蒼穹の艦これ (ザミエル(旧翔斗))
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開―始まり―始

注意:この物語はファフナーの世界観が混じっています。
そのため深海棲艦が同化を仕掛けたり艦娘が主砲以外の武器を使ったりします。
それらが嫌な方は見ない方がよろしいかと。
なお、フェストゥムとかファフナー自体は出ません。
ご安心を。



 

 

 

海は黒く染まっている。

ダラダラと黒い液体が流れ落ち、しかし水ではない故に、水よりも比重が軽い故に海面を黒く染めている、それはとても油臭く――――船の中から溢れ出ていることから重油であると分かる。

 

―――その船は大破を通り越してもはや轟沈しようとしていた。

 

艦橋が潰れ、艦底に穴が開いたことによる浸水で乗組員は殆ど死に絶え、残っているのは甲板に出ていた上で、とても幸運に恵まれていたその男、初陣で何もすることが無く甲板にいた男だけだった。

 

だが―――これから死にゆくことを考えた時、その男は本当に幸運だったのかは定かではない。

むしろ生き地獄を味わう分不幸なのかもしれない。

だがそれでも男は今、必死に生きようとしていた。

 

「くそ―――チクショウ」

 

言える罵詈騒音は尽き、もはや陳腐な言葉しか出ないような状態。 幾重にも体に刻まれた傷に身体の反応は鈍く、遅々として動かない。

故に――――敵は彼を逃すことなどなかった。

 

「あ、あぁあ――――」

 

恐怖に男が目を見開く。

男の視線の先には等身大の異形がいた。

それが男の、男が乗っていた船を大破―――否。 轟沈まで追い込んだたった一体の異形だった。

 

『giigaa――――a anataha』

「な、こいつ、しゃべッ!?」

 

うめき声のような、鉄が擦れるような音が響き―――よく聞き取ればそれは声の様に聞こえる。

それを聞こうとしたのが、男のここまでの運の尽きだった。

 

『anataha――――ソコニイマスカ?』

「ッあ――――ひ」

 

男がそこから先の言葉をいう事はない。

言葉の意味を理解し、それに対する答えは当然だと思ってしまった(・・・・・・・)その瞬間―――男はどうしようもなく終わってしまったのだ。

口を大きく開き近づくそいつに男は何も出来ることはない。

逃げることも、何もかも。

ただそれでも男に変化は起きる―――黒い瞳は金色に輝き始め、体全身から翠色の結晶が生え始めて激痛をもたらす。

 

「いたい―――心が消える……これが、深海棲艦―――いやだ、助けて……父さん、母さん―――姉ちゃ……」

 

最期の言葉は家族に助けを求めるだけの言葉、それだけの恐怖に満ちた声だった。

同時に、結晶が生える音が響く中歯と歯が噛み合う音が響き、何かが潰れた音が響いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ガラガラと揺れる馬車の中で待ちぼうけて幾時間か?

鞄に入れてある書類はとうの昔に読み終え、何度も読み返し内容をほぼ暗記してしまったほどだ。

 

「――――暇だ、それに尻も痛い」

 

男はそう漏らす。

そこに不平不満があるわけではない、ただ現実問題として代わり映えのしない一面の畑とかすかに見える海の景色に飽きているだけだ。

 

「んぉ、すまんのぉあんちゃん。 おそうて」

「あ、そんなことないですよ御者さん。 行き先が近いから乗せて貰ってるのにそんな」

 

大分年を取った御者の申し訳なさそうなセリフが聞こえて振り返りながら弁解しつつ、しかし彼は変わらず退屈に飽き飽きとしていた。

そんな様子を理解している御者は眉尻を顰め、再び謝るばかり。

 

「ほんとにのぅ……わしがお前さんくらいの時は‘くるま’というもんがあってそれにのってきゃパーッと小一時間なんじゃがなぁ」

「車ですか……確かに速いかもしれません。 でも、こんな荒れ果てた道じゃあ今の馬車の方が便利ですよ」

「んぉ、本当かのう? そいつは重畳重畳――――と、もうそろそろつくぞい」

 

安心したのか御者が笑い、男また微笑む。

そして御者の台詞に顔を馬車の正面へと向ければ寂れた港町があった。

 

「……ここが?」

「うむ、ここが横須賀鎮守府――――正式には元横須賀鎮守府か横須賀鎮守府跡地と言った方がいい様相じゃな」

 

そう言われるほどには事実、横須賀鎮守府であろうこの場所は寂れに寂れている。

人影は少なく、建物と呼べるものは建物と呼ばれた物がほとんどだ。

 

――――つまり風化している。

 

本当に此処なのかと思わず書類を再び見てしまうほどに本当に酷い有様だった。

そんな有様に若干唖然としている間にも馬車は動き、そして止まった。

 

「到着、じゃな。 わしは此処から資材搬入用に別の入り口にいかなきゃなんじゃが……お前さんはこっちの方がいいじゃろう?」

「え、ええ。 ありがとうございます―――えっと」

「おおそうじゃった、思えば未だに名乗り忘れとったな―――わしは日野洋治、まあしがない爺さんじゃよ。 お前さんは?」

「ありがとうございます日野さん。 自分は生、皆守生(みなもりしょう)です」

 

馬車を降りてから改めて一礼する。

生が顔を上げたところで若干日野が目を大きく開けていた。

 

「む、すまんな……でもそうか。 お前さんが……」

「?」

「ああ気にせんでええ」

 

日野の様子に若干疑問を覚えながらも歩き出す。

しかし、歩いて数歩で生は直ぐに日野に呼び止められて振り向いた。

少しだけ困ったような笑い顔の日野は一言だけ告げた。

 

「お前さんは知るじゃろう。 此処から先に進んだ時、絶望の中に希望が生まれることを」

「それは一体――――?」

「その答えを知るのはお前さんじゃよ――――そいじゃあの」

 

疑問の答えを言わず日野は去っていき、釈然としない表情のまま生は蒼穹を眺めた。

快晴で―――とても平和に見えた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

書類の中に一緒にあった地図を頼りに5分ほど中を歩いた感想はやはり誰もいないという事だった。

人っ子一人、誰一人として見かけない。

故に根拠のない疑惑は疑念に代わっている。

 

それは本当に此処、横須賀鎮守府に深海棲艦を打破しうる新兵器があるというのか? ということ。

 

書類には機密情報故に書かれていないこと。

それはつまり新兵器云々というのは単なる嘘偽りなのではないかという疑念は芽生え、疑問に思いながら横須賀鎮守府本庁、陸側に立っている風化が少し遅れているその建物の中に入る。

やはりそこも埃臭く、手入れがあまりされていないように見え、疑わしさは天井登りだ。

 

「司令室は―――直ぐ近くだな」

 

案内板を確認しながら生は転属用の書類を取り出して直ぐ近くの指令室へと向かい、ドアの前に着いた所で鞄に入れていた帽子を被り、四回ドアを叩いた。

 

中から入れと言葉が響き、人がいたことに生は少しだけ安心感を覚えつつ、一拍おいて部屋に入室する。

部屋の中はやはり簡素、そして中央奥の椅子には初老の男が座っていた。

堂々と中央まで歩き、帽子を脱いで敬礼する。

 

「失礼します。 大本営の任に従い出向しました、海上防衛軍:戦術指揮の『皆守 生』少尉であります」

「横須賀鎮守府総司令官兼技術開発部局長代理『真壁 史彦』だ――――まずは書類を置いてそこの椅子に座ってくれ」

「はッ!」

 

書類を卓上に置いてから下がり、椅子に座る。

生は司令が書類を読んでいる間にざっと目を回して室内を確認して、やはり彼以外に人がいないことを確認したうえで発言に疑問を覚えた。

 

―――技術開発部? 何もない此処で?

 

ますます胡散臭いと思いつつ、表面上は態度を崩さないようにして待ち、生は司令が書類を読み終えるのを待った。

 

「―――確認した。 さて、色々話す前に君はまずこう思っているだろう。 ―――人っ子一人いない此処で本当に兵器の開発が行われているのか? と」

「―――はい、見た限りでは誰も開発などを行っているようには見えなかったので」

「当然だな……だが兵器開発を行っているのは事実だ。 ―――まずは場所を移そう」

 

苦笑しながら司令は引き出しからスイッチを一つ取り出し生の目の前で押し込んだ。

途端、司令室の壁の一角がスライドし、エレベーターが現れる。

 

「来たまえ、この先が真の横須賀鎮守府だ」

「は、はい」

 

想定外の光景に生は若干フリーズしかけながら、しかし司令の声に反応ししたがってついていき、若干大きめのエレベーターに乗る。

司令が操作し、ガコンと大きな音を立ててエレベーターは下り始めた。

下降し始めて数秒後、静まり返ったエレベーターの中にため息のような音が響く。

司令は振り返り、若干疲れたと言った表情で生と目を合わせた。

 

「すまない、本当はもう少しゆっくりとしたい所だったのだが……奴らに気付かれるわけにはいかないからな」

「奴ら……深海棲艦の事ですか?」

「それもある、だがそれ以上に、他国にこの兵器の事を知られるわけにはいかんのだ」

 

ここで生は新兵器についての疑いをようやく捨てた。

現在まだ生存が確認されている国―――ロシアやドイツ等が情報を盗ろうとする程の物。

それ程の物であるならば疑う余地はないと。

 

そう考える間にエレベーターは止まった。

扉が開いた先は―――広い部屋だった。

幾つもの電子機器や机が並び、何十人もの人が作業していた。

そこは、都でも見ないほどに最新の、先端技術の山だと理解できた。

司令は椅子に座り、改めて振り返った。

 

「改めて言わせてもらおう。 こここそが横須賀鎮守府、そして日本を護る最新兵器の開発を行っている技術開発部だ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ふざけているのですかッ!」

 

怒りを隠しきれずに叫ぶ。

卓上に書類が叩きつけられ、散らばっていく。

だが、それに何かを思う以上に我慢ならないと生の怒りが噴出する。

面と向かい合う司令は、しかし憮然と告げた。

 

「事実だ。 ―――これが私達が10幾年を掛けて生み出した新兵器。 深海棲艦の読心と同化という恐るべき能力に対抗できる在りし日の艦の名を冠する乙女達艦娘とそのサポート用の為のジークフリードシステムだ」

 

艦娘。

受精卵の時にかつて日本が鹵獲した深海棲艦の核を少量投入したうえで成長した結果、海上での戦闘能力と海上で戦うための艤装への適性を手に入れた少女と書類には記されていた。

そして実験中に二人、命を落としたと。

人体実験、そんな非道な事許されるべきではない。

 

「人命を弄ぶなど何を考えている!? 上に、大本営にこのことを告発させてもらう!」

「上はこのことを承知している! そうでもしなければ戦えんのだ!」

「っ!? だからといって……一度も実戦に出したことのない、さらに言えば子供を戦わせるなど!」

「もう後がないのだ! 核も何もかも、試しても無駄だったのは知っているだろう―――毒を制するには毒しかないのだ」

「―――――っ!」

 

反論したい、だが反論できない。

生の理性的な面ではこれは効果的だと書類を読み込んで結論は出ている。

だが―――それでも人道的観念ではそれは許せることではない。

受け入れることは出来なかった。

 

 

 

 

 

―――だが、状況はそれを許さなかった。

突然CDC(総合管制室)に鳴り響いた警告、それが示すのは―――。

 

「真壁司令、東京湾近郊のバード(監視装置)の索敵に艦あり! 深海棲艦ですっ!」

 

すなわち敵の出現だ。

 

「ヴェルシールド展開、並びに迎撃用意! 艦娘の状況は!」

「現在艤装をティターンモデルからノートゥングモデルに改装中、出撃は不可能です!」

「―――敵の動きが予想以上に遥かに速い」

「第一ヴェルシールド突破されました!」

 

直ぐ様司令が対抗の為に指令を飛ばすが芳しくないことが分かる。

新兵器である艦娘も艤装の改装で出せない。

つまり対抗策はないのだ。

 

にわかに騒然としてきたCDCには焦りが広まりつつあった。

 

「―――アタシが出るよ」

 

そんな中に、幼い少女の声が響いた。

その声に司令は動きを一瞬止め、直ぐ様声の発生した方向、つまり後ろのエレベーターの横の出入り口へと目を向けた。

生もまた目を向けて―――そこに茶髪に赤い眼鏡を掛けた13歳程度の少女を見た。

暗い、酷く沈んだ瞳を司令へと目を向けていた。

司令が、呻いた。

 

「――望月、だが艤装は」

「めんどくさいけどアタシの艤装はまだコアの摘出、および移植の段階に行ってない。つまりまだティターンモデルとして直ぐに動かせるはずだよ」

「―――分かった。 望月の艤装の準備を始めろ、望月は出撃ドッグに急げ」

「あいよ――――っと」

 

去ろうとした望月はそこで一旦足を止めて、生の前に立った。

 

「……なんだ」

「あんたが新しいシステム担当、司令官でしょ? めんどくさいけどアタシも実戦は初陣だから―――任せたよ」

 

一度頭を下げて、今度こそ望月は走って行った。

 

―――彼女は戦う覚悟を決めている。

 

生はそれを理解して、辛いと感じた。

だが、もう迷う時間はなかった。

 

「―――司令、この一件、了承します」

「感謝する、皆守少尉。 書類の通りだ、ジークフリードシステムに急いでくれ」

「了解です」

 

 

《こうして僕たちは戦うことを選ばされた。 この先が絶望か、地獄か。 幼い僕たちにはまだわからなかった》

 




続きは未定です。


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初―くせん―陣

この世界の深海棲艦に対する理解度は



近づくと問いかけてきて答えると同化してくる。

心読んでくる

程度です。




 

 

CDCでの会話後、望月は走り、艤装格納庫へと向かっていた。

CDCと艤装格納庫はそう遠い距離にはなく、それゆえに直ぐに到着して―――足を止めた。

 

それは艤装格納庫の十一番、つまり望月の艤装が格納されている場所の前に一人の少女がいたからだ。

望月と同じ茶色の髪、同じ顔付きで同じ衣装、だけど眼鏡を掛けていない彼女はその姿で艦娘だと分かる。

当然、望月も知っている。

 

「―――文月、どうしたのさ?」

「あ! 望月やっと見つけたぁ!」

 

望月が来るのを待っていたらしい文月は望月に声を掛けられるなりそう言って近づいた。

表情は不安そうに揺れ動き、‘そう言う内容’なのだと分かる。

 

「大丈夫だよ、直ぐ戻るって」

「でも、てぃたーんもでるなんでしょ! 同化対策はこれから作るのじゃないとあぶないんでしょ」

「―――うん、確かに極めて危険だ」

 

試作睦月型艤装改(ティターンモデル)は最初期に作られた試作睦月型艤装(エーギルモデル)のような事件(・・)は起きないように出来ているものの同化対策はまだ不完全だ。

否定できないその事実、望月は過ぎった事件に顔を一瞬顰め、しかし直ぐに気だるげな表情に戻して文月の頭を撫でた。

落ち着かせるように、落ち着くために撫でて、言った。

 

「大丈夫だって、アタシはまだここにいるから。 ……行ってくる」

「……わかってる―――無茶しないでね、やくそくだよ?」

「わかってるって」

 

文月が若干涙目で言いながらゆっくりと離れるのを確認して、望月は格納庫の扉を開いた。

扉の奥には艤装が壁に固定されて沈黙している。

 

「―――全く、泣かれるのはいつもアタシだ。 アンタが羨ましいよ、皐月」

 

一言だけ呟いて、望月は出撃規定位置に踏込んだ。

そして―――目を細めて、呟く様に、しかしはっきりと通る声で言った。

 

「睦月型11番艦(マークエルフ)望月、出るよ!」

 

音声入力、そして網膜パターンによる認証を経て出撃準備は始まった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――初めての実戦、いきなり本番で今日知った物を試すことになるとは。

何もかも性急過ぎる現状に舌打ちを打ちながら生はCDC内にある装置の中に乗り込み、ソレを起動させた。

 

『システムを再構築します―――端末登録者名を更新してください』

「入力方法は――――音声入力? 一体どこまで此処の技術は……いや、今はそうじゃないか。 システム登録、登録者名『皆守 生』」

『CDCより名簿確認――――確認しました、承認完了。 ジークフリードシステム起動』

 

真っ暗だった装置内部に赤い光が浮かび上がり起動したことを告げる。

システム操作用の指輪に生は指を通し、一度息を吐き、確認する。

 

「ジークフリードシステム―――艦娘とCDC間の通信を担い、作戦指揮を一任する。 それが僕の仕事」

 

確認して、一度目を閉じる。

逸る動悸を抑え、生は息を一度深く吐いた。

 

―――全く、此処(・・)でもあそこ(・・・)でもやることは変わらないのか。

 

指揮官としての役目を求められているならば、落ち着いて運用するだけだ。

そう自身に言い聞かせ、CDCとの通信を開く。

 

『―――生、聞こえるかね』

「―――真壁司令、聞こえています」

『今からCDCの戦況モニターと通信をそちらに繋げる、いいな』

「了解」

 

自身の是の発言と共に内部のモニターは赤からカメラ越しに移された上―――海上及び横須賀鎮守府の陸地を映した。

 

そしてそれを―――敵を捉える。

 

「―――深海棲艦」

 

自身の口からそう敵の名を漏らし、恐怖で口内が渇くのを感じる。

奴ら、深海棲艦の暴威を生は知っていた(・・・・・)

故に恐怖が湧きあがり、それを噛み殺そうと唇を強く噛む。

少しだけまた目を瞑り―――震えが止まった所で見開いた。

そして状況を改めて把握する。

 

―――どこを戦場にすればいい。

 

『―――解析完了、駆逐イ級と断定、第二ヴェルシールド(最終防壁)を攻撃中……突破』

「CDC、艦娘―――望月の出撃はまだですか」

『間もなくだ! ―――いかん! 上陸される!』

 

敵が、深海棲艦が最終防壁を突破し陸に上がる。

だがそれと同時に、ジークフリードシステムに艦娘のアクセスが確認された。

 

生は直ぐ様同期して、通信を開いた。

 

『望月、出撃準備完了だよ! めんどくせぇけどいつでも行ける!』

「わかった。 艦娘の出撃ポイントは――――陸上でも可能か……ならば横須賀鎮守府敵上陸ポイントより距離50に設定―――望月、陸上で戦えるか?」

『訓練ではしたし可能だけどそこまでは動けない、アタシたちの本領は海だしね』

「なら陸から海へ敵を追い込むことは可能か?」

『出来ない―――と言える段階じゃないでしょ、やってみる』

「任せる―――CDC、艦娘の出撃許可を!」

『わかった。 ナイトヘーレ開門!』

 

司令官より直ぐ様許可は下りる。

一瞬、もう一度だけ生は目を閉じて、命じた。

 

「――――駆逐艦望月、出撃!」

『りょーかい、望月でるよ!』

 

言葉と同時、ジークフリードシステムに奔った軽くない振動が望月が出撃したことを示していた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

手に持った主砲を落としかねないほどの速さ――――空気を裂くほどの速さで地下から射出され、望月は出撃した。

射出機構により陸上から30mほど上空まで打ち上げられ、背部及び足裏の艤装のスラスターを使い姿勢制御して傾斜が掛かった地面にしゃがみ込むように着地する。

 

――――『試作睦月型艤装改(ティターンモデル)』の動作正常を確認。

―――兵装、右腕12㎝連装砲、左腕7.7mm機銃のセーフティ解除確認。

――背部試作スラスター艤装との結合問題なし―――燃料の過剰供給なし。

―システム、オールグリーン 残り戦闘可能時間900秒。

 

網膜内に投射される様に浮かび上がった内容を確認し、問題ないと判断して望月は立ち上がり、出撃の衝撃で途切れたジークフリートシステムとの通信を再び繋いだ。

 

『―――つながった。 聞こえているな、望月。 まず陸地での戦闘は不味い、支援攻撃が不可能なうえ、真の鎮守府の位置を敵に悟られれば鎮守府運営に支障が出る恐れがある、まずは敵を海へ引きずり落としてくれ』

「りょーかいだ、司令官―――ローンドック(単独戦闘)エンゲージ(会敵)するよ」

『任せる。 それと僕は司令官ではなく指揮官だ』

 

小言を流しながら望月は正面の敵を見据えた。

敵も此方を確認したのだろう、胴体の向きを変え、頭部をこちらに向けて視線を交錯させてきた。

 

『giy,aa―――――アナタハ、ソコニイマスカ』

「―――さあね、わかんないさ」

 

遠くとも聞こえる敵の問いかけ、それに容易く返答する。

 

問いかけの先に起こる現象(同化)はなく、望月は平然として右手に持った主砲を腰部のハードポインターに取りつけてから右足を前に、左足を後ろに伸ばす形で屈みこみ――――強く踏み込んだ。

 

『gigigaaaa――――――――!』

 

クラウチングスタートの形で踏込み、駆けて一瞬で10の距離を縮めた望月に対し、駆逐イ級が問いかけを否定されたからか敵対意思を改めて示すように吼え、胴体に備え付けられた主砲の照準を合わせようとする。

しかしその時すでに望月は背部と足裏のスラスターを点火して動き始めていた。

滑る様に斜めに動きながら望月は近づく、胴体を射線に合わせなければ撃てないイ級には斜めに動いた望月を攻撃は出来ない、故に旋回しようとする。

 

だがそれは例えるならば歩兵を狙う戦車のようなもの、真面に戦うならばまだしも機動性という面において深海棲艦(陸に適応していない者)艦娘(陸戦も可能な者)には大きな差がある。

例え駆逐イ級が下部のスラスターに点火し、それで狙いを付けようと動き始めたとして―――その時点ですでに望月は左腕の手首に巻く様に取りつけられた7.7mm機銃を向けていた。

 

「この距離なら狙わなくていい―――楽だよねぇ」

 

撃鉄が落ちる、引鉄が曳かれる。

振動と共に機銃から弾が吐き出され、駆逐イ級へと直進する。

だが所詮7.7mm機銃は対空兵装であり、効果は牽制にもならず―――しかし近距離で頭部の目の部分を狙って放たれた弾は望月の想定通りに眼部に命中した。

 

『giygaaaaa―――――!?』

 

悲鳴のような声を駆逐イ級が上げる、若干仰け反る様に動きが止まり、その隙に望月が組み付いた。

 

「いよっとぉぉぉぉおおおおお!!」

 

瞬間スラスターを最大にし、望月は駆逐イ級を押した。

莫大なエネルギーが望月の背部スラスターから吹き出し、望月とイ級を纏めて前へ―――つまりイ級が侵入した海へと押し出した。

 

『よくやった、望月! 直ぐに離れろッ! 支援砲撃を再開する!!』

「わかってる――――っ!?」

 

直ぐ様離れて攻撃する予定、しかし望月は駆逐イ級を抑えていた手に違和感を覚えて目を向けた。

そして、認識すると同時に驚愕に目を見開き―――同時に激痛が走る。

 

「そんなっ同化現象、っぅぁぁぁあああ――――!」

『馬鹿な! 問いかけは無効化したはず――――!?』

 

生が驚愕に吼えるが現実として望月の手の内側、駆逐イ級と接触している部分から結晶が生える。

それは内側から皮膚が破れる痛みを伴い、望月は悲鳴をあげて腕を外そうとし、しかし結晶が手と駆逐イ級の間で繋がり、不可能にする。

 

『gigy……aa―――ア・ナ・タ・ハ・ソ・コ・ニ・イ・マ・ス・カ?』

「――――っぅぅ意識が……」

 

ゼロ距離で駆逐イ級が口を開き、音を発生させる。

それは問いかけであり―――同化の進行を促進させ結晶が腕を覆う速度を速めていく。

 

『くそっ! 望月、何とかして離れてくれ!』

「―――っぁぁああああ!」

 

このままでは死は免れない。

故に望月が霧のように霞み始めた思考の中で迷ったのは一瞬だった。

瞳を赤く輝かせながら左手首に装備されていた機銃が砲塔を回転させ、右腕へと狙いを定めて発射される。

寸分違わず発射された機銃は望月自身の腕へと叩き込まれ、右腕が手首を境に千切れ飛ぶ。

 

『何をっ!?』

「――――!」

 

望月の奇行に目を見開いた生だが、次の瞬間望月の右腕に結晶が生え、砕け散ると同時に無傷の右腕が現れる。

 

『核の自動再生機能――――これが』

 

艦娘の――――深海棲艦特有の自動再生機能だ。

しかし痛覚は残っており、それゆえに痛みに唇を噛み締め、血が出るほどに力を籠めながら、かくして望月の右腕は自由となり――――しかし左腕の機銃は同化された。

 

だが既に望月は右腕で腰部ハードポインターに取りつけていた12㎝連装砲を手に取り――――触れるギリギリで引鉄を引いた。

 

一撃、また一撃と狂ったように望月は連続して撃ち込む。

駆逐イ級は一旦後退しようともがき、しかし望月の左腕と一体化しているため離れられず、――やがて駆逐イ級は限界を迎えたのかのように全身を結晶で覆われ、砕け散った。

同時に望月の左腕に生えた結晶も砕け散り、後に残ったのは怪我はないものの瞳を赤く染めた望月ただ一人だった。

 

『―――敵の飽和自壊を確認。 作戦終了だ』

 

生の確認の声がCDCと望月に響き、戦いの終わりを告げた。

 

 

《初陣の勝利は僕たちを沸き立たせた――――いなくなる不安を隠すかのように。

――――僕たちの戦いは、これからだった》

 



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現―苦境―在

久しぶり?
まあのんびりとですが続きます。

あと本編前にちょいとした説明。
この作品での深海棲艦についての知識。

深海棲艦はそれぞれの探知範囲内に電波や人がいるとそちらへ向かって襲い始める。
感知範囲はおよそ10㎞四方、ただし『異常』が起きればその限りではない。
基本的に陸地には来ず、それゆえに現在生き延びている世界各国の人々のほとんどは内陸にいる。 日本は首都がグンマーあたりに変わってる。

一話では生が来る直前に起きた『異常』が原因で横須賀の地にはぐれ駆逐イ級が出没した。


 

 

翠色の結晶が奔ると同時に室内に悲鳴が奔った。

アラート音がけたたましく鳴り響く中幼子達の悲鳴が響き渡る。

だがそれを止められる者は誰もいない。

事態が突然であったことに加え、そもそも想定外の事態だったからだ。

 

初の起動実験であった以上そのような異常が起きるかどうかなんて想像もつくはずもなく、故に対処法もなかった。

 

『いヤだ、siにタkuない。 Daれか、taすケてyo―――――』

 

ただ無情に時間は過ぎていき――――その少女はうつろな瞳で譫言を呟きながら姉妹のように育った者たちが見る中、艤装に喰われて砕け散った。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「―――っぁ……寝てたのか」

 

鎮守府の一角、出撃ドックの近くに建造されているそのブロックの内部、バスルームのような形をしたそのユニットの中で望月は目覚めた。

ぼうっとする視界と意識の中見回し、望月は何故自室ではなくこの場所にいるのかと思考し、直ぐに当然の事実に行きつく。

 

「そう言えば、戦闘したんだっけ、なら確かに入渠しなきゃだよねぇ」

 

入渠ドックというのが望月のいる場所の名前だ。

艤装を起動し、身に纏った後には必ずこの場所に行くことが義務付けられている治療施設であり、望月達艦娘の生命線と言って違いないものだ。

 

「っと―――残り時間は後一時間ぐらいかぁ。 ま、ティターンモデル使った上同化されかけたし当然かねえ」

 

時計を確認すれば既に長い時間、約半日入っているが、まだあと一時間は治療に時間がかかる。

だがそれは当然のことだと望月は納得している。

 

戦闘に置いて艦娘にとって致命的なのは被弾ではない。

正確に言えば頭部と艤装内部の核という致命的な二か所に攻撃を受けない限り核の自動再生能力が体を直すので戦闘への影響は対してない。

 

艦娘にとって一番危惧するべきは同化限界―――核の再生機能が使用され続け、過剰な再生が肉体を侵すことによる末期症状を迎えることだ。

 

末期症状の悲惨さは望月自身(・・・・)よく知っているし、トラウマに近いからこそ、そこには恐怖があり、万全の態勢を取るのは当然だと納得していた。

 

「……まあ、暇だしのんびり寝ますかねぇ」

 

入渠はしっかり取らなければならない。

故に望月は再び目を閉じ、のんびりと揺蕩いながら数秒後には再び寝始めた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「では、報告を纏めよう」

 

鎮守府の一室、CDCから少し離れた場所に位置する会議室の席が自身を含めて6つ全て埋まったところでその男真壁司令がそう切り出した。

場にいるのは男性二人、女性四人―――それぞれが皆主任クラスの最重要人物であり、当然報告の内容はその場にいる全員が知っている。

昨日の戦闘、そして現在進行中の正式採用された睦月型艤装(ノートゥングモデル)への改装、および新規開発についてそして―――艦娘本人についてだ。

話を総括する真壁司令が一人へと目を向け、問いかける。

 

「では最初に、遠見先生」

「はい。 まず、敵深海棲艦の核ですが無事回収しました。 解析にも既に着手しています」

「なるべく急いでください。 ……小楯。 艤装の改装の方はどうだ?」

「良好だ―――ただ戦闘から得られた情報より提案された腕部防護用の装甲の新規設計、開発には最低でも三日、10隻全員分には一週間掛かると予想している」

「接触による同化か……敵の防壁を崩すには射撃よりも近接戦が有効なのは確認できたが接近戦のリスクもまた大きい」

 

隣に座る医療主任、遠見の話とその更に隣に座る艤装開発主任、小楯の話を聞きながら真壁司令は呟く。

 

「接触による同化、陸上での活動。 どれも20年前には見られなかった現象だ」

 

艦娘の初陣から得られた情報は莫大だ。

深海棲艦については40年以上前から存在が確認されているのに殆どが未知だと言っていい。

その原因は通信傍受からの遠隔同化などにより国と国の繋がりがほとんど殺されていること、そしてそれが原因で日本という島国が他の大陸国との交流がほとんど根絶したからだ。

 

現在でも交流があるのは年に一度数少ない航空機を飛ばして連絡を取り合う中国とロシア程度、其処から仕入れた情報でかろうじてドイツが生きていることくらいしかわかっていない。

 

そして横須賀鎮守府は艦娘関連の極秘事項もあり日本という国内においても20年近く潜伏し、ありとあらゆる存在との接触は最低限に、それこそ国内において知る人は現在の総人口8千万弱の中で0.00001%を超えないレベルで秘匿され、艦娘の開発に専念していたため情報面では大きく劣っていると言っていい。 故に長い年月での敵の変化(成長)が読み切れず、今回分かった接触による同化は全くの想定外だった。 真壁司令は腕を組みながら眉根を顰めつつ対面上の女性、兵装開発主任の羽佐間に問いかける。

 

「兵装の方の改装は?」

「現在、12㎝単装砲を改造中です。 近接専用のブレードを砲身下部に取り付ける改装が進められている他、長物―――槍系統の武器の試作品が完成しました」

「至近接戦闘用の武器は?」

「短刀と拳銃を基礎装備として艤装に格納してあります……ただ、深海棲艦の装甲は両方ともに貫くのは難しいかと」

「……仕方ないか」

 

主砲が深海棲艦の装甲を貫くのは望月が敵を倒したことで可能だと証明された。

だが―――それも連射してやっとの事であり、流石に威力の劣る拳銃と短刀では不可能だろうと想定される、精々護身できればいい方だと考えられる。

さらに重要な問題はまだある。

 

「―――西尾先生、資材の残量は?」

「まだ余裕はあるさね――――だが一、二ヶ月すれば危ないだろうねぇ」

 

戦いには弾と武器が必要だ。

武器と弾は作るには資材が必要だ。

艦娘の身体はともかく艤装も被弾した場合修復が必要になる。

そして人間である以上食料は必須だ。

だが現在、横須賀鎮守府はそれらの必要な資材をそこまで潤沢に取る事は出来ない。

食料だけは地下プラントである程度賄えているもののそれしかなければいつか来る敵による死を待つだけになる。

まして水面下で動くことを強いられてきた横須賀鎮守府では最低限をギリギリまで食い詰め、初期から残っている物を経年劣化しない様にとって置いて、たった10人の戦闘要員であるというのになおそれしか余裕はない。

経理、兵糧主任の西尾の言葉に司令も頷く。

 

「―――対策計画……遠征の方も早めに視野に入れるべきですか」

「それはシステム次第だよ―――要、ジークフリードシステムの状態は?」

「予定通り生少尉はジークフリードに乗っても艦娘との通信時に敵による同化などが発生していません、無論システムへの同化による負荷も同じくです」

「ふむ……早めにジークフリードの適応範囲を鎮守府近海から伸ばさなければいけないようだな」

 

ジークフリードシステムもまた、深海棲艦との戦闘に必須の代物だ。

艦娘が深海棲艦に対する矛であるならばジークフリードシステムは盾と言っていいほどに。

なぜならば深海棲艦の読心能力、そして無差別通信傍受の二つに対抗できる唯一の機械であり、艦娘とCDCを繋ぐ唯一の物だ。

艦娘とジークフリードの双方があって初めて人類は戦術的に深海棲艦に有効打を与えることが可能になったと言える。

 

だが同時に足枷にもなっているといえる。

システムの欠点として鎮守府からおよそ25㎞の範囲内でしかシステムと艦娘を繋げない。

遠洋に出るとシステムの補助がなくなり、艦娘は深海棲艦に読心されることになる。

数少ない戦力を失う危険性を考えれば鎮守府近海にしか出られないのだ。

 

「いずれにしろ時間はかかる―――だが、我々にはもう時間は残されていない」

 

真壁司令が苦々しげな表情で述べた言葉に全員が顔に影を落としながら頷く。

 

「いつ来るかわからない艦娘の生存限界(耐久年数)を考慮に入れつつ、我々はたった十隻の艦娘で日本の制海権を奪還しなければならない。 それが我々横須賀鎮守府に課せられた指令だ」

 

それは言ってしまえば実現不可能で、あやふやな机上の空論かと言われても可笑しくないものだ。

だが、それでもやるしかないのだ(・・・・・・・・)。 生少尉が着任時に大本営から持ってきた書類、それによってわかった現状がそう伝えてくる。

 

「既に大国と呼ばれていたアメリカ、ロシアもいまや物量作戦を行える状態でなく対抗できる国はない。 奴らと対等に戦えるのは、艦娘たちだけだ」

 

それはもし自分たちが、艦娘が失敗すれば後はないということ。

人類が生きるか死ぬかの瀬戸際だということ。

だからこそ、真壁司令は実現不可能な指令を成功させるしかなかった。

 

 




今回は生君が出てないのでポエムなしで。

わかりやすい?捕捉

世界全体では情報通信=電波探知からの同化のコンボのせいで通信が出来ない。
衛星とか経由もダメ。
おかげで情報共有がほとんど出来ておらず、日本に至っては輸入品がなくなったせいで人口がだいぶ減っている。

深海棲艦は大量のPT子鬼群と駆逐艦の群れが基本。
重巡以上はまだ見つかってない(いないとは言ってない)。

追加の艦娘はまだ作れない上に艦娘は開発初期型のせいでいつガタが来るかわからない。

そんな現状です。


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