず明人は立ち上がると立てかけてあった日本刀を手に取ると俺に渡してきた。

 

「これは?」

 

「抜いてみろ」

 

困惑した俺が言うと真剣な目で明人言った。

鞘から刀身が現れる。

一目見ただけでも名刀だとわかる。

 

「・・・抜けたか・・・」

 

明人が言う。

訳が分からないので

 

「父さん?」

 

「それはお前にやろう優希」

 

「え? いいの?」

 

「ああ、名は『紫電』、決して無くすな。 命の次に大事なものと思うんだ」

 

紫電か・・・

鞘に収めてから大事に手に持ってみた。

 

「ありがとう。 父さん! 大事にするよ」

 

「ああ」

 

満足そうに父さんは頷いた。

この時の俺は、この刀の価値なんて知る由もなかったんだ。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第123弾 凶刃の日

その日は、曇の空だった。

今日の夜には師匠も帰ってくる。

母親の葉月さんに修行を付けてもらっている秋葉の目を盗んで俺は、台所からぼた餅と握り飯を弁当だと言ってもらってからいつものようにローズの所に行った。

無論、父さんに貰った剣を持って

 

「ローズいるか?」

 

「優希?」

 

洞窟の奥からローズが現れる。

もう、ケガの気配もなく体調は万全に見えた。

 

「ほら、今日のご飯」

 

「ありがとうですの優希」

 

天使のような笑顔とはまさに、この笑顔だろう。

日本人にはない魅力がこの子にはあった。

旅で大勢の女性ともあったがその中でもトップクラスの部類に入るだろう。

 

「今日は、秋葉はいませんの?」

 

薬草や花が咲いている原っぱの大きな石に俺達は座る。

 

「秋葉なら修業中だよ。 母親にな」

 

「お母様に・・・うらやましいですのね」

 

「!?」

 

一瞬だがローズから殺気が発せられたような気がした。

それも化け物クラスの・・・

 

「優希?」

 

だが、次の瞬間にはきょとんとしたローズの顔

気のせいか・・・

汗を拭いながら空を見上げる

 

「優希」

 

声をかけてきたローズを見る。

 

「私後少ししたら、ここを離れようと思うんですの」

 

「家に帰るのか?」

 

もちろん、この子にも家はあるのだろう。

これまで、なんでここにいたのかはわからないが・・・

しかし、ローズは首を横に振り

 

「旅にでようと思いますの。 もし、よければ優希も来てもらいたいんですの」

 

「え? 俺もか?」

 

思わず自分をさして言うとローズはにこりとして

 

「はい」

 

うーん、旅か・・・悪い話じゃないんだけど師匠もいるし・・・家の件もあるしなぁ・・・

 

「ごめん、ローズ師匠もいるし、椎名の家から師匠なしで離れるのは無理なんだ」

 

「そうですの・・・どうしても駄目なんですの?」

 

「うーん・・・そうだな・・・まあ・・・」

 

そう、この言葉を言ったばかりに・・・

 

『師匠がくたばって家が無くなったらついていくんだけどな』

 

ほんの冗談。

子供なら誰だって冗談ぐらいはいう。

ローズは・・・

 

「そうですの」

 

と口元を緩めた。

 

「え?」

 

次の瞬間、俺の視界は銀と赤で埋めつくされた。

 

「決めましたわ。 あなたは私の騎士様」

 

「ん」

 

口と口が重なる。

かわいいと思っていた少女の熱い口づけ。

目の前に赤い瞳がそこにある。

 

「だから・・・しょう?」

 

椎名 優希の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド秋葉

 

「あれ?」

 

私が優様の不在に気づき、母との修行を切り上げてローズのいる洞窟に来たとき、そこには誰もいませんでした。

洞窟をのぞき込んでも誰もいません。

スレ違いになったんでしょうか?

なら、屋敷に戻りましょう。

母との修行後なのでステルスの風は使わずに走って山道をかけ登り始めた。

空を見上げると茜色に染まっていました。

逢魔が刻、美しくも闇が世界を支配する前兆だ。

早く戻らないと母親やみんなに心配をかけてしまうだろう。

屋敷が見える位置に足を踏み入れた瞬間

 

「なっ・・・」

 

思わず私は絶句しました。

だって、門の前に血まみれで倒れている近衛2人

 

「由美! 佳乃!」

 

駆け寄って、調べるがすでに2人は絶命していました。

一体誰が・・・

みんな!

 

悪寒に駆られて屋敷の門をくぐった瞬間轟音と共に本邸がある方から火柱が巻き上がる。

何か異常なことが起こっている。

 

「敵襲!」

 

そんな声がどこからか聞こえた。

屋敷に敵がいる。

それを認識した秋葉の動きは素早かった。

手放していない槍を手に燃えている方角に駆ける。

 

途中、何人かが黒い塊となって倒れていた。

炎に巻き込まれたのか・・・

確かめるまでもなくあれは死んでいるだろう。

人が焼けた独特の臭いが鼻につく

優様・・・

 

彼は無事だろうか・・・

そんなことを思いながら屋敷の本邸に続く道を走る。

しかし、その途中

 

「あら?」

 

「っ! ローズ!」

 

目を丸くして立ち止まる。

炎を背景に陽炎に銀髪を揺らしながらローズマリーは微笑んだ。

 

「そういえば、あなたがいましたわね」

 

「!?」

 

猛烈な殺気を感じて槍を構える。

 

「まさか、あなたがこれを?」

 

「ええ、わた・・・」

 

言い終わる前に、秋葉はかけていた。

突撃の勢いと強烈な風を背中に受けた攻撃

 

「はああ!」

 

一撃必殺の豪風を巻き起こしながら槍が突く

ローズはそれをかろうじて避ける。

 

「言い終わる前に攻撃なんて無粋ですの」

 

槍を突き出したあとはわずかに隙ができる。

ローズマリーが右手を秋葉に向けた瞬間、秋葉は槍をもってない左手を振り抜いた

ローズマリーの衣装がわずかに切り裂かれる。

 

「っ!」

 

驚いたローズマリーが攻撃を中断して後退する。

直後に背後で爆発が起こる。

バキバキと木が切り裂かれて地面に轟音を立てて落ちた。

 

「かまいたちですのね」

 

かわされた・・・もしかしてと思っていたがやはり・・・

 

「今度は私の番ですの」

 

ローズマリーの周囲に陽炎が立ち上る。

次の瞬間、蒼い炎がローズマリーの周囲に燃え上がる。

すっとローズマリは右手を空にあげて振り下ろした。

 

「炎壁」

 

「!?」

 

秋葉の四方に巨大な火柱が巻き起こる。

風で!

空に逃げようとするが

 

「あ・・・は」

 

息ができない。

そうかこの炎で酸素が著しく薄くなっているんだ。

 

「うぐ・・・」

 

苦しい・・・酸素を・・・

考える能力が消失していく。

もはや、ステルスを使う余力は残されていなかった。

 

「さよならですの秋葉」

 

意識が途切れる寸前

 

「へぇ、面白そうなことしてるな」

 

声と同時に、私は誰かに抱えられ炎の中から連れ出されました。

新鮮な空気をめいいっぱい吸い込む。

 

「大丈夫秋葉?」

 

「お・・・かあさん」

 

母親の葉月、そして、ローズマリーと対峙しているのは水無月 希

剣も銃も抜かずにただ、面白そうに腕を組んでローズマリーを見ている。

 

「水無月 希? なんであなたがここに?」

 

薄く笑いながらローズマリーが言う。

世界最強を前にして彼女には余裕があるように見えた。

 

「星伽の方で戻れと託を受けたんだよ。 戻ってみれば楽しそうなことしてるじゃないか?」

 

「できれば、あなたとは戦いたくありませんの」

 

「そんなこと言わずに遊ぼう。なぁ」

 

戦闘狂、水無月 希は戦うことが好きだ。

彼女が狙いを定めて戦って勝てたものはいない。

 

「・・・」

 

無言でローズマリーは右手を横殴りに振り抜いた。

巨大な蒼い炎が剣のように希に降りかかる。

 

「ハハハ!」

 

希は笑いながらそれを跳躍して交わすと手を横に持っていく。

 

「その技もらったぞ」

 

ごっと腕を振りかぶると蒼い炎がローズマリーをなぎ払った。

どおおんと大爆発が起き、ローズマリーが後退する。

なんとか、かわしたらしいがゴシックロリータの服はところどころが焼け落ちていた。

 

「っ、理不尽ですの」

 

「どうした? もっと技を見せないのか?」

 

水無月 希は相手の技を1度見れば覚える。

どれほど、凡人が努力を重ねてやっと習得した技も1度見れば完全かそれ以上の力を振るう。

人は彼女をステルスマスターと呼ぶ。

風・土・炎・雷その全てを彼女は操れるのだ。

 

「赤い炎は星伽から覚えたが蒼い炎はまだでな。 全部さらけ出してから逮捕されてくれ。それとも私を倒すか?」

 

ローズマリーはにこりと微笑む。

 

「さすがは世界最強ですの。 私の負けですわ」

 

「何? もう、終わりか? あるんだろまだ、何か?」

 

拳をぱんと撃ち鳴らしながら希が言う。

 

「師匠」

 

「ん?」

 

その声に振り返った希が見たのは

 

「優か? そこで見てろ。 今おもしろいと・・・」

 

ズン

 

冗談のような光景。

山洞 秋葉が見たのは椎名 優希が父親から貰った紫電で尊敬していたはずの希の体を貫いていた。

 

「な・・・に・・・」

 

希がローズマリーを睨むと彼女は満面の笑を浮かべ

 

「世界最強。 あっけないですのね」

 

剣が引き抜かれ希が1歩前によろめく。

 

「雷化は・・・そうかそいつは紫電・・・か・・・どうり・・・で」

 

黒色のコートの上からでも血があふれ出てくるのが遠目からでも分かった。

 

「希様!」

 

悲鳴をあげて葉月が飛び出す。

しかし、その前に立ちふさがったのは・・・

 

「優希様!」

 

気絶させるつもりだったのだろう。

秋葉をも上回るその手から放たれた暴風が優希を包・・・

 

風が霧散する。

 

「!?」

 

無表情の人影が霧散した風の中から飛び出してくる。

 

「くっ!」

 

葉月は風の障壁を展開するがそれは冗談のように風を抜けて葉月の心臓を貫いた。

葉月の目が見開かれ口からごぼっと赤い血が溢れてくる。

葉月と目があった秋葉は目を見開いた。

 

「お・・・かあ・・・」

 

椎名 優希は剣を葉月から引き抜くと彼女の体を蹴飛ばした。

どうっと葉月が人形のように地面に倒れ込む。

ふらふらと秋葉はその、前にいくと膝をついて主を見上げた。

 

「ゆ、優様・・・なんで・・・」

 

涙を流しながら彼を見上げる。

無表情な瞳の彼は紫電を振り上げる。

殺される。

そう、秋葉は思った。

 

「「秋葉」」

 

声と同時に秋葉は誰かに突き飛ばされた。

ごろごろと地面を転がりながら起き上がる。

 

「き、鏡夜様、咲夜様どうしてここに・・・」

 

優希弟妹の2人だった。

 

「ひ、避難してたんだよ。 だけど、秋葉が切られそうになってたから・・・」

 

震える声で鏡夜が言う。

 

「ゆ、優兄どうしちゃったの?」

 

「!? ダメです!離れて!」

 

「え?」

 

秋葉が言うが優希が剣を薙ぎ払う。

 

「くっ!」

 

暴風を使い咲夜を吹き飛ばそうとするが一瞬、剣が早く、その刃が咲夜の右目を切り裂いた。

 

「あ、ああああああああああ!」

 

耳を塞ぎたくなるような絶叫。

右目を押えながら咲夜が地面に転がった。

 

「痛い・・・痛い!」

 

「咲夜!」

 

走り出そうとする鏡夜を秋葉は必死に止める。

行っても、二の舞になるだけだ。

椎名 優希が剣を再び昨夜に振りかぶる。

 

「咲夜!」

 

鏡夜が悲鳴を上げた瞬間

 

「このアホ弟子が!」

 

どごおおおと音と共に椎名 優希が吹き飛ばされる。

希が渾身の力で蹴り飛ばしたのだ。

 

「まだ、動けますの?」

 

感心したような声に希ははっと笑をつくる。

 

「まあな。 伊達に世界最強は名乗ってない」

 

くすくすとローズマリーは笑いながら

 

「再生能力も効いてませんのね。 さすがは、神器の末裔だけありますわ」

 

「厄介だな」

 

そういいながら、希は炎の装飾がなされたガバメントを抜き放つと鏡夜達を見て

 

「早く逃げろ!」

 

ドンと放たれた銃弾が大爆発を起こす。

武偵弾だ。

母の亡骸を残して私達はその場を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃えていく建物を背景に俺の意識は目覚めた。

「え?」

 

「やっと・・・起きたのか馬鹿・・・」

 

理解できなかった。

覚醒した意識で最初に認識したのは熱い血が手を伝う感触。

その血の主は・・・

 

「し、師匠?」

 

心臓を貫かれ彼女は笑っていた。

 

「まったく・・・世界最強が・・・聞いて呆れるな・・・優希・・・無理な話だがあまりこのこと引きずるなよ・・・」

 

「え・・・なんで俺・・・」

 

ぽんと頭に手が乗る。

 

「全ては操られてただけだ。 お前の責任じゃない・・・気に病むな・・・」

 

「あ・・・」

 

周りを見渡すと見知った人たちが倒れていた。

秋葉のお母さん葉月さん・・・それに、父さん

 

「お、俺が・・・やったのか・・・」

 

「罪を・・・忘れろとは言わない・・・だが、お前の意思でやったんじゃない・・・だからな・・・優・・・」

 

師匠が俺の体を突き飛ばした

ごっと、蒼い炎が師匠を包み込む

 

「し、師匠!」

 

炎に飲み込まれながらも彼女は笑っていた。

 

「がんばれよ・・・弟」

 

ごっと炎が希を包み、ぱらぱらと黒い粉がが地面に落ちていく。

がしゃんと言う音に目を向けると炎の装飾がなされたガバメントが少し焦げて2丁落ちていた。

それをやけどするのも構わず拾い上げて俺は泣いた。

 

「希・・・姉さん・・・」

 

旅にでてから禁止されていた呼称。

水無月 希は椎名の家を捨てた女性。

椎名最強と呼ばれながらも女性であったため家を継ぐことが許されなかった。

名前を変える前は椎名 希・・・俺の姉さんだった。

 

「世界最強討ち取りましたの」

 

その声に俺は憎悪の視線を向ける。

 

「ローズ・・・マリー貴様・・・」

 

「?」

 

しかし、ローズマリーはいつものようにきょとんと首をかしげる。

 

「暗示が解けましたの優希? もう一度・・・」

 

「お前は絶対に殺す!」

 

地面を蹴り突撃する。

ローズマリーは首をかしげながらもその大剣でそれを受けた。

 

「優希・・・私の騎士様・・・」

 

その言葉をつぶやきながら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が俺の過去だ」

 

「「「「・・・・・・・」」」

 

アリア、レキ、理子、キンジみんな無言だった。

当然といえば当然なんだろう

 

 

「秋葉が去ったあとのことは俺にもわからない。 だけど、状況的に俺は秋葉の母親を殺し、咲夜の右目を奪い・・・師匠を・・・姉さんを殺したんだ」

 

「で、でも優・・・それあんたローズマリーに洗脳されていてあんたの意思じゃないじゃない」

 

アリアが絶句しながら言う。

 

「そうかもな・・・でも・・・」

 

手を見ながら俺は言う

 

「この手で親しい人を人を殺めたことに変わりはない・・・少なくても・・・秋葉には操られてたから仕方ないなんて言えないんだ・・・」

 

「そうか・・・分かったよ優」

 

理子が男しゃべりで言ってくる。

 

「なんで、お前があそこまでローズマリーにこだわったのかな。 優、お前、ローズマリーを殺す気か?」

 

「俺は武偵だぜ?」

 

殺したいとは思うだが俺は

 

「ローズマリーは逮捕する。 それが俺の過去への決着だと思ってる」

 

「秋葉に対してもか?」

 

理子の言葉に俺は頷く

 

「師匠に貰った命だ。 死ねとか言われない限り、俺は秋葉が望むなら何をされても構わないと思ってる」

 

憎いと当然、秋葉は思っただろう。

だが、秋葉はそれでも俺の傍から離れなかった。

 

「幻滅したなら言ってくれ・・・お前たちからも距離おくよ」

 

覚悟していた・・・人を殺めた過去を知られたら友達が離れていくんじゃないかと・・・

 

「離れません」

 

「レキ?」

 

最初に声をかけてくれたのはレキだった。

無表情ながらも俺を見ながらレキは

 

「優さんは優しい人です。私は知ってます。あなたは私の大切な人です」

 

大切な友達か・・・ありがとうなレキ・・・

 

「優」

 

理子が腕を組んで少し顔を赤くしながら横目で俺を見ながら

 

「お前は私をブラドから助けてくれた。 私は決して恩を忘れない。 過去に何があっても関係ない」

 

理子・・・ありがとう

 

「優、あたしはあんたをチームメイトにするって決めた日からあんたを見てきたわ。 あんたは、いい奴よ。 あたしのホームズの直感がそれを証明してるわ」

 

アリア・・・こんな俺でもいいのか?

 

「お前とはいろいろと腐れ縁だからな。 これからも友達だ」

 

キンジ・・・お前もいい奴だな

 

「レキ、理子、アリア、キンジ」

 

過去を知っても俺の仲間は離れないで居てくれる。

そう、兵庫の虎児や千鶴もこんな感じだったな・・・

転校したときはいろいろあったけど東京に行ってよかった・・・

こんないい奴らと知り合えたんだからな・・・

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第124弾 闇の誘い

「そう魔女連隊のドールが本邸に・・・」

 

薄暗い部屋の中、重苦しい空気の中で布団から上半身を起こして志野は報告を聞いていた。

 

「いかがなさいますか?」

 

畳の上で正座して、刀を脇に置いた日向が言う。

しばし、考えるように志野が沈黙する。

 

「月詠達を呼び戻したいところですが魔女連隊の目的が不明な以上現状の戦力で対応するしかないでしょうね・・・」

 

「京都武偵局や府警に協力を要請しますか?」

 

「殺人人形が日本各地で存在してることだけはそれとなく伝えておきなさい。一般人には決して悟られないように」

 

「わかりました」

 

この殺人人形は各地で様々な呼び名があるが椎名の家ではドールと呼ばれている。

全国各地で目撃情報や襲撃情報があるが未だに、一般人には伏せられていた。

というのも、東京を発端に急激に出現率が上がったのはここ、数日だ。

といっても、彼らは白昼堂々人を襲うのではなく、闇にまぎれて裏路地など、あまり普通の生活をしている人間が立ち入らない場所で暗殺のように人を殺している。

そのため、チンピラなどが多く犠牲になっている。

どうしようもない奴もいるが見捨てることはできない。

しかも、情報によればドールの力は武偵ランクで言うなら最低でもCランク、中にはSランク相当の化け物まで存在するだけに厄介だった。

そのため、今椎名の家は近衛を含めて最低限の戦力を残して討伐のために全国に散っている。

こんな時だからこそ、後継者の選定は終わらせないといけない。

ただでさえ、今の椎名の家は後継者の問題で荒れているのだ。

鏡夜を押す派閥と優希を押す派閥。

鏡夜の方が多少優勢であるが白黒付けさせるには2人の戦闘による優希の敗北が望ましいのだ。

 

「ドールを追った近衛からの連絡は?」

 

「ありません。 4時間ほど立ちますが戦闘中か追撃中かと」

 

「追った近衛は?」

 

「山洞秋葉です。優希様のご学友を案内している最中に敵と遭遇しました」

 

「・・・」

 

志野が息を飲んだ。

だが、静かな言葉で話を続ける。

 

「そちらは問題ないでしょう」

 

「はい、援軍を送る余裕はありません」

 

秋葉の力は椎名戦力の中でも上位に入る実力者だ。

そうそう、負けるものではない。

 

「ご苦労。 下がっていいですよ」

 

「はい」

 

日向はそう言うとその場を退出した。

 

「こほこほ・・・」

 

喉からこみ上げてくる咳きが苦しい、早く後継者を定めないといけない・・・

 

「次の宣戦会議はそう遠くないでしょうから・・・」

 

静かに彼女はつぶやいた。

それこそ、椎名の家の存在意義の一つなのだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷に戻ると少し騒がしい気がするが概ねはいつもどおりだ。

廊下の掃除をしていた睦月に聞くとまだ、秋葉は戻っていないらしい

 

「あたしたちも追わなくていいの優?」

 

廊下を歩きながらアリアが聞いてくる。

ちなみに、レキ、理子、キンジも同様に付いてきている。

 

「追おうにもこの辺は山が多いし、空を飛ぶ能力がない俺らじゃ迷子になるか足手纏になりかねないからな・・・」

 

一応、ヘリは屋敷の格納庫にあるにはあるがどのみち、早期の離脱はできない。

 

「そうなると報告待ちだな」

 

「そうだな」

 

キンジの言葉に頷きながらソファーの置いてある応接室に入る。

仲居がお茶を持ってきてくれたのでそれを飲みながら

 

「ねね、ユーユー待ってるのも暇だからユーユーのこともっと聞かせてよ」

 

机を挟んで俺の正面のソファーを確保した理子が目を輝かせて聞いてくる。

 

「聞きたいことってだいたい話したぞ」

 

「んもう! ユーユーの話に出てきたあの紫電って刀のことだよ」

 

「ああ・・・」

 

納得した。

あの刀は特殊だからな・・・

 

「盗むなよ?」

 

「大丈ぶ・だ問題ない!」

 

微妙にアクセントを外しながらどんとでかい胸を叩きながら理子は自慢げに言った。

部外者だがまあ、こいつらなら話してもいいかな・・・

 

「紫電はうちの宝だ。 ありとあらゆるステルスを無効化する」

 

「ステルスを無効化?」

 

アリアが仲居から紅茶を受取りながら目を丸くした・

 

「・・・」

 

レキはお茶をじーと見たまま動かない。

お前は全然変わらないなと思いながら

 

「ああ、俺も詳しくは知らないんだがある特殊な鉱石を使って作られたらしい」

 

そこで、レキが顔をあげた。

 

「・・・」

 

な、なんだ?無言だが話に興味でもあるのか?

 

「俺はステルスには詳しくないんだが白雪の燃えた刀とその紫電がぶつかったらどうなるんだ?」

 

ああ、キンジは白雪が一番わかりやすい例えになるか

 

「炎が霧散する。 白雪の刀はただの、刀に戻るな」

 

「ステルス殺しの刀ね。それ・・・あたしも欲しいわ」

 

「無理だろうな・・・似たような刀は世界に2本しかないからな」

 

「紫電ともう、1本はなんなのユーユー?」

 

「震電だ。 昔は、椎名の家が管理してたんだがローズマリーの事件で紛失した」

 

「そっかぁ・・・」

 

おいおい理子。 1本あったら持ってく気じゃないだろうな?

なんで、残念そうにするんだ?

ん?

ドアが開く音がしたのでそちらを向くと咲夜が顔だけを見せていた。

 

「優兄」

 

「どうした咲夜?」

 

「う、うん優兄が帰ってきたって聞いたからお話しようと思って」

 

「別に構わないぞ。 こいよ」

 

「失礼します」

 

アリア達がいるからかおずおずと近づいてきた咲夜だが

 

「って座るところがないな」

 

この部屋のソファーは小さめで1人用の椅子と3人が座れるソファーしかない。

 

「あ、椅子とってくるよ」

 

と、反転しようとするが

 

「さっちゃんこっちおいで」

 

「え? きゃっ!」

 

理子が咲夜の腕をつかんで引き寄せると自分の足の上で咲夜を乗せる。

 

「あ、あの!」

 

「いい子いい子、理子のことお姉ちゃんってよんでね」

 

咲夜の頭をにこにことなでなでしながら理子が言う。

 

「は、はいみ、峰お姉ちゃん」

 

「クフフ、理子的には理子お義姉ちゃんって呼んで欲しいなぁ」

 

「り、理子お姉ちゃん」

 

顔を真っ赤にしてうつむきながら咲夜が言う。

うん、我が妹ながらかわいいな

 

「よくできましたぁ!」

 

なんか、お姉ちゃんの意味が違う気がするがまあいいだろう・・・

アリアは特に何も言わない。

咲夜が男だったら顔を真っ赤にしてぎゃぎゃー騒ぐんだろうな・・・

 

「いいわね・・・」

 

ん?咲夜のことを見てアリアが何か言ったぞ。

まあ、咲夜はいい子だけどな・・・

 

「何がいいんだよアリア?」

 

はっとしたアリアが慌てて

 

「ち、違うわよ! 別にあたしの妹と重ねてなんてないんだから!」

 

妹いるのかアリア・・・

 

「メヌエットっていうんだけどね。 もう、あたしより年下のくせ上から目線で・・・」

 

ああ、なんとなくわかるな・・・お前子供体型だからな

口に出さんぞ風穴開けられたくないし

 

「お前は子供体型だからな」

 

おまっ!キンジ!

空気を読み違えたのかキンジが言ってしまった。

 

「き、キンジ!か、風穴ぁ!」

 

「や、やめろアリアあああ!」

 

大慌てでガバメントを抜こうとしたアリアの両腕をつかんで止める。

 

「止めないで優! キンジがあたしのこと子供体型って侮辱した!風穴あけてやる」

 

がすがすと俺の足を蹴りながらアリアが暴れる 

いたたた! 本気でけるな!

 

「に、逃げろキンジ! 早く!」

 

「あ、ああすまない優」

 

「待て! 逃げるなキンジ!」

 

ダンと飛び上がったアリアが俺の腹に膝をめり込ませた。

ぐあ!

思わず手を離してしまったので弾丸のようにアリアはキンジが逃げたドアまで行くと飛び出していってしまった。

もういいや・・・キンジの自業自得だ・・・

アリアのことはもう、屋敷で伝達されてるだろうから大丈夫だろうしな

 

「いてて」

 

腹を押えながら椅子に戻る

 

「フフフ」

 

咲夜?

肩を震わせて咲夜が笑ってる。

 

「おもしろい人だねアリアさんと遠山さんって、理子お姉ちゃんも優しいしレキさんもおちゃめだし」

 

レキがお茶目?

 

「優兄、あのことみなさん知ってるの?」

 

あのこととは多分過去のことか・・・

 

「ああ、さっき全部話した」

 

「それで優兄を怖がらないんだ。 虎児さんや千鶴さんみたいな人東京にもいたんだね」

 

「プーリンと知り合いなのさっちゃん」

 

「ぷ、ぷーりん?」

 

聞き慣れない名前に咲夜が戸惑う

 

「虎児のことだ咲夜、プリンみたいな頭だからぷーりんな」

 

ハハハ、何度聞いても面白い名前だな

 

 

 

 

 

 

 

神戸某所

 

「はくしょん!」

 

「馬鹿が風邪?」

 

「誰がアホや!千鶴! 誰か噂でもしてるんかな?アリアさんだったらええな」

 

「ありえない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて会話してそうだ。

 

「1回だけだけどあったことあるんです。いい人ですよ。この目のことも笑って気にしない人でしたし」

 

よし、虎児今度会ったら殴る。

咲夜はやらん

 

「ゆ、ユーユー目が怖いよ」

 

はっ!

 

「大丈夫だ問題ない」

 

何が問題ねえんだよ!思わずあのセリフいっちまった。

 

「と、とにかくだ! 咲夜は虎児にやらん!」

 

「え?」

 

ぽかんとする咲夜って俺なに言ってんの

 

「クフフフ、ユーユーシスコンだ! 妹にまでフラグ立てるのは特殊なパッチがないといけないよー」

 

「ゆ、優兄わ、私たち兄妹だし・・・」

 

そこでなんで顔を赤くする咲夜!意味わからんこと口走るな!

 

「だあああ!うるさい!うるさいうるさーい! そんなことあるわけないだろが理子!」

 

「怒っちゃやだぁユーユーぅ。 未来の妹が見てるよー」

 

おいこら! それってお前と俺が結婚するって意味だぞ!

 

「誰が未来の妹だ! 咲夜はやらんと言っただろう!」

 

「ゆ、優兄お父さんみたいになってるよ・・・」

 

「えーじゃあレキュがお姉ちゃんだよさっちゃん」

 

「・・・私はおねえちゃんなんですか?」

 

ずれたことを言うレキ!

 

「お前らなぁ・・・」

 

結局、話はぼろぼろになったキンジが戻ってくるまで続いた。

アリアに追い回されてやられたんだろうな・・・

かわいそうに・・・

だが、トイレにいくためにみんなに先に行ってもらい夜の19時の食事に広間に行く途中

俺の携帯が鳴り響いた。

誰だ?秋葉?

ディスプレイに移されたのは彼女の名前だった。

嫌な予感がするぞ

通話ボタンをおして

 

「どうした秋葉? 何か・・・」

 

「・・・優希」

 

ゾッとするような可愛らしい声

聴き間違えるはずがない

 

「ローズ・・・マリー・・・なんでお前が秋葉の携帯から」

 

「文・・・見てくださいまし」

 

ただ、それだけを言って通話が切れる。

 

「お、おい!」

 

だが、受話器は何も言わずにツーツーと接続が切れたことを示す音が聞こえるだけだった。

すぐに、秋葉の携帯にかけ直そうとしたが同時にメールが届いた。

画像付きか?

開くと写真が2枚添付されていた。

1枚はGPSの写真と位置を特定する印、もう一枚は

血まみれになり木を背に倒れている秋葉が映し出されていた。

 

文字はただ、一言

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『2人でくることをお待ちしておりますわ優希』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第125弾 激突

ローズマリー……お前、秋葉に何かあったら絶対に許さないからな。

流行る気持ちを抑さえて部屋に戻り、武器を持ち出す。

マガジンの予備をありったけ持ち、刀を装備してから廊下を歩く。

ローズマリーは二人でこいと言った。

意図はわからんがわざわざ乗ってやる気はない。

どんな罠があるかわからねえんだ。

月詠や師匠……姉さんクラスなら遠慮なく助力を乞うが、二人とも違う理由で不可能だ。

だが、勝てるか?あの魔女に……

そんなことを考えていたら曲がり角から出てきた人影とぶつかる。

 

「きゃ!」

 

ぺたんとアニメ声で悲鳴をあげ尻餅をついた人物は……

 

「わ、悪いアリア」

 

「なによもう……」

アリアはそういいながら横にあった携帯を……

まずい!

今の衝撃で落ちたのか?

しかし、すでに手遅れでアリアは秋葉が倒れている画像を見てしまう。

 

「優……これ」

 

メールの内容もアリアは見るとキっと俺を見上げる。

 

「あたしを連れていきなさい優」

 

やはり、か

 

「駄目だ!危険すぎる!」

 

そう、頼めば俺の仲間はみんなきてくれるだろう。

だからこそ一人で行く気だった。

 

「武偵憲章第1条仲間を信じ仲間を助けよ。優、この犯人は二人でこいと言ってるのよ?なら、武偵で、あんたのチームメイトのあたしを連れていくこと!」

 

「……分かった……」

 

正直時間が惜しい、一秒でも早く、秋葉を救出し、手当しなければならないだろう。

 

「それでいいのよ」

 

アリアは満足そうに言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後、俺達は家の車に乗り、指定された場所に向かっていた。

山奥だからガタガタと車が揺れている。

「勝利条件は秋葉を救出し全員で離脱。間違えるなよ?」

 

「ローズマリーは捕まえればママの免罪を減刑できるわ」

 

「そうだが、あいつとやり合うのは今じゃない」

 

装備をきちんと整えて、条件を揃えないとローズマリー相手だと下手すれば死人が出る。

世界に20人といないRランクに匹敵する強さをローズマリーは持っている。

いろいろと調べたがロシアであのRランク武偵紫電の雷神と引き分けているのだ。

おまけに、追撃してきたロシア軍を壊滅させている。

戦うこと事態おかしな存在なのだ。

師匠なら……姉さんならなんとかなったかもしれないが……

「とにかく、ローズマリーと決着は今じゃない。守れ」

 

「分かった……我慢するわ」

 

「それとなアリア、もし、俺が死にそうになった場合は秋葉も俺も見捨てていいから逃げろ」

 

「何よそれ!優あんた死ぬ気なの?」

 

「そういう可能性もあるんだ。わかったな?」

 

「いいわ。その代わり逆の場合はあんたが逃げるのよ」

 

アリアが死にかけた時は見捨てろか……

 

「ああ……」

 

見捨てねえよ。武偵としゃ間違いなんだろうがな……

本心とは逆のことを言っておく。

 

「それにね。優あんたは死んじゃいけないわ」

 

「そりゃ、死にたくねえからな」

 

しかし、アリアは首を横に振りながら

 

「あんたの過去はあたしが思ってたよりずっと重かった。ローズマリーに操られてたから人を殺したんだと逃げることも出来たのにあんたはしなかった。罪と向き合って生きてる。あたしはそんな人好きよ」

 

「……」

 

告白じゃないのはわかるがドキッとするな好きなんて言われると……

この子とはそんなに長い付き合いじゃないけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!?

頭痛と共に何かが見えた。

血まみれになったアリアの姿……いや、今のはまさか過去か?

 

「ち、違うわよ!好きっていうのは人間としてで男としてじゃないんだからね!」

 

失言に気づいたのかアリアがわたわたとしているのを無言で見つめる。

もしかして……お前とも昔、会ってたりしてな……

だが、思い出せない……もやがかかったように過去が……師匠と旅した記憶が取り出せないのだ。

 

「なあ、アリア、俺達昔、会ったことないか?」

 

「?」

 

きょとんとアリアはかわいらしく目を丸くする。

 

「あんたと会ったのは2年の最初よ?」

 

だよな……

アリアが言うならそうなんだろう

 

「優?」

 

アリアが更に何か言う前に

 

「そろそろだアリア、準備はいいな?」

 

「!?」

 

アリアはガバメントを取り出しながら頷いた。

 

「行くぞ!」

 

車が森を抜ける。

そこは伐採されたのか広場が広がっている。

その中に、3つの人影

ローズマリー、秋葉、それと、仮面をつけた男

秋葉は伐採されてない木の近くでうつ伏せに倒れている。

怒りの感情が戦闘狂モードを呼び起こす。

許さないぜローズマリー

 

「いらっしゃいませ。優希」

 

黒いゴシックロリータの服の端を掴みローズマリーは軽くお辞儀する。

そして、アリアの姿を見ると

 

「女……ですのね……理解しましたわ」

 

なんだ?

 

「アリアは任せましたの」

 

ローズマリーはそちらを見ることなく仮面に言う。

 

「ハハ、Sランクが相手ですかい?嬢さん」

 

「不満ですの?」

 

一瞬、ローズマリーは赤い瞳を仮面に向ける。

 

「いえいえ、約束は守りますよ?ツインテールの嬢ちゃんの相手は任せてもらってけっこうですわ」

 

あいつ……強いな

仮面の男(声で判断)には隙が見当たらない。

Sランクか……

 

「ローズマリー!俺はお前と話にきたんじゃねえんだよ!アリア!」

 

ローズマリーの返答を待たずに俺とアリアは打ち合わせたわけでもなく互いにガバメントを発射しながら左右に散る。

 

「優希……」

 

うっとりした顔でローズマリーはガバメントの弾丸を巨大な大剣でガードする。

なら、武偵弾!

 

どおおおおおん

と爆音が山に響く。武偵弾炸裂弾

直撃したが恐らく、無傷だろう

秋葉の方へ駆け出す。

そう、勝利条件は秋葉の救出だ。

駆け出そうとした瞬間

 

「うあ!」

 

アリアの悲鳴に思わずそちらを見ると驚きの光景だった。

 

「ハハハ!最近のSランクはこんなもんか嬢ちゃん」

 

「く、何よあんた!」

 

アリアは男の攻撃を小太刀で受けていたが男はなんて素手で小太刀を殴っているのだ。

数発がアリアに浅く当たっている。

鬼道術か……

恐らく、拳を何かで強化してやがる。

 

「ちっ!」

 

走りながら携帯用のワイヤーナイフを男に投げる

 

「おおっと!」

 

男はそれを左拳で打ち払った。

一瞬だが、隙が出来たはずだ。

 

「はっ!」

 

アリアががら空きの胴体に小太刀を叩きつける。

 

「残念、いい攻撃だが・よ!」

 

右拳で男はアリアの右の小太刀をぶっ飛ばした。

 

「くっ!」

 

アリアは後退して空いている手にガバメントをとろうとする。

 

「遅い遅い!」

 

な、なに!

男が一瞬で、アリアに肉薄した。

なんてスピードだ。

 

「う……」

 

アリアの目が丸くなった瞬間

 

「ちょいさああ!」

 

スドンと大砲のような豪拳がアリアの腹にめり込んだ。

 

「がっは……」

 

アリアはぶっ飛ばされ地面を滑り、動かなくなる。

まさか、やられたのかSランクのアリアが?

 

「どこみてんだい?」

 

男がこちらに走ってくる。

くそ、秋葉まで後、数メートルなのに……

煙がはれるまえになんとか……

 

「飛龍一式!風切!」

 

反転してすれ違い様の斬撃

 

「おおっと!」

 

だが、攻撃は空を切った。

左のワイヤーを男に発射する。

 

「隠し武器か?いいね」

 

こいつなんだ!強い!

更に、男は接近して拳を振りかぶる。

 

「飛龍一式!風凪!」

 

「蒼天龍!龍殺し!」

 

ガアアアンと刀と拳が激突する。

そのまま押し合いになるが

 

「!?」

 

刀の機神にひびが入りそれが砕け散った。

武器破壊か!

相当な業物の機神をこうも簡単に

 

「おら!もう一本!」

 

「ちっ!」

 

ワイヤーを発射して、木の上に逃れる。

「どこにいくんですの?」

 

「!?」

 

背後からぞっとする声が聞こえてくる。

振りかぶった大剣をワイヤー発射装置で受け止めるがぶっ飛ばされて地面に叩きつけられる。

っ……骨は折れてねえが……

ガバメントとデザートイーグルを抜きながら舌打ちする。

アリアは気絶。

Rランク1人Sランクを倒すクラスの謎の男。

普通なら撤退の状況だな

やばいな……まじでこいつはまずいぞ……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第126弾 敗退

剣は一本折られてもう、蒼龍は使えねえ……武器破壊が出来るならあの仮面の男と接近戦はかなり厳しいものになるだろう。

そして、ローズマリー……

 

「……」

 

俺は油断なく現場を認識する。

背後5メートルには秋葉、アリアまでは100メートル近い距離がある。

二人を掴んで撤退……

無理だ。

車に乗り込む前に撃破されるのは目に見ている。

援軍を望むのは都合がよすぎる。

なら、どちらかを倒して……

 

マガジンには武偵弾が後、2発。

閃光弾と音響弾だ。だが、これ系の弾丸を持ってることを相手が気づいてるとしたら……

使うか奥の手……

たが、この場所で剣が破壊された状況で使うのはリスクが高すぎる。

やはり、武器はこのままでやるしかないか。

 

「ヘヘ、ローズマリーお嬢さん、あいつ私にくれませんかね?」

 

仮面の男の言葉にローズマリーは見下すように男を見る。

 

「殺されたいんです乃?」

 

にこりと微笑ながら言う。

その周囲は高温のため陽炎のように揺れている。

 

「おー、恐い恐い。いやね。純粋に力比べしたいんですわ。椎名の後継。水無月希……いや、椎名希の弟とね」

 

「……」

 

陽炎は消えない。

 

「もちろん、手順は守りますよ。適度にやりますわ」

 

「……次の準備があますの優希」

 

クスクスと笑いながらローズマリーはお辞儀する

 

「それでは失礼しますの」

 

な、お前!

俺は驚愕した。

背後に跳躍したローズマリーは気絶したアリアをお姫様だっこで抱き上げたのだ。

ヴァンパイアの力で持ち上げて……

 

「目覚めたら厄介ですの」

 

ローズマリーはそういって注射器を取り出した。

させるかよ!

ガバメントで注射器を破壊しようと狙うが仮面の男が地を蹴る。

構わず発砲するが弾丸は地面から蒼い炎が壁のようにローズマリーと俺の間に巻き上がり弾丸を融解させた。

正面から駄目なら!

左のワイヤーを発射し、木に命中させ、巻き戻す。

 

「おおっと!待ちなさいな」

 

仮面の男も跳躍する。

武器破壊を恐れて破壊された機神の鞘で受け止めるが拳と激突した鞘はベニヤ板見たいに砕け散った。

当然、拳が俺の胴体にめり込んだ。

 

「ぐっ!」

 

ぶっ飛ばされ、ワイヤーで勢いを殺しながら地面に落下。

まだ、戦える。

ガバメント、デザートイーグルをフルオートで男に向かい発砲する。

横に走りながら男は 弾き、あるいはかわした。

こんな化け物、日本にまだいたのか!

その間に、ローズマリーはアリアに注射を終えた。

びくんとアリアが痙攣したように見えた。

 

「貴様!」

 

「よそ見してんなよと!」

 

再び、男が接近してくる。

とんでもない速さだ。

鬼道術で身体能力を向上させているのか……

銃が効かないなら刀で戦うしかねえ!

 

「……」

 

神経を極限まで集中させる。

接近してくる男に全神経を集中。

ゴッと男の拳が振るわれた。

4発の連打を体を捻ってかわす。

腰のワイヤーを発射しさらに、振りかぶる。

 

「飛龍一式!風切!」

 

ダンとその場を踏むと豪速の一撃を男に叩きこむ

 

「うお!」

 

男は拳で受け止めるがよろめいた。

武器破壊は姿勢を安定させないと使えないらしいな。

姿勢を崩したことにより追撃の攻撃を加える。

ワイヤーを発射し、突きを連打する。

ワイヤーがいつ飛び出すか分からない相手にとってはやりにくい攻撃だろう。

反撃の隙は与えない。

キン!

そんな音と共に、俺は驚愕した。

男が刀を指二本で受け止めたのだ。

 

「蒼天流、風取り、いやぁ、簡単にはとらせてくれませんな椎名の後継」

 

右で刀を掴みながら男が左手を振りかぶる。

剣を引こうとしたがまったく動かない。

刀を捨てて離脱をする選択をとらなかった刹那が命運をわけた。

 

「お返しだよっと!蒼天流!龍撃!」

 

左足を思いっきり蹴った。龍の一撃を思わせる一撃が顔面に激突し、俺はぶっ飛ばされた。

 

「がっ……」

 

木に叩きつけられるがすぐに立ち上がろうとするもぐらりと視界が揺れて左膝を地面に付ける。

世界が赤く染まる。

くそ……出血してる……

 

「ハハハ!留めだ。蒼天龍奥義!」

 

男は拳を振りかぶるが

 

「おっと!」

 

ゴオオオと爆風が男のいた空間を薙ぎ払う。

とんと、俺の体が誰かに抱き抱えられる。

 

「秋葉!」

 

気絶していた秋葉だった。

目を覚まして援護してくれたのか……

 

「離脱します!」

 

「ま、待て!アリアを……」

 

ローズマリーは動かないアリアを抱えながら微笑んでいる。

 

「アリアさんを助けるのは無理です。あなたを失うことはできません」

 

風が俺達の周りを包む。

爆風と共に舞い上がる。

 

「離せ秋葉!アリアが!アリアが!お前を助けにきたんだぞあいつは!」

 

「私は椎名の近衛。戦えば全滅します。あなたの命を優先する」

 

地面が遠ざかっていく……

 

「あ、アリア……アリアああぁ!」

 

アリアの方に手を伸ばしながら俺は意識を失った。

意識を失う瞬間、秋葉の声が聞こえた気がした。

 

「ごめんなさい……アリアさん」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第127弾 兄弟対決優希vs鏡夜―刹那の決闘

「優、あんたはいい奴よ」

 

アリア……

 

 

「……」

 

薄く微笑むローズマリーが動かないアリアの体に手を置いた。

やがて、蒼い炎が彼女を……

師匠の……姉さんの時のように……

 

駄目だ……やめろ!

 

 

 

 

 

 

 

「やめろぉおおお!」

 

 

はっとして起き上がると薄暗い部屋の中だった。

 

「ここは……」

 

布団をどけると頭に激痛がした。

 

「っ……」

 

包帯が巻かれており手当されたようだった。

部屋は畳の和室で昨日使った部屋ではないようだ。

 

「アリア……」

 

痛みをこらえながら立ち上がるり、ふすまを開ける。

 

「……」

 

レキがいた。

廊下でドラグノフ狙撃銃を肩にかけて体育座りをしていた彼女は顔を俺に向けてくる。

 

「レキ……」

 

言葉が見つからない。

脅されていたとはいえ、黙ってローズマリー達と戦い、アリアを奪われたのだから……

 

「事情は……聞いたか?」

 

「はい、秋葉さんから全て聞きました」

 

「それで……どうなってる?俺はどれくらい寝ていた?」

 

「2時間ほどです。捜索隊が山に入っていますがアリアさんは見つかっていません」

 

「そう……か」

 

今は椎名の家の主戦力は日本各地に散っている。

捜索に避ける人員も限られるだろう。

志野さんに会わないといけないか……

度重なる襲撃で実家もピリピリしてきたな……

魔女連隊もそうだがローズマリーに対抗できる戦力が今はいないからな……

 

「レキ、俺は今から……」

 

「優兄ぃ!」

 

うわ!

どーんと激突するように咲夜が背中からぶっかってきた。

左目には涙を浮かべている。

 

「大丈夫なの?頭の怪我」

 

「俺はな……」

 

咲夜の頭を撫でながら

 

「だが、アリアが……」

 

「アリアさんは今、捜索してもらってるよ。優兄ぃは休んで……」

 

「いや、志野さんに会う」

 

「お、お母さんに?」

 

「ああ、居場所がわかり次第強襲する。戦力を借りないといけないからな」

 

ローズマリーもそうだが仮面の男、Rランクとまでは言わないが化け物クラスであるのは否めない。

 

「……優さん」

 

俺が振り向くとレキが立ち上がっていた。

 

「その時は私も連れていってください」

 

「いいのか?」

 

「はい」

 

アリアを救うためには戦力が必要だ。

次に対峙する時は切札を使わせてもらう。

 

「ありがとうレキ」

「はい」

 

無表情でレキは頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついてくると言う2人と別れて廊下を歩いていると

 

「「優!」」

 

キンジと理子が走りよってきた。

 

「どういうことだ優!なぜ、アリアをみすみす拐われた?」

 

男言葉で捲し立てる理子に俺は事情を話す。

 

「優、私も連れていけ」

 

「俺もだ優、どこまでやれるか分からないが……」

 

おまえら……

不覚にもじんわりきたぜ。

 

「ありがとう理子、キンジ、その時は頼むぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人と別れて志野さんの部屋の前に来る。

護衛の近衛に面会を願い出ると暫くして、中に入るようにと言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「事情は分かっています」

 

入るなり、志野さん……いや、母さんは布団から上半身を起こして言った。

俺は畳に正座する。

 

「アリアの行方は何か分かりましたか?」

 

「……ええ、目星はついています」

 

その言葉に俺は歓喜した。

 

「どこですか?すぐに助けに……」

 

「それを貴方が知る必要はありません」

冷たく冷淡に、母さんは言い放ったが俺は引かない

 

「俺の責任なんです……だから」

 

「……優希」

 

母さんはじっと俺を見ながら

 

「ホームズ家の救出は近衛が実行しています。あなたは、明日の後継者選びの……」

 

「そんなことはどうでもいい!今の家にローズマリーに対抗できる戦力はない!月詠も戻ってないんだろ!」

 

腹が立った。

こんな時にまで、後継者の争いの心配か……

後継者選びなんてアリアに比べたらどうでもいい!

 

「確かに……」

 

母さんは表情を変えず

 

「殲滅は出来ませんが救出のみなら現行の戦力で可能です。あなたは、もう休みなさい。その怪我も癒えてはいないのでしょう?」

 

母さんは教える気はないようだった。

これ以上、話しても平行線でしかない。

「分かりました……」

 

アリア救出部隊は動いているらしい。

ならば、それに望みをかけるのも1つの出だ

 

「……優希」

 

部屋を出る前に母さんに声をかけられる。

 

「ホームズ家の娘は貴方にとって何なんですか?」

 

俺は振り替えると迷いなく言い放つ

 

「大切な友達で俺のチームメイトです」

 

「……そうですか」

 

母さんはそれ以後無言になったので部屋を後にする。

こうなった以上、自身の情報網を駆使するしかないだろう。

携帯を取り出すと電話をかける3コール後俺は相手が出たのを察知した瞬間

 

「アリアが拐われた」

 

「いきなりだね」

 

アリアの護衛を依頼してきた男。

何者か知らないが相当な人物だと俺は見ている。

千鶴に頼んでもよかったが時間が惜しい。

 

「ああ、単刀直入に聞く。アリアはどこだ?」

 

「ほぅ」

 

依頼主は面白そうに息をはいた。

 

「なぜ、僕が知ってると推理を?」

 

「推理じゃないカケだ。あんたはアリアの護衛を依頼するような人物だ。衛星やあるいは発信器なんかでアリアの位置を把握してるんじゃないか?」

 

「知ってると言ったら?」

 

「場所を教えてくれ。アリアが殺されてしまう前に」

 

焦ったような声で言う。

 

「ふむ……確かに僕はアリアが拐われた場所を知っているが君はローズマリーに勝つことはできないんじゃないのかな?」

 

「勝てないかもな。でも、関係ない。アリアだけは救出する」

 

「決意は堅いようだね。いいだろう。アリアは君の家の近くの旧椎名本邸だ」

 

「ありがとう……」

 

名前を呼びたかったが俺は相手の名前を知らない。

だから、礼だけ言って電話を切る。

半分はかけだったが一体、何者なんだろうな依頼主は……

いや、それより今は後1つ切札を……

そこに向かう途中

 

「優」

 

庭の曲がり角からキンジ、理子、レキ、ハイマキが現れた。

ハイマキは甲冑のような金属の鎧を着けている。

 

「お前ら……」

 

「行くんだろ?アリアを助けに」

 

キンジの声の感じが違う?こいつはヒステリアスモードか?

後に知ったことだがこれはヒステリアスモードベルセ、女を奪われた時になる攻撃的なヒステリアスモードなんだそうだ。

 

「いいの?」

 

来るなとは言わない。

一人で救出は不可能に近い。

仲間がいる。

 

「水臭いぞユーユー、理子達友達じゃん」

 

「……私は優さんと行きます」

 

「ぐるおん」

 

仕方ないやつだと言うようにハイマキが吠える。

 

 

「ありがとうみんな」

 

「さっさとアリアを助けにいこうぜ優」

 

「いや、キンジその前に取りにいかないと行けないものがある」

 

「取りにいくもの?」

 

理子が可愛らしく小首を傾げた。

俺は頷くと

 

「紫電、ステルス殺しのあの刀がいる」

 

俺の刀は破壊されてしまったからな

 

「話にあった例の刀か……確かに、ローズマリーに有効だな」

 

「どこにあるのユーユー?」

 

「宝物庫だ。時間がない行くぞ」

 

「はい」

 

と、レキ

 

「あ、待ってよユーユー」

 

早足で目的の建物の前にくると入口に人影があった。

やはり、警備がいるのは仕方ないか……最悪、倒してでも……

 

「遅かったなクズ」

 

「鏡夜……」

 

鏡夜は壁から背中を離すと

 

「お探しのものはこれだろ?」

 

「それは……」

 

鏡夜の手に会ったのは紫電だった。

見間違えるはずもない。

父親と姉さん、秋葉の母親を殺した刀

 

「それが今いる。貸してくれ鏡夜」

 

左手を前に出して言う鏡夜は目を閉じて馬鹿にしたように

 

「女を奪われて泥棒の真似事か?本当に貴様はクズだな」

 

 

「おい、お前!」

 

理子が殺気を放ちながら怒りの視線を向ける。

ハイマキは唸りだし、キンジは黙って鏡夜を見ている。

レキは変わらないが無表情で鏡夜を見ている

 

 

「クズでいいさ」

 

「何?」

 

鏡夜が目を開ける。

「だから、その紫電を貸してくれ。鏡夜は抜けないんだろ?」

 

「くっ……」

 

鏡夜は舌打ちした。

紫電にはとある鬼道術がかかっているらしい。

資格はないものには抜くことができない術。

これは震電にもかかってたらしい。

俺は抜けて、鏡夜は抜けなかった。

プライドの高い鏡夜にはさぞ屈辱だっただろう。

 

「必ず返す。だから、今夜だけ貸してくれ鏡夜!」

 

「そうやって……貴様はまた、俺を馬鹿にするのか?」

 

「……何言って」

 

「欲しいなら力ずくで奪え!明日を待つまでもない後継者選び、ここで決めてやる」

 

「時間がないんだ鏡夜!明日必ず戦う。だから……」

 

「抜け、優希」

 

そう言って鏡夜は紫電を腰につけ、違う刀を抜いた。

鏡夜……いい加減にしろよ

 

「どうする優?みんなでかかるか?」

 

すでに、みんな臨戦態勢だ。

だが……

 

「必要ない」

 

俺は戦闘狂モードよりも冷たい視線で鏡夜を睨む

 

「10秒で終わる」

 

無理だと全員が思っただろう。

俺は鏡夜の前に立つと調達した刀を抜いた。

 

「合図はいらないな?」

 

「ああ」

 

言いながら、俺は1つのボタンを数回押す。

 

ドンドンとワイヤー発射装置が地面に落ちる。

 

「き、キンジあの装置」

 

「ああ、かなり重いな」

 

理子とキンジが絶句しているのが分かる。

そう、俺はいつもあえて重いワイヤー装置を着けている。

6個以上で数6キロの重み

 

「鏡夜、零式が使えないって思っただろ?」

 

濃密な殺気が鏡夜にぶつけられていく。

恐らく、鏡夜の目には俺が殺気でぼやけて見えてるはずだ。

 

「飛龍零式『陽炎』」

 

「え?」

 

理子が呆然とした声を出した。

優希の姿がぼやけて消えた瞬間、鏡夜が倒れたのだ。

その背後に優希は現れる。

紫電を手にしながら悲しそうに弟を見る。

鏡夜は思っていたんだろう。

兄を超えた絶対的な自信。

それを自分は圧倒的な暴力でねじ伏せたのだ。

重いワイヤーがあっては勝てない。

鏡夜……お前は強いよ……少なくてもブラドやシンやジャンヌには俺はこの切り札を使わなかった。それだけでお前は強いんだ。

 

「……」

 

かける言葉が見つからず俺は弟に背を向けて歩き出した。

アリアを助けるために



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第128弾 乱戦

ちっ……遅かれ早かれそうなるとは思ってたが……

俺は武装した仲居達や近衛達を見てため息をついた。

総勢50人はいるだろう。

鏡夜との戦いで時間をかけたつもりはなかったがお見通しだったか……

 

「おい、優」

 

キンジの言葉を無視して前に出てきた近衛の日向抜刀してない刀を左手にしながら警告してくる。

 

「優希様、あなたがしていることは反逆です。わかってますか?」

 

手に持つ紫電のことを言ってるんだろう。

本来こいつは後継ぎ以外の人間が持ってはいけない。

なので、今は誰のものでもないのだ。

 

「ローズマリーと戦うにはこいつがいる。どけ」

 

「っ!」

 

日向を含めた近衛や仲居達が怯む。

それだけ怒りを殺気に込めたのだ。

 

「……あなた達も分かってますか?優希様に手を貸すというならただではすみませんよ?」

 

「俺達は武偵だ。仲間を拐われたら助けに行くのは当然だろ?」

 

キンジが言う。

だが、日向はため息をついて

 

「武偵3倍則で最悪懲役になりますよ?」

 

逆らったのが一般の組織なら罪を消すことはできる。

俺にはそのコネもあるからな。

だが、逆らうのが椎名の家だというのは相手が悪すぎる。

今回ばかりは、公安0も俺には味方してくれないだろう

 

「その時はその時。みんなでイ・ウー辺りに行くよ。理子そういうとこ詳しいんだ」

 

確かに、イ・ウーなら椎名の家も簡単には手は出せまい。

だけどそれはそれでやだなぁ……

 

「あなたもですかレキ様?」

 

日向はみんな、従う意思を見せないので黙って日向を見ているレキに聞いた。

レキはドラグノフ狙撃銃を日向に向けながら

 

「私は優さんについていきます。あなたが優さんの敵なら私の銃弾があなたを射抜く」

 

「交渉……決裂ですね」

 

日向は再びため息をつくと右手で刀を掴んだ。

それに合わせ、周囲も各々の武器を構える。

ちっ、ローズマリーの前にハードすぎる戦闘だな……

 

「みんな、一点突破で抜けるぞ」

 

山に入ればこちらのものだ。

 

「殺してはいけません。捕らえなさい」

 

両者が動こうと筋肉にわずかに力を込めた瞬間だった。

 

「待って!みんな待って!」

 

着物は走りにくいのに息を切らせながら咲夜が俺達の間に入り込んだ。

全員が動くのをやめる。

 

「咲夜」

 

「咲夜様」

 

日向と俺が突然現れた咲夜の名前を呼ぶ。

 

「はぁはぁ、お、お母さんからの……当主代理からの伝言です。行かしてあげろと」

 

「え?」

 

「だ、だから優兄達を行かせていいそうです。紫電も一時的に貸すと」

 

「私はそんな命名を受けていません」

 

日向が探るように咲夜を見る。

 

「椎名の直系として誓います!これは当主代理の言葉です。優兄達を行かせてあげてください」

 

あの人が……いや、この状況であの人が行かせてくれる訳がない。

咲夜……お前

 

「申し訳ありませんが咲夜様」

 

日向が咲夜を睨み付ける。

 

「あなたは優希様になついておられます。素直に信用はできません」

 

「当主代理としての母の言葉ででもですか?」

 

「はい、当主様は言われました。必ず生かして捕らえなさいと。残念ながら、命令変更は本人の口からじゃないと私は信じません」

 

「……」

 

必死の嘘だったんだろう。

咲夜は本来、嘘なんてつく子じゃないんだ。

それを俺のために……

 

「咲夜、もういい。」

 

「優兄ぃ……」

 

泣きそうになっている妹に頷いてから

 

「下がってろ後は……おい!」

 

最後は日向に向かい叫んでいた。

視界に飛び込んできたのは塀を飛び越えてきた木偶人形だったのだ。

阿修羅タイプが20体

 

「敵襲!」

 

誰かが叫んだ瞬間、阿修羅タイプの木偶が仲居を斬り倒した。

悲鳴もあげずに切られた仲居が崩れ落ちる。

 

「くっ!」

 

完全に背後からの奇襲だ。

日向は舌打ちして俺と阿修羅タイプを見ながら阿修羅タイプに向かい走り出した。

阿修羅タイプはSランクに匹敵する力をもつ。それが20体、仲居達は銃を持っているが所詮、戦闘は補助が役目なのである。

だが、これは絶好の好機である。

 

「みんなこっちだ!」

 

「きゃ!」

 

乱戦になった広場から逆に走る。

咲夜をお姫様だっこしてな

 

「あっちはいいのか優!」

 

理子が走りながら聞いてくる。

一目見て、劣勢だが立て直すのは難しくないだろう。

だが、走りながら屋敷のあちこちで銃声や打ち合う音が聞こえてくる。

あの木偶人形を使うのがローズマリーの仲間なら間違いなく手引きだ。

こちらにこいと言うな。

 

「大丈夫だついてこいみんな」

 

その時、携帯が鳴った。

無視するか悩んでから

 

「キンジ!落としたら殺す!」

 

「きゃ!」

 

小さく悲鳴をあげながら咲夜はキンジの腕にお姫様だっこされた。

 

「大丈夫だ優。女性は優しくエスコートするさ」

 

ヒステリアスモードだもんな……

それより

 

「……」

 

画面を見るとアリアと表示されている。

まず、間違いないだろうな……

通話ボタンを押し込んでから耳に当てる。

 

「フフフ、繋がりましたの」

 

「貴様……」

 

一番不愉快な声に俺は携帯を握りしめる。

 

「アリアは無事なんだろうな?」

 

「いきなり、違う女性の話題は私焼いちゃいますの」

 

「お前のことなんかどうでもいいんだよ!アリアは無事なんだろうな?」

 

「殺しましたの」

 

「……え?」

 

頭の中が真っ白になる。

殺された?アリアが……

 

「フフ、嘘ですの」

 

「貴様……」

 

嘘と聞いてほっとした。

 

「でも、無事かは優希次第ですの」

 

「回りくどいことを、今からお前を逮捕しに行ってやるから待ってろ」

 

「まあ」

 

ローズマリーは喜んだらしい

 

「お待ちしてますの。後、先程アリアの無事を確認しましたので教えますの。アリアは後、3時間で……」

 

衝撃の言葉を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヴァンパイアになりますの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第129弾 タイムリミットまで3時間

「フフフ」

 

ローズマリーは電話を切るとクスクスと笑った。

 

「来ますかね椎名の後継は?」

 

言ったのは蛇のような顔をした細身の男だ。

短い髪は黒

彼は、片手に日本酒を手にしている。

ローズマリーは不快そうにそれを見ると

 

「荒城、やめてもらえますの?私お酒の臭いは嫌いなんですの」

 

「こりゃ、失礼。まあ、決戦前なんで見逃してくださいや」

そう言いながら荒城が見た先には十字架に縛られたアリアの姿があった。

服はローズマリーが好むゴシックロリータの黒い服に着替えさせられ首には機械的な首輪がつけられていた。

 

「緋弾のアリア、期待外れもいいとこだな」

 

「彼女はまだ、覚醒してませんの」

 

「へえ」

 

荒城 源也はそう言うと日本酒を口に運んだ。

酔った様子はない。

「でどうすんのさ。あたしの人形達も長くは持たないよ」

 

ビーフジャーキをかみ砕きながら金髪の女が言った。

魔女連隊に名を連ねるドリス。

ローズマリーは魔女連隊のことを好ましい相手と考えていたが別に同盟を組んでる訳ではない。

イ・ウーの存在もある以上、全面対決はできない現状もあり、ローズマリーは優希、魔女連隊は椎名の戦力調査及び、公安0の能力調査が目的にあった。

荒城源也は傭兵である。

裏の世界では有名で大金さえ払えばどんな悪にも手を貸す。

今回の雇い主はローズマリーだった。

 

「3時間持てばそれで構いませんの」

 

「んじゃ、自立モードで適当に暴れさすかな。ローズマリー、約束忘れんじゃないよ」

 

「分かってますの」

ローズマリーはそう言いながら気絶したアリアに振り替えると

その頬に右手を置いた。

 

「フフフ、優希……もうすぐ私の願いが叶いますの」

 

「願いって何よ?」

 

ローズマリーはきょとんとして今、口を開いたアリアを見た。

 

「目がさめたんですのね」

 

「あたしをどうするつもりよ?」

 

アリアはもがくが拘束は外れない。

 

「餌になってもらいますの」

 

「餌ですって?」

 

ぎろりと力のこもったら視線をローズマリーに叩きつけながらアリアが言う。

 

「椎名優希を呼ぶ餌って訳だ嬢ちゃん」

 

荒城が言うとドリスが笑った。

 

「ああ、怖い怖い……ヤンデレっやつだね」

 

「優をどうするつもりよ!」

 

「騎士様になってもらうんですの」

 

ローズマリーはにっこりと顔を赤くして両手を頬に当てて目を閉じた。

 

「騎士様?」

 

意味が分からない単語にアリアが首を傾げ、そこで初めて、アリアは首に巻かれた機器に気付いた。

 

「っ、何よこれ……」

 

「特注の首輪ですの。優希の心を奪おうとする犬には丁度いいですわね」

 

「簡単に言うとねぇ、首輪には注射が仕込まれてい3時間後にプスってわけよ」

 

ケタケタ笑いながらドリスが言った。

 

「な、何の注射よ」

 

得たいの知れない注射があると聞きアリアの顔色が変わった。

ローズマリーは少しだけ怯えたアリアに快感を覚えながら

 

「優希にはヴァンパイアになる薬と言いましたが青酸カリですの」

 

天使のような微笑みを浮かべてローズマリーは残虐に言い放つ

 

「せ、青酸カリ……」

 

日本人にとっては自殺などでよくニュースで取り上げられ有名な毒だ。

体内に入ればほぼ確実に死ぬ。

 

「あ、あたしはこんな所で死ねないの!離しなさいよ!」

 

時間にして10秒もなくアリアが死ぬ状況。

怯えたアリアに更に快感を覚えローズマリーはタイマーをアリアの前の机に置いた。

残り時間2時間50分

 

「さあ、アリア私の目を見てほしいんですの」

 

「い、いや!」

 

アリアが目をきつく閉じるとドリスが舌打ちして無理矢理目をアリアの目を開ける。

アリアは暴れるが縛られていてどうにもならなかった。

ローズマリーは視線をアリアに合わせてゆっくりと言葉を紡ぐ

 

「さあ……アリア私の命令を聞きなさい」

 

催眠をかけられるとアリアは直感したが今のアリアには何もできなかった。

 

「助けてキンジ、お祖父様……優」

 

催眠で意識が途切れていくのを感じながらアリアは涙を地面に落とした。

 

 

荒城はその光景を見ながら

 

「おお、怖い……怖い……ヴァンパイアの催眠ってのは怖いねぇ。ん?」

 

荒城が顔をあげるとニヤリと笑みを作った。

 

「来たな……」

 

ドン!

爆発するような音と共に扉が吹っ飛ぶ

飛び込んできたのは椎名の近衛だった。

 

「はあああ!」

 

飛び込んでくるや近衛は手に氷の槍を作ると荒城に投げつけた。

 

「ちょいさぁ!」

 

荒城はそれを強化した拳で真っ正面から打ち砕いた。

目を見開いた近衛は更に攻撃を続けようとするが荒城が目にも止まらぬ速さで肉薄する。

 

「くっ!」

 

荒城の周りの温度が下がる。

何かの前兆だろう。

 

「遅い遅い!」

 

ドンと爆発するような音と共に近衛に10発の拳が叩き込まれ地面に叩きつけられて動かなくなった。

 

「あらら?もう終わりかよ……後続も全滅したみたいだし椎名の近衛ってのもたいしたことねえなぁ」

 

「終わりましたの」

 

声に荒城が振り向くとローズマリーと再び気絶したアリアの姿が見えた。

 

「準備は万端とさて……」

 

荒城は外から聞こえてきたヘリの音ににやりとして手をパンと打つ

 

「お姫様を助けられるかな?ま、助けてもなぁ……」

 

「荒城、ドリス、示し会わせた通りに」

 

「「はいよ」」

 

ドリスと荒城はそう言うと所定の場所に向かうのだった。

優希達と戦うために

 

「フフフ」

 

ローズマリーは微笑みながらアリアの頬を撫でた。

 

「後少しですの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア死亡まで後2時間29分57秒



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

130弾 レキvs荒城源也 プロの戦い

「作戦を説明するぞ」

 

ローター音を耳にしながら俺はみんなを見る。

 

キンジ、レキ、理子そして、ヘリを操縦しているのは秋葉だ。

彼女は怪我をしていたが格納庫で待っていたのである。

 

「第1目標はアリアの奪還。第2にローズマリー及び協力者の逮捕だ」

 

「勝てるのか優?」

 

ヒステリアスモードで目が鋭いキンジが言う。

 

「全員倒せばいいだけだ」

 

「おまえ……」

 

少し、気を張りすぎてるのかもしれないな……鏡夜を倒して紫電を奪い、後先考えてないからな……

 

「敵は最低で3人、ローズマリーに仮面の男、そして、木偶人形使い」

 

だが、木偶人形も人数にいれるべきだろう。

木偶人形の数もわからないのに救出作戦をたった5人でやるんだ。

姉さんなら一人でも制圧出来たんだろうが俺達にはできない。

 

 

「秋葉は咲夜を守ってくれ」

 

俺は副操縦席に座る妹を見ながら言った。

あの場所に残すことはできなかった。

乱戦状態の場所に戦闘力のない咲夜を残すことはできなかったのだ。

 

「分かりました」

 

秋葉が参戦できないのはかなり痛い状況だが贅沢は言えない。

 

「優兄……」

 

心配そうに咲夜が振り返る。

俺は口元を緩めながら妹の頭を撫でた。

 

「心配すんなよ咲夜、姉さんほどじゃないが俺は強いしな。アリアを助けて無理そうなら逃げるさ」

 

援軍の当てがない訳じゃない。

3時間には間に合わないかも知れないが近衛の主戦力が戻ってくれば一気に形勢は逆転する。

 

「大丈夫だよさっちゃん理子達こう見えても結構強いんだよ」

 

咲夜を安心させるためか理子がニコニコしながら言う。

こいつの明るさはこういう時は救われるな

 

「優さんは私が守ります」

 

そう言ったのはレキだ。

 

「おい、レキ別に俺は守られなくても……」

 

「……守ります」

 

何か強い意思を感じる気がするがレキがねぇ……

っていて!

見るとハイマキが俺の腕を噛んでいた。

 

「ぐるおん」

 

調子に乗るなと言われた気がするぞ……

 

「おお、レキュがユーユーに愛の告白だぁ!」

 

ええ!

 

「そ、そうなんですかレキさん?」

 

お、おい咲夜!

 

「?」

 

レキが首をかしげる。

 

「いて!」

 

ガルルとハイマキが今度は足を噛んできやがった。

なんのつもりだ貴様!

 

「ハイマキやめなさい」

 

「ぐるおん」

 

ハイマキはチッと舌打ちしたように離れる。

 

なんなんだよまったく……

 

「優君見えてきました」

 

 

窓から外を見ると椎名の旧邸が見えてくる。

雑談してられねえな

 

「最終確認だ。ローズマリーの電話によれば奴等がいるのは地下4階だ。入口は俺が知ってる」

 

そう、ローズマリーがいるのはかつて、近衛達が戦闘訓練をしていた地下だ。ジャンクションのように様々な目的にも使われていた。

あそこだけは地下だけに無傷で残ったんだ。

多分、秋葉によれば何も残ってないはずだが……

 

 

「距離100!」

 

秋葉の言葉に俺達はワイヤーをヘリに引っ掻ける。

 

「みんな死ぬんじゃないぞ!」

 

「0!」

 

バンとヘリのドアをあげるとホバリングしているヘリから飛び降りる。

ワイヤーで一気に地上の庭に降り立つとヘリとのワイヤーを切り離す。

 

ギチギチ

木を擦り合わせる音と共に阿修羅タイプが飛び出してくる。

「キンジ!」

 

俺は2番目に降り立ったキンジと背中を合わせると両側から突っ込んできた阿修羅タイプに発砲する。阿修羅タイプは野太刀でそれを切り払う

 

「私は……一発の銃弾」

 

静かなレキの声とドラグノフ狙撃銃の発砲音

タアアアン

阿修羅タイプの頭のコアが撃ち抜かれて沈黙する。

2体目はキンジに切りかかろうとするがヒステリアスモードのキンジは野太刀を見切るとコアにべレッタを押し当てた。

すかさずに発砲、コアが砕け散る。

 

「優!左だ!」

 

キンジの言葉に右を見ると東京で戦った木偶人形が20体現れるところだった。

ガバメントを二丁抜こうとするが

 

「みんな伏せろ!」

 

最後に飛び降りた男言葉の理子の声に俺達は疑わずに伏せる。

 

「クフフ、爆弾パーティーにようこそ♪」

 

彼女は妖艶に微笑むとポシェットからガラスの瓶を集団に投げつけると連鎖的に爆発が起きた。

吹きとぶ木偶人形達。

えげつねえことを……人間相手なら絶対に使えないぞ武偵はな

一体が爆発を逃れたのか突っ込んでくる。

 

「ぐるおん!」

 

迎撃に出たのはハイマキだ。

振りかぶる木偶人形の拳をかわして鋼鉄の鎧の頭で木偶人形をぶっ飛ばし、胸のコアを噛みちぎった。

おお、やるなおまえ

 

第一陣はこれで片付けたか……

 

「みんなこっちだ!」

 

地下への入口に俺を戦闘に走る。

場所はこの庭のはしにある。

 

階段が見えてくると中から再び阿修羅タイプが一体現れる。邪魔なんだよ!

 

「飛龍零式陽炎!」

 

ズンと残像を残して阿修羅タイプを一撃で切り捨てる。

 

「優!後ろ!」

 

ちっ!ぞろぞろと……

屋敷の中からは木偶人形達、阿修羅タイプや見たことないタイプの木偶人形がわらわらと現れる。

このまま階段を降りたら挟撃されるか……

だが、時間が……

 

その時、暴風が木偶人形達を吹き飛ばした。

 

「秋葉!」

 

見ると風に乗って秋葉がヘリから降りてくるところだった。

咲夜をかかえている。

 

「ここは私が食い止めます」

 

50体以上の木偶人形を前に秋葉は言う。

 

「咲夜はどうする!」

 

「こうします」

 

ごっと咲夜の回りに風がまき起こる

 

「風神結界。対艦ミサイルの直撃でも破壊はできません」

 

秋葉がそう言うなら信じるか……

 

「分かった。秋葉、死ぬなよ」

 

階段に飛び込む。

木偶人形はいない。

一気に階段をかけおり地下一階に降り立つ。

そこは武偵高の体育館ぐらいの広間だった。

この広間を抜けないと次の階段には行けない。

侵入者の侵攻を遅らせるための作りだが歯がゆい。

木偶人形の大軍を想像したが人影は1つだった。

 

「おお!きたきた」

 

例の仮面の男だった。

手をポケットにいれて階段の前に立ってる。

一撃で落とす!

 

「お?」

 

走りながら男に濃密な殺気を叩きつける。

姿は陽炎のように……

 

「飛龍零式!陽炎!」

 

すれ違い様に切り捨てるが仮面の男は

 

「おわ!危ねえ!」

 

避けやがった。

ちっ!

後退して紫電を構える。

時間がねえってのに……

 

「今のはなかなかよかったな椎名の後継。だが、焦りすぎで技が完成してねぇな」

 

この男……

 

「なら試してみるか?」

 

刀を構えながら男と対峙する。

 

「へへへへへ、いいのかな?時間は?」

 

くそ……ん?

 

俺と仮面の男の間に一人立つ。

 

「レキ?」

 

俺が言うとレキは振り向いて

 

「みんなさん先にいって下さい。私が戦います」

 

「無理だ!そいつは接近戦のエキスパートだ!狙撃主のお前じゃ勝てねえよ」

 

「ぐるおん」

 

俺を忘れるなとハイマキがレキの横に立つ

 

「大丈夫です」

 

レキは俺達に振り替えると頷いた。

確かに……効果的なのは分かる……だが……

 

「優さん……私は負けません。はやくアリアさんを」

 

アリア……その言葉に俺は頷いた。

 

「キンジ、理子行くぞ!」

 

「レキ、死ぬな!」

 

「先に行ってるよ」

 

仮面の男の横をすり抜けるとき攻撃を警戒したが仮面の男はそのまま、レキの方を見て動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 荒城

 

 

「嬢ちゃん狙撃主だろ?泣かせるねぇ好きな男の子のために殿を引き受けるなんてよ」

 

「……」

 

人差し指を立てて俺は言う

 

「1発だ。この距離で嬢ちゃんが撃てるのはな。それで倒せないなら俺の拳が嬢ちゃんを砕く」

 

「私は一発の銃弾……銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない……ただ、目的に向かって飛ぶだけ……

 

レキは問答には答えずにドラグノフを荒城に構え、ハイマキが戦闘体勢に入る。

ハハハハ、ローズマリーの嬢ちゃんには1人足止めしろと言われてるからな。

できりゃ椎名の後継と戦いたかったが……

 

タアアアン

 

レキの発砲と共に駆け出す。

弾丸は俺の横をすり抜けるかわしたぜ

 

「ぐるおん!」

 

ハイマキが突っ込むが交わす。

 

「おっとお!」

 

後は無防備な狙撃主だ

 

「もらったぜ嬢ちゃん!その綺麗な顔いただきだ!」

 

強化した拳でレキの顔を砕こうとした瞬間

 

チュン

 

「うお!」

 

気配を感じて交わす。

跳弾か!

だが、交わしたなぁレキが静かに目を閉じた。

諦めたか

 

ギイイイン

 

「!?」

 

背後からの音、更に跳弾射撃か!

振り替えるとハイマキが踏ん張って立っていた。

鎧に当てやがったのか!跳弾の跳弾だと!だが!

 

「おらあ!」

 

強化した左手で迎撃する。

弾と拳が当たった瞬間大爆発が起きた。武偵弾だと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Sideレキ

 

爆風に吹き飛ばされたレキはなんとか立ち上がりながら駆け寄ってきたハイマキを見る。

爆炎と煙が立ち込める。

近衛の訓練に使われていただけあって流石に部屋は丈夫だ。

「……」

 

レキは黙って煙の方を見ていたが静かにドラグノフを構え直した。

 

「く、ククク……ハハハハハハ!すげえな!鬼道術がなかったら終わってたぜ嬢ちゃん!いや、名前を聞いとこうか?」

 

「……」

 

レキは答えない。

 

「名乗るなら俺が先か」

 

荒城は言いながら仮面を外した。

 

「荒城源也。傭兵だよ」

 

不適に笑いながら荒城は言う。

 

「レキです」

 

簡潔に互いに名乗りあう。

 

「そうか、レキ。まずは詫びといてやるよ。お前は強い」

 

ゴッとレキの髪が揺れた。

ハイマキは低く唸り声をあげながら警戒する。

荒城源也が揺れて見える。

優の殺気によるあの技の特徴に似ている。

濃密な殺気

 

「ここからは本気だ。」

化け物クラス。

そういった相手をレキは知っている。

そして、目の当たりにしたこともある。

 

「あなたは強い」

 

荒城の言葉を返すようにレキは言う。

 

「うれしいねぇ」

 

「ですがあの人ほどじゃない」

 

「そりゃ誰だい?」

 

「水無月希」

 

その名を言うと男は頷いた。

 

「アメリカ軍を一人で壊滅させられる最強の化け物を引き合いに出されてもな……水無月希の知り合いかお前?」

 

「はい」

 

「そうかい。んじゃ、そろそろ始めますか殺しあいをな!」

 

「私は……一発の銃弾」

 

タアアアン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア死亡まで2時間02分22秒



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第131弾 理子vs無限の人形使いドリス

タンタンと長い階段を降りながら次第に遠ざかっていく戦闘音を聞く。

レキ……ハイマキお前らなら大丈夫だよな……

戻る時間はない。

こうしている間にもアリアの身には危険が迫っているのだ。

「邪魔だ!」

 

階段に躍り出てきた木偶人形をデザートイーグルで破壊して蹴飛ばして進む。

 

「見えた!」

 

理子が次の入口地下2階のドアを発見する。

俺達は扉の両側につくと一気にドアを開け放ち部屋に飛び込んだ。

やはり、体育館クラスの広間が広がっている。

そこには、また一人の影があった。

 

「はっ、一階一階で敵とかゲームみてえだな」

 

戦闘狂の笑みで黒いローブの相手に言う。

 

「確かにねぇ」

 

ガシュとビーフジャーキーを噛み砕きながらその女性は言いながらローブを外した。

金髪に蒼い瞳。

 

「魔女連隊、極東遠征隊ドリス。一人か二人残りな。相手してやるよ」

 

思わず俺達は顔を見合わせた。

 

「キンジ、理子先に行け。ここは俺が」

 

デザートイーグルを相手に向けながら言うと理子がクフフと笑いながら

 

「はいはーい!理子が立候補しちゃいまーす」

 

「俺も残ろう。女の子一人を危険な場所に残して置くのは気が重いからね」

 

「ううん、キー君もユーユーも行って、時間はないんでしょ?」

 

 

「理子……」

 

心苦しいな……

レキもそうだが悪いなこんな命がけの場所に巻き込んで

 

「勘違いするな優、キンジ」

 

理子は男言葉で続ける。

 

「お前達には仮がある。それにオルメスとの決着はこんな形でつけたくない。だから、行け」

 

「戻ったらなんか奢ってやるよ」

 

「ええ?じゃあ、理子ユーユー女装してほしいなぁ」

 

なんでだよ!

 

「断る!」

 

「あ、ユーユー嘘つきだぁ。なんでも言うこと聞いてくれるんじゃないの?」

 

言ってないが……

 

「二人ともそろそろいいか?」

 

キンジの言葉にはっとすると理子と目を合わせて互いに頷くと俺とキンジは駆け出した。

ドリスの横を通るがドリスはニタリと笑いながらそれを見過ごした。

死ぬなよ理子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 理子

 

「へー、あんたが残るとはねぇ」

 

ガシュとドリスがビーフジャーキを噛む

 

「そんなもの食べてるとおばさんくさいよ。お前」

 

ざわざわと髪が震え、ナイフを髪で2つ、ワルサーを両手に理子は構える。

 

「余計なお世話だ。イ・ウーから退学させられたんだろ理子?」

 

「どこかで会ったっけ?」

 

「カティ・グラッェがOBだからねぇ。話は聞いてんのさ」

 

「クフ、あんた達もしぶといねぇ。水無月希に組織を一度壊滅させられといてあっという間に立ち直るんだもん」

 

「あの女が潰したのはほんの一部だけだ。そう言えば、水無月希の弟は椎名の後継だったな。お前の男か?」

 

「さて?どうでしょうか?」

 

馬鹿にしたように理子はアドレナリンに狂ったような目でドリスを見る。

理子もまた、戦闘狂なのだ。

 

「その綺麗な顔。ズタズタにして椎名の後継の前に引きずり出してやろうかねぇ」

 

ニヤニヤしながらドリスは言った。

彼女の周囲の空間が歪んだ気がした。

木偶人形が部屋の隅から出てくる。

数は10体、阿修羅タイプはない。

 

「……」

 

理子は黙って襲いかかってきた木偶人形の迎撃を開始する。

接近前にワルサーでコアを破壊すると次々と木偶人形は崩れ落ちていく

 

「申し遅れたね。私は魔女連隊、無限の人形使ドリス」

 

「峰・理子・リュパン4世だ!」

 

互いに名乗り会い。

戦いが開始される。

(これは、時間かかるなぁ……ごめんねユーユー、キー君。援護には行けそうにないや)

 

次々と現れる木偶人形、さらに阿修羅タイプが1体出てくるのを見ながら理子は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア死亡まで1時間48分12秒



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第132弾 星伽の予言

「ここだな」

 

地下三階の扉の前。

俺とキンジは頷きながら中の様子を伺うが闇のため何も見えない。

踏み込むかとキンジが指信号で聞いてくる。

さて、ローズマリーがいるなら少しは……

俺は武偵弾の閃光弾をキンジに見せて互いに頷いた。

ガバメントに装填して部屋に突入する。

目を閉じて気配を感知。

殺意を持つものはいないな……

この、場所も上の階層と同じで広間になっているはず。

 

「優!」

 

「!?」

 

キンジの言葉にはっとすると広間に明かりが灯っていく。

蝋燭の光が広間を照らした。

 

「っ!アリア!」

 

広間の端にアリアが十字架に縛られている。

意識はないようで顔は下を向いていた。

その、横から阿修羅タイプが1体出てきて駆け出した。

 

「はっ!」

 

デザートイーグルを取り出すと発砲

阿修羅タイプは野太刀でそれを切り払うが俺は撃ちながら敵に肉薄する。

野太刀を買わしてコアの宝石に至近距離からデザートイーグルを叩きこんだ。

沈黙する阿修羅タイプ。

回りを見渡すが後続はない。

どういうことだ?

ローズマリーもあにいしあっけなさ過ぎやしないか?

だが、好都合だ。

武偵弾も後僅かしかないしヴァンパイア用の装備もない。

こんなことなら様子を伺わずさっさと突入すべきだった……

時計を見るとローズマリーがタイムリミットとした時間まで30分も時間がある。

 

「アリア!おい!」

 

キンジがアリアに駆け寄って拘束していた鎖を外そうとピンを取り出した。

ヒステリアスモードのキンジはあっという間にそれを成し遂げ、アリアをお姫様だっこした。

 

「まったく、心配かけさせてくれるねこのお姫様は」

 

歯の浮きそうなセリフだなおい

ちょっと嫉妬するぞ。

ん?嫉妬?

 

「脱出するぞ優!」

 

「ん?ああ」

 

キンジに言われて階段に向かい走る。

ゲームとかだとここでラスボスが現れるんだよな……

と最悪なことを考えてみるがローズマリーは現れない。

階段まで来てから

 

「キンジ、アリアの首輪だが……」

 

たぶん、それがローズマリーの言っていたタイムリミットの首輪だろう。

機械的な首輪でヒステリアスモードのキンジでも解除には時間がかかるため広間から離脱してきたのだ。

 

「今から解除するから警戒頼む優」

 

「了解」

 

大体の木偶人形は片付けたか……

長い螺旋階段の上からは戦闘音が聞こえてくる。

理子やレキ達が戦ってるんだろうな。

にしても……

 

俺は気絶しているアリアを見る。

ガバメントと小太刀が装備されたままなのだ。

普通人質の武装解除は基本の基本である。

余程実力に差がない限りは例外はないはずだ。

ローズマリーは確かに強い……

なんだ?奴は何をたくらんでる?

 

「う……」

 

その時、アリアが意識を取り戻したらしく目を開けた。

 

「おはよう子猫ちゃん」

 

ウインクしながらアリアに目を会わせやがった。

 

「キンジ……ここは……」

 

意識朦朧としてんのか?

ハハハ

 

「ローズマリーに囚われてたんだアリア。今、首輪外すから動かないですぐに外してあげるよ」

 

「ローズ……マリー」

 

小さくアリアは言う。

無理もないか……疲労困憊してるんだろうな

 

「ま、無事でよかったなアリア」

 

さてと……後はアリアの首輪を外したらレキと理子に助太刀して離脱すりゃ終りだ。

実家は気になるがぼちぼち援軍も到着するだろうしな……

あーあ、まだ、気は抜けねえが今回も……

 

「アリ……優!よ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な……に……

腹から刃が突き抜けている。

じわりと血が広がっていく。

 

「っ……」

 

振り替えるとそこには俺を小太刀で貫いている虚ろな目をしたアリアがいた。

 

「ユウキ……シンデ」

 

ふと、白雪の予言が頭によぎった。

 

『優君は剣に貫かれる』

 

なるほど……な……当たりだ……しら……ゆき……

がくりと俺は膝をついて思った



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第133弾 鉄のキス

「は……はぁはぁ」

スブリと肉体から異常な金属が抜ける。

膝をついたまま、反転させて立ちあがろうとするが激痛が走り体に力が入らない。

 

「……」

 

虚ろな目をしたアリアは技術も何もないまま、逆手に小太刀を持ち上げる。

や、やばい今度刺されたら取り返しが効かねえ!

腰から携帯用のワイヤーを取り出すと後方に投げ巻き戻した瞬間、アリアの小太刀が俺のいた場所に突き刺された。

 

「ぐ……」

 

握力が入らずに携帯用ワイヤーが手から離れ、階段を滑り落ちる。

血がどくどくと流れている。

まずい、止血しないと……

 

「やめろアリア!正気に戻れ!」

キンジがべレッタをアリアに向けて言うが発砲はできない。

「……」

 

アリアは虚ろな目をキンジに向けるとガバメントを容赦なく発砲

 

「くっ!」

 

キンジはその反射神経で弾を交わすが反撃はできない。

 

「……」

 

アリアはガバメントを左手に持ったまま小太刀を右手にカツンカツンと階段を降りてくる。

キンジとアリアのやり取りの間に、緊急用の救急道具で傷口を塞ぐ。

とは言え、圧迫して包帯で巻いただけではっきり言えば時間が僅かに伸びただけに過ぎないだろう。

刺される瞬間、なんとか致命的な場所にはもらわなかったが内蔵が無事でも血が止まらない。

武偵手帳から復活薬のラッツオを打ち込んでから立ち上がる。

状況からして戦えるのは後僅かだ。

はっ、ここは地下3階だ……死んだなこれは……

だけどこの子だけは死なせない!

 

紫電を抜くと前に構える。

そう言えば……

 

ザザザと霞がかかるような映像が頭によぎる。

昔、同じように死にかけたことあったな……確か、あの時は狙撃から女の子を……

 

「シンデ……ユウ」

 

階段を蹴ったアリアが特攻をかけてくる。

やはり、暗示で多少は技に切れがない。

悪いなアリア!

 

「飛龍一式!風凪!」

 

居合いに構えを代えてから抜きはなつとカマイタチがアリアを襲った。

傷つけないように打撃を与える。

黒いドレスを着たアリアが衝撃を受けてぶっとばされて壁に叩きつけられた。

意識はないも同然なんだ……多分……

ゆっくりとアリアが立ち上がるが正気に戻った様子はない。

やっぱり、駄目か……

く……

脂汗が出ているのが分かる。

薬で無理矢理戦ってるが風凪一発でこれかよ……

血はまだ、出ている。

人は血液が三分の一失われればショック状態で死ぬ。

止血はしたが止まらない以上いつか限界はくるだろう

 

どうする……どうすりゃいいんだよ……姉さん

 

「フフフ、いい調子ですのアリア」

 

いつからいたのか……声に振り向くとローズマリーが至近距離に立っていた。

 

「貴様!」

 

背後のアリアを警戒しながらローズマリーに向かい紫電を薙ぎ払う

 

「もうすぐ私の願いは叶いますの」

 

ローズマリーはばさりとコウモリのような翼を出すとふわりと俺の刀から逃れた。

 

「願いだと?」

 

「優希、私がアリアに駆けた暗示はあなたを殺すこと。暗示を解きたいならあなたが殺されるかあたながアリアを殺すしかありませんの」

 

俺にかけた暗示だと……

とっさに、暗示が解けた瞬間を思い出す。

あれは姉さんを刺し殺した瞬間に解けた。

死ぬほどショックな相手を刺せば暗示は溶けるということか?

俺を刺した時点で戻らないということは……

 

「優希」

 

ニコリとローズマリーは天使のような笑顔で微笑んだ。

 

「アリアにとって貴方は遠山キンジと並び大切な存在。昔の私の暗示ならあなたを刺した時点で溶けていましたの。なぜか分かりますか?」

 

「改良版ってわけか……」

 

「そうですの」

 

つまりアリアの暗示をこの場で解く方法はアリアに殺されることか……

初めから、俺はアリアを殺す選択肢はない。

昔、多くの人を殺した罰を受ける時がきたんじゃねえか……

だが……

微笑む、ローズマリーを見ていると違和感を感じる。

自意識過剰ではなくこいつは俺にこだわっていたはずだ。

なぜ、今になって殺しにかかる?

 

「さあ、殺しあってくださいな」

 

「!?」

 

「優!」

 

キンジが動こうとした、瞬間蒼い炎の壁がキンジと俺達のいた、空間に立ち上った。

 

「邪魔はいけませんの」

 

ギイイイン

と金属が激突する音、紫電とアリアの小太刀つばぜり合う。

「あ、アリア!正気に戻れ!」

 

殺されてアリアが正気に戻るならと考えたがここにはローズマリーがいる。

ただですむわけがない。

 

「後5分ですの♪」

 

フフフと笑いながらローズマリーは言う。

 

「アリアのにつけられた首輪には青酸カリが仕込まれてましてよ優希、後五分でプスリですの」

 

なっ!

 

「アリアが正気に戻れば外れましてよ優希」

 

「信用できるか!」

 

クラリと貧血を感じながら言うとローズマリーは笑う

 

「フフフ、ヴァンパイアの誇りにかけて誓いますの。教授にもそれが絶対条件と念を押されてますから」

 

教授という人物が誰かと疑問が出るが考える余裕はないそうこうしてるうちに1分だ。

後、4分

 

「アリア!アリア!」

 

紫電は放出系のステルスは無効に出来るが暗示はどうにもならない。

 

「かなえさんを!母さんを助けるだろ!正気に戻れ!アリア!」

 

右左と小太刀を繰り出してくるアリアの攻撃を紙一重でかわすがついに右手が小太刀で切りつけられる。

 

「ぐ……」

 

「……マ……マ?」

 

アリアの動きが僅かだが鈍った。

アリアにとって、誰よりも大切な人

 

「そうだ!かなえさんだ!イ・ウーから助けるだろ!」

 

「あ……う……」

 

だが、暗示が溶ける様子はない動きが鈍った程度だ。

 

「無駄ですの。優希後、1分ですの」

 

駄目だかなえさんの話だけでは間に合わない。

それに体ももう限界に近い

いや、待てよ……

死ぬほどのショック……

俺は頭にあることを思い出した。

え?やるの?ここで?

ええい!迷ってる暇はねえ!

零式陽炎を発動させ、動きの鈍ったアリアに肉薄するとアリア両手首を掴んで持ち上げると壁に叩きつける。

目が虚ろなアリアは脱出しようと僅かに動いた瞬間俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアの唇を自分の口で塞いだ。

つまるところ接吻、キスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ!」

 

後ろからローズマリーの驚愕した声が聞こえてくるが知るか!

ああ、触れてはいけないものに触れた感じ、かわいいと思っていた女の子との鉄の匂いがまじったキス。

血のファーストキスだよ。

深く、キスし虚ろだったアリアの目が見開かれ光が戻る。

 

「む、むー」

 

始めは、両手で押し返そうとしたアリアだがやがてくたりと手から力が抜けた。同時にカチリと音がして、首輪が左右に割れて地面に落ちた瞬間、首輪から針がカチっと現れ、液体を放出した。

ギリギリだったな

 

「「ぷは」」

 

アリアが正気に戻ったと判断すると唇を離した。

 

「ゆ、ゆゆゆ優!あ、あんたにゃ、にゃにしてくれるのよ!き、キンジに続いてあんたまで無理矢理!か、かざあにゃ……」

そうか……アリアのファーストキスはキンジか……ちょっと嫉妬するな……

 

「悪いなアリア緊急事態だからな」

 

死ぬほどのショック。

つまり、アリアにとっては縁が遥かに遠い色恋沙汰、つまりキスは死ぬほどのショックだ。

ローズマリーにとってはこんなことで暗示がとけるとは思わなかったろうな。

驚愕した声聞こえたし

 

「だ、だからって!」

 

「子供は出来ないぜ言っとくが」

 

にっと笑ってやる。

ああ、もう……

 

「かざあ……」

 

「使えアリア、炎向こうにキンジがいる紫電で炎を切り裂いて……」

 

そこまで言って視界がプツリと暗闇になった。

体の感覚がない……

 

「優!凄い怪我!優!?」

 

アリアの声が聞こえた気がした。

 

アリア、キンジ、レキ、理子、秋葉……母さん鏡夜、咲夜……みんな……ごめんな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第134弾 手を引く少女

Said アリア

 

「優!優!」

 

倒れた優はピクリとも動かなかった。

その回りには血が広がっていく。

すぐに病院に連れていかないと優は死ぬ。

動かしたらいけないのはわかるがここでは100%助からない。螺旋階段を絶望的に見上げながら紫電を手にとる。

 

「神崎・ホームズ・アリア」

 

ぞっとする声に振り向くとローズマリーは微笑んでいた。

 

「どこに行くんですの?」

 

「優を病院に連れていくのよ!あんただって優が死んだら困るんでしょ!」

 

ニコリとローズマリーは微笑んでいた。

 

「確かに、今の状態じゃ条件は揃いませんの。残念ですわ。アリアに刺された時に気絶してくれれば条件は揃いましたのに」

 

「あたしが……刺した?」

 

ローズマリーの言葉にあたしはぞっとする。

 

「はい、ぶすりといきましたの」

 

「そ、それはあんたが……」

 

暗示をかけたからと言いかけてやめる。

どうしようあたしのせいで……

 

「でも……」

 

「っ!?」

 

微笑みながら冷たい殺気があたしを包む。

 

「私、怒ってますの。教授には特定条件以外で殺すなと言われてますが私、あなたを今殺しますの」

 

そう言いながらローズマリーは大剣を手に取った。

 

「う……」

 

絶望的な状況でガバメントをローズマリーに向ける。

しかし、ローズマリーはにこりとして

 

「私はヴァンパイアですの。2丁拳銃で魔臓は破壊できませんわ」

 

ひたりとローズマリーが踏み出すゆっくりと

 

「くっ」

 

ダンダン

 

ローズマリーの足肩に命中するが弾が弾き出される。

魔臓の位置も分からない。

こうしてる間にも優は……

ぎゅっと優を抱く。

ローズマリーはにこりとしながら

 

「首を落として優希を治療して見せてあげますの楽しみですわ」

 

「あ……」

 

その時だった。

 

「アリア!優!」

 

振り替えると蒼い炎の壁を突き破るようにキンジが飛び出してきた。

あたしはキンジが一瞬で指信号したのを見逃さなかった。

 

「遠山キンジ」

 

ローズマリーが手をキンジに向ける。

同時にキンジが発砲した瞬間、辺りが閃光に包まれた。

 

「キンジ!」

 

あたしが光の中で叫ぶ。

 

「逃げるぞ!」

 

キンジはそう言うと優を抱えると階段を走り出した。

あたしもそれに続く。

 

「ま、待ちなさい」

 

背後からローズマリーの声が聞こえるが無論振り返らない。

消えてない炎の壁を紫電で薙ぎ払うと蒼い炎が消滅した。

ステルス殺しの刀。

他人が使っても効力はあるようだった。

 

「キンジ!」

 

「今は、逃げるぞ!上に行けば理子達と合流できる」

地上までは長い。

螺旋階段が永劫に続くように見えた。

 

バサリと言う音が聞こえぞっとして吹き抜けの部分を見るとローズマリーが翼を広げて迫っていた。

 

「逃がしませんの」

 

「ちっ!」

 

キンジがあたしにまばたき信号してからガバメントを取り出した。

優のガバメントだ。

 

ドン

 

「また、閃光弾ですの?」

 

ローズマリーが目を閉じた瞬間、すさまじい音が炸裂と同時に地下を揺らした。

武偵弾音響弾だ。

優は保険のためキンジに武偵弾を渡していたらしい。

ローズマリーはバランスを失ったのか近くの階段に墜落していった。

 

「今ので武偵弾は打ち止めだ走れアリア!」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

少し階段を登り後少しで地下二階というところでバサリと羽の音がした。

ローズマリーが前方の階段に降り立った。

 

「フフフ、鬼ごっこは終わりでしてよ?」

 

「く……」

 

キンジがあたしをかばいながら後退するが下は行き止まりの階段だ。

一か八か紫電でローズマリーに挑むか……だが、魔臓は……

 

「焼死体にしますの」

 

ローズマリーは言いながら右手をあたしに向ける。

手には蒼い火球が現れた。

階段に逃げ場はない。

 

 

「優希を背負ってる遠山キンジは後で焼きますの」

 

火球が放出される。

「アリア!」

 

キンジの悲鳴のような声が聞こえた。

 

(ママ……優……)

 

避けられない。

目を閉じて体が焼きつくされる感覚に耐えようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てられないな」

「え?」

 

キンジや優の声ではない。

その人影はスタっとあたしの前に降り立つと右手を前に出すと火球を受け止めた。

ジュウウウという音が聞こえるがそれは肉が焼ける音ではない。

何かで火球を止めているのだ。

 

「あなたが!なぜですの」

 

ローズマリーも驚いてるようだった。

フードとマフラーで顔をすっぽり隠したその人は

 

「私は監視役だよ。条件の整わないアリア殺害は許さないと教授に言われたろ?」

 

ジュウウ

火球は水蒸気となって霧散し、辺りに霧が発生する。

 

「ツインウォーターカッター」

 

「あう……」

 

ローズマリーの声が消えた。

霧のせいで何も見えない。

 

「ローズマリーは私が抑えておく。優希を病院に」

 

「あ、あの!あなたは?」

 

僅かに見える人影は振り返ったようだった。

 

「通りすがりの正義の味方さ」

 

そう言うと人影は螺旋階段の吹き抜けからおそらくは翼を切られたであろうローズマリーを追って飛び降りた。

今の人……どこかで……

 

「アリア、行くぞ!時間がない!」

 

「う、うん」

 

あたしは今はそれ以上考えないことにした。

地下二階の扉を開けた。

理子が戦っているはずのそこは……

 

 

 

 

 

 

 

 

それより少し前

 

「オラぁ!」

 

「ぎゃん!」

 

荒城源也の一撃がとうとう、ハイマキの体を捉えた。

ハイマキはぶっ飛ばされるがなんとか立ち上がる。

 

「粘るねぇ嬢ちゃん」

 

開けた空間での戦闘、ハイマキとレキの驚異的な狙撃があるからこそ荒城源也と戦えていたがいかせん場所が悪い。

すでに、レキもハイマキもボロボロの状態だった。

 

「……」

 

レキは黙って弾装を確認する。

ドラグノフに残されたのは後、一発だけだ。

 

最後の銃弾……

 

「ここが森林なら俺が負けてたろうな。だが、悪いが俺の勝ちだ」

 

荒城源也はそう言いながらぐっと腰を屈めた。

最後の攻撃にでるつもりだ。

 

「私は……一発の銃弾」

 

レキは荒城源也の動きを予想し、最後の銃弾を荒城源也に向ける。

 

「っと!」

 

突然、荒城源也の動きが止まる。

 

「あらあらウフフ」

 

「……」

 

レキが振り替えると和服に薙刀を持った女性が立っていた。

グルルとハイマキが警戒するがその女性はふわりと微笑んでいた。

 

「椎名近衛筆頭月詠、レキ様ここは私が」

 

「……」

 

椎名といった。

ということは彼女は味方だろう。

レキが下がると荒城源也が舌打ちした。

 

「もう、戻ってきやがったか……潮時だな」

 

「戦わないんですか?」

 

微笑みながら月詠が聞くと荒城源也はさらに舌打ちする。

 

「Rランクに喧嘩売るほど馬鹿じゃねえよ。それに報酬はもらったしな。リスクに会わねえ戦いはやらねえんだ。それともイ・ウーと戦うか?」

 

「私も無益な戦いはしたくありません。消えなさい」

 

「はいはいと、ありがとさん」

 

荒城源也はそう言いながら出口から出ていった。

あっけない幕切れだった。

 

「……」

 

レキは無言で歩き出す。

 

「どちらに?」

 

「優さん達を助けに」

 

「大丈夫です。今頃、あちらには……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月詠が言ったように地下二階は既に決着がつきつつあった。

 

「くっ……化け物」

 

ドリスが舌打ちする。

峰・理子も強敵だがこの相手はそれを凌駕している。

 

「もう終わり?」

 

とんとんと肩を日本刀で叩きながら沖田刹那は言った。

 

「公安0のRランク……理不尽な化け物」

 

「お前は俺達公安0に喧嘩を売ったんだ」

 

そう言いながら土方歳三はドリスを睨み付ける。

彼の後ろには理子の治療をしている公安の人間がいる。

 

「殺しゃしねえよ。てめえには魔女連隊の情報を吐いてもらう」

 

「くっ……」

 

ドリスの人形は全て破壊されてしまった。

刀だけで沖田一人に殲滅させられたのだ。

日本はRランクを2人も要している。

一人は椎名の家の月詠、そしつ、もう一人は公安0の沖田刹那昔は水無月希も加わり3人もRランクが日本にはいたのだ。

今、日本のRランクが一人現れた。

冗談じゃない

 

「土方さん!」

 

そんな時に、アリア達が地下2階に着いたのだ。

 

「アリア……っ!優はどうした!」

 

理子がアリア達に駆け寄ってキンジにおぶられ動かない優の様子に絶句する。

 

「直ぐに病院に連れていかないと手遅れになるわ!」

 

「これは……応急処置じゃ間に合わねぇな……行くぞ」

 

土方はそう言いながら携帯でヘリを呼ぶ。

 

「刹那、そいつは任せるぞ」

 

「はいはい、ちゃんと殺しときますよ」

 

沖田は優を見ながら言った。

「殺すな刹那!」

 

「はいはい」

 

沖田は鋭い視線をドリスに向けた。

 

「ま、腕の一本や日本いいよね」

 

「や、やめろ!降参する!」

 

沖田が本気だとドリスは悟り慌てて降参する。

だが……

 

「刹那、降参するなら……」

 

その時、ヒュっと音がし沖田の首があった部分を何かが抜けた。

沖田は交わしたが、その物体はドリスの心臓に深く突き刺さった。

 

「う……が……」

 

「何!」

 

全員がナイフが飛んで来た方を見ると誰かいる。

 

「クフ、フフフ、駄目だよドリス。魔女連隊が降参なんかしちゃ」

 

「あ……が……」

 

口から血を吐きながらドリスは手をその人物に向ける。

 

「てめえ魔女連隊の一員か?」

 

土方が刀を相手に向ける。

ひどく小柄な相手だった。

黒いローブで顔を多い、口元だけが露出している。

 

「公安0今回は私達の負け。クフフ楽しかった?」

 

「なめたこと言いやがる」

 

ローブはアリア達の方を見る。

 

「緋弾を持つもの……いずれまた……」

ぞっとする声だった。

ドオオオオン

デザートイーグルの発砲とともにローブの相手の頭が吹き飛んだ。

霞のように消えていきながら

 

「クフフフフフ、バイバイ」

 

全てが幻のように消えた。

土方は舌打ちしてからドリスを見たが心臓に突き刺さったナイフで助けるのを諦めた。

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

キンジ達と地下を脱出し、ヘリを待つ。地面に優希を寝かせて応急処置を始める。

 

「お前ら、病院につくまで優希の名前を呼んでやれ」

 

土方はそう言うと離れた。

 

「優!優!」

 

「優さん…」

 

「おい、優!死ぬな!」

 

「優!」

 

「優君…」

 

「優兄!」

 

みんなが必死に名前を呼ぶが血の気がない彼はピクリとも動かなかった。

バリバリと音が聞こえ、ヘリが降りてくる。

 

「一番近い病院まで10分か…」

 

土方は呟くと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分後、アリア達に医師が告げた言葉は残酷だった。

 

「手術はできません」

 

「な、なんでですか!早く手術しないと優が!」

 

アリアが泣きそうな顔で言うと医師は首を横に降った。

 

「彼は血を失いすぎてる。彼に適合する輸血用の血液が今、うちにはないんだ……東京から取り寄せるなら2時間はかかる。だが、彼はそこまで……」

 

「理子の……私の血を優に!」

 

理子が必死の表情で言うが医師は首を横に降る。

 

「君達の血液は多分、一致しない……彼の血液は……

なんだ」

 

聞いたこともない血液型だ。

おそらくは、数万に一人と言われるような特殊な血液型なのだろう。

皆が絶望的になるがアリアだけが顔を輝かせる。

 

「先生!私その血液型です!」

 

医師の目が丸く見開かれた。

 

「本当ですか」

 

「はい!」

 

「だが……」

 

医師は再び顔を曇らせた。

 

「患者はもう血液をかなり失ってる。あなたの体は失礼だが小さい……限界ギリギリまで輸血することになるが……」

 

「大丈夫です!早くしてください!」

 

「分かった」

 

時間がないのだろう。

看護士や医師がばたばたと動き出す。

手術室に運ばれ横に並べられた優を見ながらアリアは思う。

 

「優、あんたはあたしのチームメイトよ……死なせないわ……」

 

 

 

 

 

 

 

SiDe優希

 

「ここは……」

 

目が覚めるとそこは一面花畑だった。

先には川が見える。

 

「そうか……俺死んだのか……」

 

あの川は多分……

 

「覚悟はしてたんだがな……」

 

後悔はある……無念でもある。

ローズマリーと決着をつけられず丸投げしてしまった。

 

「姉さん……父さんもみんないるんだろうな……」

 

川に向かい歩き出す。

勝手に足が動いているようだった。

 

「確か川を渡ると戻れないんだよな……」

 

アリアは無事だったろうか?

ローズマリーから逃げ切れたのか……

まあ……もう俺には……

川に足を踏み入れようとした瞬間、誰かに後ろから手を捕まれた。

優しく、だが乱暴に俺は川から引きずり戻されていく。

振り替えるとちょっと怒った顔をした少女がいた。

俺は安堵しながらその少女の名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリア……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第135弾 緋刀

これでオリジナル章は終わりです


「……から……です」

 

「だと……しょ?」

 

なんだようるせえなぁ

うわ、まぶしい

 

「優先輩!」

 

「いっ!」

 

目を開けた瞬間、マリが飛び込んできた。

激痛で意識が一気に覚醒する。

喋るのに邪魔だから酸素を人工的に入れるマスクを外してから

 

「いだだ!マリ離れろ!」

 

「嫌です!本当に心配したんですよ……」

 

なんとか首だけを下に向けるとマリが泣きながらこちらを見ていた。

 

「マリ、駄目じゃないですかお兄さん死んじゃいますよ?」

 

ひょいとマリをつまみ上げるように引き剥がしたのは……

 

「アリスか、なんでお前がここに……てか、ここどこだ?」

 

「京都武偵病院ですよ~」

 

白衣のポケットに右手を突っ込み注射をくるくる回すアリス。

あ、危ねえ

 

「ちょっと学会で京都に来てたんですけどお兄さんが大怪我したってつかみましてお兄さんの主治医としては見過ごせないかなぁと」

 

アリス……お前は俺探知マシーンなのか?

 

「マリは何でいるんだ?」

 

今回はこなかったはずなのに……

 

「優先輩に置いていかれたのではっし………いえ、間違いました。アリスと一緒に学会に来たんです」

 

あらかさまな嘘だな……

アリスはにやにやしてやがる。

てか、発信器とか言いやがった後で服や持ち物調べとくか。

 

「アリス、マリみんなは?」

 

少し不安になる。

ローズマリーの前で気絶したんだ。

あの後どうなった?

 

「みんな無事ですよ。アリアさんは上のVIP病室で寝てますけど」

 

「なっ!怪我したのか?」

 

「いえいえ」

 

アリスは俺を指差しながら

 

「私が手術したんじゃないんですけどお兄さんの血は既に三分の一近く失われてました。ですけどお兄さんに一致する血液はこの病院にはなかったんです。そこで同じ血液のアリアさんの血液をお兄さんに移しました。結構限界近くまで血を絞ったので他の病院から血液が届くまでお兄さんとアリアさんは入院です」

 

まじか……輸血でアリアの血がねぇ……

なんとなく体をみてみるが血は見えないからな

 

「それでキンジ達はどうしたんだ?」

 

「遠山先輩達は東京で今回の報告してると思います。公安0の土方さんが……」

 

「土方さんが?てことは公安0が?」

 

「はい、詳しくは教えてもらってませんがこの病院にも公安の護衛を置いていくと言ってました」

 

マリの説明を聞きながら大体の流れを悟った。

ようは援軍が俺達を助けてくれたらしいな。

沖田刹那辺りが来てればなんとかなるだろうし

 

「ローズマリーはどうした?」

 

護衛と言うことはローズマリーか魔女連隊を取り逃がした可能性がある。

 

「ローズマリーは逃げたそうです。彼女のために護衛がいるみたいです」

 

まあ、今襲われたら確実に死ぬな……血がまだ、足りないのかぼーっとするし体もあちこちが痛い。

というか激痛が走るぞいてて……

にしてもみんないないのか……

咲夜辺りは近衛に家に戻されたか……

 

「あ、妹さんから伝言です。起きたら電話してだそうです」

 

ここ病院だから!体動かないよ!

 

「アリスかマリちょっと外出て電話してくれるか?」

 

「じゃあ私が」

 

といいながらアリスが俺に番号を聞いて出ていった。

ふぅ……なんかこれだけなのに疲れたな……

やはり、体力が落ちて血も足りないらしい。

ふと顔をあげると机の上に俺の装備一式と鞘に収まった紫電が置かれていた。

おいおい、後継者の象徴回収しなくていいのかよ……

まあ、実家はそれどころではないんだろうな……

 

「二人っきりですね」

 

ん?

椅子に座り何やらもしもじとしながら顔を赤くしたマリが俺を見てくる。

 

「あ、ああそうだな」

 

「ひどいじゃないですか優先輩。アミカの私を置いてくなんて」

 

「いやまあ……悪い……のかな?」

 

本来なら一人で帰る気だったんだが

 

「悪いです。本当に心配したんですよ」

 

「その点は悪かったな」

 

アミカの片割れが死んだら目覚め悪いだろうし。

あ、なんか眠くなってきたな……

体力戻ってないから……

 

「悪いマリ、ちょっと寝かせてくれ」

 

「はい!私は今日は病室に泊まっていきますから安心して眠ってください」

 

それはそれでなんか嫌な気がするが……やばいもう……

 

「……」

 

「優先輩寝たんですか?」

 

「……」

 

「寝ちゃった……フフフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

周りが暗い。

今は消灯時間か……

暗闇に夜行塗料の針が光っている。

0時か……

丁度、1日が終わったところらしかった。

 

「マリ?」

 

横を見るが椅子が置かれてるだけでマリもアリスもいなかった。

トイレか?

まあ……ん?

その瞬間、俺は長年感じることが多い殺気を感じた。

まさか……

その時、廊下の方からドサリと何かが倒れる音がした。

俺は自由の聞かない体で紫電とガバメントを手に取った。

 

「フフフ、他愛ありませんの」

 

 

ぞっとした。

ローズマリー……あいつが扉の向こうに……いる。

 

「くっ……」

 

ベッドから降りようと体を捻った瞬間、扉が音もなく開いた。

ゴシックロリータの黒い服……

 

「くっ!」

 

ローズマリーの姿を見たしゅんかん俺は躊躇なくガバメントを発砲した。

 

「ぐっ……」

 

握力が弱まってるのかガバメントが発砲の衝撃で手から滑り落ちる。

ガシャンと床に落ちてしまう。

 

「……優希」

 

すっとこちらの向かい歩いてくるローズマリーに俺は恐怖した。

今、こいつに俺は何の抵抗もできない。

圧倒的な弱者の立場公安0の護衛は恐らくやられたんだろう

 

「くっ」

 

紫電を抜こうとしたがローズマリーがすっと俺に近より両手で俺の手首を掴み俺をベッドに押し倒した。

ローズマリーの香水の匂いが鼻を突く

見上げる形で俺は暗闇に赤く光るローズマリーの瞳と目を合わせ、枕元は彼女の銀髪が染め、俺の首にも髪が当たる。

 

体が……動かない。

 

「無抵抗ですのね」

 

にこりとローズマリーは微笑むとゆっくりと顔を近づけて唇を俺の唇に押し付けた。

 

「む……ぐ」

 

とろけるような甘く乱暴なキスだった。

むさぼるようにローズマリーは激しくキスをすると顔を離した。

 

「フフフ、これで上書きですの」

 

「上書きだと?」

 

なんとか逃げようとするが力がまったく入らない。

 

「ひどいですわ優希、アリアにキスするなんて。私怒ってますのよ?」

 

「知るかよ!」

 

睨み付けながら言うとローズマリーは再び微笑む

 

「優希。あなたには絶望してもらいますの」

 

そう言いながらローズマリーは口にカプセルを含むと再びキスしてきた。

 

「う……ぐ……」

 

カプセルがローズマリー口から俺の口に移る。

吐き出そうとするがローズマリーは口を話さずに舌でカプセルを強引に押し込んだ。

 

「んぐ……」

 

飲み込んだのを確認したローズマリーは口を離すと俺を解放する。

 

「ぐ……何飲ませやがった……」

 

「ヴァンパイアになる薬ですの。一時間しか猶予がありませんので私アリアを殺しにいきますわ優希。ここにアリアの首を持ってきますのでお待ちになって」

 

「ま、待て!ヴァンパイアになる薬だと?アリアを殺すのと関係ないだろ!」

 

「ありますわ」

 

にこりとローズマリーは笑う

 

「ヴァンパイアになる手順は簡単ですのその薬を飲み。心の底から絶望して一度死ぬこと。優希あなたにはヴァンパイアになって私と永遠に……」

 

 

「ふざけてんじゃねえよ」

 

ベッドから転がり落ちて紫電を杖がわりに立ち上がる。

 

「アリアは……殺させない」

 

「でも止められませんの」

 

ローズマリーはそう言いながらゆっくりと廊下に出ていく。

 

「ぐっ……」

 

体がよろめき床に叩きつけられる。

ちくしょう……体が……動かねえ

カツンカツンと廊下をローズマリーが歩く音が聞こえる。

俺に絶望を与えるため。

そう、今俺は絶望している。

誰でもいい……誰かアリアを助けてくれ……キンジ、理子、レキ、マリ、土方さん、沖田……姉さん……

 

アリアを……アリアを助けてくれ……アリア……アリア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクンと心臓が跳ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけましてよアリア」

 

神崎・H・アリアと書かれた札を見てローズマリーは微笑む。

さあ、アリアの首を落として優希に見せて彼を殺そう。

そうすれば彼は自分と同じ寿命を得てくれる。

後は監禁して自分を好きになって貰えばいい。

だって、彼は私の……

 

「と、止まってください!」

 

ローズマリーは扉に手をかけてから声の方を見ると白衣を来たアリスが拳銃をローズマリーに向けていた。

 

「あら?人払いの鬼道術をかけてましたのに」

 

意外そうにローズマリーは言った。

 

「き、鬼道術ですか?」

 

本来アンビュラスである彼女は戦わない。

今だって震えていた。

 

「邪魔ですの」

 

ローズマリーが腕を振るったのとアリスが発砲したのはほぼ同時だった。

弾は外れ、熱風がアリアを吹き飛ばした。

 

「きゃああああ!」

 

悲鳴を上げて床に叩きつけられるアリス

ローズマリーはゴミを見るような視線でそれを見てから扉を開けた。

 

「あら?」

 

ローズマリーの目に飛び込んできたのはもぬけの殻のベッド

 

「?」

 

首を傾げて中に入る。

 

「やああ!」

 

はっとしてローズマリーが天井を見るとワイヤーで天井に張り付いていたアリアが小太刀で切りかかってきた。

狙いは両腕でだ。

重力を加えてアリアの小太刀はローズマリーの肩を深々と切り裂いたが浅い。

 

「フフフ、見つけましたのアリア」

 

「あ!」

 

ローズマリーはアリアの服を掴むと廊下に投げ飛ばした。

 

「う……」

 

壁に叩きつけられるアリア。

やはり、血が足りてないのか動きが悪い。

 

「私の接近を悟って逃げずに強襲したのは誉めてあげますの」

 

「あ、あんたしつこいのよ。ま、また優を……」

 

「いいえ、あたなを殺しますの。教授の許可はもらいましたわ」

 

「教授……?」

 

「あなたの人生はここでおしまい。サヨナラですのアリア」

 

ローズマリーは大剣を振りかぶと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を見ているものがいる。

16~18歳くらいの黒髪を肩まで伸ばした女性だ。

ビルの屋上で風を受けながら彼女は電話する。

 

「いいのかシャーロック?アリアが殺されてしまうぞ?」

 

「条件は全て揃えた。彼は目覚めてくれるさ。緋弾を守るものとしてね」

 

落ち着いた男性の言葉に少女は視線を戻す。

 

「さて、どうなるやら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がああああんとローズマリーの大剣が窓とコンクリートを破壊しアリアがいた場所を薙ぎ払った。

 

「うあ!」

 

アリアはごろごろと転がりながらガバメントをフルオート射撃で撃ち尽くすがローズマリーはゆっくりとアリアに向かって剣を振り上げる。

 

「っ!」

 

白銀のガバメントがローズマリーに向くがローズマリーはガバメントを蹴飛ばした。

 

「あ!」

 

短く悲鳴をあげて漆黒のガバメントをローズマリーに向けるが同じく蹴飛ばされる。

 

「フフフ、意識があるとめんどくさいですわ」

 

ローズマリーはアリスにしたように左手を薙ぎ払うと熱風がアリアを吹き飛ばした。

 

「きゃ!」

 

悲鳴をあげてアリアはなすすべなく床に沈んだ。

動く気配はない。

 

「フフフ」

 

首を落とそうとローズマリーが一歩踏み出した瞬間

 

轟音と共にローズマリーの手が千切れとんだ。

剣もドンと床に落ちる。

 

「また、介入ですの?」

 

ローズマリーはうっとおしそうに廊下を見て目を丸くした。

 

「……誰?いえ……優……希?」

 

ローズマリーが言うのも無理はなかった。

そこにいたのは先程の死にかけた少年ではない。

右手に紫電、左手にデザートイーグルを持つ少年の髪はアリアと同じピンク色に染まり、暗闇に浮かぶ目はカメリアの瞳をしていた。

まるで、アリアのような……

 

「……」

 

ローズマリーが目を丸くしているといきなり優希が動いた。

一瞬でローズマリーの前に移動する。

早いとローズマリーは思ったが拾った大剣で紫電を受け止めた。

ヴァンパイアのパワーは人間を凌駕する。

床に組伏せようと力を入れるが押されたのはローズマリーだった。

 

「なん……ですのこの力……」

 

まだ、条件は整っていない。

彼がヴァンパイアの力を使えるのは不可能なはずだ。

ならば、これは……

 

「……」

 

虚ろな目をした彼はローズマリーを蹴飛ばすと刀を鞘に戻す。

居合い風凪の構えだ。

 

「……風凪」

 

抜き放たれたカマイタチがローズマリーの腕を切り裂いた。

だが、ローズマリーはさらに驚愕した。

右足がカマイタチでさらに切り刻まれたのだ。

二重のカマイタチ……

だが、ローズマリーは焦らない。

これなら勝てる。

 

「優希」

 

いつもの余裕でローズマリーは言おうとした瞬間、異変に気付いた。

優希の紫電が緋色に輝いている。

あれはまずいとローズマリーは本能で悟り、窓から翼を広げ空に飛び出してた。

優希は刀を下段に構える

 

「……緋刀……」

 

空へ紫電を薙ぎ払った瞬間、猛烈な光が辺りを照らし、緋色の光はローズマリーを飲み込んだ。

 

「きゃあああああ!」

 

ローズマリー悲鳴が辺りに響き、光が収まった後には何も存在していなかった。

 

「……」

 

優希は虚ろな目でそれを見ていたがやがて、紫電の光は消え、髪と目の色も元の色に戻り、その場に崩れ落ちた。

 

ローズマリーが消えたことにより辺りが騒がしくなる。

病室から患者が、医師や看護士が悲鳴をあげながら駆け寄る。

アリスも上半身だけを起こしながら今、起こったことを理解出来ずにぼーぜんと見ていた。

彼女の前には跡形もなく消滅したえぐるような窓とそれを成した先輩の姿だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病室が騒がしくなっている。

彼女はビルの屋上から今、起こったことを電話で伝えた。

 

「もうひとつの緋弾……いや、緋刀とでも言うべきかな?」

「なんにせよ。会うのが楽しみだ優希」

そう言いながらかつて世界最強と呼ばれた女性はその場から消えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第136弾 戻ってきた日常と幽霊

「へへへへへへへ」

 

東京に戻って2日が過ぎた朝7時、俺は早朝トレーニングを終えてごまかすように笑った。

なぜなら……

 

「ゆ、優あんたって」

 

今まさに下着を身に付けようとしているアリアさんと風呂場の脱衣場で出くわしたんだからな。

 

「ま、待て!アリアあ!」

 

「風穴ぁ!」

 

「ぎゃああああああ!」

 

降り注ぐガバメントのフルオート射撃から命からがら逃げ出すのだった。

銃で撃たれてるのに日常だなぁと思う俺の頭はもう、末期なんだろうよ……

とまあ、この2日もいろいろあったんだよ。

死にかけの重症だったのに目が覚めるとぴんぴんしてたんだ。

医者も驚愕してたしアリスは覚えていないんですかと教えてくれた。

 

「緋刀ねぇ……」

 

武偵高の屋上で紫電を見ながら呟いた。

この紫電もそうだ。

流石に返さないとまずいと思い実家に電話したら

 

「今はあなたに預けます」

 

と紫電を預けられてしまった。

実家が襲撃を受けて後継者争いどころではなくなったらしい。

てはいえ、暫定的に鏡夜に決まったらしいが本人は俺に負けて納得できてないらしい。

まあ、そうだろうなぁ……

咲夜に関しては俺が実家によらずに東京に戻ったもんだから怒りのメールや電話をなだめるの苦労したぜ……

 

魔女連隊の方は公安0が片をつけたらしく東京や各地で起こった木偶人形事件は闇に葬られるらしく関係者には司法取引の紙が手渡された。

俺達も例外ではなく慣れたもんでさらさらと書いて送付した。

司法取引になれる武偵ってなんなんだよと思うがな……

まあ、とりあえず今回の護衛はやばすぎたがとにかく終了だ。

いやぁ、日常って素晴らしい

 

「優君ここにいたんですか」

 

うん、秋葉がいるわけないよな。

あいつは実家の人間なんだから

 

「理子さんが呼んでますよ?行きましょう」

 

幻じゃないよな……

 

「なんでお前がここにいるんだ秋葉!」

 

秋葉は首を傾げて

 

「私はここの生徒ですから」

 

まじかよ母さん!本気でこいつを送り込む気か!勘弁してくれ!明らかに監視役だろ!

 

「心配しなくても大丈夫ですよ優君」

 

無表情だが口数はレキより多い秋葉は

 

「あなたを見ることはしますが私はここでもう一度人生を考えてみなさいと月詠様に言われました」

 

人生って……おい、月詠

 

「まあ、閉鎖的だったからな椎名の家は」

 

秋葉はめちゃめちゃにされた人生をちょっと異常だが学校で見つめ直すのもいいのかもしれない。

近衛に生まれたから近衛になれと言うのもおかしな話だからな。

 

「だから、優君は失礼を承知で言いますがここでは私を友達として見てくれませんか?」

 

監視役や主従ではなくあくまで同級生として見ろってことか……

答えは決まってるな

 

「了解。じゃあ、行くか理子が呼んでるんだろ?」

 

微かに秋葉は微笑みながら

 

「はい!」

 

と俺の横に突くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んで理子の用事とは

 

「なぜなんだ……」

 

俺は女装バージョンで理子と歩いていた。

しかも、武偵高女子制服を着て

 

「わぁユーユー似合う似合う!秋ちゃんもそう思うよね」

 

「……はい」

 

おい!秋葉ドン引きするな!友達だろ!

 

「よーし!次はこれ行ってみよう!」

 

と、取り出したのはお嬢様が着るようなワンピースだった。

ご丁寧に麦ワラ帽子まで用意している。

 

「もう、いやだぁ!」

 

「あ!ユーユー!」

 

くそ、ドリスとの戦いであんな約束すんじゃなかった!やらないと言ったはずだがなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やばいぞ……

理子達からは逃げられたがこんな格好でどうしたらいいんだ……武偵高のさっきとは違う屋上に来たが女子制服のままだ。

どうやって帰ろう……

キイイイという音に振り替えるとレキとハイマキだった。

 

「ぐる?」

 

ハイマキは臭いで俺と察知したのか困惑した声を上げる。

そういや、戻ってからレキとはあんまり喋ってなかったな……不知火達には見られたくないがレキ達ならまあ、一度神戸で見られてるから問題はない。

諦めて座るとレキも横に座ってきた。

ハイマキもレキの前でお座りし、丸くなる。

こうしてると本当に犬だなハイマキ狼だろ?

 

「優さん。怪我は大丈夫ですか?」

 

無表情にレキが聞いてきた。

 

「完全に治ってるよ。じゃなきゃこんな格好してないさ」

 

半泣きしながら武偵高女子制服を見て言う。

 

「レキこそ大丈夫か?結構大変だったんだろう?」

 

「大丈夫です」

 

とは言え短いスカートから見える生足に張られたバンソコウとか見えるとな……

「ぐるおん」

 

うお!ハイマキめ!まるでいやらしい目で見るなとか言いたい声だ。

誤解だお前!

あ、そういや一度レキに聞きたいことあったんだった。

 

「なあ、レキ」

 

「?」

 

「俺達昔、どこかで……」

 

「見つけたぞ!椎名優希だぁ!」

 

いきなり扉からデブの男が出てきて叫んだ。

 

「よくやった会員No.109」

 

そう言って出てきたのは……げ!村上かよ!

そう、レキの熱狂的なファンクラブレキ様ファンクラブRRR(正式名称、レキ様のレキ様だけのレキレキファンクラブ)だった。

 

「貴様、椎名優希!生還するとは運のいい奴だ!とうん?椎名優希ではないぞ会員No.109」

 

「し、しかし発信器は確かにここを」

 

てめえらもか!いい加減に発信器とかやめろ!

 

「失礼お嬢さん。椎名優希を知りませんか?」

 

「あ、あの……」

 

やばいなんとかして切り抜けないと女装がばれる!冗談じゃねえ!

 

「優さんはあそこにいます」

 

ってレキ!

レキが指差したのはマスターズのある場所だった。

 

「ありがとうございますレキ様!この村上正感動で身が引き裂かれそうです!必ずやあなたの幸せのために!みんな続けぇ!」

 

「「「おおおおおおお!」」」

 

どたどたと村上達はマスターズに突っ込んで言った。

いやいや!助けてくれたのは嬉しいけどあいつら死ぬよレキさん!本当はあいつら嫌いなんじゃないのレキぃ!

 

「ぐふ」

 

満足そうにハイマキが唸った。

 

「ありがとうなレキ」

 

とりあえずお礼は言わないとな

 

「はい」

 

結局、レキは無表情なままだった。

ちなみに、村上達はマスターズを走り回り俺を捜索したため蘭豹に半殺しにされてレキ様ファンクラブは一時、壊滅状態になったそうだ。

そのまま潰れろお前ら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「椎名優希!……先輩」

 

ん?

隼で帰るかとレキと別れ、村上達の世紀末のような悲鳴を聞きながらロジの駐輪場に向かう途中聞いたことある声がした。

ちなみに、服は仕方ないからワイヤー使って強襲し理子から奪還した。

まあ、理子は飽きたのか部屋にいなかったが……

見たくないものをみたという顔をしてるのは後輩でありアリアのアミカの間宮あかり、ちょっとしたことから刀をぶつけた同じく後輩の佐々木志乃、以前ラーメン食った二人もいるな。

島麒麟に火野ライカ

「ようお前らも帰りか?あれ、マリは?」

 

「マリは今、クエストでいません。椎名優希先輩こそまた、女遊びですか?」

 

へ?あれ?おかしいな……土方さんの話では結構都合よく記憶改竄したはずなんだけどステルスで……

 

「ふっ」

 

佐々木志乃がヤンデレ目であかりの後ろから鼻で笑った。

ああ……なるほどお前か……俺が隼であかりを半分拉致したのを根に持ってあることないこと吹きこんだんだろうな……

「女遊びって……俺今日、普通に過ごしてただけなんだけど……」

 

まあ、理子やレキ達と話ぐらいはしたがな

 

「……」

 

疑うような視線。

うーん、実は俺間宮のこと嫌いなんじゃないんだけどな……努力家だしなんだかんだでランクもあげている。

実力を隠すと3年みたいなことしてる俺だけどな……

 

「椎名様、あきらめた方がよろしいですわ。間宮様は完全にあなたを敵と認識してましてよ」

 

麒麟が微笑みながら言ってくる。

 

「同情はさときますけど」

 

と火野ライカ

 

「ああ……じゃあ、帰るわ俺」

 

とぼとぼと歩き出すと後ろからあ!そう言えばアリア先輩がと間宮の悲鳴が聞こえてきたが俺は振り返らなかった。

女は怖いなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に途中で拾ったキンジと隼で帰るとアリアが外出の準備をしていた。

 

「キンジ、優!」

アリアはハイテンションに指ピストルで俺たちを撃つような仕草をしてからウインクしてきた。

かわいいすぎる仕草だ。

 

「きのう理子からメール来てねまだ疑ってたから黙ってたんだけど……いま、理子が台場でママの弁護士に会ってるんだって!あたしも行ってくるわ」

 

アリアは制服のまま、俺たちを押し退けるようにして靴をはく。

 

「弁護士から電話があったの!理子の証言を使えば差戻審が確実になるって!土方さんも非公式にだけどママの弁護士に協力してくれてるし!」

 

おお!最高裁じゃなくて高等裁判所に証拠が問題だからやり直せとできる状態か!

ごたこたはあったが理子約束守ったんだな

 

「やったな……よかったなアリア」

 

とキンジ

 

「おめでとう」

 

「やったわやったわ!」

 

三人でハイテンションに手を繋いで笑いあう。

はっと我に帰ったアリアはニコニコしたまま、

 

「じゃあ行ってくるね」

 

パタンと扉を閉めてアリアが出ていったのでキンジも俺もパソコンのメールチェックをするために部屋に入る。

実は理子からメールが来ているのだ。

パソコンに送ったから見てねとウインク画像つきのメールだ。

理子のファンが見たら売れるかもしれんが……

やらないけどな

 

「お!」

 

開いてみると理子の前にメールが来ていたのはWEのイニシャルおお、なんか久しぶりだな。

 

題名 久しぶりだな椎名

 

本文 いろいろあって最近はメールを出せずにすまなかった。

さっそくだが、死にかけたらしいけど体を大事にしろ。

僕が近くにいたら治してやれるがいない場所で死なれても目覚めが悪い。

大体君は……

 

長々と嫌味というか心配する内容だったのですっ飛ばして最後に至る

 

本文 追伸、未確認情報だがRランクが日本に密かに入国したという情報があり。関係ないかもしれないが一応、注意しておけ以上だ。

また、暇を見つけてメールする。

 

 

 

相変わらずだねあいつも……

そういや、暫く会ってねえな……

メールの相手は俺の海外の友人だ。

何人か記憶がある友人がいるがこのメールの相手は組織を動かせる立場の人間だ。

昔、姉さんに紹介されて友達になったんだ。

ま、たまにメール送る仲だけどな。

さて、次は理子のメールか……

フラッシュファイナルが添付されてたので開くと

 

『ユーユーは大変なものを盗んでいきました。あなたの心です』

 

首吊りしているアリアの後ろ姿、本を読む白雪、妖精みたいに飛ぶレキ、音楽隊の武藤、不知火などがめぐるましく出てきて消えていく。

すげえな理子が作ったのか……

 

そして、メールが差した場所は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人工浮島

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジも同じメールを受け取ったらしく共に飛行機の残骸が残る人工浮き島に行くと俺とキンジは絶句して止まった。

一人は髪の長い綺麗な女性だった。

優雅に左の翼に座っている反応的にキンジの知り合いか……

だが、俺が驚いたのは胴体中央に腰かけて不適に笑っている少女の姿。

 

「くっ!」

 

ワイヤーで一気にもう一人の女性と離れた場所にいる彼女の前に降り立つ。

怒り、悲しみ、喜び、困惑が俺を支配する。

 

「なんでだよ……」

 

「?」

 

不適に笑いながら彼女は顔を俺に向けている。

 

「なんで生きてるんだよ!姉さん」

 

 

「ローズマリーはRランクだ。それを倒した実力、姉として弟の成長うれしいぞ」

 

彼女は立ち上がると

「なあ、優希」

 

間違いないこの圧倒的な威圧感。

彼女は……

 

「じゃ、殺しに行くか?アリアを?」

 

「なっ!」

 

かつて、世界最強として大国すら震撼させた存在。水無月 希……いや、姉さんは言った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第137弾 最強の存在

アリアを殺す……どういうことだ……

 

「いきなり出てきて何を言ってるんだよ!アリアが何かしたのか!」

 

「ふーん」

 

姉さんは不敵な笑いを崩さず

 

「向きになるなぁ優希。京都での戦いの時といいアリアに惚れたか?」

 

「なっ!」

 

「おお、赤くなったなった。成る程そういうことなら……」

 

「違う!アリアとはチームメイトだ!」

命の恩人でもあるけどな……

と心に付け加える。

 

「ふーん」

 

姉さんはニヤニヤしながら俺を見ている。

なんなんだよ一体

 

「それよりこっちの質問にも答えろよ姉さん!なんで死んだはずのあんたが……」

 

「秘密」

 

左の人差し指を口に当てて、姉さんはいたずらっぽく笑った。

この人は気分屋だからしゃべらないと言えば絶対にしゃべらないと。

例外はあるがそれを成した人間は存在しない。

 

「それとも力ずくで聞くか?」

 

びりびりと頬に当たる殺気。

そう、姉さんから気分を曲げて話を聞きたいなら姉さんを倒すしかない。

ないのだが……

 

「実力差くらい分かってるさ。アリアを殺さないと言うなら戦わない」

 

姉さんの対峙したなら戦うな。

絶対に勝てない。

戦艦の巨砲すら彼女の前にはゴミに等しい。

何より、昔から姉さんの戦闘能力は嫌と言うほど見てたからな……

 

「なんだよぉ、戦えよ優希ぃ」

 

つまらなさそうに姉さんがむくれる。

 

 

「嫌だ!絶対に戦わない!」

 

情けない話だけどな……

 

「まあ、まだ緋弾の力は扱えてないから後でもいいが……」

 

「緋弾?」

 

聞きなれない単語に首をかしげた時、背後から銃声がした。

はっとして振り向くとキンジが足を踏み外してプロペラから落下しかけてワイヤーで止まる。

あの女敵か!

 

「キンジ!」

 

距離的にワイヤーじゃ無理だ。

ガバメントを取り出すと走り出そうとするが姉さんがいきなり、前に立ちはだかる。

 

「退いてくれ!」

 

「心配しなくていいさ優希カナは弟を殺さない」

 

弟?キンジの姉さんなのか?

昔からの癖なのだろう。

俺は姉さんに言われてその場に立ち止まる。

女性……カナがプロペラの縁に立つと再び発砲した。

な、なんだ?いつ抜いていつ撃った?まるで見えなかったぞ。

 

「不可視の弾丸(インヴィジビレ)、カナの得意技だ。お前も似たようなことランパンの連中とやり合った時、やったろ?」

 

記憶を探ると奏ちゃんを助けるときシンに放った居合銃か……だがあれは抜き放つ高速を利用したものだ。

あのカナは多分、抜いて仕舞う動作を高速でやって見えないようにしているんだろう。

それも一瞬で照準して……

なんて技量だ。

 

ガクンとキンジが下に下がる。

今の弾丸でワイヤーを掠めたのか!切らずに……

 

「大丈夫だ優希。最悪私が助けてやるさ」

 

姉さんがそう言うなら大丈夫なんだろうけど……

カナとキンジは何かを言ってるみたいだが風もあって聞こえねえな

最悪、俺でも助けられる準備だけはしとくか……

 

キンジが何かを叫んでワイヤーを昇ろうとした瞬間、キンジのワイヤーが切れたらしく暗闇に落下していった。

 

かと思うと落ちたキンジが引き上げられている。

どうやらカナは最初から落とす気はなかったらしくキンジにワイヤーをつけていたようだ。

 

「な、大丈夫だったろ?」

 

カナを信じていたのか姉さんが言った。

 

「あ、ああ……」

 

だが、何であんなことになった?

キンジは気絶してるらしくカナが抱き抱えるとこちらに歩いてきた。

 

「悪いねカナ、私はアリア殺しはやらない。弟の恋路は邪魔したくないんでね」

だから違うと言ってるのに!

本当に人の話を聞かない人だな

 

「私も気が変わったわ。キンジに会って第2の可能性にかけて見ることにしたわ」

 

柔らかにカナは言う。

そういや、理子がこの人の変装してたな……物凄い美人だ。

 

「あなたが椎名の後継ね?初めまして、私は遠山カナ」

 

「し、椎名優希です」

 

抱えられてるキンジは気になるがまあ、姉弟ならいざこざはあるだろう。

殺されてはないみたいだし外傷も見当たらない。

にしても、本当に綺麗な人だなぁ

握手しながら思っていると姉さんが耳元でぼそりと

 

「言っとくが惚れるなよ?カナは男だから」

 

はっ?

思わずカナさんを見るがどこらどう見ても女だしかも一級クラス

 

「嘘?」

 

「本当だ。本人に聞いても無駄だからな。カナはカナの時は男であることを忘れてるから」

 

耳元でぼそぼそと姉さんがカナに聞こえないように教えてくる。

世の中わからねぇ……たまに、女装する俺が言えることじゃないか……

 

「……」

 

カナが俺を柔らかく微笑みながら見ている。

 

「第2の可能性、あなたがいるなら更に高まるわ。本当は希がやってくれれば一番楽なんだけど……」

 

「イ・ウーや教授は面白いからな。私はやらん」

 

イ・ウー!

だんと二人から距離を取るとガバメントを二人に向ける。

和やかだった雰囲気が一気に変わる。

 

「姉さん、カナさんあんた達イ・ウーの構成員に……」

 

「ふっ」

 

水無月希は笑う。

弟を見る目ではなく戦闘狂の目で

 

「だったら?どうする?」

 

 

「イ・ウーは犯罪者集団だ!なんで!」

 

「聞きたきゃ私を倒せ」

 

そう言った瞬間、姉さんが消えたかと思えば大砲のような一撃が腹にめり込むところだった。

 

「ぐっ……は」

 

吐血しながら空中にぶっ飛ばされる。

武器は使ってない。

素手で姉さんは戦ってる。

ガバメントを下に向けるが姉さんはすでにいない。

背後から殺気を感じた瞬間、背中に衝撃が走り飛行機に叩きつけられた。

 

「う……」

 

なんとか受け身は取ったが既にボロボロだった。

口元の血をぬぐいながら飛行機にすたっと降り立た姉さん

 

「どうした優希?」

 

本気でやるしかねぇ!

ワイヤーパージボタンを押し込むとズンズンと重いワイヤーが落ちる。

 

「……」

 

姉さんは何も言わずに腕を組んでそれを見ている。

紫電を抜き放ち前に構える。

巨大な殺気を姉さんに向ける。

 

「成る程、飛龍零式陽炎か」

 

陽炎は相手の感覚を狂わせる特性がある。

一撃にかける!

気がかりはカナだが彼女はキンジを抱えたまま、動かない。

 

「陽炎は別に私も使えるからな。一つ教えてやる」

 

ぎしりと殺気の密度がました。

ぎ、逆に姉さんの姿が陽炎のように揺れている。

 

「陽炎は殺気が命だ。今のようにお前を上回る殺気をぶつければ陽炎は意味を成さない」

 

勝てない……

 

「それが最後の切り札なら諦めろ。私には勝てない」

 

だが、諦める訳にはいかない!

第2の可能性とは何かはわからないがこの二人は最初、アリアを殺すつもりだった。

アリアを!

プツンと俺の意識は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SiDE水無月希

 

「お?」

 

水無月希には見えた。

優希の髪の色がピンクに染まりかけている。

ローズマリーに使った緋刀の力。

見ては見たいが潮時だな。

水無月希は一瞬で肉薄すると拳を叩きこむ。

ガアアアンという音を立てて紫電と拳がぶつかり合う。

ほぅ、反応したか……まあ、意思はないみたいだが……

甘いな!

水無月希は神速の蹴りを優希に叩き込んだ。

今度は反応できずぶっ飛ばされて飛行機の上を滑った優希が動かなくなり髪の色が元に戻るのを水無月希は確認した。

 

「優しいのね希」

 

キンジを抱えるのと同じく希は気絶した優希を抱えながら

 

「一応弟だからな。手加減はするさ」

 

「本当にあなたならシャーロックを……」

 

今もまったく、本気を見せずに優希を一蹴した実力をカナは残念に思った。

彼女は武器もステルスも使わなかった。

 

「でも私の拳にこいつ反応できたな。緋弾の力……まあ、モード緋弾とでも言うが意識して使えたら優希はまだまだ、伸びるな。戦いがいがある」

 

「本当にあなたは……バトルマニアなんだから」

 

「私は自由に生きる。それだけだよ」

 

水無月希は笑いながら歩き出した



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第138弾 衝撃の掲示板

ピピピピピピピピ

 

ん?朝か……っ!

がばっと起き上がり辺りを見回す。

外は明るくなりかけていていつものトレーニングに行く朝の5時

昨日のことは夢だっのか……

喪失感と悲しみが胸に押し寄せた。

そうだよな……姉さんが生きてるわけない……

一応、横を見てみると向かいの二段ベッドでツインテールの片方をベッドから垂らしてアリアが寝息を立ていた。

夢の姉さんはアリアを殺すといいながらもそれを撤回している。

まあ、悪夢なんてそんなもんか……

キンジが下にいなかったのでリビングを覗くとパソコンの前で眠っていた。

そのパソコンはスクリーンセーバーがWindowsの文字をクルクル回転させている。うーん……とりあえず体を動かすか……

走り込みをしていつもの訓練メニューを終わらせて朝の7時に部屋に戻ると丁度、アリアとキンジが話しているところだった。

 

「昨日の夜?あんは、あらひが帰ってきたらパショコンのイフで寝てたわよ?」

 

今日から夏服のアリアは歯磨きをしながら喋る。

ちなみにこども歯磨きに味はイチゴ味だ。

次にアリアは冷蔵庫からミルクを出し、砂糖をどっさり入れて飲む。

虫歯になるぞお前……

どかっとアリアがハイキックで冷蔵庫を閉めた。

乱暴すぎだ!貴族だろお前……

 

「優お前、昨日のこと覚えてるか?」

 

キンジが聞いてきたがいた、確信がなぜか持てないので

 

「ベッドで寝落ちしてたみたいだな俺は」

 

「そうか……」

 

キンジはそう言いながらしばらく何かを考えてから

 

「……アリア」

 

「なに」

 

「学校一緒に行くぞ」

 

それは自動的に俺もだな……

にしてもキンジから誘うなんて珍しいな

 

「……なによぅ。いつもあたしと学校行くの迷惑そうにしてるくせに」

 

皮肉を言いながらもアリアはちょっと軽やかな手つきで自分の通学カバンを持つ。

キンジが嫌がるからアリアは大体俺の隼の後ろに乗るからな。

マリが押し掛けてきたりしたら自転車を使ってるみたいだが……

そのマリは緊急のクエストとかで東京にはいないらしい

 

「ちゃんと帯銃したか?」

 

キンジが訪ねるとアリアはキョトンとそのつり目気味のおめめを丸くしてネコっぽい犬歯を見せて笑い、スカートから白銀のガバメントを出し、クルクルと回して見せた

 

「へー、キンジにしては高い警戒心ね。武装確認はいい習慣よ」

 

しかし、隼には3人は乗れないぞ。

となると……

 

ピンポン

 

ん?

 

「誰かしら?」

 

 

アリアの言葉を確かめるように扉を開けると武偵高夏服の秋葉だった。

 

「おはようございます優君、アリアさんキンジ君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、俺はアリア達とは登校せず、秋葉と話したいことがあったので隼で登校することにした。

ちなみに、秋葉は風で空を飛べるので普段の登校は空を飛んでしている。

うらやましい能力だよ風のステルスって

 

「それで話というのはなんですか優君」

 

信号で隼を停止させつつ

 

「ちょっとな妙にリアルな夢を見たんだ」

 

「夢ですか?」

 

ギュッと腰に手を回している秋葉だが胸はアリアよりは大きいが残念サイズぎりぎりなのであまり、意識しない。

 

 

「姉さんがな……出てきてアリアを殺すと言ったんだ」

 

「アリアさんを……」

「まあ、夢の姉さんはすぐに撤回しておれをぼこぼこにしたんだがなんか、本当に夢だったのか確信が持てないんだ」

 

「分かりました。アリアさんの護衛ですね」

 

あたまの回転が早くて助かるよ秋葉

男の俺じゃ更衣室とか男子禁制の場所は入れないからな。

 

「断ってもいいぞ?命令じゃない」

 

「いえ、やります」

 

本当に助かるというか秋葉って昔から基本的にいいやつなんだよな……

 

隼を駐輪場に停めてから秋葉と話ながら教務科からの連絡掲示板の前に生徒が集まっていたので足をそちらに向ける。

見知った奴がいたからな

 

「よ、ジャンヌ」

 

 

「椎名か?丁度お前の名前を見つけたところだ」

 

ん?

 

「ん?椎名その女……」

 

「山洞秋葉です。ジャンヌさん」

 

「ジャンヌダルク30世だ。お前高Gのステルスだな?」

 

一発で見破ったか……

 

「はい、能力は……」

 

「風だろ?話には聞いていた。なぜかアサルトにステルスが入ったとな」

 

「はい、ところで優君の名前とは?」

 

「ああ……それは……」

 

「ジャンヌ、それより足どうしたんだ?」

 

見ると彼女は松葉杖をついていたのだ。

 

「虫が、な」

 

「虫?」

 

「道を歩いていたらコガネムシのような虫が膝に張り付いたのだ」

 

「うん」

 

「私は驚いてな。そのみちの側溝に足がはまった」

 

「ぶっ」

 

「貴様……笑ったな?」

 

「そ、それで?」

 

「そこをちょうど通りかかったバスに引かれたんだ」

 

えええ!

 

「お、おいよく足だけですんだな大丈夫か?」

 

「全治2週間だ」

 

それはまた……

 

「ところでさっきから言ってるがお前の名前が掲示板にあるぞ」

 

「ん?」

 

画ビョウ代わりにサバイバルナイフで止められた紙にキンジの名前を見つけたぞ

 

『2年A組 遠山金次 専門科目(インケスタ)1.9単位不足』

ハハハハハハ!キンジのやつやばいじゃないか

 

「優君優君」

 

ん?

秋葉が指差した方を見た俺

 

「げ!」

 

『2年A組 椎名優希 専門科目(アサルト)1.6単位不足』

 

馬鹿な!俺ちゃんとクエストこなしたよ!なんで……ああ!

考えてみればハイジャックから始まり神戸の奏ちゃん達のクエストといい、木偶人形と出くわした時といい、京都の実家の事件といい、ブラドとの戦いといい、全部問題起こして単位剥奪されたり、そもそも単位くれなかったりしてたんだった!

それに最近、かなえさんの件でちょっと公安0と話したりしてたからクエストも……

 

「優君留年するんですか?」

 

何気に優等生の秋葉が言ってくる。

まずい……どうすりゃいいんだ……至上最大の大ピンチだ。

アリアとキンジが向こうから歩いてきてジャンヌに話しかけているが耳に入らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ど、どうしよう……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第139弾 レキデートフラグ再び!?

「キンジ、優あんた達留年するの?バカなの?」

 

キンジもどうやら自分の名前があったのを見たらしい。

 

「うるせえ!今からそうならないためにこれを見てるんだ!」

 

そ、そうだ!俺も見ないと。

キンジと必死に見たのは『夏期休業期・緊急任務(クエスト・ブースト)』だった。

実は武偵高では単位不足はよくある事で休み中に解決すべき任務を学校が割引価格でたくさん請けてきてくれるいわゆる補習授業みたいなもんだ。

報酬は安くなるが贅沢は言えんぞ!

間宮達と同じ学年なんて嫌だ!

 

『港区 大規模砂金盗難事件の調査(インケスタ、レピア)』……1.7単位 単位は足りるがアサルト向きじゃねえ!

 

『港区 工業用砂金盗難事件の捜査(インケスタ、レピア)』……0.9単位。足りんしアサルトじゃねえ!

 

『港区 砂礫盗難事件の調査(インケスタ、レピア)』……0.5単位。論外だ!

砂ばかりの事件ばかりだな港区は!

 

『港区 カジノ「ピラミディオン台場」私服警備(アサルト、インケスタ、他学科も応相談)』……1.9単位

 

「「これだ!」」

 

俺とキンジは同時に叫び掲示板の詳細を確認する。

 

要・帯剣もしくは帯銃。必要生徒数4名。女子を推奨。被服の支給あり

急ぐぞ!これをとらないと留年しちまう!

携帯から登録希望メールを送ろうとして手を止めてアリアを見た。

キンジも同じことを考えたんだろう。

俺とキンジがこれを受けたらアリアから目を離すことになってしまう。

 

「アリアお前もこのクエスト一緒にやれよ」

 

「なんで?あたしは単位不足してない」

 

ほっぺを膨らませてアリアが言う

 

「俺も受けるからさ。チームでやろうぜアリア」

 

俺が言うとアリアはカメリアの目を見開いて一瞬驚いた顔をしてから腕くみして横を向き検討しているような仕草を見せた。

 

「ふーん。キンジと優があたしを仕事に誘うなんてね。ま、いい傾向と言えるわね」

 

まあ、俺からは何度か頼んだけどキンジからは初めての依頼の協力要請だからな。

嬉しさを隠しきれてないぞアリア

 

「最低4人って書いてあるし……そうね。チーム同士、困った時はお互い様。やってあげてもいいわよ」

 

よし、決まったな

 

「じゃあ、私もやります優君」

 

ん?秋葉もか?

 

「お前も単位足りてるだろ?」

 

「頼まれましたから」

 

ああ、アリアの護衛か。

律義な奴だな。

 

「いいじゃない優、秋葉の強さはあたしも知ってるしその子あんたの護衛でもあるんでしょ?」

 

まあ、間違ってはないが最低4人だからな……まあ、秋葉がいてもいいか……

こうして、最低限のメンバーが決まったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

綴先生が二日酔いかなんかで休講だった2時間目の後、3時間目はプールで水泳の時間となった。

まぁ、体育教師もやってる蘭豹は拳銃使いながら水球やれ。2、3人死ぬまでやれと言い残して帰ってしまった。

てなわけでふけてしまった連中が多数だ。

ちなみに、男女別の授業なのでアリアも秋葉も理子もいない。

 

朝も早いし暇なので昼寝でもしようと転がっていると

 

「おー、ほとんど人がいねえ!おーい不知火、プールから上がれよ!邪魔だ!」

武藤か?

目を擦りながらあくびしながら見ると何人かの生徒が黒い物体をプールに運び入れている。

「むとー君!すぐ浮かべて!時間ないのだ」

 

ん?平賀さんか?女子の授業サボったのか?

 

「すぐって、平賀、ウォーミングしなくて平気なのかよ」

 

「そこは改造しといたよ!人間に不可能はないのだ」

 

潜水艦の模型か?

1メートル半はある模型をプールに浮かべてブルルと音を立てて動き出した。

ああ、ラジコンか

操縦は平賀さんのリモコンと

 

「さっそく発射なのだ」

 

潜水艦の背中のハッチが開いてロケット花火が飛び出した。

 

「「「おおー!」」ロジとアムドの一同が武藤と平賀さんに拍手喝采した。

ロケット花火が天井にぶつかってるぞ……

 

「おぅキンジ、優見ろよこれ!超アクラ級原子力潜水艦『ボストーク』だ!」

 

俺たちを見つけた武藤が満面の笑みでプールから上がってきた。

 

「『ボストーク』は悲劇の原潜なんだぜ。空前絶後の巨大原潜だったんだが1979年進水直後に事故で行方不明になっちまうんだ。それをオレと平賀が現代に甦らせた!どうよ感動するだろ?」

 

「興味ねえな」

 

「せめて屋外プールでやれ」

 

俺とキンジは容赦なく冷たく返した。

 

「お前ら感動が足りねえ!後で原潜で轢いてやる」

 

どうやってだよ……

武藤が戻り、代わりにプールを追い出された不知火がこちらに来た。

 

「あは。追い出されちゃったよ、プール」

 

不知火は俺たちをの間に座る

真面目に泳いでたのに怒らないなんて大人だな

 

「雑談してもいいかな?椎名君、遠山君」

 

白い歯をニコッと見せつつ語りかけてくる。

 

「別に許可なんてとらなくていいって」

 

とキンジ

 

「ちょっと良くない話なんだけど聞く?」

 

「良くない話?何だよそれ。まあ、話したきゃ話せよ」

 

気になるしな

 

「さっき、2時間目休講だったじゃない」

 

「ああ」

 

俺は寝てたけど

 

「その時僕、ちょっとアサルトに顔を出したんだけどさ神崎さんも来てたんだよね」

 

「アリアに何かあったのか?」

 

「ははっ。そんな怖い目をしなくていいよ。そういうことじゃないから」

 

「神崎さんって彼氏いるの?」

 

「聞いたことないけどな」

 

俺が言うと不知火はキンジを見ながら

 

「遠山君ライバルいるかもしれないよ」

 

「なんだそれ?」

 

ん?

 

「神崎さんが武偵手帳にメモ取ってる時、偶然見えちゃったんだけど……手帳に男の人の写真が入ってたんだよね。細かくは見なかったけど遠山君や椎名君じゃなかった」

 

「……そんなこと俺に関係ないだろ」

 

「はは、いま一瞬、きみ、黙った」

 

「そんな下らないことに一々報告する不知火に呆れて黙ったんだ」

 

「気を付けた方がいいよ遠山君。神崎さんって一部の男子にけっこう人気あるからねぇ。ぼやぼやしてたらとられちゃう。ポピュラーな言い方だけど夏は男女の仲が大きく進展する季節なんだよ?」

 

アリアが他の男と付き合う……

 

 

「……」

 

なんとなく想像してみてアリアとのあのキスを思い出す。

うぎゃああああああ!なんか恥ずかしい……

 

「ん?どうかしたの椎名君?」

 

「い、いや何でもない」

 

「椎名君と言えばレキさんだよね」

 

はっ?レキ?なんで?

 

「村上君が言ってたよ。君、レキさんとお祭りにデート行ったりよく、屋上で二人っきりで話したりご飯食べにいってるじゃない。ひょっとしてもう、付き合ってるの」

 

えええ!

いやまあ……レキは嫌いじゃないけど……そんな関係じゃ……

って村上め……後でぶっとばしてやる

 

 

「遠山君と椎名君夏休みにカジノ警備やるんだよね?レキさんは誘わないの?」

 

「一応、声はかけるつもりだけどな」

 

なんだかんだでレキとは最近、よくチームを組んでいるのでクエストと言えばレキを誘うことは多いのだ。

 

「じゃあ、混雑地の警備訓練ってことで、一緒に緋川神社の夏祭りに行ったらどう?うん、そうしよう!あそこは縁結びの神社ってことでポピュラーだし、ねえ武藤君」

 

不知火は、ぽーん、とプールサイドに座っていた武藤に俺達の携帯を奪い取ると投げてしまう。

ちょ!お前!

 

「おう!そいつはいいアイデアだ!お誘いメールオレが書いてやるよ」

 

「この!」

 

俺とキンジは携帯を取り替えそうと動いたが焦ったため俺は不知火に足を引っかけられてプールに落下し、キンジは不知火に羽交い締めにされた。

プールだから、ワイヤーがない!

 

「いやー二人を見てると焦れったくてさぁ。遠山君は写真の男、つまりライバルもいるみたいだし背中を押してあげよう!って事になったんだよね、さっき武藤君と。あ。あと僕、午後は仕事で校外に出ちゃうんだよね。クレームは武藤君までよろしく」

 

「よし、優は終わりと、次はキンジだな。あれ、神崎じゃなくてアリアでメアド登録してんのかよ。やらしーなキンジ」

 

まあ、俺の場合レキはレキだからな……突っ込みようがないんだろう

 

「親愛なるアリアへ。カジノ警備の練習がてら、二人で七夕祭りに行かないか?7日7時、上野駅ジャイアントパンダ前で待ち合わせだ。かわいい浴衣着てこいよ?っとこんなもんでいいですかね遠山先生」

 

「いいわけないだろ!」

 

だが、キンジは間に合わず送信ボタンは押されてしまった。

この後、激怒した俺(戦闘狂モード)とキンジは不知火をプールに投げ飛ばし、特に武藤は悲劇の原潜ボストーク号とやらにぶちけて真っ二つに折れた原潜もろとも撃沈したがメールは消えない。

武藤が内容を言わなかったので送信メールを確認してみる。

 

題名 親愛なるレキへ

『本文 以前に行った祭り楽しかったな。

7月7日に七夕祭りがあるんだけどまた、遊びに行こうぜ。

待ち合わせの時間は午後7時に上野駅改札口だ。

ちょっと話したいこともあるしな。

可愛い浴衣期待してるぜ』

 

 

なんてメール送ってくれるんだ不知火!武藤!

俺はこの後、再び二人に飛びかかり二人が逃げるまで追跡を続け二手に別れたため武藤に飛び蹴りを食らわした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ど、どうしよう……

♪♪

メールの着信音

れ、レキから!

恐る恐るメールを確認してみると

 

題名無題

 

本文『 はい』

 

 

承諾された……も、もうだめだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SiDE ??

 

「ハーレム野郎がレキ様にデートだと……村上会長に連絡しなくては……」

 

 

ぼそりと呟いてレキ様ファンは動き出す



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第140弾 最強の姉(?)達

5時間目は専門科目の時間、俺は授業に行かずに屋上で携帯をいじっていた。

 

「……というわけなんだ」

 

「お兄さんいい加減に刺されますよ?」

 

にっこりとしてテレビ電話の向こうで微笑んでるツインテールの小学生、藤宮千夏ちゃんだ。

偶然、電話がかかってきたからレキの名前は出さずに状況を説明したのである。

でも刺された方がいいって……一度、アリアに刺し貫かれたけどな

 

「なんでだよ」

 

「はぁ、お兄さんってなんでそっち方面は抜けてるんですか?お姉ちゃん苦労するなぁ」

 

「奏ちゃんがなんだって?」

 

千夏ちゃんの姉の藤宮 奏ちゃんは今、兵庫武偵高で武偵を目指している変わり者である。

 

「なんでもありません。それで、お兄さんその誘った人って誰ですか?」

 

「いや、それは……」

 

言いたくないんだが……

 

「アリアさんですね?」

 

ん?

 

「違うぞ」

 

「あれ?おかしいなぁ……じゃあ、りこりんさん?」

 

「違う」

 

「じゃあマリさん?」

 

「違う」

 

はっとすると誘導されてるぞ!

 

「まさか、レキさんですか?」

 

「……」

 

誘導されるかと思い黙るがこれでは肯定だな

 

「なるほどレキさんですか……お兄さんあんな頼めばなんでもしてくれるような静かな美人が好みだったんですねぇ……アリアさんならまだ、お姉ちゃんにも望みあったけどレキさんはなぁ……」

 

やばい!なんか、千夏ちゃんの中で俺の好みの女の子はレキと固まりつつあるぞ

 

「いや、だからな!友達に無理矢理メール送られただけなんだって!」

 

「じゃあ、レキさんと出掛けるの嫌なんですか?」

 

「……」

 

レキと出掛けるのがか?

うーん、レキと遊んだのはあの祭りだけだが意外にも、退屈しなかったな……

特に射的の時は……

 

「成る程、分かりました。お兄さんはレキさんは嫌いではないけど大好きでもないと考えますね」

 

もう、それでいいか……

 

「そうしてくれ」

 

「お姉ちゃんには悪いですけど正直、お兄さんは見てられません。まず、レキさんにメールしてください集合時間は6時に変更、それから……」

 

延々とアドバイスを受けてようやくそれが終わる。

 

「……以上です」

 

「おお、詳しいんだな千夏ちゃん」

 

「お兄さんが馬鹿なだけです。これぐらい常識じゃないですか」

 

そうなのか?

 

「じゃあ、私はこれから用事がありますから切りますね」

 

「ああ、サンキュー」

 

 

「お礼は今度、会った時デート1回でいいですよ」

 

「ええ!」

 

チシャ猫のように千夏ちゃんは笑い言う

 

「嘘です。その代わり、お姉ちゃんに電話かメールまた、してあげて下さいね」

 

「ああ、それぐらいなら……」

 

お安いごようだ

 

「それではお兄さん」

 

プツンと回線が途切れる。

とりあえず、これでなんとかなるかな……

 

♪♪

ん?メールか?

 

題名 アリアが危ない

本文 第一体育館でアリアとカナ交戦中、山洞秋葉、水無月希も交戦中

 

それだけの内容だったが俺は仰天して飛び起きた。

カナと姉さんが!この武偵高に!

ミスった!いくら、曖昧だったとはいえ、秋葉だけに任せてアリアから離れたのは失態だ!

屋上から飛び降りて木にワイヤーを引っ掻けてターザンみたいに地面に降りると第一体育館に走り出す。

第一体育館とは名ばかりであそこはローマのコロシアムみたいなアサルトの戦闘訓練所だ。

飛び込んだ瞬間

ドオオオオオオオンという爆発音と共に、砂ぼこりが中央の防弾ガラスの向こうに見えた。

 

「おい!」「む?椎名か?」

 

近くにいたアサルトの生徒を捕まえるとレキ様ファンクラブ会長村上だったがこの際仕方ねえ

 

「村上、なにがあっ?」

 

「札幌武偵高から来た生徒2人とお前のロリとちょレキ様に似ているお前の女が模擬戦をしている。相手二人の希望らしいがな……」

 

激しく突っ込みたいが無視だ。

土煙が晴れてくると4人の人影が見えてきた。

 

「はぁ……はぁ」

 

左目を閉じて左膝を地面につけ、右手の槍を杖代わりで荒く息をはいているのは秋葉だ。

ステルスを使いすぎたのか相当消耗しているらしく息が整っていない。対峙しているのは……

姉さんか……

水無月希が腕を組んで不適に笑っている。

夢ではなかった……

そして、もう一つはアリアだ。

 

「ぐっ……」

 

アリアがどこかに被弾したらしく膝をついた。

口は軽く出血しているらしく赤い。相手はカナか……

間宮あかりが動揺するのは仕方ないかあの状況じゃ

 

「アリアさん!」

 

秋葉が左手をカナに向けて薙ぎ払うように振った。

あれだけで秋葉は俺の風凪と同じカマイタチを発生させられる凡庸が高く消耗が少ないステルスだ。カナは気付いたようだがにこりと微笑んだだけ

 

「言ったろ秋葉?手出しはさせないと」

 

姉さんがカマイタチの射線に割り込むと拳を高速で前につき出した。

 

「ふっ!」

 

カマイタチが消え、姉さんと距離がある秋葉がぶっ飛ばされた。

こっちまで飛んできて防弾ガラスに叩きつけられて再び膝をついた。

むちゃくちゃだ!拳で風凪をやりやがった!しかも、威力は俺のと何倍も違う

 

「秋葉!」

 

「優……君……」

 

秋葉は防弾ガラスを背に槍で無理矢理立ち上がりながら姉さんを見ている。

 

「すみません………」

 

謝るな、俺がそう言おうとした時、

 

「ど、どけ!どいてくれ!」

 

声の方を見るとキンジが防弾ガラスに張り付く所だった。

お前もメール受けたか?キンジはインケスタの専門授業の時間だからな

 

 

「キンジ!」

 

「優か!」

 

俺達が言った瞬間、カナの声が聞こえてきた。

 

「おいで、神崎・H・アリア。もうちょっとあなたを、見せてごらん」

 

武偵高の女子制服を着て、片膝をついたアリアを見下ろしてるカナはパァンとインヴィジビレを放った。

バシイッ!と鞭で叩かれるような音

 

「うっ!」

 

アリアは短い悲鳴をあげて前のみりに倒れた。

防弾制服に当たったんだろうがいつまでもそれが続くか分からない。

いや、防弾制服でも辺りどころが悪ければ死ぬぞ

 

「蘭豹やめさせろ!こんなのどう考えても違法だろ!また死人が出るぞ!」

 

キンジが悲鳴のようにおそらくはこの決闘方式の戦いを承認した蘭豹に言う

こう言ったのは完全に体を防護するC装備の着用が義務付けられているのだ。

制服での決闘はあるにはあるがこれは明らかに武偵法違反である。

 

「おう死ね死ね!教育のため、大観衆の前で華々しく死んでみせろや」

 

蘭豹はそう言いながら手にした瓢箪から酒を飲んだ。

 

くそ教師が!酔ってやがる!

俺とキンジは防弾ガラスの扉をICキーで開け放つと中に飛び込んだ。

 

「キンジ!アリアを助けるぞ!」

 

俺が言った瞬間

 

「くォらお前らァ!授業妨害すんなや!脳ミソぶちまけたいんか!」

 

ドオン

落雷のような発砲音と共に地雷のような着弾の衝撃が走る。

蘭豹が撃ったのはM500、世界最大級の巨大拳銃で像殺しと言われる化け物拳銃だ。

俺達は構わずにアリアに向けて走る。

 

「カナやめろ!」

 

 

「おっとここからは通行止めだ」

 

俺達の前には世界最強の壁が立ちはだかる

 

「どいてくれ姉さん!」

 

「いいぞ、遠山キンジは行け、優希は私と遊ぼう」

ぐっと拳を握り姉さんが殴りかかってきた。

 

「キンジ先に行け!」

 

予想してたので体を捻ってかわしながら右、左腰からワイヤーを発射するが姉さんに当たる直前にワイヤーは軌道を変えて交わされてしまう。

紫電を抜きながら横に走る。

 

「ハハハ、鬼ごっこか優希?」

 

姉さんも俺を追撃して走ってくる。

 

「姉さんが相手だからな!」

 

ガバメントで姉さんを発砲した瞬間、大爆発が起こった。

武偵弾炸裂弾だ。

周りがどよめく。

そりゃ、模擬戦で武偵弾使う馬鹿なんて俺が始めてだろうよ。

 

「お、おい椎名の奴、札幌武偵高のやつ殺したんじゃ……」

 

こんなので死んでくれる奴なら助かるけどな……

ギャラリーの声に苦笑しながら爆煙が晴れるのを待っていたが姉さんの周りに竜巻が起こり、煙をかきけした。

当然、余裕の顔の姉さんが腕を組んで微笑む

 

「中々、派手な花火だな。安くないだろ?」

 

ちっ、やはり利かないか……

炸裂弾は高位の炎のステルスを使われたら意味を無くす

破片は姉さんは全部避けてるか違うステルスで交わしてるんだろう。

複数の高位ステルスを笑いながらこなす。

水無月希と戦い、ステルスを引き出したものはここでほとんどが戦意を失う。

ここで、戦意を失わなくても……水無月希に攻撃を当てたものはさらに絶望の事実を知ることになるのだ。

さて、どうするか……

ちららとキンジ達の方を見るとキンジがべレッタをカナに向けてどなっている。

カナが目を見開いてるな。

 

「さあ?次はどうするんだ優希?」

 

降参しますっていいたいよ……本当にこの化け物の相手……

 

「優君!」

 

その時、鋭い秋葉の声が響いた。

振り替えると暴風が秋葉の周りに巻き起こり槍に収束されていく。

あ、あいつ!

 

「やめろ秋葉!そんな消耗した状態で撃つな!死ぬぞ!」

 

ステルスはただでさえエネルギー食いだ。

秋葉の最大技とも言えるあれを撃てば秋葉は下手すりゃ衰弱死する

 

「私は優君からアリアさんの護衛を……」

 

「馬鹿野郎!お前が死んで完遂しても嬉しくねえよ!」

 

「ほぅ」

 

姉さんが後ろでにやりとしたが気にしない

 

「……」

 

秋葉はそれでも暴風を押さえない。

紫電で解除するかと思ったその時

 

「こ、こらぁー!何をやっているんですか!」

 

見ると湾岸署から駆けつけてきたんだろう。

小柄な婦警が、生徒達をかき分けるようにアサルトに入ってきていた。

誰か通報したか……

 

 

「逮捕します!この場の全員緊急逮捕します!」

 

 

 

ホイッスルを鳴らしながら言う婦警に生徒達は慌てて顔を見合わせる。

 

キンジ達の方を見るとカナはふぁとあくびしている。

やる気を失ったのか?

 

「あなた達も解散しなさい」

 

婦警の登場で秋葉も気が抜けたのか暴風を収めるとがくりと前に崩れ落ちた。

 

「お、おい!」

 

秋葉が倒れる前に抱えると完全に気絶していた。

 

「中々、たらしになったな優希、お姉ちゃん驚いたぞ」

 

といいながらふわりと空中に飛び上がる。

 

「こ、こらぁ!待ちなさい!」

 

婦警が慌てて手を振り上げるが姉さんはウインクしながら

 

「またな、優希」

 

「姉さん!」

 

パッと姉さんはいきなりその場から消えた。

テレポートか……

 

 

「ケッ」

 

ざす、と不機嫌そうに飛び降りた蘭豹が、生徒達の方を振り向いた。

お前ら失せろ!という強烈な殺気に、生徒達は走って解散していく。

大股で婦警に近づき俺より高い背を曲げて小柄な婦警にガンをたれた。

 

「ケッ。サムい芝居で水差しやがって。後でマスターズに来いや―峰理子」

 

え?

俺が婦警を見ると

 

「……くふっ。くっふふふふ!」

 

と頬をひきつらせつつ笑い出した。

おいおい……わかんなかったぞ

カナがアクビをしながら踵を返して出口に歩いていく。

追撃するか悩む。

姉さんよりは補足しやすいだろうが腕にはお姫様だっこした気絶してる秋葉がいるし、蜂の巣をつつくみたいなことはしない方がいいな……

見るとキンジは防弾制服に撃たれたのか脇腹を押さえて膝をつき、アリアは立ったまま気絶してたらしく、次の瞬間には膝を折ったかと思うと顔面から地面に倒れ込んだ。

 

「アリア……!」

 

キンジが慌てて助け起こす

秋葉を抱えたまま近づく

 

「大袈裟にさわぐなやアホウが」

 

蘭豹が口をへの字に曲げながら言った。

 

「大袈裟も何も……殺されるところだったろ」

 

いや、キンジカナはわからんが姉さんは……

 

「アサルトを抜けてからホンマに昼行灯になりよったなぁ、遠山。あのアマども、峰理子の猿芝居に気づいてシラケる前から殺気なんぞ無かったやろが」

 

やはりか……あの人工島の件からカナや姉さんは考え方を変えている。

そもそも、姉さんが本気で殺す気できたら10秒も持たないだろう。

秋葉の命がけの奥義も姉さんの前では無意味に等しい

それに、蘭豹はカンの鋭さは信用できるからな

 

「あの女の技術はガキ共の教育に良さそうやったからな。ホンマの殺しあいやと思わせて注目させただけや。それと椎名、水無月希と同性同名とかいっとったあの女、本人やろ?」

 

「蘭豹……先生このことは……」

 

「けっ。うちにはどうでもええことや」

 

そういいながら蘭豹は再び瓢箪から酒を飲むのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンビュラスにキンジと怪我した二人を背負って向かう途中、アリアは目覚めたが秋葉は眠ったままだった。

だが、一言も俺達とは口を聞いていない。

無人のアンビュラスの救護室に入る。

アリスも今は武偵病院で実習か……

理子は婦警の格好で消えた。

 

秋葉をベッドで寝かせる。

とりあえず、後でチョコレートを買いに行くか……秋葉のステルスは糖分で補えるらしいからな

 

 

「……どうして止めたのよ」

 

振り替えるとキンジに手当てされているアリアがベッドね上で体育座りして顔を伏せていた。

 

「止めるも何ももう勝負はついてただろ?」

 

「ちがう!」

 

アリアはうつ向いたままヒステリックにさけんだ

 

「あんたが邪魔しなければいくらでも勝つ手段はあったんだもん」

 

「自分ごまかすな。兄さ……カナとお前の力量差は誰の目にも明らかだった」

 

「力量差があっても勝たなきゃいけなかったのよ!」

 

「……」

 

姉さんがアリアと戦ったなら俺にも言えることはあるがカナのことはキンジに任せるしかない。

 

「あれはカナ!理子が紅鳴館に行くときに化けた、あんたの……昔の知り合いで……あの時あんたが一目見ただけで動揺した女!そいつがいきなりアサルトに現れて決闘を挑んできた。逃げるわけにも負けるワケにもいかなかったの!それをあんたが……」

 

「アリア……」

 

俺は諭すように割り込む

 

「お前より強い武偵なんてごまんといるんだ。姉さんだって……」

 

「優……あんたのお姉様にだってあたしは負けるわけにはいかない!あたしは強くなくちゃいけないの!いくら差戻審になったって……ママはまだ拘留されてる!1審の終身刑だって消えていない!あたしが強くなくちゃ……ママを……助け……られ……ない……」

 

う、うとアリアは泣き出してしまう。

そう……アリアの母親かなえさんの裁判は可笑しすぎるほど上から圧力がかかっている。

土方さんが一度はかなえさんとアクリル板なしの面会をとりつけたが、一度きりで再び、時間は短くアクリル板に戻ってしまった。

土方さんは舌打ちしつつ、謝っていた。

公安0ですら、押さえ込むほどの相手……政府レベルだろうな……多分

 

「ああ、お前は強い。強いよ俺はそれを分かってる。だから負けを受け入れる強さを持て。あいつを相手にしたら次は殺されるぞ」

 

「……」

 

「カナとはもう戦うな」

 

「……」

 

「わかったか?」

 

「…………」

 

アリア……都合が悪くなると黙るくせがあるな……

 

「そんなに頬を膨らますな。フグみたいだぞ」

 

アリアは下を向いたままキンジの胸をポカポカ殴り出した

 

「こら、なんで俺に八つ当たりすんだよ!」

 

「うるさいうるさいうるさい!もうあんたなんかどっか行け!」

 

後退したキンジにアリアはコールド缶を投げつけて頭に命中させた。

キンジが逃げていく。

 

「お、おいアリア」

 

やばいと思った瞬間にはガバメントが俺に向いた。

 

「あんたも出てけぇ!」

 

うわああああ!

 

慌てて外に逃げる俺だった。

まあ、秋葉はアリスに電話しとくか……

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジとやれやれと部屋に戻ったんだが、俺達の心労は終わってなかったみたいだな……

 

キンジがリビングでひっくりかえってガツンと後頭部を壁にぶつけてしまう

 

「よう弟」

 

すって右手をあげソファーの横に立ってる水無月希、そして緋色に燃える夕空を背景に、ソファーでカナが昼寝していたのだ。

 

 

 

 

もう、勘弁してください姉さん



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第141弾 孤独なアリア

毎回、この姉さんには昔から、俺は振り回されることが多かった。

世界中を旅してた時も、姉さんは何もかもが突然で

 

「よし、フランス料理を食べにいこう」

 

と言われていきなり、フランスに連れていかれたり

 

「んー、本場のハンバーグ食べたいなぁ……アメリカ行くか

 

と、行動はめちゃくちゃだった。

世界最強の移動は無論各国は緊張するのだがこの人、人脈もめちゃくちゃでアメリカの大統領には家族同然と言われたり、ヨーロッパの首相の大半と知り合いであると言ったりするので西側諸国の移動は容易に行えた。

しかし、問題はいわゆる東側諸国で一度行くと言えば北朝鮮だろうがイランだろうがまったく、関係なしに拒否されれば密入国する。

そのせいで死にかけたことは一度や二度じゃないはずだった。

記憶があいまいだが死にかけたのは覚えてる

だけど姉さんはいつでも正しかった。

フランスに入ると移民同士のいざかいをまず、力で屈伏させてから政府と仲介役になったり、アメリカでは大統領暗殺を未然に防いだりなど、一歩まちがえば大惨事になりかねないことを平気で解決しているのだ。

むちゃくちゃだけど正しい姉であり師匠の水無月希。

だが、今回ばかりは意味が分からない。

姉さんは何らかの目的で死んだことにして、俺の前に再び、現れた。

アリアを殺すこと、そう姉さんは言った。

仮に未来にアリアが巨悪になるとしても水無月希が出れば片がつく。

あるいはカナに合わせていただけなのか……

くそ、考えれば考えるほどわかんねぇよ

 

「ま、お前が何かを聞きたいのは分かる。だが、内緒だ。武偵なら、自分で調べろ」

 

不適に笑いながらかべを背にして腕を組んでいる姉さん

 

「分かってるよ」

 

俺が言ったとき

 

「ん……」

 

「キンジ?椎名優希?」

 

目を閉じたままカナが言った。

キンジが壁にぶつかった音で目が覚めたか……

 

「昼寝はもういいのか?」

 

姉さんがカナに話しかける。

 

「ええ、悪いんだけど希……」

 

「ああ、分かってるさ。ほら、行くぞ弟、お姉ちゃんとデートしよう」

 

「へ?」

 

音もなくぱっと俺の後ろに回り込んだ姉さんは俺の体を掴むとどんと窓から飛び出した。

 

「ぎゃあああああ!」

 

突風が吹いたかと思うと急上昇、後ろを見れば寮どころか学園島がみるみる小さくなっていく

 

「お、下ろしてくれぇ!」

 

情けない声をあげた瞬間

 

「降りたいのか?」

 

ぱっと姉さんが多分、高度700メートルくらいからいきなり手を離した。

もちろん、俺は重力に……

 

「は、離すな馬鹿師匠!地上に戻せぇ!」

 

冗談抜きで死ぬぞ!ワイヤーでどうにかなる問題じゃない!

 

「なんだ、注文の多い奴だな」

 

姉さんが俺の背中に触れた瞬間、一瞬、景色が歪み気がついたら俺は学園島の道路で膝をついていた。

瞬間移動かよ……

 

「殺す気か姉さん!」

 

「ハハハ、カナに弟とは二人で話したいと言われてたからな。それに、私もお前とはいろいろ話したいこともあるしな」

 

「話したいこと?」

 

姉さんはククと笑いながら俺に顔を近づける。

 

「アリア、秋葉、理子誰が本命なんだ?」

 

「はぁ?アリアと秋葉に理子?なんでそんな話になるんだよ」

 

「隠すな隠すなもうからだを許すほどの仲なんだろ?」

 

かっ……!

 

「何、馬鹿な……」

 

「いやぁ、世界中でフラグたてまくるお前見てて素質は感じてたが見事に開化したわけだ。こりゃ、あの子にも……」

 

「いや、姉さん……アリアも理子も友達だから!それに秋葉は……多分、俺を憎んでるだろ……」

 

「……」

 

姉さんは少し黙り込んだ。

 

「葉月さんのことは気にするな……とは言えんか」

 

山洞秋葉の母親、山洞葉月は俺が殺したのだ。

操られていたとは言え、秋葉が俺に恋愛感情を抱くなどあり得ない。

友達という関係でさえ、不思議な仲なのだ。

 

「この際だから言うが秋葉の奴、昔はお前のこと好きだったぞ。女の子としてな」

 

「だとしても……今は違うだろ……」

 

少し驚いたがそれは過去の話だ。

今の関係には何の変化もない。

 

「はぁ……お前というやつは何でそんなに……」

 

姉さんは何かブツブツいっていたが近くの木にもたれかかった。

 

「お前が鈍感なのはわかったから少し、違う話をしよう。お前、単位足りてるか?」

 

嫌な話題だな。

 

「いや、足りてないけどカジノ警備で補填できるから進級はできるよ」

 

「カジノ警備ぃ?はぁ、まんまと……がって」

 

え?今なんて

 

「まんまと何だよ姉さん」

 

「知らん、それもお前が選んだ道だ。モード緋弾、使えるようになっておけ」

 

「モード緋弾?」

 

初めて聞く名前に眉を寄せる。

 

「モード緋刀か?どっちでも言いがローズマリーを倒したあの力だよ。剣術はまあまあ、だし紫電もあるからある程度の敵には勝てるだろうがRランクと戦うこともあるだろう。お前が本当にアリアの護衛を完遂するならな」

 

アリアの護衛を知っている?

誰にも話したことはないのに

 

「姉さん何でそれを……」

 

 

「さあ?」

 

ニヤリと姉さんは笑う。

依頼主が姉さんという可能性はあるが恐らくは違うだろう。

姉さんに知り合いは多い、今も繋がりがあるかは不明だが何人いるか特定はできない。

 

「知りたいか?」

 

姉さんはフフと笑いながら

 

「私とイ・ウーを見学してみるか?暫くは、お前は私のパートナーと言うことになるがな」

 

イ・ウーを見学だと!

本気で言ってるのかよ姉さん!

行くだけでも犯罪になりかねないことを……

 

ドンと何かがぶつかる音が後ろからした。

 

「!?」

 

慌てて振り替えると大きく目を見開き涙目のアリアが驚愕の視線を向けていた。

 

「あんたも……なの優……」

 

「え?」

 

アリアは涙を流しながら

 

「キンジはカナ……だけどあたしにはまだ、優がいると思ってたのに……あんたは……その水無月希と偽名を使う女……」

 

や、やばいアリアのやつなんかおかしいぞ!幸いイ・ウーの名前は聞かれてないようだが姉さんが俺をパートナーと言った言葉を聞いたらしい

 

「ま、待てアリア!違う!違うんだ!」

 

「……もぅみんな、何もかも……ほんとに、なくしちゃったよぉ……」

 

うつむいたアリアの目から涙が地面に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違うアリア!俺は裏切ったりなんかしない!

俺は……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第142弾 レキ様ファンクラブ会長村上の決断

まずい……アリアを泣かせちまった……

この子は命の恩人で必ず守ると決めた護衛対象だ。

だけど、俺にとっては友人で……

 

「……」

 

アリアはくるりと反転するととぼとぼと歩き出してしまう。

走る気力もないのだろうがやばいぞこれは!

 

「アリ……」

 

「まあ、待て弟」

 

ぐえ!襟首をつかむな姉さん!い、息が

そうこうしてる間にアリアは行ってしまう。

解放されると俺は姉さんを睨み付けた。

 

「何すんだよ!アリアの誤解を解かないと!」

 

姉さんはへぇと笑いながら

 

「やはり、本命はアリアか?」

 

「違うって!いい加減怒るぞ!」

 

状況を考えて実家や土方さんには言ってないが状況しだいでは言ってやると俺は思っていた。

 

「そういうことならお姉ちゃんが誤解を解いてやろう」

 

はい?

俺が思った瞬間、姉さんはいきなり、消えた。

瞬間移動……便利なステルスだなぁ……俺も欲しいよ

しかし、姉さん誤解を解くって……まあ、いいか……解いてくれるならそれに越したことはないか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

馬鹿キンジ……馬鹿優……これからどうしよう……

あたしはやけ食いをしようとしてももまんを大量に買って自分の部屋に戻る道を歩いていた。

今日はもう、寝よう……

 

「見つけたぞ神崎・H・アリア!」

 

聞き覚えのある声に振り向いてあたしは気分が悪くなった。

優をパートナーにするといった水無月希を名乗るあの女が立っていたからだ。

 

「何の用よあんた」

 

ガバメントで追い払うか悩みながらあたしは聞いた。

 

「そんな怖い顔するなよホームズ家の娘」

 

「優から聞いたのね?最低、あいつ……」

 

こんな女にべらべら話したんだろうか優は……口が軽い

 

「誤解するなよ?私はホームズ家の人間には知り合いがいるから知ってるだけだ」

 

私の家族と?

 

「誰よ」

 

「悪いが言わん。知りたきゃ自分で調べろ」

 

「喧嘩売ってるの?風穴あけるわよ?」

 

「やめといた方がいいぞ?今のお前じゃ私に傷一つつけられん」

 

いっそ、本当に戦うかとガバメントを手にとるが相手にはまるで隙がなかった。

腕を組んでいるだけなのに撃ち込んでも避けられる。

対峙してはじめてわかる。

この人は化け物だ。

やはり……

 

「本物の水無月希?」

 

「そう言ってるだろ?」

 

不適に水無月希は笑う

じゃあなんで……

 

「なんで、優をパートナーになんて……」

 

裏切られたと思った。

悲しい過去を知り、あたし達は更に、絆を深めたと思っていたのに……

優は……

 

 

「心配するな。優希はお前を大切に思ってる。私のパートナーなんて冗談で言っただけだ」

 

あたしを大切に?優が?

 

「だから、頼むホームズ家の娘、優希と仲直りしてやってくれないか?」

 

 

「ご、誤解なのは分かったけどなんで、水無月希が生きてるの?あんた優のお姉様なんじゃ……」

 

 

水無月希はふっと笑った。

 

「悪いが言えない。くだらない理由だからな」

 

「くだらない理由?」

 

世界最強と言われ、正義の味方だった水無月希が死んだことにした理由……一体なんなんだろう……

 

「言えんと言ったろ?じゃあ、優希と仲良くしろよ?アリア」

 

なんの前触れもなく水無月希は消えた。

瞬間移動のステルス……

やはり、水無月希には謎が多い。

いずれ調べないといけないだろう……

だが、その前に優と仲直りしないと……

 

「うう……」

 

目の前で泣いてしまった。

どんな顔で会えばいいのだろう

 

「馬鹿優……」

 

呟いてみたが解決策は見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 優希

 

あれから、3日過ぎた。

とりあえず、姉さんが言うには誤解は解けたらしいがアリアは俺の顔を見るたびに気まずそうに逃げてしまう。

教室で話しかけようとしても駄目だ。

キンジに対しては話しかけるなオーラ全開でとりつく間もなかった。

さて、どうしたもんかと考えていた裏でことは進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 村上

 

「な、なんだと!今、言ったことは誠なのか会員No.85」

 

「はい、確かに椎名優希はレキ様をデートに誘いました」

 

「むぅ……」

 

眼鏡を直しながらレキ様ファンクラブ会長村上は唸った。

 

「会長!断固阻止するべきです!椎名優希を血祭りにあげてやるのです」

 

デブの男が言った。

ここはレキ様ファンクラブ会合の場である。

とは言っても空き教室を使ってるだけだが40人集まって会議してるのは端からみたら不気味だ

 

「そうだな。やはり、椎名は……」

 

「お待ちください会長!」

 

村上が椎名優希を血祭りにしようと言おうとした瞬間、手をあげるものがあった。

 

「なんだ会員No2」

 

そう、彼こそ、レキ様ファンクラブを立ち上げた初期メンバーの一人だ。

 

「椎名優希を倒すのは当日まで、待つべきです」

 

「貴様!裏切る気か!」

 

「いえ、当日まで待つのは最大の理由があります」

 

「というと?」

 

デブの男が言う

 

「レキ様の浴衣姿が見られるのです」

 

ピシャアアンと雷がなるように辺りが静かになる。

 

「れ、レキ様の浴衣姿……だと」

 

ざわざわと騒がしくなる

 

「そうです。普段、ほとんど私服姿がないレキ様です!浴衣姿をシャッターに収めるチャンスなのです」

 

 

「し、しかし椎名優希とレキ様のデートを容認するなど……」

 

デブの男が唸る。

 

「むぅ……」

 

村上は難しい決断に迫られていた。

レキ様の浴衣姿を見るために椎名優希を泳がせるべきかあるいは徹底的に妨害しるか……

 

「多数決をとろう。それがレキ様ファンクラブの総意だ」

 

 

多数決は割れるにわれた。

レキ様の浴衣姿を見たいもの129、椎名優希抹殺すべし129参加しないものもいたが大荒れになった。

 

「貴様!レキ様は一人だからこそ美しいのだ!椎名優希にレキ様が汚されていいのか!」

 

「貴様こそレキ様の浴衣姿だぞ!こんなチャンスは二度とない!椎名優希は祭りで抹殺すべきだ」

 

「何を言う!レキ様にもしものことがあっては遅い!」

 

「もしものことなどない!我々がいる限り!」

 

「むうう……意見は割れたか……」

 

皆が村上を見る

 

「……」

 

村上はまだ、意見を保留していた。

 

「会長!」

 

「村上会長!」

 

運命は村上に委ねられた。

 

「私は……」

 

次の言葉でレキ様ファンクラブはまとまった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第143弾 優希プロポーズ!?

今日は7月6日、武偵高の夏休みはクエストブーストの関係から7月7月よりスタートとなる。

当然、期末も7月6が最後、だが解放的になる前に……さらにはレキとのデート……いや、出掛ける前に史上最大のピンチを迎えていた。

 

「終わった……」

 

最後の筆記試験を終えて夏休みの注意事項を担任が言ってから出て行き5分、俺は力なく机に突っ伏していた。

 

「よっしゃ終わったぜ!優、キンジ、不知火どっか遊びに行こうぜ」

 

「僕は構わないよ」

 

「俺は今から用事があるからすまん」

 

不知火とキンジの声が聞こえるが顔を上げる気力が……

 

「優は?ってどうした?」

 

「金がない……」

 

「はっ?」

 

そう、俺がこんなに力がないのも金がないからだ。

というのも最近、武偵弾を使いすぎたため請求書がとんでもない金額になってしまった。

借金1000万だ。

冗談じゃなくて本当に……

藤宮姉妹に無利子で立て替えてもらっているが今月は細かい支払いしたせいで7月31日まで金が振り込まれない。

アリア護衛の報酬も毎月、月末が基本なのだ。

飯も3日食ってないしな。

ついにガソリンも尽きて隼も動かなくなっちまった……あれは燃費よくないし……

 

「武藤……不知火金貸してくれ……」

 

ちなみにキンジには頼んだが貸してくれなかった。

他のメンツはアリスは法外な利子をふっかけるからアウト、マリは遠出でいないからアウト、姉さんはここ数日見かけない(いたとしても多分、貸してくれないが……)。

秋葉も貸してくれるし頼めば料理でもなんでも毎日でもお弁当とか持ってきてくれるが、頼り過ぎたくないのでアウト、レキやアリアは最初から選択肢になく、実家に言えば多分、月詠辺りが来て、俺の通帳を没収して管理するかもしれない……

一応、実家からは使用額無制限のクレジットカードは貰ってるがあれはもう、生涯使わないと決めている。

以上が現状なのだが

 

「すまん優!俺も今月は金欠だ」

 

「ごめんね椎名君、ちょっと、装備を整えたらお金が……」

 

分かってるよ……武偵は何かと金がかかるからな……

俺も装備品を優先したがための金欠なんだよ……

 

「おい優、明日レキとデートだろ?大丈夫なのか?」

 

「うるせえ……デートじゃない……」

 

力なく俺は言う!

もう、喋りたくない……

冗談抜きでやばいぞ。

 

♪♪♪

ん?

携帯が鳴ったのでポケットから手に取ると通話ボタンを押した。

 

「はい」

 

 

「今、いいか優希?」

 

「大丈夫です……土方さん」

 

公安0の土方さんだ。

何だろう?

 

「なんだ?声に元気ねぇな?どうかしたのか?」

 

「ハハハ……3日何も食ってなくて……」

 

「自己管理もできねえのかお前は?ちっ、しょうがねえな。校門まで出てこい。飯奢ってやる」

 

「まじですか!」

 

ガタアアンと椅子を蹴倒して立ち上がるとキンジがびっくりした顔でこちらを見上げる。

 

「あ、ああ今、武偵高前だ」

 

「みんなじゃあな!俺帰る!」

 

返事も待たずにまさしく疾風のように俺は窓から飛び降りて校門まで、ワイヤーで飛んでいく。

飯を食わしてくれるなら絶対に逃がさない。

 

「土方さん!」

 

タバコを片手にスバルのレガシィと意外に庶民的な車に乗った土方さんがこちらを見る。

 

「乗れ」

 

「はい!」

 

意気揚々と車の助手席に乗り込むと土方さんは車を発進させる。

 

「お前、金をなんに使ってるんだ?」

 

いきなり、土方さんが聞いてきたので苦笑しながら

 

「武偵弾です」

 

「ガキが持つのははええもんだが……まあ、お前の相手じゃ仕方ねえな」

 

土方さんは俺がどんな化け物クラスと戦ってきたかを知っている。

それに、実は土方さんは姉さんの知り合いでその関係から椎名の家とも細いながらも交流がある。

とはいえ土方さんが姉さんが生きているのか知ってるかわからないので下手なことは言えないが……

「で?お前は金を貸してくれる友人もいねえのか?」

 

「いやまあ……」

 

簡潔に事情を説明する。

アリアと喧嘩したことも含めてだ。

 

「なるほどな……今日、俺が来たのは神崎の件もある……」

 

レガシィが曲がり角を曲がると見覚えがある後ろ姿があった。

ツインテールをひょこひょこ揺らしてるあれは……

 

「ん?ちょうどいいじゃねえか」

 

土方さんは口元を緩めてクラクションを鳴らした。

アリアが振り替える。

土方さんは窓を開けてアリアに近づくと

 

「神崎今、時間あるか?あるなら飯でも食いに連れてってやる」

 

「土方さん?」

 

アリアと俺の目線が合う。

俺は冷や汗を書きながらやぁと左手をあげてみる。

アリアがなにやらわたわたしだした。

おい!そんなに俺の存在って嫌か?

 

 

「ひ、土方さんせっかくですけどまた、今度に……」

 

アリアが慌てて立ち去ろうとする中

 

「神崎 かなえの件でも話があるぜ」

 

アリアがピタリと足を止めた。

ずるいぞ土方さん……その言葉でアリアが釣られないはずがない。

「話は聞くわ」

 

そう言いながら、アリアは後部座席に乗り込んで来て、運転席の後ろに座った。

ねえ、アリアさん!そんなに俺嫌い!姉さん誤解解いてないんじゃないの!

と、この場にいない姉さんを思い浮かべながら

 

「それでママの……」

 

「先に飯だ神崎、東京に繰り出してもいいが……」

 

「土方さん……早く飯食いたいです」

 

グウウと腹の虫が泣いた。

 

「ちっ、ならそこのファミレスにするか文句言うなよ」

 

言うわけないだろ!やっと飯が食えるんだぁ!

 

 

「……」

 

そんなやり取りの中でもアリアは無言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、食った食った」

 

1時間後、山のような空の皿を前に俺は言った。

 

「食いすぎだてめぇ!遠慮を知らねえのか?」

 

土方さんは呆れたようにブラックコーヒーを口に運ぶ。

ちなみに、禁煙席しか空いてなかったのでタバコは吸ってない。

 

「土方さんもういい?」

 

うずうずしていたらしいアリアが言う。

彼女の前にはももまんが10個空になって置かれている。

お前も食いすぎだろ!

 

「神崎 かなえの件だろ?まあ、簡単な報告ぐれえだが、神崎かなえを有罪にした最初の裁判だが、何人か、イ・ウーに通じてるやつがいやがった」

 

まじかよ!てことはやはり……

 

「じゃあ、そいつらを調べれば……」

 

アリアが希望を掴んだみたいにぱっと顔を輝かせるが土方さんは首を横に振る。

 

「そいつらはもう、この世にいねぇ……変死体で見つかった。公にはされてねえが殺されたみてえだな」

 

「土方さんが殺したの?」

 

「馬鹿いうんじゃねえよ。殺されたのは俺が調べる前だ。それに、俺も確固とした証拠は掴めてねぇ」

 

「そう……」

 

アリアがしょぼーんと下を向いてしまった。

そうだよな……うまくいけば更に裁判を遅延させられたかもしれないのに……

 

「話はそれだけだ。後、これは他言無用だ。俺達に消されたくなきゃ黙っとけ」

 

「ありがとう土方さん。また、何か分かったら連絡下さい」

 

俺を無視するようにアリアが立ち去ろうとする。

 

「おい、神崎 アリア」

 

「は、はい」

 

アリアが振り向く。

「いい加減、こいつを許してやったらどうだ?その女とのパートナー宣言は冗談だったんだろ?」

 

「で、でも……」

 

アリアがちらりと俺を見てくる。

ついでに、土方さんまで睨んでくる。

え?俺が……悪いんだよね……

 

「すまんアリア!」

 

俺は90℃背中を曲げて本気で謝った。

 

「俺のパートナーはただ一人生涯神崎・H・アリアだけだ!だから、許してくれ!」

 

「し、生涯!」

 

ぼんとアリアが真っ赤になるが知るか!勢いで押しきってやる!このチャンスを逃したら後はねえ!

 

「ああ!俺はお前に命を助けられた!生涯味方だしずっとお前の傍でアリアを守る」

 

「ま、まままま、待ちなさい優生涯ってけ、けけけ……」

 

ん?

 

「けっけけけ……か、風あにゃあ!」

 

「なんでだあああ!」

 

その後、風穴地獄になりながらも最後は土下座してアリアに謝り、ようやくアリアは顔を真っ赤にしたまま

 

「ゆ、許す!許すからあっちにいけ馬鹿優ぅ!」

 

とガバメントを振り回すアリアから逃げながらようやく許されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ、アリアの問題はなんとか片付いたな……後はレキか……ふぅ……

 

 

ちなみに、この後、土方さんが10万円無利子で貸してくれたことは余談である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第144弾 レキデート再び

7月7日ついに夏休みが始まった。

 

祭りは午後6時からだからとりあえず、いつものように、トレーニングした後、秋葉と一緒に、中華料理屋炎に来ていた。

 

「本当に刺されますよお兄さんかーなーしみーのーです」

 

なんだそりゃ?

 

「私も見ましたが優君は道を踏み外したらああなりかねません」

 

「あ、山洞先輩も見ましたか?あれは主人公のまごとが最低すぎですよね」

 

何やら意気投合した二人が話し出す。

秋葉もアリスもアニメ好きだからな……

多分、それ系の話だろう。

 

「で?お兄さんの本命は誰なんですか?秋葉ちゃんですか?」

 

はええよ!気がついたらアリスの秋葉に対する呼び方が秋葉ちゃんになってやがる。

 

「私なんですか?」

 

無表情に自分を指差すな秋葉!

 

「違うってるだろ!」

 

まったくどいつもこいつも……

 

「ではレキさんですか?」

 

「おお、あの無表情な先輩ですね」

 

「今日この後、優君レキさんとデートですし」

 

「そ、そうなんですか!やりますねお兄さん。あれだけ女の子に手を出しといてパクッとレキ先輩を食べちゃうんですね」

 

お前の言葉は日本語なのかアリス!

 

「いい加減にしろ!」

 

切れた俺はゴンゴンと拳骨を二人の頭に手加減して叩き込みアリスは悲鳴をあげて後ずさる

 

「お、女の子を殴るなんてひどいですお兄さん」

 

「最低です」

 

右手ですりすりと頭をさすりながら秋葉も言った。

どうしりゃいいんだよ……ん?

 

「どうかしましたお兄さん?」

 

「いや……」

 

後ろを見ながら俺は首をかしげた。

 

「誰かに見られてました」

 

「やっぱりか?」

 

秋葉は風の流れで周囲を探知することができる。

やはり、誰か俺達を見ていたようだった。

心当たりがありすぎるな……

姉さん関連で俺は多分、かなりの組織に連鎖的に恨まれてるし、個人的にもランパンや魔女連隊には恨まれてるしだろうしな……

まあ、一応警戒しとくか……

 

「どうぞお兄さん」

へ?

どんと置かれたのは以前、レキが食べた地獄ラーメンだ。

あ、あれ?

 

「ま、待てアリス!俺は頼んでない!頼んでないぞ!」

 

「頼みましたよ。適当に頼むと」

 

だからって地獄ラーメンをチョイスするな!

これ食べられないと一万もするんだぞ!

 

「はい、開始です」

 

「まっ!」

 

結局あまりの辛さに食いきれずに一万円が財布から消えた。

トホホだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し離れた場所では

 

「椎名優希を確認。これより作戦を開始する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後5時40分、秋葉と別れた俺は上野駅改札口前でため息をつきながら携帯をいじっていた。

レキへのメールを読み返しながら千夏ちゃんのアドバイスを思い出す。

やれやれだ……これじゃ、本当にデートを待つ男見てえだな……

電車が着くたびに改札を見るがレキは来ない。

まだかなぁ……

30分前は早すぎたか……

 

そうして、午後6時ピッタリにレキの姿を見た俺は

 

「レキ!」

 

右手をあげてレキと目を合わせるとドラグノフ狙撃銃を背負ったレキがスタスタとやって来た。

 

「優さんこんばんは」

 

「おう」

 

分かってはいたがレキは浴衣ではなく武偵高の制服を着ていた。

千夏ちゃんの予想通りかよ……さすがだな

 

「?」

 

レキが無表情に俺を見ている。

何か喋らないと

 

「浴衣姿じゃないんだな」

 

「私は浴衣を持っていません。千夏さんが優さんが買ってくれると電話がありました」

 

おい千夏ちゃん!聞いてないぞ!

祭りの前に浴衣を買いに行けとはいわれたが……

 

「じゃあ、浴衣買いに行くか?」

 

こくりとレキが頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはいかがですか?」

 

デパートで捕まえた店員のお姉さんにセールをやっていたのでレキの浴衣を選んでもらっている。

俺じゃわからないからな。

 

「……」

 

しゃとカーテンが開くとピンクと赤を基調とした金魚柄の浴衣だがレキのイメージとはなんか違うな……いや、似合わないわけじゃないが……

 

「駄目ですか……では次を」

 

シャッとカーテンが再びしまる。

中でごそごそレキが着替える音が聞こえるが落ち着かないぞ……周り、カップルだらけだし

カップルじゃない組み合わせなんて俺とレキぐらいか……

 

シャッとカーテンが開くと店員がどや顔をしてきた。

いかがでございますか?

 

「……」

 

ちょっと言葉を失う黒を基調とした浴衣で帯は紫色、柄は桜か?なんかレキによく似合ってる……というか……

 

「かわいい」

 

思わず口から出てしまったが店員がにやりとする

 

「彼氏さんこれがお気に入りだそうですよ彼女さん」

 

「ではこれにします」

 

はっ!いかん彼氏彼女を完全にスルーするとこだった。

 

「い、いやこいつとは……」

 

「ありがとうございます。8万円になります」

 

えええ!

 

「ま、待て8万だと!」

 

たかが浴衣だろおい!

 

「はい、この作品はとある有名なデザイナーの作品であまり出回ってない貴重品を特価価格で販売していますおやめになりますか?」

 

「……」

 

レキと目があった。

無表情だが、買わなかったら俺が悪くなりそうだぞ一応金はある!あるんだけど……

仕方ないか……

 

「はい」

 

と札束を店員さんに渡す

 

「毎度ありがとうございます。これ、レシートです」

 

「ハハっハ……」

 

しくしく泣きながらレシートを俺は受けとるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優さん」

 

祭りで混雑してきた道をレキと並んで歩いているとレキがすっと8万円の札束を俺に渡してきた。

 

「いいよ。誘ったのは俺だしプレゼントだ」

 

「……」

 

レキは自分の浴衣に目を落としてからふるふると首を横に振る

 

「あなたに貰う理由がない」

 

「理由ならあるだろ?神戸での戦いで俺を助けてくれたし、実家じゃ、あの荒木源也相手に戦ってくれた。だから、もらってくれよレキ」

 

その理屈だと理子やアリアにもいずれ何かしてやらないといけないけどな

 

「はい」

 

レキはそう言うとお金を浴衣のおまけについていた巾着袋に入れた。

因みに、レキが着ていた武偵高制服はコインロッカーに入れてある。

時刻は午後7時、祭りは本格的に始まっている。

浴衣にドラグノフは激しく違和感だが、突っ込むまい

屋台が連なる路地を歩いているとレキが足を止めた。

 

「どうし……ああ!」

 

「さあ、射的だってああ!」

 

屋台の親父と目があった。

その親父は以前、姑息な射的で稼いでいたのをレキが叩き潰したあの親父だった。

 

「ま、まさか嬢ちゃん達にまた、会えるなんてな。やってくかい?」

 

見ると商品は猫のストラップやペンダント、コップと言った真っ当なものが多かった。

改心したんだな親父

「はい」

レキが言いながらコルク銃を手にとる。

 

「じ、嬢ちゃん悪いが5発だけにしてくれないかな?兄さんからも頼むよ」

 

まあ、真っ当にやってるからいいか

 

「レキ、五発だけだから好きなの射てよ」

 

「はい」

 

レキはそう言うとコルク銃を撃った。

 

パンパンパンパンパン

5発を発射し、取れたのはカロリーメイト4箱、そして、なんだか高そうな狼の形をした銀色のペアのペンダントだった。

 

「ほれ、景品だ。相変わらず凄い腕前だなぁ兄さんの彼女」

 

違うって!ん?

 

「優さん」

 

レキが銀色の狼の形のペンダントの片方を俺に差し出す

 

「くれるのか?」

 

こくりとレキは頷いた。

浴衣のお礼かな?

まあ、これくらいはもらおうかな?

 

「サンキューレキ」

ペンダントをいじるとへー、ロケットになってるのか……

最近ではあまり見かけないがロケットとはペンダントの中に写真を入れることのできるペンダントのことだ。

狼とかかっこいいしつけようかな……

 

「……」

 

レキが歩き出したので俺も後に続く

またなぁ嬢ちゃん達と後ろから聞こえたが今はレキだ。

 

「レキ!」

 

無表情だがカランコロンと風流のある音を立てるレキ

ドラグノフには違和感があるけどな……

なんでだろうな……この子といるとなんか落ち着くんだ。

っ!

頭がずきりと傷んだ。

血にまみれたレキ、暗闇の中で血まみれの俺は刀を抜いて言っている。

 

「行け…………レキを頼む」

 

これはなんだ?

 

「優さん?」

 

はっとして横を向くとレキが俺を見上げている。

身長は俺が高いから自然にそうなるのだ。

 

「どうかしましたか?優さん」

 

「い、いや何でもない。それより今日はよく、来たよなレキ」

 

俺は綿あめをレキに渡しながら俺も自分の分にかぶりつく

 

 

「話したいことがあると言われましたから」

 

そう言われてメールの内容を思い出す。

あれか……確か、武藤が無責任に書いたんだよな……

ど、どうしよう

 

「……」

 

レキが無表情に俺を見ている。

やばい、何か言わないと……そ、そうだ!

 

「か、カジノ警備」

 

「?」

 

「クエストブーストでアリア、キンジ、俺、秋葉でカジノ警備やるんだレキもやらないか?」

 

最近はレキともよく組んでいる。

それに、修学旅行の後のチーム編成ではレキとも俺は同じチームになりたいと密かに考えてるんだ。

遠距離をカバーできて絶大な信頼がある友人はレキだけだからな。

だからこそ、同じ仲間でクエストはやりたいんだ。

 

 

「はい」

 

「やってくれるのか!サンキュー!」

 

笑顔でレキの手をとって俺は言った。

 

「風を感じるのです。熱く、乾いた、喩えようもなく……邪悪な風を……」

 

ん? よくわからんがまあ、いいか

 

「じゃあ、祭りの続きだ!林檎飴食おうぜ」

 

「はい」

 

手を繋いだままだったがなんとなく、手を離すタイミングが掴めずレキと混雑の中を手を繋いで歩いていく。

うう、意識するとレキの手はひんやりとして小さいんだなぁ

 

林檎飴を買って食べようとした、瞬間

 

「よう、弟」

 

ヒョイと林檎飴が取り上げられたので慌てて後ろを見ると姉さんが林檎飴を口に入れていた。

 

「姉さん」

 

「ちゃぷ、あむ、なかなか上手いな。弟、今日も女をひっかえ……ん?お前?」

 

姉さんはレキを見て目を軽く見開いたが納得したように頷いた。

な、なんだ?

 

「なるほどなるほど、本妻はキチンとキープしてるわけだ。まあ、そうしてくれないとウルスの連中がうるさいし、あいても何か言うだろうからなぁ」

 

ウルス?なんだそれ

 

「蕾姫(レキ)、優希を頼むぞ」

 

こくりとレキが頷いた。

え?何?レキ姉さんと知り合い?

記憶にはないが……

 

「レキ」

 

「?」

 

お前はやっぱり俺と昔……

 

ブーン

うわ、なんだようるさい虫だな

 

「おっと」

 

姉さんが人差し指で虫を払うと虫は跡形もなく消滅した。

ひどいな姉さん、こがね虫は別に毒もないのに

 

「ちっ、パトラのやつ姑息な手を使いやがって」

 

パトラ?

 

「おい、弟」

 

ゴンと頭を殴られる。

痛ぇ!

 

「油断するなよ。次のお前の敵はかなり厄介だ」

 

敵?

 

「姉さん敵って」

 

「まあ、自己責任だ。アリアと蕾姫(レキ)はお前が守るんだな」

 

タアアンと地面を蹴り林檎飴をくわえたまま姉さんはビルの屋上に飛ぶと姿を消してしまった。

なんだったんだ?

 

「優さん」

 

手を繋いだまま、俺ははっとすると

 

「レキ、お前姉さんと……」

 

「く……椎名ぁ……」

 

うわ!

 

「む、村上」

 

なぜかボロボロのレキ様ファンクラブ会長、村上正はレキに手を伸ばし、

 

「れ、レキ様……」

 

と力尽きた。

なんだったんだ?とりあえず、救急車呼んどくか。

 

後に分かったことだがレキ様ファンクラブは姉さんにより壊滅させられ、像すら一撃で破壊する姉さんの攻撃を20発以上受けてレキ様ファンクラブ会長をなめるなと言った村上はなぜか姉さんに認められて一週間入院することとなった。

不本意だが村上に付き添ったためデート……いやいや、レキとの遊びは終わったが結構楽しかったな



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第145弾 レキデート再び(裏)―それは語られなかったもう一つの物語

「それでは作戦の確認をします」

 

7月7日、夏休みが始まるこの日、村上達レキ様ファンクラブことRRRの面々はそれぞれの配置につき、支持をまっていた。

 

村上は自室で数人の会員とともにモニターを見ている。

それぞれの会員の頭や各地につけた監視カメラの映像だ。

機器はコネクトやレザドから借りてきた。

 

「ついにこの時が来たか……」

 

村上は言いながら壁に張られたレキ様の写真を見る。

隠し撮りではなく正規品である。

1年の時の文化祭で武偵高の制服を着て、ドラグノフ狙撃銃を肩に体育座りをして星空を見上げている写真だ。

希望者は誰でも買える。

というのも学校では遠足や体育祭など写真を取って、廊下に張りだし、希望者は番号を書いて、封筒に金を入れて購入する。

つまり、写真をとるものは正々堂々とレキ様を撮ったわけで盗撮ではない。

そういう意味ではこの写真は貴重品で、レキ様ファンクラブでも昨年からファンクラブに入っていないと持てないという品だ。

村上は500枚買い、引き延ばしたり、小さくしたり保存用など様々な方法で保管している。

新規ファンは喉から手が出るほど欲しいが村上は譲る意思はない。

ちなみに、この写真合計で2000枚以上売れたことでちょっと裏では伝説になってたりする。

さぞ、写真屋は涙目で作業を行っただろう。

 

「会長」

 

「うん?どうした会員No.239」

 

最近、RRRに入ったコネクトの 一年生だ。

機械の扱いが上手いからこういったことには大活躍している。

 

 

「林っす!会長!名前覚えてくださいよ」

 

「番号を覚えるので十分だ。それで何かあったのか?」

 

「あ、はい。偵察中の海藤さんから……」

 

「番号で呼ぶんだ会員No.239」

 

「はい会員No.110が予想通り、ビルの屋上で反射光を確認しました。椎名優希は山洞秋葉と共に中華料理屋に入りました」

 

「ふむ」

 

村上は頷く機器を操作して電話を手にとる

 

「諸君、作戦開始だ全てはレキ様のために!」

 

「「「「「全てはレキ様のために!」」」」」

 

一斉に受話器から声が返ってくると同時にドンドンと銃声が聞こえてきた。

椎名優希を狙っていたビルの上のスナイパーはゴムスタン弾の直撃を受けて沈黙したはずだ。

 

「目標に命中!やりました会長!」

 

RRRのスナイプの生徒が村上の耳のイヤホンに歓喜の声を上げた瞬間

 

「ぐわ!」

 

「どうした会員No.100」

 

 

「会員No.99です!これはそげ……ぐぎゃ!」

 

「おい!」

 

「……」

 

どうやら会員No.100と99はやられたらしい。

 

「会員No239、狙撃した相手を探せ」

 

「了解っす」

 

カタカタと機器を叩き出す会員No.239

 

「ぬぅ……やるなロリコン共」

 

RRRが椎名 優希を守っている。

実に奇妙なことだがこれは数日前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

その日、村上はファンクラブで決まったレキ様の浴衣姿をとった後、椎名優希を排除というのを頭に入れながら今日、レキ様が食べたカロリーメイトと同じ味を口に入れながら携帯の画像を確認していた。

ほとんどが隠し撮りだが、中には正規品もある。

 

「うむ、レキ様はやはり、お美しい……完成されたまさに、芸術」

 

うんうん村上が頷きながら人気のない廊下を歩いているときだった。

 

「RRR、レキ様のレキ様だけのレキレキファンクラブ会長村上だな?」

 

「ん?」

 

見るとひょろっとした優男風の武偵高の制服を着た男が腕を組んで村上を見ている。

 

「何者だ?」

 

尋常ではない男の気迫を感じながら村上は言った。

 

「失礼、私はこういうものだ」

 

と名刺を差し出してきたので見てみる。

 

『R4会長、響 亮」

「R4だと?聞いたことがないぞ」

 

優男はふっと長い髪を左手でかきあげながら

 

「アリアちゃんのためのアリアちゃんだこのロリロリファンクラブ、通称R4(アールフォー)だ」

 

アリアだと!椎名優希の近くにいるあのロリか!

 

「それで、そのR4が私になんの用だ?」

 

「一応、僕は先輩だ村上会長、敬意を払ってもらおうか」

 

3年だと!

 

「失礼、ではその先輩が一体どのようなご用件で?」

 

「何、簡単さ」

 

ふっとキザに笑いながら響は

 

「次の七夕のお祭り、共闘しようじゃないか」

 

「何?共闘?」

 

軽く目を見開く

 

「椎名優希を排除するのだろう?我々も彼と遠山キンジを当日排除する予定だ。一緒に行動しようじゃないか」

 

「遠山キンジだと?なぜやつを」

 

「ふ、奴はアリアたんとデートする予定らしい。それに、最近、遠山キンジ、椎名優希はアリアたんに近づきすぎている。次も同じクエストを受けるらしいからな」

 

アリアたんだと?

 

「そこで、祭り日の祭り前に二人を排除しようじゃないか。RRRも椎名優希を排除するんだろ?」

「もちろんだが、それはレキ様の浴衣姿を写真に納めてからと決まっている」

 

「すると、二人が合流してから排除すると?それでは手遅れだ。考え直したまえ」

 

「我々の考えは一つだ。レキ様の浴衣姿の写真を手にいれる!」

 

「どうやら、君を誤解していたようだ村上会長」

 

「何!?」

 

響はクククと笑いながら

 

「よろしい、ならば勝負だ会長、我々は全力で椎名優希達を排除しよう。祭りが始まるまで守りきれるかな?」

 

「当たり前だ!先輩、私はあなたに敬語は使わない!なぜなら、あなたはレキ様ファンクラブの敵となったからだ!」

 

「いいだろう。アリアちゃんのアリアちゃんだけのロリロリファンクラブが君たちに宣戦布告する全力で椎名優希と遠山キンジを祭りの日に祭りが始まる前に排除する!」

 

「受理しよう。レキ様だけのレキ様だけのレキレキファンクラブ村上正が宣言する」

 

「ふ、しかしロリの良さがわからんとは悲しいな村上君、アリアたんこそ究極のロリの化身だというのにな。君たちのレキもロリの素質はあるが胸が少し育ってしまっている」

 

「貴様レキ様を愚弄する気か!完成された芸術!静かな人形ねような美しいレキ様とあのような凶悪怪獣ロリ娘を比べるとは!」

 

「なんだと?ならば教えてやろうロリの良さを!見るがいい真っ赤になってわたわたしているアリアたんの写真だ」

 

響が携帯電話をつきつけてくる

 

「ふ、ならば私だって負けん!見よ!犬と戯れるレキ様の写真だ!」

 

「なんだと!ならばこちらはレオポンと……」

 

不毛な写真見せあいは深夜まで続き、見回りに来た蘭豹に叩き出されるまで続いたが両者に妥協点は見えず決着は祭りでつけることとなった。

そして、迎えた祭り当日、響達R4と村上達RRRは学園島各地で他の一般生徒に気づかれないように壮絶な潰し合いを行っているのだ。

格闘、火器、罠、情報ありとあらゆる戦いのバトルロワイヤル

殺しだけは禁止だが、恐らく、ファンクラブ同士の戦いでは最大規模の戦いが裏では行われていた。

前話で優や秋葉が感じたのはこの二つの潰し合いの余波である。

そして午後5時になる頃にはRRR5人R4は10人にまで減っていた。

ちなみに外部を含めてRRRは248人、R4は200人の会員がいる。

いかに凄まじい潰し合いだったか想像できるだろう。

潰された会員はみんな病院送りか自宅療養だ。

 

「残ったのはこれだけか……」

 

もはや、時間も戦力もまずいことから村上も上野駅に出てきていたがここでは迂闊に銃が使えないからその他で戦わないといけない。

しかし、戦力が半壊しているのは向こう同じで恐らく、響も出てきているだろう。

だが、戦力は倍だ。

会員No.239を含めて戦闘がでない会員はおいて来たから実質3人対10

願わくば戦闘ができない相手だといいが……

 

「会長もはや時間が……」

 

時刻は午後6時椎名優希やレキ様はすでにここに来ているかもしれない。

遠山キンジは7時にくるはずだから実質、村上達の勝利は目前だったがこの人混みで襲われたら終りだ。

 

「か、会長レキ様です」

 

「何!おお……我が女神」

 

改札から歩いてくるレキ様を見て村上は決断した。

やはり、武偵高制服のレキ様はこの町で浴衣を購入するのかもしれない

村上は携帯である番号を呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君から壊滅を望むとは嬉しいよ村上会長」

 

まずいと村上は思った。

なぜなら、相手は10人全員が戦える面子らしい。

こちらは3人だ。

呼び出して決戦は無茶だったか……

 

「さあ、RRR、ロリの前に屈せよ」

 

響がばっと会員に襲いかかるように言い、村上が覚悟を決めたその時だった。

 

「見つけたぞ」

 

ドンといきなり裏路地で対峙していた村上達の前に空から女の子が降ってきた。

見覚えがあるぞ!椎名の姉か

 

「何か用ですか?おばさん」

 

ロリでないものはおばさんていう響が言った。

知らないとはいえ世界最強の存在に向かって

 

「お前らだろ。今日、学園島で大騒ぎしていた黒幕は。私は眠りを邪魔されて不機嫌なんだ。それに、お前ら私の弟を狙ってたらしいな」

 

「椎名優希の姉だと!邪魔をするなら……」

 

その瞬間稲妻が走ったような気がした。

一瞬で響達、アリアちゃんのためのアリアちゃんだけのロリロリファンクラブの10人が空を舞った。

地面に叩きつけられ響がなんとか顔を上げ

 

 

「馬鹿な……ロリコンがおばさんに負けるなぞ……あっては……」

 

「ほぅ、私の攻撃に耐えたかごほうびだ」

 

ドゴオオオオと大砲ような音と共に響にパンチが入り、響が沈黙する。

一瞬で、アリアちゃんのアリアちゃんだけのロリロリファンクラブは壊滅した。

 

「さって次はお前らだな」

 

にやりと戦闘狂の視線を村上達に向ける。

いかんと村上達は武器を取り出そうとしたが気がついたら空を飛んでいた。

響達と同じように殴り飛ばされたらしく地面に落下する。

 

「ぐは!」

 

激痛に耐えながらなんとか体を起こすと残ったの2人も気絶していた。

 

「ほぅ、お前も耐えたか」

 

ぞくりした瞬間、村上の体がぶっ飛んだ。

壁に叩きつけられてずるずると落ちて地面をなめる

 

「なんだったんだこいつら?さて、弟でもからかいにいくかぁ」

 

体が……動かん……

顔だけなんとか動かすとヒラヒラと何かが落ちてきた。

村上がいつも持ち歩いている女神の写真だ。

レキ様……そうだ私はレキ様の浴衣姿を……

 

「ん?」

 

「ま、まだだ……」

 

水無月希が目を軽く見開いた。

がくがくと足を揺らしながら村上は立ち上がった。

 

「驚いたな。2発以上耐えたやつは久しぶりだ。手加減してやるから寝てろ」

 

水無月希の姿が消え、村上の体が7回はねあがった。

7発の連打だ。

引きちぎられたような激痛を浴びながら最後の一発を受けた村上はビルの7階近くまで吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる瞬間、風が彼を包んでしかし、激しく叩きつけられた。

 

「終わったな」

 

「ま、まだ……だ」

 

もはや感覚がない。

村上はただひとつの目的のために立ち上がる。

レキ様の浴衣姿を見て椎名優希を排除する。

壁にもたれ掛かりながらも村上は立った。

 

「何者だお前?」

 

水無月希は腰の刀に左手を置いた。

村上はふっともう見えない右目を閉じながらボロボロの体で

 

「だだのファンクラブ会長さ」

 

「ファンクラブ?」

 

水無月希は刀から手を放して言う。

そして、

 

「面白いやつだな。名前は?」

 

「RRR会長……村上正」

 

「そうか、戦士村上、お前はよく頑張った。なぜそうまでして戦う?」

 

「全てはあの人のために……これは愛だ!」

 

「なるほどな。弟のやつがお前の崇拝する女に手をだした訳か……後で見に行くか」

 

「く……」

 

ふらりと村上はふらついた。

 

「じゃあ、止めだな」

 

水無月希の姿が消えた。

来ると思った瞬間、連打の嵐が村上を襲った。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11連打

 

「ぐが……」

 

どしゃりと村上は地面に落ちて今度こそ動かなくなった。

 

「悪く思うなよ」

 

といい水無月希が立ち去った後、

 

「れ、レキ様……」

たが、驚いたことに村上はまだ、意識があった。

ずるずるとゾンビのように裏路地からただ、一人の女性を求めて出た瞬間あの男を見た。

 

「……くっ、椎名ぁ」

 

「む、村上?」

 

驚いた顔の椎名優希を一目に、村上は最後に浴衣姿の女神(レキ)の姿を捉えて手を伸ばした。

 

「……レキ様……」

 

最後にお会いできたのがあなたでよかった……

ファンクラブの中で唯一、レキ様の浴衣姿を見た村上正はついに力尽きた。

 

これは語られなかったもう一つの物語

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第146弾 超ヤンデレ強襲

そういえば、そろそろ届くかな?

用事があるというレキと別れた俺は、部屋に戻る。

確か、カジノ警備で着る服が送られてくるはずなんだよ。

どんなのかなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜなんだ……

箱に入っていたのは

『女性ジュエリーショップ社長』

 

と、なぜか女装のセットまで入っている。

陰謀かよと思いながら付属してある紙を見たら男は一人のみでどちらかは、女装必須と書かれてあった。

カジノ警備の依頼主め俺が女顔だと思ってちくしょう!

キンジを女装させるのは無理だから仕方ねえか……

 

「あっ、背中っ、せ、背中はダメっ!見たら風穴!風穴あけるわよ!」

 

ん?

リビングからアリアの声の方を見るとキンジがアリアの小部屋を開けていた。

そういや、アリアはどんな格好なんだろう?

 

「アリア?」

 

と、除き込む

バニーガール……だとぉ!

わたっ、わたたっ、とアリアが手で隠そうとしているその背、左側には古い、弾痕があるな

それが恥ずかしいのかな?

それぐらいで恥ずかしがるなよな。

まあ、男と女の違いはあるんだろうが弾痕ぐらい俺もあるぞ、古傷では右肩近くとかにな

 

「おい、別にお前の背中なんてどうでもいいんだがな」

 

とキンジ。

そういや、普通に話してるなお前ら仲直りできたのなら何よりだ。

 

「服装ぐらいガマンしろ。まあ、手伝ってもらう俺が言えた立場じゃないが、武偵は潜入捜査とかGメンやるときはいろんな衣装を着なきゃいけないんだ。ほら。本番でトチらないためにも少しそのカッコで生活して、慣れとけって」

 

「う~~」

 

と唸ったアリアは悔しそうにしてツインテールとウサギの耳を振ってこっちを向く。

何か違和感がある……ん?なるほどアリアのやつ、胸に大量のパッド入れてるな?

バニガールの衣装は胸がないと残念な形になるからな……

言ったら殺されるから言わんが

 

「ア」

 

ずむ!

 

キンジが何か馬鹿なことを言おうとした瞬間、アリアの足がキンジにめり込みどぅとキンジが倒れる。

 

「パットはファッション!パットはおしゃれ!パッ!ト!は!無罪」

 

アリアがじたんだ踏むように倒れたキンジを踏みまくる。

キンジは必死に身をよじって避けてるが自業自得だろ

 

だんとアリアの足がキンジの顔の右に落とされ、丁度キンジの頭をアリアがまたぐ形になった。

見る人みたら誤解だねぇキンジ、白雪さんとか

 

「キンちゃん!どうしたの!?」

 

ちょっ!?

俺は白雪の噂をしたことを心底後悔した。

 

ばばん!と部屋に入ってきたのは巫女装束で、旅帰りらしく風呂敷を背負った白雪さんだった。

キンジの額をヒールで踏んで腕組みしたバニーガール姿のアリアを見て

 

「神崎・H・アリア……!う、うふふ、ふふふふふ……」

 

や、やばいぞ!ヤンデレモード発動か!

 

「し、白雪違う!これは違うんだ!」

 

「何が違うの優君」

 

ひいい!こええ!

 

「なんでもありません!」

 

話しかけたら俺に被害が飛んできそうなので俺は黙った。

だって怖いし!

このオーラだけなら姉さん並だよ白雪さん!

 

御免さないませという感じに白雪は顔をちょっと伏せ、ぱっつん前髪が作る影で目を隠した。

 

さぁ―と武装巫女が流す言い様のない殺気が室内に張り詰めていく。

ここに、アリアがいなかったらすでに全速力で逃げてるぞ。

し、仕方ねえ炎を使うなら紫電で……

 

「キンちゃん、ただいま」

 

「お、おかえり」

 

「ごめんなさい。星伽でキンちゃんを占ったらウサギ難の相が出たから私、お仕事のあとすぐ帰ってきたの。それで、こんなこともあろうかと『あれ』、持って来ちゃったんです」

 

あれ?なんだろう

 

 

「あ、あ、あれはやめろ白雪!昔、使うなって言ったろ」

 

とキンジが慌てて起き上がった瞬間重たい金属物が白雪の緋袴の内側から落ちた。

あ、あれ?あれとよく似たもん昔、見たぞ。

確か、姉さんがアメリカ軍と……

 

「だからごめんなさいなんです」

 

叫びつつ白雪が持ち上げたそれがぶっといバネ仕掛けで、がしゃかじゃがしゃと電光石火の早さで組み上げ

抱えるように構えた。

 

「「「!」」」

 

俺達は絶句する。

M60マシンガン。

米軍が開発した重さ10キロにもなる戦争用の機関銃だ。

昔、姉さんはこれを装備していたアメリカ軍の一個大隊を壊滅させたことがあるから知ってる。

姉さんは余裕でも俺には!

ていうか白雪!それは日本じゃ持ってちゃ駄目だろ!

 

白雪はM60を右腕一本で腰だめに構えると白小袖からぞろろおおと銃弾ベルトを出し、左手に乗せて給弾の構えを取った。

 

「この泥棒猫!そんなあられもない服で、キンちゃん様と、お、オトナの遊びに興じるなんて万死に値します!万死!万死!すなわち1万回死すべし!」

 

「な、ななな何なのよこの女は!毎回おかしいわよ!」

 

さすがに火力負けするからかアリアが壁際まで後退する。

や、やめろアリア!俺を盾にするな!

白雪は問答無用とばかりに瞳孔がヤバイことになった眼でアリアというか俺に照準を合わせる。

や、やめてくれ!白雪ぃいいいい!

 

「や、やめろ!」

 

悲鳴をあげながら俺は両手を白雪に突き出した瞬間

 

「くだばれ神崎アリア!これは天誅!天誅なのですっ!あはっ、あははははは!」

 

「ぎゃあああああ!」

 

俺が悲鳴をあげた瞬間

 

ばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりぃ

 

撃たれた瞬間、アリアが忍者のように天井裏に逃げ込んだので俺もワイヤーを張って慌てて天井裏に逃げ込む

下からはバーサーク白雪は壊れ気味の高笑いを上げつつ天井にNATO弾を叩き込む

ぎゃあああああ!天井裏に穴が!死ぬ死ぬ!

前を見るとすでにアリアはいない。

早すぎる。

うわあ!

音か気配かしらんが白雪さん!狙ってるの俺だから!アリアはいないからやめてぇ!

 

「アハハハハハハハハハハハハ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

命からがら部屋から脱出した俺はぜいぜいと荒い息をはきながら一息ついた。

ここは寮から200メートルほど離れた場所だ。

キンジも巻き込まれたはずだがどうなったやら……

 

「ふぅ……」

 

とりあえず、白雪が落ち着くまでは戻れん。

となるとうーん

 

「おーう、弟」

 

ん?

 

「姉さん?今日はよく会うね」

 

「まあ、部屋に行ったら星伽の白雪が暴れてたから沈めといたぞ。久々に手応えがあった。村上といい今日は大量だ」

 

満足そうに姉さんは言う。

そうか、姉さんが白雪なんとかしてくれたか……てか、もっと早く来てよ

 

「弟、今から時間あるか?」

 

「え?まあ、夏休みだしカジノ警備以外にもクエストは受けてるけど今のところは」

 

「そうか。なら、行こうか」

 

直後どっと首に衝撃が走り意識が飛ぶ

 

「ね、姉さん……」

 

「おやすみ優希、教授がお前を待ってるぞ」

 

「ぷ、プロキシ……オン?」

 

 

俺の意識はそこで途絶えた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第147弾 幽霊を追え!

「では君は守り続けてくれるのかな?私の推理ではこれは確実に起こることだ」

 

その言葉に夢の中の俺は言い返す。

 

「それが現実だとしたらあの子は一人になり周りは敵になる!俺は命を救われた時からどんなことがあってもあの子を守ると決めたんだ」

 

夢の中の青年が微笑みながら言う。

 

「彼女に味方することにより君は君の知り合い達すらと戦うことになってもかい?」

 

「当たり前だ!あんたが依頼を破棄しても俺はアリアは死なせない!」

 

「やはり、君を選んで正解だった。スサノオの血と緋弾の血、これはある意味必然なのだから。では、見せてくれ緋弾を守るもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……く……」

 

ん?

 

「優君、そろそろ起きないと日がくれますよ」

 

「あれ?秋葉?」

 

上半身をベッドから起こしながらベッドの上に座りこちらを見ている秋葉

 

「あれ?」

 

周りを見回すがここは、俺達の部屋だ。

確か、昨日姉さんに気絶させられて……それからどうした?

まるで記憶になかった。

どうやら、気絶させられてベッドに寝かされたらしいな……

何がしたかったんだ姉さん?

教授がお前を待っていると言ってたが……

 

「優君?」

 

秋葉が首を傾げる。

 

「い、いやなんでもない」

 

そういえば寝室はM60でズタズタになったはずなのに……あれも夢だったのか?

時計を見ると午後6時夏場だから日は落ちてないが冬ならもう真っ暗な時間帯だ。

 

「そういや、お前昨日アリアと一緒にいなかったな。どっか言ってたの……か?」

 

そこで俺は初めて気付いたんだ。

 

「アリスさんに誘われて秋葉原に行ってきました」

 

秋葉だけにか?って

 

「なんだ、秋葉その格好は!」

 

「?」

 

可愛らしく首を傾げるな!

そう、秋葉はなんとバニーガールの服装をしていたのだ。

ロングのウェーブがかかったら髪に無表情顔、それにアリアよりは大きい……その胸が……

 

「カジノ警備の服を着てみました。どうですか優君」

 

何て言ってほしいんだよ!

 

「そ、その……似合うんじゃないか?」

 

「優君はスケベです」

 

なんでだよ!

秋葉はちょっと顔を赤くしながら

 

「近衛から妻や愛人になる人はいますけど、優君は私を愛人にしたいんですか?」

 

えええ!

 

「レキさんとデートしてお祭りに言って」

 

いやいや、待て待て!いきなり何いってるんだ秋葉!もしかして、祭りに連れてかなかったから怒ってるのかお前!

 

『秋葉はお前のこと女として好きだったぞ』

 

姉さんの言葉が脳に響いてくる。

あれは子供の時の話だからな。

それとは関係なく祭りに連れていかなかったのを怒ってるんだろう。うん

 

「何が望みなんだ?」

 

「なんの話ですか?」

 

とぼけるのかよ秋葉!

というかまさか、意識して言ってないのか?

 

「わかったよ。今度、祭りがあったら連れて行くから」

 

「……」

 

秋葉は俺をじーと見ていたがやがて

 

「約束ですよ」

 

と、僅かに微笑んで言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、俺と秋葉は東京駅の前に隼で着ていた(ガソリン代は秋葉が出した)。

 

「眠い……」

 

時刻は深夜2時を回る頃だがさすがは日本の首都の駅前、人々の往来は夜中でも途絶えない。

なぜ、俺達がこんなところにいるかといえば数時間前に遡る。

 

「それでは優君にプレゼントです」

 

「プレゼント?」

 

再び無表情に戻った秋葉を見つつ、渡された封筒を開ける。

こ、これクエストブートのやつだな。

 

「取ってきました」

 

「いや、俺達カジノ警備があるだろ?無理だって」

 

「1日で終わる依頼です」

 

「何?」

 

とりあえず、紙を出して読んでみると

 

依頼内容・東京各地に出没する首なしライダー確保

 

単位 0.5単位

 

報酬 11万円

 

参加資格

アサルト、ロジ SSR、スナイプ推奨なお、SSRは攻撃に特価した能力が望ましい。

300キロ以上出るバイク、または車を所持しているものに限る

補足

犯人確保に至らぬ場合は報酬単位なし

 

首なしライダーだぁ?

 

「参加登録はすませてます」

 

おい!秋葉勝手に!待てよ

 

「バイクか……ならレキをさそ……」

 

「私がやります」

 

「え?秋葉が?」

 

「私が!やります」

 

なぜなんだ……無表情なのに秋葉怒ってるのか?いや、クエスト持ってきたのは秋葉なんだから感謝してるけどな

 

「分かった。じゃあ、秋葉と組むか」

 

「はい」

 

ん?なんか犬のシッポと耳が秋葉から見えるような幻が……パタパタとシッポを降ってるその幻はおれが秋葉を忠犬として見てるからか?

 

「優君?」

 

「い、いやなんでもない。んじゃまず、この首なしライダーの出没場所の調査だな」

 

一言で東京と言っても広いからな

 

「もう、特定してます」

 

はや!

秋葉が東京の地図を俺に渡してきたので 見ると赤い点が数個あった。

バラバラだな……

 

「これだけじゃ特定は無理だな……ん?」

 

地図を見ると東京駅に赤い印が集中している。

今日もここに現れるかはわからないが……

 

「首なしライダーは真夜中に必ず東京駅の前を通りすぎます」

 

それを早く言え!

まったく、優秀なくせに抜けてるなお前は

 

「なるほどな……って夜中だと?」

 

「はい深夜2時頃です」

 

秋葉……お前最初からこれやらすつもりで起こさなかったのかよ。

いいけどな……

にしても……

 

「結構、赤い点が多いが武偵高の依頼にはこれまでなかったのか?」

 

 

「20組が挑戦してますがいずれも失敗しています。不知火さんと武藤さんも組んで当たりましたが失敗しています」

 

不知火と武藤がか?

俺は携帯を取り出すと不知火の番号を呼び出す

 

「もしもし椎名君?」

 

「悪い不知火、今いいか?」

 

「うん、どうかしたのかい?」

 

「最近、武藤と首なしライダーのクエスト受けただろ?俺も受けるんだけど」

 

「あれを椎名君が?」

 

まあ、秋葉もいるけどな

 

「隼で追撃できるし丁度……」

 

「椎名君、悪いことは言わないから止めた方がいいよ」

 

ん?

 

「どういうことだ?」

 

「あれは本物だから」

 

「本物?」

 

「そう」

 

不知火は声を落とすと思い出したように

 

「消えるんだ首なしライダーは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、東京駅に戻る。

 

「幽霊ねぇ」

 

あの不知火が言うんだ。

なんか少し不安になるぞ

バックアップ要員用意しとくべきだったか?

時計を見ると2時30分だ。

もうこないのかな……

念のため土方さんに聞いてみたが首なしライダーの話は公安0にまでまだ、回ってきてないらしい。

首がないバイクが走るからビックリして事故が起こる程度では公安0は動かない。

彼らも暇ではないからだ。

 

「あむ」

 

ん?

横を見ると秋葉が買ったらしいあんパン(こしあん)を食べている。

張り込みはあんパンが基本か?

 

「じゅー」

 

牛乳まで……

 

「……」

 

秋葉が俺を見る。

牛乳と俺を見比べて

 

「飲みたいんですか?」

 

と牛乳を差し出す。

いやいや!間接キスとか考えろ秋葉!

お前絶対に将来悪い男に騙される口だな。

付き合う男ができたら調べてやろう。うん

 

「それはいらんからそろそろ」

 

いい加減眠いので帰るかパトロールでもいかないかと言おうとした、瞬間

 

ブイイイイイイイン

俺の前を大型バイクが通りすぎた。

で、でやがった首なしライダーだ!

 

「秋葉!」

 

さっと、秋葉が隼の後ろに座り、腕を俺の腰に回してくる。

ブオオンと隼のエンジンが唸りを上げた瞬間、加速して首なしライダーが消えた方角に向ける。

夜中のバイクレースだな。

目を空けて戦闘狂モードを覚醒させて

 

「行くぜ秋葉!単位は頂だ」

 

「目的が情けないです優君」

 

後に考えたら受けるんじゃなかったよこのクエスト



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第148弾 首なしライダー追撃戦

首なしライダーなんて本当にいるのか疑問だったがこれは信じるしかねえな……

目の前を通りすぎたバイクのヘルメットの中身がなかった。

一瞬だが、確かに見えた。

それに、前を疾走する首なしライダーは黒のライダースーツにバイクは見間違えるか!

MTT・タービン・ストリート・ファイターだ!

ノーマル改造では隼を凌駕する化け物オートバイだ。

本来ジェット機に使われるような技術が盛り込まれており当然のことながら乗りこなすのは相当な技量が必要だ。

それに、あの凄まじいエンジン音は間違いない。

 

首なしライダーは学園島方面に向け一般道を疾走する。

夜中でもそれなりに、交通量があるため右に左に曲がりながら車を避けていくのだが、首なしライダーの噂を知っている人達はエンジン音を聞いたら慌てて左や右に避けている。

いつか、事故が起こるぞ!

よく、これまで起きなかったもんだ

前方100メートルだ。

捕らえたぜ

 

「秋葉!」

 

「はい!」

 

秋葉が右手を俺の脇から降り下ろした瞬間、凄まじい向かい風が首なしライダーを襲う。

速度が減速したのを確認して一気に距離を詰める。

こちらは、秋葉のステルスで風の影響を中和してるため速度は変わらないため、隼でも十分追い付ける。

 

「止まれ!」

 

首なしライダーの横につき左手でガバメントを首なしライダーに向ける。

首なしライダーが上半身、体をこちらに向ける右の人差し指を天空に向けるとちっちっちと馬鹿にするように動かした。

挑発だとはわかるが首なしでやられると腹が立つ。

どうせ、頭には何か仕掛けしてやがるな

 

「上等だてめえ!」

 

バスバスと麻酔弾を叩き込む。

置いても秋葉が風でキープするから容赦ない。

効果があるかしばらく、並走するが首なしライダーは落ちない。

確かに、ライダースーツにめり込んだはずなのに!

首なしライダーはまた、ちっちっちと指を動かした瞬間、いきなり俺たちに近づくと隼を蹴飛ばしてきた。

間一髪減速させてそれをかわす

首なしライダーは攻撃はしてこないんじゃなかったのか?

不知火達に聞いた話ではおちょくるような動きをして、追撃者を翻弄し続けたんだそうだ。

 

そっちがその気ならもう容赦しねえ!

 

隼と首なしライダーのバイクが赤信号無視し、交差点をぶっちぎる。

幸い、車はいなかったが早く、確保しないと……

 

「優君、私がやります」

 

秋葉が隼の上に立ち上がる。

こいつは空を飛べるからレキのように心配はないが大きな力を使う気らしい

 

「はっ!」

 

気合い一閃というように秋葉の声と共に、首なしライダーの前方に巨大な竜巻が現れた。

首なしライダーが竜巻にもろに突っ込み、空に巻き上げられる。

強引だけどあれなら、逃げられまい。

隼を止めて、様子を見る。

徐々に竜巻は落ち着き、晴れたそこに首なしライダーが……

 

「何!」

 

「優君、後ろ!」

 

キイイイイイインとジェットエンジンのような音が背後から聞こえた瞬間、俺はガバメントを発砲。

首なしライダーに当たるが怯まず、突っ込んでくる。

その手には鉄パイプが握られている。

 

「く!」

 

秋葉が右手からかまいたちを首なしライダーに放った。

首なしライダーの右手が千切れとび、鉄パイプが地面に落ちる。

お、おい秋葉やり過ぎだろ!

だが、首なしライダーはまったく、怯まずに突っ込んでくる。

秋葉がさらに迎撃しようとするが俺は隼を発進させた。

防げないわけじゃないだろうが動いている相手に動かないのは的と同じだ。

 

『あれは本物だから』

 

不知火の言葉を思い出す。

なるほどな最初は二人いるかと思ったが違うらしい。

見ると首なしライダーの右手が再生している。

化け物かよ!

ローズマリーのような吸血鬼というなら納得はいくがああ言った無限再生能力がある奴は厄介だな。

万が一を考えて、銀弾を込めた左のガバメントを首なしライダーに撃ち込む。

すると、僅かに首なしライダーは横に逸れた。

やっぱりか!

 

「秋葉あれは魔女連隊のドリスと似たタイプだ。操ってる奴がいるぞ!」

 

追撃戦は首都高に入る。

並ぶ車を交わして、強引に入り、ETCのバーをぶっ飛ばす。

またかよ!

後ろから怒声が聞こえたが首なしライダーを見たのか青くなるドライバーが見えた。

首都高はこの時間、トラックがかなり走っている。

気を付けないとあの世いきだ。

というかこのまま、いけば隼のガソリンが尽きるのを待つだけだ。

首なしライダーは再び前を時速190キロで走っている。

車やトラックの間を走りながら……

操ってる本体はどこだ……

 

「優君!」

 

はっとして、前を見ると首なしライダーが何か手に持っている。

何をするか分かった瞬間

 

「秋葉!」

 

背後の秋葉が風に乗って離れる気配を感じながらデザートイーグルを隼につけたホルスターから抜くと首なしライダーに向ける。

距離50メートル、拳銃の射程じゃないがやるしかねえ!

首なしライダーの前方にはタンクローリが走っている。

引金を絞ろうとした瞬間、射線に馬鹿みたいな改造したバイクが割り込んできた。

ば、馬鹿野郎!

派手な金髪に二人乗りのバイク、首なしライダーの噂を聞き付けた不良か何かだろう。

その間に首なしライダーがタンクローリに何か……いや、爆弾を投げつけた。

ぺタリとタンクローリに何かが着いた瞬間、俺は前方にワイヤーを発射しながら隼から飛び降りた。

ワイヤーが前方を走っていた二人乗りしている二人に絡み付き引っ張りながら空中で左のワイヤーを発射し、防音壁にワイヤーをめり込ませてブランコのように宙吊りになった瞬間

 

ズドオオオオオオン

と凄まじい爆発音が東京に響き渡る。

高速道路に転がりながら激しく燃えるタンクローリを見つめつつ、気絶した不良二人を端によせいるとタンクローリの運転手とおぼしき人を抱いた秋葉が空から降りてくる。

首なしライダーはどこだ!

左右を見るが見当たらない。

逃げたか?

 

「秋葉、ここは……」

 

こいつらなんとかするぞと言おうとした、瞬間

 

 

「水無月希の弟、期待外れじゃったか?」

 

声のした方を見ると防音壁の上に誰かがいる。

 

「てめえか!首なしライダーを操ってたのは!」

 

「生意気口を聞くのう。見てやるから緋弾の力見せてみい」

またか、こいつらの言う緋弾……姉さんは知ってるみたいだったが……

だが、首なしライダーを操っていたのはこいつだな

 

「使うまでもねえよ!」

 

ガバメントを頭に黄金のコブラの飾りをつけた半裸の女に向け引き金を引こうとした瞬間突然手が硬直した。

な、なんだ体が動かねえ

 

「影縫い」

 

背後から聞こえた声

まだ、いやがったか

 

「優君!」

 

秋葉がかまいたちで俺の背後を凪ぎ払った。

そいつは後ろに下がりながらタンクローリの炎を背にする。

 

「風使い……厄介」

 

全身が黒ずくめの女だった。

長い黒髪をポニーテールにし、髪飾りも黒い

めんどくさそうに秋葉を見ながら

 

「影道」

 

ドプンとまるでタイブするように地面の中に女が消えた。

なんだ?なにかのステルスか?

 

「!? 秋葉後ろだ!」

 

「!?」

 

秋葉の影から女は飛び出すとべレッタTowoを秋葉の背中に向けて発砲する。

 

「う……」

 

風で周囲を感知できる秋葉だが、距離から避けられなかったらしく、転がりながら距離をとるが口を空けて苦しそうに女を見ながら連結槍を取り出す。

あいつ、防弾越しとはいえ肺を撃たれて一時的に息ができなくなってるのか

 

「秋葉!」

 

女に向けてガバメントを三点バーストで発射する。

 

「痛いのやだ」

 

再びトプンと炎で出来た影の中に女が入る。

自分の影を警戒するが、狙いは

 

「秋葉!」

 

動けない秋葉の影から再び、女が飛び出すと息がしにくくなっているため動きの鈍った秋葉の脇を抱えてしまう。

息が乱れてステルスが使えねえのか秋葉

 

「ちっ!」

 

秋葉を助けようと動こうとした、瞬間

 

「動くでないシイナユウキ」

 

後ろの半裸の女に言われるまでもなく足を止めた。

 

「うふ」

 

と不気味に笑みを浮かべながら秋葉を捕らえた女がべレッタTowoを秋葉の頭に押し付けた。

 

「や、やめろ!」

 

「なら、緋弾の力を見せてみいシイナユウキ」

 

見せたくてもわからねえんだよ。

どうやったらあれが使えるかなんて……

 

「……」

 

俺がまだ、躊躇してると半裸の女は思ったらしい

 

「なら、煮じゃ、やれ楓」

 

「うい」

 

楓と呼ばれた女の引き金に力が籠る。

秋葉はまだ、動けないらしくステルスを使わない

 

「秋葉ぁ!」

 

ドオン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

べレッタTowoが宙を舞い、道路を滑る

今の発砲音は……

 

「まったく、またきみかい?優希君、面白そうなことしてるね」

 

「お、沖田!」

 

公安0の沖田刹那が車から降りて戦闘狂の目を半裸の女と秋葉を捕らえている女に向ける。

 

「いいところに!誰じゃ貴様!」

 

半裸の女がわめきだす。

水を指されて激怒したらしい

 

「ミイラにしてくれるわ!」

 

半裸の女が沖田に手を向けるとシュウウと沖田の回りに水蒸気のようなものが立ち込める。

あ、あれは体の水分を蒸発させてるのか

 

「キリシマカエデ!」

 

半裸の女が言った瞬間、秋葉を突き飛ばした女が影に消える。

 

「沖田!」

 

沖田の影に入り、動きを止めるつもりか

 

「ふーん」

 

沖田がデザートイーグルを半裸の女に向けた瞬間、沖田の動きが止まる。

 

「影縫い。私は影を繋げて動きをとめられる。運がなかったね」

 

「ほれ、どうした?動かんとミイラになるぞ?」

 

沖田の回りからは水蒸気が出る量が増えてくる。

 

「優君」

 

回復したらしい秋葉がこちらに来る

 

「沖田様が」

 

「大丈夫だろ」

 

そう、俺は沖田を助ける気はまったくない。

なぜなら、あいつは……

 

「な、なぜじゃ?どうしてミイラにならん?」

 

水蒸気は圧倒的に沖田から立ち上っている。

半裸の女の能力が体内から水分を蒸発させるものと考えてもう、立ってられないくらい水分を失ってるはずだ

 

「そろそろ。動いてもいいかな?」

 

弱者を見下ろすというように沖田の後ろの女が何かに吹き飛ばされた。

じゃりっと沖田が動く

 

「な、なんじゃそれは!」

 

見ると沖田の回りには透明の球が6つ浮いている。

 

「誉めてあげるよ君、僕にステルスを使わせたんだから」

 

「そ、そうか汝」

 

にやりと沖田は笑う

 

 

 

 

「沖田は水のステルス使いだからな」

 

秋葉に説明してやる

 

「ですが今まで……」

 

「使うまでもなく沖田は強いからな」

 

そう、沖田にステルスを使わせるほどの相手はあまりいない。

だが、そう考えるとあの半裸の女達は強い部類なんだろうが相手が悪すぎる

 

「な、何者じゃ!名を名乗れ」

 

「公安0、沖田刹那」

 

「こ、公安0じゃと!しかも、その名は日本のRランクの」

 

「君は名乗らなくていいよ。殺すから」

 

沖田の水球が旋回しだした。

高密度に圧縮された水の固まりだ。

当たれば鋼鉄すら撃ち抜く

 

ドオオオオオオン

その時、タンクローリに残っていた燃料が新たな爆発を起こした。

一瞬、気を取られた俺達が再び半裸の女を見るとすでにそこになく、影使いの女も離脱した後だった。

まだ、近くにいるはずだが……

 

「あ、優希君、僕がここにいたことは土方さんには内緒だよ」

 

といい沖田は車に歩き出す。

車には女が乗っており、沖田が戻ると抱きついてる。

また、女変わってるのかよ

 

「優君」

 

沖田が行くってしまうと秋葉が声をかけてくる。

 

「なんだ?捕まったことなら気に……」

 

「どうするんですか?」

 

「あ……」

 

眼前には破壊された高速とタンクローリ、それに、転がってる隼

遠くからはパトカーや消防車や救急車のサイレン

やばい!

 

「に、逃げるぞ秋葉!」

 

隼を秋葉の風で持ち上げてもらい夜の空に逃げる。

下ではパトカーが到着していたがこれやばいよな……

携帯を取り出すと

 

「土方だ」

 

「ひ、土方さん?ちょっと頼みがあるんだけど……」

 

「ああ?」

 

「首都高で爆発があったんだけどそれ、沖田と俺だから事後処理お願いします」

 

「何!こら、まちやが……」

 

プツン

 

携帯を切って俺は死ぬほど心の中で土方さんに謝りながら実家にも隠蔽工作のメールを送っておいた。

結果的に実家の力をまた、使うがまあ今回ばかりはやらないと冗談抜きでやばい。

やったのは半裸の女達だが最悪、カジノ警備ができなくなるからな。

魔女連隊かランパンか知らんが勘弁してほしいよまったく……

 

首なしライダーの犯人を捕まえられなかった俺は結局、タダ働きだ。

あ、隼修理するからマイナスかよ!

もう泣いていいよな……はぁ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第149弾 賭け

隼の修理等で、借金が1300万になった7月24日、昼。俺は台場にやってきた。

公営カジノ警備の仕事をするためだがなんとか、警察に事情聴取されることはなかった。

 

にしても、学生には楽しい夏休み……なんでこんなとこいるんだろうね俺……

まあ、今日が終われば普通の夏休みな訳だが実家に帰る気もないし、トレーニングに加えて誰かと遊びまくろう。

理子辺りと遊ぶのは楽しそうだ。

 

今の俺は……いや、私は月島 優に再びなりきっている。

気づいたことだが名前を意識して変えて、女装したら結構なりきれるもんなのだ。

胸は偽装のシリコン入りの胸を入れてスーツを着込む。

男装が好きなジュエリーショップ女社長らしいが、男装なら男でいいじゃないかと長い鬘の髪を揺らしながら都営カジノ・『ピラミディオン台場』に入っていく

日本でカジノが合法化されて2年、法整備直後に公営カジノ1号として作られたのがこのカジノでピラミッド型の形で全面がガラス張りだ。

なんか数年前にどこかの国から日本に漂着した巨大ピラミッド型の投棄物に都知事が影響を受けてデザインさせたらしい。

ちなみに、今は仲間は回りにいない。

アリア、キンジ、レキ、白雪、秋葉は別々に行動している。

一応は内緒なわけだからな。

 

 

「両替をお願い、今日は勝利の女神が微笑んでるわ」

 

チェンジカウンターで合言葉を言って、作り物の札束1千万をチップに変えてもらう。

フフフ、実はカジノは初めてじゃないんだ。

昔、姉さんにラスベガスに連れていってもらったことあるしな。

さて、回りを見とくか

 

一階は海辺のカジノと言う特色を出そうとしたらしく、ホールを囲むように海に繋がるプールがある。

なるほどなバニーガールのウェイトレスさんが電動式の水上バイクで素早く行き来するためのものか……

 

「ドリンクいかがですかー」「カクテル、ウィスキー、コーヒー、全て無料でお配りしております」「ご注文の方はお近くのウェイトレスを及びくださーい」

 

お、アリアとキンジだ。

何か言い争ってるがハハハ、バニー姿似合うぞアリア

 

「お客様、カクテルはいかがですか?」

 

「いえ、別に……秋葉?」

 

小声で銀の瞳をぱちくりとまばたききながらオレンジ色のカクテルを持っている秋葉、色に違いがあるのか水着のようなバニーガールの服は 黒だ

 

「お似合いですよ優様」

 

「ありがとう」

 

演技とは言えにこりと微笑む。

うう、女装なんていやだ……

 

 

「うまく仕事できてるバニーさん」

 

「気持悪いです優様」

 

悪かったな

 

「あら、口の悪いウサギさんね」

 

「……」

 

すみませんと別のお客に呼ばれて秋葉は言ってしまった。

誰だ女装強制させたのは!

 

「な、なんてはずかしやがりやさんなんだ……すげえカワイイ」

「来たかいあったな、見とれて大枚すっちゃたけど」「あ、胸元隠さないでこっち向いて!」

 

ん?

なんか騒がしいのでそちらを見るとああ、白雪か……

バニーガールというのは巨乳だと凄まじく似合うさらに、顔がかわいければ文句はない。

白雪は文句なしに可愛い部類だからな。

群がる男達を見ながらまあ、M60をぶっぱなすヤンデレさんだけどな。

とトラウマになりそうなあれを思い出しながら白雪から離れる。

あっちはキンジに任せよう。

 

さて、レキはどこにいるんだろう?

折角だから見かけてない最後の仲間を探すため2階にの特等ルーレット・フロアに向かう

この特等フロアの掛け金は100万だ

会員パスを持つ金持ちだけが賭けに参加でき見物にも金がかかる。

ん?あの人垣は……

近づいてみると大きなルーレット台にいた金ボタンのチョッキを着た小柄なディーラーは

 

「……」

 

おお、レキ

みんなバニーガールなのにお前だけズボンかよ……

 

「では、プレイヤーは次の掛け金をどうぞ」

 

ああ、これはプレイヤーが金を賭けて、次にディーラーがルーレットに玉を放り込む手順で行われるやつだ。

玉が放り込まれたら変更は一切効かない

 

「は、はは……こんなに強くて……可憐なディーラーは初めてだよ。この僕が一時間もたたない内に3000万も負けるなんてね」

 

ふーん、一人でかけしてるのか……

姉さんはラスベガスでは豪運で荒稼ぎしてたな……

姉さんには弱点がないし

 

「君は本当に運を司る女神かもしれないな」

 

何言ってんだよこいつ……

なぜか、凄い腹が立つぞ見たことあるなこいつ……テレビでたが……

 

「……残りの手持ちは4000万ある。これを全部、黒に賭けよう

かけにでたわけか……見させてもらうか

 

「黒ですね。では、この手球が黒に落ちれば配当は2倍です。よろしいですか?」

 

白いピンポン球を手に取ったレキが言う

 

「ああ、だが、配当金は要らない。勝ったらキミをもらう」

 

周囲がどよめく

 

「僕は強運な女性をものにすることで強運を得てきたんでね」

 

は?こいつ何言ってるんだ?レキをもらうだと?

 

「その勝負待ちなさい」

 

あ、あれ?

気がついたら声をあげていた。

しかも、女装の戦闘狂モードだ

 

「誰だ君は?」

 

「ひとつ賭けをしませんか?私は赤7に全財産をかけますわ」

 

ざわと周囲がざわめく

こら!戦闘狂!それ、借金含めてるぞ!

 

「女!僕は負けない」

 

負けろ!代々レキをとって何するんだよ!こいつはロボットレキだぞ!

面白いやつだけど……

 

「……それでは時間です」

 

レキはテーブルを撫でるようにして参加締め切りを示してからルーレットを回して球を入れた。

やってから後悔するが仮に相手に球が入ったらやばいぞ!

球が動きを鈍らせた

 

カツン、カラカラ

 

「7。赤二人目のプレイヤーの勝ちです」

 

まじかい!

がくりとテーブルにあいては突っ伏した。

え?まじ

 

「はいどうぞ配当は40倍です」

 

嘘だろおい!レキお前、わざと7にいれたのかよ!

レキならありえる

 

「ははは……7千万円の負けか。さすがに痛いよ。でも、こんなに金を落としてやったんだ。可憐なディーラさんせめて君の携帯番号だけでも教えてくれないか?」

 

しつこいなお前!レキは……あれ?なんで俺こんなに腹たててるんだろう?

 

「お引き取り下さい。今日はもう、帰った方がいいですよ」

 

「いや、そこをなんとか……じゃあメアドだけでも」

 

「お集まりの皆さんもお帰りください」

 

レキは無視して回りの客に言った瞬間、気付いた。

 

「良くない風が吹き込んでいます」

 

レキと目があい俺はうなずく

 

「せめて、キミの名前だけでも」

 

ばんとレキの背後に並べられた動物の剥製の間から疾風のようにハイマキが飛び出す

フロア隅から走ってきた人にガバメントを叩き込むと同時にハイマキがもう一体に飛びかかる。

 

なるほどな、首なしライダーの時と同じかよ

全身に黒いペンキを塗ったかのようなそいうは上半身裸で腰に茶色の短い布を巻いているだけの姿

異様なのは頭部でジャッカルという動物の頭に体は人間という姿だった。

手には半月型の斧がある。

カジノ警備って楽なんじゃないの?

俺は苦笑しながら服の下のガバメントを抜きな放った。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第150弾 カジノ警備戦

あの女か?

周りを見渡しながら悲鳴を上げて逃げまとう客達

 

ハイマキを首に噛みつかせたまま、ジャッカル男が起き上がるとぶんと頭を振り回しハイマキを床にぶち当てて振りほどいた

 

「ハイマキ!」

 

ハイマキが朦朧としている中こちらに赤い眼をぎらつかせてくる

 

「気をつけてください優さんあれは。人間ではありません」

 

「ああ、操ってるのは多分……」

 

簡潔にレキに首なしライダーの話をしてから、ガバメントをジャッカル男に向ける

 

「蟲人形」

 

目を丸くして飛び込んできた白雪が言ったキンジもいるな

 

「優君!」

 

秋葉が俺に向かい紫電を投げつけてきた。

 

「サンキュー秋葉!」

 

「みんな気をつけて!この敵の中身に触れると呪われちゃう!」

 

白雪は背中に手を伸ばすが刀はない。

キンジに聞いたんだが白雪の実家が取り上げて、その後、何者かに盗まれたのだ

 

一瞬眉を寄せた白雪は、すぐさまバニーガールの衣装の尻尾から何枚化の紙切れ、いや、お札を出した

 

「伍法緋焔札」

 

白雪がお札をばらまくと横一列に滞空さバッ!と一斉に燃え上がる

 

「キンちゃん伏せて!」

 

ぱちん! 叫んだ白雪が両手の甲を合わせて鳴らすと火球とかした5枚の札が昭明弾のように迫り、ジャッカル男が気づくと視線を避けるようにバラバラになり火炎放射機のように、炎を浴びせかける

 

す、すげえな

 

「ダメです。あれはおそらく火に強い」

 

熱風にショートカットの髪を揺らすレキがテーブルの裏に隠していたらしいドラグノフ狙撃銃を取り出した。

昔、姉さんに聞いたのを思い出したが超能力には複雑な属性がある。

超能力者達が使う術は70~80もの複雑な属性と相性がある。

例えば、紫電の雷神と呼ばれた男の属性は雷で公安0の沖田は水、水は電気を通しやすく文字通り最悪の相性だ。

逆に白雪の炎と沖田の水なら相性は沖田にとっては最高となる。

姉さんに聞いたが相性なんてものは達人になれば覆すのは不可能ではないらしいが……

なんにせよ、今は白雪にとって相性は最悪だ。

分からないわけないのに

 

「来なさい傀儡!キンちゃんには指一本触れさせません!」

 

「白雪さん、ここは私が」

 

炎は相性が悪いと秋葉がだんと上空に風を纏い飛び上がると右手を空に上げて

 

「潰れなさい」

 

一気に降り下ろした。

圧倒的質量の暴風がジャッカル男を押し潰す。

ズウウウウンとクレーターがジャッカル男の回りに現れ、ジャッカル男はざぁと黒い砂になってしまう。

なるほど、首なしのからくりはあれか!

秋葉の竜巻に突っ込んでも砂になれば巻き上げられて消える。

同様に再構成されたか予め用意されてた首なしライダーが後から現れるというからくりだったらしい。

 

「白雪さん、落ち着いて下さい。相性はあなたに悪すぎます」

 

「で、でもキンちゃんの……」

 

「落ち着け白雪、俺は大丈夫だ。秋葉の言うことを聞け」

 

「う、うん分かったよキンちゃん」

 

なんとか向こうも落ち着いたらしいな

 

びびび

 

ん?

砂の中から黒いコガネムシ?どっかで見たような……

 

「優さん、前に出てはいけません。あの虫は危険です」

 

「どういうことだ?」

 

「……」

 

説明しろよレキ

 

「優さん」

 

抑揚のないしかし、緊張感があるレキの声

見るとレキはミンやシンと戦った時につけていた銃剣をドラグノフにとりつけている。

 

ドラグノフ狙撃銃はアサルトライフルをベースにした銃だからな

 

「まずは白兵戦で敵を減らしつつ、場所を変えましょう。ここは狙撃に向きません」

 

そう言われて初めて気付いた。

なるほど……

 

「私の銃弾はあと4発しかありません。弾数より、敵の方が多い」

 

斜め上の方を見てから

 

「秋葉!キンジと白雪をサポートしろ!レキは俺がサポートする!」

 

「はい!」

 

戦闘だから、秋葉は余計なことは言わずに従ってくれる。

 

絢爛なシャンデリアの向こう、ホールの天井にジャッカル男がウジュウジャと張り付いていたのだ。

ざっと見て30体ぐらいか

秋葉が周囲に風を纏っている。

いざとなれば、咲夜を守ったときのような風の防護壁を貼るつもりらしい

さて、やるか

 

バスバスバスバスバス

 

ガバメントの発砲音と共にジャッカル男が2、3人天井から落ちた。

お、俺じゃないぞ

 

「はぁー。また、こういうタイプね」

 

と呆れるようなアニメ声と共にアリアとが現れ、バスバスと足元の敵に45ACP弾をぶちこむ

へー、慣れてるなアリア化け物のとの戦いに

 

「ほらバカキンジ、バカユウ、何ボーとしてんの!」

 

バンザイしながらジャッカル男達を叩き落としていくアリア。

ジャッカル男達はゴキブリみたいに天井の四方発砲に逃げていく

 

「こういうときは敵が降りてくるのを待つんじゃなくて、自分から上がるの!優!」

 

スツールとテーブルを踏み台にした瞬間気付いた。

はいよアリア

ワイヤーを発射して天井に刺して引き戻すアリアと二人でシャンデリアに乗る

 

「レキ!」

 

アリアが言うとレキが発砲し、シャンデリアの金具を掠める。

その衝撃で、シャンデリアはアリアを乗せたままメリーゴーランドみたいに回り出す

俺とアリアは回転しながらガトリング砲のように撃ちまくる

雨のようにジャッカル男達が落ちていく

 

「ハハハ!害虫退治だな!」

 

戦闘狂の高揚感で楽しみながら撃つ撃つ撃ちまくる。

 

ジャッカル男は床に落ちてコガネムシを飛びたたせる。

落ちた奴はキンジ達が止めをさしていた。

 

後2体!

シャンデリアから飛び降りると紫電を抜き放つ

 

「飛龍一式!雷落とし!」

 

紫電がジャッカル男の頭に触れた瞬間、ザアアとジャッカル男が砂に戻った。

やはり、ステルスで作られたものなら紫電に触れただけで瓦解する。

さて、後1だ!

 

「てめえで最後だ!あの女出しな!」

 

「ぉぉぉーん」

 

ホルンのような遠吠えと共に窓を体当たりでぶち破り出ていった。

 

逃がすかよ!

 

「レキ!」

 

接近戦では一流には及ばないレキの腰を右手で抱えると左のワイヤーを発射し、外に飛び出した。

 

あいつら!

水面を滑りながら奴は逃げていく

 

「レキ!」

 

「はい」

 

この距離は拳銃の距離じゃねえ

狙撃でやるしかねえ!

 

「私は一発の銃弾……」

 

レキが引き金を引こうとした瞬間、レキの前で何かが突き刺さり爆発を起こした

 

「!」

 

レキが発砲をやめる。

紫電を構えながらレキの前に出る

 

 

「ワハハハハハ!君の相手は俺だ」

 

土煙が晴れていく。

そこには二人の人影

腕を組んで豪快不適に笑う大男、そして、もう一人はおっさんくさいポロシャツをきた……

 

「よう、まあ会ったな嬢ちゃん」

 

「……」

 

レキの前に立ったのは実家でレキと戦い月詠との戦闘を避けた荒木源也だ。

 

「荒木源也よ。あの少女の相手は任せるぞ」

 

20代くらいの青年は笑いながら俺を見る

 

「少年!君の相手は俺だ」

 

「誰だよてめえ!」

 

「ジャンと呼んでくれていいぞ」

 

ちっ、こういうタイプは厄介なんだよ……姉さんみたいな性格の相手はな……

横のレキを見ながらやるしかねえかと紫電を構えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第151弾 蜻蛉返し

「レキ、お前が後衛、俺が前衛でやる」

 

「はい」

 

 

「さあ、行くぞ少年!」

 

ジャンが突撃してくる。

 

「まずはこれだ!」

 

!? いきなり、ジャンの手には巨大な剣が現れた。

どこからだした!

 

「ちっ!」

 

ガバメントを三点バーストで牽制で撃つ

 

「ワハハハ!」

 

笑いながら剣をぶぅんと降って弾丸を凪ぎ払う。

なんて怪力だよ!

剣はファンタジーなんかに出てくるようなバスターソードだ。

ゆうに三メートルはあるぞ!

 

「そら!」

 

ガアアアアン

当たった地面にクレーターが現れる。

パワーはブラド並か

 

「……」

 

「おお!」

 

ジャンの前にレキが立ちふさがり銃剣をつきだした。

 

「うお!」

 

ジャンが下がる。

 

「荒木源也よ!」

 

「ハハハ、相変わらず女には手を出せんのかい」

 

荒木源也がレキに向かい向かい地を蹴った。

その間に俺が割り込む

 

「は!やんのか椎名の後継よ!」

 

右下から紫電を振り抜く。

荒木源也の拳と紫電がぶつかる

 

「何!」

 

強化された拳はステルスによるもの……

なら、拳強化も無効になるはずだが……

ガガガガとマシンガンのような速度で俺と荒木源也は刀と拳で殴り合う。

その間に、レキはジャンを押さえていたが、ジャンは防戦一方だ。

 

「くっ、女は殴れん……卑怯だぞ少年!うお!」

 

レキの銃剣がジャンの頬を掠めた。

レキ、お前殺す気でジャンに攻撃してやがる……

よくわからんがジャンはレキに攻撃できないらしいな

 

「へ!やはり、接近戦は燃えるよな!本場の接近戦はよ!」

俺はその言葉に技で答える

 

「飛龍一式!風凪!」

 

「蒼天流!気弾砲!」

 

風と何かが激突して相殺される。

あれは気弾か!

姉さんに聞いたことあるが気はステルスに分類されてるが、普通のステルスと一線を引いているらしい

 

「てめえ、誰に雇われた?」

 

荒木源也は傭兵と月詠に聞いている。

無駄な戦いはせずに、金のみで動く。

 

「いい、雇主だからな!お前がいると邪魔なんだとさ!」

 

「誰に雇われたか聞いてんだよ!おっさん!」

 

 

「へ!水無月希の弟なら力付くで効きやがれ!蒼天流!五月雨!」

 

「くっ!」

 

神速の連撃の拳が俺の刀の速度を上回る。

速度は奴が上か……

防戦一方になる。

ちっ、予算不足で後一本刀があれば……

 

「優!レキ」

 

アニメ声にアリアとキンジが来たと感じる。

 

「アリア!キンジ!ジャッカル男を追え!こいつらは俺とレキが抑える」

 

「分かったアリア乗れ!」

 

水上バイクで追うつもりかキンジ

 

「ハハハ!楽しいな椎名の後継!今日は邪魔も入らねえ!」

刀一本でなんとかするなら……

 

「くっ!」

 

建物に入り走る。

 

「逃がさねえぜ!」

荒木源也が追ってくる。

ジャンは防戦一方なのでレキに任せておく

 

「なるほどな!近衛や星伽の助力を得るつもりかよ!」

 

「んなつもりはねえよ!」

 

「「優君!」」

 

 

秋葉と白雪の間を駆け抜ける。

 

「秋葉、白雪!手を出すな!」

 

一階まで逃げてから紫電を構える。

 

「鬼ごっこは終わりかよ?」

 

場所は問題なし。

よし

 

「見せてやるよ荒木源也、椎名剣をな」

 

「へ!なら見せてみろ!」

 

荒木源也の蹴りと同時に俺はワイヤーで空に飛ぶ

 

「逃がすかよ!」

 

荒木源也が追ってくる

 

「飛龍一式!」

 

天上を蹴り、回転を加え、荒木源也に切りかかる。

 

「へ!」

 

荒木源也が紫電を受ける。

俺は右のワイヤーを巻き戻して空中で壁を蹴る

 

「蜻蛉返し!」

 

「な、何!うお!」

 

さらに、壁を蹴って切りかかる。

ワイヤーを組み合わせて何度も空中で荒木源也を強襲する。

ワイヤーと組み合わせての椎名の家の連続技だ。

 

壁を蹴り蹴り蹴り、荒木源也を空中でワイヤーを使いながら切りかかる。

空間識別能力がなければこいつは扱え切れない

 

「ち!」

 

荒木源也が口から血を足らしながら構える。

俺は更に、壁を蹴りながら

 

「飛龍一式!風切り!」

 

すれ違いざまに、荒木源也の体に刀を叩きこんだ。

 

「ぐ!が!」

 

荒木源也が降っとんでコインゲームの台に突っ込んだ。

よしこれで……

 

「優君!」

 

秋葉か?

 

「なんだ、秋葉!」

 

風を通じて話してきた秋葉に怒鳴る。

 

「アリアさんが……」

 

アリアが?

 

「アリアさんが狙撃され海に落ちました」

 

なっ!

 

「どういうことだ秋葉!」

 

「……」

 

秋葉が黙ったので外に出ると明らかに現代ね船でないものが見えた

金銀で飾られた船体は細長く、L字に歪曲した船首と船尾は柱のように天を指している5mはあろうかという長い櫂をそれぞれ構えるのは6人のジャッカル男達、甲板には立方体の船室があって、飾りの宝石がキラキラ輝いている。

 

その船室の屋上に

……

あ、あいつ!

首なしライダーの時に見た……

やつは深紅のマニュアん塗った長い爪の指で砂漠迷彩のWA2000狙撃銃を構える。

狙いは……

 

「キンジ!」

 

奴は水上ボートに乗るキンジを狙ってる。

 

拳銃じゃ距離が……

 

ビシっ

 

突如超音速の銃弾が女の額に命中した。

手を出せないらしいジャンの隙を狙いレキが狙撃したらしい

ていうかレキ!射殺したらやばい!

土方さんでもかばいきれるか……

ん?

女が砂に帰るように戻っていく

あれも砂かよ

だが、あの人影

 

「夢を見た……」

 

カナ……いや

 

「長い眠りの中で、第ニの可能性が実現される夢を……な。だが」

 

キンジが走ってくる

 

「優希、終りだ。パトラごてきに不覚を取るとはな……」

 

ね、姉さん!

 

「こ、これは太陽の船。王のミイラを当時海辺にあったピラミッドまで運ぶのに用いた船模したものだ。それで、アリアを迎える……そういう計らい誰パトラ」

 

遠山キンイチが言った時海から黄金で出来た棺が現れる。

人形のそれにはアリアが……

 

「アリア!」

 

ぐったり動かないアリアが……

 

「気安く妾の名前を呼ぶでないトオヤマキンイチ」

 

蓋と棺を片手に持ったさっきの女は蓋を閉めると指一本で船に投げつけジャッカル男達がキャッチしたが何体かは潰れる

半裸の女が妖艶な笑みを浮かべて振り替える

 

「1・9タンイじゃったか?欲しかったものの代償、高くついたのう小僧ども」

 

なるほどやはり……

「妾に下賎の事はよく分からんが下僕共に任せてみれば簡単なことじゃったのう。大方金か地位に関わるものじゃろ。単位とは。それを餌にしてみれば、ほれ、簡単にここまで来よった。妾の力が無限大になるこのピラミッドのそばに、アリアという最高の手土産を持ってな。アリアも不幸よのー。こんな所でその小舟が故障とは。おかげで妾はきっちり、心臓を狙えたわ。ほほっ、しっかり呪ってたかいがあったのぅ」

 

くそ……馬鹿なことをした……アリアを連れてきちまうなんて

 

「……」

 

姉さんと目があう。

姉さん……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第152弾 水無月希vs優希 緋刀覚醒

最悪にもほどがあるぞ……

 

状況はレキvsジャン

キンジ・俺・秋葉・白雪vsパトラ・遠山 金一・水無月希

 

数では上回ってるが姉さんが仮に敵に回るならこんな差なんの意味もない

だが、逆なら……姉さんが俺達に味方してくれれば……

冷や汗をかきながら思っていると

パトラがほほと笑いながら

 

「妾が呪った相手は、必ず滅ぶ。イ・ウーの王座を狙っておった目障りなブラドも妾が呪っておいたゆえ……このような小娘にあっさりやられたわけだ」

 

パトラは思い出し笑いをしながら太陽の船とやらを見えない階段を上がるように上がっていく

 

結局、単位に釣られて俺達は誘われたわけか……

 

「優君」

 

武偵同士の指信号で近くに来たキンジ、白雪と秋葉に姉さん達に気づかれないように話す

 

「秋葉、俺が合図したら風でパトラのいる船に俺達を飛ばせ」

 

アリアを奪還するなら強襲であの女を倒すしかない

 

「優、兄さん達はどうする」

 

「キンジ、お前の兄さんはお前に任せる」

 

「分かった」

 

「希様はどうしますか?」

 

問題は姉さんだ。

ジャンはレキが足止めしてるから大丈夫だろうが果たしてどう、動く……

 

「敵になるなら私が止めます。その間にアリアさんを」

 

「分かった」

 

指信号で指示を伝え終わる

 

「ほ」

 

その時、甲板に上がった女は何かに気づいたようにキョトンとしてから

 

「そういえば一人も殺しておらぬ」

 

と言って片足だけパトラが踏み出す

 

「!?」

 

俺達が武器を構えるとスッと両手をまっすぐにキンジに向ける。

 

「公安0は相性が悪かったからのう今度は確実にミイラにして棺送りにしてくれよう。ほほほ。名誉ぢゃの。光栄ぢゃの。うれしいの」

 

やはり、あの女……

徐々に汗ばみ始めた体の異常、仕掛けるかと思った瞬間

 

「パトラ。それはルール違反だ」

 

遠山金一の声と同時に湯気が止まる

 

「なんぢゃ……妾を退学にしておいて、いまさらるーるなぜ持ち出すか」

 

「イ・ウーに戻りたいなら、守れ」

 

「……気に入らんのう」

 

甲板を歩いて真横までパトラが歩いていく。

それに呼応するかのようにジャッカル男達が一斉に船をこぐ櫂を遠山金一に向けるがまったく、遠山金一は動じていない

もちろん、隣に立つ姉さんもだ

 

「……」

 

姉さんはただ、腕を組んでパトラを見ているだけ

 

「アリアに仕掛けてもいいが無用な殺しはするな。俺が伝えたプロフェシオンの言葉忘れてはいないだろう」

 

「……」

 

パトラが口をへの字に曲げて黙った。

 

「パトラ。お前がイ・ウーの頂点に立ちたいことは知っている。だが、今はまだプロフェシオンこそが頂点だ。リーダーの座を継承したいのなら、今はイ・ウーに従う必要がある」

 

 

「いやぢゃ!妾は殺したいときに殺す!贄がのうては面白うない」

 

「それだから退学になったのだ。パトラ。まだ学ばないのか」

 

「わ、妾を侮辱するか!今のお前などひとひねりに出来るのじゃぞ!」

 

「ほー、それは面白いな」

 

姉さんがパトラを見下すように見ながら

 

「無限大の力なんだろ?私と戦うか?」

 

「み、水無月希お前といえど……」

 

激昂しつつも姉さんにも遠山金一にも仕掛けないパトラにすっと近寄った遠山金一はパトラの顎を右手の人差し指で上げさせるといきなりキスした。

パトラはほとんど抵抗せず脱力する

 

「これで許せあれは俺の弟だ」

 

おいおい……

遠山金一の雰囲気が変わる。

ヒステリアモードか

 

「と、トオヤマキンイチ!妾を使ったな?好いてもおらぬクセに」

 

「哀しいことを言うな。打算でこんなことができるほど、俺は器用じゃない」

 

パトラは後ずさりながら深呼吸をした

 

「な、なんにせよ妾はそのお前とは戦いとうない。勝てるは勝てるが妾も無傷では済まないじゃろうからな。今はプロフェシオンになる大事な時ちゃ。手傷は負いとうない」

 

となにかを遠山金一に投げ渡しつつ逃げるように海に飛び込む。

後部デッキからはジャッカル男達がアリアを収めた黄金櫃を担いでパトラを追う。

そこまで来て、もはや迷いなどなかった。

 

「秋葉!」

 

刹那風が俺達を包みジャッカル男達に向かい突撃する。

 

「止まれ!」

 

遠山金一の声、予定通りキンジを遠山金一の前に着地させるのを横目に紫電を抜いた。

ジャッカル男にみるみる迫る。

 

「おっと!」

 

姉さん……

 

「秋葉!」

 

秋葉は右手を振りかぶると全力で振り抜く。

白雪が何か呪符のようなものを出すと化け物ような黒い竜巻と炎が姉さんに向かう。

それを姉さんは

 

「力比べか?」

 

と同じく右手を振りかぶると秋葉と同等……いや、それ以上の竜巻が秋葉の竜巻と激突し押し合いになる。

 

「う……く」

 

苦しそうな秋葉に対し姉さんは汗1つかいてない。

白雪と秋葉の炎の竜巻は徐々に押されている。

 

「は、早く……」

 

白雪の声に俺はジャッカル男達の前に降り立つとアリアを担ぐジャッカル男に切りかかった。

 

「ところがぎっちょん!」

 

ギイイイイイイン

 

「ハハハ、なんてな!」

 

「くそったれが!」

 

荒木源也だった。

服はボロボロだが、対したダメージはないようで殴りかかってくる。

 

「蒼天流奥義五月雨気弾砲」

 

荒木源也の両手からでるに気でできた攻撃を紫電で切り払いながら

 

「どけ!」

 

「できねえなぁ!」

 

荒木源也に足止めされている間にジャッカル男達はアリアを連れて水面下に消えていった。

くそ、アリア!

 

「てめえ!」

 

激怒し、ガバメントをフルオートで撃ちつくし荒木源也が拳で弾いたその時、ドンと俺達の間に姉さんが降り立った。

両手には……

 

「秋葉!白雪!」

 

ぐったりした秋葉と白雪を姉さんは抱えていた。

 

「荒木源也、お前はもう引け、潮時だろ?」

 

荒木源也はちっと舌打ちしてから

 

「水無月希がそう言うなら仕方ねえな……じゃな、椎名の後継、また会おうぜ」

 

と、海に荒木源也は飛び込んだ。

追撃は姉さんがいるからできない。

 

「なんでだよ……姉さん……」

 

「ん?」

 

「なんでアリアを助けるのを邪魔するんだ!」

 

「私はな優希、お前がアリアと歩みたいなら止めるつもりはなかったさ。だが、お前は弱すぎる。そんな中途半端な力ではお前は遠からず死ぬ」

 

「だからなんだ!アリアを殺すこととなんの関係がある!」

 

「知りたいか?」

 

ニヤリッといつものように姉さんは笑いいつものように

 

「知りたいなら私を倒せ」

 

その瞬間、俺は地を蹴っていた。

勝てる勝てないはもはや関係ない。

開けた場所なため荒木源也を倒した技は使えないか

 

「ガバメントを撃ちながら左手のワイヤーを牽制に放つ」

 

姉さんは秋葉と白雪を抱えてたまま、それを交わすと空に浮かび上がる。

 

「予習だ優希」

 

「何!」

 

「まずは、風だ」

 

ズンと凄まじい風圧が俺を空から襲う。

秋葉の……いや、秋葉の母さんの葉月さんの技か!

耳がキンキンする

 

「飛龍一式風凪!」

 

気合い一閃で紫電で風を凪ぎ払う。

紫電で無効になった風が消える。

 

「次は水だ」

 

姉さんの回りに水球が4つ展開される。

沖田の技か!

 

「そら」

 

姉さんが言った瞬間水球が落ちてくる。

 

「はあああ!」

 

紫電で切り払うと水は無惨したがすぐに、水球が復活する。

 

「くそ!」

 

ここは海だ。水なんて無限大にあり、まさに沖田にとっては最強を維持できる場所、ワイヤーで黄金船に張り付き走りながらデザートイーグルで水球を撃ち抜くがトプンと弾は通過しただけだ。

その間にも4つの水球は追ってくる。

交わすので精一杯だ。

姉さんは空から見下ろしてるだけだというのに……

ワイヤーを外すか悩むが機動力を失えば水球の餌食になるのは確実だ。

どうすりゃいいんだよ!

着地しワイヤーで空に上がった瞬間

 

「しまっ!」

 

水球が3つクロスするように迫っている。

体を捻ったが一発が左手に命中する

 

ボキ

 

嫌な音を立てて激痛が左手の走った。

 

「ぐっ」

 

地面に降りて左手を見るとあり得ない方角に曲がっている。

左手を骨折したか……

 

「終わりか?」

 

見下すように姉さんが空から見下ろしている。

だらりと左腕を足らしながら紫電を構える。

 

「武偵憲章第10条」

 

「?」

 

「武偵は諦めるな。決して諦めるな!

俺はまだ、アリアを助けることを諦めてない!」

 

「ほぅ、アリアを愛してるからとでも言うのか?」

 

「俺はあの子に命を救われたんだ!命をかけて彼女を守ると誓った!だから、姉さん!いや、水無月希!あんたは俺が倒す!」

 

「いい、返事だ。で、どうするんだ?」

 

使えるのは右手だけか……なら

 

「……」

 

黙って右肩をあげるようにして刀を刺突の構えに持って行く。

突きこそ最速にして最強の破壊力を持つ。

公安0の沖田のみならず、過去の新撰組はこの技に近いものを持っていたそうだ。

土方さんや沖田が俺に教えてくれた新撰組の奥義

 

だ。

記録では新撰組三番隊組長斎藤一が晩年、木に吊るされた缶を竹刀で突いて揺らさずに貫通させたあの技

表には出回ってない裏の奥義

 

「滅壊か、だが私には通じんぞ」

 

「……」

 

左手が使えないんじゃ威力は半減だがやるしかない……

 

陽炎のように殺気を濃くしていく。

姉さんを上回る殺気を

アリアを助ける。

それだけを考えて

 

「……っ」

 

直後目と頭が、いや、体が暑くなる。

焼けつくような痛みが体を覆った瞬間

俺は剣を震う

 

「新撰組奥義!滅壊!」

 

地を蹴って姉さんに迫る。

なんだ、体が軽いぞ!

 

「……」

 

姉さんが笑った瞬間ぼっと姉さんの左腕が吹き飛んだ。

勝ったのかと思った瞬間

 

「それだ。その感覚覚えておけ優希!」

 

ドゴオオオオオ

 

気付いた時には姉さんは今まで抜かなかった刀を抜いて峰で俺を叩き伏せていた。

地面に叩きつけられながら姉さんを見上げる。

体が……

 

「優希、アリアは24時間は生きている。もし、お前が本当にアリアを守りたいならシャーロックに勝って見せろ」

 

「ね、姉さん……」

 

「私はお前の味方だよ。だからこそ証明しろ」

 

何を……

 

「アリアを守ると言った言葉をな」

 

その言葉を最後に俺は意識を失った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第153弾 封じられたRランク

アリアを助けられなかった……

また俺は……

 

「う……」

 

目を開けるとそこはどこかの建物の中のようだった。

 

「ここは……」

 

「優さん」

 

「うわ!」

 

いきなり、レキが俺の視界に飛び込んできたのでびくっとしたが、なぜかレキは俺の頭の上から覗き込むように……

 

「れ、レキ」

 

「桟橋で倒れていたキンジさんと優さんを見つけてみなさんとここに」

 

「ここはどこだ?」

 

「ロジの建物の廊下です。キンジさんは休憩室に」

 

「そうか……って!」

 

今、気づいたがレキに俺、膝枕されてるぞ!

しかも、武偵高の制服のスカートは短いから生足に

 

「?」

 

琥珀色の無表情のレキから慌て逃げるように起き上がった直後

 

「起きましたか優君」

 

絶対零度の声に慌てて振り替えるとステルスのエネルギー補給のためか、お菓子を山盛りにした秋葉が立っていた。

その横にはフフフと笑いながらアリスがいる。

 

「いやぁ、お兄さん毎回毎回、本当に怪我しますねぇ。そんなに私に診てもらいたいんですか?」

 

「そんなわけないだろ!」

 

「レキさんに膝枕されて優君気持ちよさそうに寝てました……あむ」

 

がぶりと板チョコをかじった秋葉

な、なんか怖い

 

「そ、それはそうと今、何時だ!あれからどれだけ時間が過ぎた?」

 

「今は午前6時30分、アリアが撃たれてから12時間と少しだ」

 

ガチャっと休憩室の扉が開いてデュランダルを杖にしながらジャンヌと右目にハートの眼帯をした理子、そして白雪が出てくる。

 

「なんだって!」

 

そこで、初めて気づいたが俺は女装ではなく、武偵高夏服に着替えさせられていた。

大方、秋葉か

 

「キー君はまだ、寝てるけど時間がないから説明するね」

 

と理子が説明を始める。

事情はレキ達に聞いたらしい

 

「アリアはね東経43度19分、北緯155度03分、太平洋、ウルップ島沖の公海。理子がアリアにこっそりつけといたGPSがそういってるよ」

 

日本からそれほど離れちゃいないな……

とはいえ2000kmほど離れているが……

 

「秋葉、実家に協力を要請はしたのか?」

 

形振り構ってられない。

月詠や土方さんにも協力を要請しよう

癪だが沖田にも……

「すでに、月詠様を含めた援軍が動いています。遠からず到着すると思います」

月詠は俺より強い。

これでパトラは倒せるだろう。

 

「その話し、俺らも乗るぜ優希」

 

「土方さん、沖田!」

 

廊下の向こうから公安0の土方さんと沖田が歩いてくる。

Rランク2人、これなら確実に……

 

「後は俺達公安0に任せろ。聞いた話じゃ、パトラはイ・ウーを退学したらしいじゃねえか。なら俺らも動ける」

 

「いや、土方さん俺達も……」

 

「邪魔なんだよ。パトラって僕が戦ったあの女でしょ?僕一人で殲滅してあげるよ」

 

沖田が微笑しながら言った。

 

「刹那、目的は神崎アリアの救出だ。忘れんじゃねえ」

 

「それは土方さんがやったらどうですか?僕は敵だけを相手にしますから」

 

「ちっ、パトラはなるべく生かして捕らえろ。それで……」

 

土方さんが白雪達を見回した時、土方さんの携帯が鳴った。

「ん?土方です」

 

相手が上役なのか、土方さんが敬語で話している。

 

「ええ、これから救出に……何?それはどういうことだ近藤さん!」

 

近藤?確か、今の警視総監は……

 

「待ってくれ近藤さん!ちっくそったれが!」

 

土方さん舌打ちしながら携帯をポケットに入れた。

 

「どうかしたんですか土方さん?」

 

不安になって聞くと土方さんは舌打ちしながら

 

「前言撤回だ俺達は動けねえ」

 

「なっ!」

 

「公安0が動くなら日本に核攻撃を行うとイ・ウーから非公式に通達があったそうだ……」

 

か、核攻撃だって!

「それは私達も同じです」

 

「月詠様」

 

秋葉の声に振り向くと和服姿の月詠は穏やかに微笑みながら一礼する。

 

「お久しぶりです。皆様」

 

「月詠……日本のもう一人のRランクか……」

 

ジャンヌが言うのを聞きながら

 

「月詠、やはり椎名の家というかお前にも……」

 

と、俺が聞くと月詠は頷きながら

 

「公安0に出された警告とほぼ同じ内容が私達にも届きました」

 

やられたな……核攻撃をカードに日本最強クラスの戦力は封じられた訳だ。

 

「椎名の家ってことは俺も含まれてるのか?」

 

月詠が首を横に振った時

 

「貴様は含まれていない」

 

「鏡夜!」

 

月詠に遅れて廊下から歩いて来たのは俺の弟鏡夜だ。

 

「お前も来てくれたのか?」

 

「勘違いするなクズ、俺はお前を助けに来たんじゃない。あのパトラは俺達椎名にスカラベを差し向けた。倒す理由はそれだけだ。まあ、無駄足になったようだがな」

 

椎名の家ということは当然、鏡夜も含まれてる訳か……

 

「おい、優が含まれてないとはどういう意味だ?」

 

理子が男喋りで鏡夜に聞いている。

鏡夜のこと理子嫌いだからな

 

「ふん、ただ、1つの例外は椎名優希のみは椎名の家という枠から外すと通達があっただけだ。どういうつもりかは知らないがな」

 

「そうか……」

 

大方姉さん辺りが何かしたんだろう。

 

「ところでアリアが拐われた海域に行く手段はあるのか?」

とジャンヌに聞くと

 

「行く手段はある。だが問題は誰が行くかだが……」

 

「俺が行く!」

 

「私も行きます」

 

真っ先に俺と白雪が名乗りを上げる

 

「星伽はともかく、椎名、お前はその腕で行く気か?」

 

 

腕?

慌てて気づかなかったが左腕にはギプスが巻かれて固定されていた。

そうか、姉さんに折られた……

 

「山洞はまだ、ステルスが完全に回復していないし私や理子はこの有り様だ」

 

 

「その目どうしたんだ理子?」

 

「パトラのスカラベに呪いをかけられたんだ……完治には一週間はかかるよ」

 

「スカラベ?」

 

鏡夜も言ってたな

 

「あのジャッカル男達の中にいた虫です優君」

 

「恐らくはアリアも呪われていたのだろう。海の真ん中で水上バイクがエンストし、狙撃されたからな」

 

ジャンヌの説明に舌打ちする。

卑怯なやつだ

 

「行くのはアリアのチームメイトの遠山と星伽でいいな椎名?」

 

くそ……

 

「分かった……」

 

アリア救出に俺は参加できない……

こんなに、アリアを助けたいのに

片手でも戦えるのに……

 

「決まりだな」

 

ジャンヌは一同を見回し、

「アリア救出は遠山キンジが目覚め次第、星伽白雪と二人で行う」

 

今まではアリアの近くで護衛できた……でも、今は任せるしかないのか……二人に……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第154弾 お空の旅は冬服で

目覚めたキンジに事情を説明し、みんなでロジのドッグに降りると海水の臭いがした。

海に繋がってるらしいな……

 

「キンジ!」

 

第7ブリッジと書かれた所で、油まみれの武藤が顔を上げた。

武藤が整備してたのはなんだこりゃ?魚雷みたいな形だか

 

「これはオルクス。私が武偵高への潜入用に使った潜航艇だ。元は3人乗り立ったが今回の改造から部品が増えて二人乗りになった。武藤、何ノットまで出せそうだ?」

 

ジャンヌに聞かれた武藤は太い眉を寄せて頭で計算する。

 

「まあ……170ノットってとこだな」

 

「素晴らしい。たった一晩でそこまでできるなんてお前は天才だ、武藤」

 

「それは認めるがよ。オレ以上の天才だぞ、これを作った奴は。これ、元は、スーパーキャビンテーションだったんじゃないか?」

 

「スーパーなんだって?」

 

キンジが聞いてるが俺も分からん

 

「高速魚雷が蒸発させた海水の気泡を自分の周囲に張って水の抵抗をだな」

 

「詳しい説明をしている時間はない。要するに超スピードを出す魚雷から炸薬を降ろし、人間が乗れるようにしたものなのだ、オルクスとは」

 

武藤の説明を手で制しながらジャンヌが言った。

 

「……だがよ、2000km走らせるってたな。燃料は積めるだけ積んだが、それなら片道だぜ。何か調達してあとで迎えに行くけどな、自力では帰ってこれねぇぞ」

 

と、武藤がキンジを見る。

いくらかは裏事情を知ってるな武藤

 

「聞いたのか、武藤。俺達の……その」

 

「聞きゃあしねえよ。好奇心ネコを殺す。武偵が書いた本に載ってたんだろ?」

 

武藤は巫女装束の白雪をチラッと見た。

 

「お前も優もほんと、何に対しても鈍感なヤツだよ。俺たちが何も知らないとでも思ったか。目を見りゃわかんだよ。ここ数ヶ月お前達が、危ねぇ、橋を渡ってたってことぐらいよ」

 

「みんな薄々分かってたよ。武偵だもん。でも」

 

武藤の手伝いをしていたらしい不知火がオルクスから出てきた。

 

「危ない橋の1つや2つ、みんな渡ってるからね。この学校の生徒は。それに武偵憲章第4条武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用の事。だよね?だから……陰から心配してたんだよ。やっと手伝える時が来て、正直ちょっと嬉しい」

 

とニコといつもの人当たりのいい笑顔

 

「ありがとう……」

 

と俺達は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先に乗り込んだ白雪に続いてキンジがオルクスに乗り込もうとする

 

「キンジ」

 

 

乗り込もうとするキンジに声をかけるとキンジが振り替える。

 

「アリアを頼む……俺たちも手段を確保したら直ぐに援軍に行くからな」

 

「お前は怪我人だろ?無理するなよ」

 

「いーや、絶対に行くからな。死ぬんじゃないぞ。お前も白雪もな」

 

「当たり前だろ」

 

ゴツンと右手の拳を合わせてキンジがオルクスに乗り込んだ。

 

「ではハッチを閉めるぞ。武運を祈る。それとこれを持っていけ」

 

と言ってジャンヌは自分の松葉杖を左右2枚に開き……中に収められていた、抜き身の洋剣を差し出した。

デュランダルだなあれ

 

「ジャンヌいいの?船もらっちゃったのに……この剣もあなたの大事な……」

 

「パトラは私の敵でもある。敵の敵は味方と言うからな」

 

「ありがとうジャンヌ。本当は、いい人だったんだね」

 

と、まっすぐ白雪にお礼を言われたジャンヌは真っ赤になり

 

「な……っ……わ、私は魔女だっ。本当は怖いんだぞ。あ……ぶ、武運を祈る」

 

と真っ赤になってこちらに走ってくる

 

「ツンデレですね」

とアリスに言われてジャンヌは違うと怒鳴った。

そうしてる間にオルクスが出航していった。

 

「……」

 

時計を見ると午前7時15分

アリアの死、そのタイムリミットまで残り、10時間45分か……

待つしかないのかよ……

 

「武藤、俺達はいつ追えるんだ?」

 

「そんなに焦るなよ優、昼頃には船の準備は終わる」

 

昼か……多分、間に合わないだろうアリアの死までには……キンジ達に賭けるしかないのか?

一瞬、藤宮姉妹が思い出されたができれば、巻き込みたくないし、後1つのルートも多分、先手を打たれてるだろう……

 

「優君……」

 

秋葉が心配してくれたのか声をかけてくれる。

 

「ああ、大丈夫だ秋葉、ちょっと外の空気吸ってくる」

 

と言ってロジの建物を出て壁にもたれ掛かる。

 

「歯がゆいよな……こんな時、姉さんなら自分で飛んでいくなりできるのに……」

 

今は、土方さんや月詠達はいない。

ここにいても仕方ないというのが理由らしいがな……

 

「ん?」

 

ふと、人の気配を感じて横を見るとレキが体育座りしていた。

まったく気づかなかったぞ

 

「ぐる」

 

その横にはハイマキがお座りしてるな

 

「アリアさんが心配ですか?」

 

いきなり声をかけてきたレキに俺は頷く

 

「ああ、パトラ以外にも敵がいるかも知れないしキンジ達2人じゃきついかも知れないからな」

 

「……」

 

 

レキは黙って前を見ている。

 

「……」

 

「……」

 

続く沈黙

何故だろうな……前はこの沈黙はきつかったけど今はそうは思えない

 

「もしかして……心配してくれてるのか?」

 

「……」

 

レキは答えない。

だけど、動こうともしなかった。

 

「……」

 

なんか、眠くなってきたな……

カジノの戦いのダメージがまだ、抜けていないらしい……

あ、寝るならどっか……他の……

目を閉じると心地よい眠気に俺は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た……

幾人もの不思議な雰囲気の女性達に加え、子供が二人、姉さんが何か楽しそうに何か、中央の女性に話している。

相手の女性は無表情だが姉さんと意志疎通はできてるようだ。

 

「……はいいぞ?ウルスの血と椎名の……」

 

「……」

 

女性が何か言った。

 

「決まりだな。よかったな弟、お前は……」

 

「……」

 

俺の前に座っている子供は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レキ」

 

「はい」

 

はっとして目を覚ますと再びレキの顔が前にあった

 

「うわ!」

 

また、レキに膝枕されてたらしい。

というか、壁越しに俺がずり落ちただけか!

 

「ぐるおん」

 

「いて!噛むなハイマキ!」

 

「ハイマキやめなさい」

 

ちっと言う風にハイマキが離れる。

なんなんだ?

時計を見てみると午前13時30分、そろそろ準備が終わるはずだが難航してるのかもしれないな……

 

それにしても……

 

「?」

 

レキが俺を見てくる。

あの子供レキに似ていたような……まさかな……

 

「ここにいやがったか優希」

 

「土方さん」

 

土方さんはレキの方を見てから

 

「野暮だったら引き上げるぜ?」

 

「ち、違うって!それより何か用?」

 

「船の準備ができたそうだ。行ってこい。間に合わねえだろうがな……」

 

土方さんは舌打ちしながら言った時

 

「じゃあ、私が送り届けてやろう」

 

「何!っ!てめぇ!」

 

土方さんが振り返り目を見開いた。

 

「姉さん!」

 

水無月希が腕を組んで立っていたのだ。

というか、土方さんの驚き具合からして……

 

「てめぇが何で生きてやがる!希」

 

「そう驚くなよ歳、今は時間ないからな」

 

むんずと俺の襟首を掴む姉さん

へ?

 

「レキ、こいつ借りてくぞ」

 

こくりとレキが頷いた。

ちょ!やっぱりレキと姉さん!

ていうか槍を手にした秋葉を片手に掴んでるし!

 

「じゃな、歳また、会おう」

 

「てめ!待ちやがれ」

 

土方さんが姉さんに掴みかかった瞬間、景色が歪み次の瞬間には大空だった。

 

「えええ!」

 

「さあ、秋葉、風+風だ。3時間くらいか?」

 

「はい」

 

ま、まさか

 

「ね、姉さん、秋葉、参考までに聞きたいんだけど」

 

「はい?なんですか優君」

 

「何する気?」

 

「決まってるだろ」

 

姉さんはにっと笑い風を展開させた瞬間景色が変わった。

 

「空の旅だ!」

 

ぎゃあああああああ!

2000kmを三時間ぐらいということは時速666kmくらいの速度……なるほど、秋葉を連れてきたのはうっとうしい空気の制御を任せるためか……

てか……

 

「ね、姉さん一度降ろして!寒い!死ぬぅ!」

 

「ハハハハ、飛ばすぞ!」

 

そう、夏服で長時間空飛ぶ馬鹿はいないよね……

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア死亡まで後4時20分



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第155弾 優希vsパトラ

凄まじい、速度で流れていく海と雲を視界に3時間近い、空の旅は続いていた。

間もなく、目的地のはずだが海の上には何も見えない。

 

「……」

 

腕時計に設定したアリア死亡まで、後一時間と少しか……

ここに来るまで、姉さんに敵の戦力等を聞いている。

敵はパトラに加えてイ・ウーの構成員が数名、生憎姉さんは詳しい人数までは知らないようだった。

最優先事項は実家と同じく、アリアの救出一点だ。

早急にパトラを撃破しなければならない。

ステルス無効化能力のある紫電は戦いの鍵になるはずだ。

 

「姉さんは協力してくれないの?」

 

「私はそうだな……条件つきで協力してやろう」

 

風を受けてるのにまったく揺れてない髪型の姉さんは薄笑いを浮かべながら言った。

 

「条件付き?」

 

「まあ、条件は教えんがな」

 

なんだよそれ……まあ、パトラと戦う場合多分、姉さんは協力してくれない。

そんな気がする。

 

「優君、他は私が引き付けます。アリアさんを」

 

「無茶言うな秋葉、ここに来るまでお前、相当ステルスを消費してるだろう?」

 

「ですが……」

 

分かってはいるのだ。

キンジ達はまだ、着いていないだろうから待たずに戦いを始めれば数による不利は否めない。

 

「ようは大将撃破すればすむ話だ弟」

 

「いや、姉さんはともかく……」

 

そう、姉さんならホワイトハウスだろうが要塞中央部だろうが大将を強襲できるだろうがさすがにあんな能力は俺たちにはない。

 

「ハハハ、なら手助け2だ」

 

「ん?」

 

「見えてきたぞ」

 

「え?」

 

眼下を見るとみるみると何かに近づいている。

船か?大きいな……

ちっ、やはりピラミッドがありやがる。

船の甲板には無限の魔力を得られるというピラミッドが作られていた。

船の回りには潮吹き?クジラが集まってるのか……てか

 

「行くぞ!」

 

「はい!」

 

えええ!ぶつか……

666kmのまま、俺達はピラミッドに突っ込む瞬間、その姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんじゃ!どうやって現れおった」

 

 

目を丸くしてびっくりしてるよ

いやいや!姉さん心の準備させてよ!

気がついたらラスボス(パトラ)の部屋とか!

 

「っ!」

 

素早く回りを確認して状況を把握する。

その全てが黄金で出来た部屋の奥の巨大な黄金のスフィンクスの手元というか足元にアリアを収めた黄金柩がある。

即座に、怒りが戦闘狂モードを引き起こし、回りに秋葉や姉さんもいないことに気付いた。

姉さんは瞬間移動のステルスを使ったらしいが故意かどうかは分からんが俺をここに送り込んだらしい。

ステルスはそこまで詳しくないが無限大の魔力とやらが姉さんの転移を妨害した可能性もあるがとりあえず……

 

「アリアを返してもらうぞ!」

 

言いながらデザートイーグルで驚いているパトラに向けて3点バーストで発砲する。

パトラは慌てて、盾のようなのを三枚砂から作り出したがデザートイーグルの弾丸はギギンと黄金の壁にぶち当たりパトラの両足、右手を撃ち抜いた。

 

「くっ!」

 

パトラが体制を崩した。

 

「おまけだ!」

 

ドンと再びデザートイーグルから放たれた銃弾が砂で出来た盾に命中する。

 

イイイイイイイイン

 

パトラが苦痛を上げるように口を開いたが聞こえない。

武偵弾、音響弾(カノン)

完璧過ぎる奇襲だからこそ上手く言ってるな

 

「アリア!」

 

黄金柩に向かって走り出す。

 

「やりおるのう椎名優希」

 

何!

目の前にいきなり現れたのはパトラだ。

後ろを気にするとパトラの姿をした砂が砂に戻っていく。

 

「強襲できんかったのぅ」

 

そう言って構えたのは……

イロカネアヤメか!

右手で紫電を抜きながらイロカネアヤメと紫電、二本の日本刀が激怒して火花を散らした。

 

「知ってやがったのかてめえ!」

 

「水無月希がお前に荷担してるのは知っておったのでのぅ。妾は常に先を見て動く」

 

真っ赤なマニキュアをした手から渾身の力でパトラが刀を押す。

くそ!左手が使えねえから力が入りにくい!

なら!

右左の腰のワイヤーを射出するパトラは慌ててかわしたが、左のワイヤーがパトラの右腰をかすった。

体制が崩れた!

 

「飛龍一式風切り!」

 

すれ違い様の斬撃をパトラは砂の盾を出したが紫電は紙のように切り裂き、パトラの右腕を切り飛ばした。

イロカネアヤメが砂の上に落ちる。

 

「……」

 

にぃとパトラが笑い、砂になって消えていく。

こいつも偽物か!

 

「!?」

 

殺気を感じて後ろに飛ぶと、砂の中からパトラがイロカネアヤメを掴んで突き上げてきた。

なるほど……厄介だな……

この部屋の砂全てがあの偽パトラを作れるとしたら……

 

「どうした?椎名優希?同じ土俵で戦ってやってる妾にすら傷1つつけられんか?弱いのう」

 

「はっ、よく言うぜ……」

 

本体さえ出てくれば剣術では俺が上だ。

どこだ?どこにいる紫電を右手で構えながら目を閉じる。

視線ではなく気配を感じるんだ。

 

「目など閉じおってもう、あきらめたのか?つまらんのう」

あった!

 

「飛龍一式風凪!」

 

カマイタチが柱ごと隠れていたパトラを切り裂いた。

 

 

「外れじゃ」

 

「何!うっ!」

 

再び背後からの殺気に紫電で受けようとした瞬間、パトラのイロカネアヤメが紫電を空中に吹き飛ばした。

ひゅんひゅんと音を立てながら紫電が吹っ飛ぶ。

 

「ちっ!」

 

ガバメントを抜いてフルオート射撃でパトラを撃つ。

 

「ホホホ」

 

笑いながらパトラは砂の盾を展開して銃弾を弾いた。

正面からじゃ無理か!

 

ワイヤーを壁に撃ち込んで空中に飛ぶと紫電を空中で手にすると再び空中で離して、もう一丁のガバメントでパトラを狙う。

あれが本体なら!

 

ドオオオオオオオン

大爆発と紅蓮の炎がパトラを包んだ。

炸裂弾だ。

再び、紫電を掴むとワイヤーで更に上昇し、更に、天井を蹴ると重力を加えて落下する。

 

「飛龍一式雷落とし!」

 

パトラは慌てて、砂の盾を6つ展開するがパリンパリンと皿のように全てを打ち砕いた。

 

「く……手加減しておれば付け上がりよってからに!」

 

 

パトラの回りに黄金の鷹が10羽現れる。

接近戦を捨てたか!ガバメントで撃ち落とすが3羽が突っ込んでくる。

転がりながら交わす。

 

「ほれ、どうした!」

 

再び、パトラの回りに黄金鷹が次々と現れ出した。

紫電で切り払いながらワイヤーで空中に逃れる

近づけない!

片手なため、満足にマガジンを入れ替える隙も与えてもらえない。

せめて、両手さえ使えれば!

 

「ぐっ!」

 

右肩に激痛が走った。

黄金の鷹が右肩をついてきたのだ。

肉を少しえぐられたか!

これじゃ、満足にワイヤーを使えないぞ。

いや、剣術すら……

 

「……」

 

地面に降り立つ。

 

「ほっ」

 

万策尽きたと思ったのかパトラが笑う。

 

「命乞いをせい。椎名の後継。許してやらんでもないぞ?」

 

「はっ、誰が……」

 

構えは刺突……

このままではアリアは死ぬ。

武偵は決して人を殺してはならない。

例え、仲間が殺されたとしても……

だが、それがどうした?

俺は仲間が殺されてまで、犯罪者を擁護してやる意思はない!

アリアは死なせない!

 

「な、なんじゃ?」

 

パトラが後ずさる。

ビリビリと殺気がパトラを襲う。

本気の殺しの殺気。

体の内面から何かが変わっていく。

 

「な、汝何をした!なんじゃその姿は!」

 

ああ、知ってるなこの感覚。

ローズマリーの時も……姉さんと戦った時にも感じた……

『緋刀』

そう、姉さんは言った。

右手と左手で紫電を掴む。

なるほどな……この力、ヴァンパイアみたいな治癒能力まであるのか……道理でローズマリーと戦った後、治っていたはずだ。

だが、ローズマリーを倒したあの力の使い方は分からない……

だが、筋力増強、身体能力は2~7倍か?

 

「新撰組奥義……」

「や……」

 

滅壊を繰り出す直前にパトラが言った瞬間、ぎしりと体が動かなくなった。

何!

 

「影縫い」

 

スッと影の中から首都高で戦った霧島 楓が現れた。

 

「ワハハ!苦戦してるな!パトラよ」

 

そう言いながら現れたのはジャンか!

 

「苦戦などしとらん!止めを指すとこじゃ!」

 

「嘘……」

 

霧島楓が呟いた。

他にも数名がパトラの背後に立った。

7対1か!

 

「うぐ……」

 

「無駄、影縫いは体の動きを止める」

 

「少年!悪く思うな!」

 

ジャンの言葉を耳にしても俺は動こうとあがくがまるで、動かない。

 

「ホホ、キリシマカエデ、そやつを押さえておけミイラにしてくれる」

 

余裕を取り戻したパトラは両手を俺に突きだす

喉が渇き、水蒸気が体から立ち上る。

まずい、動けねえ。

紫電を影に落とせば解除できるはずだが握力すらまるで、動かない。

 

「ほれ、ミイラになるがよい」

 

こんなところで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいそれは流石に卑怯だろ」

 

気づいたときには俺は広間の端にいた。

霧島楓がキョロキョロとしている前に姉さんが降り立った。

 

「優君」

 

秋葉がポケットからペットボトルの水を取り出したのでそれを飲む。

 

「秋葉、お前らどこに……」

 

「すみません、希様の転移がピラミッドの魔力に妨害されて来るのが遅れました」

 

「いや、助かった」

「優君その姿は……」

 

秋葉が見るのは初めてだったか?

 

「説明は後だ」

 

気が抜けたからか

しかし、姉さん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どういうつもりじゃ水無月希!貴様約束を違えるのか!」

 

パトラが明らかに動揺して言った。

 

「約束ぅ?先に破ったのそっちだろ?私はお前単独でなら優希との戦いには手を出さないと言ったんだ。他の手を借りた時点で約束もないださ?」

 

姉さんは紛れもない化け物クラスのパトラや回りに全く気後れしていない。

 

 

「じ、じゃが……」

 

「そこで私は考えた」

 

ニヤリと姉さんは笑った。

パトラ以外の8人のイ・ウーの構成員を見て戦闘狂の目で見回す。

 

「邪魔が入らんようにお前らは私が相手をしてやろう」

 

「気でも違ったか?」

 

ジャンヌに似た騎士 風の女性が言った。

 

「こっちは条件しだいではRランクにも匹敵する8人だ。いかに、貴様といえ……」

 

「女は殴れんが……あんたは別格だな」

 

ジャンもやる気になっているようだった。

他のメンバーも異論はないようでそれぞれが武器を構えた。

 

「そうそう、それで……ん?」

 

ギシリと姉さんの動きが止まる。

 

「影縫い……」

 

霧島楓が姉さんを影に縛り付けたようだ。

沖田の時のための教訓か影の中に入って影縫いをしているようだ。

 

「パトラ殿は椎名達を!他のものは今だ!水無月希を討ち取れ!」

 

7人が動く直前

 

「影縫いね。ようはこうすればいいふっ!」

 

「!?」

 

驚いた顔の霧島楓が影から放り出された。

 

「ようは金縛りなんてものは気合いでどうにかなるものさ」

 

立ち止まった7人を見て姉さんは面白そうに

 

「さて、やろうか?」

本当に楽しそうな笑顔だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第156弾 圧倒する水無月希

「さてやろうか!」

 

水無月希が一歩前に出ると全員が一歩下がる。

 

「お、恐れるな!囲んで討ち取れ!」

 

騎士風の女の異名は豪雷と言った。

他の7人も名だたる使い手だ。

全員でかかれば負けるものはいないとさえ思っている。

なのに……

 

「ここじゃ狭いな。外でやろう……か!」

 

ゴオオオオオと凄まじい突風が豪雷を含めてパトラ、優希、秋葉を除いて吹き飛ばした。

たまらずに、出口からピラミッドの外に放り出され、甲板に着地する。

 

「めちゃくちゃだあの女」

 

そう言ったのは7人の中のサングラスをかけた男だ。

 

「落ち着け!相手は一人だ!チームでかかれば負けは……」

ドオオオオオオオン

と凄まじい爆発音がした瞬間、手に持つ西洋剣がビリビリしびれ、後ろにぶっとばされた。

右拳を握りにやりと笑う怪物

 

「水無月希!」

 

それぞれ7人が一斉に襲いかかった。

 

「ワハハ!お前は女という定義に当てはめるのは可笑しいな!」

 

そう言いながらジャンは空間転移の力で船の中に隠してあった武器を転送した。

改造されたそれは、戦闘ヘリにつけるようなチェーンガンと呼ばれる人間を一瞬でミンチにできる兵器である。

ジャンはそれを躊躇なく水無月希に撃ち放つ。

ブオオオオオオオと秒速625発という凄まじい数の銃弾、いや砲弾が水無月希を襲う。

 

「はっ!」

 

水無月希が風を纏い空に飛ぶ

 

「ワハハ逃がさんぞ!」

 

怪力で改造チェーンガンを持ち上げようとしたジャン

 

「なるほど、物を手元に転移させる能力か?こうだな」

 

「ぬぁ!」

 

ジャンが驚いた声を上げた。

水無月希の手には予備に船内に隠していた予備のチェーンガンがあったからだ。

 

「ハッハッハ!」

 

ブオオオオオオオとチェーンガンが慌てて飛び退いたジャンのいた場所、甲板を撃ち抜いて、ズタズタに引き裂いた。

 

「影縫い!」

 

霧島楓がチェーンガンを投げ捨てて、甲板に降り立った瞬間、影から現れ動きを縛り付ける。

 

「効かんといったろ?」

 

気合いで金縛りを砕こうとした瞬間、

ザアアアと水無月希の足元に水が流れ、パキパキと足を凍らせていく。

ジャンヌには及ばないが氷使いと水使いの合成技

 

「徹底的に私の動きを封じ手も勝てんぞ?」

 

水無月希がそう言ったとき、バチバチと空気が帯電する音が聞こえてきた。

見ると西洋剣を帯電させた、豪雷と呼ばれた彼女が駆け出していた。

 

「豪雷一閃!」

 

空中に飛び上がるとバチバチと帯電する剣を水無月希に向かい叩き落とす。

 

バチイイイン

 

「何!」

 

女の剣は砂で出来た盾で防がれていた。

 

「砂は電気と相性が悪いよな!」

 

「くっ!」

 

後ろに引く瞬間、顎に衝撃を受けて吹き飛んだ。

見ると水無月希の右手は砂にコーティングされている。

 

「ば、化け物……」

 

そう言って雷使いの女は床に沈んだ。

 

「次はお前だ!」

 

水無月希はジュウウと熱を発生させ、氷を一瞬で溶かすと左手で影を殴り付けた。

 

「うあ!」

 

影から霧島楓が引きずり出される。

 

「こ、降参」

 

勝目なしと判断した少女は合理的に判断して白旗を上げた。

「ちぇ」

 

水無月希は手をパット放すと残りの5人に襲いかかった瞬間、上空から竜巻が水無月希を囲む。

 

「風使いか!」

 

ニヤリと笑って言った瞬間、竜巻の中に、炎が入り交じる。

 

「その技ならもう、修得してるぞ!ふっ!」

 

水無月希が炎の竜巻の真ん中で両手をを左右に広げた瞬間、同規模の竜巻が発生し、竜巻を中和して消滅させる。

竜巻が晴れると驚いたステルス使いが2人。

それぞれに一瞬で肉薄した水無月希が右手と左手で二人に拳を叩き込むと二人は壁に叩きつけられて動かなくなった。

 

「後、3人!」

 

「ひっ!うわあああ!」

 

残った水のステルス使いが悲鳴を上げて、水球を海から作り出してマシンガンのように撃ち放った。

「よ!」

 

水無月希はそれを軽快なステップでかわしながら水のステルス使いに近づくと拳を叩き込んだ。

 

「つ、強すぎる……」

 

そう言って沈んだのを見てから水無月希はジャンとローブを被った残りを見る。

 

「後はお前らだな!」

 

「むぅ……」

 

ジャンが何かを転移させようと手を動かした瞬間、それをローブが右手で抑える。

 

「引きなさいジャン。貴方ではあの人には勝てません」

 

「しかし、お館様!」

 

「そろそろ、潮時でしょう。引きなさい」

 

「仕方ないですな」

 

 

豪快な男、ジャンにしては珍しい敬語なるほど

 

「雷使いがリーダーかと思ってたがお前が真のリーダーだな?」

 

「……」

 

ローブの中から見える口元は微笑んでいる。

 

「貴方なら惜しくはない」

 

「何?」

 

刹那、ローブ相手が消えた。

バチイイイン

気づいたときには水無月希の腹に拳がかすっていた。

ローブの存在はバチバチと帯電している。

見覚えのある紫の雷

 

「紫の雷、お前まさか……」

 

そう、あの雷を纏える存在は水無月希が知る限りでは4人、それも真のオリジナルを持つのはたった、一人だけだ。

だが、声は女のものだった。

 

「なるほど、私相手に紫電の雷神の……」

 

「……」

 

ローブの女は黙ってマイクロイーグルを取り出した。

バチバチと紫の雷を帯電させながら引金を引いた。

雷の光が水無月希の刀とぶつかり、銃弾が霧散する。

 

「雷砲か、やはりお前……」

 

「……」

 

ローブを脱ぐとまず、見えたのは黄金の色の瞳に長い黒髪、手にはマイクロイーグルと扇子が握られている。

パンと扇子を開くと文字が描かれている。

字は『風林火山』

 

「やはりな、なんでお前がここにいる?」

 

「お久しぶりですね水無月希」

 

臨とした雰囲気を持つ少女は真っ直ぐに、水無月希を見ている。

 

「ほぅ、武田の跡取り娘がなぜ、イ・ウーにいるんだ?家の方も大変だろう?」

 

「心配には及びません。そちらは妹がなんとかします」

 

「で、どこで掴んだかか知らんが優希を援護しに来た訳か?武田家だって核で脅されるだろう?」

 

「心配には及びません。イ・ウー構成員が偶然、ここに居合わせて止む終えなく戦闘に巻き込まれた。そんな筋書きですから」

 

「屁理屈だな……まあいい、その紫電の雷神の能力後何分使える?」

 

「教えるとでも?」

 

「優希の援護にお前を行かせるのはまずいからなぁ、ここで足止めしてやろう。オリジナルではないとは言え紫電の雷神の力とは一度やってみたかった」

 

刀を構えながら水無月希は言う。

本気で……少なくても紫電の雷神の力には敬意を持って戦うという証だ。

 

「困った人です……」

 

パンと風林火山の扇子をしまうとバチバチと紫の雷を纏いながら武田を名乗る少女はマイクロイーグルを構える。

 

「武田信玄が子孫武田信冬参ります」

 

「スサノオが子孫、水無月希!行くぞ!」

 

バチバチと同じく、雷を纏った水無月希と武田信冬が甲板で激突した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第157弾 ヤンデレvs優希

「後はてめえだけだ砂漠の魔女!」

 

姉さんがまとめて、外に放り出した敵と戦闘する音を聞きながらパトラに言った。

秋葉と俺で2対1だ。

 

「たわけたことをぬかすな椎名優希、水無月希はともかくお前らなど妾の敵ではないわ」

 

「へ、そのわりにはさっきはびびってたなおかっぱ頭」

 

「汝……」

 

怒気がパトラの回りに立ち上った。

 

「優君私がパトラを抑えます。アリアさんを」

 

「分かった。だが、秋葉、お前……」

 

ステルスを相当消費してるだろうと言おうとしたが秋葉は頷いただけだった。

もう1度、緋刀の力を使いたいが反応がない。

まだまだ、自由にはいかないか……

なら、ステルスには秋葉をぶつけるのが上策か

 

「行ってください!」

 

右腕を振りかぶった秋葉の右手から竜巻がパトラを飲み込むと同時に柩に向かい走り出す。

 

「動くな!椎名優希」

 

バチバチと突風と同時に砂嵐が俺を包み込むが構わず突っ込む

 

「迂闊ですね」

 

「なんじゃと!」

 

秋葉が左手を俺に向けると

 

「風は私のものです」

 

砂嵐の風が消滅する。

秋葉が中和したのだ。

 

「小娘!」

 

激昂したパトラが竜巻に逆らって一歩前進してきた。

 

「行かせません!」

 

更に、秋葉は竜巻の威力を高めるがその顔は苦し気だった。

 

「ホホ、ここに来るまで相当ステルスを使ったようじゃの椎名の近衛、妾は無限、汝はガス欠寸前、何時まで持つかのう?」

 

「う……く」

 

秋葉は長くは持たないか!

黄金柩の前にワイヤーを撃ち込んで飛び上がった瞬間

アリアの黄金柩を足元に置いていたスフィンクスが動き始めた。

10メートルクラスの怪獣みたいだな。

 

「邪魔だ!飛龍一式風凪!」

 

ステルス無効のカマイタチがスフィンクスに直撃するとガラガラと砂に戻っていく。

アリアの柩まで後少し……

今、助けてやるからな!

 

「止まらんか!椎名優希!」

 

ヒステリックな声に振り向くとステルスを使い果たした秋葉をパトラが踏んでいる。

 

「てめえ!秋葉から汚い足をどけろ!」

 

ガバメントをパトラに向けるが秋葉から水蒸気が立ち上ぼり始めた。

 

「飛び道具を捨てて棺から離れるのぢゃ、椎名。この女をミイラにするぞ」

 

そういうと秋葉の体から水蒸気の量が増す

 

「ゆ、優君……私に構わずに……」

 

「黙っておれ!」

 

ドカッとパトラが秋葉の体を蹴飛ばした。

 

「うっ」

 

苦悶の声を上げた秋葉に俺の中の何かが反応する。

 

「パトラ貴様!秋葉になんかあったらてめえは絶対に殺す!」

 

熱く、体があの感覚に支配されそうになった時

 

「緋火星鶴幕!」

 

飛び出してきた白雪の袖の中から無数の折り紙の粒が飛び出し石つぶてのようにパトラに飛びかかり空中で燃え盛る火の鳥に化けてパトラに体当たりして爆発していく

 

「むお!」

 

パトラは慌てて、秋葉から離れる。

白雪はデュランダルを抜くとパトラのイロカネアヤメと切り結んだ。

 

「優!」

 

「キンジ!白雪!」

 

どうやら、時間までには間に合ったらしいが助かった。

 

「キンちゃん、優君!私は5分しか持たない!その間にアリアを救出してっ!」

 

「キンジお前が行け!」

 

「分かった!」

 

パトラに牽制のためにガバメントをフルオートで撃ち込みながら気絶した秋葉をお姫様だっこすると端まで走る。

 

その間にキンジがアリアの柩に迫った。

 

「止まらんか遠山キンジ!」

 

 

白雪がぶっとばされ距離が開くとパトラが手をキンジに向けた瞬間

 

がんっ!

 

その音はピラミッドの外から聞こえてきた。

がんっ、がんがんざざぁッ

なんだ?この音は?姉さんか?いや

がしゃあああんとガラスが割れて赤く塗装されたオルクス潜航艇が室内に乱入してきた。

その中から武偵高女子制服を着たカナが飛び出してきた。

 

「トオヤマ、キンイチ……!いや、カナ!」

 

かああと顔を赤面させたパトラ

 

パパパパパパッ!

長い三つ編みを翻し、華麗なムーンサルトを見せたカナの周囲で6つの光がほとんど同時に閃いた。

インヴィジビレ、見えない射撃の6連射だ。

パトラはバック転してせれをかわしたが猫みたいな姿勢で金の砂漠に降り立った膝に一筋の血を流している。

す、すげえな銃だけであのパトラを簡単に負傷させるなんて……

姉さんは力づくだがカナさんはエレガントという言葉が似合う。

本当に男かと疑っちまうよ。

 

「出エジプト記34章13―汝ら彼等の祭壇を崩し、偶像をこぼち、きり倒すべし」

 

聖書の一節を呟き空中で片手で6発の銃弾をばらまいたカナはジャキンと振りかぶった銃を右から左へ空中で銃弾をぶつけるよう払った。く、空中リロードか!

昔、やってるやつみたことあるがもの凄い技術だな……

あれを修得できてれば今回だって……

 

「キンジ。私があげたナイフは、まだ持ってるわね。緋色のバタフライナイフを」

 

キンジが頷いた。

 

「あのナイフを持ったまま、アリアに口づけしなさい」

 

「く、口づけええええ!」

 

うわ!白雪の前でカナさんそれは……

カナさんが俺を見るとニコリと微笑んだ。

ちょ!カナさんまさか!

 

「キンちゃん駄目!キスするなら私私私ぃ!」

 

我を忘れた白雪の前に紫電を抜いて立ちふさがる。

秋葉は端に寝かせてある。

 

「邪魔するの優君……」

 

「お、落ち着け!白雪!カナさんにも何か考えが……」

 

 

なぜ、キスなのか激しく疑問だがお姫様はキスで目が覚めるのか?

いや、それより黒雪さん!今、戦ってる場合じゃ……

 

「天誅!」

 

ガアアアアンとデュランダルと紫電が激突する。

なんだって、アリアを助けに来て白雪と戦ってるんだ俺は!

 

「パトラ。今の私は女にも容赦しないわよ」

 

「カナ……トオヤマキンイチよるでない。妾はお、お前とは戦いとうない」

 

「パトラ。あなたは獣のように獰猛に見えて実は、とても頭のいい子。左右の手で別々の文字を書くように、幾つもの物をテレキネキツソで動かせる。でも、その集中力にも限界があるはず」

 

「バカにするでない!妾は、妾は、おお、お前のことなど好きで、あ、す、好きにできるのぢゃぞ」

 

セリフを噛みながら大皿のような砂の盾を6つ展開させ、カナとパトラの戦いが始まった。

 

「ヒノカカビ・ソウコ!」

 

 

「うわ!」

 

ミキサーみたいに振るわれた炎の刃を紫電で受けると炎が霧散するが紫電と離れると炎が復活する。

熱ちち!ローズマリーもそうだったが炎使いは厄介すぎだ

 

「白雪落ち着け!」

 

まさか、本気で戦うわけにもいかないが

 

「キンジ早くしろ!」

 

「駄目ぇ!キンちゃんとキスしていいのは私だけ!邪魔するなら抹殺抹殺抹殺抹殺抹殺ぅ!」

 

引いた白雪が正面からは刀剣が見えなくなるほど、背後に大きく振りかぶる。

げ!あれはまさか!

 

「星伽そう天流奥義双重流星!!」

 

十文字にクロスさせるように、渾身の力を込められたパトラとカナとの戦いでこぼれ落ちたのか取り戻していたらしい両方の刃を俺に向けて振るった。

ずあああああああと刀剣から放たれた深紅の光がXの刃になり紫電で迎撃した俺は凄まじい衝撃を受けて俺はぶっとばされて壁に叩きつけられた。

ずるずると壁から落ちつつ、白雪が力を使い果たしたのか前に倒れていく。

白雪さん……力の使いどころ間違ってるから……

横目にはカナが巨大な大鎌でパトラを追い詰めておりキンジは……

 

「キンジ!」

ダメージが大きく紫電を砂に刺して起き上がりながら俺はキンジとキンジがアリアの棺によって、蟻地獄のようにアリアの棺ごと沈んで言っていた。

罠か!

ワイヤーで二人の元に行こうとしたがダメージがでかすぎる。

 

「キンジ!アリアぁ!」

 

絶叫する俺の声が広間に響き渡り二人は砂の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘だろ……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第158弾 緋弾

「嘘だろ……」

 

砂の中に棺ごと消えたアリアとキンジがいた場所を見て見ながら俺は呆然と呟いた。

砂に飲み込まれたら助からない。

 

「!?」

 

何やってるんだ俺は!

アリアとキンジを救うために二人が消えた場所に走り出した瞬間

 

とがあああああんと爆発音と共に室内に何かが激突してきた。

 

「30分か……よく持った方だな」

 

そういいながら穴に立ちながら不敵に笑う姉さんと……

 

「ええ、紫電の雷神の能力は打ち止め、ですが、私は戦えますよ」

 

砂煙の中から黒髪を揺らしながら姉さんを見上げる少女

お、お前

 

「の、信冬!」

 

日本の名家の一人、武田信玄の子孫

彼女は俺を見ながら

 

「お久しぶりですね優希」

 

と柔らかく微笑んだ。

 

「あ、ああ。お前がなんでここにいるかは置いとくが今は……」

 

「待ちなさいパトラ!」

 

はっとして見るとパトラがアリア達が消えた流砂に飛び込むのが見えた。

逃げる気か!

ガバメントを向けようとするが弾を入れ換えないと

そうこうする間にパトラの姿が見えなくなった。

カナが追撃しようとしたが流砂が止まってしまう。

パトラが流砂の穴を閉じたらしいな。

 

「くそ!」

 

だが、パトラが飛び込んだといいことはこの下は空洞か?となればアリア達も生きて……

 

「水無月希」

 

信冬が姉さんを見上げながら

 

「戦いは終わりです。今はパトラの追撃を」

 

「ん、お前とヤり合うのは楽しいんだけどしょうがないな」

 

姉さんはそう言いながら刀を鞘に戻した。

後はどうやって下の空洞に行くかだが……

 

「優希」

 

そう言いながら信冬が俺の前まで来てから俺を見上げつつ俺の胸に右手を置いた。

その髪は黄金に光ながら揺れている。

 

「今は、瞬間移動のステルスのストックがこれしかありません。貴方だけ先にいってください」

 

姉さんを見上げるが姉さんは協力する気はないらしい。

 

「悪い信冬……いきなりあって迷惑を……」

 

「いいですよ。昔から慣れてますから」

ステルスを妨害しないように紫電を鞘にしまう。

俺が何かを言う前に景色が歪んだ。

空間転移だが、相変わらずなれないなこれ……

 

「さらばぢゃ、トオヤマキンジ」

 

その場面は致命的な場面だった。

斜面の上からWA2000を構えるパトラとアリアを庇おうと前に立ちふさがるキンジ

間に合わねえ!

 

「「キンジ!」」

 

俺とアリアの声が重なった瞬間

 

ダァーン

 

キンジが真後ろにひっくり返った。

倒れからからして頭を……

 

「キンジ!キンジ!」

 

アリアの悲鳴を聞きながらぶつんと何かが切れた気がした。

あの感覚に変わっていくのを感じながらドンと斜面に向かい飛び上がった。

数十メートルを一気に跳躍したことにパトラは仰天したのか慌てて狙撃銃を俺に向けて発砲する

ダァーン

ギイイイン

紫電で銃弾を薙ぎ払うとパトラの心臓目掛けて滅壊を放った。

ドオオオオオオオン

と慌てて避けたパトラがいた場所に巨大なクレーターが出来る。

 

「な、なんじゃ!なんなんじゃその力は!」

 

うるさい黙れ

 

「死ね!」

 

横殴りに振るった紫電の軌道はパトラの首のあった場所だ。

パトラは転げるように下に逃げる。

よくも、キンジを殺したな!

 

「キンジィ!」

 

アリアの絶叫にアリアを見た瞬間、怒りが冷えるのを感じた。

だって……

 

ぺっと口から銃弾を吐き出したキンジが見えたからだ。

お、お前銃弾噛んで止めたのかよ!

なんてやつだ……

俺には絶対に真似できね……

 

カツン……カツン

ん?

音に振り替えるとパトラが黄金の床を踏み鳴らしつつ、斜面を上がるように後ずさっていく。

青ざめた顔で何も言わず

なんだ?何、怯えて……

あれは……

がしゃんとその時、信冬やカナさん達が側面のガラスを破って傾いた室内に入ってきた。

全員が愕然とした顔で驚いている。

姉さんだけはいつものように腕を組んで微笑しているが……

みんなが見てるのはアリアだ。

アリアが立ち上がってパトラの方を向いていた。

 

「う……」

 

ドクンと心臓が跳ねた。

激痛が走り、色が変化した部分に痛みが走る。

なんだよこれ……

 

「共鳴だ優希」

 

いつの間にか、近くに来ていた姉さんが言う。

 

「き、共鳴?」

 

「見てろ。あれが緋弾のアリアだ」

 

無言のまま、黄金のサンダルで床を渡るアリアの瞳孔が何かの動物のように光を放っている。

立ち止まったアリアは右手を前に出したかと思うとパトラを指した。

パトラがすくみあがる

 

「何ぢゃ、こ……この感情は?……こわい……?わ、妾が……お、恐れて……?」

 

パトラの膝が震えている。

パトラが黄金床を盾に変えた。

同時にアリアの拳銃のように突き出されたアリアの人差し指の先端がが緋色に輝き収束していく

 

「「……緋弾……」」

 

信冬と白雪がつぶやく。

アリアはステルス使いじゃない……だが、アリアの血を移植した俺もあれに近い力を使えた……一体何なんだ緋弾ってのは……

 

ぱあっ

 

「避けなさいパトラ!!」

 

緋色の光がアリアの指先から飛び出してきた瞬間、カナが叫んだ。

パトラは慌てて腰布を翻して黄金の床に尻をつき浮かび上がった盾の下から滑り台を滑るようにして間一髪で光を避ける。

緋色に輝く光の弾は砲弾のように黄金の大盾を紙のように貫通し、さっきパトラがいた場所を通過して大爆発をおこし緋色の光が室内の全員に降り注ぐ。

それは全てを塗りつぶす閃光

バシュウウウウウウと異音を聞きながら目を開けると青い空が見えた。

今のアリアが放った一撃がピラミッドの上部をゴッソリもぎ取っていったのだ。

音もなく。熱もなく。何の衝撃もなく消滅させた。

室内には壊れたピラミッドの建材、ガラスや破片が降り注ぐ。

唖然として破壊されたピラミッドを見上げていたパトラの黄金の衣装が砂金に戻っていく。

 

「う……っ!」

 

ピラミッドの無限の力に頼ってたから自分の中の力で魔法使えなくなったらしいな

 

「あ、あ、ああっ!」

 

とうとうただの水着姿になってしまったパトラが慌てて両腕で体を隠す

回りの像や装飾品が次々と砂に戻っていく。

アリアの装飾品も砂金に戻りながらアリアがぐらりと無表情のまま倒れるのをキンジがお姫様だっこする。

同時に胸の痛みが消えて髪の色が元に戻るのを俺は感じた。

この力……まだまだ、制御できないな……

って!

パトラが逃げようとしてるぞ

 

「そーれ♪」

 

姉さんが楽しそうに片手でアリアが入っていた柩を持ち上げるとボーリングのように砂の上を滑らせてパトラの足に当てた。

 

「うあ!」

 

ただの人間に戻ったパトラが柩の中に、ひっくり返る。

意図は理解したぞ

さらに、斜面を滑り落ちてきた柩の蓋にワイヤーを撃ち込んで放り投げる。

もちろん狙いは柩だ

 

「こ、こら!何しおるか!わ、妾は覇お……」

 

挟まれては適わないので手足を慌てて引っ込めたパトラの柩にゴオオオオオンと重なった。

白雪に魔力封じのお札をべたべた貼られた黄金柩の中でパトラは出せ出せと暴れていたが

 

「パトラ、おやすみ。ご先祖様と同じ柩の中でね」

 

とカナに言われてようやく大人しくなった。

ふぅ……これで今回の護衛おしまい……ああ、疲れた……と俺は地面にどかりと座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアを抱きしめるキンジを白雪が日本刀で尻をつんつんとついているのを苦笑しながら見ていると

気絶している秋葉を寝かせて信冬が歩いてきた。

 

 

「信冬、悪いな助けてくれて」

 

立ち上がりながら言うと信冬はお嬢様見たいな微笑を浮かべ

 

「あまり、お役にはたてませんでしたけど力になれたならよかった」

 

「ああ、なんでここにいたかは大体わかるけど……」

 

といいかけた時、姉さんが俺の前に来た。

 

「姉さん……」

 

姉さんは真剣な目付きで俺を見てから海の方を無言で見た。

 

「正念場だな優希」

 

「え?」

 

ぞくりと何かを感じた。

な、なんだこれ……

姉さんが見ている場所から何かが来る。

 

「逃げるのよキンジ!急いでここから撤退しなさい」

 

あのカナが取り乱している。

一体……

辺りは静寂だ鳥も魚の気配すらない。

海が盛り上がる。

 

「あそこよ!」

 

アリアが海面を指差した。

盛り上がり海上に出てきた300メートルはあるそれは……

白く書かれた『伊』『U』の文字

イ・ウー

 

そして、この潜水艦は武藤達が作っていた模型の原型……ボストーク号

 

「見て、しまったのね」

 

カナが、アンベリール号の甲板に突っ伏しながら言う

 

「そう。これはかつてボストークと呼ばれていた戦略ミサイル搭載型原子力潜水艦。ボストークは沈んだのではないわ盗まれたのよ。史上最高の頭脳を持つプロフェシオンに……」

 

ターンを終えて停止した原潜の艦橋に立っていた男を見て

 

 

「いけない!」

 

信冬の髪が黄金に輝き出す。

メタモルフォーゼ、またの名を風林火山を発動させてだれかの能力を使う気らしい

 

「プロフェシオンやめて下さい!この子たちと戦わないで!」

 

パパパパ

 

カナが見えざる手に殴られたように跳ね返され真後ろに倒れるのをキンジが受け止める。

発砲は4だ。

カナ、そして信冬も撃たれたらしく後ろに倒れるの受け止める。

 

「う……」

 

「おい!」

 

防弾服だが、心臓付近を集中的に撃たれたらしく信冬は気を失ったようだった。

「今の……」

 

まったく、発砲の瞬間が見えなかった。

 

不可視の銃弾、しかも狙撃銃であいつやりやがったのか

 

ひょろ長い痩せた体。

鷲鼻に角張った顎。

右手に持った古風なパイプと左手にはステッキをついている。

イ・ウーのリーダー……いや……

 

「……曾おじいさま……」

 

アリアがかすれ声で言う。

 

そう、奴はシャーロックホームズ1世だった。

そのRランク級の圧倒的な威圧感を感じながら姉さん並の力量を相手から感じながら冷や汗を流す。

姉さんが味方なら勝てる。

たが、もし姉さんが敵か力を貸してくれなければ……

秋葉と信冬は気絶、後はボロボロの俺達。

やばいな……本気で不味いぞ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パトラ編完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第159弾 シャーロックホームズ

「カナ!カナ!」

 

キンジがカナを抱き締めて叫んでいる。

信冬は無事だがカナは防弾制服を貫いた。

信冬の弾丸は跳弾で威力を弱めたか……

恐らく使われたのはアーマーピアス

 

「伏せろアリア!俺たちは攻撃されてるんだ!撃たれたいのか!」

 

キンジがアリアの腕を掴んで引き上げる。

アリアは放心状態でぺたんと尻餅をつく。

無理もないか……

普通1854年生まれのシャーロックが生存していきなり前に現れるなんてな……

 

その瞬間、二つの爆音と共に船底から突き上げるような激震がアリベール号を襲った。

 

「きゃあああ!」

 

白雪の悲鳴を聞きながらパトラの黄金柩が横倒しになるのを見ながら舌打ちした。

魚雷か!

 

白雪がキンジに言われて救命ボートに走る。

同時にパトラが蓋を蹴り上げてカナにかけよると悲鳴をあげながら治療を始める。

パトラを拘束する余裕はない。

キンジと俺は冷や汗をかきながらこちらに歩いてくる男を見る。

 

ごすんと音がしてイ・ウーと接舷したらしいアリベール号が揺れる。

シャーロックは間にある火災をパキパキと凍らせながら歩いてくる。

氷のステルスか……

 

「もう逢える頃と推理してたよ」

 

その言葉だけでびりびりと圧倒される感覚を覚える。

なんだよこいつ……沖田や姉さん並の化け物

一言だけで分かる。

 

「卓越した推理は余地に近づいていく。僕はそれを『条理余地』と呼んでいるがね。つまり僕はこれを全て予め知っていたのだ。だからカナ君……いや、遠山金一君。君の胸の内も僕には推理できていた。」

 

カナ……いや、遠山金一が何かを言おうとして喀血した。

 

「さて、遠山キンジ君、椎名優希君。君達も僕のことは知ってるだろう。こう思うことは決して傲慢ではないことを理解してほしい。なにせ、僕は君に、こう言わなければならないのだ。今ここには僕を紹介してくれる人が一人も……いや、いたかな?」

 

シャーロックは微笑みながら姉さんを見る。

恐らく、この場で唯一互角かそれ以上の力を持つ化け物わ見て……

姉さんは腕を組んだままだったが

 

「そいつはシャーロック・ホームズだ。私と唯一、互角に戦える存在さ」

 

冗談だろう……姉さんクラスとは思ってたが世界最強と互角の存在……

 

「アリア君」

 

はっとして見るとシャーロックがアリアを呼んで目があう

 

「時代は移っていくけど君はいつまでも同じだ。ホームズ家の淑女に伝わる髪型を君はきちんと守ってくれてるんだね。されは初め、僕が君の曾お婆さんに命じたのだ。いつか君が現れることを推理してたからね」

 

アリアのツインテールを見ながらシャーロックが近づいていく。

 

「っ!」

 

右手で紫電掴む

 

「用心しないといけないよ。鋭い刃物を弄んでるといつかはその手を怪我することになるからね」

 

べレッタを抜きかけていたキンジと俺に向かいシャーロックはこちらも見ずに警告してきた。

 

隙がない……

 

「アリア君。君は美しい。そして、強い。ホームズ一族で最も優れた才能を秘めた、天与の少女、それが君だ。なのにホームズ家の落ちこぼれ、欠陥品と呼ばれその能力を一族に認められない日々は、さぞかし辛いものだっただろうね。だが、僕は君の名誉を挽回させることができる。僕は君を僕の後継者として迎えにきたんだ」

 

「……ぁ……」

 

完全に言葉を失っていたアリアが小さく声をあげた。

 

「おいで、アリア君。君の都合さうよければおいで。悪くてもおいで、おいで。そうすれば君の母親は助かる」

 

アリアがカメリアの瞳を見開く。

まずい、アリアにその言葉は……

 

「さあ、アリア君」

 

シャーロックがアリアに手を伸ばした瞬間白刃が二人の間を切り裂く。

 

「ああ、やはり君はその選択をするのかい?」

 

「……」

 

俺は黙ってアリアの前に立ちふさがると紫電をシャーロックに向ける。

 

「ゆ、優」

 

戸惑ったような声を後ろから聞きながら

 

「アリア、騙されるな。こいつはお前の母親を嘘の犯罪者にした張本人だ」

 

「で、でもその人は私の……」

 

駄目だ。アリアのやつ混乱してる。

なら、やることは一つ

 

「シャーロック、アリアは渡さない」

 

「では少し荒々しく行こうか」

 

ゴッと衝撃が走り、体が痺れる感覚を受けて後ろに飛ばされる。

 

「ぐっ……」

 

見えなかった……

右膝をつきながら舌打ちする。

紫に光っているあれは……

 

「雷化といってね。オリジナルには会ったことはないが水無月希を通じて教わったステルスだ」

 

紫電の雷神か……

噂には聞いている。

Rランクの最強クラスの武偵の技……そんなものまで使えるのかよ。

 

「さあ、アリア君」

 

「くそったれがぁ!」

 

地面を蹴ってシャーロックに紫電を薙ぎ払う。

バチバチと音を立てて陽炎のようにシャーロックが消える。

 

「何!」

 

「なるほど、数年のブランクがあるとは思えない剣技だ。だが、僕には当たらないよ」

 

ズンと衝撃が走り宙を舞った。

アリベール号を越えて……

俺は意識を薄くしながら海に投げ出された。

 

 

(アリア……)

 

ゴボゴボと空気の泡をはきながら俺は意識を失った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第160弾 シャーロックvs優希

夢を見ていた……

 

「さて行くか」

 

「フランスからドーバー海峡越えてとか不法入国だろ!師匠!」

 

海岸でタクシーを捕まえながら豪快に話す姉を見ながら俺は言った。

 

「入国手続きって結構時間かかるしな。飛行機に乗るのもこの程度の距離ならめんどくさい」

 

だからって瞬間移動するな!

 

「姉さんはいいけど俺見つかったら捕まるから!前に砂漠のど真ん中で置いてかれた日みたいなことはやめてくれよ!死ぬかと思ったんだからな!」

 

「ハハハ」

 

笑い事じゃないから!

 

「行き先は長距離かな?」

 

ん?

 

「ああ、よくわかったな。金は払うからここに行ってくれ」

 

姉さんが紙を渡そうとしたがドライバーの青年は微笑みながら紙を受け取らない

 

「行き先は分かってるよ。もう、推理できている」

 

姉さんは怪訝な顔をしながら

 

「推理?変なことを言うやつだなお前は」

 

「気に触ったなら謝ろう」

 

車が発進し、しばらく、無言だったがだんだんと眠くなってきた俺は静かに目を閉じた。

ただ、最後に聞こえたその言葉は

 

「はじめまして、水無月希、僕はシャーロック・ホームズ」

 

「へえ」

 

そこで俺の意識は途切れた。

そう、あれは俺と同じ年の名家の長女の誕生パーティーに行く途中の……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

「起きたんですね。優希」

 

頭がくらくらしやがる。

信冬に膝枕されていたらしいが上半身を起こすとそこは、潜水艦イ・ウーの上だった。

 

「信冬……何があった?俺はどれだけ気絶してたんだ?」

 

「優希が沈んだ後、少し回復した遠山キンイチ、遠山キンジがシャーロックに挑みましたが遠山キンイチは破れ、遠山キンジに後を託して気絶しました。遠山キンジはアリアを連れたシャーロックを追って艦内に先程突入しています」

 

見ると向こうの方にパトラに治療されてるキンイチさんが見える。

 

 

「姉さんは?」

 

「水無月希はシャーロックと共に行きました。戦闘には参加してません」

 

「そうか……」

 

シャーロックに殴られた場所がずきずき痛むが立ち上がる。

 

「俺もシャーロックを追う。信冬は?」

 

信冬は首を横に降りながら

 

「私は今回はここまでです。先程シャーロックに念を押されました。これ以上邪魔するなら核を日本に落とすと」

 

それを聞いて俺は舌打ちする。

シャーロックは遊んでるのかもな……

核という切り札さえちらつかせればRランク以外も簡単に押さえ込めるだろうに……

 

「優希これを」

 

信冬から予備の弾薬と数発の武偵弾を受け取る。

助かるな

 

「ありがとう」

 

「気にしないで下さい」

 

信冬はふふと微笑みながら俺を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、なんてでかさだこの潜水艦

俺は警戒しながら様々な装飾品で飾られた部屋を抜けていく。

数多の絶滅動物の剥製が並べられた部屋、生きたシーラカンスや色とりどりの熱帯魚を入れた水槽が並べられた暗い部屋、太陽灯で眩しく照らされた植物園、金銀世界中の鉱石を陳列した標本庫等、とんでもない場所を次々と抜けていくと前に人影を確認する。

あれは……

 

「キンジ!」

 

「優か?」

 

俺たちは土の敷き詰められた部屋で合流する。

 

「無事だったんだな優」

 

「なんとかな……それよりここは……」

 

俺達は辺りを見回す。

正面の壁には巨大な油彩の肖像画がかけられ、それぞれの絵の前に石碑、十字架、六芒星の碑などが一つづつ並べられている。

肖像画は右から大日本帝国海軍の軍服を着た日本人からドイツ人、アフリカ系の女性、車椅子の中国人など様々な肖像画がかかっていた。

一番右はあのシャーロックの肖像画が書きかけのまま飾られている。

ここは歴代艦長の墓……

そして、イ・ウーの正体も掴めたな。

恐らく、戦争中に日本とドイツが計画した超人機関、それがアメリカに負けて潜水艦で逃亡し、独自の価値観に基づいた秘密結社になった。

代替していく軍団長をプロフェシオンと呼び変えてな……

ん?かすかだがシャーロックの肖像画の裏から音がする。

紫電で切り裂くと案の条、隠し通路が現れる。

 

 

「キンジ、どうなるかわからんがシャーロックは俺に任せてくれ。お前はアリアを」

 

「分かった」

 

ヒステリアモードのキンジと打ち合わせてから通路を抜けるとそこは大きな聖堂だった。

潜水艦のなかにこんな大きさの……

 

「アリア!」

 

キンジの言葉に巨大なステンドグラスの下でこちらに背を向けてお祈りしているアリアを見つける。

 

シャーロックはどこだ?

二人でアリアにかけよりキンジが肩に手を置いてアリアを引き寄せる。

 

「優……無事でよかった……でもどうして二人とも来たの?」

 

「お前を助けるために決まってるだろ?」

 

俺がため息をついて言う。

 

「シャーロックは紳士ぶってるつもりなのか。人質のお前をこんな所に放すなんてな。だが、合流できたのは好都合だ。一旦移動して態勢を……」

 

とキンジがいいかけたがアリアが一歩退いた

 

「どうしたアリア」

 

「帰って」

 

帰れ?どういうことだよアリア

 

「キンジ、優帰って。今ならきっと、まだ逃げられるわ」

 

片手を自分の胸の前でゆるく握り、そう繰り返した。

 

「帰れ……ってアリアはどうするんだ?」

 

「あたしは、ここに残る。これから……ここで、曾お爺様と暮らすの」

 

「ふざけるな!」

 

キンジが何か言う前に俺は切れた。

 

「ふざけてなんかないわ!優ならわかるでしょ?説明してあげる。あたしは卓越した推理力を誇るホームズ家で、たった一人、その能力を持ってなかった。だから欠陥品って呼ばれてバカにされて、ママ以外のみんなから無視されてきたのよ。あんた達もなんとなく勘づいていたんでしょう?あたしは……あたしはホームズ家にはいないものとして扱われて来たのよ子供の頃から!」

 

聖堂に響いた甲高い声に俺は前に理子に調べてもらった情報を思い出した。

アリアはH家とはうまくいっていないという情報を……

回りから腫れ物みたいに見られる気持はわかるぞアリア……お前はかなえさんがいたように俺には咲夜がいたからな……

アリアの叫びは続く

 

「それでもあたしはずっと、曾お爺様の存在を心の支えにしてきたの。世間では名探偵と言う一面だけが持ち上げられてるけど、彼は、武偵の始祖でもあるわ。だからあたしは曾お爺様の半分でも名誉を得ようと思って武偵になった。あたしにとって曾お爺様は神様みたいな人よ。信仰の対象といっても構わないわ。その彼がまだ生きていてあたしの前に現れてくれた。その気持がわかる?その曾おじいさまがあたしを認めてくれた!ホームズ家のできそこないって呼ばれたあたしを後継者とまで呼んでくれた!あたしの気持がわかるでしょ優?わかるキンジ?」

 

 

なんとなくはわかるさアリア……でもな

 

「イ・ウーは犯罪組織だ!お前は母さんを……かなえさんを見捨てるつもりか!」

 

母親の名を出されたアリアは胸が締め付けられるような顔をして、それでも眉をつり上げて睨んでくる。

 

「ママの事ももう解決するのよ。曾お爺様はイ・ウーをあたしに下さると言ったわ。そうなれば、ママは助かるの。ここにはママの冤罪を晴らすあらゆる証拠が揃ってるなぜイ・ウーがママを陥れたのかその理由を知るためにも、あたしはここに残るの。きっと一筋縄じゃいかない理由があるのよこの事件には」

 

「ふざけるなよアリア!お前の母親の免罪を信じてくれてる土方さんや俺達の敵になるつもりか?見損なったぞ」

 

「じゃああんた達はイ・ウーを力ずくで東京までしょっぴけると思ってるの?それは不可能なのよ!曾お爺様がこの艦のリーダーだった時点で」

 

確かにシャーロックは強いさ……姉さんクラスの化け物なんてそういない。

 

「この際だからハッキリ言っておくけどね。シャーロックホームズを甘く見てはダメよ。曾お爺様はただの天才じゃないわ。強い。強いの歴史上、水無月希と並んで最強の人間なのよ。たとえあんた達がたばになってかかってもかないっこないの。唯一、お爺様と互角の戦いができるあんたのお姉さまはあたしに言ったわ。私はシャーロックと敵対しないと。分かってあんた達じゃ無理なのよ」

 

姉さんは気まぐれだ。

それは昔から証明されてることだが何か理由もあるはずだ。

だけど、アリア、お前を引きずってでも連れて帰るからな

 

「アリ……」

 

「『ムリ、疲れた、めんどくさい』俺達と会った日にアリア、お前言ったよな」

俺が口を開く前にキンジが怒ったように言う。

ああ、じゃあお前に譲るぜ今回はな

 

「……?」

 

「『この3つは人間の持つ無限の可能性を押し止める、良くない言葉だって』」

 

「……」

 

 

「いいかアリア、それなら俺もハッキリ言ってやる。こいつらなんざ、ただの海賊だ!お前の曾爺さんは長生きしすぎて、ボケて、その大将なんかをやってるんだよ」

 

「……曾お爺様を侮辱しては駄目……」

 

「俺は見逃さないぞ、イ・ウーを武偵として」

 

「い、今更武偵ぶらないで!あんたは元々いやがってたくせに!武偵なんか辞めたいって言ってたくせに!もう、とっとと帰って武偵なんか辞めちゃいなさいよ!あんた達この間、あたしの背中に傷跡あるの見たんでしょ?あれは撃たれたのよ13歳の時に、何者かに突然!あれはきっと武偵としてのホームズ家に恨みをもつ犯罪者の犯行でその弾丸は手術でも摘出できない位置に埋まっちゃって、今もあたしの体内にあるわ!そういう危険な目に家族や子供までがあう。この世で最も危険な仕事なのよ武偵は!だからキンジ、優もう帰って、キンジは武偵なんかやめて……優はあたしを忘れて……っ。あたしはもう、これでいいの。もうこれで……」

 

その目から熱い涙をこぼし始めたアリアを見ながら俺は決意した。

 

「キンジ俺はシャーロックを倒す。アリアの説得は任せるぞ」

 

アリアの後ろにあるドア、やつは向こうにいる。

圧倒的な気配が俺には分かる。

 

「こないで優!」

 

アリアがガバメントを向けた瞬間、俺はアリアの背後に現れていた。

陽炎の応用技だがアリアが取り乱しているのも幸いだった。

 

「この奥だな」

 

「駄目!」

 

 

アリアが再びガバメントを向けようとするが

 

「撃ちたきゃ撃てよ」

 

その言葉にアリアが固まる。

その間に、俺は扉を開けて聖堂を後にした。

どのみち2対1はフェアじゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾道ミサイルかよ!

扉の奥に進むと巨大な柱がいくつも並んでいる。

いや、あれは柱じゃなくてICBMか……

核など搭載できる大陸弾道ミサイル……

これがあれば問答無用で大国も黙らせられるだろう……

それになんだ?何か見覚えがある……

 

「そろそろ、来る頃だと推理していたよ優希君」

 

柱の陰から現れたステッキを持つシャーロックを見て

 

「シャーロック・ホームズ、てめえはアリアの気持を散々に揺らしやがって、許さねえからな」

 

シャーロックを見つつ倒す手段を考える。

姉さんクラスが相手だ。

命懸けでやるしかない

 

「怒ってるね優希君。アリア君の母親にしかけた免罪への理由は君ならわかってくれると信じてるよ」

 

「どんな理由があっても知らねえよ」

 

紫電に右手を起きながら

 

「お前は犯罪者だ。俺と同じな」

 

ただ、家の力だけで表には残らない人殺しの罪

 

「優希君。君は人を殺し、孤独な思いをし、その罪を犯罪者を捕まえることで償おうとしている。武偵憲章に反してまで君は仲間を守ろうとしているのは明白だ。現に君は僕を殺すつもりだろ?」

 

「はっ、よくわかるな……」

 

そう、殺す気で戦う。

生ぬるい事言って勝てる相手じゃない

 

「そんな君だからこそ、アリア君を守って欲しかった」

 

「やっぱそうかよ。お前がアリアの護衛を依頼した本人だってんだなシャーロック」

 

しゃべり方が似ている上、依頼主は度々推理と言葉を使っている。

 

「そうだ。僕が君にアリア君の護衛を依頼した」

 

犯罪者に報酬をもらってた訳か……

軽くショックだな

 

「で?その依頼は今、キャンセルってわけか?」

 

「いいや」

 

シャーロックは穏やかに微笑みながら

 

「依頼破棄は自由だよ。武偵憲章には反するけど僕は許容しよう」

 

「この依頼は完遂する」

 

あの日、白雪に言った言葉をシャーロックにぶつける。

 

「あの子がイ・ウーに入れば間違いなく孤独になっていく。そんなことはさせない」

 

「君がイ・ウーに来る選択しもあるよ」

 

「ハハハ、冗談じゃない。土方さんや月詠達と戦うなんてゾッとする」

 

周りを見渡しながら

 

「姉さんは?水無月希はどこにいる?」

 

「彼女はこの戦いには参加しない。さて、あくまで依頼を完遂すると言うなら僕は君と戦わないとね」

 

スタスタとシャーロックが歩いてくる。

「とはいえ、君は相当体力を消費しているようだ。決闘らしく君の最も得意分野で戦おう」

 

そういいながらシャーロックは杖を振り上げて床に叩きつけた。

バキイイインと音を立てて、杖の中から刀が現れる。

スクラマ・サクスか……片刃剣

輝きだけでとんでもない名剣だ

紫電に抜きながら

 

「剣で勝負か?なめられたもんだな」

 

とはいえありがたいのは事実だ。

連戦で体力も消費してるのは事実だし、あの緋刀を使うと相当体力を奪われる。

 

「君の紫電は日本で最も有名な刀が折れて、それを打ち直したものだ。天叢雲剣(あまのむらくも)またの名を草薙の剣」

 

こいつ……

 

「三種の神器の一つ、天叢雲剣は檀浦の戦いで表の歴史では行方知れずとなったが、その戦いで実は剣は折れ、当時のかの家は三種の神器が折れたことを隠すため行方不明とした。それから長いときが過ぎ、新たな二振りの刀に打ち直され、今に至る。それがその紫電だ」

 

「……」

 

「椎名の一族は来るべき戦い備え、その一族の血を僅かでも引いているために紫電を与えられてそれは一族の代表を意味する刀になった。かつて、日本武尊……ヤマトタケルが炎に巻かれ草を切って助かったあの話は実は炎を剣が打ち消したのが由来で、ステルス殺しの能力は紫電に、吸収し、放出する能力は震電に移った」

 

椎名の家でも極秘の話をぺらぺらと……

 

「だから、僕もその刀に敬意を称して名乗ろう。僕の剣はエクスカリバー、かつて伝説の王、アーサ王の聖剣さ」

 

天叢雲剣の劣化版対エクスカリバーかよ……

 

「語るべきことは語ったね。じゃあ始めよ……」

 

ガキイイインと鉄同士が激突して火花を散らす。

 

「なるほど速い」

 

こいつ、不可視の弾丸と同速の瞬影を見切りやがった。

瞬影は居合いから不可視の速度で抜いて戻す技だ。

刀とスクラマサクスの押し合いから離れたのをシャーロックが追撃してくる。

 

「こうだね」

 

「くっ!」

 

浅く頬を切り裂かれるがなんとかかわした、こいつ、一回見ただけで瞬影を真似しやがった。

 

「人の剣術パクりやがって!」

 

数合、シャーロックの高速で打ち合う。

突き、上段、中断、下段、ありとあらゆる場所からただ刀をぶつける。

大技を使えば撃ち込まれるため、ただ刀のぶつかり合いだ。

気を抜けば一気に刺し貫かれる。

剣には相当自信があったがシャーロックはコピーを除いても剣の達人であることを認識させられる。

ガアアアアンと再び、スクラマサクスと紫電が重なり、押し合いになる。

ワイヤーは使わない。

剣と剣の戦いにワイヤーは無粋だろう。

それに剣で挑まれた以上は負けたくないプライドが俺にはある。

 

達人同士は一瞬で決まるというがあれは正しくあり正しくない。

確かに、一瞬できまる戦いはあるが

実力が拮抗しているか、相手が嘗めてる場合はそうはいかない。

 

「っ!」

 

火花を散らして後退した瞬間、刀を上段右斜め上に構える。

刺突の最強技『滅壊』

 

くらえなどとは言わずにただ、技をシャーロックに放つ。

風を切って、圧倒的な速度でシャーロックの喉に迫るが

ガアアアアンとスクラマサクスが間に割り込んだ。

 

「何!」

 

シャーロックはスクラマサクスの剣の先で滅壊を止めた。

ミリ単位の位置に……

 

「条理予知といってね。君の放つ場所は推理できていた」

 

そう言いながらシャーロックが右斜め上にスクラマサクスを構える。

 

「くっ!」

 

ゴッと風を切り裂いてシャーロックの滅壊から右に転がってなんとかかわす。

 

「ふむ」

 

シャーロックはエクスカリバーて微笑みながら見ながら

 

「終わりかい?」

 

「くそ!」

 

立ち上がりながら刀を前に構えて距離を取る。

どうする。

どうしたらいい……大技を使っても奴には通じない。

ただ、コピーされるだけだ。

それに、打ち込む位置を完全に読む条理予知はもはや、未来が見えてる相手に戦うようなものだ。

まったく攻略法が見えない……

この圧倒的な男を倒すには……

 

「あれしかないか」

 

モード緋弾、あれを使うしかないが発動条件は掴めていない。

なら……

スゥと軽く息を吸ってからシャーロックに刀を向けたまま、動きを止める。

 

「むっ?」

 

シャーロックも何かが来ると感じた……いや、推理したのだろう。

そう、こいつを倒すには条理予知を超える攻撃が必要だ。

瞬影を更に超える限界を超えた一撃で決める。

 

「どうやら、次で決着のようだね」

 

シャーロックがエクスカリバーを構えながら言った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第161弾 継承・誕生

圧倒的なシャーロックを前に俺は思い出していた。

こいつに勝つにはあれしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは静かな森の中、人の気配はほとんどない原生林の中、その滝は流れていた。

その中で、俺は滝に向かい、素振りを続けている。

 

「そろそろ必殺技を教えておいてやる」

 

そう言って姉さんが俺に支持を出して消えてからすでに4日、飛龍零式水龍

姉さんがつけたこのネーミングセンスはいかがなものかと思うが、姉さんが出した指示は滝を刀で割れだ。

無茶くちゃだと言ったが姉さんはステルスも使わずにそれを実現してみせたのだ。

即ち滝を割ったのである。

 

「ようは気合いだ」

と姉さんは言うが気合いでどうにかなるのかこれ?

すでに、何百何千と滝に向かい素振りし、時折滝を割ろうと気合いを入れて振ってみるがびくともしない。

そして、結局は……

 

 

 

 

 

 

 

 

完成しなかった。

姉さんは気まぐれだから次の目的地に向かったためだ。

しかし、今なら分かる。

ぶっけ本番だがこいつは条理予知でも予想できないはずだ。

なぜなら、使えない必殺技だからだ。

 

「……」

 

刀を真っ直ぐに構えて、シャーロックを見ながら意識を集中する。

イメージは滝を割るイメージ、押し寄せてくる圧倒的な水の龍を切るイメージだ。

こいつだけはここで倒す。

アリアを助けるためにもドクンと心臓が跳ね、あの感覚が蘇る。

アリアの血と俺の血が融合する感覚が髪、目の色を変えていく。

カメリアの瞳にピンクの髪の色。

今ならローズマリーを倒したあの力が使えるかもしれないがあくまで俺は姉さんに教えられた技を選択する。

 

「優希君。決着をつける前に一つだけ言っておこう。君をアリア君の護衛に選んだ理由はもう一つある。それは、君があの場所にいてしまったからだ」

 

そう、思い出したよシャーロック、俺は昔、アリアにも会ってる。

大した会話はしてねえがお前にもあってたんだなアリア……

それがお前の人生に絡むなんて運命なんてわからねえな。

 

「……」

 

足を地面にすらす

そして、次の瞬間一気に足の力を解放した。

 

「飛龍零式水龍!」

 

大降りの上段叩き落とし、だがそれは加速を加えた一撃だ。

滝を切るイメージを俺は確かに掴んだ。

ギイイン

さすがはシャーロック、反応したか。

だが、お前の負けだ。

 

「む!」

 

シャーロックが驚いた声を出した瞬間、エクスカリバーが真っ二つに切り裂かれ、紫電がシャーロックの肩を切り裂き、その刃は左腕近くまでいき、止まった瞬間、俺は刀を引き抜いた。

血が吹き出し、膝をついたシャーロックを見ながら緋弾の力が消えていくのを感じつつ

 

「俺の勝ちだ」と、勝利を宣告する。

致命傷だ。

シャーロックは間違いなく死ぬ。

武偵憲章破っちまった……

この技は殺人技だ。手加減がまったく効かない。

それ故、習得は後回しになっていたのだ。

 

「……」

 

膝をついて下を向いているシャーロックは何も言わない。

 

「ほぅ、シャーロックに勝ったか」

 

振り向くと姉さんが腕を組んで立っていた。

 

「姉さん、アリア、キンジ」

 

姉さんの後ろから出てきたアリアは切り裂かれたシャーロックを見て

 

「曾お爺様!優あんたがやったの?」

 

信じられないものを見たアリアが驚いたように複雑そうに言う。

どうやら、キンジとは仲直りして、シャーロックに立ち向かう決意をしてくれたらしいが悪いなシャーロックは……

 

「武偵憲章破っちまったがな……すまない、アリアお前の曾じいさんを……」

 

「いや、それは心配しなくていいよ優希君」

 

な、何!

シャーロックの声に慌てて振り向くと先程と同じように立ち上がり、微笑みながら無傷のシャーロックが立っていたからだ。

 

「……曾お爺様」

 

アリアが安心したのか声を出すが洒落にならないだろ。

 

「僕は水無月希に気をコントロールして、細胞を活性化させて傷瞬間的にを癒すステルスを取得してるんだ即死でない限り戦いでは僕は死なない」

 

冗談じゃないぞおい!

姉さんの最強の能力の一角をこいつも使えるのかよ。

そう、姉さんが最強なのはこれも要因だ。

多少傷つけられても回復してしまうのだ。

完全な無傷に。

だから、戦いで姉さんから拳→ステルス→刀と引き出せて戦意を保っていてもこの回復を使われた瞬間、大概の人間は完全に戦意喪失する。

実は、昔、中東のRランクが姉さんと戦い、回復された瞬間、勝てるわけがないと降参してるのだ。

それほどにこれは反則技だ。

 

「ちっ」

 

舌打ちしながら立ち上がるがぐらりと一歩後ろに下がり、目眩がする。

くそ、緋刀の力を使うと体力が削られる。

 

「まさか、エクスカリバーが折れるなんてね。そして、新しい技。優希君、君の覚悟、強さは見せてもらった。最終的に選ぶのは君だが敵うなら君がアリア君の隣にいてくれるとうれしい」

 

「何言ってるんだ……」

 

シャーロックは懐中時計を取り出して時間を確認する。

 

「随分、時間をとられてしまったな。本来なら試せていたことがこれではできないかな」

 

シャーロックはアリアを見ながら微笑む

 

「同士討ち、カナ君がイ・ウーに仕掛けようとしていた罠の味は、いかがだったかな」

 

アリアとキンジが顔を見合わせる。

なるほど、シャーロックは俺を倒してからキンジ達とも戦う気でアリア達の銃弾を消費させたか

 

「曾お爺様」

 

勇気を絞るような足つきで一歩アリアがシャーロックの方に向いた。

 

「あ、あたしは……私は、曾お爺様を尊敬しています。だから、この銃を向けることはできません。あなたに命じられでもしない限り」

 

アリアは足元に自分の銃を置く。2丁とも。

 

「私はあなたの思惑通りあなたに立ち向かおうとするチームメイトの一人をこの銃で追い返そうとしました。でも、止めることはできなかった……私はやっと見つけ出した二人のチームメイトなんです。曾お爺様、どうかお許し下さい。私は……二人に協力しようと思います。それはあなたに敵対する行動を取るという意味なんです。どうかお許しください」

 

「いいんだよアリア君」

 

シャーロックは満足げな笑みを返している

 

「君は今、僕の存在を心の中で、乗り越えた。そして特別な男性を理由に、僕と敵対することさえ決意した。それは君の心の中で、、僕よりキンジ君や優希君の方が大きな存在になったという意味なのだ。まだ、愛の量は僅差のようだがね。君たちは子供だが男と女だ。女心は僕の不得意な分野ではあるが敢えて語るなら女というものはどんなに男から酷くされてもとことんまで男を憎みきれるものじゃない。たとえ、それが銃を向け会うような事態であったとしてもね。雨降って地固まるという諺の通り、イ・ウーの戦いを得てより強く結びついたことだろう」

 

違うな……シャーロックは弾切れなんていう姑息な狙いじゃないみたいだな

 

「つまり、何もかも自分の推理通り事が進んでるって言いたいのか。シャーロック」

 

真っ赤になったアリアの横でキンジが言う。

 

「ははっ。こんなのは推理の初歩だよ君。まあ、推理できない部分もあったけどね」

 

と俺と目を合わせる。

微笑みながら再びシャーロックが時計を見る

 

「ああ、もう時間がない……」

 

「遠山キンジ、動くな。武偵弾を使うなら私はお前達の敵になるぞ」

 

「!?」

 

キンジが硬直する。

武偵弾……カナか信冬にもらったか、だが姉さんが敵になるのは……

 

「ありがとう水無月希、キンジ君、本来なら君と戦いたかったが最後の講義緋色の研究についての講義を始める時間なんだ」

 

緋色の研究?

対し、静かに瞼を閉じたシャーロックの周囲に、ボンヤリと光が見え始めた。

 

ドクンと俺の心臓が跳ねて色は変わらないがシャーロックに反応してるのか?

シャーロックの光が勢いをまし、緋色に変色していく。

 

 

「僕がイ・ウーを統率できたのはこの力があったからだ」

 

パトラの時と同じ……

 

「あの、『緋弾』を……撃てるのかお前も」

 

「キンジ君が言ってるのは恐らく違う現象のことだろう。アリア君がかつて指先から撃ったはずの光球、それは緋弾ではない。古の倭言葉で『緋天・緋陽門』という緋弾の力を用いた一つの現象に過ぎないのだ」

 

言いながらシャーロックはアダムズ1872・マーク3。かつて大英帝国陸軍が使用していた、45口径ダブルアクション拳銃

 

「これが、緋弾だ」

 

そう言って取り出した弾丸は血のような薔薇のような、炎のような緋色をしている。

 

「この弾丸が、緋弾なのだよ。いや、形はなんでも構わない。日本では緋々色金と呼ばれる……要は金属なのだからね。峰・理子・リュパン4世が持っていた十字架を覚えてるだろう。あれも、この弾と同族異種の金属を含むイロカネ合金だ。イロカネとはあらゆるステルスがまるで児戯に思えるような至大なる超常の力を人間に与える物質。いわば、超常世界の核物質なのだ。世界は今、新たな戦いの中にある。イロカネの存在、その力が次第に明らかになり極秘理にその研究が進められているのだ。僕の緋色の研究のようにね。イロカネを保有する結社はイ・ウーだけではない。アジア大陸北方にはウルス、南方には香港のランパン、僕の祖国イギリスでは世界一有名なあの結社も動いている。イタリアの非公式機関を陰からサポート、監視するバチカンのように、国家がイロカネの研究を支援・監視するケースも枚挙に暇がないほどだ。アメリカではホワイトハウスが、日本でも優希君の実家『椎名』の紫電、震電、そして『武田』、宮内庁が君の高校に星伽の……いやこれは口が滑ったかな。そして、僕のように高純度で質量の大きいイロカネを持つものたちは互いのイロカネを狙いつつもその余りに甚大な超常の力に、お互いが手出しができない状態にある」

そういいながらシャーロックは緋弾を込めた弾をこちらに向けてくる。

 

「これだろう君達が見た現象は」

 

シャーロックの身体を覆っていた緋色の光が指先に集まっていく。

ピラミッドを消し飛ばしたあの威力の……

紫電で無効に……

 

「優希、紫電で緋弾の力は止められない。止まるのは刀だけだお前自身は緋弾に飲み込まれるぞ」

 

姉さんの言葉に硬直する。

あれは何をもってしても防げないのか

 

「だが、お前らは緋弾に対抗できる力を持っている」

 

姉さんは腕を組ながら言った。

気配を感じて振り替えるとアリアから緋色の光が発せられアリアの人差し指に集まっていく

 

「な、なにこれ」

 

アリアが戸惑ったように右手に顔を向けていた

 

「アリア君。それは『コンソナ』だ。質量の多いイロカネ同士は、片方が覚醒すると共鳴する音叉のようにもう片方も目を覚ます性質がある。その際は、イロカネを用いた現象も共鳴するのだ。今、僕と君の人差し指が光っているようにね」

 

「……」

 

紫電を見ると僅かだが緋色に発光している。

これも共鳴の一部か?

 

「優希君。君の天叢雲剣……いや、紫電は緋弾の力を何かに変えたようだ。それはもう、緋弾ではない。これからは緋刀と名乗るといい」

 

緋弾とは緋刀……

 

「それは本来なら目覚めることなく消えていた力だ。だが、君はアリア君の……緋弾に長く影響された血を輸血され緋刀は覚醒してしまった。

椎名という名前の宿命なのかもしれないね。

どうか飲み込まれないことを祈ってるよ」

 

飲みこまれる?なんのことだ?

 

「さて、アリア君。これから僕はこの光弾『緋天』を君たちに撃つ。僕が知る限りそれを止める方法は同じ緋天を衝突させることのみだ。実験したことはないが日本の古文書にはそれによって緋天同士が静止し、その後に暦鏡なるものが発生するとある」

 

「曾……お爺様」

 

アリアは動揺しながらシャーロックを見ている。

 

「さっき君はあなたに命じられない限り僕を撃たないと言ったね。ならばここで僕を撃ちなさい。その光で」

 

「曾お爺様、を……」

 

「そうだ、緋弾に心を奪われないように落ち着いて指先に力を集め、保つイメージをするのだよアリア君」

 

「よく……わからねうな。あれもこれも。まあ、わかりたくないこともばっかりだけどな、お前は王手をかけてきた。そして、俺達もまだ一手撃てる。そういうことだろシャーロック」

 

キンジがアリアに歩きながら言った

 

「ご名答だ、キンジ君。どうかその優れたHSSの理解力と状況判断能力でこれからもアリア君を助け続けてくれたまえ優希君達とね」

 

キンジが口をへの字に曲げながら迷ってるアリアの手を取る

 

「……キ、キンジ?」

 

 

俺も近づいてアリアの小さな肩に手を置いた。

 

「ゆ、優?」

 

「大丈夫だアリア、お前はパトラと戦った時、無意識にこの力を使ってるんだ」

 

キンジはアリアの震える手を握る。

 

「後は何の助けにならないかもしれないけど……俺が、ついててやるよ。何がどうなろうと、最後までな」

 

「ま、小さい頃の縁もあるし俺はアリアに命救われてるからな。それに、いろいろと無関係って訳じゃないから傍にいるよ。チームメイトだからな」

 

アリアの震えが消えていく

アリアは、指先の光をシャーロックに向けた。

 

「良いチームメイトを見つけたねアリア君」

 

シャーロックは満足そうに微笑みながら

 

「かつて僕にワトソン君がいたようにホームズ家には相棒が必要だ。人生の最後に二人が支え合う象徴的な姿を前に出来て、僕は……幸せだよ」

 

同時にシャーロックが緋天を放つとアリアの手からも緋天が飛ぶ。

光が俺達の中間で衝突し、空中で静止し融合する。

 

「僕には自分の死期が推理できていた。どんなに引き延ばしても今日、この日までしか保たないと。だからそれまでに緋弾を子孫の誰かへ『継承』する必要があったのだ。元々、緋弾はホームズ家にで研究するようにと女王陛下から拝領したものだからね」

 

なら、多少は破っちまったなシャーロック……俺にその系統の力が宿ってたんなら

強まった2つの光はすぐ、まるでお互いを打ち消しあうように急速に収まっていく

 

「しかし、その後の研究で分かった事だが緋弾の継承には難しい条件が3つあった。一つは緋弾を覚醒させられる人格に限りがあること。情熱的でプライドが高く、僕は自分がそうとは思わないが……どこか、子供っぽい性格をしていなければならないらしい。しかしホームズ家の一族は皆、そうではなかったのだ。だから僕は条件に合う子孫が現れるのを待ち続けなければならなかった。そして現れたのがアリア君。君だ。2つ目の条件は詳細は伏せるがアリア君が女性として心理的に成長する必要があったことだ」

 

シャーロックの手前の光球が透明になっていく

 

「3つ目の条件として継承者は能力を覚醒させるまで最低3年のあいだ緋弾と共にあり続ける必要があった。片時片身離さずに」

 

 

融合していく二つの光がレンズのような形に変わっていく。

 

「これは簡単なようで最も難しい条件だった。なぜなら緋弾は他のイロカネ保有者達から狙われていて覚醒したものでなければ守ることができなかったからね。だから、今日までは覚醒した僕が緋弾を保有し、今日からは覚醒したアリア君が緋弾を保有する。これを成立させるために僕は今日までこの緋弾を持ち続け、さらに3年前の君に渡さなければならなかったのだ。これは僕にとっても、生涯最大の悩みだった。たが、その問題を解決してくれたのもまた、緋弾だったのだよ」

 

宙に浮かぶレンズに何かが浮かび上がってきている。

映像?いや……

やがて、鮮明になった人影を見て絶句する

 

「これだ……!これが日本の古文書にある暦鏡、時空のレンズだ。実物を前にするのは僕も初めてだよ」

 

興奮するシャーロックなんか問題じゃない光景だった。

レンズの中に映ってるのはアリアだ。

髪の色は亜麻色のツインテールに瞳はサファイアのような紺碧の瞳だった。

どことなく幼い気がするがあれはアリアだ。

 

「アリア君。君は13歳の時、母親の誕生パーティーで銃撃されたことがあるね

 

「う、撃たれました。何者かに。でもそれが今、何だと……」

 

「撃ったのは僕だ」

アリアが驚きに全身を強張らせる

 

「いや、これから撃つのだ。これはどちらの表現も正しい」

 

言ってシャーロックは拳銃の撃鉄を起こす

 

「緋弾の力を持ってすれば過去への扉を開くことさえできる。僕は3年前の君に今から緋弾を継承する」

 

レンズの中に、拳銃をシャーロックが向ける

 

「や、やめろ!」

 

俺とキンジがシャーロックに飛びかかる

 

「なに、心配には及ばないよ。僕は銃の名手でもあるんだ」

あれが、過去ならアリアの横にいるのは間違いなく……

 

 

「銃で狙われてるアリアが撃たれるぞ!」

 

その瞬間、引き金が引かれたと同時に過去のアリアの前に人影が飛び出した。

アリアを庇うように両手を広げた少年……いや、中学2年の俺の肩を貫通し、アリアに命中した。

 

レンズが薄れフェードアウトするように消えていく

無駄だと知っていたんだ……でも叫ばずにはいられなかった。

あのときは、姉さんが死んだと思い、家から勘当同然だった中学時代……イギリスから誕生パーティーの招待状が届いたんだ。

そして、アリアに再開した。

だが、俺もアリアも忘れていた事を考えると記憶を姉さんに操作された可能性がある。

「……」

 

姉さんは何も言わない。

ただ、黙って成り行きを見守っているだけ

 

「アリア君。2つ断っておこう。緋弾の副作用についてだ。緋弾には延命の効果があり、共にあるものの肉体の成長を遅らせる。あれから君は体格があまり変わらなくなっただろう。それと文献によれば、成長期の人体にイロカネを埋め込むと体の色が変わるらしいのだ。皮膚の色は変わらないようだが、髪と、瞳が美しい緋色に近づいていく」

 

だが、それはおかしくないか?

 

「優希君。君の疑問は分かる。恐らく、君の身体を貫通した緋弾の一部が君の体内に残ったのだろう。それは緋弾を覚醒させるに足らない量で緋弾を体内に撃ち込まれたアリア君の血を輸血して初めて覚醒するものだったのだ。今までは影響はなかったようだが恐らく君も延命効果が生まれてくるかもしれないね。あるいは君の緋刀は傷を瞬間的に治る能力がある。そちらに延命の効果がいってるのかもしれないが研究する時間はもうないんだ」

 

ようは自分で調べろか……

 

「以上で僕の緋色の研究に関する講義は終りだ。緋弾について僕が解明できたことはこれが全てだよ」

 

緋弾を失ったせいでいきなり歳をとったようなシャーロックが言った

 

「き、キンジ、優」

 

アリアが歩いてくる

 

「アリア君、キンジ君、優希君。緋色の研究は君達に引き継ぐ。イロカネ保有者同士の戦いはまだ、お互いを牽制しあう段階にある。しばらくはその膠着状態が続くだろう。もしかしたら戦いは本格化し君たちはそれに巻き込まれるかもしれない。その時は、どうか悪意ある者から緋弾を守り続けてくるたまえ世界のために」

 

そうかよシャーロックお前はアリアの運命を弄んで……

許せねえと疲労した身体を鞭打って立ち上がる

 

「ふざけんな」

 

だが、俺が口を開くより先にキンジが口を開いていた。

いいぜ、キンジお前がやれよ……俺はもう、シャーロックに一撃いれたからな。

チームメイトなら次はお前が一撃いれる番だキンジ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第162弾 序曲の終わり

「シャーロック、お前は……そんな危険な戦いにアリアを巻き込ませるつもりなのか!自分の曾孫を」

 

ヒステリアモードを更に凶暴化させたベルセでキンジは言う

 

「キンジ君。君は、世界におけるアリア君の重要性が分かっていない。1世紀前の世界に僕が必要だったように、彼女は現代の世界に必要な重要人物なのだ」

 

「違うこいつはただの高校生だ!俺はよく知ってる!こいつはたとえ体の中に何を抱えてようとただの高校生だ!クレーンゲームに夢中になってももまんを食い散らかしてテレビ見てばか笑いしてるただの高校生なんだ!分かってねえのはシャーロックお前の方だ」

 

「認めたくない気持ちはわからなくもない。君は彼女のチームメイトなのだからね。だが、キンジ君。この世には悪魔はいないにしても悪魔の手先のような人間はいくらでもいるのだ。この広い世界には君の想像も及ばぬような悪意を持つものがイロカネを……」

 

「俺は、世界なんてものに興味はねえ!善意も悪意も知ったことか!」

 

シャーロックは静かに目を閉じた

 

「ハハハ、優希お前の友達も面白いじゃないか私は気に入ったぞ。なぁ、シャーロック」

 

 

姉さんが笑いながらシャーロックに言う

 

「それが、世界の選択か」

 

そういいながらシャーロックは背を向ける

 

「それなら平穏に生きるといい。君はそういう選択もできるのだよ。その意志を貫くためにアリア君を守り続けて平穏無事に緋弾を次の世代に継承しなさい。全て君達が決めていいんだ。そして、その意志は通るだろう。なぜなら君たちは十分強いのだから。いいかいキンジ君。意思を通したければ強くなければならない。力なき意志は力ある意志に押しきられる。だから僕は君たちの強さを急増させるために、イ・ウーのメンバーを使ったのだよ。君達がギリギリ死なないような相手を段階的にぶつけていくパワーインフレという手法を用いてね」

 

なるほどな……シン、ローズマリー、ブラド、荒木源也あいつらはお前の差し金か……確かに、あいつらと戦ってなければ俺はまだ、刀を握ることすら叶わなかったかもしれないのだ。

 

「武偵憲章3条強くあれ但しその前に正しくあれ」

 

神戸で奏ちゃんに言ったようにキンジが怒りを込めて言う

 

「?」

 

「強くなければ意志は通らない。それは正しいさ。だが、正しくなければ意志を通してはならない。それが俺たちのルールだ。お前はその逆をやっている。天才の頭脳と強大な力で自分の自己中にアリアを巻き込もうとしてるんだ」

 

「そうかもしれない。でも、僕にはそれができた」

 

「く……」

 

腹がたつなシャーロック。

だが、今はキンジに任せる

 

「そうはさせねえっていってるんだよこの俺がな」

 

「それならさっきも言ったようにそうしなければいい」

 

 

シャーロックはそう言いながら折れたエクスカリバーを手に白煙を吹き続けるICBMの一本に去っていく。

格納庫の天井が開いていく

 

「待て。それで終われるか。こっちを向け」

 

「何だい」

 

キンジの言葉に振り返らずにシャーロックが答える。

 

「俺はキレたぜ」

 

キンジはバタフライナイフを抜いた

 

「どんな理由があろうと、お前はアリアを撃った。自分な曾孫を背後からな」

 

「そうだ。しかし、だからどうするというのだね。君は、僕には勝てない。優希君はぼろぼろでアリア君は僕とは戦わない。唯一僕に対抗できる希君は君には手を貸さない」

 

「勝てないだろうな。だが一撃はいれてやる」

 

「できるつもりかね」

 

「できる。『桜花』、絶対にかわせない一撃でな」

 

桜花?初めて聞く技だ

 

「僕にも推理できないものがある。どうやら君のその非論理的な行動はそれが遠因なのかもしれないな」

 

「何だそれ」

 

「若い男女の恋心だよ」

 

アリアがぼんと赤くなる。

なんか……痛いな……アリア……お前はキンジを……

 

キンジがシャーロックにかける。

 

「この桜吹雪散らせるものなら」

 

超音速の一撃がシャーロックに迫る。

時速1236km

 

「散らしてみやがれ」

 

キンジのバタフライナイフから銃声ににた衝撃音が上がる。

音速を超えたナイフの背から桜吹雪のようなヴェイバー・コーンが放たれると同時に超音速の衝撃波で引き裂かれたキンジの右腕から鮮血が飛び散る

 

「うおおおお!」

 

バチイイ

 

嘘だろ。

シャーロックは音速の一撃を左手だけで真剣白羽取りで止めた。

 

「惜しかったねキンジ君」

 

シャーロックは言いながら折れたエクスカリバーをキンジに振るう

 

「惜しくねえよ」

 

キンジはそれをシャーロックと同じく片手の白羽取りで受け止める。

両者が両手を止められた千日手だ。

 

「そうくることは」

 

キンジはそう言いながら大きく後ろに反らした瞬間、シャーロックが驚愕に目を見開いた。

 

ガスッッッッ

 

キンジの頭突きがシャーロックの頭にに炸裂しシャーロックは背中から床に叩きつけられた。

シャーロックを倒しやがったのか

すげえなキンジ……

 

「すげえなキンジ」

 

「キンジ、こんなに傷が」

 

「アリアが傷つくよりずっといいさ」

 

俺とキンジはやったなと拳を付き合わせてからアリアがシャーロックに近づくのを見た

 

「曾お爺様。いいえ、あえてこうよびます。シャーロック・ホームズ」

 

超偵用の手錠を手首にかけた

 

「あなたを逮捕します」

 

事件解決か……いや……

 

「……」

 

姉さんは面白いものを見ているようにこちらを見ている。

 

 

「素敵なプレゼントをありがとう。それは曾孫が僕を超えた証に頂戴しよう」

 

頭上からかけられたしわがれ声に俺達は慌てて顔をあげるー

 

ICBMの扉に捕まり頭突きで流血しつつ笑顔のシャーロックがいた

 

「キンジ君。さっき君にもらった一撃は僕にも推理できなったよ。さっきまでの若い僕なら、とっさに推理できただろうけどね。まあ、歳には勝てないということかな」

 

倒れているシャーロックが砂金に戻り崩れる。

 

くそ、パトラのあれかよ

 

「シャーロック、どこに行くんだ!お前はもう、今日までしか生きられないんじゃないのか?」

 

「どこにも行かないよ。昔から言うだろう?老兵は死なず。ただ、消え去るのみと。さあ、卒業のか時間だ。花火で彩ろう」

 

シャーロックが扉に入る直前俺はシャーロックが姉さんと目を会わせるのを見た。

姉さんは頷くとシャーロックは微笑んで扉に消えた。

 

「曾お爺様待って!行かないで!いや、いや!あなたのことママのこともっともっと、話したいことが……

 

「待てアリア!危ない戻れ!」

 

アリアは俺の声に聞き耳持たずに小太刀を逆手二本でじゃんふしてICBMの表面に刃を突き立てる。

アリアはそのまま、交互に刃を突き立てながら上がっていく

 

「アリア君、短い間だったが楽しかったよ。なにか形見をあげたいところだが、申し訳ない。僕は君にあげられるものを何も持っていないのだ。だから、名前をあげよう。僕は緋弾という言葉を英訳した二つ名を持っている。緋弾のシャーロック。その名を君に……さよなら緋弾のアリア」

 

 

扉がとじICBMが持ち上がり始める

 

「くそ!」

 

 

腰から携帯用ワイヤーをICBMに打ち込むと飛び上がり紫電をICBMに突き立てる。

アリアはまだ上だ。

キンジもエクスカリバーを突き立てICBMに張り付いている。

 

「アリア!早く降りろ!」

 

「嫌よ!曾お爺様がどこかへ行っちゃう」

 

この馬鹿が!

紫電と携帯用ワイヤーの先端を突き刺しながら上がっていくとICBMが持ち上がり始めた。

下を見るとイ・ウーが小さくなりつつある。

飛び降りたらなんとか重症ですむかもしれんが冗談じゃない

キンジとアリアを掴める前まできてから動きが止まる。

ICBMが加速してしがみつくのが精一杯になったのだ。

ぐあ、やべえぞこれ

下を見るとイ・ウーは見えないし雲に突っ込む

必死に紫電を掴んで落とされないようにする。

アリアも同様らしくピンクのツインテールが風になびいている

し、死ぬ。

宇宙にでてしまうぞこれ!

後ろを見たら日本列島が見えた気がした。

薄れそうな意識の中、同じICBMが10つ四方八方に向けて飛んでいる。

イ・ウーの残党か

 

ガキン

 

げ!紫電がシャーロックのICBMから離れる。

 

「優希君」

 

シャーロックの声が聞こえた気がした。

ICBMからみるみる遠ざかりながらも声は聞こえる。

 

「アリア君を頼む」

言われるまでもねえよ

 

「シャーロック!」

 

同じようにキンジとアリアも空中に投げ出されたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空から女の子が落ちてくると思うか?俺はそんな非日常は望んでいなかった。

でも、空から女の子が降ってくるのはやはり、物語の始まりなんだろう。

 

アリア、キンジと空中で手を伸ばして掴む

 

「キンジ……優」

 

「「アリア」」

 

やれやれこんな三人でいると思い出すよ。

あのチャリジャックからな……思えば腐れ縁だったな……

遥かに下に見える海面。

駄目だな叩きつけられたら確実に死ぬ

 

「キンジ、優……こんなことに付き合わせてごめんね」

 

「は、何を今更」

 

「だな、チャリジャックにあった日から諦めてるぜ」

 

「ありがとう。ありがとう、あたしの大切なチームメイト。あたしは、あなた達を誇りに思う……これは序曲の終止線。終わりで始まり。今、探偵の時代が終わりあたしたち武偵のの時代が始まるのよ。優の好きな武偵憲章10条諦めるな。武偵は決して諦めるな。キンジ、優正直に言うわ。あたしはイ・ウーで何度も諦めかけた。もう何度も諦めかけていたの。でもあんた達が前を向かせてくれたからあんた達があきらめなかったからあたし達はまだ!生きてる」

 

秋葉はステルスを使い果たしてるし、信冬は果たして動けるのか……

関わった全ての人を思い浮かべながらなぜかレキの顔が横切った。

ごめんなレキ……みんな……今回ばかりは……

後10秒で海面か……くそ……

 

「曾お爺様はきっとこの瞬間が来るこたも推理してたんだわ。だからホームズ家の女にこの髪型をさせた……理子にできるんならきって私に…も…」

 

アリアのツインテールが翼のように広がり風圧に引かれるように反転し速度が落ちる。

アリアのツインテールが理子のように翼のように広げる。

 

「アリア……」

 

ハハハ、また命救われたな

 

「あ、あんまり見ないで。これなんかすごく恥ずかしい」

 

再び羽ばたいたツインテールで速度が飛び込みぐらいに落ちる。

見渡せば信冬が空に浮かびながらほっとしたか顔でこちらを見ている。

救命ボートでは白雪と秋葉が呆気に取られたような顔をしている。

ボートの縁ではパトラと彼女に抱かれて半身を起こしているキンイチさんも驚いた表情でこちらを見上げていた。

 

「優希」

 

姉さんが前に表れる。

 

「よくやったな。この記憶は解除してやろう」

 

といい姉さんが俺の頭に触れた瞬間、過去のアリアに会った記憶が頭に流れ込んできた。

 

「姉さん……」

 

上に消えていく姉さんを見ながらアリアの声を聞く

 

「き、キンジ、優あたしにもあんた達が必要だわっ。ぶ、武偵憲章1条」

 

着水直前

 

「1条『仲間を信じ仲間を助けよか?』」

 

「そ、そうよだからキンジ、優」

 

「と、とりあえず浮き輪になりなさい!!」

 

さぶうううんと海に落ちながらキンジと二人でアリアの浮き輪になりながら空を見上げる。

 

 

「まったく無茶しますね優希」

 

気絶したキンジとアリアを掴みながら信冬が救命ボートにのせてくれる。

 

「てめ!待ちやがれ希!」

 

「希様!」

 

「ハハハ、じゃあな歳、月詠」

 

見るとはるか海の向こうから空母型の護衛艦の甲板に乗った土方さんと月詠の姿が見えた。

姉さんは逃げたらしいな……

 

「ああもう……」

 

信冬に膝まくらしてもらいながら多大な疲労を感じつつ

 

「今回の護衛これで終わり」

 

そして、完全に俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、俺達は知らなかったのだ。

ここまでが俺たちのほんのプロローグに過ぎなかったことを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イ・ウー編完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第163弾 帰ってきた日常と逃避行

7月31日、イ・ウーの激戦から数日は大変だった。

まず、最初の3日は俺は眠っていたらしい。

疲労も極限だったのは分かるが人って寝溜めできるんだな……

何時ものように武偵病院でアリスに検査されてから退院したんだが、アリスは驚くことに

 

「私がお兄さんの緋刀の研究受け継ぎますよ」

 

と言ってきたのだ。

確かに、医者の手助けは欲しいがおかしいので問い詰めるとなんと、シャーロックからアリスに接触があったらしい。

ちなみに、アリアの護衛の報酬は毎月振り込まれるのは変わらないようだ。

一応、以来主もとい、シャーロックに電話をかけてみたが当然のごとく使用されてない番号だった。

サポート関連はアリスに引き継がせたらしいな……

莫大な報酬を貰ったらしいが俺にもよこせ!

まあ、シャーロックの最後のプレゼントなのか1000万が振り込まれていたので借金は大部返せたんだがな……

犯罪組織の金なので不安もあり土方さんに聞いたが使っとけ使っとけと特に問題にはならないらしい。

 

そう土方さんと言えば、1日俺は取り調べ室にぶちこまれ根掘りはイ・ウーのことを聞かれ、司法取引の紙を山ほど書かされてから解放された。

土方さんは姉さんを追っているがあの人はフリーダムな人だからまず、捕まるまい。

詳しく聞いたら土方さんと姉さんは昔、同じチームで戦ったら同級生らしかった。

姉さんがいるから最強無敵のチーム立ったらしいが姉さんの暴走を止めるのは土方さんの役目であり、当然苦労したんだろうなぁ……

 

それはそうと仲間達だがキンジは入院1ヶ月、アリアは検査を受けた後はかなえさんの裁判関連で東京を飛び回っているらしい。

理子やレキ達も取り調べの後は平穏な生活に戻り、秋葉は実家への報告のため、一時的に椎名の家に戻っている。

従って、ようやく!夏休みに突入した俺は部屋でごろごろしていた。

 

「ああ……平和なだなぁ……」

 

激戦が嘘のような平和を噛み締めながらテレビをつけようとしてお腹が減っているのに気づく。

なんか食うか……

アリスがバイトしている中華料理『炎』にするか悩んだがファミマでいいかと焼肉弁当を買って部屋に戻る階段を上がる。

今日も、アリアは帰ってこないのかね……

ちなみにもう一人の同居人の星伽白雪はキンジの看病で当然ながら、部屋に戻らない。

従って俺は一人なんだが……

 

「おかえりなさい優希」

 

と笑顔で制服と赤いエプロンをつけ、長い黒髪をポニーテールにしている信冬がいた。

いたのか!って

 

「の、信冬なんでお前がここにいるんだ!」

 

つかどうやって入った!

 

「これです」

 

ジャーンとばかりに信冬はニコニコしながら合鍵を取り出した。

ああ、もう突っ込まない。

武田の家は俺の家と同じくらい権力があるから多分、非合法で手に入れたんだろう。

 

「ああ、またこんなものを食べて、栄養が片寄りますよ」

 

優しく信冬は焼肉弁当の入った袋を俺から取ると冷蔵庫に入れた。

 

「一時間くらいでできますから待ってて下さいね」

 

テーブルを見るとスーパーで買ったらしい紙袋が大量に置かれていた。

作ってくれる白雪はキンジがいないからいないし、食い物はコンビニ弁当ですませる俺だからありがたいと言えばありがたいがな……

知り合いで、しかも無下にできない関係なので、ソファーに座りながら

 

「で?なんで来たんだ?」

 

「イ・ウーが壊滅して、山梨に戻る前に優希の顔を見に来たんです。元気そうでよかった」

 

料理を作りながら信冬は言う。

 

「そうか……」

 

まずいな、結構久しぶりに会うのに会話が続かないぞ。

信冬は才色兼備で名家のお嬢様。

料理も出来るし姉さんとも短時間なら渡りあえる凄腕の武偵だ。

ちなみに、同じ歳なんだが……

 

「……」

 

扉の方を見る。

まさか、アリアが帰ってくるとかいよな……この状況見たら確実にアリア怒るぞ。

風穴パーティーだ。

 

「……」

 

どうやら帰ってこないみたいだな

 

「優希は今日は何してたんですか?」

 

「部屋でごろごろしてた。午前中はトレーニングしてたけどな」

 

クエストブーストで単位は補填したから無理にクエストを受ける必要もない。

なら、強くなるための鍛錬に時間を裂いた方が有意義だ。

 

 

「夏休み、実家には帰らないのですか?」

 

「うーん」

 

俺はソファーに背をつけて腕を組んだ。

咲夜には会いたいが家に帰ると鏡夜もいるし、母さんもいるしな……

それに、勘当と直接言われたわけではないが勘当状態は変わってない。

 

「帰らない。ここで夏休みは過ごすよ」

 

まあ、何個かクエストを受けて見るのもいいかもしれない。

アリアの方の手伝いしてもいいな……

あるいは理子やレキと遊びにいくか……

 

「じゃあ、私の家に来てください歓迎しますよ」

 

フフ、と笑う信冬、こいつの実家は山梨県で椎名の家と同じく人里離れた場所にある。

昔、何回か行ったが随分長い間行ってないな。

 

「考えとくよ」

 

とりあえず、保留だ。

イ・ウーが壊滅したとはいえ俺達にはまだ、敵が多いので仲間達からあまり離れたくない。

ランパン、魔女連隊、そして……ローズマリーはどうしたんだろう……あれからまるで姿を見せなくなったがまさか、死んだのか……

 

「……ふぅ」

 

天井を見上げながらそれならなんか達成感がない気がするな……あいつは俺の敵(かたき)で……俺と秋葉を不幸にした張本人だ。

本当に死んだのか……

 

「出来ましたよ」

 

テーブルに料理を並べていく信冬にはっとする。

考えこんでたみたいだな。

料理食う前にトイレに行こうと思ってたんだった。

 

「ちょっとトイレに……のわ!」

 

ガッとテーブルに足を引っかけて俺は派手に転んだ。

 

「え?きゃ」

 

ドタアアンと倒れて痛みを感じながら目を開けると床に顔を赤くした信冬がいた。

しかも、エプロン越しに右手が胸を掴んでいる。

まるで、押し倒したみたいじゃねえか!

 

「あ、あの……こういうことは……」

 

「い、いやその」

 

「ただい……ま」

 

「優先輩ぁ……い」

正しく最悪の中の最悪だろう。

アリアとマリがリビングに入ってきたのだ。

どう見ても俺が信冬を連れ込んで襲ってるようにしか見えないだろ!

 

「ゆ、優あんた」

 

「フフフ……」

 

アリアは顔を真っ赤にし、マリは顔を伏せる。

 

「れ、れれ、冷静になれ!誤解だ!」

 

その瞬間、俺は逃げた。

 

「風穴デストロイ」

 

「浮気者は死んでください!」

 

「ぎゃあああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガバメントとCZ78で半殺しにあいそうになりながらも誤解と信冬が説明してくれてなんとか事なきを得たのだったが……

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

なんなんだこの空気は……信冬は普通に俺の隣に座り、突き刺すような視線を信冬に向けてるアリアとマリを微笑みながらいなしている。

 

「優の知り合いということはわかったわ」

 

アリアがコンビニで買ったらしいエスプレッソを手にしながら言った。

 

「だからって優しかいない部屋に上がり込んで料理まで……」

 

「? 当たり前だと思いますよ」

 

信冬はあくまで笑顔を崩さない。

 

 

「当たり前って優先輩の何なんですか……えっと……」

 

「武田 信冬です。山梨武偵高2年生です」

 

名前が分からないマリに信冬が説明してくれる。

 

「紅麻里菜です。東京武偵高1年で優先輩のアミカです。それで武田先輩は優先輩どんな関係なんですか?」

 

なぜか、アミカを強調してマリは言った。

しかし、信冬はそんなマリに微笑んだまま

 

「私は優希の婚約者です」

 

と爆弾発言をしやがった。

 

「こ、ここ……」

 

マリとアリアが目を見開いて口をパクパクしている。

ま、まずい

 

「の、信冬!あれは昔、家が勝手に決めたことで今は俺、勘当みたいなもんで無効だろ!」

 

このままでは我に帰ったアリア達に殺される。

しかし、信冬は首を横に降り、真剣な目で俺を見てくる。

真っ直ぐな黒い瞳とその大和撫子な風貌に少しだけドキッとした。

 

「いいえ、優希。私達の婚約はまだ、破棄されてません。まだ、有効です」

 

じ、実家の連中忘れてたのか!それとも血の繋がりを意識したのか……

 

「で、でも信冬俺は実家で……」

 

ローズマリーの事件で父親と秋葉の母親を殺している。

父親殺しの汚れた人間なんだ。

 

「確かに、武田家でも反対意見はあります。ですけどいつも言ってるじゃないですか。私は気にしていませんよ。優希は優希です」

 

頻繁に連絡はしてないが信冬とは少しだけメールのやり取りをしている。

事件の後もこうして俺のことも気にかけてくれていたがまさか、婚約がまだ、有効だったとは……

 

「それとも別に好きな人がいるのですか?」

 

信冬がアリアとマリを見ながら

 

「でしたらちょっと嫉妬してしまいますね」

 

白雪のようなヤンデレではない信冬だが、ちょっと嫉妬してるように見えた。

普段が男を立てる大和撫子なだけにギャップにくらりとするやつもいるだろう

だが、そんなギャップに萌えるような余裕は俺にはなかった。

 

「あ、あんたが誰と付き合おうが婚約してるとあたしには関係ない!で、でも人にあ、あんなことまでしておいて!か、風穴!風穴!風穴祭り!」

 

俺はマリが何か言う前に逃げた。

窓から外にダイブして落下しながらワイヤーを数回使いで地面まで移動して、駐輪場の隼のエンジンを入れると全速力で逃げた。

 

「待ちなさい!優!」

 

「アハハ、優先輩待ってくださいよ」

 

思わず振り替えると部屋の前の廊下からヤンデレ目のマリと顔を真っ赤にしたアリアが見えた。

誰が待つか!逃げるんだ!

学園島は危ない!都内に逃げようと進路を変えた時、トンと隼の後ろに誰かが降りたたった。

嫌な予感がして振り替えると信冬がストンと隼の後部座席に座りながら俺にしがみつく

ステルス使ったのか……

 

「緋弾のアリア、面白い子ですね」

 

そうか、俺を見に来たんじゃなくてアリアを見に来たのか信冬

 

「何てことしてくれたんだよ信冬……しばらく部屋に帰れないぞ」

 

「それなら私の所に来ますか?」

 

 

「アリアを残したままなるべく東京を離れたくないな」

 

山梨から東京だとちょっと距離があるからな

 

「いえ、私のホテルに来ませんか?」

 

ホテルか……信冬は金持ちだからさぞかし豪華なんだろうな……一瞬、他の面子が頭に浮かんだが駄目だ、学園島内に留まるのは自殺行為だ。

アリア達の頭が冷えるまで今晩は信冬の所に止めてもらおう。

信冬は迫ってくるタイプではないし、いくらなんでも俺から何てことはないしな

 

「なら行くか」

 

「はい、歓迎しますよ」

 

顔は見えないが微笑んだのが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おいおい……ここって東京で一番高いホテルじゃなかったか?

超有名人や金持ちしか泊まれないこのホテルは回りも凄い。あ、あれアメリカで今、ヒットしてる歌手だ!

制服姿の俺達が激しく場違いだ……

 

「おかえりなさいませ武田様」

 

ホテルのボーイが信冬を見つけて駆け寄ってきて俺を見て眉をちょっとだけ寄せた。

 

「今晩、彼は私の部屋に止まります。問題ありませんね?」

 

「もちろんです」

 

とボーイは慌てて言った。

 

慣れないな……こんな、高級な場所……

それに信冬は年上のボーイにも堂々としている。

上に立つ人間はそれなりの資質と責任が生まれます。相手が年上だからと上に立つものがへりくだれば私についてきてくれる人を失望させてしまいますからと以前、信冬は言っていた。武田信玄は昔、家臣との絆を強固にして最強の軍団を組織した。

信冬もその血を次いでるだけはあるな

 

ポーンという音にはっとするとエレベーターが空いて、豪華な廊下が表れる最上階のロイヤルスイートルームかよ!

 

「では武田様、失礼致します」

 

「ご苦労様です」

 

エレベーターが閉じてボーイがいなくなると広い廊下に俺達だけになる。

 

「? どうかしましたか優希」

 

「いや、なんでもない」

 

ボーイの時とは違い、親しみを込めて信冬が話してくれるが次元が違うよな……

椎名の家はガチガチに掟やらなんやらあるが武田家は改革を繰り返して、今の強固な地盤を気づいている。

武田家にはカリスマがあるからなんだろうがな

 

「どうぞ」

 

信冬がカードキーとを通し、指紋認証を行うと扉が開き、信冬が先に入ってくださいとドアの横に立つ。

古くさいし、今は流行らないが大和撫子とは男を立てるものらしい。

まあ、今回は信冬の流儀に合わせよう

 

 

「うわ、すげえ…… 」

 

中に入ると飛び込んできたのは玄関だ。奥に進むと客間があり、更に、何室か個室があり、更に奥に進むと寝室があった。

何畳あるんだよこの部屋は……

ロイヤルスイートはどうやら最上階をまるまる部屋にしてるみたいだが金額聞くのが怖い……けど参考までに……

 

「なあ、信冬この部屋は……」

 

「曲者!」

 

その瞬間、いきなり飛び込んで来た影を向かい俺は紫電で迎撃した。

ギイインと火花が散り、後ろに飛んで、距離を取る。

 

「貴様、この部屋をどなたの部屋と心得る!おそれ多くも甲斐の武田信玄が子孫、武田信冬様のお部屋であるぞ」

 

「いや、知ってるし」

 

背は俺より低いな。

中学生くらいか?長い、黒髪をひとくくりに纏め、手には黒い柄の日本刀に制服だ。

 

「信冬様のお留守に部屋に侵入するとは不埒千万!だが、この風林火山が将、真田幸村がいたことが運の尽きだ賊め!」

 

信冬の知り合いかよ!てか、部下か!

 

「ま、待て俺は!」

 

紫電を右手に左手で慌てて手を降るが

 

「問答無用!真田流決戦奥義!」

尋常でない気が刀に練り込まれて俺も迎撃するか悩んだ瞬間

 

「幸村、声が聞こえましたがなんの騒ぎです?」

 

と信冬が入ってきて刀を抜いてる俺達を見回した。

 

「お館様!危険です!賊が!お下がりください私が今、追い払います」

 

「……」

 

信冬は無表情になり、すっと俺を一瞬見てから幸村を見る。

 

「さあ、お館様早くおさ……」

 

「刀を引きなさい幸村」

 

「はっ?しかし?」

 

「聞こえなかったのですか?引きなさい」

 

「お断りします!お館様を守ることこそ私の……」

 

「引きなさいといってるのです!」

 

「は、はいいい!」

 

一際、大きな声で信冬が言うと幸村は慌てて刀を投げ出す。

 

「正座」

 

「はい!」

 

「姿勢を正す」

 

「はい!」

 

「頭を冷やしなさい」

 

「はい!冷やしましたぁ!」

 

信冬の言うことを犬のように聞いていくのを俺は見ながら信冬が珍しく息をはいた。

 

「ふぅ、すみません。優希、幸村が迷惑をかけてしまいました」

 

「お、お館様。こいつは一体誰なんですか?」

 

正座しながら睨み付けてくる幸村

 

「彼は椎名優希です」

 

「椎名……とすると」

 

「はい、私の婚約者です」

 

とちょっと顔を赤めた信冬が言うと幸村は雷を撃たれたように口を開き絶叫した。

 

「嘘だぁあああ!」

 

 

 

 

 

 

 

何なんだよこいつ……なんかややこしくなりそうだよなぁ……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第164弾 風林火山

反狂氾濫になりかけた幸村をなだめたのはやはり、信冬で落ち着きなさいの一言だった。

たが、それでもうるさいので

 

「幸村、頭が冷えるまで東京一周してきなさい」

 

「はい!頭が冷えるまで東京一周してきます!」

 

と幸村は飛び出して行ってしまったのだった。

忠実というか馬鹿かあいつ……

 

「すみません。幸村が迷惑かけて」

 

都内を一望できるであろう窓の前にある椅子に座りながら信冬が言った。

俺も座っていたので

 

「あいつはお前のなんだ?」

 

「気になりますか?」

 

フフと信冬は微笑み

 

「幸村は私の部下です。風林火山の将、林の幸村」

 

林?あいつがか?どちらかと言えば火じゃないか?

 

話には聞いたことがある。

現在の武田家には当主直属の部下がいるそうだ。

それが風林火山

それと、陰と雷

 

速きこと風のごとく

 

静かなること林のごとく

 

侵略すること火のごとく

 

動かざること山のごとし

 

知られざること陰のごとく

 

動くこと雷のごとく

 

この内容にあった連中との噂で戦闘力はSランク揃いとの噂だった。

Rランクこそいないが日本では相当な戦力を保有しているのだ。

 

「戦ってみれば分かるんですけどね」

 

そういいながら信冬は幸村が走っているであろう都内に目を向ける。

日本刀を背負ったまま都内走ったら捕まらないか?

あるいは信冬のお仕置きなのかもしれんが部下には容赦ない制裁だな……

 

「……?」

 

にこりとしている信冬だが、やはり気を抜けんな……

油断してたら主導権を何もかも持っていかれそうだ。

 

「信冬はいつまで、こっちにいるんだ?」

 

「名残惜しいんですけど明日には山梨に戻ります。アリアさんから逃げたいなら実家まで来てもらっていいですよ」

 

「いや、そこまではいいけど最近はどうしたてたんだ?」

 

「イ・ウーの潜入捜査が中心ですがすみません会いに行けなくて」

 

「いや、大変だったろ?いいさ」

 

イ・ウーへの潜入捜査ということは相当周りの状態にも気を配ったはずで数年単位で調査をしてたんだろう。

結果、イ・ウーは崩壊し、時間が出来たわけか。

 

「時間はそう、ありませんよ」

 

「え?」

 

俺の心の中を呼んだのか信冬が言った。

 

「知っての通り戦いの準備は始まってます。椎名も師団につくのでしょう優希」

 

師団?なんのことだ?

 

「信冬……師団って……」

 

♪♪♪

 

ん?携帯が鳴ったので取り出して見てみる。

 

「なんじゃこりゃ!」

 

と悲鳴を上げた?

 

「どうかしたんですか?」

 

信冬が聞いてくるが答える余裕はなく放心状態になる。

なぜなら……

 

『2年A組、椎名優希、専門科目アサルト、書類不備のため1単位不足』

 

ふざけるな!続きを読むと俺がクエスト受けるときに出した書類に不備があったらしく、単位が認定されないらしい。

しかし、本日午後2200までに書き直せば問題なしなんだが……

慌てて時計を見ると午後10時だった。

センターで止まってたみたいだ……

 

「お、おしまいだ」

 

いや、夏休みだからクエストブーストがある!なんとか明日から1単位稼がないと……

信冬には悪いが携帯で探すと丁度いいのを見つけた。

綴が引率する研修に1週間参加したら0.9単位もらえるらしい。

少し足らんが最後は東京見回りのクエストを受けよう。

研修はどうやら、県外の山奥でやるらしいな。

出発は3日後か……うお、参加〆切明日の23時じゃねえか!

参加申し込みをメールで送るとふぅと息を吐いた。

 

「単位不足なんだ……なんか、書類作成をミスったらしくて単位が認定されてなかったみたいだ……。で、研修受けて大半は補填する」

 

何もギリギリに送ってくることはないだろうに!

アリアから放れることになるが留年するわけにも行かないからここは土方さんにフォローを頼もう……レキにも依頼という形で頼んどくか?

信冬は……忙しいし……そうだ。

秋葉をつけといてもいいかな

 

「緋弾のアリアの護衛を考えてるんですか?」

 

「え?ああ、まあ……」

 

「でしたら幸村を貸しますよ」

 

「いいのか?」

 

ただならありがたいんだがな

 

「はい」

 

だが、あの馬鹿が役に立つのか?

 

「幸村はやれば出来る子です」

 

と信冬はお墨付きを出したのでとりあえず、信じて見るかな……

ちなみにこの後は汗だくになった幸村が飛び込んでくるまで談笑は続き、俺達は別々の部屋で眠ったのだった。

期待とかしてなかったからな!本当に

 

 

さらに、ちなみにだが幸村はアリア護衛を言い渡されて子犬のようにしゅんとしていた。

頭は冷えたらしいが犬かよお前は!

研修中の護衛が不安だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで俺のメールはセンターで止まっていたがメールは午後6時には単位不足皆に届いていたのだ。

学園島では優の知り合い二人が悲鳴をあげることになる。

 

「まじかよ!やべえ!」

 

一人はロジの武藤剛毅

 

「ぬあああ!しまったぁ!」

 

もう一人はレキ様の写真を整理していたレキ様ファンクラブ会長、村上正だ。

 

二人は優希と同じく、研修に申し込むことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュウウウと生暖かい夏の風を浴びながら作りかけのスカイツリーの頂上でゴシックロリータの服を着た銀の髪の少女は赤い目を都内のホテルに向けていた。

 

わずかだが見える少年を見て少女は微笑んだ。

 

「帰ってきましたの優希。フフフ」

 

少女……ローズマリーはそういうと翼を生やしてその場から消えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第165弾 椎名優希の1日2

午前8時、信冬達と一晩過ごしたホテルを後にして東京駅で新幹線で山梨に帰るという信冬を見送るため俺達はホームにいた。

出発まで、少しだけ時間があるのでホームで話をしているんだが……

 

「うう……お館様、本当に行ってしまわれるのですか?」

 

すがるような目で信冬を見る幸村。

子犬みたいだな

 

「ええ、優希がいない間、アリアさんの護衛頼みましたよ」

 

「お館様がそう言うのでしたら……」

 

「幸村」

 

信冬はそっと幸村の頭に手を置いた。

 

「お、お館何を!」

 

幸村は真っ赤になっているがされるがままだ。

 

「私も辛いのです。ですが幸村ならやりとげてくれると信じてますよ」

と笑顔でなでなでされ幸村の顔に決意が宿る。

 

「お任せくださいお館様ぁ!この幸村!見事護衛をやり遂げてみせます!」

 

うるせえ!ホーム全体に聞こえたんじゃないかという大音量にみんなが注文しているぞ。

 

「幸村。声が大きいですよ」

 

「申し訳ありません!お館様ぁ!」

 

駄目だこいつ黙らせないと

 

「……」

 

信冬は仕方ありませんと頷いたので幸村の首筋に手刀を叩き込む。

 

「ぐっ……」

 

倒れる幸村を嫌だがホームに座らせてから回りにはなんでもありませんと言う。

 

「仕方ありませんね」

 

信冬は気絶した幸村を見ながらどこか優しげな目だった。

 

「幸村のこと信頼してるんだな」

 

そうでなければ信冬が東京に幸村を残すはずがない。

 

「幼い頃からの付き合いなのです。興味があれば幸村に聞いてみてくださいね」

ピリリリと列車発射の音が聞こえてくる。

 

「あ、優希。これを」

 

扉が閉まる前に信冬に何かを渡される。

 

「信冬これ……」

 

しかし、それを聞く前に新幹線の扉は閉まってしまった。

微笑んだままの信冬の顔が見えなくなると、渡されたものを見てみるとお守りだった。

なぜお守りなんだ?

 

♪♪♪♪

 

ん?

メールを開いてみると信冬からだった。

『魔よけのお守りです。何時でも持っててくださいね』

 

ふーん、魔よけか……信冬にありがとう気をつけて帰れよとメールを送ってからため息をついた。

こいつどうしよう……

気絶した幸村は厄介だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、俺は隼があるので東京駅の前のタクシーを捕まえて学園島の住所を指定して先に隼で帰って寮前まで来るとタクシーが来たので

 

「はいよ1万円ね」

 

ハハハ……高いよなタクシー……

涙目でタクシーのおじさんに1万円を渡すと幸村を引きずりだす。

部屋まで連れていくのがめんどうだな……てか、信冬よ……こいつ本当に使えるのか?

 

「おい、起きろよ!」

 

「うーん、申し訳ありません……信冬様ぁ……」

 

信冬の夢見てるのかよ。

しかも、夢の中でまで怒られてるし

本格的に起こすか

 

「おい起きろ!」

 

パンパンと頬をビンタするとようやく幸村が目を開けた。

 

「あれ?信冬様は?」

 

「信冬なら山梨に帰ったよ。お前はアリアの護衛するんだろ?」

 

幸村は目をぱちくりしてから

 

「椎名……優希……嫌だが信冬様の許嫁というなら仕方ない……」

 

心の中の声がただ漏れだぞ

 

「とりあえずアリアの場所まで行くか?」

 

「いや、アリア殿の護衛はきさ……あ、いや優希様が研修に行ってからになる。それまではあなたについてろと信冬に言われている」

 

「俺に?まあ、いいけど……つか様はいらない。優でいいよ。信冬の関係者だし同じ学年なんだろ?」

 

幸村はちょっと意外そうに目を見開いたが

 

「そう言うわけにはいかない。優希様は信冬様の許嫁だ。将来、俺が仕えることになるかもしれないんだ」

 

そういったことは厄介だな……秋葉もそうだが、一度固まった関係は中々、変えられない。

信冬と結婚するかはともかく、同い年に様づけされるのはな……

 

「まあ、いいか。なら、部屋に行こうか」

 

「ああ」

 

様をつけつつも敬語じゃないのは多分、俺があまり好きじゃないからなんだろがまあ、いいか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に入ると誰かがいるかと思ったが誰もいない。

壁にCZ78の弾痕が残っていたが気にせずに時計を見ると午前9時半だ。

1日は始まったばかりだな

 

「テレビでも見てろよ。何か買うなら下にコンビニもある」

 

個室でトレーニング用の服に着替えてから部屋を見回している幸村に言う

 

「どこにいくんだ?」

 

「朝の鍛錬だ。こういうのは積み重ねだからな」

 

「なら、俺も行く!」

 

「いいけど服がないだろ?」

 

幸村は私服で荷物が届くのは今日の夕方になるらしい。

夏場に服がないのはきついはずだ

 

「平気だ」

 

「そういう訳には行かないだろ。ジャージ貸してやるよ」

 

俺は予備のジャージを貸したがダブダブだ

 

「幸村……お前サイズいくつだよ……」

 

ちなみに俺はLサイズな

 

「え、Sサイズだ。悪いか?」

 

幸村は手足の袖を下りながら言った。

なんとか着れてるな

「いいけど……」

 

信冬の前では態度が違う幸村を思い出しながら苦笑する。

外に出ると蝉の声がうるせえな

 

「きさ……優希様はそんな装備で走るのか?」

 

「ん?」

 

俺の装備はいつものデザートイーグルにガバメント、紫電、見えないが各種ワイヤーで相当重い、

 

「まあ、普段からこれで戦ってるからな」

 

そう、ただ運動するだけでは意味がない。

普段と同じ、力を発揮できるように鍛錬を積むのだ。

 

「幸村だって刀、持ってるじゃないか」

 

「……」

 

幸村が頷いたので走り出す

さて、やるか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、終わりと」

 

時計を見ると時刻は午後12時だ。

走って足腰鍛えてから看板裏で幸村と素振りを終えると俺の横で幸村がばてていた。

 

「おーい大丈夫かぁ?」

 

寝転んで荒い息を吐いている幸村に声をかける。

 

「はぁはぁ……化け物め……そんな……装備で……はぁ」

 

いや、化け物って

 

「姉さんに昔、指示されてたからな」

 

「姉さん……というとあの世界最強の……」

 

「そ、水無月希。俺の姉さん」

 

「せ、世界最強に鍛えられたんだ……その体力も納得だ」

 

「お前だって信冬の家にいたんなら鍛えられてたんだろ?信冬、俺より強いし」

控えめに見ても信冬に勝つのは簡単じゃないからな。

 

「……」

 

再び黙りこんでしまった幸村だったので部屋に戻ってからシャワーを浴びて外に出る

 

「今度はどこにいくんだ?」

 

と私服に着替えた幸村が聞いてきた。

 

「ん?昼ご飯」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中華料理屋『炎』はこの時期、昼でも暇だ。

というのも集客の主力である学生が夏休みで帰省している生徒が多いのが理由で今日も昼なのに数人しかいなかった。

 

「あ!お兄さんじゃないですかぁ」

 

バイトしているアリスが幸村と座った席にとことこと歩いてきた。

 

「おお!今日も女の子かと思えば美男子さんですねぇ。BLですね分かります」

こらアリス!

 

「今日も女の子?」

幸村がアリスを見てから俺を見る

 

「いや、それは……」

 

「クフフぅ、美男子さん実はこのお兄さんもの凄い女キラー!フラグ職人なんです」

 

おいこら!

 

「フラグ職人?」

 

真面目なのか幸村がちゃんと聞いている

 

「はい、ロリ先輩、無口先輩、小悪魔先輩、ヤンデレ後輩、私、幼なじみ先輩、姉妹丼もう、フラグ職人でしかないですよ」

 

「いや待て!何だフラグ職人って!」

 

「フフ、さあ?」

 

小悪魔的に笑ってやがる。

 

「き、貴様……」

 

ん?幸村は顔を真っ赤にして

 

「の、信冬様という方がありながら他の女の子といちゃいちゃしてるのか」

 

幸村の目に炎が宿ってるように見える!怒りのオーラが見えそうだ。

アリスなんとかしろとアイコンタクトする。

 

(限定のシュガーリーフパイで手をうちましょう)

 

(分かった)

 

と、アイコンタクトするとアリスが

 

「大丈夫ですよ。何だかんだでお兄さん誰とも恋仲じゃありませんから。もちろん手も出してません」

 

「本当か?」

 

幸村が疑うように俺を見てくる。

 

「当たり前だ。あいつらは友達だ!」

 

まあ、正確にはアリアにはキスしたし、理子ともしたな……奏ちゃんの裸も見たしアリアの裸も……あ、そういや子供の頃、秋葉に背中流してもらった時に……

うーん、そう考えると俺、最低なやつみたいじゃないか……幸村に言ったらまずいぞこれ

 

「ならいいんだ。優希様は信冬様の幸せだけを考えてくれ」

 

ん?なんかそれはそれでとブツブツ言ってるぞ。

独り言か?

 

「それでご注文はお決まりですか?」

 

「この地獄ラーメンに興味ある」

 

「絶対駄目だ!」

 

なんでここに連れてきたらみんな爆弾に手を出したがるんだ!いいかげんんにしろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は午後3時だ。

猛烈な暑さの中、幸村に学園島の案内をしていると

 

「あ!ユーユー!」

 

どさりと、背中に誰かが抱きついてきた。

 

「り、理子か!」

 

「あったりぃ!ねね!ユーユー理子と遊びに行こ」

 

こら理子!背中に胸を押し付けてくるな!

 

「は、離れろ理子!」

 

「いーよ。暑いしね」

 

パタパタと可愛らしい団扇を取り出した理子が自分にバサバサと風を送る

 

「暑ーい」

 

そりゃ、そんなフリフリの私服に、その髪の長さじゃそうだろうさ

 

「きさ……優希……様誰だこの女は?」

 

「んん?」

 

理子が馬鹿理子モードで首を可愛らしく傾げて幸村を見る。

 

「だーれ?ユーユーの実家の人?」

 

「俺は真田幸村だ!山梨武偵高の武田信冬様の部下の……」

 

「ねぇ、ユーユー、どっか店入ろうよ」

 

「確かに暑いからな」

 

「無視するなあ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、用事を思い出した理子という理子と別れて再び歩き出す。

理子、目治ってたな……

まあ、パトラのピラミッドが破壊されて呪いもとけたのか

 

「あの女は誰だ!」

 

「しつこいな!理子は友達だよ」

 

昔からの友達だ。

ルーマニアでブラドから助けると誓い、最近、ようやく約束を果たせた大切な友達。

 

「彼女じゃないんだな!」

 

「しつこいな!」

 

そんなこんなで、東京武偵高に来たが夏休みだから静かなもんだ。

部活も今日はないらしい。

知った後ろ姿を見つけたので

 

「レキ!」

 

無表情に振り返ったレキに駆け寄ると

 

「あの戦い以来だな。夏休み中ちょっと時間とれる日あるか?」

 

レキに会ったら聞きたいことがあったんだ。

姉さんとレキは知り合いだった。

思い出そうとすれば頭が痛むが確かに俺はレキと昔会っているはずだ。

 

「優さん」

 

「ん?」

 

「綴先生の研修を受けるのですね」

 

「誰かに聞いたか?単位が足りなくてな」

 

「では、私もその研修を受けます」

 

「レキも?単位足りないのか?」

 

フルフルとレキが首を降る。

受けること事態はできるが変なやつだな。

 

「ぐるおん!」

 

「うお!ハイマキ!」

 

ガブリと足を甘噛してくる狼まるでご主人様に近づくなと言ってそうだ。

 

「ハイマキやめなさい」

 

「ぐる……」

 

ちっと舌打ちしてそうな様子でハイマキが離れる。

 

「ま、また違う女の子……」

 

あ、幸村のこと忘れてた……

 

「……?」

 

レキが無表情に幸村を見る。

 

「君は優希……様のなんなんだ?」

 

友達だよ!

 

「私は……」

 

ん?

 

「優さんの……」

 

レキが何かを言う直前

 

「ここにいたんですか優君」

 

「ま、また違う女の子が……」

 

幸村が絶句してるが……

 

「秋葉か?帰ったんだな」

 

「はい、今学園島に戻りました。あ、こんにちはレキさん」

 

こくりとレキが頷く。

次に秋葉は幸村を見る

 

「誰ですか?」

 

失礼すぎだ秋葉!

 

「信冬の部下だよ。信冬のことは知ってるだろ」

 

「ああ……」

 

うお!なんだ秋葉の目が怖い

 

「優君の婚約者の」

 

なぜか婚約者を強調する秋葉

 

「婚約者ですか?」

 

なぜか無表情だがレキの目線も怖いよ!

逃げるが勝ちだ!

俺は全速力で二人から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後6時、今日は散々だったな……

 

「……」

 

ハハハ、この1日で幸村の評価は女たらしの椎名 優希らしいな……

なぜか、テレビ電話で奏ちゃんから電話がかかってきたり千鶴から電話があったりと女の子からの接触が多かったんだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまぁ」

 

最低だアリアが帰ってきたぞ

 

「優いるの?」

 

部屋に入ってきたアリアから風穴を覚悟したが以外なことに風穴はない。

 

「優?そいつ誰?」

 

アリアはソファーに座る幸村を見ていった。

幸村は立ち上がると

 

「初めてアリアさん。俺はあなたのご……」

 

ごんと頭を殴った。

アイコンタクトで

 

(何をする優希様)

 

(アホか!護衛は秘密なんだよ!)

 

と短かくいう

 

「ご?」

 

アリアが首をかしげる

 

「「なんでもありません」」

 

二人でハモりながら

 

「こいつは俺の友達だ」

 

(誰が友達だ!)

 

(そういうことにしとけ)

 

とアイコンタクト

 

 

 

「何男同士で見つめあってるのよ」

 

ご、誤解だ!

とりあえず幸村から目線をはずしてから

 

「あのなアリア、信冬のことなんだけど……」

 

「知ってるわ」

 

以外にもアリアは冷静になっていた。

 

「あんたの家はイギリスで言えば貴族ねようなもんだし、あの信冬って子も調べたけど貴族みたいなものじゃない。政略結婚って、以外に残ってるのものよ?」

 

政略結婚って……まあ、小さい頃、父さんから言われて数回会ったりしたけど……

 

信冬は、箱入り娘だ。

俺が初めてあった時も、家の奥の部屋だったし、何回か遊びに連れ出して泣かれてしまったこともある。

 

「だから、この話はおしまい」

 

と、アリアが言うがこれだけは言わないとな

 

「アリア、聞いてくれ。信冬との婚約っても父さんの気まぐれみたいなもんで破棄だっててきるはずなんだ」

 

幸村が睨んでる気がするが気にするな

 

「何必死になってるのよ優」

 

とアリアが笑った。

 

「この話は終わりって言ったでしょ?はい、おしまい」

 

パンパンと手を叩いてアリアが言う

まあ、いいのか?

 

「あ、そうだアリア俺、研修旅行で1週間部屋開けるな。幸村に部屋を貸すけど大丈夫だよな?」

 

信冬が置いていった以上、幸村には一応の信頼はある。

それにこいつ信冬の怒りを買うことは絶対にやらない気がする。

 

「研修旅行?」

 

アリアは冷蔵庫からミルクを取り出すと砂糖をどっさり入れて口に入れる

 

「単位不足でな……アリアも行くか?温泉に入れるみたいだぞ?」

 

アリアが来るなら一石二鳥だ。

 

「温泉!?」

 

ちょっとアリアは考えてるようだった。

でも、ママの証拠集めのとブツブツ言っている。

それなら

 

「ちょっと待てよアリア」

 

携帯で電話すると

 

「土方だ」

 

「あ、土方さん?今、大丈夫?」

 

「優希か、どうかしたのか?」

 

ガタンガタンと電話の向こうから音が聞こえてくる

 

「かなえさんの裁判の証拠の件だなんだけど……」

 

「神崎の娘から聞いたのか?証拠ならまとめて弁護士に渡しといたぜ。予定より速くすんだから学生は遊んどけと神崎に伝えとけ」

 

「おお、流石土方さん」

 

「ちっ、よくいうぜ」

 

パアアアン

ダダダダダ

と、銃声が聞こえる

 

「ちっ!刹那!殲滅しろ!」

 

「ハハハハハハハ!」

 

沖田の笑い声と爆発音

ズドオオオオン

 

「ぎゃああああ!」

 

と人の悲鳴まで聞こえてくる。

一体、土方さん達どこで何やってんだ?紛争地域にでもいるのか?

 

「ひ、土方さん?」

 

プツンと回線が途切れ、ツーツーと音がするだけになる。

かけ直してみるが繋がらなかった。

公安0は大変そうだ……将来就職したくない職場の1つだなまあ、聞きたいことは聞けたか

 

「土方さんがかなえさんの裁判の証拠集めまとめてくれたってさ。夏休み前半くらいは遊んどけって」

 

「もうできたの?」

 

アリアはビックリしている。

まあ、土方さんはあの姉さんのフォローばかりしてたんだからサポートは完璧だ。

 

「なら研修旅行行こうぜ?レキも行くみたいだし」

 

「レキも?うーん……」

 

最近、知ったことだがアリアはレキと仲がいい。

孤独通し馬が合うのかもな……

 

「わかったわ。私も参加する温泉入りたいし」

 

「よし、じゃあ後は……幸村だが」

 

お前アリアが研修旅行にくるなら用済みじゃないか?

 

「もちろん、俺も着いていく。信冬様から頼まれてるからな」

 

「いや、もうお前いらないし」

 

「いや!着いていくぞ!絶対にな!」

 

めんどうなことになってきたな……

まあ、いいか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研修に温泉があるからだろう。

この後、秋葉、レキ、アリア、以外に、理子、ジャンヌ、マリが参加を表明した。

ちなみに、キンジは入院中で参加できないし、白雪はキンジの看病だから離れないそうだ。

後、単位不足で武藤、そして、村上が参加することになってしまったのだ。

村上までかよ……レキに近づけないようにしないとな……まあ、研修旅行っても半分は遊びだ。

夏休みの旅行として楽しむさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、参加者リストを見た村上は

 

「レキ様が研修旅行に参加!なんたる玉稿!しかし、椎名ぁああ!また、お前までぇ!」

 

と叫んだ男がいたのは別の話



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第166弾 温泉旅行へGOGOGO!

8月3日、綴の研修旅行の参加者は俺、アリア、秋葉、レキ、理子、マリ、武藤、村上、ジャンヌ、幸村の計10人だった。

ちなみに、ハイマキをいれたら+1匹だ。

 

 

 

 

 

 

 

「せっかく女子と温泉旅行だってのに綴さえいなけりゃなぁ」

 

「なんかいったかぁ?武藤」

 

後部座席に座る綴が運転している武藤の頭にグロッグを押し当てる

 

「なんでもないです!」

 

青ざめた武藤が言うと綴はめんどくさそうにしながら後部座席に戻るが先生、あんた武藤死んだら事故になるから!

 

激しく雨が降る中、ワゴン車は山道を走っている。

ちなみに、席だが運転席武藤、助手席村上、村上の後ろは俺、真ん中はレキで隣にアリア、さらに後ろの俺の真後ろが理子、真ん中にジャンヌ、そして綴、補助シートに秋葉、ちなみに、幸村は俺の左横の補助シートに座っている。

あ、ハイマキはレキの前で伏せてる。

アクビしてくつろいでるなお前

 

「しっかし、嫌な雨だな」

 

「山の天気は変わりやすいと言うが天気予報では晴れになってる。間もなく晴れるだろう」

 

村上がスマートフォンをいじりながら言った。

 

「おお、村上、スマホかよ!それバッテリーやばいんだろ?」

 

 

「うむ、すぐに電池切れになってしまうが充電器はたくさん持ってきてある。もちろん、レキ様を撮るた……いや、何でもない」

 

「その話は後で聞くとして、キンジや不知火は薄情だよなぁ優」

「キンジは病院だし、不知火は普通に単位足りてるからな」

 

武藤と話ながらごめんねと悪くもないのに微笑んだ不知火を思い出す。

 

「ああ……キンジがくりゃ星伽さんも来たかもしれねえのによ」

 

白雪は今回不参加だ。

キンジが病院で看病が理由らしい

まあ、ヤンデレさんらしい考え方だな

 

「何だ、武藤これだけ美人が揃っておいて文句か?」

 

とジャンヌが言う。この前の件でどうやらジャンヌは武藤を認めたらしいな

 

 

「いやでも星伽さんがなぁ……」

 

未練たらたらだがまあ、キンジが来てりゃ白雪も来てただろうよ

 

「何、武藤悲観することはない。ここにはレキ様もおられるじゃないか」

 

「……」

 

レキは無言で窓の外を見ている。

お、俺を見てる訳じゃないのは分かってるがまったくの無反応かよ村上の言葉に

 

「まあ、レキも美人ちゃ美人なんだが……」

 

面白い奴ではあるんだけどなレキは

 

 

「所で綴……先生、今から行く場所ってどんなとこなんです?」

 

このままじゃ武藤の不満ばかり聞くことになりそうなので強引に話に割り込む

 

「んー、普通の村だよ。温泉が沸いてるぐらいで田舎町というか村」

 

「村の名前はなんなんですか?」

 

アリアが聞くと綴は何かを考えて

 

「あー、なんだったかな……あ、そうだ鬼海村だ」

 

「き、鬼海村?」

 

聞いたことがない村だな。

まあ、日本には変な名前の町も多いからさして不思議に思うことでも……

 

「その村の名前聞いたことがあります」

 

以外にも発言したのは幸村だった。

ちなみに、幸村は他校から申請して研修に参加できるように信冬が手配したらしい。

 

「鬼海村は今から70年前に集団失踪事件が起きた村です」

 

「集団失踪事件だと?」

 

ジャンヌが興味を持ったのか幸村に話しかける。

幸村は俺の友達ということにしてある

 

「はい、合計100人の人間が行方不明になり当時、の警察は大規模な捜査をし、軍まで出動する事態になっています」

 

「軍隊までかよ?何かあったのか?」

 

幸村はしまったという顔をする

 

「あ、いえ大規模な捜査に軍が借り出されただけで……」

 

何か隠してるな幸村……大方、その時代武田が協力した何かの事件があったのかもしれない。

ここは京都から遠く離れた場所。

椎名よりも武田に当時の政府は頼ったんだろう。

 

「それでその失踪した人達見つかったのユッキー」

 

と、理子が身を乗り出して聞いてくる。

その豊満な胸が席に乗せられて強調されたので幸村は顔を赤くしながら

 

「見つかったのは女の子一人だけです。しかし、その子も助け出された後衰弱して死んでしまったそうです」

 

ホラースポットじゃねえかよ……

暇があったら幸村に裏も聞いとこう

 

「ん?おかしいな」

「どうした武藤?」

 

「ラジオがつかねえさっきまでついてたのに」

 

とラジオをいじっている。

見るとナビもクルクルと同じ場所を回っている。

 

「さ、真田先輩が変なこというからですよ!」

 

マリが顔を青くして言う

 

「そ、そんな俺は」

ん?アリアも静かだな

 

「どうしたんだアリア?怖いのか?」

 

「こ、ここ怖くなんてないわ」

 

「あー、アリアびびってる~」

 

「び、びびってないわよ理子!」

 

クフフと理子は左手を口に当てながらアリアをからかっている。

 

「あー、まあもうナビもいらんだろ」

 

と綴が言う通り、今回の研修の村に入ったようだった。

温泉が出るのに寂れた町だな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は車を降りると、ちょっと先にある旅館に向かい歩き出す。

何て言うか嫌な予感がする

この先とんでもないことが起こりそうな……

 

「……」

 

レキとハイマキの後ろを歩きながらこんな時、姉さんがいたらと考えてしまう。

姉さんがいれば多分、魔王でも倒してしまうような人だから何があっても安心できるんだが……

 

「ねね、ユーユー!旅館ついたら理子と温泉入ろうよ」

 

うお!腕に抱きつくな理子

 

「ああああ!何やってるんですか理子先輩!優先輩は私のです!私が先輩とお風呂に入るんです!」

 

グイっとマリが俺の右手に抱きついてきた。

 

「おいお前ら!」

 

「えー、じゃユーユーに決めてもらおうよ。理子とマリリンどっちと入りたい?これ理子フラグとマリリンフラグ回収選択肢だよユーユー」

 

な、何!究極の選択だ!

てかフラグってなんだよ!

 

「と・う・ぜ・ん!優先輩はカワイイアミカを選びますよね」

 

いたたた!握りしめるな痛い!痛い!

 

「ユーユーは私の王子様なんだよね?」

 

う、真剣な顔で見上げてくる理子が少しだけ可愛く見えるぞ。

い、いや理子のヒーローとは言ったが王子様なんて言ってねえ!

 

「「どっち(ですか)!」」

 

え、えーと……

レキが立ち止まってこちらを見ている。

駄目だ流れて的にレキって言ったら殺される

アリアならさらに死亡フラグだ。

ここは……

 

「ん?」

 

ジャンヌと目があったので

 

「じ、ジャンヌで!」

 

「なっ!し、椎名」

 

まさかの選択にジャンヌがぼんと赤くなる。

 

「最低です優君」

 

秋葉の声が背中に突き刺さる!

 

「ち、ちが……」

 

ミスった!男の誰かにすべきだったろ俺!

 

「あ、あんた達!特に優!なんて会話してんのよ!」

 

怒りで顔を真っ赤にしたアリアがガバメントを俺に向けてくる。

 

「ま、待て!」

 

すすすとマリと理子が俺から離れた。

理子はウインクする。

裏切り者!

 

「風穴ぁ!」

 

「うぎゃあああああ!」

 

悲鳴をあげながら全部、45ACP弾を銃弾切りで迎撃する。

いやぁ、俺銃弾切りの練習には事欠かないね……

 

「ふん、ハーレム野郎め死ね」

 

「まったくだあいつは地獄に落ちるべきだな」

 

「やはり、優希は信冬様にふさわしくない」

 

 

と村上、武藤、幸村は意見を合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、一人だけレキはそんな喧騒を横に深い森が生い茂る方を見ている。

雨はやんで湿った風がレキの髪を揺らした。

 

「……風が荒れている」

 

と、誰に聞かれることもなくレキは呟いた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第167弾 温泉パニック前編

「おかみー着いたぞ」

 

田舎道を歩きながらゆうやくついた場所は東京武偵高校指定かげろうの宿。

綴は女将と知り合いらしい

 

「……」

 

ん?誰も出てこないな……

綴がだらけた顔から少し真剣な顔で入っていく。

続けて入ろうとしたら手で止められる。

レトロな日本の宿らしい玄関に入り、綴が辺りを見回すとグロッグをいつでも手にできるように構える。

な、なんだ?まさか、敵か?

いつでも対応できるように俺も身構える。

対して周りはん?と疑問顔、いや秋葉だけは玄関の上を見ている。

 

「おい、秋葉何か……」

 

風で探知を行なったいらしい秋葉にいるのかと聞こうとした時、天井から影が飛び出す。

同時に綴が反応し影と綴は互いに銃を向けた所で静止した。

 

「ふっ」

 

「うふ」

 

二人は満足そうに声を出すと銃をしまった。

 

「さすがね綴」

 

泣きほくろがある美人の仲居さんが言った。

 

「そっちこそなまっちゃいないみたいだな」

 

と笑いあった。

なんだよ知り合いかと俺は緊張を緩めた。

 

だが、次の瞬間

 

「何やら空気が変わったので来てみたが……」

 

げ、あいつは!

廊下の奥から現れた相手に俺は慌てて身構えた。

 

「てめえ!」

 

イ・ウーにいた大男ジャンは俺達を見ると

 

「ん?おお!少年に幸村じゃないか!ワハハハ待っておったぞ」

 

え?

俺が幸村を見ると幸村は驚いたように

 

「じ、ジャン?なぜあなたがここに?」

 

幸村と知り合いらしいなこいつ

 

「おっと少年!今日は戦う気はないぞ。お館様もおられるからな」

 

と言った時

 

「何の騒ぎですジャン、あら優希に幸村着いたんですね」

 

と浴衣姿の信冬が言った。

 

「の、信冬!」

 

「お、お館様ぁ!」

混乱してきた……なんなんだよこの状況は……みんな唖然としてるし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜなんだ……

本来、男子部屋と女子部屋は分けられているので俺は男子部屋に逃げ込もうとしたがマリや理子に連行されて女子部屋に放り込まれ尋問を受けていた。

まあ、答えるのは信冬達なんだがなんなんだこの居心地の悪さは

 

「初めて、皆さん。優希の婚約者の武田信冬です」

 

「「婚約者!」」

 

知らない女子連中は驚いてるぞ。

ちなみに、武藤やジャン、幸村は部屋にはいない。

みんな男子部屋だ。

「はい」

 

と信冬が微笑んだ。

 

「久しぶりだな武田」

 

皆が驚くなかジャンヌだけが親しげに信冬に声をかける。

あ、そうかこいつらイ・ウーで……

「ええ、あなたが捕まって以来ですねジャンヌ」

 

「う……」

 

ぐさりと傷をえぐられたのかジャンヌが胸を抑える。

 

「お前こそよく騙してくれたものだ。教授は知ってた見たいたがスパイだったとはな」

 

ちなみに、ここにいる皆はイ・ウーのことを知ってるので特に何も言わない。

 

「あなたもお久しぶりです理子さん」

 

「うん……でも信ちゃん本当にユーユーと婚約してるの?」

 

「はい、20歳には結婚します」

 

ちょ!待て!

 

「き、聞いてないぞ信冬!」

 

「両家でそう合意してるのです」

 

と、あくまで笑顔を崩さない信冬

 

「……」

 

レキは何も言わずに無表情にハイマキに餌をあげてるしハイマキはそんなの知らんとばかりにバクバクご飯を食べている。

 

「そっかぁ……」

 

痛い痛いぞ!女子の視線が!特にマリと秋葉!なんだそのヤンデレ目は!

 

「私は優様は仕える主ですから」

 

露骨に様をつけるな秋葉さん!

なんだよ!知ってたんだろうが

 

「でも、婚姻届け出してませんからまだ、チャンスはあるはずです!」

 

ヤンデレ目のまま手を握り締めたマリがなんか怖い

婚約とか結婚とかの話にアリアなんてフリーズしてるし……

まあ、一度怒ってるから風穴はないと信じたいな

 

「そ、それより!信冬なんでお前がここにいるんだ!」

 

話題を必死に変えようと努力しよう。

 

「療養……と言いたいんですけど山梨武高から……と言うよりも武田に依頼が入ったんです。まあ、簡単な調査ですから半分は温泉に入りに来たのが正しいです」

 

と信冬が答えてくれる。

 

「ジャンは?あいつは何でここにいる!」

 

「言ってませんでしたか?ジャンは幸村と同じ、風林火山の『火』の将です」

 

信冬の部下だったのかあいつ……

 

「山梨武偵高3年です」

 

学生!あの体格で学生なのあいつ!

チェーンガン振り回して大火力で姉さんと戦ったらしいが確かに火の部分は納得できるが……

 

「まあ、続きは温泉で話せお前ら、研修は明日からだからな」

 

と綴が立ち上がる

 

「椎名ぁ、お前もくるか?」

 

「なっ!」

 

思わず想像してしまったがこのメンツにそんなことして見ろ。風穴どころか粉々になっちまうよ

 

「ああ~、期待したんだ間抜けぇ」

 

くそ!綴にからかわれるのは腹がたつな

みんながカバンをいじり始めたので俺は部屋を後にしようとする。

だって、みんな平気で下着とか出そうとしてるし!

 

「いつまでいるのよ優!」

 

 

とアリアに追い出されながら

 

「えー、ユーユーも入ろうよお風呂」

 

「な、そんなことできるわけないでしょ理子ぉ!」

 

理子の場合からかってんだろうが……

 

「私は構いませんよ」

 

と信冬だがこいつも正直、俺のこと本気か違うか図りかねる……

実際の所、本気で俺と彼氏彼女をしたい女の子なんていないのかもな……

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻るとなにやら、男3人が集まって何かを話している。

村上、武藤にジャン……幸村のやつなんで寝てんだ?

なぜか、顔を真っ赤にして布団の中で寝息を立てている幸村。

 

「おお、戻ったか少年」

 

ジャンが左手をあげてくる。

俺は紫電を腰から外しながら畳に座る。

 

「信冬から聞いたよあんたあいつの部下だったんだな」

 

「お館様から聞かれたか?流石は婚約者だなワハハハハ」

 

「ちくしょう……なんで優ばかり持てるんだ……しかもあんな可愛い子が婚約者だなんて世の中狂ってやがる」

 

「まあ、私としては嬉しいがな。婚約者がいるならレキ様に手を出さないことだハーレム野郎」

 

最初から出してねえよ

武藤と村上を睨んでからお茶を探すがあれ?

 

「なあ、お茶ないのか?」

 

旅館には当たり前のポットやお茶の葉が見当たらない

 

「うむ、飲み物ならこれをやろう」

 

ジャンが缶を投げてくる。

うわ、投げるなよ

 

「ありがとう」

 

「礼には及ばん。ところでお館様達はまだ、部屋かな?」

 

「いや、みんなで風呂行くってよ」

 

「ほぅ」

 

ジャンの目が光った気がした。

なんなんだ?

俺は缶のふたを開ける。

コーラか?見たこと柄だが……

喉が乾いていたので一気に口に入れる。

「所でなんで幸村は寝てるんだ?」

 

研修津は明日からとはいえ昼間からしかも、ついた早々に

 

「うむ、幸村は真面目だからなぁ……」

 

そう言いながらジャンが新しいコーラを渡してくる。

 

「いいのか?」

 

「うむ、もちろんだ。戦った無礼を精算するために飲むといい」

 

「お前らは飲まないのか?」

 

「俺達は幸村とさっきまで飲んでたんだ。気にするな優」

 

そうか?ならいいけどこのコーラなんか飲んでると腹の底がきゅっとしてきてなんか気持いいな

 

「んじゃ」

 

ごくごくと飲むとジャンが次々とコーラやジュースを進めてくる。

アハハ、なんか楽しくなってきた……てか、これってまさか……

 

「おやすみハーレム野郎」

 

畳に寝転んだ俺はそのまま、村上の言葉を最後に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

目が覚めると部屋が真っ暗になっていた。

起き上がると周りを見渡す。

いつ、布団で寝たんだ?

携帯で時間を見ると午後8時。

 

「うーん……」

 

隣では幸村が寝ているが武藤達はどこ行ったんだ?

ああ、寝起きで駄目だなんか頭が働かん。風呂行こう

準備して風呂に向かう。

のれんで入る方が男湯だと三回確認してから中に入る。

うん、分かってるんだ。

男湯と間違えて女湯なんて馬鹿なことは俺はしないのさ

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド??

 

「……」

 

音もなく現れたそいつは、静かにのれんを逆にすると姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、生き返るな……」

 

風呂に武藤達がいると思ったがいないようだな。

誰もいない風呂はいいものだ。

しかし、湯気が濃いな……何も見えないけど……

ふぅ……

夜空を見上げながら露天風呂か……最近怪我続きだし疲れも取れるな……

 

「ん?」

 

ふと、視線を感じた気がしたので振り返ってみたが誰もいない。

気のせいか?

そろそろ、上がるかな……

と、立ち上がろうとした瞬間悪夢は訪れる。

 

「二度風呂二度風呂♪」

 

こ、この声は理子!

 

「あれは無効よ無効!」

 

「武偵卓球だ。敗けを認めろ神崎」

 

あ、アリアにジャンヌだと!

 

「でもいい勝負でしたよね」

 

「ええ」

 

ま、マリに信冬!

 

「レキさん。ブラジャー落ちましたよ」

 

「……ありがとうございます」

 

あ、秋葉にレキまで……なんであいつら男湯の脱衣場に!

 

「理子いっちばぁん!」

 

や、やばい入ってくる。

慌てて、俺は近くの湯船の真ん中の大きな岩の後ろに隠れる。

同時にばしゃあああんと理子が飛び込んだ音が聞こえた。

不幸中の幸いだ。湯気が濃いから見えないしなんとか脱出の機会を……

 

「む!すごい湯気だな」

 

「風で吹き飛ばしますね」

 

「ああ、頼む山洞」

 

あ、秋葉!やめろ! ビュオオオと風が湯気を吹き飛ばしてしまった。

岩があるから隠れてられるが脱出は難しくなってしまったぞ。

じゃぶじゃぶと水を掻き分ける音がする。

や、やばいこっちに誰か来るぞ!

逃げられない……

岩影から誰かが現れる。

青ざめて肩まで湯に浸かり、現れた相手と目が合う。

 

「……」

 

無表情のレキが俺を見下ろしている。

なんというか……丸見えの状態で……

 

神様……俺は今日死ぬんですね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後編に続く



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第168弾 温泉パニック後編―レキにしたとんでもなきこと

駄目だ……殺される……も、もうおしまいだ。

湯気で辛うじて下の大事な部分は見えてないとはいえ、レキは何もつけていない。

そして、無表情に俺を見下ろしている。

そして

 

ちゃぷと硬直している俺の横に並ぶように湯船に浸かった。

「……」

 

「……」

 

お互いに無言、というか俺は完全に頭がフリーズしていて動けない。

岩の向こうからはアリア達の話し声が聞こえてくるがまずは、レキの心意を知らないと

俺は小声でレキに話しかける

 

「そ、そのレキ、俺は入った時は男湯だったんだよ。お前らちゃんとのれん確認したか?」

 

こくりとレキが頷く

 

「お、男湯じゃなかったか?」

 

ふるふるとレキが首を横に振った。

そ、そんな馬鹿な……じゃあ、俺は女湯に忍び込んで隠れてる変態じゃねえか!

 

「れ、レキ!お、お怒ってるのは分かるが頼む助けてくれ」

 

このままでは見つかるのは時間の問題だろう。

無表情だから怒ってるのかはよく分からないがこうなってはレキに助けてもらう以外に助かる道はあるまい

 

こくり

 

「ほ、本当に!」

 

こくり

 

「ありがとうレキ!」

 

村上じゃないが君は神様だよレキ

 

「一つ条件があります」

 

無表情のまま、レキは肩まで浸かった湯船を見ながら言う

 

「じ、条件?」

 

なんだろう?

 

「夏休みの最後の日、私の願いを1つだけ聞いてください」

 

「そ、その願いって?」

 

「今はまだ、言えません」

 

と言ってレキは再び黙り込んでしまった。

 

「それにしても」

 

ん?ジャンヌの声

 

「昼間は参ったな。男達のあの執念は」

 

「まったくよ!特にあの最後の村上の言葉だけは許せないわ」

 

「アリアさん村上君を八つ裂きにしてましたが……」

 

秋葉の言葉にアリアが

 

「風穴祭りよ!あれぐらいじゃ足りないぐらいよ」

 

「フフフ、村上さん最後まで降伏しませんでしたね」

 

と信冬

 

「信ちゃんの部下もまったく悪びれてなかったよねぇ」

 

理子の言葉に信冬は息を吐く音が聞こえる。

 

「すみません、ジャンは悪い人ではないんですが」

 

「まあ、それは武田が制裁下したからいいだろう」

 

「でも武藤先輩も結構、頑張ってましたね」

 

マリの声だな

 

「逆に見直したのは椎名と真田だな」

 

お、俺?

 

「幸村は真面目ですし、優希もそんなことする人ではありませんから。もっとも私は見られても構いませんよ。婚約者ですからいずれそういうことも……」

 

「そ、そういうこと?」

 

「ええ、そういうことです」

 

フフフと信冬が微笑み、アリアが顔を真っ赤にしているのが想像がつく

 

「でも……さ。案外二人今、ここにいたりして」

 

と理子の恐ろしい言葉

 

「風で見てみます」

 

や、やばい!

俺は慌てて湯船に息を吸って潜った。

秋葉の風の探知は水中には及ばない。

大気と繋がってなければならないのだ。

十秒ほど潜った時、レキが俺の右手を掴んできた。

レキ?

手のひらに指を置いて×をレキは書く

つまり、出たら駄目ってことか

三十秒息が少しだけ苦しいな

まだかとレキの手をにぎにぎと握って聞く

返事は×だ。

秋葉の馬鹿野郎!めちゃめちゃ念入りに探知してるみたいだぞ

 

五十秒、く、苦しい!

俺は右手を口に置いてからレキの手が離れたらまずいと思いながらレキの手を再び探す。

駄目だ苦しい!レキの手はどこだ。

ピタリと右手が何かに当たった。

それをなでるとすべすべだが手より面積が大きくて……

苦しい!目をそらしていたがもう、限界だ!

レキに内心謝りながらレキの方を見て

 

「ごは!」

 

一気に空気を吐いてしまった。

なぜなら、俺はレキのお尻、とんでもない部分を触っていたのだ。

レキはそれでも無表情なのかは分からない。

慌てて、手を放して、レキの手を掴むが苦しい……もう駄目だ!

だが、レキはまだ、×を書く

秋葉の馬鹿野郎!どれだけ念入りなんだよ!

1分20秒、限界だ出るぞ!

女子に八つ裂きにされるより空気が欲しいと生存本能を優先し、出ようとした瞬間、レキの顔が見えた。

レキ?

レキは湯船の中で両手で俺の頭を掴むと顔を近づけてくる。

お、おい!まさか

綺麗な琥珀色の目と目があい、レキは唇を俺の唇に重ね合わせた。

 

れ!

空気が肺の中に流れ込んでくる。

そうか空気を……

 

レキは重ねた唇を離すと再び湯船から顔を出す。

少しだけ時間は延びたがまだか……

すると、レキが手に○を描いた。

秋葉の探知が終わったらしい

 

「はっ!」

 

湯船から顔を出して息を思いっきり吸い込む。

 

「はぁはぁ……レキお前……」

 

「……」

 

無表情のレキのあだ名はロボットレキ。

助けを求めた俺の頼みを依頼として動いたプロ意識からの行動なのだろうか今のは……

 

「……」

 

無表情のレキを見ながら思う

キスというか人口呼吸までしたんだ……

風呂から脱出できてもできなくても夏休みの最後の日はこの子に付き合わないといけないだろうとりあえず、今のは忘れるんだ俺、ピンチはまだ、続いている。

 

「レキぃ、あんた何してんのよ?」

 

とアリアが声を出しながらじゃぶじゃぶと音を立てているこっちにくる!

アリアに見つかったら完全におしまいだ!

 

「なんでもありません」

 

とレキが立ち上がって岩影から出ていった。

アリアもレキの姿を見たためか、こっちにくるのをやめたようだった。

 

「クフ、じゃあそろそろはじめよっか?」

 

「本当にやるんですか?」

 

と、理子の言葉にマリが反応する

 

「もっちろーん!第1回!気になるあの人だーれだ大会~」

 

理子の奴、何を話してるんだ?

 

「私から行きます!もちろん優先輩です!」

 

断言するようにマリが言うと

 

「フフフ、紅さんは本当に優希のこと好きなんですね」

 

勝者の余裕とまではいかなくても信冬の言葉には余裕を感じる

 

「当たり前です!武田先輩には負けません!」

 

「フフ」

 

微笑ましい後輩を見守る先輩と言った感じか

 

「おお、信ちゃん婚約者の余裕だぁ」

 

「まあ、最終的に選ぶのは優希なんですけどね」

 

「どゆこと?」

 

と、理子が馬鹿理子モードで聞く

 

「椎名との婚約は優希に20歳まで特定の異性がいない場合の話です」

 

「おお!じゃあ、理子立候補しちゃおっかな」

 

「理子さんも、優希に助けられたって聞いてます」

 

「うん、だって……」

 

馬鹿理子モードではない真剣な声で理子は言う

 

「優は理子のヒーローだから……」

 

「なら、また、椎名に助けてもらえばどうなんだ理子?」

 

ジャンヌの声だな

助けてもらうって……

 

「ううん、あれは理子の問題。これ以上優を巻き込みたくないし、今は平穏だしね」

 

武偵なら何かしら悩みはあるんだろう。

助けを求めてくるなら何時でも助けるぞ理子……

 

「で?レキュはユーユーのことどう思ってるのぉ?」

 

ちょうど岩を挟んで向こう側にいるレキに理子が話しかける。

おお、なんか気になる話だな。

無口で感情をあまり出さないから怒ってるのかどうかよくわからんからな

 

「ちょっと理子!」

 

「ああ、アリアはキー君なんだよね。分かります」

 

「な、なんでキンジの名前が出てくるのよ!」

 

「んじゃユーユー?」

 

「ち、ちがっーう!風穴開けるわよ!」

ガラガラ

ちょうど、その時だった。

脱衣場に通じる扉が開いた音がしたのだ。

ここにいない綴か?

 

「……」

 

「き……」

 

「待ってください!」

 

誰かが叫ぼうとしたのを信冬が止める。

 

「あ、あわわ……お館様これは違うんです!」

 

あ、この声……

 

「幸村」

 

絶対零度の信冬の声

め、めちゃくちゃ怒ってるぞ信冬

 

「はい!」

 

潔いのか諦めたのか幸村の声が響く

 

 

「何か言い残すことは?」

 

「お、お館違います!のれんは確かに男湯で!」

 

「あなたはもっと真面目だと思っていました」

 

 

「お、お館さまぁ!」

 

ひでえ……幸村の言葉には多分間違いはないだろう。

信冬もわかってるのかもしれないがアリア達がいる以上笑って許すことはできないということだ。

 

「幸村、そこに正座するか逃げるか選びなさい」

 

ざぱあと信冬が風呂から上がる音、多分、タオル巻いてるんだろう。

 

「はい!」

 

どっちだ幸村?

 

「秋葉さん。能力借りますね」

 

「どうぞ」

 

と秋葉が言った瞬間、ビュオオオと暴風が吹き荒れる。

 

「空で頭を冷やしなさい」

 

「あああああああああああぁぁお館様ぁぁぁ」

 

思わず見上げると幸村は星になって消えて言った。

宇宙まで飛ばされたんじゃないか?

 

その後、女性陣は出ていったんだが幸村が帰ってきたのはそれから一時間後だった。

ちなみに村上達だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男のロマンに後悔はねえ」

 

となぜかずたぼろになった武藤

 

 

「ワハハハハ!女体を見ることこそ男のロマンだ!」

 

となぜか黒焦げになったジャン

 

「ううーん……レキ様……見捨てないでくださいううう」

 

となぜか精神も体もズタズタの村上が畳の上で泣いている。

 

俺を除く、男は皆、大打撃を受けているわけだ……

本当に見つからなくてよかったよ……

 

しかし……

風呂場でレキにしたこと、されたことを思い出して首を横に降る。

わ、忘れろ忘れろ!

ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、頭に小さな痛みと共に、ある光景が浮かんできた。

どこまでも広がる草原で誰かにしがみついてる光景だ。

 

「うわぁ、馬って結構、速いんだな」

 

目の前で馬を操っている少女を前に俺は言った。

振り返った少女の色は琥珀

もしかして……君は

記憶はそこで途切れた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第169弾 温泉パニック(裏)―命をかけた男達の物語前編

それは数日前に遡る。研修旅行の準備をしていた村上にある電話がかかってきたのだ。

 

「やあ、村上君」

 

「お、お前は!なぜ、あなたが」

 

「ふ、ロリコンを甘くみないことだ。聞いたよアリアたん達と旅行に行くそうだね」

 

「何?あのロリもこの旅行へ?」

 

レキ以外には興味がなかった村上は参加リストを入手した時、確認をしていなかったのだ。

 

「その通り、我々も参加したかったが一歩出遅れてしまってね。まあ、私はこの夏休みは忙しいので行けなかったんだが……」

 

「それで何を?」

 

「フフフ、村上君取引をしよう」

 

「取引?」

 

「そうだフフフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、やっとついたぜ」

 

椎名が女子部屋に連行されていき。男達、武藤、村上、幸村、ジャンは男部屋で荷物を片付けていた。

 

「ワハハハ、驚いたか幸村?」

 

どかりと畳に座った大男、ジャンは幸村の背中をばしばしと叩きながら言った

 

「げほ!やめてくださいジャン!というかなんでここにいるのか結局聞けませんでしたし」

 

「ワハハハ、お館様に依頼が入ったと言わなかったか?」

 

「依頼の内容を聞いてません!」

 

刀を横に置いて畳に座りながら幸村が言った。

 

「そういやよお、お前ら、あの信冬ちゃんだっけ?あの子とはどんな関係なんだ?」

 

上半身だけ起こして武藤が聞いた。

 

 

「うむ、武偵で言うところのチームと言った所か」

 

「チーム編成は修学旅行の後だろ?もう組んでるのか?」

 

武偵校はチーム編成を2年の修学旅行の後に申請する。

多くは生涯を通じての絆となるこのチーム編成は非常に重要だ。

気心知れただけでは成り立たない

 

「いや、風林火山は正確にはチームではない。何せ、お館様と同じ年なのは幸村だけだからな」

 

「え?えっと」

 

「ジャンだ」

 

「ジャン……さんは何年何です?」

 

「ワハハハ3年だが気にするな!敬語は嫌いだ」

 

「でも、真田が敬語で……」

 

と先輩と分かり恐縮する武藤、3年には閻魔の3年と言う別名があるからだ。

 

「こいつは糞真面目だからなぁ」

 

「年上には敬語で話すのが当たり前です」

 

「うむ」

ともう、納得してるのかジャンが頷いた。

 

「じゃあ、遠慮なく敬語はやめるぜ。俺は……」

 

互いに自己紹介し終わった時、

 

「で?村上は何やってんだ?」

 

車で来た三人はすでに自己紹介が終わっている。

 

「今はまだ、見せられんな」

 

と、スマートフォンを村上はいじる。

 

「ところで……みんな、温泉ということは分かってるな?」

ジャンがちょっと声を潜めて言う

 

「ああ、分かってるぜ!あれだろ?」

 

「……」

 

村上だけは無言でスマートフォンをいじっているが話は聞いてるようだ。

 

「あれとはなんです?温泉といえばお風呂に入るんじゃないのですか?」

 

理解できないのか幸村が言った。

 

「馬鹿だな真田。温泉と言えば女子風呂を覗くことだろ。あの信冬ちゃん小柄だけど小柄大和撫子タイプじゃねえか。見たいだろ信冬ちゃんの裸を」

 

想像したのかちょっといやらしい顔で武藤が言った。

 

「なっ!覗き!そんなこと許さんぞ」

 

と刀を鞘から抜こうとする幸村を見てジャンは笑った。

 

「ワハハ、あいかわらず真面目な奴……だが仕方ない諦めよう」

 

「本当ですか!分かってくれたらいいんです」

 

その時、武藤とジャンは一瞬でアイコンタクトで意志疎通した。

 

「普通に風呂に入る前にみんなで乾杯しよう」

 

とジャンは鞄から缶を取り出した。

 

「普通逆じゃないですか?それにまだ、優希……様が戻ってないし」

 

いいからいいからとジャンが缶の蓋をあけて幸村に押しつける。

武藤やスマートフォンを弄る村上の前にも缶を置く

 

「これはなんですかジャン?コーラですか?」

 

「うむ、麦コーラだ。では乾杯!」

 

「かんぱーい」

 

村上以外はゴクリと一気に缶の中身を口に放り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

「弱いなこいつ」

 

一分後、布団の中で顔を真っ赤にして落ちた幸村を見ながら武藤は言った。

 

「これ酒だろ?」

 

と幸村が飲んだ缶を持ち上げて武藤が言う。

 

「ワハハハ、まさか、我が家に伝わる秘伝の薬を混ぜただけでコーラの味がするノーアルコールだ。まあ、酒に酔った感覚と同じになるがな」

 

 

「まあ、どうでもいいけどよ。それでどうする?優もそれで寝かせるか?」

 

「ワハハハ、少年も参加してくれるとは思えんからな」

 

その時

 

「うむ、把握した」

 

「どうかしたのか村上?」

 

武藤が黙り込んでいた村上に声をかけた。

 

「武藤、ジャン、お前達はどうやって女風呂を覗く気だ?」

 

「え?そりゃ、塀を乗り越えて……」

 

「無理だ」

 

かちゃりと中指で眼鏡を押し上げた村上が言った。

 

「というと?」

 

二人は自然に集まって村上の言葉を待った。

 

「これを見てくれ」

 

そういいながらスマートフォンを二人に見せる

 

「こりゃ、この旅館の見取図か?」

 

「うむ、実はこの旅館な。昔から、数々の男達が女湯を覗こうと努力し、散っていった悲劇の旅館なのだ」

 

「な、なんだって!」

 

「この、旅館の女将がくの一の身体能力を持っているのもあるが、隠れたガードマンがいるらしい」

 

「ガードマン?」

 

「そんな気配はないが……」

 

武藤とジャンが首を傾げる。

 

「出るのだよ。現に、R3の連中は去年来て、小学生グループを覗こうとして壊滅している」

 

「運が悪かっただけじゃねえの?」

 

「いや……」

 

村上は知っている。

レキ様のレキ様だけのレキレキファンクラブと互角に戦えるアリアちゃんのためのアリアちゃんだけのロリロリファンクラブの連中、特に会長の響はロリに対する執念は凄まじい。

だが、その響が失敗し電話で村上に言ったのだ

 

「気を付けたまえ村上君、あの旅館の女湯は鉄壁だ。覗こうとして覗けた男は存在しない。それでも行くと言うなら止めはしまい。男の戦いだ。頑張ってくれ。だが、あの旅館のガードマンは化け物だ」

 

と言っていたのである。

 

「とにかくこの戦いは命がけになる。止めるなら今だ」

 

「村上」

 

武藤は立ち上がるとニヤリと笑った。

 

「覗きは男のロマンだ!俺は行くぜ」

 

「ワハハハ、俺は元より行く気だったからな」

 

「そうか」

 

男達三人は自然と手を重ね合わせた。

覗きを通じて真の友と書いて変態チームが生まれた瞬間だった。

「それでどうするんだ?正面にはくの一の女将さん。違うルートにはガードマンがいるんだろ?」

 

「作戦を説明しよう」

 

村上はスマートフォンを弄りながら

 

「まずは、このトイレから屋根裏に出られる。ここを通れば女湯まで一直線だ」

 

「おお!屋根裏かよ」

 

「うむ、だがガードマンの存在が気になるな。そこにガードマンがいるんじゃないのか?」

 

「それは私も考えた。だが、聞いた話、前回ガードマンは床下でロリコン共を迎え撃ったらしい。ならば、天井裏から行くことが望ましいだろう」

 

「なんか行ける気がしてきたな」

 

「フフフ、そうだろう。お目当ての女は誰だ?私はレキ様だけだ」

 

「星伽さんがいないからなぁ……大和撫子ってことで信冬ちゃんか理子……いや、ジャンヌも捨てがたいな」

 

「ワハハハ!俺は見れるなら誰でもいいぞ!もちろん、お館様はぜひ、見たいものだ」

 

「決まったな。二人ともこれを」

 

「これは?」

 

武藤が受け取っただて眼鏡を見ていった。

 

「眼鏡型カメラだ。お目当ての女子を取るといい」

 

そう、村上には野望があった。

女神(レキ)の生まれたままの姿を手に入れたかった。

 

(待っててくださいレキ様!今行きます!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………フフ」

 

 

その存在は村上達に気づかれることなく部屋の入り口から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男達の命をかけた最終決戦(でも覗き)が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中 編に続く



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第170弾 温泉パニック(裏)中編―命をかけた男達の物語ジャン死ス!?変態達を襲う化け物ガードマン

「暗いな」

 

「し、静かにしろ。ガードマンに気づかれるかもしれん」

 

「ワハハハ、スリルがある」

 

武藤、村上、ジャンは部屋に帰ってきた優希を薬入りのコーラで眠らさせた後、トイレから天井裏の通気孔を匍匐前進で進んでいた。

そこは、武偵なれたものだ。

ちなみに、先頭は村上、後ろにはジャン、武藤と続いている。

 

「後、40メールへどで女湯の脱衣場だ」

 

と、村上が言った。

そこまで入り込めれば覗きしほうだいだ。

情報では女子達はみんな風呂に行っているはずだ。

作戦時間はおよそ、一時間だが、ガードマンも現れないようだし余裕だろう。

 

「ん?」

 

懐中電灯で先を照らしていた村上はふと違和感を覚えた。

 

(順調に行きすぎている……響会長が言ってた鉄壁の守りとはこの程度なのか?まさか……)

 

「おい、どうしたんだ?」

 

急に止まり、スマートフォンで見取図を確認した村上に武藤が抗議の声を上げるが村上は無視した。

 

その時だった。

三人の背筋に悪寒が走る。

 

「いかん!誰か来る!」

 

何かが通気孔を伝い、高速で近づいてくる気配がする。

例のガードマンか!

 

「避難するぞ!」

 

村上はそう言うと確認しておいた通気孔の蓋を外して外に転がりでる。

続いてジャンと武藤が飛び出して、通気孔の蓋を閉め、気配を殺していると

 

ガサガサガザカザ

 

何か、長い髪の白い服を来た何かが髪を振りかざしながら村上達がいた通気孔の中を通過していった。

 

三人は顔面蒼白になった。

あまりの事態に固まっていたのである。

やがて、突き当たりについたのだろうかガサガサガザカザと言う音が止み、通気孔の中から

 

「いない……」

 

と恐ろしい女の声が聞こえてきた。

再びガサガサガザカザと音を立てて村上達のいる部屋の通気孔の前を通過していく白い服の女、やがて、音が止む

 

「「「……」」」

 

三人は思わず顔を見合わせた。

 

「こええよ!なんだ今の!」

 

「うむ、どうやらあれがガードマンのようだな……」

 

響に電話をかけながら村上は言った。

 

「やあ、村上君」

 

「響会長、化け物を見た。今、やり過ごしたところだ」

 

「ほぅ、彼女に会ったのか?R4を壊滅させた彼女に」

 

スピーカーをハンズフリーにして、二人に聞かせながら

 

「響会長彼女は何者です?」

 

「分からない。ただ、彼女は恐らく人間ではなく人知を越えた存在だ。吸血鬼や鬼のような存在……あるいは悪霊」

 

「あ、悪霊だって」

「ふむ……吸血鬼というよりは霊と言うべきか……」

 

ジャンが何かを考えながら言った。

 

「分かっただろ村上君、彼女は何故か、女子風呂を覗こうとする男には容赦がない。ロリコンの戦士達を破った彼女を突破するのは不可能なのだ」

 

「「「……」」」

 

三人は無言だった。

あまりに、不気味で巨大な敵だ。

それを覗きという目的だけで接触していいのだろうか?

 

「ふっ」

 

3人はにやりとした。

 

「決まってるなみんな」

 

「ワハハハ!覗きは男のロマンよ!」

 

「男のロマンに一時停止はねえ!悪霊だろうが神だろうが俺達は行くぜ!」

 

そう、全ては覗きのために

 

「ふっ」

 

電話の向こうから響の声が聞こえてくる。

 

「どうやら君達も一流のロリコンの戦士のようだ。村上君、健闘を祈るよ。そしてアリアたんの……」

 

プツン

電話が急に切れる。

 

「なんか寒くねえか?」

 

辺りがひんやりとしてきたので武藤が周りを見渡す。

この部屋は広い畳の部屋だ。

更に、奥にはフスマがある。

 

ガサガサガザカザ

 

「どうやら見つかってしまったようだ」

 

通気孔の中から聞こえてくる。

何かが這ってくる音

 

「みんな、こうなったら今から言うポイントにたどり着くしかない。行くぞ!」

「おう!」

 

フスマを開けて飛び出す村上と武藤

だが、ジャンが動かない。

 

「ジャン!」

 

ジャンはふっと笑うと言った

 

「足止めがいるだろう。行け少年達!生きて男の夢を切り開け!俺の分まで撮影してきてくれ!」

 

ぐっと親指を立てるジャン

 

「分かった!桃源郷で会おう!」

 

「くっ」

 

村上と武藤はジャンに背を向けて走り出す。

全ては、男のロマンのために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ったか少年」

 

ガサガサガザカザ

バアアアンと通気孔が吹っ飛び髪を前に垂らした女が飛び出してくる。

これだけで普通の人間なら失神ものだ。女は髪を前に垂らして顔を見せないで四つんばでゆっくりとジャンに向かい前進する

 

「ワハハハ!化け物!俺もヴァンパイアの血が少し入っておってな!」

 

そう言いながらジャンは転移能力でバスターソードを手に出現させる

 

「簡単には倒せんぞ?」

 

ひたりと白服の女が前進する

 

「死死死死死死死死死死死死死死死死死死きぃあああああああああああああああ!」

 

白服の女は恐ろしい雄叫びを上げてジャンに襲いかかった。

 

「ぬう……」

 

 

ジャンは冷や汗をかきながらバスターソードを構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一分後

 

「ぐわあああああああああ!」

 

旅館全体にジャンの断末魔の悲鳴が響き渡る。

 

廊下を村上と武藤は走りながら

 

「おい村上!あいつやられたんじゃ……」

 

ということは奴はこちらを襲ってくるはずだ。

だが、響が生還した以上、命に別状はあるまい。

悪霊だろうがなんだろだろうが必ず女神(レキ)の写真を手に入れて見せる!

村上は誓うのだった

 

 

後編に続く



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第171弾 温泉パニック(裏)後編―命をかけた男達の物語-さらば村上また、会う日まで!

おかしいぞ

 

ジャンの悲鳴の一分後、果てしなく続く廊下を武藤と走りながら村上は思った。

 

(こんなにこの宿は広かったか?)

 

ある程度は鍛えている大の男が全力で駆けているのに端にたどり着かない。

まさか……

 

「武藤これは……」

 

村上が必死に走る最後の仲間に言った時

がしゃああああんと二人の後ろの部屋からドアを突き破って髪を前に垂らした白い服の女が飛び出してきて四つん這いになった。

そして、手二つと足を二つを使いまるであの生き物を連想させる動きで村上達を猛然と追い始めた。

辺りは昼だと言うのに薄暗く、髪を前に垂らして陸上選手並みの這ってくるその姿は恐怖以外なんでもない。

大多数は悲鳴を上げて失神するだろうが村上達は必死に逃げる。

 

「だ、駄目だ追い付かれる!」

 

端の見えない廊下を走りながら武藤が顔を青くして言った。

部屋に飛び込んで行き止まりならそこでエンドだ。

ならば……

 

「悪霊を迎撃するぞ!」

 

 

言いながら村上はMP5のバリエーションHK94を取り出した。

 

「まじかよ!幽霊に銃が効くのか!」

 

そう言いながら武藤もパイソンを取り出した。

 

「やるしかない!撃て!」

 

村上は平賀さんに改造してもらったフルオートで悪霊に向かい9ミリパラべラム弾、357マグナム弾が女……いや、悪霊に命中する。

肩、手、腕頭以外に全て命中するがまったく悪霊には効果がなく速度は落ちない。

 

「だ、駄目だ!」

 

「きぃあああああああああああああああ!」

 

女は恐ろしい雄叫びをを上げてバンと四つ足で飛び上がると武藤に飛びかかった。

 

「うわぁ!」

 

「武藤!」

 

悪霊に組み伏せられた無敵は叫んだ

 

「行け!村上!後は頼んだ!」

 

武藤は悪霊に引きずられて近くの部屋に引っ張り込まれそうになるのを柱を掴んで抵抗していたが悪霊の力は凄まじいらしく、指が一本一本離れていく。

 

「ぐお!何やってんだ!村上行け!俺達の……男のロマンを敵えろぉ!」

 

「分かった!」

 

村上が走り出すのと武藤の手が離れ、部屋に引きずりこまれるのは同時だった。

「うわあああああ!」

 

武藤の叫びが聞こえたが村上は止まらなかった。

ただ、全力で駆けると階段をかけ上がった。

 

直後、ガサガサガサガサと階段の下に悪霊が現れた。

村上は息を殺して様子を探る。

階段の前は三つ道がある。

村上がいる階段に、まっすぐに進む、左の通路だ。

悪霊は村上を見失っているのかもしれない。

 

(レキ様どうか私に祝福を……)

 

村上はレキに祈ったが運命は無情だった。

ガサガサガサガサ

 

(ちっ!)

 

階段を上がってくる悪霊

村上は走り出した。

村上が倒れたら全滅だ。

ジャン、武藤の熱き思い(ただし覗き)を胸に村上は走った。

「死死死死死死死死死死死死死死死死死」

 

悪霊は呪詛のように言葉をはきながら村上を追った。

 

「ここだ!」

 

ある部屋に村上は飛び込んだ。

響によればこの部屋は女性従業員用宿泊施設だったらしいが数年前に客の苦情で使用が中止された部屋だ。

なぜなら、その部屋の窓からは女湯が丸見えになるからである。

例え一目でも見れればいい!

村上は部屋に飛び込んだ

 

「な、なんだと!」

 

彼の女神(レキ)は微笑まなかったようだ。

なんと部屋の窓は雨戸が閉められ、しかも板を釘で打ち付けて固定されていた。

旅館側も馬鹿ではないということか……

 

「くっ!」

 

村上は慌てて、ドアを閉めて鍵を駆けた直後

 

「きぃあああああああああああああああ!」

 

バーンと悪霊が扉に激突した音がした。

続いてドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンと扉を激しく叩く音

扉はメリメリと音を立て始めた。

 

「もはや……これまでか……」

 

村上は諦めてポケットに手を突っ込んだ。

 

(ん?これは……)

 

取り出して村上ははっとした。

まだだ!

村上は窓に向かい短機関銃をフルオートで撃ち尽くした。

 

直後に悪霊がドアを破って飛び込んで四つん這いになりゆっくりと村上に歩く

まるで、村上にはもう逃げ場がないとわかっているかのようにだが、レキ様ファンクラブ会長は伊達ではなかった

 

「悪霊!」

 

村上は左中指でかちゃりと眼鏡をかけ直すと短機関銃を悪霊に向けた。

 

「私の勝ちだ」

 

「死死死死死死死死死死死死死死死死」

 

だが、そんなものは効かないと悪霊は思っているのだろう。現にさっきは効かなかった。

 

「ふっ」

 

微小すらする村上に悪霊は何かを感じ取ったのか

 

「きぃあああああああああああああああ!」

 

奇声を上げて村上に飛びかかる。

 

「ふっ、なめるな悪霊」

 

トリガーを引いた瞬間、大爆発が部屋で巻き起こった。

 

ドオオオオオンと爆発音と共に村上は爆風で短機関銃の掃射でぼろぼろになった窓を突き破って外に投げ出された。

炎の中で悪霊が髪で見えないが

村上に問いかけている気がした。

すなわちお前は何者だと

村上は空中で

 

「レキ様のレキ様だけのレキレキファンクラブ会長村上正だ。覚えておけ悪霊!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシャアアアアン

直後、村上は水しぶきを上げて背中からお湯に突っ込んだ。

「くっ!」

 

ここがどこかは分かっている。

女湯だ!

 

「レキ様!」

 

村上は辺りを見回す。

そこは乙女の桃源郷だった。

アリア、理子、信冬、ジャンヌ、秋葉、綴。

みんな湯船に浸かっていたがビックリした顔で湯船の中でから温泉中央に落ちた村上を見て固まっている。

そう、みんな丸裸だ。

だが、レキだけがいない。

 

「あ、ああああ、あんた……」

 

アリアが怒りにわなわなさせながら全員が慌ててバスタオルを巻いた。

その時

 

「村上ぃ、覚悟できてんだろうなぁ?」

 

と綴がバスタオルを巻いてゆらりと立ち上がった。

全員が立ち上がり、激怒した状態で村上を取り囲む

バスタオルを巻いたとはいえ、バスタオル一枚の美少女達に取り囲まれる状況、ジャンや武藤なら狂気しただろう。

だが……

 

「貴様らの裸なんか一文の価値もないわ!興味なし!レキ様だけが究極の美しさを兼ね備える女神だ!」

 

「「「「「いいたいことはそれだけか(ですか)(かな?)」」」」」

 

殺戮の嵐が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後ずたぼろになった村上をそれぞれの武器や足で小突き回しながら、ジャンヌが看破した村上の眼鏡を踏み潰して焼却した後、彼の今日最大の悲劇が襲う。

ひたりと裸足が村上には見えた。

 

「おお……レキ様……」

 

ボロボロだがなんとか村上は意識を保ち、武偵高の制服のレキを見上げる。

 

「……」

 

レキは無表情に彼を見下ろしていたが

 

「村上さん」

 

なんとレキが村上に話しかけてきた。

村上は狂喜しながら返事をする

 

「はい!」

 

「ワタシハアナタガダイキライデスキモチワルイ」

 

完全な棒読み、明らかに誰かが指示して言わせた言葉だが村上の精神は砕けた。

 

「うわああああああああああああ!」

 

泣き崩れる村上を見ながら女子達は少しやりすぎたかなと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村上達が撤去された後のお風呂では

 

「いやぁ、それにしても信ちゃんの幻術すごいねぇ」

 

理子がぱちゃぱちゃ泳ぎながら言う

 

「あの女性のことですか?女将さんに聞いて再現したんです」

 

と、信冬は顔をタオルで吹きながら言った。

 

「しかし、見事なものだ。自分の分身に幻術を兼ねた複合ステルス」

 

「もう、補充しないと使えませんけどね」

 

そう、あの悪霊の正体は信冬の分身だ。

それを理子が特殊メイクをして、更に、信冬は幻術のステルスを使い村上達を翻弄した訳だ。

因みに、分身は性格まで変えられるらしく、あれは信冬の性格ではない。

そして、時間がたてば消えるが、信冬自身の風林火山も使えるため、村上達の銃弾も効かなかったのだ。

ジャンも信冬とは気づかなかったものの、信冬には勝てない

因みに、三人は部屋にぶちこまれ綴とマリの尋問受けているがまあ、制裁されたし死にはしないだろう。

 

「あいつ、あたし達の裸見たくせに興味ないなんて……別に見られたくないけど許せないわ!」

 

とアリアが言った。

まあ、お前らは女ではない見たいな言い方されたら誰でも怒るだろう。

 

「クフフ、最後の一撃聞いてたねレキュ」

 

「……」

 

レキは無言でハイマキを洗ってやっている。

そう、レキにあの棒読みを言わせたのは理子だ。

 

「それにしても……」

 

ジャンヌは爆発した窓を見上げながら

 

「村上め……まさか、武偵弾なんか使うとはな」

 

爆炎はジャンヌが氷で消し止めたが謎が残る

 

「信冬、村上はあそこで何と戦っていたんだ?」

 

「分かりません。私の分身は武藤さんを捕らえた後時間切れで消えましたから」

 

「夢でも見てたんじゃないの?」

 

と理子

 

「うーん」

 

ジャンヌは窓を見上げながら村上が明らかに誰かとしゃべっていたのが気にかかったが終わったことをごちゃごちゃ言っても仕方ない。

 

「まあ、別にいいがな。ふー、いい湯だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある暗闇

 

ガサガサガザカザ

 

「死死死死死死死死死死死死死死死死死死村上死死死死死死て死死死死驚嘆死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死」

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第172弾 カカシ少女ジャンヌ

(痛い……痛い……)

 

闇の中で、少女は着物を掴みながら壁に肩をつけた。

あの存在は少女に早くしろと急かしている。

だが、少女はせめて彼らにしてあげたいことがあったのだ。

 

(せめて……最後くらいは……)

 

少女は廊下から飛び出すと歩いているジャンヌに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武田信冬の実家は戦国の世で敗北した後は裏の世界で長らえてきた。

信冬の先祖は過去に、異能の能力者達が戦い会う大きな戦いにも参加しているし信冬達もいつ、その戦いに巻き込まれるか分からない。

否、会戦はもはや時間の問題だろう。

 

「幸村、あなたという子は……」

 

廊下を浴衣姿で黒い髪を揺らしながら歩く信冬にしかられながら幸村は

 

「あ、あれは誤解なんですお館様!本当にのれんは男湯でした!」

 

「私が出たときは女湯でしたよ?」

 

「そ、そんなぁ」

 

泣きそうな顔で幸村が言うと信冬は微笑みながらそっと幸村の頭に手をのせて撫でた。

 

「分かってますよ幸村。あなたがそんなことする子じゃないってことは」

 

「あ……お館様……」

 

幸村はされるがままになっている。

現在の武田家は風林火山の将が信冬を支えているからこそ成り立っている。

互いの信頼が無ければとっくに武田家は機能しなくなっていただろう。

風呂での幸村への制裁は回りを考慮してのこと、まあジャンは完全に自業自得だし信冬もその意味では諦めてる。

 

「それにしても……」

 

信冬は幸村を撫でるのをやめると真剣な顔で

 

「いますねこの家は」

 

「いますか?」

 

信冬は頷く

 

「では、優希……様に伝えなくてよろしいのですかお館様」

 

「もう少し、待ちましょう。深刻な害が出たら考えますが……それとも……」

 

信冬がそこまで行った時だった。

 

「うわああああああああああああ!」

 

「「!?」」

 

武藤の甲高い悲鳴が聞こえてきたと同時に信冬達は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……ひどいジャンヌ」

 

俺が到着した時、理子が口に手を当てて庭を見ている。

他のみんなも絶句して庭を……

 

「おい!みんななにが……う」

 

そこにあったのは等身大の人形だった。

かかしのように両手を棒にくくられ、和風の服に着替えさせられ、花をこれでもかと飾り付けられて目を空けてピクリとも動かないのは

 

「じ、ジャンヌ」

 

ジャンヌが殺された?

いや

 

「お、おい!」

 

俺がジャンヌが生きてるか確認しようと庭に降りた瞬間

 

「ん?」

 

ジャンヌが動いた。

 

「ジャンヌ!」

 

みんなで駆け寄ると彼女はきょとんとした顔でみんなを見渡す

 

「ど、どうしたんだ?」

 

状況を理解できてないみたいだが無事だとわかると……

 

「プッ……」

 

まず、理子が吹き出し

 

「アハハ!なんだよジャンヌその格好は!」

 

「格好だと?な、なんだこれは!」

 

まるでかかしのような格好にジャンヌは顔を真っ赤にして焦っている。

 

「ハハハ……ん?」

 

みんなが笑う中、信冬と幸村だけが笑っていない。

真剣な顔で建物を見上げている

 

「……頼みましたよ幸村油断しないよに」

 

「はい、お館様」

 

幸村が走り去ったので俺は信冬に近寄ると小声で

 

「信冬、ジャンヌのこれ、お前がここにいるのと関係あるのか?」

 

信冬は口元を軽く緩ませ

 

「この程度であればよいのです」

 

「俺に手伝えることはないか?」

 

何らかの事態が起こっている。

そもそも、風呂からして何かおかしかった。

 

「ありがとう優希、助けてほしかったらお願いしますね」

 

と嬉しそうに微笑んだ。

 

ぎゅうううう

 

「痛え!」

 

尻に激痛を感じたので振り替えると秋葉が俺の尻をつねっていた

 

「秋葉お前!何するんだよ!」

 

ぱっと手を話した秋葉は

 

「手が滑りました」

 

嘘つくな!

心の中で突っ込む

 

「信冬様と楽しそうにお喋りですかゆ・う・き・さ・ま」

 

あ、あれ?秋葉ってこんな子だったか?

なんか、信冬が現れてから秋葉の様子が少しおかしい気がするが……

 

「フフフ、モテるんですね優希」

 

と、可笑しそうに信冬が笑う

 

「いや、こいつはただのともだ……いた!」

 

ぎゅうううと今度はマリが手をつねってきた

 

「何するんだマリ!」

 

「別になんでもありません。少しは可愛いアミカに構ってほしいなんて思ってないですよ。ゆ・う・せ・ん・ぱ・い」

 

なぜなんなんだ……さっぱり意味が分からないぞ。

なんで秋葉もマリも怒ってるんだ?

 

「……」

 

レキと目が合ったがさっきの風呂を思い出して慌てて視線を外した。

ちょっと気まずいぞ……

 

「ま、まあそれはともかく、む、武藤はどこだ?」

 

話題をそらすために言ったが叫びをあげたのは武藤だが、本人が見当たらない。

そして……

 

「うわああああああああああああ!」

 

「!?」

 

再び、武藤の悲鳴が旅館の中から聞こえてくるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第173弾 消える仲間達

「どこだ武藤!」

 

俺達は悲鳴が聞こえてきた方向に走ってきていたが、叫びをあげた武藤の姿は見えなかった。

 

「秋葉! 」

 

「はい!」

 

意図を理解してくれた秋葉が風による探知をおこなった。

はっとしたように秋葉は上を見上げるとガラス張りの天井に人影があった。

紫電に手を伸ばした瞬間、パリイイインとガラスが砕けちりひとが落ちてくる。

 

「…… 」

 

秋葉が無言でステルスを使い人影を床に降ろした。

 

「おい、武藤!」

 

どうやら気絶してるみたいだが 問題はそこではなかった。

 

「うわ!何これ!」

 

追い付いた理子が武藤を見ていった。

別に素っ裸と言うわけではないが武藤の額にはマジックで落書きがあった。

内容は『変態除覗き男武藤参上』

ひでえ!

おもわずやりそうな理子を見たが理子は慌て

 

「私じゃないよユーユー! 」

 

この子はここで嘘を言う子じゃないよな……となると……

 

「うわあああああ!」

 

再び、悲鳴が旅館内にこだまする。

この声は村上!

 

「秋葉!武藤を頼む 」

 

「はい!」

 

秋葉以外と悲鳴が聞こえた場所、俺達の男部屋に飛び込む

 

「村上いったい何が…… 」

 

「ひっ 」

 

一緒に部屋に飛び込んだアリアが一歩後ずさった。

なぜなら、村上は天井からつるされていたかたらだ。

なぜか、ベビー服を着せられ口にはおしゃぶり、そして、額には『ロリコニアここに滅ぶ 』

さらに、顔には『変態レキレキ男』

と書かれた高校生が右に左にロープで揺れていたら誰だって怖い。

 

「レキ 」

 

レキは無表情だが、心なしか引いてる気がするな、気持ちはわかるが…

しかし、あの村上が……

まあ、レキになんか言われたらしく大ダメージを受けて寝込んでたからなこいつ……

 

「と、とりあえず先生に 」

 

「あ、ああ 」

 

状況がおかしすぎる。

ここは武偵校から遠く離れた山奥だ。

嫌だが綴の判断を扇ごう。

 

「みんな…… 」

 

振り替えるが一人いない

 

「信冬? 」

 

信冬の姿が見当たらない。

 

「ま、まさか武田先輩まで 」

 

マリが震えながら言う。

冗談だろ……

信冬は姉さんと戦える実力者だぞ……

幸村やジャンの姿も見当たらない。

みんなやられたのか!

 

「みんな油断するな!」

 

「ゆ、優先輩 」

 

服をつかんできたマリの頭に手をおきながら

 

「大丈夫だ俺が守ってやる 」

 

「絶対ですよ 」

 

マリの手を握って走り出す

ちなみにマリがニヤリとしたのは言うまでもない

早く綴に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが……

 

「ど、どういうことだこれは…… 」

 

「先生にこんなことできる人って 」

 

理子がいうのは無理がない。

 

綴は女将と酒を飲んでいたらしく日本酒の瓶が散らばる隣の部屋で気絶させられ亀甲縛りで揺れていたのだ二人は……

酒に酔ってたとはいえ武偵校の先生だぞ。

 

カタンというおとにはっとすると部屋の入りに和服におかっぱの少女が立っていたのだ。

 

「おまえ……」

 

誰だと言う前に女の子が背を向けて走り出した。

 

「ま、まて」

 

女の子を追って走り出す。

状況的にあのオーナーには何かがあると感じた。

 

「……」

 

女の子が振り返った。

その瞳は悲しそうで…

 

 

「お母さん… 」

 

母親にすがり付いて泣いていた秋葉を思いだす顔だ。

そんな顔する奴は放っておけない。

必ず捕まえてやる。

俺は足に力を入れてさらに加速した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第174弾 明かされた真実

なぜだ?おいつけない

年は7〜8ぐらいの女の子相手に俺達は追いつけずにいた。

うぬぼれではなく7〜8歳ぐらいの子のレベルなら世界一の速さでも追いつけるだけの自信はある。

それだけ、俺は鍛えてる。

だが・・・

「・・・」

パンと音を立てて女の子がふすまを閉める。

俺がそれをあけると畳10畳分ぐらい先で再び女の子がふすまを閉める。

その繰り返しだ。

おかしいぞ

ワイヤーを使うか悩むがだめだと結論する。

女の子にそんなもの使うなど論外だ。

「ん?」

ふと、走りながら背後を振り返る

「みんな?」

後ろには誰もいなかった。

アリアもレキも、マリも、理子もいなかった。

カシュと木がすれる音に目を向けると女の子が再びパンと扉を閉めた。

罠か?

びりびりと、本能がここは引き返せと告げている。

「・・・」

どうするか・・・女の子が消えたふすまを見る。

こんな時、姉さんなら迷わず入るだろう。

血筋ってやつじかな・・・虎穴入らずば虎子を得ず。

俺はふすまを開けて中に飛び込んだ瞬間、後悔した。

「なっ。なんだここ!」

その部屋は異常だった。

壁、天井にびっしりと赤いしみのついたお札が満遍なく張られている。

部屋の中心には日本人形が並んでいる。

この部屋で行き止まりか?

パンパンという音を聞き、振り返るとこれまで、通ってきたふすまが閉じていっている。

明らかに異常、ここにいたらまずいと悟るがもはや、逃げるのは手遅れだろう。

ていうか幽霊!幽霊なのか!

「アハハハハハ」

部屋の四方八方から赤ちゃんの笑い声まで聞こえてきた。

「っ!」

こんな怪奇現象慣れてねえよ!ステルスとはまた、違う異能の力

紫電を掴むが気休めにもならんぞ!

ガタガタという音に目を向けると隣の部屋に続く、ふすまが少し開いている。

中からはミイラのような手がのぞいており、長い髪の白装束の女がこちらを血走った目で見ている。

「ひっ!」

情けないが冗談抜きでびびった。

慌てて、ガバメントを取り出す

「く、くるな!」

フルオート射撃で撃ちつくすが、女がずるずると床を這ってよってくる。

逃げようとふすまにかじりつくが開かない。

「じ、冗談じゃないぞ!」

退路は絶たれた。

銃弾が効かない化け物

「死死死死死死死死」

女が不気味な声を上げながらザザザと這ってくる。

もうだめだおしまいだ!

覚悟を決めた瞬間、俺の背後のふすまが開いた。

「優希!」

信冬だった。

彼女は手に御札を持っており、それを悪霊に投げつけるとピタリと悪霊の頭に張り付く

「破!」

人差し指を天空に向けて信冬は悪霊を見ながら言った。

「きいいいいいいああああああ!」

悪霊は恐ろしい断末魔の叫びを上げると黒い霧になって消滅する。

た、助かったのか?

「危ないところでしたね優希」

と信冬はにこりと微笑んだ。

髪が金髪になっているのは風林火山の能力を使っているのか?

「お館様!」

信冬の後ろから雪村がかけてくる。

「雪村、どうですか?」

微笑を信冬はやめると雪村に凛とした目で問いかける。

「はっ! 予想通りです。 今はジャンが調査してますお館様の予想通りかと」

「ふむ」

信冬はうなずくと先ほど悪霊が這い出てきた部屋の方を見ると

「だそうですよ」

え?

俺も釣られてそちらを見ると先ほどの女の子がゆっくりと部屋から出てくる所だった。

「もう大丈夫ですよ」

と信冬は慈悲深い母親のように女の子の頭を自愛に満ちた微笑を浮かべてなでてあげる。

「待ってた・・・」

と、女の子は言う。

だめだ、状況がさっぱり分からん

「信冬、これは一体どういうことなんだ?」

信冬は立ち上がると

「あれは、優希と東京で別れた後の話なんですけど依頼が入ったのです」

「依頼?」

「はい、自分は鬼に捕まってる助けて欲しいとこの子からメールが入ったのです」

「・・・」

女の子は黙って信冬の服を掴んでいる。

よく見ると透けてないかこの子?

「まさか・・・」

「はい、この子は幽霊です。 太平洋戦争が始まるさらに前に生まれ、この地に縛られているかわいそうな子」

なるほど、幽霊って実在するんだな・・・

ちょっと、混乱してきた

「お館様の武田家は霊能力者の家系でもある。今までもこういった依頼を受けてきたんだ」

自慢するように雪村が言うのでなんか悔しい・・・

でも、そうか・・・武田家は裏の世界でそんなことを・・・

戦国から長い時を得てそういった変革があったと考えてもおかしくはないか

「それにしても、なぜすぐに姿を見せてくれなかったの? あんないたずらまでして」

「ごめんなさい・・・本当に助けてくれるか分からなかったし、生贄にする前にせめて最後くらいは楽しくしてもらいたかったの」

「いや、ぶっ飛ばされてみんなぼろぼろなんですが」

と、雪村が言う。

「雪村」

「はい」

信冬に制されて雪村が黙る。

詳しく聞いた話によれば、この村には鬼の穴と呼ばれるものが山の中にあり、中にいるらしい鬼がこの子を

使い生贄を求めているらしい。

そんなことをしたくなかったこの子は信冬に助けを求めたということか・・・

「じゃあ、この村に残る集団失踪事件って・・・」

「うん、鬼の生贄にされて・・・私だけは開放されて死んでこの血に縛られた」

衰弱して死んだって子もこの子か・・・

さぞつらかっただろうに・・・

「それで鬼って?」

吸血鬼がいるんだ。

鬼がいても別に驚きはしない

「鬼は人間の生き血をすすって、寿命を延ばそうとしてるの、洞窟からは封印があって出てこれないけど

恐ろしく強い」

「それは剣で切れるのか?」

こくりと女の子はうなずいた。

うん、なら決まりだな

「で?どうするんだ信冬」

「封印強化か鬼そのものの討伐、選択肢は2つありますね。でも、この子の骨が鬼の下にあるのです。

それを、媒介に鬼はこの子をあの世にいかせまいとしているのです」

「なら決まりだな」

俺は女の子に1歩近づくと

「名前なんていうんだ?」

「多恵・・・」

「多恵ちゃんか。鬼は俺が退治してやるよ」

剣で戦える相手ならやりようがある。

先ほどのような悪霊は勘弁だが・・・

それに、信冬もいるし、みんなも・・・

「そういえば、アリア達はどうしたんだ?」

「ご、ごめんなさい。 あなたの仲間はみんな眠ってもらって2日は起きないの」

申し訳なさそうにいう多恵ちゃんを見て俺は苦笑した。

まさか、幽霊と話すことがあるなんてな

しかし、秋葉達も戦闘には参加でできないのか・・・

2日待って強襲の手段もあるが・・・

「優希、子のこの監視である悪霊は滅してしまいました。 鬼が気づく前に決着をつける必要があります」

「短期決戦か・・・」

いきなり動き出した状況だが悪くねえな。

うまくいけば単位ももらえるかもしれない

「言い忘れていましたが」

「ん?」

信冬はのこりと微笑んで

「武田家が霊退治も兼任してうことは可能な限り伏せたいので皆さんには内緒ですよ」

と、鬼のようなことを言って綴に単位を認めさせる俺の希望は撃滅された。

なんてこった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第175弾 鬼の穴

「ここか?」

俺達は山の奥に入り、多恵ちゃんに案内してもらいその場所にやってきた。

そこは、一言で言えば、闇の穴だった。

ぽっかりと開いたその空間のそこは見えない。

まるで黄泉の国に繋がっているという印象すら抱かせる。

「お館様」

まじめな顔をしたジャンが信冬に歩み寄ってきた。

「ジャン報告を」

「はっ! この下に鬼がいるのは間違いないと思われます。1体と断言はできませんが・・・」

「ふむ」

信冬は辺りを見回しながらしめ縄のような縄が張り巡らされているのを見ながら

「結界の強度には問題ありませんね。おそらく、1000年は持つでしょうが・・・」

それは鬼が出てこれないというだけであり、外部への干渉はできる。

そう、信冬が説明してくれた。

つまり、こいつを放っておくと次々と多恵ちゃんを使い、鬼は人間を食らうということだ。

「どうする信冬? 降りるのか?」

「ええ」

といいながら、信冬も髪が金に発光するとその目を闇の中に向ける。

視覚強化のステルスを使ったらしいな

信冬が納得したように頷くと

「幸村」

「はい!」

「先行して下りなさい。 決して油断なきように」

「はい!お館様!」

「・・・」

にしても、ジャンといい幸村といい・・・

普段の様子からは考えられない姿だ。

きっと、こいつらは昔からこんな仕事をこなしてきたんだろう。

「優希?」

にこりと信冬が微笑んでくれる。

こんな子が俺に無条件に好意を寄せてくれている。

それはきっと幸せなことなのかもしれないが・・・

信冬と結婚するということは自然とこういった仕事に関与することになるんだろうな・・・

「なんでもない」

「そうですか? あなたには私が鬼と戦ってる間私の後ろを守ってください」

「っ!」

幸村の目がくわっと見開いた。

それは俺の役目なのにという目だ。

「い、いいのか? 幸村の役目なんだろそれ?」

「いいのです。幸村には遊撃を勤めてもらいます。分かりましたね」

「はい・・・」

納得はしていないがしぶしぶといった感じだな・・・

「では行きます」

と、幸村がするすると、縄を伝って穴のそこに降りていった。

続けて、ジャンが

「では行ってまいりますお館様」

「気をつけてください」

「ワハハ、お任せを、少年も後でな」

と、ジャンはそのまま、縄も使わずに飛び降りていってしまった。

まあ、あいつなら死なないんだろうが武器忘れて行ってるぞ。

バスターソードやチェーンガンといった武器はがけの上に置かれている。

おそらくジャンの能力からして問題ないんだろうが・・・

「俺達はまだ、行かないのか?」

と、信冬に聞くが信冬は頷きつつ

「多恵さん、鬼の情報をもう一度」

幽霊の多恵ちゃんは頷くと

「鬼といっても角の生えた鬼じゃないの・・・あの存在がなんだのかはもう、分からない。

ゾンビみたいなもの」

やはり、聞いてもよく分からんな・・・

バイオ○ザードのゾンビみたいなもんがいるのかこの下には

「異能の力を持つものが死してもなお、活動するのはありえないことではありません。ゾンビなどその典型です」

と信冬がいうのでいやな予感がして

「な、なあ信冬」

「なんですか?」

「ゾンビなんてこの世にいるのか?」

「ええ、妖狐だってゾンビだっていますよ」

まじか・・・

この子に関わると現実ががらがらと崩れていくような感覚に陥るよ・・・

「優希の椎名の家でも武田と同じ活動をしてるはずですが・・・」

聞いてないから!

「その紫電はステルス殺しと同時に霊を切ることもできるんですよ?」

知らなかった・・・

「まじか!」

「はい、まじです」

と、信冬に言われて俺はため息をついた。

鏡夜当たりは聞かされてるんだろうが俺はごたごたで説明してもらってないからな・・・多分

「ん? てことは姉さんもそんな霊と戦ったりしてるのか?」

「水月希お義姉さまも昔、鈴・土雪土月花で相当、戦ったらしいですよ」

鈴・雪土月花は姉さんが所属していたチームだ。

土方さんもそこに所属していた。

「それって土方さんも・・・」

「・・・」

土方さんの名前をだした瞬間、急に信冬のまとうオーラーが変わった気がした。

「の、信冬?」

「私は認めてません」

「へ?」

「あの人が・・・さ・・・んて」

よく聞き取れなかったがまあ、触れないほうがよさそうだな・・・

そこまで考えたときだった。

ドオオンと爆発音がしたかと思うと遥か下で何かが光ってる。

あれは、戦闘の光か?

「信冬!」

「はい、行きます!多恵さん」

「はい!」

ジャンと幸村が鬼と戦闘を始めたんだろう。

俺達は信冬の風を纏い、闇の中に降下していった。

いよいよ、鬼退治本番か

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第176弾 林

こ、これが鬼だって?

鬼の穴を降りた俺達が見たのは腐った死体のようなものと対峙する雪村達だった。

奥には

「あれが鬼か?」

「はい」

信冬が隣で言う。

一言で言えばそれは、泥人形のような存在だった。

一体どれほどの月日がたてばそのようになるのか・・・

その体はすでに腐って、悪臭を放っていた。

周りを囲むゾンビみたいなものはおそらくは奴の護衛の兵だ。

「悪趣味な・・・」

信冬にしては珍しく、顔をしかめる。

「信冬、あのゾンビみたいなものは?」

「封印で外に出られませんがおそらく、これまで鬼が食ってきた魂を媒介にした人形です」

「・・・」

なんというか、怨念のようなものを感じる・・・

痛い苦しい、開放してとあのゾンビたちは語りかけているような気がするのだ。

「くっ!こいつら!」

ざっと、幸村とジャンが後退する。

「うーむ、お館様これは切りがありませんぞ」

といいながらジャンはチェーンガンをゾンビの群れに発射した。

痛みを感じることなく人を死においやれるその弾は容赦なくゾンビの群れをなぎ払うが、奴らは次々と土の中から現れる。

「この鬼がどれだけの魂を食べたのかは知りませんが、おそらく、時間からしてものすごい数だと思われます」

「ふむ」

信冬はうなずくと

「幸村!ジャン、私は今から彼らをなぎ払います。私の護衛を!」

「おう!」

「心得ました!」

「優希」

信冬は俺を見ると「今から私は少しだけ無防備になります。少しだけ私を守ってください。紫電なら問題なく奴らと戦えるはずです」

「分かったけど、あのゾンビかまれたら感染してゾンビになるなんてことないよな?」

そんな展開は嫌だ。

「初期の段階なら治療できます。心配しなくていいですよ」

やっぱりか!

ああ、もうやけくそだ!

なんで、温泉村にまで来てゾンビと戦ってるんだ!

聞いてねえぞこんな超展開!

「はじめます!」

信冬の髪が黄金に輝きだし、ふわりと浮かび上がった。

ばらばらと信冬の体から御札が飛び出しそれが宙を舞い始め、形を作り出す。

それは、五芒星と形となりん信冬の周りを回り出す。

その姿は異質であり、幻想的で・・・美しかった。

「ううう・・・」

危険を感じ取ったのかゾンビたちが一斉に信冬に向けて進撃を開始する。

その数は地を受けつくすほどの数だ。

「ゆくぞ!」

ジャンがチェーンガンを発射すると同時に俺と幸村もゾンビに切りかかる。

相手は数の多い雑魚だ。

技は使わずただただ切り倒していく。

俺は銃をその中に織り交ぜながら後ろに行かせまいと戦い続ける。

どれほど戦ったのか・・・

今まで一対や複数の戦いはあったがこれはまるで古代の歩兵の戦争のようだと感じられる。

俺がそう思った瞬間

「青龍、白虎、朱雀、玄武、空陳、南寿、北斗、三体、玉女! 我は魔を断つ物!万魔滅服!」

ぱあああと信冬の周りの札が爆ぜた。

白い輝きは穴全体を覆いつくし、ゾンビの群れを一蹴する。

「す、すげえ」

状況的に人間には聞かないんだろう。

だが、人間以外のたとえば吸血鬼などが相手なら信冬は圧倒的優位に立つに違いない。

「む、少し残りましたか」

信冬の声にはっとすると一蹴されたゾンビだが1体だけ、不気味に沈黙している。

「ワハハ、最後の一体か!」

あれを倒せば腐った鬼を倒すだけだ。

「ぐうう」

鬼は怒りか不気味なうなりをあげながら沈黙している。

「さて、留めといいたいがもう、弾切れか・・・」

ジャンはチェーンガンを投げ捨てながら言った。

「俺が行きますお館様!」

信冬がうなずくと幸村がひときわ大きいゾンビに向けて駆け出す。

「・・・」

ゾンビは無言で手に持っていた大刀を振るった。

ブオンと音を立てて幸村を襲うが幸村はかろうじてそれを避ける。

すさまじい速さとパワーだ。

「っ!」

加勢するべきかと思案した瞬間信冬が言った。

「幸村!『林』を使いなさい」

「はっ!」

林?

「優希、なぜあの子が風林火山の一角、林を名乗っているか分かりますか?」

いや・・・

ジャンなどは苛烈な攻撃手段から火と理解できるが幸村の林の意味はまるで分からない。

「あれが、幸村の林です」

「・・・」

そこにいたのは、先ほどまでとは別人だった。

目を閉じ、ゾンビと対峙する幸村

「ううう・・・」

ゾンビが大刀を振るった。

危ねえ!

大刀は幸村を切り裂くかと思ったが

幸村は目を閉じたまま大刀に日本刀を振るい、ギイインと火花を散らしそれをそらした。

「ううう」

ゾンビは怒ったのかそのすさまじい速さで幸村に向かい攻撃を繰り返すがそのたびに幸村は攻撃をいなしている。

「あの子は受け流すことの天才。林のように静かに・・・」

そうか、あいつの本質は・・・

「ううう!」

ゾンビはしびれを切らしたのか攻撃が大降りになった。

「はっ!」

そこに幸村は飛び込みゾンビを切り裂いた。

「ううう・・・」

ゾンビはズウウンと崩れ落ち、その存在を灰に変えていった。

カウンターか・・・

ひたすら攻撃を受け流し相手のミスを誘い、相手がしびれを切らしたところにカウンターを叩き込む。

並みの相手だと幸村に勝つのは難しいだろう。

それこそ、カウンターが意味をなさない広範囲攻撃ができる姉さんや信冬、沖田やシャーロックといった面々ぐらい

しか勝機は見込めないだろう。

果たして、俺もあのカウンターを打ち破れるかどうか・・・

風林火山の林の幸村、なるほど、おもしろいな

馬鹿かと思っていたが評価を少し改めよう

「さて」

信冬は最後に残った腐った鬼に向き直る。

「あなたの兵隊は滅しました。大人しく、あなたも滅されない」

幸村とジャン、信冬が一歩前に出る。

なぜか、その時、違和感を感じた。

いや、本能による警告か?

何かがやばいと告げている。

「うう・・・ぐへへ・・・」

腐った口から漏れるような鬼の声

しゃべれたのか?

「それで・・・勝ったつもりか?

「何を?」

そう言った信冬の地面がしたから盛り上がった。

土から出てきた触手が信冬の体を巻き取り、上空に吊り下げる。

「あ!」

ぎりぎりと締め上げる触手に信冬の顔が一瞬、苦痛にゆがんだ。

「お館様!」

「信冬!」

俺達が動こうとした瞬間

「うう・・・動くな人間・・・この女を殺す・・・ぞ」

「あ!」

締め付けを強化したらしい。

信冬の体は小さく、締め付ければ折れてしまいそうなきしゃだ。

「武器を捨てて・・・殺されろ・・・」

「いいえ、死ぬのはあなたです」

その時、とんと鬼の背後を取ったものがあった。

「お、おまえどうし・・・」

「万魔滅服!」

後ろに現れた信冬が鬼に、お札を貼り付け、言葉を発した瞬間、鬼の体が解け始めた。

「ぎゃああああああ!」

断末魔の悲鳴をあげて、マグマに落とされたように鬼の体が溶けていく

「風林火山は変幻自在、テレポートもストックしてあるのです。油断しましたね」

「た、武田ぁあああああ!」

呪詛のような言葉を残し、鬼は完全に消滅した。

「・・・」

信冬はそれを黙ってみていたがやがて

「さあ、多恵さん」

多恵ちゃんが進み出る。

鬼が消えた後には、白骨化した骨がある。

あれが・・・

「あなたの体です。 鬼の呪縛は解けました」

多恵ちゃんは泣きそうな顔をしながらも信冬に頭を下げる。

「ありがとう・・・お姉ちゃん・・・みなさん」

スウと多恵ちゃんの体が薄くなっていく。

成仏というやつなのか?

「お兄ちゃん」

多恵ちゃんは俺を見ると微笑みながら

「信冬おねえちゃんと仲良くね」

「ああ」

おそらく、二度とこの子と会うことはできまいと思いながらおれはうなずいた。

ああ、そうだ

「多恵ちゃん」

「何?」

「天国に言ったら・・・もし、天国があって・・・いや、なんでもない」

やめよう。父さんや葉月さんに謝ってくれなんていえるわけない。

「さようなら」

今度こそ、姿を消した多恵ちゃん

信冬の持っていた骨もスゥと消えていった。

おそらく、骨はとっくに朽ち果てていたんだろう。

それをあの鬼が留めていた

「・・・」

全員が無言だった。

しかし、

「帰りましょう」

信冬の言葉で俺達は鬼の穴を後にした。

余談だが、2日後、アリア達が目覚めたとき、あの時の記憶はなかった。

原因不明の昏睡ということでごまかし、信冬の記憶そうさで都合いい記憶を埋め込んでもらい俺達は1週間、綴

の研修を受けた後、武偵校に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優希達と別れた後、信冬達は山梨に戻るため、部下の運転する車の中で

 

 

考え事をしていた。

「ふむ」

「どうかしましたかお館様?」

「幸村あなたは気づいていましたか?」

「はっ? 何をです?」

「分からないのならいいのです」

信冬は再び思案に戻る。

あの、鬼の穴の戦いではもう一つ気配があった。

監視するような自分に向けられた怒りを感じ視線。

あの気配はRランクに匹敵する。

思い当たる存在は1人だけだ。

(ローズマリー・・・あの最悪の吸血鬼が戻ってきた・・・)

あの、吸血鬼は優希に執着している。

遠からず、優希の婚約者である自分を殺しに現れるだろう、

ならば、少し優希を見ておこう

「車を東京の優希の寮へ」

「はい!」

車が東京方面に向いたとき信冬の携帯が鳴った。

「・・・」

メールだった。

内容はランパンの動きが活発化しつつありとのことだ。

表の世界でも中国は日本の侵略を明確化させつつある

ランパンとの戦いは裏の世界からの日本への侵略だ。

それを防ぐのが武田であり、椎名なのである

「のんびりとできるのはまだ、先のようですね」

窓の外を見ながら武田の当主である少女はつぶやいた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第177弾 驚愕お義兄はちゃんは公安0!?

研修旅行を終えて疲れ果てて俺達は東京に帰還した。

綴りの研修冗談抜きでしんどかったぞ・・・

ただ、鬼のことは綴りも気づかなかったし、アリアたちも疑問を抱きながらも追求しようとはしなかった。

心霊現象の類だと思ってくれたらしいが・・・

「・・・」

なぜか、レキだけは俺を凝視しながら悟っている表情をしていたがまさかね・・・

さて、今の状況なんだが・・・

「お帰りなさいませだんな様!奥様!」

なぜなんだ・・・

「ご苦労様です」

と、律儀に返事を返す信冬

俺達はいるのは秋葉原で、ここはメイド喫茶だ。

研修で寝ていた俺の家に信冬は押しかけてきて

「今日は私と逢引していただきたいのです」

逢引=デートというわけだが断るわけにはいかないので(家の関係上下手したらやばいことになる)

出かけることにしたのだが俺は最初は無難に学園島ですまそうとしたんだよ。

だけど、信冬は1度秋葉原というところに来てみたかったらしく俺達はここにいる。

信冬は、コスプレして歩く人を、あんなに裏の世界の住人がだの、かわいいお人形ですねとフィギアを眺めたりと

ずれていたり、かわいいこと言ったりしながら歩いている。

秋葉原は俺はあんまり来ないから分からん・・・

前に理子に連れまわされたり秋葉と来たことがあるが完全にあいつら任せだったからな・・・

理子や秋葉に言わせればここは日本の聖地らしいんだが分からん・・・

なので、前にブラドと戦う前に来たメイド喫茶に来たんだが・・・

「だんな様、今日は理子様はいらっしゃらないのですか?」

と聞かれたので

「理子は来てないですよ。」

「二股はいけませんよ」

とメイドさんが行ってしまう

二股?信冬は確かに婚約者だが、理子は別に恋人じゃなくて友達・・・いや、親友かな?なんだけどな・・・

「理子さんともここによく来るのですか?」

穏やかに微笑んだまま信冬が聞いてくる。

なぜだろう。

その笑顔が少し怖いよ

「ああ、そんなには来てねえよ。たまに付き合うぐらいだ」

大体は荷物もちなんだがな・・・

秋葉もいる時もあるが

「仲いいんですね」

「友達だからな」

俺はメイドさんの愛のジュースとか言うわけの分からない飲み物を飲みながら言った。

ただの、ピーチジュースじゃねえか

「うらやましいですね・・・」

両手にそっと、コップを持ちながら信冬はいう

「うらやましい? どこがだよ」

「私は武田を支えなくてはなりません。 だから、山梨から特例でもない限り転校したりはできない・・・

優希の近くにいて遊べる理子さん達がうらやましいです」

「あ・・・」

そうだよな・・・こいつは俺と違い家を継ぐ人間だ。

「別に遊びぐらいいつでも付き合ってやるよ。それに、幸村達と遊べばいいじゃないか」

「幸村達は私の家臣です。それに、本来なら武田を継いでいたのは私の・・・」

最後はよく聞き取れない

「なんだって?」

「いえ」

信冬はふっと、息を吐いて

「出ましょう。 そろそろ山梨に帰らないといけません。 幸村達も帰りを待っているはずです」

「あ、ああ」

なぜだろう・・・信冬の顔に一瞬だが怒りとも、悲しみともとれる表情が浮かんだ気がする

俺達は今度は理子様ときてくださいねという声を背後にメイド喫茶を出ると秋葉原の町を歩いていく。

「・・・」

「・・・」

なんとなく会話が見つからず無言で俺達が歩いていた時だった。

「優希じゃねえか」

背後からの声に振り返ると

「土方さん!」

公安0の土方さんだった。

「おう、珍しいなお前がここにいるなんて・・・大方、峰の・・・」

信冬と土方さんの目が合うと土方さんはおっと目を丸くする。

信冬もまた、目を丸くして硬直した。

え?なに?

土方さんはふっと微笑むと

「意外なとこで会うもんだな信冬」

「あなたに名前で呼ばれるのは不愉快です」

珍しいなんてものじゃない。

信冬は完全に土方さんに悪意を向ている。

だが、土方さんは怒るわけでもなく

「そういうな義妹だろ?」

はい?

「私は認めていません。 あなたが雪羽姉さまの夫であるなどと」

「雪羽もお前に会いたがってるぜ? どうだ? 今夜うちで食事でも・・・」

「お断りします! 行きましょう優希」

と、俺の手を掴んで強引に歩き出す

一体どういうことだ。

「待てよ! 話をする場だけでも・・・」

と、これまた珍しく土方さんが必死に信冬に言うと信冬はきっと土方さん見ると

「私は・・・あなたが許せません。あの人がが死んで、ろくな月日もたたないうちに雪羽姉さまに

乗り換えたあなたのような最低な人が!」

「・・・」

土方さんは何かを思い出したように悲しげな顔になる。

「信冬・・・俺はな・・・」

「聞きたくありません!」

今度こそ、俺達は土方さんの視界から消えた。

立ち尽くし、俺達を追おうとしなかった土方さんはなんというか悲しげだった。

「おい!信冬!おい!」

ずんずんと歩いていく信冬の手を離して言うと信冬はいつものように微笑みながら

「はい?」

「はいじゃねえよ! なんだよ土方さんはいい人なんだぞ!」

「・・・」

「それに、土方さんってまさか信冬の・・・」

「認めたくはありませんがあの人は私の義兄です」

「じゃあ、雪羽って人は・・・」

「はい、私の歳の離れた姉です。優希は知らなかったのですか? 雪羽姉さまはかつて、優希のお姉さま、水月

希と同じチームで戦った人なのです」

「詳しくは知らない。 姉さんは昔のことを話したがらないからな」

聞こうとしても姉さんははぐらかすことが多いのだ。

最強無敵ということは知っている。

姉さんの武勇伝は多く、単独で小国に攻め込んだソ連軍を壊滅させたなんて話まであるぐらいだ。

「私も詳しくは知りません。ですが、あの男はかつて、チームの中で恋仲だった人が死に、私の姉さまに

すぐに乗り換えた最低な人です」

土方さんが?まったく、想像できない!

いや、土方さんの奥さんが信冬の姉と言う点で驚きなんだが・・・

「鈴・雪土月花、それが、あの男・・・土方歳三がリーダーを務めたチームの名前です。非公式ですが

世界を救ったチームとしても裏の世界では知られています」

姉さんがいたんだ。世界を救っていてもおかしくはない。

だが姉さんがいて死んだチームメイトがいた?

「アルカナ、またの名を大アルカナ。 鈴・雪土月花を壊滅状態に追いやり、また世界を滅ぼそうと画作し

滅ぼされた最悪の組織との戦いで、私のお姉さまは・・・」

何かを思い出すようにする信冬

推測はつく。おそらく、信冬の姉さんは死に等しい傷を負ったんだろう。

だが、鈴・雪土月花は多くが謎に包まれている。

調べれば分かるかもしれないが記録がほぼ抹消されているのだ。

姉さんがらみなら、椎名の家、雪羽さんがらみだと武田が本気で情報抹消を図ったのなら正攻法では

見つけることはきわめて困難だ。

「信冬・・・」

かける言葉が思いつかず、考えていると信冬は息を吐いて

「すみません優希、今日はもう、帰らせてください」

「あ、ああ」

一人で・・・信冬は雑踏の中に消えていった。

まだまだ、俺の周りには知らないことが多いな・・・

姉さんが学生の頃といえば18年前か・・・機会があれば、姉さんか土方さんに聞いてみるのもいいかもしれない。

そういえば姉さんが1度だけ言っていたことがある。

大アルカナのリーダーは私が殺した。

話ではそのリーダーは姉さんと互角の力を持っていたらしい。

ぞっとするな・・・

そんな組織がもし残っていたら、アリアを狙ってくるかもしれない。

まあ、姉さんが潰したなら杞憂なんだがな・・・

さあ、俺も帰るかな・・・

数日中にはキンジも退院するだろうしお見舞いでもいくか・・・

俺は、1歩脚を踏み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優希が歩き出したその瞬間を見ているのものがいる。

黒いローブを身にまとい、金髪がローブからはみ出ている。

「クスクス、見つけた水月希の弟、でもまだ、手は出さない。宣戦会議楽しみだなぁ・・・フフフフフフフ」

大アルカナは確かに滅びた。

だが、闇は再び優希達の知らないところで動き出しているのだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第178弾粉雪パニック1

8月20日朝、キンジも退院し、俺もめでたく単位補充したので宿題もすんだ夏休みを満喫していた。

とはいえ、暖かい季節とは鍛える季節と、俺の中では思っているので早朝から朝の9時頃まで汗だくになりながら

トレーニングをこなしているときだった。

「ん?」

タオルで汗を拭いていると携帯のメール着信音が鳴ったので見てみる。

「誰だ? げっ!」

見た瞬間、頬が引きつったね。

『椎名優希1単位不足』

なぜなんだ・・・

綴の研修で補填できたはずの単位が補填できてないだと!

「こうしちゃいられねえ!」

俺は部屋に飛び込んでまだ、寝ていたキンジを横目にシャワーを浴びてから隼に飛び乗ると100キロで武偵

高に滑り込むとマスターズに飛び込んで真相を調べた結果

「ああ? 私はちゃんと単位渡したよ?」

とめんどくさそうに綴がいうのでさらに調べると

「まじか・・・」

前期に受けたクエストの単位がなぜか受理されていない。

完了報告などが通っていないことになってやがる・・・

これは、クエストを放棄したとみなされるのでいまさらわめいても時間の無駄だ。

く、クエストブースト!

単位補填の切り札であるクエストブーストだが・・・

「あああああ!やべえええ!」

見事になくなっていた。

真っ白な掲示板を見て立ち尽くしながら

どうすればいいんだ・・・

このまま留年確定なのか・・・

「あれ?優先輩じゃないですか?」

「椎名・・・優希先輩・・・」

声のした方を見ると、マリと間宮あかりが手に紙を持って立っていたのだ。

「おまえらか・・・」

「何かあったんですか?」

と、マリ

「ああ、実は・・・」

後輩にこんなこと知られるのは嫌だったが簡潔に説明してやると

「ぷっ」

間宮の野郎、笑いやがった。

「間宮、笑い事じゃねんだぞ」

「先輩が留年・・・そうなると同じ学年にフフフ」

な、なんだ?マリから黒いオーラーが見えるぞ。

「あかり、ちょっといい」

「何?」

なにやらひそひそと話し始める後輩達

ところどころ聞こえてきた言葉は

「先輩が・・・すると・・・アリア・・・引き離せるよ」

「それいい!」

ばっと二人は俺に向き直る。

え?

「椎名先輩、今から遊びませんか?11日ぐらい」

「優先輩遊びましょうよ!11日ぐらい」

こ、こいつら!

「ふざけるな!11日も遊んでたら留年するだろ!」

残り期間で1単位なんて東京警備のあの毎日やってるクエスト受けても間に合わん!

「留年したらいいじゃないですか! そしたら、私達の仲間に入れてあげますから」

と、恐ろしいことをいうマリ

「それは嫌ですけど、アリア先輩に近い男が一人でも減るなら・・・」

お、女ってやつは・・・

試しに俺が留年した場合を考えてみたが

「あ、アリア」

「アリア? 優あんた後輩でしょ?アリア先輩と呼びなさい」

嫌過ぎる

「り、理子」

「くふふ、だーめだよ理子先輩だよ優希君、お姉さんが優しくおしえてあげる」

冗談じゃない!

「れ、レキ!」

「・・・」

まあ、あいつは何も言わないだろうけど精神的にきつい!

「あ、秋葉!」

「優君が留年したので私も留年しました」

なぜか、俺のために留年した秋葉が思い浮かんでしまう。

「ええい!」

なにやら殺気を感じたので飛びのくとマリが飛び掛ってきた。

「何するんだ!」

「先輩、11日精一杯尽くしますから監禁されてください!」

と恐ろしいことを言ってきたので

「冗談じゃない!」

と俺は逃げ出した。

最近理解してきたが、マリはやるといったら条件さえ整えば必ずやる。

ここは逃げるが吉だ。

「ああ! 優先輩!私と楽しい2年ライフ送りましょうよおおおお!」

と後ろから聞きえてきたが俺は隼に飛び乗ると東京方面に逃げていった。

 

 

 

 

 

 

 

午後2時、東京に出てきた俺は真っ先に公安0に足を運んだ。

あまりやりたくないがコネで単位の仕事を回してもらおう

だが、俺は運がないらしい

「土方さん? ああ、あの人ならヨーロッパに出張してるよ」

公務員でも勤務時間中だというのに沖田は机に足を乗せてぎしぎし椅子を揺らしながら馬鹿にしたように

天井を見ながら言った。

どことなく眠そうなのはこいつ、多分遅くまで女といたんだろう

「ヨーロッパ! どこだよ!」

「さあ? なんとかって公国、昔、話題になった国だよ。圧倒的に不利な状況でソ連軍を・・・」

「ああ・・・」

名前は思いだせんが姉さんがソ連軍を壊滅させたあの国か・・・

その筋では有名な話で直後にソ連が崩壊したことから水月希にソ連は滅ぼされたという伝説まで

作ってしまっている。

まあ、実際は偶然だったんだがそう見られてもしょうがない。

「いつ帰ってくるんだ?」

「半月は帰ってこないよ。土方さんはあの国では英雄だからね」

お、おしまいだ

「で?土方さんに何か用?」

「う、実は・・・」

駄目もとで沖田に話してみた。

公安0だしもしかしら・・・

「アハハハ、馬鹿だなぁ」

心底おかしそうに笑う沖田、

こいつに期待した俺が馬鹿だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

散々、馬鹿にしてくる沖田を無視して外に出て時計を見ると午後3時だ。

後、11日で1単位・・・

クエストがあがってくる保証はない。

こうなったら東京警備のクエストで稼ぎながら高額クエストを奪うしかないのか・・・

「・・・」

周りを見渡しながら不謹慎ながら大事件でもおこればいいのにと思ってしまう。

まあ、ここは公安0のお膝元東京だ。

沖田も東京にいるし高額の単位の大概のテロは殲滅されてしまうんだろうが・・・

というか、今の日本の裏の世界に喧嘩売る奴は馬鹿としかいいようがない。

Rランクがまあ、姉さんを除いても2人もいるのだ。

Rランク級もいるしな・・・

まず、外国の勢力でこちらから攻め込めない状況でないと喧嘩は売れないだろうが・・・

まあ、ランパンにせよ、魔女連隊にせよしばらくは攻撃を控えているのだろうが・・・

今の状況ではそれはいい状況じゃないよ・・・

いや、不謹慎なのは承知なんだけど留年がかかって留年したくない学生はみんな必死になるもんだよ普通

と、誰に話してるのか分からんがここは、東京駅だな・・・

古めかしいデザインのこの東京駅だが人通りもすさまじく多い。

そんな中

「ん?」

スーツ姿で歩き回るサラリーマン達の間に異様な姿の少女を見つける

「なぜ、巫女服・・・コスプレか?」

秋葉原は少し距離があるんだけどな・・・

その少女は五亡星の入った風呂敷包みを背負い、唐傘を手に困ったように周りを見渡している。

おのぼりさんか?

あんな格好するってことは・・・

秋葉原へ行くかSSRへ入学するための東京武偵高見学・・・

待てよ?

そういや、東京武偵高案内を入学希望者にしたら少しだけ単位がもらえたような・・・

「これだ!」

俺は隼から降りるとその子に近づいていく。

近づいていけばわかるがこの子結構美人だな。

歳は中学3年ぐらいで鏡夜と同い年くらいか?

白雪よりは少し短いがぱっつん前髪の黒い髪、きつめの目はアリア系の様子だが

というか白雪に似ているような・・・

「もしかして道に迷っているのか?」

「え?」

俺が声をかけると少女は驚いたように俺を見て警戒しながら

「迷っていません! 話しかけないでください」

と取り付く間もないといった様子だ。

ナンパと勘違いされたのか?

「そ、そうか? 俺東京に住んでるから分からないなら場所を・・・」

「結構です!」

少女は背を向けて行ってしまった。

俺の計画何もかもおしまいだ。

とはいえ、愚痴ってばかりもいられない。

学園島に戻り、掲示板に乗らない民間のクエストも探してみたが条件が合わないものばかりだ。

アサルト向けの荒事は不幸なのかほぼなかった。

異様にもほどがある・・・

普通は1つや2つは残っているんだぞ。

「もう駄目だ・・・」

あきらめるのは早すぎるのは分かるがここまで、クエストがないとへこむ・・・

午後4時

「単位不足ですか。ご愁傷様ですお兄さん」

中華料理屋『炎』は夏休みなので暇で、アリスも俺の向かいの席に座ってパソコンを叩いている。

店長はスープを煮込んでいるが特に注意しない。

「アリス・・・なんかいいクエストないか?」

「アンビュラスでしたら腐るほどあるんですけどね。 地方の民間病院の手術の補助とか、1日医師の変わりに

夜勤とか。単位も1単位ぐらい余裕で稼げますよ11日もあれば」

「俺には無理だ・・・」

やっぱり、医者ってすごいんだなぁ・・・

俺より年下のくせに頭いいんだよアリスは

「まあ、私は単位足りてますから問題ありませんけどどうするんですかお兄さん」

「うーむ・・・」

腕を組んで考える。

考えれば考えるほどの絶望的だ・・・

「とりあえず、探してみるよ」

といって晩御飯用にチャーハン買ってから炎を後にする。

「留年したらお兄さんじゃなくなりますね」

ハハハ、それは勘弁してほしい・・・

「さて・・・」

携帯で再び調べ物を再開する。

なんでもいい、護衛でも強襲でも金は二の次で単位になる仕事を見つけてやる!

そして、午後9時20分

「駄目だ・・・」

1人で寮まで戻ってきてため息をついた。

もう、体ぼろぼろだな・・・

足も痛い。

1日中歩き回ってこれか・・・

クエスト探すために、東京警備も申請しなったからまじで追い詰められつつあるぞ。

後、10日は多いようで短い

とりあえず風呂に入って明日は朝から行動開始だ。

「ただいまぁ」

鍵がかかっていたのでカードキーで部屋に入ると風呂場のドアを開いた瞬間

「え?」

「へ?」

間の抜けた声だが大多数の人は理解不能なことがあったら無言になるか間抜けな声をあげてしまうだろう。

まだ、ここにアリアがいたら俺は悲鳴をあげて逃げたに違いない。

だが、目の前にいる少女は・・・

「ど、どうも」

あの東京駅の前で出会った少女だった。

男というものは致命的ではない本能には逆らえないんだろう。

少女の全体を見てしまう。

白いパンツはかろうじてはかれておりm手にはチェックの入ったブラが・・・

ようは、前は丸見えの状態で、固まっている。

「あ、あのどう・・・もです」

と、少女が言った瞬間

「粉雪? どうかしたの?」

と、風呂場の中から白雪の声が聞こえてきた。

「あ・・・」

俺死んだと思った。

今ので理解したぞ

ここは、キリングレンジだ!

「きっ・・・」

すうと粉雪と呼ばれた少女が息を吸った。

「まっ!」

人間命がけのときは信じられない行動をとるもんだ。

一瞬で、距離をつめると俺は粉雪と呼ばれた少女の背後に回りこみ、後ろから羽交い絞めにし、近くにあったタオルで口を押さえる

ここで、手で押さえてたらかまれるからとっさにアサルトで習った方法使っちまったがおい!

「むーむー!」

顔を真っ赤にして暴れる粉雪

「粉雪?」

白雪が湯船の中で動いているのが分かる。

ここいいたらまずいと思い、粉雪を引きづったまま、リビングに逃げる。

「むー!」

白雪に聞こえない場所まで来て「頼むから聞いてくれ! 別に君に何か仕様ってわけじゃないんだ! 頼むから誤解を解かせてくれ!」

「むーうー!」

明らかに粉雪ちゃんは激怒している。

というかパンツ1つの中学生ぐらいの子を羽交い絞めにして口を押さえているいる高校2年の男子

誰がどう見ても

レイプ魔そのものだった。

最近、これ関連は厳しいからな・・・

実家も助けてくれないかも・・・

土方さんはヨーロッパだし・・・

「むーう!」

ついに涙目になる粉雪ちゃん

駄目だ!もう・・・

その時、がちゃりと玄関のドアが開いた。

き、キンジか?

「・・・」

「・・・」

そいつと目があう。

軽蔑しきったその目は

「き、鏡夜?」

「ふん、堕ちるとこまでおちたか兄貴」

「ち、ちが!」

鏡夜の登場で、手が緩んだらしく、粉雪ちゃんがするりと俺の手から抜け出た瞬間

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

と、寮中に響き渡る大音量で悲鳴をあげた。

10分後、危うく警察を呼ばれそうになったが白雪に事情を説明して、粉雪ちゃんには土下座して誤り、

許しませんと部屋からたたき出され、夜の学園島を歩いている。

「なぜ俺まで・・・」

隣にはむすっとした弟が歩いている。

粉雪の半裸を見たのは鏡夜も同じで、俺の横で正座させられていたが終始、悪びれることはなかった。

「最悪だ・・・」

夏休み終盤にこれかよ・・・

ばれるところにばれたら、中学生襲ったレイプ魔じゃねえか・・・

あの後、白雪に聞いたが、あの子の名前は星伽粉雪、白雪の義理の妹らしい。

青森から東京に出てきたらしいが、どうも最悪中の最悪の出会いを果たしてしまったらしい・・・

「あの子、お前と同じ年らしいな」

がっくりしながら言うと

「ふん、相変わらず女関係にはだらしないようだな兄貴」

「ほっとけ・・・」

以前はクズだったが、俺に負けて以来、鏡夜は俺のことを兄貴というようになった。

昔はおにいちゃんだったのにな・・・

「で? お前は何でここに来た?」

自販機でコーラーを買って鏡夜に渡してやるが鏡夜はそれを無視して自分でおーすお茶を買って口に運ぶ

なんだよ、俺はコーラーを空けて口に入れる。

「再戦を申し込みにきた」

「へえ?少しは腕をあげたか?」

道路のど真ん中なのに、軽い、殺気が俺達の間で起こる

刀での戦いは俺のとってもいい経験になるが・・・

「・・・」

「・・・」

少しにらみ合うが鏡夜はふんと目を閉じて殺気をしぼめる

「今、やる気はない。ここにきたのはついでだ」

「ついで?」

「ああ、ついでだ。 勘違いするな断じて咲夜に頼まれたからではない」

「ああ・・・」

俺達の共通の妹咲夜が頼んだのか俺の様子見てきてくれと

なんだかんだでお前、妹に甘いんだよな

俺がにやりとすると

「勘違いするな俺は兄貴と馴れ合うつもりはない。お前を倒すのは俺だということを忘れるな」

「お、おい!」

背を向けて歩き出した鏡夜に声をかけるが鏡夜は振り返らない。

「ホテルに戻る。 ついでの用は終わったからな」

と、そのまま、夜の闇に消えていった。

なんだったんだよ一体・・・

まあ、適当にコンビニで時間潰して帰るか・・・

今度、着替えを除いたら焼かれるからな白雪に・・・

お恐ろしや

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第179弾粉雪パニックー弟と妹

「ただいまぁ」

鏡夜と別れて1時間たっぷりと時間を置いて、部屋に戻る。

念のため、キンジに連絡を取るとすでに帰っているらしく早く帰ってこいと急かされたので家に入ると

ギンと俺と目が合った瞬間にらみつけてきた

「へへヘ」

と俺は右手を頭の後ろにおいて苦笑する

「お姉さまの指示ですからやむ終えなくお入れするだけです。この色魔」

「ごめんなさい」

心に改心の一撃を浴びながら俺は素直に謝った。

どう言い訳しようがあれは俺が悪い。

「許しません」

ぴしゃりと言い放ち、粉雪ちゃんはつーんとそっぽを向いてしまった。

どうやらキンジも似たような感じだったらしい。

まあ、俺みたいなことはしてないみたいだから俺以下のツンツンぶりなんだろうが・・・

白雪も困ったように俺と粉雪を見比べてごめんねと手を合わせてきた。

まあ、年下なんだから多少の無礼は許せるさ、まあ俺が悪いんだが・・・

そういや、星伽神社に姉さんと少しだけ行った事がある。

俺は中に入れなかったが星伽神社が男子禁制なんだそうだ。

一応、椎名と星伽は険悪なわけではないから入ろうと思えば入れたんだろうが・・・

粉雪の男嫌いというかあのツンツンぶりはそこからきてんのかもな・・・

キンジに対する態度を思い出しながら俺はため息をついた。

「キンちゃん、優君おせんべいがあるよ。粉雪がお土産に持ってきてくれたの」

と、テーブルにせんべいを出してみらったので粉雪ちゃんを見て

「食べていい?」

と許可を取ってみると

「好きにしたらいいじゃないですか」

と嫌そうにというか話しかけるなオーラー全開で言われたのでおせんべいをぼりぼりかじる

うまいんだけどこの塩味は涙の味か?

「あのね、キンちゃん。半日で0.3単位もらえる仕事見つかったよ」

と白雪がとんでもないことを言ってきた

「「本当か!」」

俺とキンジの声がはもると「その反応優お前・・・」

「キンジもか・・・」

互いに単位が足りていないらしい

「それでね。マスターズに確認したら各教科共通の単位として認められるんだって」

「そ、それで内容は何なんだ?」

0.3とはおいしい仕事だ

「入学希望者の依頼を受けた形にして粉雪に学園案内するの」

「俺も案内していい!」

助け舟とばかりに俺は白雪に言ってみたが

「ごめんね優君。これ、1人につき1人が案内する決まりらしいの」

といいにくそうに言ってきた。

あ、ハハハ、もう本当に駄目かも・・・

「粉雪、お前、武偵高に入学するのか?」

「違います! 武偵高なんて大嫌いです!ここはお姉さまが星伽を出る原因になった場所ですから」

キンジの言葉に粉雪は振り返らずドラマの買い物シーンをじーと見なが言った。

うーむ、入学案内入学案内・・・誰かいないか?

奏ちゃんは中学2年だし、千夏ちゃんは小学生・・・咲夜は論外だし・・・あああ!

「粉雪はね星伽の伝言を届けにきてねできそうなら私を武偵高から連れ帰ろうとしてるみたいなの・・・」

キンジと白雪が話しているが俺は携帯を取り出す

「悪い」

と番号を呼び出す

「なんだ兄貴?」

しばらくして、鏡夜が電話に出る。

こいつ、中学3年だからな年齢的には

「鏡夜。明日、午前中東京にいるか?」

「いるにはいるが・・・」

「なら、午前中付き合ってくれないか?」

「別にかまわないが・・・」

「よし、明日朝10時に武偵高正門前に来てくれ」

「待て! 何がどうい・・・」

電源ボタンを押して無理やり携帯を切る。

あいつはこうしておけば多分くるだろう。

正面から頼んでも聞いてくれない可能性があるからな

さらに携帯でマスターズに学園案内の申請をしておいた。

そこまで終わったとき

「きき、キき・・・」

ん?

粉雪ちゃんの方を見ると顔を真っ赤にした彼女が見ていたのは女優とキスするシーンだ。

「キー!」

いでえ!

いきなりテレビを消したリモコンを投げつけてきたので完全に油断した俺の頭に命中した。

「ふ、不衛生です!不衛生です! 汚物は消去です!」

とげしげしと床に倒れた俺の顔面を踏んでくる。

いたたた! 人によってはごほうびなんだろうが俺にそんな趣味はねえ!

と手でガードしながら怒るにおこれず粉雪ちゃんからの攻撃を耐えるのだった。

次の日、不機嫌な鏡夜に学園案内の話をした瞬間

「帰る」

「ま、待て!」

がしりと弟の右手を掴むと不機嫌そうというか不機嫌そのもので俺をにらんでくる。

「留年しそうなんだよ!助けてくれ!」

「知るか! 学業をおろそかにした兄貴が悪いんだろうが!」

「いや、書類の不備で一応単位分はやってたんだけどな・・・」

それについてはうそ偽りない。

解決した事件を考えればおつりがでるぐらいなのだ。

鏡夜もイ・ウーの事件がなかったことにされたことを悟ったらしく舌打ちした。「仕方ない。 行ってやる。案内しろ」

「助かる!弟!」

お前いいやつだな!

つい1ヶ月前には殺し合いをしたばかりなのにな

「勘違いするな。俺はお前を助けるわけじゃない。 うっとおしから早く終わらせろ」

「はいよ」

と、校舎に入った瞬間

「「あ!」」

粉雪ちゃんを案内しているキンジとばったりと出会った。

「よう、キンジ」

「おう、優もか? あれ?お前は?」

と、鏡夜を見る。

一応は面識はある2人だが

「遠山キンジ」

「年上を呼び捨てにするな」

とキンジが切れ気味に言った。

まずいな・・・鏡夜は俺の家での行動から仲間に激しく嫌われてるんだよ。

ここは俺が間に入ろう

「せめて、遠山先輩ぐらいつけろ鏡夜! 年功序列は学生の間は大切だ」

鏡夜は嫌そうな顔をしたが

「遠山先輩」

それでいいんだ。

次に鏡夜と粉雪の目が合った。

あ、あれそういえばこいつら昨日・・・

「またあなたですか? のぞき魔」

軽蔑しきった声、まあ、鏡夜も覗いたもんな・・・粉雪ちゃんの胸

「ふん、覗き魔だと? 見られるほどの大きさもなかったが?」

おいいいい!

「なっ!」

粉雪ちゃんは胸を隠すように涙目になって鏡夜を激怒して睨み付けている。

「図星を指されてだんまりか? まあ、胸のない女はおとな・・・」

ごんと俺は鏡夜の頭を殴った。

もう、因縁とか知ったことじゃない。

これは無礼にもほどがあると俺でも分かるよ

「っ!何する兄貴!」

「馬鹿か! 昨日のは完全にお前が悪いだろ!素直に謝っとけ」

「断る! 俺が入ったら兄貴がそいつを抑えていただけだ! 俺に落ち度はない!」

それはそうなんだが・・・

やっぱり男なんてろくな・・・と粉雪ちゃんが怒りで震えているのをまずいなと思いながら

「と、とにかくだ!学園案内しようぜ! じゃなキンジ!」

と鏡夜を無理やり連れて案内に戻った。

にしても、鏡夜・・・お前、正しいと思ったことは何でも口に出していいわけじゃないんだぞ・・・

そこが、あまり家から出たことがない世間知らずの弊害といえる・・・

俺も姉さんと旅するまではそれはひどいもので今、思い出したら顔から火が出そうな恥ずかしさだ。

まあ、俺の場合鏡夜ほどひどくはなかったんだけどな・・・

その後、俺は運がないのかはたまた、鏡夜と粉雪ちゃんの遭遇率が高いのかことあるごとにキンジ達と

出会うのだ。

そのたびに粉雪が怒り、鏡夜が馬鹿にしたようにいなすの繰り返しでフォローしている俺達はへとへとになっていった。

土方さん・・・今ならあなたの気持ち分かります・・・

なんだかんだで、鏡夜も武偵高には興味を持っていたらしい、粉雪ちゃんと遭遇しない間は

それなりに、学園の設備を見回したりしていたからだ。

「ここが、最後の学科だ」

と、アサルトの訓練場の前まで来て言うと鏡夜はそれを見上げながら

「兄貴が所属している学科か?」

「まあな、一応戦闘訓練とかあるし、銃が剣とかの戦闘訓練もできるから結構学ぶことも多いぜ」

「・・・」

椎名の家でも無論、対銃の戦闘訓練は行われる。

上級者になれば、銃弾切りも当たり前に教えている辺り、一般人から見ればうちも怪物の集まりなんだよな・・・

姉さんクラスはさすがにいないが・・・

2人で体育館を入ると、目の前にもう、見慣れた2人の背中が見えた。

「おお・・・」

「またか」

鏡夜が舌打ちする。

どうやら、こいつ何かとつっっかって来る粉雪ちゃんが苦手らしかった。

椎名の家では咲夜や母さん達を除けば女はみんな部下で、反抗してくる奴は皆無だったから

新鮮な反応なのかもしれないな・・・

キンジと粉雪ちゃんの先ではA装備で殴り合っている1年の姿が見えた。

ただの喧嘩っぽいが粉雪ちゃんめちゃくちゃ嫌そうな顔してるぞ・・・

キンジたちが動き出したので、俺達も後に続いてアサルトの中を見せていく。

射撃訓練場なんかでは鏡夜もやはり、男なので銃に興味を持っていた。

試し撃ちもしてみたがやはり、刀がいいと結論づけた。

いろいろな武器持ってると便利なんだけどな・・・

「以上で学園見学は終了だ。 ほかに見たところはあるか?」

いつのまにやら、キンジと合流して回っていた最後の場所で、キンジが言う

「いいえ、もう十分です」

粉雪はふるふると首を横にふり、桜色の唇をへの字に曲げる。

鏡夜は何も言わずに粉雪を見ている。

「武偵高がいかに乱暴な場所かよく分かりましたから」

「ら、乱暴ってインケスタとかインフォルマはそこそこ平穏だったろ?」

「いいえ、彼らも同じ穴のむじなです。そもそも、金銭のために武力を用いる行為自体が卑しいですし。精錬たるお姉さま

がそのような場所にいるなんて私には耐え難いことです」

まあ、武偵ってのは外部からはそういうイメージい抱かれるんだよな・・・

少しフォローしとくか

「こなゆ・・・」

「ふん、女の考え方だな」

馬鹿にしたように鏡夜が言った。

ちょっ!おまえ!

「侮辱するつもりですか!」

粉雪がぎっと怒りのこもった目を鏡夜に向ける。

だが、鏡夜ははっと息を吐いてから「お前の言ってる事は武力すべてを否定する言い方だな。世の中の人間が金銭が絡まない状況で武力を用いたことがどれほどある?」

「それは・・・警察とか・・・」

「警官だって金をもらい、国から金を出してもらい武装してるんだ。金の絡まない武力などありえない」

「で、ですが星伽は・・・」

「同じだよ。俺のこの刀だって誰かが金と時間をかけて作ったものだ。お前の大好きなおねえちゃんのもってる

刀は1円もかからずにただで作ってもらえたのか?」

「・・・・っ!・・・!!!」

粉雪ちゃんは激怒しているが言い返す言葉が見つからないらしい

「ほら、言い返せないだろ?所詮女は女だな」

「鏡夜いいすぎだ!」

どうも、こいつは相手の意見が間違ってると自分の持論で相手を叩き潰さないと気がすまないらしいいわゆる

KY(空気よめない)というやつだ。

「ふん」

馬鹿にしたように目を閉じると鏡夜は壁に背をつける。

「こ、粉雪ちゃん?」

やばいぞとキンジと視線を合わせてからフォローしようとするが

粉雪ちゃんはなぜか俺をぎろりとにらんできた。

な、なんで?

「帰る前に伝えないといけないので伝えます! 昨日椎名様について托が降りました! 星伽の巫女の義務で嫌ですが

一昼夜のうちに伝えないといけないことになってますから少々唐突ですが今伝えます」

「托?」

ああ、予言かな?白雪にも似たようなこと言われてアリアにぶっさされたんだよな・・・

うう、星伽の予言ってあたるのか?

「2つあります。良いほうと悪いほうどちらから聞きますか?」

「良いほうから!」

迷わずに俺は言った。

最近、運がないことばかりだからな。

宝くじあたるとかかな?

「では、椎名様は求婚されます。今月中に」

「えええ!」

いや、信冬って婚約者がいる俺がいうことじゃないがちょっとびっくりだ。

あ、もしかして信冬との・・・んん?あいつとは、もう婚約者ってなってるのだからいまさら求婚ってのは

おかしいぞ?

違う奴ってことだよな?

誰だ?

「また、女がらみか」

鏡夜が言うのを聞きながら

「ま、まあそれは当たるかは分からんがもう一つの悪いほうは?」

粉雪は一瞬、言うか迷うような素振りをしてから

「愚者があなたを襲う」

「愚者?ってなんだ?」

「分かりません。これだけしか托には書かれていませんでした。ただ、これは凶兆、それに間違いありません」

愚者・・・愚者ねえ・・・

あ・・・

1つだけ、心当たりがある。

大アルカナ

姉さん達が昔、潰した最悪の組織のリーダーは愚者を名乗っていた。

まさかな・・・

愚者は姉さんが殺したと姉さん個人から聞いている。

跡形も残らず消滅させたらしい。

その現場にいなかったから分からないがおそらく姉さんが本気で激怒したのはあれが最後だと土方さんも言っていた、

だが、それじゃないとすれば愚者の意味はなんだ?

ま、深く考えないで

「愚者も求婚もありえないってことで」

「あ、ありえない? 私を馬鹿にするんですか?」

怒りを再発させて粉雪ちゃんが1歩踏み出した瞬間、薬きょうを足で踏んでバランスを崩した。

「あ!」

「危ねえ!」

俺とキンジが動くが1番近い場所にいたのは・・・

とんと鏡夜が粉雪ちゃんの肩を掴んで倒れるのを阻止する。

「・・・」

何かいいたそうだが、鏡夜は何も言わずに粉雪ちゃんの姿勢を正して手を離した。

「あ・・・」

大嫌いな相手なんだろうな鏡夜は粉雪ちゃにとっては・・・

だが、ありがとうという場面だということも分かってるんだろう。

無言で立ち尽くしていると

「ふん」

と鏡夜は息を吐いて出口に向かい歩いていった。

「鏡夜!」

「帰る!」

と、俺の言葉を返してからアサルトを出て行った。

残された俺達、キンジと顔を見合わせてから

「俺達も帰ろうか?」

と促してみたが粉雪ちゃんは言葉が見つからないのか鏡夜と同じようにふん、男なんてと

悪態をついている。

こりゃ駄目だ・・・

将来、鏡夜が椎名の家を継いだら星伽と戦争状態になるかもな・・・

はぁ・・・やれやれだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第180弾ー粉雪パニック3 その未来

さて、とりあえず0・3単位だ。

マスターズに鏡夜を学園案内したことの任務完了の報告メールを送ってから受信メールを見るとメールがきていた

差出人はE.Wああ、あいつか

本文を開いてみると近況報告だったので情けない話だが単位不足で大ピンチだと送り返すとすぐに返事が返ってきた。

『相変わらずだね君は』

ほっとけとメールを返してから布団の中に入った。ちなみに時刻は午後8時、なんでこんな早すぎる時間に寝るのかといえば

粉雪ちゃんが原因だ。

8時までに就寝しないのは不衛生だと聞かなかったのだ。

秋葉あたりを誘って夜の鍛錬でもしようかと布団の中でごろごろしながら考えている。

キンジも同じらしく、2段ベッドの上で寝返りをうってるな。

まあ、たまには体を休めるかなと目を俺は閉じた。

だが・・・

眠れるわけねえ・・・

浅い眠りには入っていたのだが携帯を取り出すとまだ、午後9時。

1時間しか寝てないな・・・

さっきまで、リビングでは粉雪ちゃんと白雪が何かを話していたみたいだが終わってもう、寝室で寝てるらしい

よし、鍛錬にし行こう。

もはや、すぐには寝れないと俺は思い、そっとベッドを抜け出してトレーニングウェアを取り出そうとした時だった。

かたんと物音が聞こえたのでそちらに行ってみると小部屋の1つから明かりが漏れている。

ここは元々4人部屋なので個人のプライーベートルームがある。

1つかキンジ、1つは俺、もう一つはアリアが私室にしており、物音は最後の空き室から聞こえてきた音らしい。

「ゆ、勇気を出すのです。チャンスは今夜しかないのですから。ファイトです」

なんだろう?

そっと、小部屋を覗き込んでああと俺は納得した。

部屋の中の粉雪はおしゃれしていたのだ。

流行のレイヤースカート。ちょっと大人っぽいUネックの半袖カットソーにデニムのベストを重ね、バックルの大きなメッシュの

ベルトで決めている。

女の流行はよく変わらんが雑誌でありそうな格好だな・・・

中学生の粉雪ちゃんにはちょっと早い気がするが・・・

まあ・・・

粉雪ちゃんが抜き足差し足で玄関に向かい、これも、おしゃれなサンダルを取り出して扉をこっそりと閉めて出て行った。

うーん・・・

時計を見ると午後9時を回っている。

格好からして遠出の可能性もあるな・・・

俺は素早く、防弾Gパンと防弾Tシャツを着て紫電と銃を持つと外に出て粉雪ちゃんの尾行を開始する。

インケスタじゃねえが姉さんとの旅でこういうことは大体学んでるからな。

それも、大概は姉さんがいない場所で強制てきにな・・・

粉雪ちゃんは、モノレールに切符の買い方もほかの人に聞くような箱入りぷりを発揮しながらもなんとかモノレールに乗り

台場に着くと付箋をつけた雑誌をもって緊張した顔で歩いていく。

見てて微笑ましいな

粉雪ちゃんはきらきら輝くヴィーナスコート、まあ、女性向けのショッピングテーマパークを嬉しそうに見上げている。

ものすごく輝いた瞳で・・・

そうか・・・

白雪を見ていれば分かる。

おそらく星伽は外に出ることも大きな制限があるんだろう。

名家とそういうもんで、咲夜も世間知らずだし、俺も姉さんと旅にでるまでは世間知らずだったからな・・・

恐ろしく、まじめな子という印象がある粉雪ちゃんだがたまにはハメをはずしてみたいんだろう。

でも、中学生にとっては少し危ないんだぞこの時間東京は・・・

しゃあねえ・・・

護衛しよう。

俺はそう決意して粉雪ちゃんに見つからないように尾行を再開した。

夜に営業している店を次々と粉雪ちゃんは回り、高級そうなオルゴールを購入してから勢いをつけたのか紙袋を

増やしていく。

おお・・・金持ちだな粉雪ちゃん

星伽の神社は大きいから金に余裕があるんだろうな・・・

幸せ一杯という粉雪ちゃんに頬が緩むのを感じ、微笑ましいと思いながら見ているその時だった。

「な、なんであなたがここにいるんですか!」

ん?

「くっ!」

なんだ?

声の方を見ると・・・えええ!なんであいつがここに!

粉雪ちゃんと鏡夜がばったりと出くわしていたのだ。

なぜか、鏡夜の手には紙袋がたくさん。

しかも、お土産関連ばかり・・・

ああ・・・咲夜か?渡せもしないのにまあ・・・

「お、おまえこそなぜここにいる!俺は・・・買い物だ・・・」

「わ、私もです! あ、いえこれはその・・・」

どうやらお互いに詮索されたくないと互いに悟ったのだろう。

「俺と出会ったことは誰にも言うな!俺もお前に会ったことは誰にも言わない。見なかったことにする!」

粉雪ちゃんもそれでいいと思ったのだろう。

「分かりました・・・」

「それにしても、すごい格好だな」

今風の格好をしている粉雪ちゃんに対して鏡夜は言ったんだろうが粉雪ちゃんは顔を赤くして

「放っておいてください!」

「ふん」

ちなみに鏡夜は動きやすい格好を意識しているのかGパンにTシャツ1枚といった服装だ。

顔がいいので時折、女性が振り返ってねえあの子かっこよくない?とか言われているのを聞いていると

いいなと思ってしまう・・・

なんで俺、女顔に生まれちまったんだ・・・

にしても、気まずいなんてものじゃない。

鏡夜の出現で水を指された粉雪ちゃんはそれから帰ることにしたらしく自由の女神像を経由しながらホテル日航を回り込むようにして台場駅に向かっている。

その粉雪ちゃんの足が止まり振り替える。

「どうしてついてくるんですか!」

そう、鏡夜は粉雪ちゃんの後ろをついていたのだ。

「俺も学園等島に用がある。兄貴に伝え忘れたことがあるんだ」

俺に伝える事?

「兄貴? ああ、あの色魔のことですか?」

「ふん、否定はしない」

否定してくれ弟よ・・・

そして、粉雪ちゃん色魔はやめて・・・

「だが、あいつは俺の目標でいつか必ず倒す相手だ」

「倒す?」

粉雪ちゃんが聞いている。

「ああ、俺はあいつに・・・兄貴に負けた。見下していたはずのあいつにな・・・」

「・・・」

やはり野蛮とか思っているのかもしれないが粉雪ちゃんは何も言わなかっかたがやがて・・・

「あなたも・・・兄のことが好きなんですか?」

「どうしてそうなる?」

不愉快だとばかりに鏡夜は言った。

「あいつは、俺の目標で倒す相手だ」

「いえ、見ているとあなたはしき・・・椎名様のことを尊敬しているようにしか見えないですよ」

「椎名様はややこしい、あいつの名前は優希だ。俺は椎名鏡夜、俺達の前でそれぞれを呼ぶときはいるときは名前で呼べ」

「仕方ありません。呼んであげます」

2人はそんな会話をしながらぎこちない会話を続けて台場駅に歩いていく。

微笑ましいのか?あの2人・・・

星伽と椎名、権力者が見ればいい光景なんだろうが・・・

うーん、やはり粉雪ちゃんは男嫌いだし、鏡夜も協調性ないしこれっきりだろうなこの2人と思いながら見ていると

「こんばんはー一杯お買い物したね」

公園の方から数人の若い男達が歩いてきた。

「君達中学生でしょ?いけないなぁ、中坊がこんな時間に出歩いてちゃ」

数は10人くらいか?

あっという間に鏡夜と粉雪ちゃんを取り囲んでしまった。

「彼氏とお買い物? お!マックス・アンド・コーの袋じゃん。もしかしてお嬢様? お金持ち?」

「ラッキーお金貸してくんない?」

「そんな無愛想な彼氏ほっといて俺達にレンタルされない君?」

ぎゃははわらいながら輪を狭めていく男達

粉雪ちゃんは逃げようにも取り囲まれているので、左右を見渡しながらその場を動けない・

「・・・」

鏡夜はさめた目でため息をついている。

「の、退きなさい!星伽の巫女は悪徒の威迫には応じません」

と、粉雪ちゃんが睨むと男達は態度を一変させる。

「はぁ? 日本語しゃべれやガキ!」

「剥くぞオラ!」

男達の一人が拳銃を取り出して粉雪ちゃんに向ける。

おいおい、最近はあんなチンピラにまで出回ってるのかよ・・・

武偵の制度を取り入れ、銃を持つことを許可した弊害の一つだな・・・

まあ、少なからず銃を持つ人間は昔からいたんだが・・・

あれはクロボシか?中国製の劣悪品だな

「・・・っ!」

粉雪ちゃんは紙袋を落とし慌てて懐をまさぐるがおしゃれなその服に護身用の武器はないらしい

残りの連中も、拳銃や、ナイフ、スタンガンを取り出した。

粉雪ちゃんは気丈な顔をゆがませてその場にへたり込むと涙目で

「・・・お、お姉さま・・・助けて・・・」

と泣き出した。

うーん、これで粉雪ちゃん1人なら助けに出るんだが・・・

あいつがいるしな・・・

「おら、彼氏もびびってねえで反抗したらどうなんだ?中坊?」

と、よせばいのに拳銃を持った男が鏡夜にへらへら笑いながら言った。

知らねえぞ・・・

「ふん、雑魚がおもちゃをもっていきがって楽しいのか?」

「あ?」

拳銃を持った男が言った瞬間

ゴキ

鏡夜は男の拳銃を持つ手を掴むと足を蹴り上げて男の右手をへし折った。

「え?」

ありえない方向の曲がっている腕を見た男は

「う、うぎゃああ!俺の手!手がぁ!」

と激痛にのたうちまわる。

「た、タク!」

仲間達がうろたえた声を出す。

まさかこの人数差で反抗されるとは思っていなかったのだろう。

鏡夜も日本刀紅蓮を持ってはいない。

だが、鏡夜の動きは迅速だった。

まず、残りの1人拳銃を持っている男に襲い掛かるとその、腕を掴み、回り込むと首筋に手刀を叩き込むと

男はぐっと、気絶してしまった。

さらに、鏡夜はしゃがみこむと右手を基点に回し蹴りで男たちを倒し、容赦なく蹴り、手刀を叩き込んでいく。

実力が下でも囲まれたら先手必勝が定石だ。

「え?」

一瞬で7人を無効化された残り3人はうろたえた。

まあ、当然だろう。

小さい頃から戦闘訓練を受けている鏡夜がごろつきに負けるはずがない。

たとえ、素手でもな

「まだやるのか? クズ?」

挑発するように鏡夜が言う。

「くっ・・・」

それだけで目の前の相手が次元が違うと男達は悟ったのだろう。

動けずにいる。

「あ・・・」

粉雪ちゃんはそんな鏡夜を見上げている。

それに対して鏡夜は言い放つ

「勘違いするな。俺は別にお前を助けているわけじゃない。ゴミを片付けているだけだ」

「て、てめえ!」

「なんだ?クズ?」

本当にゴミを見るように鏡夜は相手を見下している。

あんなめで見られたら子供とかなら精神崩壊するだろうな・・・

ゴミだのクズだの言われて男達の一人が言うが何も出来ない。

これは鏡夜圧勝で終わりかと思ったその時だった。

「やー! 彼氏君強いね」

ん?あいつ・・・公園の中から出てきた奴・・・フードを深くかぶっているので顔は見えないがかなりの小柄だ。

声はマスクしてるようでこもっている。

「先生!」

男達がフードの男(?)に道を明ける。

「ふん、お前がクズののリーダーか?」

意識しているのかいないのか、座り込んでいる粉雪ちゃんの前に鏡夜が立つ。

フードの男(?)は口をにやりとすると

「やー、リーダーちゃリーダーだけどね。 別にこいつらのやることに興味ないわけだよ。君・・・強いね。

私と戦ってくんない?」

「何?」

鏡夜が言った瞬間、フードの男が動いた。

ジャキジャキジャキと手に組みあがったのは

「くっ!」

連結式の棒、棍だ。

ズガアアンとアスファルトをえぐったその一撃を

「ほいっと!」

重力を無視するようにフードは不振り上げる。

鈍い音がし鏡夜の腹に棍がめり込んでいる。

「がっ!」

刀があれば少しは違ったかもしれない。

だが、あの動きは一流クラスの動きだ。

鏡夜は苦痛に顔を歪ませながらも右手を振りかぶり殴りかかる。

それは、一般人なら普通に当たっただろう。

「遅い遅い!」

フードは棍を地面において基点に飛びのくと横殴りに鏡夜の頭に棍をたたきつけた。

ガッと嫌な音がし、鏡夜がひざを突く

「終わり?」

とフードは棍を肩に乗せてトントンと叩いた。

「っ! 鏡夜!」

額から血を流した鏡夜に粉雪が悲鳴を上げて駆け寄る

「馬鹿・・・女・・・逃げろこいつは雑魚じゃ・・・」

「んじゃ、彼氏君の前で君は強姦決定!」

と棍を振り上げた瞬間

ドオオオン

「おっと!」

衝撃で棍を揺らしたが取り落とさずにフードは新たに現れた相手を見た。

「何?新手?」

さて、護衛は表に出てきましたよと

「人の弟と友達の妹に何してやがるてめえ」

そう、怒りで戦闘狂モードを発動させた俺はデザートイーグルで棍を弾き飛ばそうとしたがフードはそれを飛ばされなかった。

紫電を抜いてフードと対峙する。

いきなり、刀を抜いたのは相手の力量を悟ったためだ。

少なく見積もっても小太刀のみで戦うアリアと互角かそれ以上の戦闘力があいつにはある。

「・・・」

無言で紫電を両手で構えて相手との距離を少しつめる。

「くっ・・・なんでおまえが・・・」

「動かないで!」

と粉雪ちゃんは買ったらしいブランド物のハンカチを鏡夜に惜しげもなく当てて、血をぬぐう。

俺は残りの3人にも気を払う。

「へぇ、刀使えるんだ。んじゃお手並み拝見と」

フードが動いた。

一瞬で加速してくるとぱっと、両手で持っていた棍の左手を離して横殴りに殴りつけてくる。

それを俺は紫電で受け止めながら2歩後ろに後退しながら、右腰のワイヤーを発射した。

今日の右腰のワイヤーの先端は鉄球だ。

「うわ!」

フードはいきなり飛び出してきたワイヤーに驚いて右に飛んで回避した。

あれを回避するか?

完全に不意打ちだったのに!

「いやぁ、危ない危ない。そういやそれがあったね」

ん?その言葉に俺は違和感を覚えた。

「どこかで会ったか?」

これほどの棍の達人と戦った記憶は俺にはない。

「ハハ、何かと有名だからね君。 何気に超人ランク乗ってるし」

「何物だおまえ?」

ただの、チンピラじゃないのは間違いない。

だが俺は、こいつをどこかで見た気がする。

また、忘れてるのか?

いや、違う・・・

これは引っかかる程度だ。

「うん、名残惜しいけど白熱しすぎたらまずいからね。今日はおしまい。またね」

がしゃがしゃと連結棍をしまうと、フードはチンピラ3人にじゃねと言って走り出した。

そのあまりの思い切りのいい逃走に俺や残りの3人はあっけに取られている。

「え!先生!」

頼みにしていた人に逃げられ、3人はうろたえ、一瞬俺達を見て、特に俺を見て力量を悟ったのだろう。

「お、覚えてやがれ!」

お約束のせりふをはいて逃走して言った。

「・・・」

パチンと紫電を鞘に収めてから俺は鏡夜達に歩み寄る。

「おい、大丈夫か鏡夜?粉雪ちゃん」

「わ、私は大丈夫です。椎名・・・優希様、でも鏡夜が・・・」

粉雪ちゃんが持つブランド物のハンカチは真っ赤に染まっていた。

「もういい。血は止まった」

といい、鏡夜が立ち上がった。

「病院行くか?」

「必要ない・・・」

負けたことが悔しいのだろう。

鏡夜は粉雪ちゃんのハンカチをポケットに入れるとふらふらと歩き出す。

「鏡夜!」

粉雪ちゃんが後を追おうとするが

「放っておいてやろう粉雪ちゃん」

「で、ですが怪我が・・・」

「男にはプライドってもんがあるんだよ。馬鹿でも女の子の前では情けない格好は見せたくないもんさ」

「理解できません!」

粉雪ちゃんは怒っているようだが少し、反省してもらわないとな」

「元々、夜遊びした粉雪ちゃんにも責任はあるけどな」

その言葉に粉雪ちゃんははっとし、事態の重大さに気づいたらしい

「ゆ、優希様助けていただいたことには感謝してます。 こ、このことは星伽にはなにとぞ内密にしてください」

今になって、恐怖がよみがえってきたのだろう。

粉雪ちゃんはぽろぽろ泣きながら言ってきた。

なんとなく、ここで鬼畜な奴なら黙っててやるかわりに・・・という展開になるんだろうなと考えてから

素直に

「いいよ別に」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、まあその代わり条件がある」

条件と聞いて粉雪ちゃんはびくりと体を震わせた。

ある程度の条件は飲まないといけないと怯えているんだな・・・

心配要らないさ俺の条件は切実だ。

「覗きと、色魔ってところ水に流してくれないかな?」

ハハハと苦笑しながら言うと粉雪ちゃんは目を丸くして

「それだけでいいのですか?」

「ああ、それだけでいいよ」

というか色魔だのといわれ続けたら俺の精神崩壊しちゃうからな

「あ、ありがとう・・・ございます」

「言いって、んじゃ帰るか」

送っていくと言って紙袋を拾い、粉雪ちゃんと歩いて駅に向かい歩き出す。

鏡夜は心配しなくてもいいだろう。

あいつは、意地っ張りだし構えば余計に拒絶してくるだろうからな・・・

それに、姿は見えないが椎名の護衛の気配もあったから俺が出なければ彼らが出ていただろう。

丁度、電柱の上で粉雪ちゃんを尾行していたあの白雪さんみたいにな

後は任せとけよと目配せすると白雪はごめんねと手を合わせてきた。

いい姉さんだな粉雪ちゃん。

さて、一応粉雪ちゃんのことが星伽にもれないように・・・

何人かにメールしてから最後に戦ったあいつのことを思い出す。

一体何者だったんだ?

土方さんもいないし、あいつを調べる方法はあのチンピラを締め上げることだがおそらく奴らは知らない気がする。

一応、救急車をあいつらが倒れている場所に手配しておいたがもう、関わることもないだろう。

ま、いいか

翌朝、星伽の運転手を名乗る美人のお姉さんがやってきた。

長ーいリムジンが止まってるな。

椎名も金はあるがリムジンは金持ちの相場だな・・・

俺は隼のほうが好きだけど

帰る準備をすませていた粉雪は大きくなった風呂敷包みを運転手に渡すと玄関で三つ指をついた。

「逗留中、何から何までお世話になりました。優希様、お姉さま、遠山様ごきげんよう」

少しは、男に対する態度も軟化したらしい

キンジもああ、粉雪も元気でなといっても不快そうな顔はしていない。

白雪が車まで送るというので俺達も車まで向かう途中、エレベーターを降りて俺のそば場までやってきた粉雪ちゃんは

「優希様」

「ん?」

ちょっと赤くなりながら、怒ったように

「鏡夜に守ってくれてありがとうと伝えておいて下さい」

「直接言ったらどうだ? まあ、伝えとくけど」

といいながら俺はメモを粉雪ちゃんに渡した。

鏡夜のメアドと電話番号、そして、俺の連絡先だ。

「困ったことあったら力になるぞ? 俺こう見えて人脈すごいから」

「はい」

粉雪ちゃんが鏡夜に直接ありがとうというかは微妙だがなんだか見ていて楽しいな

「優希様、鏡夜はこの武偵高に来年入学するのですか?」

「どうだろう? 一応、興味はあったみたいだけど、なんでだ?」

「私は武偵という仕事を侮辱していました。ですが、ここにきて認識を改めることにしたんです。まだ、好きにはなれませんが

お姉さまは結局、星伽に帰る意識がないということが分かりましたので逆に考えたのです。それなら私がくれば

ずっとお姉さまと一緒にいられるのではないかと」

どれだけお姉さま大好きっ子なんだこの子は・・・

その未来を想像したのか粉雪ちゃんは笑顔を俺に向けてきてくれた。

そして、俺も想像してしまう。

東京武偵高の制服を来た鏡夜と粉雪ちゃんがいがみ合いながらも供に歩いて行くその姿を・・・

そんな未来もあるのかもしれないな・・・

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第181弾ー8月30日の悪夢

世の中には理不尽な力というものがある。

それは、戦争で軍隊に蹂躙される民間人や民兵なんかがその気持ちを理解できるだろう。

すなわち、勝てっこない。

逆らうだけ、無駄だなのだ。

ドオオオンと大砲のような音がし、その理不尽な力が相手のゴールに突き刺さる。

電光掲示板を半笑いで見ると

港南高校5−東京武偵高98

5対98というサッカーでは絶対にありえない数字がそこにはあった。

野球だってこんな馬鹿げた数字は存在しないだろう。

「もうやめて!港南高のライフはとっく0よ!」

観客の女性が泣きながら悲鳴を上げる。

その通りに、すでに港南高校の面子は前半の威勢はどこにやら・・・

完全に戦意を喪失していた。

だが、試合放棄だけはしないという最後のプライドだけは残っているらしい。

そのプライドこそがこの悪夢を長引かせていると知りながら・・・

ピー

港南高校のキックで試合が再開された。

のろのろと味方にパスしようとしたのを不知火に簡単に奪われ

「山洞さん!」

蹴り上げた先にいたのは秋葉だ。

「タイ○ーシュート」

原作とはまったく違うのにその名前を言いながら5メートルほど飛び上がった秋葉は空中から右足を軽くボールに当て

ると次の瞬間、風がボールを包み込み、光を暴風で屈折させたのか光を放ちながら弾丸のように数十メートル離れた港南高校のゴールに突き刺さった。

ゴールキーパーはいない。

秋葉のシュートの直撃を受けて何人か交代したがすべてが倒されてしまっていた。

まあ、音速を超えたシュートの直撃を受けたらまず、無事ではいられまい。

秋葉は風のステルスでただ、シュートしただけという演出をしているので反則もとられないしな・・・

港南高校5−東京武偵高99

「ちょっとやりすぎたかな・・・」

ここまで来ると相手がかわいそうで仕方ない。

ちなみに、ステルスを使うこと自体は違反ではない。

ステルスがあまり、認知されていないこともあり、ステルスを試合で使用してはならないなんてルールは

存在しないのだ。

「あの子一人で勝っちゃいそうね優」

やることがあまりないのでアリアが寄ってきたが俺はその虐殺の光景を見ながら

「人間が蟻を踏み潰す時ってこんな気分だよな・・・」

「クフフ、理子に感謝しないと駄目だよユーユーこんな楽なクエスト持ってきたんだから」

勝てば1.7単位もらえるこのクエストは理子が紹介してくれたものだ。

ダムダム弾を密造していた東京武偵高のサッカー部が停学になったので変わりに11人集めて試合に勝てという

内容で負けても0.6単位入るというおいしい仕事だったのだが前半は俺、理子、アリア、秋葉、キンジ、武藤、不知火

、ジャンヌ、マリ、レキ、白雪という不知火以外素人集団のため5点とられ相手は楽勝だと笑っていたのだが

切れた俺が秋葉にステルスを使えといった後半がこんな結果になったのだ。

防御も完璧で風のガードがゴールを守っているため、相手はもう、点を入れることはない。

「もう、いいんじゃないのか?」

99点とれば十分だろう。

試合時間は残り30秒、この点差からロスタイムはありえない。

「3桁で敗北なんて冗談じゃねえ!みんなこの1点だけは決めさせんな!」

100対5なんてなれば、確かに歴史に残る大敗北で未来永劫語り継がれるだろうな伝説の試合として・・・

99でも同じだと思うが・・・

「優君?」

どうしますかと俺の方に風で声を飛ばして聞いてくる。

もちろん俺は親指を立てて首を切るしぐさをした。

止めをさせと

秋葉は頷くと相手からボールを奪い取った。

これもまた、風でボールを弾き飛ばして

「あ、あのごりら女にボールがわたったぞ!」

悲鳴が港南高校に響く

「誰がゴリラなんですか?」

秋葉が飛び上がる。

「死守しろ!なんとしても!」

射線上に港南高の連中が飛び込んでくる。

「なるほど、ボールは友達怖くないですね」

と、秋葉行ったがそれ違うから!

ドオオンと大砲のようなシュートが暴風を纏い放たれる

「ぐああ!」

まず、1人のがゴミのように弾き飛ばされ

「あべし」

2人目が回転しながら吹っ飛ばされる

「ちくしょおおお!」

無謀にもヘディングで止めようとした奴は縦にくるくると回転して地面に突き刺さった。

そして、最後には

「ボールトモダチ!コワクナーイ!」

ロドリゴとかいうブラジル人が立ちはだかり、腹にまともにボールを受けた

「うごはああ!」

ロドリゴ君は吐血しながらボールごとゴールのずたずたになったネットにボールごとシュートされてしまう。

てんてんとボールが転がりながらロドリゴ君はぴくぴくと痙攣しながら

「ぼ、ボール怖い」

と気絶してしまう。

それと同時に試合終了のホイッスルが鳴り響いた

この試合を見ていた人はいう。

「あれはもう、サッカーじゃない。虐殺だ」

まあ、こうして俺達の単位は補填されたんだが・・・

事態はそう甘くなかった。

『椎名 優希 ステルス乱用の首謀者のため、単位半減0・3進呈、残り、0.4不足、遠山キンジ単位補填完了』

そう、8月30日の時点で0.4の単位足りないという恐ろしい事態が俺を襲う。

これは・・・もう駄目だ・・・

1日0.4は不可能だ。

そう思って最後の希望を求めてマスターズに足を運んだのだが担任の高天原先生には

「1日で0.4はちょっと無理ね」

といわれてしまった。

それは留年確定といわれた瞬間だった高天原先生はあ、そういえばと書類を見てから

「椎名君剣使えたわよね?」

「はい? 使えますけど?」

「今年は始業式の水投げ前のセレモニーとして試合をすることになってて、今年は中国の留学生

が出場することになってるの。椎名君その相手にならない? 勝ちか引き分けで0.4単位特別に進呈できるけど?」

うーん、あんまりみんなの前で刀握りたくないが背に腹は変えられないか・・・

「ちなみに負けるとどうなるんですか?」

と、念のため聞いてみると

「留年確定ね」

と先生は苦笑して言った。

冗談じゃねえぞ。

絶対勝たなきゃなんねえ

こうして、夏休み最後の日8月31日が始まった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第182弾 私と結婚してください

8月31日というのは学生にとっては悪夢の日でしかない。

これまで、1ヶ月という最強のだらけ期間の最後の日だが、宿題をしていないもの、生活時間がめちゃくちゃに

なって明日起きれない。

というか、学校行きたくないと絶望をかみしめる日でもある。

まあ、俺達はなんとか単位の見込みがついたし宿題も終わらせてあるからそこまでは焦っていはいないが・・・

「熱い・・・」

「言うな優・・・余計熱くなる」

顔に冷やしたタオルを置いてるキンジが言った。

ちなみに俺は台所のテーブルに突っ伏しており、キンジはソファーでだらけている。

現在の時刻午前10時、更に言えば気温は30度という記録的猛暑である。

そして、救世主であるはずの冷房は壊れていた。

修理を依頼しようにもこの時期は業者もてんてこまいでとてもじゃないが修理にこれる状況にないらしい。

更に、悪夢だが、扇風機もこの部屋には存在しない。

「秋葉・・・帰ってきてくれ・・・」

あいつがいれば、風を巻き起こして涼しいのだがあいにくあいつは、理子とジャンヌと共に東京ビックサイトに行ってしまい

いない。

なんでも、ジャンヌではない元イ・ウーのメンバーの漫画のアシスタントをしていて今日出すんだそうだ。

何やってるんだかあいつ・・・

ちなみに、白雪は明治神宮の祭事とやらで朝からおらず、明日の朝まで帰ってこない。

「学校行くか?」

と、ぽつりとキンジがつぶやいた。

そうだな、図書室とかなら夏も開放されてるし、クーラーだって効いてるはずだ。

暑さから逃げるのはいい考えだろう。

ほかの連中の部屋に行ったりと案はまだ、あるが緊急避難的に学校に行こう。

                †

こうして、俺とキンジは学校に来たのだが・・・

「まじか・・・」

運の悪さは続くというもので図書室のクーラーも壊れていた。

しかも、4つあるクーラー全てがアサルトの馬鹿が暴れて破壊したらしい。

「ハハハ・・・学校まで来てこれかよ・・・」

「どうする?どっか行くか?」

うんざりした顔でキンジが聞いてくるがこの熱い中涼んでいかないともう、外には出たくない。

汗をハンカチで拭きながらどうするかなと考えていたとき

「あれ? 優にキンジ?」

そのアニメ声に振り向くと

「アリア? なんでここにいるんだ?」

夏服姿のアリアだった。

ツインテールをぴょこぴょこ揺らしながらこっちに来ると右手を腰に置きながら

「ちょうどよかったわ。 あんた達に用があったの」

「なんだ?用って?」

 

キンジが聞くとアリアは微笑しながら

「今日は夏休み最後の日でしょ? 奴隷の休日に付き合ってあげるわ」

結構ですといいたいがまあ、こいつのこの態度にも俺は慣れてきたが・・・

「素直に遊びたいといえばいいだろ?」

「そ、そんなんじゃないわよ馬鹿キンジ!」

ふしゃーと猫のように怒りながらアリアが言ってくるが俺はふと違和感を覚えた。

なんで、こいついきなりこんなこと言うんだ?

今、かなえさんの裁判の件で忙しいはずだろ?

「アリ・・・」

「何よ!優!しゃべるの禁止! ほら行くわよ奴隷共」

「いだだだだ!耳引っ張るな!」

「は、放せ!」

こうして、俺達は学校を出て行くのだった。

         †

世の中にはwデートなんてものがあるらしい。

互いに彼女を連れて4人や6人でデートするものらしいが、今の俺達を見たらどんな感想を抱くんだろうなみんな・・・

小学生ぐらいの女の子を挟んで横浜の中華街を歩く、男子高校生2人妹と買い物するおにいちゃんか?

「これおいしいわね。 あんた達も食べなさい」

と、アリアにおごらされた(強制的)ゴマ団子を俺達は食べる。

もきゅもきゅと幸せそうにごまだんごを食べるアリアを見ていると自然と笑みがこぼれてくるな。

「何よ優?」

俺の視線に気づいたのかアリアが見上げてくる。

「いや、かわいいなって」

 

「なっ!」

ボンと顔を赤くしたアリアを見て俺は慌てた。

ちょっ、俺何言ってんだ!

「き、きゃわ・・・かわ・・・」

「小動物的みたいな意味でな」

とごまかすように言ったのだがそれがいけなかったらしい。

アリアの怒りのメーターが振り切れた。

「か、風穴ぁ!」

「ま、待て!こんな人通りの多い中で銃を出すなぁ!」

とこんなやり取りをしながら俺達はいろんなところを回った。

一緒に、メイド、執事をした紅鳴館、警備を一緒にしたカジノ(中には入らなかったが・・・)、そして・・・

やってきたのはランドマークタワーだ。

この屋上でブラドと戦ったんだよな・・・

なぜか、アリアは俺達が東京近郊で歩んだ道を追うように、回っている。

キンジも気づいているらしいがあえて言っていないようだな・・・

「展望フロアに行くわよ」

と、入場料を払って俺達は69Fの展望フロアーにたどり着く、外は炎のような夕日が展望フロアを照らしている。

「誰もいないのか?」

よく来るわけではないがというのは展望フロアに人がいないのはちょっとおかしい。

まあ、そんな日もあるのかもしれないが・・・

「ちょうどいいわね」

と、アリアはツインテールを揺らし、夕日をバックに俺達に振り返る。

「今日は2人とも楽しかったわ。 あたしはあんた達にいろいろ話したいことあったんだけどあまり話せなかった・・・楽しかったからいいけどね」

「緋弾のことか?」

「・・・」

キンジの言葉に俺も頷いた。

露骨にあの力のことは話題にすることは避けていたからな。

俺も緋刀のことは可能な限り口には出していない。

「まあ、それもね」

「あの後、どうだ?あの弾を出せたり、理子みたいに髪を動かせたりするようになったのか?」

 

率直にキンジが聞くとアリアはふるふるとツインテールを横に揺らしながら

「実は試してみたんだけどね。なんか出来なかった」

だろうな・・・俺もアリアと似た力があるはずだが発動条件は掴めて来ている。

それは『守ること』だ。

絶対に負けられないあの子を助けると特定の人物を思い浮かべるとあの力は発動する。

それは、アリアお前だ。

同じ血が流れているからこそあの力は発動するのかもしれない。

状況的に他の人物でも可能か試してみたがうまくいかなかった。

アリアを思い浮かべても同じだ。

あれは、心からあの子を助けたい、守りたいと思わない限り発動しないのだろう。

「何か条件があるのかな? あれはあれで超偵対策には有利かもっておもったけど」

アリアの緋弾の発動条件は俺とは異なるようで謎だな・・・

「あのね・・・曾おじい様はご自分でも言っていたとおり消えたわ。あの後、どの国にも情報がないの、でも、

曾おじい様は死んだと思わせて、また唐突に現れる癖があるのよ。 ライヘンバッハ、香港、カルカッタ、ニューヨーク。過去なんどもそれをやってる」

「つまりまだ生きてる?」

キンジの言葉にアリアは力強くこくりとそう信じているというように頷いた。

姉さんと互角に戦えるとか言われてる奴だ。

確かに死んだとは思えないな・・・

姉さんだって生きてたわけだし・・・

てか、姉さんならシャーロックの居場所知ってたりしてな・・・

まあ、教えてくれないだろうが

「イ・ウーは組織としては崩壊したらしいわ。リーダーが不在になって、緋弾が外部の組織に渡ったら解散することを

前もって決めてたみたい。まあ、奴らはもともとばらばらの目的を持って集まっていたみたいだからね」

「ああ、それは知ってたあっけないものだったな」

キンジの言葉に俺も頷きながら考える

イ・ウーの最後はあっけなかった。

関わっていないだけでおそらく深い部分は土方さん達が関わっているんだろうが・・・

これ以上、調べるなら本当に覚悟が必要になってくる。

ま、俺は自分の周りだけで精一杯の弱者だからな。

世界規模の話は姉さんに任せるよそれこそ、神すら倒してしまいかねない最強の姉さんにね

「それでね。イ・ウーの証拠が十分にそろったからもうすぐママの裁判が始まるの。下級裁隔意制度が適用されるから

早ければ9月中に高裁判決が出るわ。そこで無罪になって、検察が上訴しなければママは釈放されるの」

「そうか後一歩なんだな」

「よかったじゃないかアリア」

「本当にありがとうキンジ、優。 ここまでこれたのはあんた達のおかげよ」

 

 

キンジが聞くとア振り向いたアリアの笑顔。

本当にうれしそうだな。

この子は笑っていると反則的なほどにかわいいんだ。

「いいよ。別に改まって礼なんていわなくても、俺は武偵憲章第1条を守っただけだ」

「同じくといいたいが、アリアには命救ってもらったからな。気にするななんかあったら言えよ。俺達はチーム

なんだから」

「うん・・・」

アリアはなぜか、さびしそううつむいた。

「アリア?」

俺が首をかしげるとアリアはゆっくり口を開いた。

「ママの・・・無罪判決がでたらね・・・あたし・・・」

口ごもったアリアを見て俺は嫌な予感がした。

それ以上聞きたくない・・・

「あたしね・・・」

ぐすっと鼻を吸う音

聞きたくない

「ロンドンに帰るの」

その目は涙で潤んでいた。

そうか・・・ロンドンに・・・

ハンマーで殴られたような衝撃を受けて俺はアリアが自分の中でどれだけ大きな存在になっていたのかを

改めて悟った。

いつかは来る。

そうは思っていたが考えないようにしていた。

みんなで馬鹿みたいに学生生活送って卒業式にじゃあなと別れる遠い未来を思い描いていた。

だが、それは甘かったんだな

「もう学校にも来ないかもしれない。裁判で忙しくなるから。あんた達に会えるのもこれで最後になるかもしれない」

「・・・」

キンジは驚いてはいないようだった。

俺と違い分かっていたこととちゃんと心の整理つけてたんだなおまえ・・・

メンタル面弱いよな俺

「元々、あんた達との契約は武偵殺しの1件が片付くまでだった。だから本当は理子の証言が取れることが決まった

6月に満了していたのよね。でも、あたしずるずるとひっぱちゃってた。そのせいで単位不足にさせたりもした」

この子は・・・

口では乱暴なことを言っていても気にしてくれていたんだな。

俺達が単位不足になったことを

「でも、7月のお祭りでキンジがイ・ウーの件が片付くまで付きやってやるといったときは涙が出るほどうれしかったよ。

なんて優しい人なんだと思った。優あんたも優しい人、あたしがあんたを救う前からあんたはあたしに協力的だった。

土方さんや各所に手を回してくれてママとちゃんとした面会まで取り付けてくれて特に見返りも求めない。

あんたはいい奴よ」

口には出さないがアリア・・・

俺のお前を助ける理由はシンプルだ贖罪なんだよ。

父を殺し、妹の片目を奪い。家を不幸にした。

少なくても俺の周りでお前みたいな不幸な奴を許容したくはないんだ。

友達ならなおさら助ける。

「イ・ウーでの戦いでもあんた達は馬鹿なあたしのために命がけで戦ってくれて・・・あたし、あの時、あんたは・・・

あたしの最良の・・・パートナー・・・だって、思っただからこれ以上迷惑をかけたくないの」

アリアはパートナーと言った時、キンジを見ていた。

その瞳を見た俺は瞬時に悟った。

ああ、そうか・・・アリアお前はキンジのこと・・・

アリアは無理やり笑顔を作り涙声で

「な、何世界の終わりみたいな顔してんのよキンジ。ひどい顔」

「し、してねえよお前こそなんでない点だ!」

「な、泣いてないわよ!」

邪魔者は消えるか・・・

「ちょっとトイレ言ってくる」

と、気配を消してその場から離れるとエレベーターに乗り込んで下のボタンを押す。

携帯を取り出して先に帰るとアリア達にメールを送ってから下降していくのを感じながらずるずるとエレベーターに座り込む

まいったな・・・

あの時のアリアのあの目、鈍い俺でもわかるぞ・・・あれはアリアはキンジのことを・・・

「ったく・・・俺の初恋終了か・・・」

思えば、俺はアリアに惹かれていたんだと思う。

だけど、信冬のことや秋葉のことなどでいろいろと気持ちがぐちゃくちゃだったからな・・・

ロンドンに帰ると言ったアリアの言葉にショックを覚え、アリアがキンジの見るその目を見て気持ちに気づく。

は、情けねえな・・・

まぁ、恋なんて実際俺には過ぎたものだ。

ただ、実家の力で犯罪者でなくなり、家族を殺した俺なんかじゃあの子には決して合わない。

それに、家族以外にも俺は・・・あの子の母親を殺したんだ。

俺だけが幸せになるなんてできない。

まあ、キンジとならうまくやれそうだなアリア・・・

エレベーターの階層を知らすランプが下に行くのを見ながら俺はつぶやいた。

「情けねえ」

アリアかららしい着信のバイブレーダーを手に感じながら俺は思った。

             †

夕日が沈んでいく中、学園島に戻ってきた俺はやけ食いしてやると都内で買った紙袋を持ち歩いていた。

ふーむ、やけ食いもいいが汗流しまくるのもいいな・・・

秋葉はまだ、ビックサイトか?

そこで、俺はふっと微笑む。

何か、アリアに振られたような直後って感覚じゃねえな・・・

なんだかんだで秋葉のこともよく考えてるしあいつも、俺の中では特別な奴だからな。

そこで、ふと思い浮かんだことがある。

「そういや、レキのあれいつなんだ?」

助ける代わりに一つ言うことを聞くというあの件はまだ、なされていない。

うう、何か怖いなとんでもないこと言ってきたらどうしようとか考えてみるが

まあ、レキに限ってそれはないか・・・

カロリーメイト1年分とかかな?

『おお?本妻はちゃんとキープしてるのか』

ふと、姉さんがレキと一緒にいる時そんなこと言っていたのを思い出した。

まあ、冗談だろうがレキと結婚とかしたら・・・仕事から帰ってきたらカロリーメイトが机の上に並んでいて

「晩御飯です」

とか言いそうだ・・・

主食がカロリーメイトに・・・

いやいや、死ぬから!

なんて、にやにやしながら考えている自分にあきれる。

失恋直後に別の女の子のことばかり・・・

大丈夫かな俺?

ん?携帯か?また、アリアか?

「優さんですか?」

「レキか?」

丁度お前のこと考えてたんだよとは言えないのでそういうと

「来て欲しい場所があります。今からこれますか?」

「今から?」

寮にたどりついたので荷物を部屋に放り込んでソファーに座る。

「はい、契約のことで話があります」

ああ、それも考えてたな。

それ関連ならいかないわけにはいかないか・・・

レキにばらされたら俺、殺されるからなアリア達に「了解。どこ行けばいい?すぐにでるよ」

            †

レキに指定された場所はインケスタ棟の屋上だった。

ドアを開けると夕日に照らされて体育すわりしているレキがいた。

夕日といつものヘッドホン、体育すわりとドラグノフ、レキならなんか絵になるな。

「来たぞレキ」

無表情のレキの近くまで言って言うとレキは首をこちらに向けてきた。

「アリアさんと一緒にいたのですか?」

「あ、ああまあさっきまでな・・・」

失恋しましたとは言えないのでそういうとレキはすっと立ち上がった。

「契約を果たしてください優さん」

いつも、無表情なレキ、だがその琥珀の瞳にはいつもはない意思を感じさせられる。

「ふ、風呂でのなんでもいうこと1つ聞くって奴だろ?なら・・・」

「・・・」

レキは目を閉じてふるふると首を横に振った。

「違います。古きあの日の約束を風は果たせといっています」

「ふ、古き約束?」

また、過去の俺何かやらかしたのか?

思い出せない過去の中には長期間のものもあるから・・・

「な、なあレキそれって子供の頃の話だったりするのか?」

「はい、7年前の約束を」

やっぱりか!丁度空白部分だ。

それより気になるのは

「その約束ってなんなんだ?」

「・・・」

レキは音もなく俺のそばまで歩み寄った。

そして、顔を近づけてきて・・・

お、おい!

 

その小さな唇が俺の唇と触れ合った。

き、キスしてるのか?

目を見開きそのミントのようなにおいにむせ返りそうになりそうになるとレキは離れた。

「れ、レキ・・・」

わけが分からない。

これは一体・・・

「優さん。私と結婚してください」

え?え?結婚?って・・・何ってるんだこの子?

「け、結婚ってレキお前何言ってるのか分かってるのか?そ、それに俺には許婚が・・・」

とっさに逃げるために信冬のことを前に出す。

レキだってこのことは知っているはずだ。

だが、レキは引かない。

まっすぐに俺を見たまま

「私もあなたの許婚です」

と、とんでもないことを言ってきた。

あ、頭痛え・・・どういうことだ

「ちょ、待て! 俺とレキが許婚? 初めて聞いたぞ」

「あなたは、水月希にの記憶操作の副作用でいろいろなことを忘れている。ですがあなたと私は許婚です」

「しょ、証拠はあるのか?」

「・・・」

レキは黙ってポケットから紙を取り出して広げ・・・

そ、それ婚姻届じゃないか!

「れ、レキなんだそれは!」

見るとご丁寧に俺の名前が書かれている。後はレキの名前を書いて役所に届ければ受理されるだろう。

俺が18になればだが・・・

しかも、ちゃんと判子まで押されている。

「あの日、ウルスの里で約束されました」

そこまで、来て俺はようやく1人の存在を思い出した。

「まさか、姉さんか!」

実家の連中がこんなことをするとは思えない。

ましてや、武田と二重の許婚なんてことをすれば下手したら戦争になる。

だが、姉さんがそれをしたんだとしたら・・・

婚姻届もおそらく姉さんが・・・

「はい」

とレキも頷いたがここで認めてはいけない婚姻届は出さないと意味がないんだからな

「それを渡せレキ! ていうかそんなもの無効だ無効!」

と、俺が1歩踏み出そうとした瞬間、レキは俺にドラグノフを向けてきた。

「っ!」

反射的に紫電に手をかけるがレキは発砲しない。

「私と結婚してください」

と無表情に再び言ってくるが

「い、嫌だ」

こ、こんな強引な求婚があるか!

ああ!てか、粉雪ちゃんのプロポーズがあるって話はこれか!優秀だよ粉雪ちゃん・・・あたったんだからさ

「では、お風呂の約束を使います。私と結婚してください」

こ、ここでそれを持ち出してくるか!

「待てってレキ!お前おかしいぞ!なんで、いきなりそんなこと言ってくる!」

「風が言っています。あなたは璃璃色と共にあるべきです」

ああ、もう分けがわからない。

「少し待ってくれ姉さんに電話する」

と、携帯で姉さんに電話するとどうやら、国外にいるらしくしばらくしてから

「はいよ。なんだ優希?」

「・・・」

レキは黙ってドラグノフを俺に向けているので警戒しつつ

「今、レキに求婚されたんだけど・・・」

「おお! よかった優希結婚おめでとう」

「ふざけるなこの馬鹿姉! どういうことだよこれ!姉さんが段取りした見たいじゃないか!」

「いや、提案してきたのリンだし」

姉さんの昔のチームメイトか・・・

「なんで昔のチームメイトがレキと関係あるんだよ」

「え?リンはウルスの一人だからな」

もう勘弁してくれ・・・

次々に頭の痛いことばかり言ってくるこの姉さん適うなら殴りたい・・・

ぶっ飛ばされるのが落ちだが・・・

「1度帰ってくれ姉さん・・・」

「えー、遠いからやだ」

ぶつんと電源を押して通話を切ってレキを見る。

どうやら・・・本当らしい。

姉さんがどんな意図を持ってこの縁談を組んだかは分からんが・・・

ここで受け入れるわけにはいかない。

レキが嫌いなわけじゃないんだが・・・

「話は終わりましたか?」

「ああ、終わったよ」

目を閉じて俺は言った。

「では私と結婚してください」

「1つ聞かせてくれよレキ」

目を閉じたまま俺は言った。

「はい」

「お前は俺のこと好きなのか?」

「風はあなただといっている」

それはつまり、俺のこと好きでもないのに風とかいう電波に従ってるだけか・・・

「できないレキ」

正面から向き合いながら言うと

「では私と勝負してください」

「勝負?」

「私はここからあなたを襲います。あなたの7つの制服のボタンを外せば私の勝ち。キリングレンジから逃げ切れば

優さんの勝ち。私がまけたら求婚は撤回します」

やりにくいな・・・

スナイパー相手だし・・・

だが、ブレザーのボタンを全部飛ばすなんて芸当神業だ。

それに、俺には変幻自在のワイヤーもある。

キリングレンジは2キロちょいだからこの勝負勝てる。

「いいぜそれで。ついでに温泉の約束もなしにしてくれ」

「はい、ですが私が勝てば・・・」

「結婚だろ。してやるよ」

ちゃきっとレキはドラグノフを構えながら

「逃げられませんよ」

この時の俺って考え方甘かったと後に俺は思い知らされた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第183弾 優希vsレキー世界一激しき求婚

ミスったな・・・

目を開けて戦闘狂モードになった瞬間、そのミスに気づいた。

この距離なら、逃げるのではなく戦闘を勝負形式にすれば確実に勝てたがもはや、後の祭りだ。

「ルール確認だレキ、これから俺は逃げるがお前のキリングレンジ2051メートルから外に出たら俺の勝ち、

胸のボタン7ち全て吹き飛ばせばレキの勝ちだ」

「はい」

レキが頷く

「開始宣言から10秒後からレキは撃っていいがそれまでは撃たないこと。外部の協力はお互いに無しだ」

「・・・」

レキは黙って聞いている。

もっとも、この状況で助けを求めても無駄だろう。

確実に防げる姉さんはこの縁談に噛んでるし、その他の面子も時間的に無理。

というか、それは俺のプライドが許さない。

それに、今の俺はこの鬼ごっこを楽しみにしている。

困ったものだこの状態は・・・

とはいえ、ハイマキは例外だ。

あれは、レキの戦力、人間じゃない以上使うのは問題がない。

「何かいいたいことはあるか?」

「あなたが負ければ私と結婚する。誓いますか?」

「・・それでいい」

ちょっと、躊躇したが承諾する。

「それでは始めましょう」

その言葉が合図だった。

俺は屋上から飛び降りワイヤーを使って折りながら正面の壁に向かいワイヤーを発射する。

ターザンのように移動する途中

パァンとドラグノフの発砲音、同時に胸の第1ボタンが吹っ飛んだ。

「っ!」

もう、10秒かよ!

地面に降りながらレキから死角に入りながら武装を確認する。

ビリヤード撃ちは無理だ。

同じ理由で銃弾切りも使えない。

あれは、相手が見えているからこそ、出来る業だからな。

さて・・・どうしたもんか・・・

ビルを背に考えているとチュンと左から音が聞こえ、胸の第2ボタンが吹っ飛んだ。

「ち、跳弾かよ!」

見えてないはずなのに!

舌打ちして再び走り出す。

走りながら状況的にワイヤーが封印されている事実に気づく。

駄目だワイヤーを使って飛び上がったその瞬間、撃たれる。

レキにはワイヤーの存在が完全にばれている以上複雑な機動をしても見破られるだろう。

「ちくしょう!だからスナイパーとは戦いたくないんだ!」

見える相手なら剣術や銃で防御できるがこの手の相手は昔から、一方的に殴られるパターンが多い。

撃たれる状況を作る時点で負けといってもいいのだ。

姉さんとの旅の知識の対抗策ではこの状況には対応できない。

スナイパーに狙われてもあの人は手から光弾を放ってスナイパーがいる場所ごと殲滅してたからな。

俺にはあんなこと出来ないし仮に出来てもレキ相手にする選択肢はありえない。

あいつだって友達なんだし

その友達に狙われてるんだがな俺

商店街に入る。

人通りが多い場所なら撃てねえだろレキ

そう思った瞬間右手のカザフボタンが吹っ飛んだ。

地面には弾痕がある。

人がいてもおかまいなしか!危ないだろうが!

と心の中で怒鳴るが、分かっているのだレキは外さない絶対の自信がある。

今も3発全てが俺のボタンに命中しているのだ。

実戦ならすでに3回死んでいる。

「くそ!」

隼が頭に浮かぶが駄目だ。動きが制限される。

バイクが駄目なら・・・

目に入った店に飛こむ

「あれぇ?お兄さんじゃないですか?」

エプロンを着てがらがらの店の中でテーブルを吹いていたアリスが顔を上げる。

「訳は今度話すアリスちょっとだけいさせてくれ!」

「え?どうしたんですか?」

中華料理屋炎の奥に飛び込んで机の影に座る。

ここなら大丈夫だな。

さて、考える時間を・・・

「また、何かに巻き込まれてるんですかお兄さん?」

「ちょっとターミネーターの襲撃をな・・・」

半笑いしながら言った時

「ぐるおん!」

ん?

「げっ!」

ハイマキ!

炎の入り口実家でレキがつけさせていた防弾鎧で武装したハイマキがいたのだ。

「くそ!」

紫電に手をかけながら

「アリス下がってろ!」

「え?あれレキ先輩のわんちゃんですよね? 何で、お兄さんが戦ってるんです?」

「だから、跡で話すって・・・」

あれ?ハイマキが襲ってこない?

見るとハイマキは入り口で頭を下げて両足を広げて踏ん張っている。

「しまっ!」

ギイインとハイマキを経由した銃弾が俺の左手のカザフボタンを吹っ飛ばした。

「ありかよそんなの!」

裏口に走り出す。

「ちょっ、お兄さん!」

困惑するアリスを内心で誤りながら外に走る。

ボタンは後3つ、ライフは後3だ。

キリングレンジの外まで後、1500メートル。

絶望的な距離じゃねえか

裏道を走っている間に1発、駄目もとでワイヤーで跳んで出鱈目な軌道を使ってみたが意味を成さなかった。

ここで、さらに1発

ま、負ける!冗談抜きでまずい!

シンやシャーロックやブラドなど見える相手がかわいく見えるぐらいだ。

『緋刀』

あの力が頭によぎる。

状況を打開するにはされしかないが今は完全に自分のピンチ、別にアリアや他の誰かがピンチな訳ではないので

力は発言するはずもない。

こうなったら・・・

俺はロジの駐車場に飛び込み頑丈そうな車に飛び込んでドアを閉めた。

ビシと車の窓にくもの巣のようなひびが入った。

レキの狙撃だが問題ない。

この車は防弾車だからな

よし、後はこの車を動かして脱出だ。

持ち主には跡で謝罪しよう。

と、ハンドルの下のカバーを外して配線に手を持っていこうとした時

ビシ ビシ ビシ

狙撃が続いている。

同じ場所に何度も何度も

寸部たがわぬ場所にだ。

やばいと思った瞬間

ガシャアアンと防弾ガラスが砕け散り、俺のボタンを1つ吹き飛ばした。

ここまで一方的なのかよレキ!

お前強すぎるだろ

後1つで俺の負けだ。

だが、武偵憲章第10条!

「武偵はあきらめるな!決してあきらめるな!」

車から出て走りながら必死に考える。

そして、思い浮かんだのは1つだった。

風林火山『林』

雪村が使っていたあの、方法しかねえ

紫電を居合いの構えで構え、ふぅと息を吐いた。

今、この瞬間にもレキは俺を狙っているだろう。

だが、落ち着け、受け流すんだ。

銃弾を林の葉が、風を流すように・・・

サアアと風が髪を揺らしていく。

だが、今の俺にはその風から様々な情報が頭に流れ込んでくる。

遠くから人の歩く音、そして、銃弾が風を切り裂くその音を捉えた瞬間

「ふっ!」

ギイインとドラグノフの銃弾を切った。

それは、2つに割れて地面に突き刺さった。

次弾が来る。

風を切り裂くその音は俺を外している。

地面に辺り跳ね返る音

「ふっ!」

ギイインと再び銃弾を切ったところで辺りの景色が通常に戻る。

駄目だ。付け焼刃で林は使いこなせない。

それに動けない以上・・・

汗びっしょりで集中力を切らしたためか戦闘狂モードが解けている。

その瞬間、俺の最後のボタンがドラグノフに弾かれて地面に落ちてしまった。

ああ・・・俺の負け・・・え?レキと結婚するのか・・・本当に?

電話がかかってきたのでディスプレイを見るとレキ

「うう・・・」

通話ボタンを押して耳に当てる

「私の勝ちです。負けを認めてください」

同年代にここまで完敗するなんて・・・

文字通り手も足もでなかったな・・・

「・・・」

俺が無言だったためか

ビシュンと俺の足元にドラグノフの銃弾がめり込んでいる。

何も言わないレキが怒って撃ったのか。

「負けを認めてください」

抑揚のない声が電話から聞こえてくる。

無言だと射殺されてしまう!

「わ、分かった俺の負けだ負け結婚するから!撃たないでくれ!」

狙撃中で狙われながら結婚発言

失恋したその日になんて状況なんだよこれ!

電話が切れてしばらくしてレキがこちらにやってくる。

な、何されるんだ

とりあえず敗者は勝者に従うもの。

とりあえず

「えっとだなレキ・・・」

と言ってみると

「今から私はあなたのものです。契りの詔は私が現在の日本語の変換したのでぎこちないかもしれませんが許してください」

ヘッドホンを外したレキは人通りのない道で俺の前でひざまずいた。

「私はこれから優さんに仕えます。あなたは私の銃を武力として自由にお使いください。私の体をあなたの所有物として

自由にお使いください」

ちょっ!レキさん言ってる意味分かってるのか!

「花嫁は主人の言うことなら何でも従います。主人に仇なすものは1発の銃弾となり必ずや滅びを与えんことを誓います」

いきなり結婚してくださいと撃ちまくった後に聞くせりふじゃない気もするんだが・・・

「ウルスは一にして全、全にして一、これからは私達ウルスの48女、いつでもいつまでもあなたの力になりましょう」

レキはそういって立ち上がり、ヘッドホンをつけドラグノフを肩にかけると微動だにしなくなった。

その瞳は虚空を見ているようだった。

一つ言いたいことがある・・・誰か助けてください、

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第184弾 RRR最後の日(?)

逃げたら射殺します。

私はあなたのものです

ようはこの2つのメッセージを俺に伝えたかったんだなこの子は・・・

というか冗談抜きに逃げたら射殺される・・・

先ほどの戦い・・・いや、人間狩からそれが可能なことは実証された。

微動だにしないレキを見ながら俺はため息をついた。

とりあえずだ・・・

「えっとなレキ・・・結婚なんだけど・・・」

キロとレキは俺を見てくる。

今更できないは許さないという目だ。

「に、日本の法律では男は18歳までは結婚できないんだよ。だから、結婚は18になるまで・・・な?」

「・・・」

こくりとレキは頷いた。

ふー、よかった。

日本以外の国で結婚するようなことになったらそのまま、レキが花嫁になっちまうからな

この状況で助けてもらうのは・・・

信冬しかいないが・・・

あいつに助けを求めたとしてなんていうんだ?

友達に結婚迫られて受諾してしまいました。

この子は昔、姉さんが決めた俺の許婚です。

駄目だ殺される・・・特に雪村辺りが激怒しそうだ・・・

信冬は・・・

「どちらが正妻なんです?」

とにっこりと聞いてくるのが思い浮かんだ。

こ、こえええ駄目だだめだ!あいつに助けを求めるのはアウト!

となると大人に助けを求めるのがベストだろう。

ここは土方さんに・・・

携帯の電話帳を呼び出してから手を止める。

パチンと携帯を閉じてからレキを見る。

微動にしないレキだがじーと俺の行動を見ているな。

傍から見ればどんな状況か知らんがまあ・・・

「とりあえず、ここにいてもしょうがないから行こうぜ」

こくりとレキは頷いて歩き出した俺の後ろをついてくる。

「後ろじゃなくて横に並んで歩けよ怖いじゃないか」

「はい」

とレキは素直に俺の横に並んで歩き出す。

「というかこれからどうするんだよ? 結婚はとりあえず18までおいといてだ」

「あなたに従います。どんな命令をしてもいいですよ」

「じゃあ、結婚を撤回してくれ」

「それは出来ません」

やっぱりね。

じゃあ、レキがやらなさそうなことを・・・

「両手の甲を頭に当てて少し曲げてにゃんと言ってみろ」

レキは黙ってそのポーズをとり

「にゃん」

と普段絶対に言わないようなポーズで無表情のままそれを言った。

すみません悪乗りしすぎました・・・

ちょっと上目遣いのそのポーズかわいすぎる・・・

「もういい・・・」

というとレキは手を下げてくれた。

どうしよう・・・

「一応な言っておくがなレキ俺は、家族と友達の親を殺した犯罪者だ分かってるのか?」

「知ってます」

「だったら・・・」

「それはあなたの本意ではない。それを私は聞きました。それを責めるようなことはありません」

だろうな・・・

「まあ、お前は一緒に実家言ったもんな。知らないわけじゃないか・・・とりあえず、今日はもう、別れようぜ

家に帰ってまた、学校でな」

と一刻も早く逃げたい俺は早足になろうとした瞬間くいっと袖を掴んできた。

「え?」

「私から離れないでください」

「なんで?」

「敵に襲われてはいけませんので」

「敵って・・・まあ、心当たりは山ほどあるが・・・」

主に姉さんのせいで世界中の組織から間接的に狙われてる可能性があるがな。

ローズマリーは最近現れないからどうなってるのか知らんが・・・

「で? 離れないってことは俺達の寮に住み着くのか?アリアみたいに」

レキはふるふると首を横に振り

「優さんはアリアさんと共にいてはいけない。私の部屋に来てください」

「アリアと一緒にいてはいけない? どういうことだ?」

「風が言っているのです」

また、風か・・・

この際、この洗脳みたいな状態からレキを開放してやるのが近道かもしれないなこの状況を打開するには・・・

幸いレキは俺のこと心から好きなわけじゃなく風とかいう電波に従ってるだけらしいし。

土方さんたちに相談したらなんとかしてくれるかもしれないが荒事になる可能性が非常に高い。

こんな状況でもレキは俺にとっては大切な友達なんだ。

実家では俺の過去を受け入れてくれたしこれまで何度も俺を助けてくれた。

できるだけ穏便にレキの風の洗脳を解く。

このロボットのような性格もきっと洗脳のためだ。

レキの人間化計画だなこれは。

よし!決めた!

「じゃあ、お世話になるかな」

幸い女子寮には秋葉もいる。

フォローしてもらうとするか・・・

そこまで、言った時だった。

カシャンと何かが落ちる音がしたので振り返ると眼鏡をかけた男が・・・む、村上?

レキ様ファンクラブRRR会長村上だった。

「か、会員ナンバー59が妙な会話を傍受したから来てみれば・・・まさか・・・」

ショックを受けたように村上は後ずさる。

「れ、レキ様どうか答えてください。椎名 優希にプロポーズしたというのは本当なのですか?」

「・・・」

レキが俺のほうを見てくる。

俺が頷くと

村上を見ると

「本当です。私は優さんに求婚し、優さんもそれを受け入れました」

「のおおおおおおおおお!」

村上は発狂したみたいに頭を抑えて地面に倒れる。

ゴオオオンとやばい音を立ててアスファルトに頭を打ち付ける。

「嘘だ!嘘だ! おのれ椎名優希!レキ様を脅したな!そうに違いない!」

「脅してねえ!むしろ脅されてるのは俺だ!」

「嘘をつくな! あのレキ様がそんなことなさるはずがない! こうなったらRRRの総力をあげて貴様を抹殺してやる!

全軍かか・・・」

その瞬間、レキが動いた

とっさに俺は

「レキ!殺すな!」

紛れもない殺気を俺は感じたのだ。

レキはドラグノフを構えると3発、更に路地から出てきた2人に

向けてドラグノフを撃った。

防弾制服越しだが肩を抑えてのた打ち回る2人

RRRの会員だな。

「れ、レキ様どうして」

チャキとレキはドラグノフを村上に向けた。

村上はショックなのか動けないでいる。

トリガーに力が入った瞬間

「やめろレキ!」

と俺が怒鳴るとレキはぴたりとロボットのように動きを止めた。

こ、この場を収めるにはこれしかねえ!

俺はレキの肩を掴んで抱き寄せると腕の中に抱いて

「お、俺とレキは付き合うことになったんだよ。お前らいい加減にしないと俺の彼女に射殺されるぞ」

付き合っているということにすればこの状況も村上たちは理解できるかもしれない。

だが、俺は甘く見ていたRRRという存在はレキを神格化しているのだ。

「み、認めるものか!レキ様は孤高の・・・」

「私は優さんのものです。 これ以上優さんに害を与えるというなら私は1発の銃弾となりあなたを滅します」

村上の声をさえぎるようにはっきりとレキにいわれてしまい村上は完全に言葉をなくししばし、呆然として黙ってしまった。

魂が抜けたという表現が正しいのか・・・

くいとレキが俺の袖を引っ張る

「私の部屋に行きましょう。ここは危険です」

と、非公認とはいえ完全に自分のファンクラブを危険物扱いをしたレキに引っ張られ俺はそこを後にした。

最後に聞こえた村上達の言葉は

「もう・・・レキ様ファンクラブは・・・おしまいだ」

と悲劇に満ちた声だけだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第185弾 ロボット少女のお部屋2

村上達を置いてやってきたのは女子寮だ。

何度か来た事あるしレキの部屋にも泊まったことはあるがあれは、アリアがいたからな・・・

2人きりで泊まるという事態は出来るだけ避けたかったので

「秋葉を呼んでいいか?」

とレキに言ってみたがレキは首をふるふると横に振った。

援軍の許可は出ないわけですね・・・

まあ、秋葉はビックサイトに行っているだけだからすぐに帰ってくるしその気になれば、探知して俺の居場所を探ってくるだろう。

女子寮の中を俺がいるのはまずいのでこそこそとレキと階段を上がり、レキの部屋の前までやってきた。

寮監のばれたら、やばいからな

中に入ると相変わらず何もない部屋だな・・・

ドラグノフを整備する機材一式とテーブルぐらい

備え付けのクローゼットには多分、下着とかが入っているんだろう。

さすがに代えがないなんてことはないだろうからな・・・

って、何言ってるんだ俺は

一瞬、レキの下着姿を思い出してしまい頭を振る。

拷問だぞこれは・・・

女の子の友達といきなり、同棲みたいなことをして、手を出せばそのまま結婚→レキエンドだ。

レキは・・・こいつは別に嫌いなわけじゃない

個人的には面白い奴だしな・・・

「優さん」

無表情の上目遣いで俺を見てくるレキ

アリアとは違ったかわいさが・・・村上たちがレキに心酔している気持ちが少しだけ分かるぞ

「ここのカードキーです、自由に使ってください」

といってICカードを俺に渡してきた。

結婚に反抗している状態で女の子の部屋の鍵をもらうということがどれほど、危険なの考えてもらいたい。

将棋で言うなら王手を指され端に追い詰められつつある状況だ・・・

とりあえずもらっておこう。

撃たれたくないのでもらっておく

しかしまあ、本当に何もない部屋だな・・・

7月に買った浴衣とかはあのクローゼットの中かな?

流石に開けるわけにはいかないので壁を背にして座ってみた。

「・・・」

レキはすっと、椅子に座るとドラグノフの整備を開始した。

銃は工具で次々と分解されて整備されていく。

マニュアルの類は見当たらないが、自分の使うぐらいはプロならマニュアル無しで整備分解しないといけないのは

分かるんだがな

整備が終わったレキは銃を構えて出来を確かめている。

「優さん今からしばらく出来るだけ息をしないでください」

それは息の根を止めるってことか?

「なんで?」

「呼気中の水分が銃弾に付着して影響があるかもしれませんので」

そういいながらレキは引き出しから梱包された7.62ミリ×54ラシアン弾を取り出した。

また、ずいぶんと神経質だな・・・

とりあえず息をする回数を減らしながらレキの様子を見ていると、レキは手袋をはめ、銃弾を1つ1つ取り出して机に

並べていく。

すごいな、あの銃弾おそらく手作りだ。

机の上に火薬の量を測る天秤まで置いてあるぞ。

俺の銃弾は基本的には武偵弾を覗けば店で買ってるもんだからな。

「・・・」

レキはじーと銃弾を見て20発並んだ中から1つ選び取って残りは足元にあったかごに捨ててしまう。

「それ捨てるのか?」

「ミスファイア・プリンペンジョンです。20発の中からもっとも出来のいい1発を使います」

「もったいないだろ? 全部使えばいいじゃないか」

「不発を防ぐためです」

「そりゃ、たまにはあるかもしれないけどさ・・・」

ちゃんと、銃の整備をして使用していればめったに起こることではないんだけどな・・・

中国製の劣悪品とかなら話は違うが・・・

「私は今まで1発も起こしたことがありません」

「だろうな」

そこまで、慎重にやってればそうそう起こらないだろう。

まして、レキは銃に絶大な信頼を置いているようだ。

「銃は私を裏切りませんから」

といって再び銃の整備に戻ってしまった。

ふーむ、レキを見ていると武器の手入れしようという気になってくるな。

「レキ、ちょっと道具貸してくれ」

といって、俺もデザートイーグルとガバメントの整備を開始するのだった。

               †

がしゃんとレキが選び抜いた弾を満載したマガジンがドラグノフに差し込まれる。

「終わったのか?」

デザートイーグルをばらばらにしたところで俺が言うと

「はい」

といって台所に歩いていってタイと一体化したスカーフを外している。

小型の洗濯機の前までレキは行き、ヘッドホンを外して自分のブラウスを脱ぎ・・・

「ちょっ!おい!」

慌てた俺は腕を部品の当ててしまいがしゃんと部品のいくつかが床に落ちてしまった。

あああ!1つでもなくしたら大変なんだぞ!ってか!

「いきなり人前で脱ぐな!」

「?」

レキは何を俺が焦ってるのか分からないらしく無表情のまま

「これからシャワーを浴びますので」

といって、ブラジャー姿でこちらを見てきたのでがんと机に俺はおでこを打ちつける

絶対に顔は上げないからな!

「肉体が汚れると体調不良に陥ります。そうなると射撃の精度に関わりますので体は常に清潔にしておく必要があるのです」

ジッパーをおろす音と共にぱさという音、スカートまで脱いだのか!

1度レキの裸は見ているがこれはまずい!

「男の前で裸になるな!馬鹿!」

「私は構いませんが?」

「勘弁してくれ」

ここまで恥じらいのない女の子は初めてだよ。

信冬は婚約者といっても目の前でいきなり、服を脱ぐ奴じゃない。

子供の頃秋葉の裸は風呂で見たことはあるが高校生になって裸になり怒ってこない奴なんて初めてだ。

「ハイマキおいで」

布の音から全部脱いだらしいレキはハイマキと風呂場に入りシャワーを浴びだしたようだ。

顔を上げて部品を拾い集めながら

「どうしよう・・・」

泣きたい気分とはこのことで、困ったことに俺は青春真っ盛りの男の子、風呂に裸の女の子が入っているという状況で

正常な考えが保てるわけがなくデザートイーグルを組み終えたのはレキが出てくる直前までかかってしまった。

襲撃受けてデザートイーグルだけなら死んでたかな俺・・・

                     †

その後、レキが出た後の風呂場にちょっとどきどきしながらシャワーを浴びた後、机に再び座っていた。

レキのほうを見ると洗った制服を着て体育座りしているな。

私服はないらしく、制服を何着か来回ししているらしい。

武偵高の制服のスカートは短い、1回白いものが見えたときは悲鳴をあげそうになったが・・・

「もう助けてくれ・・・」

とつぶやきながら秋葉にメールを送ってみた。

しばらくしてから

『何かありましたか?』

と秋葉からメールが返ってきた。

ので返信する。

『ちょっとな。お前は今部屋か?』

『はい、理子さん達とさっき別れて返ってきた所です』

『そうか』

『優君は今どこにいるんですか?』

ん?違和感を感じたので

『風で探知したらすぐ分かるだろ?』

『最近、ステルスの調子がよくないんです』

『体調悪いのか?大丈夫なのか?』

しばらく、待ったが返事がない。

『今からお前の部屋行くからな』

とメールを打って立ち上がる。

「レキ」

体育座りのまま、レキがこちらを見てくる。

「秋葉のところにちょっと行って来る。お前は先に・・・」

寝てろといいかけたが

「では私も行きます」

と立ち上がる。

い、いやそれはまずい気がする。

「いい!俺一人で」

チャキとレキはドラグノフを俺に向けた

「逃がしません」

うん、レキ花嫁は夫に従うものですからとか言っておいて・・・

「分かったよ」

とレキに同行してもらい女子寮の中をこっそりと移動する。

秋葉の部屋は実はレキの部屋から結構近い3つ隣があいつの部屋だ。

オートロックのドアだが少しだけドアが開いている。

「秋葉!入るぞ」

とドアを開けた瞬間

「え?」

まず、飛び込んできたのは白だった。

前かがみで携帯の充電器に携帯を差し込んでいる体勢の秋葉はこちらを見て硬直している。

上には大きめのワイシャツを着て下半身がこちらに向いている状態、つまり丸見えだ。

「ち、ちが!」

慌てて弁明しようとしたが秋葉は

「いきなり、ノックもしないで入るのはどうかと思います優君」

「い、いや俺はお前の体調が悪いのかって返事がなかったから心配で・・・」

「心配してくれたんですか?」

む、無表情だから怒ってるのか分からないぞ。

「そ、そうだ。体大丈夫なのか?」

「大丈夫です少しステルスが不安定になってるだけで」

と、秋葉は近くにあったスカートを着用した。

なんだかんだでやはり、恥ずかしかったのか?

「優君はよく、女子寮に忍び込めましたね。というか早すぎませんか?」

「ああ、まあ・・・」

その時、音もなくレキが俺の背後に立っていることに気づいた。

うお!

「レキさん?」

秋葉が首を傾げた。

頼むから余計なことをいうなよレキ!頼むから!

「何か用ですか?」

どうやら、秋葉はレキが自分に用があると思ったらしい。

部屋も近いからレキと秋葉は友達の関係だ。

「私はついてきただけです。優さんが秋葉さんの部屋に行くというので」

「なぜ優君についてくるんです?」

?と頭に浮かべて秋葉が聞いてくる。

「い、いやその・・・だな」

「優さんは私の夫ですから」

びしりと空間に亀裂が入ったような錯覚が目の前で展開された。

「夫?」

無表情のまま、秋葉が言う。

「どういうことですか?」

と俺に聞いてくる。

「えっとだな・・・姉さんが勝手に・・・」

「勝手ではありません。 ウルスと里で優さんは私と結婚したいといっていました」

火に油を注ぐなレキ!

というか俺は身に覚えがない!

「ちょ、ちょっと黙ってろレキ!」

「その命令は聞けません」

聞けよ!

「別に私は優さまが誰と結婚しようとしまいと構いません。私は椎名の近衛ですから」

あらか様に様をつけてくる秋葉。

お、怒ってるのか?

「だから違うって言ってるだろ! いや、結婚する話は全部嘘じゃないが・・・」

「すみません。優様私今日は眠いんです。帰ってくれませんか?」

と、追い出しにかかった秋葉の説得はもう無理だ。

「誤解なんだ・・・」

とレキと部屋を追い出されてレキの部屋に戻る。

とりあえず体調は大丈夫そうだったが秋葉の機嫌を損ねちまった・・・どうしよう

「あのな・・・レキ頼むからもう、あんなこと言わないでくれ」

「どうしてですか?」

「秋葉・・・はな・・・出来るだけ傷つけたくないんだ・・・あいつには大きな負い目もあるからな」

「優さん」

レキが俺を見ながら

「あなたは過去に囚われすぎています。それはいつかは身を滅ぼすことにつながりかねません」

「それも風の言葉か?」

こくりとレキが頷いた。

ふん、風さんよ。分かってるんだよそんなこと

ローズマリーにアリアがさらわれたとき俺は大怪我を追って生死の境をさまよった。

ずたずたになりながらもシャーロックやイ・ウーの面子と戦い、今も多くの組織を敵にして戦っている。

確かに身を滅ぼすことになるかもしれんな・・・

でも、それで死ぬならそれは俺へ罰だ。

ま、死にたいわけじゃないけどな

「消灯時間です。暗くしてよろしいですか?」

時計を見ると午後9時だ。

ちょっと早いがまあ、寝られるだろう

「いいぞ」

俺はシャンプーでいいにおいのするハイマキの体に頭をおいた。

ハハハ、枕代わりに丁度いいなお前

ちょっと、熱いけど

月明かりに照らされて目を閉じたレキはなんというか人形のようだな。

「レキ?」

寝たのかなって思って声をかけると

「はい」

とレキが目を開けた。

なんとなく、俺は気になっていることを聞いてみる事にする

「7年前のことなんだが俺はほとんど覚えていないんだ。ちょっとでいいから教えてくれないか?」

「私と優さんが最初に会ったのは7年と少し前です。あなたは半年の時をウルスの里ですごしました」

「姉さんも?」

「水月希さんは何か、中国で大きな問題の解決をしていたようです」

中国・・・ランパンがらみか?あるいは、大アルカナ?

「それで?」

「今私から話せることはこれだけです。後は自分で思い出してください」

だから、思い出せないから聞いてるんだけどな・・・

「それも風の命令か?」

こくりとレキは頷いた。

「というか風って何なんだ一体?」

「風は風です」

駄目だ聞いても無駄そうだ。

切り口をかえてと

「その俺との婚約は風の命令だからか?」

「それもあります。ですが、私は約束があります」

「約束?」

「はい」

それっきり、レキは黙ってしまう。

約束の話を聞いても無駄か

「それで結婚して最終的にはどうするんだ?俺をウルスの里に連れて行くのか?」

「いいえ、私はあなたのそばにいます。そうすれば風が自然に導くと告げています」

「ん?」

「自然に子供が出来るだろうと」

ちょっ! そりゃ結婚したらそういう行為とかするんだろうけど何てこと言うんだ!

「ただ、どうすればいいのか分からないのでその件は全て優さんにお任せします。優さんは詳しいでしょうし

花嫁は主人に身を任せるものですから」

いやいやいや!知ってるけどさ!そんな女たらしみたいな言い方・・・

「優さんは多くの女性に好かれてますから詳しいのでしょう?」

ごめんなさい恋人の1人もいたことないです

と彼女いない歴=年齢の俺はため息をついた。

でもまあ・・・信冬は婚約者といっても彼女って感じじゃないし遠距離恋愛みたいなもんだったからな・・・

こうして、一緒に過ごす婚約者?恋人?流れに身を任せたら彼女いない歴終了ということか

「詳しくはないな・・・まあ、まったく知らないわけじゃないけど・・・」

そもそも彼女作ろうと必死になったことないしな・・・

「私は何も知りません。優さんに全て任せます」

そういうのが1番困るんだが・・・

「まあ、それはいいんだが俺、卒業したら多分日本にいないぞ?ついてくるのか?」

「留学するのですか?」

「まだ、漠然としてるんだけどな」

これは、実はまだほとんど誰にも話していないのだが留学の話を友達にされているのだ。

あっちは、日本より銃社会の歴史も長いし勉強にもなるだろう。

といっても、まだ考慮している段階でもあるのだが・・・

「留学して何かやりたいことがあるのですか?」

「漠然としてるって言ったろ? まあ、俺の目的はローズマリーを捕まえることだがな」

あいつだけは絶対に野放しにはしない。

いつか必ず捕まえて罪を償わせてやる。

「レキは?何か夢あるのか?」

「いいえ、私は優さんと一緒にいるだけです」

「・・・」

なんとなくだが、想像してしまったよ。

姉さんみたいに俺とレキは世界中を回りながら犯罪者達と戦いながら、犯人を捕まえていくその未来を

だけどな、レキそんな未来はあっちゃいけないんだ。

お前が風の命令じゃなくて本心から俺が好きならそんな未来もあるのかもしれない。

でも、風の命令を受けているお前は・・・

薄暗い闇の中に見えたレキは美人だ。

アリア、理子、信冬達とはまた、違う魅力がある。

「明日も早いし寝ようぜレキ・・・」

「はい」

とレキの答えを聞いてい俺達は目を閉じた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第186弾 始業式

9日1日、始業式のその日、俺はレキと隼で登校し、体育館にいた。

武偵最初の高校、ローマ武偵高の制服を模したディヴィーザー・ネロと呼ばれる黒い制服を着るのが

慣習でずらりと、生徒達が並んでいる。

実のところ、結構俺はこの制服好きで、借り物で済ませる生徒も多いが俺は自前のものを持っている。

朝に自分の部屋からこっそり持ってきたがなんとか気づかれなかったよ。

壇上では校長の緑松が武偵の国際協力について話している。

見れば香港や中国からの留学生がちらほら見える。

2学期の終業式は出欠を取らないのでサボりたい奴はサボっていて理子の姿は見えないしアリアも忙しいのか姿が見えない。

お、キンジもいるな。

あいつは、内申点を下げられたくないんだな。

まあ、俺は留学生との刀の交流戦のために出ているんだが・・・

「はい?」

俺はその言葉を聞いて耳を疑った。

「だからね。椎名君。中国の留学生今日着てないみたいなの」

と先生に言われ俺は目が点になる。

「えっと、そうなると単位の話は?」

「普通ならなしといいたいとこだけど。こなかった相手にも責任があるから単位は約束どおりあげるわ」

ふぅよかった・・・

全生徒の前で剣術披露なんてやはり、嫌だからな。

しかし、そうなると暇だ。

俺は秋葉を探したが

「山洞? さっきそこにいたけど?」

「あれ?秋葉さんそこにいたのに」

どうやら風の能力で俺を露骨に避けているらしい気配はするのにまるで補足出来ないのだ。

なぜなんだ・・・

メールで一応弁明はして置いたのに読んですらないとかか?

ちなみに、レキは始業式のセレモニー、狙撃銃などをバトン代わりにするマーチングバンドにでるために

控え室に行っている。

だが、自由ではないのだ。

「ぐるおん」

ハイマキが変なことしたらちくるからなと俺の横にいるのだ。

逃げねえよもう・・・

どちらかといえば拘束されるのはストレスを覚えるな・・・

自由に動き回りたいのは姉さんの影響に違いない。

「優」

「椎名君ちょっといいかな?」

「よう、優ダブらないですんだみたいだな」

キンジに不知火に武藤か・・・

武藤、ひげぐらいそれよ・・・不知火は会い相変わらずきちんとしてるな

「よう、久しぶりだな」

と俺が手をあげると

「優も聞いてくれよ。昨日乱射があったらしくてよ。俺のサファリがぶち抜かれてまた、保険会社に連絡しないといけねえんだ」

は、ハハハ、すまん武藤、お前のだったのかあの車

「そんなことより、椎名君また、女性がらみでトラブルおこした?」

またってなんだよお前!

「まじかよちくしょー!なんでキンジと優ばかりもてるんだよ!」

「俺は関係ないだろ」

「遠山君それ本気で言ってる?」

と突っ込まれてるキンジというか思いあたることは1つ

「なんで知ってる不知火」

俺は不知火の首を掴んで引き寄せるとぐいぐいと首を締め付ける

「ハハハ、聞いたというか聞こえたんだよ。村上君がレキさんと君が同棲を始めたって泣いてたから」

あの野郎!後で血祭りにあげてやる!

不知火はこれが証拠だよとばかりにハイマキの背を撫でている。

「今度はレキか! しかし、分からんな。そこまでお前レキと接点あったか?」

と武藤が聞いてくる。

昔、半年同じ里で暮らしましたとか言うのがめんどいので

「なんとなくだ・・・」

「なんとなく告白したのか?」」

「何!」

武藤が驚いてるが

「おいキンジ!誰が告白したんだ?」

「優がレキに告白したんだろ? 村上が言ってたぞ?」

こ、殺したやる村上!余計なことばかり言いふらしやがって

「で?どうなんだい椎名君?」

「してねえ!誤解だ!」

「そうなのかい?だけど神崎さん荒れてたよ」

「アリアが?」

ぎくりと、俺は硬直する。

失恋したとはいえアリアは俺にとって大切な親友なんだ。

「レキさんに椎名君がとられちゃったと思ったみたいだね」

ややこしいことになりつつあるな・・・

「この時期、トラブルが多いからねギャラバン1とかあるしさ」

修学旅行か・・・武偵高では2年に2回修学旅行が行われる。

1回目は生徒のチーム編成を確定するためのものだ。

漠然とキンジやアリア達とは組みたいと俺は考えてたんだが・・・

ちなみに、秋葉は俺とチームになりたいと言っているのでおそらくは組むことになるだろう。

まあ、9月末までに決めないといけないからあまり考える時間はないんだが・・・

というか、このチーム編成は超がつくほど、重要だ。

登録したチームは国際武偵連盟にも登録されるし組織の協力は組織の枠を超えてよいとされている。

姉さんや土方さん達の鈴・雪土月花もこれに登録されているはずだ。

「夏休みで男女関連がこじれてチーム編成に影響するのは割りとポピュラーだからね。椎名君身辺整理が出来てなかったわけだ」

「うるせえ!キンジはどうなんだよ?」

「俺はアリアに強制的にチームにされそうだ・・・」

とため息をつくキンジ

「武藤は?」

「俺は組む奴大体決まってるぜ? ロジとアムドから集めた兵站チームだ。女子もいるぞ?っても平賀あやだから色気も

ねえけどな」

ふーん、みんなきめてるんだな。

「椎名君はどうするの?やはり、強襲系?」

「俺はそれだけだな。その他はがらじゃないし」

どちらかといえば俺は知より武の人間だからな

一応、アリア達と組みたい話はここではしない。

それとなく、アリアには話してるのだ。

チーム編成一緒にやろうぜと俺からなレキも誘おうとしたんだがなんとなく、話せずにいる状況だ。

「まだ、決まってないな急いだほうがいいよ。次にこれを着るまではさ」

不知火がいったのは防弾制服ネロのことだ。

次にこれを着るのはチームの写真を撮るときだからな。

しかし、大丈夫なのか?

このまま、レキが俺とアリアがチームを組むことを許すとは到底思えんぞ・・・

前途多難だな・・・

                  †

始業式が終わると講堂前の道路ではリトルエヴァの名曲『ロコモーション』に乗せてC組の女子達がマーチングメイドを

はじめていた。

短いプリッツスカートをはためかせ狙撃銃や突撃銃を回してパレードをやっている。

武偵高では自衛隊や警察みたいにイメージアップのためにそれをやっているが左翼が毎年、子供に殺人を教えることをやめよと

くだらない弾幕を掲げて警官に抑えられている。

そんなに、やりたいなら中東か中国にでも行けよと昔の、中東での旅を思い浮かべながらパレードを見ていると

RRRの会員らしきメンバーがレキをとってるな。

ドラグノフ狙撃銃を手にクルクルと回しながら武偵高の制服ではないレアな写真だからなんだろうなとるのは・・・

まあ、いいか・・・

レキばかり見ていてもしょうがいのでその場を後にする。

ハイマキが着いてきてるがどうするかな・・・ワイヤー使えば振り切れるかもしれんが・・・

こいつ、さっきから俺の靴を踏んだり、おしっこをかけようとしてきたので殴るとぐるおんと喧嘩になってしまったりもした。

なんで、狼と喧嘩しないといけないんだか・・・

それに、今日は最悪な日でもある。

武偵高の悪習、水投げの日なのだ今日は、これは校長の母校で行われていた始業式の日は誰に水をかけてよいと

いう馬鹿なルールが曲がったものだ。

徒手なら誰にしかけてもよいというアホなルールになったのがこちらのルールだ。

RRRに襲われるのも嫌なので隠れながら歩いていると

ぷわぷわとシャボン玉のようなものが見え・・・

「!?」

だんとその場から全力で後退した瞬間、ぱちんぱちんとシャボン玉がはじける。

気にしすぎか?

「あいやや、さけるとはおもわなかたね」

「あ?」

なまりのあるその言葉の方を見ると建物の排水パイプに宙吊りになったチビがいる。

「覇王が見込むだけあるね」

キョンシーの衣装と清朝の民族衣装に似た衣装を着た女が降りてくる。

香港武偵高の留学生か?

「きひ」

こいつ、どこかであったか?

思いだ出せない・・・

 

「私(ウォ)ココいうね。お前も名乗るね」

黒のツインテールを揺らしながら言うのを見て俺はアリアに似てるねと思った。

「椎名 優希だ」

「アイヤ!アイヤヤヤヤヤヤ!!」

「酒臭い奴だなそういや、中国では飲酒に制限なかったなガキ」

「ガキ違うね。ココは昨日でもう、14歳ね」

2歳年下じゃガキだよ

「しょうがないよ。ちょっとお試しするよ。姫から離れたらすぐいたいことあるね」

「ああ、はいはい。そうですか」

相手にするのもアホらくしなってきたので俺が背を向けた瞬間

「きひ」

ココの足が俺の手に巻きつき次に首に巻きついてきた。

ぎりぎりと首を締め付けてくる。

俺の馬鹿野郎!完全に油断した!

さらに、ココは首にツインテールの髪を巻きつけてくる。

ココまで着たらもう・・・

「う・・・」

紫電に手を伸ばすが手も締め付けられている。

相手がガキだから油断しすぎた

くそ、下級生に負けたとか情けねえ

「ほれ、出来ない男はおらないね。殺すよ」

ぎりっと力が増す。

こ、こいつ本気で殺す・・・気で・・・

気が遠くなってくる。

ま、まずい本気で死ぬ・・・もう・・・どうしようも・・・

「キヒ、シャンケイケイホー」

グキグキと首の骨が外れる感覚

お、俺はこんなところで死ぬわけにはいかねえ・・・

秋葉のためにもローズ・・・マリーを・・・

(あーあ、しょうがねえな。力を貸してやろうか)

だ、誰だ?

頭に響いたその言葉を聴いた瞬間

ブオンと空気を切る音と共に

「きひ」

と首の圧迫感が無くなった。

「ごほ!ごほ!」

息をすいながら咳き込みながら俺はココを見た。

警戒するようなその視線を追う

「武偵あるもの殺人は駄目だよ・お姉さんがおしおきしちゃうぞ」

日本刀を肩に置いて不適に笑うそいつは・・・

「お、お前」

俺が言うとそいつは俺を見て

「や、久振り優希!」

片目をつぶったそいつは

「す、水!お前」

「鳳(ふぁん)水(すい)。私が相手するよ下級生君」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第187弾 伝説の少女レキ

「さあ、どこからでもかかっておいで!っと、今日は水投げなんだよね」

水は日本刀を鞘に納めると左手を前に右手を顔の横に持っていく。

「きひ」

ココが姿勢を前倒しにして水に突貫した。

一瞬で、距離をつめた瞬間

「ほっ!」

水は左手裏拳をココに放つがココはそれを酔ったような動きで交わした。

「おお!、酔拳ってやつ?」

水はココの左回し蹴りを体をひねって交わし、さらに蹴りにかかったココの足に自分の足を激突させた。

蹴りと蹴り。

押し負けたのはココだ。

ババと、ココは後退すると注意深く水を見ている。

一瞬の戦闘だったがそれだけで力量を把握したらしい。

「私(ウォ)、万武ココ。万能の武人ね。名乗るね」

「元北京武偵高、現東京武偵高 鳳 水! とおり名はないかな」

ココは次に俺を見ると

「椎名の後継 10点、赤点ね。再試験しにまたくるよ」

二度とくんな!

ココは角を曲がって消えていった。

「ぐるおん」

なんだったんだと?ハイマキが俺を見上げて言ってくるが俺が聞きたいよ。

「それ優希の犬?あ、狼か」

「俺のじゃない友達のだ」

「へー」

水はしゃがみこんでハイマキを撫でている。

「アハハもふもふだ」

ぽんぽんとハイマキの頭を軽く撫でてから水は立ち上がった。

腰よりも更に長い黒髪を白い髪留めでまとめている。

姉さんに近い印象を持つ黒い目を俺に向けて

「やー、それにしてもおひさしだね。2年ぶり?」

「3年ぶりだな。 兵庫武偵中以来だ」

「そんなにたっちゃったか・・・」

思い出すように言う水と会ったのは3年前だ。

兵庫武偵中の2学期に転向してきた水はなんというか、孤独な奴だった。

当時、俺はシン達にいじめられていたから屋上にいることが多かったんだが、水もよく屋上で寝てたんだ。

なんとなく話すようになり、仲良くなった2年になる直前、あいつは中国に帰っていった。

別に驚くことではない。

留学生が国に突然帰るなんてこと、ありえないような話でもないしな

「優希今日暇? 久しぶりだし遊びにいかない?」

「あ、ああ・・・暇といえば暇なんだが・・・」

「じゃあ・・・」

「優さん」

その声に俺はびくりとしてしまう。

「れ、レキ」

パレードが終わり、俺に合流しに来たらしいレキだった。

「おりょ? 誰その子?」

「えっと・・・」

首をかしげる水だが参ったななんて説明すればいいんだ?」

「す、水こいつはな」

「分かった彼女だ」

くししと目を細めて水が言った。

「ち、ちが・・・」

違うといおうとした瞬間、背後から殺気を感じる。

れ、レキさん?否定は許さないって意味ですか?

「そうだよ・・・」

「あれ? ええ!本当に優希の彼女!」

そんな馬鹿なという水は驚愕しているな。

「君名前は?」

と、水はレキをまっすぐに見て言うが

「・・・」

レキは何も答えないな。

挨拶ぐらいしろよ

「レキだ」

と俺が変わりに名前を教えてやると水は頷いた。

「私は鳳 水。水でいいよ。で、本題だけど優希借りていい?」

ふるふるとレキが首を横に振った。

「別に浮気じゃないよ。久しぶりに会ったから話したいだけ」

ふるふる

「ありゃ・・・独占欲強い彼女さんだね優希」

まいったねこりゃとばかりに水は右手を頭に置いていった。

レキを引き剥がしていくのは無理そうだな・・・

「じゃあ、水3人で遊びに行こうぜ」

「んん? 私はいいけど他の女の子と同伴していいの?」

こくりとレキが頷いた。

お前が見てるならいいってことか?

「よし!決まり!ご飯食べに行こ。おなかすいちゃってさ」

と俺達は学校の外に出るのだった。

         †

最初は水への案内をかねて学食にしようとしたんだがそこで俺は妙な連中に取り囲まれたんだよ。

「レキ様との日常について教えてください」

「寝顔はかわいかったですか?」

「ていうか死ね!」

RRRかと思ったがどうやら違う一派のレキのファンに取り囲まれ殴りかかられたので食事どころではなく結局

外で食うことにしたのだが炎や、他の学園島の食事どころはRRRやレキの他のファンが張っていたので仕方なく

学園島の外で食うことになった。

水と昔話をしながら歩いていたんだが、レキは何も言わずにとことことハイマキを連れて俺の後ろを歩いている。

心なしか不機嫌な気がするがお、怒ってるのか?

「ここにしよ。犬同伴可能らしいよん」

水がスマートファン(いいなぁ)といじりながら見つけたのはこじゃれたカフェだ。

お昼の時間帯を越えているので人もまばらだ。

「いいかレキ?」

こくりとレキが頷くがや、やっぱり怒ってるのかな?

       †

カフェ『ハリアー』という店の中で俺達はメニューを広げたんだが結構メニューそろってるな。

ん?なんだこれ

『アルティメットグレートハイパースペシャルパフェ3万円』

という、馬鹿みたいなネーミングセンスのパフェがメニューの1番上に書かれていた。

1時間以内に完食したらご飯が全部ただ+1万円か・・・

ルールは3人が食べ、1人がギブアップしたら次の人、さらにギブアップしたら次の人というシステムだ。

ふ、だがやらないぞ!絶対になぁ!

炎での例もあるので慎重に・・・

「アルティメットグレートハイパースペシャルカフェ1つ」

「おおい!」

水がいきなり頼み始めたので俺はばんと机を叩いた。

「いやぁ、これ挑戦したかったんだよね」

どうやら、これを見てこの店にしたらしい

「お客さん達勇者ですね」

とアリスに似たウェイトレスさんが言う。

「アルティメットグレートスペシャルパフェ、略してグレートパフェを倒せたお客さんはこれまで存在しません」

「ほほう」

きらりと水の目が光った。

うや、やる気だぞこいつ

「今日私は伝説を作る!」

「・・・」

ハイテンションの水をよそにレキは無言で机を見ているな。

ハイマキはふあとあくびしてやがる

「協力してね優希!レキさん」

勘弁してくれ・・・

こうして俺達は略してグレートパフェと戦うことになったんだが・・・

パフェがきた瞬間、俺達は目が点になった。

がらがらと巨大な台車に乗せられたそのパフェが・・・っていうかこれはパフェとかいうレベルじゃ・・・

まず、高さだが余裕で3メートルはある。幅も机一杯でまるで雪山のような白いクリームにふんだんにイチゴ

桃といったフルーツ、トッピングも完璧で普通サイズなら実においしそうだ。

「す、水責任取れよ」

と俺が言うと

「ご、ごめんこれは無理・・・」

ちなみにパフェが来るまでに3人の残金を見ると1万4千しかなかった。

いやいや、これを1時間で食えとかねえよ!炎の地獄ラーメンがかわいく見えるぞ

「でははじめて下さい」

ウェイトレスさんがストップウォッチを押してしまう。

「こ、こうなったら!食うぞ!」

俺達は全速力でグレートパフェに挑みかかった

            †

15分後

「うぇ、もう駄目・・・」

「・・・」

俺と水は死んでいた。

うえええ吐きそうだ。

だが、グレートパフェは残り2メートルはあるぞ・・・

水と俺で1メートル・・・われながらよくやったよ。

もやはこれまでか・・・

武偵憲章第10条、武偵は諦めるな決して諦めるな!

「これは無理・・・」

と、俺が横を見たとき

「・・・」

レキがスプーンを手に取ったぞ。

駄目だレキこいつは、姉さんに爪楊枝で挑むようなもんだ!

勝てるわけがない!

「フフフ、最後の戦士登場ですか。ですがあなた達もグレートパフェの餌食となるのです」

とウェイトレスのお姉さんはサディスィテックや笑みを浮かべて言う。

周りのお客さんも「また、若者達が散ったか」「くっ、奴を倒せる奴はいないのか」と

俺達の敗北を早くも決めたらしい

「・・・」

レキはひょいぱくひょいぱくとリズミカルに口にパフェを入れていく。

まずは、周りのフルーツを食べ終わると次にクリームとスポンジをひょいぱくひょいぱくと入れていく。

「おお!」

周りがどよめきだす。

20分後、パフェは1メートルを切っていた。

ひょいぱくひょいぱく

だが、レキの速度はまったく落ちない。

「な、なんて人ですか!」

ウェイトレスさんも引いている。

レキ・・・頼むよ・・・俺達を救えるのはレキだけなんだ・・・

ひょいぱくひょいぱくとパフェが減っていく。

そして、今まで誰にも見ることが出来なかった皿の底が見え、レキはひょいぱくとパフェを口に入れごくりと

それを飲み込んだ。

レキがウェイトレスさんを見ると

「私の感覚ですがあなたが計測を開始されてから49分20秒です」

と、以前アリスに言った言葉と同じように言った。

ウェイトレスさんはひざまづくと

「で、伝説が生まれたわ」

「すげええ!」

わあああとお客さん達が歓声を上げる。

今ここにアルティメットグレートスペシャルパフェは敗れたのだ。

ロボット少女レキに・・・

               †

「やあ、すごかったねレキさん」

店を出てしきりに感心している水。

つうか、あの量がこのレキの体のどこに入ったんだ?

やはり、女の子の胃はブラックホールなのか?

「・・・」

顔色一つ変えないレキ

「っと、もうこんな時間か」

スマホで時間を確認した水は俺達に背を向ける。

「じゃねまた、学校で」

「おいなんだよ突然」

「今日、人に会う約束あるんだ。彼女と仲良くしなよ優希!じゃ!」

と水は人ごみの中に消えていった。

あああ・・・また、レキと二人きりに・・・ハイマキはいるが

「仲がいいのですか?」

ん?

俺の横に並んだレキが言ってくる。

「水か? まあ、友達だからな」

「あの人は危険です」

「危険?水が?」

「何かを隠しています。 それも途方もないものを」

「それも風か?」

「はい」

それに対し、俺は少しむっとした。

「水はいい奴だぞ。 あんまり人の友達をけなすな」

「風が告げているのです。あの人に優さんは近づいてはいけない」

「いいかげんにしろレキ!あいつはいい奴なんだ。これ以上あいつのことは言うな」

「それは命令ですか?」

「そうだ命令だ」

「わかりました」

言ってから俺は最低なことをしたことに気づいた。

怒っていたといえ命令という言葉で意見を押し込めちまった。

「ごめんいいすぎた」

「いいえ」

「でもなレキ。あんまり、風の言うことばかり、聞くなお前の意見で動くようにしろ」

「それは命令ですか?」

また、同じようにレキが言って来る。

俺は笑いながら

「これは、お願いだ」

「・・・」

レキは答えない。

まあ、すぐにうまくいくとは考えてないよ。

さて、これからどうするかな・・・

「これからどうするレキ?どっか行くか?」

優さんについていきますと言うだろうな

「優さんについていきます」

やっぱりな・・・

さて、どこ行こうか・・・

と考えていたとき

「姉参上!」

どーんといきなり、俺の首に手が回り引き寄せられた。

レキも同じらしく中央に引き寄せられ俺の頬とレキの頬がぴったりとくっついた

「☆♯○▲!」

声にならない声で暴れるが腕はまったく動かない。

つうか・・・

「姉さん離して!」

こんなこと出来るのはあの人しかいない」

「ハハハ、昼間からデートとはやるじゃないか」

ぱっと姉さんが手を離したので俺とレキが振り返る。

道路の真ん中で存在感を放つその人は水月希、俺の姉さんで世界最強の人

「ほとんど、強制的にね・・・ていうか姉さん助けて!」

「やだ」

にっと姉さんは笑っていった。

だろうね・・・この話姉さんも絡んでるし

「姉さん。俺7年前の記憶がほとんど思い出せないんだよ。 なんで、レキと婚約することになったか

説明してほしいんだけど・・・」

「それは自分で思い出せ」

思い出せないから聞いてるんだけど・・・

「一つだけ教えておいてやる」

と、姉さんは少しだけまじめな顔で

「お前がレキとくっつくのは悪いことじゃない」

「家同士の問題?」

「それは私は知ったことじゃないがお前のためだ」

「俺の?」

どういうことなんだ?

レキを見るがレキは何も言わずに姉さんを見ているな

「ハハハ、義妹弟を頼んだぞ」

「はい」

とレキが答える。

姉さん公認で外堀が埋まっていく気がする・・・

「さーて未来の妹と弟と遊びに・・・」

と姉さんが言いかけた瞬間

「てめ!見つけたぞ希!」

「げっ!歳!」

見ると人ごみを掻き分けながら土方さんがこっちに向かってくる。

「姉さんまだ、土方さんから逃げてるの?」

あきれて聞くと姉さんは頷きながら

「あいつ怒らせると怖いからなぁ・・・というわけで私は逃げる。とう!」

ばんと姉さんはジャンプするとビルの屋上に降りさらに、ジャンプして視界から消えた。

通行人はにっくりした様子でそれを見ていたが一瞬のことで誰も見ていることしかできなかった。

「逃がすかあの野郎!」

土方さんはそれを追って通路の向こうに消えていった。

あの大人な土方さんも姉さんがらみだとまるで子供だな・・・

しかし、姉さんが言ってたレキとくっつくのは俺のため・・・

「?」

レキが俺を見ている。

レキ・・・お前にはどんな秘密があるんだ?

一体、俺とどんな過去を歩んだんだ・・・

一緒にいればそれが分かるのかな・・・

レキ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第188弾 修羅場

今の状況を説明しよう。

なぜか、レキに膝枕されている・・・

「・・・」

「・・・」

互いに無言だが、これには理由がある。

あのパフェのせいで気持ち悪さが限界に達した俺はレキに先に帰れと言ったんだがレキは拒否した。

ならばと、バス停のベンチで俺が寝転がろうとするとレキは私の膝を使ってくださいと言って来たのだ。

首を少し上げる体勢は楽なので甘えさせてもらったんだがああ、気持ちいい・・・

羞恥心よりも気持ち悪さから開放されたかった俺は運よく曇っている空の下で蝉の鳴き声を聞きながら

体調の回復を待っていた。

「ふぁ」

と、ハイマキのあくびの音が聞こえてきたが俺が右腕を両目に置いてレキに寝顔を見られないようにしていた。

うえ、気持ち悪いてか、レキよく、あのパフェ食って平然としてられるよな

こりゃ、今日の鍛錬はできんかもしれん・・・

♪♪♪

ん?携帯か?

ポケットから携帯を取り出して誰かも見ずに通話ボタンを押す。

気持ち悪いのでレキに膝枕されたまま

「はい?誰?」

「ゆ、優希?」

この声は・・・

「奏ちゃんか?どうした?」

「よ、用がなければ電話しちゃ駄目なの?」

「い、いやいいけど・・・」

「今暇?」

「暇・・・」

といいかけて状況に気づく。

レキに膝枕されてるなんて言ったら潔癖症の奏ちゃんは怒る気がする。

なので

「ちょっと、いそが・・・」

と言い掛けたときだった。

「ああああああ! 優先輩がレキ先輩に膝枕されてるうううう!」

ものすごい大音量の方を首を動かしてみると

げっ!マリ!

「膝枕?レキさんに?」

と電話から奏ちゃんの絶対零度の声が聞こえてきた。

ま、まずいんじゃないかこれ?

「い、いやあのな・・・」

と弁明しようとして気持ち悪くなって起き上がりかけた頭をレキの膝に戻す。

気持ち悪い・・・

マリを見ようと首を曲げると俺に更なる不幸が襲い掛かる。

「・・・」

「・・・」

理子とアリアが俺を見て固まっていたのだ。

ちなみに、理子はクレープをむぐむぐと口に押し込みながら

「や、やるじゃんユーユー、レキュは2週目からでないとルートに入れない超無理ゲーキャラなのに膝枕だ!

熱々?熱々?」

理子は混乱してるのか自分のブラウスに手を突っ込みどーんと前に突き出すようなしぐさをしてアリアにぶつかった。

そして、金縛りがとけたらしいアリアがぎろりと俺を睨んできた。

ちょっ

まずいと俺は慌ててレキの膝から飛び起きると立ち上がりかけてベンチに座り込んだ。

気分悪いのは変わらんか・・・

「れ、レキやってくれたわね! 校内ネットでみたわよ!あんたあたしに断りもなく優よ2人のチームを申請するなんて!」

え?何それ?初耳だぞ

「それについては私も聞きたいと思ってました。

ぎぎぎとロボットのように俺が後ろを向くと秋葉が無表情で俺を睨んでいた。

「どういうことですか?優君?いえ、レキさん」

「レキ、パートナーの横取りは風穴もののルール違反よ!」

そう、俺達とアリアは組んで戦うことが多かった。

俺達は約束はしてないがチームを組む可能性が非常に高かったのにレキは俺と2人のチーム申請を出していた。

それは裏切りでしかない。

というか、これは暗黙の了解で禁則だ。

「あ、あんた達が恋愛するのはあたしはどうでもいい。応援してもいいわ。だけど、パートナーの横取りは許さない!

優はあたしが調教したのよ!」

調教ってなんだよおい!

「アリアさん、秋葉さんは・・・」

レキが立ち上がり俺の横で抑揚のない声をで言う。

「優さんのなんなんですか?」

「私は優君の友達で主君です」

と、秋葉がちょっと動揺したように見える声で言った。

「優は・・・あたしの奴隷よ!」

とアリアも言うが次の言葉は2人を凌駕する言葉に間違いはない

「私は婚約者です」

理子がふおおと鼻息まじりの声をあげアリアは体を前に崩し秋葉は硬直した。

「こ、高校生同士の恋愛なんて・・・ごっこ遊びよ」

「優君。信冬様のことはどうなさるのですか?」

とアリアと秋葉が言ってくる。

の、信冬か・・・あいつがここにいないのは幸いだったな・・・

「遊びではありません。本気です。アリアさん、秋葉さん。マリさん。あなた達は今後優さんに近づかないようにしてください。

優さんは昨夜のように私の部屋に泊まり、昼もできるだけ私のそばで過ごし、夜も一緒に寝てもらいます」

もうやめて!秋葉とアリアとマリのライフはとっくに0よ!という状況で3人が固まった。

いやいやレキ!その言い方だと俺とレキは毎日その・・・親密な関係の行為ばかり夜にしてるような言い方じゃねえか!

レキは秋葉の方を見ると

「秋葉さんと優さんが互いに複雑な思いを抱いていることは知っています」

「っ・・・」

動揺した秋葉が1歩下がる。

「あなたは、優さんを縛り付けている。優さんの幸せを願うならもう、優さんに近づかないでください」

「わ、私は・・・」

顔を下にして秋葉は何かをいいたそうにした。

レキは次にアリアを見ると

「あなたにはキンジさんがいます、優さんは私のものです。引いてください」

「っ・・・」

アリアも何かをいいたそうだが顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。

マリは何かいいたそうだが迫力に押されて何もいえないようだ。

「優君・・・」

秋葉が苦しそうにその言葉を言う。

「レキさんと2人のチームを組むんですか?」

秋葉・・・

もしかしたら・・・

俺は考えてしまう。

お前は俺に束縛されすぎている。

このまま、チームを組めば更に一生お前は俺に束縛されることになるんじゃないかと・・・

だから・・・

「そういうことだな。お前は違う奴とチームを組め」

「っ!」

秋葉は衝撃を受けたようにうつむいた。

これでいいんだ・・・秋葉お前は俺に縛られないで・・・

「っ!」

怒ったアリアが俺に掴みかかってきたがレキが間に入り込むとバシィとアリアの頬にビンタしたのだ。

レキ以外の全員が驚いて目を丸くしている。

アリアはそのまま、後ろの理子にぶつかって頬を押さえている。

「優さん下がっていてください危険です」

と、友達だと思ってたレキに危険物扱いされアリアはゆらりと立ち上がった。

「もうなにもかもどうでもいいわ。レキ、よかったわね、今日が水投げの日でバリッツでやってあげる」

といって、両腕を上段に構えた。

「それにさっき通り魔の留学生に掟破りのアルカタを挑まれて結局勝てなくていらいらしてたところだしね」

まさかココがアリアにも?

背後に殺気を感じて振り返ると秋葉も格闘でレキに挑むきのようだった。

実質ハイマキをいれても3対2だレキが

「理子、バック、秋葉サポート任せたわよ」

とアリアが言った瞬間、俺は秋葉の前に出る。

気分は多少は回復した。

「優君」

秋葉が構えを取りながら言った。

「やめろ秋葉!3対2は卑怯だろ」

「そんなにレキさんがいいんですか?」

 「何?」

水投げは基本武器は使用禁止なので秋葉とは格闘になる。

そういえば、秋葉と格闘なんて初めてじゃないか?

俺と秋葉がにらみ合う中、アリアたちの戦いが開始される。

ばっととびかかったアリアにレキはろくな抵抗もできずに押し倒されてしまう。

さらに、レキを助けようとしたハイマキのしっぽを理子が掴みハイマキの前足を払い、うつぶせにさせてべたりと背中に乗ってしまう。

「アハハ、レキュこの子もらっちゃうぞ。もらってフルもっこだ!!」

アリアはレキに馬乗りになり、抵抗もできないレキにこぶしを震わせ止まってしまう。

レキは接近戦ができない。

実家でも荒木源也との戦いでもレキは格闘戦はしなかったらしい。

否、できないのだ。

スナイパーは基本的に接近戦はしない。

遠距離からの一撃離脱が基本なのだ。

「アリア!秋葉やめろ!頼むから!」

レキを助ける余裕はない。

俺が背後に動けば秋葉は俺の背中を襲ってくるだろう。

というか、秋葉・・・俺にここまで攻撃できる自由意志を持ちつつあるお前に少し喜びも感じるな

アリアがこぶしを振り下ろせない状況で膠着したかの思えたが

しゃっ!と銀色の一閃をアリアはかろうじて避ける。

慌てて、アリアが退く。

レキがスカートに隠していた銃剣を抜いたのだ。

「おいレキ!」

レキはそれを銃剣につけ、さきほどとは違い信じられない速度でアリアに襲い掛かった。

狙いは急所のみ、えげつない連打がアリアを襲うがアリアはかろうじてそれをかわし、壁に追い詰められる。

「っ!」

アリアが目を丸くした瞬間レキが銃剣を突き出した。

それはかろうじてかわしたアリアの首の真横の壁に突き刺さっていた。

完全に殺す気だったその攻撃に俺を始め全員が目を丸くしている。

レキはさらに後ろに下がり、連打の攻撃をしかけようとしたので

「レキやめろ!」

レキはキャンセルボタンを押されたみたいに停止するとアリアを見たまま、ドラグノフを担ぎなおした。

「レキ・・・あんたなんか・・・」

友達と思っていたレキにこんな仕打ちをされて

「あんたなんか絶交よ!絶交!二度と顔も見たくないわ!」

無言のまま自分を見るレキにアリアはわめき取らして走り去ったアリアを追って理子も言ってしまい。

俺は秋葉にまばたき信号で

『フォローしてやってくれ秋葉』

と頼むと秋葉は一瞬、考えたのか止まるがアリアを追っていってくれた。

さて、レキに言わないといけないが・・・

人目をあるので俺は歴を連れてよく鍛錬に使っている看板裏にレキを連れてくる

レキは体育すわりして海を見ている。

「レキ」

「はい」

「お前さっき、アリアを殺すきだっただろ?」

「はい」

はいときたか・・・

「なんでそんなことしようとした?」

「風が命じたのです。アリアさん達を優さんに近づけてはならないと」

また風かよ

「そのヘッドホンで聞いてるのが風か?」

「違います。これは私の故郷の風を録音したものです」

「故郷の風?」

「風と共に育った頃と同じようにいられるように聞いています」

「別に誰かに連絡されてるとかじゃないんだな?」

「違います」

「じゃあ、どうやって連絡されてる?風に命令は」

「風の言葉は私の頭に直接聞こえてくる。はるか故郷から」

妄想と言うのか?

姉さんと旅をしてた頃もこういうやつはあまりいなかったからどうしたらいいのやら・・・

まあ、とりあえず

「レキ、これからは人を殺すな」

「なぜですか?」

「武偵憲章でも決まってる。それに俺も殺さないこと決めている」

「それは命令ですか」

「ああ、そうだ」

「分かりました。では殺さないようにします」

その言い方だと殺したことがあるような言い方だが・・・

まあ、いいさ・・・そうだとしても俺も同罪だ。

責める権利などないんだからな・・・

それに、レキが中国とかで武偵の資格をとってたなら合法だからな・・・

中国の武偵は人を殺してもいいのだ。

犯罪者は別に殺してもいいという考えの奴が多いが西側の諸国は基本殺人を禁じている。

どちらが正しいのかは分からんが・・・

にしても、前途多難だ・・・どうしたら前の状況に戻れるんだか・・・

力づくでの排除はなしにしても外部の助けは必要かな・・・

俺はいつの間にか切れていた奏ちゃんの電話に言い訳のメールを打ちながらため息をついた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第189弾 妻は大和撫子!

アリアと喧嘩してから2日がすぎた。

とりあえず俺の安らぎの場といえば学校だ。

レキともクラスが違うから離れられるからな。

かなえさんの裁判の件で忙しいのかアリアもいないし理子はあえて、俺には接触してこなかった。

秋葉は気配はするのだが授業が始まる前に現れ、終わると文字通り風のようにいなくなる。

怒ってるのは明白だがどうしようもない・・・

マリはレキの威嚇が怖いのか姿を現さないので唯一レキのことを気にしないでいいのがこの授業中の時間だ。

不知火や武藤あたりには散々にからかわれキンジも同情してくれていたがなぜ、俺ばかりこんな目にあうんだ・・・

「ねーね。優希今日、遊びにいかない? 彼女さん連れてさ」

俺の斜め横に座っている水が言った。

そう、こいつも俺のクラスに転校してきたんだが俺のクラス転校生多すぎないですか?

「今日は駄目だ、人に会う約束がある」

「ちぇー、残念デートしたかったのになぁ」

と両手を頭に組んで椅子の前を少し浮かした。

行儀悪いぞお前!

見せそうだったのでキンジがヒステリアモードになりたくないためか慌てて目をそらしているな。

「ふ、鳳ちゃん!だったら俺とデートしてください!」

「あ、ごめんね。武藤君タイプじゃないの」

にこりとしてばっさりと言う水

「うおおお!何で、優ばかりもてるんだ!でてこい神!轢いてやる!」

と、恐ろしいことを言う武藤を見ながら俺はため息をついた。

水は順応能力が高いらしくあっという間にクラスの人気者になった。

アサルトでもSランククラスの戦闘能力もあるし人望もある。

唯一頭は平凡並という完璧超人というわけではない水だ。

「ふぁ」

俺の足元でハイマキがあくびした。

そう、レキがいなくてもこいつが俺を監視してるんだ。

まあ、ハイマキなら撒ける自信あるけどこいつは接近戦だけだし

「人って誰と会うの?」

「ちょっと、公務員にな」

「公務員?」

水が首をかしげる。

今日は金曜日、明日は休みのため土方さんの家に食事を招待されているのだ。

結局のところ、俺は土方さんに頼ってたんだがあの人は俺の事情を聞くとため息をついていた。

「お前もか・・・」

驚いたことに土方さんも昔、同じような状況に陥ったことがあるらしい。

それも、レキと同じウルスの少女に求婚されたんだそうだ。

同じく狙撃拘禁。

これ幸いと脱出方法を聞いたがまったく参考にならない方法で断念せざる得なかった。

そこで、俺はいろいろと調査しようと、まず、レキのいつも聞いている風の正体を探るためにレキのヘッドホンで聞いている

風を内緒でコピーし公安0に提出したのだ。

そして、今日は土方さんにお呼ばれしたといってレキと土方さんの家に泊まることになっているのだ。

そういえば、土方さんの家に行くの初めてじゃないか?

                       †

元新撰組副長、土方さんの生家は東京ではないが公安0に入った後に家を購入したらしいあの人の家は武偵高から

隼で1時間ほどの距離にある平屋だ。

隼にハイマキは乗られないのでハイマキはお留守番だが、レキと屋敷の前に立った俺はチャイムを押す。

「・・・」

レキは何も言わないでぼーと断っているが大丈夫かな・・・

いきなり、土方さんにドラグノフ向けたりしないでくれよ・・・

「はい」

とチャイムから声が聞こえてきた。

女性の声か、土方さんの奥さんかな?

「椎名 優希とレキです。ひじか・・・歳三さんに呼ばれて来ました。今日はお世話になります」

「今、開けますね」

キイイと音を立てて大きな木の門が開く。

そこにいたのは、長い黒髪を揺らしながら美人のお姉さんだ。

つうか、この人確か姉さんと同じ歳のはず・・・

20代前半にしか見えん・・・

「歳さんの妻、土方雪羽です。いらっしゃい優希君。レキちゃん」

「ど、どうも」

俺はレキの頭を掴んでぺこりとさせる。

お前は挨拶ぐらいしろ!

「アハハ、気にしないでいいのよ。 リンもいつもそんな感じだったから」

リン・・・姉さんと同じチームメイトで確か、レキと同じウルスだったなその人も

「リンは今どうしてるのレキちゃん?」

「居場所は分かりません」

とレキは首を振りながら言った。

「そうなの・・・あら、私ったらごめんなさいね。さ、中に入って」

                 †

やはり、土方さんは和の人なんだなとつくづく思うよ・・・

日本は2階建ての家を建てることが多いが、土方さんの家は平屋、おまけに庭も広く、道場のような建物もある。

大きなテーブルのある和室に通された俺達はそこに座ると雪羽さんが入れてくれたお茶をもらいながら

「そういえば、ひじか・・・歳三さんは?」

雪羽さんも土方って名前になるから慣れないな

「歳さんはまだ、仕事が残っていて部屋にいるの。来るまでは私が話し相手なるわ」

雪羽さんか・・・

信冬の年の離れたお姉さん

「・・・」

レキは座布団の上で体育すわりをしているな。

正座しろよ・・・

「えっと・・・」

改めて聞くことなんてないかな・・・

と俺が考えていると

「私から質問してもいい優希君」

「はい?」

「歳さんから聞いたのだけどレキさんと婚約したってことは信冬とは?」

その言葉におれはさーと青くなる。

そういえば、信冬にこの状況一切伝えてないし!

「ゆ、雪羽さん信冬にはこのことはしばらく内緒に・・・」

「いいわ」

と雪羽さんは薄く微笑んだ。

こ、これは・・・大和撫子タイプかこの人は・・・

土方さんも絶滅危惧種のタイプの人と結婚したんだなぁ・・・

「・・・」

キロリと違う女子の話をしたためかレキが睨んできた気がした。

やばい、話題を・・・

「そ、その写真」

ふすまの上に飾られている写真を俺は慌てて指差した。

「ああ、みんなとの写真ね」

年代は俺達と同じくらい。

5人の少年少女たちが様々な体勢で写真に写っている。

中央で若い土方さんらしい人の首に腕を回ししめあげてるのは姉さんだな。

まったく、容姿が変わってない。

それをあああとばかりに両手を土方さんの背中に向けているのは雪羽さんか

右端にいる狙撃銃を持っている人はリンさんか?

なんとなく、レキに似てるな

それと、この人は?

土方さんの背中の制服を右手でちょんと掴みこちらを見ているその人の目は青、黒髪で青の瞳は珍しいな。

「この人・・・」

「花音」

雪羽さんが目を少し落として言った。

「私達の仲間で16年前に・・・」

この人がそうなのか・・・

姉さんはあまり、この人のことを語りたがらない。

だから、顔を見るのも始めだったんだが・・・

姉さんはこの人が殺されて最大級の怒りで相手を殺した・・・

そうかこの人のために姉さんは・・・

って

「す、すみません!」

過去に死んだ人を掘り返すのは最低の行為だ。

「いいの。時々思い出してあげないとあの子も浮かばれないから・・・」

写真を見る雪羽さんは悲しそうだった。

そこで、俺は1つ気づいたことがあった。

雪羽さんの左手・・・あれは義手か?

動きがぎこちないから分かったが写真の雪羽さんは義手じゃない。

何かあったのか?

そ、それにしも、どうしよう・・・

レキは無言だし

「お前が気にすることじゃねえよ」

土方さん!

振り返ると家着らしい和服で中に入ってきた土方さんは上座に座り雪羽さんのお茶を受け取る。

「どうぞ、歳さん」

「おう」

土方さんは俺とレキを見ると

「今日はよく来たな。ゆっくりとしていけ」

                 †

その日の夜、レキが風呂に行った瞬間を見計らい俺は、土方さんの部屋を訪れた。

「失礼します」

とふすまを開けて入ると和室が現れる。

壁には誠と書かれた新撰組の旗がかけられており、その下には日本刀と小太刀が並んで置かれている。

部屋の隅には小さな机があり、整理整頓されている部屋は土方さんの性格を現しているな。

「来たな。そこに座れ」

と、進められた座布団に座る。

土方さんは日本酒に手を出すとくいっと口に運んでから俺に向き直る。

「飲むか?」

「あ、俺未成年だから」

「冗談だ本気にすんじゃねえ」

そういいなが酒を机に置いてから紙を引き出しから出して俺に見せる。

「俺個人の人脈でその中にあった音は調べさせてもらった」

レキが出てくる前に話を終わらせないといけないので土方さんは話し始めた。

「結論から言えばなその風の音に暗号の類は一切ない。ただ、ウルスの故郷の風を録音しただけのもんだ」

「でも、レキはこの風の音から指令を受けてるみたいな感じなんだ」

「リンもそうだったな」

ふぅと土方さんはタバコを取り出すとライターで火をつける。

最近気づいたことだが、俺はわりとタバコの煙のにおいは平気だ。

吸いたくはないけどな

「リンさんって、土方さんのチームの」

「ああ、希と並んで扱いにくい奴だな」

姉さんと同格の変人かよ。

どんな、人なんだ?

「風の場所はその紙に書いてある範囲だ。そこがウルスの里だからな。紙は持って帰るなよ?覚えて頭に封印しとけ」

「なんで?」

「あんまり、人には知られたくないんだよ。いいな」

じろりと土方さんが睨んできたので俺は頷いた。

そのモンゴル北部からシベリアに至る中に書かれた場所を見る。

「次にあのレキだ。少しだが調べてあるが聞くか?」

それは、レキのプライバシーに関わることだ。

だからこそ、土方さんは確認したんだろ。

だが、今は情報が少なすぎる。

「お願いします」

「あいつは、お前、星伽白雪、遠山キンジ、神崎・H・アリアを探っていた可能性がある」

「俺達を?」

「鷹の目だ」

鷹の目とはスナイパーの優れた目を生かして対象を遠くから監視するライバードの隠語である。

「さっき言った連中の対する鷹の目をあいつは何度か受けている」

レキと俺は昔から知り合いだったらしい。

ということは、俺に注目する意味はないとはいえないがなぜ、アリア達まで・・・

「もう一つは完全には情報収集できなかったが14歳ごろからロシアや中国にいたらしい。武偵ライセンスの国際化

をロシアと中国が批准する前に武偵ライセンスをその2つでとったらしい」

「それで?」

「あいつはそこで、記録に残らない仕事をしていた可能性がある」

「記録に残らない仕事・・・」

そこではっとする

「まさか」

「ああ、スイーパー。つまりは、殺し屋だ」

「・・・」

中国の武偵は人を殺していい。

違反にはならんしスナイパーってのは暗殺に特化した位置にもいる。

だが、レキはそんなことを・・・

責める気はない。

違反じゃないしやったという証拠もないからな

「証拠というわけじゃねえがリンは少なくてもこれに限りなく近い奴だった」

「スイーパーだった?」

「さあな」

事実かどうかは分からないが土方さんはこれ以上はリンさんのことを語る気はないようだった。

「俺もリンの狙撃拘禁から逃れるのに相当苦労したがお前もがんばれ」

「どうしたらしいのさ・・・」

「望むなら力ずくで排除してやってもいいぜ?」

「それは・・・」

土方さんならそれは出来るだろう。

「希が妨害しないのが前提だがな・・・」

ふぅーと煙を吐いて土方さんは言った。

そりゃそうだろう。

姉さんを敵に回したら公安0だろうがなんだろうが壊滅させられてしまう。

でも、俺の心は決まっている。

「力ずくは嫌なんだ土方さん。レキは俺の友達。出来るなら穏便にしたい」

「そのまま、嫁にもらうのも手だぜ」

ふっと土方さんは面白そうに笑う。

「い、いやそのレキは嫌いじゃないけど本気じゃない求婚は・・・」

「なんだ?まんざらじゃねえのか?」

「土方さん!」

ちょっと怒り気味にいうと土方さんは微笑みながら

「冗談だ。まあ、力を貸す必要がないならお前に任せるがいざとなれば頼れ」

「土方さん・・・」

感動するな。

やはり、この人は頼りになる。

「それとな希に会ったら伝えとけ。逃げるな。話がしたいってな」

「伝えとくよ」

「ああ」

土方さんは私室にも飾られている姉さん達の写真を見ながら言った。

そろそろレキも出てくるかな

「土方さんそろそろ俺、部屋に戻るよ」

と立ち上がる。

「そういやお前もうすぐ修学旅行だったな?」

俺は振り返りながら

「そうだけど?」

「場所はどこだ?」

「京都から大阪、神戸かな」

「ちっ」

土方さんは舌打ちし

「ランパンが日本で動いてるという情報もある。気をつけていけ」

東京は公安0のお膝元、だが、関西エリアはそうもいかないということか?

「ひじか・・・」

「優さん」

詳しく聞こうとしたがレキが部屋の外から声をかけてきた。

「お前の嫁だぜ」

「やめてって土方さん!」

そういいながら俺は外に出ると自分の寝室に向かった。

レキはとことこついてきたが雪羽さんが俺達の部屋で寝てくれたので大事には至らなかった。

どうでもいいがレキ風呂あがりぐらいはヘッドホン外せよ・・・

にしても修学旅行もなんだか無事に済まなさそうな感じがするぞ・・・

頼むから平穏に終わって欲しいものだな・・・

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第190弾 RRR活動休止!?村上の決断

RRR.,

レキ様のレキ様だけのレキレキファンクラブは今や崩壊の時を迎えつつあった。

「椎名優希許すまじ!断固としてレキ様救出作戦を!」

「レキ様が選ばれたのであればそれおを応援するそれが真の愛ではないか?」

とRRRは断固としてレキ様の恋人など認めない派と愛があるなら仕方ないと妥協する2つの真っ二つに

別れてしまっていたのだ。

「村上会長!」

「会長!」

2つの派閥がRRR会長の村上を見る。

すなわち、会長はどちらの味方のだと

「・・・」

村上はうなりながら両手を組んだ。

そして、目を開けると

「諸君、私はRRRを一時、活動停止しようと思う」

その場にいた会員達が驚きに目を見開く

「なぜですか会長!会長がそんなこというなんて見損ないました!」

「黙らんか!会長には何か考えがあるのだ!そうなんでしょ会長?」

村上は頷くと

「一部は椎名優希を排除せよという意見があるがレキ様は今、椎名優希を守っている。お前達はレキ様と戦えるのか?」

「そ、それは・・・」

強硬派が黙り込む

「次に愛があるならというが私にはまだ、判断が下せない。なんらかの任務を帯びて椎名優希にレキ様が近づいている

可能性もあるのだ」

「なるほど・・・」

と、肯定派も納得する。

ここは流石に村上である。

変態の集まりであるRRRを束ねてきただけはある。

「しかし、会長。活動停止といいますが具体的にはいつまでです?」

「うむ、もうすぐ修学旅行があるだろう? 私はそこでレキ様と椎名優希を見て見定めようともう。そこに真の愛があるのか?

あるいは何か理由があるのかを」

「それでしたら我々も」

と2年の会員が進み出るが村上は首を横に振った。

「駄目だ。大人数でレキ様に近づけばドラグノフが火を噴くことになるだろう。私1人でやる」

「会長がそういうのでしたら・・・」

普通のファンクラブなら抜け駆けだのなんだので大騒ぎになるところだがRRRは村上に絶対の信頼を置いている。

ある意味では将の器をもっているのがこの男村上なのだった。

「RRRは修学旅行が終わるまで活動停止だ!以上解散!全てはレキさまのために!」

「「「「全てはレキ様のために!」」」」」

                    †                  

SIDE村上

しかし、どうすればいいのだ?

村上は考えながら帰路を急いでいた。

まずは、修学旅行でレキ様の行動を知らねばなるまい。

そのためには・・・

「いらっしゃいませこんばんわ!」

近所のコンビに入り、京都の雑誌を手に取りながら村上は考えてた時

「お姉さん!つくねとアメリカンドッグ!肉まん1つ頂戴!」

「はい、つくねとアメリカンドッグ、肉まんですね305円になります」

ん?

村上がレジの方を見ると髪の長い武偵高の女子生徒が買い物をしていた。

髪の先を白い髪留めで縛っている。

確か鳳水か・・・アサルトで椎名優希と話していたな・・・

水はお金を払い商品を受け取るとコンビニを出て行く。

そうだ、彼女なら

椎名優希と知り合いの彼女なら有益な情報が聞けるかもしれない。

そう思い外に出て尾行を開始する。

水は紙袋から買ったものを口に入れながらゆっくりと歩いて行く。

そろそろ声をかけるかと思った瞬間、水が路地を曲がった。

見失っては大変だと村上も路地を曲がるが

「何?いない?」

「感心しないな女の子を尾行するなんて」

ひたりと首に何かが・・・これは刃物か

「君・・・何?」

ぞっとするような殺気が村上の中を駆け巡る。

普段のひょうひょうとした彼女からは考えられない。

こいつも、椎名優希と同じように実力をかくしているのか?」

「あ、怪しいものではない。椎名優希のことを少し聞きたいだけだ」

「優希を?へー、目が高いね君。どこの組織?」

そ、組織だと?

「あ、RRRだ」

「RRR?聞いたことないなぁ」

ぴたりと刃物が村上の首に当たった。

「れ、レキ様だけのレキ様だけのレキレキファンクラブ!略してRRRだ」

「はっ? レキ様だけのって・・・レキってあの子?」

「そうだ!私こそその会長村上正!」

堂々と名乗ってから反応を待っていると水はナイフを話しながら

「ふ、フフフハハハハ!何それ!レキ様クラブってファンクラブ?」

腹を押さえて水は笑っている。

殺気は霧散したようだ。

「それで何で私を尾行したのさ? 会長さん」

「それは・・・」

村上は水に椎名優希とレキ様が本当に付き合っているのかそうでないのか?

また、村上は本当に付き合っているなら絆も見てみたいと思っている。

それを調査したいと水に説明する。

「ほうほう。つまり、ラブ!村上君はレキさんのこと好きなわけだ」

「ふっ、そんな思いはすでに超越しているが似たようなものだ」

「気に入ったよ村上君! 私と組もう!」

「ああ、って何だと?」

「誰よりもレキさんのことを知りたい村上君と優希に近づきたい私、きっとうまくからまると思うんだ」

椎名優希に近づくだと?

「それはチーム編成のことを言っているのか? 椎名優希を自分のチームに入れたいと?」

「似たようなもんだけど少し違うね。優希は私のこの先進む道にいて欲しい存在かな?」

「よく分からんが・・・」

「アハハ、分からなくてもいいよ。ま、同盟成立って事でよろしくねパートナーさん」

「あ、ああ」

どうもペースを握られている気がするが修学旅行中、2人を追撃するのにこの水という女子は使えそうで

危ないような予感が村上にはしていた。

だが、どうしてだろう

「ん?」

笑顔でいるこの女子・・・なぜだかは分からないが一緒にいないといけないような気がする。

「よろしく頼む」

「よろしく!」

村上と水が握手しここに、日中同盟が成立した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第191弾 レキデート京都編前編

結局、アリア達との仲を修復することも出来ずに俺達は修学旅行当日を迎えてしまった。

つうか、秋葉・・・気配はするのに姿を表さないとか忍者かお前は・・・

だが、その秋葉も今はいない。

護衛を兼ねてアリア達と行動してくれとメール送ったんだが返答は

「そんなにレキさんと2人きりになりたいんですね」

だった。

誤解だと言い訳したが結局、秋葉はアリアに付いてくれたみたいだな。

場所は京阪神に現地集合、現地解散

1日目、京都にて社寺見学すること、最低3箇所見学し後にレポートを提出

2日目・3日目は自由行動、大阪か神戸の都市部を見学しておくこと

なんていい加減なしおりなんだか・・・

こうなったら、京都でも好きにやらせてもらおう。

「ついたー!」

とハイテンションに京都の空に右手を突き上げた俺、現在時刻は午前9時だ。

東京から2時間ちょい、早かったなぁ

「・・・」

レキは黙って俺の横にいる。

「んじゃ行くか?」

「はい」

とはいえ、移動手段は必要だ。

だが、俺はアルティメットスポーツをここに手配してある。

「優見つけたで」

「時間丁度だな虎二」

俺が道路の方を見るとヘルメットを外しながら俺の友達月島虎二が歩いてくる。

「依頼やからな。ほれ」

虎二から俺の愛車、隼のキーとヘルメットを受け取る。

「ご苦労さん。後はハイマキ頼む」

「その狼ややろいいで」

実のところ、俺は虎二にクエストを依頼していた。

レキの洗脳をとくために修学旅行を利用する。

そのため、レキと2人だけで修学旅行をしようと考えていたのだ。

悪いなハイマキ、後で魚肉ソーセージおごってやるから許せ

不満そうな顔をしたハイマキを見ながら俺は思った。

これは、レキも了承したことだ。

俺がだめもとでハイマキ抜きで2人で修学旅行したいとい

ったらレキは以外にも了承したのだ。

とはいえ、東京にハイマキを置いてくる案は却下で、泊まる予定の宿にハイマキを第三者に待機させておくと

いく条件だ。

俺はハイマキに首輪をつけてリードを虎二に預ける。

「にしても優また、女変えたんか? 理子さんはどうしたんや?」

「人聞き悪いこと言うんじゃねえよ! 理子はただの、友達だ」

「ってことはそのレキさんがお前の本命なんか?」

ああもう!めんどいから説明省いたのは失敗だったな

「いや、レキはな」

「優さんは私の許婚です」

っておいレキ!

「い、許婚やて!おい、優お前どんだけ・・・」

「い、いいから行くぞレキ!」

ややこしくなりそうだったので俺はレキの手を引いてヘルメットをかぽっとレキの頭に載せると隼に乗ってエンジンを

かける。

世界最強クラスのエンジンが唸りをあげる。

よし、これで京都での移動手段は確保できたな

「・・・」

後ろに座ったレキが黙って俺の腰に手を回してくる。

う・・・これはちょっとどきどきするんだよな・・・

いくら、レキが俺に本気の愛がないと分かっててもな・・・

思春期の男の子なんてそんなもんだろ?

虎二とハイマキを背に俺は隼を発進させた。

              †               

とりあえず、寺を3つは回らないといけないらしいが間違いなく学校の連中と遭遇するだろう。

ならば、変装が必要だ。

京都は新撰組の影響で時代劇のコスプレをする場所がたくさんあり、その姿で歩いていても変な目で見られたり

しないありがたい状況がある。

俺は適当に店に入ると

「修学旅行なんでぜひ、時代劇の気分を味わいたいんです。服は任せたいんですが」

と店のお姉さんに言ったら

「ままま! 腕が鳴るわ」

と妙に張り切ったお姉さんに言われるまま服を着たんだが

「なんでやねん!」

虎二の言葉が移ったように俺は言った。

なぜなら、俺の格好は化粧こそないが舞子さんに近い格好だ。

「いけませんか?」

「駄目だって!」

俺は近くにあった違う服を物色していると

シャッとカーテンが開く音がしたのでそちらを見る。

「・・・」

無表情なんだが・・・おい、レキ・・・

「か、神が舞い降りたわ!」

店のお姉さんも驚愕している。

そう、レキがしているのは新撰組の水色の羽織だ。

腰には模造の日本刀、

肩のドラグノフが激しく違和感だが額の防具には誠

さらに、袴をはいているレキ

こ、こいつ男物も似合うとか思ったがなんていう似合い方だ。

「・・・」

言葉を失っていると店のお姉さんがカメラを持ち出してきて

「記念撮影いかがですか?」

といって俺(女装)とレキ(新撰組の格好)の写真を撮ってしまった。

後で送りますと住所を書いて店を後にしたがって俺の格好は変えたからな!

レキと並べたわけじゃないが新撰組の黒いはっぴだ。

返り血が目立たないからとこちらが好まれたらしいな。

んで、隼で新撰組の格好で向かった先は壬生寺だ。

個人的知り合いの2人が新撰組の子孫なのでこちらに興味を持った。

まあ、あの時代の沖田はステルスがあったわけじゃないが・・・

Rランククラスがいれば明治政府軍は勝てなかったろうしな。

「へぇ」

新撰組は元々、俺は結構好きなのだ。

レキを連れて寺の資料を見て回る。

理子の曾おじいさまのルパン3世やアリアのシャーロックもすごい奴だとは思うがやはり、知り合いの先祖には

特別な感傷がわくものだ。

土方さんの先祖、土方歳三1世は優秀な指揮官だった。

五稜郭の戦いでも彼の率いた部隊は政府軍の突破を許さなかった。

姉さんの偉業が表に出すぎているため目立たないがとある国を救ったのは土方さんの指揮があったからとも言われているのだ。

「やっぱり土方さんはすごい人だな」

と俺がつぶやく。

「・・・」

レキは無言

だが、知り合いのチームメイトの先祖には多少なりとも興味があったのか資料を目で見ていた。

途中、新撰組の誠の旗を背に、写真撮影を旅行している人にせがまれたりしたので寺を後にする。

次に向かうのは晴明神社だ。

我ながら興味だけの考え方だが信冬のあの術も陰陽道が関わっているらしいので来た訳だが新撰組とは違い

ステルス関連はよく分からんな・・・

結局、晴明神社はすぐに後にする。

安部家といえば日本でも椎名や武田と並んで名家だったが没落し、今ではその子孫はいないはずだ。

さて、11時だが最後の一つも回っちまうか

最後に訪れた寺は清水寺だ。

京都にきたらここは外せないだろう。

うお、高い

清水の舞台から飛び降りるという言葉があるがこの高さは死ぬだろう。

「レキ、飛び降りてみたらどうだ?」

と冗談交じりに言うと

「はい」

と1歩踏み出したので俺は慌てて腰に抱きついた。

「や、やめろレキ!冗談だ!」

そして、そこをクラスの女子に見られてしまい

「ねえ、椎名レキさんに抱きついてない?」

「うわぁラブラブだ」

「くそぅ、椎名死ね!」

などと聞こえてきたので

「い、行くぞレキ!」

どうやら、新撰組の格好は変装の意味を成さなかったらしい

隼で清水寺を離れながら時計を見ると昼過ぎか・・・

どうしようかな・・・

一応ノルマの3つの寺や神社は回ったからこれからは自由時間だ。

レポートは新撰組のことを書くとしてこれからの時間はと・・・

レキと遊びに行くかな・・・

うーん、アリアや理子達がいたら虎二達誘って神戸で遊んだりするんだが今は現実的じゃねえな・・・

あ、そういや虎二アリアに惚れてたな。

間違っても紹介してやらんプリンめ

と信号で隼を止めた時

「優さん今、違う女の子のこと考えてましたね?」

と移動用に設置しているヘルメットのスピーカーからレキの声が聞こえてきた。

な、なんでわかった?

「アリアさん達のことですね?」

「な、なんこことだ?」

「ごまかさないでください」

「ま、まあな」

腰に手を回された手が圧力を増した気がしたが言われたので緊張しながら言う。

「私だけを見て他の女の人には近づかないでください」

無茶言うなよ怒ってるのか?

「お、怒るなレキ」

「怒ってません」

嘘をつくなおい!

「怒ってるだろ!正直に言え」

「いいえ」

まだいうか、というかやきもちみたいなこと言うのはおかしいだろ!お前は俺のこと好きでなく

風の洗脳に従ってるだけじゃないか

「私は怒ることはありません」

え?

「優さんも私のあだ名はご存知かと思いますが」

「ロボットレキか・・・」

「はい、人並みに感情を抱くことはありません。風は人の感情を好みませんから、だから、私はあの日から怒ることはありません。

笑うこともありませんし泣くこともありません」

そのあの日からという言葉が俺は気になった。

「レキ、あの日って?」

「あなたと別れたあの日から」

とレキはつぶやくように言った。

やはり、過去か・・・

俺にはレキと会ったという記憶が抜け落ちている。

その間に何があったかは分からないがそれを抜きにしてもレキ・・・お前は人間だよ。

不機嫌そうな感情は読み取れるし、まるで感情がないなんて嘘だ。

レキ、お前は洗脳なんて解き放たれるべきんなんだよ。

それをとくためには日本で一般的な生活を遅らせる必要がある。

うーん、どうするか・・・

時間もあるし・・・そうだ!

「よし、レキ神戸行こうぜ!」

「?」

レキが首をかしげる。

「遊びに行くんだよ。前に行った時は時間がなかったからな。俺の土地勘もある場所だし・・・」

明らかに不機嫌だったレキの空気が少し晴れた気がした。

「はい」

                 †

基本的に俺が神戸にいた頃、服を買うときは須磨にあるアウトレットに行くことが多かった。

あそこは、トレーニングウェアなどいろんなものがお手軽な値段で揃ってたからな

「久しぶりだな神戸!」

三宮で隼を預けてから俺はレキと歩きながら言った。

「・・・」

レキは相変わらず無言だ。

フフフ、女の子を喜ばせるには服を買ってあげることだ。

修学旅行は金に糸目をつけないということで俺は大量の金を用意してきたのだ。

にしてもどうするかな?

「レキ、着たい私服とかあるか?」

ふるふるとレキが首を横に振った。

了解だ。神戸だから武偵高制服の姿に戻ったレキを見て、俺はレキに私服を買おうと決断した。

浴衣は買ってあげたが今度はちゃんとした私服だ。

三宮はおしゃれな服を扱う場所は結構多い。

どうするかなと俺が思っていると

見慣れた店が見えた。

あそこか・・・まあ、いいか

と中に入る

「いらっしゃい・・・って優ちゃんじゃない!」

「こ、こんにちは」

おかま風に化粧をふんだんに使ったマッチョなオカマが頬を押さえて言った。

「ご、ゴリさん久しぶり」

「いやんゴリなんて! ひろみってよんでん!」

「ひ、ひろみさん」

「あん、てれやさんね」

誤解ないように言っておくがここは服屋だ。

それもかなり、センスがいいな。

中学1年のとき虎二と迷い込んだこの細路地の店『ノルマンディー』は男、女物の服を多数そろえており

店長のひろみさん(男)は世界トップクラスのセンスの持ち主として有名人なのだ。

だが、店内ががらがらなのはこのひろみさんおかまだからな・・・

「優ちゃんさびしかったわ!なんで東京なんていったのん?」

と俺を抱きしめてひげをじょりじょしてきた。

「や、やめて!ゴリさん! 今日はちょっと用事があってきたんだよ!」

「用事? んまあ!まままま!その子なの用事って!」

ゴリさんはレキを見て顔を輝かせた。

「えっとまあ・・・」

「やるじゃない優ちゃん」

ばんばんと背中を叩かれ俺はむせた

「げほ!ゴリさん?」

「察するに修学旅行でしょ? 彼女に服をプレゼントしたい! その心意気買うわ!あたしに任せて頂戴

最強のプレゼントを用意するわ」

「ご、ゴリさん?」

「さあ、あなた来なさい!優ちゃんのプレゼントあたしが選んであげるから!」

と、レキが試着室に放り込まれ、ゴリさんが服を渡している。

大丈夫かな?

実はゴリさんことひろみちゃんは趣味で裏路地で服屋を開いている。

その道では有名で芸能人もたまにこの店に顔をだすほどの有名ぷり

防弾使用の服も扱うので武偵にも人気のお店なのだがいかんせん場所が分かりにくいため

来るのは結構大変な場所にあるのだ。

神戸に限らず大都市には大なり小なりそんな店が存在するののである。

「あなた名前は?」

「レキです」

「まあ、かわいい名前ね!スリーサイズ教えて頂戴」

「150センチ、41キロ、76センチ、50センチ、73センチです」

とひろみちゃんとレキの声が聞こえてくる。

「んまあ!顔もかわいいし優ちゃん金の卵捕まえたわね!任せて頂戴!あたしが最強の服を選んであげるわ」

だ、大丈夫なのかな?

センスは信じてるが嫌な予感がするぞ

レキが着替えている間に秋葉にメールを打っていると

「できたわ完璧よ!」

とひろみちゃんがレキを連れてやってきた。

「ちょっ!」

俺は1歩後ずさる。

どうやら、史実でありえなかった日本海軍の女子の軍服をアレンジしているらしく超短い白いスカートに白い軍服のような

デザインの上着、ご丁寧にブーツまで白に統一されたレキの姿は

似合いすぎだお前!

スカートが短すぎて銃剣の一部がケンチラしてるぞ。命名は武藤だ。

レキは無表情で突っ立っているが俺の目が気になったのか自分の姿を見ている。

髪も無理やりポニーにしてるし・・・

「んもう優ちゃん。だらしない顔ね。この子こんな服似合うのよね」

「ご、ごりさん似合ってますけどもっと、普通の服を」

と要望を伝える。

「まあ、優ちゃんたらもっとかげきなのをお好み?夜のダンスにはこういうのもいいわよ?」

夜のダンス?

キンジよりはそういった知識のある俺は俺とレキがそういったことをしている姿を今のレキの姿のまま想像してしまい

「うわあああああ!」

がんがんと壁に頭を打ち付けた。

おちつくんだ俺!

「うぶねえ優ちゃん。あなたも大切にしないと駄目よ。レアなんだからこんな子」

「・・・」

レキは何も言わないな・・・

「しかたないわねん」

とゴリさんが視界から消える。

よかった・・・

「優さん」

先ほどの格好でレキが布団の上に立った姿を思い浮かべて俺は頭を壁にたたきつけた。

「うわあああ! 煩悩退散!煩悩退散!」

壊れ気味だが実際女の子の暮らすプレッシャーは半端ないのだ。

その後、いろいろな服を見せてくれた。

理子が着るようなゴシックロリーターや、中国風のチャイナ服、着ぐるみのようなトナカイの服

RRRの連中なら悲鳴をあげて写真をとるだろう服を見ながら俺は考えていた。

特に、ゴシックロリーターだが、結構似合っていた。

レキの先輩リンさんは私服では子の服を着ていることが多かったそうだ。

理由は武器をたくさん服に忍ばせられるからだそうだが・・・

「次が本命よ」

というゴリさんの言葉に顔を上げる

きちんと薄化粧してもらい、剥いた髪をセットし、ノースリーブの白いワンピースを着たレキ

「う・・・」

か、かわいい

素直にそう思ってしまう。

元々、レキは美人だとは思ってたが化粧と服だけでここまで変わるのか・・・

「・・・」

レキは無表情だが鏡をみるその顔は満足げに見えた。

これは、男として買ってあげなくてはならないだろう

「ひろみさん。この服いくら?買うから」

「んふ、ただでいいわ」

「え?でも?」

「変わりにまあ、きて頂戴。彼女を連れてね。約束よ」

「は、はい」

結局、ただでその服をもらった俺達は店を後にする。

「・・・」

白いワンピースの私服を着たレキ・・・

「・・・」

「・・・」

は、恥ずかしいぞ・・・

というか・・・

ちらりとレキを見て頬が熱くなるのを感じた。

や、やばいぞ・・・

アリアの失恋したばかりだというのに俺ときたら・・・

「?」

私服姿のレキが俺を見てくる。

その姿すらかわいく見える。

俺はレキのことが好きになってるのか?

ならば、このままでも問題はないということになる・・・

だけど・・・

(お母さん・・・)

母親の亡骸にすがりついて泣いている秋葉が頭に浮かんだ。

そうだ・・・な・・・あいつの幸せを見るまで俺は・・・

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第192弾 レキデート京都編後編

正直な話、もうちょっと神戸で遊んでいたかったが暗くなったら宿を取っている京都に戻るのがしんどくなってくるので

早々に京都に戻ってきた俺とレキ、時刻は午後17時を回ろうとしているがまだまだ、熱い今の時期そ空はまだまだ、明るかった。

「ちょっと、休んでいこうぜ」

と、近くの店頭で和菓子を食べられるらしい赤いマットがしいてあるベンチに腰掛けて団子を注文する。

レキにそれをおごるとレキはそれをひょいぱくひょいぱくと相変わらず一つを食べて一つを消化していくという

なんとも楽しみのない食べ方をしている。

1度それも、注意したほうがいいのか?

と、団子を片手に携帯電話を取り出した。

キンジは確か、アリアに引き回されてるだろうから向こうの様子聞いてみるか?

ん?メールか?

『差出人:水

件名:どこいるの?

本文:今、京都駅の前にいるんだけど一緒に少し遊ばない?』

時刻はつい1分前か

「・・・」

俺はレキを見てから

水とレキが鉢合わせしたとこを考えてみた。

どうやら、2人は相性が悪いらしくなにやら、レキの風とやらも水が危ないという脳内設定を決めているらしい

あいつ、悪い奴じゃないのにな強いし

俺は、携帯のメールの返信ボタンを押してから

悪い今日は無理なんだごめんなと送っておいた。

するとすぐに

『気にしなくていいよ』

とだけ返ってきた。

まあ、これ以上続けることもないだろう

「・・・」

うお!

レキがジーとこちらを無表情で見ている。

「な、なんだよ」

「今、別の女の子のことを考えていましたね?」

「えっと・・・まあなんだ・・・うん」

レキの手に持っているお団子の串が何か怖いので俺がそういうとレキは

「他の女の子のことは考えず私だけを見てください」

美少女にそういうこと言われたら完全に惚れられてるって舞い上がるよな普通・・・

でも、そんな状況じゃねんだこれ・・・

はぁと息を吐いてから

「あのな、レキ1度言おうと思っていたことがある。俺はアリアや理子、秋葉、マリや他の女の子、もちろん、

必要なら男だって助けを求められたらよほどのことがない限りは助けるために動くぞ」

「知ってます」

「だったら・・・」

「風は言っている。あなたのその行動は必ずよくないことを引き起こす」

「それは俺が死ぬってことか?」

「それは分かりません。 ですが、風はアリアさん達に関わらないよう言っています」

堂々巡りになるかやはり・・・

「なぁ、レキその風の声を聞くのをやめろ」

「それはできません」

「命令と言っても?」

レキは頷いた。

無表情だがこれが絶対という信念のようなものを感じながるな

「風は私の全てです。その命令は聞けません」

まあ、ここではい、聞きませんと言うとは思ってなかったがううーん・・・冗談抜きで計画は失敗しそうだ。

となると、力ずくで排除するという選択肢も考えざる得ないんだが・・・

まず、間違いなく姉さんが敵になる・・・

あの人、自衛隊だろうがアメリカ軍だろうが本気になればまず、止めることは出来ないだろう。

世界中のRランクが束になってかかっても果たして・・・

なんで、姉さんレキとくっつけたがるんだろう?

アリアの時以上に理由があるように感じてしまう。

「・・・」

無表情で隣を歩く私服姿のレキ

お前には・・・どんな秘密があるんだろうな・・・

レキ

                    †

RRRの連中に絡まれるのも嫌だったので俺は京都の北東、比叡山の森の方にあるしなびた民宿に宿をとっていた。

実家に行くのもありといえばありだし咲夜にも会えるので一石二鳥なわけだがそれは出来ない。

泊りがけで行くとまた、周りが俺のことを変な目で見るだろうしレキと2人で戻ってしかも、許婚だなんて

言ってみろ。

姉さんがやったんですなんて言い訳は通じないぞ。

なので、椎名の本家からは遠いこの場所を選んだんだ。

公的には、神戸の虎二の家に泊まるように細工はしてあるがどこまでだまされてくれるか・・・

がらがらと扉を開けた瞬間

「おお!優希じゃん!」

と、浴衣姿の水がアイスをくわえてこちらを見ていた。

「す、水か?なんでお前ここに?」

水はにっと人差し指を口に当てていたずらっぽく笑いながら

「さってね?」

「凰、椎名達は・・・むっ!おおおお!なんとお美しい!」

「む、村上!?」

RRR会長、村上正だった。

なんでこいつがここに?つか、なぜ水と?

デジカメを取り出した村上は水がいたためか俺の1歩先に出ていた私服姿のレキの写真を撮る。

まぶしいだろうが!

「おい!」

「村上君、今はそれおいとこ」

「むぅ、椎名が少し映ってしまったがいたし方あるまい」

「というかお前ら!」

どうやって調べやがったと言おうとした時

「あらあら、お客はんどうなされたん? あら?」

奥から以外に若い女将さんが出てきた。

「あ、予約しておいた椎名です」

と俺が簡潔に言うと

「あらあら、じゃあ、後に来るカップルってあなた達?」

か、カップルだぁ?

「そうですよ。 今、東京武偵高の名物カップルといえばこの2人なのです」

す、水お前何言って!

「・・・」

こ、こんな時、一番騒ぎそうな村上が何も言わない。

どうしたんだ?

「ぐるおん!」

 

うわ!

どーんと体当たりしてきたハイマキだ。

明らかに怒ってるぞ。

置いていったことうらんでるのか?

「ハイマキやめなさい」

ちっと人間ならいいたそうなハイマキはレキの横についた。

「その子大人しいわんちゃんで助かりましたわうふふ」

猫かぶりしてたなお前!というか狼ですから!

「それにしても、みなさん同じ学校なら部屋一緒にします?」

「私は優さんと同じ部屋に泊まります」

と、水を警戒しているのかレキが言う。

「じゃあ、私も優希と・・・」

と水が言いかけると

「拒否します。あなたは危険だと風が言っています」

「おお、出た万能風電波」

困ったねぇと水は俺を見ると

「ま、私は別に誰とくっつこうがいいんだけどね」

引っかかる言い方だな。

まぁ、俺はアリアに失恋したばかりだしレキはまあ、気になるが風の件があるうちはそういうこともないと・・・

思う。

「んじゃ、優希明日私に付き合ってくれない? レキさん同伴でいいからさ」

「ああ、悪い水明日は・・・」

実家に少し顔を出して咲夜に会っていく予定だ。

泊まらないけどな

「ふーん、まあいいよ」

あっさりと引き下がったな・・・

「ではな、椎名、失礼しますレキ様」

「じゃあねん」

2人して行ってしまったがなんだったんだ?

 

「あらあら、何やら複雑な関係ですねお客はん」

「ハハ、まあ・・・」

狙撃拘禁されてます

「このお兄はんは彼氏さん?」

とレキに聞くとレキがこくりと頷いた。

もう好きにしてくれ・・・

「ままぁ!うふふ。私佐織と言います。さ、部屋に案内します」

とルンルンと嬉しいのか前を歩いていった。

             †

案内された西陣の間は畳も新しい8畳の豪華な部屋だった。

あれ?

「沙織さん確か俺が予約したのって・・・」

もう少し安い部屋だったはずだが・・・

「今日はこの部屋泊まるお客はんいないんです。このお部屋使ってください」

「り、料金は?」

「変わりありませんよ」

えまじ!やったぁ!

「じゃあ、お言葉に甘えて

「うふふ、ごゆっくり」

ぱたんとふすまが閉まる。

レキとの共同生活では特に何もなかったから大丈夫だろう・・・

多分

             †

その後、女将さんが出してくれた夕食をレキと並んで食べているんだが・・・

レキは白米を全部食べ、次にてんぷらを全部食べ、それから刺身、それから味噌汁を一気飲みしてしまった。

なんだかなぁ・・・その食べ方絶対おいしく食べれてないだろう・・・

何か方法ないかなぁ・・・

♪♪♪

ん?電話か?

行儀は悪いが茶碗を置いてから通話ボタンを押す

「はい?」

「どうだ調子は?」

その声を聞くとため息が出る・・・

「まあ、ちょっと異常な修学旅行だよ姉さん」

「レキといいことしたか?」

明らかにからかってやがるこの姉!

「しねえよ! それより姉さん今、どこにいるんだよ!」

「んん? ソマリア」

何やってるんだよ・・・世界一トップクラスの治安が悪いとこじゃないか

アフリカの地図を思い浮かべながら俺はため息をついた。

「土方さんが1度会って話したいって」

ついでに土方さんの伝言を伝えとくと姉さんは沈黙し

「怒ってたか?」

「いや、どうだろう? 雪羽さんにもあったよ」

「おお!雪か!元気だったか?」

「いい、奥さんしてたと思うけど・・・」

「そうか・・・」

懐かしむような姉さんの声を聞いて

「1度姉さんの元チームメイトに会ってみたら?」

「そうだな。考えとく」

いつもの、調子を少し崩している姉さん。

やはり、昔のチームメイトは特別なんだろう。

チームメイトと言えば俺、レキと2人だけのチームになるのか・・・

多数のチームって少しあこがれてたんだけどな・・・

漠然と俺、キンジ、アリア、理子、秋葉、レキというチームを考えてたんだけどもう、時間的に無理だろう。

「そこにレキがいるなら変われ」

レキに?

話をそらすように言われたが

「レキ、俺の姉さん」

と携帯を渡すとレキは俺の携帯電話を耳に当てた。

そして、はい、いいえだけを何度か繰り返した後、俺に携帯を返してきた。

「何、話してたの姉さん?」

「内緒だ。じゃな」

電話が切れてしまったのでレキに聞こうかと思ったが内緒といわれた以上、レキに聞いてもおそらくは教えてはもらえまい。

にしても、ソマリア・・・相変わらずだがそうか、姉さんは今、日本にいないのか・・・

まあ、ここは京都、椎名の本家もある近くで襲撃もないだろう。

心配なのはアリア達だがこれも、秋葉がいるから大丈夫なはずだ。

「お客はん」

ん?沙織さんか?

「食事がお済でしたらお湯沸いとりますのでどうぞ」

そうだな、風呂行くか・・・

「レキ先に入るか?」

ふるふると首を横に振ったので俺は先にお風呂をもらうことにした。

立ち上がりながらレキを見ると

「レキ」

「はい」

「一緒には入ってくるなよ!」

「はい」

よし言質はとった。

レキがセットした携帯の充電器の横に俺も自分の携帯をセットしてから風呂場に向かうのだった。

はやまったか・・・

旅行という状況での同じ部屋は思った以上に緊張する・・・

とりあえず風呂に入って落ち着くとするかな・・・

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第193弾 2つの命令

日本に生まれてよかったと俺は思う瞬間がある。

それは風呂に入っているときだ。

「ああ、気持ちいいな・・・」

レキに狙撃拘禁されてからゆっくりとする暇もなかったからな・・・

夜空を見上げ、遠くからふくろうの鳴き声も聞こえてくる。

「みんなどうしてるかな・・・」

俺には知り合いがたくさんいる。

ほとんどが、姉さんとの旅がきっかけで知り合った連中だが、今一番気になるのは

「アリアだよなやっぱ」

幸いおれはアリアに面と向かって好きだとは言ってないので俺がギクシャクしなければ恋愛面では大丈夫だろう。

だが、レキのせいで現在俺とアリアの仲は最悪といっていい状況にある。

「どうすっかな・・・」

肩までお湯に漬かったまま岩に頭を乗せる。

視界にデザートイーグルが入ってくるが視線は空に戻した。

状況を打開する第1条件はレキだ。

レキさえ何とかすれば突破口がある。

「それにはなぁ・・・」

レキとの過去を思い出さないといけない。

これが、最大のキーだろう。

俺は昔、姉さんに記憶を封印され、過去を忘れていた。

覚えているはずなのに思い出せない。

というより、姉さんの口調から記憶を封印した副作用で俺はレキとの過去を忘れてるんだ。

つまり、封印されているわけではないので自力で思い出すことは可能なはずだが・・・

「思い出せねえ・・・」

ぼんやりと、草原を姉さんと歩いていた記憶があるがあれが関係あるのかも不明だ。

「何を思い出せないの?」

「レキとのか・・・うお!」

ばしゃんと湯船から出ずにいつの間にか湯船に漬かっていた水から俺は慌てて離れた。

「なるほど、レキさんのこと考えてたんだ優希。うーん、ラブラブ?」

湯気でよく見えないのが幸いだが声が水だといっている。

「そんなんじゃねえよ! ただ、レキと俺は昔、子供の頃会ったことがあるんだよ」

「へー、ウルスの人間と?すごいすごいどこで?」

「多分ってなんでウルスのこと知ってる?」

そんなに有名なのか?

「まあ、いいじゃないそんなこと」

いやまぁ、武偵なら情報収集するからなんかのきっかけで知ったのかもしれないけど・・・

「というか水、お前出て行けよ」

「入ったばかりなんだけど・・・というかいいじゃない。混浴だし」

「そりゃそうだが・・・」

同じ歳の女子と同じ風呂に入るのは落ち着かないぞ・・・

キンジなら1発でヒスって大変なことになるところだ。

「・・・」

「・・・」

リーリーと鈴虫の声を聞きながら俺達は無言だった。

なんか言えよ水

「ねぇ」

俺の心の声が聞こえたわけじゃないだろうが水が口を開いた。

「優希は武偵高卒業したらどうするの?」

「ずいぶん先の話だな。 武偵大に行くと思うけどな」

表向き俺はそう答えている。

いつかは姉さんのように世界中を飛び回りながら犯罪者を捕らえて回るのが俺の漠然とした夢なんだが

漠然としすぎていて恥ずかしいからいえない。

「漠然としてるね。中国に留学してこない?」

「やだ。水には悪いが俺はあの国好きじゃない」

「アハハ、人の母国にそういうこという?」

「怒ったのか?」

「ううん。腐りきってることは私も自覚してるからね。じゃあ、腐った部分が改善できたら留学する?」

「というか俺が卒業するまでには無理だろそれは」

「うん、いつかは変えてみせる」

「政治家にもでなるのか?」

「がらじゃないなぁ。いっそのこと政府の要人皆殺しにしてみようか?優希も一緒にやろう」

冗談風に言う。

「やだ。めんどくさい」

それに、そうなりゃ犯罪者だしな・

「ちぇー、やっぱりなぁ・・・」

こいつは、どこまで本気なんだか・・・

いつもひょうひょうとしているが時折、真剣な目をする奴だ。

この水いって奴は。

そして、自分の母国に誇りを持てないといつも言っている。

自分の生まれた国が嫌いというのはどんな気持ちなんだろう・・・

俺にはわからない。

いろいろ問題もあるが俺は日本が好きだしな。

「ねぇ。優希」

「ん?」

「優希はさ。半殺しにされて虫の息の子供が道に倒れてたらどうする?」

「そんなの助けるに決まってるだろ?」

当たり前だ。

「そうだね」

水はどこか寂しげに言う。

「そういえば、村上はどうしたんだ?」

空気に耐えられなくなって俺が言うと

「ん?押入れに縛って入れてきた。なんか、レキ様と混浴と騒いでたから」

あいつは・・・

その時、がらがらとスライド扉が開く音がした。

ん?

かかり湯の音がし、誰かが湯船に足を入れ・・・

「わああああ!」

後ろが岩なのに思いっきり後ずさったから岩に背中をぶつけた。

痛い

「れ、れれれレキ!」

2回目の裸いただきましたって何ってるんだ俺は!

前も温泉でレキの裸は見たが・・・って誤解するな!わざとじゃないんだ!

と、とにかく

「・・・」

素っ裸のレキと目が合う。

熟れきらないりんごやスモモみたいな腰周りや胸。華奢なウェスト普段は陶器人形のように見える肌も湯水の膜でほんのり上気している。

口に目がいきあの時の湯船の中での・・・

「おー、レキさん混浴いただいてるよ」

とぼけた調子に戻った水が湯気の向こうから声をかけてくる。

「・・・」

レキは黙って湯船に入ると肩までつかる。

ふー、よかった。

一応は見えないぞ

「あー、無視しないよぉ。ひどいなぁ」

ぶーぶーと水が文句言ってるがこれは何の拷問だ?

右と左に裸の同じ年の女の子。

しかも、前の温泉の時とは違い2人とも混浴と認識した上で俺の存在を認めてやがる。

なんてカオス空間なんだ。

「何できたんだレキ!」

「危険を感じたので優さんを守りにきました」

「また、水のことを言うのか?」

こいつまた・・・

「はい、彼女もそうですがよくない風の流れを感じたのです。私から遠くに行かないでください」

また、それか・・・

「もういい」

なんとなくレキに怒りがわいて湯船から出るとそのまま、俺は外に向かった。

なんであいつは水を危険物扱いするんだ?

嫉妬?んあわけないか・・・

風とかいう洗脳の賜物なのだろう。

まいったなぁ・・・本当に

              †

こいつは参ったぞ・・・

俺は部屋に戻った瞬間、後悔した。

沙織さんが気を利かせたのか部屋の中央には大きめの布団が1組だけだ。

レキにいつもの寝方で寝ろといえばレキはそうするかもしれない。

それで俺が布団で寝る?

「・・・」

想像してみたが俺最低だ。

そんなクズは殴るぞ

じゃあ、一緒に寝るのか?

駄目だ駄目だ!俺の理性が崩壊してしまう。

同じ布団の中でレキの寝顔を至近距離で見てしまったらまともでいられる自信がない。

そして、理性が崩壊したら待つのはレキとの責任とっての結婚だ。

そうなれば完全アウト逃げることは出来なくなる。

つまりは、ゲームーオーバーだ。

どうすればいいんだ・・・

神様教えてくれ・・・

そうこうしていたら、レキも戻ってきた。

武偵高制服姿だ。

そういえば、素振りしてなかったな今日

「れ、レキ俺日課忘れてたから行ってくる!」

紫電を手に掴んで慌ててレキの横を通り過ぎた瞬間

「優さん」

とレキに呼び止められた。

「なに・・・うお!」

突然呼び止められてんぱっていたのもあり俺は脚を絡ませてレキの方へ倒れこんだ。

とっさで室内なのでワイヤーを使う暇もなく

「・・・」

と、とんでもないことになったぞ

レキは無言で倒れてきた俺に押されて布団に倒れこんで俺が覆いかぶさるようになる。

「ご、ごめ!」

慌ててどこうとしたが倒れたままのレキが布団の上で俺のネクタイを左手で掴んだ。

え?

「優さん。風は私に2つのことを命じてます。私はそのうちの1つを実行できてません」

「へ、へぇ、どんな命令なんですか?」

心臓が爆発しそうなほどどきどきしてるのが分かるぞ。

変な敬語使っちまった。

「風を守るウルスの子孫を作ることです」

「そ、それってまさか・・・」

「優さんと私の子供です」

ここでそれを言うのか!

レキは可愛い。

だけど・・・

ごとんという音がしたので目をそちらにやると部屋にある大きなつぼが倒れて中からハイマキが出てきた。

おい!お前そんなとこにいたのか!

器用にジャンプして照明を消した。

チェックメイト

そんな声が聞こえた気がした。

もうだめだ

「それともう一つ私は命じられています」

レキは急に声を小さくし、いきなり下から俺に抱きつくと足を俺の足に当て、俺のバランスが崩れレキに覆いかぶさる直前、ごろんと

俺とレキは布団から一回転する。

「優さんを守れと」

レキと上下が逆になったその時異変は起こった。

ビュン、ビシュン、ガシャン空気を切り裂く音と襖を貫通する音

これは狙撃か!?

戦闘という事態で頭が冷静になる。

だが、今は動けない。

狙撃でガラスが砕け俺とレキの携帯が砕け散る。

なんてことしやがる!携帯高いんだぞ!

そうだ、水達は?

一瞬、狙撃がやみ、違う部屋も狙撃されているようだ。

「うわあああ!」

村上の声が聞こえてきた。

どうやら、あいつも狙われているらしい

「狙撃です」

レキの言葉に俺は頷く。

よりによって狙撃手が相手かよ・・・

山の方からこだまする発砲音。

ああ、狙われる心当たり多すぎる。

ランパンの春欄か?

シン達の可能性を考えるが

「レミントンM700、距離は2180m、山岳方面から撃ってきました」

春欄じゃねえな・・・あいつのキリングレンジはレキ以下だったはず。というか

2180だと?レキの2051を上回ってるじゃねえかよ!

「ここは危険です。敵から私達の場所が分かりすぎている。外に出ましょう」

「ああ」

対狙撃戦はレキの方が上だ。

ドラグノフを手に闇に目を光らせているレキと部屋の外に出る。

「警察に電話している沙織さんの後ろを通ったとき

「レキ様!椎名!」

「村上!無事だったか」

「ああ、だがこれはどういうことだ?」

「悪いが説明してる時間はない。レキ、村上も連れて行っていいな?」

こくりとレキは頷いた。

「お、おお!レキ様!私なんかのためにありがとうございます!」

とこんな時でも村上は感動したように言った。

はぁ

沙織さんに電話貸してもらって援軍を・・・

姉さんは・・・ソマリアか・・・土方さんや沖田は多分東京だし実家に頼るかここは?

「沙織さん電話貸して下さい」

「それが通じないんです」

電波妨害か?電話線切られたのか?

やむ終えない。

レキと毛を逆立たせたハイマキの後に続いて外に出る。

狙撃なら銃弾切りも使えない。

雪村ならなんとか出来る場面なんだが本当に俺使えねえな

「椎名優希、レキ、おまけ、3人とも投降しやがれです」

人工音声のこの声・・・ボーカロイドの奴か?

確か、秋葉が聞いてたな

レキがドラグノフを空に向けタアアンと発砲すると火花が走りラジコンのへりのようなものが落下していった。

上空から更に銃弾が雨のように降り注ぐ

銃弾切りで3つ捌いて舌打ちする。

こういった手合いは大嫌いなんだよ。

「沙織さん出てきちゃ駄目だ!」

俺は携帯を手に出てきた沙織さんを押し戻しながら

「水!どこだ水!」

「優希! ごめんちょっと、怪我しちゃってそっちにいけない」

撃たれたのか?

建物の水の部屋らしい場所から声が聞こえてくる。

「大丈夫か! 助けに言ったほうが・・・」

「いい! 自分の身は自分で守れるから」

「分かった!沙織さんを頼む!」

「怪我したって言ってるのに鬼だよこの子」

と水に沙織さんを託している間に

「私は1発の銃弾」

レキが上空に3発撃ちラジコンヘリを撃墜する。

俺にはほとんど見えないのに頼りになるなレキ

「逃げたらそこと・・・沙織・水を破壊するです・・・あ、アハハハ」

墜落していくヘリから途切れ途切れに声が聞こえてくる。

1つの選択肢が消えたか・・・

まあ、スナイパーに背中を見せる自殺行為なんてしたくない。

ここはレキに守られよう。

敵が接近してくるなら俺の出番だが・・・

「ヘリはもうありません。旅館の影から森に入り、回り込んで反撃しましょう」

俺達はレキに続いて森の中に入る。

歩きながら俺はこの手口が理子の武偵殺しの事件ににていることを考え始めていた。

イ・ウーの線もあるが、これはおそらく・・・

あいつが使っていた戦法。

「シン・・・ランパンか・・・」

闇の中にあの、糸目の少年が微笑んでいる状況を想像してしまう。

まだ、確証はない。

だが、あいつが再び俺の前に現れる・・・

厄介だな・・・

長い夜が始まろうとしていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第194弾 誠の笑顔

スナイパーから逃れるために駐車場を抜けて林からさらに奥の森の中に入る。

進むに連れて真っ暗になっていく。

夜目は一応は効くほうだがスナイパーには及ぶまい。

俺は戦闘のレキを見失わないように歩き、なぜか村上と手をつないでいた。

理由は一つ、はぐれないためだがなんで男と手をつながなきゃならないんだ?

「くそぅ、なんで椎名なんかと」

と呟いているが俺のせりふだよ

その声にレキは振り返ると静かにとジェスチャーをしてきた。

俺と村上が近づくとレキは小声で

「声を潜めてください。敵は集音器を持っていると思われます。さっき、優さんが旅館の女性の名前を言った直後敵も同じ名前を使った」

そういえば、そうか・・・沙織さんと水の名前を言った後に敵はその名前を使ってきた。

そんなものまで使ってるとは厄介極まりないな・・・

凹凸の激しい森の中を俺達は歩いて行く。

こういう森林を歩くことも昔、してきているはずだが緊張感がまるで違う。

スナイパーに狙われているかもしれないこの状況と昔の状況は異なるからだ。

自然と汗が出てくる。

緊張によるものだ。

戦闘狂モードは使わないほうがいいだろう。

あれは、好戦的になるだけであまり利がこの場所ではない。

「レキ、どこに行くんだ?」

小声で訪ねるとレキも小声で

「さっきの敵の狙撃地点を元に今、敵がどこにいるかを予想しながらこちらの狙撃に適した地形を探しています」

アサルトで少し習ったがスナイパー同士の戦闘というのは有利な地形の取り合いになるらしい敵がよく見えて

自分が撃たれ難く自分が撃ちやすい。

そんな、場所を探してるんだろう。

「レキ様、こんな山の地形をどう把握していんですか?」

村上も小声で聞くがそれは俺も気になるな

「・・・」

レキは答えない。

「レキ」

俺が言うと

「さきほどの旅館に向かう途中地形を見ていました」

「さすがレキ様」

村上はへこんでいない。

まあ、無視されたことなど1回や2回じゃないんだろう。

その時、足元がずるりと滑った。

ぬかるんでるな・・・川が近くにあるのか?

夜目の効くレキの後に続いて川を渡ると目の前に現れたのは巨大な木だ。

樹齢1000年ぐらいありそうなその木を見上げ。

「さて、どうするレキ? スナイパーの戦いは俺は専門外だ。村上はどうだ?」

「私も専門外だ。 ここはレキ様に全てを託します」

俺と村上はそれぞれ武器をチェックしながら言う

「ここで待機・索敵し狙撃の機会をうかがいます、優さん村上さん腕時計を隠してください」

「なぜですか?」

と村上

「夜光塗料で敵に発見される恐れがありますから」

「な、なるほど」

俺と村上は腕時計を外す。

ここはプロに従うのが道理だ。

「敵はおそらくスターライトスコープも装備しています。そうでなければ夜襲はかけなかったはずですし。あの距離から黒塗りのラジコンは見えなかったはずです」

あれまでつけてるのか・・・スターライトスコープは夜の狙撃用の装備で星明りでも昼間のように見えるという優れものだ

「レキにはついてるのか?」

レキは首を横に振る

「このスコープが夜間用に装備してるのはライティング・レクティルのみです」

それは、不利とかいう問題じゃないライティング・レクティルはスコープの中の十字が光るから夜間照準ができるというものだ。

敵とどちらが装備面で優れているかなど言うまでもないだろう。

「椎名少し離れるがいいか?」

「なんでだよ?」

「男なら察せ、レキ様の前でできるものか」

トイレか・・・

「行ってこいよ。遠くには行かないほうがいいぞ」

「ああ、レキ様少し、失礼します」

ここに来るまで敵には見つかっていない。

光物も外したし大丈夫なはずだ。

村上が少し離れた時

ハイマキが耳をぴくっと耳を立てて立ち上がった。

直後、銃声が森の中から響いてきた。

村上か!

一瞬、送れて村上が視界に飛び込んでくる。

同時に俺は村上の後ろから出てきた相手に居合いから

「風凪!」

真空のカマイタチが相手にぶち当たる。

「ぎゃん」

とぶっ飛ばされた相手を見る。

闘用の犬、シャン・ペイか・・・中国では猟犬や軍用犬にも使われる凶暴な犬だ。

相手は風凪を食らっても立ち上がろうとしている。

殺す気はなかったが多少のダメージは与えたはずだぞ。

「・・・」

紫電を再び鞘に仕舞い対峙しようとした瞬間、敵は逃走を図った。

やはり、ダメージはあったからか?

「レキ追うか?」

あれが逃げれば飼い主のとこまでいくかもしれない。そうすれば隠れ場所もばれる。

「場所は先ほどの村上さんの発砲で悟られています」

きろとレキは村上を見る。

一方村上は顔面蒼白でレキに土下座した。

「すみませんレキ様・・・私が・・・私が・・・」

今にも泣きそうな声で村上は言った。

村上はレキに心酔している。

だからこそ、邪魔をしてしまった自分が許せないのだろう。

「・・・」

レキは村上には何も言わず俺を見る。

「移動は・・・もうできないな?」

敵がレキ以上のスナイパーだというならレキの狙撃から逃げ回った俺には状況が分かる。

レキはこくりと頷くと中身をだしてからカロリーメイトの箱に砂をつめて木の横に投げた。

刹那

ビシュ!

と、箱が砕け散り砂が飛び散った。

参ったな・・・もう本当に動けなさそうだ

「この木の左右に出た瞬間撃たれます。私達はもう、動けない」

遠くから銃声が聞こえてきた。

音が後に来たんだな

「予想通り敵は最初に旅館を狙撃した場所から動いていないようです。距離は2050、私のイン・レンジでもあります」

2050メートルからカロリーメイトの箱を撃てるスナイパーか・・・

今回は本当に役立たずだな俺は

「敵は狙撃のプロだと思われます。性格はきわめて自信家ですね」

「カロリーメイトを撃ったからか?」

「はい、撃つことで自分の位置を知られても負けないという自己アピールなのです。そして、敵は機械に頼っており極めて合理的な人物です」

そういや、聞いたことがあるスナイパー同士の戦いはは相手の人格も読んで精神面でも戦う

剣や銃は目の前の相手と戦う時でも読みあいや駆け引きはあるがスナイパーは相手が見えない分更に過酷な

条件になるだろう。

「長期戦になります食事を」

といってレキはカロリーメイトの半分の袋を俺にくれた。

「どうぞ」

袋を開けたレキは放心状態の村上にも自分の半分を差し出した。

村上は驚いたような顔で

「しかし・・・」

「長期戦です。あなたに空腹で判断を間違われるのは困ります」

合理的な判断か・・・

「・・・ありがとうございますレキ様」

村上はそういうとカロリーメイトを受け取った。

だが、そうするとレキの分が少なくなる。

俺はもらった袋を開けて1つを半分に割るとレキに差し出した。

ちょっと、村上が少なくなるが致し方ない

「半分にしようぜレキ」

「それは優さんが食べてください」

「この戦いのキーはお前だろ? だったら、お前が食べろ命令だ」

そうでも言わないと食べないからなお前は

「はい」

レキはそういうとカロリーメイトを受け取った。

        †         

幸いなことにこの木からまっすぐな位置に川があるため俺達はカロリーメイトを食べ、川の水を救って飲むということを

繰り返すこと1時間、何もしない敵も俺達も

時間はたくさんある。

過去のことをレキに聞くことも出来た。

だが、俺達は無言。

決着をつける時間は必ずある。

長期戦になれば椎名の家が察知して動いてくれるはずだ。

土方さん達だってもしかしたらこの状況を察知してくれて援軍を派遣してくれるかもしれない。

宿には水がいた。

あいつが援軍を要請してくれていれば・・・

2時間3時間と時間が過ぎていく。

そして、深夜0時を回った頃、レキが動いた。

ドラグノフの先端に銃剣をつけて制服のスカーフを銃剣につけてたらす

「・・・」

俺はそれを黙って見ていてレキはスカーフをそーっと木の外側に出した。

バシュバシュとスカーフが揺れる。

「場所は変わってるか?」

「いいえ、旅館を狙撃した地点から動いていません。おそらく機械がそこにあるため動くつもりがないのでしょう」

「本当に参った・・・姉さんとの旅の経験は当てにならん」

「水月希さんはどのように対処していたのですか?」

とレキが珍しく質問してきたので

「手からレーザー砲みたいな光を出してスナイパーごと殲滅していた」

冗談ではなくこれは本当の話である。

「私にはそれはできません。ですがそろそろ向こうは決着を急いでいるようです」

「この状況なら手ずまりだろ? 援軍到着まで粘れば俺達の勝ちだ」

レキはふるふると首を横に振った。

「時間がありません。私はこれから敵と撃ち合います。私が即死、あるいは負傷したら放置していってください。その際この銃からスコープを取り外していってください。

このスコープにはカメラが内蔵されていて狙撃の瞬間私が見ていた映像を記録できるようになっていますから敵の姿を確認できます」

「馬鹿いうなレキ!」

お前が死ぬなんて俺は認めないぞ

だが、時間がないのかレキが続ける

「私は狙撃用の武偵弾を3発所持しています」

お前も持ってるのか・・・

今回俺も持ってきてるが今回の戦いには役立っていない。

「私はこれから、武偵弾2発を使用します。3発目は通常弾を使いますのでそれが終わったらここ離脱しましょう」

レキはそういうとドラグノフのマガジンに胸ポケットから取り出した弾を入れ替える。

武偵弾だな。

「レキ!」

レキが俺を見る。悪いがこれだけは言わせてもらうぞ

「どんな状況でも俺はお前を見捨てない!絶対にだ!あの時みたいにな!」

その瞬間、レキが一瞬目を見開いた気がしたがそれは気のせいだったのかもしれない。

次の瞬間には無表情に戻る。

「私は1発の銃弾」

祈るようにレキはあの言葉を紡いでいく

「銃弾は心を持たない。故に何も考えない」

嫌な予感がする。

だが、もう止められない

「ただ、目的に向かって飛ぶだけ」

一瞬で木の側面に出たレキは発砲しすぐに木の後ろに戻ってくる。

敵の姿を見た瞬間に発砲。

この距離でM700のが着弾するまで2秒半だからものすごい技術だ。

その瞬間、森の向こうが明るくなった。

武偵弾閃光弾か!シャーロックとの戦いで使ったな。

続けてレキは再び木の側面に出て発砲。

次の瞬間

ギイイインンとすさまじい振動が届く。

音響弾か

敵がスターライトスコープを除いていてなら目が始めにやられ、2発目で耳がやられたはずである。

「敵のスナイパーは耳を押さえて苦しんでいます。単独犯で観測主はいません。敵は幼い少女です。私より年下の」

勝ったと俺は思った。

しかし、俺らより年下の少女とは世界も広い・・・

「射殺しますか?」

「駄目だ!」

武偵法もあるが俺は即座にそう叫んだ。

「では、敵の武器を破壊します」

と、レキが発砲した瞬間

ばちばちばちと音がし体の周囲ではじけた光に突き飛ばされたような仕草をした。

その場に踊るように半回転したレキのスカートがひらりとひらめく

ぴしゃとレキの下に何か水音がした。

「・・・」

レキは再び銃を構えさきほどとは違う場所を狙う仕草を見せつつ1歩2歩と後退してきた。

「レキ!おい!」

俺はレキの背中を支えて力なく崩れ落ちるレキを寝かせるように地面にかがんだ。

血のにおいを感じレキの額に手をおくとぬるりとした感触

そうとう出血してるぞ。

額の上部に重症、そして、右前腕、左大腿をやられてる。

止血しないと

「し、椎名!」

村上がかばんから包帯を差し出してくる。

「助かる!」

俺はアリスやアサルトで習った緊急の止血をレキに施していく。

情けねえ。

姉さんなら治療できるステルス使えるのに・・・

その時、ぞっとする音が聞こえてきた。

「オオーン」

「ウォオオン」」

この遠吠えさっきのシャー・ペイと同じ連中か・・・数から20匹以上はいるぞ

レキはこいつらの包囲網を察知して決着を急いだのか・・・

「優さんこれを」

レキはドラグノフと銃剣を預けてくる。

くそ!血が止まらない!

「残念ながら私は負傷しました。猟犬達を追い払い。あなたをかばいながら逃げる力はもうありません。ここで自分を守りながら

あなた達だけでも逃げてください敵はすぐに体制を建て直し私に止めを刺しにきます」

「ふざけるな!ふざけるなレキ!お前を置いて逃げられるか!」

もう、誰も見捨てない!俺は武偵になると決め時に決めたんだ。

「優さん早く・・・包囲網を縮められたら逃げる隙もなくなります・・・私は敗北しました。敵より弱かった。弱いものが倒され強いものが

それを血肉にする。それが自然の掟です」

ああ、そうかもな・・・俺はこれまで世界最強の姉さんが弱者を圧倒する姿を幾度となく見てきた。

「合理的になるので優さん・・・こうしていればみんな殺される・・・あなた達だけでも生き残ったほうがいい・・・」

違う!違うんだレキ!俺はもう、昔みたいに弱かったから悲劇を招いた俺が許せなくて必死に強くなろうとしたんだ!

ここでお前を見捨てたら・・・あの時と同じだろ!

「優さん。私のことを気遣う必要はありません。私は風が定めた宿命になぞって生き。死ぬ。それで構わないのです」

違う!それは違うんだレキ!

「ふざけるな! お前、笑ったことないんだろ! 風の命令ばかり受けて生きてきたんだろ? 何の感情もなく

死んでいくなんて俺は・・・」

レキはふるふると首を横に振った。

「優さん・・・あなたは覚えていないかもしれない・・・」

その時のレキは何かを思い出すかのような確かな感情を俺は感じていた。

「子供の頃、あなたは私に心をくれた・・・そして、私は風に命じられたとき思ったことがあるのです。あなたが

相手でよかったと・・・」

子供の頃の・・・俺の過去・・・ここまで来て俺は思い出せない・・・

なぜ思い出せないんだ・・・

「だから、優さん私は何の感情も持たずに死ぬわけではありません、。あなたが気に病むことは何もないのです。ウルスを永続させるための使命は私の姉妹が誰かが改めて追う事になるでしょう」

ふざけるな!ふざけるな!

「もう、私はいいのです。自分に・・初めて心をくれた人、あなたと共に食事し、あなたと共に旅をし、服を買ってもらった。

わずかな時間でしたがその間も、私は表現することは出来なかったけど・・・あれはきっと感情。私はきっと入れしかったのです、あなたと共に過ごしたウルスの里と・・・あの2週間は・・・良い・・・

日々だったのです」

そういってレキは血塗られた顔を上げた。

ああ、レキ・・・

そのぎこちない笑顔を見た瞬間俺は思い出した。

          †

「じゃあ、僕がレキちゃんをお嫁さんにもらってあげるよ」

その言葉を聞いた瞬間の彼女は確かに笑顔だった。

           †

思い出したなら・・・俺がやるべきことは1つだけだ!

だろう姉さん

「優さん行ってくださいもう・・・」

声は力を失っているが冷静なレキの声。

「できねえな」

俺閉じていた目開けるとまっすぐにレキの目を見て言う。

「死なせない!絶対にお前は死なせない!」

レキをドラグノフを肩にレキをお姫様抱っこして言った。

「・・・」

レキは抵抗しようとしたらしいが意識を失ったらしい。

がさがさと草を掻き分ける音。

ちっ!きやがったか・・・

俺が決断するより早くハイマキが俺達の前に進み出る。

シャー・ペイ達のうなり声が聞こえてくる。

お前、たった一人で挑む気なのか・・・

お前は主人に忠実で・・・俺にはなつかなくて・・・

半分振り返ったハイマキと目が会う。

「行け、レキを任せる」

そういっている気がした。

「村上!行くぞ!」

だからこそ、俺は戦友に後を任せて走り出す。

同時に20対1という絶望的な戦いが始まる中俺達は走る。

レキはもう、動かない。

村上と必死に逃走を図る。

泥水みたいな小川を何度か渡りどれほど森を走り抜けただろう。

少し、開けた場所に出た瞬間、俺は

「止まれ村上!」

「なんだ、椎名!」

何かいやがる。

冗談抜きに邪魔はいらないんだがな・・・

「久しぶりですね優希」

その声を聞いた瞬間俺は舌打ちした。

「シン」

神戸で戦ったSランク武偵ランパンのシンそして・・・

「私もいるわよ!」

青龍円偃月刀を手にしたミン

こんな時にSランクが2人・・・

「椎名ここいつらは・・・」

「村上」

俺はレキを村上に預ける

「レキを頼む。民家に出たら星伽神社に向かえ、タクシーでもそれで通じるはずだ」

シン達に聞こえないようにレキを村上に預ける。

「馬鹿をいうな椎名!お前はどうする!」

「足止めだよ。お前は残ってもこいつら相手じゃ10秒もたねえだろ」

「くっ・・・それは・・・」

「行け!」

俺は村上に背を向けたまま紫電を抜く

「もし、俺が死ぬようなことがあったらレキに伝えてくれ。俺の死をお前は気にするなってな」

「馬鹿を言うな! お、お前は大嫌いだが・・・」

村上は感じていた言葉を言い放つ

「お前はレキ様に必要な男だ!」

「死ぬ気はねえよ。早く行け!」

「死ぬな椎名! お前は絶対に・・・」

ギイイインとシンの刃つきのワイヤーを弾く。

「行け!早く!」

俺が怒鳴ると村上は何か言いたそうだったがレキを抱いて森の中に走り去る。

これで大丈夫だ。

「今生の別れそれでいいのですか優希君」

「誰が今生の別れだって?」

俺は紫電を手にしながら

「生きて帰るさ。お前らを倒してな」

体力は相当消耗してるが勝ってやる!だから、レキ・・・死ぬな・・・

頼む、村上・・・レキを治療できる場所に・・・

「殺しますよ今度こそ」

ごっとシンが突進してくる。

「やってみろ負け犬!」

紫電と仕込み刀が激突する。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第195弾 援軍なき戦い

シンの仕込刀と紫電が激突し、火花が散り、押し合いになる。

「ふっ!」

シンは微笑を浮かべながら左手の仕込み刀を展開した。

「ちっ!」

俺は舌打ちしつつ、右腰のワイヤーを牽制で放ちつつ後退し左手でガバメントを3点バーストで発砲する。

シンはそれを右のワイヤーを上の木に発射し、それを引き戻すことで回避する。

そして、神戸で使っていたグロッグを俺に向けた。

俺と同じく3点バーストで発砲された弾を銃弾切りで捌きながワイヤーで宙を飛びガバメントを2丁フルオートで撃ちつくす。

シンはそれをグロッグで全弾ビリヤード撃ちで迎撃し、火花が散った。

その動作が終わると俺達は距離をとったまま、地面に降り立った。

やはり、こいつ強い。

戦闘スタイルが似ているという件もあるが何より、あの仕込み刀には毒が塗られている。

食らえばこの状況では100%助からない。

「ふぅ・・・」

汗でぐっしょりしている服が少し重い。

レキ達といたあの時間は思っていたより体力を消耗していたようだ。

長引くと負ける。

「・・・」

ミンはにやにやしながら参戦してこない。

おそらく、シンが一騎打ちをあらかじめ指示していたんだろう。

ありがたい状況だな。

できれば援軍が欲しいところだが・・・

「援軍を期待しても無駄ですよ」

心を見透かされたようだがシンは続ける。

「この状況を作り出すために僕らは苦労しましたからね。外部の組織の力も借りてね」

「どういうことだ?」

俺が聞き返すとシンは糸目を更に細めて面白そうに

「君の人脈は大体調べたんですよ。現在、現役の君の知り合い達の居場所を教えてあげます。

公安0土方歳三は東京、同じく沖田刹那も東京。水月希はソマリア、遠山キンジ、神崎・H・アリア、峰・理子・リュパン3世は呉、

君の家のRランク月詠は現在日本を離れています。武田の人間は皆、山梨の戻っています」

「はっ、つまり援軍はないって言いたいのかお前は?」

「そういってるじゃないですか。遠慮なく殺しあえる舞台を整えて上げたんですから感謝してください」

「上等じゃねえか」

 

「ああ、そうそう」

シンは微笑みながら

「君を殺したらウルスの姫を殺します。その後は神戸でふざけたことをしてくれた藤宮の2人を殺しましょうかね。

拉致のほうがいいですか?2人とも美人ですからきっと、かわいがってもらえますよ中国でね」

「てめえ!」

このげすやろうが。挑発だということは分かる。

だが、俺はそれを俺は利用する。

居合いの構えからありったけの殺気をシンにぶつける。

「これは・・・」

シンの目からは俺が陽炎のように揺れているように見えるはずだ。

殺気による目くらまし。

「飛龍0式陽炎」

「!?」

ギイイイン

シンをきりつけて背後に回る前に割って入った影がある。

「何ぼーっとしてんのシン」

「ミン?これは」

「ちっ!」

後退しながら紫電を構えた。

陽炎の弱点は対象者を1人にしか絞れない。

離れた場所にいたミンには効果がなかったんだろう。

シンは納得したように頷くと

「なるほど、椎名の剣術ですか。高密度の殺気を相手にぶつけて視覚を錯覚させる。もう、通じませんよ」

1回だけで見抜いてきやがったか・・・

「ねえ。シンそろそろ決めちゃわない?できりゃあのウルスの姫捕まえて回復させてからなぶり殺しにしたいからさ」

「神戸の時の因縁ですか? まあ、いいでしょう」

「ラッキー、見てるだけって好きじゃなかったのよね」

青龍円偃月を構えて嬉しそうにミンは言った。

「というわけで2対1で死んでもらいますよ」

くそ、せめて体調があと少しましだったなら・・・

愚痴っても仕方ねえか・・・

「武偵は諦めるな・・・決して諦めるな」

活力を入れるために言ってから意識を集中した瞬間、2人が動いた。

「キャハハ!」

ブオンと青龍円偃月が空を切る。

それを紙一重で交わしながらシンの仕込み刀と紫電を激突させた。

右をミン、左をシンに、ワイヤーを発射し、わずかに2人の体勢が崩れた。

ここだ!

ほぼ、0距離でデザートイーグルをシンに向ける。

終わりだシン!

だが、シンは微笑んだままだ。

引き金を引こうとした瞬間、俺はわき腹に衝撃を受けて吹っ飛んだ。

「がっ!」

激痛に耐えながらなんとか背中のワイヤーを木にかけると後退ししている間に闇の中から銃声が聞こえデザートイーグルを俺の

手から吹っ飛ばした。

いてぇ・・・骨やられたか・・・

激痛で折れてるかもしれないわき腹に手を置きながら闇の中を見る。

レキと戦った狙撃主?いや、

「春蘭か・・・」

「正解」

闇の中から狙撃銃を手にした少女が現れる。

「なぜ、頭を撃ち抜かなかったんです春蘭?」

シンが聞くが春蘭は

「なぶり殺しにしたいシンの気持ちを汲んだ」

「おや、ばれてましたか」

にやりとシンが邪悪な笑みを浮かべる。

3対1か・・・それも狙撃手がいるんじゃ逃げられねえ。

防弾制服で貫通はされていないとはいえ多分骨がやられた・・・

これじゃ満足に動けない・・・

「・・・」

レキの笑顔が脳裏によぎった。

レキ・・・生きて帰れないかもしれない・・・

だけど、最後まで諦めねえ。

武偵弾は炸裂弾が1発だけある。

これで活路を見出すしかない。

緋刀の力は使えない。

あれの発動条件はアリアを守るときにしか発動しない。

少なくてもこれまでは全部アリアが関わっていた。

だが、今回アリアはこいつらに狙われていない。

「無様ですね優希。どんな死ぬ方が好みですか?じわじわ死んでいくか苦しんで死ぬか?」

「どっちも同じだろ」

「ええ簡単には殺しません。骨という骨を砕いて殺してくれと懇願するほどに痛めつけてあげますよ」

「はっ・・・」

冗談抜きにこれはまずいな・・・

3人が包囲を狭めてくる。

やるだけはやる・・・村上、うまく逃げ切れ・・・姉さん。土方さん・・・後は頼みます

相打ち覚悟でやってやる。

紫電を構えたその時だった。

「おお!見つけた見つけた!」

頼もしいその声に俺は顔を上げた。

シン達も同じくその方角を見上げるとそこにいたのは

「やぁ、大ピンチだね優希」

「す、水!」

「はーい、水ちゃんでーす」

とんと地面に降り立った水は俺を見ながら手に持った日本刀を肩にとんとんと置きながら

「レキちゃんは?」

「村上が連れて逃げてくれた。お前が来てくれたならこいつらも倒せる」

そう、水は強い。

1対3も2対3なら話は変わるのだ。

水はシン達を見ながら

「ふーん。まだ、殺せてないんだ」

「え?」

なに・・・言ってるんだお前?

「シン、ミン、春蘭。ウルスの姫を追って。殺してきて」

「しかし、優希の相手は僕が・・・」

「ああ、聞こえなかった? ウルスの姫を殺せ。捕縛でも構わない」

「分かりました」

シン達が村上達が消えた森に入っていく。

「ま、待て!」

シン達を追いかけようとしたが水が前に立ちはだかる。

「動かないほうがいいよ」

「水!お前!」

シン達と知り合いだった。

導き出される答えは一つだけだ。

「いいよ。もう、隠すつもりはない。所属組織はランパン」

信じたくはなかったよ・・・

「ねえ優希?」

水は月明かりを背にいつもの笑みを浮かべながら

「ランパンにおいでよ」

とにっこりと右手を差し出した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第196弾 覇王

こいつと・・・水と始めで会ったのはもう、4年前か・・・

お前は、虎児達といないときの俺によく話しかけけてくれた。

「屋上で一人の人発見!」

「今日は学校サボって遊びに行こ!」

俺はお前をあの時は親友だと思ってた。

再開したときもレキがいたからあまり、表現できなかったかもしれないが嬉しかったんだ。

そのお前が今、ランパンを名乗った。

「何の冗談なんだよ水!」

笑顔のまま右手を差し伸べる水を見て俺は言った。

「冗談じゃないよ。私はランパン」

ああ、そうかよ

俺の答えは決まってる。

「仲間になるなんてのはお断りだ。犯罪組織の仲間になる気はねえ!」

「んー、合ってるけど少し違うよ優希」

「どう違うんだよ」

「ランパンに来て。他の勢力や他の派閥には渡さない。私の下でそれを教えてあげるから」

理由はある。

だが、仲間にならないなら教えられないということかよ。

「お前はレキを・・・俺の友達を殺そうとしている。そんな奴にどんな理由があっても従うことなんてできない!」

「ウルスは最終的に私の邪魔になるかもしれない。でも、どうしてもというならランパンの管理の下でレキちゃんだけは生かして

あげてもいい」

「管理だと?ふざけたことを言うな!」

「やっぱり、駄目?ランパンにはこれない?」

何か違和感を感じる。

こいつの目的は他に・・・

「理由を話せ。まずはそれからだ」

「駄目だよ。仲間にならないなら教えられない」

「なら、交渉決裂だ」

「違うよ」

水は右手を刀に置くと

「優希を倒してから、ランパンに連れ帰る。説得の時間はいくらであるよね」

「!?」

後退して紫電を構える。

「始業式の戦い。遅れたけど今からはじめよう。優希!」

水が動いた。

早い。

上段から左、さらに右から

連撃が紫電と激突し火花を散らす。

その速度に怪我をしている俺は受け流すのがやっとだった。

さらに10・20と剣の攻撃が続いた。

反撃の隙がまるでない。

水には派手な技はないがこの速度と反撃させない剣技でその強さを維持してきたのだ。

「ほらどうしたの?拉致しちゃうよ」

「くそったれが!」

わき腹の痛みに耐えながら右腰、左腰のワイヤーを発射する。

水はそれを読んでいたのか体をひねり交わすと左手で右腰のワイヤーを掴んだ。

「捕まえた」

日本刀を振り上げるとそれを俺に向かい振り下ろす。

その動作一つとっても速い。

直撃はもらえねえ!

剣の軌道を読んでかわそうとしたが刃が浅く右手をえぐった。

「っ!」

ありたっけの力で後ろに飛んで傷口を押さえる。

傷は浅い・・・

つっと傷口から血が滴り落ち、紫電に赤い色を作った。

まだ、右手は動くが痛みも含めて不利な要素の一つになっちまうな

「遅いよ」

次の瞬間、水が一瞬で、距離を詰めてきた。

紫電を横殴りに牽制で振るうが水はそれをかがみこんでかわすと刀を左手に持ち替えて右拳を振りかぶった。

まずい!

回避が間に合わないと判断した俺は腹の筋肉に力を入れた瞬間水の拳が腹に吸い込まれるように打ち付けられた。

ぶっ飛ばされて木に激突する。

「うぐ・・・」

ずるずると木に沿うように滑り落ちるように木を背にしたまま地面に座り込む。

「はぁはぁ・・・」

今ので切れたのか頭から血がつっと左目を伝う。

これは・・・勝てないか・・・

体に力が入らない。

意識が遠のきそうだ。

だが、ここで気を失えば死ぬことはなくても起きた先にあるのは後悔だ。

「・・・」

震える手でガバメントのマガジンを入れ替える。

ザッザと地面を揺らしながら水が歩いてくる音が聞こえてきた。

武偵は決して人を殺してはならない。

だが、仲間を殺されるぐらいなら俺は・・・

ドンドンドンと単射を水は日本刀で歩きながら銃弾切りで払いつつ歩いてくる。

まるで、私がそこ行ったら降伏してねというように・・・

これが・・・最後の賭けだ。

ドンと再びガバメントから弾が発射された。

水は同じく銃弾切りでそれを弾こうとした瞬間

「!?」

水の周りで大爆発が起こった。

武偵弾炸裂弾。

最後の武偵弾だ。

これで大ダメージを受けるかしてくれれば・・・

爆煙を見ながら俺は息を吐いた。

「けほ、殺す気だったでしょ優希。ひどいなぁ」

ハハハ、今のかわすか普通。

「あーあ、服ぼろぼろ。刀もどっか飛んで行っちゃったし」

あちこちが破けた服を見ながら水が言う。

だが、次の瞬間には元の笑顔を受かべた。

「でも、もう、終わりだよね」

スカートの中からガシャガシャと一瞬で展開された武具。

黒い棍・・・

東京で粉雪ちゃん達を助けたときに現れたあいつ・・・そうかあれもお前だったのか・・・

だが、それを知ったところで

「ぅ・・・」

ガバメントの残弾を全て撃ちそれを水が棍で弾く。

新しいマガジンを探そうとした瞬間、水が一気に距離を詰めてきた。

正面から俺を見下ろす位置に来るとガバメントを持つ手を踏みつけた。

「ぐぅ・・・」

「もう、諦めなよ。万全なら分からなかったけど今回は完全な私の舞台。勝ち目はないよ」

右手を踏んだまま水が左拳を握り締めるとどぅと俺の体に威力ある1発を放つ。

ザザザと地面を滑りながらも一瞬手を離していた紫電を左手で握り締めている。

「・・・」

俺は紫電を地面に突き立てると杖代わりにふらふらになりながら立ち上がった。

ぼろぼろだな・・・満身創痍だ。

「昔より打たれ強くなったね優希。もう、勝ち目なんてまるでないよ。なんで起き上がるの?」

「俺には・・・負けられない理由があるんだよ・・・」

視界に霞む水をにらみながら俺は言う。

「それはやっぱりレキちゃんのため?」

「そうだ。だが、レキだけじゃない」

紫電を地面から抜いて震える手で水の方に刃を向ける。

「お前らみたいな犯罪者がいるから不幸になる奴がいる。レキもアリアも理子も秋葉も・・・その他の俺の手に

届く範囲の知り合いだけでも俺はその不幸から守りたいんだよ。それが・・・あの時の贖罪にもなる」

「かっこいいね」

水は少し悲しそうに微笑んでから

「でも口で言うだけなら誰でも出来る。力がないなら守れない」

ピピピと電子音が聞こえ水は俺を見たまま、衛星電話らしい小型の機械を取り出して耳に当てた。

「そう。ううん方針変更。今すぐ殺して」

ぴっと水は電源を押す

嫌な予感がする・・・まさか・・・

「レキちゃん確保。シンには殺すように言ったから今のの瞬間レキちゃんはおそらく死んだ」

レキが・・・死んだ?

嘘だろおい・・・

レキ・・・俺はお前と昔何があったのかも完全には思い出せてないんだ。

お前やっと笑顔を・・・ちゃんとした感情を表に出せたんじゃないか・・・

なのに・・・

ああ・・・レキ、俺が弱かったから・・・レキすまない・・・

ドクンと心臓が跳ねた気がした。

体の血が熱くそれを感じられる。

目を閉じてあける。

その目の色は緋色

 

「絶対に許せねえよお前」

スゥと目に入ってきた1本の髪は黒から緋色に染め上がった。

緋刀

傷が塞がっていくのが分かる。

骨折でさえこの力は修復する。

紫電を肉と力強くそれを構える。

水はそれを黙って見ていたが微笑んだまま

「それが緋弾とはもはや違う系統の緋刀だね。傷が塞がるなんてすごいけど何回塞がるのかな?」

「うるせえよお前」

レキ・・・絶対に敵は討ってやる。絶対にこいつらランパンは潰す!

「うああああ!」

普段の数倍の脚力で地面を蹴り水の棍と激突する。

がちがちと金属同士がぶつかり合う音。

「こ、こりゃ・・・まずいかな」

力負けすると感じたのか水は紫電を反らすように受け流し、左足で刀を受け流した逆の方角に蹴りを放つ。

「遅せえ!」

左手で紫電を持ち右拳で水の左足を迎撃した。

「わ!」

打ち払われた左足のためバランスを崩した。

「死ね!」

本心からそういって上段に振り上げた紫電を叩き落した。

それだけの動作で雷落とし以上の破壊力はある一撃を水は棍で受けた。

ぐにゃり

「!?」

水が驚いた顔をした瞬間、棍が真ん中から折れ曲がった。

だが、達人級の水は素早く武器を捨てると後ろに跳躍した。

「どうした水? こいよ」

簡単には殺してやらやらねえぞ!

怒りで冷静さを欠いているのは自覚できているがこれは止められない。

こいつはレキを・・・

「緋刀か・・・話には聞いてたけどさ。すごいね」

水は木の影から棒のようなものを取り出した。

武器を隠してたのか?先がまだ見えないが同じことだ。

「でも・・・」

ザアアアと風が森の中を揺らした。

うつむいて前髪が水の前髪にかかる。

ぷつんと後ろ髪の先端につけていた髪飾りがはじけとび風が水の髪を揺らす。

「私じゃ勝てないくても優希は負ける。私の体で」

何ってやがる?

「殺したくはない。だけど殺しちゃったらごめんね。さあ、貸すよ項羽」

ぞくりと嫌な予感と同時にびりびりと殺気が辺りを包み込んでいくのが分かった。

発生源は水・・・

「ふぅ・・・」

水が顔を上げる。

先ほどとは違い微笑むような柔らかではなく見下すような冷笑

「ほめてやろう小僧」

「なに?」

「俺じきじきにお前を試してやろう」

口調まで変わった水に俺は警戒心を隠せずにいる。

この圧倒的な存在感。

水じゃない?

「誰だお前?」

「お前だと? まぁいい名乗ってやろう。俺の名は項羽、西楚の覇王だ」

項羽だと?確か大昔の中国のおそらくは世界最強の武人の名

「分かりやすく教えてやろう。この水という娘は過去の俺の血を継いでいる」

「幽霊が取り付いたとでも言う気か?」

「幽霊だと?そんなものでない。血の奥底に眠っていた覇王の血がこの娘の力を求める心に反応して覚醒したに

過ぎん」

びりびりと感じるこの存在感と殺気は姉さんクラス・・・い、いや下手すれば姉さん以上の・・・

「覇王。そして、俺のもう一つの通り名はな」

ガシャンと巨大なその武具を担いで項羽は言う。

「万武(バンウー)の項羽。これは正確にはこの小娘の水だがな」

かつて、同じく武により最強クラスといわれていた武人、呂布が使っていたとされるその槍、方天画戟を構えながら奴はいう

「さあ、やろうか」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第197弾 村上男の戦いー絶望染める雪の羽

どれだけ走ったかは覚えていない。

ただ、無我夢中で彼は走っていた。

「はぁはぁ・・・くそ道路はまだか・・・」

村上 正、レキ様のレキ様だけのレキレキファンクラブ会長である。

今、彼の手にはそのレキが重症を負って意識を失っている。

一刻も早く病院に行かなくては・・・

「椎名・・・」

奴はどうなった・・・

対峙したときの敵は明らかに強いと一目見たときに分かった。

だが、奴は言ったのだ。

「レキを頼む」

その背を見たとき、村上は思った。

椎名、私は誤解していたのかもしれないと

あいつの周りには非常にたくさんの女子達がいる。

ふらふらとあいつはしていて、何股もかけてるやつだと・・・

そんなクズにレキ様を任せるなど合ってはならない

だが、奴は命がけでレキ様と私を逃がすために戦ってくれている。

腕の中でぐったりとしているレキ様

がんばってください必ず助けます。

仮にとはいえ1年の頃、天使かと思ったまるで、人形のように完成された美少女。

告白したが振られファンクラブを作って彼女を奉ってきた。

「レキ様・・・」

がさりと暗闇の森を抜けると開けた場所に出た。

地面を踏むとその感触はアスファルトの硬い感覚。

「森を抜けられたのか?」

目を細めると遠くに街灯のようなものが見えた。

まだ、町からは遠いが車が通れば助けてもらえる。

希望が沸いてきて村上は歩き出そうとした瞬間、ぞくりと悪寒が全身を駆け巡る。

直感といっていいかもしれない。

村上は大急ぎで道路から森の中に飛び込んで木の葉の生い茂る中に身を隠したその瞬間

「ちっ!道路まで出てるじゃない。シン」

「そうなると厄介ですね」

ゆっくと移動しながら村上はHK94を取り出した。

レキ様のいる位置から十分に離れる。

やるか?

椎名はどうした?

まさか、やられてしまったのか?

ここで、やり過ごすか奇襲するかを村上はしばし思案する。

「どっちに行ったかシン探って」

「仕方ありませんね」

探るだと?まさか・・・

稀にだがいるのだ。

気配を読んで相手を探る能力を持つ達人が

そして、村上は気配を消す技能はない。

レキは意識がないので気配はしないだろうが自分は絶対に見つかる。

2人は今ならまだ、自分には気づいていない。

なら・・・

「・・・」

ぐっとHK94を握り締め照準しようとする。

「いないようですね。どうやら、遠くに離れてしまったようだ」

え?まさか、探れなかったのか?

だとすれば助かったか?

ドクドクと心臓が跳ね一瞬安堵した瞬間

「なんて・・・言うと思いましたか?」

ヒュンと音が聞こえ、何かが右手に絡み付いて引き寄せられる。

「うお!」

強制的に茂みから引きずり出され2人の前に村上は姿をさらしてしまった。

これは・・・ワイヤーか?

手に巻きつけられたものを見て村上は思う。

「おや?ウルスの姫じゃありませんね。ミン」

「はいはい」

そういいながらミンは村上が潜んでいた茂みを探っていたが顔を上げる。

ウルスの姫はいないみたいよシン

「そうですか」

村上は左手でもう一丁のHK94を取り出そうとしたが

「では君に聞きましょうかね」

ドットわき腹に衝撃が走り村上はぶっ飛んだ。

アスファルトをごろごろ転がりながら激痛に顔をしかめる。

ガシャンとHK94 2丁が村上の手から離れ道路を転がって言った。

しまった。

「ウルスの姫はどこです? 正直に言うなら君だけは見逃してあげてもいいですよ」

カツカツと歩いてくる敵を見て村上は冷静だった。

こいつらはレキ様を殺そうとしている。

そして、レキ様を託された私がすることは決まっている。

「残念だったなすでに私の仲間がバイクで搬送した」

ドガと再び蹴飛ばされ村上は背中から地面に叩きつけられる。

「嘘はいけませんねぇ。そうだ今度嘘を言うたびにこれを上げましょう。正直に言うまでね」

そういいながらシンはグロッグを取り出した。

「ミン、探しなさい近くにいるはずです」

「はいはい」

めんどくさそうにミンが捜索を開始する。

「無駄だレキ様は・・・」

バス

「ぐっ!」

肩に衝撃が走った。

防弾制服越しに肩に銃弾が撃ちこまれたのだ。

貫通はしないが金属バッドで殴られた衝撃を村上は受けた。

「どうしたんです?ウルスの姫の場所はどこですか?」

細目のまま、シンは楽しそうに言った。

この男、拷問することを楽しんでいる。

「誰が・・・きさ・・・」

バス

「ぎっ!」

今度は左手

「さあどうしたんです?」

「・・・」

バスバス

右手左足

「うぐ・・・ぐ・・・」

まるで反撃ができない。

武器を失い隙もない。

椎名を倒したとすればこいつらはAランク以上。Cランクの自分では勝ち目はない。

「優希は・・・椎名優希はどうした?」

激痛に耐えながら村上は言った。

関係ないことだがシンはグロッグを撃たず

「もちろん殺しました。優希が来ることを前提とした時間稼ぎはまったくの無駄ですよ」

「ふっ」

「何がおかしいんです?」

「椎名が死んだだと?お前は嘘が下手だな」

「本当ですよ。優希はもう死んでいる」

「奴は我々RRRの攻撃を幾度となくかわして来た男だ。そして、レキ様に見込まれた男だ。レキ様を

置いて死ぬなどありえない」

「RRR?とはなんです?」

聞きなれない単語にシンは首をかしげた。

「レキ様の・・・レキ様だけのレキレキファンクラブだ」

「ファンクラブ?なるほど、親衛隊や近衛のようなものですか。ウルスの姫の近衛はずいぶん弱いんですね」

「確かに武力ではお前には私は勝てないかもしれないだが私は真実しか言わない。レキ様はもう、病院に向かっている」

「では、いつまで耐えられますかね?」

それから、10分。

一瞬だが、意識が飛んでいたのかもしれない。

体のあちこちが痛い。

口を割らない村上にシンは拷問を継続した。

グロッグの弾33発を撃ちつくしマガジンを変えている。

「しぶといですね。君も・・・」

「うぐ・・・」

しゃべれないという状態を回避するためか内蔵器官が致命傷にならないようにシンは撃っているようだがこのままでは・・・

「死にますよ?いいんですか?」

「な、なんと言われても・・・レキ様はここにはいない・・・信じてくれ」

死ぬわけには行かない。

死ねばレキ様はここで人知れず死んでしまうのだ。

「ふむ」

シンは村上を見て道路を見上げた。

「ミン、見つからないんですか?」

「いないわね」

「とするとこの男の言ってる事は本当ということですかね?普通ここまで痛めつけて言わない馬鹿もそうそういないでしょうし時間をロスしましたか?」

いいぞ。

そのまま、行ってくれ

「本当だと・・・言ってる」

「とすると・・・ミン行きますよ」

勝ったと村上は思った。

だが、決して表情には出さないぼろぼろになりながら激痛に耐える顔を崩さない。

「んー、ちょっと待ってここだけ探し・・・あ!キャハハハハ見ーつけた!」

その言葉を聴いた瞬間心臓が凍りつくのを村上は感じた。

顔をミンの声の方へ向けると

「れ、レキ様!」

「キャハハ!ほら出てきなよ」

レキの髪を掴んで茂みから引きずり出したミンは乱暴に地面にレキを放り投げた。

意識がないレキはそのまま、地面に倒れてしまう。

「いるじゃないですか。たいした精神力です」

シンは村上を見てから衛星電話を取り出して電話する。

「ウルスの姫を確保しました・・・はい、そのように」

ぷつんとシンは電話を切ってから

「ミン、覇王からの指示です。ウルスの姫を殺しなさい」

「や、やめろ!」

激痛が体を駆け巡った。

まるで電流が体中を駆け巡っているようだ。

だが、村上はかけた。

ミンの前に飛び出すとレキの体に覆いかぶさるようにして立ちはだかった。

「シーンこいつも殺すけど?」

ミンは青龍円偃月刀をぶんぶんと振りまわして振り上げる。

「とりあえず、ウルスの姫は首飛ばしてランパンに持って帰らせてもらうわキャハハ!」

ヒュンと風を切る音。

村上は目を閉じてレキの体をぎゅっと抱きしめた。

せめて、一瞬でもあの刃から守るために・・・

あの刃は自分の体ぐらい簡単に切り裂きレキ様の至るだろう。

すまない椎名・・・私はレキ様を守れなかった・・・

「終わりですね」

とシンが呟いた。

                   †

「いえ、終わりません」

「!?」

背後から聞こえた声にシンは慌てて振り返った。

だが、誰もいない。

ギイイイン

と金属音がした方を見るとミンの青龍円偃月刀を受け止めているものがいる。

その武具は日本刀

まさか、優希が?

そう思ったがその人物は女性だった。

「ちっ!」

ミンは後退して現れた人物を警戒するように見る。

その姿は黒いスーツ。

防弾スーツネロ。

そして、長い髪を一つにまとめている。

早いとシンは思った。

「だ、誰だ・・・」

村上はその背中を見ながら言う。

彼女は振り返ると微笑んで

「もう、大丈夫です。すぐにレキさんも病院に」

「は、はい」

「はっ!できるわけないじゃないの!」

ミンが女に切りかかる。

その速度はCランクらか見ても早く重そうな一撃。

「遅いですよ」

「なっ!」

シンが驚愕した声を上げる。

一瞬、女の姿が消えたかと思うと次の瞬間、ミンの真後ろに立っていたのだ。

がくりとミンが膝をついた。

口からは血がつっと流れ落ちている。

「ぐ・・・何が・・・」

かろうじてだが、シンには見えた。

女はすれ違いざまに防弾服に日本刀による連撃7発、いや、8発ミンに浴びせかけたのだ。

しかも、それを片手で操る日本刀だけで・・・

明らかに化け物クラスの存在だがおかしい、優希の人脈にこんな存在は・・・

「何者です?」

女はシンに体を向けて

「土方雪羽」

「土方?」

だが、彼女は土方歳三ではない。

でな何者なのか・・・

だが、雪羽という名前聞き覚えが・・・

「こういえば分かりますか? 私の旧姓は武田雪羽」

まさかとシンは思った。

「り、鈴・雪土月花の剣聖、武田雪羽ですか」

「そうです」

かつて、10年以上昔、活躍した水月希がいたチームメイト。

彼らはいずれも超偵だった。

だが、この女、武田雪羽だけはステルスを持たなかった。

だが、彼女は最強クラスの能力を持つチームメイトの中でも単純な実力なら水月希の下の2番目の存在だった。

剣のみでステルスに匹敵する実力を身につけ独自の流派『風林火山』を皆伝した剣の天才。

その実力はRランクにこそ及ばないがRランクに匹敵する存在として世界に認知されていたが戦いの世界からは

身を引き、以後10年以上表も裏の戦いにも出てきていなかった。

だからこそ、油断していた。

片手が義手の彼女はもう、2度と戦えず引退したのだと決め付けていたのだ。

「これはいけませんね」

自分達もかなり、消耗している状態でこの化け物とは戦えない。

目的は果たせなかったが引く頃合いだろう。

「その実力見させてもらいましょう」

ドンとグロッグを単射で放つと同時に周りがすさまじい光に包まれる。

武偵弾閃光弾だ。

そして、光が納まる頃にはシン達の姿は掻き消えていた。

「逃げましたか」

雪羽は気絶したらしい村上とレキの怪我を具合を見て

「これは・・・いけないすぐに治療しないと」

村上とレキを雪羽は担いで近くに隠してあったレガシィに乗せると車を出す。

これまでの状況から狙撃手がいることは分かっている。

病院に搬送するのは危ないだろう。

なら、椎名の家か星伽神社か・・・

距離を考えて雪羽は片方に電話して治療の体制を整えてもらう。

気がかりなのはおそらく山の中でまだ、戦っているであろう優希。

だが、助けに行けばその間にレキは死んでしまうだろう。

それぐらい事態は切迫していた。

自分が戻るのに1時間はかかる。

他に援軍にこれるものは誰一人いないのだ。

「ごめんね優希君。でも、レキさんを見捨ててあなたを助けるなんて選択は私には出来ない」

彼女がここにきたのは夫である土方歳三の意思だ。

お前ならおそらくノーマークだろう。

と言っていた予想が当たった形だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第198弾 優希vs覇王 極光の光

まったく、俺ってこの数ヶ月戦ってばかりだな。

ルパン、ジャンヌ、ローズマリー、ブラド、シャーロック・・・

それで今度は項羽かよ。

「簡単には死んでくれるなよ? 緋弾とよく似たその力見せて見ろ小僧」

「言ってろ!」

地面を蹴り、正面から切りかかる。

普段の7倍の脚力で項羽に迫る。

当然速度も7倍だ。

だが

「はっ!」

ギイインと方天画戟と紫電が激突する。

筋力も7倍以上だというのに項羽はその力と拮抗している。

ギチギチと紫電と方天画戟は押し合うが俺は後退した。

本当の化け物か・・・この状態の俺の力と完全に拮抗してやがる。

「次は俺の攻めだな」

項羽が攻める。

方天画戟をまるで紙の様にかるがると、しかし巨大な破壊力を持ってすさまじい速度で振るう。

紫電で捌くが打合うたびに手がしびれる。

これが、覇王・・・世界最強クラスの武人の力か・・・

「ぬん!」

項羽は大きく槍を横殴りに振るった。かろうじてしゃがんでかわすと同時に背後かバキバキと木をなぎ倒す音が聞こえてきた。

槍の長さから音速を超えた攻撃風凪と同じ効力を持つ技をただ、腕を振るっただけでやりやがった。

「飛流一式!風切り!」

居合いから相手に切り込む技。

だが・・・

「遅いわ!」

方天画戟がそれを阻む。

俺は牽制にワイヤーを投げてから更にワイヤーで跳躍する。

最大の破壊力で粉砕してやる。

「ぬっ!」

項羽が見上げる。

闇の中からの攻撃だ。

「飛流一式!雷落とし!」

7倍の筋力からの重力を加えた一撃だ。

 

項羽は方天画戟を横に持つと俺に向かい横殴りに振るった。

ガアアアアンと一瞬、紫電と方天画戟が拮抗するが飛ばされたのは俺の方だった。

雷落としでも奴の体には届かない。

なら、新撰組直伝の滅壊で・・・

ズグン

「う・・・」

激痛が左目を襲い俺は思わず左目を抑えた。

左目が焼けるように熱い。

どうなってやがる。

「なるほど、雑魚ではないな。馬の骨ぐらいの力はあったか」

項羽が動いた。

再び方天画戟の連撃を紫電で受け流す。

防御するだけでやっとだった。

くそ、緋刀を力を使えてるのに・・・

受け流しながら考えるんだ。

こいつに勝つにはあれしかない。

ローズマリーに使ったあの光を

ギイインと紫電とぶつかると俺は後退して紫電を両手で構える。

「ん?」

何かを感じたのだろう。

項羽は追撃をやめる。

「・・・」

俺は項羽を睨みながら思う。

思い出せ。

あの光は意識を極限まで集中しないと出来ないはずだ。

目を閉じて全神経集中させる。

「大技か?いいだろうそれを砕いて俺はかつ」

項羽は追撃してこない。

好都合

俺の体にある緋弾さんよ。頼む俺はレキを・・・仲間を守りたいんだ。

もう、2度とあいつを泣かしたくない。

だから、力を・・・

「・・・」

体の隅々が熱い。

その熱は徐々に紫電に俺の手を通じて紫電に集まっていることが感じられた。

目を開けるとぽぅと紫電が緋色の光を放っている。

これはあの時の現象だ。

撃てると俺は思った。

そして、俺はこの状態のときに使う技を飛流とは違う流派で呼ぶことに決めていたのだ。

「決着だ。項羽」

「こい、絶望しろ椎名」

腕を振りかぶる。

これで駄目なら・・・

「緋流!『極光』!」

世界を染めるようなすさまじい緋色の光が紫電から放たれる。

前に秋葉のあるアニメで見た騎士が放った光の様な規模のものが項羽を襲う。

「ぬっ!」

項羽の声が聞こえた気がしたが光は情け容赦なく項羽のいた場所を飲み込んだ。

             †

「はぁはぁ・・・」

地面がえぐられ直線状に何もなくなった森を見ながら俺は膝をついた。

やったか・・・

これで2人目・・・ローズマリーに続いて人殺しをしてしまった。

「水・・・」

敵になっても・・・俺はあいつを殺したくなかった。

結局俺は人を殺さないと誰も守れないのかもな・・・

紫電を鞘に収めてよろよろと立ち上がる。

足もふらふらだ・・・意識も保つのがやっとだ。

この緋刀の力は極限まで体力を奪う。

あの極光はもう撃てないだろう。

まだ、髪の色は緋色だがまもなく戻るだろうな・・・

正面から背を向けて歩き出そうとしたその時

「それが、緋刀。時空を操る能力か。なるほど、すさまじい」

「!?」

振り返れば奴がいた方天画戟を持つ覇王

「あれ食らって生きてるとか化け物かよお前」

「そういうな小僧。直撃を受ければおそらく俺も消し飛んでいただろう。だが、避ければどうということはない」

「くそ・・・」

本当にやばいぞ・・・

傷はなくても体の状態は極限状態だ。

「今のが切り札か?なら諦めることだ。 その技に免じて言ってやろう。俺の下に来い」

「断る!」

「ハハハ、はっきりというな。なら死ね!」

項羽が接近してくる。

くそ、体が・・・

激痛が肩に来る。

方天画戟が肩に食い込んでいる。

「うぐ・・・」

なんとかワイヤーで後退する。

肩の傷はふさがり始めているが急所にもらえば治らない・・・

「再生能力か。厄介なものだ。なら、首か心臓を潰して終わらせてやろう」

項羽が動く。

ちくしょう。体が、動かねえ・・・

方天画戟がスローに見える。

ああ、そうか死ぬ瞬間というのはこういうものなんだ。

いやにゆっくりと見えてくる。

俺は負けたんだ・・・

死ぬたくない。

俺はまだ・・・やることがあるんだ・・・

だから死にたくない・・・

「いいぜ。少しだが力を貸してやるよ」

誰だ?

頭の中から聞こえてきたその声が聞こえた瞬間俺の意識は途絶えた。

 

 




以上が小説家になろうで投稿していた内容になります。
これから先は新たに書いていきますのでお待ちください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第199弾 夜に明けて

この話しからついに白紙からのページになります


夢を見ていた・・・

そこは、どこまでも続く平原で遠くには山がぼんやりと見える場所だ。

「・・・」

ざくざくと旅用のマントを羽織ながら僕は歩いて行く。

「み、水・・・」

リュックから水筒を取り出して口に当てて流し込んだ。

ぴちゃんと1滴だけ水が出た。

つまりは空だ。

「あ、ハハハ」

周りを見渡しても水らしいものは何もなく狼のような遠吠えも聞こえてくる。

「僕もう死ぬんだ・・・」

どさりと草の地面に座り込む。

もう、2日動き続けて気力がない・・・

「師匠・・・というか姉さん・・・僕もう駄目・・・」

姉である姉さんとこの大草原ではぐれてしまいさまようこと2日。

一人寂しく死んでいくのだろうか・・・

「うう・・・咲夜、鏡夜、母さん、父さんさようなら・・・」

目を閉じるとすぐに闇はやってきた。

      †

どれほど寝ていたのだろう。

目覚めると地面が振動していた。

いや、動いてる?

獣臭い臭いがして首を横に向けると僕と同じくらいの女の子が手綱を握っている。

馬の上かな?

「ねえ君」

「?」

薄いグリーンの髪に琥珀色の瞳。

その子は不思議そうな顔で僕を見てきた。

「助けてくれたの?」

「うん」

少女は頷くと腰の鞄から水筒を出して

「のど渇いてる?」

「う、うん!頂戴!」

僕はそれをひったくるようにして無我夢中に口に流し込んだ。

そして、一息つくと息を吐いてから

「ふぅ、死ぬかと思ったよ」

「・・・」

少女はかすかに笑った気がしたが無表情に近い表情だ。

「僕、椎名 優希。君の名前は?」

「蕾姫(レキ)です」

               †

闇の中で静かに目を開ける。

暗いな・・・ここどこだ?

辺りを見回すが誰も・・・いや・・・

長い・・・緋色の髪の誰かがいる・・・

「アリア?」

「外れ」

女性の声はそういうと振り返った。

アリアと同じカメリアの瞳に緋色の髪。

姉さんのように不適に笑うその存在は・・・

お、俺の女装バージョンじゃねえか

髪の色と目の色は違うけどな

「誰だよお前?」

少しうつむくと長い髪がその女の目にかかり見えなくなった。

口元をにやりとして

「私は・・・スサノオ」

「スサノオ?」

スサノオと名乗った女は俺を指差すと

「お前は私であり私はお前」

「はっ?意味分からねえこというな」

ていうか人に指さすなよ

「目覚めることは本来はなかった。だが、これはある意味宿命」

「・・・」

駄目だこの女頭狂ってやがる。

「緋刀の力は緋弾とは似て非なるもの。使い続ければお前は身を滅ぼすことになる」

「緋刀って身体能力が10倍になってあの変な光が使える奴だろ?」

「あんなものはおまけにすぎない。緋刀・・・今は失われた神器の力を告ぐ紫電と震電。あれを抜くことが許された人間

のみが緋刀の力を使える」

つまり、緋刀にはまだまだ、能力が存在しているってことか?

こいつ何者だ?

「誰だよお前?本当に何者だ?」

「言ったはずだよわが血を受け継ぐ子よ。私はスサノオ、かつて、緋刀により全てを失い死んだ哀れな女さ」

死んだ?

ああ、と女が呟いた瞬間辺りは再び闇につつまれた。

                  †

ああ、そうだな・・・

レキと・・・あの子との出会いはこんな感じだった。

姉さんが俺をわざとかどうかはしらんがはぐれて大草原を2日さ迷って俺はあの子と会ったんだ。

「レキ・・・」

呟いて目を開けると少し明るくなりかけた空が見えた。

「ここは・・・」

あのスサノオと名乗った女も夢の中に話だ。

だが、あまりに記憶が鮮明にある。

緋刀・・・この力は一体・・・

ずるずると俺は地面を移動しているようだった。

いや、引きづられてる?

首をひねると俺の服を掴んで引きづっている狼の姿が見えた。

ちょっと安心したぜ

「よう、戦友・・・」

「ぐるおん」

やっと、目が覚めたかというようにハイマキが口を離した。

20倍の差のシャー・ペイと戦ったはずのハイマキ。

あちこちが血まみれになりながらも無事だったらしい。

「無事だったんだな。そうだ水・・・」

俺は立ち上がりかけて再び地面に倒れこんだ。

あ、あれ?

何度か体を動かそうとするがほとんど体が動かない。

極限まで体力を使ったため体は休息を求めているらしい。

だが、ここで倒れるわけにはいなかった。

ぼろぼろのハイマキにこれ以上負担をかけたくない。

見ると、俺の制服も血まみれ。

あちこちに切り裂かれた後もあり正直ぼろぼろだった。

項羽は・・・水は撤退したのか?

顔を上げると前には山、そうか、道路まで降りてきてくれたんだな。

「う・・・」

幸い、手を放さなかった紫電を杖に立ち上がると道路を歩き出す。

その先はすでに住宅街だ。

京都の町をまだ、人通りがない道を歩いて行く。

気を失って倒れてしまいたい。

だが、今倒れるわけにはいかない。

項羽はレキを殺せといったららしいが俺は諦めない

誰かがレキを助ける可能性だってあるのだ。

合流場所は星伽神社

レキ・・・レキ・・・

あの子の無事だけを考えて俺はぼろぼろの体で1歩1歩を歩んでいく。

「うっ・・・」

どしゃっとアスファルトに倒れてしまう。

痛えな・・・

「ぐるおん!」

ハイマキが大丈夫かというように俺の手をなめてきた。

「ああ・・・」

それに答えるように言ってから再びよろよろと立ち上がる。

そんな時

「ちょ、ちょっと君待ちなさい!」

「?」

振り返るとパトカーから降りて歩いてくる2人組の警官だった。

偶然か通報か知らんがおれは血まみれだからな・・・

血まみれの高校生ぐらいの奴が刀を杖代わりに狼と歩いている。

うわ、通報ものだろこれ

「どうしたんだその怪我は?」

「武偵です。ちょ、ちょっと悪いんですが胸ポケットに武手帳が入ってるので見てもらっていいですか?」

「あ、ああ」

20代後半ぐらいの若い警察官が俺のポケットから武偵手帳を見て確認する。

これで、銃や剣を持つことに許可が出ていることを理解したのだろう。

「すぐに救急車を呼ぶ、待ってなさい」

と、警官が携帯を取り出したので俺は慌てて

「だ、駄目です!目立つと敵に見つかるかもしれない」

「敵だって?」

「俺、さっきまでSランク級の敵と戦っていたんです。そいつが近くにいるかもしれない」

「Sランクか・・・」

警官達が顔をしかめた。

Sランクは特殊部隊1個小隊と互角の戦闘力を持つ。

だが、水の項羽の戦闘力は多分それを凌駕しているだろう。

京都中の警察官が束になってかかっても負けるかもしれない。

「だが、君をこのままにしておくわけにもいかんだろう?」

先輩らしい中年の警官が言う。

「だったら、パトカーで星伽神社に送ってもらえませんか?」

俺は視界がぼやけるのを感じつつ

「こ、この狼も・・・一緒に・・・それと・・・武偵手帳の中の・・・電話番号の中の・・・土方歳三さんに連絡を・・・」

「お、おい!」

膝をついて俺は意識を失った。

                †

「え?レキちゃんって他の町に行ったことないの?」

「うん」

「じゃあ、僕と行く? 外の町に?」

「うん」

                †

どれほど眠ったのか・・・俺が目を開けると木の天井が見えた。

「・・・」

首を動かすと障子と畳の床だ。

実家か・・・いや、違うな・・・

「う・・・」

体を起こすのもやっとという消耗具合で上半身を起こした時、ぱたぱたと音が聞こえてきた。

「だから・・・まだ、意識は・・・ないと」

「ふん、ならその死にかけを拝んでやるだけだ」

「鏡夜!」

パタンと襖が開くとそこにいたのは弟の鏡夜と粉雪ちゃんだった。

俺は軽く手を上げると

「よう、弟」

「ふん、しぶとく生きていたか兄貴」

             †

鏡夜達の話を総合するとこうだ。

俺が大怪我でパトカーで星伽神社に保護されたと聞いた椎名の家は鏡夜を派遣した。

本来なら椎名の家に搬送が望ましいが狙撃手の存在のため断念した状況になっている。

にしても、鏡夜お前が動くとはな

「勘違いするな兄貴。俺はお前を助けにきたんじゃないこの女・・・粉雪にハンカチを返しにきただけだ」

洗ってわざわざかよハハハ

「粉雪ちゃんはなんでここに?」

「私は偶然用事があってこの分所に来ていただけです」

まあ、この子がいるなら多分・・・

「優君入るよ」

襖が開いて予想通り白雪と・・・

「雪羽さん?」

土方さんの奥さんの雪羽さんだ。

防弾スーツネロに日本刀を片手に入ってくる。

「よかった無事だったんですね」

「雪羽さんなんで?」

「援軍としてここにきました。歳さんが私ならノーマークとして派遣したんです」

土方さん・・・本当にありがとうざいます。

「そうだ。レキは?何か知らないか?白雪」

「レキさんなら・・・」

            †

「レキ・・・」

鏡夜に肩を借りて通された部屋にレキはいた。

「ぐる」

治療を受けたらしいハイマキがレキの枕元で顔を上げた。

一時は危篤状態だったそうだが・・・

「私に感謝してくださいねお兄さん」

なぜか、1年のアリスがいやがった。

お前がレキを治療してくれたんだな

「ありがとうアリス」

「いえいえ、私はお兄さんの専属の医師ですから」

「お兄さんだと?」

鏡夜そんな目で俺を見るな

「こいつが勝手にいってるだけだ!」

「それはともかく、相変わらずまた、ぼろぼろですねお兄さん。傷はないようですけど」

「ああ、例の力でな。体力はごらんの通りだが」

「んー、じゃあこれ飲んで寝ててください」

コブラドリンク

「おい」

「間違えました。はい、栄養ドリンクと薬処方しときましたので飲んで寝てください。ああ、寝る前にご飯ですかね?

食べたくないなら点滴にしますけど」

ぐううと腹がなった。

そういや、カロリーメイトだけしか食べてなかったか・・・

            †

「おかわりください!」

「は、はい!」

通された部屋で豪華な和食を食べながら俺は5杯目のご飯のおかわりを巫女さんに頼んだ。

「よく食べますね」

と一緒に食事をしていた雪羽さんがにこにこしながら言った。

「いやぁ、おなかすいてるんです」

ちなみに、この部屋には白雪、粉雪、鏡夜、雪羽さん、俺の5人がいる。

「それで、何があったんですか優希君」

食事をしながら俺は雪羽さんの質問に知る限りを答えた。

項羽、ランパンがまた、しかけてきたことを・・・

「実は、レキさんのドラグノフのスコープなんですが見てください」

渡されたスコープにはレキの狙撃の瞬間の相手の姿が映っていた。

ココか・・・

東京で俺を殺しかけた万武・・・

厄介だな・・・水も含めると武の達人が2人。

シン達の戦闘力も侮れない。

そういえば・・・

「ココですか・・・あ、村上はどうしてます?」

忘れてたがあいつにレキを託したんだ。

「村上君は大怪我を負ってましたが別室で眠っています」

そうか、村上・・・お前にはお礼を言わないといけないな・・・レキを守ってくれてありがとな

「それで、項羽が狙っていたのは・・・」

俺だろうな、正確には俺の緋刀

状況を全て説明してから俺たちは少し考えてから

「だとすれば、ランパンはこちら以外にもアリアさんを狙う可能性がありますね」

「アリアを?」

だがあちらにはキンジや秋葉もいるはずだ。

そうそう遅れはとらないだろう。

だが、アリア達が項羽に勝てるかといえば確信は持てない。

キンジは時に信じられないことする奴だからあるいは水に勝てるかもしれないが絶対じゃない。

「なら、そちらには俺が行く」

「鏡夜が?」

粉雪ちゃんが立ち上がった鏡夜を見て言った。

お前・・・

「勘違いするな兄貴。俺はお前を助けるわけじゃない。ランパンは俺達の身内に手を出した。そういうことだ」

アリアの護衛をしてくれるんだな

だけど鏡夜お前じゃ水には勝てない

だが、可能性はあがるかもしれないし襲撃は絶対じゃない。

「ありがとうな鏡夜」

「ふん」

「優希君。歳さんからの伝言ですが援軍は出せません。沖田さん、歳さんは東京から動くわけにはいかずあなたの護衛

には私がつきます」

「あの雪羽さん。俺なんかよりアリアの護衛についてもらえませんか?」

「いいえ、歳さんはここを動かずあなたを守れと命令しています」

何かを察知してるのか?

「希さんはどこにいるか分かりますか優希君」

「姉さんは今、ソマリアです」

「ソマリア・・・大・・ですか」

雪羽さんが何か小声で言う。

なんだ?

「優君。ここまで来たら、話さないといけないことがあるの。いい?」

白雪がいつになく真剣な顔で言ってきた。

なんなんだ?

「ん?」

「色金のことです」

俺の緋刀やアリアの緋弾のことか

「話せる限界はあるんだけど。私達星伽は色金のことを知っています」

「理解しづらいことかもしれないけど色金は人の心と通じ合う金属なの。そして、色金と通じることのできる

心は決まってるんです」

「シャーロックにある程度は聞いている。俺の力はよく分からないが」

「おそらくですけど、優君はアリアの血を輸血した。そして、緋弾が優君の体を貫通したときわずかに破片が残り、

それがアリアの血で覚醒したんだと思います。予想でしかないですが」

《それは少し違うな》

え?

「希さんに聞いたことがあるんです。かつて、椎名の家には大昔、緋弾・・・いえ、緋刀と同じ力を持つ人間がいたと」

雪羽さんの説明に目を丸くしたぞ。

初耳だ

「その名はスサノオ」

スサノオか・・・ヤマタノオロチを倒した存在。

草薙の剣を使い、この紫電のオリジナル。

あの夢に出てきた女も・・・

「このスサノオの伝承はあなたの方が知ってるんじゃないですか?」

一同の目が椎名の後継者である鏡夜に集まる。

鏡夜は舌打ちしながら

「詳しいことは分からない。母さんなら何か知ってるかもしれんがな」

母さんか・・・実家で書庫で調べたら何か出てくるかもしれんが今はその段階ではないか・・・

「話を戻しますが」

と白雪が口を開く

「スサノオが緋弾に近い緋刀や緋弾のヒヒイロカネ、そして、璃璃色金」

 

「それをレキが持ってると?」

「いえ、失礼ながら先ほどお体を検分させていただきましたが違います」

「レキさんはおそらく、郷里で璃璃色金のそばで長く過ごしていたんでしょうね。璃璃金に心を通じるいわゆる巫女のような存在として」

「失礼します」

その時、タイミングよく白雪の義妹の風雪が入ってきた。

白雪とよく似た大和撫子だ。

風雪は巻物をしゅるりとひろげると

「これは星伽西分。星伽神社に伝わる文書ですがここに璃璃色金についての記述があります。璃璃色金は穏やかにしてその力無なり

人の心を厭い、人心が厄災をもたらすとしウルスを威迫す。璃璃色金に敬服したウルスは代々の姫に心を封じさせ璃璃色金への心贄にしたとあるのです」

「時代は変わってもやはり、関わってくるのですね」

雪羽さんが思い出すように言った。

「そういえば、鈴・雪土月花のリンさんも・・・」

と俺が言うと

「ええ、ウルスの一族で私達の仲間です」

やっぱりというか姉さんは最初から何もかも知っていたんだろうな・・・

昔、姉さん関連でウルスの里を訪れたのもそれを裏付けている。

「ウルスの一族はその弓と矢でアジアを震撼させた蒙古の帝王、チンギス・ハン。その戦闘技術を色濃く受け継いだ彼の末裔の一族です」

まじかよ

「かつてウルス族は優れた弓や長銃の腕を恐れられた傭兵の民でした。しかし、次第にその数を減らし今のウルスは

48人、そして、女しか存在してません」

女だけしかいない・・・つまりは滅び行く民族。

そのため、自分でいうのはなんだが優秀な男の血をいれようとしたのか

だけど・・・

「ちょっと聞きたいんですが」

「はい」

「レキは髪の色は置いといても日本人に近い気がするんですが」

「レキさんがそう見えるのは日本人の血を引いているからです」

「というと?」

「レキさんの先祖は源義経。そして、彼は大陸に渡り、チンギス・ハンとなり一大帝国を気づきあげた」

おいおい

「ってことはレキの先祖は源義経で、チンギス・ハンの子孫なのか?」

「はい」

風雪の言葉にため息をつく。

そんな歴史のミステリーがあったなんてな・・・

               †

おなかも満たされ救護殿の裏側の縁側で背を柱につけて俺は1人で座り込んだ。

ここちいい風を感じながら空を見上げる。

レキは源義経の子孫でチンギス・ハンの子孫。

そして、璃璃色金の巫女のような存在ということは分かった。

というか俺は知ってたんだ。

さっき、みんなと話していて少しつづウルスの里で過ごした数ヶ月を断片的にだが思い出していた。

璃璃色金を体に宿している人にもおそらくあっているはずだがそこは、もやがかかったように思い出せなかった。

だが、覚えていることはある。

ウルスの里で外を見たいといったレキを連れて俺はレキと中国の大都市に向かったんだ。

何とかなると思っていた。

だけど、待っていたのは殺されかけたという現実。

一人の女の子を暴行していた男達にやめろと挑みかかり返り討ちにされ俺たちは殺されかけた。

周りの中国人たちは関わり持ちたくないように俺たちを無視していたが姉さんが現れ俺たちを助けてくれたんだ。

情けない話だけどな

「優希君」

ん?雪羽さん?

「どうかしたんですか?」

「少しいいかしら?」

「どうぞ」

この星伽神社には白雪達、大和撫子が多数存在しているがやはり、雪羽さんも大和撫子タイプなんだな。

黒一色の防弾制服ネロを着ていてもどことなく、気品があるというか落ち着きがあるというか完成された大和撫子

という感じだな

「?」

どうかしたのという顔で雪羽さんが見てきた。

本当にこの人30代か?どんなに高く見ても20代前半にしか見えないぞ

まあ、姉さんだって17歳にしか見えんがあの人は多分老化を止めてるからな

まったく、土方さん面食いだな

「えっと、何か話でも?」

「ええ、いろいろと大変だったと思うけどまだ、終わりじゃないの分かってる優希君」

「ランパン・・・水はまだ、諦めてないと思います」

「水・・・山の中で戦ったって言うランパンの戦士?」

「あいつは俺をだましてたんです・・・友達だと思ってたのに・・・それにあいつは言ってました自分は項羽の

子孫でその力を引き出せると・・・あれは2重人格なのかな?」

「項羽・・・世界を見回しても武では最強の存在ですね」

「雪羽さんは項羽がいることを知ってたんですか?」

「いいえ」

首を振りながら雪羽さんは言う。

「そうですか・・・」

「優希君。あなたは山の中で彼女と戦って生き延びた。あの山の中で項羽はどうしたんですか?」

「え?」

そうだ・・・俺はどうやって水から・・・項羽から逃れたんだ?

あの極光の光をかわした状態で俺は完全に手詰まりだった。

(手を貸してやるよ)

そういえば、意識を失う寸前声を聞いた気がしたがあれは・・・スサノオの・・・

「優希君?」

「あ、すみません」

ぼーとしてる場合じゃない

「覚えてないんです。気がついたらハイマキにくわえられて道路にいましたから」

「そう・・・分からないならその問題は後に回しましょう。レキさんにはもう会いに言った?」

「はい」

「ならいいの。一つ聞いておきたいんだけどレキさんはあなた達が追い詰められた時非常識な行動をとろうとしなかった?

自分が自爆して時間を稼ぐとかそんなことを」

「よく知ってますね。武偵弾で自爆して時間を稼ぐといってました。自分を置いていけとも」

「やっぱり。ウルスの女性って似てるわね」

思い出すように雪羽さんは微笑み、そして、まじめな顔で俺を見る

「優希君。今から言うことをよく聞いてね。ウルスにはある伝統があるの」

「伝統?」

「最後の銃弾。銃弾が一発だけになってそれを使っても活路が見出せないほど追い詰められた時。あるいは自分が主人の足手まといと判断したときその弾で自殺するの」

「なっ!」

そうかそれでレキの奴・・・

「ウルスの女性は一発の銃弾のように一途に生きる。そして、戦い続けるの。侍のように最後のその時まで」

「まるで見てきたみたいな言い方ですね雪羽さん」

「友達が・・・私の親友がそうだったから」

リンさんか・・・

土方さんも同じように狙撃拘禁された時今に近い体験をしたという。

そういうことか

「雪羽さん・・・俺はレキをそんな馬鹿な伝統なんかで死なせたくありません」

「・・・」

雪羽さんは黙って聞いてくれている。

「だからもっと俺は強くなりたいです」

そう、誰の攻撃だって跳ね返せるぐらい周りを守れるぐらいの力を

姉さんみたいに・・・

「焦ったら駄目よ優希君。あなたにはまだ時間があるし足りない分は私達大人が補います」

それでいいんだろうか?

正しいのかもしれないが今一つ納得できない・・・

「すみません。雪羽さん。俺レキの所に行ってきます」

頭を下げてその場を俺は逃げるように後にした。

                †

「あれ?お兄さん?」

レキの部屋に行くとアリスが丁度立ち上がるところだった。

「看病ありがとなアリス」

「いえいえ、経験は力なりです。後で請求書は送りますけどね」

「ハハハ、ちょっとは割引してくれよ」

「んー、どうしましょうかね。まあ、それは保留しますね」

「なんだよそれ」

こういう暗い考えのときお前のようなひょうひょうとした後輩の存在は救われるな

「レキは?」

「今は落ち着いています。というより、峠は完全に越えてますから大丈夫ですよ。ちょっと、私食事に行ってきたいのでお兄さん

レキさん見ててくれますか?」

「ああ、しばらく戻らなくてもいいぞ」

一瞬、アリスはきょとんとしたが小悪魔的な笑みを浮かべると

「クフフ、動けないレキさんを襲うんですね。襲うんですね」

2回言いやがった!

てか

「襲わねえよ!」

「きゃー、私も襲われます〜」

俺が拳を振り上げたのでアリスは慌てて逃げて言った。

なんだったんだ?

「ったく・・・」

布団の中でぴくりとも動かないレキ。

だが、わずかに上下する布団を見ると生きているのが分かる。

「レキ・・・」

やってはいけないのかもしれないが布団の中から出ていたレキの手に俺の手を置く。

驚くほど冷たく生きているのか不安になる。

アリスは峠を越えたといっていたが意識が戻らないこの状況は決して楽観していい状況ではない。

「俺少しだけど思い出したんだよ・・・草原にさ迷ってた俺をレキに見つけてもらって一緒に馬に乗って・・・

それで、外を見るために一緒に里をこっそり抜け出して・・・それで・・・」

目の前が歪んできやがる・・・

くそ、泣いてるのか俺は・・・

「なぁ、レキ目を開けてくれよ・・・もう俺はやなんだよ・・・俺の周りで人が死ぬなんてもう嫌なんだ・・・」

泣いている秋葉、憎悪に満ちた視線。

人の死は回りに与える影響が大きすぎる。

「最後の銃弾なんて伝統がお前の里にはあるんだろ?日本からの派生らしいけどもう、やめてくれよ・・・」

俺のために他の人間が死ぬなんて俺には耐えられない。

「お前は風なんかじゃない人間だろ・・・なら、自分で選べよ・・・風の命令なんて聞くなよレキ・・・」

風の命令を聞いて死んでいく

「そんな人生なんてつまらないじゃないか・・・お前はもっとわがままいっていいし幸せになるべきなんだよ・・・わがままなんていくらでも

付き合ってやるからさ・・・」

お前は笑えるんだ。

少なくても銃撃戦の時以外、昔にお前は俺に笑ってくれたよな

中国に行って散々怒られてウルスの里で別れる数日前に政略結婚みたいな形だったけど姉さんと里のみんなに

俺とお前の婚約の話をされて俺はあの時、子供だったとはいえ嬉しかったんだぜ?

              †

「優希さん」

「違うよレキちゃん」

「?」

「優って呼んでよ。許婚なんでしょぼくら」

「優・・・さん」

              †

そういえば優さんってレキが最初から言ってたのも俺のせいだったんだ・・・

それを俺は・・・忘れていた・・・

「ごめんなレキ・・・」

「・・・」

レキは動かない。

ぴくりとも動かない。

「レキ・・・」

            †

SIDE??

同時刻、星伽神社の正面の階段は数人の武装巫女が警戒に当たっていた。

それぞれが武器を持ち周囲に目を光らせている。

先ほど、白雪、鏡夜、粉雪をせた車は京都駅に向かった。

白雪はキンジと連絡が取れたらしくそのためであり、粉雪は青森に帰る前に白雪と少しでも長くいたくて新幹線を選んだのである。

んふふ、好都合好都合

堂々と方天画戟を手に正面から階段に近づいていく。

武装巫女達がこちらの接近に気づいて武器を構えている。

「止まりなさい!」

先頭にいる巫女さんが怒鳴るが私は止まらない

「優希とレキちゃんいるよね?通して」

にっこりと笑って言った瞬間、武装巫女達は切りかかってきた。

「力ずくでも通らせてもらうよ」

(代われ水)

頭の中で項羽の言葉が響く

「なるべく殺しちゃ駄目だよ項羽」

(気が向いたらな)

次の瞬間、武装巫女達は何が起きたのか分からなかった。

気がついたら地面に叩きつけられており激痛で立ち上がることすら出来なくなっていたのだ。

「殺してはいない。まあ、しばらくは動けないだろうがな」

堂々と階段を上りながら項羽は背中の武装巫女達に言う。

「やはり来たのですね」

声の方を見ると私は・・・項羽は強者を前に興奮する。

「ああ、お前か剣聖武田雪羽。お前とも戦って見たかったが片手で俺に勝つつもりか?」

「通しません。それが、最強の武人項羽であっても私はそれを倒します」

片手で構えを取る目の前の女は明らかに化け物クラスだ。

鈴・雪土月花の中で水月希を除けば接近戦最強の存在。

できれば、両手の時に戦いたかった。

「その羽散らせてもらうぞ」

「やらせません」

両者が地を蹴る。

かつて、Rランクに匹敵するといわれた剣聖。そして、武ではRランクに匹敵すると言われる覇王は激突した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第200弾 剣聖VS覇王

武偵には強さのランクというものがある。

Sランクは特殊部隊一個小隊と互角に戦えるというものに対する称号のようなものだ。

その上にはRランクと呼ばれるランクが存在している。

このRランクは小国の軍隊なら単独で殲滅できるという化け物のような強さの称号だ。

だが、Rランクには届かなくてもRランクに匹敵すると呼ばれるものも中には存在しており

その存在はSランクに収まっているが明らかにSランクを超えている。

目の前の2人に戦いはおおよそ、人間とは思えない動きだった。

片手で日本刀で方天画戟と激突し火花を散らす。

2人が打ち合うたびに衝撃波が辺りをびりびりと揺らした。

神速の斬撃と豪腕の一撃。

槍と日本刀の戦いでここまでの戦闘が行えるのはおそらく日本中を見回しても5人いるかいないかだろう。

「はっ!」

「ちぃっ!」

雪羽の日本刀による突きをぎりぎりでかわした項羽は横に飛びながら両手で横殴りに方天画戟を雪羽に振るった。

ただの横殴りではない人間10人の胴体を一気になぎ払えるだけの一撃だ。

食らえば死は免れない。

突きの動作から日本刀を逆手に持ち替え左に飛びながら雪羽は項羽の方天画戟を日本刀で受けつつ威力を殺しながら階段に着地する。

すでに、何合と打合っているが両者の実力はほぼ互角だった。

項羽は心底楽しそうに

「ハハハハ!強い!強いなお前! お前ほどの武の達人と会ったのは久しぶりだ!」

「ほめ言葉と受け取っておきます」

片手で日本刀を項羽に向けながら雪羽は言った。

「俺の軍門に下る気はないか?」

「お断りします」

「だろうな」

「1つ聞かせてください」

「ん?」

「なぜ、優希君やレキさんを殺そうとするのです?」

「あの2人は弱さだからだ」

「弱さ?」

答える気がないというように項羽は口元を緩める。

「これ以上知る必要はないだろう。お前は今日ここで死ぬのだからな。残念だ両手であれば俺に勝っていたかもしれんのにな」

何かを隠している?

ズンズンと石の階段に何かが落ちる。

あれは鉄の腕輪?

1つ5キロはあろうかというその4つの腕輪を外した瞬間項羽の殺気がさらに濃くなった。

「ここからが本気だ鈴・雪土月花。花の次、2つ目に散るのは雪だ。心配することはない土も鈴も月も後を追わせてやる」

「・・・」

せめて片手でなかれば・・・

そう思っても始まらない。

雪羽は右手を後ろに下げた。

必殺の一撃。

勝負は一瞬で決まる。

                  †

「これは殺気か?」

びりびりと伝わってくる音と鉄が激突する音は俺にとって聞きなれた音だ。

紫電を手に立ち上がり廊下に飛び出した

「うわ!」

いてーな・・・足をもつれさせて倒れるなんてな。

立ち上がりかけて視界が霞んだ。

くそ・・・体がだるい・・・体調も万全じゃねえな・・・

「・・・」

激突音は続いている。

俺が1歩歩き出したとき

「優希様!」

振り返るとポニーテールに日本刀を持った少女が走ってくる。

「日向か?」

椎名の家の近衛の1人だ。

会うの久しぶりな気がするが

「睦月が向こうでヘリを用意しています。脱出の準備を」

「脱出? 状況が知りたい」

「現在、土方様と項羽が門前で激突しています。項羽の狙いは優希様です」

水が?

「お前は雪羽さんが負けるって言うのか?」

脱出を進めてくるのはそう思っているからだろう。

「18年前の武田雪羽様であれば99%負けはありません。ですが、今の雪羽様は・・・」

片手が義手だったな・・・

日本刀を持てば分かるが片手で扱うのは非常に筋力や技術がいる。

二刀流のスタイルだって二本持つから意味があるわけで1本のみ片手で扱うというのは大きなハンデでしかない。

激突したから分かるが項羽の技量は正直化け物クラスだ。

「なおさら逃げられないだろ」

俺は日向に背を向けて門前に歩き出す

「お待ちください優希様! そんなぼろぼろの状態で行っても命を落とされるだけです!脱出してください!」

慌てたように俺の前に立ちふさがる日向。その目は真剣そのものだが悪いな

「どけ」

「どきません!」

「家の中にはレキもいる。アリスもいる」

「その方達もヘリにお乗せします!どうか聞き分けてください」

ものはいいようだな・・・だが、ヘリといってもこの場所にいる全員を乗せることはできない

「もう一度言うどけ」

「どきま・・・」

「どけ!」

「っ!」

殺気の塊をぶつけると日向は息を飲んで固まった。

悪いな日向、俺はもう誰かを見捨てて自分だけ逃げるなんてことはしたくないんだ。

横を通り抜けようと1歩踏み出す

「う・・・」

ドクンと心臓が跳ねたような感覚と同時に全身が焼け付くように痛い。

これは・・・

髪の色が、目の色が変わっていくのを感じる。

緋刀の力か・・・

「ゆ、優希様!?」

初めて俺の変化を見たのだろう。

日向は戸惑った声を上げた。

「怒鳴って悪かったな日向」

俺は日向を見ずにそういってから走り出した。

体が軽い。

この変化は体力や傷の異常回復もあるらしい。

その分使った後の反動は大きいんだがな

《ほう、少しは特性を掴んできたようね》

「っ!」

立ち止まって周りを見渡すが誰もいない。

気のせい・・・いや、あの山の中で聞こえてきた・・・

「スサノオ・・・か?」

《そう》

いつの間にか俺の前に人影がある。

うっすらと体は透けているが俺の女装バージョンそのままの存在。

髪の色は背中まである緋色、目の色もカメリアの瞳だ。

アリアをうーんと成長させて見れば似たようになるかもしれない。

言えば、殺されるかもしれないけどな

それに顔はほとんど同じだが表情が妖艶な笑みという俺にはまねできない表情をしている。

これまでの状況からして認めたくはないんだが・・・

こいつは俺の中に存在している。

もう一つの人格という奴だ。

私はお前でありお前は私という言葉もこれで説明がつく。

それにしても、俺って二重人格だったのか?初めて知ったぜ

「で?何のようだ?急いでるんだが」

スサノオは門がある方角を見て

「あちらでの戦い。あれは、日本刀の負けだな」

「!?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第201弾 鈴

達人同士の戦いは割りと早くけりがつく。

それは一般的な常識だがSランク以上の人間にそれは当てはらまない。

1撃で決めさせせない技量や先読みの能力が備わっているからだ。

(雪羽さん!)

俺が鳥居を抜けて階段に到達したのはまさに決着の寸前だった。

右手と左手を腰の後ろに回す雪羽さんと槍を左腰に構える項羽。

びりびりと殺気が俺の後ろに抜け、いかに2人がすさまじい才覚を持っているかを連想させてくれた。

援護など出来ない。

すれば雪羽さんの邪魔になるだけだ。

それほど、俺と実力が違いすぎる。

これがRランク級の・・・武だけでこのレベルに到達できれば・・・

「・・・」

項羽、雪羽さんは互いに構えたまま動かない。

そして、俺がごくりと息を飲んだ瞬間、それが引き金となったように互いは動いた。

「迅雷!」

「破砕!」

新撰組の滅壊を上回る神速の突き、全てを撃破する日本刀と槍が交差した。

2人は互いに技を放ったことにより交差し背を向けあい沈黙した。

ど、どっちが勝ったんだ?

「惜しいな」

口を開いたのは項羽だった。

「その迅雷、完璧であればお前の勝ちだった」

振り返らず項羽が言った。

「無念・・・です・・・」

そういって、雪羽さんはどぅと倒れた。

う、嘘だろ

「さて」

水の顔で俺を見上げた項羽は槍の先を俺に向ける。

 

 

 

勝てるのか?相手は世界最強の武人だぞ

だが、逃げればレキが殺される

「逃げるなら構わんぞ。後ろにいるウルスの姫は首をはねて持っていく」

「やるしかねえのかよ」

紫電を抜き放つと構えるが項羽は動かない。

「先制攻撃は譲ってやるぞ椎名」

完全になめられてる。

重石を外した項羽はここまで圧倒的。

世界を見回してもこんな化け物そうはいない

ワイヤーを外して・・・駄目だそれだけで埋まる差じゃない。

「どうした?こないのか?あの山で見せたあいつを呼べ」

あいつ?ってまさか

《私がご要望のようだ。変わるかわが子孫》

やっぱり、お前があの時俺の体使って項羽を退けたのかよ。

お断りだよ。

《ふむ、では戦い方を伝授しよう》

戦い方?

頭の中だけに響いてくる声に俺は問い返す

《緋刀と呼ばれる力は使いこなせれば世界最強にだってなれる》

世界最強・・・姉さんが思い浮かぶスサノオはそれを読んだのか

《この時代の世界最強のイメージ・・・さすがは椎名直系。ちょっと勝てないかな私でも》

今世界最強になれるっていってたのに翻しやがった。

まあ、それだけ姉さんは化け物だからな

《まあ、君の姉には勝てなくても項羽には勝てる。それを伝授しよう》

 

 

これを放つのか?

「むっ!」

項羽が警戒したように俺を睨んできた。

《それはエネルギー消費が激しすぎる。光を抑えるイメージだ。強すぎず弱すぎず》

こうか?

光が少し弱くなり、紫電の刃に薄くまとわりつくレベルにまで落ちた。

《君はセンスがいい。よし、その状態で彼女と切りあってみればいい》

こうなりゃやけくそだ!

階段を蹴り項羽に接近する。

技も何もない上段叩き落し。

項羽はにただ、槍でそれを受けようとしたのか槍を俺の紫電と激突させ・・・

「何!?」

おいおい!なんだこりゃ!項羽の槍と紫電が接触した部分が消えたぞ!

槍の先が地面に落ちていく刹那、紫電が項羽の体に当たりそうになるが

「ちぃ!」

項羽は躊躇せずに後ろに思いっきり跳躍しつつ腰の日本刀を俺に向かってナイフのように投げつけてきた。

当たれば遠慮なく地面を爆砕するであろうその一撃を俺は迎撃する。

ただ、横になぎ払う

日本刀紫電が激突し、紫電をすり抜けた時その日本刀は形を持っていなかった。

刀が触れた部分が消滅したのだ跡形もなく。

《次はじゃ刀が伸びるイメージ、そうだね西遊記の如意棒が延びるイメージだ》

地面に着地して体勢を立て直そうとしている項羽を一瞬見てからイメージする。

刀が伸びるイメージだ。

刀が巨大化するイメージ。

「っ」

力が吸われるような感覚と共に緋色の光が7メートルほど伸びた。

《それを振るんだ》

ひ、疲労感が半端ねえぞだけどこれで!

「うらあああ!」

技の名前も考えてないので振るうだけだが大火力の一撃。

鳥居に緋色の光が触れた部分を片方を消し飛ばし崩壊していく。

これは、極光と違い長い棒での攻撃のようなものだが当たればおそらく大怪我ではすまない。

 

 

いいからさっさと教ええろよ

《いいかい?まずは君の刀に意識を集中するんだ体の中からエネルギーが流れていくように》

こうか?

刀に体の中から何かが流れるイメージ。

紫電が緋色の光を発しはじめた。

これは極光の・・・

 

「次はお前だ椎名」

「っ!?」

紫電を手に俺は1歩下がった。

気おされてやがる雪羽さんを倒したこいつに・・・

 

「うおおおお!」

だが、項羽も只者ではない。

地面を蹴ると恐ろしい速度で階段を駆け上がってくる。

しまった階段の上だし光の部分が長いから微調整がきかねえ!

振り払った位置に項羽はすでにおらず距離をかなりつめられている。

もう一度この力で切りあうしかねえ

「しいいいなあああ!」

狂気にというより狂喜に満ちた戦闘狂の笑みで項羽は折れた槍を根代わりにして俺に叩きつけてきた。

「何度やっても・・・う・・・」

突如視界が霞みやがった。

しま!

紫電と根が激突するが根は消滅しない。

見ると緋色の光が消えてしまっていた。

拮抗したのは一瞬

「ハハハハハハハハ!」

項羽は笑いながら力をこめてくる。

くそなんて力だ!

俺は紫電を両手で持つと押し返そうとするが地面に組みひしがれてしまう。

ぐぐぐぐ紫電が俺の首の近くまで迫ってきた。

刃は項羽側だがこのままじゃ首の骨が砕かれる。

だが、反撃しようにも力を入れる以外に意識を飛ばせば即座に押し負けるだろう。

ワイヤーを使うおうにも操作するために力を使えば一瞬で骨が砕かれる。

つまりは、手づまりだ。

ぶるぶると渾身の力で紫電を押すが首が迫ってくる。

ひたりと金属の部分が首に一瞬当たった。

ま、まずいぞこれはおい!スサノオ!

《・・・》

こんな時はだんまりかよ!

「どうした椎名ぁ!死んでしまうぞ?」

ついに、鉄の部分が首に当たる。

のど仏に辺りほ、骨がくだける・・・う、ち、畜生!ここまで来て・・・俺は死ぬのかよ

緋刀の再生能力も即死ではおそらく意味を成さないだろう。

お、俺はこんな所で死ぬわけには・・・

首が圧迫されていく。

項羽が一段と笑みを深めた次の瞬間、項羽は目を横にずらして後ろに突如飛んだ瞬間、ナイフが3本木に突き刺さった。

位置的に動かなければ項羽の背中か首に突き刺さっていたはずだ。

「がは・・・げほ」

 

上半身を起こしながら階段の下を見ると人影があった。

グレーの肩から足に近くまですっぽり覆うマント、そしてどんなセンスなのか黄色の麦わら帽子をかぶっている。

背中にあるのはレミントンM700か?

「貴様ぁ!今、いいとこだったのにいい度胸だなぁ!殺す!」

項羽が駆けようとしたした瞬間、奇妙な格好のそいつは狙撃銃を項羽に向ける。

そして、何かを呟いた。

「私は魔弾・・・魔弾は敵を貫き破壊する。それは必然・・・ただ・・・打ち貫くのみ」

銃声は2発。その2発を項羽は紙一重でかわした。

交わされてるじゃねえか!

項羽が根でそいつに殴りかかる。

フードのそいつは動かない。

だが、項羽の攻撃が当たる直前、項羽が体を痙攣するようにして止まった。

「何?」

え?

俺は思わず階段の上を見たが誰もいない。

だが、誰かが銃を撃ったはずだ・・・でなければ項羽の右手の甲から血が出ているはずがない。

「魔弾・・・空間跳躍狙撃。お前・・・」

「肯定」

その顔を見たとき、少しレキに似ていると思った。

無表情だがその目はエメラルドグリーン。

「り、鈴」

雪羽さんが上半身をなんとか起こして言った。

鈴さん?てことはあの人が鈴・雪土月花の生き残りの最後の一人か

「剣聖に続き魔弾まできたか!だが、狙撃手が目の前まで出てくるなんて浅はかだなおい」

そうだ、接近戦が苦手なのが狙撃手というわけではないが相手は覇王。

鈴さんは動かずに

「否定。あなたはもう負けた」

「何?ぐっ・・・」

がくりと項羽が左ひざをついた。

根を杖にしてなんとか倒れていはいないが・・・

「特殊性の麻酔弾を使いました。あなたはもう動けない」

「そ、即効性の痺れ薬みたいなものか・・・くっ・・・今回はこれぐらいにしておいてやる」

 

「否定。あなたはもう逃げられない」

フードの中から名前は忘れたがロシア製のナイフを取り出して項羽の首筋に鈴さんは突きつけようとしたが次の

瞬間、項羽の姿がふっと消えてしまった。

「推定、空間跳躍。テレポートのステルス」

鈴さんは空を見上げながら

「追撃不可能。撃退成功、撃破失敗」

そして、俺たちの方を見る。

「けが人多数。治療を最優先」

な、なんというか特殊な喋り方だな

「希の弟は軽症」

といってから鈴さんは雪羽さんの治療を開始する。

「優希様!」

見ると階段の上からは日向が駆け下りてくる。

その後ろからは武装した風雪さんや武装巫女達。

数で攻めるために準備してたみたいだがとりあえずは終わったよ・・・

こつんと地面に寝転がりながら空を見上げ

「しんどいな・・・」

そのままスゥと意識が遠くなるのを感じて俺は再び眠りについた。

 

 




遅れてすみません


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第202弾 タイムリミットは80分

女は苦手だ・・・

実家では母上以外では俺に従ってくれる女ばかりだったからこの女、星伽粉雪という奴は俺にとって正直戸惑いの対象でしかない

日本裏社会の名門、椎名と星伽。

考えて見れば接点はありそうなものだが兄貴や姉上はともかく、俺はこれまで星伽と関わることはほぼなかった。

「ああ・・・至近距離でキンちゃん笑いしてくれたよぉ・・・かっこいい・・・かっこいい、かっこいいよぉ」

と、後ろのほうから星伽の人間、星伽白雪の声が聞こえてくる。

遠山キンジ・・・先輩。いや、心の中では呼ばないで置くか。

とにかくあいつと一緒に座っている。

途中までは神崎・H・アリアや峰・理子と同じく行動していたらしいがなぜか別行動をとっている。

聞いた話によれば神崎・H・アリアが峰理子になにやら相談事があるとのことだがその神崎・H・アリア達は別の車両だ。

東京に向かう新幹線の中俺は窓の外を見ながらため息をつく。

神崎・H・アリアの護衛を兄貴に代わって請け負ったが何事もなく東京に着きそうだな

「ブスッとした顔でいないでくれます鏡夜?何で私があなたなんかの隣に・・・」

「嫌ならどっかいけ星伽粉雪。俺は頼んだ覚えはない」

「できるならそうしてます。でもお姉さまの横は遠山様が・・・」

むぅとふくれあがり明らかに遠山キンジに怒りを向けている

「何をそんなにむくれてるお前は?」

「むくれてません怒ってるんです!」

同じ意味だろうが・・・

せめて、近い席ならよかったんだろうが残念ながら指定席は離れた場所しか開いていなかった。

年も同じなんだしこの際だから仲良くしたらどうだと?いう、遠山キンジの言葉のせいで星伽白雪まで同意してしまい・・・

くそ

「ああ、あんなに幸せそうなお姉さま・・・遠山様の毒牙にお姉さまが・・・」

ころころと変わる星伽粉雪の表情を横目にしながら分かったこと。

姉上が大好き人間だということがよく分かる。

そういえば姉上は元気なんだろうか?

そんなことを思ったからだろう

「お前は姉上が大好きなんだな」

「当然です!お姉さまこそ私の理想であり目標です!大好きな大好きなおねえさ・・・はっ」

熱く熱弁したことに星伽粉雪は気づいたのだろう。

急にトークダウンして立ち上がりかけていた腰を下ろした。

「鏡夜もお姉さまがいるんじゃないんですか?」

「姉上は椎名の名前を捨てて出て行った。それに姉上は兄貴にべったりだったからな」

「優希様の?お姉さまには遊んでもらったりとかは?けいことかもつけてもらったんじゃ?」

「数えるほどだな。けいことも俺が剣を本格的に始めたのはあの事件の後だからほとんどつけていない」

今でも時々夢に見る。

父上や近衛数人を切り殺し、妹の片目を切り裂いて失明させ返り血を浴びたあいつの・・・兄貴の姿を・・・

「事件・・・水月希様・・・鏡夜の姉さまが姿を消したあの事件のことですね」

やはり、知っているか・・・表の世界ではただの火事で済まされているが裏の社会の人間はある程度は伝わっているらしい

覗き込むようにこちらを見ている星伽粉雪を見ながら

「姉上がなぜ姿を消して今になって戻ってきたのかも分からない」

出来れば姉上にもう一度会いたい。

死んだと思っていたのにひょうひょうと生きて戻り、咲夜の会いにもこないあの姉上。

兄貴の前には何度か現れているらしいがもう、俺たちのことはどうでもいいのかもしれないな

「会って聞いてみたらいいじゃないですか」

「どこにいるかも分からない。まあ、姉上にとって俺はその程度の存在ということだな」

「そんなことないです!妹や弟を気にかけないお姉さまなんているわけがありません!」

まったくこいつは・・・

少しだけ笑みが浮かんでしまったがすぐに戻してから

「ああ、そうだな星伽白雪・・・先輩は優しいんだろ?」

「はい!だからきっと鏡夜のお姉さまも鏡夜のこと気にかけてると思いますよ」

自信満々に言い張ってくれるな。

だけど、そう言われたらそう考えたくもなる。

「ふん、礼は言わないからな」

「え?お礼?なんでお礼なんですか?」

頭に疑問符を浮かべて首を傾げる星伽粉雪。

そのしぐさを見るとなぜか顔が熱くなるのを感じた。

「うるさい黙れ!俺は寝る」

「う、うるさいとはなんですか!ちょっと鏡夜!」

となりで星伽粉雪が騒ぎ立てるがこれ以上こいつと話していると調子が狂う。

どうせ、東京で降りたらこいつはこのまま青森まで行くため別れるんだ。

そうすれば、当分会うことは・・・いや、生涯ない!

なぜ、俺は再開を望んでいるような考え方をしている・・・

くそ、本当にこの女、星伽粉雪といると調子が狂う。

 

                    †

「お休みのところ失礼します」

ん?寝ていたか?

意識を覚醒させて顔を上げるとそこにいたのは車掌だ

「切符か?いや、この刀か?許可はもら・・・」

「いえ、すみません」

といって脂汗をかいた車掌は荷物ラックと座席下を確認して言ってしまう

なんだ一体?

星伽粉雪の方を見るとこいつは眠っていた。

「くっ!」

その寝顔を見ると再び顔が熱くなるのを感じた。

「ふふ・・・お姉さま大好きぃ・・・」

寝言か・・・

「ふぅ」

こんな時でもお姉さまかお前は・・・

顔でも洗ってくるか

巫女服の星伽粉雪の前を抜けて洗面室に向かい歩いて行くがどっちにトイレがあるんだ?

新幹線に乗ったことはあるとはいえいつもは近衛が全てすませるから細かいことが分からないぞ

誰かに聞くのも癪なので歩き回ってようやく探し当てたがなんだ開かないぞ?

小窓から中を覗き込むが誰もいない・・・

故障か?

顔を洗うのはやめにするか・・・

ついでだ。

護衛対象の神埼・H・アリアを見に行くとするか

車両を移動していきドアを開ける。

「鏡夜様」

近衛の山洞秋とばったりとであった。

こいつは、今兄貴の命令とやらで神崎・H・アリアの護衛をしているはずだ。

「どうした?何かあったのか?」

「いえ、鏡夜様がこちらに来るのを風で探知してきたのですが・・・」

ふん、相変わらず便利

な能力だな。

「なら、その風でこの新幹線に怪しいものがないか確認しろ」

「それは・・・」

 

ん?

「どうした出来ないのか?」

確かにこいつは兄貴の・・・優希専門の近衛だ。

だが、この状況で俺の命令を聞くことができない理由はないだろう。

「いつもなら出来るのですが少し、ステルスが使いにくい状況です。近距離なら問題ありませんが車両全体を探ることはできません」

「役立たずが」

「すみません・・・ですが近い距離なら・・・」

無表情だがこいつからは申し訳ないという気持ちは伝わってくる。

あまりいじめると兄貴が激怒するか・・・こいつは兄貴にとっては命と同じくらい大切な奴だからな・・・

「なら、探知はもういい。この先の車両に神崎・H・アリアがいるな?」

「はい、理子さんもいます。ついでに言えばキンジ君も不知火君も」

なんであいつらがここにいる?特に遠山キンジは星伽白雪と同じ車両にいるんじゃなかったのか?

「まあいい。神崎・H・アリアの会話を少し聞かせろ。それぐらいできるだろ?」

「はい、それぐらいなら・・・理子さんと話していますが理子さんの会話も聞こえるようにしますか?」

「ああ、頼む」

「はい」

一瞬、空気が変わったような感覚がし

風に運ばれて声が届く

『・・・その辺女好きっぷりは個人差が大いんだけどねぇ。K君とY君はどうなの?』

峰理子の声か?

『女たらしよ!特にYは筋金入りの!もちろんKも相当よ!』

烈火のごとく怒っている顔が想像できてしまう。

神崎・H・アリアとは面識は少ないんだが・・・

「おい、YとKというのは何のことだ?」

よく分からない単語があったので秋葉に聞いてみる。

「Yは優君。Kはキンジ君です」

なるほどな・・・しかし

 

「優君だと?」

近衛であるお前が主にそんな呼び名で・・・

「優君に許可してもらいました。近衛であると同時に友達として接して欲しいと」

「なるほどな」

兄貴がそういうなら俺は口を出す気はもうない。

「鏡夜様」

「なんだ?」

「ありがとうございます」

年上だが近衛。だが、優希の・・・兄貴の大事な女か・・・ふん

無視して会話に集中する

『普段は駄目人間なんだけど女子の前では一瞬かっこよくなるって言うか。すごく、こう胸が苦しくなって、後でそのことばかりぐるぐる考えちゃうようなへんなことをたまに言うの

い、いきなり触ってきたりするしほんと、びっくりする。そういうのが上手すぎて、こっちはなにもできなくなってこっちはされるがままになっちゃうっていうか

頭がぼーっとなっちゃう。なんかへんへんになるの。わ、Yはそういうのとは少し違うんだけどK以上の女たらしでなんていうか女の子のためなら突撃して言っちゃうような。でも、そこに惹かれるってのもわかるし・・・でもあれはパート・・・奴隷というか大切な友達だしとられたくないっていうか・・・・ってあたしの友達が言っていたわ』

「兄貴は女たらしなのか?」

どうも会話を聞いているとそう思えてしまう。

あの女レキのこともそうだが

「優君は女たらたらしです。それも真性の」

どことなく怒りを感じるのは気のせいか?

「お前も・・・その兄貴にたらしこまれているのか?」

無表情のまま、秋葉が俺を見てくる。

完全に無表情だが、一瞬俺は聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと悟った。

こいつは本気で怒っている。

「いや、なんでもない」

と言うと再び空気が変わった気がした。

この話はどうやら禁忌らしい

それから、神崎・H・アリアと峰理子は人物の名前はYやK、Rだったが内容はこんな感じだ。

神崎・H・アリアは優希と喧嘩してしまい更にレキに優希ととられてしまった。でも、同じチームでやってきたのだから

別れたくなく忘れられたくない。神崎・H・アリアは転校してしまう前にせめて仲直りだけでもしておきたい。それに対し、

峰理子が提案してきたのはもう一度だけ話し合うというものだった。

確かに誕生日などのイベントもあるらしいが優希に使うのは効果的じゃないといった内容だった。

よく分からない内容だな。

「お前も協力してやれ」

「私も優君とは喧嘩してますから」

それでも頼みは聞くんだなとおう言葉を飲み込んで第三者的な立場の星伽粉雪の顔が思い浮かんだ。

あいつに少し相談して見るか

「じゃあな俺は行く」

「はい、では私ももど・・・」

秋葉が体勢を変えた瞬間、ぐっと前にひっぱられるように少し揺れた。

「あっ!」

秋葉が倒れこんできたので受け止めて立たせる。

「すみません鏡夜様」

「気をつけろ間抜けが」

そういって窓の外を見た瞬間、駅を通り過ぎていく。

一瞬見えた駅名は名古屋駅だ。

ん?

「この新幹線は名古屋駅に止まると最初は聞いていたが?こういうこともあるのか?」

「いえ、こんなことありえません」

そういう秋葉の顔に少し緊張感が漂い始める。

降りようとしていた乗客たちが不思議そうに席に戻るのを横目にした時

『お客様にお知らせいたします』

車内アナウンスが流れる

『当列車は名古屋に停車予定でしたが、不慮の事故により停車いたしません。名古屋駅にお降りのお客様は事件が解決しだい最寄り駅から臨時列車で名古屋駅までお送りいたします』

車掌の声と思われる声は明らかに震えている。

事故で停車するなら話には聞いたことがあるが加速するなんて異常事態だ。それに、車掌は事件と言った。

粉雪の所に戻るか?だが、神崎・H・アリアの護衛の件もある。今は動くべきじゃない

車両のドアを開けて神埼・H・アリアのいる車両に秋葉とそっと入る。

「こら車掌出せ車掌!俺ぁ名古屋で降りなきゃいけねえんだよ!もう、ドームに客が入ってるんだぞっ!俺が誰だか知ってるのか!名古屋に戻せ」

大声で怒鳴っている奴がいるがうるさい奴だ。

 

『なお付近に不審な荷物、不審物がございましたら乗務員にお知らせください』

続けられたアナウンスに怒鳴り散らしていた男がシートを蹴飛ばした。

ちっ!

「不審物ってなんだば・・・」

それ以上は続けさせなかった。

秋葉の確保した空間で居合いから日本刀紅蓮の抜き放つと切っ先を騒いでいた男の首元に突きつけた。

「黙れクズ。殺すぞ」

「ひっ!ほ、本物?」

男が両手をあげて降参のポーズをとった。

列車内で悲鳴が上がろうとした瞬間

「武偵です!手荒な真似をして申し訳ありません!」

秋葉が武偵手帳を掲げながら風を使い車内に響くように声を上げる。

一瞬、車内は静かになるが別車両から出てきた乗客がおい爆弾らしいぞ!と怒鳴った瞬間、今度こそ悲鳴が巻き起こりパニック状態に

陥った。

「ちっ!」

紅蓮を鞘に収めてからしょんべんたらしてへたりこんだ男を無視して

辺りを確認する。

何人か乗り込んでいた武偵高の生徒が乗客を席に戻そうと必死になって叫んでいる。

「席に戻ってください!危険ですから!」

と、不知火が言った時がくんと後ろに足を取られる。

また、加速したのか?

窓の景色から見ても加速はわずかだろうがこんな急にするものなのか?

くそ、俺はこういうことには詳しくない。

電光掲示板の速度表示は130キロだ。

今の加速で不安になった乗客たちが運転席のある方に殺到していく。

こうなればもう、止めることは難しい。

状況は外界と隔絶された空間だ。

椎名の本家よりも、中で動くほうがいい。

「武偵高の奴らと合流するぞ」

「はい」

秋葉とわめきながらドアを開けようとしていた男を縛り上げている遠山 キンジの元まで行き

「遠山キンジ・・・先輩」

「ん?ああ」

遠山キンジが俺と秋葉を見て何かを言おうとした瞬間アナウンスが飛び込んでくる

『乗客の皆様にお伝えしやがります。この列車はどの駅にも止まりません。東京までノンストップで参りやがります アハハ アハハハ』

どこか機械的な女の声だが合成音声か?

『列車は3分おきに10キロつつ加速しないといけません。さもなくばドカーン!爆発しやがります。アハ、アハハハ』

車内中に悲鳴が巻き起こった。

3分おきに10キロの加速?この手口どこかで・・・

「優君とキンジ君が新学期の朝に受けたチャリジャックにそっくりです」

「ああ、だがこれは理子じゃない」

秋葉と遠山キンジが会話しながら俺を見る。

「兄貴の話では京都で戦った奴に似たような手口を使う奴と戦ったそうだ」

「ランパンのココ、レキさん以上のキリングレンジを持ちなお、キンジ君や優君を格闘戦で破り、さらにアリアさんと

アル=カタで引き分けた」

「ふん、万能の武人か」

ポケットから携帯電話を取り出すが圏外の文字。

外との連絡はできないか・・・

兄貴はまだ、星伽神社だろうし兄貴ご自慢の隼でもこの新幹線に追いつくのは厳しいだろう。

現状の戦力でどうにかするしかないが・・・

「遠山君、山洞さん」

「キンジ、山洞」

俺たちがいる車両後方に遠山キンジの友人らしい2人がやってくる。

確か、不知火と武藤とかいったか?

「えっと、君は・・・」

「俺のことは気にしなくていい・・・です先輩。こいつ・・・山洞秋葉の知り合いです」

「ごめんね。簡潔に事態を把握したいから」

と不知火は言ってから武藤が口を開く

「今、不知火と計算したんだがな。今のアナウンスが本当なら19時22分だぜ」

「東京駅に着くのがですか?」

秋葉の問いに不知火は頷き

「どこの駅にも止まらずこのペースで加速していったらそこで東京につくんだよ。その先には線路はない」

思わず時計を見ると18時2分

「タイムリミットまで80分ってことか?」

遠山キンジの言葉が言った。

「もっと早いかもしれないぜさっきのアナウンスは加速し続けろっていったな。この新幹線はN700系、東海道区間の営業最高速度は時速270キロだ。40分後にはそれを越える」

「越えたらどうなるんだ?」

「安全運転はできねえぞ。車体やレールに負担がかかるしカーブで脱線の危険もある」

「危険運転なら何キロ出せるんだ?」

「設計限界速度は350から360って言われてるけどな本当の所はJRも公表してねえんだ」

不知火が携帯の電卓画面を見せながら

「スピード不足だよ。19時過ぎには時速350キロ、最後は410キロ必要になる」

「噂じゃ試験車両で397キロまで出したって噂を聞いたことあるけどな。それ以上はどこまで出せるかわからねえ。410なんて未知の領域だぜ」

80分強かそれ以下で爆弾を発見し、解体、仮に敵が乗り込んでいるならそれも排除しなくてはならない

秋葉の風で・・・いや、こいつのステルスは今不安定と言っていた。

全員を脱出させるのは極めて厳しいだろう。

東京に爆弾ごと突っ込むのは問題ない。

核爆弾というなら当然話は別だが東京駅を吹っ飛ばす規模ぐらいなら被害0とは行かないが避難はされてるはずで人的被害は最小限ですむ

「みんな、この列車に乗っている武偵高の連中を集めて減速無しで爆弾を探して解除しよう」

「了解」

武藤と不知火は後方の車両に武偵高の生徒を探しに行くのについて俺も神崎・H・アリアの方に行くという秋葉に伝えることを伝えて星伽粉雪のいる車両に戻る。

星伽白雪に動かないように言われたのか席に座っていた星伽粉雪が不安そうに俺を認めると口を開いた。

「鏡夜、今のアナウンスは・・・」

「時間がないから簡潔に言うぞ」

これまで起こり、わかったことを伝えると星伽粉雪は一掃不安げに顔を曇らせた。

「大丈夫だなんとかしてやる」

「え?」

「と、兄貴なら言うんだろうが座ってろ。この状況でお前に出来ることはあまりない」

「鏡夜はどうするんですか?」

「爆弾を解除して敵がいるなら排除する。少なくても俺はここで死ぬわけにはいかない」

「・・・」

「最後の手段もある。本当に東京駅にぶつかりそうになるなら風でおろすことも試みてやる」

こんなことしか言えないとは情けない。

そもそも、無視していればいいのになぜ・・・

「あの・・・鏡夜私のこと心配してくれてるんですか?」

「か、勘違いするな。お前にはハンカチを貸してもらった借りがある」

「借りって・・・そんなことで?フフ」

そんなにおかしいことを言った覚えはないが星伽粉雪が噴出した。

わけが分からないな

「とにかくお前は大人しくしてろ。俺は神崎・H・アリアの所に・・・」

「キャアアア!」

その時、聞こえた悲鳴の方を見ると前の車両から乗客が我先に逃げてくる。

みんなひたすら後ろを目指しているようだ。

「鏡夜!」

星伽粉雪に手を引かれて座席側に入った瞬間、人々が並みのように走り去って言った。

なんだ?

席に座っているほかの乗客はぽかんとしているが・・・

「まったく、ちょっとどいてっていっただけで逃げるなんてひどいよねぇ」

とんとんとステップを踏みながら出てきた長い黒髪を先で縛る髪型。

黒い連結根を手に好戦的な目でこちらを見てくる。

「ああ、いたいた。優希の弟君と・・・んん?弟君の彼女?」

「「違う(います)」」

星伽粉雪と怒鳴り返と相手は少しひるんだようで

「そ、そんなむきになって否定しなくても」

くししと右手を下唇に乗せて少女は笑う。

「その容姿。お前が水か?」

「アハハ、優希から聞いた?発表しちゃいまーす!私は今回の爆弾仕掛けた組織の人間でーす!」

笑顔で周りに宣言するように彼女が言うと今までぽかんと水の登場を見ていた乗客たちは犯人の登場に悲鳴を上げて後ろの車両に走って言った。

残されたのは俺と星伽、粉雪のみだ。

「お前も行け星伽粉雪!」

刀を手をかけながら言うと星伽粉雪は従って行こうとするが

「ああ、やめたほうがいいよ弟君。今回の捕獲リストにその子含まれてるから」

「何?」

「星伽白雪捕らえるのは結構厄介だけどその子掴んどくと星伽に対する交渉材料にもなるしね。だから、自分の彼女は

そばで守るのがいいんだよんナイト君」

そういうことか・・・

「なら、俺も捕獲リストとやらに乗ってるのか?」

「ん?乗ってないよだって君拉致すると水月希が乗り込んでくるからねぇ。椎名との交渉以前にランパン壊滅だぁ」

おちゃらけている言動だが油断がまるでない。

「ん?駄目だよ項羽、君はもう十分戦ったじゃない。だから、今は私」

何を言ってるんだ?

「東京での続きしようか弟君」

黒い連結製の根左手を少し前に右手を上に、その構え方には見覚えがある。

「なるほど、東京で襲ってきた先生とやらはお前か」

刀を居合いの構えで構えるが打ちこめない。

切り込めば負けるという経験からの警告がその場の空気を支配している。

それに新幹線内という限定された空間での戦闘

「先生とかいうよりは利用しただけなんだけどね。一応言っておくけど優希の弟に免じて抵抗しないなら縛るだけで

勘弁してあげるよ」

「分からないな」

「ん?」

「どうして、そこまで兄貴にこだわる? あいつはここにはいない以上、関係ないはずだ」

「アハ、優希の弟のクセに何も分かってないなぁ弟君」

「なんだと?」

 

「優希は来るよ。絶対にね」

それは、信頼しているというより確信していると感じられる。

「なら、兄貴が来る前に俺がお前を沈める」

「無理だよ」

そう聞こえた瞬間、頭に衝撃が走り激痛と共に後ろに吹き飛んだ。

床に叩きつけられる寸前、星伽粉雪の悲鳴と水の声が聞こえた。

「君、弱いもんね」

先ほどのひょうひょうとした顔ではなく冷酷に・・・笑みを浮かべたまま人を見下した項羽ではない水は言い放った。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第203弾 鏡夜VS覇王―絶望の戦い!そして、彼は来る

椎名の家は姉上か兄貴が継ぐのが必然、俺に回ることは絶対にないと思っていた・・・

「椎名の次期当主は鏡夜あなたです」

そう、母上に言われた時はどこか納得してしまった。

姉上は女であると同時に死に、兄貴は許されない罪を犯した。

「はい・・・」

だからこそ俺は兄貴達に負けないように強くなろうと思い努力してきたんだ・・・

「鏡夜!起きてぇえええええ!」

っ!

瞬間的に後ろに飛ぶように体を移動させた瞬間ズンという音と共に床が切り裂かれた。

「へぇ」

感心するような声の方を見ると左肩に星伽粉雪を抱えた水の姿。

床には根が隕石のクレーターのように穴を開けている。

「腕一本ですまそうとしたんだけどな。愛の叫びは偉大って奴?」

「そんなものじゃない。そいつを離せ!」

くらくらする頭を振りながらどうにか焦点を合わせる。

「アハハ、やだよ力ずくでやりなよ弟君」

星伽粉雪はばたばたと暴れているが水はまるで、暴れていないものを持つように平然としている。

「放して!放しなさい!」

「だってさ、この状況じゃ片手で戦わないといけないよね」

そういいながら根を前に出す水、完全になめられている

居合いのモーションから突っ込みながら

「飛流一式断風!」

周りの席を切り裂きながら居合いからの攻撃

だが、水はそれを片手の根で受け止める。

金属音と共に押し合うが力は相手が上だ。

「っ!」

刀を引き切りかかるが水はそれを全て迎撃した。

いくら軽いとはいえ、星伽粉雪を抱えたままの相手に手も足も出ない

兄貴はこんな化け物と戦っていたのか

 

「終わり?」

後退した俺に水は余裕の笑みで問うてくる。

「まだだ!」

世界最強の姉上には鍛えてもらえなかったが近衛達との鍛錬はしてきた。

勝てたことはないがRランクの月詠とだって・・・

「ん? そう了解」

耳につけている通信端末に水は言うと俺を見て笑う

「アハハ、弟君、時間切れだよ」

「何!?」

「追ってくるならまだ、望みはあるよじゃね」

そういった水は根を上振り上げるとドオオオンと爆発的な音と共に天井に穴が開き星伽粉雪を抱えたまま穴から

外に飛び出した。

一瞬、星伽粉雪と目が合う。

その目が示していたのは一つだ。

『助けて』

放っておいてもなんとかなるかもしれない。

だが俺は・・・

「くそ!」

穴から外に飛び出す。

「くっ!」

時速200キロ近い爆風の中なんとかしゃがんでバランスを取り敵を探す

いた

遥か後方16号車に水ともう一人が

「ココ、君たちは作業をしなよ。あの子は私が相手するよ」

「任せるよ覇王」

「了解と」

もう一人の敵はツインテールをなびかせながらパンタグラフの手前に設置された機械で光信号を送っている。

まだ、敵がいるのか?

「さあ、弟君、優希がくるまで遊ぼうか」

「なめるな!」

地を蹴って切りかかるがなんだ違和感が

空を切り水には届かない

 

 

逆の位置に移動したた水は笑う

「アハハ、風の動きを読まないと駄目だよ弟君」

ズンと腹に衝撃が走る

「ガハ・・・」

腹に受けた根の衝撃に吐血しつつも後退する。

「鏡夜!」

星伽粉雪の悲鳴のような声が聞こえてくる。

勝てないのかこいつには・・・

「弟君いいこと教えてあげようか?

「なんだ?」

口からでた血をぬぐいながら呼吸を整え、問うと水は笑う

「君が弱い理由だよ。優希と比べて君は戦闘経験が少なすぎる。所詮は箱入りのお上品な剣術。まあ、剣道とか

と比べればましなレベルってとこかな?」

戦闘経験・・・

兄貴は姉上に連れられて世界を巡った。

小さい頃、話してくれた内容だけでも幾度となく死にかけ命がけの戦いを幾度も越えている。

それに比べて俺は・・・

「君は弱い。そして、才能がない。せいぜいチンピラを圧倒できるレベルのおちこぼれなんだよ」

「くっ・・・」

それを認識した瞬間、水がとてつもなく大きく見えた。

勝てない・・・

そう思いかけた時水が笑った気がした。

「勝手なことばかり言わないで!」

「ん?」

水が左肩に抱えている星伽粉雪を見る。

「何かな?」

「そんなことこれからの努力しだいで分からないじゃないですか!なんで、そんな決め付けるようなこと言うんです!

おちこぼれが天才を倒すことだってあるんです!」

「アハハ、分かるんだよ粉雪ちゃん。武器を交えれば大体の才能は図れるもんなんだよ私レベルになればね」

「そんなのあなたが勝手に言ってるだけじゃないですか!鏡夜は強いんです!」

 

「少なくても今は私に勝てないよ。これは絶対。私両手使ってないしね」

「っ・・・でも・・・でも・・・う」

グスと風にまぎれて泣き声が聞こえた気がした。

言葉が見つからないんだろう。

最初からこいつとの出会いは最悪だったし、会ったのもせいぜい数回だ。

だというのに・・・

「粉雪。今助けてやる」

刀を握る手に力がこもる。

暴風に抗って新幹線の上を走る。

水との距離は5メートルほど。

「無駄だって言ってるのになぁ」

根を右に振りかぶる水

そのままなぎ払うつもりだ。

その動作一つとっても速い。

だが、俺には見えていた。

確かに、こいつは速く重い一撃を放つだが

両手で刀を持って水の根を完全には受けず横にずらす。

火花が飛び散るが水の根が空を切った。

「!?」

驚いたように目を見開く水

ここが最大にして最後のチャンス

「うおおおおお!」

ためらいも迷いもない。

バランスが崩れているから技も使えない。

だからこその最大の攻撃突き

「へぇ」

「きゃ!」

「なっ!」

3つの声が重なった。

水は粉雪をぽいと投げたのだ。

空中に投げ出され落下する先は・・・

「くっ!」

突きのモーションをやめ全力で飛んで粉雪の手を掴むが絶望的な落下が俺を襲う。

 

「くそ!」

右手に粉雪を左手の刀を思いっきり新幹線の車体に突き刺した。

突き刺した部分は新幹線の右側だ。

風でなびく旗のように俺たちは上下に揺れている。

左手を離せば地面に叩きつけられて死ぬか新幹線の走行に巻き込まれて死ぬだけだ。

「おやおや。しぶといねぇ。粉雪ちゃん無視したら一矢はできたのに」

新幹線の上から覗き込むように水が言う。

「黙れ・・・」

「き、鏡夜・・・」

「心配するな放したりなんかしない絶対にな」

「おお!かっこいい!」

心底腹が立つこいつの言動は・・・

だが、この状態では反撃はおろか動くことも・・・

「さて、問題でーす。その刀にこれをぶち当てたらどうなるでしょう?」

「なっ、やめろ!」

根をとんとんと手に当てながら水は根を振り上げる。

「さよなら弟君、粉雪ちゃん」

「お姉さま!」

もう駄目なのか・・・

そう思ったときだった。

「わっ!」

唐突に水の姿が消えた。

続いて銃の発砲音が聞こえてくる。

なんだ?

「ちぇ、弟君にとどめさすとこだったのに邪魔だなぁキンジ君」

「それは悪いことをしたね。だけどその2人は友達の大切な弟と妹なんだ。見逃すわけにはいかない」

「アハハ、ヒステリアモードのキンジ君かっこいい!アリアちゃんでなったの?」

「教えてあげたいところだけど時間もないからノーコメントにしておくよ」

この声、遠山キンジ・・・

 

「鏡夜様。粉雪さん!」

唐突にふわりと体が浮いた気がした風に押し上げられる感覚。

そうかこれは・・・

新幹線の上に降りると遠山キンジと水が対峙しておりその後ろには秋葉か・・・

「大丈夫ですか?」

こちらに駆け寄ってきて秋葉が言ってくる。

「すまない助かった」

「いいえ、粉雪さんは?」

「あ・・・」

助かったと力が抜けたのだろうその場に粉雪はへたり込んでしまった。

「こ、怖かった・・・」

「もう、安心してくださいキンジ君もいますし私もいます」

そういって立ち上がった秋葉は振り向きざまに槍を振るった。

「キヒ!」

青龍刀と槍が激突し、もう一人のココは足のスパイクを鳴らし獣のようによつんばいになる。

「なるほど双子ですか」

「パオニャン!覇王!キンジ、近衛出てきた!」

「私はキンジ君相手するからよろしく」

「メイメイ抑えろ!」

3人は中国語で呼び合い位置を移動してくる。

後方車両で何かをしていたココが遠山キンジと水の戦いの間を抜けて接近してきた。

挟み撃ちにされた格好だ。

「くっ!」

激痛に耐えながら立ち上がると刀を構える。

粉雪を挟んで秋葉vsメイメイ、俺vsパオニャンという構図だ。

戦闘が開始されステルスが不安定な秋葉は風を使わずに槍で迎撃する。

遠山キンジと水の戦いも続いているがそちらを気にする余裕はない。

水との戦いですでに満身創痍と言っていい状況でほとんど体力を使っていないココ・・・いや、パオニャンが相手

パオニャンがサブマシンガンUZIをこちらに向けて発砲する。

銃弾切りで切り落とすが何発か防弾製の服に食らってしまう。

「くそ・・・」

 

後ろには粉雪がいるほとんど動くことは出来ない。

「椎名の出来損ないお前に用ないね」

再びUZIから銃弾がはじき出される寸前パオニャンは衝撃を受けたように一瞬動きが止まった。

すかさず切り込むが猫のように俊敏にパオニャンは後退する。

一瞬、後ろを振り返るパオニャン

そこは、両手を使って根を使う水と遠山キンジの戦場だ。

「他人の心配なんて余裕あるねぇキンジ!く!ん」

「それほどはないよ」

とかろうじて根をかわしつつ距離を取りながら名前は知らないが大型の拳銃と西洋式の剣を使い俺が歯が立たなかった

水と互角にやり合っている。

これが経験の違いと言う奴か・・・

「どこみてるね出来損ない!」

パオニャンが動くより先に俺は動いた。

圧倒的な殺気を当てて相手の視界を歪ませる

「零式陽炎!」

「見えてるね!」

ババとマズルフラッシュの光が見え再び衝撃が走る。

「げほ・・ぐっ・・・」

もう、どこが痛いのか分からないぐらいの激痛に体から力が抜けるが刀でかろうじて倒れるのを防ぐ

「鏡夜逃げてぇ!」

粉雪の声が後ろから聞こえてくる。

「出来損ない。根性だけは認めてやるね。でも、これで終わりよ」

なんだ?香水瓶?

嫌な予感がする。

まさかあれは・・・

兄貴に聞いた話を思い出す

レキを怪我させた正体の推測を兄貴は言っていた。

気化爆弾のシャボン玉

避けるか?駄目だ迎撃も出来ないし逃げ場もない。

「爆泡小龍鎖」

駄目だ・・・体が動かない・・・せめて、こいつだけでも・・・

 

ビシュビシュ

「あう!」

パオニャンの手から香水瓶が落ちて新幹線の上から落ちていった。

遠山キンジか?いや、違う

今まで気づかなかったが風の音に混じって何か聞こえる。

これは、ジェット機の音か?

その時、耳につけていたインカムから声が聞こえてくる。

あの忌々しいあいつの声が

「いやータイミングぎりぎりとかどこのヒーローだよ」

こちらに接近してくる飛行物体。

ジェット機じゃない?なんだ、あれは?

「ゆ、優か!」

「優君!」

「優希様!」

それぞれに声が入ったらしい驚いて敵も含めた全員が音の方に顔を向けている。

「おう、レキもいるぜ。てか助けたのはレキだけどな」

「・・・」

完全に見えた。

新幹線と併走するようにまるで金属の鎧、巨大なブースターのようなものを背負った兄貴がとレキ・・・

ヘルメットをかぶっているが口は笑っている

「おお!すごいね優希ヒーロー登場って奴だ。何その乗り物」

「へっ、ちょっと京菱グループの試作機をな。PADって奴らしい」

SIDE 優希

「へー、来ると思ってたけど予想外のもので来るよね相変わらず」

新幹線と併走しながら水と会話する。

間一髪ってやつだがさてどうする?

着陸のこと考えてなかったからな・・・

燃料の残りはあとわずか、加速も後1回か2回しか出来ないか。

試作機なだけに燃料かなり食うなこいつは・・・

「優さん」

「おう!」

 

先端科学の鎧PAD試作型を操り新幹線の上空を飛びながら俺とベルトで固定されている包帯だらけのレキがドラグノフを発砲する

ビシュ

「あう!」

がくんと秋葉と交戦していたメイメイがのぞけり踵を押さえて崩れ落ちた。

おお、アキレス腱だけ狙って撃ったのか

てかそろそろ燃料がやばい

それに燃料を節約してるからこれ以上新幹線に加速されたらアウトだ。

「優!前にトンネルよ!避けなさい!」

PADの通信機にアリアの声が聞こえてくる。

新幹線の上にはいないから中か?

って!トンネルの上は山かよ!

乗り越える燃料なんて残ってねえぞ!

「優!後10秒で加速だ!300キロ越えるぞ!」

キンジの声が聞こえてくる。

了解ってうお!

俺たちを近づけないためかパオニャンが腰に構えたUZIを連射してくる。

それをレキのドラグノフが弾き飛ばした。

ナイスレキ!

300キロという高速では判断力を誤れば死だ。

男は度胸!やるしかねえ!

「レキ突っ込むぞ!」

「はい!」

レキの返事を待たずにPADを斜めに向けて高速で新幹線に突っ込むトンネルはもう、目の前に迫りつつある。

こいつを背負ったままじゃ着陸できねえなら!

ボタンを操作して操縦席から離れる。

レキを抱えながら空中に投げ出されるが足のワイヤーを新幹線の天井に激突させて高速で巻き戻す。

トンネルは100メートルもない。

「いけええええええええええええ!」

叫びながらレキと新幹線の上にだんと着地するのと新幹線がトンネルに入ったのはほぼ同時だった。

ばんと気圧が変わり肺が破裂しそうになる。

レキと一緒にその場に伏せトンネルを抜けるのを待つ間後ろから爆発音が聞こえてきた。

多分、というか絶対にPADが爆発した音だよあれ・・・京菱グループの開発者達怒るだろうなぁ・・・

無理やりって鈴さん言ってたし

「優!レキ」「兄貴」「優君レキさん」「椎名の後継、ウルスほ姫」「優希、レキちゃん」

それぞれが俺の名前をトンネルを抜けると再び言ってくる。

「お待たせ椎名優希!とレキただいま到着ってな」

 

戦場の真ん中で俺は高らかに言い放った。

 




と言うわけで優登場です!
この優が乗ってきたpadは説明が入りますから説明します。
これは緋弾のアリアの物語の後の時代の【やがて魔剱のアリスベル】というラノベのヒロイン京菱キリコが操る先端科学技術の鎧です。
優が乗ってきたのはキリコのpadよりも大型でミサイルもついていません。
どちらかと言えばisに、近い外観ですが設定はpadの試作型です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第204弾 私は母国を破壊する

「優!時間がない!簡潔に説明するぞ!」

レキとの固定ベルトを外しているとキンジが声をかけてくるが

「状況は分かってる。中の武偵高の生徒からネット回線から実況してくれてからな」

簡潔に言えばこのままだと東京に突っ込む。

どうにかするにはこいつらを排除して爆弾を撤去するしかない。

やることがわかってるならやるだけだ

「鏡夜、粉雪ちゃん連れて車内の後部に移れ!」

「・・・分かった」

自分が足手まといなのを承知しているのだろう。

弟にしては素直に車内に戻る。

その穴は水が開けた大穴だ。

「兄貴」

穴に入る寸前鏡夜は振り返った。

「後は頼む・・・」

「優希様・・・みなさま御武運を」

「おう任された!」

鏡夜と粉雪ちゃんが車内に入り後は正面

「さて、レキいけるか?」

「はい」

背中越しに俺たちは言い合う。

「キンジ!そっちにココ軍団任せたからな。レキあっちの援護してやってくれ俺は水と戦う」

「はい」

「分かった!」

キンジとレキの返答を聞いて俺は水を見る。

なんだろうなぁ・・・戦闘狂モードってわけじゃないんだけど気分が高揚してるな

空飛んできたからか?

「ふーん、優希一騎討ちしたいの?」

にやぁと右人差し指を形のいい唇にあてる水

「ああ、時間がないから本気でやらせてらうからな」

「時間ね。結構、時間かかったよねここに来るまで」

「そうだなぁ・・・」

そういいながら俺はこいつが雪羽さんと戦ったあの少し後までの記憶を遡った。

            †

時は少し前に戻る

なんか、騒がしいな・・・

目を開けるとうっすらと天井が見えてきた。

星伽神社の一室か・・・

そうか、俺、項羽と戦って鈴さんに・・・

襖を開けて廊下に出ると幼い巫女服の子達が騒いでいる。

「し、白雪様の乗られた新幹線に爆弾が仕掛けられたというのは本当なのですか?」

「間違いありません」

ちょっ、白雪の乗ってた新幹線って鏡夜とアリアも載ってるあの・・・

「おい!」

「あ、椎名様・・・」

びくっとした幼い巫女の子が気まずそうに目線を下げる。

「今の話はどういうことだ?詳しく聞かせてくれ」

「あの・・・」

言ってはならないことってか?

それっきり巫女達は口を開かない。

もういい、風雪ちゃんに事態を・・・

いや、この状況なら!

とっさにポケットに手を突っ込むがない。

そうだ、携帯破壊されたんだった!

ならよ!俺は間取りを思い出しながら記憶を頼りに走り目的のものを見つける。

あった電話だ!

古めかしいが黒のダイヤル式だが俺はまず、秋葉に電話したが繋がらない。

くそ、妨害でもされてるのか?

さっきの爆弾の話が本当なら十分ありえる。

これではキンジ達にかけるのも時間の無駄だ。

それなら

俺は迷わずに次の人物に電話をかけた。

「土方だ。この番号・・・星伽の・・・」

「土方さん俺です!優希です」

時間がないので撒き仕立てるようにいう。

「優希か!?お前どこにいやがる!まさか、新幹線の中なんていうんじゃねえんだろうなってそれはねえか」

やはりか!

その言葉だけでただならぬことがおきているのを理解できた。

「どういうことです土方さん!何が起きてるんですか?」

「少し前だ。東京に向かう新幹線の一つがトレインジャックされた。中には東京駅を吹き飛ばす爆弾がある。減速したら

爆発する奴でやつらは・・・ランパンの奴らは日本政府に300億人民元を要求してきやがった。新幹線が東京駅に突っ込むのは1時間と後少しだ」

ランパン・・・くそ、あいつら

「救出作戦はどうなってるんですか?」

「俺達公安0を始めとした高速で動く新幹線に強襲できる連中はみんな脅されて動けねえ」

完全にやられた・・・人質とられてちゃ強襲も簡単じゃない。

だけど、やるしかねえ!ランパンは俺に興味を示している。

俺なら強襲しても爆弾を炸裂させたりはしないだろう。

おそらく、そこには水もいるはず。

あいつなら、絶対に俺の接近を妨げない確信がある。

「俺、行きます」

「待て、どうやって行くつもりだお前の場所が星伽神社だとしたら隼やヘリでも追いつけねえぞ」

腕時計を見て考える確かヘリがあったが追いつけるか微妙なところだ。

「問題ありません」

「あ」

ひょいと俺の手から受話器が取り上げられる。

「歳。希弟の強襲手段は確保済してある」

「その声・・・鈴か?おい!なんでお前がそこにいやがる!」

ぱっと受話器が俺に戻される。

「おい鈴!」

「えっと土方さん。鈴さんなんだけど、項羽と戦ってたときに危うく助けてもらったんだ」

「分かった。詳しくは後で聞かせて・・・」

ツーツー

って鈴さん!何で電話切るの!

「時間の無駄です」

それだけ切羽詰まってるってことかよ

というか仮にもチームメイトだった土方さんの扱いが・・・

「あの鈴さん。さっき土方さんに言ってた強襲手段って・・・」

「こっち」

無表情のまま、俺の右手を掴んで歩き出す。

というかこの人も10代にしか見えないぞ。

どうなってるんだ姉さんのチームメイトは

ひんやりとした手に握られながら星伽神社の前に止められている大型トラックの前で鈴さんが何かを操作するとガコン

と上部や右と左が展開されていった。

つうかこの車、陸上自衛隊って書いてるぞ!いいのこれ!

完全に開放されるとアニメに出てくるみたいな金属の塊が目に入ってくる。

背後にジェット推進なのか大型のエンジンの前には人間2人分ぐらいのスペースに戦闘機の操縦席にあるような操縦根やパネルが設置されている。

細かいボタンも見えるがこれ何?

見たことない装置もなんかついてるし

「あの、鈴さんこれ何なんですか?」

「京菱グループが開発している先端科学の鎧、PADです。戦闘機の運用経験は?」

「えっと、ロシアのスホーイとアメリカ軍のF16とF15と日本のF2を少々」

全部姉さんのせいで乗る羽目になった戦闘機だ。

逃げるためとか理由はいろいろあるんだが死に物狂いで乗りこなした。

乗りさないといけなかったんだよ

「乗ってください。戦闘機と同じです」

「無理です!」

どう見ても戦闘機と違うし!戦闘機と違って体むき出しだし!

「原理は同じ」

「せめてマニュアル見せてください!お願いですから!」

「大丈夫」

ぐっと無表情で親指立てないでください!

ああもう!

俺が操縦席?のような場所に体を固定させる。

戦闘機のパイロットが使うようなヘルメットをかぶるとブンという音がして機体が立ち上がる音と共に様々な表示がなされていく。

すげえなこれレーダーや推力、燃料の残量までこのヘルメットだけでカバーしてるのか・・・

 

えっとこれかな?

それっぽいボタンを押すと左すみに展開された地図に現在位置と動く光点が見える。

誰かが発信機でも持ってるのか?

いや、衛星で追跡は出来るから多分、あらかじめ設定していたんだろう。

ブンという共に拡大映像が映し出される。

衛星からの超望遠レンズみ新幹線の車体。

これが、目的地か

タッチパネルで情報を読み込んでいく。

村上が使ってたのを見たがスマホ以上なのは間違いないなこのタッチパネル。

「どう?」

鈴さんが俺を見上げながら聞いてくる。

「なんとかなりそうですよ」

我ながら恐ろしいもんだ。

いくら多少の予備知識があるとはいえちょっといじっただけで操縦法を理解できるなんてな。

これも姉さんとの旅のおかげ、経験って奴の賜物だ。

隼もそうだが俺、案外ロジの才能もあるのかもな

「ありがとうございます鈴さん!俺行きます」

「まだ行くことはできません」

え?それを聞きながらエンジンに火を入れようとボタンを押し込もうとした瞬間だった。

タアアンと言う音と共に俺の左側を掠めて道路に穴が開いた。

ちょっ!

階段の上にいるのレキじゃないか!

包帯を巻いて俺にドラグノフを向けている。

「レキ!お前は寝てろ!その怪我じゃ無理だろ!」

しかし、レキはよろよろと階段を降りてきながら

「私も連れて行ってください」

「駄目だ寝てろ!」

俺はレキに構わずにエンジンを始動させようとしたが

「連れて行けばいい」

鈴さんは静かに目を閉じて言う。

「り、鈴さんだったら怪我してるレキよりあなたのほうが・・・」

しかし、鈴さんは首を横に振る。

「次代のウルスの未来を決めるのは次代です。風の拘束を解けるかはあなたしだいです優希」

 

ようは、次世代の問題は次世代で解決しろってことかよ・・・

「私は歳に解いてもらった」

小さく鈴さんの言葉が聞こえた。

その時、レキの体がよろけたのかぐらりと階段で傾くのが見える。

危ねぇ!

PADを外して走りながら

「レキ!飛べ!」

声が聞こえたのかレキが石の階段を傾きながらも蹴る。

結果、空中に投げ出されるが俺の方に飛んでくるので

「っと!」

俺は少しジャンプしてレキの体を受け止めた。

レキの顔が目と鼻の先にきたため俺はドキッとしてしまった。

俺はレキをだっこしてから降ろすと

「本当に行くんだな?」

と、確認を取るとレキはこくりと頷いた。

無表情だが絶対についていくと言う覚悟が見える気がする。

「ウルスの忠誠は永久にして永遠。あなたが死地に向かうと言うなら私はどこまでも優さんについていきます」

「それも風の意思か?」

「・・・」

レキは答えない。

どこか戸惑っているのかもしれない。

あの時の笑顔のようにもしかしたらこいつは自分の意思で俺を助けようとしてくれてるのかもしれない。

それはなんとすばらしいことだろう。

「レキ連れて行くには条件がある。絶対に死ぬな。俺も死ぬ気はない」

それだけが俺の絶対条件。

全ては救えなくても俺は何を代償にしても仲間だけは絶対に死なせない

「はい」

よし、そういうならいいよな

PADに戻ると元々そういう設計なのか鈴さんが補助用の固定場所を用意していた。

なるほど、複座なのかこれ

とはいえ、2人目は機体そのもとというよりは1人目、つまり俺に固定される感じだな。

「レキ」

「リン」

互いに目を合わせたレキと鈴さん。

そういえば、2人が会うのって・・・

「私は見つけました。あなたも見つかるといいですね」

「・・・」

レキは頷くことも首を振ることもせずに鈴さんを見ると機体の固定を始めた。

「いいのかレキ?」

ちゃんと話さなくて

「はい」

いろいろと複雑なんだろうなぁ、鈴さんはウルスの里を出た感じだし

「んじゃ行くかレキ!」

レキを固定してから点火のボタンを押そうとした時

「これをもっていくといい」

と鈴さんが何かを渡してきた。

なんだ?

布を解くと出てきたのは白い日本刀だ。

ありがたいな最近金欠で用意できてなかったし

「冬雷、雪羽の刀」

見覚えがあると思ったら・・・

「いいんですかこれ?」

「上げるわけではない。後で返す」

まあ、当然ですかでもこれで

「ありがとうございます鈴さん」

「ん」

少しだが笑った気がするこの人

というか戦闘中と言葉遣いが少しだけ違うから変わるのかな言葉使い。

「ここの防衛は私が責任持ちます」

といって、鈴さんはレミントンM700を背中に階段を上がっていく。

中には雪羽さんが寝てるし、ランパンの襲撃の可能性も0じゃないからな

完全に俺達だけでやるしかないわけか・・・

刀を固定して今度こそエンジンに手を伸ばしつつレキと回線をつなぐ。

こうしないと風で聞こえないしマスクしないと息も出来ないからな。

「行くぞレキ!」

「はい」

レバーを引いてエンジンの出力を上げる。

ドンという爆発音のような音と共にふわりとPADが空に舞い上がった。

軽いなこの機体、というか一瞬で50メートルぐらい飛び上がったし出力も戦闘機に匹敵するぞ

次に機体をVTOLから斜めにしぐいっとレバーを押し込んで操縦根を握ると機体が斜め上に加速しだした。

速度は70キロってとこか

まずは鳴らし運転だ。

ジェット機の音と少しだけ違う何か不思議な音を聞きながら俺たちは京都上空を飛行する。

時刻は昼だからあまり、低空で人に触れるのもまずいか・・・

「上昇するぞ!」

レキの返事を待たずに更に上昇する。

一瞬、星伽神社が見え、遥か遠方に椎名の本家のある山が見える。

高度300まで上がると京都の伝統的な町並みが見えてきた。

さてと・・・

慣らし運転をしながら情報を検索する。

「網膜式のマウスってわけか」

ヘルメットの画面で必要な情報をタッチパネルで検索すると武偵高の生徒が一般人には触れられない掲示板で逐一情報を更新しているのを発見した。

それをレキと一通り読む。

「ん?」

それはほんの偶然に過ぎない。

視界に入った京都武偵病院の屋上に人影があった。

包帯でぐるぐる巻きで松葉杖をついている。

そいつはまっすぐ俺たちを見上げ

「・・・」

親指を俺たちに向けて立てた。

言葉がなくても分かるぜ

「がんばれ椎名、レキ様を頼むだ」

了解だ村上、帰ったら礼は言わせてもらうぜレキを守ってくれてありがとうってな

滞空しているPADを前方に向けて加速させた。

速度を上げていく130キロ150キロ・・・巡航速度が大体この辺りか・・・

戦闘機とは違うわけか

最大は燃料をかなり食うみたいだからな・・・

GPSで確認するとなんとか追いつけそうだ。

慣らしも含めて巡航速度で行こう。

最大で燃料切れで墜落したなんて笑えねえからな

追いつくまでおよそ10分以上はかかる。

少し、話でもするか

「レキ、ちょっと話しいいか?」

加速のGに耐えながら俺が言う。

「はい」

「怪我してるのにこれはつらいだろうから話したくないなら言えよ」

「大丈夫です」

事前の打つ合わせは大切だからな

「俺は水と決着をつける。お前はキンジや秋葉達と合流してチームで戦え」

「・・・」

なぜ黙る!嫌なのか?

「まだ、喧嘩してるのかよお前は・・・秋葉とアリアと仲直りしろ。いいな!」

「・・・」

こ、こいつは・・・

「あのなぁ、なんでそこまで秋葉やアリアを嫌うんだ?」

「・・・づける」

ん?風で聞こえなかった。

「なんだって?」

「あの二人は優さんを死に近づける」

「ハハハ、まあしょっちゅう撃たれてるしな」

「違います」

「あん?」

「風が告げているのです。あの二人といればあなたは死にます。少なくても死に等しい何かがあなたを襲う」

「ようは、あの二人には近づくな。お前と一緒にいろってことだろ?」

「はい」

「そこが分からないんだよな。お前と一緒にいれば俺は死なないのか?」

「私の目的は・・・」

「わぁあああ!」

ウルスの子孫を作ることですと言う言葉を言われそうになるので慌てて遮断する。

そうだったな

「そ、それはともかく武偵は常に死と隣りあわせだ。お前といても危険はたくさんある。現にお前も俺も少なからず死ぬかけたしな」

「・・・」

レキは答えない。

だから、俺は決意を口にする

「心配しなくても俺は死なねえよレキ。いろんなことやらないといけないしな」

だけどと俺は思う。

唯一つの例外はあるんだけどな・・・

それは口に出さないで置こう

「・・・」

結局は堂々巡りだな・・・まあ、今はそれでいいさ

「それとな、レキ。水のことだ」

「はい」

「さっき、意識失ってたとき思い出したんだよ。俺たちは・・・」

そして、その話が終わるとレキは言った。

「思い出しました」

「だよなぁ・・・間違いないか・・・それで水の奴怒ってあんなことしたのかなぁ・・・」

「優さん」

「ん?」

「水さんを憎んでいないのですか?」

京都では俺たちを騙し、あげくは殺しにかかってきた。

実際、一歩間違えれば死んでいてもおかしくはない場面は多々あった。

だけどな・・・

            †

 

水と対峙しながら新幹線の暴風を耐えつつ俺たちは対峙する。

「どうしたの?かかってきなよ優希。早くしないとみんな死んじゃうよ?それとも決め手がないかな?項羽に歯がたたないなら私には勝てないかな?」

「へっ、今までよく騙してくれたもんだ。糞重い重りつけて俺と互角気取ってたんだからな」

「アハハハ、優希に言われたくないなぁ。君もいろいろ隠してるじゃん。刀とかさ」

「切り札はとっておくもんだろ?」

正確には刀はトラウマのせいで昔は使えなくなってただけなんだがな

「だよねぇ。じゃあ、今回も切り札あるの?」

「もちろん」

そういいながら俺は紫電と雪羽さんの冬雷を抜く。

紫と白い刀

そうブラド戦依頼の二刀流だ。

「へー、二刀流。速さで私を上回ろうって魂胆かな?」

さすがっていうかばれてるな。

「まあ、そんなところだ。それより、少しだけ話をしようぜ」

「んん?いいよ」

そこで俺は疑問に思ってたことを口に出す。

「水、お前本気で俺たちを殺す気ないだろ?」

「え?」

意外だったのか水は一瞬目を見開いてからすぐに余裕の笑みをを浮かべる

「アハハ、何言ってるの?一歩間違えればレキちゃんも優希も村上君も死んでたじゃない」

「だが、誰も死んでない。お前、本当は殺す気がないだろ?」

ずっと、疑問に思ってた。

こいつは、いつだって俺たちを殺すことができたはずだ。

ココと撃ち合っていた後、シン達が待ち伏せていた理由。

あそこで待ち伏せる必要はない。

4人全員で一斉に襲い掛かれば全滅していたのは確実なのだ。

殺す気なら東京でココに襲われていたとき見捨てればよかった。

だが、こいつはそれをしなかったんだ。

「水、お前ランパンに弱みでも握られてるのか?だったら俺が・・・」

 

助けてやると続けようとするが水はうつむいて口をにやりと曲げた。

「助けるって続ける気? ハハハ、優しいねぇ優希。でも、私がランパンにいるのは私の意志。殺せなかったのはそうだね・・・迷いがあったのは認める」

「ランパンに俺を誘う理由もその迷いに関係あるのか?」

「そだね。この際だから言おうかな。私の目的はね優希。私の母国。中国を一度破壊することだよ」

「解放戦争でもする気かよ?」

そのために手ごまがいるってことか?

「違うよ優希。何も表の世界から変える必要はない。私はランパンを完全に掌握して裏側から国を壊す」

表が政治の世界なら裏は違う力が渦巻く世界だ。

アメリカでも大統領が表の世界ではナンバー1だが裏に影の存在がいる。

それが、裏社会。

日本だって俺の実家や武田といった影の社会が存在している。

確かに、裏社会を完全に掌握すれば表をぶち壊すことは不可能ではないだろう。

そのためには、単独での実力者の数は重要だ。

水が強いと言っても一人では裏社会を完全に掌握するのは不可能に近い。

「もう一度言うぞ。俺はお前の仲間になる気はない。大人しく投降しろ」

「だろうね。君は私の弱さだから・・・ね」

弱さ・・・俺達を殺せなかった理由。

「弱さか、俺とレキが昔、お前を助けたことのことか?」

「え?」

水は再び驚いたように俺を見る。

「覚えてたの?」

「いーや、忘れてたさ。だけどなさっき夢で思い出した」

「夢ね。ひどいなぁ。私はずっと覚えてたのにな」

「水、お前あの後何かあったのか? 話してみろよ」

国をぶち壊すなんて発想はよほどのことがないと言わないだろう。

それほど、国を憎む何かがあの後あったとしか思えない。

「・・・」

水は少し悲しむように目を落としたがやがて口を開いた。

 

「そだね・・・話してあげるよ優希」

それは、悲しい過去の話

 




凰 水

 身長176センチ

武器 根 青龍偃月刀

髪型 背中の下の方まで伸びる黒神をゴムで縛ってある

性格 明るいが腹黒い

所属 ランパン

補足
 ランパンの戦士、万武、覇王等の名称を持ち武では世界最強クラスの実力者。
第2人格覇王項羽を持つが今では彼女の実力は覇王を超えている。
以前日本に潜伏していた期間もあったが目的は不明。
彼女の目的はランパンのトップに立ちそれを足がかりに裏社会を統一し中国を内部から崩壊させることにある。
その詳しい理由は次話。

緋弾を守るものの作中では両手が使えた頃の雪羽と互角の実力


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第205弾 魔法の時間ー溶けない闇

SIDE水

私は小さい頃は、何一つ不自由のない生活を送っていた。

綺麗な服に綺麗なな食事。

何も不自由もなかった。

母は優しくて父も厳しいところはあるが大好きなお父さん。

父の商談のついでに旅行しようと言うことになり私達親子は北京にやってきた。

商談のために出かけた父と母に代わりメイド一人を連れて私は買い物を楽しんだ。

「よくお似合いですよお嬢様」

と、私をほめてくれるメイドと1時間北京の店を回ってとある店の前で

「今度はここに・・・あれ?」

かわいい服が店頭に並んでいたので見ようと言おうとしたが後ろに私をほめていてくれたメイドはいなかった。

携帯を取り出して電話しようと思ったが携帯はさっきトイレに行くときにメイドに渡してそれっきりになっていたのを思い出した。

絶望的な闇が心を襲っていくのを私は感じた。

迷子になっちゃった・・・

周りを見渡すが大人たちは私には無関心に通りを歩いて行く。

「あ・・・」

声をかけようと思ったが怖い。

お父さんとお母さんどこ・・・

「う・・・」

うつむいて目に涙を浮かべ泣き出す寸前

「君どうかしたの?」

幼い少年の声だ。

顔を上げると私と同じくくらいの年頃の子供が立っていた。

Gパンに黒いプリントTシャツを着ており背中には大きな筒のようなものを背負っている。

「お父さんとお母さんがいないの・・・」

「迷子なの?」

「うん・・・」

「そっか・・・僕も人探してるんだけど一緒に行かない?」

「いいの?」

「うん」

少年はいい

「僕、椎名 優希。君は?」

 

「水・・・凰 水」

それが、彼と・・・優希との始めての出会いだった。

            †

聞いたところ、優希君は友達と北京にようやく先ほどたどり着いたところらしかったが連れの友達とはぐれてしまったらしく

探しているらしい

「レキちゃんっていうんだけど薄い緑色の髪の子。見なかった?」

「ううん。見てない」

「うーん、まずいよ見つからなかったら姉さ・・・師匠に殺される・・・」

「殺されるの?」

「うん、とっても怖いんだよ僕の師匠」

「じゃあ早く見つけないと」

「そう簡単に見つかればいいんだけど・・・」

優希君がそこまで言った時クゥーと腹の音が聞こえてくる。

私はお腹を押さえて赤くなった。

なんか恥ずかしい・・・

「お腹すいたの? なんか食べていく?」

お昼はホテルで取る約束になっていたがこの調子ではそれは守れそうにない

「うん・・・」

私は素直に従うことにした。

              †

「ほらあったあった」

お腹がすいたことを優希君に伝えて10分ほど歩いて彼は言った。

「ここ・・・」

そこは屋台や露天が並んでいる通りだった。

高級なイメージがあった大通りとは違い道は広くないがあちこちから声が響いていてくる。

「ちょっと、治安悪いから僕から離れないでね水ちゃん」

と言って優希君は私の手を握った。

 

「あ・・・」

「ん?どうしたの?」

同年代の男の子と手をつないだの初めてだと私は思いながら首を横に振った。

「なんでもない」

「じゃ行こうか」

私は優希君に手を引かれて通りに入って言った。

店にはいろいろなものが並べられている。

携帯電話からやかんにアクセサリーと何でもある。

食べ物の屋台も豊富でおいしそうな臭いがそこらじゅうに満ちている。

「こういうところって大都市なら世界中探したら大体はあってねおいしいんだよ。商品は盗品が多いから

ちょっと注意しないといけないけど」

盗品・・・ではここに並べられているのは盗んだものを売っているんだろうか?

よく見ればぼろぼろの服の子供が布の上に無造作に並べられた商品を売っているのが見えた。

「水ちゃん財布持ってたらしっかりもってなよ。ここじゃ、気をつけないと盗まれるよ」

「財布持ってない・・・」

支払いは全てメイドに任せていたからだ。

そう伝えると優希君は驚いた様子もなく

「分かる分かる。僕も昔は近衛に持ってもらってたからね」

「近衛?」

聞きなれない単語に首をひねると優希君は困った顔で

「なんていえばいいんだろ? 簡単に言えば武装したメイドさん兼ボディガードかな?」

それなら分かる。

「分かった。じゃあ、優希君の家もお金持ちなんだ」

共通の話題を見つけて私は嬉しくなって言う

「うーん、金持ちは金持ちだけどいろいろと僕の家は特殊なんだよね・・・」

そういいながら優希君は屋台から串を鉄の棒で突き刺しているだけの豪快な肉串を買うと私に渡してくる。

「はい、牛肉だよ。猫とか犬の肉は僕食べたくないんだ」

「私もそれは苦手・・・」

そういいながら肉にかぶりついた。

お行儀が悪いがお腹もすいていたので肉は香辛料もちゃんとついていておいしかった。

「おいしい」

「でしょ? まあ、外で食べてる効果もあるんだろうけど日本だったら屋台と言えば焼きそばとかたこ焼きなんだけどね」

「焼きそば?たこ焼き?」

「日本の料理だよ。焼きそばは違うのかな?」

「優希君は日本人なの?」

「そうだよ」

肉にかぶりついて歩きながら優希君が言う。

正直な話想像していた日本人と優希君はかけ離れていた。

たまに見る映画やテレビでは日本人は鬼のような性格でかつて、中国人を虐殺したと嫌になるぐらい学校でも

教えられている。

でも、彼は優しい。

お金のない私にごはんをおごってくれて迷子の私を放っておかなかった。

「ん?」

私の手を引きながら優希君が振り返った。

優しい笑顔だった。

だが・・・

「おいガキ、お前ら日本人か?」

突然後ろからかけられた声。

振り返ると顔に刺青を入れた中年の男が優希君を睨みつけている。

「そうだけど何おじさん?」

慣れているのか男にまったくひるまずに優希君が半分振り返って言った。

「日本鬼死のクソガキが中国の肉食ってんじゃねえよ。お前らは泥水でも飲んでろ」

そういいながら男はコップに入った黒い液体を振りかけようとした。

「きっ」

私が悲鳴を上げようとした瞬間、腰に手が回され浮遊感が私を襲う。

「え?」

ばしゃと黒い液体が降りかかった。

ただし、通行人に

「え?消え・・・」

 

中年の男はきょきょろした瞬間

「うわ臭え!何しやがるてめえ!」

液体を顔にかけられた男が中年の男の顔を殴り飛ばした。

「待ってくれ!俺は日本人のガキを狙ったんだよ!」

「適当なこと言ってんじゃねえこの豚野郎!」

運の悪いことに中年の男は液体をかけられた男にぼこぼこに殴られている。

自業自得とはいえ・・・

「たく、日本人って言っただけなのになんで怒るんだろ?」

ぷらーんと空中でゆれ私は優希君に抱えられているのに気づいた。

見ると優希君の左手の服の中からワイヤーが伸びて建物に突き刺さっていた。

不思議と怖いとは思わなかった。

                †

SIDE優希

暴風の吹き荒れる新幹線の上、背後からは戦闘音が聞こえてくる。

髪をばたばた揺らしながら簡潔に語られた物語

「覚えてるぜ」

俺の昔の記憶の欠落は姉さんのステルスの副作用だ。

思い出せば連鎖的に思い出してくる。

俺が水と出会ったのは中華人民共和国の北京。

当時、俺は姉さんやウルスの里の連中に黙ってレキを連れ出して北京に言ったんだがレキとはぐれてしまい

大慌てで探し回っているときに泣きそうな顔をした水に会ったんだ。

「あの後も楽しかったよね。レキちゃん探しながらいろんな店回って」

「というかあの時、レキのこと探していたのは本当だが半分遊んでたのは否定できないな・・・」

レキに何かあったらウルスの里の連中に殺されてもおかしくないのに子供ながらに恐ろしい行動だ。

だが、当時の俺に・・・いや、今の俺でも水があそこにいたら放っては置かなかっただろう。

まあ、前よりはうまくやるんだろうがな・・・

「本当に楽しい時間だった。私同年代の友達と遊んだことなかったから・・・」

思い出すようにいう水

「童話でいうならシンデレラ。魔法が解けた時間はあの時だったね」

「あの時?」

「あの時だよ・・・」

そういいながら水は口を開いた。

               †

SIDE水

時間を立つのを忘れて遊んだのは久しぶりだった。

優希君は私の知らないことを知っていていろいろなことを教えてくれた。

日本という国のことや知らないヨーロッパやアメリカの話。

「いいなぁ・・・私も言って見たい」

「じゃあ、姉さんに頼んであげようか?」

「いいの?」

優希君のお姉さんは世界中の事件を解決している武偵という職業の人間らしい。

少し大げさに言っているみたいだけど強い人間であることは間違いない。

「いいよ」

その言葉に私は世界が開けたような気がした。

子供心から冒険という状況にあこがれもあった。

「じ、じゃあ・・・」

「あ!」

連れて行ってといおうとした瞬間、優希君が声を上げた。

「あ・・・」

ぱっと私の手が離され優希君が走り出した。

追いかけようと思ったが優希君はある場所で足を止めた。

「ご、ごめんレキちゃん! 僕君のこと探してて・・・」

道路の端で体育座りをしていた薄い髪の少女はその琥珀の瞳を優希君に向けるとふるふると首を横に振った。

「信じていました。優さんが私を見つけてくれることを」

「ごめんね本当にでもよかった見つかって」

その優希君の少女を・・・あの子がレキちゃんなんだろう・・・

見る顔を見て私は胸に痛みを覚えた。

なんで、私の手を放して走っていくの・・・そんなにその子が大事?

私は身を翻すと人ごみの中に飛び込んだ。

「そうだレキちゃん紹介するね・・・あれ? 水ちゃん?どこ?」

 

後ろから、優希君の声が聞こえた気がしたが私は振り返らなかった。

ただ、ひたすら歩いた。

魔法は解けたのだ。

               †

SIDE優希

「それも覚えてる。なんで、いなくなったんだよ水」

あの後、探したんだが見つけることができなかった。

後に合流した姉さんに探してもらったがもう、この都市にはいない。

帰ったんだろうと言われてそれ以上探せなくなった。

確かに。探している人がいる状況なら見つかって帰ったと考えてもおかしくなかった。

「それは言えない。でも、あの後、探していた私のメイドに見つかって帰ったのは本当だよ。さすが水月希だね」

「そうか、なら本当に聞きたいのは何があったかだ。なんで、ランパンに入った? 何があったんだよ?」

「それを話す前に一つ思い出しなよ優希」

水がうつむいた。

前髪が目にかかりほとんど見えなくなった。

「思い出す?何をだ?」

「私と再会した時の一番最初の台詞だよ。兵庫武偵中屋上で寝てた君を私が起こしたあの時だよ」

「あ・・・」

あの時の俺は完全に水のことを忘れていた。

それ以前にレキのことすら姉さんの記憶操作のせいで忘れてしまっていたんだ。

「こんちは! さて私は誰でしょう?」

笑顔で自分を指す水に俺が言ったのは・・・

「誰だっけ?」

そう言ったのだ。

あの後、水は一瞬、黙った。

あの時か?俺はあの時何かを間違ったのか?

「水お前・・・」

「もしもね。優希、あの時優希が私のことを覚えていたら私は多分・・・」

「水! 俺と別れた後何があった!話せよ!」

人の過去を詮索するのはいいことではないが今は話して欲しかった。

お金持ちの家に生まれた水が犯罪者にまで堕ちた理由が軽いものであるはずがない。

 

「駄目だよ優希。話すと私は戦えなくなる。自分勝手な理由だしね・・・」

「それでも話せって言ったら?」

「私はあの日から覇道を進むことを決めた。だからね」

水が根を投げ捨て、右手を空に振り上げた。

ひゅんひゅんと風を切り方天画戟が新幹線に突き刺さった。

水はそれをとるとひゅんひゅんと右に振りかぶった。

ごうっと風が切り裂かれ音が一瞬、変わった気がした。

「この覇王。倒してみなよ椎名の後継。そうしたら話してあげるよ」

「なるほどな・・・」

分かり安すぎるなと俺は思う。

力は力でねじ伏せろか。

覇道って奴は分かりやすいこと・・・

「水一つだけ言わせてもらうぜ」

「何かな?」

もはや、迷いはないと言うように水はじゃりっと足をずらした。

「俺は・・・」

一つの思いと共に力を呼び起こす。

戦闘狂モード、緋刀。

いや、これは戦闘狂モードではない。

戦いたいという衝動ではなく救いたいと言う衝動からのものだ。

元来戦闘狂モードは空間識別能力を高めるものと集中力の増加を目的とした暗示だ。

だが、これは戦いたいと言う衝動を抑えつつ戦闘狂モードと同じ、いやそれ以上のものを呼び起こす。

髪の色、瞳の色が変わっていく感覚。

色はアリアと同じ緋色だ。

『ほう、もうそこまで出来たか』

頭の中にスサノオの声が響いてきた。

『それは緋刀の力が本当に浸透してきた時、救いたいと思うものがいる時発動する。私がつけた名前は舞姫』

モード舞姫か

なんか、女みたいだがスサノオのセンスなんか知るか。

使わせてもらうぜ舞姫

そして、水言わせてもらうからな

「お前を今度こそ救ってやる」

水、昔の俺が悪かったのは分かったよ。だけどなどのみちお前とは決着をつけないといけなかったんだ。

東京駅に着くまでにぶっ倒して過去を話させてやる。

紫電、冬雷の二刀を構え俺は地を蹴った。

 




次回優希VS水ついに本気で激突します。
原作を知る人はココ達の戦いの裏で行われていると考えて見るとわかりやすいかもしれません。
果たして水は優希達と別れたあとなにがあったのか!
それは次回以降です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第206弾 優希VS水〜そして東京へ

暴風を感じながらも右手に紫電、左手に冬雷を手に水に俺は突っ込む

水は槍を横に振りかぶるとそれを力任せに振るった。

食らえば人間の胴体なんか真っ二つになるであろう破壊力の槍を左手の冬雷で受ける。

受けきれねえかやはり

想像していたので俺は刀で受けるのではなく受け流しつつ下に屈んだ。

ゴウゥと空気が切り裂かれて頭上を槍が通り抜ける瞬間俺は紫電を水の胴体に叩き込もうとする

「なっ!」

俺は舌打ちして後退しようとしたが水の右手から出てきたダガーの投擲が俺の防弾制服をかする。

振りかぶる動作から隠し武器を一瞬の判断で水は投擲したらしい。

さすが、万武ってことか・・・

ならよ

後退しつつ紫電を上空に放り投げるとデザートイーグルを引き抜く

水は槍を引き戻そうとするだろうがこちらのほうが早い

舞姫のおかげでデザートイーグルの衝撃も緩和されている。

3点バースト、全てが跳弾だ。

新幹線の暴風のせいで普段どおりの迎撃ができるか?

「・・・」

水はにやりと笑いながらそれを紙一重でかわす。

一瞬、水の長い髪に弾がかすった気がしたがそれだけだ。

だが、俺は攻撃を緩めない。

デザートイーグルを撃つと同時に俺は銃をしまい落ちてきた紫電を掴むと水に突っ込む。

避ける動作をしていた水は幾分かバランスが崩れているはずだ。

蒼龍2式双牙!

簡単に言えば上段からの二刀の叩き落し。

雷落としのように跳躍はしないが舞姫の状態であれば破壊力はそれを上回る上に隙も少ないのだ。

「っと!」

幾分かバランスが崩れていた水が槍で双牙を受け止める。

俺は渾身の力で押し込みつつ右足のワイヤーを水に向けて放った。

ズンと水の体に球体がつい

たワイヤーが激突するが水はひるまない。

「少し痛いなぁ」

水は更に力を込めて押し合いを続ける。

力じゃ圧倒的に俺が不利だ。

「ほらどうしたの椎名の後継!」

水は俺のことを優希と呼ばずに椎名の後継と言ってくる。

なんだよなんか腹立ってきたぞ

「何があったのか話しもしないくせに人に恨みぶつんな!」

「話してほしいなら倒すんだね!私・・・を!」

ぐっと水が再び力をこめてくる。

 

次第に俺が押され始める。

くそ、馬鹿力め!

《あれを使えばいいじゃないか》

スサノオの声が頭に響く

「分かってるよ」

俺が紫電に意識を集中するとポゥと刀身に緋色の光が広がっていく

「!?」

水はその兆候を感じたのか押し合いをやめて蹴りを俺の体に叩き込んでから後退する。

俺も水の蹴りを後退しながら緩和させると水と距離が出来た。

「それチートだよね。打ち合うもの全て触れた場所消滅させるなんて」

「そういうなってお前の存在そのものがチートなんだから」

そういいつつも俺はやはりと舌打ちする。

発動させたわけじゃないのに使おうとしただけで多少の疲労が増している。

殲滅式の極光は1発。武器消滅型の名前無しはせいぜい1〜2分ぐらいが限界だ。

体力の低下を考えるならそこまで使えないだろうが・・・

「優!今から16号車以降の後ろを白雪に切ってもらう!そいつは任せたぞ!アリアも早く行くんだ!お前には

かなえさんの裁判もある。優を援護してやってくれ」

「そ、そんなあたしは・・・」

インカムからキンジとアリアの声って・・・おい!

「待てキンジ!お前らだけ行く気かよ!」

水を警戒しつつインカムに怒鳴る

「そうしないと新幹線が規定の速度に到達しないかもしれないんだ」

そういうことか。後ろの車両を切り離して軽くするわけだ。

「というか待て!俺も連れてけ!」

「そこからじゃ間に合わないだろ!切り離してもらうぞ!白雪やれ!」

「っこの!」

俺と水が戦っていたのは14号車だ。

先頭車両は遥か彼方だ。

どうやら白雪のステルスを使うらしい

「やべっ!」

俺が走り出したのと白雪の声がインカム越しに聞こえたのはほぼ同時だ。

「星伽候天流−緋緋星伽神・斬環!」

前方から緋色の光が見えがくんと後部の、つまり俺達が乗る新幹線の速度が落ちていく。

「くそったれがぁ!キンジもっとはやくいえええ!」

全速力で走るが白雪が切った車両についたときにはキンジたちの乗る新幹線は遥か先を走っていた。

「お、置いてかれた」

新幹線が見る見ると速度を落としていく。

もはや、追いつく方法もないわけだ

俺は振り返ると追撃を加えずに槍を手にゆっくり歩いてくる水に向き直る。

「ココ達を排除して爆弾を止める。リュパンの子孫があの状態じゃ無理だね」

「そうでもないさ。武偵憲章通りさ。仲間を信じ仲間を助けよだ」

見る見る速度が落ちていく新幹線。

俺はそれを目に入るのを見てにやりと口が緩むのを感じた。

「それにまだ、合流できるみたいだしな」

「え?」

横の線路から新幹線がこちらに向かってきているのを俺は目にしていた。

こんな状況で新幹線が東京方面に行くわけがない。

つまり、キンジ達の新幹線を追っている何者かが乗っていることになる。

追いつくならこれが最後のチャンスだな

「決着つけるなら追って来い水!」

俺は新幹線が向かってくるので携帯式のワイヤーを斜め上の鉄棒に撒きつけると跳躍し手を放すと丁度、下を通った新幹線の

天井に着地する。

ワイヤーを打ち込んで転がるのをなんとか避けた。

最初に乗ってた新幹線が完全に止まってなかったから出来たが怖い怖い。

水も同じように動く新幹線にワイヤーを使い飛び移ると俺達は再び暴風の中互いの武器を手に対峙した。

互いに対峙が合図のように天井を蹴ると槍と刀が再び火花を散らし激突した。

それかから数合、果てることない高速の打ち合いは続いた。

技もないいかに相手の武器を払い体に刃を届かせるかの勝負だ。

集中力を切らせばそれは敗北に繋がる。

どれほど、打ち合っていたか分からない。

素人目には火花が散ってるだけに見えるだろうな

不意に、水が後ろに飛んだ。

「?」

それを追撃することはしない。

ふと、気づいたことがあるからだ。

すでに、新幹線は都市部を走っている。

つまり、東京駅まであと少しか?

「今回はランパンの負けみたいだね」

そういいながら水は俺の後方を指す。

見ると今にも並走しそうになっているのはキンジ達の新幹線だった。

やはり、追いかけてたんだなこの新幹線は

見れば無効化されたのかココ達がキンジ達に抑えられている。

レキや秋葉も無事のようだな。

「優!」

アリア達が俺の姿と水を見て声を上げる。

「来るなよお前ら!爆弾なんとかしろ!水とは1対1で決着つけないと行けないんでな」

「でもあんた怪我が・・・」

アリアが心配そうに言ってくれている。

ありがたいが・・今は

「行きましょうアリアさん。優さんはそれを望んでいる」

「レキ・・・分かった」

「大丈夫です優君なら」

仲直りしたらしいアリア、秋葉、レキが互いに言葉を交わし俺をちらりと見てから車内に戻って行った。

チューブのようなものが俺がいる新幹線の中から伸びそれを伝って平賀さんが向こうの新幹線に渡っている。

多分、この新幹線は減速するんだろう

「水、向こうの新幹線に渡るぞ」

「いいよ」

水と俺はそういって新幹線を再び移動し誰もいなくなった新幹線の上で再び対峙する。

ココ達は車内にアリア達が運び入れたらしいな。

「優!390キロだ!」

キンジの声がインカムから聞こえてくる。

つまり、後6分ほどで東京駅に突っ込むことになる。

ガクンと速度が上がるのを感じながら平賀さん達が爆弾を解除しなかったら死ぬなこれと思いながら

幾度も刃を重ねた水を見る。

暴風に髪をばたつかせながら水はすっと槍を上に掲げた。

ビリと皮膚が切り裂かれたみたいな濃密な殺気が水から発せられる。

ヒュンと槍が回転し始める。

それは力をためるように回転数が上がっていく。

「決着つけようか・・・優希」

「水・・・」

椎名の後継ではなく俺の名前を水は呼んだ。

「このまま東京駅に突っ込んで心中も悪くないけどやっぱり、私の手で殺したい。だから見せてあげるよ私の最強の

破壊力を持つこれを」

な、なんて殺気だ。

それに、あの回転に込められた力を解放されたら

《ダイヤモンドでも両断されるぞ。いや、粉砕か?》

分かってるよ!

スサノオに心の中で怒鳴ってから対処法を考える。

生半可な方法じゃ砕かれて終わりだ。

受けるなんて冗談じゃない。

いくら、紫電や冬雷でもあんなもの受けたら弾き飛ばされるか下手したら折れる。

かといって俺の中であれに対処できるのは極光のみだがおそらく・・・

《極光があれを消し去る前に多分、体に届くぞ。それに、あの槍の先端の金属は・・・》

「ようは、チート禁止って訳だろ」

《どうするんだ?》

「へっ!大技は大技で砕くのが礼儀ってもんだろ」

右手を右肩後方へ。左手左下に構えた。

《ほう、それか。1歩間違えたら死ぬぞ》

そうならないよう祈れよ

俺だって怖いんだぞ。

でも、やる以外道はない!

ゴオオと爆風が耳に俺と水は互いに最後の瞬間を待った。

時間はもはや、ほとんど無い

「奥義」

先に動いたのは水だった。

回転の勢いを乗せて上段から恐ろしい速度で俺を両断・・・いや、粉々にしようと叩きおろしてくる。

「覇山!」

直撃すれば100%死ぬ一撃が俺に迫る。

だが、同時に水の攻撃に合わせて俺も行動を起こしていた。

右手の紫電を滅壊以上の突きを繰り出す。

私の方が早いよスローモーションのように見える中、水の目がそう言っている。

だが、狙いは別にある。

ギイイイイインと鉄が激突する音とともに水の目が驚きに代わる。

紫電の先端が水の槍の打ちおろす刃に激突したのだ。

刃部分に当てるなど白羽取り並みに難しい。

だが、覇山の勢いはわずかに衰えただけ。

このままでは終わるだけだ。

「うらあああああ!」

俺は咆哮しながら紫電を手放し左下段から振り上げた全力の冬雷を落ちてくる覇山に激突させた。

多少とはいえ刺突で勢いの落ちていた覇山の速度が完全に落ちた。

同時に今度は冬雷を手放す

「なっ!?」

技を殺され、刀を手放すとは水も思っていなかったのだろう。

俺は打ちつけられる覇山が新幹線上部に叩きつけられた瞬間、水の槍をつかんで全力で肉薄する。

銃も剣も使わねえ。

ワイヤーもこの体制じゃあたらねえ!

キンジよ俺はお前ほどじゃねえが・・・

「これで終わりだぁあああ!」

がしと水の両肩をつかんだ俺はえええという顔をする水の頭に思いっきり頭突きをかました。

火花が散ったような感覚と激痛が頭を襲った瞬間

「ブレーキだ!武藤!」

というキンジの声

ギィィィィィィィィィ

一瞬車輪が空転するような音とともに投げ出されそうになる。

「くっ!」

踏みとどまろうとするが俺の視界に入ってきたのは負けたよと満足そうに微笑みながら投げ出されていく水の姿。

「くそったれが!」

俺は地を蹴ると水の手を掴みワイヤーを天井に打ち込んだ。

だが、先ほどの攻防で手がしびれておりおまけに頭もくらくらする。

ずるずると水と俺の手が滑って行く。

「もういいよ優希」

「いいわけないだろうが!こんなふざけた形で友達失ってたまるかあああ!」

「!?」

水が小さく口をあけた。

足のワイヤーを頼りに俺は両手で水の手を掴むと渾身の力で引き戻す。

水を抱き寄せる形になる。

思わず後ろを見ると東京駅がみるみる迫ってくる。

だ、駄目だ止まらない!

だいぶ速度は落ちたが100キロぐらいはまだ出てる!

「っ!韓信!」

水が叫んだその時だった。

「いやっほおおおお」

そんな声とともに空から新幹線の前に飛び降りてきたのは・・・

「ね、姉さん!」

世界最強の我が姉、水月希

姉さんは100キロ以上出ている新幹線の先端と激突したと思った瞬間、新幹線が急減速する。

信じられないことに新幹線を素手で減速させてるらしいあの人

だが、それでも新幹線は東京駅に迫る。

そして、激突する瞬間、一瞬新幹線がふわりと後部部分が浮かび上がったかと思うとズウウウンと線路上に下ろされる。

持ち上げて下ろした。

多分、なんかのステルスなんだろうがもう・・・あの人のチートぶりやだもう

「は、ハハハハ」

水を左手で抱きかかえたまま俺は新幹線の天井にばたああんと倒れると心の底から安心した。

結局誰も死なず姉さんまで来たということはもう勝敗は確定した。

「東京〜東京〜お降りのお客様はお忘れ物がないようにお降りください」

と笑いながら俺たちを見下ろしてる姉さんに俺は・・・

「チートをありがとう姉さん」

と心の底からお礼を言った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第207弾 覇王VS世界最強

水を腕の中に抱いたまま新幹線の上でごろりと寝転がり、姉さんが見下ろしている。

起き上がりたいがもう、全身痛い痛い。

「キンジ、他の敵はどうしたんだ?」

インカムに呼びかけてみるとすぐに返事が返ってきた。

「1人は逃げられたが他の敵は全員縛ってる。今、アリア達と武装解除してるところだ。そっちは大丈夫か?」

「まあな、全身ズタズタだけど命に別条はない。姉さんもいるから危険はもうないだろ」

「姉さん?Rランクの・・・さっき新幹線を素手で止めたの夢じゃなかったんだな」

呆れたように言うキンジに俺も苦笑いしながら

「ハハハ、この人もう人間じゃないよな」

「失礼な言い方だな」

べしと姉さんが俺の頭をこずいてきた。

「っ!頭蹴らないでよ姉さん」

手を置いてみたらなんか、流血してるぞ

「ハハハ。死にはしないさ」

まあ、それはともかく・・・

「さあ、水話せよ。俺と別れてから何があったのか?」

「・・・」

水は答えない。顔をうずめるように俺の胸に顔を押し付けている。

 

 

「おい」

「ごめんね優希・・・後一つ厄介事押し付ける」

「はっ?」

と俺が言った瞬間、水がばっと立ち上がり新幹線の天井に立った。

い、いや・・・まさか

「ふざけんな!」

と俺が言うと水の顔をした項羽は好戦的な笑みを浮かべて俺を見る。

「水の方が意識を失ったのでな。俺の時代はこの程度の疲労なんでもないわ!今度は俺とやろうぜ椎名」

まじかよと思った瞬間

「助けてやろうかぁ?」

と姉さんがいじわる気に見てくる。

選択肢ないよなぁ・・・

「助けて姉さん」

「お礼は後払いだぞ」

金とるのかよ!

俺が突っ込みを入れる前に姉さんはトンと1歩前に出て項羽と対峙する。

「貴様がこの時代の世界最強か!俺と戦え!」

「ハハハ、いいのか?私は新幹線を素手で止める女だぞ」

「あれぐらい俺にもできる!調子に乗らない方がいい」

 

 

まじかよ!水そんなことできるの!? いや、項羽がか?

「貴様・・・」

プライドを傷つけられたのか項羽が転がっていた槍を手に取り構える。

「殺す」

「そういえばお前には雪が世話になったそうだな」

すぅと姉さんは左腕を前に右腕を少し下げて拳をにぎる構えを取った。

あ、少し怒ってるみたいだぞ。

「剣聖、武田雪羽。期待はずれもいいところだった」

「そうかな?同年代の時の雪羽と比べたらお前は雑魚だ」

にやりと口元を歪めながら俺が苦戦した相手に姉さんは雑魚と言い放った。

「雑魚だと?俺のことか?」

対する項羽もプライドを気づ付けられたらしく殺気が濃密になっていく。恐ろしい殺気だが姉さんはまるで動じない

「ああ、雑魚だ。昔の雪の方が遥かに強かった」

「なら試してみろ!」

項羽が動いた。

稲妻のように姉さんに槍とたたき落とす

「覇山!」

「ふむ」

 

パシイと文字にするならそんな音。

姉さんは項羽の覇山をなんと人差し指と中指だけで白羽取りした。

「えええええ!」

その場にいた俺たちは全員同じ言葉を吐いた。

上半身を起こしたから分かったがココ達も目を丸くしてやがる。

レキだけは無表情だが視線は姉さんの手元だ。

あんたどれだけチートなんですか!

「ぐ・・・動かん」

項羽は力任せに槍を押し込もうとするのだがまったく動かないらしい。

「今度はこちらから行くぞ」

そう言った瞬間ズンと項羽の腹に姉さんの拳がめり込んでいた。

「がっ・・は」

項羽は今の一撃で吹き飛ばされると新幹線の天井に落ちて完全に伸びてしまった。

水の体でもあるんだけど・・・な

「前言は撤回しよう」

姉さんは右手から少し出た切り傷を見て

「少しはやるじゃないか」

どうやら、項羽は姉さんが攻撃を放つ寸前にカウンターを仕掛けたらしい。

今まで姉さんが傷つけられることはほぼなかった。

なので姉さん的には傷をつけたことは強者になるというわけだ。

まあ、なんにせよもう終わりだ。水はダギュラか警察に引き渡されるだろうが

土方さんに頼んで面会時間貰ってきっちり話してもらおう。

 

 

事後処理は任せるか・・・

意識を手放しそうになった瞬間

「まずい!優!」

あ?なんだ?

キンジの声のした方を見るとなんかココの形をした風船みたいなものがあるが・・・

「妹達! 撤退よ!一旦香港に戻るヨ」

見上げるとホームの屋根の上に人影が見える。

逃げたココ!?

逃げたのをあの風船でごまかしたのか?

ココはM700狙撃銃をろくに動けない俺に向けながら

「レキ動くの駄目ね!」

俺を狙ってるのに気付いたのかレキは持ち上げようとしたドラグノフの動きを止めた。

距離的に100メートルぐらいか・・・俺たちの射程じゃない。

秋葉の風ならあるいは届くかもしれないが俺がこの状況じゃ動けないがまったく問題ない。

忘れてるぞ世界最強を

「そんなものでどうするんだ?」

とスタスタとココに向かい歩き出した姉さん

「う、動くの駄目ヨ!水月希!椎名の後継撃ツヨ」

「撃てばいい。私が防御するのが早いぞ。同時にお前に気弾をプレゼントしてやろう」

頼りになりすぎるこの人。

姉さんが男でヒロインがいれば惚れちゃいそうなセリフだ。

ココは俺たちを見ていたがやがて

キヒっと笑みを浮かべた。

 

「何がおかしいんですか?」

秋葉が聞いた瞬間

俺の前に立った姉さんの前にいきなり、人影が現れた。

テレポートのステルス?

ぱさりとウェーブのかかった金髪が太陽の光を反射して輝く。

青い瞳が一瞬、俺と目を合わせにこりと微笑んでから姉さんを見た。

背中だったから姉さんの表情は分からない。

だが、その瞬間、感じたのは信じられないぐらいの怒気だった。

本気でブチ切れた姉さんなんて見たことないが断言できる。姉さんがこの子を見た瞬間切れた。

少女の姿がフッと再び消えた。

「絶対に逃がさん」

頭に血が上ったのかあの姉さんが後先考えずにその場から消える。

どうやら、少女を追っていったらしいが・・・

「形勢逆転ヨ椎名の後継」

M700を俺に向けながら言うココと目がさあどうするねと言っている気がした瞬間、俺は自覚した。

俺大ピンチ?

             

 

 

 




さて次回は最後の銃弾…果たして


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第208弾 最後の銃弾

こ、これはちょっとまずいぞ。

体はもう、ぼろぼろだし狙撃銃の距離で狙撃の名手がM700で俺の頭を狙っている。

拳銃は届かない距離だし姉さんはどっかいっちゃった・・・

ビリヤード撃ち・・・いや、駄目だ銃を取り出すより撃たれる方が早い。

「レキ動くの駄目ね!」

その証拠にレキが持ち上げようとしたドラグノフを制止させられる。

アリアもなんかココ達に足だけでしがみつかれてるしキンジの位置からじゃ反撃は難しい。

「・・・」

秋葉と目が合ってアイコンタクトで何とかなるかと聞いてみたがここににくるまで相当風のステルスを使用したようで俺と同じく満身創痍に近い状態らしく返事は難しいという返答。

となると、第3者の援軍だが土方さん達か警察でも来てくれれば・・・

だが、封鎖されてる駅の中では時間が・・・

一か八か突っ込むか?

最後の手段だがやるしかないなら・・・

「風、レキをよくしつけた。人間の心、失わせている。この戦いと観察でよーく分かったヨ。お前使えない女ね。だからもう、お前、いらない」

「・・・」

「レキお前。まだ弾を持ってるはずね。それで、死ね。今ここで」

M700はボルトアクション式で連射ができない。

俺を撃ってもレキを残せば次弾装填前に撃たれる。

「てめえ!」

「動くな!椎名の後継!」

ココはトリガーに指をかけながら鋭く叫んだ。

 

「お前死ねば。椎名の後継や他は殺さないネ。使える駒、緋刀は緋弾と並び興味アルネ」

「ココ。あなたが言うとおり私は後1発銃弾を持っています。私が自分を撃てば優さんは殺さないのですか?」

お前は・・・何言ってるんだ!

そういえば、星伽神社で雪羽さん達が言っていた気がする。

ウルス族は追い詰められたり仲間の足手まといになりそうな時かつての日本の侍のように自決する。

最後の銃弾と呼ばれるものがあると

「やめろレキ!」

「椎名の後継しゃべるな!レキ!今の話はココの名に懸けて・・・」

「うるせえぞ!てめえこそ覚悟しろよ!俺や仲間を殺した瞬間椎名の家。姉さんたちがお前らを潰す!世界最強が激怒してな!」

悪いが今回はみんなの名を完全に頼らせてもらう。

ランパンだって姉さんの伝説を知ってるはずなのだ。

本気で激怒した姉さんを絶対に敵にしたいわけがない。

そして、日本の裏の世界を完全に敵にな

「だから引け! 今回は追撃はしない!約束してやる引き分けでこの戦いは終わりだ!そこのココ達も連れて行け!」

これが最大限の譲歩だ。

飲んでくれ

だが、ココはにやりと笑う。

「それ交渉にならないヨ。椎名の後継」

「何!?」

「タロットの騎士達こっちの味方。恐れる必要がナイネ」

「タロットの騎士達? 何言ってやがる?」だが、この瞬間分かった。

姉さん達をこいつは恐れていない。

少なくてもランパン・・・

「こ、ココやめな。今回は私たちの負けだよ」

首を少し動かすと姉さんに殴られた腹を右手で押さえながら水が苦しそうに言った。

「す、水!」

「引き分けで逃げらられるならそれに越したことはない。今回は私たちの負けだよ」

お、お前。

ココはレキが死ぬことの方を優先しているように見える。

それをお前は俺達が望む形で収束させてくれようと・・・

一瞬だけ水と目が合うがその目は言っていた。

負けたからねと・・・

「・・・」

ココは一瞬、黙り俺達を見ていたがやがて

「覇王、お前には失望したネ。お前はここで切り捨てる」

「っ・・・」

俺以上にズタズタの水は睨みつけるようにココを見るが反撃の手段がないらしく苦しそうな息を吐きながが片膝ついた。

「ごめんね優希・・・」

あきらめんじゃねえよと言ってやりたいがこの状況だ。

完全に積んでる状態じゃねえか

「公安0が来ては厄介ネ。時間たつのココには不利ネ。レキ今すぐ自分を撃て。待たされたらココ、椎名の後継撃つ。レキ、その後ココを撃てばいいネ。他に渡すぐらいならココは相討ちを選ぶネ」

 

 

「ココ、ランパンの姫」

そう言うとレキはドラグノフを置いた。

「ウルスの姫、蕾姫が問います。今の誓い。優さんを殺さないことを守れますか?」

「馬鹿にするのはよくないネ。ココは誇り高き魏の姫ヨ」

「誓いを破ればウルスの46女が全員であなたを滅ぼす。かつて世界を席巻した総身をもってあなたを滅ぼす。分かりましたね」

背を伸ばしたレキが自分の顎に銃口を突き付ける。

「レキ吹き飛ばすのは心臓ネ。そういう約束」

約束?意味のわからねえことを・・・

レキは指示を聞いて防弾制服をまくりあげると心臓にドラグノフを押し付ける。

「やめろレキ!」

誰でもいい!誰でもいい!誰かこの状況をなんとかしてくれ!土方さん!姉さん!

「優さん。ウルスの女は銃弾に等しい。しかし、私は失敗作の不発弾だったようです。不発弾は無意味な鉄くずなのです」

「やめなさい!レキあんただまされてるわよ!」

アリアが金切り声をあげる。

「優さん。私はあなたを守るために私自身の撃ちます。ですがこれは造反ではありません。なぜなら・・・」

「やめろレキ!お前は!」

「私は一発の銃弾・・・」

 

レキが靴を失った足をドラグノフの引き金にかける。

「銃弾じゃねえ!死ぬなレキぃいいいい!」

レキは顔色一つ変えず足の指の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タアアアアアアアン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その銃声は確かに・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レキの心臓を破壊した




ちなみに原作では不発の弾丸。
次回更新は来週の金曜までにあげる予定です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第209弾 風になりて

なんだこれは?

体がピクリとも動かない。

全てが時が止まったように感じる。

あの子が・・・

レキがゆっくりと後ろに倒れ・・・

ガシャンとドラグノフ狙撃銃が傍らに転がった。

「れ、レキィ!」

アリアがココ達に絡みつかれたまま叫んだ。

「あ・・・」

武偵としてここで心を折るわけにはいかない。

すぐにココの追撃が来る。

だが・・・

レキは即死だ。

心臓を破壊されて生きている人間など存在しない。

体が動かない。

理屈では分かっていても・・・

「また俺は・・・」

がくりと膝の力が抜けて脱力する。

もう・・・

「優!動けぇ!」

遠くからキンジの声と同時におっくうに殺気の方を見る。

ココが俺を狙っている。

レキを殺したあいつが・・・

「キヒ」

ココがにやりとしてM700から銃弾が発射される。

 

それすらも、スローに見える。

「優希ぃ!」

水の悲鳴のような声が聞こえた気がした。

弾が俺に向かい飛んでくる。

俺も死ぬのか?

視界に防弾制服が赤く染まっていくレキの姿が見えた。

ふざけるな!

「!?」

火花が散り携帯用ワイヤーを仕込んだナイフで銃弾を切り捨てる。

驚いた顔のココを見上げる。

『怒りで無理やり緋刀を使うか』

頭の中でスサノオの声が聞こえてきたが無視する。

「お前らランパンだけは絶対に許さねえ!」

俺は目から涙が流れてくるのを感じながらこの場にいるランパン全員を睨む。

「お前らがこんなことさえしなければレキは!」

携帯用ワイヤー仕込みのナイフが緋色の光を放つ。

「死ね!」

瞬時に光を開放させその緋色の剣はM700を持つココの足元を消滅させた。

危うく緋色の光に飲み込まれそうになったココだがバランスを崩し新幹線の天井にべしゃりと落ちてくる。

同時にナイフが跡形もなく消える。

紫電でないと消えてしまうらしいな。

だが、今はどうでもいい!

俺は殺意のこもるのを自覚しながらデザートイーグルを引き抜く。

「ま、待つヨ。椎名の後継!」

「待たない。死ね!」

武偵は決して人を殺してはならない。

そう憲章では言われている。

仲間が殺されるぐらいなら俺はこの憲章は無視すると決めていた。

なのに・・・

憎しみだけを胸に引き金を引き弾が飛び出す。

ココが目を見開くのとデザートイーグルの弾丸が何かに激突し弾き飛ばされたのはほぼ同時だった。

狙撃か?

「優希やめろ!もう、決着はついた」

閉鎖された場所から出てきたのは土方さん・・・鈴さん

どうやら、鈴さんが銃弾弾きをしたらしい。

「動くんじゃねえぞランパン。俺たちは殺しのライセンスを持ってる。逃げるなら容赦しねえぞ」

土方さんに睨まれ、更に鈴さんに狙撃銃を向けられてはココも逃げられないと判断したのあろう。

がくりと力を抜いてしまう。

それを部下に拘束するように土方さんが言うのを横目に俺はよろよろとアリア達に囲まれるレキの元に向かう。

「アリア、レキは?」

アリアは目を落としたまま静かに首を横に振った。

「即死だ。手の施しようがない」

キンジが悔しそうに言った。

レキが自分を撃ってまだ、2分も立っていない。

だが、心臓の破壊は病院への搬送が無駄だと分からせる十分な結果だ。

「こんなふざけたことがあるかよ・・・レキ」

 

俺が緋色の目でレキを見て言った時背後に誰かが立つ気配があった。

「ちっ」

悔しげに舌打ちしたのは姉さん?

「姉さん!レキが!レキが!」

「ああ・・・」

姉さんは黙ってレキを見ている。

そうだ!姉さんなら!

「姉さんなら何とかできるだろ!レキを治してくれ!」

「・・・」

「姉さん!」

「それができるならな・・・」

姉さんは表情を浮かべずに俺を見ながら

「あの時もそうしていたさ・・・」

姉さんでもレキは助けられない・・・

「土方さん!鈴さん!」

姉さんの後ろにやってきた2人を俺はすがるように見る。

かつて、世界に名を轟かせた3人。

 

 

 

「レキを助けてくれ・・・できるだろ?」

「優!やめなさい!もうレキは・・・」

 

 

アリアが悲鳴のように言いながら俺に叫んでくる。

「うるさい!今土方さん達に話してる!」

「優・・・」

新幹線の中にいた理子の声がこちらに来たらしく聞こえるが俺は土方さん達をすがるように見る。

「優希・・・」

土方さんが口を開こうとした瞬間、姉さんが携帯電話を取り出した。

パチリと画面を開くと姉さんは少し目を丸くして電話に出る。

「何の用だ?今、弟が・・・何? ああ、分かった」

姉さんが俺に携帯を差してきた。

なんだ?

「出ろ。話があるらしい」

「・・・」

携帯を受け取り耳に当てる。

「誰だ?」

「まず、先に言っておこう。君のお姉さん以外の他の人に僕からの電話だということはばらしてはいけない。これが条件の一つだ」

「シャッ・・・!?」

慌てて口を噤む。

声としゃべり方で分かる。

やはり生きてたのか

 

「何が起きているのかは分かっている。手短に話すとしよう時間もないはずだ」

「何を?」

「ウルスの姫、蕾姫を助ける方法が君にはある」

「なっ!教えてくれ!頼む!」

すがれるものなら何でもすがってやる。

たとえ犯罪者でも・・・

「落ち着きなさい。これには代償が必要だ。それを受け入れる覚悟は君にはあるかな?」

「代償? 今はそんなことどうでもいい!どんなことだってやってやる」

レキが・・・この子が助かるならどんなことだって・・・

「覚悟はあるのかい? といっても1度ぐらいならば大丈夫だろうがね」

「いいから教えてくれ!早く!」

「それは君の中のスサノオが知っている。彼女に聞いてみたまえ」

「分かった」

              †

目を閉じると闇の中に浮かぶ人影がある。

俺が女装した時と同じ顔立ち。

だが、本当の女性を思わせるスサノオ

俺は闇の中でスサノオと対峙する。

「スサノオ。お前の存在はまだ、よくわからない奴だけどレキを救いたい。力を貸してくれ」

 

「・・・」

スサノオは少しだけ口元をゆるめながら

「やれやれ、そんなに彼女が大事なのかい?」

「ああ、大事だよ」

「それは婚約者だからかい?」

「仲間だからだ」

「即答だね。恋人や婚約者が理由というなら分からない話ではない。だが、仲間という間柄のために君は代償を支払うのかい?」

「その代償というのは命とか戦えなくなるような致命的なものなのか?」

「いや、だが・・・いや、よそう。助けるには1つ代償以外にも答えてもらおう」

「なんだよ?」

急いでんだ早くしろ。

「君は蕾姫のことをどう思ってるんだい?」

「はっ?さっきいったろレキは・・・」

「仲間という以外で答えないと助け方は教えない」

こいつ、俺と同じ顔で・・・

レキのこと・・・

そうだな・・・

「失いたくない大切な奴だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「60点といったところだが。まあ、いいだろう」

「じゃあ、レキを・・・」

「それでは、彼女のことを強く思うんだ。幼い頃に会ったころから今に至るまでの全ての記憶を頭の中で満たす必要がある」

「ああ・・・」

俺はレキのことを考える。

あの子と会った日から再開したあの日から今日に至るその全てを・・・

レキ・・・レキ・・・レキ・・・

            †

SIDE土方

「おい、希お前何しやがった?あれはなんだ?」

目を閉じたかと思えば優希はその両手をあの学生、レキの破壊された心臓の上に置いた。

それと、同時に緋色の光が手に集中し始めたのだ。

「さあな。私も緋刀は使えんから分からん」

「緋刀だと?だが緋刀ってのは触れたものを時の彼方に飛ばすものじゃねえのか?」

「歳、緋刀の秘密は椎名の家でも完全には解明されていない。説明は不可能」

隣でレキと優希を見ながら鈴が言った。

こいつらが知らねえんじゃどうしようもねえか・・・

しかし・・・

緋色の光はレキの全体を包み込むように展開され光は心臓部分が一番強い。

「まさか、破壊される前の時間へ戻しているのか?傷口を?」

そんなことができるのだとすれば・・・

 

 

ポケットの中に握りしめたものを俺は離した。

未練だな・・・

悔やみきれない・・・あの時と状況は似てやがる。

                 †

SIDE優希

考えるのは完全なレキの姿だ。

傷も何もなかったあの時の・・・

不謹慎だが風呂場で見たあのレキの姿それをこの場に再現する。

時を少しだけ元に戻す!

それをしているのは俺の思いを受け止めているスサノオだ。

俺は彼の背後に立つような形で体をスサノオに委ねている。

レキの治療は俺とスサノオ2人がしていることになる。

『うん、これで傷は治った』

レキは生きてるのか?

『体を戻すよ』

スサノオの声と同時に体が俺の主導に戻った感覚。

同時に俺はレキの心臓に耳を押しあてた。

「ゆ、優?」

戸惑ったようにアリアが声をかけてくるが俺は焦りを感じていた。

心臓が動いてない。

「おい!」

『心臓の修復は完ぺきだ。君の蕾姫に対する思いは完ぺきだったからね』

どういうことだという前にスサノオが言ってくる。

「っ!」

俺はレキの体を少し動かし心臓マッサージと人工呼吸を開始する。

戻ってこいレキ!

戻ってきてくれ!

「医療班!」

後ろから土方さん達の声が聞こえ救急隊が走ってこちらにやってくる。

『さあ、次の段階だ』

スサノオの声が聞こえ俺の意識がバンと闇の中に消えた。

そして、次の瞬間俺の目の前に現れたのは・・・

「どこだここ・・・」

そこは草原だった。

俺は東京駅にいたはずなのに・・・

「あ・・・」

見覚えのある後姿が見えた。

俺は後先考えずに走り彼女の手を掴んだ。

「レキ!」

サアアと風が吹き彼女が振り返った。

「あなたは?」

「何ってるんだよ椎名 優希だ!忘れたのか?」

「?」

 

レキが首を傾げる。

どうしたんだと再び言う前に気付いた。

レキの姿が幼くなっている。

俺達が初めて出会ったあの頃と同じ・・・

「あなたはこんなところで何をしてるのですか?」

「俺は・・・」

言う前に気付いた。

俺の手足も小さくなりおそらくだがレキと同じくらいの・・・あの時の年齢になっている。

この草原は初めてこの子と出会ったあの時なのか?

緋刀は時空を操る。

そんなことがあるのかもしれないがここは過去じゃないと俺は思った。

だけど、目の前のレキはあの頃のままで・・・

「お・・・僕は迷子を捜しに来たんだ」

「迷子ですか?」

「その子は強情でさ。事あるごとに風風って言ってる困った子なんだ」

「あなたにとってその子は大切な人なのですか?」

「うん、とっても大切で必ず見つけないといけない」

小さなレキは風を受けながら俺の後ろを指差した。

「今、風になって故郷に帰ろうとしている魂があります。だけど、その人は・・・」

その言葉だけで俺は分かった。

あの子の魂はきっと今、俺がいるこの場所に風になって・・・

目を閉じると緋色の光を通して俺は見つけたかったものの手を掴んだ。

俺はそっと彼女を抱きしめると心の底から安堵して言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りレキ・・・」

 




解釈的にはレキの魂は風になりて故郷に帰りそうなとこを過去のレキに見つけてもらい優は緋刀の力を使いレキの魂を捕まえて戻ったと考えてください。
文章力ないのを痛感します。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第210弾 風去りて

なんというべきだろうか・・・

今の状況を話そう。

あんなことがあったのに俺の目の前に1糸まとわぬ姿のレキがいる。

お、落ち着くんだ俺。

何があったかお冷静に思い返せ。

あの後、山のようにいろんなことがあったので少し略して書いていくと意識を失った俺達は警察病院に運び込まれた。

武偵病院かと最初は思ってたんだ距離的にそちらの方が近かったというのが理由らしい。

それで、レキの心臓が動いているという報告をベッドで起きて聞いてほっとしたのもつかの間、なんと水が現場から逃走したというのだ。

あの怪我でよくもまあ、逃げられたと思ったものだがどうやら、仲間がいたらしい。

そういや、韓信って名前叫んでた気がするし多分、あいつにはまた会う。

過去のこともその時、聞かせてもらおう。

あの後、少しだけココが暴れたらしくキンジはなんだか指を怪我したとか言っていたがまあ、怪我はそれぐらいだ。

「もう、体ぼろぼろだよまったく・・・」

帰りたいが医者の話では最低でも1日は入院してもらうよと言われてしまった。

緋刀も限界近く使ってしまったらしく怪我を治そうと緋刀を使おうとしても反応すらしなかった。

おかげで擦り傷とか残ってるし緋刀の検査とかいうことで半重傷者扱いだ。

まあ、おかげでうっとおしい取り調べも先延ばしにされているが・・・

                †

次の日、レキはどうしてるのかなとベッドの上で思っているとレキが病室から消えたと聞いた俺は医者の目を盗んでレキの病室に言ったんだがいない。

慌ててワイヤー使って病院から抜け出した時M700を俺に向ける鈴さんと隣に姉さん。

事情を説明すると姉さんは

「レキならあの銀のオオカミのとこじゃないか?」

「おそらく、湯治でしょう」

と姉さんと鈴さん。

ようは、ハイマキ回収して温泉で療養していますということらしい

追いかけるかどうか悩んだ瞬間、姉さんに抱きかかえられ空へ上昇。

PADなんか目じゃない速度でミサイルみたいに放り込まれた先にいたのは・・・

 

温泉に入るため裸のレキであった。

               †

というのが今の状況なんだ。

決して除くためにきたんじゃないぞ。

「・・・」

「・・・」

固まる俺と無言のレキ

「む、胸に傷なくてよかったな?」

と馬鹿みたいなことを言ってしまった。

心臓に穴があいたはずだが跡は全く残っていなかったのだ。

そう言えば、姉さんはどこ行ったんだ?

放り投げて離脱したのかあの野郎。

「・・・」

レキは無言でちゃぷんと温泉に体を沈めた。

不幸中の幸いは湯気が不自然なぐらい濃かったのであまり、見えなかったということだろう。

外に出ようとして気付く。

おい、俺の服!

姉さん俺の服をステルスか何かで脱がせたらしい。

ようは、前の時と同じ状況。

レキとお風呂だ。

「ガウ!」

「いて!お前いたのかよ!」

 

ハイマキが俺の腕を甘噛みしてきた。

だが、今までの比べると少し優しい感じだ。

「しかし、無事でよかったなおい」

ベシャベシャと濡れた毛並みの頭を軽く叩くとハイマキは尻尾を振りだした。

こ、これはなついてくれたのかハイマキ?

「優さん」

「は、はい!」

ハイマキに集中していたので敬語になっちまった。

振り返らずにレキの言葉に答える。

そう言えば、緋刀が作り出したあの世界では話したが意識を持って話すのは昨日以来か。

「私はあなたを守るために最後の銃弾を使い心臓を打ち抜きました」

「・・・」

その言葉に俺は少しだけレキの方に体を向ける。

「私は1度死に、私は1度故郷に風になり帰っていきました」

「死んでないだろレキは」

俺が言うとレキはこくりと頷き

「声が聞こえました。優さんの私を呼び戻す声が・・・」

「教えてもらったんだよ」

「?」

「緋刀の力なのか知らねえけどな。俺がレキを追っていった時、レキと会ったんだよ」

 

「私とですか?」

「ああ、正確には子供の頃のな。正確な過去なのかは分からないが仮にあれが俺と会う前としたら俺たちは更に昔に会っていて子供のレキは風になったお前の場所を未来の俺に教えたことになる」

言ってて混乱してきたな・・・

「覚えとかないか?」

今のレキが同じ体験を子供の頃にしているかも知れない。

シャーロックがアリアに緋弾を撃ち込んだ時のように・・・

「はい」

そのはいは、どういう意味のはいなのかは分からない。

だが、そんなことはどうでもいいな。

「そっか・・・なあ、レキ今も風の声が聞こえるか?」

「・・・」

レキは答えない。

俺は構わずに続ける。

「風は最後の銃弾で死ぬことを指示したんだろ。だけど、お前は生きてる」

「・・・」

「お前は・・・」

「もう・・・聞こえないのです。風の声がもう、聞こえない風はもう、何も言いません」

その声は震えているように聞こえた。

風は死ぬことを命令しレキは実行したが死ななかった。

 

「それは、役目は終わったから自由に生きろってことじゃないか?」

「私には分かりません。これからどうすればいいのかこれから1人で」

「別に一人じゃねえだろ。俺はレキとずっと一緒にいたいしみんなもいるだろ?」

「ずっと一緒?」

なぜか、レキがその言葉を言った瞬間、俺はとんでもないことを言ったことに気づく。

「ち、違うぞ!友達って意味だからな!誤解するなよ」

「はい」

その顔は・・・ぎこちなくはあったが確かにあの時と同じ誠の笑顔だった。

「ガウ!」

「いて!何しやがる!」

突然ハイマキが背後から襲いかかってきたのでハイマキと風呂場で取っ組み合いの喧嘩になる。

なついたんじゃないのかよ!

ばしゃばしゃと風呂場で喧嘩しているところへ、女将さんの沙織さん登場

レキの療養も兼ねてちょっとだけ泊らせてもらうとしよう。

一応、明日明後日は連休だからな。

              †

その日の夜。流石にレキとは別の部屋でそういや、下着とかないよなぁと外に出て大型のショッピングモールを見つけて買い物していると

「どーもどーも、椎名優希君ですね」

 

「はい?」

振り返ると街中なのに白衣を着て無精ひげを生やしたおじさんが立っていた。

おじさんはにっと笑うと

「初めまして、PD計画Bチーム主任、天城洋介です。ちなみに君が山に激突させて大破したPADの開発者でーす。あ、あれ1機10億するんで」

その言葉に俺の血がサーと引いて行くのが分かった。

い、いや人のせいにするのもどうかと思うけどあれ、鈴さんだよ!鈴さんが持ってきたんだよ!なんで、俺が一方的に責められてるの?

おじさんは俺の前で笑っている。

ど、どうしよう10億なんて絶対無理だぞ!

史上最大の大ピンチだ。

金全部没収されて月詠に管理される未来が見えてしまった。

「あ、あの・・・」

ど、どうしよう・・・

 




原作最新刊読みましたが最後キタああああああ!
と思える人物が現れました。
想像以上の外道と戦うの楽しみですが香港ってPAD持ち込むの大変そう…
表紙はかなめでしたが色付きになると更にカワイイ!
この作品でPADがでますがこれは緋弾のアリアと同じ世界観のやがて魔劍のアリスベルという作品のものですが最新刊ではん?もしかしたらアリスベルの世界って緋弾のアリアより前か同じ?という疑問が湧きました。
基本アリスベルは緋弾のアリアより未来と思ってたので下手したらアリスベルの主人公達とキンジ達戦うのかという懸念が…

まあ、だからこそ開発チームはBチーム。
キリコのPADはAチームにしようかな


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第211弾 救いの代償

しかし、10億か・・・

暗くなった外を見ながら俺は宿の部屋で寝転びながら1時間ほど前のことを思い出してみて気が重くなった。

あの開発主任と名乗った人は俺にある取引を申し込んできた。

自分達が開発中のPADのテストパイロットになってほしいということ。

もともと、PADは警察や自衛隊の特殊部隊での運用を想定しているらしく超人との戦闘データー。

まあ、武偵のみならず強さが化け物といわれている相手との戦闘ができるだけのものを作りたいんだそうだ。

条件は破格のものだ。

簡単に言えばこんな感じだ。

まず、10億の弁償は受けてくれるならチャラにしてくれるしおまけにPADを1機ただでくれる。

もちろん、超人との戦闘データーと引き換えなど条件もあるが1回運用するだけで1万~1000万まで報奨金を出すということ。

ぶっ壊しても問題なし。

燃料代等は全部、開発元の親会社京菱重工が請け負うとのこと。

ただ、椎名優希と京菱重工はスポンサー契約が結ばれるという。

日本の企業は武偵高には奨学金を出したがらないから生まれた制度だ。

京菱重工は日本企業なんだけどな

まあ、ようは裏社会の人間である俺なら法律もある程度はかいくぐれるし、超人との激突も多く戦闘データー採取にはうってつけであると判断されたわけだ。

鈴さんのせいで10億のこともあるだけに受けざる得ないので契約書にサインだけはしたが大丈夫かな・・・

まあ、京菱重工は大企業だからその点は心配はないだろう。

「お客はん。ご飯、彼女さんと食べはります?」

ん?女将さんか

「いえ、1人で食べます」

「あらあら、うふふ。余計なことかもしれへんですが彼女さんとは仲良くせないけませんよ」

「いえいえ、彼女じゃありませんから」

あんなことあったのに強いなぁ沙織さん。

もしかして、元、武偵とか?

彼女疑惑を断って料理を部屋の中に運んでもらう。

京都ではあるが今日は洋食を頼んだので和な感じじゃない。

 

肉が食いたいんだよ!

「ごゆっくり」

と沙織さんが言ってしまう。

多分、レキの部屋にご飯を運び込むんだろうがあいつは俺がいないならカロリーメイトか?

いいにおいがするご飯のふたを取って手を合わせる。

こういうのは礼儀だからな

「いただきまーす!」

はむはむとご飯を平らげていく。

『椎名優希』

「ん?スサノオか?今、飯食ってるだろ後にしろ」

頭の中に直接響いてくる声に返答してご飯を再開する。

『別に食べながらでも構わない。だが、聞いてほしい』

「なんだよ」

『私は言ったよな?蕾姫を助けるためには代償がいることを』

少し沈んでいるその声に俺はそういや言ってたなと思い返す

「ああ、それで?」

『そろそろ・・・その代償を支払う頃だ』

「あ?っ!?」

い、痛い!右目の奥が痛い

右目を潰さないように両手で周りを抑えるようにして持つが目から火でもでようかという熱さを感じる。

「ぐぅ!」

ガシャンという音とともに料理の入った皿があたりに飛び散った。

どうしちまったんだ俺の目は、それに体中の血が暴れてるようなそんな感覚。

「う・・う」

叫び声をあげたいのをこらえながら俺は床の上に転がって必死に耐える。

こいつはなんだスサノオ!

『これは序章の序章。第1の進行だ』

進行?なんだよそれ・・・っう!

激痛と同時に食器を蹴飛ばしてしまい更にガシャンと音がしてしまった。

まずい、レキ達が来る。

トントンというノックの音

「優さん。今の音は?」

「グルオン」

レキとハイマキの声がドアの向こうから聞こえてくる。

「な、なんでも・・・ない」

激痛に耐えながら扉を背中で抑え込む。

脂汗が出るのを感じながら歯を食いしばる。

「でも・・・」

心配してくれてるんだろうが今は有難迷惑だ。

もし、この痛みが代償だって言うんなら後悔なんかない。

レキの命を救えたんだから・・・

 

『おお、そういえばその発作を抑える方法があるぞ』

「ほ、本当か?教えろ」

小声で言うとスサノオは

『うん、蕾姫に抱きつけ』

「はっ?」

思わず素で言ってしまったが何言ってるんだこいつは

『真面目に言っている。璃璃色金の元に長く存在しその巫女だった蕾姫に接触することで・・・』

「できるかそんなこと・・・いっ!」

小声で話したつもりだが最後の悲鳴はレキにも聞こえたらしい

「ハイマキ」

「グルオン!」

ドオオンと扉が揺れる。

た、体当たりしてるのか?

「や、やめろレキ!なんでもない!」

カギに手を伸ばそうとした瞬間再び激突音とともに俺は前に吹き飛ばされた。

ハイマキが飛び込んできて続けてレキが入ってくる。

「優さん」

「来るなって言っただろ!」

怒鳴りながら俺は部屋の奥に行くと窓から飛び出そうとしたが背後からハイマキが突撃してきて俺にのしかかってきたため床に倒れてしまった。

くそ、普段なら・・・

右目を抑えながら荒く息を吐きながら俺はレキの方を見る。

レキは無表情だが俺のそばにくると症状を見るように俺の顔を覗き込んできた。

『ほら、抱きつけ早く』

スサノオが急かしてくる。

できるかっていってるだろ!

『へたれだな。相手は婚約者だろ』

「目が痛いのですか?」

レキが俺の手に手を置いてくる。

ひんやりとした小さな手が俺の手と重なる。

不思議と・・・痛みが和らいだ気がするがまだ、痛みは激痛のレベルを脱しない。

『別にキスしろとか言ってるんじゃない。抱きつくだけだぞ』

「できるか!レキに抱きゃ治るなんてどんな症状だよ」

「私に抱きつけば治るのですか?」

あ、やばい。口に出してたか今の

「いや、その・・・」

スゥとレキは俺の前にくると首に周りに両腕を伸ばして抱きついてきた。

ミントの香りとシャンプーのにおいが鼻をくすぐる。

「れ、レキ?」

レキは何も言わない。

トクントクンと破壊されて修復された心臓の音が聞こえてくる気がした。

そして、同時に痛みも引いていく。

『言った通りだな』

どういうことなんだ?

レキに抱きつかれたまま俺がそんな疑問を抱く

『簡単なことだ。何、今回のが落ち着けば極端に力を使わない限り同じ症状は2度と起きんよ』

レキを救ったことで生じたこの代償。

そうか、人の命に干渉するというのはきっと、ものすごい力を消費するんだろう。

だが、代償とは痛みだけで済むのか?

レキに抱きしめられてなんか、おかしな気分になりそうだ。

痛みも治まったし。

そろそろレキを引き剥がして・・・

「・・・」

ああ、見てしまった。

窓に反射するレキに抱きしめられてる俺の顔。

緋刀を使った時のように緋色の髪ではなく左目も黒い

だがその逆の目は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緋色に染まっていた。

 




ちょっと補足です。
アリアの場合は緋緋神。
優の場合、進行が進めば…それは秘密
進行を和らげるには緋弾と対極にある璃璃色金の影響を強く受けたレキの
存在が必要ということです。
希がレキと優をくっつけようとした理由はここにあります。
つまりは…

次回はまた、金曜ですかね。
努力はしてみます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第212弾 チームバスカービル結成!

今回は長いです


その日、俺とレキは携帯ショップに来ていた。

あんなことがあったがココに破壊された携帯の代わりを買わなくてはならなかった。

とはいえ、俺の場合はほぼ、レキの付添だ。

俺自身の新しい携帯電話はすでに持ってる。

とはいうのも京菱から無償でタッチパネルタイプのスマートフォンと腕時計を渡されていたからだ。

後に運用してもらうPADと関係があるらしいがもらえるものは貰っとけと貰ったものだ。

普通の携帯とは違い頑丈にできており象が踏んでも壊れないと京菱の人は言っていた。

頑丈なのはありがたいけどな。

「ふーん」

店頭に並んでいる携帯を手にとって眺めているとパネルに反射して自分の顔が見えた。

その右目には白い眼帯がつけられている。

左右の目の色が違うというのはどうも、恥ずかしいのでつけているのだが何とかしないとなぁ・・・

片目では遠近感が狂うし生活にも少し不便だ。

カラーコンタクトでも買おうかな・・・

「お待たせしました椎名様」

そう言って俺の新しい携帯電話を持ってきてくれたのは携帯ショップの店員さんだ。

京菱からもらったのはあくまで本体だけで、調整は店でやってもらわないといけない。

バックアップもこの会社が管理しているし、電話番号も続けて新しい方に適用してもらった。

「ありがとうございます」

お礼を言って受け取るとレキも丁度終わったようで新しい携帯電話を持ってこちらにやってきた。

「よし、じゃあ行くか」

そろそろ東京に帰らないとな。

本当なら今日も学校だがいろいろ用事があったからこんなことになっちまった。

まあ、武偵だし構わないだろう。

ん?メールか?

スマホがわずかに震えたのでタッチしてみるとメール受信件数9999

着信198回

おいおい誰だこれは!

メールの履歴を見ようとした瞬間

ジリリリリンとなぜか黒電話の初期設定の相手の電話

お、アリアだ。

通話ボタンをスライドさせて耳に持っていき

「おーう、アリアどうし・・・」

「やっと出た!馬鹿優!今どこにいるの?」

いきなり馬鹿よばわりすんな!

「今か?今京都だ」

「京都ぉ!?実家にでも帰ってるの?」

「いや、その・・・」

どうしようレキと同じ宿で泊ってなんて言ったら何て言われるか・・・

一応、レキとアリアは新幹線で俺と水が戦う間に和解したらしいが何があったかは分からない。

「レキもあんたと一緒にいるの?」

「えっと・・・まあ、いるかな・・・」

レキの方を見ると無表情にじーと新しい携帯電話を見ているな。

「なら丁度いいわ。今から1時間以内に武偵高に戻ってきなさい!場所はメールで送ってあるわ」

「は?無茶言うなよアリア!どう頑張っても2時間以上はかかるだろ。新幹線で武偵高に直結してるわけじゃないし途中で止まったりするんだぞ」

前みたいにノーストップってわけに行かない

「どうにかしなさい!」

「無理だ!」

姉さんがいれば話は別だがそんな都合よくあらわれてくれないだろう。

「アリアさん代わってください」

と電話の向こうから秋葉の声が聞こえ

「優君。今日ジャストの締切日なのは覚えていますか?」

げっ!

言われてみればそんな気がする。

後で着信履歴を見ないと分からないがマスターズからレキと俺のチームの最終確認の電話が来ていて電話に出ていなかったらチーム編成は却下される。

時間的に考えて携帯が破壊されている間に電話があった可能性が高すぎる。

秋葉が言っているのはぎりぎりまでチームが決まらずに最終的に滑り込みで書類申請と写真を撮るあれのことを言ってるんだろう。

それが、ジャストであり今日が締め切り・・・

「あ、秋葉締め切りは何時だったけ?」

「今日の正午、後57分です。私たちはすでに撮影場所にいますが・・・」

「いいからすぐに帰ってきなさい!あんたなら自衛隊の基地からF15でもなんでも強奪して帰ってこれるでしょ!」

再びアリアに戻ったらしいが

無茶言うな!すぐ近くにF15を運用している基地なんてないし着陸なんてできるはずもない。

それ以前に実家に殺される!

「というかジャストに入れてくれるのかアリア」

「あんたはあたしのチームメイトでしょ?キンジが入ってあんたが入らない理由はないわ。レキも必ず連れてきなさい!」

 

「私も優君と同じチームのつもりです」

秋葉の声が少し遠くから聞こえる。

この先、何があるか分からないが俺は最初はアリア達と組みたいと漠然と思っていた。

その願いが叶えられそうだがどう考えても無理だ。

京都から東京武偵高に1時間を切るこの状況ではたどり着けない。

隼でも無理だろう。

時間でも止まらない限り・・・

「おーい!優希くーん!」

ん?店の前の大型トラック・・・京菱重工の?まさか!

「天城さん!」

レキの手を掴んで外に出るとトラックから手を振っているのはPADのBチーム主任天城洋介さんだった。

「約束通り君のPADを持ってきたよ!今回のこれは改良型でね・・・」

と説明を始めた天城さんを無視してトラックの後部のハッチを回して扉をあける。

「ハハハ、せっかちだなぁ。これは、烈風っていって・・・」

ラッキーだな。多分だが前のPADより速度出そうだ。

「レキ!」

「はい」

意図を察したのだろう。

レキとPAD『烈風』に自分の体を固定する。

2人までなら固定可能というのは変わっていないらしい。

レキと密着ということになるが・・・

その青い機体には武装も取り付けられている。

 

「名前の由来はね。日本の幻の艦上戦闘機である・・・」

天城さんはぺらぺらしゃべっているがやることをやろう。

燃料は満タンだな。操縦方法はよし、前に使ったやつと同じだ。

スペックは前より上と・・・

「それでね。烈風は前部に風のステルス能力を応用した機能で風の抵抗を・・・」

「ハイマキ!悪いが他の誰かに送らせるからそこで待っててくれ」

「グルオン!」

仕方ないというようにハイマキは店の外でお座りした。

メールで実家にハイマキを武偵高まで送るように書いて送る。

念のため東京武偵高まで空を飛んで帰ることも書いておいた。

烈風のシステムには飛んでいる航空機を自動的に回避するシステムが積まれてるみたいだがぶつかったりしたら洒落にならないからな。

エンジンを始動させふわりと空へと浮かび上がる。

音も轟音とは程遠い。

加速するのは戦闘機なおと同じだが浮かび上がるのは別の推進装置でも積んでるのか?

これが、先端科学の鎧。

日本の技術力は世界一ぃって奴だな。

「天城さん!これ遠慮なくもらいますね!」

下では一般人達が何事だと見上げているが俺は構わずに言った。

「試運転かい? 優しく頼むよ」

「それは保障できません」

時間もないし荒くいかせてもらおう。

タッチパネル式の操作機器を操り機体を加速上昇させる。

速度は100を越え200を越えどんどん加速するが付属のマスクと先端科学らしいバリアのようなものが風の直撃を阻んでる。

そのため、風で体温が持っていかれることもない。

下を見ると高所恐怖症なら失神するような状況で景色が流れている。

昔から、風のステルスで秋葉と飛んでたからな。

「後15分です」

数十分飛んだ頃、ヘルメットの通信機からレキの声が聞こえる。

今、名古屋越えた辺りか。

そろそろ、加速させないと間に合わない。

「・・・」

燃料の残量は十分にある。

烈風の加速させ速度は900キロに達した。

音速は越えられないらしいが十分!

「レキ、到着と同時に急減速するから用意しといてくれ」

「はい」

それから、秋葉に電話する。

「秋葉、俺とレキの分の防弾制服ネロの準備できてるな?」

「はい、理子さんと準備を終えてます」

「俺たちは後、数分でつく。周辺あけとけよ」

「分かりました」

電話を切って目の前に東京湾が見えてきた。

東京武偵高が眼下に治まった瞬間、減速し流石にGを感じながら会場上空に到着する。

時間は残り3分。

下では驚いた顔で生徒や武偵高の先生達が見上げている。

烈風を自律で着陸するように設定してから機体からレキと一緒に飛び降りた。

着地するとキンジ達が早くしろと防弾制服ネロと緊急用の着替えの場所なのか2つ丸いカーテンのようなものを持った秋葉と理子達。

俺とレキはその中にそれぞれ飛び込んで防弾制服ネロに着替えて外に出て腕時計を見るが時間はまだあった。

ふぅ、なんとか間に合ったな・・・

横目で烈風を見てほっとした時

先に着替え終わっていたレキがアリアと抱き合っている。

といっても、アリアが一方的に抱きついているようだが

「レキ・・・あたしもありがとう。あの時のことそれと来てくれてありがとう。もう、絶交は取り消しよ。また、復交、再交? えっとまた交わりましょ!」

絶交取り消し宣言か・・・

あ、俺も一言、言わないといけない奴がいたっけ・・・

「優君」

「秋葉、なんというか・・・あの時のことごめんな」

違うやつとチーム組めよと言った時のことだ。

秋葉は首を振りながら

「私は椎名の近衛ですから優君のチームメイトになるのは当たり前です。それにあまり気にしてませんから」

「本当にいいのか?違う奴と組みたいなら組んでいいぞ」

「嫌です。優君がいないチームなんて」

「そ、そうか?」

レキとだけ組んでたらどうするつもりだったんだか・・・

「優君その眼帯・・・」

「ああ、これな・・・」

眼帯を外して右目だけ閉じておく。

「ちょっと目が痛いだけだ。終わったら病院いくから心配するな」

「それならいいんですが・・・」

「ホラホラ!私の可愛い生徒達!締め切りまで15秒ヨ! 武偵は時間を厳守デショ!」

どこからか、聞こえてきた男の裏声に俺たちはきょろきょろするが見当たらない。

確か、レザドのチャン・ウー先生だがどこにいるんだ?

「くぅおらガキ共!いちゃいちゃしとらんとこっちゃこいや!後10秒やぞ!そこの枠に入れ!撮影するで!」

アサルトの蘭豹に言われ俺たちは慌てて枠内に飛び込む。

「よし!笑うな!斜向け!」

これぞ武偵の集合写真。正面を向かずに正体を微妙にぼかすならわしだ。

黒一色にするのもどこの武偵高かわからないようにするためだ。

「チーム・バスカービル!神埼・H・アリアがジャストします!」

中央のアリアが片手に腰をあてつつ叫びアリアの左後ろの理子が横を向けいて腕組みし目だけをカメラに向ける。

アリアの右後ろのレキはドラグノフを背後に隠すようにする。

キンジはテーピングしている手をポケットに突っ込んで右端にた立つ。

左端に立った白雪は少しだけ笑顔になっている。

秋葉は理子の横で横目でカメラを見る。

俺は秋葉の横で右目をつぶったまま少し首を曲げて左目だけでカメラを見る。

これで、緋色の目は映るまい。

「9月23日11時59分、チームバスカービル―承認・登録!」

バシャリとストロボの光が照らした。

ちなみにこの写真、慌てて取ったため斜めになってた。

俺、キンジ、アリア、秋葉、レキ、理子、白雪

7人編成のこのチーム。

個人的な感想を言わせてもらえば理想的だな・・・

終わりよければすべてよし!ってわけだ。

だけど、俺は知らなかった。

この写真が全員で取った最後の写真になることを・・・

              †

写真を撮った後、俺はみんなといったん別れアンビュラスのSランク武偵であり、緋刀の研究者であり、俺の専属みたいになってるアリスの元にやってきた。

そこで、目のことをアリスに相談してみたんだが

「見事に染まってますねぇ」

俺の目をジーと覗き込んでくるアリス。

「できれば黒いままがいいだがどうにかならないかアリス?」

「とりあえずはカラーコンタクトでごまかしましょう。シャーロック・ホームズにもらった資料とレキ先輩と抱きついたことで治まった症状。この2つの類似点から緋刀を抑える薬の研究してみますね」

ありがたい話だな

「頼む」

「はいはーい。お礼はもう、もらってますから今度ご飯食べに来てくださいね」

                   †

しかし、日本人なのに黒いカラーコンタクトすることになるとはな・・・

俺は、そんなことを思いながら学園島の道を歩いていると

「椎名ぁ!」

 

「ん?」

「見つけたぞぉ!」

「うわ!村上!いきなり出てくるな!」

お化けみたいに背後に立ったレキ様ファンクラブ、通称RRR会長村上だった。

「貴様ぁ、レキ様とどこに行っていたぁ!」

「怖えよ! 京都にレキを迎えに行ってただけだ!」

まあ、こいつも多少なりとも巻き込まれレキのために戦ってくれたので一部を隠して事情を説明してやる。

「なるほど、外国勢力との抗争はまだ、続いているがとりあえず一段落はついたというわけか」

「そういうことだな」

まあ、間違いなくランパンの連中はまた、仕掛けてくるだろうがそれは、まだ先の話だろう。

っとそろそろ

「悪い村上、用事があるから俺行くぞ」

「なんだ?誰かと会う用事でもあるのか?」

「あー、まあ・・・レキと」

反発覚悟でレキの名前を出す。

さあ、切れるぞこいつ

「そうか」

だが、以外にも村上は暴れることもなく言った。

どうしたんだ?

 

「なんだ椎名?」

「いや、怒らないのか?俺が今からレキと会いに行くなんて言ったら」

「ふん、レキ様の誠の笑顔は間違いなく貴様に向けられたものだ。悔しいが認めてやる。貴様はレキ様の近くにいていい男だ」

「村上・・・」

レキを女神扱いしているこいつがこんなこと言うなんて・・・

「だが!」

村上はカチャリとメガネをかけなおすと

「貴様がふがいないことをした時、我々チームレキ様のレキ様だけのレキレキ連隊が貴様を滅ぼす!」

前言撤回だ

「お前まさか、チーム名・・・」

「うむ、そのままの名前で提出したらなぜか、蘭豹に逆さ吊りにされてしまったのでチーム名はRRRだ」

お前ら分かってる!一生残るんだぞそのチーム名!

「つか、連隊ってなんだよ!」

「志を同じとする者たちだ。私のチームがRRR、さらにRRR AチームBチームと続いている」

うわぁ・・・

「これからはチーム=連隊として我々はレキ様のファンであり続ける!」

駄目だこいつ早く何とかしないと・・・

ってそろそろまずい!

「あんまりめちゃくちゃするなよ!レキが怒るぞ!」

「うむ!行って来い!」

ますます、厄介な存在になりつつあるなRRRいや、RRR連隊

                  †

さっき、夕立があったから少し濡れた道を走る。

そして、目的の場所に来ると

「レキ!」

学園島の西端の転落防止用の柵の外に呼び出していたレキとハイマキ

素早いことに実家の近衛の一人がハイマキをレキの元に送り届けてくれたらしい。

さっさと帰ってしまったらしいが・・・・

「ほーれ、ハイマキお肉だお肉だ!」

鞄の中から来る前に近衛にハイマキを送るついでに頼んでおいた神戸牛だ。

量は適当だがハイマキがおなかいっぱいになるようにと頼んだら両手で抱えられる大きさのお肉を持ってきた。

お代はまあ、たまには実家に出してもらおううん

「ウォオオン!」

ハイマキは一吠えし尻尾をぶんぶん振りながら神戸牛にかぶりついた。

ハハハ、高級肉だぞそれ。

「右目は大丈夫ですか優さん?」

レキは屈んでハイマキの背中をなでてやっている。

その顔は無表情に見えてどこか優しげだ。

「痛みはない。アリスに相談したら緋刀の力を抑える薬が作れそうだから作ってくれるってさ」

「ではあなたの中にいるスサノオは?」

「ああ、あれから呼びかけても返事がない」

正確にはレキに抱きついてからだがこいつに関しては俺にもよくわからない

「体に異常はないのですね?」

「健康そのものだな。目を除けばだが・・・」

もし、これが段階的に広がっていくものだとすれば・・・

アリアは昔はあんな色の髪ではなく瞳も色が違っていた。

とすると、緋刀の場合は強力な力を使えば使うほど浸食されていくのかもしれない。

まあ、命に別条はないみたいだけどあの痛みがな・・・

「もし、異常を感じたら私の元に来てください」

今さらだがそれは俺が狙撃拘禁から完全に抜けたことを意味するわけだ。

「やだよ。痛いからって女の子に抱きつきにいくなんて。レキだって嫌だろ?」

レキは静かに首を横に振った。

「あー、なんというか婚約者とかそんなのはもう、気にしなくていいんだぞ?」

再びレキが首を横に振る。

「山岳での狙撃戦。最後の銃弾を放ったあの時。私は死にたくないという思いがありました」

「・・・」

「死んでしまえばあなたともう、会えなくなる。そうなりたくないと思ったのです」

真剣なレキの言葉。

俺は何も言わずにただ、レキの目を見てそれを聞いた。

「故郷の風に意識が消えていく中あなたの声が聞こえました。その手を掴んだ時、私はまた、あなたに会えると思ってしまった。私に感情というものを芽生えさせてくれ、外に連れ出してくれたあなたを・・・ウルスに必要な男性としてではなく優さんのことを・・・」

え?レキお前何言おうとしてるんだ?

ゴゥと突風が吹いた。

「・・・―・・・・しまいましたから」

え?聞こえなかったぞ。部分的に

「レキ今なんて・・・」

しかし、レキはそれを繰り返し言わずに海に方を見る。

「優さんはいいのですか?こんな私なんかとチームを組むことになってしまって。もう風は何も言わなくなってしまったので・・・私は自分でもよくわからない。自分の心というものを不確かな道しるべとして歩いているのです。風からなんの指名も与えられない私はもう、自分が何者かすらわからない」

「人生なんてそんなもんじゃねえか? 明日何が起こるかなんて誰にもわからないし自分が誰かなんて分からない。まあ、適当すぎるのも考え物だが普通に生きていけばいいんだよ」

未来のことなんて誰にもわからない。

誰かが言ってたっけな

「未来なんてものは分からないからこそ面白いもんだ。自分が分からないなら知っていけばいい」

「あなたは変わりません」

「それって子供の頃と同じってことか?」

「・・・」

こくりとレキは頷く。

「あなたはとても優しく温かい人です。私の空虚さを知っても変わらない」

「まあ、全ての始まりは姉さんだしお前とは小さい頃からの友達だしな」

「優さん」

「これから見つけていこうぜ。これからのこともさ」

「はい」

そのはいはどこか敬意のようなものを感じたて少し恥ずかしくなる。

それになんというか今回の事件ではいろいろとレキの意外な所を見過ぎた。

「?」

レキが俺を見てくるので気恥かしくて目をそらす。

ああ、やばい・・・

「レキってチームメイトの中では1番常識がないからな」

照れ隠しではないがなんとなく口からそんな言葉が俺から出た時

「ガウ!」

神戸牛を食べ終えたらしいハイマキが背中にタックルしてきた。

「いて!何するんだこの野郎!」

なぜかその顔はどうしてお前はそうなんだといわれてる気がした。

ハイマキの頬の毛皮を掴んでぐいぐい喧嘩していると

ぽかっと頭に軽い衝撃

え?レキに殴られた?

見るとほんのわずかだが口がへの字に曲がっているような・・・

なぜか少し俺は口元が緩み

「へ、痛いな」

ぺしとレキの頭を叩いた。

もちろん、痛みがないレベルで

するとレキが今度はぽかぽかと2回ちっちゃく叩いてきた。

これまでのレキからは考えられないような行動。

レキ自身自分の感情が分かっていないような感じだがな。

「ハハ、そろそろ帰るかレキ」

レキに背を向けて歩き出そうとするとレキが俺のジャケットの裾を掴んできた。

「優さん。・・・ウルスの忠誠は永久。風が何も言わなくても私はあなたを守ります・・・ずっと・・・」

再び振り返るとレキは笑顔だった。

まだ、上手くはないけどそれは、心の底からの笑顔で俺はドキッと心臓がはねた気がした。

うう・・・

「優さん?」

「わ、悪い先に帰る!」

その場から逃げだすように俺は走りだし後ろからハイマキの呆れたような吠える声

その吠えた声はこう言ってる気がした。

へたれめ

違うよ!

 




やっとレキ編が終わりました!
この章はキンジと行動できない話しなので苦労しましたよ。
まあ、原作と完全に同じには書けませんからね。
原作読んでないかたは原作で再びレキ萌えしてください!

バスカービルは原作と同じ面子に優と秋葉を加えました。
いずれ書きますが優はリーダではありません。
キンジがリーダです!
なぜならうちの主人公は攻撃タイプですからリーダには向いてないのですよ。 

なので前衛は優をいれてスリートップ。秋葉はオールラウンダーですね。
基本は中衛あたりかと。

さあ、アリスベル最新刊も買って読みましたが最終ページまで見てビビりました!
ついに電撃文庫とMF文庫の壁が…
読んでないかたは買いましょうアリスベルを!
シリーズ買ってない方も緋弾のアリア買ってるなら買いましょう!
それでは3か4話挟んで宣戦会議に突入だぁ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第213弾 集う者達

新章スタート!
次回は来週!


レキと別れたその夜。俺はようやくの我が家に帰ってくるなりソファーの崩れ落ちるように前からダイブした。

「もう、動けねぇ・・・」

と言ってみるがやることがまだ、ある。

携帯を取り出すとそれから、1時間ほどかけて数人に連絡を取った。

京都で連絡しとけばよかったんだが鏡夜・・・は、素直じゃないから妹の咲夜に電話すると

「鏡兄青森まで、粉雪さん送って行ったんだって。本人はついでとか言ってたみたいだけど」

ハハハ、あいつ結局最後まで粉雪ちゃんの面倒見たのか。

俺はまだまだ、話し足りなさそうな咲夜に謝って電話を切ると次は・・・

っと、電話だ。

ん?登録されてない番号か?

「はいはい」

「どもども水ちゃんでーす!」

頭痛くなってきた。

「水ちゃんですじゃねぇ!いきなりいなくなった奴が何の用だ!」

「やー、結構大変だったんだよ。公安警察に追いまわされて船の上から海に飛び降りて逃げて日本の領海をでるまで船の中に隠れてたりしてさっきようやく、香港についたとこなんだから」

あー、そうかい

「おい、水お前の過去の話・・・」

「あー、それね。ここで話してもいいけどどうせなら直接会って話そう」

「お前今、香港なんだろ?」

 

「そだよ。まあ、もうすぐ宣戦会議だけど私今回はそっち行けそうにないんだぁ・・・今度香港おいでよ。ランパン城か私の家で話ししたげるから」

「敵地の真ん中に来いってことか・・・」

「んー、優希が師団なら敵かなぁ?」

「さっきから何言ってんだお前?宣戦会議とか師団とか?」

「え?知らないの?それはね・・・あ!こら孫!レーザーは・・・」

ブツンと回線が遮断される音。

レーザーってなんだ?アメリカ軍の駆逐艦とでも戦ってるのか水?

切れてしまった電話を見て今度はメール着信の音がしたで開いてみると

数件来ていた。

京菱重工からPADの保管場所の説明とPADの取扱説明書をアプリにしたから送るということ。

それとEWからのメールだ。

おう、あいつか

開いてみると内容は近々日本に行くことになるかもしれないということだった。

来るならできるだけ日時教えてくれ迎えに行くからとメールを送ると了解と返事が返ってくる。

そうか、あいつ日本の来るのか久しぶりに会えるかもしれないな。

次に信冬にかけてみたが留守録に繋がったので大した用じゃないからかけなおさなくていいぞと言っておいた。

そんなことをしていたら今度はアリアの母親の弁護士から電話がかかってきた。

夏休み中何度か事件についての録音証言を電話で協力しているんだが今回はそれではなく神埼かなえさんの裁判に向けての準備日間整理手続きが完了したとのこと。

ここからの証拠の追加などは開廷まで原則的にできなくなりアリアにも若干の時間の余裕ができるはずである。

まあ、次の裁判は圧勝だろう。

何せ日本の裏社会の家の協力。

土方さん達公安0の一部からの協力や理子達の証言。

これで負けたら裁判所で暴れてやるからな

つうか負けたら何か別の力が働いてる可能性100%ということになるがそんな相手と戦うのはごめんこうむりたい。

姉さんと一緒ならやってもいいけど・・・

姉さんがアメリカ軍に突っ込んでいったのを思い出しながら時計を見ると11時35分を過ぎようとしていた。

「あ!やばい!」

いろんなことあったが今日アリアの誕生日だった!

小部屋に戻って漁るとあったあった。

前にアリアの誕生日っていつかなと思って調べたことがある。

土方さんとかなえさんの裁判の件で調べ物をしている時に偶然だがアリアの誕生日の書かれた資料を見つけたのだ。

俺は一応、知る機会がある奴の誕生日は携帯に登録してある。

誕生日というのは大事だし知らないと不機嫌になる奴もいるからな。

それは大体女の子で男は大概誕生日など気にしている奴はいない・・・と思う。

                †

少し非常識かと思ったので秋葉に渡してもらおうと思い女子寮の下までやってきた。

もうすぐ、日が変わるが秋葉なら起きているだろう。

携帯で秋葉に懸けようとボタンを押しかけた時

「ほれ、誕生日おめでとう」

ん?この声キンジか?温室の電気がついてるぞ

そっと、そちらを覗き込んで俺は後悔した。

アリアの左手を持ってキンジがアリアに薬指に指輪をはめているその光景が飛び込んできたからだ。

困ったことに・・・右目が緋色に変わった日視力が異常によくなってしまっている。

それは、カラーコンタクト越しでも効力を発揮している。

キンジよ・・・女の子の薬指に指輪ってお前・・・

「・・・はぁ・・・」

今さらながらにショックだよな・・・

アリアは真っ赤になってホントにもらっちゃうからねとうれしそうだ。

アリアへのプレゼントをポケットに入れて俺は歩き出した。

              †

とはいえ、日々は過ぎていくものだ。

PADの格納スペースを学園島に確保したという京菱重工からの説明を聞いたりしたりした。

 

そして、事情聴取されるため土方さんの家に行って鈴さんが土方さんにべったりしていて自分こそ正妻といいはり雪羽さんと言い争いになり姉さんはげらげら笑いながら肩を落とす土方さんを笑っていた。

この時、初めて知ったが土方さんは昔、ある事件から恐ろしく落ち込んでいた時に・・・その、鈴さんともそういう関係になってしまったらしい。

ウルスの鈴さんのアプローチはさぞ恐ろしいものだっただろう。

レキを見ればその片鱗が分かるというものでつまり、日本の書類上では雪羽さんが妻だが

外国にあるウルスから見れば鈴さんも妻ということになる。

ウルスの方は書類上のものはないから問題はないんだろうが・・・

土方さんは俺の肩に手を置いて恐ろしい目で言ったのだ。

「いいか、優希。女は1人に決めろ・・・こうなりたくなかったらな・・・」

いや、土方さん俺好きな子いたけど今はいないようなもんだから!レキがちょっと気になってはいるけど恋人はいないよ!

婚約者がいるけど・・・

というか信冬が土方さんに怒りを覚えているのは多分これも、関係してるんだろうなぁ・・・

とか思っていたら姉さんは俺を指差して

「心配するな歳!こいつはお前の遥かに上回るハーレム体質だぞ。きっと、将来お前以上の修羅場に巻き込まれる」

嫌です!勘弁してください!

と、そんなこんなで事情聴取なんてできなかった。

鈴さん、姉さんはしばらくは土方さんの家を活動拠点に動きまわるらしいから心強い

それと、俺は土方さんの家に行った時雪羽さんに一つ相談を持ちかけていた。

かつての剣聖、雪羽さんに鍛えてほしいとお願いしていた。

ランパンとの戦いで分かったが強さの底上げが必要だ。

俺の剣は自分でいうのもなんだが天才レベルであったとはいえ子供の頃に学んだ技で止まっているのだ。

下地はできているのだから新たな剣技を増やすのは難しいことではない。

雪羽さんは快く引き受けてくれ俺は今、雪羽さんを第2の師匠として技術を磨いている。

そして、俺は今、学校で机に突っ伏してだらけていた。

もう、やる気でねえ・・・

アリアへのプレゼントはとりあえず部屋に突っ込んできてあるが渡す機会はもう、ないと思おう。

雪羽さんの訓練メニューをこなしてへとへとだ。

「優先輩!起きてくださいよ!やっと帰ってきたんですから可愛いアミカを見てくださいよ」

 

ゆさゆさと突っ伏している俺を揺すってるのは真里か・・・

香水というかこの特徴的なにおいですぐわかる。

「放っておいてくれ俺は今、寝たい気分なんだ」

「なんですかそれ!散々、焦らして飽きたらぽいですか!最低です!」

「人聞き悪いこというな!」

聞き捨てならないことを言われたので顔をあげると目の前に両手を机の上に置いて顔を俺に向けている真里が目の前にいた。

「お久しぶりです優先輩♪」

「おう」

レキに狙撃拘禁されていたのもあるし、修学旅行もあったがメールはしていたから久しぶりって感じもしないけどな。

「よう優!」

「おはよう椎名君。今日も絶好調だね」

もうすぐ、授業なので不知火や武藤が登校してきて言った。

「絶好調ってなんだよ!」

「今日も女の子といちゃいちゃしてるってことだよ」

と、武藤が失礼なことを言ってくる。

なんだよそりゃ、俺が四六時中女の子のこと考えてるみたいに言いやがって

「でも、実際のところどうなんだい?レキさんと修学旅行中はずっといたんでしょ?」

「どうなんですか優先輩!」

少しヤンデレ目になって見てくる真里って怖い!

「レキは・・・その・・・」

あれ?何て言えばいいんだ?そういや、ウルスの里での婚約って別に破棄されたわけじゃないんだよな・・・」

ってことはレキは婚約者のままなのか?

「その?」

にこにこと不知火がいい笑顔で俺を見てくる。

うう・・・何て言えばいいんだ・・・

「よう、武藤、不知火、優どうしたんだ?」

「あ、遠山君おはよう」

「おーう、キンジ!今、優を問い詰めてたところだ。キンジは知ってるのか?優とレキの関係?」

「レキと優か?」

俺はキンジと目があったので余計なこと言わないでくれとお願いした。

「チームメイトだろ?」

すまんキンジ。

今度なんかおごる

「そういえば、遠山君達チーム組んだんだよね。バスカービルだっけ?どういう意味?」

「アリアがイギリスに持ってる土地の名前なんだそうだ」

「イギリスに土地って!すげえな神埼!」

武藤が空席のアリアの席を見ながら言った。

よし、うまい具合に話が逸れたぞ

 

「うう、後1年早く生まれてたら私もバスカービルで優先輩と・・・」

1年早く生まれてよかったぁ

ぎりぎり親指の爪を噛む真里を横目にそんなことを思っているとアリアと秋葉が登校してきた。

結構ぎりぎりだな。

           †

そして、1日が始まりその日の放課後のこと俺は固まっていた。

秋葉原まで乗せてってぇという理子に頭にチョップを食らわせて下駄箱から靴を取り出すため開けたところなんと中に手紙が置かれていた。

こ、これってラブレターって奴か!なんと古風な!

差出人はと・・・

「もてますね優君。ジャンヌさんですか?」

「ひっ!」

後ろからの声に慌てて振り返ると秋葉が無表情で俺を見ていた。

「違うぞ秋葉!これは違う!」

ジャンヌに好かれることなんて覚えがない!

「別に私は優希様がどのような方と付き合っても応援しますよ」

ならなんでそんな、不機嫌全快気味なんですか秋葉さん!

「何怒ってんだよ!」

「怒ってません」

「怒ってるだろ!」

 

「いいえ、それより中を確認しなくていいんですか?」

除く気だろお前!

「後で読む」

とりあえず隼で離れよう

どうやら、秋葉は理子と用事があったらしくそれ以上追及してこずに風に乗ってどっかに行ってしまった。

秋葉原って行ってたから秋葉原だろうなぁ・・・

知り合いがいない場所といったらそうは多くない。

邪魔されない場所として選んだのは学園島の端の方にある倉庫だった。

ここは、新設した京菱重工の倉庫があり、この中でPADの整備や改装を行うらしい。

倉庫の中に1室を与えられているので秘密基地代わりにしてるんだが烈風を横目に部屋に入りちょっとドキドキしながら手紙を開いた。

女の子からのこんな形での手紙だからな・・・

ジャンヌはクールビューティ系で美人だし。

「読めねえ・・・」

中身はフランス語だった。

日本語、英語、ドイツ語、中国語はしゃべれるがフランス語は少し、かじった程度なんだよな・・・

えっと・・・

なんとか詠もうと努力しようとしたが下に

≪どうせお前は読めないと思うから裏に日本語で書いておく≫

なら最初から日本語で書け!

破り捨てたい衝動に駆られながら裏をめくると

≪椎名 優希殿

 10月1日夜0時

空き地島南端 曲がり風車の下にて待つ

武装の上1人で来るように

  ジャンヌダルク≫

なんじゃこりゃ?武装の上って決闘でもするのか?

ちなみに俺の武装は現在半壊状態だ。

ワイヤーは平賀さんに頼んでオーバーホール中だし、紫電は新幹線の戦いで行方不明になった。

冬雷は雪羽さんに返したし武偵弾も予算の都合からほとんどない。

銃があるから全くの装備なしじゃないが俺には刀がないのだ。

新しく調達予定はあるが今夜には間に合わないな・・・

練習用の安物の刀だがこれを持っていこう。

名刀だった刀に比べたら頼りないがないよりましだろう

部屋を出て倉庫で整備されているPAD『烈風』を見る。

こいつを持っていくか?

いや、決闘と決まったわけじゃないしこいつは、目立ちすぎる。

携帯でジャンヌに電話してみる。

「椎名かお前も読んだようだな」

「ジャンヌなんだよこの紙は」

「あれは正式な招待状だからだ。椎名の後継であるお前なら他にも招待されている可能性があったが一応な」

「椎名の後継・・・そっち、関連か・・・お前と決闘ってわけじゃないんだな?」

念のため言ってみると

「場合によってはそうなるかもしれない。椎名お前が師団を選ぶならそうはならないだろう」

「師団?」

またそれか

「おい、ジャンヌ詳しく・・・」

「とりあえずこい。話はそれからだ」

プツンと回線が途切れてしまった。

かけなおしてみるがかからない。

うーむ、行かないことには何も分からないということか・・・

気のりはしないが・・・

「はぁ・・・」

PADを見上げて俺はため息をついた。

これ、絶対に厄介事だよなぁ・・・

             †

その日の夜11時45分。俺は烈風の機能の一つである静音推進で空き地島上空に来るとそこから飛び降りて着地した。

PADは自動で元の倉庫に戻るはずだが・・・

地面に降りた瞬間、ぞくりとした。

濃霧に覆われているこの空き地島の至るところから人の気配がしてくる。

「椎名来たな!こっちだ」

ジャンヌの声が聞こえたのでそっちに行く。

「こんな夜中になんなんだよジャンヌ」

「優?お前も来たのか?」

ってキンジ!?

「ああ、お前もジャンヌに呼ばれたのか?」

俺と同じく呼ばれたらしいキンジも武装してきているようだ。

「ああ、手紙でな」

どうやら、ジャンヌはキンジにも手紙をだしたらしいな

にしても、ジャンヌ重武装だな。

デュランダルを地面に突き立て手には手甲を始めとして前に戦った時より金属の割合が増している。

「お前らも来たか」

 

聞きなれた声に振り返ると

「土方さん?」

「おう」

土方さんは黒いコートに右には日本刀と小太刀。おそらく銃も持っているだろう。

油断なく周囲を警戒しながら俺の方を見て視線を俺から外した。

話をしている場合じゃないのか?

「優希。久しぶりです」

ん?振り返った先にいたのは今度は信冬だった。

日本刀に薙刀を手に持っている。

信冬はステルスで戦うからこれがメインじゃないはずだがこれも重武装だ。

「京都ではウルスの姫と大変だったみたいですね」

う、ばれてるぞ・・・

信冬が上を見上げたのでそちらを見てみると風車の上にレキがドラグノフを持って座っていた。

「・・・」

「・・・」

だ、W婚約者?これなんて修羅場ですか?

信冬はレキから視線を外して土方さんを少し睨んでからまた、後でとその場から少し離れた。

なんだ知り合いばかりいるな。

「間もなく0時です」

レキが頭上から言った時、周囲に設置されていたらしいライトが一斉に空き地島を照らす。

ぞくりとした感覚と共に半径50メートルぐらいに人が集っている。

どいつも、こいつもタダものじゃ・・・っておい!何人か見た顔があるぞ。

シスター風のというよりシスター服を着た金髪の人メーヤさんだし

 

目が会った瞬間手を小さく振ってきたので軽く手を挙げておいた。

「先日はうちのココ姉妹がとんだご迷惑をおかけしたようで陳謝いたします」

恭しく謝ってきたのは糸目の男。

丸メガネをかけ中国の民族衣装に身を包んでいる。

「直接お会いするのはいつぶりですかね土方さん?」

「覚えてねえよ。てめえの記憶に聞きやがれ」

ランパンの人間らしい男と土方さんの間に見えない火花が散っている。

そこから離れた場所えは黒い影がうごめいていてそれが集まり人型になる

「お前達がリュパン4世と共にお父様斃した男か。信じられないわね」

理子の甘ロリとは違う黒と白のゴシックロリータ―。

蝙蝠のような黒い翼に金髪をツインテールにしたそいつは・・・

「ヒルダか・・・」

ルーマニアで捕まった時数えるほどだが見ている。

あの時の面影もあるしな。

まあ、見るまで忘れていたわけだが・・・

「下賤な猿が高貴なドラキュリアの私の名前を呼ぶことを許した覚えはなくてよ」

「私は構いませんの」

スゥとヒルダの後ろから現れたのは・・・

「ぅ・・・ローズマリー・・・」

銀髪に赤い瞳。

にこりと天使のような笑みを浮かべる少女はヒルダと似たゴシックロリータ―の服のスカートを少し持ち上げる。

「お久しぶりですの優希。流石にあの、緋刀は死ぬかと思いましたの」

「はっ、そのままくたばればよかったんだがな」

「まあ、冗談がお好きですのね」

そうかそうか、生きていてくれたわけか・・・

お前を逮捕する目的が消えたわけじゃなくて良かったぜ。

「趣味の悪いこと」

ヒルダがローズマリーを見て言った。

「お姉さまに言われたくありませんの」

「お姉さま?」

キンジが小声で言った。

忘れてたがこいつら姉妹なんだよな・・・

姉がヒルダで妹がローズマリーという・・・

で、ブラドがお父さん

「・・・」

自然と右手が刀に伸びる。

「仕掛ける出ないぞ遠山の、椎名の。今宵はまだじゃ。わしも大戦は86年ぶりで気は立つがの」

その声に横を見ると梵字が書かれた藍色の和服を着たアリアより小柄の女の子だった。

頭からは猫耳・・・いや、キツネ耳がぴょこんと生えている。

再び周囲を見回すとやはり、異常な連中が多い。

3メートルはあろうかという現代的な鎧に身を多い手にはガトリング砲、肩にはミサイルランチャを装備している。

あれはPADか?少し、似ている気もするが京菱以外が開発していてもおかしくはないだろう。

次に目を向けたのが黒いフードにとんがり帽子に肩にはカラス。

 

うわぁ・・・多分、あれ魔女・・・魔女連隊のカティだ・・・

直接顔を見るのは久しぶりだが・・・

次はトレンチコートを着て長剣を背負った仮面の存在、。

虎島模様のネコ科動物の毛皮を服にした原始人みたいな女の子。

イヤホンから聴く音に乗ってコキコキ体を慣らしている奴は・・・

こいつもどっかで見たような・・・駄目だ思い出せん

それと、なんだこいつは?みすぼらしい老人がぼろぼろの黒い服でぶつぶつと何か言っている。

その目線の先は土方さんか・・・この人も敵多いからなぁ・・・

「ねぇ」

トントンと背中を叩かれたので慌てて振り返る。

まるで、気配を感じなかったぞ

そこにはひょっとこというふざけた仮面をつけた小柄な存在がいた。

ウェーブのかかった長いさらさらの金髪から女の子ということは分かるんだが・・・

「椎名の後継って君?」

「まぁ・・・そう呼ばれてるが後継者は俺じゃなくてあいつだぞ」

と俺は反対側にいたので声をかけていない鏡夜を指差した。

その隣には控えるように椎名の家の姉さんを除けば最強クラスのRランク月詠が控えている。

「お飾りに興味はないよ。私は実力と実績を重ねたものを評価してるんだ」

そう言ってひょっとこはキンジを見ると

「もちろん、遠山家の次男、キンジ君も評価しているよ」

「そりゃどうも」

キンジはそっけなく言い周りを油断なく見渡している。

「バスカービルか・・・次世代も面白そうな相手がいそうだな」

 

ひょっとこはレキを見上げてからとんとんとジャンプしながら俺達から離れていった。

その時、きらきらと砂金が舞うのが視界に入る。

霧の向こうから現れたのは

「ホホホ、椎名の後継。トオヤマキンジ。久しぶりじゃの」

砂礫の魔女パトラと・・・はーいと手を挙げているのはカナさんか・・・

でかいスコーピオン展開してるな。

防弾ロングコートに編み上げブーツというこれも重武装だな。

これだけの面子なんだ。

「あれ?」

「どうした優?」

「いや、姉さんいそうな感じなんだけど・・・」

見当たらないな。

土方さんを見ても何も言わないし。

「では始めようか」

ジャンヌが司会者らしく話し始める。

「各地の機関・結社・組織の大使達よ。バンディーレ。イ・ウー崩壊後、求めるものを巡り、戦い、奪い合う我々の世が次へ進むために」

俺の人生なんて結局こういうものなのかもな・・・

アリアに会っていろいろあったがとりあえず覚悟しておこう。

俺は周りを見渡す。

幸いして味方はこの場に多い。

なるようになるしかないか・・・

 

 

 




さあ始まりました。宣戦会議!
原作にはいない勢力!
日本裏社会も本格的に参戦!
公安0は原作では参加してないので考えがあります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第214弾 宣戦会議前編ー交差する因縁

「宣戦会議に集いし組織、機関、結社の大使達よ。まずは、イ・ウー、ダイオ・ノマドのジャンヌダルクが敬意を持って奉迎する」

霧の中に映し出された異形の中でジャンヌが言う。

しかしまぁ・・・

俺はこの状況においてもそれなりに冷静さを失ってはいなかった。

知り合いもいるということもあるがどうしようもないし流れに任せる

必要があった。

知り合いがいる以上簡単に逃げ出すわけにはいかない上に逃げることすら困難だ。

「・・・」

ローズマリーを見ると奴はにこりと微笑んだ。

妖艶という言葉が似合う。

因縁すらなければこの場にいる存在の中でもトップクラスの美人ではある。

装備が整ってない状態で出来るなら戦いたくない。

とりあえず、味方の確認をしておこう。

ジャンヌ、レキ、土方さん、信冬、キンジ、メイヤさんは確実に味方だ。

どっちかわからないのはこの狐耳の・・・あれ?

ああ、いや分かった。

後は分からん。

敵か味方かを確定することができない。

カナさんはキンジの兄だがパトラと現れたところを見ると味方か怪しいとこだし

後の面子は判断がつかん。

一瞬即発って状況でもあるのかもなこれ・・・

「初顔のものもいるので、序言しておこう。かつての我々は諸国の闇に自分達を秘しつつ各々の武術、知略を継承し求めるものを巡り奪い合ってきた。イ・ウーの降盛と共にその争いは休止されたが・・・イ・ウーの崩壊とともに再び砲火を開こうとしている。

ジャンヌが再び口を開いた。

なるほど、なんとなく分かった。

各組織は抑止力となっていたイ・ウーが崩壊したせいで再び争おうとしているわけだ。

俺は、椎名の家の人間だがこう言った裏社会の矢面に立ったことはない。

おそらくは母さんや月詠辺りが代理で動いていたんだろうな・・・

俺はそういう裏事情に本格的に関わる前に家から出たわけだが多分ここにいる全員姉さんを通して関わってそうだな・・・

メーヤさんと会ったのも姉さん関連だし世界中でいろんなことしたからなぁ・・・姉さんと

「皆さん。あの戦乱の時代に戻らない事情はないのですか?」

金色の刺繍が施されたローブを着て柔和そうなどこか艶のある甘い声青い目に金髪、泣きほくろが印象的なメーヤさんだ。

姉さんがあれだがからお姉ちゃんってあんな人が超理想だったなぁ・・・初めて会った時・・・

それに、背中に背負ってる巨大な剣にすごい違和感感じる。

「バチカンはイ・ウーを必要悪として許容しておりました。高い戦力を保有するイ・ウーがどの組織と同盟するか最後まで、沈黙を守り続けた事で一部の例外を除き誰もがイ・ウーの加勢を恐れてお互いに手出しせず。結果として長期にわたる休戦を実現できたのです。

その尊い平和を保ちたいと思いませんか?」

メーヤさんは両手で十字架を握りしめて言った。

この場合姉さんは例外だな・・・

あの人死んだふりしてたことを除いても世界中でいろんな組織と戦ってたし・・・

「私はバチカンが戦乱を望まぬことを伝えにこの場に参ったのです。平和の体験に学び、皆さんの英知を持って和平をなし、無益な争いを避けることは・・・」

「出来るわけねえだろメーヤ、この偽善者が」

メーヤさんの斜め後ろから声をはさんだのは最初から彼女を睨んでいた・・・カツェ・グラッセか・・・黒いローブが本当に魔女みたいだ。

14歳くらいのおかっぱ頭の黒髪で目に付けた眼帯は確かナチスドイツのハーケンクロイツの卍みたいな形だな

左目の色は赤色か・・・

「おめぇらちっとも休戦してなかっただろうが。デュッセルドルフじゃあたしの使い魔を襲いやがった癖に平和だぁ?どの口がほざきやがる?」

「黙りなさいカツェ・グラッセ。この汚らわしい不快害虫」

相変わらずというかこの豹変ぶりは変わってない・・・

 

 

「お前達魔性の者どもが別です。存在そのものが地上の害悪。殲滅し、絶滅させることになんの躊躇もありません。存在させておく理由が旧約、新約、外典含めて聖書のどこにも見当たりません。しかるべき祭日に聖火で黒焼きにし、屍を八つに折りそれを別々の川に流す予定を立ててやってるのですからありがとうといいなさい。ありがとうと。ほら、いいなさいありがとう。ありがとうと」

怖いよメーヤさんその二重人格ぶり知らなかったら多分お姉ちゃんのままだったよ呼び方・・・

カツェの首を絞めて叫ぶメーヤさんはさながらヤンデレだ。

デレのないな・・・

「ぎゃはは!おうよ戦争だ!待ちにまったお前らとの戦争だぜ。こんな絶交のチャンス逃せるかってんだ! なぁヒルダ」

「そうねぇ。私も戦争大好きよ。いい血が飲み放題になるし」

金髪ツインテール。

ブラドの娘のヒルダが言う。

「椎名も同様だ。魔女連隊には本家を襲撃された借りもある」

そう言ってヨーロッパ勢に口を開いたのは鏡夜だ。

だが、カツェはにいいとして俺を見てきた。

こっちみんな!

「そういや、連隊の馬鹿がお世話になったそうだな椎名」

ドリスのことか・・・木偶人形を操って散々苦しめられたあの魔女はすでに殺されている。

「こっちみんな。話しかけたのは鏡夜だろうが」

「あん? それがどうした?」

勘弁してくれ。どうやら、こいつらというか少なくてもカツェの中では俺は椎名の代表みたいになってるぞ。

「椎名の後継者は俺じゃねえ。鏡夜だ」

「カツェ・グラッセ」

 

俺が言う後に静かな声が響く。

そちらを見ると月詠か・・・

長い黒髪に和服という戦闘に向いていないと思う服装の彼女は秋葉の上司で近衛最強。

日本で、指折りのRランクだ。

「この場においての椎名の代表は鏡夜様です。認識しなさい」

「ふーん」

カツェはちらりと鏡夜を見てから興味を失ったみたいに視線を反らした。

鏡夜めちゃくちゃ怒ってるぞ・・・

というか完全に舐められてるじゃねえか・・・

月詠が発言しなかったら見向きすらされなかったかもしれない。

「和平とおっしゃいましたがメーヤさん?」

のんきな声で口を挟んできたのは中華服を着た丸メガネの優男だ。

シンみたいな糸目だな・・・

多分・・・

「それは非現実というものでしょう。もともと我々には長江のように長きに渡り黄河のように入り組んだ因縁や同盟のよしみがあったのですからねぇ」

そう言って男は風車の上のレキ、続けて土方さんを見る。

レキは黙ってドラグノフを抱えているし土方さんははっと息を吐くと

「珍しく意見が会うじゃねえか諸葛静幻」

好戦的な目で土方さんが言う。

「いえいえ、公安0・・・というより鈴・雪土月花のチームにはいろいろと痛い目に会わされてましたからねぇランパンは」

「できることなら私達も戦いたくありません」

 

 

そう口を開いたのは信冬だ。

一同の視線を受けても堂々と武田の当主としての言葉を口から出す。

「ですが、シャーロック・ホームズが居なくなり、イ・ウーという抑止力を失った以上、戦乱え私たちが激突することは避けられない。だから、この宣戦会議もシャーロックが生きていた時に開催が決められていた。各大使達、私たちは戦うことを避けることはできない。そういうものです」

結果的にだが・・・シャーロックを排除した以上俺らも無縁とはいかないだろうなぁ・・・

頭突きをかましてシャーロックに勝ったキンジもだし、俺は椎名の家と人脈関連から多分、強制参加か・・・

「では、古の作法に則り、まず三つの協定を復唱する。86年前の宣戦会議ではフランス語だったようだが。今回は私が日本語に翻訳した事を容赦していただきたい。第一項。いつ何時。誰が誰に挑戦することも許される。戦いは決闘に準ずるもとするが、不意打ち、闇打ち、奇術の使用、密偵、侮辱は許される。第二項、際限無い殺戮を避けるため、決闘に値せぬ雑兵の使用を禁ずる。これは、第一項より優先される」

ジャンヌの説明を聞きながら頭の中で整理する。

ようは、現在の戦争みたいに大量の兵士を動員して戦うのではなく一部の戦闘員が決闘方式で戦うということだ。

椎名の家で言うなら一部の近衛と月詠、鏡夜・・・まあ、俺もかな?が敗れた時点で敗北ということになる。

総力戦よりは犠牲も減るから悪い話じゃない。

「第三項.戦いは主に『師団(ディーン)』『眷族(グレナダ)』の双方の連盟に別れて行う。この盟名は歴代の烈士達を敬う故、永代変わらぬものとする。それぞれの組織がどちらに所属するかはこの場での宣言によって定められるが、黙秘、無所属も許される。宣言後の鞍替えも禁じないが誇り高き各位によりそれに応じた扱いをされることを心得よ。続けて連盟の宣言を募るが・・・まず、私達イ・ウー、ダイオ・ノマドは師団となることを宣言させてもらう。バチカンの聖女メーヤは師団。魔女連隊のカツェ・グラッセ。それとドラキュリア・ヒルダは眷族。よもや鞍替えはないな?」

ルールは以上らしい、ジャンヌがメーヤさん達に話しかける。

「ああ、神様再び剣を取る私を御許しください」

メーヤさんは十字を目の前で切って

「はい、バチカンはもとよりこの汚らわしい眷族共を伐つ師団。レギオ・ディーンの始祖です」

白い手袋をした手でカツェ達を指差す。

 

「ああ、あたしも眷族だ。メーヤと仲間になんてなれるかよ」

「聞くまでもないでしょうジャンヌ。私は生まれながらにして闇の眷族――眷族よ。ローズマリーあなたもでしょう?」

「黙秘いたしますわ」

「黙秘するということは中立という立場になる。それでいいのだな?」

ジャンヌが聞くとローズマリーは頷いた。

「ええ、ですが眷族よりの中立と思っていただけると幸いですのああ、でも」

ローズマリーは俺を見てくる。いつもの笑顔で

「優希が私のものになっていただけますなら師団でもよろしいですの」

「笑えねえ冗談だなローズマリーてめえなんかと仲間になることはねえよ」

メーヤさんがカツェを敵視するように俺はこいつを敵視する。

「残念ですの」

ローズマリーは人差し指を唇において物欲しそうにして言った。

「玉藻。あんたは眷族でしょ?」

ヒルダはローズマリーの返答を予想していたらしく続けて狐耳の少女に声をかける。

「すまんのぉヒルダ。わしは今回師団じゃ。未だ仄聞のみじゃが、今日の星伽はキリスト教会と盟約があるそうじゃからの。パトラ、お主もこっちゃこい」

「タマモ。かつて先祖が教わった諸々のこと、妾は感謝して居るがのぅ。イ・ウーダイオの優等生には私怨もある。イ・ウーイグナティスは眷族じゃ・・・ああ、お前はどうするんじゃカナ?」

 

 

「創世記41章11『同じ夜に夢を見たが、そのどちらにも意味が隠されていた』―私は個人でここに来たけどそうね。無所属とさせてもらうわ」

「そうか。それが道理なんじゃろうなぁ」

しょうがないなぁという感じでパトラの額をつついてパトラが赤面している。

カナさんは無所属か・・・

キンジの方を見てみるがキンジも複雑そうな顔してるな。

「ジャンヌ、リバティメイソンも無所属だ。しばらく様子を見させてもらう」

そういうのはトレンチコートを着た男だ。

リバティーメイソン・・・あいつは来てないのか・・・

「LOO」

ん?さっきのロボットみたいな奴か?

「LOO LOO」

日本語でしゃべれ何言ってるんだ?

PADもどき?ロボットもどき?ああ、LOOでいいやもう。

「LOOよお前がアメリカから来ることは知っていたが私はお前のことをよく知らない。意思疎通の方法が分からないままであればどちらの連盟につくか無所属とさせてもらうがいいな?」

「LOO」

とそうだと言わんばかりに姿勢を変える。

自律型じゃなくて中に人間が入ってるのか?大きさ的には入れそうだが・・・

「ジャンヌ。椎名は師団だ。それが昔からの盟約」

鏡夜の言葉にジャンヌは頷いた。

ジャンヌには無視されてないな鏡夜・・・

 

「同じく武田は師団を宣言します。私達武田も古の盟約を順守します」

信冬も師団かこいつは心強い

「主戦場になる日本での公安0は中立だ。基本的に公安0はこの戦役には不介入を宣言する」

土方さんは中立・・・そりゃそうか・・・国家として公安0がこんな戦いに出ることはできないんだろう。

「だが、お前らがこの国で悪事を働くのなら容赦はしねえ。それは、師団だろうが眷族だろうが関係ねぇ。全員、公安0が潰す」

その殺気は数々の死線をくぐってきた土方さんだからこそ出せる殺気だ。

さすがだな

「それと、俺は公安0としてではなく鈴・雪土月花としての参加を宣言する。所属は中立だが師団よりだと思ってくれていい」

「眷族!」

土方さんがしゃべった直後一際大きな声がその場に響き渡った。

見るとぼろぼろの黒い服を着たじいさんだ。

じいさんは血走った眼で土方さんをぎろりと睨んで

「誰にも手出しはさせん・・・土方歳三だけはわしが殺す」

怨霊という言葉が思い浮かぶ。

なんなんだあのじいさんは・・・狂気じみた殺意もそうだが土方さんへの憎しみ方が半端じゃない。

「あんたは・・・」

土方さんは何かを言いかけたが続けずに黙る。

「許さんぞ土方!貴様だけは・・・貴様だけは・・・」

 

 

信冬は何か知っているらしくそちらと土方さんを見てから言う。

「北条は眷族ということらしいですジャンヌさん」

北条?確か、椎名と武田に並んだ日本の裏社会の武家だったはずだが何年か前に滅びたと聞いたが・・・

「土方ぁ・・・お前さえ・・・お前さえ・・・」

ぶつぶついってたのは土方さんへの恨みごとか・・・相当な恨みを買っているようだな・・・

「―眷族なる!」

そのじいさんの後ろで元気な声をあげたのは虎島の毛皮を着た10歳くらいの女の子だ。

自分より大きな斧をぶんと振り回さなかったら場違いとしか言えないぞ・・・

200・・・いや、300はあるかあれ?しかも片手で・・・

「―ハビ眷族!」

一瞬見えたが角みたいなのが頭に見えた。

なるほど、あいつも化け物系か

「遠山バスカービルはどちらにつくのだ?」

とうとう、来たか・・・いつか、聞かれるんじゃないかと流れ的に思ってたが・・・

ジャンヌの言葉にキンジが慌てている

「な、なんだ?なんで俺に振るんだよジャンヌ」

「お前はシャーロックを倒した張本人だろう?」

間違えてはいないよな。俺は戦いはしたが倒したのキンジだし

「い、いやあれはどっちかつーと流れでアリアを助けにいったらたまたまシャーロックが居たっていうか・・・」

「この宣戦会議にはお前の一味。最近、バスカービルという名前がついたがそのリーダーの連盟宣言が不可欠だ。お前たちはイ・ウーを壊滅させ私たちが再び戦わせる口火をきったのだからな」

「ま、待てバスカービルってあれは学校にだした。ただの、学生武偵のチームだぞ!お前らみたいな連中とは違う!それに、俺はリーダーと言っても名前を貸してるだけの・・・」

「遠山やったのだ。やったのならその責任を取れ。男だろう」

「ふざけんな!おい、優お前もなんとかいえ」

俺に振るのかキンジ・・・

「バスカービルのリーダーはキンジだろ?俺リーダー向きじゃないし」

しれっと言ってやる。

どうせ、俺はもう逃げられないから巻き込んでやろう。

まあ、俺が何もしなくても逃げられないんだろうが・・・

「どうしろっていうんだ!」

「師団か眷族生き残れそうな方に付け」

ジャンヌが言った時俺は少しだけ慌てて

「眷族はないぞキンジ。敵だらけだし味方が全員敵になる」

信冬やメーヤさん達と戦いになると思うとぞっとする

「お・・・い・・・」

キンジは何も言い返せずに口をぱくぱくしている。

「フフフ、優希とセットなら歓迎しますの」

とローズマリーがキンジを勧誘してくる。

 

「冗談が好きねローズマリー。聞くまでもないでしょ?遠山キンジ、椎名優希。お前たちは師団それしかありえないわ。お前たちは眷族の偉大なる古豪。ドラキュラブラド。お父様のカタキなのだから」

キンジが迷ってる。

となると俺がいうしかないのか?中立という手もあるができれば味方が多い師団がいい。

それをキンジに言おうとすると

「それではウルスが師団につくことを代理宣言させていただきます」

レキ・・・

「私個人はバスカービルの一員ですが同じ師団になるのですから問題ないでしょう。私が大使代理になることは既にウルスの許諾をいただいています」

レキがそこまで言った時諸葛静幻がにやりと笑い

「ランパンの大使諸葛静幻が宣言しましょう。私たちは眷族。ウルスの蕾姫、椎名の後継には先日ビジネスを阻害された借りがありますからねぇ。では、あなたはどうしますかGⅢ」

俺の意思無視しやがってとキンジの声が聞こえてきたがとりあえずそのGⅢの方を見る。

「詰まらねえことを聞くな。答える気もねえ」

「では無所属ということになるがいいんだな?どちらかに属せば少なくても今いる我々の半分は敵にならずに済む」

ジャンヌの言葉にジ・サードはぺっと脇に唾を吐いて

「敵だぁ?笑わせんな。今、最近てめえらの周りに強そうなのが出てきてるから様子を見に来ただけだ。この中で俺が戦いたい奴は1人だけだな」

そう言ってジ・サードが見たのは・・・

やはり、月詠か・・・俺の知る限りRランクはこの中では・・・ん?ジ・サードっていやまさか・・・

「Rランク1度殺ってみたいと思ってた」

 

「あらあら、困った子ね」

月詠はにこにこしながら薙刀をひゅんと振りかぶる。

にらみ合いが少し続き

ジ、ジジジと蛍光灯の切れかけみたいな音と共にジ・サードの姿が消えていく。

「言ったろ。今日は様子見だ。いずれまた、くるぜ」

見る間に半透明になり消えてしまった。

今思い出したがジ・サードはRランクだったはずだ・・・

Rランク対Rランクなんて事になってればタダじゃ済まなかったかもしれない・・・

「下賤な男。殺す気も失せる」

夜なのに日傘をさしたヒルダが言う。

「ねえねえ。希ちゃんはこないの?」

またか・・・再び気配も感じさせずにう後ろに回り込んだひょっとこのお面。

しかし、希ちゃん?

「姉さんは来るか分からないけど・・・」

なんとなく俺は空を見上げた。

ほとんどの組織が連盟を選んだタイミング。

あの人が来るなら

ドオオオオンと地面が爆発するような音と共に誰かがいきなり俺達の前に降り立った。

何の前触れもなく・・・

「ハハハ!」

と笑いながら豪快に現れたのは世界最強の姉さん。

「あら、希ったら豪快ね」

とカナさんが笑ってるのをちょっと見てから俺は姉さんに声をかける。

「いつもながらに突然だね姉さん」

だがまあ、分かるんだよな・・・この場にいる全員が最大限の注意を姉さんに向けた事を・・・

アメリカ軍を壊滅させた・ソ連軍の侵攻部隊を壊滅させてソ連を崩壊させた。

ヤマタノオロチを蹴飛ばした。

世界を救った。

本当に数えればきりがないこの人の最強武勇伝は一部を除いて真実。

真のバグ的存在の姉さんは宣戦会議にどんな影響があるのか・・・まあ、見守ろう。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第215弾 宣戦会議後編ー砕けた殻金

「希ちゃんだぁ♪」

姉さんから見えない位置にいるひょっとこの仮面が喜んだように言った。

この場にいる全員ど真ん中に現れた姉さんに視線が釘付けになっている。

「やっときやがったか」

土方さんが言った。

やっぱり、来ることを知ってたのか・・・

まあ、こない方が不自然だもんな

「どうやら、全員揃ったようだな。水月希。事情は分かってるだろう?あなたの、立場の表明は必要不可欠だ。師団か眷族どちらか。あるいは、中立か」

ジャンヌが姉さんを見ながら言った。

「うーん」

姉さんは値踏みするように丁度別れている師団を表明した組織と眷族を表明した組織を見比べる。

そして、ローズマリーと目があった。

ローズマリーは微笑を崩していないが内心はどうだろう・・・

ヒルダや他の連中もいい顔はしてないな・・・

バチッと火花が一瞬散った気がしたが姉さんは次に俺を見てきた。

その目は味方になってほしいだろ?と言っている気がする。

ぜひ、お願いします!

姉さんが仲間になるなら土下座だってするよ。

「ジャンヌ私は中立だ」

その瞬間、眷族サイドからは心底ほっとしたような空気を感じた。

反面、師団側からは残念そうな空気流れたが・・・

「ただし、どちらかと言えば師団よりということは覚えておくんだな」

絶望的なまでの戦力差があるだけに眷族側はこの場で負けを認めたりしてと思ったが不思議と眷族側はそれ以上に空気が変わることはなかった。

どういうことだ?中立とはいえ姉さんが敵になるかもしれないのに・・・

「ホホホ、水月希。遠まわしに眷族に降伏でも勧めているのかしら?」

ヒルダが日傘をくるくるとまわしながら言った。

「ブラドの娘のヒルダか?別にそうはいってない。私は中立だからな」

「全世界のRランクが束にかかっても勝てる可能性はないと言われてるだけに厄介ですの」

そう言ったのはRランクでもあるローズマリーだ。

そう、正直な話敵のサイドにどれほどの戦力があろうが姉さんを除いてもこちらには明確な味方のRランクが1人いる。

おまけに姉さんも師団よりとなれば戦力が師団に集中し過ぎている。

戦いは質だけじゃないが総力戦でない以上この点はでかい。

眷族は何かを隠しているのか?

「何か切り札でもあるんだろ?見せてみろ」

姉さんが言った瞬間俺の後ろからすっとひょっとこの仮面の少女が金髪ウェーブを揺らしながら前に進み出た。

姉さんの視界に入りながらジャンヌに向かい

「私の組織は眷族に入るよ」

「・・・」

姉さんはその仮面の少女を見ているが特に何も言わない。

「さてと、これで全部済んだね」

ひょっとこの仮面は右手で仮面を外した。

ライトの光できらきら光るウェーブのかかった金髪。

典型的な西洋人のイメージが具現化したような存在。

あの子は確か東京駅で・・・

姉さん?

「・・・」

あの姉さんが何も言わない前みたいに切れるのかと思ったが・・・

「なっ・・・」

声の主は土方さんだ。

少女を見て土方さんが驚愕している。

知り合いか?

他にも何人か・・・月詠も驚いたような顔をしてる。

「初顔も多いから先に言っておくね。私はアズマリアじゃなくその娘だからママのやったことで恨まれる筋合いはない」

アズマリア・・・聞いたことがある。

俺が生まれて間もない時代、最低最悪の魔女として大アルカナという組織を率いて裏の世界で暗躍し人類滅亡寸前まで追い込んだ。

とはいえ、このことは表裏の両世界でも限られた人間しか知らないことだ。

俺も断片的に姉さんや土方さんに聞いだけだからな。

姉さん達の高校生時代最後の年、その事件に挑み姉さん達は仲間の1人を失った。

あの金髪の子は娘らしいが姿はどうやら、本人に容姿は瓜二つということか・・・

「世界を滅ぼそうとしたママは鈴・雪土月花の水月希に確かに殺された。この姿は遺伝なんだ。私の一族では女は1人しか生まれず姿は母親と瓜二つになる。どんな男の遺伝子を組み合わせてもね」

年齢は多分、俺達と同じか少し下くらいか?

「その証拠がどこにある!てめえの姿は忘れねえ!」

土方さんは刀に手をかけるが抜かない。

最後の最後で自制している。

「歳、こいつはアズマリアじゃない。私が前に確認した」

前に確認・・・そうか、東京駅で遭遇した時のことか?

「なんなら、ステルスで調べてみる?歳さん?」

少女は手を後ろに組んで笑って言った。

「いや・・・」

土方さんは刀から手を離して少女を見ながら

「希が言うんだ。それが事実なんだろう」

「分かってくれてうれしいなぁ」

「・・・」

土方さんはまだ、完全には納得してないようだがとりあえず話に決着はついたようだ。

場に沈黙するとジャンヌが口を開いた。

「では、最後にこの闘争は・・・宣戦会議の地域名を元に名づける慣習に従い極東戦役―FEWと呼ぶことを定める。各位の参加に感謝と武運の祈りを・・・」

「じゃあいいのね?」

ジャンヌが言い終わるより前にヒルダが口を開いた。

「・・・?―もう、か?」

「いいでしょ別にもう始まったんだもの」

「待て今夜は戦わないと言ってなかったか?」

「そうねぇ。ここはあまりいい舞台ではないわ。高度も低いし天気もいまいちよ。でも、気が変わったの。折角だしちょっと遊んで行きましょうよ」

そうですよね・・・これだけの面子揃って何にも怒らないなんて考え甘すぎたわけだ。

ヒルダとジャンヌに見られている現状。

「逃げるぞキンジ。こんなとこいたら命いくらあっても足りねえよ」

小声でキンジに言う。

「賛成だ」

とキンジが冷や汗をかきながら言った。

とはいえ、簡単には動けない。

こんな入り乱れた場所で背中を見せるのは危険すぎる。

「先手行くよ!」

声の方を見ると最初に動いたのはあの金髪の少女だ。

向かった先はなんと姉さんだ。

拳を振りかぶりそれを姉さんに叩きつける。

ドオオンと姉さんがやる時のように爆音がして姉さんが2歩後退する。

「一の太刀水神!」

少女の手に突然、水色の刀が現れた。

刀は周囲の海から水分を吸収しているのか?

「よいしょ!」

圧縮された水の剣になったものを少女は姉さんに向けて振りかぶった。

それは水滴となりチェーンガンのように嵐のような水滴を姉さんに向けて放つ。

あれは、沖田が使ってるの見た事あるぞ。

鋼鉄の塊でも粉砕する超圧縮された水だ。

「おおっと!」

姉さんはそれをなんなくかわしていく。

そして、その一発が姉さんの真横を通り過ぎ地面に直撃した瞬間、爆音と共に空き地島に穴があいた瞬間、少女が水の刀を手に姉さんに切りかかった。

一瞬見えたが水の刀身は恐ろしく細くなっている。

脳裏にダイヤモンドでも切断するウォーターカッターというものを思い出した。

「姉さん!」

思わず叫ぶが

「なるほど、やはりあの女の能力は遺伝してるのか」

姉さんはそういうと水の刀を自分の刀で受け止めると水の剣は無散し、消滅した。

姉さんの刀、震電は紫電と似ており、更に高等の力がある。

「あれ?」

少女が首をかしげる。

姉さんが刀を抜いたのを直接見るのは久しぶりだ。

中東のRランクと戦った時以来かもしれない・・・

それほどの相手かあの子は・・・

「白羽取りしてくれると思ったのになぁ・・・」

少女が口元をゆるめて言う

「そうすれば感電してたんだろう?」

姉さんが言うと少女はぱっと離れると放電している剣を手に笑った。

稲妻の剣か?

「半分正解」

ぺろりと少女が舌を出した瞬間、姉さんの肩から血が飛び散った。

「三の太刀風神」

名前からしておそらくは風の剣。

超高速の斬撃を姉さんを切ったのだろう。

「ほう」

姉さんは傷口を見て刀を構えなおす。

同時に傷口がふさがっていく。

「それ卑怯だなぁ」

少女が姉さんの回復のステルスについて文句を言っているがあれを見て戦意喪失しない奴初めて見た。

姉さんと少女は空に飛び上がり戦いは続くが俺は周りにも気を配らないといけなかった。

全員が一斉に行動を始めたからだ。

その瞬間、俺が見えた光景をざっと言えばあの黒いぼろぼろの服を着た老人が恐ろしい形相で

「土方ぁ!」

と飛びかかる。

「ちっ!」

舌打ちする土方さんだが、俺もそれ以上そっちに意識を向けていられない。

「椎名、遠山逃げろ!30秒は縛る!」

影に入ったヒルダにジャンヌはデュランダルを突き立てるがその影縫いは不完全らしく影は動いている。

「加勢しますジャンヌさん!」

信冬がジャンヌの方に走り手に持ったお札を放るとそれは空中で分解し針のようにヒルダの影に突き刺さると動きが更に鈍った。

「まだ、動きますか」

 

信冬は更ににお札を取り出そうとしている。

「ぼっちゃま、遠山様。ここは、危険です。そろそろ、お帰りになったらどうでしょう?」

背後からいつの間にか回り込んだ月詠が言った。

キンジがびっくりしたというように月詠を見るが俺は特には驚かない。

「鏡夜は?」

「すでに、退避していただいてます」

確かに、今日は様子見という点が強いのだろう。

そういう意味では・・・

「よし、月詠お前のステルスで・・・」

と俺が言いかけた時だった。

ドルルルというエンジン音が海の方から聞こえてくる。

この場の組織の連中も戦いを中断しその音の方向を見ている。

誰だ?

空き地島南端にボートをつけた音がし上がってきたのは・・・

「SSRに網を張らせといて正解だったわ! あたしの目の届くところにでてくるとはね。その勇気だけは認めてあげる!そこにいるでしょ!パトラ、ヒルダ」

んげ!アリア!なんで、来たんだ!い、いや理由は分かるんだがまずいぞ

「イ・ウーの残党セットで逮捕よ! 今月のママの裁判にギフトができたわね」

「優希!遠山!神崎を下がらせろ!」

土方さんが猿のように軽快に切りかかる老人と戦いながら怒鳴った。

「LOO」

ぎゅいんとLOOが動いたのを横目に俺が口を開くより先にアリアがガバメントを抜き放つ

「手下を連れてきたのね!? キンジ、優!いるなら援護しなさい!」

銃弾数発が風車のプロペラに辺りもろくなっていたのか羽の1枚がLOOに向けて落下する。

「LOO!」

LOOは避けようとしたのかどうか知らんが上を向いた瞬間、数tあるプロペラに押しつぶされた。

はいつくばるような無様な格好になっているが起き上がれないようだな気の毒に・・・

「あらあら」

月詠も後ろで右手を口に当てている。

「来ましたの」

そう言ってアリアを見たローズマリーに俺は嫌な予感を覚える。

「月詠! 俺たちはいい。ローズマリーを抑えてくれ!」

悔しいが準備不足でローズマリーと戦いたくない。

ステルスに圧倒的に優位に立てる紫電がない以上、この混戦状態で月詠しか、ローズマリーと渡り合える戦力がないのだ。

「かしこまりました」

月詠はそういうとローズマリーの前に現れると薙刀を構える。

「ぼっちゃまの命令です。止めさせていただきます」

「椎名の近衛。邪魔ですの」

ローズマリーは不機嫌な顔になり、ごぅと周りに青い炎が巻き上がった。

銀色の髪が揺れ赤い瞳が妖艶に輝いた。

「参ります」

2人の戦いが始まった。

空中に飛び上がり蒼い炎が連鎖的に爆発し夜空を照らす。

「あは!あはは!きたきた!」

どたどたとガニ股でぐるぐる回っているのはハビだ。

潰れたLOOを爆笑するカツェにメーヤさんがそーと回り込んでよいしょっと巨大な十字剣を振り上げ。

「厄水の魔女打ち取ったりぃ!」

と情け容赦なくカツェの脳天に叩き落とす。

だが、カツェも気づいていたようで柏葉の彫刻とダイヤモンドで飾られた西洋剣で切り結んだ。

「あー、メーヤ。お前本当に死なないと治らねえなそのアホさ」

メーヤさんの十字剣が地面に落ちて突き刺さる。

重いんだよなあれ・・・

「お、大人しく切られないとは・・・ああ、神よ。この者の罪をお許し・・・いえ、許さなくて結構です。神罰代行謹んで務めさせていただきます!」

息を切らしながら剣を下段に構えるメーヤさんだがカツェはぱしゃんと水を2人の間に弾けさせてそれを目くらましに距離を取るとローブの中から拳銃を取り出してメーヤさんに発砲するが9メートルほどの距離でも当たらない。

直接、教えてもらったわけではないがおそらくメーヤさんには銃は効かない。

「チッ、やっぱり駄目かよ。とことん運のいい奴だな」

カティが俺の考えを補足してくれるようなことを言っている。

カティは銃が意味がないと判断したのか短剣を取り出すとメーヤさんに突撃する。

その間にカナさんが割り込み鎌を使い互いの武器に上手く当てて2人を転ばしてしまった。

 

「お二人さん。もう、帰りましょ。ね」

キンジに目配せしてカナさんが霧の中に消えていく。

「キンジ!優!ジャンヌもいるの!?それに・・・どういう事?」

アリアがマガジンを入れ替えながらこっちに走ってくる。

「アリア!撤退だ!ここはまずい!見てわからねえのか!」

「キンジの言うとおりだ。とりあえず逃げようぜ」

「どうやら、そうらしいわね」

周囲を見回したアリアはオープンアームで銃を威嚇するように突き出し、一瞬Rランク達が戦っている空を見上げた。

「パトラはあんたのお兄さんと一緒みたいだしヒルダは逃げたみたいだし、優の知り合いも大暴れしてるみたいだし」

何?ヒルダが逃げた?

信冬達と戦っていた方を見ると影は見当たらない。

リバティー・メイソンの使者もいつの間にか消えている。

先ほど、アリアが倒したLOOの中から女の子が飛び出してきた。

潰れたPADもどきを見てるぅるぅと嘆いている。

なんか、かわいそうだな・・・

水着着たいな服を着た小さな女の子だし。

お、アリアを見て怒ってるぞ。

と逃げるのか?

水着のバッジをじゃらじゃらと・・・ってあれアメリカ軍の大佐の階級章じゃなかったかなぁ・・・

アメリカ軍には下手したら俺も恨まれてるかもしれないからこれは、ますます恨まれたかも・・・

「アリアさん!ヒルダはまだ、撤退していません!あなたはすぐに撤退を!」

信冬が駆け寄ってきてアリアに手を伸ばす。

「長距離の空間転移します。優希と遠山さんも・・・

「武田!後ろだ!」

「っ!?」

ジャンヌの警告は一瞬、間に合わずバチンと閃光がまたたき、信冬が崩れ落ちるように前によろめいた。

「信冬!」

俺はとっさに信冬を片手で支えながらとっさに抜いたガバメントを発砲した。

ビシュンと相手の肩をかすめた銃弾だが相手はひるんだ様子もなく

「ホホホ、油断したわね武田の姫」

ヒルダが勝ち誇ったように笑う。

ステルスが相手なら法化銀弾だが残念がら通常弾と武偵弾しか持ってない。

信冬を抱えながら後退するとヒルダの額が打ち抜かれた。

レキの狙撃だ。

ヒルダはにいいと笑いとぷんと水に潜るように影の中に消えた。

逃げた?いや、違う油断するな。

信冬を抱えたまま周囲を警戒する。

「優希!神埼を守れ!」

土方さんが戦闘を続けながら怒鳴った。

「アリア!」

俺が振り返った瞬間、アリアの影の中から出てきたヒルダがアリアの首を右手で掴んだ。

アリアは振りかえろうとするが首を掴まれているためできない。

「くそ!」

ガバメントを向けるがこの位置からじゃ・・・

それに、額を撃ち抜かれて生きてるとなると跳弾を使っても・・・

 

ヒルダは風車の上のレキと俺を見てから俺を見て

「バァーン」

と左手人差し指を伸ばし自分の額を打つ仕草をした

ここに紫電があればまた、違ったのかもしれないが・・・

「愚かな武偵娘にはお仕置きよ」

ヒルダは口を開くと緋色の金属をかぶせた歯でアリアの首筋にかみつこうとしている。

「やめろ!」

俺が怒鳴るのとヒルダがアリアの首にかみついたのは同時だった。

痛みにカメリアの目を見開いたアリア。

同時に、銃声と共にヒルダがアリアから離れた。

見ると土方さんが拳銃でヒルダをけん制したらしい。

反応からして法化銀弾を使ったのだろう。

だが、老人を倒したわけではなかったらしく土方さんは再び刀で老人と激突している。

「嫌な匂い。銀ね。でも、構わないわ。私は第一形態のままもう、殻を外せるなんて。ほほほ。おーっほほほほほ」

アリアは傷口を左手で押さえて致命傷じゃないことを確かめてからヒルダに銃を向けようとしたががくっとその場に膝をついた。

「毒か!」

キンジがアリアに駆け寄る。

「くそったれ!」

ヒルダがアリアから離れたので俺はデザートイーグルを引き抜くとヒルダに発砲する。

轟音と共に炸裂弾がヒルダに直撃したがブラドと同じと考えれば時間稼ぎにしかならねえ。

「キンジ!アリア連れて逃げるぞ!急げ!」

信冬をお姫様だっこで抱えて俺が立ち上がりキンジもアリアを抱えようとしたが

「待て椎名の!遠山の!」

足元に転がってきた手毬から玉藻の声が聞こえてきた。

「待たねえ!ここは逃げる!」

俺が怒鳴った瞬間、目に激痛が走った。

「ぐぅ・・・」

思わず片目を閉じてしまうがもう一方で俺が見えたのはアリアの体が発光している姿だった。

緋色の輝き・・・

そして、俺の内部から感じるのは緋刀の共鳴だ。

「いけない・・・」

意識を取り戻したらしい信冬が言った。

「なんだ、どういうことだ信冬」

今や緋刀の力が引き出されている俺が言うと信冬はまだ、ダメージがあるのか俺が下ろすとなんとか立ち上がり

「う・・・」

「おい!」

信冬を支えながら俺は何が起こってるのか判断できなかった。

≪これは、まずいね≫

スサノオか?どういうことだ?

≪紫電があればよかったんだけどどうしようもないね≫

どういう・・・

「アリア!大丈夫か!アリア!」

キンジがアリアの肩をつかんで声をかけているがアリアは無言のまま、キンジをぼーっとした目で見ている。

「ヒルダめ!殻金七星破りまで知っておったか」

「光栄に思いなさい。史上初よ。殻分裂を人類が目にするのは」

「優希!私はいいですからアリアさんから出てくる殻金の回収を!」

「殻金?」

信冬にそう言った時、アリアの体から発行していた緋色の光が四方に飛び散った。

そのうち2つは人間の姿に戻った玉藻、メーヤさんがアリアの中に戻すが残りが

眷族についた連中に飛んでいく。

「くそったれが!」

土方さんが諸葛に向かい銃を向けたが老人がそれを阻んだ。

「ひひ、ひひひひひ」

老人は舌打ちしている土方さんを見て笑いながら光の一つに手を取った。

「優希!あれを渡したら駄目です!」

「なんかよくわからんが分かった!」

立つのが精いっぱいの信冬から離れて俺は光を手に取ろうとしていた一番近くにいたハビに突撃する。

なまくらの日本刀で刺突に構える。

「きゃはは!」

ハビは俺が突撃捨て来るのにも慌てずに斧を振り上げた。

ぶおんと空を切る斧だが動きが単純なんだよ。

「それ返せよガキ」

構えを下段に変えてハビの手に向かい日本刀を叩き落とした瞬間、横から飛び出してきた誰かが手を下に振りおろした。

やばいと直感的に感じた俺は攻撃をやめ横に飛んだ瞬間、俺が居た場所の地面が陥没した。

ステルスか!

飛びざまにワイヤー仕込みのナイフをそいつに投げる。

牽制になればいい

しかし、ナイフは相手に届かずに地面に吸い込まれるように落下した。

得体が知れない相手なので後退する。

「きゃは、きゃはは」

その間にハビは光を口の中に入れてしまい四つん這いになると霧の向こうに走り去ってしまった。

一瞬、目に映るが脅威の優先度は目の苗の奴だ。

「これは有難い。計画以上の手土産です。すぐにランパン城に戻って調べさせていただきましょう」

諸葛も竹筒に光を入れて懐にしまいこむ。

くそ、状況がほとんどつかめないが嫌な感じだ。

「ほほっ。ヒルダ、お前達親子にはイ・ウーを紹介してやった借りがあるでのこれは遠慮なく貰っていくぞ」

何かはわからんがパトラにも渡ったか

「メーヤまた会おうぜ」

カツェも同様に光を手に霧の中に消えていった。

「ヒヒヒ、土方これは、もらっとくぞ。悔しいかヒヒヒヒ」

あの老人も霧の中に消えていく。

「土方苦しめ!ワシ最高傑作を奪った貴様は苦しんでいけ!ヒヒヒ」

「・・・」

土方さんは追撃しようとせずにそれを見送っていた。

「取り損ないましたの」

ローズマリーは残念そうに言いながら地面に降り立った。

ドレスはズタズタであちこちが破れており月詠との戦いがいかに激しかったかが分かる。

「やー、戦った戦った。希ちゃんには勝てないねぇ」

眷族達が撤退していく中上空で戦っていた連中が降りてくる。

「まあ、ぼろくちゃですのね」

「にゃはは、そだね。ローズも手ひどくやられたねぇ」

「そろそろ決着をつけますか?」

そう言いながら月詠が2人の前方に薙刀手に現れた。

無傷ではない。

だが、あちこちに焦げ跡も存在しているが苦戦したという印象を受けない。

「椎名のRランク。ここは、舞台じゃないよ」

「舞台ですか?そんな、都合のいい場所を用意させるとでも?」

月詠はそういうと1歩右足を滑らせる。

「それでも、私たちが決着をつけることはない」

そう言いながら少女が取りだしたのはアリアの光の1つだった。

「それは!?」

少女はぺろりと舌を出すと

「偶然飛んできたんだよ。はい、ローズにもあげる」

少女は光をパンを割るようにに2つに分けて1つをローズマリーに渡すと自身の分は懐に入れる。

「さて、そろそろ帰らないと希ちゃんが来ちゃうしね。 分身じゃそろそろ限界だろうし。ローズは?」

「ここは、邪魔連中が多すぎますの。優希いずれ迎えに行きますわ」

にこりと微笑むローズマリーとアズマリアの娘と呼ばれる少女が霧の中に消えていく。

追撃はできない。

得体がしれないというのもあるが下手に攻撃したら逆に殺される。

「ああ、そうそうみなさん。私の名前は母とは違うけど名前は同名アズマリア。大アルカナと関係ない私の組織は『ガイア騎士団』、ではまったね!」

これで、ヒルダ以外の眷族は全員居なくなった。

こいつ一人ならやれるか?

「あら、みんな欲のないこと。じゃあ私も帰るわ」

そういいながら、ヒルダが影の中に沈んでいく。

これ以上攻撃するのは危険だ行かせろと俺の直感が告げている。

「ま、待て!」

アリアを抱き寄せるようにしながら、キンジが銃を向けるが発砲はしない。

勝機が見えないんだろう。

「バイバイ。また、遊びましょ」

日傘をくるくる回しながらヒルダは消えていった。

ヒルダの気配は消えた。

これで、周りは味方だけか

俺はダメージが抜けていない信冬に駆け寄る。

「大丈夫か信冬」

「ええ、情けない姿を見せてしまいました」

そう言いながらも信冬は立ち上がろうとせず片膝をついたままだ。

「アリア・・・」

ジャンヌが言いながら走り寄ってくる。

「ジャンヌ・・・」

キンジが少し責めるような声で言ったがあれは仕方ないだろ。

「あれは、俺達の共通の失敗だ遠山。そいつを責めるな」

「土方さん」

振り向くと土方さんと月詠が並んで歩いてきた。

信冬が顔を土方さんから背けた。

「そんなつもりは・・・」

キンジがそう言っていると玉藻が歩いてきて気を失っているアリアを覗き込みそれから、ジャンヌの方を振り向く

「ジャンヌ、土方の言う通りじゃ。多少の小競り合いになることは読めておったが、この小娘が来たこと、ヒルダが殻金七星破りまで使いよったことどちらも予想外過ぎたのでな」

「彼女が緋弾のアリアなのですね」

メーヤ―さんも剣を背負いなおしてやってくる

「どう見るメーヤ、土方、武田」

「気を失っているように見えます。命に別条はありません」

「見立ては俺も同じだ。俺より希の方が知ってるだろうがな」

「ええ、緋弾に精通しているわけではありませんがおそらく命は大丈夫でしょう」

メーヤさん、土方さん、信冬が意見を述べる。

「儂の見た手も同じじゃ。緋殻は2枚でも機能せんことはないからな。弱まりはするがしばらくは大丈夫じゃろう」

ぴこぴこと狐耳を動かしながら玉藻は

「動けるなら追ってくれ。レキはもう、行ったぞ。1枚でも多く殻金を取り戻してきてほしい。ただし、深追いするでないぞ?儂は鬼払い結界で守りを固める」

「はい」

ジャンヌは年下に見える玉藻に頭を下げると俺達を方を見て

「遠山、椎名謝罪する。アリアの容体については残る者に聞いてくれ」

そう言ってジャンヌは空き地島の東側にかけていく。

「待ってくださいジャンヌさん私も行きます!」

立ち上がった信冬がジャンヌの方に向かう。

「お、おい信冬」

怪我は大丈夫なのかと言おうとするが先に土方さんが答えてくれる。

「心配ねぇよ。回復系のステルスを使ったんだろう」

その言葉にむっとした顔になった信冬はあなたには関係ありませんと言うように土方さんから顔を背け俺を見て

「心配ありません。だからこそ、ジャンヌさんと共闘するんです」

と一瞬、微笑んでから霧の中に消えていった。

「ではぼっちゃ・・・優希様。私も行きます」

「ああ、頼む」

「かしこまりました」

振りかえらずに言ったがもう、月詠はいないだろう。

「お前は行かんのか土方?」

玉藻が土方さんに聞くが首を横に振り

「鈴と雪羽が予想進路に回り込んでる。そこで仕留められるならいいが、多分無駄だろうな」

そう言って土方さんもその場から追撃のためかは分からないが去っていった。

いつの間にか霧は晴れかけており周りには壊れた歩行戦車や残されたライトが見えた。

残ってるのはキンジ、アリア、俺、メーヤ―さん、玉藻だけだ。

いろんなことありすぎて頭痛い・・・

≪一息はつけそうだ≫

うるさいぞスサノオ

そう言いながらも俺の体から熱が引いていくような感覚がするから多分大丈夫だろう。

だがまあ、一つだけ言えることがある!

また、俺巻き込まれたよな厄介事!

しかも、超がつくほどの!

勘弁してください神様

 

 




遅くなりました!

ちょっと補足しますがこの話に出てくる話は土方歳三の武偵高時代
水月希と同じチームだった人々の物語と重なります。
なろうで削除された作品ですがいずれは書く予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第216弾 再会と買い物

遅くなりました!


宣戦会議と言うとんでもない時間が終わり、寮の部屋に帰る途中俺はメーヤさんと話をしている。

「それにしても久しぶりですねメーヤさん」

「直接会うのは3年ぶりでしょうか? 立派になりましたね優希」

基本的にメーヤさんは相手に対してさんをつけて呼ぶが俺の場合は下の名前で呼び捨てにされている。

メーヤさんとの出会いは簡単にいえば、姉さんと一緒にドイツに行った時、魔女連隊との戦いに巻き込まれたのが発端だ。

その時、バチカン側が全滅の危機に陥っていたが姉さん一人で状況をひっくり返した。

明らかに魔女連隊の使い魔と思われる化け物の軍団を素手で粉砕し、遠目にカメ○メハ見たいな光線で相手を塵も残さず消滅させた姿は忘れない・・・

まぁ、中立の時代とはいえ各組織も裏ではそれなりに戦っていたとういうことだ。

総力戦はなかったというだけで・・・

椎名の家だって魔女連隊とやりあったしな。

「日本に来るなら事前に連絡してくれれば迎えに行きましたよ?」

「フフフ、ありがとう。でも、宣戦会議の準備でバタバタしてたので」

柔らかなに微笑むメーヤさんは本当に理想的なお姉ちゃんだ。

姉さんもこんな柔和な性格だったらなぁ・・・

メーヤさんの場合、あれさえなければなぁ・・・

カツェとの戦いで豹変したメーヤさんを思い出しながら俺はアリアを背負って歩くキンジの背中を見た。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だろキンジ」

確かに油断し過ぎは駄目だが今夜はもう、襲撃はないだろうと思う。

「椎名の言う通りじゃ。所詮使者に過ぎぬ、はなっからこの周囲は式に見張らせておる。この長四角の島のどちらかに奴らが入ってきたらすぐに式神が知らせてくるから安心しろ。

それに、儂の耳によればどいつもこいつも海や空を渡って去っておるわ。ふふん」

と、玉藻が言った。

なるほど、結界かそれなら安心か?

うーん、ステルス関連はよくわからんから秋葉に後で聞いてみるか

 

「どうなんだ優?こいつもお前の知り合いなんだろ?」

とキンジが聞いてくる。

うーん、違うんだよな

「いや、知り合いじゃないぞ。メーヤさんとは知り合いだけど」

「本当にお前はいろいろな奴と知り合いだな」

呆れるように言われるのはなんか傷つくよキンジ

「まあ、全ては姉さんのせいというか・・・」

あれ?そういえば、姉さんどうしたんだろ?

「えっと、玉藻・・・ちゃん?」

「ちゃんとは失礼な奴じゃ!椎名のは礼儀をしらんのか?」

何て言えばいいんだ?

さっきの見る限り明らかに化け物系だから見た目が子供でも年上かもしれない

「じゃあ、玉藻さん?」

一瞬、ばあさんと呼ぼうかと思ったがやめといた。

「うむ、なんじゃ?」

なんでだろう?子供の姿の相手に敬語使うの激しい抵抗感が・・・

「姉さんどこ行ったかわかります?」

「水月希か? 奴ならアズマリアの娘の分身と戦っておったが分身が消えた後、学園島に戻る前にアズアリアの娘が離脱したため追撃していきおったわ」

そういや、分身がどうとか言ってたなあの子・・・

ローズマリーと並んで。ああいうにこにこした女の子って裏にどんな力隠してるか分からないから恐ろしいところだ。

姉さんも多分、本気だしていてはいないだろうからはっきりしたことは言えんが分身で戦い、更に姉さんと戦えるとなるとRランククラスだな・・・

少し、俺に興味会ったみたいだからやだななぁ・・・

そんな話をしていると寮の前まで戻ってきたので階段に向かおうとすると

「優希。あなたと遠山さんのお部屋は何階の何号室ですか?」

とメーヤさんが聞いてきたので

「どうかしたんですか?」

「ちょっと、買い物をしたくて」

とコンビニに視線を向けたので

「じゃあ、俺もコンビニ寄っていきますから一緒に行きましょう。キンジは玉藻・・・さんとアリアと先に戻っててくれよ」

「分かった」

アリアの容体も気になるところだが本当に危機的状況ならこんなのんびりしてるはずないから多分大丈夫だ。

アリスを呼ぶのも見送るか。

2人を見送ってメーヤさんとコンビニに入る。う・・・修道服の巨大十字剣を背負った女の人とコンビニなんて目立ちすぎる・・・

ここが、学園島じゃなければ通報される。

とはいえ、武偵という職業が出来てから剣を持っている人なんて少し探せば目に入るけどこんな特殊な武器はあまりというかほとんど見かけない。

「らっしゃせ~」

「で、何買うんですかメーヤさん」

 

流石は学園島のファミマ。店員さんも俺達を見てもやる気のないのんびりした声だ。

メーヤさんが口を開こうとした時

「何ィ!」

と雑誌コーナーからの声に振り向くと驚いた顔をしたRRR会長村上だった。

「よ、よう村上。怪我治ったのか?」

確かこいつ京都の病院に入院してたはずだが退院したんだな・・・

というか完全に忘れてた・・・すまん

「ふっ、レキ様のいない京都などに1秒たりともいてたまるか!根性で治して帰ってきた!それより、椎名ぁ貴様はまた!」

「あ?」

村上は拳を握りしめてメーヤさんを指差し

「なんだその女は!また浮気か!浮気なんだな!」

「人聞き悪いこと言うんじゃねえよ!なんだよ浮気って!」

「その言葉レキ様の前で言えるんだな!」

「はっ?なんで、レキの名前が出てくるんだよ」

「貴様はレキ様のこ、ここ・・・婚約者だろうが!」

ああ、それか・・・

そういや、そうだった・・・

風の洗脳が原因だったんだからレキは俺なんかと婚約したくないはずで勝手に解消されてると思うんだがこいつはそう思ってるんだった・・・

少し説明してやるかな?

一応、村上もランパンと戦ったんだし

 

「あのな、村上レキとの婚約なんだが・・・」

「あら?やっぱり優希はレキさんと結婚するんですか?」

メーヤさん!あなたは黙ってて!村上はレキ関連にはうるさいんだから!

「ちょっ、メーヤさん!」

「一体何人の女に手を出す気だハーレム野郎!やはり、貴様にレキ様はふさわしくない!どうせ、その女もこの後手を出す気だろう」

ああ、後ろで店員のバイトの女の子達がひそひそ話してるよ・・・

「いやだから違うって!村上聞けよ!」

「あのぅ。買い物しても?」

と、メーヤさんが聞いてきた。

そろそろ切りあげないと

「ええそうですね。買い物しましょう。上でキンジ達も待ってるし」

俺は村上に向き直ると

「京都の件は感謝してるよ。だけどな、レキのことはいろいろあるし複雑なんだよ。それと、俺は誰とも付き合ってないし女の子にも手をだしたりなんてしてないからそれだけは信じてくれよ」

「・・・」

村上は何も言わずにスマートフォンを手にコンビニを出ていった。

分かってくれたのかな?

あいつも、悪い奴じゃないんだよなレキ関連以外は・・・

「これとこれと」

 

メーヤさんが買い物している方に行く。

「何をか・・・」

ちょっとだけびっくりする。

メーヤさんはひょいひょいと洋酒の瓶を買い物かごに入れていく。

大きな冷蔵ケースの中から酒が消えていいく。

1つでは足りずにどんどん2つ、3つと買い物かごが増えていく。

そういや、そうだったな・・・ステルスというのは能力を使えば何かで補充する必要があるという。

秋葉の場合は甘いもの、メーヤさんの場合はアルコール。

つまりは、酒だ。

「よいしょ」

がちゃがちゃと瓶を放り込んでいく。

おいおいもう、ケースの中酒がないぞ。

アル中とかいうレベルを超えている。

店員さんも口をあけて絶句してるし

「ん!」

酒が満載されたかごをメーヤさんが屈んで持ち上げると白雪より大きな胸が揺れたので俺は慌てて目を反らすと1つのかごに手を伸ばす。

「手伝います」

「ありがとう」

2人でレジに籠を持っていき店員さんは泣きそうな顔でレジを打って、更に横で別の店員さんが袋に詰めていってくれる。

年齢確認しないのね・・・

まあ、メーヤさんの場合イタリア人だから16歳以上なら飲んでもいいわけなんだが日本でそれはいいのか?

「さ、32万9754円のお買い上げでございます」

そんな金額打ったのは初めてなのだろう。店員の女の子緊張してるよ」

 

「はい」

とメーヤさんは財布を取り出すと万札がびっしり詰まった中からお札を取りだしていく

「て、Tポイントカードはございますか?」

顔をひきつらせて別の店員さんが酒の部分が空になった冷蔵ケースとメーヤさんを交互に見ていった。

ちなみに、TポイントカードとはTTポイントの略でレストランやレンタルビデオなんかで使えるお得なカードだ。

「Tポンポンカード?」

首を傾げるメーヤさんは俺を見ると

「優希は持ってる?」

と柔らかく微笑んで聞いてきたので俺は財布からカードを取り出すと店員さんに渡した。

えっと、ほぼ、32万強って何ポイントつくんんだろう?

 

 




ギアを上げていきたいですがすごく最近は忙しいのでやになります。
早く理子メインのこの章書きたいデス


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第217弾 アルコールはほどほどに

大量の酒の袋を下げていたためドアを開けられないので足でどんどんしているとキンジが開けれくれたのでメイヤさんと一緒に部屋の中に入った。

ふぅ、重い重い

「おい、優それ酒か?」

キンジが大量すぎる酒を見ていった。

あまりの多さにはみ出して見えてるしな。

「全部メイヤさんのだからな誤解すんなよ」

飲んでる奴は高校でも飲んでるんだろうが俺は飲んでないからな!

「おじゃましますね遠山さん」

メイヤさんは柔らかく微笑んでリビングに向かうとソファーの傍らに座った。

アリアはソファーで寝たままか・・・

「タマモさん。アリアさんは?」

メイヤさんがアリアを見ながら酒の瓶を取り出し始めた。

「無事じゃ。じゃが、殻金が足りぬ。眷族の連中から取り戻さねばならんな」

「まぁまぁ」

メイヤさんは何かのカクテルみたいな酒をストレートで飲み干す。

よくわからんがああいうのって薄めるんじゃないのか?

「とはいえ、今の椎名や遠山にやらせるのは荷が重そうじゃ。儂らでなんとかしよう。メーヤ。迅速にカティ=グラッセを討ち1枚取り戻してこい。奴はドイツに戻るじゃろう」

「はい」

メーヤさんはそう言いながら次次新しい酒を取り出して瓶を空にしていく。

 

高カロリーの酒からアルコール度数が高いウィスキー、ウォッカ。

うええ見てるだけで気持ち悪くなりそうだ相変わらず。

普通なら匂いだけでもうっとなるのに水を飲むようにごくごくと飲んでいくのだ。メーヤさんは

「あ、あのそれ・・・」

キンジが何か言おうとしたがメーヤさんは白い手袋をつけた手で制止した。

「おっしゃりたいことは分かります。確かにシスターはお酒を飲んではいけません」

「い、いやそうじゃなくて」

「ステルスってのは使うと何かで補給する必要があるんだよ。秋葉もよく甘いもの能力使った後食べてるだろ?メーヤさんの場合はお酒というかアルコール」

と、俺が言うとキンジは思い出したように

「そう言えば、山洞もそうだったな」

「イタリアでは16歳から飲酒が認められてますし、一切酔わない体質ですので暴飲の罪。見苦しくてすみません。ああ、神よ赦し給え。ごくごく」

キンジはあきれた様子だがまあ、仕方ないからなこればかりは・・・

ってあれ?さっきいれたコーラーのコップどれだっけ?これかな?

黒いし間違いないだろ

「玉藻さん。あの魔女は必ず仕留めます。宣戦会議の和議にも失敗したし、このままでは宗教裁判で異端審問にかけられて、破門されて八裂きの刑になって十字架のない無縁墓地に打ち捨てられ、わ、私あの魔女どもと同じ地獄へ・・・」

メイヤさんはおつまみのあんぱんを開けながら

「せめて魔女狩りは完遂してみせます。カノッサの単位も足りてませんし」

どこの学生も単位単位なんだよなぁ・・・

ごくりとコーラーを飲み干してからなんだか気持いい感じになってきたにゃ

 

「まあ、やる気があるのはいいことじゃ。どうじゃ?カナは抱きこめそうか?」

買ったジュースってこれだっけ?なんか茶色いけどジンジャエールだよなこれ?

ごくごくと飲むとなんか瞼が重くなってきたぞ

「それは・・・わかりません。先輩は以前と少し変られてしましましたから」

「メーヤさん。あんたはカナを知ってるみたいだが・・・っておい優、顔真っ赤だぞ!これ酒か!?」

あ、何すんだよキンジコップとんな・・・自分で入れろよ

「かえ・・・せ」

後ろにかくんと首が倒れこみ俺の意識はそこで途絶えた。

               †

夢というのは本人が見たくないものでも強制的に見せてくる。

俺は昔、姉さんのせいで海を漂流した悪夢を見て最後は秋葉に手を握られたところで目が覚めたのだが・・・

「おはようございます優君」

無表情にこちらを見下ろしている少女は俺の幼馴染であり俺の近衛さらに、いえば友人である。

なぜ俺は秋葉にひざまくらされているんだ?

武偵高の制服みたいだから生足の上という状況で・・・

「っ・・・ここどこだ?」

 

起き上った瞬間、頭に頭痛を感じてたので思わず頭を押さえた。

「痛・・・」

「お酒の飲み過ぎですですよ」

「つまり、二日酔いだ。てめえは未成年だろうが逮捕されてえのか?」

秋葉の呆れた声に続き土方さんのこれもまた呆れた声

「土方さん?なんで?」

どうやら、ここは土方さんの車の中らしい、運転しながら土方さんは2ℓのミネラルウォーター2本とキャベジンを投げてきた。

「飲んどけ。二日酔いはアルコールを抜かないと治らねえがな」

ようは4リットル水を飲んで体からアルコールを押し流せってことか?

「ありがとうございます」

「ごめんなさい優希。私のお酒飲んじゃった見たいで」

メーヤさんが助手席から言った。

なるほどジュースと思って飲んだのはメーヤさんの酒か・・・つうかこれが本当の二日酔いなんだな・・・気持ち悪い・・・

薬と水飲んどこ

「ところで、俺この状況がよくわからないんですが・・・」

がばがばと水を飲みまくりながら聞いてみる。

秋葉もいて土方さんとメーヤさんがいる状況が分からん。しかも、運転しながら・・・

「私は月詠様に言われて優君の部屋に行ったんですが丁度メーヤさんが出てくるところでした」

「俺とこのシスターメイヤというかバチカンの方の上司と昔馴染みなんだよ。イタリアに戻るそうだから俺は送迎だ」

 

「土方さんの言うとおりです優希。私はあのゴミクズを討ちにイタリアに戻ります」

カツェのことだろうなゴミクズって・・・

「じゃあなんで俺がここに乗せられてるんですか?」

部屋にはキンジやアリアもいたはずだが・・・置いてきたのか?

そういや玉藻さんは?

「メーヤから聞いたがお前は肝心な所を聞いてねえんだよ。遠山にはもう、玉藻が伝えてある」

「肝心な所?」

首都高が薄暗い光に照らされている。

時間はまだ、明け方じゃねえか

「神埼のことだ。娘のほうだぞ」

アリアの?どういうことだ?

「優希。宣戦会議で私と玉藻さんがアリアさんに戻した光覚えてる?」

「はい、確か眷族にもその光が渡っていたみたいですが・・・」

「あれは殻金。緋緋神になるのを抑える蓋みたいなもんだ」

「緋緋神?」

「緋緋神ってのはな緋緋色金が人の心と混ざり融合した状態の事を言う。神埼の中にある緋緋色金が完全に神崎と融合すればそれは神埼の姿をした緋緋神だ」

は?待て待て一体何の話してるんだ?

「その、融合したらどうなるんです?」

 

「緋緋色金にとり憑かれた状態になる。それが、緋緋神なんだが。緋緋色金ってのは厄介でな闘争心と恋心。その2つの心を激しく荒ぶらす祟り神になっちまうんだ」

アリアがそんな存在になってしまうのか?

「緋緋神は戦を呼ぶ。もし、神崎が完全に緋緋神になった場合。公安0は最悪神崎を殺す」

俺の方を見ずにただ、運転しながら言う土方さん。その言葉は本気を意味している

「こ、殺すって何言ってんだよ土方さんアリアだぞ?ただの・・・じゃないけど高校生のあいつを・・・」

「優希。仮に公安0が動かなくても世界中の組織がアリアさんを殺そうと動くか確保しようとするはずです」

メーヤさんまで何言ってんだよ。

「椎名、武田もその時にならないと分かりませんがおそらくは・・・」

秋葉は事情を誰かに聞いていたらしく言った。

なんだよ俺だけが知らなかったみたいだ。

「みんなして何だよ・・・前例でもあるのかよ」

「ある。昔、日本に緋緋神になった奴が判明してるだけで2人いる。そいつは、昔の超人達が殺したが1回目は遠山、星伽、2回目は椎名、武田、北条だ。100%の記録が残ってるわけじゃないが神話の時代に1回の疑いもあるがこれを制圧した奴は不明だ」

「緋緋神は大きな争い。戦争を呼びますアリアさんが仮に日本で緋緋神になり放置されているとそうですね・・・日本が他国との戦争に巻き込まれることだってありえるわ」

嘘だろ1人の存在だけでそんなこと・・・

「そんなことさせる気はさらさらねえがな。まあ、そうなったらてめえのスーパー姉貴が出てくるだろ」

はっと苦笑しながら言いましたが皮肉ですか土方さん!確かに姉さんなら緋緋神が起こした戦争だろうが止めることはできる

 

だろうけど・・・

停戦しないならお前の国の中で暴れてやるぞと言えば・・・多分中国やアメリカでも悲鳴をあげて停戦に合意するだろうが・・・

いや、仮に止まらず殲滅戦になったりしたらそれはそれでまずいんだろうなぁ・・・

「ですが希様に頼りきりというのも・・・」

秋葉の言うとおりだ。完全な解決策にはなっていない。

ありえない話だが姉さんが死んだりいなくなったりしたら完全にお手上げという事態は避けなければならない。

「そのための殻金だ。神埼の中に戻した2つの上から眷族に奪われた分を上乗せすりゃ緋緋神になるのは防げる」

そういうことか・・・となると大変だな・・・宣戦会議でその殻金を奪っていった連中を倒して奪い取るか・・・

「もし、奪い返せず2枚だけならアリアは?」

「緩やかに緋緋神になっていくわ。だけど数年は持つと玉藻さんは言ってる」

「ちなみに新しく殻金を作るのはいろんな事情から無理だ」

俺が言うより先に言われてしまったか・・・

それにしても、数年・・・時間はあるようで短い・・・

同じチームではあるが卒業してからもこの問題を引きずるのはきついな・・・

卒業後の道が同じとは限らないわけだし。

とはいえ、ランパンや魔女連隊相手に攻め込んで奪い返すってのは・・・

くそ・・・姉さんが本格的に協力してくれりゃ1カ月かからんだろうに・・・

って、姉頼りというのも情けないか・・・まあ、これは多少の猶予もあるから時期を見極めてチャンスを待つのがベスト。

1人で先走っても組織相手じゃ返り討ちに会うだけだ。

「これも玉藻さんからですがアリアさんはこれから戦と恋についてあまり隠さずに言うようになるかもしれないの。それが最初の症状だから優希達は注意していて」

恋ね・・・頭と一緒に胸いてぇ・・・

そこはキンジ君の出番ってわけだ。

ま、俺もサポートはするが・・・

 

あれ?そういえば・・・

「俺の中にアリアの血が流れてますけど俺ももしかして、緋緋神になるんですか?」

俺の中には殻金なんてないわけだからまずいぞ・・・スサノオなんて変な人格まで現れてるし

「緋刀に関してはほとんど未解明だ。だが、それを少しでも抑える効果があるお守りお前信冬からもらってるだろ?」

信冬からの・・・あ、あれか確かに貰ったな・・・

財布の中にいつも入れてるんだがあれ、そんな効果があったのか?

だけど・・・

色が戻らなくなった片目、カラーコンタクトを入れてあるが多分、これは緋緋神化に向けた侵攻なのかもな・・・

アリス以外には話してないが・・・

でもまあ、緋緋神になんて体やる気はないけどな。

「それと土方さん、メーヤさん、秋葉これだけはいいますよ」

「ん?」

「アリアを緋緋神にする気なんてないですが仮にそれを許してアリアを殺そうとするなら俺はアリアの味方します」

「殺されるぞ?」

「そうなったら姉さんを仲間にします!」

俺は意地悪く言ってやった。

「はっ、そりゃ勝てねえな」

「あはは、優希はアリアさんが大好きなんですね」

メーヤ―さんが面白そうに笑った。

「優君らしい」

 

 

秋葉も呆れてるみたいだがそれでいいんだよ。

お前のことも忘れてるわけじゃない。

あの時のような後悔はもうしたくない。

俺は仲間が殺されそうになるなら絶対に見捨てない。

アリアだけじゃないんだ。

秋葉だってそうだし、レキも理子も、白雪もキンジだって殺されそうになってるなら助ける。

仮に武偵憲章9条を破ることになったとしても・・・必ず

それが俺の中では絶対だからな

 

 




すみません!もう忘れてる人もいるでしょうが4ヶ月ぶりに守るもの更新です!
原作の最新刊や読者の方々に温かい感想やメッセージをもらい私は帰ってきました!

次回は正月を目標にします。

さて、原作最新刊!読んでない人のために軽く書きますがキンジ大ピンチ!


かと思えばおいこら!という自体から再び史上最悪の大ピンチです。

まあ、緋弾のアリアのキンジはいつものことですからネタバレにはならんでしょう。

アリスベル読んでたら2倍おもしろくなりますよ?

で新キャラですがリサも殺人的に可愛いですが立ち絵はセーラですね。
能力的に優と相性最悪ですが原作追いついたらキンジと背中合わせで戦いたいなぁ

そして、おい!日本にもう強者出さないで!と言うような恐ろしい方が…

なんにせよ緋弾のアリアは面白い!まあ、今回の巻でAAの方は守るものの話を追い抜いちゃってます何気に(笑)
アニメ2期とAAアニメ化早く!
では!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第218弾 運命のドロー 

さて宣戦会議といったってとりあえず学校はある。

メーヤさんを空港まで送ってちょっと話したいことがあったので土方さんと軽く朝ごはんを食べてから寮に戻ったが時刻は3時間目が始まるころか・・・4時間目は確かロングホームルームだったからその時間に行こう。

「そういや月詠は?連絡会ったんだろ?」

つうかなんでお前宣戦会議の時いなかったとついでに聞いてみると秋葉は俺の後ろをついてきながら

「宣戦会議の時は知らされていませんでした。月詠様は現在、どこかの殻金を追ってるはずですが私にはいつも通りにするように言われています」

月詠は日本のRランク。1つぐらいなら取り返してくれるかもしれないが海外に出られるときついんだよな・・・

Rランクの国外の移動はいろいろと制限がある。

まあ、小国の軍隊なら殲滅あるいは互角に戦えるような化け物を無条件に国の中にいれたくはないよな。

姉さんのように勝手に入ることは不可能ではないがリスクはある。

まあ、月詠のステルスならやろうと思えば可能だろう。

「鏡夜は実家で近衛は情報収集ってとこか?まあ、お前がこっちに残るのはありがたいがな」

「私の近衛としての役目は優君の護衛ですから」

近衛と言う名前はいろんなことに使われる。

少数精鋭の殿をつとめる精鋭部隊であったり、ファンタジー小説ととかなら近衛騎士なんて王様を守る専用の騎士みたいなものも出る。

椎名の近衛は今でいうボディガードのような精鋭の兵隊のようなもの。

そして、椎名の血縁者は1人専属の近衛がつけられる。

咲夜はまだだが、鏡夜にもいるはずなんだが見たことないんだよな・・・

新幹線の戦いでも出てこなかったし・・・

「なあ秋葉」

「はい?」

「鏡夜の専属の近衛って誰か知ってるか?」

 

「鏡夜様の近衛ですか?確か・・・」

秋葉の言葉を聞きながら部屋のドアを開けて中に入った瞬間、秋葉から名前が聞こえた気がするが俺はそれを耳に入れることができなかった。

いないと思ってた奴がいたからだ。

「あれアリア?」

「ゆ、優!入るならノックぐらいしなさいよ!」

そこにはなにやら顔を真っ赤にし、首筋をなでているアリアがいたのだ。

後遺症的なものはないんだろうな?

「自分に部屋はいるのにノックする必要ないだろ?何やってたんだ?」

首筋のバンソコ―はヒルダに噛まれた後のようだが・・・

ん?なんで赤くなってんだ?

「あ、あんたが昨日部屋にいないから!あ、あたしキンジとキンジとと!」

昨日?昨日は部屋にいたんだが・・・

ああ、出かけてる間になんかあったのか?

「おいアリ・・・」

「出てけぇ!」

「なんでだぁ!」

理不尽なガバメントの猛連射から逃れるため俺は寮のテラスからダイブしてピンクの悪魔から逃れるのだった。

秋葉に風で受け止めてもらいつつ部屋を見上げて思うのは体調は全く問題ないわけかと確信できるな。

                †

                †

 

                †

4時間目は3クラス合同のLHRだ。

幸い制服を着ていたのでそのまま投稿すし、俺達が登校して少ししてからアリアも登校してきた。

「眠い・・・」

知識としては知っていたが酒飲んで寝ると深い眠りができないらしい・・・

おかげで寝た時間はそれなりなのに眠気だけが残っちまってるぞ。

横目でキンジを見るがなにやら考え事の真っ最中。

メーヤさんの話ではキンジにも話はしてあるそうだからそれ関連だろうな。

土方さんにもアリアには宣戦会議のことはまだ、言わないように言われている。

どこにあるかも分からんが敵本拠地を探し出して突撃するわよとか言われてもやだしなぁ・・・

勝手な考え方だがアリアなら攻撃あるのみと突撃してしまいかねんし・・・

日本国内ならまだいいが外国とかになると圧倒的に不利になる。

今まで俺が曲がりなりにも強者と渡り合えたのはサポートが手厚かったのも勝因の1つだしな。

なんだかんだで、実家にもいろいろ世話になったりしてるわけだし・・・

「ガキ共!それじゃ文化祭でやるリストランテ・マスケの衣装決めするぞ!」

蘭豹が天井に威嚇射撃しつつ言った。

うるさいな。口でいや聞こえるのに。

そういや、A、B、Cのクラスが体育館に集まってるのにジャンヌの姿が見当たらんな・・・

追いかけていってそれっきりなののか?

「よおーし!各チーム同士集まって待機ぃ!ゴホゴホ」

綴が煙草でむせているのを横目にチーム同士が集まりだす。

ってもABCだけだけどな。

同じAのアリア、秋葉、キンジ、理子、Bの白雪、Cのレキも集まってくる。

昨日のこともあるからレキにもちょっと聞いときたい気もするがアリアの前だしなぁ・・・

一瞬、レキと目が合ったのでなんとなくヘッドホンを取って装着してみる。

風の音じゃないかチェックだ!

ってうるさい!なんかの音楽らしいがこら音上げるな!

慌ててヘッドホンを外してレキに返すが怒るなよちょっと聞いただけじゃないか!

 

「おのれ・・・」

と後ろから声がしたので後ろをちらりと見るとってRRRかよ・・・村上を筆頭に結成されたチームだがお前らそんなことでチーム決めていいのかよ・・・まあ、無視だ。

「キンちゃんくじが来たよ」

白雪がキンジに話しかける。

う、来たか・・・ある意味このくじ地獄なんだよなある意味・・・

これはリストランテマスケの衣装を決めるくじなんだがそこで決まった衣装の存在になりきらないとやばいのだ。

潜入捜査の技術を一般にアピールする機会だからふざけてやったら死の恐怖を味わう事なる。

キンジが引いて戻すのを見ながら俺は神に祈った。

頼むからやりやすいのにしてくれと・・・

同じチーム内で成績悪い奴でたら連帯責任にされかねん。

ちなみに、このくじ1回だけやり直しが認められている。

「よし」

ん?いいのひいたらしいな?

覗き込むとキンジは警察官、巡査だ。

分かりやすくていいな。

続けてキンジはジャンヌに指名されていたらしくくじを代理で引くとそこはウェイトレスと書かれており店名も記載されている。

次に理子がくじを引き、1回目の泥棒キャッツアイ風というありえないはまりを戻し、2回目はガンマン西部開拓時代を引いて楽しそうにやるやるとはしゃいでいる。

理子のガンマン・・・合う気もするな。

「次は私が引きます」

そう言いながら今度は秋葉がごそごそと箱の中を漁り

取り出す。

そこには

『お嬢様。箱入り娘』と書かれていた。

秋葉はそれをじーと見ていたが俺を1回だけ見て

「キャンセルです」

とそれをやめてしまう。

うーん、秋葉のお嬢様・・・ちょっとみたい気もするが・・・

しかし、偉くアバウトな気もするが

「では次で確定でござる」

キンジのアミカの風魔が箱を差し出してきた。

「・・・」

秋葉は無言でごそごそと箱の中を漁っている。

かなり慎重だがこれは完全に運だからな・

秋葉は紙を取り出し俺の運命のカードと言うようにカット目を見開いて紙を見た。

そこには・・・

『魔法少女リリカル風、黒い方。ジャケット装備必須』

うわぁ・・・

よくわからんが魔法少女という時点でかなり外れじゃねえのか?

だが、もう後戻りはできない2回目だ。

見るといつも無表情の秋葉が冷や汗を流して固まっている。

俺は無言で秋葉の肩に手を置いて

「諦めろ秋葉・・・」

と言っておいた。

「魔法少女・・・しかも、あっち・・・」

と秋葉がつぶやくのが聞こえた。

「おお、秋ちゃんコスプレだぁ」

と理子が楽しそうに言った。

まあ、やりようによっては合うのかもな魔法少女・・・

何せ、ステルスって魔法に似てるしな。

続けて、白雪がチャイナドレスを引いてキャンセルし小学校の先生に収まり次にレキが魔法使いというくじを引いた後RRRがうおおおと叫んでいたがそれを戻し科学研究所職員を引いたのでRRRが再び叫び声をあげたので蘭豹がRRR全員にかかと落としを食らわせ沈黙。

次に、アリアだが・・・

深呼吸をしながら引いたのはアイドルと書かれた紙だ。

「あ、アイドル?日本のテレビに出てるぶりっこのこと!?」

ちょっと想像してみたが可愛いんだろうが違和感もありそうなアリアアイドル・・・というかチャイドル?

チーム全員が笑いをこらえている気がする・・・理子なんて完全に笑いかけてるし

「くっ・・・エン!」

キンジがくしゃみしたが何かごまかしたな?何想像したんだよ。

だが、アリアは気付いていないらしく

「チェ、チェ、チェンジよ!」

「か、神崎殿それでは次で最後でござる」

殺気の満ちた目で見られ風魔が後ずさりながら箱を差し出す。

かわいそうに・・・

そして、アリアが引いたのは・・・

なんと!『小学生』

「ぎゃははははは!」

あまりのはまり具合に俺は笑っちまったぞ!

「やった!やったよアリア!ある意味はまり役だよきゃははは!」

俺と同じように理子も大爆笑しアリアの周りを転げまわる。

キンジも爆笑しかけたらしいがその動作が止まりアリアが叩きつけるような殺気を風魔に向ける。

おいこら!

「今のは無し無し無し無し無し無し無―し!あんたは死刑!」

ガバメントを抜いて風魔に向けたので俺とキンジが慌てて飛びかかる

「やめろアリア!蘭豹もいるんだぞ!」

「そうだ!まとめて処分されるぞ!やめてくれ!」

「あきらめようよアリアちゃん。理子が衣装作り手伝ってあげるキャハハハ」

「誰がアリアちゃんよ!風穴!風穴流星群!風穴ビックバーン!」

俺達が全力でアリアを抑えている間、風魔がまきびしを巻きながら逃げていく。

早く逃げろ!

「死ね!死ね!死ね死ね!みんな死ね!見た奴みんな死ねばなかったことになるんだわ!むぎぃ!」

理子は目の前で爆笑してるし白雪がアリアを後ろからはがいじめにする。

レキは体育館の外に逃げており秋葉は紙を見たまま

「魔法少女・・・」

と、固まったままだ。

お前ら手伝えよ!レキも分かってたなら俺も連れってくれよ!

などと言ってた後、蘭豹が30回ほどジャーマン・スープレックスを食らわせ続けようやくアリアは小学生やりますというのだった。

ちなみに秋葉は最後まで紙を見たまま

「魔法少女・・・」

とつぶやいていた。

そんなに嫌だったのか?

それで、小学生やりますと言って気絶したアリアを横目につ、ついにきやがったぞ。

風魔が逃げてしまったので別の知らない後輩が持ってきた箱に手を突っ込む。

そして、紙を掴んで引っ張り出して開く。

頼むぜ

『新撰組1番隊隊長沖田』

「チェンジ」

迷いなく言った。

新撰組は好きだしある意味神がかったものだがなんで、1番隊なんだよ・・・

沖田の物真似とか・・・正確には本人じゃないが冗談じゃない。

他なら喜んでやるんだがな

「それでは次で最後になります」

後輩が差し出してきた箱を見て俺は目を閉じた。

なんとなく、前に見たカードゲームの主人公がラストターンで最高のカードを引かないと負けるシーンが頭をよぎる。

俺の運命を決めるカード・・・

カードじゃないが箱に再び手を突っ込み1枚掴む。

この1枚に全てをかける!

そして、緋いたカードそれは・・・

『武偵高制服(女子)』

「嫌だ!」

俺は心の底から叫んだ。

最悪じゃねえか!これ、最悪のパターンだぞ!

「こんなものチェンジだ!おい!もう1回だ!」

「む、無理ですよ!」

後輩が泣きそうな顔で逃げていく。

こら待て!

「椎名あぁ?」

がしっと頭に手が置かれ万力のように力が入る。

痛い痛い!

離せ蘭豹!

「変更はなしや。大人しくやるな? それとも神埼みたいにしたろうか?」

ごくりと気絶しているアリアを見る。

アリアはあれだけ抵抗したのに結果は変わらなかった。

つまり、抵抗は無駄だ。

周りではキンジ達が大爆笑している。

くそぉ・・・

「やります・・・」

「それでええんや」

頭から手が離れた瞬間、俺は激しく落ち込んだ。

また、女装かよ・・・

「魔法少女・・・」

秋葉はまだ、放心しているようだった。

はぁ・・・最悪だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新年あけましておめでとうございます!
まだ、正月です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第219弾魔法少女リリカル秋葉

あの最悪なくじ引きから数日、武偵高は短縮授業となり文化祭の準備が進められている。

俺は準備もしつつ、空いた時間は土方さんの家に行って雪羽さんや鈴さんに稽古をつけてもらい家に帰るという暮らしを続けている。

個人的にも情報収集はしているがまだ、有力な情報もなく宣戦会議の件は警戒しつつも様子見と言った感じだ。

どう見ても、あの空き地島にいた連中はステルス持ちがごろごろしていたため紫電なしに戦いを挑むのは出来れば遠慮したい。

代わりの刀やステルス対策の装備は手配はしてるんだが緋刀も紫電なしには使えないので俺の力は大幅ダウンだな。

まあ、アリアに輸血される前に戻ったというだけの話なんだが・・・

                †

                †

                †

そんなわけで、今はリトランテ・マスケの総仕上げの時間帯だ。

決まった衣装は自前で用意しないといけない上に〆切を過ぎればマスターズ名物、体罰フルコースを食らう事になる。

アリアがやられたことなんて比じゃないくらいの恐ろしい事なのでみんな〆切を必死に守ろうとするので〆切前夜はみんな、教室に集まって衣装の総仕上げを行うのだ。

で、俺は決まった衣装を・・・つまり、武偵高女子の制服を着て教室に入ると教室にいた連中に爆笑されてしまった。

「きゃはははは! ユーユー似会う!かーわーい」

「うるせえ!」

く、くそ理子め!お前は知ってるだろうが俺の女装姿!

「駄目ですよ優ちゃん。女の子は丁寧にしゃべらないと・・・ぎゃはははは!」

「うるせえ!」

俺は情け容赦なく消防士の格好をしていた武藤を蹴り倒してから周囲に笑われているのを無視して笑わないであろうキンジ、レキと白雪の横に座り込んだ。

一応こいつらはみているわけだし。

スカートが短いので持ってきていたジャケットをかぶせて床に座り込む。

流石に当日でもないのに女座りとかしたくない。

「がふ」

ん?なんだよハイマキ。今笑いやがったか?笑いましたよね?

と、ハイマキの頬を掴んでぐにぐにしていると

レキと目が合った。

ハイマキをぐにぐにしながらレキの格好を見てみると

いかにも研究所職員と言った格好だ。

セーラー服に白衣で萌葱色のブラウスを縫っている。

近くにレキが用意したらしいメガネが合ったのでレキにつけてやると目だけを上に向けてきた。

ああ、これあれか・・・武藤に言わせれば少しずれた眼鏡での上目。

眼鏡萌えは俺によくわからない世界だな。

村上の姿はないが教室の隅で悶絶しているのはRRRのメンバーだろうな。

「グルオン!」

「うお!」

いつまでぐにぐにしやがるとばかりにハイマキが吠えたので手を離してついでにレキの眼鏡も外しておいた。

横では白いスカートに濃紺の膝上タイトスカートといった教師姿の白雪がキンジに話しかけている。

「キ、キンちゃん、私の先生姿どうかな?どこかおかしかったりしない?」

「似会ってる小学生の先生っぽいよ」

と話をしているので他のチームメイト・・・あれ?秋葉とアリアは?

周りを見回して衝立で区切られたゾーンから白いカーテンを少し開けて出てきたのは・・・

「あ、秋葉?」

なんと金髪姿の秋葉だった。

俺と目が合うと慌てて中に逃げ込もうとしたが

「あーきちゃん!覚悟決めなよ」

と中から理子の声。

「い、嫌です!こんな姿さらすぐらいなら体罰を受けた方がましです!」

いやいや、困りますよ秋葉さん!連帯責任になったらどうすんだ。

「秋葉!笑わないから出て来いって」

「嘘です!絶対に笑います!」

「笑わないって」

というか秋葉よ・・・俺とそんなやりとりしたせいで教室の目がお前のいる場所に向いてるぞ。

一応、みんな作業しながらだが・・・

「じゃ、リリカル秋葉ちゃんはーじまるよ!」

「まっ!」

理子の声と共にカーテンがばっと開かれた。

と、同時に俺は言葉を失った。

髪は長い金のウィッグをツインテールにし黒のリボンでくくっている。

目もカラコンを入れているらしい。

確か秋葉の役は魔法少女リリカル風ジャケット装備だったか?

なんかのアニメの奴らしい。

あれが、魔法少女の杖なのか斧のような黒い杖を手に持ち黒いマント

靴はブーツのような少しごつい感じのものだ。

そこまでならまだ、良かったのだろう。

問題は服で一言で言うなら黒い水着に近いのだ。

いや、白いスカートはついてるのだが・・・

女の子がするにはちょっと恥ずかしい格好なのかもしれない・・・

「あー、なんというか・・・かわいいな」

とりあえず褒めておこう。

秋葉は美少女ではあるので実際におかしいとは思わんし

 

「うー」

秋葉にしては珍しく本当に嫌なようで真っ赤になりながらうつむいてしまう。

「ほーら!秋ちゃん!設定は1期なんだから表情をころころかえちゃ駄目だよ」

「そんな縛りはなかったはずです。2期までで・・・や、やっぱり今からでも3期に・・・」

「もう、間に合わないと思うよ~」

「は、はめましたね理子さん」

「理子しらなーい」

なんかよく分からんが理子に乗せられてあの服になったらしいという事は分かった。

「ほら秋ちゃん。リリカルマジかるがんばりますって言わないと」

「それ、もう一人の方です」

「そだっけ?じゃあ、・・・」

と理子とキャラのアニメの話を始めてしまったのでため息をついて視線をそらすと武藤と目が合った。

「優、リストランテマスケっていいもんだな」

と秋葉も方を見ながら言った武藤に俺はなぜか無性に腹が立ったので右指でめつぶしを食らわせ目がーぁ目がぁと転げまわる馬鹿をほっといて秋葉達の方に視線を戻すが・・・

「ほら早く絶対に受けるって!可愛いのは正義だよ」

理子がカーボーイの格好で誰かを仕切りの向こうから引きずり出そうとしている。

「~~~~」

 

人の可聴域を超えて叫んでいるらしい誰か。

「そうです。諦めてください」

秋葉も同じように誰かを引っ張っているようだ。

道ずれの誰かがいるのか?

「や、や、やっぱりい~や~よぉ!」

と引きずりだされてきたのはアリアか・・・

キッズサイズのブラウスにミニのピンクのスカートにフリルだらけの服。

ピンクがかかった赤目のランドセル。

左からはソプラノリコーダーがはみ出している。

か、完全に小学生だ。

もう、情け容赦ないほど間違いない。

こらえられそうになかったので背を向けて口元を緩めるが駄目だ声に出さないのがやっとだぞ。

「アリア諦めろ。それより、衣装の細部を作りこんでおかないと蘭豹にバイクで市中引き回しの刑にやられるぞ。その服で。オフっ」

後ろでキンジが笑いを咳でごまかしたみたいだが気持ちわかるぞキンジ。

アリアは頭から湯気を出し、真っ赤になりながらキンジの横に座った。

秋葉も俺の横に座ってきたので

「ま、諦めろ秋葉。俺も似たようなもんだ」

秋葉は俺の声に顔を上げると

「同じ・・・ようなものですか」

「そうだよ。似たようなもんだって。諦めてやるしかないんだよ」

そうしないとマスターズの拷問地獄だし

「分かりました・・・アリアさんよりはましです」

おま、もう少し小声で言えよ

アリアの方を見るが幸い聞こえていなかったようだ。

「へい!アリアちゃん!お裁縫箱はこっちでちゅよ!アリアちゃん!」

ジャンプ正座をしながら理子は白雪の裁縫箱を勝手にアリアの膝に乗せている。

アリアはスカートを握りしめながら

「あんたねぇ・・・それ絶対アリアちゃんっていいたいだけでしょうが」

「だめでしょ。アリアちゃん?小学生がそんな口調で喋っちゃ」

「うぐぅ」

「はい、それじゃ道具を貸してもらったお礼をいいましょうね」

と白雪。

ここぞとばかりいじられてるなアリア

ん?レキが動いたぞ。

なんか危険を察知したらしいな。

俺も逃げよう。

こっそりと、レキの後に続いて廊下の外に出てみると案の定背後から地獄のような殺気が溢れてきた。

ああ、アリアだろうな状況的に・・・

「・・・」

レキとハイマキと帰るかな?もう、俺の服は完成してるわけだし。

「レ・・・」

ズグン

それを表現するなら何かが内側から押した感覚。

左目に激痛が走り左手で目を覆う。

い、痛ぇ・・・

立ってられず歯を食いしばりながら膝をつく。

そうしている間にも激痛が続く。

片目が焼かれているような感覚だ。

カラーコンタクトを取り目を押さえながら俺は原因に思い当たる。

この片目はレキの命を救った時に変わったものだ。

スサノオは緋刀の浸食と言ってた・・・

「優さん目が痛むのですか?」

レキが俺に近寄ってくるがそれを手で制す。

「とりあえず・・・ここから離れる」

教室の中にはアリアがいる。

あいつにだけは知られてはならない。

スサノオが言っていた緋刀の浸食の話。姉さんの話からすればこれの原因を作ったのは

アリアの輸血だ。

だが、アリアには何の落ち度もない。

だからこそ、知られたくないのだ。

こんな副作用があるなんてな。

                 †

                 †

                 †

なんとか、屋上に入り扉を閉める。

レキとハイマキがついてきていたが構う余裕がない。

そのまま、壁にもたれかかる。

「くそ、なんなんだよ・・・」

言いつつも原因は分かってる。

この目になってから数回実はこいつは起こってるんだ。

今の俺の目はカメリアと元の黒が言ったり来たりしている状態で完全な定着が実現できていない。

信冬にもらったお札はあくまで、過度な浸食を抑えるためのもので定着を抑える効果はない。

痛みは1時間もすれば消えるもんだがいかんせん、痛みが直接来るので始末が悪い。

「優さん」

レキの声が聞こえ俺の左目のまぶたにひんやりとしたレキの右手が置かれる。

「ん?」

痛みが嘘のように引いていく・・・

ああ、やっぱりそうなんだな・・・

京都でもそうだったように・・・

「・・・」

どれほどそうしていただろうか?

痛みが消えている。

「もう、大丈夫だからレキ」

「・・・」

こくりとレキは頷いて手をどける。

「これで2回目だな」

レキに痛みを取ってもらうのは・・・

「優さん。痛みを感じるのでしたら私が傍にいます」

「いやいい」

俺は息を吐いてから立ちあがるとレキを見ながら

「お前にばかり頼るってわけにもいかねえし」

それにレキを救ったような力を使わなければ片目が完全にカメリアの色になるだけで済むだろう。

レキに使った力はそれほどに巨大な力ということだが・・・

緋色金の対象となる璃璃色金の影響を濃く受けたレキに接触すれば力の暴走は抑えることが出来る。

今思えば姉さんがレキとの接近を積極的に推奨していたのはこうなることを見越していたんだろうな・・・

「でもありがとな。レキ、やばい時には頼らせてもらうよ」

「はい」

そう言ったレキの顔は少しだが悲しそうに見えた。

 

 




次回は裁判!そして彼?彼女が登場予定です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第220弾 見えぬ闇

「被告人、神崎かなえを懲役634年の刑に処す」

東京高等裁判所800法廷に響いたその判決。

それを弁護人席で聞いた時、思ったことは怒りもだが何よりもこう思った。

ああ、やっぱりなと・・・

俺は横にいる理子と同じように検察官を睨みながらその背後にいるであろうあの男の

後姿を睨む。

シャーロックホームズ・・・アリア達には言っていないがあれが、機械の類で作られた声でないなら確実にあいつは生きている。

アリアの母親をこんな状況に追い込んだのは間違いなくあの男だ。

イ・ウーは壊滅したかもしれないがあの男が裏から手を引いたままであればアリアの母親が無実になることはありえないということだ。

かなえさんの終身刑は変わらない。

「不当判決よ!」

ガタンと椅子を飛ばすように立ち上がりアリアが金切り声をあげる。

「こんな、どうして・・・!?こんなに証言と証拠も揃っているのにどうしてよ!ママは潔白だわ!どうして!?」

「騒ぐなアリア!次の心証が悪くなる!即日上告はする!落ち着け!」

床を蹴って検察に飛びかかろうとするアリアにかなえさんの女性弁護士連城黒江がだきつくように抑える。

次か・・・もし、最高裁で有罪が確定すればもう終わりだ。

覆すことは出来ない。

「っ・・・」

人を変えて裁判をやり直せというアリアを見ていられなくなり視線を少しずらしズボンを握りしめる。

なんでだよシャーロック・・・なぜ、かなえさんをアリアから引き離そうとするんだ・・・

全てというわけではないが公安0の一部や実家の力を借りてさえどうにもならないことなのか・・・

「・・・」

これは、圧倒的な力との戦いだ。

表の最強は姉さんだろうがシャーロックは裏での力が圧倒的ということだ。

本当に生きているとすればだが・・・

「やめろアリア!まだ、最高裁がある!確定じゃない!」

連城さんの声にはっと顔を上げると2人がかりでも抑えきれずアリアが暴れている。

見れば周りの警備員達が手錠を手にアリアを囲むように迫っている。

「アリア!」

警備員を殴れば逮捕されてしまう。

俺が立ち上がりアリアを抑えるのに協力しようとした時

「アリア落ち着きなさい」

静かな声が響き渡る。

アリアははっとしてその声に暴れるのをやめて声の主・・・かなえさんの方を見る。

「ありがとうアリア・・・あなたの努力・・・本当にうれしかったわ。まさか、アリアがイ・ウー相手にここまで成し遂げるなんて、あなたは大きく成長したのね。それは親にとって最大の喜びよ。遠山キンジさんあなたにも心から感謝しています。アリアはとても良い仲間に恵まれた。直接、それを見届けられて幸せです。椎名優希さん、あなたはアリアと私のために本当にいろいろなことをしてくれました。ありがとう」

「・・・」

何も言えないな・・・結局、俺のしてきたことは意味のないことだったのかもしれない・・・

だけどそれでも・・・

「かなえさん。俺はまだ、諦めるつもりはありませんよ。そこの腐った連中を操ってる奴らをぶっ潰してあなたを助けます」

そう、裏で操ってる連中がいるなら必ず引きずり出して叩き潰してやる。

幸い、俺には裏の世界に知り合いも多い。

絶対に何とかして見せる。

「ありがとう・・・でも」

かなえさんは誰かを見るような表情になり

「こうなることは分かっていたわ」

つぶやくのだった。

                  †

                  †

                  †

アリアはかなえさんのカメオがついた銃を持ち泣き続けるアリアを乗せ俺達は連城さんの車の中にいた。

しばらく、時間を潰してから高裁を出るかなえさんの護送車を追うように連城さんが車を出した。

少しでも・・・1秒でも長くかなえさんの近くにアリアをいさせてあげたいという配慮からあろう・・・

ありがたいな。

「ママ・・・」

横を見るとアリアはまだ、泣いている。

どうすればいいんだ・・・

かなえさんの裁判には明らかな裏からの手が回っている。

土方さんや実家に調べてもらう手もあるがおそらく、それだけじゃ駄目だろう。

ある程度は俺自身も情報収集し裏で手を回している連中を見つける必要がある。

そのためには・・・

拳を握りしめつつ思うことがある。

もっと、強くならなければならない。

そして、もっと人脈を作る必要もあるだろう。

帰ったら雪羽さんと鈴さんに連絡がついたら修業をつけてもらうか・・・

それと、あいつにも連絡して・・・

ん?

違和感を感じる。

見ると信号の停止線からかなり離れた所で護送車が止まっている。

連城さんの視線の先の信号がおかしい赤・黄・青のどれもがついていないのだ。

見ると周りの建物の電気も消えているようだ。

「停電か?」

連城さんの言葉と同時に理子の様子が少しおかしいことに気付いた。

理子?

ん?護送車の下から黒い影のような何かがこっちに向かってくる。

影が俺達の車の下に入っていく。

ぞっとするような嫌な感覚。

外に出るか一瞬悩むが直感で今すぐはでるなと判断する。

同時に閃光、更に放電音がバリバリバリと当たりに響き渡る。

こいつは電気か!?

電流は車体の外を通りぬけて中は無事だが・・・ってやべえボンネットから煙!

「みんな車から出ろ!危険だ!」

連城さんの声に外に飛び出す。

「こいつは・・・」

敵の姿が見えないので銀弾を入れたガバメント、右手で安物の日本刀を引き抜いた。

護送車からも煙が出ている。

引火したら中のかなえさんも・・・

その時、バリと放電が護送車の周囲で弾ける。

「ママ!」

「アリア待て罠だ!」

キンジとアリアが護送車に走っていく。

影・・・そういや、イ・ウーで戦った中にそんな能力者もいたな・・・

だが、宣戦会議の時確か似たような・・・

「「ヒルダ」」

俺と理子が同時に言った。

奴が護送車の上に降り立ったからだ。

ふりふり日傘にゴシックロリータの黒い服。

ローズマリーの姉ヒルダ・・・

もしかしたら、ローズマリーもいるかもしれないという警戒からヒルダには近づかない。

「ヒルダ!写真では見てたけど会うのは初めてね」

アリアが拳銃を抜くのを見てヒルダがそっぽ向いた。

「いやね。粗野ね。私あんまり戦う気じゃないのよ。日の光って嫌いだし。でも、つい手が出ちゃった。だって玉藻の結界からノコノコ出てくるんですもの。それに」

ヒルダはカツンとヒールで護送車の屋根を踏み

「これあなたのママよね?お父様のカタキは一族郎党。根絶やしにしてやるわ」

「キンジ!ライトサイド!優!バックアップ!」

アリアは叫びながらヒルダに接近する。

仕方ねえか!

俺は銀弾の入ったガバメントを撃とうとした時

「ん」

ヒルダが何か力むようなしぐさし

バチイイイとスパーク音が響いた。

「うっ!」

「きゃあああ!」

キンジとアリアが同時に地面に倒れる。

「っ!」

そのまま突進しようとしたが動作を中止しその場に留まりガバメントをけん制代わりにヒルダに放つ。

「ふふ」

ヒルダはそれを微笑みながら交わす。

「だからそんな血の気の多い姿を見せないで我慢できなくなっちゃうでしょ?ああ、もう食べちゃおうかしら?お前達なんかプリモでもやっちゃえそうだし」

キンジ達は動けないのか?音と閃光。

思いだしてきたぞ。

ヒルダの能力は電気を操る能力だ。

つまり、ステルス使い。

「最悪だな・・・」

紫電無しでこいつと戦うことになっちまった。

アリアは膝をがくがくさせながら立ったが戦闘は無理

キンジもとなると・・・

「俺達だけでやるしかないな理子」

と振り返るが理子の様子が少しおかしい。

震えているのだ。

そうか・・・そうだよなお前は・・・

「あ・・・優・・・希」

その目は怯えで染まっている。

駄目だ今の理子は戦わせられない。

ブラドの時と同じだ。

俺は理子のヒーローなんだからな。やることは決まってるさ

だとすれば・・・

「おい!ヒルダ!」

戦える奴がいないなら俺がやるしかねえ!

紫電無し、銀弾もマガジン1つだけ

武偵弾はあるがさて・・・

「何かしらゴキブリ?」

本当にどうでもいいようなゴミを見るような目でヒルダが俺を見下してくる。

「宣戦会議以来だが。以前にもルーマニアで会ったこと覚えているか?」

「ゴキブリと会った記憶はないわね」

「ゴキブリいうな!俺には椎名優希って名前があるんだよ!」

「いいじゃない。地べたをはいずりまわるゴキブリ。いえ、蜘蛛かしら?あなたの場合?」

ワイヤーで飛びまわりますからね。

蜘蛛男ってのも間違っていないが・・・

「へっ、じゃあお前は蝙蝠女だな。泣けよキーキーって」

「口の減らない男。殺してしまおうかしら?」

「それは無理だな。お前は今、負けたし」

「ほ、ホホホ!頭までおかしいのかしらこの蜘蛛男は」

「後ろに水月希がいるしな」

その時の反応は本当にすさまじかった。

ヒルダが一瞬で真っ青になりものすごい勢いで後ろを振り返ったんだからな。

引っかかるなよこんな嘘に。

まあ、それだけ姉さんが恐ろしい存在と言う事だから

行くぜ!ヒルダ!

戦闘狂モードを発動し、ヒルダが後ろを振り返った直後に俺は地を蹴った。

 




次回はヒルダVS優希です!
紫電なしに戦う羽目になってしまった優希大ピンチ!

姉さんは来てません一応(笑)

ちなみに、ヒルダの章が終わったらオリジナル章をするかもしれません。
前回は準オリジナルでしたから次は神戸編以来のオリジナル章になりますね。
大体ヒロインというのは主軸となる巻というか章があるわけでしてオリジナル章では
オリヒロインの誰かか新ヒロインをメインヒロインに持ってこようと考えてます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第221弾 再会

ようやく新スマートフォンでの作成環境が整ったので書いていきますよ!


戦闘狂モードの発動条件は怒りと数十秒の黙とうだ。

悪いがヒルダ、俺はお前に対しては瞬時に発動させるだけの怒りを感じてるんだよ!

理子のことでな!

 

「へっ!」

 

戦闘狂モードのせいで気分が高揚してきた状態で背後を振りかえった瞬間のヒルダに向けて左右に1発ずつ、更に正面に向け発の計4発をヒルダに向け放つ。

 

「!?」

 

ヒルダがこちらを見ようとする前にガガンと跳弾が突起物にぶち当たり正面の弾と同時にヒルダの左膝をほぼ同時に打ち抜き足をちぎり飛ばした。

ガクンとヒルダの体制が崩れかけるが既に再生は始まっている。

魔臓を破壊しないと再生するのは止まらないのは想定済み。

ちぎれ飛んでも再生するとかもう、トカゲだな。

速さは段違いだが・・・

だが、休む暇は与えない!

銀弾入りのガバメントをしまい、デザートイーグルと通常弾入りのガバメント。

ちぎれ飛んだ左足に見つけたぞ1つ目の魔臓!太ももだ!ゴスロリのスカートが少し破けて露出している。

ちぎれ飛んだ足が黒い影の中に消え、ちぎれた部分から新しい足が構成されている。

 

「・・・」

 

感覚を保ちながら俺は発砲しつつ周りの空間を把握する。

よし!

跳弾、正面から左のふとももの魔臓に弾が命中していくがその傷はすぐに治っていく。

だが、俺はそこに執拗に銃撃を続けつつヒルダと距離を詰めない。

 

「何のつもりかしら?痛くもかゆくもないわよ?ゴキブリ」

 

「強がんなよ蝙蝠女」

 

挑発に挑発で返しながらブラド戦後に土方さんに相談したことを思い出していた。

 

                 †

                 †

                 †

 

「吸血鬼って奴はな、魔臓を潰す以外にも攻略法はあるんだよ」

 

土方家の居間で煙草を口から離しながら土方さんが言う。

 

「それはどうすればいいんですか?」

 

ブラド戦で再生能力の厄介さは身にしみている。

今後の事も考えて聞いてみたんだが・・・

 

「1つは2度と再生できないぐらいに全身を粉々に消し飛ばすことだ」

 

殺しちまうがなと土方さんが付け加える。

 

「いやいや、姉さんじゃないんですから」

 

あの人ならできるだろうけど

 

「簡単にできることじゃねえよ。というより、出来る奴は公安0の中でも数人だろう。2つ目は相手を疲れさせてやればいい」

 

「走らせたり、体力を使わせるってことですか?」

 

「違う。魔臓ってのは4つのうち1つでも残ってれば再生する。同時に破壊できない、不利な状況なら魔臓の1つを執拗に狙い続けろ。そうすれば・・・」

 

                   †

                   †

                   †

 

「次!」

 

マガジンを入れ替えて再び発砲。

跳弾射撃が再び魔臓を含めた左足をちぎり飛ばす、

 

「ホホホ、何度やっても・・・!?」

 

その瞬間、ヒルダに僅かな動揺を俺は感じ取った。

気付いたな。

再生速度が少しだが落ちてきてる。

とはいえ、回復はしてるんだが・・・

 

「くっ!」

 

ヒルダが蝙蝠のような翼を展開し護送車から空に飛び上がる。

待ってたぜこの瞬間をな!

 

「全員伏せてろ!」

 

怒鳴ってからデザートイーグルを引き抜くとヒルダに向けて発砲。

跳弾を織り交ぜた弾どう予測しづらい弾がヒルダの正面、腹に吸い込まれてった瞬間。大爆発がヒルダを中心として巻き起こった。

武偵弾の炸裂弾だ。

地上じゃかなえさんを乗せた護送車を巻き込んじまうがここなら問題はない。

近くの建物のガラスがひび割れたがこの際無視しよう。

さて・・・

 

炎の固まりとなって何かが落ちてくるがそれは炎を振り払うようにして立ちあがった。

よしよし、キンジ達と距離を取れたな。

 

「ハハハ、ぼろぼろだな蝙蝠女」

 

「この・・・豚!お前だけは八つ裂きにしてもしたりない!絶対に・・・絶対に殺してやるわ」

 

ずたずたになりながら恐ろしい形相で俺を睨んでくるヒルダ。

怖い怖い。

再生はしてきているがそれは明らかに遅く、ゴスロリの服はぼろぼろで穴だらけだ。

魔臓は両ももに2つとへその下。

後一つは隠れてる胸の当たりか?

とはいえ、少しやりすぎたかもしれんな・・・

正直な所、吸血鬼とやりあう準備はすんでいない。

奇襲でキンジ達はしばらく動けないし、理子は戦意喪失中。

ここは、逃げるか相手を撤退させるかが勝利条件になるわけだが必要以上に怒らせてしまったらしい。

ここで、痛み分けとかの話しても聞いてもらえないだろうし・・・

どうすっかな・・・炸裂弾はもうないしあるのはカノン1発のみ・・・

通常弾はマガジン2つ。

銀弾は後1発。

刀はあるが・・・

仕方ねえな・・・時間稼ぎ戦法だな。

これだけの騒ぎ。東京での出来事で警察車両への攻撃。

時間さえ稼げば公安0が動く。

普通の警察でも大挙してくれば状況打破には繋がるはずだがこないだろうな・・・

後は、師団の誰かだがこの状況で援軍がどれほどで来るか・・・

 

「さてと、続きなるか蝙蝠女」

 

地面を蹴りだそうとしたその瞬間、ヒルダが口元を歪めた瞬間

 

「優!下だ!」

 

キンジの声と同時に飛び上がろうとした瞬間、一瞬目の前が光一色になり、気付いたら地面に這いつくばっていた。

っ・・しまった。

体が動かんがヒルダの影が多分、後ろから忍び寄っていたんだろう。

ミスった。

 

「ホホホ、どうしたのゴキブリ?飛ばないのかしら?」

 

首だけはなんとか動くのでヒルダを見上げるが・・・

くそ、這いつくばった状態で指一つ動かん。

電撃のせいで筋肉が麻痺してるのか・・・

 

「ちょっと疲れてな」

 

負け惜しみで言うとヒルダは楽しそうに足を上げるとわき腹に蹴りを入れてきた。

 

「ぐふ」

 

「何てざまかしら?反撃してみなさいな」

 

俺が動けないのを知ってヒルダが執拗に俺に蹴りを入れてくる。

動けない俺はなすがままに蹴られ続け、痛みに耐えるしかない。

がっと、脱げてしまったのか素足でヒルダが俺を頭を踏みつけ、力を少し込めてくる。

 

「このまま、スイカのように潰してやろうかしら?」

 

ミシミシと力が込められていく。

くそ・・・いたたこのままじゃ本当に・・・

意識が遠くなっていく・・・

俺はまだ・・・

 

 

「ヒルダ!」

 

その声にヒルダは足をどける。

 

「よせ、ヒルダ!優希を離せ!」

 

目だけでそちらを見るとワルサ―2丁を構え、髪で2つのナイフを装備した理子。

その声は明らかに震えている。

 

「くそ・・・ったれが」

 

動こうと必死にあがく。

動けよ馬鹿体!今動けないでいつ動くんだよ!

そう思った瞬間、再び、ヒルダが電撃を流してきた。

ぐっ・・・

動く気配はあったものの再び体が動かなくなる。

 

「ヒルダ!」

 

理子の声にヒルダはそちらを見ると

 

「ああん、4世なんて凶暴な目。かわいい。だから好きよ4世。私が高貴なバルキー犬ならあなたは狂犬病にかかった野良犬。でも、分かってるんでしょ。あなたと私はお友達。お父様が不在の今は私がドラキュラ家の主。望むものはなんでも与えてあげるわ」

 

「近づくな!甘く見るな!そんな嘘にだまされるかよ!」

 

「私の目を見なさい理子。嘘をついてる目じゃないでしょう?」

 

「駄目だり・・・ぐっ」

 

再びわき腹を蹴られ声が中断される。

その間に理子はヒルダの目を見てしまったようだ。

そう、催眠が使えるその目を・・・

 

「ほら、銃と剣を下ろしなさい。私との友情のために私の目を見ながらそう、よく見ながらゆっくりゆっくり」

 

理子は完全にヒルダの催眠にかかってしまったようで銃も剣を下ろしてしまう。

ヒルダはコツコツと理子の元に行き自分の耳から蝙蝠の形をしたイヤリングを外し

 

「友情の証にあげる」

 

と理子の耳にそれをつける。

理子はヒルダを睨んでいるがヒルダはそれをにこにこして見ている。

されるがままじゃねえか・・・くそ、頼む緋刀さえ発動できれば回復能力が使える。

スサノオ!スサノオ!どうにかなんねえのかよ!

だが、声は聞こえない。

あいつは緋刀を使用しないと出てこない。

 

「さ、ゴキブリ。あんただけは殺しておこうかしら?」

 

ヒルダがこちらに歩いていく。

止めを刺す気か・・・

だが、体が動かねえ・・・

だが、その時ヒルダは日傘を傾け空を見上げた。

音?何かが近づいてきてるのか?

あれは・・・シャーロックが脱出の時に使ったICBM?

それが、地面に突き刺さると直前、ヒルダが後ろに後退する。

同時に誰かが俺の前に立つ。

ICBMが地面に激突し、ハッチの中から出てきたのは・・・

 

「ヒルダ。お前はこの世でもっとも傷つけてはならない人を傷つけた」

 

紋章入りの鞘からサーベルを取り出しヒルダに向ける

 

「君にアンラッキーなお知らせが4つある。これは、カンタベリー大聖堂より恩借したクルス・エッジ。芯はスウェーデン鋼だが刀身を覆う銀は加齢400年以上の十字架から削り取った純銀をホイルしたもの。2つ目は・・・」

 

そいつが抜いたのはジグザウアー。通称シグ。

 

「ホーリー。それも君が慣れていないプロテスント教会で儀式済みの純銀弾だよ。君はお父さんほど、僕らとの戦いに慣れていないんだろう?」

 

純銀弾・・・しかも、ホーリーか・・・恐ろしく高いんだがヒルダには有効と俺も考えていたが入手できなくて通常の銀弾しか持ってなかったんだよな・・・

 

「3つめ、ここにいるリゼは対吸血鬼の戦闘訓練を叩きもまれていてね。純銀装備も携行している」

 

その後ろ姿しか見えないが、着ているのはヒルダと似たゴスロリ系の服か・・・

つうか、後ろ姿しか見えないんだが・・・

 

「4つめ、僕は怒っている。君がアリアと・・・」

 

あいつが振り返る。

 

「僕の親友を傷つけたことに」

口元がにやけるもんだな久しぶりに会うと

一瞬だが俺はあいつと・・・エル・ワトソンと目が合った。

久しぶり、そう言ってる気がした。

だが、すぐにワトソンはヒルダに方を見て一刀一銃の構えを取る。

 

「リゼ!」

 

「了解」

 

もう一人の女の子もワトソンから少し離れて武器を取りだした。

銀のショートソード。俺の日本刀のような長さはなく振り回しが容易なタイプだ。

 

「いやだわ。どうも銀くさいと思ったら」

 

ヒルダがぎりっと歯ぎしりをする。

ワトソンの威嚇が効いてるのか。

 

「貴族が正しい決闘の手順を踏まず奇襲する非礼は承知の上だがドラキュリアヒルダ!ここで君は倒す。アリア、少し目を閉じて、レディーにあいつの血なんか見せたくないからね」

 

言われたアリアはきょとんとしてるぞおい。

あれ?そう言えば、ワトソンってアリアの知り合いなのか?

にしても露骨にキンジを無視してないかエル

って、ん?

リゼと呼ばれていた少女が少しだけ首を傾けてこちらを見たがすぐに後ろを向いてしまう。

なんだ?

 

「・・・」

 

ワトソンとリゼがじりっと距離を詰めようとするとヒルダは扇子で空を指し

 

レディーと遊びたいなら時と場合を考えなさい、無礼者。こんな天気の悪い日に、こんな昼遅くに遊ぼうなんて気高いドラキュリアが受けると思って?」

 

今日は快晴だぞ・・・天気が悪いって・・・

妙な文句を言ったヒルダの体が影の中に沈んでいく。

逃げるのか?

 

「エル!」

 

どうするという意味で言ってみたがあいつは動かない。

リゼと言われてた少女もだ。

 

「じゃあね。今日は我慢しといてあげるわ」

 

そして、ヒルダの姿が完全に影に消え、あたりから気配が消えた。

ぺたんと理子が催眠術から解かれたようにアスファルトの道にしゃがみ込む。

なんとか、なったのか・・・

 

「立てますか?」

 

その声に顔を上げるとリゼと呼ばれていた女の子が左手を差し出していた。

金髪に青い目、純粋の西洋人って容姿で美少女の部類に入るだろう。

だが、表情はレキみたいに無表情だ。

そのままでいるわけにもいかないし

 

「ああ、ありがとう」

 

素直に手を取ろうとして、直感的に下げた瞬間、少女の左手の服の中からシャッと仕込みナイフが飛び出した。

 

「うお!」

 

びっくりして手を下げると同時に聞きたくない声を聞いた。

 

「チッ」

 

え?舌打ちした?今、舌打ちしたよねこの子!

 

「申し訳ないです。つい忘れてました」

 

「あ、ああそうか?」

 

駄目だ、無表情で本気だったのか分からん。

とりあえず、うっかりさんと認識しといて、自力で立ち上がってもう一人の方を見る。

エルは・・・エル・ワトソンはアリアに肩を貸しているところだった。

キンジもふらふらしてるが無事だな。

 

「もう、動けるわ肩離して」

 

プライドの高いアリアはそういうと自力で立ち護送車の方を見る

 

「ママは?」

 

そちらを見ると警護官に両脇を抱えられたかなえさんがアリアを安心したように見ている。

規則上喋ることは出来ないが無事でよかった。

 

「助けてもらってなんだが、お前イ・ウーの生き残りか?何をしにきたんだ?」

 

ん?キンジがエルに話しかけてるぞ。ここは、俺が・・・

 

「人に名前を尋ねる前に自分が名乗れ」

 

「お、おい!」

 

いきなり敵対ムードかよエル

 

「遠山キンジだ」

 

「知ってるよ。以前事前調査で君の写真を見た事があるからね」

 

なら聞くなよとかキンジ思ってそうだな

 

「僕はエル。エル・ワトソン」

 

アリアがえっとした顔でエルを見る。

 

「え?え、じゃああんたまさか」

 

「そう、僕はJ・Hワトソン卿のひ孫だよ」

 

エルは次に俺の方を見ると

 

「優久しぶりだね。直接会うのは何年ぶりかな?」

 

「最後に会ったのは2年前じゃなかったか?エル」

 

その会話でアリアとキンジがえっと俺をとエルを見比べる。

 

「優、ワトソンと知り合いだったの?」

 

「ああ、昔ちょっとな。で?その子は誰なんだエル?」

 

俺がリゼと呼ばれていた子の素性を聞こうとしたんだが

 

「人に名前を尋ねる前に自分が名乗るべきじゃないんですか?」

 

と、青い瞳を俺に向けて言ってきた。

な、なんかこの流れ見たぞ。

 

「あ、ああ悪い。椎名 優希だ」

 

「知ってますよ。わざわざ名乗らなくても」

 

こ、こいつ!

 

「お、おいリゼ」

 

エルが一瞬困った顔になって俺とリゼを見るが大丈夫だエル。これぐらいじゃ切れたりしねえよ。

 

「リゼです」

 

え?それだけ?レキみたいにそれだけの名前なの?

 

「まだ何か?それともスリーサイズを教えろと?」

 

「い、いやいい」

 

俺この子になんかした?まさか、忘れた過去にこの子となんかあったの?

ものすごい敵対心向けられてるんだけど?

 

「と、とにかくだ!リゼの事は後で説明するとして僕がいいたいのは!」

 

エルはアリアとかなえさんの方を交互に見て

 

「僕は許嫁と義理の母を助けに来た。それだけだよ」

 

は?今何て言ったんだ?

許嫁?

アリアが目をまん丸に開け、キンジを見ると慌てて目を反らしたぞ。

 

「許嫁?」

 

キンジが言うとエルは繰り返し言うのだった。

 

「アリアは僕の許嫁だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




みなさんお久しぶり草薙です!

いやぁ、アリア最新刊も面白かったですね。
あまり、ネタバレはいけませんからいいませんが緋弾のアリアも最後に近づいてるなとなんとなく思います。
だって、戦線会議にいて素性が分からないのもはや、アメリカだけですしね。

最後は相変わらず燃える展開!でした。
キンジはやはり、主人公してますね。

さて、守るものはいよいよヒルダとの巻に入っていきます。
優とワトソンは友達ですが問題はオリキャラのリゼです。
展開は読めると思いますが現在の優は紫電もない緋刀も使えないというある意味ステルスを相手にするには最悪に近い状況ですがそれでもヒルダとは戦ってもらいます(笑)
過去の理子との因縁状から優は引くことは許されません。
今回も死にかけながらこの章を突破してくれると思います。
では!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第222弾 迷う優希

誰も見てないかも…お久しぶりの草薙です


エルの爆弾発言の後、真実を問いただす前に警察が大挙して現れ俺はたちはいろんな理由からちりじりになった。

エルとリゼはアリアの弁護士に話があるらしく一緒に行ってしまったしアリアとキンジは先に帰るという事で別れる。

許嫁発言の件は後でエルかアリアに直接聞けばいい。

理子は急に用事があるという事で乃木坂駅の方に急ぎ足で向かって言ったので俺はキンジ達に理子を追うとつげて、別れるとその後を追った。

ヒルダの件もあるが何より、理子の事が心配だった。

 

「理子!」

 

ようやく、追いついて肩に手を置くと理子は一瞬、びくっと何かに脅えるように体を揺らした。

振り返って俺の顔を見ると一瞬、どうしていいかわからないように目を泳がせた後

 

「何か用?」

 

これは、裏理子の方か・・・

 

「何かじゃねえよ。大丈夫か?さっき、ヒルダに・・・」

 

「はっ、無様に負けてよくいう。優希」

 

理子は顔を少し下げ、髪で表情がよく読めなくなった。

う・・・そう言われると弱い・・・が

 

「次は勝つ・・・さ」

 

「勝つ?どうやって?」

 

「それは・・・」

 

正直な所、今回のヒルダはまるで、本気でなかったと思う。

条件も最悪みたいなことも言ってたし全開で来られたらおそらく勝負にすらならないかもしれない・・・

俺はまだ、弱すぎるんだ。

 

「話にならないね」

 

理子はふっと笑ってから俺に背を向けると早足でその場を去ろうとする。

俺は手を伸ばしかけその手を下ろす。

今、俺に出来ることはない。

いや・・・あえて、言わせてもらう

 

「それでも理子!俺はヒルダを倒してお前との約束を果たす!」

 

必ず助けると言ったあの子供の頃の約束を・・・

 

「・・・」

 

聞こえたかは分からない。理子は振り返らずに人ごみの中に消えていった。

 

「絶対にヒルダは倒してやる」

 

俺は自分に活を入れてから理子が消えて行った方とは逆の方に歩きだした。

 

                  †

                  †

                  †

 

東京都内に存在しているある建物の中にその部署の人間達は働いている。

『公安0課』、でかでかと掲げられているわけではないがその存在は闇の人間には恐れられている存在である。

理子達と別れて俺が来たのはここだった。

 

「土方さんならいないよ。あの人、極東戦役の件で総理大臣に呼ばれて近藤さんと首相官邸じゃないかな?」

 

許可をもらってオフィスに入ると相変わらずやる気のない沖田刹那がスマホをいじってだらけていた。

他にも数人いたが、どいつもこいつも恐ろしいほどのやり手だと肌で感じさせられる。

にしても、土方さんは今日は会えそうにないか・・・

流石に、首相とは俺も知り合いじゃないし・・・というかころころ変わるから今の首相とは知り合いではないというわけだが・・・

 

「それならいいんだ」

 

こいつに関わると面倒なことにしかならない。

だが、俺が退出すより前に後ろから沖田が言ってくる。

 

「聞いたよ君。紫電の魔女に負けたんだって?しかも、昼に」

 

小馬鹿にしたように沖田が鼻で笑う。

ちくしょう・・・

 

「ああ、そうだよ」

 

「アハハハハ」

 

事実なのではっきり言ってやったらこの野郎・・・

 

「まあ、いいんじゃない? 吸血鬼ごときに、遅れ取ってるようじゃそのうち死ぬね君」

 

ごときときたか・・・

だけどな

 

「といいつつお前も勝てないんだろ沖田?」

 

「何?喧嘩売ってる?優希君」

 

一瞬、目を細めて沖田が言う。

あれ?もしかして、楽にヒルダ排除できるかな?よーし

 

「だってそうだろ。あいつは電気。お前は水。相性最悪じゃねか」

 

水は電気をよく通すからな。

 

「何だ?何の話してるんだ?」

 

突然、の太い声がして振り向くとスーツ姿の大男が立っていた。

2メートル以上ある大男だ。

で、でけえ

 

「丁度いい、原田さん。唐突ですけど紫電の魔女と僕が戦って勝つのはどっちだと思います?」

 

「いきなりだな沖田。んん?紫電の魔女ってあれだろ?この前捕まえたブラドの娘・・・

どう考えても沖田の勝ちだ」

 

ぶしょうひげをじょりじょり手で擦りながら原田さんが言った。

この人とはあんまり、話したことはないが一応顔見知りだ。

だが、明らかに相性の悪い相手にどうやって勝つかは聞いておいて損はない。

この人達は全員殺しのライセンスを持つ戦闘集団だ。

それも、全員SランクとRランククラス。

無論、それ以下もいるにはいるんだろうが・・・

 

「どうして、沖田が勝つって分かるんですか原田さん。相性は最悪ですよ」

 

水は電気をよく通す。子供でも分かることだ。

 

「そうでもないぞ。全く不純物のない純水は電気を通さない。それを纏えば紫電の魔女の電気は通さない。そして、魔臓は圧縮した水の散弾一斉射撃で同時破壊。これで、紫電の魔女は排除できる」

 

「こんな風にね」

 

沖田が缶コーヒーの空き缶を投げ、ごぼりと音がした方を見ると蛇口から出てきた大量の水が凝縮し、分裂し1部が流しに落ちたかと思うと大量に分裂するとそれらは一斉に缶コーヒーに激突・・・いや、粉砕した。

バラバラになったアルミ缶が床に落ちて音を立てていく。

これが人間だったら・・・いや、吸血鬼であってもまともに食らえば即死だろう。

悔しいがすごいな・・・これがRランクの境地。

ステルスか・・・俺にもこんな力があればな・・・

 

「で?誰が負けるって?優希君」

 

ふんと沖田が鼻で笑う。

くそ・・・

 

「ワハハ、こいつは別格だ。そう、落ち込むもんじゃないぞ椎名君」

 

原田さんが豪快に笑いながら言うが俺の気分は最悪だよ。

でも、この際だから聞いておこう。

 

「原田さん」

 

「ん?」

 

「ヒルダについてですが・・・」

 

強くなるには強い人に学ぶのがいい。

ヒルダと再度、激突する日も遠くない。

極東戦役が続く限り、明日にでも再度激突する可能性もあるのだ。

早く、強くならないといけない・・・

そうじゃないと・・・

 

               †

               †

               †

 

≪サイド土方≫

 

 日本の政治の中心って言えば国会だ。

だが、首相官邸も首相が住むという点では日本の中心と言っていい場所なのかもしれない。

そんな、官邸の一室に通された近藤さんと俺を迎えてくれたのは大沢内閣総理大臣。

既に、何回か顔を合わせており、今回も報告と現在の状況を報告し、その途中で大沢さんが話を切り出してきた。

 

「大アルカナ・・・かつての最悪の魔女、アズマリアが極東戦役に現れた・・・」

 

「総理、正確にはアズマリアの娘です。彼女本人じゃない」

 

近藤さんが訂正を入れるが大沢は首を横に振る。

 

「もちろん、分かっている。彼女本人であれば君達や自衛隊を動かしてでも排除を命令しているさ」

 

極東戦役に現れたアズマリアの娘、同じ名前のアズマリア。

もう、20年近く前の話だが、当時、アズマリアが率いた大アルカナは世界を滅ぼす寸前という未曽有の危機をもたらした。

それも、表の人間達は、そんな事実があったことも知らない。

世界の裏側で存亡をかけた戦いは行われたのだ。

 

「ガイア騎士団と言ったか?連中はあの、アズマリアの意思を受け継いでいる可能性はないのか?あの時のような、事態になるのは困る」

 

「彼女が同じ意思を継いでいるのであれば公安0が排除します。ご心配はいりません総理」

 

「本来であれば裏の世界の戦役には表の権力は介入しないのが原則だ。あれは、国家の裏での戦いでもあるからな」

 

そう、少なからず戦役にも国という存在が見え隠れしている。

アメリカや中国などがその代表だろう。

 

「だが、アズマリアの件は話は別だ。近藤君、アズマリアの娘が本当に危険と判断した場合は公安0が動くことを許可しよう。殺しのライセンスはそのためにある」

 

つまり、やばいと感じたら殺してでもなんとかしえろということか・・・

 

「それは、極東戦役に介入しろという事ですか?」

 

一人の少年の姿を思い出しながら言うと総理は頷いた。

 

「限定的な介入だ。だが、戦いに全面的に介入する必要はない。裏の戦いは裏に任す」

 

だが、それなら・・・

 

「武田や椎名の本家には助力を請わないのですか?彼らはそれこそが本領のはずです」

 

「私は残念ながら彼らを必要以上に信頼していない。武田は年若い学生が継ぎ未熟だ。椎名に至っては未だに、跡継ぎの問題も解決していないそうじゃないか。魔女連隊に手痛くやられたという報告も受けている。その点は君の方が詳しいんじゃないのか土方」

 

日本には裏社会としての武家、椎名と武田がある。

昔は、北条を含めた3家であったが北条がとある事件で没落し、更に、椎名と武田は内部でごたついている。

平和ボケといっていいのか迷うところだが魔女連隊に椎名は本家に攻め込まれる大失態。

更に、武田は若すぎるトップ。

それを言うなら椎名の後継者と目されてるあの鏡夜や優希も同じだろう。

 

「それは・・・」

 

「そう言えば、先ほど、面白い報告も受けている。椎名の問題児が紫電の魔女に負けたそうだな」

 

「負けたわけではありません。状況的には引き分けかと。それと、のぶ・・・武田の跡継ぎも相当に努力していると思います」

 

「かばうな、土方。やはり、チームメイトの弟と義妹だ。そういう気持にもなるな」

 

どうやら、大沢首相は裏社会で絶大な権力を持つ2家をよく思っていないらしい。

だからこそ、公安0に戦役の限定的介入の話を持ち出してきたのだろう。

 

「ゆ・・・椎名優希は希の弟です。それに、あいつは勝つために努力する男です」

 

「水月希か・・・」

 

首相はふーと息を吐いてからソファーに深く座った。

 

「世界最強の弟だから心配はいらないと君はいいたいのか?いざとなれば姉が弟に助太刀するから負けはないと?」

 

「希は気まぐれな奴です。椎名優希のことは大切に思ってるはずですが常にあいつを守るわけじゃありません」

 

「ふむ・・・では、紫電の魔女に彼が勝つのは難しいのではないか?」

 

「1人じゃ勝てないかもしれません。ですが、あいつには仲間の存在がある」

 

「仲間か・・・そう言えば、遠山の血筋も同じチームメイトだったな・・・緋弾のアリア、遠山、星伽、ウルスのレキか・・・よくもこれだけの面子が揃ったものだな」

 

「仲間を信じ仲間を助けよ。それが、武偵憲章の1つでもあります」

 

「・・・」

 

大沢首相は何かを考えたようにしてから

 

「本当は君達に紫電の魔女を東京から排除してもらうか検討するつもりだったんだがそういうことなら見送ろう。イギリスからの圧力もある」

 

「イギリスですか・・・」

 

「イギリスは1枚この事件に噛んでるな・少なくても無関係じゃないはずだ」

 

「007が来ると?」

 

「そうなれば、君たちには本気で動いてもらわんといかんだろうが多分、来ることはない。イギリス・・・正確にはイギリスの武偵の頭共が例の神埼の娘を強引に日本に引きとどめたことが恨みを買う原因らしいな」

 

「神埼の娘、神崎・H・アリアの裁判の件大沢首相は何かご存じなんですか?」

 

あの裁判には裏がある。

無実を有罪にする濃い裏だ。

その裏をこの首相は知っているのか・・・

 

「・・・」

 

大沢は一瞬、黙りこんでから一息吐いて言った。

 

「シャーロックホームズ、アズマリア」

 

「その二人が関係していると?」

 

「・・・」

 

大沢は黙ってこちらを見ている。

これ以上、言う事はないという事だろう。

 

「何にせよ。お任せください首相。公安0は必ずあなたの期待にこたえます」

 

「よろしく頼む」

 

近藤さんが強引に会話を打ち切り、首相もそれに応じる。

知る資格はないということだ。

あるいは、神崎・H・アリアとの繋がりがあるからこそ外されたのかもしれなかった。

いずれにせよ最高裁に持ち込まれる神埼かなえの裁判・・・

今のままでは絶望的な状況と言えるな。

 

               †

               †

               †

『サイド優希』

 

「全く、お話にならないぞ公安0」

 

俺はちょっと、気落ちした状態だ・

なぜなら、公安0でヒルダ対策を聞いては見たがあの人達、ほとんどが自分の能力を見せるのを嫌がり教えてくれなかった。

沖田は例外として

まあ、考えてみたら当然だ。

自分の能力を知られたら対策されて自分が危うくなるかもしれないからだ。

だからこそ、俺も切り札としていろんなものを隠して生きてきたのだ。

最近は、使わざる得ない場合が多いのだが・・・

 

「それで、私の部屋に来たんですか優君?」

 

風呂上がりに来てしまったようで少し濡れた髪を鏡の前で整えている秋葉。

裁判には用事があり行けなかったが理子の件もあるし帰りによったんだ。

 

「んん、寮に帰りにくいからなぁ」

 

綺麗に整理された女の子の部屋。

ちょっと、ドキドキとかはないんだけどな秋葉だし。

秋葉の趣味なのかクリーム色の花柄ソファーに座り出されたお茶をすする。

うん、おいしいな・

 

「アリアさんに許嫁がいたからですか?なんで、優君が帰りにくくなるんです?」

 

ここに来る前にある程度はメールで秋葉には伝えてある。

 

「問題はそこだけじゃないだろ・・・エ・・・ワトソンとアリアの組み合わせだからだよ。

キンジとアリア喧嘩してるぞ多分」

 

見なくても分かる。さっき、キンジにメール送ったら一言、アリアなんか知るかと返ってきたし・・・

とりあえず、あんな険悪な場所に帰りたくない。

流石に秋葉の部屋に泊まるわけにはいかないので今日は、烈風のある倉庫に泊まろう。

幸い、泊る装備は持ち込んであるし。

避難所になりつつあるな・・・

 

「それは分かりましたが優君はいいんですか?」

 

「何が?」

 

「アリアさんとワトソンさんが結婚しても」

 

「物理的にありえん」

 

「?」

 

っと!やばい、これは言っちゃ駄目だったんだ!

 

「物理的ですか?」

 

「あ、あー、なんというかアリアとエルの家柄的に・・・」

 

「名門貴族同士何の問題もないと思いますが?」

 

秋葉さん!頼むからもう、追及してこないで!

 

「いろいろあんだよ。悪いけど追及しないでくれ」

 

「よくわかりませんが分かりました」

 

突っ込んでも俺が口を割らないと判断したのか意外とあっさり秋葉が引きさがってくれたぞ。

物分かり言い子で助かります

 

「で、本題なんだが今回の件、本家はどう動く?」

 

「今回の紫電の魔女、ヒルダに対する対処は優君に一任すると当主代理の言葉です」

 

俺に一任か・・・

秋葉が本家に呼ばれて戻ったのは当主代理の母さんからの指示をもらうためだ。

椎名は裏社会の武家。

今回の宣戦会議には師団として参戦している。

俺はバスカービルで師団だから味方だ。

そして、秋葉は俺と同じバスカービルだが同時に椎名の家の近衛でもある。

より正確に言えば、俺の近衛というなんともややこしい構図が完成するのだ。

俺自身、勘当同然とはいえ、口が裂けても言えんが失くした紫電を預けてもらっているし秋葉も近衛を続けている。

あちらの意向を完全に無視することは難しい状況なのだ。

 

「月詠は?あいつが東京き来てくれれば助かるんだが・・・」

 

俺に一任とはいえ、自由に椎名の戦力を動かせるわけじゃないんだけど・・・

 

「月詠様は現在、日本にいません。詳細は私も聞いていませんがおそらく、極東戦役の件で動いているんだと思います」

 

楽はさせてもらえないわけか・・・

 

 

「他の戦力は?」

 

「鏡夜様は本家での待機命令のため。本家です。他の戦力はこちらに回す予定はないとのことです」

 

「つまり、こっちはこっちで何とかしろってことか・・・」

 

「はい」

 

どちらかと言えば東京は信冬の方の担当だからな・・・あっちはあっちで?属と戦ってるのかもしれん。

椎名の本家の戦力と言え戦役で戦える戦士はほとんどいないと言っていい。

極論から言えば戦えるのは月詠と鏡夜だけ。

それも、鏡夜は正直な話、戦力に数えていいのか迷うところだ。

あいつは、まだ成長中で実戦経験が足りなすぎる。

将来は強くなるだろうけどな

 

「それと、伝言を預かってます」

 

「ん?」

 

すっと秋葉が俺の前に来ると少ししゃがみ上目使いになったかと思うと

 

「優にぃ、たまには帰ってこないと私寂しいよ」

 

本当に寂しそうに秋葉が言うので一瞬、フリーズしちまった。

秋葉が離れてから

 

「と、咲夜様からの伝言です」

 

「了解」

 

近いうちに電話か実家近くまで帰って咲夜に会ってくるかな・・・

ま、それも理子の件が終わってからだ。

 

「それで、優君はどう動くつもりですか?」

 

「ヒルダは多分、東京だ近辺に潜伏してるだろう。話した内容から鬼払い結界の中にいれば襲ってはこないはずだ。それと、あいつは相当自信家らしい」

 

「自信家ですか?」

 

「ああ、吸血鬼は昼間に弱いし晴れた日も苦手って言ってたからな。そんな状況で戦いを挑んでくるんだから自信家だろ?」

 

「そうですね。後、璃璃色粒子・・・ステルスが使いにくくなる粒子が薄いのも原因かと」

 

「よくわからんがそんなのあるのか?」

 

「はい」

 

ということは、そのなんとか粒子って奴が濃い時に仕掛ければ勝機はあるということか?秋葉や白雪などのステルス組の援護は得られなくなってしまうが・・・

だが、そんな状況ではヒルダは姿をかくしてしまうだろう・・・

弱点の時に攻めるにせよ居場所を把握する必要もある・・・

それと最悪、単独でもヒルダに勝てるだけの切り札も用意すべきだな。

あ、そうだ!ブラドの時の・・・

姉さんに電話してみよう。

 

「ちょっとすまん秋葉」

 

「?」

 

スマホを取り出した俺を見る秋葉の前で操作して姉を呼び出す。

しばらくすると

 

「おーう」

 

と姉さんの声。

 

「姉さん?今いい?」

 

「ああ、いいぞ」

 

 

「前に、ブラドと戦った時の吸血鬼の魔臓の動きを鈍らせるあれどこで手に入れたのか教えて」

 

理子に渡したあの弾丸は元々は姉さんから渡されたものだ。

 

「ああ、あれな・・・今は手に入らんぞ」

 

「え?なんで?」

 

「あれ作るには吸血鬼の魔臓が必要なんだよ。あれが最後の魔臓で作った弾丸だから作れん」

 

魔臓が魔臓の動きを阻害するレシピ・・・ああ、そりゃ無理だな・・・

うわぁ・・・手詰まり・・・

 

「分かった」

 

「なんだ?ヒルダと戦うのか優希?」

 

「そうだよ。ブラドの時みたいにあれがあればいいと思ったんだけど・・・」

 

そうなるとヒルダが嫌がってた銀素材の武器で固めるしかないか?

でも銀装備ってめちゃくちゃ高いんだよなぁ・・・

純度高いやつはそれこそ目が飛び出るぐらいの値段するがエルとヒルダのやり取りを見た限り純度の悪い銀装備は効果が薄そうだ・・・

むう・・・

 

「よし、じゃあお姉ちゃんがプレゼントをやろう」

 

「プレゼント?」

 

「知り合いに武偵弾職人がいるからお前に紹介してやる」

 

「武偵弾なら持ってるけど・・・」

 

一応売買人は知ってるし

 

「ハハハ、ただの職人じゃないぞ?変態職人だ」

 

「いや、変態とか・・・」

 

「武偵弾の種類言ってみろ優希」

 

「え?炸裂弾、音響弾、閃光弾だっけ?」

 

「後は魔封弾だな」

 

ま、魔封弾?なんじゃそりゃ

 

「聞いたことないんだけど?」

 

「そりゃそうだ。そいつが開発して特許取得中だからな。まだ、世の中には出回ってない」

 

「どういうもの?それ?」

 

「簡単に言えばステルスの力を弾丸に封印し銃で発射できるらしいぞ。例えば雷なら相手に命中すれば大出力の電流が相手に流れるとかだ」

 

おおうっと!なんかすごそうだぞ

ってことは・・・

 

「姉さんの力も弾丸に込められるってこと?」

 

「それは無理だ。この前試したら弾丸が粉々になった」

 

おいおい・・・

 

「まだ、改良余地が大量にあるらしくてな。実戦で使ってくれる奴を探してそうだからお前を紹介しといてやったぞ」

 

ちょっ、そんな勝手に!

というかそれ試作型じゃないか!そんなもの実戦で使えるのか?

 

「上手くやれば、お前の戦術も広がるだろ?緋刀が使えなくてもステルスともやりあえる」

 

「・・・」

 

確かにメリットは大きい。

魔封弾とやらを使えれば俺のみが使えるわけで世の中に出回ってないということは相手の意表をつける切り札になる。

幸い、俺の周りにはステルス使いがいる。

風と炎だ。

風は秋葉に無尽蔵に供給してもらえるし炎も白雪に頼めば装填してくれるだろう。

あ、そうだ

 

「その試作型なんだけどもう一人、実用運用増やしていい?」

 

「ん?構わんぞ? ああ、遠山キンジか?」

 

「そうそう」

 

キンジを巻き込んでおくと白雪にも頼みやすくなるからな。

 

「確か、遠山キンジはデザートイーグル持ってたな。そっちの口径での調整になるぞそれじゃ」

 

「できれば、俺のガバメントの方の口径も欲しいんだけど・・・」

 

「アリアも試験対象にしろってことだな?ま、頼んでおいてやるよ」

 

「ついでにドラグノフの方も・・・」

 

「ふむ、レキの方だな・お嫁さんも気にしないといかんからな」

 

「誰が嫁だよ!レキは友達だって!」

 

「ハハハ、婚約者だ。少なくてもウルスの里の連中はみんなレキとお前が結婚すると思ってるぞ」

 

「勘弁してよもう・・・」

 

誤解を解くにしても大変そうだ・・・

鈴さんにフォローしてももらおうかな・・・

 

「そういうことならワルサ―に関しても都合付けておいてやろう」

 

理子の分だな。

 

「頼むよ姉さん」

 

「なーに、バラバラの口径で作れっていったら多分悲鳴を上げるだろうが大丈夫だろう」

 

すみません見知らぬ職人さん!

 

「紹介もめんどいな・・・直接お前の家に送るように手配しとくから適当に使え」

 

「ありがとう姉さん」

 

「なーに、峰理子に関しては私も負い目があるからな」

 

「じゃあ、姉さんヒルダ倒してよ」

 

勝てるだろ姉さんなら・・・

 

「私は戦わん。優希、お前がやれ」

 

勝てないからではない。

勝てないなどこの姉にはありえないのだ。

 

「それって、俺の成長のため?」

 

「お前は理子のヒーローなんだろう?ヒーローなら自分の彼女救って見せろ」

 

「ハハ、さっきレキが嫁さんとか言ってたくせに」

 

「2人とも嫁にすればいいじゃないか。なんなら、私が日本に攻め込んで一夫多妻制に改憲させてやろうか?」

 

冗談に聞こえないんだけどそれ・・・

 

「冗談だよね?」

 

「さーてな」

 

電話の向こうからクククと邪悪な顔を浮かべた姉の姿が想像できる・・・

ってうお!

 

「・・・」

 

無表情だが明らかに怒ってる秋葉さんがこっち見てるぞ!

 

「ちょ、秋葉どうした?」

 

「レキさんはやっぱり優君のお嫁さんなんですか?」

 

「い、いやそれはな・・・」

 

「なんなら秋葉も嫁にすればいいじゃないか!ハハハハ」

 

姉さんが大声で言ったらしく電話の声がもろに秋葉に聞こえるぐらいの音量だった。

 

「え?」

 

秋葉さんが怒りのオーラーを沈めてくれたというか恥ずかしがってる?もしかして?

 

「おい、秋葉」

 

「・・・ださい」

 

「え?」

 

「出て行ってください!今すぐに!」

 

暴風が俺を包み込んだと思った時には窓の外に放り出されていた。

4階の高さだってここ!

いや、寮が遥か下に見えるから20階ぐらいの高さだ!

死ぬ!死ぬって!

空中でもがきながら一緒に飛ばされたらしい携帯を手に取ると

 

「姉さんの馬鹿野郎!秋葉に追い出されちゃっただろうが!」

 

自由落下を始める前に慌てて烈風を呼び出すボタンを押してから電話に怒鳴る。

 

「がーんばーれ~」

 

ツーツーと接続が切れた音。

くそ!あの馬鹿姉!殴れないけど殴りたい!

 

「馬鹿姉ぇ!」

 

落下が始まり視界に烈風が迫ってくるのを見ながら猛烈に俺は姉への怒りを叫んだ・

 

 




てなわけで久しぶりの更新です!
誰あんたみたいに言われそうですが生きてますよ!

さて、ヒルダ編に、なってから中々進ませんでしたがそろそろ2週か一週に一回は更新したいとこですがあてにしないでくださいね(笑)

なろうで止まってる艦魂小説も進めないといけないし時間もないです。
せっかく艦これで艦の擬人化が有名になったのに一回も更新できてない悲劇です。

アリアの方では守るものオリジナルの原作キャラ強化に踏み切ります。
その名も魔封弾。
ネーミングセンスないですね(笑)

というのも今のままだとキンジ達原作キャラがオリ敵に対抗できない恐れがありまして新武偵弾の誕生となります。
ぶっちゃけステルス使いはチートですから前々からこの武偵弾は考えにありました。

では次回は頑張って早く更新したいなぁ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第223弾 お前女だろ

秋葉に外にブッ飛ばされた次の日。京菱重工の倉庫から直接、武偵校に向かい教室で机に突っ伏して眠っていると

 

「おーす!優!」

 

背中叩くな

 

「んだよ武藤。寝てんだから起こすな!」

 

いつの間にか教室内はクラスメイトが登校してきており廊下も少し騒がしくなっていた。

爆睡してたみたいだな・・・

 

「おはよう。椎名君。武藤君」

 

「おーう」

 

不知火も登校してきたので眠るのをやめて起きる。

アリアとキンジはまだか・・・理子と秋葉もまだだな

 

「寝不足かい椎名君?」

 

不知火が朝だと言うのにさわやかな笑顔を浮かべて言ってくる。

 

「昨日、いろいろあってな。2時間ぐらいしか寝てない」

 

あくびをしながら言うと武藤が自分を指しながら

 

「俺は8時間きっちり寝たぜ!昨日は特にすることなかったしな」

 

「死ね」

 

アサルト式に武藤に言ってからスマホを取り出す。

そういや、エルの奴。昨日、連絡してこなかったな・・・今日の放課後当たりに連絡してみるか・・・

 

「なんだ?早いなお前ら」

 

「よ!キンジ!」

 

「おはよう、遠山君」

 

「よー」

 

キンジが登校してきたがアリアの姿が見えんな

 

「キンジ、アリアは?」

 

「さあな。別々に出てきたから知らん」

 

やっぱり、なんかあったっぽいな・・・

まあ、そりゃそうか・・・アリアはキンジが好き・・・キンジもアリアの事を悪くは思ってないはず。

そこに、婚約者の登場だもんなぁ・・・説明下手なアリアがキンジを不機嫌にしてしまったんだろう・・・

でも、フォローしようにもいろいろ言えないことも多いからなぁ・・・

同じチームとしてちょっと不安になってきた。

 

「おはようございます」

 

「あ、山洞さん。おはよう」

 

不知火の声に振り向くとそのバスカービルの1人、秋葉も登校してきた。

だが、俺と目が合うとふいっと目線を外して机に座ってしまう。

俺が何をした・・・姉さんのせいだろ全部・・・

心配しなくても無理やりお前を嫁にするようなことないぞ秋葉・・・

その後、しばらくキンジ達と軽く雑談していると唐突に不知火が気になる話題を振ってきた。

 

「ところで、みんな知ってる?今日はうちのクラスに転校生が来るらしいよ」

 

「まじかよ!女子か!女子だろ!」

 

喰いつくなよ武藤・・・しかし、うちのクラスなんでこんなに転校生多いんだ?水の時と言い秋葉の時といい・・・

 

「どっちかは分からなかったけど2人入ってくるみたいだね」

 

2人か1人ぐらい別クラスにすればいいのに・・・ん?何か嫌な予感がするなぁ・・・

 

「2人とも女子だ!そう決まってる!」

 

「どっちでもいい・・・」

 

キンジは何かを考えているようで本当にどうでも良さそうな感じだ。

アリアの事なんだろうけど・・・

しょうがない・・・

 

「キンジ、え・・・ワトソンの事なんだが」

 

そこまで言った時、視界にピンクの髪が見えたのでそちらを見るとアリアが教室に入ってきてその少し後に担任の高天原先生が入ってくる。

アリアに話しかけるタイミングなかったな・・・

だが、それから数分後俺は頭を抱える事態となってしまうのだ。

 

「それではみなさーん。スペシャルゲストの転入生を紹介しまーす!」

 

先生が言って教室に入ってきた2人の男子と女子

 

「げっ!」

 

思わず声をあげてしまう。

黒板に2人の名前がそれぞれ、書かれる。

エル・ワトソンとリゼ・ファインシュタイン

つまりは、そういうことだ。

 

「エル・ワトソンですこれからよろしくね」

 

武偵校の男子制服に身を包んだワトソンが自己紹介すると女子から黄色い悲鳴が上がる。

うーむ・・・

 

「リゼ・ファインシュタイン」

 

それだけか?その蒼い瞳は虚空を見ているようだったが少し首が動いて俺を一瞬見てくるがすぐに視線を外してしまった。

この子、ちょっと苦手だ・・・レキの時とは違う意味で・・・

やたら攻撃的だったし

そして、今度は男子から歓喜の声。

お前ら可愛い女子なら誰でもいいのかよ・・・

エルと目が合うと驚いたろとアイコンタクトで言われてるのが分かったので苦笑いしておいた。

ちなみにキンジとアリアは固まってるな・・・

こいつは厄介なことになりそうだ・・・

 

朝のホームルーム終了のベルが鳴り。エルとリゼが一番い後ろの席に座り早速、女子と男子が2人を取り囲む。

もちろん、エルに女子。リゼに男子だ。

 

「前の学校ではどこの学科だったの?ここではどこに入るの!」

 

「ニューヨークではアサルトマンチェスターではインケスタ、東京ではメディカ。僕は自分の武偵技術に最後の磨きをかけに来た」

 

ハートマークの目でエルを囲む女子もそうだが、男子にも注目だ。

 

「リゼちゃんはどこの学科!俺はロジなんだけど!」

 

さっそく、武藤がリゼに喰いついていってるな・・・

 

「・・・レザド」

 

秋葉以上に淡々と答えているがレザドか・・・あいつら、正面からやりあわないタイプが多いから苦手なんだよな・・・

罠とか暗殺とか正攻法で戦うタイプから見たら相性最悪も悪いし

ますます、リゼって子苦手になりそうだな

質問攻めにあっている2人を横目に俺はスマホを取り出した。

姉さんから教えてもらった武偵弾職人からの荷物受取のメールを確認するためだ。

新着があるな・・・

あ、マリからだ。

何何?転校生って可愛い子ですか?だと?

送り返すのも面倒だから後にしよう。

武偵弾職人からの連絡はないので受け取りはまだ先だな・・・

 

「おい、優お前知ってたのか?」

 

「ん?」

 

「ん?じゃねえよ。あの2人の事だよ」

 

キンジが一瞬、エルを見て言ってくる。

 

「転校してくることは知らなかったぞ。まあ、知り合いではあったけどな。ワトソンとは」

 

「どう言う奴だ?」

 

「どうって言われてもな・・・」

 

どこまで言っていいのか迷うとこだ・・・あんまり、べらべら他人の個人情報を喋るには裏切りになっちゃうし・・・

 

「まあ、悪い奴じゃないから安心しろってキンジ」

 

と俺がそこまで言った時

 

「たらしが移る?」

 

「たらしですか?」

 

ん?エルとリゼの方だな。

なにやらそれぞれ、女子と男子に耳打ちされてるようだが・・・

 

「な・・・トオヤマ、それに優希もか!」

 

「最低男2人ですね気持ち悪い」

 

と、なぜか俺とキンジを見ながら2人が冷たい視線をよこしてくる。

よくわからんがいらんこと言われたらしいぞ・・・

 

「トオヤマはともかく、優希は変わったんだな。まさか、そんなに女子を毒牙にかけてたなんて・・・」

 

な、なんかエルに対する俺の評価が下がって言ってる気がするぞ・・・

 

「優希? 名前で呼ぶってことはワトソン君ってあいつのこと知ってるの?自己紹介とかしてないよね」

 

エルが俺の事を名前で呼んだのを疑問に思ったらしい女子が聞く。

 

「子供の頃ちょっとね。彼とは幼馴染なんだ」

 

そうなの!?という視線が俺に集中してくる。

事実だが驚くことでもないだろそれぐらい

 

「最近は直接会うことも出来なかったんだけど久しぶりに再開したんだよ。変わってないように見えたんだけど・・・」

 

「幼馴染がたらしになってたらショックだよね」

 

うんうんと女子が言いだしたのでもう、我慢ならん。

 

「エル!」

 

怒鳴るように立ち上がるとずかずかと女子の間に割り込んでエルの腕を握る。

 

「ちょっとこい!」

 

「でも、授業が・・・」

 

「いいから!1回ぐらいなら大丈夫だよ!」

 

「ちょっと!優希!ワトソン君をどこに連れてく気よ!」

 

「きゃー!ワトソン君がたらしに染められるぅ。でも、それがいいわ」

 

と女子の声が後ろから聞こえてきたが無視!

そのまま、教室を出たところで

 

「あ!リゼちゃん!」

 

と後ろから声がしたので振り返るとリゼがついてくる。

ついてくるなら別に構わん。

そのまま、屋上に行きエルの腕を離してリゼが入るのを確認して扉を閉めてようやく一息だ。

 

「強引だな君は。そういうところは少し昔と変わった」

 

ふっとエルは口元を緩めて言った。

 

「あのままだと、女子にあることないこと吹き込まれてたからな。避難だよ。まあ、それと昨日はゆっくり話せなかったからな」

 

壁を背に座りエルにも座るように促すとハンカチを下に引いて俺の横に座る。

リゼも同じようにハンカチを引いて女の子座りだ。

エルは違うけどな。

 

「しかし、転校してくるなら連絡ぐらいしろよ。びっくりしただろうが」

 

「サプライズさ。君をびっくりさせようと思ってね」

 

「びっくりはしたさ。アリアとの婚約も含めてな」

 

そこは探っとかないとな・・・

 

「彼女と結婚するのは昔から決まってたことだよ。昔は言う必要がなかったから言わなかったけどね」

 

「いや、エルお前・・・」

 

これだけは言っとかないとな。

 

「女だろお前は」

 

 

 

             †

             †

             †

 

『サイド??』

 

東京を見下ろすということを考えると庶民が思い浮かべるのはまず、東京タワーだろう。

昔はそうだったが建設中のこの建物が完成したら未来の人間はどちらを見下ろすという状況に利用するだろうか?

そんなくだらないことを考えているとコツンと足音がしたので振り返る。

 

「あら? 無粋ね。こんな朝遅くに訪ねてくるなんて。ガイア騎士団というのはマナーも守れない組織なのかしら?」

 

「私の組織はそいうとこ、自由なんだ」

 

コツンと音を立てて床に降り立った少女はウェーブのかかった金髪の髪を揺らすと微笑んだ。

 

「それに、人間の世界じゃこの時間はマナー違反には当たらないよ。普通の子は学校言ってる時間だしね」

 

「ふん、高貴なドラキュリアが人間のマナーに合わせてあげる義理はないわね」

 

「じゃあ、いいじゃない。お互い自分勝手ってことで」

 

「物はいいようね」

 

これ以上、言い争っても意味はないと判断したヒルダが言った。

 

「ごめんね。とりあえず報告だけいいかな?」

 

「さっさと言いなさいな。それにしても、ガイア騎士団というのは人手不足なのかしら?トップ自らがこんな下請けするなんて」

 

「人ならいるよ。今日も、みんなに止められたけど私自身が望んで出てきただけ。ドラキュリア的にも人間的にもトップが出向くのは礼儀に反しないでしょ?」

 

「そうね。それは同意よ」

 

少女・・・アズマリアは少しだけ目を細めて微笑む。

 

「話が逸れたけど報告だよ。約束通り、今回の件では公安0は動かない。仮に動いても契約通り足止めはする。鈴・雪月花の誰が動いても同様」

 

「水月希の方は?あれは規格外よ?」

 

「私も規格外だよ」

 

にっこりとアズマリアが笑顔を浮かべる。

無邪気という印象を抱くがこの少女は底が見えない。

笑顔の下には途方もない力が隠されているのだ。

あの災悪の魔女先代アズマリアのように・・・

 

「あなた自らが足止めしてくれるのかしら?」

 

力としてはおそらく、ヒルダよりもアズマリアが上だ。

だが、ヒルダは相手にへりくだった態度を取ったりはしない。

それはドラキュリアとしてのプライドだ。

 

「希ちゃんは動かないよ。こういう事態では確実に」

 

「どうしてそう言えるのかしら?」

 

「優希君の成長のため」

 

「成長ですって? それは、水月希は私にあのゴキブリが勝利すると思ってるのかしら?」

 

「敗北も成長を促すって考えない?」

 

「ありえないわね。私はあのゴキブリは絶対に殺すつもりよ。生かすつもりもない」

 

「優希君が死んだら緋刀も消えちゃうけどいいの?」

 

「あれは元々、おまけのようなものでしょう?なら、私は興味ないわ」

 

「私は興味あるんだけどなぁ」

 

「何?欲しいの?あんなゴキブリ」

 

「私が興味あるのは優希君と言うより緋刀の方なんだよね。優希君のことは正直まだ、よく知らないけど希ちゃんの弟だしね」

 

「なら、殺すことに問題はないわね」

 

「うん、それにどの道。こんな所で死ぬなら興味なんて失せるしね。妹の方はいいのかな?彼女、随分彼に興味あるみたいだけど?」

 

「ローズマリーが何を考えてるのかは正直私は知らないわ」

 

「妹なんでしょ?」

 

「・・・ええ、だけど私はあの子のことは正直よく知らないわ。分かるのは私と同じドラキュラの血を引いているということ。それと・・・」

 

「それと?」

 

ヒルダは何かを考えるようなしぐさを一瞬してから

 

「話す義理はないわね。アズマリア」

 

「あれ?残念。優希君に伝わるかもしれないのに」

 

アズマリアは天使のような微笑みを浮かべて背後を振りかえって言った。

 

「ね、理子ちゃん」

 

「・・・」

 

視線を落とし2人の会話を聞いていた理子はそれに対して返事をすることはなかった。

ただ、彼女は心の中で叫んでいた。

誰か私を助けてと・・・

 

「・・・て・・・うき」

 

彼の名を・・・彼女のヒーローは現れない。

それでも彼女は願うのだった。

助けて・・・理子を助けてよと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書けるときに書くべき!ということで更新です。
意外と待っていてくれた人がいて嬉しいですね。
一気にヒルダ編やってからオリジナル章やりますよ!
未だに謎扱いのガイア騎士団と戦うか、例の重力事件をやるか信冬をヒロインにすえたオリジナルやるか、秋葉をメインにしてやるか迷いますね。
どのオリジナルでも優には大ピンチを味わってもらいますよフフフ。
キンジ君にも活躍してもらいましょう!ちなみに、キンジは書いてないだけで原作で起こった活躍をしてるんですけどね。
あくまで守るものは優がメインの小説ですからキンジの大活躍は原作を読みましょう!
緋弾のアリアは買う価値ありますよ!

ちなみにみなさん誰を次のオリジナル章のメインヒロインに添えて欲しいんですかね?
メインヒロインは原作キャラは一回はやってるんでオリジナルのヒロイン限定です。
となると秋葉か信冬か新たにヒロインを出すか何ですよね。
え?マリですか?言わなくても分かりますよね(笑)

やっぱり信冬かなぁ…彼女、未だに優の近くにてん…ゲホゲホ。
でも信冬絡めると必然的に土方お義兄ちゃんがか変わりますしう~ん。
いっそ、外国にいきますか!いや、ダメだな…

久々のオリジナルはどうなることやらです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第224弾 第三の○○○

そろそろ失速ですかね(笑)


「少し予習からね」

 

そう言いながら、エルは英語は当たり前、日本史や数学、生物も完璧に授業についてきている。

リゼも多少は、エルには劣るものの普通に授業についてきていた。

うーん。

そんな2人を観察しながら俺は先ほどの屋上での会話を思い出していた。

 

                 †

                 †

                 †

「お前女だろ?」

 

「そうだよ」

 

あっさりとエルは認める。

そう。エルは今、男子の制服を着ているが女なのだ。

はっきりした理由は忘れたがワトソンの家では男が生まれなかったらしく女であるエルを男として育てたのだ。

ちなみに、俺が知ってるのは情けないような話だがエルの着替えを間違って覗いてしまったから。

あの頃の俺は、子供だったから当たり前なんだが結構そんなとこに無頓着だった。

見てはいけないものを見てしまったんだ。

一般人なら多分、消されていたかもしれない秘密をだ。

名家の人間万歳だとちょっとだけ思ったね。

 

「東京武偵校を選んだのはアリアの件もあるけど優希がいたからさ。僕の秘密を守るの

協力してくれるよね?」

 

「そりゃ、別にいいけど・・・」

 

「アリアのとの婚約についても心配はいらない。両家公認だしね」

 

イギリスって同姓婚認められてか?いや、あくまで男と女というのが世間的にするんだろうが・・・

 

「その・・・跡取とか困るんじゃないか?」

 

当たり前だが女と女じゃ子供は出来ない。

そう言った問題はどうするんだ?

 

「今は、遺伝子工学も発展してるからね。その辺りもどうとでもなるよ」

 

ああ、試験管ベイビーって奴かな?

でもそれにしてもなぁ・・・

 

「その話はまた、ゆっくり話そう。それより前に言ってた話、考えてくれたかい?」

 

ああ、それか・・・

 

「卒業前って話じゃなかったか?」

 

「そうも言ってられない状態になったのは君も理解できてるだろ?」

 

「まあな」

 

極東戦役の勃発。その結果あれに対する答えも早まるというわけか・・・将来の就職先の1つとしか考えてなかったんだが・・・

 

「君がリバティーメイソンに来てくれるなら僕らは歓迎する」

 

そう、誘われていたのだ。

イギリスを始めとするヨーロッパを主軸にしている組織、リバティーメイソンに・・・

 

「リバティーメイソンは確か、戦役では中立を宣言していたな。どっちにつく?」

 

中立貫くと言うならそれもいいがこれだけはちゃんと聞いておかないとな

 

「それを聞く前に答えてくれ、優希。君は師団と眷属どちらが優勢だと思う?」

 

「どちらが?」

 

少しだけ考えてみるが明確に師団に属している連中は俺の目から見ても強い。

だが、眷属はと言われれば正直な話ほとんど、分からない。

ヒルダやパトラがやばい奴だということは1戦交えているから分かるが100%勝利できないというわけではない

こちらが最大限に有利な状況に持ち込めば勝つこと不可能じゃないはずだ。

問題はアズマリア率いるガイア騎士団とかいう組織。

アズマリアという子はとんでもない化け物で眷属に所属している。

災悪の魔女と呼ばれた先代、アズマリアは姉さんが倒すまで誰も倒せない存在だったそうだ。

つまり、姉さんクラス・・・

師団には姉さんが肩入れしているが姉さんは明確に所属するとは言っていない。

それに、北条・・・あの爺さんはかなり、危険な感じがする・・・

姉さんを師団に加えないなら正直、眷属優勢・・・姉さんを加えれば師団・・・

互角ともいえるがそうとも言えない・・・

現状、アリアの殻金は眷属がほとんど保有している状況だからだ。

そう言った総合的なものを見るなら・・・

 

「眷属だろうな・・・あくまで、今現在はという意味だけどな」

 

「そうだね。水月希・・・君のお姉さんが師団に所属を明確にしない限り師団は不利だ。アリアの殻金も半分以上、眷属が握ってるしね」

 

「こういう会話をするってことはリバティーメイソンは眷属につく気か?」

 

「まだ決まったわけじゃない。だが、おそらくは眷属につくことになるだろうね」

 

「そう・・・か」

 

エルが敵になるということか?

 

「・・・」

 

一瞬、黙っていたリゼと視線が合い間に火花が散った気がする。

そうだなこいつも敵に・・・

 

「優希。君にもリバティーメイソンに所属してほしい」

 

「そして、眷属にか?悪いが断る」

 

即答させてもうよこればかりは、師団には恩がある人が多すぎる。

あの人達を裏切ることなんて絶対に出来ない。

 

「俺は仲間を裏切る気はない」

 

「そう言うと思ったけど優希、君は少し誤解してるよ」

 

「誤解?」

 

「リバティーメイソンが眷属へ参加を表明し、君が僕らの仲間になれば君にやってほしいのは説得だ。少なくても日本の武家の2つは君の意見を無視することは出来ないだろう」

 

「信冬と本家に眷属になれって言うのか?俺なんかの意見が・・・」

 

「優希、君は自分という存在を過小評価し過ぎてるね。君の存在は君が思っている以上に大きいんだよ」

 

「俺はただの学生だよ。武偵って少しおまけがついたな」

 

「NO、君は日本の裏社会で絶大な権力を持つ武家の長男だ。そして、水月希の弟。この2つだけでも戦場で核爆弾を持っているようなものだよ」

 

か、核爆弾って俺そんなに物騒なのか?

 

「更に、君は世界中に色々な人脈がある。そして何より、緋刀の力はアリアの緋弾と並ぶ力だ」

 

緋刀か・・・今は、使えないんだが黙っとくか・・・

 

「優希、君は君が思ってる以上に大きな力を持ってるんだよ。君がこちら側で説得に回れば戦役は早期に終結し、アリアも緋緋神にならずにすむんだ。アリアを僕は殺したくない。君もそうだろう?」

 

「当たり前だ」

 

アリアは絶対に殺させない。

眷属だろうが師団だろうがアリアを殺しにかかるなら俺はそれに敵対する覚悟はもう出来てる。

 

「ならば、君はリバティーメイソンに来るべきだ。もちろん、アリア達も歓迎するよ」

 

エルの言ってることは全部は間違っていない。

俺がリバティーメイソンに行き、眷属に所属し、師団の勢力を眷属に勧誘する。

そうすれば、アリアの殻金はすぐに揃う・・・

アリアは緋緋神になることはなく助かる。

師団で戦い殻金を全部集めるまでに、アリアが緋緋神にならない保証はないし戦役がどれほど続くかもわからない。

そして、現実的に見れば緋緋神となったアリアを守るために殺しに来る連中とまともに俺が戦っても勝ち目はない。

アリアを救うなら俺は眷属に所属するのがそれが一番の近道。

だが、師団のみんなが俺の説得に耳を傾けなかったら・・・

俺は家族や尊敬している人達を・・・

戦わないとしても見て見ぬふりをするということは結局は・・・

だが、アリアを救う1番の近道は・・・

俺はどうすればいいんだ?

 

「・・・少し考えさせてくれ」

 

数分前までは迷わず言えた師団を裏切らないということ・・・

今は正直迷いが生じている。

 

「ゆっくり、考えてくれて構わない。君が結論を出すまでは僕らは中立でいよう。だが、なるべく早く結論を出してほしい。師団と眷属の戦いはいつどこで起こるか分からず状況は変化するものだからね。待てない状況と言うのも起こりえる」

 

「ああ、分かった」

 

「君達が手を焼いているヒルダ、彼女も眷属だ。君が眷属になるのは峰理子を救うことにも繋がるんじゃいのかい?」

 

「そうか・・・理子を含めたバスカービル全員が?族に移るなら理子の問題も解決できるってことだな?」

 

「僕はそう思ってるよ」

 

「・・・」

 

エルと話しているといい面ばかりが目についてくる。

アリアを救えて理子も救える。

バスカービルごとなら友達とも戦わなくて済む・・・

信冬や実家も説得して・・・

いや、結論はまだ出さない。

軽々しく絶対に決められない。

 

「結論はまだ、出せない」

 

エルはそれを聞いて頷いてから

 

「それでいいよ。でも、僕は君が仲間になってくれると信じてる。だからこそこの話も持ってきたんだ」

 

も?なんか、別の話あるのか?

 

「なんだ?まだ、何かあるのか?」

 

「このリゼはリバティーメイソンの中でも有力者の娘さんでね。君への婚約者候補として連れてきたんだ」

 

「こ、婚約者だって?」

 

いきなりの発言に俺を冷たい目で見ているリゼを見る。

いやいや、おかしいだろ!この子明らかに俺嫌ってるよ!

 

「君はこちらでいう貴族だ。リゼも僕と同じ貴族だから家柄的に問題はない。日本とイギリスの裏社会の絆を高めるためにもこの縁談を・・・」

 

「ちょ、ちょっ!待てエル!いきなりすぎる!」

 

何も発言しないとずるずると行きそうだったので慌てて言ったがどうなってるんだ!

 

「そうだね。少し急ぎ過ぎかな?じゃあ、リゼをしばらく君の近くにおいてやってくれないかな?」

 

「なんで!?」

 

「まずは、互いを知るところから始めよう。それからでも・・・」

 

「だから待てって!俺はそんな気は・・・」

 

「ごちゃごちゃ言わないでさっさと結婚してください」

 

「だから・・む・・」

 

ふわりと金髪が俺の視界をふさぎ、リゼの顔がアップになり、唇同士が軽く触れ合う。

それは、ほんの一瞬、だったのだが・・・

キス・・・しちゃったぞ

 

「ファーストキスです。これで、私と結婚してもらえますね」

 

リゼはそういうと口元を僅かに歪めた。

 

                  †

                  †

                  †

 

「疲れたなぁ・・・」

 

その日の放課後、エルに食事を誘われたが断りアリアと話そうとしたんだが連絡が取れなかったので仕方なしに寮に戻りソファーで雑誌を読んでいると携帯に着信があった。

 

「信冬か」

 

こちらは、正式にはどうなってるのか分からないが昔の婚約者だ。

 

「はい、もしもし。どうかしたのか信冬」

 

「こんばんは優希、お疲れのようですね?」

 

第一声で見破るとはさすがは第一婚約者様だな・・・

 

「ちょっといろいろあってな」

 

「仕方ありません。極東戦役の勃発は予想できた事ですがアリアさんの殻金の件は予想できないことでしたから優希が疲れるのは無理のないことです」

 

極東戦役もそうなんだけど俺が疲れてるのは新たな婚約者さんのことなんですけどね・・・

信冬に言ったら何言われるか分からないから言えないんだが・・・

 

「まあ、そんなとこだな。何か用だったか?」

 

「用というほどではありません。ですが、先日もゆっくりと話す時間もありませんでしたから電話をするべきだと信秋が・・・」

 

信秋?誰だ?信冬の部下か?

電話の向こうから信冬じゃない誰かの声が聞こえたが会話までは聞こえない。

 

「んじゃ、少し雑談するか」

 

「はい、私は大丈夫ですよ」

 

そこまで言った時ピンポーンとインターホンのなる音がしたので

 

「ん?ちょっと、悪い信冬。誰か来たみたいだ」

 

「では、切りましょうか?」

 

「いや、誰か確認してからでいいだろ」

 

そう言って俺は繋がったままの携帯を手にドアに向かうとカギを開けてからドアを開けた瞬間固まった。

 

「コンバンワダンナサマアナタノコンヤクシャリゼデス。キョウカラオセワニナリマス」

 

ものすごい棒読みでちょっと口元を緩めメイド服のリゼがそこに立っていた。

冷や汗がものすごい勢いで流れていく。

 

「婚約者?」

 

携帯の向こうから信冬の声が聞こえる。

ばっちり聞かれちゃったみたい・・・

 

「セイイッパイアイシテクダサイユウキサマ」

 

第一婚約者と第三婚約者に挟まれ俺は思った。

テレポート能力誰か俺に頂戴!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




優には道が2つあります。
敵の中に入りアリアを救う道
あくまで、仲間と共にアリアを救う道

ま、どちらにせよ優君の周りには女の子が増えるのでした(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第225弾 錦 安曇

思いのほか秋葉派信冬派が多い(笑)
オリジナルは次回どちらになっても必ずその次のオリジナルでもう片方やりますからお待ちくださいね。



「婚約者?というのはどういう意味なんですか優希?」

 

耳から携帯離してるのに信冬の声がはっきりと聞こえる。

前には口元を僅かに歪めたリゼ。

てめえ、わざとかまさか!?

いやそんなこと後でいい!

 

「の、信冬。婚約者ってのはだなそのあれだ・・・」

 

「キョウノヨルはドウナサイマスカ?モチロンワタシトネルノデスヨネ」

 

おまっ!なんてこと言うんだ!

 

「なるほど、報告は誠だったみたいですね」

 

氷のような信冬の声。

電話の向こうでにっこりと怒りの微笑みを浮かべてるあなたの顔が浮かびます!

 

「ほ、報告ってなんだ?」

 

震える声でなんとかそういう

 

「優希は女性関係にだらしなくなったと」

 

「全て誤解なんだ!」

 

「レキさんと婚約し、アリアさんとキス。それでよく言えますね」

 

なぜか、そこは棒読みでなくはっきり言いやがったリゼ!

と言うかなぜ知ってる!

 

「優希。私達は1度話しあう必要があるようですね」

 

やばいぞ。なんか、奥さんに浮気がばれた旦那さん状態だ!

 

「優希?」

 

「・・・」

 

信冬が俺を呼ぶ声が聞こえたが電源ボタンを押して会話を打ち切った。

ほとんど、無意識の行動だが頭を抱えてうずくまる。

 

「怒らせてしまいまいましたね」

 

「てめえ・・・」

 

悪気があってやってるのかいまいち分からんがわざとだとしたら最悪だぞ。

携帯の着信音が聞こえたが多分、信冬なので怖くて出れないため放っておきリゼを一瞥した後に部屋の中に戻るとリゼもついてきた。

 

「勝手にあがんな!俺の部屋だぞ!」

 

正確にはキンジと俺の部屋なんだが・・・

 

「私は婚約者ですので」

 

棒読みはやめたのは普通に荷物を手に中に入ってくるリゼ。

一瞬叩きだそうか悩んだがこいつ、リバティーメイソンの貴族の娘とか言ってたもんな・・・

親に泣きつかれて外交問題になると実家に何言われるか分からん。

取り合えず、キンジが帰ってきてから追い出す算段を立てるとするか。

 

「何か飲むか?コーヒーなら種類あるぞ」

 

以前、アリアがインスタントコーヒーに文句を言った経緯から部屋にはいろんなコーヒーが持ち込まれている。

主にアリアのもんだが1杯くらいなら家賃として問題ないだろう。

後は冷蔵庫に理子がジュースを持ちこんでいるぐらいか・・・

 

「お構いなく」

 

ソファーにリゼは座ると両手を膝の上に乗せて目を閉じている。

話しかけるなオーラー全開だな・・・

だが、嫌がらせされてるのは俺なのでここは、俺も嫌がらせで話しかけてやろう。

リゼの対面に座ると改めてエルが連れてきたこの子のことを観察してみる。

顔は美人で仮に婚約したとしても周りは羨ましがるだろう。

だが、性格は俺限定かどうか知らんがあまり良くない気がする・・・

うーん、エルの奴なんでこの子を俺に押してきたんだ?

まあ、アリアとエルの婚約もアリアは望んでないもんなんだが・・・

 

「女子の顔をそんなにじろじろ見て楽しいんですか?女たらしの優希さん」

 

「ああ、悪い。だが、女たらしはやめてくれ」

 

「先ほども浮気の現場がばれたひも男と言う感じですたけど?」

 

「お前のせいだろうが・・・」

 

「あら? 人のせいですか?最低ですね」

 

キンジ・・・早く帰ってきてくれ・・・というか、ここにいたくない!

よし!クエスト受けに行こう。

スマホを取り出し、東京武偵校のホームページからパスワードを打ち込みクエスト一覧から1つのクエストを選択する。

ここにあるクエストは簡単な奴のみだが

時間的に大丈夫だろう。

行くか

 

「どこに行くんですか?」

 

「どこでもいいだろ」

 

ちょっと腹が立っていたので乱暴にリゼに言ってから外に出る。

今日も京菱重工の倉庫に泊まろう・・・

リゼは何時までいるか知らんがキンジになすりつけだ。

駐輪所から隼を引き出し、ふと上を見上げるとリゼが俺の部屋の前の廊下からこちらを見下ろしている。

冷たい・・・まるで、暗殺者が標的を見るような冷たい目だ。

勘弁してくれよ・・・まるで、浮気に行く旦那を見送る冷戦期の奥さんみたいじゃないか・・・

ため息をついて俺は隼を発進させた。

 

               †

               †

               †

『サイド??』

 

人が集まる場所って面白い。

歩いていればいろんな人の会話も聞こえてくるしいろんな事件も起こる。

東京って街はつわものから弱者まで多種多様だ。

だからこそ、弱肉強食なんて言葉が生まれる。

 

「おら!じじい!金だしな!」

 

ほら、裏路地にちょっと目を向けると弱者が強者に喰われてる。

 

「ひっ、さい、財布などもっとらん」

 

80歳ぐらいの老人は必死に鞄を守ろうとしているね。

 

「じゃ、鞄見せろよおら!」

 

おじいさんは必死に鞄を渡すまいとしたが1人のヤンキーー風の男に蹴られて地面に倒れた。

弱いからそうなるんだよ。

 

「ハッハ―持ってるじゃん!全部もらうよぉ。おこずかい頂戴ね。おじいちゃん」

 

「うう・・・」

 

起き上がることも出来ないのかおじいさんは起き上がらない。

道行く人は気付いた人もいるようだが関わりあいたくないらしく足を速めていく。

そう、弱者にはお似合いの選択だね。

 

「ん?おいお前?何見てやがる?」

 

ん?こっちにくるの?

 

「何か文句あるのぉ?お嬢ちゃん?」

 

「臭い」

 

わざわざ顔を近づけてきた鼻に銀のピアスをつけた男の吐く息は冗談抜きで臭かったので言ってあげると案の定、男は激昂した。

沸点低いね。

 

「あーこいつ、後悔させるわ」

 

私の右手首を掴みあげると路地の方に引っ張っていく。

ちょっと、付き合おうかな?

倒れているおじいさんと目があったが私は特に言う言葉は思いつかなかったので一瞥するだけ。

おじいさんからは無表情か怯えているように見えたかもしれない。

路地の更に奥で仲間2人と鼻ピアスの男に囲まれた

 

「で?お前俺が何だって?」

 

「臭いって言ったんだよ?」

 

「ちっ!」

 

鼻ピアスが近くにあったゴミ場をを蹴飛ばし、派手な音が出るが私はそちらをちらりと見ただけ。

 

「で?」

 

私が怯えないのが面白くないんだろう。

ポケットからナイフを取り出すと私に見えるように持ち上げにやりと男が笑う。

 

「その可愛い顔に傷つけられたくなかったら土下座して、金置いてきな。それで、勘弁してやるよ」

 

「ついでにお持ち帰りしようぜカズちゃん!」

 

「いいねぇ!」

 

周りの2人とげらげら笑う鼻ピアスの男。

本当に底辺の人間って考えるとこそれだけ?

 

「ねえ」

 

「あん?」

 

だからこそ、聞いてみよう。

 

「弱者と思ってた相手に蹂躙されるのってどんな気持ち?」

 

「はぁ?何言って・・・」

 

目ぐらい潰してあげようかな。ついでに舌も抜いておこう。

そう、私は思った時その声は聞こえた。

 

「待てい!」

 

私達4人がその声の方を見ると1人の少年が立っていた。

彼は手帳のようなものを取りだし

 

「武偵だ。恐喝の現行犯で逮捕する」

 

「か、カズちゃん」

 

仲間の1人が後ずさるが鼻ピアスの男はナイフを少年の方に向ける。

 

「ふざけんなガキが!何が武偵だ!」

 

「やめとけって、罪が増えるだけだぞ」

 

少年はそういうと腰から日本刀を抜いた。

 

「うっ」

 

僅かに臭い男がたじろく。

 

「ナイフで日本刀と戦うか?」

 

プロの世界ではナイフでも日本刀と戦うすべはあるが素人と戦闘訓練を積んだ相手では戦いようがないのは誰の目にも明らかだ。

普段持つことのない日本刀が自分に向けられている状況は戦意を喪失する理由としては十分だろう。

後は、安いプライドがそれを邪魔をしなければ逃げるか降伏の選択肢しかない。

 

「ちっ」

 

ちらりと、後ろを見る鼻ピアス。

仲間と女である私の手前プライドを守りたい気持ちと逃げたい気持ち。

それらが、一瞬拮抗した結果。

 

「うおおおお!」

 

少年に向かいナイフを手に突撃という行動を取った。

少年は刀を持ったまま軽いステップで前進し鼻ピアスの男とすれ違った。

一瞬の交差だが鼻ピアスは一撃をもらって地面に倒れる。

 

「峰討ちだ。安心しろ」

 

わーお、時代劇みたいなセリフだね。

 

「で?まだやる?」

 

「ち、ちくしょう!」

 

気絶したらしい鼻ピアスを置いて2人は路地の奥へと逃走することを選択したようだ。

殺してもいいんだけど面白い所で会ったしあの2人は放っておいてあげよう。

さて、顔は見られる前に変えておこう。

幸い路地は薄暗いから向こうからまだ、私の顔は見えてないはず。

 

「じゃあ、お願いします」

 

少年の後ろから誰かが通報したらしい警官2人がやってきて、鼻ピアスを連れていく。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよ。助けてくれてありがとうございます」

 

その少年。椎名優希に向かい私は微笑んで言った。

 

 

 

                †

                †

                †

 

女の子が路地の奥に連れて行かれたと、おじいさんに言われ、奥に行くと案の定女の子がヤンキー風の男達に絡まれていたので助けたんだが・・・

 

「本当に助かったよ」

 

「いや、クエストの一環だからな」

 

都内の一角にある回転すしのテーブル席でなぜか、俺のこの子は向かい合って飯を食っている。

助けてもらったお礼らしいんだが別にいいのに・・・

だが、おごってくれるならめいっぱい食ってやろうとパネルを操作しどんどん寿司を注文していく。

寿司なんてあんまり食う機会ないしな。

 

「んー、おいしい」

 

一皿200円で1つしか乗ってない寿司をパクパクと食い皿をどんどん重ねていくこの子金持ってんなぁ・・・

ウェーブのかかった黒い長い髪。

目の色はパールグリーンな美少女だ。

歳は俺と同じ年らしいんだが・・・

 

「東京に来たのは初めてか?さっきみたいな状況ならさっさと逃げるか警察呼ぶもんだぞ。えっと・・・」

 

注文していたビントロが来たので醤油に付けながら言う。

 

「錦 安曇。さっき教えたでしょ」

 

「じゃあ、錦」

 

「安曇でいいよ」

 

「んじゃ、安曇。東京は物騒なとこだ。さっきみたいに誰かが助けてくれるとは限らない」

 

「そうだよね。ヒーローっていうのはヒロインの危機に常に気づけるわけじゃないよね」

 

「あ、ああ」

 

ヒーローという言葉に理子の事を思い出してしまった。

あいつはブラドと戦った時俺の事を理子のヒーローと言ってくれた。

早くなんとかしないとだな・・・

 

「どうかしたんですか?ぼうっとして」

 

「ちょっと、厄介なことお思い出してた」

 

なんとかか・・・本当に俺にどうにもならないなら姉さんに土下座してでもヒルダの排除をお願いしよう。

だが、出来るなら俺がなんとかしたい。

昔、助けられなかったあの子を今度こそ俺が救いたい・・・

 

「優希君でいいかな?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「じゃあ、優希君。君武偵なんでしょ?もしかして、大きな事件追ってたりするの?」

 

「まあ、そんなとこだ」

 

一般人に言ってもしょうがないので適当に答えておこう。

 

「その事件には強い相手がいて敵わないかもしれないとか?」

 

勘が鋭いのか?的確なこと言ってくれる。

 

「私のお母さんがね。そういう世界にいて小さい頃からいろんなこと聞かされたから分かるんだよ」

 

そういうことか・・・武偵だったのか?

 

「会ったばかりのお前に言ってもしょうがないんだけどな・・・正直、やばい事件抱えてるんだ。強い相手もそこにいる」

 

「ふーん、やっぱり。援軍は望めないと?」

 

「手を貸してくれる人はいるが今回は間に合う保証もない」

 

「ほうほう。相手は吸血鬼とか?」

 

「なんで知ってるんだ?」

 

「ん?あてずっぽうだけどそうなんだ?」

 

「ああ、まあな・・・」

 

なんだ?この子と話してるとなぜか違和感を感じる・・・

引っかかる程度の小さなものだが何かを見落としている気が・・・

 

「さっきも言ったけど私のお母さんもそういう世界の人だったから聞かされたんだけど。吸血鬼は強いよ。少なくても普通の人間じゃ勝利は限りなく難しい」

 

一応ブラドは倒してるんだけどな・・・

 

「勝ち目がないなら逃げるべきだよ。援軍のあてがあるならそれが来るまで逃げ続ける」

 

「それはできない・・・」

 

「なんで?死ぬかもしれないんだよ?吸血鬼はそれだけの相手。にげる理由としては十分だよ」

 

「こう言っちゃ馬鹿みたいだけどな。この事件から背を向けて逃げるのは俺の信念に背くことになるから逃げることは出来ない」

 

「信念?馬鹿な言葉だね。そんなもののために戦うの?」

 

「信念ってのは貫くことに意味があると俺は思ってる。少なくても俺の尊敬している人はそうした」

 

あの人の先祖は誠の旗の下に戦いその信念を貫き通した。

そして、あの人が俺と同じ年齢の頃も同じくその信念を貫いたんだ。

 

「信念・・・ふーん」

 

安曇は口元を少しだけ緩めてから

 

「じゃあ、1つしか選べないとしたらどうするの?」

 

「どう言う意味だ?」

 

「2人のあなたの仲間がいました。1人は重傷、1秒でも早く病院に連れていなければ死にます。ですが、目の前には強大な敵が通せんぼしています。そこに、新たな人が現れて言うのです。強大な敵を排除してあげるから誰か仲間を殺せ。こう言われたらどうするの?」

 

「んなもん。決まってる。目の前の強大な敵を倒して病院に仲間を連れていく」

 

「じゃあ、強大な敵を倒すには時間がかかります。そんな時間かかれば仲間が死ぬって状況なら?」

 

「そんな・・・」

 

「そんなことはさせないは無し」

 

「・・・」

 

それは・・・難題だな・・・

1人を救うには1人を犠牲にしなくてはならない・・・

そんな状況絶対に嫌だがその時俺はどうする?

仲間を殺すなんてありえない。

だが、目の前の救える命を救わないのは信念に反することじゃないのか?

 

「・・・それは」

 

「答えは今度会う時でいいよ優希君」

 

安曇はそういうと立ち上がり振りかえることもせず、店を出ていった。

それを追う事も出来ずにどうするかを考える。

考えたくもない事だが、絶対にあり得ない事じゃない・・・

例えばキンジとアリアのどちらかを救えない状況に直面すれば俺はどうするんだ?

 

「あの、お客様。そろそろオーダーストップの時間なんですがご注文はございますか?」

 

「え?」

 

慌てて時計を見ると数時間たっている。

考え込んでるうちに時間が過ぎたらしい。

 

「すみません。注文はないです。お会計を・・・」

 

そこまで言って気付く。

待て!安曇!おごってくれるとか言っといて伝票置きっぱなしじゃねえか!

 

 

「合計7万5千800円になります」

 

「なっ!」

 

なんじゃそりゃ!

慌てて、財布を確認してちょっとほっとした。

なんとかあるよ7万5千804円

というかどれだけ食いやがったんだよ!回転すしだから皿は積み上げないでモニターに表示される仕組みだから気付かなかったが100皿以上食ってるぞ!高級な奴ばかり!

というかなんで俺が払うはめになってんだ!今月いろいろ出費激しくてこの金も銀弾に当てる予定だったのに・・・

だが残金4円・・・それが、俺の今月の生活費の全てだ・・・

待て待て4円だよ!次のクエストの報奨金振込みまで半月以上ある・・・

ご飯どうするの!半月水だけで何とかしろってことか!

 

「ありがとうございましたぁ!」

 

店員さんの声を後ろに俺は頭真っ白だよ!

 

 

 

                   †

                   †

                   †

サイド??

 

「アハハハハ!何あの顔!おもしろーい!」

 

ビルの屋上でウェーブのかかった金髪を風になびかせながら少女は笑った。

 

「会ってきたよ椎名の後継、優希君。でも、わっかんないなぁ。なんであの子にご執心ななの?」

 

少女の背後で銀髪の少女はにこりと天使のような微笑みを浮かべる。

 

「優希の魅力は私にしか分かりませんのアズマリア」

 

「それが分かんないんだってローズマリー」

 

アズマリアは蒼い瞳をローズマリーの赤い瞳に向けると立ち上がった。

 

「少し、話をしたけど彼、まだまだ甘いね。信念がどうとか言ってたけどあんな考え方じゃ局面に立った時仲間所か自分も死ぬかもしれないって分かってないよ」

 

「それはそれで都合よろしいんですの」

 

「絶望的な死だっけ? 趣味悪いなぁ」

 

「あなたには関係ありませんの」

 

「あるよ。彼が君の言う騎士様だっけ?」

 

「伴侶とも言えますの」

 

ローズマリーはぽっと顔を赤くして微笑む。

 

「ああ、はいはい。それになった時、緋刀が消えちゃうなんてことになったらちょっと、困るんだよ。まあ、最悪、緋弾が残ってたら私はいいんだけど」

 

「それも難しいかもしれませんの、ヒルダお姉さまはやんちゃ好きですの」

 

「うわ。それ困る。あ、でも核さえ残ってたらいいのかな?緋刀の核も同じようなものなのかな?」

 

「知りませんの」

 

「冷たいなぁ。でもいいの?このままじゃ、優希君ヒルダと戦って死んじゃうよ?もう、準備出来てるの?」

 

「ここは舞台じゃありませんの。私の大事な優希と永遠にいるために必要なその舞台は現在調整中ですわ」

 

「まるで、優希君が勝つみたいな言い方だね」

 

「優希は死にませんの」

 

「恋する乙女は盲目にって奴かな?でもさあ」

 

アズマリアは手元に置いてある抜きみの刀を手に取ると

 

「ステルス殺しもないのにどうやってステルスを破って勝つの彼もし、この状況で最後の段階を切りぬけられたら優希君に興味持てるのかな私?」

 

ごっとローズマリーの周りに蒼い炎が燃え上がる。

その意味は怒りの炎だ。

 

「優希にそういうことするなら殺しますの」

 

「にゃはは、ないって!ないよ。だって彼はヒルダには絶対に勝てない。どんなに、善戦したとしても第2形態まででしょ?あ、ヒルダってみにくく膨れるから第3形態でしか戦わないんだっけ?」

 

「興味ありませんの」

 

「これがあれば勝てたかもしれないのにね。優希君。落としちゃ駄目だぞ」

 

にやりと口元を歪めるとアズマリアは紫電の刀身を舐めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さあ!ついに明らかになった紫電の所在!
これでヒルダ戦に紫電が投入されステルス殺して逆転パターンはなくなりました!

月末で生活費4円の優希君!コッペパンどころか5円チョコすら買えない優希君はヒルダと戦うまで生きてられるのか(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第226弾 小悪魔アリス

東京警備のクエストの次の日。

結局、寮に戻らず再び倉庫に泊った後、学校に行った俺は可能な時間は全て寝ていた。

なぜなら・・・

ぐーと腹が鳴りやがる・・・

持ち金4円で後、半月近くどうすりゃいいんだ・・・5円チョコすら買えんぞ。

とりあえず、水筒に入れてある水を飲むがこんなもの腹の僅かな足しにしかならん・・・

中身は水道水・・・

金を借りようにもキンジは金欠気味っぽいから金借りるには気が引けるし武藤や不知火に頼むのもなんかなぁ・・・

エルも同様だな・・・金がないと知られると金の管理もできないのかと呆れられそうだ・・・

土方さんにもちょっと、前借りたばっかで頼みづらい・・・

お金の管理向いてねえな俺・・・

実家から貰ってるクレジットカードはあるがこれは使えんしなぁ・・・

 

「だからトオヤマに言ってやったんだが・・・聞いてるのか優希?」

 

「悪い聞いてなかった」

 

はっとして、横を見ると体操服姿のエル。

無論、男子用の俺と同じハーフパンツだ。

そういや、体育の授業のバレーの最中だったな

 

「どうした?寝不足か?」

 

「あー、まあ・・・」

 

横のコートで同じくバレーの試合中のリゼがこちらを見たので自然と目が合う。

口元に少しだけ笑みを浮かべるリゼ。

その目はどうしたんですか?情けないですねと言ってる気がした・・・

 

「なるほど、リゼだね。彼女は昨日から君の家にお邪魔してるんだろう?」

 

エルはリゼの方を見るとあの野郎薄笑いをやめやがった。

 

「引き取りに来てくれ・・・」

 

本心からそういうとエルは冗談だと思ったらしく頷きながら

 

「そういうことは言うものじゃないよ優希。彼女は有能な人間だ。そして、家柄もある。パートナーにするのは悪い相手じゃないよ」

 

家柄とかどうでもいいんだが・・・

既に失恋したが俺がアリアを好きになったのは貴族だからじゃないんだが・・・

信冬も貴族みたいなもんだしレキもウルスの貴族みたいなもんだもんな・・・

俺に進めてくる婚約者ってのはみんな家柄高い人間だよ・・・

 

「俺は普通の恋愛して普通に結婚したいんだけどな・・・」

 

「なら、リゼと普通に恋愛してみると言い。デートはしたのかい?」

 

「いや」

 

リゼとデートとか普通に精神崩壊しそうなこと言われまくりそうなんだが・・・

 

「1度くらい遊びに行ってみたらどうだい? 案外彼女の違う一面が見られるかもしれないよ」

 

「考えとくよ」

 

と言いながらそんな機会ないと思うけどな・・・それより

 

「さっき、キンジがどうとか言ってたけど」

 

「ああ、それはね」

 

ダンとエルが飛び上がりバレーボールの玉をアタックする。

相手コートのキンジの顔面に命中するし、キンジが尻もちついた。

 

 

「ごめんトオヤマ!大丈夫か?」

 

キンジは気にするなと片手を少し上げて言ってるがおいおい・・・

 

ゲームが少し進み、エルは俺の横に戻ってくると

 

「さっきの話の続きだが僕は彼をアリアのパートナーにふさわしいとは思っていない。トオヤマをアリアから遠ざける。協力してくれるか優希?」

 

お、女って怖い・・・

 

「あんま陰険な事するなよエル」

 

「陰険?そうかな。だけど、僕は彼が嫌いだからね」

 

キンジよ・・・ちょっと同情するがお前も俺と同じような苦しみを味わうんだフフフ。

リゼに頭を痛ませてる俺同様キンジもエルに頭を痛くする日々らしい・・・

まあ、正確に言えばどちらに味方することができないってのが正確なとこなんだが・・・

 

「ほどほどにな」

 

「分かったよ。それで、例の話は答えは出たかい?」

 

リバティーメイソン+けん属の話だな・・・

 

「まだ結論は出せてない・・・」

 

「そうか。まあ、それならそれでいいよ」

 

簡単には決められない。

今のキンジに対するエルの態度を見る限り、おそらく、バスカービル全員がリバティーメイソンって流れにはなりそうにない・・・

面倒くさいことになったなぁ

 

「・・・」

 

視線を感じたのでそちらを見るとこちらを冷たい目で見るリゼ。

前途多難なことで・・・

 

                  †

                  †

                  †

 

その日の放課後、キンジにリゼの事を聞いてみたんだが、キンジが帰るとリゼはいなかったそうだ。

俺がいないなら意味はないということなのか?

だが、寮に戻ると再び、リゼがいる可能性もあるわけで・・・

 

「むう・・・」

 

「お兄さん!」

 

ポンと後ろから背中を叩かれたので振り返ると

 

「よう。アリスじゃねえか。どうかしたのか?」

 

アリスはアンビュラスに所属している武偵校の生徒だが学校で出会うのは珍しい。

大体はこいつがバイトしている中華料理屋炎で遭遇するからな・・・

後は、武偵病院

 

「聞きましたよぉ!今度は金髪の婚約者とラブラブして転校生の美男子さんとはBLBLしてるんですね」

 

楽しそうにいう小柄なこいつは小悪魔って言葉がぴったりだな・・・

腹が減ってるこの状況でこいつの相手は疲れるんだが無視するわけにもいかねえしな

 

「帰るなら送ってくぞ?」

 

隼を指して言うとアリスはちょっと悩んだらしいが

 

「いえいえ、遠慮しておきます。お兄さんとバイクに乗ったらどこ連れてかれるか分かりません」

 

「俺はそんなに信用ないのか?」

 

「ですねぇ。少なくても女の子関連にはありません♪」

 

人差し指を唇においてアリスは言った。

何気ない仕草なんだがアリスがやると嫌みに見えないな。

 

「そうなのか・・・」

 

ちょっと、落ち込むセリフだぞ後輩に言われると・・・

 

「アハハ、冗談ですよ。ちょっと、話があるんですがどこか喫茶店とかどうですか?私が誘ったのでおごりますよ」

 

「何い!」

 

「ひっ、どうしたんですか?」

 

おごってくれるだと!

 

「い、いくらおごってくれるんだ?」

 

「え?えっと・・・1万円ぐらいまでなら別に・・」

 

「よし!行くぞアリス!」

 

「え!きゃ!」

 

アリスにヘルメットをかぶせると隼に乗せて俺も飛び乗るとエンジンをかける。

 

「しっかり、しっかりつかまってろ!落ちるなよ!」

 

「ちょ、待ってください!きゃああああ!」

 

後ろから、珍しいアリスの悲鳴が聞こえた気がするが次に俺が意識を取り戻したのは口に香ばしい肉の味がした時だった。

 

「うめえ!」

 

「おなかすいてたなら言ってくださいよ。びっくりしたじゃないですか」

 

「悪い悪い。ちょっと、金がなくなる事件があってな後、半月4円です過ごさないといけないんだよ」

 

「よ、4円ですか? それ、現実的に考えて無理じゃないですか?」

 

「ああ、1日でこの有様だからな。どうするべきかな・・・」

 

「貸しましょうか?利子100で」

 

「お前は悪魔か・・・」

 

「嫌ですねぇ。悪魔ならおごったりしませんよぉ」

 

にっこり笑う小悪魔・・・

 

「それもそうだな・・・」

 

だが、アリスに金を借りるにはちょっと怖い・・・目の前の飯を口に入れながらそんなことを思っているとアリスは一瞬、いいこと思いついたというように携帯を取り出し何かを打ち込み始める。

 

「メールか?」

 

嫌な予感がしたので聞いてみるとアリスは頷き

 

「ええ、面白いことになりそうなことを思いついたので準備です」

 

「そ、そうか・・・」

 

突っ込むのはやめておこう。

ハチの巣つつくようなまねしたくないし・・・

 

「で?今日、俺に声かけてきたのはおごってくれるためだけじゃないんだろ?」

 

「ああ、それはですね」

 

アリスは携帯をパチンと折りたたんでから鞄の中からあるものを取り出して机の上に置いた。

 

「以前、お兄さんに頼まれていたものです」

 

「で?」

 

「結論から言えば・・・

 

                †

                †

                †

サイド??

 

優希がアリスとご飯を食べていた同時刻。とある少女達はそれを受け取りそれぞれの行動を開始した。

ある者は外へ、ある者は家の中であるものを物色し始める。

その行動は彼にとって幸福なことなのか地獄な事なのか・・・

それはまだ分からない。

 




次回弁当戦争勃発(笑)

別にスーパーで半額弁当を奪い合うわけじゃありません念のため


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第227話 弁当戦争勃発!?RRR最後の日2

ゆけRRRよ!弁当を奪うのだ!


その出来事は一人の小悪魔少女の思いつきから始まった。

彼女にとっては緋色の研究の一端を担う先輩を救済するためにやったことだがただ、やるだけでは面白くないと考えるのは彼女の性格だろう・・・

すなわち・・・

 

「それは、本当か会員72」

 

まだ早朝とも言える時間にかかってきた電話に彼は怒りを出すこともなく言った。

彼からの電話は大体彼女に関するものだからだ。

 

「はっ!会員№42と43からの偵察によると間違いないかと」

 

「まさか、伝説のあれが今日、光臨なさるというのか・・・」

 

「自らのものであるという可能性は限りなく0ということは・・・」

 

「椎名優希だろう」

 

みしりとスマホを握りつぶしそうなる。

彼は少々の怒りを込めて少しは認めたと思っていた男の名を言う。

 

「いかがなさりますか会長?」

 

「もちろん奴のような女たらしに光臨なさるあれは渡さん!召集可能な全メンバーに召集をかけろ」

 

「了解いたしました!全てはレキ様のために!」

 

「全てはレキ様のために!」

 

電源を切りレキ様のレキ様だけのレキレキファンクラブ会長、通称RRR会長の村上は1つの決意を固めた。

光臨なさるあれは渡さないという決意だった。

 

 

             †

            †

            †

 

人間って食い溜め出来る体になんでならないんだろうなぁ・・・

昨日、腹いっぱい食ったはずなのにもう、腹減ってきた・・・

寮に帰れず、京菱の倉庫から、ふらふらと登校しながらそんなことを思っていると

 

「優君おはようございます」

 

振り返ると武偵校の制服を着た秋葉だった。

相変わらず表情は乏しいがな・・・

 

「おう。待ってたのか?」

 

「はい、理子さんの件で少し話を」

 

「理子の? 歩きながら話そうぜ」

 

「はい」

 

隼はガソリン節約のために今日は使わない。

あれ、改造してるだけに恐ろしいほど燃費悪いからな・・・

金ない状況では最悪の乗り物だよ・・・

 

「で?理子の話って?」

 

「最近、理子さんの様子が少しおかしいのは知ってますか?」

 

「ああ・・・ヒルダのせいだな・・・」

 

あの日、ヒルダと理子が会った時から理子の様子が少しおかしいことは気付いている。

俺達を避けるようにしてるし学校でも話しかける機会がない。

原因は明らかなにヒルダなのだろうが殴りこみをかけようにもヒルダの場所も分からないし装備も整っていない。

 

「やはり、誘い出しますか?」

 

「そうだな・・・」

 

実の所、ヒルダ対策として秋葉と作戦会議の話を何回かしてきているんだがそのうち一つがステルスVSステルス。

暴風の日を選んで秋葉の能力は最大に引きだせる状況でヒルダをおおびき出して俺達で撃破するというものだ。

秋葉なしじゃどうにもならない作戦だが正直な話、ヒルダと戦うなら秋葉の力は頼りになる。

奴が雷ならこっちは風と言うわけだ。

とはいえ、Sランク級の大出力のステルス同士が激突すれば東京の一角壊滅何て事態になりかねないから決戦の場所はある程度絞らないといけないんだけどな・・・

 

「月詠はなんか言ってるか?」

 

「はい、決戦の場は選ぶようにと、特に一般人に死者が出る状況は好まないと」

 

「それは当たり前だよな・・・」

 

ある程度は実家でもみ消してもらえるだろうが一般人に被害はやばいことだ・・・

 

「月詠自身の援軍の件は?」

 

椎名の家で現状最強の戦力はRランク月詠だ。

あいつが来てくれりゃヒルダなんて怖くないんだけどな

しかし、秋葉が首を横に振る。

 

「月詠様は現在こちらに援軍に来れる状況ではありません」

 

「そう、上手くいかないわけか・・・」

 

だが、秋葉がいるならやりようはあるよな。

後は、姉さんの言ってた魔封弾が届いて使い方をマスターして攻勢に出る。

それまで、ヒルダや他の卷属が動かなければいいんだが・・・

そこまで言った時、急にぐううと俺の腹が鳴った。

腹減ったよ。

 

「優君、朝ごはんは食べたんですか?」

 

秋葉が俺の腹の方を見ながら聞いてくる。

 

「いや、情けない話なんだが今月後4円しかなくてな・・・水だけしか飲んでない」

 

本当はこんな話、秋葉にはしたくないんだが・・・

だって話すと

 

「じゃあ、私が半月、ご飯を作りましょうか?」

 

と、なってしまうからな・・・

秋葉は大事な友達だが実家から見れば俺の近衛。

近衛は主の健康状態にも気を使わないと駄目らしいからな・・・

まあ、専属の近衛は特になんだが・・・

 

「ありがたい話なんだけど・・・近衛として言ってるなら自分でなんとかするからいいぞ」

 

すると、秋葉は首を横に振りながら

 

「いえ、それとは関係なく言ってるんですけど」

 

それはつまり、友達として、貧乏生活でご飯すらままならなくなった俺を助けてもらえるってことだな。

 

「いいのか?」

 

「はい」

 

心なしか嬉しそうに言う秋葉。

女神様ですかあなた!

 

「今日は、知らなかったので申し訳ないんですが」

 

ごそごそと鞄の中から白い袋を取り出すと

 

「これ、お昼にどうぞ」

 

「いや、これお前の昼飯だろ?」

 

「購買で何か買いますし。チョコもありますから」

 

鞄から数枚の板チョコを見せてきて秋葉が言った。

ステルスの副作用対策で入れてるんだろうがチョコはエネルギー補給にはいいからな

 

「じゃあ・・・」

 

俺が購買でと言いかけるがそれは駄目だろう・・・俺自身の金は4円しかないし現金をくれって言ってるようなもんだ・・・・

 

「そっちのチョコでもいいんだけど・・・」

 

申し訳ないのでそう言ってみたんだが

 

「優君は私のお弁当食べたくないんですか?」

 

なんでそうなるの!

 

「いやいや、そういうわけじゃなくてだな」

 

「リゼさんに作ってもらいたいんですか?」

 

「いやそれはない」

 

あいつの作る弁当なんて毒入りか虫入りに違いないし

 

「ではレキさん?」

 

「うーん・・・」

 

前に奏ちゃんの家でレキが料理を出したことあったがカロリーメイトだったしなぁ・・・

レキは料理できないだろう・・・

 

「今、悩みましたね?」

 

レキは料理できないだろうと思っただけなのに秋葉は俺がレキに料理を作ってもらいたいと思ったと誤解したらしいぞ!

 

「分かりました。じゃあ、レキさんに私が頼んでおきます。私なんかのお弁当は食べられないから優君のご飯は・・・」

 

「だからなんでそうなる!秋葉のご飯食べたい!だからくれよ弁当!」

 

あれ?いつの間にか秋葉の弁当を俺が食べたいからせがんでるみたいになってるぞ。

 

「・・・」

 

秋葉はすっと弁当を上に持ち上げ

 

「欲しいんですか?」

 

「欲しいからくれよ!」

 

「私のお弁当が食べたいんですか?」

 

「秋葉の奴が食いたいんだよ」

 

何このやりとりとか思ってたら後ろからクラスの女子数人が

 

「ねえ、椎名、山洞さんにお弁当せがんでるよ」

 

「女たらしここに極まれね」

 

とか言いながらこっちを見てるぞ

何、この状況!

 

「そうですか。そんなに私のお弁当が食べたいんですか」

 

そう言いながら秋葉は俺に弁当箱を差し出してきた。

 

「どうぞ」

 

「あ、ああ・・・ありがとう」

 

なんか、嬉しそうに見えるんだけど・・・気のせいかな?

その後、学校に着くまで秋葉はなんか機嫌が良かった。

 

              †

              †

              †

 

学校についてからいいクエストがないか確認するために掲示板の方に行くと言って秋葉と別れると掲示板の前にやってきた。

朝早く来ると夜にここに張られたりしたクエストが残っていたりするのだ。

たまに日払いのクエストもあったりするがなぜかそれはごく少数だ。

手続きの問題やらいろいろあるみたいで基本は月末振込みの形だからな・・・

 

「うん、ないな」

 

掲示板に張られていたのは当然のごとく、日払いはなく人気もない奴や日数がかかるクエストや遠方にいくクエストが大半だった。

どれも状況的に受ける理由はない。

ヒルダの件もあるから遠方には行けないしな・・・日数かかるクエストも現状では無理だ。

 

「優さん」

 

声に振り向くとレキだった。

秋葉以上に無表情だな相変わらず・・・

 

「よう、レキお前もクエスト目当てか?」

 

掲示板を見ながら言うとレキは首を横に振った。

そして、鞄に手を入れて・・・

 

「どうぞ」

 

ん?白い袋?何これ?

中身は・・・弁当箱?

 

「ま、まさかこれ弁当か?」

 

こくりとレキ

 

「れ、レキが作ったのか?」

 

再びこくり。

い、いや騙されないぞ。どうぜ中は箱ごとカロリーメイトが入っているんだろ。

開けて確かめるか一瞬悩んだが、いきなり開けるのは失礼か・・・

仮に中身がカロリーメイトだとしても今の俺には最高の送り物なわけだし

 

「ありがとなレキ。ありがたく貰うよ」

 

レキが料理を?どんな料理か楽しみだな

 

 

               †

               †

               †

 

サイド??

 

 レキが優希にお弁当を渡したその時を見ている者がいた。

彼は無線を取り出すと

 

「№47より会長。物は奴の手に渡りました」

 

「よろしい。攻撃は予定通り行う、君は戻ってくるといい」

 

 

「了解。全てはレキ様のために!」

 

「レキ様のために」

 

               †

               †

               †

 

サイド優希

 

 しかし、まあ今日はどうしたんだ?

目の前に置かれた数個の弁当箱の袋を見て俺は首を傾げた。

レキと別れた後、まず、マリがお弁当愛情込めて作りました!と持ってきたし、教室に入る前にはいきなり、武田の使いという女性が現れ、お屋方様からですと弁当箱を突き付けられた。

用事はそれだけだったらしくとんぼ帰りしていったが信冬からもなぜか弁当が・・・

何なんだ?

ちなみに、弁当の上には手紙が1つ。

連絡してくださいねと一言・・・

リゼの件で電話切っちゃったからなぁ・・・どうしよう・・・

思わずリゼの方を見てしまうがこいつは流石にないよな・・・

別に欲しいわけじゃないんだけど

 

「何を見てるんですか?」

 

「いや・・・」

 

目をそらしてしまうが苦手だこいつ・・・

 

「すごい量だな優」

 

「ん?」

 

隣を見るとキンジが山となった俺の弁当を見ている。

 

「なんというかな・・・色々あって・・・1個いるか?」

 

「いや、遠慮しとく。食った弁当の主に恨みを買いたくないからな」

 

「そうか?」

 

まあ、逆の立場なら俺もそういうかもな・・・

とりあえず、飯の問題は解決したな!情けないが秋葉に作ってもらえるから餓死だけは免れる。

でもキンジもなんかやつれてないか?

それをキンジに言ってみると

 

「色々物入りでな・・・」

 

キンジもキンジで大変らしかった。

 

「ん?」

 

一瞬、殺気を感じた気がしたので振り返ってみるが特にそちらには誰もいない。

気のせいかとか思っていると今度はメールの着信音。

内容を確認してみると待ち焦がれていた武偵弾職人からだった。

魔封弾の受け渡しについて書かれている。

場所は今日の17時に都内の・・・ああ、ここね。

スマホで地図を確認してから

 

「悪い、キンジ今日も寮に帰れそうにない」

 

「お互い大変だな」

 

リゼを一瞬、見てからキンジは言った。

 

まったくな・・・俺はエルの机を見て言うのだった。

 

              †

              †

              †

 

さて、昼飯だ!キンジは購買にコッペパンを買いに行ってしまったので俺は屋上に向かう。

エルとリゼは多分、食堂だろう。

エルは毎回食堂で高い飯食ってるからな・・・

学食で一番高いステーキとか普通に買ってそうだ・・・

あ、キンジコッペパン片手に嫌がらせされてたりして・・・

女は怖いねぇ・・・

屋上でみんなの弁当並べて流石に食いきれないから少しずつ食べようと思っていた時だ。

 

「椎名優希!」

 

「ん?」

 

声に振り返ると武偵校の男子生徒・・・知らない顔だな。

 

「誰だ?」

 

「RRR会員№78! 黙ってレキ様のお弁当様を渡すならよし!渡さないなら血祭りにあげる!」

 

あー、事情が呑み込めた・・・

 

「これ欲しいのか?」

 

レキからもらった袋を掲げてみると会員№78が飛びかかってきた。

 

「うおおおおお!」

 

必死の形相だったので俺は慌ててその袋を屋上から校庭に投げ捨てた。

 

「レキ様のお弁当ぅううううううううううう!」

次の瞬間、そいつは信じられないような行動に出た。

あ、頭からだいぶしていきやがった!

下から悲鳴とすごい音がしたがまさか、死んでないだろうな?

まあ、武偵なんだからそれはないだろうが・・・

 

ここは離れた方がよさそうだ・・・

RRRの連中がレキの弁当を狙ってるなら早めに食べてしまわないと永遠にあいつらは狙ってくるだろう。

レキの弁当の本体と他の弁当をまとめて俺は早々とその場を立ち去るのだった。

 

                 †

                 †

                 †

 

「会長、会員№78が先走りました。目標に接触し屋上から落ちて気絶とのこと。目標は立ち去りました。追跡は続行中です」

 

「無理もない。あの御降臨なされたものはそれだけのものだからな」

 

「まさに、魔性のものと言えましょう」

 

「馬鹿を言え。天からの贈り物。ギフトというべきだ」

 

「では、次なる一手は?」

 

「椎名優希はどこにいる?」

 

「目標は看板裏に入りました。弁当を広げています」

 

「よろしい。では始めよう諸君」

 

「「「全てはレキ様のために」」」

 

RRRは一斉に行動を開始した。

 

            †

            †

            †

 

「おお、流石秋葉」

 

とりあえず学校を出てよく鍛練の場所に使っている看板裏に来ると秋葉の弁当から開ける。

他のも気になるがまず、味が一番分かる奴から食べてみたい。

中身は気になるがレキの弁当はもう少し後にしよう。

 

「うん、信頼性抜群ってとこだな」

 

秋葉の弁当箱は小さいが中身はオールラウンダーな内容だ。

小さいおにぎりが3つと小さなポテトサラダとたこさんウィンナーにトウモロコシ入りのコロッケ2つ。

まず、外れのない内容だがおにぎりにおかかを入れているのはポイントが高い。

 

「塩加減も絶妙だし料理上手くなったな秋葉」

 

昔は、全然出来なかったはずだが時の流れだよなぁ・・・

秋葉の弁当を平らげて次はレキの弁当を・・・

 

「待てい!」

 

「あ?」

 

声に顔を上げると看板の上に誰かが立っている。

いや、つうか・・・

 

「RRRの会員か?」

 

ため息ついて言ってやると看板の上の男は笑う。

 

「フフフ、ばれてしまっては仕方ない!とう!」

 

掛け声と共に飛び上がるとワイヤーで降下してきたのは2人。

それぞれ・・・見たことない奴だな・・・

まあ、RRRの会員数がどれだけいるか分からんが全員把握することは困難だろう。

 

「椎名優希!貴様にはレキ様のお弁当はもったいない!我々に渡すといい」

 

「今なら凸ピン一発で許すぞ」

 

それぞれ勝手なこと言いやがって

 

「そんなに欲しいのか?」

 

さっきのように囮で逃げるか考えるが・・・

 

「「欲しいです!というか下さい!」」

 

見事にはもったな・・・

しかし、お前らそんなに欲しいなら強奪なんてしないでレキに頼めばいいのに・・・作ってくれるかは別として・・・

だがまあ俺の返答は決まってるぞ

 

「やらんけどな」

 

「き、貴様!」

 

「期待させといて!」

 

いや、普通に考えて失礼だろ?強奪しに来た相手に弁当渡すなんて

 

「こうなりゃ実力行使だ行くぞ会員№106!」

 

「おう!107!うおおおお!」

 

「だりゅあああああああ!」

 

それぞれがナイフを構えて突撃してくる。

弁当1つに犯罪すれすれの行動を取る2人。

付き合ってられるかと言いたいが仕方ねえ!

ランクが低いのかナイフの軌道は至って単純だった。

チンピラよりはまし程度の攻撃を交わして腕を掴んで上手く、相手同士が激突するように仕向けてやる。

 

「ぎゃ!」

 

「ぐわ!」

 

2人は頭をぶつけて火花を散らすとずるずると崩れ落ちて動かなくなった。

とりあえず、ここもばれてると考えるべきか・・・

というか、学園島にいる限りどこでも同じ気がする。

仕方ねえ・・・頼るか

俺は早々とその場を後にした。

 

               †

               †

               †

 

「会長、追跡していた会員が全員椎名優希にまかれました」

 

「流石はレキ様が認めた男だけはあるということか」

 

「ですが、会員№107が取り付けた発信機が位置を知らせています。東京の外れの・・・ここです」

 

「ん?誰かの家の中に逃げ込んだのか?」

 

「ここは・・・まずいですよ村上会長」

 

「どう言う事だ会員№2」

 

古参の会員№2が冷や汗をかいている。

その場所とは・・・

 

「ここ、公安0の人間が住んでる家ですよ!」

 

「こ、公安0!?」

 

その場にいた会員達は顔を見合わせた。

公安0とは闇の公務員。殺しのライセンスを持つ真の化け物集団の総称だ。

そんな場所に逃げ込まれればどうしようもない。

 

「おのれ椎名優希!卑怯な・・・」

 

歯ぎしりした会員がそう言うが村上の静かな声が全員を驚愕させる。

 

「諸君、総攻撃の準備だ」

 

その言葉に全員が言葉を失った。

かろうじて会員№2が

 

「し、正気ですか会長!相手は公安0の人間の家ですよ!」

 

「何も公安0の本部と言うわけではない。あそこにいるのも椎名優希の知り合いだろう」

 

「しかし・・・」

 

無線越しでも分かる。

椎名優希への襲撃を準備していた会員達も動揺しているようだ。

当たり前である。

公安0の関係者に喧嘩を売る理由がはたしてあるのだろうかと・・・

村上は静かに口を開いた。

 

               †

               †

               †

 

「すみません。連絡も無しに来てしまって」

 

土方家の居間に通された俺は弁当を出しながら言った。

 

「構う事はない」

 

「ええ、鈴の言うとおりよ優希君。あなたは私の弟子でもあるんだからいつでも来てね」

 

鈴。雪土月花の2人鈴さんと雪羽さんと合流出来て俺はちょっとほっとした。

ガソリンは節約したかったが隼で逃げてきた。

ここならゆっくりとご飯を食べられる。

ヒルダに関しても問題ない。

誰もいなかったらどうしようと思ったが鈴さんと雪羽さんがいればヒルダも襲撃してはこないだろう。

姉さんがいてくれたらなお良かったんだけど・・・

昼という舞台でこの2人を相手にするのは相当に厳しいはずだし。

RRRの連中も流石にここには襲撃してこないだろう。

というか完全にまいてきたきたし。

さて、弁当食べよ

ぱかっと開けたのは信冬の弁当だったのだが・・・

 

「あら?」

 

「・・・」

 

雪羽さんと鈴さんが覗き込んできたが中身はなんと日の丸弁当だった。

つまり、ご飯の真ん中に梅干し一つだけ。

手抜きというよりは怒ってるのかなぁ・・・信冬

 

「それ信冬のお弁当ね?優希君あの子怒らせたの?」

 

「えっと・・・」

 

事情を雪羽さんに説明すると雪羽さんはフフと笑いながら

 

「あらあら、それで焼きもちやいちゃったのかしらあの子?」

 

「もう、どうしていいか分からないんです・・・」

 

謝ろうにも電話怖いし・・・

 

「自業自得」

 

ひょいと梅干しを口に放り込む鈴さん。

そんな冷たいです・・・

 

「いいわ。私からあの子に言っておくから」

 

「本当ですか!ぜひ、お願いします!」

 

「ええ、本当に愛してるのは信冬だけって言ってたって言っておくけどいい?」

 

「いや、それは・・・」

 

お、重い話になってしまいそうだ。

 

「あの子のことは嫌い?」

 

「それはありません」

 

信冬は小さい頃からの知り合いだし立場もよく似ていたからどちらかと言えば好きな方だ。

それが、愛かと言われれば違うんだろうが・・・

 

「優希君もたまにはあの子のことも気にかけてあげてね」

 

「はい」

 

信冬も同じですよ雪羽さん。アリア達と同じように困っていたら助けるさ。

まあ、今は俺が助けて欲しいんですが・・・

 

「次」

 

って信冬の弁当が空だ!鈴さんいつの間に!

ぱかっと次に鈴さんが開けたの真里の弁当だ。

 

「・・・」

 

鈴さんに続いて覗き込むとなんと、お約束的なものだ。

ご飯に大好きな優希さんへと乗りで書かれハートマーク。

 

「・・・」

 

鈴さんはそれを無言で箸でかき回して食べ始める。

いや、いいんですけどって!

 

「ちょ!鈴さんそれ俺の弁当!」

 

「少しぐらい問題ない」

 

レキみたいにひょいぱくひょいぱくと食べていくがすごい速さなんですけど!

こりゃ、中身が気になるレキの弁当も早めに食べないと手を延ばされるぞ。

よし、レキの弁当を開けるぞ。

俺がレキの弁当の蓋に手をかけた時、ふいに鈴さんの手が止まった。

一瞬、遅れて俺もそれに気づく。

家の周りから嫌な感じがするのだ。

まさか・・・

 

「敵・・・総勢70」

 

ハンガーからマントをとり、麦わら帽子をかぶる鈴さん。

 

「素人じゃないわね。優希君が言ってたRRR?」

 

雪羽さんもただならぬ気配から壁に立てかけてあった日本刀冬雷を手にとって言った。

 

「多分。そうです・・・」

 

隠しても無駄だと悟ってるのか殺気を隠そうともしてないRRR。

あ、あいつら正気かよ!ここ、土方さんの家だぞ!公安0の関係者って知らないのか?

いや、違うな・・・知ってて攻撃してくるつもりだ。

このレキの弁当を奪いに・・・

村上正とはそういう男だ。

 

「殲滅」

 

戦闘モードになったらしい鈴さんが飛び出そうとしていたので慌てて止める。

 

「ちょ!鈴さん!殺しちゃ駄目です!あいつらただ、これが欲しいだけなんですから!」

 

渡せば引くだろう。

だが・・・

 

「問題なし。歳の家を襲撃するということは私に敵対するという事」

 

戦闘モードになった鈴さんは聞く耳を持っていない。

 

「ゆ、雪羽さん!鈴さん止めてください!」

 

このままじゃRRRは皆殺しだ

 

「大丈夫、優希君鈴だって手加減はできるから」

 

ほ、本当か?姉さんのチームメイトは一騎当千。

空間跳躍射撃は見せてもらったがRRR全員の頭に風穴開ける気じゃ・・・

 

「問題ない。殺しはしない」

 

そう言って彼女は飛びだした。

 

               †

               †

               †

 

それより少し前、村上はRRRに言うのだ。

 

「諸君、我々はRRR!レキ様のレキ様だけのレキレキファンクラブだ!もし、今回の攻撃が怖いと思うものがいれば来る必要はない。我々の背を見届けてくれるだけでいい。だが、あの家にあるものは椎名優希ではなく我々が手に入れるべきものだ!そして、私は1人でもあのお弁当のために戦うつもりだ!なぜならあれはレキ様のお弁当だからだ!」

 

「か、会長」

 

「お、俺も行きます!」

 

「ぼ、僕も!」

 

「私もよ!」

 

「俺もだ!」

 

「わたくしも!」

 

「レキ様の弁当は椎名優希には渡さない!」

 

「我々はRRRだ!公安0がなんだ!」

 

RRRのメンバーの決意は固かった。

ランクの低い者たちでさえ村上の決意に後押され立ち上がる。

その中心に立つのは2~3年のレキを思うあまりについにはチーム名にしてしまった馬鹿・・・いや、愚か者RRR連隊だ。

村上は銃を抜くと空へ掲げ椎名優希の逃げ込んだ家に振りおろす。

 

「総員!突撃!レキ様のお弁当を我らの手に!椎名をうちとれえええええええええええええ!」

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」

 

RRRの声が住宅地に響き渡る。

一般人はその光景に慌てて逃げていき、子供は泣きだし、警察に電話するものもいたが警察が来るとしても10分以上後だろう。

地響きを立てて70人以上の武偵校生徒が突撃を開始したその時

目標の家から飛び出してきた影が交差する。

 

「ぎゃ!」

 

「ぐえ!」

 

「ああん」

 

「あべし!」

 

RRRの会員達が倒れていく。

村上は見た。

麦わら帽子をかぶったマントの少女が会員達を次々に気絶させて言っているのだ。

手には折りたたみ式らしい剣を持っている。

それを、防弾制服を着た会員達にぶち当てているのだ。

それも、えぐい場所ばかりに・・・

 

「か、会長!」

 

「うろたえるな!囲んで打ち取れ!」

 

あれが公安0の人間かと村上は思ったが帽子の下から見えた顔はどこか、レキ様に似たお姿だった。

実のところ、村上は鈴に間接的に京都で助けられているのだがそんなこと知る由もない。

 

「統率。取れてる。無駄多い」

 

たんと鈴が飛び上がった。

空中では動きがとれまいとそれぞれ会員達が銃を空に向けるが鈴はばさりとマントを揺らしか瞬間、周囲の空間が歪む。

 

「・・・流星刀」

 

何が起こったかRRRのメンバーには分からなかった。

いきなり首筋に殴られたような衝撃を受けると意識を刈り取られる。

それが数十人に一斉に起こったのだ。

 

「ば、馬鹿な!」

 

村上は絶句する。

自分以外の会員達がみんな地面に倒れている。

その屍の真ん中には麦わら帽子の少女。

 

「よくかわした。でも後はあなただけ」

 

鈴はそういうと氷のような冷たい目で村上を睨んだ。

 

その攻防を雪羽さんとみていた俺は絶句していた。

つ、強え鈴さん。

何が起こったのか京都の戦いを見てなかったら絶対に分からなかったぞ。

『魔弾』の2つ名を持つ鈴さんだが接近戦もこなすんだな・・・

 

「鈴は私達のチームでも希さんを除いたら万能型だから」

 

雪羽さんの言うとおり鈴さんはM700以外も多彩な武器を使いこなす。

あのマントの中は多分、武器庫みたいになってるんだろう。

信冬の部下にジャンという男がいたがあいつも他の場所から武器を転移させているがそれの系統だろう。

 

「うおおおおお!」

 

村上が雄たけびを仰げてやけくそ気味に短機関銃を放つが鈴さんには当たらない。

背後に回り込まれ首筋に鋭い手刀が・・・

 

「ぬお!」

 

村上の肩に手刀がめり込むがごろごろと村上は地面に転がりかろうじて意識を刈り取られることを避けた。

 

「降伏推奨。勝ち目はない」

 

ジャキンと鈴さんは今度は2刀ナイフを逆手に構えて突撃する。

村上は慌てて銃を構えるが遅すぎる。

ブンとナイフが村上に振るわれるがかろうじて村上は背後に避ける。

 

「・・・」

 

鈴さんはそれを追撃せず右手を振るい村上を切り裂こうとするがかろうじて刀身が届かないと思った瞬間、ナイフの先端が飛び出した。

 

「ぬあ!」

 

それに反応出来なかった村上はもろに刃を心臓の上の防刃ネクタイに受け胸を押さえてがくりと膝をついた。

 

「終わり」

 

鈴さんが重心を低くして村上に突撃する。

村上はふっと笑うと

銃弾を地面に放った。

カッと閃光があたりを照らした。

あいつ武偵弾の閃光弾使いやがった!

くそ!何も見えねえ。

そして、銃声と何かが激突する音がし視力が戻ってくると見えたのは鈴さんに地面に組み伏せられた村上の姿であった。

 

「今の攻撃はよかった。だが、無駄が多すぎる」

 

「レキ様・・・申し訳ありません・・・あなたの弁当を拝むことすら・・・」

 

「蕾姫?お前はそんなにお弁当が食べたいの?」

 

「当たり前だ!レキ様のお弁当を食すことこそわが人生に置いてのこの上ない喜び!」

 

「ふむ」

 

鈴さんはマントに手を入れて取りだしたのは弁当箱。

 

「そこまで言うなら食べるか?」

 

「そ、それはまさかレキ様のお弁当!」

 

組み伏せられているが村上はその存在が近くに来た事を悟った。

というか、気付いたら机の上にあったレキのお弁当箱が消えてるよ。

 

「・・・」

 

鈴さんがパカッとレキのお弁当箱を開ける。

な、中身は何なんだ。

 

「・・・」

 

鈴さんは一瞬、弁当を見ていたがやがて

 

「あなたの名前は?」

 

「村上正です!お、お弁当を早く!」

 

「そうか。では、村上君の願いは適わない」

 

「何!」

 

「なぜならこのお弁当は・・・」

 

ごくりと俺達が息を飲む。

 

レキのお弁当の中身・・・それは・・・

 

「空だからだ」

 

「「え?」」

 

その場にいた全員が同じ言葉を口にした。

か、空?

 

「・・・」

 

鈴さんが無言で組み伏せていた村上を開放し弁当の中身を見せ俺達の方にもそれを向けた。

な、何にも入ってない・・・空だ。

 

「ど、どういうことだ・・・は!そうだ!そのお弁当箱を貸していただきたい」

 

「・・・」

 

鈴さんが無言で村上にお弁当箱を渡すと村上は右手で中身を救うように口を開けてかきこむ仕草をとり口をもぐもぐする。

 

「何をしてる?」

 

「レキ様の弁当の中身は空気だ!そうに違いない!なんという美味!レキ様の味がする!フフフ、勝ったぞ!椎名!私はレキ様のお弁当を食べたのだ!貴様より先になぁ!ざまみろおおおおおおおおおおおおおお!」

 

そう言って村上は叫びながら弁当箱を鈴さんに返して走り去っていった。

えっと・・・どういうこと?レキのお弁当の中身は空気?風風言ってたレキならそれはありえるのかな?

で、レキのお弁当は俺は食べれず村上に食べられたということ?

 

「どういう事なんでしょう鈴さん?」

 

「知らない。蕾姫に直接聞くと言い」

 

「フフフ、青春ね」

 

鈴さんに弁当箱を突き返され、雪羽さんはにこにこ成り行きを見守られる。

そうだな・・・こうなったらこの空の弁当の中身は空気だったのかそれとも、何か理由があるのかはレキに尋ねるとしよう。

2人に礼を言ってその場を後にする。

ちなみに、RRRの会員達だが近所の通報で警察が来た時には霞のように消えてしまっていた。

あるものはいきなり消えたと言っていたがその数時間後海から多数の武偵校の生徒が上がってきたのは余談である。

一応言っておくが今回の事件での死者は0だった。

そして、最後の謎であるレキの弁当の中身が空だった理由・・・それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

家に帰った少女が見たものそれは・・・

冷蔵庫の中に入っている2つのおにぎり。

初心者だろうが玄人だろうが誰でもできるのがおにぎりだ。

 

「ガウ」

 

彼女にしては本当に珍しく入れ忘れるという。しかし、致命的な失敗に冷蔵庫の前に立って何も言わない少女レキににハイマキはそんなこともあるさと言うように一言鳴くのである。

そして、おにぎりはハイマキのお腹へと消えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             †

             †

             †

 

RRRが壊滅しレキのお弁当が空だったのでこれ以上追われる心配はないと考えた俺は魔封弾受け取りのために空き地島に来ていた。

前に置いてあったルーの残骸は綺麗に無くなっていおり周りには誰もいないためか不気味な潮風が頬に当たる。

 

「椎名優希か?」

 

振り返るとそこにいたのは防弾制服ネロと思われる黒いスーツ姿の男だった。

手にはアタッシュケースが1つ。

 

「はい、俺が椎名優希です」

 

「そうか」

 

それだけ言うと男はアタッシュケースをポンと地面に投げ捨てる。

 

「その中に約束の物は入っている。説明書もな。魔封弾の使用した後のレポートは毎回メールしろ。アドレスや連絡先もそこに入っている。詳細なことは中に入っている説明書を読め」

 

それだけ言うと男はその場を後にしようとしたので慌てて声をかける。

 

「え?それだけですか!どんな使い方とか説明は・・・」

 

男が振り返る。

 

「詳しいことは中の説明書に書いてある。少し言っておくが1のケースには6発ステルスを内包した魔封弾が入っている。2のケースからは空だ。お前にステルスの知り合いがいるなら入れてもらうといい」

 

そう言って再び立ち去ろうとした男に俺は少しだけ戸惑いながらもアタッシュケースを手に取る。

中を開けてみると確かに弾丸を入れるために小型のケースが詰められている。

それぞれには番号が振ってある。

説明書はこれか・・・むう、暗くてよく読めん・・・京菱の倉庫に帰ってみるか・・・

そんなことを考えていると電話の着信音。

ん?理子か?

 

「もしもし?理子か」

 

「……」

 

電話の向こうからは何も聞こえない。

確認するが通話中だ。

 

「理子?おい!」

 

まさか、なんかあったのか! 

 

「クフ」

 

しかし、向こうからは笑い声が聞こえてきたので少しほっとした。

 

「クフフ、ユーユー理子のこと心配しちゃた?しちゃたよね。作戦セイコー!」

 

「あのなぁ」

 

無事ならいいが心配させんなよ 

 

「用件はなんだ?」

 

「美少女からの電話は冷たくしたら駄目だぞ!理子フラグ折れちゃうよ」

 

「そりゃ大変だな」

 

「あー、折りたくないの?理子フラグ!」

 

「今はおる気はないな」

 

「え?」

 

なんか面くらった声だが言っとくかな

 

「フラグとかよく分からんがそれ折ったら理子が離れるだろ?そんなことしねえよ」

 

お前は絶対に助けてやる。ヒルダを倒してな。

魔封弾のケースを握りしめそう決意していると小さく理子が何か言った

 

「…る……いな……優希は」

 

「ん?俺がなんだって?」

 

「なんでもないよ!ねね、ユーユー今からデートしない?」

 

「はぁ?」

 

デートって別に俺とお前付き合ってないだろが

 

「1時間以内に理子のとこにくること!じゃーねー」

 

「あ!待て理子!」

 

ツーツーと電話が切れた音…続けてメールで地図が送付されてくる。

ここにこいってことか理子め!

かけ直すが出やがらねえ!

無視するわけにもいかんし東京にはヒルダもいるかもしれない訳で行かない理由がないんだよな…仕方ねえ行くか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




レキのお弁当を食べた気になる村上(´・ω・)カワイソス

さて、だらだらきましたがだらだらは続きます。
次回はレキデートに続く名前付きタイトル!理子デートです!
予定では理子デート後、少ししたらクライマックスの戦いに突入予定です!
あのチートヒルダを倒す方法は原作!そして、後は秘密(笑)

ローズマリーは動かないのか!アズマリアは!姉さんは!公安0は!

ってあれ?東京って混沌としてますね相変わらず(笑)

原作最新刊も読みましたがルーかわいい!ジサード羨ましいやつめw
しかし、優の緋刀もイロカネに絡みますが原作まで追いついたらどうなってるやら…
で!いよいよ知りたかった内容が明かされつつあります。
知りたい方は原作を買いましょう!ルーの挿絵かわいいですよ!後、表紙!
クライマックスへと思いきや赤松先生はまたまだクライマックスは遠いとのこと!楽しみですね。
そして、更に驚きの発表!うん!買います!出たら買いますとも!
緋弾のアリアはやはり大好きです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第228弾 優希VSヒルダ 裏切りの理子

ちょこちょこ書いて長くなっちゃいました。
相変わらずの起承転結下手くそです


最初に理子に会った時の事は今でも覚えている。

ブラドの手下というか使い走りに地下牢に叩き込まれぎゃーぎゃー言ってた時後ろに気配を感じて振り向いたんだ。

ぼろぼろの服を着て端で震えながら俺から1歩でも遠ざかろうと壁を背にする金髪の女の子。

 

「君は? 君もブラドに捕まったの?」

 

その時の俺は捕まってるのが自分だけじゃないという事にちょっと、安心を感じていた。

やはり、その頃の俺は弱くて・・・ドラキュラに捕まり怖かったんだからな

 

「・・・」

 

理子は・・・あの子は怯えて何も言ってくれなかった。

でも、俺はそれでもへこたれず

 

「僕、椎名優希って言うんだ。君の名前は?」

 

「・・・」

 

少女の口が少しだけ動く。

名乗るかを一瞬躊躇したんだろうが・・・

 

「理子・・・峰・理子・リュパン3世」

 

              †

              †

              †

 

デートもどきなんて何回も経験しているぞ!

レキの時も事実は違うがデートみたいなもんなんだし理子とデートも余裕余裕と考えていた俺が馬鹿だった・・・

 

「よーし!次行ってみよ~!」

 

考え方が甘かった・・・レキと理子は性格が完全に違うわけだから似たようなデートになるはずがなかったのだ。

 

「そろそろ休もうぜ理子・・・」

 

「えーユーユ貧弱だ!まだ、2時間ぐらいしかたってないんだぞ!理子フラグ回収する気ならがんばんないとだぞ」

 

理子フラグねぇ・・・まあ、理子は可愛いし普通の男なら泣いてでも回収するんだろうがこの子の相手は疲れるぞ・・・

理子に呼び出されて都内に来たのはいいがデートと称して理子の買い物や行く先々合わされているのが現状だ。

出会ってそうそう驚かされたのは理子の格好。

俺は武偵高の制服なのに理子と言えばふりふりの私服だ。

リボンが一杯付いているが理子には似会うな。

ちょっと、顔を赤くした理子の顔も珍しいものだったし・・・

一瞬でふざけた時に使う笑顔に戻ったけどな・・・

 

「とにかく少し休まないか?ついでに色々話したいこともあるし」

 

ヒルダの件も話とかないとな。魔封弾も手に入ったしもう少し準備出来たら・・・

っておい!いきなり、理子が腕に抱きついてきたぞ

 

「いーよ!どこ入る?理子が決めちゃっていい?」

 

ふわりと理子の胸の弾力が腕に押しつけられる・・・意識するなって方が無理!俺男だし!

 

「そ、そうだな・・・」

 

それでも何とか平静を保つ。

何これ!拷問!

 

「クフフ、ユーユー照れてるなぁ。理子の胸におぼれちゃう?」

 

「そ、そういうふざけたことやめろ!」

 

「えー、ふざけてないよぉ。ユーユーなら触らせてあげてもいいよ」

 

な・・なんだと!

そりゃね。俺も男だし女の子の胸には興味が・・・ってそうじゃなくて!

 

「あそこに入るぞ!いいな!」

 

「いいよ。ユーユーの行く所理子ありだ!」

 

腕に抱きつかれたまま、その店に入る。

よし、店に入れば・・・

 

「いらっしゃいませお嬢様!旦那さま!」

 

しまったぁ!ここメイド喫茶だぁ!

今日の俺は運に恵まれてないぞ・・・

 

「たっだいまぁ!」

 

理子は乗りよく返してるし・・・

席に案内され理子がのりのりでメニューを読み上げ店員さんが行ってしまう。

まあ、店はここでも話はできるさ。

 

「理子。ヒル・・・」

 

俺は言いかけて言葉を止めた。

ヒルダの名を出そうとした瞬間、理子の顔から笑顔が消え、青ざめがたがた震える。

 

「り、理子?大丈夫か?」

 

「聞きたくない・・・」

 

「え?」

 

「今の時間だけはあいつの事思い出したくない・・・名前も聞くのも嫌だ・・・」

 

怯えてる・・・無理もないか・・・ヒルダとの因縁は俺以上に深い・・・

子供のころからいじめられトラウマになってるんだろう・・・

俺だって姉さんがいなければ理子と同じになっていたかもしれない。

ヒルダには立ち向かう。

それだけの力は俺にはない。

だが、周りの協力があればそれも可能だろう。

1つ決めた・・・ヒルダは理子のいない場所でぶっ潰す!

エル悪いな・・・今の理子を見て俺は決めたぞ。

師団から卷族に移る話は無しだ。

そうと決めたなら今日は理子にとことん付き合ってやろう。

 

「分かったよ。その話はしないよ」

 

本当というように理子は顔を上げたので俺は頷くと理子はどこかほっとした顔をした。

 

 

その後、注文を取りに来たメイドさんに元気を取り戻した理子がメイドさんとできるゲームを選択したり、それに巻き込まれたりしたんだが割愛しておく・・・

 

メイド喫茶を出た後も理子とのデート?は続く主に理子の趣味であるいわゆるゴスロリ系のゲーム捜しにつきあわされたりアニメイトに連れて行かれたりデートというか理子といつも遊ぶ乗りになってきて俺もいつもの調子を取り戻しながら理子と遊んだ。

理子が腕に抱きついてくるのはまあ、ドキドキするけどね・・・

 

時刻は午後18時を周り少し空が暗くなりだし、そろそろお開きかと思っていると理子がふと足を止めて店のショーウィンドーを見上げてた。

何見てんだと思いながら俺もそちらを見ると赤いウェディングドレスだった。

それも、理子の好きそうなふりふりのついたもんで新作と横には書かれている。

誰がデザインしたのか知らんがウェディングドレスって純白が普通じゃないのかな?

 

「いいなぁ・・・」

 

理子が小声でそう言ったのを聞き逃さなかったんだがやはり、理子も女の子・・・ウェディングドレスってのに憧れがあるんだな・

 

「理子に似合いそうだな」

 

実際似合いそうなのでそう言うと理子はえっという顔で俺を見る。

 

「理子に似合うかなこれ?」

 

「まあ、着てみないと本当の所は分からないと思うけど似合うと思うぞ」

 

理子と結婚する奴は幸せだろうな。

性格がこれだから旦那になる奴は大変だろうが美人の奥さんだし結婚生活もすごく楽しいものになりそうだ。

 

「じゃさ。優希と結婚するならこれ買ってくれる?」

 

「え?」

 

いや、結婚って・・・俺と理子は友達で恋人ですらないんだぞ

 

「・・・」

 

てっきり、からかっているのかと思ったが理子は真顔だ。

これは不真面目に答えられない状況だぞ・・・

なんて言えばいいんだろう・・・

 

「その・・・」

 

まいったなと思った時

 

「よろしかったら試着してみませんか?」

 

天からの助けだ!お店の人が出てきて声をかけてきてくれた。

 

「ぜひ、お願いします!」

 

渡り船とばかりに店員さんの言葉に飛びつき、俺達は店の中に入った。

理子は答えて欲しかったのかちょっと残念そうな顔をしていたがカーテンの中で店員さんと話している声を聞きながらどう答えるべきだったんだと腰の刀に手を当てながら考えているとカーテンが開いた。

一言で言うなら俺は見惚れた。

薄く化粧もしているらしく、赤いウェディングドレスに頭にベール。

胸元の開いたデザインだがそれが理子によく似合っている。

美少女のアリアやレキでもここまで似合いはしないだろう。

主に胸のせいで・・・

これはまさに、理子のために作られたウェディングドレスといってもいいドレスって気がするな。

 

「お似合いですお客様!」

 

店員さんも絶賛中だ。

 

「どう・・・かな?」

 

顔を赤くして理子が聞いてくる。

化粧も相まっていつもの理子じゃないみたいだ・・・

 

「綺麗だな・・・」

 

嘘偽りない気持ちだった。

その瞬間は間違いなく俺は理子が世界一綺麗だなと思ったんだ。

 

「優希に褒められるとうれしいなぁ」

 

本当にうれしそうな理子の笑顔。

この笑顔が消えないようにヒルダに勝たなければならない・・・絶対にだ。

 

 

 

 

 

 

店員さんにお礼をいって店を後にした俺達だったがちょっと、空気が違う。

なんというか少し甘い感じがする・・・

 

「こ、これからどうする理子?そろそろ帰るか?」

 

道を歩きながらそいうが理子は少しだけ前を歩きながら答えない。

 

「1人になるのが怖いなら知り合いのとこに泊めてもらうか?土方さんの家なら強い人達が・・・」

 

「・・・」

 

理子は振り返らずに先を進んでいく。

なんか怒らしたか?覚えないんだが・・・

それ以上、なんか話す言葉も見つからず理子の後ろを歩いていったんだが駅からは離れてるな・・・どこに行くんだ?

 

数分歩いた時、理子が再び路地を曲がった。

その際理子が小さく何かをつぶやいた。

 

どう言う意味だと俺もそれに続き曲がったが

 

「ん?」

 

理子がいない。

少し開けたそこはビルも立ち並ぶ交差点だが状況的にありえないそれに、俺は刀に手をやった。

この、スクランブル交差点には夕方のこの時間ものすごい数の人々が行きかう場所だ。

会社帰りのサラリーマンや学校帰りの学生など数えきれないぐらいの人々が・・・

だが、交差点には車もなく誰一人いない・・・

ありえない非現実的な光景には1つ心当たりがある。

人払いの鬼道術・・・

理子はどこに行った?

無事なのか?

 

「理子!どこだ!」

 

大声を出してみるが返事はない・・・いや

 

「他人の心配とは余裕ね。椎名 優希。いえ、ゴキブリ」

 

上空からの声に顔を上げると電柱の上に立っているは紫電の魔女ヒルダ・・・

 

「てめえか蝙蝠女!理子をどこにやった?」

 

こいつがここにいるなら理子は連れていかれたと考えるのが妥当だろう。

仲間に空間転移のステルス持ちがいれば簡単な話だ。

いや、さっきの理子のつぶやきは・・・

 

「口を慎みなさいなゴキブリ。吹けば消えてしまうあなたの命消してしまうわよ」

 

くるくると黒い日傘を回しながらヒルダは妖艶に笑った。

やばいな、この状況・・・強がってはみているが完全に敵の手の内って感じだ。

 

「簡単に消せるの思うなよ?んなことより理子はどこだ?」

 

「まだ、分からないのかしら?」

 

「あ?」

 

ヒルダに対する怒りが積み重なってきている。黙とう無しで戦闘狂モードになれるぞあと少しで

 

「裏切られたのよあなた。私のかわいいお友達にね」

 

ヒルダは哀れねと言うように目を閉じた。

 

「友達?お前に友達なんているのかよ?」

 

さっきの理子の言葉・・・まさか

 

「なら言ってあげる。私の結界の中にあなたを招き入れたのは峰・理子・リュパン4世よ」

 

どくんと心臓がなった気がする。

心拍数も上がるが落ち着け・・・

あいつが裏切るわけないだろ・・・

 

「そんな嘘に騙されるかよ。姉さんが後ろにいた嘘の仕返しか?」

 

にやりとして言ってやるが内心は冷静じゃない。

まさかという感情があるからだ。

 

「あらやだ?じゃあ、なんで結界にあなた一人がいるのかしら?1人で迷い込んできたとでもいうの?」

 

「そういう偶然もあるだろ?」

 

「ホホホ、もう一度言ってあげるわ。裏切られたのよゴキブリは。この結界の中にあなたを連れてくるように私は頼んだの。お友達。峰・理子・リュ・・・」

 

ドオオン

 

デザートイーグルの銃弾がヒルダの額に穴をあけヒルダは首を後ろに倒してから前を向いてにぃっと笑った。

 

「黙れよ!蝙蝠女!」

 

腹が立つ。んなことありえねえ!そうだとしても俺は信じない!てめえはヒルダ何か卑怯なことしやがったんだ!絶対に許さねえぞ!

戦闘狂モードに覚醒したのを感じた。

 

「そうはいいつつ考えてるんじゃないのかしら?理子に裏切られんじゃないって?なぜ?どうしてって」

 

「だとしても構わねえよ」

 

「へえ、どうしてかしら?」

 

「答える気はねえよ」

 

仮に裏切られたとしても俺は理子を恨まない。俺は1度そういうつもりがなかつたとはいえ理子を見捨ててる。

裏切られても自業自得ぐらいに考えとく。

あいつを恨んだりはしねえんだよ

 

「それより、ヒルダいいのか?」

 

「?」

 

「出てきたならてめえは倒す!今日この場でな!」

 

ヒルダは何かを考える仕草をしてから

 

「予定通りにはいかないものね。義理は果たした以上、ここからは好きにやらせてもらおうかしら」

 

パリっとヒルダの体から放電現象が起こるのを目に俺は自分の装備とヒルダを沈める方法を模索する。

 

「やってみろ」

 

奴が電気を使うなら刀はリスクがあるな・・・

紫電があれば話は違ったんだろうが銃のみでやるしかない。

 

「フフフ」

 

ヒルダは笑いながら電柱のケーブルを左手で儂掴みにすると右手を俺に向ける。

バチバチと雷の玉のようなものがヒルダの手の中に現れそれが大きくなっていく。

吸ってやがるのか電線から電気を!

 

「ほら!避けてみなさい」

 

雷球が俺に向かい投げられる。

どれだけの電力があるか分からんがまともに食らえばやばいのは分かる。

ワイヤーをビルに向かい放ち巻き上げて空に飛ぶ。

直後雷球が地面に激突し俺がさっきまでいた場所がバリバリと音を立てて放電現象を起こした。

食らいたくねえな・・・

 

「ほらほら次行くわよ!」

 

ヒルダが再び雷球を放ってくる。

時間が少ないため今度のは小さめだが迎撃できるかあれは?

 

「この!」

 

デザートイーグルを単発で撃ってみるが雷球はものともせずにこちらに迫ってくる。

通常の弾丸じゃ迎撃も出来ないわけか・・・

一瞬、魔封弾が頭に浮かぶが駄目だな。ぶっつけ本番で使うにせよ6発しかない弾丸は簡単には使えない。

ワイヤーで雷球の軌道から避け、ビルの屋上に降り立つ。

ヒルダは蝙蝠のような翼を広げて俺に向けて急降下してくる。

 

「ホホホ、鬼ごっこと行こうかしらゴキブリ」

 

ヒルダが両手を前に突き出して俺に迫ってくる。

美少女が両手を広げて突っ込んでくるなんて考えてみればおいしい状況なのかもしれないが掴まれたら電撃で動けなくなる。

 

「願い下げだババア!」

 

ガバメントを抜くと3点バーストで翼をズタズタにするとヒルダはにやりと笑い、トプンとそのまま落ちながら影の中に消えた。

それがあったな・・・

今は夜で闇なんて腐るほどある・・・

ここにいたらやばいと思い飛び上がろうとした瞬間背後からの殺気に反射的に体が動く。

俺の影からヒルダが飛び出してきたがぎりぎり空に逃れヒルダの手が空を切った。

ヒルダは空に逃れた俺を追撃するために翼を広げ迫ってくる。

空中じゃ動きは限定されるが!

ワイヤーで左へ少し移動しヒルダも追うために旋回してくる。

位置は俺が下側、ヒルダが上!ここだろ!

空中でマガジンをリロードしヒルダに向ける。

ガバメントでフルオート全弾発射だ・

ヒルダは回復を頼りに回避の動きを見せなかったが空中で弾丸が命中した瞬間夜空に連鎖的に大爆発が起こった。

ガバメント全弾による炸裂弾14連発。

どんなに離れてようがこれなら魔臓を一気に破壊できるはず。

公安0で言っていた跡形もなく吹き飛ばすは無理だが近い効果はある。。

ヒルダのあの細身の体で受ければ魔臓が破壊された時点で死んだだろう・・・

耐えられるはずがない

つまり、9条破り・・・

爆炎を見上げながらため息が出る。

とうとうやっちまった感がもあるが今さらって気もするな・・・

仲間を守るためなら俺は武偵憲章を破る。

そう決めていたがいざ破っちまうと・・・

一瞬、秋葉の母親葉月さんや実家で切り殺した人々の光景がまぶたの裏に浮かんだ。

そうだな・・・人殺しは今更だ・・・

 

「これで理子も・・・」

 

解放されると思い振り返った瞬間、ズシンと何か重いものが地面に降り立つ音・・・

バチバチという音に振り返るとそこにいたのは化け物・・・

荒い息を吐きながら血走った目で激怒の表情を浮かべているその毛むくじゃらのそれは・・・鬼

ハハハ・・・嘘だろおい

 

「ふうふう・・・今のは危なかったわ。第2形態になるのが一瞬でも遅かったら確実に死んでいたわ・・・屈辱よ・・・本当に許しがたいわ・・・ゴキブリ、いえ椎名優希。ローズマリーが何を言おうと今ここであなたは殺すわ」

 

そりゃ、ブラドが出来るなら娘のヒルダがあの姿に慣れないわけがない。

美少女完全崩壊だが・・・

あの筋肉の鎧で炸裂弾の魔臓同時破壊を防いだわけか・・・

まいったな殺すつもりの切り札で倒せないとなるとどうすればいいんだ・・・

だが、化け物姿だが裸の姿で魔臓の位置は分かった。

それを同時破壊して勝利する。

 

「ぶっ潰されて死になさい!」

 

ドンと鬼となったヒルダが突っ込んでくる。

その速さはブラドよりも早い。

 

「くっ!」

 

右に飛んでそれを交わした瞬間、地面に拳が激突しアスファルトにクレーターを開けた。

パワーもブラド並みか。

 

「死ねと言ったわよ!」

 

「!?」

 

ヒルダは陥没した地面から殴ったアスファルトのでかい破片を横殴りに俺に投擲してきた。

予想外の攻撃だが反射的に体をひねるが反応が一瞬、遅れ少しだが体をかすめる。

 

「ぐっ・・・」

 

頭をかすったらしくどろりと血が左目に滴り落ちてきたので左目をつぶりながら激怒しているヒルダにデザート―イーグルを単発で発砲。

炸裂弾かと思ったのかは分からないがそんなもの知るかとばかりにヒルダが突っ込んできたのでまともにそれを受けた。

カッと目を開けてられない光があたりを散らす。

武偵弾閃光弾だ。

よし、この隙に・・・

身を隠してそこから強襲と考えた瞬間横からの殺気に俺はとっさに相手とは逆の方に思いっきり飛んだ瞬間ガードした腕からすさまじい衝撃を受けてブッ飛ばされた。

数10メートルは飛ばされたかかなり飛んだ気もするが地面に激突しごろごろ転がり一瞬、意識が飛んだ。

1秒もなかっただろうがうつぶせで倒れていたので顔を上げるとヒルダがズシンズシンとゆっくりこちらに歩いてくる所だ。

 

「くっそ・・・」

 

気付かれたのか目をつぶったのか閃光弾は失敗だったか・・・

体中が痛いが致命傷は貰ってないしまだ、戦える。

左手がちょっと痛いが折れてはないはずだ。

 

「小細工は無駄よ!ゴキブリ!さっさと死になさい」

 

ズシンズシンと歩いてくるヒルダ。

破ろうとしたもんを出すのはおかしな話だが武偵は諦めるな。決して諦めるな・・・

心にそれを刻みながら刀を抜く。

さっきのヒルダは怒りで雷を付属させていなかったようだが次はない。

 

「串刺し?それとも、ぐちゃぐちゃに潰そうかしら?」

 

ヒルダの手にはパイプが1つ。

それには、電気が流れているのだろう。

刀で打ちあえば感電は免れない。

完全じゃねえがあれとやりあうには今ここであれを完成させる

 

「ホホホ!ほらよけないと感電するわよ」

 

電撃を纏った鉄パイプを上段からヒルダが振るってくる。

俺はそれを刀で擦りつけるように斜めに激突させ火花が散りながらもヒルダの懐に飛び込むことに成功する。

感電しないことにヒルダは驚愕しただろう。

だが、零距離とったぞ!今この時こそ最高にして最後のチャンス!

 

右胸下、下腹部を2刀で切りつけさらに腰の2つのワイヤーで右腿、左腿の魔臓の位置を知らせる模様を同時に貫いた。

その時のヒルダの顔は一言で言えば驚愕。

ありえないものを見たその表情。

貫いた武器を引き抜き俺は背後に後退した。

ヒルダはよろよろと歩いている。

これで傷の回復は無くなったわけだ。

 

「飛龍3式『刀気』」

 

ヒルダの電撃を防いだ名を俺はヒルダに聞こえるように言った。

ステルスに対抗するためその昔、雪羽さんが姉さんに教えられ生み出されたステルスの打ち合える刀を作り出せる技だ。

刀身に気のバリアを張り、ステルスの攻撃を通さないようにする。

今、俺に出来るのはこれだけだが姉さんの技の数々もこの技の応用技だ。

荒木も気を使い攻撃してきていたわけだ。

気は遺伝も関係しているらしく誰でも使えるわけではないようだが雪羽さんはこれを応用した技を数々編み出したがその技に流派はつけていない。

1代限りの自分だけの技とするためあえて言うなら『無流』。

だから俺が使うなら椎名の剣術飛流として使って欲しいと雪羽さんは言っていた。

 

「お前の負けだヒルダ」

 

後は動けなくして土方さんに突き出してやる。

気を刀に纏ったまま1歩前に踏み出すがヒルダがにやりと牙を見せて笑ったのが見えた瞬間、俺とヒルダの前に巨大な蒼い炎の壁が巻き起こった。

 

「っ!」

 

熱風から逃れるため後退するが蒼い炎・・・ローズマリーか!

 

「お久しぶりですの優希」

 

蒼い炎が消滅し炎の壁の向こうにいたのは銀の魔女ローズマリー・・・

赤い瞳を俺に向けてから天使のような微笑みを俺に向ける。

 

「俺は別に会いたくねえよ。姉を助けに来たのか?」

 

ローズマリーの後ろにヒルダはいない・・・

 

「絶望しなければ意味ありませんの。ですので今日の所はこれまでですの」

 

ローズマリーはポンと両手を叩くと周囲に人の気配が戻ってくる。

刀を抜いている俺を見て通行人がぎょっとした顔をして慌てて離れていく。

ローズマリーと対峙していることが分かったのか俺達の間だけ人がいなくなるが周りは人だらけだ。

 

「戦いますの?私は何人焼き殺しても構いませんわ」

 

にこりと微笑みながら恐ろしい事をローズマリーは言う。

こいつと戦えば死人が出る。

ここじゃ戦えない。

それにここでローズマリーと戦えるだけの体力は俺には残されていない。

武偵弾も使いつくした。

魔封弾はあるが未知数すぎる。

3式も・・・

だが、これだけは・・・

 

「理子はどこだ?」

 

「まあ、裏切った売女を気にしますの?優希を売ったのに」

 

「関係ねえんだよ!理子はどこだって聞いてるんだ!」

 

「嫉妬しますの」

 

ローズマリーは人差し指を唇の下に当てて少し頬を膨らませた。

その仕草だけでも見るものを虜にする美少女ぶりだ。

ここじゃ戦えない。

だが、理子は・・・

 

「だーめですの。教えませんわ」

 

ローズマリーはフフフと笑いながら言った。

その時

 

「おい!お前ら何してる!」

 

群衆をかき分けて警官が5人ほど走ってくるのが見えた。

ローズマリー小さくため息をついた。

 

「私邪魔される嫌いですの」

 

ローズマリーが警官に右手をかざした。

まずい!

 

蒼い火球が警官に向けて撃たれるのと俺が警官の間に入ったのはほぼ同時。

刀気で保護した刀で火球を切断する。

警官達は仰天した顔をしたが銃を抜くとローズマリーに向ける。

こんな群衆の中で撃つわけにはいかないから撃つことはしないはずだが・・・

 

「大人しくしろ!」

 

巡査長の階級章をつけた警官が怒鳴る。

 

「やめろ。あいつはRランクだ!あんたらが束になっても適う相手じゃねえよ!」

 

「あ、Rランクだと!?」

 

Rランクは小国の軍隊と互角の戦闘力の持ち主へのランク名だ。

ただの警官が何千いようとRランクにはかなわない。

 

「優しいんですのね。優希、そんな所も好きですの」

 

「俺は嫌いだよ」

 

「まあ、ご冗談を」

 

さて、どうするか・・・

 

ローズマリーはにこにこと微笑みながら警官なんかいないように俺の方を見ている。

こう着状態だ・・・無理に行動すれば死人がでる状況では場の支配権はローズマリーにある。

理子の居場所を強引に聞くこともこれではできないだろう。

 

「優希はどうすれば心の底から絶望してくれますの?」

 

そう言ってローズマリーは蝙蝠のような翼を背中から出した。

 

「ごきげんよう優希。また、来ますの」

 

ばっと空にローズマリーは浮かび上がりその姿は夜空の中に消えていった。

それを俺は攻撃することも追う事もできない。

くそったれめ・・・だが、あいつのことは後回しだ。

理子を探さないと

 

「君は武偵だろ?少し話を聞かせてもらっても構わないか?」

 

巡査長が話しかけてくる。

悪いがのんびり話をしてる時間はない。

理子を探さないと

 

「すみません。武偵活動中なので時間がありません。俺は椎名優希です。公安0の土方歳三さんに問い合わせてもらえば俺の身元ははっきりするはずなので話は後日にしてもらいます」

 

「公安0・・・殺しのライセンスを持つ連中か・・・君は一体」

 

「失礼します」

 

警官から背を向けて群衆をかき分けて走り出す。

スマホを取り出しこういう時に頼りになるのは神戸時代の友達のハッカー千鶴だな。

あいつに、ハッキングしてもらって理子の場所を・・・

そこまで思った時急に視界がぐにゃりと歪む。

 

「う・・・」

 

頭を押さえながら壁にもたれかかる。

やばいな・・・3式の刀気は完全じゃない。

使えば緋刀に近いぐらいの疲労感がある。

だが、倒れてられねえんだよ・・・

1歩踏み出すが体はそれに反し右ひざをつき地面が迫ってくる。

こんなとこで・・・倒れてる場合じゃねえのに・・・

理子を・・・助けないと・・・

 

「・・・・」

 

誰かに抱きかかえられるような感触を最後に俺の意識はそこで途切れた。

 




ヒルダもそうですがステルス使いって優には最悪の相手なんですよね。
優自身刀が使えないから銃やワイヤー技術を磨き更に、刀も使えるようになったことで遠距離以外は対応できますがステルスは苦手です。
それを埋めてた紫電はアズマリアに取られましたしじゃあどうすんのと言えば新しい戦技開発です!
雪羽に弟子入りしたのはこれを教えてもらうためでそれが飛龍3式刀気です。
アズマリアやローズマリーに対抗しないといけないので一段強くなってもらいヒルダ第二形態と一人で戦えるぐらいにはなりました。
まあ、原作知る人はヒルダがどうなってるか分かるはずです。

さて、理子の裏切り、それを助けようとして気絶した主人公。
ヒルダとの決着は物語の中の次の日に決着します!
今回もあれぇ!原作にない展開だぞ!を目指していきます!
当たり前ですが…
そしてオリジナル章に突入だぁ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第229弾 優希VSリゼ―最悪の未来

サイド??

 

なんであなたは・・・戦うの?

答える必要がないとヒルダに言ってその強さに屈した私はあなたをここに連れてきたのに・・・

たった一人でヒルダに立ち向かい私がどこにいるか何度もヒルダに問う・・・

なんであなたは私を怨まないの?

 

「ねえ、優希・・・」

 

アリアと敵対した時に用意しておいた隠れ家の一つの1室で私は目の前で眠る男の名前を呼んだ。

ぼろぼろになりそれでも私を探そうと倒れてしまった私の・・・

 

「理子はどうしたらいいのかな?」

 

彼の手を握ると自然に目に涙が浮かぶ。

彼は・・・椎名優希は理子を救おうと目が覚めたら行動を開始するだろう。

命をかけてヒルダに挑みそして・・・

 

「無理だよ・・・ヒルダには勝てない・・・」

 

水月希・・・優希の姉ならヒルダを倒すことはできるだろう。

だが、彼女は師団ではなく今回の件では助けには回ってくれない。

 

「助けて・・・」

 

少女の涙は頬を伝い少年の手にぽたりと落ちた。

 

 

 

                †

                †

                †

 

目が覚めると白い天井というパターンは何度かあったが灰色の天井と言うのも珍しいパターンだな・・・

上半身をベッドから起こし周りを見てみるが見覚えのない部屋だった。

 

「理子?」

 

かすかに残っているバニラのような甘い香り。

どこにいるかは分からないがいたのだ。ここに理子が

 

「っ」

 

ふらふらしながら部屋を探すが誰もいない。

机の上に銃や件が置いてあったのでそれを持ち上げるとひらりと紙が1枚床に落ちた。

それを手に取り目を通した瞬間俺はその紙を握りつぶしポケットに入れると外に飛び出す。

スマホを見るとあれから16時間たっている。

外は間もなく暗くなると言った時間帯。

ヒルダと戦ったのは夜中だったからな・・・

すぐに理子の携帯に電話をかけるが繋がらない。

くそ!

千鶴に頼もうにも情報が少なすぎる。

片っぱしから監視カメラを当たってもらうのは時間がかかりすぎるし・・・

理子が残していった紙にはこう書かれていた。

 

『ごめんね。さようなら』

 

ふざけるなよ理子!何がごめんねだ!さようならだ!こんな結果、俺は認めねえぞ!

土方さんに電話しようとした時、誰からか電話がかかってきた。

こんな時に・・・エルか・・・

 

エル・ワトソンからの電話に出るとすぐにエルが話しかけてきた。

 

「優希か?今どこにいる?」

 

「ここは・・・」

 

そうだ。エルがいるじゃないかヒルダもエルのことを嫌がってたし。

近くにあった看板から場所をエルに伝えてから

 

「理子がヒルダの所に行っちまった。今から捜すがエルも協力してくれないか?」

 

「そうか。それなら丁度よかったかもしれないね」

 

「どう言う意味だ?」

 

「リバティーメイソンが卷族に入るかどうかという話はしただろう?今夜、それについてヒルダと会う約束があるんだ」

 

ヒルダと?理子はヒルダと一緒にいる可能性が高い。

魔臓は破壊したがあのヒルダの笑み・・・安心はできない。

 

「それに俺を同行させてくれ」

 

「同行してどうする?」

 

「ヒルダを倒す!最低でも理子を連れて逃げる。エルも協力してくれ」

 

「それは・・・師団を選ぶという意味ととっていいのか?」

 

「理子を取り戻すってことはあいつらと敵対しないといけねえからな。悪いが俺は卷族には行けない」

 

「そうか・・・」

 

「エル、リバティーメイソン・・・お前は俺の味方でいいんだな?」

 

友達からの返答・・・もし、エルが敵に回るなら今の話も・・・

 

「僕と優希は友達だよ。それは変わらない。今夜ヒルダの場所に君を案内しよう」

 

「すまんエル」

 

「いいさ。だけど1つだけ条件がある」

 

「条件?」

 

「今夜ヒルダと会う前にアリアと夕食を約束しててね。そこに君も同行してほしいんだ」

 

「アリアと?なんでだ?」

 

「アリアと僕の婚約の話は知ってるだろう?それについてアリアと話したかったんだけどやっと、アリアと話をする場所を設けられたんだ。君もその場にいてアリアを説得するのを手伝って欲しい」

 

「それがヒルダの場所を教える条件ってわけか?」

 

「アリアの説得には苦労してるんだ。協力してくれると助ける」

 

「エルそれは・・・」

 

アリアとエルの婚約は個人的には反対だ。

だが、エルに直接反対だと言うのも気が引ける・・・

特に今はな

 

「分かったよ。じゃあ、こうしよう。優希はいてくれるだけでいい。ヒルダと戦う前に食事して万全の状態で会いに行こうじゃないか」

 

「それでいいのか?」

 

「ああ、だけどアリアにヒルダと会う事は言わないで欲しい。峰、理子の状況もね。僕らだけでなんとかしよう。リゼも同行するだろうけど彼女も強い。ヒルダと戦う時には戦力になるよ。それと、外部の協力者も今回は遠慮してもらいたい。ヒルダを刺激したくないからね。彼女と戦うなら仕込みもしておきたい」

 

「分かった。アリア達を巻き込む必要はないからな」

 

公安0や実家に助けを求めるなってことか・・・

アリアはヒルダに殻金をばらばらにされている。再び同じことをされないとは限らないからな。

 

「場所はメールで送るよ。1時間後を予定している」

 

「待て、エル。俺はヒルダと1回戦って消耗してるんだ。装備品の補充がしたい」

 

「それについては心配ないよ。武偵弾や銀弾はこちらで手配しておく。ヒルダと戦う前には君に手渡せる手はずは整えておく」

 

用意がいいな。流石はエルだ。

 

「悪いなエル。今度何かお礼させてくれ」

 

「・・・考えとくよ。じゃあ後で」

 

エルとの電話を終えて届いたメールに添付されてきた場所を確認してから場所はここから30分と言った所・・・

学園島に戻る時間はないがここからなら理子とデートした場所からも遠くないから隼を取ってから約束の場所に向かうことはできそうだ。

待ってろよ理子!今助けに言ってやるからなヒルダを今度こそ倒してな!

ローズマリーもいる可能性があるが同じことだ。

あいつも倒して因縁にも終止符を打ってやる!

 

               †

               †

               †

1時間後、エルに指定されたホテルの最上階の高級レストランに向かうためエレベーターに向かう途中

 

「優?」

 

振り向くとアリアだった。

なぜここにいるのと不思議そうな顔だ。

 

「よう、アリア。お前も最上階だろ?」

 

「あんたがここにいるってことはワトソンに呼ばれたのね?」

 

「同席を頼まれただけだ。何の話をするか俺は知らないしな。それに食事の後ちょっと、エルと用事があるんだよ」

 

「用事?1度聞いておきたかったんだけど優とワトソンはどんな関係何かしら?」

 

「言わなかったか? 昔、姉さんに連れられていろいろなとこ行った中にエルと一緒にいた時期があるんだよ。その時、友達になった」

 

「あのリゼって子もそうなの?」

 

「いや、あいつは最近会ったばかりだ」

 

いきなりキスしてきたりしてきたがどうにもあいつは俺のことを嫌ってる。

エルの前では言い子にしているようだが何か別の目的があるのか意味不明な子なんだよな・・・

俺達はエレベーターに乗り込みながら行き先のボタンを押してから

 

「その包帯どうしたの?」

 

アリアの言葉にぎくっとしたがまさか、ヒルダと戦った傷とは言えないので

 

「あ、ああ雪羽さんに最近、稽古つけてもらっててな。新技の稽古中の怪我だ」

 

「雪羽って鈴・雪土月花の雪の?」

 

「ああ、ついでに土方さんの奥さん」

 

「そうなの?」

 

ああ、アリア知らなかったか

 

「そうだよ。ついでに雪羽さんは信冬の姉さん」

 

「え?そうなの?信冬って研修先で一緒だったあんたの婚約者でしょ?」

 

「いや、婚約者っても前に言った気がするが実家が勝手に決めただけで・・・」

 

「あたしとワトソンもそんな感じよ。お互い大変ね」

 

「だよなぁ・・・」

 

思わぬ所に婚約者に悩まされるという共通点がアリアと俺にはあったらしい

 

「あんたの場合はレキともでしょ?」

 

「あれは姉さんのせいなんだけど・・・」

 

あれも厄介な話なんだよな・・・下手に断ったらウルスのお姉さん達が狙撃銃片手に襲いかかってきそうで・・・

にしても、エルと話をするからだろうか?アリアの調子が少しおかしい気がする。

これがキンジなら風穴と襲いかかるのだろうか?

襲われたいわけじゃないんだが・・・

 

「・・・」

 

「何よ?」

 

「いや」

 

思わずアリアの顔を見てしまったが・・・

諦めようとは思うんだけど諦めきれないって気持ちがあるのは事実なんだよなぁ・・・

キンジがはっきりしないのが悪い!

というかアリアはキンジに何か言わないのか?

 

「キンジとはまだ喧嘩してんのか?」

 

「き、キンジ? な、なんでよ」

 

この様子だと仲直りしてないようだ・・・まあ、エルとの件もあるから当然といえば当然か

 

「いや、なあアリア・・・」

 

エルとの婚約は当然断るのかと聞いてキンジの事も聞いてやろうと思ったんだがポーンと最上階についた音

 

「つ、ついたわね」

 

扉が開きその先が直接レストランになっている。

聞きそびれてしまったがアリアについて歩いていくとそこにいたのはエルが窓際の席に座っていた。

すごいな。個室になってるのか

いくらするか恐ろしい話だがここはエルが金を持ってくれるからこれたが普通なら一世一代の結婚しようとかそんな勝負どころ意外には使えない場所だな

 

「やあ、優希、アリア」

 

「こんばんは。ワトソン」

 

「よう来たぜ」

 

俺とアリアが着席し料理が運ばれてくる。

コース料理だがこの後ヒルダと会うんだ飯ちゃんと食べとこう。

 

「ワトソン、なんで優がいるの?私は聞いてなかったわ」

 

「僕が呼んだんだ。君のチームメイトだし僕の親友だ。それに日本の名家の出身で今回の極東戦役にも無関係じゃない。君との婚約も極東戦役に多少なりとも影響があると判断したから同席してもらうことにしたんだ」

 

「まあ、いいわ。優がいることに関しては」

 

アリアが俺の方をちらちと見てくる。

少しは期待してくれてるのかな?今回の状況の打開することに

 

「それで?昨日の電話の続きだけどメヌはなんて言ってたの?」

 

「ロンドンに戻った時、メヌエットさんはお姉さまをよろしくって言ってたよ」

 

「あの子ったら妹のくせに上から目線なんだから」

 

アリアが呆れたように言うのを飯を食いながら聞くがふーん、アリア妹いるのか・・・

メヌエット・・・メヌエット・・・んん・・・記憶にない名前だな・・・今回は知り合いってわけじゃないようだな。

過去の記憶が姉さんのステルスの影響で欠落してるから完全に知り合いじゃないとは言えんが・・・

 

「後、トランプの罰ゲームは継続中だって」

 

「相変わらずね。やらしいわ。ひねくれてるわ」

 

ふーん、そのメヌエットって子相当厄介そうな子だなアリアの反応見る限り・・・

高慢ちきなお嬢様タイプとかかな?

小さい肉を口に放り込みながらアリア達の会話を聞いているが口を挟む必要も見当たらないな今のとこ

 

「アリアがイギリスに帰ってこないのはどうしてだ?僕は明日にでも挙式を・・・」

 

おい・・・思わず手が止まっちまったが・・・

 

「あたしにはそういうのを考えるのはまだ早いわ」

 

「なぜ渋る?他に婚約者でもいるのか?」

 

「・・・」

 

アリアが黙ってしまった。

口を挟むべきか・・・

 

「どうした他に婚約でもしたのかアリア?」

 

「・・・」

 

助けを求めてくるようにアリアが俺を見てくる。

どういやいいんだよ・・・まさか、俺がアリアと婚約しましたなんて言ってもエルは100%信じないから無意味だし・・・

あ、そうだフフフ、ちょっとだけ

 

「そりゃ、無理ってもんだ。エル」

 

「優希? どういうことだ?」

 

アリアを見ていたエルがいきなり口を開いた俺に驚いた様子で視線を向けてくる。

 

「アリアには好きな奴がいるもんな」

 

「なっ」

 

アリアがぎょっとしたような顔で俺を見てくる。

 

「トオヤマか・・・」

 

「ち、ちちち違うわよ!キンジなんて好きじゃない!そんなわけないじゃない」

 

アリア・・・そればればれだって・・・

けしかけたのは俺だが・・・

 

「彼は君にはふさわしくないと言ったはずだけど?」

 

「だ、だから・・・」

 

いてえ!ズドンとアリアの足が俺の足を踏んできたぞ!

いたたぐりぐりするな!

分かったから!

 

「あのなエル。アリアとの婚約なんだけど考え直せ。お互いいいこともないぞ」

 

お前女だしとは言えないがアリアのぐりぐりが弱まったぞ。面白くないし反対してアリアの機嫌をとっておこう。

 

「そんなことはない。僕とアリアが一緒になればロンドン武偵局の切り込み隊長なんかじゃなくリバティーメイソンの幹部として迎えられる。それに、ワトソン家は日本の政界法曹界にも顔が効く。君の母親の裁判にも影響を与えられるんだよ」

 

「それはどうかな? 俺自身その件に圧力かけてもらうように椎名の実家に頼んでるが状況はよくない」

 

「優希。君は分かってない確かに、椎名の家は名家だが武家だ。武力の面には顔が効くが政界に強い影響力はないだろ?僕はイギリスという外国からの圧力も加えることができるんだ。どちらが裁判に影響を与えられるかわかるだろう?」

 

「それは・・・」

 

椎名の家は確かに裏社会に大きな影響を持っているが確かに法の世界にかんしては弱い部分はある。

自衛隊に道路を封鎖してもらうなどは出来るが直接自衛隊を動かすなどと言ったことはできない・・・

それに、もう一つの知り合いの公安0だってどちらかと言えば武力の世界なわけで法の世界に影響を与えるのは難しい。

 

「アリア、僕と一緒になれば優希以上のことが僕には出来る。だから、とりあえず書類の上だけでもいいんだ」

 

「・・・少し考えさせて」

 

アリアの足が俺の足から力なく離れた。

何もいえない俺も情けねえ・・・

エルと俺の目が合うがエルはそうだろう?と目が言ってる。

くそ・・・

それから、俺達は考えながらお互いに会話も少なく食事をする。

確かに、俺はアリアの母さんも裁判に影響を与えることはできなかったさ・・・

だけど、やれることはまだあるんだ。

アリアの証拠集めを手伝い卷族の連中を捕まえまくる。

それで最高裁までなんとか・・・

だが、それでいいのか?いや、間に合う可能性も低い。

それに、かなえさんの裁判は何か裏の事情も存在している可能性だってある。

それに協力できるのはエルの方がいいんじゃいのか?

ああ、くそ!考えてばかりでなんか眠く・・・ん?

目の前が少しぐらつくほど眠い。

待て、16時間眠ってたんだぞ・・・

眠いわけ・・・

こつんと肩に何かが当たる。

見るとアリアが目を閉じてもたれかかってきている。

気絶・・・いや、寝てる?さっきまで起きてたのに・・・

こいつは

 

「くっ!」

 

無理矢理立ち上がりアリアが崩れないように抑える。

ぐらりと視界が歪むが無理矢理意識を繋ぎ止めるように意識する。

そうしないと意識がなくなりそうだ。

 

「え、エルお前」

 

食事に睡眠剤か何か入れたのか?じゃないとアリアと俺の状況に説明がつかない。

 

「ごめん優希。全てが終わるまで眠っていてくれ」

 

がくりと右ひざが落ちる。

かなり強力な睡眠剤か・・・

ここで意識を失えばどうなるか・・・

嫌な予感しかしねえよな・・・

 

「ぐっ!」

 

腕から射出用のワイヤー先端の刃を左膝に突き刺す。

激痛が走るが意識が覚醒する。

アリアを抱えて立ち上がるとエルを睨みつける。

 

「どういうことか説明しろエル!」

 

「今は説明できない」

 

その言葉と同時に横から殺気を感じアリアを後ろに回した瞬間飛び込んできた人影に体当たりされ俺は後方に吹っ飛ばされる。

しまったアリア!

 

思わず手を離してしまったアリアから離れレストランの床を転がり立ち上がりつつ刀を抜いた。

 

「優希の相手は頼むよリゼ」

 

「分かりました」

 

「待て!」

 

エルがアリアを抱えてエレベーターの方に歩いていく。

追おうにも俺の前にはメイド服姿のリゼ。

その両手には俺の日本刀の刃の半分ほどの小太刀が逆手と普通に持たれている。

 

「どけ!」

 

「どきません」

 

すぐに飛びこまなかったのは薬で反応が鈍っているのもあるがリゼの構えから並みの相手じゃないということを直感が警告してきたからだ。

 

「優希」

 

リゼの背後でエルがアリアを抱きかかえて立ち上がった。

 

「全てが終わってからと思ってたけど選択肢を上げるよ」

 

「選択肢?」

 

「卷族にこい、優希。それがアリアと君のためにもなる」

 

「断る!アリアをこっちに渡せエル!さもないと」

 

「さもないと?なんだい?」

 

エルが俺の方を見てふっと笑う。

 

「ブッ飛ばしてアリアを取り戻してやる!」

 

右に飛んでから椅子を掴んでリゼに投げつける。

リゼはそれを左手の小太刀を上段に振り上げ両断した。

なんて切れ味の小太刀なんだよ!

 

リゼが一瞬屈んで床を蹴り接近してくる。

その動きはまるで獲物を狙うチーターのような動きだ。

ヒュンヒュント風を切りリゼが両刀で切りかかってくる。

俺はそれ片方の日本刀で受けながら右腰左腰のワイヤーを射出するがリゼはそれを読んでいたのか最小限の動きで交わす。

巻きもどしながらもう1本日本刀を抜いて2刀でリゼの剣を迎撃するが腕に軽くリゼの刀がかすめた。

ぱっと血が飛ぶが浅い!

だが、速度はリゼの方が上だ。

思いっきり背後に向かって飛ぶと同時に両方の日本刀を背後に向かい放りあげると同時にガバメントを引き抜き右でリゼを直接狙い。左は跳弾射撃。

リゼはそれを小太刀で弾きあるいは避けるが体制が僅かながらに崩れる。

 

撃ち尽くした銃をホルスターにしまって落ちてきた日本刀を受け止めると今度はぐっと地面を踏んでリゼに突撃する。

 

「飛龍2式双突!」

 

槍を突き出すように右腰に構え思いっきり突き出す2段の突きだ。

リゼは舌打ちし近くのテーブルを蹴りあげ俺に飛ばしてくるが左の突きの刀でテーブルを破砕し右の突きがリゼに迫る。

避けられないと判断したかリゼは懐から何かを取り出すと俺に向かい投げつけてきた。

破壊すると思った矢先再び直感から攻撃をやめて左に転がる。

ガシャンと言う音にの方を見ると瓶の中からの液体が床のカーペットを溶かしている。

硫酸か?

 

「・・・」

 

リゼが黙って小太刀を構えたので俺も再び

攻めのパターンを考えるが今の攻防で分かった事がある。

おそらくリゼの戦闘スタイルは俺や姉さんのように正面から戦うタイプではない。

様々な武器を使い相手の体力を削る暗殺者タイプ・・・

 

「・・・」

 

無言でリゼが攻撃してくる。

小太刀の斬撃を猫が爪を振りまわすと言った表現が正しいのか分からんが攻撃してくる。

正面から切りつけるのではなくじわじわ傷をつけてくる剣技だ。

 

「ちっ!」

 

俺はそれを受けることのみに専念。つまり防御しつつ攻撃の隙を探る。

同じ2刀でもこの距離では長い日本刀の方が少し不利だ。

徐々に後退させられているのを感じながらワイヤーで攻撃すると決めた瞬間リゼがブンと右足で横殴りに蹴りつけてくる。

当たらねえよ!

 

「・・・」

 

突如シャットリゼのブーツから刃が飛び出した。

隠し武器!暗器ってやつか!

リーチを読み違え服に軽くかする。

防刀しようじゃなきゃ貫かれてたか!

リゼはぐるんと蹴りの回転力を使い再び右の回転蹴りを繰り出してくるがそれは、悪手だぜリゼ!

動きを読んで当たらない位置に体を持っていきリゼの蹴りが来た瞬間反撃するつもりだったが蹴りが来た瞬間、リゼのブーツの仕込み刃が急に俺に向かい射出された。

 

「くっ!」

 

目に向かい飛んできたそれを寸前で交わすが頭の包帯が切り裂かれぱらりと地面に落ちる。

軽く頭が切れたらしく血がどろりと流れるのを感じた。

今の鈴さん村上への攻撃見てなかったら目に直撃してて詰んでたな・・・

同じ暗殺者タイプの戦闘スタイルの鈴さんいてよかった・・・

だが、安心している暇はない。

リゼは再び回転して蹴りを放とうとしていたからだ。3連回転蹴りかよ!

付き合えるか!

背後に向かい飛ぶがダンと壁にぶち当たる。

しまっ!いつの間にか追い込まれてた!

リゼの蹴りが再び迫ってくる。

日本刀の柄で受け止めたが勢いを殺しきれずにまともに壁に挟まれてリゼの蹴りを腹に食らった。

 

「がは」

 

肺の空気が一気になくなる感覚と激痛が襲うが柄のおかげで致命傷じゃない

 

「くっ!」

 

逆の手で日本刀を横殴りに振るうとリゼは跳躍し距離を取って息を吐いた。

 

「・・・」

 

がくりと右膝をつきながら息を整えようとするがこいつはやばいぞ・・・

強いとは思ってたがリゼの強さは想像以上だ。

正面から打ち合う水みたいなタイプはある意味俺は慣れたもんだが鈴さんやレキやこいつみたいな暗殺者タイプの戦闘スタイルの相手は大嫌いなんだ・・・

 

「ワトソンは行ったようですね」

 

「突然会話でもする気になったのか?」

 

会話してくれるなら体制を立て直すチャンスだ。

ここは付き合うぞ

 

「あなたは勝てませんよ」

 

冷徹な相手を見下すようなその視線。

その手の趣味の奴なら泣いて喜びそうだな。

俺にその趣味はないが

 

「似たようなこと言ってきた奴は何人もいたぞ?だが、最終的には俺が勝った」

 

「あなたが私に勝てると?」

 

「勝つさ。アリアを取り戻さないといけないし理子だって助けなきゃねらねえ」

 

「分かりませんね」

 

「あ?」

 

「それであなたは何を得るのですか?何の見返りがあるんです?ここで私に屈服し敗北を認め卷族に入ると言うのであれば私はあなたを殺しません。それがワトソンの意思ですから」

 

「言ったろ。降伏はしねえ。得るものうんぬんはどうでもいい。俺は俺の信念に従って2人を助ける」

 

「なるほど、よくわかりました。つまり、馬鹿と言うわけですね」

 

「はっ、かもな」

 

我ながら馬鹿かもなと思う。

もっと楽していける人生だって俺は送ろうと思えば送れるはずなんだ。

マガジンの1つを意識しながらデザートイーグルを抜いた。

使うか魔封弾。

リスクは高いが意表をついてリゼに勝つ。

時間をかけずにダメージをこいつを無力化するにはそれ以外方法はなさそうだ。

削り合いでは連戦に対応できなくなる可能性がある。

つまり、普通に戦えば無傷でリゼに勝つには不可能。

次にエル、続いてヒルダ。

考えてみりゃ今までの中で最悪の戦いじゃないかこれ?

S、S、Sと続けて3人のSランクとそれ級の敵と激突とかどんな罰ゲームなんだよ。

しかも1人で・・・

だがやるしかねえよな。

マガジンを掴もうとした瞬間がくりと膝が落ちたのを感じた。

そして、そのまま床が目の前に・・・

 

「う・・・」

 

軽い衝撃と共に地面に倒れたのだと分かった。

体中から力が抜けていくような感覚・・・

 

「やっと回りましたか。意外に時間がかかりましたね」

 

すぐ上からリゼの声が聞こえる。

なんとか首だけは動いたので彼女を見ると目の前で俺を見下すリゼ

 

「毒・・・か」

 

「ええ、神経系に作用する麻痺毒です。心配しなくてもいいですよ1週間ぐらいで動けるようになるはずです」

 

リゼはそういうと用は済んだとばかりに背を向ける。

 

「まち・・・やが・・・れ」

 

意識が遠くなりそうだがまだ、意識を失うわけには・・・

リゼは振り返らないまま

 

「次に目覚めた時、何人死んでるんでしょうね?」

 

ざけんな・・・ふざけるな・・・

待てよ・・・

リゼがエレベーターに消えて行くのを俺は見ているだけしかできなかった。

意識を保つのも精いっぱいで動くこともままならない。

リゼが言う言葉通りなら行動不能にする毒・・・何度も切りつけられたから刃に毒が塗ってあったんだ・・・

ここで意識を失ったら目が覚めるのは全てが終わった後になるのか・・・冗談じゃねえ・・・

冗談じゃない!くそ・・・くそ!くそ!

右手に思いっきり力を込めようとするがまるで手は動かない。

 

「理子・・・アリア・・・」

 

2人の名前を呼び俺の意識はそこで闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

                †

                †

                †

 

そして、次に目が覚めた時見えたのは白い天井。

横にいたのは土方さん。

彼から聞いたのは・・・

アリア、理子の死。助けに向かったキンジはリゼ、エルを退ける者の連戦で消耗した彼もまたヒルダにより死亡。

最悪の結末・・・あの時、目覚めさえしていれば・・・

悪夢であるなら覚めてくれ・・・

悪夢であるなら・・・

 

『これが現状のままなら辿る未来。それを覆したければ動け優希』

 

 




書いててリゼ優希の相手にして強すぎと思ってしまった。
ある意味ヒルダより最悪な相手な気もします。

最後に優が聞いた話は優が、あのまま気絶したまま原作ヒルダ戦が行われた未来です。
原作でもワトソン相手にギリギリ勝ったキンジですが連戦ではヒルダに勝てないと思います。
リゼにキンジは勝つでしょう。
なにせキンジは薬が効きにくい体質みたいですしね。
優は最悪な未来ではなく新しい未来を掴めるのか!
掴めなかったら失われた未来ですね(笑)それは今期アニメですけど。


次回は久々に隼の追撃戦やりますよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第230弾 追撃戦3!

サイドワトソン

 

小さく震えた携帯電話のボタンを押すと耳のイヤホンから聞きなれた声が聞こえてくる。

 

「ワトソン、椎名優希を無力化しました」

 

無力化・・・その言葉を聞いて僕が思うのは罪悪感だ。

どんな理由があるにせよ友達を裏切ってしまった。

彼は僕を許さないだろう・・・

運転席の隣で薬で眠りについているアリア・・・

大丈夫だ・・・僕のやっていることは正しい、結果的に優希もアリアも救う事に繋がるのだから・・・

 

「了解だよリゼ。彼はどうした?拘束したのか?」

 

「近くから公安警察の気配が感じられましたのでそのまま現場に倒したままですか数日は目覚めることもないでしょう。目覚めたとしても動けません」

 

公安警察・・・公安0課か・・・

中立の立場の上圧力もかかってるため、相当なことがない限り、動くことはないだろうが油断していい相手ではない。

優希は個人的にも公安0に知り合いが多い。

日本と言う国の中では本人が思ってる以上に手厚い支援体制が確立されているの。

今回は公安0の土方歳三には要注意だ。

彼自身の力も侮りがたいが彼の周りのチーム鈴・雪土月花は正面から戦えば確実にこちらが敗北する実力を持っているのだ。

そして、土方歳三達は極東戦役の師団よりだ。

立場上、簡単には動けないとは思うが・・・

 

「リゼ、後どれぐらいで合流できる?こっちは、予定通り彼女達と合流予定だ」

 

「もう、ワトソンの車が見えてます」

 

「そうか」

 

ブオンとわざとエンジン音を聞かせてきたリゼのバイクがポルシェの背後についた。

深紅のカワサキのニンジャ。リバティーメイソンが用意した改造バイクだ。

それを、バックミラーで確認しながら。

 

「リゼ・・・気付いているな?」

 

「ええ、ワトソン」

 

電話越しの声は淡々としたものだが、目的地に向かう途中の首都高。

まだ、夜も浅いこの時間に車の数が明らかに少なすぎる。

何者かがこの、首都高への車の通行を制限をかけているのだと考える。

こんな事が出来るのは公安0か裏社会の2家・・・

 

「武田か?椎名か?公安0はないな・・・」

 

武田と考えるならかなり厄介だ。

武田信冬は高位のステルス使い。

確実に足止めは食らう。

もし、椎名であるなら・・・Rランク月詠は海外。

では、椎名鏡夜か?

ならば敵ではない。

 

「リゼ、武田の姫の場合。足止めは任せたよ」

 

「了解です。ワトソン。椎名の場合は軽くあしらっておきます」

 

さて、周囲には僅かな車だけか・・・どこで仕掛けてくる?

そう思った時、着信が1つ。

合流予定の彼女達からかとディスプレイを運転しつつ見ると心臓が飛び出そうになった。

なぜ・・・いや、誰かが彼の携帯を使ってるだけだ。

だが・・・

通話ボタンを押す。

 

「誰だ?」

 

「そりゃねえだろ。エル、友達からの着信なんだから誰だなんて言うなよ」

 

この声はやはり・・・

 

「優希か・・・」

 

「ああ」

 

 

                 †

                 †

                 †

サイド優希

 それは、少し前にさかのぼる。

このままでは、絶望の未来が俺の前に用意される。

その話を聞いた瞬間、覚醒した意識。

夢だったのか・・・そうでなかったのかは今はどうでもいい。

 

「う・・・」

 

力はあまり入らないがなんとか上半身だけ起こして時計を見るとリゼと戦ってから10分も立ってない。

あいつはいないようだな。

頭がぼんやりする・・・

体全体にも力が入りにくい・・・

リゼの毒は神経系のものだったのかもしれないが・・・

 

「くっ」

 

近くのテーブルに杖代わりに立ちあがるが暗闇のレストランで周りがよく見えない。

アリアをさらったエルを追わないと・・・

ふらふらとエレベーターに転がりこみ下のボタンを押しながら考えるが状況は最悪だ。

アリアをさらわれ俺はぼろぼろ。

こんな状態であいつらと戦わないといけないのか・・・

 

「・・・」

 

戦える体じゃないのは理解している。

リゼが言うには1週間は動けない毒とか言ってたが一応は動けてる。

俺は薬が効きにくいなんて体質じゃないはずだが・・・

心当たりはアリアの血・・・緋刀の力が毒を緩和させたのかもしれない。

夢の中のあの声もスサノオだったのかもしれないし。

 

「スサノオ」

 

試しに呼んでみるが返事はない。

あいつは緋刀を発動させた時や血が強く反応する場合しか返事をしない、

それよりも、アリアがどこに連れ去られたか調べないと・・・

携帯を取り出すと着信・・・ん?ジャンヌか

 

「ジャンヌか?悪いんだが今・・・」

 

「アリアがさらわれたのは理解している。だから、簡潔に言うぞ椎名」

 

冷静だが静かな声が携帯から聞こえてくる。

状況は俺が寝ている間に動いているらしい。

 

「分かった聞かせてくれ」

 

ジャンヌに聞いた話はまとめるとこうだ。

俺やエルの会話はインフォルマの中知空が盗聴していたらしい。

エルの車から行き先もカーナビの音声音から特定済み。

リゼも後を追い更に、アリアがさらわれたことを知ったキンジも後を追ったらしい。

エル達の目的地はスカイツリ―がある場所だ。

隼の場所まで降りてエンジンをかける。

スカイツリ―にはおそらくヒルダがいるだろう。

それまでに追いついてアリアを奪還しなければならない。

そうしなければこちらが圧倒的に不利だ。

出来ればキンジと合流して連携したいが携帯が繋がらないし。

合流する時間もなさそうだ。

轟音を立てて隼が発進する。

道路に出て見るが明らかに何かがおかしかった。

車が1台もいない?

いや、正確には俺の進路上の道路に車や歩行者がいないのだ。

今回は実家に何も言っていない。

だが、これには見覚えがある。

人払いの結界が進路上にまんべんなく張り巡らされているのだ。

ここまで大規模に出来るのはおそらく・・・

 

「公安0か」

 

思わずににやけてしまうな。

表向き公安0は俺の味方はしてくれない立場だが間接的に支援してくれるらしい。

問い詰められても白を切るだろうが・・・

リバティーメイソンとことを構えたらイギリスと国際問題にもなりかねないのにぎりぎりの支援だな。

信号待ちなどをしたはずのエルやリゼの後を100キロ以上の速度で追い首都高に入る。

予想だがこの進路からエル達はスカイツリ―に向かうはずだ。

体調は悪いがやるしかない。

首都高はこの時間でも車が多いはずだが交通量が少ない気がする。

検問や規制などである程度のコントロールは出来るからこれも土方さん達か・・・

隼でバイクの特性を生かして普通なら確実に免停の速度で追いぬいていく。

このまま追いついて勝機はあるか・・・

何より気をつけるのはリゼの毒だ。

次にあれで無効化させられて効き目が薄いと分かれば拘束されるか最悪殺されるだろう。

有効な手段はくらわないことぐらいだが今の体調では・・・

出来ればヒルダと戦うまでは取っておきたいがあれを使うしかないか・・・

このまま追いつくのもいいが・・・

運転しながらエルへ電話する。

ヘルメットの中のインカムとヘッドフォンから接続音がし

 

「誰だ?」

 

エルの声

 

「そりゃねえだろ。エル、友達からの着信なんだから誰だなんて言うなよ」

 

「優希か・・・」

 

「ああ」

 

前のトラックを追い抜くと遥か前方にエルのポルシェと並走するバイク。

見つけたぞ!

 

一気に加速させようとするがバイク・・・おそらくリゼが下がってきて俺の横に付いた。

ヘルメット越しにバイクの主はリゼに間違いない。

互いに運転中だが殺気を感じさせる。

これ以上速度を上げたら攻撃されぞ。

 

「それ以上速度を出すな優希。出せばリゼが君を攻撃する」

 

「このまま目的地までドライヴか?それでもいいぜ俺は。ただし、アリアを返したらの話だがな」

 

「・・・ふぅ」

 

ため息をつく声が耳に聞こえる。

呆れたよって声だな。

 

「リゼは君を無効化したって言ってたんだけどね。動けるとは驚いたよ」

 

「詰めが甘いんじゃないか?俺はしぶといぜ」

 

「知ってるよ。だから、保険にリバティーメイソンの中でも最強クラスのカードを切ったんだ」

 

それがリゼか・・・

実際、俺はこいつに敗北してるからな。

横についているリゼと視線の火花を散らしつつ状況を把握する。

援軍はない。

このまま並走してスカイツリ―に到着したらヒルダいれたらと3対1と勝機は完全になくなる。

キンジも向かってるらしいがいつ、つくか分からんしここは仕掛けざる得ないだろう。

 

「アリアを返せエル!今ならまだ、冗談だったで許してやるぞ」

 

「僕は君が馬鹿だと知ってたよ。真っすぐで1度決めたことは信念として貫き通す・・・

そんな君を説得するのは無理だったのかな?」

 

一息を入れるエルのポルシェが加速する。

 

「さよなら優希」

 

それが高速戦の合図だ。

エルのポルシェが加速した瞬間俺は逆に速度をブレーキをかけて落とした瞬間、隣のリゼから撃たれた短機関銃が俺が一瞬前までいた場所を薙ぎ払う。

減速しリゼの背後を取ったがこれは一瞬の時間しかないチャンスだ。

片手でガバメントを握りリゼのニンジャのタイヤに向け3点バーストで発砲しようとした瞬間、リゼが急減速し左手からワイヤー突きの刃を飛ばしてくる。

それを俺はタイヤ攻撃を中断し迎撃に回す。

火花が散りながら刃を退けると再び加速しリゼと並走する。

前方に大型トラックが見え俺とリゼはそれを挟みこむように左右から抜きつつ互いの姿が見えない状況で攻撃の準備を整える。

トラックを抜いて互いに視認可能になった瞬間リゼは片手で再び短機関銃をばらまいてきた。

ちっ!こういう精密射撃が難しい場所じゃ短機関銃の方が有利だな。

戦いなれしてるぞリゼの野郎!

減速しトラックの影に隠れる。

運転手が悲鳴を上げてる気がするが頼むから真っすぐ走ってくれよ。

流石に一般人に死人は出したくないしな。

にしてもリゼの奴大型バイクを手足のように操りやがる・・・

リバティーメイソン最強クラスってのも嘘じゃねえか・・・

だが、この高速戦ならリゼ得意の薬も使用は難しいらしい。

エルと俺の距離は離れた。

切り札使わせてもらうぜ。

神戸の時にも使ったが改造隼の赤いボタンを押しこめば燃費と引き換えに爆発的な加速を得ることができる。

こいつでリゼを一気に引き離してエルを捕まえてやる!

トラックの背後に入り赤いボタンを押しこむ。

加速だ!

そう思った瞬間、ボンという音と共に隼が急減速する。

故障か!こんな時に!

リゼがトラックの対面から減速しヘルメットを脱いで何かを言った。

読唇術で何を言ったかを理解する。

 

「赤いボタンは自爆スイッチです。後20秒でその隼は爆発しますよ」

 

「!?」

 

細工されていたのか!俺が加速するボタンを押すのを見越して・・・

俺が追ってくる可能性をこいつは最初から考慮に入れていた。

 

「後3秒・・・」

 

リゼの言葉を読んだ瞬間俺はワイヤーを発射し隼から飛び降りた。

トラックの上部に降り立つと同時に倒れて行く隼が爆発し炎上する。

くそ!レザドはこれだから嫌いなんだ!罠ばかり仕掛けやがって。

リゼは微笑みを浮かべるとニンジャを加速させていく。

ガバメントで狙うがリゼはバイクを巧みに扱い射程外まで遠のいていった。

やられた・・・また、負けた・・・

後はスカイツリ―でヒルダを含めた絶望的な戦いをするしかないのか・・・

希望はもうないのか・・・

 

ブオンとトラックの横に1台のバイクが並走してきた。

リゼのじゃない・・・

ヘルメットをかぶってるが武偵高の制服?

バイザーが上げられその目と会った時、俺は再び笑みがこぼれた。

そいつは乗れというようにくいっと親指で背後を指した。

トラック上部から飛び降りバイクに飛び移る。

座りながら

 

「おいおいおい!いいタイミングすぎねえかキンジ!」

 

「もののついでだ。これを貸してくれた人も多分こうなることを予想してたんじゃないのか?」

 

BMW-1200R、改造を除けば世界最強クラスのエンジンを持つネイキッドバイク。

貸してくれたって武藤じゃなさそうだが・・・

 

「貸してくれたって誰だ?」

 

「季節外れのサンタさんだ」

 

多分土方さんだな・・・手回し良すぎないですか土方さん?というか今回、公安0表向き以外で協力し過ぎだが大丈夫か?

まあ、今は有難いよな。

 

「よし、じゃあサンタさんの贈り物でアリア奪還と行こうぜ相棒!」

 

「ああ、アリアは絶対に取り戻す!」

 

声に力が入ってるがヒステリアモードか?それは戦力的に有難い。

 

BMWがうなりを上げて加速していく。

目標は先行したリゼのニンジャだ。

 

「気をつけろよキンジ!リゼはバイクの運転技術も並みじゃない」

 

「ジャンヌから聞いてる。リバティーメイソンの中でも最強クラスの暗殺者だ」

 

毒使いの暗殺者だったわけか・・・

そう思った時、遥か前方にリゼのバイクが見えてくる。

 

「追いつくぞ!」

 

キンジがバイクを加速させる。

見る見るうちにリゼのバイクが迫ってくる。

あと少しで射程内と言う時リゼがいきなり振り返り短機関銃をばらまいてきた。

この距離で当たるわけがないが無視はできない。

 

「困ったじゃじゃ馬さんだ」

 

キンジがきざっぽく言ってからバイクを左右に振りながら巧みに射線を分散させリゼに迫る。

 

「攻撃は任せた!」

 

「了解!」

 

キンジの後ろからガバメントをリゼに向けて撃つ。

撃つ瞬間を見たのだろう。

リゼはバイクを左に切り射線から外してくる。

運転に集中してなきゃ1手増やせる!

3点バーストをフルオートに切り替えてリゼに向けて撃ちまくるがリゼはそれを全て交わしきる。

いや、ギギンとニンジャのタイヤに火花が散った。

跳弾射撃で当てたがあのタイヤ・・・

 

「防弾使用か」

 

キンジが言った時リゼが再び短機関銃をバラまく。

今度は距離が近いためキンジは少し減速し射程から外れる。

 

「どうするよキンジ!」

 

あの短機関銃は厄介だな。

この戦場においては特に・・・

 

「運転かわれ優」

 

「あ?」

 

言ってキンジがいきなり立ち上がったので慌ててハンドルを握るがお前何する気だよ!

 

「加速だ!まっすぐあの子に向かえ!」

 

「分かったよ!何か知らんがお前の考えに乗った!」

 

ヒステリアモードのキンジなら何か考えがあるはずだ。

標識は間もなくスカイツリ―に行くためには降りなくてはならない場所に差し掛かりつつある。

いや、リゼは高速を降りて一般道に入った。

当然俺達も後を追う。

だが、公安0の手が回っているらしいその道に車はいない。

スカイツリ―が見え始めてきた。

その瞬間、俺は一気にBMWを加速させた。

 

「!?」

 

リゼが再び片手で短機関銃をばらまいてくる。

俺達はその弾幕の中央に突撃する。

当然のことながら近づけば命中率は上がる。

いわば特攻のようなもんだ。

自殺行為としか言いようがない。

 

「おしおきの時間だ。この後、予定が詰まってるんでな!優!真っすぐだ!絶対に避けるなよ!」

 

 

凶悪な笑みを浮かべたキンジを見て思ったのは今日のキンジ攻撃的な気がするんだが気のせいか?

 

「死んだら恨むからな!」

 

あの神戸の時のレキのようにバイクの上に立ちデザートイーグルとべレッタを2丁構えパパパと発砲する。

空中で火花が散る。

当然のことながら短機関銃と拳銃では装弾数がまるで違う。

キンジが2丁構えてもその差は完全には埋まらない。

しかし・・・

 

「!?」

 

初めてリゼの目に驚愕が映った気がした。

き、キンジの奴当たる弾だけを選んで銃弾撃ちで迎撃したのか!

 

「下道ならこういう方法もある」

 

キンジがそう言って残りの残弾を何かに向けて放った。

閉店しているであろう店のガラスが砕けて窓際に置かれていたテーブルとイスがリゼのバイクの目の前に落下してくる。

 

「っ!」

 

明らかにリゼはまずいと思ったのだろう。

急減速するが速度が出過ぎている。

テーブルにニンジャが乗り上げバイクの上からリゼが投げ出された。

お、おい!こんな速度で落ちたら・・・

 

「くっ!」

 

一瞬見えたリゼの顔は冷静だ。

ニンジャは火花を散らし地面を滑っていくがワイヤーを発射し電柱に固定し空中で体制を立て直すとターザンのようにワイヤーで前方に進みスカイツリ―の中へ逃げていく。

 

 

「キンジ!」

 

「ああ、追うぞ優!」

 

俺達はバイクをスカイツリ―入口の前に止めるとリゼを追ってスカイツリ―に突入する。

その際。見えたがエルのポルシェもスカイツリ―の前に止められていた。

結局はスカイツリ―に・・・

ヒルダと面会とかエルは言ってたがここにヒルダがいるならハードすぎる展開だが困ったことにね・・・リゼとエルに対する怒りのせいでなっちゃってる戦闘狂モードの俺は高揚感を感じてるんだよな・・・

いくつかの切り札はある。

紫電はないがヒルダに勝つことは可能なはずだ。

綱渡りだがな

 

「キンジ、リゼに追いついたらお前は先に行け」

 

最初から決めていたことだ。

こういう展開になったらリゼとは俺が戦う。

 

「それならお言葉に甘えさせてもらう。俺はワトソンの野郎をぶっ飛ばしに先にいかせてもらうぜ」

 

「なめてかかるなよキンジ!エルは・・・」

 

エルの攻撃方法を教えようとした時、作業用の仮設エレベーターの前に少し開けた空間と人影がある。

リゼ・・・

逃げてきたと思えないほど静かにリゼは落ち着いた様子でエレベーターの前にいる。

服はメイド服だがその目は俺達を殺意に満ちた目で見据えている。

リゼの本領はバイクの上じゃない。

こういう接近戦が可能な場所でこそその本領を発揮できる。

人には向き不向きがあるものだ。

今からやろうとしてる選択は正直馬鹿としか言えない気もするな・・・

 

「リゼ!リベンジマッチだ!キンジは先に行かせろ!邪魔だからな」

 

にっと笑いながら俺はキンジより1歩先に出た。

 

「・・・」

 

殺意の目は俺だけに向けられてくる。

そして、エレベーターの前から離れるようにリゼは少し右に向けて歩きだし俺も同じく歩き出す。

左手でキンジに先に行けと腕を振る。

キンジは分かったと頷きリゼを警戒しつつ仮設エレベーターに乗り込み上にあがっていく。

これで1対1.リゼとの勝敗は2戦2敗。バイクの戦いは隼を失った俺の負けとカウントしておく。

つまり、俺はこいつに1回も勝ててないんだ。

レザドはやりにくいが今回ばかりは勝たせてもらう。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

互いに無言で右に歩く足は一定。

そして・・・

遥か上部でキンジのエレベーターが到着した音がした瞬間俺達は地面を蹴った。

互いに接近しながら獲物を取り出す。

俺は左手にガバメント、右に日本刀、リゼは左手に短機関銃右手に小太刀。

互いの銃器が火を噴いた瞬間。リバティーメイソン最強クラスのレザド、リゼとバスカービルのアサルト、椎名優希との最後の激突の幕は下ろされた。

 




お久しぶりの草薙です!
もう、見てる人いないんじゃないのというくらい開けてしまいましたがようやくスカイツリーに突入することができました。
流れ的にワトソンと優は戦いませんが正直、どうやって倒そうとヒルダ以上に頭を痛めてるのがリゼなんですよね。
この子オリキャラで姉さんのような化物とは一味違う厄介さがあります。
レザドってのは優が一番苦手な相手だと書いてて痛感しました。
実は追撃戦は優単体でリゼと引き分ける予定でしたが書いててリゼに勝てない!急遽キンジにも来てもらいかれのおかげで勝てましたがなぜかリゼと戦うと優が負ける(笑)
次の決戦でもヒルダ用にとっとく予定だった切り札も使わざる得ない状況に…
水やシン達も強かったですがリゼはなんだか本当に戦いにくい相手でした。

さあ、一気にスカイツリーを終わらせてオリジナルに入りたいです!
では!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第231弾 優希vsリゼ!負けられない戦い

互いに獲物は違うが似たような攻撃を仕掛けると同時に空中で火花が散った。

リゼの短機関銃の弾の軌道を読んでの銃弾撃ちだ。

キンジの真似だがバイクの上でこいつをやるのは俺には厳しい。

地上だからこそできるんだ。

一気にリゼとの距離を詰める。

互いに銃を手放し接近戦用の獲物で切りかかった。

1合2合と打ち合い火花が散るが互いに一撃を当てるための攻撃だ。

リゼの刃には毒が乗っているはずで食らえばただでは済まないのは経験済みだが残念ながら俺には長期戦覚悟で中距離でリゼを仕留めるという作戦は残弾数と状況から不可能と結論している。

エルのせいで弾の補給はさせてもらえなかったし高速での戦いで銃弾も消費した。

キンジを信じないわけじゃないがこの後、エル、ヒルダと戦いが続く可能性がある状況では弾は温存するしか選択肢がない。

負ければ全てが終わるが引く選択肢はあり得ない。

金属同士の激突と火花の散るその空間は素人目には何が起こってるか分からないほどの高速の斬撃戦だ。

技もなく互いに互いの刃を裁きながら隙をついて攻撃する。

リーチで俺の方が有利だが小回りはリゼの方が効く。

かすれば毒を受けると言う極限状態で俺の集中力は最高に高まっていた。

戦闘狂モードの影響で楽しいという感情はあるがそれでも、冷静さだけは失っていない。

実際に打ち合っていたのは30秒もなかったはずだが永劫に続くかに思われたその斬撃戦は唐突に均衡が破られる。

 

「くっ!」

 

やはり、男と女、手がしびれたかパワーでは俺が勝っていたのかリゼの反応が少しだけ鈍り僅かに刃を引いた。

そのチャンスを逃さず刃を交えたままにぐっと力づくで押し込もうと1歩踏み出した瞬間リゼの口の動きに違和感を感じる。

ぷっと何かが吐き出され押すのをやめて後ろに飛ぶが頬に何かが刺さった。

針!毒針か!やられた・・・

だが!速効性でも瞬時に効くわけじゃねえ!

着地と同時に構えは刺突

そして、地面を全力で蹴ると小太刀で防御しようとしたリゼの防御の上から刺突を叩きこむ。

 

「!?」

 

リゼは俺の刺突の速度に驚いたのか僅かに目を細めると小太刀を1本追加して両手で刺突を受け流そうとしたがぎゃりぎゃり金属同士が激突し火花が散るがリゼの肩口が切り裂かれぱっ赤いと血が散った。

リゼは俺から見て左に避けながら前かがみになりつつ小太刀を投擲してくる。

左手で左側の日本刀を抜くが刃は間に合わない!

柄で受け止めるがさらにリゼはもう1本投擲し突撃をかけてくる。

牽制に左腰のワイヤーを発射するがリゼはそれを軌道を読んで交わし肉薄してくる。

刺突で体制が崩れていたしリゼがこれほど早く立て直すことを予想しきれなかった俺の近くまで来るとリゼの両腕の上側からナイフが2つ飛び出し、切りかかり容赦なく露出している部分を狙ってきた。

致命傷は避けたが首筋が浅く切り裂かれる感覚。

状況を打開するため牽制に左足でリゼに蹴りかかったがリゼは蹴りが対して威力がないと瞬時に判断したのだろう。

わざと体にくらって右手で俺の足を掴んだかと思うと左手のナイフを振りあげる。

やばいと思った瞬間、アイスピックのようなリゼのナイフが防刃繊維を突き抜け俺の左足太もも当たりに突き刺さった。

 

「ぐっ!」

 

激痛を感じるが背後のワイヤーを使って大きくリゼから離れる。リゼは追撃してこない。

ゴミを見るような目で肩から血を流しながらリゼは言った。

 

「あなたの負けですね椎名優希」

 

左足に刺さったリゼのナイフを激痛に耐えながら抜いて立ちあがろうとするが力が出ない。

こんだけ食らえば毒も回るよな・・・

おそらく今回も神経系の・・・

 

「まだ・・・わかんねえぜ」

 

毒のせいか息が荒い。

くそ、毒なんか使わないで正々堂々と戦えよ・・・これだからレザドは嫌いなんだ。

 

「まだ動けるのは驚きですね。ワトソンはあなたを生かしたいようですが殺す許可は貰ってあります。倒れた時、あなたの首を刎ねます」

 

「はっ、それはごめんこうむりたいね」

 

とは言ったものの状況は最悪だ。

援軍は期待できない・・・

くそ・・・出来れば使いたくないが・・・

 

「はぁはぁ・・・」

 

懐から瓶を取り出す。

中身は赤い液体。

 

「?」

 

リゼはそれを黙って見ている。

今さら結果は変わらないということか・・・

蓋をあけ一瞬俺は迷う。

こいつは・・・飲むべきじゃない・・・

直感がそれを告げている。

今回は大丈夫でもやばい代物ということは理解できてるからな。

リゼは俺より格上だ。

少なくても相手の戦闘不能にするという点に関してはな・・・

 

「俺はまだ死ねねぇ。やることがまだまだ、ある!」

 

自分に言い聞かせるように言って瓶の蓋をあけて一気に液体を口の中に放り込み飲みこんだ瞬間、目の前の景色が歪む。

パチパチと目の前が明滅する。

緋色に変わった左目が熱く更に右目紙髪の色が変色していく感覚がなんとなく分かった。

その感覚を感じながら俺はあの弁当騒動の前のアリスとの会話を思い出す。

アリスが差し出してきたのは緋刀の力を紫電なしで引き出す方法だ。

強制的に力を引き出す方法は限られている。

それは・・・

 

「アリアさんの血です」

 

そう、アリスは言った。

俺の緋刀はアリアの血の輸血により覚醒したもの。

そして、幾度かの緋刀の力による戦闘でその力は濃くなっていっているのは俺の左目が証明している。

そして、緋刀は緋弾と無関係ではない。

緋弾の血が色濃いアリアの血を飲めば・・・答えは

 

「驚きました。紫電なしで緋刀の力を使えるのですか?」

 

その目には明らかな警戒が映っている。

出しぬけたか?レザドを・・・リゼの予想を・・・

俺は立ちあがると右の日本刀を右肩に乗せにっと笑ってやる。

その姿は緋色の髪に緋色の目。

緋刀の力を引き出した俺だ。

 

「仕切り直しだリゼ!お前の毒はもう効かねえぜ」

 

緋刀の回復能力は毒を消し去っている。

この状態である限りリゼは毒という最大の攻撃手段を失ったのだ。

そして、緋刀の状態では回復能力まである姉さんクラスのチート状態である。

 

「その状態。長くは持たないでしょう。耐えきれば私の勝ちです」

 

「言うほど優しくねえぞそれ!」

 

ぐっ足に力をいれ地面を蹴る。

緋刀化した時の身体能力は約7倍。

信じられないような爆発的な加速でリゼに接近する。

 

「くっ!」

 

リゼの目に焦りが浮かんだのを俺は見過ごさない。

突進の威力を利用し

 

「緋龍二式!双牙!」

緋龍は緋刀状態の時使える仮の名だ。

名前を飛から緋に変えただけで読み方は同じだが気分的な問題。

リゼとの戦いでは2回目の2刀による突きは速度も破壊力も7倍だ。

 

「っ!」

 

避けることに全神経を集中させたらしいリゼは屈みこむと足払いをかけてきた。

その行動は予想済みだ。

地面を蹴って空中に高く舞い上がる。

事前に装填していたデザートイーグルを空中でリゼに向ける。

思うのは緋刀化したとしてもリゼは強い。

おそらく・・・この状態で普通に戦えば時間切れまで粘られて負けるだろう。

リバティメイソン最強クラス・・・

世界は広い。

リゼは様々な戦闘経験を積んできて対処法を学んできたのだろう。

つまり、生半可な攻撃は通用しない。

 

「ったく楽出来ねえな」

 

小声で言ってからデザートイーグルを単射でリゼに向けて放つ。

リゼはそれを小太刀で迎撃しようと小太刀をデザートイーグルの弾に向けて振るった。

小太刀が弾に激突した瞬間、パンと弾けるような音がしリゼが地面に叩きつけられた。

上空からの暴風のステルス。

魔封弾『風』の弾。秋葉の能力の弾だ。

上空からの風と同時に風の中はかまいたちの嵐。

デザートイーグルをしまいそのまま、魔封弾の効力中の空間に飛び込む。

かまいたちが襲いかかってくるが緋刀化により切り裂かれても回復する。

リゼは風の効果範囲から逃れようとしていたが俺の方が早い。

リゼの腹めがけて拳を叩きつける。

直後リゼが背後に飛んだ気配はあったが手ごたえあり!

リゼはブッ飛ばされ風の効果範囲から飛ばされスカイツリ―の巨大な鉄柱に激突し動かなくなる。

10秒ほど待つがリゼは動かない。

死んでないといいが・・・

近づいて不意打ちされる可能性もある。

この辺は公安0がいるはず・・・命にかかわるような状況なら彼らが救助してくれることを祈ろう。

 

さて、キンジはエルと戦えてるか?

遥か上の方から銃声が聞こえてきた。

エルと戦ってるのか?あるいはヒルダも・・・

はやいとこ援護に・・・

仮設エレベーターが来る。

ボタンを押して中に入ろうとした時

 

「どこに・・・いくんですか?椎名優希」

 

振り向くと右手で腹を押さえてよろよろと立ちあがるリゼがいた。

口元からは赤い血がつっと流れている。

 

「アリアを助けに行く。寝てろよ。軽傷じゃねえぞその怪我」

 

「勝てませんよ・・・あなたじゃヒルダに・・・」

 

「どうかな?」

 

切り札はある。

正直こいつで倒せなければ絶望的だがそれをリゼに言ってやる必要はない。

 

「勝てないのに行くのは死にに行くのと同意です。あなたは自殺志願者なのですか?」

 

「俺はなリゼ。仲間が危険な目にあってるのに逃げるのは俺の信念に反することだと考えてる」

 

前にも言ってたな。

やはり、少し目を閉じてリゼはふっと小馬鹿にするように笑い。

 

「椎名優希。あなたは馬鹿ですね」

 

「かもな。損な生き方してると自分で思う」

 

他人は他人。仲間でも必要以上深く関わらない。

そんな人生を送ってたらきっと今の俺は全く違う自分だっただろう。

怪我もせずに平凡な日々。

素晴らしい平和だ。

でもそれは出来ない。

秋葉の母親や俺の父さんを殺したあの日からそんな生き方は俺には許されない。

だから、俺はこの馬鹿な人生を歩み続ける。

その、歩みが止まるその日まで・・・

 

「でも、そんな損な生き方も悪い事じゃないんだぜリゼ」

 

にっと笑い俺は助けてきた人達を一瞬、頭に思い浮かべた。

彼らは俺が損な人生を歩まなければ助けられなかった人々だ。

 

「・・・」

 

リゼは一瞬、俺の方を見ていたが小さく息をはいてから

 

「私の負けです」

 

そう言ってその場に座り込むリゼ

 

「おい、大丈夫か?結構力込めて殴ったからな」

 

負けも認めてくれたし一応はそう言っておこう。女の子の腹殴るなんて我ながら余裕がなかったとはいえ最悪な事したと思うし。

 

「傷ものにされました。責任とってもらえるんですか?」

 

「手加減できる相手じゃなかったんだよお前!!責任って何要求する気だ?」

 

「そうですね。一生私の奴隷はいかがでしょう?」

 

「どう考えても地獄の日々だそれ!」

 

「仕方ありませんから夫婦になってあげてもいいですよ。あなたは奴隷ですが」

 

「お断りだよ!お前と結婚したら絶対毒盛られて殺されるだろが!」

 

「そんなことしませんよ。あなたが死んだら枕元に泣きながら保険金受け取って残りの人生謳歌します」

 

「やっぱり、最悪だこの女! もういい!俺は行くぞ!」

 

時間も限られてるさっさと行かねえと

 

「椎名優希」

 

「何だ?悪いがそろそろ・・・」

 

「ヒルダは1番上にいます。そこには峰理子と緋弾のアリアもいるはずです」

 

「やっぱりか・・・」

 

理子はこの上か・・・

捕らわれているなら助けないと・・・

 

「理子はヒルダに捕まってるのか?」

 

「そうですね・・・ある意味・・・では」

 

「・・・」

 

それ以後の反応がない。気絶したらしい。

肝心な部分が聞けなかったな・・・だが理子が捕らわれてるなら助けるさ。

何せ俺は理子のヒーローなんだからな。

仮設エレベーターのドアが閉まり上空に上がる音を聞きながらヒルダを倒す手段を再考する。

エルとは戦う事は考慮しない。

キンジならきっとエルに勝っているはずだから・・・

待ってろよヒルダ!今ぶっ飛ばしに行ってやるからな

 

 




結局、リゼには魔封弾、緋刀とかなりの優の切り札を引き出されてしまいました。
というか書いてて何回も優が負けそうになるので切り札使わざるえませんでした。
今後レザドとは戦いたくありませんね(笑)
少なくても敵として出すなら優単体じゃ苦労の連続です。
大人しくキンジとワトソンを二人がかりでぼこる話ならこんな苦労はなかったんですがようやくリゼを倒せました。
上では原作通りキンジがワトソンを倒してるはず!
というか原作では自転車でスカイツリーに行って疲れたと言ってましたがバイクで行っても結局リゼと戦闘してますから疲れてますよね(笑)

さてさてようやくこの章も佳境に入ってきました!

オリジナル章は秋葉か信冬か!あるいは連続オリジナルでやるかと狂気じみたことも考えてますが流石にありえないですかね連続オリジナル章は?
原作の流れ的にできれば秋葉のオリジナルはある巻までに2つか3つは
やっときたいんですよね。
秋葉はこの守るものの中では恋愛としてでは今はないですが優が1番気にかけてるヒロインですからね。

キンジいらない子にしないでという要望もありますのでオリジナル章どうしましょうかねぇ…

ところでこの守るものの中で度々出ている14年前くらいかな?前の物語である土方歳三が武偵高生だった頃の物語。
つまり、優の最強無敵姉さんも高校生だった3年間の物語なんですが見たい方いらっしゃいますかね?
需要があればやる気出して書けそうですが…
ただ、この物語は守るものをちゃんと読んでる方には分かるでしょうが最後はどうしてもああなってしまうんで心苦しい気もするんです。
とか言いながらパソコンに書いてますけど少し(笑)
書いてて思うのはメインヒロイン北条花音は可愛い!
と我ながら考えて書いてますね。

では次回も近いうちに書きたいなぁ(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第232弾 天空決戦

サイド??

 

「最強が聞いてあきれる。やはり、下等な人間ね」

 

 リバティーメイソン最強クラスと言われるリゼが椎名優希に負けたというのを知ったヒルダの言葉に私は心臓が小さく跳ねた気がした。

やっぱり、優希は来た。

レストランでリゼに負け、毒で動けなくなっても彼はそれを乗り越えてやってきた。

理子は知ってるよ。

あなたは、そういう人・・・

勝ち目がないと分かっていても自分が守りたいと思ったものは自分の命を犠牲にしてでも守りに来る。

信じたいよ・・・でも、私は・・・

目が合うと紫電の魔女ヒルダはにっと笑い

 

「信じてるわよ理子。私達はお友達ですものね」

 

「・・・」

 

 

 

 

 

サイド優希

 

状況的に、第一展望台で戦闘が行われていたと判断できるためそこにキンジの援軍に行くか、ヒルダがいる可能性がある最上階に行くか・・・

少し迷うが緋刀の力が消える前にヒルダとは激突したい。

エレベーターを乗り継ぎ、第一展望台をパスした時、緋刀化で7倍に高められた視力がキンジとエルとの戦いを一瞬、捕えた。

見立てではエルは薬を使ってくるだろうがキンジは確か、薬が効きにくい体質だ。

勝てよキンジ。信じてるからな

途中のエレベーターを降りて仮設エレベーターを乗り継いで435メートルとマジックで書かれた場所まで上がってきてそこでエレベーターは終了。

上に行くには簡易の階段を上がっていくしかない。

しかし、まあ気持ち悪いな・・・蝙蝠が一杯だ・・・蝙蝠女の部下だったりして・・・

1歩階段に足をかけた時、前方に気配を感じたので見上げる。

ああ、やっぱりいたな。

風に金髪をなびかせ、手にはワルサ―。

 

「よう理子!待ったか?」

 

にっと笑って軽く手を上げるが理子は悲しそうな目で俺を見ている。

 

「怪我はしてないようだな。よか・・・」

 

「どうしてきた優希」

 

男喋り・・・裏理子だな

どうしてか・・・答えは決まってる

だからしょうめんから言ってやるさ

 

「お前を助けに来たにきまってるだろ」

 

「っ!?」

 

理子は一瞬、息を飲んでからうつむいた。

 

「無理だよ・・・」

 

「だったら、そこで待ってろ理子。ヒルダは俺が倒す」

 

「無理だよ・・・」

 

強いったって俺1度勝ったんだぜ?

 

「ローズマリーに邪魔されなきゃ勝ってたんだ。今回も勝ってやる」

 

「無理だよ」

 

理子は首を横に振り同じ言葉を繰り返す。怖いんだヒルダには幼いころから恐怖を植えつけられてきた。

牢獄の中で震えながら理子は・・・

 

「理子」

 

俺は1歩2歩と理子に近づくが理子は怯えたように後ずさった。

 

「くるな優希。私はヒルダに命令されてるんだ・・・上がってくるなら殺せと・・・だから、このまま帰って・・・」

 

願うような言葉。

だが、足は止めない。止めてやらない。

それは理子の本心じゃねえ!断じて違う!

かつんかつんと階段を上がっていくと理子はワルサ―を俺に向けてきた。

手はガタガタと震えている。

緋刀の状態だから撃たれても簡単には死なないが通常の状態でも俺は足を止めないと断言できる。

 

「こないで!」

 

理子が叫んだと時、俺は理子の目の前にいた。

ワルサ―は俺の胸に押しつけられている。

 

「どうして・・・来るの?」

 

震えている奴を安心させる方法はいくつかある。

だから、俺は理子の背に手を回し抱きしめてやった。

 

「俺は理子のヒーローだからな。後は任せとけよ」

 

理子は抵抗しない。抱きしめてるので顔は見えないが抵抗しないってことは対応は間違ってないはずだ。

 

「・・・」

 

理子は何も言わない。

だが、震えは止まっている。

 

「確かに俺は姉さんのような化け物みたいな強さはないけど守ろうと思った女の子を守るぐらいの力は手にしてるつもりだ?」

 

ヒルダは確かに強いが勝てない相手じゃない。

 

「もう1度、俺を信じろ理子。お前のヒーローはあんな蝙蝠女に負けねえよ」

 

ぐすっと鼻をすする音と共に俺の胸に顔をうずめて理子はくぐもった声を出した。

 

「うん」

 

よし逃げる気なんてさらさらないがこれで完全に逃げられなくなったぞ。

 

「よし、じゃあヒルダをぼこりに行くか」

 

理子から離れて見上げる先にあるのはヒルダのいる第2展望だ。

アリアもそこに捕らわれているはず。

 

「理子、アリアは上だな?」

 

涙をぬぐいながら理子は頷いた。

 

「うん、アリアはヒルダに隠されてる。バラの花の下だよ」

 

「何か罠があるのか?」

 

「理子が動かないなら大丈夫だよ。ヒルダは理子に優希を排除させた後もし、キ―君が上がってくるならアリアに変装してヒルダが騙し打ちする予定だった」

なるほど、少しはヒルダもキンジをびびってるらしい。

とすれば・・・

理子と軽く打ちあわせをする。

そして、俺が先頭で第二展望台に突撃した瞬間、閃光が俺の視界に入ってきた。

 

バリバリバリと雷の音。

莫大なエネルギーの雷の球を手に纏っているのはヒルダだ。

その目は弱者を叩きつぶす時の絶対的な勝者の目。

 

「120%よ!ゴキブリ!」

 

圧倒的なエネルギーを持った雷球が俺に向けて放たれる。

後ろには理子がいる。

間にあえよ!

 

左腰から日本刀を引き抜いて両手で持ち雷球を見ながら右上段に振りかぶる。

緋刀の力を刀身に集中するイメージ・・・

ポゥと日本刀の刀身が淡い緋色の光を放ち更にエネルギーを注ぎ込むイメージするとまばゆい光が刀身を覆う。

 

「緋龍奥義!緋光剣!」

 

極光は仮名だったため、新しく考えておいたその名を言いながら刀を振りぬいた。

かまいたちのように刀身から飛んだ緋色の光が雷球と激突するとバチバチバチとその場で爆発のような光が明滅し次の瞬間雷球が消滅した。

同時に俺の日本刀の刀身が緋色の光と共に消える。

く、紫電じゃなきゃやっぱり使い捨てになるか・・・

そのまま、ヒルダに向けてかける。

大技を使った直後なら連射はできねえだろ!

もう1本日本刀を抜くと力を流し込む。

2回目放つのは初めてだが撃てる!

緋色に輝いた日本刀を見てヒルダが目を見開く。

悪いが殺す!手加減できる状況じゃねえ!

跳躍し上段からヒルダに向けて緋光剣を・・・

 

「いいのかしら?私の下にアリアがいるわよ」

 

「!?」

 

その言葉は俺の動きを止めるには十分だった。

ヒルダの下にはバラの花束。あの下にアリアか・・・

雷球処理で目に入らなかった。

アリアがいるなら空間ごと薙ぎ払う緋光剣をぶっ放すことなど・・・

 

「50%!これで十分!」

 

ヒルダの手に雷球が生み出されて俺に投げられる。

緋光剣は使えねえ!

位置的にワイヤーで回避は間に合わない!

くそ!

放出をやめ緋刀の効果範囲を刀周辺に収束し、同時に刀気を発動させ雷球をぶった切るがその先にいるのはヒルダだ。

このまま切り裂く!

そう思った時日本刀の刀身が消滅していることに気付いた。

緋刀の力に耐えられずに消滅したらしい。

 

「30%よ」

 

雷球が俺に直撃し同時に視界が明滅しバリバリと電気が体を駆け巡る。

痛いなんてもんじゃない。

失神しそうになりながらも攻撃の終わったヒルダの元から緋刀の身体能力で後退し右ひざをつく。

今ので決められなかったとなるとやばいな・・・

大ピンチだと言うのに口には笑みが浮かぶ戦闘狂モードの副作用。

楽しんで戦闘をしてしまうことだ。

 

「ゴキブリ、これでわかったかしら?」

 

「何をだよ?」

 

ヒルダがばさりと蝙蝠のような翼をはばたかせるとその風でヒルダの下にあった箱・・・いや、棺の周囲のバラが飛ばされその下からアリアが出てくる。

気絶してるようだな・・・

 

「人間は高貴なるドラキュリアには勝てない。認めなさい下等生物。許しを請うて靴を舐め永遠の従僕になるなら気が変わるかもしれないわよ」

 

「ほぅ、人間には勝てないねえ。姉さん倒してから言えよ。そんな言葉」

 

びりびりと体はしびれる。

緋刀の回復能力が鈍ってきてるんだ。

おそらく、アリアの血のドーピングも限界が近い。

 

「水月希・・・下等な人の突然変異体は人間とは認めてないわ」

 

「ハハハ、勝てない相手を押しのけて人間はドラキュリアに勝てないだぁ?都合がいいことだな」

 

「くっ、黙りなさいこのゴキブリ!」

 

ヒルダが右手に雷球を出現させるがその大きさは小さい。

しびれる体に鞭打ち投げられた雷球の軌道は単調。

交わしながらチャンスをうかがう。

ヒルダの後ろに倒れているアリアの救助。

そして、最後の緋光剣だ。

走りながら通常弾のガバメントでヒルダを狙う。狙いは手の関節部分。

雷球がどうやって出すのか分からないが再生しても一瞬でも手を破壊できればコントロールは鈍るはずだ。

 

「ちょこまかと!」

 

狙い通りヒルダの雷球のコントロールは大したことはない。

回り込むように走りながら武偵弾の閃光弾がないことを悔やむ。

あれがあれば一気に距離をつめれてかもしれないのに・・・

にしても雷球ってのはやはり、かなり厄介だな。

当たればしびれて体の動きは確実に鈍る、

だが、奴は無尽蔵に雷球を作れるのか?

姉さんじゃあるまいし、いつか限界が来るとは思うが。

だが、こっちはそれまで緋刀状態は持たない。

いつ切れてもおかしくない状態。

最後の特攻だ。

ヒルダとの位置関係が直線状アリアから外れた瞬間、雷球を投げた瞬間のヒルダに向かって突進する。

 

「ホホホ、血迷ったのかしら?」

 

雷球が再び投げられるがそんな威力が低いもん!

刀身が消滅し柄だけになった日本刀を左手と右手に持ち意識すると左の柄から緋色の光が放出される。刀身がなくても柄があれば緋光剣は発動するらしいな今、理解した。

柄から緋色の光が剣状に。

ビームサーベルみたいなもんだ。

 

「ふっ!」

 

雷球を消滅させ左の日本刀が柄から消滅したのを感じながら右手の柄に緋光剣を発動させる。

頼む!持ちこたえてくれ緋刀!

 

「!?」

 

ヒルダの目が大きく見開かれる。

直前に迫り、緋色の攻撃が来ようとしているのは恐怖を感じたのだろう。

 

「ひっ」

 

その瞬間ヒルダは怯えたように一歩下がる。

雷球を繰り出そうにも間にあう距離じゃない。

悪いが殺すぞヒルダ!公安0の跡形もなく消し飛ばす戦術だ!

魔臓ごと消し飛ばす!

柄を両手で握り上段から光の放出を叩き落とす。

ヒルダは恐怖に顔を歪めそれをただ見ているしかできず・・・

その体が緋色の光に飲み込まれる寸前に光が消滅する。

 

「!?」

 

時間切れかよ!後1歩だったのに柄が消滅しヒルダの前に無防備で立つはめになる。

ヒルダはそのチャンスを逃さず俺の右手を握り

 

「死になさい!」

 

激怒の表情を浮かべているヒルダを見てやばいと振りほどこうともがいた瞬間言葉にならない激痛が全身を駆け巡った。

奴のありったけの電気が体に駆け巡る。

 

「っ!」

 

悲鳴が言葉にならない。

電気が体に通るありえない激痛。

 

「死ね!死になさい!ほら死になさいよ!」

 

何万ボルトか分からないがこ、このままじゃ死ぬ!

緋刀の状態も解けているこの状態で・・・

 

「ヒルダ!優希を放せ!」

 

理子の声と発砲音がするがヒルダの電撃は収まらない。

 

「あなたには失望したわ理子。そして、知りなさい!愚かな希望を抱いたばかりにお前のヒーローは死ぬ。絶望しなさい!さあ!いつ感電死するのかしらぁ?椎名優希ぃ!」

 

ヒステリックになっているらしく美少女台無しのそのヒルダの顔を真近に意識が飛びそうになるのをぎりぎり耐えながら逆転の1手は・・・

駄目だ思いつかねえ・・・このままじゃ・・・

死ぬと思った瞬間、ヒルダの腕が飛んできた何かにちぎり飛ばされた。

続けてヒルダが何かにブッ飛ばされ展望台から投げだされ落ちて行く。

 

「か・・ふ」

 

電撃から解放されたはいいがそのまま、どしゃりと倒れこむが体が動かねえ

しびれて動けない状況・・・ハハハ、よく生きてるな俺・・・

それより、今の攻撃・・・

 

「大丈夫ですか優君?」

 

なんとか動く首を向けるとそこにいたのは山洞秋葉。

髪を風になびかせながら現れた風の援軍。

 

「大丈夫じゃねえな。体が動かねえ。それより、アリアの救出を頼む」

 

「それはキンジ君達が」

 

見ると少し遠くでキンジがアリアを連れロープをほどいているところだった。

 

「大丈夫か優希!」

 

エルがこちらに来て怪我の具合を見てくれる。

 

「エルか。お前、キンジと戦ってたんじゃないのかよ」

 

「それは僕の負けだ。今から僕は師団として君たちに協力する。リバティーメイソンへは帰ったら報告するんだけどね」

 

そうか、キンジはエルに勝ったのか流石だな。

 

「ヒルダは優希との戦いに夢中でここに来るまで全く気付いてなかったみたいだ。動けるか?」

 

「なんとか・・・な」

 

1分も立っていないがなんとか体が動くまで回復してきた。

普通あれだけ電撃受けたらしばらく動けないと思うが緋刀のおかげか通常状態でも多少は回復能力が高くなったようだ。

ま、頭はくらくらするしぴりぴりするけど

 

「優希」

 

理子が駆け寄ってくる。

 

「情けない話だが状況は有利だぞ理子」

 

当初の予定通り秋葉が来てくれた。

風のステルスがあれば戦術の幅は大きく広がる。

 

「遅くなりました理子さん」

 

「秋ちゃん・・・ありがと」

 

理子と秋葉は趣味も合うので仲がいい。

ずっと秋葉も理子を救いたいと言っていた。

これだけの面子がいれば負けるわけがない。

 

「で?秋葉はなんでここに?」

 

連絡する暇なかったので完全な不意打ち援軍だったわけだが

 

「公安0の土方さんから連絡をもらいました。それとこれを」

 

秋葉が差し出してきたのは日本刀だった。

それも見事な技者

 

「ここに来る前に武田家の使いから預かりました。ステルスの術式を組み込んだ宝剣で緋刀にも少しなら耐えられます。名前は白い柄が『天雷』、黒の鞘が『閃電』だそうです」

 

武田家なら信冬か。直接これない事情があるのかは分からないがこの贈り物は有難く借りておこう

 

「後、武田の使いが信冬様からの伝言を伝えて行きました。『電話してくださいね』だそうです」

 

う・・・信冬の奴怒ってるぞ・・・それも静かに・・・

笑顔で怒りを抑えている少女の事を思い出しつつととりあえず合流してきたキンジ、アリアに向き直る。

 

「ようアリア。無事だな」

 

「無事よ。あんたこそボロボロじゃないの」

 

そりゃ電撃をあれだけ食らえばな・・・

 

「ヒルダは?まさか殺したの?」

 

「そう願いたいが・・・まだだろうな」

 

ヒルダが落ちて言った方を見て天雷と閃電を体に鞘ごと固定する。

 

 

「優、あんたヒルダを殺す気で戦ってるわね?」

 

カメリアの瞳が俺を責めるように見てくる。

嘘言ってもしょうがない。

 

「理子を救うためだ。状況的にそうせざる得なかった」

 

「優、私たちは武偵よ。武偵憲章第9条、武偵は決して人を殺してはならない」

 

「アリア、俺の過去は前に話しただろ?今さらな・・・」

 

「過去の話をしてるんじゃないわ。今の話よ!私のチームメイトなら武偵憲章は守りなさい。命令よこれは」

 

「いやな、でもアリア・・・」

 

「仲間を信じ仲間を助けよ。これも武偵憲章よ優。みんなでヒルダを逮捕しましょう。いいわね!」

 

なんでだろうな?

この子にこう言われるとそうしないと駄目だという感じになる。

アリアは俺にとっての光なのかもな・・・

殺してでも守ると闇に歩いていこうとした俺を再びじゃあ、光の道を歩むかという気持ちにさせてくれる。

 

「たく、わがままだな。殺す気も失せたよ」

 

1人なら殺すしかなかっただろうが仲間がいるなら勝てるかもしれない。

 

「それでいいのよ。勝つわよレキはいないけどこのバスカービルの初陣よ!」

 

「話はまとまったかしら?」

 

バリバリと音に振り返るとそこに立っていたのは翼を広げた稲妻を纏う吸血鬼ヒルダ。

秋葉に吹き飛ばされた腕も再生している。

 

「諦めて降参しろヒルダ。この状態でお前に勝ち目はないぜ」

 

背後で秋葉達が攻撃の準備を開始する気配を感じながら言うとヒルダは不敵に笑みを浮かべた。

 

「ホホホ、椎名優希。ねえ、あなたローズマリーと戦ったことあるんじゃないのかしら?」

 

「それがなんだよ?」

 

「忘れてるのかしら?それともとぼけてるの?知らないのかしら?なら教えてあげる」

 

何が言いたいこいつ?

 

「ドラキュリアの第3形態テルツアよ!」

 

どこかに隠していたらしいトライデントを頭上高くヒルダが掲げるとそれを避雷針に雲の中から白い光と共に落雷の轟音を轟かせ周囲を光に染めた。

 

「きゃああああ!」

 

アリアがパニくった悲鳴を上げる。

雨を水蒸気に変えその場に吹き荒れその向こうには

 

「生まれて3度目だわテルツアになるのは」

 

耐雷性の下着とハイヒール。蜘蛛の巣状のタイツは残っているがリボンはなくなり長い巻き毛の髪が強風に揺れている。

 

たとえるなら悪魔・・・

これほどまで圧倒的な暴力は数人しか覚えがない。

それも完全な殺意として向けられるのは初めての経験。

 

「お父様はパトラに呪われテルツアになる前にお前たちに討たれた。私は第2形態は嫌いだし不覚にも椎名優希に不覚をとった形態は飛ばして第3形態にならせてもらったわ。さあ、遊びましょ」

 

普通ならひるむ。恐れる。

人は圧倒的な存在の前にはそうなるものだ。

だが、俺は慣れてる。

そんな化け物達と小さい頃から一緒に過ごして半殺しにされたことさえある。

だから!

 

「それがお前の切り札か蝙蝠女!はっ、姉さんに比べたら雑魚以下だなおい」

 

ヒルダの目が憐れむような目で俺を見てくる。

圧倒的な力の自信からくるものだ。

 

「そうね。長く遊ぶのも飽きたわ。だから、椎名優希、あなたには手足を焼き切った後生かしながら仲間が死んで行くのを見せてあげる。そうね。まず、1人確実に死を与えましょう。ねえ、理子」

 

バチ

 

背後から何かが弾けるような音と共に理子の右耳につけられたイヤリングが弾けた。

疑問を口にする前にヒルダが言う。

 

「毒蛇の腺液。10分後毒は回り死に至らしめる。残念だったわね。椎名優希」

 

ブチっと頭の中で何かが切れる音がした気がした。

 

「エル!理子を連れて病院行け!応急処置忘れるなよ!」

 

「分かった!」

 

退路を確認しようと後ろを向いたエルと俺に最悪な光景が目に入る。

カツンと優雅に階段を上がってきたのは白銀の髪の魔女。

 

「ごきげんようですの」

 

ローズマリー・・・

前門にヒルダ。後門にローズマリー。

最悪だ。最悪過ぎる。

 

「安心しなさい椎名優希!ローズマリーは戦闘に参加しないわ。ただし、理子に治療を施そうとしたり逃げたら自動参戦するけどね。ホホホホ」

 

あくまで、自分ひとりで全員を処刑する気らしいな。

だが、そうなると

 

「なら、てめえを倒したらどうなるんだよ?」

 

「出来はしないわ」

 

「どうなるんだよ?」

 

俺はローズマリーに直接聞いた。

こいつは必ず答えると言う確信を込めて

 

「引きますの。優希なら負けないと信じてますわ」

 

にこりと微笑みながらローズマリーは言った。

こいつは敵だがこういう時の言葉はおそらく守る。

方針は決まったな。

 

「10分以内にヒルダを倒して理子を救うぞ!」

 

みんなに聞こえるように言って俺は・・・いや、俺達はヒルダに一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

天空でのドラキュラと武偵達の戦い。

彼らは知る由もなかったがその戦いは多くの者たちの目に止まっていた。

優希を陰ながらサポートしていた公安0の者達。

彼らは、戦いには決して参戦しない。

参戦するとすればヒルダが無差別に市民を襲ったなどそういう事態などだがそう言ったことはないだろう。

 

そして、アメリカの監視衛星を通じてアメリカと関わりを持つ者たちもこれを見ている。

他にもいるが一際離れた所から見ているのはウェーブのかかった蒼い瞳の少女だ。

強風にもかかわらず彼女の周囲は風が避けるようになびいていない。

彼女の視線の先にいるのは絶体絶命の窮地に立ちつつも第3形態のドラキュリアヒルダに立ち向かう武偵達。

 

「どういう選択するのかな?優希君は?」

 

まっすぐな少年が絶望にぶち当たれば彼はどうするのか?

そして、紫電なしでヒルダに勝つことは果たしてできるのか?

 

「見てて飽きないなぁ。ヒルダ勝てたら興味湧きそうかな優希君」

 

少女は・・・アズマリアはそういって戦いの監視を継続した。

 

 

 

 




遅れましたが最新話です。
ヒルダとの決戦ですが原作より人数多めの戦いになります。
秋葉と優、そして通せんぼローズマリー(笑)

10分以内にヒルダを倒すには当然魔臓破壊は必須。
さあ、次話もがんばろ!
ちなみに、12月に出たアリアの妹メヌエットですが早く出したいのでフライングしてくるかもしれません。
優の知り合いかどうかは本人が忘れてるかもしれないので不明です。

キンジは例のごとくでしたが優はどうだろう?
何もが見抜かれそうだ(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第233弾 狂戦士ヒルダ

ミスったなヒルダ!

走りながら俺はそう考えた。

奴の服が少なくなったことで魔臓の位置を示す模様が丸見えだ。

両腿に2つと臍の下に1つ、右胸の下だ。

銃はある。

俺達全員分を合わせればおつりが来るだけの弾が今はあるのだ。

同時破壊なら刀でもいけることはブラドで証明されている。

いけるぜこれは!

ローズマリー参戦をさせないため、治療は施せないが理子をエルに任せ先陣として飛び出したのは俺と秋葉だ。

本来最前衛はアリアも含まれているが動きは仕組まれていたように自然に動く。

俺は正面から、秋葉は風で宙に飛び上がる。

 

「気でも狂ったのかしら?」

 

ヒルダが前に手を突きだすと120%と言っていた大きさの雷球が時をほぼ置かずに現れる。

そして、それは更に、巨大化し

 

「プレゼントよ!有難く受け取りなさい下郎」

 

「いらねえよ!」

 

俺は進路を右に変えて走り出すがヒルダはそれに合わせて雷球をずらしていく。

そのヒルダに暴風が襲った。

 

竜巻のような風がヒルダを包み無数のかまいたちとなりヒルダを切り刻むがヒルダは秋葉を見上げず、にいと笑う。

相手にするまでもないという事だろう。

 

「さあ、受け取りなさい!」

 

雷球が射出される。

バチバチと恐ろしい電圧を感じさせるもんだがな!

閃電と天雷をクロスさせ刀気を纏い雷球に激突させそのまま上に受け流すと雷球はそのまま、空へと消え雲の中で巨大な雷鳴を響かせた。

スパークと閃光。

その隙を俺達は見逃さない。

 

俺と秋葉が作った隙にアリアとキンジが弾丸のように疾走し、俺達は同時に銃を発砲する。

ヒルダに奪われたガバメントの弾を補充したアリアの2丁拳銃。キンジのベレッタ。

そして、俺のデザートイーグル。

4つの弾丸がヒルダの目の模様に吸い込まれていった。

ヒルダの目が大きく見開かれる。

その目は俺を見て・・・笑う。

 

「効かないわね」

 

ヒルダの傷口からぽろりと弾が落ちて傷がふさがっていく。

おいおい。まじかよ。

虚勢張ってるわけじゃねえよ・・・な。

 

「いいわ。その目、勝利を確信した瞬間、裏切られた絶望の目。あなた達はこう思ってる。なんで、魔臓を破壊したのに傷が治るのか?ホホホ、もっと絶望しなさいそれを串刺しにしてあげるから」

 

考えられることはいくつかある・・・だが、それが事実だとしてどうする・・・

 

「私はね。生まれつき見えにくい所に魔臓があるわけではなかった。その上この忌々しい目玉模様をつけられてしまったの。だから、これはお父様にすら秘密にしてたけど外科手術で変えちゃったのよ魔臓の位置を。ほほほ、おほほほほ」

 

雷鳴がとどろきシルエットが悪魔のようなヒルダ。

 

「さあ、私の魔臓はどこでしょう椎名優希?」

 

「さあな。教えてくれよ」

 

考えろ。こいつがおしゃべりしている間になんとかする方法を

 

「実は私も知らないの。あえて知らないようにしてたのよ。だって、私が知ってたら誰かにばれるかもしれないでしょう?手術痕は無くなっちゃったし手術をさせた闇医者は封じちゃったから真相は誰も知らない」

 

殺したわけか闇医者・・・

 

「残念だったわね」

 

「・・・」

 

大ピンチ。大ピンチだなこれは・・・

 

「秋葉」

 

ヒルダに聞こえないくらいの距離で隣に降り立った秋葉に小声で話しかける。

 

「最悪。俺が何とか隙を作る。全員を連れて風で離脱できるか?」

 

「それは優君を含めてですか?」

 

「俺は含まなくていい。ヒルダを抑えるだけ抑える」

 

緋刀は使えない。だが、刀気を使えば持ちこたえるぐらいはできるだろう

 

「嫌です」

 

それはつまり出来るってことか秋葉・・・

 

「勘違いするな秋葉、どうにもならなかった時だけだ」

 

秋葉は首を横に振る。

近衛としてか秋葉の意思なのか・・・

 

「私はあなたに死んでほしくない」

 

そう秋葉は言った。

それ、本心か?秋葉?

そう聞きそうになった。

葉月さん・・・秋葉の母親を殺したのは言い訳しようもない俺だ。

俺は恐れていることが1つだけある。

秋葉は俺を恨んでいるんじゃないか?

それを隠しているんじゃないかと・・・

だけど、秋葉が今、そう言うなら俺はこの子の願いを聞かないといけないな。

 

「分かった。なら、少しでいい。ヒルダを抑えられるか?」

 

「はい!」

 

秋葉はそう言って単身ヒルダの前に立ちふさがる。

 

「ホホホ、人間にしてはなかなかのステルス使いね。どう言う死に方がお望み?感電死?それとも切り刻まれて死にたいかしら?椎名の近衛」

 

フォンと風を切る音がして秋葉の手元にヒルダの腕を切り裂いた槍が戻ってくる。

それを構えながら

 

「お断りします。私はまだ死ぬ気はありませんので」

 

パリパリと帯電するヒルダとそれに対抗するように風を纏う秋葉。

だが、ヒルダには再生能力があるが秋葉にそれはない。

どちらが不利なのかは火を見るより明らかだ。

俺はヒルダを警戒しつつ理子達の元に移動する。

 

「さーて、どうする?殺すって案は駄目だよなアリア?」

 

「9条よ優」

 

とはいってもヒルダは人に当てはまるのか微妙だがな・・・

緋刀以外に倒せる手段はこの状況ならある。

ただし、殺すのはおそらく絶対に避けられない切り札だ。

 

「一気に魔臓を同時破壊する方法があれば・・・」

 

キンジが考え込むようにして言うが方法は思いつかない。

 

「・・・」

 

武偵弾職人からもらった魔封弾を思いついてみるが果たしてそんな都合のいいものがあるのか・・・

魔臓を破壊しない限りこいつは決定打にはならない。

 

「方法ならあるよ」

 

理子?

エルと一緒に俺達の所に来た理子が言う。

 

「お前、体は?」

 

「クフ、心配してくれるなんてうれしいな。でも、大丈夫だよ。それより、魔臓同時破壊する方法ならあるよ」

 

「本当なのそれ?」

 

アリアがヒルダの足止めをしている秋葉の方をちらりと見て言うと理子は黙って頷いた。

そして、その方法を聞いた後、俺達は軽く打ち合わせをする。

その間にもヒルダと秋葉の戦いは続いていた。

 

「ちょろちょろとした蠅ね!」

 

雷球を生み出しながらヒルダがボールのように雷球を空に向けて放つ。

その先にいるのは風に乗り移動する秋葉だ。

 

「秋葉の周囲で雷球が爆発し猛烈な雷撃が周囲を照らすが今のところ間一髪でそれを秋葉は交わしつ受ける。

彼女が受けたのはヒルダを倒すことではなく時間稼ぎだ。

 

「せめて鳥ぐらい言ってもらえないですか?」

 

空中から腕を振るいかたいたちがヒルダの襲う。

ヒルダはどうぞご自由にというように目を閉じ右腕がちぎれ飛ぶがちぎれた部分は黒い影になり傷口は瞬時に再生した。

 

「ホホホ、鳥?ならカラスはどうかしら?」

 

「・・・」

 

秋葉はそれには答えずに拳を握り右腕を振りあげる。

 

「風牙!」

 

それを叩きおろすと竜巻が巻き起こりヒルダを飲みこんだ。

だが竜巻はばりばりと中心からの莫大な電撃により消し飛ぶ。

 

「今、何かしたかしらカラス?」

 

「小手調べです」

 

「ホホホ、そうかしら?大技ばかり使って逃げ回って随分苦しそうだけど大丈夫かしら?」

 

「・・・」

 

ただでさえステルスというのは燃費が悪い。

ヒルダのような特別な状態でない限りエネルギー切れは必ずやってくる。

まして、秋葉の場合、ここに来る前ステルスで全力で使って来たのに加えヒルダを抑えるために大技を連発している。

限界が近いのは明白だった。

だが、それでも・・・

 

「私は優君に頼まれました。あなたを押さえれば私たちの勝ちです」

 

「ゴキブリの知恵かしら?面白いこと言うわね」

 

「なんとでも」

 

再び攻撃態勢に入ろうとした2人だがその間に声を割り込ませる。

 

「秋葉!」

 

走りながら引くように名前を呼ぶと秋葉は牽制代わりにかまいたちを連発しつつ後退する。

 

「ゴキブリ!私を倒す算段がついたのかしら?不可能なことよ」

 

ヒルダが俺の方を見ている。

だが、お前の相手はまだ、俺じゃねえぞ。

俺と逆の方にキンジとアリアがかける。

 

「陽動かしら?何かの作戦かしら?無駄よ!」

 

雷球が2つ生み出され1つは俺の方、1つはアリアとキンジの方に飛んでいく。

 

「プレゼントよ!トオヤマ!アリア!」

 

「それは!」

 

「いわないわ!」

 

キンジのデザートイーグル、アリアのガバメントから一泊遅れて弾が発射される。

1つは雷球に激突した瞬間に、光を放ち消滅する。

虎の子の魔封弾の一つだ。

続けて一拍遅れての弾丸がヒルダに迫るがヒルダは腕を払い雷でそれを薙ぎ払おうとするが着弾寸前に無数の水の固まりとなりヒルダに降り注ぐ。

これも魔封弾の一つ。

ヒルダの雷をくぐり抜け圧縮された水球がヒルダの目を打ち抜く。

瞬時に再生するがヒルダが1歩後退するがその顔は目を潰された痛みに対する激怒を2人に向ける。

その隙に俺は理子から教えてもらっていたあるものの隠し場所に走り目的のものを手にヒルダの背後から全力でかける。

アリアの棺の花束の中に理子が隠していたひまわりの花束の中にあった銃身を短く切り詰めたウィンチェスターM1887。

ショットガン、ようは散弾銃さ。

 

「即死しねえ事祈ってるぜ」

 

俺の声にヒルダが振り返り驚いた顔をするが遅い!

ガウゥン

稲妻にも似た音を立てて空中で無数の弾子になってヒルダの体の全身に余すことなく浴びせかかる。

そう、ショットガンならどこに魔臓があろうと同時破壊が可能だ。

 

「あ・・・っ・・・ううう」

 

よろりよろりとヒルダが無数の弾丸を浴びた状態でよろめく。

やったか?

距離を取りながらヒルダを見るが

 

「ああ・・う・・・これは悪夢。だっておかしいもの!私が・・・こんな奴らに・・・こんな・・・ひどい」

 

再生は見受けられない。

ということは魔臓は破壊出来たんだ。

後は、逮捕するだけだ。

っておい!

よろよろと俺達から逃げるように後退していたヒルダが展望台の端から足を滑らせ落下していった。

駆けようとするが俺が端に到達したときにはヒルダは絶叫を浴びながら遠ざかり450メートル下の地面に叩きつけられた。

思わず叩きつけられる前に目をそらしたが魔臓を破壊された以上結果は言うまでもないだろう。

結局殺しちまったか・・・

次の相手ローズマリーを見るが展望台に奴の姿はない。

決着がついたと考えて引いたのか・・・

展望台ではエルが理子に理療を施そうとしているところだ。

 

「やったね。優」

 

「ああ、勝ったぞ理子。武偵憲章は破っちまったが・・・」

 

「優希悪いんだがここでは治療の施しようがない。すぐに彼女を病院に運ばないと」

 

会話もそこそこにエルが言ってくる。

そうだな

理子の手を肩に回しキンジに手伝ってくれと言ってから展望台を降りる階段に急ぐ。

アリアが携帯を取り出して救急車の手配をしているのを横目に理子の様子を見ると理子の顔色は悪い。

死ぬなよ理子。せっかくヒルダを倒して自由になれたんだ。

 

「がんばれ理子。病院に着いたらすぐに治療してもらうからな」

 

「・・・うん」

 

急ぐにせよ450メートル降りるのはつらいな。

秋葉に運んでもらう手もあるがガス欠寸前の秋葉には無理だ。

 

「優希、なるべく彼女に話しかけておけ。意識が途切れないように」

 

「分かった」

 

「ねえ。優希・・・私はこれで本当の理子に慣れたかな?」

 

「ああ、慣れたさ。だから、これからの人生は本当の理子の人生だ」

 

もう、ヒルダやブラドにおびえなくていい本当の・・・

 

「アハハ、想像できないや」

 

「ま、俺に協力できることならするから」

 

「・・・じゃあ、またデートしてくれる?」

 

「普通にでかけるだけなら付き合ってやるよ」

 

「本当?約束だよ」

 

「ああ」

 

階段まで後、少しまで来た時空が光った。

ドオオオオンと雷が近距離に落ちたのだ。

 

「きゃあああ!」

 

アリアが悲鳴をあげる。

スカイツリ―に落ちたわけじゃないようだが・・・

その瞬間、猛烈な殺気を感じてばっと振り返り理子をキンジに任せて瞬時に刀気を発動させ、殺気の相手に向ける。

黒い影が一瞬、空に見えズズウウンと音を立てて着地したそれは・・・

 

「グウウウウウ」

 

低く唸り声を上げ正気を失ったただ、殺戮のみを求める獣。

第2形態と言っていたヒルダの姿だ。

かろうじて目玉模様で判別はできたが明らかなに何かが違う異質。

ドクンドクンと胸に透けて見える心臓のようなものはなんだ?魔臓なのか?

 

「ぐあああああ!」

 

大気を振るわせるような叫びをあげヒルダが手を振るうと生み出された無数の雷撃が縦横無尽に第2展望台をかけめぐる。

幸い誰もの当たらなかったが先ほどとは比べものにならない力だ。

第3形態があの普通の姿のまま雷撃を伝える形態だとするなら今の姿は差し詰め狂戦士

 

「第4形態ですの」

 

ローズマリーがばさりと羽を広げてヒルダの後ろから上がってきた。

 

「第4形態はドラキュリアの全潜在能力を引き出す隠された形態ですの。もっとも、通常ではなりえない形態。お姉さまは死にたくないというので差し上げましたの」

 

差し上げた?何いってやがる?

ローズマリーはにこりと微笑みながら

 

「さあ、続きですの。お姉さまをどうぞ倒して道を切り開くか絶望してくださいな優希」

 

「があああああ!」

 

雄たけびをあげるバーサーカーと化したヒルダ。

秋葉はガス寸前。魔封弾もほとんどない。武偵弾もない。

こちらは満身創痍に近い状態。

そして、理子のタイムリミットはほとんどないはずだ。

不幸中の幸いかヒルダは死んでいない。

なら、俺の好きなこの武偵憲章を言う資格はあるだろう。

 

「武偵は諦めるな。決してあきらめるな」

 

そう、諦めない。こいつを倒して理子を救うんだ。

第4形態のヒルダ相手に最後の戦いを挑む!

勝つんだ!絶対に!

 

 

 




というわけでヒルダ戦原作にない部分に突入しました。
原作に第4形態ないだろですがローズマリーが何かしたのです。

ちなみにヒルダ第4形態はブラドの第二形態を更に凶悪化した感じです。
理性もないので…いや、優への殺意はありますがまさにバーサーカー!

次回でヒルダとの戦闘はおしまい予定。
戦闘はね。

さて、AAがアニメ化しますね!
1巻初版からアリアファンの私としては嬉しい限り!
もちろんAAも漫画も全部初版の大ファンです!
AAから緋弾のアリア2期を期待したい!
せめてシャーロック戦まではやってほしい!
その先から更に私は好きなんですけど流石にメヌエット出るまでは無理だな。
願いますけどね!

では!また次回に


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第234弾 死に際のプロポーズ

今回でヒルダ戦はおしまいです!
強すぎて嫌になるヒルダもおしまい!
さあ、第四形態を優達はどう倒すのか!
そして理子は!
どうぞ!


サイドヒルダ

 

死にたくない死にたくない死にたくない・・・

雷鳴が遠くに聞こえる。

450メートルの高さから落ちて生きているのはドラキュリアといえど奇跡としか言いようがない。

体中に空いた無数の穴。

魔臓は全て破壊された。

私は負けてみじめにこのまま死ぬのだろう。

嫌だ・・・まだ、死にたくない。

おかしいわ・・・なんで、私が地に落ちされ空を見上げているの?

なんで、私がこんな目に合うの?

理子・・あの女のせい?シャーロックを殺したトオヤマ?緋弾を持つアリア?

あの風使い?それともワトソン?

いえ、違うわ・・・全部あいつが悪い・・・椎名優希のせいだ・・・

あいつはことごとく私を邪魔して私を地に落とした。

憎い・・・憎い・・・あいつを殺したい・・・でも、私は・・・

 

「あらあら無様ですのねお姉さま」

 

横に立った影をなんとか目を動かしてみるとそこにいたのは形だけの妹・・・

 

「ローズ・・・マリ・・-」

 

「はいですの」

 

ローズマリーはにこりと微笑みながらしゃがみ込むと仰向けに倒れる私の顔を覗き込む。

 

「優希に負けましたのね」

 

「・・・」

 

「がっかりですの。もう少し絶望的な状況を演出してくださらないと困りますわ」

 

何を・・言ってるの?

そう言いたくても声が出ない。

 

「ねえお姉さま」

 

にこりとローズマリーは微笑んだ。

 

「死ぬたくありませんの?」

 

「死に・・たく・・・ない」

 

それだけは言えた。

無様と言われてもこれだけは・・・

 

「フフフ」

 

ローズマリーは手に持っていた黒いポーチから宝石のようなものを取り出した。

紫色に輝く怪しげだが綺麗な宝石だ。

 

「でしたらこれを差し上げますの。どうぞ、存分に暴れるとよろしんですの」

 

ローズマリーが宝石ごと手を振り上げそれを叩きおろす。

ぐちゅと内臓に異物が入った感覚と同時に全身に電流が走った。

 

「が・・あああ!ああああああああああ!」

 

全身が痙攣し体が肥大していく感覚。

第2形態?違うこれは・・・別の・・・

 

「あ!ああああああああ!ろ、ローズマリー・・・何を・・・あああああああ!」

 

「潜在能力解放ですの。傷も治り戦闘も可能。まさに、便利アイテムですの」

 

ビキビキと体の中の魔臓が動いているそれが1つになっていく。

 

「ああでも」

 

くるくると広げた黒い傘を回しながら彼女は楽しそうに

 

「理性はぶっ飛びますの。その真魔臓を破壊されるか死ぬまで暴れ続けてくださいなお姉さま。そして、優希に絶望をですの」

 

ふふふと無邪気な子供のようにローズマリーは笑う。

そして・・・

 

「ぐ・・うううう」

 

理性を失った化け物・・・いや、彼女には1つだけ感情が残っていた。

椎名優希に倒する憎悪だ。

 

「じいだ・・・ゆうぎいいいいいいいい!」

 

ばさりと黒い翼を広げた化け物は猛烈な勢いで空を飛んでいった。

 

ローズマリーも翼を広げながら

 

「フフフ、楽しみですの」

 

彼の絶望を願いながら彼女は笑う。

 

 

 

 

 

 

サイド優希

 

 

さて、どうするか?

目の前には第4形態とかいう化け物ヒルダ。

刀気で切りあえるとはいえ・・・

散弾銃の弾の予備は理子が隠していた場所にまだあり装填してキンジに渡してある。

もう1度散弾銃で魔臓同時破壊がベストだろうがあの、ヒルダの体の中央の巨大な心臓のようなものは魔臓とすればなぜ見える?

あれも4つのうちの1つなのかまた、別の・・・

そこまでしか考えられねえ!

ヒルダが憎悪の瞳で俺に突撃してきたからだ。

 

「がああああ!」

 

「っ!」

 

閃電と天雷をクロスさせ同時に刀気状態でヒルダの拳を受け止める。

ズンとすさまじい重力に押しつぶされそうになるがとっさに受けるのをやめ、受け流す。

ズンと拳が地面に叩きつけられる。

振動がスカイツリ―全体を揺らすかのような音があたりに響き渡る。

後方に少し下がるモーションから左手を前に右手を少し下げる。

弱点ぽいのためさせてもらうぜ!

 

「滅壊!」

 

新撰組直伝の突きを俺流のアレンジした技だが貫通能力では最強クラス。

ヒルダの透けて見える。中央の魔臓らしき場所に向けて繰り出す。

ギイイイイン

鋼鉄を突いたような感覚と手がしびれそうな感覚。

ヒルダの体に阻まれた。

なんつう固さだ!

 

「優君!」

 

秋葉の竜巻がヒルダに直撃するがヒルダは足の爪を立ててその場から動かない。

秋葉の風を耐えた!

 

「うがああああ!」

ぶんとヒルダの腕が振るわれる。

横殴りのその一撃を俺は天雷で後方に飛びながら受け流したが狙いは秋葉だった。

手から発せられたバリバリと猛烈な電撃が放射状に延び防御しようとした秋葉に直撃した。

 

「きゃああああ!」

 

秋葉の悲鳴が煙の向こうから聞こえる。

 

「秋葉ぁ!」

 

「優どけ!」

 

横からのキンジの声に俺はとっさに後退する。

 

「っ!」

 

ガウンと散弾が至近距離に接近したキンジから放たれるが弾丸は全て火花を散らして弾かれた。

皮膚がダイヤモンド並みに硬化してるのか?

驚くキンジにヒルダが腕を叩きつけようとしたが俺の横から弾丸のようにアリアがガバメントを連射しつつ叫んだ。

 

「キンジ!1度引きなさい!」

 

だが、ガバメントの弾は全て火花を散らすようにヒルダの体を貫通しない。

 

「くっ、弾が通らない」

 

ブンと再びヒルダが雷撃を放つがアリアはだんと横に飛んでそれを交わすがヒルダの追撃はやまない。

120%といっていた大きさの雷球を一瞬で5つ周囲に展開させるとアリアに向け放った。

逃げ場がないアリアは後退するしかないがその先は展望台の端だ。

 

「っ!?」

 

端に追い詰められてアリアが雷球を受ける覚悟をした瞬間

 

「アリアさん!飛んでください!」

 

「!?」

 

声に迷わず展望台から飛び降りるアリアを秋葉が風で飛びながらキャッチして離脱する。

雷球はそのまま雲に飛び込み轟音を立てて消滅した。

秋葉は無事か。

あちこち焦げており服もずたずただったが防御には成功したらしい。

 

「ありがとう。秋葉、助かったわ」

 

「いえ」

 

展望台に秋葉は降り立つが明らかに苦しそうだ。

秋葉の限界は近い。

秋葉に無理はさせられねえか・・・

 

「キンジ!時間がねえから単刀直入に言うぞ!俺が合図したら桜花で俺の背中の中央を殴れ!突きであの弱点ぽい魔臓に一撃入れる」

 

これはかけだがおそらく、あの中央の魔臓があのヒルダの莫大な力を生み出している。

散弾で破壊した魔臓が全部回復してたら終わりだが・・・

 

「桜花でか!?」

 

「心配済んな。背中のワイヤー装置を殴ればいい」

 

キンジの手には平賀彩特性グローブオロチがあるようだし手は砕けないだろう。

タイミングを合わせれば・・・

キンジも意図を理解したらしい。

ずんずんと歩いてくるヒルダの前で時間がない。

 

「行くぞ!優!」

 

「おう!1、2の3で行くぞ!」

 

ぐっと滅壊の構えと同時に足に力を入れる。

 

「1!」

 

「2!」

 

「「3!」」

 

背中に衝撃を受けるタイミングで同時に地面を蹴る。

マッハ1のキンジの桜花による加速。

そして、滅壊のマッハ1。

合わせてマッハ2の滅壊だ。

 

「ぐああ!」

 

ヒルダに叩きつける寸前ヒルダは両手を前に出したかと思うと放電を開始する。

構うな!いけ!

電流の固まりに刀気を纏った滅壊を叩きこむ。

だが、その瞬間に見えた光の壁に俺達の合体技は跳ねかえるように弾きかえれた。

嘘だろおい!これでも駄目か!

ヒルダはバリアのようなものを両手で展開したらしい。

電磁バリアみたいなもんだろうが・・・

 

「がああああ!」

 

ドオオンと雷がスカイツリ―の俺達の周囲に立て続けに落ちてくる。

冷や汗をかいたが直撃はしていない。

だが・・・

勝てない・・・こんな化け物どうすりゃいいんだよ

切り札に近い技も防がれた。

攻撃が通らないんじゃ・・・

 

「・・・」

 

エルに支えられ展望台の端で上半身だけを起こして俺を見ている理子。

そうだ、負けられねえ!理子のために絶対に負けられねえんだ!

折れそうな心に火を入れ天雷と閃電を構えてヒルダに対峙する。

 

「俺には!守らなきゃならねえもんがある!てめえなんかに負けてられねえんだよ!」

 

「ぐああああああああああ!」

 

ヒルダが咆哮し雷球を10個作り上げる。

さばきれるか?いや、さばき切る!

 

振り出された雷球をかわし、刀気を纏った刀で切りさき後2つと言うところで致命的なミスを知る。

しまっ!

11個目が10個目の真後ろにいたのだ。

避けられない位置だったがそう思った瞬間、雷球が爆発し、衝撃で吹き飛ばされる。

あち!

何箇所か火傷したが今のは武偵弾の炸裂弾か?

誰が・・・

 

「何を苦戦しているのですか?」

 

展望台の階段にいたのは1階で気絶したはずのリゼだった。

ぼろぼろだが普通に立ってるぞ。

 

「リゼ!優希達に加勢してやってくれ!」

 

「了解しましたワトソン」

 

たんと地面を蹴ると俺の横まで達小太刀を抜く。

気絶から回復したから後を追って来たのか

 

「悪いな助かる」

 

横に並んだリゼを見ると笑みがこぼれるな。

こいつには苦しめられた分味方になったのが心強い

 

「誤解しないよう。私はワトソンの頼みを聞くのです」

 

「へっ、そうかよ」

 

それを合図に俺とリゼは逆側に走った。

ヒルダを挟撃する形だ。

リゼは小太刀を構えつつ短機関銃をばらまきながらヒルダに接近する。

 

「がああああ!」

 

電流の嵐がヒルダの周囲を埋め尽くす。

 

「なるほど、厄介ですね」

 

リゼは電撃を見えているように信じられないような速度でかわしつつ懐から何かを取り出すとヒルダに投げつけた。

それはぱりんと割れヒルダの頭にかかった。

 

「ぎ、ああああああああ!」

 

ヒルダの頭から煙のようなものが上がったかに見えたがそれは再生されてしまった。

だが・・・

 

「硫酸です。どんな装甲だろうと皮膚である以上効くようですね」

 

硫酸か、えげつないもんを容赦なく顔にとか・・・

怖いな

 

「飛龍二式!双雷落とし!」

 

リゼの硫酸で苦しんでいるヒルダの上部に飛ぶと上段から最大の2刀の叩き落とし。

ずぶりと頭に刀が僅かにめり込んだ気がしたが弾かれてしまい後退する。

双雷落としでも駄目か・・・

緋刀さえ使えれば装甲なんて関係なく貫けるのに・・・

 

「さてどうする?」

 

再び後退してきたリゼに聞いてみる。

 

「あれだけのエネルギー。まともな手段で得ているとは思いません」

 

「ていうと?」

 

「あのヒルダの透けている魔臓。あれさえ破壊すればあるいは」

 

「どうやって?最大の攻撃は弾かれたんだぞ」

 

「知りません。あなたが考えてください」

 

つまり、リゼにも現状打つ手なしってことか・・・

 

「3分だけ持たせます。その間に作戦を」

 

「あ!おい!」

 

だんとリゼが疾風のようにヒルダに攻撃を仕掛ける。

その攻撃はまさに、嵐のようだが決定打がない以上いずれ、押し負けるのはリゼだろう。

リゼがくれたこの時間で奴を倒す手段を考え付くんだ。

キンジ、アリア、秋葉、理子、エルと同じ場所に行き作戦を考える。

 

「厄介なのはあの、皮膚の固さと電磁バリアだ」

 

「だが、優あいつは俺達の合体技をバリアで防いだってことは皮膚の固さには有効だったんじゃないのか?」

 

「かもしれねえ。だが、電磁バリアをなんとかしないと通らないぞキンジ」

 

「そうだな・・・」

 

「アリア、緋弾は使えないのか?」

 

あれならもしかしたらという可能性はある。

だがアリアは首を横に振る。

 

「無理よ。出し方が分からない。優も緋刀はもう無理なの?」

 

「無理だな」

 

即答だ。

現状の体力ではもう、アリアの血を飲んでもおそらくぶっ倒れて終わりだ。

そう、全員体力も限界が近い。

1つだけ手はあるがあれが破れれば全てが終わりだ。

リゼが押し負けて作戦もないまま戦っても俺達は・・・

 

「電磁バリアは・・・多分だけど・・・連続した負荷に・・・弱いよ」

 

理子・・・毒が完全に回ってしまうのも近い。

この3分だって本来ならとるべきじゃない。

だが・・・

 

「理子、喋らないで!あんた毒が・・・」

 

「クフ・・・アリア私の心配してくれるんだ?」

 

「いいから黙りなさいよ!」

 

「黙らないよ・・・ヒルダが・・・昔、電磁バリアを試してるの見た事あるんだ・・・電磁バリアは張るだけで相当な負担がかかるみたいで長くははれないから実戦じゃ使えないと思ったんじゃないかな・・・耐えられる攻撃の・・・回数にも・・・限界が・・・」

 

はぁはぁと理子は苦しそうに言う。

これ以上喋らせるわけにはいかない。

だが・・・理子のおかげで勝機は見えた。

 

「サンキュー理子。勝機が見えたぜ」

 

「うん。信じてるから・・・」

 

「ああ」

 

俺は頷くと作戦を全員に通達する。

 

「それにかけるしかないか」

 

キンジが頷いて立ちあがる。

全員が頷き

理子とエル以外が立ち上がり俺は腕時計に向かって叫んだ!

 

「こい!烈風!」

 

スカイツリ―の端まで走りそこから飛び降りると京菱のトラックの中で待機し、飛んできた京菱重工製試作型PAD烈風に体を固定させる。

その見た目はレキと共に空を飛んだ時のスマートな印象からはかけ離れずんぐりとした大きさのものとなっている。

ヘルメットをかぶり視界の情報がバイザーに表示される。

 

「椎名君。君の要望通りの兵装だ」

 

ヘルメット越しに入ってきたのは京菱の烈風の開発主任天城さんだ。

 

「ありがとうございます。ちゃんと6門ですね」

 

「我々だけでは1門が限界だった。だが、京菱のお嬢様が力を貸してくれてね」

 

「ありがたいですね」

 

「力を貸す代わりに撃つ瞬間に音声を叫ぶ事を強要させられた。いいかな?言うよ」

 

天城さんからそれを聞いてそんなことならお安い御用だとスカイツリ―上にのヒルダがいる場所の高度まで飛ぶ。

射線から仲間を外してか。

 

「リゼ!」

 

俺が叫ぶとぼろぼろになりながらなんとか押さえてくれていたリゼが後退する。

射線外だ!

ヒルダが俺を見上げ何かを察したのか両手を前に出して電磁バリアを展開させた。

これで駄目なら本当に打つ手なし!最後の賭けだ!

全弾持ってけ

ピーとヒルダにロックオンされた音を聞いてすべての銃身がヒルダに向く。

そして俺は叫ぶ!

 

「PAD烈風ショータイム!」

 

叫んで引き金を引いた瞬間、PAD烈風に搭載された6門のM134ミニガンが一斉に火を噴いた。

分速3000発。秒速100という7.62ミリ連装機関銃6門の恐ろしいまでの轟音と閃光と共にヒルダの電磁バリアに分速3000の7.62ミリ×51ミリNATO弾の嵐を叩きつける。

その光景は流星群のようだ。

 

「ぐううう」

 

ヒルダが1歩また1歩と下がっていく。

この烈風の装備はヒルダを最後にどうにもならなくなった時、魔臓ごと消し飛ばすために天城さんに頼んでおいた烈風のバリエーション烈風D装備。

ミニガン、別名無痛ガンの情け容赦ない弾丸の嵐で魔臓をまとめて薙ぎ払うためのものだ。

烈風がミニガンの発射の勢いで後退しそうになるが背部のノズルからの推進力でそれを押しとどめる。

見る見るうちに弾数を示す数字が減っていくが伊達にデブ装備じゃないぞD装備はチェーンガンを撃ち続けるために弾を収納するスペースが設けられてるんだよ!

夜の闇の中に火を吹いているようにしか見えないすさまじい弾丸の嵐にヒルダが咆哮した。

 

「が、があああああ!」

 

バリインと砕けるようにヒルダの電磁バリアが消滅した。

恐ろしいまでの負荷に電磁バリアを維持できなくなったらしい。

これが最後にして最大のチャンス!

丁度、ミニガンの弾数が100を切った。

 

「PAD烈風!D装備パージ!」

 

叫ぶと烈風のD装備のミニガンの弾倉部分や余計な部分が強制的に排除され落下していく。

残されたPAD烈風は鎧のような背部の推進ユニットのみ

背部から噴射しキンジ、秋葉の元に降り立つ。

 

「行くぞ!」

 

「はい!」

 

秋葉、キンジ、俺という順番で並ぶ。

閃電と天雷を構えると同時に秋葉の暴風がキンジの背後から恐ろしいまでの速度でぶつかる。

桜花の構えを取っていたキンジはそれを俺の背部、つまり、烈風の背後に叩きつける。

秋葉の暴風でマッハ1、キンジの桜花でマッハ2、そして!

 

「うらああああ!」

 

烈風の最大出力の推進力そして、2刀の突き双滅でマッハ4の破壊力。

 

音速の4倍の速度で振るわれた攻撃!

ヒルダの化け物じみた姿がみるみる迫ってくる。

 

「じい・・・だ・・・ゆう・・ぎいいいい!」

 

憎悪に満ちたその感情を受けながら俺は思った。

いい加減に沈みやがれ!

そして叫ぶ

 

「桜花烈風砲!」

 

稲妻のように突っ込んだ俺の・・・いや、俺達の合体技がヒルダの腹の魔臓に激突する。

そして、それはヒルダの硬化した皮膚を貫き中央の魔臓を貫いた。

 

「あ?」

 

後ろにぶっ飛びながら化け物とかしたヒルダはありえないというように空中で俺を見た。

そして・・・

 

「あ、ああああああああああ!」

 

柱に激突し柱が少し折れ曲がるがヒルダはずるずると床に滑りやがてどさりとその巨体を床に沈めた。

周囲には血溜まり。

 

「はぁはぁ・・・」

 

左膝をついて天雷と閃電を杖代わりにしてヒルダの動向を探る。

もう、動けねえ。

これで動かれたら勝ち目なんてねえ・・・

すでにぶっ倒れそうな状態だし足も笑ってる。

今の攻撃で全てを使いきった。

だが、心配は無用だったらしい。

ヒルダの体から白い煙が立ち上りその姿は人間と同様のものに変わっていく。

そして、煙が張れるとそこには一糸まとわぬヒルダの姿があった。

血だまりに倒れる彼女はピクリとも動かない。

勝った・・・

このまま、ぶっ倒れたかったがローズマリーは?

 

「残念ですの」

 

こいつが戦闘に加われば全て終わり。

秋葉が横で倒れていくのが見えた。

力を使い果たしたんだろう。

キンジも立ってはいるがぼろぼろに変わりない。

それは全員同じ。

その視線にローズマリーは気付いたのかにこりと微笑んだ。

 

「心配ありませんの優希。今日は引きますわ」

 

「そりゃ、どういうことだ?俺達を倒せるチャンスじゃないのか?」

 

「お姉さまが負けた時点で終わりですの。これ以上は闇の公務員が厄介しますの」

 

つまり、ヒルダが負けた時点で俺たちに戦いを挑めば公安0が出てくる。

これだけ、暴れまわってスカイツリ―も傷つけたんだから当然といえば当然か。

 

「ですので。今回は終幕。ばいばいですの優希。また、会いに来ますわ」

 

ばさりと翼を広げ空へ飛び立つローズマリー。

遠ざかっていくが追撃する力はない。

それを見届けるより先に俺は走った。

 

「理子!」

 

戦闘は10分以上立ったはずだ。

だからもう・・・

 

「もうすぐヘリが来る!」

 

エルが叫んでいるが待ってる時間が惜しい

 

「俺が運ぶ!」

 

「ゆ、優!」

 

アリアが叫ぶが俺はぐったりして目を閉じている理子をお姫様だっこしスカイツリ―から飛び降りる。

烈風で飛行し目指すのは武偵病院だ。

バイザーからエルが受け入れの準備を整えていると連絡が入る。

最大だ!速度もっとでろ烈風!

早くしないと理子が!

烈風なら数分でつくはずだがその時間が永遠に思えてくる。

ヒルダとの戦いで不具合が出たのかスピードが思ったより出ない。

くそ!くそ!くそ!

 

「ゆう・・・き・・」

 

か細い声だったが確かに聞こえた。

 

「理子!今、病院に連れてく!がんばれ!」

 

「ヒルダに・・・勝ったん・・・だね」

 

「ああ!ブッ飛ばしてやったぞ!みんなの協力でな」

 

「フフ、しんじて・・・たよ。優希・・なら・・・勝ってくれる・・・って」

 

「今度こそ本当の自由だ。遊びにでもデートでも付き合ってやる!だから頑張れ!」

 

「うれしい・・・な」

 

理子の顔は毒が回りきったように見える。

もう、間に合わないんじゃいのかという嫌な予感がする。

いや、考えるな!病院に急ぐんだ!

 

「最後に・・・ひとつ・・・わがまま・・・いいかな・・・」

 

空の闇は晴れ眼下には停電から復旧した東京の街灯り、そして、空には月と星空。

その下を俺達は飛ぶ。

 

「最後なんて言うな!何してほしいんだよ?」

 

「ずっとね・・・うらやましかったんだ・・・レキや・・・信冬の2人・・今回はリゼって子も・・・」

 

「何をいって・・・」

 

「私・・・優希と再会してうれしかった・・・最初は・・・憎んだけど・・・やっぱり・・・理子のヒーローで・・・ブラドの時も・・・今回も助けてくれた理子の王子様」

 

「そんなこと当たりまえだろ。俺達は・・・」

 

友達なんだからと言おうとしたが理子の言葉に遮られる。

 

「ウェディングドレス・・・来たときね・・・ああ、これを着ることはないんだろうなって・・・思った・・・でも、もし着ることがあるなら・・・私は優希と・・・だからね・・・理子の最後のお願い・・・」

 

必死に目を開けようとしているがその声はもう、本当に小さいものだ。

くそ!病院はまだか!

 

「私と結婚してください」

 

どきんと心臓が跳ねた気がしたレキが言って来たあの時とは違う真剣な死に際の言葉。

真実の言葉だ。

軽々しく答えていい場面じゃない。

だが、自然とその言葉は出ていたんだ。

 

「分かった。だから死ぬな絶対にだ」

 

「・・・約束・・・だよ」

 

理子は・・・本当にうれしそうに笑顔で目を閉じた。

 

「理子!おい!理子!」

 

理子は答えない。

眼下に武偵病院の灯りが見えてくる。

屋上のヘリポートには看護師や医師、アリスがここだと手を振って待機している。

降下しながら俺は叫んだ

 

「死ぬな理子!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第235弾 新しい未来

ヒルダ編完です


『サイドアズマリア』

 

武偵達とヒルダの戦いは武偵達の勝利で終わった。

見守っていたものは第4形態が現れた段階でほとんどのものは武偵達の敗北を予測したがその予想は見事に裏切られたのだ。

 

「へぇ」

 

負傷した仲間を病院に運ぶPADの影を遠くに見ながらアズマリアはビルの屋上でつぶやいた。

 

「ただの理想ばかり並べる口だけ男じゃないんだね。希ちゃんの弟は」

 

指を唇にあてながら私は彼に少し興味を覚えた。

椎名優希への興味は水月希の弟というただそれだけ、町で出会わなければあえて構う気もなかった。

会えば話をし、馬鹿な理想主義者の口先だけの男。

それがアズマリアの優希に対する評価だった。

だが、彼は仲間と共にそれを実現した。

だが、1つだけまだ彼の信念は貫けていない。

 

「峰理子は大丈夫かな?ヒルダを倒すの時間かかり過ぎてゲームオーバーじゃないといいね。優希君」

 

もし、峰理子が生きていれば優希の信念は貫けるだろう。

だが、死なせてしまえば彼の信念は曲がる。

 

「どうしようかな?峰理子が生きてたら遊んでみようかな?」

 

卷族で次に彼らに手を出すものがいなければ・・・

そう考えてアズマリアは考えるのをやめた。

 

「そろそろ帰ろうかな。夜中だし」

 

ふああと緊張感のないあくびをしたアズマリアはその場から立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

サイド優希

 

 

烈風で理子を運んでから30分が過ぎた。

アリスを始めヘリで合流したエル。アンビュラスの矢常呂イリン先生が手術室に入り理子の解毒に当たっているが俺に出来ることは祈ることしかない。

頼む。間にあってくれと祈りながら・・・

だが、それは手術室の手術中のランプが消え中から出てきたみんなの顔に心臓が跳ねる。

 

「どう・・・なんだよ」

 

矢常呂先生は目で後は任せると言うように立ち去ってしまうので近くにいたエルに詰め寄る。

エルは俺の視線から逃れるように顔を背け

 

「すまない・・・」

 

ただ、その一言・・・一番聞きたくない言葉を

 

「手の施しようがない。時間がかかりすぎた」

 

「!?」

 

手術室に飛び込み最初に目についたのは横になっている理子だ・・・

目を閉じてピクリとも動かない。

心電図はピーと横一直線で波は起こらない。

ドラマで見た事がある。

死んでる人間がこの状態・・・

 

「ざけんな・・・」

 

せっかくヒルダを倒したんだぞ・・・

あれだけ苦労して苦労してお前を助けようとしてこれはなんだ・・・

 

「ふざけるな!ふざけんな!」

 

手術室の壁を力任せに殴りつけるが理子は・・・

 

「毒が完全に回りきって手遅れでした・・・どんな名医でも理子先輩を救う事は・・・」

 

アリスが後ろで何かを言っている。

だが、俺にとって理子を救えなかったことに変わりない。

 

「ハハハ、またかよ・・・また・・・」

 

何が殺してでも仲間を守るだよ・・・全然だめじゃないか俺

なあ理子・・・お前最後だって分かってたのか?

だから、あんなこと言ったのか?

 

「・・・」

 

背後でエルが離れて行く気配がし手術室の扉が閉まる。

部屋には俺とアリスの2人だけになった。

 

「1つだけ・・・理子さんを助ける方法があります」

 

「っ!」

 

アリスの方を振り返りその肩を掴む。

 

「教えてくれ!どうしたらいい!どうしたら救える!」

 

「緋刀です。お兄さんはレキ先輩をどう助けましたか?」

 

「レキの時の・・・」

 

そうかあの方法なら理子を・・・

 

「あれから調べた所、お兄さんがレキ先輩を助けられたのはレキ先輩が撃たれた前の時間に戻したからです。理子先輩にもそれをすれば・・・」

 

緋刀は時間に干渉することができるってことか?

 

「ですが、今回の理子さんの場合。ヒルダに毒を撃ちこまれる前に戻すわけですからレキ先輩の時とは比べ物にならない代償が必要になると思います」

 

「・・・」

 

思わず左目を抑える。

カラコンで黒いままだが俺の左目はアリアと同じカメリアの色になっている。

今回、理子のために緋刀を使えば進行するのは免れないだろう。

完全に進行すればどうなるかは誰にもわからない。

だが・・・

 

「それでも俺は理子を救う。そこまで言うんだ。アリアの血を持ってるんだろ?」

 

「医者の卵の立場からお勧めはしません」

 

そう言いながらもアリスは白衣のポケットからアリアの血が入った瓶を出してくれる。

 

「すまねえな」

 

アリスから瓶を受け取り理子に向き直る。

体力はヒルダ戦のせいでぼろぼろだ。

緋刀状態になってぶっ倒れてもおかしくない。

だが・・・

 

「・・・」

 

瓶を開けて一気に口の中に流し込む。

吐き気のするような味の後急激に心臓が跳ねた気がした。

 

「うっぐ」

 

焼けるような熱が体の底から湧きあげる感覚。

そして視界が暗転する。

目を開けた時、前にいたのは俺の女装したような顔のスサノオ。

暗闇の空間でレキを救う時の前にように対峙する。

 

「もう一度あの力がいる。力を貸してくれ」

 

「君が望むなら私は力を貸そう。だが、この力を使うという事はどういうことになるのかもう分かるだろう?」

 

「この左目みたいな代償がいるんだろ?別に目が潰れるわけじゃないんだ」

 

「もし、やめろと言っても君は今は効かないだろう。なら、私は力を貸すことを選択する」

 

「ありがとうスサノオ」

 

「では、答えてもらおうか?君にとって峰理子はどんな存在だ?」

 

理子は・・・小さいことから知っていてようやく、ヒルダ達の呪縛から解き果てた。

俺にとって・・・

 

「大切な友達だ」

 

「また、60点だな。まあ、いいさ」

 

スサノオが右手をかざすとブラックアウトしていた視界が戻ってくる。

見ると両手が緋色に光ってるな。

いや、体全体が緋色に輝いているのか?

 

「・・・」

 

理子の体に手を置くと目を閉じる。

その技の名は今度は自然に出てきた。

 

「緋刀秘儀黄泉返し」

 

緋色の光が理子の体を包み込んでいくのを感じながら再び意識を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

サイド理子

 

花が咲き乱れるその場所を私は歩いていく。

空は白く前にあるのは川だ。

三途の川ってやつなのかな?

ああ、そうか・・・理子死んじゃったんだ

ヒルダの毒にやられて・・・

でも最後に優希に想いを伝えられた・・・

悔いがないといえば嘘になるけどお父様やお母様の所に行けるんだ・・・

ブラドにめちゃくちゃにされた時期もあったけど最後は理子は解放してもらえた・・・

あの川を渡れば昔みたいに暮らせるのかな・・家族で・・・

 

「そこに入るのはまだ、早いよ理子」

 

え?

顔を上げると川の向こうに2人の人影が見える。

 

「っ!?」

 

思わず泣き出しそうになった。

だって川の向こうにいたのは・・・

 

「お父様・・・お母様」

 

2度と会えないと思っていた理子の家族その2人が川を挟んだ向こうにいる。

 

「久しぶりね。大きく、そして、綺麗になったわ。理子」

 

 

「お父様!お母様!」

 

駆け寄りたい衝動に駆られるが足が動かない。

 

「ブラドの一族を倒したそうだね。ずっと見てたよ」

 

「うん、優希やみんなのおかげで勝てたよ。でも、理子死んじゃったんだ・・・」

 

「あなたはまだ、死んではいないわ」

 

「え?でもここは・・・」

 

「ここは、生と死の境目だ理子。今ならまだ、戻れる。それに聞こえないか?お前を呼ぶ声が」

 

何かが聞こえた気がした。

振り返ると花一面の向こうの方から声が聞こえてくる。

 

「理子!どこだ理子!」

 

あの人の・・・優希の声だ・・・

 

「帰りなさい理子。お前はまだ、こちらに来てはいけない」

 

「で、でも・・・」

 

死に別れた両親がそこにいる。

このまま、川を渡ればずっと一緒にいれるのだ。

 

「あなたのことはずっと見守っているわ」

 

ぐんと後ろに引っ張られる感覚。

緋色の光が背後から照らす

待って、まだ話したいことが山のようにある。

でもそれが言葉にならない。

涙が頬をつたって視界が歪む。

 

「大好きだから!お父様!お母様!見守ってて!」

 

やっと言えたのはそんな言葉。

2人の姿が霧のように消えていく中最後に見た2人は娘の成長を本当にうれしそうに見る姿だった。

その顔は理子が大好きだった父親と母親の笑顔だ。

そして、私の体は緋色の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

目を開けると見えたのは白い天井だ。

私は夢を見ていたのだろうか・・・

体を起こすと風がカーテンを揺らす。

横を見るとあの人が・・・隣のベッドで優希が眠っていた。

また、助けられたね。

ヒルダの毒で死ぬ寸前だった私を助けてくれたのはやっぱり優希だった。

いつだって、優希は私のヒーローだ。

 

「ありがとう」

 

誰もいないのでお礼を言う。

そして、次の瞬間自分がとんでもないことを言った事を思い出したがくすりと笑みが浮かんで唇に手を当てた。

彼はどう言う反応をするんだろう?

どう言う答えを返してくるんだろう?

知りたいな。

でも怖い。

そんなことを考えながら私はベッドから降りた。

体は驚くほど軽い。

まるで、戦いなんてなかったように快調だ。

優希の顔をもっとよく見ようとして近づこうとした瞬間、背後の扉が開いた。

 

「目が覚めたかい?」

 

白衣を着たエル・ワトソンだった。

 

「体に異常はないかい?一時的には危篤状態だったんだ」

 

「おかしな所はないよ」

 

「そうか。驚いたな。優希は何をしたんだ?」

 

2人してベッドに眠る優希を見るが彼は死んだように動かない。

呼吸をしているのは分かるから眠っているだけだろうが・・・

 

「優希は当分起きないだろうね。昨日はぶっ続けで強敵と戦い最後には相当無理をしたと優希の担当医から聞いている。ようはエネルギー切れだよ」

 

まったくとワトソンは友達の行動にあきれるように微笑みを浮かべた。

 

「そういう人だから」

 

自然と微笑みがこぼれてしまう。

彼は理子のために戦ってくれたのだ。

無茶して死にかけてそれでももがき続けて得た勝利。

アリアやキ―君にも感謝しているけどやっぱり、優希の行動が特別にうれしい。

 

「さて、話は変わるんだがヒルダのことだ。遠山達には話しているがヒルダは今、死にかけている。原因は彼女輸血する血液がないことだ。シンガポールにはあるが取り寄せるのに2日、そして、ヒルダはこの昼を越せないだろう」

 

放っておけばヒルダは死ぬ・・・

私たちをずっと苦しめてきたあの女が・・・

でも、なぜかざまあみろと思えなかった。

 

「ヒルダと理子の血液型は同じだよ。矢常呂先生に聞いた。命とは尊いものだ。僕は医師だからどんな悪党の命でも見殺しにはできない。だが、僕は君に献血を強制はしないよ。戦役に参加して敗北したものは死ぬか敵の配下になるのが暗黙のルールだがヒルダはそれに従わないかもしれないからね」

 

見殺しにはできる。

だが、ヒルダはイ・ウーにいた事もあるしアリアの裁判の結果には少なからず影響を与えられる人物だ。

それに・・・

優希を私のために再び人殺しにさせたくなかった。

だから

 

「いいよ。採れば?」

 

そう言って私は腕をワトソンに差しだす。

 

「ありがとう」

 

そう言ってワトソンは用意していたらしい道具を取りだした。

私が未来を手に入れた。

その道に進むのにいきなり人殺しになるのは救ってくれた優希に申し訳ない。

採決の準備をするワトソンから目を離し、眠る優希に私は自分がとんでもないことを言った事を思い出した。

顔が赤くなるがそれでも私は心の中で思う。

 

(ありがとう優希。私のヒーロー・・・大好きだよ)

 

 

ヒルダ編完

 




というわけでヒルダ編はこれでおしまいです!
次回事後処理のような話をしてから話の最期に次章のメインヒロイン登場にて新章突入です。
優が電話を切っちゃたあの子です(笑)

そして、理子との関係は変わるのか!電話切っちゃたあの子は大変だぞ優w

さあ!いよいよオリジナルですよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第236弾 波乱の来訪者

ここから新章!信冬編です


終わりよければ全てよしという言葉がある。

理子に黄泉返しを使ってぶっ倒れ起きたら全部終わってたんだからな。

あと後、丸3日眠り続け起きたら病室には誰もおらず、アリスに簡単に検査された後、追い出されるように武偵病院を後にした後は土方さんに司法取引の書類書きにこいと呼び出され散々絞られた。

ヒルダの停電のせいで損失が恐ろしいことになってしまい少なからず日本経済に影響を洗えてしまったがまあ、それは半分以上はヒルダのせいなので司法取引でおとがめなしだ。

そうそう、ヒルダと言えば死にかけたところを理子に輸血してもらい命を取り留めたらしい。

散々いじめてきた理子に命を救われた事で2人の関係性も変わるのかもな・・・

理子とはあれから会ってないがあいつもこれから新しい人生を歩んでいくんだろうな・・・

で、司法取引の後俺が向かったのは成田空港だ。

 

「リゼ!」

 

空港のロビーをからからとキャリーバッグを引いている後姿を見つけ声をかけると表情も変えずにリゼが振り返った。

 

「どうしてあなたが?」

 

表情は変わらないが少しばかり意外そうな感じだな

 

「エルのメールで知ったんだよ。行くのか?」

 

エルからメールを確認したのもそんなに前の事じゃない。

ただ、リゼが日本を離れることと時間が書かれていただけだ。

 

「私は万が一のための保険でしたのでもう、日本に用はありませんので」

 

リバティーメイソンという組織に属しているリゼは俺と違い一か所で学生ばかりしているわけではないらしい。

ある意味では、俺やエルよりもプロという立場なのだろうな。

 

「そうか、今度はどこ行くんだ?」

 

「一度イギリスに戻ってからフランスに行きます。あそこは卷族と師団の激戦地ですので」

 

「そうか・・・まあ、お前とは色々あったが残念だな」

 

俺がそう言うとなぜかリゼが首を少し傾げた。

 

「あなたとは険悪な事ばかりだった気もしますが?なぜ残念なんですか?」

 

「最後に助けてくれただろ?ヒルダとの戦いでお前が時間稼いでくれなかったら俺達は多分負けてた」

 

「あれはあなたの呆れた諦めの悪さが導いた結果ですよ。私は最後にちょっと手助けしただけ」

 

「それでもこれだけは言いたかったんだありがとなリゼ」

 

そう言って俺は握手を求める。

リバティーメイソンは師団につくことをエルが言った。

なら、これからリゼは戦役が終わるまで心強い戦友になる。

だが、それ以外にも俺はリゼに多くの感謝をしていたんだ。

 

「あなたは・・・」

 

リゼは俺の手を見て何かを言いかけたのをやめるようにして、目を少し閉じちょっとだけ口元を緩めると

 

「馬鹿ですね」

 

そう言って握手に応じてくれた。

でもおい・・・

 

「へっ、馬鹿ってひどい言い方だな」

 

「馬鹿には馬鹿としかいいません。ですけど、好意をもてる馬鹿です」

 

「なんだそりゃ?」

 

「椎名優希」

 

「優でいいぞ」

 

「では、優。これから、戦役は更に苛烈になっていくと予想できます。せいぜい死なないことですね」

 

「心配してくれてるのか?」

 

「一応、婚約者ですので」

 

あ、やばい忘れてた・・・

 

「い、いやリゼその婚約者って話も結局は演技だったわけだろ?その・・・」

 

「そうですね。あなたの周りには私がいる必要はないでしょう。それに私は女性関係にだらしない男は嫌いです」

 

「だらしないのか俺?」

 

告白したこともなければ自分からキスしたこともないんだが・・・

いやまあ・・・アリアのあれは例外といえば例外だけど

 

「ええ、とってもだらしないですね」

 

ちょっと、ショックな気もするが一理あるもんな・・・

婚約者がぞろぞろ増えてる現状見る限り

 

「いつか回りの女性に呆れられて1人ぼっちになるパターンですね」

 

それはそれで悲しすぎる。

 

「ですがまあ」

 

くるりとリゼは背中を向けて歩き出し上半身を傾けて俺を見ると初めて見る笑顔を俺に向け

 

「全員に捨てられたら私が結婚してあげますよ」

 

「へっ?」

 

言う事を言うとこつこつとリゼは振り返らずにゲートを潜って俺が入れない場所に行ってしまう。

その背中を見つめながら俺は親しみを込めて言った。

 

「またなリゼ」

 

また、いつの日か会おうぜ。

今度は仲間・・・いや、友達としてな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リゼと別れを済ませて数時間後

何かを忘れていると思った。

何だろう?とんでもないことを忘れている気がするんだが・・・

スサノオに言われた緋刀の侵攻は今のところ見られない。

時間差でやってくる可能性はあるが心配し過ぎだったのかもな・・・

 

「ん?」

 

着信か?信号が赤なのを確認してスマホを取り出す。

 

「げっ!」

 

着信67件

メール81件

誰だよと思うとキンジだった。

お前はストーカーかと半分切れながら着信に出ようとしたが信号が変わりそうになるので保留する。

どうせ、寮だろ?5分もかからん。

このまま帰ったほうが早いと判断し隼を発進させ寮に滑り込む。

再び着信がなったので寮の階段を上がりながら

 

「ストーカーかお前は!」

 

半分切れて出ると

 

「私はストーカーなんですか?」

 

げ!秋葉!

どうせキンジだろうと思って出たんだが秋葉が電話してきたらしかった。

 

「優君が退院したと聞いたのでそちらに行こうと思っていたんですがストーカーには来てほしくないですよね?」

 

「いやいや!違うぞ秋葉!ストーカーはキンジだ!」

 

「キンジ君が?優君のストーカーなんですか?」

 

まあ、何の用か知らんがキンジがやってるのはそれに近いんだからこの際悪人になってもらおう。

 

「ああ、着信やメールをばんばん送ってきて迷惑な奴だ」

 

「嘘が下手ですね」

 

信じてくれてないし・・・

 

「嘘じゃないんだがな・・・と、とにかく理子の件ではいろいろ苦労かけたな秋葉。助かった」

 

「いえ、理子さんは私も助けたいと思ってましたから」

 

そうだよな理子は秋葉にとっては数少ない友人だ。

友達のためになんとかしたいという気持ちは秋葉の中にずっとあったんだろう。

 

「救えてよかったよ」

 

「はい」

 

ぼろぼろのぎりぎりの勝利だったわけだが救えたことに変わりない。

 

「ところで秋葉この後、暇か?」

 

階段を上がりきりこつこつと部屋の前にやってくる。

鍵を探しながら

 

「はい、暇ですが」

 

「理子の件でいろいろ助けてくれたしな。なんかおごってやるから外に行かねえか?」

 

「それはデートのお誘い・・・ですか?」

 

がちゃりとドアを開けながら

 

「デート?そりゃ・・・」

 

違うだろと言おうとして固まる。

ぴきりと空間が凍りついた気がした。

だって部屋の玄関にいたのは・・・

 

「こんにちは、優希。どちらの女性をデートにお誘いですか?」

 

にっこりと行儀よく正座した山梨武偵校の制服ではなく東京武偵校の制服を着た信冬がそこにいたんだ。

 

「今日から東京偵校に転校。そして、こちらに住まわせていただきますね優希」

 

もうだめだおしまいだ。

心の中で俺は地面に膝をついて頭を下げた。

 




というわけであの子がついに山梨を飛び出して東京に転校してきました!
しかも、今回は初代婚約者!優の小さな頃からの知り合い信冬です。

秋葉メインは次回オリジナルをまって下さいね。

さあ!優に逃げ場はもうないぞw
そして、久々のオリジナル頑張ります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第237弾 家出して来ちゃいました

もはや見てる人いないかもしれませんがようやくオリジナルの構想が固まりました!
遅れて申し訳ありません


これはまずい!非常にまずいぞ!

 

「優君?どうしたんですか優君?」

 

固まる俺だが携帯からは秋葉の声が聞こえてくる。

信冬がすっと動いて固まる俺の手から携帯電話を手に取ると

 

「突然失礼します。私、椎名優希の知り合いの武田信冬と申します。優希が固まってしまったため後ほどかけなおしていただきますか?」

 

ちょっ!慌てて手を伸ばそうとするが後の祭り!

 

「信冬様?」

 

「そういうあなたは優希の近衛ですね。ならば話は早いですね。後ほどかけなおすように」

 

「あ・・・」

 

秋葉の返事も待たずに信冬は電話を切ってしまう。

そして、俺の方に顔を向けると

 

「跡取を残すという言う意味で近衛に手を出す椎名の人間は過去にいましたが優希は随分と近衛の子と仲がいいんですね」

 

「そ、そりゃ秋葉は近衛であると同時に俺の友達でもあるからな」

 

より正確に言えば恋愛という意味ではない大切な存在なんだが・・・

 

「ふむ」

 

信冬の周りの空気が冷えたような錯覚そして・・・

 

「友達と逢引・・・デートですか?」

 

「そ、それは違うって!」

 

ま、まずいぞ!秋葉には後で謝るとしてこの状況は非常にまずい!

逃げても無駄だ!状況が悪化するのは目に見えてるし突破口にはならない

なんか転校してきたとか言っちゃてるし

 

「そ、そのだな・・・そうだ!秋葉とは今度やる武偵校の行事のことを話しあうために電話してたんだ」

 

「それでなぜ、デートと話になるんですか?」

 

その笑顔が怖い!信冬は見る人が見れば天使のような笑顔だが今の、俺には後ろに悪魔が見える!

 

「本当だって!」

 

あれ?なんで俺こんなこと言ってるんだ?正直に言えばいいじゃないか・・・

この前ヒルダと戦った時のお礼にでかける話してただけだって・・・

だが、既に後の祭り・・・このまま押し切るしかない。

信冬は一瞬、間を作ってから小さく息を吐く。

 

「優希がそう言うなら信じましょう。私も優希の浮気調査しに来たわけではありませんからね」

 

よ、よし何とか乗り切ったぞ。

基本的に信冬は白雪系統、つまり大和撫子系だから俺を立ててくれるようだ。

信冬と中に入ると綺麗に片づけられた部屋にキンジが疲れたようにソファーに座っていた。

 

恨みがましく俺の方を見ると

 

「おい優!なんで、電話とメール無視するんだ!大変だったんだぞこっちは!」

 

「いや、なんかすまん」

 

信冬が襲来しヒステリアモードの危機を抱えるキンジは大ピンチを味わったんだろう。

とはいえ、白雪みたいにキンジが好きなわけじゃないんだからそこまで問題だったのか?

まあ、迷惑掛けたのは事実なわけだが・・・

 

「ちょっとこい!」

 

腕を掴まれベランダに連れ出されて窓を閉めるとキンジがため息をついた。

 

「どう言う事だ!あいつ合宿の時やイ・ウーで会ったお前の婚約者だろ!新婚生活やりたいなら他でやりやがれ!」

 

ここに住むという信冬の言葉はキンジには悪夢の一言だろう・・・

アリア達が半分すみついてるのに女成分が更に上がるのだ。

まあ、一部は俺のせいだがキンジもキンジだぞ・・・

 

「今さらッて気もするがな・・・アリアや理子達も半分住みついてるし白雪だって時間があれば来てるじゃないか」

 

そう、2段ベッドの空きを使って泊っていってるので1人増えるのは今さらと言えば今さらなのだ。

 

「それに、極東戦役的には悪いことばかりじゃないぞ。信冬は強いし武田家のバックアップもあるだろうしな」

 

ある意味では俺より強い。

国家権力にすら影響力を持つ本家の力を借りられるのはかなり大きい。

戦役は雑兵を戦いに使ってはならないがバックアップは問題がない。

日本国内では俺達は圧倒的に外国の勢力よりは有利に戦えるのだ。

武田家当主である信冬が近くにいれば連絡も迅速だ。

でも、なんで当主である信冬が山梨から出てきたんだ?

戦力を集中させるならもっと早い段階でもできただろうに・・・

 

「くそ、あいつの面倒はお前が見ろよ。俺は知らん」

 

「ああ、まあそれは引き受ける」

 

キンジを頼ってきたわけじゃないのにキンジに信冬の対応を任せるには間違ってるしな

 

「それにしても、なんで信冬はこっちに・・・」

 

窓の向こうを見るとソファーに座っている信冬がいる。

 

「お前に話があるみたいだぞ」

 

「俺に?」

 

「詳しくは俺も知らん。お前の実家・・・椎名のというかお前を頼ってきたんじゃないのかあいつ」

 

それなら、信冬と少し話そう。

 

「キンジ、ちょっと信冬と2人にしてくれるか?」

 

「分かった。ここで携帯いじってるから話がすんだら呼んでくれ」

 

「悪い金に余裕がある時なんかおごる」

 

キンジの了解を取ると部屋の中に入ると信冬が俺の方を見て微笑む。

 

「遠山さんと話はすみましたか?」

 

俺は信冬の前のソファーに座りながら

 

「ああ、俺に頼みがあるそうじゃないか」

 

おそらくは裏の仕事だろうと思う。

紫電はないが閃電等の刀を武田家に無償でもらった以上、婚約者をうんぬんを除いても武田家の依頼は俺は断りにくい状況にある。

思えば俺、借り作りまくりだからな多方面に・・・

 

「ご迷惑なら断ってもらっても構いません。ですが私には他に頼れる方がいないのです」

 

信冬がソファーから降りて床に正座する。

おいおい、そんなに重大なことなのか?

 

「言ってみろよ」

 

大概の事なら聞きいれるつもりでいる。

信冬とは婚約者うんぬんはともかく幼馴染だしな。

信冬は真顔で俺を見ると言った。

 

「私の護衛を優希に依頼したのです」

 

「護衛?」

 

「はい、護衛です」

 

「具体的に何からだ?」

 

「武田本家からです」

 

今何て言った?

 

「え?」

 

「ですから武田本家の刺客から私の護衛をお願いしたいのです」

 

「おいちょっと待て!」

 

頭が痛くなってきたなんで信冬が武田本家に狙われるんだ?

 

「どういうことだ!なんでそんな状況になってるんだ!」

 

しゃれにならんぞ武田家の戦力を詳しく知ってるわけじゃないがうちにも月詠や秋葉がいるようにちんぴらとはレベルが違う連中がごろごろいるはずなのだ。

そんなのに全員に一斉に襲いかかられたら誰でも・・・あ、いや姉さんに助けを求めればなんとかなるなうん。

まあ、助けてくれるかは分からないが・・・

 

「それは当然の事でしょう」

 

信冬は黒い瞳をまっすぐに俺に向けて少しいたずらっぽい笑顔で

 

「家出してきちゃいました」

 

ととんでもない事を言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

                †

 

サイド??

 

その場所は薄暗く畳が敷き詰められた巨大な空間だった。

その部屋だけで一戸建ての住宅が立ちそうな大きさだがその部屋には今は2人の存在しかない。

 

「それで、あの子は今東京かい?」

 

年若い10代前半と言った少女である。

着崩した着物を改造した服を着ており手にはキセルが握られている。

 

「はい、無事に転校の手続きを終えたと先ほど『風』から報告がありました」

 

「素早いもんだ。まあ、約束は約束だからねぇ」

 

キセルから煙を吸い込み吐き出して灰皿にカーンと打ち付け

少女は興味深そうに風林火山『風』からの報告の書類の束をめくっていく。

そして、ある場所で止まるとそのページの少年の写真に笑みを浮かべる。

 

「椎名優希だったね。今じゃ楽しい存在になったじゃないか。なあ、信秋」

 

「・・・」

 

信秋と呼ばれた少女は一瞬黙って口を開く。

 

「極東戦役の最中です。おばあさまが一時、当主に復帰されたとはいえ師団内部で亀裂が起こるようなことはやはり、避けるべきではないでしょうか?」

 

「先に亀裂を入れたのはあの子だよ」

 

「信冬姉様はそんなつもりは・・・」

 

「いずれにせよ。私はもう後戻りするつもりはないよ。あの子が反抗するなら反抗できないうように屈服させて言う事を聞かせる。それだけさ」

 

「・・・」

 

やはり、私では無理だと少女は思った。

目の前の存在には私の言葉だけではどうにもならない。

彼女が信冬に課したものはとても厳しいものだ。

そして、今信冬の近くにいるあの少年。

椎名優希に課せられた試練も果たして乗り越えられるものか・・・

だけど、信冬が絶大な信頼を寄せる彼の事を話す時の姉の優しい表情。

そんな彼なら・・・試練を乗り越えてくれるかも知れない。

その場を退席し廊下に出た彼女は周りに誰もいないことを確認し小さくつぶやいた。

 

「優希お兄様、信冬姉様を頼みます」

 

 

その瞬間、彼は・・・椎名優希は巻き込まれた。

武田家の闇。

それは同時に椎名優希の周りの人間も巻き込んでいく新たな物語に繋がっていくのだ。

 

 




はいというわけで今回のオリジナルの主旨は信冬を守る護衛です。
敵は分かりやすくも椎名と並ぶ武家武田家。
優\(^o^)/

武偵、優ですから当たり前ですが戦いはありますよ!
ちなみにネタバレ武田のお婆さまはロリババアですw

もちろんアリアやキンジ、レキ達も関わらせます。

さあ!優!今回も巻き込まれたぞ!
新章よろしくお願いします。
できればやる気の元の感想も欲しかったり…

それでは次回は早めに書き上げ…たいなぁw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第238弾 婚約者がやってきた

目標としては一週間に1回更新!
感想を燃料に頑張ります


信冬と初めて会ったのはまだ、父さんや秋葉の母親が生きていたころだった。

 

「それでは優希様。私はここで失礼します」

 

山梨県のとある山奥。

巨大な門の前で秋葉の母親、葉月が頭を下げる。

ここまで護衛とお供としてやってきた。

 

「本当に僕一人で行かないといけないの?」

 

不安そうな当時の俺。

椎名と武田。

日本の二大裏武家は裏の世界で日本の闇と戦ってきた。

当時・・・今もだが両家は互いに同盟関係にありこの度、椎名の長男と結婚していない武田の次女をくっつけようと画策していた。

名家では結婚するまで顔も知らなかったという結婚は珍しくもない。

政略結婚というのは現代社会においては名家では普通に行われている。

当時の椎名の当主の俺の父さんと信冬の親父さんはそれでは酷であろうと顔合わせの機会を設けた。

それは一カ月から数カ月の間、武田の家に椎名の長男を預けるというものだった。

目的は婚約する優希と信冬の顔合わせである。

 

「はい、信冬様もお待ちです。優希様の将来の奥様でございますよ」

 

葉月が微笑みながら言う。

 

「奥さんって・・・僕まだ子供なんだけど・・・」

 

当時というか今もだが結婚なんて遠い未来の話しだと思っていた。

家が家だけに自由が効かないこともあるのは承知していたがまさか、結婚相手も決められるとは・・・

 

「せめて、秋葉連れてこれなかったの葉月?あいついれば気も楽なんだけど」

 

当時のというか今の近衛の山洞秋葉は信冬の実家には連れて行ってもらえなかった。

葉月は首を横に振り

 

「あの子も大変残念そうにしていました。よろしければ末永く目をかけてもらえると幸いです」

 

「うん、分かった」

 

「ありがとうございます」

 

今にして思えばこの葉月さんの言葉にも重みが出てくる。

この数年後俺は彼女を殺したのだから・・・

 

 

 

 

 

 

葉月に送り出され門を潜り奥に案内され城のような場所を歩かされ中庭みたいな場所で俺はあいつに・・・信冬と会ったんだ・・・

その時の信冬は・・・

 

 

 

 

 

 

 

「なんだったかな?」

 

ぱちりと目が覚めたので体を起こして時計を見ると午後4時55分。

丁度鍛練5分前だ。

 

「ふあ」

 

あくびして目覚ましを解除してトレーニング用の服を着こむ。

リビングに出るとちょっとびっくりした。

道着に身を包んだ信冬が正座して黙とうしていたからだ。

その髪は淡い金色に包まれている。

信冬のステルス能力風林火山だ。

 

「おはよう、信冬早いんだな」

 

「おはようございます。優希、あと少しで終わりますので待ってもらえませんか?」

 

「え?うん」

 

それから1分後、5時になると信冬の髪が元の黒い髪に戻る。

目を開けて俺を見るとにこりと微笑んだ。

 

「お待たせしました。早いんですね優希」

 

「今のは風林火山の?」

 

武田家血を引くものだけが使用することができる風林火山のという能力はステルスの中でも扱いにくいが使い方次第では姉さんとさえ戦う事が出来る恐ろしい能力だ。

信冬自信、能力に頼り切らず努力してるんだな・・・

 

「はい、毎朝少しだけ能力を使用して活性化させています」

 

「活性化?」

 

「はい、ステルスは色々なものがありますが私の場合1日の始めに能力を集中して使用することによりその日、能力を発動する時間を僅かですが短縮させることができます。それに、風林火山の持続時間向上の修行の一環でもあるんですよ」

 

「へぇ」

 

俺も緋刀を毎朝1回使うべきなのかな?

 

「優希はこれから鍛練ですか?」

 

「ああ、外に走りに言って軽く刀の鍛練だよ。信冬も来るか?」

 

「ぜひといいたいのですが朝ごはんを作って待ってますね」

 

「分かった」

 

護衛を依頼してきたのに離れていいのかと疑問は残るが昨日の話しでは問題ないという事だ。

確かに信冬自信の力を警戒してるのもあるだろうが・・・

まあ、深くは考えないでおこう。

 

いつも通りジョギングしながらイメージトレーニングして体を温めてから看板裏で刀の稽古しようと裏に入ると・・・

 

「・・・」

 

ジト目の秋葉さんがいらっしゃいました・・・

鍛錬しながら待ってたのか横には槍。

服装は短パンとトレーニングウェアだ。

秋葉とは時々、一緒にトレーニングしてるから行動はばればれというわけ

 

「お、おう秋葉おはよう」

 

「おはようございます」

 

なぜに棒読み!お、怒ってるのか?昨日信冬が電話切ったこと

 

「き、昨日は悪かったな。信冬がいきなり家にいてな」

 

「大丈夫ですよ優様。私は、電話を無理矢理切られたことなんてぜんぜん怒ってませんから」

 

怒ってるじゃねえか!つうか最近気付いたんだが秋葉の奴、俺に怒ると問題ない場所でも優君から優様の近衛仕様の呼び名に戻してるし。

これはご機嫌をとらないとまずそうだぞ

 

「ごめんって!怒るなよ秋葉」

 

「怒ってません優様」

 

「今度チョコレート買ってやるから!」

 

「子供じゃありません優様」

 

せめてこっち向いて!

秋葉の奴明後日の方角を見ながら無表情モードだ。

ツーンとまるで猫みたいな印象・・・わんこみたいなモードの時もあれば猫みたいときたか・・・

 

「俺が全面的に悪いって!どうしたら許してくれるんだ?」

 

こうなったら土下座でもなんでもしてやるぞと決めて言うと秋葉はようやく俺の方を見て

 

「じゃあ、今日の放課後、都内で買い物に付き合ってくださいそれで許します」

 

「そんな事でいいのか?いいとも!」

 

「それとこれを」

 

槍にくくりつけられていた袋。

 

「先に渡しておきます。この先渡せないかもしれないので」

 

ちょっとだけ表情が柔らかくなって渡してきたのは・・・

秋葉お手製のお弁当だ。

前の金欠の時から休みの日以外、ずっと作ってもらってるんだがそろそろ悪い気がするな

 

「秋葉弁当なんだが無理に作らなくていいぞ。大変だろ?もう、俺もパン代位は確保できてるしさ」

 

秋葉の顔がちょっと曇った!まずいこと言ったか!

 

「そうですよね。信冬様なら頼めば作ってもらえますよねお弁当」

 

「ちが!そういう意味じゃない!」

 

「じゃあ、どう言う意味です?」

 

お前の体を気遣ってだなと言おうと思ったがこうなったら褒め殺し作戦でいくぞ!

 

「秋葉の弁当食えなくなるのは残念だよ。めちゃくちゃうまいからな。できたらずっと作って欲しいと思うくらい」

 

「え?」

 

秋葉はちょっと目を丸くしてなんだ?顔が少し赤いぞ

 

「ずっと・・・私のお弁当を食べたいんですか?」

 

よ、よし食いついてきたぞ!ここは攻めるべきだ

 

「そうそう。お弁当と言わず3食全部秋葉のご飯でいいぐらい」

 

「そ、そうですか。優君が作って欲しいなら別に・・・」

 

「いやいや、3食全部だとありがたみが薄れちゃうからな。今は弁当だけで十分幸せだよ」

 

なんか頼めば3食全部作ってくれそうな流れになりそうだったので慌てて弁当だけで大丈夫だと訂正を入れておく。

 

「じゃ、じゃあ明日からも作りますね」

 

「ああ!頼むな!」

 

「はい!」

 

なぜなんだか分からないが秋葉の機嫌が良くなったぞ!

フフフ、どうだ俺の秋葉機嫌直しトークは見事に不機嫌を解消したぞ!

だてに最近女難に合ってないってことだな。

成長したぞ俺

 

「ところで秋葉、信冬のことなんだが・・・」

 

護衛なら秋葉の力も借りておこうと思ったので

 

「なんかさ、信冬武田を家出して転校してきたみたいなんだ」

 

「家出ですか?」

 

少し目を丸くして秋葉が言う。

名家で近衛なんてやってれば嫌でも裏の社会の常識なんか分かってくる。

それで秋葉も驚いているんだろうが・・・

 

「そうだ。で、武田の刺客に狙われるかもしれないから俺に護衛を依頼してきた」

 

「私も護衛に協力すればいいんですね。武田家の刺客となると最低でもAランク・・・風林火山陰雷は若い林を除けばSランクかそれ以上と聞いています。

それ以外にもおそらくですが私達椎名の近衛と同じように極東戦役に参戦できるレベルの戦士もいるでしょう、全員が一斉に攻めてきたら私と優君だけじゃ守るのは不可能と思いますが・・・」

 

「流石にそれはないと思いたい・・・」

 

総力戦を挑まれれば確かに危ういが個人的に武田側は大戦力を一気に送り込んでくる可能性は低いと考えている。

理由はあるがそれは後だな。

 

「でだな。秋葉、俺は信冬の護衛をバスカービルとして受け持とうと思ってる」

 

「キンジ君やアリアさん達に協力してもらうんですね」

 

「ああ、一応雪羽さんや土方さんにも話は通しておく」

 

向こうがどんな化け物を送り込んでくるか分からないので人脈を最大に使って防衛体制を整えるつもりだ。

とはいえ、公安0は完全な味方はしてくれないはずなのであくまで、中立からの支援をもらいたいだけ。

最悪中の最悪なのは武田が日本政府に手を回して公安0が敵になる事態。

そうなったら、姉さんに土下座するしかもう、俺に出来ることはない。

実家はこの件に関しては難しいと思う・・・

支援するという事は武田家と戦争を意味するからだ。

信冬が家出してる以上実家の力は借りられない。

土方さんというよりは、今回は雪羽さんや鈴さんの力を借りることにしよう。

何より雪羽さんは信冬の実の姉だ。

間違いなく協力してくれるはずだ。

 

「希様は?」

 

秋葉が言う最強最大の戦力。

あの人協力してくれるかなぁ・・・

一応、携帯で連絡を入れて事情を話してみたところ

 

「気が向いたらなぁ」

 

と言って切られてしまった。

寝起きだったらしくすごい不機嫌な声だった・・・

タイミング最悪だなおい。

 

「駄目だった」

 

と秋葉に言って時計を見るともう、いい時間だったのでメールでバスカービル全員に昼休みに話があるから屋上に集合出来る奴は集合と送ってから秋葉と別れて寮に戻る。

ドアを開けるとうん、いいにおい。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい。優希、シャワー浴びて出てくる頃には出来てますよ」

 

「んじゃ、シャワーだな」

 

なんとなく料理するために後ろで髪を縛り赤いエプロン姿の信冬を見ると新婚さんって感じがしてしまう・・・

いやいや、そうじゃないだろ。

シャワーを浴びてリビングに出ると武偵高の制服に身を包んだ信冬。

そして、起きたばかりらしいキンジがリビングに現れるとこだった

 

「ようキンジ」

 

「おーう」

 

眠そうだな・・・

 

「どうぞ、優希、遠山さん。冷めないうちに」

 

目の前に並べられたのは味噌汁に白いご飯、それにベーコンを挟んだ卵焼き、それに納豆。

おお!焼き魚もあるぞ!

典型的な日本人の食卓って感じだ!流石信冬

 

「俺もいいのか?」

 

流石に悪いと思ったのか俺と信冬を見て言った。

 

「ええ、優希の部屋のルームメイトですし私もご迷惑をかけてることは承知しています。どうぞ遠慮なさらずに」

 

「そういう事なら甘えさせてもらおうかな。えっと・・・武田」

 

「どうぞ信冬とお呼び下さい。優希の親友でもありチームメイト、そして、ルームメイトなら名前で呼んでいただいて構いません」

 

「なら、俺もキンジでいい」

 

「はい、キンジさん」

 

さあ、ご飯だ!いただきますと手を合わせてご飯を食べ始める。

うまい!やっぱり、ちょっと西洋も入ってるが和食は箸が進む!

納豆をかきまぜてねぎを入れて食べると

 

「おかわり」

 

「はい、たくさんありますよ」

 

とご飯をよそってくれる。

いやぁ、最近は白雪もあまり、こないからキンジのついでの朝ごはんを食べれなかったんだよな。

食パン1枚だけの朝ごはんは寂しいもんだ・・・

なので信冬には感謝してご飯を食べながら

 

「ところで今日は信冬はどうする?うちに転校してくるんだろ?」

 

「はい、クラスはまだ分かりませんが学科はSSRです」

 

超能力捜査研究科かアサルトじゃないんだな・・・白雪と同じとこか。

順当と言えば順当。

ステルス使いの秋葉がアサルトなのはおかしいと言えばおかしいんだけど。

というかちょっと嫌な予感がしてきた・・・

 

その俺の嫌な予感は少し時間が過ぎて的中することになった。

 

「武田信冬です。みなさんよろしくお願いします」

 

わあああとクラスの男や女子が騒ぎだす。

お前ら毎回リアクション同じじゃねえか!秋葉の時も水の時も!ってかこのクラス転校生多すぎだろ!

頭を抱えて机に突っ伏す。

そう、信冬が転校してきたクラスは2-A、つまり俺やキンジ達と同じクラスなのだ。

 

「はい!質問!質問いいですか!」

 

「はい、私の答えられる事でよろしければ」

 

古風な儚げな日本美人な少女という感じの信冬に武藤が手を上げている。

ああ・・・白雪みたいなタイプ好きだもんな武藤・・・

 

「彼氏募集中とかじゃないですか!というか覚えてる?研修先で一緒の旅館だった武藤です!」

 

アサルトの女子がうわ引くわとか小声で言ってるのが聞こえてきた。

いきなり聞く質問じゃねえよな確かに・・・

 

「ねえ、優あの子」

 

アリアが小声で信冬を見て言うので

 

「ああ、理由は昼休みに・・・」

 

「彼氏は募集しておりません。私の婚約者は椎名優希ですので」

 

ビキと空間が凍りついた気がした。

 

武藤がギギギと錆びついたロボットのように首をこちらに向けて俺を指出す

その顔はまたてめえかと言ってる。

 

「これ?」

 

と半笑いで言った。

一瞬、失礼な奴だなと思うが俺も半笑いだよ!

だって、信冬微笑みながら

 

「はい、私の未来の夫です」

 

途端に男子達から猛烈を通り越した激烈な殺気が俺に飛んでくる。

逃げるんだ!

とっさに逃げようとしたが高天腹先生がみなさん、静かにしましょうねと凍りつくような声で言った瞬間、男子の殺気が和らぐ。

た、助かった・・・のか?

い、いや、背後からものすごいオーラーが・・・

振り返ると秋葉が恐ろしく不機嫌になってるし・・・

しょうがないだろおい!

 

「はい、質問は私が当てますので手を上げてくださいね」

 

するとぱらぱらと手を上げるクラスメイト。

勘弁して!

 

質問ばかりされてちょっと、延長されたHRが終わり授業に入る。

信冬は俺の隣の席になった。

婚約者なら当然横だよという女子の意見が通り隣になったわけだが・・・

当然教科書もまだない信冬のために俺の机とくっつけて授業となるわけだがいちゃつきやがってと理不尽な怒りの視線が・・・

心がすり減る・・・教室は地獄と化したな・・・

ハハハ・・・

 

そして、昼休みはクラスの連中から逃げ出しこっそり、戻ると信冬はクラスメイト達に囲まれいろいろと話をしているようだった。

 

「ねえねえ!武田ってさ優希といつ婚約したの?つうかあいつが告白とかしたの?」

 

なわけねえだろ!と出て行きたかったがこっそり隠れながら様子をうかがう。

どうやら、アサルトの朝霧を中心にした女子グループと話してるみたいだな

いかにもアサルトでだらしないって印象のクラスメイトだ。

 

「優希と婚約したのは幼少の頃です。家同士の取り決めのため詳しく決まったのは分かりませんが。告白はまだないですね」

 

「へー、優希の家って金持ちだったんだ。キスとかしたのもう?ていうかもう、それ以上にやっちゃったよね?婚約者なんておいしい状態なんだから」

 

 

 

「やっちゃう? よく意味が分かりませんが接吻、キスですね、あくまで優希と私は婚約者という間柄です。そういう事は正式に婚姻を結んでからになるでしょう」

 

「ええ!」

 

アサルトの女子が驚いた声で言った。

 

「まじでいってんのそれ!今時キス一つしない恋人なんてありえないって!ていうか普通にやるでしょ!優希へたれだね」

 

とんでもないこと言いやがって・・・ほっとけ

 

「そう・・・なのですか?」

 

不思議そうに首を傾げる信冬。

おいこら!信冬も本気にするな!

 

「そうだよ。武田って純情てか天然?」

 

「天然・・・初めて言われました」

 

「本当に?ぎゃははは」

 

そろそろ出ていくかと思ったが次の声に思いとどまる。

 

「朝霧さん。あんまり、の・・・武田さんに変な事を教えないでくれますか?」

 

思わず信冬様と言いかけた秋葉が訂正してるな。

うん、俺の時は俺から言わないと訂正しなかったのに成長したな秋葉。

 

「何よ。秋葉・・・ああ、そうだよね大好きな優希の婚約者だもんね」

 

「別に私は優君がす、好きなわけじゃありません」

 

「いやいや、あんた丸わかりだから」

 

「違います!」

 

力強く否定されると傷つくんだけど・・・

 

「それより、武田さんです!あんまり余計なことを・・・」

 

「私は構いませんよ。むしろ私の常識不足に驚いているところです」

 

「ですが・・・」

 

「余計なことを言ってるのはあなたですよ。山洞秋葉」

 

凍りつくような信冬の声。

あまり聞かない珍しい感じだな

 

「っ」

 

秋葉は秋葉なりに信冬を守ろうとしたんだろう。

なのにあの言い方は・・・

 

「でさ、さっきの続きなんだけど」

 

朝霧が余計なことをまたいいそうだな・・・

足を浮かしかけて再び

 

「その変にしときなさいよ朝霧」

 

アニメ声・・・アリアか

 

「何よアリア、あんたも変なこと教えるなって?優希がいない間にいろいろ教えてやってんのに」

 

「気づきなさいよ。そこに優いるわよ」

 

こちらに視線が集まるのを感じたのでドアの陰から姿を現す。

 

「別に隠れて聞いてたわけじゃないぞ。入るタイミング逃しただけだ」

 

弁明するが後の祭りだ。

朝霧はつまんねーのと言いながら席に戻っていくので俺も席に戻ると信冬が俺を見ながら

 

「優希。キス・・・接吻はやはり、結婚前からしないといけないんでしょうか?」

 

「いや、結婚してからだぞ朝霧の話は全部ウソだ」

 

「そうなのですか?ではやるというのは?」

 

ちょ!それ本気で言ってるの!ていうか俺が説明するの?

助けてとアリアを見たらアリアは会話を聞いてたのはばっと顔を赤くして明後日。

キンジを見るとキンジは机に突っ伏した。

お前ら・・・

秋葉は・・・駄目ださっきの信冬との会話を聞く限り振れない。

ならば・・・

 

「えっとだなやるってのは・・・さらに、親密になる行動をすることだ。た、例えば一緒の布団で眠ったりとかだな」

 

ぎりぎりだがこれ以上は言えん!グーグル先生にでも聞いてくれ!

 

「なるほど、それは夫婦なになるなら当然ですね」

 

なんとか逃げられた・・・

というか信冬と成長してから過ごす時間は今が一番長いわけだがとんでもない天然さんになってるし・・・

純粋培養のお嬢様だ。

世間知らずともいえるわけだがよく、これまで武田の当主でいられたな。

部下が優秀だったんだろう。

 

にしてももし、信冬がどこかで正式な知識を得たらと考えると怖い。

ただでさえ婚約者と言う立場なのに信冬に迫られる事態になったら本気で逃げられなくなる・・・

悪いんだが今のところ信冬と結婚する気は俺にはない。

というか覚悟はない。

 

「・・・」

 

何かを考えているらしい信冬の横顔を見ながら俺はため息をついた。

 

「はぁ・・・」

 

 




というわけで秋葉に焼きもち焼きまくられる優希w
レキや理子は次話ですw
トリプル婚約者ときましたら優大ピンチ?

こんな感じのドタバタがしばらく続いて戦闘挟みながら終章を目指していきます。

オリジナルはやっぱりしんどいけど書いたあとの達成感がいいですね!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第239弾 修羅場

遅くなりましたが最新話です! 
緋弾のアリアAA始まったぁ!


さて、時刻は昼休みだ、

バスカービルの面子が揃い全員で弁当を広げている。

俺、キンジ、秋葉、アリア、レキ、理子、白雪。

そして、信冬

俺の前には2つの弁当・・・

どうしてこうなった。

男物のプラスチックの容器に入っているのは秋葉の弁当。

そして、2段ボックスになっているのは信冬の弁当だ。

彼女たちではなく俺のための・・・

 

「優希はいつも近衛にお弁当を作ってもらってるんですね」

 

何その笑顔怖い!

 

「・・・」

 

秋葉は秋葉で少し離れた所でこちらを見てるし

 

「あ、ああ」

 

とりあえず両方食うぞ!そうしないと色々とやばい気がするし・・・

 

「はい、キンちゃんお口に合うといいんだけど」

 

キンジはキンジで白雪の重箱に絶句している。

お昼休みにご飯食べながらなんて書いたらそりゃこうなるな白雪の場合・・・

と、とにかく集まってもらった面子で話を進めるぞ

 

「話ってのはこいつの事だ。白雪以外は合宿で会ったな?信冬、自己紹介」

 

信冬はすっと立ち上がる。

 

「優希、星伽白雪さんとに自己紹介は必要ありません。何度か顔を合わせたことがありますので」

 

「へ?そうなの?」

 

白雪が頷いた。

 

「うん、家同士の交流で何度か会ったことがあるよ。知り合い程度の関係だけど」

 

なるほど、星伽も裏の社会の人間ということだから知り合いでもおかしな話ではないか

実際、俺も白雪とは東京で会う前に顔だけは合わせてたからな。

 

「星伽からも連絡が来てるよ。武田の当主が家出して東京武偵校に転校したって」

 

探るように白雪が言うが信冬は表情を変えず

 

「そうです。私はさる事情から家を出たのです」

 

「じじょうって聞いてふぃいの?」

 

理子がサンドイッチをもぐもぐしながら言った。

食いながら喋るな理子お行儀悪いぞ

 

「詳しくは話せません。家庭の事情・・・あることを押し付けられそうになった私はそれを拒否して家を出たのです」

 

「当主である信冬がか?」

 

押し付けられるって武田の当主なら拒否だって出来るだろう。

 

「武田信春。私のお婆様です」

 

御隠居様ってことか・・・

よくある話だ。

引退して奥に引っ込みながらあれこれ口を出してくる奴。

となると信冬の当主という座も

 

「当主とか言いながらも権力はあんたのお婆様が握ってるってことね」

 

アリアはアリアでももまんをほおばりながら言う。

何個あるんだよ!

 

「恥ずかしながらその通りです。お婆様は口を出してくる回数は多くはありませんがお婆様の決定は絶対です」

 

ふーん、信冬の実家もいろいろと複雑な事情があるんだな・・・

椎名は俺が外れてるから本来鏡夜が信冬の位置にいてもおかしくない。

母さんは当主代理を名乗ってる間は当主にはならないのかもしれないが・・・

つまり、俺の家で言うなら母さんが信冬の婆さんの位置か

 

「でだな。みんな、信冬は俺に護衛を依頼してきたんだ。それでみんなにもというかバスカービルというチームで信冬の護衛のクエストを受けたいんだが・・・」

 

「でも、それって武田との刺客と戦うってことだよね。期間は?」

 

「そうね。ずっと守るわけにはいかないのよ優。武田に諦めさせる方法を選ぶか妥協点を探らないといつか限界が来るわ」

 

「分かってる」

 

それには、信冬がなぜ家出した所から話してもらわないといけないが話してくれない。

 

「心配はいりません。この護衛は最大でも1カ月以上は絶対にありません。短ければ数日で終わります」

 

「なんでそれがわかる?」

 

キンジが白雪のおにぎりに手をつけながら言った。

 

「予知のステルスといえば納得してもらえますか?キンジさん」

 

「なるほどな。最大1カ月だな?」

 

「はい、間違いありません。報酬はみなさんにお支払いします」

 

マスターズを通してこのクエストは正式に受理されるわけだが任務難度はAかSは免れないだろうな・・・

 

「で?みんな受けてもらえるか?」

 

「私はいいわよ」

 

アリアの言葉にキンジ、レキ、秋葉が受けると言った。

だが・・・

 

「理子は保留かな」

 

「ごめんね優君。私、別件の用事で受けられないの」

 

理子と白雪が断ってきた。

白雪は忙しいとしても理子はちょっと意外だな。

 

「保留?どうしてだ理子?」

 

「んん?知りたい?知りたいのかなユーユー。じゃあ、2人きりになれるとこで教えてあげる」

 

あ、おい!腕に胸を押し付けるな!

理子のでかい胸が!腕に柔らかい感触がぁ!

 

「・・・」

 

無言で睨む3人の目・・・レキ、信冬、秋葉・・・

俺が何をした。

 

「理子さん」

 

立ちあがったのは信冬だ。

笑顔が怖い

 

「なーに?信ちゃん」

 

理子は理子でからかいモードっぽい

 

「優希は私の婚約者です。婚約者の前でそういうことをするのは道理に反していると思いませんか?」

 

きょとんと理子は目を丸くしていたずらっぽく可愛い笑みを浮かべ俺の腰に抱きつきながら

 

「反してないよ♪優希は私と結婚してくれるっていったもんね」

 

ビシ

 

何かが割れる音がした気がする・・・

そう、空間が割れたようなそんな・・・

 

「・・・」

 

レキが無言で顔を上げた。

無表情だが怒ってる?

 

「それは、事実ですか?」

 

信冬と秋葉より先にそう聞いてきた。

 

「い、いやまあ、それは・・・その」

 

ど、どうしたらいいんだ!こ、このままではまずい!まずすぎる

 

「事実だよレキュ。スカイツリ―から降りる時、理子と結婚してくれるっていったもんね。

だから、理子も婚約者だよ」

 

「それは事実なんですか?」

 

信冬が今度は言ってきた。

ここで黙ってもおそらく次は秋葉に聞かれるだけ・・・

逃げ場はない。

 

「い、言ったのは言ったがあれはだな・・・」

 

死に際の理子に死んでほしくない必死の言葉だった。

だって、あんな場面で言われたら普通断れないだろ?

 

「言ったんですね」

 

「いいました」

 

観念してそう言う

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

無言の3人の目が怖い。

 

「聞きたいことはありますがそれは、後にとっておきましょう」

 

と、信冬があっさりと引きさがってくれたので空気が緩和する。

 

「立場が同じになった。そう、思っておきましょう」

 

レキと理子を見回して信冬が言った。

その言い方からしてレキとの事も調べて知ってらっしゃる信冬さん!

 

「・・・」

 

秋葉もちょっと離れた所からこちらをジト目で睨んでる。

ひ、表情豊かになるのはいいことだようん。

 

「ですが最初に婚約したのは私と言う事はお忘れなく」

 

と、釘をさすように信冬が言った。

「順番なんて関係ないよね。ユーユー」

 

「と、とにかくだ!話を戻すぞ!今回の信冬の護衛は全員でやるわけじゃなくて俺がメインで他のみんなにはサポートに回ってほしい」

 

これ以上続けたらチームが崩壊してしまう気がして無理矢理話を戻す。

最低一人は信冬について後は交代で2人態勢で常に信冬を刺客から守る。

連絡が行けばチームが援軍として駆け付けるという体制を作って今回の護衛任務は遂行される。

まあ、信冬のことは俺個人のことと関係あるから他のチームメイトにあまり迷惑はかけたくない気持ちもある。

その場での話は簡単に打ち合わせ、腹いっぱい2人分の昼飯を食べ終えて解散し時間は放課後だ。

 

「優希帰りましょう」

 

と、信冬が鞄を持って立ちあがったので俺は頷いてから後ろのキンジに

 

「悪いキンジ。ちょっとアリアと一緒に信冬の護衛頼むな」

 

「ああ、分かってるよ」

 

事前に打ち合わせていた通りキンジに言うが信冬が首を傾げる。

 

「優希はどうするのですか?」

 

「ちょっと、秋葉と用事があるんだよ。買い物付き合う約束してるんだ」

 

スッと信冬の目が細くなった気がする・・・

 

「なるほど、またあの近衛の子ですか。主人の予定を自分の都合で埋めるとは随分とわがままな子のようですね」

 

「そういうわけじゃない。事情があるんだが埋め合わせの意味もあって出かけるんだよ」

 

「埋め合わせ? 近衛の役割は自分を犠牲にしてでも主を守ることにあります。そんな埋め合わせの必要はないと思いますが?」

 

「その考え方好きじゃないんだよな」

 

近衛を犠牲にして自分が生き残るそのやり方は指導者としては正しいのかもしれないが個人的には嫌いだ。

秋葉だってあいつを前面に立たせて俺が逃げるなんてことは絶対にしない。

横に並んで戦うか俺が前に出て戦うだろう。

ちなみにその秋葉は先に待ち合わせ場所に行っている。

 

「優希は優しいのですね」

 

少しだけ呆れたように信冬が言った。

 

「ですがそういうあなたには好感を持ってます。いいでしょうその、買い物私も同行します」

 

「え?いや、でも」

 

「私の護衛引き受けてくださるんですよね?」

 

「それはそうだけど・・・」

 

信冬連れていったら絶対秋葉が怒る!かといって連れていかかったら信冬が怒りそうだ。

どうする!そうだ!

名案を思いついたぞ。

それを実行すべく俺はスマホを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

案の定というべきだろう。

それから、30分後の都内の駅で待っていた秋葉は俺の顔を見た瞬間に明らかに不機嫌になった。

もちろん、横にいる信冬が原因なのは間違いない。

 

「よ、よう秋葉待たせたな」

 

「いえ、今来たところです:

 

そんなはずはないないのに無表情に言った。

 

「近衛とは主の行動を制限する存在ではありません、むしろ、サポートするもの。いくら待たせても顔に出るものではありません。それに関しては評価に値しますね」

 

「・・・」

 

秋葉は静かに目を閉じ信冬に軽く頭を下げる。

だ、だから信冬秋葉になんでそんな態度を取るんだよ。

立場が立場なだけに強く言えんし・・・

 

「・・・」

 

「・・・」

 

く、空気が重い・・・街中だというのにみんな不穏な気配を感じて距離取って歩いていくし・・・

まだか、まだなのか・・・

 

「それでは行きましょう優希」

 

そこに秋葉の名前出してあげて!

 

「い、いやちょっと待ってくれ。もう少しだけ」

 

「? 誰か来るのですか?」

 

「あ、ああ実はな」

 

「信冬」

 

救世主の声が聞こえた。

信冬がその声に振り返ると目を丸くしたのが見えた。

 

「雪羽姉様」

 

「久しぶりね信冬。何年ぶりになるのかしら?」

 

「え、ええそれは確か・・・」

 

雪羽さんと目がある。この子のことは任せておいてと目がそう言っている。

今だ!

 

「行くぞ」

 

「あ・・・」

 

小声で秋葉の手を握ると全力で人ごみの中に突入する。

信冬は気付いていない。

雪羽さんとの思わぬ再開に動揺しているようだった。

そう、俺が電話したのは雪羽さんだ。

秋葉と先約の用事があるあるから信冬の護衛を頼みたいと連絡したのだが勝手な願いなだけに受けてくれるか心配だった。

だが、家にいたらしい鈴さんがサポートに回り雪羽さんが少しの時間信冬の相手をしてくれると快く引き受けてくれた。

そして、信冬が武田を出た理由を可能なら聞いてくれることになっている。

姉の雪羽さんになら信冬も真実を言ってくれるかもしれないからだ、

なんにせよ情報が第一。

敵を知らなければ戦いようがないからな。

前途多難なのは間違いないがとりあえず、今は秋葉のご機嫌取りのために買い物に付き合うとしよう。

 

 




というわけ理子のカミングアウトに=宣戦布告?
信冬は優に説明求める=浮気は許しません
秋葉は引いた場所ですが見るからに焼きもち焼きマクリ=優は焼きもちとは気づかない。
レキな無表示ながらも睨む=やはり焼きもち?

そんな最新話で修羅場でしたがそろそろ優君の胃に穴があきそうですねw
オリジナル章の今後としては大体10話くらいを目標に書いてますがやはり、増えるか減るかはありえます。
サード編もはやくやりたいですがどうしても、ある事情から秋葉メインヒロイン編のオリジナル章をとある巻までに2回やらないといけなくなりました。
やらないと物語が破綻するくらい大変なことになるので…
なので信冬の後もサード編には入らずに秋葉オリジナルメインヒロイン編になるかもしれません。

さて、話は変わりますが緋弾のアリアAAはじまりましたね!

二期を待ってる身としては動くアリア達を再び見ることができて感激です!
守るものではAAの面子はちょこちょこしか出てませんがたまにはがつんとオリジナル章に組み込みましょうかね。
漫画も読んでますが最新刊読むとキンジのアミカの風魔も可愛いことに気付かされます。
やっぱりAAの面子は風魔も加えて2年になったらチームを組むのかとか想像しちゃいます。

ちょとネタバレしますからこの先は嫌な人は読まないでくださいね。








原作緋弾のアリア最新刊もやっと緋弾関連に蹴りがついたら不知火がなんか公安0?みたいな連中連れてきてるし!
でもなぜにアリスベルのせいじか?
キンジ大ピンチ!
「お前は子供Level99かも知れないが大人Levelは1だ!」
優も言われそうw
まあ、優の場合は周りがサポートLevel99ですからキンジよりは遥かにマシですけどねw

ではまた、次回に


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第240弾 デート? 違います!

緋弾のアリアAA放送中は投稿ドーピングがかかってますw


ここでいいだろう。

信冬を雪羽さんに預けてから秋葉を連れてその場を離脱。

秋葉の買いものに予定通り俺一人で付き合う事になる。

秋葉の機嫌は悪くなくなり俺も一息つけるというわけだ。

 

「で?どこに行くんだ?護衛の件もあるから遅くまでは無理だが大概の場所になら付き合うぞ」

 

「信冬様はいいんですか?」

 

「雪羽さんに任せてきたから大丈夫だよ。あの人俺より強いしなんせ土方さんの奥さんだからな」

 

鈴さんも今は東京にいるし、バックには姉さんもいる。

よほどの馬鹿じゃない限り襲撃はないはずだ。

 

「それに約束したらかな。買い物信冬付きじゃ許してくれないだろ?」

 

「はい、許しません」

 

よ、よかった雪羽さん来てくれて・・・

本気で秋葉を怒らせるところだった。

 

「よし、じゃあ行くか」

 

「はい」

 

っと、秋葉と手を繋ぎっぱなしだった。

ん?外れないぞ

 

「さあ、行きましょう優君」

 

「あ、おい!秋葉!手!手!」

 

くるりと秋葉がこちらを振り返り睨んできた。

睨むというよりは少し不安そうにも見えるが・・・

 

「スキンシップは大切だと思います」

 

「え?」

 

「それとも優君は私と手を繋ぎたくないんですか?」

 

いやまあ、繋ぎたいとかと言えばどっちでもいいんだが・・・

でもまあ、待てよ?フフフ、これまでの経験からもしかしたら、秋葉は俺の事が本当に今でも好きなのかもしれないぞ。

姉さんが昔、秋葉は俺の事好きだったとか行ってたしよーし!経験積んだ俺を舐めるなよ

 

「そんなことはないぞ。秋葉がいいなら手を繋いでいこう」

 

「え?」

 

秋葉の目が軽く見開かれた。

え?何?対応間違った?

なぜか秋葉はうつむき髪で顔の表情が少し分かりづらくなる。

心なしか顔が赤いような・・・

 

「じ、冗談です!手を繋いで町を歩くなんてこ、恋人みたいじゃないですか」

 

と言って振り払うように手を放してしまった。

うん、分かってた。俺の経験程度で女子の好き嫌いを判別するなんて1000年早いよな

 

「・・・」

 

なんか悲しくなって振り払われた手を見ているとなぜか、秋葉が慌てている。

 

「そ、その優君と恋人に見られるのが嫌というわけではなくてですね。婚約者のみなさんに申し訳が立たないというか、優君が嫌いではなくあくまで友達して・・・」

 

まあ、この秋葉を見ていると少なくても嫌われてはいないようだ。

それに・・・

 

「・・・ハハ」

 

「な、何を笑ってるんですか優君」

 

「いや、お前本当に、武偵校に来てから少しだけど感情表現が上手くなってきたな」

 

俺達はどちらかというわけでもなく歩き出しながら会話を続ける。

秋葉は少しむっとしたのか

 

「どう言う意味ですか?私が無表情女とでも言うんですか?」

 

「いやだって、お前、昔葉月さんの・・・」

 

はっとして口を閉じる。

しまった。絶対に出しちゃいけない名前だろ・・・

 

「ごめん・・・」

 

秋葉が口を開くより先に謝っておく。

秋葉の母親葉月さんは俺が殺した。

秋葉の目の前で・・・

覚えてないなんて言い訳はしない。

 

「行きましょう」

 

だが、秋葉は・・・葉月さんの名前に特に反応せずに歩き出した。

俺に背を向ける形で・・・

その背を見ながら思うんだ。

なあ・・・秋葉お前は俺を恨んでいるのか?

いつか殺してやると思ってるんじゃないのか?

もしそうなら・・・俺はお前になら殺されてもいい。

それだけのことをやったんだからな・・・

本心が聞ける日は来ないのかもしれない・・・

一生俺は秋葉の顔を見るたびに俺が犯した罪を思い出すんだ・・・

それが贖罪になるのかは分からないが少なくても俺はお前にだけは幸せになってほしいと思ってる。

母という変えることができない人を失いお前を不幸にしたのは俺なんだ・・・

だから・・・

 

「つきました」

 

秋葉が立ち止ったので俺も止まると秋葉がとある建物に入っていった。

俺も続けて入ると

 

「いらっしゃいませぇ!」

 

「どうも」

 

「ああ!秋葉さん!ご注文の品出来てますよ!今日は理子さんは一緒ではないので?」

 

背の低いごつい眼鏡をかけた女性店員と秋葉が何かを話している。

この店・・・何の店?なんか一杯服があるけど・・・

 

「理子さんは今日は用事で来れないそうです。私が代わりに」

 

「なりほど、そういう事ですか!あ!個人的な話ですがビッグサイトに行った時の秋葉さん達のコスプレのはな・・・むぐ!」

 

な、なんだ?秋葉が珍しく大慌てで店員さんの口を手でふさいだぞ

 

「それ以上、言うなら殺します」

 

こくこくと店員さんが頷いているがおいおい、秋葉・・・一般人に殺すって・・・

秋葉が手を話すと店員さんが息を吐いた。

 

「ふぅ、おや?そちらの方はお連れ様ですか?」

 

「はい、今日は私の買い物に付き合ってもらってます」

 

「ほほう」

 

きゅぴーんと眼鏡が光った気がする・・・

俺をまじまじと見てから

 

「なるほど、秋葉さんの彼氏ですね!」

 

「違います」

 

即答かよ!いや、間違ってないけどさ!なん悲しい・・・

 

「ではどういうご関係で?」

 

「友達です」

 

「ほーう」

 

じろじろと見られてるんだが・・・

 

「お、おい秋葉この店何なんだよ」

 

と秋葉に助けを求めてみると

 

「おお!これは申し遅れました!私この店のオーナー兼店長をさせていただいてますニャーと申します!ニャーさんとお呼び下さい」

 

「み、ミャーさん?日本人だよな?」

 

どう見ても黒い髪に肌の色も日本人ぽい。

海外生活があっから分かるんだが微妙に日本人、中国人、朝鮮人は違いがある。

目の前の変な店員は間違いなく日本人だ。

 

「ハハハ、ミャーさんとは仮の名前!本名は秘密でござる」

 

ござる!そんな方言初めて聞いた!

 

「ミャーさんはコス・・・衣装作りのプロです」

 

「衣装作り?デザイナーなのか?」

 

「ハハハ!そんな大したものではござらんよ。せいぜいアニメの服を再現できるぐらいで」

 

「1回放送されただけでも再現してくれます。半日あれば」

 

よくわからんがなんかすごい気がする・・・

 

「秋葉さんの彼氏のお名前は?」

 

「彼氏じゃありません!」

 

「椎名優希だよ」

 

秋葉の即答にへこみながら言うとミャーさんはほうほうと言いながら俺を更に見てきた。

 

「なるほど、あなたが? 秋葉さんと理子さんの会話に出てくるユーさんですね」

 

「ミャーさん!」

 

秋葉がミャーさんの前に立つと引換証と書かれた紙を突き出す。

 

「引き換え書です!早く完成品を出して下さい!」

 

「えー、もっとお二人のだ・・・」

 

その瞬間、2人の周りから音が消えた。

一瞬、何が起きたか分からなかったが秋葉がミャーさん自分の周りの空気を真空にしたらしい。

会話してるから多分空気は確保してるんだろう。

なにやら、秋葉が怒ってるようだが読唇されないためか秋葉が背になって会話は分からない。

2分ほどして真空状態が終わると紙袋を手にした秋葉が俺に方に来ると腕を掴むと外に連れ出す。

 

「行きますよ優君!」

 

「あ!おい!」

 

「まいどありー!ユー君今度単独で来ると言いニャー」

 

「こないでください!」

 

外に出た瞬間、秋葉が飛び上がる。

もちろん、俺ごと風を纏い空へ

 

「お、おい!」

 

上空300メートルぐらい飛び上がると秋葉は自由落下しながら

 

「行かないでくださいね優君」

 

と真顔で言って来た。

 

「え?」

 

「あの店に単独で行くならこのまま落ちます」

 

何それ!すごい脅し!というか落とすじゃなくて落ちますときたか!お前も死ぬ気かよ!

 

「行かねえ!行かねえから制御しろ!」

 

慌てて言うと秋葉はほっとしたように風を纏いゆっくりと地上に降り立った。

ふう、本気なんだか冗談なんだか時々分からなくなるな秋葉の奴・・・

 

「すみません」

 

と、今度は反省の言葉か・・・

本当に・・・昔と変わってきたよな秋葉・・・

武偵高に俺の専属近衛として派遣されてきたのがきっかけだが学校で友達が出来ていい刺激になってるのかもしれない。

バスカービルの連中とも上手くやれてるみたいだし最近は戦闘の連携も取れてきている。

俺はうれしいよ秋葉。

 

「謝ることねえよ。まあ、空で落とすとかは勘弁してくれよ今度は」

 

「・・・それは優君しだいです」

 

少しだが笑みを浮かべている秋葉。

な、なんか頭をなでたくなってくる感じなんだが流石にそれはまずいよな・・・

 

「優君?」

 

俺が固まっているからか秋葉が不思議そうに声をかけてくる。

ふと考えてみる。

女の子と出かけるってデートとかになるのか?

いや、友達同士ならそうはならないのか?

うーん・・・

 

「あのー、いい雰囲気の所申し訳ありませんが・・・」

 

「!?」

 

突然の声に俺達が慌てて振り返るとそこには、見覚えのある武偵高の制服を着た女子がいた。

山梨武偵高の制服か・・・

嫌な予感がするぜ

 

「申し訳ありません逢引の邪魔をするつもりはありません!どうぞ続けてください!終わりましたら再度声をおかけします」

 

「違います!」

 

うん、秋葉の力一杯の否定・・・

まあ、それはともかく

天雷に手を置きながら一歩下がる。

 

「山梨武偵高。武田の関係者か?」

 

この状況で考えられるのはそれしかない。

東京武偵高より少しだけ長いスカート。

色は純白の白。

白い制服。

女は黒い長い髪を髪留めで2つに止めており黒い瞳に優等生がかけてそうな丸メガネ。

一見気弱そうだが絶対に油断できない。

 

「こ、これは申し遅れました!武田家風林火山の『山』を務めさせていただいております高木文香と申します」

 

名乗られたら名乗るのが礼儀だがこいつは俺のことを知ってるっぽいな。

にしても、風林火山の一角が出てきたか・・・

雪村とジャンしか知らないがこいつは何の目的でやってきた?

 

「その武田の山が何のようだ?」

 

「あ、はい信冬様の件で1つ。椎名様が信冬様から離れられるこのチャンスを逃す手はないと思いまして。本当は店を出た時声をかけようとしたんですが空を飛んで行かれましたので追撃に苦労しました」

 

「で?返せというのか?武田に?信冬を」

 

「はい、とある理由から御隠居様に信冬様を連れ戻すように言われております」

 

やはりかよ・・・

秋葉に武偵信号で合図を送って戦闘態勢を整える。

 

「や!待って!待ってください!今日は戦うために来たのではないのです!」

 

俺達が殺気を高めたのを見て高木は慌てて手を振って戦闘の意思がないことをアピールする。

 

「ひとまず話しあいはいかがでしょう?」

 

さてどうするか・・・

少し思案してみる。

秋葉と2人がかりとはいえ未知数の相手に戦いを挑むべきか・・・

それは賢明とはいえない。

信冬が話していない情報を相手が話す可能性もある。

ならば・・・

 

「いいぜ。話しあいだ。納得するしないは別としてな」

 

武田の人間、高木はほっとしたように胸に手を当てる。

 

「ふう、よかったです」

 

当てた手で胸が揺れたぞ。

白雪並みの大きさのでかい胸だな・・・

 

「って!」

 

がんと頭に衝撃が走ったので秋葉を見ると秋葉がジト目でこちらを見ている。

 

「どこ見てるんですか?」

 

「ど、どこも見てねえよ!なんだその言いがかりは!」

 

「・・・」

 

ばれちゃってるよ・・・男の視線がそちらにいくのは勘弁してくれ・・・

俺だって思春期の男の子なんだから!

 

「あの~、痴話げんかはそれぐらいにしてくださいませんか?私が帰った後いくらでもラブラブしてもらっていいですから」

 

「違います!」

 

「そ、それより話だが場所を変えないか?ちょっと、人が集まってきた」

 

そう、ここは歩道の真ん中。

ただでさえ、空から降りてきたり不穏な空気の3人がいたら遠巻きに野次馬が集まってくる。

 

「分かりました。どこがいいでしょう?」

 

「そうだな・・・」

 

少し思案してみる。

こういう荒事に対して俺達の事情をよく知ってる人間がいる話しあいができそうな場所・・・

一人の後輩の顔が頭に浮かんだ。

あいつのバイト先にでいいか・・・

行き先を告げると高木はそれでいいですよと快諾してくれた。

時間短縮のため、秋葉の風で行くことを提案するが

 

「ああ、必要ありませんよ」

 

高木がそう言った瞬間、彼女の体が少し浮いた。

風のステルス?いや、でも風なんて今は吹いていない。

何のステルスだ?

 

「さあ、行きましょう」

 

笑顔で言う彼女に底知れぬものを感じる。

この瞬間、俺は確信した。

こいつは強い。

油断して戦えば負けるのは避けられないぐらいに・・・

ったく、紫電がない時ばかりステルスが敵になるとか勘弁してほしいぜ

秋葉の風で浮き上がりながら俺は内心ため息をついた。

 

 

 

 




というわけで秋葉との買い物もといデート? 違います!でした(笑)

ちなみに秋葉が店で貰ったのはリリカルなのはのフェイトのコスプレを仕立て直してもらったものですw


さて、ついに敵サイドが優に接触してきました。
何か強力なステルスを持ってることを匂わせる高木。
眼鏡っ子ってことで眼鏡がポイントですよw

本格的な激突はまだ、先ですが彼女のステルスが優達に立ち塞がるのは間違いない!
紫電なくして強力なステルスばかりで優涙目w

AAドーピング中ですが感想という起爆剤あってこそですので気が向いたらよろしくお願いします!

さて、次回は優の後輩アリスが出てきますよ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第241弾 動かざること山のごとし

AAドーピング!感想で起爆!


サイド おやっさん

 

中華料理屋『炎』は店主が炎のような熱い料理を作りたいという店主、荒井卓の願いから来たものだ。

日本の武偵黎明期の頃、東京ではないが武偵高で武偵を目指したこともあるが過ぎた話である。

今ではこの中華料理屋で学生を中心に料理を作る1人のおやじでだ。

 

「店長おはようござーいまーす」

 

夕方の開店時間まで後、2時間。この店の唯一のアルバイト店員月城アリスがやってきた。

名前から分かるようにハーフである。

武偵高でアンビュラスという頭が悪い奴には勤まらない学科で天才と呼ばれているSランク武偵だ。

 

「店長じゃねえ!おやっさんと呼べと何度言わせやがる!首にするぞ!」

 

「アハハ、それは困りますねぇ。おはようごうざいますおやっさん」

 

「たく」

 

こいつを雇ったのはこいつの親父と知り合いだからだ。

まあ、いろいろ理由はあるのだがこいつも、いろいろある。

なんせ、初めてこの店に来た時は・・・

 

「おやっさーん。今日、学校でクッキー作ったんですよ食べます?」

 

「へっ!そんな甘ったるいもん食えるか!」

 

「甘いの駄目なんですか?」

 

「おうよ!地獄ラーメンなんてその証拠だ!」

 

この店の看板メニュー、恐ろしく辛いラーメンで挑戦者は敗北し多額の金を失う。

食いきればただだが、こいつを制覇したのは壁にかざってあるレキという学生だけだ。

辛さに敗北したので自分は食わないが作った、ももまんフルスペシャルというのもあるがこれは神埼アリアという学生が制覇した。

以降、食いにきまくるのでそろそろ、やめようかと考えているメニューでもある。

 

「大丈夫ですよ!ババロネクッキーにキムチクッキーに鷹の爪クッキーでーす」

 

「な、何!」

 

ごとりと置かれたクッキーはなぜか、赤い・・・

クッキーって茶色じゃないのか?

 

「どうですか?辛くないですよ―」

 

にこにこしながら差し出されたクッキー。

く、くそったれ!甘くないなら・・・

赤いクッキーを口に放り込むと目が明滅する。

 

「ぐ、ぐああああああああ!」

 

その瞬間、中華料理屋炎のてんち・・・いや、おやっさんは意識を失った。

 

 

 

 

 

サイドアリス

 

それから、15分後。2階でおやっさんが意識不明なのをアリスが診察してなんで倒れたんだろうと首をかしげながら寝てれば治るとして1階に下りてくるとガラと音を立てて誰かが入ってきた。

 

「すみません。まだ、準備中で」

 

「悪い、アリスちょっとだけ場所借りたいんだが・・・」

 

よく知ってる顔だ。

 

「あれぇ?お兄さんじゃないですか?どうしたんですかぁ?」

 

続けて山洞秋葉が入ってくる。

 

「おやぁ?秋葉先輩と秘密の会談ですか? フフフ、ここでそれ以上はやめてくださいね」

 

「だったらいいんだがな・・・」

 

「いいわけないです!」

 

がんと秋葉先輩がお兄さんを軽く押します。

おやぁ?何か、秋葉先輩も少し変わってる気がしますね。

私が見る限りですが・・・

 

「こんにちはぁ。ここの子は大丈夫ですか?」

 

続けて入ってきた眼鏡の女子。

眼鏡巨乳とはマニアックなと内心は思いますがどうやら、真面目な話しなようですね。

あれは山梨武偵高ですかね?

 

「準備中ですから料理は出せませんけどいいですか?開店まで2時間ですよ」

 

「ああ。それでいい」

 

「フフフ、水ぐらいはだしますね」

 

トントンと水を置いて3人の会話が始まりました。

私はおやっさんが倒れたので開店の準備をしないといけません。

聞き耳を立てながら準備することにしましょう。

何せ、私はお兄さんの緋刀とは無関係な人間ではない関係者なのですから

 

 

 

 

サイド優希

 

アリスは事情を理解してくれたようだな。

聞く気満々のようだが別に構わないさ。

 

「で? どう話しあう?信冬を引き渡せというのか?」

 

「んー、どうしましょうかね」

 

出された水を口に含みながら高木文香は言った。

 

「あなた達は信冬様を渡したくないんですよね」

 

「そもそも、信冬が家を出た理由だ。お前は当然知ってるんだろ?」

 

「ということは信冬様はおっしゃっていないという事ですね?」

 

「そうだ」

 

否定しても仕方ないので言うと高木は眼鏡をかちゃりと中指で直しながら

 

「いいでしょう。あなたも無関係ではありません。信冬様が家を出られたのはご結婚されるのが嫌だからです」

 

け、結婚?まさか・・・いやでも、それ、おかしいだろ?

 

「暁家といえば分かりますか?」

 

「おい!まさかあの暁か!」

 

「そうです」

 

一瞬、自分と信冬かと思ったが、頭が痛くなってきた。

暁家は裏武家である俺達と違い表の世界で有名な一族だ。

表では知られていない俺達と違い一般人でも知ってるような家。

財閥のようなもので奏ちゃんの家以上の大金持ちだ。

政界にも絶大な影響力を持つし政治家も何人も輩出している。

ある舞台では椎名も武田も容易には手出しできないような存在だ。

その暁家が裏武家の信冬と?

 

「暁家次男、暁竜馬と信冬様のご結婚すでに、決まっていたのですが信冬様は御隠居様に反抗して家を出てしまいました。ご自分で手続きされたようですが転校までして」

 

「それで、暁家は何て言ってるんだ?信冬がこちらに来て」

 

「暁家としては激怒され婚約の破棄寸前まで行きましたが信冬様の結婚相手暁竜馬様が大変信冬様をお気に入りになっておりいつまでも待つと返答されてきました」

 

つまりは、簡単には諦めないからなというメッセージか・・・

 

「ですが、現実はそうはいきません。御隠居様の考えとしては信冬様を暁家に嫁に出し妹の信秋様を当主にし表と裏に絶大な影響力を持とうとお考えです」

 

確かに・・・表の世界で有名な暁家と婚約すれば武田は裏と表でとんでもない影響力を得るだろう・・・

だが・・・

 

「それは政略結婚じゃねえか」

 

「そうですね。ですが、かつてのあなたと信冬様の婚約を政略結婚前提の婚約では?」

 

「かつてって言ったな?」

 

「ええ、あなたと信冬様の婚約は完全に解消されております。椎名への通達も終わっておりますよ」

 

ほぼ当主だったはずの信冬を嫁に出せるほどの影響力を持つその御隠居のことだ・・・

言ってることは真実・・・

おそらく、実家に連絡してもそう、返ってくるのは間違いない。

 

「信冬様もあなたが帰れと言えば拒みはしないでしょう。そして、婚約が正式に解消されたのです。守る理由がありますか?」

 

「ある」

 

俺は真正面から高木の目を見て言う。

 

「婚約者言う関係がないにせよ。俺と信冬は友達だ。そいつが俺を頼ってきた。嫌がるあいつを渡すわけにはいかねえな」

 

「言ってることはかっこいいです。尊敬します。ですが。抵抗してもあなたにも椎名にも益はありませんよ」

 

「実家からは勘当同然の身だ。そっちは関係ねえよ」

 

「だとしてもです。益はないでしょう?死にますよ?武田と暁家を完全に敵に回してあなたと信冬様だけで抵抗できるのですか?」

 

「俺だけじゃねえよ」

 

「仲間ですか?ですがそれも・・・」

 

「忘れたのか?俺には世界最強の姉がいるんだぜ?」

 

「うーん、水月希さんを出されるのは反則ですよ・・・あの人、本気になれば世界中の軍隊とでも渡りあう人ですし・・・」

 

困りましたねえと高木は眼鏡をかちゃりと直す。

強気で話してはいるが内心は冷や汗ものだ。

姉さんだっていつだって俺を守ってくれるわけじゃないし所詮自分の力でなければ力でねじ伏せる方法は長続きしない。

だが、時間を稼ぐ意味でもここは姉さんの名声を借りるぞ。

弟特権だ!

 

「帰って御隠居とかに伝えろ。暁家との結婚は破談だ」

 

「それだと困るんですよ。せめて、何か土産話の一つないと帰れないんです」

 

「みやげならももまん買ってやるから帰れよ」

 

「優希君。虎の威を狩る狐って知ってますか?」

 

目を閉じて高木はかちゃりとめがねを上げて再び目をあける。

恐ろしいまでの殺気がびりびりと俺の体を貫く。

 

「虎は姉さん、俺は狐っていいてえのか?」

 

「そう言ってるんですよ」

 

今度はにこりと微笑む。

パアアアンと音がしてコップが弾けとびかたかたと机が揺れ出す。

 

「あまり武田を舐めないでください」

 

ステルスか・・・だが、この脅しに屈せば全ては終わりだ。

 

「そっちこそ、俺を舐めすぎじゃねえか? 姉さんいないと何もできないガキとでも思ってるのか?」

 

びりびりとさ殺気同士がぶつかり合う。

一瞬即発の雰囲気に秋葉はいつでも、戦闘に入れるように準備する。

俺も刀を手にして・・・

 

「ストップです!」

 

バンとアリスが机を叩いたので俺達の殺気は無散して声を上げた少女に目を向ける。

 

「あ、アリス?」

 

「人のバイト先を壊す気ですか!話は聞かせてもらいましたがやるなら、別の場所でやりあってください!それと武田の人」

 

「あ、はい高木文香と申します」

 

突然の乱入者に面食らったように高木もおろおろしてる・・・

 

「高木さん。ということでしたら時間をかけて勝負したらどうですか?」

 

「時間をかける?」

 

首を傾げる高木にアリスは1本の指を突き出す。

 

「勝負に勝てば1週間は手を出さないと誓ってください。負ければ武田信冬先輩は連れてっていいです」

 

「お、おい!アリス勝手に・・・」

 

アリスは俺を見ると高木に見えないようにウインクした。

何か考えがあるようだ。

高木は少し考えてから

 

「そちらが負ければ水月希の助力は請わないと約束してくれるなら受けましょう」

 

やはり、姉さんは怖いらしい。

こちらを負かせば問答無用で連れてっていいし姉さんが奪還にこないなら条件的にはいい。

それに、条件は完全に諦めるではなく1週間手を出さないだけだ。

それ以降に攻めてくればいいのだ。

1週間か・・・時間を稼ぐ意味でもありだな。

それに、ここでこいつを戦闘不能にしておけば戦力を削れる。

 

「それでいい」

 

「交渉成立ですね。それで・・・えっと」

 

「アリスと呼んでください」

 

「では、アリスさん。勝負の内容は?まさか、カードとか言わないですよね?」

 

「もちろん、ガチバトルです!気絶した方が負けでどうです?」

 

「いいですよ」

 

な、なんか勝手に決まってるぞ。

だけど、こいつの能力を知るためにもこの戦いは必要だ。

 

「時間は1時間後空き地島で」

 

「了解しました」

 

高木は立ちあがるとドアを開けながら

 

「勝てるとは思わないことですね」

 

一言残して立ち去っていった。

さて・・・

 

「おい!アリス!あいつまじでやばそうなんだぞ!負けたらどうするんだよ!」

 

「フフフ、お兄さんなら勝てるって信じてますよぉ。でも、大丈夫、作戦がありますから」

 

「作戦?」

 

「はい、実はですね」

 

その内容を聞いて俺は罪悪感をちょっと、感じた・・・

この小悪魔改め悪魔め・・・

とんでもないことを考えやがる。

 

「信冬が学園島に戻ってくる前に終わらせるぞ」

 

「はい!」

 

刀を手に俺達は空き地島へ向かう前に準備に向かう。

 

「あ!その前に」

 

アリスは奥から札を持ってくるとドアに札をかけた。

 

『本日臨時休業』

 

いいのかと思ったがまあ、アリスだもんな・・・

いいんだろうと納得しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、1時間後の学園島に隣接する空き地島。

ここは少し前に宣戦会議が行われた場所だ。

人目に触れずに戦うならいい場所だと思う。

ボートから降りると島に上がると奴はいた。

島の中央で目を閉じて立っている。

 

「来たぞ」

 

そう言うと奴は静かに目を開けた。

 

「考え直しませんか?」

 

「あ?」

 

「今なら信冬様を説得すると言えば戦わずに済みますよ」

 

「俺がそう言うと思うか?」

 

「そうですね」

 

両手を高木は広げズンと右足を地面に叩きつけると地面が右足の地面に小さなクレーターが出来る。

 

「武田の山は1歩も動くことなく勝利する。動かざること山のごとし。私を1歩でもここから動かすことができればそちらの勝ちにしても構いませんよ」

 

舐められてるのか?いや、おそらくは自信だろう。

 

左手にガバメント右手に天雷を持つ。

一刀一銃スタイルは攻守に優れたスタイルだ。

相手の出方が分からない以上まずはこれで行く。

先制攻撃行くぜ

牽制代わりに単射え1発

くすりと高木が笑った気がした。

着弾と同時に高木の周囲に大爆発が巻き起こる。

武偵弾炸裂弾だ。

いきなり、炸裂弾を使ったのは破壊力のある攻撃を防げるか・・・

通常の犯罪者なら殺してしまうがおそらく・・・

煙が晴れてくるとそこには無傷の高木の姿があった。

無論、右足のクレーターから1歩も動いていない。

何をした?バリアか何かを張れるのか?

いや、それなら飛んだのに説明がつかない。

少々危険だが接近戦を仕掛けるか

 

ガバメントをしまい高木に突進する。

最大限の警戒をしながら剣術を叩きこむためだ。

 

「言ったでしょう。私は動かず勝利する」

 

高木が右手を前に突き出した瞬間何かが俺の正面から叩きつけられた。

殴られたような感触の後、後ろにブッ飛ばされる。

 

「ちっ!」

 

バランスを保って地面に足を磨って体制を立て直す。

なんだ、今何された?

手が届く距離ではなかった。

カナのように武器を一瞬で出して見えないうちにしまいこんだのか?

 

「次行きますよ」

 

バキバキバキという音に後ろを振り返るとハイジャックで不時着した飛行機の残骸から鉄骨のようなものが5本飛び出してきた。

なんだ!?

 

「それ!」

 

そして、それが高木の声と共に俺に向かい飛んでくる。

ガンガンガンと地面に突き刺さっていく鉄骨。

それをぎりぎりで交わし、転がりながらガバメント2丁でフルオートで高木に向かい発砲するが彼女の周囲で火花が散るだけで弾はあいつには届いていない。

だが、今ので奴のステルスの検討はついた。

 

「サイコキネシスだな?」

 

「ようやく気付きましたね。弾は届きませんし接近戦は許しませんよ」

 

鉄骨が宙を舞い5つが高木の周囲を旋回する。

更に、小さな浮遊物体がいくつか見える。

超偵を攻略する方法はいくつかある。

そのうち有効なのはガス欠だ。

つまり、粘りまくって相手がステルスを使えなくなった瞬間を叩く方法だ。

秋葉を見て分かるようにステルスは燃費が悪い。

粘りまくれば・・・

 

「1ついい忘れてました」

 

高木はかちゃりとメガネを治すと

 

「私の精神力、つまり、ステルスを使える力は山一つ分あります」

 

「山一つ分って基準が分からんぞ」

 

過ごそうってのは分かるが・・・

くすりと再び彼女は微笑み

 

「私は丸一日ステルスを使い続けることができるんです」

 

その絶望的な言葉を奴は言い放つのだ。

 

 

 




はい!というわけで話し合いでは解決せずやはり、バトル!

果たしてアリスの策とは?秋葉やアリスがなぜいないのか?

まあ、優君は戦わないといけないのは変わりませんw

高木文香のステルスはサイコキネシス。またの名を念動力?
そして、1日ぶっづけで使えるステルス。
動かずとも攻撃も防御もできる。
まさに、山ですね。

大概の他はわかると思いますが両方とも様子見で本気だしてません。
優は戦闘狂も緋刀も出してませんし高木もあれを外してない。
次回!優君サイコキネシスに挑みます(笑)

あ、今回も信冬でなかった(^_^;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第242弾 巨大な敵

AAドーピング!感想起爆w


丸一日ステルスを使い続けられる。

それはとんでもない状況だな・・・

姉さん見てなかったら絶望してたかもしれん・・・

「まぁ、姉さんほどじゃねえし」

 

「そう言えば、あのチートなあなたのお姉さまも1日中ステルスを使えるのでしたね」

 

「本当かどうかわからんが限界はないって話しだ」

 

「・・・」

 

高木がちょっと絶句してる・・・

 

「なんだか、私の山が小山に見えてくる現実ですね」

 

「比べる方が間違ってるんだよ。お前が山なら姉さんは宇宙だ」

 

「ですがあなたは砂粒です」

 

旋回していた鉄骨が再び動き出す。

 

「ちっ!」

 

ガバメントで牽制しながら右に左に、ワイヤーを地面に打ち込み、速度を上げながら必死に回避する。

だが、鉄骨は飛行機の中から次から次へと飛んでくる。

まるで解体ショ―のように飛行機がバラバラになっていく。

 

「どうしたんですか?私を倒すんじゃないんですか?」

 

「くそ!うお!」

 

ブンとバットのように横殴りに来た鉄骨をワイヤーで飛んで交わす。

戦闘狂になる余裕もねえ!

回避するだけで精一杯だ。

 

 

「所詮、口だけでしたか。信冬様が見込まれた男、期待はずれです。外すまでもない」

 

鉄骨の暴風のような攻撃を回避し続けるにも限界がある。

だが、攻略法が思い浮かばねえ。

 

「・・・」

 

懐に入っているものに一瞬、考えを移す。

瓶に入ったアリアの血。

緋刀の力。

緋光剣さえ使えれば勝機は見えるかもしれない・・・

出し惜しんで勝てる相手じゃねえ。

だが、こいつはアリスにこの戦いでは使うなと言われている。

本当にどうしようもなくなった時のみ使ってくださいと言われて渡されたものだ。

なら、まだ使えねえよな

走りながらガバメントのマガジンを入れ抱える。

接近できないのなら中距離戦の拳銃でやりあうしかないが弾は奴には届かない。

なら、どうする・・・

 

こう言う時は、こうするんだよ!

3点バーストで正面から高木に発砲する。

無論、鉄骨が防御に入るが高木の体が一瞬、揺れた。

 

「っ!今何をしたんですか?」

 

高木の肩の部分に黒い焦げ跡。

防弾制服に命中したのはガバメントの45ACP弾だ。

 

「教えねえ!」

 

べっと舌を出してから再度3点バーストで発砲。

鉄骨が再び間に割り込むが今度は高木に脇の防弾制服をかすめる。

 

「うっ!」

 

正体不明の弾丸に高木は明らかに攻撃の手を緩めた。

旋回する鉄骨の半分以上を防御のためか自分の周囲に旋回させる。

 

「遅え!」

 

ドンと単射した弾が高木の背中に命中し少し前のめりになる。

左目を閉じて痛みに耐えている奴を見てこれはいけると判断する。

まだ、奴は気付いていないがこいつは空間跳躍射撃。

鈴さんの得意技だ。

もちろん、俺にはそれ系のステルスは使えない。

種明かしはステルスを封印できる魔封弾。

こいつは、試作品だからまだ、世の中には出回っていない武器だ。

使う奴も俺の仲間内のみだから高木はこれの存在を知らないはずだ。

俺は選択肢を広げるために魔封弾を大量に受け取りステルスの知り合いに魔封弾にその力を注いでもらって大量にストックしてある。

1度部屋に戻って取ってきたのは鈴さんの空間跳躍射撃の魔封弾だ。

ありったけ持ってきた!

半分かけだったが運は俺に味方してる。

だが、この空間跳躍射撃は恐ろしく難しい。

中距離でも狙った場所に直撃させることができない。

大体の場所へは誘導できるがこれ、鈴さん長距離や乱戦でやってるんだもんな・・・

やっぱり、あの人も化け物だよ。

 

「うう・・・」

 

3点バーストの弾がついに、高木の左足の防弾ストッキングに直撃した。

激痛に高木は膝をつくがその右足はクレーターを踏んだままだ。

行ける!このまま、押し切れると思ったその時

 

「すみません」

 

地面を見たまま・・膝を屈したまま高木は言った。

 

「あなたを舐めてました」

 

「へえ、そうかよ。それなら、このまま山梨に帰れよ」

 

「いいえ、まだです。これまで、私はあなたの力を舐めていた。次は・・・」

 

目をつぶりかちゃりと高木はその黒いフレームを外した。

眼鏡を外したその表情は鋭い殺気を纏った目だ。

 

「・・・」

 

やばいと本能が告げている。

こいつは今、本気になったと思った時高木が手を空に掲げる。

その後は暴力の暴風だろう。

使うかとポケットの瓶に手をかけた。

互いに次の一手を繰り出そうとした瞬間だった。

 

「そこまでだ」

 

その声に俺ははっと風力発電の上にいる知り合いに気がついた。

土方さん!

 

「・・・」

 

高木は静かに眼鏡をかけ直すと俺と同様に上を見上げると

 

「・・・公安0」

 

「今の立場はそうじゃねえ。雪羽の夫。土方歳三としてここに来た」

 

防弾スーツに身を包んだ土方さんは高木を睨むように見ている。

 

「雪羽様に頼まれましたか? 信冬様を連れ戻すのを阻止して欲しいと?」

 

「残念だが不正解だ。俺は信冬が来たことを知らされてなかった。まあ、今日の夜にでも雪羽には言われたんだろうがな。俺が連絡を受けたのは優希の知り合いからだ」

 

アリスと秋葉だ。

 

「それではそこで黙って見ていてもらえませんか?私は椎名優希と信冬様をかけて勝負している途中です」

 

「存分に勝負するといい」

 

「!?」

 

高木が驚いたように後ろを見ると闇の中から麦わら帽子にマントの完全装備の鈴さんが現れる。

 

「魔弾・・・邪魔をするためにきたのですか?」

 

「それはあなた次第。私は頼まれてきただけ」

 

高木が卑怯なというように俺を睨む。

だが、俺はアリスが考えた作戦をそのまま実行に移す。

 

「高木、俺は1対1とは一言も言ってねえぞ。アリスもな」

 

そう、さきほどの会話では俺とアリスは1対1で勝負するなどと一言も言ってない。

単純に気絶した方が負けというシンプルなルールを提示しただけの話し。

俺が時間を稼いでアリスと秋葉が俺が指定した人達に援軍を要請し援軍到着後、集団でぼこって1週間時間を頂くというものだ。

そして、援軍は鈴さんと土方さん。

 

「約束は破ってませんよぉ」

 

鈴さんの後ろから秋葉とアリスが出てくる。

 

「・・・」

 

高木は引くか引かないかを検討しているようだった。

最大に警戒しているのはおそらく鈴さんだ。

空間跳躍射撃はサイコキネシスに関係なく直撃弾を与えられる。

慣れていない俺よりも実戦経験を重ねた鈴さんが相手では致命傷を避けるのは難しい。

そして、土方さんも同様。

姉さんや雪羽さんこそいないが化け物が2人もいるのだ。

それに、4対1では圧倒的に不利。

 

「俺達も武田や暁と今、戦争する気はねえ。1度引け。武田の山」

 

「ふぅ」

 

高木は息をはいてからゆっくりと右足をクレーターから放した。

 

「残念ながら勝機はないようです。ここは、あなたの作戦勝ちとしておきましょう」

 

アリスを忌々しそうに見てから俺に目を向ける。

 

「卑怯ですねあなた。大人の力で解決させようなんて恥を知るべきです」

 

ま、確かにかっこ悪いのは認める。

だけどな・・・

 

「信冬は渡さねえよ。武田と暁の2つの権力と戦うならこれぐらい必要だろ?」

 

「負けを認めた以上1週間時間を与えます。それまでに後悔ないようお過ごしください」

 

ふわりと高木が宙に浮かび上がる。

サイコキネシスによる空中浮遊だ。

 

「警告しておいてあげますね。次はこの手は使えませんよ」

 

「分かってるよ」

 

「・・・」

 

た、助かった。

高木が視界から消えたのを確認してから俺は尻もちをつくように地面に座り込んだ。

条件付きの勝負をするぞ→え?1対1なんて言ってないよ。戦うなら袋叩きね。

なんとも情けない作戦だったが今回はアリスに感謝だな。

 

「大丈夫ですか優君」

 

「ああ、っても相手は本気だしてなかったからほとんど怪我してないけどな」

 

「近くによってきた秋葉を見上げながら言っていると土方さんが風車の上から飛び降りてこちらに歩いてくる。鈴さんやアリスもだ。

 

「やぁ、袋叩き作戦大成功ですねぇお兄さん」

 

ぺろっと舌を出してアリスが言った。

卑怯な作戦ってもやったもの勝ち。

騙される方が悪いってか?

 

「今回だけは感謝だなアリス」

 

「今回だけってなんですか?じゃあ、10万でいいですよ」

 

金取るのかよ!

冗談だと思いたいね。

 

「だが、優希これから、どうする?あいつは1度引いただけだぞ」

 

「分かってます土方さん」

 

そう、現状は八方ふさがりな状態だ。

信冬を今のままかくまい続けることは不可能だ。

風林火山というからにはまだ、風がいるはず・・・

それも、高木より強いか少なくても同等の戦力と見るべきだ。

いや・・・風林火山には陰雷の文字もあったはず・・・

ジャンや雪村がどうしているか分からないがあいつらは敵にならないと思いたいが・・・

 

「暁と武田だ。公安0にも非公式ながら圧力がかかるはずだ。俺は全面的には助けられねえぞ」

 

それはつまり、陰ながらは助けてくれるってことか・・・

まあ、なんにせよ信冬に相談しないといけないが・・・

 

「戦いにおいての勝利条件は相手の大将を倒すこと」

 

鈴さんが無表情な目で俺を見下ろしながら言った。

敵の大将って言うと・・・

 

「武田信春か・・・」

 

確か、信冬も言っていたな・・・今の武田はそいつがリーダーだって。

 

「そいつをぶっ飛ばして婚約を取り消せば・・・」

 

「そりゃ、難しいだろうな」

 

「どうしてですか?そんなに強い相手なんですか?」

 

信冬がばあさんと言ってるんだから相当な年寄りだろう?

 

「分かりやすく言ってやる。あのばあさんは強い。確実に勝てる奴は希やアズマリアクラスじゃねえと無理だろうな」

 

おいおい、姉さんクラスの化け物かよ。

 

「ということはRランククラスってことですか?」

 

「認定はされてねえがそれクラスだ。優希、今の、お前じゃあのばあさんには100%勝てねえ。殺されるぞ」

 

「・・・」

 

最悪じゃねえか・・・今まで戦って来た連中が可愛く見える状況だ。

だが、だからといって諦めるわけには・・・

 

「1週間猶予はできた。それまで、考えろ優希。後悔しないお前の選択を選べ」

 

土方さんが背を向けて歩き出す。

その背中がまるで見放されたように見えてひどく心細い気がしてしまう。

 

「・・・」

 

その背を無言で追う鈴さん。

2人とも俺に先を示してはくれない。

信冬を守るか見捨てるかお前が選べということなのだろう。

 

「優君」

 

「秋葉・・・俺はどうしたらいいと思う?」

 

「優君が決めてください。私はあなたについていきます」

 

1週間後再び武田は攻めてくる。

おそらく、次は土方さん達に圧力をかけたり正面突破可能な戦力で来るだろう。

防御するなら姉さんに頼るしかないが・・・姉さんは・・・

それまでに信冬を守るなら決着しなければ・・・

 

そもそも戦って勝てるのか?椎名の本家の力は望めない。

それをやれば文字通り戦争になってしまうからだ。

極東戦役の最中、日本の裏でごちゃちゃになれば卷族の連中も介入してくるかもしれない・・・

治めるのは信冬を差し出すことだ。

彼女は望まぬ結婚をし、不幸になるが周りは円満な日常を取り戻すだろう。

この状況を打開するには俺は無力すぎるのだ。

武偵は諦めるな!決して諦めるな!

俺の好きな武偵憲章のこの言葉・・・今回ばかりは無茶言うなと言いたくなるぜ

 

 

 

 

 

 




はいというわけで最新話です!
アリスの作戦は言ってないをいいことに強い人連れてきて負け認めないなら袋にするよ作戦でした!
なんて卑怯な(笑)

しかし、今回ばかりは優君も大ピンチです。
信冬を差し出せば解決しますがそれをすれば彼の信念は尽きます。

しかし、化け物の巣窟たる武田に攻め込めば間違いなく殺されます。
今回ばかりは優は一人ではなく人脈駆使したり優に興味を持ってくれてるあの人とか利用したりしないと即BADENDです。

頑張れ優!ハーレム状態なんだから少しは苦しめ(笑)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第243弾 魔法少女リリカル信冬

遅くなりましたが続きです。ど、ドーピング


サイド アズマリア

 

1週間とは長いようで短すぎる時間だ。

報告書を読んだ西洋人形のような愛らしい少女は薄く笑みを浮かべて紙を机の上に放った。

 

「優希君もまたまた大ピンチだね」

 

猫のマグカップに入ったミルクを飲みながらアズリアは抜き身の日本刀を手にする。

ヒルダ戦を見る限りでは優希君は絶対に引かないと予想できる。

武田の戦力はアズマリアでさえ舐めてかかっては足元をすくわれる連中がごろごろいる。

全てが日本国内にいるわけではないがサイコキネシスの使い手の高木・・・

まあ、一人を除いては負けることはないのだが・・・

 

「怖いのは信春ちゃんだよねぇ」

 

彼女・・・アズマリアは先祖からの記憶を代々継承する。

幾代か前のアズマリアと武田信春は戦っている。

決着をつけた戦いではなかったがそれでも、アズマリアは記憶を見る限り信春とは戦いたくない。

あの水月希でさえ信春を余裕で消し去ることは容易ではあるまい。

その信春が自分の意思を邪魔する優希を殺しにかかればおそらくは・・・

 

「うーん、どしよっかなぁ」

 

くるくると紫電を回しながらアズマリアは思考を巡らせる。

彼女は楽しいことが好きだ。

そして、イレギュラーなことはもっと大好きだ。

椎名優希にはヒルダ戦を通じて興味を持った。

信春が相手では優希のサポートも満足には機能しないだろう。

 

「うーん」

 

首を傾げながら椅子をくるくる回しながら彼女は考える。

すまわち、優希に手を貸すか否かだ。

 

「よし!決めた!」

 

アズマリアは猫のコップを置いて椅子から立ち上がる。

 

「気分次第だよね♪」

 

彼女は気まぐれ、楽しいことは大好きだが猫のように気まぐれな性格なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド優希

 

にしてもまいったなぁ・・・

高木の襲撃から1日立ちみんなにも事情を説明したしたはいいが今回の敵は厄介すぎる。

実家もそうだし、公安0も今回ばかりは助けてくれない。

なんか、キンジと仲良くなったエルに聞くとリバティーメイソンは今回の件には不介入を貫くそうだ。

エル自身はバスカービルのメディックになったそうだが・・・

師団の連中も同じ。

メーヤさんはイタリアだから仕方ないにせよ玉藻さんも中立。

それどころか師団の中で争うな!馬鹿ものと説教されてしまった。

そりゃ、俺だって争いたくないよ。

 

「それじゃあ、武田さん。前に来て引いてもらえる」

 

「はい」

 

ん?考え事してたがそう言えばホームルームの最中だった。

高天原先生が前に出してるBOXはくじ引きの・・・それを信冬が・・・

ああ、リストランテマスケの衣装決めか。

俺達は決まって準備が終わっているが文化祭1日目にあるリストランテマスケまで後5日。

偶然だが武田の再襲撃は文化祭が終わった直後ということになるな。

信冬はそのための変装決めのくじ引きをするらしい。

俺も引き直したい・・・

女装だもんな俺・・・アリアは小学生だし・・・プッ

どがっとアリアの足が俺の足に蹴りをかましてきた。

考えてることがばれたのか小声で風穴と睨んでくる。

お前エスパーかよ!

アリアが座ったまま蹴り繰り出してくるので足で防御していると

 

「引きました」

 

「では中を見てチェンジするか決めてね武田さん」

 

高天原先生の言葉に信冬が頷き紙を広げる。

なんなんだろう?

 

「キャバクラ指名№1?」

 

ざわと教室がざわめきだす。

おいおいなんだそれ!

 

「これは・・・」

 

よく分からないのか信冬が俺の方を見てきたので俺はぶんぶんと首を横に振ってチェンジしろと信冬に進言する。

信冬は頷いてから

 

「チェンジです」

 

「はい、次が最後ね」

 

再びボックスに手を突っ込む信冬。そして・・・

引いた運命のカードは・・・

 

「魔法少女リリカル風。白い方?」

 

がたん

ものすごい音がしたので後ろを見ると秋葉が椅子から少し落ちかけていた。

あ、そう言えばお前黒い方だったね・・・よく分からんけど

 

「はい、それに決まりね」

 

「はい?」

 

よく分かっていないようだがいいのか?まあ、チェンジは絶対にできないのは俺やアリアが逆らって証明されてるんだが・・・

隣の席に戻ってきて信冬は紙を見ながら

 

「優希、リストランテマスケとは何なのですか?」

 

「文化祭の1日目にやる仮装だよ。それぞれ引いた紙に書かれたものになりきってその日を過ごすんだ。なりきれなかったらマスターズの死刑が待ってる」

 

「このリリカル風白い方というのが何なのか分からないのですが・・・」

 

「それについては理子か秋葉の方が詳しいと思うぞ」

 

「ですが理子さんはクエストで今日は登校してきていません。困りましたね」

 

信冬は秋葉を見ると

 

「どういうものか教えなさい」

 

「その・・・アニメのキャラクターです。魔法少女ものの」

 

「アニメ?魔法少女?魔女の派生形ですが?」

 

「そのようなものです・・・」

 

「ふむ・・・」

 

やはり良く分からないというように信冬は考え込む。

秋葉はスマホを取り出して少しいじり

 

「これが、OPです。1期ですが・・・」

 

「見せなさい」

 

「白い茶髪の方が信冬様の仮装対象です」

 

OPが流れそれが終わる。

 

「この服を着てその文化祭は過ごさないといけないのですか優希?」

 

「ああ、そうだな。チェンジはできないからな」

 

「しかし、このような服私は持っていません」

 

信冬が差したのは魔法少女の着るバリアジャケットと呼ばれる服だ。

そりゃ、コスプレしない信冬が持ってるわけないよな。

 

「作るにせよ。困りました・・・」

 

確か1度着たりすることも考えるなら早めに用意しないといけないしな・・・

 

「それでしたらミャーさんに頼めば作ってくれると思います」

 

ああ、あの人か・・・

昨日のごたごたで記憶から飛んでた。

 

「ミャーさんとはどなたですか優希?」

 

「簡単に言えば服を作るプロだな。今日、放課後行くか?」

 

信冬がなぜか少し嬉しそうに微笑んだ。気がする・・・

 

「それは逢引・・・デートのお誘いですか?」

 

な、なんでそうなるんだ!

そうだ!秋葉!

 

「・・・」

 

目をそらすな!お前が教えてくれたんだろ!

誰かいないか!誰か!

教室をきょろきょろしてとりあえず、目についたのは武藤だが速効で他を探す。

あいつは護衛に参加してないしな。

次に目に着いたのはキンジだった。

ついでに、アリアも同時に

 

「キンジ!アリア!付き合え!」

 

「断る!」

 

「いいわよ」

 

キンジとアリアが同時に答えた。

それぞれ返答は違うが・・・

 

「キンジあんたも来るのよ」

 

「待てアリア!なんで俺なんだ?護衛は2人。優とアリアがいりゃ埋まるだろ」

 

「風穴!少し気になることもあるのよ。いいから付き合いなさい!」

 

「・・・仕方ないな」

 

嫌そうだがなんだかんだで付き合ってくれるんだなキンジ・・・

 

「で?お前はいかないのか?」

 

キンジの目の先には秋葉がいる。

秋葉は鞄に教科書や荷物を詰め込むと

 

「ごめんなさいキンジ君。私は少し、用事があるので付き合えません」

 

と、立ちあがり信冬にぺこりと頭を下げて俺をジト目で一瞬見てから教室から出て行ってしまう。

朝に聞いたんだが近衛として上司である月詠に報告や今後の方針を確認するんだそうだ。

上手くしてくれれば月詠を信冬の護衛に組み込めるかもしれんが可能性は0だな。

月詠が直接動けばもう、冗談抜きで戦争に発展する。

RランクやSランククラスの大量激突。

流石に戦場は選ぶだろうが洒落にならない事態になるはずだ・・・

考えただけでもぞっとする・・・

だからこそ、今回の件はやりにくい・・・

いつもは助けてくれる人たちがほとんど、動けないからだ。

 

「じゃあ行くか」

 

放課後なのでキンジ達が出て行き信冬と俺が続く。

 

「少し残念です・・・できれば・・・」

 

「ん?」

 

俺の方を見ずに信冬が小声で何かを言ったがそれは聞き取れなかった。

その後、何か言う事もなかったのでまあ、聞き違いだろうさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わって、ミャーさんの店。

秋葉は単独で来るなと言ってたが単独じゃないからいいだろう。

カランと音を立てて中に入ると相変わらずすごい数の服が並んでいる。

 

「いらっしゃいニャー。む、にゃにゃ!ユー君にゃ!」

 

「どうも」

 

なんとなく、苦手な感じなので苦笑いしながら答えると信冬が珍しそうに周りを見渡している。

 

「優希。ここは、どういうお店なのですか?」

 

「あ、ああここはな」

 

「にゃんと!新たなガールフレンド!ユー君やるにゃやるにゃぁ。理子さんと秋葉さんはどうしたにゃ?」

 

どうもしねえよ!あいつらだって友達なんだよ個人的にはだが・・・

 

「・・・」

 

キンジが嫌そうな顔している。

そりゃそうか・・・こんな、女の子女の子な店は苦手だよな。

 

「へー」

 

反面アリアは少しばかり興味を持ったようだ。

アリアの見ているコーナーはアニメの服なのだが一般でも十分通じるセンスのコーナーだ。

中には高級服店もびっくりのものもあるんだそうだ。

秋葉談だが・・・

アリアはお嬢様だからこう言った店は初めてで新鮮なのだろう。

 

「ほほう。これはこれはコスプレしがいのある面子ですにゃぁ」

 

きらりと眼鏡を輝かせてミャーさんが俺達を見ている。

じょ、女装なんて絶対にしないからな!

キンジも見てるが何の服着せるんだ?想像できん。

まあ、それはともかく。

 

「ミャーさん実はですね。信冬が今度のリストランテマスケでリリカル風の白い方をやることになりまして服を作ってもらいに来たんです」

 

「にゃんと!秋葉さんの相方!信冬とはそちらの方ですかにゃ」

 

「はい?」

 

よく分からないというように信冬は自分が呼ばれたので答えている。

 

「ふむふむ、スリーサイズは上から・・・」

 

流石にプライバシーを心得ているのか信冬の耳元でミャーさんが何かを言った。

信冬は驚いたようにミャーさんを見て

 

「なぜ分かるんですか?」

 

「ニャハハ、この商売してると分かるようにニャるにゃ。武偵高制服は分かりやすいにゃ。ちなみにそちらのピンクの方は」

 

アリアの耳元で何か言うとアリアがぼんと赤くなり

 

「な、なんで分かるのよ!」

 

「以下同文にゃ」

 

どうやら、アリアの寄せてあげる胸を見破ったようだ。アリアAカップをBにあげてるもんな。

 

「ごほ!」

 

キンジが横で肩を揺らしてる。

こらえろキンジ笑っちゃ駄目だ!

 

「でもお客さん。いいのあるにゃ」

 

きらーんと目を輝かせてミャーさんがアリアに何か言うとアリアはぱっと眼を輝かせると

 

「それ!それ出しなさい!全部買うわ」

 

「毎度ありにゃー」

 

一体何を吹き込んだ?大体予想はつくが・・・

 

「さて、ではリリカル風の白い方のバリアジャケットをご希望ににゃ?」

 

「よく分かりませんがお願いします」

 

礼儀正しく信冬が頭を下げる。

 

「任せるにゃ!2時間で仕上げるからその辺でぶらぶらするか後日にご来店くださいにゃ。あ、お代は先払いでよろしくにゃ」

 

「いくらでしょう?」

 

「ざっと、30万いただくにゃ」

 

さ、30万!ぼったくりすぎだろ!

 

「アリアさんの方は全部ですので45万いただくにゃ。郵送も手配しとくにゃ」

 

「カードでいい?」

 

「私もカードでお願いします」

 

そう言いながら財布から黒いカードを出すお嬢様2人

こ、このセレブどもめ!しかも、分割じゃなくて一括だ。

思わずキンジと目が合ったがお互いに貧乏つらいよなと意思疎通してしまった。

これが格差社会だ

 

 

 

 

 

 

 

ミャーさんの店を出て時間を潰すために街中に出たはいいがどうするか・・・

秋葉原だからアニメ系や電化系の場所なら遊ぶ場所はいっぱいありそうだが・・・

 

「優希、服ができるまで東京を案内してくれませんか?」

 

「案内ってもな」

 

信冬には悪いがここは秋葉や理子のホームだ。俺はそれほど詳しいわけじゃないんだよな・・・」

 

アリアやキンジもここは似たようなもんだろうし・・・

 

「なら、私が遊びに連れてってあげようか優希君」

 

ん?背後からの声に振り返ると俺達の顔が凍りつく。

長い金髪にウェーブのかかった西洋人形のようなそいつは・・・

 

「!?」

 

反射的に飛びのき臨戦態勢に入る。

アリアやキンジ、信冬も同様だ。

 

「・・・アズマリア」

 

宣戦会議で姉さんと互角にやりあった・・・先代・・・こいつの母親は土方さん達の敵だった。

先代は先代。

そう言った割り切りができるほど、こいつの情報は多くない。

 

「何の用です災悪の魔女アズマリア」

 

信冬が手に札を取り出していった。

おいおい、街中だぞ。

こんなところでやりあうつもりかアズマリアは

 

「何それ?」

 

くすくすとアズマリアは笑いながら俺の前まで来ると顔を少し近付けて

俺だけに聞こえるように

 

「同行許してくれたら紫電返してあげるよ」

 

「!?」

 

紫電?新幹線でなくしたあれをこいつが?

 

「心配しなくてもいいよ。全員と戦うつもりは私にはないよ。先代はともかくね。個人的に君には興味あるし」

 

「ね?」

 

腕を後ろに組んでアズマリアはにこりと微笑んだ。

 

「・・・」

 

確かに敵意はない。

しかし、待てよ・・・アズマリアの位置は微妙だ。

姉さんのように自由に動き回れる存在。

うまく説得出来れば武田との戦いで戦力になってくれるかもしれない。

幸い俺のこと気にいってるみたいだし。

どこ気に行ってもらったか分からないけど。

姉さんと互角にやりあえるならこの戦いに希望が持てる。

 

「悪いけど。信用できないわ」

 

「同感だ。優、そいつは危ないにおいがぷんぷんしてるぜ」

 

アリアとキンジは反対か・・・

 

「私もです優希。先代や歴代アズマリアがしたことはあなたも少なからず知ってるはずです」

 

知ってるさ・・・

姉さん達が止めなければ今、こうしていることはできなかったぐらいのことを先代はやろうとしていたんだ。

でも・・・

 

「あーあ、駄目?同じ年の子と遊びたかったんだけどな・・・」

 

「いいぜ。遊ぶか?」

 

「優!」

 

「おい!」

 

「優希!?」

 

3人が驚いた声で言うがアズマリアもきょとんとして俺を見ている。

そして、口に笑みを浮かべて

 

「アハハハハ!話わかるね!敵かもしれないのにおもしろいな優希君は」

 

「その代わり、遊び場所教えろよ。地理に詳しくないんだ俺は」

 

「OKOK!教えるよ!で?どうすんのそこの3人は?」

 

「馬鹿優・・・」

 

アリアがため息をついてから

 

「キンジ行くわよ」

 

「お、おいアリア」

 

「信冬も来なさい」

 

「いいえ、私は・・・」

 

「そいつが用があるのはどうやら、優だけみたいよ。いいから、来なさい」

 

「・・・」

 

信冬はアズマリアと俺を交互に見てからアリアに続いて歩き出した。

 

「あれ?そうくるんだ」

 

アリアが離れる直前、2時間後にミャーさんの店でと伝えてきたのは見逃さなかった。

アズマリアはアリア達がいると本音を話さないと思ったのかもしれない。

なんにせよ好都合。

 

「アリア達は行っちまったが遊びに行くのか?」

 

「そうだね遊ぼうか」

 

ばっとアズマリアは右手を空に掲げる。

手が青白く光ったかと思った時、瞬きした瞬間周りからは人が消えていた。

人払いの鬼道術!いや、そんなレベルじゃねえ。

空間そのものがさっきいた場所と違う?

周りは秋葉原の街中だが不気味なほど人の気配がない。

 

「優希君。過去の干渉できる緋刀持ってる君なら分かるかもしれないけど未来と過去は1つじゃない。多くの世界に分岐しているんだ」

 

「多次元宇宙論か? それで?」

 

「ここはそんな並行世界の一つ。町はあるけど人が消えた世界。そんな場所なんだよ」

 

よく分からんがキンジやアリア達がいた世界とは違う世界ってことか・・・

 

「私、アズマリアは次元に干渉できる魔女。ここでなら邪魔は入らない」

 

ひゅんとアズマリアが何かを投げる。

受け取るとそれは重く懐かしい存在だ。

 

「それ返すね」

 

「いいのか?紫電取っておいて」

 

「偶然拾ったんだよ。むしろ、感謝してほしいなぁ」

 

クスクスと笑いながらアズマリアが言った。

 

「礼は言うぞ。ありがとうアズマリア」

 

言いながらも警戒は怠らない。

ここがどこかも分からないし・・・

 

「アハハ、じゃあ本題ね。忠告してあげる。武田信春に敵対するのはやめた方がいい」

 

「余計な御世話だな。戦う必要があるなら戦うだけだ」

 

「勝てないよ優希君。あの人、本当の化け物だから」

 

「だとしても引かねえよ」

 

言いながらも・・・武田信春・・・信冬の婆さんまじでやばい化け物らしいな・・・

土方さんも鈴さんもアズマリアまでそう言う存在・・・

引くのが正しいのかもしれない・・・

だが、信冬が俺の大切な友達である以上は引く選択肢は取れない。

いや、取らない。

 

「ふーん、やっぱり面白いね優希君。私の組織に入るつもりない?給料はずむよ」

 

確か、ガイア騎士団って言ってた組織か・・・

卷族よりだったはずだが・・・

 

「優希君が入ってくれるなら師団に入るよ」

 

と、あっさり・・・

 

「ついでに、武田との戦いに私が全面介入するおまけつき!悪い条件じゃないでしょ?」

 

確かに破格の条件だが受けるのは難しい・・・

 

「俺の何を気にいったのか知らないがお前は、悪か善なら悪だろ?悪いが無理だな」

 

「悪と善の基準って人の立場にとって代わるよ。テロリストは一般人からみたら悪だけどテロリスト側からみたら善なんだよ」

 

「武偵から見たら悪か?善か?」

 

 

アズ真里はそれには答えない。

 

「とにかく、武田信春と戦うのだけはやめた方がいいよ。もし、戦うなら彼女を倒せる切り札がない限り戦っちゃ駄目」

 

切り札・・・アズマリアの言葉を聞く限り紫電のステルス無効化能力は切り札にはならない・・・

ということは信冬のばあちゃんの力はステルスじゃない?

 

「アズマリア。武田信春の能力はステルスか?それとも武器を使ったものか?」

 

「風林火山陰雷。それが信春ちゃんの能力だよ。ステルスだけどあれは、もう魔女の使う魔法の部類に相当する。紫電の無効化能力じゃ裁き切れないと思う」

 

ステルスを無効化する紫電でも対処できない・・・なら緋刀は?

 

「唯一信春ちゃんに通用するのは緋光剣だけだろうね」

 

ローズマリーを消し飛ばしたあれか・・・確かに、俺が持つ最大の技だが

 

「だから私の組織に入ろうよ優希君。今なら私のキスつきだよ」

 

西洋人形のような少女は妖艶に笑みを浮かべると右の指を唇にあてる。

その姿は見るものを虜にするような魅力がある。

だが・・・

 

「そりゃ、魅力的だな。卒業後の就職先の候補にはしとくよ」

 

敵対も協力も今は選ばない。

曖昧な言葉で乗り切る選択が今は必要だ。

 

「むぅ、まあ今はそれでいいか・・・」

 

アズマリアは少し、不満そうに少し頬を膨らませると手を空に掲げるとその手から光が広がる。

瞬きして目を開けるといつ移動したのか空き地島だった。

目の前にアズマリア・・・あの金髪ウェーブの少女の姿はない。

だが、風に乗って声が聞こえてくる。

 

「死なないでね優希君。見てて飽きない君が好きだよ」

 

それっきり、アズマリアの気配が感じられなくなる。

手に持った紫電。

こいつが帰ってきたはいいがまた、厄介な奴に目をつけられたか?

西洋人形のようなあの少女は災悪の魔女と呼ばれている。

だが、どうしても俺には敵だと思う事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と言い訳で作中最強クラスの1人アズマリアが優に接触です。

ローズマリーもそうですが優って敵サイドの化け物にも気に入られるたらし野朗(笑)

表立っての支援が無理ならダークサイドの支援って選択肢が優にはできました!
ただ、それを選ぶと厄介なことになるので簡単には選べませんが…
信春もいつかは優に立ちふさがりますがさて、どうやって倒すか…
このオリジナル章の決着はもう考えてますが執筆時間が中々とれないです!


で、信冬の衣装はリリカルなのはですね。
秋葉とコンビですが大丈夫か?

それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第244弾 消えていく力

AAドーピング!お待たせしました


結局アズマリアと会話した後、俺に待っていたのは悲劇だった。

アリア達に連絡してミャーさんの店には行けなくなったことを伝えてから電話を終える。

空き地島は周りが海に囲まれているのでボートもなく冷たい東京湾を泳いで帰るはめになった。

烈風は間の悪いことにヒルダ戦後のオーバーホールとのことで京菱重工の工場に行っており手元にはない。

秋葉に連絡してみたが残念ながら月詠に呼び出されているからなのか電源を切っており繋がらなかった。

金がないから他の連中には頼りたくないし・・・

やっとの思いで寮に帰ると今度はアリア達の質問攻め。

風呂にも入れずアズマリアとした会話をすると

 

「災悪の魔女アズマリアが優に協力って・・・あんた、まさかその話し受けたんじゃないんでしょうね?」

 

信冬が入れてくれたコーヒーを口に入れながらアリアが言った。

ソファーで足を組んで座っている。

それをキンジ、俺、信冬が囲むように座っているんだ。

 

「いや、言ってないリスクが多すぎるからあいまいに返事しておいた」

 

「賢明ね。下手に断ったり受け入れたら何されるかわかったもんじゃないわ。これ以上余計な敵を作りたくないしね」

 

「確かにな。でも・・・」

 

手には紫電がある。

アズマリアはそれをほとんど、無条件で返してくれたんだ。

 

「あんたのその、ステルス殺しの紫電を返してくれたからって善人とは限らないのよ?」

 

「ああ、分かってる」

 

「あの魔女は本当に危険なんです優希。絶対に信用してはいけません」

 

信冬も俺を真剣な目で見て言ってくる。

 

「確かにあいつからは底知れない何かを感じたが俺達と同じ年なんだろ?それに俺はよく知らないんだがあいつは何者なんだ、武田?」

 

「災悪の魔女アズマリア、先代のアズマリアは世界を滅ぼそうとしました」

 

「先代って言うと母親か?なんだ?隕石落とそうとしたり、核を乱射とかさせようとしたのか?」

 

キンジが聞いているがそれは俺も少し興味ある。

アズマリアの過去は姉さんたちの話にも繋がるからな。

信冬は首を横に振り

 

「北条花音という名を知ってますかキンジさん」

 

その名前・・・姉さんのチームメイトの・・・

 

「いや、知らない。誰だ?」

 

「鈴・雪土月花。私の姉様、武田雪羽と同じチームだった女性です」

 

「鈴・雪土月花・・・優の姉さんや公安0のあの人のチームか?」

 

「そうです。姉様達が兵庫武偵高3年最後の冬。アズマリアは北条花音を拉致し彼女のある魔法の力を使い世界を滅ぼそうとしました」

 

「その北条花音ってやつのステルスか?」

 

「ちょっと待ちなさいよ。世界を滅ぼすようなステルスを1人の人間が持ってたの?」

 

アリアもその辺の事件には詳しくないらしい。

当然だ。

これは、関係者の親族でも知ってる人はまれな話。

裏武家である信冬は知ってるようだが・・・

俺はそう言った話は断片的にしか知らないんだ。

 

「可能だったのです。彼女の能力は重力を操る能力と因果律を操る能力」

 

「因果律?」

 

「優希、あなたはコインを投げて表を1万回表を出し続けることはできますか?」

 

「無理だな」

 

「ですが裏を出したその時、表が出ていたという未来は確実に存在しています。その因果を選択できるのが北条花音のもう一つのステルス・・・いえ、これはもう、魔法の部類でしょうね」

 

選択した都合のいい結果だけを現実にできるってことか?

 

「何それ、チートにもほどがあるじゃないの」

 

それはつまり、因果を操作された攻撃は100%疑いようがなく直撃するというありえないほどのチートな攻撃だ。

分かりやすく言うなら刀で首を狙って振りおろし相手が防御に成功しても攻撃が通ったという未来が確定されてるわけだから相手は首を落とされる。

文字通り最強の能力といっていいだろう。

 

「その因果の力と重力。アズマリアは重力を崩壊させブラックホールを地球に発生させようとしていたんです。そして、因果の力を北条花音を通じて使用し、最後の希望として、北条花音を奪還するために突入した鈴・雪土月花は壊滅状態になるも辛くも勝利を収めました。先代アズマリア消滅と北条花音の死と引き換えに」

 

「能力を通じて使用したって言ったわね?因果を操る相手をどうやって倒したのよ?」

 

「あそこでどんな戦いが行われたのかは残念ながら本人達が口を固く閉ざしてるので謎のままです。どうやって、因果を破ったのか・・・北条花音がどんな死に方をしたのかも全てです」

 

姉さんのことだから気合とかで乗り切った・・・と考えるのは無理だ。

なぜなら、それができるなら北条花音さんは絶対に死んでない。

弟だからこそ分かる。

姉さんたちは苦戦したんだ。

あるいは負けそうになったのかもしれない。

姉さんが負けそうになるなんて想像できないがそれだけ恐ろしい能力だったってことだ花音さんの能力は。

 

「キンジさんのお父様も関わっているのですよ」

 

「親父が?」

 

キンジが驚いたように言う。

 

「最後の突入作戦の時、力を貸してくれたのです」

 

キンジの父、遠山金叉さんか・・・

恐ろしく強い人だったとそう言えば姉さんが昔、話しているのをちらりと聞いたことがある。

 

「そう言う意味では、優希と私、キンジさんは少なからぬ縁があるように思えますね」

 

共に姉や父が世界を救った戦いに参加した縁か・・・

アリアや理子との縁はここにはないが鈴さん繋がりでレキもだな・・・

 

「付け加えるならシャーロック卿やリュパン3世も力を貸しています」

 

縁あった!

 

「おじいさまも!」

 

今度はアリアが驚く番だ。

なんてこった・・・その時の関係者が全員揃って同じチームになるとか偶然なんてレベルじゃねえぞ。

秋葉も椎名の家の関係者と言えば関係者だし

 

「もっと詳しく聞きたいところではあるけど・・・」

 

アリアは信冬を見て

 

「そろそろ、具体的に決めておきたいわ。武田の再襲撃まで後、5日。正確には今0時を回ったから4日だけど。優の話を聞く限り私たちの手に追える相手じゃない。調べれば調べるほどね」

 

「策ならあります」

 

 

信冬は正座したまま静かに答える。

 

「聞かせてちょうだい」

 

「今は話せません。この策は話せば効力を失うのです。残り、4日。武装の整備をしつついつも通りの学生生活をお願いします」

 

何か考えがあるのか信冬?まあ、お前のことだ。

1発逆転の策があるんだろう。

 

「本当に策があるのね?」

 

アリアがカメリアの瞳を探るように信冬に向ける。

信冬は真っすぐにその目を見返すと

 

「はい、上手く言けば戦わずこの護衛は終わらせることができるでしょう」

 

「分かった」

 

アリアはそう言って立ちあがった。

 

「日もまたいじゃったし今日はここまでにしましょう」

 

アリアのその言葉で解散となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子とあったのは雪が静かに降る冬のことだ。

一面が白い雪に覆われた庭の端で冬だというのに和服姿の少女。

武田信冬。

椎名の家から将来の結婚する相手と言われた少女だ。

その子は俺が来ているのに気付かずに雪の上に座り込んで何かをしている。

 

「何してるの?」

 

そう言うと少女が振り返る。

 

「あなたが私の婚約者ですか?」

 

「そうみたい。武田信冬ちゃんだよね」

 

「信冬で結構です。夫は妻にちゃんとはつけませんから」

 

「え?あ、うん。分かった信冬」

 

今思えば大人っぽいというか背伸びし過ぎな子だったよな信冬。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                †

サイド土方

 

公安0という組織は表面だけを知っている人間には殺しばかりしている印象があるが実のところ、書類仕事が多い。

闇の公務員と言ってもお役所仕事ということに変わりないのだ。

 

「たくあいつは・・・」

 

公安0№2のため仕事場は個室が与えられている。数枚の書類を右手に灰皿に煙草を押し付ける。

ここ数年で吸う量が増えた気がする。

雪羽に減らすように言われ鈴にも最近は言われる始末だ。

ほっとけと言いたいがあいつらは家族だからな・・・

無下にも出来ない。

それにやめられないのは別に中毒というわけではないのだ。

 

「また、厄介な案件を抱えてるな歳」

 

「近藤さんか」

 

公安0のトップ近藤勇。俺の直接の上司で

狼のような風貌だがいるだけで周囲を威圧する風格があるが俺にとっては慣れた存在だ。

 

「歳が気にかけている椎名の後継か?」

 

紙を1枚手に取り近藤さんが言った。

 

「ああ、また厄介なことに巻き込まれてやがる」

 

「ふーむ、暁と武田か。中々、厄介と言うより最悪な組み合わせだな」

 

面白そうに近藤さんはにやりとしながら紙に目を通していく。

 

「笑い事じゃねえぜ近藤さん。あいつは、希の弟で椎名の血を引くものだ。決して無視できるやつじゃねえ」

 

「まあ、そうなんだがな。椎名の血と水月希の弟じゃなければとっくに死んでるだろうなこの少年」

 

「だろうな」

 

これまでは、優希に公安0は陰ながら限定的だが援助を施してきた。

直接的な援護はしてないができるぎりぎりのことを行っている。

戦闘のアドバイスや交通規制などがそれだ。

土方が公安0№2ということも当然あるが椎名の血筋と水月希の弟という肩書も当然関係している。

だが・・・

 

「今回は相手が悪すぎる」

 

裏武家の武田と表の大財閥暁家。

表と裏の巨大勢力が手を組んだ以上うかつに援護すれば大やけどを負うのは公安0の方かもしれないのだ。

性格には現政権といったところだろう。

 

「お上の方針もどうやら、中立を堅持し絶対に片方に肩入れするなというのに固まった。さっき、通知があった」

 

ぴっと紙を渡されそれを読むと内閣総理大臣からの勅命。

 

「日和見か。気持ちは分からなくはねえがな」

 

「まあ、そういうことだ。今回の件。公安0は動かない」

 

「・・・」

 

「歳、気持ちはわかるがお前は0課の2番手だ。間違いは起こしてくれるなよ」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

           †

 

サイド秋葉

 

東京のとあるホテルの1室。

そこに呼び出され部屋に入ると私の上司、椎名の近衛№1の月詠様がいらっしゃいました。

 

「椎名優希様直属近衛山洞秋葉参りました」

 

「御苦労様です。学校生活はどう?友達はできた?」

 

月詠様は優しげな笑みを浮かべて聞いてきます。

進められた椅子に座り

 

「はい、何人か友達は出来ました。学校生活もゆうく・・・優希様の護衛をしつつ満喫出来ていると思います」

 

「あら?別に普段通りでいいのよ秋葉? ぼっちゃまを優君と呼んでるのでしょう?」

 

「そ、それはその・・・優君が・・・あ、いえ優希様が・・・」

 

「フフフ、秋葉。私はね。別に怒るつもりで言ってるんじゃないのよ?普段通りでいいと言ってるの」

 

「はい、ではそうします」

 

「はい、素直でよろしい」

 

笑顔ですが月詠様の言葉には逆らいがたい何かがあります。

日本で数人しかいないRランクということと椎名の近衛最上位という存在がそう思わせるのかもしれません。

 

「最近ぼっちゃまはどう?楽しそう?」

 

そう言われていつもの優君を思い返しますがなんだかむかむかします。

 

「優君はたくさん女友達を作っていつもいちゃついてます」

 

「まあ」

 

月詠様は目を丸くして頬に右手を当てられます。

 

「勝てるかもわからない相手との戦いに首を突っ込んで死にそうになりながらも助ける。絶対に諦めないで自分の信念を貫き通そうとする大馬鹿でいつもお金がないと私にお弁当を作らせてありがとうと笑顔で言ってくれます。それに・・・」

 

つい時を忘れて優君のことを月詠様に行ってしまいはっとすると月詠様は笑顔でいらっしゃいました。

 

「報告書だけじゃ分からないこともいろいろ聞けて参考になるわ。ありがとう秋葉。あなたをぼっちゃまの所に送って本当に良かったと思えるわ」

 

「それは・・・」

 

むしろ感謝してるのは私の方です・・・

あの人は私の・・・

 

「だからこそあなたに頼みます。今回ぼっちゃまが武田信春と絶対に戦う事がないよう行動するように」

 

「それは・・・」

 

優君は馬鹿だ。

信冬様のためというより友達のためならおそらく武田信春と激突するのも躊躇しない。

 

「先ほど、当主代理様から連絡があってね。椎名本家は武田と敵対しないと公式に武田に通知したそうよ」

 

「!?」

 

それは・・・

 

「つまり、私や椎名の近衛は武田との交戦はしないということよ」

 

「優君は・・・椎名の人間です」

 

月詠様は首を静かに横に振り

 

「ええ、ですが当主代理様は通知してしまった。ぼっちゃま自身は椎名を出られ自立しているからこちらの通知の外と考えていいわ」

 

「それでは、優君は助けなしに武田と暁と戦う事になるのですか?」

 

「そうなるわ。そして、秋葉。あなたにも命令を、武田と暁との交戦を禁じます」

 

「っ!? でも・・・私は」

 

「あんたはぼっちゃまの近衛ではあるけど同時に椎名の近衛なのよ?あなたが戦えば武田や暁はおそらくこちらの、通知を裏切りと取るでしょう」

 

「それは・・・」

 

「破るならあなたには厳罰を与えなければなりません」

 

「交戦は・・・自衛すら許されないのですか?」

 

「もちろん、向こうがあなたを攻撃してくるなら自衛は認めますがそれも、逃げることを最優先としなさい」

 

「優君が目の前で殺されそうになっても・・・戦っては駄目なんですか?」

 

「・・・」

 

月詠様は小さくを息をはいてから私の目を見て言います。

 

「ええ、交戦は許可しません」

 

その言葉は私にとって何よりつらい言葉です・・・

私は信冬様の護衛任務で戦闘に参加できない・・・

優君の味方ができない・・・

たとえ、あの人が殺されそうになっても・・・

 

「これは命令よ秋葉?」

 

「は・・・い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               †

サイド??

 

1つ、また1つ優希の周りから援護の力が消えていく。

椎名本家は中立。公安0も中立。優希の近衛の絶大な力を持つ近衛の少女も戦闘禁止を言い渡された。

 

「これも筋書き通り?」

 

薄暗い闇の中少女の言葉が聞こえてくる。

 

「・・・」

 

「ええ、もちろんです。次はあの人に動いてもらいましょう。緋刀の力も持つ椎名優希。彼がどこまで、あの化け物とやりあえるのかは今回の最後の楽しみです。まあ、死ぬでしょうね」

 

「・・・」

 

闇の中から小さく笑い声が聞こえる。

少女も口元を緩めながら

 

「ええもちろんです。最大の苦しみを与え不幸のどん底に叩きこむ心得てます」

 

「・・・」

 

「ええ、そうですね。私も楽しみです。フフフ」

 

 




というわけでアズマリアからのラブコールはありましたが優の周りから次々と表の協力者が消えていきます。

椎名本家は相変わらず優には冷たく秋葉にも戦うなと通達が来てしまいます。
どうする秋葉!
まあ、この子のことちゃんと見てくださってる方はどうな行動とるかはわかると思いますが…
いよいよ闇に力を借りるしかないのか優君!
だけど優にはあの人たちがいる!世界最強とその仲間達!


そして、最後にちょこっと出てきたのは何者か?
武田襲撃まで後4日!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第245弾 暁の来訪者

新年あけましての更新!緋弾のアリアAA終わり(´;ω;`)


「じゃあ、行ってくるからな」

 

「おーう・・・」

 

キンジが玄関から出て行く音を聞きながら俺は布団の中でため息をついた。

そう、前日空き地島から冷たい海を泳いだせいで風邪をひいたのだ。

本当にドべ!アリアにも電話で言われたが仕方ねえだろ・・・

帰ってすぐに風呂入れなかったんだから・・・

体がだるい・・・

 

「優希、何か食べたいものはありませんか?」

 

そう言ってくれるのは信冬だ。

髪を後ろにくくり赤いエプロン姿で俺を心配そうに覗き込んでいる。

ああ、そうだな・・・

 

「お茶漬け・・・」

 

お粥でもいいんだが簡単に食べれるものがいいんだ。

 

「お茶漬けですね!分かりました」

 

信冬はさっと立ちあがるとベッドが並んでいる寝室を出て台所の方へ向かう。

信冬が残っているのは俺が風邪だと分かると病人を1人してはおけませんと頑として登校を拒否したからだ。

キンジやアリアはほっときゃ治ると言ってたが・・・

アリア・・・俺にはなんか買ってきてくれるかな?

前にキンジが風邪をひいた時のことを思い出しながら首を横に振る。

ああもう!余計なことばかり考えてないで早く風邪を治さないと・・・

武田襲撃まで後、4日を切ってるんだぞ。

熱でぶっ倒れてる場合じゃないのに・・・

あ、そうだ。緋刀使えば治るかもしれないぞ。

と馬鹿なことを考えたりしていると

 

「お待たせしました!」

 

丼に入ったお茶漬けを持ってきてくれる。

 

「おお!うまそうだな」

 

程よく入ったお茶にしゃけがまぶしてある。

量も適量でバランスも取れていると言えるだろう。

 

「フフフ、これくらいなら誰でも作れますよ」

 

微笑みながら言う信冬を見てちょっとドキッとした気もするがまあ、熱のせいだな。

 

「いや、アリアやレキは出来ないと思うぞ。あいつら料理は全然できないからな」

 

「失敗しようがないですよ優希」

 

「分からんぜ。あいつらのことだ。お茶漬けに水を入れたり、しゃけをまるごと乗せて持ってきたりとか普通にやりそうだ。

「アリアの場合しゃけは1匹まるまる生」

 

レキの場合はカロリーメイトが浮いてそうだ

 

「フフ、優希はアリアさんのことよく知ってるのですね」

 

「まあ、長い・・・くもないか。最近はよく一緒に行動してたからな」

 

流石にアリアのことが好きだったことは言えないので適当にごまかしとくと信冬は持ってきていた椅子に座る。

俺はお茶漬けを腹に入れてから信冬にもらった薬を飲んで再び横になる。

 

「げほげほ!信冬。俺は寝てるだけだからお前は学校に今からでもいいから行けよ。まだ、2時間目には間に合うだろ?」

 

そもそも、信冬の護衛役の俺がこの有様では学校にいた方が安全だと思うのだが・・・

いくら、武田の襲撃が4日後とはいえ・・・

実際、アリアも誰か1人残るべきと言っていたが信冬が武田の襲撃は100%ないと断ったのだ。

自分に俺の看病をさせてほしいとお願いして

 

「いえ、優希は私の未来の夫です。ですから、妻が夫の看病をするのは当然のことなんですよ」

 

そう言って俺の額のタオルを取って水につけて絞り、再び額に乗せてくれる。

正直、この子は俺にはもったいないぐらいの子なんだよな・・・

 

「高木は俺とお前の婚約関係は完全に破棄されたって言ってたぞ」

 

「そのようですね」

 

どこか寂しそうに信冬は言うと俺を見ながら

 

「ですが私は了承したつもりはありませんよ。今でも、あの時と同じくあなたと結婚するつもりで私はいます」

 

あの時・・・その言葉に少し違和感を覚えるが用は自分は納得してないから婚約は破棄されてないってことか・・・

 

「もし、この婚約を優希が破棄するその日が来るとしても私という婚約者がいたという事は忘れないで欲しいです」

 

「信冬・・・俺は」

 

ここまで言われて情けないと思うが俺はまだ、結婚とかそんなことは考えられない。

 

「分かってます。最後に決めるのはあなたですから」

 

「ああ・・・そうだな・・・」

 

そこまで言ってから少し眠くなってくる。

薬が効いてきたみたいだな。

 

「覚えていますか?優希?あの日の・・・」

 

何かを信冬は言いかけたが俺の意識は闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

闇の中・・・1つ浮かぶ影がある。

その影には見覚えがある。

 

「お前かスサノオ」

 

緋刀に目覚めてから幾度となく俺の中や夢に現れる少女スサノオ。

俺と姿はそっくりだがなぜか、女装した女の子バージョン。

いや、実際スサノオは女なのかもしれないが・・・

 

「紫電を返してもらえたようだね。それは何より」

 

「ああ、夢だよなこれ?」

 

よく分からない空間で話しているがそうとしか考えられない。

紫電が手元に戻ったことによりパスも復活したわけか

 

「正確には君と私が話す空間だよ。緋刀を使う状態でも君と話せるのは割と限定的だからね。表面が寝ている状況ならこうして対面して話せるのさ」

 

「ふーん、で? こうして出てきたってことはなんか言う事があるんだろ?」

 

「もちろん、警告とアドバイスを。武田信冬のことは諦めるべきだ」

 

お前もそんなことをいうのか・・・

 

「嫌だ。それはできない」

 

スサノオははぁと息をはいてから

 

「言うと思ったよ。君は武田信春と本気で戦うつもりかい?」

 

「できるなら戦いたくないが最悪やるしかないだろ?」

 

「私は彼女の力を詳しくは知らないがこれまでの君の知り合いからの言葉から察するに相当な化け物だ。それもみな、口を揃えて君の死を示唆している」

 

「それでも姉さん以下だ」

 

そうは言っても気休めにしかならないがな・・・

 

「私は君に死んでほしくない。そこで、アドバイスというか切り札を渡そうと思ってね」

 

「切り札?」

 

「そう、緋刀状態の時のみ使える切り札だ。いいかい?教えるよ。その技は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                    †

 

目を開けても世界は闇だった。

枕元を探りスマホを見ると夕方の6時を回った所だ。

スサノオとの切り札の話を夢の中でしたのを覚えている。

確かに、あれなら相手がどんな化け物でも勝機はあるかもしれない・・・

だが・・・

電気をつけるとメールが入っているのに気付いた。

差出人は信冬か?

開くと夕食の買い出しをしてくるので少しだけ留守にするとのことだった。

額に手を当ててみるがよし、熱は引いてるな。

たっぷり寝たとはいえ、我ながら回復力は人並み外れているなぁ・・・

そう思った時、スマホに着信音が鳴り響く。

非通知設定?

嫌な予感と共に通話ボタンをスライドさせる。

 

「もしもし?」

 

「椎名優希君?」

 

「そうだけど?誰だ?」

 

「暁の人間と言えば分ってもらえるかな?」

 

ドクンと心臓が跳ねた気がする。

暁家・・・

信冬が結婚させられそうになってる家の人間・・・」

 

「知らねえな。名前を名乗れよ」

 

「暁竜馬。武田信冬の夫だよ」

 

夫と言った言葉と呼び捨てに一瞬、いらっと来たがここは冷静に対応しないとな

それにその名前は高木が言ってた暁家の次男だ。

 

「まだ結婚もしてねえのに夫ねぇ・・・何の用だ?どうやって俺の携帯の番号知りやがった?」

 

「失礼なガキだな。年長者には敬語を使いたまえ」

 

「あいにく、聞かないと名前を名乗らない失礼な奴に使う敬語は持ち合わせてなくてな」

 

「なるほど」

 

ふんと小馬鹿にしたような息遣いが聞こえる。

会ったことはないがインテリ眼鏡って感じがするぞ

こう言う相手は嫌いなんだよ・・・

 

「要求は1つだ。私も忙しい。さっさと、信冬を返してもらおうか。君の所にいるのは分かってるんだ」

 

 

「ここにいるのは信冬の意思だ。返すも何もねえよ。それに、武田は4日は手を出さないと約束してる」

 

「それは、武田が勝手に言ってるだけのこと。つまり、返す気はないと?」

 

「返すも何もねえって言っただろ。信冬は渡さない」

 

「殺すぞお前?」

 

従わなければ殺すか・・・

分かりやすいな

 

「へぇ、そりゃすごい。どうやって俺を殺すんだ?」

 

「そうだな。こういうのはどうだ?やれ!」

 

その瞬間、感じたのは殺気だ。

背後から猛烈なそれを感じた俺は迷わずに紫電を掴んで玄関を飛び出しそのまま、ワイヤーで下り走り出す。

人のいないところに!

だが、それは叶わなかった。

 

「逃げんじゃねえよガキ!」

 

声に振り返りながら紫電を構える。

学園島の道路で敵と対峙することになる。

街灯の下に現れたのは金髪の男だ。

髪はオールバックにチンピラが着るような黒いレザージャケット。

右手には日本刀が見える。

 

「今の殺気はお前だろ? 暁竜馬の仲間か?」

 

「仲間ぁ? 違うな俺はあのぼんぼんの用心棒みたいなもんだ。あいつが気に入らない奴を俺がブッ飛ばす。すげえんだぜ?殺人もあいつがもみ消してくれるんだからよ」

 

にたぁと狂気に満ちた顔で笑う男。

年は俺より上だな。

そして、油断はできなさそうな感じではある。

 

「最低だなお前」

 

「ハッ!てめえも同類だろ!ぼんぼんから頼まれてんだ。お前をぶっ殺して女攫ってこいってな!そしたらボーナス弾んでくれるらしいぜ」

 

ちっ、やはり信冬狙いか・・・だが、戦闘するにせよ場所が悪い。

学園島は武偵校生が多くいる敷地内だが一般人も決して少なくない。

こいつの実力次第では被害が出るぞ。

 

「勝負は受けてやる。だから、場所を変えるぞ。学園島の隣に空き地になってる島が・・・」

 

「んなもん知るかよ!おら始めるぜ!」

 

交渉の余地も無しかよ!問答無用で殺せと命令を受けてるってことか!

男が取り出したのはコンバットマグナム。

左手で俺に向けてくる。

片手で撃ってくる気か!

銃弾撃ちが弾くつもりで銃に意識をやるがとっさに飛び出したため紫電しか持って来れなかった。

装備はほとんど、部屋の中だ。

ワイヤーも携帯用のみで防弾制服すら来ていない最悪の状況。

発砲音と共に紫電で切りはらうつもりで構えようとして猛烈な嫌な予感がしてその場から飛びのく。

 

ドオオオン

学園島の道路で大爆発が起きて衝撃で飛ばされる。

くっ!いきなり、一般人が通るかもしれない場所で武偵弾!しかも、炸裂弾かよ!

不幸中の幸いなのは人も車の通っていないってこと1点。

殺しても暁がもみ消すから一般人への被害もお構いなしってことかよ!

 

「ハハハ!いい反応だ!そういや、名乗ってなかったな!俺は風間昭二!暁の用心棒だ!」

 

「椎名優希だ!」

 

名乗られたら名乗り返すのが礼儀。

紫電を手に初手の武偵弾を交わせたので接近戦に持ち込むため特攻する。

銃がない以上接近戦以外ねえ!

武偵弾は高価だ。連続してはない!

 

「「はっ!」

 

ドンドンと回転式けん銃から2発正面。

切りはらう!

銃弾切りから一気に詰める。

速効で勝負をつけないと死人が出かねない!

だが、飛び出した銃弾に一瞬だが刻印が見えた。

あれも武偵弾!

俺もたまにやる武偵弾連続発射だ。

避けねえとまずい!

距離的に避けられると横に飛ぼうとした瞬間

 

「お兄さん?」

 

横道からアリスが出てくるのが見えた。

避ければアリスに直撃するコース。

迷ってる余裕はない!

銃弾切りで武偵弾2発を迎え撃つ。

炸裂弾以外ならと願うがその願いはかなわなかった。

大爆発と紅蓮の炎が俺の視界を覆い尽くした。

皮膚が焼かれずたずたになるのを感じながら爆発が収まるとがくりとひざをついた。

かろうじて紫電は手にしているので紫電を杖代わりにして・・・

 

「ハハハ!直撃だぜ」

 

「ぐっ・・・」

 

2発分の炸裂弾か・・・よく即死しなかったな俺・・・

アリスに目をやるといつもは小悪魔な調子でからかってくる後輩は真っ青になって俺に駆け寄ってくる。

 

「お、お兄さん!」

 

「来るなアリス・・・」

 

左目が開かねえ。

流血が滝のように地面に流れてやがる。

 

「でもそれ私をかばって!」

 

「そうだぜぇ。さっさと治療しないと死んじゃうなぁ。ひゃはは」

 

勝利を確信したってとこだな。確かに普通の人間ならこれで死ぬだろう。

最近分かったことがある。

体が適応しないうちは条件はアリアだったが最近は守ることがキ―になってる。

これができるから盾にもなれる。

 

「心配するなアリス。俺は死なねえよ」

 

よろよろと立ちあがりその言葉を口にする。

 

「緋刀化」

 

言葉はなりやすくするためのものだがアリスを守るためその状態になる。

紫電があるためアリアの血を使わなくてもその状態になれるのだ。

髪が緋色に染まり、瞳の色もカメリアの色に染まる。

同時に傷がふさがっていく。

重症と言えるその傷がみるみると消えて行くのだ。

ひゅんと紫電を横に振るうと傷が無くなっているのが分かる。

我ながら化け物じみてるな

 

「よし!」

 

風間の方を見ると目を丸くしてやがるな。

 

「て、てめえ。化け物かよ」

 

「へっ!」

 

にっと笑い緋刀状態+戦闘狂モードになった俺は言ってやる。

 

「形勢逆転だ。こうなった俺は強いぜ」

 

「はっ!なら炸裂弾の嵐で即死しな!」

 

コンバットマグナムから立て続けに発砲音が響く。

風間の言うのが本当なら全部が炸裂弾だ。

くらってやる義理はない。

 

紫電を右斜めに上に振りかぶると刀身が緋色に輝く。

 

「緋龍0式!緋包み!」

 

緋色の光が紫電から撃ち放たれ風間の炸裂弾が炸裂すると同時にそれの全てを飲みこむ。

時の彼方に爆発が飛ばされたのだ。

後に残るのは抉られた道路と驚愕の顔を浮かべる風間だ。

よし、威力絞って限定的な場所のみを包み込む緋光剣できたぞ。

風間を飲みこまずにできた事でこの技も使いやすくなる。

スサノオの教えてもらった緋光剣のバリエーションの1つだ。

緋刀は俺のオリジナルだから緋龍0式系の技と命名しよう。

うん、今決めた。

緋色に光る刀身を風間に向け

 

「退け。それで暁に使えろ。信冬は渡さないってな」

 

「くっ!てめえ・・・」

 

今の攻防で理解したが風間は銃を持つ人間としては2流だ。

射撃の腕は悪くないが武偵で言うならCランクってとこだろう。

今までは武偵弾使いたい放題だからランク差も埋めれてきたのか運よく強いやつと当たらなかったのかとにかく、Sランク武偵に勝つことはできない。

だが、こいつの後ろにいるはずの暁竜馬というより、暁は・・・

 

「・・・」

 

「・・・」

 

睨みあいが続き先に折れたのは風間の方だった。

 

「ちっ!分かったよ引いてやるよ!」

 

そう言って銃を下に下げたので俺も刀を下げる。

なんとかなったわけか。

 

「お兄さん」

 

アリスが駆け寄ってきたのでそちらを見た瞬間

 

「危ない!」

 

アリスが悲鳴を上げた。

 

「何て言うわけねえだろ!」

 

再び風間が発砲してくる。

7倍の筋力でその場からアリスを抱えて退避した瞬間猛烈な音が耳を揺らした。

カノン!音響弾か!

直後に猛烈な光があたりを照らす

続けて閃光弾。武偵弾の王道攻撃パターンだな。

だが、俺には焦りはない。

アリスを下ろして、すぐに逃げるように言ってから、真っすぐ風間の元に走る。

目は開いている。

緋刀の力で一気に視力、聴力を回復させたのだ。

この回復力、最近どんどん強化されていってるきがするがこの場ではありがたい。

 

「な、なぜだ!なんで何の影響を受けてねえんだよ!」

 

俺の非常識な状況に風間は後ずさりしながら1歩、2歩と引きながら残りの残弾を撃ってくるがその弾道は単調だ。

 

携帯用ワイヤーを使って飛び上がり銃弾を交わすと風間の前に降り立つ。

刀の間合いだ。

 

「う、うおおお!」

 

風間が右手の日本刀を振るってくるが遅え!

すれ違いざまに高速の斬撃を食らわせ風間が膝をついた。

同時に銃と刀が地面に落ちる。

 

 

「飛龍1式風切。予定変更だ」

 

風間の胸倉をつかんで片手で持ち上げる。

 

「は、離せ!」

 

ばたばたとみっともなく風間は暴れるがそうしてやる気はない。

 

「暁 竜馬は今どこにいる?学園島に来てるのか?」

 

「・・・」

 

「喋らないなら腕の1本でも折るか?」

 

脅し気味に言ってやると蹂躙されるのは初めてなのか風間は怯えた声で

 

「ま、待ってくれ!話す!話すからやめてくれ!」

 

「よし」

 

「ぼ、ぼんぼんは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

                 †

 

学園島の一角。

海沿いのその駐車場に止められたリムジン。

それが、暁竜馬の車だった。

風間を縛って道端に転がしてから装備を急いで取ってから風間に教えられた場所に向かった。

リムジンに後ろから近づくと後部座席に男の頭が目に付いた。

あいつか。

威嚇目的でデザートイーグルを右手にこちらに全く気付いていない男の横の窓をコンコンと叩く。

 

「風間か?遅かったな、信冬は・・・ぅ!」

 

俺を見て驚愕に目を見開いたのでデザートイーグルを相手に向けながら

 

「風間ならその辺の道で寝てるぜ。お前が暁竜馬だな?降りろ!」

 

「くっ!」

 

思った通りインテリ系の眼鏡君だな。

年は俺よりかなり年上のようだが・・・

30代くらいか?

 

「おい!早く出せ!」

 

運転手に竜馬が怒鳴り車にエンジンがかかる。

防弾リムジンなんだろうが逃がさねえよ。

 

左手に持っていた紫電でタイヤに軽く触れるとホイールの半分が消滅し車が発進できなくなる。

車はガガガと音を立てて進まない。

 

「おい!どうした!早くしろ!」

 

「う、動きません!」

 

運転手が悲鳴を上げている。

紫電があると緋刀が思うように使えて便利だな。

いくら使っても刀身が消滅するようなこともないから経済的にも優しいぞ。

とか考えながら緋色の光を纏った紫電をドアに押し当てると鍵の部分が消滅し、リムジンのドアが開いた。

 

「ひいいいい!」

 

恐怖におびえて車の奥に逃げるのを見て、なんか・・・哀れなぐらい小物だな暁竜馬・・・

暁家って実はたいしたことないのか?

なら思いっきりビビらせれば信冬のことも諦めるかな?

よし、そうしよう

 

「どうした?俺を殺すんじゃないのか?びびってたらできないぞ?」

 

緋刀状態を解いて、デザートイーグルを暁竜馬の向けて言ってやる。

 

「ま、ままま待て!撃たないでくれ!」

 

「んー、どうしよっかな」

 

にやにやしながら言ってる俺って傍から見たら強盗そのものだな・・・

戦闘狂モードのせいもあるんだが・・・

 

「金か?金ならいくらでも渡す!だから助けてくれ!」

 

「んなものいらねえよ。信冬のことを諦めろ」

 

「わ、わわわわか・・・」

 

今にも泣きだしそうな顔で身を縮こまらて信冬との結婚をやめる宣言をしそうなまさにその時。

 

「あら?それは困るわお兄様」

 

「!?」

 

背後からの声にデザートイーグルを向け車から少し離れる。

まだ、仲間がいやがったか

 

「こんばんわ、椎名の後継。いい夜ね」

 

白と黒のフリルのついたワンピース。

黒い瞳に長い髪。

自信に満ちたその顔は美少女だが危険な匂いがぷんぷんしてくる。

今お兄様って言ったよなこの子

 

「暁竜馬の妹か?」

 

「ええ、暁 花蓮。そこで怯えてるのは不本意ながら私のお兄様よ」

 

「椎名優希だ」

 

「名乗られたら名乗り返すのは礼儀。そういうマナーをわきまえてるのは嫌いじゃないわ」

 

「そりゃありがとう」

 

さて、どうするか・・・

暁家の家族構成は不明だがこの花蓮って子は竜馬を助けに来たらしいぞ。

だが、戦闘的に花蓮の方は脅威には感じない。

問題なのは花蓮の護衛役なのか花蓮の背後に直立不動で俺を睨んでいる男だ。

見るだけで分かる。

最低でもAランク級だ。

 

「心配はいらないわ。優希、今日は交渉に来たの。佐藤をあなたにけしかける気はないわ」

 

今はねと花蓮が微笑む。

あのおっさん佐藤っていうらしいな・・・

その交渉とやら決裂したり俺が攻撃を仕掛ければ佐藤がけしかけられるわけか・・・

とりあえず、交渉とやらを聞くしかないぞ。

 

「武田信冬との結婚は暁にとって必要なことなの。了承してくれないかしら?」

 

「悪いが断る」

 

「・・・」

 

佐藤が俺に殺気を向けてくるが花蓮はすっと右手を上げてそれを制して

 

「なぜかしら?本気で武田の姫を愛してる。そういうのであれば一考の余地はあるかもしれないわ」

 

愛してるか・・・残念ながらそれは違う。

 

「信冬は俺の大切な友人だ。あいつが不幸になるのをみすみす見てられるかよ」

 

特に今の暁竜馬を見た後じゃ余計にな

 

「駄目ね。そんな理由なら私は一考もしない」

 

「ならどうする?その佐藤っておっさんけしかけるのかよ?」

 

臨戦態勢を整えるが花蓮はフフフとおかしそうに笑って

 

「知ってる優希?暁の戦闘の人員は数百はいるわ。そのほとんどは雑魚だけど中にはなかなかの手だれもいる」

 

「・・・」

 

「その全てをあなたの知り合いに一斉にけしかけようかしら?何人かは確実に死ぬわね」

 

「っ!」

 

それは相当にやばい話だ。

俺の知り合いには当然、戦う力をもたない人がいる。

その全てを守り切るのは不可能。

 

「ゲームをしない椎名優希?」

 

「ゲームだと?」

 

「あなた達裏の世界では今、極東戦役というゲームをやってるんでしょ?だから、私達もやるの」

 

超人以外は戦わない極東戦役のルールを適応するってことか?

 

「7日後、お兄様と武田信冬の結婚は行われる。それまで、暁の戦闘員はあなたたちでいう最低Aランク以下は動かさないわ」

 

「その対価は?」

 

俺の知らないところで知り合いが無差別に襲われるという最悪の戦略をしない条件は当然厳しいものになるだろう。

 

「対価はたった一つよ。水月希を決して今回の戦いに参戦させないこと」

 

やはりというか姉さんを封じに来たか・・・

味方にたってくれるか未だに分からないが姉さんは動けば確実に戦局を変えてしまう戦略兵器だからな・・・

 

「姉さんは気まぐれだ。俺が戦わないでと言っても聞かないかもしれないぞ」

 

「そうかしら?あなたがお願いしたら聞いてくれると私は思うんだけど?」

 

姉さんが戦力として数えられないなら相当に厳しいが暁に無差別攻撃をされればその時点で俺の負けだ。

椎名本家の家族は大丈夫だろうがその他の知り合いに確実に死者が出る。

それだけは許せない。

いや・・・方法はあるか。

 

「選択肢3があるな暁花蓮」

 

「あら?何かしら?」

 

「ここでお前をおしりぺんぺんして今回の件を終わらせるって選択肢だ」

 

「お嬢」

 

佐藤が花蓮の前に出て俺に殺気を向けてくる。

やるしかないならやるだけだ。

花蓮は仕方ないわねとため息をはいて

 

「やりなさい佐藤。ただし、殺しちゃ駄目よ」

 

「分かった」

 

来るか!?

紫電を手にかけた瞬間、佐藤が動いた。

いや・・・

消えた!?どこに・・・

直後に背後から天地を揺らすような一撃が体を襲う。

 

「ぐっ!?」

 

背後に紫電を振るうがそれは空を切る。

 

「遅いな」

 

声は真横からだ。

そちらに意識を向けようとした瞬間わき腹に何かがめり込む。

 

「ぐ・・・」

 

パキと骨が砕ける激痛を感じながら滑りながら後退する。

口から血が出てくるがそれに構ってる暇はない。

更なる追撃がくる!

相手はステルスか?それとも、体術の超人か?

 

「佐藤は私の自慢の護衛役よ。佐藤、そろそろ決めなさい」

 

「了解だ。お嬢」

 

再び背後からの声。

しまっ!?

ズドンと背中に打撃の衝撃を感じると地面に叩きつけられる。

起き上がろうとするがダメージがでかすぎて起き上がれない。

 

「これで分かってくれたかしら?水月希が参戦してくれないようにしてくれる?」

 

「・・・」

 

「お嬢。折るか?」

 

佐藤の足が俺の背に乗せられ力が込められていく。

死ぬ・・・このまま、込められれば心臓ごと踏みぬかれる。

 

「待ちなさい。佐藤、どうする優希?このまま、死ぬ?」

 

メキメキと体が悲鳴をあげる中逆転の一手・・・

 

「優君!」

 

その声にはっとして首を持ち上げるとそこにいたのは秋葉だった。

状況を読みとったらしく手を佐藤に向ける。

 

「こいつの近衛か」

 

佐藤は俺を踏んだままそちらに意識を向ける。

 

「あら?椎名の近衛?暁と椎名の間で話はついてるはずだけど?」

 

それを聞いて秋葉が目を丸くする。

 

「暁・・・」

 

攻撃をしかけようとしても仕掛けられない。

そんな感じだ。

 

「佐藤、その近衛は何もできないわ。続きをやりなさい」

 

「了解だ」

 

「がっ!」

 

足に力が更に強まり地面に圧迫される。

 

「優君!」

 

秋葉が周囲に風を纏わせるがそれを佐藤に振るう事はない。

怒りで睨んで最後の一線を保ってる感じだ。

 

「フフフ、残念ね。優希。その子はあなたを助けない。暁と椎名でそう約束したもの」

 

なるほど、そういうことか・・・

 

「・・・」

 

そんな目で見るなよ秋葉。そうであっても俺はお前を恨んだりはしないよ。

泣きそうなお前のその顔・・・俺は見たくない

 

「優君を放してください」

 

だが、それでも秋葉は俺を見ながら花蓮を睨んで言う。

 

「あら?嫌よ?まだ、返答を貰ってないもの」

 

花蓮は馬鹿にしたように微笑みながら言う。

秋葉は一瞬、目をつぶり何かを決意するように目を開ける。

 

「放してください」

 

切り裂くような風が秋葉の周りに吹き荒れる。

 

「いいの?私達と戦えばその時点であなたは罪を免れなくなる。下手すれば死刑よ」

 

「・・・」

 

暴風が秋葉の右手の槍に集中していく。

やる気か秋葉!?

 

「やめろ!秋葉!どうにかする!」

 

秋葉は参戦させられない。そうすれば、あいつは死刑になるかもしれないんだ。

この状況で椎名の家まで敵にすればもう本当にどうしようもなくなる。

それに、俺はお前を失いたくない!

 

「ほう、どうするんだ?」

 

佐藤が足に力を入れてくる。

メキメキと骨がきしむ音。

息が・・・死ぬ・・・

く・・・そ!

 

「ではこうしましょう」

 

静かな声と共に佐藤が吹き飛ばされる。

がさっと買い物袋を手に黄金の髪を揺らしながら武偵校制服姿の信冬が俺の前に立つ。

 

「の、信冬!?」

 

解放されて息を吸いながら立ちあがる。

 

「あ・・・」

 

秋葉が風を収めるのを横目に黄金の髪の少女の横に立つ。

 

「大丈夫ですか優希?」

 

「ああ、悪い助かった」

 

「婚約者ですから」

 

にこりと信冬は微笑んでから招かれざる客の方を見る。

佐藤の方は既に体制を立て直し殺気のこもった目でこちらを見ている。

花蓮は薄い笑いを浮かべたままこちらを見ていたが口を先に開いたのは彼女だ。

 

「武田信冬。いえ、信冬お義姉様でいいかしら? どうして邪魔なさるの?いいところでしたのに」

 

「暁花蓮。私はあなた達、暁に嫁入りしたわけではありません。その呼び方はやめてください」

 

「あら?どうして?いずれするなら今呼んでもかわりないんでなくて? それとも、逆らうつもりなのかしら?あなたのお婆様と私達、暁家に。フフフ、強い女を屈服させるのも一興というものですけど周りを巻き込んで楽しいのかしら?」

 

「・・・」

 

「逆らうのは結構。ですが、その結果何人死ぬかしら?」

 

「・・・」

 

信冬は何も言わない。仕掛けることもせずに花蓮達を見ているだけだ

 

「椎名の後継なら分かるわよね?その子を引き渡して目を閉じることがどれだけ合理的な判断なのか」

 

俺に振ってきたか。確かに状況は最悪に近い。武田や暁を完全に手に回して俺達が勝てる可能性は・・・

だがな

 

「関係ねえ」

 

「ん?」

 

俺は信冬の前に立つと威圧するように紫電を背後の肩に乗せ見下すように睨みつけてやる

 

「関係ねえって言ったんだよ。お前ら暁や武田が強力でも俺が何とかしてやる。だから、信冬のことは諦めて新しい婚約者捜しでもやりやがれ」

 

もう、どうにでもなれ!

半分やけくそだが覚悟を決める時が来たってことだ。

ここは絶対に引かねえぞ!

 

「合理とか知らねえよ。非合理だろうがなんだろうが俺は絶対に信冬は渡さねえ!」

 

信冬には作戦もあるらしいからな。ここは、そこに乗っかるとしよう

 

「はぁ、ここまで馬鹿とは思わなかった。佐藤、帰るわよ」

 

「了解だ。しかし・・・」

 

佐藤は俺を睨んでいたが花蓮が再び声をかけてくる。

 

「いいの。どうせ少し遅いか早いかの違いだけ。でも、お馬鹿さんに一つだけ忠告しておいてあげる」

 

薄く笑ったまま花蓮は俺を見て

 

「さっさと、その考えを変えてその子引き渡さないと殺されるわよ」

 

「お前らにか?」

 

「フフフ」

 

花蓮はそれには答えずに背を向けて歩きながら

 

「暁は今回の件ではもう東京では手出ししない。それは確約してあげる。だから、せいぜい残りの時間を楽しんでくださいね。お義姉様」

 

佐藤と共に闇の中に消えて行く暁花蓮達・・・

とりあえずの危機は去ったとはいえ・・・

 

「優希、もしも・・・」

 

信冬が何かを言いかける。

だが、その先の言葉は分かる。

 

「お前は俺が守る」

 

決意と覚悟を決めて俺はそう言った。

 

「・・・」

 

風林火山を解き俺を見て少し目を丸くした信冬は少しだけ頬を赤く染めて小さく頷いた。

 

 




というわけで新年早々一万文字超えです(笑)

次から次へと優の支援は消えてついに、武田の他にも暁の関係者も現れます。
この暁花蓮は優と同じ年ですが出れることはあるのか(笑)

次回はドタバタ編予定!

では今年も守るものをよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第246弾 不安な夜

ドーピング期間は終わり、アリスベルも完結してしまってちょっと寂しい


10月27日、武田が提示してきた再襲撃まで後4日。

昨日の暁の件は悪いがアリア達には黙っておいた。

絡めば絡むほど、この問題は俺というより、俺達の日本の裏武家の戦いの構図が浮き出てきている。

信冬の護衛の依頼を頼んだのは俺だが、あまりアリア達を深くこの件に関わらせたくないと思えてきた。

道路の風間との戦闘でも武偵校がある学園島と言う点も幸いしアサルトの馬鹿が暴れたで済まされた。

つまり、よくあることなので誰も気にしなかったのだ。

死人やけが人が出ていたら話は別だっただろうが何せ、この件に関わったのは・・・

 

「むー、傷一つ残ってませんねぇ」

 

と不満そうに言いながら俺の上半身を見ている白衣姿のアリスだ。

アリスに呼び出された俺は服を脱いでくださいと言われ上半身裸で後輩に検査を受けさせられていた。

ちょっと、恥ずかしい。

 

「おい、もういいだろアリス」

 

できるならこの時間を早く終わらせたいんだが。

アリスは首を横に振りながらその少し小ぶりな顔を俺に向け

 

「駄目ですよぉ。武偵弾の直撃受けて生きてるお兄さんもお兄さんですけど破片とか刺さってたらどうするんですか」

 

「別に痛みもないし問題ない」

 

「そうですけど・・・アンビュラスとしてはやりがいありませんねぇ」

 

アリスはむうとかわいらしく首を傾げて少し下がり足を組んだ。

お、おい!

白衣の下は武偵校制服なので中が見えそうになるので慌てて目をそらした。

 

「おや?どうしたんですか?」

 

顔だけ見えるように目を向けるとアリスはにやりしていたのでもしかして、わざとか?

 

「可愛い後輩のパンツを見たいお兄さんの気持ちは分かりますが」

 

「ばっ!違う!」

 

「ほほう。興味はないと?」

 

こ、こいつは。本当に小悪魔だな。

いくら、武偵病院の中の診察室とはいえ、外に出れば人はいっぱいいるんだぞ。

というか、上半身裸の男の前でそんなことするな!いつか、襲われるぞお前。

い、いや俺はやらんが

 

「大丈夫ですよ。スパッツはいてますから」

 

「・・・」

 

見ると確かに黒いスパッツが見えるがお前・・・そういや、秋葉もいつもスパッツはいてるよなとか考えて慌てて首を横に振った。

 

「じゃ、冗談はこれくらいにして診察の結果です。あ、服着ていいですよ」

 

制服に腕を通して再び座るとアリスが説明を始めてくれた。

 

「まず、体に傷はありません。折られたっていう肋骨も完全に治ってますね。化け物ですかお兄さん」

 

少しだけ目を細めてアリスが言った。

否定できんな・・・致命傷に近い傷負っても治るとか吸血鬼のレベルじゃね?

 

「緋刀の進行ですが、これは進んでます。カラコン出しときますね」

 

「ああ・・・」

 

そう、昨日緋刀を多用したせいか左目に続いて右目もカメリアの色になっちまった。

だから、朝アリスに電話してここにいるんだがこの分だと髪の色も変わるのかな?

 

「髪は変わらないと思いますけどね」

 

俺の考えを読んだのかアリスが言うが

 

「なぜだ?アリアはピンクだぞ」

 

「んん、アリア先輩は緋弾ですからよく分かりませんが緋刀の方はいろいろと調べた結果目までだと思いますよ?変わるの」

 

つまり、根拠はないが多分、大丈夫ってことか?

だが、緋刀化の時、髪の色変わるんだが・・・

 

「いいじゃないですかスー○ーサイヤ人みたいでかっこいいですよ」

 

「うーん・・・」

 

まあ、考えようによっちゃそうかもしれないけど・・・強くなる時、姿が変わるなんて変身ヒーローみたいだしな。1度は男の子があこがれるもんだし。

秋葉当たりは面白そうとか言ってくれるかな?

そういや、秋葉も椎名本家から暁と武田と戦うなと指令を受けたみたいだったな・・・

あの後、すみませんと何度も謝ってたし。

 

「それで、アリス。聞きたいんだが緋刀がこのまま進行していけば最終的にどうなると予想できる?」

 

「そうですねぇ・・・アリア先輩の方は緋緋神に乗っ取られるとか聞いてますがお兄さんの中にはスサノオさんとかいう人がいるんですよね?」

 

「自由に出てくるわけじゃないが時々、頭の中で声がしたり、夢の中で姿を見たりするな」

 

「その姿はお兄さんが女装して髪が長いバージョンそっくりだと?」

 

「ああ」

 

「んー、乗っ取られるとかはないと思うんですが・・・これは私の予想なんですけどスサノオさんはその紫電の残留思念とかじゃないんですか?」

 

「残留思念?」

 

「紫電を使えるのはお兄さんだけなんですよね?今まで、抜き身で遠山先輩も使ったらしいですがスサノオは遠山先輩には現れなかった」

 

「ああ。だが、紫電が手元を離れた時もスサノオは出てきたぞ」

 

「ですけど、紫電持ってる時より遥かに少ないんですよね?まあ、私の予想ですしこれはもう少し研究してからですね」

 

私には専門外ですからと右手を軽くあげてアリスは言った。

 

「まあ、新技を教えてくれたりとか悪いことばかりでもないんだがな」

 

「それは、緋刀を使った?」

 

「ああ、割といろいろ教えてもらってる。なんか、忘れてるのもあるから思い出したら教えてくれるそうだが・・・」

 

「・・・」

 

アリスは再び考え込むように足を組んでスパッツが見えるのも気にせずに右手を口元に当てた。

真剣に考えているようで今度は口出しできない。

 

「私の悪い予想があたらなければいいんですがやはり、緋刀の進行はやはり、抑えた方がいいですね」

 

アリスはポケットからカプセル状の薬を取り出すと俺に差しだしてくる。

 

「紫電があるなら緋刀には割と自由になれるみたいですが普段は可能な限り使用しないでください。と言っても、武田の襲撃が近い今そんなこと言ってられる状況じゃないのは分かりますが・・・」

 

「悪いな。アリス、今は最悪の状況だが緋刀の力を引き出さなきゃ今回の相手には勝機の1%も見いだせないんだ。緋刀は使う」

 

「勝算はあるんですか?」

 

「信冬には当日になれば考えがあるって話だ。それに、俺の方でも少し考えてる」

 

「聞いていいですか?」

 

「武田信春って信冬のばあちゃんに直接話してみる。婚約を取り下げるようにな」

 

「それ・・・現実的じゃないと思いますけど」

 

「通らなきゃ力で押し通す」

 

化け物。戦うなと周りからは散々言われているが俺は覚悟をもう決めた。

どんな化け物だろうがやれるだけやって後悔ないようにする。

 

「即死しなければ私が治してあげますから怪我は安心してください」

 

「その時は頼むなアリス。無傷で勝てる相手じゃなさそうだし」

 

「はい、1傷10万で治しますよ」

 

悪魔か・・・ペロッと舌を出す可愛らしい後輩の小悪魔ぶりに俺はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                     †

 

「え?弁当がない?」

 

その一言から俺の昼休みは始まった。

朝、アリスの所に行って秋葉にも信冬にも弁当をもらうのを忘れてたため昼に2人に話しかけたんだが・・・

ちなみに、現在、2人には量を調整してもらい2人でそれぞれ弁当を作ってもらっている。

信冬的には不満だし秋葉は上位の命令であるから、嫌々ながらも引きさがりそうだったんだが俺が妥協案で2人に量を調整してもらう事で話はついたわけだ。

ちょっと、信冬の笑顔と秋葉のジト目が怖かったけど・・・

 

「すみません。優君、昨日の件でちょっと朝に時間がとれなくて・・・」

 

「不本意ながら理由は同じです。申し訳ありません優希」

 

周りの連中が弁当を広げているのを横目にしながらさて、どうするか・・・

購買はもう、出遅れてたから今から飛び出しても間に合うまい。

キンジも同じくパンを買うために飛び出しているからいないし、アリアは食堂に行ったようだ。

理子はご飯食べないのかアイマスクしてク―ク寝てるし・・・

エルはどこ行った?

 

「しゃあねえな。食堂行くか」

 

「食堂ですか?私は利用した事がないのですが・・・」

 

「なら、初めての利用ってことで行こうぜ」

 

今からなら混んでるだろうがなんとか座れるだろう。

キンジやアリアもいるかもしれんしな。

とまあ、こんな流れで食堂に来たんだが

 

「あんた達なんでここに集まるのよ」

 

「せっかくのアリア先輩と2人きりの昼食がぁ・・・」

 

「別にいいだろアリア」

 

食堂でアリアとそのアミカの間宮あかりを見つけ丁度、席も3つ余っていたのでそこに座らせてもらった。

 

「すみませんアリアさん。迷惑と言うなら・・・」

 

「あんたと秋葉はいいわ。優は床に座りなさい」

 

「なんでだよ!」

 

「そうです。椎名先輩は床がお似合いです」

 

間宮ぁ・・・

そう思った時

 

「優先ぱぁい!」

 

「うお!」

 

どーんと背中から何かがぶつかってきたので持っていたうどんを落としそうになり慌てて踏ん張る。

この声は・・・

 

「おいこらマリ!いきなり抱きつくな!」

 

「へへへ、いいじゃないですか。私クエストで最近学校いなかったんですから」

 

頬ずりされてる感覚を背に感じながらはっとすると、信冬と秋葉がこっちを見ているぞ

 

「優希?その子は?」

 

「初めまして武田先輩!優先輩の1番大事なアミカの紅真里菜です!」

 

「1番大事な?」

 

秋葉お前は真里のこと知ってるだろうが!なんだ、そのジト目は

 

「どこ行ってたの真里?」

 

「あ、うん。ちょっと、九州の方に行ってたんだ」

 

そう言いながらマリが間宮の横に座ったので俺の席が消える。

ちなみに、秋葉と信冬は既に座ってるのだが・・・

 

「アミカの制度は知ってるだろ?あいつは、まあ、気まぐれでアミカにしたんだよ」

 

「優先輩、激しく私を求めたんですよ。おまえをアミカにしたいって情熱的に迫ったんです」

 

「んな事実はねえ」

 

怒られる前に言っておく。

にしても、座るとこないのか・・・お!

 

「座るぞ」

 

「断る!」

 

「んな固いこと言うなよ」

 

アリアの後ろでカレーを食ってたRRR会長村上の横が空いていたので強引に座った。

やれやれこれで飯が食える

 

「騒がしくしないでよね」

 

「へいへい」

 

アリアが斜め後ろから言って来たので適当に返事してうどんをすする

ちなみに金の節約で素うどんだ。

 

 

「いただきます」

 

信冬は礼儀正しく手を合わせて俺が勧めたとんかつ定食を食べ始める。

やはりというか信冬は一挙に気品を感じるなぁ

秋葉は信冬から離れた間宮の横。つまり俺の斜め後ろでおにぎりとサラダ、自前の板チョコをもそもそと食べている。

チョコばかり食べてたら将来糖尿病になるんじゃないか秋葉?

まあ、ステルス使いは全部それをエネルギーに変えてるからならないんだろうが・・・

 

「おい、椎名」

 

「ん?なんだ村上」

 

「レキ様はいないのか?」

 

「レキ? 今日はまだ、会ってないな。この時間なら屋上じゃないか?」

 

「ふん、使えない奴め。せめてレキ様を連れて私の目を浄化させるぐらいの役目を果たせ」

 

知らねえよそんなこと。

 

「まあ、それはいい」

 

後ろで女子たちが話をしているのを聞きながら村上が小声で聞いてきた

 

「また、厄介事に巻き込まれてるな貴様」

 

「ああ、まあな。だが、今回はレキがらみじゃねえぞ」

 

「レキ様がらみならすぐに分かる。だが、あの転校生がらみだろう」

 

するどいな。RRRの情報網って奴か?

いや、ある程度見ていたら分かるか・・・

 

「ちょっと厄介なクエスト抱えてる」

 

「それは先日、お前が襲われた件に関係してるのか?」

 

「まあな」

 

「ふん、貴様がくたばろうとも関係はないがレキ様が悲しむことだけはするなよ」

 

「なんだ?心配してくれてるのか」

 

「そんなわけないだろう。お前はRRRの宿敵だ」

 

そう言っても少しは心配はしてくれてるんだろう。だが今回の問題は周囲に助けを求めるのは次々潰されて言ってる状況だ。

裏の世界の問題はやはり、周りを巻き込むわけには・・・

秋葉も封じられた今、俺だけで信冬を守れるのか?

ん?携帯か?

振動を感じてポケットからスマホを取り出すと見知った人からの電話だった。

鈴さん?

鈴・雪羽月花の鈴さんだ。

確か、土方さんの家にいるはずだが・・・

信冬達に断って食堂を離れて校舎の裏に出て電話に出る。

 

「もしもし?」

 

「校門」

 

「え?」

 

一言鈴さんの声がしたかと思えば電話が切られてしまう。

とりあえず、校門の方に行ってみると車が1台止まっている。

レガシィだから土方さん?

だが、運転席にいるのは鈴さんか?

すっと俺に目で乗るように促しているみたいだな。

とりあえず、助手席に座ろう。

 

「あの、鈴さん?何か用ですか?」

 

「・・・」

 

レキのように無表情のまま、鈴さんはそのまま車を発進させる。

どこに連れて行く気だ?

 

「鈴さん?どこに行くんですか?」

 

「目的地はない。話をするだけ」

 

「話?」

 

「優希は武田信春と戦う?」

 

その話か・・・なんだかんだで俺っていろんな人に心配かけてるんだな・・・

 

「話し合いはするつもりですが最悪はそうするつもりです」

 

「無理、勝てない」

 

「あの、俺よく知らないんですが信冬のばあさんってそんなに強いんですか?」

 

「強い。勝てたのは歳、雪羽、そして、あと一人しか私は知らない」

 

「なるほど・・・って土方さん達が?姉さんじゃなくて?」

 

こくりと鈴さんは頷いた。

 

「飲む?」

 

そう言って買っていたのかミネラルウォーターを差し出してきたのでありがたく貰っておくが話の続きだ。

というか、鈴さんって信冬のばあさんとの戦いを直接見た事あるみたいだぞ。

これはチャンスだ。

敵の情報をするのは戦いの基本。

まして、土方さん達が勝ったことあるならその方法も聞いておけば化け物相手でも勝機は生まれる。

 

 

「信冬のばあさんの能力を教えてください。それと、どうやって土方さんが勝ったのかも」

 

「戦う?」

 

きろりと目で俺を見てくる鈴さんだがここは引く気はない。

もう、戦う覚悟は固めてるんだ。

 

「はい、避けられないなら俺は戦います」

 

「風林火山は5つの能力のカウント。5つ全てが使用された時、5つの能力が全て破壊のエネルギーの固まりになり相手を滅ぼす」

 

諦めたのか鈴さんは前を見ながら説明を始めてくれる。

 

「カウント?それって『風』『林』『火』『山』の5つの能力を使う事が条件にとんでもない破壊力の一撃を放てるってことですか?」

 

「そう、その破壊力の最大値は海を割り山を消し飛ばす」

 

それは・・・撃たせれば確実に負けるってことか・・・

土方さん達は撃たせずに勝ったんだろう。

 

「18年前の戦いでは正面からの一撃を私たちは受けなければいけなかった」

 

「え?それって・・・」

 

「山を消し飛ばす一撃を正面から」

 

「えっと・・・あ!姉さんが弾き返したんですよね?」

 

姉さんならそれぐらいはやるだろう。

しかし、鈴さんなんで首を横に振るんです?

 

「希はその時は戦えない状態だった。私達が勝てたのは花音のおかげ」

 

花音・・・北条花音か・・・となると・・・

 

「そう、因果律を操り武田信春の攻撃をぎりぎり打ち勝つ因果に書き換えた」

 

やっぱりか・・・

 

「あの戦いは花音がいなければ負けていた。そして、今は花音はもういない」

 

無表情だが・・・どこか、寂しそうに鈴さんは言った。

そして、俺を見ると

 

「だから勝てないと言った。歳はあなたを死なせたくない」

 

だから・・・信冬のことは諦めろっていうことか?

 

「心配してもらえるのは嬉しいんですが俺は信冬を救うって決めてるんです。だから・・・」

 

「今回の件。私たちの助力を得られると考えるのはやめるべき」

 

「それでも俺は引きません」

 

たとえ、孤立無援になってもやってやる。

どれだけ脅されてもな

 

「強情。歳の若い頃に似てる」

 

「ハハ、それは光栄です」

 

土方さんは俺が尊敬している1人なんだ。

そんな人に似ていると言われるのは褒め言葉ですよ鈴さん

 

「だが、好意は持てる」

 

そう言って鈴さんは微笑みを浮かべて俺を見る。

この人は・・・表情は少ないがレキよりは自然に笑みを浮かべられるんだな。

いつか、レキもこうなるのかな・・・

 

「雪羽も、本音では信冬を助けたいと考えている。だが、雪羽が動くことは今回は難しい」

 

「分かってます」

 

武田家の問題というのもあるが雪羽さんの立場は微妙だ。

鈴・雪土月花の助力はやはり無理そうだ。

 

「姉さんは?」

 

そう言えば、あの人今どこいるんだ?ついでに聞いとこう

 

「希は今、アフリカ。正確な場所は知らない」

 

ああ・・・テロリスト壊滅無双でもしてんのかなあの人・・・

 

「あまりあてにしない方がいい。完全に予想不能」

 

ですよねぇ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、寮に戻るとキンジと信冬がソファーで話をしているところだった。

珍しい組み合わせだな

 

「おかえりなさい優希」

 

立ちあがって鞄を取りに来てくれる信冬。

ついつい、渡してしまう。

 

「じゃあ、信冬。俺は行くぞ」

 

「はい、ありがとうございます。キンジさん」

 

「ああ」

 

「なんだ?キンジどこか行くのか?」

 

「まあな」

 

そう言って玄関から出て行ってしまうキンジ

ん?いったいなんだ?

 

「キンジどこ行ったんだ?」

 

「すみません。優希、私がキンジさんに頼んだんです。今日は2人きりにしてほしいと」

 

ふ、2人きりって・・・あの、なんで頬を赤くしてらっしゃいますの信冬さん

 

「そ、そうか」

 

ま、まずいんじゃないの? 男と女が2人きりって・・・

って、信冬なら心配はないか・・・

何せ、信冬は箱入りお嬢様。

そういった行為は結婚後と今時珍しい古風な考え方な持ち主だ。

俺がそういう行動を起こさなければって何考えてる俺よ!

 

「優希は先にお風呂にしますか?それともご飯の方が先がいいですか?」

 

「・・・」

 

王道的にはその先はそれとも私なんだが信冬はにこにこして俺を見てるだけだ。

その顔には裏は見受けられない。

なんかごめん信冬・・・

 

「んじゃ、風呂に入ろうかな」

 

「はい、温度は45度にしてますよ」

 

と言ってタオルを渡してくれる。

気が利くよな相変わらずお前

そして、風呂に入り信冬のおいしい晩御飯を食べて後はだらけて寝るだけという状況になっても信冬は特に変わった話をしてくることはなかった。

ただ、俺の世話を嬉しそうにしてくれているだけ。

アリアもレキも誰も訪ねてこない。

完全に2人だけの空間だ。

武田襲撃の話は一切せず時間だけが流れ、俺は先に自分の寝どこに潜り込んでスマホをいじってそろそろ寝るかとスマホを置いて寝転ぶと急に部屋の明かりが消えた。

 

「あれ?信冬か?」

 

襲撃の可能性を一瞬、考えるもその可能性は低いと考え直す。

となると犯人は・・・

 

「優希」

 

暗闇で何も見えないが声から信冬が目の前にいるのが分かった。

ベッドの前に・・・

ってえええええ!まさか、そんな展開!

いやいや、待てそんなわけあるか!

そうだ!分かったぞ!

 

「じ、冗談はやめろ理子!どうせお前の変装なんだろ?

 

こんなことやるのは理子しかいない!

 

「・・・」

 

すっと気配がベッドに入り込んでくるのが分かる。

慌てて後退するが逃げ場を失うだけ。

これ、前にもあったような・・・

 

「今夜は・・・一緒に眠りませんか?」

 

いやいや、それはまずいだろ!

すっと信冬が俺の背中に頭を押しつけるのが分かった。

 

「信冬?」

 

煩悩は全部消えた。

これは理子じゃない。

だがあの時の理子に似ている。

信冬は俺の背中にしがみついて震えているのだ。

 

「武田家のことか?」

 

「・・・」

 

信冬は答えない。

背中の気配を感じながら俺は何を言えばいいかを考える。

大丈夫だ。俺に任せろ。

そう言えば・・・いいのだろうか?

話し合うとはいった。

戦うとは決めた。

だが聞けば聞くほどの絶望に俺は・・・

 

「優希は・・・覚えていますか?」

 

「何をだ?」

 

「あなたが最初に私の家に来た時のことを」

 

「ああ、覚えてるよ。お前は雪の降る庭にいたな」

 

「では、滞在中に言ったあのことは覚えていますか?」

 

「あのこと?」

 

「・・・いえ、覚えていないのならいいのです」

 

「そうなのか?」

 

「はい」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

沈黙が闇の空間に流れる。

こちこちと時計の音だけが部屋に響くがやがて、スゥスゥと寝息が聞こえてきた。

どうやら、寝たらしいな信冬。

このままじゃ、まずいし俺はソファーで・・・

だが、それは叶わなかった。

信冬が俺のシャツをつかんで眠っていたからだ。

このまま、シャツを脱いで行くことはできるが・・・

 

「はぁ」

 

ため息をついて俺は再び寝転がるといいにおい、だが少し落ち着く匂いを感じながら目を閉じた。

 

付け加えるならその日の夜は何も起こらなかったとだけ言っておく

 

 




といわけで優は狼になれないヘタレた羊さんでした(笑)

まあ、信冬はそんなこと望んでたわけではないのですが男としてどうなんだと笑って下さい。

さあ、次回は一気に飛んで学園祭に突入予定!
つまり、武田襲撃まであと一日となるわけです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第247弾 波乱の始まり

数ヶ月ぶりですが草薙は生きてます!すみません!


文化祭が始まった。

あの信冬との夜から2日。

次の日は特に何もなくいつも通り朝食を用意してくれ一緒に登校して学校生活を送り1日を終える。

不気味なぐらい普通の日だった。

もちろん、俺も何もしなかったわけではない。

武田家との戦いに備えての準備しつつもあることを考えていた。

今回、武田とまともに激突すれば下手したら死人が出る。

アリア達を護衛に巻き込んだのは迂闊としかいいようがなかった。

踏み込めば裏武家、つまり俺達の家の問題だ。

アリア達はこれ以上巻き込まない。

そう、動く決意を俺は固めていた。

まあ、なんにせよ今日は文化祭だ。

 

寮を出ると歩行者天国になった学園島には郊外からの人々が往来している。

あちこちに出店もたってまさに、お祭りって感じだな。

さてと・・・地獄に行くぜ・・・

 

 

 

 

 

 

 

              †

 

「お姉ちゃん。俺、コーヒーとこのクロワッサンお願い」

 

「はーい、只今!」

 

男性客からのオーダーを受けて注文品をテーブルに運ぶ。

く、屈辱だ・・・

いつもは学生が食い散らかしている食堂も今日は、リストランテマスケとしての場になっている。

つまりは、変装した武偵校の2年生がいるわけだが俺は女装・・・

武偵校女子の制服にエプロンをつけて声は機械で変えて髪はウイッグに顔は化粧を施している。

クラスの連中は大笑いするかと思ったが逆に驚いていた。

もうやだ女顔・・・

ちなみに、このリストランテマスケはいかになりきるかが重要で成功すればマスターズが生徒全員の内申にも影響が出るので手は抜けない。

いつもぎりぎりの成績だからな俺。

ちなみに俺は午前2番目のシフト。

時間も決して長くないし、終われば自由に行動できるので後少しの辛抱だ。

 

「お待たせしました」

 

ん?声のした方を見ると秋葉とちょっと離れたところで接客中の信冬が見えた。

秋葉は黒い水着のような服に白いスカートに白いマントに金髪ツインテールのウイッグ。

信冬は茶髪の短めのツインテールのウィッグに白い厚めの服だ。

にこりとして接客し、客も信冬の後姿を見ている。

ウェイトレスとしては完璧なんだろうがこの催しではどうなんだ?

俺はあのコスプレのキャラは浅くはあるが知ってる

一方秋葉はと言うと、初期の設定になりきっているらしく表情をあまり出さずにちょっと悲しげな影のあるという印象を受ける接客をしているな・・・

嫌がってはいたが役になりきるのは案外難しいものだ。

うーん・・・秋葉は心配ないが信冬はちょっと、アドバイスしないとだな。

 

「信冬ちょっと」

 

「あ、はい優希」

 

信冬の手を掴んでカーテンの向こうに入ってから思っていることを言ってやる

 

「今のままじゃまずいぞ」

 

「? 何か私ミスをしましたか?」

 

きょとんとしてるが確かにこの催しじゃなきゃ完璧なんだ・・・だけど

 

「リトランテマスケは変装した状態になりきらないといけないんだ。お前のそれはもうちょっとだな・・・」

 

こう言う事態も想定して秋葉にDVD借りてみといて正解だった。

と言っても秋葉いわく4期まであるので1期しか見てないが・・・

とにかく、そこで見た信冬のキャラはもっと元気で明るい女の子なのだ。

 

「秋葉に借りたDVD見ただろ?あれを見て真似るんだ」

 

「DVDですか・・・すみませんつけてはいたのですが呪符を作るために断片的にしか・・・」

 

「そうか、そりゃまずいな」

 

まいったな。断片的にしか見てないなら多分、演技は難しい・・・

どうしたものか・・・

 

「優君。どうかしましたか?」

 

お、秋葉。

だが、お前に今回は頼りすぎれない。

信冬はなぜか秋葉には冷たいし

 

「いや、なんでもない。ホールに戻っといてくれ」

 

「はい」

 

秋葉は何か言いたそうにしたが結局何も言わずに戻っていった。

さて

 

「とりあえずだな。その仮装のキャラは・・・」

 

覚えていた限りのことを信冬に伝えたが所詮は付け焼刃。

俺達が受け持つ時間帯では信冬はリリカル風のキャラを演じることは叶わなかった。

と言っても全てが駄目だったわけじゃない。

 

「あの、笑顔まさしくリリカルだよ」

 

「よく分からないけどすごい可愛いウェイトレスさんだった」

 

と以外に好評だったようでなんとか、マスターズの折檻は避けられそうだ。

俺の評価?んなもん聞くな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お祭りってのは総じて楽しいもんだ。

リトラスマスケの担当時間も終わりようやく解放された俺達は信冬の希望で祭りを見て回っている。

秋葉も連れて来たかったが友達と回ると言ってどっかに言ってしまった。

気を使ってくれたんだと思う・・・

秋葉の友達っていや理子かな?

ああ、そう言えば夾竹桃?とか言う奴とも最近は親しくしているらしい。

元・イ・ウーで年齢は俺達より年上だが・・・

あ、そう言えばジャンヌもそうか。

おいおい、考えてみりゃ秋葉の友達全員元イ・ウーじゃねえか大丈夫か?

まあ、他にもいるんだろうが・・・

 

「優希。どこに行きますか?私はこう言った場所に来たことがあまりないのでよく分からないんです」

 

東京武偵校の制服に着替えた信冬と男服に戻った俺。

外来客でにぎわう廊下を歩きながら

 

「そうだな・・・」

 

時計を見ると10時半

 

「じゃあ、出店見て回るか?」

 

「はい、お任せします」

 

にこりと微笑みながら信冬は言うのだった。

そして、出店の並ぶエリアに入る。

たこ焼きとかお好み焼きとかあるがけん銃焼きってなんだ?

爆弾おむすびと本当に爆発するんじゃないだろうな・・・

なにやら変なものもあるがとりあえず何か食べよう。

出店で食べるの前提で朝飯も控えめにしてもらったし。

よし

 

「たこ焼き2つ頂戴」

 

「2つだな。ん?貴様椎名」

 

「あれ?村上?」

 

適当に並んだだけなのだが知り合いだった。

2年は全員リトラスマスケをしているというわけではない。

いや、受け持ちの時間は行かないといけないがそれ以外の時間は出店をやってるグループもあるのだ。

 

「ほう、レキ様を置いてデートか?」

 

ちらりと信冬を見て村上が言う。

 

「デートじゃねえよ。文化祭を一緒に回ってるだけだ」

 

「ふん、まあいいがな」

 

以外に手なれた手つきでたこ焼きを焼いている村上。

手先は器用なんだな。

 

「優希の友達ですか?」

 

「いえ、この男は私の宿敵ですよ。武田さん」

 

「宿敵ですか?」

 

「ええ、そうです」

 

まあ、レキを間に置いての関係はそうだよな・・・

俺的には友達よりだと思ってたんだが・・・

 

「優希」

 

「村上正。アサルトだよ」

 

名前を言い忘れてたので伝えておく。

 

「村上さんとはなぜ宿敵なんですか?」

 

そ、それを聞くか?

レキのことを言えば不機嫌になるかもしれんしうーむ・・・

 

「ほらとっとと金払ってあっちに行け」

 

ふんと村上がたこ焼きの入った袋を押し付けてくる。

ナイスタイミングだ村上。

 

「ああ悪い。今払う。じゃあな」

 

「ふん」

 

 

 

 

 

 

 

どこか適当にベンチでも・・・

人通りは多いがベンチが空いていたのでそこに座ってたこ焼きの包みを開ける。

うまそうだ!

早速口に放り込むと熱々のたこ焼きの味が口の中に広がる。

熱いが中々うまい!

ん?

 

「信冬どうした?食べないのか?」

 

包みをあけたままたこ焼きをじっと見ている信冬に言うと信冬は俺を見て

 

「これはどうやって食べるのですか?」

 

「なんだ?そんなことも分からないのか?」

 

「こういった外の食事はしたことがないので・・・お箸はつけ忘れたんでしょうか?」

 

貰って来ますと立ち上がりかけた信冬を慌てて止める。

 

「箸はいらない。これは、つまようじで食べるんだよ。こうやってな」

 

実戦してたこ焼きを口に放り込む。

信冬は驚いた顔をしてからいただきますと礼儀正しく手を合わせ、つまようじをたこ焼きに突き刺すとはむと少し口に含んで食べた。

 

「おいしい」

 

「だろ?こういった場所で食うたこ焼きは格別なんだ。ほら、もっと食えよ」

 

「はい」

 

上品にたこ焼きを食べて行く信冬を見ながらやっぱりお嬢様なんだなと改めて思う。

多分、祭りとか信冬は行ったことがないんだろう。

食事などは周りの連中が世話を焼いていたんだろうし・・・

おお、そうなると今日の予定が自然と組み上がるぞ

パンフレットを見てから

 

「よし!今日は文化祭を遊びつくそう。まだまだ、上手いものもいっぱいあるんだ!なんか、演劇とかもやるらしいぞ。これも後で行こうぜ」

 

「優希に任せます。あなたの行きたいとこなら私はどこにでも行きますよ」

 

「食べたい物とかないのか?あ、でも分からないだよな。じゃあ、次はフランクフルトでも食おう!」

 

なんか楽しくなってきたぞ。文化祭を全く知らない子に祭りの楽しさを教えるのってすごい楽しい。

その後フランクフルトや綿あめ、りんご飴と食べて行くが信冬の反応はすごく新鮮だ。

食べた事ないものを食べてすごくうれしそうに見える。

途中、知り合いにはデートデートと冷やかされたがそんなんじゃねえって!

飯ばかり食ってたわけでもなく校舎の催し物にも行ったぞ。

お化け屋敷とかもあったが化け物退治の専門家信冬にはお化けは全く歯が立たなかった。

1年が入ってる死体袋とか見ても怯えた様子もなかったもんな。

 

「夢がかないました」

 

「夢?」

 

お化け屋敷を出て信冬が突然そんなことをつぶやいた。

 

「なんでもありませんフフフ」

 

聞いても答えてくれず信冬は笑顔で俺を見ていうのだった。

そうこうしているうちに時刻は午後4時。

そろそろ演劇の最後の部の時間だがさて・・・

 

「優希。次はどこに行くんですか?」

 

パンフレットを見ながら嬉しそうな笑顔で信冬は言う。

こうしてみるとお祭りを楽しむ年相応の女の子だよな。

普段は大人びてるからついついそんな目で見れてないけど

 

「次は演劇部の演劇だ。演目はオリジナルの物語みたいだな。一応今日の文化祭はこれで終わり。続きは明日だな」

 

「楽しみです。早く行きましょう優希」

 

ぐいっと俺の手を掴んで体育館に向かう信冬。

俺は苦笑しつつその後に続いて体育館に入った。

薄暗い中椅子が並んでおり俺はそこに座って開園時間を待つのだがその前にトイレ行ってこよう。

 

「ちょっとトイレ行ってくる。待っててくれ」

 

「はい。早くも戻ってきてくださいね」

 

「了解」

 

信冬に断ってトイレに入る。

さて、用を足したし信冬の所に戻るか。

トイレから1歩外に出た時

 

「椎名優希」

 

「ん?」

 

聞いたことある声に振る帰るとそこにいたのは・・・

 

「お前・・・」

 

「久しぶりだな」

 

「・・・」

 

真田幸村

信冬の部下のこいつがここにいる理由は考えるまでもない

 

「信冬のことか?」

 

「分かっているなら話は早い。場所を変えてもいいか?」

 

「ここじゃできない話か?」

 

「そうだ」

 

「・・・」

 

幸村がここに来た理由は武田と無関係ではないだろう・・・

 

「武田とは休戦の約束をしているはずだ。まだ、期限じゃないのに手を出す気か?」

 

「こい、椎名優希」

 

黙ってついてこいとばかりに背を向けて歩き出す。

ついていくか一瞬迷うが、信冬のことを大切に思っている家臣のはずだ。

なら、話は聞くべきあろう。

信冬にメールを送るか悩むがそれはやめておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やってきたのは学園島から少し離れた空き地島だ。

船に乗るからそんな予感はしていたが確かにここなら誰もいない。

 

塩風混じる少し強めの風を感じながら幸村に続いて歩いていくと振り返る。

 

「ここならできる話か?」

 

「ああ、お屋方様が置かれている現状を把握しているな?」

 

「暁竜馬との結婚の話だろ?知ってる」

 

「これは、お前と武田の山との間で通った休戦が終わった後の話だが武田信春様が直々に信冬様を連れ戻しに来られる」

 

「っ!?そうか」

 

いつか来るかもと思ってたがそうか、休戦終わった瞬間に来るのか武田信春

 

「信春様は従わないなら力づくで連れもどすつもりだ。そこでどうする?戦うのか?」

 

「話して分からないならな」

 

「そうか。では椎名優希。お前にはここで死んでもらう」

 

「!?」

 

膨れ上がる殺気に後方に思いっきり飛んで紫電を抜く。

やはり戦いに来たのかこいつ

 

「休戦は破るのか?武田の名前に傷がつくぞ」

 

「その件については問題ない。俺はもう武田を抜けた、ただの一般人だ」

 

武田を抜けてきた!?そんなのありかよ!

 

「おい!待てよ!お前信冬のこと大切に思ってるんだろ!なんで信冬を守ろうとしている俺を攻撃する?」

 

「貴様が現実がまるで見えていない馬鹿だからだ。御隠居様・・・武田信春様にはお前は絶対に勝てない。今回信冬様は信春様に逆らった。その代償は連れ戻された後。暁家でどのようなことになろうとも武田は一切口を出さないという状態になる」

 

つまり、信冬様の生死は暁家が握るということだ。奴隷のような待遇でも武田側は何も言わない」

 

「今のまま行けば信冬様の未来は地獄。だが、信春様はお前を殺して信冬様を連れ戻せばその条件を緩和してくれると約束して下さった。そのためにもお前には死んでもらう」

 

そうか・・・お前信冬のことを思って・・・

でもお前、馬鹿は俺じゃなくてお前だよ

 

「なんでそうなる!みんなで協力して武田信春を倒すって選択もあるだろ!なんで、暁家に信冬を売るような手助けをする!」

 

「それが・・・信冬様が選べる1番苦しみが少ない未来だからだ」

 

一切の迷いのない顔。

これは戦いは避けられねえか

抜けたとはいえ武田の林。

勝てない相手じゃねえ

それにこいつは大馬鹿野郎だ!ブッ飛ばして目を覚まさせてやる。

怒りの感情をトリガーにできる戦闘狂モード。

それは既に発動したのを感じる。

 

「よく分かった。てめえは大馬鹿だよ!殴ってやるから歯くいしばりやがれ!」

 

地を蹴りながら俺は戦いを挑む。

 

幸村の戦闘スタイルは察しはついている。

風林火山の林は徹底した回避能力すなわち

 

「ふっ!」

 

上段から紫電を振り下ろすのを幸村は少し体を動かしただけで回避し同時に横振りの斬撃を繰り出してくる。

それを俺は左に飛んで少し距離を取りながら紫電を左に右手でガバメントを取り距離を取りながら3点バーストで幸村に発砲する。

 

「無駄だ」

 

幸村は弾道を知っているように再び最小限の動きでそれを回避する。

今の軽い接触で予想が確定に変わる。

やはり、幸村の戦闘スタイルは回避した上のカウンターだ。

通常より桁違いの集中力からくる回避からのカウンター剣術か。

少しばかり厄介だが勝てない相手じゃない。

だが倒す前に何個か聞いておきたいこともある。

 

「今の交わすかよ」

 

「無駄だと言ったぞ椎名優希。俺の林は完全回避能力。いかなる攻撃も俺には当たらない。回避という点のみならシャーロックの条理予知と同格かそれ以上だ」

 

絶対の自信を持っているからこその能力の説明か。

だが、それが甘いという証拠。

 

「そりゃすげえな。それを破る前にお前に聞いときたいことがある」

 

「なんだ?」

 

「どうして武田信春をぶっ飛ばして信冬の婚約を取る下げる選択を取らねえ?」

 

そう、こいつは信冬のことを本当に大切に思っていたはずだ。なのに・・・

 

「っ」

 

幸村は一瞬、顔を歪ませてから

 

「お前は・・・ジャンを知ってるな」

 

「ああ」

 

合宿やイ・ウーの上で会ったやたらうるさいあいつか

 

「ジャンは信春様に信冬様の婚約を取り消してもらうよう頼み戦いを挑んだが敗れ今は病院で意識不明の重体だ」

 

あいつは・・・ジャンも直接戦ったことはないが相当な使い手だったはずだ。

それが、手も足も出ずに負けた?

 

「強すぎるんだ。信春様は。あの方とまともに戦えるのは世界でもほんの一握りだけだ」

 

なるほどな。恐ろしく強い相手だ。

戦うなってみんなに求められている。

だが

 

「だからって諦めてんじゃねえよ。信冬を暁に渡せばあいつは地獄だぞ。それでもお前は信冬を売り渡す気かよ」

 

「ち、違う!俺は信冬様の苦しみを少しでも・・・」

 

「違わねえ!お前のやろうとしてることはあいつを・・・信冬を地獄に送ろうとしてるだけだ!」

 

「違う!違う!違う!お前に何が分かる!俺は信冬様に昔、救ってもらった!その恩義を返すために俺はあの方の苦しみを少しでも減らす!」

 

「へっ!そうかよ!だったら、俺をぶっ飛ばしてそれをやってみろよ!」

 

「言われなくても!」

 

紫電と同時に閃電も抜いて2刀で間合いを詰める。

 

「飛龍2式双風!」

 

風切りの2刀バージョン。

上段からの音速を超えた1撃はかまいたちを発生させる2段技だ。

 

「・・・」

 

しかし、幸村も間合いを詰めながら俺の1撃を見えているように交わす。

同時にカウンターで下段からの1刀だ。

俺はそれをあらかじめ張っておいた後部ワイヤーの引きもどしで後退し、更に地を蹴る。

カウンターのカウンターだ!

 

「飛龍2式双牙!」

 

両刀のよる突きの攻撃。

連続技で幸村の体制を崩したいがその刀は空を切った。

ちっ!攻撃があたらねえ!

 

「無駄だと言った!」

 

上部から刀を落としてくるのを紫電で受け止めながら刀と刀のぶつかり合いになる。

互いの攻撃をかわし、隙を窺う。

火花が飛び散り油断すれば一気に流れが変わってしまう斬撃戦。

幸村はこれまで戦って来た連中から見れば決して化け物レベルではない。

高速斬撃やトリッキーな動きならリゼが上だし、パワーも水が上だろう。

あいつらのように圧倒的なものがないのにここまで苦戦を強いられるのはやはり、完全回避能力林の存在だ。

 

「っ!」

 

斬撃戦と言ったがさっきから、幸村の刀が徐々にではあるが俺に傷を作っていっている。

深い傷ではないが幸村のカウンターは的確で完全に回避することは不可能に近い。

どの椎名の剣術を取っても幸村の林は破れないのか・・・

こういうカウンターの相手の対処法は分かってる。

何度刀を激突させたか覚えていない中、カウンターが俺の防弾制服を切り裂いて左腕の肉を抉った。

刀が使えない状態じゃないが幸村のカウンターは更に正確性を増してきている。

 

「くっ!」

 

背後に飛び幸村と距離を取り対峙しながら舌打ちする。

 

「林は完全回避と同時に相手の動きを正確に読んでいく。カウンターの精度を高めて言ってな。自殺するなら止めないぞ椎名」

 

「はっ、自殺?するわけねえだろ。調子乗るのもいい加減にしろよ」

 

「状況を見て言え。俺は無傷だがお前は傷だらけだ。そろそろお前の動きも完全に見切る。急所にカウンターを入れて俺の勝ちだ」

 

「・・・」

 

ハハハ、ピンチだよなこれ。殺しにかかってきているやつを前に笑みが浮かんじまうのは戦闘狂の影響・・・

それと、自分に少し怒りがわいて笑っちまうよ

 

「悪かったな幸村、俺は今まで勘違いしてた。ここまでやるとは思ってなかったぜ」

 

「そうか。なら、諦めて自殺しろ」

 

「ああ、してやるよ」

 

目を閉じて俺が思い浮かべたのはあの子のこと。信冬・・・

俺は絶対にあいつを守り抜く

そして、あの感覚が全身を駆け巡る。

 

「緋刀化」

 

開いた瞳はカメリア。髪は緋色。

緋刀の力が全身をめぐる。

傷も治っていく

 

「それが・・・」

 

幸村が警戒したように下がるがそれは正しい。

これが俺の本気の状態。

守るための力だ。

 

「勝負はこれからだぜ幸村!」

 

緋色に輝く紫電を手に爆発的な加速で俺は地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで文化祭→幸村襲撃事件勃発!

この下はちょっと最新刊のネタバレなのでまだの人は読まないでくださいねw











緋弾のアリア最新刊でついに公安0が出てきたぁ!
最大桜花簡単に止めるとかあんた姐さんですか!ってやばい人出てきてますね(笑)
そして、今回から出てきた伊藤マキリ。
何者なんだ?
少なからずキンジと因縁あるようですが金坐さん生きてる?
だとしたらいろいろ守るものでも考えないといけないですね。

ふーむ、というか今回1番笑ったのはキンジの公安0の撃退方法。
思わずおい!と笑いましたw
これで優も留年の危機だぞw
どうなるやらです(^^)

結局は緋弾のアリアドーピング更新でしたが次は早めに更新したい!
それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第248弾 絶望の光

負けられない戦い。ついにロリバ…彼女が現れる!
お待たせしました


いつだったか信冬は言ってたな。

幸村はいい子なんですよと

あいつにとって、こいつは・・・真田幸村は弟のような存在なのかもしれない。

緋刀の力を発動させ一気に間合いを詰める。

幸村は速度を見誤ったのか驚いたように動きが鈍る。

突進しながら

 

「緋龍零式陽炎」

 

巨大な殺気を相手にぶつけその殺気の死角に入りこむ椎名の剣術。

相手には一瞬、消えたように見える。

 

「くっ!」

 

林の名に恥じず幸村はそれを受け止めて見せるが攻撃は終わりじゃない。

 

「緋龍零式五月雨!」

 

五月雨は突きの連続技だ。

緋刀により7倍に増幅された身体能力から繰り出される突きはまさに暴風。

 

「おおおおお!」

 

気合いの声と共に五月雨を撃ちづづける。

幸村はそれをさばき切ろうとするがその顔には明らかな苦痛が宿っている。

いける!押し切れると思った。

こういった回避能力が高い相手に対する対処法は昔、学んでいる。

相手に回避できない範囲攻撃を仕掛けるか手数で圧倒するかだ。

範囲攻撃は緋光剣があるがあれを使えば幸村を殺してしまうかもしれない。

それは武偵としても信冬のためにもできない。

そして、おそらくだが幸村の林は完全じゃない

 

「うっ!」

 

五月雨の1刀が幸村を1度かする。

手ごたえと同時に数発が幸村の防弾服を叩く。

 

 

「うう・・・」

 

苦痛の声を上げながら幸村は背後に後退しようとするモーションを俺は見逃さない。

五月雨で1瞬引いた刀を別の技に切り替える。

 

「緋龍零式滅壊!」

 

シンプルにして破壊力がある。

緋刀の力で増幅した力で放った滅壊は幸村に確かに当たった。

後退しようとしたのが幸いしてか破壊力は落ちたが幸村ががくりと膝を地面につく。

手ごたえあり。今の攻撃で幸村の戦闘力はほぼなくなった。

 

「勝負ありだ」

 

紫電を幸村に向けて俺は言う。

戦って分かった。

確かに幸村は回避の能力はやずば抜けてるしカウンターも大したものだ。

だが・・・

 

「・・・経験の・・・差か」

 

膝をついたまま幸村は俺を苦しそうな顔で見上げる。

骨の数本は折れてるだろう

 

「ああ」

 

緋刀を使っておいてなんだが仮にあのまま、幸村と通常で戦っていても最終的に勝っていたのは俺だっただろう。

幸村は戦って分かったが戦闘経験が少ないようだ。

武田でどういう生活を送っていたかは分からないが戦闘の経験値は俺が圧倒的に上だ。

そこに差が出た。

緋刀で勝負を早めたのはこいつに怒りを感じたのもあるが他にも理由がある。

 

「昔、姉さんに教えてもらったんだよ。回避が得意な奴は手数で押せってな」

 

もっとも、姉さんは範囲攻撃の方が楽と言ってたがな。

 

「水月希・・・そうだ!お前の姉なら・・・信冬様を助けてくれる・・・頼むお前の姉に・・・」

 

「武田信武春を倒してくれって頼むのか?答えは無理だな。姉さんは気まぐれだから」

 

姉さんは気まぐれだ。

俺が頼んだところで動いてはくれまい。

 

「だが・・・それでは信冬様は・・・」

 

そんな泣きそうな顔で言うなよ

 

「心配するなって。信冬を地獄のような所に送る気はねえよ。まずは、信春ってばあちゃんと話をしてみたい」

 

言って分かる相手だといいが多分無理だろうなぁ

 

「話し合いは無駄だ。信春様は決めた事は決して覆さない」

 

「なら戦うだけだ」

 

「お前は話を聞いてなかったのか?確かにお前は強いが信春様には敵わない」

 

「かもな」

 

緋刀化状態を解いて紫電を見て俺は言った。

知り合いのほとんどに信春とは戦うなって言われてるんだ。

それでも

 

「だが、俺はそれでも信念は曲げねえ。怪物だろうがどこかに勝機は必ずある。だから協力しろよお前も」

 

にっと笑って手を差し伸べる。

 

「一緒に信冬を救おうぜ」

 

幸村は一瞬迷ったような表情を浮かべた。

だが

 

「・・・」

 

無言で手を伸ばしたその時だ。

 

「所詮その程度かい」

 

ぞわっと全身の毛が逆立つ感覚。

こ、この感じに覚えがあるぞ

 

「あ・・・」

 

幸村が伸ばした手を下ろす。

その視線の先を見るとそいつはいた。

沈みゆく太陽を背に歩いてくる黒い和服姿の少女。

化け物だ。

1目見ただけでも分かる。

あれは姉さん達の世界にいる壁の向こう側の存在だ。

黒い瞳をにっと笑った目で俺たちに向け

 

「椎名優希に負けたようだねぇ幸村。これで信冬の未来は決まったわけだ」

 

「っ!待ってください!今一度考えなおして・・・」

 

「私は約束を守れない男は嫌いだよ」

 

すっと少女が右手を前の出した瞬間、幸村がその場から吹き飛んだ。

なっ!何が起こった?

 

「幸村!」

 

周りを見渡すが幸村の姿はない。

海に落ちたのか?

だが、それなら痕跡が残らないとおかしい。

 

「幸村に何しやがったお前!」

 

「お前?」

 

スッと少女の目が細まる。

なんてプレッシャーだ。それだけで俺は紫電を前に構えてしまう。

 

「まあ、いいさ。察しはついているんだろう?私が誰か」

 

ああ、ここまでの流れで分かってる。

 

「武田信春」

 

汗が流れているには暑さのせいじゃないんだろうな・・・

くそ、思わず苦笑いしそうになるぜ

 

「何年振りか?前に会ったのは子供の頃だったねぇ」

 

「ああ」

 

そう、俺はこの信春と少しだけだが面識がある。

信冬の家にしばらく厄介になってた子供の頃に・・・

だが、こいつが武田信春?ばあさんじゃなくて子供じゃないか。

まあ、アリアも小学生みたいだし老化を止めるようなステルスがあっても不思議ではない。

 

「幸村は・・・殺したのか?」

 

「こだわるねぇ。殺してはいないよ。ただ、お前さんとの会話には邪魔だから本土に飛ばしただけさ。向こうで気絶してるよ」

 

クククと口元を緩めて信春が笑う。

傲慢不遜なその態度・・・姉さんのかぶる。

だがそうか、幸村は死んでない。

なら今はこの場を最大限に生かすことが大切だ。

 

「そりゃよかった。丁度あんたに話したいことが合ったんだ」

 

「椎名優希。奇遇だねえ私もあんたに話がある」

 

「話?」

 

「お前、信冬が欲しくないかい?」

 

何言ってるんだ・・・こいつは・・・だが

 

「欲しい?信冬はものじゃないぞ」

 

「建前は結構だよ。信冬は休戦が終わり次第連れ戻され暁のぼんくらの嫁になる。きっと奴隷のような地獄の日々が始まるんだろうねぇ」

 

ああかわいそうにと右手を少し上げながら少女は言う、

こいつ・・・

 

「もう話はついている。日本政府や表、裏の権力者達にお前たちに味方するものはいない。武田は約束は守る。休戦が終われば・・・分かるかね?」

 

3日の休戦は守るが休戦が終われば問答無用で力づくで連れて行くってことか・・・

俺の味方はアリア達だがあいつらは巻き込まないことに決めた。

仮に巻き込んだとしても・・・

俺と信冬だけで戦って勝つのは絶対に無理だ。

公安0も敵、武装検事も敵・・・よくて中立だ。

つまり詰み

 

「だから、チャンスをやろう椎名優希」

 

意地悪そうに笑うそいつの顔は嫌な予感しかしないが・・・

 

「もし、私に負けを認めさせたら信冬をお前にあげるよ」

 

「・・・」

 

その言葉の意味が分からないほど俺は馬鹿じゃない。

休戦が終われば武田は総力戦を仕掛けてくる。

そうなれば絶対に勝ち目はない。

 

「そう、これは最後のチャンスだよ椎名優希。私があんたの前に出る機会は」

 

これは・・・罠だ・・・

俺から信春に仕掛けさせ休戦を破らせ信冬を連れて帰る罠。

俺は休戦を盾に引いて姉さんに助けを求める。それ以外ない。

だが・・・果たしてそれがベストなのか・・・

ちがうよな

一瞬、目を閉じ再び開くと答えは出ている。

目はカメリア、髪は緋色。

緋刀、この力であいつを・・・信冬を守る!

 

「武田信春、休戦は終わりだ。信冬は俺がもらう!」

 

戦闘狂モードも入ってるな。あいつはものじゃねえが自由の身にして見せる!

 

「いいよ。椎名優希、休戦は終わりだ」

 

先手必勝!

緋刀化の爆発的な筋力で地面を蹴り間合いを詰めて上段から紫電で切りかかる。

 

「ふむ」

 

信春は大して驚いた顔もせず風林火山と書かれた扇子を紫電に当てる。

自然とトンとあてるように

同時に紫電が信春の体を外れ空を切る。

扇子で受け流した!?大した力を入れたようには見えなかったぞ!

 

「終わりかい?」

 

1刀で終わるかよ!

 

「緋龍零式五月雨!」

 

幸村と同じように手数で押す突き。

だが信春は避けるのではなく全て受け流す。

まるで林のごとく・・・

 

「ちっ!」

 

後退しながらガバメントを3点バースト

信春はにぃと笑い扇子を広げすっと振るうと弾はどこかに飛ばされた。

拳銃の弾丸も林には受け流されるってことか!?

幸村は避けるだったが真の林は受け流す能力?

ならこれはどうだ!

 

「ガバメントをしまいもう1丁のガバメントを抜くと再び3点バーストで撃つ」

 

無駄だよとばかりに信春は扇子を広げるが着弾前にその弾が3発とも消えた。

おおと信春の目がちょっと見開かれた瞬間背後に現れた弾が炸裂した。

武偵弾炸裂弾だ。

爆煙が信春の周りを覆うが次の瞬間風が巻き起こり煙を吹き飛ばす。

扇子を手に信春は面白そうに

 

「今のはウルスの鈴の空間跳躍射撃だね。面白いねぇその魔封弾というのは。全部のステルスが入るのかい?」

 

無傷かよ・・・しかも今の風、秋葉並みだぞ。

それに、魔封弾のことも調査済みか

 

「俺のは下手だけどな」

 

「だろうね。ウルスの鈴の空間跳躍射撃はあんたの比じゃなかったさ」

 

「へっ、負けたんだろその戦い。土方さん達に」

 

「フフフ、そうだねぇ。確かに負けたさ。だが、椎名優希。北条花音はもういない。絶対的な敗北の因果は覆せないのさ」

 

そう言いながら信春は扇子を広げ横に構える。

 

「今度はこちらから行こうかねぇ」

 

「!?」

 

まずいと本能的に後退する

 

「フフフ、そーれ」

 

笑いながら扇子を振りぬくと竜巻がこちらに飛んでくる。

とんでもない密度の竜巻。

当たれば致命傷は避けられないだろう。

なら!

 

「緋龍零式緋包み!」

 

紫電から緋色の壁を作りだし竜巻を時の彼方に送り去る。

高レベルの防御の方法なら俺にだってあるんだぜ信春ばあさんよ!

 

「ほっ!器用器用!ならこれはどうだい?それそれそれ!」

 

まじか!1回2回3回と振るう扇子から次々と竜巻が起こり緋包に激突し消えていく。

 

「くっ!」

 

緋包は確かに強力な防御術だがそれゆえに永続展開はできない。

緋光剣ほどじゃないがエネルギーは食うし緋刀の力がなくなれば当然消える!

ステルスは燃費が悪いっていうがまさにだな

このまま展開していては・・・

緋包を解除しワイヤーを射出し地面に打ち込み巻き戻す力で竜巻から逃れる。

信春は風を連発してくるがワイヤーのおかげでなんとか回避はできている。

この規模の竜巻を連発かよ・・・

姉さん並みの相手に本当に勝てるのか?

いや、土方さん達だって勝ったんだ!奴は無敵というわけじゃない!

それにステルス相手なら!

ワイヤーを巻き戻し着地して信春に向けて地を蹴る竜巻が飛んくるが紫電を前に構える。

先端が竜巻に接触すると竜巻が消滅する。

 

「やるやる!それが椎名の宝剣かい?」

 

紫電のステルス無効化能力。

あらゆるステルスを無効化するこいつだが弱点はある。

それはステルスの一部にでも触れなければ消せないというものだ。

あるだけで相手のステルスを無効化できるなら最高だがそこまで万能の刀じゃない。

結果、とっさの状態の防御には緋包みのような技が必要になってくるのだ。

再び間合いを詰め刀の間合いに飛び込む。

 

「ふむ」

 

信春は再び扇子を畳んで受け流す体制を取るが俺は紫電と同時に閃電を抜くと2刀同時に振るう。

紫電は信春の左肩目がけ閃電は右わき腹!

これなら扇子1つじゃ対応できねえだろ!

案の定、信春が背後に飛ぶのを確認し両刀に緋刀の力を集中させる。

 

「緋龍零式緋緋飛ばし!」

 

「何!」

 

カマイタチの緋刀版緋色の光が刀から離れ信春に向かい飛んでいく。

不意を突くことに成功したのか信春はそれを回避するために明らかに体制を崩す無理をした回避行動を取った。

ここだ!

 

「うおおおおお!」

 

気合い一閃!俺は叫びながら信春に接近し最大の一撃を御見舞する。

 

「緋龍零式滅壊!」

 

緋刀による7倍の筋力に加えたただ1点を破壊する突きの一撃。

狙いは右腕。

腕をもらうつもりの1撃だ。

土方さんや鈴さん達から聞いているのだ。

やるなら絶対に手加減するなと

狙い違わず滅壊は信春の右腕を吹き飛ばした。

 

「おお」

 

信春は驚いたように飛んだ腕を見ている。

よし!

 

「俺の・・・勝ちだな。信冬はもらうぜ」

 

さっさと止血しないと死ぬぜその腕

 

「・・・」

 

信春は右腕の傷を抑えながら口元を緩めた。

 

「中々やるじゃないか。だけど、甘いねえ。今の1撃腕じゃなく私の心臓か頭を狙うべきだったよ」

 

「俺は武偵なんでな。殺したら負けなんだよ」

 

「フフ、武偵?その前にお前さんは椎名の人間。つまり、裏の人間だ。知らないとは言わんせないよ」

 

「・・・」

 

「椎名の血筋なら生まれつき無条件に持ってるだろう?」

 

「・・・」

 

「殺しのランセンスを」

 

忘れたくはあったんだがな・・・

 

「俺は武偵だぜそんなものとっくに捨てたさ」

 

「フフ、捨てた?馬鹿言うんじゃないよ。裏の人間に与えられた権限がそう簡単に消えるもんかい。あんたは持ってるよ。殺しのライセンスをね」

 

「・・・」

 

殺しのライセンス・・・公安0や武装検事が持っているこのライセンスは裏の人間の一部に与えられている。

もちろん、無条件に与えられるものではないが俺が過去に無意識ではあったが数人切り殺しても罪に問われていないのは椎名の家の力もあるがこのライセンスも決して無関係とはいえない。

 

「だからなんだよ?」

 

「当然私も持ってるよ殺しのライセンスを。だが、坊や。裏武家の人間にはあるルールが存在していることを知ってるかい?」

 

「ルール?」

 

「裏武家の人間同士は殺し合いが認められている。仮にライセンスがなくても坊やは私を殺せる場面なんだよ今は」

 

だとしても・・・

 

「殺さなくていいなら殺さなくていいだろ。信冬もばあちゃんが死んだら悲しむだろうし」

 

ん?と信春は一瞬きょとんしてからにいいと笑みを浮かべる。

 

「甘いね。椎名の後継は。やはり、信冬を嫁がせなくて正解だったよ」

 

そう言いながら信春が離した右腕からは血が止まっている。

やっぱりか・・・土方さん達から聞く限りの化け物がこの程度で終わるわけがない。

それに、鈴さんが言っていた風林火山のカウント。

林と風は見た。後は火と山。

だが、紫電のステルス無効化能力があればいけるぞこれは。

信春の体術も緋刀状態なら対処は可能だ。

 

「そろそろ、頃合いかねぇ」

 

スッと左手を空へ向ける。

ぞくりと悪寒が全身をかけめぐった

 

「死ぬ覚悟はできたかい坊や」

 

「!?」

 

「風・林・火・山を解錠する」

 

な、なんだあれは!

武田信春の周りに現れたのは白い文字だ。

風林火山と書かれた白い4つの文字。

その文字が信春の後ろをを円形にゆっくりと回転している。

あれが鈴さんの言ってた風林火山のカウント!?

 

「鈴・雪土月花の誰かに聞いているんだろう?これが私の能力。風林火山さ」

 

プレッシャーって奴が違いすぎる。

全身からあれはやばいと告げている。

攻撃に転換されれば絶対的な敗北が待っている。

 

「聞いてるよ!」

 

ならば先手必勝!撃たせる前に勝つ!

地を蹴りながら信春を沈める手段を頭の中で構築する。

 

「風」

 

突撃してくる俺に信春が竜巻を放ってくるが紫電を切りはらう

無駄だと思うが有利なはずの無効化能力。

これがあっても信春との距離が絶望的に遠く感じる。

同時に白い風の文字が黄色い光を放ち始める。

 

「林」

 

肉薄し下段から振り上げる。

信春はそれを背後に飛んで交わした。

紫電だと無効化されるのを見越して・・・

そして、林の文字もまた黄色い光

 

「火」

 

そして、手から放たれるのは赤い炎の龍だ。

だがそれも紫電で切りはらう。

風林火・・・後一つ!?

火の文字も同じく黄色い光を放つ

まずいと思った時

 

「山」

 

信春がその場から動かずに俺に顔を向ける。

同時に山の文字に黄色い光が灯る。

 

(緋光剣だ!)

 

「あ?」

 

頭の中でスサノオの焦った声が響く。

緋刀状態の時のみに聞こえるその声

 

(早く!最大でぶつけろ!手加減したら死ぬぞ)

 

「ちっ!」

 

スサノオの言ってる意味が分かった。

風林火山の文字を中心に莫大なエネルギーが収束されている。

あれが、鈴さんが言ってた山すら消し飛ばすって言う!?

 

「くっ!」

 

殺す殺さないとか考えている場合じゃねえ!本気で撃たなきゃ即死する。

紫電に意識を集中し緋色の光が紫電からあふれ出す。

時の彼方に相手を消し飛ばす殺人技。

それをかつてないほどにエネルギーを注ぎこむ。

相殺できるのか!?いや、紫電の能力なら・・・

 

「坊や、言い残したいことはないかい?信冬に伝えてあげるよ」

 

「っ!?」

 

「ないのかい?じゃあ、終わらせるとするかね」

 

莫大なエネルギーの収束砲・

ステルスのエネルギー砲・・・それが風林火山・・・

 

「風林火山 大砲」

 

キュンと何かが収束する音と共に光が空き地島を覆う。

そして、それが放たれた瞬間俺は最大に収束させたものを解放した。

 

「緋龍零式!緋光剣!」

 

緋色の光と風林火山の光の奔流。

それが激突し、一瞬拮抗したように見えたが緋色の光が飲みこまれる。

迫りくるエネルギーの奔流に紫電で無力化を試みるが紫電が触れた瞬間確かに手ごたえを感じたその時、猛烈な激痛が体全体を襲った。

 

「うわああああああああああ!」

 

俺はたまらず悲鳴をあげ光に飲みこまれた。

 

 

 

 

 

 




というわけで幸村飛ばされ信春現る急展開!
いつもぎりぎりの戦いで勝ってきた優は光に飲み込まれた!
次回をお待ちください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第249弾 優希VS信春 戦いの行方

最新話です!絶望の光に飲まれた優は


サイド信冬

 薄暗い闇の中その物語は演じられていた。

生徒達が演じるのは悲劇の物語。

ある貴族の少年と少女の話だ。

2人は幼い頃に家同士で婚約を結び交流を深めやがて本当に愛し合うようになった。

だが、2人はその婚約を果たすことができなかった。

少年の方の家が没落し婚約が解消されたのだ。

2人はそれでも愛し合い、家に反抗する道を選ぶが逆らった少年は様々な困難を切り開くが最後には力尽き死んでしまい少女もその後を追うのだった。

 

「・・・」

これは悲劇の物語。

私たちはまだ愛し合ってはいないが信頼では結ばれていると思っている。

少年は・・・優希はあの悲劇の物語の少年のように・・・

そして、私は・・・

だが、それは許されないことだ。

これは最後の自分の意思。

そう言い聞かせてきたはずなのにこの数日彼と一緒に過ごし募るのは未練ばかり・・・

 

「いけませんね・・・」

 

劇が終わり空を見上げるともう、暗くなりかけていた。後夜祭の準備なのかキャンプファイアーが校庭に設置されて炎を上げている。

後ろを振り返り優希が出てくるのを待つが中々出てこない。

トイレに行き、劇が始まってしまったので自分を見つけられず違う場所で見ているものと思っていたのだが・・・

 

「?」

 

背後から怒鳴り声が聞こえてきたので振り返ると人が集まっている。

校門の方角だ。

体育館からの人並みは途絶えかけている。

ドクンと心臓が跳ねた気がした。

あの人が集まっている場所・・・あそこに行かなければいけない気がする。

体育館から彼が出てくるのを期待して最後に振り返るが私は校門の人波に走り出しそれを見た。

 

「幸村!」

 

そこにいたのは武田家で幽閉されているはずの部下だった少年。

 

「の、信冬様・・・お会いしとうございました・・・」

 

「その傷はどうしたのです!誰にやられたのですか!」

 

ぼろぼろだった。

服のあちこちは破け血で滲んでいる。

気力だけでここまできた感じだ。

 

「下がってください。救急車が来る前に応急処置します」

 

呼ばれてきたのだろう。その顔には見覚えが合った。

優希がアリスと呼んでいたアンビュラスの後輩だ。

 

「武田先輩?この人はお知り合いですか?」

 

「私の・・・家のものです」

 

「分かりました」

 

アリスは簡潔に言うと応急処置を始める。

幸村は苦しそうに息をはきながら

 

「信春様が・・・近くに来ています」

 

「!?」

 

お婆様が・・・

その傷はやはり・・・

 

「お婆様に逆らったのですか幸村!私が戻るまで逆らわずに待機していれば・・・」

 

「信春・・・様が言ったのです・・・私に傷一つつけれたら信冬様の婚約を・・・考え直してやると・・・」

 

「・・・っ」

 

幸村が勝てる相手じゃない。

お婆様は日本で数人といないRランク級の存在なのだ。

勝てたのはあの忌々しい義兄土方歳三達だけ。

それも、北条花音あってこそだ。

 

「ジャンは半殺しにされ病院へ・・・私は・・・あることを提案されここに来ました」

 

「ジャンが?それであることとは?」

 

「それは・・・」

 

「言いなさい!」

 

幸村は一瞬迷った顔をしたがその口を開いた。

 

「椎名優希が今、信春様と戦っています」

 

「!?」

 

なんで・・・どうして・・・冷静にならなければならないのに頭の中が混乱する。

そうならないように私は覚悟を決めたのに・・・

だが、これだけは分かる。このままでは優希がお婆様に殺される。

 

「幸村!どこですか!どこで優希達は戦っているんですか!」

 

「この島の隣・・・空き地島です・・・鬼道術で人払いの結界を張ってるので外からは見えないと思います・・・」

 

「アリスさん。幸村を頼みます」

 

「待ってください!私、断片的にしかお兄さんから聞いてませんけど行けば・・・」

 

「そうですね・・・もう、みなさんには会えないでしょうから伝えてください。楽しかったです。ありがとうと・・・」

 

「武田先輩!」

 

風林火山・・・

髪が黄金に染めあがり風と共に舞い上がる。

行き先はもちろん空き地島だ。

優希・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                †

サイド優希

 

なんだ・・・どうなった・・・

目を開けると最初に飛び込んできたのは夕闇の空だ。

そうだ!俺は信春と戦って!

 

「っ!」

 

体を起こそうとするが思うように動かない。

ぴちゃと音がしたので首を動かすと血だまりが出来ていた。

体中激痛が襲っている。

武田信春の風林火山大砲を受けて大ダメージを受けちまったわけか・・・

確か山すら消し飛ばすっていってたけどよく生きてるな俺・・・

 

「まだ、生きてるとは驚いたね」

 

 

見ると信春が俺を見下すようにしてこちらを見ていた。

氷のようなその目は絶対的な強者の目。

紫電は・・・手元にある・・・

 

「ハッ・・・しぶとさは結構自信あるぜ」

 

がくがくと足も手も震えるが紫電を杖になんとか立ち上がる。

つっと頭から血が流れるがそれを拭うが血が地面に流れていく。

 

「フフフ、そうかい?それでも満身創痍は避けられなかったようだね」

 

「まだやれるさ・・・」

 

「そうは見えないね。だが、本気ではないとはいえ風林火山大砲を耐えたのは称賛に値するよ。それに免じて命はとらないでおこうかね」

 

「へっ、それはありがとうって言えばいいのか?」

 

「どちらでもいいよ。もちろん、信冬のことは忘れて生きていくのであれば今回の件はなかったことにしてあげるよ。大サービスで病院に送ってあげようかね」

 

つまり、武田に反抗して戦ったことを禍根なしに不問にしてくれるってことか・・・

切りかかっておいてその条件は決して悪くはないのだろう。

だがな

 

「信冬は諦めねえ」

 

緋刀状態は解除されてる・・・だがまだ、体は動く!

 

「ふぅ、似てるねぇ。私に屈辱を与えたあの男に」

 

あの男・・・土方さんのことだな

 

「土方もあんたと同じように最後まで諦めず北条花音によってその活路を開いた。あんたにもいるのかい?因果律を操る化け物の仲間が」

 

北条花音さんか・・・いるなら助けて欲しいがあの人はもういない。

って死んだ人にまですがろうとするなんてやばい状況だよな・・・

だが・・・ここは裏武家の戦い。

武偵としてではなく俺は覚悟を決めなければならない。

まあ、ここはそうだな

 

「いるぜ。知ってるだろ?俺には世界最強の姉がいるんだぜ。な、姉さん」

 

いかにも後ろにいるように言ってやる

 

「なに!」

 

信春が慌てたように振り返った。

おいおい、振り返るなよ。ヒルダと言いみんな姉さんどれだけ怖がってんだ

だがチャンスだ!

体に鞭打って駆け出す。

まだ、諦めるわけにはいかねえんだ!

 

「何て言うとでも思ったのかい?」

 

接近して切りかかろうとした瞬間、信春は振り返り手を振りかぶった。

瞬間、猛烈な風が俺を襲う。

 

「まだだ!」

 

風を紫電で無効化しその向こうにいる信春に向ける。

 

「ふん」

 

信春は風林火山の扇子を取り出すととんと地面を飛んで紫電の間合いから逃れる。

風林火山をもう一度撃つ気か!?

やはりそうか!あれは発動条件がある!

 

だんと信春から距離を取り紫電を構える。

 

追撃してくると思ったのか信春がん?と首を傾げる。

だが、会話を交わす気はない!

 

「緋刀!」

 

後一回でいい!もう一度だけ!

 

ぶっ倒れそうなめまいを起こしながら体が緋色の光を纏う。

正真正銘この戦いで使える最後の緋刀だろう。

意識して体の治療には回さない。

とっさにやったがこんな使い方もできるんだな

 

「おおおおおおおお!」

 

光を・・・全ての力を紫電に集約させる。

その輝きは先ほどよりも遥かに強い

絶対にあいつを守るという決意の光

 

「!?」

 

信春の目が見開かれる。

風林火山は4つの攻撃を1度使用した後じゃないと撃てない。

5つ目の風林火山大砲にするためには発動条件を満たさないと撃てないんだ。

なら!撃たれる前に撃つ!

 

(これが文字通り最後の一撃だ)

 

スサノオに言われるまでもなく分かってることだ。

これで勝てなければ終わりだが最強の一撃

緋色の光が紫電をから昼間のような光を放つ。

緋刀最大最強出力あえてなずけるなら

 

「緋龍零式神龍!」

 

振りかぶるとその膨大なエネルギーが解放される。

撃つ瞬間、信春の顔に焦りが見えた。

そして、その瞬間緋色の神の龍ごとき緋色の光が信春を飲みこんだ。

ドオオンと爆発音と共に大量の土煙に海水がザーと空き地島に降り注ぐ。

どんな・・・終末戦闘だよ・・・

 

「はぁ・・・う・・・」

 

紫電を地面に突き刺して片膝をつく。

もう、動けねえ・・・

だが、あれを受けて生きてはいられまい。

9条破り・・・いかに殺しのライセンスがあろうと裏武家同士の戦いだろうと殺しは殺し。

武偵校にいられないだろうな・・・もう

だが、後悔はないこれで信冬は・・・

 

「なるほど、撃たせる前に最大の一撃を撃つ。見事と言っておこうかね」

 

「!?」

 

顔だけを上げて煙の中からゆっくりと歩いてくるのは・・・

 

「う、嘘だ・・・」

 

た、武田信春・・・そんな・・・

絶望だ・・・今の一撃でそんな・・・

 

「どうしてって顔をしているねぇ」

 

少女の顔をした化け物は口元を緩めて絶望する俺に声を投げかける。

 

「あんたはタイミングを間違えたのさ。私が何を発動している時にそれを撃った?」

 

「あ・・・」

 

風林火山の林・・・あれは攻撃を受け流す能力じゃないのか?

 

「風林火山の林は完全防御能力。つまりなかったことにできるのさ」

 

どんな攻撃も防御できるだと・・・

 

「もっとも、限界や条件はある。坊やの攻撃は惜しかったよ。破壊力が足りなかったね」

 

力不足・・・だが、俺にあれ以上の攻撃は・・・

 

「まあ、林の状態で撃たなくても終わっていたことに変わりないけどね」

 

信春の周りの風林火山の文字が全て黄色の文字に染まっている。

俺の攻撃の中で発動条件を整えた・・・

 

「先ほどのお礼だよ。今度は最大でいく。受ければ塵も残らないだろうね」

 

収束していく風林火山大砲の光・・・

もう・・・緋刀を使う力は残ってない。

いや、使えてもあの光から逃れることはできないだろう。

死ぬ・・・

目の前の光は100%の死の光。

紫電で無効化はできないことは証明積み。

つまり、積だ・・・

ちくしょう・・・

体が動かねえ

 

「終わりだよ椎名の坊や」

 

その手が振り下ろされる瞬間俺の前に立つものがあった。

誰だ?黒い・・・マント?

長い金髪を揺らしながら信春が警戒したように新しく登場した人物に視線を向ける。

 

「何者だい? 椎名優希の援軍かい?」

 

「通りすがりの魔法少女です」

 

はっ?と俺と信春がきょとんとする。

いや・・・お前その声・・・

 

「あき・・・はか?」

 

すっと振り返ったその顔にはお祭りであるようなアニメキャラのお面。確か、リトラスマスケでやってた秋葉のキャラの・・・

というかその格好も

 

「違います。椎名の近衛はこの戦いに参戦できません。私は通りすがりの魔法少女です」

 

「いや。お前・・・」

 

「ま・ほ・う!少女です!」

 

ずいとお面を近づけて来たのでその瞳が見えたが秋葉の蒼い瞳だ。

だが、その目は揺れている。

お前・・・

 

「ふん、魔法少女ぉ?それがなんの用だい?」

 

「この人には死んでほしくないと願うものがいます。私はそれを成すためにここに来ました」

 

ゴオオと風が秋葉の周りに収束する。

 

「風のステルス使い・・・フフフ、なるほどなるほど。今は詳しく聞かないでおこうかね」

 

風林火山大砲の光が更に輝きを増していく。

 

「・・・」

 

対する秋葉の風も手の槍に収束していく。

秋葉の最大技で風林火山と打ち合う気か?

 

「や、やめろ秋葉・・・お前の敵う相手じゃない」

 

「ずっと見てました」

 

背中を向けながら秋葉は言う

 

「私はずっとこの戦いを見てました。私はあなたに死んでほしくない」

 

「風林火山大砲の破壊力を見てたなら知ってるだろ!やめろ!お前の槍の一撃が届く相手じゃない」

 

「なら私は命をかけます」

 

「やめ・・・!」

 

「ごちゃごちゃ聞いてるのも飽きたねぇ。そろそろ消し飛びな!風林火山大砲!」

 

破滅の光が俺たちに向けて放たれる。

飲みこまれれば確実に死ぬ死の光

 

「逃げろ!秋葉!」

 

お前だけでも逃げてくれ!

体が動かない。

秋葉は槍を肩の上部に構えたまま圧倒的な暴風を槍に収束させるが明らかにそれでは風林火山大砲は破れない。

 

「・・・」

 

密度がいつもより濃い。

そう感じさせる風が秋葉の槍に収束している。

暴風が槍の周囲だけを包む圧縮された風。

おそらく今までで最高の密度の風の槍だ。

 

「一撃必槍!」

 

風の槍が投擲される。

秋葉の槍と風林火山大砲が激突し一瞬、拮抗するがそれは徐々に押され出す。

 

「っ!」

 

苦悶に満ちた秋葉は更に風を追加しようとするが無駄な努力だ。

 

「驚いたね。少しとはいえ拮抗した。大した風使いだよ」

 

このままでは風林火山大砲に飲みこまれて2人とも・・・

 

「くっ!」

 

なんとか秋葉だけでもと体を動かそうとするががくりと膝から崩れる。

くそ、体が・・・

 

もう風林火山大砲の光は目前にまで迫っている。

今や風の槍は完全に押される形になっていた。

 

「逃げろ秋葉・・・頼むから」

 

お前までここで・・・

 

「お前まで・・・死ぬことはない!早く逃げろ!」

 

「死ぬ・・・優君が・・・」

 

秋葉はつぶやくように言った後再び体に風が収束していく。

 

「そんなのは・・・絶対に・・・嫌です!」

 

ドンと一瞬大気が震えるような振動が体を襲った瞬間、風の槍が光を放ち風林火山大砲と再び拮抗した。

 

「何!?」

 

信春の驚いた声

 

「うわあああああ!」

 

秋葉の声と共に風林火山大砲を少し押し戻したように見えた瞬間、轟音と共に爆発が起こった。

たまらず吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

 

「くそ・・・」

 

秋葉は・・・

いた、近くの地面に倒れてる。

体を引きずりながら傍まで行き安否を確かめるが気絶してるだけか・・・

全てのステルスの力を使い果たしたらしい

信春は?

 

「驚いたよ」

 

土煙の中から歩いてくる少女の服はぼろぼろだった。

だが、ステルスが使えない状態ってわけじゃないようだ・・・

秋葉の前に立ちながら満身創痍で紫電を持ち上げる。

秋葉だけでも・・・こいつだけでも・・・

 

「風林火山大砲を相殺する逸材が椎名にいたとはね。その近衛の子は潜在能力はR

ランク並かい?」

 

「俺の自慢の奴だからな」

 

「ふふふ、どうだい坊や?その子を武田に差しだすなら今回の件は水に流してあげるよ。信冬は連れていくがね」

 

「はっ!お断りだな。どこの世界に女を差し出して自分だけが助かりたい男がいる?少なくても俺はごめんだね」

 

「なら今度こそ死ぬかい坊や?」

 

次に風林火山大砲を撃たせればもう、死は免れない。

だが、どうする?

ここまでぼろぼろで何ができるってんだ・・・

 

「じゃ、次で終わりかね」

 

再び黒い風林火山が回転を始める。

あれ全てに光が灯る時俺達は・・・

 

「おや?」

 

信春が顔を上に向けてにっと笑う。

何だ?

俺もそちらを見上げるとそこには黄金の髪の少女がいた。

 

「・・・信冬」

 

信冬は信春を睨みながらゆっくりと降りて彼女と対峙する。

 

 

「遅かったじゃないか信冬。どうだい?最後の学生生活は楽しかったかい?」

 

対する武田信春は風林火山の回転を止めずに腕を組んで見下すように信冬を見ている。

 

「お婆様。武田と優希達の休戦を幸村を使い無理矢理破らせましたね?」

 

「フフフ、私は破れとは言ってないよ。チャンスを上げただけさ。それを生かせなかったのはやつの無能。そうかい、あのできそこないはお前に助けを求めたのかい」

 

「ジャンも病院に送られたと聞きました」

 

「そうだね。殺しはしなかったのを感謝してほしいぐらいさ」

 

「・・・」

 

信冬は黙って信春を見ている。

あいつは今、心の中で怒りで溢れているだろう。

自分の大切な部下が半殺しにされて怒らないわけがない。

だが・・・

 

「ありがとうございますお婆さま・・・いえ、信春様」

 

すっと膝を折り信冬は信春に頭を下げる。

 

「フフフ、素直素直。それでいいんだよ」

 

「さて、椎名の2人はどうしようかね?」

 

試すように信冬を見ながら信春が言う。

 

「信春様、お願いです。2人を見逃していただけないでしょうか?」

 

信冬・・・

 

「いいよ。だったら誓いな。何を誓うかは分かるだろ?」

 

「はい」

 

「フフフ」

 

勝利を確信したその目。切りかかりたいが意識を保つのがぎりぎりの俺ができることは何もない。

ただ、怒りの目を信春に向けるだけ

 

「私はこの存在の全てを武田と暁に捧げることを誓います」

 

やめろ信冬・・・なんでそんなことを・・・

 

「どんな理不尽なことでも聞くのかい?」

 

「はい」

 

「ふーん」

 

信春は俺達を見て何かを一瞬考えたがいやと首を横に振った。

 

「私も情はあるさ。では信冬行こうか。もちろん、坊や達は見逃してあげるよ」

 

「信春様。無礼を承知で最後に1つだけよろしいでしょうか」

 

「何だい?」

 

「私に・・・最後の別れの時間をください」

 

「いいよ。今生の別れだ。少しだけなら待ってあげるさ」

 

ふっと風林火山の文字が消滅する。

戦闘態勢を信春が解いたらしい。

だが、それを好機と攻める力はもう、俺にはない。

 

「ありがとうございます」

 

信春に頭を下げて俺の元にやってくる信冬

 

「信冬・・・」

 

「アリスさんをここに呼んでいます。怪我の方はそちらで何とかしてもらえると思います」

 

優しい・・・聖母のように慈しむ表情で彼女は言った。

 

「行くな・・・行けばお前のこの先は・・・」

 

信冬は微笑みながら首を横に振る。

 

「元々、そのつもりだったのです。数日だけ優希達と・・・あなたと生活をしてみたかった。それが終われば・・・戻るつもりだったのです」

 

「そんなことのためにか?」

 

「約束・・・守ってもらえましたから」

 

「約束?」

 

信冬は微笑んで懐から札の束を取り出す。

 

「緋刀の進行を遅らせる呪符です。これだけしか作れませんでした。すみません」

 

すっと信冬の手が俺の顔に触れる。

温かくて小さな手。その顔がすっと近づき俺の唇と彼女の唇が一瞬だけ重なった。

一瞬のキス。

そして、離れながら彼女はすっと立ち上がりながら言った。

 

「私のことは忘れてください」

 

待て行くなと手を伸ばそうとした。

遠ざかっていくその小さな彼女の背。

もう、2度と会えないかもしれない大切な幼馴染。

 

「のぶ・・ふゆ」

 

その名を呟き俺の意識は闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで最新話。
信春に負けた優を助けるため信冬は優の元から今生の別れを告げ去っていきました。

ですが今まで優を見てきた読者の方なら分かるでしょう。
彼は諦めない!
絶望の中に希望を見いだせるのか!
次回ものろまですが感想を糧に頑張ります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第250弾 2つの誠の意志

どうものろまな亀草薙です。
ちょこちょこ書いてはいたんですが私生活が忙しくありがたい感想も頂き執筆しました!
続きをどうぞ


「私のことは忘れてください」

 

そう言って背を向けるあの子

 

待ってくれ・・・

そう言おうにも体が動かない。

ちくしょう・・・

 

「・・・」

 

武田信春の冷徹な目が俺を見る。

俺の力がもう少しだけでも強ければ・・・

あいつを・・・信冬を守れたのだろうか?

いずれにせよ・・・手遅れだ。

俺に出来ることは何もない・・・

俺は怒りと悲しみを押し殺し目を閉じた。

 

 

 

      †

 

はっとして目を開けると飛び込んできたのは木の天井。

体が痛むが布団をどけて上半身を起こす

 

「ここは・・・」

 

「目が覚めたようだな」

 

声の方向に目を向けると月明かりを背に浮かぶ影

その声を俺はよく知っていた。

 

「土方さん・・・」

 

公安0を率いる俺の知り合い・・・姉さんの仲間

 

そうだ俺は武田信春と戦っていて・・・

 

「っ!信冬は?」

 

あいつはどうなった?

 

「武田信春と行った。あいつの足でな」

 

その言葉に怒りと悲しみを感じる

ちくしょうやっぱりかよ

 

「行く気か?」

 

無理矢理立ち上がろうとしたがその声に体が止まる。

 

「行けば死ぬぞ」

 

分かってるさ・・・力任せに突っ込んでも信冬は救えない・・・

それは犬死だ。

敵は武田家そのもの・・・

武田信春にたどり着くことすら危うい

だが・・・

 

「土方さん・・・信冬はこの後の人生は幸せだと思いますか?」

 

「・・・」

 

土方さんは何も言わない。

 

「信冬はこの後歩む人生は不幸です。それは断言来ます。だから・・・」

 

「だから、行って死ぬのか?信冬は何一つ救われねえな。それどころか責めるだろうな。自分のせいでお前が死んだとそれこそ、死ぬまで」

 

それは・・・結局何もできないのか・・・

突っ込んでもそれは信冬が苦しむだけ・・・

俺一人じゃ無理だ・・・

それができるのは・・・

 

「土方さん。お願いします力を貸して下さい」

 

頭を下げて心の底からお願いする。

公安0に力を借りれないことは100も承知だ。

だが、土方さんには独自の人脈もある。

決して無力ではないはずだ。

力を貸してくれれば・・・

 

「信冬は雪羽の妹、つまり俺にとっても妹、家族だ。可能なら俺も助けてやりてえとは思ってる」

 

「じゃあ」

 

「優希。お前に力を貸すことはできねえ。この問題は鈴雪土月花と過去の信春との約束から来るものだ」

 

「約束?」

 

「俺達は昔、武田信春と雪羽の自由をかけて戦った。その後、互いに戦わないことを約束してる。その約束を破るという事は戦争を仕掛けるも同義だ」

 

そんな約束が・・・

土方さん達は動けない。

手づまりなのか・・・何もかも終わりだって言うのかよ・・・

いや・・・

 

「俺は行きます」

 

「同じ話をさせるつもりか?

 

俺を見る土方さんの目は冷徹だ。

普通の人なら泣きだしてしまうほどの・・・

だが、俺はこの人の目を真っすぐに見て言う

 

「俺は死にません。生きてあいつの信冬を救う!それが・・・」

 

土方さんの後ろにある掛け軸のその言葉

 

「俺の誠の意思だから」

 

「・・・」

 

力づくで止めると言うなら俺は振りはらってでも行く!

敵がどんなに強大でも絶対に諦めねえ!

その意思を押し通す

 

「ふっ」

 

土方さんが静かに笑う

 

「誠の意思か?それを言われちゃ阻めねえな」

 

「じゃ、じゃあ」

 

「負けですよ歳さん」

 

スっとふすまが開き雪羽さんが入ってくる。

その姿は防弾スーツネロの黒い装束だ。

 

「そう、歳も昔、同じことを言っていた」

 

鈴さんが雪羽さんに続いて入ってくる。

 

「ああ、言ってたなぁ確かに」

 

そして・・・来てくれたのか・・・

 

「姉さん」

 

「よ!」

 

軽く手を上げて姉さんは笑う。

絶望の中の光明

 

「うるせえぞ希。今はそんな昔話はいいんだよ」

 

「ハハハ!照れるな照れるな」

 

バンバンと土方さんの背中を叩く姉さん

 

「力を貸してくれるんですか?」

 

鈴土雪羽花の全員が力を貸してくれる・・・だがそれは

 

「俺達が力を貸すのは内部突入までだ。武田信春やその近辺はお前らがどうにかしろ」

 

「つまり、信春と直接、戦わなければ約束には抵触しない」

 

鈴さんの言う事は分かるけど・・・

 

「お前ら?」

 

他に力を貸してくれる人が?

土方さんが薄く笑ってふすまを更に横に押す

そこにいたのは・・・

 

「アリア・・・お前ら」

 

「随分待たせてくれたわね。優あんた後で風穴よ!」

 

ようと困ったような顔のキンジに無言のレキ

そして、軽くウインクしている理子

体のあちこちに包帯を巻いているが秋葉が立っていた。

 

「話は聞かせてもらったわ!優!あの子を助けに行くわよ!」

 

「いや、いいのか?武田と暁に逆らうってリスクちゃんと考えてきたのかお前ら?」

 

「知らないわよそんなこと!武田信春は未成年略取。れっきとした犯罪者よ!」

 

だからって逮捕できる相手じゃ・・・

 

「いざとなったらみんなで国外脱出ってのもいいよね!」

 

いや、そんなに可愛く言っても理子

 

「帰っていいか?」

 

「駄目に決まってるじゃないキンジ!あんたも来るのよ!」

 

なんかすまんキンジ・・・巻き込まれたなお前

 

「私も行きます」

 

レキが短く言うがお前らしい。来るなと言ってもついてくるなこれは

だが・・・

 

「秋葉、お前は月詠から武田と戦うなと言われてるだろ?」

 

「私は優君の近衛です。行くなと言われてもついていきます」

 

ここにも頑固者がいたか・・・

しかし、お前ら・・・本当に

 

「ありがとう」

 

心のそこから頭を下げる。

どうにかなるかもしれない。

そんな気がしてならない。

 

 

「さて、お前ら座れ」

 

土方さんの言葉に全員が座り俺を囲むような感じになる。

 

「知っての通り信冬の結婚式は明日の14時に行われる。場所は暁本邸。外は数百の警備の連中に中には武田の風林火山の連中やお前らで言うSランク級が数人いると思われる」

 

明日!?俺はそんなに長く寝ていたのか?

 

「暁本邸は一言で言うと城もみたいな構造になってる。突入できるのは陸からだと4つの門からだけ」

 

「警備の連中をどうやって突破するかよね。空から強襲が一番楽そうだけど」

 

「まともには無理だ神埼。暁邸宅には対空ミサイルが配備されてる」

 

「た、対空ミサイル!?」

 

キンジが驚いたようにいうが俺も驚いたよ。

ミサイルなんて自衛隊しか持てないはずだろ

 

「驚くのは分かるが暁だ。それぐらいできる。無論世間一般には認知されてない話だがな」

 

「でもそうなると陸の警備の人達をどうにかしないと・・・」

 

理子から見ても難しい話らしい。

そうだなぁ・・・地下からとかないのかな?

 

「正面突破だ」

 

「え?」

 

土方さんが紙を出して簡単に略図を描いて正面突破と書きこんで

 

「一番警備が厚そうな南門でこいつが暴れる」

 

「殴り込みだな!任せておけ」

 

ああ・・・そうでした。警備の皆さまちょっと、かわいそう・・・

南門からは姉さん

 

「少し時間をずらして東門から俺達が警備の連中に襲撃をかけて暴れる。おそらく、これでいくらかの警備が南と東に集まるだろう。その隙にお前らはヘリで暁本邸に突入しろ」

 

「ヘリは使えないのではないのですか?」

 

「問題ない。希と私がいる」

 

レキの問いに鈴さんが答えた。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

互いにこくりと頷く鈴さんとレキ。

何か通じあったらしいぞ

 

「問題は突入後だ。ヘリで可能な限り信春の場所まで接近する予定だがどうなるか正直わからねえ。直接信春の場所に突入できなければSランク級の連中との戦闘も覚悟しておけ」

 

Sランク級か・・・

暁や武田で知ってるのは2人だがあいつらとの戦闘も想定するべきか・・・

 

「で?優希?お前信春と次はどう戦う予定だ?」

 

「そうよ。優、聞いた話だとあんた手も足も出なかったらしいじゃない」

 

「そもそも、俺達が束になって勝てる相手なのか?」

 

アリアキンジの問いはもっともだ・・・

俺の最大の攻撃も信春には通じなかった。

 

「それは・・・」

 

「まあ、そこは新必殺技だ弟」

 

そういいがら姉さんが自分の腰から震電を抜くと鞘をこちらに差し出してくる。

ん?

 

「お前の紫電の鞘を渡せ」

 

「あ、うん」

 

言われるままに鞘を渡し震電の鞘を受け取る。

 

「紫電をその鞘に納めてみろ」

 

「?」

 

言われるがままに収めてみるが特に変化はない。

一応抜いてみるが特に変化は・・・

 

「何か意味あるの?」

 

鞘を交換してなんか意味あるのか?

まあ、この鞘自体特殊なものであるのはそうだけど俺や姉さん以外に抜けないって事以外の意味はないはずなんだが・・・

 

「内緒だ」

 

にっと姉さんは笑う。

何か意味はあるのだろうが・・・

 

「信春に接触したら勝負を申し込め。信冬の自由をかけてな。性格上正面から言えばあいつは絶対に乗ってくる」

 

確かにそんな感じの性格っぽかったもんな・・・

 

「考えたくないが負けたら?」

 

おいおい!そんな弱気じゃ困るぞキンジ!

 

「信冬のことは諦めるんだな。空に信号弾を撃ちあげろ。希がお前らを救出に行く」

 

「一時撤退ってことですか?」

 

「いや、チャンスは今回限りだ。2度目は絶対にない。それと今回お前らに言っておく。武田信春を倒せ」

 

「倒すって戦闘不能に追い込めってことですよね」

 

「ああ、信冬だけを救出して出ても武田信春が無傷なら今回と同じように連れ戻されてしまうだけだ。そのためには武田信春に勝って認めさせる必要がある」

 

「雪羽と時と同じ」

 

鈴さんが付け足してくれるがなるほど・・・今回みたいなことが昔にあったんだな・・・

道理で確信めいて話すわけだよ

 

「あの時は花音がいたから勝てましたが今回は優希君が鍵になるわ」

 

「緋刀ですね?」

 

俺が切り札ってことはそれしかないだろ

 

「希が渡したその鞘は紫電の元の鞘だ。鞘に納めて力を増幅させることができる」

 

緋光剣を出した状態で増幅させて撃ちだすってわけか。

姉さんが新必殺技って言ってたのもそれか・・・

力を増幅できるなら新必殺技のオンパレードになりそうだが・・・

明日決戦と考えると試し撃ちの時間はなさそうだな・・・

増幅して風林火山大砲を打ち破る・・・

 

「つまり俺達は優を武田信春の所まで送り届け可能なら援護しろってことですね?」

 

「そうだ遠山。できるだけ温存させて無傷で対峙させるのが望ましい。ヘリで突入出来たら全員で信春と戦え」

 

「分かりました」

 

簡単に言うがキンジよ・・・これは相当ハードな作戦だぞ・・・

姉さん達は敷地内には突入しないようだし当然屋敷内に突入となれば警備の連中と戦闘になる。極東戦役と関係ないうえに問答無用で殺しにかかってくるだろうから信春の元にたどり着くのも一苦労だ。

中に突入したら6人だけで戦わないといけないんだ

 

 

「・・・」

 

「やめるか優希?」

 

土方さんが俺を見ている。

俺は・・・

 

「行きます。みんな力を貸してくれ」

 

当然というようにそれぞれ返答してくれるみんなを見て俺は決意を固めた。

絶対に信冬を救うと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              †

サイド??

 

暗い・・・闇の中にいた。

信春に連れて来られこの部屋に閉じ込められて数日が経つ。

座敷牢と言われるだけあり畳がありその上で私は目を閉じてひたすら時を待った。

私に自由はない。

今日の午後、私は暁竜馬と婚姻を上げ暁のものとなる。

後悔はない。

信春は約束通り優希を見逃したし私を救おうとしてくれたものの罪を許してくれた。

ジャンも命に別条はないらしい。

雪村も東京で入院し生きてはいるとのことだ。

そして・・・優希も無事にあの人に・・・土方歳三の鈴雪土雪羽に保護された。

大丈夫だもう・・・憂う事など何もない・・・

これからの自分の人生は暗いものだろう。

人としての幸せは望めない地獄のような時間・・・

幸せは望めない・・・

幸せ・・・

その言葉を思えば彼のことを思い出してしまう。

 

「優希・・・」

 

座敷牢の空間に響く大切な言葉

彼に会う事はもう、生涯敵わないだろう。

もし、会えても話すことは許されないはずだ。

 

「っ・・・」

 

それだけが・・・ひどく悲しい・・・

ズキッと胸が締め付けられるように痛い・・・

こんなに・・・あの雪が振る日にあった少年の存在は大きくなっていたと思い知る。

そうだ・・・私は彼に恋をしていたんだ・・・婚約者なんて関係ない生涯を歩みたい本当の恋を・・・

だが、それを伝えることは2度とできないのだ。

 

「今さら・・・ですね」

 

2度と会えなくなって自覚するなんて・・・

好意に近いものは持っていた。

でもそれを素直に表現できずに今に至る・・・

彼は助けに来てくれるだろうか?

いや、それはない。

あの日、雪羽姉様に私は頼んだのだ。

優希が無茶をしようとしたら止めてほしいと。

雪羽姉様は拒まなかった。

鈴雪土月羽と信春の間にある約束がある限り姉様が助けてくれることもない。

水月希がお婆様と戦う事態にならない限り救いなどこない。

優希だけでは死んでしまう・・・

それは嫌だった。

2度と会えなくても生きていてほしい・・・生きてたまにでいいから思い出してほしい・・・

私を・・・武田信冬がいたという事を・・・

 

「・・・」

 

静かに顔を上げる。

座敷牢の鍵が開きににやけた男が手を差し出してきた。

 

「さあ、行こうか僕のお嫁さん」

 

「は・・・い」

 

暁竜馬の手をとろうとした瞬間突然飛んできた足に飛ばされ座敷に倒れる。

 

「う・・・」

 

「なんだその嫌そうな顔は?お前はもう、僕のものなんだ。つまり、奴隷みたいなもんだ。ご主人様が迎えに来てやったんだから笑顔で尻尾をふれよ!」

 

「・・・」

 

この男の妻になる・・・

 

「申し訳ありません」

 

「ふん、式が終わったらさっそく使わせてもらうからな。今は武田の名がついてるから手が出せないが暁に姓が変わったらいやってほど可愛がってやる」

 

「ありがとうございます」

 

嫌だ・・・こんな男のものになりたくない。

ズキズキと心が痛む。

だが、逆らってどうなる?

暁竜馬の後ろを歩きながら思うのだ。

不幸な姫を助けに来る英雄などいない。

自分が死ぬと分かってくるものなどいないのだ。

 

だが、それでも思うだけなら自由だ・・・

優希が助けに来てくれる。

そんな奇跡のような未来があるならどれだけ幸せか・・・

私は奇跡なんて信じない。

でも、奇跡は起こって欲しい。

それが暁竜馬と式を上げる前に許された自分の最後の…誠の願いなのだから・・・

 

 




というわけでぼこられた優希と攫われた信冬のお話でした!
もちろん主人公優希は諦めません。
一人でも特攻するつもりがアリア達や限定的に鈴雪土月花と奪還作戦することに!
しかし、あくまで敷地外限定の助け。
内部に突入すれば絶望的な状況に変わりはないんですけどね、

外ではかつてソ連軍を壊滅させた連中と対峙する警備部隊。
無双をご期待下さい。
代わりに中は大変だと思いますが…

そういえば原作も最新刊でましたね。
以下ネタバレ







伊藤マキリなかなかやっかいそうなのが出てきましたね!
キンジはキンジで厄介な状況になりそう…

そして、次回はレキとセーラがメインに入りそうですね!
個人的にはセーラをちょっと掘り下げて欲しかったから期待大です!

それではまた次回!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第251弾 強襲!

もう誰も見てないかも・・・


サイド??

 

その日、暁本邸の南門警備小隊B班の末端、山田は緊張した顔で門に立っていた。

自衛隊の駐屯地の門のような状況で来る車をチェックして通す。

テレビでしか見た事ない政治家や財政界の大物たち。

その面子からこれから屋敷で執り行われる内々の結婚式がいかに重要なものかを物語っている。

暁家の次男暁竜馬様とどこかの名家の令嬢。

まるで、物語のような話だがこれは現実だ。

 

「よし、これで出席する方々は全部だな」

 

予定通りというようにAB班を束ねている室町が言った。

50になろうと言う初老に近い歳だが歴戦の戦いをくぐり抜けた男だと聞いている。

 

「どうした山田?緊張しているのか?」

 

「は、はい。ここに就職して戦闘訓練受けて初めての仕事なんです。それに、テレビでしか見た事ないすごい人達ばかりで・・・」

 

「ハハハ、今後も暁家で働くなら嫌ってほど見るぞ?何せこの家の方々は日本の表に出ている名家の中でもトップクラスの家なんだからな」

 

「嫌ってほど思い知りました」

 

「そうかそうか。そんなに緊張するな。ここの門は守りが一番厚い。何せ200人近い人員が詰め所に詰めてるしSランク級も140人集められている。テロリストが攻撃をかけてきても返り討ちに合うさ」

 

「攻めてくるってこの結婚に不満がある勢力があるってことですか?」

 

「ああ、なんでも学生が1人が侵入を試みてくるかもしれないとのことだ」

 

「が、学生?なんで学生が?」

 

「そこまでは教えてもらってない。ただ、その学生は武偵とのことだ。ランクはS」

 

「・・・」

 

無謀すぎると山田は思った。

同じSランクが大量にいるこの南門に現れればその学生は生きては帰れまい

現れるとしたら別の門だろう

 

「目的はその名家の令嬢とかでしょうか?」

 

「そこまでは分からんよ。ただ、噂ではその学生は令嬢の恋人なんだそうだ」

 

「恋人を助けに乗り込んでくる。どこかの3流小説みたいですね」

 

「そうだな。まあ、この南門から正面から1人で突入してくるような学生は俺は1人しか知らん」

 

「い、いるんですかそんな自殺志願者が?」

 

「というより、俺達が壊滅するだろうなぁ・・・」

 

思い出すようにいう室町に山田は首を傾げながら

 

「壊滅?これだけの警備がですか?」

 

「水月希を知ってるか?」

 

「?」

 

山田には聞いたことがない名前だ

 

「そうか、若いお前は知らんか。もう、15年以上前になるか・・・俺が傭兵をやっていた頃その名は世界に轟いていた。小国に攻め込んだソ連軍を壊滅させその後、ソ連を崩壊さたりとかな」

 

「へっ?」

 

「有名な話だがRランク級7人と1対7で勝利したとか世界滅亡の危機を救った。後は理由は覚えとらんがアメリカの1旅団を壊滅。テロの温床だった武装組織のリーダーを捕まえてテロ組織を撲滅・・・後は・・・」

 

「す、すみません。それどこのラノベですか?」

 

「ラノベ?事実だぞこれは学生時代から10年以上前の話になるがな」

 

「そ、そんなチートすぎる人がいるんですか?」

 

「と言っても最近は噂も聞かないし死んだと言われているな。まあ、いずれにせよここを突破できるものなんてそいつぐらいなものだ。心配しなくても現れんだろハハハ」

 

「そ、そうですよね。アハハハ」

 

そんな冗談のような存在がまして、自分の前に現れるわけがない。

そう山田が思った時だった。

 

「ん?」

 

山田の視線の先には人影があった。

ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 

「室町さん」

 

「ん?各班警戒しろ。1人南門に接近中だ。山田行け!確認して来い。一般人なら追い返してこい」

 

「り、了解!」

 

スーツの中の銃を確認してから人影に接近する。

女性だ・・・10代後半くらいの容姿・・・

武器のようなもの・・・日本刀!?

最大限の警戒をしつつ銃を抜いて女に向ける。

 

「止まれ!これ以上の接近は許可しない!こちらには射殺の許可が与えられている!」

 

暁家の関連施設は場所にもよるが治外法権。

ここもその類だ。

 

「武器を置いて頭に手をつけてうつ伏せになれ!変な真似したら容赦なく撃つからな!」

 

「嫌だ」

 

「はっ?」

 

銃を向けられているのに女は怯んだ様子もなく豪快に腕を組んでにやりと笑っている。

 

「嫌だと言ったんだ。撃てるものなら撃ってみろ雑魚」

 

雑魚・・・血が頭に上るのを感じながらも女の上を狙い発砲する。

乾いた音が響き薬莢が地面に落ちる。

 

「次は体を狙う」

 

「撃てるのか?雑魚」

 

再び雑魚宣言に当ててやる!どうせ罪にはならない!女の腹を狙う。

当てるなら面積が広い体を狙えと戦闘訓練で学んだ。

再び引き金を引く。

鉛の弾はまっすぐ女の体に・・・入らなかった。

 

「ふむ」

 

ありえないと山田は思った。

女が鉛の弾を指二本で止めている。

真剣白羽取りのように・・・

 

「銃弾掴みも知らないのか雑魚・・・って挑発って難しいな。雑魚しか思い浮かばん」

 

女が考え込むようにしたので山田はチャンスとばかりにフルオートに切り替えて撃とうとした瞬間、山田は空を見ていた。

「え?」

 

地面に叩きつけられ女が門に向かい走る。

 

「さあて、派手に行くかぁ!」

 

山田が倒されたのを見て室町は迷わなかった。

駆け付けつつあった警備隊に発砲を命じる。

 

「撃て!」

 

数十の弾丸が走ってくる女に向かい飛ぶ

女はにっと笑いながら右指をくいっと上に曲げると銃弾が全て空に向かって飛んで行った。

 

「ステルス!?」

 

歴戦の室町は瞬時に理解不能の力をステルスと認識し指示を出す

 

「敵はステルスだ!銀装備を出せ!発砲は緩めるず撃ち続けろ!ステルス班C小隊は前に出ろ!発砲は味方に当てるなよ!」

 

矢継ぎ早に指示を出しステルスの能力を持った1人が発砲の合間を縫って飛び出した。

 

「死ねぇ!」

 

そのステルスは弾丸制御。

撃ちだす武器であれば軌道を隙に変えられるというステルス使いが出したのは84mm無反動砲だ。

人に使う武器ではないがこのステルス使いは好んでこれを使う。

引き金が引かれ砲弾が飛びだす。

砲弾は接近する女に向かうが女はにやりと笑い

横に大きく飛んだ

 

「逃がさんぞ!」

 

ステルス使いが砲弾の軌道を右に変えた。

本来ならあり得ない軌道である。

 

「弾丸制御か」

 

そういうと女は腕を組んでその場にとどまった。

 

「!?」

 

だが、砲弾はそのまま女に直撃し爆発を起こした。

黒煙が女がいた辺りを覆っているが・・・

 

「な、なんだったんだ?」

 

警備の1人がいい室町が確認のための指示を出そうとした瞬間煙の中から女が飛び出してきた。

 

「なぁ!?」

 

弾丸制御のステルス使いが仰天した声を上げる。

む、無傷!?

無傷で女は飛び出してきた。

疾風のように接近してきた女は弾丸制御のステルス使いを蹴り飛ばした。

 

「ぶげ!」

 

悲鳴をあげて叩きつけられる弾丸制御のステルス使い。

 

「し、死ねぇ!」

 

日本刀で切りかかる警備の1人。

その刀は炎に纏われている。

 

「ハハハ!遅い遅い!」

 

日本刀を炎ごと蹴り刀が吹き飛ぶと同時に右手を振りかぶると猛烈な竜巻が発生し警備員をなぎ倒す。

 

「必殺!非殺傷竜巻だ!」

 

地面に叩きつけられておる警備員は痙攣しているが生きているようだ・・・

だが・・・

 

「風使いか!」

 

「不正解だ!」

 

指を1本立ててにっと女は笑い警備員が発砲した数十の銃弾の空中で静止させた。

 

「だ、弾丸制御!?」

 

「んー、正確には違うな」

 

くいっと女が指うを上に向けると弾丸が空に消えていく。

 

「そーれ!」

 

振りかぶった拳を撃ちおろすと地面が割れ衝撃波で週十人の警備員が一度に吹き飛ばされた。

 

「つ、強い!強すぎる!」

 

僅かな時間で50人以上倒された光景に警備の1人が悲鳴を上げた。

だが、その光景に室町は思いあたる節が合った。

黒髪に日本刀に圧倒的な化け物。

このでたらめな力!

ここは日本なわけで黒髪の日本刀の女などいくらでもいる!

そして・・・思い出した。

思い出してしまった。

 

「ま、まさかお前水月希か!?」

 

「正解!」

 

びっと親指を立てた彼女に数人の警備員がへたり込んだ。

立っているのは彼女を知らない人間だけ・・・

 

「もうだめだおしまいだ」

 

「勝てっこない」

 

「逃げるんだぁ!」

 

次々にとある王子並みにへたれていく警備達だが、それでも室町は逃げることは許されない。

 

「援軍を呼んで来い!ありったけだ!」

 

「り、了解!」

 

門の中に駆け込む部下を横目に無駄と室町は思った。

傭兵時代に聞いたことがある。

彼女を倒す気なら一切私利私欲がない最新装備の全世界の軍隊とRランク千人が同時にかからなければならないと・・・

そして、そんな数のRランクは存在しない。

つまり・・・

 

「ひいい!」

 

「助けてくれぇ!」

 

悲鳴を上げていく仲間を見ながら室町は半泣きで思うのだ。

前にオタクな仲間が言っていたセリフが当てはまる

これ何の無理ゲー?

 

「ほい!」

 

いきなり目の前に距離を詰めた水月希の指が室町の額に当たるとそのままブッ飛ばされる。

飛んで気絶するまで自分がデコピンでブッ飛ばされたと知ることはなかった。

 

「えええ!デコピン!?」

 

それを見ていた警備の驚愕した声に彼女は笑いながら

 

「ハハハ、これぐらいなら誰にだってできるさ」

 

いやいやいや!無理ですから!とその場全員が首を横に振った。

 

「さーて」

 

水月希が自分たちを見ずに遠くを見るような仕草をした瞬間爆発音が遠くから響いてきた。

 

 

 

 

                †

サイド??

 

南門で希が暴れていた頃、時少し遅くして暁本邸東門前は戦場になっていた。

 

「う、撃て!相手はたった2人だぞ!」

 

隊長の怒号に機関銃を始めとする銃が一斉に火を噴き襲撃者に殺到する。

人などまともに食らえば生きてはいられないその数の銃弾

 

「無駄って言ってんだよ」

 

黒い防弾ロングコートに仮面をつけた男は手に持っていた剣を一振りすると銃弾が全て目の前で消滅した。

幾度か目撃した光景だが暁の警備員達はその光景に絶句する。

相手がステルスだという事に疑いはない。

だが、そのステルスの能力に検討がつかない。

消滅のステルス

そう考えれば説明の一端はつくが問題はもう一つ

男がもう一つ持つ一振りの日本刀が振るわれると警備員が1人吹き飛ぶ。

衝撃波を生み出しているようだがあれもステルスだとすれば2つのステルスを持つことになる。

同時に2つのステルスを使えるという人間の存在は知っているがそう多い存在ではない。

だが、今はその謎をじっくり検証している暇はない。

男は剣の他にも炸裂弾を始めとする攻撃を繰り返してきている。

だが、接近戦を仕掛けようにも連れ添うように男と戦っている女の存在がそれを阻んでいた。

日本刀1本で銃弾を弾き切り幾多の警備員を地面に沈めている。

幸いなことに相手の進撃はゆっくりで増員は次々と来てはいたが倒せる気は全くというほどなかった。

 

「ま、魔剣の土方と閃光の雪羽・・・」

 

「知っているのですかあいつらの正体を?」

 

つぶやくように言った上司に警備の一人が効くと40代くらいの上司の男は頷き

 

「あんな能力の化け物は俺は2人しか知らん!土方歳三のステルスは魔剣生成。日本刀に特定のステルスを付属させて能力を振るう能力だ。だとすれば今の状態で勝ち目はない。おい!花蓮様に指示をもらってこい!」

 

「り、了解!」

 

「まともに戦うな!距離を取って戦え!」

 

幸いなことに2人は攻め込んでくる様子はない。

いや・・・

 

「それが目的か?」

 

音が近づいてくる。

見ると違う門の上空に1機のヘリが接近してきている。

だが、現状そちらに対処する余裕はない。

航空機が相手であれば屋敷内のあれが火を吹くだろう。

そう思った時屋敷の中から音と轟音が轟いてきた。

ミサイルが発射された音だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミサイルが来る!」

 

悲鳴のように怒鳴ったのは屋敷まで後少しという場所だ。

信じられないような低空飛行で街中を突っ切り急上昇した所をミサイルにロックオンされた。

周辺に飛行禁止命令が出ているわけだから問答無用で撃ち落としにかかってくる。

日本国内とは思えない信じられない暴挙だ。

街中に落ちれば確実に一般人に被害が出るのにもみ消す自信があるということなのだろう。

 

「・・・」

 

鈴さんがヘリの右側のドアが開きマントの中からレミントンM700を取り出してミサイルの方に向ける。

鈴さんの腕は知ってるが狙撃銃でミサイルを撃ち落とせるのか?

 

「大丈夫です」

 

俺の横でレキが言う。

ヘリの大きさの関係から今回の狙撃は鈴さんだけで行う。

おそらくミサイルを破壊するには空間跳躍射撃でなければ難しいのだろう。

 

「・・・」

 

一瞬の間の後に引き金が引かれ発砲音がしたと同時にミサイルに異変が起こった。

俺達の場所に到達する前に屋敷上空を出ることなく爆発したのだ。

 

「今」

 

無表情に鈴さんが言うとどこから調達したのか知らんがUH60Jが暁家上空に入る。

北西方面の守りは空から見ると確かに薄い。

土方さんと姉さん達が暴れている証拠だろう。

遥か先に暁家の本邸らしき建物が見えるが屋敷内だけで何キロあるのやら・・・

 

「ミサイルは!」

 

見える範囲には発射車両らしきものは存在していない。

1発限りのものだったのだとすればありがたいのだが・・・

 

「じゃぁ後は頑張る」

 

暁家の上空に入る直前鈴さんがとんと落下するようにヘリから飛び降りる。

敷地内に入るとまずいという配慮だ。

鈴さんは陽動班に回ってくれる。

 

「生身で飛びおりるとかステルスは便利だな」

 

「確かにな」

 

キンジの言う通りだと同意した瞬間

 

「優!あそこ携行ミサイル!」

 

アリアが悲鳴のように声を上げた。

見ると携行型のミサイルがまさに発射される瞬間だった。

り、鈴さんはもういないし仕方ねえ!

 

「みんな!手はず通りだ!後で会おう!」

 

ガバメントを取り出し全員の中央に銃口を向ける。

銃弾は魔封弾、空間制御の鈴さんのステルスだ。

一定範囲の人間を空間ごと転移させるといういわゆるテレポーテーションなのだが鈴さんがそれを使わないのは恐ろしく使い勝手は悪い。

ようは、転移先を一切指定できないのだ。

だが、ミサイルから逃れるにはこれしかない。

引き金を引いて光が当たりを包み外に投げ出されるような感覚。

一瞬だがいきなり白い空間から緑の芝生が見え着地すると同時に遠くから爆発音が聞こえてきた。

ヘリが撃墜された音だろう。

パイロットは無人だから問題ないがあれ自衛隊の新型の無人ヘリだよなぁ・・・

しかも、一般国民には知らされていない秘匿兵器・・・

さて、周りにはみんなはいないから問題はどこに飛ばされたかだ。

事前の打ち合わせではバラバラになった場合は全員が武田信春の目指す手はずになっている。

すなわち屋敷を目指せば合流できるってことだ。

さて、周りに敵がいないってことはラッキーだが今の位置は・・・

 

「あなたですか椎名優希」

 

げっ!?

 

振り返るとそこにいた奴は最悪だ・・・

空き地島で戦った・・・

 

「高木文香か・・・」

 

風林火山の山・・・いきなり幹部クラスかよ・・・

 

「覚えていてもらい光栄です」

 

「高木様」

 

周りにいた警備兵が一斉に武器を構えようとしたがそれを高木が手で制す。

 

「あなた達は南門へ行きなさい。あなた達が敵う相手ではありません」

 

「了解!」

 

高木を残して警備兵が走り去るが状況は全然よくない。

最悪な相手が残った。

 

「さて、今さら言うまでもありませんね。私は南門の援軍に向かう途中でしたが侵入者は排除。信春様から生死は問わないと命令を頂いています」

 

どうする?考えろ・・・まともにぶつかって勝てるにせよ消耗は避けられない。

そんな状態で信春と対峙すれば・・・

周りを確認する位置は南門の近くか・・・戦闘音は遠くない・・・

 

「さて、椎名優希。選びなさい。死にますか?降伏しますか?」

 

カチャリと眼鏡を高木が外す。

その眼光は明らかな殺意を感じさせる。

強い。

空き地島で戦った時は本気じゃなかった。

だが、運は俺に味方してるな

 

「はっ!死ぬ?降伏?馬鹿言うんじゃねえよ。おまえは既に負けてるんだ」

 

「フフ、面白いことを言いますねあなた。先手は譲ってあげます。さあ、どうぞ」

 

「後悔するなよ?」

 

そう言った瞬間、俺は全速力で後ろに向かって地を蹴った。

 

「なっ!?」

 

まさかいきなり逃げるとか考えていなかったのだろう。

反応が一瞬遅れた。

 

「このひきょう者!それでも武家の人間ですか!」

 

背後からステルスを使用する気配を感じるがここまでくれば問題ない。

戦闘中の中に飛び込み混乱の隙をついて門の外に飛び出す。

当然、高木も追ってくる。

ド派手な音がする方へ走り目的の人を発見する。

 

「姉さーん!」

 

「ん?おお!優希か?」

 

「俺を屋敷まで投げ飛ばしてくれぇ!」

 

「よし来た!」

 

ひょいっとすれ違いざまに姉さんが俺を担ぎあげる

 

「ついでに山の相手もよろしく」

 

「ふむ、姉使いの荒い奴だ。だが、門の外だしいいぞ別に。お嫁さんを助けてこい!」

 

ごおおと風を切る音と共に俺の体が空に投げ飛ばされる。

下から高木のぎょっととた顔が見えだんと空中に飛ぶのが見えた。

 

「おおっと!門の外に出たなら行かせんぞ!」

 

「み、水月希!」

 

高木の前に立ちふさがり足を振りかぶる姉さん

 

「そーれ!」

 

「くっ!」

 

高木はサイコキネシスでバリアを張ったようだがそんなもの関係なく姉さんにブッ飛ばされる。

飛ばされながら高木が俺に向けた目はこう言っていた。

この卑怯者ぉ!

弟特権って奴だ。

 

空を飛びながら俺は思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

サイド高木

 

失敗した失敗した。

激突したがれきの中から立ち上がると屋敷の方へ消えていく椎名優希を見て怒りを感じる。

まさか、あんな恥知らずなことをするとは・・・

日本武家の仮にも後継者の候補だった人間が敵に背を向けるだけに飽き足らず戦闘をなすりつけていくだなんて・・・

状況を知らない人から見たら最悪の鬼畜野郎だ。

 

「大人しく寝ていれば攻撃はしないぞ。全て終わるまで気絶していたらどうだ?」

 

「余計なお世話です。あなたこそそろそろ帰ったらいかがですか?」

 

「ハハハ、そういうな。今日は弟が帰ってくるまでここにいるつもりなんだ。まだまだ、暴れたりんしな。相手になってくれないか?」

 

「いいでしょう。殺してあげます」

 

こいつは殺す!世界最強だとふざけた評価を受けるこの女を倒せば武田家での地位は安泰だろう。

対峙した時、銃声が止んだ。

全員が2人の高ランク同士の戦いに介入はできないと判断したためだ。

 

「くっ!?」

 

相手は腕を組んで不敵に笑っているけだ。

だというのに隙がまるでない。

中途半端な攻撃をすれば粉砕されてカウンターで終わる。

だとすれば・・・

最大最強の攻撃で粉砕するのみ

右手を空に手を上げありたっけの力を放出する。

左手を敵に向けると紫の光が彼女を包んだ。

 

「ん?」

 

水月希は動かない。

 

「受ける勇気がありますかあなたに?私の最大の攻撃を」

 

「・・・」

 

うすら笑いを浮かべたままのその顔は撃つならさっさとしろと言っている。

ならば望み通り!

 

「裁きを受けて死になさい!」

 

右手を振り下ろす

 

「覇岩砲!」

 

見るものは見えただろう。

空から巨大な火の固まりが振ってくるのが。

その大きさはゆうに20メートル以上あるだろう。

宇宙空間から真っすぐに一人の人間に向かい隕石が振ってくる。

風林火山『山』の最強の技。

相手を念動力の壁の中に閉じ込め宇宙空間から手繰り寄せた隕石をサイコキネシスの壁で大気圏の壁を突破させてその運動エネルギーを相手に叩きつける。

激突の爆発エネルギーは相手の壁の中ののみに留まるため相手は塵一つ残さずに消滅する。

宇宙空間からの隕石は小型でも地面に激突すれば圧倒的な破壊力でクレーターを作るものだ。

そんなもの人間が当たればひとたまりもない。

幾多の高ランクを葬ってきた高木の最強の技だ。

 

「後悔しなさい水月希。武田に逆らった罰を受けるのです」

 

「なるほど、隕石を直撃させる技か。面白いが使いどころが難しいなぁ・・・」

 

「何を言って・・・」

 

「よし!」

 

ぐっと水月希が構えを取る。

何をする気だと全員が息を飲んで見ている。

もはや、自らを滅する隕石が着弾するまで数秒もない。

右手を隕石に向け親指を曲げ・・・

 

「ま、まさか・・・」

 

「ほい」

 

「「「ちょっ!?」」」

 

全員が同じ言葉を発した。

隕石がUターンし空の彼方に消えていく。

それを成したのは・・・

 

「で、デコピンで隕石を弾き返した・・・」

 

あ、ありえない・・・ありえない・・・なんだこいつは・・・

 

「ホームラ―ンってな」

 

ひゅっと右手を振りかぶると高木の障壁が消滅する。

 

隕石の運動エネルギーすら防ぐ障壁を・・・

噂だけだと思っていた。

そんな人間がいるはずがないと・・・

高木は今、この瞬間確信した。

目の前の女は次元が違うと世界最強が目の前に・・・

 

「ほい!」

 

!?

額に激しい衝撃を感じた瞬間、宙を舞う感覚次の瞬間、高木の意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

            †

 

 

サイド 水月希

 

「ひいいい!高木様が負けた!」

 

「な、なんなんだ!隕石をデコピンとか!ありえねえ!」

 

「逃げるんだぁ!」

 

「ああ、やりすぎたか?」

 

思っていた以上にやりすぎたようだ。

南門の警備部隊は総崩れになり我先にと門の中に逃げていく。

これでは陽動の意味がない。

 

「うーん」

 

「ぎゃああああ!」

 

とりあえず門の外の人間を気絶させてから誰もいなくなった門の前で腕を抱える。

 

「やばい・・・歳に怒られるぞこれ・・・」

 

その気になれば中に突入することもできるがそれをするといろいろと厄介なことが生まれるためできればそれはしたくない・・・

歳には適度に暴れて警備を引きつけろっていわれてたのになぁ・・・

引きつけるどころか壊滅させて逃げられてしまった・・・

 

「どうするかなぁ・・・」

 

「希様」

 

声に振りくと見知った顔が合った。

 

「ん?来たな」

 

「もう終わってるようですけど」

 

「ここはな。後は中だ。優希達が戦っている。中のことは頼む」

 

「了解。世話の焼けること」

 

屍(死んでないが)の山を越えて門に突入していく背中を見ながら遠視のステルスで中の様子を見ながら笑みを浮かべる。

 

「生き残れよ優希。応援してるぞ」

 

戦いは中の若き武偵達に委ねられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド優希

 

俺って運が悪いのか・・・

姉さんの投げ飛ばされて着地したのは屋敷まで数百メートル地点

周りに警備の人間はいない。

陽動が意味をなしているのだろう。

だが・・・

 

「なんのつもりだ?」

 

殺気を猛烈な勢いで放っているのは俺の見知る顔だ。

こいつは信冬のことを大切に思っていると思っていた。

 

「知れたことだ少年。先に進もうとるすならここが墓場となる」

 

「俺は信冬を救いに来た」

 

「違う。少年の行動は信冬様を不幸に落とす」

 

信春に何かを言われたのか・・・雪村の時と同じだな

 

「もう一度言う。俺は信冬を助ける」

 

「では聞こう。少年、信春様との戦いに水月希は参戦するか?」

 

「姉さんは直接は参戦しない」

 

「なら少年。お前に勝ちはない。引くならよし。進むと言うなら」

 

ガシャン

 

何もない場所から巨剣を取り出した吸血鬼のハーフ、ジャンは構えを取る。

雪村も同じようだったな・・・きっとお前も悩みに悩んで信冬のために交換条件を飲んだのだろう。

これは男が守りたい物のために選んだ選択だ。

ならば、それに答えないのは失礼だろう。

 

「ひ・・・」

 

緋刀を呼び起こそうとそのワードを口にする寸前に声が重なる。

 

「ちょっと待った!」

 

「「!?」」

 

ジャンと俺が声をのた方を見ると木の枝に座っている存在に気がついた。

いつの間に!

 

右手には日本刀

左腰にも同じく日本刀だ。

 

闇のせいではっきりとは見えないが髪の長さから女だということがわかる。

 

「優様は先にこいつの相手は私に任せて頂戴」

 

俺を様付で呼ぶということは・・・

近衛の誰かか?

だが、椎名の近衛は・・・

 

「何者か知らんが邪魔をするな。少年と俺は・・・」

 

「ふふん」

 

にっと少女の口元が緩み次の瞬間

 

「飛龍一式風切り」

 

「「なっ!」」

 

俺とジャンが同時に声を上げる。

すれ違いざまに切りつけたの技は椎名の剣術。

 

「ぐっ」

 

ジャンが膝をついた。

速く正確な剣術だ。

 

「お前その技!」

 

「今はその話してる場合じゃないんじゃない?」

 

すっと少女は右手で日本刀を肩に置き左手でかわいらしく指を立ててウインクする

 

「また会うこともあるかもしれないけど今は名乗る気はないわ。武田信春とは消耗なしで戦いたいでしょ?」

 

少女の言うことはもっともだが正体がわからないものの言葉を信じていいのか迷うところだ。

 

「じゃあ、こう付け加えておく。私は今回水月希の依頼で動いているわ」

 

姉さんか!そういうことかよ・・・

 

「すまねえ!任せたぞ!」

 

「任されるわ。また、会いましょ兄さん」

 

背後からなんかすごい言葉が聞こえた気がするが聞かなかったことにしよう

同時に背後から戦闘音が聞こえてくる。

少女とジャンが戦いを始めたのだろう。

 

屋敷が見えてくる。

正面入り口には警備が2人

俺を見るやいきなり、発砲してきたが銃弾切りで裁きすれ違いざまに切りつけ無力化する。

 

ドアを蹴破り巨大な暁の屋敷に突入する。

土方さんに教えてもらった見取り図によれば信冬がいる場所は遠くない。

 

「邪魔だどけぇ!」

 

ワイヤーで2階に跳躍し廊下を警戒していた3人を気絶させて廊下を走る。

待ってろよ信冬!あと少しだ!あと少しで解放してやるからな

 

廊下の先にあるのは巨大な扉だ。

あの扉の向こうでは結婚式が執り行われているはずだ。

廊下を走りながらその声が聞こえてくる。

 

「ではこの結婚に異論のあるものはいませんか?」

 

神父さんらしいその声・・・

なんというタイミング・・・

我ながらものすごいタイミングできたんじゃね?

 

ドアを蹴破り中に転がり込みながら

 

「その結婚異議あり!」

 

力一杯叫ぶ!

教会のようなその場所で参加者たちが俺に視線を向けてくる。

だが・・・いたな

純白のウェディングドレスを着て俺を泣きそうな目で見ているのは紛れもないあいつだ。

だが、もたもたできない理由がある。

ここにいるのは武田信春以外にも強者が多い。

 

「その結婚は認めない!武田信春!もう一度信冬をかけて勝負しろ!」

 

周りが動く気配がする。

こいつらが全員動けば終わりだ

まだか・・・まだなのか

 

「全員動くんじゃないよ」

 

とんと化け物が俺の前に進み出てくる。

かけには勝ったな

 

武田信春は引きずりだした。

ここからだ!ここからが本当の本番だ。

勝って見せる!1人で対峙になっちまったが勝って信冬を救って帰るんだよ!

 

 

 

 

 

 




というわけでお久しぶりな草薙です。
お前誰?というぐらい開けてしまいましたが細々とは書いていました。
実はキーボードがぶっ壊れて書けなくなっていたのですが最近、新しいパソコンに変えたので戻ってきました(^▽^)/

更新速度は相変わらず亀ですが感想ドーピングお待ちしています(笑)

さて、本編ですがついに暁家強襲。
少し駆け足気味ですがオリジナル話もクライマックスが近づいてきました。

果たして、優は信春に勝てるのか!

それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第252弾 武田信春VS武偵達-未来掴む因果

というわけでパソコンが治ったので次話です(⌒∇⌒)


サイド??

 

死地に飛び込んできた彼を見て最初に思ったのはああ、やはりだった・・・

私のよく知る彼は決して諦めない。

武田信春と対峙している椎名優希

 

「優希・・・」

 

「ちっ!あと少しで目障りな奴だな」

 

隣では暁竜馬が舌打ちしている。

状況はあまりよくない。

おばあさまと優希は一度戦い優希は一度完全に敗北している。

あれから数日しかたっていない状況で勝算があるとは思えなかった。

彼は自分の信念を貫くためにここに来たのだ。

このままでは優希が死んでしまう。

 

「なんで来たんですか優希!」

 

少し高い場所からおばあさまと対峙する優希に声をかける。

彼は口元を緩ませて

 

「よう、信冬!今からこのばばあぶっ飛ばしてやるからな。一緒に東京に帰ろうぜ」

 

「フフフ、ばばあかい」

 

おばあさまは怒るわけではなくただ笑っている。

会話の途中で戦闘を仕掛ける気はないように思えた。

 

「私のことは放っておいてください!迷惑です!」

 

お願い・・・帰って優希。あなたが死んでしまう

 

「嫌だね。俺はお前を助けて帰る。拉致してでも連れてくからな」

 

「あなたは!」

 

「黙ってろ!本当に迷惑だっていうやつがそんな泣きそうな顔するわけねえだろ!」

 

「っ!」

 

助けてほしい・・・あなたに・・・

 

「言えよ信冬!お前の願いは俺が叶えてやる」

 

「私は・・・」

 

「おいガキ!さっきから黙って聞いてれば!」

 

暁竜馬が優希を指さして叫ぶ

 

「この女は今日から暁のものだ。道具なんだよ!髪の1つから血の一滴までもな!武田信春!さっさとそのこガキを・・・」

 

「寝ぼけたこと言ってんじゃねえぞ」

 

「ひっ!」

 

優希の殺気に気おされ暁竜馬が気おされる。

 

「信冬は人間だ。物じぇねんだよ。少し黙ってろ屑野郎」

 

「くっくそ!馬鹿にしやがって!おい!さっさと殺せよそいつを!」

 

「・・・」

 

おばあさまはつまらなさそうに暁竜馬と優希を見比べる。

 

「物じゃないか椎名の坊や。だけど建前くらいはほしいだろ?ここまで来たその覚悟気に入ったよ。最後のチャンスを上げようかね。もし、私に負けを認めさせたら信冬を上げよう。解放するも自分の所有物にするも自由さ」

 

ざわと周りが騒がしくなる。

政界や財閥など日本に影響力がある人々だ。

この場でそんなことを言ってのけるおばあさまは相当に度胸がある。

 

「暁家もそれでいいね」

 

「ふざけるな!そんなこと・・・」

 

「ええ、構いませんよ」

 

暁竜馬の言葉を遮るように言ったのは暁花蓮だ。

 

実質この場にいる暁家の中では最上位の存在

 

「もちろん、負けませんよね?おばあ様」

 

にこりと彼女は微笑む。

数日の付き合いだが得体の知れない笑顔。

 

「さあねえ。私も年だしねえ」

 

ふふんとおばあさまは笑い優希と対峙する。

 

「というわけだ椎名の坊や。私に勝てば未来は切り開けるよ」

 

その約束は両家同意のもとになった。

そして、この場にいる人々は日本という国に強い影響力を持つ人々。

当然、約束は確実なものとなるだろう。

 

「もちろん、坊やが負けた時はわかってるだろうね?」

 

生かしては返さない。そう、言っているのだおばあさまは・・・」

 

「ゆ・・・」

 

私が言う前に優希が口を開いた。

 

「その約束忘れるなよ!」

 

再び私を見る優希

ああ、あなたは・・・

 

「俺を信じろ信冬!お前の本音はなんだ!言えよ!」

 

私の本音は・・・

 

「・・・てください」

 

「はっきりと言え!」

 

「助けてください。暁に行くなんて嫌です・・・あなたにもう会えないなんて嫌!」

 

「了解!やっと本音が言えたな信冬」

 

にっと笑い、刀を抜き構えた彼を見て私は悟った。

婚約者ではなく・・・本当に彼という男性が・・・

 

 

サイド優希

 

さーて、言質はとったがここからだ。

天井から降りてきた透明の壁が結婚式に来ていた客の前を覆う。

正面通路は広いが戦場が限定された状態だ。

おそらく防弾仕様でステルスにも耐性がある壁なのだろう。

つまり、この状況は想定されていたってことだ。

だが、この状況は有利だ。

奴は風林火山大砲を使えない。

使えば周りを巻き込むことになるからだ。

行くぜ武田信春!

 

ワイヤーで空へ飛びあがりガバメント2丁を取り出して3点バーストで発砲する。

正面からじゃねえぞ跳弾だ

 

火花を散らしながら目標は肩右肩左足胴体中央

 

「林」

 

信春が短くつぶやくと弾道がそれ地に着弾する。

風林火山林の能力は相手の攻撃を反らす能力だ。

それを破る方法は多くはないが存在する。

 

地に着弾した瞬間暴風が下から巻き起こり信春の体制がわずかに崩れる。

魔封弾の風の弾

「むっ!」

 

体を直接狙うものじゃなければ林の効果は薄れる。

前回の戦いの経験は無駄にしない。

 

そして!

地面に降りるとその反動を利用し回転切り

 

「飛龍1式風巻き!」

 

ステルス無効化の刀紫電が信春に迫るが

 

「少しは勉強してきたみたいだね」

 

金属音と火花が散る

信春が懐から扇子を取り出して紫電の軌道に割り込ませてきたのだ。

だが、接近戦!信春は前回の戦いから接近戦向けじゃないことは把握している。

つまり、この間合いこそ勝利の間合い

 

「飛龍1式五月雨!」

 

刀を引いてからの高速の刺突の連打

空気を切り裂く音を立てながら信春を貫かんと迫るが信春はそれを起用に裁いていく。

 

「接近戦ができないとでも思ったかい?」

 

ふっと笑いながら信春が言うがある程度はできるんだろうよ。

だが!

紫電を鞘に仕舞い抜き放つ

何が起きたか強者以外には分からなかっただろう

次の瞬間俺がいたのは信春の背後

 

「何!」

 

初めて信春の声に焦りが見えた。

 

「飛龍1式疾風!」

 

高速の居合切り

神戸でシンと戦った時に見せた見えない高速の居合術は確実に信春の背中を切り裂いた。

 

「ぐっ!」

 

信春の背後から血が飛び散った。

だが、浅い!追撃!

 

「風」

 

風を切る音がした瞬間、信春の姿が消えた。

どこだ!上か!

風で空に飛びあがった信春はにいいと笑い

 

「火」

 

圧倒的な質量の火球が3つ現れる。

ローズマリーの炎は蒼だが奴は赤

狙いは当然俺だ

 

1つを紫電で切り払い無効化するが残り2つが俺からそれて地面で爆発する。

 

「かっは」

 

瞬時に周りの空気が燃え上がり呼吸が困難になる。

紫電は直接触れない限り無効化はできない。

着弾している状態ではそれができないのだ。

このまま行けば酸欠で死ぬ

 

「どうしたどうした?中々、いい攻撃だったけど終わりかい坊や」

 

信春が再びステルスを繰り出してくる

 

「風」

 

炎がさらに勢いを増す。

これを突破するにはあれしかねえ

 

「緋刀」

 

つぶやくと同時に変っていく感覚とともに緋刀の状態になると同時に紫電に意識を集中する。

 

刀身が緋色の光を放つと同時に

 

「緋龍零式緋緋飛ばし!」

 

緋色の光をかまいたちのように圧縮し飛ばすと着弾と同時に炎が時の彼方に消え去る。

空気が戻ってくるが緋刀状態は切り札の1つだからな。

力の使い方を誤れば・・・あっという間にガス欠だ。

なんとか、接近戦で決めたかったステルス戦は信春が優位だ。

 

緋光剣は悪手だ。

風林火山大砲が使えないようにこちらも、最大の技は容易には使えない。

少なくても今は使えない。

 

上空に滞空する信春に向けてワイヤーで飛び上がり再び3点バーストで発砲する。

だが、林を展開する信春には当たらない。

だが、1発は猛烈な光を放つ武偵弾閃光弾だ。

信春は目を閉じて失明を回避するが俺も閉じたのでバレバレの手

だが、それこそが狙いだ。

発砲音1発と同時に信春の上空を取った。

 

「くっ!」

 

信春が気づいて防御しようとするが遅え!

閃電も抜き放ち

 

「緋龍零式!双雷落とし!」

 

メキという音と共に風林火山の扇子が叩き壊れその小さな体に日本刀が叩きこまれる。

人体を砕く感触を覚えながら一気に叩き落す。

信春はたまらず床に猛スピードで叩きつけられ地面が陥没する。

 

真上!

 

『一切容赦するな』

 

信春と戦う前にみんなに言われたその言葉

 

「上空から閃電を仕舞い紫電を上段に振りかぶる」

 

「緋流零式!」

 

最大の攻撃

 

「神龍!」

 

莫大な質量の緋色の光が紫電から放出され信春を飲み込む。

屋敷全体が轟音を立てて揺れるが周りの人々に被害はない。

信春のいる点のみを狙った上空からの真下への攻撃だ。床に降りて攻撃の後を見ると黒い穴がそこには空いていた。

跡形もなく消し飛んだか?

もしかして、やりすぎたか?

 

周りを見ると参加していた人々がざわめいている。

これで終わってくれればいが・・・

暁花蓮と目が合う。

 

「・・・」

 

少し歯をが見えるくらいの小さな笑みでいるその様子から嫌な予感に駆られる。

だが、いくら何でもダメージぐらいはあるだろう?

 

「今のはよかったよ」

 

「!?」

 

声!どこから!

 

「優希!後ろ!」

 

信冬の声に慌てて振り返ると懐に少女の姿の信春が飛び込んできた。

しまっ!

 

「雷には雷雷返そうかね」

 

瞬間、体に激痛がかけめぐる。

こ、この感覚ヒルダの時の電撃と同じ感覚

 

「がああああああああああ!」

 

信春に密着され電撃が流し込まれているのだ。

紫電は直接は密着されている状態では意味をなさない。

 

「ほめてあげようかね。私に風林火山陰雷を使わせたのは数えるほどしかいない」

 

「くっ!」

 

激痛で意識を失いそうになるが緋刀の効果で無理やりガバメントを取り出すと発砲

信春から少し離れたところに出現し膝をつく

 

「さっきから使っているそれは椎名のRランク月詠の能力だね」

 

「さあな」

 

月詠の空間操作の力がこもった魔封弾。

リンさんにアドバイスをもらっての戦闘だったがこれで決められないとなると・・・

神龍は直撃したはずだ。

だが、奴はまだ、ぴんぴんしている。

おそらくは、信春が言っていた風林火山陰雷の陰の能力と見るべきだろう。

電撃のダメージは緋刀のおかげですぐに回復する。

あと少し

 

「そうかい。なら、これかはどうだい」

 

そういった瞬間、信春の姿が消えた。

瞬間移動!?いや、ごちゃぐちゃ考えてる場合じゃねえ!

魔封弾で再び転移してその場から逃れるが

 

「距離は短いようだ」

 

正面から笑みを浮かべた信春が火球を右手に振りぬいてくる。

その軌道から直撃する位置だ。

転移直後で回避が間に合わねえ

すべてがスローに見え火球が体に吸い込まれる瞬間

信春の横で爆発が起こった。

爆風で俺も吹っ飛ばれるが火球を間一髪のところで紫電を押し当てて無効化する。

 

「ん?」

 

信春が背後に飛んで距離をとって爆発が起こった方角を見ると扉の前に見知った顔があった。

 

「少し遅れたな」

 

「優!大丈夫生きてる?」

 

生きてるよ。というかよく来てくれたよ

タンと地を蹴って後退して2人の横へ

 

「すまん助かった。キンジ、アリア」

 

2人が来てくれた。

 

「他の3人は?」

 

「レキ理子は風と雷と戦っているわ。秋葉は見てない」

 

風林火山・・・陰雷の2翼と交戦中か・・・残りの陰は秋葉とどこかで交戦していて来れないと考えるべきだろう。

つまり、キンジとアリアが実質最後の援軍。

 

「勝てそうなの?」

 

アリアが効いてくるが正直・・・

 

「100回やれば99回負けるな」

 

正直な感想だ。

今の交戦で改めて思うがこのばあさん真正の化け物だ。

未だに底が見えない。

 

「諦めるなんて言わないでしょうね?」

 

「冗談だろ?1回目負てるんだ残り98分の一の勝利をつかんでやるよ」

 

「その意気よ優」

 

「それで、優。具体的にはどうする?」

 

その声・・・ヒステリアモードにはなってるようだなキンジ

 

「3人ならプラン7だ」

 

「分かった」

 

俺を中央にキンジとアリアが左右に展開してガバメントベレッタを構える。

3対1でも信春は構わないようだった。

 

「作戦会議は終わったかい?」

 

「ああ、おかげさまでな」

 

「緋弾のアリアに・・・ん?お前は金叉の息子だったかい?」

 

「父さんを知ってるのか?」

 

「ああ、昔。アズマリアとの決戦で背中を少しだけ預けあった中さ。あの男は本当に強かったよ」

 

アズマリアとの決戦・・・土方さん達が中心になって戦ったその時のことか・・・

 

「キンジ!今は」

 

「分かってる!」

 

「来な!」

 

俺と同時にキンジも走りだす。

突きの最強技滅壊の構えと同時にキンジの桜花が俺の背中のワイヤー装置を殴る

背中に衝撃を受けながら加速し超スピードの加速に振れれば消滅する緋光剣状態の突きを繰り出す

烈風はないからな

 

「桜花砲!」

 

音速の2倍の突きを信春はかわし切れず右腕を抉る。

体制が崩れるが

 

「それが切り札かい?」

 

炎を右手に俺にたたきつけようとするが

 

「私を忘れてるわよ!」

 

「む!?」

 

アリアが俺たちの後ろからガバメントを3点バーストで発砲する。

信春は弾を炎で迎撃しようと放ちガバメントの弾はそれと激突するが

 

「何!」

 

炎が爆発するように消滅し弾が信春に直撃し大爆発を起こした。

うわあ・・・

全ての力を破壊して目標をなぎ倒す

 

「よくわからんが入れておいた」

 

と言っていた水月希の魔封弾だ。

本気で入れたら壊れるので手加減していたといっていたが・・・

 

「「「今!」」」

 

3人同時に予め装填していた姉さんの力が宿る魔封弾を信春に向ける。

 

「全弾持ってけ!」

 

右手にデザートイーグル、左手にガバメント

キンジとアリアもそれぞれ2丁の構えでフルオートに切り替えて発砲する。

着弾と同時に屋敷全体が轟音を立ててびりびりと震え仕切りになっている部分が衝撃波で亀裂が入ったため観戦していた要人たちはSPに連れられて慌ててその場を逃げ出していく。

そして、ついに仕切りが粉々に砕け散った。

ばらばらと破片が降り注ぐがなんというでたらめな破壊の力だよ

これで、手加減してるとか・・・

い、いやだからこそ仕切りが持ったんだろうが・・・

ズウウンとやばい音と立てて十字架が落下してきた。

煙が巻き起こるが信春は?

 

「優希」

 

信冬が煙の中から出てきて俺に声をかけてくる。

 

「今のは?」

 

「姉さんに入れてもらった魔封弾だよ。この馬鹿みたいな破壊力ステルスっていうのか?」

 

まあ、いずれにせよ終わりだ。姉さんの力をあれだけ受けて戦闘継続可能なはずがない。

ないよね?

 

「優希、今ので終わったと思うのは早計です」

 

「なるほどなるほど、水月希の力かい」

 

信冬の声の後に煙の中から聞こえてきた声

風が巻き起こり煙を吹き飛ばしていく

そして、現れたその姿は

 

「う、嘘」

 

アリアが絶句した声を上げた。

うーん、姉さんクラスは伊達じゃねえなぁ

まじかよ・・・

 

着物はボロボロで黒ずんだ姿だがその少女の姿の化け物は口元を緩めてその場に立っていた。

流石に多少はダメージを受けているようだが戦闘継続不可能には程遠いように見えた。

 

「ケホ。流石に少しは効いたね。さて 山」

 

信春の背後に浮かんだ文字の名は風林火山

風林火山大砲を撃つ条件が整った。

それはそうだな・・・

周りの要人たちは誰もいないんだ。

みんな逃げ出してしまった。

 

「降伏勧告はしないよ。外で暴れてる仲間も後であの世に送るから心配せず死にな」

 

「おばあ様!もうやめてくさい!私が・・・」

 

「・・・」

 

俺は信冬の肩を掴んで後ろに引き寄せると武田信春と対峙する。

 

「ゆ、優希」

 

「・・・」

 

俺は無言で鞘に紫電を収めると緋刀の力を収束させていく。

緋光剣の力を鞘の力で増幅させて打ち破る。

 

「最後だ武田信春!決着をつけようぜ」

 

「正面から打ち合う気かい?前回の戦いを忘れたようだね」

 

そういう間にも俺たちの間では力が収束していく。

風林火山大砲と緋流神龍

ここまで来たら力と力の勝負だ。

今だからわかる。

この戦いはもうそう長い時間をかけずに終わるだろう。

だが、負ける気はない。

 

互いの力が収束しきる

信春が腕を振り下ろし俺が鞘から紫電を抜き放つ

 

「風林火山大砲!」

 

「緋流奥義神龍!」

 

純粋な破壊の力と緋色の光が激突する。

轟音と地鳴りが鳴り響き建物にひびが入り崩壊していく。

 

「っ!ぐ」

 

拮抗しているように見えるが徐々に押されてる。

くそ、今でフルパワーなんだぞ

 

「フフフ、どうした椎名の後継?終わりかい」

 

終わる?ここで?

俺の人生は・・・信冬を救えないまま・・・

 

「後悔するんだね。その程度の力で私に挑んだことをあの世で懺悔しな!」

 

風林火山大砲の力が増大する。

く、くそ・・・ここまでなのかよ

 

「まだです」

 

そっと俺の手に手が添えられる。

信冬

信冬の風林火山の発動状態の黄金の髪を揺らしながら緋色の光が輝きを増す。

 

「優希。私も戦います」

 

その力強い声に俺は思わず笑みを浮かべた。

 

「ああ」

 

信冬は微笑むと信春を見てそれを習得する。

 

「風林火山大砲」

 

信春と同じく4つの文字が信冬の背後に現れる。

 

「新世代の風林火山かい!所詮付け焼刃だよ!」

 

「そうです。ですが、私には彼がいます!」

 

打ち合わせたわけではない。だが、そのタイミングは完璧なものだ。

信冬と俺の攻撃が信春のそれを上回る。

 

「!?」

 

信春が驚いたように目を見開き光に飲み込まれると同時に大爆発が起こった。

だが、瞬時に風により吹き飛ぶと信春が再び笑っている。

 

「よくやったよ!本当によくやった。でも、やはり死ぬのはお前たちだよ」

 

風林火山大砲! いや、違う風林火山の文字に陰と雷が加わっている。

 

「風林火山陰雷巨大砲。威力は80倍さ」

 

は、はち・・・

だめだ言ってることが事実なら信冬と力を合わせても

 

「優希」

 

信冬と目が合う

そうだな・・・そうだよな

 

「もう1回だ信冬!」

 

「はい!」

 

諦めねえ!最後の最後まで絶対に!

 

「優!」

 

アリアか!お前はまだ、緋弾の力を・・・

いや、もしかして・・・

 

「アリア手を貸せ!」

 

アリアの手を掴むとその手を紫電に乗せる

キンジがアリアの肩を掴んで何かを言っているとアリアが赤くなるのが見えた。

何が起こるわけがない。こんなもの奇跡を願う苦し紛れの希望だ

そう思った時

 

空から何かが落ちてきた。

地面に突き刺さったそれは

 

「震電」

 

姉さんの刀だ。

使えってことか!

震電を掴んだその瞬間

 

『条件は整った』

 

スサノオの声!

 

「おい条件ってなんだよ!」

 

『この状況で信春に勝った瞬間を想像してその因果は今なら引き寄せられる』

 

想像?因果・・・

そう思った時目の前に無数の光の筋が見えた気がした。

その1本がたどるその先その場面は・・・

全員で紫電と震電を振りかぶる

 

「風林火山陰雷巨大砲!」

 

「緋流最終奥義!緋緋因光斬!」

 

力と力の純粋な激突。

その力は拮抗したに見えたが次の瞬間信春の力が消滅する。

風林火山陰雷巨砲が消えた。

 

「こ、この力はあの小娘の」

 

緋色の光の奔流が信春に激突する。

 

「う、うおおおおお!」

 

光が信春を消滅させ、最終戦争のような大爆発が起こり建物が崩壊する。

や、やばい!これじゃがれきに巻き込まれて・・・

意識も・・・力ももう、入らねえ・・・

 

「優希!」

 

信冬の声

やったぞ・・・信冬・・・俺たちは・・・

 

風が体を浮かせる感覚を感じるともに俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 




はい!というわで武田信春との戦いはこれでおしまい!オリジナル編も戦闘パートはこれで終わりですよ!
長かった(笑)

今回、優が使った技は詳しくは言いませんがある意味反則技にも等しいチートレベルの技なのですがいろいろ制約もある技です(;'∀')

さてさて、次回は戦闘後の屋敷の中のお話なのですが暁家の屋敷を崩壊させ武田信春を消滅させてしまった優君
そして、信冬との落とし前をどうつけるのか?
次回も優君は平穏ではいられない(笑)

それではまた、次回!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第253話 そして災難はやってくる

この話でついに信冬編は終了!


武田信春との戦いは終わった。

まあ、事後処理は大人に任せるべきなんだけど・・・

 

「いやぁ、お兄さん今回も大暴れでしたね」

 

「流石に今回は冗談抜きで死ぬかと思った」

 

東京武偵病院の病室でいつものように後輩のアリスに看護してもらいいながら冗談抜きでそう思う。

あれだけの戦闘で検査入院だけで済むところが回復能力のいいところだ。

しかし、暁家と武田家に喧嘩を売ってただで済むわけがない。

あそこには後で知ったんだが日本の首相や国会議員や口には出せない方々もいたらしい。

おまけに武田信春を文字通り消滅。

つまり、殺人事件まで起こしてしまったとなれば普通は抹殺ものだがいろんな理由からそれはなさそうだった。

椎名の家が裏でとりなしてくれたらしいが流石にそれだけでは今回はお咎めなしは難しかっただろう。

あの戦いの後、病院で目が覚めた俺がさせられたのは電話だった。

相手との会話を思い出すと

 

「長い間眠っていたもんだね。待ちくたびれたよ婿殿」

 

「た、武田信春!?」

 

そりゃ驚くよね。あの攻撃で死なないとかどれだけ・・・

というか婿殿ってなんだ?

 

「なんで生きてる?」

 

「理由は簡単だよ。婿殿が戦ったのは私の遠隔操作の現身だよ。つまりは、分身かね」

 

「ああ・・・」

 

つまり、本体は別の場所で遠隔操作せていたと・・・道理で何度ダメージを与えても手ごたえがなかったわけだ。

 

「本体ではないとはいえ70%近い力を出せる現身を倒すとは驚いたよ。私的には合格さ」

 

70%・・・つまり、本体はもっと強いからなってことかよ・・・

つくづく姉さんクラスの連中は怖い・・・

 

「それじゃあ、約束は?」

 

「信冬の自由だろう?もちろん約束は守るよ。あの子の髪の1本から血の一滴までは婿殿のものさ」

 

「いや、それはいいですから自由にしてやってください」

 

「いいのかい?婿殿が望めばあの子になんだってしてもらえるんだよ」

 

「それは魅力的ですけどね。それじゃ戦った意味がないし」

 

俺が命がけで戦ったのは気に入らないのもあるが信冬を救うためだったんだからな

 

「フフフ、女のために命を懸けて奪還に来る。実はこの時点で気に入ってたんだよ」

 

 

かと言って殺す気満々だったのは変わりないことなのだが・・・

 

「はぁ」

 

さっきからなんだ?それに婿殿って・・・

 

「あの婿殿って」

 

「婿殿は婿殿だよ。武田家は婿殿のものなんだから」

 

「はい?」

 

「私も血迷ってたね。暁家と縁談を進めれば武田家の発展も望めると思ってたけど間違いだったよ。私の気に入った者にこそ武田家を任せるにふさわしい」

 

「ちょっ、ちょっと待ってください!何いってるんですか!」

 

「まだわからないのかい?武田家を上げると言ってるんだよ椎名優希にね」

 

ちょっ!

 

「できれば信冬を正妻にしてほしいが贅沢は言わないよ。2人の間に子供だけでも作ってくれるだけでもいい。欲しいなら妹のほうもつけてあげるよ」

 

話がぶっ飛びすぎてついていけん!

 

「ま、待ってください!何ってるんですか!俺は武田家なんかいりません!」

 

「何が不満なんだい?椎名と並んで絶大な権力を日本で持てるんだよ?本気でやる気なら首相にだってなれるし、裏社会でも頂点をとれるんだよ」

 

「いや、興味ないし」

 

「大金持ちにもなれるよ」

 

う・・・それは・・・

万年金欠の優さんには魅力的な話だが騙されるなよ俺!

武田家の当主なんてなったら絶対に厄介なことになるぞ

ここは何としても断らないと

 

「せっかくですけど俺は椎名の人間なのでちょっと・・・」

 

「問題ないよ。椎名は鏡夜の坊や、武田は婿殿。同じ血筋が統べれば仲良くやれるってもんさ」

 

裏武家的には連携が固まるかもしれんがちょっと待って!

 

「ほ、ほら俺未成年ですし」

 

「関係ないよ。私が認めたんだ。文句を言うやつは私が叩き潰してやるよ」

 

ダメだこの人・・・姉さん並みってことは自衛隊でも止められない・・・

アメリカ軍が出てきても多分、無理だろうよ

こうなったら逃げる作戦しかねえ!

 

「せめて、大学が終わるまで待ってもらえませんか?いろいろと道を探したいんです」

 

「大学かい?そうだねぇ。確かに急すぎる話だ。それまでに更に自分に磨きをかけるつもりなんだね。流石は私が見込んだ男だ」

 

すごい過大評価されてるんですけど!

 

「そういうことなら構わないよ。とすれば当主の座は・・・」

 

「信冬が継ぐわけにはいかないんですか?」

 

「だめだね、あの子は婿殿のものさ。でも、そういうことなら夫が当主につくまで当主代理という立場にしようかね。希望なら全権をあの子に与えてもいい」

 

よ、よし何とか時間は稼げそうだ。

 

「じゃあ、信冬に代理をお願いしたいんですが」

 

できたら永遠に

 

「残念だね。すぐにでも婿殿に継いでほしかったんだけどね」

 

「ははは」

 

苦笑いを返しながらなんとか即座に武田家当主になる危機を回避成功!

立場ある人間になればいろいろ面倒も増えるからな。

 

「だが、あくまであの子は代理だ。婿殿が武田家の力を使いたいときはいつでも使いな」

 

「分かりました」

 

うかつには使えないがこれで俺は信冬を始めとして全員に会ったわけじゃないが風林火山陰雷の連中、武田家の武力や権力を手に入れた形になるのか・・・

信冬を助けたらとんでもないものが転がり込んできてしまったぞ

 

というやり取りがあり今に至る

 

「わぁ、お兄さん権力者ですね。それでどうするんですか?大学卒業したら武田家をもらうんですか?」

 

「いらねえよ。俺は普通の武偵事務所で所長やって数人ぐらい雇うぐらいの規模の武偵ぐらいで最終的にはいいんだよ」

 

「こじんまりとした夢ですねぇ」

 

「ほっとけ」

 

というか最近、化け物とばかり戦いすぎてそんな普通の武偵にあこがれてるんだよな俺

 

「事務所持ったら私も雇ってくださいよ」

 

「お!本当か?アリスは優秀だし別に・・・」

 

「給料は一月1000万ぐらいでいいですよ」

 

「高ぇよ!お前雇うだけで潰れる!」

 

悪魔かお前は!俺のささやかな夢までつぶす気か!

 

「仕方ありませんね。手取り30万ぐらいで手を打ちます」

 

それでも俺にすれば高いんだが・・・まあ、Sランク武偵雇うならそれぐらいはいるか・・・

 

「まあ、考えとく」

 

「考えといてください。じゃあ、私は行きますね」

 

「おーう」

 

アリスが病室から立ち去ると帰る準備を始める。

後は寮に戻って寝よう

ん?誰か来たようだ

ノックの音にドアを開けるとそこにいたのは信冬だった。

武偵高の制服を着て

どれを見て俺は思わず

 

「お帰り信冬」

 

「ただいま戻りました。体の調子は大丈夫なんですか?」

 

「ああ、お前は?」

 

「細かい傷は治療済みです。一番重症だったのが優希でしたから」

 

そうか、俺がピンピンしてるってことはアリア達も問題ないのだろう

あれそういえば

 

「ジャンと幸村は?」

 

確かあいつらも重症だったって聞いたけど

 

「それは直接聞いてください」

 

「直接?」

 

「少年!」「優希様」

 

声のしたほうを見ると今話題にした2人だ。

見たところは傷は見当たらない

 

「お前ら」

 

「今回のことは感謝している。少年がいなければお館様の人生は破滅していた」

 

「信冬様を救ってくれてありがとうございました」

 

2人して深々と頭を下げって

 

「分かったから頭を上げろ。俺はやりたかったからやっただけだ」

 

「そうはいかない。信春様から話は聞いている。俺の力が必要になったらいつでも言ってくれ。そして、この命は少年・・・いや、あなたのために使おう」

 

「俺も同じです。盾でもなんでも使ってください」

 

い、いやだから

 

「だからやめろってお前ら!こんなところで」

 

病院の廊下でなんだなんだと深々と頭を下げる男たちと俺に視線が集まっている。

恥ずかしい!

 

「話は分かったから!それと、話し方は前と同じでいい」

 

「しかし・・・」

 

「ジャン、幸村。優希は今までと同じように接してほしいと願っているのですよ」

 

信冬が助け舟を出してくれ幸村とジャンは顔を見合わせてから

 

「ではそうさせてもらう。ありがとう少年」

 

「ありがとう。椎名優希・・・様」

 

「様はいらねえよ幸村。優希か優でいいよ」

 

「分かった優」

 

「で?お前ら大けがしてたんじゃないのか?」

 

「水月希に治してもらった」

 

「なるほど」

 

それだけで納得だ。

あの人なんでもできるからなぁ・・・

深く考えないでおこう

 

寮に戻るために病院を出るとジャンが声をかけてきた。

 

「ではな少年!俺と幸村はここで失礼する」

 

「ん?そうなのか?忙しいんだな」

 

「ワハハ!そうだそうだ。いろいろいろと忙しい」

 

「え?ジャン。この後の予定は信冬様についていく予定では?」

 

幸村が首をかしげているぞ

 

「ハハハ、察しろよ幸村!お館様は少年とデートというやつだ」

 

「っ・・・そんな・・・いえ、そうですね・・・俺たちはここで失礼します」

 

デートって帰るだけなんだが・・・

って信冬

見ると顔を少し俯かせて顔を真っ赤にした信冬がそこにいた。

 

「何せ信春様公認の仲だ。将来は確定したといいワハハ!」

 

「うわああああ!信冬様!お幸せにいいいいい!」

 

幸村が泣きながら走り去りジャンもそれを追って走り去った後、俺たちはとりあえず寮に戻ることにしたのだが・・・

とりあえず色々切り出しておこう

 

「信冬」

 

「は、はい!」

 

顔を赤くしたままびくりとする信冬。

やめろって俺まで恥ずかしくなるだろ

 

「病院では全部聞けなかったからな。あの後どうなったか教えてくれるか?」

 

具体的には俺が気絶した後の話だ。

話は通していたとはいえ暁家などちょっと放っておいてはまずい連中のことも聞いとかないと

信冬はちょと残念そうなほっとしたような顔で

 

「武田家は優希が知る通りです。私と優希がその・・・結婚することに対しては異論は挟まないと思います」

 

まあ、婚約は1度解除されてるから俺たちが結婚するとか言い出さない限りはまあ・・・考えないようにしよう

 

「暁家は正直わかりません。おばあさまと約束はして私と暁竜馬の結婚は消えました。ですが・・・」

 

「暁花蓮か・・・」

 

「はい、彼女は正直何を考えているかわからないところがあるので今後優希や私に何かを仕掛けてくる可能性もないとは言い切れません」

 

表の権力者だもんな・・・一般人なら息を吹けば消せるぐらいの存在だ。

 

「最も、暗殺などの復讐は少なくても当面はありません。パワーバランスは暁家と優希は大きな開きはありませんし、何よりおばあさまが優希の味方になった以上、こちらに敵対行動を取れば戦争になることは承知でしょうからそこまで愚かではないでしょう」

 

まあ、そうだよな・・・俺は仲間が攻撃されたら絶対に許さないし俺が動くということは俺の周りの人たちもサポートに回る。

椎名・武田・姉さん達

どう考えても分が悪い。

今回の襲撃だって多くの支援は潰されたものの姉さんたちがぎりぎりの支援をしてくれたからこその勝利だ。

それがなければ武田信春に無傷で戦いを挑むことなど不可能だっただろう。

 

「暁家は大きく情勢が変わらない限りは大丈夫そうだな。それで土方さん達は?」

 

「・・・」

 

なんで聞くんですかという顔だぞ信冬!助けてもらったのに本当に土方さんのこと嫌いだな

 

「雪羽姉さまは無事です。鈴さんも、もちろん優希のお姉さまも」

 

「土方さんは?」

 

「・・・謹慎中です」

 

流石にか・・・公安0は動かないとさんざん圧力をかけられていたのにお面で変装までして土方さんは協力してくれたんだ。

むしろ謹慎でよくすんだってレベルだ

「信冬。雪羽さんを取られて土方さんが嫌いなのはわかるけど今回は・・・」

 

「分かってます・・・あのおと・・・義兄様には今回は感謝しています」

 

にいさまか・・・ずっと、恨まれ続けてきた土方さんと信冬の関係もようやく1歩前進した感じだな

 

「直接礼は言ったのか?」

 

「はい、屋敷から離れるとき雪羽姉さまと」

 

「そうか」

 

兄さんと呼ばれた土方さんがどんな顔したかすごい気になるんだが

 

「ここに写真があるぞ」

 

ん?ハハハ!土方さんむちゃくちゃ驚いてから優しい顔をしてるよ

って

 

「姉さん!」

 

「ハハハ、よう!」

 

手を挙げてそこにいたのは水月希。俺の姉さんだ

 

「面白いだろ。この写真。歳の奴この後、むちゃくちゃうれしそうだったんだぞ長年つんつんしていた義理の妹がついにデレたんだからな」

 

「で、デレてません!に、義兄さんには感謝していますが私は・・・」

 

「嫌いか?」

 

にやにやしながら聞いてる姉さん。

なんと意地の悪い

信冬はうーと言葉に困っていたが

 

「中間ぐらいです」

 

それはつまり、好きでも嫌いでもないってことか?

 

「よかったなぁ優希!将来の奥さんと親戚間の仲は安泰だぞ」

 

「奥さんって!レ・・・」

 

レキと言いかけて慌ててやめる。

ここでレキとの話をすれば厄介なことになること間違いなしだ。

なんだかんだで結婚の約束を俺は数人としてしまっている状態になってるんだ。

 

「もう分かりましたから・・・」

 

信冬がギブアップとばかりに顔を俯かせてしまった。

俺もこれ以上この話題は勘弁してもらいたい。

 

「で?姉さんは何の用だよ」

 

「歳の面白い写真を持ってきただけだぞ」

 

最低だこの人!

 

「まあ、冗談は置いといて。優希、お前しばらく緋刀使えないらな」

 

唐突にまじめな話になったな・・・

 

「理由は心当たりあるだろ?」

 

「緋緋因光斬か?」

 

あの技は力がごっそり抜ける感覚と共にこれまでと違う何かを感じた。

そして、スサノオの姿が変わっていたんだ。

どこかで見たことがある・・・だが思い出せない。

 

「姉さんはあの技を知ってたのか?」

 

震電が飛んできたタイミングといい・・・

今にして思えばあの力がなければ俺は勝てなかっただろう。

知っていたんだ姉さんはあの力を

姉さんの腰の震電と紫電がそろった瞬間に起きたあれは・・・

 

「それを知るにはまだ早い」

 

ふわりと空に浮かび上がる姉さん

 

「今度はどこ行くんだよ!」

 

「歳をからかいに行く!」

 

ひどい!いや、土方さんが謹慎してるの俺のせいでもあるんだけど本当に姉さんは土方さんをからかうのが大好きだな。

流石はチームメイトだよ

 

「ありがとう姉さん!土方さん達にも伝えといて!」

 

「ああ!お前も頑張れよ!ま!そう長く休めないだろうから休めるときは休んどけよ」

 

おい待て!また、何か起こるのか!というか知ってるなら教えてくくれよ!

 

「ねえさ・・・」

 

「今度は妹関連が忙しくなるぞぉ!」

 

行ってしまった・・・

 

「風のような人ですねあの人は」

 

隣で信冬が言うがなんというか違うな

自由に掴みどころなくいざと言うときは助けてくれる。

 

「俺にとっては自慢の姉だよ」

 

 

              武田信冬編の章 完

 

 




というわけで完全オリジナル章は終了です。
な、長かった。
キーボードが破損したりパソコンが調子悪かったり私生活が忙しいのといろいろ理由がありますが神戸編、椎名の家編とオリジナル章を書いてきましたがこの信冬編が一番時間を食ってしまいました(笑)
少し離れていたからか少々不完全燃焼で物語の構成力が落ちてしまったかなという気もしますw
オリジナルの途中でかなり開けてしまったのも原因なのでしょうが・・・

まあ、それは置いといて次回は事件と事件の間のお話。
それを終えて何人かに要望を出されていてもたどり着けなかったキンジの弟君サード編に入ります。
あのキンジと同じ物理技のオンパレードの化け物と緋刀が使えない優がどう戦うのか!
もちろん、キンジとサードが戦わないといけないので優がメインにする敵は!?
そして、登場するかなめ!
もちろん、原作丸写しなんてできませんので優を兄さん呼ばわりしていたあの子もサード編には・・・

最近は土曜か日曜あたりを目標に週一更新を目指しているので頑張ります!
私の書く燃料は感想欄にこそありますので燃料投下は気が向いたらお願いします(笑)

それではサード編へ!









目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第254弾 連続襲来

そして、物語はサード編へ


さて、平和な日常が戻ってきた!

武田家との厄介な状況も乗り切りいつもの日々が始まる!

 

「と思ってたんだよな・・・」

 

っと汗が噴き出てくる。

紫電を構え東京のど真ん中でバイザーをつけた女と対峙している。

強いぞこいつは!少なくてもその辺のチンピラが瞬殺されるレベルの実力だ。

俺の平和な日常は再び破壊されることになるんだなぁ・・・

 

「お兄ちゃんの男友達でも特別扱いしてやるよ」

 

うーむ、俺誰かのお兄ちゃんに何かしたのかな?

武偵である以上心当たりがありすぎる。

 

それはそうとなぜ、こんなことになってるのかちょっと思い出してみよう

 

              ±

文化祭も終わり今日は休みだったので久しぶりにトレーニングも休んで寝ていたんだがお昼には起きないとと思い起きると珍しく誰も部屋にいなかった。

信冬は東京武偵高にいるままだが女子寮に移っていったしアリア達も今日は来てないみたいだった。

キンジはと・・・あいつもいないのか

 

「ねむ」

 

ソファーに横になり再び眠ろうとそのまま落ちようとした時さっと開けてある窓の外から風が入る。

些細な問題なので無視していると

 

「やっほー優希君!遊びに来たよ」

 

「!?」

 

声に覚えがあったので慌てて起き上がるとテラスにはウェーブのかかった西洋人形のような金髪の少女がいた。

 

「おま!」

 

アズマリアじゃねか!

 

「フフ、驚いた?驚いたよね」

 

いたずらが成功した子供みたいにアズマリアは笑いながらトンとテラスに降りて部屋の中に入ってくる。

どういうつもりだ?

殺気は感じないのでそのままにしていると

アズマリアが正面のソファーに座る。

 

「今日は優希君に文句を言いに来ました」

 

「文句?」

 

ぴっと指を立てて少し腰をかがめるその姿は絵になるな

 

「そうだよ!なんで武田家の件で協力を頼んでくれなかったのかな?私ずっと待ってたんだよ」

 

言われてみればそんなこと言ってたような・・・

土方さんや姉さんが協力してくれたから忘れてたのが正直な所だ

しかし、忘れてたとはいえんぞ。

仮にも最悪の魔女なんて呼ばれてる奴だ

何か理由・・・そうだ!

 

「いや、お前俺に自分の連絡先教えてないだろ?」

 

「!?」

 

アズマリアが驚愕した顔になった

 

「うわあああしまった!忘れてた!」

 

忘れてたのかよ!苦し紛れに言ったのに効果は抜群だった

 

「ご、ごめんね優希君。私の助けほしかったんでしょ?」

 

「その・・・」

 

どう答えたらいいのか・・・

 

「まあ、姉さんが協力してくれたし」

 

「希ちゃんかぁ。それは私いなくても大丈夫だよね」

 

まあ、連絡が可能であったとして覚えていたら・・・姉さんたちがどうしようもない時で助けを求めようとしても無理だったわけだアズマリアの援軍は

 

「というわけではい」

 

すっとスマホを取り出すアズマリア

 

「連絡先交換しよ♪」

 

というかいいのか?悪の親玉じゃないのお前?世界を滅ぼそうとしたんだろ?

ま、まあ母親って話なんだが・・・

どうしよう・・・

 

「スマホ持ってないの?まだガラケー?」

 

「いや、持ってるが」

 

部屋からスマホを持ってくるとさっと連絡先が交換されててしまった。

 

「はい、終了!これでいつでも連絡できるね」

 

にっこりとして微笑む彼女は太陽のような子だなと思った。

 

「そんなに連絡はしないだろ」

 

「え?そうなの?」

 

ショックなのか?というかあんまりこいつと仲良くしているとまずいんじゃ・・・

 

「んー困ったな。信春ちゃんを退けた優希君に私興味津々なんだけどなぁ」

 

「勝ったのはぎりぎりだった。それに信春ばあさんは70%だった」

 

「へー」

 

少し歯を見せて薄くアズマリアが笑った。

ぞくっと背筋に悪寒が走る。

 

「緋緋因光斬」

 

俺が繰り出した技の名前を口に出す

 

「あれすごいよね。あれなら信春ちゃん100%でも通用してたよ。というより理論上私でも防げるか分からない」

 

「お前何を知ってる?」

 

あの技のことを知ってるのか?震電は姉さんが回収していったからしばらくは使う場面のないんだろうが

 

「私と連絡取りあいたくなった?」

 

くそ・・・飴と鞭の飴だ・・・

こいつのペースだが仕方ねえ

 

「そうだな。ちょっとお前に興味が出てきたぜ」

 

「え?それって私もお嫁さんにしたいの?」

 

まじめな話から一転したぞ!

 

「なんでそうなるんだよ!」

 

「いやぁ、女の子キラーな優希君のことだから私も狙ってるんでしょ?」

 

「狙ってねえよ!というかお前卷族よりだろ!」

 

「ん?私達は中立なんだけど?どっちの味方でもありませんよ~。優希君の味方ではあるけど」

 

「・・・」

 

どこまで信用していいんだ?先代のアズマリアはまさしく最悪の存在だった・・・らしい

 

「私はママとは違うよ。別に世界に絶望なんてしてないし」

 

「その言葉信じていいのか?」

 

「全部は話せないよ。でも、君に興味を持ってるのは本当。今日遊びに来たのも本当だよ」

 

信用するには俺はアズマリアと言う子のことを知らなさすぎる・・・

 

「ってなこと考えてない?」

 

「!?」

 

口に出してたか!いや、心を読んだのか?

 

「アハハ、驚いた?それくらい予想の範囲でどうにかなるよ」

 

「食えないやつだな」

 

分かってるのはこいつは俺より実力が上。

本気で俺が挑んでもおそらくは勝機は0に近いだろう。

 

「そうです!食えないんだよ私」

 

ソファーに座りゴスロリ服をひらひらさせながら足を交互に振りながら楽しそうにアズマリアが言った。

 

「というわけで遊びにいこう!」

 

 

 

 

 

           ±

 

なんでここにいるんだか・・・

アズマリアに連れ出されるままに都内に繰り出してくる羽目になった。

 

「あーきはーばーら!」

 

歩行者天国のど真ん中で両手を空に挙げながらはしゃいでいるゴスロリ少女

この町なら何の違和感もねえな・・・

道行く人も変な人を見る目では見ていない。

ここはそういう場所だからな

 

「なんでここ?」

 

そうアズマリアに聞くと

 

「1度来てみたかったんだけどほら、1人じゃなんか来る気になれなくて」

 

「この町が好きってことはアニメとかゲームが好きなのかお前?」

 

相手をよく知るというのも重要だ。

特に俺はこの子のこと全然知らないもんな

 

「んーどっちでもないかな?でも嫌いでもないよ」

 

「そうなのか?この町に来たいなんて奴は大概そんなやつなんだろうと思ってたが」

 

ってあれ?アズマリアがいないぞ

 

「おい!アズ・・・」

 

「ねーね!優希君!ちょっと来て?この本何?」

 

ちょっ!それ同人誌!しかも18歳未満お断りの奴じゃねえか!

 

「前にテレビで見たなんかのアニメかな?その絵だから・・・」

 

「や、やめろ!」

 

「あ!」

 

アズマリアから本を取り上げ棚に戻すと慌てて外に連れ出す

 

「アハハ大胆だね」

 

「何がって!?」

 

気づけばアズマリアと手をつないでいたので慌てて手を放そうとするがアズマリアがぎゅっと手を掴んで離さない

 

「は、放せ!」

 

「じゃあさっきの本見に戻る」

 

「っ・・・」

 

わざとやってるんじゃねえだろうな・・・

だが、流石に勝手にしろと言えないのでため息をついた。

 

「やった♪」

 

何がやってなんだか・・・というかこんな所誰かに見られたら・・・

 

「し、椎名!お前また!」

 

げっ!

 

「む、村上!」

 

レキ様ファンクラブRRRの会長村上が紙袋を片手に俺を指さしていた。

 

「前回のシスターに続き今度はゴスロリ金髪美少女だと!」

 

ああああ!ややこしい奴に会った!

 

「おい!村上お前はなんか誤解しているぞ!これは」

 

「これが動かぬ証拠だ!」

 

パシャリとスマホでアズマリアと俺が手をつないでいるところを取られてしまう。

 

「フフフ!椎名これでお前も終わりだ!RRR総力を挙げて拡散炎上させてやる!さらばだ!」

 

や、やめろおおお

 

「よくわからないけど止めたほうがいいの?」

 

「止めろ!止めてくれ!」

 

「了解」

 

「え?」

 

村上が呆然とした顔で手を見ている。

手には何かに貫かれた自らのスマホがあった。

 

「ぎゃあああ!私のスマホがぁ!」

 

「風の太刀ね」

 

アズマリアの左手に現れた剣が消滅する。

この能力・・・ステルスか?

 

「くそ!覚えていろ椎名!帰ったらRRR総力を挙げてレキ様の耳に入るようにしてやるからな!」

 

捨てセリフを吐いて逃走していく村上

えーと・・・自業自得だよな・・・

スマホで拡散して俺を陥れようとしたわけだし

 

「これでよかった?」

 

にこりとしてアズマリアが言うが・・・

 

「今の剣ステルスか?」

 

「そうだよ。私のステルスは魔剣。歳さんと同じだよ」

 

「土方さんと?」

 

「まあ、細かい部分は違うんだけどね私はあの粒子の影響受けないし」

 

粒子?何のこと言ってるんだ?

アズマリアは俺を見るとにこりと微笑んで

 

「じゃっ!デートの続きしよ」

 

ぐいぐいひっぱるな!

 

「お、おい!デートじゃねえだろ!」

 

「アハハ!優希君照れてる照れてる!」

 

照れてねぇ!

 

 

             ±

 

そんなこんなで時刻は夕方だ。

アズマリアにはメイド喫茶やら電化製品店やマニアックな店など連れまわされたわけだが感想は疲れた・・・

 

「あー、遊んだ遊んだ!」

 

秋葉原の駅に向かう途中、アズマリアは手に大量の買い物した袋を持っており大満足という顔だ。

持とうかと言ったが対して重くないからいいと言われてしまった。

 

「今日は楽しかったよ。ありがとう優希君」

 

「ひたすらに疲れたよ」

 

「ごめんね」

 

まあ、今日付き合ってみて分かったのはアズマリアは決して悪い子ではないということだ。

母親は最悪の魔女だったかもしれないがそんな偏見でこの子を見るのは良いことではないだろう。

 

「いいよ別に。いい時間つぶしになったし」

 

俺がそういうとアズマリアはぱっと笑みを浮かべた。

やはり、太陽のようという印象の笑顔だ。

見る人が見れば一目ぼれてしてしまってもおかしくないくらいの可愛さがある。

 

「やっぱり、興味あるよ優希君!私、ますます君のことを知りたくなった!ローズには悪いけどね」

 

「お前・・・」

 

ローズ・・・ローズマリーのことか・・・

 

「あいつはどこにいる?」

 

「・・・」

 

太陽のような笑顔が少しだけいたずらっぽい笑顔に変わる。

 

「さあ?まあ、それを知りたくても今回の危機を乗り越えてからじゃない?」

 

「危機だと?」

 

「今日遊んでくれたしいいこと教えてあげる。優希君狙われてるよ今。相手は2人1人はRランク」

 

「!?」

 

全力であたりを警戒するがその気配は・・・

 

「ほらあそこ」

 

アズマリアが指さしたビルの屋上に誰かいる

それを認識した瞬間、その人影がビルから飛び降りてくる。

そして、ガシュンという音と共に歩道にクレーターを作った。

反射的に紫電に手をかけて後方に飛ぶ

それほど奴の姿は異質だ。

鎧のようなマッドブラックのプロテクターに目には半透明の赤いバイザーに背中には1・5メートルほどある長刀を斜めにしてかけている。

蛍光ブルーに光っているところを見るとただの刀じゃない・・・

何者かはわからんがどう考えてもコスプレ一般人には見えなかった。

というか敵意を感じるし・・・

 

「最悪の魔女のおかげで手間が省けたよ」

 

その声は女の声か・・・

 

「椎名優希で間違いないよね」

 

「さあな。人違いじゃないか?」

 

「非合理ぃ。そんな嘘通ると思ってるの?」

 

ですよね・・・

 

「思ってないさ。で、お前らは誰だよ?」

 

そう相手は一人じゃない。

女の後ろにいる男・・・あいつは・・・

 

「フォースやれ!」

 

その男、宣戦会議で見たジ・サードの言葉と共に女が動く

ちっ!場所的に銃は使えねえ!

秋葉原は通称武偵殺しの町。

遠巻きに俺たちを見ている一般人の前で飛び道具は厳禁だ。

だが!接近戦なら負けねえぞ!

特に刀はな!

 

フォースと呼ばれた女の横殴りの一撃

そこそこ早いがリゼのほうが早い!

紫電でそれを迎撃する。

激突した瞬間、火花が散ると同時にフォースの口元が歪んだ。

笑ってる?

相手の刀身が淡い青い光を放っている。

反射的に刀を引いて後方に回転しながら

 

「飛流二式風巻!」

 

後方から回転切り

同時にもう一本の刀閃電を抜いた状態からだ!

 

「非合理的だねそれ」

フォースがそれを迎撃するために横殴りに剣をふるい

ギイイン刀身が激突するが閃電がぼろりと激突した部分が欠ける。

閃電が!武田家の宝刀クラスの名刀がこんなに簡単に!?

こいつの剣ただの剣じゃねえぞ!

紫電はかけていないが油断は禁物だ。

 

あらかじめ発射しておいた背部ワイヤーを使い後ろに大きく後退する。

 

「流石は骨董品でも名高い刀だね。私の剣と激突しても壊れないなんてさ」

 

「自慢の剣なんでな」

 

そう強がるがあの得体の知れない剣相手に紫電がどれだけ持つかは未知数だ。

このまま、切り結べば紫電が破壊されてるしまう可能性は決して0ではない。

だが、銃はこの状況では使えない。

どうする・・・

いや、この状況を打開する方法は多くない

 

「緋刀」

 

小さくつぶやくが体に変化はない。

あの奥から沸いてくるような感覚がない。

姉さんが言っていた通り緋刀はしばらく使えませんってことか・・・

 

 

「来ないならこっちから行くよ」

 

フォースが地を蹴って接近してくる。

くそ!

回避しきれなかった1撃を閃電で受け止めるが激突と同時に火花を散らし冗談のように閃電が真っ二つに切断された。

フォースの剣が俺の体に吸い込まれる直前、ガバメントを地面に発射し月詠のステルスが内封された魔封弾で転移して逃れる。

 

「あれ?」

 

フォースが意外そうな顔で横を見る。

そう、転移先は離れていないすぐ横だったのだ。

 

「非合理ぃ!今日は、璃々色金粒子が強い日だよ?」

 

「っ!」

 

「これも壊れちゃえ!

 

再び振るわれたフォースの剣に紫電が激突する寸前雪羽さんに教えてもらったことを思い出す

火花と同時に紫電は・・・折れなかった

 

「あれ?丈夫ってわけじゃないよね?」

 

「へっ!」

 

ぎりぎりだが間に合った。

雪羽さん直伝、刀気

刀を気の力で包み攻撃や防御に転用できる。

とっさに、紫電に張り巡らせたがこいつなら奴の剣と切りあえる。

 

「勝負はこれからだぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけでサード編へ突入!

原作ではキンジは結局かなめとはガチで殴り合わなかったので少し戦闘シーンの参考が少ないのがかなめ・・・
ただ、かなめで一番厄介なのはあの振動刀です。
優の日本刀もまたもや破壊されてしまいましたw
それも、宝剣クラスの名刀をあっさりとw
流石に紫電は破壊されると困るのでなんとか切りあえるようにはなりましたが・・・

さあ!次回はまた、来週!かな?
できるといいなぁ

それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第255弾 優希VSジ・フォース そして衝撃へ

1日アウトw


さーてどうしたもんか...

相手の得体の知れない剣に対する対処は刀気で可能だ。

緋刀が使えればおそらくは相手の剣ごと消滅させることも可能だったんだろうがないものねだりしてもしょうがない。

それに今の攻防で相手の実力差は理解した。

剣対剣!特殊な武器破壊の付属がなければフォースと呼ばれている奴より俺のほうが強い!

一気に切り込んで決めてやる。

ぐっと地面を踏んで一気に蹴る。

相手との距離詰めると上段から紫電を振り下ろす。

 

「っ!」

 

フォースが舌打ちしながらそれをそれを受け止めようと剣を間に挟んでくるがそれはフェイントだ。腰からの2つの鉄球突きのワイヤーがフォースめがけて飛ぶ。

 

「!?」

 

必殺の間合いだ。

フォースの体に直撃すると思った瞬間

フォースの背後から何かが飛び出してきて鉄球を弾き飛ばした。

布!いや違う!

未知の何か!だがためらわずに続けて紫電から振り下ろすモーションから左手を離し先端が刃になっているワイヤーを左袖からフォースに向かい発射する。

だが、それも新たに表れた布のようなものにはじかれてしまう。

同時にフォースの後ろに新たな布が2つ現れ槍のように俺のほうに向かい飛んでくる。

 

「くっ!」

 

フォースから背後に飛んで距離を取り飛んできた布を切り払う

だが、破壊はできずに布はフォースのもとに戻りフォースの周囲を旋回している。

なんだこれは?ステルスか?

攻撃力そのものは小さいものだが攻撃を未然に防ぐオート盾ってところか?

 

「sword beats guns」

 

フォースの言葉は英語だな。剣は銃より強し?

 

「ほんの少しだけ見くびってたよ椎名優希」

 

「ずっと見くびっててもらってもいいんだぜ」

 

「お兄ちゃんの友達でも特別扱いしてやるよ」

 

           ±

 

とここで冒頭に戻るわけだが・・・

周りの人は逃げて行った連中も含めて多くはないがそれでも銃を使うのはためらわれる人数だ。

つまり、刀でやるしかないのだが相手がどれだけ得体の知れないものを持っているのはわからない以上可能なら戦闘は避けたい。

だが、ここで逃げを打てば得体の知れない追撃があるかもしれない

1人で逃げられないなら・・・

 

「アズマリア!」

 

フォースを警戒しながらこれまで、傍観していた後ろのアズマリアに声をかける。

 

「はーい、優希君。何?」

 

「逃げる!手を貸してくれ」

 

フォースに聞こえないようになるべく小声で言うが

 

「非合理ぃ!逃げられるわけないじゃん」

 

ばっちりフォースに聞かれてた!

 

「優希君。あのうさ耳みたいな角多分収音機だよ。内緒話はできないみたいだね」

 

「みたいだな。で?堂々と逃げるの協力してくれないか?」

 

「それも難しいじゃない?死者を出していいなら当然できるけど。私が動いたら多分ジ・サード君も動くよ」

 

フォースの後ろにいるあの男か・・・

睨むようにこちらを見ているだけだが・・・

 

「状況は膠着。私が動けばジ・サード君が動くしジ・サード君が動いたら私も動いてあげる。というわけであのフォースって子を何とかするか第三者が現れない限りここからは離脱できないよ。まあ、後1時間も粘れば援軍も来るだろうけどね」

 

1時間は現実的じゃねえな・・・

それにサードという男は一般人を無差別に攻撃する奴かもしれないし・・・

状況は理解したよ。

それに、警察が駆けつけてこないのは無用な死者をを出すのを避けるためだろう。

来るなら相当に腕のある公務員くらいだろうな

紫電を構えてフォースと再び対峙する。

 

「それが合理的だよ椎名優希」

 

フォースは口元を緩めて武器破壊の剣を構える。

背後からはあの布のようなものも数本

あれを捌きながらフォースに一撃を入れなければならない。

こういう時、2刀あればいいんだが閃電は先に破壊されてしまった。

だが、そうだな・・・紫電で切り払って無効化されていないということはおそらくはステルスじゃない。

 

「先端科学兵装、通称ノイエ・エイジだね。気を付けて優希君。あの布ただの布じゃないよ」

 

アズマリアの言葉でようやく理解したぜ。

ノイエ・エイジ。先端科学の武装か。

確か昔、目の前で似たような会話をしていた奴と姉さんが戦っていたよ。

返り討ちにされてたけど

 

「サード君はアメリカ出身だからね。大方あれもアメリカ軍の・・・」

 

「少し黙れ最悪の魔女」

 

びりびりと殺気を放ちながらサードがアズマリアに向かって言う。

プレッシャーがすげえな・・・

だが、アズマリアは動じてない

 

「怒った?まあ、知られても問題ない内容だよね。希ちゃんも知ってるし、何より希ちゃんにジ・サード君は・・・」

 

「黙れといったぞ?」

 

「・・・」

 

アズマリアは口を閉じるが決して屈したからじゃない。

このまましゃべればどうなるかなって顔だぞ

ジ・サードはRランクと言った。

アズマリアもその高みにいるってことは小国の軍隊を滅ぼせる物同氏がこんな場所で激突すればただで済むわけがない。

厄介なことに巻き込まれたぜ

 

「お前ら一体何が目的だ?俺を倒したいだけか?」

 

「黙れ椎名優希。お前にそれを知る必要はねえ。黙ってフォースと戦え。本気でな。緋刀も使いたきゃ使え」

 

こいつらの目的はもしや緋刀の力を引き出した俺と戦うこと?なぜだ?

使えないことを知らないようだがいずれにせよ教えてやる必要はない。

 

「そうだな。緋刀なんか使わなくても勝てそうだぜ」

 

「非合理だよそれは。勝てるわけないじゃん」

 

「どうかな?」

 

紫電を鞘に納めて居合の姿勢を取る。

 

「・・・」

 

フォースは何かがあると感じたのだろう。

攻めてこない。

 

「こないのか?来ないならこっちから行くぞフォース」

 

同時に紫電を抜き放つ

 

「飛流1式風飛ばし!」

打ち放たれたのはかまいたちだ。

音速を超える居合で発生させたかまいたちを更に刀気の気で圧縮

して打ち出す。

そして、それを紫電の鞘で増幅させ威力を上げる技だ。

最近は緋刀ばかりで使う機会がなかったが雪羽さんに伝授された技の応用技だ。

「っ!」

 

高密度のかまいたちにフォースは舌打ちし全ての布が防御のために盾のように前面に展開される。

バチンとたたきつけるような音が響きフォースが少しだけ後ろに後退する。

 

「大げさに言ってた割に威力は・・・」

 

フォースにこれ以上話す余裕は与えなかった。

風飛ばしを放つと同時に盾が展開され視界がフォースと俺を遮った瞬間に勝機を見出す。

 

「飛流1式!」

 

構えは刺突だがそれは滅懐ではない

正確には

 

「滅懐2式!」

 

刀気を紫電の先端に圧縮し振れた瞬間爆発させる技だ。

バージョン2か改ってとこだな

刺突と気の爆発で布が花びらのように四方に開いた。

驚いたフォースの顔が見える。

同時に上部から紫電を振り下ろす

火花を散らしながら武器破壊のフォースの剣と激突するがそれが決め手にはならない。

 

「防御を崩したことは・・・」

 

そう、剣の止めは打ち止め俺の狙いは

 

「全弾持ってけ!」

 

「!?」

 

右、左の手足、腰のワイヤーの一斉発射

鉄球や刃がフォースに命中する。

 

「がっ!」

 

フォースは衝撃ぶっ飛ばされ地面を滑っていく。

久々に決まったな、ワイヤーの一斉発射だ。

 

「フォースぅ!」

 

ジ・サードの悲鳴ではなく怒りの声

フォースはよろよろと立ちあがり首を左右に振って

俺に対する殺気が深まる。

怒らせてしまったのはわかるがかなりのダメージは与えたはずだ。

このまま刀気とワイヤーで押し切ってやる。

 

再び鞘に納めて抜刀体制を取る。

フォースの布が独立して周囲を旋回を始める。

そんな使い方があるのかよ

 

「もう殺していいあいつ?」

 

「駄目だ。半殺しまでにしろ」

 

「嫌だ。殺す!」

 

「フォースぅ!俺の言うことが聞けんのか!」

 

びりびりと大気を振動させるような声でジ・サードが怒鳴るとフォースがびくりと怯えたように黙ってしまった。

フォースにしても相当に強い。

それを声だけで怯えさせるなんて・・・あのジ・サードってやつ強いぞ

 

「わ、分かったよ。半殺しで止める」

 

再び俺と対峙したフォース。

来るか?

 

互いの視線が激突し再び戦いが再開されようとした時声が聞こえた。

 

「そこの戦い待った!」

 

「!?」

 

俺たちが声の方を見ると誰かいる。

あ、あいつ!

 

「フォース、サード。これどういうこと?この人にはまだ、手を出さないで言ったよね?」

 

少し気が強そうな顔立ちだが美人というよりは美少女という顔立ちの乱入者は俺のほうへ少し歩いてフォースと俺の間に入りフォース、サードと対面する。

 

「ちっ」

 

サードは舌打ちして

 

「状況が変わった。そこの最悪の魔女のせいだ」

 

「ふーん」

 

少女は俺たちの方に顔を向けた。

黒い髪をツインテールに結んでおり青色のリボンで結んでいる。

こちらを見て再びサード達を見ると

 

「遅れてきた私も悪かったけどもういいよね。帰って」

 

「・・・」

 

サード達と少女がにらみ合うが先に折れたのがサードだ

 

「いいだろう。そいつは、お前に任せるぜ紅葉。おい、フォース行くぞ!」

 

「くっ!」

 

フォースは俺をぎろりとにらむがサードの言葉に逆らうことはせずにその場から離脱する。

追おうにも目の前の少女が敵なのかどうかもわからないのでは追撃はできない。

ジ・サード達が立ち去って姿が見えなくなるとそれを確認した少女が再び俺の方を見る。

 

「お前サードの仲間か?前に暁の家で助けてくれた奴だよな?」

 

そう、俺はこの子に最近だがあっている。

風林火山一角のジャンの足止めをこの子がしてくれたのだ。

 

「サードとは確かに知り合いだけど仲間ではないわ。暁家では挨拶もできずにごめんなさい」

 

「いや、あの時は助かった。君は俺の知り合いなのか?」

 

姉さんの記憶捜査の影響で忘れてることも多いからな・・・この子も婚約者とかまさかないよね?

これ以上婚約者が増えるのはごめんだぞ

にしてもこの子どこかで見た気が・・・

 

「覚えてるわけないわよね?会話した回数もそんなに多くはないし」

 

会話ってことはどこかで会ってるってことか・・・だが、記憶が・・・

 

「すまない。どこで会ったのか思い出せないんだ」

 

「仕方ないわ。ほんの小さな子供の頃だもの最後に会ったのは」

 

子供の頃・・・椎名の家にいた頃か姉さんに連れられ世界を回っていた時かにもよるが・・・

名前を聞けば思い出せるかもしれない

 

「君の名前は?」

 

「私の名前は山洞紅葉(さんどうくれは)」

 

どことなく表情に乏しい感じのする表情にその名前・・・山洞・・・おい!まさかお前!

 

「まさか秋葉の・・・」

 

少女はくすりと笑い

 

「お久しぶりです。兄さん。大嫌いな姉、山洞秋葉に変り兄さんの近衛の任を任されました山洞紅葉と申します」

 

すっと少し頭を下げてとんでもないことを言い放った。

だから兄さんって何!

 

 

 

               ±

 

「受難は続くってことだね」

 

とアズマリアはビルの屋上から見下ろしながら笑顔で言った。

 




というわけでかなめVS優でした!
かなめにはオリジナルの先端科学の剣を使うことも考えてアイディアを練っていたのですがまあ、この戦いで出す必要もないと思いますのでw

サード編は裏では当然原作に近いことをキンジが消化していくのですが今回から登場した山洞紅葉に優は振り回されることになるかと思います。

この子はオリジナルのキャラの山洞秋葉の妹ですが何やら姉とは確執がある模様
それに秋葉の妹ということは当然、あの因縁も必然的に優はかぶることになります。

果たして山洞紅葉と優の関係やいかに!
そして、秋葉は!

そして、兄さんってなんだw

次回も土曜か日曜目指して頑張ります!
暑いですがw

ではでは


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第256弾山洞紅葉

1週間に1話投稿守れてるなんて奇跡です


さてどうしたものか・・・

流石にさっきの場所で立ち話をするのも何なので近くのファミレスに移動したのだが

 

「それで山洞...」

 

「紅葉でいいわ。秋葉は名前で呼んでるんでしょ?」

 

まあ、確かにそうだな

 

「じゃあ紅葉。さっき件と暁家の件だが改めて礼を言う。ありがとう」

 

「それについては希さんに言って。暁家での救援は希さんが自分が突入することが制約上できないから私を呼んでいたの」

 

そういうことか・・・姉さんは屋敷の中でも戦える戦力を俺の潰された周り以外から呼んでいたんだな。あれ?でも、近衛ってことは椎名の家の援軍も封じられてたはずだが・・・

そういや、秋葉も無理やりついてきていたし・・・

 

「俺の近衛って言ったな。紅葉は椎名の家の近衛所属なのか?」

 

「答えはNO。私はあんな集団に所属していないし所属する気もない」

 

ん?なんかよくわからないこと言ってるぞこいつ。秋葉に代わり近衛ってことは当然所属は近衛のはずだが・・・

 

「じゃあ俺の近衛ってのは?」

 

「私は私の意志であなたの近衛になりたいそれだけよ」

 

「よくわからないんだが・・・」

 

「分からなくていいの。今はね」

 

話す気はないってことか?一応秋葉にお前俺の近衛やめるの?と実家で暁家の件で呼び出されている秋葉にラインを送ってきたが速攻で

『何の話ですか?』

と帰ってきた。

その後のやり取りから俺の近衛を解任されたわけではなさそうなのだが・・・

紅葉のことも送るべきか迷ったが今は黙っておこう。

 

「要は勝手に自称俺の近衛ってことか?」

 

「じ、自称?人をかわいそうな子みたいな風に言わないでくれる?あなたの近衛になるのは希さんが認めてくれたのよ」

 

あ、あのバカ姉!今度は何企んでる!

スマホでバカ姉をに電話すると珍しくすぐに姉さんが出た。

 

「おい!どういうことだ!紅葉の件だぞ!」

 

怒りに任せているが公共の場なので少し声を抑えて言うと

 

「おー、紅葉と会ったのか?」

 

「というより目の前にいる!しかも姉さんに命じられて俺の近衛だって言ってる!」

 

「そりゃ私が認めたからな。秋葉とW近衛だ。両手に花だな」

 

「いや、近衛の決定権は姉さんにないだろ?」

 

あくまで椎名の家に決定権があるはずだが・・・

 

「紅葉が言ってないなら私が言うことじゃないな」

 

「それはどういう・・・」

 

「優希。紅葉のことを信じてやれ。そして、救ってやれ」

 

救う?信じる?何を言ってるんだ?

そんなまじめな声で?

 

「ま!この前助けてやったんだから紅葉を近衛にするぐらいいいだろ。ちなみに当主代理には話は通してある」

 

母さんも承知ってことか・・・

前回の信冬の件でも椎名の家は姉さんに借りができた格好になるもんな・・・

一応姉さんは椎名の血筋だがもはや、娘として接触することも母さんはできないんだろうな。

 

「じゃーな!」

 

「あ!ちょっ!」

 

電話が切られたので慌ててかけなおすが電源を切ったようだあの野郎!

 

「話は終わった?」

 

にこりと紅葉が笑って言った。

 

「ああ、分かったよ。姉さんと母さんが認めてるなら問題はないんだろう。でも、兄さんってなんだ?それだけは聞かせてもらうぞ」

 

秋葉の妹で俺が紅葉の兄ってことは秋葉も妹ということになるなんてややこしいことはごめんだ

 

「私の師匠は希さん。兄さんの師匠も希さんって言ったらわかるかしら?」

 

ああ、そうかそういう意味か・・・

 

「つまり、紅葉は妹弟子ってことで妹なのか?」

 

「そう♪兄さんは兄弟子だから兄さん」

 

なるほど、少し繋がったぞ。紅葉が椎名の剣術を使っていた理由は姉さんだ。

姉さんが紅葉に剣を教えたんだろう

 

「私はずっとではないけど希さんに戦い方を教わっていたの。昔の兄さんみたいにね」

 

「ああ・・・」

 

姉さんは自身の戦闘は破天荒が目立つが実際細かい技も多数持っているのだ。

必要がないから使わないが当然、椎名の剣術も使える。

そして、人の潜在能力を引き出す修行のつけ方がすごくうまいのだ。

俺が子供の頃あれだけ戦えるようになっていたのは姉さんの影響も大きい

それを総合するなら紅葉はかなり強いと見るべきだろう

 

「話は分かった。お前が妹という理由もな」

 

「そう?じゃあ」

 

「だが、兄さんはやめろ。というかやめてくれ」

 

「いいけどじゃあ、なんて呼べばいいの?」

 

あっさり引き下がったな。まあ、ありがたいが

 

「兄さんじゃなきゃなんでもいいけど」

 

「じゃあ優ちゃん」

 

「却下!」

 

「なんでもいいって言ったのに」

 

不満そうに頬が少し膨らむ紅葉だが認められるか!

 

「ちゃんはやめろ!」

 

「じゃあ優ポン?」

 

なんで疑問形なんだ

 

「却下だ!」

 

「優たん」

 

「却下!」

 

「優トン」

 

「却下!変な名前はやめろ!優でいい!」

 

「はーい、じゃあ優で」

 

ふう。どうもこいつは気の抜けない奴だ。

変な名前を付けられたら後で誰に何を言われるかわからんからな

 

「私が優の近衛やるのは?」

 

少し不安そうだな・・・

だが近衛が増えるって俺の心労が・・・

だが・・・

 

『紅葉のことを信じてやれ。救ってやれ』

 

姉さんは確かにそう言った。

それに秋葉の妹ということは・・・

 

「一つだけ聞かせてくれ。紅葉は俺の過去を知ってるな?葉月さんのことだ」

 

「知ってるわ。でも、心配しないで優。私あの女のこと大嫌いだったから」」

 

「あの女って葉月さんのことか?」

 

「私はあの女と秋葉を絶対に許さない。もしかして、あの女を殺してしまったことを悔いているの優?心配いらないわ。私は恨んでいないしむしろ感謝してるくらい」

 

深い闇を見た気がした。

山洞紅葉・・・こいつは、扱いを間違えればとんでもないことになりかねないぞ

理由は・・・今聞くのはまずい気がする

 

「そ、そうか。分かった」

 

「近衛にしてくれるの?」

 

とほほだな。

もしゲームならここで選択肢が現れそうだ。

そして、しないを選べばBADエンド確定

神様よ・・・恨むぜ

まあ、最も俺の返事は決まっているんだが

 

「実家が認めてるならいい。秋葉とWになるがな」

 

「あんな女いらないわ。私一人で十分」

 

「そういうな。秋葉を首にするなんて俺はしないからな。それが俺の出す条件だ」

 

「むぅ・・・分かった」

 

ふう、何とか話はまとまったな。

さて、後は・・・ん?電話か?誰だ?

スマホを取り出してみるとキンジから?

 

「もしもし?」

 

「優!今お前どこにいる!学園島か?」

 

緊迫したキンジの声。なんかあったな

 

「いや、今は秋葉原だが何があった?」

 

「アリア達がやられた」

 

え?

 

「おい!どういうことだ?」

 

「宣戦会議の時に見たあいつだ。ジ・サード。アリア、レキ、理子、ワトソン、ジャンヌ、白雪がフォースってやつにやられたんだ。全員連れていかれ生死不明になってる」

 

「!?」

 

思わず目の前の紅葉を睨むように見る。

紅葉は黙ってこちらを見ているだけだが・・・

 

「キンジ、ジ・サードならさっき俺の前にも現れたぜ。フォースとも戦った」

 

「何!」

 

「何とか撃退したがな。アリア達が連れ去らわれた場所わかるか?」

 

「行くのか?俺もいく!一度学園島に戻ってこい!」

 

「そんな暇はない!俺が1人で強襲する!キンジは援軍として後から来てくれ!場所を言ってくれ!」

 

「分かった...」

 

キンジから場所を聞くとここから遠くはない。

だが・・・

 

「紅葉、知ってたのか?」

 

「何を?」

 

「アリア達のことだ。ジ・サード達がアリア達を襲った」

 

「サードが誰かを襲う気なのは知ってたわ。でも、それが優のいうアリア達だったというのは知らなかったわ」

 

「本当だな?」

 

「本当よ」

 

目と目が会うが紅葉の眼はそれない。

少なくても嘘を言っているようには見えなかった。

 

「俺はいくぞ」

 

「仲間を助けに行くの?」

 

「そうだ!」

 

敵は2人とは限らない。そして、時間はないと見るべきだろう。

つまり、援軍を集めている時間はない!

最短で俺のついてきてくれるのは・・・

一瞬、アズマリアの顔が浮かんだが駄目だあいつを連れて行けば下手すれば東京が壊滅する。

Rランク同士の戦闘はそれだけ可能性がある。

姉さんは電源切ってるし

ならば・・・

 

『紅葉を信じてやれ、そして救ってやれ』

 

姉さんを信じるぞ

 

「紅葉!力を貸してくれ!仲間を助けに行く」

 

紅葉は意外そうな顔をしてから嬉しそうに

 

「分かったわ優!任せて」

 

俺に頼られたのがうれしいのか?

だが、なんにせよ今はみんなを助けないと

待ってろよジ・サード!フォース!俺の仲間を傷つけやがって絶対に許さねえ!

そして、必ず全員救い出す!

そう決意し俺は立ちあがった。

アリア達を助けに行くために

 




というわけでなんとか今週も更新しました!
ネット小説にありがちなのは短く短期間で短く投稿
そんなパターンになりつつありますがやはり、満足いく文量となると時間かかりますからね(笑)

というわけでまた来週!来週?いけるかな(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第257話 紅葉VSジ・フォース

新年あけましておめでとうございます!


キンジから連絡を受けた俺と紅葉はジオ品川と呼ばれる場所を伺っていた。

アリア達が囚われている場所を解明したのは中地空だ。

音だけで場所を解明しキンジに伝えていたらしいが場所を探す手間が省けるのは大きい。

キンジにサードは1時間に1人殺していくと伝えている。

移動時間を考えるとぐずぐずしている暇はない。

ジオ品川はバブル期に建てられ打ち捨てられていた穴に再開発と称して建てられた複雑な場所だ。

無法者の巣窟でもあるので決して油断していい場所ではなくおまけに、中では電波が悪いため外との連絡は難しい。

後詰めにキンジが来てくれるがサードがRランクということを考えれば可能な限り援軍を呼びたいところだがそれは紅葉に止められた。

 

「サードはね。そういうことをされるのを好きじゃないわ」

 

「刺激するなってことか?」

 

「あいつはね。熱い男なのよ。見た目は乱暴だけどね」

 

「タイマンで決闘でも申し込めってか?」

 

「多分、喜んで受けると思うわ。本気の決闘になると思うけど・・・」

 

そういう暑苦しい男はまあ、嫌いじゃないが・・・

アリア達をあんなにした以上ただで済ます気はない

決闘なんて悠長にしている暇なんてない。

アリア達を一刻も早く病院に連れて行かないといけないんだ

だが、短時間でサードを沈めるのはおそらく不可能だ。

サード一人ならどちらかが足止めし救う手もあるがあちらにはフォースもいる。

 

「紅葉、サードの仲間はフォースだけか?」

 

「数人、日本に来てるはずだけど詳細は知らないわ」

 

最悪サード側に援軍もありうるってことか・・・

せめて、1度引いてキンジと合流してから強襲するべきか・・・

いや、そんな時間はない

緋刀が使えない上時間がないなら出たとこ勝負でいくしかねえ

 

サードがいるとされるビルは少し他より豪華な外装だ。

正面入り口は封鎖されてるのでワイヤーで2階に上がり階段で8階まで移動する。

キンジの話ではここの屋外劇場のアリア達は囚われているらしい

紅葉に突入を伝えてからドアを蹴破って突入する。

 

右手に紫電、左手にガバメントの1刀1銃スタイルだ。

瞬時に姉さんにも褒められた空間識別能力でこの空間を把握する。

薄暗いが天井は露天だ。

正面の舞台の上にアリア達が重なるように倒れているように倒れているのが見えた。

だが、すぐには立ち寄らない。

獲物を前に罠を仕掛けるのは常套手段だ。

 

「出てきやがれジ・サード!いるには分かってるんだ!それとも俺が怖いのか!」

 

「誰に言ってるんだ椎名」

 

客席の最前列にそいつはいた。

凄みのある声だが引いてはいけない

 

「お前に言ってるんだよ。アリア達は生きてるんだろうな!」

 

「殺しちゃいねえよ。ワシントンコロンビア特別区法5509、上院法8809ワシントンDCよりライセンスを取得した武偵はいかなる状況においても人を殺してはならない。まあ、俺たちは付則で認められてるからいいっちゃいいんだけどな」

 

気づかなかった...

中央客席2列目。

いつ現れたかサードがいる。

フォースはどこだ?

 

「あたしを探してる?」

 

声の方は舞台上の照明用レールの上

先ほど戦ったフォースがいた。

これで役者はそろったな。

 

「アリア達を返せ。こちらが言うのはそれだけだ」

 

「まだ、全員じゃねえな」

 

サードはそう言いながら舞台に腰かけて足を組む

 

「アリア達を返してほしいなら力を見せてみろ椎名」

 

「お前をぶっ飛ばせってことか?」

 

「ハハハ!俺が出るまでもねえよ。フォース!」

 

「今度は殺していいの?」

 

「ああ、いいぜ」

 

来るか?

覚悟を決めた時、俺の前に紅葉が立つ

 

「サード、言ったよね。この人には手を出さないでって」

 

「そういうなよ。紅葉。軽い時間つぶしだ。それとも、お前の主人はフォースに負けるようなやつなのか?」

 

「・・・そんなわけがない。でも戦うなら私が戦う」

 

「お前が? ハハハ、そりゃ面白い話だな。お前が勝てばこいつら連れて行っていいぜ」

 

「あたしはいいよ」

 

「というわけだけどいい?」

 

流れ的に紅葉とフォースが戦うのか。紅葉の力を見るいい機会なのかもしれねえが

 

「俺が戦わねえ理由にはならねえなサード」

 

なら俺はサードと戦うだけだ

 

「それはやめといたほうがいいよ。こんな空間でサードが戦ったら私たちはともかくあそこで倒れてる全員がただじゃすまない」

 

「っ!」

 

そうだな紅葉の言うとおりだ。ここでRランク級と激突するのは可能なら避けるべき・・・なら

 

「分かった。頼む紅葉」

 

「任されたわ」

 

そう言ってフォースと対峙する紅葉

フォースが持っているのは例の武器破壊の剣だ。

対する紅葉は俺と同じく日本刀

少し笑みを浮かべながらキンと左手で鞘から少し刀を出しつつ

 

「相手してくれるかしらフォース」

 

「いいよ紅葉。いつかの決着ここでつける?」

 

「できるのかしら?」

 

紅葉のその言葉が戦いの合図だった。

フォースが地を蹴り先手を取り武器破壊の剣を横殴りに振るう。

紅葉はそれを横に飛んでかわしつつ空中から鞘から剣を音速で抜き放つ

 

「飛流1式風凪!」

 

高速で抜き放つことでかまいたちを発生させる椎名の剣

武田の時にも見たがやはり教えたのは姉さんか!

 

「はっ!そんなおもちゃじゃだめだよ!」

 

かわすまでもないらしくフォースの前に布のようなものが盾のように展開され紅葉のかまいたちを完全に防ぐ

 

「でしょうね」

 

トンと地面に降りた紅葉のそのままフォースに向かい突進する。

盾で一瞬視界を奪われていたはずだがあのヴァイザーに熱感知機能でもあるのだろう。

紅葉の攻撃を読んでいたフォースは再び武器破壊の剣を紅葉に振るう。

 

「・・・」

 

間合いに入っていた紅葉がその剣を日本刀で受けると激しい火花が飛び散った。

まずい!武器を破壊されるぞ!

 

「離れろ紅葉!武器を破壊される」

 

「もう遅いよ!」

 

フォースが勝ち誇ったように笑みを浮かべるが紅葉の顔に焦りはない。

 

「ええ、そうねもう遅いわ」

 

そういった瞬間、何が起こったのか分からなかった。

瞬きしたぐらいの瞬間にフォースの剣が弾かれ吹き飛ばされてホールの壁に突き刺さった。

同時にフォース自身も吹き飛ばされ派手な音を立てて暗闇の中へふっとんでいたのだ。

何が起きたんだ?

 

「サード。これで私の勝ちってことでいいかしら?」

 

「・・・」

 

サードはフォースが吹っ飛んだ方を睨むように見ている。

 

「ちっ」

 

サードが舌打ちした。

これで勝負ありか?

 

「痛いなぁ」

 

そういいながらフォースが闇の中から出てきた。

ボディースーツのせいでダメージがあるのか判別できないが戦闘不能にはまだ遠そうだ。

 

「あらフォース。いいのよ寝てて」

 

「冗談。これからが本番だよ」

 

ずるりと闇の中から金属の何かが取り出された。

武器破壊の剣じゃない!?

紫色の禍々しい印象の剣だ

 

「気をつけろ紅葉!あの剣ただの剣じゃねえぞ!」

 

紫電や震電のようなものではないだろうが武器破壊以外の何かを持っているのは間違いない。

 

「問題ないわあの程度の武器」

 

紅葉が言った瞬間、フォースが先に仕掛けた。

紫の剣を間合いを詰めて横殴りに振るう。

紅葉はそれを冷静に見極め刀でそれを迎撃した瞬間、閃光がバチっと音と共に走る。

今の音電気か!

あれは電気を纏う剣なのか!

日本刀沿いに感電すると思われたが紅葉は刀を離さずに剣を受け続けてる。

 

「やっぱり効かないねあんたには」

 

フォースもこの結果は理解していたらしく紅葉を睨みながら言った。

 

「2回目だもの。当然対策はしてるわ」

 

そう言っている紅葉が使っているのはおそらくは刀気だ。

雪羽さんに俺は教えてもらったが紅葉は姉さんからか

 

「これで終わりかしら?」

 

「終わり?違うね」

 

フォースの左手が背部に伸びて何かを抜き放った。

 

「っ!」

 

紅葉が後ろに飛ぶのとそれが紅葉のいた空間を薙ぎ払ったのはほぼ同時だった。

ぱっと紅葉の着ていた上着の一部が切り裂かれて地面に落ちる。

 

「危ないわね」

 

破れた服を恨めしそうに見ながら少し怒った顔で紅葉が言った。

 

「それレーザーブレードって奴かしら?」

 

「正解。よくかわしたね紅葉」

 

フォースが左手に持っているのは光の剣だ。

筒上の形のものから光が伸びている。

映画で言うならライトセーバーみたいな武器か

多種多様の武器使いか・・・厄介だな

 

「ほら行くよ!」

 

攻守が入れ替わる。

フォースのレーザーブレードは伸縮が聞くらしく間合いが読みづらい

俺の場合だが剣士と戦うときは相手の剣の長さを瞬間的に把握して回避し反撃のパターンを繰り出す。

伸縮可能な武器が相手だとそれが難しい

 

「大道芸が趣味だったかしらフォース」

 

「いつまで軽口たたえていられるか見ものだね!」

 

紅葉は日本刀でレーザーブレードを捌き回避に専念しているが避けているだけでは勝てない

 

「紅葉!」

 

ここは加勢するべきかと紫電に手を持っていこうとするが殺気を感じて手を止める

ジ・サードだ。

俺が紅葉に加勢したら自分も参戦すると殺気で語ってきやがった。

どうするか一瞬、悩んで紅葉に任せることにする

 

一言で回避するといってもフォースの攻撃は早い

それを捌いている紅葉の実力は疑いようもなく最低AランクおそらくはSランク級だろう

 

「いいがげんに!」

 

当たらないのに業を煮やしたのかフォースの攻撃が上段から叩きとおしの大振りになる。

それを紅葉はすっと横に飛んでレーザーブレードが空を切った。

 

「しま!?」

 

いくら伸縮自在とはいえ横によけられたら伸びてみ意味がない

ピタリと紅葉の日本刀の先がフォースの首筋に充てられた。

頸動脈、終わりだ

 

「終わりね。先端科学の剣は面白いけど剣と剣の戦いの技術は私が上。能力がわかるなら対処方は私にはすぐわかる」

 

「くっ!」

 

フォースの口元が怒りで歪む

だが決着はついた。

今の戦いで分かったがフォースはまだ、未熟場部分がある。

そこを冷静に対処すれば俺も負ける相手ではないだろう

だが、分かったのは・・・

 

「?」

 

こちらをみて笑みを浮かべた紅葉・・・

こいつはかなり厄介だ。

もし、敵に回れば勝てるか分からない。

少なくても緋刀なしでぶつかるのは遠慮したい相手ではある。

それに、今の戦いで紅葉は本気を出していないしステルスかは分からないが何か得体の知れないものを持っている。

秋葉の力を考えれば風が妥当だろうが

 

「サードこれで勝負ありでいい?」

 

「ああ」

 

サードは小さくいってから

 

「だが、紅葉時間切れだ」

 

「時間切れ?」

 

サードが黙ってみている方角を全員が見ると

 

「キンジ」

 

ベレッタを手にしたキンジがそこにいた。

 

「時間切れか」

 

紅葉が刀を鞘に納める

フォースが身震いしている。

負けて怒っているのか?

だが、視線・・・バイザー越しだがそれはキンジに向いているぞ

 

「やっぱり・・・・サイコー・・・背徳ぅ」

 

「フォースヴァイザーを外せ、遠山キンジの技は俺に似ている。記録に残すな」

 

フォースがヴァイザーを外す。

美少女だが14~15歳くらい瞳は青みがかかった深海色

その目線は俺達には興味がないようにキンジのみに注がれている。

ここで、キンジに話しかけるのは嫌なんだが・・・

 

「キンジ1回しか言わないから聞けよ。まず、アリア達は大丈夫だ。死んではいない。さっき、フォースと紅葉が戦った。

紅葉ってのはあの子で一応は味方だ。紅葉がフォースと戦って勝てばアリア達は解放という流れだったんだがお前が来て時間切れ宣言されたという状況だ」

 

「理解しかねる状況だな。なんであいつが俺をあんな目で見るか知ってるか優?」

 

「さあ?理解できん。分かってるのはお前に興味津々ってことだな」

 

サードとフォースが何か言ってる隙にキンジと話を合わせる。

 

「状況は3対2だ。お前がフォース、紅葉がサードを抑えて俺がみんなを救出して

脱出いいな」

 

「分かった」

 

素早く行動をまとめて準備をしようとした時

フォースがこちらに突撃してきた。

狙いはキンジだろうから俺は後方に飛んでワイヤーで一気に行動に移そうとしたのだが

 

「会いたかったよお兄ちゃん!」

 

稲妻のようなフォースのローキックがキンジの右ひざにさく裂した。

お、お兄ちゃん?

キンジが転倒し床に転がる。

 

「キンジ!」

 

紫電を手にしフォースを引きはがそうと地を蹴った直後猛烈な殺気を感じ紫電をそちらに向けるとジサードが目の前にあった。

拳と紫電が激突する。

 

「邪魔すんじゃねえぞ椎名」

 

っ!

無理な体制から防御したためたまらずぶっ飛ばされる。

崩れていた壁から体が投げ出される。

この高さで普通にたたきつけられたら死ぬ!

ワイヤーで落下を防ごうとするがサードの1撃で手がしびれて感覚がない。

死ぬ!そう思った瞬間崩れた壁から紅葉が飛び出してきた。

落下する俺をキャッチするとワイヤーを投げてうまい具合に突起物に絡ませた。

だが、ダメだ!突起物がガキと音を立てて折れたのだ。

 

「嘘!!」

 

想定外だったのか紅葉の驚いた声。

このままじゃ2人して死ぬぞ

 

「紅葉!」

 

俺の腰の携帯用ワイヤーを使用するように言おうとしたが駄目だ間に合わねえ!

その時、紅葉はぎっと歯をかむようなしぐさで小さくつぶやく

 

「リミッター解除」

 

発砲音がし、地面にたたきつけられる寸前それは起こった。

体が包まれるような感覚と共に急減速し普通に転倒したぐらいの勢いで地面に落ちる。

 

「痛ぇ!」

 

だが、少なくても衝撃ははるかに弱い。

軽い擦り傷程度はしたが死の高さだったことを考えれば・・・

それに今の感覚は俺のよく知るステルスだ。

だが、その本人ではないとすれば・・・

 

「紅葉」

 

俺の前に背中を向けて着地した紅葉は振り向かない。

いや、黙って静かに振り向いた。

その手には銃が握られている。

 

「試作型のステルス弾。魔封弾と優は呼んでるようね」

 

風のステルスを内包した銃弾。

武偵弾ではない新しい規格のものだが現在俺たちがテスト運用していただけのはず・・・

いや、姉さんか・・・

元々、魔封弾の職人を紹介してくれたのは姉さんだ。

紅葉に渡してテストしていたとしても不思議ではない。

 

「お前も持ってたのか。助かった」

 

「いいの。優には死んでもらったら困るから」

 

紅葉そう言いながら上を見上げる。

 

「紅葉戻るぞ。キンジが心配だ」

 

ヒステリアスモードじゃないキンジじゃ多分、フォースには勝てない

そう思った時、建物の入り口から人影が見えた。

紫電に手をかけるが

出てきたのは白雪をおぶったキンジ、そして後から拉致された全員を担いだフォースが出てくる。

 

「キンジどういうことだ?」

 

「事情は後で話す。今は全員を病院に連れて行くぞ」

 

とりあえず・・・交戦状態ではなくなったってことか?

 

「分かった。救急車の手配を・・・」

 

スマホを取り出そうとして

 

「それにはおよびません」

 

声のした方を見ると黒塗りのハマーの横にいた白髪の男がお辞儀していた。

フォースの仲間か?

そいつはフォースと少し話をして

 

「遠山様と椎名様はご自分のお車で自宅に戻られますかな?これより武偵病院へみなさんをお送りしますが」

 

「悪いが信用できない。お前らの手は借りねえよ」

 

「非合理ぃアンガスは武器なんか持たないのに」

 

「失礼ながら椎名様。あなたは早く皆様を病院に運ぶべきと考えておられる。

車を呼ぼうにも何かあれば巻き込むことになるためそれも難しいのでは?」

 

アンガスと呼ばれた男が言うのも一理・・・

こいつらに従うしかないのか・・・信用できないこちらに・・・

サードは去ったようだが状況はまだ、余談を許さない状況だ・・・

こんな時に・・・

 

「それには及ばない」

 

声にはっと振り向くと思わず笑みを浮かべた

 

「鈴さん!」

 

麦わら帽子にマントをいう奇抜な恰好の無表情の鈴さんがそこにいた。

しかも、後ろにはハイエース

俺が信頼する姉さんの仲間の1人だ

 

「全員乗れる」

 

すっとハイエースを指さす鈴さん。

用意よすぎ!

 

「これは私の立場がありませんな」

 

アンガスもこれは参ったという表情だ。

 

「非合理ィ」

 

フォースは鈴さんを睨むように見る。

鈴さんは無表情だが全く隙が無い。

この人は姉さんに並んで俺の前ではただの1度も負けたことはない。

手合わせも何度もしているが文字通り俺たちの数段上にいる人だ。

この人が負けるようなことがあればフォースには俺たちは絶対に勝てないだろう

 

「フォース様彼女は・・・」

 

「分かってる。これ積むよ」

 

ハイエースにアリア達を放り込むとアンガスの車にフォースが歩いていく

そして、振り返り

 

「じゃあね。お兄ちゃん今日はこれで一件落着ってことで」

 

フォースはキンジにいたずらっぽくウインクしアンガスの車で去っていった。

終わったのか・・・

車にアリア達を乗せて

紅葉もいくかと振り返ると彼女はいなくなっていた。

アンガスたちと行ったか別の場所に行ったのか・・・いずれにせよ近いうちにまた、会う気がするなあの子には・・・

 

鈴さんの運転で武偵病院に向かう途中

 

「ありがとうございます。鈴さん助かりました」

 

「気にすることはない。歳の支持」

 

ああ・・・そういえばあの人謹慎中だったね

 

アリア達をアリスのいる武偵病院に連れて行き俺がけがをしていないのは次は大けがする前兆だとさんざんなことを言われそうならないことを願いながら武偵病院を後にする。

アリスの診断では数日程度入院すれば問題ないそうだ。

 

「さてと」

 

キンジに中の状況を聞いたがジ・サード・・・相当にやばい相手だな

フォースも確かに油断すれば負けかねない相手だが通常状態でもおそらくはタイマンなら勝てる。

だが、ジ・サードは・・・

鈴さんに聞いたところあいつは世界中の紛争地帯や犯罪者の鎮圧など姉さんに似たことをしている。

戦闘経験も相当にあるだろう

本気で激突しなければ分からないが楽に勝てる相手ではないのは確かだ。

 

アリア達を攻撃した以上売られた喧嘩だ。

いずれ決着をつけてやる。

それは、そうと問題がもう一つ・・・

山洞紅葉だ・・・

秋葉の妹で姉さんの弟子で俺の妹弟子

当然椎名の家であいつに会ってるはずなんだが全く記憶にないんだよな・・・

秋葉に聞いてみる手もあるが紅葉の奴秋葉のことを嫌ってる感じだったし・・・

 

「うーん・・・」

 

スマホの連絡帳をスライドするが母さんは・・・嫌だな・・・慎吾おじさんなら知ってるか?

できれば、血のつながりがなく知ってそうな・・・

あ!

 

「あいつがいたな」

 

その名前を見つけて電話しようとして姉さんの言葉を思い出す。

紅葉を信じてやれ。そして、救ってやれか・・・

 

月詠なら確実に知ってるだろうがそれは紅葉を信じるとは言わない気がする。

とりあえず、成り行きに任せてみるか。

スマホを仕舞い災難を呪いつつ俺は寮へと足を向けた。

 

 




というわけでサード編の続きです。
私生活が忙しいので更新が遅いのはご容赦を!

今回はアリア達を救出する作戦でしたが紅葉の力の一端を知ってもらう部分でした。

このサード編で優はさらなる災難に陥りますが当然、この紅葉が重要な位置を占めてきます。
戦闘スタイルは優に限りなく似ているのは師匠である希の影響もあるのか?
今は頼もしい味方ですが災難にどうかかわるのか?

更新はのろまですが頑張ります!
ではでは


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第258話

今年初投稿?ぼちぼち書いてます


「なんだこれは・・・」

 

俺が自分の部屋に戻ってきた時に呆然と発生した第一声だ。

何も・・・ないのだ

個人スペース用のドアを開けてみるとそこにあるはずの俺の私物が1つもない

部屋を間違えた?と一瞬焦るがそんなわけがないと思い改めて全体スペースを見てみるとアリアがソファーに置いていたハート形クッションも白雪のタンスも理子の天井近くに達していた積みゲータワーも消えていた。

あるのは見おぼえあるキンジの私物だけ・・・

あれ?俺とキンジって同室だったよね?

泥棒?でも、キンジのものは残ってるし・・・

 

「・・・」

もう一度部屋を見てみるが俺のものもない。

教科書もないし私物も・・・

 

「おい、かなめ。お前俺の部屋に不法侵入したようなことを言っていたが」

 

「ここは遠山家だもん。遠山かなめがはいるのは普通侵入です。家族は住んでもいいの」

 

ん?キンジと・・・げ!

紫電を手に窓際に後退する。

逃げられるように烈風の起動キーを意識しながら

 

「フォース!おいキンジなんでそいつがお前といるんだ!」

 

「椎名優希。まだいたの?それと私の名前は遠山かなめだから」

 

かなめ?それが本名なの?いや、それはどうでもいい

 

「妹がお兄ちゃんと自分の家に戻ってくるのは当たり前のことだよ」

 

まあ、それは否定しないがお前は妹じゃないんだろ?

 

「優、ちょっと待て。かなめ、何か色々物がなくなっているんだが」

 

「あいつらのにおいがするものは全部捨てました」

 

ちょっと待てい!

 

「おい!俺の私物はどうした!まさか」

 

「ああ、捨てといたよ。あいつらのと違ってひとまとめだったからトラックで回収してもらったから」

 

「おい!」

 

「今頃燃えてるか埋められてるんじゃないかな?」

 

意地悪く笑っているじーふぉ・・・いや、かなめか?

こいつに構ってる場合じゃねえ!

スマホを取り出すとGPS受信画面に変えて反応を見ると・・・

あった!ああああ!やばい!

GPS内蔵の私物が中にあったから場所は分かったがゴミ収集施設だ。

 

「覚えてろ!」

 

悪役のようなセリフを言って窓から飛び降りPAD烈風を呼び出すと京菱の倉庫から飛び出してきた烈風を装着すると猛然と空中からごみ収集施設を強襲したのだった。

なんでこんな目に・・・

 

 

 

 

              ±

 

結論から言えば私物は何とか取り返した。

燃やす寸前だったのを烈風で強襲して停止させて物を取り返した。

俺のものなのだが違約金がどうとかで金をとられた・・・

俺が捨てたんじゃないのに・・・

とても持ちきれないので土方さんに相談して一時的に荷物を保管してもらうようにして業者の手続きを終える。

学校とかに必要な分は烈風の倉庫に置かせてもらった。

寮に送ったらまた、捨てられかねん。

 

そう、あのかなめとかいう奴、俺やアリア達の私物をたたき出してキンジと一緒に住むらしい。

つまり、寮を追い出されてしまったのだ。

ど、どうしよう・・・

泊る所はまあ、倉庫で寝袋で寝たらいいけど基本あそこは人が住めるようにはできていない。

秋葉も信冬も実家に戻っている。

友達に泊めてもらおうにもいつまでもというわけにもいかんし・・・

 

「・・・」

 

思わずスマホの武田信春の文字を見てしまう。

武田の権力使えば家の1つや2つポンと用意してくれそうだが・・・

いやいや、流石にこれは使えない。

実家にも頼りたくないしなぁ・・・

業者に依頼したりしたから財布は厳しいから自腹ホテルはきつい・・・

うーん・・・土方さんに頭を下げれば泊めてくれるだろうけど・・・

鬼のように怒る顔しか浮かばん・・・

寮を強襲し力づくでかなめを倒す手もあるがジサードの件もあるし激突は避けたい

うああああ!どうしよう!

頭を抱えて本気で悩んでいると

 

「助けてほしい?」

 

ん?この声は。

振り向くと予想通りだった。

 

「山洞紅葉」

 

「紅葉でいいっていったじゃない」

 

紅葉は少しむくれたような顔をして言った。

 

「助けるって言ったな。俺の状況分かってるのか」

 

「うん、ふぉー・・・いや、かなめだったね。優を追い出したってメールで知ったの」

 

さっき、戦ったばかりなのにメールする仲なのか・・・

 

「あの女と仲いいのかもしかして?」

 

「完全な仲間じゃないわ。一時一緒にいた時もあるし恩もある。かなめとも・・・まあ、友人?少しだけ仲間?」

 

「サードとは?」

 

「敵対はしてないわ。でも、優の敵になるなら敵よ」

 

「・・・」

 

それを信じていいのかは分からない。

姉さんはああいったがこの子はまだ、何かを隠してる気がする・・・

うかつに信用しすぎるのは危険だ。

いくら、秋葉の妹とはいえ・・・

だが今は

 

「分かった。で?どう助けてくれるんだ?」

 

「私の部屋来る?」

 

「却下」

 

そんなもの即答だ!レキの時は狙撃拘禁されていたから仕方なしだったが好き好んで女の子の部屋なんて行くか!

 

「別にいいのに」

 

「言いわけあるか!」

 

「レキって子の部屋には泊ったのに?」

 

「誰に聞いたんだよ」

 

「希さん」

 

あの姉・・・いつか倒してやる

100%返り討ちにあうだろうが

 

「・・・」

 

「どこ行くの?」

 

背後からの声にため息をつきながら俺は覚悟を決めた。

 

「闇の公務員のところだよ」

 

            ±

 

そして・・・

 

「で?もう一度言ってみろ優希」

 

「部屋を追い出されたから泊めてくださいお願いします」

 

情けないなんてもんじゃないが俺は土下座して頼んでいた。

公安0課で俺のせいでいろいろやらかして謹慎中の土方さんに

 

「ほう、てめえはまだ、厄介ごとを持ち込む気だな?」

 

灰皿にたばこを押し付けながら土方さんは言った。

や、やばい怒ってるよなやっぱり

というか俺にというよりは後ろの・・・

 

「初めまして土方様。希さんから話はいろいろ聞いてます」

 

と、正座してすっと上品に頭を下げたのは言わずもかな山洞紅葉さんだ。

ついてくるなと言ったのだが聞かなかった。

 

「山洞だと?」

 

ぴくっと土方さんの頬がひきつった気がした。

そして、俺をぎろりと睨む

ひいいい

 

「あ、秋葉の妹なんだ」

 

「あの女の妹なのは書類上のみよ」

 

余計なことを言うな紅葉ぁ!

 

「で?あの馬鹿とはどういう関係だ?」

 

「希さんは私の師匠です。優とは兄弟弟子・・・妹弟子にあたります」

 

「ややこしい問題を持ち込みやがって・・・てめえは今のジ・サードとどうからんでやがる?」

 

「ジ・サードとは全く絡みがないわけじゃありませんが仲間ではありません。希さんに確認してくれれば分かります」

 

「で?お前はこれからどうする?何を目的に日本に来た?」

 

「私は優の近衛になりたい」

 

その言葉だけは嘘偽りないと思えた。

紅葉のまっすぐな目が土方さんを見ていたからだ。

 

「優希の近衛は今は傍を離れているが山洞秋葉だ」

 

「承知しています。ですが、あれは優にはふさわしくないため私が優の近衛になります。私はそのために日本に来たのです」

 

そんな重要な話を・・・

 

「おい待てよ。だからその話は・・・」

 

「なるほどな」

 

ため息をついた土方さんだが、なんでため息!

 

「優希は少し泊めてやる。お前はどうする?」

 

「可能なら私もこちらで生活を希望したいと思ってます」

 

「いいだろう」

 

ちょっ!おい!なんか俺の意志関係なく話が進んで言ってるぞ!

 

「ひ、土方さん!俺の意志は!」

 

「嫌なら帰れ」

 

そ、そんなぁ

俺に選択の余地はないようだった。

 

「それとな優希。今回のジ・サードとの件俺の力は当てにするな」

 

「公安0は中立ってことですか?」

 

「違う。公安0はもうねえ」

 

「え?」

 

「前の選挙であの党が大敗して政権交代したの知ってるだろう?」

 

「ああそういえば・・・」

 

ニュースでやってたな・・・

 

「今回交代した党は公安0を嫌っててな。組織として解散という流れになった」

 

公安0は政府の命令で裏で言えないようなことをやっていたりしていたからな・・・

それがお気に召さなかったのか?

 

「はっきりえば日本の敵になる奴をつぶして回っていた俺たちが気に入らねえんだろ。あの党の奴らとも殺りあったこともあるからな」

 

ああ・・・それで余計そうなんだろうな・・・

 

「というわけで公安0ナンバー2の俺は永久謹慎。公安0の何人かは消されたり海外に逃亡したりと散々だ」

 

け、消されるって!

 

「公安0には問題児も多い。暴発を恐れたやつの判断だろう」

 

「じゃ、じゃ土方さんの危険なんじゃ・・・」

 

「俺は問題ねえ」

 

確かに土方さんは強いけど・・・

 

「俺を消したら希がどう動くか考えが回ればやらねえよ」

 

「理解しました」

 

そりゃそうだ。

土方さんは姉さんの仲間。

そして、土方さんが殺されただのという連絡が入ればまず間違いなく姉さんはブチ切れる。

あの党が自衛隊を差し向けても自衛隊を壊滅させてあの党の奴らは誰一人生かしておかないだろう。

まあ、それ以前に鈴さんや雪羽さん達でも倒すのにどれほど莫大な戦力を投入しなければならないのか想像するだけでも恐ろしい・・・

というか、鈴さんのステルスなら逃げられてしまうだけだろうが・・・

 

「まあ、だから無期謹慎ってことだ。生かさず殺さず」

 

「土方さんはどうするんですか?ずっと謹慎のままですか?」

 

「それはガキが心配する話じゃねえよ」

 

自分のことは自分でなんとかするといっているのだ。

まあ、俺がこの人の心配をするなんて100年早いか・・・

 

「分かりました」

 

そういえば紅葉に聞かれてよかったのか?

 

「この話は裏の世界ではもう、広がってる。ジ・サードも知ってるだろう?」

 

俺の心を読んだように土方さんが言った。

それにしても・・・

これからは公安0の支援は一切なくなると考えていいわけか・・・

前回も支援をかなり絶たれたが公安0の支援はもうないと考えるべきなんだろうな・・・

 

「相談ぐらいは乗ってやる。雪羽と鈴は公安0とは無関係だ」

 

ふーと煙を吐きながら土方さんが言ってくれる。

 

 

やっぱり俺は一生この人には頭が上がらないよ

 




お久しぶりな草薙です!

久々の投稿になりましたが今回は公安0が潰された話。
アリアの原作で公安0が解体された経緯があるのでいつかはやらなければならないので今回それをしました。
時期的にこれぐらいだと思うのですが・・・原作のキンジはこの頃、公安0とはほぼかかわってないので動きはわかりません。

もっとも、原作を読む限り殺されたり海外に逃亡したりした人もいるようですが獅童みたいに使われる人もいることからこんな感じに。
公安0を皆殺しみたいな感じなら土方さんを海外逃亡させなければなりませんでしたw
まあ、№2なら本来殺される可能性は高いですが作中通り世界最強の彼女が敵になるのもあの売国奴達も許容できないでしょうw
名前はあげませんがあの党とは言わずもかなあの党ですw

優の頼もしいバックの公安0は解体。
まあ、原作で旧公安0課となるわけですがその辛みはいずれ

なんだかんだで優はその気になれば武田の権力をフルに使えますし椎名の家も多少は力になってくれますから大丈夫なんですけどね。
武田の権力は信冬との結婚が確定するため最後の最後の切り札でしょうけどw

今年はもう少し更新速度を上げていきたいと思いますがのんびり読んでいてくれる人がいればお付き合いしてたまに感想をいただけると励みになります。

ではでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第259弾 壮絶なる修羅場

お久しぶりです!生きてますよW


いつもの、早朝訓練。

俺が土方さんの家を拠点にしたのは理由はいろいろあるがそのうちの1つがこれ

 

「私は魔弾。魔弾はただ相手を貫くのみ」

 

 

鈴さんの声と発砲音と共に意識を集中しその感じた場へ紫電を振るうがそれは空を切る。

背中の防弾ジャージに衝撃を感じて前へ1歩出るがそれで、俺は死んだ。

ひたりと金属の感触が首筋に当てられたからだ

相手がその気なら首を切られて終わりだ。

 

「ま、参りました」

 

「・・・」

 

スッと無表情に10代と言われても通じそうな容姿の鈴さんがナイフを引っ込める。

鈴雪土月花の鈴の鈴さん。

土方さんの・・・正式にはまあなんというか・・・奥さんというかなんというか

今日の早朝訓練には鈴さんが付き合ってくれているのだが・・・

 

「私に参ったと言わせるか時間切れまでやります」

 

そう、4時から始めたこの早朝訓練で俺はすでに7度殺されている。

分かっていたがこの人めちゃくちゃ強い。

当然姉さんには及ばないのだろうが空間跳躍射撃だけでも厄介極まりないステルスなのに接近戦も半端なく強い。

これで狙撃手とか嘘だろというレベルだ。

それでいて、汗一つかいていないいう・・・

俺はすでに汗だくなのに・・・

 

「緋刀の力に頼りすぎたつけ」

 

鈴さんが言うには最近俺は緋刀の能力に頼りすぎて剣士としての感覚が若干弱まっているらしい。

耳の痛い話・・・

 

「雪羽なら見切る」

 

この人の言う言葉は少ないのだが言っていることはわかる。

雪羽さんなら空間跳躍射撃を弾き鈴さんの接近を撃退できるといいたいのだ。

というのもこの距離限定なら

 

「雪羽の方が強いです」

 

それが義手になる前か今もなのかは分からないがいずれにせよ俺はまだまだ、怪物のレベルには至っていないらしい・・・

 

「当然歳にも勝てない」

 

ですよねぇ・・・

鈴雪土月花全員伝説級の強さですし・・・

武の世界にいるのやめようかなと自信を打ち砕かれるレベル・・・

この人たち姉さんがいたとはいえ本気で侵略しに来たソ連軍を外国で撃退してるし・・・表の歴史にはそんな記述はないが裏の世界では伝説級の話として一部では語り継がれている。

直後にソ連が崩壊したためソ連はこの人たちに滅ぼされたとまで言われているが

これは偶然。

同じことを俺ができるかと言われれば絶対無理

何なのこのチート集団ってのがこの人たちわけなんだけど

 

「跳躍射撃もお話にならない」

 

「う・・・」

 

武偵弾であり俺たちの仲間限定のステルス内包弾。通称魔封弾の鈴さんのステルス。

ありえない場所に銃弾を撃ち込めるのだがこれを使うのはかなり大変だ。

これをメインステルスにして戦えと言われても正直俺には無理。

そもそも、この魔封弾は相手の虚を突くことは可能だが正規には勝てない。

炎のステルス使いに炎の魔封弾で戦っても絶対に勝てないというわけ。

付け焼刃のステルスではそれを極めた連中には通じないということだ。

当然、鈴さんにも空間跳躍射撃を見てもらっているのだがはっきり言えばまったく通じない。

まあ、当たり前なんだけど・・・

鈴さんの言葉はぐさぐさ来るものばかりだな・・・

 

「でも筋はいいし才能はある。多種多様戦闘スタイルを使いこなしてるのは相手にとっては脅威」

 

「ありがとうございます」

 

俺の戦闘スタイルは基本は刀だ。

それにワイヤーや銃を使い。切り札に緋刀という感じ。

 

「同世代が相手なら簡単には負けない」

 

同世代か・・・正直俺の世代の奴らって化け物だらけなんだけどな・・・

信冬や秋葉、それにキンジ達バスカービルのみんなだって本気でやりあいになったら勝利は簡単なことじゃないし

まあ、それぞれ戦い方が違うんだけど

そういえば・・・

 

「鈴さんはジサードと戦ったことありますか?」

 

「戦ったことはない。戦いを見たことはある」

 

「俺とジサードはどちらが強いですか?」

 

「どちらともいえない」

 

答えてはくれないか・・・

 

「サードのことを知りたいの優?」

 

振り返ると庭に武偵高制服を身に着けた紅葉が歩いてくるところだった。

っておい!

 

「武偵高に入学するのか?」

 

「そうよ。優の近衛になるんだから。学年も同じ2年。クラスも同じにしてもらった」

 

なんてこった・・・つうかまた、俺のクラス転校生がくるのかよ。何人目なんだ。

ここまでくると裏技的な何かを感じる・・・

水もそうだったし秋葉も・・・信冬も・・・

まあひとまずそれは置いといてはっきり言っておくか

 

「あのな紅葉、俺の近衛は・・・」

 

「サードと優。勝つのはサードよ」

 

秋葉なんだと言おうとしたら遮られた。

まあ、言う機会はいくらでもあるか・・・サードのことも聞いておきたいし

 

「緋刀状態で戦ってもか?」

 

「殺し合いなら多分、優が勝つ。武田信春に使ったあれを使えばね」

 

緋緋因光斬のことか・・・

あれはチートにもほどがあるが確実に相手を殺してしまう技なので武偵の俺には使い道が難しい。

殺しのライセンスは持っちゃいるが非殺傷バージョンの開発も今のところ形にはなっていない。

未だにあれは殺人技だ。

 

「武偵としてサードと戦うなら勝ち目はない。サードは対人戦では私の知る限り無敗、少なくて同世代では最強クラスかもしれない」

 

今までもぎりぎりの戦いの連続だったが・・・サードとは交戦は避けるべきなのかもしれんな・・・

 

「戦闘スタイルは接近戦。拳での戦闘スタイル。拳は剣より強いはサードの言葉」

 

格闘家ってことか・・・

あまり戦ったことがないタイプだな

 

「可能ならサードとは戦わないで。仲介が必要なら私が間に入るわ」

 

「考えとく」

 

強い相手には話し合いで解決・・・それも選択肢の一つだ。

サードもそうだがフォース・・・いや、かなめだったか?

その問題もあるしなぁ...

あ、そうだ一応聞いとこう

 

「姉さんとサードはなら?」

 

「そりゃもちろん希さん」

 

そうだよなぁ・・・ちょっと安心

これでサードが姉さん以上とか言われたら勝ち目なんてない

 

「あれ?そういえば紅葉なんでいるんだ?泊めてもらえなかったんだろ?」

 

昨日あの後、紅葉は泊まることを辞退し家を去った。

俺たちには止める理由も見当たらなかったので帰したのだが再び土方さんに許可をもらい入ってきたのだろう

 

「バイク通学なんでしょ?学校の場所教えてほしいの」

 

               ±

 

女子とバイク通学。

彼女のいない俺だが結構色んな子としている。

アリアやレキ、秋葉もそうだ。

そういやアリスともしたな。

 

「ありがとう」

 

駐輪場で フルフェイスのヘルメットを取り紅葉が言う。

隼で女子を載せて通学すると否応なく声が聞こえてくるのだ。

 

「おい、椎名また、女変ってるぜ」

 

「うわぁたらし椎名また?」

 

「今度はどこの子だよ?見た覚えねえなぁ」

 

「ちっ、しかも可愛い女子かよ」

 

「椎名ぁ!会長に報告しなくては」

 

と、あちこちから聞こえてくる声に俺はうんざりだよ」

 

「優って女をひっかえてるの?」

 

「あいつらの言うことは気にするな俺は彼女いない歴=年齢なんだ」

 

泣きたくなるセリフだが仕方ない

 

「彼女欲しい?」

 

「どうだろうな?欲しくないといえばうそになるが・・・」

 

今の状況で彼女作ったらどうなるか・・・

うーん分からん

 

「それよりマスターズに行くんだろ?ついて来いよ」

 

そう言って並んで歩きだすが

 

「私がなってもいいわ」

 

「いきなり何言うんだ・・・」

 

「近衛は場合によっては世継ぎを作るために・・・」

 

「ああ、分かった、。言わなくていい」

 

つまり、まだ認めてないけど近衛としてってことか・・・

 

「俺はそう言った目的で近衛の連中を見てないんだよ」

 

「誰か本命がいるとか?」

 

「ああ・・・」

 

一瞬、アリアの顔が浮かぶが残念がら失恋済みなんでな

 

「今はいない」

 

「今は?前はいたの?」

 

「はぁ?なんでそうなる」

 

「もしかしてあの子?」

 

この子があの子ってことは・・・

 

「いや、秋葉じゃないぞ」

 

「私は秋葉なんて口に出してないわ」

 

墓穴を掘ったわねという顔に少し慌てて

 

「ちょっ!違うぞ!秋葉はそんなんじゃない」

 

「じゃあどういう存在なの?」

 

「秋葉は・・・」

 

あいつは俺の命に代えても償いをしないといけない奴・・・

だが、それを言うなら紅葉もだ・・・

葉月さんとこの子は確かに親子だ。

そういった意味ではこの子も秋葉と同じ

そういう意味では

 

「紅葉と同じで俺にとってはかけがえのない子だよ」

 

「っ!」

 

ぼっと音がしそうなくらい瞬間的に紅葉が赤くなり顔を背けた。

あ、あれ?俺なんか間違った?

 

「私もかけがえのない存在なんだ」

 

「? あ、ああ」

 

「フフフ、そうなんだ♪」

 

なんか雰囲気が・・・

 

「紅葉?」

 

紅葉ははっとしたように慌てて

 

「なんでもないわ」

 

と元に戻る。

今の違和感・・・いや、確信がない状態で言う必要はないな

うお!なんか突風が後ろから・・・

 

「今のどういうことですか優君」

 

風が冷たくなっていくジャンヌの氷のように・・・

 

ギギギと機械のように振り返るとそこには武偵高制服姿で無表情に・・・だが確かに激怒している俺の近衛秋葉さんがいた。

う、うん曹操が逃げまくって関羽に遭遇した瞬間ってこんな気分だったんだろうなぁ・・・

げぇ!関羽ならぬ秋葉だけど・・・

 

「よ、よう秋葉戻ったんだな」

 

「さっき戻りました。連絡を受けていたので直接学校に来たのですが聞き捨てならない言葉が聞こえましたので」

 

「ち、ちなみにどこ?」

 

「紅葉は俺にとってかけがえのない子だよというところです」

 

微妙に違ってない!ねえ違うだろ!

 

「ま、待て!秋葉お前は誤解してるぞ!」

 

「誤解?何を誤解してるんですか?」

 

ごおおと風が荒れ狂う。

この周辺だけけが台風のように風が荒れ狂っている。

だが声だけが聞こえるのは調整しているのだろう

 

「く、紅葉はな」

 

「優のかけがえのない存在よ」

 

そういってそっと抱き着いてくる紅葉

おいこら!

 

「・・・」

 

ひいいい!無表情に風を強めないで秋葉さん!

 

「諦めたらどう秋葉?優は私を選んだの」

 

「どういう意味ですか?」

 

「分からないの認めてはいないけど姉なのに」

 

「事情は理解してます。ですが今は優君に聞いてるんです」

 

ぎろりと無表情ににらまれ俺は内心で悲鳴を上げる。

どうすりゃいいんだよ!

 




というわけで未だにサード編をさまよう男草薙です!

このサード編辺りから緋弾のアリアはいろんな方面に広がっていくんですが同じように優もこれまでと同じ原作沿いではなくたまに違う問題にぶつかることになります。

もちろん、原作とほぼ同じ戦いは起こるのですがそれはまた、違う場所。

今回のサード編はキンジ達はもちろん、サードやかなめと絡んでるルートを通るのですが優は山洞姉妹の問題でぶっちゃけますとサードやかなめどころではなくなりますW

まあ、もちろんなんの絡みもないわけではなく原作通りキンジとサードの戦いの近くにはいきますよ!

さて、もう見てくれてる人がいるのか疑問ですが(毎回いってるなW)
姉妹に挟まれて今回も大ピンチの優君の明日はどちらだ!

姉妹丼という幸せルートは次話にはありません!

ではでは


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第260弾 翻弄される椎名優希 

どうも!1年ぶりです!


状況を説明しよう。

俺は転校してくる紅葉を学校にバイクで連れてきて雑談しながらマスターズに向かおうとしたら実家に戻っていた秋葉が帰ってきた。

 

「それでどうしてこうなる!」

 

駐輪場の前にある校庭で2人の姉妹が対峙している。

俺の近衛の秋葉と俺の近衛と言い張る紅葉

2人とも完全にやる気だ。

 

「おい!やめろ2人とも!」

 

「優君は黙っていてください」

 

「そうね。これは必要な戦いなの優」

 

俺の言葉を全く聞きやがらねえ!

というかこの状況まずいぞ、もしマスターズがかぎつけてきてみろ。

殺されるぞ

いや、ここは武偵高。ある程度は許されるだろうが限度を超えてしまえばまずいことになる・・・

 

「久しぶりですね。紅葉」

 

「ええ、あなたに会いたくはありませんでしたけど」

 

「事情は月詠様から聞いています。ですが私は認めません」

 

「私も認めてないわ。仮の近衛じゃ意味がないもの。あなたを倒せば私は正規になれるのかしら?」

 

「あなたの意図が読めません。優君をどうするつもりですか?彼を傷つける気なら・・・」

 

「彼は私にとって大切な人。それは間違いないわ」

 

そう言って鞘から日本刀を抜いた。

1刀か・・・

 

「信じられません」

 

風を収め秋葉も槍を構える。

そういえばだれだったかが言ってた。今は璃璃色金の粒子が濃くてステルスが不安定になっていると秋葉の風も例外ではないらしい。

怒りでまとっていた風も収まっている。

璃璃粒子はステルスの制御を困難にする性質があるが発動自体ができないわけじゃない。

緋刀も使用していないから分からないが制御が困難になっている可能性もあるのだ。

だが、だからと言ってこの状況・・・

選択肢としては何個かある。

1、逃げる

これは何の解決にもならないし2人がどうなるかわからないから却下

 

2、助けを呼ぶ

残念ながら近距離にこれを何とかできる知り合いはいない。

 

3、説得する

これは絶対無理

 

とすると・・・4番だ!

 

「やめろって言ってるんだよ秋葉!紅葉!」

 

紫電と閃電を抜いて両刀を両者に向ける。

そう、無理やり制圧するしか道はない

というか、2人ともある意味俺を巡る争いだから俺に危険はないはず・・・ないよね?

 

「どいてください優君」

 

何その目!白雪みたいで怖い!

俗にいううヤンデレ目ってやつだぞそれ

 

「そうね。そこをどいて優」

 

俺が立ちふさがったぐらいじゃまったく戦うのをやめる気なしかよくそ!

 

「どかねえよ。お前ら姉妹だろ!姉妹同士で喧嘩するな!」

 

「心配しないで秋葉とはもう、姉妹でも何でもない。昔、姉だったというだけよ」

 

「月詠様から警告を受けています。紅葉は優君に害をなすかもしれないと」

 

互いに理由があるから引かねえか。

だが、今の会話で突破口が見えたぞ

 

「秋葉!月詠には俺が話を通す。だから、引け!」

 

「ですが・・・」

 

「紅葉!」

 

問答無用で秋葉の言葉を遮ると

 

「お前も秋葉と争うな。争うならお前は敵だ」

 

「・・・」

 

紅葉は何か言いたそうに俺を一瞬だけ見てすっと刀を引くと鞘に納めた。

そして、なんも言わずに背を向けて歩き出してしまう。

 

「紅葉!」

 

追おうとした瞬間

 

「くぉら!お前らなにやっとんじゃ!」

 

げぇ蘭豹!

誰か通報したのか知らんがここは逃げろ!

 

紅葉はすでに背が小さくなっており曲がり角に消えた。

秋葉もいつの間にか逃げている。

 

「ちょっ!」

 

あ、あいつら俺を見捨てやがった!

慌てて逃げだす俺だった。

 

 

 

 

             ±

 

「ひでえ目にあった・・・」

 

教室の机にぐったりとして突っ伏して言う。

あの後蘭豹を撒くためにマンホールに飛び込んで逃げ回りようやく撒いた。

蘭豹もいつまでも追ってはこなかったらしい

 

「よう。昨日は悪かったな」

 

顔を上げるとキンジが登校してきて自分の席に座るところだった。

 

「キンジか。まあ、じ、フォー・・・いや、かなめだったか?あいつのせいだし気にするな」

 

「かなめって名前をもう知ってるのか?流石だな」

 

「紅葉からな」

 

「あの子か。仲良くしてるのか?」

 

「うーん、ちょっと秋葉とのことで頭が痛いことになってるんだよな」

 

ちらりとクラスの女子と話をしている秋葉に目を向けてから

 

「山洞とか?どうしたんだ?」

 

まあ、キンジならいいかな・・・こいつ俺の実家のことも知ってるし

 

「紅葉は秋葉と姉妹なんだ。妹な」

 

「姉妹だったのか。それでなんで優が頭を痛めるんだ」

 

ちょっと驚いたように目を見開いてキンジが言う

 

「あいつら仲がむちゃくちゃ悪いみたいなんだよ」

 

「それは・・・厄介だな」

 

「過去に何があったかとか覚えていないのも手痛いんだよな」

 

俺の記憶に関してはただ単に忘れてる奴と姉さんの記憶操作のステルスも影響してるからどちらとは言えないんだが。

 

「問題は紅葉のこと俺、全然覚えていないんだよ」

 

秋葉がああいっている以上妹なのは間違いないはずなんだ

 

「直接本人に聞くか山洞に聞いてみたらどうだ?」

 

「うーん」

 

答えてくれるか?秋葉や紅葉に聞いてもはぐらかされそうだ。

姉さんは無理・・・

ジ・サードのこともあるがとりあえずしばらくはあいつの調査だなうん。

やることは決まった。

 

「まあ、こっちは何とかするよ。キンジはかなめのこと頑張れ」

 

少し違うが妹関連でお互い苦しむことになりそうだ。

 

「おーす!優、キンジ!聞いたか転校生がくるらしいぜ」

 

話は武藤と不知火が登校してきたのでそこで終わる。

 

で!

 

 

           ±

 

「山洞紅葉です。よろしくお願いします」

 

「うおおおお!」

 

朝のホームルームでの男子の奇声はいつものことだ。

このクラスの転校生率は異常すぎるんだからたまには違う反応しろよ。

 

「山洞さんの席は・・・」

 

「先生。私、優の近くがいいです」

 

ああああ!また、このパターンかよ!

案の定、主に男子から恐ろしい殺気がこちらに向けられる。

何なのこいつかわいい女の子とばかり知り合いやがって!死ね!という心の声が聞こえてくるようだ。

ちなみに俺の周りは知り合いだらけ

右はキンジでその向こうにアリア、俺の左には秋葉で後ろは信冬という感じ

ちなみに、アリアや理子たちは入院中なのでいない。

となると空いてるのは

 

「ありがとう」

 

前のクラスメイトと交代して紅葉が座る、

知り合いだらけでオセロならひっくり返るとことろだ。

 

「学校でもよろしく」

 

「ああ・・・そうだな」

 

これからのことを思うと頭が痛い。

あと一人転校してきたらキンジと交代してしまうんじゃないか?

 

               ±

 

さて、時は進み昼休みだ。

休み時間は質問攻めにあう紅葉を横目にスマホでできる情報収集してからいよいよ作戦の実行だ。

 

紅葉が声をかけるより先に飛び出して向かった先は

1年の教室だ。

目的の教室を覗くといたいた。

 

「おいじ・・・かなめ!」

 

一年女子に囲まれ談笑していたらしいかなめに近づくと

 

「話がある。ちょっと付き合え」

 

「私に話ですか?」

 

ん?なんか違和感感じるな。

こいつこんなに弱弱しい感じだったか?

 

「ああ、別に戦うつもりじゃない」

 

「えっと・・・」

 

困ったようなそんな顔だ。

なんだ?なんかの演技なのか?

 

「あの椎名先輩」

 

「ん?」

 

かなめの隣にいた1年の女子が口を開いてくる

 

「かなめちゃんに何の用なんでしょうか?」

 

「少し話をするだけだ」

 

「・・・」

 

俯いて少し怯えるような顔で後ずさるかなめ

 

「おい、行くぞ」

 

少しいらっととしたので手を掴んで歩こうとした

 

「きゃ!」

 

ちょ!全然力を入れてないのに盛大にこけたぞ

 

「痛いよう・・・」

 

と、要が涙声でそう言った瞬間、猛烈な殺気が俺に注がれる

このクラスの半分以上から発せられている殺気だ。

 

「大丈夫かなめちゃん!椎名先輩!先輩だからってかなめちゃんに手を出さないでください!」

 

「そうです!かなめちゃんに何する気ですか!」

 

「そうだ!かなめちゃんを守るぞ!」

 

騒然とする教室。

どうしてこうなった!

 

「・・・」

 

泣くふりをしながら舌をぺろりと出したかなめ。

こ、この野郎!わざとかよ!

 

「ちっ!」

 

相手は武偵とはいえ1年だ。

やる気になれば全員倒すことはできるが骨が折れるしメリットが少ない。

 

「覚えてろよ!」

 

悪人みたいなセリフを吐いて撤退する。

後ろから歓声が上がる声がするがかなめめ・・・人心掌握の才能があるみたいだな。

そういうタイプは結構厄介だ。

紅葉のこと少し聞きたいだけだったんだがそうなると後は・・・

スマホを取り出して目的の名前を見つけてうーんと押すか悩んでいると

 

「椎名優希・・・先輩」

 

ん?

 

「振り返ると俺の知ってる奴だ

 

「おう、間宮か?どうしたんだ?」

 

アリアのアミカの間宮あかりだった。

 

「あの・・・遠山かなめとお知り合いなんですか?」

 

含みのある言い方だな。ああ、そうか、アリアのアミカなら知ってるのか?

 

「言うほど知り合いじゃない。ちょっと対立はしてるがな」

 

「・・・」

 

何か言いたそうだな・・・かなめに何かされてるのか?

こいつの性格上アリアに相談はできないだろうし

 

「なんか困りごとか?相談なら乗るぞ」

 

ごちゃごちゃといろんな問題山積みだがアリアのアミカなら俺が助ける理由には十分だ。

ただなぁ俺こいつにめちゃくちゃ嫌われてたと思うんだが・・・

 

「あの・・・すみませんなんでもないです」

 

結局迷った挙句、相談事はしてくれなかった。

話す話さないは自由。

こいつが話さないと決めたならその意志は尊重しないとな。

だけど

 

「本当に困ったなら相談しろよ。お前はアリアのアミカなんだから俺が手を貸すには十分な理由になる」

 

「失礼します」

 

そう言ってその場を後にするあかり

それ大丈夫な状態じゃないぞ・・・

 

「・・・」

 

ため息ついてからスマホの外面を上にフリックする。

さてどっちに聞くか・・・

1年の知り合いは数人いるが・・・

 

「こいつでいいか」

 

そう思ったとき

 

「お兄さん私のこと考えてません?」

 

「うわ!」

 

背後からのいきなりの声にあわてて振り返るとそいつがいた。

 

「どうしたんですかお兄さん?」

 

月城アリス。

俺の後輩で緋刀のことの研究してくれているアンビュラスの1年だ。

性格は小悪魔なんだが、1年の中では俺が一番信頼している後輩。

もう一人放置気味のアミカの紅麻里奈がいるがあいつはちょっと苦手なんだよな・・・

わりと校外活動してることも多いし

まあ、それは置いといて

 

「お前、間宮あかりとは友達だったよな」

 

「あかりちゃんですか?はい、友達ですよ。どうしたんですか?襲うんですか?」

 

「襲わねえよ!」

 

なんてこと言うんだこいつは!

 

「アハハ、冗談ですよ。お兄さんはそんなことしません」

 

「わかりゃいいんだよ。それで、最近遠山かなめってやつが1年に転校してきただろう」

 

「きましたね。1年の間ではかわいいって女子の間では話題になってますよ」

 

「一応、お前には言っておく。遠山かなめはいろいろとやばいバックがいる奴だ」

 

「お兄さんがらみですか?」

 

「今回は俺は俺と言うよりはキンジの方だな」

 

「ああ、かなめさんってキンジ先輩の妹なんですよね」

 

「正直な所は分からんが一応そうみたいだな。もし、絡まれたら言えよ。守ってやるから」

 

「はーい、遠慮なく頼りますね」

 

まあ大丈夫だろうがと思った時

 

「ふーん、やっぱりね」

 

声のした方を見ると遠山かなめだった。

アリスに聞こえてるのに本性を隠してない。

いや、だからか

 

「そっちから来てくれたか、手間が省けていい」

 

「その子私のお友達にならないからなんかおかしいと思ってたけど椎名優希の関係者ったんだ」

 

「関係者と言えば関係者ですが私とお兄さんはもっと深い仲ですね」

 

おい!誤解招くようなことことを

 

「お兄さん?」

 

反応するのそこかよ!

 

「まあ、あだ名みたいなもんだ気にするな」

 

あんまり兄妹関連の話はしない方がいい気がする。

そんな気がするんだ。

 

「お兄ちゃんに近い存在なら潰そうかと思ったけどあんたは椎名優希に近い存在みたいだね」

 

「アハハ、キンジ先輩とはお兄さんがらみで知り合いですけどそれだけですよ」

 

「キンジ先輩?」

 

すっと要の目が細くなりl殺気が少し濃くなってきた。

自分の思い通りにならない1年女子をかなめは潰して回っているのか?

だとしたらさっきの間宮の行動も理解できる。

危機感を感じてたんだあいつは

だけどな

 

「殺気が漏れてるぜ」

 

戦闘態勢に入りながら俺はアリスの前に出る。

できれば平和に話がしたかったがアリスに危険が及ぶなら話は別だ。

というか俺が巻き込んだ形だし。

こいつとは1度戦ってるが正面からなら負けない自信がある。

なめてかかるのは厳禁だがな

 

「非合理ぃ。守るのその子?」

 

「こいつには手を出すな。出すなら俺が相手になる」

 

校内での戦いはマスターズが介入してくる可能性があるがここは引けない場面だ

 

「・・・」

 

かなめは不機嫌そうにこちらを見てくる。

どうする?やるか?

 

「・・・」

 

「・・・」

 

互いに沈黙が流れそして・・・

 

「お兄ちゃんに手を出さないならいいや。その子は見逃してあげる」

 

「ついでに、俺のアミカもいるんだ。そいつと間宮あかりに手を出すのをやめろ」

 

釘を刺しとこうと思ってそういってみるが

 

「知ってるよ。紅真里菜でしょ?いいよそいつも見逃してあげる。まあ、まだ姿すら見てないけど。でも間宮あかりはだめ。あいつは危険だから」

 

「どうしてもか?」

 

「うん、見逃さない」

 

そうかよ・・・

 

「戦う?」

 

再び漂う殺気

やるしかねえのか・・・

間宮あかりは俺と仲がいいとは言えずアリアのアミカって以上の知り合いではない。

こいつと戦うということはジサードリーグと全面的な戦いに発展しかねない。

そうなれば、俺だけで何人知り合いを守れる・・

 

「武偵憲章第4条武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用のこと」

 

声のした方を見るとそれは知った顔だった。

 

「紅葉」

 

刀を腰に曲がり角から現れた紅葉は俺たちの前まで来ると

 

「助けが欲しいなら要請があるはずよ優」

 

4条か・・・確かに言われてみればその通りである。

あかりの異常をアリアが気づいていないとは思えない。

あえて、この問題を放置している?

 

「それにジサードリーグと敵対するのはお勧めはしない」

 

アリアが見守ると決めてるなら俺があかりのために出るのはおかしいか・・・

アリスたちの安全は保証してくれているんだし

 

「でもどうしても戦うというなら」

 

紅葉は日本刀に右手を置いて

 

「私は優のために戦う」

 

2対一。いまかなめと俺たちはそういう構図にある。

 

「ふーん」

 

かなめは何か含んだような笑みを浮かべ俺と紅葉を見比べ

 

「そっちが戦わないなら休戦ってことでいいよ」

 

「それでいい」

 

状況によっては戦うが今はそれでいいだろう。

それに今の俺は問題を結構かかえているからこいつらとは激突はできたら避けたい。

全面戦争となれば日本が舞台なら俺たちが有利だが被害は甚大なものになるだろうからな。

 

「合理的だね。そういう判断できるの好きだよ」

 

かなめはそういうと背を向けて去っていった。

これでよかったのかという思いはあるが今はそれでいいと思う。

だが・・・

あのかなめの含んだような笑み・・・

紅葉と俺に向けられたものだ。

 

「優?」

 

こちらを振り返り不思議そうにする紅葉

今回の事件・・・

1歩間違えば取り返しがつかない事態になる予感がある。

1歩間違えば致命的なことになりそうな恐ろしいほどにいやな予感がする。

選択肢を間違えれば破滅的なことになりかねない。

直感だがな・・・

そのためにも俺は知らねばならないだろう。

アリスと紅葉と別れスマホをフリックしその名前を見つける。

月詠と書かれたその名前

呼び出し音がして3コール後

 

「はい、優様」

 

「話がある。少し時間が欲しい」

 

「申し訳ございません優様今は・・・」

 

「紅葉の件だ」

 

「・・・あの子のことですか・・・」

 

その反応やはり知ってるか・・・

 

「秋葉に聞こうとも思ったんだがな」

 

「それは、やめてほいた方がいいでしょう。秋葉と彼女は時間的な接点は多くはありません」

 

「姉妹なんだろ?」

 

「はい、ですが・・・」

 

月詠は少しためらってから

 

「優様。この件私たちに任せていただくことはできませんか?」

 

「どういうことだ?」

 

「不祥事が起きた場合は本家で対処します」

 

それはつまり、紅葉の目的が俺に害をなすものなら秋葉や、月詠がどうにかするってことか・・・

厄介ごとを任せてしまうのも確かに手だ。

だが・・・

 

 

 

 

『私はその資格すらないおちこぼれだから』

 

「っ・・・」

 

ふいにその声が一瞬だが脳裏に浮かぶ。

その声は確かにあいつだ。紅葉だ。

やはり、俺はあいつに昔あってるのか?

だとすると

 

「月詠、それはできない。この件は俺に任せてくれ」

 

「・・・」

 

電話の向こうから息を吐く声が聞こえてきた。

 

「ぼっちゃまならそういうと思いました」

 

「そうかなら」

 

「ですが、それは志野様がお許しにならないでしょう」

 

母さんか・・・

 

「志野さんがなんでだ?」

 

「紅葉はある疑いをかけられています」

 

「ジサード・リーグか?」

 

そこに所属しているということか?

 

「あくまで、疑いです。証拠はありませんがそれだけではありません。彼女は多数のテロ組織と関連を持っている可能性があります」

 

て、テロ組織!?話が大きくなってきたぞ

 

「だが姉さんと知り合いだったということは・・・」

 

いや違う・・・姉さんはこう言っていた。

 

『紅葉を信じてやれ。そして、救ってやれ』

 

そういうことなのか・・・そう考えれば話はまとまる気がする。

だが、証拠が何もない。

月詠の言葉を聞くと実家も確証を得ていないようだ。

だから、問題を起こせば即実力で排除するするつもりなのだ。

秋葉の妹ということは椎名の家の汚点として・・・

そして、志野さんの命令で動いているなら俺には止められない。

確証があればジサードリーグとことを構えてでも紅葉を排除するつもりなのか・・・

 

「確証や動きがないならそちらは動かないんだよな」

 

「ええ、ですが」

 

「志野さんに伝えてくれ。俺も紅葉を探る。だから、手を出す前に一言断りをいれてほしいってな」

 

「了解しました」

 

通話を切ってから頭をかきながら俺は思う。

 

今回も楽はできなさそうだ。

 

 

 

 




というわけでお久しぶりです草薙です!
前回から1年以上あけてしまいもはや、見ている人がいないんじゃないかと思ってしまいますねw
この1年、まあいろいろありましてとだけ言っておきます。

さて、本編です。
山洞姉妹に翻弄されかなめと険悪になりつつなんとか戦いを避けることができたわれらが優君w

紅葉のことを聞こうとしますがそこでとんでもない疑いが紅葉にはかかっていることを知ります。
優は今、崖のような道を歩いています。
1歩間違えば最強クラスの味方であるRランクと激突しなければならない最悪の道に落ちないためにもこの後の選択肢は重要になってきます!
ちなみに裏(表?)ではきんじとかなめが本編のようなことをしていますw
AAサイドも裏で漫画通り進んでますw
詳しくはラノベと漫画を買いましょうw

さて、優君今回も大変だぞw


次回は・・・1年後なんてことはないです!絶対多分・・・



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。