妖怪の山 天狗の里にて
「フッフッフ、今日も沢山ネタが手に入りましたよ。」
自分の手帳を見ながら黒い笑みを浮かべているのは、烏天狗の射命丸文。端から見れば痛い人にしか見えない。
「さて、早速新聞の作成を……」
文が手帳を閉じ、自宅に帰ろうとする。と、その時。
「ここにいたか、文。」
後ろから突然声がかかる。その声を聞いて、文は冷や汗を流す。ギギギ、と効果音が付きそうな感じで後ろを振り向く。そこには、
「く、鞍馬様……?」
自分の上司である大天狗がいた。
「まったく、今日という今日は逃がさんぞ。たっぷり溜まった仕事をやらせてやる。」
「お断りしますッ!」
上司の言葉を聞いた瞬間、全速力で逃げ出す文。幻想郷最速のスピードを、まさに最大まで上げているのだ。だが、
「逃さんぞ、文!」
それに追いついてくる大天狗。幻想郷最速の歴史が変わるかもしれない瞬間である。
「しつこいですね!私の本業は新聞を書くことですよ!」
「その新聞を書く過程でお前が起こしたことの責任が、全部俺のところに回ってくるんだよ!」
「それは大変ですね。じゃあ頑張ってください!」
「他人事のように言うんじゃない!」
妖怪の山の上空では、逃げる烏天狗とそれを追いかける大天狗が飛んでいた。これが妖怪の山では日常茶飯事である。それを見上げる天狗達は、
「ああ、今日もやってるのか」
と、必ず呟く。本来ならここで止めさせるべきだが、そんなことは無理だと全員がわかっているのである。こうして妖怪の山の時間はいつものように流れていく。
部下に迷惑をかけられ、他の大天狗に愚痴を聞かされ、いつもいつも苦労する大天狗。
その名前は、鞍馬法眼。恐らく、妖怪の山一の苦労人。そんな天狗の話始まると思います。
誤字脱字、おかしな点などありましたらPM-9ラピッドファイアの如く報告してください。
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第一話
妖怪の山、天狗の里の、ある家に一つの声が響いた。
「大天狗様~お手紙ですよ~」
声の元は1人の天狗。他の天狗と違う所があるとしたら、頭の上に赤い帽子を付けているという所だろう。まあ、手紙と赤い帽子と言ったら大体予想はつくだろう。郵便配達である。ちなみに、この帽子を付けている理由は、「なんとなくそれっぽいから。」らしい。
「はいはい、今行くぞ」
そんな声が聞こえたかと思ったら、玄関が開き、中から1人の天狗が出てきた。
「こちらがお手紙になります」
帽子を付けている天狗は、手紙を
と置いた。
「・・・やっぱりか」
家から出てきた天狗は、頭を抱えながらそう言った。天狗の前にあるのは、どこから出したと言いたくなるような数の手紙が、これでもかとばかりにあった。さて、お気づきの方が殆どだろうが、この天狗は妖怪の山一の苦労人と名高い大天狗、鞍馬法眼である。そして、彼にとってはこの光景は日常茶飯事である。
「では、自分はこれで」
そう言って、帽子をかぶった天狗は次の配達場所へ飛び立っていった。
「・・・まずは家の中にいれるか」
彼は、いかにも面倒くささ全開と言った様子で、手紙の山を自宅へ運ぶ作業に移った。
「やっと終わった・・・」
今、彼の目の前には溢れんばかりの手紙の山が広がっている。作業を始めたのが太陽が昇り始めた中間あたりで、今は太陽が真上に来ている。この事が、彼がどれだけ大変だったのかを物語っている。
「それじゃ、いつも通りのことをするか。」
その言葉と共に、彼は手紙の封を開けて、中身を見出した。
「『この間烏天狗が洗濯物を吹き飛ばしていった。』『烏天狗が子供に変なことを吹き込んでいた。』
『烏天狗がやたらと写真を取ってくる。』『神社の賽銭箱に賽銭が一つも入っていない。』・・・また文絡みじゃないか。最後のは除くとして」
手紙の中に書かれているのは、殆どが彼の部下である烏天狗、射命丸文の起こした事だった。最後のは何かって?知らん。
「毎回毎回あいつは・・・山から出るのは勝手だが、迷惑はかけるなと何度も言っているだろうが・・・お陰でこっちはこの有様だ。今度見つけたときは少しお灸を据えてやるとしよう」
愚痴をこぼしながらも一枚一枚丁寧に手紙を開けていく鞍馬。一つの手紙を開けるごとに一回ため息が出る。ため息をすると幸運が逃げていくというらしいが、もしそれが本当ならば、彼の運はもう修復不可能だろう。
「『主が食べるのを自重してくれない。』『白黒の魔法使いに本を盗まれる。』『姫が働かない。』『そんなことよりお賽銭。』・・・なんかお悩み相談みたいになっているんだが。というか何故それを俺に言う」
なんだか手紙の内容がおかしくなってきたが、彼はひと通りの手紙を開け終えた。
「それじゃ、返答を書きますかね。まずは、『あなたの神社に賽銭が来ないのは、まずそこの環境をどうにかしたほうがいいかと。』っと。さて次―――
―――『あなたの姫を働かせるには、まずは働かないとご飯抜きとか、そうことを言ってみてはどうでしょうか。』・・・ふぅ、やっと終わった」
彼の前には、先程の手紙の山と同じ数の手紙の山が出来上がっていた。
「殆どが文絡み、その他は全て個人的な悩み。いつから俺はお悩み相談者になったんだ」
ちなみに、彼がこの作業をやっている理由は、天魔直々の命令だったりする。その命令を簡潔に言えば、「お前の部下が迷惑な事ばかりするから、お前が責任取れ。」というものだ。彼からすればおまえは何を言っているんだと言いたくなることなのだが、事実なので仕方がない。なのでこの作業をしているのである。
「全く、この間の月がおかしくなった事も収拾がついてないというのに。よし、次に何か起きたときはストレス発散も兼ねて、俺が出ることにしよう」
さりげなく大変なことを言ったのだが、本人は本気らしい。大天狗が妖怪の山から出るなど、言語道断なのだが。彼がそんなことを心に決めていた時、玄関の方から声が聞こえた。
「鞍馬様、いらっしゃいますか?」
女性の声だった。鞍馬は玄関の方へと足を運ぶ。扉を開けた先にいたのは、白い髪に獣耳、そして背中に背負っている剣と盾が特徴的な少女、鞍馬のもう一人の部下、犬走椛だった。
「ああ、椛か。何かあったのか?」
「はい、鞍馬様。天魔様がお呼びです」
そのことを聞いた鞍馬は顔を顰めた。彼の実際の経験から、天魔が呼ぶときは、大抵嫌なことだ。将棋の相手をしろとか、人里に行って料理の食材を買って来いとか。完全にパシリである。
「わかった、すぐに行く。お前は帰っていいぞ」
「了解です」
そう言うと、椛はどこかへ飛びさって行った。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。出るのは天狗だろうがな」
そんなくだらないことを言いながら、彼は天魔の元へ飛んでいった。
誤字脱字、おかしな点などありましたらバレットマシンガンの如く報告してください。
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第二話
(`・ω・´)ノ
天魔、それは妖怪の山の頂点に君臨する、天狗の長。なのだが―――
「俺は本当にお前がこの山の頂点なのかと錯覚することがあるぞ、
「まあまあ、そういう事言わないの法眼君。これでもれっきとした天魔だよ?それと、僕の事はあまり本名で呼ばないこと」
―――鞍馬の前にいるのは、机の上で寝転がっている幼女だった。そして、彼女こそが妖怪の山の頂点である天魔、
「全く・・・俺に何の用だ。こっちも忙しいんだ。あのバカラスのせいでな」
「あははは、文ちゃんもいつも通りみたいだね。それで、本題なんだけど、法眼君に頼みがあるんだよ」
机の上で寝転がりながら話す飯縄。横から見たら微笑ましい光景だ。
「頼み?饅頭買って来いとか、花取ってきてとかは受け付けんぞ。あの時は本気で死ぬかと思ったんだからな」
最後の辺りは顔を青ざめながら言った鞍馬。その理由は、先月ほど辺り、急に飯縄から花を取ってきてと言われたので、その花がある場所に行くと、緑髪の女性にいきなり攻撃を仕掛けられたからなのだが、それはまた別の機会に話すだろう。
「あれは本当に申し訳なかったと思ってるよ。僕もちゃんと説明してなかったからさ。今回はそんなこととは無縁な、簡単な頼みごとだよ」
「全く、頼むぞ。もうあんなことは懲り懲りだ」
話しただけで疲れた様子の鞍馬に飯縄は、
「実はね、地獄に行って欲しいんだ」
まるで死刑宣告のようなことを言い出した。
数刻後、鞍馬は妖怪の山の裏側にある、中有の道の上を飛んでいた。
「飯縄め、どこが簡単な頼みごとだよ、だ。完全に難しすぎるだろう。二、三発殴ってやりたいところだ。立場上出来ないのが非常に悔しい」
あの死刑宣告のあと一悶着あったのだが、地獄にいる閻魔に確かめて欲しいことがあるということが言いたかったということで誤解が解けて、地獄へ向かっているところだ。生者が地獄に行けるという疑問があることだろうが、ここは幻想郷である。それで納得してもらいたい。
「ここが地獄か?」
彼が降り立ったのは、彼岸花が其処ら中に咲いている場所だった。
「なんともまあ、面白みのなさそうな場所だな」
辺り一面彼岸花。その他にあるのは幽霊と川くらいだ。
「はてさて、閻魔様はどこにいるのやら」
鞍馬は川に沿って歩き始めた。
「あちゃー、やっちまったね」
赤い髪をした長身の女性、小野塚小町は困っていた。その理由は、自らが持っている鎌で遊んでいた所、うっかり船をザクッとやってしまったといういかにも自業自得なことなのだが。このことが彼女の上司にばれたら、確実にお叱りルートまっしぐらである。
「どうしようかね・・・お?」
彼女の視線の先にいたのは我らが主人公、鞍馬であった。と、ここで彼女の悪知恵が働く。
「そうだ、あの天狗のせいにすればいいんだ。あたいは何も受けず、あの天狗は映姫様の有難いお話を聞ける。一石二鳥とはまさにこのことだね」
そう決めた彼女は、鞍馬の方へと歩を進めていく。こうして、鞍馬はまた苦労をするのだった。
「おーい、ちょっとそこのお兄さん」
「ん?」
聞こえた声に足を止める鞍馬。振り向いた先にいたのは、物騒な鎌を持った赤髪の女性―――つまり、小野塚小町―――だった。何故か、鎌の先に木片がくっついているが。
「
丁寧な口調で話す鞍馬。いわゆる、仕事モードという奴である。
「ああ、あんたのことだよ。少し頼みごとがあるんだ」
「ではお断りします」
即答である。鞍馬は日頃の経験から、「頼みごとがある」=厄介ごと、という事に成り立っているのである。
「ちょ、ちょっと。話くらい聞いてもいいんじゃないのかい?」
余りにも速攻で切り捨てられたため、焦る小町。
「残念ですが、私は人?を探しているので」
「人?もしかして閻魔だったりするのかい?」
「ああ、そうです。その閻魔さんを探しているんです」
その言葉を聞いた小町はニヤリと笑う。これだったら話が早いと思ったのだろう。
「よし、あたいが呼んでやろうじゃないか。」
豊富な胸を張って言う小町。そのあたりの男性なら鼻の下を伸ばしているだろう。
「でも、呼ぶって言ったってどうするんですか?」
「そのあたりも任せなって。コホン・・・あーあ急にサボりたくなってきたぞ!こんな時は昼寝でも「なんですって?小町。」うええぇぇ!?え、映姫様どこから!?」
「あーあ急にサボりたく~の辺りからです」
初めから聞かれていなかっただけマシだろう。
「あ、そうだ映姫様!この天狗が船を壊したんですよ!」
「え"!?」
ここでやっと騙されていたことに気づいた鞍馬。意外と騙されやすいのかもしれない。
「それは本当ですか?」
「本当です!」
「え"え"!?」
それにしてもこの死神、驚きの白々しさである。
「まあ、あなたの言うことが本当かもわかりません。ここは私が確かめましょう」
そう言って映姫が取り出したのは手鏡のようなもの、閻魔用の裁判道具である浄玻璃の鏡だ。簡単に言えば、過去を映し出す鏡である。プライバシ―もへったくれもない鏡である。
「では・・・ッ!?」
鏡を見るなり青ざめた顔になる映姫。
「どうかしましたか?」
「い、いえ。少し驚いただけです。それでは・・・はぁ」
ため息をつく映姫。それにあわせて冷や汗を書き始める小町。
「・・・小町」
「はいっ!?」
ビクッと体を震わせる小町。これから何が起きるかわかっているようだ。というか、完全に主人公が空気である。
「まったくあなたという人はどうしてそういつもいつもサボったりするんですしかも今度は鎌で遊んでいて船を叩き割ったなんてふざけているのですかふざけていますねあなたはそれにたまたま通りかかったこの天狗のせいにするなんてあなたはいつからそんな駄目な死神になったんですか最初からですかそれに・・・」
「トホホ・・・ってそうだ、映季様」
「なんですかまだ話は終わってませんよまさか言い訳をして逃げるつもりですかもう許しません今日という今日はたっぷりと「そうじゃなくて!この天狗が映季様に話があるらしいんですよ」
何時までも続くような説教から逃げるようにいう小町。
「それは本当ですか?」
「あ、はい。天魔様に伝言を伝えるようにと言われまして」
さっきまでの説教を見て唖然としていた鞍馬だが、はなしを振られたことによって戻ったらしい。
「伝言とは?」
「確か・・・『そろそろ結界の時期じゃなかったっけー?』と言っていました」
結界の時期、鞍馬は天魔から言われたその言葉の意味を知っていた。
「そうですね・・・そろそろだったでしょう。では私も伝言を頼みます。『そろそろ結界の時期なので、山を混乱させないようにしてください』と伝えてください」
「わかりました。では私はこれで」
そう言って鞍馬は山に向かって飛んでいった。
「もうそんな時期ですか・・・忙しくなりそうですね」
気を引き締めた映姫だが、
「ね~映姫様。何を話してたんですか?」
小町のゆる~い声で引き締めた気がゆるんでしまった。
「小町・・・あなたはもう少し場の空気を読んでから発言したほうがいいですよ」
「え~?あ、そういえば鏡を見て驚いてましたけど何だったんですか?」
「ああ、あれことですか・・・まあ、あなたなら大丈夫でしょう」
そう言いながら小町の耳に口を近づける映姫。そして、その口から放たれた言葉は、
「鏡に最初に映ったのは、辺り一面の血の海に立っている彼の姿でした」
あまりにも予想外の言葉だった。
誤字脱字、おかしな点などがあれば、かそくサメハダーの如く報告してください。
友達のかそくサメハダーに勝ったことが一度も無い(´;ω;`)ブワッ
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第二.五話
鞍馬が地獄へ行ってから数分後。
「ねぇ、いるんでしょ?紫ちゃん」
飯縄は、誰もいない場所に向かって言葉を発した。数秒後、その場所がパックリと開き、目玉だらけの空間が出現した。そして、その中から出てきたのは、
「あら、やっぱりバレていましたか」
胡散臭い雰囲気を出す女性。妖怪の賢者、八雲紫だった。
「バレていましたか、じゃないでしょ。あんなに鞍馬君を見つめて。もしかして好きとか?」
「ご冗談を。私程度の妖怪が彼と一緒になれるわけないでしょう。私でも敵わないのに」
さりげなくとてつもない事を言った紫だが、周りに誰もいないからいいのだろう。
「あれ、じゃあなんで鞍馬君のことあんなに見てたの?」
「いえ、少し気になるところがあっただけですわ」
紫は顎に手を当てて、何かを考える素振りを見せながら言い出した。
「彼を山に入れたのはあなたでしたね」
「そうだけど、それが?」
「では―――
―――彼を二度目に山に入れたのも、あなたですか?」
その言葉を聞いた瞬間、飯縄は殺気を出し始めた。
「・・・何が言いたいのかな?」
徐々に増えていく殺気。その殺気に押されながらも、紫は言葉を紡ぎ出した。
「いえ、あなたは彼を、一度この山から追放した。なのに彼を山へ戻した。それは本当にあなたが―――
「それ以上話さないほうがいいよ?」
いつの間にか、紫の喉元には、どこから出したかもわからない刀が添えられていた。
「・・・ッ」
「僕ね、あの時の話をされると、話してる人を殺したくなっちゃうんだ。だから、その話はしない方がいいよ?」
小さい体からは予想も出来ない程の殺気を出す飯縄。紫は冷や汗を流していた。
「・・・わかりましたわ。その話はもう止めにしましょう」
「うんうん、それが一番いいよ」
殺気を収めて、いつもの様に机に寝転がる飯縄。紫は安堵の溜息を吐いた。
「では、私はこれで」
「うん、バイバーイ」
紫はスキマを開き、その中へ入っていった。紫がいなくなったのを確認したあと、飯縄は一人、呟いた。
「あの時の話で殺意を覚えるのは、僕よりも遥かに、鞍馬君のほうが強いよ。彼は、最も大事な人間を失ったんだから・・・」
誤字脱字、おかしな点などあれば怒ったナルガクルガ希少種の如く報告してください。
ここのネタを考えるのが難しい。
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第三話
鞍馬が地獄から戻って来た数日後。
妖怪の山は混乱状態になっていた。その理由は、幻想郷中に花が咲いたからである。そして、妖怪の山が混乱状態に陥ると何が起きるか―――
「それはそっちの大天狗の管轄だろう!?こっちに持ってくるな!花のことは知らん!というか、どいつもこいつも俺の所に来るんじゃない!」
―――仕事の倍増である。さらに、大天狗は管理職。それ故に増える仕事の量が、半端無いのである。
「あやや、大変そうですね鞍馬様」
「文、いいところに来た。お前も手伝え」
「では私はこれで!」
「逃すとでも思ったか」
神速の如く飛んで行こうとした文の前を強い風が遮る。鞍馬の能力だ。『強風を操る程度の能力』、それが彼の能力である。
「さあ、もう逃がさん。お前にも俺の苦しみを味わってもらおうか」
「お、お助けー!」
「も、もう無理です・・・」
「なんだ、もうリタイアか?情けない」
数刻後、文の前には大量の書類が積み重なっていた。まあ、隣にいる大天狗はその倍以上の書類を既に終わらせているのだが。
「ふむ、もういいだろう。ご苦労だったな文」
「お、お疲れ様でした・・・」
文は、フラフラに成りながら飛んでいった。
「さて・・・この残りどうしよう」
鞍馬の後ろには、まだまだ大量の書類がスタンバイしていた。
「全く・・・鞍馬様も天狗使いが荒いわ」
鞍馬が大量の書類相手に戦っている間、文は愚痴をこぼしていた。
「大体、私のしているのことの何が悪いのよ。私は新聞を書いているだけなのに」
その新聞を書く過程が悪いということに、彼女は気づかないだろう。
「そういえば、博麗の巫女はもう動いているのかしら」
文は方向を変え、博麗神社へと飛んで行った。
その頃、鞍馬の家
「鞍馬君、お邪魔してるよー」
「お邪魔していますわ大天狗様」
厄介この上ない者が二名、不法侵入していた。飯縄と紫である。そして鞍馬が彼女たちを見て第一声、
「帰れ」
といって強風で吹き飛ばした。だが、彼はその行為がどれだけ愚かなのかをすぐに思い知った。想像してほしい。書類が積み重なった部屋で強い風が吹くと、どうなるか。
「あ・・・」
単純に吹き飛ぶのである。因みに、その時の部屋は窓が開いていたので更に恐ろしい事になった。
「あーあ、やっちゃったね鞍馬君」
「あれはもう戻ってこないでしょうね」
彼がまさしくorzという感じになっていた所に戻ってくる二名の厄介者。飯縄と紫である。
「何故飯縄と八雲がここに居る?簡単に説明して欲しいんだが。俺も忙しいんだ」
「僕は仕事が面倒だったから」
「私は大天狗様に聞きたい事があっただけですわ」
「よし、八雲は残れ。飯縄は帰れ」
仕事を放棄した幼女上司に頭が痛めながら鞍馬は言う。
「む~、酷いよ鞍馬君。僕にあの地獄へ戻れって言うのかい?」
涙目になりながらポカポカという擬音語が似合いそうな叩き方をする飯縄。ロから始まってンで終わる危ない人達なら、確実に襲っている事だろう。
「それで?伝える事とはなんだ、八雲よ」
「無視!?」
「いえ、大天狗様は今回の異変に参加なさらないのかと」
「紫ちゃんまで・・・もういいよ、僕は仲間外れなんだよ・・・」
部屋の隅で、『の』の字を書き始める飯縄。それでも鞍馬達は、全く気にしない。
「なぜ今回の異変に俺が参加する必要がある。放置していればその内終わるし、俺にとっての利点がないだろう」
「あら、そんなこともありませんわよ?」
紫の言葉に目を細める鞍馬。
「・・・どういう事だ?」
「いえ、先程まで天魔様とお話しておりましたの。大天狗様がもしこの異変を迅速に終了させたならば、休暇くらいあげても「ちょっと異変終わらしてくるぞ!」いいのでは・・・ないか・・・」
紫が言葉を言い切る前に飛んで行った鞍馬。休みに餓えているのだろう。
「えっと・・・天魔様?」
「もういいよ、どうせ僕は仲間外れなんだから二人で楽しくやってよ・・・」
「・・・とりあえず、もっと休暇を増やしてあげたらいいと思いますよ」
流石の妖怪の賢者も、この二人相手では押されっぱなしのようだった。
鞍馬が飛んで行ってから数分後、厄介者達は彼の部屋を物色していた。
「って、あら?」
「ん?どうかしたの紫ちゃん」
「いえ、この引き出しだけ鍵が掛かってありますわ」
「どれどれ・・・あ、本当だ。鍵掛かってる」
鍵の掛かった引き出し。何の変哲もなさそうな引き出しだが、彼女達の興味をそそるには十分だった。
「開けてみましょうか」
「んー、そうだね。気になるし開けてみよう」
「では・・・・開きましたわ」
「よーし、中身はなんだろなー。って・・・」
中から出てきたのは一枚の写真。写っているのは一組の男女のようだった。
「写真ですわね。誰の・・・」
「駄目ッ!!」
紫が手に取った写真を奪う飯縄。
「ど、どうしたんですの?」
「・・・紫ちゃん、今の写真の事は忘れてほしいな」
殺気を出しながら言う飯縄。
「・・・わかりましたわ」
「うん、ありがとうね」
「では、私はもう帰りますわ」
紫はスキマを開いて帰っていった。一人残った飯縄は、写真を眺めていた。
「鞍馬君、こんな所に・・・」
写真に写っている男女。男性の方は鞍馬だ。女性の方は・・・
「やっぱり、まだ忘れられないんだね鞍馬君・・・」
写真に、一滴の涙が落ちた。
誤字脱字、おかしな点などありましたら豆マリオのスター状態の如く報告してください。
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第四話
「さて、休暇目当てで飛び出したものの、どこへ行けばいいやら」
鞍馬は今、絶賛迷走中だった。もはや自分がどこにいるかも分からないということは無いが、やはり迷っていた。
「第一、今回の異変はその内に収まるんだがな。休暇に釣られたか・・・」
どれだけ休暇に餓えているんだという事だが、実は彼、三十年前から働きっぱなしである。休暇の一つ欲しいどころではないだろう。
「まあ、その辺を飛んでいたら誰か見つかるだろう。第一村人みたいなものだ」
そんな都合良く人が現れるわけないだろうと言いたい所だが、その辺は抑えて頂きたい。
「と、発見ってあれは・・・博麗の巫女か。霊夢・・・だったかな?まあいい」
鞍馬は仕事モードに口調を切り替える。
「また天狗?今日はよく見るわね」
「また?ああ、烏天狗にでも会ったのですか」
―――『また』というなら、文は負けたのだろう。今度これを口実に、仕事をさせてやろう。
そんな事を考えた鞍馬だった。
「まあね。あんたはこの異変について、何か知ってるの?」
「知らない、と言えば嘘になります」
「そう。ならあんたをボコればいいのね」
「何故そういうことになるのですか?」
「問答無用よ!」
なんだか理不尽に弾幕ごっこが始まった。
―――ルール スペル枚数・三枚 残機・三 ―――
「・・・面倒ですね」
鞍馬はひたすら弾幕を避け続けていた。作戦としては、避け続けて相手のスタミナが切れるのを待つという作戦だったのだが、さすが博麗の巫女というべきか、全く動きが鈍らない。某怪物狩人ゲームに出てくるスタミナが減らなくなる薬でも飲んでいるのだろうか。もちろんGのほうを。
「っと!そんな事を考えている暇ではありませんね」
飛んできた弾幕を紙一重で避ける。この光景が先ほどからずっと続いているのだ。変わりのない光景が続くというのは、苛立ちが湧いてくるものである。痺れを切らしたのか、霊夢はようやくスペルを使った。
「霊符『夢想封印』」
複数の光弾が発生し、その全てが鞍馬へと向かう。避ける鞍馬だが、光弾は鞍馬を追尾する。
「それは反則でしょう!?」
全ての光弾が鞍馬に命中する。霊夢はやったか?と思ったが、それはフラグである。
「強風『三人連れの鎌鼬』」
スペルを宣言する鞍馬。宣言が終わったあと、彼を中心に多数の大玉が全方位に飛ぶ。結構な速度な速度もある。その後に、まるで刃の様に並んだ小さな弾が、霊夢に向かって大量に飛んで行く。どれもかなりの密度だ。霊夢はそれらを全て避けていく。少々キツそうだ。さらに鞍馬は弾幕を撃とうとする。次はどんな弾幕が来るのかと身構えた霊夢に向かって撃たれた弾幕は、
「・・・は?」
どこぞの⑨が撃つ弾幕よりも易しい弾幕だった。
「・・・あんた私を舐めてるの?」
「滅相も無い。こういうスペルなだけですよ」
状況としては、鞍馬が一度撃墜され、霊夢は無傷。鞍馬が少し不利である。
「まあ、いつまでも逃げていては埒があきませんからね」
鞍馬がスペルを取り出す。
「魔風『提馬風』」
鞍馬を中心として、大量の大玉が反時計回りに飛んでいく。そして、その大玉の間を通り抜けるように小さな弾が飛んでいく。
「この程度?これならさっきの烏天狗の方が強かったわよ」
「そうですか。けれど、一つ言っておきます。まだスペルは終わってませんよ?」
「はぁ?何を・・・」
言っているの、と続けようとした霊夢に向かって、かなりの速度の弾が直線的に飛んでいく。それに反応できなかった霊夢は撃墜される。
―――落とせただけ儲けものだな。
鞍馬はそんな事を考えた。最初から、鞍馬は真剣などではない。遊んでいるのだ。なぜならこれはごっこ遊びなのだから。
「~ッ!今のはルール違反じゃないの!?」
「何を言いますか。油断したあなたが悪い」
挑発的な言葉にカチンと来たのか、霊夢はもう一枚のスペルカードを取り出した。
「夢符『封魔陣』」
霊夢を中心として放たれる札。さらに、円の形をした弾幕が放たれる。札が動くので鬱陶しい。
「って、おわっ!?」
いつの間にか目の前に弾幕が迫っていた。もはや避けられる距離ではない。弾幕は、鞍馬の顔面に直撃した。
「アイタタタ・・・顔面セーフとかないんですか?」
「ある訳無いでしょうが。てかいい加減本気出しなさいよ。これじゃ面白く無いわよ」
「むむむ、困りましたね。あまり力を見せたくないのですが・・・」
「なに?なにか理由でもあるの?」
「私が強くなり過ぎます(ドヤァ」
「・・・・・・」
「すいません謝りますからその痛い人を見る目をやめてください」
割りとガチで痛い人認定されそうな鞍馬である。
「しかしですねぇ・・・本当にあまり力は出したくないのですよ。むむむ・・・あ」
何かを思いついた鞍馬。おもむろに懐からスペルカードを取り出す。
「本気かはわかりませんが、運が良ければ本気ですよ」
「どういうことよ?」
「こういうことです」
鞍馬がスペルを宣言する。
「風神『一目連の気まぐれ』」
数分後
「はい、私の負けですよ」
「なんなの、よ。最後、のアレ、は・・・」
霊夢が息を上げながら言う。かなり疲れているようだ。
「種明かしは出来ませんね。ですが一つ言うとすれば―――
―――あなたは運が良かった」
そう言った後、鞍馬は飛び去っていった。
「・・・あ、異変のこと言うの忘れてた」
誤字脱字、おかしな点などございましたらトランザムッ!!の如く報告してください。
余談ですが作者の好きな東方BGMは
1位 華のさかづき大江山
2位 佐渡の二ッ岩
3位 御伽の国の鬼が島です。
基本的に和風チックなのが大好きです。
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