青年の異世界道中~fatezero編~ (クロイツヴァルト)
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プロローグ

 

 「なぁ、マイスター。 こんな所に何かあるのか?」

 

 

 とある管理外世界に存在する薄暗い遺跡の中、アギトと共に戒翔は探索をしていた。

 

 「調査部の報告だとこの奥にロストロギアの反応が確認されている。 が、どういった代物かは解析出来ていない・・・で、クロノからの依頼で俺が向かう事になったんだが・・・さて、何が出て来るのか」

 

 話をしながらも長い通路を暫く歩いて行くと目の前に厳重に封印された扉が現れる。

 

 「ふぅん? 如何にもな感じの封印だな。 アギト、念の為に後ろに下がっていろ。」

 

 「了解。」

 

 そして、戒翔がいざ扉を調べようと扉に触れると幾重にも張られていた封印がまるで待っていたとばかりに弾け飛び内側に開くのと同時にナニカが飛び出して戒翔とアギトを絡め取る。

 

 「なっ!?」

 

 「コレはッ!」

 

 驚くアギトとその絡みついて来たモノを看破した戒翔は驚く。

 

 「汚染された大聖杯の残滓が何故」

 

 それ以上を言う前に戒翔とアギトは残滓に扉の内側に引きずり込まれ、闇の中へと消える。 そして扉もあけられた時同様に勢いよく閉まり独りでに封印が奔り直前までの通路は唐突に起きた大崩落により道は閉ざされるのであった。

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 場所は変わり、そこには半死半生になり地に伏せる男と対面立つしわがれた老人が魔法陣の様なものを挟んでいた。 そして、その魔法陣の上には漆黒の鎧に身を包んだ黒騎士と足下には小人の様な少女が気を失っているのか黒騎士の足下で倒れていた。

 

 「せ、成功した・・・!」

 

 息絶えそうな青年は地に頬を擦り付けながら半身麻痺の様な状態の身にも関わらず笑った。 そして、それを対面から見ていた老人もまた嗤っていた。 そしてその老人こそが目の前の青年が死にかける様な状態にした人物であり此度の元凶でもある。

 

 「雁夜よ、今は良くやったと言っておこう。 これで貴様の望みを叶えることが出来よう。 しかし、聖杯を手に入れるまでは桜への調教は継続しておく。 が、今回の召喚で貴様は体内の刻印蟲によって余命はあと一月と言った所じゃ。」

 

 まるで今回の事は実験とばかりの言葉に地に倒れている青年は歯を食い縛る。 自身が護ろうと決めた相手が今も尚蟲蔵と呼ばれる所で嬲られている少女の事を脳裏に浮かべ、青年は死にかけの体に鞭を打ちふらつきながらも立ち上がるが、そもそも気力だけではどうしようもない所まで来ており直ぐに崩れ落ちそうになるが、そこに驚く事に召喚された黒騎士が雁夜を支える。 これには召喚した本人と意図して召喚させた張本人は目を見開く。

 

 「なっ!? 凶化されている筈では」

 

 「無理をするな。 本当に死ぬぞ?」

 

 「はっははっははは! これは驚いたの! バーサーカーとして召喚した筈が自我を確立させたまま召喚されるとはの!」

 

 「囀るな、生に醜くしがみ付く害虫が」

 

 「ぎゃぁぁぁぁぁッ!?」

 

 雁夜を支える様子を見て嗤う老人に対して黒騎士は支えている手とは反対の手が霞んだと思った時には老人の体を斜めに剣閃が閃き直後に老人は激痛の声を上げる。

 

 「塵も残さずに焼かれて消えろ。 レイジングフレア!」

 

 直後、老人の足下から灼熱の柱が迸り文字通り老人を塵一つ残さずに焼かれて消える。 黒騎士が放ったと思われる攻撃の余波なのか、地下空間が音を立てて崩壊の兆しを見せる。

 

 「・・・此処は危険か。」

 

 「ま、待て!」

 

 「とは言っても、ここに留まっても」

 

 「あ、あの向こうに桜ちゃんが」

 

 息絶え絶えの状態の雁夜は黒騎士に担がれた状態でとある場所の壁を指さして告げる。

 

 「・・・承知」

 

 言うや否や、黒騎士は片手一つで壁を破壊。 すると壁の向こう側から大量の蟲が流れ落ちる中で黒騎士は無造作に手を突っ込みガサゴソと雁夜の指し示す方向に探して行くと子供の体の感触を感じて掴み引き上げるのと同時に地下空間が本格的に崩壊を始めたために黒騎士は召喚陣の近くで倒れている小人の様な少女も壁の向こうから引き揚げた少女と同じ腕の中に収めると急いで上階へと急ぐ。

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 戒翔は適当な部屋で雁矢と桜を寝かせ、屋敷のおおよその現状を確認する。

 

 「・・・蟲が多いがマスター達が起きるまでに害虫駆除をしておくか・・・ついでに屋敷の外観の改築か・・・取り敢えずやる事をやって食事の用意でもしておくか」

 

 そう言って戒翔は屋敷の周囲に蠢く蟲の処理に向かう。

 



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レッツ! ビフォーアフター!

 

 

 「・・・ここは俺の部屋? そうだ桜ちゃんは!」

 

 「あ、雁屋おじさん起きたんだ!」

 

 「さ、桜ちゃん! 大丈夫かい!?」

 

 「うん! バーサーカーが助けてくれたから大丈夫だよ!」

 

 雁屋と桜が会話をしている所に扉をノックする音と共に第三者の声が届く。

 

 「桜嬢、両手が塞がっているのだが扉を開けて貰って構わないか?」

 

 「あ、直ぐに開けるよ!」

 

 そう言って桜は扉を開けると黒衣を身に纏い現れた青年は前掛けのエプロンとお盆に載った粥を持って部屋へと入る。

 

 「ふむ、丁度目を覚ましたか。 調子はどうだマスターよ。」

 

 「調子? 確かにさっきよりは良いと思うが」

 

 「・・・一応、体内の蟲は此方である程度大人しくさせておいたが、いつまでもそのままと言う訳にも行かんな。」

 

 ベッド脇の机にお盆を置くと青年はおもむろに空間に歪みを作るとその歪みに手を入れ取り出したのは赤い水晶体に蒼い菱形の宝石を一つづつ取り出す。

 

 「それは・・・」

 

 「わぁ! きれいな石だ!」

 

 「ふむ、これか? その蟲などよりも高性能な魔力媒体になる物だ。 蟲を使って疑似回路にしている様だが、魔術師であるならば本来の魔術回路を叩き起こすのには魔力を流してやればいいという話だが、生憎俺の魔力を流した所でマスターの体がもたないからな・・・模造品だが、魔力を貯蔵する為の宝石を用いてマスターの体にある魔術回路を正常に起動させる為と補強強化する物と理解していれば良いさ。」

 

 そう言って戒翔は雁夜の腹部辺りに宝石を持ったまま添えると

 

 「吸収(アブソーブ)

 

 ただ一言そう唱えると青年の手にあった宝石は雁夜の体内へと同化するようにして消える。

 

 「これは・・・なんて言えば良いんだ? 今まで感じた事の無い程の魔力を内側から感じるが」

 

 「それが先程の石・・・特に名称は無いが完全に定着するまでに数日かかるだろうからそれまでは絶対安静にする事。 良いな?」

 

 「あ、あぁ・・・しかし不思議な」

 

 「あ、そうそう言い忘れていたが取り込んだ初日は激痛で意識飛ぶと思うからその辺は簡便な?」

 

 「・・・は? なッ!? そんな危険な物をッ」

 

 雁夜は青年に対して非難の声を上げようとしたがついでやって来た今までに味わった事の無い激痛・・・それは勿論の事だがあの間桐の蟲を用いた人体改造と呼ぶにふさわしい行為にて発生した物に比べれば天と地の差があり雁夜はアッサリとその意識を手放した。

 

 「おじさんはどうしたの?」

 

 「疲れて寝ただけだよ。 さぁ、キミも夜も遅いのだから寝なさい。」

 

 戒翔は雁夜に術式を刻んだ魔力石を埋め込み桜を自室に寝かせに行く。 そうして漸く一人になった戒翔はリビングに寝かせていたアギトの下に行く。

 

 「兄貴!」

 

 既に目が覚めていたのかリビングに着くのと同時にアギトが戒翔の胸元に飛び込んでくる。

 

 「目が覚めていたか。 大丈夫か?」

 

 「おぅ! 兄貴、ここは何処なんだ?」

 

 「あの後の事なんだが俺達はどうも別の世界に来ているようだ。 次元世界と言うよりも平行世界に来ていると言った方が正しいかもしれんが」

 

 「平行ってアタシ等は帰れるのか?!」

 

 「多分だが、この世界に呼ばれる原因になったモノを片付ければあるいはって所だ。」

 

 「それって?」

 

 「それはこれから調べる事になる。 十中八九聖杯戦争と呼ばれるモノに俺達は召喚された扱いになるから・・・その聖杯とやらの事を片付ければ自ずと帰れるだろう。 俺は召喚される時にある英霊に一時的に融合する事によりクラスを得ているが・・・バーサーカーとはな。」

 

 「凶戦士って兄貴には先ず似合わないクラスだよな? そもそもそのクラスや聖杯戦争ってなんだ?」

 

 「聖杯戦争ってのは七人の魔術師がマスターとして七騎の英霊を使い魔として殺し合いの果てに聖杯という願望機を完成させる大規模魔術儀式の事を言う。」

 

 「殺し合いって」

 

 「優勝者の席は一つだけという事だ。 そして、クラスってのはセイバー、ライダー、ランサーにキャスター、アサシン、アーチャー。 そして俺のクラスになっているバーサーカーの七騎になる。 それぞれのクラスに合わせた特性と言うものがあり、クラスに則った英霊が召喚される。 また、召喚する英霊はその縁のあるモノなどを使う事によって限定する事も出来る。」

 

 「・・・聞けば聞くほどとんでもないな」

 

 調子が戻って来たのか戒翔の近くを飛び回りながらアギトは云々と唸っている。

 

 「どちらにしてもこの聖杯戦争を終わらせなければ俺達は帰れないと言う事だ。」

 

 戒翔はそう言って窓から見えるまるで此方を嘲笑うかのような月を見た。

 



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偵察×遭遇×前哨戦!?

 

 

 「さて、俺が召喚されたと言う事はまだ他の参加者には知られていないのだな?」

 

 「あぁ、そもそもサーヴァントの召喚は秘密裏に行われる上に魔術師は秘密主義な所があるからな。 だが他の所も同じように召喚しているとみて間違いないと思う。 早くに召喚して周囲の環境を整えているだろうな。」

 

 アギトに桜の相手をしてもらう中で、戒翔は雁夜と今後の話をしていた。

 

 「ってことはだ。 判別がつくのは御三家の中だと間桐は俺で残りはアインツベルンと遠坂の二家か。 そっちは何を召喚するか分かるか?」

 

 「いや、遠坂は考古学関係で蛇の抜け殻を手に入れたのは辛うじてわかったが、アインツベルンは何重にも隠蔽に偽装情報まで流していて確定情報は何も見つからなかったな。」

 

 「・・・蛇の抜け殻? それだけでは分からんな。 他に分かっている事は?」

 

 「後は今回の監査役の聖堂教会の一人が参加者と言う事だ。」

 

 「ふーん、教会ねぇ?」

 

 「どうした?」

 

 雁夜の教会という言葉に戒翔が疑問の声を上げる。

 

 「いや、教会関係って俺が知っている物だと結構腐っているのが多いからな。 自身の利益の為なら平気で自身の法すら変えるからな。」

 

 「そんな事は」

 

 「無いとは言い切れるか? なら過去の他の教会の歴史を振り返れば分かると思うが?」

 

 「・・・」

 

 戒翔の言葉に雁夜は反論できずに押し黙るしかなかった。

 

 「・・・まぁいい。 マスターはこのまま情報収集しつつその増えた魔力を確実に操れるように鍛錬していてくれ。 アギトは残して行くから桜ちゃんの相手をさせていてくれ。」

 

 「お前はどうするんだ?」

 

 「・・・この街の散策ついでに既に現場入りしている敵の視察だ。」

 

 「・・・・・・は?」

 

 戒翔の言葉に雁夜は間抜けな声を出すのであった。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 「・・・至って普通の街並みだな。」

 

 『周囲に監視用のサーチャーを配置中。 ついでに使い魔らしきものを複数確認。』

 

 「既に情報戦が始まっているな。 俺がサーヴァントだと気付けるかな?」

 

 『隠蔽に偽装、ついでに魔力に関してはリミッターを付けて一般人に扮していますからね』

 

 「だとしてもだ。 どこから正体が分かってしまうか分からんからな。 念には念を入れる。」

 

 街中を歩く戒翔の格好は革製のズボンにジャケットを羽織り首元に小さな剣がモチーフの待機状態のアルを下げている。

 

 『マスター、前方から魔術師らしき反応とサーヴァントクラスの魔力反応を確認』

 

 「・・・あれか」

 

 アルの言葉に戒翔は前方を注視すると黒の礼装に身を包んだ金の長髪をポニーテールにした男装の麗人にロシア人らしき女性が連れ添って歩いていた。

 

 『此方に気付いた様子はありませんが、どうしますか?』

 

 「向こうが気付いていないのなら都合がいい。 で、どっちがサーヴァントだ?」

 

 『男装の麗人の方ですね。 隣の女性はホムンクルスの様です。』

 

 「ふーん・・・ちょっと手合せするかな?」

 

 『・・・はい?』

 

 「封絶」

 

 アルの間の抜けた返事と同時に戒翔は位相空間を生成する。

 

 「やぁ、こんにちわ。 魔術師さんにサーヴァント」

 

 「何者だ!」

 

 「何者って言われて答える奴は馬鹿だ。」

 

 「だけど、私達事を知っているってことは関係者なの?」

 

 「そうだとしたら?」

 

 「まだ戦いは始まっていないのになぜ」

 

 戒翔の言葉に女性は疑問の声を上げる。

 

 「キミ達魔術師はどうか知らないけどね・・・情報戦は既に始まっている。 俺はそれに加えて敢えて姿を見せたのはキミ達と一度は戦っておきたいんだよ・・・ね!」

 

 そう告げるのと同時に戒翔は二人に目掛けて駆けだす。

 

 「アイリスフィール、下がって下さい!」

 

 「セイバー!」

 

 「シッ!」

 

 セイバーと呼ばれた女性はアイリスフィールと呼んだ女性を自身の背後に隠しながら戒翔に相対し

 

 「ハァッ!」

 

 裂帛の声と共にタキシード姿から西洋の騎士甲冑の姿に変わり手には見えないナニかを握り迎撃に移る。

 

 「それが君の戦装束か! ますます気に入った!」

 

 「貴様に気に入られる筋合いは無い!」

 

 戒翔は拳で、セイバーは見えないナニかを持って切り結ぶ。

 

 「そんな、セイバーと渡り合えるなんて・・・貴方は本当に何者なの?」

 

 「これだけの事をしているにも関わらず俺に質問とは・・・今代のセイバーのマスターは阿呆なのか?」

 

 「阿呆って・・・まさかサーヴァント!?」

 

 「クラスは教えんが・・・な!」

 

 拳と思わせて横腹にミドルキックを放つ戒翔だが、セイバーの保有スキルの御蔭か直前で後ろに飛び退き躱した・・・が

 

 「鎧が」

 

 「ただの蹴りだと思っていたのか?」

 

 セイバーの鎧が僅かに斬り裂かれたが皮一枚ギリギリ躱す事で傷こそないがその事にセイバーは

 

 「貴様・・・わざとだな?」

 

 「なんの事かな?」

 

 「ふざけるな! 先程の攻撃が本気なら私の鎧だけを斬るだけに留まるものか!」

 

 「え、どういう事」

 

 戒翔の行動に激昂する。 戦人として目の前の人間に手加減されたと考えれば当然の反応である。

 

 「何を言うかと思えば・・・本番前のデモンストレーションだ。 それなのにムキになるなよ」

 

 「戦いは正々堂々の真剣勝負なんだぞ!」

 

 「面白い事を言うな。 戦力分析の為なのに本気を出すのか?」

 

 セイバーの言葉に戒翔は肩を竦めて告げる。

 

 「貴様ッ!」

 

 「おいおい、こんな所で本気でやるのか? そっちの紛い物のマスターと」

 

 「ッ!?」

 

 戒翔の告げた言葉にアイリスフィールは息を呑む

 

 「気が付かないとでも思ったのか? 俺のステータスを見るそぶりも無し、魔力ラインも通っていない・・・これだけでも十分だが、そこの女は戦闘する者の纏う空気と言う物を感じさせない・・・感じ無さ過ぎる。 何か言い訳があるのなら令呪を見せてみろ」

 

 「それは」

 

 戒翔の言葉にアイリスフィールは思わず後ずさる。

 

 「・・・まぁいいか。 今回のは挨拶代りの所だしな。」

 

 「待て!」

 

 「歪んだ聖杯では何を望んだ所で歪められる。 そんな物を求めるのは狂人か殺戮者だな。」

 

 「それはどういう」

 

 「ではな、また会い見える事を願っているよ。」

 

 『クラール・ゲホイル』

 

 「きゃッ!」

 

 「くッ!」

 

 二人の目の前に現れた結晶体が砕けるのと同時に眩い光が辺りを白く染める。 そして

 

 「ここは」

 

 「冬木の街の高層ビルの屋上の様です。 あの男、結界を解除するのと同時に私達をこの様な所に飛ばすとは・・・まさかキャスターのサーヴァントなのか? いや、あの近接戦闘の高さでキャスターのクラスの筈が」

 

 「イレギュラークラスなのかしら?」

 

 「分かりません。 しかしこれは一度切継に聞いた方が良いのかも知れません。」

 

 そう告げるセイバーの表情は険しい物であった。 その頃、戒翔はと言うと

 

 「ん~、聖杯の事を口が滑って告げちゃったけど、あの腹ペコ王なら大丈夫だろ?」

 

 『さぁ、それは分かりかねますが桜嬢に遅くなった良い訳とか考えておいた方がよろしいかと』

 

 「何故に?」

 

 『それはご自身で考えた方がよろしいでしょう』

 

 デバイスに冷たくされながら帰宅していたのであった。

 



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会合×戦闘×異端者

 

 

 「おー、やってるねぇ」

 

 「マイスター、こんな所で見学してても良いのかよ?」

 

 とある倉庫街にある倉庫の上に陣取る黒衣の男とその方に座る妖精の様な体の少女がある方向を見ながらマイスターと呼びながら呆れた表情で見るが、男は嬉々としてある場所を見ていた。

 

 「いや、騎士王とフィオナ騎士団の一番槍の戦いは見物だと思ったんだがな?」

 

 「マイスター、今は」

 

 「分かってるって。 しっかりと敵の情報は集めているし今も分析は続けている。」

 

 そう言って男は遙か先を見据えながら肩に乗る少女に語りかける。

 

 「先に言っておくが、ここから先は本当の殺し合いになる。 俺達のというかアギト達とは縁遠いモノでもないがな。」

 

 そう告げるのと同時に稲光が頭上を過ぎる。

 

 「あれは」

 

 男は稲光を伴った二頭の巨大な馬が牽く戦戦車を見送り

 

 「行くぞアギト。 漸くサーヴァントが揃う。 キャスターはまだの様だが、アレを呼ばれる前に何とか出来るかもしれんが・・・まぁ、何とかするか。」

 

 男は隠蔽用の魔法を解きながら立ち上がりながら気軽に告げ、散歩でもするかのようにその場から飛ぶ。そして、目的の場所に降り立つのと同時に五人のサーヴァントと六人(・・)の人間に見られる

 

 「お主も我が軍門に降らぬか?」

 

 「征服になど興味は無い。」

 

 「ではお主は何の願いがあって此度の聖杯戦争に臨むのだ?」

 

 「それを貴様に話すつもりは無い。」

 

 戦戦車に乗った巨躯の男の言葉に黒衣の男はそっけなく答える。

 

 「それよりもその黒衣に隠した素顔を見せてはくれんかの?」

 

 巨躯の男の言葉に黒衣の男は

 

 「・・・まぁ、顔見せの意味もあるだろうし良いだろう。」

 

 そう言ってフードを下ろした男の顔を見てセイバーとそのマスターは驚きの表情で男の顔を見る。

 

 「お前はあの時の!?」

 

 「数日ぶりだな。 騎士王」

 

 驚愕の声を上げるセイバーに男は軽く答える。

 

 「して、お主のクラスは何なのだ?」

 

 「・・・バーサーカーだが?」

 

 男の言葉に一同は絶句する。

 

 「バーサーカーだと!? 理性を保っていられる筈が」

 

 巨躯の男の傍らにいる少年が驚愕の声を上げる。

 

 「・・・何を驚く必要がある? あの程度の狂気など俺が生きてきた中では優しい位だ。 そもそもあの程度の狂気に捕らわれるのは並の者ってことだろう?」

 

 少年の言葉に男は皮肉気に笑いながらそう答える。

 

 「さて、んでそこで高みの見物決め込んでる英雄王は俺に殺気飛ばして何か質問でもあるのかな?」

 

 「・・・貴様、どこの英霊だ? 雑種にしてはその魂異質極まりない。 本当に元は人間なのか?」

 

 「ふふっ、流石は半人半神であり裁定者である者だな。 俺の魂を見てその奥まで見ようとするとは」

 

 「我の質問に答えよ!」

 

 「そう急かすな。 勿論答えはイエスでありノーだ。 正体を明かすのは簡単だが、些かそれでは面白くは無い。 が、それでも面白みに欠けるから一言だけヒントを上げるなら輪廻転生の輪から外れた存在って事だ」

 

 「・・・つまり我の敵と言う訳だな?」

 

 直後にギルガメッシュの背後の空間が歪み始める

 

 「待て待て、早とちりするな。 お前さんの想像通りなのは変わり無いがアレの介入は無いし、この世界のアレとは関係無いよ。」

 

 「それを証明する事は出来ないのにそれを物申すのか?」

 

 歪みが落ち着くのと同時に赤い波紋が現れそれは広がりながら様々な刀剣が刃の切っ先をバーサーカーに向ける。

 

 「証明は難しいな・・・。 が、実力ならある程度は見せる事は出来るぞ? なんなら今その後ろに展開している武器を全て防ぎきって見せようか?」

 

 「吠えたな? ならその大言壮語にならん様に防いでみよ!」

 

 ギルガメッシュはそう告げるのと同時に背後に浮かぶ無数の刀剣類が音速でバーサーカーに迫る。

 

 「・・・それでは御見せしようか。 神の御使いにして時の御子の実力の一端を」

 

 迫る刀剣を見ながらバーサーカーは身構える訳も無く徒手空拳の構えを取り

 

 「ベルカの王達の御業をこの手に」

 

 次の瞬間、バーサーカーの身は淡い虹色に包まれていた。

 

 「空覇弾!」

 

 突き出した掌から放たれた球が剣に触れるのと同時に爆発を引き起こす。

 

 「その程度で我の攻撃を防げるものか!」

 

 「まだまだ! 断空波!」

 

 突き出した手とは反対の手に集めた魔力を開放しながら放った風とは思えない威力を孕んだ一撃が刀剣の軍勢に衝突するが、その直後に丁度真ん中に空洞が出来るようにバーサーカーは技を放っていた。

 

 「なに!?」

 

 しかし、バーサーカーはそれをそのままやり過ごすのではなく自ら飛び込むと

 

 「この程度で驚いては困るな?」

 

 「小癪な!」

 

 一息でギルガメッシュの眼前に潜り込むが、ギルガメッシュは手前の空間から長剣の様な物を取り出し斬り掛かる。

 

 「我に手を使わせるとは不敬だぞ!」

 

 「そんな事で不敬になるならまだまだ行くぞ?」

 

 そう告げるバーサーカーは振り下ろされる長剣の腹を殴り軌道をずらしギルガメッシュを街灯から叩き落とす。

 

 「ぐぅッ! 王たる我を地に下ろすとは万死に値する! 疾くと死」

 

 背後の波紋が無数に現れようとした所でギルガメッシュの動きが止まる。

 

 「・・・時臣め臣下でありながら我に進言するか。 ふん、命拾いしたな。 次に見える時までに有象無象を間引いて置け。 アレを巡る戦いには真の英雄のみで十分だからな」

 

 そう言い捨ててギルガメッシュは金色の粒子を振り撒きがら霊体化しながらその場から消え失せる。

 

 「・・・それでそこのセイバーとランサーにライダーと・・・盗み見してるアサシンは俺と戦うか?」

 

 その一言でその場にいる者達は各々の反応を見せる。

 

 「・・・もし戦うと言ったなら?」

 

 ランサーが代表として問うと

 

 「是非も無し! ・・・と言いたい所だが、些か騒ぎ過ぎたようだからな」

 

 遠くからサイレンの音が聞こえてくる。

 

 「はずれの倉庫街といってもあれだけの戦闘をしたのだから付近の住民が通報をしていても可笑しくは無いな。」

 

 そう言って軽い跳躍で屋根に飛び移るバーサーカーは未だに下にいる三騎を見下ろし

 

 「貴様達の目的は知らんが俺の目的だけは教えて置いてやる。 俺の目的は・・・聖杯戦争の永久凍結及び聖杯の完全消滅だ。」

 

 彼の落とした最大級の爆弾に英霊たる彼等に魔術師達に衝撃を与える。

 

 「待て! その様な事をしたら」

 

 「既に確定事項だ。 貴様達が何を言おうとこれは覆らん。 俺は此度の聖杯戦争を破壊する」

 

 「待ちなさい!」

 

 そう言い捨ててバーサーカーは制止の声を聞かずにその場から掻き消えた。

 



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