二人の夜 (yousay)
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二人の夜

街はカップルで溢れかえっている。

その中を横山春太は横目で見ては小さく呟いた。

 

「リア充爆発しろ・・・」

 

マフラーで口元を暖めながら春太は今夜の夜食場所を探し歩いた。

少し歩いた所で春太の歩む足は止まった

 

「井上さん・・・?」

「横山君・・・?」

 

井上陽奈子は驚いた顔で春太を見た。

二人は互いに察した。

今夜二人は独り者同士なのだと。

二人は自然と互いに近づいた。

 

「お疲れ様です」

「お疲れ。横山君こんなとこで何してるの?」

「僕は飯屋探しを・・・。井上さんは?」

「私もなの。友達に今さっき振られてね。今日は残業なんですって。ある意味可哀想な人よね」

 

陽奈子は苦笑をした。

その話を聞いて春太も苦笑をした。

 

「あの、これも何かの縁ですし良かったら一緒にご飯行きませんか?一人で食べるより二人で食べたほうが美味しいと思うんですよ」

「それもそうね。二人でご飯行きましょう」

「何食べに行きます?」

「そうねー・・・。こんな寒い日にはやっぱりラーメンかしら・・・」

 

春太はその言葉を聞いて大きな声で笑った。

その反応に陽奈子は驚き、その後段々自分の言った言葉に対して恥ずかしくなった。

 

「ご、ごめんなさいね。可愛げが無い食べ物を言って」

「くくくっ・・・。まさか井上さんからそんな言葉が出るなんて思ってもなかったです。会社ではクールなキャリアーウーマンって感じですから」

「私、そんなイメージ持たれてるの?」

「え?どんなイメージ持たれてると思っていたんですか?」

「いや、特には・・・。私あまり会社の人間と仕事の事以外はあまり話さないから、影薄いものと思っていたわ」

「井上さんが影薄いとかありえないですよ!むしろ濃過ぎるくらいです!てか、井上さんって意外とネガティブ思考なんですね」

「そ、そんな事無いわよ!ラーメン行くわよ!」

 

陽奈子は顔を少し赤らめながら歩き始めた。

そんな陽奈子の姿を見たことがなかった春太は少し得した気分になった。

陽奈子の後に続き春太は歩き始めた。

 

二人は一軒のラーメン屋の前に着いた。

 

「こんなとこにラーメン屋なんてあったんですね。しかも結構古くからやってそうなラーメン屋ですね」

「ここ私の行きつけのラーメン屋なの」

「ここがですか!?」

「なんで、そんな驚くのよ」

「いや、ホント井上さんのイメージと全然違う感じなので・・・」

「私本当に皆からどんなイメージ持たれてるのかしら・・・。明日会社行くのが怖いわ」

「いや、悪いイメージではないですよ?なんつうか、フレンチとか高級そうな料理とか食べてそうなイメージがありまして・・・」

「うちの会社でそんな高級なとこ行けるお金入ると思って?」

「確かに・・・」

「というか、私は高級料理は好きじゃないの。ラーメンとか牛丼とかの方が大好きよ」

 

春太は驚きが隠せなかった。

 

「人は見た目で判断してはいけないんですね・・・」

「当り前よ!まったく。私は皆がイメージしてるような人間じゃないの!」

「なんか、すみません」

「な、なんで謝るのよ。なんかイメージと違う人間でごめんなさい」

 

春太はまた笑い始めた。

その姿に陽奈子は動揺した。

笑いが落ち着いてから春太は陽奈子を見た。

 

「すみません、笑ってしまって。でも、ホント井上さんがそういった性格の方だと知れて良かったです。近づきにくい感じでしたけど全然そんな感じじゃなくてこっちも気楽に関われます。さて、店の前で寒い中ずっと話すのではなくラーメン食いながら話しましょ」

「そうね」

 

陽奈子は優しく微笑んだ。

二人は店内へ入った。

席に着くと二人はコートを脱ぎ、店内の温かさに落ち着きを感じた。

メニューを開くと春太は品書きの多さに驚いた。

 

「このお店品数凄いですね!」

「そうなの!沢山の中華料理が食べれるし、お財布にも優しいし、それなりにボリュームもあるから最高なの!」

 

嬉しそうに話す陽奈子に思わず春太は笑みが零れた。

 

「井上さんのおすすめはありますか?」

「私のおすすめはねー」

 

メニューに記載されている料理を指しながら陽奈子は春太に説明し始めた。

春太は真面目に聞きながらも横目で陽奈子を見た。

陽奈子の表情は会社に居る時の表情とは異なり、楽しそうに常に笑顔で話していた。

今まで見たことない表情に春太は興味が沸いた。

 

「聞いてる?」

「え?あ、聞いてますよ!先輩の話はちゃんと聞きますとも!」

「本当かなー?」

「本当ですよ!」

「本当ならよし!で、どれ食べるの?私はもう決めたわよ」

「え、早くないですか!?」

「横山君に教えていたら食べたくなったものがあったから」

「じゃあ、俺もそれにします!」

「え?良いの?」

「はい!この店の場所覚えましたし、いつでも行けますからね!」

「じゃあ、頼むわよ?後悔しないわね?」

「もちろん!」

 

陽奈子は店員に声を掛けた。

陽奈子は料理を注文し始めた。

 

「まず、餃子と豚足と麻婆豆腐とエビチリと回鍋肉と北京ダックと・・・」

「ま、待ってください!」

「ん?」

「それ、全部食べるんですか・・・?」

「そうだけど?横山君も同じの食べるって言ってたから二人前ずつにしようと思っていたんだけど」

「すみません、僕は別で何か頼みます!」

「そう?じゃあ、私が注文してる間に決めてね?えっと続きでチャーシューたっぷり炒飯と・・・」

 

春太は注文を聞いていて陽奈子の胃袋の恐ろしさを感じた。

春太は普通にラーメンを一つ選んだ。

数分後机の上には沢山の料理がずらりと並んでいた。

陽奈子は料理を見て目を輝かせた。

そんな姿を見て春太はそんな陽奈子が可愛く見えた。

 

「いただきます!」

「いただきます」

 

二人は食べ始めた。

春太はラーメンの美味しさに感激しながら黙々とラーメンを食べ続けた。

チラッと陽奈子を見ると陽奈子は美味しそうな表情でご飯を食べていた。

その姿もまた見たことのない表情で色んな一面を今日一日で見れた春太はとても嬉しくて仕方がなかった。

 

「井上さん一口下さい!」

「一口と言わず好きなだけ食べなさい」

 

陽奈子は春太に笑顔を向けながら言った。

春太は笑顔になりながら陽奈子が注文した料理を食べた。

陽奈子はそんな春太が可愛く見えた。

互いの食事が落ち着く頃、陽奈子が口を開いた。

 

「本当は今日友達と予定なんてなかったの」

「え?」

「嘘吐いたの。本当は誰とも予定が無くて、家に居るのも寂しくて、外はカップルだらけだけど、それでも一人だけの空間よりかはマシだなーって思って出てきて、ご飯屋さん探していたところだったの。そしたら横山君に会って、一人で居たところを見られた事がなんか恥ずかしくてつい嘘を・・・。ごめんなさい」

「いや、謝る事はないですよ!正直僕もこの歳になって一人なのかって思われたなーって思って恥ずかしかったんですよ。でも、僕今年一人で良かったなーって思いました」

 

陽奈子は首を傾げた。

春太は少し顔を赤くしながら言った。

 

「井上さんとご飯食べれて、しかも美味しいお店を教えてもらえたし、特に色んな井上さんを見れたことがとても良かったです!」

 

陽奈子はその言葉に顔を赤らめた。

そして小さく微笑んだ。

 

「ありがとう。横山君だけでも私という人間をちゃんと知ってもらえて良かったわ。会社の人でプライベートのお付き合いしている人いなかったから、とても新鮮だった。ありがとう」

「こちらこそ!」

「さて、食べ終わったし帰ろっか」

「はいっ!あ、僕払いますよ!」

「そういうの要らないわ。男だからって払おうとしなくて宜しい。素直に先輩に甘えときなさい」

 

春太は頭を下げた。

陽奈子は伝票を持ち、レジに行き精算をした。

二人は店を出た。

二人が吐く息は白く、そしてすぐに空へ消えていった。

 

「寒いわね・・・」

「そうですね・・・」

「帰りましょうか」

「はい」

 

二人は歩き始めた。

周りは変わらずカップルばかりが歩いている。

二人はそれを横目で見て歩き続ける。

 

「私ね、毎年思うことがあるの」

「何ですか?」

「リア充爆破しろって」

「それ僕もです」

 

二人は笑い合った。

大きなクリスマスツリーの前で二人は立ち止まった。

二人は上を見上げた。

 

「大きいですね」

「そうね」

「今日はとても楽しいクリスマスでした」

「私もよ」

「また、ご飯連れていってください」

「良いわよ。今度は牛丼屋ね」

「良いですね!すき屋のキングサイズ行きます?」

「良いわね。私それに挑戦したかったの!」

「じゃあ、明日行きましょう!」

「そうね、楽しみにしているわ」

 

二人は自然と互いに視線を向けた。

春太は手を出した。

陽奈子も手を出し、握手をした。

そして微笑みあった。

 

「改めて宜しくお願いします」

「こちらこそ」

「じゃあ、また明日!」

「えぇ、また明日ね」

 

二人は互いに背を向け歩き始めた。

そして互いに小さく胸の鼓動が早くなっているのを感じた。

二人は小さく呟いた。

 

「クリスマスという日は悪くないかも・・・」

 



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