例えばこんな対決  (ブロx)
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例えばこんな対決

感情に任せて、やっちゃいました。

UA1000オーバー… こんな作品を読んで下さりありがとうございます。


もしも、原作三巻ラストの黒鉄一輝VS東堂刀華戦で我らが主人公一輝君が繰り出したのがとある魔剣だったら。

 

 〈あらすじ〉

我らが主人公黒鉄一輝は大人達の卑劣な罠に嵌められお前は悪い奴だと濡れ衣を着せられ罵られ、自分が生きている意味を失い監禁生活を余儀なくされていた。

疲労困憊な上に飯もろくに食べられていない状態で大人達に、お前の身の潔白は決闘で証明するんだな! と命令された我らが主人公。

自身が所属する破軍学園の強さランク一位で生徒会長の東堂刀華とガチバトルするはめに。しかも会場まではなまら遠いが徒歩で行かされるとは、おおブッダ!

もはやこれまでと諦めかけたその時、最愛の彼女ステラが彼の前に現れる。愛の力で精神的に復活した我らが黒鉄一輝は、

 

我、生きずして死す事無し。理想の器、満つらざるとも屈せず。これ、後悔と共に死す事無し。

 

とどこぞの飛鉄塊乗りのような生き様の如く胆を決め、決闘会場に向かう。

そして会場には生徒会長、東堂刀華が我らが主人公と実は前々から闘いたくてウズウズしていたのだった。 

 

 了

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、あなたと闘ってみたかった!!!」

 

「僕も、あなたと同じ気持ちでした。」

 

東堂を見据え、一輝は不可思議な自覚の中にある。ここに立つまでに様々な感情、悪意に苛まれ心身は疲労困憊であるが、それらをこの刹那は覚えない。

 

消えたのではなく。静かで、より強い何かに押しのけられている。いや、内包されている。

それはシンプルな、闘争心だった。

 

(もしかしたら)

 

ふと思う。

 

(今回のような決闘がなくとも、僕等はいずれこうなったのではないか)

 

それほどに。

 

破軍学園序列一位との決闘の時を迎えて、一輝の心身は静謐であった。

 

昂ぶらず。

 

荒ぶらず。

 

流れる水のように、闘い往く己を自覚する。

 

 

 

一輝が地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

一太刀で勝つ。

 

今にも稲光を放つであろう雷雲を真っ向から見据え、一輝は心中に期した。

 

二の太刀などは無い。

一撃で仕留められなくとも次がある――などという考えで、勝てる相手ではないのだ。

 

一撃、必殺。

 

実現するには間合を掴まねばならない。東堂の剣の間合を把握せねばならない。

 

しかし、それこそが困難であった。

 

 

東堂の構えは武器である刀を鞘に納め和平の意思表示をしつつ、だが姿勢及び殺気は一貫して衰え無し。これこそが戦闘体制、構えである。

 

ノーブルアーツ-伐刀絶技- 雷切。光の速さの域にあるその魔剣を補足し、この剣を振り下ろして確実に勝つ間合を、掴みきれるか。

 

少なくとも、過去には一人たりと、それに成功した者はいないのだ。

 

そう。

 

魔剣雷切、その真の恐ろしさはこの構えにある。

 

雷切を見た人間の多くは、光の速さに匹敵する超高速の抜き打ちで勝ちを得るのだと思い込むのであろう。

 

 だが、違う。

 

魔剣は、今。こちらを見据える、この構えから始まっている。

 

これが既にノーブルアーツ-抜刀絶技-なのだ。

 

 

 

 

一眼二足三胆四力 という言葉がある。

 

戦闘で重要なのはまず眼、次に足、胆、力という、主に現代剣道で使用されるこの言葉は、今の東堂を的確に表現しているといえよう。

 

抜刀絶技、リバースサイト-閃理眼-。東堂は見るだけで相手の身体に流れる微細な伝達信号(インパルス)を感じ取れる。

 

つまりは、解かるのだ。敵の思考も行動も。その上で彼女は行動する。

 

さなきだに間合の読み難い居合の抜き打ちがくるともなれば、もはや剣筋の見切りは不可能といえよう。

 

 

 では敵が手を出さず、後の先(敵が攻撃の最中にあるために防御が不能)の勝機を取らんと期して、東堂の攻撃を待ち構えた時はどうか。

 

東堂は期待に応えて、先手を打ってくるであろう。

 

雷速かつ神速の、踏み込みと抜刀とで。

 

後の先は敵の攻撃をまず防がねば始まらない。

 

東堂の居合に対して、それが果たして可能なものか。

 

それは光の速さでどこからか襲ってくる雷を避ける、ということなのであるが。

 

居合とは己の左腰に差した刀を右手で抜きつつ斬る技。当然、左側への攻撃はできないのだから、そちらに回り込みさえすれば勝てる――

 

 などと思い込んだ者は、居合術を甘く見たことに対して生命の対価を払わねばならなくなるであろう。

 

左腰の刀を左手で抜いてそのまま左側を斬る、そんな技さえ実在することを彼らは知るまい。

 

 

――――東堂に抜かせるな。

 

それは破軍学園生徒会の合言葉だった。

 

 

 

先手、先手を取っていくしか勝機はない。

 

だが、ただ斬りつけてもインパルスを読まれて躱され斬られる。

 

ならば、

 

閃理眼をも打ち破るフェイントを仕掛けて東堂の剣を居付かせ、すかさず斬ってはどうか。

 

己の得物の間合を瞬時に伸ばして、斬ってはあるいは突いてはどうか。

 

……いずれも策としては不足は無く、そして、共通する前提条件を有する。

 

 つまりは、意図を東堂に読ませない、という。

 

見破られた策など無残なものである。

 

過去にこれらの策を試みた者が幾人いたにしろ、例外なく無残に終わったことは、東堂がいまこの舞台にいることからも自明。

 

 一輝にも、彼女の眼を騙してのける自信はなかった。

 

 

 先手を打たれれば、躱して斬る。

 

 後手に回られれば、雷電が如く斬り捨てる。

 

元来が屈強の居合使いであった東堂刀華が、その地位に安住せず、必勝不敗の更なる高みを目指して見出した技法。

 

ただ東堂の才能と確立された技術にのみ立脚する剣。

 

冷静に勝利を行う一つの機構-システム-。

 

敵が何者でも関知せず、

 

強剛な小娘のような有機物も無力なゴーレムのような無機物も等しく切り捨つ。

 

それが雷切。

 

破軍学園全生徒を魅了した東堂の剣、その至極の姿。

 

無敵、

 

無敵に近い魔剣。

 

 

 

 

勝機は。

 

 あるとするならば、一刹那。

 

こちらが先手を控えた場合、東堂はある段階で、先制攻撃に対して躱して斬る居合雷切から、自ら先制し斬る居合雷切へと、意図を切り替える。

 

 その瞬。

 

 即ち、先の勝機。

 

さしもの東堂も、確実にその機を捉えられたならば、もはや手も足も出まい。

 

躱すことは既に出来なくなっている。雷切の最中では咄嗟に飛び退くというわけにもいかないだろう。

 

そして東堂と一輝の体格差、得物の長さを鑑みれば一輝の方にリーチの差がある事から勝敗は歴然。

 

 

――先の勝機に仕掛ければ、勝てる。

 

東堂を相手に、先の勝機をつかむことさえできれば。

 

 

一輝は両目を限界まで開き、東堂を見据えた。この目蓋は決して閉ざさないと誓って。

 

閉ざすのは勝った時。

 

敗れた時は――きっと、東堂が閉ざしてくれるだろう。

 

 

 

 

東堂もまた、走る一輝を見据える。

 

その一歩に、彼との出会いを想う。

 

その一歩に、初めて選抜戦に出場し敵を打ち倒す闘志の眼を想う。

 

その一歩に、小柄な身体で必死に恋人を守る姿を想う。

 

その一歩に、最初で最後と思えるこの決闘場に来た勇士を想う。

 

 

短い時間ではあったが、一輝と共にあった日々を踏みしめて、東堂刀華は構えた。

 

 

 

学園最強が待つ。

 

落第騎士が征く。

 

 

思えばこの学園生活は、

 

ずっとそうだった。

 

 

 

 

間合が狭まる。際限なく。

 

指呼の間が対話の間に。対話の間が斟酌の間に。

 

それさえ過ぎて。

 

二人は互いの瞳の中に、己の姿を視認した。

 

 

「はあああああああああああああ!!!!!」

 

「やあああああああああああああ!!!!!」

 

 

東堂と一輝が気を吹いた。

 

射出される全身。

 

迅る刃。

 

この間合で逃れることは不可能の極。

 

 勝機を取った。

 

 

 

 

 

 

 

……勝利する。

 

この闘いに、勝利する。

 

東堂刀華は確信する。

 

己はこの決闘に、勝利を収めたと。

 

穢れなき一心は清く澄み、惑いは果て、宿願は遂に届く。

 

願わくは、彼がこの後もどうか騎士として誇り高く生き抜きますように。

 

 

後は今、抜きつつある一刀を一輝の身体に叩き込めばすべてが終わる。

 

一輝の剣はもう間に合わない。慌ててその刃を鞘から抜き放とうとも、その遥か前に、東堂の剣は使命を果たす。

 

 

全ては終わる。

 

東堂は勝利し。

 

七星剣舞祭に再度出場し、皆の期待に応え、昨年の雪辱を果たす。

 

 

――それが、黒鉄一輝に何をもたらすのでなくとも。

 

 

 

雷光である東堂には見えるはずだった。

 

為す術もなく身体を居付かせ、無限の遠さにある一輝の刀が、

 

 一輝の刀が、

 

 

 一輝の刀が、

 

 

 刀は、

 

 

 

 

 

―――何処だ?

 

 

 

 

 

 

 

風が吹いている。

 

 

東堂には見えない。

 

まさに己の命を血花に散らさんと迫る、あり得ざる黒き鉄の颶風が、東堂には見えない。

 

 

 

 

 

 

 

―――――黒鉄一輝は何処だ。

 

 

 

 

 

 

 

答えは明快にして異常。不可能の極を超え、一輝は飛翔していた。  

 

 

 それは魔剣であった。

 

 

ベースとなった技術は、野太刀自顕流(別称を薬丸自顕流)懸かり打ちである。

 

トンボ(刀を右肩上、天頂に向けてとり、左足を前に右足を引く構)から疾走して敵に駆け寄りそのまま斬る技は、幕末維新の日本を震撼させた。

 

史上空前の大動乱の中、主として薩摩藩の下級武士らによって振るわれたこの剣は、他流の剣客を薙ぎ倒し、最強の剣の一つとして雷名を打ち立てた。

 

なぜ、かくも一見して至極単純な剣に、そんなことができたのか。

 

よく語られる理由としては、その威力に比類がなく、受け止めても押し切られてしまったからだと云う。

 

間違いではない。

 

だがそれだけならば、受け止めず避ければいいだけのことだ。

 

 だけのこと、というほど楽ではあるまいが。

 

一説によれば、その真髄は間合を奪う点にあったという。

 

猿叫をあげ、疾走してくる薩摩隼人を前にしたとき、多くの剣士は肝を潰し、間合を見誤り、届くはずもない距離で手を出してしまう。

 

そして空振りし、斬られる。

 

あるいは立ちすくんで何もできずに斬られる。

 

 敵が間合をしかと見定め、斬れる距離に入るまで手を出さぬ者であるなら、ジゲンの剣士は自らの足で間合を奪う。

 

即ち、最後の一歩を飛ぶに等しい大股の踏み込みとし、走る速度に慣れた敵の眼を欺くのである。

 

振り下ろす機を失した敵の太刀は宙に留まり、その身はジゲン流の一刀を受けることになる。

 

 しかし、時には差し違えになる場合もあった。ことに突き技で迎え撃たれると、そうなりがちだったようである。

 

 

剽悍なる薩摩隼人は、だからといって恐れたりしなかった。

 

生命の価値は薄紙一枚分と豪語し、確実に敵を殺傷するこの剣を振るいに振るった。

 

かくありて最強の剣名は生まれたのだ。

 

 

 

一輝はこれを、独自の工夫を加えて昇華した。

 

技は懸かり打ち同様、疾駆から開始する。ただ、この走行は刀を鞘に納めた居合腰の状態で速度を、歩幅を一定にせず、だが一貫して疾走。

 

走行に幻惑された敵が間合を見誤り、届かぬ剣を振り下ろし。あるいは剣を居付かせ。無力となったとき、一輝は疾走のまま抜き打ちで斬り捨てる。

 

だが、敵が間合を正確に把握し、一輝を切り裂く剣を振るう場合もある。

 

 その時、彼は未来を捻じ曲げるのだ。

 

敵が繰り出す剣は、「一輝が走り続ければ」当たるもの。

 

 

 一輝は、飛ぶ。

 

疾走、そのままに踏み切り。運動力を損なうことなく。

 

敵の斬撃を飛翔して避け、宙にて前転、そこからの抜刀斬撃。

 

間合の読みづらい抜き打ちが空からの技ともなれば、もはや剣筋の見切りは不可能とさえ言えよう。

 

 

かくなる工夫により、この剣は完成を見る。これはとある――実在不実在かはさておき――剣豪が、一人の怨敵に復讐し勝利する為にその才能と確立された技術を更に磨き、比類なき蛮勇暴威を彼に許したもの。

 

際立った工夫に依る剣であり、稀有の才が生んだもの。

 

形をなぞるなど、誰にかできよう。

 

特に、居合を使う東堂にこの剣を生かすには、敵の剣の間合、剣の速度、発剣の瞬間を毛筋のずれなく確ととらえ、即、次の行動に移らねばならず。

 

かような要求に実の戦中で応えることなども、誰にかできよう。

 

最良の即応能力と最高の反応速度、見切りを貪り尽くしてこその剣。

 

東堂の魔剣と同質。しかし敵の所作を寸毫たりとも余さず逃さず把握し応じ尽くす、修羅・羅刹のような執念だけが、この妖技を、天の怪奇を現実のものとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――我流魔剣 昼の月

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝敗を分けたものは何か。

 

おそらくそれは、技の優劣ではない。

 

天運でもないだろう。

 

あるいは、

 

背負っている数多の期待のために剣を握り、勝たねばならなかった東堂と、

 

たった一人最愛の人のために剣を握り、勝敗はその結果とのみ捉えた一輝と、

 

二人の間にあった純度の差が、糸屑程の、剣速の差となって顕れたのかもしれない。

 

 

だが、益体もないことだ。

 

きっと、彼らの間に差などなかった。

 

ただ、コインを放れば表と裏のどちらかを上に向けて落ちるように、結果が出ただけなのだろう。

 

 

 

 

 

雷音が、後方に轟く。

 

何処かに落ちるわけでもない雷が月空を震わせたか。

 

遥か上空に稲光だけを照らし彼方に往ったか。

 

そんな、空しくもおどろおどろしい響。

 

 

 

――――勝者は、無冠の剣王

        

        黒鉄一輝。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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